DQ5~友と絆と男と女  (リュカ伝その1)


 

1.焼きノリ・味ノリ・その場のノリ

 
前書き
pixivで連載してましたが、使いづらくて移転してきました。
ご存じの方のは説明不要ですが、もしかしたら「私、初めてなの…優しくして♡」ってお人も居るかもしれないので、簡単に説明します。
トラブルメーカーリュカさんの冒険はここから始まります。 

 
磯の香りが漂う中目を覚ますと、そこには一人の男がいる。
「ん!おお、起きたか!よく眠れたかリュカ?昼前にはビスタ港に着くはずだ。順調にいけば夕方にはサンタローズに着く。2年ぶりの我が家だぞ!」
この男の名はパパス。この世界での俺の父親だ。
「うん!おはよう、お父さん!船って凄いよね!僕が眠っている間も、進んでるんだもんね!」
「そうだな。だが、船員の人達が頑張ってくれたからなんだぞ!後で皆さんにお礼を言って来なさい」
「うん!」
そう元気に答えると俺は船室に備え付いてある洗面台で顔を洗い、小走りで船室を出て行く。

俺の名前はリュカ。
前世でしがないサラリーマンだったが、何故かドラクエ5の世界に転生してきた。
正直ドラクエ5の事はあまり詳しくはない!
俺自身はプレイしてないのだ!
兄貴や友人のプレイを横で見ていたので多少の名称は覚えていただけで、ストーリーについては殆ど知らない!所々うろ覚えだ。
ま、何とかなんだろ!人生ノリが大事だよね!

まぁ、そんな訳でリュカとして生まれた時からの記憶が俺にはある!
普通あり得ないよね!
父さんが俺に『トンヌラ』という名前を付けようとした事もバッチリ覚えている!
あり得無くね!?『トンヌラ』って!
もう一つあり得ないのは、母マーサが攫われた瞬間だ!
母が俺に授乳をしようとオッパイをペロっと出した瞬間、紫のフリーザ様みたいな喋り方したのが出てきて攫ってった!
最悪ッスよ!
もう俺の中の千人の俺が「「授乳・授乳」」と、授乳コールの中俺のオッパイが連れ攫われました…
そりゃないだろ!
終わるまで待ってくれてもよくね?

そりゃ前にも2ヶ月付き合った彼女と、やっとヤれるであろう時に元彼が現れて「やっぱり俺、お前の事が忘れられない!」とか言ってホテル街へ攫われた事があるけど…
もうちょっと待てよ!どっちもさぁ!1回ぐらいいいじゃん!
まぁ、過去を嘆いても仕方がない!未来への希望を胸にノリで邁進しましょ!
それに、俺にはもの凄い武器があるのだ!
それを今からお見せしよう。

俺は小走りで食堂へ行き奥の厨房に入り料理人達に元気よく挨拶をする。
「皆さん、毎日美味しいご飯をありがとうございました。僕、皆さんの事と皆さんが作ってくれたご飯の事は忘れません!」
俺は満面の笑みで、一人一人の目をしっかりと見ながら挨拶をする。
すると…
「へへっ、俺もリュー坊の事、忘れねぇよ!ほら、これ持ってけ!」
と、リンゴを貰う。
「リュー坊は何でも旨い旨いって言てくれたからなぁ…作りがいがあったよ」
と、スイートパイを貰う。
「俺たちの料理が食えなくなっても、何でも残さず食うんだぞ!」
と、チョコを貰う。
等、色々な物を貰い厨房がら退出し甲板へ上がる俺。

そう、俺の武器とは天使の様に愛らしい顔である!
自分で言っちゃぁなんだが今の俺はかなりのイケメンだ!
今はまだ(可愛い) (愛らしい)で済むが、あと10年ほどすればジャニーズ事務所からお声がかかる位…いやハリウッドからお呼びが来るレベルのイケメンになるだろう。
これはもう、色々食い放題だね!
「初めては、一桁の時です」なんつったりして!

お馬鹿な妄想をフルスロットルでかましつつ、朝食代わりに貰った食べ物をたいらげると水平線の先に陸地が見えてきた。
それと同時に甲板の上が慌ただしくなる。
どうやらもうすぐ目的地に着く様だ。
そんな事を考えていると船長が声をかけてきた。
「坊や。もうすぐビスタ港に着くから、お父さんを呼んできなさい」
「はい!船長さん色々ありがとうございました。おかげでお家に帰る事ができます」
「私も坊やと一緒に旅が出来て楽しかったよ。こちらこそありがとう。さぁ、お父さんを呼んできなさい」
俺は、笑顔で頭を下げると踵を返し父の元へ向かった。

バンッと勢い良く戸を開けると
「お父さん!もう港へ付くって船長さんが呼んでるよ!」
「ほぉ、もう付くか…リュカ忘れ物は無いか?」
「うん!」
と元気よく答えた俺は、ひのきの棒と着替え等が入った小さなバッグを持ち父の後を追い甲板へ上がった。

もう既に水夫達が接舷の準備をしている最中だった。
準備が整うとこれから乗船する人が渡し板の上を通り乗り込んで来た。
恰幅のいい身形のきちんとした、いかにも「お金持ち」なおっさんが乗り込み、それに続いて黒髪のド派手な服着た女の子が「邪魔よ!退きなさいよ!」と、威嚇しつつ乗り込む。
続いて青い髪のお淑やかそうな女の子が乗り込………めないでいる。
どうやら渡し板と船との段差が大きすぎて超えられない様だ。
「おや、フローラにはこの段差は大きすぎるかな?」
等とほざいているおっさんを横目に俺は女の子に手を差し伸べる。
フローラと呼ばれた女の子は躊躇いがちに手を握ると、なんとか乗船してきた。
「坊や、どうもありがとう。ついでに、フローラを船室まで連れて行ってくれないかね?おじさんはまだ船長と話があるんでね」

俺はフローラの手を取りそのまま船室の方へと歩き出す。
「僕、リュカ。よろしくね」
フローラの瞳を見ながら、エンジェルスマイルで自己紹介をする。
「私はフローラ。さっきは、どうもありがとうリュカ」
頬を赤くしながら、か細い声でフローラが囁く。
「フローラはお父さんと一緒に旅をしているの?僕もお父さんと二人で旅をしていたんだ!」
「まぁ!そうなの?二人っきりなんて大変でしょう?次は何処へ向かうの?」
「全然大変じゃないよ!それに僕の家、サンタローズにあるんだ。2年ぶりに帰ってきたんだよ!」
「すごい!2年間も旅をしてきたの!?」
「うん!フローラは何処へ行ってきたの?」
急にフローラの顔から笑みが消え沈黙が訪れた。
俺はそのままフローラの手を引き船室へ入る。

俺と父が使用していた船室とは違い『豪華絢爛』の一言だ!
別に俺自身はあの船室でも不満はないが、さすが金持ち令嬢となるとランクが大幅に上がるらしい。
まぁ、もう降りる船の事はどうでもいい。
フローラを椅子に誘い正面で少し屈み顔を覗き込む。
別に俺はロリコンじゃぁない!
それでもフローラはかなりの美少女だと思うし、美少女は笑顔の方が断然いい!
それにフローラは将来絶対に美人になるだろう!
今のうちに媚びを売って俺のバラ色人生計画の為にフラグを立てる行動をした方がいいだろう。
だから俺はフローラの笑顔を少しでも取り戻す為に、お悩み相談員になろうと思う。
「どうしたの?何かイヤな事でもあったの?」



…まぁ簡単に言うとフローラは修道院に入るらしく、その下見の為にお父さんと一緒に旅行をしたらしい。親元を離れ、慣れ親しんだ家・街・友人と別れ、見知らぬ土地、見知らぬ人々と生活をしなければいけない事に不安を感じ、ひどく落ち込んでいたというのが今回のご相談者のお悩みです。
「うーん…そうだよねぇ…お父さん、お母さんと離れるのは寂しいよね」
「うん。リュカもお父さんとお母さんと離れ離れになるのはイヤでしょ?」
「僕、お母さんいないんだ!ずっと小さい時から」
「あ!ごめんなさい…」
フローラが泣きそうな顔をしたので、俺は殊更明るい笑顔で続けた。
「でもお父さんがいつも一緒だったから寂しくなかったよ!それに、旅先で色んな人達に出会う事が出来たから、すごく楽しかったんだ!」
「リュカは強いのね」
「そんな事無いよぉ。色んな人達に出会って色々なお話を聞けば、フローラも寂しくなくなるし楽しくなるよ!」
色々な人達から話を聞く事に興味があるらしくフローラの顔から少し陰りが消えていった。
「それに僕、フローラのお父さんに感謝してるんだ!」
「あら?何故?」
フローラは驚き訪ねてきた。
「だって、修道院の事を考えてくれなければ、僕フローラに会う事無かったもん!」
「え!」
フローラはかなり驚き俺を見詰めている。
「フローラは凄く可愛いから、出会えて本当に良かった!お父さんに感謝だよ!」
フローラは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いてしまった。
よっしゃ!これでフラグ立ったよね!
これで将来、劇的な再会を果たせば『キャッキャ!ウフフ!』は確実だよね!
等と脳内で千人の俺が、一大パレードを開催していると甲板の方から父さんが呼びかけてきた。
「おーい!リュカ!そろそろ行くぞー!」

「あ!じゃぁ僕、もう行くね!」
「うん!今日はありがとう!」
やっぱ美少女は笑顔に限るね。
俺は踵を返し出て行こうとしたが、立ち止まりバックの中から綺麗な鳥が描かれているワッペンを取り出しフローラにプレセントした。
「これ前に人からに貰った物だけど、僕と出会った事を忘れないで欲しいから、フローラにあげるね!」
「え!こんな綺麗な物貰っていいの?」
「うん!フローラは笑顔の方が可愛いから!もし悲しい事があったらそれを見て僕の事思い出してね」
「うん!ありがとう!私も何か記念にあげたいけど…何を渡せばいいか…」
別に物々交換をしたかった訳では無いのだが…将来再会した時用に渡しただけなんだけどね。

よし!ここは別れ際のギャグで取り纏めよう。
「じゃぁさ…フローラのパンツ頂戴!さっき船に乗り込む時に見えちゃったんだけど、すごく可愛かったから、アレが欲しいな」
顔を真っ赤にしながらスカートを押さえている。
さ!これで更に印象を強める事に成功したし、あまり父さんを待たせる訳にはいかないのでお暇しよう。
「わかったわ!ちょっとこっちを見ないでね!」
え!?
なんつった今!?

どうやら気配からすると、俺の背後でパンツを脱いでいるらしい!
え?なに?あり得ないから!?
どうしても物々交換じゃないといけない子なの?頭おかしいの?
「はい、どうぞ…」
恥ずかしそうに俯きながら俺にパンツを手渡す。
そして笑顔で俺に「また逢えるといいね」と言い残し、上の階へ上がっていった。
俺は軽いパニック状態の中、再度父に呼ばれ船室を後にする。
そして気付く。
パンツを手にしたまま父の元に赴くのはヤバイよね!
慌ててバックの中にパンツをしまい、混乱冷めやらぬ中船を降りた。



 

 

2.7転び8起きって言うけど、7回転んだら7回しか起き上がれない

<ビスタ港近隣の森>

俺は今、3匹の魔物に囲まれている!
魔物と言ってもスライムだ!
こう言ってはなんだが俺は同年代の子に比べるとかなり強い!
父さんと旅をしてきた事もあるが、何より父さんに戦闘訓練を解かされているのだ!
剣術も基本的な部分ならほぼ問題ないし、魔法も使える!
『バギ』という風を操る攻撃魔法だ!
父さんが言うには俺のバギは一般のバギより威力が高いそうだ。
本当かどうかは定かではない。
ちょっとは親馬鹿が入っているかもしれないけどね。

等と考え事をしていたら、後ろからスライムにど突かれ前のめりに転んだ!
ハッキリ言おう!
戦闘訓練をしていようが、魔法を使えようが痛い物は痛い。
痛いのは嫌いです!
これ以上ど突かれては堪らないので、素早く起きあがりスライムに手を翳し魔法を唱える!
「バギ!」
2匹のスライムに向かい風が巻き起こり、真空の刃がモンスターを切り刻む。

しかし俺の事をど突いたスライムは離れた所にいた為か魔法の影響を受けず再度、俺に襲いかかってきた!
だが俺はスライムの攻撃を危なげなくかわすと、持っていたひのきの棒で力一杯攻撃をする。
勝負は着いた。
力尽きたスライムが泡状に消え去り、後にはゴールドが現れる。
これがこの世界の通貨だ。
仕組みはよく分からんが、こうやってお金を稼ぐ事が出来る。

俺はゴールドを拾い集めていると背後から父が現れた。
「リュカよ、見事だったぞ!まぁ、スライム程度なら楽勝だな!」
どうやら初めから見ていたらしく、もし危険になれば助けるつもりだった様だ。
「しかし、楽勝だと思っても油断は禁物だぞ!一撃貰ってしまった様だな!」
そう言うと俺の服に付いた泥を叩き落としながら魔法を唱えた。
「ホイミ」
暖かい光が俺を包み、戦闘で受けた傷を癒す。
「ありがとうお父さん!ちょっと考え事をしてたから失敗しちゃった!」
「ん?考え事?さっき出会った女の子の事かな?可愛らしい子だったな!リュカはああいう子が好きなのかな?」
俺は流石に赤くなり俯いてしまった。
フローラ自身の事よりフローラのパンツの事の方が気になってしかたない!
父さんは俺の反応を年頃の男の子の反応と勘違いしたらしく、嬉しそうにサンタローズへの帰路を促してきた。





<サンタローズ>

日が傾き影が主の身長を超える頃、俺たちはサンタローズの村に帰り着く事が出来た。
きっと父一人なら、もっと日が高い内に到着したのだろうが俺に合わせた為にかなり時間がかかってしまった。
もっと努力をせねばと少々の自己嫌悪に浸っている中『パパス凱旋』の報は村中に広がり、村人達の殆どが父の元に群がり「お帰りなさい」「待っていたよ」等と、皆に歓迎されていた。
100人もいないであろうこの村の村長的な父は、皆に尊敬されているのだ。

そんな人集りの中、俺はこの村で最も会いたかった人物を捜し出し声をかけて近づき飛びついた!
「フレアおねーちゃん!」
「わーい!リュー君とパパスさんが帰ってきたー!」
この人はフレアさんといい、この村の教会でシスターをしている。
年の頃なら15.6歳くらい、少し垂れ目気味だがかなり可愛いおねーさん。
何より、そのナイスバディが堪らない!

今回の旅に出る前に一緒に風呂に入った事があるのだが、その時点でかなりの物だったが2年たってグレードがアップしたね!
2年前まではZガンダムだったけど、今やZZガンダムにまで育っちゃてる!
俺は、そんなたわわに実ったオッパイに子供の特権とばかりに顔を埋めしきりに「ずっと会いたかった」的なアピールをし母性本能くすぐり攻撃をかます。
「おいおい!もうこの辺で今日はいいだろ?もうすぐ日も暮れる。つもる話はまた後日しよう」
そう言い俺を抱きかかえ家の方へと歩いて行く。
あぁ!俺のオッパイ…(お前のじゃありません!)


<サンタローズ-パパス宅>

家に入ると早々に、
「坊ちゃん、旦那様、お帰りなさいませ!」
と、叫びながら恰幅の良い男性に抱きつかれた!
「サンチョ…苦しいよぉ。」
いやマジ!ヤメテ下さい。
フレアさんの余韻が消え去るから!
マジ勘弁して下さい!

この人はサンチョ。
この家の家事全般を一手に引き受ける、無くてはならない頼れる味方。
それがサンチョです。
「おじさま、リュカ、お帰りなさい!」
振り返ると、そこには豪奢な金髪を左右対象にお下げにした、活発そうな可愛い女の子が笑顔で立っていた。
「?この子「ビアンカ!」は…」
俺はサンチョのハグから逃れ、ビアンカに抱きついた!
「あら!私の事を覚えていてくれたの?嬉しいわ!」

この子は隣の町(隣町と言っても大人の足で半日はかかる)アルカパに住む幼なじみのビアンカ。
「大好きなビアンカの事を忘れる訳無いじゃないかぁ!」
ビアンカは頬を染め、嬉しそうに俺の頭を撫でる。
その後ろからビアンカのお母さんのアマンダさんが近づいて来た。
「久しぶりだねぇ!パパス。私たちも良いタイミングで、サンタローズへ来たもんだねぇ!」
「そうか、アマンダの子のビアンカちゃんか…しばらく見ぬ間に可愛くなったので判らなかったぞ!」
ビアンカは更に顔を赤くして嬉しそうに微笑んでいる。

俺が最初に目を付けたのがビアンカだ!
今はまだロリロリだが、彼女は将来確実に美人になる!
これは間違いない!
だから、今の内から俺好みになる様に誘導していっている。
俺より2歳年上の為か、俺に対してお姉さんぶる所がある。
それを上手く利用して可愛い弟を演じ、時折男として頼れる所を醸し出す。
そうする事で将来『姉御肌的だが二人きりの時は俺に甘える』そんな美女が完成するはずだ!
これで俺の『キャッキャ!ウフフ!』な、バラ色人生が造られていくのだ!
やべー!テンション上がってきたー!
「ところでアマンダ。何故サンタローズに訪れているんだ?」
「いやねぇ…内の旦那が風邪を拗らしてねぇ…ここの薬師に薬の調合を依頼しているんだよ!」
「ねぇ!大人のお話って長いから、2階に行きましょ!」
どうやらビアンカには大人の話は退屈らしく、俺に話し掛け手を取ると有無を言わさず2階へ拉致られた!

「ご本を読んであげる!」
本棚から適当に引っ張り出してきた本を開くと俺にお姉さんぶりをアピールしてきた。
いや、別にいいんですよ!
お姉さんアピールがイヤなわけではないんですよ!
ビアンカは可愛いし眺めているだけで楽しいし。
ただ、長旅で疲れているので振り回さないで欲しいなぁ…なんて、ちょっと思っただけ!
「…あぁ!もう!この本難しい字が多くて読めない!」
と、勝手に引っ張り出した本に悪態を吐いていると、1階からアマンダさんの声が聞こえてきた。
「ビアンカ!そろそろ宿屋へ帰るわよー」
「はーい!」
元気よく答えると颯爽と階段を下りていった。
勝手に引っ張り出した本を俺の目の前に残し…かなり分厚い本を俺の前に残し…ビアンカは我が家を後にした。
疲れた体に鞭を打ち、分厚く重い本を両手で抱え本棚に戻す俺。
俺、結構綺麗好き。
とは言え、子供の身体には1日中歩き詰め+戦闘数回は堪えたらしく、そのままベッドに入って泥の様に眠ってしまった。


 

 

3.歌に国境は無い!でも周囲の雰囲気に合わせて歌う事!

<サンタローズ-パパス宅>

その日は朝から元気モリモリ!
長旅の疲れも一晩の熟睡で、綺麗さっぱり吹き飛ばし朝食を大人二人前くらい食べてる。(やっぱ若いって最高!)
するとサンチョに「坊ちゃんはよく食べますねぇ!」って、呆れ褒められました。
『食える時に食っとかないとね!』(by武蔵っぽい人)ってのが俺の信条です。
朝食が終わると俺は一旦2階へ上がりバックの中から幾つかアイテムを取りだし、小さな袋に入れ替え腰から下げる。
そして家を後にし丘の上にある教会へ脇目もふれずダッシュする。


<サンタローズの教会>
フレアSIDE

昨日パパスさんが帰ってきた!
2年ぶりに帰ってきたパパスさんは、やっぱり格好いい!
一緒に付いていったリュー君も私に懐いてくれて、ずごく可愛い!

そのリュー君が朝から私の元にやって来た。
「フレアおねーちゃーん!」
「あらあら、朝からリュー君は元気ね」
私の胸に顔を埋め頻りに甘える。
やはり母親が恋しいのだろう。
私はパパスさんさえ良ければ、本当にリュー君の母親になりたいのに…

そんな事を考えているとリュー君は私から離れ腰に下げた袋から、白く綺麗な巻き貝の殻に穴を開け紐を通したネックレスを私に差し出した。
「あのね、凄く綺麗な貝殻を見つけたからね、フレアおねーちゃんにあげようと思って持って帰ってきたの!」
そう言うと私の手に貝殻のネックレスを渡しす。
どうしよ!この子凄く可愛い!
私は思わずリュー君を抱きしめた。

この後もリュー君は旅先で遭遇した色々な事を楽しそうに話してくれたが、私は教会でのお勤めがある為、
「ごめんねリュー君。もっとお話聞きたいけど、私お仕事があるから…」
と切りだした。
リュー君は少し寂しそうに俯くと、笑顔で顔を上げ、
「じゃあ、また明日来るから!バイバイ!おねーちゃん!」
そう言い残し教会を出て行った。

どうしよう!可愛すぎるあの子!
それにパパスさんの子!将来絶対格好良くなるに違いないわ!
パパスさんがダメでもあの子なら………等と、不埒な考えをする私をどうか神様お許し下さい。

フレアSIDE END


<サンタローズ>

いやぁ~、今日もいい乳してたなぁ!
結構ポイント稼いだよね、俺!
どうする、どうするぅ!?
このまま行くと、いい感じで行っちゃうよぉ!

シスターったらアレだろ。
神様に全てを捧げるんだよな!
つーことは処女だろ!………処女!?
だって神様手出さないだろ?
もー『ごちそうさまー』て感じ?

等と、俺が教会横でヘラヘラくねくねしていると、丘の下にある一軒の民家の裏庭から父さんが出てきた。
父さんは裏庭の横を流れる川に留めてあるイガダに乗ると、川を上り洞窟へ入っていった。
「?」
何だろ?
何か『調べ物があるぅー』(そんな言い方してねぇーよ!)とか言ってたけど、何で洞窟に入るんだ?
は!まさかあの中に愛人でも囲ってるんじゃ!?
イヤイヤイヤ、無い無い無い!
それじゃぁ囲うどころか、監禁だろ!
大方子供(俺の事)の教育に良くない、えっちぃ物とかを保管してあるのかもね。
父さんも男だしね!しょうがないよね!
くだらない事を考えつつ、俺は次のターゲットへ向けて進路を取った。


<サンタローズ宿屋>
ビアンカSIDE

はぁ~…暇ねぇ~…
リュカの所にでも行こうかしら?
でも、長旅から帰ってきたばかりで疲れていると悪いしなぁ…
パパスおじさまも忙しそうで、私の相手なんてしてくれないだろうし…
と、今日の予定を真剣に考えているとリュカが礼儀正しくノックをして入ってきた。

「おはようございます。アマンダさん。ビアンカ」
「おや?おはよう。どうしたんだい?こんな朝早くから?ビアンカに何か用かい?」
リュカは笑顔で頷くと私の所に近寄ってきた。
この子は可愛い!
そして素直でいい子だ!
他の男の子は、私がおママゴトをやろうとするとイヤがるが、リュカはイヤがらず私と遊ぶ。
時折大人びた行動を取ったりもするが、そこがまた可愛い!

「あのね。ビアンカにお土産があったんだけど、昨日渡すの忘れちゃって…だから今日持ってきたの!」
そう言うと私に小さな石を手渡した。
「?…これがお土産?」
「うん!」
その石は私の手の平にも収まる大きさで、黒く光沢を帯びている。
まぁ、綺麗と言えば綺麗だけど…これがお土産?
やっぱり子供って事なのかしらねぇ…

「その石ね、不思議な石なんだよ!」
するとリュカは私の考えを読んだかの様に説明を始めた。
「明るい所だとただの石だけど、暗い所で見ると光るんだよ!」
えっ!?そんな石があるの?
私は両手で石を包み光を遮って両手の中を覗く。
私の両手の中から青白い光が見える。
「綺麗…」
私は思わずため息混じりに呟いた。

「わざわざありがとうリュカ。ほら、ビアンカもお礼を言いなさい」
「うん!ありがとうリュカ!とってもステキ!」
私はこの石を気に入ってしまった。
さっきまでただの石ころと思っていたのに…リュカは私の事をよく分かっている。
「ねぇ、ビアンカは何時アルカパに帰っちゃうの?また明日も遊べる?」
リュカは可愛らしく瞳を輝かせ、私とお母さんに聞いてきた。
「本当はあまり長居してられないんだけどねぇ…薬師が洞窟に薬草を採りに行ったきり帰ってこなくてねぇ…私たちも薬がないと帰る訳にいかないから…」
そうなのだ…私とお母さんは、アルカパに居る病気のお父さんの為に、サンタローズへ薬を取りに来たのだ。だがお母さんの言う通り、薬師の『クライバーさん』が洞窟に入ったきり戻ってこない…
「薬?」
「私のお父さん病気なの」
「だから薬師に調合を依頼したんだけどねぇ…本当はパパスにでも探しに行って貰いたいんだけど、パパスも忙しいだろ…どうしたものかねぇ?」
リュカは少し寂しそうに俯き、何か考えている。

そして顔を上げると、
「じゃぁ僕が探してくる!」
そう言うや、制止する間も無く走り去っていった。
「あ!………洞窟内はモンスターも出るから子供一人じゃ無理だよ…まぁ、洞窟に入る前に番をしている人に止められるだろう」
「リュカ…無茶しないといいね。お母さん」

ビアンカSIDE END


<サンタローズの洞窟>

俺は洞窟内を大声で熱唱しながら闊歩する!
何故俺はこんな危険な事をするのか皆さん疑問だろう。
だが、俺には完璧なプランがある!
重要なのは『俺が一人で洞窟内へ探しに行った』という、事実である。

薬師を見つけられなくても別に構わない。
ビアンカに『私たちの為に勇気ある!男らしい所もあるのね♥』てな具合にポイント稼ぎを行いたいだけなのだ!
モンスターに襲われる事が考慮されてないって!?
オイオイ誰だい?そんな野暮な事言う奴は!(全部俺の脳内会議です)
皆さんお忘れかもしれませんが、先刻パパスがこの洞窟に入って行きました。
大方、昨日アマンダさんの話を聞いて、気を利かせて薬師を探しに来たのだろう。
さすが俺の父さん!気が利くね!

つまり、今は一人だがいずれ父さんと合流できるのだ!
しかも既に薬師と合流した後に出くわすかもしれないね!
そんな訳で俺は、父さんに存在をアピールするべく大声で熱唱しながら洞窟内を進む。
普通洞窟内で歌が聞こえたら、そちらに来るだろう。
俺は『巨人の星』のテーマを大声で歌う。
ちなみに俺はあまり場の雰囲気を気にしないで選曲する。
以前友人の結婚式の二次会で『テントウ虫のサンバ』を歌おうと思ったら先超された!
次に思いついた歌が『サン・トワ・マ・ミー』だった。
ブーイングの嵐だったが、気持ちよく歌いきった俺は大満足だった。

ただ父さんに気付いて貰うという事はモンスターのも気付かれるという事で、しきりなしに襲撃される。
気付いたら『ホイミ』を唱えられる様になっていた。



ど田舎の洞窟内で『大都会』を熱唱していると、どこからともなく唸り声の様なものが聞こえてきた。
「ぐご~、ぐご~」
流石に身構えて周囲を索敵をすると、かなり大きい岩の下敷き(足だけ)になりながら爆睡をしているおっさんを発見!
え!?
何この状況?
何で寝れるの?
つか、何してるの?

よく見ると薬師のクライバーさんだ。
「ちょ!クライバーさん!クライバーさーん!」
「…お!イカンイカン!誰も助けんこんから眠ってしまった!」
おい!普通ねぇーだろ!
「おや!リュカじゃないか!こんな所で何してるんだい?」
そりゃ俺の台詞だ!
「クライバーさんが帰ってこないからビアンカが困っているんだ。だから探しに来たんだ!」
「いや~そうかそうか!急にな岩が落ちてきて足が挟まってしまったのだよ!もう少しで動かせそうなのだが、リュカちょっと手伝ってくれ!」
俺は言われたとおり横から岩を押す。
隙間が少し出来足を抜く事に成功した。
「ホイミ」
俺は挟まれていた足にホイミをかけて傷を癒す…
「リュカは凄いな!ホイミなんて使えるのか!」
そう言うと俺の頭を撫でながら、
「でもな、子供一人で洞窟のこんな奥まで来ちゃダメだぞ!助けて貰ってこんな事言うのもなんだが」
「ごめんなさい…でもビアンカの悲しそうな顔、見たくなかったから…」
「そうか…じゃぁしょうがないな…そうだ薬を調合しなければ!こうしちゃおれん!」
クライバーさんは、そう言い残し疾風の様に立ち去っていった!
おいおい!子供が一人でこんな所にいちゃいけないんじゃねぇーのかよ!
おいてくなよ子供を!
あれ?そう言えば父さんは?
そんな広い洞窟じゃ無いんだけどなぁ?



 

 

4.物を貰った時は、いらない物でも笑顔で貰う。それが処世術。

<サンタローズ>

洞窟から出てくると俺がクライバーさんを助けた話は、既に広まっていた。
田舎って噂の広まりが早いよね。
噂してねぇーで仕事しろ!

教会の前を通り過ぎようとすると中からフレアさんが心配そうな顔で出てきて俺を抱き上げた。
「リュー君一人で洞窟に入ったの?ダメよ、何かあったら私悲しいわ」
「ごめんなさい」
そう言いつつ俺は胸に顔を埋め感触を堪能した。
うん…一仕事の後のオッパイは最高だね!

ひじょーに名残惜しかったが、フレアさんと別れ教会の裏手にあるクライバーさんのアトリエを訪れた。
クライバーさんは職人の顔で薬の調合をしていたが、俺の存在に気付くと手を止めることなく俺に話しかけてくる。
「おぉ!リュカか!さっきは世話になったな。お礼をしたいのだが、ちょっと手が離せない。わしの後ろにあるタンスの中いい物がある。それを持って行きなさい」

タンスの中?
おっさんのパンツじゃ無いだろうな?
いらねぇーぞ、さすがに!
そう思いつつタンスを漁ると、中に女の子用の『手織りのケープ』が入っていた。
おいおい…確かに女顔だけどこれはちょっと…こんなの着た日にゃ、そっちの道に目覚めちゃうかもしれないだろ!
カマっ娘クラブ№1目指しちゃうかもしれないだろ!
「すまんな!そんな物しか無くて…」
「ありがとうございます。大切にします」
そう笑顔で答えてアトリエを後にした。
物に罪は無い。


<サンタローズ-パパス宅>

帰宅すると、そこには仁王立ちの父とサンチョ…
心配顔のアマンダがいた。
少し離れた所に不安顔のビアンカもいる。
どうやらお説教タイムだ!
解ってます。
解ってますよ!
この状況も俺のプランには織り込み済みだ!

「リュカ。一人で洞窟に入るなんて危ないだろ!」
「そうです坊ちゃん!お怪我でもされたら。このサンチョ心配で心配で!」
来た!
ビアンカもいる!
俺にとっては説教タイムじゃ無い!
ポイントアップタイムだ!
「ごめんなさい…お父さん…サンチョ………でもビアンカが悲しい顔してたから…」
瞳を潤ませ皆の目をまっすぐ見詰めながら俺は語る。
「ビアンカにお土産渡して喜んでくれたのに…それなのに悲しい顔になっちゃたから…」
みんな驚きながら俺とビアンカを交互に見る。
ビアンカは少し顔を赤く染め、嬉しそうに俺に微笑む。

よし、完璧だね!これ。
これで俺の『ヤルときゃヤル男』的アピール大成功だね。
これで将来、ヤルときゃやヤル男だからヤらせろ的な事もOKっぽくねぇ?
「ん、うん…そうか…まぁ、無事だったのだから今回は良しとするか」
「そうだねぇ、パパス。あまりリュカを叱らないでおくれ」
ほら、大成功!
自分の強かさがちょっと怖い。

「リュカ。私の為にありがとう」
そう言うとビアンカに抱きつかれた。
フレアさんと比べると、そういう出っ張りがないけど、やっぱり女の子!柔らかくていい!それにいい匂いがする。
俺がロリコンだったら理性が飛んでるね。セーフ、セーフ!
「あのね…薬師のクライバーさんが、お礼にって僕にくれたんだけど、ビアンカにあげる。これ可愛いからビアンカに似合うと思うんだ!」
そう言って手織りのケープを手渡した。
更なるポイントアップ実行中。
「リュカ!ありがとう!」
そう言って俺の頬にキスをして「じゃ、今日はこの辺で」と言うアマンダさんと一緒に宿屋に帰っていった。

頬じゃなく口にがよかったなぁ…



翌朝、俺は目を覚ます。
いやー昨日の晩は、結構な騒ぎだった。と言っても叱られた訳ではない。
6歳の子供が一人で探検に出かけ、女の子の為にミッションをこなした事への歓喜の騒動だ。
「いやー、流石は私の息子!もはや立派なナイトだ!」
「私もお仕えしていて鼻が高いです!」
等々…
結構な親馬鹿ぶりだ!
サンチョはそうでもないが、父さんはツンデレ感がある。
ツンデレと言っても勘違いしないで欲しい。
父さんのツンは、人前だと威厳のある父親を演じ、いなくなると息子ラブリーでデレる。
俺の前だけでも威厳を保とうとする時があるから、すこしこそばゆい。

着替えをし1階へ降りると、朝食の用意と共にアマンダさんとビアンカがいる。
昨日あげた手織りのケープを着ていた。
「ビアンカ可愛い」
そう言うと顔を真っ赤にして喜んでくれた。
「リュカ、どうやら今朝薬が届いた様で、ビアンカ達は今日アルカパへ帰るそうだ」
5人で朝食を食べながら父さんが教えてくれた。
「え!帰っちゃうの?寂しくなるなぁ…」
言っておくが本心だゾ!
「そうだな。そこで女の二人旅は危険だからアルカパまで送ろうかと思うのだが、リュカは一緒に来るか?」
キターー!
更なるポイントアップの予感、大!

この道中で格好良くモンスターを倒し、か弱い婦女子を守るナイト的なアピールをすれば、そう遠くない未来にビアンカの方から『私の洞窟も探検して♥』なーんつって心と股をおっぴろげ!的な!!
なになに?
ドラクエ5って、こんなにハッピーライフなゲームなの?も、最高ーッスよ!

「で、どうするリュカ?」
おっと、いかん!
妄想全開過ぎて答えるの忘れてた。
「うん!もちろん一緒に行くぅ!あ、でもその前に教会へ行きたいからちょっと待ってて!」
「お前は偉いな。毎日教会へ行って。信仰深いな」
感心した様に俺を見ながら頷く父さんを横目に、俺は素早く朝食を終えると教会へ向かった。

信仰深い?それは違うな!
俺は神様を信じていない。
もちろん口に出しては言わないが…俺はオッパイ教の信者だ。
そこに俺にとってのご神体があるから足繁く通うのだ!
素晴らしいご神体が…素晴らしく柔らかく、素晴らしく大きく、素晴らしく良い匂いのするご神体が…


<サンタローズの教会>

「フレアおねーちゃーん!」
「あら、リュー君!今日もいらっしゃい」
俺はフレアさんに抱きつき、その胸に顔を埋め頬ずりをする。
相変わらずでけーなぁー!
いったい何が入っているんだろう?
きっと希望が一杯詰まっているに違いない。だから揉みすぎると欲望に変わり男を惑わす!
お!うまい事言ったな、俺!

「あのね、僕これからビアンカ達をアルカパまで送って行かなきゃいけないの。だからごめんね。本当はもっとお話をしたかったんだけどもう行かなきゃ」
本当名残惜しいッス。オッパイ…
「そうなの残念。じゃぁこれ、昨日のお土産のお礼よ」
そう言うと飴玉を数個俺のポーチに入れてくれた。
飴玉よりオッパイしゃぶりたいなぁ…
「ありがとうおねーちゃん!」
俺は笑顔でそう言い、再度胸に顔を埋め頬ずりをして教会を後にした。
早くビアンカのもあのくらい育ってくれないかなぁ………育つかな?



 

 

5.失敗は成功の元。でも、成功は慢心の元。常に気を引き締めて行こ!て事。

<サンタローズ~アルカパ街道>
ビアンカSIDE

「バギ」
リュカは6歳とは思えないほど強い。
一人で洞窟を探検するのも頷ける!
出発前、パパスおじさまがリュカに、銅の剣を買ってあげていた。
「一端の戦士がひのきの棒では、まずいだろ!」と、言って銅の剣を渡していた。
事実リュカは剣を使いこなしモンスターを駆逐する。
剣技だけじゃ無い!魔法の実力も桁違いだ!
私も『メラ』を使う事が出来るが、モンスターに火傷を負わせる程度…とても一撃で倒す事など出来ない。
今みたいに2.3匹のグリーンワームをまとめて細切れにする事など、私には無理だ!

思わず私がリュカに見とれていると、背後から1匹の一角ウサギが襲いかかって来た!
「きゃー!!」

ビアンカSIDE END


<サンタローズ~アルカパ街道>

「きゃー!!」
ビアンカの悲鳴が聞こえる!

振り返ると1匹の一角ウサギがビアンカに向けて突進している。
ビアンカ達は少し離れた所に避難していた為、俺も父さんも間に合わない!
それでも助けなきゃ!そう思った瞬間俺は『バギ』の詠唱に入っていた!

いいのか?このまま唱えたらビアンカも巻き込むぞ!
ビアンカを傷つける訳にはいかない!
どるする!どうすればいい?………よし!試してみるか!
「バギ」
俺は頭の中でバギのイメージを少し変えて唱えた。
一角ウサギに向けて風の固まりがぶつかる!
10メートルほど弾き飛び一角ウサギは慌てて逃げた。
そう、俺は『バギ』を一点集中に切り替えて、真空の刃を発生させない様に改造した

「ビアンカー!大丈夫!!」
俺はビアンカに近づき、怪我がないかを確認するフリをしてビアンカの体中を触りまくった。
うん。やっぱりまだ胸は小さい。でも色々柔らかくてイイ!
「ホイミ」
不埒な事を考えつつ、俺は取って付けた様にホイミを唱えた。
「ありがとう、リュカ!私は大丈夫よ!それに私だって、戦えるのよ!もう少し近づいたら私のメラをお見舞してやったんだから!」
どうあっても、お姉さんぶりたいらしい。
まぁ、いいけどね。
父さんとアマンダさんに褒められながら、俺たちは先を急ぐ事にした。



<サンタローズ~アルカパ街道>
ビアンカSIDE

格好いい…どうしよう、リュカの事が格好良く見える。
可愛いじゃ無くて、格好いい…いや、可愛くて格好いい。
私リュカの事が好きになっちゃった。
以前はパパスおじさまの事が格好良くて好きだったけど、リュカの事の方が全然好き!
だって、私を助ける為に魔法を改造しちゃうなんてすごい!
「でも、さっきの魔法はすごかったね!どうやったら、あんな魔法使えるの?」
「うん。バギを唱えようとしたんだけどビアンカに近すぎて、ビアンカに怪我させない様に、傷つけない様に思って放ったら、風だけのバギが出来た!」
「じゃぁ、偶然出来ただけでもう出来そうにないの?」
「ううん!もう覚えたから、出来ると思うよ」
「じゃぁ、もう一回見せて。お願い」
私は、リュカに抱きつきながら甘えた風にお願いをする。

別にそれほど魔法を見たい訳ではなく、リュカとイチャイチャしたいだけなのだ。
私ってばエッチな娘(こ)なのかしら?
「うん!じゃぁちょっと離れてて!」
そう言うと側にある綿帽子のタンポポに向けて手を翳す。
「バギ」
綿帽子のタンポポは茎や葉を切り刻まれる事無く、種子だけを舞い上がらせた。
そして私のスカートも一緒に舞い上がった!

「きゃー!」
「あ!ごめん」
「もう!ちょっと、何してんの!リュカのエッチ!」
私は慌ててスカートを押さえその場にへたり込む。
「えへ。ごめんねビアンカ。でもウサちゃんのパンツ可愛いよ」
「し、しっかり見てんじゃないわよ!もう、馬鹿!」
私は慌ててお母さんの元に駆け寄りアルカパへの道を急いだ。
どうしよう!リュカに見られちゃった!
もう、責任取って貰うしか無いわよね?そうよね?ね!ね!?

ビアンカSIDE END




<アルカパ-ダンカンの宿屋>

やっべー、調子にのりすぎて失敗したぁー。
スカートめくってしまった事は仕方がない!不可抗力だ!
でも、わざわざパンツ見えた事を報告する必要は無かったなぁ…
いや、だってさぁ!
急にベタベタしてきたしさぁ!
なんかすごく甘えた声出してたしさぁ!
なんかもぉ、ベタ惚れ感あったしさぁ!
ここで魔法成功させたら、『ちょっと向こうの物陰で男と女のラブゲームぅ』的に思っちゃってさぁ!

でも、嫌われた訳ではなさそうだ。
話しかけても答えてくれる。
ただ、視線は合わせず顔を赤くしたまま。
きっと、恥ずかしいだけなんだよ。
だから、どうしていいのか判らないんだ!
これはある意味チャンスだね!

「リュカ。私はもう少しダンカンを見舞っているから、アルカパの町でも散歩して来なさい」
俺が脳内でこのチャンスの活用法を模索していると、父さんから外出の許可を貰えた。
渡りに船とはこの事だ!おれは、町へ出かけようとしたがその前に…
「ダンカンおじさん」
「おぉ、リュカか。うつるといけないから離れていなさい」
「うん…この飴あげる。喉の痛みが少しでも良くなると思うから…」
と、優しい笑顔で近付いて、出立前にフレアさんから貰った飴玉をプレゼントする。
「ありがとう。優しいなぁリュカは」
「早く良くなってビアンカを喜ばしてあげてね!じゃぁお父さん!行ってきます!」
そう言ってその場を後にする。背後から俺を褒めちぎる大人達の声が聞こえる。

『将を射んと欲すれば先ず馬を』ってやつ!
将来ダンカンさんに『お前の様な男に娘はやらん』なんつわれない様に今の内に、気の利く良い子を演じておく。
まぁ、ぶっちゃけ『娘はいらんから、娘の身体だけくれ』てのが本音なんだけどね。
この本音を口に出しちゃ絶対ダメ!
地雷どころか核ミサイルのスイッチだからね。
「リュカ、お出かけするの?私が町を案内してあげるね!」
そう言うと俺の手を取り町へ出て行った。
あれ?チャンスタイム終了?
なんもしてないけど、パンツ見た事許してくれたみたい。




<アルカパ>
ビアンカSIDE

パンツを見られた事は恥ずかしかったけど、やっぱり私はリュカの事が大好きだ。
いつも歩いている町並みなのに、リュカと手を繋いで歩いていると、すごく楽しい気分になる。
大好きな人と手を繋いでいるだけなのに!

酒場の前を通りすぎると、準備をしているバニーガールのおねーさんを見てリュカの足が止まった。
リュカはバニーガールのおねーさんをジッと見ている。
特に胸を…
確かに大きい!
そんなリュカに気付いたおねーさんが、リュカの前で屈み「デート中に他の女の子を見てちゃダメよ。」と言われているが、リュカの視線は胸から離れない。
私はリュカの手を引き、強引にその場を立ち去った。
やっぱりリュカは胸が大きい方が好きなのかしら?
どうやったら大きくなるのかしら?
私も頑張らないと…
私は密かに志を立て、闘志を燃やした!

道具屋の前に差し掛かりショーウィンドウを見ると、そこに可愛いヘアバンドが飾ってある。
いいなぁ…あのヘアバンド…150Gかぁ…私のお小遣いじゃ足りないなぁ…
「可愛いヘアバンドだね。ビアンカ欲しいの?」
「うん…でも、お小遣いが…」
「おねーさーん!ヘアバンドください!」
私がお金が無い事を言い終わる前に、リュカは店員さんに購入を告げていた。

「ちょ、「あら、坊や。彼女へのプレゼントかな?」」
あ、ちょ…まって!お金…
「うん!すごく可愛いヘアバンドだから、可愛いビアンカに似合うと思って!」
キャ♡ヤダ!か、可愛いなんて…!
「じゃぁ、おまけしちゃおうかな。可愛い彼女の為に140Gでいいわよ」
いやん♡彼女だなんて…
「ありがとう。じゃぁこれ、140G」

リュカは私よりお金を持っていた!
きっとモンスターを沢山倒しているからだと思う。
男の子と手を繋いで町を散歩し、ヘアバンドを買って貰う。
これって完璧、恋人同士のデートよね!
やだ!どうしよう!
もう、嬉しいやら、恥ずかしいやらで軽いパニック状態だ。

リュカと手を繋ぎニタニタ笑いながら歩いていくと、大きな池に出た。
リュカは池の中央の小島を見ると、いきなりそこに向けて走り出した。
私は置いて行かれない様に慌てて付いていく。

それにしてもリュカの足は、あまりにも速い。
正直もっと長い距離だったら見失っていただろう。
「ハァちょっと、リュカ!ハァ急に、ハァどうしたの?」
リュカは私の問い掛けには答えなかった。
「その猫さんに何してるの?猫さん嫌がってるよ!放してあげて!」
いつも優しい口調のリュカが、少しきつめの口調で話す。
よく見るとそこには、この町の悪ガキ二人組ジャイーとスネイが1匹のちょっと変わった猫を苛めている。
「何だよ!お前には関係ないだろ!チビ!」
「そうだ、チビ!あ、ビアンカ♥ど、どう、ビアンカも一緒にこの猫で遊ばないか?」
「この猫、すっげー変な鳴き方するから面白いんだぜ!」
冗談ではない!私は何時も悪さをするコイツ等が嫌いなのだ!
私のスカートを捲ってきたり…友達面しているが、大嫌いなのだ!

「そんなひどい事しないわよ!弱い者いじめじゃない!格好悪い!」
「な、なんだよ!そのチビは、格好いいってゆうのかよ!」
「そうだ!そうだ!じゃぁ、格好いいおチビちゃんは、レヌール城のお化けを退治してこいよ!そうしたら猫を放してやるよ!」
レ、レヌール城のお化け…
私はそれを聞いて、引きつってしまった…前にお父さんからレヌール城のお化けの話を聞いて、怖くて夜眠れなくなってしまった事がある。
今尚、誰も居なくなったレヌール城からすすり泣く声が聞こえるそうだ。
そんな城がアルカパより少し北に行った所にある。

「いいよ!今夜レヌール城に行ってお化けを退治してくる!」
「「「え!?」」」
私も悪ガキ二人も驚いている。
この中で一番年下のリュカが、お化け退治と聞いて承諾するとは思っていなかった。
きっと二人は無理難題をふっかけたつもりなのだ。
「そのかわり…その間、猫さんを苛めないって約束してよ!」
「おぅ、いいよ!一晩だけ苛めないでいてやる!」
ジャイーがムカつくニヤけ面で了承する。
コイツ…約束守る気無いんじゃ…

「約束だよ。もし、破ったら…バギ!」
3メートルほど離れた所にある、大きな木にリュカは風だけのバギを唱えた。
木は大きく揺れて葉を大量に散らす。
「…破ったら、ひどいよ」
そう、冷たい口調で言い捨てて踵を返した。
悪ガキ二人は、顔から血の気が失せて固まっている。
どうやら、怒らす相手を間違えた様だ。
リュカってば、怒ると結構怖い。
でも、やっぱり優しい。
猫さんの為にレヌール城へお化け退治に行くなんて…リュカは、お化け怖くないのかなぁ?
私は…怖いなぁ…お化け…

ビアンカSIDE END



 

 

6.吊り橋効果は有効だ。だからこそ誠心誠意紳士的な態度で取り組もう。

<アルカパ-ダンカンの宿屋>

う~ん…ガキ相手に大人気無かったかな?
軽くブチ切れちゃったもんな…でも、動物好きなんだよ俺。
以前付き合っていた彼女が猫飼っていてさ。
彼女の部屋に行く度に猫と戯れていたのよ。
全然彼女の事ほっといてね!
そしたら、ふられた!
なんだよ!
俺、動物好きの良い奴じゃん!
やっぱり男は顔か?
顔が良ければ、放置プレイもバッチ来いなのか?

あ、いけね!
そう言えばさっきもビアンカとデート中だった!
さっきから少し沈み気味のビアンカを見てフォローを入れる事にする。
「ごめんねビアンカ。せっかくのデート中だったのに…」
ビアンカはデートと言う言葉を聞いて顔を赤らめた。
あれ?
俺はデートのつもりだったが、ビアンカは違ったか?
うーん…ここはあまりフォローを入れない方がいいだろ。
やりすぎると、せっかくさっき買ったヘアバンドを『こんな物いらない!』とか言われて、叩き返されかねない。

「ねぇ…リュカはお化け…怖くないの?」
あぁ、な~んだ…
お嬢ちゃんはお化けの事が怖くて沈んでいたのか。
ファンタジーの世界に生きていて、お化けも何も無いだろうに…
俺はてっきり『私と猫。どっちが好きなの!』って、懐かしい台詞を聞く事になると思った。(因みに『両方!』と答えてはいけない)

さて…何て答えるのがベストだろうか?
ビアンカは姉御肌気味だからな…あんまり『俺、最強』的を押し出さない方がいいな。
「うん、ちょっと怖いけど…あの猫さん助けたいから!」
前半は少し困惑の表情で…後半はキラリとエンジェルなスマイルで!

すると、もう『キュン!』とか聞こえてきそうな表情で俺を見つめる美少女が…
瞳を潤ませ、両手を胸で握り締め俺を見ている。
「リュカ。待たせたな!ダンカンは薬が効いてきたのか良くなりつつある。あまり遅くなるとサンチョが心配する。帰るとするか」
おぉっと!ここで帰る訳にはいかない!
何とか駄々をこねて、一晩滞在を促さないと…
「お父さ「何言ってんだい!ここまで世話になって、このまま帰す訳にはいかないよ!せめて、今晩だけは泊まっていきなよ!今からじゃサンタローズに着くのは真夜中になるよ!」
「うむ……………そうだな。今晩だけご厄介になるか!」
ナイス!アマンダさん!
「厄介なもんかい!何だったらずーといてくれてもいいんだ!リュカなんかうちの息子にしたいぐらいだよ!」
「やだ!お母さん…」
そう言うとビアンカはアマンダさんの後ろに隠れて、恥ずかしそうに俯く。
「ビアンカ…その新しいヘアバンドだって、リュカに買って貰ったんだろ?もう、何かお返しをするとしたら、ビアンカお前自身を貰ってもらうしかないだろ」
おいおい!たかが140Gで娘の人生縛るなよ!
俺としては、7.8年後ビアンカとシッポリ出来れば、それでいいから。
何もかも豪快なアマンダさんの料理は、やはり豪快で非常に美味しく大満足な状態で深夜を迎えた…



よし!父さんは熟睡しているな!
剣も持ったし、道具も準備した!
明け方までには戻らないとなぁ…うん!急ぐとしよう。
俺はゆっくりと部屋のドアを開け出て行く。

しかし、そこにはビアンカが待ちかまえていた。
「ビアンカ?どうしたの?眠れないの?夜這い?」
「夜這いじゃ無いわよ!もう…何でそんな事知ってのよ!」
「じゃぁ、どうしたの?僕、急がな「私も一緒に行く」
「え?トイレに?」
怖くて1人でトイレに行けないのか?…イヤイヤ、ここまで1人で来る方が遠いだろ!

「違うわよ!レヌール城のお化け退治によ!」
おいおいおい!何言ってんだ、この嬢ちゃん!
お前、めっさビビッてたじゃん!
「え?でもビアンカ。お化け怖いんじゃないの?」
「そりゃ、少しだけ怖いけど、私も猫さん助けたいの!」
イヤイヤイヤ!お前、ものっそい怖がってたじゃん!
「でも、モンスターだって出るし、危ないよ!」
つーか邪魔だよ。
「それはリュカだって同じでしょ!それに私だって戦えるんだからね!」
そう言うと俺の目の前に『いばらの鞭』を見せつけた。

正直足手まといッス。
昼間一角ウサギに襲われた時も、ビビッて動けなかったのに。
「連れて行かないと、この場で大声出すわよ!みんなにリュカが勝手に外へ出ようとしている事、ばらすわよ!」
えぇ~…何それー!?
本末転倒って言葉知ってる?
猫さんを助ける事が目的なんだよ?
「分かったよ…でも、僕の側から離れないでね!危なくなったら、僕の事はほっといて逃げてね!」
ビアンカが怪我をしない様に注意していかないと…ビアンカだけは守らないと…
あ~…なんかごっさ難易度が上がった気がする。




<アルカパ~レヌール城街道>

当初俺は、慎重に行動をしていた。
極力戦闘を避け、モンスターに気付かれない様に静かに行動する。
しかしビアンカは恐怖に飲まれていた。
物音に過敏に反応し、悲鳴に似た声をあげメラを打ちまくる。
何もない所4カ所にメラの焦げ跡を残した。
これだったら、戦闘をした方がいい。
戦闘をして勝てば、それが自身になり恐怖が和らぐ。
そう思ったから、俺はあえて歌を歌い出した。
明るい歌を、元気が出る歌を。

俺はトトロの『さんぽ』を大声で歌っている。
案の定レヌール城へ着くまでの小一時間、18回にも及ぶ戦闘を繰り広げた!
最初の内は、俺一人で戦っていた様なものだった。
しかし戦闘を難なくこなし、勝利していった為かビアンカの恐怖心は薄れていった。
後半はビアンカも戦闘に参加し、俺の指示通り動きコンビプレーを炸裂させる!
「ふん!私にかかればたいしたこと無いわね!」
「…」
つっこみません!えぇ、つっこみませんよ!
自信を持つ事は、いい事だ。つっこみませんよ!



…お前、さっきまでものごっつビビッてたじゃん!!




<レヌール城・外>
ビアンカSIDE

「♪やっ~てきましたぁ~レヌ~ルじょ~う、お化けい~っぱいレヌ~ルじょ~う♪」
リュカが私に気を使って、変な歌を歌ってくれたから、なんとかここまで来る事が出来たけど、不気味にそびえ立っているレヌール城はやっぱり怖い…
(ガチャガチャ!!)
リュカが正面玄関のドアを開けようと、乱暴にドアを揺すってる。
「開かね!」
え!?開かないの?
それじゃ、中に入れない…お化けも退治出来ないし、猫さんも助ける事が出来ないわ!

「リュカどうす…る?!!」
私は事態の頓挫に頭を悩ませていると、リュカが居なくなっている!
私一人になってる…ヤダ…ウソ…どこいったのリュカ?
「リュカー!!!!」
私は大声でリュカを呼ぶ!
今にも泣き出しそうな声で!

「な~に~ビアンカー?」
え!?
リュカは城を回り込んだ奥の方から顔を出し、いつもの様に緊張感が無い声で私に話しかけてきた。
「こっちにハシゴがあって、そこから中に入れそうだよー!」
「もう!勝手に動き回らないでよ!一人で行動したら、危ないでしょ!」
「えへへ。ごめーん!」
そう言うと、私の手を引きハシゴの所まで誘った。

ビアンカSIDE END


<レヌール城・外>

正面玄関が開かない事につい苛立ってしまい、ビアンカの事忘れて歩き回ってしまった。
泣きそうな声だったなぁ…可哀想な事した。
「あら、本当!ここから上がれば中に入れそうね」
俺の手をしっかり握りながら、ビアンカはハシゴを見上げている。
「レディー・ファーストよ!私が先に登るからリュカはハシゴを押さえておいて」
少しガタ付くハシゴをガタガタさせながらビアンカが指示をする。
はぁ~…戦闘以外は好きな様にさせるか…

「じゃぁ、しっかり押さえておくのよ!」
「うん!大丈夫だよ。」
そう言うと、ビアンカは一段一段ハシゴを登っていく。
俺の頭上1メートルほど登った所で、俺はある事に気付いた。
そして、いらぬ一言を発してしまった。
「あ!今日は猫さんのパンツだ」

「え!!きゃー、エッチ!!」
ビアンカは慌てて両手でスカートを押さえる。
しかし、ハシゴを登っている最中に、両手でスカートを押さえると落下する。
気付いてハシゴを掴もうとしても、もう遅い。
見上げていた俺の顔に、猫さんが近づいてくる。
そして、猫さんと口吻を交わすと、そのままの勢いで後ろに押し倒される。
うん、言うまでもないが、俺は顔をビアンカの尻に敷かれ横たわっている。
普通女性のパンツが見えたら、きっともっと見ていたいので女性には告げないだろう。
しかし、8歳の女の子のパンツなんぞ、見れても見れなくてもどっちでもいい。
きっとここら辺のエロスの境界線が、災いしているのだろう。
気を付けよ。


<レヌール城>
ビアンカSIDE

私は今、真っ暗闇にいる。
真っ暗闇でひとりぼっちだ。
どうしてこんな事になったんだろう?
リュカから離れてしまった事がいけなかった。
「怖いよぅ…リュカ…助けて…」

(少し前の事)
どうしよう私!
リュカの顔、お尻で踏んじゃった!
リュカにエッチな事しちゃった!
私が先程起こったハプニングに、身悶えていると、突如私達が入ってきた出入り口に、鉄格子が降りてきた。
私が慌てて出入り口に駆け寄ると、お化けが現れて、私を攫っていく。

そして私は真っ暗闇で一人泣いている。
「ひっく…リュカぁ…ぐすっ…」
どこからともなく、重い物が擦れる音が聞こえる。
少しずつ視界が開けた。
そこにはリュカが心配そうな顔でこっちを見ている。
リュカぁ…

ビアンカSIDE END


<レヌール城>

心身共にダメージを受けたが、なんとか入城に成功した。
ビアンカは恥ずかしかった様ではあるが、あまり嫌な思いをした印象はない。
むしろちょっと喜んでいる様に見える。
変な趣味に目覚めないといいなぁ…

俺が先を急ごうとすると、出入り口が閉ざされ、ビアンカがガイコツどもに攫われた!
どういう仕組みかよく分からんが、ビアンカごと壁をすり抜け中庭の方へ降りてった。
俺は慌てて後を追う!
階段を下り、中庭への扉を見つけそこに駆け寄る。
その瞬間、背後から殺気を感じ横に飛び退く!

振り返り身構えると、そこには動く石像がいた。
ハニワを潰した様な顔をしている。
(ぼそっ)「うわぁ~…不細工~」
どうやら聞こえたらしく、めっちゃ攻撃してくる!
幸い石製の所為か動きは遅い。
でも堅い!斬りつけてもあまり効かない。
手が痺れる。
距離をとってのバギも効果が薄い。
「僕、君に構っている余裕無いんだけどなぁ。」
無論、話して聞く様な相手じゃない。
しょうがない…

俺は銅の剣を鞘に収め、両手をヤツに翳す。
ヤツが俺に突進してくる。
両手でヤツを押さえ込み、威力を高めた『バギマ』を打ち込む!
「くらえ!ゼロ距離バギマ!」
やっと動く石像を倒し、慌てて中庭へ向かった。
そこには元は立派な墓が2つあった。
今は、見る影もなく荒れ果てている。
その墓に『リュカの墓』『ビヤンカの墓』と、きったねー文字で上書きされてある。

俺は、『ビヤンカの墓』と書いてある方を、力任せに開けた。
ビアンカが泣きながら閉じこめられている。
俺は、ビアンカを抱き起こすと、体中を確認し
「ビアンカ、怪我は無い?大丈夫?」
涙を見られたくないビアンカは、急にそっぽを向き
「遅いじゃない!何してたの!?」
と、怒り始めた。

どうやら怪我は無い様だ…良かった~!
俺はビアンカの顔を胸に抱き、
「ごめんね。もう一人にしないから…ごめんね…」
と、そっと呟く。
「まぁ、いいわ。助けに来てくれたから…」
そう言って、声を押し殺して泣き出した。
俺は、ビアンカが泣き終わるまでの数分間、動かずに抱きしめ続けた。



 

 

7.老人を労ろう。幼子を労ろう。両者が対峙した時はどっちを労る?

<レヌール城>

ソフィアとエリックという、二人の幽霊に出会った。(お化けと幽霊の違いって何?)
城に住み着いたモンスター達のせいで静かに眠る事が出来ないらしく、モンスター退治の依頼を請け負った。(モンスターとお化けの違いって何?)
依頼とか言ってるけど、もちろんロハだ!(ロハとは、無料奉仕の事だ!)

そんな訳で俺たちは今、台所へたいまつを探しに来ている。
どういう仕組みかよく分からんが、1フロアだけ真っ暗で何も見えないフロアがある。
そこにモンスター達の親分がいるらしく、たいまつが必要なのだ。
で、何故たいまつが台所にあるかと言うと………それもよく分からん!
世の中分からん事だらけだ。

「ねぇ…アレ、何やってるの?」
ビアンカが不思議そうに台所の中央を指差す…
そこには、コックの幽霊がガイコツにど突かれ料理をしている。
「料理…?」
「お化けが料理してるの?」
「いや、違うよ。料理しているのは幽霊のコックさんで、それを強制してるのがモンスターのガイコツだよ」
「じゃぁ、お化けは何処に行っちゃったの?」
あれ?そう言えばお化けの存在が、どっか行っちゃった。
よく分からん!
料理に夢中(?)のコックとガイコツ共を無視し、難無くたいまつを手に入れた俺たちは親分ゴースト(本名知らん)の元へ急いだ。


暗闇の中玉座には、貧相な爺が座っている。
「あんたが、この城の親分?」
「おぉ、そうじゃ!元気な子供達じゃのぉ。どれ、旨い料理をご馳走してやる。もう少し近くに来なさい」
行く訳ねぇーだろ、ボケ!
そんなくだらん罠に引っかかるか!
「なんじゃ?ワシの事が怖いのか?恐がりなガキじゃのぅ」
「こ、怖くなんてないわよ!」
安売りの挑発に、簡単に引っかかったビアンカが、親分ゴーストの方へ1歩踏み出す。
「ちょ、ビアンカ!」
「もっとも、食材はお主らじゃがのぅ」
そう言うと床が抜け、俺たちは奈落へ落ちる。
うそ~ん!?

ちょ、この高さは、洒落にならんぞ。
最悪死ぬし、良くても骨折する。
俺はビアンカを抱き寄せて、タイミングを見計らい地面に向けて風だけの『バギマ』を放つ。落下の勢いを押さえた俺は、ビアンカを抱き抱えたまま背中から地面に落ちた。
受け身をとる事が出来なかった為、かなり痛い!
「ビアンカ!大丈夫!?ホイミ!!」
俺はビアンカに怪我がないか確認しつつホイミを唱える。
何か今日俺ビアンカの身体触りまくってるな。
「大丈夫よ、ありがとうリュカ!」
ふ~…どうやら怪我は無い様子だ…

取り敢えず一安心した所で、俺は周りを見渡す。
コックの幽霊とガイコツ共が対照的な反応でそこいいる。
コックは驚き戸惑い、ガイコツ共は喜びはしゃぐ。
「わ、私には出来ない!子供を料理するなんて!!」
あ゙?…料理?
「ごちゃごちゃ言ってねぇーで、さっさと取りかかれ!」
ガイコツ共にボコられ、ベソをかきながら俺たちに、塩・こしょう・その他調味料を振りかける。
「ちょ、やめて!ハックシュン!」
「いやー!!お塩が目に入ったー!!」
俺とビアンカは何だか判らない状態になっていた。
「よーし!ここで仕上げに、俺たち特製のソースをぶっかけろ!」
「「「「おお!!」」」」

ハッキリ言おう。
俺は綺麗好きだ!
そりゃぁ、旅をし洞窟・廃屋を探検し、戦闘で地べたを転げたり、泥沼の中に入ったりするのは仕方がない。我慢できる。
しかし……だからこそ、こんな意味のない、しかも生臭いソースなんかで汚されるのが、我慢できない!!
「よーし、食いまくるぞー!」
「バギマ!!」
油断しまくりで近づいてきたガイコツに向けて、俺はバギマを唱えた。
怒りで加減が出来ず、ガイコツ共だけでなく壺・皿・鍋等、あらゆる物を巻き込み台所をカオスにした。
振り返ると、へたり込み目を擦るビアンカに躙り寄るガイコツ共が、まだ4体いたのでバギマを唱えようと手を翳す。

いや、いかん!ビアンカを巻き込む。
慌てて剣を抜き放ち、ガイコツ共に飛びかかる。
1体、2体、3体、4体!
ほぼ瞬殺!ガイコツ共を蹴散らし、ビアンカに駆け寄る。
腰の袋からきれいなハンカチを取り出し、ビアンカの顔に付いた生臭いソースを優しく拭き取る。
やっと目を開ける事が出来る様になったビアンカは俺の顔を見ると、自分のポーチからハンカチを取り出し、俺の顔を優しく拭いてくれた。
このシーンだけ見ると微笑ましいのだが、ともかく生臭い。
また怒りが沸々と沸いてきた俺は、俺の顔を拭くのを遮り、ハンカチを持ったビアンカの手を握り、あのクソ爺の元へ駆け上がった!



ビアンカの『メラ』でたいまつに火を灯し、玉座の間を見渡す。
俺は勢い良く玉座の間の扉を蹴破り、室内を隈無く見渡す………が、居ない。
あのクソ爺、何処行きやがった!
背後のテラスで気配を感じた俺は、テラスへのドアを蹴破りテラスへ躍り出る。
そこにはヤツがいた!
「なんと!!ガイコツ共はお前達を食い損ねたか!?ならばワシが食って…うげ!!」
ヤツの台詞を聞きもせず、俺はたいまつを下段の構えからヤツの股間に振り上げた!
振り上げた勢いで、炎こそ消えたがたいまつの先は、まだ高温だ。
『ジュッ』とゆう音と共にヤツの股間から焦げ臭い臭いがする。
「こ、ここは…反則…じゃろ!?」
そう言うと、その場にうずくまり身悶える。

怒りの収まらない俺は、うずくまるヤツをたいまつでボコ殴りにする!
「ちょ!やめて!!老人を労って!!」
「やかましい!幼児虐待しておいて舐めた事言うな!!」
「ちょっと!リュカ!やりすぎよ!リュカ、やめたげて!リュカ!リュカぁー!」



結論から言うと、俺は許してやった。
ビアンカにマジ泣きをされ手を止めた。
『女を泣かしちゃイカン!』これは俺の以前の親父が言っていた言葉だ。
『女に泣かされても、女を泣かすな!』女で苦労した親父の、ありがたい言葉だ。
いったい何があったのかは知らんが…話を戻そう。

とにかく、「もうしない。心入れ替える」等と言っていたので見逃してやった。
去り際に「あんた、立派な大人になるよ」と嘯いていたので、顔に唾吐いてやった!
ソフィアとエリックが出てきて、「ありがとう。これで静かに眠れる」とか言って俺とビアンカの服を一瞬できれいにしてくれた。
こんな便利機能があるのに、お化けはどうにも出来なかった様だ。よく分からん。

帰ろうとすると、床に落ちてた玉を踏んでしまい、盛大にすっころぶ!
「いってぇー!!誰だよ、こんな所に物置いたヤツは!」
金色に輝く宝玉を拾い、悪態を吐く。
「うわぁー…綺麗な宝玉ねぇ…」
こんな物ここにあったけ?
「きっとお礼にくれたのよ!リュカが頑張ったんだから、リュカが貰っていいんじゃない?」
確かに綺麗な宝玉だ!お言葉に甘えて貰うとしよう。
サンタローズに戻ったら、フレアさんにプレゼントしちゃおうかなぁ~。
『まぁ~、綺麗な宝玉!でも私はリュー君の宝玉に興味があるの♥』な~て言われたりして。
そんな馬鹿妄想を繰り広げつつ、アルカパへの帰路についた。




<アルカパ>

俺は朝一から、あの悪ガキ二人組の元へ向かった。
夜明け前には帰ってくる事が出来たが、町の入り口の兵士に見つかり、ちょっと怒られたが父さんには気付かれてなさそうなので、少しだけ眠る事にした。
数時間後、再度ベッドを抜け出し出て行く。
おかしいな?父さんがまだ寝ている?早起きな人なのに?
途中ビアンカと合流し、池の中の小島へ向かう。

「さぁ!約束通り、レヌール城のお化けを退治して来たわよ!その猫さんを放しなさいよ!」
正直、証拠なんて何もない。
ごちゃごちゃ因縁付けてきたら、ぶっ飛ばそう。
「よし!お前らも頑張ったし、認めてやるよ!」
え!?納得するの?
「でも、すげーよなぁ!大人達みんな噂してるぞ。子供二人でお化け退治したって!」
噂広まるの早!
まぁいい…好都合だ。
俺は悪ガキ二人組から猫をひったくると、無言でその場を後にする。
この二人組はビアンカに気があるみたいだから、無言の圧力をかけて俺の女に手を出させない様にしておく。



 

 

8.ゲームは1日1時間。エッチは大人になってから。世の決まり事です。

<アルカパ>
ビアンカSIDE

やっぱりリュカは、怒ると怖いなぁー…
さっきも何も喋らず睨んでたし…
昨日も私がソースまみれになったのを見て、すごく怒ってくれてた。
優しいからこそ、怒ると怖いのよ。
そんな優しいリュカの事が、私は大好き。

でも、今日サンタローズに帰っちゃうのよね…
寂しくなるなぁ…いっそアルカパに住めばいいのに!
せめてリュカだけでも…
そんな訳いかないわよね。
リュカを見ると、嬉しそうに猫さんを撫でてる。
猫さんも嬉しそう。
リュカに良く懐いてる。
あ!そうだわ!
何時までも『猫さん』じゃ可哀想だから名前を付けてあげないと。

ビアンカSIDE END


<アルカパ>

「ねぇ、リュカ!」
「ん?なぁに?」
「猫さんに名前を付けてあげなきゃ!」
あぁ、そうか。名前付けなきゃいけないのか…
以前付き合っていた彼女の飼い猫は『ゴンベイ』だった。センス悪!
「私が幾つか考えてあげるから、リュカが決めて」
「うん」
「じゃぁ、ゲレゲレ、ボロンゴ、プックル、チロル」
「………」
「さぁ、どれにする?」
え!その四択?
他の選択肢は?

『ゲレゲレ』ってセンス悪っ!
それもう名前じゃ無いからね!なんか汚い物を表す擬音だから!
『ボロンゴ』ってのもひでーな!
そのうち「うちのカミさんが」とか言って殺人事件解決しだすよ。
「ねぇ!どれにするの!」
怒られた!!
「えっと、あの…じゃ、じゃぁプックル?」
「じゃぁ、あなたは今日からプックルちゃんよ!よろしくね」
「ふにゃ~」

正直どっちもどっちだが、その時触っていた肉球がプックりしてたから、プックルと言ってしまった。
まぁ、本人(本猫?)が嫌がってないからいいか。
ちなみに、プックルは俺が飼う事になった。
ビアンカの家は客商売をしているから、飼えないんだよね。
父さんにお願いしてみよ。
ダメって言われたらどうしよう。
フレアさんに泣き付いてみますか。


<アルカパ-ダンカンの宿屋>

部屋へ戻ると、父さんがまだ寝ている。
おいおい!ちょっと寝すぎだぞ!
「お父さん、朝だよ!サンタローズへ帰らないとサンチョが心配するよ!」
そう言い父さんを揺する。

熱っ!!
ちょ、何!?すごい熱なんですけど!
どうやら、ダンカンさんの風邪をうつされた様だ。
俺は、アマンダさんに事を告げると、その場で延泊する事が決定された。
父さんは2日後には全快したのだが、その2日間は楽しいものだった。

ビアンカ・プックルと一緒に遊び回ったり、食事の準備をするアマンダさんを手伝ったり、教会に保管されてある、魔法に関する書物を読み漁ったり。
まぁ、俺が本を読んでいる時は、ビアンカはつまらなそうだったが。

あ、そうそう。
ビアンカと遊んでいる時、悪ガキ二人組が遊びたそうに近づいてきた時があったが、プックルが威嚇をし俺が氷の様な冷たい視線を浴びせると、半ベソかいて逃げてった。
何より楽しかったのは、夜寝る時だ。
俺は風邪がうつるといけないから、ビアンカと寝る事になった。
正直、襲っちゃおっかなぁ~と思ったけど心はともかく、身体が反応しなかったので断念した。(お子ちゃまの身体とは不便よのぅ)
でも、ビアンカはとてもいい匂いがして、一緒に寝ると心が安らいだ。


<アルカパ-ダンカンの宿屋-ビアンカの部屋>
ビアンカSIDE

パパスおじさまの風邪も治り、とうとうサンタローズに帰る日が訪れた。
リュカは私の部屋で帰り支度をしている。
アルカパとサンタローズ。
そんなに離れている訳ではない。
会おうと思えば何時でも会える…

でも、リュカの事が好き過ぎて、少しの別れでも悲しくなってきた。
泣きそうになった私は、プックルちゃんと会話を始めた。
「プックルちゃんも良い子でね。そうだ、プックルちゃんに、これあげる」
私はお下げ髪からリボンを取り、プックルちゃんの首に巻き付ける。
そして、もう一本をリュカの手首に、巻き付ける。

しかし視界がぼやけて、上手く結べない。
こんな顔で別れたくないのに…笑顔で別れたいのに…
私の涙を手で拭うと、リュカは優しく囁いた。
「僕、ビアンカのリボンもいいけど、ビアンカが穿いているパンツが欲しいな」

……………………は?

な、何言ってるの!
この子すごいエッチな事言ってるわよね!
ど、どう言うこと?どうすればいいの?
「ビアンカと一緒に寝たら、すごくいい匂いがしたんだ。だからビアンカの匂いが残るパンツが欲しいんだ」
…つまり、そう言う事。
リュカも私の事が、好きって事?
エッチな意味も含めて、好きって事!

決めた…将来私はリュカのお嫁さんになる!
これはその約束よ!
だから私はパンツを渡す。
こんなエッチな事をさせたのだから、責任をとって結婚して貰う。
私は穿いてたパンツを脱いで、差し出した。

ビアンカSIDE END


<アルカパ-ダンカンの宿屋-ビアンカの部屋>

「プックルちゃんも良い子でね。そうだ、プックルちゃんに、これあげる」
ビアンカはお下げからリボンを取ると、プックルの首に巻き付けた。
次いで俺の手首に巻き付けようとしているが、もう泣き出してしまい上手く結べないでいる。
また泣かせてしまった。
ここはちょっと怒らせて、最後に『やっぱりビアンカは笑っている方が可愛い。』な~んっつって、最高の別れを演出しよう。
もぅ、ビアンカ俺にベタ惚れだね!

ビアンカの涙を拭ってあげて、俺は続けてこう言った。
「僕、ビアンカのリボンもいいけど、ビアンカが穿いているパンツが欲しいな」
さすがに固まっている。
当たり前だ!いきなり『パンツ寄こせ!』って言われればドン引きだ。
「ビアンカと一緒に寝たら、すごくいい匂いがしたんだ。だからビアンカの匂いが残るパンツが欲しいんだ」
残り香があるパンツくれって、どんだけ変態さんだ!
『何、変な事言ってんの!エッチ、馬鹿、変態』ってな事言ってくれると、『笑顔がステキ』って台詞が際だつよね。

が、現実は俺の予想と違った。
俺の目の前でパンツを脱ぐビアンカ。(その際タテスジが見えてしまいました。)
俺の手にパンツを握らせ、恥ずかしそうに呟く。
「これ私だと思って大事にしてね。無くしちゃダメよ」
今までのアニマルプリントとは違い、純白の小さい布地が俺の手の中で、温もりを放っている。
えぇ~、この世界の女って、みんなこうなの?
フローラが頭のネジ緩いんじゃなくて、みんなこうなの?
えぇ~!?


<アルカパ-ダンカンの宿屋前>
ビアンカSIDE

ちょっとスースーして恥ずかしいな。
リュカとパパスおじさまのお見送りには、お父さんとお母さん以外に、出入り口を番する兵隊さんも来ていた。
何故か悪ガキ二人組も来ている。
小声で『早く帰れ』とか『もう来るな』とか言っている。
頭にくるわねぇ!

パパスおじさまもみんなとの話が終わり、リュカを誘い町の出口へ歩き出す。
リュカも私の方を見て、手を振り別れを告げる。
私は、堪らなくなりリュカの元へ走り寄り、
「リュカ、また一緒に冒険しましょうね。きっとよ!」
本当は、もっと違う事を言いたかったけど、みんながいる前では恥ずかしくて言えなかった。
でも、そのかわり私はリュカにキスをした。
リュカの唇は柔らかかった。
リュカのキョトンとした顔が可愛かったが、またすぐにいつもの笑顔に戻ると、
「またね」
って、優しく微笑んでくれた。
…絶対約束だよ…

ビアンカSIDE END


<アルカパ~サンタローズ街道>

「リュカよ。どうやらビアンカに、相当好かれた様だな」
父さんはニヤケながら、俺をからかう様に言う。
まさか、あの場でキスしてくるとは、思わなかった。
しかも、口に。
頬にとかじゃないからね!

俺もビアンカの事を好きになってきてる。
もっと、一緒にいたいと思ってる。
「リュカよ。レヌール城のお化けを、退治した事。話は聞いたぞ」
父さんは真面目な口調で切りだした。
「その歳で大した物だ」
父さんは褒めてくれた。
「しかし、ビアンカちゃんを危険に晒したのも事実!慢心していると、いつか取り返しのつかないことになるぞ」
その通りだ!
ビアンカが無事だったのは、偶然でしかない。
危険な場面は、何度もあった。
…もっと強くならないと…



 

 

9.出会いは突然。別れは必然。恋する乙女は超天然。

<サンタローズ-パパス邸前>

俺はあさから父さんに、剣術の稽古をつけてもらっている。
俺は銅の剣で斬りかかる。
父さんは自分の剣で、受け流し、弾き、去なす。
時折父さんの攻撃が、俺に降りかかり、ほぼ寸止めで勝負が決まる。
2度程かすって頬から血を流す。
「ここ最近で、随分と腕を上げたな!力加減が難しくなった」
「でも、もっと強くならないと。ビアンカと約束したんだ、また冒険しようねって!」
「そうか。では、頑張らないとな!とは言え、今日はここまでだ。父さん、調べ物があるのでな。家には居るが…また今度にしよう」
そう言うと、家の中へ入っていった。
俺はプックル相手に、稽古を続けた。
プックルは素早く、いい稽古相手だ!
3度程引っかかれたけど…


<サンタローズの教会>

俺はあの後、軽く水浴びをし、汗を洗い流して着替え、宝玉を見せる為フレアさんの元へ赴く。
汗臭い状態で抱き付くのは失礼だろう。

教会の中に入り、手にした宝玉を見せる為、フレアさんを探すが誰も居ない。
神父様も居ない。(まぁ、こっちはどうでもいいけどね)
「…あっ………ん………」
裏手からフレアさんの声が聞こえた。

俺は教会の裏へ回り込み、フレアさんを探す。
どうやら、物置小屋から声が聞こえる。甘く湿った声が…
もしかしてフレアさん、一人エッチでもしてるんじゃね?
そう思い、扉を少しだけ開け、中をそっと覗く。

フレアさんが居た。
一人エッチはしてなかった。
一人じゃないエッチをしていた…
俺の思考は停止した。
フレアさんは髪を振り乱し、胸は開けたわわな膨らみを上下に揺らしてる。
スカートは腰まで捲し上げられ、そこに男の腰が打ち付けられる。
男はこの村では見た事のない、旅人風の若い男。紫のターバンを巻き、マントを着けている。
顔は日に焼け、腕は父さんと変わりないぐらい、筋肉で盛り上がっている。
数分………いや、数十分!
俺は動けないでいた。目を離せないでいた。
どちらともなく、果てると濃厚なキスをし、余韻を味わう。
その瞬間、男と目が合い俺は慌てて、その場を離れた。


教会の正面で途方に暮れる。
フレアさんを奪われた気分がした。汚された気分がした。
フレアさんにも個人の意志があり、俺はそれを束縛する立場などではない。
それは解っている、解っているが、イヤな気分が心に広がる。

「やぁ、リュカ。綺麗な宝玉だねぇ」
事をサッサと済ませた男は、俺の名を呼ぶと、俺の手から宝玉を掠め取る。
「あ!ちょ「あら?リュー君。私に会いに来てくれたの?」
俺が男に文句を言おうとすると、奥からフレアさんが現れた。
いつもの口調。いつもの声。
でも、どこか潤った甘い感じに聞こえる。
フレアさんの顔は上気し、心なしか歩みもふらつく。
服も所々不自然にシワが付き、さっきの光景が脳裏に過ぎる。

俺が思わず俯くと、
「ありがとう。これ返すよ」
そう言うと、男は俺と視線を同じにし、勝手に腰の袋へ宝玉をしまい込む。
男の瞳は、吸い込まれそうな程澄んでいた。
俺は、この瞳を知っている。
どこかで見た事がある。
それを思い出そうとしたが、男から微かに漂う、フレアさんの香りが邪魔をして、思い出す事が出来ない。
「その宝玉は、とても貴重な物だ。人にあげたりせず、大事にするんだよ」
「う、うん…」
この瞳で言われると、逆らう事が出来なくなる…

そして男は、俺の耳元へ顔を寄せ呟いた。
「フレアさんの処女は俺が貰った」
な!!?
俺は信じられない物を見る様な目で、男を睨んでいた。
男は、全く気にせずフレアさんに別れを告げる。
「それではシスター。私はこの辺で…あなたに出会えた事は、私の一生の宝です」
「まぁ…」
すげー顔を赤らめ、クネクネしている。
「あの…お名前を教えて頂けますか?」
名前も知らない相手とヤってたのかよ!
この世界のシスターって、そうゆうもんなの?
「次、お会いした時に名乗らせて頂きます。では、またお会いしましょう」
フレアさんは俺を抱き抱えると、去りゆく男を、ただぼーっと見詰めている。
男が見えなくなるまで。
そして、見えなくなっても…
普段なら、フレアさんの胸に顔を埋めるのだが、今はそんな気分になれない。
なにより、フレアさんから栗の花の匂いがして、とても憂鬱な気分になる。

フレアさんは、さっきの男の話で一人盛り上がっている。
聞くに堪えず、早々に家路につく。



<サンタローズ>

自宅付近までくると、あの男が我が家から出てくるのを発見する。
何やら怒りがこみ上げてきた。
石でも投げ付けてやろうと思い、男の後を追う。
この村は、山間にありアップダウンが激しい。
慣れない者は歩く事すら苦労する。

しかし、あの男はスイスイ村の出口へ向かっていき、俺は見失った。
村の出入り口で番兵をしている、トーマスに聞くと、
「誰も村から出てないよ!?」
じゃぁ、まだ村内にいるはずだ。
色んな人に話を聞き、絶対見つけ出す!

パパス宅前で焚き火に当たる青年の証言。
「そういえば、パパスさんの所から出て行ったよ。そしてリュカ君がその後を追っていった」
馬鹿じゃないの?そんなの分かってるよ。後、追ってるんだから。馬鹿じゃないの!

可哀想な義父を持つ嫁の証言。
「うちのお義父さん、お鍋のシチュー全部食べちゃったのに、食べてないって言い張るの!」
もう手遅れだから、生暖かい目で見守ろう。

宿屋の旦那の証言。
「誰かが宿帳に落書きしたんだ。まぁ、お客なんていないからいいけどね」
この宿屋、経営大丈夫!?

と、まぁ…役に立つ情報は無い。
つーか、ぶっちゃけもう、どうでもよくなってるんだけどね。
男の尻を追っかけるのに飽きた。
とは言え、最後に酒場を確認する事にした。
もしかしたら『一発ヤった後のビールは旨い!』なんて、飲んでいるかもしれないし。

酒場に下りて見渡す…
やはりあの男はいない。
その代わり、変なのがいる。
年の頃なら、12歳前後。薄紫色の髪をし、尖った耳が特徴的な少女。
行儀悪くカウンターの上で胡座をかき頬杖をついている。
そして何より身体が透けてる。
他の誰にも見えていないらしく、本人もその事を理解しているせいか、パンツが見えているのに大股を開いている。
俺はただ黙って、パンツを観賞していた。
ピンクのパンツだ。

かなりの長時間、ピンクを観賞していた俺の視線に気付いたのか、彼女が話しかけてきた。
「あなた、私の事が見えるの?」
「うん。(ピンクのパンツが)見えるよ」
するとカウンターから飛び降り、
「ここじゃ落ち着いて話が出来ないから、他の所で話しましょ。この村に地下室のある家があるから、そこに来て」
そう一方的に言い残して、去っていった。
地下室?無断で他人の家に入れるワケ無いだろうに…
まぁいい…

俺は当初の目的を思いだし酒場のマスターに、あの男の事を聞いたが知らない様だ。
ヤリ足りなくて、再度教会へ行ったなんて事じゃないだろうな………
はぁ…捜索を諦めて家に帰ろう…


<サンタローズ-パパス宅>

家に帰ると、サンチョがまな板を探していたので、一緒になって探し始めた。
だが何処にも無いので、地下室へ探しに行くと、そこにさっきのスケスケの女の子がいた。
何やってんだ?人んちで?
「ちょっと!遅いじゃない!何時まで待たせるのよ!!」
あ゛?無い言ってんだ?このスケスケ女!?



…話をまとめると、
彼女はエルフのベラ。
俺は彼女のパンツしか見てなく、話を聞いてなかったと言う事が判明。
彼女の住む妖精の国が一大事。
そこまで話すと、有無を言わさず俺を拉致った!



 

 

10.可愛く迫られ男は落ちる。浅慮悔やんで男は育つ。

<妖精の国>

「ようこそ。可愛い戦士様。私が妖精の国の女王、ポワンです」
俺の前に、ポワンと名乗るエルフの女王がいる。
歳は20歳前後。
とても可愛い。
すんごい可愛い。
服装も可愛い。
若干控えめな胸を、花が可愛く飾る。
短めのスカートは、見えそで見えないいじらしさ。
俺はあまりの可愛さに、ただ見とれる。
「リュカ。あなたにお願いがあります。聞いていただけます?」
可愛く上目遣いで聞いてくる。
「はい。なぁ~んでも言って下さい」
俺は何も考えず全てを了承した。

因みに…
ポワン様のお願いは、次の通りだ。
春風のフルートを取り返す。
単純明快超楽勝!
事情を解っているベラと一緒に、妖精の国から外へ出る。



<妖精の世界>

『トンネルを抜けるとそこは雪国by川端康成』
なんてもんじゃねぇーぞ!
妖精の国を抜けると猛吹雪!
さみー!冗談じゃ無いくらいさみー!!
「してやられた!美人の色香に惑わされ、とんでもねぇー頼み事引き受けちゃった!あの女、それを承知で可愛く迫ったな!」
「ちょっと!ポワン様に失礼でしょ!あの人は、天然なのよ!」
それも失礼な気がする。

ダメだ!全然、前が見えない。
俺は歌を歌い、気分を紛らわす。
腹の底から声を絞り出し、『瞳を閉じて』を熱唱する…
(ゴー!!!ビューゥ!!)
…って、瞳閉じちゃったらダメー!開けられなくなっちゃうー!!
「もう無理。もうヤダ。もう休ませて!」
「休むっても、どうすんのこんな所で」
「かまくら掘る」
俺はふんだんにありすぎる雪を掘り、かまくらを作る。

中に逃げ込むと、燃やせる物を集め火をつけて暖をとる。
まだ寒い。
俺はプックルを抱きしめた。
「うわぁ、冷てー!!こいつ、びしょびしょじゃねぇーか!」
プックルを諦めベラに抱き付く。
最初は嫌がっていたが、ものっそい力で抱き付き震えていたら、諦めてたらしく抱きしめてくれた。
ベラの膨らみかけの胸が心地よかった。
体も温まり、余裕が出来た俺はベラの胸を揉んでいた。
おもっきしぶっ飛ばされ、かまくらの外へ放り出される。
さっきまでの猛吹雪が、嘘の様に止み視界が開け見渡すと、10メートルほどの所に、氷の館があった。
あれ?ビバーク意味無かった?


<氷の館>

そこは、ほぼ氷で出来てる館だ。
入り口も分厚い氷で出来てる。
しかも鍵がかかってる。
「ダメだ!開かね!どうする?」
「ふふ、この程度の鍵なら、私の鍵の技法で開けちゃうわ」
「何それ!便利ー………って、ピッキングじゃねぇーか!」
ベラはヘアピンで鍵穴をいじってる。
「前にドワーフのエーグさんに教わったの」
「何でそんな事教わってるんだよ!」
何企んでるの、この()!?

「ここを開ける為よ。(ガチャリ)開いたわ!行くわよ!」
「?何で前もって、ここを開ける方法を知ってんの?」
「呆れた、ポワン様の話、何も聞いてなかったの?」
そう言うと、呆れた様に(100%呆れてました)説明してくれた。

春風のフルートを盗んだのは、ドワーフのザイル。
その祖父さんが鍵の技法を生み出したエーグ。
その技法のせいで、エーグは前の女王に追い出された。
ザイルは、それを逆裏んでフルートを盗む。
でも、ザイル一人じゃ到底無理。
背後に誰か協力者がいる様なので、人間界に助けを求めた。
そして俺がここにいる。

「へー…」
「へー、じゃないわよ!(つるー!)きゃー!!」
どうやら氷の館は、床まで氷で出来ているみたい…
説明を終えたベラは、先へ進もうと1歩踏みだし滑って転んで、3メートル程先の壁際で尻餅をついている。パンツ丸見え!
「痛った~…」
チャンス!!
「ワァ、コロンジャッタ~」
ほぼ棒読みの台詞で俺はダイブした。
そして、そのままベラのパンツに向かって、頭から突進。
「ごめぇ~ん!ワザとじゃないの~!」
とか言いながら、ベラの股間へ顔を埋める。



ベラにボコられました。


何とか氷の床のコツを掴み、ザイルの元へ辿り着く。(僕へっちゃら)
「何だ!お前達は!?さては、ポワンがよこした奴だな!」
「春風のフルート、返しなさいよ!」
「ポワンは祖父ちゃんを追い出した憎い奴だ!そんな奴にフルートは返さん!」
「ポワン様がそんな事する訳無いでしょ!前の女王様よ!」
「ふん!騙されるもんか!雪の女王様が教えてくれたんだ」
「その雪女が嘘吐いてるのよ!ばっかじゃないの!?」

…俺…いらなくねぇ?
ベラとザイルで勝手に話が進む。…俺…いらなくねぇ?(僕へっちゃら)
「雪の女王様みたいな、美人が嘘吐く訳無いだろ!雪の女王様に謝れ!」
何!!美人!?
是非見たいぞ、それは!
何処にいるの?ここにいるの?
「うっさい!どうせ、化粧厚塗りのイカサマ女でしょ!」
確かにあり得る…
「な、何だとー!」
ブチ切れたザイルは、俺たちに突撃してきた。
俺はベラを抱き寄せると、闘牛の要領でザイルをクルッとかわす。
氷の床に滑り、2メートル程先の壁に激突するザイル。
うわぁ!痛そ~…

ザイルは生まれたての子鹿の様に、プルプル震え片膝で立つと、
「ちきしょう…、ヤリやがったな…!」
え?何?
ギャグなの?ギャグパートなの今?
次の台詞は、『今日はこの辺で勘弁してやる。』かな?

「お~ほっほっほ!」
やっぱりギャグパート?
笑い屋が場を盛り上げた?
「子供を誑かすと言う、私の考えは甘かったようですねぇ。」
「雪の女王様!」
先程までザイルがいた所に、雪の竜巻と共に姿を現す。
この人が雪の女王!
確かに、いい女だ!
雪の様な白い肌、少しツリ目だがそれがまたいい。
雪を絡った様な白いドレスは、胸元が大きく開いてる。
その大きな胸の谷間は露出してる。
スリットは腰まであり、色っぽい太腿が俺を誘う。

「雪の女王様…このエルフが言ってる事は本当ですか?」
「お~ほっほっほ!馬鹿なザイル。私の言葉に騙されて、よくぞ春風のフルートを、奪ってきてくれました」
「そ、そんな…俺を騙してたなんて…」
「ザイル。あなたには褒美に一思いに凍らせてあげます。これでこの世は、もっとも美しい季節『冬』のまま!冬こそ美…ちょっ、なんなの!この子?」
「わぁ~、下着は黒なんだー!肌が白いから、すごくキレー!」
俺は会話の流れを無視して雪の女王に近づくと、勝手にスカートの中を覗く。
「あら、私の美を理解できるなんて、センス良いわね」
「うん!おねーさん、すっごい美人!オッパイも大きいし僕好きー!」
俺は露出した胸に飛び付くと、頬ずりをする。
いわゆるパフパフだ!

「何、この子ー!チョー可愛いー!」
「おねーさんも、チョー美人!これだけの美貌を維持するのって大変でしょう?」
「そーなのよ!やっぱり~、適度な運動?これが大変なの~!やりすぎると筋肉質になっちゃうしー」
「そうだよねー。でも食事も気を使うんじゃない?」
「あなた、よく解ってるじゃない!特に野菜!食物繊維は必要よ!」
「やっぱり野菜は必要だよねぇー!でも冬が続くと野菜は育たないよ」
「え!?」

「野菜だけじゃない、肉も魚も全部無くなっちゃうよ!」
「まぢ!?」
「うん!まぢ!」
どうやら雪の女王は、頭のネジが緩い女の様だ。
「ちょ、ちょっと…ポワンの奴は何やってんのよ!!春はあの娘の担当でしょ!サボってんじゃないわよ!」
「おねーさんが春風のフルートを返さないと、春を呼ぶ事が出来ないんだってさ。ポワン様に返してあげて」
「返せる訳無いでしょ!奪ったのよ!盗んだのよ!!あの娘、怒ってるに決まってるじゃない!………どうしよ…坊や?」
どうしよう、この女…めんどくせー!ベソかいて子供に頼るなよー…
「じゃぁ僕が一緒に行ってあげる。一緒に謝ってあげる。だから一緒にポワン様の所へ、春風のフルートを返しに行こう?」
そんで許してくれなくても、俺知らねー!
「坊や、チョー優しい!うん、一緒に行くぅ」
「うん!じゃ一緒に行こう!僕リュカ。よろしくね。おねーさんは?」
「私スノウ。よろしくお願いします」
俺はスノウの手を引いて、妖精の国への帰路についた。
ボロボロのザイルと、ぐったりしたベラ・プックルと一緒に………



 

 

11.子供は父を見て大きくなる。大人は乳を見て大きくなる。男限定だけど。

<妖精の国>
ベラSIDE

「違うのよ、これは!あれよ、あれ!そう言うんじゃなくて!ね!ね?解るでしょ!そう言う事なのよ!」
雪の女王事、スノウは訳の解らない言い訳をしてい…。
「ごめんなさいポワン様…スノウを許してあげて…冬が好きすぎただけなの」
リュカも約束通り、一緒に謝っている。
リュカってば結構優しいのね。
スケベなだけかと思ってた。

「ふざけんな!馬鹿女!」
一人怒りが収まらないのはザイルだ。
リュカに押さえ付けられ暴れている。
ポワン様の後ろに隠れているスノウに、飛び付きそうな勢いだ。
はぁ~…誰か収拾付けてくれないかな………と、思っていたら、
「いい加減にせんか!ばかもん!」
空気が揺れるぐらいの大声で、ザイルの祖父エーグが叱りつけた。
強烈な大声に耳が痛い。

「申し訳ありません、ポワン様。ワシはともかく、孫には寛大なご処置を、お願い致します」
「いいえ、エーグ殿。私は誰も処断するつもりはありません。リュカのおかげで、春風のフルートも戻りました。誰も大怪我をすることなく」
ポワン様も耳が痛いらしく、左耳を押さえながら優しい笑顔で語りかける。
「おぉ!リュカ殿。あなたには、感謝に絶えません。ありがとうございます」
「ううん。僕は訳も解らず行動してただけ。一緒に来てくれたベラのおかげだよ」
あら?殊勝な事言うじゃない。
「それに最後はスノウが返したんだし。スノウのおかげだよ」
「リュー君大好き!」
そう言うと、リュカに抱き付きイチャイチャしだす。
ウザ!この女!

「それでは、春の訪れを迎えましょう」
ポワン様が春風のフルートを奏でる。
美しい音色は、そこら中に響き渡り空気を暖かい物に変えた。
「リュカ。本当にありがとう。いずれあなたが大人になった時、何か困った事が起きたら、必ずあなたの力になりましょう。その時までの、誓いの証にこれをお持ちなさい」
ポワン様はリュカに『サクラの一枝』を渡した。
「それではリュカ。あなたはあなたの世界へお帰りなさい。………スノウ。離れてくれませんか?」
ポワン様は玉座から立ち上がり、リュカに向けて両手を翳すが、あほ女がベッタリでリュカを返せない…

「イーヤー!リュー君と離れるなんてイヤー!」
「スノウ!リュカには帰る所があるのです。こことは違う世界で生きているのです」
リュカも『離れろ』と一言言えば良いのに、あの巨乳に顔を埋め恍惚に浸っている…男って奴は!
「嫌、嫌、嫌!ぜ~ったい、嫌!私とこっちで暮らす!私が育てる!私好みに育てるぅ!絶対離れないぃ!」
「スノウ?いい加減にしないと、落とすわよ?」
ぎゃー!ポワン様がすっごい怒ってるー!
早く離れなさいよバカ女!

「スノウ。これあげる!」
するとリュカは、自分のターバンをスノウの首に巻き付けて優しく諭す様に言った。
「僕の代わりにはなれないけど、僕の事忘れない為に、これ持ってて」
優しくターバンを巻き付けられたスノウは、白い頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませる。
「リュー君………わ、私もリュー君が私の事忘れない様に、なんかあげる!」
そう言うと自分の体を見回した。

あんた露出度の高いドレスと、黒の下着しか着けてないじゃない!
「じゃ、リュー君がキレーって言ってくれた、私の下着あげる!」
そう言って、リュカの頭にパンツを被せる。
あんた馬鹿じゃないの?何でターバンの代わりにパンツ被せてるのよ!
「スノウありがとう。スノウの匂いがする。僕スノウの事忘れないよ!」
リュカも何で喜んでんのよ!
それじゃただの変態よ!

「…それでは、リュカ。よろしいですか?」
「はい。お世話になりました、ポワン様」
リュカとプックルの身体が光に包まれる。
次の瞬間、リュカ達は消えた…
「あ~ん…行っちゃった………さびしー!」
そして、騒がしい奴らが、ここに残された。
はぁ~…私も、あっちの世界へ逃げたいわぁ…

ベラSIDE END




<サンタローズ-パパス宅>


イェ~イ!また、ゲットー!
もうこれ集めるの趣味にしちゃおうかな。
スノウのパンツの匂いを嗅いで、ポーチの奥へしまい込む。
地下より上がり、サンチョに話しかけると、父さんが俺を捜して、教会へ行ったそうだ。
何でもラインハットの城に呼ばれたらしく、俺を連れて行くつもりの様だ。
俺は一旦部屋に戻り、代えのターバンを巻き教会へ赴く。
あぁ…フレアさんに会いづれー!どんな顔して会えばいいんだ?



<サンタローズの教会>
フレアSIDE

パパスさんがリュー君を探しに来ている。
これからラインハットのお城に行く為、探している。
もう!パパスさんは、この間帰ってきたばかりなのだから、呼びつけたりせず、あっちから来ればいいのに!
「それでは、シスター・フレアの所にも、リュカはいませんか?参ったな…」
「ごめんなさい。昼前にここに来ていたんですが、すぐに何処かへ行ったしまいました。…それ以後は…」
そう言えばリュー君、あの時様子がおかしかったわ。
どうしたのかしら?

は!?
もしかして、物置小屋での事見られてたのかしら!?
それで、私の事嫌いになっちゃた?
あの時抱き上げても、いつもの様にオッパイに埋まってこなかったもの!
そんな…嫌われちゃった…
「ん?どうしました。シスター・フレア?」
「もしかしたら私、リュー君に嫌われちゃったかもしれません」
「え!?」
「だからリュー君、私に会わないどこか遠い所へ、逃げちゃったのかもしれません」
「そんな事「お父さーん!」
あっ!リュー君だ!よかった、私から逃げていた訳じゃなかった!

「おぉ!リュカ。何処に行っていた。」
「うん、ちょっと…」
!やっぱり、私に対して余所余所しい!
「そうか…父さんはこれから、ラインハットへ赴かねばならぬ。それ程長旅にはならぬが、お前も連れて行くつもりだ。いつもお前の事を気にかけてくれている、シスター・フレアに挨拶を済ませておけ!父さんは村の入り口で待っているからな」

パパスさんがこの場を去ると、俯くリュー君が呟く。
「あ、あの…シスター・フレア…僕…」
私の事をおねーちゃんと呼んでくれない!
私はリュー君の前に座り、顔を覗き込むが目を合わせてくれない。
私はリュー君の透き通る様な、あの瞳が好きだ。
今朝会った彼も、同じ瞳をしていた。
だから私はリュー君が好きだ。

「ねぇ、リュー君。私リュー君に嫌われる様な事しちゃったかな?」
リュー君の瞳が潤んでる。
すごく苦しそうに…
「ごめんね。謝って許して貰えるか判らないけど…私リュー君に、嫌われたくないから…リュー君の事好きだから…」
リュー君の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ごめんなさい…フレアさんが悪いんじゃないの…今朝、男の人との事…見ちゃった僕がいけないの…」
やっぱり、アレを見られてた。
私、最低だ…
「フレアさんを取られた気がして…フレアさんを汚された気がして…ごめんなさい…フレアさんは悪くないの…僕が悪いの…」
心が潰れるくらい苦しくなった。切なくなった。
私はリュー君を抱きしめ、二人で涙を流していた。
ただずっと…声も出さずに…



「えへへ。じゃぁ、僕行かないと。」
リュー君はいつもの笑顔を見せてくれた。
少しだけ目が赤い…きっと私も同じだ。

「なるべく早く、帰ってきてね。」
「うーん、お父さんの用事が終わらないと、僕には…」
くすっ、それもそうね。
「そうだ!フレアさん、これお願いしていい?」
懐から綺麗な桜の枝を取り出し、私に託す。
「僕これから、ラインハットに行かなくっちゃいけないし、僕じゃ枯らしちゃうかもしれないし」
「じゃぁ、リュー君が帰ってくるまで、私が育てるわ」
「ありがとう、フレアさん!それとこれ…」
リュー君は腰の袋から光り輝く宝玉を取り出し私に渡す。
「これは?」
「本当は今朝プレゼントしようと思ってたんだけど…渡しそびれちゃって…」
「こんな高価な物貰えないわ!」
「フレアさんに持っててほしいの。僕、フレアさんが好きだから」
「私も大好きよ」
私はリュー君にキスをした。

柔らかいリュー君の唇を味わい瞳を見つめる。
「じゃ僕行ってくるね」
「行ってらっしゃい、リュー君。気を付けてね」
リュー君を見送り、私は別れを惜しむ気持ちで切なくなる。
10歳年下の少年に、恋心を抱き苦しくなる。
あのリュー君と同じ瞳をした彼は、大人になったリュー君なのだろう。
大人になったリュー君が、私に会いに来てくれた…そう思う事にする。
リュー君の事が大好きだから。

フレアSIDE END



<ラインハットの関所>

父さんの肩に乗り雄大なラインハット川を一望する。
以前、インドでガンジス川を見た時も、その雄大さに心を奪われた。
このラインハット川も俺の心を魅了する。
父さんは少し離れた所で、やはり川を眺める爺さんに話しかけていたが、何やら偏屈な応対だったので、さっさと忘れる事にする。

「さて、もういいだろ。そろそろ行かぬと、夜になってしまう」
正直まだ眺めていたかったが、諦め父さんの後に続く………が、
「…お父さん!?」
俺は父さんの後を追わずに立ち止まる。
「?何だ?まだ川を見ていたいのか?」
「いや…そうじゃなくて…そっち…サンタローズだよ!?」
「…!そ、そうか!いや間違えた!わっはっはっは…」
父さんは、恥ずかしかったのか、暗くなる前に辿り着きたかったのか、早足だった。
この身体だと、付いて行くのがしんどい!



<ラインハットの城下町>

暗くなる前に辿り着いたけど、今から謁見するのは、マズイよね!って事で、宿をとり一泊する事になった。
アクティブな俺は、暗くなるまでの少しの時間、町へ繰り出す事にする。
もっと大人な体なら、美女でもナンパして楽しむんだけど…

アルカパの町も活気があったが、さすがは王都!
ッパないね!
人、人、人…主婦、仕事帰りのおっさん、沢山の人が入り乱れる。
この身体では、人混みに入っていけず、遠巻きに移動する事にする。

数十分程彷徨うと、そこには立派な城がそびえ立っていた。
「これがラインハット城かぁ…」
俺はどうやら、大きい物が好きな様だ。
大きい川、大きい城、大きいオッパイ…
「ぴぎゃー、ぴぎゃー!」
すると堀の脇の木の根元で、赤ん坊をあやす一組の若い夫婦がいた。
お父さんの方は兵士の様で、仕事が終わったばかりなのか、まだ鎧を着たままだ。
お母さんの方は、まだかなり若い。フレアさんと同じくらいだ。
赤ちゃんにお乳を与えていたらしく、オッパイを出しっぱなしだ。
大きいオッパイ…

「困ったわ?もうお腹いっぱいなのに泣きやまない!」
「おしめは?」
「………大丈夫みたい」
気付くと俺は、そんな夫婦の側に近寄っていた。
オッパイの魔力に誘われて…大きいオッパイ…
「何かしら?坊や?」
俺は無意識にオッパイへ手を伸ばしていた。
「え!あ、っと…赤ちゃん可愛いなぁ~と思って!あは、あは…」
俺は慌てて手の軌道を変え、赤ん坊の頭を撫でる。

「あら、坊やに撫でて貰うと泣きやむわ!」
確かに!泣きやみ静かに俺を見る。
「おや?君が手を放すと、泣き出すのか!?」
俺が手を放すと、堰を切った様に泣き出す赤ん坊。
「坊やお名前は?」
「リュカです」
「マリソルは、リュカ君の事が好きになっちゃったみたいでちゅねぇー」
でちゅねー…じゃ、ねぇー!
完全に帰るタイミングを逃した。
今帰ると、泣きじゃくる赤ん坊を見捨てる様で、なんかヤダ!

とは言え、ずっとこうしている訳にもいかない。
赤ん坊を撫でる手を見て思いついた。
「じゃぁマリソルちゃんに、これあげる」
手首に巻いてあった、ビアンカのリボンをとると、赤ん坊の髪に結い着けた。
「いいの?貰っちゃって?彼女に貰った大切な物とかじゃないの?」
まぁ分かってくれるでしょ!
ビアンカに愚図られたら『僕、ビアンカとの間にあんな可愛い赤ちゃんがほしかったんだ!』とか言っておけば、きっと騙されちゃうハズ…
こんな台詞は、今の様な子供の時にしか言えないし…10年後に言ったらセクハラっぽいし…

「うん!大丈夫。それにほら。猫のプックルも同じ物持ってるから、平気なの」
そう言って、プックルを抱き抱えリボンを見せる。
若夫婦は、喜び感謝の言葉をくれた。
さすがに、『お母さんのパンツと交換して下さい』とは、言えなかった。
旦那さんいたし。(いなきゃ言ってたのかよ!)



 

 

12.世の中やってもダメな事ばかり。どうせダメなら酒飲んで寝ようか!

<ラインハット城>

俺は今、城内を探索中だ。
さっきヘンリーとか言う生意気なガキに出会った。
これでも第一王子らしい。
この国ヤバイね。
も、最悪なガキだったので、さっさと撤退させてもらう。

デールと言う大人しめの子に出会った。
彼が第二王子の様だ。
とっても良い子だったが母親がアレだ!
まぁアレだ!
近づかない方がアレだ。

どうやら王位継承問題で当人達以外が揉めている様だ。
よくあるアレだ!
曰く、「順当に行けば、ヘンリー様が次の国王だ」ふむふむ。
曰く、「国王陛下がご健在なのに次期国王の話題をするなど、不見識だ」いやいや、今の内にどちらに与するか決めておかないとね。
曰く、「ヘンリー様の悪戯には苦労する。人の嫌いな蛙を背中に入れるんだ」おいおい、そんな奴王様にして大丈夫か?国民が嫌がる増税を悪戯感覚でするかもよ。
曰く、「みんなヘンリー様を悪く言うけど、早くに母親を亡くして寂しいのよ」とんだ甘えん坊だな。そんな奴が権力を持つと、ハーレムとか造ったりするんだぜ!いいなぁ…ハーレム…
曰く、「昔、巨大な城が天空より落ちてきたそうです」なんと!それは一大事!って、カンケーねーな。
なるほど…まとめると、結構可哀想な奴で将来王様になって重税を敷きハーレムを造る奴か。
うーん…今の内に仲良くなって俺もハーレムで遊ばせてもらおっと!


ヘンリーの部屋へ向かうと廊下に父さんが佇んでいる。?
何してんだ?
張り込みか?あんパンと牛乳必要か?
「おぉ、リュカ!ヘンリー王子の家庭教師を仰せつかったのだが、嫌われてしまってな…お前となら、子供同士仲良くなれるかもしれん。頼めるか?」
「うん!いいよ!」
ハーレムの為に、僕頑張る。


「なんだ、お前!また来たのか!そんなに俺の子分になりたいのか?」
ハーレムで遊ばせて貰えるのなら「うん!」
「じゃぁ、奥の部屋の箱の中に子分の印があるから、それを持ってこい」
イラ!…いや、イカンイカン。
落ち着こうか。
子供だから相手は…

俺は奥の部屋に行き目立つ様に置いてある(と言うより、他に何も無い)箱を開ける。
何も入ってない。
イライラ!
…いや、落ち着け!

そう言う試練なのだ、親分の言う事を聞くと言う試練なのだ!
俺は戻り報告する。
「子分の印、無かった…よ?」
いない。
誰もいない。
イライライラ!
俺はもうかなり苛ついている。

廊下に出ると父さんがいた。
ヘンリーはいない?
父さんに聞いても出てきて無いそうだ。
部屋に戻ると…いた!
殴るか!殴っちまうか!?
いや、ダメだ!
ハーレムがかかってるんだ!ここは我慢だ!
「早く子分の印持ってこいよぉ!」
このガキのニヤつきそばかす顔がムカつく!
どうやら始めっから子分の印なんぞ無かったようだ。
俺は奥の部屋に行きドアの隙間からヘンリーの行動を観察する。
壁にスイッチ!床に階段出現!
あいつボッコボコ決定!
待ってろよ!
あいつ泣かす!
ぜってぇー泣かす!!



<ラインハット近郊>

父さんを見失いました。
ヘンリーを追って下へ降りたら、ならず共にヘンリーが攫われました。
ざまぁーと思ったけど、父さんの立場からしてヤバくね?
父さんに伝えたら、『まっぢーぃ?チョーやべぇーじゃーん!』(そんな言い方していません)てな事言って猛ダッシュ。
慌てて後を追ったけど父の姿はもう彼方。
途方に暮れる6歳児。
うーん…どうすんべ?

ダメ元でプックルの嗅覚を頼ってみる事にする。
「ねぇ、プックル。お父さんの匂いを辿って行ってよ」
「にゃう!」
お!言ってみるもんだな!
プックルが鼻をクンクンさせ地面の匂いを嗅ぎ動き出した。
「プックルー、辿り着いた所が可愛い雌猫の所なんてないよなぁ」
「にゃうにゃ!」
「可愛い雌猫の上に乗っかる、何って事ないよなぁ」
「にゃーにゃう!」
違う意味での雌猫ちゃんなら大歓迎なんだけど…



<ラインハット近郊>
プックルSIDE

にゃーにゃーにゃうにゃ、にゃにゃにゃにゃうにゃ。
にゃーにゃうふにゃあん。
「プックルー、まだかかるぅー…」
「にゃうにゃーん!」
「本当ー!よかったー」
にゃうにゃうにゃにゃにゃーん、にゃうふにゃにゃおん。

プックルSIDE END



<古代の遺跡>

その部屋はアルコールの臭気で充満していた。
火を点けたら引火しそうな程、酒の匂いで充満する部屋にヘンリーを攫ったならず者共が酒盛りをしている。
「いやー、あの王妃は相当の悪だなぁー!」
「全くだ!『第一王子を始末しろ!』なんて、女はおっかねー!」
「でも、殺すのは勿体ねーっての!奴隷として売れば更に金が入る!わっはっはっは…ん!なんだこいつ?おい、ベビーパンサーと一緒にガキがいるぞ!?」
1人の酔っ払いが俺の存在に気が付いた…遅っ!
「なんだお前、もう酔っぱらっちまったのか?」
「ベビーパンサーと一緒にいるのなら、ガキみたいに見えるモンスターだよ!」
うわぁ~、こいつら殴りてぇ~。
「おい!ガキ!」
酒飲んで大騒ぎする中、一人が俺の肩を掴み酒臭い息で話しかけてきた。
「俺にはよぉ…生きていればお前さんぐらいのガキがいたんだよ。でも貧乏でよぉ。病気になっても助けてやれなかった…」
「………」
「早く、ここから逃げろ!素面に戻ったら俺もこいつらの同類なんだ!さっさと消えろ!クソガキ!」
小声で俺に囁くと俺の事を突き飛ばし、また酒を浴びる様に飲む。
俺は、父さんを探す事にする。
今はそれしか出来ないから…



<古代の遺跡>
ヘンリーSIDE

ちきしょう…
俺、ここで死ぬのかな…
きっと俺の事なんか誰も助けにこないだろうしなぁ…
リュカって奴も怒ってたもんなぁ…
攫われた事なんか誰にも言わず、俺の事なんか見てない事にするだろうなぁ…
お父様…お母様…
ん?声がする?
あの、人攫い共か?

ヘンリーSIDE END



<古代の遺跡>

俺はビビッてるヘンリーの為に、大声で『365歩のマーチ』を歌いながら歩く。(でも2歩下がらないけどね)
父さんが追っ手を蹴散らしている内に、俺はヘンリーを連れて出口まで向かう。
いやぁー、父さんがいると心強いね!
俺はさっさと安全な所へ避難ですよ。
「おい!歌うのやめろよ!奴らに気付かれるだろ!」
相変わらず生意気なヘンリーに、笑顔でデコピン。
「あいた!」
「んも~。ビビッてるヘンリーを和ませてるんじゃないかぁ~」
「ビビッてねーよ!ってか、呼び捨てにすんなよ!」
生意気なヘンリーを、遺跡内に流れる水路に落としてやろうと思った時、
「お~っほっほっほ。いけませんねぇ~。逃げようなどとしては」
と、目の前に紫色のフリーザ様みたいな喋り方する男が現れた。

あれ!?こいつどっかで見た様な…ま、いいっか!
「はい!ごめんよ~」
俺は手を顔の前で縦に振り、紫フリーザの横を通り抜けようとした。
その瞬間!
(ドカッ!!)
もの凄い衝撃が俺たちを襲う!
後方に吹き飛ばされプックルとヘンリーが気を失う。
何をされたのか全く分からない!?
「ほ~っほっほっほ。逃げては、ダメですよ」
まずい!
こいつは強すぎる!
俺では太刀打ち出来ない!
どうする!どうする!!
俺はヘンリーとプックルを抱え、遺跡の奥へ逆進した!
父さんの元へ!父さんさえいれば何とかなるから。
だから………


<古代の遺跡>
ヘンリーSIDE

パパスさんが、モンスター2匹に嬲られている。
まともにやり合えばパパスさんの方が強いだろう。
いや、実際勝っていた!
しかし、紫の魔道士がリュカを人質に取った!
リュカは俺を抱えて逃げようとしたため、奴らにやられた。
リュカ一人なら逃げれたに違いない。
その為パパスさんは奴らに反撃が出来ない。

「お、お父…さん…負けない…で…た、戦っ…て」
リュカは気が付いていた。
あんなにボロボロになっても…
「お、お父さ…ん…僕…の事は…い、いいから…お…願い…負…けないで」
しかし、パパスさんはもう戦えない…体中から血を流し手足を切り落とされている。
「リュ、リュカよ、聞こえるか…私はもうダメだ…お前の母は生きている!魔族に攫われ…そ、そこの、ゲマに攫われまだ生きている!私に代わり、母を…マーサを助け出してくれ!だ、だから…死ぬな!生き延びろ!!」
力強い声だ!
リュカを、子を思う父親の声だ!
「ほほほっ。子を思う親の気持ち。いつ見てもいい物ですねぇ~。しかし安心して下さい。この子達は、この後一生、奴隷として幸せに暮らします。光の教団の奴隷として!」
そう言うとゲマは巨大な火球をパパスさんに叩きつけた。
轟音が響き渡り、パパスさんの身体は跡形もなく消え去った。
俺はこの日を、この瞬間を、忘れない。忘れられない…忘れてはいけない!

ヘンリーSIDE END


 
 

 
後書き
このシーンは何度プレイしても目頭が熱くなります。 

 

13.将来を真剣に悩むと不安になる。楽観視すると失敗する。どうすればいいの?

<セントベレス山-山頂大神殿建設地>

目の前で父を殺され、自由を奪われ早10年。
奴隷へと身を落とされ、10年間過酷な労働を強いられた俺は今日も鞭で打たれている。

(ビシッ!)
「歌ぁ、歌ってねぇーで働け。ボケェ!」
「いたっ!いたいッスよ!旦那ぁ~」
「てめーは目を離すとすぐサボる!いい加減にしろ!」
そう怒鳴り散らし獄卒は巡回を再開させた。

うむ?今日も怒られてしまった。
何だ?
選曲が悪かったのかな?
『それが大事』は、場の雰囲気に合っていると思ったのだが?
今度は『ガッツだぜ!』にしよう。

「お前は相変わらずだな」
振り向くとヘンリーがそこにいる。
「ヘンリーこそ、またサボってんのかよ」
「俺のは『ちょっと、一休憩』だから」
「随分長い『ちょっと』だな…何でサボってるヘンリーは怒られなくて、頑張っている僕ばかり怒られるんだ!?」
「…お前、歌ってるからだらろ」
「みんなの心に活力を与える為に、頑張って歌ってるのにぃ~!」
「………」

翌日早朝、タコ部屋(奴隷達が食事と睡眠をする部屋)に新人がやって来た。
かなりの美人!
これは仲良くなるしかないね!
「やぁ!お嬢さん。僕はリュ(ドカ!)カはぁ~………」
ヘンリーにドロップキックをされた。

「お前はマリアさんに近づくな!」
へー、彼女マリアさんって言うのかー…じゃなくって!
「何すんのヘンリー!」
「お前はマリアさんに近づくなと言っている。彼女が汚れる!」
何かひどい事言われている気がする。
「そんなヘマはしないよ!それに今まで全部ヘンリーが邪魔してきたじゃないか!」
「当たり前だ馬鹿!もし彼女が身籠もりでもしたらどうする!ここでは身籠もった女は殺されるんだ!」
そう…妊娠した女性は働き手として役に立たない。
産まれてくる子供も無駄飯ぐらいと見なされる。
奴隷同士で愛し合い、殺される女性を何度か見てきた…
更に許せないのは獄卒の慰み物にされた挙げ句、身籠もった為殺すという事もある事だ。
俺たちに人権は無い…イヤになる!



タコ部屋でダベっていると、いつの間にか時間になっていた。
今日もステキな20時間労働!
他の奴隷が二人がかりで運ぶ様な木材を、一人で運び(10年間の努力の成果)マリアさんの事を思い出す。

酷い話だ…長年に渡り教団に使えてきたのに、教祖のお気に入りの皿を割っただけで奴隷かよ!
番町皿屋敷を思い出すね。
最近の若い子は知らないかな?

そんなこんなで俺は鼻歌交じりで『ガッツだぜ!』を歌い木材を運んでいると、前方の人集りの向こうで女性の悲鳴と鞭の音が聞こえる!
「またか…」
そう呟き、俺も人集りの中へ入る。
みなそれぞれの仕事の手を止め、一人の奴隷とその奴隷に鞭を打つ獄卒達を見ている。
辺りを気にすると横にヘンリーの姿もある。
…何でこいつ何時も手ぶらなんだ!?
「…くそっ!あいつら…許せねぇ…」
そう呟くヘンリーの視線の先を見ると、マリアさんが獄卒達に暴行されている!

「俺様の靴に泥を付けるなんざぁ許せねぇ!おめぇ新人だったな。へっへっへ…この詫びはその身体で払ってもらおうか!」
獄卒(名前知らないので"A"と呼ぶ)はイヤらしい笑みを浮かべると、マリアさんの服を引き裂いた!
「「野郎!!」」
俺とヘンリーは同時に飛び出した!
その女は俺が目を付けたんだ!ヘンリーの目を盗んで絶対ものにするつもりなんだよ!
そんな思いを込めて持っていた木材を獄卒Aに投げ付ける。
あり得ない大きさの木材を、あり得ない力で投げ付けて、あり得ない勢いで押し潰されれば、あり得る事態はただ一つ…獄卒Aは無惨な姿になった。

ヘンリーの方を見ると落ちてたスコップを武器に、獄卒B・Cとやり合っている。
その間に獄卒D・E・F・Gが、俺の方に怒り狂って攻撃してきた!
俺はバギマを唱え、ほぼ瞬殺にする。
連中は知らない。
俺が魔法を使える事を。
今までホイミやスカラで自分や仲間達を守ってきたが、ばれない様にこっそり使っていた為、連中は知らないのだ!
俺はマリアさんに近づきホイミで傷を治す。
マリアさんは服を裂かれ、白い肌を露わにしている。
うん!いいオッパイだ!

やっと獄卒B・Cを倒したヘンリーはボロボロになりながら(弱ぇーな…こいつ!)俺を押しのけ、マリアさんに自分の服をかけてあげた。
何か俺が一番活躍したのに、美味しい所持って行かれた気がする?
そうこうしていると騒ぎを聞きつけた兵士達が、大勢で俺達を取り囲む様に布陣する。
やっべー!逃げるタイミング逸した!

ヘンリーは壊れたスコップを構えまだ戦うつもりの様だが…しかし俺は両手をゆっくり上げて降参する。
「ヘンリーもうよせ!これ以上は、他の人達に被害が及ぶ!」
「ちっ!」ヘンリーも状況を理解したらしく、渋々スコップを捨て、両手を上げた。
「これは…いったいどういう事だ!ん!?その女は…」
兵士の中から兵士長が現れ状況を確認する。
「は、はい…この女が反抗的でしたので、指導していたら…そいつら二人が突然暴れ出しまして…」
辛うじて生き残った獄卒がチクリやがった!
ヘンリーが相手をしていたヤツだ…トドメ刺しとけっつ~の!

「…うむ!では、その二人を牢に閉じこめておけ!女の方は…向こうで手当をしてやれ」
そう言うとマリアさんを乱暴に立たせ、強引に連れて行こうとする。
手当の必要無いし!
俺が治したし!
「あー、そんな事言って彼女にエッチな事するつもりだろ!」
「黙れ!」
兵士の一人が俺を殴る。
「いいや、黙らん!あの顔はスケベ男の顔だ!同類だから分かるもんね!」
しかし俺の事を無視して、マリアさんは連れて行かれた。
俺は兵士に小突かれ連行される…
俺の訴えは無視された…


俺とヘンリーは、牢屋へ閉じこめられている。
「あ~あ…きっと今頃マリアさん、あのスケベ兵士達に、あ~んな事や、こ~んな事されてるんだろうなぁ~…」
「ちょっと、黙れ…」
「僕が狙ってたのになぁ~。あ~んな事や、こ~んな事、そ~んな事をしようと思ってたのになぁ~…」
「黙れ…いい加減…」
「きっと彼女、処女だったよ!さっきまではね!それなのに、あの兵士達に今ご「うるせぇー!お前、黙れよ!」
ちょー怒られちゃった!

あれ?
もしかしてヘンリー…
「ヘンリーさん、ヘンリーさん!」
「んだよ!もう静かにしてくれよ!」
「ヘンリーさん、もしかして彼女に『ム』の字?」
「それを言うなら『ホ』の字だ!馬鹿!!………はっ!い、いや、これはその…」
ニヤリ!
「それならそうと言ってくれればいいのにぃ~」
ヘンリーは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
純情よのぅ。

「よし!そーゆー事なら!ナイトヘンリー殿。囚われの姫君を助けに参りましょうか」
「助けるって…閉じこめられているんだぞ!どうやって…?」
「ふっ…こんな扉こじ開ける!」
そう言って扉に向かう…が、
(カチャリ、キィ~)
勝手に扉が開いた…

「何?」
「何事?」
「…僕の…おかげ?」
「…何が起きたかは解らないが、これだけは判る!お前のおかげじゃない!」
イヤン!


牢から出ると、そこにはマリアさんがいた。
どうやらエッチぃ事はされてないらしい。
「マリアさん!無事ですか?」
ヘンリーが駆け寄り無事を確認する。
まぁ、今回は譲ってやるよ!
「ええ!私は大丈夫です。ヘンリー様とリュカ様こそご無事でしょうか?」
「俺は全然平気です!鍛え方が違いますから」
よく言うよ!
お前ボッコボコ状態だったくせに!
俺がホイミで治したんだよ!俺が…

俺はヤレヤレと言った感じで2人に近付いて行く…
すると脇の水路の方から先程の兵士長が姿を現した!
ヘンリーは慌ててマリアさんを庇う様に立ちはだかり、俺は二人と兵士長の間に立ちはだかる!
「待って下さい!その人は味方です!」
今にも襲いかかりそうな俺達を止める様に叫ぶマリアさん。
「え?」
「…?味方?…味方ってアレ…あの、味方?」
俺とヘンリーが混乱していると、

「兄のヨシュアです」
「妹のマリアが世話になった…心から感謝する!」
兄!?妹!?俺、ピンチ!?



長年、教団に使えてきたが妹を奴隷にされて忠誠心は無くなり、教団に対して愛想も尽きた。
奴隷の中に生きた目をした俺達に妹を託し、ここから逃がそうとしている。
と、言う事だ。

「逃がすって言っても、どうやって!?」
どうやらヘンリーは半信半疑の様だ。
まぁムリもない…
「死体を捨てる為の樽がこの奥にある。それを使いお前達三人をこの水路から流せば、脱出出来るはずだ」
「三人って、ヨシュアさんはどうすんだよ!」
「樽を流す為のスイッチが離れた所にあってな!それを押す人間が一人いるのだよ!ヘンリー、リュカ…妹を…マリアを頼む!」
「…」
ヘンリーは俯き黙って頷いた。

「マリアさんはそれでいいの?」
「…私は…」
「リュカ!マリアさんの気持ちも解ってやれ!」
「いや!『マリアさんを頼む』と言われた!だからマリアさんの気持ちを優先する!」
個人的には、むさいオッサン等はどうでもいいのだが、美人の涙に弱い質なので…
「…私は…ヘンリー様にもリュカ様にも無事でいて欲しい!だから、これしか方法が無いのなら…うっうっっ…兄さん…」
マリアさんは俯き涙を流す。
あぁ…俺はコレを見たくなかったのに…

ヘンリーとヨシュアさんは俯き唇を噛んでいる。
「つまりマリアさんもヨシュアさんを犠牲にはしたくない…って事だよね!」
「そうですが、しかし…」
「リュカ!無理言うな…どうすることも「ヨシュアさん。鎧を全部脱いで下さい」
俺はヘンリーの言葉を遮り、ヨシュアさんに指示を出す。
「「「え!!」」」
「鎧を脱げば、なんとか四人樽に入れる!」
「スイッチはどうすんだよ!」
「まぁ、何とかすっから、入って、入って!」



 

 

14.天国と地獄の違い。それは天国には美女がいて、地獄には悪友がいる事。

<海辺の修道院>

気が付くと視界には、白く清潔な天井が映った。
視界の隅には若く優しそうな美しい女性がこちらを見ている。
「ここは…天国ですか?」
「いえ、ここは「何、寝ぼけた事言ってんだ!」
視線を声のする方へ向けると、ヘンリーが人の悪そうな笑みを浮かべて立っている。

「はぁ~、何だ…地獄か…」
俺は身体を起こしふて腐れる。
「美しい女神様が佇んでるから天国かと思ったのに。ヘンリーがいたよ!天国の訳無いね!死んでるのなら、ここは地獄だ。間違いないね!」
「お前なぁ…」



どうやら俺は三日間も意識を失っていた。
その間シスター・アンジェラが付きっきりで看病をしてくれたらしい。
俺、マリアさん、ヨシュアさん、ついでにヘンリーも無事助かり、この海辺の修道院にご厄介になっている。
「アンジェラさん!僕の為にありがとうございます!ついでと言ちゃぁなんだけど、まだ少し気分が優れないんです」
俺はアンジェラさんの両手を握り締めアンジェラさんに迫る。
「まぁ…大丈夫ですか?」
「アンジェラさんが添い寝をしてくれれば(ゲシ!)あた!」
ヘンリーの踵が後頭部にヒットする。
「シスターを口説くな!馬鹿者!」

「ど、どうやら元気になられた様で…」
アンジェラさんが顔を赤らめ去っていく。ああ~ん…待ってー!
「何で人の恋路を邪魔するの?だいたい、命の恩人に対して酷くねぇ?」
そう俺はあの水路で四人の命を救った。
ヨシュアさんのヤリを投じて、10メートル程奥にあるスイッチを押したのだ!
すごくね!?
俺、すごくねぇ!?
「お前のそれは恋路じゃない!…まぁいい、それより来いよ。これからマリアさんのシスターとしての洗礼式があるんだ」
ほぅ…シスターとは益々俺好み。


洗礼式は厳かに行われた。
さすがに場の空気を読んだね俺、歌わなかったもん。
はぁ~シスターかぁ~…いいのぅ…
はっ!俺にはフレアさんっと言うシスターがいるではないか!
サンタローズに帰らないと!
あの胸に抱き付かないと!

「リュカ!目が覚めたか。心配したぞ」
フレアさんのオッパイを想像していたら、いつの間にか儀式は終わり、ヨシュアさんが俺に話し掛けてきた。
「私まで救って貰い感謝に絶えない。これからどうするのだ?私はここの留まり、マリアを守る為この修道院で働こうと思っている」
「僕は、サンタローズに帰らないと」
そう!あのオッパイに顔を埋めないと!!

「そうだ!リュカは一旦サンタローズへ帰り、パパスさんの遺言を実行するんだ!」
遺言!?
何だそれ?
…何だったけ?
「俺も付き合うぜリュカ!お前の母親を魔族の手から救い出す旅に!」
あー…言ってた…確かに、言ってた!
忘れてないよ。
本当だよ。

「そうか…こんな事しか出来ないが、これを受け取ってくれ!」
そう言って差し出した袋を、ヘンリーが受け取る。
何でお前が受け取るんだよ!俺にくれたんだろ!
「2000G!こんなにいいんですか!?」
「いや、少ないくらいだ!お前達がしてくれた事に比べれば…」
お前達って…殆ど俺じゃん!
頑張ってたの、俺じゃん!
何でお前が金受け取んだよ!

「ヘンリー様、リュカ様。本当にありがとうございます」
マリアさんが瞳を潤ませて謝意を伝えてきた。
「私には、お二人の旅の無事を祈る事しか出来ませんが、どうか御自愛を」
そんな事無い!俺の童貞を奪うって任務があるよ…って言おうとしたら、
「ヘンリー、リュカ。往くのですか?」
と修道長が話し掛けてきた。
昔は美人でした…って感じのおばさん。萎えちゃった…

「はい。修道長」
ヘンリーが勝手に話を進める。
「リュカ。あなたはもう立派な大人です」
まだ未経験だけど…はっ!『私が男にしてア・ゲ・ル♥』とか言うなよ!
「自分の往く道は自分で見つけなくてはなりません。どうか神の御慈悲があります様に」
修道院のみんなから快く送り出されて、俺とヘンリーは旅に出る。
あぁ、もう少しゆっくりしてたかったなぁ…



<オラクルベリー>
ヘンリーSIDE

修道院を出て半日。
何とか日暮れ前にはオラクルベリーに辿り着いた。
ここまで数度モンスターと戦闘をしたが、武器を持たぬ俺はまるで役に立たなかった。
殆どリュカのバギで乗り切った…
ただ、リュカはあまり戦いたくない様で、俺も素手を…メラを使い戦った。
本来ならば俺はかなりの傷を負っているのだが、リュカのホイミでほぼ無傷状態だ。
リュカは優しすぎる。
俺がもっと強くならないと…

俺達は町に着くと装備を調える為、武器屋や防具屋を回る。
俺は鎖鎌などを買い装備を調える。
しかしリュカは自分好みの装備が無いらしく、何も買わずに町を眺めている。

確かにリュカは強い。
ここら辺のモンスターなら武器等いらないだろう。
しかしこの金は、殆どリュカのおかげで手に入れた金だ。
俺一人が使っていい物ではない。
「リュカ、お前も何か買っておいた方がいいんじゃないか?」
既に暗くなった町を歩きながら、俺はリュカに問いかける。

「う~ん…じゃぁ、アレ買ってくる」
既に目当ての物はあったらしく明確な足取りで目的の場所まで足を進める。
少し開けた所に、一人の女性が佇んでいる。
リュカはその女性に話し掛けた。
え?
「ねぇ?君いくら?…200!?」
え!?
「うーん…一晩好き放題で200?…よし!あっ、お金持ってくるから待ってて」
そう言って俺の所へやって来た。
「ヘンリーはもう十分買い物したでしょ?残りのお金ちょうだい」
俺は力任せにリュカの胸ぐらを掴み、その場から移動する。
「痛い、痛いよ!何!?何なの?あっ、ちょっと…彼女待たせてるから…ヘンリー、ちょっと、ヘンリー!?」

人気のない路地へ来ると、リュカを壁際に押しつけ俺は怒鳴りだした。
「この金はお前の旅の無事を祈るヨシュアさんが、無理してくれた大切な金だ!一時の快楽の為に無駄に使う事は絶対に許さん!」
「分かったよ、分かった!じゃぁ別に欲しいもん無いからいいよ」
リュカの目を見れば分かる。
本当に欲しい物が他に無いのだろう。
こいつは何時も本気だから厄介だ。

「女以外欲しい物が無いってどういう事だよ!もっとこう、旅に必要な物とかあるだろ」
「?、例えば?」
…そう言われても、俺は旅なんてした事がないから答えられないでいる。
ふと見ると、リュカの横の壁に『馬車有りマス』の張り紙に気付いた。
「馬車だよ…馬車があれば旅が楽になる!」
「馬車って…今いくら残ってるの?」
半笑いで尋ねるリュカに俺は答える。
「800Gくらい」
「いくら安い馬車でも、その倍はするよ。ないない!800の馬車なんて。200で女買った方が現実的だよ」
「うるさい!頭金ぐらいにはなるかもしれないだろ!もう決めた!馬車買う、絶対買う!この旅で財布は俺が預かる。お前は碌な使い方しない!」
コイツの言い分の方が現実的って言うのがムカつく!
絶対…何としても馬車を買ってやる!!


「馬車売ってるの…ここ?」
怪しげな店の前でリュカが呟く。
「『オラクル屋』って書いてあるし…ここだろう…」
俺とリュカは、そっと店内に入った。

「いらっしゃい!お客さん、旅人だね!だったら馬車が必要不可欠!さぁ、買った、買った!毎度ありぃ!」
すると店主らしきドワーフが気さくに話しかけ、勝手に話を進める。
「いや、買うにしても値段次第です」
リュカの問いに喜んだ店主は、
「今なら、立派な馬付きで3000Gだよ!」
さ、3000G…馬付きで3000Gは確かに安い…しかし今の俺達には…

「高いなぁ…まけてよ」
「兄さん綺麗な目をしているなぁ!いいだろ!まけてやる!」
「ほんとう!?嬉しいな。あっ、でも僕そっちの気は無いからね!」
「がっはっはっは!兄さんは面白い。よっしゃ!300Gでどうだ!」
3000が300!?これは買うしかない。
「買っ「う~ん…まだ高い!この、鉄の杖もおまけに付けてよ!」
なっ!この馬鹿!300で十分だろ!
「兄さんは買い物も上手いなぁ!よし!鉄の杖付きで500G!どうだ!」
「よし!買った!」
「ほれ、鉄の杖は持って行きな。馬車は明日の朝には用意しておくから、朝になったら町の外へ取りに来てくれ」


翌朝、俺達はかなり立派な馬車を手に入れた。
リュカ曰く
「あの時点で馬車がどんな物かは分からない。もしかしたら騙されるかもしれない。だから、鉄の杖も買う事にした。馬車が騙されても、鉄の杖が500Gならお釣りが来る」
なるほど…ちゃんと考えてたんだ…なんか、すげぇーなこいつ。
そのリュカは、馬車馬とじゃれている。
「やぁ、随分と美人なお馬さんだねぇ。お名前は何て言うの?」
「ヒヒン!」
「パトリシアって言うの!綺麗な名前だ。よろしく、パティ!」
なんで馬と会話が成立してるんだ?やっぱ、すげぇーなこいつ。

ヘンリーSIDE END



 

 

15.10年一昔。初恋のあの娘はもう…

<オラクルベリー~サンタローズ街道>
ヘンリーSIDE

俺とリュカは野宿の為、食事の用意をしている途中だった。
もう何度目の戦闘だろう…俺は鎖鎌を駆使し、時には『メラ』と『イオ』の魔法を使いモンスターを駆逐していく。
相変わらずリュカは積極的に戦闘へ参加してこない。
しかし今回は特に何もしない。
焚き火の側に座り、食事の準備を(準備と言っても、携行食品を軽く火で炙るだけ)進めている。
時折、自分の所へ向かってきた敵を払いのけるだけ。

「少しはお前も戦え!」
全てを駆逐しリュカの元に戻り文句を言う。
「ピキー!」
スライム!
俺は身構える…が、
「ね!ヘンリーは強いんだよ。だから一人で大丈夫。その間に僕が食事の準備をする。無駄がないでしょ!?」
え!?
「ピッキー!」
いつの間にかスライムと仲良くなっていたリュカは、俺に携行食を渡すとスライムの事を紹介してきた。
「この子スラリン。行く宛が無いから一緒に行く事になったから」
「…あぁ…そ…」
怒る気も、つっこむ気も無くなった。

ヘンリーSIDE END



<サンタローズ近郊の山道>

俺とスラリンは歌を歌い、サンタローズを目指す。
ヘンリーは疲れ切った表情で付いてくる。
戦闘任せすぎたかな?
丘の上の教会が見えた。
「ヘンリー。もう少しだよ、頑張って!」
俺は自然と歩みが早まった。
フレアさ~ん!!


<サンタローズ>

そこは、俺の思い描いていたサンタローズとは違った。
家は壊され至る所に火を放った跡がゴゲ跡として残る。
そこら中に毒を撒き植物が育たない様にされてる。
俺は村を一望出来る丘の上の教会へ向かう。

教会だけは元のまま残っていると思ったが、近くで見ると教会も一度破壊された形跡がある。
きっと『教会だけは』と、瓦礫の中から廃材を集めて立て直したのだろう…
「酷い…こんなことが…」
声も出せないでいる俺を気遣いながらヘンリーが呻く。
「ようこそ、旅の人。ここはサンタローズ。昔は風光明媚な美しい村でした」
振り返ると、そこには一人の若くて美しいシスターが寂しげな微笑みを浮かべ立っていた。
「10年前、ここにはパパスと言う一人の戦士が住んでおりました。ある日パパスはラインハットからの呼び出しに応じ、幼い息子を連れてラインハットへ赴きました。しかし、その直後に第一王子のヘンリー殿下が行方不明になり、時の王グレック陛下もショックにより御崩御され、第二王子のデール殿下が即位されました」
ヘンリーを見ると俯き唇を噛んでいる。

「ラインハットが変わったのは、その時からです」
シスターの口調が強く怒りがこもる。
「ヘンリー殿下を攫ったのはパパスだと言い、この村に大勢の兵士が攻め込んできました。いえ!あんなの兵士等ではありません!山賊と同じ!村へやって来ると、壊し、奪い、人々を殺し、女子供を襲う犯す!欲望の限りを行うと、満足したかの様に帰っていきました」
シスターは泣き出し、そして訴えた。
「パパスさんは、そんな事しない!パパスさんは子供を攫ったりしない!それなのに!うっうっ…それなのに…」

「その通りだよフレアさん」
「え!?」
俺は優しく、俺のもてる限りの優しい口調でフレアさんに語りかける。
「父さんは、パパスはそんな事してない。攫われたヘンリーを助けに行ったんだ」
フレアさんは涙で溢れた目で俺を見つめる。
「…リュー君?…本当に、リュー君!?」
「ただいま、フレアさん。長い間ごめんね」
「ふぇ~ん…リュー君だ!リュー君が生きていた!ふぇ~ん!」
フレアさんが俺の胸に抱き付き泣きじゃくる。
10年前は俺が彼女の胸に抱き付いていたのに…

「ぐすっ…それでパパスさんは?」
俺は重い口調でフレアさんに告げる…



フレアさんの表情が沈痛な物になる。
しかし次の瞬間、明るい笑顔に戻すと、
「パパスさんの事は、リュー君のせいじゃないからね!元気を出してね」
「…うん…」
「じゃぁ、パパスさんのご意志を継ぐのなら、あの洞窟を探した方がいいわね」
そう言うと丘の麓にある洞窟に目を向けた。
あの洞窟は父さんが時折赴いていた所だ。
エロ本でもあるのだろうと当時は考えていたが…

「取りあえず今日はもう暗くなるから教会に泊まっていって」
そう言いフレアさんは今更ながらヘンリーの事に気が付いた。
「ところで、お連れの方の紹介はしてくれないの?」
あどけなく言うフレアさんとは対照的に、ヘンリーは顔面蒼白で今にも吐きそうだ。
「お、俺は…その…」
「彼は、僕の大親友のヘンリー。彼も奴隷だった。彼がいなかったら僕は10年間絶えられなかっただろう!大切な、本当に大切な僕の友だ!」
もうこれ以上話をややこしくしたくない…めんどいし。
「ヘンリー…さん…ですか…」
フレアさんも分かったのだろう、それ以上追求はしてこなかった。
でもヘンリーに対しては、かなりぎこちなかった。



<サンタローズの教会>
ヘンリーSIDE

夜更けの教会。
静寂が包む中、リュカが起きあがり出かけようとしている。
「リュカ。水くさいぞ!俺も一緒に洞窟探索を手伝うぜ!」
リュカは俺に気を使い、一人で洞窟に向かうつもりの様だ。
リュカは俺の事を親友と大切な友と呼んでくれた。
俺はこいつの為なら何でも出来る!こいつの為なら何も惜しくない!
「え!?」
リュカは俺が起きていた事に驚いている。
「いや…でも…悪いから…」
「ふざけるな!お前の旅の目的は、俺の旅の目的だ!」
まったく水臭いヤツだ!
「あ~…っと、そうだね…」
「ほら!シスターを起こさない様に静かに出るぞ!」
俺とリュカは洞窟に向けて歩み出す。
親友と共に…

ヘンリーSIDE END



<サンタローズの洞窟>

はぁ~…何でこんな夜中に洞窟探検してるんだろ?
明日の朝でも良かったのに。
ヘンリー寝てると思ったのになぁ…
フレアさんに夜這いかけようと思ったのに…
何か勝手に勘違いして『俺も行く』って、空気読めっての!
本当に親友かよ!

洞窟内での戦闘は、ほぼヘンリーが一人で頑張ってくれた。(秘技、丸投げバトル)と、言ってもスラリンの活躍も大した物だった。
(俺的に)楽に洞窟の最深部に辿り着いた俺達は父さんが残してくれた品を発見した。
パパスの手紙と鈍い光を放つ剣が一降り。
手紙には、母マーサの事、母を攫った魔族の事、母を救う為には伝説の勇者の武具を探さねばならない事、勇者のみが装備出来る武具の事、その一つの剣がここにある事、等が書かれていた。
つまり、ここにあるのが伝説の『天空の剣』だ。

俺は天空の剣を地面から抜き構える!
が、剣はあまりにも重く装備が出来ない。
「えー!?僕、伝説の勇者じゃないの~?僕、主人公じゃないの~!?」
「何言ってんだお前!?でも、お前なら装備出来ると俺も思ったんだが…っと、これ本当に重いな!俺にも装備出来ない」
ホッとした!マジ、ホッとした!めっさ、ホッとした!ものっそい、ホッとした!
「お前…俺に装備出来ないの見てホッとしてないか?」
あら、顔に出ちゃった?
「だぁってぇ…ヘンリーが伝説の勇者なんて…ムカつく!」
「いや、分かるよ!分かるけどさぁ…当人を前に言うなよ!」
「…ムカつく?」
「…もう、慣れた…」
そう言って剣を布で包み出口へ向かう。
はぁ~…俺、勇者じゃないのかぁ…



<サンタローズの洞窟>
ヘンリーSIDE

さすがのリュカも落ち込んでいるな。
あの手紙を読めば落ち込みもする。
パパスさんは自分の死を予測していた…いや、それ程危険な旅をしていたと言う事だろう!
俺はそんなあいつの力になれるのだろうか?
落ち込んだあいつを励ます事が出来るのか?

「…そ、そう言えば。この近くなんだろ?」
「何がぁ?」
「アルカパだよ。お前が以前言っていただろ。幼馴染みの女の子が住んでいるって」
「あぁ、そうだ!ビアンカがいる!」
「なら、行って無事を伝えないと」
リュカの瞳に光が戻った。
「そうだ!今行こう!すぐ行こう!サッサと行こう!」
どうやら元気になってくれた様だ。

走り出すリュカを追いかけ思った…こいつ足早ぇーよ!

ヘンリーSIDE END


<サンタローズの洞窟>

そうだ!ビアンカがいる!
俺にはビアンカがいる!
きっと美人になってるに違いない!
あ~、彼氏とかいたら、どうしよう…
いや!そんなんかんけーねぇー!
もう、押し倒す!
ぜって~押し倒す!
怒られたら、身の上の不幸を語り同情を誘う!
よっしゃー!
元気出てきた!
やる気出てきた!



 

 

16.人生には驚きの再会がある。これって重要なフラグだよね。

<ラインハットの関所>

今、ハッキリ言ってやる気0状態です。
アルカパ行ったら、ビアンカは引っ越していた。
代わりにラインハットのダメダメ情報を仕入れた。
んで、ヘンリーは「俺、ラインハットに帰らなきゃ!」って、言い出した。
止める理由も無いので見送るつもりだったが、流れ的に『リュカも一緒に』ってな流れで今ここにいる。
知るかよ、ラインハットの行く末なんて!

しか~し!ラインハットへの関所で通せんぼ!
「太后さまの命令で許可証の無いよそ者は通す訳にいかない!」
何これ?
ラインハット行けねぇーじゃん。
こいつぶっ飛ばして強行突破しちゃおうかな…って、そんな事したらお尋ね者だね。
そんな馬鹿な事俺はしない。

(ポカリ!)
「あいた!いたたたた…」
えぇぇぇぇぇ!!
やっちゃった!
やっちゃったよ、この子!
衛兵なぐっちゃた!
お尋ね者って事!?
俺、違う!
俺、殴ってない!
殴ったのこの人!
俺、この人知らない!
知らん子です!

「な、何をす「随分と偉そうだなトム!」
それ以上に偉そうだなお前…
「?何故私の名を?」
「まだ、蛙が苦手なのか。蛙を背中に入れた時が、一番けっさくだったな!」
「ま、まさか…ヘンリー様?ヘンリー王子様ですか?」
ヤな思い出だな…
「そうだよ、俺だよ!長い間留守にして悪かったな…」
「お懐かしゅうございます!思えばあの頃が一番良かったです。今のラインハットは…」
「よせ!兵士のお前が国の事を悪く言うのは、マズイだろ…」
そうか?
「…」
「通してくれるよな」
「は、はい!どうぞ…どうぞ!」

「さすがはヘンリー。腐っても王子様だね」
「腐ってもってのは、余計だ!」
「ヘンリーの事、信じてました」
あぁー、よかった~…お尋ね者にならなくて。



<ラインハット>

10年前にここに訪れた時も夕暮れ前だった。
しかし、あの時とはあからさまに違う。
この国は荒みきっている。
商店は殆どが閉まっており、町を出歩く人の姿も殆ど無い。
ともかく、開いている宿屋を探し町を歩く。

城にほど近い所にある宿屋が開いているのを発見。
「あ、あの…」
宿屋へ行こうとすると、横から浮浪児と思われる姉弟から声をかけられた。
「す、少しでいいので、お金を恵んで頂けませんか…」
薄汚れて酷い臭いを放つ浮浪児の姉が、幼い弟と手を繋ぎ物乞いをしている。
「もう、3日も何も食べてません…私はともかく、弟には…」
まだ、10歳ぐらいの少女が弟を気遣い何とか恵んで貰おうと必死だ…
「3日って、奴隷時代でも3日何も食えないなんてなかったぞ…」
ヘンリーの一言のせいか、また別の理由かは分からない。
俺は姉弟を両脇に抱えると、宿屋に入り有無を言わさず部屋を取った。
宿屋のオヤジは二人を見てイヤな顔をしていたが金を払えばこっちは客だ!

部屋に付くなり、
二人を風呂に入らせルームサービスで食事を頼む…
ヘンリーとスラリンが頑張って戦闘をこなしてくれるお陰で、金は結構な額ある!
しみったれた頼み方じゃなく、豪快に食事を注文した!
最初は二人とも戸惑っていたが、極度の空腹と目の前のご馳走に我を忘れ、テーブルまで食べてしまいそうな勢いで平らげてくれた。
うん。気持ちいい!

そして俺は二人が食事を終えるのを見計らって生い立ちを尋ねてみる…もしかしたら話したくはないかもしれないけど、何か力になれる事があれば…
ガラにもなく、そんな思いで尋ねてみたのだ。
すると、最初は躊躇いがちだったが、この国の現状も合わせ話してくれた。

二人の父親は城の兵士をしていた。
しかし、幾多の理不尽かつ非人道的な命令に嫌気がさし不平を漏らした。
その事が太后の耳に入り、逆賊の烙印を押され即刻処刑された!
そして、家宅捜査の名の下に略奪が行われ、それに抵抗した母親も兵士達に嬲り殺された。
この子達の目の前で犯されながら…

少女は泣きながら語る…
俺には慰める言葉が見つからない…
俺があの時、ゲマの事を見くびってなければ…
俺があの時、人質になどならなければ…
そんな思いが俺を苦しめる。

ふと、小綺麗になった少女を見て思った。
もう5.6年もすれば美女になる事が間違いない少女。
長い艶やかな黒髪を古く薄汚れたリボンで結っている。
見覚えのある、懐かしいリボンで…こんな偶然もあるものなのか…

「君の名は、マリソルかな?」
少女は驚いた様に頷く。
「何故、私の事を?」
「10年前、泣きじゃくる君にリボンをプレゼントしたんだよ」
まだお母さんのオッパイを飲んでいる様な赤ん坊だったし、憶えてないよね。
「あなたが、リュカさん!?」
「僕の事聞いてるの?」
「はい、私に幸せのリボンをくれた男の子だって母が…」
幸せか…
「ヘンリー」
「あぁ!」
「何処か、忍び込む場所はある?」
「ある!俺に任せろ!」
俺は久しぶりに本気になっていた。



<ラインハット城地下通路>

あー最悪ぅ!
怒りにまかせ即刻行動に出たけど、ゆっくり疲れをとってからにすれば良かった。
ついつい、可愛い女の子の前で恰好を付けちゃうんだよねぇ…
せめて気分を紛らわす為に、大きな声で『ダンシング・オール・ナイト』を歌う…

城の地下という事もあり、通常のモンスターはいないのだが…人がいる。
いや、生きた人ならいいのだが、元生きていた人達が大勢いる。
「ぎゃー、襲ってきたー!」
「お前がでけぇー声で歌ってるからだろ!」
「ゾンビ!!ゾンビがいるー!」
「いや、アレは『腐った死体』だ」
「言い方代えりゃいいってもんじゃないだろ!」
ヘンリーはメラを唱えてゾンビ達に攻撃をしている。

しかし、ヘンリーのメラじゃ埒があかない。
使えねーなコイツ!
すぐそこまで迫ってこられ、パニックった俺はバギマを唱える。
ゾンビ達は細切れになり消え去った。跡にはゴールドが落ちている。
「あれ?アレってモンスターなの?」
「だから、腐った死体だって言ったろ!」
モンスターだったら怖くねぇーや!
と、思ったけど大群で押し迫られるとマジ怖い。


慎重(歌わず)に少し進むと、そこには他にもゾンビ達と戦闘を行っている者がいる。
通常より2回り程大きいスライムに乗る騎士風の一風変わったお方がゾンビ達を相手に、一人(?)で大立ち回りを繰り広げている。
「あれは、スライムナイトじゃないか!」
スライムに乗った騎士だから『スライムナイト』…安直ぅ~
「ヘンリーの知り合い?」
「ちげぇーよ!モンスターの一種だよ!と言っても、モンスターなのは下のスライムの部分だけだけど」
「で?何でいんの?」
「俺が知るかよ!」
お前の実家だろ!

ゾンビ達を消滅し終わったスライムナイトは、こちらに気付くと怒りを露わに問いかけてきた。
「貴様ら何者だ!この国の…太后の関係者か!」
「ん!まぁ…、義理の息子だ」
ヘンリーの答えを聞き終わるや、もの凄いスピードで打ち込んできた!
俺とヘンリーは咄嗟に飛び退く。

しかしヘンリーはスライムナイトのスピードに対応しきれなかった!
トロいなぁ…避けろよ、あんぐらい!
腹部から大量の血を流し壁際に退避する。
致命傷は避けた様だが、俺がベホイミをかけてやらないと危険だろう。
今は壁際でスラリンに薬草で応急手当をされている。

スライムナイトはというと、俺に回復させまいと猛攻撃を仕掛けてきた!
「ちょ…なんで…僕…達を…そんなに…憎ん…で…いるの?」
何とか疾風の様な剣撃をかわしつつ訪ねた。
「知らぬとは言わせぬ!レヴェリア村を滅ぼしておいて!」
「知らないよ!そんな事!」
思わず言ってしまった一言だったが、逆鱗に触れるには十分だった!
「貴様ー!そんな事だと!大切な村が滅ぼされたのに、そんな事だと!」
「違う!誤解だ!そんな事と言うのは、その様な事実があった事の事だ。君の村の事を侮辱した訳ではない!だから、だから落ち着こう!話し合いで解決しよう!?な!?」
「黙れ!!」
ヘンリーを見ると、更に物陰へ避難しこちらを覗いている。助ける気0かよ!
「死ねぇー!」
稲妻の様な剣速で襲う来る攻撃をかわし、落ち着かせる方法を考える。
故郷を滅ぼされる気持ちは解る。
出来れば殺さずに済ませたいなぁ…しかし、兜から覗く瞳は怒りが満ち溢れている。
あれ?この目…もしかして…


<ラインハット城地下通路>
スライムナイト(ピエール)SIDE

こんな事があるのだろうか!?
私はナイトとして数々の修行を積んできた。
最早、人間如きに私の剣速を見切る事など出来ないと自負している。
しかし、目の前の男には掠りもしない。
しかも余裕を持ってかわしている。
では、何故攻撃をしてこないのか?
私はこの男に殺意を持って攻撃をしている、この男の仲間に大怪我を負わせている。なのに何故?
「貴様!何故攻撃をしてこない!私を侮辱したいのか!」
「え!?いいの?攻撃して?僕の攻撃は、最悪だよぉ~!」
「でかい口叩くな!」
私は言い終わるより先に渾身の一撃を放つ。
しかし、今そこにいた男は瞬時に消えた!
そして背後に気配を感じた瞬間…
すぽっ!
「え!?」
私の兜が奪われた。
くっ!この男、私の防御力から奪うつもりか!
慌てて間合いを取り剣を構え直す。そして、この男の発言に愕然とする!

スライムナイト(ピエール)SIDE END



 

 

17.真実は常に一つ。しかし、それを見る目は複数ある。

<ラインハット城地下通路>

俺はスライムナイトの攻撃を避け後ろに回り込む。
そしてスライムナイトの兜を頭から奪い素顔を晒させた。
そこには、栗色の長い髪の毛に同じ色の瞳をした美少女の顔が現れた。

「やっぱり美少女だった!声からして、そうじゃないかなぁーって、思ったんだよねー!」
「な!?」
「ねぇ、君可愛いね!名前は何て言うの?」
「こ、これが貴様の攻撃か!」

顔を真っ赤にして俯き震えている。
あら?
恥ずかしがっちゃってる?
もしかして!

「んー…まぁ、その一環…かな?」
「ふざけるなー!!」
彼女が再度攻撃を再開し始めた。
しかし、『可愛い』と言われたのが恥ずかしいのか、先程よりスピードがない。
とは言え、これ以上退がるとヘンリーの隠れている所まで被害が出る。

俺は渋々鉄の杖で彼女の剣撃を去なす。
さらに彼女の隙を付いて鎧の継ぎ目に杖の枝を差し込み、力一杯にコジリ切る!
ベキッ!
鎧を繋ぎ止める金具が壊れ鎧が地面に落ちた。
鎧の中には青いウエットスーツの様なボディ・ラインに沿った服を着たいた。
お!スレンダーながら女性らしい膨らみが色っぽい!



<ラインハット城地下通路>
スライムナイト(ピエール)SIDE

この男、強い!
私の再三の攻撃も杖如きに去なされている。
しかも余裕を持って。
後ろで蹲る仲間にベホイミをかける余裕があるのだ!
そして私の隙を突き強烈な一撃を繰り出した。
「くっ!?」

しかし、私の身体にダメージはなく攻撃されたのは鎧だけだった。
私の鎧は、あの男の杖により留め具が壊され地面に落ちた。
「何?」
この男、私の防御力を削ぐ事ばかりしてくる。
いや、そもそも殺気を感じない。
私など大したこと無い…たかが村が滅ぼされただけで怒り狂う女など、取るに足りない…そう言う事なのか?
それとも…

男は私の集中力が途切れた刹那、私の後ろに回り込み羽交い締めにする。
いや、もっと最悪だった!
「おぉぉ!小ぶりに見えたけど結構大きいぞ、このオッパイ!」
「き、き、きゃぁー!!!!!!!」
こ、この男は最悪だ!私の胸を揉みまくると体中をなで回し始めた!

「やっぱ女の子の身体は柔らかくていいなぁー!」
男は私を抱き上げて体中を触り撫でまくる。
「いやー!!やめろー!!きゃー!!触るなー!!」
私は持っている剣で切りまくる!
しかし、この近距離で当たらない!
私のスライムのスラッシュも、体当たりで攻撃しているが軽くステップを踏んで全てかわす。
何者だ!?
いや、何なんだ、この男は!?
イヤすぎる!誰か助けて!誰か!!

(ポカリ!!)
「あいた!」
男の仲間が近寄り男の頭を殴りつけた。
男の腕から力が抜け私の身体が自由になった。
すぐさまスラッシュと共に男より離れ、壁際でスラッシュの後ろに隠れつつ剣を男らに向ける。

「何すんの?ヘンリー!折角………」
「うるさい!黙れ!俺の目の前で女性へのセクハラは許さん!」
どうやら仲間の方は…ヘンリーと呼ばれている方はまともな様だ。
「申し訳ない。もう、こいつにはセクハラはさせない。だから取りあえず戦うのを止めて、俺達の話を聞いて欲しいんだ。頼む!」
ヘンリーと呼ばれる男は真剣な眼差しで語りかけてきた。

「…取りあえず…一時休戦だ!だが、まだ信用した訳では無い!」
「それで構わない。こっちへ近づかなくてもいい。この場で話をしよう。まずは自己紹介から。俺はヘンリー。で、こっちの最悪最低な男がリュカ。君の名は?」
「私はピエール」
夜中の地下通路で、ぎこちない会話が始まった。

ピエールSIDE END



<ラインハット城地下通路>
ヘンリーSIDE

俺達は互いの事情を話し、ある程度の理解をし合う事ができた。
彼女の名はピエール。
そしてスライムの方はスラッシュ。
無論スライムの方はモンスターだが、彼女の方はホビット族だ。

彼女が以前、暮らしお世話になっていた村が税金を払わなかったと言う理由で太后に滅ぼされた。
そして、怒り狂った彼女は太后を殺害すべく城に忍び込んだという事だ。
「なるほど、あなたが10年前行方不明になられたヘンリー様でしたか。知らぬ事とはいえ大変失礼致しました」
「いや、それは構わないさ」

「しかし、この男は何なんです!?私は、この男は許せない!先程の行為の事だけは許せない!他の事は認めます。彼の村も滅ぼされた事や、奴隷になっていた事は…しかし、先程の行為は常軌を逸している!」
「確かに、やりすぎの感はあった。心からお詫びを申し上げさせてもらうし、こいつにも謝罪させる。おら!謝れ!馬鹿者!」
「あー、ごめんね!久しく美少女に触れたもんだから、ついやりすぎました。本当にごめんなさい」
「くっ!しかし…」
リュカの軽い口調に、ピエールの怒りが再発する…

「だが、やりすぎた事については悪かったが、やった事については正しかったと思っている」
「な!?貴方まで非常識な事を…」
「いや、非常識なのは俺じゃない。先程までの君だ。ピエール!」
「わ、私を愚弄する気か!」
ピエールは剣を構え身を乗り出した。

「落ち着け!今は話し合いをするのだろう!それとも、騎士であるのに君は嘘を吐いているという事か!?」
「…いや、失礼した…話を聞こう!」
「先程の君は怒りで話を聞かない状態だった。俺も太后の縁者であると言ってしまったのがいけなかったが」
「うっ…確かに…」

「こいつと…リュカと戦って分かっただろうが、君では…少なくとも、今の君では勝てない。なのに、こいつは君を攻撃しなかった。何故だか分かるかい?」
「こいつがスケベなだけだろう!」
「それが無いとは言わない。いや、言えない。だが、リュカは君の村が滅ぼされた事を理解した。だから攻撃出来なかった。敵では無いから…」
ピエールは目を閉じ静かに考えている。

「…確かに、私が間違っていた…私は、リュカに救われたのかもしれない」
「謝意の言葉はいらないよ。両手いっぱいに前払いしてもらったから」
リュカはそう言うと、イヤらしい手付きで両手の指を動かす。
ピエールは顔を真っ赤にし、両腕で身体を隠す様な仕草をした。
「あ~、本当、やりすぎはすまなかった。で、どうだ?俺達と一緒に行かないか?目的は同じだろ?」
「…その前に一つ、聞きたい事がある。リュカ!」
リュカに対し真剣な目で問いかけてきた。
「何故スライムがお前と一緒にいる?そのスライムは、お前にとって何だ!?手下か?家来か?」
するとリュカの顔から笑みが消えた。

ピエールに近づくと平手打ちをかます。
(パシン!)
「え!」
思わず驚き、声を上げてしまった。
ピエールも頬を押さえ、驚き戸惑っている。

「手下?家来?ふざけるな!友達以外に見えるのか!?」
なるほど!こういう奴なんだ、こいつは…
「スラリンに謝れ!スラリンは自分の意志で僕らに付いてきたんだ!」
「ご、ごめんなさい。リュカ!」
「違ーう!スラリンに謝れ!僕は構わないんだ!慣れてるから」
「あ!スラリン。ごめんね」
「ぴっきー」
「スラリンは心が広いなー」
「ぴきーぴっきー」
「あぁ、なるほど」
え!?何が?

「ポヨン、ポヨヨン!」
「な、スラッシュまで!」
俺の目の前で、二人と二匹が会話に花を咲かせる。
「ポヨ~ン!」
「いいぞ!スラッシュ!言ってやれ!」
「ちょっと、裏切る気!スラッシュ!」
「ポヨヨ~ン、ポヨン!」
「ぴっきー!」
「うっ…わかった!わかったよ!二人してリュカの味方するなんて…」
何で会話が成立してるんだ?
「ヘンリーは、どう思う?」
うっ…どうもこうも一個も分からん。
「…俺は…中立だ!」
「ぴっききー…」
「しょうがないよ。ヘンリーはそう言う奴さ」
「ポヨンポ」
「本当…ガッカリだ」
くっそー…訳分からんが屈辱だ!

ヘンリーSIDE END



 

 

18.大物と小物の違いは、他人を利用出来るか出来ないか。

<ラインハット城地下通路>

地下通路を進むと、そこは牢獄だった。
そこの特別監房に彼女は囚われていた。
「ん!?誰じゃ?そこにいるのは何やつじゃ?まぁ、よい…妾を、妾を助けよ!妾はこの国の太后じゃぞ!」
「「「あ゛?」」」
何言ってんだ、この女?
俺達は互いの顔を見て、首を傾げる。

「太后は城の最上階で、ふんぞり返ってる。こんな所にいる訳ねぇーだろ!」
そんなウソ吐いてっから投獄させられたんじゃね?
「ええい!察しの悪い奴じゃ!上にいるのは妾の偽者!妾になり代わり、この国を牛耳っておるのだ!あの偽者がこの国を悪しき国へ変えたのじゃ!」

「………たしかに…この女、本物の太后の様だ…」
じっくりとババアの顔を眺め、ヘンリーが本物であると断定する。
コイツが言うのなら間違いないのだろう。
と、なると…
「10年前ヘンリー王子を攫わせたのも、あんたの偽者か?」
「…あれは…妾じゃ…我が子、デールを…どうしても王にしたかった…我が子可愛さに行ってしまったのじゃ!恐ろしい事をしてしまった…今では、反省しておる…」
反省…か…
「じゃが、それ以外は偽者がやったのじゃ!妾は権力を欲した事は無い!デールの人生を良き物にしたかった、ただそれだけなんじゃ!」
「ただそれだけだと!そのせいでどれほど「よせ!今はそれどころじゃないよ!」
俺は怒り出すヘンリーを宥め今後の事を小声で告げる。
「ヘンリー。偽者が元凶ならば楽にこの国を変える事が出来る」
「どういうことだ?」
「つまり…偽者が元凶で、その偽者を退治した事が国中に知れ渡れば国民の意識改革も行いやすいんだ!」
政治の世界には生贄が必要なんだ…
誰かを生贄にして、大衆の不満を忘れさせる!
政治家共の常套手段だゼ!
「なるほど!」
納得したヘンリーを誘い先へ進む。
後ろでは、あの馬鹿女が「助けろ!」と騒いでいるが、そんなん無視だ!



<ラインハット城>

目の前にデール王が鎮座している。
城内へ侵入した俺達は兵士の鎧をちょっぱねて(倉庫に可哀想な裸の兵士が二人倒れています)玉座の間へやって来た。
デール君、大きくなったなぁ…今、14歳かな?全然王様らしくねぇ~!

「…余は今気分が優れぬ…下がれ!」
不機嫌なデール君を無視しヘンリーは耳元で話し掛ける!
「しかし王様!子分は親分の言う事を聞くのでは?」
………コイツまだ親分とか、子分とか言ってんの?
今、俺に言ってきたら、絶対ぶっ飛ばしてるね!

「!?ま、まさか…おい!大臣!」
「は!?」
「余はこの者達に話がある!お前は退室せよ!」
「は?…はぁ…」

大臣が渋々出て行くと、
「義兄さん!ヘンリー義兄さん!生きていたんですね!」
「長い間留守にしてすまなかった。時間がない!早速本題へ入ろう」



「義兄さん達も苦労をされた様で…しかし母が偽者とは…」
「信じられないのも無理はないが…」
「いえ、そう言われれば思い当たる節が幾つかあります。あんなに優しかった母が人が変わった様に僕を邪険にしましたから」
「まさに人が変わってたのさ!」
冗談だったら笑えないが、事実だからなぁ…なお笑えないよ!

「義兄さん。この城の書物庫に『ラーの鏡』の文献がありました。真実を映すラーの鏡があれば、この事態を解決出来るかもしれません」
「さすがは我が子分!良い情報を持っている」
「義兄さん、お気を付けて!」

俺達はピエール達と合流し書物庫を漁る。
ラーの鏡に関する書はすぐに見つかった様だ。
ちなみに俺は全く関係ない書を読みふけり、ピエールに蹴飛ばされた。(あの娘Sなの?)
書によると、オラクルベリーの遙か南にある『神の塔』に鏡は奉られているそうだ。



<神の塔>
ピエールSIDE

我々は神の塔に入り幾度めかの戦闘をしている。
あの後、城内に設置されていた『旅の扉』を使い、神の塔の近くまで来た我々だが夜も遅い為『攻略は明日朝から』と言うリュカの意見(我が儘)により、近くの海辺の修道院で一晩厄介になった。
ここにはヘンリー殿とリュカの縁者がいる様で、神の塔の事を告げたら協力を申し出てきた。
何でも神の塔に入るには『心清き巫女』が必要らしくマリア殿が、そしてその兄のヨシュア殿が随行してきた。
ヨシュア殿はかなりの猛者と見える…足の運びで強さが分かるくらいだ!

神の塔内は神々しい雰囲気とは別にモンスターも多く戦闘が絶えない!
さらに、リュカの馬鹿が大声で歌うのでモンスターが寄ってくるのだ!
しかも当のリュカは殆ど戦わない!
後方でマリア殿を守りつつ援護魔法を唱えるだけだ!
「イオ!」
私のイオが炸裂する!
ガメゴン、ホイミスライム、インスペクターを吹き飛ばす。
しかし致命傷ではない!
すかさずヘンリー殿とヨシュア殿がとどめを刺す!
残りはホイミスライムのみ。
向き直り剣を構える。

ホイミスライムは先程のイオで傷つきながらも、事切れたガメゴンにホイミを唱える。
しかしホイミで死者は蘇らない。
仲間の死が理解出来ないのか、ホイミスライムは長い手蝕で亡骸を揺すり「ホイミ!ホイミぃ…」そう悲しげに繰り返す。
これでは、どちらが悪なのか…

するとリュカが悲しそうな表情でホイミスライムに近づく。
「ごめんね…君の友達を…ごめんね…」
そう言いホイミスライムを優しく抱きしめる。
「リュカ、離れろ!そいつは敵だ!」
私は思わず叫んでしまった。
リュカの気持ちが痛い程分かるのに…

「そうだね、この子は敵だった。でも君もそうだったろ?」
私は何も言えなくなる。
リュカの瞳は優しく、そして悲しく光る。
私はこの男を過小評価しているのかもしれない…
「ホイミ」
リュカがホイミでホイミスライムの傷を治す。
「さぁ…君は逃げなさい」
「ふわわん」
「え!?でも、僕たちは君の友達を…」
「ふわわわん!」
「そう。じゃぁ、これからよろしく。ホイミン!」
そう言うとリュカは何事もなかった様に先を歩き出した。ホイミンとじゃれながら…
私はリュカの優しさが、懐の深さが心地よかった。

ピエールSIDE END



 

 

19.人生の落とし穴は至る所にある。でも気付いた者の方が落ちやすい。

<神の塔>
マリアSIDE

リュカさんがスラリンさんとホイミンさんと一緒に不思議な歌を歌っている。
歌詞がとっても素敵です。
上を向いて歩く事の素晴らしさを歌っている。

既にここは塔の最上階。
揚々と歌うリュカさんを先頭に、両際に壁も手摺りも無い空中回廊を進む。
きっと、この回廊の先にラーの鏡があるのだろう。
この回廊こそ、神様の試練が待つ回廊なのだろう。

そして試練の時はきた。
私達の行く手の床が途切れている!
神様の試練とは、かくも難解な物なのか!?
どうすれば向こう側へと行けるのか…皆さんそれを考え悩んでいる。

皆が足を止め途方に暮れる中、リュカさんだけが歌いながら突き進んでいた。
私達は信じられない物を見た。
リュカさんが何もない空中を歩いているのだ!
正確には歌いながら左右にステップを踏み進んで行く。
向こう側に渡りきると祭壇にラーの鏡が奉られてあり、それに気付いたリュカさんは足早に駆け寄りラーの鏡を手にする。
「お!?これかなぁー?ラーの鏡って!」
リュカさんは振り返り、ラーの鏡を掲げ小躍りしながら来た道を私達の元へ戻ってくる。
「イェ~イ!ラーの鏡、ゲット~!」
まるで何事も無かった様に、明るい何時もの口調で戻ってきた。

「…リュカ?お前?どうなってんの?」
「何が?」
ヘンリーさんが途切れた床を指さしリュカさんが不思議そうに振り返る。
「おわ!床が無い!え!?何?何で?さっきまであったよね!?」
「さっきからねぇーよ!」
「リュカさん、空中を歩いていました」
「えー!?」
どうやらリュカさんは歌う事に集中しすぎて足下を見ていなかった様です。

「この試練を造った神は泣いているな!馬鹿が台無しにしたって。」
「ピエールさん、酷い!!僕のおかげでラーの鏡が手に入ったのにぃ!!」
リュカさんとピエールさんの掛け合いが微笑ましい。
何か、お似合いかも。
「さて、ラーの鏡も手に入った事だし…時間が惜しいので、このままラインハット城に乗り込む!」
私にも何かお手伝いが出来るかもしれない。
ヘンリーさんの為に。ラインハットの人々の為に。

マリアSIDE END






<ラインハット城>
ピエールSIDE

私達は旅の扉を通りラインハット城へ舞い戻ってきた。
しかし何やら中庭が騒がしい。
我々は慌てて中庭に出ると、そこには中年女性が取っ組み合いのケンカをしているではないか!
しかも、ただの女性ではない。
二人の太后が泥だらけになりながらケンカをしている。

「義兄さん!ちょうど良い所へ。僕、少しでも義兄さんの力になりたくて、地下牢から母を連れ出した所に、偽者が現れて…」
「それで、どっちが偽者?」
「…それが…その…すみません…」
リュカの悪意はないが最悪の質問に落ち込むデール陛下。
「空気読め馬鹿!判らない事くらい、分かれ!」
私は思わず怒鳴る。

「相変わらずデールはトロくさいなぁ」
「ごめんなさい…義兄さん」
「まぁ、そう落ち込むな。こんな時の為に俺がいるんだ!」
「違うよヘンリー。僕たちがいるんだよ」
リュカが優しく微笑み、ヘンリー殿の肩に手を置く。

いいなぁ…男の友情って…
「だいたい、ラーの鏡は僕の功績で手に入ったんだ!自分一人で活躍したみたいな言い方やめてもらいたいなぁ」
この男はぁ…前言撤回する。
「はいはい…お前のおかげですよ。おい!そこの兵士二人!」
ヘンリー殿は兵士二人に、二人の太后を引き離させる様に指示した。
そしてリュカが各太后をラーの鏡越しに確認する。
「お!こっちが偽者だ!何か、ぶっさいくな物か映ってる」
そう言い片方の太后を指さす。

「そ、その鏡は!」
次の瞬間、偽太后は3倍以上に膨れあがり魔界のモンスター『トロル』の姿に変わっていた。
「おのれ~。よくもオレの計画を邪魔してくれたなぁ~!」
皆が瞬時に身構える!
デール陛下が、衛兵達に攻撃を命じた!
しかしトロルは、側に生えていた大木(直径1メートルくらい)を易々と引き抜き振り回し、衛兵を薙ぎ払う!

気付くとリュカは、側にいた太后と戦闘の出来ないデール陛下とマリア殿を抱え後方に退避した。
「偶には気が利く様だ。これで心おきなく大暴れ出来る!」
「全くだ!ヘンリー!ピエール!同時に行くぞ!」
ヨシュア殿の掛け声と共に、私、ヨシュア殿、ヘンリー殿がトロルへ襲いかかる!
トロルの怪力から繰り出される攻撃を避け、トロルの身体に剣撃を加え魔法を当てる。
堅い!!トロルの身体には傷一つ付かなかった!

逆に我々三人はトロルに吹き飛ばされた!
トロルの持つ大木が私めがけて振り下ろされそうになった瞬間、リュカがトロルの顔面めがけて強烈な一撃を振り抜いた!
トロルの巨体が後ろへ倒れる。
リュカは私へ近づきベホイミをかける。
そしてトロルに向かい、
「今なら、ごめんなさいすれば許してやる。僕が本気を出す前に、ごめんなさいって言っとけ!」
ほ、本気…?
何を言っているのだ…お前なんかに敵う相手ではない!
「ふざけるな!そんな壊れた杖で何が出来る」
リュカは持っている杖を見て驚いていた。
「あぁ!!僕の鉄の杖が!気に入ってたのにぃ…馬車とセットで500Gもしたんだぞ!」
とんだ安物ではないか!
先程の一撃で折れてヒビの入った杖を捨てトロルに怒鳴り出す。

トロルが再度、私とリュカに向けて大木を振り下ろす。
リュカは私とスラッシュを抱え、後ろに飛び退き我らを降ろすと一転トロルに接近し、バギマを放つ。
しかし、リュカのバギマも効果は無かった。
何らかの方法で魔法を無効化させている様だ。

今戦えるのは武器を持たぬリュカのみ。
私は絶望を感じ諦めかけたその時!
「リュカ!これを使え!!」
ヨシュア殿が、ご自身の剣をリュカに投げ渡した。
その剣はリュカの身長の半分以上もある、バスタードソード。
手入れの行き届いている業物だ。

「ん~…刃物振り回すの、好きじゃないんだよなぁ…」
そう言いつつもトロルに向かい剣を構える。
「そんななまくら刀じゃ、オレの身体に傷一つ付けられん!先程実証済みだ!」
言い終わるとトロルは大木を振り上げる。
その瞬間リュカの姿が消えトロルの後方へ現れる…いや、正確には消えた訳ではない。
我々には捉える事が出来ない程の速度で動いたのだ!

するとトロルが振り上げた大木は、あらぬ方向へ飛んで行った…トロルの腕と一緒に。
「オレの腕が…オレの腕が!!」
右の肩口から盛大に血飛沫を撒き散らしながら、驚きのたうち回るトロルを見下ろし、優しい笑顔でリュカが呟いた。
「もう、ごめんなさいしても許してやんない!」
トロルの頭は、体と永遠の別れを経験した。
私はリュカの恐ろしさを、リュカの剣の技量を思い知らされた。
…普段もう少し真面目なら尊敬出来るのに…

ピエールSIDE END



 

 

20.ごめんで済めば警察はいらない。いや、そうでもないだろ!

<ラインハット城>
デールSIDE

昨日の一件は、瞬く間に人々の知る所となった。
今までの悪政は全て偽太后が行ったいた事、そして行方不明だったヘンリー王子が戻り偽太后を倒した事は、国民を喜ばせ安堵させる事となった。

そして一晩明けた今日!僕を悩ませる事態が発生した。
「リュカさんからも言って下さい!王位を継ぐようにと!」
「デール君、こいつに何を言っても無駄だよ。分かっているだろ?君の義兄さんなんだから」
「そうです陛下。子分は親分の言う事に従うべきです」
「義兄さん…」

「それにヘンリーが王様なんて何かムカつくから、僕は説得はしないよ」
本人や家族の目の前で言う事じゃ…
「お前なぁ~…まぁ、いい。そんな訳で王位はこのままと言う事に」
「僕は国王の器では無いのです。今回の一件で、その不甲斐なさを実感しました!」
「陛下、この兄は陛下を見捨てるつもりはございません。微力ながら陛下を全力でサポート致します。陛下はまだお若い。この国を立て直し、この国と一緒に成長して行きましょう」
僕は黙って頷く事しか出来なかった。
義兄の優しさが嬉しすぎて…

「そんな訳だリュカ!すまんが俺はラインハットに残らなければならない」
「正直助かる。何時も僕のナンパを邪魔していたヘンリーは、ここで置いて行こうと思っていたから」
「てめぇー…」
義兄さんとリュカさんは、お互い笑顔で言い合っている。
ちょっと羨ましいな。
「リュカさんには感謝に絶えません。何か僕に出来る事はありませんか?」
「無論あります」
リュカさんは真剣な面持ちで要求してきた。

「まず、父パパスの名誉の回復。そしてサンタローズの…いや、サンタローズに限らず君の不甲斐なさで滅んだ村への復興の援助。この2点!」
リュカさんの辛辣な一言に胸が痛む。
「何で貴様は、そう言う言い方するんだ!」
「ピエールさん、構いません。真実ですから」
僕はリュカさんに負けない様、真剣な面持ちでリュカさんに告げた。
「言われるまでもありません。その2点は僕が真の王になる為に必要な案件です。必ず実行致します」
「ん、なら僕はラインハットには…この国には、何も要求は無い」
そう笑顔で言うと、そのまま母へ向き直った。
「太后様。僕は貴女にこそ要求があります」
みんなの視線が母とリュカさんに向く。

「リュカさん!それは「黙っていろデール!」
義兄さんが僕の訴えを遮った。
「貴女は僕に、どのような謝罪賠償を支払って頂けますか?」
「わ、妾の愚かな考えで、そなたに多大な迷惑をかけた事、誠に済まなかったと深く反省をしている」
母はリュカさんの無表情で感情の無い瞳に怯えながら言葉を続ける。
「もう、妾は出しゃばらずデールとヘンリーを静かに見守って「ふざけるな!!!」
空気を揺るがす程のリュカさんの怒鳴り声に皆が言葉を失った。
「父の死の原因は、あんたが作った!サンタローズや他の村々を滅ぼしたのは偽太后だろう。その罪は命を持って償わせた!だが、父のパパスの死の原因だけは、あんたのせいだ!」
母は顔面蒼白で立ち竦んでいる。

「僕は父さんが嬲り殺される様を、この目で見ていた。あの光景は一生忘れない!」
「わ、妾は…そなたの父の殺害を命じてはおらぬ」
「ヘンリーを誘拐した犯人が、救出に来た者へ危害を加えないと思っていたのか?大人しくヘンリーを返し、降伏するとでも思っていたのか?そう指示をしてたのか?」
「それは…」

「あんたは僕に何をしてくれる?目の前で最愛の父を嬲り殺された僕に、どう償ってくれる?」
リュカさんは母を責める権利がある。
でも僕には…
「…妾も、命を持って償おう!」
「そんな!母上!どうか「そんなんでは僕の気はすまない!」
そんな!リュカさん…
「…では、どうすれば…妾に出来る事は、その程度…」

「僕は最愛の家族を目の前で失った」
そう言うとリュカさんはピエールさんの腰から剣を抜き、僕の方へ向き直った。
「貴女にも同じ苦しみを味わってもらう。家族を目の前で殺される苦しみを!」
「そ、そんな!デールは関係ない!妾を…私を殺せ!どうかデールだけは…デールだけは許してほしい」
母は泣き崩れリュカさんの足に縋り付く。

だが、僕の心は決まっていた。
「母上!貴女はリュカさんに償わなければいけない。それは死して一瞬で終わる様な償い方ではいけない。息子の死を心の重石にして生きていかなければいけない。リュカさん、どうぞ。これで母を許してあげて下さい」
「いい覚悟だ。その覚悟に敬意を表し、一思いにやってやる」
リュカさんの口調はむしろ優しい…それが一層の恐怖になる。

「やめてー!!お願いします!!どんな苦痛も…どんな苦しみも私は受けます!だから…デールだけは!!どんな事でもしますから…デールだけは…」
その瞬間リュカさんとヘンリー義兄さんに、人の悪い笑みが戻った!
してやられた!
この二人にしてやられた!

「どんな事でもって、言ったよな!?ヘンリー?」
「あぁ!確かに言ってた!この場にいる、みんなが証人だ!」
「え!?」
母は涙や鼻水でグチャグチャな顔で二人を見上げキョトンとしている。

「マリアさーん!」
奥から美しいシスターが二人の子供を連れてきた。
「太后様、あんたには直接は関係ないのだが、この二人マリソルとデルコは偽太后のせいで両親を失った。この二人の親代わりになってもらう」
「私が…!?」
「ただ親代わりになればいい訳じゃ無い。デールを見れば分かるが、あんたの子育てレベルは低そうだ。」
何か酷い事言われてます。
「ただ甘やかすだけではなく、時には叱り、時には褒め、立派な大人にする事が、この罪に対する償いだ!」
「おっと!言っておくが、この二人だけじゃないぞ!この国には数多くの孤児がいる。それを全部とは言わないが、他の人達と共に力を尽くしてもらいますよ。義母上」
母は孤児二人を抱きしめ泣きながら呟く「私が育てます…償いだからではなく…私の子供達だから…」何度も、何度も呟き泣いていた。

デールSIDE END



 

 

21.女の心は移ろいやすい。男の心は狼狽えやすい。

<サンタローズ>

俺は今、サンタローズで瓦礫の撤去をしている。
ビスタ港から船に乗る予定だが出港が10日後の為、少しでもサンタローズの復興に尽力出来ればと、柄にもなく殊勝な事をしている。

ラインハットを出る時は結構な騒ぎだった。
マリソルとデルコは『別れたくない』と泣き駄々をこねる。
『美人に成長したら、また遊びに来るよ』とマリソルの額にキスをし、デルコには『お前の姉ちゃんは俺が目を付けた。悪い虫が寄り付かない様に見張っておけよ』と念を押しておいた。
それを聞いたピエールが俺に蹴りを入れてきた。(この娘、絶対Sだよね!)
それを見て何となくは気持ちを理解したのか、泣きながら見送ってくれた。

マリアさんとヨシュアさんはラインハットに残り復興の手伝いをする様だ。
『ヘンリー!チャンスだ!マリアさんを絶対物にしろよ!』そうヘンリーに耳打ちすると、顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら『が、頑張るよ…お、お前に奪われたくないから』って呟く様に言った。
とてつもなく純情だ。
これじゃハーレムなんて作らないなぁ…頑張ったのに計画狂っちゃたなぁ~…

ヨシュアさんは俺に自分の剣を持って行く様に勧めてきた。
『でかすぎて、使いづらいからいらね!』って断ったら、何故かピエールが『お前、もう少し言葉を選べ!』って脇腹を殴ってきた。(俺Mじゃないから!やめて!マジで!)
当のピエールはラインハットに残るのかと思ったが随行を表明してきた。
『僕に惚れちゃったのぉ~?しょうがないなぁ~!』って戯けたら『ヘンリー殿に、お前の常軌を逸した行動を押さえる様、依頼された』ってさ!
ちぇっ…やっとモテモテライフ、テイクオフ!かと思ったのに!
まぁ、そんな訳で短い間だが、今はサンタローズで働いている。(無償)

10年前にあった物が殆ど無くなってしまったが、10年前には無かった美しい物もある。
教会の横手で咲いている美しい桜の木だ。
10年前にフレアさんに渡した桜の枝を、挿し木にして育て続けた様だ。
ラインハットの兵が踏みにじり毒を撒いても成長し続けた桜。
フレアさんは『リュー君桜』と呼びこの木を心の支えに頑張ってきたと、話してくれた。
胸が熱くなるのを感じフレアさんを抱き締め二人して泣いてしまったのをピエール達に見られ恥ずかしかった。



<サンタローズ>
フレアSIDE

リュー君がまた帰ってきてくれた。
しかもラインハットを正し、パパスさんの名誉を回復してくれた。
そしてパパスさんのお墓を、実家だった所の裏に建てるそうだ。
最初は手伝おうとしたのだが寂しそうな瞳で断られた…

少しの期間だがサンタローズの復興も手伝ってくれている。
瓦礫を易々と運ぶリュー君は逞しくて格好いい。
私は兵士達に襲われて以来、男性に触れる事が出来ない。
男性特有の男臭さを感じると、過去の事が脳裏に蘇りパニックを起こしてしまう。
でもリュー君には平気だった。
再会をした時も、そして今も!

「リュー君?何を探しているの?」
教会裏の物置小屋でリュー君が捜し物をしている。
狭い小屋の中にリュー君の汗臭さが漂っている。
でも、全然怖くない。
全然嫌じゃ無い。
むしろ、もっとリュー君を近くで感じたいと思っている。

「釘抜きを探してるんだけど…フレアさん知らない?」
私の問い掛けに、優しい表情で答えると、物置小屋の棚を横目で見て心地よい声で告げる。
「釘抜きなら、その奥に…きゃ!!」
私はリュー君の向こう側にある棚に手を伸ばしバランスを崩した。
リュー君にもたれかかる様に抱き付き、リュー君の顔を…瞳を見つめている。

私からか…リュー君からか、分からない。
互いに唇を求め重なり合う。
唇を離し、互いの身体をまさぐり合いながら私はリュー君の耳元で呟く。
「私…いっぱいの男性に、汚されちゃった…そんな私でも…リュー君…いいの?」
私はリュー君が求める様な女では無くなっていた。
今更ながらその事を告げ過去を悔やんだ!
しかしリュー君は私の体中にキスをすると、
「フレアさんは昔のまま綺麗なフレアさんだ。僕の大好きなフレアさんだ」
そう優しく諭してくれた。
私達はもう止まらない。誰に見られても。誰に咎められても。
もし10年前、パパスさんがラインハットへ行かなかったら私達はどんな10年を過ごしたのだろうか…
リュー君の息づかいを感じ温もりを感じながら、そんな事を考えてしまう。

フレアSIDE END


<サンタローズ>

祝!卒業おめでとう。
祝!大人の仲間入りおめでとう。
いや~…今夜あたりーって考えていたけど、まさか向こうから来るとは…
やっぱ昔にフラグを立てておいた甲斐があったね!

心地よい疲労感を纏い実家跡へ歩いていくと、ものっそい怖い目で俺を睨むピエールが立っていた。
「な、何ッスか?怖い顔して…」
「貴様…この村に寄ったのは、シスターに良からぬ事をする為か!」
はい。ご名答!なんて言ったらきっと殺されるので秘匿する。
「ち、違いますよぉ。え!?もしかして、さっきの見てたの?」
「釘抜きを取りに行って、なかなか戻らんから心配になったんだ!」
「もぉ~えっちぃ!じゃぁ、見てたら分かるだろ。釘抜きを探していたら、フレアさんと接近してしまい、色々と込み上げてしまった挙げ句あぁなったって。」
ピエールはジト目で睨んでいる。

「まぁ…いい。で、釘抜きは?」
「あ!別の物抜くのに気を取られて、釘抜き忘れた!」
「もういい!私が取ってくる!!」
「そんな事言って、フレアさんにエッチな事すんなよ!あれは僕の女だぞ!」
「イオ!」
俺は、怒りに任せた彼女のイオで吹っ飛ばされた。
普通、こんな所でイオなんて唱えないよね!?

残りの数日間はフレアさんのベットで目を覚ました。
ぶっちゃけ、旅の目的なんて忘れていたけど、ピエールのおかげで思い出す事が出来た。船が出港する当日の朝に…ギリギリだったけど…



 
 

 
後書き
ある意味、リュカさんの伝説はここからが幕開けだ! 

 

22.話せば分かり合える。言葉が通じればだけど。

<ポートセルミ-酒場>

船旅は楽でいい。
でも、水夫は男ばかりなので楽しくない。
仕方ないので、痛いのを我慢しピエールにちょっかいを出す。
だけど、ピエールの剣の技量を上げるだけに止まった。(めっさ、拒否られた)

ポートセルミに着いたらまず酒場による。
聞いた話じゃ、裸同然の格好をした踊り子さん達が、激しいダンスを繰り広げるステージがあるらしい!
俺は鼻息を荒くして乗り込んだ。

そこは宿屋と酒場が一つになった大きな施設だ。
中央にかなり広いステージが有り、左に宿屋のロビー、右に酒場がある。
残念ながら裸ダンスは夜の様で、今はまだ朝でした。
仕方がないのでちょっと遅めの朝食にします。

テーブル席に着こうとしたら、少し奥で農夫っぽい服装のおっさん一人を、兵士崩れっぽい服装の三人が取り囲みナンパしていた。
変わった趣味だな!?
仮にそっちの気が有ったとしても、あのおっさんに魅力は感じないが…?
好奇の目で眺めていると、兵士崩れの一人と目があった!
俺、美少年だからピンチ!?


<ポートセルミ-酒場>
ピエールSIDE

人様の思考を制限するつもりはない。
何を考え、何を妄想しようと構わない。
しかし口に出すのは控えてもらいたい。

「この町、裸で踊るねーちゃんのステージがあるらしいぜ!」
水夫から仕入れた情報を無駄に発表している。
「チップはずんだら、僕の上で踊ってくれるかなぁ!」
本当に最悪だ。
ヘンリー殿が『リュカに財布を渡すな!』と、言っていた意味がようやく分かった。
ステージが夜からと聞き、リュカのテンションが落ち着いてくれた。
鬱陶しかったので助かった。

食事をしようとテーブルに向かうと、奥で一人の男性が三人のならず者に囲まれている。
「いいから、さっさと出せよ!」
どうやら恐喝の様だ。
不届きな台詞が耳に入る。
ならず者のリーダー格がこちらに気付き近寄ってくる。
そこそこ腕は立ちそうだ。
私一人だと苦戦するかもしれない。

どうやらリュカが不快感を露わに睨んでいたのが気に入らない様だ。
「何見てんだ!?にいちゃん!!」
ありきたりの台詞に思わず笑いそうになる。
「いえ…変わったナンパだな~と思いまして。あ!どーぞ-…気にせず続けて下さい。邪魔しちゃ悪いから」
「ぷーっ!!」
私は思わず吹き出してしまった。

リュカの台詞か、私が吹き出した事がか判断付かぬが、怒りを露わにしたならず者は剣を抜きリュカに斬りかかった。
リュカは難無く攻撃を流すと、勢いをそのままにならず者を壁際に投げ飛ばす。
勝負は一瞬で着いた。
リーダーをやられ、手下二人は慌てて逃げて行く。(伸びてるリーダーも連れられて)
この近距離で、あの剣速を去なすとは…流石はリュカだ。
「あっぶねぇとこ、助けていただきぃ、あんがとなぁ」
絡まれていた男性が、お礼と共に自身の状況を説明してきた。(多分…訛りが強すぎてイマイチ理解しにくい)

ピエールSIDE END


<ポートセルミ-酒場>

「そったら訳でぇ、先に1500Gわたすとくんでぇ、よーしくたのんますだ!」
一方的に喋り、金を置いてモテモテ農夫は去っていった。
何が起こったのか一個も分からん!?

急に笑い出したピエールにキレて、兵士崩れが剣を抜いた。(え!?そんな怒る事?)
でも俺に攻撃してきた。(俺笑ってないし!)
あまりに近かったので避けきれず兵士崩れを押したら、勝手に飛んでった。(そしたら、三人とも帰っちゃった。何かのコント?)
そしたら、モテモテ農夫が理解出来ない言葉で喋り、金置いて帰った!(何この金ぇ!怖くて下手に使えない!後で利息が付いて100倍返しとか言われない!?)

「ひょ~っほっほっほ。随分と厄介な事を引き受けましたなぁ。」
いきなりローブを着た骨みたいに痩せた爺さんに話し掛けられた。
「あの…貴方は?」
ピエールが恐る恐る聞く。
「ワシは魔法使いのマーリン。まぁ、お主らから言えばモンスターじゃな。おぉと、警戒せんでいい。人間の中に紛れて暮らしているだけで、危害を加えるつもりはない。」
「ところで…何が厄介な事なんですか?」
俺の問いに呆れて答えた。
「なんじゃ!理解せずに依頼を受けたのか?」
「だぁて、何言ってるか分かねーだもん!」
「しょうがない、かいつまんで説明してやるから、一杯おごれ。」



マーリンの説明は分かりやすかった。

ここより南のド田舎にカボチ村があり、そこで虎の様な狼の様な大きな化け物に、作物を荒らされ困り果てている。
だから腕の立つ俺達が、化け物退治をする事になった。(俺はイケメンだが、腕は立たないのだが…別の所なら立ちまくるよ!)
その前金として、半額の1500Gを置いていった。
「なるほどね!そんな事を言ってたんだ!?ところで爺さん」
「なんじゃ?」
「一杯おごれって、それ三杯目」
「細かい事言うな!1500Gも手に入ったんじゃ。ケチくさい事言うんじゃない」
「依頼を失敗したら、返せとか言われるかもしれないだろ!まだ使えないよ!」
「はぁ?そんなもん、持ち逃げしちまえばいいじゃろ!勝手に金だけ置いてった向こうの落ち度じゃ!貰っちまえ!」
とんだ悪たれ爺だ!
「ざけんな!僕はそんな卑しい育ち方していない!人様から金を盗むなんて!もし、盗むとしたら、女の子のハートだけ」
「…随分と馬鹿がいたもんだ」
ムッ!
何この爺!ムカつくぅ!
ちょっと言ってみただけじゃん!
銭形○部に『ヤツは貴女のハートを盗みました』なんて言われてみたいだけじゃん!
「馬鹿じゃが面白い。どれ、ワシも手伝ってやろう」
え~…なんか、めんどくせーのが増えた。



 

 

23.ペットの躾は飼い主の義務。不可抗力なんて存在しない。

<カボチ村西の洞窟>
ピエールSIDE

魔法使いのマーリンを仲間に加え、即刻出立した我々は昼前にカボチに着いた。
『裸のねーちゃんのダンスショウは?』と、若干一名が出立を渋ったが、金を受け取っている以上、これはれっきとした仕事!
首根っこひっ掴んで出立させた。

村に着くやタイミング良く畑を荒らす化け物に出会した。
あれはたぶん、キラーパンサーだろうが大きさが半端じゃない!
通常のキラーパンサーより二回りは大きい。
まさに化け物だ。
しかし我々の気配に気付くと踵を返して去っていった。

カボチ村の村民は皆、理解する事が出来ない訛りの人々で、辛うじて村長とは会話が出来た。
村長曰く「あの化け物は西の洞窟からやって来る」
私もマーリン老師も待ち構える戦術を提示したのだが、リュカが乗り込む事を強行した。
本来ならば魔獣の巣へ乗り込むのは危険なのだが、リュカは一人で乗り込みそうな勢いだったので渋々ついて行く。

何か変だ!
カボチ村からここまで、黙り考えている。
それまではダンスショウを見れなかった事を愚痴ったり、揚々と歌ったりしていたのに…
あの魔獣を見てから表情が硬くなった。

私は怖くなってきた。
リュカは村に被害が出る事を危惧し村での戦いを避けたのだ!
それ程の強敵…
リュカ程の男を、これ程緊張させる。
強敵との戦いは騎士の本懐、そう思っていたのに…今は逃げ出したい程恐怖している。

リュカは分かっていたのだ。
恐怖で押し潰されそうになる我々の心を。
だから普段は歌い、緊張をほぐしてくれていた。
だが、今はその余裕が消えた。
我らが束になっても勝てなかったトロルを、一人で瞬殺してしまう程の男が…

奥に進むにつれ魔獣の気配が高まっていく。
そして魔獣の巣へ辿り着いてしまう…
巣の奥で魔獣がこちらを睨んでいる。
剣を握る手が震え、喉が渇くのを感じる…

こんなんじゃまともに戦えない!
リュカの足を引っ張ってしまう…そう思った時、
「ここからは僕一人で行く。みんなはここで待機していてくれ」
心を見透かされたのか?
リュカは我らを守る為、一人巣の奥へ進む。
私は恐怖で声が出ない。
一歩も動けない。
リュカ一人を見殺しにしている。

いやだ!
そんなの、いやだ!!私は兎に角叫んだ!
「リュカ!!」
次の瞬間、キラーパンサーは襲いかかりリュカを押し倒して噛み付いている…………………様に見えた。

「ふにゃ~」
ふにゃ?
「あははは、やっぱりプックルだ!」
え……やっぱり?
「くすぐったいよ!大きくなったなぁ!」
大きくなった??
「ふにゃふにゃごろにゃーお!」
ええ!!

「あ~…リュカ?何じゃ…その、説明を…」
老師が呆れ口調で問いかける…
「ん?あぁ!紹介するね、10年前に僕が飼っていた猫のプックル。僕の大事な家族だ」
か、家族…?

私の緊張の糸が切れ、その場にへたり込む。
「あれ?どったの、ピエール?猫、嫌い?」
「ね、猫じゃない!それは、猫じゃない!!キラーパンサーだ!地獄の殺し屋、キラーパンサーだ!!」
「どっちでもいいよ!そんなん!プックルはプックルだ!」
私はこの怒りをどうすればいいのか…やり場のない怒りをどうすればいいのか…途方に暮れる。
老師が私の肩に手を置き、瞳を閉じて首を横に振る…きっと、同じ気持ちなのだろう。

「ふにゃーご」
リュカとじゃれてたプックルが突然、巣の奥から一降りの剣を持ってきた。
リュカは剣を手に取り抜き放つ。
その刀身は10年間手入れをされてなかったにも関わらず、美しい光を放っていた。
「父さんの剣だ。プックルがずっと守っていてくれたんだね。ありがとう」
剣を構えるリュカを見て、私の背中に稲妻が走った。
美しかった。リュカの為に存在するかの様な剣。
そして、それを構えるリュカ。
そのどちらも美しく、私の目と心は奪われた。
リュカは剣を納め腰に携えると、こちらに戻ってきた。
思わず顔を背けると、楽しそうにニヤけている老師と目があった。
くっ!見られた!
「も、もう用は無いだろ!さっさと帰るぞ!」
恥ずかしさから、先頭を歩き出す。
「はぁ~…やっぱり、報告しないとダメだよね?」
往路よりテンションの低いリュカがいる。
私は、助けん。
お前が話をつけろ!

ピエールSIDE END


<カボチ村>


「な~んも言うな!分かってからぁ、な~んも言うな!ほれぇ!約束の金だぁ!それ持って、とっとと出てってくんろ!」
1500G入った袋を投げ付けられ立ち尽くす。
感じ悪!
ものっそい感じ悪!
「あの、お金は受け取れません!前金の1500Gもお返しします」
「いんや、ま~た、あったら恐ろしい化け物けしかけられてぇこまるけぇ!その金持ってこんの村から出てけぇ!」
さすがに腹立つ!言い方が腹立つ!
「ええ!こんな胸くそ悪い村からは、出て行きますよ!胸くそ悪い村の、胸くそ悪い金なんぞいらん!」
「んなぁ!!」
「ご安心下さい!もう二度とこんな胸くそ悪い村には来ません!旅する先々で、ここに胸くそ悪い村がある事を広めておきます!近づくと胸くそ悪い思いをするだけだっと!」
言い終わると、後ろでギャーギャーわめく村長を無視して退室した。


<カボチ~ポートセルミ街道>
ピエールSIDE

私達は暗い街道を黙々と進む。
疲労感が募る中歩き続ける。
リュカ以外、我々は皆モンスターだ。
そのモンスターをリュカは、仲間と言い、友達と言い、家族と言ってくれる。

しかし世の人々にはモンスターと言うだけで忌諱する人がいる。
そんなモンスターと仲の良いリュカも忌諱の対象になる。
そんな思いが我々に重くのし掛かる。
「ふにゃ~…」
「馬鹿だなぁ~。プックルは悪くないって」
「ぐるにゃ~…」
「この10年…色々あったのだから、しょうがないさ」
リュカの優しさが心に染みる。
私はリュカの為に尽力しよう。そう心に誓いを立てた!

ピエールSIDE END



 

 

24.自分の好きな事に熱中したい。でもまず好きな事を見つけないとね。

<ポートセルミ-酒場>
ピエールSIDE

ポートセルミに着いたのは深夜になってからだった。
寝床を確保すべく宿屋で記帳する。
ステージではダンサー達が煌びやかにダンスを披露していた。
一人元気になったリュカは、ステージにかぶりつきヒートアップしている。
もはやつっこむ気力もない我々は割り当てられた部屋に行くと、手間取ることなく眠りについた。


翌朝、併設される酒場で遅めの朝食をとっていると、リュカだけがなかなか起きてこない。
次の目的地を話し合わねばならない為、部屋まで起こしに行く。
「リュカ!何時まで寝ているつもりだ!」
そう言いリュカの布団を剥ぎ取った。

リュカは裸で寝ていた。
そして、見知らぬ女が裸でリュカに寄り添い寝ていた…
「な、な、な…、何をしているか!!馬鹿者!!」
二人揃って起きあがり、私を見て互いを見る。
「やぁ、おはよう、クラリス。ごめんね、騒がしい朝で」
「おはよう。しょうがないよ、すぐに出発するんでしょリューちゃん?」
リュ、リューちゃんだと!?
そう言って女はのそのそと服を着る。
いや、服などとは呼べない。
裸より幾分マシな、ほぼ裸のステージ衣装を身に着け
「リューちゃん!今度寄った時は、すぐ声かけてね!リューちゃんの上だけで踊ってあ・げ・る♡」
そう投げキッスを残し部屋を出て行った。


「ひょ~っほっほっほ!リューちゃんはお盛んじゃのぉ」
「わ~っはっはっは!若さ満喫!」
リュカと老師が下品な会話を繰り広げる。

「馬鹿な事言ってないで今後の事を考えろ!」
私は不快感を露わに、話を進めようとした。
「いや、もう決めてあるよ」
「ほう。何処へ向かうのじゃ?」
「ここから西に行った町、ルラフェンへ」
「確か…複雑な町の造りで有名じゃが…何があるんじゃ?」
「可愛い女の子がいるから、等と言う理由なら許さんぞ!」
このバカが言いそうな理由だ…

「違う違う!なんでも、すっごい魔法を研究している爺さんがいるらしい。今後の旅に役立つかなぁーと思ってさ」
思いの外まともな理由に安心した。
「して、どんな魔法何じゃ?」
「それは知らん!」
分からない魔法の為に、ワザワザ足を運ぶのか?
「どこから仕入れた情報じゃ?」
「昨晩クラリスが教えてくれた」
ちぃ…あのバカ女からの情報か…
「ひょ~っほっほっほ!自慢の剣を使って情報収集をしておったのか!」
「わ~っはっはっは!僕が腰を振って、彼女が情報を出す!ギブ・アンド・テイクってヤツですよ!」
私は、不快感を露わに睨み付けていた。

ピエールSIDE END



<ルラフェン>

この町は入り組んでいる。
まるで巨大迷路の様だ。
転生前の子供時代、俺は喜んで遊園地などのアトラクション、巨大迷路に飛び込んだ。
大人になってからも彼女と巨大迷路に入ってイチャつく事も暫し…
しかし今日は喜んで飛び込んでもないし、イチャつく彼女もいない!(ピエールにそんな事しようものなら、最近覚えた『イオラ』をかまされる!)

「あ~!腹立つ!何、この町!全然行きたい所に行けないじゃん!」
目的の場所は見えている。
余計に腹立つ!
「誰だよ、こんな町に行くなんて言ったのは!」
「「お前だ!!」」
ちょー怒られちゃった!
みんなイラついてたのね…

そんな中、急にプックルが走り出した。
『ワシぁ~疲れた』とか言って、勝手にプックルの背中に乗り楽をしていたマーリンを振り落として走り出した。
ざまー!
「いたたたた…なんじゃ、あいつは!」
「いや…ほら、猫だから…」
「猫じゃない!キラーパンサーじゃ!」
どっちだっていいよ。


プックルを追いかけると、目的地に到着!
さすがプックル!
大好きプックル!
君は僕らのヒーローだ!
皆プックルを褒めまくる!
撫でまくる!
祝賀ムードで盛り上がっていた。

「やかましい!人んちの前でガタガタ騒ぐなー!!」
しかし中の住人に怒られました。
みんな、しょんぼりムード…

「申し訳ありません。魔法の研究で有名な先生がいると聞いてやって来ました。この町の入り組んだ構造のせいで辿り着くのに難儀してしまいましたが、今辿り着き嬉しさのあまり、はしゃいでしまいました。どうか許して下さい」
俺は身を正して謝罪しする。
「ほ~ほっほっほ!ワシは有名か!?」
「はい!先生!」
「先生なんて、照れるのぉ~。ワシの名はベネットじゃ。ま、入れ、入れ!」
ふっ…チョロいぜ…


中に入るとイカニモな室内だ!
色々な物が散らばり、足の踏み場もない。
イヤだ…俺、この部屋じゃ住めない…話を終わらせて、サッサと出て行きたい。
「それで、どのような魔法を研究しているのですか?」
「うむ!『ルーラ』と言う魔法を知っとるか?」
「ルーラ…ですか?何かエッチな響きですね」
きっと魔法を唱えると、女の子の体が火照ってきちゃって、服を脱ぎ出しちゃう様な魔法!

「エッチじゃないわい!この魔法は、行った事のある場所なら瞬時に移動する事の出来る魔法じゃぞ!」
え!?
瞬時に移動!?
瞬間移動の事か?
「…すげぇ~…」
「ふっふっふ…そうじゃろ!そうじゃろ!!」
「じゃぁ…じゃぁさ!ベットで寝ていてトイレ行きたくなったらビュン!とか、お腹空いたら食料庫へビュン!とか、高い所へ風船が引っかかっちゃったからビュン!とか出来ちゃう訳!?」
「ま、まぁ…可能じゃが…もうちっと広大な範囲で使って欲しいのぉ…」
「覚えたい!すぐ覚えたい!今覚えたい!」
「では、ここより西に一山超えた所にある、『ルラムーン草』を採ってきてくれ!それがあれば、ルーラが完成する」
「その草の特徴は!」
「夜になると、淡く光る」
俺は聞き終わると、疾風の如く翔だした。
しかしルラフェン迷宮に嵌り、プックルに救出されるまでベソをかいていた。



 

 

25.「押すなよ!押すなよ!!」と言うのは、「押せ!」って言っているのと同義語である。

<ルラフェン~西の草原>
ピエールSIDE

これ程やる気のあるリュカ見るのは初めてだ!
幾度と無くモンスターの群れに襲われたが、その全てをリュカ一人で蹴散らしていく。
よほど『ルーラ』を手に入れたいのだろう。
我々の出番がない。
モンスターが現れても、剣を抜く前に終わっている。
これ程強いのなら、普段も少しは協力してくれればいいのに…


ルラフェンの西の山を登り切ると、そこは台地になっていた。
広く綺麗な湖が広がる。
今日はここで野営する。

食事も終わり寝ようとすると、リュカが服を脱ぎだした。
「な、何だ!いきなり!変な物見せるな!」
間近で見てしまった!
「変な物って…ポートセルミじゃ隅々まで観察してたじゃないか!レポート提出してもらおうかと思ったくらいに(笑)」
「観察してない!お前が服を着なかっただけだ!それより何で今服を脱ぐ!」
私は手で顔を覆い、文句を叫ぶ!(しかし指の隙間からしっかり見える。すごい…)

「せっかく綺麗な湖があるから、水浴びでもしようと思って。ピエールもどう?今、汗臭いでしょ!?何なら優しく洗ってあげるよ」
リュカはいやらしく両手を動かし、私を水浴びへと誘う。
「いらん!」
リュカは悪びれもせず、クスクス笑うと湖へ入り身体を洗いだした。

リュカの体は傷だらけだ。
全て奴隷時代の傷らしい。
傷を見るだけで、どれほど過酷だったかが伺える!
私はリュカの逞しい身体に見とれていた。老師の視線に気付かず…
水浴びが終わり、私の所に戻ってきたリュカは
「覗いたりしないから、ピエールも汗を流しておいで」
と、優しく勧める。

正直言うと、私も水浴びをしたかった。
だが…
「本当に見るなよ!」
念を押す私。
「見ないって」
軽く答えるリュカ。
「絶対だぞ!」
更に念を押す…
「絶対見ないよ」
呆れ口調のリュカ…
「お前!本当に見るなよ!見たら、殺すぞ!」
「あのねぇ…あまりしつこいと本当は見てほしいんじゃ?って、勘ぐるよ!」
「うっ…老師!見張っていて下さい!リュカを見張っていて下さい!」
「信用無いのぉ~」
「ね!」


私は物陰で素早く服を脱ぎ湖に浸かる。
身体を素早く洗い汗を流す。
リュカの事だ…きっと覗いているに違いない。
すごく恥ずかしい…
でも、リュカがせっかく汗を流す様勧めてくれたのだ。
それに、リュカになら見られても…恥ずかしいけど、リュカになら…


私は水浴びを終えると、服を着て皆の元へ戻った。
「老師!リュカは覗いてないだろうな!」
「安心せい。すぐ寝てもうた。覗いとりゃせんよ」
「…」
くそ!何か腹立つ!

ピエールSIDE END



<ルラフェン>

俺達はルラムーン草を手に入れると、鬼神の如きスピードで町に戻り、プックルの案内でベネットさんの所に帰ってきた。
ベネットさんにルラムーン草を渡すと、早速調合にとりかかる。
ベネットさんの説明では、魔道書を読んでも魔法適正が無いと使えないので、調合した薬を飲む事で、魔法適正を付けると言う事だ。
つまり、ベネットさんが作る薬を飲んで、ルーラの魔道書を理解すれば、ルーラを唱える事が出来るらしい。

ベネットさんが調合している間、ルーラの書を読み理解した。
もしかしたら最初から適正が有るかもしれない…なんせ主人公ですから!(勇者じゃないクセに!とか言うなよ…)
試しに唱えてみる。
「ルーラ」
……………静かに時が流れた。

「よし!薬が出来たぞい!」
出来上がった薬は形容し難い臭いを放っている。
100%断言出来る!味も最悪だろうと…だって、入れてた物がすごかったもん!
「ただ、残念な事に…一人分しか薬はない。誰が飲むかのう?」
立候補してないのに、満場一致で俺になった。
正直俺もこんな物飲みたくない…が、ルーラの魅力の方が勝る!
俺は躊躇わず一気に飲み干した。
走馬燈が見えました。(父さ~ん…)


気が付くとみんなが心配そうに俺の事を覗き込んでいる。
特にピエールの顔が近い。
どうやらピエールに膝枕されている様だ。
柔らかい太腿が俺を刺激する。

思わずピエールを押し倒す俺!
「トチ狂うな!」と股間を蹴り上げられ身悶える俺!
心配してくれたみんなに呆れられる俺!
そんな俺が大好きな俺!

「さっさと起きんか!」
股間を押さえながら、へっぴり腰で立ち上がる。
「さ、ルーラを唱えてみぃ。何処か遠くをイメージして唱えてみぃ。」
「む、無理ッス…いま、イメージ出来ねッス…」



よし!気を取り直して(宝玉が定位置に戻ったし)意識を集中する。
うーん…何処行こう?
フレアさんの所に行くか?
いや、成功すれば何時でも行ける。
ヘンリーの所に行って自慢するか?
うん!そうしよう!
「ルーラ」




目の前にラインハット城がそびえていた。
大成功じゃん!



 

 

26.ペットを撫で回してもご主人に怒られないが、嫁を撫で回すと怒られる。

<ラインハット城>

大成功!
俺もう無敵!
やばくなったら即座に逃げられる。

「なんと!!おぬしの魔法力は途轍もないのぉ!」
どうやらベネットさんも連れてきてしまった様で、何やら騒いでやがる。
「何を驚いているのですが、ご老人?」
「本来、この魔法は個人単体用なのじゃよ」
個人単体用?
なんじゃそれは?
「つまり術者一人だけに効果がある魔法なんじゃ」
何だかよく分からんが俺すごいらしい。

ま、どうでもいいや。
「そんな事より、ヘンリーに自慢してくる」
「そ、そんな事って…すごい事なんじゃぞ…」


ヘンリーの所に行ってルーラの事話したら驚いてくれた。
でも、俺達結婚しましたって発表の方に、俺が驚いた。
ヘンリーとマリアさんが結婚して本当にめでたいと思う。
思うけど、何か悔しいので嫁さんにセクハラをする。
マリアさんの身体を撫で回す。胸、腹、尻を優しく、やらしく撫で回す。
あれ?何か違和感があった…
ブチ切れるヘンリーに真面目な口調で問いかけた。
「出来ちゃった結婚?」
「な!何で分かるの!?」
切れてたヘンリー、一転して驚く。
「マリアさんのお腹触ったら、命の暖かさを感じた」
「お前…やっぱり、すげーな!」

この後マリソルやデルコ、デールに会って近況を報告し合った。
デールから『天空の盾』の情報を貰った。
サラボナと言う町の豪商。
ルドマンさんが家宝として所有しているらしい。
ベネットさんを送り届けたら、次の目的地はサラボナだ。
ちなみに帰り際、またしてもマリソルに泣き付かれました。ちょーかわいー!



<サラボナ>
フローラSIDE

はぁ~…困ったわ、私結婚なんて考えていないのに…
相変わらずお父様は強引すぎるわ。
あら?あれはアンディ!?どうしたのかしら?
「アンディ、どうしたの?」
「うーきゃんきゃん!!」
「や、やぁフローラ!あの、この犬どっかやってくれないかな?」
「リリアン!ダメよ!」
私はリリアンを抱き上げアンディに向き直る。
「うー!」
リリアンはまだ唸っている。
私以外には懐かない…困った子ね!

「フローラ、聞いたよ結婚の事」
「そうなのよ。私も困ってしまって…」
「フローラ!僕も婚約者選びの試練に参加するつもりだ!」
「え!?アンディどうしちゃったの!?お父様はとても危険な試練を用意するつもりよ!危険すぎるわ!」
「そんな事関係ないよ。ぼ、僕は君の事が好きなんだ!ずっと…ずっと前から!」
「ア、アンディ…そんな…私は…」
「だから、試練を成功させたら…その時は…」
そこまで言うとアンディは私の家に入っていった。
今日、お父様が試練の内容を発表するから…

戸惑い惚けていると、私の腕からリリアンが飛び出した。
いけない!
リリアンは私以外に懐かない!
早く捕まえないと!

人通りも疎らな並木道。
町の入り口に程近い所でリリアンを見つけた。
なんと、リリアンは男性に飛び付いていた!
よくアンディが噛み付かれているのを思い出し、私は慌てて近寄った。
「申し訳ありません!うちの子が…」
私は目を疑った!私以外…家族にも懐かないリリアンが、見ず知らずの男性にじゃれついている。
私と同じくらいの歳の男性は、紫のターバンを巻き顔は日に焼け、逞しい体付きをしている。
その人の澄んだ美しい瞳が私の心を惹きつけた。
「リリアンちゃんは可愛いですね」
私は我に返り慌てて謝罪した。
「申し訳ありません!うちの子がご迷惑を…何故…リリアンの名前を!?」

フローラSIDE END



<サラボナ>

サラボナの町は活気に満ち溢れていた。
そんな町を歩いていると、前方からふわふわな毛並みの小型犬が、走り寄り飛び付いてきた。(動物好きゲージMAX!!)
ちょー可愛い!
すげー可愛い!

俺は犬を撫で回し話し掛ける。
「君の名前は何て言うの?…そう、リリアンって言うの。可愛い名前だねー!」
ふと顔を上げると、そこには一人の女性がこちらを見て立っている。
とても美しい…清く可憐なと言う形容が彼女以外に使えない程の、美しくお淑やかそうな女性が俺を見て立ち尽くしている。
リリアンが「きゃん!(ご主人様)」と、鳴くのが聞こえる。

この人引いてるよね!
そりゃ普通引くよ!
自分の犬と戯れ喋っている、見ず知らずの男を見たら…
せっかく美人と仲良くなるチャンスなのに『なに、こいつ!キモッ!』とか思われるのヤダー!

なんとかしないと…
「リリアンちゃんは可愛いですね」
「申し訳ありません!うちの子がご迷惑を…何故…リリアンの名前を!?」
しまったー!!!
何て言う!?
何て言い訳する?
「犬に直接聞きました」って、電波なの!?俺、電波受けてんの!?

何これ!?
何このドン引きスパイラル!?
どうしよう、どうしよう!
不審がってるよ彼女!
何か答えないと…何か言わないと…

「あ、あの…お名前は…?」
名前聞かれた!
やばい!
『不振人物が町に潜入!』なんて町中に警戒を呼びかけるのか!?
ヘンリーの名前騙るか!…いや、仮にも王族の名はまずい!色々まずい…
「リュカと申します。美しいお嬢さん」
ムリです。
もうリカバリーはムリです。
諦めましょう…町中の美少女から白い目で見られても、泣かない様に我慢しましょう…
そして傷付いた心はサンタローズで癒そう。



 
 

 
後書き
嫁選び編突入! 

 

27.何だかよく分からない状況になったら考えるのを止める。だってよく分からないんだもの。

<サラボナ>
フローラSIDE

「リュカと申します。美しいお嬢さん」
リュカ!?もしかして…
私は懐から、美しいカワセミを描いたワッペンを取り出し男性に見せた。
「これに…見覚えありますか?」
彼の瞳が綺麗に輝く。(この人格好いい)

「もしかしてフローラ…?君、フローラかい?」
あぁ…やっぱりあの時のリュカだ。
優しく私を諭してくれたリュカだ。
私の初恋のリュカ…とても逞しく格好良く素敵な男性になっている。
「覚えていてくれたのですね」
「忘れる訳ないよ。ステキな物を貰っちゃったし」
やだ、恥ずかしい…そう言えば私、リュカにとんでもない物を渡してたんだ…



リュカはこの町に天空の盾を探しに来たという。
天空の盾とは我が家の家宝の盾の事だと思う。

これはチャンスだ!
私の婚約者選びの試練に合格すれば我が家の財産…つまり天空の盾も手に入れる事になる。
リュカが合格してくれれば、好きでもない人と結婚しなくても…いえ!リュカと結婚出来る!
「リュカ…私に天空の盾について心当たりがあります」
「本当かい!それは助かるよフローラ。君は僕の女神様かもしれないね」
そんな…恥ずかしい…リュカこそ私の…
「あ、歩きながら話しましょう」
恥ずかしさのあまりリュカの顔をまともに見れない私は、リュカに背を向け歩き出す。

「多分その盾は、私の家の家宝の盾だと思います」
「フローラの…」
「今、我が家ではあるコンテストが催されています。いえ、コンテストなどと言う生易しいものではなく、とても危険な試練が!」
「危険な試練…」
リュカの声に緊張感が混じる。
「その試練に成功した方に、我が家の財産を譲渡する。もちろん天空の盾も譲渡対象です」
「う~ん…財産はともかく、盾だけでいいんだが…」
私は彼の呟きに驚いた。

普通の人達は財産のフレーズに色めき立つのに、リュカは興味を示さない。
やはり彼は他の人と違う。
我欲が無く、美しい心の持ち主なのだ。
私は彼に成功して欲しい。
だから結婚の事はギリギリまで黙っておく。
だって…私と結婚したくないと言われたくないもの、そんな事言われたら私…

フローラSIDE END


<サラボナ>

危険な試練かぁ…
やだなー…危険な事なんて…やだなー!
楽に金持ちになれるならいいけど、危険な事してまでは…

「う~ん…財産はともかく、盾だけでいいんだが…」
盾だけでいいので危険な試練を受けなくていいですか?って言ってもダメかなぁー。
あー!ヤダ、ヤダヤダヤダ…危険な事ヤダ!
と、脳内で千人の俺が駄々っ子の様にのたうち回っていると、すごい豪邸に到着した。

「こ、ここがフローラのお家?」
ちょっとだけ圧倒されてる小心なボク。
「いえ…こちらはゲストハウスです。母屋はこの奥に…」
ゲ、ゲスト………

世の中舐めてました。
奥にものっそい豪邸が控えてました。
喩えるならゲストハウスは、幼児用のビニールプール。
母屋はウォータースライダー付きの流れるプールだ。
もはや庶民の家など水溜まり以下だ!

そのウォータースライダーから、ぞろぞろと沢山の男達が出て行く。
「あの方達は?」
「今回の試練を挑戦する方々です。」
こんなにいんの!
どんだけ財産あるんだよ!
まぁ、このウォータースライダー見れば一目瞭然だね。

これきっとアレだよ。
一度穿いたパンツは二度と穿かない様な人生送ってんだよ。
あぁ、だからか!だからフローラはパンツくれたのか!
これ相当すごいよ。
ッパない危険度の試練が待ってるよ。
目でピーナッツ噛めとか、そんなもんじゃないよ。
…いや、それも結構キツイと思う!


中に入ると、またすごかった。
高そうな絵画とかシャンデリアとか…もう、ムリッス…
何より俺の気を惹き付けたのは、沢山の美人メイドさん達だ!イェ~イ!(何が?)
メイドさん達も財産に入るのかな?
聞いたら怒られるかな?

「お父様」
「おぉ、フローラ!何処へ行っておったのだ?ん?そちらの方は?」
鉄腕ア○ムのてっぺんが禿げちゃった様な頭のオッサン登場!
『お父様』って言われてたけど…似てネー!まぁ、似てたら最悪の不幸だよね。
「はい。今回の試練をお受けしたいそうです。ご説明をお願いしますわ」
「なんと!今、終わって皆出て行った所なのに」
「あの?時間切れ…ですかねぇ?」
ぶっちゃけ構わん!むしろその方がいい!そうすれば『盾だけください』って言いやすい。
「まぁ、構わん」
えぇぇ!いいのぉぉ!?
ちょー怖いんですけどぉ!
「あの…試練って何するんですか?」
3べん回ってワン…とかだったら笑顔で出来る!
「うむ。ここから南に行った所にある『死の火山』へ行き『炎のリング』を取ってくる事。さらに、ここより北に行った『滝の洞窟』で『水のリング』を取ってくる事だ」

「え!?そんなんでいいんですか?」
何だよ…初めてのお使いかよ!
「あ、あぁ…ただしルールがある!」
「るーるるる?」
「ルールだ、ルール!」
あぁルールか。
てっきり『夜明けのスキャット』かと思った。
「必ず挑戦者である君が直接行く事。もう一つは、協力者を連れて行っても良いが一人だけだ」
ちぃ…みんなで仲良くピクニックって訳にはいかないか…

「一つ質問が」
「何かね?」
「僕はモンスター使いです。仲間の中にスライムナイトがいます。一人にカウントしてもいいですか?」
ピエールとスラッシュ…2人いるからダメー!って言わない?
「ふむ…………まぁ、いいだろ」



 

 

28.口約束も契約の内。迂闊な事は言えない。

<サラボナ>

取りあえずピエールを連れてっても大丈夫な様だ…うん、一安心。
あ、そうだ!一応天空の盾を確認させて貰えないだろうか?
全然関係のない盾の為に苦労はしたくないもんね!

「あの、家宝の盾を見せて頂いてもよろしいですか?」
「おお、構わんよ。そこの壁に飾ってあるのがその盾だ」
コレかよ!
しれっと飾ってあるから気付かなかった!

俺は持ってきた天空の剣を包みから出し、盾に近づける。
盾は剣と共鳴する様に、淡い光を放つ。
間違いない、天空の盾だ。

「き、君!その剣は何だね!何で我が家の盾と共に光っている?」
振り返るとルドマンさんが驚いた様に問いかけてきた…
めんどくさいけど俺は全てを説明した。
天空の武具の事、伝説の勇者の事、我が父パパスの事、母マーサの事、そして俺の人生の事を…



<サラボナ>
フローラSIDE

「なんと、そんな壮絶な人生を送っているのか…」
私は自分がイヤになった。
リュカには目的がある。
お父さんの遺言の為、お母さんを助ける為、その為に地獄の様な苦しみを耐え抜き、この町へやって来た。
なのに私は、そんな彼を騙し利用しようとしている。
メイドが運んできた紅茶を、リュカは美味しそうに飲んでいる。
そんな彼からは、彼の壮絶な人生を伺う事は出来ない。
「リュカ…あのね…今回の試練の本当の目的はね…」
リュカは紅茶を飲みながら不思議そうな顔をする。
「本当の目的は、私の結婚相手を決める事なの!」
(ブッー!)

フローラSIDE END



<サラボナ>

「リュカ…あのね…今回の試練の本当の目的はね…」
何だ?
本当の目的って?
人に嫌がらせをすることか?
「本当の目的は、私の結婚相手を決める事なの!」
(ブッー!)
思わず紅茶を吹き出した!

「え!何?結婚!?…財産譲渡の相手を決めるんじゃないの?」
何だこの状況は!?
「何だ?君は知らなかったのか?だが、間違ってはいないだろ。フローラと結婚すれば我が家の財産も手に入る」
いやいやいや!おかしいですよ、カテジナさん!(byウッソ)

「何考えてるんですか!娘の結婚相手をこんな方法で決めるなんて!そんな親、見た事無い!」
「ここにいるだろ」
「ワァ、ホントーダ!」
このおっさん!しれっと言いやがった!
「フローラはそれでいいの?」
「よく…ないです…」
当たり前だ!
大して好きでもないヤンチャ坊主と結婚なんか、誰がしたがるか!

「ほら!ルドマンさ「だから!」
え!
「だから、真実を黙ってリュカに参加してもらいました。リュカに合格してほしいから!私はリュカの事が好きだから!」
フローラは泣いている。
きっと俺を利用した事を悔やんでいるのだろう。
また女の子を泣かせてしまった。最低だな俺。
「フローラ…僕は必ず二つのリングを手に入れる。そうしたら話し合おう。僕らはお互いの事を殆ど知らないのだから」
泣くなよ…
俺は美女の涙に弱いんだから…



<死の火山>

あの後一度宿屋に戻り、事の次第をみんなに告げた。
マーリンの爺は「ひょ~っほっほっほ!フローラさんは美人なんじゃろ?お前さんの大好物じゃないか!良かったのぉ!」とかほざきやがった!
なんて爺だ!碌な死に方しないぞ!
そんな訳でピエールと死の火山に来ている。
他のみんなは宿屋で待機。


<死の火山>
アンディSIDE

屈強な冒険者達が、このダンジョンの過酷さに耐えきれず早々に引き返して行く。
僕は諦めない!フローラと結婚する為に!
凶悪なモンスターが徘徊する中、慎重に気配を殺して突き進む。
僕も冒険者を一人雇った。
自称№1の冒険者。報酬は成功払いで…
逃げ出すスピードが№1だった。
まぁ、後払いじゃそんなもんか…
一人は怖い…
モンスターに見つかりそうになれば、地べたを這いずり回りかわす。壁と同化してやり過ごす。
フローラには見せられない程情けない姿だ。

少しずつだが進んで行くと、遠くから歌が聞こえてくる。
暑さと恐怖のせいで幻聴が聞こえてるのかと思ったが、どうやら誰かが歌っている。
他の挑戦者が大声で歌いながら進んでくる様だ。
馬鹿なのか!?
ここのモンスターはかなり手強い!
そんなモンスターの群れに、四六時中襲われ続けるのは危険極まりない!
にも関わらず歌い続けている。

歌に気付いたモンスターの群れが、僕の前を通過する。
僕は壁に同化してやり過ごす。(僕は壁、僕は壁です。)
歌は止まない。
途切れ途切れだが、ずぐ再開する。
歌の源が僕の前を通り過ぎる。
紫のターバンを巻きマントをした逞しい戦士風の男だ。

彼の事は見覚えがある。
町でフローラと楽しそうに話をしていたのを覚えている。
彼はモンスターのスライムナイトを連れている。
出立前に町にモンスター使いがいると聞いたが彼の事らしい。
彼も財産目当てで、ご自慢のモンスターを連れてやって来たに違いない。
目の前で彼らが襲われる。
大声で歌っているからだ!

だが彼らは強かった。
僕では到底敵わない相手を、スライムナイトは一瞬で倒す。
しかし男の方の強さは、スライムナイトを凌駕するものだ!
4.5匹の敵を瞬時に駆逐する!
剣速が早すぎて、僕には刃が見えない…
何事も無かった様に戦闘を終わらせると、何事も無かった様に進み始める。
この間30秒とロスはしていない…
僕はこの人達を利用する事にした。

アンディSIDE END


<死の火山>

今日は喉の調子が良い!
『翔べ!ガン○ム』を歌っていたが、燃え上がりそうな歌だった為ピエールに止められた。
「リュカは熱いの平気なのか…」
ピエールは辛そうに聞いてきた。
鎧脱いで裸になっちゃえばいいのに…
「うん!僕は寒いのは苦手だけど、熱いのは大丈夫。夏男!」
夏、大好き!熱いのへっちゃら!女性よ薄着になれ!!

「ところで…後ろのアレは何だ?」
ピエールは右手の親指を立てて、肩越しに後ろを指す。
さっきすれ違った、ヒョロい男が物陰に身を隠し(ているつもり)ながらついてくる。
「きっとここのモンスターに勝てそうにないから、僕らの事をボディーガード代わりに利用するつもりだよ」
引き返せる内に帰れば良いのに…
「いいのか?」
「別にいいよ。目的はリングだから。それさえ手に入れられれば…」
リングさえ奪われなければ、それでいい…



 

 

29.人の過去は気にしない。自分の過去の方が気になるから…

<死の火山>
アンディーSIDE

案の定彼らはスイスイ進んで行く!
モンスターとの戦闘を物ともせず。
僕の存在には気付かず。
狙い通りだ!

しかし不測の事態というのは訪れる。
スライムナイトが唱えたイオラにより殆どのモンスターが吹き飛ばされた。
その中の1匹が、僕のすぐ側に吹き飛ばされ落ちた!
そのボロボロにやられたホースデビルは、まだ息があった。

そして僕と目が合うと、怒り狂って襲ってくる!
「僕じゃありません!僕攻撃してません!僕を攻撃しないで!!」
言ったって聞く訳ない!
僕は転げ回り、這いずり回り、攻撃をかわす。
この原因を作った彼らを見ると…もう、いなーい!!
僕ピンチですよね!
僕ピンチなんですよね!
どうすればいいんですか!?どうすれば切り抜けられますか!?

…落ち着こう!…冷静に!…パニクッたら負けだ!
よく見るとホースデビルは先程の攻撃でかなりのダメージを受けている。
そうだ!こいつは弱っている!
僕は腰から出立前に大枚を叩いて買った、モーニングスター(3000G)を取り出す。
フッ…冷静になればこんなヤツ何て事はない。
僕は距離を詰め、モーニングスター(3000G)を振り下ろす!

(スカ)
ひらりと避けられました。
(ドスン!)
次の瞬間、腹部にものすごい衝撃が走る!
僕の胴回り程ある、ホースデビルの足が僕の腹部を蹴り上げる!
数メートル吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられ大量の血を吐き出す。

冷静に考えて………絶対にムリ!勝てません!
僕、スライムにも勝った事無いんです!
ホースデビルは少しずつ躙り寄ってくる。
僕はモーニングスター(3000G)を投げ付けた。

(スカ)
あっさり避けられる。
しかし構わない。
僕はホースデビルに背を向け、死に物狂いで逃げ出した!
走る!走る!走る!兎に角ヤツから、逃げる!逃げる!逃げる!
しかしこのダンジョンの熱気のせいか、先程の腹部への一撃のせいか息が出来ない!
苦しい!でも、走る!逃げる!
口の中に鉄の味がする!でも、ひたすら走る!ひたすら逃げる!

何処をどう走ったのか、どうやってここまで来たのか分からない。
僕は眼下に溶岩が広がる崖っぷちに立っていた。
後ろを振り向くと…まだ、ヤツがいる!!
彼、しつこすぎませんか!?
僕には心に決めた女性がいるので、諦めてほしいんですが!?

僕は肩で息をし、苦しくて声も出ない。
ホースデビルは僕に近づき、拳を振り下ろす!
恐怖のあまり反射的に後ろへ避けた!
だが、後ろには地面も壁も無い…崖になっている。
僕は崖から転落していく…薄れ行く意識の中で、僕はフローラの事を考える。
フローラ…僕には…君しか…



「うぎゅ!」
ん!?
人が死ぬ時の音はこんな音がするのか!?

アンディSIDE END



<死の火山>

何とか『炎のリング』を手に入れた。
リングを手にしたら、ドロドロの溶岩の化け物に襲われた!
ちょ、聞いて無いッスよ~!
熱すぎて近づけなかったので、バギマを連発していたら『バギクロス』を唱えられる様になった。
『バギクロス』凄ぇッス!3匹いた溶岩野郎が瞬殺ッス!
でもピエールが「お前のそれは、『バギクロス』じゃない!もはや、ハリケーンだ!めったやたらに使うな!」って…
これって褒められてる?怒られてる?どっち…?

まぁ、そう言う訳でサッサと引き上げてひとっ風呂でも浴びたいね。
「そう言えばリュカ」
「ん?」
「あの後を付けてきてた男はどうしたんだ?」
「あれ?そう言えば途中でいなくなったね」
あまりにどうでもよかったので、忘れていた。

「諦めたんじゃね?根性無さそ、うぎゅ!」
ものっそい痛い!
俺の上に何か降ってきた!
「リュ、リュカ!大丈夫か!」
俺は、俺の上に降ってきた物を押しのけて立ち上がる。
「何~これ~!」
見ると、あの男だ。
今まさに話をしていたあの男だ!

「何で降ってきたのぉ?」
「きっと理由はアレだ」
ピエールは崖の上を指さす。
崖の上には(ポニョはいないよ)ボロボロに傷付いたホースデビルが1匹。
「ヤツから逃げ回った挙げ句、逃げ切れず落ちてきた。そんな所だろ」
俺は上を見上げ、ムカついたので石を投げ付ける。
(スコ~ン!)
見事命中!そして絶命!
「何!?あんな弱っちいヤツに相手に、こんなにボロボロになってたの!?」
ヘンリーより弱いぞコイツ…

俺は男を肩に担ぐと歩き出した。
「フローラ…フローラ…」
男はフローラの名を譫言の様に呟く。
「相当フローラ殿の事を愛している様だな。お前と違って!」
俺はふて腐れ歩き続ける。
確かに俺はフローラを愛してはいない。セフレになりたいって感情しかない。
でも、幸せになって欲しいとも思っている。
「じゃぁ!天空の盾も、伝説の勇者も諦めればいいんだろ!」
そう言ってピエールに炎のリングを投げ付けた。
「す、すまん!そんなつもりで言ったのでは…」
ピエールは泣きそうな声で謝罪した。
兜で顔を覆っている為、涙は分からない…
俺、心狭!
この男を送り届けたら、なんか甘い物でも奢って謝ろ!
俺…最低だな…




<サラボナ>
フローラSIDE

リュカが帰ってきた!
しかも『炎のリング』を手に入れて!
リュカのお連れのモンスターさん達と、リュカの事をお話いている時に、その報を聞いた。
私はすぐさま町の入り口方面に走り出した。

リュカがいた!
「リュカ!ご無事ですか?あら?…!アンディー!!」
幼馴染みのアンディーが、大怪我をしてリュカに担がれている。
「フローラの知り合い?」
「はい。幼馴染みのアンディーです。どうしてこんな…」
乱暴な事など出来ない人なのに…
「モンスターにやられたらしく骨折もしている。下手にホイミを使えなかったので早く医者に診せたいのだが…」
聞いた事がある。骨折の部位を、下手にホイミで癒すと骨が間違ってくっついてしまう。
「か、彼の家はあちらです!すぐお医者様を呼んできます!」


どうやらアンディーは命に別状は無いようです。
「リュカ。ありがとうございます。彼は…こんな事には向いてないんです。なのに…」
「君の事が相当好きな様だね。彼は…幼馴染み…なんでしょ?」
アンディーが私を…考えた事もなかったわ…
「はい…」

「僕はルドマンさんにリングを届けたら、すぐに出立するつもりだ。今晩一晩くらい、彼の事を看病してあげてほしい。君にはその義務がある」
「あの!…私…リュカのお連れの方達に、リュカの事を聞きました」
リュカは目を丸くして驚いた!可愛い…
「クス!馬鹿でスケベなお調子者!そんな…所かな」
「いえ!皆さんリュカの事をお慕いしています!…ですから…私の事も知って欲しくて…お時間を頂けませんか?」
私は貴方とお話をしたい。
もっと、もっとよく知りたい。
「残念ですが…早く『水のリング』を手に入れたいので…その後なら、時間が出来るはずです」
そう言い残し、リュカは部屋を出て行った。
リュカならリングを手に入れる。
だから私は待っていればいい。
そう、待っていればリュカと…

フローラSIDE END



 

 

30.どうにもならない事がある。どうにも出来ない事がある。でも、どうにかしないと。

<サラボナ近郊の川>

ルドマンさんにリングを渡すと「次は『水のリング』だな。北の『滝の洞窟』にある。町の外の川に船を用意したから、自由に使ってくれたまえ」って、船貸してくれた!
船って言ってもクルーザーぐらいの中型タイプ。
でも、凄く立派な帆船で買えば高そう。
世の中の男の子(大昔男の子も含む)には分かると思うけど、船とか、電車とか、飛行機とか、そう言うの「自由に使っていい」って言われたらテンション上がるよね!

そんな訳で、船に一番乗りして「どっちが面舵か分からんけど、面舵いっぱ~い!」って、舵を回したら(バキッ)って壊れた。
じゃぁ今度は!とばかりに帆を広げるロープを引っ張ったら(ボキッ)って折れた。
んで、修理に半日かかり、ルドマンさんに怒られ、マーリンに説教され、ピエールに「お前、船の上では何もするな!」って釘刺された。


そんな訳で、俺は甲板の上で静かにくつろいでいるプックルの腹を枕代わりに横になっている。
船の事はキャプテン(仮)ピエールと一等航海士(仮)マーリンに任せて…
(俺的に)優雅な船旅を満喫していると、行く手にでっけー水門が出現!
水門の至る所に看板が掛けてあり『水門の事は、山奥の村へご相談を』って書いてある。
「めんどくせーから、ぶっ壊しちゃおうぜ!」と言う意見を、多数決でボコボコにされ、俺・プックル・キャプテン(仮)ピエールの三人で山奥の村まで足を運ぶ事となった。


プックルに乗って約2時間。(プックル便利)
山奥の村、正式名称『温泉で超有名な山奥にある村』は名前の如く温泉の香りがする、風光明媚なステキな村だ。
村人に聞いた話では、「名前が長すぎたので山奥の村と呼ばれてる」と言う事だが、名前が長いと思った時点で『サンタローズ』とか『サラボナ』とか、イカニモな名前を考えれば良かったのにって思います。(ま、どうでもいいか!)
村の一番奥(山奥の村の奥って奥すぎ!)に、水門を管理しているお宅があるらしい。

とぼとぼと奥の奥まで歩いていると、突然プックルが走り出した!
プックルは絶対に人には危害を加えないけど、そんな事知らない人からすれば、大きいトラが襲ってきたとしか思えない!
俺とピエールが慌てて後を追いかける。

プックルは村の墓地へ入り込み、お墓にお祈りを捧げている女性へ近づいていた。
とても綺麗に整備されたお墓は、生前とても大切な人だった事を物語っている。
そのお墓に祈りを捧げている女性は、後ろ姿ながら美しさを醸し出していた。
とても話し掛けられる雰囲気ではなく、邪魔をしてはいけないので、立ち去ろうとプックルを呼んだ。
「プックル!ダメだよ、邪魔しちゃ!」
「え!プックル…」
その女性は立ち上がりプックルを見る。

普通の女性はプックルを見ると、悲鳴を上げて腰を抜かす。
しかし彼女はプックルを見ても、驚いてはいるが悲鳴を上げない。
俺は彼女を見て息が止まった!
彼女は美しかった。
美しい金髪。
美しい青の瞳。
俺が今まで出会ってきた女性の中で一番…いや、他の女性の追随を許さない程の美しいさだ!
そして彼女は俺を見てプックルを見た時以上の驚きをした。
「…貴方…リュカ?」

え!?
…俺の事を知っている!?
ま、まさか…もしかして…!?
「ビ、ビアンカ!?」
「やっぱり!リュカだ!リュカ!!」
やはり彼女はビアンカだった!
ビアンカは俺に駆け寄り抱き付いてきた。
あまりに不意打ちだった為、俺はビアンカに押し倒された。
ビアンカに押し倒されるのは2度目だ。以前はお尻で…

「ビアンカ!逢えて凄く嬉しいよ!最初、美人過ぎて分からなかったよ」
「ふふっ、ありがと。リュカもお世辞を言える様になったのね」
お世辞なもんか!
俺はビアンカを見つめながら彼女を抱き続ける。
俺の祈りが通じたのか、ビアンカはとても女性的に成長していた。
特にオッパイ。(フレアさんに勝るとも劣らず)
何時までも墓地でイチャついていた為、ピエールに「死者の前で何時まで抱き合っているつもりだ!」と怒られた。

二人とも服に付いた土を叩きながら、ビアンカの家(なんと、水門管理者宅)へ歩き出した。
「私ね、絶対リュカは生きているって分かっていたの!」
「ありがとう。僕はアルカパにビアンカがいないから絶望してたよ」
もうあの時のガッカリ感は最悪だった…
「大袈裟ねぇ」
「くすっ。アマンダさんもダンカンさんも元気にしてる?」
「…母さんは…」
ビアンカの表情が暗くなる。
俺は自分の愚かさ加減が嫌になった!
さっきビアンカは墓地で祈っていた。
それを考えれば、安易に聞ける質問ではない!

「ごめん!ビアンカ…その…」
「ちょっと、ヤダ!いいのよ、そんな顔しないで。知らなかったんだから…」
ビアンカは最高の笑顔で許してくれた。
正直ビアンカを押し倒しそうになったが、存在を忘れていたピエールが氷の様な視線で睨んでいるのに気付き、踏みとどまった。
「パパスおじさまは元気にしてるの?」
「…」
「…ヤダ!私こそごめんなさい…」
「いや、いいんだ。その事はダンカンさんと一緒に聞いて欲しいから…」
俺は笑顔でそう言ったが、きっと先程のビアンカの笑顔には遠く及ばないだろう…昔は出来たのになぁ…最高の笑顔…


ダンカンさんはベットで横になっていたが、俺の事を聞くと飛び起き盛大に歓迎してくれた。
俺の生存を心から喜んでくれて、涙が出てきてしまった。
ダンカンさんは俺の頭を抱き締めると「男がこんな事で泣くな!」と、さらに俺を泣かしやがった。
このおっさん、昔飴をやったのに恩を仇で返しやがった。
今日は最高の日だ!(水門ぶっ壊さないでよかった)

今日はもう日暮れも近く、夕食を作るので泊まって行く様誘われ、お言葉に甘える事にした。
夕食の席で、11年前アルカパで別れてから今日までの事を、順を追って説明する。
パパスの死、奴隷生活、そこからの脱出、母の事、伝説の勇者の事、天空の武具の事、そして天空の盾に関する今の事態。
そして夜は更けて行く…


俺達は一人一室でゲストルームを宛われた。
ビアンカは予想以上…いや、想像を絶する美女に成長していたのには驚いた。
彼氏いんのかなぁ~…いたらヤダなぁ~…まだ処女かな?…あんな美人ほっとかないよなぁ~…
などと、一人思春期男児を行っていると、
(コンコン)
「リュカ?いい?」
と、ビアンカが入ってきた。
「ど、どうしたの?」
正直ビアンカと二人っきりで緊張している。
何故緊張しているのか分からない。
女の子と二人きりになって緊張する事などなかったのに…

「水門の事だけど…」
あぁ…そうだよね…そう言う話だよね…変な期待しちゃダメだよね…
「私が水門を開けてあげるね。それと…」
「それと?」
私の水門は貴方が開けて♥とか…?

「約束…守ってもらうわよ!」
約束!?
何!?
どんな約束した!?
もしかしてヤバめ!?
「忘れてるでしょ~!」
「ごめんなさい」
声が裏返ってしまった。
「もう、一緒に冒険しようねって約束したじゃない!」
「………あぁ!その事!」
ホッとしたぁ~。
言った!確かに言った!

「でも、ダンカンさんは平気なの?」
若い娘さんを危険な冒険に連れ出すのって…
「お父さんにも許可は取ってあります。それに連れて行かないと、この場で大声出すわよ!」
「何て言って?」
「みんなにリュカが勝手に外へ出てお化け退治に行こうとしているって」
「ぷー」
あまりの台詞に吹き出し笑い転げてしまった。

「そう言えば子供の時も、そう言って渋々連れて行ったけ」
「渋々~?」
「いえ、失言でした。是非一緒に来て下さい」
俺もビアンカともう別れたくない。
今回は本心から付いて来て欲しかった。
「それに…リュカ…結婚するんでしょ?」
…言われて俺は自分の立場を思い出した。
ビアンカに逢い、浮かれて忘れていた…

「これが最後のチャンスかもしれないし…」
最後のチャンス……ビアンカの言葉を聞いた時、俺はもうどうにも出来なくなっていた。
退室しようとするビアンカを抱き締めキスをしていた。
ビアンカに嫌われたくない、そう思いつつ自分の欲望を止められない。
だがビアンカは両腕を俺の首へ絡め受け入れてくれた。
俺は唇を離さず、手探りでビアンカの服を脱がして行く。
ビアンカも同じ事をしている。
ビアンカは俺を裸にすると俺の身体を見て驚いた。
「ごめん…こんな酷い身体で…」
「何言ってるの!酷いのはリュカにこんな事をした奴らよ!絶対…私、絶対許さない!」
そう言うとビアンカは、涙を流しながら俺の身体の傷にキスをしてくれた。
俺とビアンカの夜は更けて行く…返らぬ過去を惜しむかの様に…



 
 

 
後書き
リュカさん、やっと念願だったビアンカの洞窟を攻略!
やったね! 

 

31.美人に弱いのは昔から。美人が強いのは何時から?

<山奥の村~滝の洞窟 船上>

いや~昨日は人生で最高の日だった。
色んな意味で!
でもビアンカは凄い!
俺、朝ダンカンさんと顔合わせ辛かったのに、ビアンカは平然としていた。
朝ベットから出る時もぎこちない素振りは無かったし…
俺の方が恥ずかしかったです。


今俺は、いつもの様にプックル枕で寝ている。
他のみんなは忙しそうに船を操っている。
俺とプックルとビアンカは何もしていない。
プックルは俺が巻き込んだので誰も何も言わないが、ビアンカはゲスト扱いされている様だ。
根が真面目なビアンカは、自分も手伝おうとしていたが、マーリンに「こっちは大丈夫じゃから、あの馬鹿のお守りを頼む」って言われて俺の所に来た。

「ちょっとリュカ!」
何か怒ってる?
俺の近くまで来て腰に両手を当て仁王立ちしている。
黒のセクシーパンツがよく見える。
「みんなが働いているのに一人だけサボっちゃダメでしょ!」
きっと、手持ちぶさたの気まずさによる八つ当たりだ。
「ピエール!何かやる気出てきたー!!手伝わせろー!!!」
俺は起きあがりもせずに大声で言う。
「うるさい!黙れ!!お前は何もするな!!!寝てろ!!!!動くな!!!!!」
うん…分かってたけどボロクソに言われて傷付く。

「ね!」
俺は両手を広げ肩を竦め戯けてみせる。
「何すればそんな言われ方するのよ!」
呆れ顔のビアンカも可愛い。
「そんな事よりお嬢さん!」
俺は自分の右横にスペースを作り、
「ご一緒にどうですか?」
プックル枕の共有を促す。
「別に僕としては、この状態もパンツが見れていいんだけど…」
ビアンカは慌ててスカートを押さえる。
「あ、相変わらずエッチね!」
「昨晩、再確認は終わっていると思っていたけど」
ビアンカは顔を赤らめながら俺の隣へ腰を下ろす。
俺も負けないくらい顔赤いだろうなぁ…



<滝の洞窟>
ビアンカSIDE

滝の洞窟は名の如く、滝の裏側にあるキレイな洞窟だ。
ルドマンさんが提示したルールにより、リュカともう一人しか洞窟内には入れない。
必然的に私とリュカだけになるのだが…

「リュカ!十分気を付けて慎重に行けよ!ビアンカ殿を怪我させるなよ!!」
ピエールがくどい程私を…と言うより、リュカを心配している。
この娘もしかして…
「平気だよ。邪悪な気配無いじゃん、この洞窟」
「今この洞窟内で、一番邪悪なのはお前だ!お前がビアンカ殿を傷物にしないかが心配なんだ!」
リュカはもてるわねぇ…ま、格好いいもんね。
「もう手遅れなのに…」
小声で私だけに呟く…恥ずかしいなぁ…もう…
「ともかく僕たちはもう行くから!お留守番よろしく!」
リュカは私の手を引き洞窟内へ入って行く。
…レヌール城を思い出すわぁ…


リュカが言ったとおり洞窟内に邪悪な気配はない。
殆どモンスターがいないのだ。
偶に出てくるモンスターもリュカが一瞬で倒してしまい、私いるだけ…

リュカは強くなった。
昔も6歳にしては強かったが、そう言うレベルではない。
昨日見たリュカの身体は、無駄のない引き締まった身体をしていた。
普通の人生では、こんな身体は造れない。
リュカの壮絶な人生を物語っている。

リュカはもうこれ以上不幸になってはいけない!
幸せになっていいはずだ!
サラボナのお嬢様の事は、私の耳にも届いている。
リュカの話を踏まえても、とても優しそうな良い人だと思う。
何より彼女と結婚しないと天空の盾が…パパスおじさまの遺言が実行出来ない!
私の夢は昨晩叶った…私の初めての相手が…
今度はリュカが自分の夢を叶える番だ…
フローラさんと幸せになってもらう!その為に私は協力を惜しまない。

「あれ!?誰かいる!」
リュカの優しい声が、私を思考の渦から引き戻す。
「あら?本当ね?船もなかったし、どうやって来たのかしら?」
冒険者風の男はこちらに気付くと、軽薄な笑みを浮かべ近づいてくる。
「おいおい…ヒョロいニィちゃんは女連れで冒険ごっこかぁ?」
何こいつ!腹立つ!
「ここにはお宝があるらしいが、おめぇみてーなモヤシには無理だぜ!」
リュカは気にすることなく、私の手を引いて男の横を通り過ぎる。
その時、
「きゃ!」
「ネェちゃん、良いケツしてんな!そんなヒョロいのじゃ無く、俺のぶっといので良くしてやんぜ!」
私はこの下品な男に文句の一つも言ってやろうと思った…瞬間、
私の手を握っていたはずのリュカの手が拳になり、リュカよりも頭1つ程大きい筋骨隆々男の顔面にめり込み、男を5.6メートル離れた岩壁に叩きつけた。
私は言葉を失う。
「ビアンカに汚い手で触れるな!ゲス野郎!」
多分、聞こえてない。
生きてはいるが、聞こえてない。
「リュ、リュカ!行きましょ!」

昔もそうだった。
私がソースまみれになったのを見て怒ってくれた。
今もお尻を触られたのを知ると、すごい怒ってくれた。
リュカの優しさが心を揺らす…
でもダメ!イケナイ事は昨晩一度きり!
リュカは結婚するんだから…フローラさんと結婚して幸せになるんだから…
この冒険が終わったら山奥の村へ帰り、静かに暮らそう。
結婚は…私はいいや…他の人なんて考えられないし…

ビアンカSIDE END



 

 

32.結婚って何の為にするの?

<滝の洞窟>

洞窟の最下層は滝が落ちる美しい泉だった。
滝の水しぶきが舞う最下層で、ビアンカは俺の手を握り先程から沈黙している。
さっき男を殴った事を軽蔑してるのかな?
ついカッとなってしまったがマズかったかな?
だってムカつかない!?
楽しくデートしてたのに、いきなり人の彼女の尻触って邪魔するなんてさぁ…
やっぱりいきなり暴力は軽蔑対象だよねぇ…
あの男も見た目より軽く、盛大に吹っ飛んだから俺が暴力的に見えちゃう。
「ビアンカ…ごめんね…さっきの…」
「リュカが謝る必要なんてないのよ。むしろ感謝してるわ、私を守ってくれて」
ブラボー!!ブラボー、さっきの俺!

水しぶきで服が濡れ見事なボディーラインのビアンカを見て、俺の暴れん坊将軍が騒ぎ出す!大暴れ寸前!
ビアンカを抱き寄せキスをする。
最初はビアンカも絡ませてきたが、すぐに俺から離れ寂しそうに呟いた。
「ダメよ…リュカ、貴方は結婚するのよ。私達は昨晩だけ、一度きりなの…」
俺は何も言えなくなった。
そう、俺は結婚する…そして天空の盾を手に入れる…
フローラはいい娘だ。もっとよく知れば愛せるだろう…
だが、天空の盾の為に結婚する事実は消えない。
フローラは俺の事が好き、だろう…
ビアンカはどうだろうか…?
いや、それより俺はどうなんだ!?
俺は…
しかし天空の盾を手に入れないと、父さんとの約束を果たせない!
志半ばで殺された…俺の目の前で殺された父さんの遺志を…
だが…



俺は思考の迷路に迷い込んでいた。

そんな俺を連れ戻したのはビアンカの明るく爽やかな声だった。
「見てリュカ!水のリングがあるわ!」
「ビアンカ!危ない!!」
俺は死の火山での事を思い出し、剣を抜き放ち左腕でビアンカを抱き庇い、四方を警戒する。
…が、何も現れない…何も起きない…

「リュ、リュカ?」
腕の中を見るとビアンカが真っ赤な顔で俺を見上げている。
かわゆス…とっても、かわゆス!
「ご、ごめん…以前…リングを手にしたら、モンスターに襲われたから…その…ごめん…」
「守ってくれて…ありがとう。あの…もう危険は無さそうだから…あの…腕の力を…」
俺はビアンカを離せないでいる。
キスする事も、離す事も出来ないでいる。
俺はどうすればいいのですか?
誰か、教えて下さい!
父さん、教えて下さい!




<サラボナ-ルドマン邸>
フローラSIDE

今、リュカが帰還したとの報を受けた。
サラボナ運河に突如船が出現し、船からはリュカ達が下船してきたらしい。
船ごと移転してくるなんて、やっぱりリュカはすっごい!
マーリン様に聞いた話しでは、本来術者一人しか移転出来ないらしいのだが、リュカは大人数…いや、船ごと移転出来る。

お父様もお母様も、リュカの事を高く評価している。
「旦那様。リュカ殿がお見えになりました」
来た!
とうとう水のリングも手に入れて!
「あ~…遅くなりました~、水のリングです」
少し遠慮がちに入ってくるリュカ…
「おぉ!リュカ!待っていたよ。どれ、水のリングも預かろうか」
間違いなく水のリングだ!
リュカはお父様にリングを渡す。

あら?疲れているのだろうか?
リュカの表情が暗い様な気がする?
…後ろの女性は誰かしら!?…まさか…
「あ、あの…リュカ!…そちらの…方は…」
「あぁ、彼女は僕の「私はビアンカ!リュカとはただの幼馴染みよ!」
リュカの言葉を遮り、自身の事を説明する女性。
この人やっぱり…

「じゃ、じゃぁ、私はこの辺で帰るわね!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ビアンカさんが帰ろうとすると、ドアからデボラ姉さんが入ってきてビアンカさんを止めた。
「リュカ…って言ったけ?あんた凄いわね!本当にリングを2つ手に入れるなんて」
「はぁ、どうも…あの…どちら様?」
いきなりの登場でリュカも困っている…

「姉のデボラ姉さんです」
「そう言う事!だから、私と結婚しても盾は手に入るわ。そうよね、パパ」
え!?急に何を…?
「あ、あぁ…まあ…そうだが…急に何を言「つまり、私と結婚しなさいって事!」
そんな!
「いきなり何だ!リュカがお前と結婚する訳ないだろ!」
「分かってないわねパパ。リュカは天空の盾を手に入れたいのよ。だったら、私の様な絶世の美女を選ぶでしょ!」
そんな…酷い…
「あの…ちょっ「今回の試練は私の婚約者を決める試練です!」
「それが?」
「それに参加したリュカは私と結婚するつもりなんです!」
そうです!
リュカは私の為に危険な試練をやり抜いたんです!

「見なさい、リュカの連れている女を!」
え!?ビアンカさんが…
「フローラ。貴女は可愛いわ。お淑やかだし清楚で可憐よ。でも、リュカの好みはスタイルの良い美女よ!」
うっ…
「僕の話を聞「そう言う訳よリュカ!私と結婚するのなら、そんな田舎娘とは金輪際逢わないでもらうわよ!」
「田舎娘って私の事!?」
デボラ姉さんの不躾な物言いに、怒りを露わにするビアンカさん…でも、その通りです!
リュカとは二度と逢ってほしくない!
リュカは貴女の事が好きなはず…
そんなの…
「他にいないでしょ。さっさと帰りなさいよ!何時までも彼女面して居座らないで頂戴!」
「そうです!貴女がいなければ話がややこしくならなかったのに」
「な!?話をややこしくしたのは貴女のお姉さんでしょ!私は帰るつもりだったの!」

「ちょ、みんな僕の話し「静まらんか!」
お父様の一喝が静寂を呼び戻す。
「みんなの気持ちはよく分かった!だが、リュカは一人しかいない。だからここは、リュカに決めてもらおうじゃないか」
…つまり?
「あの、僕は「つまり今夜一晩ゆっくり考えて、明日の朝に結論を出してもらう。リュカは宿屋に泊まりなさい。部屋を用意しておこう。ビアンカさんは我が家のゲストハウスに泊まるといい。遠慮はいらんよ」
お父様が強引に決めて、リュカとビアンカさんをそれぞれ案内させている。
私は…リュカに選んでもらいたい!
どんな事をしても…
でも…どうすれば…

フローラSIDE END



 

 

33.結婚は一人では出来ない。でも三人とも出来ない。儘ならない。

<サラボナ-ルドマン邸>
フローラSIDE

私は気が付くとゲストハウスのビアンカさんの所に来ていた。
何をしていいのか分からない…でも、何かしないとリュカが行っちゃう…
だから私は…だから…

「あの…フローラさん…さっきは強く言いずぎてごめんなさい…」
謝らないで!
私は貴女には負けない…
「私はリュカの事が大好きです!絶対貴女には負けません!絶対!!」
私は最低だ…自分の言いたい事を言うだけ言うと、彼女の前から逃げ出す様に立ち去った。


私はデボラ姉さんに会えないでいる。
今会うと、大好きなデボラ姉さんを嫌いになってしまう気がする…
なんと自分勝手なんだろう…でも、リュカの事を考えると自分が自分じゃなくなる…
私はリュカと結婚する為ならどんな事でもする!
色仕掛けでも…

以前、姉さんに貰ったシースルーのネグリジェを着ている。
下着は穿いていない…
鏡の前で自分の姿を見てみる…恥ずかしくて死にそうだ…でも…

リュカは今、デボラ姉さんの部屋にいる。
声が聞こえてくる…
一方的に姉さんが怒鳴っている様だ…
私の部屋にも必ず来る。
そうしたら私はベットで寝たふりをする…この格好で…布団も御座なりに…
そうすればリュカは…エッチなリュカの事だから、私を襲うはず。
私はリュカと結婚する為なら最低な女になる。

(コンコン)
来た!リュカだ!
「フローラ?入るよ?」
リュカが入ってきた!
どうしよう!
心臓がドキドキしてリュカに聞こえてしまう…

「あれぇ?寝てるのぉぉぉぉぉ!すげー格好だな!オッパイ丸見えじゃん!」
ヤダ…恥ずかしいからあまり言わないで!!
「話をしようと思ったけど…」
リュカが私に近づく気配がする。
ついにリュカと…私、リュカと…
(スッ)
え!?
「風邪引くよ…」
私の身体に布団がかけられる。
リュカがドアに向かう気配がする。
(バタン)
ドアが閉まる音が聞こえた…
私はそっと目を開ける。
そこにはリュカが…………………

フローラSIDE END



<サラボナ-ルドマン邸-ゲストハウス>
ビアンカSIDE

はぁ~何でこんな事になったのかしら?
私はテラスで手摺りに頬杖を付き後悔している。
もっと早く帰ればよかった…屋敷には入るべきではなかったのに…リュカが手を握って離してくれなかった…
いえ…リュカのせいではないわ。
私も離れたくなかった…だから…
でも、リュカはフローラさんと結婚すべきなのよ!
あのデボラじゃなく!

そのデボラがここまで聞こえてくる声で喚いてる。
さっきリュカが屋敷へ入っていったから、リュカに何か言っているのだろう。
さすがのリュカもあの女だけは選ばないだろう。
胸は私より大きかったけど…選ばないわよねぇ…彼女だけはヤダなぁ…
でもリュカって…巨乳好きよね…不安だなぁ…

あら…静かになったわね…
彼女の喚きが収まった様だ。
いったい何を騒いでいたのやら…



5分もしない内にリュカが屋敷から出てきた。
フローラさんとは会わないのかしら?

リュカは宿屋へ戻らずゲストハウスへ進んで来る。
今、リュカと近くで会ったら意志が揺らぐ…そんな気がする…
「リュカ!こんな遅くにどうしたの!?」
私は手摺りから身を乗り出しリュカを呼び止める。
ここへ来てはダメ!
お願いだから、離れてて…
「ビアン「何かごめんね!私がもっと早く帰っていればよかったのに」
リュカが何かを言おうとするが私はそれを遮る。
「ま、デボラさんも混乱の一翼ね!」
「あ、あぁ…」
「リュカはフローラさんと結婚して幸せになるべきよ」
「幸せ…に…」
リュカの瞳に悲しみが映る…
ダメよリュカ…貴方はフローラさんと結婚して、伝説の勇者を捜すのよ!

「天空の盾を手に入れて、パパスおじさまの遺志を継がないと…」
ヤダ…私涙が出てきてる…リュカにばれない様にしなきゃ…
「父さんの…気持ち…」
「いい!もうリュカは不幸を背負い込む必要無いんだから…幸せに…ならなきゃ…」
「幸せ…か…」
「そうよ!貴方のお姉さんとして…貴方が心配よ…」
お願いリュカ…早く…早く、宿屋へ戻って…私…もう…

「ビアンカは何時もお姉さんぶるね」
リュカは踵を返し寂しそうに戻って行く。
私にはリュカの姿が滲んで見えない…
もう、涙が止まらない…
室内へ戻り壁際で蹲り嗚咽を漏らす…
これで…いい…はずなのに…
リュカの為に…いいはずなのに…
私の事なんかどうでもいいの!
リュカが…大好きなリュカが…
「リュカぁ…イヤだよぉ…リュカぁ…」
帰りたい…アルカパでリュカと遊んだ…あの時へ…
幸せだった…あの時へ…

ビアンカSIDE END



 

 

34.結婚しないと進まない関係がある。でも、結婚すると壊れる関係もある。

<サラボナ-ルドマン邸>
ルドマンSIDE

昨晩は随分と騒がしかったな…まぁ、しょうがないか。
女性三人は既に我が家の居間に集まっている。
フローラとビアンカさんは泣き腫らした様だ…目が赤い。
デボラは…何時もと変わらんなぁ…何の為に混乱を増大させたのやら…
後はリュカを待つだけだが…遅いなぁ?

(コンコン)
「旦那様。リュカ様がお見えになりました」
やっと来たか。
悩みすぎて寝坊したか?
「うむ!」
ん!?
何やらリュカの表情が暗い…?
「リュカ…良く眠れなかったかな?」
「え?バッチリ爆睡です!どうしました?」
ば、爆睡…逆に凄いな…
「いや…表情が暗かったのでな…」
「あぁ!いや…そこでメイドさんをナンパしたら怒られまして…『婚約者がいるのにふしだらです。』って…結婚したらナンパしちゃダメ?」
イラ!
この男いったい何考えているんだ!

「で!三人の内誰と結婚するか決めたのかね!?」
「あれ?イラついてる!?クス…冗談ですよ…」
イライラ!
「いい加減にしたまえ!昨晩の大騒ぎは君も知っているだろう!真面目にやりたまえ!」
まったく!
本当にこの男でいいのか!?
………とは言え仕方ない…私が出した試練をパスしたのはコイツだけだし…
「大騒ぎの原因を作ったのは貴方でしょう…僕にイラつかれても困ります」
ぐっ!

「で、では、誰とけっこ「その前に!」
む!?
「その前に、僕はルドマンさん!貴方に言いたい事が…文句があります。それを言い終わらない内は、事態を進めるつもりはありません!」
ほ~う…この私に文句を言う…面白い!
「何かね」
「まず最初に、この事態の原因になったフローラの結婚相手を決める試練の事です」
今更では?
「貴方が築き上げた財産や資産を譲渡するのは貴方の自由だ。だが、フローラの人生を自由にしていい訳無いでしょう!」
そ、それは…
「今回…結果的に大事には至らなかったが、もし財産目当ての腕っ節馬鹿が合格していたらどうするつもりでした!?」
「だが…この物騒なご時世、フローラを守るには力がいる!だから「馬鹿ですか!あんたは!」
なっ!
「物騒な世の中からフローラを守るのなら、金を使って武装すればいいだろ!一人の物理的な力なんてたかが知れてる。盗賊が1000人で攻めてきたら何も出来やしない」
た、確かに…

「むしろ、そんな腕っ節馬鹿はフローラを不幸にする!」
何!?
「多額の泡銭が入り、あっちこっちで金を散撒き女をつくる!フローラの事を顧みてない男は、その事を指摘されると腕っ節に物を言わせるでしょう!」
うむ…その通りかもしれん…
この男やはりフローラの事を…
「もう一件、言いたい事が…これは、この場にいるみんなに言いたい!」
娘達にも!?
「昨日、僕の話を誰も聞こうとはしなかった!何度自分の気持ちを言おうとして遮られた事か!挙げ句、一晩悩んで持ち越せって…」
言い終わるとリュカはビアンカさんを抱き寄せキスをする。
なっ!?おい!フローラを選ぶのでは…?

「ちょ、リュカ!何!?」
「ビアンカ!好きだ!愛してる!」
「何言ってるの!私なんかを選んだら天空の盾が「あんな物いらない!ビアンカがいい!」
「あんな物って…パパスおじさまの遺志は!」
「父さんを侮辱するのはやめてくれ!」
「ぶ、侮辱って…」
「父さんは偉大で優しい人だ!僕の幸せを思ってくれる人だ!」
私達は何も言えない…ただ、黙って見ているしかなかった…

「それに天空の剣があれば、勇者を捜せる。勇者を見つけてから盾を貰いに来ればいいし…」
「リュカ…そんな…私…」
「後はビアンカの気持ち次第だ。もし僕の事が嫌いだったら…諦める…誰とも結婚しない…」
「私 (ヒック)も…リュ(ヒック)リュカの事が(ヒック)大好き…」
ビアンカさんは泣き出してしまった…
「リュカじゃなきゃヤダ!私…私…」
ビアンカさんはリュカに抱き付き泣きじゃくっている。
気付くとフローラもデボラに抱き付き泣いている…
私は自分の娘を泣かせるダメな父親だ…

「私を選ばないなんていい度胸ね!」
デボラ…また騒ぎを広げる様な事を…
「(クスッ)…そうですね…妹思いの巨乳美女は捨てがたかったですね…(クスクス)」
プ、プロポーズ直後の台詞じゃないゾ!
「フローラを馬鹿男共から守ってくれてありがと」
私もフローラもビアンカさんも、二人を交互に見て驚いている!
「ビアンカを救ってくれたからチャラです」
私は驚く事しか出来なかった…
二人の懐の深さに…
二人とも私の愚かさに対してフォローをしてくれたのだ…
私は自分の娘を侮っていた様だ…


フローラとビアンカさんが一通り泣き止むとリュカから切りだしてきた。
「では、僕らはそろそろ行きます」
いや、そうはいかん!
「待て!私は結婚式の準備をしてしまっているのだ!これを無駄にする事は許さん!」
「ふう…つくづく勝手な人ですねぇ…貴方は…」
ふん!式の準備は整っているのだ…あとは新郎と新婦が揃えば良いだけ…
「何とでも言うがいい!私はリュカ…お前が気に入った!私の好意を受け取ってもらうぞ!」
「好意の押し売りです。それは…」
そう言いながら、リュカとビアンカさんは互いに見つめ頷き、結婚式を了承した。

「そんな訳で2日後には式を執り行う」
「2日!?はぇ~よ!準備は…」
黙れ、準備は出来ていると言ってるだろうが!
「準備は殆ど出来ている!お前はほっておくと浮気をしそうだからな!サッサと結婚させておくしかないだろ!」
「そ、そんな事は…(ゴニョゴニョ)」
リュカは情けなく口籠もる。
「それとリュカにはやってもらいたい事がある」
「何ッスか?娘さん二人の今晩のお相手?」
何でこの状況で、そんな思考が出来るんだ?
「コロスぞ!…そうじゃない!お前のルーラで招待客へ招待状を渡し、連れてきてほしいのだ!」
「えーめんどくせー」
「コラ!リュカ!貴方にしか出来ないんでしょ!」
「…は~い」
どうやら早くも尻に敷かれている様だな。
「…その間ビアンカは?」
「ドレス合わせの為残ってもらう」
「そっちの方が楽しそう!」
そうは言ったが、リュカは渋々承諾をし早速ルーラで飛んでいった。
「便利よのぅ…」
あ!
シルクのヴェールの事を頼むの忘れた…
まぁ良いか…帰ってきてからで。

ルドマンSIDE END



 

 

35.若い内の苦労は買ってでもしろ。でも買う金がありません。

<ラインハット城>
ヘンリーSIDE

「兄さん!」
デールが騒がしく俺を呼ぶ。
珍しいな…あいつは冷静な方なんだが…
「どうしたんだ、デール?」
「お客さんが…リュカさんがお見えになりました!」
ほう、良い所へ来たもんだ。
「やあ、ヘンリー。まだマリアさんは愛想を尽かしてない?」
相変わらずだな…
「あのなぁ…まったく…お前こそどうなんだ?ピエール達に嫌われたん…じゃ?」
あれ?
リュカ一人だ!?
「おい!ピエール達はどうした!?本当に…」
あ、あり得るからなぁ…
「そんな訳ないだろ。他のみんなはサラボナで人質になっている」
「人質!?どういう事だ!」
「うーん…僕が逃げ出さない様に…かな?」
何なんだ!?いったい…
「これ…読めば分かるから」
俺はリュカに渡された書状に目を通す。
「お前、結婚すんのか!?」



式まで時間が無い為に新郎自ら参列者を迎えに来ているそうだ。
どんな式だよ…

皆に声をかけ参列を確認すると…
俺、マリア、ヨシュアさん、マリソル、デルコ、この5人が参列する事に決まった。
マリソルなんかは泣きながら「私がリュカさんと結婚したかったのに…」と、リュカを困り顔にさせる。
珍しいな、普段のリュカなら『僕もマリソルと結婚しちゃうぅ』とかふざけた事、言うのに…
後で聞いてみるか。
「リュカさん、このままサラボナへ行くのですか?」
「いえ、マリアさん。次は海辺の修道院へ行きます」
なるほど…各所を回ってサラボナへ…か!

ヘンリーSIDE END



<海辺の修道院>
マリアSIDE

ここへ戻ってくるのは随分と久しぶり。
お世話になったのに、そんな事ではいけませんわね。
リュカさんが修道長様とお話をしている。
「まぁ、おめでとうございます。リュカもとうとうご結婚されるのですね」
「はい。つきましては、お世話になったシスター方にご参列頂こうと思いまして、お迎えに上がりました」
「シスター・アンジェラ。貴女がご出席してあげなさい」
「修道長様は?」
「私はここでリュカの為に祈りを捧げたいと思います。リュカ、シスター・アンジェラを連れて行って頂いてもよろしいですか?」
「はい」
リュカさんはとても嬉しそうだ。

「では支度をして参ります。少々お待ち下さい」
そう言うとシスター・アンジェラは奥へ下がっていった。
「アンジェラさーん!荷物はそんなに必要ないですから。殆どサラボナでルドマンさんが用意してくれます。着替えを1.2枚で大丈夫ですよ。何なら裸でもいいし…いや、むしろ裸の方が…」
(ゲシ!)
「お前は…結婚すんだろ!」
「関係ないだろ!結婚したって、嫁がいたって、女の裸は見たいだろ!」
リュカさんとヘンリーさんは相変わらずです。
「リュカさん!私なら何時でも見ていいですよ!」
「マリソル…期待…しちゃうよ、僕…」
(ポカ!)(ポカ!)
「「いたーい」」
「お前らは~…」
「ふふっ…アナタは弟妹が沢山いますね」
「まったく…手のかかる…」
そうこうしていると、シスター・アンジェラの支度も終わり、次の目的地へ向かった。

マリアSIDE END



<サンタローズ>
フレアSIDE

私は今、信じられない…いや、信じたくない書状を見ている。
「リュー君、結婚するの!?」
「はい。アルカパに住んでいたビアンカと…」
私はリュー君に抱き付きキスをした。大勢が見ている前で…
「こんなに愛している私を捨てるの!?」
「捨てないよ。結婚はするけど捨てないよ」
え!?
どういう事?
私が考えていると、ヘンリー様がリュー君を蹴飛ばす。
「そんな訳いかねぇーだろ!」
「あいた!」

「ちょっと!ヘンリー様!リュー君に乱暴しないで!」
「そうよ!ヘンリー様!」
「うっ!マリソルまで…」
このお嬢ちゃんもリュー君が好きらしい。
さすがもてるわねぇ…
「じゃぁ…それでいい!リュー君の事お祝いするね。でも、サラボナへ行ったら悔しいからビアンカちゃんをいぢめる」
「(クス)…ビアンカは強いよ。かなりの修羅場潜り抜けたから」
うっ…負けない!
リュー君の初めては私が貰ったんだから!

フレアSIDE END



<山奥の村>
マリソルSIDE

温泉の匂いがする静かな村に私達は来ている。
ここはリュカさんのお嫁さんになる人が住んでいた村だ。
リュカさんはここへ、お嫁さんのお父さんを迎えに来たみたい。
リュカさんのお嫁さんはどんな人なんだろうか?
こう言っては何だが、私は将来美人になる自信がある。
ヘンリー様もデール陛下も、リュカさんまでも美人になるって言ってくれた!
あと5年早く産まれていればなぁ…

リュカさんのお嫁さんのお父さんはダンカンさんと言うらしく、とても優しそうなおじさんだ。
「おや?リュカ…どうしたんだい?こんな大人数で…ビアンカの姿が見えないが…いったい…?」
「ビアンカはサラボナで結婚式の準備をしています。お義父さん」
「…?お義父さん?…リュカ…お前はサラボナのフローラさんと結婚する為に、危険な試練を受けたのではないのかね!?」
「何!どういう事だ!詳しく聞かせろ、リュカ!」
ヘンリー様が大声で問いかける!
みんな、リュカさんに大注目だ。



私の想像を超える事態が起きていた様だ。
それにしてもリュカさんは格好いい!
お金目当てで変な人がフローラさんを不幸にしない様に、危険な事をやってのけるなんて…
そして三人の女性の中からビアンカさんを選んだのか…
私もその中に加えてほしかったなぁ…自信あるもん!
「今、私と同じ事考えているでしょ!」
シスター・フレアが小声で話しかけてきた。
「私は自信ありますよ。まだ、若いしこれからですもの」
私も小声でシスターに話す。
「ふふっ…どうかしらね?」
む~!私だってシスター・フレアくらいのオッパイになるもん!…多分…

「…リュカよ!父親としては嬉しい限りだが…ビアンカと結婚しては、天空の盾が手に入らないのでは?」
「いりません、あんな物!どうせ装備出来ませんし!」
でも勇者を捜す為に必要なのでは…?
「しかし…パパスの…」
「僕はこの世界の何よりもビアンカが好きなんです。ビアンカと結婚して後悔はありませんし、これからもしません」
出来れば聞きたくない言葉だった。
自信が揺らぐ…
シスター・フレアも唖然としている…
早く見てみたくなった…
嫌な女だったら絶対いじめる!

「リュカ…お前に話しておく事があるんだ…」
「もしかして、ビアンカとは血の繋がった本当の親子じゃないんですぅ~とか言う?」
「!!知っていたのか!?」
「え!?…えぇ…まぁ…」
「そうか…知っていたか…ビアンカは私とアマンダの「どうでもいいです!」
「おい!リュカ!どうでもいいはないだろ!」
私もそう思う。
重要な話だ。
「僕とビアンカが実は血の繋がった姉弟だったら重要な事だけど、この場合はどうでもいいです」
みんなキョトンとしている。
「僕が愛しているビアンカという女性は、ダンカンさんとアマンダさんに育てられた素敵な女性です。そしてビアンカがダンカンさんをお父さんと呼ぶ限り、僕にとって貴方はお義父さんです。これからも娘夫婦を暖かく見守って下さい。よろしくおねがいします」
もう…ズルイよ。
リュカさん、格好良すぎる。
諦められないよ…
私は耐えられなくなり、外へ出てしまった…
隣を見るとシスター・フレアも一緒だ。
お互い顔を見合わせ、抱き合い泣く。
あと5年、早く産まれても無理だったかもしれない…

マリソルSIDE END



 

 

36.結婚式の主役は、新郎?新婦?それとも参列客?

<サラボナ-ルドマン邸>
フレアSIDE

戦闘準備完了。
昨晩は山奥の村に泊まり、早朝リュー君のルーラでサラボナへ到着した。
私は朝一で温泉に浸かり美肌効果でパワーアップ!
今の私は『ムッチムチプリンプリン』だ!
必ずビアンカちゃんに『白旗降参参ったごめん』って言わせる!

私は勢いよくビアンカちゃんが居る部屋のドアを開ける。
…私は言葉を失う。(意識も失いそうになった)
「おぉ!!ビアンカ!!綺麗だよ!!母さんにも見せたかった…」
「お父さん…ありがとう」
純白のウェディングドレスを纏ったビアンカちゃんは、言葉が出ないくらい綺麗だった。
これはドレスのせいではない。
ドレスの方が引き立てられている。

「あの…もしかして、シスター・フレアですか?」
「お久しぶりです。はぁ~…白旗降参参ったごめん…」
「は?あの…なんですか…それ?」
「いいえ…何でもありません。ビアンカちゃんが綺麗すぎて、勝負にならないなぁ~と思っただけです」
「勝負…?」
「幼い頃は敵じゃ無いと思ったんだけどなぁ~」
「お褒めに預かり光栄です」
「何よ、生意気ね!ふふっ…おめでとう。ビアンカちゃん」
「ありがとうございます。」
「リュカのヤツには勿体ないくらい美人だな!」
ヘンリー様夫婦も驚いている様だ。
「ですよね!リュー君には私くらいがちょうど良いですよね!」
食いつく私。
「これからが期待出来る私の方がちょうど良いです!」
食いつくマリソル。
「それだったら私だってちょうど良いです」
「フローラさんまで…」
さらに食いついたのはフローラさん。
彼女の結婚相手を探していたのに…
そして呆れるビアンカちゃん。

「何であいつはこんなにモテるんだ?馬鹿でスケベなお調子者なのに?」
ヘンリー様が苦笑いで問いかける。
その問いにフローラさんが
「優しいからです」
マリソルが
「格好いいからです」
私が
「頼もしいからです」
「で、当のビアンカさんはあいつの何処に惚れたの?」
みんなでビアンカちゃんを注目する。
「あ、暖かいところ…かな?」
顔を真っ赤にして、俯き答える。
いいなぁ…
リュー君、暖かいもんなぁ~

「で?当のリュカはどうしたんですか?」
あれ?
そう言えばリュー君の姿が見あたらない。
ビアンカちゃんは心配そうに聞いてきた。
「リュカならお父様に言われ、シルクのヴェールを取りに行きました」
「あぁ、確かにあいつ『んだよ!あのハゲ!先に言えよ!二度手間じゃねぇーかよ!』て言ってルーラで飛んでったよ」
さすがヘンリー様。
伊達に10年間、寝食を共にした訳ではない…リュー君の口真似が上手い!
みんな笑いが止まらなくなった。

フレアSIDE END



<サラボナ-ルドマン邸>
マリソルSIDE

とても困った事に、ビアンカさんは良い人だった。
私のリボンはビアンカさんのリボンだった事を知る。
私はこのリボンの事を更に好きになっていた。
そしてビアンカさんの事を凄く好きになってしまった。

でも複雑…リュカさんを独り占めするビアンカさんを嫌いになれない…その事をビアンカさんに話すと、
「リボンなら何本でもあげるけど、リュカは渡さない。絶対に!」
って、意地悪く言うの。
でも嫌いになれない。
だからリュカさんは好きになったんだろうなぁ…
いいなぁ…

「ただいま!」
リュカさんが戻ってきた様だ。
「おわ!ものっそいキレイじゃん、ビアンカ!」
相変わらず戯けた口調でビアンカさんに近づく。
「もう結婚式なんかより初夜迎えたいんだけどベット行かない?」
うん、リュカさんらしい感想だ。
「何子供の前で馬鹿言ってんだ!」
ヘンリー様が丸めた本で叩く。
「いた~い。何すんの…主役よ!?今日、僕は主役なんですよ!」
「じゃぁ、真面目にやれ」
「みんなが居たから恥ずかしくって戯けたんじゃないかぁ~」
「みんなが居なかったら押し倒しているだろうが…」
「てへ♥」
そんなリュカさんとヘンリー様のやり取りが私は大好きだ。

マリソルSIDE END



<サラボナ-教会>
ピエールSIDE

教会で神聖なる式典が厳かに執り行われて行く。
さすがのリュカも歌い出したりはしない。
式前にヘンリー殿と賭になった。
「あいつ歌い出すんじゃないか?」
「確かにリュカの事だからあり得る」
「じゃぁ、賭をしようぜ。式中、歌い出すかどうか…10G」
「のった!」
そして式典は滞りなく終了する。



後でデルコに10G払わねば…
普通思わないゾ…
『リュカさんはそんな不真面目な人じゃありません!』なんて…

ピエールSIDE END



 

 

37.友情とは何時までも美しい物。愛情はどうだろうか?

<サラボナ-ルドマン邸>
ビアンカSIDE

私は目を覚ます。
ここはサラボナ、ルドマンさん邸のゲストハウス…
隣では静かに寝息をたてている男性…
私の左手薬指には美しいリングが…

私結婚しちゃった!
リュカと結婚しちゃった!!
夢みたい!
嘘みたい!!
大好きなリュカが、私の旦那様!

私もリュカも裸だ…見渡すとベットの上は凄い状態だ…
「激しかったなぁ…」
ポツリと独り言を呟いて考える。
昨晩なのか今朝なのか分からない…兎に角凄かった。
窓の外を見ると、もう日が高い位置にきている。
私は服を着て辺りを探す…パンツが無い…
ふっとリュカを見ると手に握り締めて寝ている…
何でそんなにそれが好きなのよ…

昨晩の披露宴を思い出す。
『私もパンツあげたんです!』
と、酔っぱらったフローラさんのカミングアウトから始まり、
『リュー君の初めての相手は私よ!』
と、素面で叫ぶシスター・フレアに、
『うるさい!私だってリュカの事が好きなんだ!!』
と、きっと記憶が無いと思われるくらい泥酔しているピエールが騒ぎ出した。
そして、私も止せばいいのに、
『でも結婚したのは私よ!』
と…
色んな意味で大荒れの披露宴会場に、トドメのリュカの一言、
『愛人募集中です』
一生忘れられない思い出ね!

おっと!
思い出に浸っている場合じゃない。
パンツ取り返してリュカを起こさないと。
リュカはこの後すぐに皆さんを送り届けないといけない。
リュカの手からパンツを取ろうとするが、握り締めてて取れない。
ちょっと…返してよぉ~

私が一人でもがいているとリュカが目を覚ました。
「おはよう、ビアンカ…何してんの?」
「何って…パンツ返して」
「何で?」
結婚しても変わらないわねぇ…
「あのねぇ~もう日が高い位置にあるのよ!リュカはみんなを送り届けないといけないでしょ!」
「いいよ、待たせておけば…それよりパンツ穿く前に!」
そう言ってベットに押し倒された。



…元気すぎませんか?

ビアンカSIDE END



<サラボナ>
ヘンリーSIDE

昨晩の泥酔による、壮絶なカミングアウトをしっかりと憶えている所為で、最高潮に落ち込んでいるピエールを眺めながら、俺達はする事もなく昼食を食べている。
「やぁ、みんな!おはよう」
ムダに爽やかな挨拶をするリュカが現れた。

「おはようじゃねぇー!何時だと思ってんだ!もう昼過ぎてんだぞ!」
「まーまー、アナタ落ち着いて下さい」
リュカは気にすることなく席に着くと、勝手に俺のメシを食い始める。
こ、こいつは…

「リュー君。ビアンカちゃんは?」
そう言えば姿が見えない…
「ビアンカならまだ寝てるよ」
俺のメシをガツガツ食いながら何事もない様に答える。

「お前昨晩ガンバりすぎなんだよ!」
俺は意地悪くリュカをからかったのだが…
「いやいや…朝は起きてたんだ。でもさっき第2ラウンドになっちゃって…」
「お前…俺達待たせて、何やってんだよ!」
「うん。ナニやってた」
何で恥ずかし気もなく言えるの?
「さて!じゃぁ行きますか!」
俺は殆どメシを食って無いが…まぁいい!

順序的に最初はビアンカさんのお父さん。
そして、俺達ラインハット組。
次いでシスター・アンジェラ。
最後はサンタローズ。
パパスさんの墓前に報告をしたいらしく、この順番になった。
俺もパパスさんの墓参りをしたかったが、個人的にひっそりと行いたいと言うリュカの意見を尊重した。

ヘンリーSIDE END



<サンタローズ>
フレアSIDE

丘の中腹、リュー君の実家があった裏手にパパスさんのお墓がある。
ご遺体も、遺品もない…墓石だけの…
リュー君が一人で造ったお墓…
私は教会正面からリュー君の姿を見下ろし、胸が苦しくなる。

リュー君はいつもの様に優しい笑顔で私の元へ来ると、
「じゃ、新妻を待たせると怖いので帰ります」
って、帰ろうとするので思わず抱き付きキスをしてしまった。
最低ね私…
ずっと我慢してたけど、我慢しきれなかったわ…

フレアSIDE END



<サラボナ-ルドマン邸>
ビアンカSIDE

日も暮れ町を月明かりが照らす中、私はリュカの帰りを待ち窓辺で佇んでいた。
「ビアンカさん。一緒に夕食でもどうかね?」
ルドマンさんが気を使って夕食に誘ってくれる。
「ありがとうございます。でも、リュカを待たないと…」
正直リュカが居ない状態で、この人達と食卓を囲むのは気まずい…
「なぁ~に!あの騒がしい連中に捕まり、帰るに帰れないのだよ。遠慮する事はない。さぁ…」
リュカぁ~早く帰ってきてぇ~

リュカが帰ってきたのは、夕食も終わり皆さんとゆっくり談笑(ルドマンさん一家だけ)をしている最中だった。
「いや~、ごめんごめん…ビアンカ待った?さぁ、今晩も頑張ろうか!」
さすがに腹が立ちテーブルの上にあったリンゴを投げ付けてしまった。
「リュカ!さすがに遅すぎるぞ!ビアンカさんの事も考えなさい」
「うん。本当にごめんね。ビアンカ」
そう言って優しくキスをする。
ずるいよ…許しちゃうじゃない…

「…で!リュカ、これからどうするのかね?」
「ちょ、新婚夫婦にそんな事聞かないでよ!決まってるでしょ!」
やだ、もう…恥ずかしい♡
「そう言う事じゃない!次の旅の目的地の事だ!馬鹿者!!」
さすがのルドマンさんも怒り、テーブルの上の果物…リンゴ・オレンジ・グレープ等を投げ付ける。
リュカはその全てをキャッチして食べる!
反省してないわね…でも、あの聞き方は勘違いするわよ!

「あぁ…そう言う事なら今晩中にポートセルミへ行って船を探します」
「船?」
「ヘンリーに聞いたんですが、南の大陸に『テルパドール』と言う国があって、そこに勇者の墓があるらしいので情報もあるかと思って…」
ちゃんと考えてあるんだ…
「ふむ…では、この書状を持って行きなさい」
「?これは…?」
「ポートセルミのドックは全て私が所有していてな…船を1隻用意する様に書いてある」
1隻!?
「申し訳ありませんがルドマンさん。船をお借りする訳にはいきません。海上でも戦闘になる恐れがあり、元通り返せるか分かりません」
「勘違いしてもらっては困る!貸すのではない!譲渡するのだ!」
じょ、譲渡!?
「ルドマンさん!それは「それに…」
驚くリュカの言葉を遮りルドマンさんが語り出す。
「それに、君の旅は世界を巻き込む事になる。伝説の勇者を見つけられなければ、世界は混沌とするだろう。その為に船が必要だ。だから私は君に船を譲渡する。世界を救う勇者を見つけてもらうために」
「………」
リュカが目を閉じ考える。
こういうリュカも格好いい…
「分かりました。ありがたく御好意、頂戴致します」
「うむ。…天空の盾だが…」
「それはお預かり下さい。伝説の勇者と共に頂に戻りますので」


私達はルドマンさんに深くお礼を言い、屋敷を後にする。
屋敷の外に出ると、体中に包帯を巻いた青年が一人こちらへ近づいてきた。
「アンディ…もう動いて大丈夫なの?」
「はい…フローラの看病のおかげで…」
この人も試練に参加した一人の様だ。
「貴方には負けたくなかった。でも勝てる訳無かった…申し訳ありません、助けてもらったお礼を言いに来たのに…でも悔しくて…」
この人はフローラさんの事が本当に好きなんだ…
「今回の勝負は、僕の得意分野だったからね。負ける訳にはいかないよ。次は君の得意分野で勝負に挑めば良いじゃないか」
やっぱりリュカは暖かいなぁ…
「ありがとうございます!本当にありがとうございます…」
泣きながらお礼を言うアンディさんと別れ、町の外でみんなと落ち合う。
リュカとなら私は何処へでも行ける。
私は幸せ者だ…

ビアンカSIDE END



 

 

38.海です。海と言えば水着。水着と言えば美女。美女と言えば…

<ポートセルミ>
ピエールSIDE

リュカと会いづらい…
あんなめでたい席で…あんな泥酔状態で…あんなふざけた愛の告白をしてしまった。
朝からリュカは忙しく、あまり顔を合わせないのが、せめてもの救いだ。

夜も更け、リュカも一段落し明日の朝一からの船旅の準備も終わった時、私への試練が待っていた。
私はリュカとビアンカ殿に割り当てられた、夫婦用の部屋に呼び出された。
分かっている…
結婚披露宴と言う席で…大勢の前でリュカに対する恋慕を告げてしまったのだ…
そんな女と一緒にパーティーを組む訳にはいかない。
夫婦間の亀裂にも繋がる。
冷静に…笑顔でお礼を言って別れよう…

(コンコン)
「リュカ、入るぞ…って、何してんだ!」
部屋にはいるとリュカがビアンカ殿をベットに押し倒していた。
「あれ!?もう来たの!?」
「人を呼び出しておいて何だ、貴様は!」
「メンゴ、メンゴ!」
(イラ!)
イカン…冷静にならねば…

「で…何用ですか?」
「うん…ビアンカと二人で今後の事を話し合ったんだけど…」
やはり私はここでお別れか…
「リュカ、分かっている…私も考えていた事だ…」
「そうか…やっぱり考えていたか…話が早くて助かる」
「すまんな。迷惑をかけてしまって…」
短い間だったが、楽しい時だった…
「ピエール…水臭い事言うなよ!君の事は分かっているんだ………で、どっちにする?」
「………え?どっちって?」

「だーかーらー!水着だよ!水着!」
「み、水着!?」
「うん!僕が選んだハイレグ・ビキニか、ビアンカが選んだワンピース・パレオ付きか…あ、サイズは合ってるよ。君の事は分かっているから」
そう言うと二人して水着を見せてきた。

「やっぱりピエールはワンピースよね!恥じらいを知っている娘ですもの」
「いやいや…ピエールは着痩せするんだ。その事を分からせる為にもビキニでしょう!」
目の前で新婚夫婦が楽しそうに言い合っている…
「……あの……も、申し訳ないが、私の考えていた事と違った…説明を…お願いしたいのだが…」
「え~とね、無事船も手に入れたし、明日から当分船暮らしじゃん!船で暮らすという事は、周囲は海な訳ですよ!海ったら水着が必要でしょう!?まぁ、僕的には裸でも大歓迎なんだけど…」
「そうじゃない!………そうじゃなくて…私はこのパーティーから出て行くつもりでいたんだ!」
「何で出てくの?…それは困る!」
「困られても困る!」
「君が居ないと船を動かせない」
「リュカ、お前がやればいいだろう!」
「断る!船旅は優雅な物と決めている!それにピエールがいないと戦力が落ちる」
「それこそリュカがいれば何も問題は無いだろう…」
「それについても断る!僕は戦闘はキライだ!」
「我が儘を…私はお前に恋慕を表明してしまったんだぞ!そんな女と一緒に生活出来る訳無いだろ!」

気付くと私は泣いていた。
好きだからか、別れたくないからか…分からない…
「随分と自信家ね!美少女ピエールちゃんは!」
ビアンカ殿が嫌味な口調で食って掛かってきた。
「リュカは貴女と一緒に居ると、妻である私より貴女に気持ちが行ってしまうって言いたいんでしょ!」
「そんなつもりはない!ただ…私が居ると気まずくなるのでは…と…」
「ならないわよ!リュカも私もピエールの事を大事な仲間だと思っているのよ!もう、家族なのよ、私達は!」
「……仲間……家族……」
「もし、リュカの心がピエールに行ってしまっても、取り戻す自信が私にはあるわ!だから私達を見捨てるなんて言わないで…」
ビアンカ殿の優しい口調が、私の涙を止まらなくする。
「わ、私 (ヒック)も…別れ(ヒック)たく…ない…(ヒック)」
リュカとビアンカ殿は、私を優しく抱き締めて囁く。
「じゃぁ、ずっと一緒に居られるじゃない…私達」



一頻り泣き晴れやかな気持ちになったところで、私は自室へ戻る事にした。

「あ!ピエール待って!」
リュカが呼び止める。
まだ私を泣かせる気だろうか?
「何?リュカ…?」
「で、どっち?」
そう言って水着を2つ掲げる…
この男は………
「ワンピースだ!バカ!」
私は怒鳴り、ドアを勢いよく閉める!
ドアが閉まる瞬間、リュカの声が聞こえた。
「チェッ…ビキニの方がエロいのに…」
だから私はあいつが………………大好きだ………

ピエールSIDE END



<テルパドール近郊の砂漠>
ビアンカSIDE

灼熱の砂漠にリュカの歌が響き渡る。
月の砂漠がどうの…と、訳の分からない歌を歌いながらリュカは砂漠を歩き続ける。
「…何であんなに元気なの?」
私はもちろん、他のみんなも耐えられず馬車の中へ避難している。
しかしリュカだけは大きな日傘(と言うよりパラソル)をさし、パトリシアに日陰を作り歌い続けている。

パトリシアと相合い傘をしているリュカを見て、ヤキモチを焼いている自分がいる事に気が付き一人赤面してしまう。
そんな私にマーリンは気付いたらしく、
「あんな男と結婚してしまったんじゃ、馬如きにヤキモチを焼いていたら、気苦労が絶えんぞ!」
って、冷やかされた。
そしたらピエールまでも、
「ビアンカ殿は贅沢だ。ベットの中まではパトリシアは入って行けないのだから、相合い傘くらいは許してやるべきだ」
と、からかわれた。
「しかし、本当に元気じゃのぅ!つい先程あんなに頑張っておったのに…」
ニヤつくマーリンに私は更に赤面する。

少し前に、結構大きめなオアシスがあったので、そこで一休憩をしていた。
そして、そこより少し離れた木陰でリュカと…その…シてしまったのだが…遮蔽物の無い所だった為、みんなに声が丸聞こえだった様です…
そしたらピエールに、
「新婚夫婦でも、もう少し分別を弁えて下さい」
って怒られました。
でもマーリンが、
「まぁまぁ…ピエール…おヌシがリュカと結婚していたら、拒絶出来たかのぅ?」
「私は………分別が……あります…けど…ムリです…きっと…」
凄い赤い顔して俯いちゃった。
気を抜くと奪われかねないわね…気を付けないと!

ビアンカSIDE END



 

 

39.税金は効率よく使うべきだ。地下庭園ってどうなの?

<テルパドール-宿屋>

日暮れにはテルパドールの城下町へ着く事が出来た。
まずは宿屋で寝床を確保!
最近夜が楽しみでしょうかない!
フロントで「僕たち新婚です!」って自慢したら、特別に良い部屋を用意してくれた。

でも案内してくれたボーイが、気を使ってゴムを渡してきた。
新婚だっつってんだろ!!
認知する気あんだよ!
だからチップ、ケチってやった。



<テルパドール城>

翌朝、ビアンカと二人でこの国の女王様に会いに行く。
事前にデールから書状を貰っておいたので、スムーズに謁見出来た。
俺達が通されたのは地下に造られたキレイな庭園だった。
空気が涼しく、水が豊富で噴水もあり、多種多様な植物が咲き乱れる。

「うわぁ~…キレー…」
確かにビアンカが言うとおりキレイだ!
だが俺は、不快感を露わにしていた。
「どうしたの?」
俺の表情に気付いたビアンカは心配そうに訪ねて来たが、既に女王様が目の前に居たので沈黙で返答した。

「砂漠の地下に、この様な緑豊かな庭園がある事に驚かれた様ですね…と言うより、貴方は税金の無駄遣いと思っているみたいですね」
ビアンカ程ではないが、かなりの美女がそこにいる。
ビアンカと出会っていなければ間違いなく口説いていたであろう美女は、俺の表情から考えを読み取った。
間違ってはいないが、表情だけでそこまで読み取られるのは気に入らない。
「いえ、表情ではなく私は人の心が読めるのです。少しだけですが…」
!!
心を読む!
嘘吐け!
じゃぁ、俺の質問に答えてみろ!
今日のパンツは何色だ!
答えてみろ!
ついでに見せてみろ!
「薄紫です。でも、こう言う質問は女性に対しては失礼なのでは?それに見せませんよ…」
本当に読まれた!!!
でも俺、質問してないもん!
思っていただけだもん!
お前が勝手に答えただけだもん!

「そうですね。思っていただけですね。でも見せませんよ!」
何、この女ー…めんどくせぇー…ちょーめんどくせぇー………
「めんどくさいと言われたのは初めてです」
うわ!
マジめんどくせぇー、もうヤダ!

もう伝説の勇者の事なんか、どうでもいいから帰りたい。
「貴方は伝説の勇者について、何かお求めですか?」
勝手に話を進めんな!
「は、はい!私た「なるほど。伝説の勇者を捜す旅をしているのですね」
今度はビアンカの思考を読みやがった。
もうどうでもいいから帰りたい…
「お二人とも、私に付いてきて下さい」
えぇ~…もう帰りたい。
「き・て・く・だ・さ・い!!!」
「リュカ…行きましょ」
「………………………………は~い……………………………」
「やっと貴方の声を聞けましたね」
俺の声を聞きたいのなら心を読むのを止めてくれ。
「注意します」
もう、マジヤダ~!


女王様(アイシスと言うらしい)に(渋々)付いて行くと、神々しい兜が奉られている祭壇へ案内された。
「この国には勇者の墓があるとの噂ですが…実際はありません。あるのは勇者の武具の一つ『天空の兜』です」
ここにあったのかぁ…
「リュカ!貴方からは何かを感じます。是非被ってみて下さい」
「どうせ装備出来ませんからヤです」
「貴方からは何かを感じるのです。是非!」
「それはきっと勘違いです。もしくは僕に惚れてしまっただけです。今晩お相手しますので、それでいいですか?」
「か・ぶ・れ!」
とても怖いので従います。

俺は兜を持ち上げ頭に被る。
ものっそい重い。
「いたたたたたっ…」
首が…首が!
俺は慌てて兜を脱いだ!
「どうやら装備出来ないようですね」
「だから最初からそう言ったじゃん!!」
「私の勘違いだった様です」
「それも言ったじゃ………!」
あの女…サッサと戻りやがった!
すげームカつく女だな!
首筋を痛めただけだ…


この後サッサと宿屋に戻るつもりだったが「女王様がお呼びですので…」って、兵士にしつこく言われ渋々赴いてやった。
そしたら、一言も話題に出していないのにパパスの情報を色々くれた。
首筋痛めたお詫びかな?
アイシスの話によると、「ここより遙か東の山脈を越えた所に、『グランバニア』と言う国があり、そこの王様の名前もパパスだった様な気がする」って…
実に曖昧だ!
他にどうしようも無いので、取りあえず行くけどね。
行くだけ行っても「やっぱり気のせいだったみたいですぅ~」とか言いそうだ。



<テルパドール-宿屋>

宿屋へ戻り、さぁ頑張ろうと部屋へ向かうと昨日のボーイが近づいてきて、
「あ!これ僕からのサービスです!」
って、またゴム渡しやがった!

何この国!
ムダに心が読めるヤツと、ムダに心が読めないヤツがいる!
お前ら結婚して子供作れ!
そしたら、ちょうど良いのが生まれるから!



 
 

 
後書き
他のサイトで掲載した時も記載したのですが、この話は私のお気に入りです。 

 

40.因果と言う言葉がある。ヤればデきる。因果である。

<チゾットの山道>

俺達はチゾットの山道と言う洞窟内を彷徨う。
高地にある為空気も薄く、陰鬱な雰囲気を漂わせる洞窟だ。
俺はそんな雰囲気を払拭させる為『手のひらを太陽に』を熱唱する。
歌詞の内容が気に入らないのか、アンデット系のモンスターが襲ってくる。
アンデット系が嫌いな俺は、戦闘はせずにただ歌う。
大声で歌う!
腕を振って歌う!!
同じ歌をリピートして歌っていた為、皆歌詞を覚えた様でピエール達までもが歌う!
そして戦う。(俺以外)
みんな俺色に染まってきた様だ…

しかし…ビアンカだけ気分が悪そうに俯いている…
最も、ゾンビが吹き飛ぶのを見て、気分爽快になる奴の方がおかしい。
とは言え心配だし、ビアンカには何時も笑顔で居てほしい!
「ビアンカ…気分悪いのなら馬車で休んで良いよ。ムリは良くないから」
「ううん…大丈夫よ…アンデット系には私のメラが必要でしょ。だから…」
相変わらず真面目というか、責任感が強い…
姉さん女房の所為か、俺に甘えるという事が少ない!
遠慮せず甘えてほしいのにぃ…
「大丈夫だよ、ビアンカ。マーリンもメラは唱えられるし、ピエールは強いから」
「ありがとう。でも大丈夫。もう少しで外へ出れそうだし…外の空気を吸えば治るから…」
そう言うと歩き出すビアンカが、心配で堪らない。



<チゾット>
ビアンカSIDE

気が付くと、リュカが寝ている私を覗き込んでいた。
今にも泣きそうな表情で…
ヤダ…なんて顔してんの…この子…
「ビアンカ…大丈夫?」
思い出した…私、村に着いてすぐ倒れたんだ…
私のせいでリュカは泣きそうな顔してる。

「ごめんね、リュカ。私はもう大丈夫だから…」
「ビアンカ…一度お義父さんの所に戻ろう」
「な、何言ってんの!もう少しでグランバニアなのよ!アナタの生まれた国なのよ!」
「そんな確証ないよ」
アイシス様を信用してないわねぇ…
「それにビアンカ…妊娠してる」
「……………え!?」
「ビアンカを抱き抱えた時に感じたんだ。ビアンカの中に命の暖かみがある事に」
何で本人が自覚してない事が分かるのよ…でも…リュカの事だから、本当なんだろうなぁ…
「だったら尚更行かないと。私はグランバニアで出産したいの!」
「え!で、でも…」
「これ以上遅れると、私は更に足手まといになる!リュカと一緒にグランバニアへ行きたいの…せめて…そこまでは…」
私は泣いていた…我が儘を言った上、泣いてリュカを困らせている。
リュカが私の涙をハンカチで拭ってくれる。
見るとリュカの目からも涙が一筋…
リュカの涙を私が拭う…
そう言えばレヌール城でも、こんな場面あったわね…
「分かったよビアンカ…でも、無理はしちゃ絶対ダメ!基本、馬車の中で待機」
「えー…私がいないとリュカ…パトリシアとイチャイチャするからヤダ!」
「ちょ…馬にヤキモチ焼かないでよ…」

ビアンカSIDE END



<チゾット>

チゾットに架けられた大橋を渡ると、眼下に巨大な城が現れた。
「あ、あれがグランバニア城………」
でかい!
すごくでかい!
東京○ーム20個分!
そんな無意味な例えが頭に浮かぶくらいでかい。

そして何より頑丈そうだ!
まるで要塞の様に…あの城なら、そうは簡単に陥落出来ないだろう。
「あそこがリュカの生まれ故郷ね」
どうしてビアンカは、あの女の言った事を鵜呑みに出来るのか?
「どうだろうね?あの女の言った事だから…」
「でもパパスお義父さんが、本当に王様ならリュカは王子様じゃない。私、玉の輿に乗っちゃた?」
オ・ウ・ヂ・サ・マ・?………!!!
セレブ!!
俺、セレブ!!
ハラショー!ハラショーですよ、お父さん!!
よーし!頑張っちゃお、俺頑張っちゃお!



<グランバニア山の洞窟>
ピエールSIDE

久しぶりにリュカがやる気を出している。
ビアンカ殿を戦闘に巻き込まないよう、自らを最前列に布陣し洞窟を進んで行く。
やはり父親になる男というのは、頼もしくなるものなのかもしれない。

洞窟を少し進むと、正面に屈強なる魔界のモンスター『メッサーラ』がこちらを睨んで立っている。
くっ!
かなりの強敵だ!
私達が身構えると、リュカが一歩踏みだしメッサーラに向けて右手を翳す。
「悪いけど、こっちには身重の妻が乗っているんだ!どいてくれないか」
リュカの言葉を聞き終わると、メッサーラは身体を左に少し傾けて馬車の中を覗く。
そしてリュカに向き直り、左手の親指を立てて肩越しに洞窟の奥を指さすと、静かに奥へ移動する。
「抜け道があるから来いってさ」
リュカには奴の言葉(喋ってたの!?アレ?)が分かるらしく、警戒もせずに奥へ進む。
私達は警戒しつつリュカに続く。

少し行くと行き止まりになっており、壁際でメッサーラが待っていた。
「行き止まりではないか!」
だ、騙された!?

「隠し通路だってさ」
何時喋ったのか全然分からんが、リュカが親切 (?)に通訳をしてくれる。
岩壁に偽装されたスイッチをメッサーラが押すと、行き止まりだと思っていた壁が開き、奥には下りの螺旋スロープが続いていた。

メッサーラに促されるまま、私達はスロープを下りて行く…
そして私達は戦闘をすることなく山を下る事が出来た。
外へ出ると、メッサーラが馬車の中を覗き込み頷く。
「元気な赤ちゃんを産めってさ。ビアンカ」
何時喋ったんだよ!
「あ、ありがとう…リュカ、彼の名前は?」
メッサーラはリュカと顔を合わせる。
「彼はサーラって言うんだって」
「ありがとうサーラ。何かお礼をしたいから一緒に行きませんか?」
さすが夫婦だ。
思考が似ている。



 
 

 
後書き
言うまでもない事ですが、原作のダンジョンには抜け道などございません。 

 

41.やりたくも無い事を押しつけられるのは腹が立つ。

<グランバニア城-城下町>
サンチョSIDE

「いいですか、まずはご自身のお身体の事を考えて下さい。まだ病から回復して無いのですから…」
半年前、病を患いパパス様と坊ちゃんを捜す旅より帰還して以来、毎日我が身を案じ足を運んでくれるシスター・レミ。
「はい…私もこれ以上は無理をしませんのでご心配なく…」
自信の不甲斐なさからシスター・レミに対して、邪険な態度で接してしまう心の狭い私を、パパス様や坊ちゃんが見たらお叱りするだろうか…
私はシスター・レミを追い返し自己嫌悪に陥っていた。

(コンコン)
今日のシスター・レミは随分としつこいですね。
「どうぞ…開いておりますよ…」
「失礼します…」
てっきりシスター・レミが戻ってきたのだと思っていたのだが、私の予想は裏切られる…
澄んだ心地よい響きの声に心奪われ、客人に視線を向ける。
入ってきたのはシスター・レミではない。
背の高い旅人風の男。
紫のターバンを巻き、鍛え上げられた肉体はその男の強さを物語っている。
日に焼けた肌は健康的で、そして…その瞳を私は知っている!

「あれ?サンチョ…痩せた?」
私の事を知っているその青年は、明るく軽い口調で話しかけてきた。
「ま…まさか…ぼ、坊ちゃん!リュカ坊ちゃんですか!?」
「ごめんね。長い間…」
こんな…こんなに嬉しい日は初めてだ!
坊ちゃんが生きていた!そしてグランバニアに帰ってきてくれた!

しかしパパス様の姿が無い…
「坊ちゃん…パパス様は…」
坊ちゃんの瞳に悲しい色に染まる。
やはり…
私が沈痛な面持ちで俯くと、お連れの女性が爽やかに話しかけてきた。
「お久しぶりです。サンチョさん」
随分と美人な方を連れてらっしゃる。
マーサ様以上の美人は存在しないと思っておりましたが…

「サンチョ…紹介するね。僕の妻のビアンカだ」
妻…?
ビアンカ…?
「ま…まさか、あのビアンカちゃん!?アルカパの!?ご結婚された!?」
吉報の乱れ打ちでパニック状態の私に、更なる追い打ちが…
坊ちゃんがビアンカちゃんのお腹をさすり
「どうやら…居る!」
もう、私はどうしていいのか分からずに、ただ…ただ、泣いてしまった。
目が覚めたら全て夢だったら…ショックで死んでしまうかもしれない…

サンチョSIDE END



<グランバニア城-城下町>

半狂乱のサンチョが落ち着くには、しばらくの時間が必要だった。
落ち着いたサンチョが父さんの事を語り出してくれた。
やはり父さんはグランバニアの王様らしい。
そして攫われた母マーサを捜し出す為、身分を隠し世界を旅していたという。
「も~う…僕の事は城に残してくれれば良かったのにぃ!」
「そうね…そうしたら私達は出会わなかったわね!残念ねぇ~」
「トレビアン!父さん、トレビアン!親子は離れ離れになっちゃダメだよね!」
俺の反応にビアンカは笑顔で喜ぶ。
思わず押し倒しそうになっちゃた。

「現在は、パパス様の弟君のオジロン様が代理で国王を務めております」
そう言うと俺達を謁見の間へ導いた。
ちなみに、他の仲間達は城下町でくつろいでいる。
この国には他にもモンスターが普通に歩いていたりしている。
なんでも、母さんが改心させたモンスター達らしい。
プックルやサーラを見ても誰も驚かない事に驚いた。
何か俺、この国好き。



<グランバニア城>

この国の構造は面白い。
城の1階部分と地下が城下町になっており、一般の人達が自由に往来している。
2階部分は上級兵士や国家の高官達の住まいになっており、3階以上が一般的な『城』であり、王族の居住空間になっている。

そして、その3階の謁見の間に俺達は通された。
目の前の玉座に座っているのが叔父に当たる、現国王代理らしいのだが…すげー貧相だなぁ~。
まだデールの方が王様らしい…いや、最近のデールは国王の風格を要しており、生意気…ゲフンゲフン!……えっと…頼りになりそうだ。
「サンチョ!?珍しいな。お前が慌てて…どうしたのだ?」
「は!オジロン陛下。実は…」
サンチョはオジロンに近づき耳打ちしている。
「!!なんと!!兄上の…パパスの子リュカが戻ったとな!!」
オジロンのムダにでけー声が謁見の間に響く。
謁見の間にいた兵士や高官達が一斉に俺を注目し出す。
あまり良い気分では無いな。

「どれ、リュカよ。顔を見せてくれ。近くへ来てくれ」
気色悪いからベタベタ触るのは止めてもらいたいのだが…
「うむ…確かに義姉上、マーサ殿に生き写しのその瞳…間違いなくパパスの子リュカ本人である」
え、何!?
疑ってたの!?
ムカつくぅ!
「して、そちらの女性は?」
直立不動で待っていたビアンカに、急に声がかかる。
「あ!わ、私はリュカの妻。び、ビアン…カ…で…」
(バタ!)
俺の視界でビアンカが倒れた!

慌てて抱き抱え、叫び出す俺!
「ベットは!?ベットは何処だ!」
「こ、この上に…4階に王族の寝室が…」
俺は最後まで聞かず、走り出す!
「お前ら待たせすぎなんだよ!空気読めバカ!」
口に出したつもりはなかったのだが、どうやら叫んでいたらしい。
一般人だったら打ち首ですね。


ビアンカは疲れと緊張から倒れたらしく、ひとまずは大したことはないらしい。
あ~よかった!
先程失礼な事を叫んだ様な気がするので、取り敢えず謝りに行こう。
「あの~…先程は失礼致しました…咄嗟だったもので…」
「いや、気にしてはおらんよ!身重とは知らなかったのでな」
よかった~。
一応王家の血筋を引いていて…ビバ血統!
「リュカよ。お主が帰還した事で私は考えたのだが…」
知ったのさっきだから、あんま考えてねぇーな!
「お主に王位を譲ろうと思う」
…………………………………………………………は!?

「あの、どう「何をおっしゃいます!私に相談もなく!」
誰、こいつ?
「大臣よ…そう騒ぐな。パパスの子が戻ったのだ。順当であろう」
「し、しかし…」
「それに私は人が良いと言うだけで王になったのだ…器では無いのだよ」
何だ…自覚してたのか…
「そこまでおっしゃるのなら、王家の試練を受けて頂きます」
え~また試練~危険なのかなぁ~?
「お、おい大臣。今や王家の洞窟にはモンスターも蔓延り、危険な状態だ。何もその様な時代錯誤な「しきたりです!!」
やっぱ危険なのぉ~…ヤダなぁ~…
「と、言う訳で…ここより東にある王家の洞窟へ一人で赴き、『王家の証』を持ち帰ってきて下さい」
何で世の中そんなに危険思考なんだ?

「あの、別に王様になれな「リュカよ!頼む!危険は重々承知だが、グランバニアの民の為、そなたの父パパスの為に、試練を成功させてくれ!」
父さんの名前を出すなよぉ~…断れなくなる…
「わ、分かりました…じゃぁ、ビアンカの出産に関して協力をお願いしてもいいですか?」
こっちは新婚で、尚かつ妻が身重なんだからな!
「無論だ!今使っている部屋を使うがよい!そなたの仲間モンスターの部屋も用意しよう」
取り敢えず準備だけは入念にして出立しよう。
すぐに行けって訳じゃないみたいだしね。
時間を稼げば『やっぱ王位譲りたくなくなったから、試練を受けなくても良いよ』とか言ってくれそうだし…



 

 

42.未来を担うのは若人の努め。老人の出番は無い。

<グランバニア城-中庭>
ドリスSIDE

私は中庭の木につるしたサンドバックに蹴りを打ち込む。
「あー動きにくいなぁードレスって!」
私はヒラヒラなドレスを着たまま、サンドバックを蹴り続ける。
さっき親父に『今日は、大切なお客様に会うのだから、ちゃんとした格好をしておきなさい!』と言われたので、ちゃんとしたドレスを身に纏っている。
でも、ちゃんとした態度でいろとは言われなかったので、サンドバックを蹴り続ける。

「お!可愛いパンツだね!」
急に後ろから声をかけられ、スカートを押さえ振り返る。
「な、何見てんのよ!スケベ!」
だからスカートはキライだ。
「スケベと言うのは否定出来ないが…見てはいないよ。見えたんだ」
透き通る様なキレイな瞳に、透き通る様な爽やかな声…私は意識を持って行かれる様な感覚を覚えた。
「へ、屁理屈じゃない!っていうか、あんた誰よ!」
「あはは…ごめんごめん!僕はリュカ。君の従兄弟だ」
そう言うと、私に近づき片膝を付いて目線を合わせる。

近くで見るとよく分かる。
この人凄く強い。
今、この国で一番強いのは兵士長のパピンだ。
そのパピンでさえ、これ程の体付きはしていない。
「で、その従兄弟が私に何の用?」
「用…か……………うん!城下へ買い出しに行こうと思うんだけど一緒にどう?何だったら、可愛いパンツでも買ってあげるよ」
「何でパンツ限定なのよ!」
「いや、だって…スカートで蹴りを出し続けるのなら、可愛いパンツが沢山必要でしょ?」
「きょ、今日が偶々スカートだっただけよ!何時もスカートでこんな事している訳じゃ無いんだから!」
「まぁ、どっちでもいいよ。さ、行こ!」
そう言って私の手を引き、城下へ下りていった。

ドリスSIDE END



<グランバニア城-城下町>
ピピンSIDE

僕は裏庭の木に、長さ10センチくらいの木材をロープで数本垂らし、剣術の練習に勤しんでいた。
吊された木材を木刀で打ち弾き、反動で戻ってくる木材を躱し打ち返す……………というのが理想で、現実とはかけ離れている。
幾つかの木材が頭に当たり、かすり傷だが血を流す。

「いててて…」
「クスクス…面白い事しているなぁ…」
ビックリして後ろを振り向くと、この町では見た事がない紫のターバンを巻いた旅人風の男性が笑いながら近づいてくる。
「ホイミ」
暖かい光が傷を癒してくれた。
「あ、ありがとう。でも、笑う事無いでしょ!剣術の練習をしてたのだから!」
「剣の練習…か…。魔法の勉強はしないの?」
「魔法は…難しすぎて…でも、魔法が使えなくたって父さんみたいな立派な兵士になるんです!」
「お父さんみたいな…か…」
「そうです!父さんはこの国の兵士長をしているんです!」
「へぇー、凄いんだね!」
何だか、この人とは初めて会ったのに話しやすい。

「でも、魔法は便利だよ」
「ちょっとリュカ!こんな所で何してんのよ!」
すると表通りの方から、綺麗に着飾った女の子が大きな声で話しかけてきた。
この人リュカって言うのか。
「じゃぁ…便利な所を見せてあげよう」
そう言って、こちらに近づいてくる女の子へ向かって魔法を唱える。
「バギ」
バギの魔法と言えば、風を操り真空の刃を巻き起こし敵を切り裂く魔法だ。
「な!!」
僕が驚いて女の子を見ると、女の子には傷一つ…いや、服にも切り裂かれた様子はなく、ただ風を舞い起こしている。
そして女の子のスカートが舞い上がり、白と青のシマシマが目に映った。

次の瞬間、リュカさんの左頬に女の子の跳び蹴りが炸裂する。
僕は2度目のシマシマを体験する。
「いきなり何すんのよ!」
「いや、この子が見たいって言うから…」
「え!?言ってませんよ!」
かなり強烈な蹴りを喰らったのに、まったく動じてない…
「あれ?そうだっけ?まぁ、いいじゃん。いい物見れたし」
「バカ!スケベ!!最低!!!」
そう叫び女の子は走り去ってしまった。
「う~ん…一個も否定出来ない…」
「大丈夫ですか?」
「うん。慣れてるから。君こそ、ムリはしちゃダメだよ。兵士になる前に怪我で入院になっちゃうよ」
そう言い残し、リュカさんは僕の前から去っていった。
何だったんだろう…?

ピピンSIDE END



<グランバニア城>
ドリスSIDE

最近私はリュカと一緒にいる事が多い。
リュカの仲間モンスター達が言っていたが「リュカは馬鹿でスケベでお調子者だ!でも、一緒にいると楽しい気持ちになる。」と…
凄くよく分かる。
でも、近々一人で洞窟探索をしなければならないらしく、その準備等で忙しそうだ。

だから私も我が儘は言わない様にしているが、時間がありそうな時に声をかけると「あ!ごめん。これからビアンカの所にいかなきゃ…」って、断られる時がある。
ビアンカって奥さんの事でしょ!
何時でも逢えるんだから私の相手をしてもいいじゃない!
頭くるわ!
そう、ピエールに愚痴を言ったら「じゃ、ビアンカ殿に会いに行ってごらん」って言われた。
正直会いたくない!
リュカを束縛し独り占めしている様なヤな女には会いたくなかった。
でもピエールが私の手を引いて、無理矢理会いに連れて行った。


(コンコン)
「ビアンカ殿。入ります」
私は室内に入っても俯いたまま顔を合わせない様にしていた。
「リュカから聞いているわ。貴女がドリスちゃんね」
そのクリスタルの食器を響き渡らせた様な美しい声に、思わず顔を上げてしまった私は、その美しさに見とれてしまった。
私はすぐにビアンカさんと打ち解ける事が出来た。
一緒にいると凄く幸せな気分になれる女性…
もっと早く会いたかった…

女三人で会話を弾ませていると、ケーキ片手にリュカが現れた。
「手土産持参したから僕も仲間に入れてよ」
「ちょっと!何でもっと早くにビアンカさんと会わせてくれなかったの!?」
「え!?だって、紹介するって言った時に『会いたくない』って帰っちゃったじゃないか…」
「それでも強引に連れて行くべきでしょ!」
「勝手だなぁ~」
この後、美味しくケーキを食べつつリュカは女三人に責められ続けた。
私はこの日を境に、ほぼ毎日ビアンカさんの所へ通い続ける様になる。

ドリスSIDE END



 

 

43.家族を守る為ならばエゴイストになれる。危険な思考だけど。

<グランバニア城>
ビアンカSIDE

今日これからリュカが出立する。
たった一人で王家の試練を受けるのだ。
試練に合格しないと王様にはなれない。
リュカは散々ぼやいていたわ…
「国王になんてなれなくてもいいのに…」
だって!
普通みんななりたがるのに、我欲が少ないのね。
だから私はリュカが大好き。

そのリュカは今、部屋の外で最終打ち合わせをピエール達と行っている。
私の所にも声が聞こえる。
「じゃぁ…ピエール。ビアンカの事を守ってあげてくれ」
「守ると言われても…城内ですから…」
「イヤイヤイヤ…そうもいかないのさ!高官連中は僕が王位を継ぐ事を嫌がっている節がある」
「確かにそうじゃのぅ。今は御しやすいオジロン殿が国王じゃからな」
「それだけじゃない…オジロンには娘、ドリス一人だ!自分、もしくは息子と政略結婚させる目論見もあるのだろう…」
「厄介じゃのぅ…」
「うん。で、僕にとって最悪なシナリオは、僕に新たな妻を宛おうとしてくる事だ」
「新たな妻!?」
どういう事?
「娘等を僕の妻に差し出し、権力確保を考える。そうすると、ビアンカが邪魔なんだ」
!?
私は自分の立場の危うさを初めて感じた!
リュカはその事まで考え、念には念を入れて準備をしていたのだ。
リュカがこれから出立する…急に心細くなり震える私の手にプックルがすり寄ってきた。
「プックル…そうね、私には貴方達が付いているわね!不安な顔をしていると、リュカが試練に集中出来ないわね」
うん…いつもの様に笑顔で送り出さないと…

(コンコン)
「ビアンカ、開けていい?今、服ちゃんと着てる?」
「着てるわよ!何で普段は裸みたいな事言うのよ!」
「あははは、ごめん~ね!おっと、プックルと不倫中!?」
「馬と不倫するアナタと一緒にしないで!」
もう…緊張感を和らげるのが上手いわねぇ~

「じゃぁ…渋々行ってくる…」
私を抱き締め、お腹を撫でてくれる。
リュカの暖かい手で撫でられると、身体全体に幸せが広がる。
「何か、でかいな!まだ5ヶ月にもなってないんでしょ?」
「私だって初めてだから分からないわ…でもリュカは大きいの好きでしょ?」
「オッパイはね…」
「もう…エッチ…」
優しくキスをして、リュカは出て行った…
残された私は、彼の無事を祈り不安な日々を送る事しか出来ない…
「ガラじゃないわね!」

ビアンカSIDE END



<試練の洞窟>

ちまちまと嫌がらせ的な仕掛けのある洞窟の最深部に、ワシの紋章が彫り込まれた『王家の証』が奉られてある。
「お!?これかなぁ?王家の証ゲッチュー!!」
俺は意気揚々と踵を返し、『ゲッターロボ』の替え歌『ゲッチューロボ』を歌いながら洞窟を逆進する。
「おっと!ここを立ち去るのは、待ってもらおうか!」
見渡すと、ガラの悪い男達10人程が俺の行く手を遮っている。
「何ッスかぁ?」


<試練の洞窟>
カンダタSIDE

俺達の前に旅人風の男が立ち尽くしている。
「何ッスかぁ?」
危険な洞窟の最深部で、屈強な男共に囲まれているのに、緊張感の無い喋り方をする男だ。
「あ!?もしかして…アンコール希望ですか!?う~ん、忙しいので1曲だけなら披露しますけど…」
何なんだ、この男?馬鹿なのか?

「ちげぇーよ!あんたにその証を持って帰られると、困る人がいるんだよ!」
「そう!然る止ん事無い方からの依頼で、オメーを殺しに来たんだよ!」
この馬鹿共…ベラベラと…
「うるせーぞ!テメーら!!余計な事言うんじゃねー!」
俺は一喝して、手下共を戒める。

「あの~…」
男が緊張感無く話しかける。
「おサルさんがどうしたんですか?」

「…は?」
この馬鹿は何を言ってんだ?
「イヤ…さっき、サルがどうのって…」
()()(こと)()(かた)だ!誰も動物のサルの事なんか言ってねぇ!」
「あぁ…で、僕を殺して何になるんですか?」
「オメーが王様になるのを阻みたいんだよ!」
やはりこの男は馬鹿だ…

「馬鹿だなぁ、君達は…」
な!
こいつに馬鹿って言われた!
「僕の奥さんは妊娠中なんですよ。僕が死んでも、男の子が生まれたら無条件で王様じゃないですか。君達のやっている事は全くの無駄だね!」
「だったら、オメーの嫁さんとガキも一緒に始末すればいいじゃねぇーか!」
「がははは、ちげーねぇー!」
手下の一人が言った言葉に、他の手下が爆笑をした瞬間、男の姿が消え手下共の首から大量の血が噴き出した。
俺の足下に手下の頭が転がっている。
切断された事にも気付かず、大爆笑をしたままの顔で…
い、何時の間に…!?

振り向くと、あの男が先程と変わらぬ優しげな表情で俺を見つめている。
敵や官憲に取り囲まれた時も恐怖しなかった俺が、手下共の返り血を大量に浴び、優しげに微笑む一人の男に震え上がっている。
強い…こいつには勝てない…何とか逃げないと…
「ま、待て…俺の、こ、降参だ!もう、あんたに手出しはしないし、あんたの家族にも近づかない!約束する。本当だ!!」
俺は武器を捨て、両手を上げて見せる。

「黒幕は?」
声だけ聞くと、まったく怒りを感じさせない声で問いただしてくる。
「知らねぇーんだ…本当だ!顔も素性も隠して接触してきやがったんだ」
「なるほど…君を信じよう…」
ほっ…助かった…

「じゃぁ…もう君は、生きている必要無いね」
「え!?」
「だって、何も知らないんでしょ?役に立たない!」
「待ってくれ!何も殺さなくても…」
「君が生きていると、第2.第3の君が現れるかもしれないだろ。たかが金で雇われるぐらいの…」
「そ、それは…」
「でも、君が殺された事が広まれば、みんな怖くて引き受けない。俺も家族も一安心さ」
そう言って剣を抜き放ち、一歩一歩俺に近づく。

俺は恐怖で足が縺れ、尻餅をついて怯えている。
「それに黒幕はきっと、城の誰かだろう…君の首を持ち帰りみんなに見せつければ、動揺してボロを出すかもしれないし。クスッ…やっぱり君は死んだ方がいいんだよ」
俺は怒らす相手を間違えた…
男が目前で剣を振りかぶった時、人生最大の後悔を刻み込んでいた…

カンダタSIDE END



<グランバニア城>
ドリスSIDE

ビアンカさんの部屋で談笑を楽しんでいると侍女からリュカ帰還の報を受けた。
私はビアンカさんを待たせ、一人でリュカを迎えに走った。
城の正面階段2階でリュカと出会い、私は硬直する。
「あ!?ドリス…ただいま。ごめんね、こんな格好で…」
口調はいつもの様に優しい口調だが、格好は全身血まみれ状態!手には直径30センチ大の血まみれの包みが…あれはきっと…

「け、怪我…してるの!?」
その光景に驚くあまり、私は絞り出す様に問いかけるのが精一杯だった…
「ううん…僕はかすり傷一つしてないよ。全部返り血なんだ…」
返り血!?
いったい何が…
「あ、ビアンカには心配させたくないから…返り血の事は言わないでおいて…少ししたら部屋に行く事だけ伝えておいて…」
こんな時までビアンカさんの心配をしている…羨ましいな。
「それはいいけど…すぐ来ないと心配すると思う…」
「う~ん…じゃぁ、『帰還早々メイドさんをナンパしている所を、オジロンに見られて説教されている』って言っといて」
「え!?そんなふざけた…」
「クスッ、100%信じるから大丈夫」
新妻にナンパしている報告の方が心配するのでは…
「じゃぁ…僕、会議室で叔父上や大臣達に会わないと行けないから…」
そう言うと、そのままの格好で会議室へリュカは歩いて行った。

ドリスSIDE END



 

 

44.疑うと誰も信じられなくなる。疑わなければ信じられる。自分次第だ。

<グランバニア城>
オジロンSIDE

「まったく!帰還早々我々を呼び付けるとは…いったい何を考えているのか!?」
ワシは大臣達と2階の会議室は向かい歩いているところだ。
国務大臣のエクリー(ワシの一番信頼の置ける側近)が、リュカの急な呼び出しに腹を立てている。
「試練に成功すれば既に国王とでも思っているのですかね!!」
エクリーの憤慨は止まる気配が無い…
どうもリュカとはソリが合わない様だ…

「戴冠式が終わるまではオジロン様が国王で在らせられるのに、そのオジロン様まで呼び付けるとは!いったいどう言…う………」
大声で不平を鳴らしつつ会議室のドアを開けると、そこにはリュカが優しい笑顔で佇んでいた…全身血塗れで…
「リュ…リュカ…無事か…?」
皆が声を失っている中、ワシは辛うじてリュカの無事を確認した。
「全部返り血です。ご心配なく…」
か、返り血…!?

「いったい何が…」
「試練の洞窟で命を狙われました。」
リュカは表情を変えずに優しい口調で話していく。
「い………いったい誰に………」
エクリーの疑問を聞くと、持っていた血塗れの包みをテーブルに置き中身を晒す。
表情を変えずに…

「彼と彼の手下10人程に命を狙われました」
そこには男の生首が1つ。
「大盗賊カンダタ!」
「あれ?叔父上の知り合いですか?」
「いや…そうではない。世界を股に掛けて盗賊家業を行っている犯罪者だ!」
「盗賊が殺し屋の真似事…クスッ…世も末だ」

「しかし…何故…?」
「この中の誰かが僕を王様にしたく無いんですよ」
ワシの問いに不思議そうに答えるリュカ。
「な!我々の中にその様な不届き者がいると、疑っているのか!!」
エクリーは声を裏返しながら憤慨する。
ワシも疑われるのは心外だ。

「あはははは…疑っているのではなく、確信しているのですよ!国務大臣閣下!!」
全身血塗れで腹を抱えて笑うリュカの姿に畏怖の念を抱き、言葉を発する事が出来ない…
「まぁ…正直…この中の誰であるかまでは分からないのですが、これだけは言っておきます。今回は僕の実力を過小評価してくれたお陰で、あの様なザコの相手で済み大事には至らなかった」
違う!
カンダタ一味はザコではない。
我が軍も再三手痛い被害を被っている!
「だが…もし、またこの様な事が起こりビアンカや生まれ来る子供に何かあったら…」
リュカの顔から笑みが消え、氷の様な瞳で我々を見つめている。

これ程恐ろしい怒りを感じたのは初めてだ。
兄上の怒号に恐怖を感じた事もあったが、それの比ではない!
一見するとただの優男にしか見えないのに…

「で……では…は、犯人捜しは…」
絞り出す様な声でエクリーが問いかける。
「別に犯人捜しなどどうでもいい!僕が王になれば自ずと浮彫になる!」
皆、互いに顔を合わせ何も言えないでいる。
「では、僕はこの辺で…、国務大臣殿。申し訳ありませんでした、国王でもない身分の者がお忙しい皆様を、この様なくだらない事で呼び出してしまい」
どうやら先程のエクリーの憤慨が聞こえていた様で、いつもの様な優しい笑顔で嫌味を言い終えると、リュカは一人会議室を出て行ってしまった…

オジロンSIDE END



<グランバニア城>

俺は兵士用のシャワールームで返り血を流し、キレイな服に着替えるビアンカの所へ歩き出す。
途中、オジロンとサンチョが話しかけてきた。
「リュカよ!まさか叔父であるワシまで本当に疑っている訳ではあるまいな!」
何だぁ?めんどくせーなぁ……

「叔父上!僕は叔父上の事をあまりよく知りません。この国で僕に疑われて無いのはサンチョぐらいですよ」
「坊ちゃん…」
サンチョは嬉しそうに頷き、オジロンは口を尖らす。
「ワシが王位を譲ると言い出したんだぞ!」
「それこそ目眩ましの芝居かもしれません。まぁ……疑えば…と言う事ですから、お気になさらずに。」
「気にするわい!」
「(クスッ)…本命は別にいますから…あくまで疑う要素が少なからずあるという事ですよ」
「だからといってワシを脅さんでも…」
あ~…めんどくせーなぁーも~!
「叔父上にはこれから王になる為の事を色々教わらねばなりません。どうか機嫌をなおして下さい。では…」
オジロンはサンチョに何かブツブツ愚痴っていたが、それを無視してビアンカの元へ向かった。


ビアンカの部屋に入るといきなり抱き付かれた。
「リュカ!!大丈夫!?怪我はない!?何があったの!?」
「ちょ…ビアンカ、落ち着いて!」
抱き付かれたのは嬉しいが、パニック状態なのがちと困る。

「だって!リュカが血塗れで帰ってきたって…」
「口軽っ!!」
思わず叫びドリスを見つめる!
「わ、私じゃないわよ!戻ってきたら、もう知っていたのよ!」
本当かよ!?

「だれだぁ…ベラベラ喋るヤツは…お尻ペンペンだ!」
「侍女のエリーヌが教えてくれたの…」
「エリーヌさんって…あのキュートなお尻の?……よし!あとでお仕置きのお尻ナデナデだな!」
「ペンペンがナデナデに変わったけど!!」
「あれぇ!?本当?最初からナデナデじゃなかった?」
「もう……でも、無事で本当に良かった…」
またビアンカを泣かせてしまった。
「ビアンカは心配性だなぁ~…そんな娘にはお仕置きのオッパイモミモミだ!」
「ちょ…ダメ…リュカ!…い、今は…コラ!!…ドリスが居るから…」
「ドリスが居なければいいの?」
「「え!?」」
「よし!ドリス。出てって」
ドリスの踵落としを喰らい、その日はお開きとなった。
何で俺がこんな目に遭うの?



 

 

45.式典とは重要なもの。望む望まぬに関わらず。

<グランバニア城>

俺は今、オジロンの隣で謁見に立ち合っている。
王になる為の一環として、ほぼ毎日オジロンと行動を共にしている。
もう飽きた。
王様なんてどうでもいい。
ビアンカとイチャつきたい。

そのビアンカも、お腹がかなり大きくなり毎日辛そうだ。
日々生活するだけで体力を奪われるらしく、夜は早く寝てしまう。
しょうがないからピエールの所へ行って『欲求不満です』って言ったら、沢山のイオラをプレゼントされた。
言っただけじゃん!


戴冠式も間近に迫り、皆慌ただしい。
俺は『ひっそりと戴冠式は済ませましょ』って言ったのに、国務大臣が『そんな訳にはいきません!大々的に、式後の祝賀会も盛大に執り行います』って、率先して取り仕切っている。
俺は言ったんだ『いやいや、そんなに目立つ必要は無いでしょう。気付いたら王様が変わっていたってぐらいでいいんじゃない?』ってね!
そしたら『いい訳ねぇーだろ!!』ってみんなに怒られちゃった。

今日も戴冠式と祝賀会の打ち合わせで、国務大臣と話し合っている。
「……と言う様に、新国王陛下の挨拶の後、盛大に祝賀会を開催するつもりです。如何ですかなリュカ殿?」
「うん。盛大にする必要無いよね。ひっそりと身内だけで乾杯しよ。あと、新国王の挨拶もいらないよ、顔見せだけでいいよ」
「何を言われます!このグランバニアの新たなる国王陛下のお声を、国民全員に聞かせるありがたい瞬間ですぞ!また国民全員が心待ちにした、新たなる国王陛下のご即位ですぞ!皆で祝わずどうするのですか!」
何かコイツ、俺の嫌がる事ばかりする。
試練押しつけたり、スピーチ押しつけたり…
ハッキリ言ってこれは打ち合わせじゃない。
俺に、こんな嫌がらせするよって報告しているだけ。
断っても強行される。


今日のお勤めから解放され、ビアンカとまったりタイムを過ごす為中庭を横切ると、後ろから呼び止められた。
「リュカ陛下!」
振り向くと、そこにはパピン兵士長と、いつぞやの剣術少年が寄り添って立っている。

「パピンさん…『陛下』はまだ早いって!」
出来ればそんな呼ばれ方する日は、一生来ないでもらいたい。
「ははは、申し訳ありません。しかし、時間の問題ですから」
「そちらの剣術少年は?」
またドリスのパンチラを拝みに来たのかな?
「はい。私の息子のピピンです。以前リュカ殿に魔法を御指南頂いたそうで…直接お礼を言いたいと申しまして、ご迷惑かと思いましたが連れてきてしまいました」
「指南なんて事は…ただ、ドリスのパンツを見ただけですから。ねぇ」
ピピンは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「それにお礼だったら言葉じゃなく、立派な兵士になるという態度でお願いしたいな」
「ピピン、これは高く付いたな。生半可な気持ちでは、お礼しきれないぞ」
「はい!父さん。僕、リュカ様のご期待に添える様頑張ります!」
俺も父さんの背中を見て、こんな気持ちでいた時代もあったなぁ…

「それとリュカ殿。もう一つお願いがあります」
「お金なら持ってないよ。全部ビアンカが握っているから」
何故か俺に金を渡すと、碌な使い方をしないと思われている………まぁ、否定はしないけどね。
「い、いえ!違います。リュカ殿の腕前を聞き及びまして、私と手合わせをお願いしたいのです」
「痛い!痛い痛い痛い!頭痛でお腹が痛い!だから無理!」
俺、病人だから!
ムリだから!
イヤだから!!

「そんな意地の悪い事を言わず、どうかお願いします」
「何でそんなに戦いたいの?ピエールだったら相手してくれるよ。ピエール凄く強いよ」
しかも可愛いときたもんだ…絶対、俺の相手をするより楽しいよ!
「ピエール殿とは幾度か手合わせをして頂きました。その際、リュカ殿の強さには遠く及ばないと聞きまして…どれほどのものなのかを経験したく、お願いしております」
ピエールのヤツ、ここにきて嫌がらせをしてきやがった。
ふられた腹いせか?

だいたい勝てる訳ねぇーじゃん!
グランバニア随一の戦士だよ!
これアレか?
最近息子が自分より俺に敬意を持ってしまったから、ここで父さんの方が強いんだよ的なアピール?
いや分かるよ…分かるけどさぁ…

あ~…きっとOKするまで諦めないんだろうなぁ~…
めっちゃ瞳を輝かせてるじゃん…
サッサと負けて優越感に浸らしてやるか。
「じゃぁ…ここでいい?」
「是非もない」

パピンは嬉しそうに剣を抜き、俺に向かって構えをとる。
俺は剣を正面に構えパピンの動きを待つ。
パピンは鋭く踏み込むと、右へ左へ絶え間ない連撃を繰り出す。
とは言え、思っていた程本気では無い様だ。
どうやらアレだ!
接待ゴルフならぬ接待手合わせだ。
俺に花を持たせ媚びを売る。
う~ん…出世する男は違うね!
勘違いしてたよ俺…
俺、褒められるの好きだから、受け取っちゃうよ。そう言うヨイショは。


<グランバニア城>
ピピンSIDE

すごい!
素人の僕から見ても、父さんの連撃は重く早く全てが本気だ。
王様に対して手加減していない。
いや…こちらから申し込んだのだから、手加減などしたら失礼なのだ!

でも、掠りもしない…リュカ様は涼しい顔で去なしている。
父さんは顔から汗を流し肩で息をしているのに、リュカ様はいつもの優しい笑顔で汗一つかいていない。
リュカ様は、あの大盗賊カンダタ一味を一人でやっつけてしまったのだ。
父さんも部隊を率いて何度も討伐に行ったのに、逃げられてしまった。
その時に大勢の部下を失い、父さんも大怪我をした事が何度もある。

気が付くと中庭の周囲に大勢のギャラリーが集まっていた。
ドリス様やサンチョ様。手の空いている兵士達。
4階にある王家の寝所のテラスからは、とても美しい女性が3階の中庭を眺めている。
あの方がビアンカ様だろうか…リュカ様の奥様なだけあって凄い美人だ。
ビアンカ様の隣にはピエールさんも一緒にいる。
ピエールさんには何度か指南を受けている。
その時聞いたのだが、『リュカは、馬鹿でスケベでお調子者だが、それに目を奪われてはいけない。真に強い男だ』と。
そんなリュカ様に仕える兵士に早くなりたい。

「ま、参りました」
別の事を考えていたせいで肝心な場面を見逃してしまった様だ。
父さんの首元にリュカ様の剣が添えられている。
「悪いね、パピンさん。息子さんの前で…」
「いえ…己が不甲斐なさのせいです…」
リュカ様格好いいです。
負けちゃったけど父さんも格好いいです。
早く二人に追いつける様に頑張らないと。

ピピンSIDE END



 

 

46.出産。男に出来る事は何もない。ヤることしか出来ないなんて情けない。

<グランバニア城>

俺は謁見の間で落ち着かない時間を過ごしている。
もう…どのくらい経過したのだろう…
たいして経過してないのかもしれないが、とても長く感じるイヤな時間だ!

ビアンカが俺の目の前で蹲り産気づいたのだ。
俺は情けない声でビアンカの名を呼び狼狽える事しか出来なかった。
俺、何の役にもたってない。
俺の存在なんて必要ないのではないか!

今、ビアンカは寝室で苦しんでいる。
かなりの苦痛に耐え、苦しんでいる。
俺は何をしている?
何もしていない…
せめて苦痛だけでも俺が引き受けられないだろうか?
そんな思いが俺の中を堂々巡っている。


<グランバニア城>
サンチョSIDE

「リュカ!少しは落ち着かんか!」
謁見の間を落ち着き無く彷徨いていた坊ちゃんに、オジロン様から叱咤がとぶ。
坊ちゃんが産まれた時の事を思い出す。
パパス様もこの部屋を落ち着き無く歩き回っていたものです。
「え!?ヤダなぁ~、落ち着いてますよ。本当、本当!だってビアンカは強いもん!心配する必要無いもん!全然平気。全然大丈夫。僕、冷静。僕、平常心。僕へっちゃら」
引きつった笑顔で言い訳する坊ちゃん…ムリがありますよ。

「そ、そうですよ、坊ちゃん。ビアンカちゃんなら大丈夫ですよ。お強い女性ですから!」
「そうだよね!心配する必要無いよね!あんなのウンコするのと変わりないよね!ちょっとでっかいだけだよね!死んだりしないよね!?そんなこと無いよね?ビアンカ、また笑顔見せてくれるよね?死なないよね?…大丈夫だよね…?」
そこまで言い終えると坊ちゃんの目から涙がこぼれ落ちてきた。

坊ちゃんは幼い頃からビアンカちゃんの事が好きだったのだ。
その思いが強すぎて坊ちゃんを不安にさせる。
「大丈夫ですから!もうすぐですから!」
そんな事しか言えない自分が情けなくなる。
出産は女性が主役なのだ…我ら男は、ただ狼狽える事しか出来ないのだ!

サンチョSIDE END



<グランバニア城>
ビアンカSIDE

私の目の前に涙目のリュカが立っている。
「もうリュカ…パパになったんだからそんな顔しないの!」
「うん…ごめん、ビアンカ。大丈夫?」
もう…何で出産した私より弱ってるのよ…
「私は大丈夫…疲れたけど…」
「双子だったんだね。どうりで大きい訳だ…」
お産を手伝ってくれたシスター・レミと侍女のブレンダさんが、それぞれ男の子と女の子を抱いてリュカに見せている。

「ねぇ…リュカ…名前、考えてある?」
「え!?名前って?」
まさか…
「赤ちゃんの名前よ!考えてないの?」
「…ソンナコトナイヨ」
本当に何も考えて無いのね…(汗)

「はぁ~…考えてないのね…まぁ、いいわ。私、考えてあるから!」
「ゲレゲレとかボロンゴとか言わないよねぇ…」
「古い事持ち出さないでよ!」
「(クスッ)ごめん。で、ビアンカが考えた名前は?」
「うん。男の子が『ティミー』、女の子が『ポピー』!…どう?」
「うん!『ビアンカ』の次に良い名前だね」
もう…さりげなく惚れ直しちゃう事言わないでよ。
リュカは双子を抱き抱え、
「こんな情けないパパだけど一生懸命頑張るから、あんまりいぢめないでね」

(コンコン)
ノックと共にサンチョさんが入ってきた。
「ビアンカちゃん。双子出産おめでとうございます」
「ありがとうサンチョさん」
「おめでたい所申し訳ありませんが坊ちゃん、オジロン様がお呼びです」
サンチョさんも申し訳なさそうに切りだした。

「何だよぉ~、空気読めよぉ~…バカじゃねーの?」
…まったく…しょうがないでしょうに…
「リュカ!式典の事よ、きっと…」
「シキテン?」
ま、まさか…忘れてるわけないわよね!
「今日、戴冠式なの忘れてたの?」
「ソンナコトナイヨ。オボエテイルヨ」
「ほら!私達の事はいいから、お仕事してきて!」
大きなため息を吐くと、渋々…本当に渋々部屋を出て行った。

ビアンカSIDE END



<グランバニア城>

今俺は、オジロンの前で片膝を着き俯き畏まっている。
初めて知ったのだが、俺の本名は『リュケイロム・エル・ケル・グランバニア』と言うらしい。長いね!
「ここに宣言する。リュケイロム・エル・ケル・グランバニアがグランバニアの新たなる国王になった事を!」
俺は立ち上がり、家臣達を見渡して城下町へ下りて行く。
すごくこそばゆい…
うん。俺には向かないね!


<グランバニア城-城下町>

城下町の中央広場に大勢の人が集まり、ステージ上に立っている俺の事を瞳を輝かせながら見つめている。
中には泣き出している人も…
パパスの息子と言うだけで凄い人気ぶりだ。
親の七光りってすげー。

さっき国務大臣が小声で、『オジロン様の後でリュカ陛下のスピーチです。準備はいいですか?』ってプレッシャーかけてきたので、『モチロンサ』て棒読みで答えてやった。
すげー不安そうな顔してた。
だから止めようって言ったのに!

「………では、皆に紹介しよう。先代デュムパポスの子!リュケイロム・エル・ケル・グランバニア!グランバニアの新たなる国王を!」
来てしまいました、この瞬間が!
だが、大丈夫!
俺には秘策がある!
偉大なる不敗の名将が残したスピーチが…

俺はオジロンより前に出て、大きく息を吸った。
「リュケイロム・エル・ケル・グランバニアです。どうぞ、よろしく」
俺はまた、オジロンの後ろに下がり笑顔でみんなに手を振った。
みんな唖然としている。
名前が長い分、2秒スピーチとまではいかなかったが、俺的には大満足のスピーチだ。

ちらほらと拍手が聞こえてくると、その拍手は瞬く間に広がり皆が歓喜の声を上げている。
家臣の方達の顔を見ると、オジロンはヤレヤレと言った感じ。
国務大臣は………だから止めようって言ったのに!


新国王戴冠祝賀会と銘打って開かれたドンチャン騒ぎは、俺が居なくても盛り上がれるだろうと思うくらい盛り上がっている。
早くビアンカの所に行きたい俺は、国務大臣の隙を見ては抜け出そうとしているのだが、結構目聡く抜け出せない。
おかしくないですか?
ボクはパパになったばっかりなのですよ…
気を使ってもらいたいですね。

「リュカ陛下が祝杯をあげなければ皆が心から祝えません。さ、どうぞこれを!」
国務大臣が満面の笑みで俺にワインを渡してきた。
飲めなくはないが、あまり酒は好きでは無い。
強くも無い。
心から断りたい。
でも、飲むしかないんだろうなぁ~…
何で王様が気を使うの?普通、逆じゃね?

俺は覚悟を決めて一気にワインを飲み干した。
予想以上に強いワインは、俺の喉を熱くする。
一気に飲み干した所為か、視界が歪み足の力が抜け、その場に倒れ込む。
俺は闇の中に落ち、記憶がそこで途切れた…
あ、あれ…?
こ、こんなに…弱かっ…た…け…?



 

 

47.愛する者を守る為ならば鬼にでも悪魔にでもなれる。きっと…

<グランバニア城>
オジロンSIDE

祝賀会の夜、我々はリュカの叫び声で目を覚ました。
ビアンカ殿が攫われたと言う!
驚いた事に、その間城内の者は皆眠りこけていた!

調査の結果、祝賀会の飲み物に睡眠薬が混入されていた事が分かり、犯人は国務大臣のエクリーであると言う見解になった。
ワシは信じられないでいた。
あのエクリーが…
ワシにとっては頼りになる家臣が…
「叔父上は利用されていたんですよ!」
リュカの不機嫌な口調がワシを一層落ち込ませる…

そのリュカは今、エクリーの屋敷を家捜ししている。
よほど腹に据えているのだろう…普段綺麗好きなリュカが散らかる事を気にもせず荒らし回っている。
程なく1冊の計画書と、奇妙な靴を1足見つけ出した。
リュカは計画書を読み終わると、冷たい表情で一笑して計画書をワシに渡してきた。

その計画書にはこう書かれてある。
祝賀会の飲み物に睡眠薬を混ぜ全員を眠らせる。そして王妃ビアンカを誘拐して国王リュカの人望を失墜させる。次にエクリーがワシ(オジロン)を利用して王妃ビアンカを救出する。その功績によりワシは次の国王に正式に即位し、リュカを退かせる。そしてワシを操りエクリーが国を牛耳る。
要約するとこんなとこだ。

更に、あの奇妙な靴の事も書いてある。
この計画の打ち合わせをする際は、空飛ぶ靴(あの靴の事だ)を使い打ち合わせ場所兼人質監禁場所へ移動する事。
つまりあの靴を使えばビアンカ殿の所へ行けると言う。

「リュカ…いえ、陛下。これは罠です!」
「だろうね!だが…それが何か?」
冷たく感情のない口調で言い放つと、サンチョの側へ近づき誰にも聞こえない様に耳打ちをする。
「………しかし………はい……分かりました……」
サンチョにだけ…サンチョだけを信頼し、特別に何かを告げている。
「サンチョ!絶対他の人には告げない事。信用しているからサンチョにだけ話したんだ。お願いするよ」
「分かりました。命に代えましても…」
いったい何を…
「そんな大袈裟に考えなくていいよ」
そう言い、リュカは空飛ぶ靴を手にベランダへ出て行く。
まさか!
「リュカ!まさか一人で乗り込むつもりか!?」
「靴は1足しか無いからねぇ」
「罠なのは分かっているだろう!まず、準備を「ビアンカを失うつもりは無い!」
静かに冷たくワシの言葉を遮るリュカ…
「時間をかけて準備をして敵地に乗り込んでビアンカの死体を回収する…(クスッ)絶対ごめんだね!」
リュカはこちらを振り向くことなく空飛ぶ靴を使い、北の方角へ飛んでいった。
ワシがエクリーを信用した為に、この様な事態になったのだ…
リュカに謝罪する為にも、リュカの手助けをせねば…ワシに出来る事をせねば…

オジロンSIDE END



<デモンズタワー>
エクリーSIDE

私は光の教団に裏切られた。
地位を使い、懸命に布教活動を行ったきたと言うのに…
此度の件で、私の地位を強固なものにしてグランバニアを牛耳り、国民全てを信者にする計画だったのに…

しかし、光の教団の計画は違った…
リュカを誘き寄せ殺害し、魔族がリュカに化けグランバニアを支配するのが目的だった。
そんな事をさせる訳にはいかぬ!
早くリュカに…いや、リュカ様にお知らせせねば…

だが私は魔族共に足を折られ、塔の中で置き去りにされている。
野垂れ死にさせるつもりだろうか?
耳を澄ますと、こちらへ近づく足音が聞こえる。
私を殺す為に来たモンスターかと思い息を殺して身構えた。
「………国務大臣……」
現れたのはリュカ様だった!
なんと、たった一人でこの塔を登って来たのだ!

「リュカ様。これ以上先に進んではなりませぬ。これは罠です。リュカ様を殺して魔族が成り代わる罠です」
リュカ様は冷たい瞳で私を見下ろし、私の言葉を聞き続ける。
憎悪などと言葉では言い表せない目で見下ろされ、恐怖で喋れなくなりそうになるが、気力を振り絞って伝えねばならない事なのだ!
「お許し下さい、陛下…私は光の教団を広める為に地位を利用し固執しました。しかし魔族と手を結ぶつもりはありませんでした」
「もういい…」
い、いや…良くない!
何としてもこれ以上進ませる訳にはいかないのだ…

「しかし私「もう、喋るな!」
リュカ様の怒号が私の言葉を遮る。
「ビアンカの誘拐を手引きしたお前を俺は許さない」
その言葉を言い終わる前にリュカ様は剣を振り切っていた。
私の…意識も…遠退いて…行く…

エクリーSIDE END



<デモンズタワー>
ビアンカSIDE

私は今、塔の最上階に囚われている。
凶悪なモンスターが蔓延る禍々しい塔の最上階に…
そして私の前にリュカが居る。
私を助ける為に一人でこの塔を登ってきたのだ。
「リュカ!来てくれたのね!?……でも…来てはいけなかった…アナタを殺してすり替わる為の罠なの!お願い、逃げて!」
そこまで言い終わると、私は見えない力で弾き飛ばされた。
壁に身体を打ち付け、苦しくて声も出ないでいる。

「グランバニアの王よ!お前は王としてあるまじき過ちを犯した。王とは国民を守る為に存在する。にも関わらず、お前はここに来た。たかが一人の女の為に…その行為、万死にあたいする!」
言葉とは裏腹に、ニヤケた表情で語る化け物馬のジャミ…
「黙れ馬!家畜如きが王について語るな!」
その刹那!
リュカが馬の化け物、ジャミに斬りかかる!
が、リュカの剣はジャミの身体まで届かない。
ジャミの身体を特殊な結界が覆っている。

「ふはははは!無駄だ、無駄無駄!俺はゲマ様の力で強化されたのだ!お前もあの時の父親と同じように、じわじわとなぶり殺しにしてやる!」
あの時!?父親と同じ!?
コイツが…この化け物がパパスお義父さんを…

「黙れと言っただろ!お前は口が臭い!」
リュカは怯むことなく攻撃し続ける。
斬りつけ、呪文を唱え、諦めない…
しかし一切の攻撃は効かず、逆にリュカの剣が弾き飛ばされた。
リュカの剣は、遙か後方の壁に深く突き刺さり取りに向かえば隙だらけになる。

ジャミは右前足の蹄でリュカの頭を握ると、力任せに振り回し始めた。
壁や床に身体を打ち付け反撃する事も出来ないでいる。
「ふはははは!己の無力を痛感しろ!貴様は国も、女も、何一つ守れんのだ!ふははははは!」
くっ…私の所為で…

「そ、そんなに…」
「ん?何だぁ?」
「そんなに可笑しいか?」
リュカはジャミに頭を握られたまま、ジャミの目の前に力無く垂れ下がっている。
もう戦う気力も無いかの様に…
「あぁ!可笑しいね!無力なヤツをいたぶるのは!」
リュカはジャミの目をジッと睨み付けている。
「じゃぁ…笑えよ…可笑しいんだろ?笑えよ!」
まだ目は死んでいない。

「ふはははは!お望み通り笑ってやるよ!お前の情けなさを!ふはははぐがっ!」
リュカの目の前で大笑いするジャミの口の中に両腕を深くねじ込む。
「バギクロス!」
リュカのバギクロスがジャミの体内で荒れ狂う!
表面を何かしらの結界で守られていても、体内は無防備なはず!
それを見越してリュカはバギクロスを連発する。
「バギクロス!バギクロス!バギクロス!」
ジャミの体が胸から裂け二つに分かれて崩れ落ちる。
リュカの全魔力を注いだバギクロスを至近距離で喰らっては、流石に耐える事の出来なかった様だ。

リュカは腕に残ったジャミの上半身を壁に投げ捨てると、私の元へ駆け寄り抱き寄せた。
「ビアンカ!大丈夫?」
「リュカ…ありがとう…私…」
「いいんだ、何も言わなくて。さぁ、帰ろう。みんなが…ティミーとポピーが待っているよ」

私とリュカは寄り添い、この部屋を出て行こうとした…その時!
「お~っほっほっほ。いけませんねぇ~。逃げようなどとしては」
とても耳障りなイヤな笑い声がこだまする。
「ゲマ!!」
リュカはこの声の主を知っている!
リュカが怒りの形相に代わり室内を見渡しだす。

すると死んだはずのジャミの上半身が起きあがりこちらを見つめている。
焦点の合わぬ目で…
「あの時の子供が、ここまで成長するとは思いませんでしたよ。お~っほっほっほ。でもここまでですよ。貴方達は世界の終わりを石になって眺めるのです。」
言い終わるとジャミの身体が四散し、どす黒い霧が私達を包んでいく。
「きゃ!何、この霧?……え!?」
気が付くと私とリュカの身体が石に変わっていく。
もう既に首まで石化してきた。

私にもリュカにもどうする事も出来ない…
「ビアンカ!」
リュカが話しかけてきたが、私は口までもが石になってしまい、答える事が出来ない…
「ビアンカ…必ず助ける…僕が助ける…ま、待って…い…て………………」
そしてリュカの声も聞こえなくなってしまった…
私とリュカは石になってしまったのだ。
でも…私は…怖くない…だって…リュカが…助けてくれる……大好きなリュカが………………

ビアンカSIDE END


 

 

48.青い鳥と言う物語がある。実は自分の家の鳥が探し求めた鳥だったという…そりゃ無いぜベイベー的な物語。

<世界の某所>

強張った身体に血潮を感じる!
闇の中に小さな光が瞬き、そして広がって行く…
遙か彼方から呼びかける声が近付いてくる。
俺の視界が開け目の前で恰幅の良い男性と、男女の幼い双子が見つめている…

「サ…ンチョ…?」
声が上手く出ない。
「坊ちゃん…いえ!リュカ様…私の事が分かりますか?お答え下さい。リュカ様が幼い頃、ラインハットへ赴く前に私が探していた物は何ですか?」
「まな板だよ」
「間違いありません!リュカ様です。リュカ様に化けた偽者ではありません!」
どうやらサンチョは俺の言い付けを守った様だ…
俺を亡き者にしてすり替わろうとするヤツが居るかもしれない…だから俺とサンチョにしか分からない事を聞くようにと、グランバニアを立つ直前に言っておいたのだ。

「さぁ、ティミー様、ポピー様…お父上ですよ!」
ティミー?ポピー?父?
「「お父さん!」」
双子は俺に抱き付き感涙しながら俺を父と呼ぶ!
子供特有の早口で一気に話す為、殆ど理解出来ない。
何とか理解できたことは、俺は石にされて8年経過していた事。そして、この双子は俺の子で、親は無くとも子は育ちまくった事。

「さぁさぁ…お二人共!そんなに一度に話してもお父様が混乱してしまいます。一度お城に帰り、ゆっくりしましょう」
そうサンチョが宥めると、娘のポピーが呪文を唱えた。
「ルーラ」
ル、ルーラ!?
参ったなぁ…
あんなキツい思いをして魔法適正を得たのに…
この子は生まれつき魔法の天才の様だ…
俺、形無し…


<グランバニア城>

昨晩は双子が甘えてくる為、一緒のベットで眠ったがイマイチ自分の子であると言う実感が湧かない。
ダメな父親だ!

朝…というか昼に近い朝。
俺はオジロンに呼び出され謁見の間へ来た。
どうやら苦労をしてきた様だ…
おでこが広がってる…(笑)

オジロンは俺に玉座を薦めたが、俺は断り手近な椅子に腰掛ける。
「叔父上、8年もの間留守を守って頂きありがとうございます」
そんなにおでこを広げちゃって…
「なに、ワシに出来る事をしただけだ」

「それともう少しの間、国王代理をお願いします。何だったら、代理の字を外してもいいですよ!」
「馬鹿を申すな!!今後は王としての勤めを果たしてもらう!国王はリュカ、お前なのだぞ!」
「お断りします。僕は王である事より、夫である事を優先します。8年前そうした様に…もっとも、僕にとっては昨日の事ですか…」
「まったく…お主も兄上も無責任だ!いつも苦労するのはワシだ…」
「オジロン様!諦めて下さい。分かっていた事でしょう」
「そうだよ、親父!リュカが言って聞く様なヤツじゃないのは分かっているでしょ!」
不意に巨乳の美女が現れ、オジロンを親父と呼び宥める。

「!?もしかしてドリス?…美人になっちゃって…まだシマシマ穿いてる?」
強烈な踵落としを喰らった!
しかも残念な事に中にスパッツを穿いていた。チェッ!

「お父さん!僕も連れて行ってくれるよね!」
ティミーが不安気に問いかける…
「私、いっぱい魔法の勉強しました。お父さんの足手纏いにはなりません!」
足手纏いか…実力はあるのだろうが…
「「お願い!お父さん!」」

「………誰か……剣を貸してくれ!」
周りを見渡すと一人の若い兵士が近付き剣を手渡す。
「リュカ様これをお使い下さい。リュカ様の剣です」
受け取った剣を見ると…父、パパスの剣だ!
回収してくれたんだ…
「ティミー。着いてきなさい」
俺は剣を腰に差し、中庭へティミーを誘う。
皆それにつられて着いてくる…

中庭へ着くとティミーに向き直り剣を構える。
「え!?」
「足手纏いになるかどうか、確かめさせてもらう。構えろ!」
俺は父親の威厳を見せるかの様に、渋く格好を付ける。
ふとティミーの背中の剣を見ると………あれ?
天空の剣じゃね?
あれ!?
もしかして俺の息子………伝説の勇者!?
まぢ!?
勝てる訳ねぇーじゃん!

やっべー!
どうしよう…『構えろ!』とか渋く格好つけちゃったよ!
息子にボコボコにされたらハズカシー!
負けるにしても威厳を保たないと…
まずは先手必勝だ!
いきなり攻撃を仕掛けて優位に立つ!
あとは負けない様にして、ある程度したら………うん!勝敗をうやむやにして、何か格好いい事言って終わらせる!
よし!
それでいこう!
…まずは、不敵に笑って先手必勝…


<グランバニア城>
ドリスSIDE

リュカは不敵に笑うと鋭い一撃をティミーに放つ!
ティミーは、あの鋭い一撃をすんでの所で受けると、リュカに向かい構え直す。
さっきの一撃に対応出来る人間はいないだろう…
ティミーも天空の剣じゃなかったら、防げなかったに違いない。
天空の剣がティミーを動かしたと言った方が正しいだろう…

リュカの連撃が続く!
ティミーはリュカのフェイントに翻弄され、情けないダンスを踊っている様に見える。
本当はティミーも強いのだ!
まだ8歳なのに、ピピンやピエールと互角に渡り合える!
天空の剣無しでだ…
だがリュカは強すぎる!
天空の剣が無かったら、既に勝負は着いていただろう…

ティミーも意地を見せ反撃をする。
リュカは難無くティミーの攻撃を去なし、軽やかに舞って見せる。
そしてリュカは、ティミーの隙を突いて強烈な剣撃を浴びせる。
だがティミーが天空の剣を使う限り、自動的に剣が防御するので、何時まで経っても決着は着かないだろう…
そう思った時、リュカが手近にいたポピーを抱え、刃を突きつけた!
な!?
どういう事!?

「ティミー、剣を捨てろ!」
「え!?…どういう事…?」
ティミーも混乱している。
「お前が剣を捨てないと、お前は妹を失う」
「ズルイよ!ポピーは関係ないじゃん!」
「(クスッ)…確かにズルいな。ズルをした父さんの負けだ」
そう言うと剣を鞘へ納め、ポピーを抱きながらティミーの所まで近付き腰を下ろす。
そしてティミー、ポピーを膝の上に乗せ語り出した。

「昔、パパスという屈強な戦士が息子を連れて旅をしていたんだ」
皆が静かに聞き入っている。
「パパスは強かった。誰にも負けないくらい強かった。だがある時、息子を人質に取られ無抵抗なまま魔族に殺されてしまった」
まるで他人事の様にリュカは語るが、間違いなく全て体験談だ…だからこそ重みがある。

「お父さん…」
「確かに父さんはズルをした…でも、敵はズルい奴らばかりだ。もし、お前達が人質に取られたら…父さんはパパスと同じ道を歩むだろう…」
リュカの気持ちが痛い程分かる…だが…

「お言葉ですがリュカ様!パパス様はお一人で旅をなさっておりました。リュカ様には多くの仲間がおります。私も両殿下をお守りする為、ご一緒させて頂きます」
「君はさっき剣を渡してくれた…」
「はい!お久しぶりであります。ピピンです」
「偉そうな事を言う様になったな!………パピンさんは?」
「父は陛下の行方を捜す途中で…」
「そうか…すまない…」
「いえ、父は私の誇りです!ですから、父パピンの為にも私と両殿下をお連れ下さい」
格好いい事言うじゃない、あいつ!
「………分かったよ。分かったけど、今にも旅立とうとするのは止めてくれる?まだ出かけないよ!やる事あるから、まだ旅立たないよ!」
ビアンカさんを助け出す旅かぁ…私も行きたいなぁ…

ドリスSIDE END



 
 

 
後書き
息子に勝てなかったけど、威厳だけは保てました。 

 

49.因果と言う言葉がある。ヤッちゃうとデきちゃう。因果である。

<ラインハット城>

俺は8年もの間、心配してくれたであろうと思われる人達へ無事を伝える為、双子やサンチョ・ピエール達と一緒に各地へ赴いている。
ラインハットに来て、まず驚いたのはヘンリーの子供である。
ヘンリーのクローンかと思う程、子供時代のヘンリーに似ていたのは驚いた。
しかも、あの『子分の印』ネタは健在だし…
本人は「まったく!誰に似たのか…こんな悪戯坊主になっちまって!」って!
『お前じゃ!ボケぇ~!』って言ってやりたかったけど、大人な俺は優しくこう言った。
「ヘンリーにクリソツ!」
夫婦揃ってニガワラ。
とても仲睦まじい二人で一安心!

でも、羨ましくて何か悔しくなったので、お子さんのコリンズ君をいぢめてやろうと思い、城内を徘徊し書庫を探索していたら、すんげー美人に出会した!
「リュカさん!!」
口説こうと思ったら向こうから抱き付いてきた。
オッパイが大きく、とてもいい匂いがする長い黒髪を古ぼけたリボンで結っている。
「マリソル!?」
「リュカさん、酷いです!9年間も会いに来てくれないなんて!」
「いやいやいや!最初の1年はごめんなさいだけど、残りの8年は不可抗力だし!」
俺の腕にオッパイを押し付けむくれるマリソル…
ヤバイ…俺のバズーカが火を噴きそうだ!

「リュカさんの結婚式の夜に『愛人募集』したじゃないですか!私、あの場で応募したんですよ!なのに迎えに来てくれないなんて…ず~とリュカさんの為に守ってきたんですよ、私!」
守ったって何!?
この娘、一途なの?
馬鹿なの?
真面目なの?
一途な馬鹿真面目っ娘?

「ちょっと…待って…あのぉ~…マリソル、彼氏いないの?」
「いる訳無いじゃないですか!リュカさん、王様になったって聞いたから、きっとハーレム造るだろうなって思ったんです!だから待ってたんです!」
「いや…ハーレム造りたくても、奥さんが許してくれないだろうし…」
「その奥さんは、今いないじゃないですか。チャンスじゃないですか!ここ、今人居ませんよ!チャンスじゃないですか!!」
チャンスなんですか?
ヨクワカリマセン。
でも俺は『食える時に食っとかないとね!』(by武蔵っぽい人)ってのが信条です。
深く考えちゃいけません。
これってやっぱりチャンスなんですか?


結局、その日はラインハットにお泊まりしました。
子供達も仲良く一緒に寝てたし…
翌朝、マリソルの部屋から出てくるとこを、よりによってヘンリーに目撃されました。
めっさ怖い目で睨むヘンリーでしたが、ごっさ怖い目で睨み返すマリソルのおかげで、お小言は回避されました。
でも、マリソルが居なくなるとゴチャゴチャ言われそうだったので、すぐにお暇させてもらいました。



<サンタローズ>

気分的(自分的)には1年ぶり。
でも実際は9年ぶりに父さんのお墓にやって来ました。
未だに人口10人未満のこの村は、復興が遅々として進まない様子だ。
元実家跡の裏手に父さんの墓を建てたのは、9年以上も前の事だ…

俺達が墓の前まで赴くと、一人の少女が墓を掃除していた。
歳は双子と同じくらい。
黒い艶やかな髪の毛。
その瞳は吸い込まれそうな程澄んでいる。
………見た事がある…瞳…です……

「………リュカ様の幼い頃にそっくりですね!?」
サンチョが余計な事を言う。
少女が瞳を輝かせ俺に問う。
「貴方がリュカさんですか!?」
「ソウデスガナニカ?」
「じゃぁ…貴方が私の…「リュー君!」
少女が取り返しのつかない事を言う直前に、後ろから歓喜に満ちた声が上がった。

「やっぱりリュー君だぁ!無事だったのね!」
「フレアさん…お久しぶりです…あの…」
フレアさんは俺に抱き付き喜ぶ。
しかしすぐに離れると、少女に視線を移し恥ずかしそうに喋り出す。
「リュー君、紹介するわね」
出来れば遠慮したいのですが…
「私の娘の『リュリュ』よ」
うん。だとは思ったよ…でもね…

「ほぉう…随分と貴様に似ているな!容姿も名前も!」
ピエールがいらない事を言う。
「あ、あーそー!フ、フレアさんの…」
「ふふっ。そちらの双子ちゃんはビアンカさんとのお子さん?」
い、言い方が…
「は、はい。ソウデス」
俺の声が裏返る。

「僕、ティミーです」「私、ポピーです」
「あら、ご丁寧にありがとう。リュリュ、ティミーちゃんとポピーちゃんに村をご案内してあげて」
「はい!」
子供達は元気よくこの場を後にした…案内する様な施設など無いのに…
「さすがシスター…気が利きますね」
気が利くってどういう事?ピエール?
「さて、シスター。リュリュちゃんの父親は誰ですか?」
ピエールさんが怒っている。
奥さんでもないピエールさんが何故か怒っている。

「申し訳ありません、ピエールさん」
「「「え!?」」」
「然る止ん事無い身分の方が、あの娘の父親です。その事を口に出しては迷惑がかかります。だから、この事は聞かないで頂きたい。詮索もしないで下さい」
俺…最低だね…男として…人として…
「フレアさん。親子でグランバニアに住みませんか?僕はあのこ「私は!」
!!
「私はサンタローズから移る気はありません。リュー君にご迷惑をかけるつもりもありません。だから…リュー君が気に病む必要無いのよ」
「でも…フレアさんを幸せにしたいんです!どうすれば良いのか分からないけど…」
「じゃぁ、早くビアンカちゃんを助け出して、リュー君!そして時折遊びに来てくれれば…リュリュと遊んでくれれば良いから…ね!」
俺はただ、俯くしか出来なかった…
フレアさんが優しすぎて…

「でも、今日一晩くらいは泊まっていてくれるでしょ?」
「そうさせて頂きましょう…リュカ様」
ピエールの視線が怖かったけど、概ね楽しく過ごせました。
ただ…ティミーが…
「僕…リュリュちゃんの事が好きになっちゃった!」
ダメです!
絶対ダメですぅ~!
どんな馬鹿女に惚れてもいいけど、リュリュはダメですぅ!
貴方達はそういう関係になってはダメですぅぅぅぅ!!

手を繋ぎイチィイチャしている二人を見て、ハラハラしている俺がいる。
どう言えば良い?
何て言えば良い?

ごめんなさい。
本当ごめんなさい。
助けて下さい。
そんな愛は認められませんから!



 

 

50.便りが無いのは元気な証拠!って、8年は無いわぁ…

<山奥の村>

「会いづれぇ~…」
俺は先程から同じ言葉で繰り返しぼやいている。
「もう、いい加減うるさい!お前が行くと言い出したんだろ!」
「だって、何て言えばいいの?8年間音沙汰が無かった事を?」
そう…誰も俺が行方不明だった事を、お義父さんに伝えたなかったのだ。

「正直に言うしかないだろう。自分だけでも無事である事を伝えないと…」
ピエールが叱り付けてきた。
「君がそう言う事、言う!?」
「な、何だ!私は関係ないだろ!」
「8年だよ!8年間、音沙汰無しだよ!ありえないよ!君やマーリンはダンカンさんと面識もあり、8年前の事も把握しているのだから、手紙の一つでも出してくれてもいいんじゃないの?」
「な!…何て書けば良いんだ…」
「正直書いてくれれば良かったの!」
そんなやり取りをしながら俺達は村の奥へと進んで行く。


村の一番奥の家にノックをして入る。
「お義父さん…お久しぶりです…お元気でしたか?」
「ん?おお!リュカか!久しいなぁ…何だ、随分と音沙汰もなく…?ビアンカの姿が見えないが…何かあったのか?」
「はい…あの…」



「そうか…8年間、石に…お前も苦労したのだな…」
「………ビアンカも…」
「ビアンカの事は…心配してないよ。お前が必ず助け出してくれるのだろう?」
「はい!必ず」
俺は力の限り頷いて見せる。
「うん…では、心配はしておらん。お前ならビアンカを助け出してくれるだろうて………ところで…後ろの子供達は…もしかして…」

よし!良い感じで話を逸らせそうだ…
「あ!はい。お義父さん!紹介します。僕とビアンカの子供です」
「ティミーです」
「ポピーですおじいさま」
完璧だ!二人とも可愛らしくご挨拶…もうお祖父ちゃんメロメロ!

「おぉ!!二人ともビアンカによく似ている!」
え、俺には!?
「こんなお祖父ちゃんだけど、何時でも遊びに来ておくれ」
「「はい!」」
ダンカンさんの好々爺ぶりは母の居ない双子の心を癒してくれた様で、ここに来て本当に良かったと思う。



<山奥の村~サラボナ-途中>

双子はダンカン祖父さんが気に入ってしまった様で、昨晩は楽しく過ごす事が出来た。
しかし、朝起きて出立の準備をしていたらポピーが突然「お父さん!西の方から嫌な気配を感じる…」と、何やら震えだした。
可愛い娘が怯えているのに無視も出来ず、めんどくせーけどみんなで確認へ向かう事に…


山奥の村より4.5時間行った所に、奇妙な気配のする祠を発見した。
中に入ってみると下りの螺旋階段があり、底が見えない程深い所まで続いている。
俺達は螺旋階段を下り始めた。
するとポピーに続いてティミーまでもが震えだした。
二人の気を紛らわす為に『時代』を歌い、続いて『夢想花』を回りながら歌ってあげた…でも、あまり効果は無かったかな…
若い子には難しかったかな?

「しまった!!」
俺はある事に気が付き、後悔と共に叫んでしまった!
「どうした!リュカ?」
ピエールを始め皆が注目する…
俺はとんでもない事を忘れていた…
それに気付いたのは30分以上下り、底が見えてきた頃だった…
「すげー長い階段だけど………帰りめんどくせ~」
これって切実だと思わない?
でもみんなして呆れ顔で睨むんですよ!
でも双子が笑ってくれたので、良しとしますか。



祠の底に着くと、ぶっさいくな壺が一つ置いてあり、赤く奇妙に光っている。
しかし、それ以外の物は何も無い。
確かに奇妙な気配は感じるが、恐怖する程でもないし、早々に立ち去る事にする。
双子にもあんまり気にするなと、言い聞かせる事で落ち着いてくれたし、サラボナへ行って天空の盾を受け取らないと…
フローラ元気にしてるかなぁ~
こっそり手ぇ出しちゃおうかなぁ~
デボラのオッパイも魅力的だなぁ~
垂れてないといいなぁ~



<サラボナ>

町に入るとすぐにルドマンさんを発見した。
町の警備兵と何やら深刻そうに会話をしている…
何か…マズイ時に…来た…かな?
うん。先に天空の兜を回収しに行こう!

そう思い踵を返したその瞬間に…
「あ!リュカさん!?リュカさんじゃないですか!!」
俺を呼ぶ声が………アンディだ!
「何!!リュカか!?おぉ…ちょうど良い時に来てくれた!」
ルドマンさんが気付いちゃった。
面倒事だったら…アンディ、ボコる!
「オヒサシブリデス。るどまんサン」
「うむ…会って早々悪いのだが…」
きたよ…面倒事の予感、大!

「な、何っすかぁ~?」
「そうイヤそうな顔をするな…簡単な用事を頼みたいのだ」
イヤそうじゃなくて、イヤなんだけど…
「ナンデスカ?」
「うむ、実はな…ここより北に行った所にある、祠の一番深い所に壺があるのだが、その壺の色を見てきてほしいのだ…奇妙な事を「赤でした」

「「え!?」」
ルドマンさんとアンディーが間抜け面で呆けている。
「ここへ来る途中に寄ってきましたが、真っ赤に燃える太陽みたいでしたね」
「そ、それは…本当か…嘘を吐いたり、見間違いと言う事はないか!?」
何故か凄く疑われる…そんなに信用ないですか?

「ルドマン殿、私も見ましたが間違いなく赤かったです」
「ピエール殿が仰るのなら本当なのだろう…」
何か酷い事言われてませんか?俺…

「アンディ君!君は警備兵達に町の警備強化をする様に伝えてくれ!」
「はい!」
「その後で、戦えぬ者達への避難勧告もお願いする!」
「分かりました!」
アンディが颯爽とかけて行く。
何やらアンディが頼もしくなった様に見えるのは気のせいだろうか?
頼もしいアンディなど、常時満席の『山田○どん』みたいで違和感がある。

「リュカよ…お主は私と一緒に警備用の塔へ来てくれ」
何でだ!?
俺は関係ないだろう!
「あ、あの~…お忙しそうなので僕達はお暇しましょうか?」
「私とお前の仲だ!遠慮はいらん!」
遠慮したいんですけど~



ルドマンさんは塔の最上階へ着くまでの間に、今回の起こっている事のあらましを説明してくれた。(説明より、解放を求めたがスルーされた)
今から150年前、ルドマンさんの祖先のルドルフさんがブオーンと言う化け物を壺に封じ込め、北の祠へ封印した。その封印の効力が切れかかっていて、その証拠が赤く光る壺らしい。封印が解けると、山の様に大きな化け物が復活し、世界を破壊し尽くすと言われているらしい。

「………と言う訳なのだ」
ますます俺は関係ないだろう!
「へー…。ルドマンさんも大変ですね。じゃ、僕達はこの辺で…」
踵を返して帰ろうとする俺の腕を掴み泣きすがるルドマンさん。
「そんな事言わず助けてくれ!」
「えぇ~!めんどくさ~い!」
「す、少しの間ここで見張っているだけでいいから…私が再封印の準備をしている間だけでいいから!な?な!?」
仕方ないなぁ~!


ルドマンさんは塔を下り、再封印の準備に取り掛かっている。
みんなを見渡すと、ものっそい不安そうな顔をしている。
俺が、みんなの不安を取り払う為に、『We are the World』を熱唱し自己満足に浸っていると、遠くから地響きが近付いて来た。
不思議に思い振り返ってみると、そこには山の様に大きな豚の様な犬の様な化け物が佇んでいた。
「ぶぃ~い!ルドルフは何処だ!隠すと為にならんぞ!」
何これ?



 
 

 
後書き
出ます…
巨大怪獣ブーちゃんが! 

 

51.逃がした魚は大きい。でも後悔なんてしてないんだから!

<サラボナ>

「ぶぃ~い!ルドルフは何処だ!隠すと為にならんぞ!」
何これ?
「まぁいい…眠気覚ましにお前らを「あはははは!何これー!?」
俺は現れた怪物を見て、腹を抱えて笑い転げた。

「あはははは!すげー不細工ー!あはははは…でも可愛いー!」
「な!?に、人間…」
「あはははは!不細工で可愛い!あはははは…ぶさかわ!あはははは!ぶさかわ、ぶさかわ!!あはははは!!」
「い、いい加減にしろー!不愉快な人間め!!」
でかい化け物が怒号を発する!

俺は笑うのを止めて正面から向き直る。
今の怒号で、双子を始め皆緊張している様だ…が、
「ぷー!!…やっぱムリ!だってぶさ可愛いんだもん!あはははは…」
ムリでした。
我慢出来ませんでした。

「このブオーン様を舐めるなー!」
自称ブオーンが大きな腕を振り下ろす!(名前は不細工だね!)
皆、辛うじて避けた様だが足場の悪いこちらは不利だ!
俺は振り下ろされた腕を伝い、ブオーンの頭へ近付き3つある内の額にある瞳に剣を突き刺した。
「おいたはいけません!」
ブオーンは頭を抱え苦しみもがいている!
上下左右に頭を振る為、俺は突き刺した剣にしがみついていたが、剣が抜けてしまい勢い良く振り飛ばされた。

俺は先程まで居た塔の最上階をイメージし、魔法を唱えた。
「ルーラ」
「お父さん!大丈夫!?」
短距離ルーラに成功です。
ポピーが俺を心配してくれた。
「イェ~イ!結構楽しかったでぃす」
他のみんなはそれぞれ魔法等で攻撃を行っているが、俺はポピーを高い高い(+放り投げ)をしてじゃれ合っている。
「キャー!お、お父さん、やめて!高いの怖いの!ヤメテー!」
どうやら娘は俺と違い賢いらしく、高い所が苦手の様だ!

そうこうしていると、ティミーのライデインがブオーンに直撃し力尽き倒れてしまった。
やがてブオーンの身体は消滅し、跡には大きな宝箱が残った。



俺達は塔を下り、宝箱を開けに行く。
開けると中には豪華な赤いマントが一つ…
それと奇妙な生き物が1匹入っていた。
「ぷ~?」
スライムより、ちょい大きめのサイズの小型ブオーンが、邪気の無い瞳で見上げている。

ちょー可愛いー!
いや、やっぱりぶさ可愛い!
「イェ~イ!お前は今日から『プオーン』だ!あはははは…ぶさかわー!」
俺はプオーンを高い高い(+放り投げ)し、じゃれあっている。
「ぷー!ぷー!!」



<サラボナ-ルドマン邸>

「わっはっはっは!私が準備をしている間に化け物を倒してしまうとは!いやー、愉快!愉快!」
準備~?
逃げ出す準備か?
「しかも息子が伝説の勇者とは!運命とは面白い!わっはっはっは!」
ルドマンさんは豪快に笑い続ける…そりゃそうだ。どでかい化け物と戦わずに済んだのだから…いい気なもんだ!

「あの、ルドマンさん!天空の盾をお借りしてもよろしいですか?」
ティミーが遠慮がちに問いかける…このオッサンに遠慮など不要なのに…
「貸すも何も、その盾は元から勇者の持ち物だ!持って行きたまえ!ティミー君」
「ありがとうございます」
勇者にしか装備が出来ない勇者様の物なのだから、お礼など不要なのに…真面目だなぁ…
俺似?………じゃないよなぁ…

「それとリュカ。あの化け物との戦闘で手に入れたマントだが、あれは『王者のマント』と言い、かなりの物らしい」
「へー!(ぷー!)」
だから何だ!
「………こ、今回巻き込んでしまった詫びに持って行ってくれないか?」
「え~!?(ぷ~!?)」
コレが詫びぃ~?
「進呈してイヤがられるとは思わなかった!」
相変わらず恩着せがましいオッサンだな!

「だって『王者のマント』でしょ?(ぷー?)僕には似合わないと思うな!(ぷー!)」
「試してみなければ分からんだろう!」
「そうかなぁ?(ぷ~?)」

「さっきから何なんだ、そいつは!?」
何だチミはってか!?
「あ!紹介が遅れました。新しい友達の『プオーン』です」
俺は膝の上で抱いていたプオーンを持ち上げ、ルドマンさんの鼻っ面に押し付ける様に見せつける。
「ぶさかわでしょ!」
「…ぶ、ぶさかわ?……そ、そうか…まぁ…今回は助かった。…本当にありがとう…」
そこまで言うとルドマンさんは疲れたのか、溜息を吐いて自室へ戻ってしまった。
失礼な態度だ!


「ちょっと!パパ疲れ切っていたけど何やらかしたのよ!リュカ!」
するとルドマンさんと入れ替わりで入ってきたのは、長女のデボラだ!
そのケバケバしさに双子が引いている。

「僕は貴女と違ってルドマンさんを困らせる様な事はしませんよ」
デボラは俺の言葉を聞き、気分を害した風もなく人の悪そうな笑みで話し始める。
「言うじゃない!まぁいいわ。この町を救ってくれてありがと。一応、礼を言っておくわ。しかし、相変わらず厄介事に巻き込まれる体質ね!」
俺はデボラに近付き、徐に胸を揉む。
「相変わらずなのはデボラのオッパイだよ!でけーなー!(モミモミ)」
(バリッ!)
おもっきし顔を引っ掻かれました!

「気安く揉んでんじゃないわよ!あんたのじゃないのよ!9年前に手に入れるチャンスを逃したのよ!理解しなさいよ!」
揉んでくれと言わんばかりに胸を突き出していたから思わず揉んでしまったが、やっぱりダメだったか…
「あんたが田舎娘と結婚するから、私の義弟があんな情けない男になるんじゃない!責任取りなさいよ!」
「え!?フローラ、結婚したの!?誰と?」
くそ!
ちょっと大人の火遊びを期待してサラボナへ来たのに…誰だ!
俺の女に手を出したヤツは!
「前のゲストハウスに住んでいるから、自分で確認しなさいよ」
許せん!
弱そうなヤツだったら、ガツンと一発ぶちかます!
強そうなヤツだったら………『おめでとう』って挨拶する!


(バン!)
俺は勢い良く元ゲストハウス(現フローラ夫妻の新居)の扉を開けた。
「たのも~!」
中には勿論フローラが居た。

そしてフローラの手を握り、イチャ付いている男が一人………って、アンディじゃん!
「え~!アンディなのぉ~?」
結局お前か!
「な、何ですか!?リュカさん!僕がフローラの夫じゃ不満ですか?」
「イイエ。ソンナコトナイヨ。オメデトウ」

「クスクス。相変わらずですねリュカは!お元気でしたか?」
「はい。元気に8年間、石になってました」



「相変わらず壮絶な人生を送っているのですね!」
フローラが俺の為に涙を流してくれた。
「ちょ、泣かないでフローラ!この8年間は全く記憶が無いんだ!気付いたら8年過ぎてた。そんな感じ。だから辛くは無かったんだ。むしろ子供達の方が辛かったと思う」
俺は美女の涙が苦手なんだ…
「ふふっ、じゃぁ泣くのは失礼ですね。ごめんなさい」

この後、アンディ・フローラ夫妻と共に楽しい時間を過ごさせてもらった。
ただ残念なのは、口説こうと(夜這いしようと)思ったけど旦那が居るので諦めざるを得ない事だ!

あ!デボラが居んじゃん!



実行しましたが、蹴り上げられ挫折しました。
痛いのぉ~



 

 

52.何時も無心で居る事は出来ない。何かしら考えてしまっている。

<テルパドール城>

あ~…あの女王に会うのめんどくせぇ~
俺、アイツ苦手なんだよね!
よく考えたら兜貰うだけだし、俺行く必要無いよね。

「ねぇ、ねぇ!僕行かなくてもいいよね!宿屋で大人しくしていたいのですが!」
「いいわけ無いだろう!この中で女王様と面識あるのはお前だけだ!しかも勇者の父親だろうか!」
やっぱりダメか…
よし!
何も考えない様にしよう!
無心、無心。


「お久しぶりです、リュカ」
………………………………………
「あの、初めましてアイシス様。僕は…」
「まぁ、リュカのお子さんですか。早いものですね。時が過ぎるのは…」
………………………………………

「あの、アイシス様…「え!?それは誠ですか!?」
え!?何が?
「リュカ!貴方のお子さんが伝説の勇者様なのですか!?」
まだ何も言ってねーだろうが!
相変わらずめんどくせぇ女だ!
「貴方も相変わらずの様で………しかし、あの時貴方から感じたのは気のせいでは無かった様ですね」
何だよ!
気のせいとか言われたの根に持ってたのかよ!
意外と小せぇーな!
オッパイと違って…

「貴方はオッパイが好きみたいですね」
も~…だからこの女キライ!
人の心読みやがって!
「もう!お父さんはオッパイばかり見てたの!?エッチ!」
ポピーに怒られた!
「いやいや…ポピーさん、よく覚えておきたまえ。男とは皆こんなものだ!な、ティミー君!」
「ぼ、僕は…別に…」
顔を赤くして俯いちゃった。
「ふふっ…親子ですね。二人とも私の胸ばかり見てますよ」
男だったら当然です!
「ティミー君も男じゃのぉ~!この女は外見だけは良いからね」
「………だけは………?」
とってもイヤな沈黙が流れました。






<グランバニア~エルヘブン-船上>

天空の兜を手に入れた俺達は、一度グランバニアへ戻り、翌朝エルヘブンへ向けて出港した。
俺のパーティーは以前と比べれば賑やかになり、長旅も随分と楽な物になるだろう。
俺は何時も通りプックル枕で寝そべっていると、ドリスが仁王立ちで文句を付けてきた。
「ティミーとポピーですら手伝っているのに、リュカは何で何もしないのよ!」
「あぁ、そいつはいいんじゃ!ドリス嬢。何かさせると碌な事をしないからのぉ…」
俺は寝そべってまま肩を竦め両腕を広げる。

「そんな事より本当にいいの?いくら伝説の勇者がいるパーティーとは言え危険だよ!?」
一応か弱き王族なのだから、王宮の奥に篭もるのが常識なのでは?
「くどいわよ!散々話し合ったでしょ!」

城でドリスが一緒に行くと言い出したので、オジロンを始め皆で説得したのだが、双子の事が心配だからと強引に付いてきた。
オジロンとの協議の結果、邪魔になったらルーラで送り返す事を条件に、随行を承諾したのだが…これが、結構戦力的に役に立つ。
ただ…小言がやたらと多い。
あまりにも五月蠅かったので「オジロンにそっくり」って言ったらマウントポジションで殴って来やがった。

まぁ、そんな訳で今現在のパーティー構成を紹介しよう。
俺、ティミー、ポピー、ドリス、サンチョ、ピピン、ピエール(スラッシュ)、マーリン、プックル、プオーン、サーラ、ホイミン、スラリン。
結構頼もしいです。


今、俺達はエルヘブンと言う村を目指し航海をしている。
何でも、母マーサの生まれ故郷らしい。
オジロン達が調べてくれた様だ。
正直、今は母さんの事より、ビアンカの事の方が気掛かりだ。
とは言え、何ら手懸かりのない状況の為、流れに身を任せて行動するしかない。
まぁ、旅している内に情報が入ってくるだろう。
深く考えたら負けだよね。


最近やっと双子と打ち解けてきた様で、よくビアンカの事を聞かれる。
だが、その殆どが惚気話だ。
俺もビアンカとの惚気話を始めると、止まらなくなるのだ。
自分の子供に惚気話をする父親。
最悪だな!

この間、ビアンカとの初めての夜の事を話していたら、ピエール・ドリスの美少女ツートップに『子供に何話してんだ!馬鹿者!』って怒られちゃった。
でもポピーが『お父さんって本当にお母さんの事好きなのね。いいなぁ~』だってさ!

ちょっと聞いた?
『いいなぁ~』って言ったのよ!
俺の娘はパパに惚れちゃってる!?
いずれ『お父さんと結婚する!』とか言い出したら、俺王様の権力使って、近親結婚了承する法を強引に作るね!
そしたら娘は誰にもやらんね!

もー、可愛くって!
息子の方には跡取り問題もあるし、あっちこっちで女作ってもらいたいね。
ただしリュリュを除いて!
近親結婚了承法はグランバニアだけだし!
サンタローズはラインハットだし!
治外法権だし!

でも、純真無垢な瞳で『どうして僕とリュリュは、お母さんが違うのに兄妹なの?』って聞かれたらどうしよう…
なんて答えれば良いの?
『パパ、やらかしちゃった♡』って言えば許してもらえる?



 
 

 
後書き
パパがやらかしちゃったから、息子が将来苦労するんです…
許してもらえると思いますか? 

 

53.廃墟が好きな人がいる。良さがよく分からない。

<天空への塔-前>
ドリスSIDE

リュカ達が塔を登り始めて3日が経過した。
塔攻略パーティーは、リュカ、ティミー、ポピー、ピエール、サンチョ、プックルだ。
従って私達は塔の前で陣取り、帰りを待っている状態だ。

「何で私が留守番組なの!?」
「うるさいのぉ~…毎日毎日飽きもせず…」
「そうですよ、ドリス様。留守番も重要な役割ですよ。リュカ様は我々の事を信じて任せて頂いたのですから」
「まぁ…そうだけど…暇なのよ!」
私に留守番は向かない!

「………………し、しかしエルヘブンへ行ってよかったですね」
「そうじゃのぉ。天空の城の事も聞けたし、魔法の絨毯も貰えたからのぉ!」
そう!魔法の絨毯!あれは素敵だ!
1メートルも浮かび上がらないのだがスピード感が最高!
水しぶきをあげて海を疾走した時は最高の気分だった。
この旅が終わったら貰っちゃってもいいかな?
………それにしても………
「暇ねぇ~!」

ドリスSIDE END



<天空への塔-内部>

1フロアが無駄に広い内部に、モンスターが無駄に蔓延っている。
内部は酷く荒れていて、近年人が立ち入った形跡はない。
まるで廃墟の様な雰囲気だ!

黙って探索していると気が滅入るので歌う!
大きな声で『ハナミズキ』を歌う!
モンスターに襲われる!
みんなが駆逐する!

腹の底から『空も飛べるはず』を歌う!
モンスターに襲われる!
みんなが駆逐する!

滅多やたらに『ギャランドゥ』を歌う!
モンスターに襲われる!
みんなが駆逐する!

「お父さん…お願いだからダンジョン内で歌わないで。敵が寄ってくるから…」
半泣きの息子に止められた。
「もしくはお前も戦え!歌っているだけで戦闘は何時も観戦だ!」
ピエールがキレた。
「がうにゃん」
プックルに慰められた。
「で、でも…何時も楽しくて良いと思うな…」
娘がフォローしてくれた。
「ポピー大好き!」
娘を抱き上げ、クルクル回りながら踊る。

(ドン!)
娘を抱き上げ一人ロンドを踊っていると、何やら煉瓦造りの壁に衝突した。
「いた~い。何でこんな所に壁があるの?」
「ふんがー!」
「お、お父さん!壁じゃ無い!」
ポピーが上を見上げて驚いている。
俺もつられて見上げると…
「ふんがー!!」
そこには煉瓦造りのゴーレムが立っていた。
何か怒ってるし!
ゴーレムは巨大な拳を振り回し攻撃してくる。
俺はポピーを庇いつつ、拳をのらりくらりと避けかわす。

うわぁ~…あの拳骨に当たったら痛いだろうなぁ~。
逆鬼師匠の拳骨レベル?(誰だよソレ)
しかし俺に拳が掠りもしないので、更に怒り出すゴーレム。
勝手だなぁ~…
って言うか、何で誰も助けてくれないの?

仕方がないので抱いていたポピーをサンチョにパスして、ゴーレムに対峙する。
俺は右手をゴーレムに翳して牽制してから話し出す。
「待ちたまえ!何をそんなに怒っているのかね?」
「ふんふんふんがー!ふがふんがー!!」
「勝手だなぁ~!」
ゴーレムは両腕を振り回して突進してくる!
当たってやる義理はない。
難無くゴーレムを避けると、勢いの付いたゴーレムはそのまま壁に激突する。
激突した壁が崩れ、ゴーレムが塔の外へ落ちた!
塔全体が老朽化しているのだろう…予想以上に脆い!

現在の標高は槍ヶ岳レベル。
煉瓦造りの彼でも、さすがにマズいかな?
「ふ、ふん…が~」
ゴーレムは壁の縁に何とか掴まり、落下を凌いでいた。
俺は慌てて壁の穴から身を乗り出し、ゴーレムの手を掴むと塔内をイメージして魔法を唱える。
「ルーラ」



「ふんがふがふんが!?」
ひとまず大惨事は回避でき、落ち着いたところでゴーレムが礼を言ってきた。
「いやいや…助けるのは当然だろ!」
あのまま見捨てたら、正直後味が悪いし…
「ふんが~?ふんが」
「別に構わないけど…」
うむ…意外と律儀な子の様だ。
「ふんふんがー!ふがんが」
「そうか、よろしくね。ゴレムス!」

俺とゴレムスの話が一段落すると、ピエールが困り顔で訪ねてきた。
「リュカ…頼むから、通訳と説明をしてくれ」
めんどいなぁ………大体の流れで察しろよ!
「彼はゴレムス。聞こえてくる歌が気に入って近付いたら、歌が聞こえなくなった。だから怒っていたんだって。そして、命を救われたから、仲間になるってさ」

何故だか皆呆れている。
おかしいな…要点はちゃんと説明したのになぁ…
「…本当に…そんなにくだらない理由なのか?」
「何でピエールは何時も僕の事を疑うの?」
「いや…すまない…疑った訳では…」
この後、俺達は強力な仲間を新たに加え、並み居る強敵を粉砕しつつ塔の上部へと突き進んで行く。
俺の歌声と共に…


<天空への塔>
ドリスSIDE

いくら暇でもお腹はすく。
拾い集めた枯れ木に火を付け食事の用意をし、簡単な料理を作る。
料理も出来上がり、みんなを呼びに鍋の側を離れた途端、上空から塔の外壁が落ちてきた!
「な!?」
私には被害はなかったのだが、よりによって出来上がった料理を直撃した。
結構手間暇かけて作った料理に…

暇は解消された。
また食事を作らないと…
暇を呪った自分が憎い。

ってか、何で外壁が落ちてきたのよ!?

ドリスSIDE END



 

 

54.ふざけてはいないのだが不真面目な奴がいる。そう言う奴はキーマンになる。

<天空への塔-内部>

天空への塔の最上階には天空城は無かった。
代わりに妙な爺さんが居て『マグマの杖』をくれた。
貰える物は貰っておくよ。

爺さんが言うには、
「天空城はその力を失い、世界の何処かの湖に沈んでしまった」
らしい。
天空城なのに水中にあるんだってさ!
今、水中城になっているってさ!(笑)
爺さんはそこまで話すと消えちゃった…
幽霊だったのかな?

あ!
そう言えばビアンカってまだお化け怖いのかな?
未だに怖がっていたら可愛いよね!
何かムラムラしてきちゃった…
ラインハットにでも行こうかな~…

「ねぇ!世界中の何処に天空城(笑)が沈んでいるか分からないし、一度一息入れる為ラインハットへ遊びに行こうよ!」
双子ちゃんはコリンズ君と遊べばいい…俺はマリソルと………

「リュカ様!何を暢気な事を言っているのですか!今は一刻を争う時ですぞ!一旦グランバニアへ戻り、対策を協議しましょう」
サンチョに却下されちゃった。



<グランバニア城>
ドリスSIDE

今グランバニアの会議室では、世界中の湖探索の為に慌ただしく協議をしている。
親父や軍の高官、各大臣にピエール、マーリン、ピピン、サンチョ、そして私…
グランバニアは国家の総力を挙げて天空城の捜索に力を入れるつもりだ!

だが…
肝心のリュカが朝から居ない!
双子を連れてルーラで何処かに消えた!
私を含め、皆ご立腹だ!
さすがのサンチョも怒っている!


翌日の昼過ぎ…
リュカと双子は帰ってきた!
親父が戻ってきたリュカに怒鳴ろうとした時、
「リュ「天空城が何処に沈んでいるか分かったから、明日朝一に出発ね」
挨拶もせずに、一方的に自分の言いたい事だけを言う男…
「「「「え!?」」」」

リュカは何処で情報を得たのだ!?
私達は昨日一日中話し合って、世界中の湖を探索する段取りを付けたのに…
「リュ…リュカ…天空城が何処にあるのか…分かったのか?」
親父が驚きながら訪ねている。
もう怒りは無いようだ…

「うん!エルヘブンのちょい南の湖に沈んでたよ」
「ちょ、直接見たの!?」
「何でそこだと思ったんだ?」
「何処からその情報を!」
みんなが一斉に疑問をぶつけ出した。

リュカはみんなを落ち着かせると話してくれた。



ラインハットのシスターが天空城の伝承について語っていたのを思い出し、色々聞いたそうだ。
それと、9年前のラインハットの争乱の時に書庫で天空城の事についての書を見た記憶があったので、ついでに読み漁り大まかな位置を確認したらしい。

そして帰りのルーラで飛行中に、その場所を目視確認して帰ってきたそうだ。
「ただ、遊びに行っていた訳じゃないのね…」
みんなさっきまで怒り心頭だったのに、今ではリュカに尊敬の眼差しを向けている。
特に探索を実行する軍人達からは、これ以上ないくらいの敬意を払われている。

ドリスSIDE END



<地下遺跡の洞窟-前>
ティミーSIDE

僕達は今、大きな湖の側にそびえ立つ大きな山の前に来ている。
ここまで来たのは良いけれど、どうやったら天空城を復活させられるかが分からない。
サンチョ達が話し合っている中、お父さんはマグマの杖を振り回しながら歌っている。

今、このパーティーは2派に別れている。
サンチョやピエール、マーリン、ドリス、ピピン、サーラの頭を悩ましているチームと、お父さんを中心とした歌って踊っているチームと…
僕としては、お父さんのチームに入りたいけど…伝説の勇者としては真面目に考えるチームに入らないとダメだよね…
ちょっと寂しい…

「「やかましい!お前も少しは考えろ!」」
ドリスとピエールが怒り出した。
よかった、真面目チームに入ってて!

「わぁ!」
お父さんは怒られた拍子に、振り回していたマグマの杖を放り投げてしまった様だ。
大きくそびえ立つ山に杖が突き刺さる!
「もー!急に大声出さないでよ!ビックリするじゃないかぁ~」
お父さんは悪びれた様子もなく、杖を回収しようとしている。
何でへこたれないんだろう?

「私達が真面目に考えているのに、貴様 (ゴゴゴゴゴゴッ)な、何だ!」
「地震か!?」
急に大地が震えだした!
よく見ると山に突き刺さっているマグマの杖が、真っ赤に燃えだしている。

「!!ルーラ!」
いきなりお父さんがルーラで少し離れた所まで、みんなを連れてきた。
「ど、どうしたの?お父 (ドゴーン!!!!!!!)え!?」
先程まで居た山がいきなり噴火をして、地形を変化させている。
先程まで居た場所も溶岩に飲まれてしまった。

もし、あの場に留まっていたら…お父さんはやっぱり凄いなぁ…
僕…伝説の勇者なのに…全然敵わない…
お父さんの方が勇者に向いている…
強いし…モンスターと話せるし…色んな事を解決しちゃうし…
何で僕…勇者になんか産まれちゃったんだろう…

ティミーSIDE END



 

 

55.メリーゴーランドとかコーヒーカップとか、同じ所を回るのが好きな人がいる。

<地下遺跡の洞窟-前>

突然の噴火は1時間程で収まった。
仕組みかよく分からんが、溶岩の熱も無くなり普通に歩く事が出来る。
高く切り立った山の麓を見ると、人一人が何とか入れそうな穴が開いている事に気が付いた。
中を覗くとかなり奥の方まで続くダンジョンになっている様だ。
とは言え、大人数で入るのは無理そうなので少数で探索する事に決まった。

当初は俺と、双子と、サンチョで入ろうと思ったのだが…
「私が行く!もう、留守番なんてイヤよ!何の為について来たと思っているのよ!留守番要員じゃないわよ!」
って言って、さっさと入っていちゃったのでサンチョの代わりにドリスを含んだ4人で探索する事に決まった…
勝手だなぁ~…


最初の内は狭く長い回廊が続いていたが、急に拓けた場所が現れた。
採掘現場の様な造りの洞窟内には、縦横無尽に線路が走っており各所にトロッコが置かれている。
「トロッコの眼」
「?トロッコに眼なんてないよ?お父さん」
「ティミー君!そのツッコミは間違っている!そこは『シロッコの眼だろ!』って、ツッコミが欲しかった」
「あ…う、うん…ごめんなさい…でも、シロッコって何?」
「…ごめんなさい。忘れて下さい」
彼らにシロッコと言っても分かる訳ないよね。
『落ちろカトンボ!!』のパプテマス様なんだけどね…


しっかしこの洞窟は厄介だ!
敵は殆どいないのだが…トロッコを上手く操らないと先に進めない仕組みになっている。
途中にある切り替えポイントを操作しないと、トロッコを元の位置に戻してやり直しになる。
パズル的な要素が強い!
誰だよ…こんな事を思い付いたヤツは!?

「あ~も~!僕、こう言うの苦手ー!無理矢理付いてきたドリスさん、頑張ってー!」
「わ、私は戦闘要員ですので、こう言った頭脳労働は国王陛下の領分です。私ども家臣は陛下に付き従うのみです」
「勝手だなぁ~…何でこう言う時だけ敬語なの?」
実に我が儘なねーちゃんだ!

「お父さん。みんなで頑張りましょ!モンスターもいないから、ゆっくり落ち着いて攻略出来るよ」
どうやらポピーはビアンカ似の様だ。
良い娘だなー!
嫁にやりたくねー!!
将来『娘さんを僕にください!』なんつー輩が現れたら、どごぞのハゲの様に無理難題を押し付けよう。
リングを2つ取ってこい的な!


少しずつだがダンジョンを奥に進むと、一台のトロッコが同じ所をグルグルと回っている現場に遭遇する。
「だ~れか、た~すけて~~!!!」
トロッコには一人のおっさんが乗っているのだが、楽しんでいる訳では無い様だ。
明確に『助けて』と叫んでいるので、無視する訳にもいかない…
助ける為切り替えレバーを操作しようと思う、が…錆び付いているらしく動かない。
力任せにレバーを動かす!
鈍い音と共にレバーが動く。
同時にレバーが壊れる。
ループ車線からストレート車線へトロッコは移行し、線路の終着点へ着くと勢いそのままでおっさんは放り出された。
大丈夫かな…あのおっさん。


「いや~…助かりました」
おっさんはひょっこり起きあがり、何事もなかった様に近付いてくる。
丈夫だな…
「申し遅れました、私は天空人のプサンです」
「はぁ…よろしく…僕はリュカ、ティミーとポピーは僕の子供です」
「初めまして」
「よろしくお願いします」
「私は、ドリスよ。このパーティーの実質的なリーダーよ!」
勝手だなぁ~…

「あの…何故こんな所に?」
話を変える為に、俺はプサンと名乗るオッサンに尋ねてみる。
「はい。私は墜落した天空城を目指していたのですが、切り替え間違えまして…20年間もあそこで回ってました」
「…へー…」
ヤバイ!この人馬鹿だ!
あんな勢い良く放り出されてもケロっとしているのだから、トロッコから飛び降りても大して怪我はしないだろうに…
にも関わらず20年間も…

「あなた方も天空城を目指しているのですか?」
俺がドン引きしているのに気付かず、プサンは尋ねてきた。
「はい。やはり、この洞窟から天空城へ行けるのですね」
「はい。私が乗っていたトロッコで真っ直ぐです!」
え、大丈夫かな?
「切り替えさえ間違えなければ大丈夫ですよ」
説得力ねぇ~!20年の重みはでかいね。





<天空城>

プサンの言う通り、あのトロッコに乗って直走ると、急に視界がぼやけ気が付いた時には水中の城の前に立っていた。
「ここが天空城(笑)!」
「リュカさん…何で笑うんですか?正真正銘の天空城ですよ!」
天空の意味、分かてるのですか?(笑)
「だぁ~てぇ~…天空に無いじゃん!水中城じゃん!」
「ぐっ…な、何故墜落したのか原因を調べてみましょう!」
そう言うとプサンは俺達を誘い、城の奥へ進んでいく。
ちょっと悔しそうだ。


プサンに付いて行くと、奇妙な部屋に辿り着いた。
「やや!ここにあるはずのゴールドオーブがありません!どうやらゴールドオーブ紛失が天空城の墜落の原因の様です!」
何も乗っていない台座を見て慌てふためくプサンの姿が滑稽だ!
「じゃぁ…もう二度とこの水中城は天空城に戻らないんですね」
だとしたら名前の変更を要求する!
「いえ!ゴールドオーブさえあれば、この城は天高く浮かび上がります!リュカ、探すのを手伝って頂けますか?」
うっ…また面倒事の予感…

「べ、別にいいですけど…何処にあるのか分からない物を探すのは…」
遠回しに断ってみる。
「今からゴールドオーブの残留思念を辿ってみます。リュカの頭に直接ビジョンを送りますので、そこへ行って手に入れてきて下さい」
そんな便利な事が出来たのね…
「では、いきますよ」
出来れば遠慮したい…
「お手柔らかに…」



 

 

56.知りたく無い事もある。でも、知ってしまったらどうすればいいの?

<天空城>

「では、いきますよ」
「お手柔らかに…」
プサンが瞳を閉じて瞑想状態に入っていく。
それと同時に俺の頭の中にゴールドオーブに関わるビジョンが鮮明に浮かび上がる。


ゴールドオーブは天空城の床に出来た穴から落ち、見覚えのある古ぼけた城へ落下する。
懐かしのレヌール城だ!
そして月日がたち、二人の男女の子供がゴールドオーブを拾い持ち帰る。
「って、これ俺じゃん!やっべー、フレアさんにあげちゃった!」
「リュカ!ビジョンの方に集中して下さい!まだ続きがあります」
いかん!集中!

ゴールドオーブを持った俺は、サンタローズの教会の前でフレアさんと旅の男と話をしている。
「そう言えば、あの男が『誰にもあげるな』って言ってたっけ!何かアイツの言う通りにしておけばって思うのがムカつく!」
「リュカ!集中を!」
集中、集中!!

ゴールドオーブをフレアさんに渡している俺が見える。
フレアさんはゴールドオーブを大事に保管してくれてた様だ。
するとサンタローズにラインハット兵が攻め込んできた!
無抵抗な人々が兵士達によって殺されている!
神父様もフレアさんの目の前で殺された!
そして…フレアさんが大勢の兵士達に犯されている…
代わる代わる何人もが何度も何度も…
ぐっ………これ以上…見たくない…

「リュカ…目を逸らさないで下さい。ゴールドオーブの行方に集中して下さい」
……………
性欲を満足させた一人の兵士がゴールドオーブに気付き、自分の懐へ入れ王都へ帰って行った…
ラインハットへ帰った兵士は、仲間の兵士達にゴールドオーブを見せびらかしている。
そこへ太后が現れ…いや、偽太后が現れてゴールドオーブを没収して行きやがった…
「ここまでしか追跡出来ませんでした…」
「じゃぁ…ラインハットにあるのですね!行ってきます!」
俺は直ぐさまルーラを唱えた。



<ラインハット城>

「ヘンリー!」
「お!?どうしたリュカ…血相変えて」
「偽太后が接収した財宝類は何処にある!?」
「分かる限り持ち主に返したが…分からないのは城の保管庫にしまってある」
「今すぐ見せてくれ!その中に大切な物があるんだ!」
俺は殆ど脅しに近い状態でヘンリーに詰め寄った!
「わ、分かった、分かったから…」


保管庫には無造作に財宝類が山積みになっていた。
まぁ…一つ一つ梱包されていたら探しにくいのだが…どれもこれも、キンキラ光っていて探しにくい。
あの時オーブを手放さなければと思うと、何か焦るね。
「なぁ…リュカ…何を探しているのか教えてくれないか?」
うるせぇーな…今忙しいのに…

「ゴールドオーブ。金色の宝玉だ!」
「これか?」
ヘンリーは別の所から、ゴールドオーブを取り出した。
「全部ここにあるんじゃないのかよ!何で別にしてあんだよ!財宝の山を探し回ったのは無意味かよ!」
「す、すまん…マリアが、これには魔力が籠もっているからって言うから…別にしておいた」
「もっと早く言えよ…てか、もっと早く聞けよ、何探してるかを!」
「ま、まぁ…見つかった事だし…ほら!………ところで何なんだ、それ?」
「説明がめんどいから、今度ゆっくり説明する!じゃ!」

俺はゴールドオーブを受け取ると、一目散に引き返した。
途中、マリソルとすれ違い何か言おうとしていた様だが完璧に無視した。
今度来た時に謝らないと!



<天空城>

天空城(笑)へ戻ると一目散にプサンの元へ行き、ゴールドオーブを手渡した。
プサンはゴールドオーブをしげしげと観察すると、
「これはゴールドオーブではありません。偽物です!」
「あ゛?何言ってんの!?ビジョンで見たじゃん!その通りにラインハットにあったじゃん!」
お前が見せたんだぞコノヤロー!

「どうやら途中ですり替えられた様ですね。あまりにも良く出来た、魔力まで帯びている偽物だったので騙されました」
「ふっざけんなよ!じゃ、何処にあんだよ!」
何だったの?この無意味な時間は?
子供達、待ちくたびれて寝てんじゃん!

「リュカ。貴方がゴールドオーブを手に入れてから他に誰が触りましたか?多分、その人がすり替えたんです!」
「え~と…あ!ビアンカ…は、触ってねーや………あぁ、フレアさんに渡した………いや!その前に、あの男が勝手に触りやがった!」
「きっと、その人でしょう!」
「あの野郎!フレアさんを奪っただけでなく、ゴールドオーブまで奪いやがったのか!」
「ちょっと!リュカ!フレアさんを奪うってどういう事?」
ドリスが何やら怖い顔でツッコンでくる。
「え!?いやぁ…ワ、ワスレテクダサイ。…ってか、今はそれどころじゃないでショ!」
狙ってました、なんて言えないでショ!

「で!プサン!あの男は何処へ行ったんですか?」
「それが…どうやら、あの人は別の次元から来たらしく…追う事が出来ません…多分、この世界にはゴールドオーブは無いのでしょう…」
何だよ別次元から来たって…

じゃぁ…何だったんだよ!
あんな胸くそ悪いビジョン見せやがって!
「じゃぁ、この城は水中城って事でいいですね!」
ちょいギレ気味で言い放つ。
「いえ…まだ方法はあります。エルフの女王に頼みます」
エルフの女王?
それって、もしかして…

「それはポワン様の事ですか?」
「リュカはエルフの女王に会って事があるのですか?」
やっぱり!
「以前に…」
「では、話が早い!この宝玉を持ってエルフの女王の元へ赴いて下さい」
「どうやって?」
「………以前に会ったのでは?その時はどうやって?」
………………………………………………………………………………………………………
どうやって?



 

 

57.過去とは、現在への土台であり、未来への教科書でもある。過去に学べ。

<サンタローズ>

俺は今、一人でサンタローズの元実家の地下に来ている。
元実家と言っても、地上階は何もない瓦礫だけどね…
その地下で俺は四苦八苦している。
壁や天井を触ったり、叩いたり、撫でたり、くすぐったり…くすぐる?

「あの~リュカさん…何をなさっているのですか?」
振り向くとリュリュが不思議そうな顔で俺を見ている。
やっべ!
壁くすぐっているところを見られた!
ハズガシー!!

「お母さんから聞いてない?とても奇妙な事をする男だと」
俺は髪をかき上げ、恰好付けながらリュリュに尋ねる。
「い、いえ…そうは聞いてませんが…」
どんな事を聞かされているのか気になるなぁ…

「あの!」
リュリュは俺の奇抜な行動には深入りせず、意を決した様に声をかけてきた。
「なぁに?」
俺は視線を合わせ、顔を覗き込み訪ねる。
もしかしたらこの娘は俺の事を嫌っているかもしれないから…

「あの…他の人が居ないとこでは…私も…お父さんって…呼んで…いいですか?」
どうやら、辛うじて嫌われてはいない様だ…
だが俺はダメ親父だ!間違いなく…
でも、これ以上はダメにならないようにしないと!
「リュリュ。僕は君のお父さんだ。何時何処で誰が居ようと、お父さんて呼んでくれて構わないんだよ」
そうさ…俺が招いた事態なのだから、逃げ出す事は許されない!
ましては可愛い娘に遠慮をさせるなど、以ての外だ!
「お、お父さん!お父さん、お父さん!」
リュリュは泣きながら俺に抱き付き、お父さんと連呼する。
やっぱ子供って可愛いなぁ…

気が付くとフレアさんが俺達を見守っていた。
もしかして…壁をくすぐるハズカシー姿も見られたかな?



リュリュを落ち着かせ、教会でフレアさんに経緯を話した。

「そっか…ラインハット兵が攻め込んできた時の事を、リュー君見ちゃったんだ…」
正直見たくなかった…フレアさんだって、あんな場面は見られたくないだろう…
「………ごめんなさい………」
「やだ!リュー君が謝らないでよ…私こそごめんね。こんな状態の女で…」
俺はフレアさんにキスをすると、そのまま押し倒していた。

「違う!フレアさんは悪くない!!悪いのはフレアさんに酷い事をした奴らだ!僕はフレアさんの事が大好きだ!どんな事があったって関係ない!」
「リュー君…」
俺とフレアさんは重なり見つめ合っている。

「あ、あのぅ!わ、私……お外へ行ってきます!!」
「「あ!!」」
リュリュが居るの忘れてた!
「ごめん!リュリュ!いいよ、気を使わなくて!ここに居ていいから」
「ごめんなさい、リュリュ。つい…」
「お父さん…お母さん…」
真っ赤な顔でこちらを見ているリュリュ…
本当に父親失格だな!

「と、ところでリュー君は…いつ、その妖精の国に行ってきたの?」
流石に恥ずかしかったのだろう…フレアさんが慌てて話題を変えてきた。
「あ、あぁ…え~と…あれは…フレアさんに黄金の宝玉を渡す前まで、妖精の国に居たんだ!」
「じゃぁ…あの桜の枝は、妖精の国から持ち帰った物なのかしら?」
「桜?」
何か持ち帰ったっけ?
「ちょっと…忘れちゃったの?桜の枝を育ててって、渡してくれたじゃない。教会の横に咲いている桜は、その時の桜よ」
「そうだ!!ポワン様が誓いの証ってくれたんだ!」
俺は慌てて桜の元へかけだした。


桜の木へ触れ、心の底から祈る。
ポワン様、困った事があったら力になるって言ったよね!
今困ってます!
すんごく困ってます!
何故だか困ってます!
タチケテ~




<妖精の国>

俺の祈りが通じたのか、元からこうしたシステムなのか…よく分からないが、気付いたらポワン様の前に立っていた。
「お久しぶりです、リュカ」
相変わらず可愛いなぁ…
歳とってないんじゃね?

あっと…そうじゃねぇーや!
「あの、ポワン様!」
「分かっております。ゴールドオーブの事でしょう」
「そうです!これです!」
俺は懐から光る宝玉を取り出す。

「リュカ…大変申し訳ありませんが、今の我々には天空城を浮上させる程の魔力を持っている者はおりません」
何なの今日!
無駄に胸くそ悪いビジョン見て、無駄にラインハットまで行って、無駄に財宝の山を漁って、無駄に壁をくすぐって、無駄にポワン様に泣き付いて…
「でもリュカ。方法はあります」
出た!
また無駄へ誘う魔法の言葉。

「大変危険ではありますが、これしか方法がありません」
うん。無駄でもいいから、危険な事は止めましょう!
「ポワン様!みんなで一緒に違う方法を模索しましょ!大丈夫!きっと、良い方法が見つかりますよ!」
安全第一!
「いえ!これしか方法はありません!今からリュカ…貴方を過去の世界へ送ります。ですが気を付けて下さい。人々にこれから起こる未来の事を教えてはなりません」
「………何で?」
「過去が変わってしまうと、現在の貴方の存在が消えてしまうかもしれないからです。例え不幸な事でも、起こらなければ今の貴方は存在しないのです」
何だかよく分からないけど、余計な事しなければいいんだよね!?

「要はゴールドオーブさえ、すり替えてくれば良いんでしょ?楽勝ッスよ!」
そうさ!
あの男より先にゴールドオーブをすり替えれば良いんだから!
「いいですか!気を抜かないで下さい。とても辛く、危険な任務ですよ!」
も~…ポワン様は大袈裟だなぁ~!
過去の俺からゴールドオーブをくすねて来れば良いだけじゃん!
今までで一番、楽勝なミッションだよ!
そう言えば誰かが言ってたな…ポワン様は天然だって!
きっと、危険視するポイントがずれてるんだ!
単純明快超楽勝!
じゃ、チャッチャカ行って、水中城を天空城に戻してやるかな!



 

 

58.耳は遠くの事まで聞く事が出来るが、目は近くの事しか分からない。

<サンタローズ>

俺の目の前に風光明媚な村が広がっている。
とても美しい村が…
ここはサンタローズ…
ラインハットに攻め込まれる前のサンタローズ…俺は教会の横で村を一望している。
もう春だというのに肌寒いこの村で、人々は日々の営みに従事している…

「あの…旅のお方…どうかなさいましたか?」
荒らされる前の美しい風景に見入っていると、後ろから声をかけられた。
「申し訳ありません。あまりにも美しい村…だった…の…で…!」
振り返るとそこには、まだ10代半ばの美しいシスターが不思議そうな表情でこちらを見ている。
「?どうかしましたか?」
「し、失礼…美しいものに目が無くて…貴女はとても美しい!」
何より若い!
「まぁ…お上手ですのね」
恥ずかしそうに顔を赤らめる若かりしフレアさん。

そうだ!
このままじゃフレアさんは酷い目に遭ってしまう!
何とか助ける方法はないだろうか?
「シスター!貴女はこの村から離れるべきだ!」
俺は気付くとフレアさんに忠告していた。
「え!?何ですかいきなり!」
「今から1.2年後にこの村は滅ぼされる…その時貴女は酷い…不幸な目に遭ってしまう!せめて、その期間だけでもこの村から離れた方がいい!」
ポワン様には未来を変える様な事をしてはいけないと言われたのに…

「貴方は…占い師…ですか?」
「………いえ……ただ…貴女の未来を憂う者です…」
「…村人を見捨てて、私一人だけ逃げろと仰るのですか?」
確かにその通りだ…俺は卑怯にも彼女だけを助けようとしている…
「………はい……しかし、貴女の様な美しい女性が体験してはいけない事態が訪れます!ですから…どうか…」
未来を知っているとはこれ程辛い事なのか…

「お気遣いありがとうございます。ですが私はこの村を見捨てません!それに、失礼ですが…貴方の仰る通りの未来が訪れるとは限りません」
フレアさんはとても優しい笑顔で微笑んでくれた…
「しかし!私は貴女に幸せになって欲しい…不幸にはなってほしくない…」
「何故…初めてお会いした私を…気にかけてくれるのですか?」
心がはち切れそうだ…俺がフレアさんの事を知っていても、フレアさんは俺の事など知るはずがない…俺はまだ6歳の子供なのだから…
「…申し訳ありませんでした…詮無いを言ってしまって…」
「…い、いえ…」

フレアさんが俺の瞳を見つめている…
俺も彼女も互いに目を離せないでいる…
二人の男女が重なり合うのに、これ以上の事は必要なかった…



先程、物置小屋でフレアさんとキスをしていると、リュカ(6)と目が合った。
あのガキ…何、覗いてんだ!
まぁ…いい…
フレアさんの処女は俺が守ってやったんだ!
感謝しろよ!


教会の正面で途方に暮れているリュカ(6)を見つけ声をかける。
「やぁ、リュカ(6)。綺麗な宝玉だねぇ」
そう言って、リュカ(6)の手からゴールドオーブを奪い取る。
「あ!ちょ「あら?リュー君。私に会いに来てくれたの?」
文句を言おうとしたリュカ(6)の言葉を遮り、フレアさんが遅れて訪れた。
今がチャンス!!
リュカ(6)の視線がフレアさんに向いた隙に、ゴールドオーブと光る宝玉をすり替える。
もう用は無いし、あの男が何時来るか分からんし終わらせよう。

「ありがとう。これ返すよ」
偽物でも無くされたら困る!
俺は強引にリュカ(6)の腰の袋にしまい込んだ!
そして俺はリュカ(6)と同じ高さの目線になって囁く。
「その宝玉は、とても貴重な物だ。人にあげたりせず、大事にするんだよ」
「う、うん…」
うん、やはり俺は素直な良い子だ!

よし、ご褒美に安心させてやろう。
「フレアさんの処女は俺が貰った」
安心しろ!
フレアさんの処女は未来のお前の物だゾ!
お!?嬉しいのか、目を見開いて驚いている。
うん、これであの男が来ても大丈夫!

ただ…フレアさんを村から退避させられないのが心残りだ…
「それではシスター。私はこの辺で…あなたに出会えた事は、私の一生の宝です」
「まぁ…」
あ~…やっぱりフレアさんには幸せになって欲しいなぁ~…
「あの…お名前を教えて頂けますか?」

名前?
何て言う!?
リュカ(6)の前でリュカです、って言ったらマズイよね!
「次、お会いした時に名乗らせて頂きます。では、またお会いしましょう」
帰ったら、あの時のは僕でした~って言って、イチャつこう!



<サンタローズ-パパス邸>

実家の前で物思いに耽っていると中からサンチョが現れて俺を中に引き入れた。
どうやらパパスの客と勘違いしたらしい…
2階に案内され書斎に入ると、そこにはパパスが佇んでいた。
幼い頃は大きく見えたのに、今では俺と大して変わりはない…
瞳の奥が熱くなる…だが、ここで泣く訳にはいかない!
ぐっと涙を堪えパパスと対峙する様に向き直る。

「君は…どなたかな?いったい、何用かな?」
久しぶりに聞いた父の声…
「…はい…貴方はこれからラインハットへ赴くのでしょう」
マジで泣きそうになったので、慌てて話しかける。
「ほう…よく…知っているな…」
パパスが警戒心を露わにする。

「行けば不幸になる!行ってはいけない!と、言っても貴方はラインハットに行くのでしょう」
間違いなくいくだろう…
パパスがグランバニアの王だったとすれば、ラインハットの王とも知己だったかもしれない。
この人は知人の頼みを無碍に出来ない人だ…
それが俺の尊敬する父…パパスなのだから。

「君は占い師なのかね?生憎だが私は占いは信じないのだ」
「いえ…占いではありません…ただ…未来を憂う者です…」
「………」
自分でも思う…胡散臭い人物だと…
パパスも俺の事を疑っているのだろう。

「…貴方の息子さんは……リュカ(6)はこの先…極めて不幸な人生を歩みます」
俺が…息子が窮地に陥ると知れば、考えを変えるかもしれない…
「リュカが…」
そうすればパパスはラインハットには行かなくなる。
そしてサンタローズにも兵は押し寄せず、フレアさんも不幸にならないかもしれない…
「はい。ですから……………」

………いや!
これ以上言ってはいけない!
未来を変えてしまう…

「ですから、息子さんに優しくしてあげて下さい。息子さんは貴方の事が大好きなのです!」
俺はそこまで言うと、踵を返して立ち去った!
後ろではパパスが…父さんが何かを叫んでいるのだが振り返る事が出来ない!

もう…涙が溢れて止まらない…
俺は実家を出て歩き出す。
何処を歩いたのか分からない…
後ろを振り返らず…ひたすら歩いた。



<妖精の国>

気が付くと目の前にポワン様が佇んでいた。
ポワン様は静かに…優しく俺の頭を抱き締めてくれた。
俺はポワン様に抱き付き…声を殺して泣き続けた…
父さんを見殺しにした事に…フレアさんを見捨てた事に…



 

 

59.過去に犯した過ちは、いずれ未来で償う時がくる。大小違いがあるけどね。

<妖精の国>

泣く事に集中しすぎてポワン様の胸の感触を味わう事を忘れました。
「あの…もう1回その胸で泣いていいですか?」
「顔がにやけているからダメです」
ちぇっ!

少しポワン様と大人な会話(近況報告とか今回のお礼とか)をし、帰ろうかと思った時に隣の部屋から騒がしい面子が押し寄せてきた!
「リューくーん!!」
真っ白いドレスに、スリットが深く入ったスカート。
それにマッチしていない青紫のスカーフを首に巻いた、ナイスバディの美女が抱き付いてきた!
オッパイが柔らかい!

「もー!こっちに来ているなら会いに来てくれてもいいじゃない!」
誰?
「こら、スノウ!!リュカだって忙しいのよ!アンタなんかに構っている暇ある訳無いでしょう!」
あ!
この娘は確か…
「そうだぜ。スノウ!リュカは天空城復活の為に動いてんだぜ。オイラ達に構ってられないよ」
コイツ誰?
居たっけ?
俺の目の前でギャーギャー騒ぐ三人を見ながら、必死に記憶を呼び覚ます。

え~と…こっちの女の子は…確か…!
ベラだ!
そうだよ、ベラだ!
ピンクのパンツのベラだよ!
何度かボコられたけ…

こっちの美女は…スノウ?
………あ!雪の女王スノウだ!
相変わらず良い女だ!
ご馳走になりたいね!

そのチビは誰だ?
全然思い出せん!
「な、なぁ…もしかして…オイラ達の事忘れてないか?」
「ベラとスノウは覚えているんだけど…君、誰?」
「ちょ…そりゃないだろ!壮絶なバトルを繰り広げたオイラ達だろ!」
バトルぅ?
「妖精の世界でバトった覚えは無いのだが?」
「リュカ、安心して。貴方は妖精の世界では1度も戦闘をしていないわ。このザイルが勝手に襲いかかって自爆しただけだから」
「………あぁ…そ…ザイル君て言うんだ。初めまして、よろしく」
「そんなぁ~つれないなぁ~」
6歳の時の事など事細かに覚えている訳ねぇーだろ!
特に男の事なんか…

「そんな事より、リュー君!責任取って下さい」
せ、責任!
何事!?
俺またやっちゃった!?
子沢山か俺!?

いやいやいや!
ないないない!!
ありえない!
あの時俺6歳よ!
ムリだから!ムリ!

「春風のフルート事件の後…私、雪の女王を解任されちゃった!責任取ってよぉ!」
俺関係無いじゃん!
自業自得じゃん!
やめてよ、悪質な言い掛かり!
『責任取れ』なんて、前科持ちの俺にはNGワードですよ!

「自業自得って言葉、知ってる?スノウ…」
「私、リュー君に付いて行く事に決めた!ここにいても暇だし」
うわぁ~何、この女…
「あのね、スノウ…今「それに聞いたわよ」
ナニヲデショウ?
「今、奥さんが行方不明中なんでしょ。夜…寂しいでしょ…私が紛らわしてア・ゲ・ル!」
「一緒に行きましょう!」
俺の暴れん坊将軍が勝手に指令を発した。

「リュカ!オイラも一緒に行って手伝ってやるよ!助けて貰った借りを返したいからな!」
え~!
お前はいいよぉ~…
「何でそんなにイヤそうな顔なんだよ!」
「ソンナコトナイヨ。イッショニガンバロウ」
まぁ…賑やかな方がいいだろ…
俺の危険度も減るし。

「リュカ…助かるわぁ~その喧しい連中を引き取ってくれて」
ベラがホッとした様に笑顔を見せる。
しくぢりましたか?俺!?
「ベ、ベラも一緒に行こうよ。僕、ベラの事が好きなんだ!」
飼育係が必要かもしれん!
ベラに押し付けねば!
「私、アンタ達の事嫌いだからヤ!」
実も蓋も底も無い事を言われました。



<サンタローズ>
フレアSIDE

リュー君が桜の木へ吸い込まれる様に消えてから、随分と時間が経過した。
リュリュは疲れたらしく、部屋に戻って眠ってしまった。
私はリュー君が心配で部屋に戻れないでいる…

不意に桜の木が光だし、目前にリュー君が現れた!
「リュー君、お帰り!」
「ただいま。待っていてくれたんだ…ありがとう」
リュー君に抱き付こうとした時、
「なぁ~に?この村ぁ…随分と荒れ果てているわねぇ~」
リュー君の後ろから、露出度の無駄に高い女性が現れた。
随分と服装に合ってない、青紫のスカーフを巻いている。

「リュー君?そちらの方は?」
「あぁ…紹介するね。妖精の国からやって来た、スノウとザ…ザ…ザクロ…君?」
「ザイルだ!間違えんなよ!」
「あはははは、メンゴ!」
妖精の国!?
本当に行ってきたんだ…

「それでリュー君!ゴールドオーブは…」
「うん。この通りバッチリ!」
リュー君は懐からゴールドオーブを取り出した。
私には先程の宝玉と違いが分からないが、リュー君がバッチリと言っているのでバッチリなんだろう。

「リュリュは…もう、寝ちゃった?」
「うん…ごめんね…」
「いや…しょうがないよ。こんな時間だしね。寝顔だけでも見てきていいかな?」
「是非…お願い」
部屋に入っていくリュー君とザイル君。(何であの子まで?)
残ったスノウさんは、私の事を睨んでいる。

「アンタ、リュー君の何なの?」
…私っていったいリュー君の何?
「さぁ…近しい知人…ですかね…」
「ハン!私は、リュー君の愛人(予定)よ!アンタと違ってリュー君に付いて行くんだからね!」
先程の私とリュー君の会話から、何かを感じ取った様で私につっかっかってくる。
私程、濃密な時間は過ごして無いクセに!

「あら、愛人(妄想)さんですか。大変ですねぇ…リュー君、もてますからねぇ…」
「な、何よ!余裕カマして!」
「余裕なんて無いですよ…私には娘が居ます。リュー君との間に出来た…その子育てでいっぱいいっぱいです」
私とリュー君の子…ついつい自慢したくなるわ!

「な!こ、子供!い、いい気になるんじゃないわよ!私だって子供の2.3ダース、すぐに産んでやるわよ!」
「あらあら、大変。出産、子育てをしながらリュー君の旅に付いて行くのですか!?足手纏いにしかならないですね」
「うっ…そ、それは…」
「辛くなったら、何時でもサンタローズに来て下さい。出産も子育てもお手伝い致しますから。愛しいリュー君の子供の為なら、私頑張っちゃいますよ」
スノウさんは何も言い返せず、泣きそうになっている。
ちょっと言い過ぎちゃったかしら?

「こらこら…いい大人がケンカしない!リュリュが起きちゃったでしょ!」
「あ…ごめんね…リュリュ」
「ううん、大丈夫よ…お母さん。お父さんに抱っこしてもらっちゃたし」
リュー君に抱っこされている。
いいなぁ~…実の娘に嫉妬してしまう…リュー君は格好良すぎるよ。
「リュ~く~ん!私も子供産む!リュー君の子、産む!」
「お父さんの子供?じゃぁ、ティミー君やポピーちゃん以外に姉弟が増えるのね!?」
「だったら、私が産むわ!リュリュには父も母も同じ姉弟が必要よ!」
「ちょ、みんな…落ち着いて下さい。」

「リュカ~…大変そうだな!オイラも手伝ってやろうか?」
「お前は」アンタは」君は」黙っててよ!!」
「ご、ごめんなさい。そんな…みんなして怒らないでよ!」
こうして夜は、更けていった。
結局リュー君達は一晩泊まっていってくれた。



………リュー君…体力…あるのね…二人がかりだったのに………



 

 

60.空にそびえる鉄の城。でも、ロボットではありません。ロケットなパンチもありません。

<天空城>

朝一で天空城(笑)に帰ってくると、みんな待ちくたびれていた。
俺もかなりくたびれていた。(ダブルヘッダーはきつい)
ゴールドオーブを手に入れた事を告げると、みんな喜んでくれたが…
スノウとザイルを紹介したら、空気が変わった。
しかも、スノウの自己紹介で最悪なムードになった。
だって「リュー君の愛人(希望)です」って言うんだもん!
子供達、引いてますよ!
そりゃそうですよ。
母親を捜す旅に出ているのに愛人(希望)を連れて帰るなんて…

ティミーは男だから、いずれ分かってくれるだろう。
問題はポピーですよ!
『お父さん、不潔!』的な目で睨まれてますよ!
いや、違うんですよ!
そう言うんじゃないんですよ!
いや…そう言う事昨晩しちゃったけど、違うんですよ!

何かいい訳しないと…
「リュカはお盛んですね」
って、おい!プサン!
余計な事言うな!
お前黙ってろ!

「ふ~ん…お父さんは、お盛んなんだ。ふ~ん…」
キャー!
たすけてー!
リュリュは姉弟が出来るーって、喜んでくれたのに!
フレアさん押し倒した時も、気を使ってくれたのに!
「まぁまぁ…ポピーさん。落ち着いて」
プサ~ン…
「お父さんは男なんですよ。こう言う生き物なんですよ」
フォローになってねぇーよ!バ~カ!(泣)

ポピーとドリスにジト目で睨まれながら、プサンにゴールドオーブを手渡した。
プサンはゴールドオーブを台座にセットし、中央の操作台で瞑想を始める。
大きく天空城(笑)が揺れ、浮かび上がる感じがする。
「ふむ…これ以上高度は上がりませんか…ま、いいでしょう」
どうやらプサンが思っていた程、高くは浮かなかった様だが、これで正真正銘の天空城になったみたいだ。

てな訳で、天空城探索ツアー開催!
湖の前で待機していた仲間を拾い、城内を探索する。
どうやら天空人はしぶとい生き物の様だ。
あの状態だったのに殆どの天空人が生きている。
コックローチの様なしぶとさ。
プサンはみんなの無事な姿を見て、懐かしんでいたのだが急に、
「リュカにお願いしたい事があるのですが…」
と、真面目ぶった表情で話しかけてきた…
きっと面倒事だ!



<ボブルの塔>
スノウSIDE

何だかよく分からないけど私達は今、ボブルの塔と呼ばれるダンジョンを攻略中なの。
リュー君があのヒゲメガネに頼まれて、何かを探しに来たみたいなんだけど…何を探してんのかよく分かんな~い!
私はリュー君とイチャイチャ出来れば何だっていいんだけどね。

この塔は最上階からロープで進入する造りになっている。
めんどくさい造りね!
ロープを伝って下りる時に、リュー君の腕を放さなければならないのが頭にくる!
リュー君ってば、お子さんの前で恥ずかしいのか、
「ちょ…スノウ…離れて歩いてくれない!?動きづらい…」
だって。
も~テレちゃってぇ~!カワイイー!!
「よりによって人間だけのパーティー構成の時に…」
って、ぶつぶつ囁いてたの!
恥ずかしがり屋のリュー君!ちょーかわいー!!


いま、塔の地下の広大なダンジョンを彷徨っているの。
とてつもなく邪悪な気配が充満するダンジョン…
リュー君を見ると、さっきまでは優しい笑顔だったのに今は緊張した面持ちになっている。
でも、真顔のリュー君もステキ!

「お父さん…凄くイヤな気配がするよ…奥に…強い敵が居る!」
ティミー君が泣き言を言っている。
「うん、そうだね。お父さんはこの気配を…この敵を知っている!かなり強い敵だ!(クスッ)…でもティミーは伝説の勇者様なんだから、何時でも余裕ぶってないとダメだよ」
リュー君が優しくティミー君を諭す。
………カッコイイ………
私…邪魔しない様に少し離れてよ…


「ほ~っほっほっほ。まさか、これ程までに邪魔な存在になるとは思いませんでしたよ…リュカ!」
私達の前に、紫色のローブを纏った気色の悪い奴が現れた…この場に居るだけで気分が悪くなる!
「ゲマ!!!」
リュー君はコイツを知っている!
普段見せた事のない形相で睨んでいる!

怖い…こんな怖いリュー君もいるんだ…
「やはり…あの時、お父上と一緒に殺しておけば良かったですねぇ~」
「な!!コイツが旦那様を…パパス様を!」
サンチョちゃんが怒りに震えてる…
「それとも、デモンズタワーで、夫婦揃って殺しておくべきでしたか…」
「コイツが僕達のお母さんを!」
「許せない!!」
ティミー君とポピーちゃんが身構える。

「まぁ…いいでしょう…過去の失敗は、今是正すれば!」
「(クスッ)…出来もしない事を言うな、ボケナスが!」
こんな禍々しく強烈な邪気を発する相手に、怯んだ様子もなく貶すリュー君…
凄いし、格好いい!

「ほ~っほっほっほ…言ってくれますねぇ、リュカ!!さぁゴンズ!やってしまいなさい!」
紫の奴の後ろから、ブタとカバを混ぜて不細工にした様な奴が現れた。
「げ~はっはっは!俺様がお前らをミンチに…し…ぐ………」
しかしゴンズと呼ばれた化け物は、馬鹿笑いしながら喋っている最中に、首が切断され頭が落下する…自分の首が切り落とされた事に気付かなかった様だ。
いや…ゴンズだけではない!
私達皆、リュー君が何時斬りつけたのか分からないでいる。

そして、そのリュー君は既にゲマ向けて凄まじい剣撃を叩きつけている。
洞窟内の壁や天井を使い、非常識な角度から非常識な連撃を浴びせている。
私達が援護をする隙がない。
リュー君の怒りに任せた激しい攻撃が、ゲマを追いつめていく。
「くっ!これ程までに強くなっているとは!!」
ゲマに先程までの余裕は無くなっている。
「ビアンカを何処へやった!」
「なるほど…一撃で私を仕留めないのは、それを聞きたいからですか…」
「いや…お前を嬲りたいだけだ…」
リュー君が薄ら笑いを浮かべながら、ゲマの左腕を切り落とす。
勝負あったわね!

「ほ~っほっほっほ…いいでしょう。今回は私の負けにしてあげます。勝者の貴方に情報を差し上げましょう」
ゲマは余裕をカマして嘯き始めた。
「お探しの奥さんは…セントベレス山頂の大神殿に居ます。頑張って登ってみるのですね。ほ~っほっほっほ」
「光の教団の総本山か…」
リュー君は、そう呟くとゲマの身体を突き刺した!無表情に…
「ん!?手応えが…」
「ほ~っほっほっほ。この身体が私の本体だと思っていたのですか?おめでたいですねぇ…私の本体は魔界にあるのですよ。魔力が大きすぎて、今あるゲートでは通り抜けが出来ない。ほ~っほっほっほ。残念でしたねぇ…絶望なさい!」

ゲマに突き刺したリュー君の剣が、ゲマの身体に浸食されゲマ諸共崩れ去る…
私達の間に、酷い徒労感が漂っている。
ゲマの嫌悪感より…リュー君の本当の姿への恐怖感が…

でも…でも、私は挫けない!
そんな所も含めて、リュー君が大好きだから!
だから、悲しそうな表情で佇むリュー君に抱き付く!
優しいリュー君に戻ってもらいたいから!
奥さんが居ようが、子供が居ようが、関係ない!
リュー君の事が大好きだから!
私の心はリュー君でいっぱいだから!

スノウSIDE END



 

 

61.見た目に騙されるな。

<ボブルの塔>
ポピーSIDE

お父さんが怒ったところを初めて見た。
凄く…怖い…
でも、お父さんは怒るのが嫌いなんだと思う。
だって、今のお父さんは凄く悲しそう…
本当はきっと、モンスターでも殺したくないんだと思う。

ゲマが消え去った跡に、キレイな小さい石が2つ落ちていた。
「お父さん!きっとこれが『竜の目』だよ!塔の中にあった竜の像の目にはめ込むんだと思うわ!」
私はなるべく明るい声で話しかけた。

「わぉ!ポピーちゃん鋭い!さすがはリュー君の娘!」
スノウがお父さんに抱き付きながら明るく喋る。
きっとスノウも、いつものお父さんでいてほしいんだ…
だから戯けて話しかけているのだろう。
さっきまでお父さんにベタベタするスノウが嫌いだったけど、ちょっと好きになっちゃった。
それにしてもベタベタしすぎよね!


ゴレムスくらいある竜の像の頭に竜の目をはめ込むと、口が開き中に入る事が出来た。
お父さんは「趣味悪い仕掛けの像だな…これを造った奴とは友達になりたくないね!」だって。
いつものお父さんに戻ってくれたみたいで良かった。

中には『ドラゴンオーブ』が奉られてある。
「これがプサンの言ってた物かな?」
「多分そうだと思う。凄いパワーだね!」
ティミーがドラゴンオーブを手に取り眺める。

「じゃぁ…こっちの杖は何だろう?」
お父さんは奥に飾ってあった竜の姿を形取った杖に近付き興味ありげに突いてる。
「剣…無くなっちゃたし…貰っても…いいかな?」
そう言いながら杖を手に取り構える。
カ…カッコイイ!!

「キャー!!ちょ~格好いい!!それもうリュー君の為だけに存在している物よね!『貰っちゃう』どころかリュー君の持ち物よ!」
誰も反対意見を言わない…
当然だ…誰がどう見てもお父さんの為に存在している杖だ。
「伝説の勇者より…ティミーより格好いい…」
王者のマントを靡かせ、竜の杖を持つ姿は伝説の勇者を超えた存在にしている。
「ちぇ!天空の鎧が揃えば僕だって!」
私の呟きにむくれるティミー…子供ねぇ~…

ポピーSIDE END



<天空城>

天空城へ戻ってくると、何やら皆さん大騒ぎ中。
一旦グランバニアへ戻って出直そうかな?
「おぉ!リュカ殿!!ちょうど良い時に!」
やべ!見つかっちった!
「実はこの城に不審者が居たのです!」
尋ねて無いのに教えてくれた。
「へー…」
「どうぞこちらへ!」
天空人が俺の手を引き歩き出す。
ちょ、何で俺が!?
関係無いじゃん!
「あ、あの…何で僕を連れてくの?」
「その男が不届きにもリュカ殿の名を出したのです」
別に名前くらい幾らでも出してよ!
巻き込まれたく無いよ~…

玉座の間に来ると、数人の天空人に囲まれて、何やらいい訳ぶっこいているプサンが居た。
不審者ってアイツ!?
プププッ…20年間もトロッコで回ってたから人相が変わっちゃたのかな?

プサンと目が合うと、瞳を輝かせて俺の元へ近付いて来た。
「リュカ!待ってましたよ!それでドラゴンオーブは?」
ティミーの腰の袋からオーブを取り出しプサンに見せる。
「おお、まさしく「そ、それは…ドラゴンオーブ!!」
天空人達がざわめき出す。
「いけませんぞ、リュカ殿!ドラゴンオーブを素性の知れぬ者に手渡しては!!」
何だよ…今まで休眠していたクセに、偉そうに命令するなよ!

「大丈夫だよプサンは。変な人だけど悪い人じゃ無い。ちょー変な人だけど…ものっそい変な人だけど…」
俺は苦笑いのプサンにオーブを渡す。
オーブを受け取ったプサンは、オーブを抱き締め瞑想をする。
するとプサンが眩く輝きだした!
次の瞬間、プサンは消え…巨大な黄金のドラゴンが目の前に佇んでいた。

………何これ?


<天空城>
ピエールSIDE

私達の目の前に、神々しい黄金のドラゴンが姿を現した。
な、何だ…
「マ、マスタードラゴン様!!」
天空人の一人が驚き叫んだ!
マスタードラゴン!?
この天空城の主、マスタードラゴンだと!?

「何これ?…マスターベーションって言うの?」
「やだー!リュー君のエッチ~!!」
こ、この馬鹿共!!
「馬鹿者!!この方はマスタードラゴン様だ!竜の神、マスタードラゴン様だ!!」
分かってんのかバカ!
「え?プサンだよ。眩しかったけど見てたもん。このマスターベーションはプサンだよ」
だから、プサンがマスターベ…違った、マスタードラゴン様なんだ!
「マスタードラゴンだ、馬鹿!間違えるな!」
「どっちでもいいよ、そんなん。それよりプサン!お願いがあるんだけど…」
ど、どっちでもよくないだろう!

「何かなリュカ」
マスタードラゴン様も怒る様子もなく、リュカの不躾な発言に対応する。
「うん。ドラゴンオーブと一緒に、この杖もあったんだけど…貰っていい?」
「無論だ。その杖は『ドラゴンの杖』と言う。扱える者が所有するべきだ」
何でこの男は神に対してタメ口なんだ…

「それとさぁ…セントベレスの山頂に登りたいんだけど…何か方法無い?」
せめて物を頼む時くらいは、敬語を使ってもらいたい…
「私が皆を送り届けよう」
「まぢ!?大丈夫?結構高いよ?」
「私を見くびらないでもらいたいな」
「だって…20年間もトロッコで回っていたんだもん!」
天空人を始め、ティミー、ポピー、サンチョ殿…みんな直立不動でマスタードラゴン様を見つめている。
何時もと変わらないのはリュカと、リュカにまとわりつく馬鹿女だけだ。

ピエールSIDE END



 

 

62.一つの事に気を取られると、周りが見えなくなる。よくあるよね。

<大神殿>
ティミーSIDE

僕達はマスタードラゴン様の背に乗ってセントベレス山頂上の光の教団大神殿に降り立った。
空気が薄い…
僕もポピーもあまり動いていないのに、肩で息をしている。
「私はここで待機してよう」
「そだね。プサンのその身体じゃ建物内に入れないもんね」
プサンじゃなくてマスタードラゴン様なんだけど…お父さんは気にしてない…


マスタードラゴン様と別れ神殿内へ入ると、入口すぐの脇の部屋から懐かしい感じが漂ってきた…
「お父さん…こっちの部屋に何かある」
僕はそう声をかけると勝手に部屋へ入っていった。

部屋の中には神々しい鎧が飾ってある。
間違いない…『天空の鎧』だ!
僕はふらふらと天空の鎧に近付いていく…すると突然頭上で金属がぶつかり合う音が響いた!
僕の頭の上に、この部屋を警備しているシュプリンガーの剣が振り下ろされ、それをお父さんが防いでくれていた…

僕はシュプリンガーの存在に全然気付いていなかった!
ピピンとピエールの連撃によってシュプリンガーはあっさり倒さる。
「ちょっと、ティミー!油断しすぎよ!ここはもう敵地なんだからね!」
ポピーに怒られてしまった…
お父さんは優しい笑顔で頭を撫でてくれる…まだまだ子供だって意味だろうか…
悔しいなぁ…

ティミーSIDE END



<大神殿>
ポピーSIDE

大神殿の礼拝の間は異様な雰囲気に包まれていた。
奥にある祭壇に向かい、大勢の信者が祈りを捧げている…
でもみんな変!
生気を失った様な光のない瞳で操り人形みたいにお祈りをしている。

祭壇を見ると黒髪の教祖らしき女性が、更に奥のご神体の様な石像に祈りを捧げている。
「あれは…まさか…」
お父さんは独り言の様に囁くと、信者の群れを掻き分けて祭壇まで歩き出した。
私達は慌ててお父さんの後に続く!

「ちょ、リュカ!待ちなさい!迂闊に行動したら危険よ!」
ドリスは後を追いながら呼び止めるが、お父さんは振り向きもせずひたすら進み続ける。
祭壇に辿り着いたお父さんは、何かに取り憑かれた様に前だけを見ている…私達の声が聞こえてない様だ…

教祖らしき女性が、こちらへ振り返り微笑みながら手を差し伸べる。
「リュカ…一目で貴方だと分かりましたよ。私はマーサ…貴方の母です」
母!?マーサ!?
目の前の女性は自身をマーサだと名乗った…お父さんの母だと告げた!

違う気がする…理由は分からないけどイヤな感じのする女性だ…
お父さんは一歩ずつ前に進む…マーサと名乗る女性の方へ…
「お前には苦労をかけましたね。パパスに…あんな男に任せたのが間違いです。本当にごめんなさい」
お父さんは何も反応しない…パパスお祖父様の悪口を言われたのに!
お父さんはお父さんじゃ無くなってしまったのか!?

「さぁ、リュカ!母と一緒にイブールさ「ちょっと邪魔!退けよ、おばさん!」
え!?
みんなも驚いている…私達だけじゃなく、マーサと名乗る女性も…
「ここに居たんだ…やっと見つけた!見つけたー!!」
お父さんは奥にあるご神体を掲げ、喜び踊り出した!
いったい何事!?

「リュ、リュカ!それはこの大神殿の神聖なるご神体です。元の場所に戻しなさい!」
マーサと名乗る女性は、厳しい口調でお父さんを叱咤する。
「違うよ。ビアンカだよ。僕の奥さんのビアンカだよ」
ビアンカ!?
お母さんなの!?
その石像は私達のお母さんなの!?

「リュカ!その石像を戻しなさい!お前は私と共にイブール様に仕えるのです。元へ戻しなさい!」
マーサと名乗る女性は、しつこくお母さんの石像を戻す様に怒鳴り散らす。
「ヤダよ、バ~カ!つか、お前誰だよ!?」
………どうやらお父さんは、お母さんの石像に気を取られ、さっきまでの話を聞いていなかった様だ…
ティミーと同じ…一つの事に集中すると、周りが見えなくなる…親子ねぇ~

「わ、私はお前の母、マーサです!」
「あ゛?何言ってんの?バカなの?お前のどの辺がマーサなの?目が濁ってんじゃん!どうせ低俗なモンスターが化けてんだろ!バレバレだつ~の、バ~カ!!」
この状況を勝手に不安がっていた私は馬鹿みたいだ…
お父さんが凄すぎるのかなぁ?
もうよく分からない…

「て、低俗…低俗だと…」
マーサ(偽)は、わなわなと震え邪悪なオーラを放っている。
お父さんが言った通りモンスターが化けている様だ!
「何だ?何震えてんだ?………おしっこか?おしっこ我慢してんのか?我慢すると身体に悪いぞ!待っててやるから行ってこいよ!」
お父さんは敵を挑発するのが上手い…ブオーンの時も挑発してた…
でも、あの時はナチュラルだったからなぁ…
今回のはわざとだよね!?
だってありえないもの…この状況で…
普通おしっこと間違えないもの…

「おのれ…馬鹿にしおって…人間風情が!」
マーサ(偽)の身体が3倍くらいに膨れあがり、そのおぞましい姿を露見させた!
「おわ!!何か膨れちゃったぞ!だからおしっこ我慢するなって言ったのに!」
どうやら今回もナチュラルだった様です…

ポピーSIDE END


<大神殿>

「おのれ…馬鹿にしおって…人間風情が!」
おばさんの身体が3倍くらいに膨れあがり、一つ目の化け物に変わった!
「おわ!!何か膨れちゃったぞ!だからおしっこ我慢するなって言ったのに!」
この世界じゃ、おしっこ我慢しすぎると化け物になるのか…気を付けよ!

「我が名はラマダ!イブール様の忠実なる僕!貴様らをこの場で滅ぼしてくれる!」
ラマダと名乗る化け物は手にしたこん棒を振り回し、強烈な攻撃を繰り出してきた!
俺はビアンカ(石像)を抱え、逃げまくる!
ティミー、ピピン、ピエールの三人が斬りつける!
俺はビアンカ(石像)を抱き抱えたまま、飛びはね逃げまどう!
ポピー、マーリン、サーラが魔法を浴びせ続ける!
俺はビアンカ(石像)と一緒に後方で待機する!
ゴレムスがラマダの鳩尾に強烈な一撃を入れ、ゴレムスを踏み台にしたドリスがラマダに延髄切りをカマし、ドリスの背中にしがみついていたプオーンが激しい炎でトドメを刺す!
俺はビアンカ(石像)のオッパイを揉む!堅くてつまらん!


俺一人だけ戦闘をせず後方へ避難してたので、みんなが非難する!
「ま、まぁまぁ…そんな事よりさ…これ…どうやって戻すの?堅いオッパイはつまんないだけど…」
みんな呆れてくれた。
怒られるより呆れられた方が良い。

「くっくっくっ…そ、その…石像には…」
まだ息のあるラマダが何か言い出した。
「その石像には…イ、イブール…様…の…呪いが…かけられて…いる…」
「で?」
「イーブル様…がご健在…の…限り…お前の…つ…妻は…石…の…ま…ま…」
そこで力尽きた。
わざわざありがとう。

イブールを探し出そうと思ったら、信者(元奴隷)達の正気が戻り騒ぎ始めた。
ちっ!めんどくせーなー!
取り敢えず近くにいた信者(元奴隷)に話しかけ落ち着かせる。
すると有力情報ゲット!
イブールはここの地下に居るらしい。
しかもこの祭壇に隠し階段があるらしい。
この信者(元奴隷)が「貴方は昔僕の家にあった、お守りの像に似ています」って、よく訳の分からん事を言っていたが無視。

ドリスとピピンに信者(元奴隷)達をプサンの元に連れて行き、グランバニアへ連れて行かせる様指示を出した。
でもドリスが…
「何言ってるのよ!私もイブールの所に一緒に行くわよ!」
って、いつもの様に我が儘を言い出した。
さすがにキレたね、俺!
「勝手な事言うな!何時も何時も我が儘言いやがって!」
「な!?」
「彼ら信者(元奴隷)をこのままここに置いておく訳にはいかないだろう!一旦グランバニアで保護するんだ!その為には王族の一員であるドリスが引率しないとダメだろう!」
「そうですよ…ドリス様。グランバニアの兵士である私と、王族であるドリス様が、責任を持って行うべきです。さぁ…参りましょう」
ドリスとピピンは信者(元奴隷)を伴って外へ…プサンの元へ移動して行く。
俺に怒鳴られたドリスは少し涙目だった…後が怖いな…



 

 

63.思い出とは人々の歴史であり美しい物ばかりではない。

<大神殿-地下迷宮>
サンチョSIDE

入り組んだ造りになっている大神殿内をリュカ様は迷うことなく進んで行く。
石像のビアンカ様を小脇に抱えたまま…
「あの…リュカ様…重くは無いのですか?」
「コラコラ。ビアンカが重い訳無いだろ。怒られるよ、そんな事言うと!」
「いえ…そう言う意味では…」
「それにビアンカの何倍も大きい岩を、この場で転がしてたからね…このくらい気にならない…」

私は思わず息を呑んだ。
リュカ様は幼少の10年間を、ここで奴隷として過ごしたのだ…
さぞかし辛い10年間だったに違いない…

「いや~、懐かしいな~!10年間もここで石コロを転がしてたんだなぁ~!」
…辛い10年間…だったのだろう!?
「そうだ!ティミー、ポピー!あそこにある柱の根元を見てごらん。お父さんが名前を彫っておいたはずだから!」
「え!?本当?」
「ティミー、見てみましょ!」
…本当に辛かったのだろうか…?

「ほう…確かにお前の名前が刻まれているな!ついでに相合い傘で隣に『エイデン』と、刻まれているが…どなたですかな、リュカ!」
ピエール殿が冷たく言い放つ…
「……………さ、さぁ!もう少しでゴールだ!気を抜くなよ!」
「話を逸らすな!お前は本当に奴隷だったのか?先程の信者(元奴隷)の中にエイデン殿が居るのか!?また、不埒な事を企んではいないだろうな!」

「…あの中にエイデンは…居ないよ」
…それが意味する事は…
「エイデンは僕等子供達の、お姉さん的な女性だったんだ」
リュカ様が悲しそうに語る。
「美人で優しかったから…みんな大好きだった…本当に美人だったからね…兵士や獄卒共に犯されて身籠もっちゃたんだ…だから…殺された…」
リュカ様はスラリン達と共に先行しているティミー様、ポピー様に聞こえない様に語る…
優しく…悲しく…
「リュカ…その…すまない…」
「構わないよ、別に…ただ、懐かしい思い出が必ずしも良い物であるとは限らないんだ。それだけ…覚えておいて」
やはりリュカ様にとっては地獄の10年間だったのだろう…
今のこの性格は、そのころの反動なのだと私は思う事で納得した!

サンチョSIDE END


<大神殿-最深部>
ティミーSIDE

「イブール君!呪い解いて~!」
教団の大主教が待ち構えている部屋に、必要以上に明るく入って行くお父さん…
何で緊張しないんだろう…この人…

しかしお父さんの明るさとは裏腹に、室内は薄暗く禍々しい気配が漂っている。
気配の元凶は部屋の奥に鎮座しており暗くて顔は見えない。
「良く来たな…伝説の勇者とその一族よ…」
気配の元凶は立ち上がり、こちらへ近付いてくる。
お腹の底から響いてくる様な威圧感のある声を発しながら…

「我々の画策も虚しく勇者などと言うくだらぬ存在が産まれてしまった…ここまでは神のシナリオ通り。しかし、ここからは違う!貴様らを滅ぼし、神をも滅ぼし私が世界を構築してくれよう!」
イブールが暗がりから抜け全身を表した。
巨大なワニの化け物…それがイブールだ!

みんなに緊張が走る!
身構え今にも飛びかかりそうなその時!
「そんなんどうでもいいから、僕の奥さんの呪いを解いてよ。そしたら許してやるから」
………………………………………………………………………………………………………
「………えっと…お父さん!?…状況…分かってる?」
「え!分かってますよぉ~!でも、堅いビアンカは味気ないんだ!早く元に戻して柔らかいビアンカを堪能したいんだ!」
…真面目にやってよ~!
「ふっふっふっ…面白い…リュカよ、私と手を組まぬか?」
「………は?」
え!?
気に入られちゃった!?

「魔界には魔族の王、ミルドラースが人界に進出しようと力を蓄えている。そなたの母を攫い、その力を利用して…」
魔族の王ミルドラース!
「我と手を組み、魔王も神も共に滅ぼそうぞ!後の世界を支配するのだ!」
なんて奴だ…

「答えを聞かせて貰おう…リュカ…」
「…………」
お、お父さん!?
「ビアンカを元の姿に戻してよ。話はそれからだ」
お母さんの事しか頭に無いのかな…?
「ラマダに聞かなかったのか…我が生きている限り、呪いは解けん!しかし世界を手にすれば女など幾らでも好きに出来るぞ!」

「ふむ………じゃ、答えは単純!ビアンカが良い!お前死ね!!」
悪の誘いを断る理由としては、前代未聞だと思う。
でも、ある意味一貫している。
「愚かな男よ!死ぬがいい!!」
イブールは輝く息を放つ!
お父さんはそれをバギクロスで防ぐ!

慌てて僕等も戦闘に加わった!
イブールがイオナズンを唱え、みんなを吹き飛ばす!
何故だかほぼ無傷のお父さんが、ベホマでみんなを回復させる。
ポピーのマホカンタ、僕のフバーハ、サンチョがスクルトで守りを固める。
ザイル、プオーン、ゴレムスがそれぞれ打撃を加える!

しかし、然したるダメージを与えられない!
スノウがマヒャドを唱えるが、魔法が弾かれスノウを襲った!
だが、間一髪のところでお父さんがスノウを庇った!
「お父さん!!」
強烈なマヒャドにより氷の様に真っ白になるお父さん!
「さみー!!!もうヤダー!!後は任せた!」
またも、ダメージは負ってなさそうだ…何故?

意識を切り替えイブールへ斬りかかる!
お互いに魔法が効かない状況の為、直接攻撃のみになった!
イブールは堅く、なかなか決定的一撃を与えられない。
しかし後方にさがったお父さんが、随時ベホマをかけてくれるので、戦況はこちらに有利である。



戦闘開始から凡そ1時間…
僕の天空の剣がイブールの身体を貫く!
激闘の末、辛うじて勝利する事が出来た…

みんなボロボロだ…お父さんを除いて…さすがに腹が立つ…
「ば、馬鹿な…私が…敗れるなどとは…」
「伝説の勇者様を舐めるなよ!」
お父さん…黙ってて下さい…貴方は何もしてないでしょう!

「ふっふっふっ…良かろう…私がお前らを魔界へ送ってやる…魔界でミルドラースに滅ぼされるがよい!!」
血だらけの身体でイブールが両手を掲げる!
…………が、何も起きない…
「何も起きねぇーじゃねぇーか!コノヤロー!!」
間髪を入れずにイブールへ蹴りを入れるお父さん。
酷い………
「な、何故だ!?何故、何も起きない!?」

「ほ~っほっほっほ。何時まで大教祖のつもりなのです。貴方の企みなど、当に気付いておりましたよ」
ボブルの塔で聞いた、耳障りな笑い声…
「「ゲマ!!」」
お父さんとイブールの声が重なった。

突然、イブールの頭上に巨大な火球が現れイブールに直撃する!
「ぐはぁぁぁぁ!!!」
イブールの身体が跡形もなく消し飛ぶと、辺りからゲマの声だけが響き渡る。
「ほ~っほっほっほ。リュカ、束の間の幸せを味わいなさい。いずれミルドラース様自ら、人界を滅ぼすでしょう。ほ~っほっほ「あー!」
ゲマの笑いを遮って、突然お父さんが騒ぎ出す!

何事!?
「ビアンカに温もりが戻ってきた!!」
お父さんは一人、色を取り戻すお母さんを抱き締め、喜び騒ぐ…どうやらゲマの事など眼中に無い様だ!
本当にお母さんの事しか頭に無いのか?
僕は本当にこの人と血が繋がっているのだろうか?
不安になる…

ティミーSIDE END



 

 

64.今が幸せなら過去も未来も気にしない。

<大神殿-最深部>
ビアンカSIDE

私の目の前に優しい微笑みを浮かべた男性がいる。
私の大好きなリュカが…
「リュ…カ…」
上手く声を出せない…

するとリュカが突然キスをしてきた!
リュカの口から水が移り入る。
リュカは予め水を口に含み、私の喉を潤してくれている。

…が、突然リュカの頭が横にズレる!
「何時まで子供の前でイチャイチャするつもりだ!馬鹿者!!」
この声はピエールだ。
「ち、違うよ!石からの復帰後は喉が渇いてて上手く声が出ないんだ。だから、口移しで水を…」
「本当よ!ピエール!今、水を飲ませてもらってたの!」
あれ?
ピエールってこんなに大人っぽかったかしら?
「そ、そうだったのか…す、すまん」

「ったく…ほら、ティミー、ポピー!自己紹介しなさい」
ティミー?ポピー?
…もしかして!?
「お、お母さん!!ずっと、ずっと会いたかった!」
双子の男の子が、興奮しながら私の事を母と呼ぶ。
「お母さん!やっと会えた!私、お母さんにお話ししたい事がいっぱいあるの!」
女の子の方は、落ち着いた様子で語りかけてくる。
「ポピーさん…それって、お父さんの悪口じゃ無いよね!?」
「ちょっと…悪口を言われる様な事してきたの?」
「ソンナコトナイヨ。ソンナコト何ヒトツナイヨ」
みんなに笑いが巻き起こる。

そんな中一人だけ笑わずリュカのマントの端を掴んでいる女性が居た。
白いドレスにそぐわない青紫のスカーフを巻いた女性…
あのスカーフはきっと…そう言う事…まったく、リュカは…
「リュカ…」
私はリュカの首に腕を回し、徐にキスをする。
私が妻である事を、全員に分からせる為に…

ビアンカSIDE END



<大神殿-最深部>

「さぁさぁ!何時までもここにいてもしょうがありません。一旦グランバニアに…我が家に帰りましょう」
サンチョがみんなをまとめ出す。
うん。俺も早く帰ってビアンカとベットインしたい!
そうと決まれば、さっさと帰ろう!

と、思った時…突然目の前に指輪が現れ、そこから声が聞こえ出した!
『リュカ…聞こえますか?私の可愛いリュカ…』
誰?
「はいは~い。聞こえますよー。どなたで~すか?」
『………随分とノリの軽い子に育ちましたね…』
何!?
馬鹿にされてるの、俺…?

『私はマーサ…貴方の母です』
本物かよ?
「お義母さま!?本当にお義母さまなんですか!?」
『その声はビアンカさんね…さぞかし美しいのでしょう…一目で良いから顔を見たいものです…』
息子の俺には?
『しかし、それを望んではいけません…魔界の王ミルドラースは強敵です。伝説の勇者と言えど敵わないでしょう…』
え~…そんなに強いの!?
「そんな!?勇者が敵わない訳ない!僕がミルドラースを倒してみせる!」
おー、勇ましいなぁ…さすがは勇者。
俺、勇者じゃ無くて本当に良かった…今更ながらそう思う。

『幼き勇者よ。貴方は家族と共に幸せに暮らしなさい。私がミルドラースを食い止めます!けして人界に影響を及ぼさぬ様に!』
うん。やっと家族全員が揃ったんだし、幸せに暮らすのが一番だよね!
「そんな…お婆さま!」
ポピーが泣きそうに叫ぶ。

むっ!
格好いいところ見せないとイカンかな?
「お母さん!残念ですが貴女の息子は只今反抗期です!親の言う事など聞きやしない…だから貴女はそこで大人しく待っていて下さい。不出来な息子が迎えに行くまで」
そこまで言い終わると、俺は指輪を掴み強制的に通信を終わらせた。
ちょー格好いいじゃん。俺!!
ラマダの時も、さっきのイブールの時も、俺何もしてないからね。
みんな冷たい目で睨んでたのよ!
でも今の台詞で尊敬の眼差しに変わったね!
女性陣なんかベタ惚れっぽいもん!
よし!
後はさっさと帰ってシッポリと楽しもうとしよう!





<グランバニア城>

俺はテラスから星空を見上げ黄昏れている…
ビアンカを押し倒そうとしたら、双子ちゃんが乱入!
ぶっちゃけ、教育の一環として見学させても良かったんだけど、『よしポピー!僕等もヤってみようよ!』とか言われちゃったら大変じゃん!
だから我慢しましたよ…

そしたらビアンカと共に眠りについてしまったので、沸き起こるリビドーを落ち着かせる為、一人テラスで黄昏れる。
スノウの元に行こうかと、ちょっとだけ思ったけども、さすがに気が引けるので又の機会に取っておく。
もう1時間以上こうしてる…一向に収まらん!
かなり期待して帰って来たからなぁ…

「リュカ」
するとビアンカが部屋から出てきた…艶めかしく瞳を光らせ、俺に抱き付きキスをする。
どうやら俺達は似た者夫婦だった様だ…



よく考えたら、ビアンカって産後だったね…
母乳が凄い…



 

 

65.家族団欒って良いよね。出来れば邪魔しないでほしい。

<グランバニア城>

翌朝、家族揃って朝食を食べていると、オジロンが割り込んできた。
お前バカなの?
ちょっとは空気読めよ!

「家族団欒のとこすまんな!」
分かってるなら来るなよ!
「いえ…オジロン様も、一緒にいかがですか?」
「おぉ!ビアンカ殿…忝ない。では、お言葉に甘えて」
社交辞令だっつ~の!
気付よ!

「それで…何時…出立するつもりだ?」
………何が?
「ふん!隠さなくても良い!マーサ殿の事、全て聞いておる。また、王の職務を放り出して、魔界へ赴くのだろう!」
あぁ…そう言えば格好つけて行くって言っちゃたな…
えー…魔界になんて行きたくねぇーよー!

よし。
今回はオジロンの言う事を聞こう。
『いい加減、王の勤めを全うしろ!』って言ってきたら、素直に受け入れよう!
「私は10年もの間、国王不在を支えてきた!」
うんうん…もう、我慢の限度だよね!
「だがしかし、もう少しぐらい我慢しても良かろう。必ずマーサ殿を連れ帰るのだぞ!」

え!?
違うよ!
違う違う!
台詞が違う!?

「あ、あの… (バン!)!?」
魔界行きを拒否ろうとした時、突然部屋のドアが騒がしく開く!
ドリスを始め、みんながなだれ込んでくる。
「リュカ、今度こそ連れて行ってもらうわよ!」
「リュカ様。私もご一緒しますぞ!亡きパパス様のご遺志を遂げましょう!」
みんなが口々に随行を表明する…
勝手だなぁ…
今更『格好つけてました。本当は行きたくないです』なんて言えねぇー…
どうすんべ…

取り敢えず時間を稼がねば…
「みんな、落ち着いて!」
一同は静まり、俺を見つめる。
うっ…そんな目で見るな!

「と、ともかく…直ぐさま赴くつもりはない。休息は必要だよ」
「休息…ですか…?具体的には?」
え、具体的に…!?
「………うん。1週間、仕事も戦いも忘れて、ゆっくり過ごしてよ。ピピンやドリスなんかは家族と共に過ごす事!これは命令です!」
「リュカ様はどうなさるのですか?」
うーん…どうしよう…

そうだ!
「僕は…ビアンカ、ティミー、ポピーと一緒に家族だけで、山奥の村やラインハットへ家族が揃った事を告げに行ってくる。この間挨拶に行ってから、大分時間も経過してるからね。サンチョには悪いけど家族団欒を邪魔しないで」
「は…はぁ…仕方ありません…」
「サンチョもシスター・レミでも誘って、デートでもしてなよ」
お!?
珍しくサンチョが顔を赤くしたぞ!
脈ありか!?

こうやって、郷愁を誘い家族の元を離れにくくすれば、魔界行きをみんなが断念するかもしれない。
そうすれば『やっぱ行くの止めよう』的な流れになるかも…
その為にもお義父さん、ヘンリー、利用させてもらうぞ!




<山奥の村>
ビアンカSIDE

私達一家は温泉を貸し切り状態で堪能している。
久しぶり(てか、10年ぶりって…親不孝すぎる)に、お父さんに顔を見せる事になったのだが、私の無事より孫の方に気持ちが向いていて複雑だった。

でも、お父さんが気を利かせて温泉を借り切ってくれたので感謝しないと…
ティミーはリュカの子らしからぬ純情ぶりで、私の裸を見る事が出来ずひたすら俯いている。
そうよね…母親と言っても、10年間も側に居なかったのだから、他人の様な物ね…

ポピーはリュカと会話をしているけど…内容が…
「お父さん…ごめんね」
「何が?」
「昨日の晩…お母さんを占領しちゃって…」
流石に気付かれてないわね…
二人が眠ったのを見計らってリュカの所に行ったからね。

「はっはっは!気にする必要はない!もう遠慮はしないから。アレは昨晩限りの特別サービスだよ」
「………昨晩は…スノウの所に行ったの?」
聞きにくい事を聞く娘ね…

「いや、昨日の晩は行かなかったよ」
「微妙な言い方…」
10歳の女の子と父親の会話って、こんなのかしら!?
ポピーは絶対にリュカの血を引いてるわね!
将来が怖いわ…

ビアンカSIDE END



<サンタローズ>

嫌な事は早めに終わらせる主義です。
『紹介するね。僕の娘のリュリュです』って言ったら怒るかなぁ…
怒るよなぁ…

でも、一生秘密に出来ないし…他から情報を得たら、もっと怒るだろうし…正直話して許しを請うのなら、今しかないよなぁ…
「あ!リュー君、お帰り」
相変わらずの巨乳を揺らし、俺達の前に姿を現すフレアさん。

「お久しぶりです、シスター・フレア」
「ビアンカさん、ご無事だったのね!良かった」
本心からビアンカの無事を喜んでくれている様だ。
「フレアさん…リュリュは?」
「………いいの?」
俺は黙って頷く…
フレアさんは教会からリュリュを連れてきた…

「リュカ…随分…リュカにそっくり…ね♡」
うん。怖いです。



精神的に無事ではないけど、無事乗り切りました。
しかも、ティミーがリュリュとの関係を理解してくれたらしく、恋慕を諦めてくれました。
やっぱり正直に話して正解だね。
でも、夜が怖かったのでティミー、ポピー、リュリュと一緒に同じベットで寝ました。
ビアンカとフレアさんは深夜まで語り合ってたけど、内容は知りません!
怖くて聞けません!



 

 

66.因果と言う言葉がある。ヤッちゃったらデきちゃった。因果である。

<ラインハット城>

ラインハットに着き、先ずはデール陛下に挨拶を済ます。
大人な俺は順序を弁えている。
後にヘンリーだ!
つか挨拶などしなくてもいいだろうと思うのだが、この間のゴールドオーブの事もあるし、ちゃんと説明しないと後でうっさいし………めんどくせ!


「ちわ~ッス!ヘンリー君あ~そ~ぼ~」
室内へ入ると既に俺達の来訪を知っていたらしく、お茶の用意がしてあった。
きっとマリアさんだろう…気が利くね。
「ヘンリー、マリアさん、ご心配をかけましたが、無事家族4人揃いました」
ヘンリーの前に着席して早々、大人として挨拶をする。
こう言うのって重要だよね。

「そうか…無事揃ったか…更に無事一人増えたしな!」
………………一人増えた?
「あの…ヘンリー君?何言ってるの?」
ヘンリーは無言で部屋の隅を指さす。
そこにはマリソルが椅子に座っていた…
………何かを抱いている………
クルンジャナカッタ……コンナトコ……



はい!順を追って説明します!
マリソルが女の子を産んだ。
名前は『リューナ』
きっと…てか、間違いなく、天空城を見つける直前に訪れた時が発端だ。
マリソルも俺以外とは関係を持つ男性は居ないと、断言してくれた。
先日、ゴールドオーブ探しの時に俺に何か言いたげだったのは、この事の様です。
あの時は有無を言わさず来て、有無を言わさず帰ったからね…


「お前…どう責任を取るんだ!」
「せ、責任って「いいんです、ヘンリー様!」
「「え!?いい訳無いだろう!」」
俺とヘンリーがハモる!不本意だ!
「私…ある方と同じ悩みを有していて、すごく親しい友人同士なんです…10年前から。その方はサンタローズに住んでいて、同じ男性に恋をしてしまい今尚叶わぬ恋に悩んでおります」
フレアさんの事だよね…
「その方も…出産しました。私もです」
「お前…シスター・フレアにも…」
呆れるヘンリー…ジト目のビアンカ…ピンチな俺!

「私はリュカさんとビアンカさんの仲を裂くつもりはありません。お二人とも私は大好きなんです。でもこれで…私とフレアさんはリュカさんとの絆を保つ事が出来ます」
「絆…」
ビアンカが目を丸くして驚いてる…
普段だったらビアンカの表情に欲情して、押し倒したりしてるんだろうが…今はとても…
「だからリュカさん!私の旦那様にはなれなくても、リューナのお父さんにはなって下さい!」
「ど…努力しまふ…」
緊張のあまり噛んだ!

「私も負けてられないわ!リュカ、魔界から戻り次第頑張るわよ!」
とても嬉し恐ろし楽しみなのですが…
子供達やヘンリー夫妻の前で高らかと宣言する事では無い様な気が…
でも、万事丸く収まったので良しとしましょう。(丸いか?)



この後でヘンリーに呼び出しを喰らい、2~3時間の説教を受けました。



<グランバニア城>
ピピンSIDE

休暇として頂いた1週間など、あっと言う間に過ぎ去った。
お袋に親孝行も出来たし、ドリス様に思いを告げる事が出来たし、思い残す事は何もない。
俺は隣で寝息をたてるドリス様を眺め、幸せに浸る。
昨日の夕刻にリュカ様達がお戻りになった様だ…
俺はドリス様を起こし、服を着させて準備をする。


中庭へ出るとリュカ様ご家族他、皆さんが揃って待っていた。
「おや?お楽しみ過ぎて遅刻かい?ピピン、ドリス…」
何で簡単に気付かれるのだろう?
互いの親にしか、我々の関係はまだ言って無いのに…
オジロン閣下から聞いたのか?

「か…からかわないで下さい!皆さんがお早いだけです」
「メンゴメンゴ。ところで…オジロンは知っているのかい?君達の関係を…」
どうやらオジロン閣下からの情報では無いようだ…リュカ様は鋭すぎます!
「親父には言ったわ!『反対したらブ殺す』って♥」
「ちぇっ…つまらん!」
言葉の割には嬉しそうだ…リュカ様流の祝福なのだろう。


全員が揃い、準備万端なところでリュカ様がみんなに話し始めた。
「みんな、これから赴く魔界は兎に角恐ろしい所だ。モンスターもこちらとは比べ物にならない程、強く邪悪だろう。『やっぱり帰りたい』等と後から言っても手遅れになる。残留を希望するのなら今しかないから…遠慮せず、恥ずかしがらず、手を挙げて」
リュカ様が手を挙げて皆を促す。
………………

しかし誰も手を挙げない…
無論だ!
皆、思い残す事は無いのだから!
「リュカ様!ご無礼ながら申し上げます。リュカ様に頂いた1週間で、我々は思い残す事の無い様過ごしました。皆、リュカ様に命を捧げる覚悟でここに居ます!」
ドリス様が俺の手を強く握ってくれる。
愛する人と共にいれば何も怖い物など無い!

「ピピンのバカチン!!」
え!?
何故…怒られたの?
「僕は命など捧げて欲しくは無い!いるかー、そんな粗末な命!!1週間の休暇を与えたのは、故郷から…この世界から離れたくないと思わせる為なの!死ぬ気になって欲しかった訳じゃないの!もう、無駄に1週間過ごしやがって!!」
………さすがリュカ様…懐が深い…
死ぬ覚悟を決める1週間では無く…生きて帰る決意を高める為の1週間…
その通りだ!思いを告げただけで満足してはダメだ!
俺はドリス様と…いや、ドリスと添い遂げるのだ!

ピピンSIDE END



 

 

67.自分の考えの甘さに驚く事がある。時既に遅し!

<ジャハンナ>
ビアンカSIDE

私達は魔界唯一の町『ジャハンナ』に来ている。
リュカが言った通り、魔界のモンスターはどれも強敵だ。
しかし、この町が在ったおかげで一息つく事が出来る。

この町はマーサお義母様が造られたそうだ。
町の住人は、皆元はモンスターだったらしく、今はマーサお義母様の心に触れて改心しているらしい。
さすが親子…リュカと似ている。
そのリュカは今、町の高台に登りマーサお義母様が居るであろう『エビルマウンテン』を睨んでいる。
さすがのリュカもかなり緊張している様子だ。
幼い頃より救出を夢見た母親がそこに居る…きっと心の中でお義父様と話をしているのだろう…
私は邪魔をしない様に双子と共に町を散策する事にした。

ビアンカSIDE END



<ジャハンナ>

やべー…『やっぱ行きたくない』って言えずにここまで来ちゃった…
魔王が居るんだよね…あそこに!?
それってラスボスだよね!?
今までは『俺主人公だし死なない!』って思っていたから安心してたけど…
ラスボス戦で主人公が死ぬ事ってありえるよね!?

だって俺、伝説の勇者じゃないし…
勇者の父親ってのが微妙だよね!
産まれた時からのフラグ!?
最後は勇者がトドメを刺したけど、主人公が尊い犠牲になって他のみんなの命を救った的なエンディング!?
感動的だよねぇ~…

ありえるよね!?
ヤバイよね!
あ゛ー!こんな事ならドラクエ5やっておくんだった…
最後どうなるの!?
誰かおせーてー!!!!!!!!


ダメだ…考えれば考える程怖くなる!
こう言う時は何も考えず女を抱くべきだ!
快楽に身を委ねれば恐怖も和らぐ!

だから俺はビアンカを探す…
………居た!
けど…双子と戯れている…
さすがに子供の前で『怖いから一発ヤリたいんだけど!』ってのはマズイ…
父親として恰好付けてたいからね!
仕方ない…嫁は諦めよう。


よし、スノウだ!
スノウなら喜んで股開く!
俺はスノウを探す…
…………………………居た!
ピピン、ドリス、ザイルと共に持ってきたチェスで遊んでいる。

俺は近づき徐に、
「スノウ、ヤらせろ!」
と…

直後、鳩尾にドリスの蹴りが突き刺さる!
声が出ない程痛い!
「いきなり何なんだお前は!!」
「ちょ、ドリスちゃん!酷い事しないの。さすがのリュー君も、この状況で、みんなが居て、奥さんも居て、そう言う事言わないってば!ねぇ、リュー君」
俺は蹲りひたすら頷く。
額から脂汗をかきながら…

「じゃぁ、何だったんだ…さっきの一言は!」
何だと言われても…
「きっとチェスよ。私達が楽しそうにしてたから…ね!リュー君」
俺は涙目で頷く。
声が出ません!


くそぅ…今スノウはダメだ…
どうする…
見渡すとビアンカが双子と別れ、何処かに行ってしまった様だ。
チャンス到来!
ビアンカを探そう。

俺は探す…酒を置いてない酒場(酒場じゃ無いじゃん)や風車小屋…
そして宿屋を…
ビアンカは居ない…
代わりにピエールが居た!
何やら思い詰めた様子のピエールが!
………うん。ピエールでいこう!

俺はピエールの手を取り、目を直視しながら口説く。
ピエールは顔を真っ赤にしながらも俺の目を見続けている。
これはいける!
元々ピエールは俺に惚れてるんだ…
この娘の性格からして、きっと処女だ!
いやっほ~う!

そう思った次の瞬間…ピエールの視線が俺の後方へ移る…慌てて手を離す…そして部屋から出て行く…
俺はゆっくりと後ろを振り向く…
「ごめんね。邪魔しちゃって♥」
僕の奥さんが優しい笑顔で立ってました。
テヘ☆やっちゃった。



子供には見せられない…いや、誰にも見せられない程の卑屈ぶりで平謝りをし、辛うじて許しを得ました。
そして泣き付く俺。
魔界が怖いと泣き付く俺。
そんな俺を優しく抱き締めてくれるビアンカ。
いつの間にか眠ってました。ガキみたいに…



 

 

68.親孝行ってどうやるの?

<エビルマウンテン>

邪悪な気配を漂わせるダンジョン!
襲い来るモンスターも凶暴凶悪。
されど、どんな強敵が現れようと凄まじい勢いで撃破して行く我がパーティー。

………俺一人テンションが低いとです。
何故か皆さんテンション高いとです。
「お父さん!良い調子だよ、僕達!このまま魔王も倒しちゃおうね!!」
わ~い…伝説の勇者様がやる気マンマンだぁ~…
………自分の息子じゃ無かったら丸投げするのに…

「ふっ…ムリはするなよ…お父さんを頼ってくれよ」
精一杯恰好付けてみる…
「うん!お父さんが居れば怖い物無しだよ!!」
……憧れてたんだ!
息子に頼られる父親って!
パパスのような父親になるのって…
でも、この難易度はないわぁ~…
俺、父親歴2年以下ですよ!
ビギナークラスからお願いしたいですげど。
伝説の勇者って赤の他人だと思ったから探したのに…


エビルマウンテン中腹の広大な台地を突き進む。
「お父さん…遠くで何か聞こえるよ!?」
「……うん…歌…だね!?」
そう、歌が聞こえる!
歌と言っても教会とかで歌われる様な、聖歌みたいな歌だ。

何処の馬鹿だ!?
こんなモンスター蔓延る危険地帯で歌うなど!
モンスターが寄って来るではないか!
「お父さん…何故だか懐かしい感じがするわ…行ってみましょ」
モンスターが沢山居そうな場所へワザワザ行こうという娘…………実の娘じゃなかったら『ふざけんなバカ!』って言ってました。
「うん。行ってみようか、ポピー」
娘が可愛いって拷問ですね。


歌が聞こえる方へ歩き進める。
暫くすると大きな祭壇が見えてきた。
そこでは黒髪の美しい声の女性が祈りの歌を捧げている…
この声…あの容姿…覚えがある…
そう…幼い頃の記憶…優しく俺を抱き上げる女性の記憶…
授乳直前で奪い攫われた女性…あの人は俺の母さんだ!

「母さん!!」
俺は叫び、走り出していた!
「その声はリュカですか!?本当に私の息子のリュカですか?」
母さんは歌を止め振り返り俺を見据える。
俺は祭壇の手前で足を止め、片膝を付き頭を垂れる。
母に…やっと会えた母に、立派に成長した息子の姿を見せたくて…

「大変お待たせして申し訳ありませんでした、母上。父デュムパポスに代わり私リュケイロム、お迎えに参上致しました」
「リュカ…立派になって…後ろの女性がビアンカさんね」
「お義母様…」
涙ぐむビアンカ…
「そしてティミーとポピーね…私ももうお祖母ちゃんですか…」
「初めまして。僕ティミーです!」
「私ポピーです。お祖母様ごめんなさい…言い付けを破って魔界に来てしまいました…」
よし。目的は達したし、変なのが出てくる前に撤収しよう!

「私は幸せ者です。こうして息子夫婦と、孫にまで会う事が出来たのですから…」
母さんの目から涙がこぼれる…と同時に、嫌な感じが俺の肌に突き刺さる!
言い様のない嫌な感じ…そう…まるで父さんが殺された時の様な…!?
「もう、思い残す事はありませ。私が全ての力を投じて、魔王ミルドラースを次元の狭間に封印します!」
言い終わると同時に母さんは両手を高らかに掲げ、祈りの言葉を唱えだした!

しかし、何も起きない…
「!?何故!?」
驚く母さん!
俺の嫌悪感が頂点に達したその時!
「お~っほっほっほ」
俺は笑い声と同時にドラゴンの杖を母さんの頭上に投げ付けた!
(ズガ~ン!!)
母さんの頭上で弾け散る巨大な火球!

「おや?阻まれてしまいましたか…さすがはリュカ…やりますねぇ~、お~っほっほっほ」
俺のドラゴンの杖とゲマのメラゾーマが接触し弾けた衝撃で、祭壇から吹き飛ばされる母さん!
俺は慌てて母さんを抱き抱えると、第2第3のメラゾーマをバギクロスで牽制する。

「お前は相変わらず親子の感動的シーンをぶち壊すのが好きだな!」
俺は放心状態の母さんにベホマをかけ治療すると、声のする方を睨み悪態をつく。
「お~っほっほっほ。子を思う親の気持ち。いつ見てもいい物ですからねぇ~…つい壊したくなるのですよ」
周囲の影が一カ所に集まり一体の魔族を形成する。

「な、何故…私の力が及ばないのですか…!」
母さんは絶望を携えた表情でゲマの事を睨み続ける。
「お~っほっほっほ。偉大なるミルドラース様が、何時までも貴女の手に負えると思ったのですか?」
「リュ、リュカ…お逃げなさ…この者を押さえ込むくらいの力は残ってます。私が…母が押さえ「イヤです!」
母さんは俺を見つめ言葉を無くす。
「(クス)言いませんでしたか。貴女の息子は反抗期なんです。帰れと言われたら帰りません。逃げろと言われれば戦います」
俺、カッコイイー!

「お~っほっほっほ。勇ましいですねぇ、リュカ…しかし貴方の武器は私の足下にありますよ。どう、戦うのですか?」
………………………………………。
母さんに会えて…しかも、美しく若々しい母さんに会えて、はしゃいでました。
俺、武器ねぇーじゃん!!
どうやって戦えばいいの!?
魔法の虫けらピンチちゃんが、俺の周囲を飛び回るのが見える…

こう言う時はアレです…口八丁です。
「お前の様な汚物相手に、武器なんぞいらん!覚悟しろ、ゲロ!」
「!!私の名前はゲマです!物覚えが悪いですね!」
「わざとだよ、バ~カ!そのぐらい分かれよ!」
俺は母さんをサンチョに託し、ゲマ相手に挑発を続ける。
怒り狂って襲いかかってくる様に挑発する…
が、ゲマはドラゴンの杖を左足で踏んだまま、メラゾーマを連発してくる。
ピンチちゃんが見える!

俺にメラゾーマが当たりそうになった瞬間、「マヒャド」
ポピーの魔法がメラゾーマをかき消してくれた。
ここから、みんなの怒濤の様な攻撃が始まった。
ティミー、ピピン、ドリス、ピエール、ゴレムスらが直接攻撃を仕掛ける。
ビアンカ、ポピー、マーリン、サーラらが魔法で応酬する。
だが、決定打を与えられない。
ゲマは輝く息や激しい炎で、確実にダメージを与え続ける。

業を煮やしたティミーが、ゴレムスを踏み台にしてゲマに飛びかかった!
あ、バカ!
焦るんじゃない!!

案の定ゲマには読まれていた!
ゲマのメラゾーマが空中でティミーに直撃!
ティミーは吹き飛ばされ、天空の剣は虚しく中を舞う。

これはチャンスだ!
俺は咄嗟にバギクロスを連発する!
砂埃を舞い上げゲマの視界を奪う!
俺もゴレムスを踏み台にし、空中で天空の剣をキャッチする。
そのまま天空の剣の軌道を変えゲマに向けて剣ごと落下。
ゲマの胸へ上方から突き刺す!

例え装備出来なくとも触る事は出来る。一緒に落下する事は出来る。
「ぎゃはぁぁぁぁぁ!馬鹿な!!この私が!この、ゲマ様がぁぁぁぁ………」
ゲマは断末魔と共に消滅した…
やっと父さんの敵を討ち取ったのだ!

感傷に浸るのも束の間…
俺は息子を犠牲にした事を思いだし、慌ててティミーの元へ駆け寄った。
やっべー!父親として最低な事をしてしまった!
普通、逆だよね!
幸いな事に天空の武具のおかげで大事には至らなかった。
母さんが素早く治療してくれた為、大した怪我もなく無事だった。
ま、結果オーライという事で許してはもらったが…
理想の父親像から懸け離れて行く自分がいる…
何とか挽回せねば…



 

 

69.最後に笑うのは誰?

<エビルマウンテン>
ティミーSIDE

僕は本当に伝説の勇者なのだろうか?
さっきのゲマ戦で、僕は焦り失敗をしてしまった。
勇者などと言う大役は僕には務まらないのでは…
お父さんが伝説の勇者なら…天空の武具を装備出来ていたのなら、既にこの世は平和になっていたかもしれない。
このまま魔王の所に行っても、僕は足手纏いにしかならないだろう…
ハァ~…憂鬱だ…

「どうしたの、ティミーちゃん?」
僕が一人で落ち込んでいると、マーサ様が心配して話しかけてくれた。
正直言って『お祖母ちゃん』って呼びづらい!
だって…全然お祖母ちゃんじゃ無いんだもん…凄く…若い…
お母さんより少し年上くらいにしか見えない!

「お腹痛いの?どうしたの?大丈夫?」
俯き悩んでいた為、余計に心配させてしまった様だ。
「ううん…何でもないよ、マーサ様」
「………そんな他人行儀な呼び方しないで『お祖母ちゃん』って呼んでいいのよ」
「そ、そんな!マ、マーサ様は若くて美しいから…その…『お祖母ちゃん』だなんて…呼べないよ!」
僕は恥ずかしくて下を向いてしまう…

「まぁ!まぁまぁまぁ!!リュカ、ちょっと聞きましたか!お前の息子はとても素直で正直者の良い子ですね!」
「当然です!僕の子ですから!!」
「そうですよぉ、マーサ様!リュー君の息子なんですから、女性を口説くなんて日常生活の一部ですよぉ」
え!?
く、口説いてなんてないよ!!

「あ、あの…スノウさん…何も「スノウ!それは間違っている」
ピエールがお父さんを庇った!?
「な、何よ!ピエールちゃん!」
「リュカは普段は女性を口説いてはいない!普段口説いている様に感じるのは、リュカが優しいからそう感じるのだ」

「さすがピエール!付き合いが長いだけあってよく分かっている」
お父さん嬉しそうだなぁ~
「リュカが本気で口説いたら、先程のティミーの台詞など日常挨拶ですらない!」
挨拶でもないって…どういう事?
「ちょ、ピエールさん…フォローしてくれるのでは…?」
「経験者として言う!リュカに本気で口説かれたら100%落ちる!」
力強い言葉だ…
「何故ならば…私は昨日落ちた!奥様が現れなければ、最後まで終えていただろう!」
え!?
何?
最後って何!?

「まぁ!リュカ…アナタって子は…」
お父さんが動揺している…
「お母さん心配だわぁ~。…アナタは王族なのだから…あっちこっちで子供を作ると、後々問題になるわよ」

「「「「「………………………」」」」」
皆黙る。
「…リュカ…何故…黙るのですか?」
お父さんの目が泳いでる。
「リュカ…一つ質問しますが、お前には子供が何人居るのですか?」
「………です」
「………聞こえません」
「……人です」
「リュカ…」
「…4人です」
「………数が…合いませんね…」
マーサ様が僕とポピーを目で数える。
2人しかいない…

「…皆、それぞれの母親と共に居ます…」
「まったく…ビアンカさん、苦労をかけますね」
「(ニコ)惚れた私が悪いんです!」
(クスクス)(ゲラゲラ)(くっくっくっ)
みんなに笑いが巻き起こる。

「お母さん、フォローになってないわ!」
ポピーがお腹を抱え笑いながら、お母さんにツッコミを入れる。
「あら~…ダメな妻ね、私は。夫のフォローも出来ないなんて」
右頬に手を当て困り顔のお母さん。

みんなこれから最終決戦なのに、そんな雰囲気感じさせない…いいなぁ…この感じ。
「ティミー。お母さんからの忠告よ。お嫁さんにするのなら、フォローの出来る娘を選びなさい。そんな娘が居なければ、フォローの必要のない男になりなさい。」
其処彼処から「違いない!」とか「しかし血は争えんから」とか…笑い声と共に飛び交っている。

「ティミー…お父さんからも忠告だ。」
お父さんが負けじと発言してくる。
「お母さんの言う事には従った方がいい。お父さんも反抗せずに魔界に来なければ、こんな酷い目に遭わずにすんだのに…」
お父さんはめげないなぁ~…
僕は涙を流して笑っていた。
あんなに憂鬱だった気分が嘘の様に消え去っていた。

ティミーSIDE END



<エビルマウンテン>
マーサSIDE

「母さん、ありがとう。」
リュカが小声で礼を言ってきた。
「ティミーちゃん、元気になって良かったわね」
リュカは嬉しそうに頷く。

ちゃんとお父さんをやっている様ね。
伝説の勇者などと言ってもまだ子供…
私達大人が正しく導かなければ、心が折れてしまう。
それにしても、皆良い人達みたいね。
あれ程の強敵との戦闘後でも、笑いを作り出す事が出来るなんて…リュカは素晴らしい仲間に巡り会えたみたい。

でも、ミルドラースには敵わないでしょう…
その時が来たら…私が命に代えても…
「母さん…その必要は無いよ!」
リュカが心を読んだかの様に語りかけてきた。
「僕達は皆、生きて故郷へ帰るつもりなんだ。誰一人として命を犠牲にしない…母さんも、そのつもりでいてもらうよ」
子はいずれ親を超える日が来る…
この子は既に私やパパスを超えている様だ。
私が母として出来る事は、息子達を信じて祈る事だけみたい…

「で、母さんに協力して欲しい事があるんだ。内密に」

リュカが私にだけ、もしもの時用のミルドラース戦を告げてきた…



私に緊張が走る!
この子は…リュカは、そんな事まで考えているのか!?
私に出来るだろうか!?
大役を任され…私に果たせるだろうか!?
悩んでも始まらない。
息子に救われた命…息子の指示で戦うまで!

マーサSIDE END



 

 

70.諦めたらそこで試合終了って、安西先生が言ってた。

<エビルマウンテン-魔王の間>
ティミーSIDE

僕達は和気藹々と険しい山道を進み続けている。
周囲の景色は禍々しいが、僕等の雰囲気は楽しげだ!
「何かピクニックみたい!」
ポピーが楽しそうに感想を述べると、
「ポピー、違うよ。ピクニックってのは、もっと真面目にやるものだ!」
って。
おいおい!


しかし楽しい時間は終わりを迎えた。
僕等の正面に一人の老人が玉座に座っている。
コイツが魔王ミルドラースだ!
凄まじい威圧感を放ち、こちらを睨んでいる。

「ふっふっふっ…ようやく来たか…伝説の勇者とその一族よ」
見た目は貧相な老人…しかし、漂う邪気がとてつもない…
「我が僕を滅ぼし、よくぞここまでやって来た…その勇気に敬意を表し、私自らがお前らを滅ぼしてくれよう!」
ミルドラースから邪悪なオーラが放出される!
僕は堪らず後ずさってしまった。
みんなも先程までの楽しげなムードは吹き飛んでしまい、1歩2歩と後ずさる…

でも、お父さんだけが前へ踏みだしミルドラースを見据えて言い放つ!
「ゲマといい…お前といい…出来もしない事を言うな!クソじじい!!」
すごい!
お父さんは何時もと変わらない態度でミルドラースと対峙している!
「人間風情が…神をも超えた存在の私に大言を吐くな!!」
ミルドラースの凄まじい怒気が僕等を襲う!

「フ、フンだ!こ、こっちには勇者様が居るんだもんね!天空の剣を装備した伝説の勇者様が!」
え!?
「勇者様ー!あんなじじい、やっつけちゃってよ!!」
えぇぇぇ!!
まさかの丸投げぇぇぇ!?
「ちょ…お父さん…ズルイよ…そんなの…」
「リュカ!貴様、息子に全てを押し付けるとは…どういうつもりだ!!」
ピエールの抗議に、お父さんはキョトンとした顔で、
「だって、みんなビビてるじゃん!戦力としてあてにならないじゃん!じゃぁ勇者様に頼るしかないじゃん!」
「ふざけるな!!あんな老人一人、子供に頼る必要はない!!」
ピエールは言い終えると、もの凄い勢いでミルドラースへ斬りかかる!
そして他のみんなもそれに続く!

やっぱり凄いな…みんなミルドラースの威圧感に負けて闘志が萎えていたのに…お父さんには敵わない…
「心が負けたらお終いさ」
お父さんの言う通りだ!
僕等は勝つんだ!
勝ってみんなで帰るんだ!

僕もみんなに負けじと斬りかかる。
お母さんのベギラゴン。
ポピーのイオナズン。
スノウのマヒャド。
サーラのメラゾーマ。
それぞれ魔法を唱えて攻撃している。
プックルは稲妻を放ち、プオーンが激しい炎でミルドラースを包む。
ピピン、ドリス、サンチョ、ピエール、ゴレムスが剣や拳で連撃を与える。
ミルドラースはよろけ隙が出来た。
僕はチャンスとばかりにギガデインを唱えミルドラースに追撃を喰らわせた。
ミルドラースは身体から煙を放ち膝を付く。
「どうだ!お前なんかに負けるもんか!!」
僕は勝利を確信した!

「ふっふっふっふっふっ………」
だがミルドラースは笑っている!?
「な、何が可笑しい!?」
「哀れな者達よ。なまじ強いが為に、私の真の姿を見る事になるのだから…」
し、真の姿…!?
「プフー!!ダッサー!『今まで本気じゃ無かったんだからね!』って、ガキかお前はー!!」
お父さんがお腹を抱えて笑っている。

「では、その目に焼き付けて死ぬが良い!私の真の姿を!!」
言い終えるやミルドラースの身体が闇に包まれ、5倍以上に巨大化した!
巨大な目が3つ、巨大な角が3本、口は裂け腕はお父さんの胴回りとほぼ同じ、尻尾も同じくらい太い醜悪な化け物が姿を現した。
「さぁ…全員跡形もなく滅ぼしてくれようぞ!」
先程とは比べ物にならない程の邪気を放ち僕等を威嚇する。

「き、貴様など!!」
ピエールが戦陣を切りミルドラースへ斬りかかると、僕等もすぐ後に続く!
しかし、ミルドラースの凄まじい一撃が僕等を襲う!
突撃した僕等はミルドラースの太い腕に弾かれて、地面に身体を強く叩きつけられた。
マーリンがベギラゴンを唱える…が、魔法が弾かれマーリンに直撃する!
間髪を入れず、ホイミンがベホマでマーリンを回復した為、辛うじて命は助かったが、これ以上ミルドラースに魔法を使う事は出来ない。
お母さんとポピーがマホカンタを唱え、ミルドラースの魔法を無力化しようとする。
しかし、ミルドラースの手から凍てつく波動が僕等を包む!
僕等を守っていた魔法が全て無力化されてしまった!

「イオナズン」
次の瞬間、ミルドラースがイオナズンを唱えた。
僕等は皆吹き飛ばされ、致命的なダメージを負ってしまった。
「ベホマズン」
ホイミンのベホマズンにより身体の傷は癒えたが、ミルドラースに対する恐怖心は強さを増した。
僕は立ち上がる事も出来ず、ただミルドラースを見上げる事しか出来ないでいる…

僕の隣にお父さんが立っている…
お父さんはいつもの優しい口調で話しかけてきた。
「どうしたティミー?座っていたら、アイツは倒せないぞ!」
…倒す!?
アイツを!?
そ、そんなの…
「父さんがアイツの注意を引き付けるから、隙をみ「ムリだよ!!」
僕は俯き叫び出す。

「………ムリ…なのかい?」
「…ムリだよ…アイツには勝てないよ…最初から…勝てる見込みなんて無かったんだよ…」
「…じゃぁ…無駄な事をしていたのかな?みんな…」
「………」
僕はもう、何も答えられなくなっていた…

「そっか…無駄な人生だったのか…」
「お、お父さん…!」
「無駄に幼い頃から世界を旅し、無駄に父親を目の前で殺され、無駄に奴隷として生き、無駄に友の国を救い、無駄に結婚し、無駄に子供を作り、無駄に魔界へ赴き、無駄にここで死ぬ…」
お父さんは怒らない…ただ、悲しそうだ。
「(クス)ここまで無駄な事をしてきたんだ…僕は無駄に戦い抜くよ。最後まで!」
そう言って僕の頭を撫でると、お父さんは一人でミルドラースに襲いかかって行く。

お父さんはミルドラースの魔法をバギクロスで打ち落とし、太い腕から繰り出される打撃をすり避けて強烈な一撃をぶち当てる。
しかし、ミルドラースの硬い身体には傷一つ無く、お父さんの攻撃をモノともしない。
だがお父さんも、ミルドラースの攻撃を全てかわし、再三攻撃を仕掛ける。
お父さんがミルドラースの隙を付き、額の瞳へドラゴンの杖を突き刺した!
次の瞬間、ミルドラースの太い尻尾がお父さんの身体を強烈に弾き飛ばす!

お父さんの身体は地面を2度3度とバウンドして僕等の遙か後方で動かなくなる…
マーサ様が慌てて駆け寄り、ベホマを唱えて治療を試みる。
2度3度と魔法を唱え、その都度お父さんの身体は淡い光に包まれる…
しかし、お父さんは起きあがらない…ピクリとも動かない…

僕は…いや、みんな自分の目を疑っている…
だって…お父さんが死ぬ訳無い…
どんな時でも緊張感の無い、あの人が死ぬ訳無い…
「リュ、リュカーーーー!!」
横たわるお父さんの身体に覆い被さり泣き崩れるマーサ様…
「………うそ…だ…!」
僕は立ち上がり、お父さんを見つめていた。
ミルドラースに背中を向けて、ただお父さんの身体を見つめていた。

ティミーSIDE END



 

 

71.気付かないよりは気付いた方が良い。例え手遅れでも…

<エビルマウンテン-魔王の間>
ティミーSIDE

「………うそ…だ…!」
僕は立ち上がり、お父さんを見つめていた。
ミルドラースに背中を向けて、ただお父さんの身体を見つめていた。

「クックックッ…でかい口を叩くだけはあったな。」
僕は振り返り奴を睨む!
アイツがお父さんを…アイツが…
イヤ…僕が…諦めたのがいけないんだ…
僕は勇者なんかじゃ無い!
勇気の欠片もない、弱虫だ!
だからお父さんを死なせてしまったんだ!

「どうした…次はお前か?伝説の勇者よ」
「…違う…僕は勇者じゃ無い!」
「ほう…では何だ?」
「僕は英雄リュカの息子、ティミーだ!勇者等というくだらない存在と一緒にするなぁ!!」
僕は腹の底から叫び、天空の剣を頭上高く掲げる!
すると、天空の剣から凍てつく波動が発せられ、ミルドラースを包み込む!

「ぬぅ!!その剣にその様な力があったとは…」
ミルドラースは驚いている。
僕も驚いている…
「小僧め!先に貴様を叩き潰してくれる!」
ミルドラースの拳が僕に迫る!
慌てて剣を振り切った!

(ザシュ!!)
!!
ミルドラースの腕に大きな傷を負わせる事が出来た!?
「どうやらさっきまでは『スカラ』で強化してあったようね!」
ポピーが立ち上がり怒りと悲しみを合わせた様な表情で呟いた。

「おのれ!!塵へと還るが良い!!メラゾーマ」
巨大な火球が僕へと迫る!
「マホカンタ」
ミルドラースのメラゾーマが僕を直撃する直前、お母さんのマホカンタが僕を包み守ってくれた。

「ぐおぉぉぉぉ!!!!」
弾かれたメラゾーマは、術者であるミルドラースへと跳ね返る。
自ら作り出した巨大な火球によって身体を焼かれるミルドラース!

「魔法も効く様になった様だな!」
ピエールの力強い声がみんなを立ち上がらせた!!
マーリンのベギラゴンから始まり、お母さんとサーラのメラゾーマがミルドラースを襲う!
スノウがマヒャドを唱えると、ポピーがイオナズンで追い打ちをかける!
連続の魔法で怯んだミルドラースに、プオーンが激しい炎をスラリンが灼熱の炎を浴びせ、プックルが稲妻を喰らわせる!
ザイルがミルドラースの肩に斧を食い込ませ!
サンチョのビックボウガンがミルドラースの胸に刺さると、ゴレムスが矢の刺さった部位をエグる様に殴る!
ドリスとピピンが華麗に連続攻撃を決め、ピエールの会心の一撃がミルドラースを追いつめた。

今しかない!
お父さんが命を賭けて作り出したこのチャンス!
今、全てをぶつけなければ僕はお父さんの息子では無くなってしまう!!
「みんな、僕に力を貸してくれ!!」
僕は両手をミルドラースに翳し、僕の使える最強の魔法を唱える!
「ミナデイン!!!!!」
みんなの魔力を借り受けて生み出された稲妻は、ミルドラースの額の瞳に突き刺さったドラゴンの杖目掛け迸る!
…それがトドメだった。
ミルドラースの身体を強力な稲妻が突き抜き、ミルドラースは力無く倒れ崩れる。

「…バ、バカな…我は…か、神を…も…超える…そ…ん…ざ…」



ミルドラースの身体が塵へと還り、跡には1本の杖が佇んでいる。
僕はドラゴンの杖を掴み胸が苦しくなった。
僕が諦めなければ…僕が怯まなければ…お父さんは…
お父さん………お父さん……

(パチパチパチ)
「いやぁ~…さっすが伝説の勇者!見事だね!」
!?
この場にそぐわない緊張感の欠落した声が拍手と共に響き渡る。
幻聴か!?
心が望むあまり幻聴が聞こえたのか?
僕はゆっくり振り返る…

そこには優しい表情で胡座をかいているお父さんが居た!!
驚きと嬉しさと不思議さとで混乱している僕等に、マーサ様が申し訳なさそうに説明してくれた。
「皆さんを騙す様な事をしてごめんなさい。ミルドラースとの戦闘直前にリュカから言われて…」
お父さんが!?

「『万が一戦う事を諦めてしまったら、僕は死んだフリをするから、母さんも話し合わせてね』って」
死んだフリ!!
「リューくーん!!良かった!!!生きてて良かった!! (エ~ン)」
「お父さ~ん!私…私… (グスッ)」
スノウとポピーが泣きながらお父さんに抱き付いた。
「馬鹿者!!この、馬鹿者!!二度とこんな真似はするな!!」
あのピエールが人目を憚らずお父さんに抱き付き泣いている。
お父さんは立ち上がりお母さんにキスをする。
「ビアンカは泣いてくれないのかな?」
「わ、私は…知ってたわ… (ヒック)アナタが私達を見捨てない事を (ヒック)」
肩を振るわせ泣くお母さんを抱き締め、お父さんは僕を手招きする。

「お、お父さん…ごめんなさい… (グスッ)」
僕はお父さんに近付きながら、嬉しさと後悔と謝罪の気持ちで泣いていた。
「何を謝る事がある?立派に魔王を倒したじゃないか!」
「お父さんが (グスッ)諦めちゃダメって言っていたのに (グスッ)…僕は (グスッ)諦めちゃったんだ」
「(クス)泣く必要は無い!ティミーは悪くないよ。こんな面倒事を子供に押し付ける大人が悪いんだ!」
お父さんは僕の頭をグシャグシャに撫で、優しく励ましてくれる。
「だから、最初からこうなるって思ってたんだ!」
え?
最初から!?

「ティミーやみんなが諦めちゃう事を念頭に置いていたのさ!」
「で、ではリュカ様は最初から我々が挫けるとお考えでしたんですか!?」
「悪いねピピン!全く持ってその通り!しかもさ、天空の剣にさ、あんな力があるなんて知らなかったしぃ~」
みんないつもの呆れ顔に戻っちゃた。
「…やっぱり…お父さんには…敵わないや…」

「さぁ!帰りましょうか!みんな無事ですかぁ?死んだ人は手を挙げて!」
いや…ムリだから…お父さん、それムリだから!
「………ところでさ、どうやって帰るの?」
『私が力を貸しましょう』
どこからともなくマスタードラゴン様の声が響く。
「あ!プサン!!」
僕達の身体を黄金の光が包み込む。
とても暖かく柔らかい光だ。
周囲全てが光に包まれた次の瞬間、視界が戻り目の前にマスタードラゴン様が佇んで居た。

ティミーSIDE END




 
 

 
後書き
次回
DQ5~友と絆と男と女
最終回!

でもリュカさんの物語は続きます。 

 

72.ハッピーエンドは廃れない。

<天空城>

気が付くとそこは天空城だった。
目の前にはプサンが偉そうに座っている。
「何だよ!こんなに凄い事が出来るのなら、手伝ってくれても良かっただろ!こんな所でふんぞり返りやがって!」

(ドカ!)
ものっそい衝撃が後頭部へ走る!
「お前、マスタードラゴン様に何って口きいてんだ!」
ドリスの拳がクリ~ンヒット!
「はっはっは!良いのですよ!」
「そうだよ、僕とプサンは友達なんだから!砕けた会話は普通なの!」
だいたいコイツに恭しくしたくない!

「私が友人ですか!?」
「あれ?違ったの?じゃぁ…恭しくしようか、マスタードラゴン様!」
「止めてくれ…気持ちが悪い。友のままでいてくれ!」
そこまで言わなくても…

「じゃぁ…僕達は帰るよ!ヘンリー達にも平和が訪れた事を知らせたいし」
「では、私の背に乗るが良い。お前達を縁ある者達の元へ運ぼうぞ」
「え!?本当に!?いやぁ~悪いね。じゃぁ…お願いするよ!順序はプサンに任せるから!」
みんな喜んでくれるかな?
リュリュやリューナは幸せになれるかな?






<グランバニア城>
ティミーSIDE

魔王ミルドラースを倒してから3年の月日が経過した。

世界は概ね平和である。
グランバニアも平和そのもので、ベビーラッシュが巻き起こっている。
中でも、現グランバニア国王周辺のベビーラッシュは当事者達を悩ませる。

王妃であるビアンカ陛下(僕のお母さん)との間に3歳になる娘が一人。
名前を『マリー』

そしてイマイチ立場の分からない女性、スノウとの間に3歳の娘が一人。
名前を『リューノ』

さらに皆を驚かせた人物も出産。
お父さんの騎士として剣を振るっていた女性、ピエールとの間にやはり3歳の娘が一人。
名前を『リューラ』

そしてサンタローズのシスター…リュリュのお母さんであるシスター・フレアとの間に4歳になる娘が一人…
名前は『フレイ』

計算が合いませんよね!
『何時の間に!』って、みんな叫びました。
お母さんを救出して、挨拶に赴いた時にはお腹に居たという事ですね。
とても重大な使命を帯び旅を続けている人の行動では無い気がしますが…

従って今の僕には妹が7人居ます。あちらこちらに…
「お父さん、もう居ないですよね!」
不安に駆られ訪ねると…
「さぁ…居ないんじゃないかなぁ…確認してないだけで居るかもしれないね」
本当…不安です…
もしかすると…もしかするかもしれません。
マーサ様も怒るどころか呆れて何も言えません。


しかし女性関係で問題のある人ですが、国王としての実力は皆が舌を巻く程の人物です。
長きに渡る魔族との諍い、それに乗じた光の教団の勢力拡大。
それらの事象によって衰退した国家を再建させるべく、幾つかの法案を実行する。

国民への衣食住を確保する為、商業・工業の発展を促す為の新たなる開拓事業を発足。
海運業の発展を促す為に、港の新規建設。
海路の確保の為の、海軍発足。
グランバニアの森を切り開き、港と王城への道を整備。
その為の物資運搬等への利用可能な運河を、グランバニア山から海まで開河させ開拓事業へのサポートと共に、運河沿いに新たな営みの場を築き人口増大へ拍車をかける。

以上の開拓事業を行う為に財政確保の一環として、貴族への課税法案を強行。
一時、貴族達が武力による抵抗を見せたが1週間で鎮圧。
理由は簡単。軍の高級士官達は貴族だが、一般兵達は平民である。
武力発起後も纏まった戦力が集まらず、戦場へゴレムスの肩に乗って姿を現した陛下を前に、あえなく投降。
これにより、財政難は一挙に解消。
新たなる国造りへ向けて、国家全体が動き出しました。

また、未来を担う子供達の育成をスローガンに、義務教育法と言う法案を実行する。
義務教育法とは、その年に6歳になる子供から15歳になる子供を対象に、無料(全額国家負担)で教育を受ける為の法案だ。
今までグランバニアでは…イヤ、他国でも、教育を受けられる者は一握りで、家族内に博学な者が居るか、家庭教師を雇うだけの裕福な家柄の者しか教育は受けられなかった。
これにより、貧富の差を少しでも無くし、国家の未来を安定させ、国力を向上させるのが陛下の狙いである。
ふざけている様に見えても、やっぱり凄いな!お父さんは…

僕とポピーも義務教育を受けている者の一人である。
身分を秘匿し、一般平民として学校に通うのは結構楽しい。
友達も幾人か出来たし…
彼女は………まだだけど…



僕とポピーが学校から帰ると、オジロン国務大臣がポピーに泣き付いてきた。
「おぉぉ!ポピー!!済まぬがリュカを…いやいや、陛下を連れ戻してきてはくれぬか」
どうやらまたの様だ。

お父さんは真面目に政務を行うのが性に合わないらしく、度々城を抜け出してはルーラで何処かへ逃げてしまう。
世界でルーラを唱えられるのはお父さんとポピーだけな為、度々ポピーに泣き付いてくる。
「このところ毎日ですね…」
「陛下にも困ったものだ!」
あまり勝手にふらつかれると、弟妹が増えるやもしれない…
正直やめてもらいたい。

「昨日はラインハットだったし、今日はサンタローズかな?」
僕の提案にポピーは、
「そんな単純な人じゃないでしょ!今日もラインハットへ行ってみましょ」
嬉しそうに答えるポピー。

「そんな事言って、コリンズ君に逢いたいだけじゃないの?」
コリンズ君とは、ラインハット王国の兄王陛下、ヘンリー様のご子息で、僕の親友…
「何よ!悪い!!」
認めちゃったよ…

気付いたら、この二人は付き合っていた。
お父さんが執務を抜け出して、ちょくちょくラインハットに行っていたからポピーもコリンズ君と親しくなったんだ。
「何、アレ?ティミーは彼女が出来ないからって、私に嫉妬してるの?」
ポピーはだんだん性格がお父さんに似てくる。
きっとコリンズ君は苦労する。
可哀想に…

「あ!?それともアレ?リュリュに逢いたかったのかしら?愛しいリュリュに!?」
リュリュは外見はお父さんを女性にした感じの美人だが、性格は母親のシスター・フレアの様に優しい女性に成長してる。
僕の初恋の女性だが、よりによって腹違いの妹だった。
早めに判って良かった。
あと2.3年後だったら………

「手ぇ~出しちゃいなさいよ!お父さんの自業自得なんだから!構う事無いわよ!ピエールみたいに思い切って踏み出してみなさいよ!何だったら駆け落ちでもしちゃいなさいよ!応援するわよ♥」
も~コイツ最悪…早くラインハットへ嫁げよ!
妹には不自由してないから、一人くらい嫁いでも悲しく無いよ!
「分かったから黙れ!じゃ、ラインハットへ行こうよ!」
疲れ切った僕と、ニヤけ顔のポピー。
テラスまで出てポピーがルーラを唱える。

ルーラで空を飛びながら思う。
僕はとても幸せな人間だと…
お父さんとお母さんの子供に生まれて良かったと…

ティミーSIDE END






人が居て、営みがあり、人が増える。

他人が友となり、男女が恋をする。

絆を以て人々は繋がり栄えて行く。

ハッピーエンドへ向けて…