魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
プロローグ
前書き
こんにちはblueoceanです。
別の所で掲載してましたが、こっちでも掲載することにしました。
よろしければ見ていって下さい。
俺は有栖零治。
年は14歳。
転生者だ。
俺は8歳の姿でこの世界に転生してきた。家とお金もそれなりに用意してあり、一人でも生活出来るようになっていた。
神様に言われ、リリカルなのはの世界に転生してきた事が分かったが、はっきり言って俺は原作を見たことがない。
知識はあるにはあるのだが、二次小説を読んでいたのと、所々を○ーチューブで見たことがあるくらいだ。
数の子シスターズの名前は分かるが、顔が分からん。
ただチンクは眼帯をつけているらしいからすぐわかると思うけど。
ちなみに俺の魔法ランクはSだ。
デバイスを使った時に言われたから間違いないと思う。
だけど、面倒ごとには余り突っ込みたくないから普段はリミッターをかけて魔力は無いように見せかけてる。
デバイスの名前はラグナル。インテリジェントデバイスで指輪だ。
普段はチェーンに通して首にかけてる。
最初の頃の俺も、二次小説の主人公たちみたいに、原作介入何て考えていたけど諦めた。
その一番の理由が、俺以外にも転生者がいたからだ。名前は神崎大悟。日本名のくせに髪は銀髪、目は赤と青のオッドアイ。イケメンのキザやろう。正直気持ち悪いし、ナルシストでかなりうざい。
こいつが原作介入し、高町たちとジュエルシード事件を解決していたため、介入する機会を逃し、時間だけがダラダラ過ぎていった。
そのうち、やる気を無くし俺は原作介入を諦めた。
と言ってもせっかく手に入れた魔法の力だったので、フリーの魔導師として、仕事をしている。
転生者の俺には親がいないので別に何か言ってくるやつは誰もいなかったし。
二つ名もついた。いきなり現れ、漆黒の鎧を纏い、敵を倒し、忽然と消える。傷ひとつ負わないその姿から『黒の亡霊』と呼ばれるようになった。
ちなみに俺はフェイトと同じマンションに住んでいる。狙ってないぞ………………
あと、独り暮らしでもない。
五年前の闇の書事件、それが終わってからのことだ。
いつも通り学校を帰っていた俺だが、ふとすごく微弱な魔力を感じたので、そこに向かった。
そこには高町なのはそっくりな女の子、フェイトそっくりだが髪が水色の女の子、はやてそっくりの白髪で先が赤い女の子がいた。
だが今にも消えそうなくらい薄くなっていた。
「だれ……で…すか?」
「通りすがりの魔導師。あんたらは?」
「わたしは………私達には、名前は………」
「ふ〜ん。なぁあんたたち、生きたいか?」
「生きたいかどうか聞いている」
「私は…生きたい」
「僕も……」
「我もだ……」
三人が言ったのを聞いた俺は、
「分かった。もう少し持たせろ」
そう言って目をつぶった。
「なんじゃ、やっと願いを言いに来たのかの?」
「ああ」
神様は最初に俺に三つまで神様の力で出来る範囲の願いを叶えてくれると言われた。
だけど、特に思いつかなかった俺は要らないと言ったのだが、神様のプライドが許せないらしく、何か叶えて欲しい願いがあったら言えと言われ渋々了承したのだった。
「それでなんじゃ?」
「今にも消えかかってる三人娘を普通の人として生きれるようにしてやってくれ」
「ほぅ、そんなんで良いのか?」
「ああ、そうしてやってくれ」
「新たな力とかではなくて良いのか?」
「要らねぇよ。そんな物騒なもの。今さら原作介入なんてするきないし」
「………本当にいいのか?」
「いいからやってくれ」
「やれやれ本当に欲の無いやつだの……」
「それじゃいくぞ」
『何でもいいからそれっぽい呪文を言ってくれ』
「………かの者達を死の淵から呼び戻せ、レイズデッド」
三人のしたから光の魔方陣が現れ三人を包む。
「うそ!?」
「体が……」
「なんと!」
三人ともそれぞれ驚いている。
「ちなみに人になってるから」
「「「えっ!?」」」
「魔法は……多分使えると思うけど、使えないかもしれん」
「いや、そんなことよりも……」
「人ってどういうこと!!」
なのは(仮)が話そうとしたところでフェイト(仮)が割り込んで聞いてくる。
「原理は知らん。神のじいさんにでも聞いてくれ」
「・・・訳が分からん」
はやて(仮)が少し不満そうに言う。
「………なんなら少し手を切ってみろ。血が出るから」
そう言われ、なのは(仮)が指をかんだ。
本当にしやがった…………
「本当に……血だ…」
「僕も……」
「我もだ……」
フェイト(仮)とはやて(仮)もやってみてそれぞれ驚いている
「そんじゃ、俺は帰るからあとは頑張れよ」
そう言って立ち去ろうとしたが、
「まっ、待ってください!」
なのは(仮)に手を捕まれる。
「いかないでください………」
弱々しい声で俺に言った。
……………そういえばこいつら闇の書の残留思念だっけ?よく覚えてないけど……ってことは帰る家も金も持ってないだろうし、ここでほおっておくのは…………
……仕方ない。
「分かった。お前たちもこいよ」
「…………いいんですか?」
「ああ、ここで見捨てても後味悪いからな。えっとなんて呼べばいいか………」
「あの……名前つけていただけませんか?」
「はぁ!?良いのかよ?」
「はい………助けていただきましたし」
「あなたなら僕もいいかな」
「つべこべ言わず早く考えろ!!」
はやて(仮)態度でかいな………
まぁ可愛いが。
暫く考えたが結局………
「よし、まずはなのは似のお前は星」
「星………」
「フェイト似はライ」
「おお………!」
「はやて似は夜美」
「ふむ、悪くはない」
よかった、不満はないみたいだ。
まぁ二次小説をまんまパクったからな……
「そんじゃ行きますか」
「待ってください!」
再び家に向かおうとした俺だったが、星に止められた。
「あの……あなたの名前は………」
「…………俺は有栖零治だ」
こんな感じでマテリアル三人娘が同居人になった。
あの後、三人はそれぞれ名字は俺と同じにし、有栖星、有栖ライ、有栖夜美と名乗ることになった。
一応、小学校に通わせるために、4年の夏休みまでにみっちり勉強させ、秋から俺とは違う学校に行かせた。
これはなのはたちと鉢合わせないようにするためである。
すごく反対されたが高校は同じ学校にすると約束して何とか静かにさせた。
そして今現在……
「レイ、おっきろ〜!!」
ドスンッと俺の上に誰かが乗ってくる。その威力に意識が飛びそうになるが、なんとかつなぎとめた。
「たっ、頼むからその起こし方は止めろ!!いつか息の根を止めるぞ………」
「レイがすぐ起きないからだよ」
俺の上に乗っているのはライ。元気っ子で一番子供っぽい。だがそれと反比例して、身長もスタイルも中学生ばなれしてきている。男子からの人気も半端ないらしい。本人は全く分かってないだろうけど・・・・・
「レイ、やっと起きたのですね」
星が優しく語りかけてくる。
「おはよう、星」
「早く準備してください。ご飯はできてますよ」
星は家で一番しっかりしており、面倒見もよく、三人娘では長女みたいな感じだ。夜美から聞いたが、その性格ゆえ、中学ではマドンナ的存在になっているらしい。
家事は全般、星がやってくれていて俺は大助かりしている。
ライや夜美が手伝おうとするが、遅いので一人よりも時間がかかってしまう。
つーか夜美、はやては料理もうまいはずなのに、なぜか夜美は全然できない。
王様気取ってるからか?
すぐに着替えて、リビングに向かう。
するとソファーに座って新聞を読んでいる夜美がいた。
「おっす、夜美」
「遅い、いつまで寝ている気だ」
夜美は原作とは違い、相手を罵るようなことは滅多に言わない。だけど偉そうなのは変わらず王様みたいに振る舞っている。中学でもそうらしい。
最近はなかなか成長しないことを気にしているらしい。
まぁ比べる二人のレベルが高すぎるが………
「本当はもっと寝ていたいけど」
「まだ寝る気なのか……………」
あきれた感じで言われた。
「あのな、人間で一番大切なのは睡眠でだな……………」
「いいから、ご飯にしますよ」
星に横やりをいれられ、話す気を無くした俺は黙って席につく。
夜美も続いて座った。
「よし、それじゃ……」
「「「「いただきます」」」」
朝御飯を食べ始めた。
「それじゃ、先に行きますので戸締まりよろしくお願いします」
「了解」
「じゃ、行ってきます」
「行ってくるね」
「行ってくる」
三人がそれぞれ言い、家を出ていった。
三人は隣町の中学に行っているため、朝はとても早い。
これが有栖家の朝である。
本当は俺も三人と同じ中学にするか迷ったが、なのはたちの近くにいた方が原作の流れを把握できるのではないかと思ったからそのまま進学した。
既に違うところも出てきている。
俺が通っている聖祥大学付属中学は共学でクラスも男子と同じになっていた。
確かアニメは男子と女子は別々になっていたような……………
転生してはや6年。
転生前の記憶もほとんど忘れ始めていた。
まぁ、そんなこんなでなのはたちと同じ学校だ。
いつもと変わらない日常が続くだろうと思っていた。だが新学期、この年、俺の生活は一気に変わる…………
第1話
学校に着いた俺に待っていたのはクラス発表と言う、学生では欠かせないイベントだ。
いつも寝ている俺にとってはクラスなんてどうでもいいが、いつもちゃんと調べていることがある。
………高町なのは率いる原作組プラス1名のことである。
小学生の時は幸運なのか魔導師四人と同じクラスになったことはない。ただ、アリサ・バニングスと月村すずかとは、去年同じクラスになってしまった。なぜかバニングスは執拗に絡んできてうざかった。
寝ている俺によく突っかかってくる。すずかはいつもバニングスと喧嘩になりそうな所を良いタイミングで止めてくれる。
…………………すずかがいなかったらリアルに殴りあってたかもしれない。
そんなこともあり、去年は最悪だった。
今年は最高のクラスでありますように………
期待を込め掲示板を見る。
2—Aか。
さて、あいつは………いたよ、バニングス。悪夢の再来か………
あっ、すずかもいた。助かった。女子では唯一気楽に話せるからな。
そして本命、高町なのは。
……………………いた。
まぁ今まで接点が無かったのは異常だったのかもな。
俺自体翠屋の常連だし。
続いてフェイト・T・ハラオウン。
………………………………マジで!?
いましたよ、高町に続いて。なんだか今年は運が悪すぎる。
静かに生活したいだけなのに…………
……………もう勘弁してくれ…………三人娘同じクラスかよ…………
八神はやての名前がそこにあった。
本当に目立たないようにしなくては………………
…………………………マジで転校するかな。
男子の所に神崎大悟の名前があった。
原作主要人物勢揃いである………………
「何この世の終わりみたいな顔をしてるのよ」
教室に入って早々にバニングスが話しかけてきた。
「………バーニングか。悪い気分が最悪なんだ帰って良いか?」
「バ・ニ・ン・グ・ス!!いい加減名前くらい覚えなさい!!」
「しかも、普通なら話しかけるなじゃない?」
バニングスの隣にいたすずかが苦笑いしながら話しかける。
「すずかか、おはよう」
「……………何ですずかは名前なのよ」
「はぁ?お前の名字が面白いからに決まってるだろ?燃え上がれバーニング!!」
「バニングスだって言ってるでしょ!!」
キーキー言いながら拳を振ってくるバニングス。それを椅子に座りながら器用に避ける。
「避けるな!!」
「フッ、甘い、甘い」
「…………………二人って実は仲いいでしょ」
すずかの呟きは二人には聞こえなかった。
「疲れた………………」
「何で新学期そうそう…………」
「自分たちが悪いんでしょ………………」
呆れた様子で言うすずかに何も言えなくなる俺とバニングス。
そんな時……………
「「アリサちゃん、すずかちゃん」」
「アリサ、すずか」
魔導師三人娘がやって来た。
「なのは、フェイト、はやて」
嬉しそうな声を上げ、アリサは声のする方へ行った。
「零治君、後でね」
すずかはそう言ってバニングスの後に続く。
俺としては後もほっといて欲しいんだけど………
っていうかこれってお友達イベントじゃね!?
関わりたくないのに…………
なんとか逃げるか。
その場から立ち去る俺だった。
皆が講堂に入っていく中、俺は屋上で黄昏ていた。
あのあとすぐに席をたち、屋上に行った。
今は始業式が始まっているだろう。
それにしてもどうするか…………
はっきり言ってかなりやばい状況である。
フリーの魔導師として活動しているが、非公式のため管理局に目を付けられていることは明らかだ。
まぁ、全身装甲に覆われているし、バイザーも付けているからブラックサレナでいる間はバレないだろう。
けれど、管理局員にはなるべく関わりたくない。
星たちのこともあるし……………
そんなことを考えていると生徒たちの声が聞こえてきた。
「さて、そろそろ教室に戻るか」
新学期そうそう、説教なんてめんどくさいし。
俺が教室に入るとみんな注目するが、直ぐに自分のしていることに戻る。
まぁ俺のことなんてどうでもいいから当然だろう。
席について机に突っ付す。
「あんたどこ行ってたのよ」
「……………いつものとこ」
「またか………あんたそのままだとろくな人間にならないわよ」
「余計なお世話だ。寝るから黙ってろ」
「っ、何よその態度!!せっかく人が忠告してあげたのに。分かったわよ、好きにしたらいいじゃない!!」
そう言って離れていくバニングス。
余計なお世話だっての。けれどこれでやっと寝れる……………
「ほほう、新学期そうそう堂々と寝るなんていい度胸じゃないか」
聞き覚えのある声に思わず顔を上げる。
そこには仕事のクライアント、シャイデ・ミナードがいた。
「皆さん初めまして。このクラスの担任のシャイデ・ミナードです。担任を持つのは初めてですけどよろしくね」
男子から喝采が上がる。
それはそうだろう。
見た目は金髪のスレンダー美人だもん。年齢も確か25だったはず。思春期の男共には最高だろう。
俺にとっては最悪だけど。
「ちなみに、そこにいる有栖零治の叔母に当たるの。何かみんなに迷惑をかけたら言ってね、後で“おはなし”するから」
余計なことを言うな!あとお前は高町か!!
シャイデ・ミナード
仕事のクライアントで、天才デバイスマイスター。特殊なデバイスのラグナルを唯一メンテできる。
俺が独り身なのを知って勝手に叔母として保護者になった。けれどミッドチルダに住んでいるため別々に暮らしている。ちなみに星たちの保護者もやってくれている。
「俺的には何であんたが先生になっているのかが謎なんだが」
「あら、言ってなかったっけ?私、教員免許持ってたのよ」
「初耳だね。聞いてたら転校したのに」
「だからよ。これで少しはましになってもらわないと」
「………………一番アレな性格しているあんたに言われたくないけど」
二人の出す負のオーラにクラスの皆は引いていた。
「っとこれくらいにして、みんなできればこの馬鹿とも仲良くしてね。それじゃまずはこのプリントを……………」
何事もなかったかのようにHRを始めたシャイデにクラスの空気も徐々に柔らかくなり、二時間目に入ったときにはすっかり馴染んでいた。
「それじゃ、今日やっていくことはこれくらいかな。よし、みんな席替えするわよ」
それを聞いて、クラスから歓声が上がる。(主に男子)
「ここにクジを作っておいたからみんな順番に引いてね」
そう言ったあと、みんなそれぞれ引き始める。
しかし、新学期そうそう席替えとは………
まぁ、一番前の席を離れられるなら別にいいか。
しかし男子の力の入れようが半端ない。
まぁ、このクラスにはこの学校五大美少女がいるんだからな。(当然原作組み。)
気持ちは分かるけど…………………
「みんなクジ引いたわね。それじゃ、みんな移動始めて」
シャイデの一言でそれぞれ移動を始めた。
結果は………………
見事、窓の一番後ろを引いた俺!!
だけど………………
「よろしくね、零治君」
隣に魔王様がいらっしゃいました。
どうしてこうなる…………………
第2話 零治VSなのは
そんなこんなで見事魔王様の隣を引いた俺。男子の大半が俺をにらめつけている。まぁ勝ち組も何人かいるけど…………(フェイトやはやて、バニングス、すずかの周辺の方々)
だけど俺にとっては全く嬉しくない。変わって良いならいくらでも変わってやる!!
学校が終った瞬間、俺はダッシュで教室を出た。廊下を走り、階段を一気に飛び降り、下駄箱まで行き、靴を履き替え、学校を出る。
………………よし、追って来ない。
って言うか、ただのお隣さんなだけだし問題なさそうな………………
家に帰ってこの事を星たちに報告した。
星はかわいそうな人を見る目で「お気の毒ですね」と言われた。
…………………ちょっとトラウマになってる?
ライはそんなの関係ないといった様子でシャイデの話になった。
ライはシャイデを母親みたいに思っているところがあり、一番甘えている。シャイデもまんざらでないみたいだけど…………
夜美はクラスになった、八神はやてのことが気になってるみたいだ。
やっぱり自分のオリジナルだからかな……………
あと、いつも通りみたいに俺をパシるな!!
やってやる俺も悪いけど………………
一度夜美とはちゃんと話し合った方が良いような気がする。
その日の夕食はカレー。俺の好物だ。多分俺のためだろうな。
本当に星は優しい………………
「レイ、ゲームしよう!」
「いいぜ。よし、たまにはみんなでするか」
ライの提案に星と夜美を呼び、Wiiのリモコンを渡す。
この世界にもWiiやPS3などのゲームは存在している。
ただソフトの中身は違うけど。
それでも、マリオそっくりや、テイルズそっくりのゲームがあったりする。
今回は大乱闘スマッシュロワイアルにするか。
俺は、アイク似のキャラ。星は無難にマリオ似のおっさん。ライはピカチュウ似の電気ネズミ。
夜美はカービィ似の暴食野郎。
「喰らえ、雷撃砲!!」
「そんな技あったか?」
「いいえ、私は知りませんけど…………」
「く、やったなライ。だが、我もそう簡単に負けられん!!」
テレビの中で激しい戦いを繰り広げているライと夜美。
俺と星は早々に潰されました。
今は仲良くゲームの模様を見ています。
星はあまりゲームをしないため直ぐに負けてしまう。
っていうかハンマー持ってんのに勝手に落ちていくなんて………………
才能無いとかの問題じゃないと思う。
俺ははっきり言って一番強いのだが、ライと夜美に集中攻撃され除外されてしまった。
でもってライvs夜美となっていた。
「ああーっ!!」
暴食野郎のスマッシュが決まり電気ネズミが吹っ飛んだ。
「フフ、今回は我の勝ちだな。おい、レイお茶を持ってこい」
「了解…………じゃねぇ!!!」
行きそうになる体をなんとか止めた。
「敗者に口無し。いいから三人分を持ってこい。」
「ぐっ………」
「あの…………私が……」
「星はいつもやってるからいいよ。分かった持ってくるよ」
「僕コーラね」
「買って来いと!?」
「そこまでしなくていいです!ライ、あなたもわがまま言わない」
「えっ〜でも夜美が言ってたじゃん。敗者は口無しだって」
「ぐっ……………」
「けれどそれなら私も…………」
「でもレイは俺に任せろって言ってたよ」
「ぐぐっ………………」
「男なら二言はないよな?」
夜美がニヤつきながら俺に言ってくる。
「分かった、分かったよ!!なんでも言ってこい、買ってきてやる!!」
その後、夜の街を駆けたことは言うまでもない。
そんなこんなでわいわいと夜を過ごした。
そして次の日。
早速、魔導師組は欠席していた。まぁ管理局の仕事なんかだろう。
しかし、運が悪いと思っていたが、よく考えてみると最高だなこの席。
ポジショニングは言うまでもない。窓から入ってくる春の陽気で睡魔がアップ。先生からも一番遠いのでここまで来て起こしに来る先生も滅多にいない。
一番の問題、隣の魔王様だが管理局の仕事で度々休む。
俺の睡眠を妨げるものはいないのだ!!
席に付いてすぐ、My安眠枕を取りだし、眠りに付いた。
「……………相変わらずね、あいつ…………」
「そうだけど、気になるの?アリサちゃん」
「べっ、別に!ただあいつの態度が気に喰わないだけで…………」
「はいはい。分かってますよ」
「…………なんか納得いかない」
ジト目で見るアリサに、「ごめんごめん」と謝るすずか。
そんなこともあり、零治は今日1日爆睡していたのであった。
だが、その幸せも長くは続かない………………
「零治君起きて」
次の日の一時間目、今日は来ている高町に揺すられる。
だが、そんなことで負ける俺では無い。
俺は気にせず、寝ることに集中する。
「零治君」
負けじと高町もゆすってくる。
「零治君!」
うん、大丈夫だ…………
「零治君!!」
まだ………………
「零治君!!!」
「うるせぇ!周りのことも少し考えろ!!」
「零治君が寝てるのが悪いんでしょ!!」
「だからって大声出すなよ!みんなの迷惑だろ!!」
「そうだ、迷惑だから騒ぐのをやめなさい」
いつの間にかクラスのみんなが俺たちに注目していた。
高町は顔を赤くして席に着く。そして俺を睨む高町。
…………俺のせいじゃないから睨むのやめろ。
そんなことがあっても授業は続いた。
当然俺は寝てるが。
三時間目・・・・
二時間目は体育だったので普通に授業に出た。
やっぱり体を動かすことは楽しいわ。
そして再び高町との戦いが始まる。
「…………………」
「…………………」
授業が静かに進んでいく。
高町も絡んでこない。
…………諦めたのか?
だが不屈の心を持つ高町がこのまま終わる訳がない。
いつ何があっても身構えるようにしていた。
四時間目・・・・
失敗した……………
余りにも警戒しすぎて寝れなかった。
完全にやられた。
高町めやはりやる。
不屈のエース・オブ・エースは伊達じゃない。
(まだ、エース・オブエースではありません)
?何か聞こえたような気がするけどまぁいい。
今度は負けはしない!!
「零治君、寝てるの?」
「…………………」
…………今度は声をかけてきた。だが今回は俺の勝ちだな。
シャープペンを刺す、などの対策は万全だ。
あらかじめ制服の中にもう一枚長袖を通し、芯を通らないようにしている。
かつて男子生徒にやられたことがあるのでいつも対策をしているのだ。
夏はさすがに無理だけど………………
「零治君」
あっ……意識が遠くなってきた……………悪いな俺の勝ちだ……………
ゴス!!!
鈍い音を鳴らし俺は違う意味で意識を飛びかけた。
頭を抑えながら立ちあがる。
「零治君、寝てちゃ…………………ダメだよね?」
「おまっ何で殴って…………」
「オハナシ……………する?」
「……………ゴメンナサイ。」
かなりの威圧感に謝るしか出来ない俺。
高町の手には国語辞典があった。
…………………あれで殴ってる訳じゃないよね?
そう問いかけるように高町を見た俺。
……………高町はニタァと笑った。
その日から零治が授業中寝てる時間が減ったのは言うまでもない………………
「なのは、何でそんなに零治に絡むの?」
お昼休み、屋上でご飯を食べているなのはにフェイトが聞いた。
「それ、私も気になる。ねぇなんでやん?」
はやても会話に入ってくる。
「別に……変な意味はないよ。余りにもだらしがないから…………」
「それでもそこまでしなくてもいいんじゃない?」
「私もそう思うで。」
「アリサちゃんも?」
「私は逆に感謝かも。あいつ一年の頃からあんなだから…………なのはのプレッシャーにビビってたからね。今まで通りではないと思うわ」
「アリサちゃん、詳しいんだね」
「まぁ、あいつとはいろいろ衝突してたから」
「二人っていつも喧嘩してるけど、本当は結構仲がいいと思うんだ」
「ちょっ!?すずか?」
「へぇ………ねぇすずかその辺詳しく話してくれない?」
「フェイト!?」
「私も聞きたい」
「私もや」
「なのは!?はやて!?」
「んとね、去年のことなんだけど…………」
「すずかもやめなさい!!」
屋上でワイワイと話していた五人だった。
第3話 有栖家の休日
さて、学校も順調に進み新学期に入っての初めての休日になった。
フェイトやはやてとは直接接触はしていないが、バニングスやすずかが時々俺の所に来て高町と話していたりするので時間の問題だと思われる。
しかも高町の一件があってからなかなかゆっくり寝れることが出来なくなってしまった…………
寝ていると頭に鈍い痛みが俺を目覚めさせるからだ。
いつか、殺される………
そう肌で感じた俺は、隣に高町がいる限り安息は無い状態になっていた。
そんなこともありながら、学校を乗り越え、やっと念願の休日がやって来た。
今回はゆっくり寝るぞ!!と思っていたが………
金曜日の夜・・・・
遅めの風呂を上がり、ソファに座り湯冷めをしている時だった。
もう三人とも寝ていたはずなのに後ろから星の声が聞こえてきた。
「レイ、ちょっといいですか?」
「どうした?星」
星はパジャマ姿でソファに座っている俺の隣に座ってきた。
…………シャンプーのいい匂いがしてくる。
しかもパジャマ姿がまた色っぽい。
出会ったばっかのときはガキだな、なんて思ってたけど本当に成長したなぁ。
「レイ?」
「おっと、すまない。考え事してた」
変な事だけどな。
「はい。あの、明日買い物に付き合ってもらえませんか?」
「買い物?」
「はい、日常品がほとんどないので買いに行きたいのですけどその…………荷物が……」
なるほど、だけど星に任せっきりのせいか全然気づかなかったな………
明日はゆっくり寝ていたいけど………
「分かった、付き合うよ」
「本当ですか!?」
嬉しそうに近づいて聞いてくる。顔は目前にある。
ヤバイ……この距離は………
「すっ、すみません!!」
顔を赤くしながらバッと離れる星。
「別に問題ないよ」
と何事もないように振舞うが、心臓はバクバクだ。
しかし、顔を赤くしたり嬉しそうにする星って可愛いな、もっと感情を表に出せばいいのに…………
「…………星はもっと感情を外に出したほうが良いよ。そっちの方が可愛いんだから」
「な、何を言っているんですか!!からかうのは止めてください!!」
顔を赤くしたまま怒る星。
「冗談じゃないんだけどな………」
それを聞いて今度は硬直してしまう星。
…………………面白いな、星。
我に返ってから星と明日の時間を決め、寝ることにした。
「夜美………」
「分かっている………」
そして次の日・・・・
「買い物、買い物」
「ライ、落ち着かぬか!買い物は逃げたりせぬぞ」
…………何でこの二人がいるんだ?
「すみません、昨日の会話聞いていたみたいで…………」
「マジか…………」
この二人が付いてくると買い物がものすごく長くなるんだよな…………
しかも全部俺持ちになるし………
「星〜、レイ〜早く〜!!」
「遅いと置いていくぞ!」
ずいぶん前にいた二人が呼んでいる。
「はぁ〜覚悟を決めるか………」
「私も手伝うので今日はお願いしますね」
「ああ、頼むよ」
そう星に言って海鳴町の隣町にあるデパートに向かった。
「見て見て星!これ可愛くない?」
「そうですねライ。でもこっちなんてどうですか?」
「う〜ん、でも僕に似合うかな………」
「ふむ、なかなか良いと思うぞ。星お前にはこれなんかどうだ?」
「いいですね。ありがとう夜美」
楽しそうだな三人とも…………
たくさんの荷物に囲まれながら疲れた体をベンチに座って休んでいた。
今日もたくさん買ったこと…………
トイレットペーパー、食料品、洗剤、調理用具、掃除用具など様々。
お陰様で結構荷物が多い。
しかもまだ買うみたいだ。
まぁ、俺もCDやゲームソフト買ったけど……………
そして、案の定買い物は長くなっている。
何で女の子の買い物って時間かかるのかな…………
まぁ、マシになったほうか。
最初の買い物なんて大変だったからな…………
5年前・・・・・・
「星どうだ?」
「私にはどれがいいか分かりません…………」
まぁ普通ならそうだよな。生まれたばかりなんだし………
「ねえねえ、どうこれ!!」
「我のこの服はどうだ!?」
星が普通なんだよな?
それと少しは落ち着け!!
次から次へと服を取り出さない!グジャグジャにしたままにしない!!
あの時はずいぶんお店の人に迷惑かけたし、大量の服を買う羽目になって帰りがかなり大変だったなぁ…………
「う〜んやっぱりこれはいいか。」
「私はこれとこれを………」
「我はこれにするか。」
少しは成長したかな…………
あれ?俺って親父っぽくない!?
「うまーい!!」
「やかましいライ」
デパートにあるファミリーレストラン。そこで昼食を食べていた。
「なんで私だけ…………」
何かブツブツと呟いている夜美。
「星、夜美に何かあったのか?」
「はい、あの………」
ちょっと言葉を濁している。
「夜美、自分だけが成長してないことを気にしちゃって…………」
「ああ、なるほど」
「うるさい!!我だって、いつかは…………」
「パクパク………」
ハンバーグを食べているライのスタイルを見てまた落ち込む夜美。
っていうか比べる相手が悪い。
星もライも規格外っていっていいほど成長している。
まぁ、オリジナルがすごいからな…………
決して夜美は劣っている訳ではない。
「気にする必要なんてないぞ。今のままでも十分魅力的だし」
「!!」
何を驚いてるんだか。
「そりゃ、この二人と比べたらスタイルとか負けてるかもしれないけど、夜美には夜美の魅力があるんだし」
「な、何を言って…………」
「それにほかの子よりは十分成長してるだろ?だったらそこまで気にすんなよ。お前らしくもない」
「で、でも、やっぱり無いよりあったほうが………」
「まぁ、人それぞれだろ、そんなもん」
「………じゃあレイは?」
「俺か?………まあ気にしないかな。別にスタイルで好きな人を決めるわけじゃないし」
ごめんなさい、でかいのも好きです。
「そうか………」
嬉しそうにし、再び自分のスパゲッティに手をつける夜美。
よかった。機嫌はよくなったみたいだ。
だけど、星とライの目付きがきつくなったような…………
買い物から帰ってきた頃には4時を回っていた。
「疲れた…………」
「お疲れ様です。」
星がお茶を渡してくれた。
夜美もライもそれぞれ自分の買ったものをしまいに部屋にこもっている。
「ありがとう。そうだこれ………」
懐から長方形の箱をだし星に渡す。
「これは?」
「いいから開けてみな」
そう言われ星は箱を開ける。
中には翡翠色のペンダントが入っていた。
「これって…………」
「いつも頑張ってる星へのご褒美だ」
「えっ、でも………」
「いいから着けてみろって」
そう言って無理やり星に着けさせる。
「おお、よく似合ってるじゃん」
そう言われ顔を赤くする星。
「…………いいんですか?」
「日頃のお礼だよ。いいからもらってくれ。」
「はい…………ありがとうございます。」
そう言って、大事そうにペンダントを握る。
よかった、気に入ってくれたみたいだ。
「これからも大変だろうけどよろしくな星」
「はい、頑張ります!」
そう言った星の顔は笑顔だった。
「そうだ、二人には内緒な。星だけに買ったって言ったら二人とも騒ぐから」
「フフッ、分かってます」
しかし、後に部屋でペンダントを見て幸せそうな顔をしている星をライが目撃してしまい、二人にせがまれることになる…………………
第4話 模擬戦
「お〜い、準備できたか?」
「私は大丈夫です」
「僕もOKだよ」
「我も大丈夫だ」
三人がそれぞれ返事をする。
今日は休日二日目日曜日。
仕事が無い時など、体がなまらないように最低でも週に一回は思いっきり模擬戦をする。
平日の夜も時々するが、今週はしなかった。学校でいろいろあったからな………
「じゃあ行くぞ」
部屋の一室に置いてある二つの転送装置、シャイデに頼んで作ってもらったやつだ。
行き先はミッドチルダと第28管理外世界トロメイヤ。
トロメイヤは危険な原生生物が少ない無人世界だ。
ミッドチルダは仕事で、トロメイヤは主に模擬戦で使用する。
そして今回も模擬戦なのでトロメイヤに向かう。
「とうちゃ〜く!」
ライの大きな声に導かれながら三人は明かりのある方に向かった。
転送装置はトロメイヤの洞窟の中にあり、この星の原生生物が誤って転送されないための措置だ。
「早く行こう!」
「そんなに急ぐなライ」
さっさと行くライを慌てて止める俺。
「全く、落ち着きがない………」
「嬉しいんですよ、ライは」
「戦うことをか?」
「というよりもスポーツ感覚なんでしょう。ライって体動かすのが好きですから」
「まあそうか、学校でもそうだしな」
ライは体育の時間など体を動かすことになると目の色が変わる。
休み時間など男子に混じってサッカーしたりするほどらしい。
「おい二人ともどうした?」
「いえ」
「なんでもない」
「そうか?だったら早く来いよ」
そう言われ、星と夜美は慌ててついて来た。
着いた場所はこの星にある平原地帯。一応結界も張ってある。
「それじゃあ、始めるか。ラグナル!!」
『やっと私の出番ですね。第4話でやっと初会話なんて………』
「何言ってんだお前………」
『マスターは私を敬うべきです!!』
「いきなり何言ってんだ?俺は結構お前を信頼しているんだぞ」
『ふ、ふん!今更そんなご機嫌取り要りません!!マスターは女の子を落としてハーレムでも作ってればいいじゃないですか!!』
「俺がいつハーレムなんか作るって言った!!」
「レイ、そんなこと言ってるのかお前は………」
「見損ないましたよレイ…………」
「最低だよ、レイ………」
いつの間にか三人娘が会話を聞いてました。
『しかもですね、この前マスター、アリサ様とすずか様に弁当作ってもらったんですよ』
「「「!!!」」」
「んなことしてもらってねぇ!!!適当なこと言ってんな!!!!」
「レイ…………」
「その時のこと…………」
「詳しく話してもらおうか…………?」
さらに鬼の表情になった三人娘。
「ちょっと………三人とも…………デバイスの戯言だって…………だからデバイス構えるのは止めろ!お願いします!!」
その場で土下座して頼む俺。
その後なんとか怒りを抑えていただきました。
『本当にこの三人はからかうと面白いですね』
「お前、覚えてろよ。シャイデに頼んで主人格変えてもらうからな」
『人間じゃ私の性格は直せませんよマスター』
「………無駄なところで高性能だよな、お前」
『無駄じゃないですよ!』
「レイまだですか?」
デバイスを構えたまま待っている三人。
「っとこれ以上待たせたら悪いか。ラグナル!!」
『イエス、マスター』
「ラグナル、セットアップ」
俺は光に包まれる。
出てきたのはえりが立っている白いコートを羽織った俺だった。
左手には刀を持っている。
これがラグナルの基本フォーム、TOGのアスベルの格好だ。
「さて今日は………」
「レイが一人です」
「うん、それがいい」
「我も賛成だ」
「いやいやいやいやいや…………」
何馬鹿なこと言ってんだ!?
俺はチートキャラじゃないんだぞ!?
「問答無用!!行け電刃衝!!!」
魔力弾が高速で迫ってくる。
「っていきなりかよ!烈壊桜!!」
桜色の斬撃を放ち、電刃衝を消し去る。
「次は私です。ブラストファイアー!!」
今度は星が砲撃魔法を放つ。
「だからちょっと待てって!烈震虎砲!!」
虎の姿をした衝撃波を放つ零治。だが、ブラストファイヤーを完璧に抑えることができず、後ろに吹っ飛ばされる。
「ちくしょう、なんでそんなにマジで………」
「それはお前が悪い」
砲撃魔法をチャージした状態でいた、夜美がそこに居た。
「あの少しは訳を話していただけませんかね……………?」
「おとなしくやられるのだな、喰らえアロンダイトフルチャージ!!」
巨大な砲撃が俺を包む。
「これはヤバイ!!ラグナル、ブラックサレナフォーム!!!」
『了〜解』
展開と同時に砲撃が零治を包む。
「やったね、夜美」
「ああ、直撃はしたと思うが………」
「二人とも油断しては駄目ですよ」
「………星の言うとおりだ。」
そこには全身黒い装甲に包まれ、顔をバイザーで隠した零治がそこに居た。
これが俺のデバイスの第2フォーム、ブラックサレナだ。
『黒い亡霊』もこの姿から来ている。
「………相変わらずバカみたいに硬い装甲だな」
「ラグナルフォームだとお前の砲撃には耐えられなかったからな。ったく少しは手加減しろよ。しかも3対1って…………」
「でも、それなら、問題ないよね?」
「いやいやブラックサレナでも複数は………」
「大丈夫ですよ、レイならやれます」
「そうだな、我の砲撃にも耐えたのだからな」
「…………少しはちゃんと俺の意見を聞いてください。」
「いいから行くよ。光翼斬!」
「私も、パイロシューター!」
二人はそれぞれ追尾性のある魔力弾を繰り出してきた。
「はぁ。……………だけどそう簡単に負けるわけにはいかないよな」
ハンドガンを展開して二人の攻撃に突っ込む。
「ディストーションフィールド展開」
前方にバリアを展開する。二人の攻撃はバリアの前に簡単にはじかれる。
「くっ、ルベライト!」
バインドをブラックサレナにかけるがいとも簡単にはじかれる。
「本当に、硬い…………」
「星、僕と一緒に、天破・雷神槌!」
「ルベライト!」
今度は二重でバインドをかける。今度のバインドはブラックサレナを捉え勢いを止める。
「今だよ、夜美!!」
「よくやった。我が闇に飲まれよ!行け、エクスカリバー!!」
アロンダイトよりも強力で巨大な砲撃を放つ。
それは一直線に零治に向かう。
零治はその砲撃に飲まれた。
「今度こそ…………」
「夜美、後ろ!!!」
ライの声に後ろを向く夜美、後ろにはビームソードを展開したブラックサレナがいた。
「おしかったな、バインドで拘束して一番威力のある砲撃で攻撃…………確かにあの威力ならディストーションフィールドを貫くことは可能だろうな」
「くそ、ボソンジャンプか………」
「そういうことだ。まずは夜美、お前は脱落だ…………」
「だりゃあああああ!!!」
ザンバーを展開し零治に斬りかかる。
それをビームソードで受け止めた。
「危ないな、いきなり斬りかかるなよ」
「くっ、だりゃあああ!!」
それでも力いっぱい斬りかかる。
「ライ、どいて!!」
言った瞬間、星はルシフェリオンブレイカーを容赦なく放つ。
すかさずライは離れ高速移動でその場から消えた。
(ソニックムーブか………だが!!)
またも零治はその場から飛んだ。
「ライ、星」
「分かってます夜美」
「僕たちに任せて!!」
「よし、エルシニアダガー………行けっ!!」
大量の魔力刃を周辺に飛ばす。
「んな!?なんだこれ!?」
転移し終わった零治に無差別に放ったエルシニアダガーが当たる。
対してダメージは大きくはないが、それでもフィールドを出来なかったため多少ダメージを負う。
「今だ!!」
「行くよ星!」
「はい、ライ!」
「ルシフェリオン………」
「きょっこーーざん………」
「「ブレイカーーーー!!!」」
二人の最大威力のある攻撃を息のピッタリあったコンビネーションで放つ。
「なっ!?あいつらいつのまにあんな攻撃…………」
『マスター、転移間に合いません!!』
「ちっ、ディストーションフィールド最大出力!!」
『イエス、マスター!』
最大フィールドでシールドを展開する。
二つの攻撃は激しい衝撃波を発生させながらブラックサレナに直撃した。
「どう………なった?」
「さすがのレイでもこれなら………」
視線の先には装甲がボロボロになりながらもそこに立っている零治がいた。
「………驚いた、合体魔法か………出力全開でもこのざまか。それに…………」
頭上ではさらにエクスカリバーを放つ準備をしている夜美がいた。
「念には念をだ」
「…………俺の負けだな。これ以上ダメージ食らっちゃ三人には勝てないわ………」
そう言って地上に降りてバリアジャケットを解除する零治。
それを見て…………
「「「やったー!!!」」」
大いに喜んでいた三人がいた。
「だけどさ三人とも大人げないと思うんだよな………」
「悪かった………」
「あはははは………」
「すみません………」
「コンビネーションよく攻撃してきたからこっちは攻撃できなかったし………」
草原に座り込みのの字を書き続けている。
『ボソンジャンプの事を詳しく知っている相手だと簡単に攻略されますからね………』
「なんだよ、もう少しデバイス強くならないのかよ。レベルアップみたいに………」
『私はデバイスですよ…………』
「あ〜あ、まだ魔王様の方が優しかったな…………」
「………それは聞き捨てなりませんね」
この場の空気が変わる。星のまとっていた雰囲気が一気に変わった。
その変化にライや夜美も顔をひきつる。
当然、いじけていた零治もぱっと正座に変わる。
「私があの女に劣っていると?」
「いえ………決してそのようなことは…………」
「………ライあなたはどう思う?」
「は、はい!!星の方が100倍優しいです!!」
「…………夜美は?」
「わ、我も当然星だな……」
無理やり言わされた感を感じるが、星は満足そう顔をした。
「それはそうでしょう。あの女より劣るはずはありません」
なんでそこまで高町を毛嫌いしてるんだ?
高町顔負けの怖さだぞ…………
「レイは分かってないみたいですね。少し“おはなし”しましょうか………」
「いや、ちょっと!?取り敢えず落ち着こう!!」
「私は冷静ですよ。さぁ、覚悟を決めてください………」
「ラ、ラグナル!!」
『ただいま留守にしております。ピーと音が鳴りましたらお名前とご要件をお話ください』
「何で留守電!?っていうかマスターを見捨てんのかよ!!ライ、夜美!!」
だがそこには二人の姿はなかった。
「あの二人逃げやがった!!」
「フフフフ…………」
ニコニコしているが、ものすごく怖いです。
俺は幻想殺しではないけど、
「不幸だぁーーー!!」
叫ばずにはいられなかった。
次に意識を取り戻したときには朝になっていました。
何されたんだ!?
第5話 みんな、翠屋に行こう
「ふぁ〜、やっと終わった……」
今日は水曜日。日曜の影響で生じた体の不調もやっと楽になって来た。
高町も居なかったのでぐっすり寝れたことが大きかった。
でも、一体星は俺に何したんだろうか……まぁいいか。
そうだ、気分転換に翠屋に行こう!
あそこの士郎さんの入れるコーヒーは最高だからな……
桃子さんのシュークリームを買って帰ればあの三人も喜ぶだろう……
ならば善は急げだな。
チャイムが鳴った瞬間ダッシュで教室を出ようとする。
「待ちなさい!」
誰かの足に引っかかってそのまま廊下の壁にダイブした。
「だ、大丈夫!?零治?」
「大丈夫よフェイト。そいつかなり頑丈だから……」
「このやろっバーニング!危うく天に召されるところだったぞ!!」
「ね」
「あ、アハハハ……」
苦笑いするしかないフェイト。
「それとバニングスだから。っとそんなことよりこのあと暇?」
「………今俺ダッシュで帰ろうとしたよな?」
「あんたが慌ててるのはいつものことでしょ?」
「まぁそうだけど………ってフェイト!?」
「キャッ!?」
「いきなりでかい声出すな!!それと何でフェイトって名前で呼んでるのよ。確かハラオウンって呼んでなかったっけ?」
「あれ?俺ハラオウンって言ってなかったか?」
「ううん、名前で呼んでたよ」
マジか!?すっかり油断してた。これって不味くないか………
「あっ悪い、名前の方が言いやすかったから………」
「ううん、良いよ名前で」
「そうか、ならこれからはフェイトって呼ぶな」
「うん」
うわっ、笑った顔綺麗だな………
しかも優しいし、スタイルもいいし確かにこれはみんなから人気が出るわ。
………ってそうじゃない!!
「何で学校にいるんだ!?」
「えっ!?何で?」
「いや、隣の高町が居なかったから……それに八神も」
「ああ、今日は私は用事なかったから………」
「じゃあ、高町帰ってきてないんだよな?」
「うん、多分そうだけど………」
よし!これで問題はクリアされた!!
「何でなのはのこと気にするの?」
「ん?い、いや特に他意はないんだ」
「そうなの?」
「お、おう」
あの目は怪しんでるな……
「………それに俺はどっちかって言うとフェイトの事の方が気になるかな」
「えっ!?」
「フェイトの金髪ってかなり綺麗じゃん。どこの国の人なのかなって」
「えええええええ!!」
何でいきなり大声出すかな………
「あ、あああの、ききき綺麗って誰?」
「?フェイトの事だけど」
「………えええええええ!!」
またかい………
いったいどうしたんだ!?
「お、おい!大丈夫か!?」
「だ、だ、だいじょうぶだよ」
まだ変なような………
まぁ大丈夫って言ってるしいいか。
って言うかバニングスやけに静かだな、どうしたんだ?
「なんで私だけ………」
「どうしたバーニング?」
「何で私だけいつまでたっても苗字なのよ!!しかも間違ってるし………」
「何でってやっぱり面白いから………」
「やっぱりか!!」
ボクサースタイルで拳をくり出すバニングス。それを俺が華麗に避ける。
「避けるな!!」
「ははは!!甘い、甘い」
争っている男女二人とその横であわあわしている金髪美女。
変な絵面ができていた………
その後、バニングスの誘いを断り、予定通り翠屋に向かった。
「はぁ〜やっぱこの味だよな……」
コーヒーを頼み、なごむ俺。
「いい飲みっぷりだな、零治君。煎れた方のこっちも嬉しいよ」
「零治君いつものでいいのよね?」
「はい、ありがとうございます桃子さん」
俺にチョコレートケーキを出してくれる桃子さん。
その後、12個入りのシュークリームをお土産として作ってくれている。
しかし初めて来たときは本当に驚いた。
3人の子供がいるとは思えないほど若いんですよ、お二人さん。
読んだ二次小説で、お姉さんと間違えた主人公たち。
君たちの気持ちはよ〜く分かった。
これは本当に化け物かと思うくらい変わってない。
未だに二人とも大学生でも通りそうだもん。
「あっ!零治君来てたんだ」
キッチンからなのはの姉美由希さんが出てきた。
………料理してないよな?
昔、美由希さんのシュークリームを一度食べてみたことがある。
………その時はゆっくり神様のじいさんと話せたもんだ。
「零治君、今私が作った………」
「士郎さん!!トイレどこでしたっけ!?」
「待って!別に無理やり食べろなんて言わないから逃げないで!!」
美由希さんがいるときはこのパターンになる場合が多いから、流石に分かってるか………
「じゃあ、なんです?」
「ただ、私が作ったチーズケーキ食べてみないかなぁって」
「………どちらにしても食べさせるつもりじゃないですか。」
「細かいことは気にしないべきだよ」
ニコニコしながらチーズケーキを差し出す、美由希さん。
見た目は普通なんだよな………
「あの………さっきのチョコレートケーキでお腹いっぱいに………」
「大丈夫。ケーキは別腹って言うし………」
それって女子に対する言葉じゃなかったっけ?
「だったら彼氏にでも食べさせてあげたら良いじゃないですか」
「彼氏なんていないもん………」
マジか!?
こんな美人ほっとくなんてなに考えてんだ男逹。
まぁ魔導師でものしちゃうかもしれないほど腕っぷしが強いけどな。
ここ、高町家は戦闘民族だし。
士郎さんは御神流の逹人。恭也さんは免許皆伝。
美由希さんも御神流を使う。 そんで高町は移動砲撃要塞。
神速は目にも止まらぬ速さらしい。
唯一桃子さんは普通だけど………
「………なんか失礼なこと考えてない?」
「いえいえ、こんな美人をほっとくなんて男どもはバカだなって思って」
「本当に?」
「本当ですよ」
「フフ、ありがとう。だけどチーズケーキは食べてみてね」
流されたうえに、逃げられないようだ。
ここは覚悟を決めるしかないか………
昔は百発百中だったけど、今は3割くらいの確率で大丈夫だからな。
今週の運勢は最高のはずだ………
自分を信じろ!
俺なら出来る!!
「南無三!!」
ソロモンの悪夢さんの口癖を言いながら、一気に食べた。
「よっしゃあああ!!」
見事成功!!
ありがとう、ソロモンの悪夢さん。
「…………何でそんな大声だしてるの?」
「そりゃ、命の危機を脱したから」
「私のケーキに毒なんて入ってないのに………それでどうだった?」
「へ?」
「どうしたの?」
「………一気に食べて分かんなかった」
そのあと二個目を食べることになりました。
「ふぅ」
「大変だったね」
少し暗くなってきたころ、翠屋にもお客さんがほとんどいなくなり、俺の机に士郎さんが座っている。
あのあとまた、美由希さん作、ロシアンチーズケーキを食べたけど無事だった。
本当に今週はついてる。
「いやあ、いつも悪いね、美由希のケーキ試食してもらって」
「………そう思うなら士郎さんが食べてあげてくださいよ」
「家ではいつも食べているよ。まぁ失敗作のときは毎回意識が飛んでるけど………」
本当にすごい威力だな……
「だけど今回はうまくいったみたいで、家族以外の人にも感想が聞きたいって言ってたから零治君にも食べさせてみたんだ」
「食べても大丈夫なんでしたら言ってくださいよ………」
「アハハハハ、いやぁ零治君のリアクションは素直で面白いからね」
豪快に笑う士郎さん。
少しかっこつけて南無三とか言った自分が恥ずかしい………
「けれど美味しかったですよチーズケーキ」
「そう言ってくれると、美由希も嬉しいだろう。そういえば零治君、今なのはと同じクラスなんだよね」
「はい、そうですけど」
「授業はちゃんと受けるべきだよ」
高町め、余計なことを………
「まぁ、善処します」
「普通は気を付けますとかだと思うが………」
苦笑いしながらそう言った。
「ただいま〜お父さん」
「お帰り、なのは」
……あれ!?もう帰ってきたの?
「あれ?零治君?」
「こんばんは。ま、タカマチサマ」
危ない、危ない。口が滑るところだった………
「何かおかしい気がするんだけど………」
キニシナクテイイデスヨ………
「じゃあ、士郎さん。もう遅いので帰ります」
返事を聞かないで席から立とうとする。
だが腕を捕まれ、椅子に座らせられる。
「良いじゃないか、今日は夕食をご馳走するから家においで」
「いや、でも………」
「桃子、一人分追加な」
「ハイハイ」
「いや、ですから………」
「なのは、零治君を先に家に案内しなさい」
「うん、わかったの」
………拒否権はなしか。
何で俺の回りには話を聞かないやつばかりなんだろ………
「ふぇ、零治君翠屋の常連だったの!?」
「ああ、小4の頃からよく通ってたよ」
三人もここのケーキやシュークリーム好きだし。
「……私、一度も見たことない」
そりゃ、鉢会わないようにしてたしな。
「たまたまだろ?」
「……本当に?なんか零治君私のこと避けてる感じするから」
本当に鋭いな……
「んな分けないだろ。美人を避けるなんて男として駄目だろ」
「美人って誰?」
「はい?高町、お前のことだろ」
「えっ?…………ふえぇぇぇぇ!?」
いきなり大声だすなよ。
フェイトとリアクションほとんど一緒だし。
「わ、私なんか全然だよ!他にもフェイトちゃんや、アリサちゃんや、すずかちゃんや、はやてちゃんもいるし………」
「フェイトもそうだったけどなんで自分を過小評価すんだよ。もっと自分達に自信をもっていいだろ」
だから美人なのに19歳になっても、男の噂がないんだよ。
告白とかはされてたらしいけど………
「で、でも、私なんか……」
「でもじゃないって。男子に聞いてみな。多分全員が皆口を揃えて美人だって答えるぜ」
「そんなこと……」
「まぁ、謙虚なのもいいけどあまりにも謙虚すぎると周りから取り残されるぞ」
「そう………なのかな?」
「多分な」
「だったらその時は零治君が貰ってくれる?」
「俺なんかでよければ」
「ふぇ!?」
「冗談だよ。」
「零治君!!」
真っ赤にして追いかけてくる高町。
「もっと速く走らないと捕まえられないぞ、高町」
そう言ったらいきなり止まる。
走ったり止まったり忙しい奴だな………
「なのはだよ?」
「名前か?」
「なのは」
「いや、知ってるけど」
「なのは」
「………知ってるって」
「なのは」
「………どこかおかしくなったか?高町」
「なのはって呼んで!!フェイトちゃんが名前なのにおかしいでしょ!!」
ってそう言うことか!!
でもフェイトからいつ聞いたんだ?
メールで聞いたのかな?
って俺普通に言ってたじゃん………
しかし、名前だけ言うからおかしくなったのかと思ったじゃないか。
「はいはい、分かったよなのは」
「うん!!」
笑顔のなのは。
もの凄く可愛い。
なるほど、こりゃあ男子に人気があるのは分かるわ………
「行こう!零治君」
俺は手を掴まれ走り出す。
高町家の食事はとても美味でした………
帰ったら、星にこってり絞られました。
連絡し忘れたからな………
ライと夜美はシュークリームを美味しく食べてたけど、二人がだいたい食べちゃったから、二人も星に怒られてました。
本当に翠屋のスイーツは有栖家には大人気だな。
今度星だけにケーキを買ってくることで怒りを沈めて頂いた。
リビングでは足がしびれて這いずり回っていた三人がゾンビみたいだったそうな………(by星)
第6話 零治とはやての不幸
高町家にお世話になった次の日。
「なあなあ、昨日なのはちゃん家でご飯食べたって本当なん?」
「いきなりなんだ八神?」
「はやてでええよ。それでどうなん?」
「本当だけど………何で?」
昼休み、昼食を食べて寝る気だった俺は、八神に話しかけられた。
「まぁ気になったからや。なのはちゃんが男の子を自分の家に呼んだの初めてやし………」
なるほどね、納得。
ああ、そうだ!今更なような気がするけど、もう原作キャラと関わらないことについては諦めました………
明らかにイベント多過ぎだもん。
高町家は自業自得だけど………
それでも翠屋のスイーツは食べる価値がある!!
だから戦闘など危ないことに巻き込まれなければいいです。
うん、それでいいや………
「………何悲しい顔してるん?」
「いや、今までの覚悟を曲げようと」
「わけ分からんわ」
苦笑いしながら言うはやて。
「と、そんなことより高町家はどうだったん?楽しかっんか?」
「うん?まぁ桃子さんの料理は最高だったけど」
「そう言う意味じゃないんやけど………」
「どういう意味だ?」
「………もうええわ」
「そうか」
なんかつまらなそうな顔してるけどなんでだ?
「なぁ、零治君………」
「零治!昨日翠屋にいたらしいじゃない!昨日本当は暇だったんでしょ!!」
いきなり大声上げてバニングスがやって来た。
「ちげぇよ。翠屋に行くのが用事だったんだよ!」
「なっ!?だったら別に今日とか明日でもいいじゃない!」
「分かってないなぁ。その時の気分で行きたい時とかあるじゃん。そういう時に行くのが最高なんじゃないか。なぁ、はやて?」
「そやな、私も時々そういう気分になるわ」
「だろ!それぐらい翠屋は素晴らしいところなんだよ」
「私だってあそこはすごくいい店だとは思うけど………何か妙に翠屋の事を熱く語るわね………」
「だって5年くらい通ってるもん、あの店」
「マジか!!私も結構な日数行ってんやけどな。零治君一度も見たことないわ」
「そう言えば私も………」
そりゃそうだ、鉢合わせないように十分警戒してたから………
「たまたまだろ、たまたま………」
「………目が泳いでるで、零治君………」
「分かりやすい奴………」
「そんなことはどうでもいい!それより俺もはやてに聞きたいことがあるんだ」
「ん、なんや?」
「恥ずかしいからちょっとこっちに………」
そう言ってはやてを手招きする。
来たはやてに耳打ちする。
「お前がおっぱい星人だって本当か?」
「!?どうしてそれを!!!」
「しっ!声がでかい。そうなら俺が聞きたいのは一つ。いつもいるはやて含めての胸の大きさ、詳しいサイズは言わなくていいからランキング形式で教えてくれ」
「なんでやねん!!って零治君は引かんの?」
「?何をだ?」
「私がおっぱい星人だって事とか………」
「何で引く必要があるんだ?別に女の子が好きってわけでもないんだろう?それにこうやって胸の大きさも聞けるし………」
「………零治君って意外と変態なんやなぁ………」
「男なんてみんなそう言うもんだよ」
「まぁサイズ言わなくていいなら構わへんけど………」
「ホントか!?なら頼む!!」
「………何話してるんだろ?」
少し悪いと思いながらもアリサは聞き耳を立てることにした。
その様子に気づいた俺ははやてに提案した。
「ここじゃ場所が悪い、場所を移動しよう」
「了解や、アリサちゃん悪いけどほな」
「ってちょっと待ちなさい!!」
アリサの声むなしく二人はダッシュで教室を後にした。
「ではでは、はやてさんお願いします」
「めっちゃうれしそうやなぁ。………最近測ったのは春休みに行ったスーパー銭湯の時や」
スーパー銭湯とは、一年前位に新しく出来た健康ランドみたいなところだ。
プールみたいに遊べるところもあり大人から子供まで楽しめる。
ちなみに有栖家は行ったことがない。
「スーパー銭湯か………俺行ったことないんだよな」
「あそこはほんといいとこやで。遊べるし、お風呂も色々な種類もあるし、混浴だからカップルもオーケーや」
「ってことは女子も裸で………」
「んなわけあるか!!」
どこから出したのか巨大なハリセンで叩かれる。
………あれ?痛くない。
「フッフッフッ、すごいやろ。この子はハリセン君57号!!改造に改造を重ねついに出来た私の最高傑作!!どんなに力が強い人が叩いても痛くない優れもの!!」
「おおお!!」
「さらに、さーらに!この柔軟さ。簡単に壊れないようになってるんや。どうや、すごいやろ!!」
そう言ってかなりねじるはやて。
「こ、こんなハリセンが世界に存在していたなんて………」
ボケ要因に優しい世界になったな………
「これを作るのにどれだけの犠牲を払ったことか…………」
「過酷だったんだな………」
「特に家族の視線が…………」
「………まぁ危ない奴だとは思われただろうな」
「だが私は負けなかった!どんな目で見られようともどんなことを言われても!!そして私は作った!!!この世で一番最強のハリセンを!!!!」
ダダーン!!と漫画みたいに文字がはやての後ろにあるように見えた。
右手にハリセンを持ち、高々と上げている。
まるで、伝説の剣を持った勇者みたいだった。
「………素晴らしい。素晴らしいよはやて!!」
「ふふん、これさえあれば怖いものなしや!!目指せお笑い日本1!!!」
「掴みとれ!!勝利の栄光を!!!」
はやてと二人でポーズを取る。
こんな馬鹿なことをやっている二人に突っ込む人は誰もいなかった………
「まぁそんな訳で完成したんや」
「しかし本当にすごいなこの柔軟性360度曲げても問題ない」
「それにフニャフニャでもないやろ。だからこんなに柔らかくてもちゃんと叩けてなおかつ、いい音なるのに痛くないんや」
なるほど、これほど科学って進化したんだ………
人間の進歩は止まらないな。
………ってあれ?
「俺何しにここまで来たんだっけ?」
「………そうやおっぱいランキングについてや!!いやぁ零治君と話があってすっかり忘れてたわ………」
「俺も恐ろしいくらい感じた。…………で、はやて」
「そう、焦らんといて。でなそこのスーパー銭湯に行った時や」
「そう言えばスーパー銭湯って中学生何円?」
「えーっと確か1300円やったと思う」
「…………ちょっと高くない?」
「でも中は広いし、色々なお風呂も入れるし、遊ぶ場所もいっぱいあるんやで。ウォータースライダーもあったし」
「本当にそれお風呂なのか?」
「どっちやって言ったら温水プールっていったほうがいいかも」
「………だけどそっちの方が喜ぶ奴いるし、いいかも。今度行こうかなぁ」
「一度行ってみるべきやと思うで、私も」
いやぁいいこと聞いたな。はやて物知りだし。それじゃ早速今日にでも三人に聞いてみるか………
け、けっして三人の水着姿を見たいわけじゃないからな!!
………ってあれ?
「はやて、なんか忘れてない?」
「奇遇やな私もや。」
二人でうーんと思い出そうとする。
しかし、そこで昼休みが終わる鐘が鳴る。
「ヤバッ早く戻んないと!はやて行くぞ!!」
「そやね、急ごう!」
結局零治は思い出すことはなかった。
「で、一体何を話してたのよ?」
放課後ダッシュで帰ろうとしたときにバニングス、すずか、なのはが俺の前に現れた。
「どうしたん?みんなそろって………」
「いやな、はやて。何か昼休み何してたかって聞いてきたんだよ」
「なんや、そのこと………ってか何で二人になったんやっけ?」
「いきなり零治がはやてに耳打ちしたんじゃない」
「そうだっけ?」
「そうよ」
うーん、何でそんなことしたんだっけ?
「別に隠れて話す内容でもなかったし………」
「そやなぁ。ハリセン君57号の話とスーパー銭湯の話ぐらいしかしてないしなぁ」
うーんと唸りながら思い出そうとする二人。
「「そうだ(や)おっぱいランキング!」」
「「「はい?」」」
俺たちが言ったことに?を浮かべる三人。
「いやな、はやてがおっぱい星人だって聞いたことあるから、仲良し五人組で胸の大きさでランキング付けてくれって頼んでたんだ」
「そうやった。いやぁ~話がおもろくてどんどん脱線していったからなぁ。すっかり忘れてたわ」
ハッハッハと笑う二人。
だが3人から漏れるドス黒いオーラに自分たちが口を滑ったことに気づいた。
「へぇ………」
「はやて、零治、ちょっとお痛しすぎじゃなの………い?」
「………二人とも“オハナシ”なの………」
その様子にガタガタと震える二人。
教室はいつの間にかほとんど人はいなくなっていた。
「ちょっと待て!!三人とも。あれは単なる冗談で………」
「そうやって、アメリカンジョークってやつや!」
ニコッと親指を立てるはやて。
「そんな嘘に………」
「騙されると!!」
「思ってるの?」
徐々に二人を追い詰める三人。
「零治君」
「なんだはやて?」
「私な、言っとくことがあったねん。もう少しで新しい家族ができそうなのよ。だから………」
「待て!はやて!!それは死亡フラグ!!!」
そう教えるがはやてには聞こえていないみたいだ。
「必ず………生きて帰るんや!!!」
まるでアニメの主人公みたいに叫びながら三人の脇を通るように逃げようとする
うまく虚を着いて抜けられたような気がした……………だが、
………気づいたらはやては魔王様にアイアンクローされてました。
「………どこ行くのかな?はやてちゃん」
「待ってなのはちゃん、マジでしゃれになら………ぎゃあああああああ!!」
嫌な音が教室に響く。
「はやてえええええ!!!」
戦友先に没………
「さて次は………」
「零治………」
「だね。」
ニコッとはにかむ魔王様。
「ごめん。星、ライ、夜美、おれもここまでみたいだ…………今行くよはやて………」
そう呟き俺はなすがままになった…………
満身創痍で帰った俺に三人は驚き、事情の説明を求めてきた。
心配してくれた三人に嬉しかったのか、油断して、今日の出来事全部話してしまった。
三人から大目玉食らったのは言うまでもない…………
あれ!?今週は付いてるはずなのに………
第7話 もう一人の転生の話
初めまして、俺の名は神崎大悟。
完璧な容姿、最強の魔力、主人公だけが持っているニコポ、ナデポのスキル、銀色の髪に赤と青のオッドアイ。
これほど愛されている転生者は居ないだろう………
さて、今ではこんなに恵まれた男になっているが、前世はひどかった。
引きこもりのデブオタ。
女の子なんて出会いもクソもなかった。
そんな人生に絶望し、自殺した俺だが、神様は俺に転生の機会を与えてくれた。
本当に神様には感謝しきれない………
「ふむ、いきなりで悪いが、お前にはリリカルなのはの世界に転生してもらう」
「転生フラグキターーーーーーーー!!!!」
「…………前のやつとは180度違うやつじゃの」
「あ、あなた様は神様ですか?」
「まぁ、人間からはそう呼ばれているの」
「な、ならばお、俺にも転生者としてチート能力が………」
「それについては自分で決めて欲しい」
「じ、自分が決めて良いのでありますか?」
「そ、そうじゃ(前の奴の方がよかったのぉ………)だが叶えられるのは3つまで、さらにわしに叶えられるものだけじゃ。よく考えて欲しい」
「俺の願いは決まってます!まずは最強の魔力。次にナデポ、ニコポのスキル。最後に銀色の髪と、赤と青のオッドアイを持つイケメンにしてくれ!!」
「本当に前の奴とは正反対だの………それにやたらと細かい………」
「前のやつとは?」
「お主より先に転生させたやつじゃ。お主とは違い、欲が無くてな。3つの願いも一時間以上考えても思いつかなったから保留にしたんじゃ」
「………別になくてもよかったのでは?」
「それじゃ、わしの気が収まらん」
「まぁいいですけど………そいつの名前はなんと言うのですか?」
「前世の名前は確か佐藤考輔だったはずじゃが………」
「転生後は?」
「分からんわい。転生後の名前は自由に決めてるからの」
「そうですか………」
まぁ、俺のことは前世でも知らないだろうし、転生者だって分かるわけないか………
だが大悟は気がついていない。
明らかに普通の人じゃありえない容姿をしていることを………
「それで、これがおぬしのデバイスじゃ」
『初めまして、マスター』
どうやら男人格のようだ。女人格の方が個人的にはよかったけど………
「能力もおぬしが決めるがいい。ただし自分の魔力で出来る範囲じゃ。まぁお主の魔力ならだいたい問題ないだろうがの」
「そうします」
「それじゃ、幸運を祈るぞ」
そう言われて大悟の意識は暗くなった。
「おっと、スキルの説明を忘れたの。………まぁ別に良いか」
神様はそう呟き自分が転生させた二人の事を思い返す。
「さて、どっちもクセのありそうな奴らじゃったし面白くなりそうじゃの………」
そう小さく笑ったのだった。
そのあとの俺は、面白いようにうまくいった。もう一人の転生者より早く原作介入出来た。
どうやらもう一人は介入する気はないらしい。
こっちにしては好都合。
このままハーレムに一直線だ!
まずはPT事件。いきなりSSSオーバーだと色々と問題なのではないのかと思い、なのはたちと同じくらいにリミッターを付けた。
これなら変にも思われないだろう。
原作と同様にプレシア…テスタロッサは虚数空間に消えた。
原作ブレイクと思ったが、やっぱりあのおばさんを俺は許せなかった。
それに、その分フェイトを慰めることが出来たし、ニコポやナデポのスキルも使った。
堕ちたのは確実だろう………
ただ、お別れイベントは俺の知らないところで終わってた。
恥ずかしかったのかな?
ったく、俺は気にしないのに………
次の闇の書事件。なのはがヴィータに襲われたところを華麗に助けた。
ヴィータが睨んでたが、なのはを助けるためだ。悪いがその場は退場してもらった。
けれどデバイス強化イベントはなくてはならないと思い、シャマルに蒐集させました。
後のはやてにも影響することだからな………
一度助けたからなのはたちには悪い印象はないだろうし………
あっ、俺は蒐集させませんよ。SSSオーバーの威力を誇る化け物が出来ちゃいますから。
そんなこんなでアースラ組について協力していきました。
ヴォルケン組の攻略は後ですればいい。
そんで最終決戦。
あの暴走した防衛プログラムに対しての一斉攻撃イベント。
その間にフェイトが取り込まれたりとかあったけど全部俺が関係ないところで終わってた。
俺はリーゼ姉妹の相手をしてたのでそんな暇がなかった。
………やっぱりリミッター付きじゃきつい相手だった。
そして防衛プログラムが登場。ここでみんなの株を上げておくか………
リミッターを解除し魔力を解放。
流石に、みんな驚いてるな………
「行くぞ、ジルディス!!」
『………イエス、マスター』
ブレイドフォームになり、魔力を大剣に集中させる。
大剣が、何倍にも巨大になる。
「いっくぜええええええ!!」
その大剣をそのまま降り下ろす。
「グギャアアアアアアア!!」
いろいろな声が混ざったような悲鳴をあげる。
プログラムを守っていたバリアはすべて破壊される。
それを見てみんなの目が点になっている。
「今だ、行け!!」
その掛け声で我に返り、みな原作通りに攻撃し、闇の書事件は解決した。リインフォースは消えてしまったが………
俺と同じ銀髪で、ボインねぇちゃんだったので助けたかったんだけど、やっぱり俺の力じゃ無理だ。
はやてもフェイト同様に慰めた。
これではやても堕ちただろう………
将来が楽しみだ。
そのあとはいたって平和。
なのは撃墜イベントのことをすっかり忘れていた事以外特に何もなかった。
俺は学校に行きながら魔導師として活動している。
その分会える時間が無いのか、なかなか会えない。
恥ずかしがらずに会いにくればいいのに………
学校でも同じクラスなのに話すことがなく、俺から話に行くことが多かったが、行くと楽しそうに話すから嫌われてはいないのだろう………
…………それとも余りにも周りからもてすぎるから嫉妬してるのか?
お前たちが一番なのに。
そんな感じで中2になった。
去年とは違い、アリサとすずかも同じクラスになった。
久しぶりにみんなと同じクラス。
「う、うん、これからよろしく」
「……………」
「アリサちゃん………」
「………よろしく」
そんなにかしこまるなよ。
俺は別に気にしないのに………
もしかしてまだ嫉妬してるのか?
「前も言ったけど俺はお前たちが一番だから」
かっこよく決まったな。
「そ、そう(いきなり何言ってるんだろ………)」
「………(キモイ)」
「なのは、フェイト、はやて、今年もよろしくな」
「う、うん……(はぁ、また同じクラス……)」
「よ、よろしく………(何でいつも一緒なのかな………)」
「ま、また………よろしくな………(最悪や……)」
何か顔が引きつっているような気がするけど気のせいだよな。
全く彼女たちを理解していない大悟だった………
ある、昼休み。
「また同じクラスだよフェイトちゃん……」
「そうだね、なんでいつも一緒なのかな………」
「いい加減にして欲しいわ、何で頭撫でようとしてくるわけ?気持ち悪いんだけど!」
「アリサちゃんきついなぁ~。まあ私も同意見やけど………」
「三人はずっと一緒だからね。私とアリサちゃんはまだましだね」
「そうね、何であんな奴がモテるのか分かんないわよ」
「ね、誰にでも頭撫でようとするし。最近私たちに対する目線もいやらしいよ」
アリサが言った言葉にフェイトが付け足す。
「とにかくなるべく近づかんようにしないとな」
「そうね。特に魔導師の三人は気を付けなさいよ」
「私たちは大丈夫、違う部署だから。時々来るけど………」
「そ、そう。でもそれなら学校だけだね」
すずかの問いにみんな頷いた。
大悟は彼女達にかなり嫌われていた………
最近おかしい…………
彼女たちが、一人の男に集まっているような気がする。
変化があったのはなのはがあいつの隣になってからだ。
いつも授業は寝てばかりで、全く目立たない普通の奴。
体は鍛えているのかたくましい体つきしているが、それ以外は何もない。
なのに、アリサやすずかとはいつも話している。
しかもアリサやすずかからだ。
それに続き、なのは、フェイト、はやてもだ………
はやてに限っては昼休み二人でいることがあったらしい。
男子で大変、話題になっている。
もしやはやては無理やり………
他も、もしかしたら奴の魔の手に………
何か弱みでも握られてるのかもしれない。
だったらみんなは俺が守らないと!
これ以上好きにはさせない!!
第8話 有栖家スーパー銭湯に行く(プール編)
学校も終わり、休日。
はやてに教えてもらったスーパー銭湯に早速行くことにした。
当然、有栖家全員である。
星たちは誘ったあと、わざわざ新しい水着を買いに行っていた。
………わざわざ新しいのを買う必要無いだろって言ったら「私達は常に成長しているんです!!」と言われ、怒られました。
楽しみだってことはないからな!!
そして約束の土曜日………
「へぇ、確かにこりゃ銭湯じゃねえわ………」
今、スーパー銭湯のプールエリアに来ていた。
レジャーランドみたく、ウォータースライダーだけでなく流れるプールまであった。
「遊びたい!遊びたい!!」と駄々をこねたライ。その結果、先に遊んでからお風呂エリアに行くことになった。
あとからはやてに聞いたんだが、それが正しい回り方らしい。
俺は風呂だけで満足だったんだが…………
「お待たせ~!」
ライの元気な声を聞いてそっちを振り向く。
「遅いぞ、三人………」
その後、言葉が出なかった………
そこにはいつもとは違う四人がそこに居たからだ…………
「何でシャイデがここにいるんだ!?」
「僕が呼んだの!せっかくだからシャイデさんも一緒の方が楽しいと思って」
ライが嬉しそうに言う。
「私も今日は暇だったからね。たまにはみんなで一緒に遊ぼうと思ったのよ」
「本当にそれだけだよな………」
「………少しは私を信用なさい」
紫のマイクロビキニと青少年には優しくない水着を着ているシャイデ。
大きな胸が揺れているのを男共が横目で見ている。
………まぁ気持ちはわからんでもない。
だけど色気以上に悪意を感じる俺は全然気にならなかった。
「あ、あの………私の水着はどうですか?」
星がモジモジと聞いてくる。
星にしては珍しい赤のセパレートだ。
赤なんて珍しい。清純な白色を選びそうだけど………
だけどアリです!!
「珍しいな目立つ赤なんて、でもそれがまた似合ってるな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、自信もっていいぞ」
「はい……」
っていうか星で駄目なら大半の女子は駄目な気がする………
「おい、レイ!!我はどうだ!!」
両手を腰に当て、白いビキニの胸元を突き出す夜美。
………こっちも星と同じで、普段とはかけ離れた色を選んだな。
「で、どうなんだ?」
「………いや、普段で考えたら選びそうもない色を選んで驚いたけど、結構似合ってるじゃないか」
「フフフ、そうだろ!!」
嬉しそうだな。
でもそのポーズは止めろ。
星やライよりはないとは言え、平均以上なのは変わりない。
男共がこっちを見てるぞ!!
ところでライは………
「んしょ、んしょ………」
泳ぐ気まんまんでした。
しかし、お前が来てる水着分かってんのか!?
何で三角ビキニなんて選んだ!?
しかも黒!!
体が中学生レベルを超えてるから似合ってるんだけど………
エロすぎる!!
しかも仕草が子供っぽいからそのギャップがいい感じに色気を出してる。
誰だこんな水着勧めたのは。
そう思って周囲を見渡すと……
俺の慌てっぷりを見てシャイデが笑っていました………
犯人はお前か!!!
「レイ、ウォータースライダー乗ろう!」
ライに腕をつかまれ引っ張られる。
「ライ、走ったら転びますよ」
「大丈夫だよ。ねぇ早く行こうレイ!」
「分かったから、そんなにあせるな!!」
引っ張られながらも付いていく俺。
「全く、本当に子供だな」
「ふふ、だから可愛いいんじゃない」
ビーチパラソルの下で優雅にトロピカルジュースを飲んでいた二人だった。
「ワクワク、ワクワク………」
「…………」
「ワクワク、ワクワク………」
「頼むから少し落ち着いてくれ………」
並んでいる間、ライの落ち着きのなさはすごかった。
止まっている時間はなく、必ず体のどこかが動いていた。
………バイクで車をあおってるみたいだ。
「次のお客様」
「ねぇねぇ!あとどのくらい!?」
「頼むからひと組行くたんびに同じことをなんども聞くな!」
「だって………」
だってじゃねえよ!
後ろの人達にクスクス笑われてんじゃねぇか!!
「次のお客様」
「ねぇ、レイ………」
「あと四組だよ!ちくしょう………」
まるで幼稚園児を相手しているみたいだ………
「楽しみだね」
「ああ、そうだな………」
やっと順番が回ってきて、ループ地獄から開放された………
やっと順番が来たときにはかなり目をキラキラさせてたなぁ。
かなり疲れたけど、嬉しそうな顔を見れて、まぁ悪くなかったかな………
「それじゃ、どうぞ」
係員の声に俺たちはウォータースライダーを滑った。
ちなみに二人で一緒に滑っている。乗り物みたいな浮き袋に二人で乗るやつだ。
「キャアアアアア!」
「ウオオオオオオ!」
結構速いし、長い。
カーブも多いしなかなか楽しいな。人気があるだけはある。
「ゴールだ!」
ライの声に前方を見る。
おっ、もう終わりか。
「それじゃ、最後に行くよ大技!」
「はい?」
「いくぞぉ!ローリングサンダー!」
出口を出た瞬間、ライはジャンプ。
一回転して着水しやがった。
俺はというとライがいなくなりバランスが崩れ、まさかの後ろ向きで着水する羽目になった。
めっちゃ鼻に水が入ったし………
「てめ、ライ!いきなり危ない………ってどうした?」
「レイ……」
そこには腕組みして動かないライがいた。
よく見ると、水着がない。
「水着、外れたのか?」
「うん、どうしよ………」
着水したプールは、結構広く、普通に泳いでいる人たちもいる。
さて、どうする………
「ライ、お前は人目がつかない端にいろ。俺が水着探すから………」
「待って、行かないでよレイ………」
そんな泣きそうな顔するなよ。
ったく、仕方ない………
「なら、俺の背中にくっつけ、それなら周りにも見えないだろ」
「う、うん………」
そう言ってくっつくライ。
当然豊満な胸もくっつく。
ぼ、煩悩退散!!
「い、行くぞライ」
「う、うん………」
頼むから恥ずかしそうにしないでくれ、俺はもっと恥ずかしい………
頭を振り、水着を探す。
黒だから見つけやすいはずだけど………
「ライ、一回潜って見てみる。胸隠せ」
「うん………」
ライが離れたのを確認してから、ゴーグルを着け、潜る。
見事なm………
って違う!!
切り替え真面目に探す。
おっ、あった。それほど遠くないな………
水から出てゴーグルを外す。
「あったぞ、ライ。それほど遠くない」
「本当!?」
「ああ、また遠くに行かないように早く回収しにいくぞ」
「うん!!」
やっと元気になったか………
良かった、良かった。
さて確かあそこに………
あった、あった。
「ほい」
水着を拾い、ライに渡した。
「あ、ありがと………」
「俺の背中に隠れながら着替えな。そうすれば見えないだろ」
「うん………」
そう言ってから静かになった。
多分着替えているんだろう。水の弾く音が聞こえる。
「終わったよ」
「そうか、なら早く星たちの所へ………っておい!」
いきなりライが俺の背中に乗ってくる。
「…………レイの背中おっきいね」
「そりゃ、背が伸びたからな………って違う降りろって!」
「いいじゃん、おんぶ~!」
「良くない!!」
胸があたってんだよ!胸が!!
「ふ~ん、いいんだ。おんぶしてくれないと水着、レイに外されたってみんなに言うよ」
「なっ!?誰がそんな嘘を………」
「星や夜美は僕を信じてくれると思うよ。それにシャイデさんもいるし………」
確かに、星や夜美はライを信じるだろうな…………
シャイデは絶対悪乗りするだろうし…………
「分かったよ、おんぶしてやるよ」
「うん、ありがと」
そう言って顔を背中に付けてくる。
「おんぶも懐かしいね………」
「そうだな、あの時以来か………」
俺が言ったのはライたちが家に来て間もないころのことだ。
星はその頃から家事を、夜美は何故か分からんがドラマの再放送にはまっていた。ライは………
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい」
「気をつけろよ」
放課後に外で遊んでいる子供たちと遊ぶのが日課になっていた。
ある日…………
「ライ遅いな……」
時刻は7時、いつもなら5時半頃には帰ってくるはずなのだが、今日は帰ってなかった。
「どうしたのでしょう………」
「何かあったのかな………ちょっと探してくるわ」
「私も……」
「星はご飯の準備を。それに星達はまだあまりこの周辺を知らないだろう?」
ソファから我もと言いそうになっている夜美にも言う。
「そうですね、分かりました」
俺は返事を聞き、上着を持ち玄関に向かう。
「レイ、気をつけろよ」
「ああ、行ってくる」
夜美に見送られ外へ出た。
20分後…………
「ったくどこにいるんだよ………」
今いるのは海鳴市にある3つの公園のうちの一つ。
家に一番近い公園も見てみたがいなかった。
ここしか教えていなかったはずなんだが………
そして次の公園で、
「うう………ぐすっ……」
「ん?この声は………」
その公園に入って周囲を見渡す。
すると少し奥のベンチに座る青い髪の女の子がいた。
「お腹減ったよ……星……夜美……………レイ………」
「呼んだか?」
「えっ!?」
驚いた顔で俺を見るライ。
「レイ!!!」
俺の姿を見たとたん、飛び込んできた。
「ったく、あれほど遠くに行くなって言ったのに……」
「だって、みんな違う公園で遊ぶって言ってたから………」
落ち着いたライに近くの自販機で買った暖かいお茶を買ってあげた。
春先だが、今日の夜は一段と寒い。
なぜこうなったのか、
どうやらみんなでこの公園で遊ぶことになったらしく移動してきたらしい。
途中まで友達と帰ってたけど友達も家に着き、ライが一人だけになったみたいだ。
いろいろ歩いたが、結局迷って、この公園にまたついたらしい。
素直にこの辺りを知らないって言っておけばよかったのに………
「まぁいい。それじゃ、帰るぞ。二人とも腹空かして待ってるだろうから」
「うん………」
立ち上がり、缶をゴミ箱に捨てる。
だが、ライは一向に動こうとしない。
「どうした?」
「お腹減って動けない………」
アOパンマンか………
アOパンマンは顔だけど。
「仕方ないな………ほら乗れよ」
しゃがんで背中を向ける。
「う、うん………」
ライは恐る恐る俺の背中に乗る。
「それじゃあ、行くぞ」
「うわぁ!?」
立ち上がったとき、驚いた声を上げたライだったが、直ぐに笑顔に変わった。
「凄い、凄い!!」
「それと、これを羽織れよ」
そう言って俺の上着を渡す。
「ありがと………うん、あったかい」
「それじゃあ、帰るか」
「うん!!」
こうして俺はライをおぶって家まで帰った。
その次の日は腰が思いっきり痛かったな…………
「あの日の次の日は腰がマジで痛かった………」
「僕はそんなに重くないよ!!」
ポカポカ俺の頭を殴るライ。
「分かったからやめろ!それにしてもいきなりどうした?」
「うん、ちょっと懐かしくなったからそれでね。………僕、今とても幸せなんだ。レイがいて、星がいて、夜美がいて、シャイデさんがいて………毎日がとても楽しい!あの時レイに助けてもらえなかったらこんなに幸せなことを味わえなかったと思う」
「ライ………」
何か改めて言われると恥ずかしいな………
「それにいつもレイは僕達を助けてくれる。今日もそうだし、あの時も………」
「馬鹿だなライは」
「えっ!?」
「お前たちは俺にとって大事な家族なんだよ。一人しかいなかった俺に、家族の温もりを与えてくれた。本当に嬉しかったんだ。強がってもやっぱりひとりは辛いんだ………」
「レイ………」
「だから気にしなくていい。これからもお前たちを助けてやる。俺は有栖家の家主だからな」
そう言って上を向く。
本当に助けられたのは俺なんだよ………
恥ずかしいから口には出せないけど。
「でも、そんなレイだから僕は………」
声が小さくて聞こえない。
なんて言ってるんだ?
「なぁライ、お前なんて言って……」
「二人とも仲良さそうですね………」
「心配して来てみれば、何をしているんだ貴様ら!」
声のする方を見てみると星と夜美がそこに居た。
「星、夜美、心配してきてくれたのか」
「余計なお世話みたいでしたけど………」
「わ、我は心配などしておらぬぞ!星の付き添いだ付き添い!!」
「そうか、ありがとうな二人とも」
いつもと違う俺に戸惑う二人。
そんな二人の様子を気にすることなくライに話しかけた。
「本当に最高だよな有栖家は」
「うん!!」
俺の背から降りて、星と夜美の手をつかむライ。
「二人とも行くよ!」
「ちょっと、いきなり引っ張らないでライ。それとさっきのことを詳しく……」
「そんなに力強く引っ張るな!!それとさっきのことを詳しく……」
………二人ともかぶってるぞ。
けれど、本当に転生してきて良かった。
できればこの穏やかな日常がいつまでも続きますように………
第9話 有栖家、スーパー銭湯に行く(お風呂編)
「はぁ~気持ち良い~」
俺はジャグジー風呂でリフレッシュしていた。
他四人もそれそれ違う風呂を堪能している。
しかし、本当にいろんな風呂があるな………
ジャグジー風呂もいろいろな種類があるし、電気風呂や薬風呂や露天風呂も豊富だ。
………本当にここ銭湯なのか。
プールといい、クオリティが高すぎると思う。名前を変えるべきだな。
「さて、次は電気風呂でも堪能するか………」
俺はジャグジー風呂を出て電気風呂へ向かった。
そこには電気風呂を堪能している、夜美がいる。
「気持ち良さそうだな夜美」
「ああ、レイか。最高だぞ、ここの電気風呂は。特に肩こりによく効く」
「それは助かる、結構こってるからな………」
そう言って夜美の隣に座る。
「ああ~やべぇ効くわ~」
「………本当に疲れていたんだな」
夜美が俺の様子を見ながら、そう呟く。
「そうなんだよ。なのはが隣に来てから俺の生活リズムがかなり崩れてさ、お陰様で全然疲れが取れなくて………」
「な……の…は?」
「ああ、言ってたよな?」
「いや、その事ではない。お前は何故なのはと呼んでいる?」
「いや、なのはの家にお邪魔になったとき、そう呼べって言われたから」
「な……んだと!?」
かなり驚いているのか、大きな口を開けて俺を見ている。
「いつの間にそんな名前で言うような仲になったんだ!?」
「?別に名前で呼ぶのは普通じゃないか」
「………本当にそう思ってるのか?」
「?ああ」
「ならいい。……………………天然女たらし」
「何か言ったか?」
「なんでもない!!!」
そう言ってそっぽを向く夜美。
わけが分からん………
「夜美、せっかくだから一緒に風呂回らないか」
「!?レ、レイが一緒に回りたいって言うなら一緒に行ってやってもいいが……」
「そうか、なら一緒に行くか」
「そ、そうだな。仕方ないから一緒に行ってやろう………」
「はいはい、それじゃ薬湯に行こうぜ」
「ああ」
そう言って電気風呂から出て薬湯に向かった。
しかし、相変わらずの上から目線だな………
最初はうざっ!と思ったけどなれるとどうでもよくなった。
何か口癖っぽいし。
他の人に使って怒らせなきゃいいけど………
「っとさて、どこの薬湯に………」
「レ、レイ、あれを見ろ!」
そう言って、夜美が指さした看板を見る。
『この薬湯は美容、健康によく、ケガの治療や、スベスベのお肌を目指す方にオススメです!!』
おお!大した自信だな。
よく見ると女性が多い。
………ちゃっかり星もいるし
「レイ!!行くぞ!!!」
おもいっきり俺の腕を引っ張る夜美。
「分かったから!そんなに思いっきり引っ張るな!!」
「一秒でも惜しい、だから早く!」
そうして引っ張られながら俺と夜美はその薬湯へ向かった。
「レイと夜美。二人も看板を読んでですか?」
「星もか?」
「はい。恥ずかしいですけど、最近お肌が荒れ気味で………」
………全然分からないんだけど。
ふと、俺は夜美を見てみる。
「わ、我は違うぞ。レイが最近疲れてるって言ってたから疲労回復にと。け、決してお肌をスベスベにして星とライに負けないくらい綺麗になりたいなど………」
「本音だだ漏れですよ夜美………」
「まぁ、気づいていないフリしてやりな」
しかし買い物の時といい、気にしすぎだと思うんだけどなぁ。
普通に夜美も可愛いのに………
「………顔も着けた方がいいのか?」
「それはやめるべきですよ、夜美」
本当にマジだな夜美………
仕方ない、そんなに気になるなら俺も協力するか。
「夜美、サウナ行かないか?」
「今、我は肌をスベスベにするのに忙しい。邪魔をするな!」
そう言った、夜美に耳打ちする。
「サウナっていっぱい汗かくじゃん。それってかなり美容にいいってすずか辺りが言ってたんだけど………」
「何!?それは本当か?」
すずかはものしりだと家の三人は思っているので、すずかの名前を出せば大抵は聞く。
なのはたちの知識の影響かな。
「なんでも汗と一緒に老廃物を出すらしい。だから、長時間入って、汗を出せばその分綺麗になるんじゃないか?」
「綺麗に………」
その言葉に目がキラキラしているような………
「レイ、行くぞ!!もたもたするな!!」
「ハイハイ。星はどうする?」
「私はまだ入ってます。サウナは苦手なので………」
そう言えば星って暑いの苦手とか言ってたっけ?
「分かった。俺たちはサウナに行ってくる」
そう伝えて、夜美と共にサウナに向かった。
「さて、まずは湿度を上げて………」
水をたし、湿度を上げる。
「………息苦しい」
「………キレイになるためだろ、我慢しろ」
「ああ、分かってる………」
まぁ、きついのはよく分かる。
俺もこういう蒸し暑いの苦手だし………
「暇だし、しりとりでもするか」
「ふん、新聞を読破している我に勝負を挑むとはいい度胸だな。叩きのめしてやろう」
しりとりで叩きのめすって………
「じゃあ、俺から。………リス」
「スイカ」
こうして、しりとりバトルが始まった。
15分後………
「スマイル」
「るるる…………ルーズソックス」
「スコール」
「るるる…………るばっかり汚いぞ!!」
「勝負の世界に汚いもあるか。さぁどうする?ギブアップするか?」
「くっ………だがそのる攻めが自分の首を締めるのだ!行くぞ、ルール」
「ルル」
「風邪薬かぁ!!!!」
まだまだ甘いな。
それにるなんていっぱいある。
フランスの王様はルイ6世から19世までいるからな。
他にも地名ならいっぱいあるし。
知っている奴なら全然問題ない。
ギブアップした夜美が「もう一度するぞ!」と言ってきたのでやってあげた。
今度は夜美がる攻めしてきたので、ルイ王様戦法で粘りつつ、逆にる攻めしてやりました。
ちょっと泣きそうになってたのでやりすぎたかも………
45分後………
「あつ………」
流石にきつくなってきたかな………
既に、夜美は言葉を自分から言わなくなってきた。
返事はするしまだ大丈夫かな。
1時間後………
ヤバイ、俺もマジできつい………
夜美もとてもきつそうだ………既に汗びっしょりかいている。
顔も赤く、少しやばそうだが、目が死んでないのでもう少し待ってみよう………
1時間30分後………
夜美を見る。
………限界だな。
夜美はかなりの負けず嫌いだからな。
自分からは出るなんて言わないだろう。
「夜美俺もう限界だ。一旦出ようぜ」
そう夜美に言うが、返事が無い。
俺は夜美を見てみる。
!?目がうつろになっている、ヤバイ!!
俺は夜美をお姫様抱っこしてサウナ室から出る。
俺もクラクラするがそれどころじゃない。
周りの視線を気にせず、給水所まで行く。
もうすぐ………
ついた俺は、夜美を優しく壁に寝かせ水を飲ませる。
「大丈夫か?」
「ああ。少し頭がぼ~っとするが………」
「なんとかなったな………一時はどうなることかと………」
あれ?頭がクラクラする?
「レイ、一体何があったんですか?なぜレイが夜美を………」
どんどん視界が暗くなっていく………
俺は意識を失った………
「ここは………」
「レイ!!大丈夫なのか!?」
俺はベットに寝ており、横に夜美が座っていた。
「ここは………」
「スーパー銭湯の医務室だ」
「!そうだ、夜美大丈夫だったか?おまえもう少しで………」
「こっちのセリフだ、馬鹿者!!!一体どれほど心配したと思ってる!!!」
よく見ると夜美の顔には涙の痕があった。
「頼むから心配させるな!!私たちにはお前しかいないんだぞ!!!」
「………ごめん」
「我だけじゃなく、三人にも謝るんだな………」
俺から顔を逸らしながら言う。
「そうだな………後で言うよ」
「そうしろ。それと………今日は無理やり付き合わせてすまなかった………」
「何言ってんだ、俺が誘ったんだ。夜美のせいじゃない」
「でも………」
「だったら今度一緒に映画でも見に行こう」
「そんなことでいいのか?」
「ああ。その代わり、最近やっている映画知らないから面白そうなのを選んどいてくれ」
「ああ、分かった!楽しみにしとけ!!」
………やっといつも通りになった。
夜美のせいじゃないのに気にしすぎなんだよ………
「それじゃあ、我はみんなを呼んでくる」
「ああ、頼むな」
そう言って夜美はドアに向かうが、開ける前に止まった。
「レイ、今日はありがとう………」
そう言って部屋から出ていった。
素直じゃないな、夜美………
部屋に来た星とライの顔にも涙の跡があった。
本当に心配させちゃったな………
シャイデは苦笑いしてたけど。
多分、星とライをなだめるのに大変だったんだろうな………
シャイデがいて本当に助かった。
その後軽く星のお説教を聞き、スーパー銭湯を後にした。
まあ、いろいろあったけど楽しかったな。
また有栖家でどこか遠出したいものだ。
第10話 転生者VS転生者
「おい、ちょっといいかい?」
今は昼休み、はやてと談笑していた俺はいきなり神崎に声をかけられた。
「有栖を借りたいんだが………」
「俺!?」
「何で零治君を?」
「ちょっとね………」
笑顔ではやてを見る神崎。
あれがニコポなのかな?
実物を見たことが無い俺にとってニコポと普通の笑顔の違いが分からん。
はやてはひいてるけど。
これじゃあ、ニコヒのような………
「俺は別に構わないけど………」
そう言ってはやてを見る。
「はやては?」
「わ、私もかまへんよ」
「そうか。なら有栖、ちょっと来い」
そう言われ俺は神崎について行った。
「さてここなら構わないだろ………」
そう言って連れてこられたのは体育館裏。
何かベタだな………
「話ってなんだよ?」
「………俺のなのはたちに近づかないでくれ!」
「………は?」
いきなり何言ってんだコイツ。
「だから俺のなのはたちに近づくなと言ったんだ!!」
コイツ本当に本気で言ってんのか?
「なのは達って誰だよ」
まぁ、分かってるけど………
「とぼける気か?なのは、フェイト、はやて、すずか、アリサのことだよ!!」
はやてとすずかの二人には俺から話しかけたりするけど、なのはやフェイト、バニングスには滅多に俺から話しかけないぞ。
「彼女たちは俺に惚れているんだ。君に話しかけられて困ってるじゃないか!」
………目が腐ってんのか?コイツ。
「………確かにはやてやすずかには俺から話しかけたりするけど、他は滅多に話しかけないぜ」
「嘘だな!!よく話してるじゃないか!!」
「俺が行って話してるわけじゃないだろ!」
「違うね。君が話しかけてるのさ」
………馬鹿すぎてすぐにでも消したいわコイツ。
「………だったらお前があいつらに俺に話しかけるなって言えばいいじゃん。話しかけられても軽く流せとか」
「当然言ったさ。けれど弱みを握られたらしく、「私たち、零治君のこと嫌じゃないんだけど………」とみんな言ってた」
弱みって何!?
こいつの頭の中どうなってんだ?
「もしも、この忠告を受け入れられなかったら………」
キーンコーンカーンコーン。
いいタイミングでチャイムが鳴った。
「じゃ、教室に戻るな」
そう言って俺はその場から立ち去る。
「ま、待て!」
俺を追って、奴が付いてくるが、既に俺の姿はなかった。
「クソっ、なんて逃げ足の速いやつだ………」
『ラグナル、バレてないか?』
『モウマンタイです、ご主人様。一瞬だったので気のせいだと思うでしょう』
俺は自身のレアスキル、空間転移を使って、その場から転移した。
バレないように最小限に魔力を抑え、誰もいなさそうな所に転移した。
『おい、ご主人様って何だ?』
『男はこう言われると嬉しいと夜美様と見ていたテレビで言っていました』
『夜美はいったい何の番組見ているんだ………夜美は言わないだろうな?』
『夜美様に言われたらご主人様気持ち悪いほどハイテンションになるでしょうね』
『気持ち悪いってなんだよ………』
『ハイテンションは否定しないんですね………』
そりゃ、あんな可愛い女の子に言われてハイテンションにならない男なんていないだろ。
『何か悔しい………』
そんなデバイスの言葉を流し、俺は教室に向かった。
「大丈夫だった?」
授業中、隣のなのはが声をかけてきた。
「何が?」
「大悟君のこと………」
「ああ、お前たちは俺に惚れているんだから近づくなとか言われたけど」
「大丈夫なのかな………」
当然頭の心配だぞ。
「お前たちもはっきり言わないとあいついつまでもあのままだぞ………」
「私たちも言ってるんだけど、「嫉妬してるんだろ。俺はお前たちが一番だから気にするな」
しか言わないの」
勘違いもここまで来ると救いようがないな。
「………苦労してるんだなお前ら」
「………零治君も他人事じゃないと思うよ」
確かに。
今もこっちを見て睨んでいるし。
「何でこうなるのかな………」
俺の呟きは先生の声にかき消された。
「零治君、ちょっとええか?」
「何だ?はやて」
「この前テレビでな………」
「はやて何の話だい?」
はやてが話しかけようとしていた所に、神崎がやってきた。
「いや、もうええねん。ほな、零治君」
話の途中なのにかかわらず、はやてはその場を後にする。
名前さえ言ってもらってないし………
「ったく、はやても恥ずかしがりやだな」
そう思えるお前に少し尊敬するよ。
「零治君」
「おう、すずか。どうした?」
「あのね………」
「やあすずか。俺も混ぜてくれないか」
「ごめん、零治君また後で………」
はやて同様、すずかもさっさとその場を後にする。
「すずかもか、みんな恥ずかしがりやだな」
こいつのネガティブの発言を聞いてみたい。
「ちょっと零治!!あんた………」
「アリサ」
「きゃあ!!」
とうとう悲鳴か。
「何であんたがここにいるのよ?」
「どんな話をするのか気になってね」
「あんたには関係ないでしょ。あっち行ってよ!」
「いいじゃないか、俺にも聞かせてよ」
「嫌よ!」
「そんなこと言わずに」
「嫌!!」
「そんなこと言わずに」
「もうこいつ嫌だ〜!!」
そう言ってバニングスはどこかへ行ってしまう。
「本当にツンデレだなアリサは。待てよ〜」
そう言ってバニングスに付いていった。
………ツンデレってあんなだっけ?
「ちょっと何で付いてくるのよ〜!!」
「何でってアリサが逃げるからだろ〜」
………悲鳴あげながら逃げるアリサが面白いと思ったのは内緒だ。
そんでもって放課後………
学校を出ようと階段を降りようとした時だ。
「ちょっと、あんたなんのつもりよ!!」
女子生徒の怒鳴り声を聞き、そっちへ行ってみる。
そこには4人の女子に囲まれているフェイトがいた。
………おそらく見たことがないから他クラスだと思う。
険悪な雰囲気なため無視できず俺は話しかけることにした。
「おい、どうした?フェイト」
「あ、零治………」
「あんた誰よ?」
「有栖零治。零治でいい」
「この女との関係は?」
「同じクラスの友達かな」
「気を付けたほうがいいわよ。この女誰にでも色目使うから」
「私、そんなこと………」
「違うっていうの!!」
忠告した女子にでかい声で言われ押し黙ってしまうフェイト。
「何を怒ってるのか分からんけど、フェイトはそんな奴じゃないぞ」
「………やっぱり男はこの女の味方をするのね」
「違うな、俺はフェイトの友達として言ったんだ。それに………」
一つ間を置いてまた俺は口を開く。
「お前らはただ単にフェイトに嫉妬してるだけだろ?」
「わ、私たちは別に………」
「仮にフェイトがそんなことしているのなら、男子たちにもこんな人気が出るわけがないだろ」
「分かってるわよ………分かってる!そんなこと!!けれど、私の好きな人がこの女に告白して振られているのよ!!そんなの許せる訳ないじゃない!!!」
「そんなの、今度は自分に振り向かせればいいじゃないか」
「えっ!?」
「フェイトが悔しがるほどその男と仲良くなって、フェイトを見返してやればいい」
そう聞いて、騒いでいた女子が静かになる。
「………まだ何かあるか?」
「………もういいわ」
騒いでいた女子がその場を後にする。他の女子もそれに付いていく。
「フェイトさん」
「えっ!?」
「あなたを許せそうにないけど、必ずあなたを悔しがらせてあげるわ」
最後にそう言ってその場を後にした。
「大変だったなフェイト」
「うん………」
帰り道まだ少し元気のないフェイトと共に帰っていた。
「いつもあんなことがあるのか?」
「うん、結構な頻度で」
もてすぎるのも問題だな。
「結構大悟のことを好きな子もいて。………見た目はあれだから」
まぁ見た目はな。
「大悟は私たちが一番なんて言うから、なのはたちもたまにああいう目にあったりするらしいし………」
本当にはた迷惑な奴だな。
「今日はありがとう。本当に助かったよ」
頭を下げるフェイト。
「気にするなよ。たまたまそこに出くわしただけだし。困ったらお互い様だよ」
「うん、ありがと。………あのねお礼に一緒に翠屋にでも………」
ブルブル俺の携帯が震える。
「悪い、フェイトちょっと電話だ」
「………零治、学校に携帯持ってきてるの?」
ジド目で俺を見るフェイト。
「まあまあ、バレなきゃ構わないでしょ」
「………本当に不真面目だね零治」
「お前らが硬すぎるんだよ」
主に、バーニングとか魔王様とか。
「それよりでなくていいの?」
「おおっと」
携帯を取り出し、ディスプレイを見る。
………シャイデか。
仕事の話はいつも夜なんだけどな………
フェイトから少し離れて電話に出た。
「ほい、どうした?」
『零治、依頼よ』
「一体どうしたんだ。普通なら夜だろ?」
『それがね日時が今日だからよ』
「本当にいきなりだな………場所は?」
『海鳴市』
「ここだと!?仮にもなのはやフェイトたちがいるんだぞ!!」
『依頼人から管理局より先に始末して欲しいらしいわよ』
「………敵は?」
『人造魔導師』
かなりヤバイ敵じゃないのか?
「………依頼人は?」
『……………ジェイル・スカリエッティ』
…………はあああああ!?
第11話 襲撃者との戦い
零治はフェイトに謝り、シャイデの家へと向かった。
「来たわね」
「正気か!?相手は次元犯罪者だぞ」
「だからよ。海鳴市が狙われる理由が分からない。それと私たちに始末を頼む理由がね………」
確かに意味が分からない。
だから接触か………
相変わらず凄い度胸だな………
「だからブラックサレナを展開しといて」
「………分かった」
『オッケー、そっれじゃあいっくよ!!!』
「少しは空気読め………」
そう言いながらブラックサレナを装備する。
「それじゃあ連絡するわよ………」
『おや、やっと返事が来たか。初めまして私はジェイル・スカリエッティと言うよ』
部屋にモニターが移され、そこに紫の髪をした白衣の男が写った。
「………知っている」
『おお、君が噂の黒の亡霊かい?』
「そうだ、依頼内容の中身を詳しく言え」
『ということは引き受けてくれるのかい?』
「それは聞いてからだ」
『そうか、ならば話すとしよう。実は私の基礎理論を使って人造魔導師を作った男がいる』
「プロジェクトF………」
『よく知っているね。まぁそれを使い、人造魔導師を作った男、クレイン・アルゲイル。彼が今回の首謀者さ』
「クレイン・アルゲイル………」
『彼は一体の人造魔導師を作り上げた。………まぁ、名前はないのでアンノウンとでも言おう。目的は、闇の書関連を解決した者たちを倒し、自分が作った魔導師が最強だと見せ、自分の首を切った管理局に復讐するためだろう』
「………くだらないな」
『私も同意見だよ。だが、今の彼女たちでは敵わないだろう』
「なぜ敵わないんだ?」
『詳しくは分からないが対処に向かった管理局員の全員が一撃も与えられず敗れたらしい………』
「一撃も!?」
『そうらしい。詳しい能力は分からなかったが………』
本当に分からないのか?これほどの次元犯罪者が………
何かにおうな。
「あのバカみたいな魔力を持つあいつは?」
『神崎大悟のことかい?確かに彼なら問題なく戦えそうだが、彼は今ミッドチルダにいるだろう?』
あれ?今日学校にいたような………
その後仕事だったのか?
「だが高町なのは達がかなわない相手なんだろ?だったら俺でも勝てないかもしれんぞ?」
俺もなのはたちと魔力ランク変わらないし………
『………黒の亡霊はそう簡単に負けないさ』
「知ったような口を」
『それでアンノウンは今海鳴市に向かっている。あと45分位で到着する予定だ。できれば海鳴市に着く前に始末して欲しい』
「もう一つ聞きたいことがある。なぜ、管理局にバレてはならないんだ?」
『簡単だよ。アンノウンのサンプルが欲しいからだ。アンノウンには私も興味がある』
マッドサイエンティストめ………
「要するに始末はついでであり、アンノウンのサンプルを取ってこいってことが今回の本当の依頼ってとこか?」
『その通り。でどうだい?』
俺にとって一番は無視するのが一番安全だろう。
だけど、それだとなのは達が危ない。
本当に彼女達がかなわないかは怪しいけど、彼女達は今日こっちにいるし………
………仕方がないか。
「分かった受けよう。戦闘の場所はどのあたりがいい?」
『海鳴市の隣にある遠見市の森林地帯がいいと思うよ。あと15分くらいで到着するみたいだけど』
「了解した。それでは、今から行く」
『よろしく頼むよ』
そう言われ通信が切れる。
「………本当に構わないの?」
しばらく黙って聞いていたシャイデが聞いてくる。
「どこまで信じられるか分からないけど、高町なのは達が敵わないというのなら俺がやるしかないだろう。それに俺にはボソンジャンプもあるし、いざというときは思いっきり逃げるさ」
「………気を付けてね。あなたはもう一人ではないのだから」
「肝に命じておくよ。行くぞ、ラグナル」
『はいは~い。スカ野郎から送られた座標にジャンプしま~す!!』
俺は指定された座標にジャンプした。
『到着で~す』
ここは………森林地帯のようだ。遠くには、遠見市の街並みが光っているのが分かる。
「今日はやけに軽いな………」
『雰囲気が暗すぎます!!私には耐えられません!!』
「マイペースな奴………敵の反応は?」
『まだみたいです………いや、反応あり!』
「どこだ!?」
『二時の方向、目視………出来ます』
「結界張っておいてくれ」
『了解です。気休め結界張ります』
気休め言うな。
そろそろ………なんだ?女の子?年は俺と変わらないか少し下くらいか?
「照合………不認知。敵と判断し、殲滅します………AMF起動」
『マスター!!まずいです!!アンチマギリンクフィールドです!!』
アンチマギリンクフィールドって確か魔力結合、発生を妨害する奴じゃなかったっけ?
ってことは………
『結界は無効化。ボソンジャンプも出来なさそうです………』
ここらは人目が少ないはずだけど長く戦っているわけにはいかないな。逃げ道も無くなったっわけだし………
「武器やフィールドは?」
『武器は大丈夫そうです。けれどフィールドは張り続けると魔力が持ちそうにないです。あとグラビティブラストは最高でも5発が限界ですかね………』
「ちなみに今の濃度はどのくらいだ?」
『恐らく80%程ですね、まだ出力は上がりそうですけど………』
そう確認していると、アンノウンが先に動く。
「目標、殲滅します」
そう言って相手は動き出す。
「ブレード展開」
右腕から白いブレードを展開し俺に構える。
アンノウンが動き出したと思ったら、
俺の目の前にいきなり現れた。そして………
「グッ!!」
そのまま斬り付けられた。
「ラグナル!」
『損傷軽微。しかしとんでもない速さですね。恐らくスピードならライ様のソニックムーブより速いです。その分攻撃力が低いですけど………』
「相手の損傷軽微。防御力、攻撃力に30%移行」
アンノウンは再びブレードを構え、突撃してくる。
「ラグナル、ビームソード!」
『イエス、マスター』
両手に魔力で出来たビームソードを展開し、迎えうつ。
「グッ!?さっきより重い!?」
『マスター、さっきより威力があります!』
その後アンノウンは俺の後ろに回り込み、背中に斬りかかってきた。
だが、ラグナルが咄嗟にフィールドを張ってくれたため、直接に被害はなさそうだ。
「ラグナル、ダメージは?」
『ダメージは無しです。フィールドが間に合いました』
アンノウンは再び俺から離れる。
「バリア確認………防御力を80%攻撃力に移行」
「何言ってるか分かるか、ラグナル?」
『防御力を攻撃力になんとかかんとか………』
防御力を攻撃力に?
………ってまさか!!
「攻撃、開始する」
アンノウンが再び、高速移動し、俺の目の前に現れる。
「ラグナル、グラビティブラストチャージ!」
『無茶ですよ。相手のスピードが速すぎます。避けられますよ!』
「構わん、始めろ!!」
『イ、イエスマスター』
俺の怒鳴り声を聞き、チャージを開始する。
俺は相手の攻撃をできるだけビームソードで対応する。
だが全部防ぐのは難しく、少しずつ攻撃が通る。
「高魔力反応確認、緊急回避」
『マスター!!』
「いけっ!グラビティブラスト!!」
腹部にチャージした魔力を一気に開放する。
だが、アンノウンには簡単に避けられ、空に向かって進んで行き、消えていった。
『やっぱり避けられましたよ、マスター………』
「いいんだ、奴を離すのが目的だったから。それよりラグナル、奴を倒す方法を思いついた」
『一体何ですか?』
「それは………」
俺の考えていることを簡潔に言う。
『何という大博打を打つつもりなんですか!!下手をすると大怪我じゃすみませんよ………』
「大丈夫。ブラックサレナの硬さは伊達じゃないさ」
『装甲自体中破しているんですよ!?耐えられるわけないじゃないですか!!それにマスターが言った通りかも分かりませんし………』
「他に奴に勝つ方法あるか?」
『………アーベントのブラスターモードなら奴のスピード以上の速さが得られるはずです』
「ブラスターモードは今まで一度も使ったことないんだぞ?それにアーベント自体あのときから一度も使ってないし」
『ですが………』
「俺は大丈夫だ。なんとかなるさ!それに………」
「防御力を100%攻撃力に移行………」
「相手は待ってくれないみたいだぜ」
「ハイブレード始動」
右腕のブレードに魔力を纏わせ、1.5倍ほどの魔力刃を作り出す。
「取っておきがあるのか………」
『マスター、作戦変更を………』
「しないさ、下手にアーベントを使って操作できず、逆にやられたら話しにならないだろ」
『分かりました。マスターの悪運にかけます………』
「よし、全ては俺次第!!」
そう言って俺はビームソードをしまい、手ぶらになる。
「目標補足、攻撃開始………」
アンノウンは突きの構えをし、俺に目掛けて高速移動してくる。
俺はなすがまま。そのままハイブレードは俺の体を貫いた………
『マスター!!!』
「賭けは俺の………勝ち、だな……」
俺は左脇腹に刺さっているハイブレードをそのままにしてアンノウンの腕を掴む。
「肉を………切らせて………骨を………断つ!!」
『グラビティブラストフルチャージ!!』
俺の腹部に魔力が高まる。
「高魔力反応、威力S+オーバー、機動力を100%防御力………」
「させる……か!!グラビティブラスト!!」
『シュート!!!』
腹部から放ったグラビティブラストはアンノウンを貫き、飲み込んだ………
『マスター!!今直ぐに応急処置を!!』
俺は地上に落ちていくアンノウンをなんとか捕まえ、地上に降りた。
左脇腹からは出血しており、中に着ているバリアジャケットが赤く染まっていた。
ラグナルが応急処置として回復魔法をかけてくれる。
『マスター!!マスター!!!』
「大丈夫だ、回復魔法のおかげで血は止まったよ………」
『駄目ですよ。私の回復魔法は気休めですから、無理をしないでください………』
「大丈夫だって。戦うのは流石に無理そうだけど………」
『流石は黒の亡霊と言うところか………』
「ジェイル・スカリエッティ、見てたのか」
いきなり目の前にモニターが現れ、そこにジェイル・スカリエッティが映し出される。
『一部始終をね。肉を切らせて骨を断つ………君の世界のことわざだったかい?無茶をするもんだね』
「余計なお世話だよ………」
『そうそう、アンノウンについてだが、私の部下が迎えに行っているよ。その子に渡してくれ』
「分かった………だが、奴を使って何をするつもりだ?」
『それを聞いてどうする気だい?』
「お前次第だな………」
威圧感を含んだ声で俺は威嚇した。
『怖い怖い………なるべく君とはいい関係でいたいのだが………まぁ、君に迷惑がかかることはしないよ』
「………そうか」
『それと報酬は君のクライアントに渡してある。それとこれはサービスだ』
「サービス?」
『今回の人造魔導師、と言っても恐らく私が作っている戦闘機人に近いか………他にも違うタイプを製造している可能性がある』
「何だと!?」
『恐らくだがね。それを調べるためにもそのサンプルが欲しいのさ』
「なぜ分かる?」
『私の場合ならあれ一体ではなく、違うタイプの機体を造り、それらのデータを含めてさらに上の機体を造る。彼も私と同じタイプならそうするさ』
「………信じろと?」
『それは君の自由さ』
まぁ警戒するに越したことはないか。
「もう一つ聞きたい」
『なんだい?』
「なぜ、こいつを倒す必要があるんだ?こいつに高町なのはたちを倒させればお前も後は楽に研究が出来るんじゃないのか?」
『私以外の戦闘機人が活躍されると私のスポンサーにも首を切られるからね。それを阻止するためさ』
なるほどな、そりゃあ優秀な方を選ぶに決まっているか。
「………そろそろいいですか?ドクター」
『ああ、済まない。回収してきてくれ』
紫のショートカットの女性がいきなり目の前に現れ、アンノウンを担いでいた。
『ラグナル』
『私も全然気づきませんでした………』
ラグナルをもごまかすステルスを持っているのか!?
『いきなり驚かせてすまないね。この子はトーレ。私の助手だ』
トーレ?確か戦闘機人だったよな?
ISはなんだっけ?
ステルス系の能力じゃなかったはずだけど………
「それではドクター今からラボに戻ります」
『ああ、よろしく頼むよ』
そう言って、トーレはまたいきなり消えた。
『何で、反応がなくなっているの!?』
ラグナルがかなり驚いている。
この能力使う奴いたような………
スカリエッティに似ている………
クワトロ?
そんな感じのような………
『それでは私は失礼するよ』
「………ちょっと待て。最後に聞きたいことがある」
『なんだい?』
「お前、俺を試したろ?」
『さてね?また依頼があったらよろしく頼むよ』
「………考えておく」
そう言ってディスプレイは消えた。
「ドクター、どうでした彼は?」
「実に興味深いよ彼は。あのフィールドもただのプロテクションとは違うみたいだ。壁というよりはバリアだね」
ここはジェイル・スカリエッティのラボ。ジェイルの研究室だ。
今そこにはジェイルと紫のロングヘアーの女性が話していた。
「それとウーノ、アンノウンの様子はどうだい?」
「生体ポットに入れて治療中です」
「グラビティブラストと言ったかい?威力はS+オーバー。彼の切り札と言ったところか………」
「しかし驚きました。自分の体を使って、相手の動きを封じるとは………」
「それほど自分の耐久力に自身があったんだろうね」
「他にも気になる事を言っていましたね」
「アーベント、ブラスターモード………多分それが彼の本当の切り札なのだろう」
そう言って自分の目の前のディスプレイに写っているブラックサレナのデータを見る。
「本当に興味が尽きないな彼は。恐らく今度は彼に戦闘機人を送ってくるだろう。彼がどう攻略するか楽しみだ………」
そう言ったあとジェイルは少し考え込んだ。
「ドクター?」
「ウーノ、チンクを呼んできてくれないか?」
「チンクをですか?」
「ああ、ちょっとチンクにやってもらいたいことができたんでね」
そう言ってジェイルはニヤリと笑った。
第12話 時期外れの転校生
「今日は転校生を紹介します………」
不機嫌そうな様子でシャイデがみんなに言った。
「うおおおお!!」
「女の子かな?男の子かな?」
「こんな時期に転校してくるなんて、何か事件性が………」
クラスメイトもそれぞれ思うところがあるみたいだな。
真ん中の女の子以外まともじゃないような………
事件性ってなんだよ。
俺は机にうつ伏せになり、シャイデの言葉を聞きながらクラスメイトを観察していた。
隣のなのはは俺が寝ているのかチェックしているのか、度々俺の方を見ている。
寝ないからカバンから見えてる広辞苑をちゃんとしまってくれ………
いつの間にか分厚くなってるし………
昨日の戦闘の後、シャイデに怪我の治療をしてもらい家に帰った。
もう時計の針は12時を回っていたのだが三人とも起きており、俺を迎えてくれた。
ライはとても眠そうだったが………
本当に心配かけてばかりのような気がする。
だけど今回の依頼人と退治した相手についてはごまかした。
あいつらを巻き込みたくない。
俺は三人に先に寝るように言って、遅めの夕食をもらい風呂に入って寝た………
ちなみに報奨金は普通の仕事の5回分。
治療費込みらしいが大変太っ腹である。
流石スカさんってとこか。
「静かに!それでは入ってきなさい」
シャイデの注意に我に返った俺は入ってくる転校生に目を向ける。
ふんふん、背はずいぶん小さいな。小学生と言われても間違えないかも。
髪は長い銀髪を束ねたポニーテール。
………転生者?
なわけないか。
そして、顔を見る。
人形みたいに綺麗な顔立ちだな。右目の黒い眼帯がなければ人形とも間違えるかも。
………………眼帯?
小さい体にロングの銀髪、黒い眼帯………
チンクじゃね?
「私の名前はフェリア…イーグレイだ。家庭の事情でこちらに転校してきた。皆、よろしく頼む」
フェリア?なんだ人違いか。
「うおおおおおお!!銀髪美人キター!!!」
でかい声出すなよ神崎………
隣のなのはがヤバイほど引いてるぞ。
「神崎!!あの子の点数は?」
「85点だな」
「その心は?」
「あの綺麗な顔立ち、美しい銀髪。それにミスマッチのように見えて、ものすごく似合う眼帯。それだけで確実に90点だ!!」
「?なぜ5点マイナスなんだ?」
「貧乳なところが………あのロリボディで巨乳なら100点だったんだが」
「だが、貧乳もステータスと聞くが………」
「だからこその85点なのだ!!」
「なるほど!!」
ってな感じで神崎と周りの男共はくだらない会話を繰り広げていた。
これで、まだもてるから不思議なんだよな………
まぁこのクラスの女子は本性が分かってきたみたいだけど………
ニコポ、ナデポってこの世界ではあまり強くないスキルなのかな?
今度、じいさんに聞いてみるか………
「静かにしろそこの男共!!それじゃあフェリアさんは………」
と言ってクラスの空いているスペースを確認している。
空いているスペースと言ってもどこにも………
なのはの隣にスペースがあるか。
ちなみに、
黒板
……… ……… ……… ……… ……… ………
すずか ……… ……… ……… ……… ………
はやて ……… ……… ……… ……… フェイト
……… ……… 神崎 ……… ……… ………
……… ……… ……… ……… ……… アリサ
俺 なのは ……… ……… ………
神崎の周りは男子ばっかです。
しかも思考が似ている奴が多く、何気に仲がいい。
まぁどうでもいいか。
「なのはさんの隣に行ってね。零治、用具室から机と椅子持ってきて」
「やだ」
何でそんな面倒なことを………
「………零治君?」
「謹んで行かせていただきます!!」
だから右手に持っている広辞苑下ろしてくださいなのは様!!
俺はダッシュで教室を出た。
「済まないな」
「構わねぇよ」
机と椅子を急いで持ってきて、フェリアのスペースに置いた。
「………次はこれで机と椅子を拭いてあげて」
そう言って綺麗な雑巾を渡される。
「………なぜに?」
「ついでに拭いてあげなさい」
………もう反論するのもめんどくさいや。
さっさと終わらせよう。
俺は言われた通り机と椅子を拭いた。
「さて、フェリアさんちょっと前に来て」
シャイデにそう言われ前に行くフェリア。
「さて、今日は特に連絡事項もないし、一時間目まで質問タイムにしたいと思います」
クラスから歓声が上がる。
「じゃあ、スリーサイズは?」
いきなり爆弾発言する男子A。
当然、神崎周辺の男子である。
「いきなり何言ってるのよ!!」
アリサも慌てて注意する。
「スリーサイズか?上から………」
「言わなくていいのよ、フェリアさん!!」
シャイデが慌てて言おうとするフェリアを止めた。
「じゃあ私が。どこから来たのですか?」
すずかが定番の質問を聞く。
「私はオーストリアの田舎に住んでいる」
「兄弟とかいるん?」
今度ははやてが質問する。
「い、いるん?」
「いる?って意味よ」
やっぱり関西弁知らないか………
「なるほど。自分を含め7人姉妹だな」
「多っ!!」
はやてのツッコミも分かる。かなりの大家族だな………
「じゃあ、両親は何をやっているのー?」
俺の隣から大きな声でなのはが聞く。
そんなにでかい声出さなくとも聞こえるっての。
「父は科学者をしている。母は父の助手だ」
「そうなんだ」
科学者?
だから田舎暮らしなのか?
「好きな食べ物は?」
フェイトが定番その2を聞いた。
「主食にしているのは栄養ブロックと言う簡易に栄養を取れるものだ」
その答えに唖然となるクラス。
「なんと質素な!結構苦労してるんだな………」
「そうだね。今度、私の家に招待しようかな」
桃子さんの料理は美味しいからな………
唖然とした空気をシャイデが和ませ、再び質問タイムが続いた。
「では、好きなタイプは?」
おっ、男子B(神崎周辺の男ではない)が踏み込んだ質問をしてきたな。
「好きなタイプとは?」
「居ないの?優しい人とか、たくましい人とか、頭の良い人とか、運動が出来る人とかないの?」
「?運動とかできると良いのか?」
何かズレてるなぁ。
「ならば俺とかどう思います?」
にっこり笑顔を浮かべながら神崎が聞いた。
本当にどうしようも無い奴だな………
「?同じ銀髪の男ぐらいか。ただその笑顔は気持ち悪い。ニヤニヤする男は嫌われるぞ」
真顔で言うフェリアに激しく頷く原作組一同。
………あいつらは仲良くやれそうだな。
「やっぱり、人前で言うのは恥ずかしいか………」
「シャイデ先生、彼を早く病院に連れていった方がよろしいのでは?」
「私も何度も言っているんだけど………」
シャイデも餌食になってたのか………
あいつ、女性なら必ず手を出してないか?
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、授業五分前を知らせる。
「それじゃ、これまで。あとは各自休み時間にね」
こうして、質問タイムはお開きになった。
「しかし、凄い人気だな………」
今は昼休み。
「そやねぇ。やっぱり転校生は注目の的なんよ。それにかなりの美少女やし」
よだれが垂れているのは気のせいですよね?はやてさん。
「はやてちゃん、よだれ、よだれ」
「おおっと」
なのはの注意にはやてがよだれを拭う。
やっぱりよだれ垂れてたのかよ………
俺は今自分の席にいる。
なのはは自分の席、はやては俺の前の席に座っている。
現在、クラスの大半と、他クラスの奴から質問攻めにあっていた。
それをバニングスがうまくまとめている。
………あいつああいうことをさせると天下一品だからな。
「でも、本当にすごい人気だね」
「………揉みたいとか思っただろ?」
「いややな、私そんなに変態じゃないやろ」
そう言って俺となのはを見る。
「………何で目を合わせてくれへんの?」
そりゃ日頃のおこないと話を聞くとな………
「はやてちゃんは少し自重したほうがいいと思うの………」
「俺は構わないけど人前で揉むのは止めたほうがいいぞ」
「あ〜ん、二人がいじめるぅ〜」
そう言って教室に入ってきたフェイトとすずかの方に走っていき、飛びつく。
「きゃ!?どうしたのはやて」
「いきなり飛びつくとびっくりするよ」
「すずかちゃん、フェイトちゃん。あの二人がね………」
そう言って俺たちを指さしながら、後ろにゆっくり回り、
「チェストォォォォ!!」
二人の胸を揉んだ。
「「キャアアアアアアア!!」」
「ギャフ!!」
二人にビンタを貰い吹っ飛ぶはやて
「自重しろって………」
そう言って俺はため息を吐いた。
それに合わせたようになのはも同時にため息を吐いたのだった………
「零治ちょっといい?」
「何だ?」
「ちょっと話があるんだけど………」
そう言ってシャイデに教室から連れ出される。
「それで話って?」
みんなの定番、体育館裏!
ではなく、
屋上に来ました。
「それで話って?」
「フェリアについてだけど………」
そう言って、言葉を濁す。
「ん?フェリアがどうしたんだ?」
「まさか、気づいてないの?彼女戦闘機人よ」
…………………………ハァ!?
「その顔は本当に気づいてなかったのね………」
「いや、だって普通に眼帯している女の子だろ!」
「まぁ、気づかないのは無理ないかな。私のデバイスって元が整備や調整用でしょ。私のデバイスが気づいたんだけど、僅かに体から機械音が聞こえるらしい」
なるほど………
「で、何が目的なんだ?」
「………なんでも調べものがこの街にあるらしいわ」
何を調べているんだ?
「それと誰が彼女を?」
「ジェイル・スカリエッティ」
またあのマッドサイエンティストか………
「本当に面倒事ばかりだな………」
「同意見よ………」
二人でため息を吐く。
「それでね、まだあるのよ………」
「何だよ………」
「拠点が欲しいらしいんだけど………」
「で?」
「あの子、世間知らずのところあるじゃない」
確かに、栄養ブロックとか簡単に言うし、スリーサイズも簡単に言いそうになるし、お嬢ちゃんおじさんといいことしようぜ!って誘われたら簡単について行きそうだからな。
「それでね、零治の家にホームステイをさせようと思っているんだけど………」
はあああああああああ!?
「ちょっ!!無理だって!!俺の家には星たちだって居るんだぞ!!」
「分かってるけど、私の家って私ほとんどいないし、一人にさせちゃうと結局同じになるでしょ」
「けれどよ………」
やばいだろ!?星達たちもジェイルから見ても研究対象になりそうだし………
「大丈夫よ。星たちには私から説明する。それに彼女たちは今は人間でしょ?興味持つはずないと思うわ」
「だけど!!」
「大丈夫どう調べても彼女たちは普通の人間だし」
だけどよ………
「むしろ私はあなたの方が心配。ジェイル・スカリエッティの目的はあなたじゃないかと私は思うの」
「!?なんでだ?」
「あなたの能力とデバイス。かなり珍しいし、もしかすると………」
「俺が研究対象か………」
ありえる………装甲を展開して戦う魔導師なんていないからな。
「で、どうする?」
「………分かった。こちらで預かるよ」
「いいの?」
「他で好きにされるより近くで監視出来た方が良い」
勝手に何かされるより全然マシだ。
「そう、分かったわ。なら彼女たちには私から言っとくわ」
「そうしてくれると助かる」
俺から言ったら何されるか分からんからな………
「それとフェリアは教室で待ってもらっているから迎えに行ってきて。その間に私が連絡しとくわ」
「了解」
本当にいろいろ面倒を持ってくる科学者だな。
なんにせよ目的を調べるのが先決だな。
そう思って、零治は教室に向かった………
第13話 転校生、有栖家に行く
「おかえり、レイ。………初めまして、有栖星と言います」
家に帰ってくるなり、星が出迎えてくれた。
しかしどうにも表情が固い。
「こちらこそ、私はフェリア…イーグレイと言う。これからお世話になる」
フェリアも礼儀正しく言葉を返した。
そんな様子を見て、星の表情も柔らかくなった。
「フフ、よろしくお願いします。さあ、中にどうぞ」
そう言って中に案内する星。
「フェリアさんの部屋は既に準備してあるので荷物はそちらに………」
さすが、星は準備が早い。
「フェリアで構わない」
「分かりました、呼び捨てで呼ばせてもらいます」
………けど、フェリアって荷物どうしてるんだ?
「………フェリア」
「何だ?有栖」
「俺も零治でいい。そんなことよりお前荷物は?」
「?学校のカバンだけだが?」
………スカリエッティ、もう少し世間を教えてあげるべきだ。
っていうかスカリエッティもちゃんと分かってるのか?
「本当にそれだけなんですか!?」
さすがの星もそれには驚いているらしい。
「ああ、そうだが?」
「………星」
「分かってます………」
さすが星。アイコンタクトで理解したか。
「直ぐにデパートに行くぞ。夕食もそこで食う」
「了解しました。二人にもそう言ってきます」
そう言ってリビングにいるだろう二人に話に行く星。
リビングから「やったー!」とか「新しい夏服もそろそろ見ておくかな」とか聞こえたのは忘れよう………
そうしてやってきましたデパート。
ライと夜美の自己紹介は何事も無く終わって、すぐさまデパートへ向かいました。
「さて、それじゃあよろしく頼むな三人とも」
「はい、任せてください」
「買い物~買い物~」
「ふむ、あれが新しいデザインか」
他二人は大丈夫なのか?
「零治」
「なんだ?」
「私は別に服など………」
「駄目ですよ」
俺に話しかけてきたフェリアの言葉を星が遮る。
「女の子なんですからオシャレには気を遣わないと。せっかくこんなに綺麗なのに………」
「だが、私はこういうものを買ったことが無い。何がいいのか分からないんだ」
「そのための私たちですよ、さあ行きましょう」
星はフェリアの手を掴んで、服屋へと入っていく。
ライと夜美は既に服屋の中だ。
若干忘れられた感があるが、一緒に行っても仕方ないしな………
「時間つぶしに本屋でも行くか………」
俺は本屋に行くことにした………
「さてどうしているかな………」
1時間30分位たってから俺は皆の様子を見に服屋へ戻った。
さすがに終わっているだろう。
あれ?何か人だかりができてる?
取り敢えず、俺はその中に入っていった。
「どうよ~!!」
ライの声が聞こえる。
「「「「「おお~!!」」」」
すると、ライの声に大勢の人が声を上げた。
………ライは一体何をしているんだ?
やっと前の方に進めたので、ライの声の方を見てみると………
ナンデメイドフクヲキテイルノデスカ?フェリアサン………
人だかりから携帯のシャッター音が聞こえる。
「ぬっ、なかなかやるな。次は私だ」
ライの隣にいた夜美は試着室にフェリアを連れていく。
「わ、私はこれ以上………」
「いいから来い!」
フェリアの反論もむなしく、夜美と一緒に入って行った。
「次はこれだ!」
「………これを着るのか?」
「今更、なんでもないだろ?」
「………分かった」
試着室の中なら声が普通に聞こえてくる。
あいつら、フェリアを使ってファッションショーでバトルしてるな………
しかし店の方はよく許可を出したな………
「レ、レイ~」
少し後ろの方で星の声が聞こえる。
「星?どこだ!?」
「こ、ここで~す」
ああ、いたいた。
星は観客にもみくちゃにされていて目を回している。
俺は星の所まで行き引っ張って、俺のもとに引き寄せた。
「あ、ありがとうございます」
「構わないよ。しかしなんでこんなことになっているんだ?」
「実は………」
回想………
「これはどう?」
「うん!いいと思うよ」
「これはどうだ?」
「いいですね、髪の色とも合っていると思いますよ」
3人でそれぞれフェリアさんの服を選んでいました。
フェリアさんは本当になんでも似合うので、結構いろいろ着せてみてたんですけど………
そのうちライと夜美が………
「………でどう?」
「………面白そうだな」
何か二人で耳打ちして、店の店長に話に行ったんです。
「OK面白そうね。分かったわ、準備するから少し待ってね」
そう言って店長は店の奥に入っていったんです。
店長とは買い物していくうちに仲良くなって、安くしてもらったり、新作とか入った時にメールくれたりしてくれる仲なんですけど………
しばらくして………
「お待たせ、二人共」
そう言って店長が持ってきたのはコスプレ衣装でした。
「では………」
「始めようか………」
ニヤニヤしながらフェリアに近づいていって、2人はフェリアの着せ替えショーを始めたんです。
「そのあとは店の人から少しづつ観客が集まっていって、今の状態になってしまったんです」
「………やっぱりか」
俺の予想通りだったな。
だけど確かに恥じらいながら着ていたメイド服はとても可愛かった………
こりゃあ、周りの人にも人気が出るわ。
男だけじゃなく女の人も人だかりの中にいるし………
「さあ、お披露目だ!!」
元気よく、夜美が試着室のカーテンを開けた。
「こ、これは!!」
く、黒のゴスロリだと!!!!
夜美、なんてものを………
「レイ、何やってるんですか………」
「ハッ!?」
いつの間にか携帯でフェリアを撮っていた。
無意識に写真を撮らせるとは………
周りのシャッター音が半端なく鳴っている。
「フフフ、これは我の勝ちかな………」
「くっ、まだ何かあるはず………」
さて、ライは何を繰り出すかな………
「レイ………?」
星が恐い顔で俺を睨んでくる。
「だ、だけど、こんなにギャラリーがいるんだし、もう少しやってても………」
「オハナシ………します?」
「おい、ライ、夜美それまでだ!!いい加減止めろ!!!」
俺は星のプレッシャーに負け、2人を止めに入った。
ちくしょう、もっと見たかった………
けれど観客の人から撮影した写真を送って貰いました。
ラッキー!!
「………大変な目にあった」
「お疲れ様」
疲れたフェリアに俺は労いの言葉をかけた。
あの後、普段の生活に最低限必要なものを揃え、ファミレスに入った。
いつものファミレスだ。
そんでもって今、ライと夜美は星の説教を受けている。
「しかし、おとなしく説教を受けているな………」
「まぁ、星は怒ると恐い事を分かってるからな2人共………」
黙って静かに星のお説教を聞いてる2人。
俺だって、オハナシをされたときの事は覚えてないし。
普段気配りの出来る優しい星だからこそ怒らせると一番恐いんだよな………
「おっ、来たぞ。星もそれぐらいにして飯にしよう」
「はい。………帰ったら続きを話しますからね」
どうやら地獄はまだまだこれかららしい。
「全く、私も着せてみたかったのに………」
それが本音か!!
「これは何だ?」
箸を指差し、フェリアは俺に聞いてきた。
「ああ、箸だなこの二本の棒を使って、食べ物を挟んで食べるんだ」
そう言って俺は自分のとんかつ定食のとんかつを挟んで食べる。
「器用に食べるな」
「日本に住んでいる人はみんなこうして食べてるよ」
そう聞いて星達を見るフェリア。
星は焼き魚を綺麗に分解して綺麗に食べている。
夜美は天丼をガツガツと食べている。
夜美や星も最初はうまく使えなかったが今は見事なものだ………
ただし問題は………
「はむはむ………」
美味しそうにピザを食べるライ。
ライは箸を使うの苦手なんだよな。
外で食べるときは箸を使わない物しか頼まないし………
「ライとフェリアは箸の練習したほうがいいかもな」
「何で!?僕は使えるよ!!」
「お前はもっと綺麗に使えるようになれよ。家で焼き魚食べるとき星にばらしてもらってるだろ、お前………」
「だって星の方がうまいんだもん………」
ふてくされたように頬を膨らませながら言う。
「だってじゃないっての。給食のとき恥ずかしくないのかよ?」
ちなみに星たちが行っている中学は市立なので給食なのだ。
「みんな別に気にしないもん」
今の子達ってあまり気にしないのかな?
「だけどこれから恥ずかしくなってくるぞ」
「うう………」
唸ってもダメだ。
「………私もやってみるか」
フォークを使ってナポリタンを食べていたフェリアは箸を使ってみる。
「………やはり難しい」
「うまいもんだよこれなら直ぐに上手くなるさ」
「ううっ、僕も練習しようかな………」
そんな事を話しながら4人楽しく食事をし、帰路に付くのだった。
『ドクター、チンクです。今回、シャイデ殿の知り合いの中学生の家に居候することになりました。黒の亡霊についてはまだ手掛かりはありませんがシャイデ殿の近くにいられれば必ずつかめると思います。
それと余談ですが、居候先の人たちは優しい人たちです。先日、私の為に買い物に付き合ってくださいました。食事の際、箸を初めて使いましたが、あれはとても食べるのが難しいです。是非ドクターも試してみてください』
「ドクターそれは?」
「ああ、チンクの報告書だよ。………ウーノ」
「なんでしょう?」
「箸を使ったことがあるかい?」
「橋?道をつなげる道のことですか?」
「違うよ、これのことだ」
モニターに箸の映像が映る。
「これが箸?ですか?」
「ああ、この二本の棒を使って食事をするらしい」
「………難しそうですね」
「だが、あの世界では使うのは常識らしい。そこで!!」
バン!とディスプレイを叩く。
「我々も挑戦してみるとしよう。難しいと言われて引き下がる私ではない!!」
右手を高々と上げて宣言するスカリエッティ。
「………またドクターの悪い癖が」
ウーノは頭を悩ませるのだった。
しばらくの間、スカリエッティのアジトでは箸に苦戦するナンバーズとマッドな博士がいるのだった………
「チンク、いいなぁ。私もあの世界の料理食べてみたいな」
そんな中、箸を一番早く使えるようになったセインが呟いた。
ちなみに一番使えるのが遅かったのはクアットロだったりする。
第14話 転校生、翠屋に行く
学校のフェリア人気も落ち着き、普段通りの日常が戻ってきた。
だが、フェリア人気は衰える事を知らず、未だに見に来る生徒がいたりする。
ちなみにフェリアが家に居候していることは秘密にしてある。
………バレると神崎軍団(神崎周辺の男共)がうるさいからな。
フェリアは世間知らずな所があるが、勉強に関してはトップレベルの頭脳を誇っている。
さすが、戦闘機人と言ったところかな。
バニングスはかなり対抗意識を持ったようだが………
小テストの際、
「次は負けないわよ!覚えてなさい!!」
なんてありきたりな負けゼリフ。
さすがバニングス。
てな感じであっという間に放課後………
「ねぇ、フェリアちゃん」
「なんだ?」
「今日、翠屋に来ない?」
帰り支度をしていたフェリアになのはが声をかけた。
おっ、いいアイディアじゃん。
まだフェリアは美味しいスイーツとか食べたことがないからな。
「翠屋とは?」
「なのはの親がやっている洋菓子店だよ。この街一番と言っても過言じゃない旨さを誇る店だな」
そんな俺の評価にフェリアは驚いている。
俺ってあまり絶賛したりしないからな………
「ちなみに零治君は翠屋の常連だよ」
「そうなのか!?」
「ああ、5年前から通ってるな。うちの奴らも翠屋のスイーツは好きだし」
ちなみにフェリアにはなのは逹に星たちの事は言わないように言ってある。
理由は話していないけど、居候させてもらっているからと理由を聞かず了承してくれた。
「そうなのか」
おっ、結構興味ありそうだな。
「行ってみるか?」
「ああ、興味がある」
じゃあ、決まりだな。
「………何か仲が良いような」
「気のせいだろ」
「そうかな?」
「そうだろ」
何か納得いかない顔をしている気がする。
だけど居候しているなんてバレたら俺が何を言われるか………
「それじゃあ、後でな」
「あれ、零治君も来るの?」
「ああ、家族に買って帰ってやろうと思ってな」
「うん、分かった。じゃあまた後でね」
取り敢えずそこで話はお開きになった。
「ここだ」
そう言って俺は翠屋を指さした。
あの後、フェリアを連れて翠屋にやって来た。
時刻は16時30分頃。
翠屋は大変繁盛している。
「凄い人気だな………」
「俺の言ったことはあながち間違えじゃないだろ?」
「ああ、そうだな」
「………何か私たち蚊帳の外じゃない?」
「まあまあアリサちゃん………」
「何か姉妹みたいだよね」
後ろで何か話しているバニングス、すずか、なのは。
俺達と共に来たのだが、何かコソコソと話している。
はやてとフェイトは休みだった。
ちなみに大悟も。
魔導師はやっぱり忙しそうだな。
「おい、後ろの三人も早く入ろうぜ!」
おれは3人を催促して店に入った。
「いらっしゃいませ」
店に入るといつも通り桃子さんの綺麗な声が聞こえる。
「ちわ~す」
「アンタは友達か!」
バニングスのツッコミで頭を叩かれた俺。
結構痛い………
「あらあら。いらっしゃい、アリサちゃん、すずかちゃん、零治君。それと………」
「私はフェリア…イーグレイと言う。都合によりこちらに転校してきた。これからよろしくお願いする」
「あらあらご丁寧に………こちらこそよろしくね」
そう言って双方おじぎする。
「あちらにいるのが主人の高町士郎よ」
カウンターから手を振る士郎さん。
「………主人?」
やっぱり最初はそう思うよな。
「私のお母さんとお父さんだよ」
なのはの答えを聞いて驚愕するフェリア。
「お前の両親は人間ではないのか!?」
そうきたか!!
………あながち間違えじゃないかも。
「フフフ、私はれっきとした人間ですよ。さぁ、こっちの席にどうぞ」
そんあフェリアの答えに笑いながら、俺たちを空いている机に案内をしてくれた。
「なのは、後でお手伝いよろしくね」
「分かったの」
なのははそう言って厨房に走っていった。
………嫌な予感がする。
「零治君!!」
「すいません!電話がかかってきました!!ちょっと外に………」
「鳴ってないみたいだけど?」
すずか!?何余計なことを………
「………また逃げようとしたんだ」
「まだ天国には行きたくないので」
俺の名前を呼んだのは、なのはの姉美由希さんだった。
相変わらず俺に自分のケーキを食べさせようとする。
「まぁまぁ零治君これでも飲んで」
そう言って俺にコーヒーを出してくれる士郎さん。
「こんにちは、士郎さん」
「こんにちは」
「こんにちは、アリサちゃん、すずかちゃん。それと………」
「フェリア…イーグレイと言う。都合によりこちらに転校してきた。よろしく頼む」
「ご丁寧にどうも。私は高町士郎、なのはの父だよ」
「………本当は兄とか?」
「私は正真正銘なのはの父だよ」
「ちなみに士郎さんの長男には子供もいるよ」
さらに驚愕の表情を浮かべるフェリア。
本当にこの家の人たち化け物だよな。
「零治君、今度もうまくいったから………」
忘れてなかったか………
「士郎さん………」
「……………」
何で返事がないんだ!?
「さあさあ………」
そう言って手渡してきた箱にはピーチタルトが入っていた。
何で手の込んだ物を作るのかな………
今日は厄日だ………
「なあ、私がもらっていいか?」
「ちょっ!?フェリア!?」
お前死ぬ気か!?
「フェリア!?死ぬ気なの!?」
バニングスも犠牲者だったか………
よく見るとすずかとなのはもソワソワしている。
「何を言っているんだバニングス?こんなに美味しそうじゃないか」
そう言って大胆にもタルトのひと切れを掴み、全部一気に食べた。
だが、その場でフェリアは固まる。
「フ、フェリア?」
心配そうに声をかけるすずか。
「うまい!!何だこの味は!!こんな食べ物食べたことがない!!」
大絶賛かよ!?
「本当に大丈夫なの?」
バニングスも心配するように見ているが、どんどん食べていくフェリア。
「ねぇ、大丈夫だったでしょ!!」
嬉しそうにはしゃぎながら答える美由希さん。
「………だけど」
進んで食べる気にはならないんだよな………
「零治、お前も食ってみろ!!」
嬉しいんだろうか興奮しながら言うフェリア。
「そ、それじゃあ………」
俺は残った最後の一個を………
「あっ、それは私が試しに作った試作品よ」
ちょっ!?それを先に…………グフッ!?
俺は目の前が真っ暗になった。
「大丈夫かい?」
目覚めたらいつもとは違う天井が見えた。
「ここは?」
「私の部屋だよ」
そう答えたのは士郎さん。
どうやらここは士郎さんの部屋みたいだ。
「すまなかったね。また美由希がやってしまったみたいで………」
言われながらも時計を見る。
17時25分………40分ぐらい気を失っていたのか。
まだ少しだるいな………
「みんなはどうしてますか?」
「みんな君を心配して、帰ってないよ」
そりゃ、悪いな。
仕方ない、早く行ってやるか。
「もう大丈夫なのでみんなの所へ行きますね」
「そうかい?それじゃあ私も」
ベットから出てみんなの所へ向かった。
「心配そうね………」
話が弾んでいるのか笑い声が聞こえてくる。
何だか悲しいぜ………
「零治、帰ってきたのか」
「ああ、心配かけたな」
一番早く気づいたフェリアが声をかけてくる。
「遅いわよ!!全く、こんな時間になったじゃない!!」
フン、っとそっぽを向くバニングス。
無茶言うなよ………
「………一番動揺してたのにね~」
「ねぇ~」
「なのは!!すずか!!」
バニングスが騒ぐので耳を塞いだ。
まぁ心配してくれていた事は分かった。
「ごめんね、零治君………」
そんな中、沈んだ様子で俺に謝ってくる美由希さん。
「別にいいですよ。いつものことじゃないですか。こうやって体もピンピンしてますし」
その場でジャンプし、元気なところを見せる。
「………いつものことは余計じゃない?」
「でも、反論できないでしょ」
「うぅ………」
多分、余計なことをしなければもう大丈夫だと思うんだけど………
「零治!!」
「な、何だよ………」
いきなりでかい声を出して俺に指を指してくるバニングス。
「あ、あんた心配かけたんだし、一つ私の言うこと聞きなさい!!」
「………いきなり何言ってるんだよお前」
「反論はなし!!これは強制だから!!」
訳が分からない上に勝手に強制にされた………
何を考えているのか………
でも、心配させたのは確かか………
さて、どうするか。
「………で、俺に何させる気だよ?」
それを聞いてバニングスは口を開く。
「私の………私の事を名前で呼びなさい!!!」
………………えっ!?
「そんなことでいいのか?」
「ええ!?」
俺の答えが以外だったのか、驚くアリサ。
「いやぁもっと凄いこと言われるのかと思ったよ。『明日私の奴隷になりなさい!!』とか」
「えええ!?」
「ありがとな“ア・リ・サ”」
ブチッと何かが切れる音が聞こえ、
「このッ馬鹿やろー!!」
リバーブローが俺に入ったのだった。
「零治君、流石にそれはないと思うの………」
なのはの呟きにすずかも頷くのだった。
「分かんね………」
終始アリサは不機嫌であったが、その後も少し雑談してそれぞれ帰路に着いた。
リバーブローが効いたのか食べ物を食える状態じゃなかったので結局何も食えずに帰る羽目になり、お土産として買っていったケーキセットは俺の分をライに食われたのだった。
グスン………
『ドクター、こっちの生活にもやっと慣れてきました。これから怪しまれないように情報収集を始めようと思います。今回は美味しい洋菓子店に招かれました。そこのスイーツは今まで食べたことがないほど美味しかったので、ドクターにも送っておきました。皆で食べてください』
「ふむ、これが」
そう言ってチンクから送られた箱を開ける。
中にはチョコケーキ、ショートケーキ、いちごのタルトやシュークリームと色々なケーキが入っていた。
「ほぉ、確かに美味しそうだ」
「ドクター、その箱をこちらへ」
「ん?構わないが」
そう言ってスカリエッティはウーノに箱を渡す。
「これからみんなでお茶にしますから、ドクターもラボから出てきてください」
「いや、私はもう少し研究を………」
「ドクターも出てきてくださいね………」
「いや、私は………」
「ドクター?」
「………分かったよ」
そう言ってウーノとラボを出たのだった。
「全く、ドクターももっとラボから出るべきなんです。せっかくですから体を洗ってからこっちに来てください。臭いでせっかくのケーキもまずくなってしまいます」
「…………そんなに臭うか、私は」
ウーノの容赦ない言葉に少なからずショックを受けるスカリエッティ。
それから、5日に1回が3日に1回になったらしい………
その後、スカさんとナンバーズは翠屋のケーキを箸で美味しく頂いた。
(チンクばかりいいなぁ………私も行ってみたいな)
そう心の中で思うセインだった。
第15話 アリサ・バニングスの憂鬱
次の日の学校………
「うっす、アリサ」
私は胸が飛び上がるほど嬉しかった。
いつもはバニングスとかバーニングしか言わなかったアイツがやっとわたしの名前を呼んでくれるようになった。
「き、昨日は災難だったわね」
「まあな。まぁいつものことだし、慣れたけどな」
苦笑いしながら言うアイツ。
………悔しいけど、少しキュンとしてしまった。
「そう言えばアリサ、今日は一人か?」
「な、何でよ!一人でいちゃ悪い!?」
つい怒り口調で返してしまう。
何で怒り口調になっちゃうのかな………
「いや、いつもすずかとセットじゃないか。それにちょっとすずかに用があるんでな」
何よ、私じゃなくてすずかに用なの………
「………すずかは珍しく寝坊したから遅れるって言ってたわ」
「あちゃあ、やっぱそうなったか………」
「何か理由知ってるの?」
「いやな、昨日貸したゲームが原因だと思うんだよ………」
「ゲーム?」
確かにすずかはやる方だけど、寝坊するほどやり込むかしら………
「………おはよう」
そんな時、すずかが教室にやって来た。
とても眠そうな声で挨拶をする。
「やっと来た。おはよう、す………」
「零治君!!」
私の挨拶を遮り、いきなりアイツの所へ行くすずか。
何かいつもよりテンションがおかしいような………
「名作だよ!あれ。テイルズ・ストーリー!!気づいたら朝になっちゃってたよ!!」
本当に徹夜するまでゲームしてたんだ………
心なしか異常なテンションの高さにアイツも若干引いてるじゃない。
「そ、そうか。気に入ってくれたなら何よりだ」
「うん、でね………」
そのあと、すずかはアイツとゲームの話で盛り上がっていた。
完全に私、空気だな………
何か悔しい………
昼休み………
「アリサちゃん」
はやてに声をかけられ私は我に返る。
今は屋上で昼食中。
ちなみに今日はなのはとフェイトは仕事だ。
「すずかちゃん、どないしたん?箸持ったまま眠ってるで」
私が慌てて見ると、コックリコックリ頭を軽く揺らしながら夢の世界に行っているすずかがいた。
「実は………」
私は朝の出来事をはやてに説明した………
「成る程な、確かにあれは名作や。私も借りてプレイしたし。休みの時はヴィータと協力プレイもしてたで」
へえ、協力プレイも出来るんだ………
「あれを初めてやったとき、雷が落ちた気がしたんや。あんなゲームあるやなんて知らんかった!!」
あ、墓穴掘ったかも………
「そうだよね!!はやてちゃんもそう思うんだ!!」
いつの間にか起きた、すずかがはやてに便乗する。
そのあとは朝と同じように私は完全空気だった。
私も借りてみようかな………
「アリサ、ちょっといいか?」
放課後、アイツが私に声をかけてきた!!
いつもなら私が話しかけるのに!!
「な、何よ………」
それでも相変わらず、怒り口調になってしまった。
「そう怒るなよ。本当はすずかに頼もうと思ったんだけど速攻で帰っちゃったからノート貸してくれるやついないんだよ………悪い、ちょっと貸してくれ!!」
私はすずかの代わりか………
そう思うと無性に悔しくなってきた。
「フン、アンタが悪いんじゃない!これからは寝ないようにしなさい!!」
私はついいつも以上にキツい言葉をかけてしまう。
「………仕方がない、フェリアに頼むか」
そう言って私から離れていく。
「あ、ちょっと!!」
「フェリア!悪い、ちょっとノート見せてくれ!!」
アイツはフェリアに話しかけながらフェリアの席に行った。
「何で私はいつも………」
私は小さく呟いた。
自業自得だけど、私の気持ちを少しは感づいてほしい………
「はあ………」
家でため息をつく私。
考えていることはアイツのこと。
いつもアイツに対して怒り口調になってしまう。
そもそも初めて話した時もあまり印象が良くなかったな………
アイツと初めて話したのは去年の秋。
席替えでアイツの隣になった時だ。
アイツの印象はいつも寝ていて取っつきにくい奴。それくらいの印象だった。
「今日からよろしく」
「………ああ」
不機嫌そうに返事をするアイツ。
何が気にくわないんだか………
「不機嫌ね」
「ほっとけ」
そう言って寝てしまった。
………無愛想な奴。
その時は特に何事も起きなかったが、問題が起きたのはその二日後にあった文化祭の出し物を決めるときだった。
私は文化祭実行委員でみんなを指揮する立場だった。
今回、意見が出たのは喫茶店とお化け屋敷。
ちょうど半分に別れていた。
だけど私のクラスは33人。
半分に別れるなんて絶対あり得ない。
「誰か手を挙げていない人いない?」
私はみんなに聞いてみるが反応がない。
「アリサ。多分有栖君だと思う………」
すずかにそう言われてアイツを見る。
みんな、初めての文化祭でやる気に満ち溢れている中、いつも通り変わらず寝ている。
「有栖、起きなさい!!アンタはどっちにするの?」
私が揺すり、起こそうとするが起きない。
「有栖!!!」
大きい声で呼んでも反応がない。
「有栖!!!!」
「うるせぇよ!寝れねぇじゃねぇか!!」
何故か逆ギレされた私は当然言い返した。
「アンタが票を入れないからでしょうが!!寝るんなら帰って寝なさい!!」
そう言われたアイツは直ぐにカバンを取りだし、荷物を入れている。
「………何してんのよ」
「帰る準備。このままじゃ、オチオチ寝れないからな。あっ、喫茶店の方に票を入れておいてくれ」
淡々と私に言って、カバンを持ち、教室を出ていった。
「なんなのよアイツは………」
学園祭のやることは決まったが、アイツの態度が気に食わなかった。
だが1つ、アイツに興味を持った。
………何でアイツはいつも何事にも無関心でいるのだろう?
アイツは基本、寝ていてばっかでクラスの人とも滅多に話しかけないし、話そうともしない。私が見かけるのは時々すずかにノートを借りる時だけ。
話しかけられても無視するし、みんなアイツを避けている気がする。
何でなんだろう………
喫茶店と決まった文化祭の出し物。
だけどいざ準備となった時、事件が起こった。
「男子がボイコット!?」
「そうなの………」
男子の大半がお化け屋敷をやりたかったらしく、それでも渋々準備をしていたが、女子の偉そうな態度に腹を立て、お化け屋敷を選んだ男子がほとんどボイコットしてしまった。
「どうしよう………アリサちゃん」
「………取り敢えず私たちで出来るところまでやりましょう」
そう言って残っているみんなと共に作業に戻った。
「お願い、このままじゃ間に合いそうにないの!!協力してください」
授業が終わった後、みんなの前に立ち、頭を下げてお願いする私。
だけど男子には届かず、時間ばかり過ぎていってしまった。
「アリサちゃん………」
「何で聞いてくれないのよ………やっぱり私が悪かったのかな………?」
「そんなことない!アリサちゃんは精一杯やってるよ!!」
「………ありがとうすずか」
すずかが私の手を取り勇気をくれる。
………もう少し頑張ってみよう。
「………はぁ、仕方ないな」
そんな2人の教室を覗いていた一人の生徒がそう呟いたのだった。
放課後………
今クラスに残っているのは私とすずか。
時刻はすでに18時30分を回っており、他のみんなは帰ってしまった。
「………すずか、もういいよ。後は私がやるから。これ以上はどうしようもないよ」
「ううん、私もアリサちゃんが帰るまで帰らないよ………」
「すずか………」
「最後まで諦めずに頑張ろう!」
私って本当にいい友達を持ったな………
しばらくして………
「二人とも下校時刻はとっくに過ぎているんだ。そろそろ帰りなさい」
担任の先生に注意され、強制的に下校させられてしまった。
「アリサちゃん………」
「明日、朝早く行って準備するわ。すずかは………」
「私もやるよ。これ以上遠慮したら怒るからね!」
「………ありがとう、すずか」
でも、それでも間に合わないだろうな………
私はすずかに感謝しつつ、心の中では諦めていた。
翌日………
「どういうことよ!!これ!?」
朝早く、教室に来た、私とすずかは驚いた。
絶対に間に合わないと思っていた、教室の準備が終わっていたのだ。
しかも、装飾なども時間がなく諦めていた物もちゃんとしてあった。
「誰が準備を?」
すずかの問いに私は当然答えられない。
教室に入り、再度確認する。
「………完璧ね」
「本当に。でも誰が………」
ふと、すずかが教卓の上に置いてある紙に気付いた。
『これで文化祭の準備してないとか抜かすなよ!!俺は眠いから欠席する。男どもの説得は自分でやれバニングス。 有栖零治』
「アイツ………」
「有栖君………」
そんなことするなら最初っから来なさいよ。
かっこつけちゃって………
「すずか」
「うん、頑張ろうアリサちゃん」
その後、私はしつこく頭を下げ、無事男子を説得することができ、クラスを団結させることが出来た。
「………その頃からかな。アイツに構い始めたのは」
ふと、携帯を開き、画像を出す。
その画像にははやてと話している零治がそこに写っていた。
「頑張ってもう少し素直になろう。そしていつか………」
アリサは静かに決意を新たにしたのだった。
余談………
「お疲れさまでした」
「ああ、みんなありがとな」
時刻は朝の4時30分。 作業を終えた俺たちは帰路についていた。
横には星と眠そうな夜美。
俺の背中にはライが眠っている。
「本当に終わるかどうか分からなかったぞ」
欠伸をしながら夜美が言う。
「本当に悪かった。どうしてもほっとけなかったんだ………」
ライを落とさないように頭を下げる。
「まぁ私たちも楽しかったですし、その性格がレイの良い所ですから」
「そうだな」
星と夜美が顔を見合せ笑いあう。
………なんだか照れ臭いな。
「なんだ?照れているのか」
「まさか」
俺は平然を装い返事をした。
「それより今日は何処かに遊びにいかないか?」
「お、良いではないか」
俺の提案に真っ先に反応する夜美。
まあ星は渋るだろうな………
「でも、学校が………」
俺の予想通りにやっぱり躊躇する星。
「たまにはいいだろ。それに眠くて授業なんて受けられないだろ」
「そうですが………」
「分かった。だったら夜美とライと3人でいくよ。なっ?」
夜美に問いかける。
流石、分かってるな。
「そうだな、星は留守番ってことだな」
「そんな………」
冗談のつもりが本当に悲しそうな顔をする星。
「じょ、冗談だって。一回帰って少し寝たら行こうぜ」
「そうだな」
「………二人とも意地悪」
夜美の返事と星のすねた返事をもらいました。
その後、昼まで寝た俺たちは、午後から四人で遊びにいくのだった。
この翌日、2人からあの時の事をしつこく聞かれることはなかったが、よく話しかけてくるようになった。
第16話 ゴールデンウィーク前夜
「………よし、大丈夫そうだ」
「完成ですね、ドクター」
「ああ、あとデータを送ればすぐにでも最低限の活動はできるだろう。この子のナンバーは11だからウェンディにしよう」
「了解です、ドクター」
「それでは教育係にセインでも………」
「大変だドクター!!」
ラボに慌てた様子で、入ってくるノーヴェ。
「どうしたんだい?ノーヴェ」
「セインがこんな手紙を残して………」
『チンク姉の所へ遊びに行きます。あっちの世界だとゴールデンウィークと言う5連休なので』
「全く、あの子は………」
手紙を読んで呆れるウーノ。
しかし隣のスカリエッティの反応は違かった。
「ふむ、ならばちょうど良い、ノーヴェ」
「なんですか?」
「今稼働したウェンディを連れて、セインの所へ行ってきなさい」
「えっ!?でも私、後でトーレ姉と戦闘訓練が………」
「そうですよドクター、稼働したばかりでいきなり外に出すなんて………」
スカリエッティの提案に驚くノーヴェとウーノ。
「他のナンバーズはそれぞれすることがあるし、あっちにはチンクもいる。それにあっちの事に慣れておくのも悪くはないだろう」
「………ドクターがそう言うのでしたら」
少し不満げにウーノは答える。
稼働したばかりの妹を現在一番稼働時間が短いノーヴェに任せることが不安だった。
「でも、ドクター私は別に………」
「チンクと会えるわよ」
「謹んで行かせていただきます!!」
姿勢正しく敬礼するノーヴェ。
「全く、調子のいい子………」
そんなノーヴェの様子にウーノは頭を抑えた。
「まあ、いいじゃないか。くれぐれもウェンディの事を頼んだよ」
「はい!」
ノーヴェはそう返事をして、スカリエッティのラボを出ていった。
「はぁ!?ナンバーズをそっちに送った!?」
ゴールデンウィークの前日の夜、明日のために早めに寝ようと布団に入った時だった。
仕事用の通信器に連絡が入り、連絡してきた相手はジェイル・スカリエッティだった………
『ああ、そっちで経験を積ませようと思ってね。1人はもう向こうに行ってしまった。すまないが休日中3人そっちで面倒を見てもらえないか?』
「………私、このゴールデンウィークにミッドに行かなくてはならないから」
『ならば、君の知り合いはどうだい?』
「零治のことか………」
また零治に押し付けることになるのか………
本当は断りたいけど。
1人向かったってことは断ったら逆に問題になりそうだし………
まぁあいつにはあの3人がいるから大丈夫か。
「分かったわ、零治に頼んでおくわ」
『すまないね、今度その零治君にお礼に行くとしよう』
「………お願いだから、目立つことはやめて」
『ハハハ、冗談さ。報酬は既に送っておいたから使ってくれたまえ。ではよろしく頼む』
そう言って通信が切れる。
「本当に大丈夫かしら………」
不安を覚えるシャイデだった。
「はぁ~仕方がないな………」
何でおとなしくしていられないのかねあの変態ドクター………
『ごめんね、零治。私はこのゴールデンウィークはミッドに行かなくちゃいけないから手伝えそうにないの………』
「まぁそれほど期待はしてなかったよ」
忙しいのは分かってるし。
『ごめんなさい、報酬は先に貰ってるから半分振り込んでおくわね』
「了解」
『それとフェリアに変わってもらえる?』
「あいよ、フェリア!シャイデが電話に変わってくれだってさ」
「ああ、分かった」
ソファに座り、テレビを見ていたフェリアがこっちに来る。
「はいよ」
「済まない」
フェリアは俺の携帯を受け取って自分の部屋に入っていった。
「………ということなんだが」
「私逹は大丈夫ですよ。ゴールデンウィークも予定はありませんから」
「うん、僕も大丈夫」
「我も大丈夫だ」
「本当に済まないな………」
みんなに頭を下げるフェリア。
流石にあのマッドなドクターの行動を申し訳無く思っているのだろう。
「今更構わないよ。それよりも妹さんたちに満足してもらわないとな」
「ああ!」
フェリアは俺の言葉に元気よく返事をした。
「それで、どうしますか?」
「悪いんだが、彼女逹の服を買いに行きたいんだが………」
………そう言えばフェリアも荷物とか全く持ってきてなかったもんな。
となると直接向かってくる妹逹はパッツンスーツじゃないよな………?
「じゃあまずはまた服屋かな」
「夜美………」
「分かってる………」
「………二人とも?」
二人の言葉の意味を察したのか、睨む星。
「まあまあ。それじゃあ一日目は買い物で、そこで飯を食べるか」
「そうですね、それがいいと思います」
「そのあとは妹さんたちに意見を聞こうぜ」
「そうだね、もしかしたらどこ行きたいかとか決めてるかもしれないし」
「我もその方針でいいと思う」
俺の意見にライと夜美の二人も同意する。
「それじゃあ、明日来たらそうするぞ」
俺が締めて話は終わった。
ピンポーン。
話がちょうど終わったその時インターフォンが鳴った。
「あ、私が出てきますね」
星が立ち上がり、インターフォンを見る。
「どちら様ですか?」
『私、チ、フェリア姉の妹のセインです。フェリア姉がお世話になっている家がここだとシャイデさんに聞いたので………』
「分かりました、少々お待ちください………」
そう言って玄関に向かう、星。
「………早すぎない?」
その呟きに反論する者はいなかった。
「初めまして、フェリア姉の妹でセインって言います」
青いセミロングの女の子が元気よく言った。
セインか………
確か、地面に潜る女の子だったはず。
っていうか偽名は使わないのか?
「美味しいものを食べにやってきました」
右手を上げて高々と宣言するセイン。
なんとも遠慮の無いセリフだ事。
だが問題は………
「そんなことより………」
「………ええ、分かってます」
アイコンタクトで俺の言いたいことが分かったらしい星。
流石だ。
星はセインを自分の部屋に連れていった。
五分後………
「美味しい物を食べにやってきました」
星の服を着たセインがさっきと同じことを言う。
よくあんなピッチリスーツで外に出たこと………
「………随分お前と性格が違う奴だな」
「姉妹で一番明るい奴だからな」
う~ん、ナンバーズを全員覚えてないからなんとも言えないけど、確かにセインはナンバーズの中だと一番明るいかもな。
しかし………
「フェリアの方が妹に見えるな」
その時空気が重くなった。
あっ、墓穴ほったかも………
「……………誰が小さいと?」
ワナワナと震えながら呟くフェリア。
「い、いや誰もそんなこと………」
「レイはもう少し言葉に気を使うべきです」
「最低だよ、レイ!」
「今のはお前が悪いぞ、レイ」
「言ってはいけないことを言ってしまいましたね、零治さん」
4人ともかばってくれないようだ。
だがセインよ、お前は少なからず思ってるだろ………
「覚悟はいいか?零治………」
「………優しくして…ね」
その申し出は当然却下され、俺はフェリアにオハナシされました………
「おいしーーーーーーい!!!!」
家にセインの絶叫が響く。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
ちなみに今日の夕飯はシチュー。
その残りをセインに出しました。
今、ライと夜美2人と話しながら食べている。
「いきなりMy箸を出して食べようとしたときは驚いたけどな………」
「一体日本をどう勘違いすればそうなったんでしょうか………?」
本当に驚いたよ………
出したのはご飯にかけたシチューだったから別に食えないことはなかったけど、日本人は食事をするとき全て箸で食べると思っているとは………
しかもMy箸入れまで持ってくるという徹底ぶり。
スカさん、ちゃんと教育してやりなよ。
でも、箸使いはフェリアよりもかなり上手でした。
「………」
そんあセインを見てか、端でセインに見えないように箸の練習をするフェリア。
………負けず嫌いだな。
と言うよりは姉の威厳がって所かな?
「でも本当に美味しいよな星の料理は。お嫁さんにもらったやつは最高だろうな」
「そ、そんなことないですよ………それに私はレイだけに………」
「レ、レイ!明日のことなんだけど!!」
「お、おう………」
星との話の途中でライにいきなり声をかけられる。
星がライを睨んでいるような気がするが気のせいだろう。
「で、何だ?」
「セインが明日はお寿司が食べたいって」
「私、資料で見たんだけど回ってくるんでしょ!!」
ああ、回転寿司か。
確かに珍しいよな………
外人だと写真撮る人もいるらしいし。
でも、最近はアメリカとかでも回転寿司ってあるんだっけ?
今度、グーグル先生に聞いてみようかな………
「レイ?」
おっと、かなり脱線したな。
「分かったよ、買い物したら食べに行くか」
「ほんとう!?ありがとうレイ!!」
笑顔でお礼するセイン。
ん?今レイって言ったか?
「ダメ………かな?」
「別にダメじゃないよ。好きに呼んでくれれば良い」
「ありがとう!これから『レイ』って呼ぶね」
笑顔で俺に言うセイン。
本当に明るいだな。
ナンバーズってこんなに感情豊かだったっけ?
「………本当にレイって女の子と仲良くなるのが早いね」
「全くだ。この女たらしめ」
「だから男友達が居ないんですよ………」
3人ともなんだか冷たいような………
それと星!!俺にだって男友達ぐらい……………あれ?
「………俺って結構寂しいやつじゃない?」
「今更気づいたのか?」
転校してきたばかりのフェリアにまで言われた!?
「いいもん!俺には士郎さんがいるから!!」
「………友達か?」
ちくしょう、フェリアのツッコミが胸に響くぜ………
ぶっちゃけ思春期真っ盛りのヤロー共と話なんて合わないし、合わせる気もないんだけど。
その辺、神崎はすごいと思う。
絶対に混ざりたくはないけど………
「そんな事はどうでもいいんだよ!!」
「よくはないと思うが」
「いいの!!」
「………分かった」
俺の強気の返事に折れるフェリア。
このままじゃ俺がいじられて終わるような気がしたからな………
「それに友達は学校にはフェリアもいるし、別に問題ねぇよ」
「そ、そうか」
少しうつむきながら返事をするフェリア。
何か星達3人がまた俺の事を睨んでいるような………
「………何だよ?」
「「「変態!」」」
「なんでだよ!!」
「アハハハハ!」
俺と3人のやり取りを見ていて笑うセイン。
しばらくの間、俺たちのやりとりを見て笑うセインの姿がそこにあった。
「いい人達だね………」
「ああ………」
あのあと、皆順番に風呂に入り寝ることになった。
セインはフェリアが使っている部屋に布団を敷き、そこで寝ている。
「面白いし、暖かいし、何よりみんな優しい」
「ああ、私の時もそうだった」
「みんなが私たちが戦闘機人だって分かったらどう思うかな………?」
「さぁ、どうだろうな………」
セインに背を向けるフェリア。
「チンク姉、黒の亡霊のこと何か分かった?」
「何も………シャイデもなかなかしっぽを出さないからな」
しばらくシャイデの通信を傍聴していたが、黒の亡霊と連絡を取っていることはなかった。
「そうなんだ………ねぇ、私も手伝おうか?」
「いや、お前の能力は貴重だ。お前に何かあったらドクターの計画も崩れてしまう。お前までここにいる必要はない」
フェリアはセインの方へ向きはっきりと言う。
「そうだよね………分かった」
セインはそう言って布団に潜った。
「布団って気持ちいい………」
布団の柔らかさを感じ、セインは呟く。
「チンク姉だけずるいよ………」
そう文句を呟いてから眠りにつくセインだった。
「ずるいか………」
セインの呟きが聞こえたフェリアは同じ言葉を呟く。
「ここの家の者たちは暖かいからな」
有栖家の面々を思い浮かべる。
「いつか私たち姉妹もこの家のように………」
そう思いながらフェリアは眠りに付くのだった………
第17話 ゴールデンウィーク初日(自己紹介)
「私がフェリア姉とセインの妹のノーヴェだ」
「さらに妹のウェンディっス」
次の日、俺はシャイデに言われた集合場所に迎えに行っていた。
また変わったナンバーズがやって来たな………
先にノーヴェと答えた女の子は少しイライラしているように見える。
ウェンディについては逆にほわほわとした印象。ちょっとセインに近いかな………
二人ともティアナにやられたんだっけ?
まぁそんなことはいい。
まずは………
「着替えだな………」
「な、何言ってんだ!!この変態!!」
「イヤらしい兄さんっスね~」
「お前らの格好の方が変態だろ!!」
なんでナンバーズはピッチリしたボディスーツしか着ないんだよ!?
一緒にいる俺が恥ずかしいわ!!
俺は文句を垂れる二人を無理矢理家に連れていった。
「ノーヴェ!ウェンディ?」
ん?何で疑問形なんだセイン。
(セイン、あれはウェンディで間違いない………)
(ありがと、チンク姉………)
………なんか内緒話してるし。
「いらっしゃい、よく来ましたね」
玄関にやって来て挨拶する星。
「おお~!美人さんっス。兄さんの嫁さんっスか?」
いきなり何言ってるんだか………
「そ、そんな………私は別に………」
何で口篭るかな………
「改めまして、私は有栖星です」
「僕は有栖ライだよ」
「我は有栖夜美だ、よろしく頼む」
我が家の3人娘がそれぞれ挨拶する。
「それで、俺が「変態だろ?」違う!!」
ノーヴェ、そんなこと言うなって!!
ほら4人の目が恐い………
あれ?4人?
「貴様、私の妹に手を出そうとしてたのか!?」
「だからしてないっての!!」
フェリアがカンカンになってました。
さすがはお姉さん?
「私は姉だ!!」
「心を読むなよ」
昨日のこと未だに根に持ってるんじゃないだろうな?
「それより兄さんはなんて言うんっスか?」
「こいつのことなんて変態でいいだろ」
「ふざけんなって!俺は着替えだなって言っただけだろ!!」
「俺が着替えさせてやるって言ってたじゃないッスか~」
「言ってないわ!!」
頼むからこれ以上悪ノリしないでくれ、ウェンディ………
ほら、また3人が恐ろしい顔に………
(何か感情豊かすぎじゃないかな………?)
(ドクターが言うには少し性格に支障が出たらしい。だが、思考などはあまり問題無いと分かっているから問題ないのだろ)
(………まぁいいか)
セインとフェリアが内緒話している中、俺は星たちに詰め寄られていた。
「ったく、ゴールデンウィーク初日から厄日だ………」
「す、すみませんレイ………」
「ごめんねレイ………」
「すまなかったレイ………」
あのあと半ギレしながらも3人を何とか説得し、ウェンディに拳骨を食らわせた。
「痛いっス~、フェリア姉~兄さんがいじめた~」
「今のはお前が悪い」
「セイン~!!」
「何で私は姉を付けてくれないの?」
「ノーヴェが付けてないからっス」
「また姉って呼んでくれない………」
落ち込むセイン。
………ナンバーズたちにもいろいろあるんだな。
「って俺の紹介!!」
「今更いいっスよ~兄さんでオッケーっス」
「いやいやいや、お前の兄じゃないし。一家の大黒柱だし」
「大黒柱?」
「むしろ星ではないか?」
「わ、私ですか!?」
「ふむ、今までの様子を見ると確かに星一番偉いな」
「そうだね、レイより星だね」
ライや夜美だけでなくフェリアやセインにも言われる俺。
………泣いていいかな?
「ほらレイ兄、私の豊満なおっぱいで泣くとイイっスよ~」
「何が豊満だ、それにせめて胸って言え。慰めたつもりかもしれないが一気に覚めるぞ………」
「姉妹の中ではなかなかナイスバディだと思うんっスけど………」
まぁセインとどっこいどっこいってとこだな。
「「………ウェンディ」」
「な、なんスか?チンク姉、ノーヴェ………」
「「ちょっとこっちに来い………」」
「えっとまずは怒りを収めて欲しいんっスけど…………ちょ!?レイ兄~ヘルプ~!!」
ウェンディを引きずりながらフェリアの部屋に入れるフェリア、それにノーヴェが続く。
「………セイン、フェリアにこれを渡してきてくれ」
「レイ、これ何に使うの?」
俺が渡したのは広辞苑だ。
「かの魔王様が間違った人間を修正するために使う凶器だ」
「………違うと思うんですけど」
星の言葉をスルーし、俺はセインにさらに補足説明する。
「特のここの角で叩くとかなり痛い、とても痛い!………受けてみるか?」
「え、遠慮しとく………」
「フェリアに伝言も頼む。俺の分までよろしくって」
「………分かった」
そう返事をして広辞苑を持ち、ウェンディを連れていった部屋に入っていった。
「フェリア姉、これ、レイから」
「これは………」
「これは魔王様が使う凶器だって。これで俺の分まで頼むって」
「なるほど、受けている零治ほど恐ろしさが分かるか………感謝するぞ、零治」
セインから広辞苑を受け取り高く構える。
「高町ほどうまくいくか分からんが、覚悟しろウェンディ!!」
「嫌だぁ!!妹暴力反対っス!!」
「やかましい、チンク姉次は私な」
「分かっている。セインお前もやるか?」
「………遠慮しとく」
そう言って静かに部屋を出たセイン。
「ちょ!?セインお助け~!!」
「さぁオハナシだ」
今、ウェンディの地獄が始まる………
「レイ、自己紹介しなくていいの?」
「………忘れてた!!!!」
今、オハナシ中でいない3人が帰ってくるまで大乱闘スマッシュロワイアルをセインを入れてやっていた。
ちなみにセインはナンバーズのようなスーツを着ているぴっちりお姉さんを使っている。
「もういいんじゃないの?今更自己紹介してもああ~!!」
地雷にハマる電気ネズミ。
バカめ、俺の仕掛けた地雷にはまったなライ。
「うん、私もそう思うよ。あっ、ハンマーだラッキー」
ハンマーを振りまわし始める、ぴっちり姉さん。
「くっなんてタイミングの悪い………レイ邪魔だ!!」
暴食野郎に軽く吹っ飛ばされる、俺のダンボール傭兵。
夜美は意見すらないんだな………
「私はちゃんとするべきだと思います。何事も最初が肝心です!」
星が良いことを言っているぽいが、ぴっちり姉さんがハンマーで暴れているため、誰も返事をしない。
「ですよねレイ!!」
「だああ!見えない!!分かったからそこどk」
「チェスト!!!」
夜美が使うピンクの暴食野郎のストーンが俺に落下。
吹っ飛んだ所にぴっちり姉さんのハンマーがさらに直撃。
最後に吹っ飛ばされた先に雷を落とす電気ネズミ。
何この三連コンボ………
当然、俺のダンボール傭兵は場外に吹っ飛ばされ、俺のダンボール傭兵は星になっていった………
「「「イエーイ!!」」」
ハイタッチする3人。
狙ってないよね!?
「うう、ひどい目にあったっス………」
ボロボロになりながらも帰還するウェンディ。
「お前が余計なことを言うからだ!私は人並みなんだよ」
人並みねぇ………
「何見てんだ!?変態」
「見ただけで変態扱い!?」
「フェリア姉にそんな目を向けてみろ!この拳でぶん殴ってやる!!」
グッっと拳を見せるノーヴェ。
俺どんなふうに思われてんだよ………
「俺は変態じゃなくて有栖零治!!それが俺の名前だっての!!」
やっと言えた………
「ああ~!!私の亀さんが星になったっス~!!」
ウェンディはいつの間にかフェリアと共にゲームに参加していた。
ウェンディはもういいや…………なにげに名前で言ってるし。
あとはコイツだけなんだが………
「ふん!!お前は変態で十分だ!!」
ちくしょう、このままだと変態のままじゃないか!?
それは世間的に悪い………
そう言えばコイツ、フェリアの事を話すときは態度が違ってたような………
ならあれを使うか………
「ノーヴェ、なら条件を出そう。俺を変態と呼ばないって約束したらこの画像をやる」
そう言って俺はフェリアの位置を確認する。
よし、ゲームを観戦している。
そして携帯を取り出し、コスプレの時の画像を見せた。
「これは!?」
「どうだ?ノーヴェはフェリアのことが好きだと思ったんだが………いらないか……」
「いや、欲しい!!」
「なら………」
「ああ、変態って呼ばない!!」
「よし、交渉成立だ」
これで問題はクリアされた。
単純な奴め………
「後でお前の携帯に送っとくよ」
「でも、私携帯もってないぞ………」
そうだった………うっかりしてたな。
「じゃあ、今日服とか買いに行くついでに買いに行くか」
「いいのか?」
「お金はお前さんたちの親から受け取っているから大丈夫だよ」
「ドクターが………」
ドクターはやめたほうが良くないか?
それに俺の報酬からだし………
まぁトンデモない額をくれたのは確かだけど。
中学生が億単位もっててもいいのかね………
あのドクター金銭感覚が絶対狂ってる。
「ということでそれまでおあずけな」
そう言って頭を撫でる。
「………撫でんな気持ち悪い」
「っと悪い、つい………な」
ちょっと妹を思い出したな………
よく頭を撫でたもんだ。
生意気なところとかソックリだったからダブったかな………
「……………ありがとよ」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもねぇよ!!それよりゲームって奴をするぞ。お前をケチョンケチョンにしてやる!!」
「ハイハイ分かったよ」
名前は呼んでくれないか。
まぁ一歩前進したしいいか。
「おっ、今度はレイ兄とノーヴェが相手っスか!ギタギタのゴテンゴテンにしてやるっス!!」
………ゴテンゴテンってなんだよ。
「へん!!妹に遅れをとる姉じゃねぇよ!!」
「………だとさ」
「………言うな」
端っこで落ち込んでいるフェリアに声をかける夜美。
ギタンギタンもゴテンゴテンにされたんだな………
「行くっス~!!」
「来いよ!!」
「えっとえっと………」
「星、いい加減慣れようぜ………」
結果は言わずともがな星がビリである………
「えっと………買い物行くんだよね?」
ライの言葉に反応するものはいなかった………
第18話 初日、ファッション?ショー開幕
「じゃあ、そろそろ………」
「ああ………」
「行くか………」
今は昼の13時。
あの後ゲームで盛り上がり、ざるそばをみんなで食べた。
ノーヴェは中々箸をうまく使えており、皆驚いていたな。
ウェンディは全くダメダメだったけど………
星に食べさせてもらってました。
妹を世話する姉みたいだったな。
その後はゲームで盛り上がったせいか、みんなでグダグダテレビを見てました。
こっちの昼ドラはあっちよりかなりドロドロしてたな………
普通に面白かった。
そんなこんなダラダラしてやっとみんな重い腰を上げて………
「やっと買い物に来ました」
「レイ?」
「ああ、独り言」
俺と星が並んでみんなを見る。
初めてのデパートの広さと人の多さに驚いているセイン、ノーヴェ、ウェンディ。
ライと夜美も嬉しそうだ。
何か企んでいるような顔だけど………
着いた途端誰かに電話してたし。
フェリアは騒いでる妹達を一生懸命抑えようと走り回っている。
頑張れ、お姉ちゃん。
「レイ、見てないで私逹も行きますよ」
「ハイハイ」
俺と星もフェリアの手伝いをしに行った。
「………やっと到着したか」
「長かったな………」
「もう疲れました………」
服屋の前のベンチに座る、俺と星とフェリア。
目的の服屋に着いたのは一時間後。
途中寄り道が多く、なかなか進まなかった。
ウェンディとセインについては勝手にどこかへ行くもんだから迷子にならないか心配でならなかった。
ライと夜美はそんな二人と一緒に走り回るし。
唯一、ノーヴェが言うことを聞いてくれたのは助かった………
「どうしたの三人とも?これからが本番だよ!!」
「そうだ!今からそんなだとこの先もたないぞ!!」
やけにテンションの高いライと夜美。
一体何を企んでいるんだ………?
「ライちゃん、夜美ちゃん、準備オッケーよ!」
店から店長が現れた。
………何の準備だ?
「分かったよ!それじゃあ星とフェリアはこっちに来て」
星とフェリアに手招きするライ。
渋々二人が立ち上がり店の中に入っていく。
店の店員が高い台座を準備し始めたけど………
何してるんだ?
「ちょ!!ライ、夜美、これはどういうことですか!!」
「私も聞いてないぞ!!」
「言ってないもん」
何の話をしているのやら。
何かフェリアと星が怒ってるけど………
そう思っていると人が集まり出してきた。
何だか嫌な予感がする………
取り敢えず近くの男の人に聞いてみた。
「この集まりはなんですか?何かイベントでも?」
「かつて一人の少女がここに舞い降りた………」
何か語り始めたよ………
「その少女は黒い眼帯と長い銀髪をなびかせ、様々な服を着飾り、観客を魅了した。その少女が帰ってくるってデパートの掲示板にあったのだ!!!」
感動を抑えるように拳に力を込め叫んでいる。
「本当に今日は付いている神よ私は今日という日を感謝します!!」
今度は祈り始める男の人。
話しかける相手間違えたな………
っていうかまたライと夜美の仕業だろ?
妙にテンションが高かったのはこのためか。
「レイ、ちょっと………」
店からライが俺を呼ぶ。
「すみません、準備中なのでもう少々お待ちください」
そう言って店の奥に入って行った。
俺もそれに続く。
「で、俺に何のようだ?」
「これから一本引いて」
そう言われてボックスの中に入った4つの棒から1本引く。
その棒には星の名前が書いてあった。
「おい、これなんだ?」
「レイは星だね。それじゃ次は私………」
俺の質問には答えず、ライも俺と同様に棒を引く。
「僕はセインだね」
「やったー!よろしくね、ライ!!」
「こちらこそ!!」
手を取り合い喜ぶ二人。
意味が分からないんだけど………
「次は私だ」
今度は壁際にいた夜美が棒を引いた。
「我はフェリアか、よろしく頼む」
「………帰りたい」
かなりテンションが低いなフェリア………
壁際で丸くなりながらつぶやいている。
「と言う事は私はノーヴェっスね!!私が完璧にコーディネートするっス!!」
「なんでお前じゃなくて姉の私なんだよ!!」
「ノーヴェの方が面白いからに決まってるじゃないっスか」
「お~ま~え~な~!!」
「きゃ~ノーヴェがいじめるっス~!」
そう言ってフェリアに抱きつく。
「こら!!フェリア姉から離れろ!!」
「フェリア姉ガードっス!!」
「………帰りたい」
………どんだけトラウマになってるんだ?
さっきから小さく丸くなってそのままだぞ!!
あれ?
「ところで星は?」
「あっちに隠れて出てこない」
そう言って試着室の方を指さす。
何のため引いたか分からないけど取り敢えず俺も星に声をかけるべきか………
そう言って星の所へ向かう。
「星?」
「私は絶対出ませんからね。なんで私がこんな恥ずかしい事を………」
「星、俺だ!」
「レ、レイ!?どうしたんですか!?」
俺の声を聞いて驚く星。
何を慌てているんだか………
「何かよく分からんけど俺、星と組むことになったからその報告を………」
「私がレイと………」
なにやら考え込む星。
「やります!やってみます!!レイと一緒なら問題ありません!!」
「お、おう………」
何故か分からんがやる気を出した星さん。
っていうかあの棒の意味を聞いてないんだが………
「それじゃあ、みんな始めるわよ」
店の店長に呼ばれ、それぞれ動き始める。
「いや、だからこの棒の意味は………」
「レイ、頑張りましょう!!」
だから、この棒はなんなんだよ………
「さぁチーム戦、ファッションショーの開幕よ!!」
その店長の言葉で俺は全て理解した。
「あのさ、言ってくれれば俺も協力したよ?」
「あ~ごめんごめん、前怒られたし、また止められるかもって思ったから………」
ライが手を合わせながら俺に謝る。
まぁいきなりこの状況だったら俺も止めてたかもな………
「で、一番止めそうな星を巻き込んだか………だけどよく星を巻き込めたな」
「そこは企業秘密です」
禁則事項です、って可愛く言うお姉さんみたいに言うライ。
結構可愛い。
「そろそろ始まるぞ、静かにしろ」
凄いマジだな夜美………
『ただいまより、ファッションショーを開催します!!!』
ワアアアアアアアアアア!!!
歓声が響きわたる。
店の前に用意していた高い台座をのぼり、そこで店長がマイクを使いしゃべっている。
店の周辺は超満員、観客は二階にも集まっている。
っていうか、周りの店には迷惑だよな………
あっ、他の店の人も見てる。
『今回は前回とは違い対戦方式で行いたいと思います!!結果は皆さんの投票によって決まりますのでよろしくお願いします!!!』
ワアアアアアアアアアアアアアア!!!
さっきより盛り上がり方が半端無いな………
『では出場者の紹介です。まず最初に、黒い眼帯がキュート。長く綺麗な銀色の髪がトレードマークの少女、フェリア・イーグレイちゃん!!』
「………帰りたい」
ドントマインド、フェリア。
「うおおおおおおおお!!」
「フェリちゃーーーーーーん!!!!」
「生きててよかった………」
そんな人生で良かったのか?
しかしやっぱり人気あるな………
『続いて2人目、フェリアさんの妹、水色のセミロングの元気っ子、セイン・イーグレイちゃんです!!』
「イエーイ!!」
元気よくピースしてアピールしているセイン。
「かわいいーーーーー!!!!」
「セインちゃーーーーん!!!」
女の子も居るんだな………
『3人目、またまたイーグレイ姉妹の一人、少し睨みが聞いた赤髪少女。だけどそのツンデレ具合が素晴らしい、ノーヴェ・イーグレイちゃんです!!!』
「私はツンデレじゃねぇ!!」
「おおっ!!ツンデレ最高!!」
「萌ーーーーーーー!!」
ノーヴェは気持ち悪い奴らに人気が高いな。
「最後に緊急参戦、私のお気に入りのお客様。大和撫子の清純さと気品の良さを兼ねそろえたザ・日本美女。有栖星ちゃんです!!!』
「よ、よろしくお願いします………」
「うおおおおおおおお!!」
「照れてる星ちゃんかわゆい~!!!」
最後の男出てこい、ぶっ殺す!!
『続いて、コーディネートする4人の紹介です。まずフェリアちゃんを担当するのはこの人。きつい言葉の裏には優しさがある。厳しいコーディネートの裏には素晴らしいコーディネートがあるはずです。紹介しましょう有栖夜美ちゃんです』
「よろしく頼む」
歓声に包まれる夜美。
『続いて、セインちゃんを担当するのはこの人。セインちゃんと同じ明るい性格でみんなの人気者。コーディネートの方でも皆さんの期待に応えてくれるでしょう。有栖ライちゃんです!!!』
「みんな、よろしくね~!!」
またも歓声が上がる。
『3人目は、イーグレイ姉妹の末女が登場。そのノリの良さから何が起こるかわからない。だけど見せてくれるはずです。ウェンディ・イーグレイちゃんです!!!』
「よろしくっス、みんなぁ~!!」
手を振りながらアピールするウェンディ。
『最後に有栖星ちゃんのコーディネートに参戦するのは唯一の男性。ハーレム一直線、男の憧れ、有栖零治ちゃんです!!』
「っておい!!なんでそんな悪いイメージを………」
案の定ブーイングの嵐。
こりゃ、下手なコーディネートしたら帰れないぞ………
『それではコーディネート対決開始します!!!』
そして対決の火蓋がきっておとされた。
『それでは参りましょう、まずはフェリアちゃんです!!』
出てきたフェリアは少しずつ壇上に上がっていく。
その姿は青い制服を着ていた。
「………逮捕しちゃうぞ」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
男共が魂の雄叫びのごとく叫んでいる。
何がファッションショーだよ、結局こうなってるじゃないか………
『さすが、人気もありますから盛り上がり方が違いますね!!次はセインちゃんです!!』
次にセインが壇上に上がる。
その姿は白い純白の妖精。
ナース服だった。
「お注射しちゃうぞ」
注射を右手に持ち、左手を腰に当て言うセイン。
「あああああああああ!!!」
絶叫する男共。
盛り上がってるな………
『予想以上の盛り上がり。さて、次は三番目はノーヴェちゃんです!!』
台に上がるノーヴェ。
短いスカートと胸元が開いているメイド服を着ていた。
「………別にお前のためじゃないからな!!」
「ツンデレメイドキターーーーーー!!」
………ここに神崎がいたらアイツ暴動起こすんじゃないか?
『最後は店長期待のホープ、星ちゃんです!!!』
やっと星の番か………
頼むぞ星、俺の命はお前にかかっている。
台の上に上がる星。
俺が選んだのは………
「に、にぁあ………」
赤いチャイナ服を着て猫耳をつけている星。
恥ずかしがってるのもまたいいけど………
「かわいいいいいいいいいいいい!!!」
「星ちゃん萌ーーーーーー!!!」
「恥ずかしがりながら言ってるところも最高!!」
おっ、好評みたいだ。
しかも女子からも支持が高いみたいだな。
「くっ、やる………」
「さすがレイだね………」
「次は負けないっス!」
残念ながら俺にはまだ奥の手があるんだよな………
『それでは二回戦と行きましょう!!』
こうして大会は続いていく………
『さぁ、三回戦です。これが最後。皆さん心の準備はいいですか?』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
会場はかなりの盛り上がり。
ヒートアップしてるな………
『では参りましょう。まずはフェリアちゃん!!』
出てきた、フェリア。
「こ、これは!!!」
旧スク水!!!!
そんなの有りかよ!?
「………恥ずかしいからあまりジロジロ見るな」
「「「「「「グハッ!!」」」」」」
吐血して倒れる男が続出………
気持ちは分かる………
『さすがフェリアちゃん!!男共に凄いダメージだ!!次のセインちゃん、姉に負けるな!!』
台座に走っていくセイン。
「みんなどう~?」
体育着にブルマ!!!
なんてものを………
元気っ子にかなりマッチしてやがる………
「もう死んだっていい………」
「幸せ………」
悶絶する奴までいるし。
『さすが、ライちゃん。かなりマッチしているぞ!!これは分からない!!次はノーヴェちゃんだ!!』
台の上に登ってくるノーヴェ。
今度は何を………
「ジロジロみんなよ!!恥ずかしいだろ………」
照れながら言うノーヴェ。
まさかこんなものがあったなんて………
ノーヴェが来ているものは黒のゴジックドレスだった。
小さい黒いシルクハットがよく似合っている。
「可愛い!!!!」
「すごく似合ってるよ!!」
「家に一体欲しい!!」
「抱きしめたい!!」
特に女性の人気が半端ないな………
『こちらも大変な人気です!!さて今度の星ちゃんで最後!!さぁダークホースとなった零治君。一体何を選んだのか!!』
さぁ、これが俺のジョーカーだ!!
星がゆっくりと歩いていく………そして台の上にたった。
「私を幸せにしてくださいね………」
静まる会場………
「うああああああああああああああああああああ!!」
「きゃあああああああああああああああああああ!!」
男女関係なく観客の歓声が響きわたる。
『これは、これは凄すぎる!!!今までにない盛り上がり、これほどの感動を呼び起こすとは………この二人化け物か!!!』
俺が星に着せたのはウェディングドレス。花束のブーケも忘れていない。
俺はこれを見つけた瞬間、直ぐに確保した。
奪われたら負けだと思ったからな………
「星………綺麗………」
「これには流石に………」
「勝てないな………」
「綺麗だな、星さん………」
「さすがっス星姉!!」
「いいなぁ、私もああいうの着たかったぜ………」
上からライ、夜美、フェリア、セイン、ウェンディ、ノーヴェ。
それぞれみんなが星に見惚れていた。
確かに綺麗だよな、星………
結果は星が優勝だった。
お礼として店の商品をプレゼントしてもらったためお金は掛からずにすんだ。
是非ともまたやりたいと店長に言われたが、もう勘弁願いたい………
余談………
「ドクター」
ウーノがスカリエッティのラボにやって来た。
「どうしたんだい?ウーノ」
「まずはこれを………」
そう言ってディスプレイを展開する。
そこに写っていたのは今回の報告書とファッションショーの映像である。
『ドクター、セイン、ノーヴェ、ウェンディとも無事にこちらにこられました。最初は驚きましたが、久しぶりに妹達の顔を見れたのは嬉しかったです。ありがとうございました。今回初めて妹たちとファッションショーというものを体験しました。こっちの世界のネットに映像があったので送ります。皆で見てください』
「おお、似合ってるじゃないか3人とも」
「いや、そう言う意味ではなくてですね………」
「せっかくだから保存するとしよう」
「ですからドクター………」
「それと他の子達にも見せてやろう。みんなを呼んでおいてくれ」
「………分かりましたドクター」
ウーノは黒の亡霊の事はどうしますかと聞きたかったのだが、それ以上言わなかった………
第19話 数の子シスターズ、回転寿司に行く
「今日は回転寿司に行きます」
ゴールデンウィーク2日目。
家にいるみんなだがずっとダラダラしていて正直見ていられない………
昨日のデパートではっちゃけ過ぎたせいか、燃え尽きたようにダラダラとしていたのだった。
ゴロゴロしながらテレビを見るかゲーム。
休みだからってだらけすぎだ!!
唯一キビキビ動いていたのは星とフェリアだけだった。
最近フェリアが率先して星の手伝いをしている。
料理などは流石に無理があるが、洗濯や掃除は完璧にこなしてくれる。
俺にとっても星の負担が減って安心している。
働きすぎなんだよ星………
俺も手伝おうとするが、星は必ず遠慮する。
もう少し頼ってもらいたいんだが………
「回転寿司ってなんだ?」
「寿司が回転するんじゃないんっスか?」
何のメリットがあってそんなことすんだよ………
ノーヴェとウェンディは分からないんだな。
セインが行きたいって言ったからみんな知っているもんだと思ってたぜ………
「お寿司がベルトコンベアで流れてくるから回転寿司って言うんだよ」
ご丁寧にライがお姉さん口調で教える。
「そうなんスか………ありがとうっス、ライ姉!」
「エヘヘ………」
嬉しそうにするのは構わんがあまりだらしない顔してるとお姉さんっぽく見えないぞ………
「で、一昨日にセインが食べに行きたいって言ってたから行こうって言ってるんだよ」
「え〜動くのメンドイっス〜」
「私も今日は動きたくねぇな」
こいつら………
「………だったらお前らは夕食抜きだな」
「「えっ!?」」
「だって食いに行かないんだろう?二人でふりかけでも食べてな」
「な、なんてこと言うんっスか!?ふりかけはただのご飯に色々な味をくれる素晴らしい物なんスよ!!」
ってそっちかよ!?
「わ、私は食いに行くぞ!!」
慌ててノーヴェは行くことを俺に伝える。
「じゃあ、留守番はウェンディだけと………」
「嫌っス!!一人だと寂しくて泣いちゃうっス!!」
だったらくだらないこと言ってんなよ………
「だったら準備しろ早めに出るぞ」
リビングにいるみんなに俺は言った。
「何で?」
「レイが連れていってくれるところは休みの日だと凄い混むのよ。前にライの準備に時間がかかちゃって、19時頃について食べ始めたのは確か20時半位だったはずだけど………」
質問したセインは星が言ったことに驚愕している。
「だけどとても美味しかったよ。私も寿司は好きだから楽しみなんだ」
嬉しそうに言う星。
こうして早めに寿司屋へ向かう有栖家だった。
「着いたぞ、ここだ」
そこには『回転…鮮』と看板に書いてある店に着いた。
時刻は17時半。結構早い時間に来た方だと思っていた。
「すごい人ですね………」
「まだ五時半なのに………」
「どういうことだレイ?」
夜美の言葉で皆が俺を見る。
「キャンペーン中だってこと忘れてた………」
旗が入口に立っており、そこに『大トロキャンペーン実施中』と出ていた。
「………取り敢えず予約だけしてくる」
そう言って俺は皆を置いて店の中に入った。
「1時間待ちだってよ………」
早めに来といてこれか………
「なんだよ、結局直ぐに食べられないじゃないか」
携帯をいじりながら言うノーヴェ。
その携帯は昨日のデパートで購入した奴だ。
一応ウェンディとセインにも渡したが、ウェンディはアプリに夢中で暇さえあればやっている。
現に今もドラOエに似ているRPGをやって時間を潰している。
「悪かったって。それに1時間なんてあっという間だろ。それに19時とかだったらまた20時半位になってたかもしれないし………」
「そうかもしれないけどよ………」
そう言いながらも携帯をいじる手を止めないノーヴェ。
「っていうか何してんだ?さっきから」
「ど、どうでもいいだろ!!」
慌てて携帯をしまうノーヴェ。
気になる………
まぁ無理やり見たら殺されそうだし、止めとくか。
「ノーヴェ、フェリア姉の画像を整理してたんだよ」
「ちょっ!?セイン!!」
ああ、俺が送った画像か。
よっぽどフェリアが好きなんだな………
「で、よかったか?」
「ああ、どれも最高だ!!流石、フェリア姉!!」
ボリュームがデカいせいで周りの人にも聞こえてしまう。
フェリアは恥ずかしそうにうつむいてる。
「迷惑だからでかい声出すのは止めろよ………」
「お、おう。悪い………」
周りの目を見てボリュームを下げるノーヴェ。
これで静かになると思ったが………
「ああ〜!!何でここでMP切れを!!あともう少しなんだ!!頑張れレイ!!」
ウェンディが携帯をいじりながら興奮している。
今度はウェンディか………
っていうか何で俺の名前!?
「星、頼む」
「はい、分かってます」
そう言って、星はウェンディを外に連れ出した。
少しは反省してこい………
「うう、星姉〜ひどいっス………」
「ウェンディが悪い。少しは反省しろ」
フェリアにも厳しいことを言われ、何も返せなくなるウェンディ。
今、ウェンディの携帯は星が持っている。
「暇っス、暇っス〜!!レイ兄、まだっスか?」
「後30分位だ………」
「暇っス、暇っス〜!!」
あーやかまし!!
少しは姉達を見習えよ!!
フェリアは自分の読みかけの本を読んでるし、セインはライと静かにしりとりをやっている。
ノーヴェは相変わらず携帯をいじってるが、静かにしている。
何でこいつだけ………
「………これ貸すから少しは静かにしててくれ」
そう言って貸したのはPSP。ゲームはぷよぷよに似たパズルゲームだ。
「おお、流石レイ兄!!では早速」
これで少しは静かに………
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイっス!!もう少しでゲームオーバーに!!」
と期待していた俺がバカだった………
PSPを持ちながら体も動くウェンディ。
フェリアと同じように文庫本を読んでいる星と夜美はとても邪魔そうだ。
「ああ!!こんな時に!!!なんて奴っス。鬼畜っス!!この外道!!」
………頼むから本当に静かにしてください!!!
周りのお客様の目がとても痛い。
このままだと店から追い出されんじゃないのか………?
「やっと食べられるっスね」
「………ああ」
お前の所為で俺の疲労感は半端ないよ。
「うわぁ〜」
目をキラキラさせながら言うセイン。
「本当に寿司が回ってきてるぜ………」
そう言いながら写真を撮るノーヴェ。
「それくらいにして早速食べようぜ」
この人数だと少し狭いので二つに別れてそれぞれ食べ始めた。
「これは何スか?」
「ぶりだな」
「うまいんスか?」
「………食ってみろよ」
「それじゃあ………」
皿をとって、ぶりを食べるウェンディ。
「うまいっス!!ヤバイっス!!最高っス!!」
「醤油がこぼれてるぞ。もう少し落ち着いて食べろよ………」
ウェンディは楽しそうに食べているのだが、俺の食事に支障が………
同じ席に座っている夜美とノーヴェは黙々と食べてるし………
セインやライの事を星に頼んで別の席にしたけど失敗だったかな。
俺は小皿に醤油を入れ、わさびを大量に入れる。
やっぱりわさびは多く入れないとな。
「零治、何だその緑の物は」
「ノーヴェ、舐めてみるか?」
俺は少しいたずらしようと提案してみる。
「じゃあちょっと………」
箸にわさびを付けて舐めてみるノーヴェ。
いきなりそんなにいったら………
「%$#&#$%!!」
言葉になっていない声を上げ悶えるノーヴェ。
速攻で水を飲んだ。
「どうしたんスか?ノーヴェ………」
「ウェンディも舐めてみるか?」
「じゃあ、私も舐めてみるっス」
ウェンディも箸でわさびを取り、それをそのまま食べる。
コイツ、ノーヴェの状況見てなかったのか?
「そんなに大丈夫か?」
「せっかくなんだから多い方が良いに決まってるっス!!」
その欲張りが今回は失敗だったな………
「%$#%&%$!!!」
ウェンディも言葉にならない言葉を叫ぶ。
「鼻が………鼻がツーンとするっス………」
流石に効いたのか今度こそ静かになるウェンディ。
「レイ兄にはめられたっス………」
「覚えてろよこのやろう………」
二人に睨まれるが、そんなことは気にせずえんがわを食べる。
「夜美、つぶ貝取ってくれ」
「分かった。………そら」
「サンキュー。二人は食べないのか?」
いつまでも俺を睨んでる二人に声をかける。
「………食べるっス」
「私も………」
何か企んでそうだな………
「ウェンディ………」
「うん、レイ兄をギャフンと言わせるっス!!」
二人が結束した瞬間だった。
「まずはセインで試してみよう」
「がってんっス!!」
まず、ノーヴェがやりいかを取り、上のやりいかをどける。
「わさびを大量に………」
ウェンディがご飯の上に大量のわさびを乗せやりいかをまた乗せた。
「セインこれ美味しかったっスよ。どうスか?」
後ろの席に座る、セインに聞く。
「ウェンディ、行儀が悪いぞ!!」
「ごめんっス、フェリア姉。でセインどうっスか?」
「せっかくだしもらおうかな」
ウェンディからやりいかを貰い、セインは箸を持つ。
「それじゃあ、いただきます」
醤油をつけて口に入れた。
「&$%#$&%$#!!」
「ちょっと!!セイン!?」
様子がおかしいセインに慌てる星。
「の……みもの…を………」
「は、ハイ、セインお茶!!」
ライがすかさずお茶を渡す。
「ゴクゴクゴクゴク………ぷは。う〜鼻がツーンとするよ………」
熱いお茶を一気飲みするセインに驚く星、ライ、フェリア。
「どうしたの?」
「わさびが強かったのか、ものすごく鼻にツーンと………」
「わさびが?」
星が疑問に思い、ウェンディを見る。
口笛を吹きながらそっぽを向いている。
………怪しい。
フェリアもそう思ったみたいだ………
「行儀悪いから後ろ向くのは止めろ、ウェンディ」
「分かったっス」
俺の言葉にウェンディは後ろを向くのを止め、元の位置に戻った。
「ノーヴェ………」
「ああ、いけるな………」
そう確信した二人だった。
「レイ!!」
「ん?」
「このとろサーモン美味しいっスよ、どうっスか?」
俺にとろサーモンを渡してくるウェンディ。
「おお、ありがとな。でも今の俺はねぎとろ食べたいからお前で食べろよ」
笑顔で進めていたウェンディの顔が一気に苦笑いとなった。
「来るまでの口直しとしてどうっスか?」
「………なんでとろサーモンで口直し?もう限界も近いし、無理して食べることもないだろ」
「でも………」
「もったいないからお前らでしっかり食べろよ………」
お前らの考えてることなんてお見通しなんだよ。
「レイ、戻したら………」
「ダメだ」
「ノーヴェ」
「お前が最後に受け取ったから責任持って食べろよ」
「ひどいっス!!姉なら『ここは任せろ!!』って言ってくれる場面っス!!」
「姉と呼ばないお前が何を言うか!!」
そう言われ、何も返せなくなるウェンディ。
「………まぁ無事を祈るぞ」
こそこそやっていたのに気づいていた夜美が自業自得だと言っているように呆れて言う。
「うう……味方がいないっス………」
「だったらノーヴェ、姉のお前が半分食べてやれよ」
「な、何で私が………」
「元々はお前もやってただろうが!逃げるとフェリアに嫌われるぞ」
そう言われ押し黙るノーヴェ。
フェリアの名前を出すと簡単に従うよな、コイツ。
「わ、分かったよ。だからフェリア姉には言うなよ」
「了解」
そう言ってウェンディの方を見るノーヴェ。
「ウェンディ………」
「覚悟は決めたっス………」
「じゃあ………」
「逝くっス………」
二人は大量にわさびの入ったとろサーモンを口にいれたのだった。
「よく吐き出さないな………」
「俺なら吐き出すな………」
見事、とろサーモンを食べた二人。
二人とも今、燃え尽きている………
「さて、我はそろそろ限界かな」
「だな、俺も大トロ食えたし満足だな」
「私たちも大丈夫ですよ」
「うん、とっても美味しかった!!」
嬉しそうに言うセイン。
満足してもらえてよかったよ。
「じゃあ、帰るか」
「「えっ!?」」
「もう満足だよな」
「私たち全然食べてないんだけど………」
「もう少しいないっスかね?」
「自業自得だろうが………」
まぁみんなで満足して帰りたいし、もう少しぐらい待つか………
二人は慌てて寿司を食べるのだった………
『ドクター、ウェンディは問題なく稼働しています。少しいたずらが過ぎますが………それと黒の亡霊について分かったことがあります。どうやらあの夜から一度も行動を起こしていないみたいです。何かあるのか不明ですが、一応報告しておきます。それとこれはノーヴェが撮った回転寿司の写真です。美味しいのでドクターも出来たら食べてみてください』
「寿司………美味しそうだわ……」
「ウーノ?」
「い、いえ何でもありませんドクター。それよりチンクの報告の………」
「ああ、何かあるのかもしれないね………ウーノ」
「なんですか、ドクター?」
「ミッドチルダの情報から彼の出現があったか調べておいてくれないか?」
「分かりました、ドクター」
そう返事をして、ウーノは部屋を出ていく。
「本当に姿を掴めないな黒の亡霊………」
一人になった部屋でスカリエッティはそう呟いたのだった。
第20話 暗躍する影、新たな転生
「行きたい!!行きたい!!」
駄々をこねるライ。
「今日は無理だって!!明日に行くからいい加減我侭言うな!!」
なぜこのような状況に陥っているかというと、昨日の夜に見たCMが原因だったりする………
『ゴールデンウィークにゴットスライダーついに解禁!!君はこのスピードに耐えられるか!!』
「うわぁ………」
目をキラキラさせてCMを見ているライとセイン。
ライは絶叫系が大好きだったりする。
前に遊園地に行ったとき、ライは絶叫系ばっかりに乗るため、俺や星、夜美は全く楽しめなかった。
以来、遊園地にはなるべく遊びに行かないようにしていたんだが………
セインはライと一番気が合う仲だ。
恐らくライと似たような状態になる気がする。
「すごいねぇ!ライ」
セインもやっぱり興奮しているようだ。
なんか嫌な予感が………
「ねぇレイ………」
「今日は行かないぞ………」
「分かってるよ。今21時だよ」
「で、何だ?」
「行かないぞって言っている時点で分かってるくせに………」
ちっ、余計な事を言ってしまったな………
「だってお前行くと止まらなくなるじゃないか!俺たちどれだけ大変だったか………」
「でもセインも行きたそうだよ………」
そう言われてセインを見る。
ウルウルと泣きそうな顔で俺を見る。
「………行きたいのか?」
まぁ気づいているけど………
コク。
頷くセイン。
「………分かった。じゃあ明日行くか………」
しょうがない、また明日気張るか。
「ありがとう!!レイ、大好き!!」
そう言いながら飛びつくライ。
嫌じゃないんだがな………
他の人たち(主に星と夜美)の視線が痛いからやめてけれ………
俺達は明日、遊園地に行くこととなった。
………だが、
「………雨か」
そう今日はあいにくの天気は雨。
それもザーザーとどしゃ降り。
で、最初に戻ります。
「大丈夫だよ!!これくらいの雨なら普通にやってるよ!!」
「やってるか!!どう考えたって休みだよ!!」
涙目になりながらもライは諦めない。
しかも時間を考えて欲しい。
朝の5時半って馬鹿ですか?
俺の部屋に押し入りやがって………
いつもはギリギリまで寝てるくせに………
「行ったら止むもん!!だから………」
「………今携帯で天気見たら今日は一日中80%だって」
「レイの………バカ!!!!」
平手を俺に食らわせ、俺の部屋を出ていったライ。
俺のせいじゃなくね!?
叩かれた所を抑えながら俺は呆然としてた。
「はよ~」
「おはようございます。今日は随分と遅いですね」
「いや、朝方ライが俺の部屋にやって来て、『今日雨降ってるけど遊園地行くよね!?』って俺を起こしてきたから………」
「二度寝したんですね………」
呆れながら言う星。
「全く………楽しみにするのは構わないけどさ」
「かわいいじゃないですか」
「そのかわいいライはどうしたんだ?」
リビングを見るとライの姿が見えない。
「………朝からセインと部屋でずっとてるてる坊主作ってます」
「………大丈夫かあいつら」
「雰囲気が恐くてとても止められませんでした………」
どんだけ行きたいんだよアイツらは………
「分かった。俺が部屋に行ってみるよ」
「お気を付けて………」
普通、よろしくお願いしますじゃね?
少々不安を覚えながら俺はライの部屋に向かった………
「………これは」
思わず絶句してしまった………
床を埋め尽くすてるてる坊主達。
未だに二人は手を止めていない。恐らく俺が入ってきていることにも気づいていないのだろう………
「おいライ、セイン」
「「………」」
「無視するなって!!」
「「………」」
「おい!!!」
「「………」」
こちらに全く気づいていない。
というよりもはやてるてる坊主を作ることにしか興味がないみたいだ。
そんな様子をみて居ても立ってもいられなくなった俺は思わずライを抱きしめてしまった。
「えっ!?レ、レイ!!何してるの!?こんなに明るいときにダメだよ………」
「俺が悪かった!!ちゃんと明日は遊園地にも行くようにする!!だから帰ってきてくれライ!!」
「な、何を言ってるのレイ。わ、私は正気だよ。ど、どうしたのレイ?」
少し緊張した声でライは言う。
「お前気づいてないのか?今まで何をしてたのかも分かってないみたいだな………」
俺はライから離れる。
ちょっと残念そうな顔をしているような気がするが気のせいだろう。
「周りを落ち着いて見てみろ」
ライは言われた通りに周りを見る。
「えっ!?何これ!!」
自分の部屋の状態にやっと気づくライ。
「セイン!!何やってるの!?」
セインは未だにてるてる坊主を量産している。
「セイン!セイン!!」
「………」
ライが声をかけても反応がない。
「レイどうしよう!!セインが!!」
しょうがない………ライでうまくいったし、セインもうまくいくだろ。
俺はセインに近づき、ライと同様に抱きしめた。
「レ、レイ!?」
どうやらセインも元に戻ったらしい。
いやぁ良かった、良かった。
「な、な、何をしてるの!!」
ライが叫び声を上げながら俺とセインを引き離す。
「男の人に初めて抱きしめられた………」
「セイン!!大丈夫!!」
「えっ!?私はいつも通りだよ?」
お前も同じか………
「セイン周りを見てみて」
ライにそう言われセインは自分の周りを見てみる。
「うわっ!?何でてるてる坊主がこんなにあるの?」
「私も分からない………幽霊の仕業かな………」
「………」
俺は頭を抑えながら二人のアホな会話を聞いていた。
「………二人とも正座!!!」
俺の大声に二人は慌てて正座する。
「お前たちは自分たちが何してたか分かってるのか?」
「「いいえ………」」
そんな二人に俺は今日の事を説明した………
「「ごめんなさい………」」
「まぁ、分かってくれればいいが………」
このてるてる坊主どうするんだよ………
取り敢えず大きなゴミ袋に無理やり詰めた。
袋、5個分になったが………
どんだけ紙無駄にしたんだよ………
「ねぇ、レイ………」
ライがおずおずと俺に話しかけてくる。
「明日、遊園地行くよね………?」
「………行くよ」
今回は少なくとも俺にも非があると思ってるしな。
「………本当に?」
「ああ」
「………絶対?」
「ああ」
「………嘘じゃない?」
順番に俺に聞いてくる二人。
「本当だ!!明日は必ず行く!!だから今日はおとなしくしとけ!!」
「「うん………!!」」
二人とも嬉しそうだな。
明日は覚悟するか………
「ねぇ、レイ………」
「?どうしたんだセイン?」
もじもじと俺に話しかけるセイン。
「あの、ありがと………」
「どういたしまして………さてリビングに出て星達にも挨拶しないとな」
「「うん!!」」
こうして三人は部屋を出た。
「………どうだ?」
『能力正常………AMF展開可能………スキル魔力吸収発動可能………』
「どうやらうまくいったようだ」
男、クレイン…アルゲイルはディスプレイに浮かんでいるデータを眺める。
「さて、前の教訓を生かし、魔導師の弱点となるスキル魔力吸収がどこまで使えるか。また実験をしてみるか………」
そしてクレインは違うデータを見る。
「黒の亡霊………その場で急に転移するだけでなく、特殊なバリアと頑丈な装甲に守られた特殊な能力。魔力ランクはS+ほど………これほどの相手はいないだろうな」
クレインはニヤリと笑みを浮かべる。
「どのくらい彼に通用するか楽しみだ。プロト2この魔力をたどって彼を殺せ」
『イエス、マスター。』
そう言われた女性、プロト2は入っていた生体ポットから出てくる。
「さあ、楽しませてくれ黒の亡霊よ………我が望みを叶えるために!!」
男はその場所で笑い続けているのだった………
「さて、話はこれくらいじゃ。それではお主等にはリリカルなのはの世界に転生してもらう」
「リリカル?」
「なのは?」
「おや?知らないのかの………まぁ行けばわかるじゃろ」
「嫌そんなこと言われても………」
「なんだか不安………」
ここは零治達が転生する前にいた場所。
そこに新たな二人の男女がいた。
「それでは特典として3つお主達の願いを叶えてやろう。ただしわしに叶えられる願いだけじゃ」
「えっと………」
「いきなり言われてもな………」
二人ともいきなりの展開に驚く。
そして男が口を開く。
「えっと、一つ聞きたいんだけど、俺達以外に転生者っている?」
「おお、おるぞおるぞ。ただし別の世界のリリカルなのはの世界じゃがな」
「その人たちの名前は?」
「名前か?確か………佐藤考輔と神崎大悟と言ったはずじゃの………」
その名前を聞いて二人は驚く。
「兄………さん?」
「何で考輔が………」
「ん、知り合いかの?………そうかその娘は零治の妹か」
「零治って?」
「ああ、転生した世界で名乗っている名前じゃよ。有栖零治と名乗ってるよ」
「有栖………零治?」
「あいつ生きてるのか!?」
「そうじゃ。………それで願いはどうするのじゃ?」
神様はきりが無いと思い、そこで話を止め、無理やり聞いた。
「願いか………」
男の方が再び考え始める。
「じゃあ、まず一つ。俺と加奈を考輔のいる世界に転生させてくれ」
「………二人は無理じゃな。一人なら問題ないが………」
「なら私も同じお願いでお願いします」
「分かった、それならOKじゃ。………それでは二つ目の願いはなんじゃ?」
「二つ目は転生した場所を考輔の近くの場所にしてくれ」
「だが二人は………」
「私も同じで!!」
神様が話そうとしたところを女の子が遮る。
「………分かった、そうしよう。それでは最後はどうするのじゃ?」
「………その前に聞きたい。転生した時の年齢ってどうなるんだ?」
「年齢は物語の始め、8歳になるはずじゃ」
「なら願いは考輔と同じ年齢にしてくれ」
「私もそれで………」
「………了解じゃ」
そう言って神様はなにやら呟き始める。
しばらくたち神様が口を開いた。
「完了じゃ。転生したとき、零治と同じ14歳で転生されるじゃろ」
「そうか………」
「ありがとうございます………」
女の子は神様に頭を下げた。
「構わん。わしが好きでやっていることじゃ。………しかし零治と同じく欲がない奴じゃの」
「あの………兄はどんな願いにしたんですか?」
「ああ、零治はまだ1回しか願いを言っておらんよ」
「「えっ!?」」
「もう一人の方はチートな能力を頼んだのじゃが、零治は時間をかけても出てこなかったから保留にしたのじゃ。まぁ一回は使ったのじゃが………」
「そうなんですか………まあ兄さんらしいです」
少女から笑みがこぼれる。
男は逆に呆れているが。
「それじゃあ、デバイスを渡すぞ」
「「デバイス?」」
「説明面倒じゃの………デバイスはあっちの世界の武器みたいなものじゃ。各自好きな能力を考えておくが良い」
「戦いがあるのか!?」
「それはお前たち次第じゃ。関わらなければ戦いをせずにも済むじゃろ。ただし零治は戦いに巻き込まれているがの………」
「そんな………」
「考輔………」
二人に重苦しい雰囲気が流れる。
「まぁ、零治なら大丈夫じゃ。あ奴には頼もしい仲間も大勢居るしの」
二人ともその話を聞いて安心する。
「おっと、もう時間じゃ。すまんが早速行ってもらうぞ。まず着いたらデバイスの能力を考えておくことじゃ」
「ってデバイスは?」
「おっと、こりゃすまん忘れておったわ」
神様は男に言われ、慌てて懐から首飾りと腕輪を取り出した。
「首飾りをお主に」
首飾りを少女に渡す。
「腕輪はお主に」
腕輪を男に渡した。
「首飾りの名前はエタナド」
『よろしく頼みますマスター』
「よ、よろしく………」
「腕輪はレミエル」
『よろしくなの』
「あ、ああ、よろしく頼む」
二人はそれぞれデバイスがしゃべることに驚く。
「今度こそ大丈夫じゃな。それじゃ、頑張れ若人」
手をかかげる神様。
二人の目の前が真っ暗になった………
「まさか零治の知り合いじゃったとはの………さてあいつがどんな表情をするか楽しみじゃの」
神様は誰もいないその場で呟いた。
こうして佐藤考輔の妹、佐藤加奈と考輔の親友加藤桐谷は考輔のいるリリカルなのはの世界に転生した。
第21話 有栖家、遊園地に行く
「ここが!!」
「そう、ここが遠見ハイランドパーク!!」
「凄いっス!!感動っス!!」
入口で騒ぐ三人。
我が有栖家元気っ子3人組だ。
「すごいなこいつら………」
「朝からテンションが高すぎる………」
「またあの悪夢が………」
ノーヴェの呆れた様子と違い、明らかにテンションが低い二人。
まぁ気持ちは分かるが………
しかもその負担はセインとウェンディが加わり、更に増えることは目に見えている。
フェリアとノーヴェがいる分、幾分かはマシになるだろうが………
「まぁ今日一日頑張ろうぜ………」
俺はテンションの低い二人を励ますのだった………
「まずはあれに!!」
「おお!!」
「いいっスね!!」
「ちょっ!?待て、いきなりか!!」
だが、俺を無視し3人はさっさと行ってしまう。
今回の目玉、ゴットスライダーに………
「レイ~!!早く~!!」
「やっぱり俺も乗るのね………」
「レイ、私が乗りますか?」
星が俺に聞いてくる。
「いや、今回は俺が行くよ。嫌でも連れ回されるんだし………」
「………分かりました」
俺の言ったことが理解できたのか、星は素直に引き下がる。
「ノーヴェとフェリアはどうする?」
「私も行く!!」
「私は今回はいい」
ノーヴェは乗り、フェリアは乗らないそうだ。
「レイ~!!!」
青色のお姫様がご立腹みたいだし早く行くか………
「ああ!!面白かった!!」
「うん!最高だったよ!!」
「あのスピードはたまらないっスね~!!」
興奮しながら3人は出口から出てくる。
「ああ~凄かった」
「ふ、ふんあれくらいじゃ大したこと無いな………」
言葉が硬いぞノーヴェ………
「じゃあ星達の………」
「もう一度乗ろう!!」
「そうだね!!」
「賛成っス!!」
「えっ!?」
やっぱりそうなったか………
ノーヴェの驚きを無視し、3人はまた並び始める。
「レイも~!!」
「悪い、ちょっと休憩を………」
「大丈夫っス、グロッキーになっても私がおんぶするっス」
「わ、私も手伝うよ………」
そう言う問題じゃないんだよウェンディ君、セイン君………
「じゃ、私は………」
逃げようとするノーヴェ。
「ま、待てノーヴェ!!」
「い、嫌だ!私は乗らないぞ!!」
「違う!!伝言を頼みたいんだ」
「伝言?」
「多分今回も前と同じになりそうだから星達で好きに遊んでいいよって言っておいてくれ」
「………お前は?」
「こいつらの面倒。昨日約束したし、相手してやるつもりだよ………」
そう言って3人を見る。
嬉しそうに喋り合っている3人。特にライとセインは乗れたことに本当に嬉しそうだった。
「それにあの笑顔を見たら少しは疲れは取れるさ」
笑顔で俺はノーヴェに言った。
「そうか………悪いな、姉と妹をよろしく頼むな」
「ああ、何かあったら連絡してくれ」
「了解」
そう返事をして、ノーヴェは星たちの所へ戻って行った。
だけど手を合わせて行くなよ………
「レイ~!!!」
「さて、有言実行だな」
俺はまた気合を入れ直して3人について行った………
「そうですか………」
予想通りでした。レイならそう言うと思ってました………
無理をしなきゃいいんですけど………
「星………」
やはり夜美も同じことを考えていたみたいです。
「大丈夫ですよ。せっかくだし私たちも楽しみましょう」
「そうか………そうだな。せっかくレイが楽しんでこいって言ってくれたんだ、楽しむか」
夜美も切り替えたのか声を張り答えました。
前は絶叫系ばかりになってしまったのでここはレイの言葉に甘えましょう。
「フェリアは何か乗りたいものありますか?」
私はノーヴェと一緒にパンフレットを見ているフェリアに聞きました。
「これ…………」
そう言って指を指した場所は動物ふれあい広場。
………正直いつもクールなフェリアには似合わない組み合わせと思ってしまいました。
「ここで………いいのか?」
夜美もどうやら同じみたいです。
「ああ………ひよこさん………触ってみたい………」
少し頬を赤く染めながらフェリアは消えそうな声で言いました。
ノーヴェ、携帯のカメラで撮るのやめなさい。
気持ちは分からなくも無いですが………
それくらいフェリアの仕草は可愛かったです。
「ああ、じゃあ行くとしようか」
私たちは夜美の声でふれあい広場に向かいました………
「今度はここ!!」
そう言って指さしたところは大きな滝から乗り物が落ちてくる、フォールマウンテンだ。
簡単に言えばディズ〇ーランドにあったスプラッシュマウンテンだと思ってくれればいい。
むしろそっくりだ。
「いいね、いいね!!これにしよう」
「いや~あそこから落ちたら気持ちよさそうっス」
「また絶叫系………」
あの後、合計3回もゴットスライダーに乗った3人娘。
早くもグロッキーになりそうな俺にまた試練がやって来た。
「どうしたの?レイ」
「いや、また絶叫系かなって………」
ライが俺に声をかけてきたので望み薄だけど、遠まわしに言ってみた。
「何言ってるのレイ、当たり前じゃん」
「そうだよ、遊園地に来んだから絶叫系を楽しまなくちゃ」
「そうっス、それが常識っス!!」
いつからそんな常識が出来たんだよ………
まぁ予想通りの結果ということで気合い入れていかないと………
マジでウェンディにおんぶされたら恥ずかしさのあまり、自殺しそうだもん。
「さぁいっくよ~」
「「オオー(っス)!!」」
「おおー………」
でもこのテンションにはついていけない俺だった………
「可愛い………」
それには私も納得ですが………
恐る恐るひよこを持つフェリア。
ものすごく和みます…………
ノーヴェ激写するのやめなさい!
「しかしこういうのもいいな」
「同感です。前に来たときはライに引っ張られ、絶叫系だけでしたから」
これもレイのおかげなのですが、レイは大丈夫でしょうか………
「次はあれっス!!」
「うん、そうしよう!!」
「早く、早く!!」
「頼む………少しは………休憩を………」
フォールマウンテンも結局3回も乗った。
何で今日は空いてるんだろうか…………
余りにもスムーズに乗れすぎている。
頼む!もっと混んでいてくれ…………
俺の思いもむなしく、大きな山の中をグルグル高速で回るマウンテンスライダーにすぐ乗る羽目になった………
「はぁ面白かった」
「あの3Dというのは迫力があって面白かった」
ノーヴェとフェリアも満足そうです。
ふれあい広場を後にして私たちは半分ほど回ることができました。
絶叫系は避けてきたのでレイたちと遭遇することはありませんでしたが………
レイは大丈夫でしょうか?
そろそろお昼ですし連絡を………
と思っていたときに電話が震えたので私は直ぐに出ました。
『もしもし~星?』
「ライですか。今どこにいます?そろそろお昼にしようと思ったのですが………」
『今、マウンテンスライダーの近くのベンチ』
「………ならこっちに来てください、こっちの方がお店が多いのでこっちの店でご飯を食べましょう」
『そうしたいんだけど…………』
なぜか言葉を濁すライ。
『レイが少しグロッキーになっちゃって今休憩中なの』
「レ、レイは大丈夫ですか!!!」
『ちょっ!?大声出さないでよ~。普通にしゃべれるし、今休んでるから大丈夫だよ………』
「今すぐそっちに行きます!!そこを動かないで!!!」
『ちょっ!?星………』
私は無理やり電話を切り、携帯をしまいました。
「どうしたんだ星?」
「レイ達を迎えに行ってきます!!みなさんはここで待っていてください!!」
返事も待たず、星はレイの元へ駆けていった………
「あ~何か星妙に焦ってたな………」
「いや、ライの説明が悪かったと思うよ………」
セインは呆れた様子でライに言う。
「ほら飲み物ですよレイ兄、はい、あ~ん」
「一人で出来るから止めろ………」
ベンチに寝ながら俺は文句を言う。
「ぶ~つまんないっス。せっかくレイ兄で遊べると思ったのに………」
「お前な………」
怒りたいがそんな元気がない俺。
「ウェンディ、私もやる~」
「ウェンディとライだけずるいよ。私もやりたい!」
3人で飲み物を取り合いになる。
そんな様子を見て俺は一人小さく呟くのであった。
「星、早く来てくれ………」
本当に今日は厄日だな………
「レイ!!」
私が来たときには、何故かレイはライに膝枕され、その両端にセインとウェンディがいました。
「ライ、そろそろ………」
「え~もう?………仕方がないなぁ。はい、セイン」
そう言ってライはセインと場所を変えました。
………今度はセインがレイに膝枕を。
「どうですか?」
「頼むからやめてくれ………」
レイは否定することを言っていますが、まんざらでもない様子………
一気に私の心は氷点下まで下がりました。
「レイ………?」
私は怒りを隠し、レイに声をかけました。
「レイ………?」
この響きは………
俺は声のした方を見てみる。
「………何をしているのですか?」
これはヤバイ………
他の3人もただ事ではない星の雰囲気を感じているみたいだ。
「レイ………オハナシ………しますか?」
「いや、でもレイは………」
ギロっと星に睨まれ、何も言えなくなるセイン。
「だ、ダメだよセイン。こうなった星は止まらないよ………落ち着くまで待つしか……」
「じゃあ、お腹も減ったしご飯にするっス」
「いいですよ………長くなりそうなので、皆さんと一緒に先に食べていてください………」
「えっ!?いいの?」
「ええ、3人ともお腹減ったでしょ?」
「あ、あありがとうございます星!!ほら行こう!!」
「ま、待てお前ら………」
「レイは駄目ですよ………」
セインの腕を掴もうとした俺の腕は星によってつかまれる。
「じゃあ頑張ってレイ………」
「ごめんね、レイ………」
「ファイトっス、レイ兄!!」
さっさと行ってしまう三人。
ウェンディに関してはグッとガッツポーズまでされた…………
「あいつら………」
「さて、それじゃあ始めますか…………?」
星がニヤリと笑いながら言う。
ものすごく怖いです星様………
取り敢えず俺はこう言うことにした。
「不幸だぁ~~~~~~!!」
俺はとある主人公の口癖を叫んだのだった………
「到着……………目標索敵………………………発見。場所、遠見市ハイランドパーク…………」
遠見市よりかなり離れた上空。
浮かんでた少女は目的地に向かって飛んで行った。
「ここは?」
「分からない、どこかの森みたいだが………」
気づいたら二人は何もない森にいた。
「取り敢えず、ここの場所を確認しよう。まずはどこか目印になる場所を…………」
そう言って周りを見渡す、桐谷。
そこに………
「遊園地?」
遠くに観覧車が回っているのを見つけた。
「取り敢えずあそこを目印にして進もう。その間にデバイスのことも詳しく聞かないとな」
『お任せなの。分かる範囲でならなんでも答えるの』
「ありがとうレミエル」
『私もです。なんなりとご質問を………』
「うん、ありがとうエタナド」
こうして二人もハイランドパークへと進む。
第22話 遊園地、巻き込まれた星
「……………………」
「すみませんでした!!」
俺に頭を下げて謝る星。
あの後しっかりオハナシをくらいました………
で、落ち着いてから経緯の説明をし、今の状況が出来たのだった。
「早とちりしやがって………イテテ」
「本当に………すいませんでした!!!」
一生懸命謝ってるな。
「ク…………クク」
「レイ?」
「アハハハハハハハハハ!!」
「レ、レイ!何がおかしいんですか!!」
「いやだってな、余りにも星が一生懸命謝るもんだから………クク」
「えっ!?」
「俺はそんなに怒ってないよ。心配してくれてありがとな」
「ええっ!?」
まだ事態を飲み込めていない星。
ポカンとした顔で俺を見ながら固まる。
「さて、俺たちも飯を済まそうぜ」
「え、ええ!?」
訳の分からなくなっている星の手を引いて、近くにあったファーストフード店に入った。
「全く、レイにも困ったものです」
文句を言いながらチーズハンバーガーをほおばる星。
「悪かったって。でも星にも非があるよな?」
「ううっ、意地悪です………」
それぐらいで済んで感謝して欲しいくらいなんだけど。
なのはには負けるだろうが、星のオハナシも普通の人なら精神を折るぞ…………
「さて、これからどうする?」
「みんなと合流しましょう。あの3人を夜美に任せるのは………」
「…………たまには二人で遊ばないか?」
「えっ!?」
「星、ここ最近は一人で頑張ってばかりだったし、少しでも楽しんでもらおうと思ってさ」
本当に星には一番感謝してる。星がいなかったら成り立たなかったところもあっただろうし。
たまには息抜きぐらいして欲しいんだけど…………
これで少しでも息抜きできるなら夜美には犠牲になってもらおう。それにノーヴェとフェリアもいるだろうし大丈夫だろう。
「嫌か?」
「い、いえ!いきなりだったのでビックリしてしまって………」
「で、どうする?」
「行きます………行きたいです!!」
星は力強く答えた。
「そうか、なら早く行くか」
「ハイ!!」
こうして俺は星と二人で遊園地で遊ぶこととなった………
「レイ、これ………ですか?」
ここは遊園地の端っこにある不気味な病院。
まぁお化け屋敷だな。
俺たちはあの後順番に回ることにした。
既に星は半分ほど回っていたので、その続きだ。
しかしこのお化け屋敷はすごいなぁ。規模が大きく、小さな市民病院と同じ大きさぐらいあるぞ………
「ああ、戦慄病院だってさ」
「戦慄…………病院………」
少し顔が青ざめているような…………?
そう言えばホラー映画を借りてたときに星はその場にいなかったような………
もしかして………
「星、怖いか?」
「こ、怖くなんてありませんよ!!さぁ早く行きましょ!!」
強気な発言をしながら星は入っていく。
足と腕が一緒に出てるぞ…………
「大丈夫かな…………?」
まぁ途中で抜け出せるし、問題ないかな。
俺も星を追って中に入っていった…………
「うう………」
「星、あまり強く掴まれると動きづらいんだけど………」
入ってすぐ、ここの雰囲気にビビッた星が早速俺の腕に捕まってきた。
胸の感触や星のにおいなど悪くはないんだが痛いです。
力強すぎ。
「だ、だって…………」
「出るか?」
「こ、怖くなんてありません!!」
こりゃあ、いくら言っても聞きそうにないな。
俺は諦めて奥へと進むのだった…………
「えっぐ、えっぐ…………」
「星出ないか?」
「まだ、まだ大丈夫ですよ………」
もう半泣きじゃないか。
しかしクオリティが高いよなこのお化け屋敷。
這いずりよってくる患者とか、いきなり追っかけてくる医者とかリアルすぎて俺もビビッたわ………
しかもまだ半分以上もある。
「星、やっぱり出ないか?ここででないと当分外に出れないよ」
「だ、大丈夫…………ですよ………」
これ以上先に進んだら本当に泣き出すかも。
仕方がない………
「やっぱり出よう」
「で、でも私は………」
「俺が限界なんだ!ほらさっさと」
「あっ………」
俺は星の手を掴み、無理やり引っ張る。
「ありがと………」
星が何か言っていたような気がするが気のせいだろう。
こうして俺と星はリタイアしたのだった…………
「で、正直に言うと?」
「………怖かったです」
俺達は戦慄病院から離れて近くのカフェで休憩していた。
「まぁ、あれは怖いよな。這いずり寄ってくる患者とかマジでビビッたもん」
「もうあそこには行きたくありません………」
ちょっとトラウマになったか?
「俺は星が頼ってきて嬉しかったけどな」
「えっ?」
「だってお前なんでも大丈夫って言ってなんでも一人でこなすじゃん。たまには俺も頼って欲しいんだけど」
「ですが本当に私は一人で………」
「それじゃあ余計に気を使っちゃうもんなの!!これからはたまには俺に頼るようにしろ。これ、決定事項な!!」
俺は星の言葉も聞かず、無理やり言った。
「で、ですが………」
「決定事項!!反論は受け付けん!!」
「………分かりました。これからはレイを頼るようにします」
「でもたまにな、たまにで頼む」
「さぁ?どうしましょうか…………」
笑顔で俺に言う星。
「そんなことより次のアトラクションに行きましょう!」
今度は俺が星に手を引っ張られ、カフェを後にした。
「うわぁ!!」
観覧車の上から下の景色を眺める星。
時刻は夕方の18時。
あの後も俺は星と二人で行動した。
なんども夜美から電話があったが、電源を切って出ないようにしていた。
すまん!!夜美。今度必ず埋め合わせする。
「レイあっちに!!」
「どれどれ………」
星が指さした方向。
そこには海鳴市が見える。
海の夕日がとても綺麗だった。
「綺麗です………」
「ああ…………」
俺と星は、言葉少なく夕日に見惚れていた。
「来てよかったな」
「はい………」
俺はふと星を見た。
夕日に照らされた星はとても美しかった……………
しかしそんな雰囲気は続かず、いきなり唐突にラグナルが反応した。
『マスター!!!』
ラグナルの声に俺は我に返る。
「目標発見……………ターゲットロック」
「戦闘機人!?」
俺が目を向けた先には、アンノウンと似ている女の子が浮いていた。
その女の子は前と同じように手からブレードを展開した。
「ブレードブラスター……………ファイア」
ブレードの先を俺たちに向けて魔力弾を発射してきた。
「!ラグナル!!」
『なんちゃってプロテクション!!』
俺は咄嗟にリミッターを外し、ラグナルに指示を出した。
俺の魔力の壁に相手の魔力砲が当たる。
『マスターやっぱりキツイです』
「すぐに脱出する。それまで持たせろ!!星、デバイスは?」
「大丈夫です、持ってきてます」
「よし出るぞ。ラグナル!」
「ルシフェリオン!」
「「セットアップ!!」」
二人はそれぞれ自分たちのバリアジャケットを纏う。
そして二人は観覧車の入口から外に出た。
その直後、なんちゃってプロテクションは壊され、俺たちのいた観覧車は吹っ飛んだ。
「レイ、ブラックサレナは?」
星の言葉通り、零治はブラックサレナではなく、襟のたった白いコートを着ている。
「今回はパスだ。どこで誰が見ているか分からんからな………」
「?」
言葉の意味が分からない星が頭をかしげる。
そんなことより…………
「ラグナル、リミッターかけてたよな?」
『ええ、リミッターは完全でした………なぜ気づかれたのでしょうか?』
「分からん、何か前に奴に手掛かりでも与えたか?」
『いえ、そんなこと無いはずですよ。それにあいつは変態マッドが持っていったじゃないですか』
そうだった。でも何でだ?
管理局員にも一度もバレたことがないのに………
「AMF起動」
『マスター、また!!』
「ああ、面倒だな………星、AMFだ!魔法が使いづらくなるからむやみに使うなよ」
「ええ」
既に体が少し重そうに見える。
「今度はどのくらいだ?」
『80%ですね。前回と同じぐらいです』
「この姿だとどうだ?」
『この姿はブラックサレナより魔力を使わないのでそれほど問題はないです。ただ、魔力を込めた技や
オーバーリミッツは普段よりきついですね。ですがカートリッジをうまく使いながら戦えば問題無いと思います』
「……………あれはだるくなるからあまり使いたくないんだけど」
『文句を言ってる場合じゃありません!!この姿ということはご自身の姿を晒すことになります。ブラックサレナが誰かバレなくても、マスターが魔導師だってバレてしまいます!!』
「だよな………っていうか星、結界張ってくれ!!これじゃあ普通の人にもバレバレだ」
「は、はい!」
慌てて星が結界を張ってくれる。
「AMFでキツイと思うが頑張ってくれ」
「はい!」
よし、これで準備はOKかな。
フェリアたちには魔導師だとバレるのはもう仕方がないだろう。
星とブラックサレナに面識があるって思われる方が問題だし。
管理局は……………為せば成るだろう。
『ダメだと思うんですけど』
「心を読むな。それより何でアイツ仕掛けてこないんだ?」
「そういえば………」
俺たちが空に出てから相手はAMFしかしていない。
今も不気味に俺たちの様子を見ている。
何を企んでいるんだ?
「取り敢えず仕掛けます」
「そうだな。じゃあ行くぞ!!」
俺は腰にある剣に手をあて、いつでも抜刀出来るようにする。
「まずは私から。行けパイロシューター!」
星お得意の追尾弾が相手を襲う。
「スキル、魔力吸収…………」
相手は自分の剣を追尾弾に向ける。
何をする気だ?
「発動」
直撃するはずだったパイロシューターは相手のブレードに吸収されてしまった。
「え!?」
「ラグナル!!」
『魔力反応がありません。考えられるのは違う場所に飛ばしたか、吸収したか………』
「吸収!?」
それって魔導師の天敵じゃないか!!
「パイロシューター………」
相手はブレードの先から星と同じパイロシューターを放ってきた。
「何で!?」
「星!!」
アイツ、ぼーっとして!!
「ラグナル!!」
『ソニックムーブ!!』
俺は即座にライが使うソニックムーブを発動。
星の目の前に立ち、抜刀の構えをとる。
「ラグナル、カートリッジ!!」
『カートリッジロード!!』
剣の鞘から薬莢が一つ飛び出す。
「くらえ、裂空刃!!」
俺は見えないほどの速さで剣を振り、発生させた真空波でパイロシューターを全て撃ち落とした。
「レイ、ありがとうございます………」
「ボーッとするな!これは実戦だぞ!相手は殺す気で来てるんだ!」
俺の言葉に星の顔は引き締まる。
こういう実戦が久しぶりな星にとって荷が重いか………?
「俺が突っ込む。相手の技がまだはっきりしないからまだパイロシューター以外使うな」
「分かりました」
「ラグナル」
『分かってます、ソニックムーブ』
俺はまたソニックムーブを使い相手の前に移動する。
「魔神剣!」
俺は奴に衝撃波を放つ。
「魔力吸収………」
やはりさっきと同じで簡単に吸収されてしまった。
「パイロシューター!」
すかさず星が俺の言った通りにパイロシューターを放つ。
だが…………
「魔力吸収………」
やはり同じ剣で吸収されてしまった。
ん?剣で?
「ラグナル………」
『ええ、どうやらあの剣でないと吸収出来ないのでは?』
そうだったらいくらでもやりようはある。
だがそんなに簡単なのか?
「取り敢えずやってみるか………」
『ですね』
「星、もう一度パイロシューターを頼む」
「了解………です!!」
相手から飛んできた魔神剣を躱しながら答える。
「行って、パイロシューター!!」
再び星がパイロシューターを放つ。
「よし、行くぞ!!」
『イエス!!』
「風牙…………絶咬!!」
高速の踏み込みで高速の一突きを相手に食らわせる。
だが、相手は無言で俺の一撃を紙一重で躱し、パイロシューターを吸収した。
「だが、まだだ!!」
『カートリッジロード!!』
風牙絶咬は避けられたが、すぐそばで止まった俺は振り向き際にカートリッジをロードする。
今度は二つの薬莢が鞘から飛んだ。
「魔王炎撃波!!」
剣に炎を纏わせ、左から右になぎ払った。
これは予想できなかったのか相手はもろに食らう。
「これで!!」
相手は空から地上に落ちていくが直ぐに踏みとどまる。
「損害40%…………作戦続行可能………」
「まだ動けるか………」
『AMFの所為でやっぱり威力が下がってるみたいです………」
「本当に面倒だな」
「レイ、どうします?」
「作戦はそのままで行く。俺は今出せる最大の威力の技を使う。それで倒せなかったら星がルシフェリオンブレイカーでしとめろ」
「分かりました」
俺たち二人は相手に目を向けて構える。
「パイロシューター………」
「パイロシューター!!」
二人で双方パイロシューターを放ってくる。
だが………
「数が多い!?」
相手の放ってきたパイロシューターの数はかなり多く、3倍以上あるほど多かった。
「星!!」
俺が星を援護しようとしたときに今度は相手から攻撃してきた。
「ハイブレード………」
さっきのブレードよりも長く分厚いブレードで俺に斬りかかってくる。
「クソっ、邪魔だぁ!!」
俺は剣で受け止めながら声を荒らげる。
だが、なかなか離れることができず時間がかかる。
「クッ、数が多い………」
星も一生懸命対応するが、数が多く手間取っている。
「どけろって!!裂壊桜!!」
剣を突き上げ、発生した衝撃波を敵にぶつけて吹き飛ばす。
だが、相手もただ吹き飛ばされただけでなく吸収しながら吹っ飛んでいた。
「星!!」
俺はソニックムーブで星の所へ行き、前と同様に裂空刃でパイロシューターを吹っ飛ばした。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫です………レイ!!」
星の声で敵の方を向く。
敵は大きなブレードの先に魔力を集中していた。
「やばっ!!」
「目標………ロック……………ギガブレードブラスター発射」
最初に放ったブレードブラスターよりも大きく威力のある砲撃を発射した。
『これは!!マスター、アイツ、マスター達の魔力を吸収した分も込めて発射してます』
マジか!?それじゃあ、食らったらただじゃ済まない。
「星!!」
俺は星に触れ自分のレアスキルを使う。
空間転移。ブラックサレナよりも距離が跳べないが、それでもこれなら!!
ブラックサレナのボソンジャンプは広範囲。
大体10Km程の距離を普通の転移とは違い、直ぐに転移することが出来る。
ただ欠点として現れる時3秒ほど硬直してしまう欠点があるのだが………
それに対してラグナルフォームで今回使った空間転移は短距離ジャンプ。
ブラックサレナとは違い、大体100mが限界。
逃げると言うより、避けるのが目的の転移になる。
『マスターセーフです!』
発動させた俺は敵の魔力砲が直撃する前になんとか回避することが出来た。
「大丈夫か星………」
「ええ、ありがとうございます」
本当に紙一重だった。
「目標………回避………再度ギガブレードブラスター」
なっ!?そんな早く撃てるのか?
転移し終えたばかりで油断していた………
俺はすかさず離れた星に近づく。
『ダメですマスター、間に合いません!!』
「クソっ!!ラグナルカートリッジ!!」
そう言って鞘から薬莢が3つ飛び出す。
「星!!」
星を突き飛ばし、剣を構えた。
「覇道……滅封!!」
巨大な炎の衝撃波で敵の砲撃を相殺しようとする。
「はあああああ!!」
だが、その衝撃波でも完全に敵の砲撃を防ぐことが出来ず、少なからずダメージを受けてしまった。
「クッ………」
「レイ!!このぉ!!」
ブラストファイアーで敵を攻撃する星。だが同じように吸収されてしまう。
「返す…………ブラストファイヤー」
相手は星より大きいブラストファイヤーを放つ。
「くっ、プロテクション」
プロテクションを張った星だが、それも破られ、攻撃が星に直撃する。
「星!!」
星はそのまま下に落ちていく。
「ギガブレードブラスター………」
「またっ!?」
『マスター!!』
俺は星のことで気をそらしたため反応できない。
「クッ、まずい!!」
だが、それも遅く、俺に砲撃が直撃…………
「………………あれ?」
だが俺には砲撃は届いておらず、消えていた。
ふと前を見ると俺の前にガOダムのビットみたいな小型機がシールドを作っていた。
「これは?」
「私の妖精よ」
声の方を見ると星を抱いている女の子がいた。
その姿はTOWに出てくるエステル………って!!
「お前、加奈!?」
「久しぶり兄さん」
笑顔で答える加奈。
何でお前がこの世界に?
「目標増加…………任務続行」
ブレードを今度は加奈に向ける。
まずい!!
「加奈!!」
「…………どんなモノでも打ち貫いてみせる!!」
構えている敵に突っ込む赤い装甲の姿………
あれは…………
「アルトアイゼン!?」
アルトアイゼンは右腕のステークで敵のブレードを貫いた。
「ブレード破損…………修復開始」
「させるか!クレイモア行け!!」
両肩部のハッチから大量のベアリング弾が…………
ってベアリング弾!?
「思いっきり実弾じゃないか!!」
「魔導師だからって魔力だけに頼るのはいただけないな………」
この声って………
「お前、桐谷か!?」
「そんなことより止めを早く!!」
そう言って相手を見る。
相手はダメージによって動け無いみたいだ。
『マスター彼の言うとおりです。今なら魔力吸収もできないはず………」
「よし、ならたたみかけるぞ。オーバーリミッツ!!」
『発動!!』
そう言って俺の体は青い光に包まれた。
『ソニックムーブ』
即座に相手の裏へ移動。
「一気に決めるぞ!!」
『イエス、マスター!!』
「全てを斬り裂く!!」
居合から炎を纏った剣で横に薙ぎ払う。
「獣破轟衝斬!!」
剣を持ち直し勢いよく斬り上げた。
「損害95%…………行動続行不能………」
今度こそボロボロになり遊園地の近くにある湖に落ちていった。
あれならもう挑んで来ないだろ。
って!!
「そうだ、星!」
俺は慌てて星の所へ飛んでいく。
「星!!」
「うるさいわよ!!この子なら無事」
見てみると星の傷を加奈が治していた。
回復魔法?
「…………レイ?」
「星、大丈夫か!?」
「はい、心配かけて申し訳ありません」
「構わないよ。星が無事でいてくれたなら」
「レイ…………」
「…………何か面白くない」
ぷぅ~と頬を膨らませる加奈。
「まぁ取り敢えず無事でよかったよ」
そんな中、桐谷がこっちにやって来た。
「ああ、だけど何でお前まで?」
『マスターそれよりもここから離れた方がよろしいのでは?ライ様達も何をしているか気になりますし………』
「そうだな、取り敢えず俺の連れと合流したい、いいか?」
「ああ、挨拶もしたいしな」
「……………その人たちって女の子?」
「ああ、そうだが?」
「スケベ………」
「何もしてねぇよ!?」
何だよせっかく久しぶりにあったのに何その態度は。
「レイ、あの人達は?」
「ああ、みんなと合流したら話すよ。取り敢えずみんなと合流しよう」
地上におり、バリアジャケットを解除してライ達を探しに行った。
「これは………」
フェイトが見ていたのはサーチャーから送られてきた映像。
隣の遠見市でこの前に戦闘があった形跡があった。
それで一応遠見市にサーチャーを飛ばしていたフェイトは今回のサーチャーに写っていた映像に驚いていた。
「何で零治が?」
そこには白いコートをまとって戦っている零治。
そして………
「確かこの子は………」
そこには星の姿も写っていたのだった………
「やはり敗れてしまったか………」
遠見市のハイランドパークの近くにある湖。
そこに白衣の男、クレイン・アルゲイルが一人立っていた。
「だがいいデータが取れた。これで次の作品にも活かせるだろう」
クレインは笑いながら湖を後にした。
第23話 報告会と2人の正体
「まずは自己紹介かな。初めまして、俺は加藤桐谷と言う」
「私は佐藤加奈です」
二人はそれぞれ挨拶をする。
あの後俺たちは無事ライたちと合流出来た。
いきなり観覧車が爆発したことでかなり遊園地はパニックになっていたようだ。
その人ごみに飲まれライ達は遊園地からかなり離れたところまで流されていた。
合流したとき、フェリア達が驚いた顔をしていた。
やっぱり見ていたんだな………
ライと夜美は気づいていたが人ごみが余りにも多く、近くにフェリア達もいたため救援には行けなかったらしい。
取り敢えず俺たちはこの場所を離れ、近くの公園へと移った。
結界も張り、普通の人に聞かれないようにした。
「さて、どこから話すか…………」
「まずは、私の疑問から。零治達は魔導師なのか?」
手を挙げ発言するフェリア。
「ああ、俺達全員一応リンカーコアも持ってるし、デバイスも持っている」
「なぜ隠していた?」
「魔法とか関係なく普通に生活していきたかった。俺達全員な」
そう言って俺は星、ライ、夜美の顔を見る。
三人とも頷いてくれた。
「そうか、嘘ではなさそうだな。それでは私たちの正体も知っているのか?」
もう隠してもしょうがないか。
「ああ、俺はシャイデから聞いている。だけどこの三人は知らないけどな」
「そうか………」
そう言って下を見るフェリア。
「「「フェリア姉………」」」
セインたちも心配そうにフェリアに声をかける。
「なぜ、正体を知っていながら受け入れたんだ?」
「不審な行動をしたときに即座に対応するため」
「そうか………」
「だけどセインが来た辺りから家族として向かえ入れていたよ。フェリアと過ごしてきて普通の世間知らずの女の子にしか見えなかったからな」
この答えにはさすがのフェリアも驚いているな。
だけどこれが俺の本音。こいつらと生活してきて戦闘機人と言うより年頃の女の子だったから。
「だから俺はお前らを家族だと思っている」
「私もですよ」
「僕も!」
「我もだ」
「みんな………」
セインは涙を見せながら言った。
「だからお前たちをどうこうするつもりは無い。だから安心してくれ」
「レイ兄…………」
ウェンディが申し訳ないような顔で俺の名前を言った。
「さてフェリア、他にあるか?」
「…………私もある」
「フェリア姉!?」
「ここまで信用してもらったんだ。これ以上隠し事をするのも悪い」
「でも、ドクターにバレたら私達廃棄処分にされちゃうかも………」
「そんなことさせないよ!!」
セインが口に出した言葉にライが反論した。
「友達にそんなことさせるもんか!!絶対セインの事を守ってみせるよ!!」
「ライ………」
「廃棄処分とはどういうことだ!?」
セインの呟いた言葉に夜美が反応した。
「それはこれから私が説明する。……………実は私たちは戦闘機人なんだ」
その言葉を聞いて驚く星達。
「造った人はジェイル・スカリエッティ………」
その名前を聞いて更に驚く。
「ジェイル・スカリエッティってもしかして次元犯罪者の………」
「なぜこの世界に?」
ライ、夜美が順番に質問する。
「私はこの世界で調査の依頼を受けていた。調査の内容は黒の亡霊について」
また驚く3人。
「そのためにシャイデ先生にドクターが依頼し、学校に通いながら調査していたんだ。それが私の目的だ」
「で、調査の方はどうなっているんです?」
星がフェリアに聞く。
「分かったことは少ない。最近活動をしていないということだけだな」
3人がチラリと俺のことを見る。
しょうがないじゃん。目の前にいるのにむやみになれるか!!
「セイン達は?」
ライがセインに聞く。
「私はゴールデンウィークって言う長期休みがあるって調べて分かったから遊びに来たの」
「そんな理由なのか!?」
「うん」
夜美、お前の気持ちは分かる。
俺も最初は何考えてるんだコイツと思ったもんな。
「ノーヴェ達は?」
星がノーヴェに聞く。
「私はこのアホのめんどうをみるためと、こっちの世界の勉強にって」
「アホじゃないっス!ウェンディっス!!」
「うるせぇ!デカイ声で叫ぶな!!」
「めんどうって………」
呆れながら言う星。
「私って稼働してからまだ一週間たってないんス」
「そうなの!?」
「全然そう見えなかったぞ………」
ライと夜美が声を上げた。
そういえば箸も普通に使ってたもんな。
「ウェンディは何か少し不具合があって、それが原因かもってドクターが言ってたけど」
「心外っスノーヴェ。私はよいこで賢い子っス!!」
えへんと胸を張るウェンディ。
「ネジが外れてるけどな………」
「同感」
俺の言葉にセインが賛同すろ。
「私はアホの子じゃないっス!!」
ポカポカと俺を殴るウェンディ。
へん、それくらいなら………
「いい加減にしなさい!!」
いきなりの怒鳴り声に話していた全員が怒鳴り声を上げた本人を見る。
「私たちそっちのけで何勝手に話進めてるのよ!!」
「いや、先ずはこっちの話を先にするべきだと思ったから………」
「だからって勝手に話しすぎなのよ!!話が分からない私たちにとってはつまらないの一言しかないわ。気が利かない兄さんね、自己紹介とかやれる事があるでしょうが!!」
「「「「「「「兄さん!?」」」」」」」
「まあそう言う反応になるだろうな」
「ほのぼの言ってるんじゃねぇよ桐谷。それで俺から説明して欲しいことがあるんだろうが………」
「まずは私から!!この子達が家族ってどういうことよ!?」
本当にやかましいな加奈は。
前は冷めてたような気がするんだけど。
「そのまんまの意味だよ。一緒に生活してる」
「そ、それって同棲じゃない!!」
「まぁそうだが…………」
「この変態!!美少女並べてハーレムとか楽しむつもりなんでしょ!!」
失敬な、オッドアイの変態と一緒にしないで欲しい。
「待ってください」
文句ばかりたれる加奈に星が割り込んだ。
「私たちのことですが……………」
星は俺達が初めて出会った時の話を語り始めた。
「ごめんなさい………」
俺じゃなく、星達3人に謝る加奈。
……………俺は?
「こちらこそすみません、勝手に家族なんて名乗ってしまって………私たちは出ていきます。本当の家族がいるのに私たちは邪魔ですから…………」
それに頷くライと夜美。
こいつら…………
「ふざけんな!!」
星の言った言葉を即座に否定した。
「さっき言ったよな、お前ら全員俺の家族だって、勝手に名乗って?俺が家族になろうって言ったんだろ!?俺にはお前らが必要なんだ!!今度勝手なこと言ったらぶっ飛ばすぞ!!」
「す、すみません………」
「考輔落ち着け………」
「俺は有栖零治だ。こいつらと一緒に生活している中学生だ。佐藤考輔じゃ無い」
「…………前の名前は捨てるのか?」
「前の名前なんて必要ない!俺は今この世界で生きているんだ!!俺は今の生活が好きなんだよ、前の俺とは違う!!」
そんな怒りの俺にたじろぐ桐谷。
「わ、分かった、すまなかったな零治」
「ああ…………熱くなってこっちこそ悪かった」
そう言って手を繋ぐ俺達。
「だが一般的に同い年の男女が同棲するのは良くないと思うぞ」
「関係ねぇよ。俺は自由に生きてるんだから」
「……………やはりお前は変わってないな」
いきなり変な事を言い出す桐谷。
「そう?結構変わったと思うわよ。主に女の子をこんなに連れているところとか」
「そういうことじゃないんだが………」
加奈の言葉に呆れる桐谷。
「私からも質問いいですか?」
セインが手を上げて桐谷に聞く。
「何だ?」
「レイとはどういうご関係なんですか?」
「昔、隣近所に住んでいた親友ってところかな」
何でみんな驚いた顔してんだ?
「レイ!!お前友達いたのか!?」
フェリア、それはないんじゃないか?
ってあれ?みんなも驚いているような………
「私、安心しました。休日はずっと私たちと一緒にいましたから、友達いないのかと………」
星がホッとしながら言う。
他のみんなも頷いている。
みんなに心配されてたんだ俺。
何か恥ずかしい………
「………お前どんな生活してたんだ?」
「違うよ!?嫌われてるわけじゃなくて、こっちから近づかないだけだよ!!」
「それじゃ、いい訳にしか聞こえないわよ」
「本当に変わってないな………」
ふん、友達の一人や二人………
自分で言ってて悲しくなってきた。
「もう俺の事はいいんだよ!!それより桐谷。お前何普通に実弾使ってんだよ!!」
ミッドの方だと禁止になってるんだぞ!?
「お前こそ何言ってるんだ?魔法でモノを言っている世界だったら違う手段の方が有効だろうが」
「魔法の世界だと質量兵器は禁止されているんだぞ!!」
「質量兵器?」
そこからかよ!?
「実弾兵器。銃器とか!」
「ここは地球だろ?実弾武器なんて普通にあるじゃないか」
「いや、そうだけど…………」
「それに非殺傷設定だっけ?それもついてるから殺すことは無いさ」
「そんなことが出来るのか!?」
「出来るって俺のデバイスが」
「………ラグナル?」
『わ、私は知ってましたよ!聞かなかったマスターが悪いんです!!』
『全く、相変わらず使えないデバイスですね』
『お、お前はレミエル!?』
『久しぶり、駄デバイス」
『駄!?その言葉そっくりそのまま返します!!』
『どの口がそんなこと言えるのかな?』
『わ、私はちゃんとマスターのために………』
『でも、質量兵器でも非殺傷設定出来ることも言ってないのに?』
『うっ………』
『こんなことも出来ない駄デバイスなのに?』
いきなり光が輝き、収まると20代くらいの金髪美人がいきなり現れた。
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「お前は誰だ!?」
皆が驚いている中、フェリアだけ手にナイフを持ち臨戦体制に入っている。
「ちょっ!?そんな物騒なもの出さないでくださいよ!!」
両手を上げ、慌てて言う。
「私ですよ私。桐谷様のデバイスのレミエルです!」
「「「「「「「「はあああああああ!?」」」」」」」」
「まぁ最初に見たらそうなるよね」
「持ち主の俺もびっくりしたからな………」
冷静に話す加奈と桐谷。
本当にビックリだよ!!
人になれるデバイスなんて…………あ、リインフォースⅡがいた。
『私もなれますぞ』
そう声を聞いた時、加奈のデバイスが輝き、目の前にたくましい紳士服をきた男が立っていた。
「初めまして、私、加奈様のデバイスのエタナドと申します。以後お見知りおきを」
執事の礼でみんなに挨拶するエタナド。
「凄い、デバイスなのに」
ライがそう呟くが、皆が頷いている。
「レイ、ラグナルも出来るのではないのか?」
そういえば!
「ラグナル、どうなんだ?」
『……………出来ません』
「ん?よく聞こえなかったんだが………」
『出来ないって言ってるんです!!ああ、そうですよ!私は人になれません!マスターを満足させるどころかあのクソデバイスにも劣る駄デバイスですよ私は!!』
「満足って何だよ………」
「ふんやっぱり。ポンコツのくせにでかいこと言ってるんじゃないです」
「レミエル、少し黙れ」
静かに威圧し、桐谷がレミエルを黙らせる。
『ぐすっ、恥ずかしい………』
「ラグナル………」
『マスターすみません、私何もできない駄デバイスで。レミエルみたいにできればもっとマスターを助けられたのに………」
「いいよ。ラグナルは今のままで」
『えっ!?』
「今のままでいいって。それに今までラグナルにどれだけ助けられたか………戦いのときは忠実に俺の命令に素早くあたってくれるし、星達が来るまではずっとラグナルが話し相手になってくれてたからな。ラグナルがいなかったら星達と会う前に俺は生きることを諦めてたかもしれなかった。ありがとう、ラグナル」
『ううっ………マスター!!』
びーびー泣き始めるラグナル。
泣くデバイスって気持ち悪い。
…………ってそうだ!!
「ラグナル、人になりたいか?」
『えっ!?なれればなりたいです………』
「よし分かった。ちょっと待ってろ」
そう言って俺は目をつぶる。
『マスター?』
俺は神様に会いに行くため意識を飛ばした。
「用件は分かっておる」
「話が早くて助かる。2つ目の願いOKか?」
「大丈夫じゃが…………本当にいいのかの?」
「ああ、それでよろしく。それと………」
「なんじゃ?」
「あの二人は死んだのか?」
「……………ああ、わし以外の神のミスでな」
「そうか…………」
「怒らんのか?」
「まぁ久しぶりに会えた事は嬉しかったし、あいつらが怒ってないのに俺が怒る事じゃないだろう」
「本当に変わっとるの………」
「よく言われるよ。じゃ、戻るな」
「ああ、あと願いは1つじゃからな」
「そんときはよろしく」
毎度お馴染み、目の前が真っ暗になった…………
目を開けると。
何故か星の顔が近くに…………
何故に?
「レイ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。それよりラグナル」
『はい?』
「なれるぞ、人の姿に」
『えっ?』
「やってみろ」
『やってみろって……………あ、あれ?』
そう言って、ラグナルが輝き出す。収まると20代ぐらいの銀髪の美人がそこに居た。
「なれた………」
「よかったな、ラグナル」
「マスター!!!!」
俺に思いっきり飛び込んできた。
「ありがとう、マスター!!これでマスターとあんなことやこんなことも………」
「「「「ラグナル………?」」」」
そこにはセットアップしていた星、ライ、夜美、加奈がいた。
「皆さん………デバイスなんか持って何してるんですか?」
「「「覚悟はいい(な)(わね)?」」」
「オハナシです………」
「ま、マスター!!………ってあれ?」
俺は素早く離れて桐谷の側に退避した。
「マスター!私たちは一心同体じゃ………」
「いや、痛いのは嫌なんで………」
「マスター!!!!!」
お前たち、壊さない程度にしろよ。
そんな中、
「私もこの姿ならマスターを…………」
レミエルがそんな事を呟いていたのだった……………
「どう?」
「間違いないよフェイトちゃん………」
私はなのはを呼んで、この前のサーチャーの映像を見せていた。
はやては仕事があってこの場にいないけど。
「この子あの時に戦った星光の殲滅者って名乗ってた子だよ。バリアジャケットも同じ………」
「でも………」
「うん、消えていったはずなんだけど………」
映像を見ながら考えているなのは。
「それとこの人はやっぱり………」
「うん、零治君………」
なのはにも聞いたけどやっぱり間違いはないようだ。
「どうするのフェイトちゃん」
「取り敢えず明後日に私が帰りにでも聞いてみるよ。…………いや尾行しよう!」
「フェ、フェイトちゃん!?」
「今思えば零治の家って知らないし、もしかしたら彼女にも会えるかも」
「でもフェイトちゃん、それってストーカーだよ?」
「違うよ尾行だよび・こ・う」
なのはは少し納得出来てないみたい。
だけど私は執務官だし尾行も普通にやったりするんだけど………
「なのは、嫌なら私だけでやるよ?」
「ううん、私もやる。私も気になるし」
「じゃ、明後日の放課後ね」
「うん、はやてちゃんにも教えとくね」
「よろしく。あとこのことは内密にね………」
「うん、分かったよ」
だが、フェイトは気づいていない。
このマンションに零治達が住んでいることを…………
第24話 大宴会、GW編終了
「それじゃあ、セイン、ノーヴェ、ウェンディのお別れ会と………」
「加奈と桐谷の歓迎会を………」
「「開催します!!!」」
我が家のマスコットガール、ライとセインの宣言により大宴会が開催された。
マンションでやってるのにマイクはいらないような…………
あの後、ラグナルがオシオキされてからみんなで家に帰った。
取り敢えず加奈と桐谷も家に泊めた。
居候はこれ以上無理だから家は別にしてもらうつもりだ。
皆、いろいろあってか言葉少なく食事を取り、皆さっさと寝てしまった。
そんでもって次の日……………
何があったのか、あんな態度だった加奈とみんな仲良くしていた。
今はかわりばんこでゲームをしている。
俺が起きたのは11時頃。一番遅かったが、いつの間に……………
「やっと起きたか………」
俺に声をかけたのはコーヒーを片手に優雅に新聞を読んでいる桐谷だ。
「くつろいでるな…………」
「加奈ほどでもないさ」
加奈たちはみんなで順番に大乱闘スマッシュロワイアルをかわりばんこでやっていた。
やっぱりみんなでやるときはこれだろ。
「お前はやらないのか?」
「こういうのは苦手なのは知ってるだろ?」
確かに…………
コイツ、シュミレーションはかなりやるくせにこう言う対戦系のゲームは全くセンスが無い。
星といい勝負だと思う。
シュミレーションは俺がスパロボを無理やりやらせたんだけどな。
その後はシリーズほとんどやるほどの熱狂ぶりだったが…………
アルトアイゼンもそこから来たんだろう。
「直ぐに夜美さんとライさんと加奈に倒されてそれでこうさ」
コーヒーと新聞を上げて言う桐谷。
相変わらずマイペースな奴………
「レイ兄!!こっち来てやるっス。ボコボコのガタガタにするっス」
今度はガタガタ?
前よりはましになったと思うけど。
「分かったよ。一回叩きのめしてその口を黙らせてやったほうがいいな」
俺は手をポキポキ鳴らしながらライに席を譲って貰い、コントローラーを受け取る。
相手は…………ウェンディ、フェリア、加奈か。
フェリアは大したことは無い。恐らく我が家で星に次ぐ弱さだろう。
ウェンディは本当に器用だ。その実力はライや夜美に匹敵するほどまでに来ている。
最後に加奈。転生まえからゲームは俺がやっていた影響か、結構うまい。特にスマッシュブラザーズはよく二人でやっていたような気がする。
さてこのメンツなら…………
「まずはフェリア、お前から除外させてもらう」
俺は自分のベストキャラ、必殺で敵を倒す炎の紋章の王子様を使っている。
フェリアは歌う食べ物と同じ名前の生物。
ウェンディは超能力少年を使っている。ウェンディのベストキャラだ。
ウェンディめ、マジだな………
加奈は……………ゴリラ!?
まさかのチョイスだな。
まぁいい………
「この勝負貰った!!」
「勝ったっス!!!」
結果、俺がビリだった…………
何でいつも俺をリンチするんだよ!?
加奈のゴリラがするパフォーマンスがマジ腹立つ。
そんでしてやったりな顔も。
飛べない王子様がビュンビュン空を飛んでいる。
全く俺以外には攻撃しなかった3人。
もうこのゲームやるのやめようかな…………
「そうだ!!」
ゲームを観戦していたライがいきなり大声を出した。
「今日でセインたち帰っちゃうし、お別れパーティしようよ!!それと加奈達の歓迎会も一緒に」
「いいね!やろうやろう!!」
「悪くないな、ライいいこと言うじゃん!!」
勝手にライの話に乗るセインとノーヴェ。
「酒は……………」
夜美、止めろ。
お前が飲むと暴れて、とばっちりを食らうのは俺なんだぞ。
「皆さん、いきなり何言ってるんですか!?パーティはいいとしてもお酒は………」
ピンポーン
チャイムがなる。
「おっ、来たか」
玄関に走っていく夜美。
「遅いぞ」
「ごめんね、これでもダッシュでミッドから帰ってきたのよ」
入ってきたのは酒が大量に入った袋を持ったシャイデだった。
「夜美、元から連絡してましたね…………」
「用意周到と言ってくれ」
要するに飲みたいだけか。少し睨みながら星が言う。
「星、そんなに睨むな、最後なんだから無礼講で構わないだろ」
そんな事を言う夜美。
お前、自分がどうなったか分かってるのか?
「さぁて、お酒も大量に買ってきたし、さっさとパーティーの準備を始めるわよ!!」
はじめて会う二人を完全スルーして、勝手に仕切り始める。
「零治?」
「………ああ、一応俺達の保護者になってくれている、俺のクライアント件デバイスマスターだ」
「あの人がお前の言っていた………なんか想像と違ったな」
「クールビューティーか?」
「まぁそんなところだ」
最初の印象はそうだったけど、親しくなって本性を現したからな。
酒を進める中学教師ってどうよ?
「まぁ楽しそうな人で良かったじゃないか」
「まぁ色々助けてもらってるし、あいつらがとてもなついてるからな」
見ると楽しそうに話す、星、ライ、夜美、フェリア。
少し警戒しているが楽しそうに話す、セイン、ノーヴェ、加奈。
なぜか背中に乗っているウェンディ。
最後は置いといて、みんな楽しそうにしていた。
「桐谷………」
「分かってる、家のことだろ?朝からレミエルとエタナドが二人で物件を探しに行ってるよ」
本当にこいつは………
「部屋空きが無いんだろ?昨日のうちに分かったさ。お前の本心も聞いたし、今を大事にするお前の考えを尊重するさ」
「………悪いな、加奈のこともよろしくな」
「了解だ。加奈はお前の顔を見ないと騒ぎそうだし、なるべく近くの場所を選ぶさ」
「加奈がか?あいつなら俺を追い出すぐらいしそうだけど」
「………相変わらずのようだな」
「何が?」
「苦労してるんだな星さん達………」
いきなりダメ人間を見るような目で俺を見る。
何か気に食わないな………
「さぁてそろそろ準備始めましょ!!」
シャイデの一声で女性陣がそれぞれ動き出した。
「俺達も手伝うか」
「ああ」
俺達も立ち上がり指示を受けに行った。
「「それじゃあ………」」
「「「「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」」」」
二人の司会に会わせ全員で乾杯した。
料理は俺、星、桐谷。
準備をシャイデ、夜美、ライ。
飾りつけを残りのメンツでやっていた。
……………普通、男に料理やらせるか?
ライと夜美にも本格的にやらせないとまずい気がする。
加奈は触らせない方がいい。
美由希さんといい勝負な気がする。
初めて食べたときは漫画の話だけでないと学習したな。
その後、加奈が桐谷にも食べさせて大変なことになったんだよな………
「レイ?」
「ああ、なんだ?」
おっと、昔の事を思い出してボーッとしてたな。
星に声をかけられ我に返った。
「夜美が…………」
夜美の方を見る。
「わはははははは!!我の前に跪け!!崇めよ!!」
あ~あ、始まっちゃったよ…………
今は一人で叫んでるだけだけどあれで誰かを巻き込み始めると止められなくなる。
「ラ~イ、みんながいっぱいいるよ?」
「ホントだ~セインもいっぱいいる~」
二人で並びながら顔を見合わせ、笑っている。
完全に酔ってるな………
「お~い!!ウェンディもそう思うだろ!?」
「アハハハハハハハハ!!」
ノーヴェとウェンディは会話すらなってないし。
「でな、私も苦労してるのにクワットロの奴が………」
フェリアはテレビに愚痴ってるし…………
「ほ~ら、一気!一気!」
「ちょっと!?シャイデさん!?」
加奈はシャイデの悪ノリに巻き込まれてる。
………………あれ?
「桐谷はどうした?」
「桐谷さんは……………」
星が向けた先には、部屋の片隅に仰向けに放置された桐谷がいた。
「あいつ酒弱かったっけ?」
「はい、飲んで直ぐに眠ってしまいました」
そんなにか?
転生前は平気だったような気がするけど………
何かど忘れしてるな。
こっちに来てもう6年か…………
もうそんなに経つんだな。
「レイ?」
「ああ悪い、またボーッとしちゃったな。星もほら」
空になっていた星のコップにチューハイを入れる。
「ありがとうございます」
そうして星と一緒にみんなの様子を見ながら飲んでいた。
40分後…………………
「で、レイはその辺りの気遣いが足らないと思うのですよ」
「ああ」
「あの時だって私が勇気をだして言おうとしたのにライの方に行ってしまって………」
「ああ」
「本当に聞いているのですか!?」
ああ、聞いているとも。
もう10回も。
星は絡み上戸だったんだな………
いつもは大して飲んでなかったから気付かなかった。
「レ~イ~ねぇねぇ見て見て~」
そう言われ俺はライの方を向く。
そこには黒い下着を着たライと青い下着を着たセインがいた。
って何で脱いでんだ!?
「お前ら何脱いでんだよ!?」
「えっ~暑いじゃん………」
「私も~」
文句をたれるセインと同意するライ。
二人とも俺にくっついてくる。
「お前ら何くっついて………」
「レイ兄!!」
今度は背中に乗ってくるウェンディ。
ってこいつは!!
「お…ま…え…は何でブラ付けてないんだ!!」
「だって、暑いじゃないスか~」
暑いじゃねぇよ!!俺は男なんだぞ!!
背中に当たってるモノが…………
「フェリア助け………」
「胸が大きいやつ死ね。胸が大きいやつ死ね」
……………見なかったことにしよう。
何か黒いオーラが出ているような気がする。
ちくしょうこうなったら………
「夜美!!助けてくれ」
いつまで我慢できるか分かったもんじゃない。これだったら夜美のほうがマシ………
「くぅ………くぅ………」
「夜美ーー!!!」
夜美様はお休みになっていました。
待て!!まだ助けはいる。
「シャイデ!加奈!」
「可愛いわね、みんな」
「うぅ…………気持ち悪い………」
「ウェッ…………」
カメラを持ってこっちに構えるシャイデとかなりグロッキーになっている加奈とノーヴェ。
頼むから写真撮るな!!
ノーヴェはそこに吐くなよ!!
「星、星!!」
お願いだ!お前だけが頼りだ!!
「…………ライ達だけずるいです。私もレイとくっつきます」
上着を脱ぎ、俺に近づいてくる。
まさかの!?
一体どうすればいいんだよ!!
「もう誰でも良い、誰か助けてくれ!!」
「た……助……て」
「全くどんな夢を見ているんだか………」
夜美がため息を吐きながら呟いた。
時刻は夜の8時。
いつの間にか寝ていた夜美は目を覚まし、周りを見る。
部屋はグチャグチャに散らかっており、みんなが空いているスペースにざこ寝していた。
ただ……………
「なぜ、星達はレイにくっついて寝ているんだ?」
星、ライ、セイン、ウェンディはレイにくっついて寝ていた。
「こんな男なら嬉しい状態なのに苦しい顔をしているのか………」
零治は苦しそうな表情を浮かべていた。
少し羨ましいと思いながらも夜美はそう呟いた。
『あっ!?夜美様、起きたのですね』
声を聞いて、夜美は机の上を見る。
上にはデバイス状態のレミエルとエタナドがあった。
「人の姿じゃないのか?」
『朝からなっていたのでもう限界です。一日中なっていられないので………』
「そうなのか」
夜美は台所に行き、自分のコップに水を入れる。
『夜美様』
「ん?なんだ?」
『これからもマスターと仲良くしてください。マスターはズバッと素直になんでも言う所があるので嫌われやすいと思うのですが、実際は人を気遣う人なんです。なので親しくしてください』
『私のマスターもわがままで自己中のように見えるが本当は優しい子なんだ。どうか仲良くやって欲しい』
「大丈夫だ。二人とも話してみて好感を持てる人達だ。こっちこそよろしく頼む」
デバイスに対しておじぎする夜美。
『『ありがとうございます』』
デバイス達は夜美の優しさに感謝するのだった。
「気を付けてな」
午後9時ごろ、荷物をまとめたセインとノーヴェとウェンディに声をかけた。
3人は家の転送装置からミッドに行き、そこからラボに帰るらしい。
「忘れ物は無い?」
「大丈夫っス星姉」
「何が大丈夫だ、寿司、持って帰るんだろ?」
「そうだったっス、ありがとうっス夜美姉」
夜美から寿司の袋を渡され、服の入った袋と一緒に持つ。
「今までお世話になりました」
姉らしくセインが頭を下げて言う。
「元気でね」
ライが寂しそうに言う。
「楽しかったぜ」
笑顔で言うノーヴェ。
「明日また来るっス」
「じゃあ、帰んなくていいでしょうが」
加奈のツッコミにみんなが笑う。
「いつ来ても構いませんからまた遊びに来てくださいね」
「お前らはもう有栖家の一員なんだ遠慮するなよ」
俺と星が3人に言った。
「ドクターによろしくな………」
「うんフェリア姉も頑張って………」
セインがそう言って3人は転送装置に乗った。
「じゃあ、みんなまたね」
そうセインが言って、3人はミッドに行ってしまった。
「行ったな」
「ああ」
俺はフェリアに声をかける。
「大変な妹たちだったな」
「ああ、だが可愛い妹達だ」
「そうだな………」
「零治」
「ん?」
「これからもよろしく頼む」
手を出しながらフェリアが言った。
「ああ、こちらこそな」
笑顔で俺はその手を掴んだ。
「さぁ、みんなで片付けしましょう。明日は久しぶりの学校です」
星の号令でみんなそれぞれ動き始める。
こうして波乱のゴールデンウィークが終わったのだった。
余談………………
「ただいまっス~」
「今帰りました」
「ただいま」
「おかえり3人ともあっちの生活は楽しかったかい?」
3人をスカリエッティ一家が出迎えた。
「これ、お土産っス」
「こ、これは!!」
ウェンディからお土産の寿司を受け取ったウーノは驚きの声を上げた。
「お土産のお寿司っス!!回転寿司じゃ無いっスけど上手いんで是非!」
「ありがとうウェンディ!私是非食べたかったんです!!」
といつものクールビューティなウーノに似合わず、無邪気にウェンディに抱きつくウーノ。
その後、皆の視線に気がつき、わざと咳払いしたのだが………
「珍しい事もあるのだね、初めて見たよ」
「………忘れて下さい」
「いや、ウーノ姉のあんな姿見たら忘れられないよ!」
「確かに、ウーノ姉も可愛い所あるじゃん!」
とセインとノーヴェが茶化すと………
ドン!!!!
と大きな音が鈍い音が聞こえた。
「忘れてくれますよね………?」
ウーノの右側の壁には大きな凹みが出来ていた。
「………返事は?」
「「「「は、はい!!」」」」
そんなウーノにスカリエッティ含めた、4人は従うしかなかった………
しかしその後はみんなで寿司を食べながら。ゴールデンウィークの話をしたのだった。
しかも次の日からラボでは、ウェンディに対してウーノがとても優しくなった姿が見られたらしい…………
第25話 久々の学校、いつも通りの生活
さて、学校です。
今クラスではとなりのBクラスの二人の美男美女?の転校生にスーパーハイテンション。
神崎組の熱狂度が半端ない。
転校生は桐谷と加奈なんだが。
二人とも俺と同じ学校に転校してきた。
さすがに同じクラスにはならなかったが。
「零治」
久々の登場だな、アリサ。
何か久しぶりに見た気がする。
「懐かしいな、ちょっと老けたか?」
「………いきなりなに言ってんのよ」
そんなに怒るなって、髪が逆立ってるぞ。
「零治君、いきなりそれはないんじゃないかな…………」
アリサの後ろからすずかが声をかけてくる。
「なに言ってんだ?すずか。これは俺達の挨拶さ。いつも通りだろ?」
「違うわよ!!」
怒りが収まりきれなかったのか、アリサが殴りかかってくる。
「甘いわ!!」
「避けるな、この馬鹿!!」
「………本当にいつも通りになった」
クラスの定番、零治対アリサの絵が今日も出来たのだった。
「はぁはぁ、で、用はなんだ?」
「はぁはぁ、新しい転校生のことよ」
「………疲れるならやらなきゃいいのに」
「これはお約束って奴や」
はやてがこっちに来ながら言った。
「ハロー!はやて」
「ハロー!零治君」
イェーイと俺達はハイタッチした。
「今のもお約束?」
「いや、ただアドリブでやってみた。さすがはやて、完璧に合わせてきたな」
「当然や、関西人ならこれくらいわけないで」
「お前、なんちゃってだろ?」
「そうやけど何かその言い方腹立つわ………」
「まぁ、それでも違和感ないし息ピッタリだしな」
「私たちいいコンビだと思うで、将来二人で漫才組まへん?」
「面白そうだけど遠慮しとく。俺の可能性は未知数なんでな」
「いつも寝ている人の言葉だとは思えへんな」
「………なんか零治君、いろんな意味で凄い人な気がしてきた」
「凄いのははやてちゃんだよ………」
「なんであの映像見たのに普通に話せるんだろう………」
廊下から覗いて様子を見ていた、なのはとフェイトが呟いた。
「ってそんなことより!!」
バンッ!!と机を叩いてアリサが言う。
「アンタ、あの子とどういう関係よ!?」
「あの子って?」
「となりのクラスに転校してきた女の子」
加奈のことか………
「あの子、アンタの名前知ってたのよ。アンタとどういう関係?」
「それは取り敢えず置いといて、はやて」
「なんや?」
「加奈の胸って何カップ?」
腕を組んで考え始めるはやて。
「………恐らくCやな。あれは巨乳言うより美乳の部類やで」
Cか………さすがに転生前よりは小さくなったか?
少なくともDはあると思うが………
「何を話してるのよこの変態共!!」
アリサの拳骨が俺とはやてに落ちる。
「男なら興味あるに決まってんだろ。直ぐ手を出すなよ………」
「女でも同じや!!」
「アンタらみたいな変態がいるからこの世の性犯罪が消えないのよ!!」
「はやてさん、聞きました?あの子、朝から性犯罪なんて言いましたよ」
「ホンマ、恥ずかしくないんか?普通の女子中学生が言うことじゃ無いと思うわ」
近所のオバサン風にひそひそ話す、俺とはやて。
「アンタたち!!」
「………いつまでやってるのかな」
「全くだ」
いきなり別の声が聞こえ、一斉にそっちを向く。
「何してんだ?桐谷」
「………ずっと話が終わるのを待っていたんだよ」
「ん?何か騒がしいな………って桐谷か、どうした?」
教室を出ていたフェリアが声をかける。
手にハンカチを持っている辺りからトイレにでも行っていたのだろう。
「零治はいつもこんな感じなのか?」
「うん?ああ、はやてと一緒にいるといつも一緒になってアリサやフェイトを弄るのが殆どだな。たまになのはやすずかに手をだし、ボコボコにされることもあるが………」
「余計なことは言わんでいい。それよりどうしたんだ?」
「ああ、様子見に来たのと、視線に耐えられそうにないから話に来た」
「ああ、確かに凄いよな」
特に女子の視線が。
神崎じゃないけどちょっとうざい。
「だから、おまえとフェリアさん「フェリアでいい」フェリアのいるクラスに来たんだ」
なるほど………
まぁ相変わらず目線は凄いけどな。
「ちょっと零治君」
すずかが声をかけてくる。
「この人零治君とどんな関係なの?」
「ん?腐れ縁で親友って所かな」
「「「「「親友!?」」」」」
でかい声でいきなり叫びだした5人。
なのはとフェイトはどこから沸いてきた!?
「し、親友ってどういうこと!?零治って一人ぼっちだよね!?」
何、俺そんな風にフェイトに思われてたの!?
「大丈夫?頭打ってない?」
なのはさん、それどういう意味ですか?
「そうか!これはドッキリや!!ふふん、このはやてさん、こんなドッキリに騙されはせえへんで!!」
ドッキリじゃないし!!
「親友か………アンタいたなら言いなさいよ!!」
「よかった………よかった………」
アリサさん、すずかさんや、なんで涙ぐみながら言ってんの?
俺ってそんなに寂しそうに見えてたのかな?
「お前の周りには面白い人が多いな」
それは同感。
意地はってないで原作キャラと友達程度の関係だったら学校ももっと面白かったかも。
まぁ星達もいるし、どっちにしてもしなかったと思うけど。
「っと話がそれたな。改めて、俺は加藤桐谷、親の都合で隣のクラスに転校してきた。これからよろしく頼む」
「私は月村すずかです、よろしくね。すずかでいいです」
「私はフェイト・T・ハラオウンです。フェイトって呼んでください」
「私は八神はやてや。はやてと呼んでな」
「私はアリサ・バニングスよ」
「ああ、君が燃える女の子か」
「れ~い~じ~!!」
桐谷め余計なことを。
「アリサちゃん、オハナシなら後で。私は高町なのはよろしくね」
「ああ、君が零治が魔王と呼んでいる女の子か。見た目は可愛らしい女の子なんだが………」
「零治君?」
「すいませんしたー!!!」
人生初のジャンピング土下座をかまし謝る俺。
「アンタ、覚悟はいい?」
「零治君、オハナシなの…………」
アリサは手をポキポキならしファイティングポーズをとる。
「アリサちゃん、先どうぞ………」
「うん、じゃあ行くわ!!」
頭を八の字に揺らし、その勢いをそのまま拳にって、
デンプシーロール!?
こいつ、マジでボクシングやったら世界狙えるんじゃね!?
なんて思っているとサンドバッグのように俺の体は左右に揺れる。
やがて、アリサが止まる。
「ふぅ、スッキリ」
いい汗かいた、みたいな爽快な表情を浮かべるアリサ。
「………恐ろしいな」
「こんなの序の口だ。本当の恐怖はこれからだ………」
フェリアの言葉に驚く桐谷。
「さぁ、オハナシだよ」
「誰……か……たす……」
完全に言い切る前に零治はなのはに教室から連れ出される。
「………助けなくていいのか?」
「巻き込まれるよ!?」
真っ青で桐谷に忠告する、フェイト。
他のみんなも頷いている。
しばらくして何処からか零治の悲鳴が聞こえてきた。
「なのはのおはなしの時には下手なことをしない方がいい。長く生き残りたいのならな…………」
「あ、ああ…………」
フェリアの忠告に頷くしかない桐谷。
この時、入る学校を星達の学校にするべきだったと後悔したのだった………
朝、学校に来てみるとやはり私達はかなり話題になった。
私自身それなりに自分の容姿には自信がある。
事実、転生前は結構モテた方だ。
兄さんには全然だったけど………
廊下から私と桐谷を見るギャラリーが凄い。
私はクラスの女の子から学校の事を聞いている内にいつの間にか桐谷はいなくなっていた。
どこに行ったんだろう?
私が席を立とうとした時、奴らが現れた………
「君が今回転校してきた女の子だね。俺は2ーAの神崎大悟って言うんだ、よろしくね」
「はぁ」
いきなり私の前にやって来て握手を求めてきた。しかも隣のクラスの男子。
銀髪も珍しいが、赤と青のオッドアイの方が珍しいと思った。
だけどそれだけ。
なぜ握手を求めてきたのか意味不明だし、何でこんなに馴れ馴れしいのよ。
兄さんの知り合いかな?
取り敢えず丁重にお断りして握手もせずにそのまま教室を出ようとした。
「おや、恥ずかしいのかな?恥ずかしがらなくてもいいのに」
「ハァ?」
こいつバカなのかな?
なんでそう思えるのかしら?
「いくら俺が魅力的だからってそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」
髪をかき上げながら行こうとした私に近づき、そんなことを言う。
何カッコつけてんだこの男。
すごく気持ち悪い………
「どうだい?せっかくなら俺が優しく学校案内しようか?」
優しくってなんなのよ。下心丸出しじゃない。
「いいえ、結構です」
私が大人の対応で断る。
「そんな遠慮しなくても、別に俺なら全然構わないから。ねぇ?」
コイツ本当にしつこい。
しかもやたらと頭を撫でようとしてくるし………
「君は優しい子なんだね。でも俺に気を使わなくていいんだから………」
「余計なお世話って言ってんでしょうが!!」
私は我慢できず、回し蹴りで変態を廊下に吹っ飛ばした。
「か、神崎君!?」
後ろに付いていた男子生徒が走って様子を見に行く。
「さっきから馴れ馴れしいのよ!!しつこい男はウザイだけよ!!そこで一生寝ていなさい!!」
私は吹っ飛ばした彼に指差しそう怒鳴った。
「ッ、お痛はいけないな…………」
懲りていないのか少し痛そうにしながら立ち上がる。
「でもそんなツンデレな君も悪くない」
ヤバイ………コイツ生粋の変態だ。
初日から嫌な奴に目を付けられたな………
とそこに栗色の女の子が男子生徒を引きずってどこかに行こうとしていた。
「やぁなのは、どうしたんだい?」
あの子が高町なのはか………
兄さんが言ってたけど、確かこの世界の主人公だっけ?
でもあの変態、本当に空気読めないわね………
明らかに話しかけるなオーラ出してるのに。
「……………じゃま」
なのはと呼ばれた女の子は変態に裏拳を食らわせ、変態を壁の方にぶっ飛ばした。
すごく鈍い音がしたんだけど。
「さぁ早く行こうね、零治君…………」
「だ、誰かたす………けて」
何か兄さんの名前が聞こえた気がしたけど。
気のせいよね………?
だが加奈はこの後自分の兄の悲鳴を聞くことになる。
その時加奈も桐谷同様にこの学校選んでよかったのかと心から思ったのだった。
「ううっ………ひどい目にあった」
「零治君が悪いんだからね」
授業中になのはが痛がっている俺に言ってきた。
「少しは手加減しろよ。何か今日は一層きつかったし………」
「それは初めて会う人にあんなことを教えるからだよ」
むぅっと頬を膨らませ言ってくるなのは。
まぁ悪いとは思うけど流石にこれはないだろう。
無事でいる俺の体も化け物じゃないかと最近思ってきた。
「それで………ね、あの………聞きたいことがあるんだけど………」
「ん?なんだいきなり」
「ううん、やっぱりいい。ごめんね変なこと言って………」
そう言ってなのはは黒板に目を向けた。
何なんだ?一体。
その後、なのはから声をかけることはなかった。
「兄さん………」
自分の机で購買部で買ったパンを食べ終わり、昼休みどこで昼寝をしようかなと考えていた時に加奈から声をかけられた。
何故か加奈はこそこそと俺に近づいてくる。
「今までどこにいたのよ!?結構探したじゃない………」
相変わらずこそこそ喋ってるけど。
「俺はずっと教室にいたぞ」
昼休みからずっと教室にいたんだが………
「何であんな変態がこの学校にいるのよ………」
目線の先に教室を出ていく変態の姿があった。
「何かあったのか?」
「うん………実は………」
あの馬鹿またやらかしたのか。
こいつに手を出そうとしたのが運のつきだな。
コイツに蹴られ、なのはに叩かれ今日は散々だったな。
さて、これで少しは自重してくれればいいけど………
まぁないか。
「本当にいい加減にして欲しいんだけど。まぁ少しは懲りただろうし、つきまっとってこないと思うけど」
「残念ながらそんなんで諦めたらなのはたちも苦労しないよ」
「その通りや」
いきなり話に入ってきたはやて。
いつ湧いてきたんだ?
「はじめましてやな、八神はやてや。よろしくな」
「うん、私は佐藤加奈。兄共々これからもよろしくね」
「兄!?」
「何で苗字違うのに!?」
ベランダから顔を出して聞いてくるアリサ。
よく見ると他の面々までいるし。
ってか何やってんだ?
「私が義理の妹だからよ」
何か勝手に義理の兄になりました………
何考えてるんだか。
「そう、大変だったんだね………」
フェイト、特に何も無いからそんな悲しそうな顔しないで欲しいんだけど。
「別に。こうして兄さんとも会えたし、もう兄さんとの仲も邪魔する人もいないし」
挑発しながら言う加奈。
俺との仲?今度は奴隷にでもする気か?
「ふ、ふん。そんなの決めるのは本人でしょ?あんたじゃないわ」
何を慌ててるんだか。
「いいわ、受けて立つわよ。これからよろしくね」
「ええ、こちらこそ」
なんか知らないけど和解でいいのか?
アリサと加奈が二人で握手する。
「モテモテやな」
「?何がだ?」
「…………こりゃ、苦労するわ」
はぁとはやてにため息をつかれる。
俺なんか悪いこと言ったかな?
「アリサちゃん本気なんだ………」
「うん、この前決心したみたいだよ………」
「………………私は」
なのは、すずか、フェイトのそれぞれがこそこそと何か喋ってる。
何をこそこそと………
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り昼休みの終わりを告げる。
「ほら、さっさと席に付けよ」
俺はみんなにそう言ってこの場を解散させた。
五時間目の休み時間……………
「フェイトちゃん…………」
「うん、分かってる。アリサのことだね」
「そやな、もし悪事を働いてて逮捕なんてなったら悲しむやろな………」
屋上で魔導師組3人が話していた。
「でも、それが管理局員として、執務官としての仕事だから妥協は出来ないよ」
「そやけど………」
「私だって本当は嫌だよ。大事な友達だし、優しいし………」
「せや、零治君に限って悪いことしてるとは思えへん。取り敢えず話は聞いてみよ、な?」
「そうだね、お話してからだね」
「なのは、戦闘じゃないよ?」
「そんなの分かってるよ!!」
「その話………」
「私たちにも教えて」
いつの間にか屋上にはアリサとすずかもいた。
「二人とも………」
「様子が少しおかしかったから見に来ちゃったんだ。零治君のことでしょ?」
「実は………」
フェイトは2人にもこの前のサーチャーの映像を見せた。
そしてこれからの行動についても話した。
「私たちもついていっていい?」
「えっ!?」
「でも………」
「それはアカンと思うで………」
魔導師3人は戸惑いながらも否定する。
「でも、私たちも気になるの。零治君が本当に悪いことをしているのかを」
「あの子との関係も!!」
アリサは恥ずかしがることなくそう答えた。
「…………分かったよ」
「「フェイトちゃん!?」」
「サーチャーは既に街に配置したし、もし見失っても大丈夫だよ。それに断っても勝手に付いてきそうだもん………」
「ありがとう、フェイト………」
「うん、アリサ。じゃあみんな放課後ね」
「「「「うん」」」」
こうして魔導師組3人とその親友2人のストーカー作戦が始まるのだった。
第26話 ストーカー大作戦
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムがなる。
今日もいつも通り終わったな。
体がガタガタのような気がするけど、まぁいつも通り明日にはなんともないだろう。
「さて、今日は………」
どうするかな?
桐谷達の手伝いもよさそうだが………
そう言えば昨日のばか騒ぎのせいで冷蔵庫が空っぽのような………
こんなんだったらラグナルに買い物を言っとくべきだった。
あいつに掃除しか言ってない………
まあ仕方ないか。
「まずは星に電話っと」
俺はホームルームが終わってから荷物を持ち、電話するため静かな場所に向かった。
「みんな、行くよ?」
「「「「うん」」」」
『すみません、私今日は係の仕事で少し遅くなりそうなんです。』
「そうか、なら仕方ないな」
『夜美が暇みたいなので夜美に手伝いを頼んでおきました。』
「助かる。冷蔵庫の中空っぽだからな」
『それですみませんが………』
星から買ってきてほしいもの等をメモに書く。
『じゃあ、お願いします。』
「ああ、星こそ頑張れよ」
『はい、ありがとうございます。』
そうして俺は電話を切る。
「さて、金を下ろして買い物をさっさと済ませるか」
俺はそう一人呟いて、まずは近くのATMに向かった。
「誰と電話してるんだろう………」
フェイト達は昇降口の前で電話している零治を下駄箱から見ている。
フェイトの呟きに真っ先にはやてが反応した。
「あれは、女や!」
「ええっー!!あの零治君が!?あり得ないんじゃない?」
はやての答えになのはが失礼な事を言う。
「私もなのはちゃんと同じ意見かな。零治君、すごい鈍感だし、彼女がいるように見えないから」
「そ、そうよ!あいつに彼女なんているわけないじゃない!!」
「アリサちゃん、慌てすぎやで………」
すずかはともかく、アリサはみんなに分かりやすいほど慌てていた。
「みんな、零治が動くよ。ついてきて」
完全に仕事モードのフェイトは無駄な会話もせずに零治から目をはなさないでいた。
フェイトの言葉で切り替えた4人もフェイトに続いたのだった………
あの後、俺はコンビニで金を下ろし、隣町のいつものスーパーへ向かった。
夜美はあまり待たせるとうるさいからなぁ………
あっちの方が近いから確実に先に着くんだろうが。
そう思いながらも俺はのんびり進んだ。
20分後………
「遅いぞ!いつまで待たせるんだ!!」
予想通り夜美は制服でスーパーの前に立っていた。
「仕方ないだろ。こっちまで来るのに時間かかるんだよ」
「少しでも待たせて悪いと思うなら走ってくるものだ!!」
ごもっとも。
俺は一度も走らず右手に缶コーヒーを持ち、飲みながら来たのだから。
「悪かったと思ってるよ。だけどこの陽気の中で走るなんて暴挙、俺に出来るわけないじゃないか!!」
「いや、力強く言われても………」
とにかく、俺が悪いんじゃないんだ!!
「もういい、さっさと行くぞ………」
それ以上追及する事なく、夜美は先にスーパーに入って行った。
「ちょっ!?待てって!」
それを俺は慌てて追いかけた。
「ほんまかいな………」
はやては夜美の姿を見て呟いた。
「あの時消えていったはずやのに………」
「二人確認できたってことはもう一人、クロノ君が言ってた………」
「うん、多分いると思う」
なのはの確認にフェイトは即座に返事を返した。
「しかし、髪と目の色が違うだけで、本当にはやてちゃんにそっくりだね」
すずかの言葉にはやて以外の4人が頷く。
「違うやん!私の方がナイスバディやもん!!でも確かにあの形はかなりの美乳………」
「バカなこと言ってるな!!」
アリサは拳骨ではやてを黙らせる。
「本日二回目や………」
「はやてちゃん、零治君がいないときぐらい自重しようよ………」
なのはの呟きもはやてには聞こえていなかった。
「でも、嬉しそうだね」
夜美の表情を見て、フェイトが言った。
「あんな年頃の女の子の顔するんやな………私、嬉しいわ」
「はやて?」
「だって、あの時は倒すしかなかったやないか。そして勝ったらあの子は消えていった………なのに今も元気に生活しとる。正直、嬉しいわ。出来れば友達になりたいし………」
はやての言葉になのはとフェイトも頷いた。
「あっ!?中に入るみたい。みんな行くよ」
5人はこそこそと隠れながらスーパーに入って行った。
「こっちの方が得だ!!」
「絶対、こっちだ!!」
今、俺達は精肉コーナーの前にいる。
それぞれ鶏肉のもも肉を持って。
「どう考えてもこっちの大きい方がいいだろうが!!」
「夜美、違うぞ!こっちのもも肉の方が量が多少少ないかもしれないが断然安い!!」
夜美は結構星の買い物に付き合っており、意外と目利きがうまい。
だが、俺だってずっと一人生活をしてきたんだ、俺にも意地がある!!
結局このやり取りはじゃんけんを始めるまで延々と続いた。
「長い………」
精肉店で喧嘩している二人を商品棚から覗いているフェイトは一人呟いた。
他の4人は……………
「へぇ~今のスーパーってアボカド売ってるんだ」
「アボカド?」
「うん、サラダに入れるととっても美味しいの」
なのはとすずかはアボカドについて話している。
「ちょ!?キャベツ一玉50円!?大根一本50円!?アホちゃうんか、安すぎやろ!!」
「そんなにすごいの?」
「ここのスーパーは主婦達のメシアや!!これは買うっきゃないわ!!今日はお好み焼きにしとこ。ヴィータ喜ぶやろな」
近くからかごを持ってきてキャベツをかごに2玉入れる。
「零治君、本当にいい主夫になれるわ………っとキュウリ入れ放題百円!?アリサちゃん、手伝ってや!!」
「は、はやて!?………もう!!」
文句をいいながらも主婦化したはやてを手伝うアリサ。
もはや真面目に尾行しているのはフェイトしかいなかった。
「お母さん、あのお姉さん何してるの?」
「シッ、見てはいけません」
「………もうやめようかな」
その時フェイトは心が折れそうになっていた。
「買ったな………」
時刻は夕方18時半。
買い物にかなり時間がかかってしまった。
「ああ、菓子類やアイスなど余計な物もあるがな」
アイスと菓子類の入った袋を持ちながら帰る夜美に皮肉を込めながら言った。
「いいではないか、手伝いの報酬だ」
「そう思うなら荷物をもっと持ってほしいぜ」
俺の両手には4つの袋がある。
カバンは夜美に持ってもらっているが、学校の荷物がいつも机とロッカーにある俺のカバンは空気ぐらいしか入っていない。
故に夜美はとても楽をしているのである。
「女の子に重い荷物を持たせるのか?」
「………分かりました。俺が持ちますよ」
「それでいい」
笑顔で俺に言う夜美。
まぁたまにはいいか。
その笑顔を見て、自然とそう思えた。
そしてしばらく雑談しながら帰って、我が家があるマンションについた時だった。
「何で私と同じマンション!?」
フェイトの声が聞こえたのは。
「いやぁいい買い物やったわ」
一人ご満悦のはやて。
結局他にも色々買ってしまい、両手はスーパーの袋を持っている。
学校のバックはすずかに持ってもらっている。
「そんなに買わなくても………」
「なに言ってるんやなのはちゃん、これでも我慢したほうやで。本当は米とかも買いたかったんやけど………」
「流石にそれは止めて正解ね」
はやての返事に驚きながらもアリサは言った。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
「この辺り私の家に近いなって………」
フェイトに言われ周りを確認する4人。
「本当だ。ほらフェイトちゃんのマンションが見える」
「あっ、ホンマや。意外と近いんやな」
はやての言葉に「そうだね」と返す4人。
だが………
「もう、フェイトちゃんの家のマンションだよ」
嫌な予感を感じながらもなのはが言った。
そして、その予感は見事に的中したのである。
「何で私と同じマンション!?」
何でフェイトがいるんだ!?
アイツ、今18時半だぞ?
何でこんな時間に………
まさか…………この前のことか。
「どうしたフェイトそんな間抜けな顔をして」
「間抜けじゃないよ!」
「フェイトちゃん違う………」
なんだ!?なのはもいるのか?
いや、すずか、アリサ、はやてもいるな。
はやてに関しては買い物後っぽいし。
「零治君!!」
はやてが俺に近づいて、興奮しながら話しかけてくる。
「あのスーパー、めっちゃ最高やな!!何でもかんでも安すぎやで!!」
「おっ!隣町のスーパーに行ったのか。凄いよな、俺もあそこを見つけてからあそこにずっとお世話になってるわ」
「キャベツ1玉50円は安すぎや。おかげさんで今日、家はお好み焼きパーティにするつもりや」
「おお、そりゃ良い。俺も初めて行ったときはそうしたな。あそこ、毎日キャベツ50円だし、日によって色々な物が日替わりで安くなるからなるべく顔を出したほうがいいぞ」
「ホンマなんか!?いやぁ~本当に今日はいい日やわ~」
俺とはやてはみんなそっちのけで主婦みたいな会話をしていた。
「あの………はやて?」
「レイお前もだ」
フェイトと夜美にそれぞれ注意され、二人とも話を止める。
「コホン。それでね、まずこの映像を見て」
フェイトの持っている黒い宝玉から映像が出る。
そこには俺と星が写っていた。
「あ、俺だ」
「星もいるな」
「いやぁあの時はいきなり襲われたからマジでビックリしたよ」
わっはっはと大声で笑う俺を見て驚く5人。
「……………レイ」
「ん?なんだ夜美?」
「お前あの時何してたんだ?」
「何してたって星と観覧車に………」
その続きを言おうとした俺の顔に拳が通り過ぎた。
「…………電話に出ず、何をしていたのかと思えば、貴様ら二人で遊んでいたのか!?私だけあの3人の面倒を見させて!!」
怒りを拳に込めるように力強く握りしめている。
「フェリアとノーヴェは二人で逃げてどこかに行くし、どれほど苦労したか………」
「いや、ですけど星に日頃のお礼ということで…………」
「星ばかり………な………」
ヤバイ、目がすわってる。
「レイ、覚悟はいいか?」
「いいや全然………」
「歯を食いしばれ!!」
夜美の放った右ストレートは俺の頬を強打し、俺は回転付けながら吹っ飛んだ。
「次、同じような事をしたらこんなものじゃ済まないと思え!!」
「お……………おす」
夜美は怒りながらマンションの中に入ろうとするが………
「待ってな!!」
はやてに手をつかまれ、夜美はその場にとどまる。
「生きてたんやな…………ホンマに………」
「ああ。あの時はすまなかったな、夜天の王よ」
「八神はやてや。王なんて気はないから名前でええよ………」
「分かったはやて。我は有栖夜美だ」
「有栖って………」
「夜美は俺の家族だ」
復活した俺ははやての言葉の続きを言った。
「もうバレてるみたいだし、取り敢えず上がってけ」
俺はみんなを家へ案内した。
「「ただいま~!!」」
「おかえりレイ、夜美。買い物ありがとうございます。しかし遅かったです…………」
そこでエプロン姿の星の動きが止まる。
「なぜ、高町なのはが…………」
「久しぶりだね」
「レイ~夜美~アイスは?」
リビングからライもやってくる。
「あれ?フェイトがいる。どうしたの?」
そう言って夜美からアイスを受け取るライ。
反応薄いなぁ………
「取り敢えずお前ら上がれよ」
俺はみんなにそう言ってリビングに案内した。
「ん?みんなどうしたのだ?」
テレビを見ながらくつろぐフェリアが挨拶した。
「な、なな………」
「どうしたアリサ?」
「どうしてフェリアがコイツの家にいるのよ!!」
「どうしてって居候しているんだが…………」
「そうなの!?」
「初めて聞いたで!?」
「言ってなかったか?」
「言ってないよ!!」
俺が内緒にしてくれって言ってたからな。
なのはやアリサは驚いてるが、はやてとすずかは意外と落ち着いていた。
フェイトは仕事の顔になってる。
「それより、これの事情を説明いただけますか?」
映像を星、ライ、フェリアに見せ、丁寧にフェイトが聞いてくる。
「取り敢えずあの時の説明な」
俺はあの時の事を説明した。
「そうですか…………」
「ってことでやむなく魔法を使ったんだ」
「なるほど………確かに襲われてから魔法を行使してましたね」
「だろ?あのままだと俺と星は落ちて死ぬだけだったからな」
「フェリアもこの時に?」
「ああ、初めて知った。この後説明されたのだ」
「そうですか……………事件の詳細を詳しく聞きたいので管理局に来ていただけますか?」
「嫌です」
俺の答えが意外なのか、驚いた顔をするフェイト。
「俺たちは魔導師登録してないし、管理局に入りたくはないんで」
「事情を聞くだけですよ?」
「………俺達全員がSランクほどの実力があってもか?」
それにここに来た魔導師組の3人が驚く。
「Sランクって凄いの?」
「AAAランクが管理局の全体の5%しかいないって言われてるの。それに魔力ランクは私やフェイトちゃんと変わらないし」
なのはの答えにすずかとアリサが驚く。
「アンタ実は凄いの?」
「この世界なら過ぎた力さ」
「確かにこんな高レベルの魔導師は管理局は喉から手が出るほど欲しいやろな………」
はやての呟きにフェイトは新たに口を開く。
「勧誘はさせないようにしますので………」
「相手に自分以上の階級の相手が出てきてもか?」
「それは……………」
「俺はお前たちみたいにバカみたいに戦いたくないんだ。今の平凡な日々を守りたい」
「でもその力があればたくさんの人を…………」
「俺は自分の家族を守ることに精一杯なんでね。なのはみたいに戦えないさ。それに……………」
なのはの言葉も即座に否定する俺。
考えを否定するつもりはないが………
「俺は管理局を信頼も信用もしてないしな」
俺の言葉に驚く3人。
「な、なんでや!?」
「上層部の人間が事実上権力を握り、その上層部に黒い噂が絶えない組織に未来なんてあるか。そんな組織に入るくらいならフリーでやっていたほうがいい」
「そ、それは………」
思うことがあるのか、フェイトは何も言えなくなる。
「だから俺達はミッドにはあまり行かないし、管理局にも入りたくない。勧誘がしつこくくるのも嫌だし、危険人物だと思われて消されそうになるのも嫌なんでな」
「管理局がそんなことを………」
「いや、やるね確実に」
断言する俺に何も言えなくなる3人。
「零治君は何でそんなに詳しいんか?」
「……………経験者から聞いたんでな」
「教えては…………くれないね」
俺が聞こうとしたフェイトを睨んだので、それ以上聞かないフェイト。
「で、どうするんだ?フェイト。できれば俺たちの事は言わないで欲しいんだが………」
「…………報告したら?」
「引っ越すか、ここで始末する」
俺の物騒な言葉に殺気立つなのは、はやて、フェイト。
そんな俺に3人は身構えた。
「………冗談だよ。俺はお前たちを友達だと思ってるんだ。できればそんなことをしたくない」
「…………分かったよ零治の考えが。今回は不問にするよ」
「「フェイトちゃん!?」」
「私は零治と戦いたくないから………それに魔力が今全く感じないもん。零治、今までずっと強いリミッターかけてるでしょ」
「正解。このリミッターのおかげで今まで管理局にバレなかったからな」
「私たちが今まで気付かなかったのはそのせいだよ。零治は悪いことをするような人じゃないよ」
「まぁフェイトちゃんがそう言うのなら………」
「でもホンマええのかな?」
「多分私以外の人は気づいていないと思うから大丈夫だよ」
…………そんなんでいいのか?執務官。
俺的には大助かりだけど………
「直ぐに結界を使って被害も少なくすんだから。でもミッドに来て同じことやったら今度は強制だよ」
「分かってるよ、俺も目立ちたくないしな」
ごめん、ブラックサレナでもう使ってる。
「でも、私たちは管理局をやめないよ。この力で目の前の人を助けたいから………」
なのはが俺に決意を表明するように言う。
「お前たちを否定するつもりはないさ。俺はこの家族が一番大事なだけだ。それにしても立派だよ3人とも。だけどなのは、無理はするなよ。お前が大怪我したことは知ってるんだからな」
「うん………ありがとう」
「あ、それと赤いロボットみたいなのについては?」
「いや、分からない。俺達を助けたら消えたから………」
「そう………」
悪いなフェイト、これも教えるわけにはいかないんだ。
加奈には気づかなくて良かった………
「で、この3人がここにいる事を説明して欲しいんやけど…………」
はやてがおずおずと俺に質問してきた。
「分かったよそれじゃあ初めて会った時の話だな………」
俺は話し始めた……………
「そんなことがあったんだ………」
俺の話を静かに聞く5人。
「でもどうやったの?」
「それは……………禁則事項です」
可愛く言ってみたけど、みんなの冷めた目がキツイです………
「いい加減教えてもらえないんですか?」
星が俺に聞いてくる。
「どうせ二度と使えないんだし聞いても仕方ないだろ」
「ですが…………」
悪いな、これは教えるわけにはいかないんだよ。
「取り敢えずここでお開きだ。もう時間も遅いし、みんな送ってくから帰れ」
「えっ!?送ってくれるの?」
アリサが驚いた顔で言う。
「こんな遅くに一人で歩かせるわけにはいかないだろ。早く行こうぜ」
俺は5人を急かす。
「高町なのは」
「何?えっと…………」
「星です、有栖星。ゆっくり話したいのでまた来てください」
少し硬いが、星がなのはを誘う。
「うん、ありがとう!!また来るね!!」
なのはも嬉しかったのか笑顔でそう答える。
「僕は有栖ライ。みんなまたね!!」
「我は有栖夜美。これからよろしく頼む」
二人もそれぞれみんなに自己紹介をする。
意外と険悪な雰囲気にならなかったな………
もっと雰囲気が悪くなると思ってたんだが。
「うん、私たちも少し心残りだったんだ………」
俺がさっき思ったことをなのはに聞いてみた。
なのはが思い出すように呟く。
「あの時は戦うしかなかったから………本当は助けたかったんだけど。…………だからありがとね零治君。何をしたのかは分からないけど、また会えて嬉しかった」
その笑顔は本当に美しくて、俺にも笑顔をくれるように感じた。
「そうか…………ありがとうな、なのは………」
「?何で?」
「……………なんでもだ」
「…………変な零治君」
なのはは本当に優しい。強い力にとらわれない強く優しい心を持っている。
こんな奴を友達として持てる俺は幸せだな。
今度星達を連れて翠屋に行こう。
士郎さん達にも紹介したいしな。
第27話 有栖家、翠屋に行く
有栖零治の朝は早い………
「フゴッ!!」
体を襲った痛みに俺は目を覚ました。
「………たい」
「ハァ?」
「翠屋に行きたい!!」
大きい声で俺の意識が完全に覚醒する。
俺の体にライがまたがっていた。
「ってまたか!!」
時刻を見ると朝は5時半。
何でいつもこう頼みごとの時はこうも朝が早いんだコイツは。
「ねぇ、いいでしょ?」
「………いやその前に問題がある」
「なに?」
「そんなこと朝飯食ってるときに言え!!」
俺の怒鳴り声がうるさいとこの後、星と夜美に怒られました。
フェリアは問題なく寝ていたが………
こういう状況になれてんのか?
「何かお疲れだね」
朝、来てそうそう机にダイブした俺にすずかが言った。
「いやぁ、あの後星たちとなのはの魔王化について………ごめんなさい、調子に乗りました!だから広辞苑しまってください、なのは様!!」
広辞苑を構えたなのは様に俺はマッハ土下座を繰り出す。
「私魔王じゃないもん………で、何かあったの?」
広辞苑をしまいながらなのはが聞く。
何であんな重いものを持ってこれるんだろうな………
だからバカ力………
「零治君?」
「な、何でもありません!!」
最近俺の考えていることが筒抜けのような気がする。
俺って分かりやすいのかな………
「で!どうしたの?」
「実は、朝早くライに起こされてさ………」
「ライってフェイトちゃんに似てる子だよね?」
「そうだよ、すずか。で、起こした理由が翠屋に行きたいって言うお願いだったんだけど………」
「それって何か問題あるの?」
なのはの疑問は最もだ。
普通にやってくれれば俺もこんな状態にはならないわ。
「………朝5時半頃に俺の上にまたがってるんだぜ」
「うわ………」
「朝早い………」
二人とも顔をひきつりながらそれぞれ言った。
「いつもはギリギリまで寝てるくせに………と言うわけで、なのは今日はゆっくり寝たいんだけど………」
「だ~め」
「ですよね~」
もうなのはさん怖すぎて逆らう気もないです。
なのはと結婚したら絶対尻にしかれるな。
「ライちゃんあの中で一番大きいのに子供っぽいね」
すずかがふとそんなことを言った。
まぁ確かに。体ばっかでかくなって………
胸なんて、フェイトやすずかに負けないほど大きくなったからな。
元がフェイトだから当たり前か。
「そうだな。もう少し女の子らしくして欲しいかもな」
「えっ!?でも元気がいい女の子だと思うけど………」
なのはがそう言いたいのも分かる。
だけどな………
「俺の目の前で堂々と着替えしたり、日曜日の朝は必ず特撮ヒーローを見たりするのは女の子っぽくないだろ?」
着替えなんて何度いっても直らないからな………
特撮は仮面ライダーに似た方は俺も見てるけど。
「ごめん、私も朝見てる………」
「私も………」
あれ!?以外と見てるんだな。
仮面ライダーのような内容が大人っぽいのは見てて面白いけど、女の子向けではないと思ったんだけどな………
星、夜美、フェリアは食いつかなかったし。
「ま、まぁ趣味は人それぞれだよ!でも男の人の前で着替えるのは良くないよ」
「そうだね、いつ零治君が襲うか分からないからね」
俺は獣か!
なのはもすずかも俺をどう見てるかよく分かったよ。
「ちなみに大きさはどのくらいや?」
「う~ん、多分すずかやフェイトに負けてないな」
「なるほどな、確かに昨日見た感じやとそれくらいあると思うわ」
「おっぱいソムリエのはやてさん、ズバリ………」
「私はEと見たで!!なおかつ成長中や!」
「はやてちゃん、いつの間に………」
「不自然なく入ってきたね」
なのはもすずかも慣れたのか今いち反応が薄いが、おっぱいソムリエは止まらない。
「恐らく、星ちゃんが今CぐらいやけどもうすぐDになるんちゃうか?」
「夜美は?」
「Cでストップやね」
「成長の余地は?」
「流石のはやてさんも未来は読めんからなぁ。まぁ本人の努力次第や」
頑張れ夜美。
「あんたたち本当に下らない話ばかりしているわね」
「兄さん、妹として恥ずかしいから黙ってて」
やって来たアリサと加奈に言われる。
「話すことを否定された!?」
「これは思春期の男女には当然の会話や」
「何が当然なんだが…………」
「本当、一回死んだら?」
アリサと加奈のきつい言葉が俺とはやてに突き刺さる。
「何だよ、加奈の奴、自分が貧乳………」
「「フン!!」」
アリサと加奈の拳が俺の溝に突き刺さった。
余りの痛さに膝を付く俺。
「駄目やで、零治君。貧乳だってステータスなんや。バカにしたらあかん」
ヒュン。
加奈が投げたシャープペンがはやての頬をかすめる。
そのままシャープペンは後ろの壁に突き刺さった。
「「はやて?」」
「すいませんでした!!」
「息ぴったりだね」
「そうだね」
なのはとすずかはそんな様子をのんびり眺めていた。
「翠屋?」
ああ、加奈は原作知らないからな。
「ああ、ライ達が行きたいって今日の早朝騒いだから行くことにしたんだよ。せっかくだからみんなもどうだ?」
あの後、落ち着いたのを見計らって俺はみんなを誘った。
フェイトは今日学校休みらしい。
「私は今日は用事があるから………」
すずかは駄目か。
まぁお嬢様なんだし仕方ないか。
「私も今日は駄目ね」
アリサもか。今日はジムの予定でも入ってるのか?
「私も今日はお好み焼きパーティーの準備で無理やわ」
はやても無理か。
昨日は遅かったし結局出来なかったんだな。
なら、仕方ないか………
「なら、行くのは加奈となのはだな」
「ちょっと、私には聞かないわけ!?なのはも勝手に決められていいの?」
「私の親がやってる店だから………」
「そうなの!?」
俺、言ってなかったっけ?
「で、どうするんだ?せっかくだし士郎さん達にも紹介したかったんだが………」
「そ、そこまで言うなら行ってあげるわよ。ありがたく思いなさい!!」
「へいへい」
相変わらずだな、お前。
キーンコーンカーンコーン。
「じゃ、そういうことで放課後な」
話はそこでお開きになった。
そして一気に放課後。
桐谷は昼休みの内に誘った。
あいつは暇なのか一発でOKを出してくれた。
ここの校門で星達と合流するつもりなので、星達が来るまで待っている。
クラスのみんなは帰っており、今クラスには俺、なのは、フェリア、加奈、桐谷がいる。
「行かなくていいの?」
「あいつらの学校は遠いから早くても20分はかかるよ」
なのはの問いに簡潔に答えた。
「それまで何かしているか?」
「大富豪でもしてるか」
フェリアの質問に俺はトランプを取り出し答えた。
「いいわね、やりましょう」
「じゃあ、切るぞ」
俺達はそれからトランプで時間を潰した。
20分後、俺の予想通りに星たちの姿がそこにあった。
だけど…………
「いいじゃないか、俺と一緒に遊びにいこうよ」
「だから、先約があるので結構です」
「しつこいよ~」
「いい加減にしろ、しつこい男は嫌われるぞ」
星たち三人がバカとその他二人の男子にナンパされていた。
「ちっ、あのクソ野郎。俺の家族に手を出すとはいい度胸じゃないか………」
「零治君?」
いつもとは違う俺の雰囲気になのはが心配になって声をかけた。
「桐谷」
「俺は構わないが、やり過ぎると停学になるかもしれないぞ?」
「その時は一緒に温泉でも行こうぜ」
「はぁ、まあいいか」
そんなことを話ながら俺達二人は星たちの所へ向かった。
「いいの!?あの二人止めなくて?」
「ああなった二人は何言っても聞かないわよ」
なのはの慌てた声に落ち着いて加奈が言った。
「それに今回は奴が悪い」
フェリアもバカをかばう気もなく、冷たく言い放った。
「おい」
俺はバカの肩を掴み後ろにおもいっきり引っ張ると同時に、足を引っ掻けてバカを転ばした。
「うおっ!?」
驚きながらもバカは勢いよく転んだ。
「「「レイ!!」」」
「悪かったな遅くなって」
「さて、お前らも帰るんだな」
桐谷が残り二人の肩を掴んでおもいっきり握った。
「「イタイ、イタイ、イタイ、イタイ!!」」
「で、どうするんだ?」
「分かった、分かったからやめてくれよ加藤君」
「僕も帰るから………」
情けない声でそんなことを言う、残りの男子二人。
「だったら早く消えろ。またこの三人に手をだしたら………」
「「二度としません!!」」
そう言い残して二人はダッシュで帰っていった。
「何をするんだい?有栖君?」
「俺の家族に手を出そうとするバカをこらしめようと」
「家族?でもこの子達ってマテリアルの子達じゃないか」
「マテリアル?なに言ってんだ?」
チンクには気づかなかったくせに。
なのは逹に似てたからか?
「………そうか、君は知らなかったな。まぁいい、彼女達には詳しく聞きたいことがあるんだ」
真面目な顔をしてそんなことを言う。
こいつ、なにげに考えてるんだな………
「だったら何故遊びにいこうになるんだ?」
よし、やっぱりぶち殺そう!!
「零治君、もういいから早くいこう。遅くなっちゃうよ」
なのは達もいつの間にかこっちに来ており、俺に言った。
いつの間にか16時半を回っていた。
「そうだな、さっさと行かないと遅くなるか。じゃあ行くか」
バカを無視して、俺達は校門を通りすぎる。
「ま、待てよ!話は………」
「あんたは大人しく眠ってなさい!!」
加奈がジャンプして足を空に高々と上げた。
「あっピンク」
帰り際の男子が止まって眺めながら呟いた。
たがそれは一瞬のこと。
「死にさらせ!!」
そのまま加奈は上げた足を斧のようにバカの頭に落とした。
「アガッ!?」
またも変な声をあげながら地面に沈むバカ。
何かピクピクいってるような………
「あんた本当にしつこいのよ!しばらくそこで寝てなさい!!」
背中を踏みつけそんなことを言う加奈。
容赦ねぇな………………
「大丈夫かな?」
「あんな奴心配する必要もないだろう」
「ライ、夜美の言う通りだ。心配するだけ無駄だから気にするな」
フェリア、きついなぁ………
「分かった。みんながそう言うならそうする」
切り替え早いこと。
「だって早く食べたいもん!ずっと楽しみにしてたんだから!!」
「実はライ、給食抜いてるんです………」
星に言われ、俺は顔をしかめる。
「一体どのくらい食べるつもりだ!?」
「分かりません、でもライっていくら食べても太らないから………」
羨ましいですよね。と呟き、黒いオーラを出しながらライを見る星。
そういえば、昨日体重計とにらめっこしていたのをチラッと見たような………
「そうだな、また胸が大きくなってきて邪魔とか言ってたからな………」
「本当に、何故ライばかりに………」
全く羨ましいことだ、ああ、そうだな。と呟きながら黒いオーラを出す、夜美とフェリア。
はやての予想は正しかったな、流石おっぱいソムリエ。
そんな三人のオーラを微塵も感じず、スキップしながらライは歩いていった。
「ライちゃんいいなぁ」
「あのスタイルで太らないとかどれだけ恵まれてるのよ…………」
あっ、有栖家以外にもダメージが出てる。
「女って大変だよな」
「ああ、何でそこまで気にするのか」
俺と桐谷はそんなことを言いながら女性陣を眺めて歩いていった。
「こんにちは~!」
俺は元気よく先に翠屋に入った。その後にみんなぞろぞろと入っていく。
今日もお客さん多いな………
「いらっしゃい、零治君。あっなのは、悪いけど忙しいから手伝ってくれない?」
「えっ!?私は………」
「あら、髪切ったの?短くても似合うわね。学校で何かあった?」
「いや、ですから………」
「それに誰かから制服借りたの?隣街の中学の制服なんか着ちゃって」
「レイ…………」
そんなこと言われてもな………
まぁ似てるから気持ちも分かるし。
「お母さん!私はここ!!」
なのはの声を聞き、桃子さんは声の方を見る。
「あれ、なんでなのはがこっちに?」
あれ?と言いながら星となのはを見比べる。
「士郎さん!!なのはが二人に!!」
お客さんそっちのけで慌ててキッチンに向かってしまった。
慌てた桃子さんを見るのは初めてだな。
「レイ、ケーキは?」
ライ、お前は食うことしか頭にないのか?
「桃子、お前この忙しいときに…………」
そこまで言った士郎さんが二人を見て固まる。
「髪の短いなのはがいる!!」
驚いた士郎さんも初めて見るな。
今日は初めてづくしだ。
「お父さん、お母さん!この子はなのはじゃないよ!!」
「初めまして、有栖星と言います」
星の自己紹介を聞き、少し落ち着いた高町夫妻。
「そ、そうかなのはじゃないのか………」
「ご、ごめんなさい、余りにも似てたから………」
「本当だよ。星ちゃんに失礼でしょ!!」
「いや、私は………」
「いいからケーキ食べようよ!!!」
いい加減腹ペコなのかイライラしながらライが言う。
「取り敢えず、どこか座れる席ありますか?」
俺がそう言って、空いていた席にみんなが座った。
「へぇ、君たちがいつも零治君がお土産買ってる家族の人?」
一緒の席に座って話しているなのはの姉、美由希さん。
あの後、みんなになのはの両親を紹介したらみんなやっぱり驚いていた。
美由希さんも星を見て驚いていたが、説明したら直ぐに納得してくれた。
なんでも雰囲気がなのはじゃないらしい。
まぁ少し分かる気がするけど。
今回、美由希さん作ケーキは作ってなかったらしく、俺は命拾いした。
「有栖ライだよ、よろしくね、お姉さん!」
元気よく挨拶して、自分の所にある大量のケーキを消化している。
「我は有栖夜美だ。よろしく頼む」
逆に夜美はガトーショコラのケーキを食べながら自己紹介をした。
「で、その子達が………」
「俺の妹の佐藤加奈と親友の加藤桐谷です」
「初めまして、義理の妹の佐藤加奈です」
何で義理を押すのかな?
「俺は加藤桐谷です。よろしく」
「零治君、親友いたんだ………」
「よく言われます」
桐谷が言うな!桐谷が!!
「でも零治君親友いたんだね。いつも一人でいるからいないのかと思ってたよ。お姉さん安心したな」
「………やっぱり兄さん寂しい人だと思われてたんだね」
「うるさいわい!!俺は一匹狼なんだよ!!」
そんな可哀想な目で俺を見るな!!
「もう一個!今度はアップルパイください!!」
「はいはい、よく食べるわねライちゃん」
「うん!食べても太らないから」
グサッ!!っと女性陣に何かが突き刺さった音を感じた。
「それにレイから一杯食べないと大きくなれないって言われたから。だけど最近胸回りがきついんだよね………またブラジャー買わないとダメかな?」
ピキッ!っと夜美とフェリアから音がしたような気がする。
「いいよね、夜美とフェリアは。ブラジャーにお金を使わなくて済むから」
涙を流しながら立ち、ゆっくりとライに殴りかかろうとする夜美。
それを必死にフェリアが止めている。
「離せ、フェリア!あいつに一発与えないと気が済まん!!」
「落ち着け夜美!ライには悪気はない!!」
何でそこまで気にするかな………
「いいなぁライちゃん………」
「私なんて2キロ太ったのに………」
さっきの言葉で深刻なダメージを受けた高町姉妹。
美由希さん2キロ太ったんだ………
「星はそれだけでいいの?」
「最近太り気味なので………」
「実は私も………」
ハァとため息を付きながら羨ましそうにガツガツ食べるライを見る星と加奈。
「しかし凄くうまいですねこのコーヒー。俺初めて飲みましたよ」
「その年でブラックが好きとはよく分かってるね」
「ええ、コーヒーはやっぱりブラックですから」
桐谷と士郎さんはコーヒーの話に花を咲かせている。
まぁみんなそれぞれ楽しんで……………いるかな?
何かライ以外の女性人がダメージを負っているような………
「いい子達ね、あの子達」
店も大体落ち着いたのか俺の隣に桃子さんが座り、俺に話しかけてきた。
「ええ、いつもお世話になってますよ。みんながいなかったら俺どうなったか分かりません」
「そう………で、零治君はどの子が好み?」
好みか……………
「みんなかわいいし、俺にはもったいないかな」
「そんなことないと思うけどな。零治君って優しいし面倒見も良いし」
「そんな男はいくらでもいますよ」
「………これはみんな大変そうね」
ハァとため息をつく桃子さん。
何か悪いこと言ったかな………
その後もかなり遅い時間まで俺達は翠屋にいたのだった。
スカリエッティのラボ…………………
「ケーキが来たっス~!!」
ケーキの箱を高々と上げ、スキップしながらみんなに宣言するウェンディ。
「ウェンディ、落としたらどうする!早く下ろすんだ!!」
トーレがるんるんスキップしているウェンディに注意する。
「大丈夫っスよ。私はセインみたいなヘマはしないっス!」
と言われても止めないウェンディ。
「あれ、私の眼鏡知らない?セインちゃん」
「知らないよ、クア姉」
そう。と言って周りを見るクアットロ。
「あ、あったわ」
外していた眼鏡は近くの机の上にあった。
「私としたことが眼鏡を置いた場所を忘れていたなんて…………今度から気をつけなきゃ」
と眼鏡を取ろうとしたら手を滑らせたクアットロ。
「あっ」
地面に落ちた眼鏡。
そこに……………
ガシャン!!
眼鏡を踏んで通り過ぎるウェンディ。
しかも………
「あっ!?」
近くに落ちていたガジェットのパーツに足を取られたウェンディ。
そのまま仰向けに倒れる。
「セイン!!」
トーレの怒鳴り声に瞬時に状況が分かったセイン。
自身のIS、ディープダイバーを発動させた。
「痛いっス~!!」
「トーレ姉、ケーキ無事だったよ!!」
「おお、よくやったセイン」
「えへへ………」
トーレに褒められ、恥ずかしそうに頬をかくセイン。
「ウェンディちゃ~ん」
「なんスか?クア姉………」
頭を抑えながらウェンディはクアットロの顔を見る。
いつも笑顔なクアットロが珍しく怒った顔をしている。
「ちょっとこっちに来なさい?」
「トーレ姉!」
「少しは頭を冷やせ」
「セイン!!」
「グットラック!!」
綺麗に敬礼しウェンディに言うセイン。
「ここに私の味方はいないっス………」
そう呟きながら、クアットロに引きずられていった。
その後ケーキを美味しく食べた。
だが、ウェンディのケーキはクアットロのお腹の中に入ったらしい。
第28話 八神家のお好み焼きパーティー
零治達が翠屋に向かっているころ………
「ただいま~」
勢いよく私は家のドアを開けた。
「おかえりなさい、はやてちゃん」
家から私を出迎えてくれたんは我が家のお姉さん、シャマルや。
「はやてちゃ~ん!!」
小さい女の子が私の胸に飛び込んできた。
「リイン、ただいま。いい子にしとったか?」
「はいです。リインはいい子にしてたです」
リインは初代リインフォースが残してくれた欠片から生まれた融合騎や。
「いい子や。っとシャマル、頼んどいた事は?」
「言われたとおりキャベツは刻んでおいたわ。別にお好み焼きぐらい私が………」
「ヴィータ~。シャマル、余計なことしてへんやろうな?」
「お~はやて、おかえり。ちゃんと見てたから大丈夫だぞ」
私に返事した女の子は鉄槌の騎士ヴィータ。私の料理が大好きな小さい女の子や。
でも良かったわ、せっかくのパーティが台無しになるとこやった。
「ううっ、大丈夫なのに………」
信じられへんよ。今までの行いやとな。
「主はやて、おかえりなさい」
「ああ、ただいまシグナム」
私に声かけたんは、巨乳の元ニートざm………ヴォルケンリッターの将シグナムや。
そんな睨まんといてな………
「いつもより帰りが早かったですね。どうしたのですか?」
「今日こそお好み焼きパーティをせなアカンと思って、早く帰って準備しにきたんや」
「そうですか、ありがとうございます。我々のために………」
「いいんやって、零治君に教えてもらったスーパーが異常に安かったからや。たまにはみんなでパァーっと行こうや」
「主はやて…………何か手伝うことありますか?」
「大丈夫や、シャマルもおるし。休みも少ないんやからのんびりしててな」
「リインも手伝います~」
「ありがとな。リインも手伝ってくれるから大丈夫や」
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます」
そう言ってシグナムはリビングのソファーに座った。
「主」
「ああ、ザフィーラただいま。ちゃんとザフィーラのご飯も買ってきたんや」
そう言ってはやては台所に置いてあったある物を持ってくる。
「あ、主…………」
「最高級ドックフードや!!パーティなんだしパァーっといったで!!」
「あ、ありがとうございます………」
それ以上ザフィーラは何も言わなくなった。
嬉しすぎて言葉にでえへんのかな…………
「よし、なら早う準備しよかシャマル、リイン」
「分かりました。私は何をすればいい?」
「取り敢えず山芋すってもらってええか?なるべく細かくな。それ以外はなんにも触らんといてな」
「はやてちゃん、私は?」
「リインは私の手伝いな」
「了解です」
「…………それだけですか?」
不満なのかシャマルが聞いてくる。
「それ以外は私が見てへんと信用出来へんわ」
「うう…………いつになったら認められるんだろう………」
「一生ないんじゃないのか?」
「そんなことないもん!!ヴィータの意地悪~!!!」
そう言い残してシャマルは自分の部屋に行ってしまった。
「ヴィータ、余計な事言っちゃいかんよ」
「でもさぁ~あたしはシャマルの料理なんて食べたくねぇもん」
「まぁ私もやけど」
ホンマいつになったらちゃんと料理作れるようになるんやろう………
「まぁええわ、リインさっさと作ろ」
「はいです」
はやてとリインはまた手を動かし始めた。
「さぁ、みんな集合や!!!」
ホットプレートを机に置き、堂々と宣言する。
「「「「おおっ!!」」」」
「今日は四種類用意したんや。海鮮、豚肉、チーズ、そして、奮発して明太子や!!」
「「「「おおおおっ!!」」」」
「なのになぜドックフード………」
ガリガリとドックフードをむさぼるザフィーラ。
明らかに5人と違う雰囲気を出している。
だが、5人には気づいてもらえることはなかった……………
「さぁ~て焼けたで」
ホットプレートからの香ばしい香りがリビングを包む。
「まず、海鮮は誰が食べるんや?」
「では、私が」
シグナムの返事にはやてが焼けた海鮮のお好み焼きをとってあげた。
「ありがとうございます、主」
「あたしは明太子~!!」
「はいはい、どうぞ」
「サンキューはやて」
嬉しそうにヴィータがお好み焼きを受け取る。
「はやてちゃん、私のは?」
「リインは私と一緒な」
「はいです」
リインの声を聞いてから食べているみんなを見た。
「ホフホフ」
「ヴィータ、頬にソースがついてるで」
はやてはフキンでヴィータの頬を拭いてあげる。
「ありがと、はやて」
ヴィータカワええなぁ………
「あっ、熱いです!!」
「リイン、そんなに急いで食べちゃだめやで」
「はやてちゃん、私はチーズをもらいますね」
「どうぞ、シャマル」
いい具合に焼けて旨そうや。
「はやて、次は豚肉がいい」
「そんな焦らんといて、もうすぐやから」
「フフ、ヴィーダ美味しいか?」
「ああ、ギガウマだぜ!そう言うシグナムは?」
「エビがプリプリなのが最高だな。今度は明太子を食べてみたいな」
「リインはチーズです」
「もう少し待ってな」
「いえ、別にあおった訳では………」
「焼けたで!ヴィータとシグナムどうぞ」
「ありがとうございます、主はやて」
「サンキュー!!」
「リインも」
「ありがとです~」
来たお好み焼きをがっつく3人。
「もう、ヴィータもシグナムもリインも落ち着きないんだから………」
「いいやないか。こういうの久しぶりやから私も楽しいわ」
「そうね、最近はなかなか全員揃って食べられなかったですから」
シャマルの言葉に私も頷く。
みんな頑張ってるからなぁ。
やっぱ家族はいいもんや。
「さあまだまだあるで!!みんなたんと食べてな!!」
5人はこのあともお好み焼きを堪能した。
「主……………」
一匹を除いて………………
「でな、みんなに話したいことがあるんや」
片付けを終わらせみんな落ち着いた所ではやてが切り出した。
「闇の書の後に起きた事件覚えておるか?」
「確か、我らの分身………闇の残滓から生まれた者が起こした事件ですよね?」
「ああ、そうやシグナム。その生まれた私のそっくりさんが生きてたんや」
それを聞いて驚く3人と1匹。
「はやてちゃん、なんのことですか?」
「リインはまだ生まれてへんかったから分からへんよな………」
「リイン、闇の書の事件があった後にこんなことが…………」
ヴィータがリインに説明を始めた。
「そんなことがあったですかぁ~」
「そうなんだよ………ってはやて!!」
リインに説明していたヴィータがいきなり大声をあげた。
「大丈夫だったのかよはやて!!襲われたり………」
「大丈夫やヴィータ。彼女らは普通の人間として自分の家族と幸せに過ごしとるよ」
「人間ってどういう事なの?」
「詳しくは分からへんのやシャマル。でも敵意も無いし、魔力を完全に隠して隣町の中学校にも通っとる普通の女の子や。そのせいか、今までずっと海鳴市に住んどった私たちにも気づかれなかったんや。だがら、もし見かけても襲いかからんでいてな」
「了解です」
「あたしも分かったよはやて」
「私も大丈夫よ」
「私もOKなのです」
「ならOKや。あっちの都合がよかったら家に呼ぼうと思ってるん。そんときは仲良くしてな」
それに頷く八神一家。
「みんな楽しみにしててな」
そこで話も終わり、はやてはシャマルに洗い物を頼み、ヴィータとゲームで戦っていた。
『そうか、はやての家族も理解してくれたんだな』
「そうや、ライちゃんとヴィータなんか結構気が合うと思うで」
『でも本当に良かったよ。なのは達の時もそうだけど、襲われたことにもっと怒りを持っているのかと思ってたから………』
今、私は零治君に電話で会話しとる。
内容はご飯後に話した夜美ちゃんのことや。
「そんな子達や無いよ。みんな優しい子達や」
『そうか………いい家族だな』
「お互い様や。そんなの零治君だってそうやろ?」
『ああ、そうだな。…………お互い幸せ者だよな』
「どうしたんや?急に………」
『なのはから聞いた。はやての家族って夜天の書の守護騎士ってプログラムなんだろ?』
「そうやけど…………それが?」
『俺も家族がいなくて、星達が来るまで一人であそこに住んでたからな』
「でも妹もおるし、シャイデ先生もいたやんか」
『妹はともかく、シャイデは俺の保護者になってくれてるが、最初はあんなにフレンドリーな関係じゃなかったんだよ』
「そうなんか!?いつもの様子を見てると信じられへんわ………」
『まぁいつもの様子を見ればな………ともかく!!俺はずっと一人だったんだよ。だからな、俺ははやてには感謝してるんだ』
「何をや?」
『はやてが夜天の書の所有者にならなかったら俺は星達に出会うことはなかったからな。本当にありがとう』
「な、何言ってんねん!!いつもの零治君らしくないで?」
『そうだな、ちょっと感傷に浸っちゃったかな。明日も学校があるし、これくらいにするか』
「そうやな」
『はやて、お互い家族を大事にしような。たとえ血がつながっていなくても』
「そうやな。今度みんなで家に遊びにきてな。歓迎するで!』
『ああ、話しておくよ。それじゃあまた明日』
「明日な」
そう言って私は電話を切った。
「零治君、私と同じやったんやな………」
私と同じ、家族がいない。加奈ちゃんがいるけど、家庭が複雑みたいや。
「初めて、夜天の書の主で感謝されたな………」
闇の書として色々と罪を重ねてきた夜天の書。
その罪滅しでシグナム達は一生懸命頑張っとる。
「リインフォース、良かったな。初めて感謝されたで。私はもっと頑張るからな。だから私達を見守ってな………」
はやては今はいない6人目の家族の事を思い、眠りにつくのだった…………
第29話 神崎大悟VS加藤桐谷、イケメンバトル
さて、季節は5月中旬。あと1週間でみんなお楽しみ中間テストである。
真面目ちゃんな皆様はもう勉強を始めている。
いや、百歩譲ってするのは構わない。
だからって休み時間まで詰め込むなよ………
「もう、なんであんなに頑張るんかな?」
「だよなぁ………テスト勉強なんて3日前ぐらいにすりゃいいのに………」
「………私たちは普段してないから」
「難しい所が多すぎるんだよ………」
文句を垂れながら古典の教科書とにらめっこするなのは、フェイト。
昼休みの空いた時間を使って、なのは、フェイトの勉強を教えるためみんな、なのはの周辺に集まっていた。俺の机にはフェイトが座ってる。
俺はその前に座らせてもらい、隣に座っているはやてと談笑していた。
「ほら、無駄口叩いてないで手を動かす!!」
「フェイトちゃんそこ違うよ。そこは………」
その二人をスパルタで教えるアリサと丁寧に教えるすずか。
「で、あんたたちはやらないの?」
「俺はやらなくても大丈夫」
転生者を舐めちゃいかんぜ。
結構危なくなってきたけど………
「私は苦手な科目は無いから大丈夫や。最低限は取れるで」
「それでいいの?」
「大丈夫!大丈夫!!それにこんな早く勉強なんて出来るかいな」
はやての返事に呆れるすずか。
「零治、あんたも?」
「当然!!まだこれくらいの内容だったらオール80点は取れるだろう」
期末は少しやらないとまずそうだけど………
「何で真面目にやってないアンタがそんなで、なのは達がこんなに苦労しなきゃいけないんだろうね。ってなのはそこ違う!!さっきも言ったでしょ!そこは………」
「アリサちゃん厳しいよ~フェイトちゃん代わって~」
「フェイトちゃん、そこは………」
「すずかが何言ってるのか分からない………」
駄目そうだなこの二人。
「しかし暇やなぁ………」
「ああ、何か起きんかな………」
と外を眺めていた俺とはやて。
そんな時…………
「加藤桐谷!!お前に決闘を申し込む!!」
バカの大きな声が隣のクラスから聞こえてきた。
決闘って………
「零治君………」
「ああ、何か面白くなりそう………」
「ちょっと、二人とも!?」
フェイトの声を無視し、俺たちは隣のクラスへ行った。
「決闘?」
「ああ、決闘だ!」
俺の机の前に仁王立ちに立っている男。
確か神崎大悟だっけ?
零治から俺たちと同じ転生者と聞いているが………
「なぜ俺なんだ?」
「この学校にイケメンは二人もいらない!」
………何を言っているんだコイツ。
「お前の所為で俺の人気もガタ落ちだ!!だからどっちがいい男か勝負しろ!!」
「じゃあ、お前がいい男で。パフパフ」
俺は口でラッパを吹き、冷めた拍手を送った。
「な、舐めてんのかぁ!!」
まぁそうなるか。
俺にとってはどうでもいいことなんだが………
「その話よく分かった!」
「後は私らにお任せや!」
俺がその声の方を見ると、何故かベランダから侵入してきた二人、零治とはやてがいた。
「話は大体聞いた。要するにどっちが人気があるか決めたいんだよな?バカ」
「ああ、そうだとも。って誰がバカだ!」
「なら私たちにお任せや。三日後までに私たちがこの学校の女子からアンケートを取るさかい。その結果で多かった方の勝ちでええな?バカ」
「ああ、望むところだ!って何でバカ?」
「なら、まず写真を撮ろう。その写真でどっちがいいか決めてもらうから」
そう言って零治は自分の携帯を取り出した。
「よし行くぞバカ」
「よし来い!」
何故か分からないが俺の意見を聞かずに話が進んでしまった。
神崎はノリノリで写真を撮られている。
「じゃあ次は桐谷。えっとそのままでいいや」
パシャっと勝手に撮って勝手に終わりやがった。
「よし、これで良し。はやて」
「分かっとる、早速行動開始やな。私は1年生から聞いてくで」
「なら俺は3年生だ」
そう勝手に言って走って教室を出ていく二人。
「ふん、三日後を楽しみにしてるんだな」
ハーハッハーと笑い声を上げながら神崎も教室を出ていった。
「ということで手伝ってくれ」
そう言った俺の腹にアリサと加奈のボディブローが貫く。
シンクロ率高ぇな………
「アンタたち馬鹿じゃないの!?テスト一週間前でしょ!!」
「そうよ!!何考えてるのよ!!」
「まぁ待ってな」
そうだ相棒、言ってやってくれ!
「一週間前からやって何になるって言うねん!!学生なら一夜漬けに決まっとるやないか!!」
相棒、違う!!
「それに、これで桐谷君が勝てば、あのバカも身の程が分かって、少しは静かになるかもしれへんやろ?」
多分それは無いな。好感度を上げるために奮闘しそうだもん。
「それは………」
「そうかも………」
「すずかちゃんはなのはちゃんとフェイトちゃんの勉強を見ていないといけないから手が離せないのや。お願いや!手伝ってください!!」
「「はやて………」」
はやての必死さに二人も押し黙っている。
よし、相棒ナイスだ!!
「………なぜそこまでするの?」
加奈、なんていい質問。
これなら。
「……………決まってるやん。おもろいからやー!!!」
って違うだろ!!!
何でそこで本音が出るんだよ!?
みんなのためでいいじゃねぇか!!
「頼む、この通りや!!」
今更頭下げても………
「「いいわけないでしょうが!!」」
二人から拳骨をもらうはやて。
相棒………
あの後、賄賂でなんとか協力してもらいました………
「へぇ、面白いことやっているじゃない」
今、俺が話しているのは生徒会長の水無月楓先輩だ。カチューシャを着け、足まで届きそうな黒いロングヘアーが特徴の女性だ。
3年生に聞いているときに興味を持たれ話していた。
「やっぱ先輩もこの2人を?」
「ええ、やっぱり3年でも人気が高いわよ。…………ねぇ零治君?」
「はい?」
「私も協力してもいいかしら?」
「……………いいんですか?俺的にはありがたい申し出なんですけど、先輩3年ですし………」
「こんな面白そうなこと、やらなきゃダメでしょ!!その日の昼休み、結果発表は体育館でやりましょ。この結果を全校生徒にも聞けるように放送を流して…………」
俺はこの後、水無月先輩と3日後について話し合った………
当日………………
「どうしてこうなった………」
いつの間にか話が大きくなっていたらしく、二日目にはポスターまであった。
何故か生徒会公認になっていたし、会場が体育館になっていた。
「フフフ、今日は眠れたかい?加藤君」
「ああ、たっぷりと」
皮肉のつもりだろうが、俺にとってはこんなことどうでもいい。
今、俺たちは体育館のステージの上に立っている。
ステージ下には暇を持て余した生徒が大多数。
零治、覚えてろよ…………
『さぁ始まりました!!緊急企画!!神崎大悟vs加藤桐谷どっちの方が人気があるでしょうかイケメン対決~!!進行は2-A有栖零治と………』
『2-Aの八神はやてでお送りします!!』
あの二人………
『さぁてはやてさん、この二人の人気、本当に凄いですよね』
『そうですね。特に加藤君なんてまだ転校してきたばかりなのにほとんどの人が知っていました。流石イケメン』
『本当にどっちが勝つか分からない戦いです。果たして勝利し、聖祥1のイケメンの栄光を手にするのはどちらか!?…………それでは早速参りましょう、はやてさん』
『はい、了解しました。まずは一年生』
そうはやてが言うと、後ろからスクリーンが下りてきた。
『結果は…………………こうなりました!!』
ダダンッと効果音が鳴り響き、結果が映し出された。
神崎大悟 加藤桐谷
58 45
『おおーっと!?一年生から人気があったのは神崎大悟だぁー!!』
「よっしゃぁああああああ!!」
かなり大きいガッツポーズする神崎。
そんなに嬉しいか。
しかし、零治の野郎………
普段静かにしてるくせに、悪ノリすると本当に止まらなくなるな………
少しは自重しろっての!!
『はやてさん、一年生からのコメントをいくつかお願いします』
『了解です。「神崎先輩の笑顔が素敵です」「気軽に話しかけてくれて優しかったです」などがありました。いやぁ本当に人気がありますねぇ………さてここからは駄目なコメントです。「いやらしい目で見られている気がする」「すぐ、頭や手を握ろうとするところが嫌だ」このようなコメントがありました』
『さて、加藤桐谷のコメントは自分が………「クールな所が素敵です」「座って本を読んでいるところが絵になる」などのコメントをいただきました。なるほど、さっきとは違い、雰囲気が良いと言う方が多いですね。続いて駄目なコメントを。「何か恐い感じがした」「話しかけづらい」おっと加藤君はとっつきづらいんですかね?恐いや話しかけづらいとのコメントが多かったです。それがこの結果になったか!?』
余計なお世話だ。
『さて次は3年生だぁ~!!さぁどんどん行きましょう!!有栖君お願いします』
『了解です。結果は………………こうなりました!!』
ダダンッとさっきと同じように結果が写し出された。
神崎大悟 加藤桐谷
48 57
『今度は桐谷君の勝利です!!これで勝負は分からなくなりました!!それでは有栖君コメントよろしく~!!』
はやても随分テンションが高いこと………
『分かりました!!さて同じくコメントを見てみましょう………まずは加藤桐谷から。「クールで大人っぽい雰囲気が良い」「年下とは思えない」などのコメントをいただきました。続いて駄目なコメントですが…………特にありませんでした。3年生には大人の雰囲気がとても人気があったようです!!』
そういえば転生前も年上からの告白が多かったような………
『続いて私が神崎君のコメントを………「話しやすいのが良い」「あっちから気軽に話しかけてきてくれる」などがありました。話しやすいのがプラスになっていたようです。続いて駄目なコメントを「年上に馴れ馴れし過ぎ」「誰にでも声をかけていて軽そう」などがありました。先輩にはしっかりした対応をしなければいけませんね』
「ちっ、あまりに馴れ馴れしすぎたか………」
こいつはこの勝負に本当にかけてるな………
頑張れ神崎。
『さて、いよいよ最後です!!果たして同級生の評価はどうなっているのでしょうか!?』
『これは私も投票しております。では発表したいと思います』
ダラララララとお馴染みの効果音が流れる。
『2年生の結果は………………こうだ!!』
零治がスクリーンを指差し、スクリーンに結果が写った。
神崎大悟 加藤桐谷
18 74
ああ、神崎の奴固まってるな。
『圧倒的だぁ~!!!!』
はやての今日一番の声にそこにいた神崎が我に返った。
「馬鹿な!?ありえない!!同級生はほとんど攻略したはずだ!!」
ゲーム感覚かお前は。
『神崎君、静かにしてください。ではまず加藤君からコメントを読みたいと思います………「加藤君の年上の雰囲気が良い」「神崎よりマシ」…………………えっと………やっぱり年上の雰囲気が好きな方が多いらしいですね!!では有栖君、神崎君のコメントをどうぞ』
はやてもストレートすぎて、少し戸惑ってたな。
俺も驚いたけど………
『はい了解しました。では……………………………えっと………』
『有栖君?どうしました?』
『あ、では読みますね。「目がいやらしい」「変態」「女たらし」などがほとんどです…………えっとドンマイ』
…………ドンマイ。
「ま、待ってくれ、良いコメントもあるはずだ!!」
勇気あるなぁ………せっかく零治が気を利かせたのに自分からほじくりかえすなんて………
『それが…………ないんです』
「嘘付け!!だったら俺は0票だろ!?」
『それは「加藤君が恐いからまだ神崎君の方がマシとの意見がほとんどです』
そう聞き、神崎は固まった。
これは………どうしようもないな。
『ということで神崎大悟vs加藤桐谷のイケメン対決は加藤桐谷君の勝利です!!』
はやてが多少無理やりしめた。
『勝利者の加藤君一言どうぞ』
どうぞじゃねぇよ零治………
「えっと…………勝ちました。投票ありがとうございます」
そう言って俺はマイクを零治に返した。
『どうもありがとうございました!!これにて終了とさせていただきます。協力してくださった皆さんありがとうございました』
零治が締め、この企画は終了となった……………
「良かったよ、零治君、はやてさん」
「どうもっス先輩」
「ありがとうございます」
舞台裏、企画が終わり、俺達は会長と話していた。
「でね、早速だけど次はこんな企画をやろうと思ってるんだけど………」
「へぇ、面白そうじゃないですか」
「わ、私もですか?」
「そうよ。あなたも男子から人気あるんだから」
「俺は構わないですけどいつやるんです?」
「うーん、私的には期末が終わってからにしようかなと思ってるんだ。そうしたほうが盛り上がるでしょ」
「なるほど、俺はOKですよ。今回協力してもらいましたし、協力します」
「はやてさんは?」
「私も大丈夫です。私も出るのはちょっと気が引けますけど………」
「いいのいいの。はやてさんは綺麗なんだからもっと自信を持ちなさい!じゃ時期が近くなったら呼びに行くわ」
「はい分かりました」
「じゃ、今日はありがとね」
そう言って会長は行ってしまった。
「ああ~疲れた」
「零治君、普通にみんなの前で話したりするの平気やったね」
「そう言うはやてこそ」
「私は仕事柄人前で話すのには慣れてんよ」
「そうだったな」
「ねぇ、零治君…………」
「何だ?」
「私ってそんなに綺麗かなぁ?」
「普通に綺麗だろ」
俺の言葉に驚くはやて。
「何かおかしいか?」
「いや、真顔で言われたんでつい………」
「普通に男子の8割がそう言うと思うぞ」
「お、おおきにな………」
?何か様子がおかしいような………
キンコーンカンコーン
「やばっチャイムが!!はやて、さっきのこと内緒な」
「あ、うん」
「ほら、急ぐぞ!!」
「待ってな零治君!!」
俺たちは走って教室に戻るのだった。
だが、その後桐谷にどつかれ、午後の授業は保健室で過ごすこととなった…………
「なぜ……………」
俺は一人、便器に座って今日の事を考えていた。
「完全勝利のはずなのに………」
なぜ、負けたんだ?
ニコポなど完璧だったはず。
なのに……………
「ありえない………こんなことはありえない!!」
俺は便器から立ち上がり一人の男を思い浮かべた。
「あいつのせいだ…………あいつの………」
司会をしていた、なのは達を脅している元凶。
「おのれ…………俺は決してこんなことではくじけないからな………」
零治に復讐を誓う神崎だった。
第30話 みんなで勉強会
「分からないー!!!」
バン!っとシャープペンを机に思いっきり置くライ。
「ライちゃん、図書館では静かにね」
「でも、すずか〜………」
「授業中いつも寝ているライが悪いんだろうが………」
「うっ!!」
「そうですね。よだれを垂らしながら寝言でハンバーグって言ったときはこっちが恥ずかしったです」
「ううっ!!」
「それにこの前なんかは………」
「もう止めて星、夜美!!分かったよ、僕頑張るから!!」
そう言って再びシャープペンを持ち直したライ。
「そうそう、私も見てあげるから頑張ろうね」
「ううっ、ありがとうすずか………」
嘘泣きだろうが涙を見せ感謝するライ。
「みんな大変やなぁ〜」
「…………何人事みたいに言ってるのよ!!」
アリサがでかい声ではやてに言う。
「アリサ、やかましい。図書館ぐらい静かにしてろ」
「それは悪かったけど、でもはやてに問題が………」
「私は何も悪いことなんてしてへんよ?」
「今日は勉強するって言ってたじゃない………」
はやてはみんなが勉強している中、片手にジュースを持って雑誌を読んでいた。
「アリサちゃん…………ここどうやるの?」
「だからさっきも言ったじゃない!!なのは。そこは…………」
アリサも大変そうだな。
でもあっちも…………
「フェイト、また同じところ間違えてる。ここは四段活用よ」
「ううっ、違いが分からないよ………」
加奈がフェイトに古文を教えている。
フェイトはもう古文と国語以外は全く問題ない。日本史も頑張って覚えたらしい。
だが古文が絶望的で、一向に進んでいないようだ。
で、なのははと言うと……………
「うう〜やっと終わった………」
「終わってないわよ。次は日本史。ちゃんと言ってきた所は覚えてきたんでしょうね?」
「………………うん」
「なのは?返事に間があったような気がするんだけど………」
眉をピクピクさせながらアリサがなのはに言う。
なのはは古文、国語、日本史がアウト。
フェイトみたいに暗記が得意って訳ではないので日本史が特にまずいらしい。
戦国時代と幕末については伝説の剣豪やら、裏話まで詳しいのだが、それ以外は全く駄目らしい。そして今回の範囲は鎌倉後期から室町後期まで。見事に被っていない。
古文と国語はなんとか赤点を免れるぐらいの点数。
正直一番心配だ………
「だったらお前も教えてやればいいじゃないか」
俺の隣でテスト勉強………というより大学受験の問題を解いている桐谷。
キモッ………
「口に出てるぞ、お前。ってお前も少しは勉強したらどうだ?」
そう言って俺の前に大学受験の問題集を俺の前に置く。
「……………こんなの出来るか」
俺は転生してきてもう6年だぞ!?
転生して間もないお前と一緒にするな。
それでも出来なそうだけど………
「桐谷、そこは違うぞ。ここは………」
と大学受験の問題を指摘するフェリア。
お前も少しは自重しろ………
設定は中学生だぞ!?
このレベルの高い空気に耐えられなかった俺は急いではやての所へ退避した。
ここは海鳴市立図書館。
はやてが車椅子時代によく利用していた図書館だ。
今日はテスト前の最後の休日。月曜日にはテスト本番である。今、俺たちはここにある自習室をほぼ占領して勉強会をしている。
なぜこうなったのかは昨日の夜の出来事が発端だ…………
「レイ〜!!助けて!!」
テストまで後3日になり、星の中学校も同じ時期にテストがあるため、我が家も俺とフェリア以外は勉強に熱が入っていた。
そんな我が家で俺はリビングのソファーに座りながら優雅にあったかい緑茶を飲んでいたときだった。
声をあげながらライが俺の背中にダイブしてきたのは。
その勢いで俺は含んだ緑茶を向かい側に座っていたフェリアにかけてしまう。
「レ〜イ〜ジ〜?」
「待て!?これはライが、だからナイフしまってくれ!!」
俺の思いもむなしく、結局オシオキされました…………
「エヘヘ、ごめんね」
「ったく、優雅なひとときを台無しにしやがって…………」
ボロボロになりながらも俺はライに言った。
「で、何か困ったことがあるんだろう。どうした?」
「それはね……………」
何かもぞもぞし始めたけど…………
変なことじゃないだろうな。
「僕に勉強教えて!!」
とこんなことがあり、ついでだからみんなで勉強しようと俺がみんなを誘ったことが始まりだ。
星から話を聞いたのだが、ライは授業中いつも寝ているらしい。
寝ているのは別に良い。だけど星達が勉強を教えていても直ぐに脱線して手に負えないらしい。
そこで俺に白羽の矢がたったのだ。自分たちの勉強もしたいと俺に協力を求めてきた。
なので、俺はなのはたちも猛勉強中だったのを思い出し、一緒にしようと誘ったのだ。
というよりライの勉強をみるのが大変そうだから押し付けたかった……………
見事、すずかはごねるライを上手に教えてくれている。
そのおかげで俺はゆっくり小説を読んでいられる。
今度何かお礼しなくちゃな…………
「分からないよ〜零治君、ここ答え何?」
「承久の乱」
「ありがとう、零治君」
お礼を言って再び問題を解き始めるなのは。
だが直ぐに手が止まってしまう。
何かさっきからずっと同じな気が………
「………一回確認しながら答えさせたらどうだ?」
あまり口出しするつもりは無かったが、俺はアリサに聞いてみる。
「でも、本番は2日後よ」
「でも、ただ問題を解くにしても知識が無さすぎて、中々先に進んでないぞ………」
アリサの勉強方法はとにかく問題を解いていくスパルタなやり方だ。
なのはも分からない所は聞いているが、何分分からない所が多いみたいで。なかなか進んでいない。
「そうね、なのはがちゃんと勉強してきたのを前提に考えていたから………で、何かいい案があるんでしょうね?」
「普通に分からない所は自分で調べさせる。それで取り敢えずは全部空欄を埋めさせて、それからもう一度問題をやらせて分かるまで繰り返す。そうすれば出来るようになるだろう」
本当に理解できるかは微妙だけどな。
「それって集中力より根性ね………」
「数やれば流石に覚えるだろ。そっちの方がいいと思うけどね」
しばらく考えるアリサ。
「分かったわ、それで行きましょ。なのは、方法変えるわよ」
アリサは早速説明している。なのはの顔は青くなるばかりだが………
まぁ頑張れ。
俺も再び読みかけの本の続きを読み始める。
ふと、本棚に手を伸ばして一生懸命取ろうとしている女の子がいた。
俺は立ち上がり声をかけた。
「これか?」
「えっ!?うん」
確認がとれたので俺は本を取ってあげ、女の子に渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
笑顔で俺にお礼を言って、女の子は走っていった。
「優しんやな」
「別に、普通だろ」
話しかけてきたのは雑誌を持ったはやてだ。
どうやら雑誌を片付けに来たらしい。
「そういうことを普通に出来る人って意外と少ないんやで」
「………そんなもんか?」
「そんなもんや」
何が嬉しいのか笑顔で俺に言うはやて。
「普通にいると思うけどな………」
「珍しく謙虚やないか」
「珍しくとはなんだ。俺は謙虚で優しい少年だよ」
俺は冗談交じりに言った。
「あながち間違いやないんやけど……………」
ん?聞こえなかったけど何か言ったか?
「はやて?」
「ああ、なんでもないんや。ほな、雑誌戻してくるな」
そう言って雑誌コーナーに向かったはやて。
「………何かいつもと違うような」
そう呟いて自分の席に戻った。
「レイ〜教えて〜」
戻った俺を待っていたのは、すずかに教えてもらっていたライが俺の席に座ってだらけていた。
「お前何やってるんだ?すずかに教えてもらってたんじゃないのか?」
「すずか、いきなり家の用事が出来て家に帰っちゃったの」
マジか………
「ねぇ、だから教えてよレイ〜」
俺に席を譲ったかと思いきや、背中に乗ってきたライ。
「分かったからくっついて来るな。暑いだろ!」
「いいじゃん。レイの背中って大きくてあったかいんだもん」
「勉強するんだろう?いいから隣に座れ!」
「は〜い」
渋々俺の背中から降り、隣に座ったライ。
「いいな……………」
「えっと、アリサちゃん?」
二人を羨ましそうに見るアリサ。
「何故いつもライばかり………」
「夜美はお姫様抱っこされたことがあるじゃないですか。私はそういう事は一度も………」
「なら言わせてもらうが、星が一番幸せ者だぞ!レイと二人っきりでデートして………」
「デ、デートなんてそんな………」
顔を赤くして口ごもる星。
「くっ、今度は我の番だからな!!絶対付いてくるなよ!!」
「それは約束できません。あの時は邪魔が入りましたからもう一度です」
キャイキャイ騒ぎ始める星と夜美。
「ライ、あの無邪気さが憎い………」
「う〜ん、う〜ん………」
フェイトがかなり困っている顔をしているのにそれに全く気づかない加奈。
「何かみんな集中力切れてきてるな」
桐谷とフェリアは相変わらず大学受験の問題集を解きまくってるけど………
あの二人は例外だな。
「レイ〜ここは?」
「そこはこうして………」
なのはが一番まずいと思っていた俺だったが、ライもかなりまずいレベルだ。
ライは得意科目が体育のみの元気っ子な為、じっとしている事がかなり苦手みたいだ。
何が言いたいのかと言うと、得意科目がない。
恐らく今のままテストを受ければ、平均30点ぐらいの点数になるだろう。
すずかのおかげで、英語と日本史はそれなりの点数を取れるぐらいにはなったらしい。
後は数学、国語、理科か…………
数学、国語はともかく、理科は一番苦手なんだよな。
「あら?席を変えたんか?」
「おおはやて、いいところに来た。ライの勉強見るの手伝ってくれないか?俺って理科結構苦手なんだよ………」
「別に構わへんで」
「助かるよ」
こうして、俺とはやてによるライの勉強会が始まった。
のだが………
「ねぇレイ、ここは?」
「そこは………」
「なぁ零治君、ここってこうやっけ?」
「違う、そこは………」
「零治君、終わったの。次はどうすればいい?」
「アリサー!!どこ行った!!」
「アリサちゃん、急用で急いで帰っちゃって………」
アリサ、お前もか………
お嬢様組はいったいどうしたんだ!?
上記で分かるようにまさかの俺一人に対し、3人がそれぞれ聞いてくるという、訳の分からない状況になってる。
つうか、はやて!テメェは教える側だったろうが!!
「いやぁ、全然分からへん」
ハッハッハと笑い飛ばすが、俺は全然笑えない。
何で俺が3人のめんどうを見なくちゃいけないんだよ………
「そうだ!桐谷とフェリアに………」
「あの二人でしたら更に難解な問題を解いてみると資料を探しに………」
星の説明で俺は希望を失った。
誰かヘルプ!!
「レイ、私達も手伝いますか?」
「えっ!?いいのか?」
「我も十分に勉強できた。もう大丈夫だろう」
ああ………こんな近くに女神がいる。
「ありがとう、二人とも。よろしく頼む」
こうして1対1で教えることになった。
「全く、何度言えば分かるのですか?」
「ご、ごめんなさい…………」
「いつまでも魔法少女でいられないのですよ。いい年なんですから魔法をぶっぱなしてばかりじゃ駄目なんです」
「ぶ、ぶっぱなしてって………で、でも仕事で………」
「最低限勉強を出来た人がいう言葉ですよ。理解できますか?戦闘狂」
「せ、戦闘狂………」
「あなたは学生なんですから勉強に支障が出るなら辞めるべきですよ」
「そ、それは嫌!!」
「だったら死ぬ気でやりなさい」
「は、はい!!」
………星、めっちゃ恐いんだけど。
なのはに何か恨みあるだろ。
「なのはちゃん、御愁傷様やな………」
「星、いつものお前はどこに………」
はやてと夜美も星の変化に戸惑っているみたいだ。
「レイ、優しく教えてね………」
「お前次第だが、星みたいにはしないよ」
ライも俺が星みたいになるのかと不安になっているみたいだ。
「加奈、星っていつもあんななの?」
「いいえ、いつもは落ち着いてる子なんだけど」
フェイトは星の事をまだよく知らないので勘違いしそうだな。
その後も星の拷問はなのはの精神を削っていったのだった………………
「私は恥ずかしくない………私は恥ずかしくない………」
ブツブツと何かを呟いているなのは。
「な、なのは!?」
慌ててなのはに近づくフェイト。
夕方になっていたので勉強会もお開きになったのだが、なのはの様子がおかしかった。
「………何があったのだ?」
「フェリア、世の中には知らなくていいことがあるんだ………」
「何をしてたんだお前ら………」
桐谷の言葉も分かるが、俺はなにも言えない。
星が恐くて………
「大丈夫ですよ。ちゃんとテストも出来る筈です。出来なかったら………」
ニコニコしながらなのはを見る。
「分かってますよね?高町なのは」
「ひぃ!!」
怯えてるんだけど。
「ねぇ、大丈夫でしょ」
「ああ………」
「そうだな………」
なにも言えなくなるフェリアと桐谷。
その後、星はいつも通りだったが、誰も星に逆らうことがなかった………
「ど、どういうこと?」
テストも終わりすべてのテストが帰ってきた。
アリサの言葉は最もだ。
何故ならばなのはが平均80点を取ったからだ。
「どうしたの、なのは!?」
「えっ!?別に普通だよ」
「普通ってあんなに苦労してたのに………」
「うん、でも点取らないと………」
ブルブル震え始めるなのは。
「………いったいあの後何があったのよ?」
「アリサ、世の中には知らなくていいことがあるんだ………」
次に星があんな風になったら全力で止めよう。
そう心に決めたのだった。
第31話 とある梅雨の一日
「おはよう、零治!」
「おはよう、零治君」
「はよ〜す」
テストも終わり梅雨シーズン。ジメジメと熱くなってきて寝づらい時期になってきた。
テストはみんな思った通りにいったみたいだ。
なのはは当然、フェイトもなんとか古文を45点まで持っていた。
それでみんなハッピーといきたかった所だったが、1人問題があった。
「どうしてこうなったんや………」
「自業自得だ」
はやてが苦悩して課題をやっている所にフェリアが冷たく言った。
「ふぇ〜ん、フェイトちゃん………」
「はやてが悪い」
「なのはちゃん………」
「少しは反省するべきなの」
「すずかちゃん………」
「二人の言うとおりだよ」
「零………」
「眠いから却下」
「何でみんな放置なんや!!放置プレイか!?」
はやて、女の子がそんなこと言うな。
「何で私たちの名前が無いのかしら………」
「本当に失礼ね………」
「全くだ」
それぞれ文句を言うアリサ、加奈、フェリア。
「当たり前やん。フェリアちゃんはともかく、二人はドSやないか」
「ドSって………」
「いい度胸ねはやて………」
眉をピキピキさせながら怒りを露にする加奈。
「レイ、ドSってなんだ?」
そうか、そんな知識知るわけないか。
「ドSってのはな、なのはやアリサ、加奈のように人を痛めつけて快感を得る頭のいかれた奴らのことだ」
「なるほど」
ポンっと手を合わせるフェリア。
「零治君、生きてまた会おうね」
「無事に帰ってきてね」
フェイト、すずか?
いきなり何言ってるんだ?
まるで俺が今から戦場に行くみたいに………
「………零治君?」
「何だ?なの………」
その瞬間悪意に満ちたプレッシャーに俺は何も言えなくなる。
「いい度胸ね、何が変な奴ですって?」
「兄さん、本人を前にしてよくそんな風に口が回るわね………」
3人がそれぞれ近づいてくる。
「お、俺が一体何をした!?」
「零治君………」
「すずか、お前もあいつらに………」
「ドSで頭のいかれた奴って言ってたよ………」
…………………そうだった!!!
「零治君オハナシする?」
「断る!!」
俺は初めてなのはのプレッシャーから逃げる。
「逃すと、」
「思ってるの!?」
逃げた先に、アリサと加奈が立ちふさがる。
「クッ、3対1とは卑怯な………」
「安らかに眠ってな」
「頑張れ〜零治君〜!」
「「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね………」」」」
「いいなぁ俺も罵られたい………」
はやてとクラスメイトが俺に好き勝手声をかけてくる。
いろいろ言いたいことがあるが………
神崎組、後で覚えてろ。
「零治君………」
魔王様がゆったり近づいてくる。
「くそ、どけ!!」
俺はフェイントを混ぜ、アリサと加奈の間を抜けようとした。
「甘いわ!!」
俺が抜ける瞬間に俺の後ろ足に足を引っ掛け俺を転ばすアリサ。
俺はなんとか手で着地し、直ぐに立ち上がろうとする。
「本当に甘いわ兄さん」
「うがっ!?」
俺の背中に足を乗せ、立ち上がらせないようにする加奈。
「くそ………」
「お遊びは終わりかな?」
いつの間に俺の目の前にいたなのは。
「さぁオハナシなの………」
俺の制服の襟を掴み運ぶなのは。
いつも思うけど、どこからそんな力が………
「ちょ!?待て!!た、助け………」
俺の腹にアリサのボディブローが貫く。
「静かになさい」
アリサの冷たい一言にクラスみんなも静かになる。
「さぁ行きましょ」
俺は結局3人にズルズルと連れて行かれることになった。
「またあいつは何かやらかしたのか?」
入れ違いに入ってきた桐谷がフェリアに聞く。
「ああそうだが………桐谷」
「何だ?」
「お前はドSか?」
「えっ?」
桐谷はその後フェリアを誤魔化すのに苦労したのだった………
「朝は本当にひどい目にあった………」
「お前ももう少し言葉に気をつけろ」
昼休み、俺は肩を抑えながら廊下を歩いていた。
「「「有栖先輩、加藤先輩こんにちは」」」
「よっす。元気だな一年生は」
そんな俺たちに一年生の女の子3人組が声をかけてきた。
「先輩、悲鳴聞こえましたよ。いつものですか?」
「ああ、いつものだ。お前たちもうちのクラスにいる魔王には気をつけろ。おはなしって言葉が出たら即座に逃げろ。じゃないとトラウマになるぞ…………」
「大丈夫ですよ。有栖先輩だけみたいですから………」
「そうなのか!?」
「お前、気づいてなかったのか?」
桐谷にも言われる俺。
そういえば俺にしかやっていないような……………
「それじゃあ、失礼します」
「ああ、転ぶなよ〜」
俺達から離れていく女の子達。
「零治、知ってる子か?」
「いいや、知らない」
「…………どれだけフレンドリーに話してるんだよ」
「いやぁ、あのときから色んな人から声かけられんだよ」
あの時とは体育館でやった、イケメンバトルである。
あの後から、学年関係なく声をかけられるようになった。
「お前もか………」
「桐谷もか?」
「ああ、ラブレターなんかも渡されて正直迷惑だ」
神崎組に聞かれたら処刑もんだな。
「そんなこと言うなよ。相手はマジなんだぞ」
「だからいちいち答えを返すのがめんどくさいんだよ」
ここがコイツの良いところだよな。
別に無視しても構わないのに、律儀に断りに行くからな。
だからこそ、あのバカみたいに人気が落ちないんだよな………
「まぁいいや、早く俺たちも教室に戻ろうぜ」
「ああ、そうだな」
俺たちはそれぞれの教室に戻っていくのだった。
「いったい何があった!?」
俺の言葉は最もだと思う。
教室に入った瞬間、バカが血を流し倒れているのだから。
「おい、フェイト!」
「どうしたの、零治!?落ち着いて」
「落ち着いていられないだろ、完全に殺人事件だぞ!!」
神崎組だって歓喜の涙を………………
って何で?
「流石、神崎君。みんなが羨ましがるオハナシを受けられるとは」
「流石はリーダー!!」
「一生ついていくッス!!」
神崎は神崎組の二人に肩を担がれ立ち上がる。
「よく言った、同士諸君。我が宿敵有栖零治を倒し、一緒にハーレムを目指そうじゃないか」
宿敵ってなんだよ………
満身創痍ながらも神崎組に宣言するバカ。
「行くぞ、みんな!!」
ぞろぞろ連れて、教室から出ていく神崎組。
後5分で授業なんだけど。
「フェイト………」
「神崎君がしつこく話しかけてきて、あまりにしつこかったからアリサと加奈が………」
なるほどね。
それで歓喜してたのか。
お前らの人生それでいいのか?
「でもアリサちゃん、零治にやるお仕置きはこれの3倍はあるから手加減してるんだけどって」
俺ってマジで化け物だな。
ディストーションフィールド要らなくないか?
結局、神崎組が帰ってきたのは授業が始まって30分後だった………
「暑い………」
5時間目、雨が降ってきて、余計ジメジメしてきた。
「暑い、暑い」
「………………」
「暑い、暑い、暑い」
「………………」
「暑い、暑い、暑い、暑い」
「………………」
「暑い、暑!!」
「うるさいの」
鈍い痛みを感じ、俺はその場で意識を失った………
「鬼だな………」
その様子を見ていたフェリアは呟いた。
「あれ?いつの間に寝ていたんだ?」
俺が起きたら5時間目の休み時間だった。
「始まってすぐだよ。私も今日はちゃんと授業を受けたかったから無視してたんだ」
「そうなのか。でもこの頭の鈍い痛みは………」
「変な夢でも見たんじゃない?」
「そうか、そうだよな。なのはが俺の頭に何かしたのかと思ったよ」
「違うぞ零治、なのはが………」
「フェリアちゃん、世の中には知らんでええこともあるんやで」
フェリアの口をふさぎはやては言った。
「でも記憶がチグハグなような………」
「細かいことは気にしないほうがいいよ」
「まぁそうだな。どうでもいいだろうし」
フェリアは零治がなのはに毒されている事に不安を覚えたのだった。
ピンポンパンポン………
『2ーA組、有栖零治君、八神はやてさん、至急生徒会室に来てください』
ちょうどHRが終わった矢先、こんな放送が流れた。
「何故に!?」
「零治、また何かしたの?」
フェイトの冷たい視線が俺に突き刺さる。
「はやてちゃんもだけど………」
「なのはちゃん、それはないわ。今日はずっと課題やってたからなにもしてへんで………」
「ただ単に会長が俺たちに用があるんじゃないのか?」
「そうやね。だったら急ぐべきやないか?」
「そうだな、みんなは先に帰っていてくれ」
俺はそう言い残してはやてと共に教室を出た。
「単刀直入に言うわ。零治君、次の生徒会長あなたがやりなさい」
生徒会室に着いたとたんの会長の第一声がこれだった。
なぜか分からないが、カーテンをすべて閉め、部屋を暗くし、会長の机にあるスタンドだけがついていた。不気味すぎる………
なので俺は………
「間違えました、失礼します。いくぞはやて」
「う、うん」
俺ははやてを連れて生徒会室を後にしようとする。
「ちっ仕方がない、確保ー!!」
会長の掛け声と共に暗闇から現れる生徒会員。
「ちょ!?確保って!」
「どこさわってんねん!この変態!!」
俺とはやては最初こそ撃退したが、いきなりでしかもこちらは2人。あっという間に拘束された。
「流石は零治君とはやてちゃんだね」
「何の真似です?」
「だって2人、直ぐに帰るんだもん」
「そりゃ、こんな不気味な所に入りたないわ」
未だに電気は会長の机にあるスタンドだけ。
部屋の電気はまだ点けていない。
「で、何のようです?」
「勧誘。零治君には次の生徒会選挙に出て欲しいのよ」
「生徒会選挙?そんなのあったっけ?」
「零治君、寝てたやろ………」
「生徒会選挙は生徒会長を決める選挙よ。会長だけは選挙で決めるのよ」
そうなのか。前の学校は全部の役職を決めてたからちょっと違うな。
「他の役職はどないするんですか?」
「なんだ、はやても知らないじゃん」
「やかましいわ」
「他の役職は会長が自分で集めるの。自分がやり易い生徒会がいいでしょ」
それだと遊びみたいにならないか?
まぁそれも会長次第ってことか。
「で、何で俺なんですか?」
「前の時も思ったんだけど、零治君って自分で思っている以上に人を引き付ける力があると思うの。はやてちゃんと二人のコンビだったらこの中学がもっと面白くなると思ったから」
何かいつの間にか凄い評価高いんですけど………
「確かに零治君はそんな感じするなぁ」
はやてまでかよ………
「嫌ですよ。俺、そんな柄じゃ無いんで………」
「そう、まぁいいわ。すぐいい返事をもらえるとは思っていなかったから。取り敢えず頭には入れといて頂戴」
「まぁ了解しました」
「じゃあ次は期末のあとにやる企画の事を相談しましょう」
その後、俺とはやては何故か生徒会メンバーと一緒に下校時間ギリギリまで打ち合わせをしていた。
「零治君、ええんか?」
帰り道、そのままの流れではやてが会長との話をしてきた。
「ああ、俺は嫌だよ。俺は基本、静かに平凡に過ごしたいんだよ」
「でも、私も会長が言う通りだと思うで。私達も直ぐに零治君とは親しくなれたやん」
「お前たちが変わってるんだよ」
お前たちは人が良すぎるんだよ。学校の省かれ者の俺に簡単に話しかけてくるところなんかは。そんなんじゃ、いつか足元をすくわれると思うぞ。
「………世の中はそんなに優しくはないからな」
「?何のことや?」
「独り言だ。それにはやては管理局員だろ。そうなると副会長に出来ないだろうが」
「そ、それって、私が…………」
「はやてを巻き込めないならやったって意味ないだろ」
「そうやろうと思ったわ!!」
頭をハリセンで叩かれた。
なして?
その後、はやては不機嫌だったが、下らない話をしながら俺達は帰路に着いたのだった。
第32話 マテ娘達の学校生活
「行ってきます」
私たちの学校は隣の遠見市にあるため、レイとフェリアよりも朝早くでなければなりません。
「ほらライ、しっかり歩け」
「眠いよ〜」
テストが終わって嬉しかったのかレイと朝方までゲームしてたらしいですからね。
レイは大丈夫でしょうか………
「おはよう星さん」
「おはようございます」
私達三人は同じクラスの2−4です。
みんな落ち着いており、周りと比べるととても静かなクラスです。
「ライ、昨日ここで詰まったんだけど………」
「ああ、そこはね………」
ライはクラスの男子とゲームの話をしてますね。
ライは活発で男子の方が話が合うみたいなのでよく話しています。
「………………」
夜美はついた途端、小説を読み始めました。
夜美はあまり自分から話しかけたりしません。けど決して省かれているということでは無いのですが………
ちょっと心配です。
レイに話した所、夜美はそんなに気にしない奴だから大丈夫だって言ってましたけど。
夜美もっとクラスに馴染んでほしいのですが………
「ほら、静かにしろ。授業始めるぞー!!」
今日もまた一日が始まりました。
「くか〜くか〜」
ライは反省というものが無いのでしょうか?
また一時間目から爆睡しています。
お願いですから黙って寝てください。
「レイ〜」
ああ、また男子の顔が変わりました。
ライは男子にとても人気があります。
なので、レイの存在がとても気になるようです。
レイが襲われるような事がなければいいのですが………
「クラス委員この教材、準備室に持っていってくれ」
私はクラス委員をやっているので色々と先生の手伝いをしたりします。
「少し手伝うか?」
「ありがとう夜美。ではお願いします」
よく夜美は手伝ってくれるので助かります。
私のもう一人のクラス委員はすぐサボるので話になりません。
一度、オハナシするべきですかね……………
「……………星顔が恐いぞ」
はっ!?危うく飛ぶところでした。
危ない、危ない………
「だから、なるべく一人に出来ないのだ…………」
何か呟いたような気がしますが気のせいでしょう。
「今日はバレーボールをします」
3時間目の体育の時間、今日は雨が降っているので女子はバレー、男子がバスケみたいです。
「いっくよ〜」
ボールを高々と上げジャンピングサーブ。
相変わらす運動神経抜群のライ。
「甘いな」
それを難なく受け止めてボールを上げる夜美。
夜美もライほどではありませんが、運動が得意です。
「星ちゃん、行ったよ」
「りょ、了解です!」
私は…………
「あう!?」
ボールの落下地点を間違えてしまい、頭で受け止めてしまいました………
痛いし恥ずかしいです。
私も運動は嫌いではありませんし、走ったり器械運動などは得意なのですが、何故かボールを使う競技だと全然駄目なんです。
一体なんでなんだろ……………
「星、何であんなにゆっくりなボールを頭で受け止めるんだ?」
私にも分かりませんよ………
「夜美、人には得意不得意があるんだよ」
ライ、それはバカにしてます。
ライにはその気は無いのでしょうが………
「じゃあ、次行くよ〜!!」
さっきと同様にライがジャンプサーブを打ち込みます。
でもそのたびに男子の目線が凄いです。
ライが動くたびに動くその………む、胸が!男子に直視されてます。
やっぱり男子は大きい胸が好きなのでしょうか………?
レイもやっぱり………
「星ちゃん!!ボール!!」
「えっ!?ギャン!!」
スマッシュが今度は私の顔に直撃しました………
「全く何をしているのか………」
「ごめんなさい、夜美」
手を差し出してくれた夜美の手に捕まり立ち上がります。
鼻血は出ていませんが、顔がものすごく痛いです。
今日の体育は散々でした………
「星、今日は大変だったね」
「まだ顔が痛いです………」
ただいま給食中です。
ライとは同じ班なので一緒に食べています。
「でも見事なへディングに顔面キャッチだったよ」
「言わないでよ、吉井君………」
やっぱり男子も見てたんだ…………
とっても恥ずかしいです。
「星も大人気だね」
「嫌ですよ、そんな人気」
みんなに笑われてしまいました……………
「もう、みんな酷いです………」
給食は笑われて終わりました。
「夜美」
「どうした、星?」
「この前借りた本の続きってどこにあるんですか?」
「ああ、あれは…………」
今は昼休み。
私は大体、夜美と図書室に来ます。
夜美は本が好きなので、毎回来ているようですけど。
ちなみにライは………………
「シュート!!」
「うおっ!!」
サッカーゴールにボールが突き刺さった。
「ゴール!!」
「相変わらずえげつないシュート蹴るよな………」
「ああ、実にけしからん………色々と」
男子に混じってサッカーをしています。
本当にじっとしているのが苦手な子なんですから…………
「あっ、あった」
私は本棚にあった小説を一冊取って、夜美の向かい側に座りました。
これが私達の昼休みの過ごし方です。
「ライちゃん、テニス部に遊びに来る?」
「うん、行く!」
ライは放課後には色々な部活に遊びにいきます。
「星、先に帰るぞ。何かあるか?」
「いいえ、大丈夫です。気をつけて夜美」
「ああ」
そう言って夜美は帰っていきました。
恐らく市立図書館に向かったのだと思います。
私は今日はクラス委員の仕事なのでそちらに出なければなりません。
今日の晩御飯どうしましょう………
帰り道、私に電話がかかってきました。
相手はシャイデさんです。
『今大丈夫?』
「はい、大丈夫ですけど、どうしたのですか?」
『ちょっと聞きたい事があってね、星達ってなのは達にもうバレたわよね?』
「はい、そうですけど………」
『それじゃあ…………』
シャイデさんからある提案を受けました。
その内容に心底驚いた私ですが、私だけでは決めかねます。
「取り敢えず、家に帰ってライと夜美に聞いてみることにします」
『よろしくね。あっ、あと零治には内緒ね。サプライズで驚くあいつの顔を見てみたいわ』
ウフフフと嫌な笑い声を上げるシャイデさん。
「分かりましたけど、本当にいいんですかね………」
『いいの、いいの。むしろ学校側が困る所だったんだから。本当にいきなりで困ってたんだから。OKだったらあなたたちの学校には私から説明するわね。それとライにちゃんと勉強させて。じゃないとあの子だけ落ちるかもしれないから』
「了解です、多分ライも頑張ると思います」
『そうねぇ、あの子ずっとごねてたから……………くれぐれも零治に気づかれないようにね』
「はい」
『それじゃあ、取り敢えず2人に聞いて、結果を私に連絡して』
そう言って電話が切れました。
高町なのは達にバレたのは案外良かったのかもしれません。
おかげで私達3人の願いが叶うかもしれませんから。
そうと決まれば早く帰って2人にも教えなくては!
その後私は2人に説明し、直ぐに了承を得られたので、すぐさま連絡しました。
後は本番に成功すれば………
そのためにも勉強です。
今、私達は私の部屋で集まっています。
「ライ、今から猛勉強だな」
「うん、僕頑張るよ!!」
「私達も頑張らなくては。やっぱりレベルは高いようなので………」
「大丈夫だ。あのはやての学力で通えるのだ。準備を怠らなければ平気だろう」
夜美の言うことも分かりますが、はやてに失礼では無いのでしょうか………
「じゃあ、僕も………」
「ライはそれ以下だ!しっかり勉強しないと駄目だぞ!!」
「はぁ〜い………」
「おしゃべりはそれまで。始めましょう」
私達3人は勉強会を始めたのでした。
「フェリア、あいつら、一体何やっているんだ?」
「なんでもライの成績を上げるための猛勉強らしいぞ」
夕飯を食い終わった矢先、珍しく俺とフェリアに皿洗いを任せた星が残りの2人を連れて、星の部屋に行ってしまった。
「ライって結果悪かったんだっけ?」
「いいや、最低限取れたと聞いたが………」
そうなのか………
だったら何かの罰ゲームか?
「それよりレイ、皿洗いが終わったら将棋をやらないか?」
「構わないけど………ルールは?」
「桐谷に教えてもらった」
ふ〜ん。
まぁ、暇だしいいか。
俺達はさっさと皿洗いを済ませ、フェリアと将棋をしたのだった………
結果は俺の惨敗だったけど何か!?
第33話 スカさん家の日常
『と言うことだ、後の戦闘機人の開発は取り敢えずクレイン・アルゲイルに一任する』
「そうですか。なら我々はどうしますか?」
『別にどうとするつもりはない。奴が失敗した時の保険としてお前が必要だからな。普段通り好きに研究していればよい』
「分かりました」
『では』
通信が切れ、スカリエッティは椅子に深く沈む。
「お疲れ様です、ドクター」
「全く、老人たちには本当に困ったものだ………」
飲み物を持ってきたウーノに愚痴るスカリエッティ。
「あの魔力吸収する戦闘機人が気に入ったみたいだね」
そう言ってその時のデータを表示する。
「しかし、厄介なものを作ったものだよ彼は………」
スカリエッティには珍しい怒りを込めた呟きだった………
「いやっほ〜!!」
「ウェンディー!!」
ここは訓練場。
今はノーヴェとウェンディが戦闘している。
「波に乗れ!!」
「ちょこまかと!!」
展開したエアライナーを走りながらガンシューターを放つノーヴェ。
「甘いっス!!」
それをエリアルボードの切り返しで器用に避けるウェンディ。
「今私、風になってるっス!」
「訳わからない事言ってるな!!っていうか避けるなって!!」
「嫌っスよ痛いのなんて」
「ねぇ、トーレお姉さま」
「何だクアットロ」
「訓練相手間違ってない?」
「と言われても、ウェンディは私とは訓練したがらないのだ………」
2人の戦いをモニター室で見ていたトーレとクアットロが呟いた。
「もう遊びはこれまでっス!行くっスよ〜!!」
ウェンディは高々と波に乗っているように上がっていく。そして………
「カットバックドロップターン!!」
そのまま急降下した。
「な、何!?」
その突撃をガンナックルで受け止めるノーヴェ。
「グッ、まだまだ!!」
「もう詰みっスよ、エリアルショット」
「えっ!?そんなの無しだろ!?」
既にガードしているため、モロに食らうノーヴェ。
ダメージの衝撃で自身のエアライナーから落っこちた。
「いえ〜い、私の勝ちっス!!私が最強っス!!」
「ほお、それは聞捨てならないな。次は私が相手だ」
訓練室に入ってきたトーレが呟いた。
「いえいえ、私みたいな戦闘力5のゴミがトーレ姉の相手なんか務まらないっスよ。相手なら砲撃ぶっぱなすディエチ姉なんてどうっスか?」
「ディエチちゃんは今調整中です」
その後から入ってきた、クアットロが言う。
「クア姉………相変わらずのドSっぷりっスね。なんスかそのタイミングの良さ。だからシスターズでも人気が低いんスよ」
「……………いつそんなのやったのかしら?」
「この前っス。ちなみに一位はチンク姉です」
「何で、ここにいないチンクちゃんが………」
「チンク姉は永遠のロリータっスから………」
「絶対違うと思うぞ………」
トーレのツッコミもウェンディには届かない。
「大体、クア姉は心が黒いです、真っ黒です。なので体もばっちいです!!」
「なんですって!?私はドクターと違って毎日洗浄してます!!」
「ノーヴェ、聞いたっスか?洗浄て言ったっスよ。洗濯物と一緒っスね〜」
「あんたも入っているでしょうが!!」
「私はお風呂っスよ〜。ドクターに作って貰ったっス」
「お風呂!?」
「ごめんなさい、クア姉。私もお風呂に入ってるんだ」
「ノーヴェちゃん!?」
「すまん、私もだ………」
「トーレお姉さま!?」
「ちなみにセインもっスよ」
「何で!?私聞かされてないんだけど………」
「言ってないからっス」
「ウェンディ!!!」
「へへ〜ん、悔しかったらこっちに来るっス〜」
怒ったクアットロがウェンディに近づくが、ライディングボードに乗り、空に逃げるウェンディ。
「トーレお姉さま、ウェンディが空に上がりましたよ」
「助かった、これでウェンディとちゃんと訓練が出来る」
「はっ!?謀ったっスね!?」
「私に勝つなんてまだまだ甘いわよ」
そう言いながらも拳はプルプル震えていた。
「さて、やるか」
「来るな、戦闘狂!!」
ウェンディにとって地獄の時間が始まったのだった………
「痛いっス…………」
「明らかに自業自得だろ………」
痛がってるウェンディに冷たく突っ込むノーヴェ。
トーレにボコされてから二人は汗を流すため、お風呂に入っていた。
このお風呂はウェンディがこだわり、大浴場のように広く、大人数でも入れるようにしている。
しかも、水風呂、サウナも完備している。
「流石ドクターっスよね。教えただけでここまで作ってくれたんスから」
「…………ウェンディの我侭だろうが」
実はウェンディ、ウーノのお気に入りとなっている。
その理由はお寿司の件もあるが、妹の中で一番甘えてくるのが大きい。
なので一番ウェンディを甘やかしてる。
さっきの戦闘も、クアットロが仕組んでトーレにボコボコにされたとチクリ、今クアットロはウーノから説教を受けている。
「ウーノ姉が賛成してくれたから良かったものの、味方してくれなかったら、どうなっていたか………」
このお風呂の建造の時もスカリエッティは忙しく作っている暇が無かったのだが、ウーノのおはなし(説得)によって、死ぬ思いでスカリエッティが一日で作り上げた。
その後、スカリエッティは一日中寝ていたらしい…………
「せっかくならウーノ姉も誘っとけば良かったっス………」
上記の理由もあり、ウェンディはウーノの事が大好きなのである。
「ウェンディ、ノーヴェ〜!!」
「セイン………とトーレ姉!?」
「迷惑だったか?ノーヴェ」
お風呂の扉が開き、入って来たのはセインとトーレだった。
「いや、そんなことは………」
「私もたまには妹達とゆっくりと風呂に入りながら話たいと思ってな」
体をお湯で流し、風呂に入る、セインとトーレ。
「あ〜気持ちいい………」
「本当だな。お前たちはあっちで毎日味わっていたのだろう?」
「そうっスよ〜。こっちより全然狭かったっスけど」
「ライと入った時はキツキツで大変だったな〜」
「ライ姉はおっぱい大きいっスから。トーレ姉といい勝負なんじゃないんスか?」
そう言って、堂々と前からトーレの胸を揉むウェンディ。
「ん?胸など大きいほど邪魔になるだけではないか?」
「……………トーレ姉、女としてそれはどうかと思うよ」
「だがセイン、我々は戦闘機人だ。性別は女だが、女である必要なんてないだろ」
その言葉を聞いて一気に雰囲気が暗くなる。
「そうだよな………やっぱり私達は戦闘機人………」
「普通の人とは違うんだよね………」
「レイ兄達は肯定してくれたっスけど、その事実はやっぱり変わらないんスよね………」
ハァとため息を付く3人。
「やはりお前らは変わったな…………」
そんな3人の様子を見て、しみじみと呟くトーレ。
「出て行く前と帰ってきた時のお前たちはまるで違う。本当に感情豊かになった。ウェンディは元から変わらないが………こんな事を言うとクアットロに怒られそうだが、人間らしくなったよ」
「そう………かな?」
少し照れくさそうに言うセイン。
「というより、このラボ全体の雰囲気っが明るくなったような気がするな。ウーノは前よりも柔らかくなったような気がするし、クアットロは心から感情を露にするようになったと思う。ディエチも前よりは柔らかくしゃべるようになった。何より、ドクターが別人のように感じるようになった」
「ああ、分かります。前より不気味じゃなくなった気がします」
「変な笑い方しなくなったしな」
「そうっスか?相変わらずの臭いと汚さっス」
「そこは触れていなかっただろうが………」
トーレから拳骨を食らうウェンディ。
「ううっ、頭がパーになるっス」
「お前は元々パーだろうが」
「黙れ貧乳」
「おまっ!?姉に向かって!!」
「そうだよ!!貧乳馬鹿にするな!!」
「負け犬が何をほざいてるかっス!!私はトーレ姉のように大きくなるから問題ないっスけど」
「違うね、ウェンディは今のままでストップだよきっと!」
「そうだな、頭もこのままだろうしな」
「そんなことないっス、レイ兄にもんでもらって大きくなったんスから」
「レイはそんなことしたの!?」
「アイツ今度あったらただじゃおかない………」
いつの間にかとばっちりにあっている零治はともかく、ギャーギャー風呂で騒いでいる妹3人。
「ふっ、なぜだろうな。こんな風呂も悪い気がしない………」
トーレは3人の喧嘩を優しい眼差しで眺めていた。
「ディエチちゃん、手伝って欲しい事があるの………」
調整が終わったディチエにいの一番に声をかけたクアットロ。
「ウェンディちゃんを懲らしめたいから、手伝って欲しいの」
「ごめんクアットロ。私、この調整の時の臭いが嫌いだからお風呂入ってくるね」
クアットロを避け、お風呂に向かうディエチ。
しばらく固まるクアットロ。
「私ってやっぱり嫌われてる?」
クアットロの悲しい呟きに返事をするものはいなかった………
「ふぅ〜いい湯だったっス………」
「さっぱりした〜」
「ドライヤー、ドライヤー」
さっさと服に着替えたノーヴェは、鏡の前で髪を乾かし始めた。
3人によって、ナンバーズも各自自分の服を着るようになった。
クアットロだけはまだ、あのボディスーツを着ているが、他のナンバーズは訓練以外着ていない。
ガラガラガラガラ……………
「あっ、ディエチ。調整終わったの?」
「うん、だからお風呂に入りにきたの」
「だったら、トーレ姉お願いっス。相変わらず長湯してるんスよ…………」
トーレの風呂は長い。たまに風呂でお酒を飲んだり、サウナに入り水風呂に入るこのローテーションが好きだったりする。なので基本一人で入るトーレだが、度々遭遇するのだ。
トーレは一回フェリアが送ってきたお酒を飲んでからお酒にハマってしまった。
たまに自分で買いに行ったりもする。
「分かったよ」
着ている物を脱ぎ始めるディエチ。
「ムムム………負けたっス………」
「ディエチは胸大きいよね。いいな、いいな………」
ブツブツ言いながらディエチの胸を凝視するセイン。
「レイ兄もその胸なら、らくらく落とせるっスよ」
「レ、レイはそんな簡単に………」
「それにライがいるからな。上には上がいるだろ」
「恥ずかしいからあまり見ないで欲しい」
少し頬を赤く染めぼそぼそと言った。
「あっごめん………」
「良いよ、じゃあ私、入るね」
少し焦った様子で風呂に入って行った。
「慌てたディエチ姉も可愛いっスね〜」
「変な目で見てんな!!」
ノーヴェの投げたドライヤーをウェンディは頭で受け止めた。
「ウーノ姉!!」
風呂から上がった三人は書類を持っているウーノと出くわした。
「どうしたのウェンディ?慌てちゃって」
「ウーノ姉の姿が見れて嬉しくなったっス!!」
「ものこの子ったら………」
そう言いながらも顔がほころんでいるウーノ。
「ウーノ姉、ドクターは?」
「今無理やり洗浄させて、休ませたわ。全く老人たちときたら………」
「何かあったの?」
ウーノの険しい顔に、ノーヴェは心配そうに聞いた。
「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫よ、問題ないわ。それよりみんなでお菓子でも食べましょ」
「わーい、やったっス〜!!」
バンザイしてはしゃぐウェンディ。
「フフフ、可愛い子ね………」
「本当ウーノ姉の前だとキャラ変わっちゃうんだから………」
ウェンディの様子を見てセインは呟いた。
『ドクター、今回の休日を利用して一回アジトに帰ろうと思います。なので妹達からお土産は何がいいか
聞いておいてもらえませんか?』
「皆、ちょっと集まってくれ」
スカリエッティの声に皆が集まった。
「チンクが一旦帰ってくるのに、お土産は何が良いと聞いてきたんだが、皆欲しいものが何かあるか?」
「では、私はお寿司を………」
ウーノが一番始めに言う。
「では、私は日本酒と言うのを飲んでみたい」
すっかりお酒好きのトーレ。
「なら私はまた翠屋のケーキが食べたいですわ」
ケーキを頼むクアットロ。
「なら私は………」
「私はPSPとモンバス!!」
「私もそれで!!」
「私もっス!!」
ディエチが頼もうとしたときに、3人娘が割り込みで言った。
「モンバス?」
「モンスターバスターっス。あっちの世界だとバカ売れしてるハンティングゲームっス」
ウーノの疑問にウェンディが説明する。
ミッドにもPSPに似たものがあるのだが、地球にある物の方がクオリティが高く。3人にはつまらなかった。
「ディエチは何かあるかい?」
「えっと…………」
迷うディエチ。
しばらくして……………
「地球にあるアクセサリーが欲しい」
「ふむ、そんなことでいいのか?」
「うん、あっちの世界のことよく知らないから………」
「分かった、チンクにはそう返事をしておこう。皆、それぞれやっていたことに戻ってくれ」
この後、スカリエッティはチンクに返事を書いたのだった。
第34話 フェリア帰郷
「ふぅ、やっと着いた」
お土産の荷物を持ち、フェリアが呟く。
スカリエッティのアジトに着くまで転送5回以上。しかも結構歩いて次の転送装置のある場所まで移動するのでかなり時間がかかっている。
「あっ!?フェ、チンク姉〜!!」
フェリアを見つけたセインがすかさず駆け寄った。
「久しぶり!!それとおかえり!!」
「ああ、ただいま」
「よっす、セイン」
「よっす!…………ってレイ!?」
「そうだよ久しぶりだな」
そこには私服姿の零治がいた。フェリアと同様にお土産の袋を持っている。
「何でここにきたの!?ドクターに魔導師だってバレちゃうよ!!」
「恐らくとっくにバレてるよ。だからゴールデンウィークの後に接触してくると思ってたんだが、それもない。だから今回何考えてるか話してみようと思ってな」
「でも………大丈夫なの?」
「いざとなったら逃げるさ。それにお前たちもいるしな」
「微妙だよ、トーレ姉やクア姉もいるし………」
「大丈夫だって、なんとかなるさ」
笑いながら言う零治にセインは不安を感じながらもそれ以上反論はしなかった。
「大丈夫だ、心配することない」
「うん分かったよ。じゃあ、行こう」
セインも覚悟を決め、2人をアジトに案内した……………
「で、誰なのですか?」
アジトに着いた3人だったが、早速ストップをかけられた。
ストップしたのはクアットロだ。
「チンクちゃん、男を連れてくるなんて一体どうしたの?まさか結婚報告とか?」
「この人はあっちでお世話になっている有栖零治だ」
「ああ、あの戦闘機人と戦っていた………私はNo.4クアットロと言います」
「クワトロ?」
「クアットロです!!………それでなんのようです?」
「スカリエッティに話がある」
「ドクターなら忙しくてあなたの相手をしている暇がありません、要件なら私が………」
「いいわお連れして」
「ウーノお姉さま!?」
「失礼しました、こちらにどうぞ」
零治はウーノに連れていかれた。
取り残された3人は………
「…………まぁおかえりと言っときますわ」
クアットロはそう言って自分の部屋に行ってしまった。
「えっ!?」
「どうしたの?そんな驚いた顔をして」
「クアットロがお帰りだと…………!?」
「ちょっと、チンク姉!?」
あまりのショックにフェリアはその場でしばらく呆然としていた………
俺は紫の髪のお姉さんに案内され扉の前に来た。
「ここにドクターがいます」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って、ドアの中に入っていった。
「待っていたよ、はじめましてだね。私はジェイル・スカリエッティ。ここの責任者になるのかな」
「有栖零治…………知ってると思うけどな」
「そんなに警戒しないでくれ。別に危害を加えるつもりはないよ。ウーノ、コーヒーを2つ持ってきてくれないか?」
「了解しました、ドクター」
入口付近にいたウーノが部屋から出ていく。
「取り敢えずそこの椅子にでも座ってくれ」
俺の予想以上に部屋の中は綺麗だった。
もう少し機械の部品やらが散らばってると思ったけど………
「で、君は私に用があって来たんだろう?」
「っと、そうだった。単刀直入に聞くけど、何故仕掛けてこないんだ?」
「……………何のことだい?」
「俺達の戦闘も見ていたんだろ?なのに何もないことが逆に不気味でな。だから直接聞きに来たんだ」
「なるほど、だけど君たちに危害を加えることはないよ。チンクやセイン、ノーヴェにウェンディも君たち家族を気に入ってる。娘達の為にも危害を加えるつもりはないさ」
軽い口調でスカリエッティが言う。
しかし、スカリエッティってこんなに優しい雰囲気だっけか?
もっと不気味な感じだと思ってたけど………
「ドクター、コーヒーを」
「ありがとうウーノ。零治君、君はブラックで大丈夫かい?」
「ああ、ありがとう………」
俺はまだ戸惑いながらもコーヒーを受け取る。
「………………」
「大丈夫だよ、コーヒーには何も入ってないから」
信じられるか。
「………まぁいい。それじゃあ、今度は私が君に聞きたいのだが………」
「なんだ?」
「君は黒の亡霊か?」
「……………何故だ?」
「まず、君のこの能力」
そう言ってパネルを操作し、ディスプレイにあの時の戦闘の映像が映る。
「ここだ」
その映像は星を触り、一緒にジャンプしている映像がスローモーションで再生される。
「君は敵の砲撃を避けるのに、彼女を触って転移した。距離は短いが黒の亡霊の転移と同じようだった。そう思い二つを比べてみたんだが………」
「どちらも魔力を使っているが、普通の転移とはスピードが違いすぎる。それに魔力の消費が普通の転移とは桁違いに魔力を使ってない。その辺からこの二人は関連性があるのではないかと思ったのさ」
見事に正解だわ………………
前にも言ったように俺のボソンジャンプの利点は、スピードと魔力の消費量。
普通の転移みたいに違う管理外世界には飛べないけど、その分、瞬間移動みたいにその場から一瞬で消え、現れることができる。ブラックサレナは少し長距離を飛べるようにしたため、消える時と現れるときに3秒ほど時間がかかるのが唯一の欠点だ。
逆に普通の時の欠点は転移の距離が短すぎる事。
欠点には気がついてないが、どのような能力かは当たっている。
流石だな………
「で、私の推測はどうだい?」
「……………正解だよ。全く恐れ入った。流石はスカリエッティと言ったところか。…………で俺をどうするんだ?もうお前の目的の黒の亡霊は目の前にいるんだぜ」
諦めた訳じゃないが、これ以上誤魔化せないだろう。
だったらいっそ……………
「俺には待ってる家族もいるんだ。悪いが抵抗させてもらうぞ。ラグナル!!」
『久々の登場!いつでもOKですよ!!』
ラグナルもやる気満々だな。
フェリアやセインたちには悪いが、敵対するぞ!!
「落ち着いてくれ、もう君に手を出すつもりは無いよ」
スカリエッティはデバイスを出した俺に、慌てず答える。
「何故だ…………?」
「セイン達から聞いたのさ。君たちはセイン達を戦闘機人と知りながら家族だと言ってくれた。私はそんな君に興味を持ったのだよ。それで一度ゆっくり話してみたいと思っていたのさ」
コーヒーを手に取り、そう言ったスカリエッティ。
「お前が………!?」
「私としても不思議でね、何故こんな風に思うようになったのかと………」
昔の自分を思い出しているのか、上を見ながら答えた。
「今は娘達の変わりようを見ていた方がとても楽しいのさ。そうだ、聞いてくれ!この前セインが私にクッキーを焼いてくれたんだ!!味はしょっぱかったけど、あの嬉しさは今までに味わったことのないものだった!!」
いきなり力説し始めるスカリエッティに俺も戸惑う。
キャラ違くないか?
「他にもクアットロが周りの娘たちとうまくなじめてないんだ、せっかく大きな大浴場を作ったのにクアットロだけ入らないし………年頃の娘は難しくてね………」
いや、あんたが皆女の子にしたのがいけないんだろ。
「それは私も悩んでいることなんです」
入口で聞いていたウーノが話に加わってくる。
わざわざ自分の椅子を用意して…………
「服も着ないでいつまでもあのボディスーツを着ていますし………言ってもきかないんです………」
なんか相談会になってる気が…………
その後も俺は二人から色々と愚痴を聞く羽目になった………
『また私は空気なんですね…………デバイスいらないんじゃないですか?』
「遅い………」
ドクターの部屋に行ってから2時間は経っていると思う。
「チンク姉………」
「ああ、少し遅すぎるな」
「大丈夫っスよ、案外ドクターと話が盛り上がってるんじゃないんスか?」
「それはねぇだろ………」
ノーヴェの言葉にウェンディ以外の2人が頷く。
「分からないっスよ〜。そうだ!!せっかくだからみんなで迎えに行くっスよ!!」
「えっ!?でもウーノ姉に怒られないかな?」
「いや、行こう」
「チンク姉の言う通りだ。あんな奴でも私達の家族だしな」
ノーヴェの言葉に3人は頷いた。
「それじゃあ、レッツゴーっス!!」
ウェンディの掛け声で4人はスカリエッティのラボへ向かった………
「着いたっス〜!」
4人は今、スカリエッティの部屋の前にいる。
「さてそれじゃあ………」
「入るっスよ〜!」
「「「ちょ!?」」」
勝手に中に入っていく末っ子の行動に慌てる姉達。
だが…………
「どうしたんだいウェンディ?」
「お腹でもすいた?クッキー食べる?」
スカリエッティとウーノの反応は普通だった。
「あっ、食べるっス。………って違うっス!!レイ兄はどこっスか!?」
キョロキョロと周りを見て探すウェンディ。
だが零治の姿は見当たらない。
「まさか、ドクター!!男の体まで興味を持ち始めたのじゃないんスか!?」
「んなわけあるか!!」
後ろからウェンディの頭にチョップを食らわせる。
「痛い〜!!ってレイ兄、無事だったんっスね!?」
そう言って飛びつくウェンディ。
だが、零治はそれを避けた。
「あぐっ!?」
「うわっ、痛そう………」
「避けることはないんじゃないか………?」
「何されるか分かったもんじゃないからな。それとノーヴェ久しぶり」
「お、おう………」
フェリアの後ろから返事をするノーヴェ。
っていうか隠れるなよ。
「フフッ、ノーヴェも嬉しそうですね」
「そうですか、俺にはそう見えないんですけど………」
「私のカンはよく当たるのよ」
「本当ですか?ウーノさん」
「どうかしらね」
「どっちなんスか………」
「あれ、なんかフレンドリーじゃない?」
「そうだな。零治、一体何があった?」
「えっ!?別になんにもなかったんだけど………」
取り敢えず、話した内容を簡単に話した。
「零治が黒の亡霊だったとは………」
「あの時に言ってくれればよかったのに………」
「私達は正直に話したのに、零治は嘘ついてたんだな………」
「最低っス、見損なったっス………」
ジト目で見られる俺。
まぁ隠してたのは悪いと思うけどさ………
「まさか、完璧に気づかれるとは俺も思ってなかったんだよ………」
そう言いながらスカリエッティを見る零治。
「まぁいいじゃないか、こうして話せて面白かったよ」
「まぁ俺も楽しかったけどさ………」
「もうすっかり仲良しっスね」
意外と話があって俺も驚いてるけどな。
俺も最初は星達に苦労したからな………
「まあな。ってそうだ!ウェンディ、ちょっと手伝え」
「何をっスか?」
「それは、ごにょごにょ」
「ふんふん………ごにょごにょ?」
「ボケんでいい。それでやってくれるか?」
「モチっス!!これでクア姉に仕返しが出来るっす………」
フッフッフと嫌な笑みを浮かべるウェンディ。
何か恨みでもあるのか?
「じゃあスカさん、ウーノさん。取り敢えずやってみるわ」
「ああ」
「お願いね」
「了解。それじゃあ行くぞウェンディ、案内よろしくな」
「了解っス!!」
二人はそのままスカリエッティの部屋を出ていく。
「待て、私も行くぞ!!」
「私も!!」
「セイン、待って!!」
フェリア、セイン、ノーヴェも2人に付いていく。
「やっぱり彼といると違うね」
「それほど、彼の存在が大きいのでしょう………」
そう言うが、羨ましそうにみんなが出ていった方を見るウーノ。
「羨ましいかい?」
「そうですね………おそらく羨ましいのだと思います」
「そうか………ウーノ、君も変わったね」
「そう言うドクターこそ」
そう言ってお互い笑い合う。
「だが、決して悪くない」
「そうですね、私もそう思います」
「今度は彼の家族全員で来て欲しいものだな」
「その時は盛大に迎えましょう」
二人は画面で零治達の様子を見ながら話したのだった………
第35話 クアットロ修正
スカさんの部屋を出た俺たちは、アジトに唯一あるというリビングへ向かった。
ウェンディが言うにはみんな大体ここにいるか、自分の部屋らしい。
ここの部屋だけはアジトとは全く違い、普通の家にあるようなリビングになっている。
ソファーや大きなテーブル。キッチンや冷蔵庫まで、様々な家具が置かれていた。
「次元犯罪者のアジトじゃないな………」
「そうっスね。でもここが一番落ち着くっス」
「うん?ウェンディか。あと君は…………」
ソファーに座ってた二人の女性の一人、紫の短髪の女性が話しかけてきた。
確かトーレだっけ?この人………
「俺は有栖零治です」
「君が有栖零治か。私はNo.3、トーレだ。妹達がお世話になったな」
やっぱりこの人がトーレさんか。
っていうかあの時会ったんだよな。
で、もう一人は誰だ?
茶髪のロングヘアーで後ろを縛ってる女の子。
外見だと俺と同じくらいだろうけど………
「私はNo.10ディエチですよろしくお願いします」
「ああ、2人ともよろしく」
「そんなことよりトーレ姉、クア姉見てないっスか?」
「クアットロか?この部屋には来ていないが………」
「じゃあまだ自分の部屋っスね、ありがとうっス。レイ兄、行くっスよ!!」
「ちょ!?少しは落ち着けって!!すいませんありがとうございました」
俺はウェンディに引っ張られながら部屋を出た。
「なんだったんだ?」
「分かりません………」
嵐のように去っていった二人と入れ違いにフェリア達3人が入って来た。
「トーレ姉、レイ達がどこに行ったか知らない?」
「レイ?」
「零治の事だ」
「ああ、有栖ならウェンディと一緒にクアットロの部屋に向かったぞ」
「ありがとうトーレ姉、2人とも行こう」
セインの言葉に3人もクアットロの部屋に向かった。
「何なんだ一体………」
「トーレ姉様、私たちも行ってみませんか?」
「………そうだな、私も少し気になる」
リビングにいた二人もクアットロの部屋へ向かったのだった。
「ここっス」
ウェンディに案内され、部屋の前にいる。
「しかし、広いよなここ」
「ドクターが作ったアジトっスから」
建築士もびっくりな出来だ。
ボスのアジト感は消えてないけど………
「それじゃあ入るっスよ」
ウェンディは相変わらずノックもせずに中に入っていった。
「くっ、みんな少し位協力してくれてもいいですのに………もういいですわ、私一人でもウェンディを………」
「お前、一体何をした?」
「クア姉をネタに楽しんでいただけっス!!しかし、変な機材ばっかっスね〜、つまんないっス………」
「あなた達!何勝手に人の部屋に入っているの!!しかも荒らすな!!」
俺はしていないが、勝手に入って勝手に部屋を荒らすウェンディ。
しかし、本当に変な機材ばっかりだな。
「クア姉を修正しにきたっス!!」
拳を作り、堂々と宣言するウェンディ。
「だったら別に荒らす必要ないでしょうが!!そ…れ…に!あなたに姉の私をどうこうできると思ってるの?」
「あさってみれば、意外な趣味が発覚すると思ったんスけど…………本当につまらまい姉っス………」
「何でそんなに呆れられなきゃいけないのよ!あなた、姉の部屋を勝手にあさってただで済むと思ってるの?」
「姉は関係ないっス!この世は弱肉強食なんスよ」
「いい度胸じゃない!!いいわ、かかってきなさい!!」
一触即発の雰囲気で2人は身構えている。
どんだけ仲が悪いんだか………
なんか殴り合いになりそうだから入っとくか。
「そんなことより俺はクアットロに話があるんだけど………」
「なんですか?クズ男」
「ク、クズ………」
「失礼っスよ!訂正するっスよ!!」
流石ウェンディ、俺のことを理解して……………
「レイ兄はクズじゃないっス!!ただの女たらしっス!!」
ってそれクズ男じゃないか!!
「やっぱりクズ男じゃない」
「違うっス!そう言う男をリア充かチャラ男って言うんスよ」
チャラ男は違くね?
「さあ、レイ兄!あの名言言っちゃってっス!!」
名言?一体………
「ほらほらプリーズ!」
焦らすな!しかしなんにも思いつかない………
取り敢えずこれでいいか。
「あ、あげぽよ〜………」
静まりかえるクアットロの部屋。
「あ〜………レイ兄、よく頑張ったっス………」
「お前の所為だろうが!!!」
見てみろよ、クアットロの俺を見る冷めた目を。
あれはゴミを見る目だぞ!!
「…………レイ」
「見なかったことにしてやるんだぞ」
「わ、分かったよ」
こっそり覗いていた3人が心に決めたのだった………
「もう、そんなこといいんだよ!!俺はクアットロに話があるんだ」
それを聞き、嫌な顔をするクアットロ。
もう完璧に警戒されてんじゃないかよ…………
「警戒しなくていいって。ただ話をしたいだけだから」
「ふん、あなたみたいな変態で変人に話すことなんかありませんわ」
コイツ…………
下手に出てたらいい気になりやがって………
「変態?変人?誰が?」
「はぁ?あなたに決まってるじゃないですか。頭もおかしくなったんじゃないんですか?」
「おかしいなぁ?ウェンディ、目の前に痴女がいるんだけどな」
「そうっスね。よく人に変態って言えるっスよね。それに、こんな部屋にこもってるクア姉の方が変人っス」
「ち、痴女!?それに部屋は関係ないでしょう!!」
「でもそうだろ?そんなムッチリしたスーツ着て羞恥心を全く感じてないんだから。しかも部屋は女の子なのに変な機材ばっか。変人以外なんでもないだろ」
「そうっスよ、変人は仕方ないとしても、自分の姉が痴女ってとっても恥ずかしいっス。姉妹の恥っスよ」
「わ、私は痴女なんかじゃ…………」
「あんたがそう思っても周りからは痴女に見えるんだよ。だから他の姉妹はちゃんと服を着てるんじゃないか」
「それなのにそのムッチリスーツを愛用するクア姉はある意味で勇者っス。変態の中の変態っス!!」
俺とウェンディの言葉に顔を真っ赤にしながら何も言えなくなるクアットロ。
「今回のことで反省したなら、今度からはちゃんとみんなと同じように服を着るんだなエロットロ」
「そうっスよエロ姉」
「エロットロは止めて!!しかもウェンディはただのエロになってるから!!」
いつもの口調はどこへやら、止めるのに必死になっている。
「だったらちゃんと服を着るようにするか?」
「するから!!エロットロは止めて!!」
よし、これで問題は解決だな。
「えっ〜つまんないっス、もっと粘ると思ったんスけど………」
「まあな、拍子抜けって感じだな。もっと頑張ってくれよ」
「勝手なこと言って………」
睨みながら俺達に呟いた。
「終わりみたいだな」
「エロットロか………」
「哀れだな、クア姉」
「ほぅ、何かと思えばこんなことをしていたのか」
「「「!!!」」」
後ろから声をかけられ驚き、その勢いでドアを開けてしまった。
「「「あ!!」」」
「ん?どうしたんっスか?みんなお揃いで」
「なっ!?何でみんなここに来てるのよ!?」
「いやぁ………」
「その………」
「レイが何をするのか気になって来ただけだ」
セインとノーヴェは言葉を濁すのに対し、堂々と正直に言うフェリア。
「チンクちゃん、余計な事に首を突っ込まない方が身のためよ」
「そうだな、すまなかったエロットロ」
「エロットロは止めなさい!!」
「そうだ、姉に対して失礼だろ。私からもちゃんと言っておく、だから気にするなエロットロ」
「トーレお姉さま!?」
「エロ姉、今度私が服選んであげるから」
「待てセイン、私もエロ姉の服選ぶ!!」
トーレに続き、セイン、ノーヴェも油を注ぐ。
そしてみんなの目線はディエチに向かった。
「えっ!?」
いきなりみんなに見られて驚く、ディエチ。
「えっ〜と………」
目線はディエチから離れない………
「あまりジロジロ見ないでくれ、恥ずかしい………エロットロもそんなに睨むな」
「わああああ!!ウーノお姉さまに言いつけてやる!!!」
泣きながら部屋を出ていったクアットロ。
「私は間違えたのか?」
「ディエチ姉は間違ってないっス。むしろよく空気を読んでくれたっス!!」
それでいいのか…………
「それよりみんな早く逃げよう!ウーノ姉、絶対怒るよ!!」
「そうだな、みんな逃げようぜ!!」
セインとノーヴェはそう言って部屋から出ていった。
「私は大丈夫っス〜。ウーノ姉、優しいっスから」
「ああ、ウーノさんに俺『優しさだけが愛情じゃ無い。怒らないと良い子に育たないぞ』って言ったから恐らく怒ると思うぞ」
「何気に良い名言!!流石パパさん。って何してくれたんスか、レイ兄!?」
そう言って俺の胸ぐらを掴んで…………身長が足らないため、持っただけになった。
「はっ!?こうしちゃいられないっス!!私も逃げなきゃ………」
そう言ってから、ウェンディもダッシュで部屋を出ていった。
「3人は?」
「逃げたら余計面倒になるだろ」
「今更、説教って言う年でもないしな」
「逃げるべきなの?」
諦めているフェリア、あんまり怒られないだろうと余裕のトーレさん。状況がまるで分かっていないディエチ。
結論として俺を含めた4人は怒られる事は無かった。
なぜなら………
(うう、正座って足が痛いっス…………)
(ちゃんと話を聞かないと長くなるぞ………)
(あ、足の感覚が………)
さっさと逃げた3人が速攻で見つかり正座で長々と説教を受けたからであった………
「さぁ、お待ちかねのお土産だ」
あの後、説教も終わり、食事の時間になったので、俺は冷蔵庫の中にあったものでオムライスを作った。
と言っても人数が多いので、ウーノさんに手伝って貰ったが。
だけどみんなに好評だったのでよかったかな。
その後にお土産の披露会となった。
「それでは順番に………まずはウーノさん」
名前を呼ばれ、ソワソワしだすウーノさん。
俺は持ってきた荷物の中から小さなクーラーボックスを取り出し、その中から寿司セットを取り出した。
「名店、海帝寿司の1人前特上。夜美がテレビを見てこれにしたんだけど、買いに行ったフェリアがあまりの行列で大変だったんだよな」
「ああ、流石テレビで紹介された店と言った所だった………」
「そうなの………チンクありがとう………」
深々と頭を下げるウーノ。
「良かったな、喜んでもらえたみたいで」
「ああ、苦労したかいがあった」
フェリアも喜んで貰えて嬉しそうだ。
「次にトーレさんとスカさん」
「おっ、どんな酒か楽しみだ」
「私もかい?」
「スカさんのお土産を聞き忘れたから、スカさんもお酒を。スカさんには1894年物の赤ワイン。凄くいいやつだからウーノさんと一緒にでも飲んでくれ」
「ちょっと!?零治君!!」
「いいじゃないか、たまには一緒に飲むのも悪くないだろう」
「ドクターがそう言うのでしたら………」
と言っているが顔は嬉しそうだ。
スカさんと仲良くね。
「で、トーレさんがリクエストした日本酒なんだけど…………」
「ど、どうかしたのか?」
「トーレさんって酒に強い?」
「いくら飲んでもベロンベロンにはならないが………」
なら大丈夫かな…………
俺はクーラーボックスからある日本酒を取り出した。
「この霊鉄って言って、日本で霊酒って言われてる日本酒なんだけど、味が凄いんだ。度数も半端なく強くて、飲める人があんまり…………何でシャイデはわざわざこんな日本酒を選んできたのか………」
俺は一応中学生なので酒を買えない。だからシャイデに頼んだのに………
「面白い!!これはシャイデ殿の挑戦なのだろう、受けて立とうではないか!!」
なんか気合の入ったトーレさん。
この人もはやて家にいる巨乳ニート侍と同じバトルマニア?
まぁ喜んでるしいいか。
さて、フェリアはウェンディ達にお土産を渡しているはずだけど………
「最新作だって!!新しく双銃と鎌があるよ!!」
「なら私は双銃使って見るかな。なんかかっこ良いし」
「私は鎌っス。おらおらおら、死神様のお通りだ〜っス!!」
早速最新作のモンスターバスター2をやり始めた3人。
けど取り敢えずウェンディ、その発言はきわどいから止めろ。
フェリアは3人に渡したあとクアットロの所に行ったようだ。
なら、俺はディエチにペンダントを渡すことにするか。
「ディエチ」
「!?」
ビクッと体が動き、ロボットのように俺の方を向いた。
いい加減慣れて欲しいんだけど………
「な、なんですか?」
「お土産だよ。確かペンダントだよな?一番苦労したぞ………」
なんて言ったって側にスカさんがいるから、普通やそれなりの物だとスカさんなら簡単に作れそうだからな。
「で、迷った上これにしました」
綺麗な箱をディエチに渡した。
「中を見てみな」
言われてディエチは箱を開ける。
「うわぁ…………」
中に入っていたペンダントは透き通った青色をしており、光を受けると中にある微粒子が様々な光を出すという珍しい鉱石のペンダントだ。
「綺麗………」
「気に入ってもらえて何よりだ」
「ありがとう…………」
お礼を言いながらもペンダントから目を離さない。
あんまり表情を表に出さないと思ってたけど、あんな顔するんだな……………
「レイ」
クアットロにお土産を渡し終わったフェリアがこっちに来た。
「どうだった?」
「ああ、気に入ってもらえたみたいだよ。…………………なぁフェリア」
「ん?」
「俺さ、アジトに来る前はさ、戦闘も覚悟してたんだ。けどさ、いざ来てみるとスカさんはあんな感じだし、姉妹のみんなも柔らかかったし、とても次元犯罪者のアジトとは思えなかったよ」
「私も最初、クアットロやトーレと話して感じた。だが、悪くない変化だと思う」
「そうだな、。この光景を見れば誰だってただの大家族にしか見えないさ。お前たちは戦闘機人だってこと気にしてたろ?これでハッキリしたよな」
「何をだ?」
「お前たちは人間だってことをだ」
そう言って俺はみんなを見る。
ゲームで盛り上がってる3人。相変わらずペンダントを大事そうに見てるディエチ。MYおちょこを持ってきて飲みはじめようとするトーレさん。スカさんと何か話しているウーノさん。
「胸を張って言って良いぞ、私達は人間だって」
「…………ああ、ありがとうレイ」
「それと、これは俺から」
そう言って俺は懐から小さな箱を取り出す。
「これは?」
「フェリアにプレゼント、姉妹みんなが貰っているのにフェリアだけが貰えないのはかわいそうだと思ってな」
受け取ったフェリアは箱を開ける。
「これは、ヘアバンド?」
「学校だとポニーテールにしてるだろ。黒ばっかだからと思ってな」
俺が買ったのは紫のヘアバンド。ディエチのと同じで光を受けるとキラキラと様々な光を出す。
「幻想的でとても綺麗だ………ありがとう、大事にする」
「どういたしまして、これからもよろしくな」
「ああ、こちらこそ」
フェリアは早速、貰ったヘアバンドで髪をポニーテールにして鏡に向かった。
満足みたいで嬉しそうだ。
しかし、意外と楽しめた。あんなにスカさんと話が合うと思わなかったし、結構為になった気がする。
「今度は星たちも連れてくるかな」
そう思いながら、後もスカリエッティのアジトで過ごしたのだった………
第36話 零治の過去
あれは、私が小学3年生の秋頃だったと思います………
放課後、先生に頼まれて、ゴミを裏庭に捨てにいった時の話です。
途中に通る中庭にある芝生でねっころがっている男の子を見たのは………
アイマスクを着け、My枕まで取り出してぐっすりと寝ようとしていました。
そんな珍しい男の子に気づいたら自然と私は声をかけていました。
「こんなところで寝てると風邪をひくよ」
「はぁ?春と秋って言ったら絶好の気温じゃないか。暑すぎず、寒すぎない。だから風邪なんかひかないさ」
ねっころがっている男の子はアイマスクを外さずそのままの体勢で返事をした。
「で、でも夕方は冷えてくるよ?」
「そうしたら自然に目が覚めるだろ」
相変わらず起き上がって話すつもりは無いようなので私はこれ以上関わらないことにしました。
これが私、月村すずかと有栖零治の最初の出会いでした………………
「ずか…………」
「ん?」
「すずか!!」
「うひゃ!?」
いきなり耳元に大きな声を聞かされ私は飛び上がりました。
「アリサちゃん!?」
「やっと起きたわね、移動教室だからもう移動しないとまずいわよ」
「ありがとう、アリサちゃん」
次は理科の実験だったっけ?
私は机の中から理科の教科書を取りだし、席を立ちました。
そんな時、後ろのドアから大きな音が響き、零治君とフェイトちゃんがやって来ました。
「はぁはぁ………零治って………いつも………こんな鬼ごっこしてるの?」
「ぜぇぜぇ………俺だって………したい訳じゃねぇよ………」
二人共汗だくで息も切れてました。
「どうしたのよ二人共!?」
「フェイトと愛の逃避行してた」
「違うよ、アリサ!!二人で話してたら、神崎の友達に追いかけられて逃げていただけだよ!!」
「そんな露骨に否定されると流石に………」
「まぁあんただからね」
アリサちゃんのきつい言葉に更にへこむ零治君。
今はこんな風に感情豊かだけど小3の秋から冬にかけては特に酷かったと思う。
あの後、私はあの男の子が気になってクラスを転々と探してみました。
だけど小3の全てのクラスを回ってもあの男の子を見つけられませんでした。
そんなとき………
「おい!お前!!」
私は不意に物陰に隠れました。
6年生だろうか?見た感じにガキ大将の男の子と3人の男の子があの時の男の子を囲んでいました。
「杉山くんに反抗してただすむと………」
「そのでかい図体が邪魔なんだよ。少しは痩せないと女にモテないぜ」
あの時の男の子は4人の上級生に囲まれてるのに平然としています。軽口まで言いました。
「あれ?」
物陰から覗いていた私は、その5人のやりとりを見ている女の子がいることに気がつきました。
頭の横に2つのお団子を作っている女の子。
今にも泣きそうな顔で様子を見ていました。
「いい度胸じゃねえか、これは教育しがいがありそうだ………」
杉山くんと呼ばれた男の子がニヤリとして、あの男の子の肩を掴みました。
「ちょっと付き合え」
そう言って、何処かに連れていってしまいました。
私はまずいと思って先生を呼びに行こうとしたのですが、団子の女の子がそれを追っていったので私も追うことにしました。
後ろから見つからないように付いていきながら進み、着いたのは裏庭。
「さあ、最初の一発はくれてやる。どこでも好きにしていいぞ」
杉山くんと呼ばれた男の子は大きな手を広げ、挑発してきました。ニヤニヤしながら零治君を見ています。
「………………」
あの男の子は無言で構えます。
だけど次の瞬間!!
あの男の子は杉山くんの頭上までジャンプして、高々と上げた足をそのまま斧の様に降り下ろしました。
「へっ?フゴッ!!」
杉山くんは全く反応できず、もろに食らってそのまま倒れました。
「「「杉山くん!?」」」
他の3人は大きな杉山くんに向かって叫びました。
3人もまさか3年生に負けるなんて思っていなかったのか慌てて駆け寄ります。
「で、まだやるか?やるんなら容赦しないけど………」
男の子はヘラっとしながら言います。
そんな様子に怒った3人ですが、男の子の目が尋常じゃないくらい怖く、3人は動けません。
「やるんだったら、容赦はしないけどな………」
また構える男の子
「くそっ、覚えてろ!!」
ありきたりな捨て台詞を吐き、3人は気絶している杉山くんを抱えて逃げてしまいました。
「つまんねえな、暇潰しにもなりやしないや………」
あくびをしながらそんなことを呟く、男の子。
「おい、出てこいよ」
後ろを向いて、私の方を見て言いました。
隠れたけど見つかっちゃった!?
「………ごめんね、心配になったから」
出てきたのは団子の女の子。
私じゃなかったか………
「これで問題ないだろ」
「でも、ここまですることは………」
「ただぶつかっただけで女の子にごちゃごちゃ言ってくるアイツが悪い。だけど、お前もちゃんと前見て歩かないと危ないぞ」
どうやら女の子をかばってこのような状況になったらしい。
実は優しい人なのかも。
「さて、俺は授業をサボるからじゃあな」
と、どこかへ行こうとする男の子。
「まっ、待って!!」
「ん?まだ何かあるのか?」
「なっ、名前は?」
「………有栖零治」
そう言って零治君は行ってしまいました。
これが初めて零治君の名前を知った出来事です。
「すずか?」
我に返った私は回りを見てみる。
いつの間にか授業は終わっていて、私の様子をアリサちゃん、フェイトちゃん、フェリアちゃん、零治君が心配そうに見ていた。
「大丈夫か?」
「うん、少し考え事をしていたから………」
「大丈夫なの?私で良ければ相談に乗るよ」
「ありがとう、フェイトちゃん。でも大丈夫だよ」
「そうか、なら早く戻ろうぜ。今日は魔王様がいないんだ。ぐっすり寝たいし」
なのはちゃん、はやてちゃんは明日まであっちの世界にいるようです。フェイトちゃんも学校が終わったら直ぐに向かうと聞いてます。
「それはさせるなと魔王様のお達しだ」
どこからか広辞苑を取り出すフェリアちゃん。
「なのはめ余計なことを。いつかこの復讐を………」
「確実に返り討ちね」
アリサちゃんの言葉に笑いが生まれる私達。
零治君が本気を出せばと呟いているけど多分無理だと思うな。
季節は冬になりました。
あの事件の後、私は零治君をすぐに見つけることが出来ました。
あの女の子と話している所を目撃したからです。
ちゃんと正面から顔を見れたのは初めてで、初めて見て気がついたのだけど、死んだ魚の様な目でした。
まるで、今この時間が退屈で、学校に何の楽しみも感じてない様に思えました。
正直、私はこの時、そんな零治君を不気味に感じていました。
そして私が小4になった頃。
闇の書事件と呼ばれる事件に巻き込まれて、魔法の存在を知った私は零治君の事をすっかり忘れていました。
あの後どうしているのか。ふと思い出したので見に行く事にしました。
なのでまた教室を見て回りました。
今度もすぐに見つけましたが、私は驚きました。
相変わらず、眠そうにあくびをしていますが、決定的に違う部分があったからです。
相変わらず死んだ魚の様な目だった零治君でしたが、前よりも雰囲気が柔らかくなっていました。それたけではなく、前のときみたいに人を避けているようでしたが、それでも前以上に色んな人と話していました。
一体何があったのだろう…………
ホームルームが終わり、みんなそれぞれ帰り支度をしていた時です。ふと外を眺めるとダッシュで帰っている零治君を見つけました。
あんなに急いでどうしたんだろう…………
しかしそれ以上に学校にいるときよりもいきいきとしてました。
学校以外に何か楽しみが出来たのでしょうか?
その次の日もその後も零治君は放課後直ぐに帰っています。中庭で寝ていることも無くなりました。
その謎は一向に分からないまま、月日だけは流れていきました。
そして、中1の春、初めて同じクラスになることが出来ました。
今までは遠くから見るだけだったので、私は直ぐに行動に出ました。
「ノート貸そうか?」
これが零治君と初めて顔を見て話した瞬間でした。
最初こそ無視されたり、流されたりしましたが、しつこく話している内に少しづつ話すようになりました。
そして今に続きます……………
「ふう………」
トイレから帰ってきて、教室に入りました。
時間は放課後。なので教室には誰もいないと思っていましたけど、1人いました。
「どうしたの、零治君?」
「……………神崎組から逃げてた」
よく見ると制服の所々が汚れていました。
また追いかけられてたんだね………
「ったく俺も用事があるのに……………」
「ねぇ、零治君」
「ん?」
ちょうどいい機会だと思い、私は思いきって聞いてみることにしました。
「何で小学3年生の時、あんな死んだ魚の様な目をしていたの?」
それを聞いて少し驚いた顔をしてましたが、直ぐに表情が元に戻りました。
「………………見てたのか?っていうか死んだ魚の様な目って………」
「でもそういう風に見えたから………」
「まあそれは別にいいとして………何で知ってるんだ?すずかと面識あったっけ?」
「零治君が覚えてるか分からないけど、中庭で寝ていた時、声をかけた女の子って私なんだ」
「………そうか」
そう言って黙ってしまう零治君。
しばらく無言の時間が過ぎて、零治君が口を開きました。
「俺にとって、あの3年生の1年は凄く意味のある年だったんだ。今までの生きてきた時間を覆すような………」
零治君は思い出すように話してくれました。
「3年生のあの時、俺は一つの目標と言うか目的があったんだ。それは俺が生きてきてずっと待っていた事でもあったんだ。だけど、タイミングを逃して俺はそれを逃してしまった………それで俺は希望と言うか、生きることがどうでも良くなったんだ」
「そんな……………まだ3年生なのに?」
「それでもだ。それくらい意味のある事だったんだ……………だから後はただ毎日が過ぎていくだけだった」
「だからあんなに死んだ魚の様な目を…………」
「………本当にそんな目してたか俺?………まあでもな、そんな時に俺の前に星達が現れたんだ。ほっとけなくて助けたんだけど、全然世間の事を知らなくてな。面倒見るのに必死だったよ」
「だから帰りが早かったんだ」
「ああ、じゃないと何されるか分からなかったから。特にライなんかはいたずらばかりしていたし」
確かにあの元気のあるライちゃんならありえるかも………
「でもあの3人といる内に俺も楽しくなってな。俺が今こういう風にいられるのはあいつらのおかげでもあるのさ」
これで納得出来た。零治君を変えたのはあの3人だったんだ。
「そうだったんだ………」
「ああ、だからこそ俺はあの時に言ったんだ。あいつらに手を出すならお前たちでも容赦しないって」
「うん、分かるよ」
私にも大事な家族がいるから。
例え血がつながっていなくても零治君の家族は深い絆で結ばれてるんだと思う。
「ありがとう、話してくれて………」
「構わないよ。でもそういえば一年の時にいきなり話しかけたのって……………」
「うん、ずっと気になってたんだ。だから私はあの時直ぐに声をかけたの」
「ふ〜ん、なるほどね。全く気付かなかったよ。おっと、もう遅いし帰ろうぜ。途中まで送って行くよ」
「うん、ありがとう」
私は零治君と共に教室を出ました……………
「まあそれだけじゃ無いんだけどな………」
と呟いた言葉は誰にも聞こえず、風と共に消え去った………
「そういえばあの時の女の子ってなんて言うの?」
「女の子?」
一緒に帰ってるとき、私はふと、あの時に助けた女の子の事が気になったので、聞いてみました。
「上級生から助けた女の子だよ、覚えてないの?」
「えっと…………………」
本当に覚えていないらしく、一生懸命思い出そうとしています。
「ああ、あの団子頭か、思い出した。………けどあいつがどうしたんだ?」
「今どうしてるのかなって、学校でも見ないし…………」
「確か親の都合で引っ越したような………」
「そうなの!?」
零治君の話を聞こうと思ったんだけどな………
「確かな。けどどうしたんだ?」
「別に、ちょっと気になったから」
「変な奴。っていうかよく知ってたな」
「だって私もついて行ってたんだもん」
「マジで!?全然気付かなかった」
「すごいでしょう!」
「ああ、立派なストーカーになれるんじゃないか?」
「ならないよ!!」
そんな感じで後は雑談をしながら帰りました。
「ふぅ…………」
頭をバスタオルで拭きながら今日の事を考えていました。
零治君の生きる意味。それが星ちゃん達だっていうのを感じた。
「アリサちゃん、ライバルは強敵だよ…………」
私は零治君に恋焦がれている友達を心配しながら呟きました…………………
第37話 SBS団始動!そんでもって席替え
「ふあ〜」
「相変わらず眠そうだね」
「誰かさんのせいで日中の俺の睡眠時間は完璧に消えてしまったからね………」
「ということはフェリアちゃんはちゃんと出来たんだね。ありがとね」
「私も零治のために治すべきだと思ってたところだ。これくらいならいくらでも協力するぞ」
この悪魔め!!
違った、魔王だ…………
「反省してない…………?」
「ごめんなさい…………」
なのはに逆らうとろくなことにならないからな………
「みんな!!」
「フェイトか?そんなにあわててどうした?」
「廊下、廊下を見て!!」
慌ててきたフェイトに言われ、俺たちは廊下を見る。
すると廊下にバカを筆頭に男達が順番に並んで歩いており、皆、胸のポケットにバッチみたいなものをつけていた。
そしてバカが一人、クラスに入ってきて俺の所に向かってきた。
「見ろ!!このバッジ、イカスだろ!!」
そう言って胸につけているバッジを見せびらかせてくる。
そのバッジは大きい文字でSBSと書かれている。
「なんだこれ?」
「このマークこそ、我が聖祥美少女親衛隊だ!!」
「だからSBSか」
「単純だな」
「単純な方が分かりやすいだろ、フェリ「イーグレイ」フェ「イーグレイ」フ「イーグレイ」…………イーグレイ」
「そうだな、確かに覚えやすい」
満足そうに頷くフェリア。
そんなに名前で呼ばれるのが嫌なのか…………
「団員は内のクラスで12名がSBS団だ。しかもこれからも人数は増えていくだろう」
暇な奴っていうか、馬鹿な奴が多いなこの学校。
「で、それがどうしたんだ?」
「……………宣戦布告さ」
「宣戦布告?」
「これからは俺達SBS団がお前を容赦しない、覚悟しろって事を言いに来たのさ」
「ふーん」
まあ、どうぞお好きに。
「ではこれから集会なので、失礼するよ」
そう言い残してバカは団員の元へ帰って行った………
「面倒な事になりそうだね………」
「主に俺がな………」
頭が痛いぜ…………
「ちょっと!!一体何があったのよ!?あのバカが多くの男子とどこかへ行ったわよ!!」
帰ってきたアリサが早々に聞いてきた。
一緒にいたすずかと加奈も事情をよく知らないのだろう。
俺たちはさっきの出来事を簡潔に説明した………
「大変やな零治君」
「なんでかな…………」
ニヤニヤしながら言うはやて。
昼休み、俺ははやてと一緒に飲み物を買いに行っていた。
「日頃の行いが悪いせいやで」
「たまにはやて達があいつらと話してやれば解決のような気がする」
「嫌や、気持ち悪いもん」
それは分かるな。
あんなに男子が固まっていたら逆に話しかけづらいし、あそこに混ざりたくないよな…………
「となると俺が頑張るしかないか………」
「………なぁ?」
「ん?」
「私たちが零治君に話しかけなければ問題ないんやないか?」
「う〜ん、まああいつはお前たちが俺の所ばかりに集まってるのが気に入らないのもあるだろうけど………」
「私達近づかんようにしよか?」
「今更変わんないだろ………それに、お前たちがいないとつまんないしな」
「そうやろか?」
「だからあまり気にしなくて良いと思うぞ、好きにすればいい」
「………ありがとな」
といい感じに話していると………
「見たか?」
「ああ、見た」
「あそこだけ空気がストロベリーだ」
「ストロベリーだな」
「甘酸っぱいな」
「あれって許されるのか?」
「いや許せないよな」
「相手はたぬきのはやてさんだぜ」
「たぬきのはやてさんだな」
「殺るか?」
「ああ、殺ろうか」
「「「「SBS団始動!!」」」」
いきなり俺達の周りを4人の男子が囲む。
頭には黒い布を被せ誰だかは分からない。
俗に言う変態だが、どうせ神崎組の奴らだろう。
「なんなんや!?この犯罪予備軍は!!」
「「「「我らはSBS団!!」」」」
「やっぱり……………」
「「「「たぬきのはやてさんをたぶらかす有栖零治に死を!!」」」」
「誰がたぬきや!!」
「「「「有栖零治、死ね!!」」」」
4人一斉に襲いかかって来た。
「こっちにははやてがいるんだぞ!!」
俺ははやてを庇いながら4人の脇を抜ける。
「くそっ逃すな!!」
「はやて!先に戻っていてくれ!!」
「あっ零治君!!」
俺はははやてをそのまま放置して廊下を走って行った。
「待て!!」
はやてを気にせず4人も俺を追ってくる。
その後も結局逃げ回る事になり、昼休みは追いかけっこで終わる事になった。
「ふぅ、疲れた………」
「お疲れ様、はやてちゃんから聞いたよ」
隣に座っているなのはが授業中に聞いてきた。
「ああ、あいつら体力ないくせにしつこいからな………」
実際撒くのは簡単だったが、ずっと探し回っていたため逃げ切るのに昼休みを全部使う羽目になった。
「でも、本当に困ったものだね。みんなに迷惑かけるなんて…………」
ちょっと黒いオーラが出ているような気がするけど、大丈夫か?
俺はなのはの黒いオーラにソワソワしながら授業を受けたのだった…………
「さあこれから席替えを始めるわよ!!」
6月の中旬に入って席替えになった。
本当はテストが終わってすぐにやるクラスが多いのだが、シャイデが忘れていたため、テストが終わって2週間ぐらいたってやることになったのだ。
「席替えだね…………」
「俺はここの席気に入ってたんだけどな………」
「えっ!?それって………」
「やっぱりこの席って居心地よかったからな。なんとか前の席だけは避けないと………」
「零治君、歯を食いしばってね………」
広辞苑を構えるなのはさん。
「何故!?」
「そこの二人!!仲良くしてないで、席替え始めるわよ!!」
シャイデのおかげで、俺は意識を飛ばすような事は無かった。
なのはが睨んでて怖いけど………
「やっと俺だな」
シャイデの気分で決まった順番はちょうど中間になった。
「番号は…………25か」
前と同じクジなのだが、今回は引いた番号をそのまま持ち、皆が引き終わってからシャイデがてきとうに番号を書くという、シャイデが好き勝手する席替えになった。
「さて俺の席は…………」
俺の番号を探すと、
「おっしゃああああ!!!!また同じ席だ!!!!」
見事同じ席を引き当てた俺。
「あっ私の隣だね」
そう言ったのはフェイト。
今回はフェイトが隣らしい。
「なのはみたいに起こさないなら大歓迎だ」
「えっと、考えておくね」
そこは肯定して欲しかった………
「まあ、私がさせないから大丈夫よ」
言ったのはアリサ。
どうやらアリサが俺の前らしい。
「また固まってるね」
「なんかイカサマしてないやろな?」
「「「そうだそうだ!」」」
「「「イカサマだ!!」」」
神崎組が何か言っている。
神崎組は神崎組で固まってるみたいだ。
だが…………
「何で私だけ…………」
その中になのはの名前があった………………
結果として、
俺、アリサ、フェイトが俺の前と隣。
すずか、はやて、それとフェリアがフェイトの隣の列で固まっている。
そしてなのはだけが…………
「私、これからはずっとミッドにいるね…………」
「俺ばっか殴ってる罰だな」
ちょうど神崎組に囲まれる位置に座っていた。
席替えも終わり、皆いつも通り俺の所に集まっていた。
皆、思うことがあるのかやはり席替えの話だ。
主になのはが………
「もういきなり、「おしおき待ってるから」とか「なのはさんハァハァ」とか言ってたんだよ………」
「取り敢えず訴えたほうが良いと思うぞ」
なのは大丈夫か?
「フェイトちゃん、席を………」
「交換しないからね」
「うう、フェイトちゃんが冷たい………」
「そりゃそうだろ…………」
俺だってあの席は嫌だわ。
「やぁ、なのは!!」
そこにバカがやってくる。
「近くの席になれたね。これからよろしく」
「う、うん」
なのは、引いてるな。
そんな時………
「どいて」
後ろから回し蹴りを食らったバカがそのままロッカーに沈む。
「みんな席替えどうだった?」
回し蹴りを決めたのは加奈だった。
後ろから桐谷も付いている。
「相変わらず、凄まじい蹴りだな」
「フェリア、邪魔な変態がいたから駆除しただけよ。むしろ感謝されたいくらいだわ」
「ありがとう加奈ちゃん」
マジで拝んでるなのは。
「なのは、流石にそれは…………」
「いいんじゃないの?これくらいは許してあげなさい」
あれ?フェイトの言ってることの方が正しいはずなのにアリサの注意の方が正しいと思える俺っておかしいのかな………
「一体どうしたんだ?なのはの様子がおかしいんだが………」
「それはな………」
加奈と桐谷に今回の席替えの結果となのはの事を話した………
「なるほどね、それは確かに身の危険を感じるわね………」
腕を組んで考える加奈。
しばらくして…………
「分かったわ、私に任せて」
そう言って未だに起きないバカに近づいた。
「ちょっと、起きなさい!!」
蹴りを腹に入れ、無理やりバカを起こす。
えげつない……………
「ゲホッ、ゲホッ………」
「加奈流石にそれは…………」
「兄さんくらいタフだから大丈夫よ。それより…………」
そう言ってバカに近づき髪を掴んだ。
「な、何をするんだい?加奈」
「何勝手に人の名前を言ってるのよ、キモイから名前で呼ばないで。次呼んだらこのバリカンでそのうざったい銀髪さっぱりさせるわよ」
懐からバリカンを出し、起動させる加奈。
ヤバイ、目がマジになってる…………
「わ、わかったからそのバリカンを止めてくれ佐藤」
「分かればいいのよ」
バリカンを止めるが、髪は離さない。
「悪いが髪も離して欲しいのだが…………」
「だったら私の話を聞きなさい。あなたSBS団とかくだらない集団のトップよね」
「ああ、そうだが、くだらなくはないぞ!!このSBS団はな…………」
「誰が口答えしていいと言ったかしら?」
そう言って再びバリカンを起動する加奈。
そしてバリカンを髪へ…………
「待て待て待て!!悪かったからバリカンを止めてくれ!!」
自慢の髪なのか止めるのに必死になってる。
「ったく、でね、なのははあなたの団員とあなたに大いに迷惑してるの。だからこれからはむやみに話しかけないでね」
「なっ!?せっかく近くになれたのに…………分かった!!気をつけるからバリカンには!!」
「気をつけるじゃ駄目ね」
「分かった!!むやみに話しかけないから、もう止めてくれ!!」
それを聞いて満足したのか、寸前まで近づけていたバリカンを髪から離す加奈。
「分かってると思うけど、団員にもちゃんと言い聞かせなさい。スッキリしたくなければね…………」
「わ、分かりました…………」
来た時の陽気さを全く感じないほど小さくなっている。
「恐ろしいなお前の妹は…………」
「今までの態度が気に入らなかったから、我慢していたものを一気に開放したんだろうな………」
「凄いね…………」
「零治君、桐谷君、よく今まで無事だったね」
「「無事じゃ無いよ…………」」
「やばかったんか!?」
それはもう…………
桐谷も俺もずいぶん大変な目にあったからな。
「なんで俺の周りの女の子は凶暴な女の子ばかりなんだろうな…………」
「美しいバラにも刺があるってことじゃないのか?」
「刺よりも爆弾とかそれくらいの威力はあると思う…………」
「それって誰のことを言ってるのかな?二人とも…………」
「そりゃ………」
「なのはとアリサと加奈の3人に決まって………」
そこまで言った俺と桐谷の口が止まる。
「覚悟は出来てるでしょうね………」
「二人ともオハナシなの…………」
「ちょっ!?俺は零治じゃないからシャレにならないって!!」
「おまっ!?一人だけ逃がすか!!親友だろうが!!」
「ふざけんな!!お前と違って俺は繊細なんだよ!!」
「俺の方が繊細なんだよ!!」
ドガッ!!
「二人ともうるさい………」
広辞苑を持ち、それを2人の頭に落とした。
「うわっ…………」
「かなり鈍い音が響いたな」
「痛そうだね………」
結局俺と桐谷は連れていかれ、後はいつもの通りになった………
でもこれでSBS団も好き勝手は出来ないだろう。
SBS団のこれからが少し気になりながらも、困ったら加奈に頼めばいいかと違う所で安心した零治だった………
「安心…………じゃねえよ…………」
「心を読むな…………」
ボロボロになりながら俺と桐谷は言ったのだった………
次の日…………
「見事に静かだな」
なのはの周りにいる神崎組改めSBS団は静かにしていた。
なのはは居心地が悪そうだったが、幾分マシだろう………
「これなら大丈夫かな」
「ああ。加奈のおかげだな」
やっぱり髪は大事だったみたいだな。
あのまま逆らってたらマジで坊主だったからな。
「それでね、えっと零治…………」
「ん、どうした?」
「今週の休日暇かな?」
「まあ、暇っていったら何もないけど…………」
「だったら一緒に遊園地に行って欲しいんだけど…………」
「…………………………えっ!?」
俺はしばらく返事が出来なかった…………
第38話 フェイトとデートと追跡者
「どうしよう…………」
俺は悩んでいた。
ベットの上に散らかってるのは俺の服。
その服達とにらめっこしていたのである。
なぜこのようになっているかというと、明日にある俺の一大イベントが原因だったりする。
『だったら一緒に遊園地に行って欲しいんだけど………』
めっちゃびっくりした………
数秒固まっちゃったもん。
今までは女の子と1対1で出かけるなんて星達としかなかったからな。
どうすればいいかイマイチ分からん。
「まあ、なるようになれか」
俺は出していた服を全部クローゼットに仕舞い込み布団に潜った…………
明日の気分で決めよう。
「どう思う?」
「僕は誰かとデートだと思うよ………」
「我もそう思う………」
3人は零治の部屋の前で小声で話している。
「私達の時はあんなに悩んで選んでないのに……………なんか悔しいですね」
「そうだね、僕たちは悩んで選んでたりするのに………」
「しかし、一体誰なんだ?」
夜美の言葉で3人は考え始めるが答えが出ない。
「フェリアなら知っているかも」
「さっき聞いたがフェリアでも分からないらしい」
「そうですか………」
暫く黙る3人。
「……………明日、私達も付いていきましょう」
「そうだね、僕も気になるもん」
「我もついて行くぞ」
「なら明日は早起きですね」
星の言葉に頷いた3人はそれぞれ自分の部屋に戻った……………
同時刻……………
「母さん、私、明日遊園地に行くでしょう?こういう時って何を着てけばいいのかな………」
「もう、あなたがメインじゃないんだからはやく決めて寝なさい。早く起きてお弁当も作るんでしょ」
フェイト宅。今、フェイトはリンディと二人で明日のことについて話していた。
「でも、フェイトにも春が来て母さん嬉しいわ。相手の男の子はどんな子?かっこいい?それとも童顔?」
「母さん、顔が近いよ………前に言った零治だよ。それに明日付き合ってもらうだけだから」
娘に男の話なんて無かったリンディにとって恋愛話はとっても興味があった。
「零治君かぁ………私も明日一緒に行こうかな」
「えっ!?いいよ、恥ずかしいから………」
「いいじゃない、あっ!?もしかして私がいると邪魔になるかしら?」
「そんなんじゃないって!!……………全く、明日は私の為じゃないんだからね」
「分かってるわよ。でもね……………やっぱり気になるのよ!!!」
「もう寝る!!」
顔を赤くして部屋に戻るフェイト。
「あらあら、可愛いわね」
「どうしたんだ〜?」
小さな女の子になっているアルフがリンディに話しかけた。
「明日、遊園地にフェイト行くじゃない?それにね男の子を連れて行くんだって」
「男〜!?フェイトにそんな奴がいるのか!?まさか、あの変態じゃあ………」
「ああ、神崎君ではないらしいわよ」
「へぇ〜やっとフェイトにも春が来たのか」
「そうね。私も嬉しいわ」
と二人で話していると………
「何だと!?」
とちょうど帰ってきたお兄ちゃんこと、クロノが驚いた顔をしてリビングのドアの前に立ち尽くしていた。
「相手は誰なんだ!?」
リンディの前に来て焦りながら聞くクロノ。
「ちょっと焦らないでよ。前にフェイトが話してくれた零治君よ」
「有栖零治…………」
クロノは最近貰ったメールの内容を思い出していた。
『今日ね、零治が、またなのはに余計なこと言っておはなしされていたの。なのはね容赦ないんだよ。』
『零治ってね、家族思いでね、今日も買い物頼まれたって学校終わったら直ぐに隣町のスーパーまで買いに行ってるんだよ。』
『この前ね…………』
「あいつがフェイトの…………」
「ちょっと、クロノ?」
「お前、恐いぞ」
「こうしては居られないな」
クロノは2人をスルーしてさっさと自分の部屋に戻ったのだった………
「ふぅ…………」
現在7時30分。
駅で待ち合わせをしているのだが、集合時間は8時なので男の面子はたったかな。
「お待たせ」
フェイトは少し大きめなバックを抱え、右手に男の子と手を繋いできた。
「その子がエリオ君?」
「うん、ほらエリオ」
手を繋いでいた男の子がおずおずと俺の前にやって来た。
「え、エリオ・モンディアルです………」
フェイトの後ろに隠れながら自己紹介する。
やっぱり怖いのかな………
「俺は有栖零治だ。今日1日楽しもうな」
「それじゃあ、行こう」
簡単な挨拶を済ませ、俺達は電車に乗るのだった。
実はフェイトのお願いはエリオの面倒を一緒に手伝って欲しいとのことだった。
エリオは人造魔導師だとは俺のうろ覚えの知識が覚えている。あとそのせいで人間不信なのも。今のエリオは特に男性に対してまだ抵抗があるらしい。
フェイトの考えは遊園地で遊びながら少しでも人に慣れて欲しいというのがフェイトの考えだ。
それで俺を誘ったのだった。
「でも、俺も男だぜ?大丈夫かよ………」
「大丈夫だと思うよ。零治は優しいから」
信頼されているのは嬉しいけど、不安があるっちゃあるんだけどな………
「行くぞ」
「「うん(はい)!!」」
サングラスと帽子を被った3人の女の子達が駅に入っていった。
「あれが零治か………」
夏に近いのにもかかわらず、ロングコートと帽子とマスクを着けている男性も駅に入っていった………
現在、電車の中。俺、エリオ、フェイトという順番で座っていた。
ぎこちないエリオに俺は手っ取り早く仲良くなるべく、ゲームを与えてみた。
やっぱりゲームの力は偉大だ!!まだぎこちないが、エリオと少しづつ話せるようになった。
「へぇ、ランスか。意外な武器選ぶな」
「えっ!?駄目ですか………?」
「いや、ダメじゃないさ。自分で使いやすいと思えれば良いんじゃないか」
「よかった。仲良く出来てるね」
「おう!俺とエリオはもう家族みたいなもんさ」
「家族……………」
「おう!!俺も弟を持てて嬉しいしな。今度家に来いよ。家にいるライって奴と夜美って奴もモンバスやってるんだ。一緒にやろうぜ」
「は、はい!」
「でも本当に良かった。これなら遊園地も仲良く出来るね」
「そうだな。それで最初に何から乗るか決めてるか?」
「ううん、私遊園地って余り行かないから…………」
「はぁ!?エリオはともかく、フェイト本当に中学生か!?」
「何回かはあるもん!!…………………みんなで一回」
俺は頭を抱えた。
こいつら本当に中学生かよ………
今から仕事中毒とかどうしようもないな。
「フェイト、今からそんなだと絶対結婚できないぞ」
「だ、大丈夫だよ!!多分………」
「駄目だな。エリオ、フェイトが売れ残ったらエリオがもらってやれよ」
「僕がですか!?」
「おう、美人だし自慢になるぞ〜!!」
「び、美人だなんて………」
「でも、僕なんか………」
「私はエリオならいいかな」
「というか子供に貰ってもらう気になってるフェイトの将来が俺は心配だ」
「はうっ!?」
「エリオ、さっきから何のゲームしてるの?」
「モンスターバスター2だよ。零治お兄ちゃん、これって面白いね」
お兄ちゃん!!
やばい、加奈やウェンディとは全く感動が違う。
やっぱり心が清らかだからかな……………
「モンスターバスター?」
「………お前、マジで言ってる?」
どんだけCMで流れてると思ってるんだよ………
「僕、昨日テレビで見たよ」
「えっ!?エリオ、知ってたの!?」
「うん、見てやってみたいと思ったんだ。そうしたら零治お兄ちゃんが………」
「長かったらレイ兄とかでいいぞ。フェリアの妹からはそう呼ばれてるんだ」
ウェンディだけだけど………
「分かったよ、えっと………レイ兄」
うん、子供ってやっぱ素直で良い。
「何か私より仲が良いかも………」
少しむっとするフェイト。
「悔しかったら、エリオから大好き!!って言われるくらいエリオを楽しませな」
「うん、私頑張るよエリオ!!」
「う、うん………」
テンションを上げたフェイトに戸惑うエリオだった………
「楽しそうだな………」
「フェイトは危険ですね」
「う〜、フェイトだったら僕の方がナイスバディなのに………」
「「………………」」
「えっ!?何で2人共僕を睨んでるの?」
「いや、どこからか戯言が聞こえたからな」
「そんな子にはオハナシするべきですかね?」
「う、うん。そ、そうかもね………」
あまりの恐ろしさに何も言えなくなってしまったライだった。
「仲はなかなか良さそうだな………」
さっきの男は新聞に穴を開け、そこから零治達の様子を見ていた。
「エリオもあんなに話しかけている…………あいつ………」
悔しそうにその様子を伺っていた…………
「ねぇリンディさん、クロノ君は?」
「何か用があるって朝早く出ていったわよ」
「あれ?クロノ君、部下の人から急に休みを取ったって聞いたのに………」
暫く考える2人。
「まさか…………」
「いや、流石に無いわよ」
「そうですよね。それより、フェイトちゃんの料理どうでした?」
「意外と上手に出来てたわ。もう少し失敗すると思ってたのだけど。味付けも少し薄いぐらいで大丈夫だったし」
「そうですか。フェイトちゃん、相手に褒めてもらえたら良いですね」
「そうねぇ………」
そういいながら、ぐちゃぐちゃになったキッチンを見た。
「私が間に合って本当に良かったわ」
2人はキッキンの片付けをした後、家でゆっくりしていたのだった…………
「はむはむ………クロノが変な格好して出ていったって言うべきかな………」
そんな様子を見ながらフランスパンをもぐもぐしてアルフが言ったのだった。
「へっくし!!………………誰か噂でもしてるのか?」
ロングコートでマスクの男、クロノ…ハラオウンは相変わらず新聞に開けた穴で3人を監視しながら、そう呟いたのた。
「到着!!」
「わぁ………」
エリオはあまりの広さに驚いているようだ。
「予想以上に大きい………」
「それはそうだよ。遠見ハイランドパークは日本有数の巨大テーマパークだからね」
「エリオはここの遊園地を知ってるの?」
「あっ、テレビで………」
「なるほど………」
まだ、気を使ってる気がするなぁ………
もっと子供っぽくても良いだろうに。
「それじゃあ、チケットを………」
「はい」
フェイトから渡されたのはハイランドパーク1日フリーパスだった。
「これは?」
「母さんが新聞屋さんから貰ったの。だから………」
「なるほど、だったら早く行くかエリオ」
「は、はい」
「あっ、待ってよ!!」
3人は遊園地へと入っていった…………
「ハイランドパーク………」
「ライ、遊びに来たのではないのですよ」
「うん、でも一回くらい………」
「星、ライのチケットは買う必要は無いぞ」
「分かった!ごめんってば!だから置いていかないで!!」
マジで置いていきそうな2人に慌てるライ。
3人は一番安いチケットを買って中に入って行った………
「一番安いチケットで1500円もするのか。………仕方がない」
入り口で文句を言う怪しい男、クロノ・ハラオウンは愚痴っていた。
「お客様、持ち物を調べさせていただいてもよろしいですか?ただいま、前の観覧車爆発事件を教訓にテロ対策としまして、持ち物検査を徹底しております」
「そうか、なら仕方がないな………」
クロノは係員の誘導で別室に連れていかれたのだった…………
「さて、まずはどれに乗りたい?」
俺は入って直ぐにエリオに聞いてみた。
「え、えっと………」
慌ててパンフレットを開けるエリオ。
「私、この3Dスクリーンが見てみたい」
「何でフェイトが答えるんだよ………」
俺はエリオに聞いたのに………
「僕もフェイトさんと同じで良いです」
「ほら、エリオが気を使ったじゃないか〜」
「えっ!?ごめんねエリオ………」
「フ、フェイトさん、僕は大丈夫ですから泣かないでください!!」
泣き真似をするフェイトに慌てるエリオ。
いやぁ、純粋な子はいじりやすい。
「冗談はそこまでにして、さっさと行こうぜ」
「うん、エリオも」
「あれっ?フェイトさん?」
エリオの疑問には答えず、二人はエリオを引っ張って行った。
「よし、動いたぞ!」
「ライ、行きますよ!!」
「ゴットスライダー……………」
「ちょっとライ!?」
引っ張って連れていこうとした星が逆に引っ張られる。
「ゴットスライダー………」
「力が強い!?夜美手伝って下さい!!」
「ライ、いい加減にしないか!!レイ達を見失ってしまうぞ!!」
「ゴットスライダー………」
暫くの間、ライが我に返るまで一生懸命抑えていた2人だった………
「凄かったね………」
「はい、映像が出てきてビックリしました」
「楽しんで貰えて何よりだ。それで次はどこに行く?」
「あの………僕、ここに行きたいです………」
エリオが指さした場所はカウボーイショット。
射的を楽しめ、高得点だと商品までくれる子供に人気のスポットだ。
「おっ、いいチョイスじゃん。じゃあ次はそこに行くか」
俺たちはカウボーイショットがある場所へ向かった………
「っく、かなり時間を食ったな………」
あの後事情聴取を受け、暫くしてやっと解放してもらえた。
「このコートと帽子がいけなかったのか?」
事情聴取の原因も怪しいからと言うのが原因だったみたいだ。
地球の漫画でこの様に尾行している場面を見たことがあってこうしたんだが………
「仕方ない………」
僕は遊園地のロッカーにコートと帽子を突っ込んで遊園地へと入った。
「ふぅ、涼しくなったな。では、フェイト達を探すか」
クロノ尾行再開……………
「ルールを説明するぜ!!」
カウボーイハットを被り、ウェスタンの格好したマッチョのおっさんが言った。
「制限時間1分30秒、女性と子供は2分だ。その内に10000点以上だと商品ゲットだぜ!!」
どうでもいいけど暑苦しいおっさんだな………
しかし商品も意外と多いな。
10000点 カウボーイショット記念ステッカー
15000点 商品券1000円
20000点 カウボーイショット記念エアガン
25000点 遠見市ハイランドパーク一日フリーパスペアチケット
30000点 ???
ステッカーとエアガンは男の子とかは嬉しがるのは分かるけど???ってなんだ?
「ちなみに30000点をとったお客様はほとんどいないぜ!!是非彼女にいいところを見せてやりな!!」
「わ、私は彼女じゃ………」
そう言ってチラリと零治を見るフェイト。
「エリオは何が欲しい?」
「う〜ん…………エアガンが欲しいかな………」
「…………………」
「あらら、彼氏さんは弟君の面倒で大変みたいだな。嬢ちゃんいいこと教えてやるぜ」
「なんですか?」
「いいから耳をこっちに」
ん?フェイトとおっさんは何やってんだ?
あっ、フェイトが真っ赤になった。
「どうしたんだフェイト?」
俺は心配になり、フェイトの元へ行くが、
「な、なんでもない!!それより早くやろう!!」
慌てた様子でエリオの所に走っていった。
「何を言ったんです?」
「女の秘密さ」
……………あんたのナリで女だったら俺はビルから飛び降りるぞ。
「だがさっきも言ったが、30000点は今までとった人はほとんどいないから厳しいぜ。まあ頑張ってくれよな!!」
暑苦しくサムズアップするおっさん。
うわ、暑苦しい………
「じゃあ、僕からやるね!」
気合を入れて銃を構えるエリオ。
的は出たり入ったりするよく見る奴だ。
小さい的になっていくほど高得点みたいだ。
「てい!!」
エリオは小さい奴から狙っているが、的にうまく当たらず外れている。
そして小さい的は動きが早く、直ぐに潜ってしまいなかなか当てられなかった。
その結果…………
「残念!!4500点だ!!」
おっさんの声が響く。
結局エリオはその後も小さいのを狙っていたが、なかなか当てられずにいた。
「うぅ…………」
エリオも悔しそうだ。
商品のエアガンを見ている。
「大丈夫だって、俺が取ってやるから」
「レイ兄………」
「おっさん、やるぜ」
「零治、頑張って30000点ね!!」
「いや、俺はエリオのエアガンを………」
「30000点ね!!!」
「……………ああ、頑張る」
何をそんなにマジになってんだフェイト………
「まあいいか」
俺は銃を手に取った。
「ねぇ、零治はこれやったことあるの?」
「残念ながらやったことないな」
いつもライに付き合って終わりだからな………
「銃とかは?」
「ここは日本なんだけど………」
銃刀法違反で捕まるわ。
まあみじかにぶっぱなしてた人はいたけどな。
「レイ兄始まりますよ」
おっと、それじゃあ、いきますか!!
大きい合図と共に弾が飛ぶ。
撃った弾は小さな的の中心に吸い込まれていくように飛んでいく。
弾は見事に中心を打ち抜いた。
「凄い!!レイ兄!!」
「零治凄い!!」
「………だろ〜!!」
言えない………合図にビックリして引き金を引いたなんて言えない………
そんなことを感じながら俺は違う的を狙う。
「ちぃ!!」
片手で引き金を引く俺。
気分は白い悪魔。
「なんとぉー!!」
お次は海賊やってたパン屋さん。
「狙い撃つぜ!!」
銃といったらやっぱりこの人。
うわぁ、意外と楽しいかも。
「レイ兄ノリノリだね」
「けど的に当たってるからいいと思うよ」
そんな感じで俺はノリノリで銃を撃っていたのだった。
で、結果は……………
「28500点!!残念だったな、もう少しで30000点だったんだがな」
確かに惜しかった。
残り時間に焦ってリロードしそこねたのが失敗だったな…………
「じゃあ、商品のペアチケットを……………」
「あ…………悪いんだけど、エアガンにしてもらっていいか?」
「ん?構わないけどいいのか?」
「ああ、俺の目的はエアガンだったからな」
そう言って俺はおっさんからエアガンを貰い、
「ほい、エリオ」
それを渡した。
「えっ!?」
「約束守ったろ」
「うん、ありがとレイ兄!!」
喜んで貰って何よりだ。
「じゃあ、最後は私ね」
気合を入れて銃を持つフェイト。
さて、フェイトはどうなのかな。
「「………………」」
「悔しい!!もうちょっとだったのに………」
「もうちょっと?」
「嬢ちゃん、俺もそこまで外した奴は初めてだ。それなのに25500点とは………」
おっさんも驚いてるな。
気持ちは分かる。
だってフェイトは狙った的に当ててないのだから。
なのに25500点…………
なぜこうなったのか…………
「やあっ!!」
フェイトが放った弾は綺麗に真っ直ぐ行くことはなく、
バン!!
何故か右斜め上の的に当たっていた。
「やった!当たった!!」
まぁたまたまだろうなって俺とエリオは見ていたんだが…………
「フェイトさん、凄いですね…………」
「本当にある意味な………」
その結果がこの高得点である。
あの後も最初の調子で、狙った所には行かないのに、何故か的に当たるというフェイトマジック?が起こっていた。
「商品のフリーパスペアチケットだ。嬢ちゃん残念だったな」
「はい………」
「まあ、これで彼氏さんとまた来てくれ」
「だ、だから!!零治は彼氏じゃ………」
「別に誰とは言ってないぜ」
「………………意地悪」
「はっはっは!!青春してるね若人!!」
でかい声で笑い声を上げるおっさん。
「何か言われたのか?」
「なっ何でもない!」
そう言って外に出ていくフェイト。
「おっおい!!エリオ行くぞ!!」
「はっはい!!」
俺達も慌てて付いていくのだった………
その後も俺達3人はそれぞれ色々なアトラクションを楽しんだ。
エリオもフェイトも大いに楽しんでいる。
時間はあっという間に過ぎ…………
「そろそろ飯にするか」
1時30分頃、少し遅めの昼食を取るために、俺が提案した。
「本当だ、もう1時半過ぎてたんだね。だったら…………」
「エリオ、何が食べたい?」
「えっと…………」
パンフレットを見て迷ってるみたいだ。
そういえばエリオって地球の料理食べたことあんのかな?
「フェイト、エリオって………」
「あのね、二人共…………」
俺がフェイトに質問しようとしたらフェイトが話を切り出してきた。
「私ね、今日お弁当作ってきたんだ。だから…………」
「なんだ、だったら早く言ってくれよ。エリオ、わざわざフェイトがお弁当作ってくれたって。それを食べるぞ」
「うん、ありがとうございます、フェイトさん!!」
「でも、お弁当作るの初めてで、美味しくないかも………」
「問題無いよな?」
「うん、だから早く食べよう!フェイトさん」
「ありがとう2人共」
俺たちは弁当が食べられそうな場所へ移動したのだった…………
「全く、ライの所為で完璧に見失ってしまったではありませんか………」
「ごめんね…………ゴットスライダーを見たら無意識に乗らなくちゃいけない気になっちゃったから………」
「それで許されると思ってるのか?取り敢えずここの昼食代はライ持ちだな」
「えっ!?合計3000円以上するんだよ夜美!!星も何か言ってよ!!」
「すみません、このスフレチーズケーキ追加で」
「星!!!」
ライの絶叫も2人には届かなかった。
なんだかんだ言って遊園地を満喫している3人だった……………
「くっ!!ここは何処なんだ………」
クロノは現在迷子中…………
解放されて焦って探し始めた為、今自分がどこにいるのかも分からない。
仕方なくクロノは近くにいるお客さんに声をかける事にした。
「すみません」
「はい?」
クロノが声をかけたのは近くにいる女子大生3人。
「ここ、どこか分かりますか?」
「えっとここって、この場所?」
「はい、初めてなもので迷ってしまって…………」
と言った所で女子大生の3人は後ろを向いて相談し始めた。
「ねぇどうする?新手のナンパかな?」
「でもかっこよくない?」
「うん、私すっごくタイプ!」
「だったらこのまま昼食に誘って一緒に遊びましょうか?」
「「異議なし!!」」
3人は再びクロノに振り向く。
「あの、私たちが案内しましょうか?」
「えっ!?ですがいいんですか?」
「はい!!私達も女3人で男の人と遊びたいなぁなんて思ってたんです」
「あっ、いや僕は………」
だが3人の内2人に腕を絡められ、身動きを封じられた。
「先ずは一緒に食事でもしましょう」
「いや、僕は妹の………」
だが、クロノの思いも虚しく、そのまま流されてしまうのだった…………
「ここにしようぜ」
俺が選んだのはちょうどいい感じにあった芝生だ。
アトラクションの外れた場所にあり、結構静かだ。
「いいのかな?」
「怒られたら違う場所に行けばいいだろ」
俺の答えに渋々納得したフェイトは持ってきたバックからシートを取り出し敷いた。
「はい、どうぞ」
「「おおっー!」」
弁当はおせちに使うような弁当箱で3段あった。
1段目がオニギリとお稲荷さん。
2段目が卵焼きとウインナー。
……………二種類なのは何も言わないほうがいいよな。
だけどほとんど卵焼きで埋まってるってなんか凄いな。
一体どのくらい卵を使ったんだか………
3段目は恐らく冷凍商品だろう。
J〇商品に似たグラタンなど、昔の俺も作るのが面倒なときよくお世話になった為見覚えがある。
今は星が色々と作るため、お世話になる機会が減ったが………
「えっと、どうぞ………」
「「いただきます〜!!」」
俺は箸を、エリオは箸使えないのでフォークを持ち、それぞれ食べ始める。
「ふふ、召し上がれ」
俺達の様子を見て、フェイトも嬉しそうだ。
先ずは俺もエリオもお稲荷さんを食べる。
ちゃんと染みてて美味しい。
フェイトも箸を持って食べ始めるが目線は卵焼きに。
ってなるほど…………
「さて………」
「!!」
やっぱり。
俺が卵焼きに手を付けようとしたとき、フェイトは俺の様子を見てる。
箸で挟んで口に運ぶ。形はちょっと崩れてるけど、いい感じに半熟で旨そうだ。
そして俺は卵焼きを口に運んだ。
「ど、どう………?」
「普通にうまいよフェイト。半熟でとろりとしていたし。けど、しいて言えばもう少し甘いほうがもっと美味しかったかな。まぁ俺は好きだけど」
「あ、ありがと………」
少し恥ずかしそうにお礼を言うフェイト。
いいね、なんかこういうの。
「本当だ、美味しい!!」
「だろ!!」
「ありがとう、二人共………」
その後も俺たちは楽しく食事をした。
けど、エリオの食べっぷりには驚いた。
もしかしてあの量だったのってエリオがかなり食うためか!?
「あれ?」
ふと、ライが歩くのを止めた。
我はまたアトラクションに心を奪われてのかと思い、星とアイコンタクトしてライを抑える準備をしたが、
「クロノが女の人と囲まれているよ」
「「クロノ?」」
「フェイトのお兄さん」
そういえば、レイから聞いたことがあるような………
パシャ!!
「ライ?何故、写真なんか撮っているのですか?」
「ちょっとエイミィさんに教えようかなって」
「エイミィさんって?」
「フェイトのお姉さんって所の人かな。この前仲良くなったの」
そう言いながらライは携帯を操作して、メールを打っていた。
「これでOK。じゃあ、再開しよう」
我たちは再びレイ達探しを再開した…………
「そろそろパレードだな………」
空も暗くなり、遊園地の目玉パレードの時間となった。
あの後色々回ったが、戦慄病院だけ、二人共かなり拒否ったので行かなかった。
どんな反応するか楽しみだったんだけど……………
まぁそれは次の機会だな。
「あっ始まるぞ!!」
「わぁ……………」
「綺麗…………」
フェイトもパレードを見るのは初めてらしく、大いに楽しみにしてた。
2人共目がキラキラしていらっしゃる。
「…………ありがとね」
「ん?いきなりどうしたんだよフェイト」
「今日付き合ってくたから。おかげで今日は楽しかったよ」
「僕も!!」
「そうか、俺も楽しかったよ」
特にエリオは俺と話すことに問題ないみたいだ。
これで少しは安心できるかな。
「でね、それで………あのね…………」
「また3人できたいな」
「う、うん!!また3人で一緒に遊びにこようね!!」
俺の言葉に嬉しそうに反応するフェイト。
「僕もまたレイ兄とフェイトさんと来たいです」
「そうか、じゃあ、また一緒に来ような」
俺たちは新たな約束をして最後まで楽しく遊園地で過ごした。
「うぅ、結局見つからなかったね………」
僕たちはあの後もレイ達を探していたけど、見つからずパレードの時間になっちゃった………
「そうですね、今日は疲れました…………」
「我もだ、一体何しに来たんだろうな………」
2人はかなり疲れてるみたいだけど、僕は楽しかったな。
なんか刑事になった気分だったし。
「でも、これを見れたのはよかったかもしれませんね」
「確かに綺麗だな………」
「そうだね………」
レイ達もいい雰囲気になってたりするのかな?
でも男の子もいたし、大丈夫か。
取り敢えず帰ったらしっかり話してもらわなきゃね。
「ただいま…………」
あの後、3人の女性に色々付き合わされ、フェイトを探すどころでは無かった………
なんとか隙をみて逃げたが、時間はもう夜だった。
仕方がなかったから帰ってきたが、フェイトは一体どうなったのだろうか………
「ク・ロ・ノ君?」
「ああ、ただいまエイミィ………!?」
何故かエイミィは鬼の形相で僕を見ており、アホ毛がピクピク動いていた。
「今日はさぞかし楽しかったんでしょうね。地球の女の子に囲まれて」
「一体何を言って………!?」
そう言おうとしたとき、エイミィの携帯を目の前に見せられた。
「これは!!」
そこには僕と今日振り回された女性3人が腕を組んでいる所が写っていた。
「誤解だ!!今日は別のようで…………」
「そうですか、別に私には関係ないけど、仕事休んでまで女の子と遊んでいるのってどうかと思うよ」
「違うんだ〜!!!」
結局、エイミィの機嫌を良くするのに、ミッドの最高級レストランを奢ることとなった………
第39話 みんなで勉強会IN有栖家
「また、勉強会しようよ」
さて、季節も夏に入った。今年の1年は長いなぁと早くも思い始めた今日この頃。
授業中、何の前ぶりもなく隣のフェイトが提案したのだった。
「またやるのか?」
中間の苦労を思い出し、俺は嫌な顔をした。
「そんなに嫌がらなくても…………」
「するのはまだいい。だけど、アリサとすずかが今度は途中で帰らないって言うんならいいぞ」
「えっ、私!?」
聞き耳を立ててたのか、反応するアリサ。
「聞いてたのかよ………まあいい、アリサとすずかがいれば俺が教える必要が無いからな」
「そ、そんなに私がいないと駄目なの………?」
「ああ、是非アリサには居て欲しい。俺の為にも」
「そう…………」
なにやら深く考え始めたアリサ。
大丈夫か?
「………………」
何故か分からんけどフェイトは俺を睨んでるし、一体何なんだ?
「と、いうことでまた勉強会をしたいと思います〜!!」
昼休み、隣のクラスの加奈と桐谷を加えて一緒に昼食を食べていた時、何故かなのはが皆に宣言した。
「勉強会?必要ないんちゃうか?」
「………はやて、アンタ中間成績悪かったじゃない。今度悪いと夏休みも学校に来る羽目になるわよ」
「ちょ!?それは堪忍や!!」
「私も成績決して良かった訳じゃないから………」
「だよね………」
ブルーになる現役魔法少女達。
「よっしゃ、なら今回は気合入れてこか!!じゃあ、今度の週末、零治君の家に集合や!!」
「はいちょっと待て!!本人無許可で何勝手に決めてんだ!?」
「いいやないか、週末も美女と一緒にいられるんやで」
「いや、そんなに飢えてないから。家は無理だろ!!星達も居るんだし、勉強する場所なんてねぇよ!!」
「どうなんや、フェリアちゃん?」
「いや、大きい机出せば大丈夫だろ」
「フェリア!!!」
何、真正直に教えてんだ!!
「なら決定やな。皆もそれでええか?」
「「「「「異議なし!!」」」」」
「桐谷君は?」
「別に構わんよ」
「なら決定や!!」
「フェリア………」
「いいじゃないか、友達を家に呼ぶって楽しそうだしな………」
つくづく、人間ぽくなっていくな………
こうして、家主を完全に無視して、我が家で勉強会をすることとなった……………
「はぁ〜………会長、茶!」
「零治君、ここは喫茶店じゃないわよ」
「そんなことよりどうしたんですか?」
その日の放課後、俺と桐谷は生徒会室に呼び出された。
「前に話していた。人気総選挙の話よ」
「…………なんか変わってね?」
「こっちの方がいいじゃない、アイドルみたいで」
「まぁどうでもいいけど」
「詳細はもうこっちで決めてるわ。資料にまとめたから目を通しておいて」
そう言って俺と桐谷に資料を渡した。
「……………また随分とこってるな………」
「こんなに大規模にやって構わないんですか?」
「大丈夫よ、先生方からはちゃんと許可をいただいたから…………」
なんか裏があるような言い方だったような…………
「それで日時なんだけど………」
「ちょっといいですか?」
「何?桐谷君」
「俺に何故、資料を渡すのですか?」
「何故って、零治君と一緒に司会をやってもらうからに決まってるじゃない」
「はい!?」
今更かよ………
最初の方で気づけ。
「いや、俺は司会なんて………」
「大丈夫よ零治君に突っ込んでくれるだけでいいから」
「…………拒否権は?」
「ありません」
それを聞いて溜息を吐く桐谷。
まぁドンマイだな。
「取り敢えず、テストが終わってから細かく打合せするから、その資料見といてね」
「了解」
「分かりました」
こうして総選挙の司会は俺と桐谷がすることとなった………
そんでもって週末…………
ピンポーン。
「あっ、私が出ます」
そう言って玄関に向かう星。
あの後、星達にも聞いたのだが、速攻でOKが出た。
3人もみんなでまた勉強しようと考えていたらしい。
「「「「おじゃましま〜す」」」」
「いらっしゃい、みんな!!」
「よく来たな」
ライと夜美も4人を迎える。
「あれ、桐谷君と加奈ちゃんは?先に来てるって聞いてたけど………」
「加奈はフェリアの部屋、桐谷は俺の部屋で漫画読んでると思う」
そう言っている内に3人とも部屋から出てきた。
「おお、いらっしゃい」
「フェリア、なんか親父臭いわよ」
「そうか?加奈の家でのくつろぎ方の方が酷いと思うのだが………」
「それは俺も同感」
「何か言った?桐谷」
「………いいえ何も」
「相変わらずだね………」
「そういえばはやてちゃんは?」
「ああ、あいつは反省中」
「「「「反省中?」」」」
俺はリビングに4人を連れていきベランダを見せた。
「何やってるのよあんた………」
ベランダには、ガムテープで、手首足首、口を塞がれて身動きできない状態で放置されてるはやてがいた。
「んん〜!!」
「零治、一体何があったの?」
「早めに来たと思ったらいきなり俺の部屋に入って荒らし始めたから、オシオキしてベランダに放り投げた」
「零治君、厳しいね」
「当たり前だ!!人の家なんだから最低限のマナーは守れや。小学生じゃあるまいし………」
「ははは…………」
苦笑いしか出ないフェイトだった………
「あのバカたぬきは無視して勉強始めるか」
「んん〜!?(バカたぬきってどう言う事や!?)」
何か言っているみたいだが知らん。
俺たちははやてを無視して勉強を始めたのだった。
「ふぅ………ひどい目にあったわ………」
「自業自得なの」
「あんたは少しは礼儀を覚えなさい」
勉強を始めて一時間程。
はやても開放され、本格的に勉強会がスタートした。
宴会用のデカイ机を引っ張り出してきたが、やはり人数が多い為、全員で一緒に勉強できなかった。
なので、俺と桐谷、なのは、ライが普段飯を食べるときに使う机で、後の皆は宴会用の机で勉強している。
「友達、ましてや思春期の男の子の部屋は宝石箱みたいなもんなんやで!!今日だって、ベットの隠し棚から………」
「バカ!!はやて!!」
「ほぉ………」
俺は声のした方を見ると、黒いオーラを出している星が………
「まだあったのですね………」
そう言って立ち上がる。
「ま、待て!!それはこの前中島から………」
「問答無用です………」
そう言ってさっさと俺の部屋に向かう星。
「はやて、お前の所為でまた処分されるじゃねぇか!!」
「いやぁ、おおきに」
褒めてねぇよ!!
「そんなことしてていいのか?」
「そうだった!!」
俺は自分の部屋に走ってった。
「レイやっぱり………」
「星、頼む!!今回は見逃してくれ!!」
エロ本を持って何か呟いてる星に俺は土下座する。
「私だってあと3年すればこれくらいの色気………」
「星………?」
「はっ!?駄目です!!こんな卑猥な本はレイには必要ありません」
「いや、男には必要だって!!」
「必要ありません!!レイには一生必要ないものです!!」
「何でだよ!!俺だって男なんだから………」
「いいんです!!反論は認めません!!」
うぅ………初めて一人暮しが恋しくなってきた。
「ということでこれは処分と言うことで」
ああー!!!
「うぅ、心の傷が…………」
「ホンマ災難やったな………」
テメェのせいだろ!!
「でも零治君も悪いと思うの………」
「そうだね、中学生でア、ア、アダルトな本は………」
後ろの方は恥ずかしいのか、声が小さくなるフェイト。
無理しなくていいぞフェイト。
「アンタ、やっぱり変態だったのね」
「いやいや、男はみんな変態なのさ」
「そうかな?桐谷君は違うと思うけど………」
「甘いなすずか、桐谷は結構な趣味の持ち主で………」
ドゴン!!
俺の腹に鋭い痛みが響く。
「キ、桐谷………」
俺はそこで意識が途絶えた。
「さて、バカはほっといて勉強始めるぞ」
((((((((((口封じした!!))))))))))
「は!?俺は一体…………」
「レイ起きました?もうすぐお昼なので手伝ってもらっていいですか?」
「昼?」
俺は時計を見ると確かに12時を過ぎていた。
「そうだな、たまには一緒に作るか」
俺は起き上がりキッチンに向かう。
「アンタ、料理なんて出来るのかしら?」
「…………なんでみんな家にいるんだ?」
「アンタ、頭大丈夫?今日勉強会よ」
勉強会?……………………そうだった!!
「じゃあ、何で俺寝てたんだ?」
「お前が居眠りしたからみんなそのまんまにしておいたんだよ」
酷いな、学校ではいつも無理やり起こすくせにこういう時には起こさないのかよ………
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
「ん?何だみんな」
「桐谷君、結構酷いの………」
「いつもオハナシしてるなのはには言われたくない」
それに対して何も返せなくなるなのはだった………
「レイっていつもこんな扱いなんだね」
「これでも優しい方だぞ」
「………レイのこの先がとても心配なんだが」
フェリアの話を聞いて、レイの身がとても心配になった2人だった………………
「さあ、出来たぞ!!」
今日の昼食はパッと作れて手間暇掛からんオムライスをチョイスした。
人数が人数なので、星と二手に別れて作った。
いつも食べている席にライ、夜美、加奈、桐谷、フェリア。
でっかい机にその他の皆様。
勉強道具は取り敢えず片付けました。
「これ、本当に零治君が作ったの!?」
「何驚いてるんだなのは。こんなのケチャップベースのチャーハンに玉子を乗せるだけじゃん」
「まぁ、ざっくり言うとそうやな」
「はやてだってこれくらいパパっと作れるだろう?」
「そりゃあ当たり前や!伊達に家族の料理作ってるわけやないで!!」
「そりゃ、はやてはそうだけど…………」
「ん?アリサ、お前もこれくらい作れるよな?」
「そそそそうよ!私だってこれくらいは……………」
俺のオムライスを見てその先の言葉がでなくなるアリサ。
「私、こんなに綺麗に玉子乗ったことないの…………」
「すごく綺麗………」
なのはとフェイトも相当ダメージが大きそうだ。
なんか負のオーラが漂ってるような………
「どうしたのですか?皆さん、早く食べて勉強を再開しましょう」
星が自分の作ったオムライスを持ってきて言った。
「「「………………」」」
あれ?アリサ、なのは、フェイトが固まってるような………
「星ちゃん、料理上手なんやな。すごく綺麗やで!!」
「フフ、ありがとうございますはやて。私、料理好きなので」
「いやぁ、私でもこんなに綺麗に作れるか分からんわ」
「もう………それより早く皆さん食べましょう、冷めてしまいます」
「そうだな、よし!食べるか」
俺の号令にみんな反応して各々席に着き、
「それじゃあ………」
「「「「「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」」」」」
みんなで仲良く言った。
「美味しい…………」
「美味しいね…………」
「私の料理より断然…………」
さっきの三人組は食べても負のオーラを出し続けている。
「味合わなかったか?」
「ううん、美味しいよ。ただ………」
「そうね……………」
「女として負けた気がして…………」
「俺は男なんだが…………」
何かこっちまで暗くなりそうだし、ほっとくか。
「すずかとはやてはどうだ?」
「美味しいで」
「美味しいよ」
そりゃ、良かった。
星の方を見ると星も嬉しそうだ。
「そういえばすずかも料理とか作るのか?」
ふと、気になった俺はすずかに聞いてみた。
「私は余り作らないかな。コックさんが作ってくれるし」
ハハッ、すずかがお嬢様だって忘れてた……………
「じゃあ、全く作れないのですか?」
「ううん。私の姉が、『結婚して、料理出来ないなんて恥ずかしいだけよ』って結婚仕立ての頃教えてくれて、色々勉強してたの」
「なるほど、たまにはいいこと言うんだな忍さん………」
「えっ!?お姉ちゃん知ってるの?」
「ああ、小学校の時翠屋で」
あの人は大変だったな…………
いじるだけじゃなく、俺をモルモットとして色々しようとしてたし………
しかも美由希さんも便乗するし。
恭也さんが止めてくれなかったら俺どうなっていたんだろう………
「そうなんだ………お姉ちゃん一言も言ってなかったよ」
「零治君、意外と私達の知り合いと親しかったりしとるな………」
「たまたまだよ………」
避けてたけどね。
「レイ、お茶要ります?」
「おっ、サンキュー」
俺のコップにお茶を入れてくれる星。
「はぁ〜うまい………」
「お粗末様です」
やっぱお茶は緑茶に限る。
「「「「「………………………」」」」」
何か同じ席に座っているみんなの目線が鋭いんだけど。
特にアリサ、フェイト、はやて、なのは。
ぶっちゃけ怖いです………
「星、僕も〜」
「我にもくれ」
「私も頼む」
「星、私にもお願い」
「桐谷はどうします?」
「じゃあ頼む」
そう言って星はライ達にもお茶を入れに行った。
そうしたら何故か鋭い視線も収まった。
一体なんなんだよ…………
昼も終わり、勉強を再開して2時間程過ぎた頃。
「オヤツだぁ〜!!」
ライの大声に集中していた空気が一気に吹っ飛んだ。
「いきなり大声を出すな!!」
「オヤツだよ!オヤツの時間だよ!!星!なのはが持ってきてくれたケーキ早く!!」
「分かりましたから落ち着いて………」
相変わらず子供な奴だな………
まぁ、ちょうどいいか。
みんなの集中力も一旦きれたし良いか。
「みんな一旦休憩しよう」
「もぐもぐ…………美味しい〜!!」
それはもう本当に嬉しそうになのはが持ってきたケーキを食べるライ。
可愛いいんだが、いい加減もう少し大人に………
「レイ、あ〜ん」
パク。
もぐもぐ…………
「うん、うまい」
「でしょう〜!!」
流石は桃子さんだな。相変わらずいい仕事をしてる。
「「「「「…………………」」」」」
そんな様子を唖然と見ているなのは達。
「ライのすることでいちいち驚いていたらきりがありませんよ………」
そんな星の言葉に5人は驚愕するしかなかった……………
「そろそろお開きにするか」
時刻は夕方6時。そろそろ空も赤く染まってきた。
「そうね、もうこんな時間経っていたのね」
「頑張った〜」
「ライ、頑張りましたね」
「えへへ………」
ライの頭を撫でる星。
ライもうれしそうだ。
「で、ライは実際どんな感じなんだ夜美?」
「結構いい点数を取ると思うぞ」
「マジで!?」
夜美は嘘なんか滅多につかないし、信憑性はあるけど、にわかに信じられないな………
「でも結構頑張ってたよ」
すずかにもお墨付きをいただきました。
「なら今回はみんな大丈夫だな」
「それが…………」
申し訳なさそうにすずかが言う。
「なのは達が………」
「ああ、現役魔法少女か………」
「なんかその言われ方嫌なの………」
「いいから、なのは終わった?」
「ふぇっ!?もう少し待って!!」
「はやてとフェイトは終わったわよ」
「ええっ!?2人とも早いよ!!」
「フフン、なのはちゃんとは違うんやで!」
「だけど、はやては半分出来てないわよ」
「なんやて!?」
大変だな魔法少女………
確かに6月は忙しそうにしてたからな。
まぁ頑張れ…………
俺は3人の夏休みが無事に送られる事を祈って手を合わせた…………
第40話 聖祥美少女総選挙(前準備)
さて、期末テストも終わった。
今回は中間のはやてみたいに点数が悪かった奴が出なかった為、皆夏休み学校に来ることは無くなった。
んで、取り敢えず今は全てテストが返し終わった放課後。
俺はなのは、フェイト、はやてと話していた。
「取り敢えず一安心や」
「そうだね、私達夏はミッドにほとんど居なくちゃいけないから補習なんてなったら困ったよね」
「ホントだね〜」
夏休みも働く気か、この仕事中毒共が。
ピンポンパンポーン…………
『2年A組の有栖零治君、2年B組の加藤桐谷君、至急生徒会室まで来てください』
「零治君、呼ばれてるよ」
「そうみたいだ。じゃあ、仕事もほどほどにしないと女として行き遅れるぞ」
「余計なお世話や〜!!」
俺は3人と別れて生徒会室に向かった………
「ちわ〜す」
生徒会室に入ると会長以外の生徒会メンバーもそこに居た。
「よく来たね」
「会長、いい加減放送で呼ばれるのは恥ずかしいんだけど………」
「仕方ないじゃない、君たちどこにいるのか分からないんだもん………」
「だもんって………」
可愛いい子ぶっても裏がありそうで不気味なんだけど。
「失礼します」
そんな時桐谷もやって来た。
「おっ遅いね桐谷君、遅刻だよ。罰としてみんなの前で一発芸を……………」
「失礼しました」
何事もなかったかのように流れる様に生徒会室を出ていく桐谷。
「ちょっと!!桐谷君、冗談だからカムバァーク!!」
桐谷はその後、生徒会メンバーに無理やり確保されました。
「で、いいかな?」
「…………なんですか?」
うわ、凄く嫌そうだな………
未だにロープを巻かれ、逃げられないように縛られてる桐谷。
当たり前だが機嫌が悪い。
「そう怒らないで欲しいんだけど………取り敢えず総選挙の準備について話そうと思ってね」
まあ、そうだろうとは思ってたけど。
「でね、取り敢えず明日から3日間募集することにしたの。もちろん推薦有りでね」
「あいつらだけじゃないのか?」
あいつらとは当然なのは達のことである。
「それじゃあ女子にはつまらないでしょ。それに彼女たちが不審に思うわよ。だから一応応募は自由、推薦もね」
まあ、確かにすずかやフェリアは感づきそうだ。はやてはこの計画について一応知ってるんだもんな。
「多分人数も少ないと思うからそんなに心配してないけど、多かったら総選挙の前に投票して、絞ろうと思うわ」
なるほどね………そうすればなのは達も変には思わないか。
「はやてはどうするんだ?」
「彼女の説得は零治君に任せるわ」
「…………多分無理ですよ。アイツ自分がいじられるのは嫌うだろうし」
「そうなったら逃げないように当日連れてきて」
「そうだったら全員逃げるような気がするんだが………」
「桐谷君、それをなんとかするのが2人の役目よ」
「「………………」」
「それ以外の準備を私達がやるから、2人ともしっかりね」
俺と桐谷は不安しか思わなかった……………
次の日………
『聖祥美少女総選挙!あなたも是非エントリー!!』
学校の掲示板にあちこち貼られていた。
そして小さく、
『推薦も受け付けています』
…………これなら確かに少ないだろうな。
気づいた人がいてもあくまで噂になりそうだし。
「へぇ、一体誰が出るんだろうね?」
「さあ?フェイト、アンタ出たら?人気あるんだし、No.1になれるんじゃない?」
「ええっ!?私はいいよ………」
「知らんとは幸せやな…………」
「はやては諦めたのか?」
「あの会長から逃げれへんと思うしな………」
意外とすぐ折れたな。
これなら結構楽かも。
「まあ、はやても結構可愛いからどっちにしても推薦あると思うけどな」
「そ、そうやろか…………?」
「ただ、その性格をどうにかしないと一部の男子にしか人気は出ないだろうな」
「一言余計や!!」
はやては久々に取り出したハリセンで俺を思いっきり叩いた。
大きい音がその場に響く。
「相変わらずいい音がなるな」
それに全然痛くないし。
「フフフ、そやろ。メンテにも抜かりなしや!!」
「メンテ必要だったんだな…………」
一体何でハリセン作ってんだか………
「まあそれに結構おもろそうやし………」
何だかんだ楽しみでもあるはやてだった………
次の日…………
「何で私達の名前があるのよ!!」
朝、フェリアと共に学校に来ると、いきなりアリサの声が響いた。
まだ教室なら別に構わないのだが………
ここは昇降口なのである。
1年、3年の目がとても痛い。
本人は気づいていないみたいだけど………
アリサは昇降口入ってすぐにある掲示板の前で騒いでいる。
恐らく、人気総選挙についてだろう。自分は出ることが無いと思っていたのか、大いに驚いてるのだろうな。
「というよりみんなだね…………」
すずかがそう呟き、一緒にいたなのはとフェイトも掲示板に駆け寄る。
「本当だ………」
「私の名前まである………」
因みにはやて、フェリア、加奈の名前もちゃんとある。
「一体どういうことよ!!」
そんな時、階段から怒りを露にしながらこっちに来る加奈。
「何で私達の名前があるのよ!!私達出るなんて言ってないわよ」
「まあ推薦だからな」
「推薦?」
俺は手招きして加奈を掲示板の所へ呼び寄せる。
「あっ、零治!!これ一体どういうことよ!!」
「朝一番が文句かよアリサ」
「でもこれは私達も納得出来ないよ」
なのはの言葉にすずかとフェイトも頷いている。
「ちょうどいいや、一緒に説明するから。………それじゃあ、みんなここを見てくれ」
俺はそう言ってポスターの右下を指差した。
「何にもないじゃない」
「よく見てみろ」
その場にいる6人が覗きこむ。
おーおー、みんな気づいたのか、怒りに怒ってるな。
「何これ!?これじゃあ、詐欺みたいなもんじゃない!!」
「仕方ないだろ、会長の指示なんだから」
「私出たくないよ………」
「まあ気持ちは分かるが、せっかく推薦してもらったんだからその人たちの為にも出てはくれないか?フェイトなら絶対みんなも喜んでくれるからさ」
「………………零治も?」
「俺としては会長の脅威から逃れられるからマジで助かる」
「そう言う意味じゃないんだけど………」
何故か不機嫌になるフェイト。
「で、やっぱり駄目?」
「……………はぁわかったよ、零治にはこの前にお世話になったし協力するよ」
「そうか!ありがとうフェイト!!」
そう言って俺はフェイトの手をとった。
「れ、零治!?」
「いやぁマジで助かったよ、このまま出てもらえなかったら会長になんて言われるか………」
「分かったから………手を………」
「おっ、悪い」
俺はフェイトの手を離す。
そんなに嫌だったか………?
「…………分かったわ、私も出る!!」
「アリサちゃん!?」
「何で!?」
いきなりのアリサの発言になのはと加奈が驚いた。
「べ、別に零治の為じゃないからね。ただ、私を推薦してくれる人に悪いから……………それに………」
そう言ってフェイトを見るアリサ。
何でフェイトを見てるんだ?
「なら、私も出ようかな」
「すずかちゃん!?」
「アリサちゃんの言うとおりだよ。それに水着になれとかそういうのはないんでしょ?」
「ああ、そう決まってる」
「ならいいじゃない、一緒に出ようなのはちゃん、加奈ちゃん」
「………………うん」
「仕方ないわね」
なのははまだ少し納得出来ていないようだが、加奈はもう切り替えたようだ。
でも、これで無事みんな出てくれそうだ。
一応一安心だな。
「皆、私も応援してるから頑張ってくれ」
「フェリア、お前も出るんだぞ」
「な、何だと!?」
放課後…………
「ここか………」
「ああ、確かここだったはずだ」
俺と桐谷はとある空き教室に来ていた。
「行くぞ」
「ああ………」
俺たちは静かにその教室の後ろから侵入して行った………
『何を言うか!?あの時々見せる恥ずかしい顔が萌えるのではないか!!』
『いいや、あのツンツン具合がいちばん萌えるね!!』
そうだそうだー!!
発言している覆面の男の周りにわんさかいる覆面の男たちが言う。
『それは貴様らの趣味からなるものだろ!!だが我らのフェイト姫は全国民共通の姫だ!!ツンデレなどを利用しなくとも皆から愛される!!』
そうだそうだー!!
今度は反対側の覆面男の周りにいる覆面男が…………
「分かりづらい………」
「だよな………」
みんな覆面被ってるから説明しづらい………
取り敢えず、覆面被った男共が萌について熱く語り合ってると理解してくれればいいです。
「貴様は有栖零治!!」
語り合ってた男共全員が一斉にこちらを向く。
それぞれ武器を持って……………
「どっから出したんだよ………」
「本当にこの学校にはまともな奴が少ない気がする………」
俺と桐谷はそんな光景に呆れつつ、俺は話を切り出した。
「悪い、そんなに敵対心持たないでくれ。今回は生徒会からの要請で協力を仰ぎにきたんだ」
「協力?」
「罠じゃないのか?」
「なんでもいいからコイツ潰そうぜ」
「俺、今日のために鎌持ってきたんだ」
「俺は鎖鎌。これなら逃げられないだろ」
「「「「「あったま良いー!!」」」」」
「いや、頭すっからかんだろ」
俺のツッコミもあいつらに届かない。
奴らはそれぞれ自分の武器を持ってゆっくり近づいてくる。
人数はざっと20人弱。
また増えてるな………
「ちょっと待て、聞けって!!総選挙の話で、あんまり勝手な事をやりすぎるなって言いに来ただけなんだから!!だから武器しまって!?うおっ!!駄目だ、逃げるぞ桐谷!!」
斬りかかってきたのを躱し桐谷に声をかけた。
「ああっ!!」
バットを持って近づいてきた男に回し蹴りをかましながら返事をする桐谷。
吹っ飛んだ男のおかげで奴らが巻き込まれてる。
「今だ、行くぞ!!」
俺達二人はなんとか逃げきったのであった……………
「で、どうだったの?」
「微妙。ていうか、釘を指しても好き放題しそうだけどな」
生徒会室に逃げ込んだ俺達はお茶を飲みながら報告していた。
「ちっ、使えないわね…………」
「最近俺の使い方が荒くないか?」
「気のせいよ…………仕方ないからSBS団はスルーするわ。恐らく暴動は起こらないと思うから。終わるまでは……………」
「だろうな…………」
恐らく自分の好きな子の応援をするだろうから、それぞれ分裂するだろう。
そんでもって結果に不満を持ち暴れ始めると思う。
さっきの状態であの様子からなのだから不安で仕方ない。
「それで、エントリーは今の所どうなってるんですか?」
「今のところはね…………あの7人と一年生の菊池さんと3年生の真田さん」
推薦か?よくエントリーしたな………
「取り敢えず明後日まで募集するつもりだけど、恐らく12人位になると思うわ」
「結構多いですね」
「いいんじゃないかしら。そっちの方が盛り上がるわ」
う〜ん、悲惨な結果に成らなければいいけど………
「ふふ、今から楽しみね………」
なんだかんだ言ってこの人が一番楽しみそうだよな。
だけど、タダで楽しませる気はないぜ会長。
その後俺たちは生徒会室を後にした…………
「桐谷」
「ああ、分かってる。他の生徒会メンバーの協力も得られる」
「やっぱり皆に慕われてるんだな」
「それはそうだ、生徒会長なんだからな」
「まあいい、みんなと協力してもらいながら会長にも参加してもらうか」
俺達は早速行動に移した……………
第41話 美少女総選挙
『さあ、皆さんお待たせしました!!急遽!!我が生徒会長水無月楓先輩が企画した聖祥美少女総選挙、開幕します!!』
うおおおおおおおおーーーー!!
男子から大声援が響く。
大きい体育館でやっているこの企画、放課後の自由参加だというのに全生徒の8割は来ている。
『さて今回も司会を担当させて頂くキャンディーは直ぐに噛んでしまう、有栖零治です!!』
『それ言う必要あるのか?』
『こっちは今回のもう一人の司会、ジュースの氷は全部食べちゃう加藤桐谷君です!!』
『だから言う必要ないだろ…………加藤桐谷です。皆さんよろしく』
きゃあああああ!!
『わーい女子から黄色い声援が……………これだからイケメンは。馬に蹴られて地獄に落ちろ』
『それは人の恋路を邪魔したやつだろ。いいから早く始めるぞ』
『そうですね。それでは始めましょう!!』
流石だね二人共。大勢の前でも臆せず普通に話せる。
しかも二人共アドリブでやるって言ってたし、やっぱり二人には是非生徒会をやってほしいな。
これにはやてちゃんを足して、真面目な人を入れれば完璧。
う〜ん、どうやって入りざるおえない状況を作ろうか………………
『それでは企画説明、イケメンで頭脳明晰の桐谷君よろしく』
『………お前根に持ってるだろ?』
『そんなことないさ〜』
『はぁ………今回は12人の女子が登場します。まず、それぞれ説明を零治君がし、各々一言意気込みを言ってもらいます。そしてそのあとが本番。季節は夏なので彼女達には浴衣を着てもらいアピールをお願いします。それを踏まえて投票をお願いします』
うおおおおおお!!
『嬉しいか野郎共!!こんなチャンス滅多にないからしっかり目に焼き付けろ!!』
『女子の人達も是非投票お願いします』
『因みに撮影は禁止だ。怖い生徒会メンバーが監視してるから気を付けろ』
『それでは早速参りましょう。まずはエントリーナンバー1番。アリサ・バニングスさんです!』
ステージ脇から現れるアリサさん。すると………
アリサちゃーん!!
おお、やっぱり人気あるねぇ。
男子の声援が大きい。
『彼女のクラスは2ーA。【燃える女】の異名を持ち、世界を狙える右を持つ彼女。得意技はリバーブローとガゼルパンチ。1番強い技が………すいません、調子に乗りました、俺が悪かったので右手を下げて!!』
今のは零治君が悪い。
アリサさんは零治君に近づいてマイクを奪い、自己紹介を始めた。
『アリサ・バニングスよ。このバカが変なことを言ったけど、普通の女の子と変わらないからコイツの言葉は流してね』
『アリサさん、意気込みを』
『取り敢えず、推薦してくれた人のためにも最低限の事はするわ』
そう言ってマイクを零治君に渡すアリサさん。
なんとまあ、さっぱりしてますね。
けれど、これも人気の1つなのかな。
「「「「「アリサ様ー!!!」」」」」
1番前にいる覆面の男子達が大声で声をかけている。
と言うより、最前列、横に端から端まで覆面姿って不気味ね………
『はい、上から目線のコメントありがとうございました』
『余計なことは言わんでいい。続いてはエントリーナンバー2番、月村すずかさんです!』
桐谷くんの声と共にすずかさんがステージ脇から現れた。
アリサさんの時も思ったけど、大勢の前なのに平然としてるわね。
流石お嬢様と言ったところかしら?
『彼女もまた、2ーAです。持ち前の雰囲気とスタイルは中学生離れしており、性格も良い彼女は男女共クラスの人気が高いです。間違いなく今回の本命でしょう』
あれ?今度は全くボケないわね零治君。
『珍しく普通だな』
『それくらい完璧なんですよ彼女。本音を言うと、我がクラスの魔王様以上に怒らせたら大変そうだから』
『何故そう思うんだ?』
『俺の勘がそう警鐘をならしている』
そう思ってるのに口にできる零治君に敬意を送るよ………
『零治君………』
『ハッ、なんでしょうか!?』
『マイクを貸して』
『かしこまりました』
そう言ってマイクを渡す零治君。
『初めまして月村すずかです。今回推薦という形ででることとなりました。期待に応えられるように頑張りたいです』
パチパチパチパチ!!
拍手がわき、すずかさんはマイクを零治君に渡しました。
あれ?何か耳元で話してますね。あ〜あ、零治君の顔が真っ青に………
『ありがとうございました。続きまして………って、零治、顔が真っ青だぞ?』
『だ、大丈夫。この企画が終わるまでは………』
『?まあいい。エントリーナンバー3番はこの人、高町なのは!』
次はなのはさんね。彼女はある意味有名だからみんな知っているわね。
『た、高町なのはです。皆さんよろしくお願いします』
桐谷くんからマイクを受け取り、少し緊張しながらも自己紹介するなのはさん。
『彼女も2ーAですが、彼女の事は誰もが知っているでしょう。だが敢えて説明しましょう!!彼女こそ2ーAに住む【魔王】の称号を持つ人物です!!可愛い外見とは裏腹に“オハナシ”と言うキーワードを言えばそれを聞いたものを地獄に突き落とす………』
それ以上の言葉は出なかった。
なぜなら………
『オハナシ………する?』
どこから取り出したのか、広辞苑を右手に持ち、零治君の頭に落としたから………
それによって零治君が倒れました。
一気に会場が冷めたわ。
『あ、ありがとうございました。オハナシは終わった後でお願いします』
桐谷君がすかさずフォローする。
『分かったの…………』
取り敢えず収まったけど零治君は倒れたまま。
これは不味いかも………
『ハッ!?俺は一体何を………』
『おい、今は総選挙本番中だぞ。ぼーっとしてるなよ』
『そうか?…………すまない。けど頭に鈍い痛みがある気がするんだけど………』
『昨日、寝違えたんだろ』
『ああ、なるほどな』
納得するの!?
『では、気を取り直して。次はエントリーナンバー4番フェイト・T・ハラオウン!』
桐谷君が同じ要領で発表し、フェイトさんがステージ脇から出てきたけど………
物凄く、カチコチで手と足が一緒に出てる。
なんか凄く可愛い………
『ふぇ、ふぇ、フェイト・T・ハラオウンで、です。えっと………その………が、頑張ります!!』
うおおおおおおー!!!!
「「「「「フェイト姫ー!!!」」」」」
もう、男子から大声援。
頑張ってー!!と応援する女子すらいる。
『今のを見た通り、いつもの時とは全く違うギャップ。これほど恐ろしいものがあるだろうか、いや無い!!』
うんうんと最前列の覆面の男子も頷いてる。
いいぞ、我らが宿敵!!なんて言っている人も。
『気合い入ってるな………』
『当たり前だ。彼女も優勝候補筆頭だからな。しかし、一体総選挙はどうなるのか?桐谷君、次よろしく頼むよ』
『分かったよ。エントリーナンバー5番、フェリア・イーグレイ!』
今度はあの小さい子か。
綺麗な銀髪でちょっと羨ましいなあ………
『フェリア・イーグレイだ。皆、よろしく頼む』
あら、本当に一言ね。
『フェリアさんも2ーAです。世の男共、彼女の良さは言わずとも分かってるだろう。だからこそ敢えて説明しない。だが、一言言わせてもらおう。これもアリだ!!』
あれ?涙流して頷いている男子いるけど一体どうしたの!?
『あっ、でも実際変なことをしたら捕まるから絶対するなよ』
ブーブーブー!!!
うわっ今度はブーイングの嵐だ………
『やかましい!!当たり前だろうが!!桐谷、ドンドン行くぞ』
『……………分かったよ。続いてはエントリーナンバー6番、佐藤加奈!』
わああああー!!
歓声は小さいわね…………
まあ転校してきたばかりだから仕方ないかもしれないけど、ちょっと寂しいわね。
『佐藤加奈です。私の兄がお騒がせして申し訳ありません。後でシメますので…………』
その言葉を聞いて会場のみんなが引いた。
『お前、やる気あるのか?』
『それ以上に余計な事言ってばかりいる兄さんをシメておきたいから。後で調教ね』
手をポキポキ鳴らしながら言う加奈さん。
「女王様キターーーーーーー!!!」
「俺も調教されたい!!」
「むしろ踏まれたい!!」
M男達にはかなり人気みたいね。
『うるさいわね、一回シメるわよ!!』
その発言に更に盛り上がるM男達。
『加奈、そのくらいにしろ。…………続いてエントリーナンバー7番、八神はやてさんです!』
『みんな、久しぶりや〜!みんなのアイドル、八神はやてやで〜』
マイク片手に大きく手を振ってみんなに話しかけるはやてちゃん。
流石、イベントになるといいノリするわね。
『変なこと言うなよ、どこらへんからアイドルなんだ?』
『上から下までに決まってるやないか。それに私も一応推薦で選ばれたんやで』
『いや、お前はお笑い要因として俺が推薦しといた』
『零治君かい!!』
ドカン!とどこから取り出したのかはやてちゃんはハリセンで零治君をぶっ叩いた。
ドカン?
『はやて変な音が聞こえたんだけど………』
『ふふふ、よくぞ聞いてくれたで零治君。今回ハリセン52号を改造したんや。ハリセン52号改めハリセン52号改!!今回は様々な音を出すことに成功したんや』
そう言ってもう一度零治君の頭をハリセンで叩いた。
ブヒ!
『今度は豚さんや。他にも5つ位あるで』
『おおっスゲェ!!』
『今度はカスタム化するつもりやで』
『次は一体何になるんだ!?』
『どうでもいいわ!!』
桐谷君が二人で盛り上がり始めている零治君達に拳骨を食らわせる。
『お前ら何大勢の人の前でくだらない話を始めてんだよ。今回の企画分かってるか?』
『えっと…………総選挙?』
『何で疑問形なんだよ………』
『だって…………』
ブーブーと文句を垂れるはやてちゃん。
桐谷君がいなかったら止まらなかったわね………
『はぁ………さて次は………』
『ちょ!?もう出番終わりなんか!?』
『零治、つまみ出せ』
『イエッサー』
ずるずるとステージ脇に連れて行かれるはやてちゃん。
まあ、なんというか…………どこにいても零治君とはやてちゃんは変わらないね………
『さて、零治がつまみ出していますが、次にいきたいと思います。エントリーナンバー8番………』
こんな感じで自己紹介は進んで行った…………
『エントリーナンバー11番、真田佳苗さんです!』
『初めまして、真田佳苗です。図書委員をやっています。私なんかが出ていいのか分かりませんが、皆さんよろしくお願いします』
メガネをくいっと上げながら自己紹介する真田先輩。
紹介もとうとう後1人となった。
何かこれが終わったら俺殺される気がするんだけど………
まあ取り敢えず今回のこの企画を終わらせることだな。
『真田さんは会長と同じクラスの3−Cで親友です。会長と同じ雰囲気を持っているので、ものすごく不安を感じますが紹介します。生徒会が調べたところ……………………』
『どうした?』
『………………データが無い………』
『えっと…………これは………』
俺と桐谷が真田先輩に問いかけるように見ると、
『あら、女性のプライバシーをバラすなんて男として駄目よ』
そう言ってニヤリと笑った。妖美な感じで観客から歓声が上がっているが、俺と桐谷は苦笑いしかでなかった…………
((この人絶対会長と同じだ………))
『エ、エントリーナンバー12番、菊地カナタさんです』
『みんなー初めまして、1ーBの菊池カナタでーす!!』
「「「「「カナタちゃーん!!」」」」」
『みんなーありがと〜!!』
大きく手を振り歓声に答える菊池。
なんでも有名なアイドルだとか。
興味無いから知らないけど。
『現役アイドルユニット、CUVEのメインボーカルをしている彼女。今回の本命と言っても過言じゃないです』
『普通だな………』
『いや、資料にはこれしか書いてないし、俺は興味なかったから。それに余計な事を言うなって会長にも言われてんだ』
『ちょっと、失礼過ぎない!?』
『そんなの今更だ。はいこれで全員だよな』
『だから勝手に終わらせるなって!!』
『そうよ!もっと私を紹介しなさいよ!!』
『残念!尺が無い。はやて!その子つまみ出してくれ』
『了解や!』
ステージ脇からはやてがやって来て無理やり菊地を連れて行く。
『ちょっと、やめなさいよ!!』
『文句なら零治君に後で言ってや』
そう言ってステージ脇に消えて行った。
『…………今更だけど本当にやりたい放題だったな』
『まあいいじゃん。それじゃあ、ここで特別参加の紹介に行きたいと思います』
『今回この企画の発案者であり、生徒のトップ、水無月楓さんです!』
『会長カモ〜ン!!』
俺の掛け声で生徒会メンバーに引っ張られながら現れる会長。
おお、睨んでる睨んでる………
『………どういうことかな二人共?』
『日頃のしかえs………お礼です』
『思いっきり仕返しって言おうとしてたよね』
『いやいや、会長にはお世話になってばかりで俺は本当に………』
『桐谷君はどうなの?』
『零治が勝手に計画して俺と生徒会メンバーはそれに仕方なく協力してるだけです』
ちょ!?
よく見るとステージ脇にいる生徒会メンバーも頷いてるし……………
『まあ、協力した時点で許す気はないんだけどね。みんな覚悟しといてね』
ものすごくいい笑顔で言う会長。
この瞬間、生徒会メンバーから笑顔が消えた…………
『それじゃあ取り敢えずみんな知っているでしょうけど………水無月楓です、推薦で総選挙に出ることになりました』
さっきの怒りは何のその、いつも通りの会長に戻った。
『みんな、よろしくね!それじゃあ桐谷君、浴衣審査の説明よろしく』
『あ、はい。浴衣審査ですが、各自こちらで用意した浴衣を着てもらい披露してもらいます。それも踏まえて1番美少女だと思った人に投票をお願いします』
『はい、良くできました。じゃあ私も準備してくるからあとよろしく』
そう言ってステージ脇に消える会長。
『それでは皆さん少々お時間をいただきます。今のうちにトイレ休憩などを済ませておいてください』
桐谷の説明で見ていた生徒達もそれぞれ動き始める。
「俺たちも少し休むか」
「ああ、そうだな」
俺は桐谷に声を掛けてステージ脇に入っていった。
「ほら」
「ああ、サンキュ」
桐谷が投げてくれたお茶のペットボトルを受け取り、口をつけた。
俺たちは今、ステージ脇のパイプ椅子に座って休憩している。
「しかし結構盛り上がってるな」
「それくらい人気があるってことさ」
というよりここの学校には変わり者が多すぎる。SBS団みたいな覆面かぶった奴らもいれば、中学生で幼女趣味な奴など。
転生する前の中学生はこんなんじゃなかったはずだ。
「それもそうか、確かに彼女たちは皆美人だしな」
「誰か気になる奴とかいないのか?」
「俺は…………まあいないかな。確かに彼女たちは美人だが、すでにご執心な人物がいるみたいだし」
「ふ〜ん。まあ、アイツらも女の子だから気になる奴ぐらいいるだろうな…………ってどうした桐谷、頭を抑えて、頭痛でもするのか?」
「………原因は分かってるよ」
「そうか?ならいいけど。でもお前もフェリアと一緒に勉強したりしてるじゃないか。結構まんざらでもないんだろう?」
「まあ、フェリアとは話が合うが、特になんとも」
動揺なく淡々と言う桐谷。
つまんねぇな………
転生前からそうだったが、コイツはいつもこうだ。
時折、女より男の方が好きなんじゃないかとも思ったりするが、ちゃんとエロ本を持ってたりするところを見るとそうでもないみたいだ。
せっかくイケメンなのに本当に勿体ない………
神崎までとはいかなくとも俺もアピールすると思う。
「それに俺はそんな資格なんか………」
「ん?何か言ったか?」
「いや………それよりお前はどうなんだ?フェイトとデートしたんだろう?」
「まあデートというより子供の面倒の手伝いだな。しかし弟はいいな………エリオって言うんだけど、純情でさ、すごく可愛かった。俺も本当は口うるさくない弟が欲しかったぜ。………っていうか何で知ってるんだ?俺、誰にも話してないんだけど」
「フェリアに聞いた。詳しく言えば星達に聞いたフェリアだけどな」
「アイツら………帰ったら説教だな」
付いてきてやがったな………
「俺から聞いたって言うなよ」
「分かってるよ」
「二人共、準備出来たぞ!!そろそろ再開だ!!」
生徒会の男子生徒に言われ俺達は立ち上がる。
「じゃあ、行くか」
「ああ」
俺たちは再びステージに向かった………
『皆さんお待たせしました!!準備が整いましたので美少女総選挙再開します!!』
『彼女達はどんな浴衣を選んだのでしょうか?…………それでは順に入場です!!』
俺がそう言ったと同時に体育館の明かりが消える。
そして今流行りのヒップホップな曲が流れ、ステージ上の中心がライトアップされる。
しかし凝ってるな………
マジでファッションショーみたいだ。
『先ずはアリサ・バニングスさんの登場です!』
桐谷がそう言うとアリサがゆったりとステージ脇からステージ中心へと歩いていき、中心の明かりに照らされた。
「な、何よ……………」
「い、いや…………」
俺はマイクで喋ることを忘れて見とれてしまった…………
アリサは赤を基本とした浴衣で白い花(恐らく菊?)が綺麗にマッチしている。
「零治、司会司会………」
そうだった!!
『素晴らしく美しい!!流石燃える女、素晴らしいです!!』
『綺麗ですね。これは皆さんにも高評価ではないでしょうか?』
会場はさっきの様子とは別に感じるほど静まっている。
アリサが中心から脇に帰って行く。
ステージ脇に帰ってから………
うおおおおおおおおお!!!
きゃああああああああ!!!
大喝采が湧き上がった…………
「良かった………」
「ううん、アリサちゃん綺麗だったよ」
「うん、零治君も見とれてたもん」
「そ、そうかな………」
すずかとなのはに言われて私も嬉しかった。
前半とは違って盛り上がらなかったから失敗だったのかと心配したけど盛り上がってくれて良かった。
それにしても見とれてくれたんだ………
確かにじっと見られたような気がしたけど…………
「フフ………」
「アリサちゃん?」
「何でもないわよ。それより次はすずかでしょ。準備したほうが良いわよ」
「あっ!?それじゃあ私行くね!!」
「うん、すずかちゃん頑張って!!」
ステージへと向かうすずか。
すずか、あの鈍感男を驚かせてあげなさい!!
『続いては月村すずかさんです、お願いします!』
桐谷がそう言うと、再びステージ脇からすずかがゆっくりと歩いてくる。
すずかの浴衣は無難な紺だが、すずかの髪の色とマッチしており、凄く綺麗だ。
「月村さん、綺麗………」
「羨ましい………」
女子からも声が聞こえる。
さっきのアリサのギャップに不覚にも見とれてしまったけど、すずかの浴衣も予想通りであるけれども素晴らしかった。
『大変綺麗でしたね。特に男子達は歓声が上がらないほど見とれていますね』
『これこそ大和撫子と言っても過言じゃない!この学校でよかっな野郎共!!』
「オオーッ!!」
「当たり前だー!!」
「すずか様最高!!」
いいね、変な奴が多い学校だけどノリの良さは最高だ。
『続いては高町なのはさんお願いします!』
桐谷の言葉でなのはが歩いてくる。
中心に現れたなのはは白の浴衣。そこに様々な色の星のマークが入っている。 前の二人とは違い、今時の若者の浴衣って感じだ。
だけど、それもアリだ!!
「なのは可愛いー!!」
「こっち向いてー!!」
「「「「萌え〜!!」」」」
『はい男子、直接萌え〜は気持ち悪いから心の中にだけにしとけ』
そう俺が言うと顔を真っ赤にして頷くなのは。
いいね、いつも魔王様じゃなくてこっちの萌えなのはだったら最高なのに………
『高町さんありがとうございました。続いてはフェイト・T・ハラオウンさんです!』
次はフェイトか………
予想では黒だと思ってたけど、黒の浴衣ってちょっとな………
と思いながら見ていたらフェイトは黄色の浴衣を着ていた。黒の模様が所々入っており、可愛い。しかも、恥ずかしがってモジモジしているのを見ると思わず抱きしめたくなってしまう。
「「「「「可愛い〜!!!」」」」」
「「「「「フェイト姫萌え〜!!!」」」」」
「生きてて良かった………」
うわっ、泣きながら言ってる奴もいるよ………
確かに萌えるけどさ………
『次は佐藤加奈さんです!』
我が愚妹の登場。
水色の爽やかな浴衣を来ており、これだけ見ると明るい清純そうなイメージを感じる。
でも、実際は………
「………………」
アイツ、本当に俺の心読んでないか?
メッチャにらんでるし………
(何でアリサみたいに見とれないのよ。いつもとは違う雰囲気の浴衣選んだのに………)
『加奈さん、ありがとうございました。続きましては………………っと皆さんにお知らせです。次のフェリアさんとはやてさんですがお二人で一緒に登場することになりました!それではお願いします!』
前回と同様にゆっくりと中心に進む二人。しかし二人は手を繋いでいるみたいだ。
そして、二人が中心にやって来たが………
「ぐはっ!?」
「は、反則だろ………」
「じいちゃんばあちゃん、俺今行くよ………」
SBS団に壮絶なダメージ。
殆どの人数が倒れた。
『お前ら………』
俺も頭を抑えた。
なぜなら………
『何で浴衣審査って言ったのに犬耳と尻尾つけてんだ!!』
二人は同じミニスカートの浴衣(模様の色は別)に犬耳、尻尾を着けていたからだ………
これじゃあコスプレみたいなもん…………
『違うわ!私のは狸耳と狸の尻尾やで!』
『んな事どうでもいいんだよ!』
『零治、私は狼だ』
『だから知らねえって!!しかも何で嬉しそうなんだよ!?』
『かっこいいではないか。それに浴衣とは耳と尻尾を着けるのではないのか?』
『そもそも前提が間違ってるから!』
誰だ、フェリアに変な事吹き込んだの………
しかも二人共何故か声が響いてるし。
ふと、ステージ脇を見ると顔をだした会長がサムズアップしてた。
かいちょうー!!!
結局、あのままになりました。
コスプレっぽくなってしまったのでどうかと思ったが観客は大盛況だったのでそのままスルー。
そして次々と進んでいき、前半同様後3人になった。
『さて次は真田佳苗先輩です!』
中央に現れた真田先輩はすずかに負けないほどの大和撫子だったのでものすごく青い浴衣が似合ってる。
動きなども一つ一つ大人っぽくて流石だと感じました、ごちそうさまです。
SBS団も静かにガン見だったからな…………
『次は菊池カナタさんです!』
「「「「「カナタちゃーん!!!!!」」」」」
ファンクラブか?
男の声が体育館に響いた。
『みんなありがとー!!』
手を振りながら中央に現れる菊池。
しかし……………
カラフルな浴衣に異様に短いスカート。少しジャンプしたらパンツが見えそうだ。
SBS団は姿勢を低くして覗こうとしてるし…………
マイクもどっから持ってきてんだよ………
いや、似合ってるし可愛いんだけどね。
『最後は我らが会長、水無月楓さんです!』
急遽参加になった会長が中心に現れる。
花火を連想させるような柄が入った浴衣に狐のお面を頭に着け、うちわを持っている。
大人っぽい会長が子供っぽく見えて……………やべ、アリだ!
『零治君?そんなエロい目で私を見ていいのかな?』
『見てねえよ……………いいから早く下がってくださいよ。投票してもらわないと………』
「この変態ー!!」
「女の敵ー!!」
『よーしそこの覆面共、とっとと出て行け。それとお前らにだけは絶対に言われたくない!!』
『投票するんだろ?喧嘩売るな…………』
桐谷に静止され俺も怒りを抑える。
『そうだな…………さっさと終わらせて逃げないと…………』
さっきからステージ脇から感じる殺気が半端ない………
俺、生きて星達に会えるかな?
そんでもって投票。
生徒会メンバーが高速で集計。
その時間わずか30分。
流石生え抜きのメンバー。あの会長は人を見る目があるよな……………
「はぁ〜やっぱりお茶はほうじ茶よね〜」
その会長はこんなんだけど………
『皆さん、お待たせしました!!投票結果を発表します!!』
桐谷も進行にすっかり慣れたな。
現在、ステージ上に横一列で浴衣美女達が並んでいる。
『今回の結果は中々の接戦でした。さあ、誰が優勝でしょうか?』
『では結果発表です!!』
ステージが暗くなりスポットライトが動く。
『それでは優勝は……………』
桐谷がためる……………
『優勝は八神はやてとフェリア・イーグレイ!!』
「えっ!?」
「うそやろ!?」
『アンケートは接戦でしたがこの二人のペアが一番票が多かったです。特に女性票も多く、半分は女性票でした』
『何か二人分って感じがするけど…………でも結果はこのようになりました。それでは二人共一言ずつお願いします』
俺ははやてからマイクを近づけた。
『みんな〜おおきにな〜!!』
『えっと……………か、感謝する………』
『それでは二人にはトロフィーの授与を、会長お願いします』
桐谷がそう言うと会長がステージ脇に行ってトロフィーを取りに行く。
『二人共おめでとう』
『『ありがとうございます』』
『二人に盛大な拍手を!!』
そう言って俺は拍手を始めるとそれにのって会場の皆が拍手をしてくれる。
『これにて美少女総選挙を終了にします!!』
こうして第一回美少女総選挙が終わった…………
「零治君………」
「覚悟は………」
「いいかな………?」
ただいま俺は3人の美女の前に正座しています。魔王様、燃える女、すずか様の…………
今から起きるであろう身の不幸に俺は不安でしょうがない………
「まあいいじゃない。それくらいにしてあげなさいよ」
は!?まさかの会長が俺に助け舟!?
一体どうしたんだよ!?
「それより気になること………ない?」
それを聞いて3人が首をかしげる。
「零治君が誰に投票したか………」
「「「!!!」」」
「そういえば零治君は誰に投票したんや?」
「私も気になる」
「ちなみに桐谷君は?」
「俺はすずかに。一番似合ってると思ったからな」
「あ、ありがとう………」
真っ直ぐ言われて照れるすずか。
よし、このままどさくさに紛れて…………
「零治君、何処に行くのかな?」
会長が逃げようとした俺を見つけやがった。
「ちくしょう、捕まってたまるか!!」
「あっ零治君が逃げた!!」
「逃がさないわよ!!」
直ぐに反応したなのはとアリサが追ってくる。
「絶対捕まってたまるか!!」
絶対言いたくない!!
「あ〜あ、逃げちゃった………」
「それで桐谷君、零治君は誰にいれたの?」
残ったメンバーで零治の話を始める。
「いや、流石に…………」
「言ったらオシオキ無しにしてあげる」
「アリサにだよ。いつもと違うギャップに凄く驚いたらしい」
「へぇ………」
「でも確かにアリサちゃん綺麗だったよ」
「というか簡単に親友を売りすぎなんちゃう?」
「命とは代えられん、親友なら許してくれるさ」
「何気に酷いな桐谷…………」
「それより加奈、さっきから何落ち込んでんだ?」
みんなと少し離れた場所で座っていた加奈。
「ほおっておいて………今、どうやって鈍感兄にお仕置きするか考えているんだから」
「そ、そうか…………」
異様な雰囲気の加奈に桐谷はそれ以上何も言えなくなった。
ただ分かってることは………
「零治、ドンマイ………」
「ぎゃああああああああ!!」
そう呟くと同時に零治の絶叫が聞こえる。
桐谷は零治の無事を祈り、お祈りをしたのだった………
第42話 水でふざけるのはやめましょう
美少女総選挙も終わり、夏休みまであと少しの授業を消化するだけになった。
そんなある日………
「あちぃ………」
朝、クーラーの無い教室に生暖かい風が入ってくる。
私立なのでクーラーがあるにはある。しかし、我らがAクラスはクーラーが壊れており、他のクラスとの温度差が10度位あるのだ。
しかも今日は最高気温37度、猛暑である。
隣のクラスにいけばいい話だが、クーラーがつくのは先生が来た時だけなので今行っても意味がない。
「アンタ、そうやって伏せてると余計暑いわよ」
うちわで体の中に風を送りながらアリサが言う。
どうでもいいけどブラ見えてるぞ………
「アリサちゃん、零治君にブラ見えとるで」
「!?この変態!!」
いきなり放たれた右ストレートは俺の顔に………
「ぐはっ!!」
勢いそのまま、俺は後ろに倒れてしまった。
「れ、零治君!?」
「だっ大丈夫!?」
「大丈夫じゃない………」
俺は顔を押さえながら起き上がる。
「何よ、アンタが悪いんじゃない………」
「別に見せてなんて言ってないけどな!」
「アンタが私のブラ覗いたんじゃない!!」
「はぁ、別に興味ねぇよ………」
「零治君ってコッチ?」
ホモのポーズをして俺に言ってくるはやて。
「お前、馬鹿にしてるのか?」
「いや、分かっとるけどそれはそれでおもろそうやから」
「はやては冗談だって分かってるけど、純粋なそこの2人はマジでそう思ってるじゃないか!!」
俺の指を指した方を見るはやて。
なのはとフェイトがかなりのドン引きしてる。
「なのはちゃん、フェイトちゃん!?冗談やから本気にしたらアカンよ!」
「そ、そうなの?」
「よ、よかった………」
ホッと安心する二人。
「ホンマ二人は素直やなぁ………」
「本当だよ………どこぞの狸さんみたいに汚くなってもらいたくないものだ………」
コッコー!
とハリセンで叩かれたが気にしない。
「いつの間にか話題が変わったわね………」
と呟きながらもうちわで相変わらず中に風を送るのをやめないアリサ。
「だから見えてるっての」
「もう気にしないわ、所詮下着だし」
「だったら殴るなよ………」
不幸だ………と呟き俺は机に突っ込した。
「は〜い、席に座って。HR始めるわよ」
シャイデがやって来てなのはとはやて、フェイトはそれぞれの席に戻る。
「しかし本当にこの教室は暑いわね………さっさと職員室に行きたいわ………」
担任が自分の生徒達を見捨てて楽な所へ逃げようとしてるよ………
「そういえば今日の学活の時間なんだけど…………」
そういえば今日は何をするんだ?
暑いから動きたくないんだけど………
「プールを借りたからみんなで入るわよ!!」
一旦教室が静かになり……………
「「「「「「「よっしゃあー!!!」」」」」」
男子の声が響いたのだった。
しかし…………………
「先生、水着はどうするのですか?」
「あっ………」
一人の女子生徒の指摘によって、教室がまた静かになったのだった…………
「あつ……………」
結論から言います。クラスの八割が持ってきてました。
なかった人は借りるか、購買で買うか、見学するか。
ちなみに見学組はいなかった。みんなこの暑さに参ってたんだな…………
そんでもって今は5時間目。今日の学活は2時間あるので2時間は遊べる。
「お、おいまだかよ…………」
「スク水はぁはぁ…………」
「やばい起ちそう………」
犯罪予備軍ことSBS団の興奮度も半端ないことになってる。
なぜかというと、いつもの体育のプールだと、女子と男子は別になるからだ。
女子がプールの時は男子は外で、男子がプールの時は女子が外といった感じだ。
なのでぶっちゃけSBS団だけでなくクラスの男子みんなテンションが高くなっている。それが分かってるからこそ女子もこうも出てくるのが遅いのだろう………
ただ……………
「もったいないな、神崎。あいつならテンション上がっただろうに………」
あのおバカさん、今日に限ってミッドでお仕事らしい。
ざま〜(笑)
ちなみに今話しかけてきたのは中島良介。
クラスで仲がいい男子の2人の内の1人だ。前に星に捨てられたエロ本の持ち主でもある。
めがねをかけた知的な少年で大人っぽい。しかし高校生でAVやらエロ本を集めるのが趣味という残念な性格をしている兄を持ち、その影響で良介自身もオープンではないがむっつりスケベになってしまった………
コイツ彼女いるのに…………
「2人共、女子出てきた?」
俺たちに話しかけてきたのは小林圭。
大家族の長男で野球部だ。
決してイケメンってわけではないが、野球部のキャプテンとして皆を引っ張っており、スポーツマンな所から何気に女子から隠れファンが多かったりする。
ただし、下ネタなど恥ずかしい話を聞くと直ぐに顔が赤くなる。
「いや、まだみたいだ。というかあいつらがあんなに興奮してたら出てきたくないだろ………」
「確かに………」
コイツらともこんなに話せる仲になれたのはイケメン対決が原因だったりする。あの後クラスの皆に話しかけられるようになった俺は、この二人とは特にウマが合い、仲良くなったのだ。
良くも悪くも、俺の学校生活が変わる出来事になった………
「おっ、出てきたぞ」
SBS団の誰かの声に男子皆が反応する。
恥ずかしそうに胸などを軽く隠して出てくる。
ただその中にも例外がいるわけで………
「良く〜ん!」
反対側のプールサイドからこっちに手を振るツインテールの女の子、坂巻渚は良介の彼女だ。スタイルは至って普通だが元気っ子で男子からの人気も高いらしい。(圭談)
ライと似ている所があり、多少かぶるったりするが、ライ以上に天然だったりする。
「手を振ってるぜ色男」
「相変わらず仲がいいなぁ」
「アイツは………」
恥ずかしいのか、目頭を押さえるマネをする良介。
「渚〜!はしたないから静かにしてろ〜!!」
「じゃあ、後で一緒に遊ぼうね〜!!」
「くそっリア充が………」
「マジで死んでくれないかな………」
「呪われろ、呪われろ………」
「………………二人共、俺達友達だよな」
「嫌だ。やっと俺だけ狙われる事が無くなったんだ。この期を逃してなるものか!」
良介が坂巻渚と付き合い始めたのはつい最近。テスト勉強中に告白したらしい。幼なじみの二人は元々仲が良かったが、付き合い始めると思わなかったSBS団は情報を得ると同時に粛清に走った。
お陰さまで俺への被害が半分に減ったのは言うまでもない。
「まぁ二人とも頑張れ………」
「ん?何で俺も入ってるんだ………」
圭が指差した方を見るとはやてが手を振っていた。
「零治君〜、シャイデ先生からビーチボール借りたんや、一緒にやらへんか〜?」
「またアイツだ………」
「何でアイツばっかり………」
「やはり海外から銃を………」
最後の奴、洒落にならんから止めてくれ!
「頑張れ二人共」
「良介………」
「ああ………」
俺と良介は即座に圭を逃げないように掴み、
「はやて〜、圭と良介も一緒で構わないか〜?」
「別に構わへんよ〜」
「なっ!?俺は別に………」
「一人だけ逃がすか!!」
「そうだ!楽させてたまるか!!」
ギャーギャー口論になる俺達。
そんなとき、
「なに騒いでるのよアンタたち」
シャイデが1番遅く現れた。
黒のマイクロビキニという色気MAXの格好で。
「「「「「「ぐはっ!!」」」」」」
「っておい、またかよ!!」
SBS団が吐血して一斉に倒れた。
幸せそうな顔で………………
「お前らそんなんで良いのかよ!?」
良介が叫ぶが反応がない。
「う〜ん、刺激が強すぎたかしら?」
そう言って水着の位置を直すシャイデ。
だったらそんなの着てくるなよ………
俺がふと残りの男子を見てみると立っていた男子が前屈みになっている。
だったら座れ!!
「まぁいいわ。さぁみんな!6時間目が終わるまで好きに遊んでいいわよ!!」
倒れているSBS団は無視して俺達は遊び始めた。
「行くぞオラッ!」
俺はビーチボールを高々と上げる。
「すずか!」
「はい!」
アリサの声に答えながらすずかがボールを返す。
「フェイト!」
「うん!」
少しライナー気味に来たボールを上手くフェイトが返す。
今、俺達がやっているのは水上バレーのようなもの。
あらかじめコートの大きさを決め、相手のコートにボールを落とせば勝ち。
2対2のチームでやるのだがこれが結構難しい。
普通に弾道を低く返せば良いと最初は思っていたのだが、意外に直ぐにボールが沈むため、容易にスマッシュなど打つと自分のコートに落ちてしまう。しかも水の中で打ち返すのでスピードも出ず、簡単にはじき返される。何より泳いで移動するため中々ちゃんとした体制で打ち返せないため、結構打ち返すのすら難しかったりする。
「アリサ!」
「任せて!」
ふらふらっと低めの弾道でゆっくりとボールが無人の相手コート右側に落ちていく。
(間に合え!)
アリサは急いで泳いでいくが、アリサの頑張りもむなしく、ボールはプールに落ちた。
「9対8!零治君、フェイトちゃんペア、マッチポイントだよ!」
「よっしゃ!ナイスショットフェイト!」
「うん、このまま勝とうね」
「ごめんすずか………」
「ううん、今のはフェイトちゃんが上手かったよ。それにまだ逆転できるよ!!」
「そうね、まだ勝負は分からないわね!」
気合いを入れ直したアリサ。
いいね、そうじゃなきゃ面白くねぇ。
「油断せずに行くぞフェイト!」
「うん!」
今度はすずかのサーブからゲームが始まった………………
「疲れた…………」
なんとかサドンデスになりながらも20対22で勝った俺とフェイトペア。
かなりの死闘となった。
あそこでフェイトが拾ってくれなければ分からなかった………
「盛り上がってたな」
俺がフェンスに寄りかかって休んでる所に圭が隣に座ってきた。
「っていうか次はお前の番じゃないのか?」
「先に八神、イーグレイペアと中島、坂巻ペアだ」
「ふ〜ん………」
そんなたわいもない話をしていると試合が始まった。
「なあ零治………」
「なんだよ?」
「女の子って最高だな…………」
「お前大丈夫か!?いつもならこんな話になると顔真っ赤にしてうまく話せなくなるくせに………」
「俺だって興味はあるんだよ!!だけどお前と中島の二人の話がレベルが高すぎてついていけないだけだ!!」
う〜ん、実際そうかもな……………
確かにR15位じゃ済まない話のような…………
「そうか…………で、圭君的には誰が好みかい?」
「俺は……………やっぱり月村かな。あのスタイルとあの性格はもう完璧すぎるだろう。でもハラオウンの時々見せる慌てる姿も捨てがたい…………」
「……………結構マジな答えだな」
「零治は?」
そう言われ俺は考える……………
「大きさから言ったらすずか、フェイト、なのは、アリサ、はやて、フェリア…………性格から考えるとフェイト=すずか=フェリア、アリサ、なのは、はやての順だろ…………と考えると………」
暫く考え、
「確実に駄目なはやてにしてやるか。考察しててかわいそうになった」
「俺は好みを聞いたんだけ……!?」
「ん?どうした?手なんか合わせて。何か神様に頼むことでもあるのか?」
「アンタが私達をどういう風に見ていたかよ〜く分かったわ、ありがとう」
「だろ、結構自信が………」
振り返って高評価をくれた人物を見ると………
グーの拳を作った怒りのアリサ様がそこにいました。
「まて、これには山よりも大きく海よりも深い訳が!!」
「問答無用!!」
アリサは俺の腹にボディーブロー、たまらず立ち上がった俺に今度はアッパーを食らわせプールの方に吹っ飛ばしたのだった。
「ったくアンタもいい加減にしなさい!!」
「零治…………惜しい友達を無くした」
いつもの事でスルーしているクラスメイトを除き、小林だけが零治に涙を流したのだった…………
「零治?」
「ハッ!?俺は何を?」
目覚めるとそこにはフェイトの顔が。
「良かった、起きたね。早く行こうよ」
「行こうよって何処に?」
「決勝だよ」
「決勝?」
「水上バレー」
おお、そう言えば…………
「そうだった!フェイト、絶対勝つぞ!!」
「うん!!」
俺は最高のパートナーのフェイトと共に最後の戦いへと赴いた。
「相変わらずだなアイツ………」
「さっきまで溺れてたのにね」
「アリサちゃん………」
「うっ、分かってるわよ。後で謝るわ………」
そんな様子を見ていた、小林、なのは、すずか、アリサが話していたのだった………
「よく来たな」
「せやけど、私達最強ペアは倒せへんで」
「相手ははやて、フェリアペアか…………」
「油断しないで、中島と渚、なのはと小林ペアを倒したんだから」
男子がいるペアに勝ったか、確かに油断できないな………
「では、行くぞ!!」
フェリアサーブから試合は始まった…………
「零治!」
「こなくそ!!」
懸命に手を伸ばすが、ボールは無常にもプールに落ちる。
「8対4はやて…フェリアペアリード!」
「ナイスショットやフェリアちゃん!!」
「はやてこそ」
ハイタッチするはやてとフェリア。
「くそっ!!」
「フェリアちゃん速すぎるよ………」
そう、このような結果になっているのはフェリアが原因だったりする。
始めはあの小さい体には不利だろうと思っていたのだが、潜水して底から一気にジャンプし、スマッシュを決めたときにはマジで驚いた。
というかそんな運動神経ある人間なんているのか!?
試しに俺もやってみたがそこまで高く飛べず、なおかつボールを空ぶった。
だけどこれにも弱点があり…………
「これでマッチポイントだ!!」
「ここだぁ!!」
うまく落下地点を読んだ俺がボールを返す。
「しまった!?はやて!!」
「任せてな!!」
はやてはなんとか追いつくが、ボールははやてたちの後ろに飛んでいった。
「8対5!!はやて…フェリアリード」
「やってもうた………」
「いや、コースを読まれた私が悪い」
このようにコースを読み、返せばジャンプしたフェリアは動けないので拾うのは一人になる。そうすれば得点のチャンスになるのだ。
「ナイス零治!」
「たまたまだ、でもなんとか拾うぞフェイト!!」
「うん!!」
こうして死闘は続く……………
「10対6ではやて…フェリアペアの勝ち!!」
「やったで!!」
「ああ、完全勝利だ!!」
「「……………」」
恥ずかし!!
何さっきの俺!?あんだけカッコつけて結局負けるのかよ!?
しかも点差離れてるし…………
フェイトもどうやら同じ気持ちらしい。恥ずかしそうにプールから上がる。
「なんや二人共、あれだけカッコつけといてあっけなく負けよったなぁ」
「はやて、気にしてることを………」
「かっこよかったで二人共『何としても勝つ!!絶対負けてたまるか!!』熱いわ〜『私も絶対負けたくない!!絶対拾うね!!』ってその後直ぐにスマッシュ決められっとたからなぁ………」
「もう止めてはやて!!」
その後俺とフェイトは、はやてから言葉攻めを食らってました…………
「ねぇ零治…………」
「ん?どうしたアリサ?」
授業も終わり教室に戻る時だ。
アリサに声をかけられ俺は止まる。
「私のせいで溺れかかったから謝ろうかと………」
「ああ、そんなことか。っていうかアリサは短気すぎる」
「えっ!?」
「なのはもそうだけど簡単に手を出しすぎなんだよ。冗談なんだから受け流せばいいじゃないか」
「だけどアンタの場合冗談に聞こえないのよ!!」
「それでも結局暴力に行くのはどうかと思うぞ………」
「うっそれはそうだけど…………」
「まぁ今度はお手柔らかに頼むよ」
「あたっ!?」
俺はアリサに軽くデコピンする。
「これはお返しだ」
俺はそう言って教室に向かった。
「バカ…………………」
その呟きは零治には届かなかった…………
「なぜだぁ〜!!!!!!」
次の日、教室では大声で叫び声を上げた銀髪のイケメンがいたとかいないとか……………
第43話 ゼストさん、スカさん家に行く
『そうかい、修行はもういいのかい?』
ここはとある管理外世界。
そこには中年だが、年を感じさせないがっちりとした体をした男と、5,6歳位の小さな女の子が一緒にいた。
「ああ、ルーテシアもそれなりに魔法を使えるようになった。だから一度そちらに戻ろうと思う」
『分かった、もてなす準備をしておこう。楽しみにしておいてくれ』
「余計なことはしなくていい」
『つれないねぇ………まあ新しい子もいるから楽しみにしておいてくれ』
そう言われてゼストは回線を切る。
「行くぞ、ルーテシア」
「うん…………………」
こうしてゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノはスカリエッティのアジトに向かった…………
「これは一体どうしたんだ!?」
まず、スカリエッティのアジトに着いたゼストは驚きを隠せなかった。
昔のアジトとは違い、怪しげな機械は全て稼働しておらず、静かだった。
まるでどこかに襲撃されたような…………
「ルーテシア、注意しろ………」
「うん…………」
二人はゆっくりと歩き出す。
すると………………
「声か?」
小さいながらも声が少し先の部屋から聞こえる。
あそこには大きなホールがあったはず。
思い出しながらゼストはその部屋へと入っていった。
「おかえりなさい、騎士ゼスト」
「あっ、ダンディーなおっさんと紫幼女が来たっス」
「こらウェンディ失礼だよ、お久しぶりですゼストさん」
「セイン………?」
「そうですけど覚えていませんか?」
「いや………」
「ルーお嬢様」
「ただいまウーノ………」
(何があったんだ………)
ゼストは大いに驚いていた。
前は質素な機械の壁だったのに対し、普通の家庭みたいなリビングになっている部屋。そして戦闘機人の子達の服装。
(まるで年頃の女の子達のようだ………)
「ルーお嬢、一緒にゲームしようっス!」
「ゲーム………?」
「地球で大人気のやつっスよ」
「やってみたい………」
ウェンディに近づいていくルーテシア。
「とその前にドクターが御二人にお話があるようなのでドクターのラボに行ってもらっていいですか?」
ウーノの提案に断る理由も無いので、二人はまずスカリエッティのラボに向かった…………
「やあ、久しぶりだね騎士ゼスト、ルーお嬢様」
「ドクターお久しぶり………」
「……………………」
「どうしたんだい、騎士ゼスト?」
「一体どういうことだ!!」
いきなり大声を上げたゼストにルーテシアも驚く。
「静かにしたまえ、ルーお嬢様が驚いているじゃないか」
「叫びたくもなる!!どうしたんだ!?アジトは碌に稼働していなければ、ナンバーズはのほほんと過ごしている。一体何があった!?」
「それを今から説明しようと思ってここに呼んだのだが………」
そして、スカリエッティは今までの経緯を説明し始めた………………
「なるほど、そんなことがあったのか………」
「ああ、研究は継続しても構わないと言われているが、それならやる必要ないからね。今は残りのナンバーズの稼働を優先的にね」
「………それでいいのか?」
「復讐なんかより、娘逹の成長を見ていた方が楽しいからね」
「変わったなスカリエッティ………」
「自分でもそう思うよ」
苦笑いしながらゼストに言うスカリエッティ。
「お前がそう決めたのならそうすればいい。俺は俺のしたいようにする」
「元からそうするつもりさ。そしてルーお嬢様」
「何?ドクター…………」
「君の母親、メガーヌ・アルピーノだが、もう少しで処置が終わる」
「処置…………………?」
「貴様!!まさか………」
「違うよ、君の母親は本当はレリックが無くても目覚めるんだよ」
「えっ……………!?」
「何だと!?」
そう言ってゼストはスカリエッティの胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「貴様!!最初からルーテシアを利用するために!!」
「否定はしないさ、始めはそのつもりだったのだからね。だけどその必要も無くなったし、何より親と子供を離すなんて今の私には耐えられない。だからもう少し待ってくれ、そうすれば君の母親は目覚める」
「そう……………」
嬉しそうにもなくルーテシアが頷く。
「おや、反応が薄いねぇ」
相変わらずゼストに持ち上げられているのにも関わらずいつもと変わらない様子で言うスカリエッティ。
「私には『心』が無い……………だから嬉しいか分からない…………でもお母さんと会えれば…………」
「そうかい…………なら戻るといいね」
「うん……………」
とルーテシアが返事したと同時にゼストはスカリエッティを降ろした。
「おや、殺さないのかい?」
「今お前を殺せばメガーヌが帰って来ないかもしれないからな」
「そうか…………感謝するよ」
「だが、俺は貴様が許せない!!」
「当然だね、恨まれることを私はやった」
(……………コイツ、本当にジェイル・スカリエッティか?)
ゼストは彼の変わりように心から驚いていた。
出会った頃はこんなにも慈悲深くなかったし、こんなに清々しくも無かった。
歪んで、人ともかけ離れ、周りからマッドサイエンティストと言われる変態だった彼が……………
「ゼスト………………」
ルーテシアに声をかけられゼストは我に返る。
「…………分かってる。お前の話を信じ、様子を見ることにする」
「それで構わないよ。もし私が裏切るような事をしたら私を殺したっていい」
真顔で言うスカリエッティにゼストは顔をしかめた。
「さて、話は終わりだ。ルーお嬢様はウェンディ達と遊んできなさい。ウーノ、ルーお嬢様をリビングに連れていってくれ」
「分かりました、ドクター。さぁ、ルーお嬢様行きましょう」
「うん…………ゼスト、行ってくる…………」
「ああ……………」
ウーノと手を繋ぎ、ルーテシアは部屋から出ていった。
「さて騎士ゼスト、一杯どうかな?」
「酒か?」
「そうだよ。トーレに貰った日本酒に私もすっかりハマってしまってね。騎士ゼストもどうだい?」
近くに置いてある冷蔵庫から氷を取り出し、2つの小さなガラスのコップに入れる。
「俺はいい」
「固いこと言わずに………ととっ」
スカリエッティはゼストの了承無しにコップに日本酒を入れ、ゼストに渡した。
(酒なんて何時振りだろうか?)
そう思い、ふと昔を思いだす。
あの時は自分がストライカーとして地上の部隊で戦っていたとき。
思い出すのは自分の部下のクイント、メガーヌ、そして上司兼親友のレジアス。
クイントが酒に酔って夫の愚痴を言い始め、それを流しながらメガーヌが俺とレジアスの仕事の話に耳をかたむけていた。
思えば俺とレジアスは酒を飲む場でも仕事の話ばかりだった。あれほど地上の未来について熱心に語っていたレジアスが何故違法なことに手を染めてしまったのか?しかも友人である俺に相談なしに…………
それはいつか確かめなければ…………
「騎士ゼスト?」
「ん?ああ、済まない。いただこう」
俺はスカリエッティがくれた酒ということもすっかり忘れて酒を飲み始めた……………
「ルーお嬢様!行ったっスよ!!」
「竜撃砲……………」
「ウェンディ、避けて!!」
「うおっ!?いつの間にブレスが目の前に!?」
「邪魔だ、ウェンディ!………コイツを喰らえ!!」
「全くあいつらは…………」
目頭を抑えて呟くトーレ。
あなた、最近時間があればお酒を飲んでばかりいますね。
現に今も飲んでいますし…………
「ウーノお姉さま、ディエチと買い物へ行ってきますわね」
「分かりました、けれどクアットロ、ディエチ、くれぐれも遅くならないで帰ってきて下さいね」
「分かってるよウーノ姉…………」
ディエチが言って二人は部屋を出ていきました。
クアットロはあの事件以来、服に気を使うようになったのですが、外のものに興味を持ったのか、定期的に近くの街に行くようになりました。ディエチを連れて…………
いつも強引に連れていくような気がしますが、ディエチも買い物嫌いでは無いので嫌がってはいないようです。
「セイン、回復薬を分けてくれ!!」
「えっ!?私無いよ!!ルーお嬢様は?」
「私もない……………」
「ちなみに私もないっス!!」
「威張るな!!」
ウェンディ、セイン、ノーヴェは暇さえあればゲームをしています。
何かやっとG級を受けられるって更に気合が入ってましたが、何の事かサッパリ。
あの3人はこれでいいのか正直分かりません。
恐らく駄目な気がしますが……………
今度、零治君に聞いてみることにしましょう。
「あら、もうこんな時間。食事の準備に取り掛かろうかしら…………」
そう呟いて、ウーノは台所に向かった………
「ただいま!」
「ただいま………」
リビングにそんな声が響く。
時刻は7時前。ウーノもとっくに食事の準備を終え、4人(セイン、ノーヴェ、ウエンディ、ルーテシア)のやっているWIIを見ていた。
4人は飽きたのか、途中からWIIで遊び始めていた。
トーレはソファーに気持ちよさそうに寝ている。
今帰ってきたのは買い物に行ってきた2人だ。荷物を持ってきていない所を見ると、2人とも先に自分の部屋に荷物を持っていったようだ。
「おかえりなさい二人共、今帰ってきて悪いのだけれどドクターとゼストさんを呼んできてもらっていいですか?」
「分かったウーノ姉」
「ディエチ、私も行きますわよ」
二人は部屋から再び出ていった。
「さて。セイン達も一回ゲームやめなさい、ご飯にするわよ」
「みんな……………ご飯」
「そうっスね」
「お腹減った〜」
「飯何かな?」
WIIを終わらせた4人がテーブルにつく。
「みんな、お皿とか準備して。それと、寝てるトーレを誰か起こして上げて」
それを聞いて3人は顔をしかめる。
まず、最初に行動を起こしたのはセインだった。
「ルーちゃん、一緒に準備しよう!」
「うん、いいよ……………」
セインはルーテシアの手を掴み、台所へ向かう。
「あっ、ずるいっス!!」
「私がルーの面倒を見る!!」
ウェンディとノーヴェがセインからルーテシアを奪い、喧嘩を始めた。
これで分かったと思うが、セイン、ノーヴェ、ウェンディはルーお嬢様と呼ばなくなった。
セインはルーちゃん、ウェンディとノーヴェはルーと。
今まででかなりフレンドリーになっている。
「誰でもいいからトーレ起こしてきなさい………」
ウーノは溜息をつきながら喧嘩している3人に言ったのだった。
結果………………………
「ふぇ〜ん…………」
「セイン、元気出して……………」
「うぅ、ルーちゃんありがとう……………」
頭に大きなタンコブを作って泣いているセインをルーテシアが慰めている。
「すまなかった…………」
「トーレ、あなた一週間禁酒ね」
「ま、まてウーノ!それだけは!!」
腕を掴み、一生懸命懇願するトーレ。
「駄目です、あなた飲みすぎなんです。少しは自重なさい」
そんな…………と絶望しているがウーノはそっぽを向いている。
「そう言えばクアットロとディエチは?」
呼びに行ってから2人は帰ってきてない。
流石に遅すぎるような…………
「ノーヴェ、ウェンディ、おかずつまんでないで食べる準備をしておいて。私はドクターを呼んでくるわ」
「分かった」
「OKっス〜」
ウーノは2人に任せてスカリエッティのラボに向かった………………
「さてと………………」
ドクターのラボの前に来てみましたが、部屋の中がものすごく静かです。
もしかして寝ているのかもしれません。けれどそれならクアットロとディエチはどこに………
そう思いながらラボにウーノが入っていった。
「うっ、酒臭い…………」
ラボの中は酒の臭いで充満していた。
「ドクター……………」
ドクターにしては珍しく酔いつぶれたようだ。
床に大の字になって寝ている。
騎士ゼストはラボにあるソファーに座って寝ていた。
取り敢えず私はドクターを騎士ゼストが寝ている反対側にあるソファーに運ぶことにしよう。
「……………ウーノか?」
「騎士ゼスト、起こしてしまいましたか?」
「いや、構わない。…………少し眠っていたようだな」
「はい」
「全く、お前のドクターときたら飽きずに娘達の自慢と愚痴をずっと聞かされたぞ」
「も、申し訳ありません…………」
「まぁ、俺も中々楽しかったから構わないが…………時にウーノ、妹達を余り甘やかしすぎるのはいけないな」
「うっ…………やはりそうなのでしょうか?」
今度真剣に零治君に相談することにしましょう。
「そうだ。食事が出来たのですが、騎士ゼストはどうしますか?」
「俺はこのまま休む。食事はいい」
「分かりました。よければお風呂はどうですか?」
「風呂?」
「湯あみですよ」
「……………そうだな、せっかくだからそうするか」
「では、案内しますよ」
私はソファーにドクターを寝かせ、騎士ゼストを風呂場へと案内した。
「そう言えばクアットロとディエチは…………」
「あの二人ならスカリエッティが酒を飲ませてダウンしたからラボにあった仮眠室に寝かせているぞ」
「く〜く〜」
「すぴー」
仮眠室には一つのベットに一緒になって寝ているクアットロとディエチがいた……………
第44話 スカさんからのお願い
「おおーっ!!ラスボスのダンジョンみたい!!」
ライが興奮ぎみに叫ぶ。
あながち間違いじゃないけど…………………
俺達有栖家は夏休みに里帰りするフェリアと共にスカさん家に遊びに行くことにした。
前回の移動が複雑だったのを踏まえ、朝早めに来たのだが…………
「ふぁ〜あ。で、なんで俺達も?」
「そうよ」
「お前らな……………」
桐谷はあくびを、加奈はだるそうに言う。
そして今回桐谷と加奈もスカさんの家へ連れてきた。
この先何があるか分からないし、この世界のスカさんを信じていないわけではないが、もし敵になった場合に顔ぐらい分からないと困るだろうと思ってだ。
なのに当の本人たちは無関心である。
「フェリア、セイン達は?」
「おそらく皆ホールにいると思う」
「よし、それじゃあ早く…………」
「待て」
俺は先に行こうとしたライの首根っこを掴む。
「ぶぅ〜何すんだよレイ………」
「何って、お前場所分かるのか?」
「あっ………」
その場にいた全員がため息をついたのは言うまでもない……………
「ライ!!」
「セイン!!」
二人は顔を合わせた瞬間抱き合った。
フェリアの案内でホール(リビング)に来たが、そこには本を読んでいたセインがいた。
「……………大きくなった?」
「うん?身長は伸びてないよ。ブラジャーは新しいのを買わなくちゃいけなくなったけど…………」
それを聞いた女性陣(有栖家の面々と加奈とセイン)の顔が………
ライめ、また余計なことを。
「皆さんよく来ましたね」
「こんにちはウーノさん」
台所にいたウーノさんがこちらに来て挨拶をした。
「初めまして、有栖星です」
「有栖ライだよ」
「有栖夜美だ、よろしく頼む」
「佐藤加奈です、よろしくお願いします」
「加藤桐谷だ、よろしく頼むな」
そう言った桐谷をウーノが見た。
「何か?」
「あなたがあの赤いロボットの操縦者?」
「ロボットの操縦?」
「あれはあなたが操っていたのではないのですか?」
「あれは、えっとバリアジャケットだっけ?あれみたいなもんですよ。さしずめ“バリアアーマー”って所ですかね」
「アーマー…………だからあんなに硬いのね。ということは零治君の黒の亡霊も………」
「まぁコイツの言ったバリアアーマーって呼んだほうがいいっすね」
俺の場合は色々面倒な所があったりするけど………
俺のアーマー、ブラックサレナとアーベントはダメージが限界を超えると、本人の意思とは関係無く、勝手にアーマーが消え、再び再展開するのに時間がかかってしまう。
防御が硬いからと言って調子に乗っていると勝手に解除される場合があるので油断出来ない。
そんな話をしていると………
「チンク姉、レイ兄、星姉、ライ姉、夜美姉、加奈姉、桐谷兄」
俺達の後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。
この声はウェンディだな。
「あっウェンディ、お久しぶ…………」
星はそこまで言って固まった。
「どうした星?」
固まった星に夜美が声をかけた。
とその時、
「きゃああああああ!!」
星の叫び声がスカさんのリビングに響く。
星の目の前には緑色の半魚人がいた。
「レ、レイ〜!」
星は涙目になりながら、俺の後ろに隠れた。
「は、は、は、半魚人が!」
「星、恐らくウェンディだぞ……………」
夜美は呆れながらも冷静に言った。
「えっ!?ウェンディ?」
「ちぇ、やっぱ夜美姉にはお見通しっスか〜」
半魚人はそう言って頭を取り始めた。
「頭が取れた〜!!!」
俺の腕に泣きつく星。
「落ち着けって!ウェンディなんだよ!!」
「ぐすっ、でも恐いんだもん…………」
ヤバい、凄く可愛いんだけど。何この生物。
で、結局………………
「ごめんなさいっス、少しやり過ぎたっス…………」
「全くです………グスッ、もうあんなことしないでください」
俺の服の袖を掴んだまま、目の赤い星は説教をしていた。
いつもの感じはなく弱々しい。
(星姉可愛いっス。)
「聞いてますか、ウェンディ?」
「バ、バッチリっス。星姉は萌えるっス!!」
笑顔でサムズアップするウェンディ。反省のはの字も無い。
「今の星じゃ、いくら説教しても迫力が無いな」
「今度から星を驚かせれば、説教も優しくなるんじゃないかな?」
「ライ、そんなことしたら俺が代わりに説教な」
「うっ………」
「あれ、チンク姉?それにみんな?今日だったっけ?」
「久しぶりだな、ノーヴェ」
星も落ち着き、リビングでのんびりとし始めた頃、ノーヴェが部屋に入ってきた。
「ノーヴェ、他のみんなを見ていませんか?」
「見てないぜ、みんなまだ部屋だと思うよ」
「ならお客様が来ているのだから挨拶ぐらいさせないと。皆を連れてくるわね」
そう言ってウーノさんは部屋を出ていった。
「ノーヴェ、早くこっちに来るっス!みんなで狩りに行こうぜっス!!」
CMみたいに誘うウェンディ。
「分かったから、PSP取ってくるからまだ始めるなよ」
今度はノーヴェも自分の部屋に戻る。
「なぁ零治…………」
「何だ桐谷」
「何であんなに馴染めてるんだ?」
俺、桐谷、加奈、星は大きなテーブルの椅子に座り、はしゃいでるライ達を見ていた。
「私、こんな変な場所怖いわ…………」
まぁ加奈の反応が正しいよな。稼働してないとはいえ、不気味だし。
ここだけ普通の部屋って言うのも不気味だよな………
いっそのこと建て替えろよスカさん………
ライだけはテンションが違かったけど……………
「うぅ…………」
「星、まだ駄目か?」
相変わらず俺から離れない星。
「すみません、もう少しこのままで…………」
「まぁ構わないけど…………」
加奈の視線がものすごくキツイんですよね………
「やあ、いらっしゃい」
と、そんなときスカさんがやって来た。
紫の髪をしたロリっ子を連れて………
「スカさん、アンタやっぱりロリコンだったか………フェリアを造った辺りから怪しいと思っていたが………」
「何か勘違いしているようだが…………この子はルーテシア」
「ルーテシア・アルピーノです……………」
ルーテシアって………………
ああ!!バカでかい虫を召喚したり、なんか虫の要素を感じないガリューだっけ?を召喚する虫大好き少女だったよな。
「俺は有栖零治だ。よろしくな、ルー」
「あなたがレイ兄?」
「ん?ウェンディにはそう言われてるけど」
「ウェンディがよく話に出す…………」
「…………何か嫌な予感しかしない」
「小さい子が好きだから気を付けろって…………」
「ウェンディ!!!」
俺はウェンディに制裁を与えるため、レアスキルでジャンプした。
「初めて直接見たが、やはり便利なレアスキルだね」
「遠距離は流石に無理だけどな」
あの後、俺はウェンディにお仕置きをし、今、とても爽やかな気分になっている。
俗に言ういい仕事をしたなぁって感じである。
「ジェイル」
「ああ、すまない。さっきも言うようにここの羽の部分にもブースターをつければいくらか安定すると思うんだけどね」
「羽ではないのだが………それに、これ以上重量が増えると更に操るのが難しそうだ」
「要するに今使っている物で安定させて欲しいってことだね?」
「ああ、出来るか?」
「面白いね、やらせてもらうよ。先ずは………」
普通に馴染んでるな桐谷………
加奈と星はウーノさんと話が弾んでるみたいだ。
ルーはウェンディ達の所へ行ったようだ。
「っとそうだ、零治君、頼みがあるんだが………」
「何?」
「ルーテシアの事なんだが…………」
そう言ってスカさんは俺にメガーヌさんの話をし始めた。
「なるほどね。スカさんも心を入れ替えたってことか」
「だけど、目覚めさせるのに必要な物があるんだ」
ああ、成る程。
「それを取ってきて欲しいってことか」
「その通り。すまないが………」
「それくらい構わないさ。………でもナンバーズに行かせても良かったんじゃないか?」
「ナンバーズには別にやってほしい事があるのでね」
「ナンバーズにね…………」
俺はそう言ってセイン達を見た。
「ライ行ったよ!!」
「任せて!!」
「うわっ!?ルー!そっち行ったっス!!」
「任せて、これで決める…………」
「ノーヴェ、そっちにいたか?」
「ううん、こっちには居ないよチンク姉。夜美は?」
「こっちもいないみたいだ」
「これでな…………」
遊んでばっかりじゃないのか?
前に来たときもウェンディ達は遊んでいたような………
「彼女達じゃないよ。トーレ、クアットロ、ディエチさ。彼女たちにはまだ早いからね」
まぁあんなんだからな………
何するか分からないけど、ウェンディなら100%失敗するところしか思い浮かばない。
「ふ〜ん。まあいいや。何処に行けばいいんだ?」
「第6管理世界のアルザス地方さ」
「で、何でお前らまで来てるんだ?」
「いいじゃない、手伝ってあげるんだから感謝しなさい」
「頼んでないし」
「いいじゃないか、俺にとってもジェイルが作ってくれたプログラムを試して見たいし」
「いや、戦闘になるとは限らんし」
「わ、私はレイがいないと不安で………」
「星、お前はそんなキャラじゃないはずだ!」
うる目で懇願する星。
俺を萌え死にさせる気か…………
今の会話で分かる通り、星、加奈、桐谷が付いてきた。
ここは一応管理世界なので管理局員も少なからずいるはず………
せめて星と加奈は帰ってもらいたかったが、星を見て折れた。
まぁ心配しすぎか。
只今俺達はアルザス地方にある大森林の中を歩いている。
探しているものは光蓮花と呼ばれる花で、白く透き通った花で、暗い洞窟の中で光輝くらしい。
それを探しに来ているのだが…………
「砕氷刃!」
氷の刃で茂みから出てきた大きな蜘蛛をバツの字に斬り付けた。
「何でこの世界は生物が大きいのよ!!」
フェアリーを操りながら加奈が叫ぶ。
加奈が叫ぶのも分かる。何せ襲ってきた生物が大体3メートル以上なんだよ。
俺でも叫びたくなるわ。
しかも…………
「どけっ!!」
ヒートホーンで近づいてきた巨大カブトムシを桐谷が吹っ飛ばす。
今俺達は大量の虫に囲まれている。それを相手にしてるのは俺と桐谷。
星と加奈は後衛でバインドとフェアリーによる攻撃で敵を抑えている。
星の魔法だとどうしても爆発で目立つのでバインドのみ。
桐谷もクレイモアは禁止。爆発音が響くからな。
派手に戦うと管理局員が来るかもしれないし。
だけど………
「ったく、切りがない」
「レイ、どうします?」
星が虫たちにバインドを多重にかけ、虫たちを動けなくする。
「仕方ない、前方の虫を吹っ飛ばして逃げるぞ!」
「それしかないか…………」
「また走るの!?」
「加奈、文句を言うな!!星頼む!!」
「分かりました、皆さん道を開けてください!!」
ルシフェリオンを前に構え、星が言う。
「ブラストファイヤー!!」
星の砲撃が虫の大群に一直線に伸びる。
それにより虫達は吹っ飛び、目の前に一直線の道ができた。
「みんな行くぞ!!」
俺たちはその道をダッシュで進んだ。
「ふぅ、なんとか逃げ切ったな…………」
俺たちはあのまま虫たちを振り切り、綺麗な湖に出た。
日差しが湖に降り注ぎ、綺麗さを更に引き立てている。
「もうへとへと………」
加奈はその場にへたり込んだ。
「私も少し休みます………」
星もその場に座る。
やっぱり女の子にはキツかったかな………
「俺、少しこのへんの様子を見てくる、桐谷その間頼むな」
「ああ、気を付けてな」
俺は湖の周りを歩きだした。
「静かだな」
俺は歩きながら湖を観察していた。
「綺麗だ」
そんな感じで少し油断していたんだろう。
「おわっ!?」
いきなり茂みから何かが現れ、俺にぶつかった。
いつもなら警戒してぶつかったりしないのだが……………
だが、その衝撃は弱く、逆にぶつかったほうが軽く吹っ飛んだ。
「痛た………」
ぶつかった所をさすりながら俺はぶつかってきたものを見る。
どうやら虫ではないようだ…………って!!
「人間!?」
そこには気絶したピンク色の髪の毛の女の子と小さな白い竜がいた…………
第45話 零治の思い、小さな女の子との思い
「強い力は争いしか生まぬ。済まぬなキャロ、お前をもうこの里に置くことは出来ないのじゃ………しかしお前は黒き竜の加護を受けておる、きっと大丈夫じゃ」
そう言われ、里を追放されて一週間が経ちました。
あの後、私はフリードと共に森をさ迷い歩きました。
なんども襲われて、逃げて隠れて、それの繰り返し。
あらかじめ貰った食料も底を尽き、食べ物ももう無いです。
視界も眩んできました…………
私、ここで死んじゃうのかな?
なんで私にこんな力があるのかな?
私がいられる居場所ってあるのかな?
私って生きてちゃいけないのかな?
そんな時、
「おわっ!?」
私は何かとぶつかり、その衝撃で私は倒れました。
「痛た…………」
私も痛いです…………
あれ?意識が……………
「おい!しっかり…………」
何か言ってるけど………私にはもう………
やっぱり、私死んじゃうのかな?
でも、やっぱり死ぬのは嫌だな…………
「加奈!!」
俺は女の子をお姫様抱っこして星達の所へ走った。
「零治!?」
「どうしたの……………って兄さん!?」
「レイ、その子は?」
「話は後だ、加奈、この子に回復を頼む!!かなり危険な状態なんだ!!」
「分かったわ!!」
俺は星が敷いてくれたタオルの上に女の子を寝かせる。
「命を照らす光よ此処に来れ、ハートレスサークル」
緑の魔法陣に女の子が包まれる。
すると徐々に女の子の傷が消えていく。顔にも生気が戻ってきたのか顔色も良くなった。
「どうだ?」
「大丈夫みたいだ」
「でも油断は出来ないわ、暫く様子を見ましょう」
加奈の提案に俺達3人は頷いた。
「こ………こは………」
私は目を覚ました。
私はどうやら寝ていたみたいです。
(生きている…………)
私は体を起こしてそう実感したとき、自然に涙が溢れました。
(良かった……………)
心の底から安堵しているうちに、自分の体の調子に違和感を感じました。
(痛みがない?)
というより傷がありませんでした。
あれだけ傷だらけだったのに……………
それだけでなく、悪かった体調も随分良くなっていました。
「気がついたか!!」
そう言って私の目の前に一人の男性が現れました。
「大丈夫か!?」
「は、はい!!」
いきなり大声で声をかけられて驚いてしまいました。
「レイ、そんなに大声で話しちゃビックリするじゃないですか。ごめんなさい、悪気があったわけじゃないんです」
「い、いいえこちらこそ…………」
男の人と一緒にいた、栗色の短髪の女の人が優しく話しかけてきてくれました。
凄い美人さんだな……………
「私は有栖星と言います。あなたのお名前は?」
「キャ、キャロ・ル・ルシエです………」
「キャロ、可愛い名前ですね」
そう言って私の頭を撫でてくれる星さん。
暖かい手…………
「さっきは驚かせてすまなかったな。俺は有栖零治、よろしくな」
「はい、零治さん………」
あれ?苗字が同じって事は………
「お二人は夫婦ですか?」
「ふ、夫婦!?」
「ああ、違う違う。星は俺の家族さ」
星さんは驚いてるけど、零治さんは慣れたようにスルーしました。
いつも言われてるのかな?
「兄弟ですか?」
「いいや、違うよ」
じゃあ、一体…………
ぐぅ〜!!
あっ!!
「………まずは何か食べるか?」
「…………お願いします」
恥ずかしいです……………
「もぐもぐ………」
「がつがつ………」
いやぁ、いい食べっぷりだな、キャロとフリードは。
まさか原作キャラと出会うことになるとは……………
ほとんど忘れかけてるけど、こんなメインキャラを忘れる事は無かったみたいだな。
「あの………おかわりいいですか?」
「いいですよ、どんどん食べてください」
「クキュー」
「はいはい、フリードもいいですよ」
そう言いながら、持ってきたパンを二人?に与える。
かなりの食いっぷりから随分食べていなかったみたいだな………
あの後、フリードもちゃんと紹介してもらい、俺達が持ってきた食料を二人に与えた。
桐谷と加奈は周辺の捜索と食べれそうな物を探しに行ってもらってる。
もう既に持ってきた食料の4割は食べちゃってるからな。ほとんどフリードだけど…………
まぁ仕方がないか……………
「零治」
と、そんな時、桐谷と加奈が帰ってきた。
「どうだった?」
「一応木の実やフルーツっぽい物はあったわよ。エタナドにも見てもらったから毒なんかもないわ。味は保証しないけど…………」
「そうか、まあこの際贅沢は無しだな」
「あの…………」
「ああ、紹介が遅れたな、こっちが加藤桐谷、こっちが佐藤加奈だ」
「キャロ・ル・ルシエです…………」
「よろしくな」
「無事でよかったわ、本当に。兄さんが慌てて連れてきたときにはどうなるかと思ったわよ」
「そうなんですか?」
そう言われて俺を見るキャロ。
そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど………
「でも、本当に無事で良かったですよ。けれど一体何があったのですか?」
自己紹介が終わり、星がキャロに話を切り出した。
「それは…………」
少し戸惑いながらキャロは話し始めた。
「そんな…………こんな子供に…………」
「酷い!!何でそんなことが出来るの!?」
星は悲しそうな顔で、加奈は今にも暴れそうな感じでそれぞれ言った。
言った本人のキャロもその生活を思い出したのか、震えていた。
俺は二次創作で読んでいたので、ある程度把握していたつもりだったけど…………
「許せねぇ…………」
怒りが抑えられなかった。
「…………………」
桐谷も俺を見て頷いている。
そうか、やっぱり考えている事は同じか……………
「行くぞ………」
俺はキャロの手を掴んで歩き出す。
「ちょっと、何処に行くのよ!?」
「集落に行って一発殴ってくる」
「レイ、駄目ですよ!桐谷も何か言ってください!」
「悪いな星、今回は俺も零治と同じ思いだ」
「アンタたちやめなさいよ!そんなことしたらキャロが余計居づらくなるじゃない!」
「だけど!!」
「いいんです!!」
いきなり大声で叫んだキャロに俺たちは黙った。
「私のこの力が悪いんです…………集落の人達は悪くありません…………」
「そんな事………」
「違うんです、私は一回力を暴走させて集落を半分燃やしてしまった事があるんです………」
それを聞いて、星も何も言えなくなってしまう。
「みなさんも私から離れた方がいいです。この力は危険ですから…………」
悲しそうな目で言うキャロ。
「何で私ばっかり…………こんな力望んでないのに…………」
小さく呟いたつもりだろうが、俺にはハッキリ聞こえてしまった。
「やっぱり私は生てきちゃいけないんだ…………」
それを聞いて俺は我慢出来なくなった。
「そんな事ねぇよ………」
「兄さん?」
「零治?」
「レイ?」
「そんな事ねえ!!」
俺はそう叫んで、キャロの両肩を掴む。
「誰だってな、生きてちゃいけない人間なんて居ないんだよ!!」
「でも………私にはこんな危険な力があるんですよ、他の人を危険な目にあわせるだけじゃないですか」
「そんなことない!!その力は必ず人の為になる。今は駄目かもしれない、だけど努力すれば………」
「でも………でもその間にまた暴走してたくさんの人を………」
「そんなこと俺がさせない、俺達がさせない!!だからガキが一人で全部詰め込むな!!」
「でも、私はあかの他人ですよ?」
「そんなことどうでもいい。それでも納得出来ないのなら俺の家族になれ!!それなら文句ないだろ!!」
「ちょっと、兄さん!?」
「零治………………」
加奈が驚き、桐谷が呆れたように言うが気にしない。
「今更子供一人くらい増えても問題ない」
「そうですね」
「ちょっと、星!?」
「レイのお節介はいつものことですよ」
「で、キャロ。お前はどうする?」
「私は…………」
「お前が協力してほしいというなら協力する。だけど………」
「どうするかはあなたが決めるべきです」
「星さん………………でも、もし私の力で皆さんに怪我を負わせたら……………」
あ〜もうじっれったい!!
「俺が何とかしてやる、それなら文句ないだろう?」
「でも私が暴走させちゃったのって、“真竜”クラスのヴォルテールって竜なんです」
ふ〜ん、真竜クラスねぇ…………
「それがどうした?」
「えっ!?」
「問題ねぇって言ったんだよ。俺がそのヴォルテールを黙らせてやればいいんだろ?やってやるぜ!」
「兄さん………」
「零治………」
「レイ………」
「だからもう生きちゃいけないなんて悲しいこと言うな!」
そう言って俺はキャロを抱きしめた。
「ふぇっ!?」
「つらかったよな、怖かったよな、もう大丈夫だ。これからは俺がキャロを守るから」
「ううっ……………ふぇ〜〜〜ん!!」
我慢していたのだろう、まだ6歳の女の子だもんな。
俺はキャロが泣き止むまでずっと抱きしめていた。
それから俺たちは森の中でも見晴らしの良い場所を見つけ、そこに結界を張った。
「よし、ここなら暴れても問題ないだろ。キャロやるぞ!!」
「は、はい!!」
キャロは赤い目のまま、召喚の準備を始める。
だが…………
「キャロ?」
いつまでたっても召喚されなかった。キャロを見ると手が震えている。
「キャ……」
「私が行きます」
俺は励ましに行こうとしたが、星が行くと言ったので俺は星に任せることにした。
「キャロ」
「星さん、やっぱり無理です。私、零治さんを危険な目にあわせたくないです………」
「キャロ、レイを信じてくれませんか?レイは無理なことを出来るとは言わない人ですから」
「ですけど…………」
「レイは強い人ですよ。強さだけでなく、心も。特に家族のためなら絶対に折れたりなんかしません。だから負けませんよ」
「でも、私は家族じゃ………」
「キャロにまだその気がなくてもレイはもうその気でいますよ」
「でも、私は血もつながっていないし………」
「有栖家は誰一人血なんかつながっていませんよ」
それを聞いてキャロは驚く。
「前にレイが言ってました。『血なんかよりも深い絆があればそれはもう家族だ。その絆はどんなものよりも固く、強い。それはもう立派な家族だ。誇っていいほどにな』ってね」
「絆……………」
「そうです」
「絆………いいですね」
「クキュー!」
「ふふ、フリードも気に入ってくれたみたいですね。それにレイにとってはもうすでにキャロとフリードも入っているのかもしれませんけどね」
笑ってキャロに言う星。
「私もですか?」
「ええ、でなければここまでしませんよ」
しばらくキャロは俯いていたが、覚悟を決めた顔になって………
「…………分かりました、私も零治さんを信じようと思います」
そう言って零治の方を向くキャロ。その手には震えは無くなっていた。
「零治さん、いきます!!」
「ああ、来い!!」
「竜騎召喚、ヴォルテール!!」
キャロの召喚に、
「グオオオオオオオオ!!」
凄まじい咆哮と共に15メートルほどの竜が……………って、
「デカっ!?」
『マスター!』
「待てっ!もしかしたらキャロが…………」
「ごめんなさい、やっぱり!!」
『はやっ!?』
「いや、元々そのつもりだ。行くぞラグナル」
『はい!ブラックサレナ展開!!』
ラグナルの声により俺の体にブラックサレナの装甲が展開された。
「行くぞ!!」
俺はフィールドを展開してそのまま突っ込んだ。
「零治さん……………」
キャロは空中で激闘をしている零冶を見ていた。
「心配?」
「はい、でも私決めましたから、零治さんを信じるって」
「そうですね、信じましょう」
「ラグナル」
『ジャンプ!!』
飛んできた火球をボソンジャンプで避ける。
「こなくそ!!」
相手の視界に現れて両腰にあるレールガンを射出するが………
「効いてないか………」
『はい、さすが真竜クラスと言った所ですね。うろこの硬さが半端ないです』
しかも攻撃したことにより俺の位置をヴォルテールに気づかれてしまった。
「フルチャージのグラビティブラストはどうだ?」
『与えられると思いますが、それでも…………それにフルチャージだと魔力に限界が………せめて弱点があれば………』
弱点ね…………
俺は相手の巨大な爪によるなぎ払いを避けながら考える。
(いかに、硬いうろこでも内からなら…………しかしそんなこと出来ないし、いっそボソンジャンプで腹の中に…………ってそれじゃ殺しちまうし………)
『マスター!!!』
「やべっ!?」
火球とは違う、巨大な砲撃が俺に一直線に伸びる。
「ディストーションフィールド最大出力!」
『イエス、マスター!!』
とっさに分厚いフィールドを張るが、耐え切れず砕かれた。
「何っ!?」
俺はその巨大な砲撃に飲まれた…………
「零治さん!!」
ヴォルテールの巨大な砲撃に飲まれる零冶さん。
やっぱり零治さんも………
「星さん………」
「大丈夫ですよ。レイはこんなんじゃ負けないですよ」
そう言い切る星さん。その顔に心配の色は無かった。
(私も信じると決めたんだ。星さんみたいにちゃんと信じてるんだ。)
キャロは再び目線を零冶に移す。
現れたのは赤い線の入った白い鎧を纏った零治だった…………
『マスターうまくいきますかね?』
「やるしかねぇよ。俺はヴォルテールを殺すつもりなんか無いからな」
そうだ、殺すんじゃない。あくまで目的はキャロを安心させるためだ。
ヴォルテールは後に必ずキャロのために力になってくれる。
だから……………
「行くぜ、ラグナル」
『はい、翻弄してあげましょう。前のときみたいには行きませんませんからね!』
自分の身長ほどある銃、パルチザンランチャーをヴォルテールに構え、動いた。
「まずはEモード!」
『どうぞ〜!!』
パルチザンランチャーを構え、動きながら二つの銃口の上からビームの魔力砲を撃つ。
ヴォルテールに直撃したが、ダメージは無いみたいだ。
だけど、
「そらそらそら!!」
俺は高速移動しながらパルチザンランチャーを撃つ。
一発でだめなら10発、それでも駄目なら100発。
その姿は幾つものアーベントが一斉射撃しているように見える。
「グゥ!?」
チビチビ与えているせいか、反応が少し変わったヴォルテール。
だけど…………
「それだけじゃねえぞ、Bモード!」
『こっちはさっきより痛いよ〜!!』
パルチザンランチャーの二つの銃口の下
の部分、そこから大きな魔力弾が撃ちだされる。
こっちは連射できないけど………
「一発の威力はさっきより効くぞ!」
一発撃って、パルチザンランチャーを一回転回し、再び撃つ。それを3回続けた。
ダメージは大したことなさそうだが、じわじわと効いてくるだろう。
「グオオオオ!!」
うっとおしく感じたのか、さっきと同じように巨大な砲撃を撃とうとしている。
この姿で食らったら一発でお陀仏。
だけど………
「それを待っていた!!」
俺は瞬時にヴォルテールの懐に潜り込み、パルチザンランチャーの持っていない左手にアルトアイゼンほどではないが、それでも大きいステークを展開した。
「口の中を火傷しな!!くらえ、Gインパクトステーク!!」
俺はアーベントの唯一の近戦武器、Gインパクトステークであごを思いっきり突いた。
貫くことは出来なかったが、それによってヴォルテールの口はしっかりと閉じ、中に貯めたエネルギーが口の中で爆発する。
「グギャアアアアアア!!!!」
「うわっ痛そう………」
さっさと離れた俺はその光景を見ていた。口をあけて暴れている姿は痛々しい………
だけど………
「キャロの為だ、悪く思うなよ」
『フルドライブ、ブラスターモード!』
白い鎧にあった赤い線が青くなる。
それと同時に背中にある翼が大きく開き、パルチザンランチャーの銃先が変形してさらに長くなる。
「ラグナル、速攻で決めるぞ。パルチザンブラスターFモード!」
「チャージ開始……………………………OKですマスター」
「パルチザンブラスターフルバースト!!」
さらに大きくなった二つの銃口に赤と青のエネルギーが螺旋状に集まる。
貯まったエネルギーが一気にヴォルテールの口へ放出された。
きれいに赤と青の螺旋を描いた魔力砲は、一直線に大きく開けたヴォルテールの口へ行き
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
大きな悲鳴のような声を上げヴォルテールはその場に倒れたのだった。
「うそ…………」
私は目の前の光景が信じられませんでした。
信じていましたし、負けるとも思っていませんでしたが、こんなに簡単にヴォルテールに勝つとは想像していませんでした。
「ね、勝ったでしょ」
「は、はい」
「とりあえず、レイの所へ行きますか」
「は、はい!」
私たちは急いで降りてきた零治さんの所へ向かいました。
私たちが着いたころには加奈さんと桐谷さんが既に話しかけていました。
ヴォルテールも消えていて、結界も解除されていつもの森に戻っています。
「しかし凄いわね、兄さん」
「いや、暴走してなかったらかなり苦戦したよ。やっぱり真竜は伊達じゃないわ」
鎧を解いて苦笑いしながら言う零治さん。その場にすぐに座りました。
すぐさま、加奈さんが回復魔法をかけています。
「最後のあれが言っていたブラスターモードか?」
「ああ、アーベント版のフルドライブだな。やっと砲撃を撃てるようになったってとこ。………けれど、これで少しでも動いたら3日は全身筋肉痛で動けなかっただろうな………」
話しかけた桐谷さんに、苦笑いで答えています。
確かに重々しそうに動いています。
「キャロ!」
「!!」
私に気づいた零治さんが話しかけてきました。
けど…………
「行っていいのですよ」
「………はい!!」
星さんにそう言われて私は零治さんの胸へ飛び込みました。
「おおっと。キャロ、見てたか?ちゃんと勝っただろ」
「はい、でも心配しました…………」
「……………まあハッキリ言ってかなり強かったからな」
苦笑いしながら零治さんが答えます。
「けれど、これで今日からお前は有栖キャロだな」
「……………いいんですか?」
「何をだ?」
「私なんかが零治さんたち………あたっ!?」
そう言いかけたらデコピンされました。
「うぅ〜何するんですか………」
ジト目で睨みますが、笑ってごまかされました。
「もう家族なんだから他人みたいな言い方は駄目だ。俺のことは呼び捨てかレイと呼べ」
えっ!?でも……………
「どうした?」
「年上の人を呼び捨てで呼べません………」
「そうか?俺は気にしないんだが………」
そう言われても……………
「だったらお兄ちゃんはどうですか?」
星さんが笑顔で言ってくれました。
ああ、それなら………
「待て!!それは…………」
「駄目ですか?お兄ちゃん…………」
そこで否定されると悲しいのですが…………
「全然問題ないです!!」
良かった。即OKもらえました。
「「「ロリコン………」」」
「待て!?今のタイミングでそれを言われると俺、社会的に抹殺された気がする!!しかも星、お前が提案したんじゃないか!!」
「まさかそんなにテンションが上がるとは思いませんでしたから」
「変態に人権は無いわよ」
「桐谷さん、ロリコンって何ですか?」
「キャロ、知るのはもう少し大人になってからだ…………」
むぅ、子供は知ってはいけないことなのでしょうか?
「俺はただ単に純粋無垢な子供と小さい動物や可愛いものが好きなだけだ!!断じてロリコンではない!」
「十分ロリコンで通じるわよ。星、ちゃんとキャロを見てなさいよ。何するか分からないから」
「はい、分かってますよ」
「何もしないっての!!」
お兄ちゃんをいじって楽しんでる加奈さんと星さん。
二人とも楽しそう……………
お兄ちゃんは今にも泣きそうに………
「くすっ」
「………やっと笑ったな」
「そう言えば………」
追放されてから笑ったことなんか無かったな。
「私、お兄ちゃんと出会えてよかったです」
「そうか…………」
しばらく私はお兄ちゃん達のことを見て笑っていました。
辛い事ばかりでしたが、私は最後に家族を得ることが出来ました。
こんな私にも居場所があったんですね…………
これからは有栖キャロとして生きていきます。
「あっ、光蓮花!!」
「「「あっ………」」」
森を出て、転送装置に乗り、帰ろうとした直前に星の一言で本来の目的を思い出した俺たちだったが、キャロがたまたま逃げ込んだ洞窟で見つけたらしく、念のためと摘んでくれたおかげで、戻らずにすみました。
キャロ、マジでありがとう……………
第46話 キャロ、スカさん家に行く
「皆さんはじめまして、有栖キャロです」
「「「「「「……………」」」」」」
「ん、どうしたんだみんな?」
「ウェンディ、管理局に電話」
「任せろっス、チンク姉。このロリコンは社会から抹殺されるべきっス」
「ちょっと待て、落ち着くんだ2人共。ここを管理局に知られると私達が困る!!」
慌ててスカさんが二人を止める。
「お前らな…………俺がロリコンに見えるか?」
「「「「「「うん!!」」」」」」
ゲーム好きのいつものメンツが頷く。
コイツら…………
「私も流石に否定できないな…………」
「スカさんまでに言われるとは………一体俺が何をした!?」
「「「「「「「幼児誘拐」」」」」」」
「違ぁう!!!」
俺の叫びは奴らに届かなかった…………
「ウーノ、ロリコンって…………?」
「ルーお嬢様には早すぎます!」
「成る程、そんなことがあったのか………」
星達の説明により、何とか誤解は解けたが、俺のガラスのハートが……………
「大丈夫です、お兄ちゃんは悪くないです」
「うぅ、キャロ…………」
そう言って頭を撫でてくれるキャロ。ちくしょう、優しさが目に染みるぜ…………
「レイごめんね………」
「確かに我も言い過ぎた、すまない」
「レイ、ごめん………」
「悪かったな」
「すまんっス!!」
「ウェンディ、お前謝る気ないだろ………それに、俺はただ単に純粋無垢の子供とか、小さくて可愛いものや小さい動物が好きなだけだ。けっしてロリコンじゃない!!」
((((((結構スレスレの気が………))))))
と、そこにいる全員が思ったが、これ以上零治をいじるとおかしくなりそうだから誰も何も言わなかった………
その後、ナンバーズの紹介も終わり、いよいよ有栖家の面々の自己紹介となった。
「で、俺の家族の紹介だけど…………」
「僕は有栖ライだよ!!よろしくね」
右手を上げて元気よく自己紹介する。
「はい!よろしくお願いします、ライお姉ちゃん」
「レ、レイ!!!お姉ちゃんだって、私!!」
呼ばれたのが嬉しかったのか、凄くテンションが高いライ。
「いや、ウェンディに呼ばれてるだろ…………」
「ウェンディはバカにしてるから別だよ!!いやぁ、私もお姉さんかぁ…………」
目をキラキラしながら自分の世界に入るライ。
「ちょっとアホな子だけど、良いやつだから」
「は、はい………」
頼むから引かないであげて……………
「我は有栖夜美だ、よろしく頼む」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします、夜美お姉ちゃん」
夜美が差し出した手を掴み握手するキャロ。
「ふふ、姉と呼ばれるのは悪くないな。困ったことがあったら相談してくれ。いつでも相談に乗るぞ」
「はい、ありがとうございます」
「夜美は頼りになるから気軽に相談するといいぞ。ただし!!余計な事まで覚えなくていいからな」
「失敬な、我が変な事でも教えると思ってるのか?」
「ああ、例えば本棚の後ろに隠してある、乙女ぼnグフッ!?」
頬をグーパンされ、それ以上言えなかった。
「そ、それをどこで知った!?」
「………ラグナルが掃除と称して勝手に侵入して部屋を漁ったとき」
頬を抑えながら俺は正直に答える。
『ちょ!?マスター!?』
「レイ、お前のデバイスちょっと貸してくれないか?」
「いや、絶対壊すから貸さない」
そう返事をしたが、無理矢理でも取ろうと俺に襲いかかってくる夜美。
「渡せ!!そいつは我の知られざる秘密を知ってしまった!!すぐにこの世から排除せねば!!」
「止めろって、別にお前がどんな趣味を持とうと俺は引いたりしないから!」
『そうですよ、私とマスターは口が堅いですから夜美が乙女ぼn………』
「やめろーーーー!!!こうなったら二人ともあの世へ行ってもらう!!!」
デバイスを展開して襲いかかる夜美。
それから俺と夜美によるリアル鬼ごっこが始まった………
「あの…………自己紹介は?」
「全く……………派手にやってくれたね」
「「すいません…………」」
俺と夜美はスカさんのアジトで鬼ごっこをしていた為、夜美が放った魔力弾がスカさんのアジトをボロボロにしてしまった。
そんな俺たちは、丁度調整の終ったゼストさんに捕まり、スカさんの前にやって来たのだった………
「まあ、損害は使っていない施設だったからよかったものの、もしまだ稼働していないナンバーズの部屋だったら…………」
「「すいません…………」」
「次から気を付けてくれ。………………まあ説教はこれくらいに、2人は初めてだよね。彼はゼスト・グランガイツ、今は私の協力者だよ」
「ゼスト・グランガイツだ、よろしく頼む」
「我は有栖夜美だ」
「俺は有栖零治です、よろしくお願いします」
「お前が黒の亡霊か…………管理局時代は世話になったな………」
「ハハハ、覚えがないです………」
ごめんなさい、よく覚えています。
「そうか?あの時はよく仕事を邪魔をされ、どれだけ迷惑だったか………」
そんな事言われてもな……………こっちだって仕事だし………
「か、過去のことなんてどうでもいいでしょう!!過去より今です!!」
「そうだな、これからの為に一戦本気の模擬戦をお願いしたいのだが………」
ヤバい、この人ボコす気満々だ!!
「えっと、考えておきます………」
そう返事をしたとき、夜美がゼストさんに聞こえない声で話しかけてきた。
(レイ、一体何をしたんだ?)
(昔に傭兵の仕事で管理局の邪魔をしたことが結構あってさ………特に地上部隊にはかなり迷惑極まりなかったと思う。)
(と言うことは………)
(そう、ゼストさんはあの頃、地上のエース級魔導師だったんだ………)
(それは怒るのも分かるな………)
そう言って話すのを止める夜美。
なんだよ、冷たすぎるだろ…………
終始ゼストさんに睨まれていた俺は早くゼストさんの前から逃げたかった…………
「お帰りなさい二人とも。何か飲みますか?」
あのプレッシャーをなんとか逃れた俺はウーノさんのお姉さんオーラに包まれた。
全く、あの人のプレッシャーはなんなんだよ………
いつか『我は悪を断つ剣なり!!』とか言って襲ってきたり…………
ってあの人デバイス槍か。
「取り敢えずほうじ茶を下さい………」
「おいレイ、地球でないのだからそんなもの………」
「ありますよ」
「あるのか!?」
甘いな夜美、ここは既に地球かぶれになってるのだよ。
「夜美ちゃんはどうします?」
「あ、じゃあ同じのを頼む」
ふと俺はリビングを見る。
「あれ?あいつらは?」
「そう言えば………」
ふと見るとリビングには誰も居なくなっていてとても静かになっていた。
しかも桐谷やキャロといった、帰ってきたメンツもいない……………
「確か、帰ってきた桐谷君達は汗を流しに行くって大浴場に。ゲームしてた子達は、ゲーム飽きたから鬼ごっこするって出ていったわ」
へえ〜鬼ごっこね……………………
「レ、レイ…………」
「そうだ、ライ!!」
アイツ方向音痴だ!!
「夜美、俺、ライ探してくる!!」
俺は慌てて部屋を出ようとする。
「どうしたのですか!?」
「ライの奴、方向音痴なのだ。ただでさえ迷うくせに……………言い出せなくて断れなかったな………」
「だから行ってくる、ウーノさん!!」
「待ってください、こういう時は私に任せてください」
ウーノさんはテーブルの上に用意してくれたお茶を置き、
キーボードに手を置くように何もないところに手を添えると、そこから複数のディスプレイが現れた。
「ウーノさん、これは?」
「私はアジトのCPUと直接繋がっていますから、アジトにいれば、どこでも接続可能なのです」
おお!!始めて戦闘機人っぽい能力を見れた気がする。
「それで、ライさんのいる場所ですが…………」
そう言ってウーノさんは捜索を開始してくれた。
「どうやらF—17地点の方まで行ってしまったようですね………」
「「F−17?」」
「このアジトはAからFでそれぞれ20ブロックあります。ライちゃんはそれのF—17にいますね」
それって一番端っこって事だよな?
「おかしいですね、今はあそこにいけないようにDブロックに障壁を展開しているのですけど……………」
「まぁ………」
「ライだからな………」
あいつは結構予想外の事をしたりするので、普通に図ってはダメなのだ。
「取り敢えず場所は分かりました。ここまでの道は私やドクター、クアットロ位しか行かないので迷うと思います。だからこちらで指揮をしますのでこれを…………」
ウーノさんは俺と夜美に耳に付ける通信器を渡した。
「では、お気を付けて」
「はい、行ってきます」
「行ってくる」
俺達はライ捜索に出た……………
お風呂にて………………
「どっぽーん……………」
「ダメだって!!ルーちゃん!!」
私はルーちゃんを止めようと注意しますが時すでに遅し、ルーちゃんは大きなお風呂にダイブしてしまいました…………
「大きい…………」
「本当ね…………」
加奈はアジトにこんなに大きなお風呂があることに驚き、キャロは普通に初めての大きいお風呂に驚いているようです。
「ルーちゃん、一旦お風呂から出なさい!」
私に怒られ、渋々お風呂から出るルーちゃん。
「でも、ウェンディがこれが正しいお風呂の入りかたって……………」
「あの子の言うことの80%は嘘です!!」
「それは……………………言い過ぎでもないな………」
「えっ!?」
加奈の発言にただ驚くキャロであった………
その頃、男子風呂……………
「ふぅ〜、温まるな………」
一人、リラックスしながらお風呂に入る桐谷がいた…………
「バシャバシャバシャ…………」
「お風呂でバタ足も駄目です!!」
「星、厳しい…………」
「そうよ、少しは多めにみてあげなさい」
「そうですけど…………」
注意され顔しかめる星。
星はそのまま隣でお風呂を満喫しているキャロに声をかけた。
「どうですか、お風呂は」
「ポカポカして気持ちいいです。大きくてみんなで入れて楽しいです」
「そうねえ、確かにたまには大勢で入るのもいいわよねぇ〜」
加奈の言うとおりですね。確かに大勢で入るのもたまにはいいものです。
「………………………」
「どうしました、ルーちゃん?」
「星、セイン達よりおっぱい大きい……………」
「な、何を言って!?」
「そう言えば…………」
「大きいです…………」
「きゃ、キャロまで…………」
そんなに見られると恥ずかしいのですが……………
「一体何を食べてればここまで大きくなるのかしらね…………」
そう言いながらジロジロ見る加奈。
「お乳…………出る?」
「出ません!!」
それは……………恥ずかしくて言えません!!
「……………私も大きくなるかな?」
「きっとなりますよ。ライも沢山食べて大きくなりましたから」
「そう言えばライお姉ちゃんも大きかったです」
「あの子のスタイルは中学生じゃないわ……………あんなの化け物よ………」
そこまで言わなくても良いと思うのですが…………
「キャロ、背中洗いっこしよう…………」
不意にルーちゃんがキャロに声をかけた。
「えっ!?は、はい!!」
嬉しそうにお風呂から上がるキャロ。
「よかったです、これならルーちゃんとも友達になれると思います」
「そうねぇ、年も同じくらいだろうしいいかもね。ただ…………」
「そうですね…………」
「「ウェンディの悪影響がなければ!!」」
「「?」」
私と加奈は二人の様子を見てそんな事を思ったのだった。
この後も女性陣はお風呂を楽しく満喫したのだった……………
「ふぅ、やっと着いたな」
「はぁはぁ………」
「……………………」
C—11。
今、任務を終えた3人がスカリエッティのアジトに着いた。
「情けないぞ、クアットロ!それくらい走っただけで倒れるな!!」
「何言ってんのよ、この飲んだくれバトルジャンキーが…………」
「クアットロ、聞こえたらトーレ姉に殺されるよ…………」
トーレは元気そのものだが、ディエチとクアットロの二人はヘトヘトである。
特にクアットロはアジトに着いたとたん、その場に座り込んだ。
「しかし、ここはどこだ?いつもの場所に転移したはずだよな?」
「そういえば、あれ?確かにいつもの座標の筈ですけど…………」
そう言ってクアットロはディスプレイを展開させる。
「Cー11?何故こんなところに?」
そんな時だった、
(!?)
いきなりディエチは壁に何者かに掴まれ、壁へ体全体を引きずり込まれる。
(た、たす………)
だが、口を塞がれた為、声も出せず、
二人に気づかれる間もなく、壁にあった隠し扉の中へ引きずり込まれたのだった……………
「?」
「どうしたスカリエッティ?」
「いや、何かアジトがおかしくなっているような気がしたのだが…………」
スカリエッティは展開しているディスプレイをよく見る。
「?いや、何も異常はないみたいだが…………」
ゼストの言うとおり、ディスプレイには何も変化は無かった。
「そうみたいだね、それじゃあ、続きといきますか」
「まだ飲むつもりか………………」
アジトの異変にも気づかぬまま、二人は酒盛りを続けるのだった……………
第47話 ダンジョン探索(ライを求めて………そして伝説に………)
C—1………
『ではここから指示を出します。この先100mを右折してください』
ここはC地点。ウーノさんの話だとこの場所でガジェットを製作していたらしい。
明かりも薄暗く、かなり不気味だ。
「足元気をつけろよ」
「ああ、分かって!?」
つまずく夜美を支える。
「言ってるそばから………」
「す、済まない………」
そんなことをしていると…………
ウィーン………ウィーン………
機械音が聞こえてきた。
「なんだこの音?」
「何か動いている?」
その音は俺たちが進む道の先から聞こえてきた。
「あれは…………」
暗く、まだよく見えないが、シルエットは見えてきた。
カプセルみたいな丸いシルエット…………
「ガジェット?」
スカさんにデータを見せてもらったから見覚えががあるけど…………
『ガジェットですか!?おかしいですね、今は全て製造を中止していて稼働させていないはずなのですけど………』
と、そんなことを話していると………
「うわっ!?」
足元に熱線を放ってきた。
「コイツ………ラグナル!!」
『分かりました』
「セットアップ!!」
俺はラグナルをセットアップする。
「我も………」
夜美も俺に続いてセットアップした。
『何故、稼働しているのか分かりません。今こちらで調べてみます』
「どうすればいいですか?」
『破壊しながら先を進んだほうが良いと思います。I型は数も多いので、戦うだけ無駄です。AMFも使えますので、魔力残量にお気を付けて』
「分かりました。聞いたとおりだ夜美。基本俺が前衛で、夜美が後衛で行こう」
「分かった」
「取り敢えず道を作ろう。夜美、頼む」
「分かった、任せろ」
そう言って杖を真上に構える。
「新技だ。闇に飲まれろ、インフェルノ!」
上に出現した魔法陣から巨大な闇の魔力弾が次から次へとガジェットに向かって飛んでいく。
直撃するたびにガジェットを破壊し尽くした。
「…………………俺っていらなくね?」
「どうした、行くぞレイ!!」
「あいよ………」
俺たちは更に奥へと向かって行った。
リビング……………
「おかしいですね…………」
ウーノは零治たちに指示を出しながら、なぜガジェットが動き出したのかを調べていた。
「どうやっても異常なしとしか…………」
「ウーノさん、どうしたのですか?」
その声を聞き、ウーノは振り返ると、風呂上がりの星達がそこにいた。
「おかえりなさい、お風呂はどうでした?」
「気持ちよかったですよ。キャロも大喜びで」
「はい、気持ちよかったです!」
「クキュー!」
「フリード!!」
ソファーの上で寝ていたフリードがキャロのところへ飛んできた。
「ふふ、二人は仲が良いですね」
「はい、フリードはいつも一緒でしたから」
笑顔で語るキャロにその場にいたルーテシア以外の女性陣が和んだのだった。
「そう言えば、レイと夜美はどうしたのですか?」
「それなのですが…………」
ウーノは今起きている出来事を説明し始めた……………
D—8………………
「ディエチちゃ〜ん、どこにいるの〜?」
クアットロが呼びかけるが返事はない。
「一体どうしたというのだ、ガジェットが稼働しているだけでも驚いているのに、まさか襲ってくるとは………」
「ドクターが何かやらかしたのではなくて?」
「それはないのではないのか?しかし…………はぁ………」
目の前にまた現れたⅠ型とⅡ型にトーレはため息を吐く。
「全く、次から次へとゾロゾロと現れて……………面倒だがさっさと倒して先に進むぞ」
「仕方ないですね、ディエチちゃんには今度おごってもらうことにしましょう」
トーレとクアットロも先に進んでいく…………
C—14……………
「魔神剣!!」
斬撃を生み出し、ガジェットを吹っ飛ばす。
「エニシアルダガー!」
ナイフ型の魔力弾を連射する夜美。
「くそっ、キリがない!!」
「もう少しで次のフロアだ!頑張れ夜美!」
節約しながら前に先に進む俺達。
「よし!!」
なんとか抜けた俺たちはその場に座り込んだ。
進んできて分かったことだが………
・あいつらはフロアの境目を超えてこない。その場合、目の前にいても攻撃もしてこない。
・フロアによっては出てくる数も変わる。
・フロアによっては、明るかったり、部屋が狭かったりと、そのフロアごとに特徴が違う。
・なぜかAMFを使わない。
・経路は複数あり、どこにつくのかは分からない。
と、こんな感じだ。
俺たちは今ちょうどフロアの境目に到達し少し休んでいる所だ。
「全く………さっきの場所はガジェットかなり多かったな。やはり選ぶ場所を間違えたのではないのか?」
「そうかもしれないな…………真ん中を行くべきだったか?」
あの後、ウーノさんがアジトのCPUに異常を発見したらしく、ガジェットが動いているのは、対侵入者迎撃用にスカさんが作った、『迷宮ダンジョン迎撃システム』が原因らしい。
スカさんが遊び半分で作ったもので、随分前に廃棄したとウーノさんは言っていた。
話によると、上記で言ったとおりの事が起き、それで侵入者をダウンさせるのが目的だとか………
だけどちゃんと最後まで行けるようにしたのはスカさんの遊び心らしい。
これによりウーノさんのバックアップが無くなった俺たちは自分たちで進むしかなくなってしまった。
しかもそれだけでなく、A〜Fに上がっていくに連れて難易度が上がっていくらしい。
今回ライはFフロアにいるため最後まで行かなくてはならない。道のりはまだまだ先だ。
「でも一気にC−19まで来れたな。結構短縮出来たみたいだぞ」
「そうだな、少し休んだらまた先に進もう」
俺たちは少し休むことにした……………
C—10……………
「IS、ランブルデトネイター!!」
「でやっ!!」
フェリアのISとノーヴェのガンナックルによる攻撃でガジェットが爆発する。
「やったっスねチンク姉!ノーヴェもよくやったっス!!」
「よくやったじゃねぇ!!お前も戦え!!」
お茶らけて言うウェンディにノーヴェが怒る。
「だって、ここのフロアじゃ狭すぎて私のISじゃ、邪魔するだけっスよ………」
「んなことないだろ!現に今ボードの上に乗ってるじゃねえか!!」
「こんな場所じゃ高機動戦闘も出来ないっスよ〜」
「喧嘩は後にして2人とも。少し先に転送装置があるよ」
セインに言われ、ノーヴェとウェンディは喧嘩をやめ、セインの言った転送装置へ向かう。
今、ここにいるのはフェリア、セイン、ノーヴェ、ウェンディ。
鬼ごっこ途中で消えたライを探しにCフロアへ入ったのだが……………
「何で迎撃システムが作動しているのだ?」
入って早々にガジェットに襲われた4人。
フェリア以外、これといった実戦をしていない3人だったが、問題無く戦っている。
いや、主にフェリアとノーヴェの二人だが…………
セインは元々戦う能力では無いので、自身のISでフロアの偵察をしている。
これのおかげで敵の位置を把握しているので大いに役にたっている。
一応、ウェンディもエリアルボードを持ってきてはいる。
何故持っているのかと言うと、単純に鬼ごっこで逃げている時に使っていたからである。
直ぐに皆に文句を言われ、使用不可となっていたが…………
「でも、本当に持ってきておいて良かったっス」
移動中、ウェンディはライディングボードの上に乗って移動していた。
姉が歩いているのにも関わらず…………
「お前な…………」
「いいから行くぞ、ノーヴェ」
「分かったよ、チンク姉」
「みんなここだよ」
そこには怪しく光っている転送装置があった。
「何処に繋がっているんだ?」
「分からない、私もこんなものがあるなんて聞いたことが無い」
「どうする、チンク姉?」
「そうだな」
「当然乗るっス!!」
そう言って後先考えず転送装置に乗るウェンディ。
「おい勝手な事するなよ!!」
「こういう時はショートカット出来るってゲームだとお約束っス!!大丈夫っスよ!!」
3人は暫く考えたが、ハッキリ分からない以上、転送装置に乗らない方が良いという判断になったが………
「みんなも早く来るっス!!」
ウェンディが操るライディングボートに押され、3人共転送装置に乗ってしまった。
「「「ウェンディ!!!」」」
「無限の彼方へ、さあ行くぞっス!!!」
こうして4人は目的地の分からない場所に転移したのだった…………
リビング……………
「大丈夫かな、夜美お姉ちゃん、お兄ちゃん…………」
キャロが心配そうに呟く。
「大丈夫ですよ、元々ドクターが初期に遊び半分で作ったものなのであんまり危険性はなかった筈です」
ウーノの言葉に少し明るくなったキャロ。
しかし………
『さて、それはどうかな?』
ウーノの展開していたディスプレイに黒い影の男が現れた。
「あ、あなたは!?」
『私はメルフィス、貴様なら私の名前を知っているだろう、ウーノ』
と影の男は言っているが……………
「………………………誰でしたっけ?」
『俺はお前らが作ったアジトの自己防衛プログラムのコアだろうが!!!』
もの凄い怒鳴り声でウーノに怒った。
「……………………………ああ」
『絶対思い出してないだろ!!』
「私は覚えていないのですが…………ドクター?」
ウーノは回線を開き、スカリエッティのラボへ通信を送る。
すると、スカリエッティの部屋がディスプレイで表示された。
「ドクター?」
『なんだいウーノ…………ヒック…………』
「ドクター…………まさか………」
『今私、思いついたのだけどね、今度みんなでピクニックなんてどうかな?せっかく零治君達もいるのだから、どこかへ連れて行くべきだと思うのだけれど………』
「ドクター!!その零治君達がピンチなんですよ!!」
『そうなのかい?またどこかの少女を引っ掛けてきたのかな。全く、私の娘たちもいつか彼の毒牙にかかると思うと…………』
ブツブツと自分の世界に入るスカリエッティ。
「ドクター…………」
頭を抱えるウーノ。
「使えないな………」
冷たい言葉で罵る加奈。
「そんな事言っちゃ駄目ですよ加奈………」
「ルーちゃんどうしたの?」
「ゼストが大の字で寝てた……………」
少しムッとした顔で言うルーテシア。
そんなルーテシアを見て、キャロは苦笑いしかでなかった……………
D—5……………
順調に進んでいた俺たちだったが、ここに来て奇妙なフロアに出た。
「夜美、見てみろ」
「なんだ?」
次のフロアに入った俺達はそこにポツンと置いてある箱に目が行った。
「これって……………」
「宝箱だな……………」
そう、そこにはゲームみたいに宝箱がぽつんと置いてあった。
「どうする?レイ」
「開けてみるか」
俺は全く躊躇せず、箱を開けた。
「これは…………」
中には、2本のビンの飲み物と紙が入っていた。
『魔力回復薬。失った魔力を回復します』
「「……………」」
二人は無言になり…………
「「一応持っていこう…………」」
使わずに一応持っていくことにした。
C−13……………
「やっぱり駄目っス!!こんなフリがあったら試さないと芸人じゃないっス!!」
「落ち着け、ウェンディ!!お前は芸人じゃないはずだ!!」
「そんなの関係ないっス!!人としてフリがあったならそれに乗らなければ腐ってしまうっス!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!!」
「…………………はぁ………」
そんな様子を見ていたフェリアはため息をついた。
今の状況を説明しよう。
ウェンディがしようとしていること、それは…………
『修理中、使用してはいけません』
と転送装置の隣に立て札が立っていた。
「行かなければならないっス!!ダメと言われると無性にやりたくなるっス!!」
「やめろって!!またスタート地点に戻りたいのか!?」
さっき4人の転移先はまさかのC—1、『スタートに戻る』だった。
フェリア達はまた一から始めてここまで来たのだ。
「いやっス!!絶対に使うっス〜!!」
そんなウェンディを3人がかりで抑えて今回はスルーしたのだった……………
リビング……………
「一体何が目的ですか?」
今、リビングではメルフィスによって、3組のダンジョンの様子をディスプレイで表示され、私達はそれを見ています。
トーレとクアットロもこのダンジョンにいることに驚きました。
多分アジトに着いたとたん、巻き込まれたのでしょう。
しかしディエチはどこに行ったのでしょう?
『そんな事決まっている。私はスカリエッティに復讐するために行動を起こしたのだ』
「復讐?」
『私は作られてすぐに気に入らないとFフロアに破棄されたのだ!!気に入らないのその一言で!!Fフロアに捨てられた私は、気づかれないように少しづつデータを吸収してきた。全てはスカリエッティに復讐するために………そして私に転機が訪れた!!』
「転機とは?」
『スカリエッティがいきなりガジェットの製作をストップし、Dフロアから先を遮断したのだ。そうなれば後は自由だ。そこで私は一気に周りの残っていたデータを吸収し、様々なデータを手に入れ、アジトのCPUの掌握方法を見つけ、今に至ったというわけだ。このアジトのCPUを掌握出来ればこちらのものだ、これでスカリエッティにも復讐できる』
やられましたね………
廃棄したものをちゃんと確認しとくべきでした………
『だが安心しろ。まだ彼女達に手をかけるつもりはないさ。しばらくはこのショーを楽しませてもらうとしよう。その後、全ガジェットを使ってこのアジトを破壊することにする』
「くっ…………」
タイミングの悪い…………
ドクターがいれば何とか出来ると思いますが、今は泥酔していて訳が分からなくなっていますし、お酒の入った頭で何とか出来るとは思えません。
「大丈夫ですよ、ウーノさん」
そんな私を見て星ちゃんが言いました。
「レイと夜美に任せれば大丈夫です」
「零治君と夜美ちゃんですか?」
「はい、あの二人なら必ず成し遂げてくれます。それに……………」
そう言って零治君達の映像を見る星ちゃん。
「レイは家族のピンチに絶対負けません!!」
そう力強く宣言したのだった。
「それに加奈にジェイルさんを起こしに行くように頼みました。加奈は容赦無いから多分正気に戻ると思います」
それはそれでドクターは大丈夫でしょうか?
「…………なるほどね」
ウーノさんからの通信でこの騒動の経緯が分かった。
あの野郎、許せねえ…………
「折角キャロが家族に加わり、今日は盛大にもてなそうと思っていたのに…………メルフィス、絶対にぶっ壊す…………」
「レ、レイ、当初の目的はライの捜索なのだが……………」
「行くぞ夜美、早くあの野郎をぶっ壊したい」
「わ、分かった………」
完全に当初の目的を忘れていた零治に、夜美はなにも言えなかった。
「ライ、頼むから我らの行き先にいてくれ………」
F—17……………
「ふ、ふん、怖くなんて無いんだぞ!!」
震えた声で言うライ。
「脅かしたって駄目だからね!!」
バリアジャケットを展開してバル二フィニスを向ける。
何もない空間に………………
「ピーマンの化け物なんて怖く無いんだから〜!!!」
魔力弾を放った。
D—14……………
「トーレお姉さま、また14フロア見たいですわ」
「またか!!一体どうなってる!?」
「分かりませんわ、けれど同じ場所をループしているみたいですわね」
「他に通れそうなルートはどうだ?」
「分かりませんわ、でも、ちゃんと選ばなければまたさっきと同じように………!?」
クアットロがそう言った時に何かが動く。
「またか………」
トーレはうんざりした様子で呟く。
目線の先にはガジェットの大軍が………
「もう一度破壊する。それまでにルートの特定を頼む」
そうクアットロに言ってトーレはインパルスブレードを展開する。
「さて、また相手をしてもらおうか!!」
そう言ってガジェットの大軍 に突っ込んでいった………
E—5……………
「魔王炎撃波!!」
炎を纏った刀で固まっていたガジェットを一気に横一閃し、燃やし尽くす。
「フン、たわいもない」
刀を鞘に戻しながら零治は言った。
「容赦ないな……………」
と零治を見て呟いた夜美だったが、ガジェットを全て撃退した後、ふと現れた箱に気がついた。
「レイ、また変な箱があるが…………」
それを聞いて零治は夜美の所へ来た。
「どれだ?」
「これだ」
夜美の指を指した方向に前に見たことのある宝箱がポツンと置いてあった。
「………………取り敢えず開けてみるか」
「そうだな」
零治は夜美の了承を得られた所で今度はおそるおそる開けてみた。
『おめでと〜、大当たり〜!』
いきなりスカさんの声で喋り始める宝箱。
『これがあればラスボスも楽勝。光の玉だ〜!』
テンションが高いスカさんの声。
はっきり言ってかなりキモい…………
「「…………………」」
「取り敢えず持っていくか…………」
「そうだな…………」
俺の怒りもすっかり冷め、なんとも言えない気持ちで先に進んだ………
C—16……………
「やっとここまで…………」
フェリアはフロアの16という数字を見て感動した。
「チンク姉…………」
「ああ、よく頑張ったなノーヴェ、セイン…………」
「うん、私達頑張ったよね………」
フェリアの言葉にセインも頷く。
「あの〜……………可愛い妹を放置して感傷に浸らないで欲しいっス………」
セインの横にはエリアルボードにロープで巻き付けられ、身動き出来ないウェンディの姿があった…………
リビング……………
「順調ですね」
星ちゃんの言っている事は最もですね。
零治君たちはかなり順調に進んでいました。
気が付けばEエリアまで進んでしました。
特に零治君の威圧感が凄い…………
どんどんガジェットをなぎ倒していきました。
それほどライちゃんの事を……………
『お前ら…………俺達とキャロの時間を潰した罪を償え…………』
ライさんの為ではありませんでした…………
「お、お兄ちゃん……………」
「これは零治の奴絶対シスコンになるな……………」
「先が思いやられます…………」
桐谷君のコメントにため息をつく星ちゃん。
私も桐谷君の言う通りになると思います…………
「みんな、二人を連れてきたわよ」
「あっ、加奈さんありがt…………」
その先の言葉は出ませんでした。
なぜなら………………
「ドクター!?ゼストさん!?」
タンコブだらけの頭で加奈さんに引っ張られていました……………
「いやぁ、流石の私も死ぬかと思ったよ。零治君はいつもこれに耐えているのかい?」
ハハハハハと豪快に笑いながら言うスカリエッティ。
その頭には未だにタンコブが残っている。
「俺も意識が飛びかけたぞ…………」
「加奈の力は半端ないですから…………」
「苦労しているのだな、加藤………」
「俺より零治の負担はもっと凄いですよ………」
頭を氷で冷やしながら言うゼストに同情する桐谷。
この出来事により桐谷とゼストの仲はかなり深まった。
「フム、そんなことになっていたとは…………」
腕を組み、唸るスカリエッティ。
「あのたんこぶの所為でシリアス感を全く感じないわね」
「自分でやっておいてよく平然と言えますね………キャロ、加奈みたいになってはいけませんよ」
「あっ、はい」
「ルーも気を付ける」
「私、駄目な大人の代名詞じゃないわよ!?」
加奈がみんなに言い聞かせるが、誰も目を合わせようとしない。
「ちょっと、みんな!?」
「君も苦労が絶えないね…………」
「誰のせいよ!!」
スカリエッティが加奈にグーパンされる。
「ぐはっ!?」
「ちょっとドクター!?まだダンジョンの説明が………」
だがスカリエッティの意識は彼方へと飛んでいた…………
F—1……………
「ようやくFエリアか…………」
レイの活躍であまり苦労なくこれたが………
『マスター、技使いすぎです……………』
「問題ない、カートリッジを使えばまだこの先も技を使える」
『いや、絶対体を壊すから……………』
珍しくラグナルが呆れてる…………
かなり珍しい。
あの後零治は魔力のことなど考えないまま技を使いまくり、もうほとんどん空の状態になっている。
どうしたものか……………
『もういっそ飲んでみたらどうですか?あの魔力回復薬を』
そう言えば持ってきてたな。
名前の通りの能力ならばいいのだが……………
「必要ない。まだやれる」
『やれませんから………もう、自分で飲まないのなら夜美に口移ししてもらいますよ。いや、ここは私が…………』
く、口移しだと!?
い、嫌ではないが、心の準備が…………
「いちいち人になろうとするな、それくらい自分で飲める」
そう言って慌てて自称魔力回復薬を飲むレイ。
……………なんか損した気分だ。
「うっ!?」
いきなりレイがうなり始めた。
「レ、レイ!?」
『マスター!?』
そのままレイは胸を抑えながらうずくまる。
一体どうしたのだ!?
リビング……………
「零治君!?」
「レイ!!」
「お兄ちゃん!!」
「兄さん!!」
零治がうずくまる映像を見てそれぞれが零治の名前を呼んだ。
「……………どうやら零治君はアレを飲んでしまったみたいだね」
「ドクター!?」
スカリエッティが気がつき、説明を始める。
まだタンコブは残ったままだが…………
「魔力回復薬。というのは名前だけでね、人のリンカーコアとは無意識に引き出している魔力をセーブしているんだけど、あれはそれを無理やり引き出す薬なのさ」
「無意識に………ですか?」
「そうさ。だけど総魔力量の測定は合っているよ。ただそれを限界まで引き出すことが出来ないだけさ」
「ジェイルさん!!それって危険なんじゃないんですか!?」
星が慌ててスカリエッティに聞く。
「いや、無害な筈だよ。元々は自分の魔力なのだから。ただそれによってかなりの脱力感で一日ほど体が動かないかもしれないけどね………」
「そうですか…………まあ無害なら…………」
ふぅ………と安心したのか息を吐く星。
だけどハッと気がついたような顔をするとまたスカリエッティの顔を見た。
「む、無害ならあの反応はなんなんですか!?胸を抑えて苦しんでいるんです!!」
「あれは零治君の無理が響いたからだね。既に自分の意思で使える魔力を殆ど使い切ったからだろう。まあ見てれば分かるよ」
そう言われて星も渋々ディスプレイを見た……………
F—1……………
「レイ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ。少し胸が傷んだだけだ。そんなに大声を出すなよ………」
とは言ったけどマジで痛い…………
でもおかげで冷静になれたな。
しかし無茶をしたな俺…………
カートリッジ使わず大技連発って……………
「悪いな夜美…………」
「心配かけた事か?いちいちそれくらいで………」
「違うよ、我を忘れて訳が分からなくなってたみたいだ。苦労をかけたな」
「そ、そんなことはどうでもいい、それより体は本当に大丈夫なのか?」
「ああ、むしろ少し軽くなった気がする。これ、マジで効くんだな…………流石スカさん」
『残念だけど、そうじゃないみたいよ』
「ウーノさん?」
『いい?ちょっと聞いて………』
そう言ってウーノさんは説明を始めた…………
D—1……………
「さて、どこから行くか………」
「私は真ん中!」
「セイン、絶対右だろ!!」
「甘いっすね。そこにあるのは全てダミーっスよ、進むべき道はあの左にさりげなくある扉っス!!」
それぞれ自分の意見を言うセイン達。
「さて……………どこにするべきか…………」
ちなみに零治達が進んだ道はノーヴェの言った右の道だったりする。
それは当たりで、一気に10まで飛ばして行ける道なのだが…………
「絶対に左っス!!あのさりげなさは絶対に当たりっス!!」
「う〜ん…………」
「チンク姉、どうする?」
セインがフェリアに聞く。
ウェンディの事があってから最終的にはフェリアが決めることにしている。
「チンク姉………」
「うっ!?」
ウェンディの期待の眼差しにフェリアはたじろぐ。
「そんな目で見るな…………分かった、今回はウェンディの道で行ってみよう」
「マジかよ………チンク姉、大丈夫か?」
「こればかりはどうにもならんさ、どこも行ってみないと分からない」
「そうだけどさ……………ウェンディだぜ………」
「そうだよね………ウェンディって日頃の行いも悪いし………」
セインはそう言ってノーヴェと共にウェンディを見た。
「そ、そんなの関係ないっスよ〜ささっ、早くライ姉を見に行くっスよ」
「そうだな、そこの2人も行くぞ」
「「はあ〜い」」
こうして4人はウェンディルートで行くことにしたのだった…………
D—18……………
「やっと18か………」
「あれだけ戦ってそれですむなんていつもの飲んだくれの姿を微塵も感じませんわ………」
「いや、むしろ酒の力で強くなったt………」
「絶対にあり得ません!!」
強く言われてなにも言い返せなくなるトーレ。
「まあ細かいことは気にするな」
「もう………早く帰りたいですわ…………」
二人の頭にはディエチのことなどすっかり消えていたのであった。
F—10……………
「とうとうここまで来たな………」
「ああ、そうだな」
あの後、俺達は問題なく10フロアまでこれた。FエリアになってからⅢ型のガジェットも現れたが、夜美が片っ端から吹っ飛ばしてくれたお陰で俺は特に戦わず進むことができた。
て言うかガジェット、AMFが使えないとあんまり強くないな。
途中夜美なんか「ハハハハ、我の前にひざまつけ!!」とか機械相手に言ってたし………
最近はめっきり普通キャラになってたから頑張ったのかな?
「頑張ったとか言うな!!」
「何で分かるんだよ………」
「顔色で分かる」
俺ってそんなに分かりやすいのかな……………
『二人共、このフロアに人の反応があります!!』
「ライか!?」
『分かりません、でも確かに反応はあります』
「レイ、行ってみよう」
「ああ、そうだな」
俺達はラグナルが示した反応の場所へと向かった。
「ISヘヴィバレル」
自身の持つイノーメスキャノンによりガジェットが吹っ飛ぶ。
砲撃が大きいため、より巻き込まれて………
「弱い」
フロア自体そんなに広い場所でもないため、ガジェットは散開出来ずに巻き込まれていった。
「次は何処に行こうか………どこに行ってもトーレ姉とクアットロは見当たらないし…………」
ディエチはあの後、E—4にいた。
何も知らないディエチは取り敢えず進む事にして今に至ったのである。
「何かの音…………?」
イノーメスキャノンを音のする方へ構え、いつでも撃てる準備はしておく。
やがてその音の主が見え、ディエチは警戒を解いた。
「零治…………?」
「ディエチじゃないか。何でこんなところにいるんだ?」
「私は任務に帰ってきたら変な所にクアットロが転移して、いきなり壁に私は飲み込まれて、そうしたら一人になってて、そこに居てもしょうがないから私は一人で進んでた」
「OK、取り敢えずゆっくり話せ」
ディエチは零治に丁寧に話し始めた……………
「なるほどね…………しかしよく一人でここまでこれたな」
「片っ端から吹っ飛ばした」
イノーメスキャノンを構え、ディエチはそう言った。
「レイ、この人は?」
「ああ、戦闘機人のディエチだ」
「ディエチです、よろしく」
「ああ、有栖夜美と言う、よろしく頼む」
ちょうど自己紹介も終わったので俺はディエチにある提案をした。
「なあディエチ、俺の家族がこの先にいると思うんだけど、探すの手伝ってくれないか?」
「別に構わないよ。それより何でガジェットが動いているのか知ってる?」
「ああ、それはな…………」
俺はディエチにこのアジトの事を説明し始めた…………
「そうだったんだ…………ドクター、若い頃やんちゃだったんだね………」
そんなことを言いながらディエチは仲間になった……………
F—17……………
「うわ〜ん!!レイー!!」
ライは泣きながらピーマンの化け物?から逃げていた。
「なんで効かないんだよ!!来るなーーーー!!」
ソニックムーブを駆使しながら逃げるが、化け物?はそれをモノともせず、ライから離れない。
「うわ〜ん!!誰か助けてよーーーーー!!!」
それでも懸命に逃げるライ。
だがその鬼ごっこにも終わりがやって来た。
「あっ!?」
疲れが出たのか、自分の足を引っ掛け、その場に倒れるライ。
「あ……………ああ…………」
恐怖がライを全身に包み込む。
「コノママトワノネムリヲ…………」
だんだんライの視界が暗くなっていく………
「あ……………レイ…………」
目を閉じかけたその瞬間………
「邪霊一閃!!」
ライに襲いかかろうとしていたモノに瞬時に上から斬りかかり、そのまま右に払い抜け………
「魔王炎撃破!!」
炎を纏った剣で完全に消し去った。
「危なかった………」
「……………レイ?」
「ああ、大丈夫だったか?」
「レイーーーーー!!」
疲れた体に鞭を打って、ライは零治に抱きついた。
回想……………
『このダンジョンには一つだけかなり危険なモノを取り付けてしまったんだが…………』
「危険なモノ?」
それは移動中、スカさんの通信によって聞いた話だった。
『確率的にもFエリアの内の一つだからそこまで確率は高くないけど、そこのエリアでは幻覚によって精神を支配されてしまうんだ』
「心を?」
『そう。自分の一番苦手なもの、怖いものなど、幻覚を見せ、精神的に追い込み、精神を破壊するんだ』
「なんて危ないモノを……………」
『まあ一応、侵入者の排除を目的としたプログラムなんだけどね。危険だから一つのフロアだけにしたのだけど………』
「それで、何か解決策はあるんだろう?」
『単純に他の人の干渉で攻撃をすればダメージを与えられる。ただし直ぐに倒さないと今度は自分が取り込まれるから、それさえ気をつければ問題無いよ』
「なんてモノを造ったんだよ…………」
『いや、私は造ってないよ。バグか分からないけど、いつの間にかプログラムの中にいて、削除もできないから放置していたのさ。一体何なんだろうね?』
「何なんだろうね、じゃねえよ………」
「と、こんな話を聞いた後に入ったフロアで実際にライが襲われてんだもん。対妖魔相手の技が効いてくれて助かったわ」
苦笑いしながらライに説明するが、泣きながら離れてくれない。
「しかし、どうするかね………」
「取り敢えず、ライが落ち着いたら先に進もう。もう少しで最深部なのだろう?」
「確かそう言ってたはずだけど………」
「なら進むべきだと私も思うよ」
夜美もディエチも最後まで進む意見のようだ。
まあ、このダンジョンをどうにかする約束だし、ちょうど良いか。
「ライ、俺達は最深部まで行って、この状況を作り出した奴を叩きに行くけど、お前はどうする?」
「……………レイと一緒に行く。レイと離れたくない…………」
涙目で俺に懇願してくるライ。
こんなにしおらしいライは滅多に見ないので、調子が狂うというか………何というか…………
「分かった………なら一緒に行くか!」
「うん!!」
そう返事をして、俺はライと手を繋いだ。
「よし先に進むか!」
俺達は最深部を目指し、先に進んだ……………
D—20……………
「よし、ここでラストだな」
トーレはそう呟き、インパルスブレードを展開する。
目の前には大量のガジェットが…………
「クアットロ、援護を…………ってクアットロ!?」
「もう、無理ですわ…………後は………よろしく…………」
体力に限界がきたクアットロはその場で倒れた。
「クアットロ……………おのれ!!クアットロの仇、思い知れ!!」
トーレはクアットロの仇?のガジェット目掛けて突撃していった…………
「勝手に殺すな、この飲んだくれ…………」
倒れながら、クアットロが小さく呟いた…………
最終フロア……………
「よくぞ来た…………」
このフロアは他のフロアより広いだけで特に特徴らしき物は無かった。
そしてその奥には3メートル程のロボットが鎮座している。
「私はメルフィス、よくぞここまで来た。私を倒せばこのダンジョンプログラムは消え………」
「イノーメスキャノン」
最後まで話を聞かずに、ディエチが砲撃を放った。
その砲撃は、何かのバリアにかき消された。
「話は最後まで聞け!!それと、見たか!!この強化マジックシールドを。Sランク以上の魔力の攻撃でなければやすやすと破れるものか!!それにこれで………」
そう言った後、ロボットから何かのフィールドが展開された。
『マスター、AMFです!!』
「今更!?何で!?」
「フフフ、これで魔法を使うのも一苦労だろ。さあ、おとなしく私にやられるがいい!!」
鎮座していたロボットがいきなり立ち上がる。
戦隊モノの合体ロボットの姿をしているこのロボットは見た目だけならものすごく強そう。
だけど…………
「チャージ完了。ISヘヴィバレル!」
チャージした砲撃がロボットに直撃する。
高威力の砲撃は、AMFの干渉をものともせず、マジックシールドも粉砕してロボットの右腕に直撃した。
「な、何だと!?」
「私のISは魔力では無いので………」
「それに!!」
俺はソニックムーブを使い、懐に潜り込む。
「懐にはいって直接斬りかかれば!!」
そして俺がAMFのフィールドに入った時だった。
懐に入っていた光の玉が光だし……………
「なっ!?」
AMFを消滅させた。
「な、なぜ!?」
「訳が分からないけど、チャンス!!ラグナル、オーバーリミッツ!!」
『はい、マスター』
オーバーリミッツを発動させ………
「行くぞ!!輝く刃は勝利の証!」
鞘から刀を抜き、高速で敵を無数に斬り刻み………
「白夜殲滅剣!!」
掛け声と相手を斬り抜き、最後に剣を鞘に戻した。
「がはっ!?」
零治の斬撃はロボットを斬り刻み、その装甲は穴だらけになっている。
「決めろーー、二人共!!」
「行くぞ、ライ」
「うん、夜美」
「これで終わりだ!!」
「僕をいじめた事、後悔するといいよ!!」
「エクスカリバー………」
「きょっこーーーーーざん………」
「「ブレイカー!!」」
二人の最大の攻撃が、完全にロボットを飲み込み…………
「こんなの………あんまりだぁーーーー!!!」
そんな掛け声と共に、ロボットは消え去った……………
「どうやらメルフィスはあのロボットのコアとして動いていたみたいだね」
俺はスカさんのアジトにある医療ベットの上でスカさんの話を聞いていた。
あの後俺は直ぐに無理がたたって、その場で動けなくなり、ライと夜美に運んで貰った。
ダンジョンの効果によって動いていたガジェットは全て機能停止し、それぞれダンジョンにいたナンバーズもちゃんと帰って来れたみたいだ。
何故か、クアットロは全身筋肉痛に、ウェンディはかなり落ち込んでたけど………
「あのロボットって何なんだ?」
「あれは……………確かミッドで流行った戦隊物の合体ロボットだけど…………名前は忘れてしまってね。なんだったかな?」
マジで戦隊モノの合体ロボットだったのかよ…………
「初めて見たとき、強そうだから作ったのだけど………デカイだけで邪魔だったから破棄したはずだったのだけど…………」
スカさん…………作る前に気づけよ………
「それとスカさん、何でガジェット達はAMFを使わなかったんだ?使われたらかなり苦戦してたと思うんだけど………」
「簡単だよ、このプログラムを作ったときにはまだAMFを搭載するとは考えていなかったからだよ」
「でもあのロボットは使えたぜ」
「あのロボットはダンジョンのラスボスだからね。当時の試作品を搭載していたのさ。だからマジックフィールドも付いていたのさ。あれも一回破られると再展開するまでに時間がかかるという欠陥付きでね。…………まああの時の私はまだまだ甘かったと言うことさ」
流石のスカさんも始めからなんでも出来たわけじゃないって事か。
そんな話をしていると…………
コンコン。
「レイ、大丈夫?」
「ライ?」
ライがやって来た。
「お世話しに来たよ………」
「チェンジで」
「えっ!?」
「零治君、流石にそれは失礼ではないか?」
スカさんに注意されるとは………
「助けたお礼をしたくて………」
「いや、いいって。それは今度にお願いするから…………だから星と代わって下さい………」
「ぶぅ〜、僕だって出来るんもん!!だから僕がする!!」
そう言って手をワキワキしながら俺に近づく。
「い、いや、先ずは落ち着こう………な?」
「さぁ看病始めるよ」
「ちょ!?スカさん、助けて!!」
「私はお邪魔だね。ではごゆっくり………」
そう言って部屋から出ていったスカさん。
「スカさーーーん!!!」
その後俺はライの看病と言う羞恥プレイを味わいました……………
第48話 地球へようこそ
「ここが地球…………」
俺の家のベランダから外を見ているキャロが呟いた。
「どうだ?地球は」
「色んな家が一杯並んでいて少し窮屈な気がします」
まあ森で生活していたキャロにとってはそう思えるかもな。
「カラフル…………」
キャロの隣で見ていたルーテシアがそんな感想を言った。
「まあ確かに色々な色の家があるよな。形もそれぞれ違うし」
「面白いですね。変な形の家とかもあるかも…………」
「それは自分で見てみるんだな。それにしても……………」
そう言って俺は部屋の中を見る。
中では、WIIのリモコンを持ったライ、セイン、ウェンディ、ノーヴェが激しく動き回っていた…………
あの後、俺は全快してから自分達の家に帰った。
もう少しいてもよかったのだが、キャロになるべく早く地球を見せたかったので帰ってきたのだ。
そして当然の様にセイン、ノーヴェ、ウェンディもこっちに遊びに来た。
フェリアは調整の為、もう少しスカさんのアジトにいるらしい。
その代わり…………
「どうだ?」
「面白い。やっぱり地球は色々と興味深いよ………」
ディエチが地球に遊びに来た。
あの事件の後からディエチと夜美はかなり仲良くなり、今も一緒に雑誌を見ている。
「レイ、そろそろ中に入ったらどうですか?」
「そうだな、暑いし中に入るか」
「うん、行こうキャロ………」
「そうだね」
俺達は家の中に入った……………
「それでは買い物に行きたいと思います」
昼食を終えた所で星が話を切り出した。
「主にキャロの物だな」
「はい。今のキャロだと私達のお下がりでも少し大きいと思うので服と、キャロも秋から学校に行くと思うので必要な物一式など色々買いたいと思うので………」
「私も欲しい…………」
「分かってますよ、ルーちゃんのも買います」
そう聞いて、少し嬉しそうにするルーテシア。
「なるほどな………それで?」
「いや、みなさんはどうするのかと………」
「僕はパス」
「私も」
「私もだ」
「私もっス!」
ゲームをやっていた4人は当然断った。
「そうですか、なら4人は留守番ですね。なら4人の今日の夕飯はお弁当でも買ってきて………」
「やっぱり行く!!」
「私も!!」
「待った!私もやっぱり行く!!」
「私も行きたいっス!!」
「なら決まりですね」
食い物に釣られた〜
単純な奴ら……………
「夜美達はどうします?」
「我も行くぞ」
「私も行きたいです。こっちの物も興味があるし………」
夜美とディエチは当然参加。
「レイは行きますよね?」
「モチ」
こうして俺達はみんなで買い物に行くことになった…………
「わぁ〜…………」
「でっかい……………」
キャロとルーテシアが大きく口を開けて驚いていた。
今回来たのは、前に星とデートに来たショッピングモールだ。
遠見市の方でも良かったのだが、昼から行くとなると買い物する時間が遅くなるため、海鳴市にあるショッピングモールにすることにした。
今更なのは達に見つかっても問題無いし、セイン達もフェリアの妹と言えば問題無いだろう………
まあ夏休みは殆どミッドにいるって言ってたし、こっちにはいないと思うけど。
因みに今、ここにいるのは俺、星、キャロ、ルーテシア。
ライ達は着くなり、「セイン達と色々見て回ってくるね」と言って、さっさと行ってしまった。
俺達はキャロ達の買い物がメインになるだろうから、付き合わせるのも悪いと思い、あらかじめお小遣いを渡しておいたけど………………まあいいか。
夜美とディエチはライ達と同行せず、二人で見て回るみたいだ。
「星、まずはどうする?」
「そうですね…………まずは服を見に行きますか」
「服ですか?私は今ある服で構わないですけど………」
「私、欲しい………」
遠慮するキャロと素直に言うルーテシア。
全く…………
「お兄ちゃん?」
俺はそんなキャロに近づき、おでこにデコピンした。
「うぅ〜!?何するんですかお兄ちゃん………」
涙目になりながら訴えるキャロ。
「素直じゃないキャロにお仕置き。家族なんだから遠慮なんてする必要無いんだからもっと我儘言って良いんだぞ」
「そうですよキャロ。私も遠慮なんかしてほしくないですよ」
星が笑顔でキャロに言う。
「あ、ありがとうございます…………」
照れているのか、顔を赤くしてお礼を言うキャロ。
「よかったね、キャロ」
「うん、ありがとうルー」
そんな二人の様子を俺と星は微笑ましく見ていた。
子供服店……………
「わあ〜!いっぱいあるね!」
「うん、目移りしそう…………」
ルーテシアがそんなことを言いながらキョロキョロと店の中をよく見ている。
キャロも遠慮してたけどやはり嬉しかったのか、体がウズウズしている。
「さあ、先ずは自分の気に入った服を探して見ましょうか」
星の一声で2人は動き出した。
「さて、俺はどうするかな…………」
コーヒーを片手に、店の外でキャロ達の様子を見ていた。
未だに2人は慌ただしく服を探している。
この辺りは女の子か。よく飽きずに長く探していられるよな………
「お兄ちゃ〜ん!」
キャロが店の中から手を振り俺に話しかけてきた。
「どうしたんだ〜?」
「一緒に選んで下さい〜!」
「分かった、今行く〜!」
飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に捨てて、キャロの所へ向かった。
「どっちが良いと思います?」
「そうだな…………」
キャロは可愛いピンクのフリル付きワンピースと綺麗な模様のシャツとチェックのスカートを持って、俺に聞いてくる。
「取り敢えず着てみろよ」
「はい、それじゃあ試着室に行きましょう!!」
俺の手を取り、キャロに引っ張られながら試着室に向かった。
「どう………ですか………?」
「どうって言われてもな………」
どっちも似合いすぎて何とも言えないんだが…………
「なあ、もうどっちも買わないか?どっちも似合ってて選べないんだけど………」
「えっ!?でもいいんですか?」
「遠慮は無しって言ったよな………?」
キャロのほっぺたを摘み上下横と引っ張った。
「いひゃい、いひゃい、おにいひゃん止めて………」
「面白いから止めない」
「おにいひゃん!!」
ちょっと怒った顔になったので俺は手を放した。
「痛いです…………お兄ちゃんの意地悪…………」
ジド目で睨んでくるが普通に可愛い。
「キャロが遠慮するから悪い。見ろルーを…………ってあれは買いすぎじゃないか?」
カートの上と下のカゴが服で大盛りになっていた。
一体星は何を…………
「ルーちゃん、これも似合いそうね…………あっ、こっちはキャロに…………」
原因は星でした。
隣にいるルーテシアはまるで着せ替え人形のようだ。
「星!!」
取り敢えずこれ以上暴走しないように俺は星に説教しに行った。
「全く、星がああなるなんてな………」
「すいませんでした……………」
結局、俺が注意して半分以上戻した。それでも全部で10万弱ってどういうことだよ…………
店員もびっくりしてたな。
買い終わって、次に文房具コーナーへ向かっている。
「いつもは財布のヒモがかなり固い星があんなになるとは思ってなかったから本当にびっくりしたぞ」
「それは…………」
カートを押している俺の隣で、星はモジモジし始めた。
「い、妹が出来て…………う、嬉しかったので…………………つい…………」
「はぁ………」
まあ気持ちは分かるけどな。
だけど限度を考えて欲しかったな。
「気持ちは分かるが限度を考えろよ。確かに俺達は金には困らない程あるけど、そんなに中学生の子供が使ったらどう考えても変だろうが…………」
「すみませんでした………」
「お兄ちゃん…………」
少し怯えた目で俺に声をかけるキャロ
そんな目で見るなよ、そこまで怒ってる訳じゃないんだから………
「レイ兄、鬼畜ですね………」
「どこでそんな言葉覚えたんだ、ルー?」
「ウェンディが教えてくれた………」
あいつ………後でオシオキだな。
「俺は鬼畜じゃないし、もう怒らないよ」
「本当に?」
「本当………?」
「ああ、むしろ気持ちは大いに分かるしな。それほど妹ってのは可愛いものなんだよ」
キャロとルーテシアの頭を撫でながら俺は言った。
「私………家族じゃない………」
「関係無いよ。俺はウェンディ達もそう思ってるからな」
「…………………ありがと」
少し恥ずかしがりながら言うルーテシア。
「どういたしまして」
そんなルーテシアに俺は笑顔でそう答えたのだった。
「いっぱいあるね」
「ボールペン………?」
ルーテシアがボールペンを持って唸っていた。
そうか、分からないか。
ミッドだとペンなんて滅多に使わないだろうしな。
「ボールペンはまだ早いですね、二人にはこれを」
星は持ってきた鉛筆を二人に見せる。
「細い木の棒?」
「これで叩くの………?」
「何を叩くんだよ…………これはな」
取り敢えず俺は小さい鉛筆削りと鉛筆を一本買ってくる。
「見てろよ」
買ってきた鉛筆をその場で削り始めた。
ちゃんと削ったときに出た屑は買った時のビニールの袋にいれたので問題ないですよ、みなさん。
「わあ、先が尖った!」
「武器………?」
「違うよ、この黒い先で文字を書くんだよ」
そう言って俺は星から紙を受け取り、近くにあった柱を机にして文字を書いた。
「本当だ、書けてる!」
「凄い………!」
「ふふ、そうですね。それじゃあ二人に問題です。レイは一体何と書いたでしょうか?」
俺は2人に書いた紙を見せる。
「……………こんにちは?」
「鬼畜変態ロリコン野郎」
「ルーちゃんはつきっきりで道徳のお勉強をする必要がありますね………」
「恐いのは嫌……………」
星の黒い笑みにルーテシアがリアルに怯えている。
「駄目ですよ。帰ったらオハナシです………」
「ついでにウェンディもな」
「分かってますよ。ウェンディは特にみっちりと…………」
ウェンディ、安らかに眠れ…………
「お、お兄ちゃん、結局何て書いたの?」
「ん?これはな『有栖キャロ』って書いたんだよ」
「これが私の名前…………」
紙を凝視するキャロ。
そして大事そうに紙を折った。
「私、この名前、大事にしますね」
「そうか………そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」
「はい。これからもずっとよろしくお願いしますね、お兄ちゃん」
そう言ってキャロは笑った……………
「さて、そろそろ他の皆と合流するか」
「そうですね」
あの後、俺達はキャロ達の日用品なども買って既にカートは二台でカートの買い物カゴは一杯だ。
「さて………あいつらは何処に………」
俺はまず、夜美に連絡した。
『もしもし?』
「ああ、夜美。俺達は買い物終わったんだけど、何処にいる?」
『我たちは今は本屋にいるが………どうするのだ?』
「じゃあ、先ずは夜美達と合流するよ。本屋前で待っていてくれ」
『了解した』
そこで俺は電話を切った。
「夜美達は本屋にいるみたいだ。本屋前まで行くぞ」
「本ですか?」
キャロが興味があるような口調で言った。
「そう言えば……………レイ、キャロ達に何か簡単に読める本を買っておきませんか?」
「そうだな、そっちの方が文字を早く覚えるだろうしな………」
「私、18禁って言う本が…………」
「ルーちゃん………それもウェンディ?」
「ううん、ゼストの部屋に置いてあった。見てみようとしたら部屋から追い出されたの…………」
ゼストさん……………
「ルーちゃん、それは女の子は読んじゃいけないものです。これから先も絶対に駄目ですよ」
「うん…………」
少し悲しそうに返事をするルーテシア。
まあ星の気持ちも分からない訳ではないけど、そこまで批判しなくても……………
「お兄ちゃん、早く行こう」
キャロに言われて俺達は本屋に向かった。
「レイ」
既に本屋の前には夜美とディエチがいた。
手には本屋の袋とSHINEPIECEとロゴの入った袋を持っていた。
確か若者の女の子に人気の店だったっけ?
テレビで特集されていたような…………
「悪い、待たせたか?」
「いや、ちょうど買い物を終えたところだ。問題ない」
「ディエチも面白いもの見つけたか?」
「ああ、このラノベと言われる小説は面白い作品ばかりだった」
買った袋を掲げて俺に言うディエチ。
結構膨らんでるけど、どんだけ買ったんだ?
「それで次はライ達か?」
「ああ、その前にこの二人に本を買ってやりたいんだが…………なるべく簡単な奴」
「なるほど………それならこっちだ」
俺達は夜美の案内で簡単な漫画と本を買った。
ひらがなが多いからこれならひらがなを覚えれば2人とも簡単に読めるだろう。
「さてそれじゃあライ達に電話するか…………」
俺はライ達と合流するために電話したのだった…………
『レイ〜?どうしたの?』
電話の中から大きな音が聞こえてきた。
ということはゲームエリアか?
「俺達は買い物終わったぞ!そろそろ帰るから終わらせろよ!」
『ええー!?もう帰るの!?またARTに突入したのに………』
これはやばいな…………
ライ、パチスロやってるだろ。
更に将来が心配になってきた…………
「分かった、取り敢えず俺が行くまでに終わらせなかったら夕飯連れて行かないからな」
『わ、分かった!直ぐに終わらせるよ!!みんな〜!レイが来るまでに終わらせないと夕飯無しだってー!!』
何か文句の声が聞こえてくるな…………
「文句を言ったウェンディ、お前はダメだな」
『文句を言ったウェンディは夕飯連れていかないって〜!いや、僕に文句を言われても………』
「まあいい、それじゃあ今からそっちに行くからな」
そう言って俺は一方的に電話を切った。
「それじゃあ、ライ達の所へ行くか」
みんなに言って、俺達はライ達の所へ向かった…………
「よし、全員終わってたな」
ゲームエリアの前に着くと、4人はそれぞれ入口で話していた。
「レイ兄!!私は文句言ってないっスよ!!言ったのはノーヴェっス!!」
「ちょ!?お前何姉のせいにしてるんだよ!!」
「うるさいっス!妹の為に体を張るのが姉の役目っス!!」
それを言った時点で自分が言ったと肯定していることに気づいてるか?
「それは自分を慕う妹に姉が言う言葉だ!!お前は私を慕ってないだろ!!」
「それはそうっスけど………」
「肯定するな!!」
…………喧嘩するなよ。
周りの人達が見てるだろうが。
「止めろっての…………冗談だって」
俺にそう言われて渋々喧嘩を止める2人。
「それでどこで夕飯食べる?」
「そうですね…………私達もここにあまり来ませんので………」
「はいはーい!!」
と、そこで一生懸命手をあげて発言権を求めるセイン。
「はいセインさん」
「私はここに行きたいのであります!!」
セインが取り出して見せた紙。
そこには『バイキング、中華、洋食、和食なんでもござれ。お一人様2000円で1時間半食べ放題』
と書かれていた。
なるほど、バイキングか…………
「これなら好きなものを食べられるか……………みんな、ここで良いか?」
みんなを見ると誰も反論はなさそうだ。
「なら決まりだ。ここに行くとするか」
俺達の夕食はバイキングと決まった……………
第49話 バイキング、それはいたずらを楽しむ場
「へえ、ここか…………」
ショッピングモールの中にあるバイキング店だと甘く見ていたが、かなり本格的だった。
「予想以上に凄いですね。何かホテルにあるバイキングみたいです」
だろうな……………
内装も高級感溢れてるし、何か天井にでっかいシャンデリアがあるし。
こんないち庶民が入って良いのだろうか?
「わあ………」
「綺麗………」
チビッ子二人は開いた口が塞がらないほどシャンデリアに感動していた。
「レイ!早く食べたい!!」
「早く中に入ろう!!」
食いしん坊ライとセインは直ぐにも食べたいらしい。
獲物を狙う目になってる。
「そうだな……………早く入るか………」
俺はこの先の苦労を考え、ブルーになりながら言ったのだった……………
「いいっスか!バイキングは争奪戦と言う戦争っス!!奪われる前に奪え!!確保出来るだけ確保するのが常識っス!!」
「そんな常識あるか!!」
席に付いて早々ウェンディがバカな事を言い始めたので拳骨で沈めた。
「さて、俺からも食べる前に注意事項がある」
どうでもいいから早く食べたいオーラを出しているライやセインを無視して俺は話始めた。
「まずは、バイキングの食べ方の説明」
「そんなの分かってるよ。好きなものを自分で好きなだけ取って食べていいんだよね」
ライが自信たっぷりに言う。
「それはそうだがそれにも限度がある。料理は終始作られてはいるが、同じものばかり食べていると、それも間に合わなくなる」
「だから、バランスよく取って食べろってことか?」
「ノーヴェ正解。それに他の人にも迷惑がかかるからな」
「それといくら好きなものを選んで良いと言っても限度がありますからね。バランスよく選んでください」
俺の言葉に付け足すように星が言う。
「それと料理を一気に持ってくるなよ。そんなに急がなくても無くならないからな。時間もたっぷりあるんだ、のんびりみんなで楽しく食べよう」
こうして有栖家のバイキングがスタートした。
「キャロは何を食べるんだ?」
「えっと…………えっと…………」
「ルーちゃんはどうします?」
「唐揚げ食べる………」
ルーテシアはともかくキャロは地球の食べ物は初めてなのでどうしても目移りしてしまうみたいだ。
「キャロもまずはそうするか」
「はい!」
元気があってよろしい。
やっぱり可愛いなぁ…………
「ルーちゃん!?取れないなら私が取りますよ!」
「いい、自分で取る………」
背伸びして奥の料理を取ろうとしているルーテシア。
「もう…………でも可愛いですね………」
緩んだ顔で星が呟いたのだった。
「さて、みんなはもう食べ始めてるかな…………」
そう思い、席に戻ると先に戻っていた夜美とディエチが食べていた。
他はまだみたいだ。
側には飲み物のジュースが……………
「飲み物忘れた!!お前ら飲み物何がいい?」
「あっ!?私が行きますよ!」
「いいから星は先に食べてな。それで何がいい?」
「私、コーラ……………」
「じゃあ私もそれでお願いします」
ルーテシアとキャロはコーラね………
「星は?」
「………ならウーロン茶でお願いします」
ウーロン茶か……………
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
俺は持ってきた料理を置いて、飲み物を取りに行った。
「ん?あれは……………」
ケーキエリアで一生懸命ケーキを綺麗に並べている水色の女の子が………って
「セ~イ~ン…………?」
「ひゃ!?何だ、レイか………びっくりしたよ、いきなり声かけないでよ…………」
「声かけるなじゃねえ!!夕飯だって言ったのにお前は何してる!?」
「えっ!?何ってケーキ取ってるんだよ」
「夕飯は?」
「これ」
そう言ってケーキが大量に乗った皿を俺に見せるセイン。
「………お前、星の話聞いてたか?」
「うん、カラフルで綺麗でしょ!」
「そういう意味じゃねえ!!」
公衆の面前で拳骨をしたが、俺は悪くないと思う。
あの後セインに軽く説教して本来の目的に戻った。
のだが……………
「何してるんだあいつ…………」
俺は寿司エリアでたたすんでいるノーヴェの所へ向かった。
「お待たせ、お嬢ちゃん!」
「待ってました!ありがとうオッサン!」
そう言ってノーヴェは店員が持ってきた寿司を自分の皿にのせ始めた。
ノーヴェ、お前もか…………
ノーヴェの皿は寿司で埋まっていた。
まあ、セインよりはマシだけど………
「ノーヴェ…………お前バランスよくって…………」
「ん?ああ、ちゃんと守るよ。この後サラダとか取ればいいだろ?」
な、なるほど、確かに………
ノーヴェは流石にちゃんと考えてたか。
ウェンディにいつも弄られてるからおつむは悪い方だと思ってたんだが…………
「何か変なこと思っただろ……………まあいいや、私は行くぞ」
「ああ、ちゃんとバランスよく食べろよ」
「分かってるって」
そう言ってノーヴェは行ってしまった。
そうか、もしかしてセインもそのつもりだったのかも……………
いや、セインはケーキが夕飯だって言ってたから間違ってないだろ。
「さて、俺も早く飲み物を取りにいくか…………」
俺も本来の目的に戻った…………
ドリンクコーナーに行くとそこには赤い髪の~っスって言葉をしゃべりそうな女の子が…………
ごめんなさい、ウェンディです。
キャロよりちょっと幼い男の子と何か話しているんだけど……………
「おねえちゃん、じゅーすにたばすこいれたらおいしくなくなるよ」
「やかましいっスよ、ガキんちょ。大人はこの味を好むんっスよ」
「そうなんだ、じゃあぼくものむ~!」
「おお、よく言ったっス!!じゃあお姉さんが…………」
そこで俺はセインの時よりも高威力の 拳骨を頭に落とした。
「いったあああああ!?」
「ごめんな、このバカなお姉さんの言っている事は90%は嘘だから」
「ちょ!?レイ兄、それは酷すぎるっス!!」
「おねえちゃん、うそつきなの?」
「そうなんだよ、だからこんな嘘つきなお姉さんはほっといて早くお母さんの所に戻りな」
「うん、そうする~じゃあねおにいさん、うそつきおねえさん」
そう言って親の元へ行った。
「それにしても痛いっスよレイ兄………何するんっスか…………」
「やかましい!お前は人様の子供に何吹き込んでんだ!!」
「吹き込んでないっス!!これこそが世の中の常識っス!!」
「…………お前はマジで帰ったら説教な。星も一緒だから覚悟しとけ」
「ちょ!?星姉は勘弁して欲しいっス!!下手したら人格崩壊するっスよ!!」
「知らん!どっちにしても決定事項だから覚悟しておけ」
終わったっス……………とか呟いているが気にしない。
しかし人格崩壊って……………
星、お前凄いこと言われてるぞ。
取り敢えずこんなこと星に言ったらウェンディの命がなさそうなので俺の心の中にしまって置くことにした。
さて、そんなことがあった帰りに、ご飯エリアの前で唸っているライを見つけた。
流石にこれ以上3人を待たせる訳にもいかないと思い、スルーしようとしたが…………
「レイ!!ちょうどいいところに」
スルー出来なかった…………
「で、どうしたんだ?」
「あのね………これどっちがいいかなって………」
そう言ってライはご飯エリアにあるカレーを指差す。
「いや、カレーを食べたいなら食べればいいだろ?」
「でもさ、チキンとポークとビーフがあるんだよ!!3つとも食べたいんだけど、3回もカレー食べたくないじゃん………」
いやぁ…………………………
「どうでもいい………………」
「どうでもいいじゃないよ!!ねえ、レイはどれが良いと思う?」
「俺的にはバイキングまで来て、カレーをチョイスしようとしているライの考えがイマイチ分からない」
「何で!?いいじゃないか!バイキングなんだし!」
まあそうなんだけど……………
「カレーなんて、俺でも星でもましてや自分でも作れるだろ。せっかくなんだから普段食べれないものを食べろよ………」
「フン、レイは甘いね、こういう場所のカレーはかなり美味しいんだよ!!」
まあいいけどさ。
なんだかせっかく来たのに勿体ないっていうか…………
「じゃあさこっちのカレーはどうだ?」
俺はグリーンカレーの方を指さす。
「あれはカレーじゃない!!」
「いやカレーだけど………」
「カレーじゃない!!」
「いやだから…………」
「カレーじゃない!!」
「もういいです………」
俺が折れました。
「で、レイはどれがいいと思う?」
「カレーじゃなく、あえてパスタとかにしたら…………」
「レイのバカ〜!!!」
思いっきり大声で怒られました……………
「ただいま…………」
「おかえりなさい」
「遅い……………」
「お兄ちゃん、ごぼうサラダ美味しいです!」
キャロ、ヘルシーだな。
とそんなことより………
「悪いな待たせて、はいどうぞ」
3人に持ってきた飲み物を渡す。
「ありがとうございます、はいルーちゃん」
「ありがとう…………」
「キャロ」
「ありがとう、星お姉ちゃん」
星が俺からジュースを受け取り2人に配った。
「どういたしまして。レイも席に座って一緒に食べましょう」
「そうだな、いい加減俺も腹ペコペコだ」
そう言って俺も席に着いた。
「あれ?夜美とディエチは?」
「2人はもう次の料理を取りに行きましたよ」
食うの早いな…………
「まあいいか、それじゃあいただきます」
俺は3人と一緒に食事を始めた。
その頃、夜美達……………
「次はあの海鮮パスタを食べてみるか………」
「じゃあ、私はサラダパスタを…………」
ディエチとパスタコーナーでパスタを取っていた時だった。
「ああああああああああ!!」
聞き覚えのある声の絶叫が店に響いた。
「な、なんだ!?」
「どうしたんだ!?」
周りの客も騒ぎ始める。
「ディエチ、あの声は…………」
「知らん顔したほうがいいよ。わざわざ厄介事に首を突っ込む必要も無いし……………」
「…………それもそうだな」
2人は敢えて他人のフリをして次の食べ物を取り始めた。
「セイン!?」
私は星に言われた通り、バランスよく食べるためにサラダを取りに来ていた時だった。
ああああああああああ!!!とセインの絶叫を聞き、ドリンクコーナーに来てみたら、
何故か水を飲みまくっているセインと、
その横で大笑いしているウェンディがいた…………………
「アハハハハ!!おおノーヴェ、いいところに来たっス、これ一杯どうっスか!?」
そう言って、ウェンディが私にウーロン茶を差し出してきた。
「あ、ああ、ありがとう…………」
受け取って取り敢えず一口飲もうとしたとき、ふとウーロン茶の色が赤っぽい事に気がついた。
「どうしたっスか、ノーヴェ?」
「一つ聞きたいんだが、ウーロン茶少し赤くないか?」
「そ、そんな事無いっスよ…………」
私から目線をそらし、吹けていない口笛をウェンディ。
「怪しいな…………なあウェンディ、先ずはお前が飲んでみろよ」
「えっ!?」
「大丈夫なら問題ないだろう?」
「そりゃあそうっスけど…………」
「だろ。ほらほら…………」
私はウーロン茶をウェンディの口元に近づける。
「ああ、分かったっス!!女は度胸っス!!」
覚悟を決めたのか一気にウーロン茶を飲み干したウェンディ。
「からあああああああああっ!!!」
絶叫を上げて後はセインと同じ行動をし始めた………………
あの後、店員に呼ばれ、注意を受けてから席で事情を聞いているのだが…………
「はぁ……………それで?」
「その後、怪しいと思って、ウェンディに飲んでみろって言ってみたんだよ。んで飲んだらあんなことに…………」
要するに全てはウェンディが悪いってことだな。
コイツ、覚悟しとけって言ったのに更にまたやらかすとは………
「はぁ…………いたずら位俺もやった覚えがあるがやりすぎだろ……………一体何を、どのくらい入れたんだ?」
「コッ……プの半分…………タバスコっス………」
「コップ半分もタバスコを入れたのか!?」
やりすぎだろうが!!限度を考えろよ!!
「うう………ケーキが、ぐすっ…………味がしないよ………ヒック…………ウェンディのバカ、うえええええええええん!!」
マジ泣きしてしまったセイン。
一番とばっちり食らったのはセインだからな…………
「セイン、今度また翠屋に連れていってやるから今回は我慢してくれ。それでも納得できなかったらどこかに連れていってやるから…………」
「ぐすっ、でも……………」
「セインはお姉さんだろ?お姉さんは我侭言わないものだぜ」
「…………分かった………でもちゃんと連れていってね」
「ああ、約束する」
これで少しは機嫌が良くなればいいけど…………
「取り敢えず追い出されずに済みましたから食事を続けましょう。ウェンディ、帰ったら覚悟してて下さい」
「高確率…………で……死ぬと………思うっス………」
「大丈夫です、殺しはしませんから…………」
殺しはしないって…………
俺、やっぱり参加するの止めよう………
星の黒いオーラが禍々しくなってきた。
「2人共、ああなった星には何を言っても無駄だからとばっちりを食わないようにしなきゃダメだよ」
チキンカレーを食べていたスプーンを置いてチビッ子二人に注意するライ。
「分かったよ、ライお姉ちゃん………」
「私も…………」
顔を青ざめながらライの言葉に頷くチビッ子2人。
「さて、次は何を食べるか…………」
「夜美、星を何とかしなくていいのか!?」
立ち上がろうとする夜美の腕を持ち、慌てた様子で言うディエチ。
「あれは仕方がない。星の発作みたいなものだ、自然に収まる」
「だけど…………」
「俺からも言っとく。余計な首を突っ込むと自分もとばっちりを食らうからやめたほうがいい」
俺にも言われ、ディエチはそれ以上何も言わなくなった。
「まあ気にせず食べろよ」
しかし、星の禍々しいオーラは家に帰る時まで収まらず、気まずい夕食になってしまった。
ただしその中で、夜美とライと俺は普段通り食事をしていたのだった…………
「さあ、着きました。ウェンディ、早速オハナシです。今日は長めで行きますよ…………」
「だ、誰か助け……………」
家に帰ると直ぐに、星の手刀がウェンディの首に当たり、意識を失うウェンディ。
「レイ、すみませんが、後の家事を頼みますね…………」
「ああ、本当は俺もしたかったんだが…………」
「レイの分も私がしっかりオハナシしておきますよ…………」
ニヤリと笑いながら、星はウェンディを引きずり、自分の部屋に入っていった。
「さて、先ずは買った物を整理するところから始めるか」
「お、お兄ちゃん、本当に止めなくてよかったんですか?」
「いいんだよ。今日のウェンディはやりすぎだ、少しは地獄を見たほうが良い」
「そうだな、これにこりて少しは私達の事を姉と思ってくれればいいけど…………」
「本当だよ!!」
セインは泣いた後は怒りがこみ上げてきたらしく、星に「全力でお願い!!」って頼んでいた。
恐らく今日はかなり長いオハナシになるだろう…………
果たして、管理局の魔王の心を折った全力のオハナシを受けてウェンディはどうなるかな?
「先ずは、キャロとルーの買った物を整理するか」
「私もやります」
「ルーも」
「ねえ、みんなでリズムパーティやろうよ」
「いいね、やろう!」
「ディエチはやめておいた方がいいぜ………リズム感が無いディエチがやったら悲惨になるからな」
「ノーヴェ、それは宣戦布告ととっていいのか?」
「夜美もやるでしょ?」
「そうだな我もやろうか………」
星がウェンディをオハナシしている間、他の人たちはそれぞれ自分の時間を楽しんだのだった………
次の日………………
「皆さん、昨日は誠に申し訳ありませんでした…………これからはお姉さまの事を大事にして日々精進していきたいと思います」
「「「「「「「「誰!?」」」」」」」」
その日だけ、ウェンディがお嬢様モードになった。
第50話 翠屋でお手伝い
「翠屋〜翠屋〜………ねえ好きなだけ食べていいんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「うふふ、先ずは何から食べようかな…………」
取り合えず早めにセインとの約束を叶える為にセインを翠屋に連れていくことにした。
ちなみに一緒に来ているのはキャロ、ルーテシア、夜美とディエチである。
ライは「暑いから行かない、でもお土産は買ってきてね!」と言っていた。
ノーヴェは「チンク姉が帰ってくるから出迎えるんだ!」と言っていた。
星は「ここ暫く掃除をしていませんでしたので今日は徹底的にやります!!あっ、私はストロベリーレアチーズケーキが食べたいです」と言っていた。
ストロベリーレアチーズケーキ なんてあったっけ?
とまあこんな感じで5人と来ることになったのだ。
えっ?ウェンディ?
「いやっス!私も行きたいっス!!」
「ダメです、ウェンディは今日一日私のお手伝いです」
「いやっスー!星姉は恐いっスー!!」
星に捕まっていた。
まあ、頑張れ……………
「おっ、見えたぞ、あそこだ」
「わあ…………何か洋菓子店っぽい」
いや、セイン…………洋菓子店なんだけど。
「今日は結構混んでいるみたいだな」
「そうみたいだな」
夜美の言葉に俺は頷いた。
時間は午後の2時、少し来る時間が悪かったかな…………
「空いていればいいのだけど………」
「そうだな………」
こんな真夏日に外で待つことだけは勘弁して欲しいな…………
「何とか座れそうだな」
中を軽く覗いてみるとちらほら空いている席はあった。
これなら待たずに座れそうだ。
そう思い、俺が先頭で店に入った。
「いらっしゃいませ〜!」
「こんちわ〜空いてる席ありま…………」
俺はその先の言葉が出なかった。
なぜなら…………
「な、なんで零治が………」
メイド服を着たアリサが目の前にいたからだ。
パシャ。
俺は無意識に携帯のカメラでアリサを撮っていた。
「あ、アンタ……………」
「ち、違う!!これは無意識に…………」
「いっぺん死ね!!!」
アリサが繰り出した右ストレートを俺はもろに喰らった……………
「ったく、いきなり殴ることもないだろうが………」
「何よ、アンタが悪いんじゃない」
「大丈夫?零治君」
「サンキュー、すずか」
俺はすずかが持ってきてくれた氷袋で殴られた右頬を冷やしている。
お陰さんで俺はまだケーキはおろか、コーヒーさえ飲めていない。
「しかし桃子さんは…………」
桃子さんの思い付きで店のウェイトレスがコスプレする事はよくある。
現に俺は美由希さんがコスプレして接客している所や、美由希さんの友人がコスプレしていたのを見たことがある。
流石に中学生のアリサとすずかがコスプレして働いているとは思わなかった…………
桃子さん恐るべし…………
「で、この子達は誰なのよ…………」
アリサはキャロ達を見てそう言った。
「は、はじめまして、有栖キャロと言います」
「私はルーテシア・アルピーノ……………」
「セイン………………イーグレイです!」
「ディエチ・イーグレイです」
セインはイーグレイを忘れそうになってたけど、何とか思い出したか。
「イーグレイ?と言うことは…………」
「はい、フェリア姉の妹です」
「私はセインの姉でフェリアの妹にあたる」
「………姉妹にしてはみんな似てないね」
少し言いづらそうにすずかが言った。
だよなぁ、実際似てるってウーノさんとトーレさん位だもんな。
「そりゃあ、こいつらは俺達と一緒で別に血の繋がりがあるわけじゃないからな」
「そうなの!?と言うことは…………」
「フェリアもだよ」
「フェリアの家もいろいろ苦労してるのね……………じゃあ次の質問なんだけど、この子はなぜ有栖の姓なのかしら?」
アリサが次にキャロについて聞いてきた。
「新たな家族だからだよ。ちなみに来月から学校に入れるつもり」
「誘拐…………?」
「違うよすずかさん!!ちゃんと合意の上だから」
「アンタ、ロリコンの疑いがあるってはやてが言ってたからね………」
「あいつの言っている事の60%は嘘だから!!俺、そんな発言した覚えないし!!」
「でもはやてが、『あの年で異性に興味がわかないのはおかしすぎるで!あれはロリコンか年上好きや!!』って」
「悪い夜美、今からミッド行ってはやてを殴ってくる」
「お、落ち着けレイ!しかも女の子を殴るとか言うな!」
「止めないでくれ、あいつを修正しないと俺の心が………」
「お兄ちゃん、何処か行くの………?」
「大丈夫だ!お兄ちゃんはどこにも行かないぞ!!」
俺は自分の席に戻った。
「何と言うか………」
「ロリコンと言うよりシスコンね」
キャロとルーテシアを見ながら和んでいる零治を見て、アリサとすずかが呟いたのだった。
「ちょっと混んできたな」
あの後、30分経ち、お客さんに待ちが出てくるほど人が多くなってきた。
ただ単にケーキを買いに来た人もいるが、それでも人手が足りないのかアリサにすずか、ついでに美由希さんも、店の中を転々としていた。
「大変そうだな」
「そうだな」
そう言いながら俺と夜美は同時にコーヒーを飲む。
アリサが睨んでいた気がするが気にしない。
だが、そんなとき…………
「お願い、手伝って!!」
調理場にいた桃子さんが俺達の所へやって来て、手を合わせて頼んできた。
「いや、そう言われても…………」
「手伝ってくれたら今日の食べた分とおみやげ代タダでいいから………」
それは嬉しいけど………
まあ、翠屋にはお世話になってるからなあ……………
「……………分かりました、手伝いますよ」
「本当!?ありがとう!!それじゃあ零治君は調理場に入ってね。夜美ちゃんはウェイトレスを、えっと…………」
「私はディエチ・イーグレイと言います」
「私はセイン・イーグレイです」
「イーグレイ?ということはフェリアちゃんの家族かな?それなら二人にもウェイトレスをお願いするわね」
「「はい」」
「ちょっと待った!!」
いきなり話の流れを止めた夜美。
「何故当然のように我も手伝うことになっているのだ!?」
「仕方ないだろ、人手不足なんだから」
「レイ………でも………いや、しかし…………」
「ごめんね、無理にとは言わないわ。嫌だったら別に断ってもいいから…………」
悲しそうな顔でそう告げる桃子さん。
「「「夜美…………」」」
俺とディエチとセインにジト目で見られ、反論出来なくなる夜美。
「うっ……………分かった、我も手伝う!それでいいだろ」
その言葉を聞いた瞬間桃子さんの顔が晴れやかになった。
「夜美ちゃんありがとう!!そうと決まれば先ずは着替えね。みんなついてきて、ロッカールームに案内するから」
「そう言うことだ、キャロ、ルー、悪いけど良い子で待っててくれ」
「…………ルーも手伝う」
「はぁ!?」
「あの………私も手伝いたいです」
「キャロも!?」
でも二人はまだ子供だし…………
「それじゃあ二人にもお願いしようかしら。二人もついてきて」
「「はい」」
桃子さんは直ぐに了承しました…………
「良いんですか?桃子さん」
「お手伝いって言えば大丈夫よ。昔はなのはやフェイトちゃんにも手伝ってもらったわ。まだその衣装もあるし問題ないわ」
「……………でも………」
2人とも6歳なんですけど………
「大丈夫だって。後片付けとか、備品の補給をやってもらうだけだから」
まあ、それくらいなら出来るか…………
「分かりました。二人とも頑張れよ」
「うん」
「頑張る〜」
ルーテシアがイマイチ緊張感に欠けるが問題ないと思う…………よな?
こうして俺達は翠屋で働く事となった。
「一応マニュアルがあるからそれを見て作ってくれ」
「了解です」
キッチンに入り、士郎さんからマニュアルを受けとる。
ふむ、料理については普段作っているものと余り変わらないな。
俺が担当するケーキやパフェは、殆どトッピングで良いみたいだからそこまで難しく無さそうだ。
「それじゃ、早速取りかかるか」
俺は早速作業を始めた。
「と、こんな感じかな。簡単に言えば、注文を受けとる、オーダーをキッチンに伝える、出来た料理とケーキを持っていく位ね。あ、あとキャロちゃんとルーちゃんは基本、出来た料理を運んだり、片付けをしてくれるだけでいいから」
美由希さんの説明も終わり、いざ本番というときに夜美が申し訳なさそうに口を開いた。
「この衣装じゃないと駄目なのか………?」
夜美達もアリサとすずかと同様のメイド服を着ている。
「駄目だよ、この衣装を売りにしているんだから。一人だけ逃がしはしないよ。私だってこの年で着るのは恥ずかしいんだからね!」
そう美由希さんにきっぱり言われ、夜美は何も言い返せなかった。
「い、いらっしゃいませ」
「ませ〜」
「ル、ルーちゃん、ちゃんと言わないと駄目だよ!」
すずかが慌ててルーテシアに注意する。
二人は会計を済ませた机の片付けをしていた。
そんなとき、おばさんが話しかけてきた。
「あら可愛い店員さんね、お手伝い?」
「は、はい!」
「偉いわね〜私の息子もこれくらい礼儀のいい子だったらねえ…………大変だと思うけど頑張ってね」
「はい、頑張ります!」
「頑張る〜」
おばさんは返事を聞いて帰っていった。
「誉められたね」
「うん………」
「もっと頑張ろっか!」
「頑張る!」
二人は更にやる気を出して頑張るのだった。
「ちゅ、注文はな、何になさいますぅ?」
いつもの夜美ではありえない口調でお客さんに話しかける。
俺は手が空いたのでその様子を見ているが、随分上がってるな。
「えっ!?そ、それじゃあ、取り敢えずコーヒーとシュークリームを」
「は、はい!承りました」
「承りました!?」
「はっ!?か、かしこまりました!!」
そう言い残して夜美はその場から逃げるようにキッチンに走っていった。
「アハハハハ!!う、承りましただってさ!!」
「夜美ちゃんの慌てっぷりも可愛いわね〜」
大笑いするセインと娘を見るように夜美を見る桃子さん。
「う、うるさい!!ウェイトレスなんて初めてで緊張しただけだ!!」
「まあ頑張れ夜美」
「レイ…………代わってくれ…………」
「お前料理出来ないだろ」
「うっ…………」
「いや、あえてそういうのもアリよ夜美ちゃん!!」
サムズアップして夜美に言う桃子さん。
夜美は納得いかない様子だ。
「それじゃあ次は私が行くね。夜美見ててね、お手本を見せてあげるから!」
そう言ってセインが新たに来たお客さんの所へ走っていった。
「なあ夜美、俺はぶっちゃけ一番セインが心配なんだけど………」
「奇遇だな、我もだ………」
「零治君、注文が入ったから中に来てくれ」
「了解っす」
俺も士郎さんに呼ばれて中に入った。
セインは早速、メニューを見ているお客さんの所へ向かった。
「いらっしゃいませ!!ご注文はお決まりですか?」
「いや、まだだけど………」
「そうですか、私のオススメだとこのデラックスフルーツパフェは美味しいですよ〜。沢山のフルーツと冷たいアイスがマッチして、しかもかなり大きいのにこの値段!!どうですか?」
「どうですかって言われても………」
「じゃあ、こっちのこのケーキは…………」
「すみませんでした!!ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい!!」
かなりヒートアップしそうなセインを慌ててアリサがキッチンに連れ去った。
「お客さんに無理やり買わせようとしたらダメでしょうが」
「いや、ただ単にオススメを紹介しただけだよ…………」
「いちいちそんな事やってたらきりがないでしょうが!そういうのは頼まれたときだけでいいの!!」
「アリサさん恐いです…………」
「ツンデレ………?」
「違う!!」
ルーテシアに素早くアリサが突っ込んだ。
「アリサちゃん、抑えて、抑えて………」
「どうした、大きい事を言った割には大した事ないではないか」
「なんだとー!!じゃあ次こそ私の本気を見せてやる!!」
そう言ってまたホールに飛び出すセイン。
「ああ!!もう勝手に行っちゃダメだって!!」
アリサも慌てて付いていく。
「アリサちゃん、頑張って…………」
「ちょっと夜美ちゃんとすずかちゃん、片付けが足りてないからこっち手伝って!」
「「分かりました」」
美由希さんに呼ばれて、夜美とすずかも片付けへと出ていった。
「オムライス出来たぞ!!」
「はい、今行きます」
ちょうど近くにいたディエチに注文のオムライスを渡す。
「18番テーブルな」
「はい」
そう言ってディエチはオムライスを受け取り、18番テーブルへ向かって行った。
「………………」
「どうしたんだ?レイ」
「ああ、夜美…………」
近づいてきた夜美にそう言って再びディエチを見る。
「どうしたのだ、ディエチをずっと見て…………はっ、まさかディエチに恋か!?」
「違う。まあ綺麗だけど………ってそうじゃない。ディエチっていつも冷静だろ?慌てることってあるのかと思って…………」
「言われてみれば…………ダンジョンの時も一人で冷静だったな…………」
「だろ………んで、驚いたらどんな反応するのか気になってきて………」
「そう言われると我も気になってきた………」
夜美も気になってきたようだ。
「ちょっと観察してみるか」
「そうだな………」
俺達は作業しているフリをしながらディエチの観察を始めた。
「お待たせしました、オムライスでございます」
お客さんは若い男性2人だ。
「おっ、旨そうだ。あっ、あとコーヒー2つお願い」
「かしこまりました」
「それより君かわいいね、最近バイトに入った子?」
「いえ、この店の人と知り合いで、手伝いをしているだけです」
「そうなの?ねえいつ終わる?終わったら一緒に遊びに行かない?」
「いいえ、私も用がありますので………」
「そんなこと言わずにさ」
しつこくナンパしてくるお客さん。
ディエチの腕をつかんできた。
「結構です。それでは失礼します」
相手の手を払い、ディエチはその席から離れていった。
「ずばっと切ったしな…………」
「だが、我もあんなチャラ男は嫌だぞ」
「そりゃあそうか………」
「お空きのお皿お下げしてよろしいですか?」
「あっ、お願いします」
今度は家族連れのお客さんみたいだ。
「お姉ちゃん」
そのお客さんの中にいた、キャロ位の歳の男の子が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あのね…………」
そう言いながらディエチの後ろに周り…………
「どーん!!」
思いっきりスカートを引っくり返した。
「きゃあ!?」
「おっ!」
色は水色か。
「レイ」
いつの間にか俺の側に夜美がいた。
「ん?どうした夜美、なん………ぎゃああああああ!!」
すごい速さで夜美に目潰しをされ、目の前が真っ暗になった…………
「目が…………目が……!!」
「レイが悪いのだからな!!」
「別にパンツぐらいどうでもいいだろうが!!」
俺は痛む目を抑えながら夜美に言う。
「いいわけあるか!!」
「いつも家でライがパンツでいるだろ!!」
「それとこれとは話が違う!!」
何でだよ……………
俺の目が見えるようになるまで暫く時間がかかった。
「くそ………まだ痛む………」
「大丈夫かい零治君?」
「何とか。しかしパンツ見えたくらいでこの仕打ちは酷いと思いませんか?」
「う〜ん、女の子も色々いるのさ。恭也もよく同じような仕打ちを受けていたな………」
恭也さん……………
今度また会う機会があったら詳しく話を聞こうかな………
「零治君は結構恭也に似てるのかもしれないね。学校でも結構モテるんじゃないか?」
「まさか!!俺はイケメンじゃないし、そんなことないですよ」
「…………人の良さは顔じゃないよ」
「でも俺の年代は顔だとか、頭が良いとか、スポーツができるとかその辺を重視してますからね。俺は全部に当てはまりませんから」
「零治君は時々大人びた事を言うよね。小学生の頃からだけど、とても中学生に思えないよ」
「いや、れっきとした中学生ですよ」
外見はね………
「そうかい?……………それより、君はなのはの事をどう思ってる?」
「なのはですか?えっと…………」
移動要塞なのは……………これじゃあ俺が士郎さんに殺される。
聖祥の魔王………………これは今、学校で付いている異名だけど、教えたら士郎さんが可哀想だし………
ビクザムなのは……………これは別の意味でアウトだな。
「ふ、普通の女の子だと思います…………」
「そういう答えを期待してた訳じゃないんだけどな……………じゃあ女の子としてはどうだい?」
「女の子としてですか?」
う〜ん、確かに美人だしスタイルも将来グラビアみたいになるのは確定だし、性格も………………悪くない………筈。そう見ると最高だろうな…………
だけど、付き合ったりしたら尻に敷かれるのは目に見えてるしな……………
何かするたんびに「オハナシだよ………」ってなったら体がもたん。
「男子からも絶大な指示を得るほどの美人ですかね。なのはを彼女にする人は幸せ者だと思いますよ」
「そうか………………決して興味が無いわけじゃないのだな…………」
何を言ってるのか聞こえないけど…………
「分かった、ありがとう」
「ええ、どういたしまして?」
そこで話は終わってしまった。
一体どうしたんだろう?
「終わった〜!」
セインが呟きながら席に着く。
時刻は5時半。
お客さんもだいぶ減り、俺達は着替え、空いてる席で休憩をしていた。
「キャロとルーもお疲れ様」
「えへへ………」
「くすぐったいです………」
頭を撫でてあげたけど、ルーテシアは頬を膨らませている。
キャロは喜んでるのに…………
「はぁ……………疲れた…………」
「慣れない事をしたからな。まあ、たまにはいいだろ?」
「たまにだけにしてほしい…………」
あの後も、夜美は相変わらずで終始上がっていた。
ディエチは完璧だったのにな………
「セインも普通に接客出来てたからね、あの後はよかったわ」
「えへへ………」
アリサに褒められ喜ぶセイン。
「みんな、今日はありがとね、本当に助かったわ。これはほんのお礼」
そう言って俺とアリサとすずかにケーキの箱を渡した。
「家に帰ってみんなで食べてね」
「ありがとうございます」
中を見てみると、星に頼まれたストロベリーレアチーズケーキも入ってるみたいだ。
「「ありがとうございます」」
アリサとすずかもそれぞれお礼をしている。
「さてと…………それじゃあ帰るか」
「そうだな」
俺達は帰り支度を始める。
「あ…………あのさ!!」
「ん?どうした?アリサ」
支度をしている時にアリサに声をかけられた。
「あのさ…………今度のお盆休みとか時間ある?」
「ああ、多分何も無いと思う………」
ウェンディ達が騒がなかったらな…………
「だったら家の別荘に遊びに来ない…………?」
第51話 みんなでアリサの別荘へ
午前5時……………
「広い砂浜………エメラルドブルーの海!!」
「ここはマンションの玄関だぞ、ライ」
「わ、分かってるよフェリア!!実際に着いた時の練習をしてたんだ!」
朝5時からテンションが高いことで…………
俺達は今、マンションの入口の前にいる。
加奈や桐谷も一緒だ。
後はフェイトとエリオが合流すれば全員集合なんだけど………
マンションの前で待っていれば迎えに行くとアリサに言われていて、今迎えを待っている。
シャイデも来るって言ってたけど、どこから合流するのやら………
キャロやルーテシアはまだウトウトしている。
星に手をつないで貰って何とか来たって感じだ。
「海ってどんな所なんスかね?」
「一面水だってドクターから聞いたことがあるけど………」
「湖って事か、セイン?」
「分からない、ドクターも実際には見たことがないって言ってたから」
セイン、ノーヴェ、ウェンディの3人が海について話している。
「夜美、お前は見たことあるのか?」
ディエチも夜美に聞いてみる。
「我も一度しか行ったことがない。前に行ったときは星が迷子になって探すのに苦労した」
ああ、そんなことあったな…………
まさかのライじゃなく星だったからな。
「あ、あの時は悪いと思ってます!!けど、いなくなった夜美達も悪いんですからね!!」
「どうでもいいけど朝早いんだから、大声出すな」
そう言って星はおとなしくさせた。
ただ、顔は赤いまま睨んでいたけど………
「ごめん、遅くなっちゃった!!」
その声の主はフェイトだ。隣にはエリオがいる。
「久しぶりだな、エリオ」
「はい、レイ兄!!皆さん初めまして、エリオ・モンディアルです」
元気な声で星達に自己紹介するエリオ。
星達もそれぞれ自己紹介した。
「私はフェイト・T・ハラオウンです、皆さんよろしくお願いします」
フェイトも同様に、面識が無かったセイン達に自己紹介をした。
「ああ、彼女がドクターが言っていた………」
セインがふとそんな事を呟きそうだったので慌てて口をふさいだ。
「何か言って無かった?」
「何でもないんだ、何でも………」
口を抑えたセインがフガフガ文句言ってるが気にしない。
昨日あれほどスカさんの事は絶対に言うなって言っておいたのに…………
そんな事を話していると、遠くから大型バスがやって来た。
……………近くの高校で合宿でもするのかな?
そう思ってると…………
「待ってて、今、下を開けてもらうから。そこに荷物入れてね」
大型バスから降りてきたシャイデが言った。
バスに乗った俺達は先に乗っていた面々に軽く自己紹介をしてさっさと席に着いた。
船で移動するらしく、あまり遅くなるわけにはいかないらしい。
だから朝が早かったのか…………
「しかし、豪華なバスだな」
「そうだな、さすがはバニングスグループって所だな」
「なるほど………忘れてたけど、アリサってお嬢様だった」
俺の隣に座っている恭也さんに言われて納得した。
俺もスカさんのおかげで金持ちの部類に入るだろうが、上には上がいるもんだ。
このバスだが、普通のバスとは違い、後ろが向かい合う形になっていてみんなで楽しめるようになっている。それが中間まで続いている。
後は普通の席だが。
大型バスに乗っているメンバーは、恭也さん、忍さん、美由希さん、アリサ、すずか、なのは、はやて、リイン、ヴィータ、フェイト、エリオ、桐谷、加奈。
後は今、家にいるメンツである。
シグナム、シャマル、ザフィーラはどうしても仕事が外せなかったらしい。
俺的にはシグナムさんとシャマルさんの水着、見たかったのだが…………
はやての事だし、かなりエロティックな水着だったはずだ………
勿体ない!!
恭也さんと忍さんとは実に2年ぶりだ。
忍さんの仕事で海外に行き始めたのが2年前、恭也さんもそれにくっついていった。
それ以来会っていなかったため、俺自身とても楽しみにしていた。
話したい事もあるし、楽しみだ。
「大富豪はじまるで〜!」
後ろの席からはやてが、叫ぶ。
「「「いぇ〜い!」」」
その声に乗ったのはライ、セイン、ウェンディ。
大人以外はみんな夢の中だ。
一番後ろの席で4人テンションを上げている。
時刻は今だに5時30分頃、
なのに奴らのテンションときたら……………
「ちょっと注意して来ます」
「気を付けて行けよ」
俺は自分の席を立ち、後ろに向かった。
「零治君?どうしたんや?もしや!!零治君も参加したいんか?」
「違うわ!うるさいからもっとボリュームを下げろって言いに来たんだ」
「えっ〜、でもこういうのは盛り上がらないと………」
「そうだよ、せっかくの旅行なんだし………」
「そうっスよ、旅行は行きから始まってるっス!!」
「分かった、やるなとは言わないから静かに盛り上がれ、いいな」
俺はそう言って無理やりその場を後にしようとしたが、ライとセインに捕まった。
「離せ〜!!俺も一眠りしたいんだよ!」
「4人じゃつまんない!!レイも〜!!」
「そうだよ〜レイもやろうよ〜!!」
「嫌だって、いい加減にしないと………」
「零治君がセクハラしたって叫ぶで」
はやて、貴様は……………………
「どないする?」
「……………やらせていただきます」
俺は諦めてその場は一緒に大富豪をすることにした。
「みんな〜!!こっちの船に乗って〜!!」
アリサの掛け声でみんなが動く。
「ウェンディ、あれって何かな!?」
「カモメの翼がくるくる回ってるっス!!」
「…………フェリア」
「…………任せろ」
そう言ってフェリアは騒いでいる2人を連れてくる。
目を離すとすぐ、どこかに行くからな、あいつら…………
「星、あっちのお土産見てくる〜!!」
「待ちなさい!!夜美、ライを!!」
「分かった、我に任せろ!!」
走ってライを捕まえる夜美。
家にも問題児がいました…………
キャロやルーテシア、エリオが静かにしてるのに、恥ずかしくないのか?
「おい、みんなもう乗ってるぞ、早く来い!」
「分かった、ちょっと待ってくれ!」
俺に声をかけたのは赤いワンピースを着た赤い幼女、ヴィータさんだ。
予想通り小さい………
「零治、今馬鹿にされたような気がしたんだけど………」
「気のせいじゃないか?」
「そうか?っていうか早くしろって!!」
結局、全員乗れたのはその10分後だったりする。
皆さんごめんなさい………………
「「「うわぁ、綺麗………」」」
エリオ、キャロ、ルーテシアが船のデッキの手すりを掴み、一緒に呟く。
見ているのは当然海だ。
実際に綺麗で、中が透き通って見える。
「見てるのはいいけど、よじ登ったりするなよ」
「はいお兄ちゃん」
「分かりましたレイ兄」
「はいな〜」
ルーテシア、段々キャラがおかしくなっているような………
段々誰かさんに毒されていってる気がする。
俺は3人の様子を見ながら、デッキにあるベンチに腰をかけた。
アリサが言った船は普通に凄かった。
移動用と言いながらも、旅客船で使えるのではないかと思うほどの装備を持つクルーザーだった。
大きさは旅客船よりかなり小さいけど………
中に複数の人が泊まれる部屋もあり、しまいには食堂もある。
さっきのバスといい、流石はバニングス家。
「何ボーっとしてんのよ…………」
「いや、アリサは金持ちのお嬢様だったんだなって改めて思っててさ…………ってアリサ!?」
「お嬢様って………別に私はそんなつもりないわよ」
何故か隣にアリサがいた。
「どうしたんだ、お前?」
「アンタを見かけなかったから見に来たのよ」
なるほど………………
「で、どう?」
「最高だよ、ちびっこもあんなに嬉しそうで………本当に来てよかった。感謝してるよアリサ」
「い、いきなり何よ!ビックリするじゃない!!」
「別に冗談じゃないぞ。真面目に言ってるんだ。ありがとうアリサ」
「うぅ〜」
うなったような声を出すアリサ。
そして直ぐに立ち上がる。
「どうした?」
「の、のどが渇いたから飲み物飲んでくる………」
そう言ってアリサは中に行ってしまった。
「……………眠くなってきたな」
着くまで部屋で寝させてもらうかな…………
「お〜い、そろそろ中に入るぞ〜!」
「「「はぁ〜い!!」」」
俺も3人を連れて中に入って行った。
「零治君」
「どうした、なのは?」
机に座って、サンドイッチを食べているなのはに呼ばれ、俺達はなのはの所に向かった。
「船の人が食べてくださいって」
そう言って俺達にサンドイッチを渡してくれた。
「ありがとうなのは」
貰ったサンドイッチをチビッ子3人にも渡す。
「隣、いいか?」
「うん、いいよ」
俺はなのはの隣に座り、キャロ達もその隣に座る。
「朝から酒飲むなよ…………」
シャイデが早速ビールをがぶ飲みしてる。
恭也さんを巻き込んで……………
やたらとくっつくから忍さんに黒いオーラが…………
「恭也さん大丈夫かな…………?」
「多分オハナシだと思うよ………」
「「オハナシ………?」」
あっ、ヤバっ…………
「どうしたの、キャロちゃん、ルーちゃん………」
「お兄ちゃんからそれは恐ろしいオシオキの合図だって言われたので………」
「人格を曲げるほど恐ろしいから言う人には気を付けろって言われた…………」
俺は静かにその場を後にしようとするが…………
「零治君、子供達に何を教えてるのかな…………?」
こちらのなのは様も黒いオーラを漂わせながら素晴らしい笑みを見せてくれた。
「ちょっと一緒に来てくれるかな…………?」
「はい………………」
まさか、夏休みまでオハナシを受けるとは思いませんでした……………
「へぇ、綺麗な所だな」
島には広大な自然と、色々と大きな旅館が見える。
「どう?綺麗でしょ?」
俺の隣にアリサがやって来て声をかけてきた。
「ああ、綺麗だ」
俺の返事に満足したのか、
「ようこそ、鈴音島へ!」
笑顔で言ってくれた。
不覚にも俺はその笑顔に見とれてしまった…………
「「「「「わあ〜大きい!!」」」」」
別荘の前でチビッ子3人とライとセインが騒いでいた。
「頭がガンガンする………」
「大丈夫、零治?」
「少し休んでる?」
「ああ、大丈夫だ、フェイト、すずか」
今になって頭が痛くなってきた。なのはのオハナシ、未だに進化してるな………
でも、自分の荷物を誰かに任せたら悪いし………
「俺も自分の荷物を運びに行ってくる」
俺はそう言って自分の荷物を取りに行った………
「よいしょっと…………こっち終わりましたー!!」
「こっちも立てました」
「ありがとう、助かったよ」
俺と桐谷は恭也さんと共にパラソルを立てていた。
「しかし本当に誰もいないですね」
「そりゃあプライベートビーチだからな」
「それはそれで面白くないですよね」
俺がそう言うとイケメン二人は首をかしげた。
「まさか二人は海に来たらまず男がやること、水着ウォッチングをしないのですか!?」
「信じられへん!!」
「凄いんですよ!上から下まで多種多様な水着があるから。男としてチェックしなければ逆に失礼です!!」
「そうやで!恭也さんなんかは彼女がいるからこそチェックせなアカン!!桐谷君もイケメンやからこそチェックせな今の流行についていけなくなるで!!全く、二人とも分かっとらんよ!!」
「「す、すいません…………」」
おおっ、イケメン二人が怒られてる。
まあそんなことより、
「いきなり不自然なく会話に入ってくるなはやて」
「へっ?」
「で、どうや?」
「何が?」
「水着や水着!!」
「いや、普通に似合ってるけど」
少し大人っぽい紅色のビキニ。
はやてにはちょっと早い気もするが、似合ってるな。
「何か真顔で言われてもなあ………もう少し赤くなるとかせえへんの?」
「だったらもっとナイスバディを希望する」
「くっ、反論できへん…………」
はやても中学生にしたら平均以上なんだけどな。
「はやてちゃん〜、どこですか〜?」
どこからか明るい声が聞こえる。
「おお、リイン、ここやで〜!」
「あっ、いたです〜」
ちょこちょこ走ってくるリインちゃん。
白いワンピースの水着がとても似合ってる。
なにこの生き物可愛いんだけど………
「ロリコン…………」
「違うよ!?」
「どうしたんですか〜?」
「いや、何でもない」
「リイン、零治君にあまり近づかない方がいいで。リインみたいな小さい可愛い子を………パクって!」
はやてはリインちゃんを驚かすように言った。
「いやああ!!零治さん食べないで下さいですぅ〜!!」
「いや、食べないし………」
「ヴィータちゃんにも教えてくるです〜!」
そう言ってリインちゃんは更衣室へって!!
「待ってくれ!俺は食べたりしないから!!はやても何か………」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
このタヌキ…………!
変な笑い方で笑いやがって………
あの後、みんなの視線が痛かった………
特にヴィータが。
せっかくのみんなの水着姿を見る余裕が無いよ…………
何でこうなる…………
パラソル下…………
「俺は悪くない………俺は悪くない………」
「お兄ちゃん、元気出してください」
キャロが唯一俺を慰めてくれる。
俺も嬉しいんだが、みんなの視線がどんどんキツくなっていく………
ううっ、胃が痛い………
桐谷と恭也さんが可哀想な奴って目で見てくる。
せめて慰めて…………
「零治君大丈夫、私は零治君がロリコンでも付き合いを変えるつもりは無いから」
「私も気にしないから」
「お姉さん方、せめてロリコンを否定してくれ…………」
忍さんも美由希さんも酷いや……………慰めになってないし………
「いいじゃない、好みも人それぞれよ」
シャイデがいきなり話に加わってくる。
「それでも俺はやっていない!!」
「いきなり何を言っているんだ………」
「桐谷君、そんなことよりどう?この水着」
「どうって言われても…………」
なんとも言いづらいよな………
相変わらずのマイクロビキニでただでさえデカイ胸がずれたら見えそう。
「じゃあ、恭也君はどうかしら?」
「えっ!?俺ですか?えっとお似合いだと思います………」
「本当に!?嬉しいわ。お礼に私の胸触ってみる?」
「えっ!?いや…………」
「シャイデ、その位にしとかないと恭也さん明日の朝日を見れなくなる………」
それを聞いて恭也さんは忍さんを見る。
忍さんがそれはもう素晴らしい笑顔で恭也さんを見ている。
恭也さんは冷や汗半端ないけど…………
「で、桐谷君どうだった?」
「あれは反則だな…………」
俺がこっそり聞くと素直に答えてくれた。
この巨乳好きめ…………
俺もだけどね!
だがシャイデ、お前は嫌だ!!
その頃砂浜………………
「ライ、いったよ!」
「OK、フェイト!!いっくよ〜スマーッシュ!!」
ビーチボールが地面に突き刺さる。
「20対14でフェイト…ライペアの勝ち!」
すずかの声で試合が終了する。
「な、なんちゅう運動神経や………そしてビバ、おっぱい!」
「グーではない!!負けてしまったではないか!!」
負けたのにサムズアップするはやてに突っ込む夜美。
「えっと次はなのはちゃんと星ちゃん、セインちゃんとノーヴェちゃんだっけ?」
すずかがウェンディに確認する。
「確かそうっスよ」
「そうなんだ、星ちゃん頑張ろうね!」
「…………………」
「星ちゃん?」
星は黙ったまま動かない。
「星怖いんでしょう?ビーチボールもボールだからね〜」
ライが挑発するように星に話しかけた。
「そ、そんなことないです!!いいですよ!やってやります!!」
「星姉頑張れ〜」
「ありがとうルーちゃん!!私頑張るから!!行きますよ高町なのは」
そう言ってコートの中に入る星。
「ライ、まずいのではないか?」
「大丈夫だよ、ビーチボールは固くないし、顔にあたってもケガはしないと…………思う!」
「中間の間が気になるが…………」
まあ大丈夫かと夜美も思い、それ以上何も言わなかったのだが…………
「なのは、行くぞ!!」
「いいよノーヴェちゃん!」
ノーヴェは上からボールを叩く。
ボールは低い弾道で、ネットギリギリを超えた。
「上手い…………けど!!」
なのはがボールをうまく拾う。
「お願い星ちゃん!」
「は、はい」
ボールの下に入った星。
ボールもゆっくり降りてくる。
誰もが綺麗に上に上げてなのはがスマッシュするものだと思っていた。
「あうっ!?」
ボールをヘッドで上げるまでは……………
「………何で手を上に上げてるのに頭で受けるの?」
「分からん、未だに星のボールの扱いは不明点が多い………」
アリサの疑問に夜美が答える。
「あははははは、見事なヘッドや星ちゃん!」
「あうっ!?だって〜星姉超可愛い!」
はやてとウェンディは大笑い。
「星姉、運動苦手なの?」
「別に苦手じゃないよ。ただ単にボールに嫌われてるだけなんだ」
ルーテシアの質問に変な答えを教えるライ。
「大丈夫?星ちゃん…………」
「迂闊でした…………ですが、次こそミスはしません」
そう言ってボールを持って後ろに行く。
「私のサーブです!」
「いいよ、来い星!」
「いきます!!」
星もさっきのノーヴェと同様にボールを上にあげる。
下りてきたボールを上からたた…………
スカっ。
トントン。
「……………………星さん?」
エリオが心配しながら呟く。
「い、今のは失敗しただけです!!次は大丈夫です」
「星ちゃん、上じゃなくて下からあげたら?」
「……………そうします」
今度はボールを上に上げ、下からボールをすくい上げる様に…………
ポン
真上にボールが上がり…………
「あうっ!?」
またしても頭にヒット。
「星ちゃん!?」
結局その試合は全く試合にならなかった…………
「お兄ちゃん、星お姉ちゃん大丈夫?」
「ああ、俺はもう少しで立ち直れそうだ。だけど…………」
「今日は調子が悪かっただけ…………今日は調子が悪かっただけ…………」
星はさっきからずっと同じ言葉をつぶやいている。
ものすごく恐い…………
「レイ、私って運動音痴なんでしょうか…………?」
「いや、決してそんなことないと思うけど…………」
ものすごくボールには嫌われてるけどな………
「私もボールと一緒に寝れば…………」
「どこのサッカー少年!?」
あの後、正気を取り戻した星と俺、桐谷、はやてと忍さんでみんなの昼飯を作った。
焼きそばだけど。
結構好評でした。
そして食べ終わった所で…………
「みんなースイカ割りするで〜!!」
このはやての一声でスイカ割りをすることになった。
「先ずは誰からやる?」
「はい!僕がやりたい!!」
「ライはダメだ」
「何で!?」
「お前一回目で普通に割りそうだから」
コイツの遊びスキルはレアスキル認定されても良いと思う。
初めてやったことでも何でもこなすからなぁ…………
恐らくスイカ割りも最初だけフラフラしてその後は普通にスイカを割りそうだもん。
「ぶぅ〜納得いかない………」
頬を膨らませるライ。
まあ誰も割れなかったらやらせてやるよ。
「じゃあ誰にするん?」
「じゃあ先ずは……………加奈、お前行け」
「えっ、私!?」
「加奈姉、すってんころりんっス!」
「転べと!?」
「それか水着の紐が外れてポロリでもいいで!」
「なんでスイカ割りでポロリ!?その状況が想像できないわ!」
「そこの二人はほっといていい………みんな加奈を回せ!!」
そう言うとみんなが加奈を回し始める。
……………男子はしてないぞ。
「ちょっ、回しすぎ!!やめ、もう………ストップ!!」
加奈が叫んで皆も回すのを止める。
ざっと20回転くらいしたか?
もの凄いスピードで…………
何か気持ち悪そうなんだけど…………
「うぅ、気持ち悪っ…………」
そう呟いて、その場に座り込んでしまった。
「やりすぎちゃったね」
そのなのはの発言に皆が頷く。
「まあ最初は試しみたいなもんだからな。よし、次からが本番だ」
「普通に切り捨てましたね」
「後で加奈にオハナシされるだろうな」
大丈夫さ夜美。その時は男湯に逃げるから。
「次は………フェリアどうだ?」
「私か?」
「うん、フェリア姉、やってみたら?」
「頑張れフェリア姉!」
「ファイトっすよ!!」
「分かった、何事もチャレンジだな!」
妹達に応援されてやる気が湧いたようだ。
「私達戦闘機人にやらせて大丈夫なのか?」
ディエチにそう言われる。
戦闘機人でも問題無いと思うけど………
「普通に大丈夫だろ?特別なセンサーがあるとかじゃないだろうし」
「分からない」
分からないのかよ!!
だが…………
「あたふたするフェリア姉超可愛い!!」
携帯を持ってきて激写するノーヴェ。
「フェリア姉、こっちですよ〜」
こっちとしか言わず、詳しい方向を言わないセイン。
「縦縦横横丸書いてちょん」
何かの絵かき歌のような事を言うウェンディ。
そんな指示を受けてあたふたするフェリアを他のみんなで微笑ましく見ていた…………
結論…………戦闘機人でもスイカ割りは難しいらしい。
「そろそろ割るか」
あの後、なのはや、夜美、桐谷もチャンレンジしたが、誰も真面目に指示をしないため、未だにスイカは割れていない。
「じゃあ僕がやっていいの?」
「そうだな…………」
もうやらせてもいいか。
「ライちゃん、ちょっと待ってな。その前に零治君や」
「俺か!?」
ものすごく悪意しか感じないんだけどはやてさん。
「そうね、あれだけ偉そうに指示してたんだし、零治アンタやりなさいよ」
アリサも俺にやれと言ってくる。
「お兄ちゃん頑張れ!」
「よっしゃあ!頑張るぜ!!」
キャロに言われたんだったらやるしかないよな!!
「何か気にさわるけど、やるならさっさと目隠ししてよね」
そうアリサに言われたのでさっさと俺は目隠しをした。
当たり前だが全く見えない。
「それじゃあ回しまーす」
すずかの声かな?
合図により、俺の体かなり速いスピードで回り始めた。
うおっ、こりゃあ気持ち悪くなるわ…………
やがて止まるがもうフラフラしているのが分かる。
加奈の気持ちがよく分かったぜ………
さて、信用できるか分からないけど、取り敢えず指示を聞くか。
フラフラする体を何とかその場にとどめ、指示を聞くために耳を澄ませた。
「零治君上やで!!」
「レイ兄、下っス!!」
この二人は除外…………
「零治、左に行きなさい!!」
アリサか?スイカは正面にあったから左では無いと思うのだが………
「零治、斜め30°だよ」
フェイトか?斜め30°って言われても全然分からないから。
「零治君10歩前に進んで、右に4歩、そこから5歩真っ直ぐ進んで振り下ろせばOKよ」
「最初からゆっくりお願いします!」
恐らく忍さんだな…………
「レイ、取り敢えず…………」
「ダメだよ星、僕もやりたいからレイは失敗させないと」
「そうですか、ならレイそのままバックで」
星さん!?投げやりみたいに指示を出さないでほしいのですが…………
「くそ、どうすれば…………」
「お兄ちゃん!!」
おお!!この声はマイプリティエンジェル、キャロちゃんの声!!
素直なキャロなら…………
「頑張って!!」
道順〜!!!
素直に応援してくれました。
結局、俺もリタイアし、ライが綺麗に割ってくれました。
第52話 別荘、夜の部
あの後みんなでバーベキューをして、お腹いっぱいになった後、花火をする事になった。
「奥義、四連花火〜!」
「はやてちゃん、すごいですぅ〜」
…………いたなぁ、そんな下らない事するやつ。
その下らない事をしているのははやて。
指の間に花火を挟んで一斉に点火していた。
「キャロ、ルーちゃん、エリオ君、あれは危ないからやってはいけませんよ」
すかさず星がチビッ子達に言い聞かせる。
「そうだよ、あれはダメな大人の典型的な姿だからね」
フェイトきついな……………
それにまだ中学生だし。
でも、これで子供達が真似をすることは無いと思う。
多分………………
「余裕ね、よそ見なんて」
「まあ動かなければいいだけだからな」
アリサにそう言うと悔しそうに手元に集中し直したみたいだ。
今、俺とすずか、なのは、アリサ、ヴィータは、しゃがんで線香花火をしている。
罰ゲーム付きで。
罰ゲームはズバリ、シャマルさん特製栄養ドリンクだ。
別に頼んでもいないのにヴィータの荷物に入っていたらしい。
せっかくなので罰ゲームとして使わせてもらうことにしたようだ。
「お前はあのドリンクの恐ろしさを知らないからそんな風にいられんだ」
げっそりとした顔で言うヴィータ。
恐怖心からか手が多少震えている。
お前が誘ったんだけどな。
「ううっ、足が疲れてきた…………」
なのはがふとそんな事を呟く。
まあしゃがんで動いてないからそうなるだろうな。
「結構きついね…………」
すずかもキツそうだ。
「これは俺の勝ちかな」
俺はまだ十分に余裕がある。
さて、誰が罰ゲームでシャマルさん特製栄養ドリンクを飲む事となるのだろうか?
だが、そんな俺の余裕は、
「いやあ!!こっちに来るな!!」
走って来たセインにより、見事に潰された。
ドン!!
「うおっ!?」
走って来たセインが線香花火をしている俺に直撃、当然俺の線香花火をは地面に落ちた。
「ああああああああ!!」
「ご、ごめんレイ!ネズミ花火に追いかけられてて…………」
それは分かってるけど、問題は…………
「バカだな零治。余裕ぶっこいてるからこうなるんだよ」
笑顔でそんな事を言うヴィータ。
さっきまで苦しそうにしてたくせに何その変わり様…………
「でも、これで罰ゲームは零治で決定だね」
「あ〜足が疲れたよ………」
「私も…………」
なのはとすずかも決まった瞬間リラックスしてるし……………
「ほら、全部飲めとは言わねえから」
ヴィータ……………
「半分で許してやる」
上げて落とすなよ…………
世の中はそんなに優しくなかった。
まあ流石に美由希さんの殺人ケーキよりはマシだろ……………
そう思って、俺は水筒の蓋を開けた。
「「うっ!?」」
まだ側にいたセインが鼻をつまむほどの異臭が漂う。
「……………セイン」
「ごめん、もう行くね!!」
見事なダッシュで逃げ出すセイン。
あのやろう………
「さあ早く飲め!」
ヴィータに急かされ、俺は覚悟を決めて口をつけた。
(うご!?)
何かドロドロしたものが口の中へ入ってくる。
ヤバイ、いれただげでリバースしそうだ………
「飲んだ瞬間に涙目になったわね………」
「それほど不味いのかな………」
「当たり前だろ。シャマルの作ったものは劇物なんだからな」
「ヴィータちゃん、それ零治君死んじゃうから!!」
時すでに遅し、
零治は気合いで半分は飲み干し、そのまま力尽きた。
「はっ!?知らない天井だ………」
目が覚めるとそこは知らない天井だった。
いや、ここは…………
「気分は大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか」
側には星がいた。
どうやら俺の看病をしてくれていたみたいだ。
体を起こして時計を見るともう10時になりそうだ。花火を始めたのは8時頃だったから恐らく1時間半位眠っていたのかな?
「悪いな迷惑をかけて………」
「別に構いませんよ。それに………」
そう言うと顔が暗くなった。
どうしたんだ?
そんなとき、誰かが部屋のドアをノックした。
「零治君起きた〜?」
どうやら声の主ははやてみたいだ。
「ああ、起きたぞ」
「ほんまか?なら入るで」
そう言ってはやてが入ってきた。
その後ろには隠れるようにいる赤い髪の幼女が…………
「幼女じゃねえ!!」
俺、喋ってないよな?
「ヴィータ、そんな事言いに来たんちゃうやろ?」
はやてがそう言うとヴィータは黙る。
何か調子狂うなあ……………
「あのな………その…………悪かった!!」
そう言ってヴィータは頭を下げた。
「……………………………何を?」
「何をって、私が罰ゲームなんて下らない事言ったから倒れたんじゃないか!」
「いや、俺も了承したじゃないか。別にヴィータが悪いって訳じゃないよ」
「でもさ…………」
「気にするなって」
「でも………」
ああ、しつこいな。
それじゃあ……………
俺は手を大きくパーにしてヴィータの顔に当てた。
「な、何すんだよ!?」
俺はヴィータを無視し、人差し指を引っ張り、そのまま放した。
「ぎゃ!?」
要するにでこぴんである。
自分でやってなんだが痛そうだ。
「痛い……………」
額を抑えながら呟くヴィータ。
ちょっとやり過ぎたか?
「まあこれでおあいこって事で。この件の話は終わり!」
「…………………」
「何だよ………」
涙目で睨むなよ………
何か罪悪感で押しつぶされそうなんだけど。
「分かった………」
良かった、怒られるって訳じゃなさそうだ。
「零治君も怒ってへんみたいやし、本題に入るな」
………………見舞いがついでかよ。
「実はな、さっきアリサちゃんからおもろい話聞いたんやけど聞く?」
「面白い話?」
「それはな…………」
何でもアリサが言うには、この別荘の裏手にある山の麓で大昔、罪人の処刑が行われていたらしい。
その先は言わずと分かると思うが、要するに……………
「肝試ししたいと…………」
なるほど、さっき星の顔が暗かったのはこれが原因か。
「当たり前やんか!夏と言ったら海と花火と肝試しやで!!夏のイベントを逃してはアカン!!」
熱いなコイツ…………
「だけど星が…………」
「星ちゃん?」
俺たちは黙っていた星を見ると、
見事に真っ青でした……………
「星?」
「は、はう!?」
はう!?
「あ、いいえ何でもないです!!今のは忘れてください!!」
かなり焦ってるな………
「もしかして……………」
「ああ、星はお化けや怖い話が苦手なんだ」
「そうなんか……………星ちゃん、こんな話があるんやけど………」
そう言ってはやては話し始めた。
「ある男が夜、シュウマイを買って帰ってた時の話や。もう周りには人一人誰も居なかったんや。そんな時…………」
もうすでに星は俺の服の袖をつかんでいる。
「後ろから視線を感じたんや。当然後ろを見てみても誰もおらへん。ふとシュウマイの箱の中を除いて見たんや、すると…………」
そこで一旦話を切り、間を置くはやて。
「シュウマイが一個なくなっていたんや…………」
ふと、反対側の服の袖が掴まれてる事に気がついた。
っていうかヴィータかよ…………
俺に厳しいから、内心仕返しされそうで恐いんだけど。
「男は一度慌てず落ち着くことにしたんや。もう一度後ろを見て誰かいないか確認して再びシュウマイの箱の中身を見た。すると…………」
もう一度ここで間を置くはやて。
「今度はシュウマイが2個無くなっていたんや………」
それを聞いてビクッと反応する2人。
今の何処に怖い所があるんだ?
「男は慌てた。一旦蓋を締めて何とか気持ちを落ち着かせようとするんやけど、全然落ち着かん。震えた手でもう一度同じ手順をしたんや。すると…………」
横の二人がゴクンと唾を飲む音が聞こえた気がした。
怖がっていながらも気になるみたいだ。
「シュウマイが全部無くなっていたんや!!」
「「きゃあああああ!!」」
いきなりはやてが大きな声を出したもんだから2人もビックリして大声を上げた。
悲鳴を聞いてはやてはニヤリとした。
「そして男は怖くなった!!絶対に近くに何かがいる!!そうして蓋をしようとしたときに男は気がついたんや」
「「…………………」」
「シュウマイは蓋の裏にくっついとった」
「「………………えっ!?」」
キョトンした顔ではやてを見る二人。
まあそんな顔をするだろうな。
「どうやった?怖かった?」
あらら、そんな火に油を入れるような事言ったら……………
「「バカー!!」」
「へぶ!?」
ビンタを喰らうわな……………
「さあ、みんなで肝試しするで!!」
「いいっスね姉御!じゃあ星姉は1人で来てくださいっス!」
「いいい、嫌です!!今日は疲れましたし、早く寝ましょうよ…………」
それ以上星をいじめるなよ……………
しかもウェンディがはやての事を姉御って呼んでるし。
面倒な師弟関係が出来てしまった……………
さて、それはともかく、俺がリビングに帰ってくる時には時刻は既に10時を回っており、子供達4人(リインも含む)は既に夢の中。
そして大人達は酒宴を開いており、何かカオスになっていた。
シャイデにくっつかれ、美由希さんと忍さんも負けじと恭也さんにくっついている。
頑張ってください…………
俺はそう言う願いを込めて、恭也さんに敬礼しといた。
「さて、みんな揃った?」
「大丈夫っス!、ちゃんと星姉も確保してるっス!」
腕を縄で縛られ、引っ張られてくる星。
流石に可哀想だな……………
「おい、はや…………」
「ルールを説明するで!!」
俺の言葉は遮られ、はやてはルールを説明し始めた。
「ルールは簡単!2人1組になって山の中にある神社のくじ引きをして帰ってくるだけや。道はこの先の山道を登っていけば、途中に階段があるからそこを登っていけばOK。あっ、1人余るから1組は3人な」
そう言ってポケットから割り箸を取り出す。
「さあ、順番に引こか」
そう言われて俺達は順番に引き始める。
結果……………
なのは、フェイト
はやて、ウェンディ
アリサ、夜美
フェリア、ディエチ
セイン、桐谷
ヴィータ、星
俺、すずか
ノーヴェ、加奈、ライ
とこんな結果になった。
「さて、みんな順番に行こうか!!」
そうはやてが言って、肝試しがスタートした…………
「ああ、暗くて怖かった…………」
「何か出てきそうだったよね…………」
そう言いながら帰ってきたなのはとフェイト。
手をしっかりと握ったまま。
………………まあ余計な詮索はしないようにしとこう。
「うん、普通に怖かったわ」
「そうっスね、姉御」
笑顔で帰ってきてよくそんな事が言えると思う。
何かいたずらを仕掛けてきたって顔だ。
「次は私たちね」
「夜美………」
「分かってる、気をつけろだろ?」
流石、夜美。やっぱり気づいていたか。
「アンタたち〜!!」
帰ってきたアリサは真っ直ぐはやてとウェンディの所にやって来た。
「どうしたんや?アリサちゃん」
「どうしたじゃないわよ!!何で途中に世にも奇〇な物語のテーマ曲が流れてくるのよ!?」
「さあ、分からないっス………」
「………………夜美」
「大丈夫だ、ちゃんと回収しといた」
そう言って夜美は俺にミニラジカセを渡した。
「正直、これを聞いたとき、恐怖心よりくだらなさで一気に萎えた…………」
「まあそうだろうな…………」
スイッチを入れるとお馴染みの不気味な音楽が。
俺と夜美はそれを聞いて溜息をついたのだった。
その後も…………
「これはなんなのだ?こんにゃくがぶら下がっていたのだが」
「暗いからライトを当てないと見えないし、進みずらいから邪魔だったんだけど………」
ディエチがそう言いながらこんにゃくを渡してきた。
あの二人……………
「どうだった?」
「いきなり後ろから人形が飛んできてびっくりしたな〜」
「それでこれがその人形だ」
桐谷から渡された人形は金髪のビクトールなのだが、よくありがちの生きてるようなビクトールだ。
普通に見ても不気味な作りになっているのだが…………
「暗くて顔が全然見えなかったから、普通に叩き落とした」
「「………………」」
失敗したって顔をするはやてとウェンディ。
もう少し考えよう二人共。
とこうして順番は順調に進んでいった。
そして次が一番問題の…………
「「………………」」
震えてる二人である。
「大丈夫かな?」
「いや、恐らくヤバイと思う…………」
そんな事言っている内に、二人は手をつないで登り始めてしまった。
15分後……………
「遅い…………」
そんなに遠くないので10分位で帰って来れるはずなのだが、2人は帰ってきてない。
段々不安になってきたな…………
「すずか………」
「うん、行こう」
名前を呼んだだけで分かったみたいだ。
「ちょっと二人共!?」
「悪いが俺達は行くぞ!2人を見つけたら帰ってくる!!」
止めようとしたはやてにそう言って俺とすずかは中に入って行った。
「星〜!ヴィータ〜!」
俺は呼びながら歩く。
「星ちゃ〜ん!ヴィータちゃ〜ん!」
すずかも名前を呼びながら歩く。
「いないね…………」
「ったく、どこ行ったんだか………」
こうなるんだったら無理してでも2人と行くべきだった。
道を外して迷ってなければいいが…………
「零治君、落ち着いて。取り敢えず先に進もう」
「……………ああ、そうだな」
すずかの言うとおりだ。
焦っても仕方ないな。
「ありがとうすずか」
「うん、どういたしま………きゃ!?」
「すずか!?」
咄嗟にすずかの手を掴み、俺の体に抱き寄せた。
「大丈夫か!?」
「う、うん、ありがとう…………」
ライトを当て、地面を見てみる。
どうやら、地面にあった溝に足を引っ掛けてしまったみたいだ。
転んだ先に大きな岩があったから危なかったな……………
「れ、零治君………」
「ん?どうした?」
「助けてくれたのは嬉しいんだけど…………」
そう言われて俺は今の状況を確認してみる。
すずかを抱きしめている俺。
これって、やばくね?
「ごめんなさい…………」
直ぐにすずかを離した。
「う、ううん、助けてくれてありがとう…………」
暫く、二人には気まずい時間が流れていった……………
「取り敢えず神社についたか………」
階段を登りきり、俺は呟いた。
やはり暗いため、中に誰かいるのか分からない。
俺はライトを照らしながら、2人の名前を呼んでみた。
「星〜!ヴィータ〜!」
呼びかけても返事がない。
「ここにも居ないのかな?」
「そうみたいだな…………一体何処に………」
そんな時だ。
「レ…………イ………」
「この声は星!?どこだ!?」
俺はすかさず声のあった方へライトを向けると、
「ううっ…………」
「ぐすっ…………」
境内の社に小さく座っていた二人を発見した。
よかった、無事みたいだな。
「大丈夫か二人とも?」
俺がそう言った瞬間、
「レイ〜!!」
「零治〜!!」
抱きついてきた二人によって、地面に頭を打った。
「何でいきなり抱きついてくるかな…………すずか、血とか出てない?」
「大丈夫、出てないよ」
取り敢えず、めっちゃ痛かったので、2人に正座をさせてるが…………
「くぅ…………くぅ…………」
「すぅ…………すぅ…………」
安心したのかそのままぐっすり寝始めてしまった。
正座のままで……………
どうやらこの二人、神社まで頑張ってついたのはいいが、持ってきてた懐中電灯の電池が切れたらしい。
はやて、ウェンディ………
「早く帰ろうか…………」
「そうだね…………」
俺は星、すずかはヴィータをおんぶして山を降りることになった…………
「おっ、大丈夫やったみたいやな」
「全然大丈夫じゃねえよ…………」
そう言って俺は星達の事を説明した。
「はやてちゃん………」
「ウェンディ…………」
なのはとフェイトが睨みながら二人の名前を呼んだ。
他のみんなもはやてとウェンディを睨んでいる。
「えっと…………みんなどないしたん?」
「はやて、ウェンディ、俺たちが言いたいこと分かるよな?」
「えっと………零治君、私分からないんやけど………」
「へえ、懐中電灯が2つとも電池が切れるなんてな。そんな偶然あるんだな」
「そうっスね、そんな偶然あるんスね…………」
苦笑いしながらそう答えるウェンディ。
未だに逃げようとするなんてな…………
だけど、言い逃れしようとするほどみんなの視線がキツくなっていく。
で、結局…………
「「すいませんでした!!」」
土下座して2人は謝りました。
「あれ?そういえば、最後の3人は?」
「あれ?帰りに会わなかった?」
「いや、会ってないけど………」
なのはにそう言われ、一旦俺達は静かになる。
「まさか迷った?」
「い、いや、加奈もいるし大丈夫だと思う…………」
聞いてきたフェイトに俺はそう返した。
そう、加奈もいるし、ノーヴェもああ見えてしっかりしてると思うし大丈夫だろ。
そう思って待ってると、5分後には普通に帰ってきた。
「ああ、面白かった!!」
ライが先頭でそんなことを言っているが、後ろにいる二人は何かとてつもなく恐ろしいものを見たような顔をしていた。
「あのねレイ!幽霊って本当にいるんだね!!」
………………………………………………えっ!?
素晴らしい笑顔で爆弾発言するライ。
ここの空気が一気に凍った気がした。
ライを除いて…………
「私たちね、道に迷っちゃって、正しい道を教えてくれたのが足が見えないおじさんだったんだ!!何でも400年前に無実の罪で処刑された農民なんだって。随分平和な世の中になったって言ってたよ」
俺は信じられなかったが、後ろの2人の様子を見ると、どうやら本当みたいだ。
「他にもね、戦で200人斬りした人や、元お姫様もいたよ〜。みんな優しかったな」
俺はこの時、ライの事をレアスキル認定するべきだと心から思ったのだった…………
星とヴィータが起きてなくて良かった…………
こうして肝試しは幕を閉じたのだった。
次の日……………
「お兄ちゃん、昨日はどうしたの?」
「キャロ、人生には知らなくていいことがあるんだ…………」
船の中、海を見ていた俺にキャロが話しかけてきた。
元気な子供たち以外、他の皆はくたびれている。
大人達は飲みすぎで二日酔い。
肝試し組は昨日のことでテンションがかなり低い。
特にはやてとウェンディまで大人しいのだ。
ライは除くけど…………
ライはエリオとルーテシアとモンバスをやっている。
「でもお兄ちゃん顔色が悪いです」
「大丈夫、少し酔っただけだから…………」
「そうですか………だったらお水持ってきますね!」
そう言って船のキッチンに向かうキャロ。
「キャロ!」
「なんですか?」
「楽しかったか?」
これは今回の旅行で俺が一番気にしていた事だ。
キャロが楽しめたのならここに来てよかったと心から思える。
「とても楽しかったです!またみんなで一緒に来たいです!!」
笑顔でそう言って、キャロはキッチンに向かった。
「そうか………だったら来てよかったな……………」
何かものすごく疲れたけど、本当に来てよかった。
今度、アリサに何かお礼しないとな…………………
「だけど、今度は違う場所にしてもらおう…………」
俺はそう心に決めた。
第53話 死のロードなんて吹っ飛ばせ
「ああああああああ!!」
テレビを見ていた、ライが騒ぎ始める。
その姿はタOガースの帽子とユニホームを着込み、両手にはメガホンを持って、テレビの前に敷いてある小さなレジャーシートの上で騒いでいた。
『入った〜!藤河、渾身の153キロのストレートをバックスクリーンに運ばれた!!タOガースこれで5連敗です』
ちなみに騒いでいた原因はこれだ。
「くっそ、ベイOターズめ、雑魚のくせに……………」
わなわなと震えながら物騒な事を呟くライ。
ちなみに今は8月。
タOガースにとってはいわゆる『死のロード』に直面しており、それが連敗の原因だったりする。
ちなみに死のロードとは、タOガースの本拠地、甲子園球場は夏になると高校野球に使われることになり、その間本拠地で試合が出来なくなる。
そのため、遠征が多くなり、いつも以上に疲労が貯まる事になる。
それが響き、連敗することで、いつしかこの時期は『死のロード』と呼ばれるようになった。
「ライお姉ちゃん、また負けちゃったね…………」
「残念………」
「何だよ〜今日こそ連敗脱出だと思ったのに………」
そう言ったのはキャロとルーテシア、セイン。彼女らもライと同じようにユニホームと帽子をかぶっている。当然両手にはメガホンを。
「本当だよ!!久しぶりのテレビ中継だったのに………」
最近、視聴率が取れないせいか、野球中継がめっきり減った。
そのせいで、ライは負けるといつも以上に機嫌が悪くなる。
「もういい!寝る!!」
レジャーシートをたたんで、怒りながら自分の部屋に入っていくライ。
これが負けた時のいつもの光景だ。
ちなみに勝つと、深夜まで起きていて、スポーツニュースを見るのが勝った日だ。
「でも本当に残念だったね」
「まさか、あそこでホームラン打つとは…………」
「何でこうついていないのかな………」
チビッ子2人とセインは、ライの影響ですっかり野球の事を覚えてしまった。
今ではすっかりタOガースファンだ。
そのせいでイーOルスファンの俺は更に肩身が狭くなってしまった………
唯一の救いはイーOルスがパリーグだってことだな。
まあそんなこんなで、家は一部で結構野球に熱かった。
次の日……………
「レイ、野球見に行こう!!」
いきなりそんな事を言い始めるライ。
「見に行くのはいいけど、チケットは?」
「フッフッフ、これを見ろ!!」
そこにはタOガース対ジャOアンツ外野席指定席と書かれていたチケットが5枚あった。
「いつの間に………」
「結構前に申し込んでおいたんだ!」
「……………金は?」
「夜美から借りた」
「確か夜美はお金を貸したとき利子付けてなかったか?」
「付けてたよ。期限までに返せなかったら50%プラスって言われた」
何そのぼったくり………
「大丈夫かよライ?」
「大丈夫、期限までに返せばいいだけだから」
本当に大丈夫なのか……………?
後日、ライが夜美に泣きついている所を見ることになるがまだ先のことである。
「で、いつなんだ?」
「今日」
「は?」
「「「「うわぁ〜」」」」
4人(ライ、セイン、ルーテシア、キャロ)が初めて見る後楽園ドームに感動していた。
あの後、残り3人(セイン、ルーテシア、キャロ)も行く気満々で直ぐに準備し終わり、大分煽られた。
どうやら言い忘れていたのは俺だけらしく、俺以外みんな知っていたみたいだ。
何故俺に言わなかったと聞いたら、「今日まで忘れてたよ〜」って軽いノリで言われた。
俺って一家の大黒柱なのに…………
そんなわけで……………
「マジで来ちまったな…………」
本当に来ちゃいました。
時間もまだ3時ごろなのでナイターだから間に合うんだけど、もっと余裕を持って来たかった…………
というか、ここに来るまでにかなり苦労した………
二時間前……………
「あ〜!!勝手にどこかに行くなって!!」
勝手にふらつくなってあれほど言っておいたのに………
東京駅の地下鉄へ乗り換えの途中の事だ。
ライとセインがまたもや勝手にどこかに行ってしまった………
人も多いから一回はぐれたら合流するのにかなり時間がかかるだろうからやめてくれと言っておいたが、まるで意味が無かった。
「悪い、あいつら連れてくるから二人共ここから動かないでくれ」
そう言って手をつないでいたキャロとルーテシアに自販機の所にいるように言ってライ達を捕まえに行った。
それほど離れてない場所にいたため、簡単に捕まえられたけど…………
「お、お兄ちゃ〜ん!!」
今度はキャロが人ごみに飲まれてしまった。
「キャロ〜!!お前ら、ここから動くなよ!!」
そう言って俺はダッシュでキャロを救出しに走った……………
やっとの思いでキャロを救出した俺だったが、帰ってくると、今度は別の問題に差し掛かった。
「あれ、ルーは?」
「ルー?確かここに…………」
そう言ってライが指差した所には、誰もいない。
「…………ライ?」
「セ、セインは見てなかった!?」
「えっ!?私も見てないけど…………」
マジか!?もしかしてリアル迷子かルーテシア。
一体何処に行ったんだ?
そんな時……………
ピンポンパンポーン。
『お客様にお知らせがあります。有栖零治様、有栖零治様、お連れ様がお待ちです。至急緑の窓口までお越しください』
……………駅でもアナウンスあるんだな。
ってそうじゃない!!
「俺、迎えに行ってくるから絶対にここから動くんじゃないぞ!!今度はぐれたら帰るからな!!」
俺はそう言って、慌ててルーを迎えに行った。
そして今に至る…………
今日ほど星、夜美、フェリアが恋しいと思った事はないと思う…………
「ねえ、早く入ろう!!」
暫く回想に浸ってた俺をライが我に返らせ、俺達は中に入った。
「さあ、応援するぞ!!」
入って直ぐに女子トイレに入った4人は、家で野球を見ていた格好、タOガースのユニホーム、帽子を着ていた。
両手には既にメガホンを持っており、完全に応援モードだ。
それは別にいいんだけど………
「「「「六O〜おろしに〜さあ〜そう〜と〜」」」」
ジャOアンツファンが多いこの地点で歌うのはやめてくれ…………
あっちのおっさんの視線が痛いよ…………
そんな感じで、俺の胃は終始キリキリしていた。
「やっと着いたな」
席自体はタOガースファンに囲まれた外野席。
ここなら歌おうが好きにしていいんだが…………
「「「「……………」」」」
「どうしたんだよ?」
「歌ってて疲れた………」
何しに来たんだこいつら……………
席に座って、だれている4人。
「はぁ………取り敢えず飲み物と何か食べ物買ってくるから、何がいい?」
「あっ、私も行きます」
キャロが立ち上がり、俺の隣にやってくる。
「僕コーラ」
「私オレンジジュース」
「豆乳…………」
「ルーちゃん、流石に豆乳は無いと思います…………」
ルーテシアは何故か豆乳にハマってしまい、大抵豆乳を飲んでいる。
「じゃあ、セインと一緒でいい」
「分かった、食い物はテキトーに買ってくるから文句無しな」
そう言って俺はキャロを連れて売店へ向かった。
「あちゃあ、人がいっぱいだな…………」
売店の前には行列が出来ていた。
恐らく試合前に買う算段なのだろう。
「キャロ、少し並ぶ……………ってキャロ………」
キャロはいつの間にかその隣の売店に行っていた。
「どうしたんだ、キャロ?」
「これ……………」
そう言って指を指したのは、今巷で流行りの野球カードゲームのカードだった。
ゲームセンターにあるゲーム機器に読み込ませ、使うものだ。
どうやらこれは球場限定みたいで、他では買えないらしい。
しかし…………
「これ、ジャOアンツの選手だけじゃないのか?」
「うん、そうみたい……………」
シュンとするキャロ。
どうにかしてあげたいけど、こればっかりはな…………
「そんなに悲しむなよ、限定じゃなくて普通のも売ってるからそれを買おう」
「いいんですか?」
「ああ、それくらい何でもないよ。それでどれがいい?」
「あっ、え〜っと…………」
慌ててカードパックの中を漁るキャロ。
俺も昔はよくやったもんだな……………
「お兄ちゃん、これにします!!」
どうやら決めたようだ。
せめてタOガースの選手位は出て欲しいんだけど…………
「…………………あっ!?」
そう言ってキャロは1枚のカードをじぃっと見ている。
「何か当たったか?」
「はい!!ピッチャーの藤河です!!」
おおっ、タOガースの守護神、藤河か!
しかもキラキラが半端ない。恐らく一番レア度が高いやつだろう………
「見てください、ステータスも凄く高いです!!」
そう言われて見てみると確かに高い。
E〜Sのステータスでスタミナ以外全てA以上だ。
他のカードと比べても全然違う。
「良かったな、キャロ」
「はい!!」
キャロにしては珍しくぴょんぴょん跳ねながら全身を使って喜んでいる。
まあ、直ぐに恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてやめたけど…………
「それじゃあジュースを買ってさっさと戻るか。キャロ、無くさないようにしっかり持っとけよ」
「はい」
俺とキャロは前より減った行列に並び、飲み物などを買った。
「ただいま」
「遅いよ〜!!」
着いた瞬間文句を言ったライだが、直ぐに目線はグラウンドへ向く。
ちょうど、今タOガースがシートノックをしていた。
「上手…………」
「綺麗だね!」
「僕だってあれくらいは…………」
プロと競うなよライ…………
「お兄ちゃん、ハイ」
「ありがとうキャロ」
そんな3人とは別に、俺とキャロは買ってきたホットドックを仲良く食べてました。
「プレーボール!!」
時間も6時になり、試合が始まった。
「頑張れー!!タOガースー!!」
初っ端からメガホンで応援するライ。
一生懸命なのは見て明らかだ。
「せめて、今日は勝って欲しいな…………」
そんなことを呟き、俺も久しぶりの野球を楽しむことにした。
試合は2対1とタOガースがリードで進んでいった。
「ううっ……………」
昨日と似たような展開。
9回でツーアウトランナー2,3塁。
一発が出たらサヨナラって場面だ。
さっき、キャロが当てた藤河がマウンドに上がっている。
明らかにボール先行でどうも調子が悪そうだ……………
「ボール!!」
これでカウントは1ストライク2ボール。
「頑張って……………」
隣を見ると、キャロがさっきのカードを握り締めている。
「キャロ…………」
「ボール!」
これで1ストライク3ボール。
「頑張れ!負けるな!!」
「頑張れ藤河!!」
「負けるな………!!」
キャロ以外の3人も一生懸命応援している。
「ストライク!!」
これで追い込んだ。
しかし、さっきまで150キロを下回っていたストレートが151キロと本来のスピードに戻っている。
……………声援が届いた!?
「いけー!!藤河!!」
キャロが今までで一番大きい声で応援した。
そして、最後の一球。
ズバーーーン!!
「ストライク!!バッターアウト!!」
本日最速154キロのストレートで藤河がバッターを三振に取って、タOガースは連敗を5でストップした。
「いや〜本当に良かった!!」
「そうだね、やっと連敗脱出出来たね!ここから巻き返せば充分首位を狙えるね!!」
「ルーの声援のおかげ!」
「いいから静かに食べろよ………」
俺達は近くにあったラーメン屋で遅めの夕食を食べていた。
「よかったな、藤河がしっかり抑えられて」
「はい!!最後のストレート、とっても速かったです!!」
箸を持ちながら嬉しそうに言うキャロ。
ずいぶんご機嫌だ。
他のみんなもタOガースが勝ってテンションが大盛り上がり。
不機嫌で帰る事にならなくて本当に良かった。
だけど……………
「こうなるんだよな……………」
電車で帰る途中俺以外みんな寝てしまった。
幸い、東京駅からコッチに帰ってくるまでは乗り換えをしないので問題ないが、ちゃんと起きて歩いてくれるかなコイツら………………
「すぅすぅ…………」
「くぅ…………」
「むにゃむにゃ………」
「くーくー…………」
「まあ、勝って良かったな、タOガースファン」
4人の寝顔はとても満足していた。
第54話 母と子
『零治君、メガーヌ・アルピーノの処置が終わりそうなのだが、一度こちらに来てくれないかい?』
「それは本当か!?本当に良かった、ルーも喜ぶだろうな。それならちょうどいいタイミングだな、そろそろ夏休みも終わりそうだしセイン達の事もどうにかしないとな」
8月27日の夜、後少し残っている宿題を消化していた所にスカさんから連絡が入った。
ちょうど、こっちもセイン達の事を考えていたから、こちらとしてもグットタイミングだ。
「じゃあ明日みんなでそっちに行くよ」
『ああ、楽しみにしてくれたまえ。あっ、それと桐谷君達もつれてきてほしいのだが………』
「分かった、連絡しておく」
『よろしく頼むよ。それじゃあまた明日に』
そう言ってスカさんは連絡を切った。
「さて………明日も忙しくなりそうだな」
そう思いながら俺は取り敢えず、星の部屋へと向かった……………
コンコン、
「星、起きてるか?」
『はい、起きてますよ』
「入っていいか?」
『えっ!?い、今すぐですか!?ちょ、ちょっと待ってください!!』
なにやら部屋の中からガタガタ音がするな…………
一体何してんだ?
「別に大した用じゃ無いからここで話すぞ」
『えっ!?は、はい』
「明日、スカさんのアジトに行くことになったからお土産とか準備したいんだけど………」
『明日ですか!?』
「ああ、何でもメガーヌさんが目覚めそうらしい」
『ルーちゃんのお母さんが!?』
「そうらしいんだ。だから急でも早めに行かなくちゃいけないと思って………」
『分かりました、明日起きたらみんなにも言っておきます』
「頼むよ、それじゃあ俺はもう寝るな」
『はい、おやすみなさい』
「おやすみ」
そう言って俺は自分の部屋に戻った。
次の日………………………
お土産を翠屋で買い、昼ちょっと過ぎにはスカさんのアジトに着いた。
昨日の寝る前に桐谷達にも連絡したので一緒だ。
「クキューーーー!!!」
「フリード!!」
リビングに入った途端、フリードがキャロに飛び込んできた。
「ごめんね、一緒にいてあげれなくて………」
「キュー……………」
フリードは元気のない声を出す。
やっぱり寂しかったようだ。
「零治君」
「あっ、ウーノさんお久しぶりです」
感動の再会を見ているところにウーノさんがやって来た。
「早速なんだけど、零治君とルーちゃん、それと桐谷君はドクターの所へ行ってもらっていいかしら?」
「えっ!?それは別に構いませんけど………」
「俺も大丈夫です」
「ルーも大丈夫」
俺達はそれぞれ答えるが、
「僕たちはダメなんですか!?」
すぐさまライが反論した。
他のみんなも同じみたいだ。
「ごめんなさい、メガーヌさんを処置している場所が狭い部屋なのよ。悪いけれど、待ってもらっていいかしら?」
そうウーノさんが説明すると流石にみんな何も言わなくなった。
「悪いな、俺たちが帰ってくるまで待っていてくれ」
俺達はそう言い残して、リビングを後にした………………
「済まないね、学校ももう少しっていう時に………」
「いいよ、こっちの方がずっと大事さ。…………それでメガーヌさんは?」
「処置はもう終わって、後は目覚めるだけなのだが……………」
そう言ってスカさんは部屋の奥を見る。
そこにはいくつものポットが並んでおり、真ん中にルーテシアを大人にしたようなきれいな女性がいる。
恐らく彼女がメガーヌさんだろう。
どうやらいつ目覚めるかまでは分からないみたいだ。
「おお、来ていたのか」
「こんにちはゼストさん」
「こんにちは」
「久しぶり、ゼスト…………」
「ああ、久しぶりだ」
軽く挨拶を済ませると、ゼストさんはルーテシアの所へやってくる。
「良かったな、やっと母親と会えるぞ」
ルーテシアの頭を撫でながらゼストさんは言うが、肝心のルーテシアの方は到って無関心だった。
「どうしたルー?」
「…………いきなりお母さんって言われても分からない………」
「そういえば、母親を見るのは今回で初めてか?」
「ううん、何回か見たことがある。けれど、この人が母親って言われても正直何も感じなかった………これっておかしいのかな?」
ルーテシアにそう言われ、俺は何も言えなくなってしまった。
俺の家にも母親と呼べる人は誰もいない。シャイデだって母親っていうよりは近所のおばちゃんだからな。
前の世界ではちゃんといたけど、それでもハッキリと考えたことがない。
俺にとって母親は居るもんだと思っていたから。
母親とは子を育てるもの?
人の心を教える人?
ルーテシアに母親って存在がどんなものか俺なんかが教えられない。
「本当に済まないね。私がこんな事をしなければ…………」
「スカさん…………」
うつむいて言うスカさん。
家族を大切にしてる今、昔自分がやっていた事に罪悪感を持ってるんだろうな……………
「お母さん…………」
ポットの側に行き、手をつけて優しく呼んだ。
「私はどうすればいい?お母さんって言われても分からないよ」
呼び掛けるように言う。
「お母さん、起きて教えて。母親って何?母親と一緒になれば私は本当の私になれる?」
そんなルーテシアを見て、俺はいつのまにか頭に手を当てていた…………
「何が本当の私だよ、誰かがお前を偽物だって言ったか?」
「レイ兄………」
「少なくとも俺達全員ルーの事を偽物なんて思っていないぜ。母親って存在はどんなものかは俺もイマイチ分からないけどな」
頭を撫でながら俺は優しくかたりかける。
「ルー、母親がどんなものか何てどうでもいい。お前はメガーヌさんに何をしてもらいたい?」
「私は………………」
しばらく考え込み、
「抱き締めてほしい」
そう答えた。
「そうか。それなら問題ないと思うぞ」
「そうかな……………」
そう呟き、ルーテシアはメガーヌさんをもう一度見る。
すると……………
「まぶたが動いた!!スカさん!!」
「分かってる、2人ともそこから離れて、」
スカさんにそう言われ、俺はルーテシアをつれて離れた。
ポットに溜まった液体が少しずつ抜け、すべて抜けると大きく咳き込んだ。
そこでポットの扉が開き、上半身が起き上がる。
「ここは………」
目を開けて周りを見渡すメガーヌさん。
「ゼスト………隊長?」
「メガーヌ…………」
いつもの渋い顔に笑みがこぼれる。
「私は一体……………!?ジェイル・スカリエッティ!」
スカさんの姿を見て、身構えようとするがどうにも思ったように体が動かないみたいだ。
「待て、今から詳しく説明する!」
そんな様子を見たゼストさんが慌てて説明を始めた…………
「そうですか、そんな事が………」
メガーヌさんをウーノさんが着替えさせ、用意した車イスに乗せてから説明を始めた。
「それじゃあ、クイントも…………」
「ああ…………」
悔しそうに唇を噛むメガーヌさん。
やはり思うことがあるみたいだ。
「私はこの寿命が尽きるまでにレジアスに真実を聞きに行こうと思ってる。たとえどんな答えが待っていようとも………」
「ゼスト隊長……………そのときは私も………」
「メガーヌ、君はダメだ。君は私みたいに一人ではないからな」
そう言ってゼストさんは俺を見る。
正しくは俺の後ろに隠れているルーテシアだが……………
「ルー………テシア?」
恐る恐る慣れない車イスを動かし、ルーテシアの元へ移動するメガーヌさん。
ルーテシアも自分からメガーヌさんの元へ向かう。
お互い距離を縮めていき、
「ルー!!」
思いっきり抱き締めた。
「…………苦しい」
「あっ、ごめんなさい」
慌てて力を抜くメガーヌさん。
「でもよかった、またこうして会えた」
そして、今度は優しく抱きしめる。
「お……母さん………?」
そう呟きながらルーテシアも手をまわした。
「暖かい………」
その暖かさを心から感じたのか、ルーテシアの目から涙が流れた。
「ごめんね…………もう絶対一人にしないから………ずっと一緒だから………」
「お母………さん………うわあああああん!!」
そこでルーテシアが泣いた。
恐らく、誰一人見たことがないと思う。
「今は二人っきりにしよう」
「そうだな………」
ゼストさんにそう言われ、二人以外の人間はその部屋を出ていった。
「さて、零治君、桐谷君、二人に別の話があるんだけど………」
「何?」
「実はね、セイン、ウェンディ、ノーヴェを学校に入れようと思ってるのだけど、桐谷君の家に居候させてもらえないか?」
さっきの感動的な場面をぶっ壊すような事を言い始めるスカさん。
「何故に!?て言うか戦闘機人を学校に行かせる必要ないだろ!」
フェリアの知能だって中学生じゃないのに…………
「いや、一回帰ってきてからまたあっちに行きたいってかなりごねてたからね。『チンク姉ばっかずるい!!』って」
まあ、確かにな…………
「さすがにこれ以上零治君の家だと限界だと思って桐谷君にお願いしたいのだけれど………」
そう言って桐谷を見るスカさん。
まあ確かにアイツらも夏休み終盤になってカレンダーを見て溜め息をついている場面を見たことがあったけど………
「はあ、分かりましたよ。いつもお世話になっていますし、こっちは構いません。後で加奈にも話しておきます」
「ありがとう、助かるよ」
セイン達も学校か……………
俺に被害がこなければいいけど……………
「それじゃあ、私達もウーノたちの所へ行こうか、みんなどうなってるか気になっているだろうし」
「そうだな、行こう」
「すまないが、俺は2人を待っているぞ」
「そうだね、アジトの案内役がいなければ迷うからね。騎士ゼスト、よろしく頼む」
スカさんがそう言って俺達はリビングへと向かった。
「そうなんだ、よかった………」
キャロが話を聞いて安心している。
他の皆も同様の反応みたいだ。
リビングに戻ってみると、皆静かにルーテシア達の事を待っていた。
いつも騒いでいるコイツらにはあり得ない光景だったが、それほどルーテシアの事を気にしていてくれているということで、俺はとても嬉しかった。
「さて、まだかかるみたいだし先にこっちの用件を済ますとしようか」
スカさんがそう言ってさっきの話を話始めた。
「話と言ってもセイン、ノーヴェ、ウェンディに話があるんだけど…………」
「えっ!?私達?」
「ウェンディ、何かしたろ………」
「何でそうなるんスか!?それだと私がいつも何かしてる見たいじゃないっスか!!」
「違うのか?」
「うわあああん、レイ兄〜!!ノーヴェがいじめる〜」
嘘泣きしらがら抱きついてくるウェンディ。
俺はそれをサイドステップで避けた。
「な、何で逃げるんスか!?美少女に抱きつかれて嬉しくないんスか!?」
「お前が美少女だとしても、ウェンディ、お前は駄目だ。それにどう考えても日頃の行いが悪い………」
「いや〜、美少女だなんて恥ずかしいっスよ〜」
「……………それと頭もな………」
そう言ったがウェンディは聞いちゃいない。
どうやら美少女と言ったことに照れているようだ。
「で、続きを言って良いかい?」
「うん」
待っていたスカさんが続きを話し始める。
「それで、前から3人はチンクの事が羨ましいと言っていたのを考えていてね。桐谷君の許可も取れたので3人にはチンクと一緒に学校に行ってもらうよ」
「「「……………………」」」
言われた3人は静かになり、
「「「いやったあああああああ!!!」」」
と大はしゃぎ。
「あの………レイ?」
申し訳なさそうに星が聞いてくる。
「ん?どうした?」
「3人が学校に来たら更に負担が…………」
「大丈夫、桐谷に全て一任する」
「おい、そこのアホ」
桐谷が何か言ってくるが聞こえない〜
「ていうか、私、全く聞いてないんだけど………」
「いいじゃないか、どうせ俺と加奈しかいないんだし」
「まあ構わないけど、勝手に決められるとなんだかな………」
「まあ仕方ないだろ」
「加奈姉は私達が一緒だと嫌っスか?」
「ものすごく自重してくれれば構わないけど………」
「うっ!?」
うっ!?じゃねえよ…………
「えっと………いいの?」
「いいわよ。2人だけだと部屋も余ってるし、3人が一緒にいたほうが楽しいでしょ」
「うん!ありがとう!!」
セインは嬉しそうに加奈に言う。
「帰って学校の準備しないとな!!」
「ノーヴェ、落ち着け」
ノーヴェも興奮してるみたいだ。
「学校の方は大丈夫なのか?今の時期にいきなり転校生って………」
「桐谷、シャイデに基本不可能は無い」
何故そんなことが出来るのかは不明だけどな。
「ねえ、セイン達の学年はどうするの?」
ライが質問する。
「セイン達は一年に転校してもらう事にしよう。そうすれば違和感もないだろう」
まあ妹に見えるか微妙だけど……………
ガキっぽいから大丈夫か。
「まあそれが無難だな」
夜美もどうやら同じことを考えたみたいだ。
「これからよろしくお願いしますっス、桐谷兄、加奈姉」
「「よろしく!!」」
ウェンディに続いて、セインとノーヴェも言った。
「これから大変だな、桐谷と加奈」
「出来ることがあれば手伝ってあげましょう」
星の言うとおりだな。
なるべく手伝ってやろう。
トラブルは嫌だけど……………
「済まない、大変だと思うがよろしく頼む」
「構わないよ、フェリアも時々遊びにくればいい」
「ああ、礼儀正しくしてるかチェックしにいく」
「「「えっ!?」」」
これで最低限収まるだろうな。
「…………………」
そんな様子をじっと見ているディエチ。
「すまないね、ディエチ………」
「分かってます。それに地球に行けない訳でも無いので構わないですよ。それにトーレ姉とクアットロだけじゃ大変でしょう。今日も居ないのはそのためですね?」
「ああ、そうだよ」
「私は夏休みをもらいましたし、頑張りたいと思います」
「ありがとう…………」
何のことか分からないけど重要な事みたいだな。
協力できればいいんだけど………
取り敢えずこれで話は終わりかな…………
「そしてもう一つ、キャロ君」
「は、はい!!」
いきなりスカさんに声をかけられ、固まるキャロ。
「楽にしてほしいのだけれど…………」
ちょっと悲しそうだなスカさん…………
最近気持ち悪いとか言われて無かったからショックだったみたいだな。
「で、スカさん、キャロに何のようだ?」
「あ、ああ。フリード君のことなんだけど………」
「フリード?」
「キュイ?」
二人揃って首をかしげる。
「実はね、フリード君、キャロ君が行ってからずっと寂しそうにしてたんだ。どうしても見ていられなくてね、それでいいものを作ったのだが………」
そう言って着ている白衣から小さなボールみたいな物を取り出した。
「ウェンディ達がやっていたゲーム、モンポケコレクションに出てきたボールをマネして作ったこのボール、ゲームみたいにモンスターを捕まえる事が出来るのだが…………」
ちなみにモンポケコレクションはあっちのポケモンと同じだ。
「これを使えばフリードといつも一緒にいられるよ。それに中に入っていても念話で会話出来る様に作ったから持っていればいつでも会話出来るよ」
スカさん、アンタに不可能はないんじゃないか?
いつかオーOド博士みたいな事言わないよな…………
「試してごらん」
そう言ってスカさんはキャロにボールを渡した。
「ど、どうすれば………」
「真ん中のボタンを押してごらん」
キャロは言われたとおりに真ん中にあるボタンを押す。
すると小さかったボールが手のひらに収まる程に大きくなった。
「それをフリード君に投げたまえ」
「はい、いくよフリード!」
「クキュー!」
キャロが投げたボールはフリードに当たり、ボールが開く。
開いたボールは赤い光線を放ってフリードをボールの中に吸い込んだ。
ボールはコロコロと動いていたが、直ぐに動かなくなった。
「これでOKのはずだ。キャロ君、念話で会話してもらえるかい?」
「はい」
『フリード?』
『クキュー!!』
「大丈夫です!!」
「よし、問題無いみたいだね。これでフリード君も一緒に地球に行けるね」
「はい、ありがとうございますスカさん!!」
頭を下げてお礼を言うキャロ。
だけどスカさんって……………
「ふふ、構わないよ。いい時間つぶしが出来たしね。それと出すときは投げた時と同じで真ん中のボタンを押して投げればフリード君を出せるから」
キャロも言われた通りにやってみる。
するとポケモンみたいにフリードが出てきた。
でもそんな事してる暇があったらさっさと残りのナンバーズの調整終わらせればいいのに………
「ド、ドクター!!」
そんなことを思ってると、セインが目をキラキラさせながらスカさんに声をかけていた。
「ドクター私も欲しい!!」
「私も!!」
「私もっス!!」
「僕も!!」
あれ?1人多いような………
「済まないね、あれはプロトタイプで一個しか作ってないんだ」
「「「「えっ〜!!」」」」
無理を言うなよ…………
「何かみんな盛り上がってる…………」
そんな事を言ったのは、車イスの女性と一緒にいる女の子。
ルーテシアだった。
「ルーちゃん!!」
まっ先にキャロがルーテシアを迎えに行く。
「キャロ!!」
そうして二人は抱きついた。
「よかったね…………」
「ありがとう、キャロ………」
「良かった……………」
そんな様子を見て涙を流す星。
「ほら」
そんな星にハンカチを手渡した。
「ありがとうございます………」
「皆さん初めまして、メガーヌ・アルピーノです。娘がお世話になってます」
「初めまして、有栖キャロです」
「キャロちゃんね、娘と仲良くしてくれてありがとうね」
そう言ってキャロの頭を撫でるメガーヌさん。
キャロも嬉しそうだ。
こうして今度はメガーヌさんとルーテシアの話に盛り上がった………
あの後、夕食を作ってみんなで食事した。メガーヌさんはルーテシアの面倒を見たがってたが、星がしっかりと教育していたため、全然手が掛からない事に不満みたいだったな…………
星が申し訳なさそうに食べてたな…………
そして食事が終わり……………
「皆さんに言いたいことがあります」
そう言ってメガーヌさんが話を始めた。
「私達は地球で生活をしようと思います」
「いや、でもメガーヌさん…………」
「ルーとキャロちゃんを離したくないのよ………」
メガーヌさんの気持ちも分かるけど、その体じゃ………
ずっとポットの中にいたため、体がまだ動けていない。
それなのに2人で生活なんて…………
「大丈夫よ、そこはゼスト隊長に頼むから」
「聞いてないぞ!?」
ゼストさんは聞いて無かったようでかなり驚いた顔をしているけど………
「でもスカリエッティからは許可を貰ったわ」
「ジェイル!?」
「騎士ゼストは戦闘を避けるべきだよ。でなければ目的の前にその寿命が尽きるよ」
「ぐっ!?」
「それに、ゆっくりするのもいいだろう、それくらい戦いに明け暮れていたからね」
そう言われて何も返せなくなるゼストさん。
「隊長、駄目ですか…………?ルーもお父さんが欲しいと思うのよ………」
「「「「「「「「「「お父さん!?」」」」」」」」」」
ここにいる女性人全員が反応した。
「駄目ですか…………」
もう一度言われてゼストさんはルーテシアを見た。
ルーテシアも期待した顔でゼストさんを見ている。
「分かった…………私も付き合おう」
ゼストさん、折れました…………
「ありがとうございます、隊長!!」
嬉しそうにゼストさんの手を掴むメガーヌさん。
ゼストさんも恥ずかしいのかそっぽを向いて鼻をかいている。
何か、恥ずかしがっている彼氏みたいだな……………
「これからもよろしくねルーちゃん」
「よろしく、キャロ」
嬉しそうに手を繋ぐ2人。
取り敢えず、学校に行く