エターナルトラベラー


 

第一話 【ゼロ魔編】

 
前書き
にじファンからの転載になります。
今後ともよろしくお願いします。
この作品には、オリ主チート成分、ハーレム要素が含まれます。
以上の事が了承できない方はブラウザバックをお勧めします。

この作品は多世界クロス作品になります。 

 
目が覚めると、俺は知らないところに寝かされていた。

見覚えのない場所だったので俺は立ち上がり、周囲を確認しようとして体が上手く動かない事に気が付いた。

立ち上がれないだけではない、首すら自分の意思では傾ける事が出来ない。

なんだ?

俺はもしかして全身麻痺の植物人間にでも成ってしまったのか?

俺はかなり焦って叫び声を上げようとした所で俺の視界の中に、見も知らない人間が現れた。

『アオちゃん。ご飯の時間ですよ』

恐らく俺に話しかけたのだろう。

視界に現れた女性が全くわからない言葉を紡いで俺を軽々抱き上げた。

ん?抱き上げた。

そしておもむろにたくし上げてあらわになった乳房に向けて俺の顔を近づけた。

なんだ?

赤ちゃんプレイ?

「ぁーっ」

ちょっと待って!と思って声を上げようとしたけれど、どうにも上手く喋れない。

『はい、アオちゃん。おっぱいですよ』

しかし女性はお構いなしとばかりに戸惑う俺の体を揺すり、おっぱいにしゃぶりつけと催促する。

此処まで来て漸く俺は思い至った。

これはもしや!オタクにのみ許された二次転生テンプレと言う奴では?





俺の名前は神咲蒼(かみさきあお)。

名前だけはかっこいいが悲しいかな、見目普通の両親の遺伝子を受け継いで、不細工ではないけれど、カッコイイとはいえない容姿の普通の日本人だ。

思えば女性に全く縁の無い人生だった。

中学二年の時に友達からアニメやライトノベルを進められたのが切欠で俺はそれらの多くの作品にどっぷりはまってしまった。

気づいた時にはオタクといわれる人種になっていた。

そしてそのまま成人して、中小企業に就職。

出勤し、仕事をして、締め切りに追われながら徹夜して、帰ってきては取り溜めたアニメを見たり、ライトノベルや漫画、時折ネットで二次小説などを読みふけり、就寝。

そんな毎日だ。

そんな生活だから当然彼女なんか居た事も無く、気が付いたら童貞のまま30歳の誕生日を迎えようとしていた。

「はは、このままじゃ魔法使いになってしまうかな…」

明日は30歳の誕生日だなと思いながら酒を煽って就寝したはずだった。

しかし今、俺はどう言う訳か記憶を持ったまま赤ちゃんになると言う二次創作におけるテンプレを目の当たりにしている。

だが、普通こういう場合の多くは道路に飛び出した可愛い女の子を救って変わりにトラックに轢かれたりして、神様が「ゴメン、間違えて殺してしまったから幾つか能力付加して転生させてあげるね。勿論移動先は選ばせてあげる」とかではないのか?

俺にはそう言ったやり取りをした記憶が全然ないのだが…

くっ、俺は最強オリ主では無いというのか!

とまあ、そんな事を考えながら視界に入った女性の姿を確認する。

目の前の俺の母親であろう女性、こういっては何だが前世?と言うか解らないが神咲蒼を生んでくれた母親と比べると天と地ほどの差があるくらいに美人だ。

彼女の遺伝子を引いているのなら父親が超不細工でもない限り俺の容姿も勝ち組の部類に入るだろう。

この辺は流石テンプレと言うところか。

後は此処がどう言った世界かという所だがこればかりは今は確かめようが無い。

むしろ普通に物語の世界ではなく現実に記憶をもったまま転生という可能性の方が高いような気がする。

まあ今はそんな事を考えても言葉すら喋れないのだから確認のしようが無い。

抱きかかえられて母親の乳首に誘導された俺は空腹を感じて目の前の母親の乳首に吸い付いたのだった。




そんなテンプレ転生から早3年。

俺はようやくこの世界の言葉をマスターした。

まだ舌足らずなところはあるが、まあ言葉は通じているし後数年もすれば違和感もなくなるだろう。

それからこの世界での俺の名前は『アイオリア・ド・オラン』と言うらしい。

ニックネームは『アオ』

奇しくも前世と同じ名前だ。

この名前で気づいた人も居ると思うが、此処は所謂ゼロ魔の世界と言う奴だった。

うん、気づいた時は驚きました。

何て言ったって両親が普通に魔法で俺をあやすんんだからね。

レビテーションを掛けられた時なんかビックリして大声で泣いてしまったよ。

ようやく一人で動き回れるようになって、夜こっそり窓から夜空を見上げると爛々と輝く月が2つあったのだから間違いないだろう。

しかも両親の話を盗み聞きしていると度々『トリステイン』とか『アルビオン』とか『ゲルマニア』とか、ゼロ魔で聞いたことの有る名前が出てきてたしね。

そして俺はトリステイン王国オラン伯爵領の次男という立ち居地らしい。

10歳上の兄が居ることを確認したので行く行くは俺はこの家を出て行かなければならない立場な訳だ。

しかし此処で注目すべき所は、そう。『貴族』だと言うところだ。

つまり俺ももテンプレの主人公よろしく魔法が使えると言うわけだ。

…まさか30歳まで童貞だと魔法使いになれると言うのがこう言う事だったとは思うまいて。

まさか、魔法の有る世界に転生させられるとはね!

だが!だけど!どうせならリリカルな世界が良かったですorz

俺は前世では魔砲少女に凄くはまっていたんだ。

あの魔法少女なのにビーム飛び交うガチバトルには胸が躍った。

だけど現実はゼロ魔!

くっ、俺は魔砲使いにはなれないと言うのか!?

さて、そんな事を考えてもしょうがない。

なんか知らないけれどもう一度生まれなおしてしまった俺。

先ず目標を決めよう。

なんだかんだで貴族と言う勝ち組にテンプレ転生したのだ、ならば少しの非日常(魔法は是非とも使ってみたい)と平穏無事な人生(貴族とかは描かれていないだけでドロドロしてそう)を送る事を目標にする事に決めた。

平穏無事を求めるならば原作厳守が望ましい。

下手に関わって死なないまでも大怪我などで体の一部を喪失とかしたくないし。

原作にあるアルビオンとの戦争になったら難癖つけて出兵拒否しよう。

戦争なんて死亡フラグ満載な所行きたくないです。

そんな葛藤の中、テンプレ主人公よろしく俺も両親に頼んで3歳と言う幼さで魔法の練習をはじめた。



魔法の教師は執事のセバさんが教えてくれている。

とはいえ、セバさんの教えはコモンから初歩的なドットスペルを教えてくれるだけだった。

魔法を習い始めてコモンを大方習得して漸く系統魔法の行使に移り、初歩的な系統魔法を使ってみたところ、俺の系統は風であるらしい。

この時には俺は魔法を習い始めてから初めて狂喜乱舞した。

風といったら雷に派生する系統。

つまり頑張ればサンダースマッシャーとか撃てる!と。

なのはは無理でもフェイトなら!

ゼロ魔の世界でも頑張ればリリカルな魔法の真似事が出来るかもしれないと光明が射した瞬間だった。

暫くすると、土のラインメイジであるセバさんから習う事は系統違いであるため殆どなくなってしまった。

さて困った。

こうなれば本を頼りに自力で勉強するしかないのだが、ここで文字を覚えていない事に気が付いた。

そう、本があっても読めないのだ。

言葉は何とか覚えた物の、文字については未修得だったのだ。

それから俺は、寝る間を惜しんでセバさんに今度は語学を教えてもらうことにした。

まあ、日本語と違い、基本の字体を覚えさえすれば、後は単語を覚えるだけなので、口語はマスターしていたから直ぐにマスター出来るかと思ったけれど。

どうやら俺の根底はやはり日本人のようで、文字の習得には一年の時間が掛かってしまった。

ミミズののたくったような文字は解読できませんて。

この一年、魔法の方はどうしていたかと言うと、精神力のアップに努めていました。

良くある負荷によるキャパシティアップが出来ないかと試してみたのだ。

術者の精神力が100だとして、それを使い切って0にする。

そして一晩ぐっすり寝るとまた100まで回復すると言うわけではないらしい。

魔法の発動回数から考えて、おおよそ20パーセントくらいだ。

全開まではおおよそ5~7日かかるようだ。

だが、これを回復した20パーセントをまたその日の内に0まで使い切ってやるとどうやら負荷による超回復で最大精神力と一日の回復する精神力が上がるようだ。

これは3ヶ月くらいの実証によって確信を得た。

まあ、毎日ぶっ倒れるまで魔法を使いまくる息子を両親は心配そうにしていたが、ここは無視しました。

効果があることが解った以上、精神力を増やさないと言う選択肢は俺にはありえないのだ。

そうした訓練のお陰で1年した俺の精神力は最初の最高値が100として1日の回復量が20%だったとしたら、今現在は最高値120、回復量が23%くらいだと思う。感覚的にはだけれどもね。

一年続けてもたいして上がってないとも思われるが、もしこのまま回復量が増加していくのであれば10年後には最大値の50%の回復量になるかもしれないのだ。

20と23には余り違いが感じられないが20と50ならその違いは比を見るより明らかだ。

それに精神力も上がるのであれば必然的に魔法の使用回数が増える。

…まあ10年とか、気の長い事この上ないのだけれどね。

さて文字も読めるようになったのでこっそり父上が昔使っていた魔法学院の教科書を拝借して魔法の練習をしている。

俺は今、マジックアローに風の魔法で雷を付加させて、なんちゃってフォトンランサーの練習中だ。

「フォトンランサー、ファイヤ」

雷を纏った魔法の矢を意地でジャベリンの形に変形(この辺りはイメージが物を言うらしい)させて10メートル先にある的目掛けて打ち出した。

ドゴォォォォン

着弾、そして爆発。

「うん。なかなかの威力だ」

着弾地点のクレーターを見て俺は言葉を洩らした。

魔法を習い始めてから苦節2年。

初めての模倣魔法が完成した瞬間だった。

…まあ、ルーンを唱えなければならないのがネックだが。

そうそう、ここで1つ重要な事が判明した。

此処はどうやら純粋なラノベのゼロ魔の世界では無いということだ。

ルーンを詠唱したり魔法を発動したりすると魔法陣が展開される。

ライン、トライアングルの定義はラノベ、アニメ(漫画は別系統を足せる数)だから、つまり漫画の世界も混じっていると言う事らしい。

何はともあれ、フォトンランサーが完成してからは少し習得のペースが上がった。

ブレイドに雷を纏わせて、その刃をやはり意思の力で振り下ろすと同時に射出して、なんちゃってアークセイバーを作ってみたり。

拘束の魔法で何ちゃってバインドを作って見たり。

エア・シールドの魔法で何ちゃってディフェンサーを作って見たり。

杖の先から極太のライトニング・クラウドを発射して何ちゃってサンダースマッシャーを打てた時は感動で精神力の切れるまで撃ち続けた。

魔法を使うのが楽しすぎていつの間にかラインに上がっていたことにも気づかなかったくらいだ。

だが此処に来て俺は大きな壁にぶつかってしまった。

そう、それはこの間の魔法の練習中にハイになって本格的に魔砲少女の真似事をしようとフライで飛びながらフォトンランサーを撃とうとした俺を誰が責める?

リリなののファンならば空中戦に憧れるでしょう?

そして俺はものの見事に落ちました。

運良く足元から着地出来たのと、高さが余り高くなかったのが幸いして両足の骨折だけで済んだけれど。両親にはかなり心配をかけてしまった。

高額な水の秘薬を頼んでもらわなければ、下手をしたら変な風に骨がくっついて一生歩けなくなったかもしれない。

くそう、ゼロ魔の魔法ではフライを使用中は他の魔法を使うことが出来ないということを失念していた。

これでは華麗な空中戦など夢のまた夢。

鬱だ。

その日から2ヶ月ほど、俺は魂の抜けたように部屋で一日ボーっとしている日々を過ごした。

「アイオリア、具合はもう良いの?」

骨折事態は既に完治しているのだが、今までの俺と違い全く外に出ようとしない事に心配した母が声をかけてきた。

「かーさま。体は大丈夫です」

「そ、そう?なんだか元気が無いみたいだけれど」

「少し魔法で」

俺は少し言いよどんだ。

「魔法?お母さんでよければ相談にのるけれど?」

優しい母の言葉に俺は少し間を置いてから話始めた。

「えと、その」

「うん」

「フライの魔法を使いながら、他の魔法を使うにはどうしたら良いのかなと思いまして」

そう打ち明けた俺の言葉に暫くして、母は答えた。

「うーん。もしかしてこの前アオが大怪我を負ったのはそれが原因?」

「はい」

「そっか」

その言葉に納得する母。

「フライで空をとびながら他の魔法をねぇ。それって、風竜とかに乗ったりして空を飛びながら自分は魔法を使うって事じゃダメなの?」

それじゃあダメなんだよ。俺がしたいのはあくまで自分自身による空中飛行による空中戦であって他の手を借りるような事じゃ意味がないんだ。

ん?待てよ。

自分自身では2つの魔法を一緒には使えない。

だけど、もしも何かのマジックアイテムで空を飛べるとしたら、もしかしたら行けるかもしれない。

それこそ地下水みたいなインテリジェンスな武器を杖にすれば地下水と自分とで二種類の魔法が同時に使用できないか?

型月の魔術師も言っていたではないか!

無ければ他から持って来ればいいと!

ん?今何か重大な単語が出てこなかったか?

えっと?

そう!そうだインテリジェンスだ!

リリなのにおける熱い相棒、インテリジェントデバイス。

何故気づかなかったんだ。

「かーさま。ありがとうございます!」

「え?アオ?」

行き成り大声を上げた俺をビックリしながら見つめる母を尻目に、俺は勢い良く部屋を飛び出した。

思い立ったが吉日。

俺は早速セバさんを護衛に付けて、町まで駆けていった。

そして武器屋を回ること3軒。

やはりインテリジェントな武器は珍しいのかどの武器屋も扱っては居なかった。

くそう、なんなんだ?武器屋の隅に偶々陳列していた喋る伝説の剣をゲットできるサイトが羨ましい。

この際王都までいってデルフを……いやまて、それはダメだ。

それは余りにも危険だ。

この前調べたところによると、テンプレよろしく俺もどうやら物語のヒロインであるルイズと同年代に生まれてしまったようだ。

ルイズは調べられなくても、王室の人間のデータは貴族故に直ぐに手に入れることが出来た。

それから計算してみたところ俺はルイズの1歳上と言うことらしい。

これが神様から能力を貰った最強オリ主なら空気も読まずに原作ブレイクに勤しむのだろうが、残念ながらそんなチート能力を貰ったわけではない俺としては死亡フラグ渦巻く物語の渦中にわざわざ関わる積もりは今の所無い。

大体物語りと言う物はオリジナルが一番上手く納まるようになっているはずだ。

わざわざ改変する事もあるまい。

…俺が居る事によるバタフライ効果までは責任は持てないけれど。

だがしかし、もはや近場の武器屋は総て回ってしまったしどうするか。

そうして街中をトボトボ歩いているとマジックアイテム屋が目に入った。

しかも真昼間だと言うのに店の中は薄暗く、見るからに怪しいいオーラをかもし出している。

マジックアイテムか。

うーむ、インテリジェンスソードも分類はマジックアイテムか?

もしかしたら武器ではなくても意思を持ったアイテムがあるかもしれない。

そう思って俺はその怪しい雰囲気が立ち込める店のドアを開いた。

チリンチリン

扉に備え付けられた呼び鈴代わりの鈴の音が響く。

雰囲気に呑まれたセバさんが俺を止めるのを押し切って俺は扉をくぐる。

ぐるりと店内を見渡すと秘薬類も陳列されているが、それ以上に怪しい商品の数々。

竜の鱗やツメ、グリフォンの尾羽、その他俺では判別の出来ない数々の商品。

「…いらっしゃい」

「ひぃ!」

突如店の奥からかけられた、ひしゃがれた声に俺は驚きの声を上げつつ振り返り、確認する。

するとそこには60歳ほどの老婆がカウンターに座ってこちらを見ていた。

とんがり帽子のローブを羽織りその姿は御伽噺に出てくる悪い魔女のような姿だ。

恐らくこの店の店主だろう。

「何かお探しかね?」

そう訊ねられて、俺は少しばかり気後れしながら答える。

「あ、えっと。その、インテリジェントなマジックアイテムが欲しいのですが」

そう答えた俺の言葉に少し怪訝な表情を浮かべつつ店主は答える。

「ふむ、インテリジェントのぅ。そんな物を欲しがるとは珍しい坊主だのぅ」

「やはり有りませんか…」

俺は諦めて踵を返そうとした所、店主から声が掛かる。

「有るぞ?」

その言葉に俺は勢い良く振り返る。

「え?今なんと?」

「有ると言ったんじゃ」

「ほ?本当ですか!?」

「ああ、ちょっと待っておれ」

そう言うと店主はカウンターの更に奥にある扉の奥に入って行った。

暫く店主が出てくるのを待っていると、扉の奥からなにやら手に平大の水晶のような物を2つ持って戻ってきた。

俺はその水晶を見てとって期待を込めて店主に尋ねた。

「それが?」

「ああ、知性を持った石じゃ」

そう言って俺の方に水晶を差し出す店主。

それを受け取り俺は水晶に話しかける。

「君達はインテリジェントアイテム?」

すると手に持った水晶から声が返される。

『はい、私達は確かに個としての意識を有しています』

と水晶の片方が答えた。

いったい何処に口があるのかわからないが声を発している間、水晶がピコピコ光った。

「君も喋れる?」

俺は今喋らなかったもう片方の水晶に向かって問いかけた。

『はい』

「おぉぉぉおぉお!」

遂に見つけたインテリジェントアイテム。

しかも宝石タイプに俺は興奮した。

だって喋る宝石って言ったらレイハさんみたいではないか!

そして俺は即決した。

「店主!これはいくらだろうか?」

「ほっほ、誰も喋る宝石なんて不気味がって買わんからの。倉庫の中でホコリをかぶっておった訳じゃし、今後も売れる事も無かろうて。エキュー金貨200で良いぞ?」

「買った!」

俺はこの薄暗い店内に入ることを躊躇い入り口の付近で待機していたセバさんに言ってこの水晶2つを購入した。

「ひっひ。毎度あり」

俺は歓喜に震えつつ屋敷に戻った。


屋敷に戻った俺は、護衛のセバさんと別れ、直ぐさま水晶を持ち、いつも魔法練習をしている裏庭に移動した。

そして俺は手に持った二つの水晶に話しかけた。

「それで、君達って意思が有る以外にどんな能力があるの?」

『私達は人の生命エネルギー、魔法使いにおける精神力を供給してもらう事による魔法の行使を目的として造られました』

「ま!?マジで?」

なんてドンピシャな!

『はい』

「そんな凄いマジックアイテムが何で倉庫でホコリなんてかぶっていたの!?」

『凄いですか?そんな事言われた事は無いのですが。
私達が死蔵されていたのは恐らく魔法使いなら誰でも自身で魔法を使うことが出来るので、わざわざ私達のような媒介を必要としない為だと思われます。
生みの親である製作者も私達を造っては見たもののその有用性が皆無なために二束三文であの店に売り払いましたし』

「何を言っているの!俺は君達みたいなマジックアイテムを探していたのだよ。正に理想にぴったりな能力だ」

『はあ…』

「精神力さえ供給すれば、魔法の発動を肩代わりしてもらえるんだよね?」

『はい』

「それは君達が発動している魔法と別に俺も自身で魔法が使えるってことであってる?」

『試した事はありませんが恐らくは』

「よっしゃ!それじゃ早速試してみたい。お願いできる?」

『何をすればよろしいでしょうか?』

「フライの魔法、使える?」

『はい、問題ありません。私を握ってもらえれば其処から精神力を頂いて魔法を行使できるはずです』

その言葉に俺は満足してうなずき、右手に二個の水晶を持ち左手に杖を装備した。

「それじゃフライの魔法をお願い」

『了解しました』

すると右手に持った水晶が2、3度点滅したかと思うとゆっくりと俺の体は宙に浮き上がった。

「すごい!しかも俺の思ったように飛べてるし」

『世界への働きかけは私がしていますが、それを制御するのは魔力供給者です』

「しかも、無詠唱で魔法を行使したよね?」

『私達はどちらかと言えば精霊に近い存在です。故にルーンや口語における世界への働きかけをしなくても意思を繋げるだけで大抵の魔法は行使できます』

これはもしかして凄い掘り出し物なのでは?

俺は地面から1メートルくらいのところに浮かびながら左手に持った杖を構える。

そう、これからが本番だ。

そしてルーンの詠唱し、魔法が完成する。

「フォトンランサー、ファイヤ」

そして放たれる無数の魔法。

俺の体は浮いたまま、ちゃんとフォトンランサーを発動できたのである。

「いぃぃぃぃいやったーーーーーー!」

俺はその事実に歓喜して雄たけびを上げた。

『どうかしたのですか!?』

俺の雄たけびに少々ビックリしたのか、水晶が問いかけてくる。

「いや、だってフライを行使しながら他の魔法が使えたんだよ?こんな凄いことは無いよ!」

『そうなのですか?』

「そうなんだよ。魔法使いは発動後維持の必要の無い魔法以外は二種類の魔法を同時に行使する事が出来ないんだよ」

『なるほど』

「だから、君達は凄いマジックアイテムなんだよ」

ひとしきり空中に浮かびながら魔法を発動して、精神力も残り少なくなってきたところで俺は地上に降りてきた。

「はあ、疲れた」

いや、まさかこんな凄いマジックアイテムがあんな怪しい店に眠っているとは。

それをゲットできた事にはブリミルに感謝しても良いかもしれない。

無論、無神論者な元日本人である上に、ブリミルは人であって神ではい。そんな彼に感謝なんてこの世界に生まれてこの方一度もした事無いけれど、今日くらいは感謝しても良いかもしれない。

「やっぱり凄いよ君達は。これからも魔法を使う時に俺に君達の力を貸して欲しいんだけどいいかな?」

『了解しました』

「それで、君達の名前は何ていうの?」

『私達に名前を有りません』

「そうなの?造った人は付けてくれなかった?」

『はい』

「ふむ。だったら俺が付けてもいい?」

『構いません』

さて、どうしようか。

手のひらにある金と銀に輝く水晶。

先ほどから俺と会話しているのが金色の水晶。

会話はしていないがあいづちを打つ様に点滅していた銀の水晶。

金と銀か。

「銀色の君がソル、金色の君がルナ」

『ルナ』

『ソル』

あ、銀色の方が店の時以来始めて喋った。

「気に入った?」

『はい』

答えるルナ。

ソルも点滅しているところを見ると気に入ってくれたようだった 
 

 
後書き
先ずはゼロ魔から始まります。その後いろいろな世界がクロスされていくので、中途半端に話しが終わってしまう事もありますがご了承くださいますようお願いしたします。 

 

第二話

それからしばらくはソル、ルナを右手に、杖を左手に持っての魔法練習に励んだ。

ルナは俺に合わせて魔法を発動してくれるのに対してソルは無口ながらも俺の意思を先読みしたかのように魔法を展開してくれる。

なんだかんだ言って、ソルも自身を使ってもらえることは嬉しいらしく、しばらく使わないで居ると拗ねてしまうのが困りものだ。

そして今、俺はすっかり俺の側に居ることが当たり前になりつつあるソルとルナを机に載せて、自室の机の上で羊皮紙を前に羽ペンにインクを染み込ませ、一生懸命昔の記憶を思い出している。

「うぅーん」

『どうかしましたか?』

俺の唸っている様子をいぶかしんだルナが話しかけてきた。

「うーーん。いや、今のままでも十分に役に立ってくれている君達だけど、俺は君達自身を杖として使うために購入したのだよ」

『はあ…』

ルナの気の無い返事を聞き流し俺は羊皮紙にペンを走らせる。

「やっぱり両手が塞がるのはネックだからね」

前世は同人などで自作本を出したりしていて絵にはそれなりに自信があるため割りと細かく自身の思い描く杖の設計図を完成させることが出来た。

『それは?まるで斧みたいですが、杖なのですが?』

ルナの発言で気づいたと思うが、ぶっちゃけまんまバルディッシュです。

「まあ、ね。
一応ブレイドによる直接戦闘も視野に入れているからこんな形状なんだよ。」

なんて、ぶっちゃけただの趣味ですとは言えませんね。

「ここ、この窪みに君達をはめ込んで杖として使えないかなと」

斧の付け根の部分を指差してルナに説明する。

『しかし、これはまたえらく精巧な形をしていますね。好く描けるものです』

「まあね。俺の数少ない取り得のようなものだよ」

絵を描くのは子供の頃から好きだったからね。

「だけど、これをどうやってつくろうか…。これだけ精巧な物を錬金で作り上げる力は俺には未だないし、かといってこの設計図を見ただけでこれを再現できる魔法使いの知り合いも居ないし…どうした物か」

俺が考えに耽っていると、救いの手はかなり近場からかけられた。

『あの、私達を造った方なら恐らく再現が可能かと思われます』

と、ルナが俺に話しかけてきた。

「マジ?」

『はい。恐らくは。店に売られるまでの道のりは記憶していますので、お会いになるなら案内は出来ると思うのですが…』

「何か問題でも有るの?」

『はい。あの造物主はかなり変わった性格と言いますか、かなり危ない思想の持ち主といいますか、かなり逝っちゃってる感じの人でして…』

「言葉は通じるんでしょう?ならこちらの態度しだいだよ」

『それと、これがかなり重要なことなのですが…』

「何?」

『えっと。彼はその、エルフなのです』

「へえ、そうなんだ」

『あの、驚かないんですか?』

「いや、驚いているけどね、そっか、エルフかぁ」

『あの、マスターはもしかして人間とエルフの確執を未だご存知無いのですか?』

「ううん。知っているよ。ハルケギニアの人間はエルフを恐れ、嫌っているって事は」

『なら何故動じないのですか?』

「それは俺が無神論者でブリミル教だの聖地だのはぶっちゃけどうでも良いと思って居るからね」

俺のその発言にルナは驚いて声が出ないようだ。

それはそうだ。俺の体は今だ5歳を少し過ぎたくらい。

普通の人間なら親の教えを絶対視したり、自身の考えなど持って居ないような年齢なのだから

「まあ、そんな事はどうでもいいよ。それよりもそのエルフの人の所に案内よろしくね」

『…了解しました』

ルナからの了解の返事をもらい、俺は出かける支度を済ませる。

そして俺はこっそり屋敷を抜け出した。

何でこっそり抜け出したかって?

そりゃ会いにいくのがエルフだからです。

俺自身はエルフに偏見を持っては居ないけれど、護衛についてくる大人達はそうは行かない。

恐らく一触即発の事態に陥る事請け合い。

そんな事態を回避するために一人屋敷を抜け出したのです。



フライの魔法で飛び続けること30分。

人気の無い山の方に向かって進んで行きます。

ソル、ルナに補助されたフライの魔法は、周りの風に干渉して風圧を減らしてくれるのでかなりの速度で飛翔する事が可能になっている。

眼下に目的地が見えてきたとのルナの言葉に俺は地上に降り立った。

オラン伯爵領の端の森の入り口にひっそりと立つ古屋。ルナによれば此処が目的地らしい。

「ここ?」

『はい』

それは見るからに怪しい古屋だった。

窓の類は一切無いのに、幾つ物の煙突が小屋のいたる所から突き出し、煙を噴出している。

俺はその光景に少しばかり気後れした物の、勇気を振り絞って扉をノックした。

「すみませーん」

しかし、中からの反応は無い。

俺はもう一度ノックし、さらに大きな声で問いかける。

「すみませーーーーん!」

「何か用か?小僧」

「ひっ!」

俺の掛け声に答えた言葉は俺の真後ろからだった事に俺は驚きの声を上げて振り返る。

するとそこにはローブを深くかぶり、手に麻袋を持った男性がこちらを見ている。

「何か用かと言ったのだが」

俺が驚いて何も答えられずにいた所、ローブの男から再度声がかけられた。

俺は慌てて取り造って話しかけた。

「あの、俺は、アイオリア・ド・オランと申します。此処には先日街で買い上げたマジックアイテムの製作者が居ると聞いて訊ねてきたのですが」

おそるおそる俺は相手を伺うように話しかけた。

「ふむ。しかし私はこの場所を誰にも教えた事は無いはずだが、どうやってたどり着いた」

「あの、人に聞いたのではなくて、彼女達に教えてもらってのです」

そう言って俺はソルとルナを手のひらに乗せ男に差し出すように見せた。

「それは、ほう。気まぐれに私が魔法屋に売ったインテリジェントスフィアか」

「はい。彼女達は此処までの道のりを覚えていたので教えてもらいました」

そう俺が説明すると、男は俺の横をすり抜けて、家の扉を開け、中に入っていった。

それを呆然と見送っていると、中に入った男から声をかけられた。

「何をしている?入りたまえ。私に用が会ってきたのだろう?」

「あ、はい。失礼します」

その言葉に従い俺は中に入る。

中に入るとそこはソル、ルナを購入した魔法屋が可愛く見えるほどのカオスッぷりだった。

あたり一面見渡す限りところ狭しと積み上げられた何に使うものか解らないマジックアイテムの数々、この世界では珍しい製本された魔法書や、幻獣の物としか思えないような角やツメ、鱗など。八割以上が判別する事すら出来ないが貴重な物品が辺りを埋め尽くす勢いで乱雑に置かれている。

俺はそれを踏まないように気をつけながら男の下まで歩いていった。

「まあ、座りたまえ」

そして俺は差し出されたイスに腰掛ける。

男は自分の定位置であろう部屋の隅に備え付けられた机に麻袋を置き、手前のイスに腰掛けこちらを向いた。

「それで?どのような用件でこんな人気の無い山奥まで来たのだ?」

男は未だフードをかぶったまま、俺に来訪の用件を聞いてきた。

「はい。貴方の作った彼女達マジックスフィアを杖として加工したいのですが、私の望むレベルの加工技術を持っている人間は今のハルケギニアを探しても居らず、藁をも掴む思いで貴方を訪ねてきたのです」

少々誇張して事の顛末を説明する。

「ほお。それはかなり私を高く買っているのだな坊主」

「それは当たり前です。今の世界にインテリジェンスアイテムを製作出来る人物が2人と居るとは思いませんから」

「ふむ、そうか。しかし坊主は本当に見た目道理の年齢なのか?その年齢にしては自分の意思をしっかり持っていて、大人と話している錯覚を覚える」

「それは…」

「答えられないか。まあいい。それで?その造って欲しい杖とやらの概要か設計図のような物はあるのか?」

そう問われ俺は設計図を渡す。

手渡された羊皮紙に目を通すフードの男。

「ふむ。これはなかなか面白い。確かにこれを造れるのは自慢じゃないがハルケギニアでは私くらいのものだろう」

「造れるんですか!?」

「ああ」

「本当に?」

「もちろんだ」

男のその言葉に俺は感動に震えた。

「だが、造ってやるとは言っていない」

感動に震えていた俺を正気に戻したのはそんな言葉だった。

「えっと、あの。お金なら払いますから」

「私は余りお金と言う物に執着はしていない」

「えっと…なら」

「私は知識に飢えている。私はこの世の総ての事が知りたいのだよ。だから多くのことを研究し、実験を繰り返している」

「はあ…」

「非人道的な実験も躊躇わずに行って来たせいで国を追い出されたくらいだ。
だが、そんなことでは私の知的欲求は収まってはくれない。」

「えっと。つまりなにを…」

俺の言葉に唇を吊り上げて笑う男。

「君が私の知的欲求に叶う知識を教えてくれるのなら喜んで引き受けよう」

…この人はかなりヤバイ人物なのかもしれない。総ての知識が手に入るなら悪魔とでも取引しそうだ。メフィストみたいに…

だけど、この人を味方に付けられればこれから先多くの物を得られる予感がある。

此処で断られるわけにはいかない。

俺は前世、地球での知識で思いつく限りの事を男に話した。



「ほお、つまりこの世界は平らではなく球形で太陽がハルケギニアを回っているのではなく。このハルケギニアを含む星という球形が太陽の周りを自身も回転しながら回っていると?」

「はい」

多くのファンタジー世界よろしくこの世界も天動説が主流…いやそもそも地動説があるわけも無く、俺の語った事はかなり知的好奇心を刺激されたようだった。

「なるほど、しかしこの大地が丸いとしたら反対側の人は落っこちてしまうのではないか?」

「それは、星には引く力、引力と言う物がありまして」

と、今度は引力の説明。

「なるほど、月の満ち欠けと潮の満ち引きにそんな関係が有ったとは」

しきりに頷いている男。

ひとしきり話した後、俺は切り出す。

「それで、あの…」

「あ、ああ。なぜお前がそんな知識が有るのか気になるが、今は良いだろう。この仕事を引き受ければまだまだ君から面白い話が聞けそうだ。良かろう、造ってやろう。その代わり時々此処に来て私の話し相手になってくれ。
お前の語る話は実に興味深い」

「はあ…」

「そうと決まれば早速その杖の概要をお前の口から説明してくれ。この設計図はかなりの出来だがどういう意図が込められているのか興味がある」

そして俺は杖の概要を説明するのだった。

しばらくすると俺の話から今度は設計図を見ながらなにやら一人の世界に入ってしまったらしく、一人ぶつぶつ言いながら何かを羊皮紙に書きなぐっている。

「メインフレームの金属はこの前偶然開発したミース・リ・ルーギンで魔法増幅効果を付けたして…ブツブツ…」

「あのー」

ダメだ完全に聞こえていない。

しかも今ミスリル銀とか言わなかったか?

良くファンタジーにある魔法増幅効果のある魔法石だろうか?

マジで?

「此処の穴はなんの為に開いているんだ?」

自分の世界に入っていると思ったら突然話しかけられた。

「あ、えっと。それは余剰魔力を排出させるついでに固定化させてフィンのようなブレイドが生成できないかなっと」

「ふむ。それは何か意味があるのか?」

「あ、いえ。見た目…です」

だって、首の付け根部分から生えてるフィンってカッコイイじゃないか!

出来る物なら再現したかったんだよ!

設計図は俺の願望で描かれていて実現可能かどうかは考えてない。

「見た目。ははははは!お前は最高だな!最高に馬鹿だ」

笑われてしまった。

「ふむ、だがそうか…この前の魔力固定化の実験の応用で何とかなるかもしれない。アレをこうして…」

え?マジで!?

何とかなるの!?

…もしかしてこの人はいわゆるバグキャラなのか?

そしてなおも勢い良く書きなぐっていく男、時折頭を掻き毟っているが、その反動でフードが落ちてその顔があらわになる。

慌ててフードを被りなおしこちらをむく。

「見たか?」

「はい」

「驚かないのか?」

「ルナ達に聞いていましたから。それに俺自身はエルフだからといっても必要以上に怖がる必要は無いと思っています」

「そうなのか?」

「はい。それに俺は無神論者なので、ブリミルだの聖地だの何ていうのはどうでも良いんです」

「ほお、邪教徒と言う訳でもないのだろう?面白い、実に君は面白いな」

そう言って男はフードを降ろした。

年齢は人間でいう50歳ほどの初老の男性。

しかしそこはエルフ、長い時間を生きてきた貫禄を感じさせる。

「周りはブリミル教徒ばかりなので、祈りの言葉などは口にはしますが、そもそも神でもないただの人間を信仰するのもどうかと思うので」

「そうか」

「そんな事よりも、貴方の名前をまだ伺っていないのですが」

俺の切り返しに少しあっけに取られたような表情をしてから答える。

「そうだな。ドクター。ドクターと呼べ」

本名は教えてくれる気は無いらしい。

「解りましたドクター。それで杖はどのくらいで完成しそうですか?」

「ふむ。おおよそ二年と言った所か」

「二年!?」

その言葉に俺は仰天する。

「ああ。まずこの基礎フレームに使う金属、ミース・リ・ルーギンを必要量生成するのに1年。更にそれを加工するのに1年かかる」

「そんなに?もう少し短く成りませんか?」

「ふむ。他の金属を使えば3ヶ月くらいで出来るかもしれないが、それだとこのフィン部分の再現が不可能になるぞ?私としてはこんな面白そうな物の作成に妥協するつもりは全く無いのでな。気に入らんのなら他の奴を当たってくれ」

そう言われて俺は、

「…お願いします」

と、頭を下げていた。

だって、この人でしかフィンの再現は不可能っぽいし、この人以上の技術者が居るとは思えないから仕方ない。

「そうか。なら坊主。お前はこれから時間のあるときは俺の古屋まで来い」

「はぁ……はあ!?」

「先ほども言っただろう?私の話し相手になって欲しいと。じゃ無かったらこの話は無しだ」

「くっ…解りました」

こうして俺は暇を見つけてはドクターの古屋に通う日々が幕開けした。

それから一年。俺は魔法の修行をしながらもドクターの古屋を訪れる毎日を送っている。

6歳現在、俺の最高精神量は160、回復量は29%と言った所だ。

そして今、俺はドクターの古屋を訪れてドクターの古屋の掃除をしている。

この一年で俺はすっかりドクターの小間使いの立場となってしまっていた。

ドクター以外に杖…この際デバイスと呼ぶが、それを完成させる事ができる者が居ないので、ドクターの頼みごとを断るわけにも行かず、今日も俺はドクターに言いつけられた掃除に精を出していた。

しかし、片付けても片付けても一向に物品が減っていないように感じるのはどう言ったことだろうか。

片付け始めて既に三日。しかし未だ先は見えず…はぁ。

などと思っていた所、俺は何か円柱のビンのような物を踏んで転んでしまった。

ドシンッ

「いった!?」

『大丈夫ですか?』

「あ、ああ。大丈夫だよルナ」

俺は机の上に置いておいたルナに向けて返答する。

そして俺を転ばしてくれた物体を睨みつけるように確認する。

「いったい何が…」

俺はそれを確認して言葉を呑んだ。

『どうかしたのですか?』

ルナの問いかけに俺は答えない。

何故なら俺はそれを見て思考が停止していたからだ。

ようやくの事で思考を再起動させて改めて目の前のビンを見つめる。

ビンの中に入っているのは保護溶液に入った一対の眼。

それだけを言えばただグロいだけで此処までビックリはしなかっただろう。

しかし俺は今、盛大に驚愕している。

なぜならその眼球には勾玉模様が2つずつ浮かんでいたのだから。

写輪眼。

そう、NARUTOと言う漫画の中で主人公のライバルキャラが持っている特殊な瞳。

何でこんな物が?

その時奥の扉を開けてドクターがこちらの部屋に入ってきた。

「どうしたんだ?何やら大きな物音がしたが…ん?それは悪魔の瞳か」

俺がまじまじと見ている事に気づいたドクターがそれを確認して声をかけてきた。

「悪魔の瞳?」

「便宜上私はそう呼んでいるだけで、実際はどういった物か解らないのだよ」

「あの。これどうしたんですか!?」

俺の剣幕に若干押されながらも答えるドクター。

「それは昔私が国を追われてサハラを横断して此方に来るときにサハラで拾った物だよ。もう一組拾って開封して研究してみたのだがさっぱり解らなかった為、そのままもう片方は放置していたのだが、そんな所にあったのか」

サハラか…

確かサハラにはブリミルがガンダールブの武器になる物を召喚するゲートが今でも開かれていて、たまに場違いの工芸品といった武器がこの世界に紛れ込んでくるんだったか?

まあ…これも武器…なのか?

しかしこれは…明らかに漫画の世界の産物。

これはどういう事だろう。

俺の思考が深みに嵌りそうになっているとドクターからの声でわれに返った。

「ふむ。私にはこれが何か解らないのだが、君には解るのかね?」

ドクターのその質問に俺は若干放心しながら返答する。

「あ、ああ。これは写輪眼。物事を見抜く瞳だ」

本当は忍者における体術・幻術・忍術を見抜きコピーする瞳だ。

「ふむ。しかしそれはどうやって使うのかね?」

そんなの決まっているじゃないか!

て、ああそうか。知ってるわけ無いか。

「それは自分の目に移植して使う物です」

「なるほど…その考えは無かった。何かの生物の眼だとは思っていたがまさか人に移植する物だったとは。しかし残念だな、どうやらそれは子供の瞳みたいだから私にはあわないだろう」

そうなのだ。

この眼球は成人した人間のよりも一回りほど小さいのだ。

いやまあ、俺は生のくり貫かれた眼球なんて見たことはないけれど、ドクターの瞳と比べてみてもやはり一回り小さいと思う。

つまりドクターが言うように子供からくり貫かれたものなのだろう。

これはアレか?

マダラがうちはの眼を幾つも保存していた描写が確か漫画であったような気がするから其処からゲートを通じて流れてきた…とか?

て、ことは最低でもこの世界の他にNARUTOの世界が存在していると言う事か?

「…ぃ…おい、聞いているのか?」

と、俺が自分の世界に入っていた所ドクターは俺に話しかけていたらしい。

「へ?あ、はい」

「そうか?今の『はい』は、了承したと言うことだな?」

「へ?いったい何を?」

「今言ったではないか、お前にこの眼球を移植すると」

は?

いやいやいや。

まて、それは無い。

眼球を移植?

「って?そんな技術がハルケギニアにあるわけが無いでしょう!?」

「いや、私は出来る。昔人体の解剖やら動物実験のやり過ぎで国を終われたのだよ私は」

なんだってー!?

国を追われた理由がそんな事だったなんて聞いてませんでしたよ!?

「いやいやいや、待ってください。だから何で移植なんてする方向に話が行っているのですか?」

「それは私の知的欲求を満たすためだ」

そうだった。この人はそういう人だった!

「ちょちょちょ!ちょっとまって!」

「待たん!」

そう言ってドクターは左手でビンを持ち、もう反対側の手で俺の腕を握り強引に奥の部屋、ドクターの研究室に連行される。

だめだ、こうなってはドクターは止められない。

それはこの一年だ学んだことだ。

暴走したドクターは力ずくでも止められない。

もはや眼が逝ってしまっている。

魔法で抵抗しようにもここ辺り一帯の精霊と契約を結んでいるドクターと真っ向から立ち向かっても負けること必至。

マズイ!

眼球移植からは抜けられそうに無い!

ならせめて…

「あの!ドクター。片目!片目だけで!両目は勘弁!」

くっ!片目を失う危険性は消えないが両目をくり貫かれて失明することだけは回避しなくては!

「そうだな。一気に両目を移植して万が一失敗しては元も個もないからな。良いだろう」

そうして俺は引きずられながらソルとルナの方を助けを求めるように見やる。

しかし2人は沈黙を保ったまま何も反応しない。

どうやら見捨てられたようだ。

そして扉をくぐり研究室に入り扉が閉められる。

ァーーーーーーーーッ

俺が覚えているのは此処までだった。

何故なら水の秘薬で眠らされたから。

どうやら麻酔薬のような物を使用してくれたようだ。

意識のあったまま移植とか…考えるだけで恐ろしい。



眼が覚めると左目に包帯が巻かれていた。

どうやら手術は終わったようだ。

成功…したのだろうか…

「起きたかね」

「っ…ここは?」

そして俺は視界に入った天井を見つめ。

「知らない天井だ…」

「何を言っているのかね?」

いやだってこういったシチュエーションだったら言うでしょ?オタクなら!

余り使う機会のないあの名台詞を!

「まあ、君の奇妙な発言は今に始まったことではないな。
さて、どうかね左目の調子は?」

そう聞かれて俺は起き上がって左目に巻かれている包帯に触れた。

「水の秘薬をもちいて傷は既に塞がっている。包帯をはずしても問題ないはずだが」

その言葉を聞いて俺は巻かれたいた包帯をはずした。

そしてゆっくり左目を開く。

開いた俺の左目はちゃんと景色を写している事に俺は心底安堵した。

「どうだ?見えるか?」

そう言いながら確かめようと近づいてくるドクター。

「はい」

「そうか。…しかしこれはどういったことだ?眼の色は愚か眼球の模様まで消えているが?」

「え?」

その言葉と同時にドクターから差し出された手鏡を受け取り俺は自分の左目を確認する。

するとそこにあったのは日本人として見慣れた黒い瞳だった。

碧眼である俺の右目と日本人特有の黒い左目。

オッドアイとはいえるかも知れないけれど少し不恰好だ。

移植前の写輪眼が勾玉模様と真っ赤な虹彩をしていた所と比べればその違いははっきりわかる。

どういう訳か移植したことで待機状態に移行したようだ。

「それで?それは大丈夫なのかね?」

ドクターが俺に確認してくる。

「あ、はい。恐らく待機状態になっただけだと思いますから」

「ふむ。そうか、では発動は出来るのかね?」

そう言われて俺は実際どうなんだろう?と思っていた。

まあ、とりあえずどうやって発動すれば解らないので取り合えず叫んでみた。

「写輪眼!」

「…………」

「…………」

沈黙が痛い。

何の反応も示さないドクター。

俺は恐る恐る手鏡を覗いてみた。

するとそこには叫ぶ前と何一つ変わらない黒い瞳。

………失敗したらしい。

まてまて、今のは恐らくやり方を間違えただけだ。

叫ぶだけで発動できるわけ無いよね。

て事は発動するのに必要なプロセス、またはエネルギーが要る訳で。

俺は魔法を発動させる時に杖に送る精神力の要領で、瞳に精神力を流し込むイメージを構築する。

そして。

「写輪眼!」

すると今度は瞳が赤く染まり、勾玉模様が2つ浮かび上がった。

「おお!」

成功した事に感嘆の声を上げるドクター。

しかし俺はそれどころではない。

どんどん精神力が削られていっているのだ。

堪らなくなり、俺は精神力の供給をカットする。

「ぜはーっぜはーっ」

肩で息をする俺。

「どうかしたかね?」

「あの、これは物凄く精神力を消費するようです」

「なるほど、強大な力には其れなりの代償が必要と言う事か」

と、一人納得しているドクターを横目に俺は再度意識を手放した。



しばらくして俺が気を取り直すと、既に夕方になっていた。

「起きたか」

「あの?」

俺はどうして寝ていたのかをドクターに問うた。

「ああ、精神力の使いすぎで気絶したのだよ。全く、これからと言う時に気絶してしまって、しかももう夕方だ。帰らねば親御さんが心配するだろう」

「そうですね」

それを聞いて俺は急いで屋敷に帰ろうと身支度を整える。

「待ちたまえ」

そこに声をかけてきたドクター。

「何ですか?」

「ああ。これを渡して置こう」

そう言って渡されたのは1つの小瓶。

「これは?」

「私が開発したフェイスチェンジを行使できる魔法薬だ。その瞳の色では色々問題があろう?」

そういえば失念していたが、今の俺は左目が黒い状態なのか。

…というかもう二度と元には戻らないのだろうけれど、写輪眼が使えるようになった代償だと思えば安い物…なのか?

そして俺はドクターから小瓶を受け取り左目に数滴振り掛ける。

すると見る見る内に瞳の色が黒から碧に変色した。

「ありがとうございますドクター」

「なに。面白い物を見せてもらったし、初めて生きた人間の眼球を移植すると言う快挙を打ち立てたのだ、私は今気分が良い。気にしなくてもいいよ」

ちょっとまて。

今初めてと言ったか?

初めてなのにあんなに自信満々に移植手術をしたと言うのか。

しかも成功させている辺りこのドクターは侮れない。

やはりこの人はバグキャラなのだろうか?

俺は高揚しているドクターに刺激を与えないようにその日は古屋を後にした。




さて、経緯はどうあれ写輪眼を手に入れてしまった俺。

ついにおれにもチート主人公特性がついてきた!これで勝つる!






なんて思っていた時期も在りました。

写輪眼を手に入れてからしばらくの間、俺はその能力の把握に努めていた。

そして解った事が幾つか。

写輪眼発動にもちいる精神力はおよそ一分毎に10といった具合だ。

俺の今の精神力が160。

精神力がフルで溜まっている状態で16分しか使えない。

燃費の悪い事この上ない。

更にそれとは別に魔法を使用するとどんどん使用できる時間が減っていく。

魔法も精神力を使用しているのだから当たり前だ。

今の俺だと魔法を併用しての持続時間はおよそ7分と言ったところか。

しかしそれは精神力が最大に回復している状態でだ。

俺は普段精神力を使い切っていて、一日の回復量はおよそ29%。

つまり一日に使える精神力はおよそ50。

写輪眼を使うだけで5分後には精神力切れでぶっ倒れる。

これに魔法使用を考えると2分を切る。

更にこの写輪眼に困った事が1つ。

父上が魔法使っているところを後ろからこっそり写輪眼でコピーしようと父上に魔法を見せてくれとねだってみたのです。

確かに一度見ただけで相手の魔法の術式を看破できました。

だけどぶっちゃけコピーは出来ませんでした。

いえ、コピー出来ないのではなくて使えないのです。

俺の系統は風なのですが、これは母親譲りで、父親は土のライン。

と言う事は土の魔法であるゴーレムなどを作れるわけですが、コピーしたところで系統違いの俺には使えませんでした。

つまり。

現状この左目の写輪眼はちょっと動体視力のいい眼でしかない状態です。

全く使えねぇぇぇぇ!

失明の危険まで犯して手に入れたのに!

…鬱だ。

それからまた俺は二ヶ月ほどダウナーな生活をおくり、最近ドクターの所に行っていない事を思い出してドクターの所に向かうと、連絡すら寄越さなかった俺にキレたドクターに馬車馬のごとく使い走りにされている内にどうにかダウナー状態から回復するのだった 

 

第三話

あれから一年後。

俺は7歳になっていた。

そしてついにアレの完成の日を迎えた。

「ふむ。完成だ」

ドクターの古屋を 訪れていた俺の耳に聞こえてきたドクターの言葉。

それは二年間今か今かと待ちに待った言葉だった。

「ドクター!?」

俺はドクターに問い詰める。

「そう急かすな」

そうは言われても俺は期待で胸がドキドキしている。

「ほれ」

と、手渡されたてのは小指の先ほどの大きさの水晶の珠。

それはソルとルナに似た水晶だったが大きさが違った。

ソルとルナは手の平大の大きさだ。

しかしこれは小指の先ほど。

「これは?」

ドクターに質問する。

「待機状態だ」

「へ?」

『分かりませんか?』

金色の水晶が俺に話しかけてきた。

「え?ルナ?」

『はい』

「じゃあ、こっちはソル?」

すると何度か点滅する銀の水晶。

「お主の設計図に描いてあっただろう?これを再現するのは骨が折れたぞ」

なんと!?

「風の精霊の力を借りて、その質量を変化させている。変化そのものはルナ達が出来るから、私が居なくてもその状態から元の杖の状態、更にまたその水晶の状態へと戻せるだろう」

おおお!

さすがドクター。

不可能を可能にするバグキャラ!

「ほれ、待機状態から杖に戻してみろ」

「了解しました」

よし!気合は十分。

いきます!

「ゴールドルナ、シルバーソル。セーーーートアーーープ!」

『へ?え?何ですか?その掛け声は!?』

『スタンバイレディ・セットアップ』

するとシルバーソルの宝石を核に質量が変化する。

そして現れる斧を模した魔法杖。

ぶっちゃけバルディッシュなんだけどね!

おれはソルを握り締め感動に打ち震えていた。

『え?もしかして今のはトランスの命令だったのですか!?』

普通はそうだよね。

というかソル!

君は何ゆえ完璧な対応を!?

教えた事は無かったはずだが……謎だ。

「成功だ」

ドクターも満足そうに呟いた。

「凄い!さすがですドクター!」

「当然だとも」

凄い再現率です。

良い仕事をしてます、ドクター。

「それからソル、ルナとも自身の体で在る杖の形状操作は勿論の事、魔法へのアプローチのラインも一本から二本に増やしてある」

「はい?」

「つまり、ソル、ルナとも二つの魔法を同時行使可能だ。君自身の分も加えれば理論上三つの魔法を行使可能だ」

「マジで!?」

「ウソを吐いてどうする。まあ、今の所これが私の限界と言ったところか。とはいってもこれを抜くのは後1000年は出来ないような杖だと自負している」

同時行使魔法が3つ。

これは凄い!

「ドクター!俺魔法の試し撃ちしてきます」

そう言って俺はドクターの古屋を飛び出した。

「待ちたまえ、それは良いがお主、未だ杖との契約をしていないのではないか?」

ドクターが何か言っていたような気がしたが、俺は既に聞こえていなかった。


古屋を飛び出した俺はソルを握り締めて命令する。

ルナは期を逸してしまっていて待機状態のままだ。

「ソル、飛ぶよ」

『フライ』

俺の手から精神力が吸われる感覚と同時に俺の体が宙に浮かんだ。

「フォトンランサー」

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

虚空に打ち出す無数の魔法の矢。

『サイズフォルム』

杖の先端にある斧の部分がスライドし、其処から雷を宿したブレイドの魔法が現れる。

「アークセイバー(偽)」

ソルを一振りして刃を飛ばす。

飛んでいった刃は森に生えている木を二本程切り倒した。

「凄い。今までの杖で使っていた時よりも威力命中とも上がっている」

それにソルを通して周囲の精霊に力を貸してもらっているので、消費する精神力が今までの半分以下だ。

それから俺は暫くの間、空を縦横無尽に駆け回り、魔法を乱射していた。

すると。

『マスター、あちらの方から煙が上がっています』

ソルよ、何時の間に俺をマスターと呼ぶようになったんだ?

というか此処はサーと言うべき所じゃないか?

それはさて置き、俺はソルに言われた方向に視線を向けた。

すると眼に入ってくる黒煙。

それから何かが焦げる匂い。

「あっちの方向って…」

『ド・オランの城下町の方向ですね』

ルナが答える。

「何が起こったんだろう…」

嫌な感じだ…

嫌な予感がした俺は街の方へ進路を変え飛んでいく。

すると見えてくるのは焼け焦げた街の光景。

逃げ惑う人々。

「何だこれ!」

いったい何が起こったと言うのだ?

俺は未だ火の気が残る街に降り立つ。

辺りを見渡すと破壊され尽した町並みに、火災から逃げると言うよりは、それより大きな恐怖から逃げるように走り去る人々。

人々が逃げてきた先を見やると、其処にはゆうに五メートルを越すトロールが姿を現した。

どうやらあれが街を破壊し尽くした原因らしい。

こちらに迫ってくるトロール。

しかし、俺は初めて見たモンスターに驚き、体が動かずにいた。

すると目の前に、逃げ遅れたのか6歳程の金髪の女の子がトロールに驚き、腰を抜かししゃがみ込んでいる。

すると、トロールは手に持っていた大棍棒を振り上げ、少女を叩き潰すべく振り下ろした。

叩きつけられる大棍棒。

少女はどうにか体をひねって直撃だけはかわしたが、叩きつけられた大棍棒で抉れた石つぶてを全身に浴び吹き飛んだ。

『マスター!大丈夫ですか!?』

俺の反応が無かった事を心配したソルの声に俺はようやく正気に戻った。

目の前では吹き飛んだ少女に追い討ちをかけるべくトロールが少女の近づいて行き、今正に少女の止めを刺すべく振りかぶった。

マズイ!

このままでは少女の命が危ない。

俺は意を決してソルを構える。

「ソル!」

『サイズフォルム』

俺の意思を組んで魔法を発動してくれるそる。

こういう時、冷静に対処してくれる相棒が居る事がこんなに頼もしい事だとは思いもしなかった。

俺はソルを振りかぶり、トロールに狙いを定めて振り下ろした。

「アークセイバー」

そして飛び掛っていく魔法の刃。

刃はトロールの振りかぶった腕を切断、斬り飛ばした。

辺り一面におびただしく飛び散るトロールの血液。

俺はそれを見て、自分で仕出かしたことに気が付き、気づいたら盛大に吐いていた。

俺は前世は日本人でこういった非日常的な事なども理論経験した事など無かったし、生まれ変わってからも貴族であった為にこういった誰かを傷つけると言った事をした事など無かった。

それなのに幾ら少女を助ける為とはいえ俺は今、命を奪う為にその魔法を使ったのだ。

理性ではそれを肯定していても、精神がそれに慣れていないのだ。

故に嘔吐感に耐え切れず、胃の中にある物を戻してしまった。

『マスター』

心配そうに声をかけてくるソル。

「すまない、大丈夫だ」

『浄化の風よ』

ソルのその言葉によって発現した魔法によって俺は汚れていた不純物を清められた。

浄化の風。

文字道理、不純物を浄化する魔法。

その効果は身についたありとあらゆる汚れに対して有効で、この魔法を行使すると風呂に入る必要すらないほどに清潔が保たれる、かなり便利だが、実生活においては余り役に立たない魔法である。

それはさて置き、腕を切り飛ばしたトロールを見ると腕を無くしたショックから立ち直り斬り飛ばされた腕から持っていた大棍棒を持ち直し、攻撃したであろう俺を認めると、雄たけびを上げ大股で走りよって来る。

『マスター』

「サンダースマッシャー、いける?」

『勿論です』

俺は術式をソルに任せデバイスを握りなおす。

そして。

「サンダーーー、スマッシャーーー」

今の俺に出来る最大の攻撃呪文。

極大のライトニングクラウドを杖の先から走り寄ってくるトロールに向けて撃ち放った。

直撃して焼け焦げながら感電するトロール。

暫くして魔法の発動を終え、トロールを確認すると未だその場で立ち往生しているトロール。

「マズイな、今のでごっそり精神力を消費したし、これで倒れてくれないと…」

今の規模での魔法をもう一度放てと言われても精神力が足りなくて恐らく発動しないだろう。

此処に来る前にハイになって魔法を乱射していたのが悔やまれる。

ドォォォォン

重そうな音を立てて地面に倒れ落ちるトロール。

「やった…のか?」

『そのようですね』

「そうか」

俺は初めて知性ある生き物を殺してしまったと言う罪悪感に囚われ立ちすくんでいると、ソルから声をかけられた。

『それより、あの子供はどうするのですか?』

「そうだった」

それを聞いた俺はすぐさま少女に駆け寄り、容態を確認する。

「うっ…」

確認した少女の容態は芳しくなかった。

全身打撲にすり傷。

一番酷いのは右目。

石つぶてに当てられたか眼球から血を流している。

これはもしかすると失明は免れないかもしれない。

そうでなくても全身打撲により今にも命の火が消えそうだ。

俺は辺りを確認する。

どうやらこの辺りには既に人の姿はなく、誰の手も借りられない上にこの混乱では真っ当な治療はかなわないだろう。

魔法による治療も考えたが、俺は風の系統であり、治療魔法の本分は水の系統であるため、ここまで大怪我となると今の俺ではどうしようもない。

俺がどうしようか考えていると、ルナから声がかけられた。

『ドクターの所にお連れしたらどうです?』

なるほど!その手があったか。

未だ街をこのようにした原因は分からないが、魔力切れ一歩手前の俺に出来る事など既にあるはずも無く、俺は少女を抱えて飛び上がり、急ぎドクターの古屋へ急ぐのだった。

ドクターの古屋に着くと俺は扉をお構い無しに荒々しく開け放つ。

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

俺が抱えている物が見えているはずなのに質問してくるドクター。

「この子の治療を頼む」

そう言って俺は少女を寝台の上に横たえた。

「何が在ったのか、理由は後で尋ねる事にして、私も子供が死ぬのは忍びない。治療は引き受けよう」

ドクターはすぐさま寝台の方へと駆け寄り少女の診察を始めた。

「全身打撲に擦り傷、一番酷いのは右目の怪我だな」

「治る?」

「水の秘薬を用いれば、打撲と擦り傷は後も残らず癒えるだろう。だがこの右目だけは別だ」

「治らない?」

「水の秘薬を使っても失明は免れんだろうな」

「何とかならない?」

未だ6歳位の少女。

出来れば右眼も治してやりたいが…

「ふむ、確か悪魔の瞳が片方残っていたな。それを移植すれば失明は免れるだろうが、両目を失ったわけではあるまいし、このままでも良いのではないか?」

ドクターの発言に俺は一瞬カッとなってしまった頭を冷やして考える。

確かに両目を喪失したわけでは無い。

中世ヨーロッパのような世界のハルケギニアだ、事故や紛争などで体の一部を失っている人を見かけることもある。

だけど、やはり俺は根本的な所で平和ボケした日本人なのだろう。

体を失うと言う事に耐えられそうに無い。

「それでその子の右目が光を失わずに済むなら」

これは単に俺のエゴだ。

「そうか。解った」

そう言ってドクターは準備に入る。

ドクターに任せておけばこの少女は助かるだろう。

性格はともあれ、能力はずば抜けて高いバグキャラだ。

「後は頼んだ」

俺はそう言い残して古屋を後にした。



古屋を出た俺は一目散にド・オランの屋敷に飛んでいった。

屋敷に着くと、街と同様、煙を上げている屋敷。

俺はそれを見るや否やすぐさま地上に降り立った。

屋敷の中庭に降り立たって辺りを確認すると屋敷邸宅の被害はそれほどでもないが、門辺りの被害が大きい。

いったい何が起きたと言うのだろう。

俺は門へ向かって走っていった。

門に着くと、辺りは爆弾を落としたような穴が幾つも開いており、その所々にトロールの死体が散らばっている。

見渡すと門から離れた片隅に執事やメイドによる人垣が出来ていた。

俺はそれに近づいて声をかける。

「何があったの?」

「坊ちゃま!?」

メイドの一人俺の声に気づき振り返ると、人垣が一斉に此方を向き各々に俺を呼び人垣が割れた。

割れた人垣の先に見えてきたのはその身をおびただしく血の赤で染め上げられた姿で地面に寝かされている両親の姿だった。

「父上!?母上!?」

俺は走りより声をかける。

しかし既に事切れているのは明白で、返事が返ってくるわけもなかった。

「坊ちゃま…」

俺は血で汚れるのも構わずに母の腕を握り執事に問うた。

「いったい何があった?」

その問いにしばらく沈黙のあと、とつとつと執事は語り出した。

俺が何時ものように屋敷を抜け出してからしばらくした後に、街にいきなりトロールの集団が現れ街を破壊し始めた事。

それを鎮圧するためにすぐさま兵士達に呼びかけ、魔法使い数人を伴いトロール殲滅へ派遣した。

しかし、それを見越したかのように屋敷の方にも複数のトロールが現れた。

屋敷には既に父、母以外の魔法使いは出払っていて、執事達を守るために母と一緒に門の辺りで迎え撃ちあらかた殲滅はしたものの、最後数匹にてこずり、精神力が切れた母がついに足を取られ、倒れ込んだところに振り下ろされる大棍棒の一撃を庇いに入った父もろとも吹き飛ばした。

吹き飛ばされながらも父は最期の気力を振り絞り、トロールを絶命にまで追い込んだが、既に致命傷で、母ともども助からなかったらしい。

前世の記憶の在る俺には少し複雑な気持ちだが、それでも優しい両親だった。

俺はその日、この世界に生れ落ちて初めて声が枯れるまで泣きはらしたのだった。



次の日、両親の訃報を聞き、兄が魔法学院から帰郷した。

10歳年上の兄は学院の寮に入っていて、この難をのがれたのだった。

兄が帰郷し、両親の葬儀を執り行う。

直轄の街も被害甚大で、領主の訃報にも駆けつける領民は皆無に等しいが、それでも盛大に執り行った。


それから一週間。

兄はオラン伯爵領の領主引継ぎを済ませた後、執事のセバさんに領地経営を任せ、自分は王宮騎士に志願すべくトリスタニアに行ってしまった。

どうやらこのトロール襲撃事件を裏で操っていた物が居るというのが兄の見解だ。

父は清廉潔白を絵で描いたような人で、汚職を嫌い、何時も不正を正す事を躊躇わず、官僚からの覚えは悪かったのだろう。

今回も宮廷での汚職を告発すべく王都に向かう手前だったのだ。

その直前に現れたトロールを不審に思うのは当たり前だ。

更に、両親が死んだ後、他の住人を攻撃するでもなく直ぐに引き上げて言ったトロールにも疑念がのこる。

兄は事の真相を突き止めるために学院を辞め騎士になり、出世する道を進むと決めたようだ。

屋敷の内部は余り破壊されていない為生活には不自由しないが、両親を失った事による喪失感と、ただ一人の肉親となった兄もこの屋敷を出て行ってしまったことによる寂寥感に俺はさいなまれるのだった。


そんな喪失と寂寥を感じていた俺は、ドクターの所に預けたままの少女の事をようやく思い出した。

俺はこの喪失感を紛らわさせるためにドクターの古屋を訪れるのだった。


ドクターの古屋の扉を開き俺は中に入る。

「ドクター?」

俺はドクターの定位置であろう研究机の方に視線を向ける。

するとそこに机に向い何かを書きなぐっているドクター。

しかしどこか精彩を欠いている。

「あ、ああ。お主か」

机から振り返りこちらを向くドクター。

少しやつれたようだ。

「女の子は?」

「ああ、あっちの部屋に居るよ。体は無事完治した。右目の方も恐らくは見えているだろうとは思うのだが」

うん?何やら歯切れが悪いな。

と言うか未だ此処に居たのか。

まあ、此処から街まで、徒歩だとかなりの距離がある上にドクターはこの古屋を出る事は先ず無い。

ドクターのあの性格から言って送り届けるような事はせずに、追い出すように放り出すものと思っていたのだけれど?

怪訝に思った俺はドクターに聞き返した。

「ドクターにしては珍しく歯切れが悪いですね」

「ああ。どうにもこちらの言葉が通じないらしく、意志の伝達が難しい」

「は?言葉を喋れないのですか?」

「いや、喋れないのではなく、あの子供の言っている言葉が私には理解できないのだよ。今もこうやって彼女が発した言葉からどうにか法則性を見つけようとメモした言葉とにらめっこさ」

さすがドクター。

未知の言語に好奇心を刺激されたらしい。

「奥の部屋に居るから会ってみると良い」

促された俺は、それに従い奥の部屋に通じるドアを開ける。

ガチャ

中に入ると寝台の隅で体育座りでうずくまっている少女を見つける。

「こんにちわ」

俺は取り合えず少女に向って挨拶をする。

しかし少女はこちらに顔を向けて俺を確認するように見つめるだけで、何の返答もない。

「そうか、言葉が通じないんだったな」

だが、おかしいな。

俺は彼女を街中で保護したはず。

それにハルケギニアでの公用語は一種類しか無いので、未知の言語なんて物があるはずも無いのだが…

「あー、困ったな。君はいったいどこから来たんだい?」

俺はそう言って少女に近づく。

すると。

『いや!こっちに来ないで!』

俺が何をするために近づいて来るのかが解らず少女は恐怖を感じたのだろう。少女は拒絶の言葉を発した。

「怖がらないでも何もしやしない。これ以上近づかないから、ね?」

そう俺は安心させるように言う。

立ち止まった俺から発せられた言葉を聞いて少女が答える。

『ごめんなさい。私、貴方が何ていっているのか解らないの…』

「解らないか………ん?」

ちょっと待て、俺は彼女の言葉を理解しているぞ?

まてまて、俺はアホか?

彼女はずっと日本語で話していただけではないか。

って、日本語!?

『日本人?』

『え?』

俺の発したその言葉に少女が反応する。

『君は日本人なのか?』

俺は今度は日本語で語りかける。

ハルケギニアに来て初めて使った日本語。

ちゃんと発音出来ていただろうか。

『貴方は?』

まさか日本語で話しかけられるとは思わなかったのだろう。

少し驚きながら問い返してきた。

『ああ、自己紹介が未だだったね。俺はアイオリア・ド・オラン。君は?』

『神前穹(かんざきそら)』

そう日本語で返した少女。

しかし、彼女の容姿は俺と同じ金髪。

このハルケギニアでは珍しくはない容姿をしてはいるが、日本人の容姿とはかけ離れている。

ここで考えられるのは、俺と同じ転生者かトリッパーと、後は後天的に記憶が混入される憑依か。

まあ、憑依も現実世界に帰れないのだから生まれ変わったのと変わりは無いだろう。

自分を前世の自分と認識するのが遅かっただけで、生まれ変わりと言う説も捨てられない。

原作キャラ憑依はこの範疇ではないだろうが。

『そうか、君は何処に住んでいたの?』

『解らな知らないところにいて、姿もかわっていて。なんか小さくなってたし、なぜか一緒に住んでいた女の人と一緒に暮らしていたんだけど、何を言っているのか解らなくて。それで、いきなり家が燃え出したから外に出たら大きな怪物が出てきて、逃げていたら怪物に襲われて、女の人を見つけたから追いかけようとしたら、怪物に殺されちゃった。そして気づいたらここに』

支離滅裂だが、どうやらあの街に女性と一緒に住んでいたのだろう。

考えるにその女性と言うのは母親か?

『そう。君がここに来てどの位?』

『わかんないけど、たぶん一年位』

一年か。

『じゃあ、君が前に住んでいた所は?』

『日本、此処は何処?日本じゃないみたいだけど、テレビも電話も無いし』

総合すると、少女、神咲穹は一年ほど前に憑依か前世覚醒かしたと同時に此方で過ごしてきた時間総てを失ったのだろう。

そのため、いきなり喋れなくなった我が子にどうして良いか解らず、家に閉じ込められていたらしい。

しかし、あの襲撃の時火災に遭い命からがら抜け出したところトロールに襲われ、その直後俺が助けた。

この世界に来る前は7歳の日本人で、先天性の病で病院で養生中だったらしい。

俺自身もどうだか解らないが、こう言った場合のセオリーとして現実世界では既に死亡しているのだろう。

それから俺はこの世界の事を少女に語って聞かせた。

俺も日本から気が付いたらこの世界に生まれ変わっていた事。

此処は別の世界で日本なんて何処にも無いと。

余りの出来事になかなか受け入れられなかったが、何とか自分の現状を理解してくれたようだ。

『じゃあ私は生まれ変わったっていうの!?』

『ああ』

『もう、パパとママに会えないの?』

『ああ』

一応このままいけばルイズが日本からサイトを召喚するだろうが、その日本が彼女のいた日本であるとは限らない。

あの世界にゼロ魔なんてライトノベルがある訳も無いのだし。俺のいた日本とは違うのだろう。

パラレルワールドと言う奴だ。

と言うか俺の考えではここは無限に漫画の世界が連なっている世界なのではないか?などと最近考えるようになっていた。

でなければ写輪眼なんて物がゲートを通ってくるわけも無いのだから。

『うぇーーーん、パパー。ママー』

ようやく帰れないと言う事を理解したのだろう、少女は関を切ったように泣き出してしまった。

しばらくして落ち着いたソラに話しかける。

『落ち着いた?』

『うん』

『そうか、それで君はこれからどうする?保護者の女性はこの前のトロール襲撃で亡くなったのだろう?』

『…うん』

記憶の融合もなくこの世界に落とされ、尚且つ言葉も未だ覚えておらず、それが原因で家の外には余り出なかったようだから、他の知り合いも居ないだろう。

どうした物か…

このまま街に返しても恐らく碌に生活もできず、生きては行けないだろう。

この世界で初めて見つけた同郷の者。

見捨てることは俺には出来そうも無い。

『家に来る?』

『え?』

『だから俺の家に』

『いいの?』

『ああ、構わない。家に来るか?』

『……うん』

小さな声で返答する。

実際彼女は俺の手をとる以外の選択肢は余り残されていなかったのかもしれないが。

冷静に考えると、美少女を連れ帰るとか…なんかコレ、光源氏みたいだな…

『そういえばこの世界での君の名前は何ていうの?ソラでは無いのだろう?』

『え?うん。ソラフィア。ソラフィア・メルセデスって呼ばれてた』

『ソラフィアか。名前の中に『ソラ』があるね。じゃあ、俺は君の事をソラって呼ぶよ』


『うん』

ソラがそう答えたのを確認して俺はソラフィアの手をとってドクターの居る部屋へ移ったのだった。



ガチャ

「どうだったかね?おや、随分懐かれたようだな」

そうなのだ、部屋から出るとソラは俺の裾をぎゅっと握って離してくれないのだ。

「まあね、それでこの子、ソラは俺が連れて帰るから」

「ふむ。ソラって言うのか。というかどうやって名前を聞き出したのだ?」

「まあ、それはその内。じゃあまた来ます、ドクター」

「そうか、また来なさい」

そういって俺はドクターと別れ、古屋を後にする。

ソラを連れて古屋を出ると、俺はソラにおぶさる様に言い、俺はフライの魔法を行使する。

『え?ええ!?空飛んでいるよ!?』

『あ、ああ。魔法使いなんだから空くらい飛べるよ』

『魔法使い?』

俺は屋敷に向って飛んでいく途中、ソラの質問に答えていた。

『そう、魔法使い』

『それって私も使える?』

『んー。魔法は貴族じゃないと使えないんだ』

『貴族?』

『そ。大きく分けるとこのハルケギニアには魔法を使える貴族と、使えない平民の二種類の人間がいる』

『?』

『つまり貴族の家に生まれ無いと魔法は使えないって事』

『じゃあ私は?』

『えっと…』

どうなんだろう。

住んでいた所はオラン領の直轄地だが。

普通に考えたら平民と言う事になるだろうが、ソラも転生者。

俺と同じで転生テンプレの様に貴族の血縁なのだろうか?

魔法は血で使う物だからねぇ。

と言うか、貴族と平民の子供は魔法の素質は遺伝するのだろうか?

遺伝するとしたら普通に考えて有史6000を超えるハルケギニア。

市井に紛れた貴族や妾の子供なんかの子孫とか大勢いそう。

ならば平民でも多数の人が魔法を使えるんじゃないか?

まあ、考えても仕方ないか。

後で機会があったらドクターにでも聞いてみるか。

それに翌々考えてみればソラフィアのフルネームはソラフィア・メルセデス。

家名が着いていると言う事は貴族かもしくはそれに連なる者なのでは?

『解らないけれど、今度練習してみる?』

『うん』

と、元気の良い返事が返ってきた。


しばらく飛んでいるとようやく屋敷が見えてきた。

『あれがアオの家?』

『そうだね』

『大きい…』

『そりゃこのオラン伯爵領の領主の屋敷だからね』

『ふうん。アオって王子様?』

王子って…ま現実世界ではまだ小学生低学年、しかもほぼ入院生活だったと聞いている。

精神年齢は実年齢相応なのだろう。



屋敷に着いた俺とソラは地面に降りると、未だ使用人総出で修復している門をくぐった。


「坊ちゃま、お帰りなさいませ」

俺に気づいたセバさんがあいさつをしてきた。

「ただいま」

「そちらのお嬢様は?」

俺の袖を掴んで背中に隠れるようにして縮こまるソラを見つけ問いただしてきた。

「この子はソラフィア。今日から此処で暮らすから。世話をしてあげて」

「…かしこまりました」

『ソラ、今日から此処が君の家だ。解らない事があったらメイド…俺に聞いてくれれば良いから』

『…うん』

先ずは言葉を覚えない事にはこの先どうしようもない。

『言葉は俺が教えてあげるから』

『本当!?』

『本当』

それから俺たちは屋敷に入り、ソラの部屋を用意させ、風呂に入り、疲れを癒した。

ソラは風呂を心底嬉しそうに入っていたのが印象的だ。

え?何でそんな事が解るかって?

俺の側を離れたがらないソラが離してくれず一緒に入浴したからですよ?

俺自身もまだこの世界では7歳。十分許されるのです。

まあ、何で入浴が喜ばれたかと言えば、この世界には貴族の屋敷くらいしかお風呂が無いから。

今まで見よう見まねでサウナで汗を流していたそうな。

だから湯船につかれるのは本当に嬉しそうだった。

その後、ソラと一緒に食事を取り就寝。

就寝時も部屋を与えていたにも関わらず俺のベッドにもぐりこんでくるソラフィア。

ようやく見つけた俺と言う言葉を理解してくれる存在を手放したくないと言う恐怖の表れか、それともトロール襲撃のショックからかは解らないけれど、俺に抱きついて眠る安堵した表情を見ると引き離す気は起きなかった。

それに俺も両親が亡くなり、兄もトリスタニアへ出て行ってしまい、急に広く感じてしまった屋敷。

その孤独を埋めるかのように現れた俺と同じ身の上の少女の暖かさを感じながら、俺も就寝した。

 

 

第四話

それからのソラフィアの立場はショックで言葉を失った貴族の子で、この前の襲撃で親を亡くした所を俺が引き取ってきた、と言う事に落ち着いた。

俺は世話をよろしくと言っただけだが、未だにこの世界の言葉を理解せず、俺以外とは会話をしていないソラフィアの様子をみて勝手に使用人たちは納得したようだ。

兄上への報告はどうしよう。

機を見て手紙で報告するか。



言語については俺がマンツーマンでソラに教えている。

この三ヶ月で片言だが基本的な部分については理解してきたようだ。

最初は『コレハ・ナニ・イウ?』とか『コレ・タベル・イイ?』といった具合だが、未だ子供の時分だ、数年もすれば流暢に喋れるようになるだろう。

魔法についてはやはりと言うか、ソラにも才能があった。

この辺は転生者特典と言うところだろう。

俺が魔法を使う度に私も使いたいと言うので杖との契約が出来るか試してみたのだ。

ソルとルナ。完成してからのゴタゴタで、俺は未だに杖としての契約をしていなかったのでソラの前で実演して見せたのだ。

なんで今まで契約していない事に気が付かなかったのかと言うと、あれ以来ソル達を使う機会に恵まれず忘れていたのだ、コモンなどを使う時は前に契約していた物を使っていたしね。

「それじゃ見てて」

「ウン」

「ソル、先ずは元に戻って」

『了解しました』

そう言って待機状態の水晶から斧を模した杖の形へと変形する。

「!?ソルのカタチがカワッタ!?」

最初ソル達を紹介した時は喋る事に驚いて敬遠していたけれど、今ではすっかり仲良しな様子だ。

取り分けソルと違いよく喋るルナとはかなり仲が良いらしく、俺がどうしてもソラに構ってあげれない時などは、ルナを俺から借り受けて言葉の練習に励んでいたりする。

そう言えば、ソル、ルナ共に俺とソラが日本語でやり取りをしているのを聞いた際にどうやってか少しずつ日本語を習得していっているようだったが、まあこの辺りは別にどうと言う事も無いので放っておいても良いだろう。

別に困ることも無いし。

と、話がそれた。

俺は杖との契約の準備に入る。

ルーンを唱え今日の分の儀式は終了。

杖との契約は何日も掛かる大仕事なのだ。

「まあ、こんな感じ。これを数日繰り返してやっと杖として使えるようになる」

さて、どうした物か。

近場で杖になりそうな物は見当たらないし、魔法屋に杖を求めに買いに行かなければならないかな?

「先ずは自分にあった杖を買いに魔法屋まで行かないとかな」

そう言ってソラへ話しかけた。

すると。

「アオ。ルナのホウトはケイヤクシナイノ?」

「へ?どうしてそんな事を聞く?」

「ルナもホントウはソルとオナジヨウな杖ナンデショウ?」

「そりゃソルとルナは若干の違いは在るけれど基本は同型だけれども?」

ソルは近、中距離、ルナは若干遠距離よりの使用だ。

「ワタシ、ルナとケイヤクスル」

「は?」

「イイデショウ?」

キラキラした眼で俺に懇願するソラ。

「う…」

「オネガイ」

「…ルナの意思も聞いてみないと」

『私なら構いません』

な!?

『アイオリアはソルに任せます。ソルにしてみればアイオリアを独占できて嬉しいんじゃないですかね?』

「…そうなのか?」

『………』

「何も言わないが?」

『照れているのですよ。ソルはクールツンデレですから』

なんだってー!?

てかルナ!何処でそんな言葉を覚えたんだ。

『と、言うわけでソラフィア、これからよろしくお願いします』

「ウン、コチラコソ」

そう言って嬉しそうにルナを俺の手から奪っていくソラ。

「解った…ルナはソラに任せる。けど先ずは契約が出来るか試してみないと。出来なかったら魔法は使えないんだからな」

「ウ…ソウダッタ」

その言葉にションボリするソラ。

そしてルナを待機状態から戻し、契約の準備に入る。

その後、ルナと何の問題もなく契約する事が出来たソラは凄く嬉しそうだった。

なんでもやはり魔法少女には憧れる物があったらしい。


それから俺はソラへの言語と魔法の教授が日課になっていた。

言語についてはまだまだだが、魔法についてはコモンについては難なく使えるようになっていた。

「それじゃあ今日から系統別の魔法の訓練に入る。系統については覚えているね」

「ウン」

「それじゃ先ず自分がどの系統か調べないと」

そう言って初級のドットの系統魔法を詠唱してみる。

そして解ったソラの系統。

「風か」

俺と同じ系統。

「ソレッテアオ、オナジ?」

「そうだな」

風ですか。

まあコレばかりは先天性の物だから変えようが無い。

だがしかしコレは考えようによってはかなりアレなのでは!?

バルディッシュに似た杖を持ち金髪で極めつけは奈々さんボイス。

や…ヤバイ!

「ソラ、フォトンランサーを唱えてみてくれ」

「へ?デキナイヨ?マダオシエテモラッテナイシ」

そうだった。

俺はすぐさまソルを起動して構える。

「一度見本を見せるから良く見て置くように」

「ウン」

そして俺は虚空に向って魔法の発動準備に入る。

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

掛け声と共に飛んでいく魔法。

撃ち終り、俺はソラの方を振り返った。

「こんな感じ。んでルーンは…」

ルーンを教えようとして俺はソラの変化に仰天した。

「ソラ!」

「へ?」

急に俺が大きな声をかけてので驚いた表情を浮かべているソラ。

「その眼」

「目?」

ソラの右目が赤く染まりその瞳に勾玉模様が2つ浮かんでいた。

写輪眼。

失明回避のためにドクターに頼んで移植はしていたが、使い方は教えていない。

それが俺の魔法を良く見ようとする余りに発動してしまったようだ。

「熱っ!」

右目に熱を感じたのか手で覆いしゃがみこんでしまった。

俺は急いでソラに近づき抱きかかえる様にして様子を伺う。

「大丈夫だ、落ち着いて意識を右目から外して」

「う、うん」

すると瞬くうちに勾玉模様が消え、いつもの黒目に戻った。

「平気か?」

「ダイジョウブダケド、イマノハ?」

ソラに問われたので俺は答える。

「ソラの右目、話して無かったけれど、左と色が違うだろう?」

「ウ、ウン」

「実はトロールに襲われた時に右目を潰されて使い物にならなくなってたんだよね」

「エ?」

俺の言葉が意外だったのかキョトンとして理解が追いついていないようだ。

「その時ドクターに頼んで失明しないように眼球を他から移植したんだけど、その移植した目がちょっと特殊で、精神力を込めるとそれに反応してああなってしまうんだ」

「ええ!?ソレッテダイジョウブナノ?」

「大丈夫だ」

そして俺も写輪眼を発現させる。

「ソレッテ」

「そう、これと同じものがソラの右目にも移植されている」

「ソウナンダ」

俺にも移植されている事が解って少し安心したソラ。

「ソレトナンダカサッキのマホウをツカエルキガスル」

そう言って立ち上がりルナを構える。

そしてルーンの詠唱を始めた。

そして。

「フォトンランサー、ファイヤ!」

そして飛んでいくフォトンランサー。

「デキタ!」

そう言ってはしゃぐソラ。

一度俺が見せただけで完璧にマスターしてしまった。

やはりさっきの写輪眼でコピーしていたのだろう。

俺は写輪眼の使い方も教えなければと思いつつ、心の中では。

ヤバイ!

キタコレ!

フェイトたん!

これはマジで光源氏計画を!

などと考えていると。

「アラ?」

そう言って急にふら付きはじめるソラ。

「精神力の使いすぎ」

俺はそう言って崩れ落ちるソラを支えると、支えられて安心したのかソラは気を失ってしまった。

俺は気絶してしまったソラを抱えると屋敷に向って歩き出したのだった。



それから二年の月日がたった。

俺は9歳、ソラは8歳になっていた。

精神力は最高値220一日の回復量は38パーセントといったところ。

順調に増えてきている。

ソラも俺には及ばないものの順調に精神力を伸ばして最高値160回復量は29パーセントと言った所だ。

丁度俺と3年分遅れていると言った所だろう。

この頃になるとソラはほぼこの世界の言葉をマスターし、文字の方もあと少しで基本的な所は理解出来るだろう。

魔法の方も順調に増えた精神力で最近ラインになり、ライン魔法の習得に励んでいる。

俺の方はというとトライアングルになった…と言うわけは無く未だラインで燻っている。

ラインからトライアングルへはドットからラインまでとは比べられない壁があるようだった。

まあ、魔法学院に入学している貴族の殆どがドットメイジだと考えるとラインでさえ普通の魔法使いには難しいのかもしれない。

それでも俺は魔法技術の向上に励んでいた。

そんなある日、俺たちはドクターに呼ばれてドクターの古屋を訪れていた。

ソル達が完成した後も俺は思いつきを実行すべくドクターに協力してもらっている。

今日はそれの関係で呼ばれたのだろうか?

「ドクター?」

「ああ来たかね、そこら辺に座ってくれ」

「ドクター散らかしすぎ」

そう言ったのはソラ。

「これでも散らかさないようにはしている積りなのだが」

俺たちは適当に物をどけてスペースを作る。

「それにしてもソラフィアもすっかりこの世界の言葉を覚えたな」

「まあね、俺がこの二年間付きっ切りで教えたから」

ドクターの感心の言葉に俺は答える。

「そうか」

「それで今日呼んだのは?」

「まあ、まて取り合えずこれを飲みたまえ。外は暑かっただろう」

そう言って差し出されるコップ。

「ありがとう」

俺は何も疑いも無くコップに入った水を飲み干した。

すると行き成り体が熱く発汗する。

「ぐああああああっ」

「アオ!?」

心配そうに俺に駆け寄るソラ。

だが俺を掴もうとした手は虚空を掴む。

「へ?」

驚くソラ。

「いったい何を飲ませたんだ?ドクター」

俺は堪らずドクターを問い詰める。

が、どうにもドクターが見当たらない。

何か変だ。

地面が近い気がする。

何だ?

「アオ?」

俺はソラに呼ばれた方を振り向いた。

すると其処に見えるのは大きな足。

巨人が襲来したのか?

いや落ち着け、と言うか現実を認めろ。

恐らく俺が小さくなったのだろう。

「アオ、猫になってるよ?」

はい?

小さくなっただけではなく猫だとぉ!?

両手を見ると其処にはぷにぷにと柔らかそうな肉球。

毛並みはなんとアメリカンショートヘアだ。

背中のバタフライ模様がうつくしい。

「ドクター!?」

俺はもう一度ドクターに問い詰める。

「落ち着きたまえ」

「落ち着けるわけ無いだろう!?」

「どうやったら戻る!?」

「なに、戻りたいと思えば戻れるだろう」

その言葉に俺は気を落ち着けて戻れ、戻れと念じる。

すると段々目線が高くなり、人間の姿に戻れたようだ。

「上手く行ったようだ」

「上手く行ったじゃねえ!?何を飲ませた」

「これだ」

そう言って差し出されたのは小瓶に入ったポーションのようなもの。

可愛く猫のイラストが描かれたラベルが貼ってある。

「それは?」

「お主から頼まれている使い魔のルーンについての研究の副産物といったところか。動物に変身させる変身薬だ」

マジか!?

そんな物がゼロ魔の世界にあるなんて聞いた事も無いぞ?

「ドクターが作ったの?」

ソラはドクターから小瓶をもらい問いかけた。

「ああ、私が研究中に偶然開発した変身薬だ」

「そうなんだ」

「そんな物を俺に飲ませたのか!?」

「ネズミを使った実験は成功している」

「人間には?」

「……」

ぐっ!もしかし無くても俺で実験したなコノヤロウ。

ゴトッ

なんて事を思っていると、隣で小瓶の落ちる音がした。

振り返ると今までソラがいた所に一匹の子猫が居る。

「ソラ!?」

「なぅーん」

可愛く鳴く子猫。

うっ…かわいい。

じゃ無くて!

「目線が低い。ねえ、ドクターこれって着ていた服ってどうなってるの?」

ソラが猫のまま人語を操りドクターに尋ねた。

そう言えば俺はパニクって居て気づかなかったが衣服ごと変身していたし、人語も話していたんだな。

「勿論体の一部として再構成されている、その猫で言うならば体毛の一部になっているだろうよ」

何事も無いように言っているが、この世界の技術レベルを根底から覆しているの本人は気づいているのだろうか?

しばらく猫を堪能したソラが人の姿に戻ったようだ。

「それでドクター?もしかしてこれの為に俺たちを呼んだのか?」

「そうだが?」

しれっと答えるドクター。

「いやあ、君に頼まれていた使い魔のルーン。その研究の間に使い魔になるであろう動物の調査をするのは当たり前だろう?その副産物だよこれらの薬は」

そう言って机の上に並べられる幾つ物小瓶。

その小瓶にはそれぞれ動物の絵が描いてある。

「それは?」

「熱中してついつい幾つも作ってしまった。ただ、どういう訳か幻獣種の変身薬を作り出すことはできなかったがね」

よく見てみると小瓶に貼り付けられているのは猫を始めとして馬や鷲、獅子などの普通の動物達だった。

「へえ」

俺はドクターが並べた小瓶を手にとって確認する。

本当に色々あるな。

幻獣種は無理だったと言っていたが。

む?

その時俺はひらめいた。

俺は手近なビーカーを掴むとそこに獅子と鷲の変身薬を半分ずつ入れてかき混ぜ、それを飲み干した。

薬を飲み干すと体が熱くなり、一瞬溶けたような錯覚の後俺の変身は完了した。

「その姿は」

驚愕の声を出すドクター。

「グリフォン?」

と、ソラ。

そう。俺は今グリフォンへと変身しているのである。

「予想通り」

「確かにグリフォンだな。しかし何故だ?此処にあるのは普通の動物だけのはずだが」

ああ、ハルケギニアにはなまじ幻獣が多数居る為、その固体はそういった一個の生物として捉えているのか。

だが、日本人的感覚から言えばグリフォンなどの一部の幻獣は合成獣。キマイラに近い。

「グリフォンは獅子と鷲を足したような幻獣だから、2つを合わせれば出来るんじゃないかと思って」

そう俺はドクターに答える。

「ふむ」

すると何かを考えている様子のドクターが俺が使った鷲の残りと馬の小瓶を調合し、出来上がったものをソラに渡した。

「これを飲んでみてくれないかね?」

「解った」

ちょ!ソラ!ま……ちませんでしたね…

渡された薬を一気に飲み干すソラ。

そして一瞬ソラの体が歪んだと思うと其処に鷲の頭に馬の体をした幻獣。ヒポグリフが其処に居た。

「成功だ」

悦に入っているドクター。

「どうなったの?ソラ」

「ヒポグリフになっている」

「なるほど」

そう言って自身の体を見渡すソラ。

いや、もう少し驚こう?

暫くして俺たちは人の姿に戻った。

この辺は戻ろうとする自分の意思が関係するらしい。

それからドクターに次々に渡される変身薬。

それは馬と大海蛇でヒポカンポスだったり。

鶏と蛇でコカトリスだったり。

鷹と鹿でペリュトンだったり。

そして極めつけは。

「ふむ、最後にこれを飲んでくれたまえ」

そう言って差し出される小瓶。勿論俺とソラの二つ分。

「これは?」

「オオトカゲと大蝙蝠をベースにその他を勘と思いつきでブレンドしてみた」

えーっと。

まあ元には戻れるし、大丈夫か。

すこし逡巡した後俺はその小瓶を飲み干した。

すると今まで以上に俺の体を駆け巡る何かに耐えると、俺の体は歪み、再構成される。

そして現れたのは銀の鱗を輝かせた全長2メートル(尻尾含む)ほどの小さなドラゴン。

「ド、ドラゴン!?」

流石に俺は驚いた。

「成功だ」

隣りを見るとソラのほうも金に輝く鱗をした小ぶりのドラゴンになっていた。

「ふむ、しかし何だな。そのようなドラゴンは今まで見たことがない。私は新種のドラゴンを作り出してしまったのか。さすがだな」

俺はおそるおそる自身の羽をはためかせる。

ふむ、力いっぱい羽ばたけば恐らく空を飛べるだろう。

そう思って俺はドクターの古屋から外に出た。

「アオ?」

後ろから着いてくるソラ。

「いや、折角だから飛んでみようと思って」

「そっか」

ソラの質問に答えると俺は空を仰ぎ、力いっぱい羽ばたいた。

するとどんどん遠くなって行く地面。

空は魔法で飛ぶことは多々あるけれど、此処まで風と一体になれるように縦横無尽に空を駆ける経験は今までした事が無い。

隣りを見るとソラもその翼を羽ばたかせ追いかけてきたようだ。

「気持ち良い」

「ああ」

ソラの呟きに俺は同意する。

「たまにはドクターも凄い発明をする」

そして俺たちは時間を忘れて空を駆け巡ったのだった。





そして俺たちはそのまま屋敷に帰宅、見つからないように庭に下りるとすぐさま人間に戻ろうと念じる。

すると一瞬で人の形に戻る。

夕食をとり、入浴し、就寝と言う時にそれは起こった。

「はくしょんっ。…ん?」

視線が低い。

なんだ?

俺は辺りを見渡した。

後ろを振り返ってみると其処にはふさふさした尻尾のような物が揺れている。

これはまさか!?

それを見て俺は現状を悟った。

湯冷めしてくしゃみをしたと同時に俺はどうやら猫の姿になったようだ。

「どどどど、ドクターーーーーー!?」

「どうしたのアオ!?」

俺の雄たけびにソラが駆けつけて来た。

「て、猫?また猫になった?」






次の日。

俺たちはドクターの古屋を訪れていた。

「ドクター!?どういう事ですか?」

「はて?」

「昨日の変身薬の事です。あれからまた猫に変身してしまい大変な事になったのですよ!?」

「その事か」

「何でまた変身してしまったんだ?あの薬による変身は一回切りの物だろ?」

「その筈だったのだが…」

「うん?」

「あの薬は双型を与える魔法薬、飲めば何時でも好きな時に飲ん薬の動物になれる代物だったのだが、それは混合せずに服用した場合だ。あの後混同薬を動物に投与したところ元に戻らなくなってしまう固体も現れてしまってな」

「なんだって!?」

「まあ、見たところお主は人間の姿に戻れてるみたいだし問題は無かろう?」

「解除薬は?」

「そもそもお主達が飲んだ変身薬の混合比率をメモしていない上に、複数服用してしまっていて既にどうなっているのか皆目検討も着かんよ。良かったではないか。何時でも変身できるとは、便利ではないかね」

そう言って笑うドクター。

「私も変身できる?」

と、ソラが会話に入ってきた。

「ふむ。昨日の様子から考えるに、戻る時は戻ろうとする意思の力が働いていたようだった。つまり…」

「変身したいと思えばいいの?」

そしてソラは目を瞑り集中し始めた。

すると一瞬からだがブレたかと思うと猫の姿に変わっていた。

「出来た」

なるほど。キーは意思の力か。

まあ、動物に変身できるようになってラッキーと思うことにするか…

こうして俺たちは妙な変身能力を手に入れたのだった。
 

 

第五話

そんな出来事から3年。

俺は12歳になっていた。

魔法のほうも順調な様でそうでもない様な感じで未だトライアングルにはなれず。

最高値280、回復量47パーセントと言ったところか。

ようやく一日で全体の半分の回復量だ。

ソラの方ももラインになり、やはりトライアングルへの取っ掛かりが掴めずに居る。


さて、ここ最近の俺の気がかりは、恐らく居るであろう他の転生者についてだ。

俺、ソラがここに居る以上、他にも居ると考えるのは当然だろう。

そんな時耳にしたのがここ数年で飛躍的ににその領地を繁栄させている貴族の噂。

何でも誰も考えつかないような方法でその領地を豊かにしているそうな。

内政チートオリ主ですね。わかります。

ド・ミリアリア

ここ数年でその領地を繁栄させている領。

そこの長男が鬼才で数々の改革を行い領地を発展させたらしい。

彼自身も四極という二つ名を与えられる魔法の天才らしい。

4系統ともスクウェアレベルまで達した神童だそうだ。

メイドの話に聞くとハルケギニアでは今まで無かった類の日用品の売り出し。

更にそれを平民でも購入できる様に大量生産技術の向上も行っているらしい。

農地の方も一切の休眠期間なく作物を育てているとか。

間違いなく転生者。

それも自分とは比べ物にならないほどにチートぶり。

さて、どうした物か。

彼とコンタクトを取ってみるべきか否か。

とは言え全く何の関わりもない上に、丁度自領から反対側にある。

行くと成れば結構な日にちを有するだろう。

…まあ、同じ転生者だからといって好意的に迎えてくれるとは限らない。

まだ原作開始まで時間はあるし様子見かな…








更に一年が過ぎたある日、俺達はドクターの呼び出しで古屋を訪れている。

「ドクター?」

ドアをくぐり、ドクターに声をかける。

「ああ、ようやく来たか。まあ、かけなさい」

「はい」

返事をして俺とソラはそこらにあったイスを引っ張り出して座った。

「ついに完成したのだよ」

「はい?」

「君が頼んでいたのだろう?使い魔のルーンを任意に刻む事は出来ないのかと」

そうだった。

ブリミルの時代は自分でルーンを使い魔に刻んでいたとったようなことを記憶の片隅に記憶していた俺は、ドクターに頼んで研究してもらっていたのだ。

「まあ、刻めるとは言っても精神力がある生物に限る上に発動自体にも色々制限を設けた上でどうにかだがね」

「それで十分。それに刻んで欲しいのは動物じゃなくて俺自身だしね」

「ほお、人間にか?」

「そう。それに刻んで欲しいルーンはもう決まっているんだ」

そういって俺はドクターの部屋にあった本棚から使い魔のルーンの一覧が掲載されている本を取り出す。

というか、こう言った普通手に入らない本まで手に入れているドクターに脱帽する。

「これ」

ページを捲り、俺はそのルーンを指で指す。

「これは…ほぉ、面白い。良かろう、こちらに来たまえ」

そうドクターは研究室まで移動した。

俺とソラはその後をついて研究室まで入る。

「何処に刻めばいいんだ?」

「左手に」

「そうか」

そして俺は案内されたイスに座らされた。

「ん?」

座らされたイスに腰をかけ腕を肘掛にかけるとなにやらドクターは俺の全身を紐で拘束し始める。

「ドクター?」

その行動をみてソラがドクターに質問する。

「大丈夫だ」

何が大丈夫なのか解らないがどんどん俺の体を拘束していく。

拘束し終えるとドクターは一度離れ、何処からか焼きこてのような物を持ち出した。

「それは?」

恐る恐る俺はドクターに質問する。

「この道具で一文字一文字ルーンを刻んでいくわけだが」

なんだろう、凄く嫌な予感がする。

「恐らく凄く痛いから頑張りたまえ」

そう言ってドクターは俺の左手にその道具を押し付けた。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

痛い。

凄く痛い。

手と言うより魂?が痛い。

「アオ!?」

俺の叫び声にソラが心配して声をかけた。

「ドクター!?大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ」

「でも、水の秘薬で眠らせるとか」

「恐らく無駄だ。これは肉体に刻んでいるというよりその内面。精神や魂と言った物に刻んでいるのだから」

質問に答えながらもドクターはルーンを刻むことを辞めない。

それから一時間、俺は地獄のような痛みを味わった。

最後のルーンが刻まれた瞬間、俺は痛みから解放された事でようやく意識を失う事が出来た。



あれから何時間気を失っていただろうか。

俺はようやく意識を取り戻した。

気が付くと俺はベッドに寝かされていた。

ドクターが運んだのだろか。

「気が付いた?アオ」

ベッドの側で看病してくれていたソラが声をかけて来た。

「体は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「起きたかね」

ドアを開けてドクターが入ってくる。

「無事ルーンは刻めたと思うのだが」

おれは左手を確認する。

「本当だ」

そこには確かにガンダールヴのルーン。

「伝説の使い魔ガンダールヴその効果はいったいどんな効果なのだろうね?」

ドクターが興味深々に聞いてくる。

「ガンダールヴは総ての武器を使いこなす」

「武器?」

俺はソルを起動して左手に持ち直す。

すると光輝くガンダールヴのルーン。

俺はベッドを抜け出し、ルーンで強化された肉体で高速の動きでドクターの背後に回りこむ。

「興味深い。なるほど、神の左手か。だが私たちエルフにしてみれば聖者アヌビスと言ったほうが親しみが深い。もはや確かめようも無いが、その輝く左手。恐らく同一と考えて間違いないのだろうね」

と、其処まで聞こえたところで俺は再び意識を失った。

「アオ!?」

「ふむ、精神力の使いすぎで気絶したようだ。恐らくルーンの発動に自分の精神力を多大に消費したのだろう」

その日、二回もの気絶に見舞われた俺は、次目を覚ました時は既に翌朝だった。

俺とソラが屋敷へと戻らなかった事で、屋敷は大慌て。

しばらくの外出禁止が執事から言い渡されてしまった。




痛い思いをして手に入れたガンダールヴのルーン。

これで俺は最強オリ主に!

と、思ったが。やはり俺には最強属性はついていなかった様だ…

使ってみて解った事だが、ガンダールヴ(偽)を使用中、精神力を毎分10ずつ使用する。

更に発動中は左目に埋め込んだ写輪眼まで強制発動。

つまり毎分20の精神力が削られていく。

俺の精神力の最高値は300.

つまり何もしなくても俺は15分後には精神力切れでぶっ倒れる。

しかしそれは最高まで回復していての状態。

普段の精神力は150ほど。

さらに魔法使用も考えるとやはり3分が限度。

くそう…

せめてもの救いはルーンの発動条件が左手で触る事だという事だろう。

本物のガンダールヴと違い左手で武器を触って居なければ発動しない。

良かった…

これで右手で触れても発動されていたら俺はこれから碌に魔法を使えないところだった。

ただしこれから魔法を使う時は右手一本で使わなければ成らなくなってしまったが…

鬱だ…

俺は例によってまた二ヶ月ほど引きこもったのだった。



それから更に二年。

原作開始まで残りおよそ2年。

15歳になった俺は最大のピンチを迎えていた。

二次成長を迎え、どんどん女らしくなって行くソラ。

しかし、未だに一週間に一回のペースで俺のベッドに潜り込んでくる。

精神年齢はともかく、実年齢は思春期真っ盛りの俺。

ぶっちゃけ堪らんです。

前世はアレだった為にこうして魔法使いとして転生してしまった訳だが、興味が無いわけではない。

しかも年々美人になっていくソラの女の香りに当てられて俺の理性は崩壊寸前。

今日も俺の横で無防備に眠って居るソラ。

俺が精神力を総導入して本能に逆らっていると、隣から囁きが聞こえた。

「無理しなくても良いのに」

ソラのその言葉に俺は今まで耐えてきた理性が崩壊してしまった。


しばらくして俺はようやく冷静さが戻ってきた。

やってしまった。

今も俺の横で眠っているソラ。

しかしベッドのシーツには紅い染みが…

「俺は…俺は何てことを」

そう呟いた俺の独り言を部屋の隅に置かれて一部始終を見ていたいたルナが、

『アイオリアはマスター(ソラフィア)の策略にまんまとはまってしまったのですね』

『策略?』

ルナの隣りに置いてあったソルが聞き返す。

『マスターはどうやってもアイオリアを手放す気は無いようです』

『………』

「俺は…俺は!」

こうして夜は更けていった。



さて、そんなこんなで更に一年が過ぎ、俺は16になっていた。

ようやく俺とソラも努力の甲斐もありトライアングルにレベルアップしていた。

足せる系統は 風・風・風だ。

予定ではこの年ルイズが魔法学院に入学するだろう。

俺も年齢的には学院に通う年齢だが、俺は入学を遅らせていた。

入学年齢が決められている訳ではないのも有るが、一番は無闇にルイズに近づかない方が賢明だろうと判断したからだ。

俺だって物語の推移を間近で見たいという欲望は有るが、それ以上に物語を壊すべきでは無いと思ったからである。

俺は最強オリ主ではないのである。

更に言えば俺が前世で生きていた頃、未だにゼロ魔が完結していたわけでは無かったのもある。

なんか世界の滅亡何ていう事までスケールめで話しがでかくなっていた様な気がするが、詳細は知らないのだ。

もしも俺が関わることによって世界が滅亡してしまうような展開になってもらっては困る。

主人公達がきっと上手く滅亡を回避してくれるだろう。

俺はそれに直接関わらず、オラン領の端でソラとのんびり、しかし少しのスパイスのある日常が送れればいいかななんて思い始めている。

日々平穏。これが大事だよね。


しかし、その選択で1つ忘れていた事に気が付いたのは更に半年が過ぎた頃だった。

そう、俺とは違い正にチートオリ主がルイズと同じ時期に入学していたのだ。

それに気が付いたのは偶々王都から届いた兄からの手紙からだった。かのミリアリアの神童が魔法学院に入学したと近衛ではもっぱらの噂だそうだ。

主人公組と同時期に魔法学院に入学するなんて…

余り原作から反れた事態にならなければいいけれど…

それすらも近くに居なければ解らない事か…

取り合えず俺は来年の魔法学院の入学を決めるのだった。 

 

第六話

翌年、俺とソラは魔法学院に入学した。

慣れない寮生活に戸惑いながら何とか暮らしている。

この学院に入ってすぐさま見に行ったのはルイズの側に居るであろうチートオリ主。

名を、マルクス・ド・ミリアリアと言う。

こいつは最早疑いようも無く転生者だ。

何故なら平民を見下したりせず、この一年でちゃっかり食堂のマルトーさんと仲良くなっている。

良くある転生主人公のテンプレ的行動だ。

更に4系統全部スクウェアという有り得ない才能。

正に最強オリ主ですね。

顔の造形は言うまでも無く美形。

しかもコイツは失敗ばかりのルイズの魔法を失敗ではないと励ましている。

あー、もう。勘弁してくれ。

原作が壊れたらお前責任取ってくれるのかよ!?



入学からしばらく過ぎ、ようやく原作開始の時期が来た。

そう、二年生による、春の使い魔召喚の儀式である。

俺はこの学院に来るに当たってソラにこの世界のことについて全て話した。

ここがアニメや漫画の世界であるかもしれない事、そしてこれから起こるであろう事を。

記憶の書き出しなどを行わなかった俺は既に所々…というか大幅に抜け落ちていて、あらすじのような物しか覚えていなかったが覚えている限りの事を話した。

話し終えるとソラフィアは、

「それで?これからどうするの?」

とだけ聞いてきた。

「出来れば主人公達には関わらずに遠くからあのオリ主野郎が原作ブレイクしないように見張ると言った所か」

と告げるとソラは俺に協力してくれるようだ。


俺達は授業を抜け出し、ついに始まる召喚の儀式を猫の姿になって盗み見ている。




次々に召喚をして行く二年生達。

猫やオウム、蛇やカエルなど多数の使い魔が召喚される。

噂の四極のマルクス、つまりチートオリ主は大火竜を呼び出してたようだ。

背の高さが普通の竜の二倍ほどある。

ソルがあの火竜から感じる精霊の力の大きさを訴える。

恐らくオリ主特典で韻竜だろう。

どこまでも羨ましいやつだ。

召喚儀式も終わりが近づき、ルイズの番になり詠唱が開始される。

そして…

「私は心より求め訴えるわ、我が導きに答えなさい」

ドゴォォォォオン

爆発。

ルイズがサモンサーバントを使った結果、爆発したようだ。

煙が晴れるとそこに現れる人影。

横たわっている所を見ると気絶しているらしい。

この世界では見かけない服装。

俺にとっては懐かしくもある。

あれはサイトで間違いないのであろうか?

ぶっちゃけ二次元を三次元に置き換えられると最早キャラの判別なんて出来ません。

黒い髪や衣服などで日本人だろう事は間違いないが、サイトでない可能性も捨てられない。

俺やソラと言うイレギュラーがこの世界に居るのだ、多くの二次SSみたいにサイト以外のオリ主が召喚されたとも限らない。

しばらく様子を伺っていると、言葉の通じない少年に無理やりコントラクトサーヴァントを行使した。

つまりキス。

慌てふためく様子を見るにアレはサイトで間違いないようだ。

そして使い魔のルーンがその手に刻まれる事によってもがき苦しむサイト。

あー。

「あれは痛い」

俺は自身の左手をさすりながら呟いた。

そしてどうやらサイトは痛みで気絶したようだ。

このやり取りをみるに、うろ覚えだがこの展開はアニメか?

忘れたけど…

そしてルイズに近づいていくマルクス。

マルクスはルイズを励まし、その後レビテーションをサイトに掛けてやり、ルイズの部屋まで運んでいった。

俺は取り合えずサイトが召喚された事に安堵を覚えた。

これが別作品のキャラやサイト以外で原作ブレイクしたいオリ主だったら目も当てられない。

召喚の儀式も終えたので俺達はこっそりと自身の寮に帰る。

何はともあれついに原作が始まったのだった。



翌日食堂に行くとサイトを連れたルイズがやってきた。

朝から豪華な朝食を前に喜色満面なサイト。

しかし。

「ここに座れるのは貴族だけよ、平民のあんたはそっち」

ルイズが床を指差して言った。

「そんな」

そのやり取りを横で見ていたマルクスが嗜める。

「まあまあ、ルイズ。使い魔と言っても彼も人間なんだから、そのような扱いはどうかと思うな」

「マルクス…」

ルイズがたしなめられて言葉に詰まっている。

しかし、その声にはマルクスへの信頼が感じられる。

「サイト君だったか。ここでは何だから厨房に行ってみるといい、料理長のマルトーさんに俺から聞いてきたと言えばちゃんとした食事を与えてくれるはずさ」

「本当か!此処に来てからどうにも貴族って奴はえらそうな事ばかりいう奴で好きになれそうに無かったけど、あんたは別だ。
好きになれそうだぜ。俺はサイト。あんたは?」

「な!何あんた貴族になれなれしく名前なんて聞いているの!」

「いいじゃないかルイズ。俺は気にしないよ」

「でも」

「俺の名前はマルクス。マルクス・ド・ミリアリアと言う。マルクスでいいよ。よろしくね」

「ああ、こちらこそ」

そう言ったやり取りの後、サイトは食堂を出て、厨房の方へ歩いていった。

うん。

ルイズをたしなめサイトの好感を得る。

もう、これ見よがしに完璧なオリ主の行動に俺は内心何故俺はあの位置に居ないんだろうと思いながらも失笑を禁じえませんでした。

テンプレ乙。


食事を終えると二年生は召喚した使い魔とコミュニケーションを取るべく学園の庭でお茶会を開いている。

俺は今日も猫に変身してその光景を観察している。

隅の方で観察していると頭上から俺に声が掛けられた。

「あら、こんなところで使い魔を一人にして置くなんて。いったい誰の使い魔かしら?」

上を向くと赤毛のボイン…キュルケが俺を見下ろしている。

「ご主人様とはぐれたのかしら?私が連れて行ってあげるわ」

そう言って俺を問答無用で抱き上げる。

キュルケに抱き上げられて連れてこられたテラスで俺はキュルケの膝の上に乗せられている。

「あなた、いったい誰の使い魔なのかしら?それとも野良?」

そう話しかけながら俺の毛並みを撫でている。

ヤバイこれは気持ちいい。

は、いかんいかん。目的を忘れるな!

サイトの方をみると、原作通り給仕の真似事をしている。

その後ギーシュとのひと悶着の後原作通りサイトとギーシュの決闘という展開になった。

その騒ぎの乗じて俺はキュルケの元を離れ、人型に戻る。

その後ヴェストリの広場に集まる生徒達。

と言うか三色のマントが混合している所を見るに授業はいったいどうなっているのだろうね…

俺も人型で事態の推移を確認できるからいいけれど。

騒ぎを聞きつけてソラもヴェストリの広場にやって来た。

「アオ…」

隣に居るソラが心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫、サイトは勝つよ」

「そう」

勝つだろうけど勝ち方までは保障できない。

何ていったってあのオリ主野郎が居るのだから。

テンプレ的展開ならば恐らく…

「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」

「誰が逃げるか」

ギーシュの物言いに威勢良く応えるサイト。

「さてと、では始めるか」

そう言ってバラの形をした自身の杖を振るうと、花びらが1つ零れ落ち、一体の青銅で出来た戦いの女神、ワルキューレがその姿を現した。

「な、なんだこりゃ?」

目の前に現れた予想もつかなかった物体に慌てふためくサイト。

「僕はメイジだ、だから魔法で戦う、よもや文句はあるまいね」

「て、てめえ」

不利を悟ったのか少し萎縮するサイト。

しかし。

「待ちたまえギーシュ」

その会話に割り込む奴が居た。

「なんだい?マルクス。よもや止めるつもりかい?」

そう、オリ主、マルクスだ。

「いいや、だが相手は丸腰の平民。それを一方的にいじめるのはどうかと俺は思うがね」

「ふむ」

「だからここは彼に平民の武器を与えてやっても良いのではないか?」

マルクスの言葉に少し考え込むギーシュ。

「それもそうだね」

そう言ってバラを一振り。

すると一振りの剣が現れる。

いやここは別に干渉するところじゃなくね?

サイトは怪我しないかもしれないがルイズとの仲も進展し…なるほど。

そういう訳か?

「その剣を掴んだら決闘開始だ。よく考えてその剣を掴みたまえ」

現れた剣をサイトは何の躊躇いも無く握る。

その後の展開は語ることも無い。

ガンダールヴのルーンを発動したサイトがギーシュのゴーレムを切り刻み、追加で出した6体のゴーレムすら瞬殺。

ギーシュに剣を突きつけて決闘終了。

その後ルイズが「ちょっとだけ見直したわ」とか言っていたような気がするが、そんな事は些細なことだ。


今の所は原作と大きな食い違いは無い。

だが、あからさまに原作に介入しようとしているマルクス。

こいつの行動如何によっては原作ブレイクも大いにありえる。

これは、これからも様子を伺う必要がありそうだ。


それからも学院で見かけるサイトの扱いは酷い物がある。

鞭は振るうわ、頭を踏みつけるわ、虐待もいい所。

まあ、本人にしてみれば人間ですらなく使い魔と言う事なのだろうが。

ライトノベルやアニメならば笑って見ている所だが、実際それを目の当たりにするとアレに惚れる奴の気が知れないくらい傲慢だ。

まあ、アレが普通の貴族の対応なのだろうけれど、元日本人としてはアレは無い。

恐らくサイトはルーンの効果と度重なる重度の危機によるつり橋効果でもあってあのルイズに惚れたと勘違いしたんじゃなかろうか?

様子を伺うにキュルケはサイトに興味を持ったようだ。

キュルケならマルクスに興味があるだろうと思っていたが、マルクスがキュルケ本人には余り興味が無い様子。

むしろタバサにモーションを掛けている素振りがある。

このロリコンめ。

現実世界ではタバサは俺の嫁とかいってたに違いない。


決闘騒ぎのあった最初の虚無の曜日。

朝早くからルイズとサイトが馬に乗って出かけていった。

おそらく王都まで剣を買いに出かけたのだろう。

なぜかマルクスも馬で併走しているのが気になるが、まあ、デルフリンガー入手は大丈夫だろう。

過去、俺も買いに行こうか迷ったけど我慢したしね。

恐らくマルクスもそんな愚行には及ぶまい。

しばらくするとサイトたちを追う様に風竜が飛んでいった。

恐らくキュルケとタバサだろう。

これでフーケフラグは成立したか?



その夜俺は自室で休んでいると、

ドゴンッ

遠くで壁を壊す音が聞こえてきた。

ルイズの爆発だろうか。


翌朝、職員全員と現場に居合わせたルイズ、キュルケ、タバサ、サイトそして恐らくオリ主パワーで居合わせたであろうマルクスを宝物庫に集め、オスマン学院長から宝物庫があらされ中にあった破壊の杖が盗まれた事が皆に告げられた。

俺はこっそり、又しても猫に変身して何食わぬ顔でその場に居合わせる。

教職員の罪の擦り付け合いから現場にいたルイズ、キュルケ、タバサ、マルクスの4人(サイトは使い魔なのでカウントされない)に事情を聞いている。

そんな時、オスマンの秘書であるロングビルが駆けつけた。

朝起きると宝物庫が荒らされていることに気づき、調査に出て、フーケと思しき人影の目撃証言を入手したそうだ。

黒ずくめのローブが此処から馬で4時間行った所の小屋に入っていったと近在の農民に聞いたとか。

いや、無いだろう?

気づけよ!

小屋の近くに居た農民に聞いたのなら馬で4時間の距離を朝から往復で8時間だぜ?

しかもルイズもルイズで。

「黒ずくめのローブ?それはフーケです。間違いありません」

とか言っちゃってるし…

アホでしょう?

黒ずくめのローブだけでフーケと決め付けるとか…

是非とも日本の推理小説をお貸ししたい。

…持ってないけど。

いかんいかん、俺はSEKKYOUを垂れるような人間には成らない!

その後、原作通りルイズ、キュルケ、タバサ、サイトの4人と、マルクスとロングビルを含めた6人で破壊の杖の奪還任務に着く流れとなった。


ルイズたちは馬車に乗りフーケを追っている。

俺とソラはドラゴンに変身して空からそれを追いかけている。

『マスター、もう少し高度を上げたほうがよろしいかと』

「どうかした?ソル」

『後方から風竜が一匹、此方に向けて飛んできています。恐らくあの青い髪の子の使い魔かと』

「あー、シルフィードね、了解。ソラ、いける?」

高度を上げても問題ないかと問いかける。

「大丈夫」

「解った」

そして俺達は一度高度をあげてシルフィードをやり過ごしその後ろを追いかけた。



何度か休憩を挟みながらルイズ達の後を追うこと4時間。

ようやく件の小屋が見えてくる。

俺とソラは猫に変身して林の陰に隠れて様子を伺う。

偵察のため剣を引き抜き小屋に近づいていたサイトがルイズ達と合流後、サイト達は小屋の中へ入っていく。

ルイズは見張りの為に小屋の外で待機のようだ。

それとは別に小屋から離れていく人物が居た。

ロングビルことフーケである。

折をみて巨大なゴーレムでけしかけるのだろう。

しばらくすると巨大なゴーレムが現れ小屋を襲った。

行き成り現れたゴーレムに慌てふためくルイズ達。

キュルケ、タバサは何発か魔法を当てた後、不利を悟ってシルフィードに跨り空へと退却。

ルイズはここぞとばかりに慣れない魔法を行使しようとルーンを唱えるがやはり失敗。

襲い掛かるゴーレムの攻撃から間一髪でサイトが助けに入り、そのままルイズは助けに降りてきたタバサの風竜に乗せられた上空へ。

「マルクス!サイト!」

風竜に連れられながらルイズは叫ぶ。

マルクスはサイトと一緒に地上に残ったようだ。

「悔しいからって泣くなよ馬鹿、何とかしてやりたくなるじゃねえかよ」

サイトが剣を構えゴーレムをにらめつける。

「本当だね」

同意するマルクス。

「何か作戦はあるか?」

サイトがマルクスに問う。

「そうだな、でかいの一発お見舞いしてやるから前衛を頼めるかい?」

「へ、了解」

了承の言葉と共にサイトはゴーレムへ掛ける。

その場に立ち止まりルーンの詠唱に入るマルクス。

上空では破壊の杖を持ち、タバサにレビテーションを掛けられて降りてこようとしているルイズ。

しかし。

「サイト君どきたまえ」

「おう!」

素早く距離を取るサイト。

「アルティメットフレア」

振られた杖の先から強大な炎の渦がゴーレムに直撃、跡形も無く消し飛ばす。

その爆風は凄まじい。

火・火・火・火のスクウェアスペル。

しかも使い手が尋常では無いためその威力は他の者が使うよりも遥かに強大だ。

その爆風に煽られ落下途中だったルイズはタバサのレビテーションの効果を途切れさせられて飛んでいく。

マジか!?

さすがにあのまま地面に叩きつけられたら死ぬような高さだぞ!?

タバサ達も爆風に煽られて体制を崩してしまってとてもルイズを助けるのに間に合わないし、サイトとマルクスは爆煙で見えていない。

俺は一瞬でドラゴンの姿になり空中を駆る。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

絶叫を響かせて落下していくルイズ。

俺は何とか空中でその身を掴み、地面との激突を回避する。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁっえ?」

地面との激突に恐怖していたルイズが何かにつかまれた事を感じ確認しようと後ろを振り返り、俺を見た。

ルイズが手放した破壊の杖は同じく飛んできたソラがキャッチしている。

俺は爆煙が張れる前にルイズを地面に無事に着地させる。

「銀色のドラゴン…」

ルイズの洩らしたその言葉にしまったと思いつつも、粉塵に紛れながら後退し、一瞬でその姿を猫に変えてその場を眩ました。

一体破壊されても諦めずに再度練成されたらしいゴーレムがまたもやサイト達を襲っている。

「っは、いけない。私はアレでゴーレムをやっつけるんだから」

ソラが置いていった破壊の杖を持ち、ゴーレムに飛び出していくルイズ。

その後の展開はほぼ原作通り。

使い方が解らないルイズからサイトが破壊の杖を取り上げ、発射。

崩れ落ちるゴーレム。

戦いが終わり、現れるロングビル。

そして破壊の杖を奪い、自身がフーケであると打ち明ける。

構えられた破壊の杖事ロケットランチャー。

サイトは単発と知っているゆえ怖がらず、フーケに近づき剣の柄で当身をして気絶させて一件落着。

「それにしても、よく無事だったわねルイズ」

と、キュルケが話し出した。

「何かあったのか?」

マルクスがキュルケに聞き返した。

「貴方の凄い魔法で落下途中のルイズが吹き飛ばされてしまったのよ。タバサも魔法の制御が効いていないようだったし」

キュルケの言葉にこくりと頷くタバサ。

「それは!?すまなかったルイズ。そんな事になるとは思いもよらず」

「え?ええ。大丈夫よ。銀色のドラゴンに助けてもらったから」

「銀色のドラゴン?」

いぶかしむキュルケ。

「一瞬しか見れなかったけど凄く綺麗な銀色だった」

「銀色ねぇ。そんな色のドラゴンなんて居たかしら?」

ルイズの返答に更に疑問を感じているキュルケ。

「マルクスはどう思う?」

「……え?あ。そんな色のドラゴン今までに確認されていないね……なんだ?銀色のドラゴンなんて知らない。イレギュラーか?」

最後の方は小声でそう洩らすマルクス。

「まあ、何はともあれフーケを捕まえて破壊の杖を取り戻したんだ。万々歳じゃないか」

サイトが細かい事はいいじゃないかと皆に言った。

「そうね」

そうして破壊の杖をめぐる事件は解決した。


しかし、問題はやはりあのオリ主野郎。

確かに俺やソラでは到底出来ないような威力の魔法だった。

四極という二つ名に恥じない物だっただろう。

だが!あの場面で使う必要は無かった。

本来居ないはずの人間がでしゃばり、流れを変えてしまった事で、ルイズが死ぬかもしれない事態に陥った。

俺が飛び出さなければルイズは死んでしまっていたかもしれない。

死なないまでもあの高さからの落下だ。

無事で済むはずも無い。

これは早急にマルクスを排除してしまわないとマズイ事になるかもしれない可能性が出てきた。

しかし、魔法の才や爵位などの関係で俺が奴を排除する事は難しい。

更にルイズやサイトといった主人公組のハートをキャッチしてしまっている点も捨て置けない。

現状打つ手は無いに等しい。

俺はまま成らない物だと憤りを感じながら、これからの事を思うと頭痛がする思いだった。 

 

第七話

学院に戻ると、ルイズ達は学院長室へ呼び出されている。

俺の記憶が確かならガンダールヴがどうのこうの、サイト自身の事の説明やなんやかんやがあるのだろう。

それらが過ぎて夜のフリッグの舞踏会。

俺はソラを伴って会場入りした。

目いっぱいドレスアップしたソラのその姿は歩く度に男どもの視線を吸い寄せる。

隣りを歩く俺は優越感に浸りながら会場を歩き舞踏会を楽しむ。

…楽しんでいるのだが、ソラが俺の側を離れないため、俺はパートナーを変えることが出来ずその日はずっとソラとパーティーを楽しんだ。




その日から暫く経ち、一時は上昇したサイトの扱いがまたしても急下降している。

ついにルイズによるサイトの犬扱いが始まった。

所構わず躾けと称して常備している鞭を振るっている。

現代日本だったら既に警察に捕まっているレベルだ。

それでもそれを受け入れているサイトはMの素質があるとしか考えられない。


その日、俺はいつものようにソラと教室の隅で目立たないようにして授業を受けていた。

普段の俺達は華美な装飾は着けず地味な教室の花…というより野草?のように目立たず、ひっそりと空気のようにクラスに溶け込んいる。

俺もソラもトライアングルクラスのメイジだが、そんな事は重りでしかないため普段はドットを装っている。

ラインメイジである同級生が幅を利かせているような状況でトライアングルですなんて、諍いの元でしかない。

空気のように目立たないようにしているのは、教室を抜け出しても誰も気にしないようにするためだ。

何かあったときの為に俺は出来るだけマルクスを監視できる立ち位置に居たいのだ。

ここに到って去年、原作と関わらないように同学年を避けた事が悔やまれる。

まあ、そんな感じで授業を受けていると、行き成り今日の授業は中止だとコルベール先生が教室を回りながら伝言を伝えてきた。

どうやらトリステイン王国皇女であるアンリエッタ姫が隣国ゲルマニアの視察から戻る際にこの魔法学院に立ち寄ったらしい。

俺はアンリエッタ来訪と言うキーワードでついに来たかという思いだ。



俺も一度部屋に戻り、正装して、学院の門へとおもむき整列する。

するとやってくるユニコーンに引かれた馬車。

その窓から手を振っているアンリエッタ姫殿下が見える。

その近くで馬車を守るように併走するグリフォンに跨った男。

羽帽子と長い口ひげを見るにあれがワルド子爵か。


その日の夜、俺は猫に変身してルイズの部屋の近くに張り付いていた。

隣りにはソラも猫になって待機している。

すると案の定、頭巾を被った人影がルイズの部屋をノックし、隠れるように部屋の中へ消えた。

そして、その後をつけるように現れたギーシュ。

ルイズの扉に張り付くと耳を引っ付け聞き耳を立てている。

更にそのギーシュを付けて来たマルクス。

コイツの魂胆は読める。

タイミングを見はかりギーシュをだしにしてアンリエッタに接触。

その勢いでルイズ達と一緒に行動するつもりなのだろう。

暫く様子を伺っていると、そろそろかとあたりをつけたマルクスがギーシュに声をかける。

「ギーシュ。こんな所で何をしている?」

こんな所…女子寮だが、そんな事を言ったらお前もだろう?いや…その点では俺もか。

「え?あ、マルクスか?」

不意に掛けられた言葉にぎょっとなって振り返ってギーシュが言った。

かなり大きな声で話していたのだろう。

ガチャ

その声に気が付いたであろうルイズがドアを内側から開けた。

「あんた達何やってんの?」

「いや、その、これはだね」

ルイズの問いかけにギーシュはあわあわしながら返答する。

そんな受け答えをした後2人は部屋の中へとルイズに引きずりこまれていった。



翌日、アンリエッタ姫殿下の密命を受けたルイズ、サイト、ギーシュ、マルクスの四人と、アンリエッタの命を受けたワルド子爵を含めた一行はアルビオンへ向けて旅立っていった。

馬は使わず、ワルドのグリフォンとマルクスの大火竜に別れて乗り、目的地を目指している。

ルイズはワルドのグリフォンに同乗しているところは原作と変わらないが、サイトとギーシュは大火竜の背に乗っている。

俺とソラもドラゴンに変身して高高度から後を追いかけている。

大地を行くグリフォンは豆粒ほどの大きさだ。

馬では無い分、旅の行程は原作より速いのではないだろうか?

それでも予定調和のように一行は夜盗に襲われている。

応戦しているサイト達。

すると後方から現れた風竜。

その背に跨るタバサから攻撃魔法が夜盗目掛けて飛んでいく。

夜盗を蹴散らし無事にルイズ達に合流したキュルケたち。

2人を加えた一行は急ぎ港町、ラ・ローシェールに向っていった。

町に着いた一行はその日の宿を求め『女神の杵』亭へと赴いた。

そこで二日ほど滞在する予定のようだ。

船の出港の都合上、出発は二日後になるからだ。

俺とソラも無事にラ・ロシェールに入り、フードを深く被り、変装すると堂々とルイズ達が泊まっている『女神の杵』亭へと入り、宿を取った。



翌日、朝も早くにサイトはワルドに連れられて錬兵場へとやってきていた。

ワルドに立会いを申し込まれたらしい。

この辺は原作通りだ。

錬兵場で待っていたのはルイズとなぜか一緒にいたマルクス。

ルイズとマルクスの介添えの下、サイトとワルドは立会い、結果、サイトはワルドの魔法で吹き飛ばされて敗退。

「わかったろうルイズ。彼ではきみを守れない」

ワルドがしんみりした声でルイズに言った。

「……だって、あなたはあの魔法衛士隊の隊長じゃない!陛下を守る護衛隊。強くて当たり前じゃないの!」

「そうだよ。でもアルビオンに行っても敵を選ぶつもりかい?強力な「失礼」…なんだね?」

ワルドの話を遮るようにマルクスが発言する。

「僕達は一人じゃないんです。サイト君一人で守れないのなら僕達が一緒に守ってあげればいい」

「そうかも知れないが…」

立会いとは名ばかりで、実際はルイズの好感度アップを目論んでいたワルドは言葉に詰まってしまう。

「それに僕は貴方よりも強い」

「な!?幾ら噂に聞く四極だとは言え、少し調子に乗りすぎではないかね?」

「試してみますか?」

「や、止めなさいよマルクス。ワルド、貴方も此処は引いて頂戴」

しかし、どちらも引かない。

成り行きで2人は決闘をする事になったようだ。

「魔法衛士隊の隊長の実力をお見せしよう」

少しキレ気味のワルド。

「御託はいいので、はじめましょう」

自信に満ち溢れているマルクス。

勝負はやはりというかなんというか、マルクスの圧勝だった。

マルクスの戦い方はやはり杖を剣に見立てて、剣士のように杖を振るいつつルーンの詠唱の隙を埋め、魔法を放つ。

しかもその体捌きは鮮麗されていて一流の剣士のよう。

魔法を唱えてもそもそも総ての系統ともスクウェアのマルクスに隙は無く、相性の良い魔法を瞬時に選び、相手の攻撃を半減させ、こちらの攻撃は確実にヒットさせている。

程なくしてワルドはその身を自身の得意な風の魔法で吹き飛ばされてしまった。

風のスクウェアのワルドとしては屈辱だろう。

「僕の勝ちですね」

「あ、ああ…」

茫然自失なワルド。

「ルイズ、サイト君、行きましょう」

「あ、ああ。すまなかったなマルクス」

「いえいえ。僕もあのヒゲは気に入らなかったですから」

「ちょ、ちょっと2人ともワルドになんて事してくれたの!?」

「彼自身もサイト君に同じことをしていたのに、ルイズは彼の心配をするのかい?」

「う、うぅぅぅぅぅ」

マルクスの問いかけに答えられず、ルイズは押し黙る。

その後ワルドは立ち上がるとふらふらとどこかに消えていった。

「ワ、ワルド」

「とりあえず一人にしておいてやろう」

ルイズは唇をかんだが、マルクスに連れられて『女神の杵』亭へと戻っていった。


その夜、俺とソラは1階の酒場で夕食を取っていると行き成り現れた夜盗に襲撃された。

俺達は他の貴族の客と同じくテーブルの下に隠れてやりすごす。

その夜盗達をキュルケ、タバサ、ギーシュ、マルクスとワルドの五人が魔法で応戦している。

俺とソラもソル達を起動させ、一応はいつでも応戦できるように身構える。

すると2階の方からルイズを伴ったサイトが降りてきてマルクス達と合流した。

吹きさらしの外に巨大なゴーレムの足が見える事からどうやらフーケは無事に脱獄したらしい。

暫くマルクス達は魔法で応戦していると、ワルドが低い声で提案する。

「いいか諸君。このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」

その言葉を聞いたタバサは自分と、キュルケ、ギーシュを杖で指して「囮」と呟いた。

それからワルドとルイズ、才人を指して「桟橋へ」とも。

「ちょっとちょっと、マルクスはどうするのよ?」

キュルケがタバサに訊ねる。

タバサは自分で決めてといった視線をマルクスに投げかける。

「僕はルイズ達に着いていこう」

そして、タバサ、キュルケ、ギーシュを残しルイズ達は裏口から桟橋へと向かった。


残されたキュルケ達は頭を使い反撃に出た。

厨房からギーシュのゴーレムが油の入った鍋を持ってきて入り口に向って投げつける。

散らばった油に向かいキュルケが魔法で着火し、夜盗を追い払う。

「見た?わかった?あたしの炎の威力を!火傷したくなかったらおうちに帰りなさいよね!あっはっは!」

キュルケは調子に乗っている。

「よし、ぼくの番だ」

キュルケにいいところを取られたギーシュがワルキューレを操り夜盗に突っ込ませようとした時入り口が轟音とともに無くなった。

立ち込めた土煙の中にゴーレムの影がたち込める。

「あちゃあ。忘れてたわ。あの業突く張りのお姉さんがいたんだっけ」

「調子にのるんじゃないよッ!小娘どもがッ!まとめてつぶしてやるよッ!」

キュルケがフーケを挑発する。

その後ギーシュが大量の花びらを練成、それタバサが風の魔法で操りフーケのゴーレムに付着させる。

それを錬金で油にかえフーケのゴーレムに浴びせかけた後、キュルケが『火球』で着火した。

一瞬で発火して火達磨になるフーケのゴーレム。

「こしゃくな」

「何を苦戦している」

炎に包まれたゴーレムの横に、仮面を被り黒いマントを着た男性が立っていた。

男は杖を構えフーケのゴーレムに向けて風の魔法を掛けた。

男のかけた魔法はフーケのゴーレムにまとわり着いた炎をその風の力で吹き飛ばした。

「ち、助かったよ」

「手伝おう」

そう言って店の中に入ってくる男。

「あの仮面の男。強い」

「タバサ?」

入ってきた男の力量を見抜きタバサに緊張が走る。

「誰であろうとこのギーシュが返り討ちにしてあげるよ」

そう言ってギーシュは新たに生み出したワルキューレを操り仮面の男に向わせる。

しかし男から放たれた風の魔法で吹き飛ばされ、その形を維持しきれなくなって消滅した。

「な!」

「ギーシュ。あんた何やってんのよ?」

「使えない」

余りにもギーシュの使えなさぶりにキュルケとタバサが呆れ気味に呟いた。

その光景を俺は机の下から盗み見て驚愕した。

な!?

どうしてワルドの偏在の一体がこっちに来ている?

これもマルクスが関わった事による影響か?

マルクスと決闘したワルドが負け、マルクスの力に驚愕したワルドが少しでも邪魔される確率を下げる為に後続のキュルケ達を確実にしとめるようとでも思ったのか?

ワルドが放つ風の魔法に段々とキュルケ達は押されていく。

ドットメイジであるギーシュは言わずもがな、キュルケとの相性もそれほど良くはない。

放つ炎の魔法をその風で総て弾いてしまっている。

唯一対抗できるであろうタバサもフーケとワルド、2人の相手は流石に荷が重いらしい。

「アオ。このままじゃ」

「ああ。わかっている」

『女神の杵』亭は既にあちこち破壊されている。

酒場に居た他の貴族達は夜盗が逃げ、フーケ達の目標がキュルケ達で固定されている隙に逃げ去って行った。

未だ中にいる貴族は俺達とキュルケ達のみだ。

防戦一方のキュルケ達。

その攻防もそろそろ終わりだ。

「精神力が切れた」

そう言って机の陰に隠れたタバサを筆頭に3人の反撃がやむ。

「あたしも」

「ぼくもだよ」

キュルケ、ギーシュも精神力が切れたようだ。

「あんた何もやってないじゃない!」

そうは言ってもトライアングルとドットでは同じ威力の魔法でも使う精神力が違うのだ、ギーシュの精神力切れも仕方ない。

「どうすんのよ!」

慌てふためくキュルケに沈黙のタバサ。

「ど、どどど、どうしようか!?」

ギーシュはすでにパニックになり精神の限界を超えている。

「終わりだ」

そう言って杖を振り上げるワルド。

ちょ!

またかよ!

何でまた原作キャラが生命の危機に陥っているんだ!?

ああッくそ!

「きゃあああああ」

キュルケが悲鳴を上げる。

俺はフードを深く被り左手にソルを握り直し、ガンダールヴ(偽)のルーンを発動させる。

そして向上された運動能力で一気に距離を詰め、ワルドを出入り口の向こうまで蹴り出した。

「ぬっ!?」

吹き飛ばされていくワルドの偏在。

「あれ?生きてる?」

「………」

呟くキュルケと何が起きたか確認しようとするタバサ。

「ソラ!」

俺は机の下で待機していたソラに向って叫ぶ。

俺の掛け声に頷いたソラはルナを握りしめ立ち上がる。

俺はそれを確認すると吹き飛ばされたワルドへ向い走り出した。

それを追いかけるようにソラも店の外へ。

「ゴーレムを頼む」

「うん」

俺の頼みに頷くソラ。

それを確認して俺はワルドに向き直る。

「君達はいったい誰だね?私たちは君達には用は無いのだが」

その質問に俺は答えずにソルを構える。

ガンダールブのルーンと強制発動してしまっている写輪眼。

ヤバイ。どんどん精神力が削られていく。

戦闘はもって後2分。

俺は駆け出してワルドとの距離を詰め一気にソルを振り下ろす。

『サイズフォルム』

鎌の形に変形したソルからブレイドの呪文で形成された刃が飛び出る。

「ぬっ?」

予想外だったはずの俺の攻撃にしっかり対応して自分もブレイドで受け止めるワルド。

その後も俺は強化された肉体でソルを振り回し、ワルドを攻撃する。

しかしその攻撃の総てに対処しつつさらに呪文の詠唱を開始するワルド。

「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ」

詠唱の完了と共に杖を突き出し空気のハンマーがその杖から放たれる。

俺は直前で攻撃を避けるように空へ飛び上がりワルドの攻撃を避けた。

攻撃を避けられたのはやはり写輪眼による動体視力の強化があってのことだろう。

ああっくそ!

強い!

強化されたはずの身体能力でソルを操り攻撃してみたがその総てを防がれ、その上で呪文を詠唱して反撃までされてしまった。

これほどの実力を持つワルドを圧倒したマルクスってどんだけだよ!?

同じ転生者としてちょっと不公平じゃないか!?

しかも本体じゃなくて偏在に翻弄されている俺。

かっこ悪い…

俺の残りの戦闘時間はこのままでは後1分と言ったところ。

その時間で勝負がつかなければ俺の負け。

『デバイスモード』

ブレイドを破棄し、斧の形態に戻す。

俺はソルを突き出すと魔法を形成する。

『フォトンランサー』

「ファイヤ!」

空中からワルドに向けて無数のフォトンランサー(偽)が襲い掛かる。

「な!?」

まさかフライを使いつつ俺が魔法を撃って来るとは思わなかっただろうワルドが一瞬硬直し、かわしはしたもののその動きが鈍くなる。

俺はその隙を見逃さず。

『リングバインド』

風の呪文で形成させた拘束の魔法でワルドの四肢を拘束する。

「うおおおりゃあああ」

『サイズフォルム』

再び変形するソル。

そして今度こそ俺は動けないワルドに接近してソルを振りかぶり、渾身の力を込めてワルドの偏在を切り裂いた。




「あの人たち誰よ!?」

「わからない」

キュルケの問いかけにタバサが答える。

「でも、助かったのは事実だね」

ギーシュが安堵したかのように呟く。

精神力の切れた3人では加勢に加われず、2人の戦闘を見ているしかない。

すると仮面の男が、キュルケ達のピンチを救ったフードの男の攻撃で消失した。

「すごい」

タバサが呟く。

「本当ね。でもギリギリって感じだったわね」

「そうじゃない」

「え?」

「彼、フライの魔法を使用中に他の魔法を二つも使用した」

「え?」

「それにあっちも」

そう言ったタバサの視線の先にはゴーレムの相手をしているソラがいた。

「ちょこまかと飛び回るハエがぁ!」

フーケがゴーレムの周りを翻弄するように飛び回るソラに向ってゴーレムで攻撃しようとするが、空中を駆け回るソラには当たらない。

「ルナ」

『サイズフォルム』

そして形成されるブレイド。

「アーク・セイバー」

空中を飛びながらソラはルナを変形させ、その杖に宿らせたブレイドの魔法をゴーレムに向って撃ち放った。

放たれた魔法は、その鋭さでゴーレムの腕を切り裂き、切断する。

「ちっ!」

しかしすぐさまフーケは杖を振り、切断された腕を再生させる。

そして再生された腕を振り回しソラに攻撃する。

その攻撃もやはりソラは距離と取ってかわす。

『フォトンランサー』

「ファイヤ!」

上空から放たれる無数の魔法の矢。

その魔法はやはりゴーレムを射抜くが、削れはしても決定打にはならない。

するとワルドとの戦闘を終えたアオから声が掛かる。

「ソラ!合わせろ!」

その声に頷いて距離を取るソラ。

「何をしようってんだい」

今までの攻撃では致命傷を負わせられたかったフーケは様子を見る事に決めたようだ。

『『サンダースマッシャー』』

すると2人から無詠唱で放たれる極大の雷の閃光。

「「サンダーッスマッシャーーーーー!」」

ゴーレムに向かいVの字に襲い掛かるサンダースマッシャー(偽)

ゴーレムに直撃した魔法はその体を突き破り粉々に打ち砕いた。

その煙が晴れた時、フーケは勿論、アイオリア、ソラフィアの姿も共に消えうせていた。

その様子を見ていたキュルケが呟く。

「逃げたわね。結局あのフードの2人は誰だったのかしら?」

「謎」

タバサが簡潔に返す。

「とりあえず、助けられたってことね」

「まあ、助かったんだから良かったじゃないか」

空気を読まないギーシュがそう話をまとめた。

◇ 

 

第八話

俺はゴーレムに放ったサンダースマッシャーで精神力を使い果たし、何とかその場からは逃れた物の、写輪眼の反動ですでに限界。

この事件の詳細は俺はこれ以上知る事は出来なかった。

何故なら俺はあの後気を失って丸一日寝ていたのだから。

ソラはそんな俺の側で看病していてくれた。

俺が目を覚ました時には既にタバサ達は出発していて後を追いかけることも出来なかった。

だから俺はアルビオンで何があったのかは知らない。

ウェールズは原作通り死んだのか、それともあのオリ主やろうが生かして匿ったりしているのかも…

タバサ達を見失った俺達は、一足先に学院へと戻る事にした。

アルビオンに出向いた所で地理に詳しくない以上合流できる確率は殆どないからね。

その後、誰一人欠けることなく学院に戻ってきた様子に俺は心底ほっとしたものだ。

だって今回も些細な事象の変化で今度はタバサ達が命の危機に陥ったのだから…

ホント勘弁してください…

こうして姫殿下からもたらされた騒動は一応の解決をえたのだった。



アルビオンがクロムウェルの手に落ち、本格的にアンリエッタ姫殿下とゲルマニア皇帝との婚儀が締結されるようだ。

最近、学院に戻ってきたルイズの手に古びた装丁の本を開いている様子をうかがうことが多くなってきた。

どうやらアンリエッタの婚儀で使う詔を考えているらしい。

つまるところ、あの本が始祖の祈祷書。

更に数日が経つとルイズはサイトを自室から追い出してしまった。

どうやら本格的に喧嘩してしまったようだ。

ルイズをたしなめるマルクスをよく見かけるが、どうにも聞き入れてくれては居ないらしい。

サイトはヴェストリの広場の片隅でテント生活を送っている。

それを見かねたキュルケがサイトを誘い宝探しに出かけていった。

マルクスも一緒について行ったようだが、今回は俺は知らん。

マルクスもゼロ戦を持ち帰ってくるつもりだろうからそうそう原作の改変などはおこなわないだろう。

シエスタの祖父の墓石の文字を読んだりはしてそうだが…

更に数日が過ぎるとなにやら学院が騒がしい。

確かめてみると、どうやらサイトたちは無事にゼロ戦を手に入れたようだ。

しかもここまでのゼロ戦を運んできた竜騎士達への運賃は、領地経営でかなり儲かっているマルクスが立て替えている。

太っ腹な事で。

学院に運び入れたゼロ戦はコルベール先生の研究室と言う名の掘っ立て小屋へと収納される。

コルベール先生の知的好奇心で興奮するさまはドクターを思い出される。

そう言えば最近会っていないな。

しばらく距離を置いていた事が幸いしたのか、ルイズとサイトはようやく仲直りしたようだ。

雨降って地固まるってやつだ。

コルベール先生の研究室の側で俺は猫になり聞き耳を立てていると、ようやくガソリンが完成したらしいという声が聞こえてきた。

そしてそのガソリンを使い一度エンジンをかけてみる事に成功。

しかしガソリンの量が絶対的に足らず、直ぐにエンスト。

最低、樽で5本はいるとコルベールに告げるサイト。

「そんなに作らねばならんのかね!まあ乗りかかった船だ!やろうじゃないか」

と、息巻くコルベール。

「僕も手伝いますよ」

なぜかサイトと共にコルベール先生の研究室に入り浸っていたマルクスが協力を申し出ていた。

「おお、四極のマルクスが手伝ってくれるなら心強い。錬金はやはり土メイジの専売特許だからね、火の私では少々辛いところだ」

「任せてください」

確かにチート能力なマルクスならすぐさま樽五本くらいなら錬金できるだろうよ。

精神力もルイズには及ばないが、俺の何倍もあるしね。

その後研究室に乱入したルイズにサイトはその場から引きづられて出て行ってしまった。




それから数日、ついにアルビオンからの宣戦布告の報告が、この魔法学院にも入ってきた。

その報告は学院長あてであり、一般学生には未だ情報は漏れては居ないが、偶然学院長室の前で聞き耳を立てていたサイトたちの耳に入り、いきりたってサイトはゼロ戦を起動して飛び立とうとしているのが見える。

「アオ?あの飛行機飛ばす気なのかな?」

中庭が慌しくなってきた様子にソラが問いかけてくる。

「アルビオン軍が攻めてきたんだ」

「戦争?」

マルクスは今回は裏方に回ったようだ。

ゼロ戦が離陸するために必要な滑走路を錬金の魔法で作り出していた。

「ああ、だけど直ぐに今来ている分の軍隊はけりがつく」

「そうなの?」

「ああ、ペンタゴンの失われた一角が蘇る」

「虚無?」

「ああ」

そんな話をソラとしているとゼロ戦を駆って上空へと飛んでいくサイト達。

「今回は後をつけないの?」

「ゼロ戦の速度には追いつけないよ」

「そうだね」

「でも一応見に行ってみる」

「わかった」

そう言って俺達はドラゴンに変身して空を駆けた。

タルブの町が視界の奥に見えてくる。

その時、視界の先で目が焼けるような光の球が爆発した。

「あれって…」

「虚無だね」

初めて見るその威力に俺は驚愕した。

アルビオン軍の船が次々と落ちていく。

あの閃光の一撃で勝敗は決したようだ。

それを確認して俺はソラに告げる。

「帰ろうか」

「うん」


アルビオンとの初戦に勝利を収めたトリステインは、アンリエッタのゲルマリア皇帝との婚約を破棄、今やアンリエッタはトリステインの女王だ。

最近メイドのシエスタが今までにまして積極的にサイトにアプローチを掛けているのを見かける。

この前の戦でゼロ戦を駆り、タルブの窮地を救った事でかなり好感度が上がったようだ。

更に数日過ぎるとルイズの態度が豹変した。

サイトにべったりして自己すら保てない様子。

惚れ薬を飲んだな…

更に数日、どうやらサイト達はラグドリアン湖へと出かけたようだ。

惚れ薬の解除薬に必須な水の精霊の涙を取りにいったのだろう。

例のごとくマルクスも一緒だ。

今回は俺達もこっそりと後をつける。

いつものようにドラゴンに変身して後をつけていると森の中にキラキラ光る鏡のような物が幾つも反射しているのを発見した。

「ん?」

「アオ?」

「何でもないよ、ソラ」

後で気づいた事だが、あれは世界の綻びだったのだろう。


その後様子を見るに、原作とほぼ変わらずサイトが水の精霊の願いを叶える代わりに水の精霊の涙を無事ゲットし、魔法学院へと帰っていった。

学院に戻り、惚れ薬を解除されたルイズは今までのことを覚えているのか、荒れに荒れていた。

その後は何事も無く、その日は就寝。

惚れ薬事件はこうして幕を下ろした。

しかし、実は原作ではアンリエッタの誘拐を阻止するイベントが発生しているはずだったのだ。

だが実際はそのイベントは起きなかった。

この事を後々後悔する事になる。



さて、明日から夏休みと言う事で、俺とソラも自領に帰る事にした。

トリスタニアに居る兄に顔を見せにいっても良いのだが、面倒だし、何より実は未だに紹介していないソラを会わせるのが面倒だったと言う事もある。

気になる点と言えば、ルイズ達がトリスタニアに向わず、ヴァリエール領へと帰る準備をしているところか。

マルクスの事は知らん。

しかし聞いた話ではミリアリア領の執政はすでにマルクスの采配で動いているらしい。

であるならこの夏休みは戻らないと自領が立ち行かないだろう。

そして今、俺達は久方ぶりにドクターのもとを尋ねている。

俺は小屋の扉を開け、中に入る。

何時ものように乱雑に散らかされた床の物を避けながらドクターを探すと部屋の奥でまた何かを研究しているドクターの姿を見つける。

「ドクター」

俺のその声にドクターは研究をやめ振り返る。

「あ、ああ君達か」

「お久しぶりですドクター」

と、ソラフィア。

「君達が魔法学院へと赴いてしまってからめっきり楽しみが減ってしまってな。思いのほかお主らとの語らいは楽しかったようだ」

ドクターがそんな柄にも無い言葉を発した。

「そんなことよりドクター、頼みがあるのですが」

「お主の頼み事は大抵無理難題な事が多いのだが、なんだね?」

「実は、例のアレ、出来てませんか?」

「アレか?まあ、出来てはいるのだが、弾の生成が困難な上に高価でな、1ダース造るのがやっとといった所だが、それでも必要か?」

「ああ。ちょっとこの前かなり腕の立つスクウェアクラスの魔法使い、それの本体では無く、偏在の1体と戦ったんだけど」

「それはまた…」

「それで、何とか勝つには勝てたんだけど、偏在相手に結局写輪眼とガンダールヴの併用でギリギリ。しかも最後は精神力切れで気絶。実質戦闘時間2分半…泣ける」

「はっはっは」

「笑い事じゃないんだけどね。だけど、これから先、またそんな相手と戦う機会があるかも知れないから…」

「杖のパワーアップを頼みたいと」

「うん」

「わかった、頼まれよう。しかし改造は直ぐに出来るが弾の生成には時間が掛かる。およそ2ヶ月、それも出来て1ダースが限界だからな」

二ヶ月かかって1ダースか…

まあ、最後の切り札が欲しいだけだし、十分か。

「それでいい」

「そうか、それで?改造はお主のソルだけで良いのか?」

「いや、ルナの方も頼みたい」

「ルナも?」

今まで会話に入ってこなかったソラがルナの事を話題に出され問いかけた。

「そ、切り札は持っておかないと」

「それじゃ先ずは杖の方の改造からだ、ほれ、ソルとルナをこっちによこせ」

ドクターに言われ俺とソラはソルと、ルナをドクターに手渡した。

「一週間ほど掛かるからな」

「わかった、とりあえず一週間後また来る」

此処での用件を済ませ、俺達はドクターの古屋を後にした。

ドラゴンに変身して飛び立つ。

杖無しでも使える変身能力…

最初は躊躇いもしていたが、ドラゴン等は空を飛べる。

ぶっちゃけかなり便利です。

俺達は久しぶりの空の散歩を楽しみつつ屋敷に戻るのだった。 

 

第九話

夏休みも終わり、学院に戻ってきた頃には総てが手遅れだった。

何故ならトリステイン王国はアルビオンとガリアの連合軍によりあっさり侵略されてしまったのだから。

事の起こりはそう、学院が始まってしばらくしての事。

原作では男の貴族達は徴兵され、錬兵で忙しいはずの頃。

アルビオンと一戦交えたはずなのにどこか他人事のように感じられるトリステイン。

奇跡のような戦勝で飾った初戦に国全体が浮き足立っているかのようだ。

その日も別になんという事はない、特に特筆するべき事柄のない普通の一日のはずだった。

しかし、闇夜に乗じて魔法学院に現れるアルビオンからの刺客。

彼らはまず力の弱い貴族の子女を人質に取り、学院長室に押入り、学院長を脅した。

学院長に事を伝えさせず学院の貴族達を一堂に集めさせ、その後武力によって杖を提出させた。

何人か好戦的な学生も居たが、相手の力量の方が数段上。

そんな学生は皆、刺客達の魔法で気絶させられていった。

その恐怖もあいまって唯々諾々としたがう学生達。

魔法使い、杖が無ければただの人。

杖を取られてはなすすべが無い。

普通、杖との契約は何日も掛けてするもの故、代わりの杖を持っている魔法使いはまれだ。

まあ、俺とソラは提出を求められても、いつも持っているフェイクを提出しただけだったが。

首から提げている待機状態のソルが俺の杖だ。

誰も宝石が杖だとは思うまい。

食堂に集められた俺達。

とりあえず俺はソラの側に寄り、状況の確認に努めた。

杖さえ奪ってしまえば此方の抵抗を封じられると思っているのか、拘束らしい拘束はされていない。

まあ普通に考えて、抵抗しようにも相手の杖が突きつけられた瞬間に抵抗しようとする意思など恐怖で封じられてしまうのだろうが。

キュルケ、タバサの姿は見えない。

恐らく感か何かが働き、食堂に来なかったのだろう。

どこかに潜伏している可能性が高いか?

ギーシュ、モンモランシーはガクガク震えている。

サイトは今にも刺客につかみかかろうとしているルイズを必死で止めている。

しかし、声までは抑えられなかったようで、場の空気を読まないルイズが高慢な貴族そのままに言う。

「ちょっと、あなた達。即刻ここから出て行きなさい」

「おい、ルイズ!落ち着けって」

必死になだめるサイト。

「何よ!」

その言葉を耳にした傭兵上がりの刺客達は笑いながら返答する。

「あははははは、聞いたかお前達」

隊長らしき男が仲間達に言う。

「あはははは。勇ましい嬢ちゃんだ。だがどうにも礼儀って物を知ってないようだ」

刺客の男達がそう答える。

「だな。ここは俺達が礼儀って奴を教えてやらねば碌な大人になれまい?」

「そうだそうだ」

隊長の言葉に同意する刺客の男達。

「そういう訳だ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは今から俺達の偉い説教を受けてもらう。こちらへ来い」

下卑た笑いをこらえながら隊長の男が杖を構えて言い放つ。

「いやよ!」

「ルイズ」

「何で私があんな品の無い傭兵どもに説教なんて受けなければ成らないのよ!」

うわぁ…

なんだろう、もはや記憶もおぼろげだが、ルイズは此処まで高慢だっただろうか?

そんな事を考えていると、傭兵達がルイズを取り囲み、ルイズを連れて行こうとする。

「や、止めるんじゃ」

と、ここで一応保護責任がある学院長が傭兵達に懇願する。

「ああ?じじいは黙ってろよ」

そう言って傭兵の一人に殴り飛ばされる学院長。

「ぐふっ」

「ちょっと!老人になんて事を!」

ルイズが喚く。

「ちょっと手が滑っただけだ。それよりも、オラ!来な!」

再びルイズに掴みかかる。

「きゃあ!」

「やめろ!」

サイトがルイズを助けようと間に入る。

「何だ?ナイト気取りか?」

「くっ」

間に入ったは良いが、武器の持ち合わせが無くルーンを発動させられないサイト。

ここは食堂だ、デルフリンガーは部屋に置いて来たのだろう。

見渡せばナイフの一本くらいはあるだろうが、ナイフは武器として使用できるかもしれないが、武器として作られたものではない。

握ったとしてもガンダールヴのルーンは輝かないだろう。

「ガキが、そこを退け」

「断る!」

「後悔する事になるぞ?」

「やってみろよ!」

その体1つでルイズを守ろうとするサイト。

しかし。

「ファイヤーボール」

男の放った炎弾がサイトに直撃し吹き飛んだ。

「サイト!」

慌てて駆け寄るルイズ。

サイトは火達磨になった体を床に転げまわって何とか鎮火する。

しかしその体はあちこちが焼けただれ、一刻も早く治療しなければ命に関わる。

しかし。

「歯向かわなければ死なずに済んだかもしれないものを」

「サイト!サイト!ねえ、誰か、水の魔法を!」

ルイズの懇願、しかしその言葉に答えるものは誰も居ない。

何故なら皆杖を取られ、既に燃やされているのだから。

「嫌!ダメ!死なないで、サイト!ねえ、誰かお願い、助けて」

瀕死の重傷のサイト。

どうしてこうなった?

こんな事は原作には無いはずだ。

しかし現実はサイトは重症で一刻を争う事態。

最悪だ…

どうしたらいい?

俺はマルクスを盗み見た。

するとマルクスのその表情は蒼白で、困惑している。

おい!いつもの余裕そうな表情はどこ行った!

そんな事を思っていると、突然食堂の窓と言う窓が破壊され、ガラスが宙に舞う。

「きゃーーー」
「うわっ」
「何だ?」

あっけに取られている一同。

俺も一瞬あっけに取られたがその混乱に乗じて食堂の入り口から風の魔法が叩きつけられた。

更に混乱する食堂の中で、混乱に乗じて潜入してきたキュルケが瀕死のサイトに近寄りレビテーションを掛け、サイトを運び出そうとしている。

しかし、流石はプロの傭兵、直ぐに混乱から立ち直り、入り口の方へと向う者と、サイト達の方へ向かうものが3人ずつ。

先ほどの風の魔法は恐らくタバサだろう。

しかし、普通ならこのタイミングでは仕掛けなかっただろう。

もっと情報を集め、王宮なり何なりの手を借りるはずだ、しかしサイトの瀕死にキュルケが懇願したか?

何はともあれピンチである。

「ソラ!」

俺は隣りにいたソラに声を掛けると胸元からソルを持ち出す。

「ソル!」
「ルナ」

ソラも俺の言いたい事がわかったらしく瞬時にルナを握り締めていた。

『『スタンバイレディ・セットアップ』』

すぐさまその身を斧を模した杖へと形を変えるソルとルナ。

俺は左手にソルを持ち直すとガンダールヴ(偽)の効果で強化された身体能力で混乱した食堂を駆り、サイト達に近づく3人の男達を背後から一撃で意識を駆り落とそうとしたが、二人までは成功したが残りの一人は防がれてしまった。

「ちいっ」

悪態をついてその場から離れると俺の横を魔法が飛んで行った魔法が最後の一人を吹き飛ばした。

ソラフィアの援護だ。

それを確認して俺はまた全速力でサイト達に駆け寄る。

「え?あの、貴方は?」

混乱したキュルケが俺に問いかけてきた。

しかし、それに答えている暇は無い。

振り返るとこちらに向けて杖を向け、魔法を放ってくる傭兵達。

『ディフェンサー』

しかし、それは間に入ったソラフィアの防御魔法によって防がれる。

今のうちだ!

「サイトは俺が運ぶ、ソラ!悪いがルイズを頼む」

「うん」

了承してくれるソラ。

本当に心強いパートナーだ。

俺はサイトを強化された握力で小脇に抱えると、ルイズ達に向って言い放つ。

「逃げるぞ!悪いがキュルケは自分で飛んでくれ」

「え?ええ」

すぐさまレビテーションを掛け壊された窓へと向っていくキュルケ。

俺もサイトを抱えつつフライの魔法を使用。

「ソラ!」

ソラに声をかけると、急ぎルイズを抱えフライの魔法をかける。

しかし、そこを狙ったかのように魔法が飛んでくる。

『ディフェンサー』

今度は俺が飛びながらソラの前に立ち、防御を展開する。

「あなた達は!?」

「うるさい!黙ってろ」

ルイズの問いかけを封殺する。

まずい、俺の精神力の限界が魔法使用無しで3分切った。

「ちょっと待ってくれ!ぼく達も連れて行ってくれ!」
「待ってよギーシュ!」

そう言って俺の脚に捕まるギーシュとモンモランシー。

くそ!邪魔だって!

しかも重い!

しかし振り落とす時間さえ勿体無い。

俺達は急ぎ壊された窓から食堂を出て、闇夜に乗じて一度火の塔の屋上へ。

「ねえ?これからどうするのよ?」

「飛んで逃げる」

キュルケの問いかけにそう答える俺。

「まって、魔法じゃそんなに長距離は飛べないわ。タバサ…さっき風の魔法で陽動してくれた子の使い魔の風竜と合流するはずだったのだけど…」

今は一分一秒が惜しい。

「驚かないでくれよ」

俺はそう言うとソルを待機状態に戻した。

「ソラ」

こくんっと頷くソラ。

そして俺達は一気にドラゴンへと変身する。

「へ?」
「え?」
「ぎゃああ」
「きゃ」

流石に驚きの表情を隠せないルイズ達。

ドラゴンと言ってもシルフィードに比べれば半分ほどしかない小ぶりな体だ。

人もせいぜい2人も乗せれば定員。

俺は身をかがめる。

「サイトを乗せて」

「え?」

「早く!」

キュルケはレビテーションを使いサイトを俺の背中へと乗せた。

「悪いソラ。3人頼める?」

「…頑張ってみる」

人3人はきつそうだが俺の方に載せてやれる余裕は無い。

サイトが絶対安静で動かせないからだ。

俺の背中にサイトとルイズ。

ソラの背中に残りの3人を乗せた俺達はすぐさま夜の空へと飛び立つ。

「待ちやがれ!」

俺達を発見した傭兵達から魔法の攻撃が仕掛けられるが既に効果範囲外まで上昇、魔法の脅威はついえたが、安心は未だ出来ない。

サイトが一刻の猶予も無いのだ。

空から辺りを見渡すと、遠くの方でそこらかしこに見える炎。

「何よ?何が起きているのよ!」

ルイズの戸惑いの声に答えられる答えは俺も持っていない。

「どこかサイトを治療できるところは!?」

俺の問いかけに答えたのはキュルケだった。

「私の屋敷へ。私の屋敷なら水の秘薬だってある」

「わかった。それでそれはどっちの方角?」

「えっと、魔法学院があっちだからえっと。あっちね」

そう言って杖で方向を指し示すキュルケ。

俺とソラは方向転換し、キュルケが指し示した方向へと飛んでいく。

しばらく飛んでいくと前方に一匹の風竜が旋回しているのが見える。

「タバサ!」

それを確認したキュルケが風竜に向って手を振り合図を送った。

その後、俺達と併走するかのように飛ぶタバサのシルフィード。

背中のタバサは俺達を一瞬見つめるとキュルケに確認する。

「そのドラゴンは?」

「えっと。私も良くはわからないのだけど…」

「悪いがそっちの風竜に何人か移してやってくれないか?ソラが流石に辛そうだ」

俺はその会話に割り込んだ。

「韻竜?」

「え?お仲間なのね?でもそんな色のドラゴンなんていままで見たこともないのね」

俺が喋った事でシルフィードまで口を開いてしまった。

それを見たタバサが持っていたワンドでシルフィードの頭を殴打する。

「痛いのね!」

どがっ

「わかったのね!喋らないのね!るーるーるー」

「タバサ!?その子って」

「そんなことは後で、レビテーションで2人ほど移動させて」

「わかったわ」

キュルケはしぶしぶ杖をふり、ギーシュとモンモランシーの2人をシルフィードの方へと移動させた。

その後、速度を上げ俺達はキュルケの実家へとひたすらに空を駆ける。


どれくらい経っただろうか。

ようやくキュルケの実家へと到着した。

そしてすぐさま運ばれていくサイトを見送る。

ルイズ、キュルケ、ギーシュ、モンモランシーはそれについて屋敷の中へと消えていく。

俺達はようやく肩の荷が下りたために人型に戻り、その場に尻餅をつく。

「疲れた…」

「うん」

へばっている俺達を見つめる4つの目。

タバサとシルフィードである。

じいっと見つめる瞳に耐え切れなくなって俺からタバサに話し掛けた。

「何?」

「…あなた達は韻竜?」

「違う」

「じゃあ何で人間の姿になっているの?」

「人間の姿になっているのではなく、ドラゴンに変身していただけ」

「嘘、そんな魔法聞いたことない」

「魔法なのか?と聞かれたら答えは解らん。魔法薬の副作用でこうなった」

「副作用?」

「そ。ある天才が作り出した変身薬。その副作用」

「ドラゴンに変身できる薬を作り出せる人がいるの?」

ん?なんだ?

タバサが必死になってこちらに探りを入れてくる。

「正確にはドラゴンにも、だけどね」

「?」

疑問符を浮かべるタバサに俺は変身してみせる。

「グリフォン」

「こんな体にしたドクターの事を恨んだことも一瞬くらいは有ったけど、これはこれで便利だからね」

主に偵察とか移動とか。

俺はグリフォンから人の姿に戻る。

タバサを見るとなにやら考え込んでいる様子だ。

そして口を開くタバサ。

「その薬を作った人を紹介して」

「なんで?」

「………」

口を噤むタバサ。

理由はまあ、察しは着いている。

母親の心を狂わせている水魔法の解除薬だろう。

「悪いが紹介する事は出来ない」

物語が進めば解除されるのだ、俺が下手に関わることもない。

この時の俺はそう思っていた。

「お礼はする」

「すまないが断る。俺達はこれ以上君達に関わる気が無いんだ。悪いがこれで失礼する」

そう言ってマントをひるがえし離れようとしたところで俺のマントを必死になってつかむタバサ。

「放して」

「お願い」

必死に懇願するタバサ。

その時城門の向こうから声がかけられた。

「レディの頼み事は聞くものだよミスタ」

振り向くとそこには金の髪、長身で整った顔立ちの男が一人。

「貴方は?」

「すまない、今ぼくは名乗る名前を失っていてね。今はウィルと名乗っている」

金髪で整った顔立ち、無くした名前、どこか気品漂うたたずまい、この時期にキュルケの実家に居る不審人物。

まさかウェールズなのか?

それは根拠のない勘だ。

俺は鎌をかけてみる事にした。

「アルビオンの皇太子がこんなところに居ようとは」

「君は何故それを…君が教えたのか?」

視線をタバサに移して問いかけるウィルことウェールズ。

フルフルと首を振るタバサ。

と言うか、正直すぎです、皇子様…

「ばれちゃしょうがない。そう、ぼくはウェールズ・テューターだ。君は?」

「アイオリア・ド・オランと申します。こちらはソラフィア・メルセデス」

俺の紹介にソラは頷くだけだ。

いや一応皇太子に対して失礼だが…まあ、いいか。

「とりあえず中へ、ここは冷える」

そうウェールズが促す。

「いえ。私達は失礼します」

「まあ待ちたまえ。もう夜も遅い、それに疲れているだろう。朝までこちらに留まった方が君達の為だと思うのだが」

ぐ……確かに今俺は一歩も動けないくらい疲れている、しかしここに居るのは余り得策では無い。

そんな事を考えていると。

「好意に甘えて、朝まで世話になります」

「ソラ!?」

「アオも限界のはず。今は体を休めないと」

「う…」

何故だろう?

俺は絶対的なところでソラに敵わない気がするのは…

タバサはここに俺達が留まるならば未だ説得のチャンスは有ると引き下がり、俺達は城門をくぐった。

俺は案内された客室のベッドに腰掛、一息つくと今までの疲労から意識を手放した。 

 

第十話

次の日。

目が覚める。

俺はあの後ずっと眠っていたらしい。

窓に朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。

ちゅんちゅん

隣りを見るとシーツに包まったソラが。

………

朝ちゅん!?

いや待て俺は何もやってない…と思う。

流石に昨日のあの状況でやるわけないよ…ね?

その時ドアをノックする音が。

コンコン

「えっと、ミスタ・オランだったかしら?タバサから聞いたのだけれど。入るわよ」

そう言って扉を開け中に入ってくるキュルケ。

そして眼に入るのは俺と俺の横でシーツに包まり寝ているソラの姿。

「あら、昨夜はお楽しみだったようで」

「いや!あの」

「ほほほ。支度が出来たらリビングまでおこしくださいね」

そう言ってキュルケは扉を閉め出て行った。

なんとも言えない起床になってしまったが、俺はソラを起こしリビングまで向う。

そこにはサイトの姿は無いがその他のメンバーは集まっていた。

そしてそこになぜか居るマルクス。

近くにいたタバサの聞く話によると昨日の混乱に乗じて逃げ出し、使い魔に乗って方々飛び回りこのキュルケの実家まで追って来たらしい。

運の良いやつめ…

サイトはどうやら持ち直したと言う。

良かった。こんな所で主人公に死なれては困る。

そして始まる状況の確認。

俺とソラは皆から距離を取りなるべく関わらないようにしているが聞き耳を立てる事は忘れない。

俺も現状は気になっているのだ。

「お父様から聞いた話なのだけど」

そう言ってキュルケは話し始める。

昨夜遅くアルビオンの艦隊がトリステインに侵攻した。

トリステイン側には空軍に対応する戦力が不足していたらしい。

トリステイン所有の船は総て焼かれるか奪われるかしていたらしい。

なんじゃそら?

深夜の襲撃であったことと、空を牛耳られた事によりアルビオン軍の侵攻はすでにトリスタニアの王宮にまで及んでいて陥落は時間の問題との事。

恐らく昨日の学院襲撃は貴族の子供達を人質に取りトリステインを陥落させる策のひとつであったのだろう。


つまりこういう事だ。

総てはここに生きてウェールズが居る事が問題だった。

ここに居るウェールズがアルビオン王家没落後ここに匿われ、その後アンリエッタ女王と会っているのかは知らないが、ウェールズの亡骸を使ったアンリエッタの誘拐事件は起こらず、それにより決意するはずだったレコンキスタへの復讐という強い動機がえられず、その結果、アルビオンとの内通者のあぶり出しや錬兵なども後手後手に回り、トリステイン所有の船はことごとくアルビオンの刺客に潰されなすすべも無く侵攻を許してしまったと言う事だ。

「な!それじゃ姫様は?」

「恐らくすでに捕らえられているでしょうね」

と、キュルケが無情に言い放つ。

「アンリエッタ…」

意気消沈のウェールズ。

「助けに行かなきゃ!」

「どうやってよ?」

「どうって…どうにかしてよ!」

「ルイズ少しは落ち着きなさい」

「落ち着いてるわよ!」

キュルケがたしなめるもさらに激昂するルイズ。

「マルクスからも言ってやってよ」

「そうだね…アンリエッタ女王陛下を助け出すにしても情報が足りない、先ずは情報を集めないと」

「あう…」

言ってる事はもっともだが既にアンリエッタを助けたからといって事態が好転するとは俺には思えない。

……認めよう。もはや原作は完全にブレイクしたと。

しかも切欠を作ったのは間違いなくマルクス。

俺は敵意丸出しでマルクスを睨んでいた。

「何かね?」

そんな俺の視線に気づいたマルクスが睨み返してきた。

「いえ、何も」

「何か言いたそうだな?」

俺はその言葉を無視する。

「貴様!」

すると俺を締め上げるべく距離を詰めてくるマルクス。

「ちょっと止めなさいよ」

キュルケが間に入って仲裁する。

「祖国がこんな事になって気が立っているのは解るけど、今は落ち着いて」

「あ、ああ…」

キュルケの仲裁で一応は引き下がるマルクス。

その後ルイズ達トリステイン組はああだこうだ話し合うも結局良い案は浮かばず、時間だけが過ぎていく。

俺はもう付き合いきれないと退出を試みる。

「ソラ」

俺はソラに声をかけると身振りで退出の意思を伝える。

「わかった」

こっそりその場を去ろうとしたのだが、タバサには見つかってしまった。

「待って」

しっかりとマントを握られて放してくれない。

「私の頼みを聞いて欲しい」

……すでに原作乖離は確認している。

このまま進んでタバサの母親が元に戻る可能性は有るのだろうか?

などと逡巡しているとルイズのキンキン声に呼び止められた。

「ちょっと!皆が一生懸命話し合っている時にあなた達は何処へ行こうとしているのよ!」

祖国を救おうとしているのはわかるが、杖も持たない魔法使い数人で何が出来るというのやら…

「いえ、アンリエッタ女王陛下の救出は皆様に任せて、俺達は退出しようかと」

「君は祖国が心配ではないのか!?」

マルクス。原因を作ったお前だけには言われたくなかったぜ。

きっと気づいてないのだろうが。

ダメだ余りの理不尽さに切れそうだ。

「どうして俺達が貴様の尻拭いをしなければ成らない!」

「どういう意味だ」

だがしかし、キレた俺の言葉は止まらない。

「そのままの意味だ。この原因を作ったのはルイズ達にくっ付いて回り話を捻じ曲げたお前だと言っている」

「な!?」

俺の今の言葉で気づいただろうか。

「ちょっと、ミスタ・オラン。どういう事かしら?」

キュルケが俺のその言葉の真意を聞こうと質問してきた。

「知らん。後はそいつに聞いてくれ」

そう言って俺はその場を後にする。

その後ろではルイズ達に問い詰められているマルクスの姿が見えるが知った事ではない。

城門を出て人気が無いところまでフライで飛ぼうとしてソルを起動する。

「その杖は見覚えがある」

未だ着いてきていたのかタバサよ。

「ラ・ロシェールで助けてくれたのはあなた達?」

「あ、ああ」

「フーケの時の銀色のドラゴンも貴方?」

「そうだな」

「そう」

「君に紹介出来ない理由だけど」

俺はそれ以上追及されるのが嫌で話題を変えた。

「エルフなんだよ」

「え?」

「エルフ。解っただろう?そういう訳だ。それじゃ」

そう言って俺達はフライで人の居ないところまで飛び、そこでドラゴンに変身してトリステイン・オラン伯爵領目指して飛び立った。


トリステインを上空から観察する。

あちこちで煙が上がっているのが見える。

こんな展開は俺は知らない。

ルイズ達はこの窮地をどうやって切り抜けるのだろうか?

とは言え一介の学生に何か出来る訳でもないし、俺としては国の命より自分の命が大事。

魔法の使えない平民にしてみればただ単に支配者が変わるだけでしかない。

まあ、貴族でなくなると金銭面で苦労しそうだが…

まあ、しばらくは大丈夫だろう。

小遣いをやりくり…というか貴族としての華美にあまり興味がないため殆ど遣わなかった分を幾つかに分散させて隠してあるし。

もちろんドクターの古屋にもね。

平民なら一生生活するのに困らないくらいはあるさ。

空から状況を確認すると俺はドクターの古屋へと向う。

あそこが一番安全だからね。

精霊と契約しているドクターに敵う奴なんてそう居る物ではない。

ドクターの古屋に着くと俺達は変身を解除して人型になる。

扉を開け、中に入る。

「ドクター」

「ああ、お主たちか。なにやら昨日から風の精霊が騒いでいるが、何かあったのか?」

俺とソラはイスに積みあがっている何だかわからない実験器具のようなものをどけ、スペースを作りながら答える。

「アルビオンが攻めてきたらしい。王城は今頃落ちているだろうよ」

「それは。お主らも他人事ではないのではないか?」

「船が全部やられていたのが痛い。空を牛耳られては勝てる物も勝てないよ。昨日俺達がいる魔法学院も襲われた。王城が落ち、貴族の子供達を人質にされたらもう勝ち目はないだろう。俺は国よりも自分とソラ、あとついでにドクターの命のほうが大事だしね。兄上がいたような気がするが、十年もまともに会っていないんだ、もはや他人だよ」

「そうか」

その時ドアをノックする音が聞こえた。

コンコンコン

「誰だ?私に尋ねてくるような客はお主ら以外には居ないはずだが」

「…あー、もしかして」

コンコンコン

「お主の客か?」

「恐らくは…
ここは森の奥深い、幾らアルビオン軍が攻めてきたとはいえここまで来るほど暇じゃないだろ。てことは…」

ドンドンドン

自ら扉を開けようとはしないが、次第にノック音が大きくなってきた。

「お主が出て来い」

俺は逡巡の後従ってイスを立ち、ドアに近づき、未だノックされ続けているドアを開けた。

ガラ

「…やはりか」

ドアを開けるとそこには予想通りタバサが立っている。

「…お願い」

じっと俺の目を見つめるタバサ。

「アオ、ここまで来ちゃったんだし紹介くらいしてあげれば?頼みを聞くか聞かないかはドクターが決めることだし」

必死なタバサを見かねたソラがそう俺を説得する。

「…はぁ、わかったよ。紹介だけな。とはいえ君が紹介して欲しい人物の家がここなのだが」

そう言って俺はタバサを中に入れる。

シルフィードは外で留守番だ。

「ドクター」

「その子は?」

ドクターは慌ててフードを被り直した。

「ドクターがエルフである事は知っている」

「そうか」

するとドクターは被り直したフードを元に戻した。

あらわになる長い耳。

タバサは一見無表情だがやはり恐れているようだ。

俺はタバサに場所を譲り、ドクターの正面に出す。

「貴方に頼みたい事がある」

って自己紹介も無く行き成り要求からですか!

タバサさん!直球ですね!

「ほう」

「心を狂わせる水魔法薬を解毒する薬が欲しい」

「ふむ」

「貴方なら作れるだろうか」

タバサのその問いに答えるドクター。

「薬の種類にもよるが、恐らく可能だろう」

おお!さすがバグキャラですね。

「お礼はする」

いつも無表情のタバサがいつになく興奮気味に懇願する。

「お礼と言われても私は金品には余り価値を見出していない」

「ならばどんな物なら」

「知識」

「え?」

ありゃりゃ。やっぱりか。

「私はこの世のありとあらゆる事が知りたい。故に知識を求める」

予想外の答えにどうしたら良いか解らなくなってしまったタバサ。

仕方ない…

助け舟を出すか。

原作乖離の原因はマルクスの責任だが、それでタバサが救われないのはいただけない。

原作を知るからの感傷なんだけどね。

「ドクター。その心を狂わせる水魔法薬を作ったのはエルフなんだけど」

「なんと」

タバサは何故そのような事を知っているの?という目で俺を睨みつけている。

「だから人間の魔法使いじゃ解除は不可能。ドクター、俺からも頼むよ」

「お願いします」

俺からの援護を受けたタバサが深く頭を下げ騎士の礼をした。

しばらく黙考していたドクターがその口をゆっくりと開く。

「まさか同胞が人間へと干渉していようとは…わかった。だが今回だけだ」

「だってさ」

そう言って俺はタバサに向き直る。

「ありがとうございます」

そういったタバサはその顔は涙が溢れていた。

「しかし薬を作るのに1週間ほど掛かる。これはどれだけ急かされてもこれ以上短くはならん」

「わかりました。1週間後また来ます。金品でしかお礼は出来ませんが」

もう一度ドクターにあたまをさげたタバサはこちらを向いた。

「貴方もありがとう。この礼は必ず」

「気にしなくても良いよ。薬を作るのはドクターだし」

「それでも」

「そっか。それじゃ貸し1つで」

その言葉にコクンと頷きタバサは古屋を後にした。

キュルケに無断で着いて来てしまったので一度戻り、1週間後また来るようだ。

なにはともあれ、タバサのお母さん、救われるといいね。 

 

第十一話

それから1週間、俺はドクターの古屋に厄介になりながら、アルビオン軍から身を潜めていた。

薬を取りに来たタバサに聞いた話では、アンリエッタ女王は捕まり、幽閉されてしまったらしい。

体のいい人質だし殺されはしないだろう。

ルイズ達は杖との再契約も終え、アンリエッタの救出に向うらしい。

勇ましいことで。

しかし始祖の祈祷書は学院に置いて来たままだ。その状態でどうやって救い出すつもりなのだか…

勿論その救出部隊にキュルケとタバサは入っていない。

当然だ。彼女らはトリステインの人間ではない。

そんな彼女らが他国の問題に首を突っ込む事は出来ない。

だからルイズ達トリステイン組でやらなければならない。

だが、助け出した所で事態が好転するはずも無いのだが…

まあ、その辺は主人公なのだから何とかするだろうさ。

俺はもうこれ以上は関わらない。

この先なにが起こるか頭目検討もつかない状況で、深入りするのは危険すぎる。

俺は日和見を決めた。



そんな事があってから更に一月、トリステイン王国は地図上から消えました。

アルビオンに支配されて。

貴族たちの大半は杖を取り上げられて投獄生活。

当たり前だ。

誰が鬼に金棒を与える物か。

そうそう、アンリエッタは無事に助けられたようだ。

今は国外で潜伏してるのだろう。

もしかしたらウェールズとよろしくやってるかもしれない。

今トリステインはアルビオン貴族で領地を与えられていなかった奴らに分配、支配されている。

まあ平民にすれば支配者が代わっただけ。

たとえトリステイン貴族に煽られても日和見だろう。

ガリアの動きは無い。

情報も無いので知りようも無いが、ガリア王、ジョセフは何を考えているのか。

まあ、領土を増やしたレコンキスタ相手にどうやって暇を潰そうかとも考えているのだろう。

なんだかんだで始祖の祈祷書はジョゼフに渡ったみたいだからね。

ルイズ達が必死の思いで学院に潜入し、探してみたが、持ち去られた後のようだった。

ピンポイントで始祖の祈祷書を狙うのなんてヤツ位なものだ。

ミョズニトニルンにでもパシらせたんだろう。

これは本格的にこれからの事を考えないとマズイな。

ゲルマニアにでも行って農地を買い、ソラと2人でブドウ畑でも作ってワインの醸造でもしながら暮らすかな。

一応一生生きていけるくらいのお金は持ち出してあるからね。


しかし最近どうにも不穏な気配をそこかしこから感じる。

景色がぼやけたと感じる事も。

夕飯時俺はその事をドクターに話した。

「景色が歪む?」

「そ」

「うーむ。それは研究のしがいがありそうだ」


次の日、タバサがシルフィードに乗ってドクターの古屋に現れた。

ドクターは今は居ない。昨日話した変異をその目で確かめるべく探索中だ。

俺はタバサを招きいれ、紅茶を振舞った。

「貴方達のおかげで母上は助かった。ありがとう」

そして少ないけれどと、エキュー金貨で300手渡してきた。

それから。

「借りひとつ」

律儀なものだ。

その母親はと言うと、キュルケの実家を頼って亡命したらしい。

政治的にも今はゲルマニアに居るのが安全か。

そんな時、玄関の扉をノックする音が。

コンコンコン

「アオ」

怪訝に思ったソラ俺にどうすべきか聞いてきた。

今回は本当に外の人物に心当たりが無い。

ドクターと付き合い始めてかなり立つが、ドクターの古屋を俺達以外が訪れたことは今まで一度も無かった。

コンコンコン

さらにノックは続けられる。

タバサは無言。

アルビオン軍か?

ドクターが居ないことが悔やまれる。

居たら居たで厄介な事になるが、ここら辺り一帯の精霊と契約しているドクターを前にしては魔法使いも傭兵も物の数ではない。

ドンドンドンガラッ

扉が勢い良く開け放たれる。

そして開け放たれた扉から覗く人物はと言うと、ルイズ、サイト、マルクスにウェールズ。それとフードを被ってはいるが恐らくアンリエッタだろう。

「こちらから開ける前にそちらで開けるのは礼儀を失していると思うのだが」

「それはすまなかったわ」

ルイズが謝るが、どうにもその態度にすまなそうな欠片は無い。

「この場所を知っているのは居ないはずだが、タバサ?」

フルフル

首を振るタバサ、教えては居ないらしい。

ならばつけられたか。

「つけられたな」

「後ろを追ってくる気配は無かった」

弁解するタバサ。

しかしあっちには四極のマルクスが居る。

前世の知識をいかして風の魔法でステルス効果を生み出す魔法くらい作っていても不思議じゃないか。

「今日は貴方達にお願いがあってきたわ」

そうして語られた内容を要約するとこうだ。

トリステインを奪還したいから手を貸せ、と。

長々言い訳のような講釈をされたが実際はこれだけだ。

「お断りします」

「な!?」

関わりたく無いと前も言ったと思うのだが…いや言ったのはタバサにだったか?

俺が断るのが予想外だったのだろルイズが驚愕の声を上げた。

「何故!?あなたそれでもトリステイン貴族!?」

「もとトリステイン貴族だ。今はアルビオンに支配されている」

「それを奪回しようとしているんじゃない!?」

「何故?」

「何故って故国を不当に奪われたのよ!」

「そうだね。でもそれで不利益を被ったのは?」

「え?」

「貴族の協力を請うのは良い。でも支配される平民の協力こそ一番必要だと思うのだけど?」

「支配される事に慣れている平民が私達のようなクーデターに加わるわけ無いじゃない」

「そうだね。わかっているじゃないか」

「え?」

わかってないのか…

「支配される平民にしてみれば誰に支配されても同じと言う事だ。つまり君達は単に自己の権利を奪われたために過去の栄誉を奪い返したいだけなんじゃないか?」

やべ、SEKKYOUしてしまっているぞ?今の俺。

落ち着け、俺。

「えらそうな事を言ってしまったけれど、俺達には協力の意思はない。帰ってくれ」

俺は言い捨てて扉を閉めようと手をかける。

「待ってくれ」

呼び止めたのはマルクスだ。

「何だ?」

「こっちも必死なんだ。そんな言い方は無いだろう」

だいたいお前の所為だろうが!

其処のところの追求はどうなったんだ!?ルイズ達は。

それにこれ以上主人公組と一緒に居ると死亡フラグが乱立しそうでいやなんだ…

ここは無視だ無視。

「くっ、ならば決闘だ、勝った方が負けたほうの言う事を1つ聞く。ぼくたちがかったら勿論君達にトリステイン奪回を手伝ってもらう」

いやこいつ馬鹿?

そんな一方的な言い分聞くわけ無いだろう。

「断る」

無視して扉を閉めようとしたところ、俺は魔法で吹き飛ばされた。

「ぐあっ」

俺はドクターの古屋のをその体を打ちつけながら転がっていく。

「アオ!」

あわてて近づいてくるソラ。

すぐさま水の魔法で治療してくれる。

治療が終わるとソラはマルクスを鬼の形相でにらめつける。

「何しやがる!」

俺は堪らず声を荒げる。

「手荒なまねはしたくなかったが、こちらも必死だ。その貴重な変身能力は是非とも得たい」

何を勝手な!

アンリエッタ達も国のためなら仕方なしといった感じで話に入ってこない。

原作を思い出しても彼らの思考回路はおめでたい。

彼ら一人一人が皆悲劇のヒロインなのだから。

しかもマルクス!自分の意思が通らないとなると実力行使とは。

あー、なんか腹立ってきた。

けど実力じゃ敵わないからなぁ…

「わかった、その勝負を受けよう」

「アオ!?」

俺はソラに近づくとコソっと耳打ちする。

(金貨を集めて)

(え!?)

(勝負すると見せかけて逃げるから)

しばらく身を隠すと暗に含めてソラに説明する。

(わかった)

「表にでろ!」

俺はそう言ってマルクスを外の開けたところに誘導する。



しばらくして森が開けた広場で対峙する俺とマルクス。

するとタバサが俺の前に立ち遮った。

「タバサ?」

「一個借り」

「そうは言っても四極に勝てる?」

「………貴方なら勝てる?」

いやいやいや。

「無理だ」

(大丈夫、決闘が始まったら逃げるから)

ボソっとタバサに話すとわきにどけた。

マルクスの方ではようやく無理やりにとか決闘はとか止めに入っているルイズ達。

しかし結局杖を抜き放ちこちらに向けるマルクス。

「覚悟はいいか?」

「ソル」

俺は胸元から待機状態のソルを持ち出す。

『スタンバイレディ・セットアップ』

「な!」

一瞬で宝石の形が変わった事に一同驚いていたがその中で一番驚いたのはマルクスだ。

「バル……ディッシュ」

「バルディッシュ?」

ルイズがマルクスに問いかける。

しかしそれに答える余裕が無いマルクス。

「なんで君がそんな物を持っている。それはリリカルなのはのデバイスだろう?」

「答える義務はない」

「この前の事でもしやと思っていたのだが君も転生者なんだな、ならば君も知っているだろう、話が此処までずれてしまった、君達の協力が要る」

「この前も言った。お前の尻拭いをする気はないと」

「な!?」

「今回の事は恐らくウェールズが生きている。それだけでここまでずれたんだ」

「なんだと?」

「ミスタ・オラン君は何をいっているんだ?」

ウェールズが自分の事が話題に出たために会話に入ってくる。

「詳しくはそいつに聞いたら良い。だが、その結果がもたらしたことに俺達を巻き込むな」

と、ウェールズに答えているとマルクスから魔法が飛んできた。

『ディフェンサー』

防御魔法でその魔法をそらす。

ギリギリだった…

防御もソルが反応してくれたから出来ただけだ。

「危ないじゃないか!」

「インテリジェントだと!?貴様何処でそんな物を」

「造った」

「な!」

正確にはドクターがだが。

「今度はこちらから行くぜ!」

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

マルクスにせまるフォトンランサー(偽)

着弾と共に俺は叫ぶ。

「ソラ!」

俺はソラにコンタクトを取るとすぐさまフライの魔法を使用、大空に駆け上がる。

フォトンランサー(偽)がもたらした土煙の中から土煙を来散らしながら風の魔法が俺の方へと走る。

『ディフェンサー』

「ぐっ」

マズイ、威力が半端ない!

「ソル!カートリッジ・ロード!」

『ロードカートリッジ』

ガシュっと一発ソルから薬きょうが排出される。

その瞬間強固になる俺の魔法障壁。

ドクターに頼んでおいたカートリッジシステム。

その弾丸は全部で12発しかない。

この弾丸は封じられた魔力で系統魔法1つ分追加する。

つまり擬似的にスクウェアに匹敵する威力が得られるのだ。

しかしそれもソラと半分にしており、実際は6発。

虎の子の6発のうち1発を早くも消費してしまった。

何とか耐え切った俺は合流したソラと共に全速力でその場を離れる。

「アオ」

「大丈夫だ、逃げるぞ」

「う、うん」

しかしその逃亡を妨げる1つの炎弾。

「うおっ」
「きゃっ」

何とか炎弾をさけ、俺達は放たれた方を向く。

すると大火竜に乗ったマルクスの姿が。

先ほどの炎弾は大火竜の物だろう。

「決闘中だろう。逃げるな!」

「そう言うお前も使い魔を使っているじゃないか!」

「使い魔と主人は一心同体。問題ない」

「有るわ!」

次々に迫り来る炎弾。

「くっ」

かわすのも辛い。

炎弾で追い詰めた所にマルクスの魔法がやってくる。

『ロードカートリッジ、ディフェンサー』

薬莢が排出されスクウェアクラスの障壁をはり何とか耐える。

残り4発。

「アオ!」

俺に近づこうとしたソラに向って炎弾が放たれる。

それを障壁で弾くソラ。

「お前!ソラは決闘に関係ないだろう!」

「決闘中に近づくのが悪い」

くそ!先ずあの大火竜を何とかしないと逃げ切れそうも無い。

逃げる後ろからの炎弾やら魔法やらを避けるのは至難の業だ。

「ソラ!あの大火竜の動きを止めてくれ!」

「え?う、うん」

「他者に助力を求めた時点で君の負けだ」

俺は決闘している訳ではない。

決闘に見せかけて逃げられればいいのだ。

「知った事か!」

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

魔法を放った瞬間、俺はソルを左手に持ち直しガンダールヴ(偽)と写輪眼を発動させる。

放たれた魔法に紛れマルクスに突っ込んでいく俺。

「馬鹿な、死ぬ気か?」

俺のフォトンランサー(偽)を上昇して回避、その後隙もなく俺に炎弾を吐く大火竜。

迫り来る炎弾を写輪眼で見切り、ギリギリで回避してマルクスの懐に飛び込む。

『サイズフォーム』

変形したソルにブレイドの魔法を纏わせ、力いっぱい切りつける。

間一髪マルクスも自身の杖にブレイドを纏わせ受けるが、強化された俺の腕力の限界で叩きつけらたその体は踏ん張りがきかず、大火竜からはじき出されてしまう。

俺も勢いを殺しきれずそのまま離脱。

「ソラ!今!」

「ルナ!」

『ロードカートリッジ』

ガシュガシュ

二発のロード音が響き。

「リングバインド×2」

渾身の威力を込めたバインドが大火竜を拘束する。

「ソル!」

『ザンバーフォーム』

此処からはぶっつけ本番!

出来るかどうかもわからない!

「カートリッジロード!」

『ロードカートリッジ』

ガシュガシュガシュ

ロードされるのは3発分。

風のヘクサゴン。

そして形成される極大のブレード。

「馬鹿が!空中で良い的ではないか!」

フライの魔法で飛びながらこちらに杖を向けるマルクス。

だが馬鹿はお前だ!

ルーンを詠唱しようとした瞬間そのまま地上に向けてまっ逆さまに落ちていくマルクス。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

予想外のことでパニックを起こしてフライの魔法を唱えられないようだ。

地面に激突するまでには唱えるだろうが、その隙だけで十分。

俺はソルを振りかぶり、一気に振り下ろした。

「プラズマザンバーーーーブレイカァーーーーーっ!」

カートリッジを使い極限まで高められた必殺の一撃がバインドで拘束された大火竜の翼に直撃、打ち砕く。

「グォォォオオオオオオ!」

翼を打ち抜かれ、追加効果で感電しながら大火竜は地上へと激突した。

「はぁ、はぁ。やったか?」

「アオ、大丈夫?」

「あ、ああ。大火竜は」

「再起不能そう」

「そうみたいだな」

翼は辛うじてくっ付いている程度、全身は雷によって焼け焦げている。

死んでは居ないがあの状態で空を飛んで追ってくることは有り得ない。

「貴様よくも俺の使い魔を!」

マルクスがフライの魔法を使用して俺の前に現れた。

……確かに素の状態、地上戦なら俺に勝ち目は20パーセント位しか無いだろう。

しかし、その前提が変わる状況がある。

つまり空戦。

竜種の使い魔が居ない今、マルクスは空を飛びながら魔法を使うことは出来ない。

と言うのに俺の前に現れたマルクス。

格下の俺に使い魔を打ち破られた事に激昂していて自分の状況がわかっていないようだ。

『リングバインド』

「サンダースマッシャー(弱)」

「があっ」

捕縛魔法とのコンビネーションで呆気なく気絶、落下していくマルクス。

地上にぶつかる前にレビテーションを使用して激突は防ぐ。

あれだけの力を持ちながら最後は呆気ないものだ。

あるいは地上から固定砲台と化していたら俺達が負けていたかもしれない。

流石に火力では勝てないのだ。

冷静さを失っていてくれて助かった。

改めて思う。空戦は凄いアドバンテージだと。

「さて、さっさと逃げるか」

「うん」

「しばらくゲルマニア辺りで隠れながら過ごすことになるな」

「何処でもいい。アオと一緒なら」

くっ、ヤバイ!今の言葉は卑怯だよソラ!

だがそんな時、辺りの空間が歪み、景色から色が消える。

「え?」

「何?」

驚いて見渡すと頭上の空が俺がプラズマザンバーを振りぬいた軌跡にそって裂け、開いた亀裂に別の空間が開き、辺りのものを吸い込み始めた。

「ソラ!」

「アオ!」

いきなり抗いようの無い力で引き寄せられる俺達。

「くっソル!」

抵抗のしようの無い力に引っ張られた俺は脱出を諦めソラをしっかりと抱き寄せると周りの空気を操作して球形にしてバリアを形成する。

そのバリアごと俺達は空間の裂け目に吸い込まれてしまった。

「きゃあああ」
「うああああ」

吸い込まれた俺達はその内側からその裂け目を見ると、見る見る塞がっていくのがわかる。

どうやら一時的なものだったようだ。

こうして俺達はゼロ魔の世界から消えた。 

 

第十二話 【H×H編】

 
前書き
この作品は広く、浅く、次の世界にクロスします。
今回はH×H編です。 

 
マルクスを倒し、逃げようとした矢先に俺とソラは行き成り現れた歪な空間に吸い込まれてしまった。

何とか風を球形にまとわりつかせることには成功したが、その障壁もどんどんそがれていっている。

なぜなら、空間内部では力と力がせめぎ遭ったかのように荒れ狂い、その影響で俺の障壁を侵食する。

恐らく障壁を纏っていなければ既に命は無いような状況だ。

混乱する頭で状況を確認すると、俺達はどうやら何処かへと流されていっているようだ。

この空間で停滞しているよりはましだが、どこに流されていっているのか皆目検討が着かない。

奈落の底ということもありえる。

だがしかし、この状況を自力で脱出できる力が無い今はどこかに出口であればと、幾らも無い可能性にすがらなければならない状況だ。

「くっ、ソル!」

『ロードカートリッジ』

ガシュ

最後の一発。これで耐え切れなければ終わりだ。

「ルナ」

『プットアウト』

ルナの首もとで折れ曲がり、リボルバーに入っていた使用した残りの4発が排出される。

「アオ、これ!」

そう言って手渡されるカートリッジ。

この空間内に空気が有るかわからない。

故に、今操っている分の風以外に新しく魔法が使えるわからない状況ではベストな判断だ。

「わかった!ソル!」

ソルのリボルバーを開け、俺は急ぎ4発のカートリッジを装填する。

更にルナを待機状態に戻したソラは俺のソルを握り締める。

これもソルやルナだから出来る事。

ソル達は他人の精神力で魔法を行使している。

故に2人から同時に精神力を供給され、1つの魔法を使うなんて裏技も可能だ。

まあ、普段は余りにも必要ない機能なのだが。

「私達、どうなるのかな」

俺の顔を見つめるソラ。

「解らない。もしかしてこのまま出口なんて無いのかも知れない」

「そっか…」

しかし神は俺達を見放してはいなかったらしい。

流される先の方に俺達が吸い込まれたのと同じような亀裂を発見する。

「ソラ!あれ」

「うん!」

俺達は最後の気力を振り絞って障壁を操り、微妙にそれて行く軌道を障壁に使っている風を噴射代わりにして強引に変更する。

ドンドン狭まっていく障壁と近づいてくる裂け目。

チャンスは一度。

緊張と恐怖が支配する。

そんな時ソラが俺の手を握り締めて。

「大丈夫」

たったそれだけの言葉だったか、その言葉で凄く落ち着いた。

「今!」

俺はソラを抱きしめ、纏っていた風で最後の噴射を行い、ギリギリその体を裂け目の中へと飛び込ませた。

その裂け目を通り抜ける時俺は体をきしませるような衝撃を受けた。

体の中のなにかが強引に開かれていくような感覚だ。

「ぐぅ」
「くっ」

ソラも同じ苦痛を味わったのか小さく呻く。

視界が砂嵐から一気に蒼空へと変わる。

空中に放り出されたようだ。

引力に引かれて落っこちていく俺達。

「うわああああ」
「きゃああああ」

『フライ』

パニックになっている俺達を助けてくれたのは俺が握り締めているソル。

冷静にフライの呪文を使い、俺達を無事に地面へと降ろしてくれた。

「助かった…のか?」

「よかった」

無事に生きて大地を踏めた事に俺達は安堵する。

しかし、安堵したのもつかの間、俺達の体を異常が襲う。

「ぐぅ」
「熱い」

体から湯気のような物が噴出しているのが見える。

「な…これは…」

俺は自身に起きた変化に驚きつつソラの方を見る。

「精神力が勢い良く抜けていく」

ソラの方も同じ症状が襲っているようだ。

「うっ…」

その湯気は一向にやむ事は無く、徐々に俺は全身に途轍もない疲労感が襲う。

「くっ」

ソラはその場にへたり込んでしまった。

そんな時背後から声が掛けられた。

「何だ?お前らは」

振り返ると無精ひげを生やした年若の男。

「あっ…」

しかし、俺もソラもその声に答えることは出来ない。

「精孔が開きっぱなしじゃないか。お前ら念使いじゃ無いのか?」

「ネン?」

俺はそう言うのがやっとだ。

「なんだ?知らないのか」

少し考えるそぶりをした後、男は俺達にアドバイスをしてくれた。

「その湯気…オーラをそのまま出し続けると最悪死ぬぞ。死にたくなかったら自然体に構えて目を閉じろ。その体から出ている物を留めるようイメージしろ」

俺とソラは突然現れた男に警戒しつつもその助言に従う。

「血液が全身をめぐるようなイメージで頭のてっぺんから右肩、手、足を通って左側へ循環させる」

言われたとおりにイメージする。

「最後は体の周りで揺らいでるイメージだ」

するとその湯気は俺の体に纏わりつき全身から抜け出ていた感覚は無くなる。

「上手いじゃないか」

男はそう褒めてくれたが、俺達は今自分の身になにが起こっているのかも解っては居ない。

ドサッ

その音で振り向くとソラが地面に倒れ伏していた。

俺は助け起こそうとしたが、戦闘から訳の分からない裂け目に飲み込まれ、魔法を使い続けた後にこの全身疲労だ。

俺もソラを助け起こす事も出来ず、気絶してしまった。




「なんだ?死んじまったか?」

行き成り空が割れたかと思ったら何かが落下してくるのを見つけ、俺は駆けつけた。

そこで見つけたのは何も無い平原の真ん中でマントを羽織った奇妙な男女の2人組。

と言うかこの島は俺が買い取った無人島だから人が居るわけ無いのだが。

しかも全身からオーラをほとばしらせている。

念使いかとも思ったがその後の態度でどうやら念は知らないようだ。

だとしたら自力で精孔を開いたってことになる。

とりあえず俺は纏の仕方を教えてやり、それ以上のオーラの消費を抑えてやろうとした。

纏は無事に出来るようになったようだが女の方が意識を失ったようだ。

続いて男の方も。

「生きてはいるな。しゃーない。家まで運ぶか」

よいしょっという掛け声と共に担ぎ俺はその場を後にした。







「ここは?」

覚醒した俺は辺りの状況を確認するように見渡す。

ログハウス風の部屋の中にベッドが二つ、それぞれのベッドの上に俺とソラが寝かされたいたようだ。

「ソル!」

『ここに居ます』

俺のベッドの枕元に置かれているソル。

俺はソルを手に取ると隣のベッドで眠るソラにディテクトマジックをかける。

「異常なし」

その場でソラの容態を確認すると、どうやら気を失っているだけのようだ。

俺は起き上がるとソラのベッドに駆け寄り揺すり起こす。

「ソラ。ソラ」

「う…うん。アオ」

どうやら覚醒したようだ。

「ここは?」

「解らないけれど、どうやら俺達は生きているようだ」

「本当」

そう言って互いの生存を確かめるようにソラは俺に抱きついた。

そんな時。

ガチャ

「おっと、これはまずい時に来てしまったかな」

扉を開け、半歩部屋の中に入ってきているもじゃもじゃ髪の不潔そうな男。

「おら、邪魔だ、さっさと入れ」

そう言って男を蹴飛ばして中に入ってくるのは気絶する前に見た男だろう。

そんなコメディーをしている一瞬で俺はソラから身を引いた。

「なんだ、起きているじゃないか」

そういってこちらへと歩いてくる男。

「俺はジン、ハンターだ。それでお前達は?」

そんな問い掛けよりも俺は驚いた事がある。

気絶する前はその身に起こった事態で気に回らなかったが、今この男日本語を喋っているのである。

「日本語?」

「ああん?」

「あ、いや。俺はアイオリア、それでこっちが」

「ソラフィア」

と、俺達は自己紹介をする。

「アイオリアとソラフィアな。それで行き成りだがなんでお前達はあんな草原の真ん中で倒れてたんだ?
と言うかまずこの島は俺が買い取った無人島で、しかも海流なんかの都合で波任せでは絶対にこの島には着けない。
しかも俺は空が割れて、そこからお前たちが落ちてくるのを見ていたんだが。一体どういうことだ?」

問い詰めてくるジンさん。

まあ、仕方ないかな?

冷静に見れば俺達は行き成り空から降ってきたような物だ。

どうしよう。

総て話すべきだろうか?

日本語が通じていると言う事は此処は日本なのだろうか?

しかし今の俺達に必要なのは情報だ。

俺が語る言葉の中で、知っている地名が有ればそこに反応してくれるだろう。

だから俺は総てを話すことにした。

魔法使いである事だけは、今はふせておく事にするが。

俺達はトリステイン王国の貴族であること。

トリステインでトラブルがあった時に、偶然起こった空間の亀裂に吸い込まれ、何とか脱出しようと試みて、気が付いたらあの草原に放り出されていたこと。

放り出された直後に全身から靄が立ち込めて、立っていられなくなった事。

「なるほどな、世界は広いな」

その後ジンからもたらされた答えでここはどうやら別世界だと言う事がわかった。

この世界は世界地図がしっかりとあり、その中にトリステイン、ガリア、アルビオン、ゲルマニア、ロマリアなどと言う国は無いそうだ。

さらに聞いた話だとこの世界の文化レベルは俺達が居た日本と同等くらいの科学水準らしい。

「それからお前たちが体から噴出させていた靄みたいな物。俺達はオーラと呼んでいるが、それは念を使う為の生命エネルギーだ」

「ネン?」

「そ、ネン」

何だろう?どこかで聞いた事があるゆうな…

「ネン、年、然、燃?……念!?」

「おお!?どうした?」

念だと!?

久しぶりに厨二病な頭がフル回転。

記憶の奥底に眠っていた知識をピンポイントで引っ張り出す。

「ジンさんって先ほどハンターって言ってました?」

「ああ」

ハンター!?

念、ハンター。

この二つから導き出されるのは…

ハンター×ハンターの世界ですね。

やばい!死亡フラグが乱立しそうな世界じゃないか!?

「アオ?」

ソラが心配そうに俺を見る。

「だ…大丈夫」

大丈夫じゃないよ!?

ゼロ魔からハンター×ハンターなんて二次創作でも聞いた事無いよ!?

どうする?

トリステインには到底帰れまい。

どうすればいい?

いやまて、俺の記憶が確かなら、この世界にはジャポンと言う日本っぽい国があったはず。

そこなら生前と変わらないような環境で生活できるかもしれない。

しかし問題は戸籍か。

この世界に戸籍と言う物が有るのかはわからないが、俺達に自分たちの身分を証明するものが何も無いのも事実。

まて、何かあるはずだ。

偽造とか?

金とコネが居るから無理か。

まてまて、ここが本当にハンター×ハンターの世界ならハンターライセンスを取れれば最低限の身分証明書代わりにならないか?

成るかも知れない。

思い出せ、俺!

くっ!ゼロ魔への転生にあたり、ゼロ魔のストーリーについては反復して思い出していたが、それ以外なんて殆ど忘れてしまっている!

ハンター×ハンターも主人公がハンター試験の後に念というでたらめな力を手に入れるといったことくらいしか覚えてないぞ!

後、仮想現実っぽいゲーム。

あれは話が良く出来てたから未だ微かに覚えている。

念もハンターなら皆使えてたような気がする。

念と魔法。

どちらが強力かは解らないが、使えるに越した事はない。

どうやら初歩の纏?だかはできたっぽいから念を使うことは出来るのだろう。

「…ぉぃ…おぃ、聞いてるのか」

「あ、ああ」

「そうか。それでお前らこれからどうするんだ?この島は私有地だし今はある物を作っている最中だ、とりあえず近くの町…といっても海の向こうだが…に連れて行くが」

「あの、その、出来ればしばらくここにおいて欲しいんですが」

「あん?何でだ?」

「その、念?ってやつを教えて欲しいのですが」

ハンター試験?に合格するために。

何よりこの世界で生きる基盤を手に入れるためにライセンスが必要なのですよ!

「別に構わないが」

「おいおい、いいのかよジンよぉ」

今まで黙ってジンの脇に居た不衛生な男がジンに確認する。

「良いじゃないか。丁度今造っているこのゲームのテストプレイヤーが欲しかったところだ。念初心者ならば適役だろう?」

「そりゃそうだけどよ」

「という訳で、こいつらの世話と念の修行はドゥーンに任せる」

「はあ!?こいつらを連れてきたのはお前だろう!?」

「お前が適役だ。任せたぞ」

「お、おい!」

そう言い残して部屋から出て行くジン。

「ちっ、あいつ人の言う事を全く聞きゃしねえ。おいお前ら」

「は、はい」

俺は恐縮して返事をする。

「ジンがああいった以上、お前らの面倒は俺の担当って訳だ…念についても教えてやるが、まあ今日はゆっくり休め」

そう言ってドゥーンも部屋から出て行った。

去り際にめんどくせえと聞こえて気がするが、とりあえずしばらく俺達はここで厄介になれるみたいだ。

「アオ」

「あ、ああ」

「さっきの念?についてだけど」

と、ソラ。

「その前に1つ重要な事がわかった」

「なに?」

「ここは前の世界とは違う漫画の世界らしい」

「…本当?」

流石にソラもこれには驚いたようだ。

「本当…」

俺達は幾つかの確認の後その日はゆっくりと静養に当てた。


それから数日、俺達はまず気持ちの整理に当てていた。

現状の確認。世界の受け入れ。トリステインには戻れないだろうetc

二度目と言う事もあり、一週間ほどで何とか気持ちを切り替えることに成功した俺達は、自然見溢れる林の中でドゥーンさんから念の基礎を教えてもらっている。

念は覚えれるなら覚えていた方がいい。

この世界はゼロ魔よりも死亡フラグら乱立しそうな世界だ。

念使いとの戦闘なんて出来れば遠慮したいところだが、人生何が起こるかわからない。

実際にゼロ魔からまさか世界を渡る日が来るなんて思っても見なかったしね。

「先ずは纏からだ。纏はできるな?垂れ流しのオーラを体に纏わせる技術だ」

「えっと?」

「ジンから倒れる前には纏が出来ていたと聞いているんだが、纏ってのは一度出来れば忘れない物だ、出来るはずだぜ?」

ああ、あれか。

記憶の奥底には微かにあるな。

纏 絶 練 発 だったかな?

この辺りは微かに覚えてる。

俺は倒れた時の事を思い出し、精神を集中し、体内の精孔を開ける。

この精孔から溢れ出てくるオーラと言うものを逃がさないように体に留める。

何だろう?

このオーラと言うものは俺達が今まで使ってきた精神力と似ているような気がする。

それに気が付くと、少しぎこちなくはあるが割と簡単に纏は会得できた。

ソラの方も問題ないようだ。

「なんだ、出来るじゃねえか」

ドゥーンさんは頭をかきながらつまらなそうに言った。

「じゃ、次だ。今開いている精孔を閉じて体から洩らさないようにする。これを絶と言う。ほれ、やってみな」

なんて、多少投げやりな感は有るが、ドゥーンさんは次のステップを教えてくれた。

今開いている精孔を閉じる。

む?

何だろう?

なんか精孔を閉じたら今まで俺達魔法使いが使って居た精神力といった物が満たされるような感覚。

「アオ、これって」

ソラも気づいたようだ。

「ああ」

俺はそれに頷いた。

「あ?なんだ?ちゃんと絶は出来てるみたいだが、なんか有ったのか?」

「あ、いえ。何も」

ドゥーンさんの問いかけに曖昧に返す俺。

魔法のことは未だ言ってない以上今は黙っておくべきだ。

「ま、いいや。纏と絶は出来たんだ。しばらくはそれの反復練習だな、ってわけで後はお前らだけでちゃんとやっとけよ。俺も忙しいんだからな」

そう言ってドゥーンさんは踵を返して去っていった。

ドゥーンさんがこの場を去るのを確認してソラが俺に話しかける。

「アオ。この絶でオーラを閉じるとなんか精神力が満たされたような気がするんだけど」

「ああ。俺もだ。もしかしたらオーラと精神力は同じ物なのかも知れない。外側に放出するか内側に溜め込むかの差があるが」

後で時間をかけて解明した事だが、魔法使いが使う精神力とオーラは似た性質のもとの言っていい。

今まで垂れ流していた精神力の幾らかを自分の体内に留めておける体質が魔法使いには先天的に有った様だ。

とは言っても垂れ流し状態のオーラを少しずつ溜め込む訳だから最初一日に最大値の二割ほどしか回復しなかったのも頷ける。

それを今、垂れ流しのオーラを絶つ事で一気にその精神力のプールに流れ込んできたというわけだ。

それから数日、俺達は纏と絶の修行を繰り返した。

精神力の扱いは慣れているので同じものかもしれないと考えれば、それを操る技術には多少のアドバンテージがある。

一週間もすれば、絶はまだぎこちないところがあるが、纏については俺もソラも難なく出来るようになった。

「じゃあ、今日はこれから練の修行だ。ほれ、纏をしてみな」

言われて俺達は纏をする。

「大分ましになって来たな」

そういうとドゥーンさんも纏をして集中し始める。

「まず体内にエネルギーを溜めるイメージ。細胞の一つ一つからパワーを集め、それを一気に外へ」

ドゥーンさんの体から放たれた通常より遥かに多いオーラ。

その量に俺はわずかに気おされる。

凄い…

「こんな感じだ。練が出来れば基礎は後一つで終了だ、がんばれよ」

そんな言葉を言い残し、いつのものようにドゥーンさんは去っていった。

俺達は今見せられた事を思い出しながら練の習得に励む。

細胞からパワーを集め、一気に外に。

「練!」

俺の体を通常より遥かに多いオーラがその身を包む。

「アオ、凄い。私も負けない」

ソラも目を瞑り集中。

「練!」

激しいオーラがソラの体を包む。

ちょ!

俺よりも大きくない!?

ソラに負けるのはちょっと俺のプライド的にくる物があるよ!?

「出来た!」

嬉しそうにはしゃぐソラ。

「あ、ああ」

くそう。

絶対追い越してみせる!

俺は練の習得に励むのだった。 

 

第十三話

それからの一月、俺達はひたすら 纏 絶 練 の修練に明け暮れた。

衣食住はジンたちの厚意で無償で提供してもらっている。

なんか今造っているらしいゲームのテストプレイヤーを探していたから、それでチャラらしい。

というかこのゲーム、聞いた話しによるとハンター達が念修行をするために最適な修練場として開発しているらしい。

そう、それを聞いて俺も思い出したよ。

グリードアイランド。

それに伴い思い出したことも幾つか。

その1つがジン=フリークス。

そう、ハンター×ハンターの主人公…たしかゴン?だったかの親父だ。

親世代テンプレですね…

原作に関われと?

まあ、原作開始には未だ時間はある。

それまでに念を覚え、ハンターライセンスをゲットしてジャポンでのんびり。それが今の俺の目標だ。

夕食を頂いてる時に、たまにジンがゲームのアイテムなどでアイディアが無いかとか聞いて来た事がある。

アルコールで酔っ払っていて饒舌になっていた事とハイテンションによる厨二脳がフル回転していたことで色々喋ってしまっていた。

ほぼ無理と言えるような代物を次から次へと喋る俺の言葉を面白そうに聞いていたジンが印象的だ。

だがしかし、ジンの破天荒というかバグキャラ?っぷりはいかんなく発揮された。

一月後にはその幾つかをゲームのアイテムとして完成させていたのだ。

なんだろうドクターを思い出したよ…

「ゲームに出てくる勇者はどうやって袋にいろいろな物を大きさ無視してしまってんだよ?アレはかなり欲しいぜ!」

何て言ったら『勇者の道具袋』何ていう何でも収納してしまう物をマジでを作り上げるし。

「あー、別荘がほしい。ボトルシップ大で中に城と山と海なんかがあって、中に入れて、中と外の時間の流れが違う精神と時の部屋?みたいな!」

と言えば『神々の箱庭』なんていうとんでもない物を作る始末。

あ、しかもこの『神々の箱庭』はダイヤルが付いていて、それにより中と外の時間の流れを早くしたり遅くしたり調整できるらしい。

いやいやどんだけだよ!

しかも今は俺がポロッと言った言葉でとんでもない物を製作中だ。

え?何ていったかって?

「折角こうやって怪物みたいなのと戦えるならアレだ。リアルモンスターハンターとかやってみたいねぇ」

なんて言ったのが運のつき。

そのゲームの内容を洗いざらい吐かされ、今この島の一部を改造してリアルにフィールドを形成しています。

モンスターにしても今すでに造っていあるモンスター達の念技術を使えば難なく再現可能だろうとも。

まあ、幻獣ハンターやビーストハンターとかの訓練には最適だなとか言っていたから別にいいのか?

作っている場所が島の海岸線から一キロ離れた孤島で、海流が激しく渡れないような所に作って誰か行くのか?何てことも思ったりしたけれど…

後でそれを聞いたらここは一応隠しステージらしく普通の方法では来ることは出来ないとか。

条件は『漂流(ドリフト)』を50回使う。

いやいやいや、使わないでしょ普通。

50も町無いし。

まあ、そんな事も有ったりしつつ、今俺達は四大行の最後の1つ 発 の初歩、水見式を行う事となった。

これにより自分の系統が解り、自身の得意不得意が解るらしい。

系統は全部で6つ

・強化系
・変化系
・具現化系
・放出系
・操作系
・特質系

ドゥーンさんはグラスに水をなみなみと注ぎ、そのうえに木の葉を浮かべた物を二つ用意した。

「自分の系統を知るのはこいつが一番一般的だ。そらそのグラスを両手で挟むようにかざして練をしてみな」

俺とソラは言われたとおりグラスに手をかざし練をする。

すると俺の方は枯葉だった木の葉の色が若干緑がかっている。

ソラの方を見ると、木の葉が分解され一枚の紙片のようになっている。

それを見たドゥーンさんが驚いた表情を浮かべ。

「こりゃ驚いた。二人とも特質系だな」

「特質系?」

「この系統ばかりは他の5つの系統とは違い千差万別。決まった形が無いからな。ある意味個性が出る系統だ。更にその水見式の結果が能力に直結している場合もある」

…個性ですか。

「ま、何はともあれしばらくは今までの纏 絶 練 に加えてこの発の修行。その反応が顕著になるまで特訓だな」

いつものように要点だけいってドゥーンさんは言ってしまう。

「しかしこれにいったい何の意味があるのやら」

俺は暫し考えるが意味が解らない。

「私は葉っぱが紙になったわ」

と、ソラ。

「紙か。本か何かに関係するのかねぇ」

「本…」

「本といえば俺達はハンター文字は読めないんだったな。俺達はまた文字の習い直しだったな。まあ念の修行がひと段落してからだけどね。さ、今は発の修行だな」

「うん」

そう言ってソラは発の訓練に戻る。

その最中「文字…」といっていたのが耳に残った。

一ヵ月後。

俺の発は又しても意味の解らない変化を起こしていた。

葉っぱの下にある影が6つ。

それ以上は限界なのか増える気配が無い。

意味わからない…

そんな中、ソラが自分の念能力を完成させた。

『欲張りな知識の蔵(アンリミテッド・ディクショナリー)』

それは辞典の形をした一冊の本。

ごめん。一瞬、闇の書!?とか思った俺自重。

表紙には悪魔の口のような物が付いている。

それを発現したソラを見て俺はおっかなびっくり尋ねたんだ。

「な…なんだ?それ」

「…わからない。わからないけど。発の訓練してたらいつの間にか出てきてた」

「そ、そう。それでそれの能力は?」

「…さあ?」

解らないのか!

「触っても大丈夫?」

「大丈夫だと思う」

「噛み付かないよね?」

「………」

「ちょ!そこは否定してよ!」

おっかなびっくり俺はそれを左手で受け取る。

すると発動するガンダールヴ(偽)の能力で脳裏に使い方が浮かんでくる。

良かった。

念能力は一応武器に分類されるらしい。

「何か解った?」

ガンダールヴのルーンが輝いた事でソラが問いかけてきた。

「ああ」

解った事は以下の通り。

・この本の口から現存する本を食わせる事により、それに記されていた内容を総て記録する。
・食った本は二度ともとには戻らない。
・記録した内容はアンリミテッド・ディクショナリーを開く事でいつでも好きな時にそのページに浮かび上がらせられる事が可能。
・記録、蒐集した本の一覧が自動で生成される。
・この本に食わせた本に記載されている言語、文字を即時習得可能。
・この本のページを破りその言語、文字を封じた状態で一枚破り、それを相手に埋め込む(念による物質化なので溶けるように相手に埋め込まれる)事により、埋め込まれた相手も言語と文字を習得可能。これは一年掛けてで完全に消え去り、消えた後もその言語は学習済み。この一年を置かずして同じように上書きされると新しい方に更新され前の言語の習得は破棄される。

「こんな感じだな」

「そっか」

なるほど。

これはソラの根底に関わる能力だ。

行き成り言語の通じない異世界に放り出され、言葉も通じずに過ごしてきた。

その苦痛から生まれたものだろう。

それからソラは、ハンター文字の書かれたいる辞書をもらいうけアンリミテッド・ディクショナリーに食わせると、途端にハンター文字を理解して見せた。

それを見てジンたちもあっけに取られていたっけ。

「戦闘能力は皆無だが、学者泣かせの能力だな」

とはジンの言。

俺も早速ソラに白紙のページを埋め込んでもらい、何とかハンター文字が読めるようになった。

ジンなんかは貴重な古代の歴史書の写本なんかをアンリミテッド・ディクショナリーに食わせ、解読させていた。

うん、確かに戦闘能力はないが、凄く便利な能力だな。

しかも本の内容を無限に溜め込んでしまう性質を持っている。

…今度漫画本を食わせてみようか?

俺は未だ自身の能力は無いが一応 発 の修行も合格をもらい、応用技の訓練をしている。

先ずは『凝』

練で練ったオーラを目元に集中させる。

しかしやはりここで俺達ならではの弊害が…

凝 は確かに短時間だが出来るようになりました。

しかし…

そう、オーラを目に集中すると写輪眼が勝手に使用されるのです…

凝+写輪眼に使用されるオーラ。

練ったオーラがドンドン使用されていく。

これが結構辛い。

ただどういう訳か、相手の念(忍術じゃないのに)に対する洞察力も上がっているので、そこは良し悪し。

どんなに上手く隠を使われても大体発見できる優れもの。

だけど物凄くオーラを使う。

凝を使えるようになってからいろいろな物を凝で見てみた。

たまに物にオーラが篭っているのを見ることもあった。

名工の作などは知らぬ内に作者の念が込められてることがあるらしい。

そんな中でひときわ念の篭っていたのは何を隠そう、ソルとルナ。

この二つは一際輝くオーラを纏っていた。

まあ、彼女らはずっと俺達の精神力=オーラを流し込まれ、それを操っていたのだから当然か?

しかも造ったのはあのバグキャラであるドクターだしね。

あの人なら念の一つや二つ…

それから『隠』の訓練、これはオーラを見えにくくすることだね。

これは俺達よりもソル、ルナに身につけて欲しい所です…

凝で見られたら一発でばれちゃうしねぇ。

何とかならないかと試してみた所、何とかなった…

というかあからさまにソル達はおかしい。

自身にはオーラを生み出す技術は無いものの、それを操る事は出来る。

つまり供給されたオーラを自在に操れるという事らしい。

うん。やはりドクターはバグキャラだった。

こんなとんでもアイテムを造るとはね。

次は『周』だ。

これはオーラを武器など体以外に纏わせる技術。

これの習得にはなぜか土木作業が用いられた。

シャベルを用意して街の水道管を設置するための穴掘り。

機械じゃなくて人力ですか…

しかも俺達以外の人間、ジンなどは一日に何キロも軽々と掘っているし…

俺達はせいぜい数百メートルがいいところなのに…

まあ、続けていくうちに慣れたけれど、始めのうちは直ぐにオーラが切れて動けなくなった物よ。

『周』の修行がひと段落付いたら次は『円』

いつもは体の周り直近を問い巻いているオーラを必要な範囲まで広げて、その中にある物を知覚する技術。

これは意外と難しい。

俺もソラも一ヶ月の修行でおよそ3メートルほどしか展開できていない。


『堅』

この修行は単純だが、持続時間を増やすのが当面の課題。

練をし続けるだけだが、最初は1分半ほどでダウン。

ソラも似たような物だった。

念の戦いにおいて『堅』の持続時間=戦闘時間らしいから、延ばさないことには戦いようも無い。

しかも魔法を使用すると当然のこと纏っているオーラが減る。

つまり戦闘時間も減る。

素の状態で30分『堅』が出来るようになったとしても、魔法などの使用したら結局15分程度か?

さらにガンダールブ(偽)と写輪眼の併用を考えるともっと減りそうだ…

一月の修行で俺が15分、ソラは18分と言ったところか。

纏 絶 練 発 の複合『硬』

これは出来るには出来たが、俺達の系統が特質系で、六性図では反対側に位置する強化系はもっとも相性が悪い。

これは周とかでもいえる事だが、どうにも一撃の威力は強化系の人の半分も無いといった所…

まあ、それでも殴りつければ人一人くらい簡単につぶしてしまえる位の力は有るのだけれど。

最後は『流』

俺達にとってこれは攻撃よりも、どれだけ早く的確に防御にオーラを集められるかといった所だ。

これもまあ写輪眼との併用で当たるところを瞬時に見抜ければノーダメージでの防御を有り得るだろう。

『流』に関してはやはり習得に時間が掛かった。

一応戦闘でも行使できる最低のラインに来るまでに3ヶ月。

といってもジン達からして見ればひよっこも同然なレベルなのだけれど…

そうそう、忘れていた俺の発。

結局特質系の能力は創れず、色々考えて、試行錯誤した結果生まれた能力が1つ。

『貯蔵する弾丸(カートリッジ)』

カートリッジが殆ど切れている状態の俺達の杖。

この弾丸を作れるのはドクターだけだ。

それも巨額の費用と時間をかけて1ダースが限界。

しかし、魔法に使われる精神力がオーラと同質の物であるとわかった俺は、何とかそれを留めて、好きな時に使えないかと四苦八苦。

そして生まれたのがこの能力。

『硬』の要領で、右手に全オーラを集中させ、弾丸を具現化。

これが出来た時は嬉しさで発狂しそうになったね。

使えるか解らなかったけれど…

それをソルにセットして使ってみたところビンゴ!

炸裂させた瞬間に、閉じ込めたオーラが俺の体に還元された。

一気に何倍にも膨れ上がったオーラで『硬』を施し岩を殴ったところ、強化系が強化したのと同等ほどの威力が出た。

これは嬉しい誤算だ。

だがまあ、オーラを増大させる事は出来るが、それを操る能力はまた別。

還元されても纏で留めておけず、結局半分以上は抜け出ていってしまった。

この辺りは要修行だ。

このカートリッジ、一度具現化すると、手から離れても日にちを置いても、劣化しない優れもの。

というか本来ありえないらしい。

オーラで具現化させたものは本体から離れるほど希薄になり消失する。

本体から離す特色は放出系に属するらしい。

しかも俺は特質で放出系とは強化系まで行かなくても相性がいいとは言えない。

まあ、深く考えなくても、できた物はできたんだからいいか。

しかし問題は色々ある。

このカートリッジの作成は非情に疲れる。

創るのに一時間。一日2個が限界だ。

しかもこのカードリッジ、一応ソラでも使えるらしい。

しかし、ソラだと俺が100パーセント還元されるとすればおよそ80パーセントしかそのオーラを自分の物として操れない。

ソラはまだ相性がいいほうで、ジンに試してもらったところ3割ほどしか留めておけず、後は霧散してしまうようだ。

この辺は個人差があるのだろう。

まあ、これは俺とソラが使えれば問題ないからいいだろう。

あとは込めるオーラの量を増やしたり、調整できれば完璧だが、この辺も要修行だ。


そんなこんなで一応念に対しての基本と応用を大体教授してもらった俺達は、ジンとの約束の通り、完成間近のこのゲームのテストプレイヤーとしてプレイする事にした。

ジンの仲間でゲームマスターでもあるエレナさんから指輪をもらい、ゲームスタート。

勿論ゲームにのっとり開始地点はゲーム入り口からだ。

そういえばこのゲーム、何人で作っているのだろう?

ジンに紹介されたのは師匠のドゥーン、双子の女の子のエレナとイータ、強面のレイザーさんと小柄なそばかすの男の子のリストの5人だけ。

他にも何人か居るみたいだが未だ有った事はない。

まあ、良いんだけど…

テストプレイ事態は順調だった。

未だモンスターとの戦いで逃げ腰になったりすることも有るけど(だってめちゃくちゃでかい怪物とか居るし)まあ、何とかやっている。

このゲームのクリアに必須の指定カードについてはその在りかなどは全部同行しているジンに聞きながらのプレイだから楽なものだ。

自分で1から情報を集めたりしていたらテストプレイだけで何年もかかるしね。

動作確認が重要なのだからその辺は考慮してくれたようだ。

攻略自体は自力でやっているんだけど…

しかし、やはりこのゲームは良く出来た物で、確実に俺達の戦闘技術は向上していく。

念の修行だけではなく、情報収集技術、判断力の向上、その他もろもろがこのゲームには余すとことなく詰まっている。

指定カードの『一坪の海岸線』などの2人ではイベントが発生しない物などはシステムに介入してイベントを強制発動。

まあ、これは人数の問題で仕方ないな。

レイザーと14人の悪魔というイベントは未だその人数が足りていないとの理由でレイザーとレイザーの能力である念獣たちによるドッジドールの一騎打ち?複数だから一騎打ちではないけれど、こっちは俺達の他にジンさんたち5人とレイザーの念獣を貸してもらって8人。

8対8のドッジボール。

うん、俺とソラは外野の端の方で邪魔にならないように見てた。

だって怖いんだもの!

レイザーの半端ない強度のボールに当たったら死ねるよ!

それでもジンさんは凄い!

ほぼ一人でレイザーを含める念獣たちを仕留めているのだから。

「ちょ!ジンお前、ちょっとは手加減しろよ!」

「へ、そんなやわな体はしてないだろう!おらぁ!」

割と本気で泣きを見ているレイザーさんがかわいそうでした。

そんな感じで今出来ている部分のテストがようやくひと段落した時、俺達は思いもよらない出来事に襲われた。

それはジンが新しく作ったアイテムをいろいろと試していた時の事。

「アイオリア。これを食べてみてくれ」

そう言って渡された1つのクッキー。

「何?また怪しい効果が付属しているんじゃ?」

これまでも色々と怪しいアイテムの実験に付き合わされた苦い経験が思い出される。

魔女の媚薬とかね!

悪乗りしたソラにまんまと一服盛られ、それから1週間、俺はソラとハッスルしまくってしまったよ!

「まあ、良いから食べろ!」

無理やり押し込まれるクッキー。

「ぐふぅ…のどに詰まったらどうするんだ!」

最近俺はジンの破天荒ぶりに最初のころにあった礼節など何処かに吹き飛んでしまった。

ジンさんと呼んでいたのが今ではジンと呼び捨てだ。

「って声が高い!?」

「成功だ」

「ってなにが!?」

声変わりのアイテムか?

いや違う、なんか微妙に体が微妙に縮んだような?

と言うか胸部が微妙に重いような。

胸を摩ってみる。

……え?

「え?胸!?」

「あっはっは。今お前は女なんだよ」

「ちょ!ジン」

「アイオリアおめえなかなかに美人じゅあねえか」

ドゥーンさん!

「かわいい」

ソラまで!?

「てかもしかして変身薬!?」

「ああ、性別反転するクッキー。名づけてホルモンクッキーだな。うむ、面白い、これは後で指定カードに入れておくか」

「って!?っちょっとまって、ちゃんと元に戻るの!?」

「大丈夫だ、効果は24時間。時間がたったら元にもどるさ」

24時間か…でも…何ていうかな…嫌な予感が…

「まてまてまて!俺は変身薬系とは相性がわる……ある意味相性が抜群なんだよ!やばいよこれ!絶対後遺症が出る!」

「はあ!?何いってるんだよお前?」

「昔、俺は変身薬を飲んだ事があるんだ!効果は一時的な物だったはずなんだ」

「ほお?」

興味深そうに聞き返すジン。

「そしたらどうなったと思う?」

「さあ?」

「見てろ!」

そう言って俺は目の前で猫に変身する。

「猫!?」

「これがその結果だ!変身薬が抜け切らなくて固定されたんだよ」

「便利じゃないか」

くぅ~!確かに便利だけどさ!

俺は猫から人型に戻る。

すると。

「やっぱり…」

「なんだ?男に戻ったのか?失敗したのかこのクッキー」

「いや…たぶん俺の変身バリエーションにTSが追加されたんだと思うぞ?ほら!」

そういって俺は男から女にトランスする。

「本当だな、まあ良かったじゃないか、なかなかに美人だしな!」

「………はぁ、まあ元に戻れるから良いけどね…ソラには食わすなよ!男になったソラは見たくない!」

「残念だ。興味あったのだが」

「絶対にダメ!」

俺はジンに念を押した。

そして俺はソラに念を押そうと振り向くと…

「食ってる!?」

そこには既に食べておられるソラの姿がorz

かなりの美少年な姿だったのが印象的でした。 

 

第十四話

さらにしばらく時間が経ち、ついに建設中だったハンティング要素の濃い隠しクエストが完成した。

そう、俺が冗談で言ったモンハンの事である。

「じゃあ俺らはまだ他にやる事あるから、テストプレイよろしくな」

「え?」

「バグなんかはドゥーンに言ってくれ」

そう言うと俺とソラを孤島にある隠し村に置いてさっさと帰ってしまうジン。

「どうしようか?」

「うーん…やるしかないんだろうねぇ」

最近修行の成果が出てきたのか、少しずつ強くなっているのを実感しているから腕試しには丁度いいか。

一通り村の内部を確認したから俺たちはクエストが受注できるハンター専用の酒場に足を向けた。

「いらっしゃいませ」

出迎えてくれたのはギルドの受付嬢。

「はじめての方ですね?此方でギルド登録をお願いします」

登録の仕方は一度このゲームのセーブ媒体である指輪を受付嬢が持ってきた機械にかざすだけ。

それで登録完了。

登録完了した俺とソラはまず、ハンターランク1のクエストから依頼内容を確認。

先ずは様子見と、『生肉10個の納品』を選ぶ。

仲間を募集する場合、クエストを選ぶとクエストボードに張り出される。

クエストボードに張り出されたカードを受け取ると、そのクエストに同行できるようになる。

ソラがクエストボードから受注して、俺が待つ酒場の奥の転移方陣へと歩み来る。

「じゃ、しゅっぱーーーつ」

方陣が輝き俺たちは狩場へと転送された。

転送されたのはフィールド名『森と丘』

深々とした木々が生い茂る山野とこう配のある丘で形成されている。

転送されて来たこのフィールド。

この場所自体は念で作られた仮想世界のようなものらしい。

なぜ念空間にしたのかと言えば、一度に複数人がプレイできる環境を整える事を優先したからだ。

事前の説明でモンスターを倒し、その死体から支給された剥ぎ取り用ナイフで削りだすとその部位がカード化される仕様らしい。

今回の目当ては生肉。

俺達は『絶』を使用して気配を絶ち、前方に居る草食竜『アプトノス』へと近づく。

ソルを握り締めて、一気に距離を詰めて一閃。

アプトノスの斬られた傷口から大量の血液が飛び散る。

「え?」
「あ?」

その様子に俺もソラも動揺する。

俺の方は以前の経験から直ぐに立ち直る事が出来たが、ソラの方が微妙だ。

今までのこの世界のモンスターは血は流さず、倒すと直ぐにカード化されていた。

そこに来て今回の出来事。

アプトノスは血を噴出し倒れこんでいるものの絶命には至らず、懸命に起き上がり逃げ出そうとしている。

俺はソルを構えなおし連撃。完全にアプトノスの息の根を止める。

死んでいるのを確認してから俺は剥ぎ取り用ナイフを抜き放ち、その体に突き刺す。

切り取ると『生肉』のカードがその手に現れる。

それをバインダーにしまい、ソラの方へと急いで向かった。

「大丈夫?」

「…う…ん。大丈夫、平気」

そうは言うが少々顔色が悪いようだ。

トリステインに居た時も戦う事は多々あったけれど、こう言ったスプラッタな場面は今まで運良く見舞われてこなかったために耐性が無いのだろう。

とは言え、俺の時みたいに胃の中のものをリバースしないだけマシだ。

「少し休むか?」

「いい、大丈夫。アオ、次は私がやるね」

「大丈夫なのか?」

「うん。こういう事にも慣れないといけないから」

慣れていいものなのかどうか。

俺は考えてみたがその答えは出せそうに無かった。

ソラはルナを握ると改めて発見したアプトノスにその刃を振り下ろした。


生肉十個を手に入れるとベースキャンプに戻って納品。無事にクエストがクリアされると一分して俺達の体は酒場へと転送された。

今日のところはソラを気遣ってこれ以上のクエストを受注せず街にある宿屋へと赴いた。

フロントに案内されたのは馬小屋かと見まごうようなボロイ部屋、あちらこちらにホコリが降り積もり、ベッドのシーツもひどく汚れている。

フロントに抗議するも、ここでの待遇を上げるためにはハンターランクを上げろと言われた。

ランクと待遇が直結するらしい。

この馬小屋のような待遇は一番ランクの低いハンターのものだとか。

それゆえに無料で提供しているとのこと。

ランクが上がればそれに応じた部屋を案内する裸子。勿論お金は取られるが。

部屋の中にあるアイテムボックス。これはバインダー以外にアイテムを保管できる場所だ。

ここで手に入るアイテムは膨大でゆえに、一時保管場所として利用できる。

まあ、入るのはここのハンティングでゲットしたカードに限るみたいだが。それでも便利に活用できるだろう。

俺は無いよりはマシと言った感じのスプリングすらないベッド…寝台に寝転がっていると、俺の部屋のドアを開けてソラが中に入ってきた。

「アオ…一緒に寝ても良い?」

今日の出来事が衝撃的だったのか、部屋に入るなりそう俺に尋ねた。

「……今日だけだよ」

「…ありがとう」

その日以来、ソラは現場では取り乱す事は無くなった。

あくまで現場では…

帰ってきてその表情を曇らせるのを俺は知っている。



先ずは採取クエストでフィールドの地形を覚えつつ、クエストをこなしている。

採取クエストと言って侮る事無かれ。

『凝』で注意深く探さないと目当てのものが見つからないようになっているのだ。

そろそろ慣れてきたので、俺たちは狩猟クエストを受けてみる事にする。

クエスト内容は『ランポス10頭の狩猟』

クエストを受け、俺たちは森と丘に降り立った。

気配を消してフィールドを移動。

フィールドにある大きめの鳥のような足跡を追いかけるとそこには数匹の青色の鳥獣。ランポスだ。

茂みを移動して十分にランポスたちに近づくと纏でオーラを纏い振り上げたソルを振り下ろす。

先ずは一匹。

真っ二つにされて絶命するランポス。

しかし、俺はまだ一匹目だと言うのに倒した事に油断したようだ。

「アオ!危ない!」

反対側から距離を詰めていたために出遅れたソラが俺に叫んだ。

その声に気が付いて、俺はすばやく後ろを向くとそこには二匹目のランポスが大きく口を開いて噛み付いてきた。

やばい、やられると思った瞬間『流』を行使。噛み付かれた場所のダメージを減少させる。

「ぐうっ!」

噛み付かれた左腕。その攻撃のダメージをいくら流を使ったとは言っても0には出来なかった。

「つっ」

鈍い痛みが襲う。幸いにして身体の欠損は見当たらない。

今度は油断無く『円』を使用。前後左右、すべての方向からの攻撃に備える。

そう、ランポスは単体では其処まで脅威ではないかもしれないが、その真髄は集団戦。

一対多で戦う事の難しさをこのとき俺は始めて知ったのだった。

何とか見える限りのランポスを殲滅し、ソラと合流する。

ソラの方もどうやらランポスをしとめ終えたようだ。

「大丈夫?」

俺の左手を心配そうに見つめている。

「大丈夫だ。咄嗟に流で防御力を上げたから」

「そっか」

「しかし、これで勉強になった。目の前の一体だけを気に掛けていて、その他をおろそかにしてはだめだって事だね」

その後何度かランポスやその亜種のイーオスの狩猟クエストを受注。イーオスの麻痺毒にはてこずったが、対多数戦の初歩と言うべきそれを何とか物にする事ができた。



さて、モンハンと言ったら素材を集めての武器防具の生産と強化。

これもここではかなり忠実に再現されている。

なので、集めた素材で簡易防具を作成した。

俺はゲネポスの素材を使った上下一式。

ソラはランポスで統一されている。



狩猟クエストにも慣れてきた俺たちはついに飛竜の討伐を依頼されるまでになった。

とは言っても皆知ってるクック先生だけど。

怪鳥イャンクック大きな襟巻き状の大きな耳が特徴のピンク色の体色をした小型のワイバーンだ。

小型とは言ってもその全長は8メートルはくだらない。

俺は自分の所持アイテムを確認する。

薬草と回復薬が数個、後は剥ぎ取り用ナイフ。

この世界の薬草などを代表する回復アイテムは、一体どういった原理が働いているのかこのフィールド内で傷ついた傷を効果に見合った分だけ回復してくれる。

防具を揃えられれば切断系の攻撃に耐性が出来るから、実際は打ち身や軽い切り傷を治す程度だが。

息を潜めつつ、フィールドを索敵する。

バサッバサッバサッ

羽が風を掴む音が聞こえてくる。

「あそこ!」

ソラの声に視線を向けるとそこには空から今まさに地上へと降り立った怪鳥の姿が。

どうやら食事のようで、巨大な昆虫(カンタロス)をその嘴で掴み一気に丸呑み。

「うぇ…」

その光景に少し気分が悪くなる。

しかし、気を取り直してソルを構える。

「先ずは翼をつぶして機動力を殺ぐ。ソラ、バインドお願いできる?」

「任せて!ルナ」

『リングバインド』

いきなり空間に現れた束縛の魔法がイャンクックに絡みつく。

クァーーーーッ

大声を上げてもがき、ソラの束縛から抜け出そうと暴れる。

「そんなに保たないから!」

「分かってる!ソル、行くよ!」

『サイズフォーム』

そるに纏わせたブレードが先端から伸びて鎌の形に変形する。

俺は念で四肢を強化して、大地を蹴った。

狙うのはその翼。

「はぁっ!」

気合一閃。イャンクックの翼膜を切り裂いた。

グルァーーーーっ

悲鳴のような泣き声をあげたかと思うと、力の限り暴れだし、ソラのバインドを振りほどこうともがく。

「アオ!持たない!」

その言葉をきっかけに、バインドが振りほどかれて自由になるイャンクック。

クルァーーー

羽を切り裂いて着地した俺は今、丁度イャンクックの足元あたりに方膝を着いて着地している。

それを俺の頭上から怒りに任せてその大きな嘴で突付く。

「うおっ!」

何とか攻撃を食らう寸前で前方に転げ周り、その攻撃をかわす。

すると、何かを体内から吐き出すようなモーション。

ゴオッ

突き出された嘴、その中から吐き出された炎弾。

「なっ!」

吐き出された炎弾は放物線を描き、俺目掛けて飛んでくる。

『ディフェンサー』

ソルが寸前でシールドを展開、防御する。

クルアアアアっ

突進してくるイャンクック。

俺は直ぐにその突進を避けようとするが、それよりも早くソラからの援護が入る。

『フォトンランサー』

「ファイヤ!」

ズドドドドーーーン

着弾と同時に悲鳴を上げて悶絶する。

俺は動きが止まったその隙にイャンクックから距離を取る。

予想以上に俺たちが強敵だったのか、その身を翻して空へと飛んで逃げようとその翼をはためかせる。

しかし、最初の俺の攻撃で切り裂かれた翼膜ではうまく風を捕まえられない。

俺はその隙を見逃さずに魔法を発動する。

『サンダースマッシャー』

「サンダーーーースマッシャーーーーーーーっ!」

ソルの刃先から放たれる雷の凶光。その光は真っ直ぐとイャンクックに走り着弾。

クルアアアアアッ

イャンクックは絶叫の後、絶命して倒れこんだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「やったの?」

「ああ、倒したんだ」


その後何回かクック先生を繰り返す。

何回も繰り返していると、モンスターの癖や弱点などが見えてくる。

『凝』でよく相手を見てみると、オーラの濃いところと薄いところが見て取れる。

薄いところを攻撃すると、割と簡単にダメージを与えられる。

つまりはそう言う訓練。

相手の攻撃のパターンを読み、オーラの薄い弱点へ攻撃する。

それが完璧とは言わないまでも、何とか板についてきてから俺たちは大地の女王リオレイア狩猟のクエストを受注した。


装備はそれぞれクック装備に変わっている。

クエストを受注してフィールドに降り立って数日。

俺たちは発見したリオレイアに攻撃は仕掛けずに、ずっと絶をしたまま相手を観察する。

フィールドの回遊パターン、獲物を取るときの攻撃方法。

注意すべきはその尻尾に含まれる毒攻撃。

一応毒消しは持ってきているけれど、一歩間違えば命が無い。

綿密に調べた結果、リオレイアの巣で待ち構える事にする。

作戦は罠を仕掛け、リオレイアを待ち、トラップに引っかかり、拘束されている間に一番危険な尻尾を切断してしまう。

後は攻撃を避けつつ翼膜を切断できれば空を飛べるこちらが有利。

作戦が決まると痺れ罠を仕掛けてリオレイアが来るのを待ち決戦を挑んだ。



さて、作戦がうまくいったため、比較的軽傷で戦闘を終える事が出来た。

俺はいま切断したリオレイアの尻尾に剥ぎ取りようナイフを構えて差し込んだ。

「お?逆鱗だ」

「逆鱗?」

「これはラッキー。前世では何度これのためにリタマラしたことか…」

「うん?」

その後のタイトルでは確率の大幅の上昇やサブクエストなどで割りと簡単に手に入るようになったけれどね。

PSP版なぞ言わずもがな。

俺は無印版でドラゴンマサクゥルを所持していたつわものだ。

あの逆鱗雄雌五枚に泣いたのは俺だけではあるまい。

とと、話がそれた。

「カードランクを見てごらん。これはかなりのレアだよ」

「そうなんだ」


街に帰り、持ち帰ったリオレイアの素材で防具を一新。

レイア防具と言ったら先ずは腰から。全てを揃えるには素材は足りなかったが、先ずはソラに腰防具を作成した。

うむうむ。その他の防具はクックなのでかなり不恰好だが、それでもそのスカートは似合っている。

ゲットした逆鱗もソラの防具に使用して防御力を上げてリオレイアを狩ること数回。

ソラのリオレイア装備が完成する。

がちゃ、がちゃ

と、ゆれる金属音。これも一つの醍醐味だよね。

さて、今度は空の王者リオレウスの番。

こいつは空の王者と言われるだけ有って、その飛行能力は高い。

空中からの強襲で此方に大ダメージを与える厄介な相手だ。

しかし、空を飛べるのは何も相手だけではない。

今回は俺たちも空を飛んでのドッグファイト。

しかし、なんだね…リオレウスの姿を見た瞬間、あの大火竜の姿がダブって見えてしまい、思い出されたマルクスへの怒りから全くの自重をせずに大威力魔法の連発でKOさせていたよ。

怒りの感情は時として大きな力を与えてくれるようだ。

俺たちの防具も着実に強化して行く。

俺はレウス装備からリオソウル装備、それからシルバーソルへ。

ソラはレイアからリオハート、そしてゴールドルナ。

ここに至って杖であるはずのソルとルナに念能力が発現した。

この防具、いわゆる具現化系能力の応用であるのだが、相手の攻撃に対して、その威力を削減してくれると言う効果がある…が、今特筆すべきは念能力である事。

そう、ソル達がこの具現化したシルバーソルとゴールドルナシリーズをそのオーラごと取り込んで再現してしまった。

ソルとルナの念能力。

その名も『バリアジャケット(愛する主人の最終防御)』

俺達からオーラを貰い具現化する。その防御能力やスキルは基にした防具に由来しする。

まさかの嬉しい誤算だった。

ここに来てようやくバリアジャケットの再現が出来た事に狂喜乱舞した。

シルバーソルとゴールドルナ、しかしその見た目はZシリーズのような装丁だ。

そう言えば俺とソラのドラゴン形態も銀と金。

まあ、ワイバーンでは無く俺達はドラゴンだけれども。

名前やら何やらでシンパシー的な何かが念能力の開花に結びついたのだろうか?

と言うか、念能力すら行使できる物を造ったドクターに脱帽。

その後、その能力で他の武器も再現できないかと四苦八苦。

しかし武器の再現は出来ない。これはソル達のアイデンティティーに関わるものだしね。

しかし、テスターとしては作らなければならず、そのたびにソル達の機嫌が下降する。

何とか機嫌を直してもらおうといつも四苦八苦だ。

さて、そんなこんなでHRも最高値、ようやくこのイベントもクリアした。

とは言え、最後の黒いトカゲの黒紅白の三段活用には少々てこずったけれど。

頼みの綱の雷魔法が余り効果が無かったからね。

どうにか倒して、全クエストクリア報酬のカード『モンスターハンター』をゲットしたときは涙が出てきたよ。


その後も指定カードのイベントをこなしつつ、念の修行をして、時がすぎる。

そんなこんなで指定カードをコンプリート。

最後の指定カードにまつわる問題100問等は、全部のイベントをクリアした俺たちには容易なものだ。

まあ、これは誰かが99個そのバインダーに納めたときプレイヤー全員に平等に参加できるクエストの様だったが、今は俺とソラしか居なかった。

支配者からの招待をゲットして、王城へ。

本来ならば一人のはずの招待に今回はソラも同行する。

城門が開き、中に入ると出迎えてくれたのドューンさんだった。

「おう、ようやく終わったか」

「ドューンさん?」

その姿を見止め、ソラが聞いた。

「おうよ。テストプレイ終了お疲れさん」

「あ、はい」

「テストプレイを終えたお前らにご褒美だ」

そう言ってドゥーンさんが投げ渡したのは一つの小箱。

開いてみると丁度カードが3枚分入れられるようだ。

「ここでのカードがここ以外では使えないようになっているのは聞いているな?それはよ、このゲームをクリアした奴へのご褒美だ。島の外でも指定カードの効果が使えるようになる。まあ、島の外への持ち出しには指定100種コンプリートさせると言うある種の制約が必要なんだが」

そう言えば主人公も島の外でカードを使っていたような。

何を持ち出せるようにするかが問題だ。

カードの中には因果律を歪める様な強力な物が多々あるしな。

リスキーダイスとか。

「まあ、今すぐに選べってわけじゃねぇ。取り合えずはこの後のエンディングを楽しんでこいや」


その後盛大に開かれたパレード。

一体どのくらいのオーラを使えばこれだけの人数の念獣を顕現できるのかとつい突っ込みを入れてしまうほどに多くのモブと共に盛大な一夜は過ぎていく。


その後数日して、今は主要アイテムの最終チェック中。

色々なアイテムを試し終わり、散らかしたアイテムを片付けようとしていた時に事故が起こった。

「ジン、こんな石なんてアイテムにあったっけ?」

そう言って俺がつかんだのは石の真ん中に何か文字のような物が彫られた手のひらサイズの石。

「あ、ああ、それか。それは俺がこの前遺跡調査に行ったときに持ち帰った物だ」

「いいのかよ勝手に持ち帰ったりして!」

「いいんじゃないか?その付近の先住民族の奴らが言うにはそれは生まれ変わりの宝玉と言うらしい。何でもそれを手にしたものは別人に生まれ変わるらしい」

「危険じゃないか!?」

「まあ、俺が触ったり持ち歩いたりしても何も起きなかったし、大丈夫だろう」

ジンのそんな言葉を聞きながら、右手でつかんでいたその石を左手に持ち替えたのがいけなかったんだ。

左に持ち替えた石が突如光り出す。

「へ?」

「え?」
「ああ?」
「何だ!?」

左手のガンダールヴ(偽)のルーンがドンドン輝き、それに伴ってその石から放たれる光もどんどん強くなる。

「手を離せ!」

ジンが大声で叫んだ。

俺も手を離そうと試みるが、俺の意思に反してその手は石を離してくれない。

「だ、ダメだ!」

その光が俺の体を包み込み、俺の体…というか存在が揺らいだ。

「ち、ちょっと強引に行くぜ!」

ジンがオーラを解き放ち俺の手をつかもうと近づく。

しかしそれよりも早く俺に抱きつく存在があった。

ソラである。

「ソラ!?」

ソラが光に包まれる俺の体をその身で抱きしめたかと思うと、ソラの体も光が包み込み、

そこで俺の意識は暗転した。 
 

 
後書き
H×H編は一旦終了。回収は後ほどになります。ひとまず次の世界へのクロスです。 

 

第十五話 【NARUTO編】

 
前書き
今回からはNARUTO編になります。 

 


今、私、うちはチカゲは自分の子供に暗示をかけている。

この私を殺せと。



私には可愛い双子の子供がいる。

男の子が「アオ」で女の子が「ソラ」

父親は居ない。

死んでいるのではなくて所謂不倫。

不義の子供。

私が住んでいるこの木の葉隠れの里は所謂忍の里だ。

五大国中でも大きな火の国にありその影響力は大きな物だった。

しかし5年前に里を襲った九尾の狐によって里は壊滅的な被害を受けた。

その時の私はアオとソラを出産して間もない時だったが、木の葉の里の忍であり上忍であった私は九尾を迎え撃つ部隊に組み込まれ、何とか生き残る事は出来たものの、その時の怪我が深いもので、傷が治った後も様々な合併症を引き起こし既に体はボロボロ。

良く5年も生きられた物だ。

そんな私の子供であるアオとソラ。

この2人の忍としての才能は目を見張る物があった。

3歳の時にはうちは一族でも一部の家系にしか現れない写輪眼を開眼し、その目で私が戯れで使った忍術なんかを瞬時にコピーし真似をする。

末恐ろしい子達だ。

私はそれを見て、私が生きている内に出来るだけの事は教えようと思い、実践してきた。

それは幼い子供には酷なことかもしれなかったが、死に行く私が、子供がこの世界で生きていけるようにするために精一杯の愛情。

忍術を教え始めてから二年。

最早私の体は限界だった。

気力を振り絞り、子供達の忍術の指導をしているが、後二月も保たないだろう。

だから私は、私に出来る子供達への最後のプレゼントをあげる事にした。

万華鏡写輪眼。

写輪眼を開眼したものが自身の一番大事な人をその手で殺す事によって開眼すると言われる写輪眼を超えた瞳術。

写輪眼を開眼した私が血眼になって探し、ようやく探り当てた開眼方法。

私自身は試した事はない。

だって私は大事な物を作らないように生きてきたのだから。

何処か冷めていた私では、恐らくこの子達の父親を殺して居たとしても開眼はすまい。

だけど今は私はこの子達がいとおしい。

この子達が立派に成人した姿を見れないのが口惜しいほどに。

今の私達、忍術を教え始めてからの2年は山に篭り、他者との接触はほぼ皆無と言った生活を送っていた。

故に子供である彼らの一番大事は恐らく母である私を置いて他に無いだろう。

今のこの世の中は力のない者は生きづらい。

だから私はこの子達に絶対の力を残してあげるのだ。

生い先短い私の最後のプレゼント。

一応この子達の父親には手紙を出している。

恐らく私は死ぬだろうからこの子達をよろしくと。

うちはの家は頼れない。

この子達の異常性を見つければその力を一族のために利用しようと考えるだろう。

それに私はそんなうちはの家は好きではないのだ。

権力に執着し、里を牛耳ろうと考えてるような連中。

私の親もそんな人間の一人だった。

結局私も力を求め続ける愚か者だったわけだが。

忍として優秀だった私は、一族の者達にどれほど利用されてきたものだろうか。

それが嫌でうちはの名を捨て、九尾事件の混乱で身をくらまし今は神咲を名乗っているのだが。

この苗字が子供達を守ってくれると良い。

この苗字でうちはから遠ざかってくれる事を祈る。

さて、そろそろ現世との別れの時間だ。

私は自分の子供達を呼び出し、私を殺すように暗示をかける。

暗示に掛かった子供達は躊躇い無く私を殺すだろう。

子供達がそれぞれクナイをその手に持ち私の心臓目掛けて振り下ろす。

胸に強烈な痛みを感じる。

ああ、子供達よ強く生きておくれ。

そして愛しているよ。





いったいどういう状況なんだ?

俺は確かジンがどこかの遺跡から拾ってきた石を左手でつかんだ後いきなり全身が光り出して意識を失った。

しかし、気が付いてみると全く知らないところでしかも目の前には女性の死体。

「な!?え?どういう状況!?」
「何よ!これ!」

困惑する俺の隣りからも困惑の声が上がる。

「いや、いや!いやぁぁぁぁぁ!」

目の前の血まみれで倒れている女性を見て我を忘れる隣の女の子。

その目が大きく見開かれたと思ったらその両目に現れるんは三つ巴の模様。

それが収束し変化したと思ったら別の形に変わっていた。

万華鏡写輪眼。

「熱っ!」

それを見ていた俺の目も熱を帯び、体のオーラが目元に集まっていく。

「何だ!?」

開いた俺の双眸にも浮かび上がる万華鏡写輪眼。

「くっ!大量の情報が頭に流れ込んでくる!」

一瞬後、女の子の恐慌も収まる。

「はぁ、はぁ」
「う、っく」

深呼吸して呼吸を整えると、未だ発動状態の万華鏡写輪眼へのオーラの供給を絶ち、発動を止める。

隣りを見ると女の子も発動を解いたようだ。

俺は女の子に話しかける。

「ねえ、君はだれ?」

「え?」

困惑の女の子。

その体は5歳ほどだろうか。

かく言う俺も体が縮んでいるし髪の色も黒に変色していたり、解らない事だらけだ。

「えっと、私はソラフィア」

「え!?ソラなのか?」

「え!?」

「俺だ!アイオリアだ」

「え?でもその姿は!?」

「そんな事言ったらソラだって変わっているぞ」

「ええ!?」

2人して困惑する。

だってさっきまで俺達はジンと一緒にいた筈なんだ。

それが今、見知らぬ場所で全く別人といってもいい姿でここに居る。

『マスターですか?』

「え?」

突然何処からか掛けられた聞き覚えのある声。

「ソルか!?」

『ここです』

近くの棚のうえに二つの宝石が並べて置いてあった。

ソルとルナである。

俺とソラは彼女らに駆け寄ると問いかけた。

「ルナ!」

『マスター』

ルナもソラを見つけ声を上げた。

「ソル、これは一体どういうことか解るか?」

『良かった記憶が戻られたのですね』

そう言ってからソル達は今のこの状況を説明した。

彼女達は気が付いたら女性の胎盤で腹の中にいた俺達の手に握られていたらしい。

その後俺達はソル達をそれぞれ握り締めたまま出産。

母親であるうちはチカゲはそんな不思議な彼女らを守り石としてずっと捨てずに居てくれたようだ。

彼女の意識が俺達に向いてないうちに何度か俺達に話しかけてみたが自分たちを知っている様子は無く、愕然としたらしい。

それから俺達の安否は確認されずに心配していたが。今まで喋る事なく目の前の子供(俺達だが)を見守ってきてくれたそうだ。

ソル達の話では、此処は火の国、木の葉隠れの里の近くにある森の中にある家で、この世界には忍者と言われる者達がいるらしい。

母であるチカゲが5年ほど前に大怪我を負い、合併症を引き起こし、いつ死んでもおかしくない状況だった事。

最近では死期を悟って俺達に厳しく忍術修行を施していた事。

そして最後に俺達を操り、万華鏡写輪眼を開眼させる為に自身を殺させる計画を実行した事。

棚の上に置かれていたソル達は、彼女の独り言のような計画をその耳で聞いていたそうだ。

「つまり倒れている彼女が俺達の母親だという事か?」

『はい』

ソルの返事に俺達は女性に近づき手を取った。


「死んでる…」
「そんな!」

『彼女はその身を賭してマスター達に万華鏡写輪眼なるものの開眼を望みました』

「うん」

さっきのあれが万華鏡写輪眼だったのだろう。

もう一度使おうと思えば開眼できるだろう。

なんとなくだが体が覚えている。

我が身に起きている事を未だに総て理解しているわけでは無いが、とりあえず。

「埋めてあげようか」

「うん」

俺とソラは家の外を見渡し、見晴らしのいいところに家の中から見つけてきたシャベルで穴を掘り、母親の亡骸を埋めた。

子供の体では大変な作業だと思われたが、全身の精孔はすでに開かれており、オーラを使うことで比較的簡単に埋葬する事が出来た。

最後にソルから教えてもらった事だが、俺の名前は『神咲アオ』と言うらしい。

ソラフィアの名前は『神咲ソラ』

双子だそうだ。

しかしまさか此処で前世の名前を名づけられるとは…

その点についてはソラも驚いていた。

ソラフィアの前世の名前も『ソラ』だったのだから…

俺とソラは、今の日本人のような黒い髪、黒い瞳、黄色い肌で外国人風の名前では似合わない事、それから生んでくれた母への感謝を込めて『アオ』『ソラ』と言う名前を頂く事にした。

母の名前は神咲チカゲ、旧姓をうちはと言うらしい。

忍者、火の国、木の葉隠れの里、うちは、万華鏡写輪眼などのキーワードで俺は気づいた。

恐らくここはNARUTOの世界であろうと。

とりあえずソラにその事を伝える。

と言うか、この体はうちはですか。

今の時間系列が原作前なのか、原作のかなり後なのかはっきりしない今、今後の事を決めかねていた。

うちはの家系は原作開始以前にうちはイタチによる虐殺にあい、イタチの弟であるサスケとイタチを残して一族は全滅したはずだ。

それでなくても面倒なうちはの家系。

…なんでこんな死亡フラグが高そうな家系に転生するかな?

しかも万華鏡写輪眼の開眼。

やばいって!

絶対やばいって!

テンプレなのか?そうなのか!?

しかもこの身は5歳。

普通に働ける年ではなく、普通は親の庇護のもと成長する時期だ。

…どうしよう。

コネも知り合いもいない上に、年齢まで…

このままでは野垂れ死にするしかない。

そんな事を話し合っていると家の扉がノックされた。

ドンドンドン

「すまない、ここはチカゲさんの家で間違いないであろうか」

男の人の声だ。

チカゲはソルから聞いた母の名だ。

俺は扉に近づき扉を開けた。

ガラッ

「どちらさまでしょう」

俺は男に問いかける。

顔を見ればその眼球は真っ白だ。

人間か!?

なんて失礼な事を考えていたら男から声を掛けられた。

「私は日向ヒアシと申す。チカゲさんに用事があるのだが」

「母は死にました」

俺にとっては母と言えるかどうかもわからない。

母であった記憶が無いのだ。

どうやら生まれてからの5年の記憶を総て忘れてアイオリアであった頃の俺に上書きされた様だ。

「そ…そうか」

顔を伏せるヒアシさん。

しばらく黙祷をしていたヒアシさんが俺達に問いかけてきた。

「君達はチカゲさんの子供か?」

「はい」

「見たところ、君達以外の人の気配が無いが、誰か一緒に住んでいる人は?」

ん?何が言いたい?

「妹だけです」

これはソルにも確認した事だ。

ここには俺達と母親しか住んでいなかったと。

「ふむ、子供2人で生き抜く術はあるか?」

いやいやいや、普通無理でしょ?

「ありません」

俺は正直に答える。

「そうか。ならば家に来るがいい」

「は?」
「え?」

余りの衝撃に固まる俺とソラ。

「使用人見習いと言う事になるが、衣食住の提供は保障しよう。どうだ?」

そう問われ、俺とソラはしばらく話し合った後、

「ご迷惑でなければ」

と、その申し出を受け入れた。

ここに居ても生きていける保障が無い以上、使用人としてでも雇ってもらって、食べていかなければならない。

その後、ヒアシさんを先ほど埋葬した母の墓に案内して御参りをし、ソルとルナだけ持って、俺とソラはヒアシさんに連れられて山を降りた。

ヒアシさんに連れられてやって来た木の葉隠れの里。

その門のでかさにビックリし、さらに案内されたヒアシさんの家の大きさにビックリ。

ヒアシさんに連れられて家の中に入る。

ヒアシさんの家は所謂旧家でその敷地面積は物凄く広い。

屋敷の置くから黒髪のおかっぱの同じくらいの年の女の子がこちらに走ってきた。

「お父様、お帰りなさいませ」

「ヒナタか」

「あの」

父親の影からこちらを見る女の子、ヒナタと言うらしい。

この子も目が白いなぁ。

白い目、ヒナタ……ああっ!

日向ヒナタ!?

白眼の!?

ああ、本当に白眼って虹彩が白いんだ…じゃ無くて!

思いっきり原作キャラじゃん!

これはヤバイか?

「この子達は今日から家で面倒を見ることになった。仲良くするように」

「はい、お父様」

いや、俺達使用人見習いですよね?

俺達はその後使用人達に使用人見習いとして紹介され、日向本家に一室もらえる事になった。

これで一応生きていく基盤の確保は出来た。

後は仕事を覚えるだけだ。



まあ、子供の俺達にとって仕事といってもそんな大層な仕事が振られるわけも無い。

せいぜいがお膳の上げ下げとか屋敷の掃除とか位だ。

最初の頃は慣れるのに忙しかったが、一月もすれば流石に慣れる。

すると自由になる時間が多く取れるようになった。

俺とソラはその自由になった時間を現状の確認と念や魔法の修行、あるいは覚えこまされた忍術の確認に当てている。

この世界に生まれ落ちてからの能力的変化は実は余り無かった。

この体は一度分解され、母親の胎内で再構成されたものではなかろうか?

なぜそんな予想を立てたかというと、魔法が使えるのである。

それも資質は変わらず風のトライアングル。

ソルとの契約も切れてなかったしね。

後は念。

精孔が最初から開かれているので纏や練、絶、発といった四大行も普通に行えた。

念によるカートリッジの作成も。

変身能力もそのままで、猫やドラゴンに変身は今でも可能。

まあ、便利だから無くなってなくて良かったといったところか?

無くなったといえばガンダールヴ(偽)のルーンだ。

どうやら転生した時に死んだと認識されたのか、ルーンが綺麗さっぱりなくなっている。

試しにソルを握ってみたところ、全く反応は無かった。

身体強化と武器を操る能力が消えたことは良いことなのか悪い事なのか…

まあ、戦闘中にルーンにオーラを消費される事が無いから戦闘時間は伸びるだろうけれど、身体強化の恩恵が無いのが悔やまれる。

忍術。

どうやら俺達は母親から写輪眼を使用させての術の習得をさせられていたらしい。

記憶はなくなっても覚えているのである。

火遁豪火球の術をはじめ、火遁豪龍火の術に到るまでの火遁が中心だが、その中に禁術である影分身の術が刷り込まれていたのには驚きだ。

母親はどこでこの術を覚え、何を思って俺達に教えたのか。

まあ、この術の有用性は凄まじいと記憶にあるので嬉しい誤算なのだが。

だって、影分身の経験値が自分に還ってって卑怯だろう!

修行時間の短縮にも繋がる便利な術だ。

是非とも有効活用させてもらおう。

この世界の忍術で使うチャクラというエネルギー。

どうもこれはオーラと同質の物だというのが俺の見解だ。

細胞から集められたエネルギーを爆発させて、外側に放出するのが念。

内側に練りこみ、印を組み、意味を与えて行使するのが忍術。

念の発のように千差万別な力ではなく、先人達がその技術を後世につかえるように印によって画一的効果をもたらすのが忍術と言った所か。

例外は多々あるが。

念の修行でオーラを自在に操る修行をしていた俺達にはチャクラ(=オーラ)を練るのはそんなに難しい事ではないようだ。

ソル達が言うには記憶が無い状態でもチャクラを練る技術はずば抜けて高いと母親が言っていたと言った。

恐らく記憶が戻る前の俺達も、魂の何処かで覚えていたのだろう。

それが母親には類まれなる才能に映っただけだろう。

写輪眼にしてもそうだ。

写輪眼の行使も、転生前に移植された左目で発動の訓練をしたものだ。

その名残で幼くして開眼してしまったのだろう。

それが母親殺しに繋がるとは思いもよらない事だったが。

あらかたの確認を終え、最後は万華鏡写輪眼だ。

これには困ったデメリットがあることを生前の知識で覚えていたが、それでも能力の把握はした方がいいだろう。

おれはソラと共に屋敷を抜け出し、人気の無い森の中に移動する。

「それじゃソラ。今日は万華鏡写輪眼の能力把握をするから」

「万華鏡?」

「ああ、ソラは知らなかったか。写輪眼は知っているよね」

「そりゃね、開眼の訓練もしたし、使いこなす訓練もしたじゃない」

「そりゃ前世でね。だけど今回は本家本元、本物の写輪眼」

「うん?」

「写輪眼はこの世界のうちは一族が持っている瞳術だ」

「でも私達は神咲だよ?」

「だが母親の旧姓はうちは。つまり俺達の体は正真正銘のうちはの体だ」

「う、うん」

「そんなうちは一族の中でも写輪眼を開眼出来る者は少ない。だが写輪眼には更にその先がある」

「それが万華鏡写輪眼?」

「そうだ。その開眼方法は秘匿されている。どうやって母親が知ったのかは定かではないが…」

「どんな方法?」

その質問に俺は少し詰まってしまう。

「……一番親しい者の死」

「え?」

「母親は俺達に万華鏡写輪眼を開眼させるために俺達に自らを殺させたんだ」

「……そう」

複雑そうな表情で目を閉じるソラ。

そして開いた眼には万華鏡写輪眼が。

ソラの万華鏡写輪眼の能力はこうだ。

思兼(おもいかね)
その能力は目を合わせた者の思考を誘導する力。

八意(やごころ)
目を合わせた者の知識を盗み取る力。



そして俺の万華鏡写輪眼の能力。

志那都比古(シナツヒコ)
視界に映った空間の空気を支配する力。

建御雷(タケミカズチ)
視界に映った任意の空間にプラズマを発生させて敵を焼き尽くす。

あれ?

天照と月読は? 

 

第十六話

それから一年。

本体は日向宗家で使用人見習いの仕事をしつつ、影分身は山で修行中。

え?本家に影分身を置いて本体で修行しろって?

いや無理でしょ。

過度の衝撃でポンって行くんだから。

バレたらやばい。

影分身は一応禁術だから細心の注意が必要なのだ。

戦闘経験の蓄積は出来るけれど、筋力アップがはかれないのが玉に傷だ。

うーむ、どうしよう。

なんて思っていたら、当主さまが俺達に忍術修行を付けてくれる事になった。

といっても日向の体術は見せてもくれないんだけどね。

どうやら使用人兼ヒナタの護衛にする気のようだ。

当主(ヒアシさん)自ら俺達にそう言って訓練をしないかと誘ってきたので俺達は了承した。

いや何ていうかな?

一応この広い日向本家に一室を頂いていると、年が近いせいかヒナタが俺達の部屋に潜り込んで一緒に寝ていたりする。

当主も知っていて見ない振りをしているらしく、お咎めも無い。

最近生まれたばかりの妹に自分の居場所を奪われた寂しさもあるのだろう。

そんな感じで気分は妹な感じだし、出来る範囲で守ってやろうと言う気にもなるというもの。

ソラも同じ思いのようだ。

ああ、人目の無い俺達の部屋にいるときに限り、俺達はヒナタの事を呼び捨てにしている。

小動物のようなヒナタが勇気を振り絞って。

「せめて人目の無いところ位ではヒナタって呼んでください」

なんて言われたら逆らえないよね。

普段はきちんとヒナタ様、もしくはヒナタお嬢様と呼んでいる。

俺達はしがない使用人だしね。

忍びとしての基礎訓練は母親に教えてもらって刷り込まれているので問題なくこなせている。

いまは体の成長を妨げないように体を作っている最中だ。

まだ7歳だしね。

念の修行も続けている。

纏と練を重点的に毎日こなしている。

その成果か円の距離が段々増えていっている。

転生前は3メートル程だったのが今や15メートルほどに伸びている。

距離が日に日に伸びていくのでもしかしたら100メートル台も夢じゃないかもしれない。

…時間は掛かるかもしれないけど…年単位で。



8歳。

いつの間にやらうちは一族の虐殺が起こっていた。

俺達のことはばれずに済んだのか、それとも日向の家にいる事が幸いしたのか殺される事はなかった。

助かった。

これが怖かったからこそ俺達は万華鏡写輪眼の訓練も怠らなかったのだが。

もしもの時の咄嗟に使えないと最悪死ぬこともあると考え、最低限ではあるが万華鏡写輪眼の訓練を始めてもはや3年。

やはりというか俺とソラの視力は段々と下がり始めてきていた。

それはクナイの練習をしていた時などに顕著に現れた。

「む?どうした」

「い、いえ何でも」

当主の見ている前で的をはずしてしまった俺。

しかも今日既に3回目だ。

ソラの方も似たようなものだ。

「どうにも今日は調子が悪いようだな。今日はもう上がれ。ヒナタ、道場にいくぞ」

「はい。父上」

一緒に練習していたヒナタを連れ道場へと歩いていく当主を俺は呼び止める。

「当主」

「なんだ?練習なら今日は…」

「いえ、その事ではなく、内密でお願いがございます」

「それは今ここでは言えない様な事かね?」

「はい」

「ふむ。ならば後で私の書斎に来なさい」

「ありがとうございます」

そういって俺は頭をさげ、道場へと向う当主を見送る。

「ソラ?」

「視力、結構落ちているだろう?」

「う、うん」

「理由はわかっている」

「え?」

「万華鏡写輪眼は、使えば使うほどその眼は光を失う」

「な!?何で教えてくれなかったの?」

「それでも必要になると時が来ると思ったからな。それに視力低下の解決方法も知っている」

なんでそんな事を覚えているかといえば、ゼロ魔の時、ドクターに左目を移植されてから必死に思い出したからさ。

写輪眼の色々な事を。

あの時はまだゼロ魔の世界にきて5年ほどだったから思い出せたのだ。

結局うちはの体じゃなかったから万華鏡写輪眼の開眼は出来なかったんだけどね。

その後も何度かふとした時に思い起こされていたから覚えていたのだ。

「本当に?」

「ああ、だがそれには当主の協力が必要だ」

「それでさっき呼び止めたの?」

「ああ」

「それでその方法は?」

「それは後で当主の書斎で話すよ」

「わかった」

その後俺達は邸内の掃除をして、時間を見計らって当主の書斎へと赴いた。


コンコン。

「入れ」

「失礼します」

当主にことわりを入れ俺とソラは入室し、当主の対面にて正座する。

「アオとソラにございます」

「ああ、昼間の件だな」

「はい」

「して何用だ?」

俺は一拍置いてから話し始める。

「当主は我が母の旧姓をご存知でしょうか?」

「ああ、うちはだろう?」

「はい。そのうちはが宿す血継限界もご承知とは存じます」

「ああ、我が日向の白眼から分かれたものとも言われているな」

「はい。うちはの血を引く私達も運良く写輪眼の開眼を果たしました」

「それは真か?」

「はい。よろしければ開眼して見せますのですが宜しいでしょうか?」

「やってみろ」

俺はオーラを目元に送る。

「写輪眼」

眼球に現れる三つ巴の模様。

「ほう、本当のようだな。しかしそれが用件ではあるまい?」

さすが当主、鋭い!

「はい。この写輪眼に更に上があるとすれば?」

「な!?」

そりゃ驚くか。

なんせ写輪眼は有名だがその上があるとは知らないだろうから。

「名を万華鏡写輪眼と申します。宜しければお見せしますが」

「白眼!」

当主も白眼を発動させて身構える。

当然だ、写輪眼のコピーは有名だが、その上の能力は未知数なのだから。

「当主に危害を加えるつもりはございません。許可をいただけますか?」

「よい」

「万華鏡写輪眼」

すると三つ巴のマークが中心により万華鏡写輪眼が発動する。

「ほう、それが」

「はい。能力までは言えませんが」

「そうか、それでそれを私に打ち明けてどうしようと言うのだ」

俺は万華鏡写輪眼を閉じ普通の眼に戻った瞳で当主を見つめる。

「万華鏡写輪眼は開眼と同時に失明に向かいます」

「な!?」

俺の告白に驚いている当主。

同じ瞳術主体の忍者にとって失明は致命的だ。

「もちろんそれを解決する方法があります」

「つまりその方法に協力して欲しいと?」

「はい」

「因みにその方法は?」

「他の万華鏡写輪眼を自身の目に移植する事」

「なんだと?」

「他者の万華鏡写輪眼を奪い移植するのです」

「…しかし、他者のとは言うが、他に開眼しているものなど…そうかそういうことか?」

そう言って当主はソラのほうに視線を送る。

「え?」

ソラは行き成り視線を向けられて困惑気味だ。

「はい。ソラも万華鏡写輪眼を開眼しております。故に我ら兄妹間の眼球を眼軸から摘出して双方に移植してほしいのです。勿論内密に。勿論リスクは大いにありますが、幸いにして私たちは双子、拒絶反応の類も最小かと。なので信頼の置ける医療忍者が必要になります」

「それで私を頼ってきたか」

当主は少し表情を引き締め問いかけてくる。

「なぜ君達がそのような事を知っているのか、問いたいことは多々あるが、協力したところで私に利があるのかね?」

その問いに俺は気おされないように踏ん張って。

「ヒナタさまを影ながらこの眼で守りましょう。立派に成長するその時まで」

当主はしばらくの間何かを考えるそぶりを見せた後口を開いた。

「…良かろう。医療忍者は私が責任をもって信頼の置けるものを用意する。だが、その約束違えぬようにな」

「畏まりまして」

そう言って頭を下げ、俺達は退出する。

「ふう、緊張した」

「アオ!そんな方法だ何て思ってもみなかったよ!?それに良いの?あんな約束して」

「当主はどうせ俺達をヒナタの護衛兼使用人にするつもりなんだからいいじゃないか。それにヒナタの事は好きだろう?」

「…まあ、ね」

「それに失明は怖いしな」

「…うん」

そんな話をしながら俺達は部屋に戻り、その日は休んだ。


二週間後。

俺達は無事に眼球の移植を終えた。

当主の呼んでくださった闇医者紛いの医療忍者は腕は良かったようで術後の経過も順調だ。

さあこれで失明の恐怖は無くなった。

あとはガンガン使って早めになれる事が必要かな。

なんて考えていたら俺達は当主から呼び出された。

呼び出され、道場に来ると、そこには当主が一人で俺達を待っていた。

「アオにございます」
「ソラです」

「待っていた」

「このような場所に呼び出して何用でございましょうか?」

「お前達の力を試してみようと思ってな。力なくばヒナタを守ることなど出来まい?」

その言葉に俺はしばらく考えてから返す。

「わかりました。では私が」

「アオ!大丈夫?」

「いや、無理だろう。相手は木の葉最強の日向家の当主だぜ?」

「なら」

「死ぬ事は無いだろう…たぶん」

「準備は出来たか?」

「幾つか質問が」

「よい」

「忍術、忍具の使用は?」

「そうだな、道場を壊されるのは困るから、大技の使用は禁止。使えるのだろう?」

「はい」

うん、こんな所で火遁豪火球の術とか使ったら天井が燃えること請け合い。

「瞳術の使用は?」

「ふむ。写輪眼までは使用を許可しよう」

「ありがとうございます」

まあ、妥当かな。

万華鏡写輪眼の能力を教えてはいないが、それが道場を破壊する規模の物かもしれないという読みかな?

合ってるけど。

そうそう移植後に大変な事が判明した。

なんと俺の写輪眼の能力がソラに、ソラの能力のが俺に眼球を交換したことによって付加されたのだ。

写輪眼の能力は体と眼球の両方に宿るらしく、今の俺達は新たに手に入れた力の訓練で忙しい。

話がそれた。

使えるのは写輪眼と体術と幾つかの忍術か。

忍具は持ってきてない。

と言うか俺は持ってないしね。

クナイすらも。

練習の時は借りているのよ!

影分身は使えるかな。

後は念か。

うーん。流石に念は使わないと戦いにすらならないか?

あっという間に柔拳でぼこられて終わりだろう。

と言うか、俺とソラはどちらかといえば中距離からの射撃を得意としているのだ。

格闘なんて習った事は無いからはじめから達人に勝てるわけ無いと思うのだが。

愚痴っていてもしょうがない。

俺は道場に進み出て、当主と対峙する。

「では、始めようか」

「写輪眼」
「白眼」

同時に瞳術を発動。

「行くぞ!」

当主のその言葉に俺は写輪眼を発動し、オーラを操り『堅』をする。

迫り来る掌手。

それを腕をクロスして何とかガード。

つか動き速い!

写輪眼じゃなければガードも間に合わず吹っ飛ばされていたよ!

俺も負けじと反撃にでる。

しかし繰り出すパンチはことごとく見切られ一旦距離を開けられる。

「ほお、通常より多いチャクラを体の外に排出、留める事によって防御をあげる、か」

さすがチャクラの流れを見切る白眼。

この短時間で見切られますか。

俺は影分身の術を発動。

分身を一体作り出す。

「影分身か。なかなかやる」

白眼では影分身はどちらが本体か見破れないと漫画で読んだ記憶がある。

「行きます」

俺は重なるように当主に向かい攻撃する振りをして、本体は分身の後ろで『絶』をして気配を消し、分身が当主に攻撃を仕掛ける隙に一気に当主の後ろに回りこむ。

そして注意が影分身の迎撃に向いた一瞬で『絶』を解き攻撃。

しかし、それも当主には効かず、高速の動きで目の前の影分身を消し飛ばし、返す動きで俺の方へチャクラの乗った掌手を繰り出す。

ま、マズイ!

一瞬でオーラを放出して『堅』をしてなんとかその一撃を防ぐが、反動で3メートルほど飛ばされて着地。

「チャクラの流れを閉じ気配を消す技は見事だったが、白眼の前に死角は無い」

く!そうだった。

気配を消して死角からとも覆ったけれど白眼の視界はほぼ360度。

真後ろだって見えている。

なんてチート性能!

「まだ子供だという事を考えれば末恐ろしい才能だな」

いや俺体は子供だけど精神はかなり生きてますから!

「だが、そろそろ終りにするか。八卦六十四掌」

当主の体から感じる覇気が跳ね上がり掌にまとうチャクラの量が跳ね上がる。

ちょ!良いのかよ!こんなところで日向の秘伝を見せて!

いやまあ、漫画で中忍試験なんかで衆人環視の中で普通に使ってるからいいのか!?

うわ、もしかして俺の『堅』を突破するために相当量のチャクラを練りこんでないか?

マズイです。

そして繰り出される柔拳。

「二掌、四掌」

俺はその掌を写輪眼で見切り、はじける物はその手に『凝』をして弾き、はじけない物は『流』を使って経絡系へのダメージを最小限にしながら何とか耐える。

しかし、やはりそこは日向家当主。

段々スピードが上がり、対応できなくなっていく。

「六十四掌」

なるほど、経絡系を突いて、強制的に『絶』にする技か。

なんて事を俺は吹き飛ばされながら考えていた。

しかし、この時を待ってた!

ちょっとずるいが技を繰り出す直前に影分身をして、その影分身を当主の後ろに忍ばせていたのだ。

まあ、バレているだろうけど、技を撃ち終った今なら多少の隙くらいはあるだろう。

一撃くらい入れてやるぜ!

その影分身は右手に『硬』をして、今の俺の持てる最大の速度で当主の背後から殴りかかった。

しかし。

「八卦掌回天」

瞬間的に放出されたチャクラの壁に阻まれ、俺の影分身は攻撃を当てる事は出来ずに消失した。

そして壁に激突する俺。

「がはっ!」

「アオ!」

ソラが心配そうに声を上げる。

オーラが止められてしまって、纏すらまともに出来ていない俺の体はその衝撃をモロに食らった。

痛い!

崩れ落ちる俺。

ってか回天かよ!

それは考えてなかった。

それこそ見せちゃいけない技じゃないか?

しかしそのチャクラの絶対防御は流石だ。

「最後のは惜しかったな。及第点をやろう」

そう言って当主は道場を後にした。

畜生…やはりこの世界には化け物しか居ないのか?

負け惜しみを言うなら、忍術を使っていればもう少しいけたかも知れないけど…

くそう…悔しいな。





「がはっ。最後の一発は回天すら突き抜けたか」

余裕そうに道場を出たヒアシが膝をつく。

「はは、末恐ろしい子供だ。なあ、チカゲ」

そう言って空を見上げるヒアシは何処か嬉しさを帯びた表情だった。
 

 

第十七話

当主とのひと悶着の後、俺とソラは手に入れた永遠の万華鏡写輪眼を使いこなすべく訓練に入った。

二つ以上の能力が宿った事によって発動する三つ目の能力。

そう、須佐能乎(スサノオ)だ。

これは今、俺達が行使できる力の中で最大の術だろう。

チャクラで出来た益荒男を操る技術。

その能力は計り知れない。

その力は俺達をはるか高みに上らせるには十分だろう。

…ただしそのチャクラで出来た益荒男が遠隔で操作できれば…

今の俺達ではその身を中心にオーラで具現化しているような状態だ。

念で言うところの具現化系+変化系+操作系の複合能力である須佐能乎は俺達自身の練度の未熟さから、放出系、つまりオーラの切り離しが出来ない状態だ。

具現化されたオーラの衣を纏っているようなものだ。

しかもかなり燃費悪いし…

今のところ、スサノオだけの使用でも10分でオーラが飛ぶ。

これはオーラの絶対量を増やさなければ問題の解決にはならない。

しかしこのスサノオ、隠を使うとその姿を限りなく見えなくする事が可能なため、相手の意表をつく事が出来るかも知れない。

後は万華鏡写輪眼の使用時に出る血涙を何とかしたいところだ。

使い続けるごとに段々出血の量は減っていっているので訓練次第では可能だろう。

がんばろう。



最近ヒナタと当主の確執が深まってきたように思う。

優しいヒナタには人を傷つける柔術の修行は苦痛なようだ。

その所為で伸び悩む技術に父親の期待に答えられないと悩み、悪循環。

そしてついにヒナタは跡目として見限られ、アカデミーに途中編入する事となった。

ヒナタ8歳のことである。

それに伴い俺とソラもアカデミーに通うことになる。

本当は原作に関わるようなタイミングでアカデミーなんかに関わる気は無かったのだが、当主自らヒナタを影ながら守って欲しいと言われれば使用人見習いの俺達に断る事など出来ない。

心配ならそう言って欲しい物なのに、間接的にでもヒナタを守ろうとする親の愛情を感じる。

もうちょっと素直になれない物か…

そんなこんなでアカデミーに編入した俺達。

いや、参った。

孤児であり、使用人見習いの身分は結構低いらしく、両親が現役の忍者の子供から馬鹿にされる馬鹿にされる。

俺一人だったらぽっきりと心が折れていたよ。

おれが心を保つ事が出来たのはひとえにソラという半身が居ればこそ。

かくも人の心は醜いものか。


アカデミーに編入してから数年。

最近ヒナタが落ちこぼれと名高いうずまきナルトを目で追う姿を目にする事が多くなってきた。

ヒナタが主人公であるナルトに好意を持つ事は原作知識にあったような気がする。

原作知識といえば、ストーリーの大まかな、本当に大まかな事しか思い出せていない。

簡単に言えば、ナルト、サスケ、サクラの3人を中心とした物語だったなあと言う程度。

仕方ないとも思う。

なんせ読んだのはもう20年以上前だしね。

ゼロ魔で過ごした17年の内に、本当に好きだった作品以外は殆ど忘れてしまった。

だからハンター×ハンターの世界にトリップした時も最初は思い出せなかったのだ。


そして俺達が11歳になった時の事。

最近俺達は修練場に篭るようになったヒナタと共に修行している。

「やあ!はあ!」

一生懸命丸太に向かい柔拳の訓練をしているヒナタ。

どうやらナルトの諦めない姿勢に感化されてヒナタ自身も自分を見つめ直し、もう一度頑張ってみる事にしたらしい。

しかし当主に師事するのは気が引けるのか、こうして一人丸太に向っている。

俺達は護衛の意味も含めて側でクナイの投擲練習などをしている。

と言ってもそれだけでは芸がないので纏と練の訓練をやりつつなのだが。

地道に纏と練の修行をしてきた成果は着実に現れ、最近では『堅』の維持時間が6時間を越える勢いだ。

纏に至っては意識しなくても常時展開中だ。

これだけで命の危険がだいぶ減る。

それにオーラの絶対量がかなり増えてきた。

まじめに修行したかいがあると言うもの。

…というか他にする事が無かったってこともあるんだけどね。

まあ、この世界にも漫画や小説なんかはあるからそれなりに読んではいるんだけど、やはり厳格な日向家に居候している身としてはそんなに大っぴらに出来ない趣味だ。

そんなこんなで今日も『堅』の維持をしつつクナイの練習をしていた所、ヒナタから声が掛かった。

「ねえ、アオ。聞いてもいいかな?」

「何?」

俺は丸太に向かいクナイを投げながら答えた。

「あの…その、ね」

「うん」

俺はヒナタに向き直るが視線はわずかに外しながらあいづちを打つ。

ヒナタと話すのは根気がいる。

引っ込みじあんなヒナタに対して、いかに聞き入れる体制を作るかがポイントだ。

「アオ達がいつもやっているチャクラを外側に放出して留める方法を教えて欲しいんだけど…」

なるほど、そうきたか。

ばれないと思って『流』を使った組み手をソラとしていたのだけど、白眼を開眼したヒナタには見えていたのか。

「ダメ…かな?」

ヒナタの精一杯の勇気。

うーん。

実は数年前、丁度俺が当主にボコボコにやられた日からしばらく経ったある日、当主に呼び出されてお願いされていたのだ。

「ヒナタが自分で君達が使うチャクラを外側で操る技術を習いたいと言って来たらその技術を教えてやってはくれないか?勿論忍術は門外秘だということも承知の上でのお願いなのだが」

「それは構いませんが、宜しいので?」

柔拳以外の事を教えてしまっても良いのかと聞き返した。

「ああ、我ら日向の柔拳は、チャクラを放出する技術に長けていると自負している。しかし君の操るチャクラ技術は私達の数倍上を行く」

そりゃね。

体内で練ったチャクラを掌から放出している柔拳と、細胞から一気に外側に放出し、回転を加える事により絶対防御とかす八卦掌回天。

どちらもチャクラを体外に放出する技術の応用だ。

しかし念はそもそも外側に放出したオーラ=チャクラをその身に纏わせ操る技術。

外に放出するという点では似ているかもしれない。

それに俺達を拾ってくれた恩もある。

「お願いしてもいいだろうか」

まあ、この技術をヒナタに習得させ、この先日向本家に口伝で伝えさせようと言う意図もあるかも知れないが…

「かしこまりまして」

そういって俺は当主の申し入れを受け入れたんだ。

まあ、ヒナタが自発的に習得を申し出るのが条件だったのだが。

「おねがい」

今目の前にはヒナタが俺に念を教えてくれと頭を下げている。

俺はソラに視線を送る。

コクリとソラも頷いた。

「わかったよ。でも最初に言っておくけど、これは忍術じゃないから」

「う…うん?」

俺は忍術におけるチャクラと念におけるオーラの説明をする。

「えっと…つまり、生命エネルギーを体内で循環させて、内側に練り上げるのがチャクラで、外側に放出されたエネルギーを留めるのが念(オーラ)?」

「そう」

「そうなんだ…それで先ずはどうしたら良いの?」

「そうだね。先ずはチャクラ=オーラを外側に向けて放出する訓練から。柔拳の修行でチャクラの放出の感覚は出来てると思うけど、それを掌からだけじゃなく、全身から外側へ放つ感じで」

「う、うん」

自然体で立ち、ヒナタはチャクラを外側に放出しようと集中する。



数分後。

「はぁ、はぁ、出来ないよ」

「内側に練る事は出来ているんだ。後はコツさえ掴めば直ぐさ」

「はい」

そしてヒナタはもう一度集中する。

その表情は真剣そのものだ。


それから一週間後。

「で、出来ました!」

「おお、頑張ったな」

「うん」

嬉しそうに返事をするヒナタ。

この1週間で『纏』をヒナタはマスターしていた。

俺達のように、何か他の原因で精孔が開いたケースとは違い、自力で精孔をこじ開けたにしては驚くべきスピードだ。

次に『絶』

これは腐っても忍かどうか解らないが、割と直ぐに習得した。

そして『練』

これは結構辛そうだ。

「まず体内にエネルギーを溜めるイメージ。細胞の一つ一つからパワーを集め、それを一気に外へ」

俺は『練』をヒナタにやって見せた。

「ま、こんな感じ」

「凄い…」

「通常より遥かに多いオーラを生み出す技術だからね」

「細胞からエネルギーを集めて、一気に外へ!」

瞬間大量のオーラをヒナタの身を包んだ。

「できたな」

「はい」

「喜んでいるところ悪いが…」

俺が注意しようとしたところ。

「あ、あれ?」

足元がふらつきながら、体重を支えきれなくなって尻餅をつくヒナタ。

「通常より多いオーラを生み出すと言う事は、通常よりも疲労すると言う事。まあ、これも慣れだね」

「慣れですか?」

「そ、慣れれば『練』を何時間か持続させる事も可能」

まあ、それは『堅』だけどね。

いまは教えなくていいか。

先ずは四大行から。

「まあ、しばらくは 纏 絶 それに加え 練 の修行だね」

「は、はい!」

勢い良く返事をして練の修行に入るヒナタ。


「ヒナタなんか変わったね」

ソラがヒナタに聞こえないようにこっそり話しかけてきた。

「うん?」

「昔はあんなひたむきさは感じなかった」

「そうだね」

「それに当主は妹のハナビ様に劣るとおっしゃっているけど、念の習得スピードは凄く早い」

「潜在能力は有ったのだろうよ、ただその性格で成長を妨げていただけで」

「そっか、そうだね」


一ヶ月もすると纏 絶 練 は完璧にマスターしたようだ。

やはり成長速度が速い。

「それじゃ今日は発の訓練。これができれば四大行は総て終りだ」

「はい」

グラスに水を注ぎ木の葉を浮かべる。

それをヒナタに差し出す。

「まずこいつを両手で挟んで練をする。そして起きる変化でヒナタの系統を調べる」

「系統?」

「念は大きく分けて6系統に分類される。強化系、変化系、具現化系、操作系、放出系、そして特質系の6系統」

「それで?」

「今からやる水見式と言われる方法で、自分の系統が解るというわけだ。水が増えたら強化系、水の色が変わったら放出系と言った感じで」

「なるほど」

納得の表情のヒナタ。

「それじゃやってみて。まあ、恐らく放出系だろうとは思うけれど」

「なぜ?」

「日向の柔拳の基本は掌からのチャクラ放出だろ?」

「そういえば」

なんて話をしつつ、準備を整えたヒナタはグラスを両手で挟み込むように構え練をする。

「あ、あれ?変化しない?何で?」

その光景にショックを隠しきれないヒナタ。

「あ、あれ?なんでだ?」

するとソラからの助けの声が。

「水を舐めてみて」

「え、うん」

言われたとおり指の先で水を一滴からませて舐めてみるヒナタ。

「甘い…かな」

「水の味が変わるのは変化系」

「そうか、そうだったな」

ヒナタは変化系か。

「変化系ってどんな系統?」

「オーラを色々な物に変化させる事が得意って事だな」

「火遁や水遁みたいな?」

「そうとも限らないだろう。念は忍術と違って割りと訳の分からないところがあるからな。ソラの念能力なんて本だよ本」

「本?」

ヒナタはソラの方を向き問いかけた。

「これ」

するとソラは自身の念能力を発動する。

「それが」

「『欲張りな知識の蔵(アンリミテッド・ディクショナリー)』戦闘能力は皆無だがその口に書物を食わせる事でその知識を溜め込む魔本だな」

俺は簡単にヒナタに説明してやる。

「それってどの系統の能力なの?」

「ああ、俺とソラは特質系。こればっかりは他の系統以上に訳がわからない系統らしいから参考にはならないかもな」

「そうなんだ」

「まあ、今日からは纏、絶、練に加えてこの発の修行。その変化が顕著になるまで頑張れ」

「はい!」


四大行が終わったら次は応用技だ。

だがその前に。

「今日から応用技の訓練になるわけだがその前に忍術を1つ覚えて欲しいんだけど」

「忍術?」

キョトンとするヒナタ。

「そ、印はこう」

そう言って俺はゆっくりヒナタの前で印を組む。

「影分身の術」

ボワンと現れるのは俺の分身。

「影分身?」

「一応禁術なんだけど、凄く便利だから」

主に経験値稼ぎとかね。

ヒナタは印を組み、影分身を発動させようとする。

「影分身の術」

ボワンと煙が出たが、そこに分身は居ない。

「失敗…」

「応用編はこれを覚えてからだから頑張って」

「うん、頑張る」

そしてまた印を組み影分身の訓練。

まあ、数日もすれば2,3体なら創れるようになるだろ。


影分身を覚えてからの念の修行はその習得速度を上げた。

『堅』と『円』だけは未だに辛そうにしているが、その他の応用技に至っては及第点といってもいい。

まあ、白眼の使えるヒナタに凝や円は必要ないのかもしれないが…

更に半年の間にヒナタは自分の念能力を作り上げてしまっていた。

『総てを包み込む不思議な風船(バブルバルーン)』

・ゴム風船とシャボン玉のような性質を併せ持つ。

・ゴム風船のような変質したオーラで触れた物を弾くことが出来る。

・弾くだけではなくて、触れた物をその中に閉じ込める事が出来る。

・閉じ込めた物を外に出すのはヒナタの意思に任せられる。

・泡のように複数浮かばせてトラップとしての使用も可能。

『快適空間(ジャグジー)』
・オーラをシャボン玉状にしてそのシャボン玉のに包まれる事によって治癒能力が促進される。
・極度の疲労もその中でゆっくり休めばたちどころに回復する。

と、応用次第で幾らでもその可能性が増えていく念能力だ。


そして今俺とヒナタで摸擬戦中。

俺はヒナタに向かってクナイを投擲する。

「はぁっ」

「バブルバルーン」

しかしヒナタは自分を中心に念で出来た風船の膜を展開する。

すると投擲されたクナイはオーラの膜に触れた瞬間取り込まれ、隔離される。

「火遁・炎弾の術」

俺は口から幾つ物炎の玉をヒナタに向って放射する。

「はっ」

今度は幾つかの風船を俺の炎弾の軌道上に出現される。

するとその風船に取り込まれる炎弾。

俺はヒナタとの間合いを詰めるとその拳で攻撃する。

ぐにゃ

しかし展開されている風船の膜にその拳をそらされてヒナタにその拳は当たらない。

しかもその風船はヒナタのオーラで出来ているので、瞬間的にその身1ミリまで戻し、すかさず日向お得意の柔拳が俺に襲い掛かる。

しばらくヒナタと戦い、俺は戦闘態勢を解く。

「やっぱダメだわ」

「はい?」

キョトンとした顔で聞き返すヒナタ。

「いや、忍術や体術ではヒナタを傷つけることが困難だと」

「そ、そんな事ないよ」

いや、実際効いてないし。

あの風船の膜を突破するには相応の威力の攻撃が必要だ。

もしくは同じ念によって威力を上げだ攻撃。

今回は使わなかったが『流』や『硬』による攻撃ならその防御を破る事は可能だろう。

「いや実際この能力は半端なく厄介、取り込まれた火遁なんかの忍術は解かれた瞬間その場で爆発して即席の機雷になってしまうしな」


そう言えば、写輪眼についてもヒナタには打ち明けてある。

流石に黙っている事ができなかったからだ。

だって凝をするとどうしても写輪眼が発動してしまうのだもの…


「アオ、ヒナタ。お疲れ、はいタオル」

「おう」
「ありがとうソラ」

そういってタオルを持ってきてくれたソラに礼を述べる。

「今日で3人で修行するのもお終いかな」

「え?」

俺の呟きに驚きの声を上げるヒナタ。

「だって明日はアカデミーの卒業試験だろ?無事卒業できれば小隊を組まされ、その後は小隊を基本として行動するだろうから時間も取れないよ」

「そっか…そうだね。でもこの3人で組まれるといいね」

「…そうだな」

ヒナタの言葉にそう返しはしたものの、原作通りならそれは無いだろうとその時の俺は思っていた。
 

 

第十八話

ヒナタと一緒に修行するのは最後だと、そう思っていたんだけど…

今、俺達は無事にアカデミーを卒業して担当上忍 夕日紅 の前に並んでいる。

勿論ヒナタ、ソラの3人で。

何故?

しかも俺達だけ変則で男女比がおかしい事になってるし。

周りの班を見ると男2女1が基本だったはず。

まあ、合格者の数で変わるかもしれないが、この班編成には作為的なものを感じる。

日向家当主の差し金か…もしくは神のいたずらか。

「無事アカデミー卒業まずはおめでとうと言っておこう」

今日から俺達の上司になる上忍の紅先生が言葉を発する。

「ありがとうございます」

「だが、まだお前達の卒業試験は終わっていない」

「どういうことですか?」

ヒナタの質問は当然だ。

「アカデミーでの試験は下忍になる素質があるものを選別するための物。つまり私の眼鏡にかなわなければアカデミーに戻ってもらう事に成る」

まあ、そりゃそうだろ。

幾らなんでも卒業試験が分身の術だけだったものね。

いやまあ、アカデミーで教わる事の殆どは術と言うより技と言った感じだし。

手裏剣やクナイの扱い方、体術や組み手、分身の術や変わり身の術といった余りチャクラを使わないものばかり。

チャクラコントロールの修行すら行ってません。

…大丈夫なのかな、あの学校。

「それで、どうしたらいいでしょうか」

俺は紅先生に問いかけた。

紅先生は、にぃっと笑いながら

「鬼ごっこよ」

なんて事を言った。

そして俺達は紅先生に連れられて演習場に移動する。

「ルールは簡単。一時間私から逃げ切る。場所はここの演習場の中だけ。時間内に捕まった物はそこの丸太に繋がれてもらうわ。一時間経って丸太に繋がれていたものはアカデミーに戻ってもらう」

「ええ!?」

困惑するヒナタとソラ。

「異論は認めない。それから忍術、忍具の使用は許可する。私をけん制するもよし、一時間逃げ切れれば合格」

「忍術って。良いんですか?演習なのに」

心配そうな表情で聞き返すヒナタ。

「たかが下忍にやられるほど上忍は甘いものではないわ。そんな心配は無用よ」

アカデミー卒業したてのひよっこに負ける訳無いといった表情の紅先生。

「それじゃ始める。5分したら私は追いかけるから。開始!」

ぽちっとアラームが突いた時計をセットする紅先生。

俺達はそれをみて演習場にある林の中に駆け出した。

「どうするの?アオ」

「そうだよ、一時間も上忍である紅先生から逃げ切るなんて」

ソラとヒナタから声を掛けられる。

「うーん。影分身と絶を使えば何とか成るんじゃないか?」

「うん、そうかも」

「え?」

納得のソラと困惑のヒナタ。

「影分身に囮になってもらって、本体は気配を消して隠れる。一時間くらいなら騙せると思う」

「なるほど」

今度こそ納得の表情のヒナタ。

「それじゃいくよ」

「「「影分身の術」」」

そして林の中へと走り去っていく影分身を眺め、俺達は身を隠せそうなところを探し、絶でオーラの放出を止め、気配を完全に殺す。

「紅先生、騙されてくれるといいけれど」

「影分身を見抜くのは白眼でも無理だろう?ならば大丈夫だよ。紅先生も手荒な真似はしないだろうからそうそう影分身が消える事もないと思うし、やられれば直ぐにわかるしね」

「そうだね」


一時間後。

ジリリリリリリ

丸太にぐるぐる巻きにされている3人。

「だめね。残念だけどアカデミーで修行し直してきなさい」

どうやら影分身はとっ捕まってしまったらしい。

「そんな」
「流石にそれはひどいと思う」

なんて事を言っている影分身の俺達。

俺達は気配を消して紅先生の後ろに近づく。

「そうだよ、それに俺達は捕まってないしね」

「な!?」

俺の声に振り返る紅先生。

振り返ると俺とソラ、そしてすまなそうな表情をしているヒナタ。

「じゃあ、私に捕まったのは」

バッと丸太のほうを振り向いた紅先生を確認して俺達は影分身を解いた。

ボフン

「やられたわ、影分身じゃない。一体何処で覚えたの?禁術よ?」

「子供の頃、死んだ母親に教わりました」

「…そう」

俺とソラが孤児だと言う事は知っているのだろう。

その出自までバレていないと良いのだけれど。

「それで先生。俺達は?」

「くっ、合格よ、合格。後ろから声を掛けられるまで気配に気づかないなんて。気配の殺しかたは一流じゃない」

「やった!」
「よかったぁ」

「明日から早速任務になるわ、今日は帰って休みなさい」

「はい!」

そんな感じで俺達は紅上忍のもとで下忍の任に付く事になったのだった。


その日からDランク任務5回、Cランク任務3回。

その内容は里の雑用が殆どだ。

まれに護衛任務があったけれど、その殆どは特に争いごとも無く任務をこなしていった。

その間に紅先生から木登りの行、水面歩行の行など、チャクラコントロールの基本と応用を教えてもらったんだけど、コントロールは『流』の修行で散々やっているので特に問題なく終了。

水面歩行の行は放出系の基本なので俺は多少てこずってしまったが。

「チャクラコントロールの扱いは既に下忍のレベルを超えてるね。だから忍術の修行を 付けてやりたい所だが生憎私は幻術くらいしか教える事が出来ない。忍術を修行したければ知り合いの上忍を紹介するが」

なんて事を言われたけれど、とりあえず忍術よりも覚えていない幻術の習得は有用そうなので俺達は紅先生に幻術の指導を請うた。

折角一級品の催眠眼、幻術眼を有する写輪眼、しかし俺達はそのどちらも有効に使えていない。

幻術は凄く有用だと思う。

かかれば誰でも一瞬はその動きを止める。

その一瞬があれば逃げたりする事もたやすい。

繰り出す幻術をことごとく模倣し、打ち破る俺とソラに、最後の方は紅先生も意地になっていたのか秘術級の幻術を掛けてきていたため、幻術のスキルの大幅アップに繋がった。

まあ、総て写輪眼があればこそだけど。

そんな感じで着実に忍者としてレベルアップしている俺達。

そんな矢先に紅先生から今度木の葉の里で開催される中忍試験に登録したと報告された。

「中忍試験ですか?」

「そうだ。登録しといたから」

「登録…」

「一応スリーマンセルでの登録だから、誰か一人でも止めるなら受験出来ないんだけど。どうする?」

「どうするって言われても…その」

弱気な発言をするヒナタ。

「ヒナタが決めればいいよ」

「うん」

ソラの意見に俺は同意した。

「わ、私が!?」

「そう、ヒナタが受けようと思うなら俺達は協力する、でも嫌なんだったら別に受けなくてもいいと思う」

「そんな…」

「別に俺達は中忍に成りたいって訳でもないからね」

これは事実である。

下忍でも任務をこなせば食っていくには困らない。

むしろ中忍になってランクの高い任務につけば、それ相応の危険があるのだ。

忍者になったのも成り行きとヒナタの護衛の延長だしね。

「えと…その。…受けてみようと思います」

ヒナタが弱弱しい声で答えた。

「そうか、解った。頑張りな」

紅先生はそう激励して、俺達の前から去っていった。

「中忍試験…」

受けると答えたのにまだ踏ん切りがついていないヒナタ。

「大丈夫、ヒナタは此処最近強くなってきた。念の習得だって。不意打ちにさえ気をつければそうそう死ぬような事もないよ」

うん、これは本当。

『堅』さえしていれば大抵の攻撃は『痛い』で済むし。

白眼を使えば不意打ちの心配も減る。

それに『円』もあるし。

最近俺の円は伸びに伸び、好調の時は70メートルほどにまで増えた。

ソルを使えば210メートルは行ける。

どんな試験か覚えてないけれど、死なないように頑張ろう。

俺はヒナタを励ましつつ、中忍試験当日を迎えた。


試験会場に三人で赴くと会場の部屋の前に陣取っている2人の忍者。

どうやら受験者を通せんぼしているらしい。

しかし会場は301号室。

此処は201号室。

どうやらあの2人は幻術を掛けているらしい。

紅先生の幻術の訓練で幻術の耐性が上がっている俺達は直ぐさまその幻術を見破れた。

幻術を越え、本物の301号室へと向う。

部屋の中に入るとアカデミーの同期卒業の級友が話しかけてきた。

「お前らも受験するのか」

そう話しかけてきたのは奈良シカマル。

その隣りに居る秋道チョウジと山中イノの3人組。

「これでサスケたちの班も来たら同期は全員集合って感じだな」

そう話しながらよってきたのは犬塚キバ。

その隣りにいる油女シノと脇野エイコ。

俺の原作知識が確かならこの脇野エイコの所にヒナタはいたはずだ。

その代わりにキバたちと組む事になった少女と言ったところだろう。

この改変は俺達が日向家に関わってしまった結果だ。

これが致命的な事態にならなければいいけれど。

と言うか迂闊だった。

もしかしなくてもこの中忍試験は原作にあった話ではないだろうか?

微かに記憶に引っかかる物は感じてはいるのだが、思い出せずにいる。

最近昔の事を思い出せなくなって来ている。

これは転生を記憶をもったまま二回も行った弊害かもしれない。

名前などは覚えているのだが、両親の顔などは既に思い出せない。

「それにしても何だ?その服装。黒マントに黒いバイザー。お前らはどこのコスプレイヤーだ」

「いや、まあ、必要にせまわれまして」

シカマルの言葉に曖昧に返す俺。

今の俺達の服装は某、黒の王子様ルック。

どうしてもサングラスだけは必要だった…マントは趣味だけど…

写輪眼を発動させるとどうしてもその瞳に如実な変化が現れる。

写輪眼は有名な物であるため、その形状も知れ渡っている。

俺達は表向きはうちはとは何の関わりのない孤児と言う事になっているのに写輪眼を持っていると知られるのはヤバイ。

だけど写輪眼を使わずに切り抜けられるほど忍者の世界は甘くは無いだろうとの事から、いつでもバレずに発動できるようにサングラスを掛けるようにしたのだ。

「まあ、いいけどよ。ヒナタまでその怪しい趣味に付き合わせるなよ」

「…あはは」

そうなのだ。

ヒナタも俺達と同じく黒マントを着用している。

まあ、バイザーは懐にしまっているが…

何でも仲間はずれは嫌だったらしい。

その後、俺達より送れたやって来た同期の中の最後の一班。

主人公であるナルト達のところへヒナタが向かう。

その後他里の連中とのいざこざの後、一次試験が始まった。

現れた試験官によると、一次試験はペーパーテストだそうだ。

…全然解りません。

試験官の言葉の裏を読むに、ばれないようにカンニングしろって事だろうけど。

うーん。

写輪眼を使えば何とかなるかな。

俺は休まず腕を動かしている受験生を見つけると写輪眼でその動きをコピーする。

うん、大丈夫そうだ。

ソラとヒナタもこの試験の裏に気づけば大丈夫だろう。

最後の10問目。

この45分が過ぎてから出題されると言う問題。

45分が過ぎ、この問題が正解できなければ一生中忍になれないというルールを試験官から聞かされる。

ちらほら受けずにリタイアする受験生が居る中、物語の主人公であるナルトが吼えた。

「なめんじゃねーーー!!!.俺はにげねーぞ!受けてやる!一生下忍になったって…意地でも火影になってやるから別にいいってばよ!怖くなんてねーぞ」

その言葉で中退する者は居なくなり、その答えを聞いて試験官が試験終了を言い渡す。

十問目は『受ける』が正解だったらしい。

皆が一次試験通過を安堵している頃合を見計らって二次試験官、みたらしアンコが窓を突き破ってド派手に登場。

皆その登場に呆気に取られている。

…この試験官空気読めてない…

二次試験官に連れられて俺達は第44演習場、別名「死の森」に移動した。

二次試験の内容は巻物争奪戦らしい。

「天の書」と「地の書」どちらか片方を渡すから、もう片方の巻物を他のチームから奪って天地両方の巻物を持って中央にある塔に来ること。

「しかし、27チームとはきりが悪いわね。どうしようか。ああ!何処かのチームに巻物二本渡すからそのチームはシードって事で」

「な、そんなのズルイってばよ!」

「うるさいな。此処では私がルールなの。従わなければ失格にするわよ。それに貴方のチームが選ばれるかもしれないのだし。それに天地両方の巻物を渡したチームは全員に公表するわ。有利だからと言ってもその分狙われる確率が上がる訳だからそんなに不公平でもないでしょう」

確かに。

天地両方持つと言う事はそのチームを襲えば必ず反対の巻物を持っているということだ。

これはシード権は立派なジョーカーだな… 

 

第十九話

………

手元には天地両方の巻物。

「アオ」
「ど…どうするの!?」

俺達は今演習場へと入るゲートの外で、開始の合図を待っている。

「…どうしようか」

すでに俺達が巻物を持っていることは試験官によって皆に通達されている。

入場ゲートの位置も。

少しでも腕に覚えのあるヤツなら開始と同時にこちらにやってくるだろう。

「紅先生との鬼ごっこの時みたいに影分身と絶を使って一気に塔を目指す?」

ソラがそう提案する。

「でも、見つからない保障は無いし。野生動物も…」

と、ヒナタ。

「影分身はするとして、陸路は危ない」

「じゃあ、どうするの?」

ヒナタが不安そうに聞き返してきた。

俺はそれを聞いて人差し指を上に向けた。

「上?」

「いや」

「なるほど空ね」

「へ?」



試験開始後、俺達は影分身を囮にして空を飛んでいた。

ヒナタは俺が背負っている。

「ちょ!空を飛べるなんて聞いてない、て、きゃあ、高い!」

「暴れると落ちるよ!お願いだから動かないで」

俺とソラはソルとルナを起動して、フライの魔法を使用。

見つからないように高高度まで上昇して塔を目指していた。

「うぅーーー、それにいつも首から下げている宝石が喋って斧になるなんて…私は夢でも見てるのかな」

あ、ついに現実逃避を始めた。

でも最近思います。

ソラとヒナタ、声だけだとどっちがどっちかわからないと。

是非その声で「いくよ、バルディッシュ」とか言って欲しい。

まあ、暴れなくなって都合がいいや、今の内に塔を目指すか。

30分ほど空を飛び、塔の直前100メートルほどに着地、そこから走って入塔する。

そして巻物を開く。

「……早いな、こんなに早く到着するとは思わなかったぞ」

現れたのは顔も知らない先輩中忍。

「しかし二次試験は無事通過だ。後五日、此処でのんびり過ごしてくれ」

「あの!勿論寝泊りできる部屋と食料は有るんですよね?」

「………合格、おめでとう」

ポワン

それを言い残し先輩中忍は還っていった。

「おーい…」

「大丈夫、何とか成るよ」

「そうだよ」

ヒナタとソラの心使い。

しかし何の解決にもなってないのですが…

とりあえず俺達は塔を出て、近場で食べれそうな動植物を狩りに行くのだった。



五日後。

結局どうやら下忍の同期は全員この二次試験を突破したようだ。

ボロボロな皆から凄い目で見られている俺達。

…まあ、無傷だしね。

きっと旨い事逃げやがってとでも思っているんだろう。

実際逃げたもの。

空路を…

そして今、火影以下、試験官とそれぞれの担当上忍が現れ、火影がこの試験の本当の意味について語り出す。

他国の忍びとの合同で行うこの中忍試験とはいわば同盟国間の戦争の縮図なのだそうだ。

火影のありがたい話もおわり、三次試験の説明というところで第三次試験の予選を行う事になった。

通過人数24名。

多すぎるらしい。

帰還する者はいないかとの試験官の問いに眼鏡の木の葉の下忍が手を上げ、リタイア。

もう一人、キバとシノのチームメイトであった脇野エイコもここで辞めて置くらしい。

なんでも死の森で格の違いを見せ付けられ、忍者として生きていく事を見直すらしい。

それほどショッキングな事があったのか?

まあ、俺も目の前で人がむごたらしく死ぬ状況を目の当たりにして平静でいられる自信は今のところ未だ自信はないのだけど。

忍者をやっていればその内慣れてしまうのだろうか…

三次試験予選だが、一対一の対戦で勝ったほうが三次試験に進めるらしい。


その後、試合は順調に消化されていく。

第一試合から。

ウチハ・サスケVSアカドウ・ヨロイ  勝者 うちはサスケ

アブラメ・シノVSザク・アブミ 勝者 油女シノ

ツルギ・ミスミVSカンクロウ 勝者 カンクロウ

と来て、遂にソラの試合。

カミサキ・ソラVSハルノ・サクラ

「悪いわね、ソラ。勝たせてもらうわよ。死の森をシードで突破した貴方なんかに、死の森で覚悟を決めた私に敵うわけ無いわ」

「ええっと…」

サクラの気迫に困惑気味なソラ。

「それでは始めてください」

分身の術を使用し、2体の分身と共にソラに襲いかかるサクラ。

しかしソラは避けるでもなく『纏』でオーラを纏いその攻撃を受けた。

「何で!?」

ノーダメージで受け止め逆にサクラのデコにデコピン一発。

オーラを微弱ながらも纏ったその一撃は容易にサクラを吹き飛ばした。

「勝者、神咲ソラ」

「今、何をしたかわかるか?」

ガイ先生が近くにいたカカシ先生に問いかけた。

「いや、俺には普通に攻撃を受けてデコピンをしたようにしか見えなかったが」

「そうだよな。紅はどうなんだ?お前の班だろう」

「いえ、私も詳しくは知らないわ。しいて言えば、あの子達が異様に打たれ強い事くらい」

「打たれ強いね」

さら試合は進む。

テンテンVSテマリ 勝者 テマリ

ナラ・シカマルVSキン・ツチ 勝者 奈良シカマル

ウズマキ・ナルトVSイヌヅカ・キバ 勝者 うずまきナルト

主人公がこんなところ負けるはずは無いね。

俺達がいる事でどうなるか解らなかったけれど良かった。

そしてヒナタの番。

ヒュウガ・ヒナタVSヒュウガ・ネジ

2人がマウンドで対峙する。

「では試合を始めてください」

試合開始を宣言する試験官

試合開始の合図と共にネジはヒナタを糾弾する。

戦う事に向いていないから棄権しろ、と。

しかしこれは精神攻撃といっても良いのではないだろうか。

その後も精神攻撃は続く。

この試験に参加したのもチームメイトの誘いを断れなかったからだろうと。

「ち…ちがうよ?アオくん達は私に参加の有無を決めさせてくれたよ。私は自分で選んでここに居る。この中忍試験を受けて、ネジ兄さんが言うような自分を変えたくて…」

ヒナタの精一杯の抵抗。

しかしそれからさらにぐちぐちと、人は変わりようが無いとか、分家と宗家が変えられないように、とか。

何か最後の方はただの愚痴になっていたけれど。

そんな、言い合いに俺とソラは口を挟むことは出来ない。

分家以上に俺は使用人の立場ですから分家の人間ですら俺達の遥か上なのですよ。

自分を変える事など出来ないと言い切ろうとしたネジの言葉に被せるように突然ナルトの大声が会場を響き渡った。

ナルトの声援でどうやらヒナタは気を持ち直したようだ。

「逃げたくない」

そういったヒナタの目には強い意思の輝きが宿っていた。

「………ネジ兄さん、勝負です」

「いいだろう」

同じ構えを取る二人。

同じ流派なのだから仕方ない。

激突する2人。

繰り出す掌手をネジは華麗にいなしていく。

それでも表面上はヒナタが押しているように見える。

しかし…

「ゴホッ」

ネジの一撃がヒナタに入り吐血する。

「やはりこの程度か、宗家の力は」

それを聞いても負けじヒナタは左手を突き出す。

しかしその攻撃もネジには見切られ逆に左腕の点穴を突かれチャクラの流れを阻まれる。

「ま…まさか最初から…」

「そうだ、俺の目はもはや点穴を見切る!」

その後ネジはヒナタを突き飛ばし、勝ち誇ったように言う。

これが実力の差だと。

「これが変えようの無い現実…」

肩で息をしているヒナタ。

さらにネジは言葉を続ける。今のヒナタは後悔しているはずだ。だから棄権しろ、と。

「…私は…ま……まっすぐ…自分の…言葉は…曲げない。曲げたくない!」

よろよろと立ち上がり、ネジを見据えて高らかに宣言する。

「私も…それが…それが忍道だから…!」

それから勢い良くヒナタは俺の方を向いた。

「アオくん!使っていいかな」

何をとは言わない。

俺はコクンと頷いた。

「ありがとう」

別に俺は使用を禁止してないんだけど…

「今更なにをする気だ」

「すぅ……練!」

一気にオーラを開放するヒナタ。

そしてついでに『快適空間(ジャグジー)』を発動して左腕を包み込む。

すると閉じていたはずの点穴が徐々に開いていく。

「な、なんだそのチャクラは。そしてその左腕を包んでいるのはなんだ!」

「ん?なんだ、何か見えるか?カカシ」

「写輪眼」

カカシ先生は写輪眼を発動してその光景を眺める。

写輪眼はチャクラの動きを見る事が出来るから気づくかもしれない。

「大量のチャクラをヒナタの体の外を囲っている。それから左腕に、なんだろうシャボン玉かな?みたいなのがヒナタの体を癒しているように見える」

「見えるか?紅」

「いいえ。チャクラの圧迫感は感じるけれど…」

ヒナタは左手を癒していた『ジャグジー』を消す。

「ネジ兄さん。此処からは日向家宗家の私ではなく、ただのヒナタとして戦います」

「どういう事だ?」

「日向の技では私はネジ兄さんを倒す事は出来なかった。でも今の私は違います」

ヒナタから溢れるオーラに気おされるネジ。

「此処からは私の持てる総てを出してネジ兄さんと戦います」

そう言って日向は構える。

「行きます」

地を蹴り、一気にネジとの距離を詰める。

「はぁっ」

「速い!」

ネジが間一髪でヒナタの連撃をかわし、距離を取る。

「ぜぇ、はぁ。………食らったらやばそうだ。かわし続けるのも難しい。ならば」

ネジの構えが変わる。

いつか見た八卦六十四掌の構えだ。

「かわせないなら攻めるまで!行くぞ」

一気に距離を詰めるネジ。

「『総てを包み込む不思議な風船(バブルバルーン)』」

ヒナタは自分から半径一メートルほどの所にゴム風船のようにしたオーラの膜をはる。

「二掌、四掌、八掌」

どんどん繰り出されるネジの猛攻。

しかしその総てはバブルバルーンにその軌道をずらされヒナタに当てられない。

「六十四…」

そこまで言った時にネジの目の前にヒナタのデコピンが迫る。

「ぐぉ!」

そしてヒナタの放ったデコピンがネジに命中。

吹っ飛んでいって気絶した。

試験官がネジに近寄り失神を確認。

「勝者、日向ヒナタ」

「やったてばよー!ヒナタ!」

「ナルトくん」

ナルトの声援に赤くなるヒナタ。

「かっちまいやがった」
「しかもデコピンで…」
「何なの?あのチームのデコピンは人を軽々とふっ飛ばしてるわよ!?」

木の葉の下忍たちが騒ぎ立てている。

いやまあ、ね。

念での攻撃に生身は余りにも無防備だ。

この世界ではチャクラは体の内側に練るものなので、オーラでの攻撃をオーラで防御できない。

故に凄まじい威力になってしまうのだ。

まあ、ヒナタも加減したみたいだし、ネジも死んではいないだろう。

とことことこっちに歩いてくるヒナタ。

「勝利おめでとう」
「おめでとう」

俺とソラが賞賛の言葉を送る。

「う、うん。でも柔拳では手も足も出なかった」

「そうだね。才能もあるけど本人もそうとう努力したんだろうよ」

「…うん」

「まあ、いいじゃないか。これで三次試験に出られるんだから」

「そうかな…」

「そうだよ」

「そっか…そうだよね」


次の対戦カードが電光掲示板に映し出される。

「えっと次は」

カミサキ・アオVSロック・リー

…俺ですね。

対戦相手はなんかおかっぱゲジ眉の濃い少年。

俺はマウンドに移動する。

「アオーがんばれー!」
「アオくんがんばって」

美女2人からの声援。

周りの男から嫉妬の視線が集中する。

う…おなか痛くなってきたよ。

「あなたがボクの対戦相手ですね。お互い全力で頑張りましょう」

そう言って握手を求めてくるリー。

それに応えつつ考える。

コイツはパワーファイターだな。

何ていうか見るからに?熱血そうだし。それに格好が青色三号さんですし…。

こういうやつには幻術が一番効きそうだな。

「試合開始してください」

試験官がそう言って遠ざかっていく。

速攻で幻術を…って、うぉ!

「木の葉旋風」

開始の合図のあと、俺が印を組もうとしていた所に逆に体術で速攻を掛けられた。

間一髪で俺はその蹴りを『堅』でガードする。

その後も続けざまに攻撃を仕掛けられる俺。

まずい、段々速くなっていく。

このままではヤバイ、俺は写輪眼を発動してリーの動きを追う。

『堅』で防御出来ているのでダメージはさほど無いけれど、その速さに翻弄されて反撃が出来ない。


「む?」

変な手ごたえにリーは俺から距離を取る。

俺は距離を置いたリーに目掛けて「火遁・炎弾の術」で牽制

それはダメージを与えられる物ではなかったが、地面に着弾したソレが粉塵を巻き上げる。

「なに?」

リーは一瞬視界がさえぎられてたたらを踏んだ。

隙が出来た今がチャンス。

俺は印を組み幻術を発動。

「魔幻・樹縛殺」

「うっ」

どうやら成功したようだ。

「リー!!」

外野で吼えるガイ先生。

声援かもしれないけれど、それはある意味妨害じゃね?

幻術が解けたらどうするんだよ!

動きを止めたリーの額に俺は念を最小限で強化したデコピンを放つ。

ドコンッ

その衝撃で完全に意識を奪う。

試験官が確認して俺の勝利を宣言する。

「勝者、神咲アオ」

「よし」

「アオー」
「アオくん」

俺の勝利を喜んでくれるソラとヒナタの声にまたしても嫉妬の視線が。

観客席に戻ると木の葉の同期が話しかけてくる。

「ちえ、8班は全員三次試験出場かよ」

「しかも全員デコピンでKO」

「おまえら一体どんな修行しているんだ?」

と、シカマル、チョウジ、キバから話しかけられた。

それを適当にいなして俺は次の試合に眼をやった。

ガアラVSヤマナカ・イノ

心転身の術が効かなかった為にイノがすぐに棄権して 勝者 ガアラ

アキミチ・チョウジVSドス・キヌタ 勝者ドス・キヌタ

こうして三次試験の出場者が出揃った。

予選が終わると火影から本戦の説明があった。

その説明によると本戦は一ヵ月後、その間は本戦の準備期間に当てられる。

その後くじを引き、本線のトーナメント表が決まった。

俺、くじ運無いかも…

俺の一回戦の対戦相手…ナルトだよ…

「ぜってー負けねーってばよ」

なんて別れ際に言われたけれど…ストーリー忘れた俺でもわかる事がある。

俺が勝っちゃいけないじゃん…

それとヒナタの一回戦の対戦相手はソラだった。

「あう…」

同士討ち同然の組み合わせにヒナタは困惑気味だった。

二次試験を終えて俺達はそれぞれその場所を後にした。
 

 

第二十話

数日後。

本試験まで後一ヶ月。

俺とソラは当主に一月の休みを貰い本戦の準備に取り掛かる。

ヒナタは当主自らこの一ヶ月修行を付けてくれるそうだ。

俺達も誘われたが、柔拳が訓練の基本では俺達には余り有意義な修行ではない為、丁重に辞退した。


一応本戦に向けての訓練をする為、俺とソラは今演習場に来ていた。

…のだが。

「「お願いします!!」」

俺達の前に土下座をしている全身タイツの師弟コンビ。

「あ…あの」

何?この状況!

「是非ともそのチャクラを操る技術をお教えください」

リーが更にその頭地面にこすり付けて懇願する。

あー、どうやら三次試験予選で俺がリーさんにデコピンをかましたのを切欠にリーが念に目覚めてしまったようだ。

確かドゥーンさんも言っていた。

念には自然に起こすか無理やり起こすかの二種類があると。

ついでに言うと俺達は事故による後者にあたる。

素質の高い者に、念による攻撃をすると稀に念に目覚める者がいるそうだ。

この世界の忍者は皆チャクラを普通に扱えているので恐らく大丈夫だと踏んでいたのだが、どこにでも例外はいるらしい。

見たところ、纏は自己流で粗が目立つがそれなりに出来ているようだ。

最初はヒナタのところに行った様だが、ヒナタが師は俺たちだと口を滑らしたと言う。

「とりあえず頭を上げてください。上忍が無闇に下忍なんぞに頭を下げる物ではありません」

「いや。リーの更なる成長の為には君たちの力が必要だ。恐らくだが、君たちの異様な打たれ強さはこの技術に由来すると思われる。私にはこのチャクラを外側で操る技術をリーに教える事は出来ない。だから!」

そう言って深く頭を下げるガイ先生。

「ガイ先生;;」

リーはその言葉と、自分の為に頭を下げているガイの様子に号泣している。

「本戦への一ヶ月、君達にとっても重要な時期だということは重々承知しているつもりだ。だから本戦が終わってからでもいい、リーにその技術を教えてもらえないだろうか」

う…どうしよう。

「ソ、ソラ!」

俺はソラに話しを振る。

「アオが決めて」

「そんなぁ」
「「どうか」」

「「お願いします!」」

何だろう…凄いプレッシャーだ。

「「お願いします!」」

「わ、わかりました…」

「「いよっしゃー!」」

「誠心誠意頼めば大抵のことは何とかなるものさ」

「はい!ガイ先生!」

うお!目の前で暑苦しく青春し始める2人。

「ただし!」

俺の素の言葉に2人は熱い抱擁をやめこちらを向く。

「ガイ先生!」

「何だろう」

「リーさんに…えっとそのチャクラを外側で操る技術、『念』と言うんですが、それを教える代わりに俺とソラに忍術と体術を教えてくれませんか?主に体術なんかを」

「それは良いがどうしてだい?」

「知っての通り、紅先生は幻術は最高峰ですが、忍術や体術は得意ではありません」

「なるほどな。そこで俺に師事して欲しいと言うわけだな!」

「ええ…まあ…」

「任せて置け。本戦までの一月で立派な体術使いにしてやる☆」

サムズアップして八重歯を光らせるガイ先生。

…早まったかな。

「幸いにもうちの班からは誰も本戦には出場しないからな。リーの面倒を見てくれるならこの一月付きっ切りで教えてあげようではないか」

えぇ!?付きっ切りって。

そこまではしなくてもいいのに!

「……アオ」

う…そんな目で見ないで、ソラ。

「まあ、そういう訳ですから、明日からリーさんもこの演習場に来てください。念の事について教えてあげます」

「解りました!」

ビシッっと敬礼するリーさん。

「しかし良いのか?自分たちの練習時間が減るのではないか?」

「念の初歩はもっぱら口頭です。体を動かしたりするのは念の初歩を覚えてからの応用編からです」

「そ…そうなのか。良かったなリー!明日から早速念の修行が出来るらしいぞ」

「はい!頑張ります」

うお!目の中が燃える人初めて見たよ!


次の日から一月の間、俺とソラはガイ先生から主に体術について習っている。

体術は基礎の基礎しか習っていない。

ガイ先生から習う体術や戦闘における身のこなしは戦闘をする上で大きなプラスとなる事だろう。

流石自称だがカカシ先生より強いだけある。

リーさんの方は四大行の訓練だ。

纏のコツを教え、絶、練も問題なし。

発 の訓練である水見式をしたところその水の量が増えた。

どうやらリーさんは強化系らしい。

「強化系?」

水見式を終えてリーさんが聞いてきた。

「そう、強化系。物を強化するのに向いた系統」

「強化ですか…でも僕は忍具を使うより、その…体術を極めたいのですが…」

「強化系は何も武器を強化するだけじゃない。自分自身を強化するだけでその破壊力はとんでもないらしいよ?」

「そうなのですか?…と言いますか、らしい、と言うのは?」

「僕もソラも特質系で、後で教えるけれど六性図だと相性は最悪。俺では強化系は4割ほどしか強化できない」

「はあ…」

「そんな俺でも自分の拳を強化すれば簡単に岩くらいなら砕けるからね」

そういって俺は『硬』で近くにあった岩をぶん殴る。

ドゴンッ

「こんな感じで。これを強化系でやればその威力は押して知るべし」

「うぉおおおおおお!凄いです!軽く小突いただけで軽々と岩を砕きました!…ちょっと今までしてきた事が無駄だったように感じてしまいましたが…」

そんな感じでリーさんは念の修行に励んでいる。



そんなこんなであっと言う間に一月経ち、本戦が開始される。

会場であるドーム中央に俺達は並び、正面上の観覧席に火影をはじめ、風影や大名の姿がみえる。

そして観客席を埋め尽くす人、人、人…

まあ、一般人にしてみればこれも立派な娯楽と言う事かな。

ローマのグラディエイター見たいなものか。

「えー皆様このたびは木の葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、有り難うございます!これより予選を通過した10名の『本戦』試合を始めたいと思います。どうぞ最後までご覧下さい!」

火影の言葉で中忍試験が開始される。

そして俺とナルトを残し、他の選手は控え室へ。

「では第一回戦始め!」

リングに残った試験官から開始の合図がかけられる。

うー、どうするかなぁ…

勝ってはいけないとは思うのだけど、一応日向家の使用人としては無様な試合も出来ないし…

そんな事を考えていると、ナルトが印を組んだ。

「影分身の術」

現れる4体の影分身。

「「「「行くってばよ!」」」」

四方から襲い掛かってくるナルト。

俺は死角をなくす為に『円』を展開する。

正面から来るナルト2人をガイ先生直伝の体術でいなす。

俺の死角を突いて、後ろに回りこんだナルトの影分身2人の動きを『円』でとらえ、その攻撃を問題なく避け、豪拳の一撃で影分身を吹き飛ばす。

「まだまだぁ!」

更に影分身を増やすナルト。

その数20ほど。

…どんだけチャクラ持っているんだよ。

チャクラを平均に等分する影分身、その有用性は計り知れないが、その分チャクラ消費も半端ない。

だと言うのに平然と影分身を繰り出すその膨大なチャクラには脱帽ものだ。

とは言っても人数が多くてもその総ての動きを円で察知しているので問題なく対処できるレベルだけれども。

ナルトの体術のレベルが低くて助かった。

…とは言っても一月前の俺だと危ういけれどね。

一ヶ月間のガイ先生からの熱血指導は伊達じゃ無い!

写輪眼を使ってその動きを覚え、その動きを反射で出来るまで体に覚えこませる。

とは言え、まだまだ兄弟子であるリーさんにも遠く及ばないんだけどね。

「火遁鳳仙花の術」

口から吐き出した無数の火炎が密集しているナルトに襲い掛かる。

数が多いということはそれだけ避けづらい。

俺の一撃で数体の影分身が消える。

それでも負けじと俺に襲い掛かってくるナルト達。

ん?

なんだ?

行き成りナルトの数が一体減ったぞ?

俺は円で感じ取っているナルトの数が俺から遠いところで消えた事を不審に感じ、更に円を広げる。

気のせいか?

「木の葉旋風!」

残った最後の一体に俺は回し蹴りを放つ。

ポワンッ

「む?」

影分身か!本体は何処に?

ボコッ

俺の真下の土が行き成り盛り上がり、ナルトの一撃が俺に襲い掛かる。

俺はギリギリで円の感知に引っかかったことでその場を離脱、その一撃を何とかかわすことが出来た。

「ちぇ、これでもダメか」

危うく一発貰うところだった。

円の形状を半円にしていた為、地下の警戒をおこたってしまっていたのが原因で、ナルトが地面から出るまでその存在を感知することが出来なかったのだ。

「こうなったら本気で行くってばよ!」

ちょ!今までのは本気じゃなかったの?

結構地味に影分身の攻撃は厄介なんだけど…

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ナルトの体から膨大なチャクラが放出される。

うわぁ…

なるほど、主人公補正か!

ピンチになれば強くなる。

この禍々しいチャクラはえっと確かナルトに封印されている九尾の…

尻尾!尻尾出てますよ!?

…これはヤバイ。

「はぁ!」

行き成り大量のチャクラを纏い、跳ね上がった身体能力で地を掛け、俺にクナイを投擲してくるナルト。

マズッ!

俺は『円』を解き、『堅』をし写輪眼を発動、迫り来るクナイにクナイを投げつけて弾き飛ばす。

寄って来たナルトと何合か打ちあう。

何発かいいダメージをナルトに与え、ナルトは吹っ飛んでいく。

しかし、すぐさま立ち直りこちらに迫ってくるナルト。

俺が投げたクナイをクナイで弾き飛ばし更に俺に迫り来るナルト。

俺は素早く印を組み。

『火遁豪火球の術』

口から大きな炎の球形状の塊を吐き出す。

しかし、その異常なまでの身体能力でナルトは直前で地面を蹴り、方向を強引に変え、直撃を免れる。

更に、術の余韻で硬直している俺に向って拳をたたき付けた。

俺は咄嗟に『流』を使い、拳によるダメージを軽減させる。

うわ、流でガードしたのにいいダメージを貰ったぜ。

ドゴンッ

壁に激突する俺。

今の一撃、相当のチャクラを込めていたようだ。

うん、そこらの下忍なら今の一撃でペチャンコなんじゃないか?

流で背面にオーラを集めたのでダメージそのものはたいした事は無い。

無いのだが…ここら辺が落としどころだろう。

「痛ぁぁぁ!お前ってばどんだけ固いんだってばよー!?」

攻撃した拳を摩りつつ俺に対して文句を言っているナルト。

このまま気を失って置くかな…

試験官が俺の所までやってくる。

俺の気絶したフリを気づいているようだが試験官は俺の意を汲んでくれたようで。

「勝者うずまきナルト」

うぉおぉぉおぉぉぉ!

ドームが歓声に包まれた。 

 

第二十一話

会場がナルトの勝利に湧く。

俺は退場し、通路で入れ替わりのヒナタとソラに会う。

「アオ、惜しかったね」

「うん。
でもナルト君かっこよかったなぁ」

「ヒナタ…」

今から試合だって言うのに大丈夫なのか?ヒナタ…

そんな精神状態で戦えるのか?

「次は2人の番だから、頑張ってこい」

「うん」
「はい」

そう言って俺の横を過ぎ、ドーム中央へと向う。

俺は観客席の方へ向う。

俺は適当に空いている席を見つけ着席する。

「よいしょっと」

席に着くと隣に駆け寄ってくる小さな子供。

「惜しかったですね、アオ兄様」

「兄様は止めてください、ハナビ様」

ハナビは拗ねたような表情を浮かべながら俺の隣の席に座った。

「いいじゃないですか」

「いや、良くないんですが…それよりも来ていたんですね」

「むう、今は回りに日向の者はいないんですから敬語は止めてください!」

…姉妹揃ってそこだけは頑固なんだよねぇ。

俺、使用人なんだけど…

まあ、日向の家にいると同年代の子供と対等な関係を作るのが難しいからねぇ。

ヒナタはアカデミーに入学して多少同年代と付き合う事が出来たが、ヒナタ以上に期待されているハナビはかなり箱入りだからなぁ、対等に話してくれる人が欲しいのだろう。

「解ったよ今だけだからな、ハナビ」

「はい!」

嬉しそうに返事をするハナビ。

「それで、一人で来たのか?」

「いえ、父上と一緒に。さっきまで父上と一緒にアオ兄様の試合を見ていました」

「そっか。それじゃがっかりさせちゃったかな。俺負けちゃったし」

「そんな事在りません。父上が言ってました。最後のアレ、気絶したフリだって」

ありゃ…バレてら。

「あはは…」

「何でそんなことしたんですか?」

何でって…主人公に勝っちゃまずいだろ!

「まあ、あれ以上やったらどちらかが再起不能になったかもしれないしな」

というよりむきになって九尾のチャクラが暴走したら目も当てられないし。

「そうなのですか」

「そうなの、それよりほらヒナタとソラの試合が始まる」

「はい!」

会場の中央に目をやる。

「第二試合、始め!」

試験官から開始の掛け声。

「ソラさん、手加減はしないで下さいね」

「…わかった」

ヒナタの真剣な眼差しに応えるソラ。

開始の合図と共に両者『堅』をする。

「はっ」
「ふぅ」

両者はそのオーラを身に纏いヒナタは柔拳、ソラは豪拳でそれぞれぶつかり合う。

「姉様もソラ姉様も凄いです」

「うん」

互いに一歩も譲らず五分に渡り合っている。

この一ヶ月ヒナタは柔拳を徹底的に訓練してきたようだ。

技のキレが格段に上がっている。

今のオーラを纏ったヒナタの柔拳は既に柔拳の域を脱している。

ヒナタの攻撃は普通の人ならその一撃で外部破壊、内部破壊の両方が同時に起こり、その命を奪ってしまうほどの攻撃だ。

しかし、そこは相手が普通の人ならの話。

ソラ相手では少しばかり状況が変わる。

写輪眼でその攻撃を完璧に見切り、流でその攻撃をガードする。

そうしてその攻撃をほぼ無効化してしまっている。

ソラの攻撃もヒナタのバブルバルーンに捕まり、上手く当てられない。

「お姉様の攻撃、当てるだけでダメージがあるはずなのに、ソラお姉様はどうやって防いでいるんでしょう?」

「あー、それは…気合?」

「まじめに応えてください!」

そんな事言っても…

うーん。

「当たる瞬間に、同じだけのチャクラをその周囲に纏わせ、ヒナタの柔拳によるチャクラの侵入を防いでいるんだよ」

「え?そんな事が可能なんですか?」

「修行次第かな」

「修行ですか」

念の…

その後も互いに決定打に欠けるものの、その戦いは魅せるものがある。

「火遁炎弾の術」

ソラの口から幾つもの炎弾が吐かれ、ヒナタに向う。

「くっ」

ヒナタはバブルバルーンを繰り出し、炎弾をその風船に包み無効化する。

「凄い。忍術を隔離した?」

うお!いつのまにハナビは白眼を使えるようになったんだ!?

その眼でヒナタのバブルバルーンを見破っている。

「ヒナタのアレは厄介だよ。あそこで包まれている風船のような物はヒナタの意思で破裂させる事が出来る。その時に一緒に中に溜め込んだ物も爆発させることが出来るからね、忍術を使いすぎるといつの間にか回りには自分で放った忍術で囲まれていて一斉に爆破。ほら」

ドドドンッ

爆破されるバブルバルーン。

しかしそれも計算の内だったのか、ソラは爆発を眼くらましにして『堅』で爆発のダメージをガードして一気にヒナタに走りよりヒナタの首元にクナイを当てる。

「そこまで!勝者神咲ソラ」

うぉぉぉおおお

場内の歓声。

「ソラお姉様、凄いです!」

「ヒナタもね」

「はい!」

第三試合

ガアラVSうちはサスケ

しかし、うちはサスケが現れない。

「負けちゃった」

「惜しかったですね、姉様」

「うん、やっぱりソラは強かったよぉ」

ヒナタが観客席の方へ来たようだ。

「ヒナタ、あれ?ソラも?」

ヒナタの後ろにはソラの姿もある。

「次の試合は棄権するし」

「え?どうしてですか」

ハナビがもったいないと問いかける。

「アオも負けちゃったし、私だけ中忍になって別の任務に回されるのは嫌」

「…さようで」

まあ、確かにそれは一理ある。

一人だけ別任務に回されるのは凄く心細いしね。

さて、待てどもやって来ないサスケに場内はそろそろ我慢の限界だ。

どうやらサスケの試合は後回しにして次の試合が先に行われるらしい。

うーむ、うちはのネームバリューは凄いねぇ。

みんなうちはの最後の生き残りの試合を見に来ているらしいし。

第4試合

油女シノVSカンクロウ

カンクロウ棄権により 勝者 油女シノ

でもこの中忍試験ってその実力を見せれば良いだけだから不戦勝って実は何の価値もないんだよね。

第5試合

奈良シカマルVSテマリ

良い所までシカマルは影真似の術で追い詰めるもギブアップを宣言。

勝者テマリ

というかあの影真似の術凄く便利そう。

写輪眼でコピーしときました。

第6試合

うちはサスケVSガアラ

会場に瞬身の術でさっそうと現れるサスケ。

遅刻も許されるのは血継限界をその身に宿す希少性からか。

そして始まるサスケの試合。

「始め!」

試験官の開始の合図。

同じうちはの血を持つ者の戦い方か…しっかり見させてもらいましょうか。

俺は写輪眼を発動してその動きを取りこぼさないようにしっかりと見る。

体術を基本としたサスケの攻撃は、しかし総てガアラの砂の防御の前に防がれる。

「玉?」

何回かサスケの体術による攻撃を防いでいた砂の盾がガアラの体を包み込み、完全に隠してしまった。

それを見たサスケが一旦距離を取り、壁にチャクラで吸着して立ちながら印を組んでいる。

その後発される異音。

チチチチチチチ

左腕に纏わせた膨大なチャクラを雷に形質変化させる。

サスケはそのまま雷によって肉体活性させ限界を超えた速度でガアラに突っ込んでいった。

うお、フェイントも無く一直線かよ!

恐らくあの砂の玉の中にいるガアラにしたって如何にかして外の事は認識しているはず。

であるなら反撃は合ってしかるべき。

実際に砂の玉の表面から幾つかの槍が伸びサスケを貫かんと伸びている。

しかしそれを見切る眼を持っているが故に恐れなく突っ込んでいったサスケ。

あの堅牢な砂の防御壁がサスケの技によって貫かれている。

凄い威力だ。

一応写輪眼で術の構造はコピーしたけれど、使えるかな、俺。

性質変化。

こればかりは先天性の物があるからな。

まあ、後で試してみるか。

手を砂の玉の中に突き入れているサスケ。

「うわああああ!血が!俺の血が!」

中からガアラの絶叫が響き渡る。

その声に不穏な気配を感じたサスケはその玉の仲から腕を引いた。

それに伴い砂の中から出てくる異形の手。

なんだ?

なんだか凄く禍々しい。

その後ガアラは砂の防御を解き、その身を現した。

「両者とも凄いですね」

「ああ」

ヒナタの呟きにそう応えた時だった。

会場の上方から大量の羽が降ってくる。

「これは!?」

「幻術!?」

「ええ!?」

「いいから幻術返しだ!」

「「「解!」」」

俺達は印を組み幻術を返す為に体内のオーラを乱す。

「ヒナタ、サングラス!」

「?」

「早く!」

「は…はい!」

サングラスをかけ、その視界が開かれている事を隠す。

この幻術はかけられた者を眠りの中に誘うもののようだ。

俺は幻術で寝入ってしまうハナビを膝の上に抱き上げ気絶したフリをする。

「な!?」

「アオくん!?」

行き成りハナビを抱き上げた事に2人は驚いたようだ。

「いいから寝たふり!」

「「う…うん」」

ソラとアオは互いにもたれかかるような感じで気絶したフリをする。

俺は『円』を展開し、周囲を警戒する。

「ヒナタ、俺達を包む広さでバブルバルーン。一応『隠』で気取られないように」

「はい!」

ヒナタのバブルバルーンに包まれる。

「一体なにが起こっているの?」

ソラが小声で問いかけてくる。

「砂の上忍が何人も入り込んで来ているのが見て取れるな」

「本当だ。先生達戦っているね」

「当主はどうしているだろうか」

「え?父上来ていたのですか?」

「じゃ無かったらハナビが此処にいるはずが無いよ」

「それはそうだね」

「ヒナタ、白眼で当主が何処にいるか解らない?」

「えっと、ちょっと待って。…会場内には居ないみたい」

おい!こんな大事な時にどこへ!?

…トイレとか?

火影の席の方を見ると、座っていた席の屋根の部分になにやら結界忍術のような物が見える。

火影はその中だろうか。

って、マズイ!

誰かがこちらに高速で近づいて来ている。

サングラスの下で視線を向けると他国の忍びがなぜか俺達に向ってやって来ている。

狙いは何だ?

俺達の命か?

でも一応幻術にはまったフリをしている訳だけど。

バレたのか?

いや、額宛を見るとどうやら砂の忍では無い。

この騒動を仕掛けたのは砂の忍達のようだ。

では何が目的だ?

この混乱に乗じて他国の忍が俺達の方へやってくる理由は?

もしかして血継限界を宿す日向の子供か?

今本家の子女が2人も無防備に寝入っている訳だし、混乱に乗して連れ去るには絶好のチャンスか。

だが俺は今ハナビを膝抱っこしていて迎撃に出られない。

ちっ!

俺は円を解き周でヒナタを囲む。

俺のその行動でソラとヒナタも異常に気づいたようだ。

いつでも動けるように、二人とも周りをサングラスで隠された双眸で伺っている。

ヒナタのバブルバルーンも展開されているから初撃は何とでも防げるだろうが、問題はそこから。

ヒナタのバブルバルーンに触れれば流石にこちらが気が付いていることはバレるだろう。

そこからは戦闘を考えなければならない。

そんな事を高速で思考していると、案の定俺達の目の前に現れる他国の忍び。

その手をハナビに伸ばしたところで後ろからクナイで刺され、絶命した。

「危なかった。砂だけではないか。この混乱に乗じて日向本家の子をさらおうとするか」

そう言って現れたのは我らが紅先生。

「待ってなさい。今幻術を…って、気が付いているわね」

「はい」
「ええ」
「ごめんなさい」

「いいわ、でもここに居るのは危険よ。敵は砂の忍だけじゃない。日向の血継限界を狙っている者たちにしてみたら千載一遇のチャンスなんだから」

「はい」

それはわかっている。

ヒナタはまだしも、未だハナビの力では大人の忍には手も足も出ないだろう。

「それじゃアナタ達に任務を与えるわ。日向ハナビを伴い会場を脱出。日向ハナビの安全確保を第一に考えなさい。以後余裕があれば里の非戦闘員の避難誘導に当たる事」

「はい」
「「了解しました」」

紅先生は印を組みハナビの額に添える。

「解!」

「んっ…んん」

「起きたか?ハナビ」

「兄様?」

「状況の説明は後にして、取り合えず今はこの場から離れる」

「え?ええ?」

混乱するハナビ。

そりゃそうだ。

ハナビを抱えていては印を用いた忍術は使えないな…仕方ない。

「ソル」

『スタンバイレディ・セットアップ』

「あなた!それは?」

紅先生が問いかける。

「今はそれどころじゃないです。敵が来ます」

「くっ!」

俺の言葉に紅先生は迎撃に向う。

「ソラ!ヒナタ!まずこのドームを出る。いくぞ」

「「うん」」

瞬身の術を駆使して一気にドームの縁まで移動する。

そして一気に上空へとジャンプ。

その勢いを殺さない内にフライの魔法を使用。

さらに高く高く昇っていく。

どうやら上忍の人たちが敵の数を減らしていてくれたおかげで無事ドームから逃げられたようだ。

「きゃあああ!高いです!と言うか飛んでます!」

「あはは…私と同じリアクション」

隣りでソラに抱えられているヒナタがそんな言葉を言った。

ソラも瞬身の術で縁に移動する途中でルナを起動して、ヒナタを掴んでフライの魔法を使用したようだ。

「それで、何があったのですか?」

「俺達にもよくわらないのだけど」

と、前置きして俺はハナビに事のしだいを話す。

「なるほど、という事は下で里を破壊している巨大な蛇は敵の口寄せという訳ですね」

「蛇?」

俺はハナビに言われて眼下の里を見るとそこには巨大な蛇が。

「でか!」

何かあの蛇すんげーでかいんですけど!

「あ!あの蛇里を破壊しています!どうにか成りませんか?」

「いや、どうにかって…うーん。ヒナタは?」

「む…無理だよ!ソラさんは?」

「うーん。ヘクサゴンスペルのプラズマザンバーブレイカーかスサノオなら何とかなるかも」

「建御雷は?」

「対象がでか過ぎる」

「なるほど」

確かにその二つならあの巨体も貫けるかもしれない。

「プラズマ?」

「スサノオ?」

「ん?」

「ああ、しまった!」

普通に俺達の奥の手をばらしてしまった!

くぅ、迂闊!

「何か良くわからないけれどアレどうにかできるんですか?」

「うん、まあ…」

「なら今すぐお願いします。このままじゃ里が破壊されつくされちゃう」

確かにこのままじゃかなりの建物が大蛇によって破壊されてしまう。

「ちっ、しょうがない!ソラ」

「うん!」

俺はハナビに、ソラはヒナタにレビテーションを掛け離す。

「え?」
「ええ!?」

行き成り離されて宙に置き去りにされて驚いているヒナタとハナビ。

「じっとしてて」

「あ、うん」

さてと、今の俺じゃ単騎でプラズマザンバーは使えない、しかもドクター特製のカートリッジは無い。

ドクター特製のカートリッジは魔法の足せる数を強引に上げる。

しかし今俺が持っているカートリッジは念能力によって具現化したオーラを溜め込んだもの。

それはオーラを瞬間的に増大するが、魔法を足す効果は無い。

だが!

ここで双子マジック!

前世では使えなかった二人の魔法使いによるヘクサゴンマジック。

俺とソラが風を三つずつ足して完成する。

『ザンバーフォーム』

『ロードカートリッジ』

更に威力を上げる為にカートリッジを使用する。

ガシュガシュガシュ

「何?行き成りオーラが膨れ上がった!」

カートリッジによるドーピングでありえないほど膨れ上がったオーラに驚愕するヒナタ。

一人3発、計6発のロード。

ソラの援護を受けて完成するヘクサゴンスペルの巨大ブレード。

「プラズマザンバーーーーーーッ」

「ブレイカーーーーーーーーーーッ」

気合一閃、俺はその光刃を大蛇目掛けて振り下ろす。

振り下ろしたそれは大蛇の首を切り落とし、更にその落雷のごとき電圧で大蛇の体は焼け落ちる。

「凄い…」

あっけに取られているヒナタとハナビ。

「これがアオくん達の本当の戦い方…」

大蛇が完全に沈黙したのを見て俺はヒナタ達の方へ飛んでいく。

「さ、でかいのは潰したし、早く非難しよう。避難場所は知ってる?」

「はい、確か緊急時のマニュアルが…」

ハナビの案内で俺たちは避難所へと移動することになった。 

 

第二十二話

避難所に着き、俺達は少し安堵する。

しかし、未だ里の危機が去ったわけではない。

俺達はそこで避難民の警護にあたる。

「畜生!一体何が起こっているっていうんだ」

その避難所を守っていた先輩忍者の一人がそう愚痴る。

「知りませんよ。ただ、今里は他の忍に攻め込まれていると言った事しか」

もう一人の先輩忍者がそう答える。

「そうだよな。俺少し外を警戒してくる。後を頼む」

「ああ」

扉を開き、避難所から出て行く先輩忍者。

「ぎゃーっ」

扉を閉められてしばらくしてから外から絶叫が響く。

「な、何だ!?」

もう一人の先輩忍者が扉を開き、外に出て行く。

「ぐあっ!」

扉を閉めて幾らも無い内にまた絶叫が響く。

がやがやっ

避難している里の人たちが騒ぎだす。

「マズイな」

「うん。みんな不安がってる」

ドンッ

ドアが叩かれる音が響く。

ドンッドンッ

またドアが叩かれる。

俺達は集まり迎え撃つ為に身構える。

ドガンッ

ついにドアが破られる。

そして現れたのはなんと大人の人間くらいある巨大なサソリ。

「何だ!?」

「巨大なサソリ!?」

何だコイツは?

まずい!侵入者のその容貌に避難した人たちが恐慌を起こしかけている。

俺はソルを握り絞め進入してきたサソリへと飛び掛る。

『サイズフォーム』

「おらぁ!」

鎌に変形し、形成した魔法の刃でサソリを切り裂く。

くっ!なかなか硬い!

何とか俺はサソリを両断した。

そして俺は壊されたドアから廊下に出る。

するとそこにはおびただしい数のサソリと、サソリと同じく人間大の巨大な蟻。

そして廊下に倒れている先輩忍者。

クナイや手裏剣が散乱しているところを見るに迎撃したがその硬い甲殻には通じなかったのだろう。

やばい!今の騒ぎでサソリと蟻がこちらを認識して集まり始めている。

『ロードカートリッジ』

ガシュ

排出される薬莢。

「サンダースマッシャーーーーー!」

俺は廊下を埋め尽くしていたサソリ達の群れに向って射撃魔法を発射。

今の一撃で手前にいたサソリたちを吹き飛ばす。

そして俺はすぐさま踵を返してドアの中へ。

「アオ!」
「アオくん!」

避難民を落ち着かせていたソラ達が駆け寄ってくる。

「まずい!あの巨大なサソリ達に囲まれている。このままじゃ袋のネズミだ」

「そんな!どうすれば!?」

「この部屋に隠し通路は無いのか!?」

沈黙が返って来る。

もしあったとしてもその存在を知っていたのは先に死んだあの先輩忍者達だけだったのだろう。

がやがや

ざわめきが大きくなる。

ちぃっ!

こうなれば正面突破で避難民を他のシェルターに移送しつつ元凶を叩くしかないか?

「すみません皆さん。皆も見たように、巨大なサソリがこの部屋を嗅ぎつけ俺達を殺そうと狙っています。このままでは袋のネズミです。なので俺達でサソリを迎撃している隙に他のシェルターに移ってもらわなければなりません」

俺が説明している間にも攻め入ってくるサソリ。

『サイズフォーム』

ルナを変形させてソラが迎え撃つ。

「時間がありません。時が経てば更に集まってくるでしょう。俺達がけん制しますから落ち着いて正面のドアから出て誘導にしたがって避難を尾お願いします」

それから俺はヒナタの方を向く。

「迎撃は俺とソラがやるからヒナタは避難民の護衛と誘導をお願い!」

「はい!」

「私は?」

ハナビか…本来なら第一に身柄の安全を確保しなければならない所だが…

「ハナビは避難民の先導をお願い」

「わかりました」

「ただし!ヒナタの言う事はちゃんと聞くこと」

「はい」

戦力が足りないのだから仕方ないと自分に言い聞かせて俺はソラに続いて巨大サソリの迎撃に当たる。

「ヒナタ、ハナビをたのんだ」

俺は迎撃に出る前にコソっとヒナタに耳打ちした。

「サンダースマッシャー」

「もう一発」

『サンダースマッシャー』

ソラが放った魔法に追撃するように俺も魔法を放つ。

今の一撃で進路上の巨大蟻と巨大サソリを吹き飛ばす。

「今!」

俺の合図に従ってヒナタが避難民の誘導を開始する。

「落ち着いて!落ち着いて付いてきて下さい」

さてここからが正念場。

俺は先ず近場に居る巨大サソリと巨大蟻の駆除を開始する。

アークセイバーで切り裂いては次、切り裂いては次とドンドン数を減らしていく。

すると遠くの方からこちらに尻を向けて何かを発射する巨大蟻。

俺はそれをギリギリのところで避ける。

振り返ると着弾した地面が熔けている。

酸?

蟻だけに蟻酸ってか!?

洒落か!?

更に一斉に飛ばされてくる蟻酸を俺は空中に飛ぶ事で避ける。

「ハーケンセイバー!」

振り下ろしたソルから放たれた光刃が回転しながら巨大蟻の一段へと襲い掛かり、切り裂いて沈黙させる。

「きりが無い!」

俺は一旦下がり避難民に併走する。

このままではジリ貧だ。

やつらはどういう訳か無限に湧いてきているようにも思える。

「きゃあああ」

その悲鳴で振り向くとそこには全長10メートルを越す超巨大サソリと超巨大蟻が一匹ずつその進路を遮るように現れた。

そしてその超巨大蟻達がひと鳴きするとその腹の下から無限に口寄せされて来る巨大蟻達。

ちょ!そんなの有りかよ!

「アオ!」

「わかっている!」

『フォトンランサー』

ソラの言葉にそう答えて俺は遅い来る巨大蟻達に魔法を叩き込む。

「だけど、あのでかいのを何とかしないと無限に沸いてくるぞ!」

「ねえ!アオくん。さっき巨大蛇を倒した時のやつであのでかいの倒せないかな!?」

ヒナタが俺に近づいてきてそう言った。

「出来るが、無理だ!」

「な!なんで!?」

ヒナタも近づいてくる巨大サソリに拳をたたきこみながらなおも聞き返す。

「アレは俺とソラ、2人がかりでようやく放てる物だし、発動に時間が掛かる上に対象は一体だ。今のように離れたところに居る二匹を一遍に狙えるような技ではない。それに俺達が迎撃に出なくては避難民をヒナタ一人で守る事になる」

「そ、そうなんだ」

しかし、そうはいってもあのでかいのをどうにかしない事には避難民を無事に送り届ける事も出来ない。

「ソラ!」

俺は覚悟を決めてソラに呼びかける。

「何?」

魔法で巨大サソリをけん制しつつ俺のところまで走りよるソラ。

「スサノオを使う」

それだけでソラには通じたみたいだ。

「…わかった」

了承の言葉を得ると俺は超巨大蟻に、ソラは超巨大サソリの方へと向き直る。

「え!?なに?アオくん達どうするの?」

「今から大技であのデカブツ二匹を倒す!ヒナタは避難民の安全確保!」

「う…うん。でもどうやって!」

「いいから。任せろ!」

そして俺はソルの首もとにあるリボルバーにカートリッジを補給する。

そして万華鏡写輪眼を発動。

「「スサノオ!」」

掛け声と共に俺の周りのオーラが具現化し、巨大な益荒男が現れる。

「な?何!?」

驚愕しているヒナタを置いておき、俺は十拳剣を顕現させる。

現れた巨大な剣で近場の巨大蟻を薙ぎ倒す。

俺は巨大蟻をなぎ払いつつ超巨大蟻へ向けて歩を進める。

『ロードカートリッジ』

消費の激しいスサノオを維持するためにカートリッジを使用しながらひたすら敵を粉砕する。

ソラの方も同様に巨大サソリを蹴散らしながら進んでいる。

そして俺はついに超巨大サソリと対峙する。

ギチギチギチ

超巨大蟻の尻がこちらに向けられる。

げ!

そこから発射される先ほどのとは比べ物にならないほど大きな蟻酸。

やばい!これを避けると後ろに居る避難民にも被害が!

『ロードカートリッジ』

俺はそれを受け止めるためにカートリッジをロードしてオーラの総量を増やす。

そしてその蟻酸をヤタノカガミで受け止めた。

さらにカウンター気味に十拳剣を超巨大蟻に突き刺す。

十拳剣は刀そのものが封印術を帯びている。

ギチギチギチ

超巨大蟻は断末魔の声を上げると、十拳剣に封印された。

超巨大蟻を封印した事を確認して俺はスサノオを消す。

「はぁ、はぁ…しんど」

流石にスサノオの行使は未だ成長途中のこの身では反動がきつい。

ソラの方を確認するとどうやらソラも超巨大サソリを封印したようだ。

「はぁ、はぁ…よし!」

俺は気合を入れなおすとソルを握り締め、未だ残っている巨大サソリの残党達を駆除していく。


ようやく避難民を別のシェルターに避難させる事が出来た。

途中他国の忍びが襲ってこなかった事は幸いだった。

もしかしたら先ほどのサソリと蟻は敵味方を認識できる物ではなく、近場の者を攻撃するように命令されていたために近くに居なかったのかもしれないが…

何にしてももう無理!

「お疲れ様です、兄様」

「ハナビ…だから兄様はやめろと…はぁ、今は反論する気力も無い」

「良いじゃないですか!それよりさっきのデカイのを倒したあの術は何というんですか?」

「秘密」

「えー。ケチです。教えてくれても良いじゃないですか」

少し可愛く拗ねて見せているハナビ。

う…可愛いです。

だけど教えるわけにはいかない。

もう見せてしまったけど一応俺達の切り札だからね。

「ソラもヒナタもお疲れ」

「うん…ちょっとオーラを使いすぎた。今日はもうこれ以上は勘弁して欲しい」

「確かにね」

ソラの発言に俺は同意する。

中忍試験の後にあの数の敵を相手にして、更にプラズマザンバーとスサノオの使用。

とっくに限界を超えている。

「私はアオくん達に比べればまだ消耗は少ないから、周りの警戒に当たるね」

「任せた」

そして俺達は避難民に紛れて休息を取った。



何時間そこに隠れていただろうか。

ようやく厳戒態勢が解除された時には里への被害は甚大で、かなりの建物が倒壊している。

その後の情報で、今回の騒ぎの首謀者である砂隠れの里の全面降伏で今回の騒ぎは決着がついたようだ。

しかしこちらの被害も甚大だった。

特に問題なのは三代目火影がこの事件で戦死された事だろう。

皆、火影の死を悲しんでいる。

しかし悲しんでばかりも居られない。

しばらくは里の復興が俺達の任務だ。

その後新しく五代目に初代火影の孫である綱手様が就任された。

さらに俺達8班と奈良シカマルの4名に中忍への昇格が言い渡された。

砂の忍によって中断された中忍試験。しかし行われた試合に関してはちゃんと合否を判断したらしい。

ナルトに負けた俺が合格でナルトが不合格なのは恐らく会場で開放してしまった九尾のチャクラが原因で九尾がナルトに封印されている事を知っている上層部がナルトの昇格に待ったをかけたのではなかろうか。

取り合えず、晴れて俺達は中忍に昇格した訳だ。

うーん、結局こうなるとばらばらに任務に就くこともありえるから中忍昇格は逆効果だったか?

里の復興に尽力しているとうちはサスケが里抜けしたと知らされた。

さらにナルトが木の葉の伝説の三忍である自来也と共に修行の旅に出てしまった。

サスケの里抜けを止められなかった実力不足を嘆いての事らしい。

聞いた話では3年ほど自来也に着いて修行するようだ。 

 

第二十三話

半年後。

主人公不在でも木の葉の里は任務でいっぱいだ。

今日は紅先生を含む8班全員での任務。

「封印更新の間の結界術士の護衛ですか」

俺達は火影の部屋の中、新しく五代目火影に就任した綱手様の前にいる。

「そうだ。四凶の一角、窮奇(きゅうき)の封印は30年周期で更新しているのだが。今年が丁度その30年目。お前達には術者の護送と儀式の警護にあたって貰いたい」

聞いた話によると、尾獣には劣るがその一匹で一国を落とせる位の力を持った存在らしい。

四凶と言うからには4体居るのだろうか?

「わかりました。紅班はその任に当たります」

「うむ」

紅先生は一礼すると火影の部屋を後にする。

俺達もそれに続いて部屋を出た。


それから俺達は結界術士をキュウキが封印されている山奥の社へと護送した。

そして今、結界術士の巫女が封印の更新に当たっている。

「気を抜くんじゃない。巫女から聞いた話だと、この更新の時が一番キュウキの封印が弱まるらしい。下手をしたら封印が破られる事もありえる」

「そうなのですか?」

とヒナタ。

「もしも封印が破られたらどうするんですか?」

ソラが紅先生に聞き返した。

「そんな事にはなってもらいたくは無いが、その時は巫女を連れて退却。その後の対策は火影さまにお伺いを立てるしかない」

「…逃げ切れるでしょうかね」

「書物によると尾獣にも匹敵する力を秘めているそうだ」

「それって天災クラスじゃないですか!」

「だから先人達がこの地に封印したのだろう」

そりゃそうだ。

こうなったら無事に封印の更新が済むのを祈ろう。


儀式が始まって20分。

どうにも雲行きが怪しい。

必死に巫女が封印の更新をしているが、眼に見えて結界内部に淀んだ影がうごめいているのがわかる。

それが結界を破らんと猛り狂っている。

そして…

「きゃあああああっ」

パリンッ

ガラスが割れるような音と共に巫女が吹き飛ばされる。

「巫女さま」

紅先生はすぐさま巫女に駆け寄った。

「あ…ああ…結界が!世界が終わる…」

それだけを言って崩れ落ちる巫女。

いやいや、巫女さま。終わられては困るのですが…

てか最後の台詞がテンプレとは…やるな!

なんて俺は少しずれた感想がよぎった所で、結界内部から雄たけびと共に強烈な悪意を持ったオーラが発せられ、この場を包み込んだ。

「ぐ!」

俺とソラ、ヒナタは咄嗟に『纏』をしてそのオーラに対抗する。

「うっ…くっ」

紅先生が苦しそうに巫女を抱えたまま膝を着く。

「マズイ!ヒナタ。バブルバルーンで紅先生達を包み込んで」

「はい!」

オーラで出来た風船の中は、一種の円の様な物。

当然その中に居れば外側からのオーラによる攻撃からも若干ながら守られる。

「ヒナタ…これは?」

「紅先生、今は説明している暇はありません」

ヒナタが紅先生の問いを封殺する。

「しかしマズイ事になった」

「うん」

「紅先生と巫女さまをバブルバルーンで覆って担いだままアレから逃げ切れるとは思えない。それにほら!こっちをしっかりと敵として認めているようだぞ」

視線を移すとドス黒いオーラを放ち、こちらを睨む巨大な牛のような体に針のような体毛を逆立てたキュウキの姿が。

今はこちらの動きを伺っているのか動きは無い。

恐らくこちらが動けばすぐさま攻撃に移るだろう。

「まずいわ。私が囮になるから巫女を連れて逃げなさい」

いやいや無理でしょ。

「紅先生じゃこの風船を超えた瞬間相手の邪気に当てられて気絶…最悪死んでしまいますよ」

「ならどうしてアナタ達は平気なの?」

「それはチャクラで相手のチャクラによる侵食をガードしているからって、どうやらおしゃべりは此処までのようです」

ぬらりとキュウキが動き始めた。

まずい!かなりまずい!

キュウキのオーラは禍々しく甚大で力の底が見えない。

「アオくん!」

どうするの?とその視線で問いかけるヒナタ。

しかしその体はキュウキの威圧的なオーラに震えている。

『スタンバイレディ・セットアップ』

俺はソルを起動させて構える。

『ロードカートリッジ』

ガシュガシュガシュガシュガシュガシュ

カートリッジをフルロード。

「アオ?」
「アオくん?」
「何をやっているの?」

ソラ、ヒナタ、紅先生の問いかけ。

俺はそれを無視してキュウキを見やる。

キュウキは俺の瞬間的に跳ね上がったオーラを感じ取り身構え、動きを止めた。

しかしそれがキュウキの間違いだった。

グサッ

行き成りキュウキを刺し貫いた巨大な剣が現れる。

「へ?」
「え?」
「なるほど」

ヒナタ、紅先生はなにが起こったかわからないといった表情、逆にソラは納得が行った様で。

更に俺の周りに現れるスサノオ。

俺は『隠』を使い、スサノオを限りなく見えづらい状態にしてキュウキに気づかれないように一撃でその体を貫いたのだ。

卑怯と言う奴も居るかも知れないが、小技を繰り出し、段々大技へ、何ていう事はこういった場合には悪手。

こんな時は、最初から一撃必殺の大技で相手を仕留めるのがベストなのだよ。

なんでわざわざ消耗した場面で大技を繰り出さなければ成らない?

むしろ疲労や怪我などで制御が出来なくなって逆に危険だ。

漫画の主人公は出来ない戦法だけどね!見せ場的な問題で!

漫画の主人公は可愛そうだ。

なんて考えている内にキュウキは十拳剣のひと突きで酔夢の世界へと封印された。

「えっと…任務完了ですか?」

「…そうね」

封印の儀式は失敗したが終り、巫女の護衛も果たした。

まあ里まで送り届けるまでが任務だが、脅威の排除は成功したし、もうこれ以上危険は無いだろう。

「それよりさっきのでっかい剣について聞きたいのだけれども」

「すみません紅先生。これだけは話す事は出来ません」

「…そう。いいわ、火影さまにはキュウキの脅威は消えたとだけ報告させてもらうわ」

「…ありがとうございます」

「それにソラやヒナタもどうしてあの瘴気の中で平気だったかも内緒って事なのよね?」

「…すみません」

ヒナタがすまなそうに紅先生に謝った。

「いいわ、取り合えず里に帰りましょうか」

「「「はい!」」」



四凶の一角であるキュウキを倒してからしばらくすると、火影様から紅第八班に出頭するように命令があった。

「今回集まってもらったのは他でもない。前回四凶であるキュウキを倒したお前達にやってもらいたい事がある」

「は?」

「先日、封印されている四凶の一角である饕餮(とうてつ)の結界の更新の護衛を請け負った。お前達の班からの報告で封印が破られる可能性があるとの事でてだれの者をあてがったのだが…」

読めてきましたよ…

「結界の更新時に案の定結界が破壊されてしまってな、封印されていたトウテツが開放されてしまったのだ。護衛の任に当たっていた忍は全滅、開放されたトウテツは辺りの村々を襲い、見境無しに人を襲い貪り食っているそうだ」

………

「再封印をするにしても瘴気が深くて術者が近づけん。そこで、前回おなじ四凶を打倒せしめたお前達にトウテツの殲滅の任に当たってもらいたい」

「お言葉ですが火影さま、瘴気の中に生身で入れという事ですか?」

俺は綱手さまに尋ねた。

「この前のキュウキの時も瘴気の発生が確認されたと聞いている。その中心地から帰ってきたお前達ならばその瘴気に対抗する術を持っているのではないか?」

「すみません火影様、その術を持っているのはアオ達3名であり、私では瘴気の中での活動は出来ないかと思われます」

紅先生の訂正が入る。

「そうか…ならば仕方ない、アオを隊長としたスリーマンセルで事に当たってもらうしか」

「くっ、ならせめてロック・リーを含めたフォーマンセルで任に当たらせてはもらえませんか?」

「リーをか?」

「はい」

綱手さまは少し考えた後。

「良かろう、リーを含めた4名でトウテツ殲滅の任にあたるよう」

と、リーの編入を認めた。

「はい」





「それで、そのトウテツってやつはどういったやつなんですか?」

リーさんを含めた俺達4人はトウテツ殲滅の為に目標の確認された里まで移動中だ。

「キュウキと同種ならば途轍もなく禍々しいオーラを発していて、自分もオーラで身を守らないとその瘴気でやられてしまう。さらにその戦闘能力は未知数」

「そんな敵をどうやって倒したんですか!?」

「不意を突いて、大技で一気に」

「…アオさんが不意を突かなければ勝てない相手ですか」

いやいやリーさん。俺はそんなに強くないですから!

すでに同じオーラ量での『硬』での攻撃力はリーさんの方が上だ。

単純な殴り合いなら負けるのは必死。

「それで、リーさん『堅』の維持は何分くらいできる?」

「そうですね、45分くらいですか」

ふむふむ。念を覚えて半年にしてはなかなか。

「ならば実質の戦闘時間は20分弱くらいか…」



ターゲットのトウテツが確認されたポイントへと向う。

「あそこだな…此処からでも奴の禍々しいオーラを感じる」

ターゲットまでおよそ2km。

「うん」

同意するソラ。

「どうするんですか?」

リーさんがトウテツに対する方針を聞いてくる。

「出来れば奇襲によって一撃で封印してしまいたいところだ」

「封印する手段は?」

「俺が持っている」

「ならばそれで行きましょう」

「ただ、俺の封印手段はその性質上、相手の動きを一瞬でも止める必要がある」

突き刺さなければ十拳剣の封印効果は得られない。

「だからソラ達3人でトウテツの動きを封じてほしい。動きさえ封じてしまえば後は俺が封印術を行使する」

「わかりました」
「わかった」
「了解」

「さて、方針も決まったところで行きますか」

俺達は瘴気渦巻く空間へ、纏で瘴気をガードしながら進む。

そしてもっとも瘴気が濃い場所に向って進んでいくとそこにトウテツを発見。

体は牛か羊で、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔。

全長は6メートルほどであろうか。

キュウキもそうであったが、それ以上に禍々しい体躯をしている。

トウテツの双眸が俺達を捕らえる。

「作戦開始だ」

「「「はい!」」」

俺はソルを握り締め、スサノオを発動する。

『ロードカートリッジ』

スサノオに使う莫大なオーラをカートリッジから補う。

ソラ、ヒナタ、リーはトウテツを取り囲むように移動し、攻撃を加えながら俺の方へと誘導している。

「木の葉旋風!」

オーラで強化した回し蹴りをトウテツに放つリー。

しかし、その攻撃を食らいいつつも尻尾でリーをカウンター気味に弾き飛ばす。

「リーさん!」

ヒナタが叫ぶ。

「大丈夫です。それよりトウテツが」

予想外に俺達のチームが善戦し、脅威を感じたトウテツはこの場から逃げようと反転する。

「そうはいかない!」

『チェーンバインド』

瞬間、虚空から現れた幾つもの風の鎖がトウテツを絡め取る。

「ぐぎゃあああああああ!」

しかしそれを引きちぎらんばかりの力で暴れるトウテツ。

「はぁっ!」
「やぁ!」

引きちぎられた鎖をヒナタとリーが掴み、力を込めてその場に高速する。

「今です!」

リーさんが叫ぶ。

「スサノオ!」

俺は隠を解き、右手に持った十拳剣をトウテツに突き刺す。

「封!」

突き刺されたトウテツは必死にもがき、その剣から逃れようとするが発動された封印術になす術もなく封印された。

「封印完了。皆お疲れ」

「強敵でした」
「本当に」

「帰ったら焼肉でも行くか」

「良いですね」

「もちろんアオのおごりだよね?」

「な!?」

「ご馳走になります」
「ごちそうさま、アオくん」

里に戻り、綱手さまに報告後、俺達は焼肉屋に直行。

結局俺のおごりとなり、俺の財布はかなり寂しい事になりました。

とほほ…



更にしばらくしてまた集められる俺達念を使える4人。

「すまない、今度は四凶の一角の渾沌(こんとん)が…」

もはや俺の耳に後半の言葉は入っていない。

マジで勘弁してください…


結局俺達はその後、渾沌と檮杌(とうこつ)という残りの四凶をスサノオの十拳剣で封印する事になるのだった。
 

 

第二十四話

季節は巡り、春。

俺とソラ、ヒナタ、そして最近良く一緒に任務に出かけるリーさんの4人は偶の休日に夜桜を見に来ていた。

「あーしんどい。マジで火影様、猛獣やら口寄せ獣の討伐の任務ばかり俺達に回してないか?」

「そうかも」

同意するソラ。

「でもでも、忍者同士の戦いよりは気が楽かも」

「それはありますね。互いの実力を競うのはいいのですが、相手の命を奪い合う忍同士の戦いは猛獣討伐よりも命の危険がありますからね」

と、ヒナタとリー。

いやいや、四凶との戦いはかなり命の危険が伴っていたと思う。

実際、十拳剣の一撃が強力なだけで、それに頼った戦い方だった。

総て相手を動けなくしてからや不意を突いての一撃で倒してきたのだ。

正攻法では生き残れなかったのではなかろうか。

「なにはともあれ、今日くらいはゆっくりしよう」

「そうですね、こんなに桜が綺麗なんですからね」

「そうですね」

「お弁当作ってきたから良かったらつまんで下さい」

そういってヒナタが重箱を取り出す。

「ありがとうございます」

「ありがとう、ヒナタ」

シートの上に重箱を広げているヒナタにお礼を述べる。

「しかし、お酒を持ってこなかったのは失敗」

「ソラちゃん。未だお酒なんてはやいよ」

「そう?」

「リーさんは?」

「ボクはガイ先生から、『お願いだからお酒だけは飲んではいけない』と、止められていますから」

「そうなんですか」

しかしお酒か…

そういえばスサノオの持っている瓢箪の中身って一応酒なのかな?

俺はスサノオを一部だけ顕現させる。

「アオ?」
「アオくん!?」

行き成り現れたスサノオの右手にヒナタとソラは驚いている。

「いや、酒なら此処にあるかなと思って」

「え?」

俺はコップを取り出し瓢箪を慎重に傾ける。

トクトクトク

注がれる瓢箪の中身。

皆の視線がそのコップに集まる。

「この匂いは酒?」

俺は注いだコップを手に取り、その匂いを嗅いだ。

「お酒なの?」

「多分な」

「でもそれってアオくんがオーラで出したんだよね」

「…そうなるな」

「飲めるの?」

俺は恐る恐るそのお酒に口を付けた。

その瞬間、口の中に広がるこの世の物とは思えない芳醇な味わい。

まさに神酒といっても過言ではないのではなかろうか。

「…上手い」

「アオ、私にも」

コップを出したソラにも半分注いでやる。

そして恐る恐る口を付ける。

「あ…美味しい」

「だよな」

なんだか体がぽかぽかしてきた。

更に活力が漲って来た様で日ごろの疲れが吹き飛んだ。

それになんだろう。オーラの総量が膨れ上がったような気がする。

俺はさらにぐいっとコップを傾け神酒を飲み干した。

そして俺はもう一度スサノオの瓢箪を顕現させてコップに神酒を注ぐ。

「ヒナタたちもどうだ?」

「…でもあの…その…」

「うん?」

もじもじとなかなか言い出せないで居るヒナタ。

「あの、その瓢箪の中身って、今まで封印してきた物で出来ているんだよね?」

「……」

「てことは、あの…巨大蟻や四凶でそのお酒は出来ているんじゃ」

ブーーーーーーーーッ

俺は勢い良く口に含んだお酒を噴出した。

「なんと!」
「アオくん、ソラちゃん汚い!」

リーは盛大に驚き、ヒナタは俺達をたしなめた。

「ゴホッゴホッ…はぁ」

確かにそう考えると飲む事に嫌悪感を感じてしまう。

しかしそれも一瞬。

このお酒の美味しさの前では材料の事など霞んでしまう。

しかし、異変は俺達以外で現れた。

「ねえ、あの桜…なんか大きくなってない?」

「「「へ?」」」

ソラのその言葉に振り返って見ると、凄い勢いで成長している桜の姿が…

段々その幹が太くなり、今にも俺達の居るところもその成長の範囲に入ってしまいそうだ。

「まずい!皆離れて」

「はい!」

俺は皆に注意を促しその場を離れた。

しばらくすると桜の成長も止まったようだ。

その大きさは普通の桜の10倍はあるだろう大木となっていたが…

「アオくん…」

「アオ」

「アオさん」

皆が攻めるように俺を見る。

「な…何かな?」

「私は見ていた。この桜が成長したのはアオがお酒を吹きかけたのが原因」

………

「…つまりこのお酒には成長を促進する効果がある…と?」

「そうとは言い切れない。私達が急激な成長を見せていないのだから」

「そっか…」

「だけどまず…火影様への言い訳を考えないと…多分もう直ぐ暗部の人たちが駆けつけてくると思う」

「…そうだね」

行き成り木の葉の里の近辺で異常なまでに大きくなった桜の木。

状況確認に木の葉の忍が駆けつけてくるのは明白だった。



そして俺達は今、火影の執務室に居る。

「して、今回の騒ぎの原因はなんなんだ?」

俺達4人は火影さまの前で直立し、詰問されている。

「えっとですね…桜の木にこの酒を振りかけたところ木が行き成り急成長しまして」

…嘘は言ってない。

実際酒を吹きかけただけだ。

「ほお、酒を振りかけただけであんな騒ぎになったと申すか」

「えと…その…はい」

俺はそう言って小瓶に移した神酒を綱手の座る机の上に置いた。

「ふむ」

一応ビンの栓を開け、一滴その手に掬いなめ取ってみる綱手さま。

「ぬっ!?」

ぺっとすぐさまそのなめ取った神酒を吐き出してしまった。

「シズネ!水」

「は、はい」

近くで待機していたシズネさんに大至急水を持ってこさせ、口をすすいだ。

「お前達、こんな物を何処で手に入れた?」

「と、言われましても…」

「これは一級の霊薬だぞ!これを飲めばたちどころに傷は治り、死者の蘇生すら可能なほどの」

「それって何処のエリクサー…」

「はあ?」

「い、いえ。なんでも」

「確かにこんな物を掛ければ桜の木の急成長も頷ける。これを1000倍に薄めた物でも人間の傷ならあっと言う間に治ってしまうだろうよ。そんな物を原液のまま飲んでしまうところだった。危うく死ぬところだったぞ」

いえ…綱手さまが勝手に舐めたのではありませんか…

「え?でもアオくん達はそのまま飲んでましたよ?」

うおい!ヒナタ?

「な!?それは本当か?おい!アオにソラ。お前達は大丈夫なのか?体に異変はないか?」

「えっと…特には。まあ、逆に調子が良いくらいです」

「…そんなはずは無いと思うのだが。実際私はいまこの薬に殺されかけたわけだぞ。死なないまでも人でなくなる事は確実だ」

そんな事言われても…

「まあ、無事ならいい。しかし後で医療班に見てもらえ。それとこの小瓶は預かっておく」

没収されてしまった神酒。

まあ、まだ大量にあるから別に良いのだけれど。

と言うかなにやら先ほど不穏なことを言われたな。

どうして俺とソラは原液を飲んで大丈夫だったのだろうか…

まあ、考えても仕方ない。

エリクサーが手に入ってラッキーとでも思っておこう。


後日わかった事だが、この神酒の原液を服用すると徐々に細胞が活性化されていき体が作り変えられてオーラ総量が増えていていく効果があるようだ。

しかし、普通の人間では原液の服用に耐え切れず死に絶えるらしい…

何だろう…それは俺達が普通の人間では無いとでも言いたいのか?

まあ、オーラの総量が増える分には大歓迎だけど。




さて、そんな事がありつつも時は流れて俺達は14歳になった。

最近不意に感じる事がある。

この世界に居られるのもあと少しだと。

それはソラも感じているようで、俺達は身の回りの物の整理を始めた。

それと平行して口寄せなどの空間忍術の習得にも力を入れている。

空間忍術について記載されされている巻物を優先的に手に入れてソラの『欲張りな知識の蔵(アンリミテッド・ディクショナリー)』に食わせ、記録した。

もしかしたら異世界転移のヒントがあるものと信じて。

二度も異世界転移を経験したのだ、せめて移動先から戻ってくる術は無いかと研究中だ。

未だにその成果は上がっていないのだけれど。



そんなある日、俺は一人、演習場で忍術の訓練をしている。

右腕に集めたオーラを性質変化で雷に。

更にその雷を纏う部分の表面は凝でしっかりガード。

凝を使わないと自分の手がやられるからである。

纏わせた雷が鳥のさえずりのような音を上げる。

チチチチチチッ

どうやら俺の性質変化は火と雷と風らしい。

三つも持っているのは珍しいが恐らく風と雷は前世からの引継ぎではなかろうか。


俺は腕を近場の大木目掛けて突き出した。

ドゴンッ

轟音と共に倒れる大木。

「千鳥…か。つかえねぇ…」

突き技としてはかなり強いがいかんせん、リーチが短い。

はっきり言ってしまえばこれならばアークセイバーのほうが強い。

発動と制御をソルに手伝ってもらっている分発動までの初動は千鳥よりも早い。

「ははは…いうねぇ」

バッとその声で俺は振り返る。

するとそこには何故かカカシ先生が。

「カカシ先生。どうしてここに?」

「いや、俺も今日は自主トレーニング中だ」

「そうですか」

「そんな事よりその千鳥。一体どうやって覚えたんだい?」

ギクッ

確かこの技はカカシのオリジナル技だっけか?

使えるのはカカシとカカシが教えたサスケだけ。

「み…見よう見真似です」

嘘は言ってない!

写輪眼でぱくっただけ!

「見よう見真似…ね」

うわぁ、怪しまれてる…

「まあ、いいでしょ。それより暇なら一戦付き合ってほしいんだけど」

「なんでそうなるんですか!」

待ってください!今日はバイザー忘れて来ているんです!

写輪眼使ったら一発でばれるじゃないですか!

今まで隠してきたのに!

………いやまあ、今更か。

恐らく後一月もこの世界に居られないと、頭のどこかで確証している。

ならば別にバレても構わないかな…

「これから先、近い未来に忍界対戦なみの戦がある。それに向けての実践的訓練は欠かせないでしょ」

「はぁ」

「それに俺の新しく得た力。未だ実戦形式では試した事が無くてね。出来ればその実験台に…」

「ちょ!」

「そういう訳だから、君は本気で来てよ。俺は手加減してあげるから」

本気で…ねぇ。

「わかりました。俺も自分がどれくらいやれるのか。上忍との差を測っておきたいですし」

「よし、じゃあ始めようか」

そう言ってカカシ先生は俺から距離を取る。


そしてどちらとも言わずに戦いが開始される。

「行きます」

木々の間を駆け回り、クナイを投げけん制する。

当然相手のクナイに弾かれるが。

一瞬カカシの動きがクナイのけん制に持っていかれた所で印を組む。

「火遁豪火球の術」

「おっと」

しかし、カカシは容易にその火遁を回避、木の枝を蹴って一気に俺へと距離を詰める。

俺もバックステップで距離を取りつつ手裏剣を投げる。

「手裏剣影分身の術」

一つの手裏剣が何十にも分裂してカカシに襲い掛かる。

直撃したと思ったらそれは丸太に変わってしまった。

「変わり身!本体は何処!?」

後ろから殺気を感じ、俺は身を捩ってかわす。

「火遁鳳仙花の術」

幾つもの炎弾をばら撒きけん制する。

その後も幾度と無く攻撃を仕掛けるが総て迎撃されるかかわされる。

「うん、動きは悪くないよ。後は経験だね。忍者との戦闘経験が低いと見える」

それはだって何故か猛獣の討伐ばかり任務に回されたのだもの!

しかも四凶とか凶悪なのばかり…

「さて、体も温まってきた所でそろそろいくよ」

そう言ってカカシ先生は額宛で隠してある左目をたくし上げた。

「写輪眼」

「ちょ!先生!それは卑怯」

「元々写輪眼の次なる力を使いこなすための訓練なんだ。文句言わないで付き合って頂戴」

えぇ!?次なるって万華鏡!?

「いくぞ」

そう言うと先ほどとは比べ物にならないスピードでこちらに突っ込んでくるカカシ先生。

写輪眼を有しているからこそ相手のカウンターを見切る事が出来るゆえのその高速体術か!

迫り来るカカシ先生の攻撃をなんとかいなし俺は距離を取ると首元に掛けていたソルを取り外し握り締める。

『スタンバイレディ・セットアップ』

瞬間俺の手に現れる小型の斧を模した杖。

「…それは?」

カカシ先生の疑問に俺は答えずにソルを振りかぶる。

「行きます」

『サイズフォーム』

「アークセイバー」

「なに!?」

まさか斧が鎌に変形して、更に刃が飛んでくるなんて思っても見なかったのだろう。

予想外の攻撃に一瞬案カカシの動きが止まる。

直撃か!と思われた直後俺が放ったアークセイバーが一瞬にして欠き消えた。

なにが起こった?

「いやー、やるね。まさかそんな攻撃を仕掛けてくるとは思って無かったよ」

そういったカカシの左目の写輪眼は形を変え、万華鏡写輪眼へと変貌していた。

「万華鏡写輪眼…」

「…どうしてその名前を君が知っているのかな?」

一瞬でカカシの殺気が膨れ上がり、こちらに攻撃を仕掛けてきた。

「くっ!」

見切れない!

俺はカカシ先生の攻撃をその身に何発か食らう。

『堅』をしているからダメージはさほども無いが、的確に急所を狙ってくるカカシ先生の攻撃を避ける事が出来ずにいる。

その余りにも速い攻撃に俺は堪らず写輪眼を発動、直後何とかカカシの動きをその眼で追う事が可能になった。

「な!その眼は」

俺の発動した写輪眼を見て動揺するカカシ先生。

俺はその隙を見逃さずソルを振り下ろす。

「くっ」

流石に上忍、動揺しながらも直ぐに気持ちを切り替えて俺の攻撃をかわす。

しかし、振りぬいた動作を遠心力にして俺は一回転してそのまままとっていたブレードを飛ばす。

「アークセイバー」

その瞬間俺は裏・万華鏡写輪眼を発動。

その瞳に移した物総てを盗み取るこの裏・万華鏡、見抜く力は表よりも性能が上だ。

恐らく俺の攻撃をさっきの術で消すはず。

かわすと言う選択も在るが、先にカカシ先生が言った通りならこれはさっきの力を使いこなすための摸擬戦。

ならばこの攻撃を消すだろうと言う読みだ。

案の定俺の攻撃はカカシ先生に当たる前に消失する。

直撃を回避したカカシ先生は何故かその場に片膝を着いて、肩で息をしている。

どうやら万華鏡写輪眼の発動並びに今の瞳術の使用はカカシ先生の体に多大な負荷をかけるようだ。

俺は写輪眼の発動を止め、カカシ先生に近づく。

「物体を異空間に引きづり込む瞳術ですか…なんて物騒な」

「たった二回の使用で俺の神威を見抜かれてしまうとは…しかし君。その写輪眼、どうやって手に入れたの?うちは一族はサスケとイタチを残して滅んでしまったというのに」

今の技は神威と言うのか。

「いえ…それは俺がうちはの生き残りだからとしか言えませんが…」

「それは本当か?」

「ええ…まあ」

「しかしならば何故自分がうちはの生き残りだと名乗り出ずに日向の使用人なんてしているんだ」

「いえ、虐殺されたという事はその一族に何か裏があったという事。名乗り出れば最悪消されてしまうかもしれませんし」

「…そうか」

「はい」

そう居て俺はカカシ先生に肩を貸して立ち上がらせ、木の葉病院へと連れて行こうとする。

「しかし君、万華鏡写輪眼まで使えたのね」

ギクッ…見えていたのね…トホホ

その後何回か俺とカカシ先生の摸擬戦は行われた。

イタチ相手の仮想敵としては申し分ないのだそうだ。

俺はそのたびに死にそうな思いをしているのだが…



そんなこんなで約一月半後。

時は夜中。もう少しで日が変わろうというところ。

「…そろそろだな」

「…うん」

俺とソラは日向家に間借りしている俺の部屋でゆっくりと時が来るのを待ったいた。

「さて今度は何処に飛ばされる事になるのやら」

「何処でもいい。アオが一緒に居てくれるなら」

「そっか」

顔が赤くなるのを感じる。

「うん」

この世界で得たものもたくさん有る。

出来ればこの世界に居続けたいような気もするが、運命はそれを許さないのだろう。

いやこの場合は石の効果だが…

この世界で自分を認識した時には既に見当たらなくなっていた転生の宝玉。

アレは恐らく俺とソラに半分ずつ分かれて取り込まれ、15年掛けてエネルギーを俺達の体から吸い上げていたようだ。

「当主やヒナタへの手紙は既にしたためた。火影様への説明もしてくれると期待しよう」

「そうだね」

「ヒナタは随分強くなった。当主との約束も中途半端かもしれないが果たされたと思ってもらおう」

「うん」

「しかし、この世界に来て俺は日本人だった頃…現世とも言うべきか?の記憶がおぼろげに成ってしまった。最早名前くらいしか覚えていない」

「うん」

「恐らく世界を渡る度に記憶が欠損していくんじゃないかと思う」

「そう」

「この世界の事も、漫画の世界だと知識はあった。万華鏡写輪眼や、忍術の知識も何とか残ってはいた、うちはの悲劇の事も…だけど、肝心なストーリーに関してはついに思い出す事は出来なかった」

「………」

「恐らくもう一度世界移動してジン達の世界に戻ったとしても恐らくハンター×ハンターの世界だという認識は有っても、恐らくもう登場人物…主人公すら思い出せないだろうな。ジン達のように実際会った事がある奴、経験した事は未だ忘れては居ない。だけど現世での知識はもはや恐ろしく希薄だ。今後も思い出す事は無いだろう」

実際、今思い出せる作品なんて『リリカルなのは』位な物だ。

…俺はよほどこの作品が好きなのだろうな。

色あせながらも未だに覚えているのだから…

月が雲に隠れたのか、窓から入ってきていた月光が遮られ、明かりを灯していない部屋の中を闇が覆う。

「…いよいよかな」

「そうみたい」

段々体が光に包まれてくる。

俺は忍者道具一式を身に着けるとソラと手を繋ぐ。

「どうやらこの世界ともお別れのようだ」

「大丈夫。何処に行っても私は一緒に居る」

「そっか…そうだな」

そして一瞬眼を覆わんばかりに強い発光があった後、その場には俺達の姿は既に無く、静寂が支配していた。

劇的な物語があった訳ではない。

周りの人たちにしてみればいつもと変わらない普通の一日。

しかしそんな普通の日に、俺達はひっそりとその世界を去った。
 
 

 
後書き
NARUTO編終了です。
次はリリカルなのはへと参ります。 

 

第二十五話 【リリカル編】

 
前書き
今回からリリカルなのは編です。 

 
どちらが上か下かも解らない真っ暗な空間を俺とソラは何かに吸い寄せられるように落ちている。

時間の感覚は酷く曖昧で、俺は何時間も落ち続けているのか、それとも数秒なのかすらもわからない。

更に落ち続けるにつれて段々思考が鈍くなってきたように感じる。

ピシッ

そんな何かが割れる音がしたと思ったら急に眠気に襲われた。


ダメだ…酷く眠い……

俺は眠気に耐え切れなくなってついに意識を手放した。






眼を開けると俺はまた幼児になっていました…

またか!とも思ったけれどもこんな状況も既に3回目、ある意味ベテラン?だ。

俺は落ち着いて自分の体の状態と辺りの状況を確認する。

先ずこの体はおおよそ八ヶ月ほどの幼児。

ようやくはいはいが出来るようになったばかりといった頃のようだ。

周りを見渡す。

どうやら俺はベビーベッドに寝かされていたようで、俺を取り囲むように柵に囲まれている。

内装は少しばかり日向の屋敷の部屋よりも時代が進んだ感じの子供部屋といったところだ。

遠い記憶にある俺がまだ地球に居た頃の文化レベルに似ている。

ソラが見当たらないが、ソラもこの世界に転生したのだろうか。

それとも俺とは違いそのままこの世界に…

あるいはバラバラに離されてしまったなんてことは…

ソラを探すにしても今のこの体の現状では動き回る事すら不可能。

体が成長するまでソラの捜索は諦めるしかないのかもしれない。

ガチャリ

そんな事を考えていると部屋の扉が空き一人の女性が部屋の中に入ってきた。

「目覚めちゃったの?」

そう言って俺を抱き上げる女性。

どうやらこの人が今生の母親のようだ。

「蒼ちゃん、早くおっきくなってね」

そう言った母親の言葉を聞くに、今回も俺の名前はアオというらしい。


それからしばらくは情報の収集と現状の確認に勤めた。

そしてそれらをまとめてみると驚愕の事実が浮かび上がる。

まず俺の名前は御神蒼と言うらしい。

母親の名前は御神紫(みかみゆかり)。

父親は居ない。

俺が生まれる二ヶ月前に死亡したらしい。

母親いわく「お父さんは魔法使いだったのよ。あなたにも魔法使いの才能が有るらしいわ」なんて、俺を寝付かせながら子守唄の代わりに語っていた。

どうやらこの世界にも魔法という存在はあるらしい。

更にテンプレ転生ものの様にその才能は俺にも遺伝されているとか。

「これはお父さんが私のお腹にいるあなたが魔法の才能が有ると知ると親ばかにも程があるくらいに大金をかけて造った魔法の杖らしいわ。私には使えないからお守り代わりに」

そう言って俺の首掛けられる宝石。

銀の宝石はどう見てもソルのようだったが未だに歯や頬の筋肉が未発達な俺ではまともに喋る事も出来ないので確認のしようが無い。

この宝石が喋ってくれれば確認のしようもあるのだが…この問題は俺がオーラを操れることを感じ取った宝石が俺に話しかけてきたことにより解決した。

どうやらこの宝石はソルだったらしい。

更には気が付いたらこの宝石に組み込まれて新しく生まれ変わっていたとの事。

俺はオーラを操り念で文字を空中に描き出しながらソル達との意思の疎通をはかる。

俺が再構成されて生まれ変わったのと同様に、2人も前の機能を今生の杖の内側に隠しながら融合したのだろう。

どうやら今の形は待機状態で、本来の形は日本刀を模した形らしい。

試しにソルに元に戻ってもらうと、鞘に入った日本刀、鞘から抜けば、銀色に輝く刀身につばの上にカバーがあり覆われるようにして内側にある小型のリボルバー型のカートリッジシステム、装填数は6発と意外にも多い。

……もしかしてもしかするのだろうか。

聞いてみたところ、製作者によって植え付けられた情報によると幾つか基礎となる魔法プログラムなるものがインストールされているらしく、術式の総称を近代ベルカ式と言うらしい。

これは術者の体内にあるリンカーコアに生成される魔力を元に外界に働きかけるものらしい。

マジか!?


どういう訳かこの家にはなにやら日本刀やら竹刀やらがそこかしこで見受けられる。

どうやら母親が御神流という二刀流の剣術流派である御神家の分家筋に当たるらしく、本人も免許皆伝の腕前らしい。

そしてどういう経緯で母親がこの地に移り住んだのかわからないがここは海鳴という町らしい。

……そう、どうやら俺はとらハ、もしくはリリカルなのはの世界に転生したらしい。



ゼロ魔式の魔法はルーンが唱えられないことから実証を断念。

それから肉体面。

精孔は既に開かれているらしく纏も問題なく行えるし、念能力についても問題ない。

変身能力についてもどうやら引き継いでしまっているようだ。

猫に変身したら子猫になってしまっていたが、問題なく変身できた。

…この能力、此処まで来たらもはや呪だよね?

元は魔法薬だったはずなのに転生しても負荷されているなんて…

後は写輪眼だが、これも問題なく使えるようだ。

万華鏡まで自由自在。使ったオーラの消費量も転生前と同等だったことから恐らくこの体は以前の体を生まれ変わる時に最適化して再構成して生まれ直したのだろう。

視力の低下も恐らく無いだろうし。

取り合えずゆっくり成長しながら恐らくこの世界に転生しているであろうソラを探すか。

ついに転生してこれたリリカルなのはの世界!

その世界の魔法を習得するのも楽しそうだ。

前も言ったかもしれないけれど俺は『リリカルなのは』が大好きだったのだ。

なのはつながりで原作の『とらハ3』にも詳しくなってたりするけれど…

それ故にサンダースマッシャー(偽)の開発をしていた位に!

しかも今回は本家本元の魔法が習得できるかもしれないのだ。

ならば是非とも収束魔法を!

夢のスターライトブレイカーを!

期待に胸が膨らむ。

しかし、下手に主人公サイドにくっ付いて回って取り返しの付かない事になった前例がある。

あの後どうなったのか確かめようも無いけれど、この世界が『リリカルなのは』であるならば地球を震撼させる危機が2回あるのか…

この二つの事件をどうしようか。

原作がベターな終わり方で、ベストな回答があるかも知れないけれど、もしその他の要因…この場合俺とかだが…それが原因で地球滅亡なんて事になっては眼も当てられない。

俺にだって原作介入したいと言う気持ちは大いにあるが、ここはぐっとこらえて傍観の姿勢かな?

この世界は俺の最初の人生と文化レベルや常識が一致する。

此処で少しの非日常と平穏無事な人生を送るのが良いだろう。


あれ?そう言えば御神家って不破家と一緒に滅亡してなかったっけ?





転生してから二ヶ月ほどたったころ、俺は母親である御神紫(みかみゆかり)に連れられて、御神の本家に連れられて来ている。

どうやら今日、御神本家で御神琴絵さんという方の結婚式が開かれ、一族全員が集まるらしい。

ヤバイ。

あれから何度も記憶をあさってようやく思い出した御神家の滅亡理由。

確か高町美由希の実の父親である御神静馬の姉の結婚式の日に爆弾テロによって一族郎党死に絶えたはず。

生き残りは放浪の旅に出てたかなんかしてこなかった不破士郎と不破恭也、熱を出して病院に行っていた御神美由希とその母である御神美沙斗の4人だけである。

って事はこのままじゃ俺はこのままテロに巻き込まれて死亡!何てことに!?

最悪オーラで身を守れば死ぬことは無いだろうけれど…流石にどのタイミングで爆破されるかも解らない上に四六時中「堅」で身を守るわけにも行くまい。

しかもそうした場合助かるのは俺だけ。

俺を抱っこしているならば母親位は「周」を使えば守れるか?

これも無理だ。

母親が何かの隙に俺から離れた時に爆破テロが起こったら?

俺はこの世界での庇護を失ってしまう。

更にここ二度の転生で生みの親に孝行する間も無く先立たれてしまっている。

今回もそうなるというのだろうか…

今の俺にここに居る全員を救うことは出来ない。

まあ、もしかしたら爆破テロなんて起きないかもしれないし、取り越し苦労なのかもしれないけれど。

そんな事を考えていると御神美由希が熱を出し、母親である美沙斗も付き添いで病院に赴いて出席できないと言う話が聞こえてきた。

ヤバイ!いよいよ史実に忠実な展開になってきてしまっている。

どうすれば…そうだ!此処で俺もぐずり出し病気のフリをすれば?

お母さんだけは俺を病院へと連れて行くために此処から離れられるかも知れない。

利己的だが今の俺ではこれが精一杯だ。どうか許して欲しい。

そう心の中で謝って俺は盛大に咳きをする。

「ケホッケホッ」

俺のセキに気づいたお母さんが俺を心配そうに抱き上げる。

「蒼ちゃんどうしたの?」

「ケホッケホッ」

なおも咳きをし続ける俺。

「ケホッゴホッうぁぁぁぁああああああんゴホッ」

ついに泣き出す演技まで。

「大丈夫蒼ちゃん!?風邪引いたのかしら。どうしましょう。医者に見せた方が良いのかしら…」

「どうしました?」

そう言って一人の男性がお母さんに話しかけてくる。

「大地(だいち)さん…この子…蒼が行き成り咳き込み出しまして。医者に連れて行きたいのですが…父も未だ来ていませんし…」

「ああ、なるほど紫さんは今日は車で?」

「いいえタクシーです」

赤子の世話でどうしても両手が塞がる。

そういった理由で運転できずに此処までは電車とタクシーでの移動だった。

「ならば私が車を出しましょう」

「え?でも」

「どうやら皆タクシーや送迎のバスなどで来たらしく直ぐに車を出せる人間が少ないのですよ」

「…えっと」

「それに俺は小さい頃本当に体が弱くて、剣術の稽古ができなくてね。この歳になっても竹刀すら握った事の無い俺はこの家ではあまり立場がないんで、いたたまれないんです。だから俺を助けると思って」

お母さんは少し考えた後、

「そういう事ならすみませんがよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるお母さん。

俺は咳き込みつつもこの場から離れられたことに安堵した。



病院に搬送され、小児科の先生に診てもらう俺。

実際は仮病な訳だが此処で本家に戻されるわけには行かない。

俺は必死に演技して盛大に不健康を装う。

まあ、咽の炎症を確かめた医者は頭を捻ってしまっただろうがそれでも咳きを止めない俺を一応念のため一日入院と言うことで話がついた。

母さんは俺を一人にする事も出来ずに会場へはもどらず俺に付き添ってこのまま泊り込みするようだ。

買い物をするついでに美沙斗さんの所に挨拶に行ってくるらしい。

良かった、これで俺とお母さんの死亡フラグは叩き折れたはず。

本来なら一度家に戻って用意するのだろうが、ここは出先であったために必要品をコンビにに揃え一晩明かすらしい。

その後、こちらを訊ねてきた大地さんに戻らないことへの断りを入れると、大地さんは本家へと戻っていった。


しばらくすると病院が慌しくなって来た。

ついに爆弾テロが起きてしまったらしい。

噂話を聞いたお母さんが真っ青な顔をしてすぐさま美沙斗さんの所へと走っていった。


結局この日助かったのは史実にある4人と本来生き残るはずの無いイレギュラーである俺とお母さん、それと俺達を送り届けた事で難を逃れた不破大地(ふわ だいち)さんの7人だった。

大地さんが本家へと帰りつく前、宴もたけなわと言った頃合で爆弾テロが行われたようだ。

それにより御神、不破の一族はその殆どを死滅してしまった。

結局テロの後、高町美由希の母親である御神美沙斗はこのテロで一族と一緒に愛する夫を亡くしたことで美由希を士郎さんに預けて復讐の旅に出て行ってしまった。

不破大地さんのその後は俺の耳には入ってきていないから分からずじまい。

俺は後悔の念に苛まれながらも、どうしようもなかったと自分自身に言い訳をする。

だって俺は死にたくなかっただけだ。

誰だって死にたくは無い。


それに俺は赤の他人よりも自分の母親の心配をするべきだ。

お母さんや俺自身も両親(俺にとっては祖父母だが)を無くしているのだ。

お母さんだって相当の心の傷を負っているのだ。

これは時間に解決してもらうしかない問題だが、一日も早く元気に笑って欲しいと切実に思う。
 

 

第二十六話

そんな事が有りながらも時間の経過は早いもので、俺は今3歳ほどになった。

二年の月日でようやくお母さんも笑うようになってきた。

しかし、一族の壊滅で激減した御神流が失伝してしまわない様に俺に御神流の稽古をつける様になった。

3歳の誕生日のプレゼントが子供の大きさに合わせた小ぶりの練習刀を渡す親が何処にいるよ?

いや、ここに居るんだけどね。

まあ、これも親孝行と考えて一生懸命習っている訳だが、この剣術、なかなかに凄い。

『徹(とおし)』は表面に衝撃を伝えずに内面破壊する技だし『貫(ぬき)』などは攻撃がすり抜けてくるような感覚におちいる。

更に飛針(ひしん)や鋼糸(こうし)などで中距離にも隙が少ない。

俺はお母さんが見せる技を写輪眼でコピー、そのイメージを実際に何度もトレースして反復練習する事により徐々に自分のものにして行く。

俺の物覚えの良さにお母さんは驚愕しつつも、その成長を喜んでドンドン練習は過激になっていく。

お母様…念が使えるおかげで身体強化や『絶』により比較的疲れが溜まりにくいからどうにかこなせているのだけれど、実際幼少時にそんな訓練つんだら間違いなく体が壊れてしまいますよ?

ゼロ魔式魔法も問題なく使える。

ただし、前世を合わせると18年以上もスクウェアになれない事からこれ以上の成長は見込めない。


俺は母親の目を盗んでソルの起動実験を行う。

「ソル、お願い」

『スタンバイレディ、セットアップ』

展開される剣十字に三角形の魔法陣。

俺は嬉しさが押さえ切れない。

ソルが輝きを増し、その本体である刀身が現れる。

そしてバリアジャケット。

とは言ってもこれはお馴染みのシルバーソル一式。


右手の甲に待機状態のソルを瞬時に収納できる形状のアクセサリを形成。

これはいつでも瞬時にソルを収納する事により両手をフリーにするためである。

忍術を使うときは如何しても両手で印を組む必要があるための処置だ。

しかも左手の甲には予め一つの機能が植えつけられている。

魔力を込める事で現れる魔力で構成された飛針と鋼糸だ。

自身の魔力が尽きなければ残弾の心配はなく、鋼糸の細さも可変可能。

これはどうやら父さんは最初から御神の剣士が使う事を想定して造ったようだ。

だが…三歳児のこの体には少々不恰好だった。

ソル本体もこの体には大きすぎる。

これを自由に振れるようになるには後数年かかるだろう。

うーん。ソルの刀身を体のサイズに合わせられないかな?

まあそれは後で考えるか。

次は実際に魔法が使えるかだが…

デバイスを起動した事により初めてリンカーコアが刺激され、辺りの魔素を吸収していく。

確か呼吸して固めるイメージだったか?

そして展開する始めての飛行魔法。

『スレイプニール』

ソルが術式を展開する。

久しぶりの空中浮遊。

今までとの勝手の違いに少々手間取りながらも問題なく空を駆けていく。

その日俺は日が沈むまで空を飛び続けていた。


さて、俺の魔法資質についてだが、ソルによる計測と、インストールされていたデータとの比較により、俺の魔力量はおよそA+。

更に炎熱と雷の変換資質を有しているらしい。

転生前もこの二属性が俺のメインだった事を考えると旨い事この世界の魔法技術に対応した物だ。

この辺はテンプレ転生の特典と言う奴だろうと考えを放棄して納得した。

魔力量のA+はまあ凄く昔に読み漁ったテンプレ系転生二次にしては低い方だが、管理局基準ではそれでも高ランク魔導師ということになるだろう。

それにこの身は未だ3歳児、このまま成長すればAAやAAAクラスにも届くかもしれない。

要修行である。


特筆すべきはやはり電気への変換資質だ。

これは本格的にサンダースマッシャー(真)も可能かもしれない。


さて剣術に魔法にと修行に明け暮れている今日この頃、俺は我が家に地下への隠し階段があることを発見した。

好奇心に負けた俺はその階段を降りてみる事にした。

薄暗い階段を下りていくとそこにはこの世界ではオーバーテクノロジーといっても過言ではない機械類と、辺りを埋め尽くす魔道書やデバイスの建造技術書などで埋め尽くされていた。

「ここは?」

『私達が開発された所です』

ソルからそんな言葉が返ってきた。

身近なカプセルに手を触れながら俺は呟く。

「ここで…」

その後俺はお母さんにこの地下の部屋の事を訊ねて見た。

そして明らかになる父親の素性。

管理世界の人間だとは思っていたが、事実はもう少し複雑なようだ。

聞いた話によると父親はモグリのデバイスマスターでオーダーメイドで魔術師へデバイスの製作をしていたらしい。

しかし父親の取引先はもっぱら犯罪組織やら素性のわからないフリーの魔導師。

そういうと父親も犯罪者の様であるが、父親はそこの所に頓着していなかったらしい。

ただデバイスの注文を請け負っていただけで実際に犯罪には手を染めていなかったらしい。

しかし、実際には彼の作ったデバイスで大量の犯罪が行われ、肩身が狭くなったため管理局の眼を縫うようにしてこの世界まで渡ってきた。

そこで偶に来る依頼をこなしながら生活していた所、何処にどう縁があったのかお母さんと結婚。

母さんに婿入りする形で式を挙げ、俺の妊娠が発覚し、お腹の子にリンカーコアの存在が確認されると今か今かと楽しみにしつつ母親の意見を取り入れ日本刀型のアームドデバイスの製作。

俺の誕生を心待ちにしていたらしい。

しかし俺の生まれる二ヶ月前に交通事故で呆気なくこの世を去ってしまったという。

その後お母さんはこの部屋には近づかないようにしていたらしい。

この部屋にある本を読んでもいいかと聞いてみると。

「読めるなら好きにしていいわよ。あの人もそのほうが喜ぶと思うしね」

と言ってあっさり許可を出してくれた。

「ただお母さんはここに有る本に書いてある文字をさっぱり読めないのだけど」

確かにここに書いてある魔導書の数々は総てミッド語だ。

教えてくれる人が居なければ自力での習得なんて不可能だろう。

しかし俺にはソル達がいる。言語はインストールされているから後は時間を掛ければ読めるようになるだろう。

先ずは影分身を駆使してミッド語の勉強からかな。

ミッド語を習得すると、俺は影分身を何体か地下室に置き魔導書やデバイス作成の技術書を読み漁りつつ本体はお母さんと御神流の修行という裏技を使って技術や知識の習得に励んでいる。

しかし以前も思ったが、影分身はチートだと思う。

習得スピードが半端無く跳ね上がり、膨大に見えた地下室の書物もこのペースなら1年もすれば読み終わるのではないか?

魔法の方も魔導書を読み解きながら初級編の魔法をソルに手伝ってもらいながら練習している。

これが中々楽しい。

そうそう、ルナはと言うと、俺の首元からソルと一緒にぶら下がっては居るが、一度も起動はしていない。

本来は父親が御神流を扱う為に二刀ワンセットで造ったデバイスで、ルナもその姿は一振りの日本刀を模しているのだが、自分はソラのデバイスだと言って譲らない。

まあ、俺もそれでいいと思う。

未だに俺はソラを発見出来ては居ないが、恐らくこの世界に居るであろうソラもリンカーコアを持って生まれてくるであろうし、そういった場合の相棒もまたルナしか居ないのだから。

しかしソラは何処に生れ落ちているのだろうか。

…まさか転生ミスとかは無いと思いたい。

俺も暇を見ては地道に捜索をしているのだが一向に見つからない。

具体的な捜索方法としてはソルの補助を得て数キロに及んだ『円』をそこかしこで展開、念を習得しているであろうソラならば俺の円に対して何らかのアクションを取るはずだと暇を見ては捜索を続けているが、いかんせん何処に生れ落ちたか解らない上に世界は広すぎる為いまだに見つけられていないのだ。




さて、そんなこんなで俺は今、母さんに連れられてどこかの山の中で御神流の修行中。

此処が何処か?

それは俺にもわからない。

なんせ夜寝ていた時に連れ出されたらしく、気が付いたら既に電車の中だった。

それから母さんに連れられて移動する事4時間。

段々とうっそうと茂っていく緑が恨めしい。

なにやら御神流恒例の山篭りでの修行らしい。

…まあ、それ自体は良いんだけど、普通3歳を過ぎたばかりの子供をこんな山奥に連れて行くかな。

そんな事もよりも気になるのが、山に入る前に立ち寄った村で聞いた噂話。

何でもこの山には昔神社仏閣を次々と襲った化け狐を封じた祠があるのだそうな。

え?なにそれ?

もしかしてとらハ3に出てきた久遠の事ではあるまいな?

そして村人からの情報なんて古典的なフラグなのか?

まあ、俺達親子が来たから封印が解かれるなんて事にはならないだろう。


そんなことはさて置きながら俺と母さんは人の入らない山奥に踏み入って一日中修行をして夜は川の近くにテントを張り野宿と言った感じの日々を数日送っている。

いやしかし、実際体験して見て思うのだけど、この修行は三歳児には早いのではなかろうか?

朝から昼間では型の稽古。

昼からは2人で日が落ちるまで実戦形式の試合。

夜は夜で暗闇の中で飛針や鋼糸を避ける訓練と、忍者時代が無ければぶっちゃけ根を上げて逃げ出していたと思う。

そんな修行の日々が数日過ぎたある日。

俺は迫り来る母さんの攻撃を時には避け、時には受け流しなどしながら訓練に耐えていたのだが、余りにも当たらない俺に業を煮やしたのか、母さんは御神流の奥義の一つである『神速』を使って俺を攻撃してきやがった。

母さんの体が一瞬で消えたかのような速度で移動したのを感じ取った俺は無意識に写輪眼を発動、その一撃をギリギリで回避して見せた。

「神速による攻撃をたった三歳児にかわされるなんて母さんちょっと凹むわ」

いえいえ、オーラやチャクラによる身体強化も無しにその速度へ到達できるあなたや御神、不破一族の方がおかしいですから!?

あ…俺も一応その血を継いでいるのか…

「それにしてもあーちゃんは天才ねぇ。このまま行けば当代最強と言われた静馬さんを越すのも時間の問題かも知れないわね」

母さんに褒められたが俺は自分が避けた後ろにあった祠が真っ二つになっているのを見つけて冷や汗を垂らしていた。

全く手加減なしで全力で当てに来ましたね?

しかも竹刀のはずなのに何故か後ろにあった祠が真っ二つに割れているのですが…

これを食らったりしたら…ぶるぶるっ。

って!問題はそこじゃない!

訓練に夢中になりすぎて、いつの間にか森の奥のほうに来ていたようだ。

そして俺が避けたために母さんに真っ二つにされている祠が一つ。







なにやら黒い靄が割れた祠から噴出しているのですが…

「かっ母さん!」

「なあに?あーちゃん」

「あっ…あっ…あれ!」

そう言って俺が指を指した方向を向く母さん。

「こ、これは?」

母さんも眼にした黒い靄には驚いているようだ。

その靄は見る見る集まり数秒後に一気に霧散したかと思うと、中から一匹の狐が現れた。

その狐は見るからに異様で、大型犬ほどのあろうかと言う体躯、さらにあろう事か尻の付け根から生えている尻尾は5本という、普通の狐とはかけ離れた体をしていた。

眼光は鋭く俺達を睨みつけている。

その眼は狂気に狂わされているような眼だ。

「くおぉぉぉぉぉおぉおおおおん」

狐は天に向って遠吠えをかますと、俺達目掛けて突っ込んできた。

飛び掛りつつ振り上げられる鋭い爪。

すかさず母さんが俺の前に割り込み振り下ろされた爪を二つの竹刀で受け止める。

しかし振り下ろされた爪先から放たれる雷。

バチバチッ

「きゃあっ」

結局体格の差と雷による攻撃により受け止めきる事は出来ずに弾き飛ばされてしまった。

「母さん!」

俺はすぐさま母さんに駆け寄り覚えたてのヒーリング魔法を使う。

「うっ…」

派手に吹き飛ばされたが見掛けほど傷は深くなく、軽い打撲程度だ。

直ぐに意識を持ち直した母さんが俺に上半身を抱きかかえられている事に気づき、更に俺が行使している魔法に気づいた。

「あーちゃん、それ」

「あー、説明は後。それより今はアイツを何とかしないと」

そう言って視線を狐に向けるとまたもや此方に向って突進してくる狐。

『サークルプロテクション』

ソルが術式を展開して瞬時に俺達を包み込むように半球状のバリアが展開される。

ドゴンッ

展開されたバリアにぶち当たり弾き返される狐。

しかし再度バリアに体当たりを開始。

俺はその隙にソルを起動し騎士甲冑を纏う。

「やめろ!俺達はお前と争うつもりはない!」

しかし俺の言葉を理解していない様で体当たりを止めるつもりは無いらしい。

くそ!どうしてこうなった?

恐らくアイツはとらハ3に出てきた久遠で間違いないだろう。

原作の久遠は人間を恨む余り『祟り』に取り付かれていたんだったか。

原作ではおよそ10年前に封印が解かれたとしか説明が無かったがまさかそれを母さんが祠を壊した所為で破られるとか…

どうする?

完全に此方を敵として認識していて俺一人だけならともかく、負傷した母さんを伴っては逃げ切る事は少し難しい。

ならばどうする?

スサノオで酔夢の世界に引きずり込んで封印してしまうか?

ヤタノカガミを持っているから守りは完璧だし恐らく封印する事は可能だろうが、出来ればそれは最終手段にしたい。

出来れば久遠を殺したくはないし。

そういえば写輪眼ならば妖狐である久遠を操る事も可能なのではないか?

生死の場面でぶっつけ本番で効果があるかも解らない事は出来ないので却下。

ならば後は一つ。

魔力ダメージでぶっ飛ばす!

非殺傷設定も付いているから気絶はしても命の別状はない…はず。

俺が思考している間に久遠は一度距離を取り体内の魔力をかき集めているような仕草を見せる。

「ぐるぅぅぅぅぅ。くおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおん」

力強く鳴きながら天を仰ぐとそこから極大の落雷が俺達に襲い掛かる。

「うそぉぉぉ!」

「あーちゃん」

母さんが俺を守るように覆いかぶさる。

母親として子供を守るのは嬉しいのですが、今は邪魔です。

俺は母親に押し倒されてしまっている。

マズイ想定外の攻撃にプロテクションにひびが入る。

『ロードカートリッジ』

ガシュガシュ

二発の薬きょうが排出されてプロテクションの強度が跳ね上がる。

鳴り響く豪雷。

永遠とも思える光の瞬きが収まると、丁度プロテクションが切れる位置からの地面が焼け焦げ抉れていた。

何とかプロテクションは抜かれる事は無く耐え切ったようだ。

久遠を見やると今の一撃は自身の身にも堪えたのか、少しよろめいている。

今しかない!

俺はそれを見て取ってすぐさま母親の下から抜け出した。

そしてソルを構える。

『リングバインド』

現れる銀色の輪で久遠を拘束する。

「がうっ」

何とかそのバインドから抜け出そうともがく久遠。

「少し痛いかもしれないが我慢してくれ」

『ロードカートリッジ』

排出される薬きょうは二発。

俺は左手を突き出す。

左手に集まる魔力を炎熱と雷に変換して久遠目掛けて射出する。

「ディバインバスター」

俺が魔法を勉強し始めてから作り出した中~長距離用の砲撃魔法。

名前はなのはのを丸パクリだけどね。

俺が放ったそれはバインドから抜け出せない久遠を直撃する。

瞬間なにやら断末魔の様な叫び声と共に久遠からなにやら黒い靄のような物が抜け出ていき炎に包まれ焼き尽くされた。

砲撃をやめバインドを解くとそこには一匹の子狐が横たわっていた。

どうやら上手く行ったらしい。

それにしてもキツイ。

初めてカートリッジを連続ロードした負荷が未成熟な俺の体を痛めつける。

「殺したの?」

倒れている久遠を見つけた母さんが俺に尋ねる。

「多分死んでないと思う」

一応非殺傷設定だったし。

「そう。でもまた人を襲う可能性は有るのでしょう?」

なんか黒い靄を焼き尽くしたような気がするから祟り自体は祓われたような気がするが。

「わかんない」

そう言って俺はソルを構えたまま久遠に近づく。

「どうするの?」

「え?どうするって?」

おれは母さんの声に振り返る。

「その子を殺すのかってこと」

久遠を殺す?

「何で?」

俺は母さんに聞き返した。

「その子が人間を襲う可能性が有る以上この場で止めを刺さないと。あーちゃんが出来ないって言うなら私が。祠を壊したのは母さんだしね」

「そんな!」

なんか色々既に手遅れな気もするが、久遠が神咲那美の両親を殺さなければ『神咲』那美は誕生しないわけだが…

「まあ、そんな事は考えなくても良いかもしれないわね。その子、段々息が細くなって来ているから」

「え?」

それは死の宣告。このままだと久遠は死ぬと言う事だ。

それを聞いた俺は危険をかえりみずに久遠を抱き上げた。

子狐とは言え三歳児には大きく感じられたが、抱き上げた久遠の顔に耳を近づけその呼吸音を聞き、胸に耳を当て心音を聞く。

すると母さんが言うように段々弱くなっていっているようだ。

「どっ、どうしよう!」

俺はパニックを起こして思考が上手くまとまらない。

「落ち着きなさい!」

「え?あぅ」

母さんの一喝に俺は多少冷静さを取り戻し母さんを見る。

「落ち着いた?」

「うん」

「そう。それで?あーちゃんはその子を助けたいの?」

俺は少し考えてから答える。

「うん」

「でも、回復したらまた人を襲うかも知れないのよね?」

「う…」

7割大丈夫だと思うけれど意識を取り戻していない状態では確証は持てない。

助けるだけなら神酒を使えば可能だが、それは母さんが許してくれそうも無い。

「それともその子に人を襲わせないように首輪をつける事が出来るの?」

母さんの言葉に俺は一つ久遠を助ける手段を思いつく。

「…使い魔の契約ならば」

これなら主人を敬愛するように刷り込んでしまう事も可能だ。

そうしてしまえばよほどの事が無い限り主人の言いつけは守るし使い魔への強制も可能だろう。

同時にこれならば弱っていく久遠に自分の魔力を分け与える事で延命させる事もできる。

「そう。じゃあそれで良いんじゃない?」

母さんはあっけらかんとそんな事を言い放った。

「え?でも」

「大丈夫、きっと大丈夫だよ」

そう言って俺の背中を押す言葉を掛ける母さん。

俺はその言葉を聞き、魔法陣を展開する。

魔法陣が俺の足元で展開され淡い光を放つ。

『契約術式展開、契約内容はどうしますか?』

ソルが俺に問いかけてくる。

「えっと?」

考えてなかった…どうしよう。

えーと、えーと?

そういえばフェイトとアルフの契約って何だったっけ?

うーんと、確か…

「生涯を共に過ごすこと?」

うわっ、どこのプロポーズだ!何て考えていると。

『認識しました。契約完了します』

ソルから契約完了の宣言が行われた。

「え?」

俺は呆然としていると急に俺の胸の中心から銀色に光り輝く小さな球体…リンカーコアの欠片が飛び出し、久遠に吸い込まれていく。

久遠の中にリンカーコアの欠片が納まると途端に俺の体から久遠に引っ張られる形で魔力が移譲されていく。

うっ…ちょっとしんどいです。

どんどん引っ張られていく魔力に多少めまいを起こしかけるが何とかこらえて久遠の現状を確認する。

呼吸は安定してきて、心音は力強くなってくる。

どうやら無事に契約は成功したようだ。

「あーちゃん、終わったの?」

「うん」

俺はそう答えたえるのが精一杯だった。

足がもつれ自分の体重が支えきれなくなると、俺は自然と倒れこみそうになった。

それを自分も怪我をしているのに母さんは優しく抱きしめてくれた。

俺はそれに安心すると一気に体の力が抜けてしまった。

「お疲れ様」

母さんはそれだけを言って、俺を力強く抱きしめた後俺達はベースキャンプへと久遠を抱えながら下山した。



しばらくして俺の魔力が多少なりとも回復してきた頃、ようやく久遠が俺の腕の中で眼を覚ました。

「くぅん?」

「起きた?」

くりくりした眼で俺のことを見つめる久遠に対して俺は声を掛ける。

「体の方は大丈夫?」

俺のその質問に久遠は自分の体を一通り確認してから「くぅん」と鳴いた。

「はは、そっか良かった。言語の刷り込みと同時に発声魔法の習得も完了していると思うから喋れると思うのだけど。君の名前を聞いても良いかな?俺は御神蒼って言うんだ」

俺はほぼ間違いなく久遠だと確信しながらも一応名前の確認をする。

「…く…おん」

俺のその質問に弱弱しく口を開き答える久遠。

「そっか、久遠だね。それで今自分の立場がどういう物になっているか解る?」

これも契約の時に刷り込んであるはずなのでただの確認だ。

「あ…お…の、つかい…ま」

「うん、ゴメンね。勝手に俺の使い魔になんかしてしまって、本当は久遠に了承を得るべきだったのかも知れないけれどもあの時、久遠死にそうになってて余り時間無かったから」

「い…い。くお…ん…が、あお…達を…襲った事は、ちゃん…と…覚えて…る。あの時…『祟り』…が、久遠から…出て行く時…に、久遠か…ら、いっぱい、いのち…の力を、もってっちゃってたから…久遠、死にそうに…なって…た」

恐らく俺がでぶっ飛ばした時に強制的に剥離された祟りが最大限生き残ろうと久遠から生命エネルギーを搾り取ったのだろう。

「そう。久遠は未だ人間を恨んでいる?」

この質問は俺が久遠の過去を知識として知っているからの質問。

昔、大好きだった人間を殺されたからその復讐に大量の人間を殺してしまった祟り狐であった久遠。

その恨みはどれほどの物か。

しかし今この現代に置いてそんな事は許されないし人間への復習をさせるわけにも行かない。

「……」

押し黙ってしまった久遠。

「そうだね。すぐには無理だよね。でも少しずつで良いから人間の事も好きに成って欲しい」

俺は説得なんて苦手だから、ダメならば久遠に『命令』しなければ成らないのだけれど。

「……わか…った」

しばらく言葉を発さなかった久遠が弱弱しく了承の言葉を発した。

俺はそれを受け取ってから久遠を抱き上げて立ち上がり、母さんの方へと向う。

「久遠、これから母さんの所に行くから」

ビクッっと一瞬震える久遠。怪我をさせてしまったことを後悔しているのだろう。

「大丈夫。ちゃんと謝れば許してくれるから」

「ほん…とう?」

「本当」


その後俺と久遠は母さんのところに行き久遠がこれから人を襲うことは無いように説得したと説明し、久遠は傷つけた事をあやまった。

狐が喋り出した事も母さんは特に気にした様子も無く謝罪を受け入れ、今日はもう日が暮れない内にベースキャンプをたたみ、ふもとの村で一泊して海鳴に帰る事になった。

勿論使い魔となった久遠も一緒に。


あー、那美さんの養子フラグを叩き折ってしまった俺…

だ?大丈夫だよね?

もはやどうしようも無いけれど… 

 

第二十七話

さて、海鳴まで戻ってきた俺達。

今回、俺の異常さが際立ってしまったわけで、海鳴に帰ってきて直ぐに追求されました。

三歳の子供がいくら自分が地下研究室への出入りを許可したと言っても地球では未知の技術である魔法を操れるのはおかしい事なのだろう。

根掘り葉掘り聞かれました。

何とか誤魔化そうと最初は魔道書を読み漁ったと言い。

「あーちゃんはいつの間にこんな難しい本が読めるようになったのかな?」

と言われ、咄嗟に今度は魔法はソルに教えてもらったと言って、改めて自分の相棒であるソル達を紹介。

一応そういった知識は父親から聞いていたらしく、喋る事には驚かなかったけれど。

「ねえ、あーちゃん。お母さんに隠し事をするのは良くないと思うよ?」

と、母さんには俺が嘘をついているのはバレバレだったらしい。

いやまあ、俺のあの誤魔化しが通用する人の方が稀だと言われればそれまでなんだけど。

大体俺の行動がいくら早熟だと誤魔化そうとも三歳児のそれと大きく異なる事にいくらんでも気づいてるはずである。

まあ、それは仕方ない。

三歳児の体だけど生きた年月だけで言えば母親を大きく上回っているのだから。

「だいたいあーちゃんは手のかからない子だったけれど、私が教えなくても日常生活に必要な事を最初から知ってるかのごとく覚えていったわよね。トイレや歯磨き、箸の使い方とか」

うっ…今まで見ていなかったようでしっかり見ていたのですね。

「今考えればあれは異常よね」

おっしゃるとおりで…

「それに御神流も。あーちゃんは一度見ただけでその型の本質を理解していた。ねえ、あーちゃんは何をどこまで知っているの?」

俺の内部を見透かすかのような質問。

…これは最早ごまかしは聞かないかな。

俺は総てを話す決意をするまでにしばらく時間が掛かったが、母さんに打ち明ける事にした。

「母さんは転生って信じる?」

「転生って、生まれ変わる事よね?」

「そう、その転生。俺はね母さん、既に三回転生しているんだよ」

「え?」

それから俺は今までの人生を母さんに語って聞かせた。

既に一番最初の人生は記憶が殆ど覚えていないけれど、現代と同じような世界で生きていた事。

それから全くの別の世界に転生してしまっていた事。

更に時空の狭間を越えて別世界へ、更にそこからの転生。

一緒に転生してきているはずのソラをずっと探している事も。

「そう、そんなことが有ったの」

「うん、だから母さんが俺のことを気持ち悪いと言うのならば、俺は今すぐ出ていk…」

俺が言い終える前に母さんは俺の言葉を遮るように俺をギュッと抱きしめた。

「バカな事を言わないで。いくら前世の記憶があるといっても、あなたは私がお腹を痛めて生んだ子供に違いはないわ、だからそんな寂しい事は言わないで」

優しく総てを包み込んでくれる母さんの抱擁。

「いいのかな?俺は普通の子供のような成長は出来ないと思う。それで母さんには寂しい思いをさせてしまうと思うよ?」

「いいのよ」

「いっぱい迷惑をかける事になるかもしれない」

「子供に迷惑を掛けられるのは親の努めよ」

「ありがとう、母さん」

俺はそう言って母さんをギュッと抱き返した。


しばらくすると互いに落ち着きを取り戻したところで母さんから質問があった。

「そういえば、あーちゃんの前世って忍者だったって言ったけれど」

「うん」

「母さん凄く疑問だったんだけど、分身の術とか、よくテレビアニメとかであるじゃない?やっぱり分身の術って高速移動の残像なの?」

「ええっと…分身の術にも色々あって、一概に間違いだとは言えないけれど」

と、そう前置きをしてから俺は印を組む。

「先ず自分の幻影を生み出す普通の分身の術」

そう言うと俺の横に現れる俺の幻影。

母さんと、近くに居た久遠が眼を丸くしている。

母さんは俺の分身に近づくとおもむろに分身に手を突っ込んだ。

するとその手は俺の幻影を突き抜けて背中から両手が飛び出している。

「これは魔法なの?」

自分が思っていたものとは全く違う分身の術に母さんは魔法ではないのかと聞いてきた。

「ううん。これは忍術と言われている物、魔法とはまた別の理の力。それにこれはただの幻影、ホログラフのような物だね」

俺は分身を消すと台所に近づき蛇口を捻り水を垂れ流し始めた。

「そして次が」

そう言ってまた印を組む。

「水分身の術」

すると蛇口から垂れ流されていた水が浮き上がり俺の隣りに来て俺とそっくりな姿になる。

するとまたも母さんは俺の分身に手を伸ばした。

「冷たいわ。これは水よね?」

「うん。水や砂などをを自分そっくりに化けさせて操るタイプ。物質操作系の術だね」

俺は分身を台所に向わせると蛇口を捻り水を止め、分身をシンクの上まで移動させると術を解く。

すると制御を離れた水分身は母さん達の目の前でただの水に戻り排水溝に吸い込まれた。

「後はこれ」

そして俺は最後に十字に印を組む。

「影分身の術」

ボワンと現れる俺の分身。

「これは最初のよね?」

「ううん。違うよ」

「喋ったわ!?」

分身の俺が喋り出した事に驚く母さん。

そして俺の分身が母さんに抱きつく。

「暖かいし、ちゃんと呼吸や心臓の音も聞こえる」

「そう、自分のオーラ(チャクラ)を使って自分そっくりな影を作り出す禁術」

「え?」

「その分身はほぼ自分と同等の肉体的戦闘能力を持つ上に忍術の行使も可能と来ている。オーラを均等に割り振ってしまう(解除されると使用されなかったオーラが経験値を伴って自身の体に帰って来るとこの作品ではしています)ことや、過度の衝撃には耐えられないというデメリットも在るけれど、それを補って余りある、もし敵に使われたら物凄く厄介な術の一つだね」

「へえ、色々あるのね」

心底驚いたといった感じの母さん。

久遠については既に失神している。

俺は影分身を消して母さんに向き直る。

「魔法はあの人にそれを扱う資質が無いと言われていたけれど、その忍術は母さんも習得出来るものなの?」

「あー、えーっと」

「どうなの?」

母さんが期待を込めた瞳で俺を見つめる。

「結論から言えば出来る」

「本当に?」

「うん。体を流れるエネルギー、つまりオーラを自由に操る事が出来れば。これは生物だったら誰でも持っている命の力だから」

「へえ」

「ただ、オーラは長い時間をかけて少しずつ自分の体にあるオーラの巡廻路にあるしこりを押し流して通りを良くしないと使えないから」

前の世界の忍者は外側ではなく内部への働きかけは人種的に誰でも(一部例外もあるが)出来たようだが、そういった認識のないこの世界では念を習得する他ないだろう。

「長い時間ってどれくらい?あーちゃんは使えているようだけれど」

「解らない。1年か…10年か。俺は昔事故で体にある精孔…オーラを生み出して放出する穴のようなものかな?それが開いてしまって、以来転生を繰り返しても最初から使えているからね」

「無理やり開く事は出来ないの?」

「念能力者、えっと、つまりオーラを使うことが出来る人たちの事だけど。その人が普通の人間に対して念(オーラ)をぶつけると、ぶつけられた相手の体はビックリして精孔が開いてしまう事があるらしい。ただ未熟な念能力者だと相手を傷つけてしまうから危険な行為ではあるね」

「あーちゃんは?」

「俺は念応力を覚えておよそ10年。中堅の能力者って所かな。まあ、念能力は覚えてしまえば身体能力の強化、疲労回復力の上昇、老化の遅延など凄く便利だけどね」

すると行き成り母さんは俺の肩を掴んで真剣な表情で聞き返してきた。

「あーちゃん、最後の何だって?」

ミシッっと俺の肩に母さんの手が食い込む。

「ろ、ろ、ろ…老化の遅延ですうっ」

「あーちゃんなら母さんの精孔?開ける事が出来るわよね?」

「はっはい!」

母さんからの凄まじいプレッシャーに俺は咄嗟に了承の言葉を発していた。

「そう、じゃあ早速お願いね」

母さんは満面の笑みを浮かべようやく俺の肩から手を離した。

「でも!危険があ「おねがいね」…わかりました…」

俺は母さんから放たれる凄まじいプレッシャーについに負けてしまった。


その後俺は母さんに対して威力を調整した「発」を行使して母さんの精孔をこじ開ける事に成功した。

しかし、俺はなんとしてもこの時止めるべきだったのかも知れない。

何故なら、その後影分身を覚えた母さんとの地獄の特訓の日々が始まったのだから。

勿論母さんは俺から念を教わっているのだが、それ以上に御神流の修行に当てる割合が多い。

ついでに家事なんかも影分身の一体にやらせているので、日々一日修行が可能になってしまい、俺は毎日修行で血反吐を吐く日々。

正直言ってたまりませんよ…

しかしその甲斐あって御神流の習得スピードは格段に上がったけれど…

そう言えば念修行を見学していた久遠が自力で精孔をこじ開け、『纏』を習得していた事には驚いた。

いつの間にかなんとなく出来るようになったらしい。

まあ、野生動物の上に妖狐だからね、念を習得できてもなんら不思議じゃないか。


母さんは短時間の間に自分の念能力を作り上げていた。

『水見式』の結果具現化系だった母さんは深く考えずに二振りの日本刀を具現化していた。

ツーヘッドドラゴン(二刀竜)

左右一対の日本刀。

銘を水竜刀と風竜刀と言う。

水竜刀は水を操る。空気中に存在する水分を凝結させる事も可能。かなり応用が利くようだ。

風竜刀は空気を操る。斬撃にあわせてカマイタチを飛ばしたり、周りの空気を操って短時間なら飛行可能。

具現化した刀に付加した能力にしては具現化系というより操作系のような気がするけれど…問題なく使用で来ている母さんは凄い。

偶に母さんとツーヘッドドラゴンを使用してガチバトルとかもやったりしている。

まだ念能力者としてや忍者としての年月の分俺に分があるのだが、母さんは未だに成長過程なのか念能力を得てドンドンその実力は高みへと上っていく。

そうそう、俺の母さん実は今20歳なのですよ…

17で俺を産んだというから驚きだ。

と言うか死んでしまった父よ、少し犯罪臭がするぞ。

まあ、俺達に贅沢しなければ一生暮らしていけるだけの財産を残してくれた事だけは感謝している。

しかし母さんも未だ若い、もしもいい人が現れるなら俺は反対しない。是非とも母さんには幸せになってもらいたいものだ。


そして数ヶ月。

俺がいつものように朝起きると、俺は何者かに抱きしめられていて身動きを封じられていた。

母さんが俺をがっちりホールドしているのかと思ったらそこには金髪に改造巫女服を着た見知らぬ少女が。







「うぇぇぇえええええええぇええ!?」

俺は驚き絶叫を上げる。

俺の大声での絶叫に母さんが駆けつける。

「あーちゃん!何があったの?」

「いや!あの!その!?」

俺がテンパって居ると俺を抱きしめる少女がもぞもぞ動き眼を開ける。

「あーちゃん!まさかあなた!ヤってしまったの?」

「なにをだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

更なる俺の絶叫に少女は俺を話して起き上がり、眼をこすりながら「くぅん?」と鳴いた。

「え?」

「まさか」

その鳴き声に俺と母さんははっとなってその少女の正体に想い至った。

「「久遠?」」

「…ん、おはよう。アオ、ユカリ」

小さくあくびをしながら久遠は挨拶をする。

眼をこすっている所をみると、どうやら未だ眠い所を起こしてしまった様だ。

…そうだった。

久遠は人間に変化できるのだ。

更に今の久遠は俺の使い魔。

であるならば、尚更変化出来ても不思議は無い。

ただ、久遠と暮らし始めて数ヶ月、今まで変身していなかったから頭の中から抜け落ちてしまっていたのだ。


その後、母さんに事の次第を説明。

納得した母さんは嬉々として久遠に構っている。

「娘も欲しかったの」とはある意味テンプレ的な展開か?

久遠は今まで特に変身する機会も無かったために変身する事をしなかったらしい。

今日は寝ぼけて偶々変化してしまったようだ。

久遠が人型を取れる事を知った母さんは、最近では久遠を交えて3人で御神流の修行をしている。

改造巫女服に竹刀を持たせ、素振りをしている久遠。

…ぶっちゃけかわいい… 

 

第二十八話

最近、不破士郎がしばらくこの海鳴市で仕事があり滞在すると、我が家を訪ねて挨拶をしにやって来た。

生まれてから3年ちょっと、初めて見る不破親子。

その日は挨拶だけで帰ったのだが、母さんが士郎さんに俺に一度だけでも訓練を付けてくれるように頼み、仕事が終り暇を見て俺に稽古を付けてくれるそうだ。

しかしぶっちゃけ思うに今の母さんの方が士郎さんよりも強いと思うよ?と母さんに言ったら。

「私が教えれるのは『御神正統』だけ。どうせならば士郎さんから『御神不破』も盗んじゃいなさい」

との事…

母さん自身は裏である不破流を詳しくは知らないとの事。

それならば仕方ないと思い、俺はそれを承諾するのだった。


さて、そうした日々を過ごしていたのだが、最近不破士郎が高町桃子と結婚するらしいと言う情報が母親からもたらされた。

ああそうそう、御神不破流の稽古は母さんが士郎さんに頼んで一回全部技を見せてもらったので総てコピーしました。

コピーした技を母さんと久遠とで反復練習して段々物にしていっている最中だ。

そんな話はさて置き。結婚式は高町家の親族だけで行ってもらい、俺達親子は出席を拒否する方向で話がまとまった。

結婚式にはいい思い出が無い為に出席しない事に決めたらしい。

しかし取り合えずは良かった。

俺がここに居るというバタフライ効果でもしかしたら結婚フラグが発生しないことも有り得た。

そういった場合「高町なのは」は生まれない。

いや、すでに原作とはかけ離れているのだ。無事に妊娠したとしてもそれが原作の「高町なのは」と同一人物なのかどうかなど誰にも保障できない。

しかし歴史の修正力なのか士郎さんたちは原作通りこの海鳴に居を構える事になった。

更に新居はどういう訳か丁度家の隣りに空いていた古民家を改装して移住するらしい。

士郎さんも「不破」の苗字は捨て「高町」になるとの事。

このまま行けば俺は原作キャラの幼馴染と言うテンプレな状況に…

後は無事に「高町なのは」さえ生まれてくれれば…

俺の御神流の修行に関しては、士郎さんも自分が師事すると申し出てくれたが俺は母さんから習うと言い張り丁寧に断った。

いやぶっちゃけ念を使わないのならば母さんよりも士郎さんの方が強いのだけれども、念で強化された状態では確実に母さんの方が数倍上だ、それに俺達の修行は裏技(影分身や写輪眼など)を使いまくっているので見られるわけにも行かないのも理由だ。

そんな日々が過ぎて俺が生まれて5年経った3月の事。

妊娠していた桃子さんが女児を出産した。

新しく生まれたその子供の名前は「高町なのは」と言うらしい。

どうやら無事に主人公は誕生したようだ。

それからしばらくして、士郎さんが護衛の仕事中に大怪我をして意識不明の重体で病院に運び込まれるといった事件が発生する。

桃子さんは未だ軌道に乗っていない始めたばかりの喫茶店で手一杯。

美由希さんは入院中の士郎さんの看病。

恭也さんは士郎さんが倒れた事で暴走、家族のことなど考えずに不破流の稽古に打ち込むようになり、結果母さんが提案して日中は家でなのはを預かる事になりました。

余り主人公と接触したくは無かったんですけどね…遠い血縁だし、お隣な時点で無理な話だったのかもしれません。

母さんは普通の子供を育てた事が無かった(俺は最初から教えられずともこなしてしまっていた)のでそれこそ実の娘のように可愛がっていた。

…いつの間にか家になのはの部屋が出来ているという現実。

まあ、部屋は余ってるからいいんだけれどね。

言葉を覚え始めると何処で覚えたのかなのはは俺の母さんのことを「まーま」俺のことを「にーに」と呼ぶようになった。

これに慌てた俺達は何とか修正しようと頑張ったのだけれど…結局治りませんでした…

大きくなった今でも内の母さんの事を「ママ」と呼び、桃子さんの事を「お母さん」と呼び分けています。

なのはにとっては「ママ」は内の母さんのあだ名みたいなもののようです。

小さい頃から言いなれてしまって変更は出来ないようだ。

さらに単純に「お兄ちゃん」と言うと恭也さんのことではなくて俺の事を指す言葉だったりもします。

恭也さんの事は「恭お兄ちゃん」などと呼んでいる所を見るとかなり原作とのズレが…



後で解ったことだが日中はほぼ内に預けられていて実の家族よりも俺達家族と一緒にいる時間が長かったなのはは物心が付くまで自分の家は夜になると朝まで何故か預けられてしまって俺達から離されてしまう寂しい場所と言う認識だったらしい。

まあ実際今でも週に何回か家に泊まっていくほどだ。

さて、子供は親の背中を見て育つと言うけれど小さい頃から俺達家族と一緒にいたなのははと言うと…

いつの間にか俺と母さんの修行に混じって竹刀を振っていましたorz

赤ちゃんの時など意識は無いだろうと思い影分身などを平気で使っていた母さん。

まあ、俺や久遠もそれに釣られて少し緩んでいたのかもしれない所もあった。

久遠もなのはの前で平気で人化と獣化を繰り返してたしね。

なのはの中では狐は人に化ける事が出来る生き物で固定されてしまったようだ。

幼稚園とかで将来何になりたいの?という先生の質問に大真面目に「にんじゃっ!」と答えた豪の者だ…

先生達は女の子らしくない夢に「あらあらっ」と若干困惑しながらもスルーしていたのだけれど、うん、アレは絶対マジだ…

今度忍者は本当はいないと言い聞かせなければ…

って問題はそこじゃなくて、剣術なんて覚えさせて未来の魔法技術習得に支障がでないか!?



さて、なのはが無事に生まれてから3年と少し。

変わり映えの無い日々を送っていた俺達に一本の訃報が届く。

御神一族の中で俺達と一緒に生き残った不破大地さんが交通事故で亡くなってしまったと言う連絡を士郎さん経由で受けた。

あのテロ以来会ったことは無い人に俺自身は何の感慨も浮かばなかったが、問題は大地さんの子供。

死因は交通事故だったらしいが、夫婦で出かけていた所トラックに突っ込まれたようだった。

日中の出来事だったので保育園に預けられていた女の子が一人だけになってしまった。

しかし、母方の親類縁者には連絡が取れず、大地さんの両親などはこの前のテロでこの世を去っている。

そこに来てようやく不破家つながりで士郎さんに連絡があり大地さんの訃報を知る事となった。


その話を聞いた母さんが士郎さんと話し合い、自分が引き取る事になった。

年齢はなのはと一緒らしい。


そして顔合わせの日。

つまり女の子が家に来る日。

母さんが連れてきた女の子は…

「ソラ!?」

「アオ!」

一直線に俺へと抱きついてきた女の子を抱きとめる。

「ソラなのか?」

「うん」

ソラは泣きながら俺の胸にうずくまる。

「よかったよ。無事に出会えた」

「うん」

それから俺達はしばらくの間抱き合っていた。

そして空気を読んだのか声を出さずに待機していたルナをソラに手渡す。

「ルナ!」

『お久しぶりです。マスター』

「気が付いて辺りを探しても見つからなかったから凄く心配したよ」

自分の相棒が手元に帰ってきた事に安心するソラ。

「あの~、あーちゃん。説明して欲しいんだけど」

「くぅん」

母さんと久遠が状況が掴めないとばかりに固まってしまっていた。


どうやら不破大地さんの子供と言うのがソラだったらしい。

今生の名前を『不破(ふわ) 穹(そら)』と言うそうだ。


困惑していた母さん達に事情を説明。

母さんには以前に話してあった俺の探し人だと告げた。

すこし戸惑っていたけれど母さんはソラを受け入れてくれた。

なのははまだ小さく、行き成り現れた同年代の存在に最初こそ戸惑っていたが、数日もしたら何事も無かったかのように馴染んでいた。

子供の適応能力はすごい。



その後はわりと平和な時間が流れる。

とは言っても御神流の修行にソラも加わる事になり賑やかさが増したりもしたが。

そうそう。

やはりと言うか何と言うか、ソラにもリンカーコアがある模様。

魔力量は俺と同じか少し多いくらい。

それにより魔導師としての訓練もなのはに見つからない様にしたりもした。

その途中、日本刀で有ったルナに大幅な改修が施される事となる。

やはり使い慣れた斧の形体が一番体に馴染むらしい。

なのでソラの言葉で俺がルナを改造。

以前の斧に加え、長剣、槍と二刀、4つの形態変化をつけたデバイスに改造を施した。

それと父親のラボ内で面白いものを発見。

身に着けるだけで魔力負荷が掛けられる特製のリストバンド。

資料によると身に着けていると日常的動作に魔力を消費するように付加が掛けられ、その結果魔力量が上昇するらしい。

なるほどなのはもやっていた魔力負荷の補助具か。

これはいい。

今からつければ十年後はニアSには届くかもしれない。


さて、この世界に生れ落ちてなるべく主人公サイドに関わらないようにしようと思っていたけれど…俺が生まれたことによるバタフライ効果が凄まじい…

なのはがいつの間にか「念」を習得していましたorz

なのはの目の前で、どうせ見えないのだからと念を使った摸擬戦などをやっていたのだが、念と念がぶつかり合い散らされた空間に長く居たのが原因か、または他の事が原因か、いつの間にか自然となのはの精孔が開いちゃってました…

なのはが自分の両手を自分の目の前に出して不思議そうな顔で、

「このピンクのもやもやしたのなあに?」

なんて聞いてきたときは正直対応に困ったが、母さんが普通に、

「凄いわなのはちゃん!」

と言って嬉々として念を教えてました…

さらに順調にレベルアップする剣技…

原作の運動神経が切れている「高町なのは」は既にいません…

やはりいずれは魔王様になるお方、確実に不破の血ですね、わかります。

と言うか…俺が母さんに最初に教えた忍術が影分身だった事が災いしたのか一応あれは禁術なのですが…全く無視して、一番最初になのはに覚えこませてしまった母さん。

四苦八苦しながらもちゃんと影分身を覚えたなのはが凄いのか、解りやすいように噛み砕いて教えた母さんが凄いのか…

いや…便利なんだよ?凄く。体力のアップには向かないけれど技術や知識のレベルアップにはね。


そう言えば、ソラって最初の人生で結局小学校には通えず終いだったんだよな。

その所為か、実際生きた年月ならとっくに三十路を超えているのだが、何処か嬉しそうだった。


さて問題の魔法についてだが…

結果から言うと隠し通せませんでした…

そう、アレはなのはが小学校に上がったころの事。

あ、ついでに言っておくとソラもなのはと一緒に聖祥に通っています。

その日、久遠と母さんが珍しく両方家にいなかった日。

俺とソラは買い物に出ていて少し家を空けいた俺が帰ってきて見たのは手に魔法の杖を持ちバリアジャケットに身を纏ったなのは。

はい?どゆこと?

「なのは!?」

「あ、お兄ちゃんお帰り」

「あ、うん」

ってそうじゃなくて!

「ど…どうしたの?それ」

「えっとね…」

少し眉根を下げて言いよどむなのは。

「あの…その」

と、しどろもどろになっている所に別の所から声がかかった。

『すみません、説明は私が』

と、なのはのもっている杖のクリスタルコアの部分がピコピコ光ながら会話に混ざってくる。

「えっと?君は?」

『レイジングハートと申します』

な!?なんだってーーーーー!?

俺はその展開に数秒意識が涅槃に旅立つ寸前まで逝ってしまった。

何とか戻ってきたけれど…

さて、レイジングハートの話をまとめると、自分は俺の父さんに作られて、出荷される寸前に父さんがルナの製作に没頭してしまったために出荷されずに忘れされれたまま父さんは死亡、そのままずっとラボでホコリを被っていたらしい。

まじっすか!?

まあラボは生前の父親が散らかし放題で物が乱雑に積み重なっているような所だ、俺もデバイスの理論書などを引っ張り出してはその辺に積んだりして整理整頓などとは無縁の状態だったからね…出荷先はスクライア一族だったようだ。

って!レイジングハート造ったのって父さんだったの!?

本来ならこれがめぐりめぐってユーノの所に行きなのはの手に渡ったと?

製作されてから使われる事も無く十数年、このまま埋もれてしまう事に恐怖を抱いたレイジングハートは初期起動用にと込められていた微々たる魔力を最後の望みと誰かとコンタクトを取ろうとしたようだ。

普段は決して立ち入り禁止と書いてある部屋(ラボ)へは侵入しないなのはも何かもの悲しい声に惹かれるように入室しレイジングハートを発見、自分は魔導師の杖で使ってくれる相棒が欲しいとリンカーコアを持っているなのはに懇願、試しにセットアップした所に俺が帰宅して今に至る。

まあ、まとめるとそんな感じ。

『お願いします私をなのはの杖にして下さい。杖として生まれたからにはちゃんと魔導師に使って欲しいのです』

「お兄ちゃん、わたしからもお願い。レイジングハートを取り上げないで」

いや取り上げるも何も元からレイジングハートはなのなのデバイスな訳で…







その日の夜、俺は部屋で黙考していた。

どうしようかね、なのはが別物になって久しい。

「アオ、入るよ」

「ソラか」

とことこと俺の部屋に入り俺のベッドへと腰掛ける。

「考え事?」

「まあね」

「また原作が~とか?」

「ソラ?」

「わかるよ。ずっと一緒に居たんだもの。アオの考えている事くらい」

いつもそばに居たソラにはお見通しだったようだ。

「私は自分の行動に責任がもてるのならば、この世界で何をしたって良いと思っている。じゃないと私たちはここに生きていない事になっちゃう」

「そうなのかな?」

「アオは難しく考えすぎ。もっと単純に生きても良いと思う」

それだけ言うとソラは俺の部屋を出て行った。

確かに俺は今までトリステインのこともあってか原作に拘りすぎていたのかもしれない。

ソラの言葉は俺の胸に大きく響いた。
 

 

第二十九話

さて、魔法を知ってしまったからはなのはは御神流の修行と平行して魔導師としての修行もしています。

勿論講師は俺だ。

あの後あっさり俺とソラも魔導師だということがなのはにばれました。

というかレイジングハートがばらしました。

首から下げているルナを見れば直ぐに解ったそうです。

さてここまで原作を逸脱して行っているが更に変更されたのが魔法の術式だろうか…

最初は円形の魔法陣のミッドチルダ式の魔法だったのだが、「お兄ちゃん達と一緒がいい!」という理由で近代ベルカ式の魔法に乗り換えてしまいました。

なのでなのはが魔法を使うときに現れる魔法陣は三角形の魔法陣です。

しかも砲撃も得意ではあるのですがどちらかと言うと接近戦を好む戦いぶりです。

バインドで拘束した後にチャージショットを撃つくらいなら近づいて切る!だそうです。

勿論俺はディバインバスターやスターライトブレイカーを教えましたよ?

しかし、実戦形式の訓練で使ってみた所チャージ時に隙があるディバインバスターは撃つ前に潰される(潰したのは俺だが)は、スターライトブレイカーは移動しながらは打つ事が難しいなどの欠点が浮上。

挙句の果てには誘導弾、ディバインシューターすら誘導性なんて無視、速度重視で拳銃の速さほどを数を打ち出す方が効果的だという始末。

…まあ、銃弾を避けることが出来る御神の剣士に誘導弾はのろ過ぎるから仕方が無いのだけれど。


その結果レイジングハートに魔改造が入りました…

付いてなかったカートリッジシステムを取り付け(なぜかリボルバー型でとお願いされた)材質を一新。

最早最初の面影はカラーリング位しか有りません。

基本は槍型なのだが、ツインセイバー形態も取り入れています。

バリアジャケットも大幅に改善されて、なんていうか、まあ…ぶっちゃけリオハート。

まあ、似合ってるからいいんだけど…

その結果、なのはは原作開始あとわずかと言った小学三年生の春…神速を使える上に魔導師として空戦までこなす化け物に魔改造されてましたorz

更にいえば剣士として軽く恭也さんの上を行ってます…

俺やソラ、母さんが神速(瞬間的に自らの知覚力を爆発的に高める技術)…まあ俺の場合は写輪眼も使っているけれど…それを使いながら常人では知覚できないような速さで打ち合いをしていたのだが、それに付いていけなかったなのはが母さんに教えを乞い、影分身での修行もさることながら本人の多大の努力により見事に神速を会得、ぶっちゃけ念で自身を強化できるなのははガチで戦ったら高町家最強です…

恭也さん?いやいや膝の壊れている恭也さんでは神速使ったなのはに勝てませんよ?

士郎さんなら経験の差で負けるかもしれませんが、なのはは念が使えるんです…打たれ強い上に自身の攻撃は念で強化されているのだ、相手の獲物をへし折った上で致命傷ですよ?

あ、そうそう。流石になのはが御神流を習っている事は士郎さんが復帰して家庭に戻ってきた頃に即ばれましたよ?

なので最近は兄、姉、父親と一緒に稽古することもしばしば。

なのはが幼い割には覚えが良いのを複雑そうに見つめている士郎さん印象的でした。

まあ、念や魔法のことは秘密だと口をすっぱくして注意しているし大丈夫かな?

なのはの性格的な部分はどちらかと言うと「とらハ3」のなのちゃんを少し甘えん坊にした感じ。

ただ甘える対象が実の家族ではなくて俺達親子だと言うのが多少問題だけれども。

なのはは俺や母さんには結構わがままを言ってきたりするし、喧嘩や言い争いなんかもしょっちゅうだ。

しかしその反面、桃子さん達には少し遠慮してしまう。

まあ、幼少のころ、一番構って欲しいという期間をずっと俺達家族と過ごしてきたのだ、それは致し方ないことだろう。




さてそろそろ原作開始の時期である。

が、しかし。不安材料は魔改造なのは様…

もはや原作通り初戦でフェイトに負けるなんてありえないレベルです…どうしよう…


「黒い毛玉の妖怪?」

「うん、今学校でかなりの噂になっているの。夕方人気の無い道で何人か襲われたみたい」

なのはがいつものごとく内で朝食を食べていた時にそんな話題が出た。

と言うか最近殆どうちで食べてないか?

「それは怖いわねえ。襲われない様に注意しなさいねソラちゃん、なのちゃん」

と、母さん。

「私もクラスでそんな噂を聞いたよ」

と、ソラ。

「て言うか、ソラたちなら返り討ちだろうに…」

「アオ?」

「おにいちゃん?」

笑顔でプレッシャーを掛けてくるソラとなのは。

「ごめんなさい…」

耐え切れずに俺はなのは達に謝った。

「まあ、それはいいんだけれど、最近なのは、内に入り浸りになってないか?桃子さんとか寂しがっているんじゃ?」

「そうね、私はなのちゃんが泊まりに来てくれたほうが嬉しいのだけれど、やっぱり寂しいと思うわ」

母さんも俺の言葉に同意する。

「…えっと、なんか最近凄く強いライバルが現れる予感が」

フェイトですね、わかります。

「それと内に泊まるのと何の関係が?」

「あらあら、あーちゃんは解ってないのね」

「?何が?」

素で返す俺に呆れ顔の母さん。

「はぁ…だめだわ、なのちゃん。もっと頑張らないと」

「…はい」

母さんの言葉に盛大にため息を吐くなのは。

「でもまあ私もここの所不穏な空気を感じるから、あーちゃん」

「何?」

「今日からしばらく放課後はなんちゃん達を迎えに行きなさい」

「え?お兄ちゃん迎えに来てくれるの?」

「な!?なんで!?」

「行きはスクールバスだけれど帰りは徒歩だもの、心配だわ」

行き成り自分の名前を呼ばれた久遠が食事を中断して此方を向いた。

「なのちゃんもあーちゃんの方が嬉しいでしょう?」

「うん」

満面の笑みで答えるなのは。

その笑顔に負けてしまった俺はしぶしぶ向かえを引き受けたのだった。


放課後、俺はなのはを迎えに聖祥大学付属小学校の校門前まで来ている。

ついでに言うが俺は今14歳海鳴中央の二年生だ。

なので校門前で待っているのだが行きかう人たちの視線が痛い。

今日は久遠も一緒なので尚更だ。

その視線に耐える事数分。

「お兄ちゃーん、くーちゃーん」

「アオ」

と、勢い良く走り寄ってくるなのはとソラ。

「おう、迎えに来たよ」

「ありがとー」
「ありがとう」

ポフッと俺の腰に抱きつくなのは。

「なのは、ずるい」

「えへへ~」

ソラの抗議を受け流しながら抱きつくのを止めないなのは。



俺達は四人で海岸通りを徒歩でなのはの家に向って帰宅する。

三人が談笑しながら俺の前を歩いているのを眺めていると、前方に黒い毛玉が浮遊しているのが眼に入った。



なのはが気づき指を挿すと、それにつられて俺達の視線も移る。

「あの黒いまん丸なのはなんでしょう?」

なのはが指差した先にいる三メートルほどの巨大な何か。

「も、もしかしてアレが?」

ゆらゆら揺れているように実態があやふやなこの世界には居るはずの無いもの。

真ん中にあった獣のようなまぶたが開き此方を睨んでいる。

Gruuuuuuuuu

低く唸ったかと思うとその体に似合わず高速で一直線にこちらに向って突っ込んできた。

『ディフェンサー』

俺の胸元で待機状態のソルがすぐさま進路上にシールドを展開する。

ドガッと衝突音がした後にシールドを爆破して押し返す。

その隙に。

『スタンバイレディ・セットアップ』

一瞬の発光のあと、俺の服装が変わる。

ソラとなのはも見合わせて頷き。

「レイジングハート」
「ルナ」

「「セーートアップ」」

すぐさま二人も臨戦態勢に移行する。

そして俺はすぐさま結界を展開して時間の流れをずらす。

これで一般人に被害を出す心配はないし、化け物を結界内に閉じ込めることに成功した。

『サンダースマッシャー』

「ファイア」

迫り来る毛玉にソラがサンダースマッシャーを放ち牽制。

「ソラちゃんナイス!はぁっ!」

なのはは縦横無尽に飛び回りながらも一気に毛玉に飛び入っていって一閃。

「俺達何もすること無いな」

「くぅん」

側に居た久遠に愚痴りつつ、戦闘を眺めていると、切り裂かれた毛玉は霧散して、中から青い菱形の宝石のような物が三つ現れた。

「なんだろう?この宝石」

なのはは手に取った宝石を物珍しそうに眺めている。

「お兄ちゃん、これなんだか知ってる?」

「いや、知らないよ」

知ってるけど、言える訳無い。

【アオ、本当は?】

【…ジュエルシードと言う古代遺産。願いを捻じ曲げてかなえる危険な宝石。それ自体にも高密度の魔力が宿っているから取り扱いを間違えると世界が滅ぶかも】

【………本当に?】

【本当に…】

さて、そのジュエルシードはどうしようかね?

つかユーノはどこに行った?

念話が届いてきてもいいはずなんだけど?

その時の俺は失念していた。

家の敷地を囲むように今は亡き父さんが微弱な結界を張っていた事。

そのユーノが念話を飛ばしてくるであろう日の夜に、なのはが家に泊まりに来ていた事を。

さらに言えば、なのは達とは昼間でも割りとしょっちゅう念話をつないでいるので、微弱な広域念話は繋がりにくくなっていた事を。



side ???

さて、とりあえず自己紹介をしておく。

俺の名前はエルグランド・スクライア。

気軽にエルとでも呼んでくれ。

この名前で気づいた人もいるかもしれないが、そう俺はどうやら『リリカルなのは』のスクライア一族に転生したようだ。

転生した当初は驚きもしたけれど、その後の歓喜の猛りぶりをどう表したら良いか。

だって『リリカルなのは』は前世で凄く好きな作品のひとつだった。

もちろんその主人公達も。

神様、この世界に転生させていただいた事を心から感謝します。

しかもどうやら俺はユーノと同年代、つまりなのはと同い年という事だ。

それを確認してからの俺はどうなのは達に関わっていこうかあれやこれや考えた。

しかしまあ、ここはユーノの代わりに俺が地球に行くしかないっしょ!

ジュエルシード発見の知らせを聞いて俺はついに原作開始を悟った。

むふふふっ

ジュエルシードの届出の役をユーノから無理やりぶん取り、いざ次元航行船へ乗り込む。

そして予定通りプレシアに次元跳躍攻撃を食らい、地球へとジュエルシードが散らばっていった。

まさに計画通り!

後は原作通りに丸い奴に魔法をひと当てしてフェレットになって助けを求めれば完璧。

インテリジェントデバイスも自分用となのは用の二つを準備した俺は勝ち組。

俺の魔力はSSSオーバー。ぶっちゃけこの丸いのに負けるはず無いと思ったのだが、…魔力結合がうまく行かないとかね。

そんな所はユーノを真似たくなかったんだけど仕方ない。

数日もすれば適応するだろ。

さあ、後は広域念話をするだけだ!

【助けて…】

ふっふっふ!これで後はこの俺を助けになのはが…

夜が明け、日が昇り、日は傾いて、もうすぐ夕方だ。

あれ?来ない?

一日待ってみた。

しかし来ない。

あれれ?

おかしいな、もう一度念話で呼んでみようか。

【助けて…】

ガサッ

茂みが揺れる音がする。

お?ついに来たか!我が麗しのなのは様。

さあ、この怪我をしている(ように見える)俺を動物病院まで運んでおくれ!

ガサガサッ

ハリー、ハリー。

もう我慢できないぜ!ちょっとくらい覗き見るのはOKだろう!

三次元のなのはの顔はどんなだろうか。

期待に胸を膨らませて首をひねるとそこにはなにやら凶悪な様相をした化け物が口を開けていた。

「なっ!」

助けを呼ぶ声を上げる暇も無く俺はその何者かに捕らわれたのだった。

side out 

 

第三十話

アレから数日、注意深くユーノからのSOSが無いか警戒していたが成果は無い。

ユーノどこ行った?マジで…

うちのなのはさんも変な夢は見てないとの事。

どうなってるんだろう。

これも俺が生まれた影響か?

そんな事は無い…と、思いたい。

さて、そんな俺の葛藤を知らずに事態はまたも予期しない方向へと進んだ。

それはその日もなのは達を迎えに行って一緒に帰宅した日のこと。

「ただいまー」

そう言って俺は玄関をくぐる。

「「ただいま」」

それに続くのはソラとなのはの声。

おい!ちょっと待て、なのは。お前は今日もうちで夕ご飯を食っていくつもりか?

と言うか泊まっていく気まんまんな気がするのは気のせいか?

そろそろマジで桃子さんが泣くぞ?

たまに会う桃子さんから「…二人目、頑張ろうかしら」と言う言葉が出るほどだったんだから。

リビングに入る。

「あの…その、おかえり…なさい」

「あ、ああ。ただい…ま?」

誰?

リビングの扉を開けたら金髪幼女に挨拶された。

「お兄ちゃん、早く入ってよー」

後ろがつかえているのか、なのはが文句を言ってきた。

「あ、ああ」

俺は体を傾けて道を作る。

俺の体を通り抜けてリビングに入るなのは。

「………どちら様?」

なのはも固まったようだ。

俺達が対応に困っているとリビングの奥の方から母さんがやってきた。

「あ、あーちゃん、なのちゃん、ソラちゃん、おかえりなさい」

「あ、うん。…そ!そんな事よりも、えっと…彼女は?」

「あ、あのね…」

言いよどんだ母さんはとりあえず俺たちをリビングへと招いた。




さて、とりあえずリビングで家族全員でソファに座って母さんの言葉を待つ。

「この子はフェイトちゃんって言うの」

うん、それはアレだ。認めたくないけど何となく一目見た瞬間に解ってた。

「うん。で?」

「以上!」

「「「「はあ!?」」」」

俺達四人の疑問の声が見事にハモった。

「いやいやいや、以上て!?他にも何かあるでしょ?何で家に居るのとかさぁ」

「……あの、怒らないでね?」

俺が母さんに何を怒るのさ。

「その子、記憶喪失なの」

「「「はあ!?」」」

なんでもいつものように散歩に出かけた昼下がり。湖の近くの林間ハイキングコースを歩いていた母さんはそこでなぜか豹のような化け物に襲われたんだって。

襲ってきた化け物はツーヘッドドラゴンを駆使してやっつけたらしい。

やっつけると、どう言った理由か子猫と青い宝石に分離したんだと。

その青い宝石を掴んで観察していると、いきなり上空から俺たちが使う魔法みたいなのが降ってきた。

振り向けばなのはやソラと同年代くらいの女の子が斧を持って飛んでいるのが見えたんだそうだ。

その子はいきなり有無を言わさず襲ってきたらしい。

ちょ、なんで母さんがフェイトとエンカウントしているんだよ!?

どんな確率だよそれ…これも俺が生まれたバタフライエフェクトの一つか?

何で襲うのか、襲われる理由は無いんだけどと言っても聞かず、とりあえず此方を戦闘不能に追い込みたいようだった。

恐らく遠目に母さんが化け物を倒したのが見えたのだろう。

それで、話し合いも出来ない間に戦闘開始。

「で?ちょっと力加減を間違えて吹き飛ばした先で運悪く頭を強打。倒れたその子を家に連れてきて介抱してたところ、目を覚ましたら名前以外の記憶が無かったと」

「う、うん…」

力なく頷く母さん。

頭痛くなってきた…なにこの状況。予想外すぎる!

「それで?どうするの?」

「記憶が戻るまで家で面倒見ようと。もちろん親御さんは探すわ。探して謝らないと。だけど手がかりが、ね」

見かけは外国人。その実ミッドの魔法技術を習得しているから異世界関係かもしれない。

そこまで母さんも分ってて警察には届けていないらしい。

「とりあえず、この子が持っていたデバイスは無いの?それが有ればいろいろ分ると思うのだけど」

「デバイス?それってあーちゃんのあの刀みたいなの?」

「そう。この子の場合は話してくれた斧じゃないかな?」

その言葉を聞いた母さんは気まずそうな顔をした後、

「あはははは、置いて来ちゃった」

と、のたまった。

あの後すぐに俺達はフェイトのデバイスを探しに戻ったが時すでに遅く、見つけることは出来なかった。

誰かが持ち去ってしまったのだろうか…

そんな訳でフェイトを交えての夕食。

記憶喪失とは言え、生活に対するあれこれや言語(なぜか日本語)や一般常識は覚えているので生活には困らないようだが、どうやらフェイトは初めて箸を使ったみたいでうまく使えていない。

「あ、あう…」

見よう見まねで箸を使おうとするがうまく行かず、かわいい声がこぼれた。

まあ、仕方ないわな。

俺はすばやく立ち上がるとフォークとスプーンを探してきた。

「今日のところはこれで食べれ。明日からは矯正箸を買ってきて練習だな。付き合ってやるから」

「あ…ありがとう」

顔を真っ赤にしながらフォークとスプーンを受け取ったフェイト。

「や、やばいの。あれは堕ちたと思うの…」

「なのは…」

「ソラちゃん。強敵現るかもしれないの」

おい其処、何を言っているかね。

こんなのでフラグが立つわけ無かろう。

俺に~ポ系スキルは無いぞ。…ものすごく欲しいけどね。

これはアレだ。自分だけ使えないのが恥ずかしかっただけだろ。

「あらあら」

母さんも、駄目ねこの子見たいな顔で俺を見るな。

夕食も終わり、俺たちは母さんを襲ってきた怪物の事について話し合った。

俺たちも以前に同様の怪物に襲われた事。

倒したら宝石が現れた事。

複数個あることからまた同様の事が起きるのではないだろうかと言う事等。

どうしようかねこの状況。

もはや原作なんて当てにならん状況。

なのはは魔改造されているし、フェイトは記憶喪失で現在家にいる。

ユーノは現れず。

あ、そう言えばフェイトの使い魔のアルフはどこだ?

こう考えると問題が山積みで頭が痛い。

ん?ちょっとまて、これって半分は母さんの所為じゃね?

最大のイレギュラーは俺じゃなくて母さんだった罠。

とりあえずジュエルシードの事は出来る限り俺達で回収する事になりましたよ。

回収しないわけにもいかんだろう。

放置すると一般人に被害が出るしね。

さて、就寝といった時、フェイトをどうするのかと言う問題はまあ、母さんがフェイトを自分のベッドに連れてった事で問題は解決。

明日にでも客間を使えるようにしなければならんなと思いながらその日は就寝した。

side 紫

私は今、フェイトちゃんと一緒にベッドに入り、先に眠ったフェイトちゃんの髪の毛を手ですいている。

最初は恥ずかしがっていたが、問答無用でベッドにあげた。

しばらくするとすぐに寝息を立てていたが、無意識の行動だろうか、フェイトちゃんは私に抱きつくようにして眠っている。

フェイトちゃんとお風呂に入ったときに見つけたまだ直りきっていない擦り傷や青あざ。

あれは鞭のような物で叩いた傷だ。

さらに懸命に私に回されたその腕の余りの必死さに私は何となくだけど分ってしまった。

この子は両親に愛されていなかったのではないか?と。

それは余りにも辛い。

私はフェイトちゃんを抱き返して眠りについた。

side out


side アルフ

フェイトどこ!?どこだい?どこにいるんだい!?

あたしは若干パニックになりながら夕闇に染まった街を走り回る。

少し前、ジュエルシードを発見して、本当はあたしも着いていきたかったけれど、エリアのサーチがあったから我慢したんだ。

まあ、そのお陰で発動前のを一個手に入れたんだけど、その後だ。

あたしはフェイトに念話を繋ごうとしたが、一向に繋がる気配が無い。

念話が繋がらないのは拒否されているか…意識が無いか。

フェイトがあたしからの念話を拒否するわけ無いからそれは意識が無いって事だ。

あたしは駆けた。フェイトの魔力の残滓を辿ってたどりついた林の奥。

なにやら戦闘があったと推察できる地面の抉れ。

あたしが必死に辺りを探すと、其処にフェイトの杖、バルディッシュが落ちていた。

あたしは駆け寄り拾い上げ、バルディッシュに問いかけた。

「何があったんだい!」

バルディッシュが見せてくれた戦闘時の映像には20を少し過ぎたくらいの女性と戦闘しているフェイトの姿が。

カウンター気味に当てられた嘗手で吹き飛ぶフェイトが何かに当たって気絶した。

気絶したフェイトを女性は何か焦ったような感じで抱き上げて連れ去っていった。

その時、手から離れていたバルディッシュは回収されずに残っていたと言う事だ。

あたしはその映像を見て怒りで体が沸騰するのが感じられる。

必ず見つけ出すから!待ってて、フェイト!

side out

都合のいい事に次の日は土曜日で、未だ学生の身である俺は休日である。

さて、その休日をいかに過ごしているかというと…ぶっちゃけ荷物持ちです。

預かる事になったフェイトの日用品から下着、洋服まで一通り揃えようとデパートまで来ている。

父親が残してくれた遺産があるため、多少の余裕はある。

なのでとりあえず御神一家総出で買い物へ。

まあ、そこにいつものようになのはが居るのはご愛嬌。

「あ、この服可愛い。うん、フェイトちゃんに似合うと思うよ。ねーソラちゃん」

「本当だ、可愛い」

「あの、私はもっと落ち着いた色の方が…えと、これみたいに」

まだ一日しか経っていないがどうやら女の子同士打ち解けたようだ。

しかし…仲が良いのは良い事なんだけど…うん、もう原作にあるフルボッコから始まるお友達の展開は望めないかも。

ちょっと見たかったんだけどなぁ。ファンとしては。

「えー?こっちの方が似合うと思うけど。お兄ちゃんはどう思う?」

「ん?フェイトは確かに黒が似合う、だが若い時から黒ばかりだと損した気分になるから明るい色も良いと思うぞ」

バリアジャケットからして黒っぽいし、私服も黒っぽいイメージが確かにあるね。

でも、明るい色も似合うと思うんだ。

「あ…う、それじゃ、それ着てみるね」

そう言ってなのはに進められた服を持って試着室へと入っていくフェイト。

数分してカーテンが開けられた。

「どう…かな…」

顔を真っ赤にしつつ感想を聞いてくるフェイト。

「わぁ、似合ってるよフェイトちゃん」

「うん、確かに似合ってるね。かわいい」

「あ、あう」

ぷしゅーっと音が出るのではないかという位真っ赤になってから、

「こ!これにします!」

そう言って勢い良くカーテンを閉めた。

むむ、もう少し見ていたかったのだが…まあ、その内家で着てくれる機会もあるだろう。

その後、食器やタオルなども買い、帰宅した。


さて、帰宅した俺は買い物袋の中から買っておいた矯正箸と小豆を取り出す。

取り出した小豆を皿に盛り、もう一つ空の皿を用意。

「さて。フェイトー、ちょっとこっち来い」

「あ、はい」

まだ遠慮が残る声で返事をしたフェイト。

「箸の使い方の特訓をするよ。まあこの箸は正しい持ち方が出来るように開発されたものだから、頑張ろう」

「はい」

元気良く返事をしたフェイト。うん、いい返事だ。

「何やるの?」

興味を引かれたなのはやソラが近づいてきた。

「定番と言ったらこれだろ。小豆移し。皿に盛られた小豆を一個ずつ隣の皿に移動させていく。これが出来るようになればもう怖いものは無いよ。あ、そう言えばなのはもすこし持ち方がおかしいか?」

「にゃ?私は大丈夫だよぉ。ささっ!フェイトちゃんやってみよう」

話が自分に向いた瞬間に急いで話を反らしたなのは。

「まあ、今回は左利き用の矯正箸は買ってこなかったからな。また今度ってことで、フェイト?」

やるぞーと声を掛けて矯正箸を持たせる。

「それじゃ、よーい、始め!」

もくもくと目の前の小豆と格闘するフェイト。

最初のうちはフルフル震えながら一個移動させるのも時間がかかっていたのだが、繰り返すうちにだんだん時間が短くなっていく。

しかし驚異的なのはその集中力。

普通ならば飽きてしまうだろう作業を凄い集中力を持ってやっているので上達も早い。

これならすぐにマスターするだろうて。

案の定、フェイトは一週間もかからないうちに何でも箸で食べれるようになっていました。
 

 

第三十一話

さて、フェイトが家に来てから一週間。

その日俺達が学校で授業を受けていると、授業中にもかかわらず携帯に母さんからメールが入った。

先生に隠れて携帯のメールを開いてみると、内容はどうやらすぐに帰って来いとのこと。

すぐにと言われても今は授業中な訳なんだけど。

とりあえずその旨を返信すると、すぐさま返信。

緊急事態に付きすぐに帰って来いとの事。

まあ、幸いにも俺は一番後ろの席で、丁度いい事に教室の後ろの扉が人一人出入りできるくらい開いている。

ふむ、行けるかな。

俺は『絶』で気配を絶つと先生が黒板に板書している隙を付いて廊下に躍り出る。

うまく行ったようだ。

俺はすぐさま玄関に向かい、外履きにに履き替えると急いで家路を駆けたのだった。


さて、家に帰ってきた俺だが…うん、これは親に言う言葉ではないが言わせてほしい。

またお前かっ!!!


家に帰った俺を出迎えたのは血相を変えたフェイト。

助けてくださいと腕を引かれてリビングへと移動すると、其処には新聞が広げられ、その上で包帯を巻かれて息も絶え絶えな様子のオレンジ色の大型犬が…

アルフじゃねえか!

「お願い、あーちゃん。何とかして!」

丸投げかよ!

つかなんでアルフはこんなにボロボロなんだよ!?

混乱の渦中に居た俺を引き上げたのはフェイトの声。

「アオ…」

「くぅん…」

久遠まで…

うっ、そんな表情で俺を見ないでくれ。何とかするから。

まあ、フェイトにしてみれば多分俺なら何とかなるんじゃないかという母さんの期待を感じているだけだろうけれど。

「分ったから!」

「あーちゃん、はやくはやく!」

「母さん霧吹きってどっかにあったっけ?」

「霧吹き?えっと…確か」

家の中をうろちょろする母さんが最終的に持ってきたのは市販されている除菌消臭ができるあれ。

「大丈夫、ちゃんと洗ってきたわよ」

…いいんだけどね。

俺は一瞬右手の上に十拳剣の瓢箪を顕現させて、一滴だけ霧吹きに入れる。

そのまま台所まで行って水を足してよくかき混ぜるとおよそ40cmほど離れた所からアルフに向かって吹きかけた。

しゅっしゅっと吹き付ける霧が当たると、途端にその体から傷が消えて、血の気が戻ってくる。

…しかしシュールな光景だ。

持っているのが無地の霧吹きではなく市販品なアレの為に、汚物を消毒しているような…

俺の精神的な葛藤は置いといて、意識は戻ってないがアルフの容態も落ち着いた所で俺は母さんに事の顛末の説明を求めた。

今日はお買い得品があるからとフェイトと久遠に留守番を頼んでスーパーのチラシを片手に出かけていたんだと。

買い物も終わり、少し近道しようと海岸の遊歩道を歩いていたとき突然大型犬に襲われてしまったらしい。

先日のこともあるし、良く見ると額に宝石のようなものが埋まっているのが見えた為、またあの宝石のせいだと思ったんだそうだ。

ならばと母さんは反撃。アルフの惨状と、母さんの具合を見れば分る様に一方的にボコボコにしたんだろうな…

止めを刺そうとしたときに朦朧とした意識で呟いた一言が「フェイト…ごめん」だったそうだ。

その言葉を聴いた母さんは大慌て。

急いで担いで家まで戻って、フェイトに手伝ってもらいつつ応急手当。しかし状況は改善しなかったから直ぐ様俺を呼んだと。


そろそろアルフの傷も塞ぎきっただろうか。

朦朧としていた意識が覚醒したようだ。

「うっ……ここは?っフェイト!」

フェイトはどこだ!?とガバっと起き上がり、母さんの隣で心配そうにアルフを見ていたフェイトを発見した。

「フェイト、無事で良かったよ」

瞬間的に犬から人型に変身してしっかりとフェイトを抱きしめた。

「あ、あの…」

しかし、記憶喪失のフェイト自身は困惑の表情。

フェイト!フェイト!と、涙を目にいっぱいにためてフェイトの存在を確かめている。

しかし、それも直ぐに変わる。

今度はぐるるっと喉を鳴らしながら母さんを威嚇した。

しかし、それもフェイトの次の発言まで。

「あのっ!…あなたはいったい誰ですか?」

「え?…」








ショックで体が硬直しているうちに此方の事情を有る程度説明。

記憶喪失である事、今は俺達が保護している事。

後は親御さんを探している事。

母さんが襲われて、正当防衛で反撃したら当たり所が悪かった不慮の事故だった、と。

襲われて~のあたりは余りフェイトに聞かせるものでもないので俺が念話で伝えた。魔導師である事に驚いていたようだが…まあ、今は関係ない。


さて、今度はアルフの番。

「あたしはフェイトの使い魔さ。フェイトと一緒にくそババアの命令でこの世界、地球にジュエルシードを探しに来たのさ」

「ジュエルシード?」

母さんが質問する。

「青い宝石みたいなやつさね。あたしらもそれが何なのかは分らない。ただ集めて来いって言われただけだからね」

ただ、幾つあるか位は知っていたようだ。

「そう、まだそんなに有るのね」

手元にあるのは4個。先は遠そうだ。

しゃべり終えるとアルフは疲れたのかまた犬の姿になって気を失ったようだ。

「フェイトちゃん、久遠、ちょっとその子見ててね」

「あ、はい」
「くぅ!」

母さんは後をフェイトと久遠に頼むと俺を連れてリビングから移動した。

誰も聞いていない事を確認すると母さんは俺に話しかけてきた。

「あのアルフって子ならばフェイトちゃんの保護者に会えるわよね?」

「多分」

「そう…でも、今のフェイトちゃんを帰していいものか、悩むわ」

「どういう事?」

それは記憶喪失だからか?

「……最近フェイトちゃんと私が一緒にお風呂入っているのに、なんでなのちゃん達を呼ばないかわかる?」

うん?

「あの子の体に虐待の痕を見つけたからよ」

ああ、なるほど。プレシアからの折檻か。

「ああ、それで俺と一緒にお風呂には入ってくれない訳か」

まあ、未だに俺と一緒に入ろうとするなのは達の方がおかしいんだが。

「…それはまた別の問題だと思うけれどね」

一瞬呆れたような顔をしてから表情を真剣なものに戻した。

「あの子、両親から愛されていないんじゃないかしら。今も私を放さないようにぎゅっと抱きしめて眠っているわ」

まず彼女は片親なんだが、それは原作知識が無ければ分からない事だ。

まあ、原作知識を見るに愛されてはいないわな。プレシアにしてみればよく出来た偽者なわけだし。

「だから私、先ず一人で両親に会いに行ってみるわ。そこでちゃんとお話してくる」

母さんはこんな俺達でも自分の子として受け入れてくれた愛情深い人だ。そんな人が幼児虐待を見過ごせるわけ無いか。

「ん、分かった。でも、俺も行くよ。相手が魔導師って事も有りえるだろうし、話がこじれてって事もありえる」

母さんが負けるとは思わないけれど、危険なものは危険だ。

「うん、お願いね」

と言うか最初からそのつもりで俺に話しを振ったくせに。

それから数日後、アルフの体調が元に戻ったのを確認して俺達はフェイトの母親、プレシアに会いに行く事となる。



side アルフ

あたしがこの御神家に来てしばらく経つ。

最初の内はフェイトが記憶喪失だという事であたしはかなり混乱していた。

あたしの事を全く覚えていないフェイトを見るのは辛かった。

けれど、それと同時にあんなに笑顔を見る事が出来るとも思わなかったのだ。

そう、今のフェイトは良く笑う。

それは相手に心配させないための演技では無く、心の其処からの物。

以前のフェイトが失っていたものだ。

それもすべてあのババアの所為だ。

そう考えると記憶は無いが今のフェイトは幸せそうだ。

フェイトの幸せ、それはあたしがフェイトに求めたものでもある。

このまま記憶を無くしたままの方がフェイトは幸せなのかもしれない。

そう考え始めた頃だ、御神紫がフェイトの母親に会いたいと言って来たのは。

あたしは考えた。どれがフェイトにとって最良の選択なのか。

だけど頭の悪いあたしじゃ考えても分からない。

しかし、目の前に居る御神紫はフェイトのことをちゃんと考えてくれている人。

ならば悪いようにはしないかもしれない。

そう思ってあたしはしぶしぶあの糞ババアの所へ御神紫と御神アオを案内したのだ。

side out


さて、やってきました時の庭園。

そう、プレシア・テスタロッサの居城だ。

アルフの転送魔法で高次元内にある城まで直接転移してきたのだ。

「大きいところね」

ここに来ての感想がソレとは恐れ入る。

俺としてはこの高次元空間の光源がどこから来ているのかが疑問です。紫色に光ってて気持ち悪っ!

正門に着くと何も触れていないのに勝手に扉が開いた。

「入ってこいって事ね」

「多分」

俺たちは城の中に脚を踏み入れた。

「こっちだ」

アルフの案内で通路を進む。

そして案内された部屋には椅子が一つしかなく、その椅子にいかにも悪役といったポーズで一人の女性が座っていた。

まあ、ぶっちゃけ何ていうの?玉座の間?ラスボスの間?なんかそんな感じだけど、実際にこんな部屋があったら引くわ…

どっしりと玉座に座っているプレシアが此方をきっとにらみ付けていかにも不快だと言う感情を隠しもせずに話し出した。

「アルフ…フェイトはどうしたの?」

「フェイトは…」

「その質問には私が答えるわ」

言いよどんだアルフを制して母さんが言葉を発する。

「貴方は?」

うろんな目が母さんを見る。

「私は御神紫と申します。今現在諸事情により貴方の娘さんを預かっているものです」

「預かっているですって?」

「はい」

それから母さんは出来るだけ相手を刺激しないように言葉を選びながらフェイトの現状を説明する。

「記憶喪失?…本当に使えない人形ねぇ。本当にどうしようもない子…」

「人形?」

「ええ、あの子は私が作ったお人形。それ以上ではないわ」

人形。まあプレシアの愛はすべてアリシアに向いている。本当にフェイトへの関心は薄いんだな。

まあ、今の台詞だけ聞いても普通意味は分からないだろうけれど。

母さんを横目でうかがうと、その表情に般若が浮かんでいるようだ。

やばい!母さんが切れそうだ…

「人形?今自分の娘を人形って言ったの!?」

「ええ、言ったわ。あんな子私には要らないもの。あの子に価値なんて毛の先ほども無いわ」

母さんから感じられる不穏な空気。

実際に体内から発生した大量のオーラが指向性を持たずに当りを圧迫している訳だが、普通にプレッシャーが常人には耐えられないほどに膨れ上がっている。

隣に居たはずのアルフなんて飲まれて尻尾を丸めて震えている。

しかしどうにも精神が既に壊れかけているプレシアにはどこ吹く風のようだ。

その有り余る愛情から来る怒りを何とか押しとどめ冷静さを取り戻す。

「じゃあ、私に娘さんをください」

「「はぁ!?」」

あ、アルフとハモった。

って、まてまてまて。

今母さん何て言ったよ。

くれって言ったのか今!

なんか台詞だけ聞くとプロポーズ後の男性が彼女の両親に言う台詞みたいだな。

プレシアはなにやら考えるそぶりを見せた後、

「いいわよ」

と、答えた。

ちょっ!いいのかよ!

「ただし、ジュエルシードを私の所まで持ってきなさい」

「ジュエルシード…幾つですか?」

母さん!そこは何で必要か理由を聞くところじゃないのか!?

「そうね全部…と言いたいけれど、最低12個、それ以上あると嬉しいわ」

それだけ聞くと母さんは不快だという感情を隠そうともせずにきびすを返し、時の庭園を後にした。


所変わって御神家。

リビングに全員集まって家族会議。

「と、言うわけで。今日からフェイトちゃんはうちの子になりました。皆さん拍手」

わー、ぱちぱち。

俺は心の中だけで拍手した。

ソラ、久遠、なのはは皆ぽかん顔。

ぱちぱち

おや?拍手をしているのは誰だ?と視線を向けるとフェイト。

うっ…素直な子だね。

しかも多分今母さんが言った言葉の意味をよく理解してないんじゃないか?

「ちょっと、母さん!うちの子ってどういう事?」

「そ、そうだよね?行き成りだよね?」

ソラとなのはが混乱しながら質問した。

「いらないって言うから、頂戴って言った。後悔はしていない」

「「はぁっ!?」」

「だから、フェイトちゃん」

「はい」

おどけた表情から真剣な、それでも優しさあふれる表情で母さんはフェイトに向き直る。

「あなたは今日から御神フェイトよ。いい?」

「え?あっ…はい!」

うわぁ…母さん強引に押し切ったよ。

フェイトもなんだか嬉しそうな気がするし。

記憶が戻らない事を切に願うよ、まったく…

詳しい話はフェイトの記憶が戻ったときか、成人したら話すと言う方向で纏めた。

母さんの説明に、またもやぽかんとしていた二人を置いて話は進む。

「それでね、ちょっと母さん必要なものが出来たから二人にも手伝ってほしいんだけど」

「え?あ、うん…」

「それはいいんだけど…」

なのはとソラがようやく混乱から少し回復。

「そう、ありがとう。それじゃあ、明日から忙しくなるわね」

「な、何を手伝えばいいの?」

「ジュエルシード集め」

なのはの問いに少しいたずらっぽい笑顔でそう答えた。 

 

第三十二話

さて、次の日から本格的にジュエルシード集めが始まった。

今までも集め様としていなかった訳ではない。ただそれは異変が有ったら駆けつけよう程度の認識だった。

しかし今は母さんの号令の下、精力的に行われている。

捜索にはフェイトとアルフも同行している。

アルフから返されたバルディッシュ。魔法技術について教えると、自分も力になれるのなら手伝いたいと願い出た。

その動機が無くした記憶から来るものなのか、懐いた母さんへの好意から来るものなのかは不明だが、フェイトは一生懸命だ。

とは言え、魔法が使えるのと戦えるのは別物だ。

記憶と同時に戦闘技術をどこかに置いてきてしまったフェイト。

しかしそこはやはり原作キャラ。少し教えただけまるで思い出したかのように物にしていっている。

まあ、原作のなのはですら初戦闘でドッグファイトをやらかしてたしね。

バリアジャケットに関しては何故か一新されている。

母さんの猛反発にあったためだ。

あのレオタードにパレオといった挑発的な衣服に、母さんから口をすっぱく公序良俗について説教されていた。

その結果、黒と金を基調としたなのはのバリアジャケットのコピー…ぶっちゃけダマスク装備に変更されている。


「フェイトちゃん!そっち行ったよ!」

なのはがフェイトに声を掛けて、注意を促す。

俺たちは今、結界内でジュエルシードの暴走体と戦闘中。

黒い大型犬ほどもある大きさのイタチと戦闘中だ。

翼は無いのに空を縦横無尽に飛び回り、俺たちをかく乱する。

「フェイト!危ない!」

フェイトに向けて突っ込んでいった黒いイタチの体当たりをインターセプトしたアルフが障壁を張ってガード。

「あ、アルフ…」

『フォトンランサー』

バルディッシュのアシストでフェイトの周りにフォトンランサーが待機する。

「アルフ!」

「あいよ!」

記憶は無くても二人のコンビネーションはばっちりなようだ。

「フォトンランサー、ファイヤ」

ドドドーンッ

着弾する魔弾。

しかし、相手にさしたる外傷は無く、フェイトに向かって突進を再開。

「あっ…」

驚いて一瞬行動が遅れたフェイトをかばうようにして俺が構えたソルで迎撃する。

振るった刃をあいては防御魔法で受け止める。

「あ、アオ!ありがとう」

「ちぃ!防御魔法だと!?」

今まで肉弾戦のみだった敵が初めて魔法を使った瞬間だった。

目の前の敵がおもむろに口を開くと、眼前に集まる魔力光。

「なっ!収束砲…」

俺はすぐさま離脱を試みる。

「GruuuuuuuuuuuGaaaaaaa」

爆音もかくやといった鳴き声と共に打ち出される砲撃魔法。

間一髪のところで何とかそれを避けることに成功した。

「「ディバイーーーーンバスターーーー」」

すかさず、なのはとソラの砲撃魔法がイタチに襲い掛かる。

「やった?」

「いや、まだだ!」

砲撃による爆煙が晴れるより早く、此方めがけて砲撃が飛んでくる。

「わわっ!」

慌てながらも難なくよけるなのは。

四方八方に砲撃を発射しつつけるイタチ。その魔力が尽きる様子は無い。

此方もかわしながら砲撃主体で戦っている。

俺達が苦労して地面に打ち落としたイタチに母さんが神速を駆使して近づいて一閃。

「はっ!」

「Gyaoooooooooooooo」

胴体が泣き分かれて苦悶の叫び声をあげる。

しかしそれも一瞬。

直ぐに再生して母さんに襲い掛かる。

「母さん!」

しかし、其処はやはり母さん。

瞬間的に神速を発動して射程から離脱した。

「アオ」

どうするの?とその表情が問いかけている。

「しかし、決め手に欠けるな。攻撃と防御に使われている魔力量が半端無い。少なく見積もってもS、それ以上かも知れない」

「そだね、今もなのはとフェイトが二人掛りで攻めているけれど、バスター級の魔力でもその防御を抜けれない」

「攻撃が通ったとしても魔力ダメージ以外は即再生。…まいったね」

俺の記憶が確かならこんな厄介な敵は原作には出てきて無いと思うのだけど…

「手段はいくつかあるね。建御雷で燃やし尽くす。ブレイカー級の魔法で吹き飛ばす。後はスサノオで封印」

「スサノオは…ね。原生生物を取り込んでいるから、そんな事をしたら確実にその生物を殺してしまう。最善は魔力ダメージって事になるけれど…アオの念能力で巻き戻すってのは?」

それも有りなんだけどねぇ

「相手がすばや過ぎる。設置型バインドをばら撒いているけれど、どうも野生の勘か何かで避けられている感じがする」

思考しないで本能で動いているような化け物に思兼も少々効果が薄い。

「ならばそれを逆手に取ったら?」

ふむ。それはなかなか。

と、考え事をしていると結界内部で急速に魔力が高まる気配を感じる。

「っこれは!?」

「ジュエルシード?もう一つあったの!?」

遠目になのはやフェイト、アルフも感じ取ったのか、そちらに気を取られている。

戦闘区域の端の方で、今にも発動しそうなジュエルシード。

「GRuuuuuuGAAAAAAAAAAAAAA!」

鼓膜を突き破るかのような鳴き声を発したかと思うと、発動直前のジュエルシードめがけて進路を変えて一直線に飛んでいく。

「まずい!」

俺はすぐさまジュエルシードの確保に向かう。

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

ソラは俺に併走しながら砲撃でけん制してくれている。

「間に合え!」

右手を精一杯伸ばしてジュエルシードを掴み取ろうとする。

イタチの暴走体も負けじとジュエルシードに迫る。

右手がジュエルシードを掴もうとした瞬間、相手の牙も同時にジュエルシードに触れようとしている。

そして衝突。

両サイドからかけられた負荷にジュエルシードが暴走。

俺とイタチもどきは互いに跳ね飛ばされた。

まずい!ジュエルシードに衝撃は与えてはいけなかったのに!

ジュエルシードから発せられる高濃度の魔力は次元に干渉し始めている。

「Garuuuuuuuuuuuuuu」

イタチもどきは体制を立て直すともう一度ジュエルシードを飲み込もうと走り出す。

「ディバインバスター」

しかし、出鼻をなのはのバスターで大いにくじかれた。

「サンダーーレイジ」

すかさずフェイトがジュエルシードを封印する。

ジュエルシードの暴走が収まった瞬間、俺はすぐさま駆け寄り、ジュエルシードをソルに格納、そのまま反転してイタチもどきに剣を向ける。

「Gruuuuuuuuuu」

イタチもどきはうなった後、飛び去り、強引に結界を破って逃げ出してしまった。

「あ、逃がしちゃった…」

直ぐに探知魔法を起動させたが、相手の方が一枚上手だったようで終に発見できなかった。

と言うか、割と強固に張った結界魔法を体当たりでぶち抜くとは…

これは次に会うときは一撃必殺のこころづもりで行かないと駄目かも。


俺たちは一度御神家に戻り、作戦会議。

「最後、あのイタチもどきさんがジュエルシードに反応したのはどう言った理由からなんでしょう?」

と、なのは。

「俺たちが最初に倒したジュエルシードの暴走体にも複数のジュエルシードで構成されていた。恐らくだけど、自己の強化の為にジュエルシードを取り込もうとしたんじゃないか?」

「と言う事は、時間をかけるのは拙いわね。相手がどんどん強化してしまう。今のままでも梃子摺っていたというのに…」

母さんの危惧は恐らく当たりだ。時間を掛けるのはまずい。

「だけど現状はさ、どうにもならないんだ。だったら結局見つけ次第封印って事でいいんじゃないかい?」

「アルフ…」

「まあ、結局はそうなるな。まあ、それでも出来るだけ早めにという事だけは確かだ」

結局は今まで通りと言うことで落ち着いた。

しかし、強敵の出現に、街の被害を最小限にとどめる為にジュエルシードの探索と、あのイタチもどきの索敵は夜通し行われる事になる。

まあ、真夜中の索敵は俺と久遠が中心で、授業のある真昼は母さんとフェイト、そしてアルフだ。

なのはとソラはそれ以外、早朝と夕方に行ってもらう。


そして舞台は夕方。

「あ、ジュエルシード発見」

なのはのお気楽そうな声が響く。

海岸付近にある資材倉庫の一角で、発動前のジュエルシードを発見。

居合わせたのは俺とソラ、なのはの三人。

学校帰りにそのまま捜索していた所で見つかったジュエルシードだ。

「さっさと回収して一旦帰ろうか」

「そうだね」
「うん」

ソラとなのはが同意して、なのはがジュエルシードに近づき拾いあげたようとした、その時。

いきなり現れる転移魔法陣。

俺達はすぐにデバイスをセットして臨戦態勢を取る。

「ストップだ!時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。その宝石、それを此方に渡してもらいたい」

現れるや否や用件だけを告げる黒ずくめの少年、クロノ。

「えっと、宝石ってそれのこと?」

掴む前で指を止めて臨戦態勢に入ったためにその宝石を背中にしていたなのはがそう問いかけた。

「ああ、その宝石は危険なものなんだ。だから…む?」

話の途中で今度は強大な魔力反応。

空中から放たれる収束砲撃。それを左手を突き出して障壁を張り、ガードしようとするクロノ。

「馬鹿っ逃げろっ!」

しかし、そこは流石に歴戦の執務官。それなりに強固なバリアだったらしく、何とか持ちこたえたようだが、その砲撃は突如として方向を変えてなのはに迫る。

「なのはっ!」

「きゃあ!?」

一瞬の悲鳴の後にすぐさまその場から飛んで空中に逃げる。

ジュエルシードから離れたなのはをけん制するようにもう一発の砲撃。

その発射元はあのイタチもどきだ。

「大丈夫か!?」

「大丈夫ではあるんだけど。ジュエルシードが」

その言葉でジュエルシードへと視線を戻すと一直線に飛来してその大きく開けた口でしっかりと飲み込んだ。

「ああ!?」

GuruuuuuuuuuuuuuuGAAAAAAAAAAaaaaaaaaa

けたたましいほどの鳴き声。

直ぐに俺は奴を封じ込めるように結界を張る。

途端に景色から色が失われ、外の時間から隔離される。

ジュエルシードを食ったイタチもどきはその体を一回り大きくさせ、その尻尾が二本に増えている。

「何だあいつは!?」

直撃をガードしつつもその砲撃が反れた事で砲撃の直撃から脱出したクロノが飛行魔法で飛び上がり俺達のそばまで来てあの化け物の情報を求める。

とは言っても俺も知っているのはクロノの承知の事実なのだが。

「詳しくは知らんよ。だが今、宝石を一つ食らって強化されたようだ」

増強されていた体積の変化も終え、さらに禍々しさがましたソイツは紅い目で俺達を睨み付けた。

「来る」

GRAAAAAAAAA

遠吠えと共にその体から溢れだす濃密な魔力。

体の周りに幾つもの魔力スフィアが形成されてその一つ一つから発射される魔力弾。

バリアジャケットを展開する隙が無い。

それでも何とか迫り来る魔力弾を避けつつ、起動したソルを片手に反撃に移る。

『ディバインバスター』

「ディバイーーーンバスターーー」

俺の撃った砲撃は直撃コースでイタチもどきに迫る。

直撃する一瞬前に砲撃をやめてその体を包むように障壁でガードされた。

「ディバイーーーンバスターーーーー」

ここぞとばかりになのはも起動したレイジングハートで砲撃をぶっ放す。

「ディバイーンバスターー」

次いでソラの砲撃。

「チェーンバインド」

俺は開いた穴から忍び込ませるようにして相手を拘束する。

ひゅん ひゅん

辺りの魔力がなのはの掲げたレイジングハートの刃先に集うように収束する。

『スターライトブレイカー』

「スターーライトーーーー」

GRuuuuuuuuuuuuGAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

一際激しく鳴いたかと思うと俺のバインドを引きちぎり、その体から何の嗜好性も持たない純粋な魔力を放出させる。

それは一瞬で半円状に広がって行き、俺達を弾き飛ばした。

「ぐあっ」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ」
「くうぅぅっ」

飛ばされた俺達は衝撃をどうにか受け流せる位置でどうにか堪える。

バリンっと音がして俺が張った結界が解除される。

粉塵が収まると其処に奴の姿は無かった。

直ぐに円を広げて索敵してみたけれど見当たらず。

探知魔法も効果なし。

「また逃がした」

「まずいね、あいつ強くなってる」

「ああ」

「お兄ちゃん大丈夫だった?」

隣に飛んできたソラとそんな会話をしていると、なのはも合流したようだ。

「大丈夫。むしろなのはは平気か?」

「大丈夫。ちょっと疲れちゃったけれど、怪我はしてないよ」

お互いの無事を確認してさて、一旦家に帰ろうかと言うときに又しても会話に混ざってくる黒い奴。

「悪いんだが、君たちは管理世界の関係者かい?詳しい事情が聞きたいのだが」

理由はどうあれ、魔法技術の無いこの地球で彼らの目の前でデバイスを起動してしまったからなぁ。

ポワンっと何も無い空間にいきなりモニター画面が開き、緑色の髪をポニーテールで纏めている女性が映る。

『クロノ執務官。詳しい話はアースラで聞きましょう。案内してくれるかしら』

「艦長…分りました。案内するから着いてきて欲しい」

あれよあれよと言うままに俺たちは次元航行艦アースラへと招待された。

「わー、凄いね。宇宙船だよ!?」

生の宇宙船にテンションが上がっているなのは。

「なのは、浮かれるのも良いけれど、しっかり前見ないとこけるよ?」

「あぐっ!」

「言わんこっちゃ無い…」

「えへへ」

「仲のいいところ悪いんだが、デバイスとバリアジャケットを解除してもらえるだろうか?此方に敵対の意思はないよ」

「あ、はい」

バリアジャケットを解除すると、俺たちは戦艦には似つかわしくない、日本の茶室を模したような所へと案内された。

その光景には知っていた俺を含めて三人とも絶句。

辺りを見渡すと桜の木やシシオドシまである。

流されるままに座布団へと案内されて正座を組む。

【お兄ちゃん…】
【アオ…】

なのはとソラから届けられた念話。その声に戸惑い…と言うより呆れ?の感情が見て取れる。

まあ、分るよ。

庭園風な部屋とかはまあいい。

いかし、緑茶に砂糖とクリームは許されねぇ。

俺達の憤りをよそに目の前のこの船の艦長、リィンディさんからの質問が続き、それに答えていく俺達。

「そう、それじゃあ貴方達は最近起こる不思議な事件の調査をしていたら、偶然あの場所で発動前のロストロギア、ジュエルシードを発見したと?」

「はい」

嘘は吐いてない、ちょこっと真実を誤魔化しただけ。

「子供だけで危険だとは思わなかったのかしら?」

「多少の事ならば何とかできる力がありましたから」

「あなたたちがなんで魔法を使えるのかも聞かなければならないわね。一応管理外世界には知らされてない技術だから」

一応俺の父親が管理世界関係者っぽいと言う事は伝えた。

既に故人で、その技術は残してくれたデバイスと自己流で訓練したとも。

その際周りに都合よく魔導師資質を持っている子が居たから一緒に訓練していたと。

全て話したわけではない。

リンディさんも表面上は納得してくれていたが実際はどうか分らない。

仮にも提督の地位まで上り詰めた人だ、その辺の機微は俺なんかより上だろう。

「なるほどね、管理世界からの移住者の子孫。個人転移の出来る昨今。いくら管理局とは言え、人の出入りを全て管理できる訳ではないと言う事ね」

その事例自体はありふれた物なのだろう。

とは言え、文化レベルで劣る多世界へ進んで行くような人は稀であろうが。

その後あのジュエルシードが次元干渉型の古代文明の遺産である事を教えてもらった。

移送中だったジュエルシードを載せた次元航行艦が襲撃を受け、積まれていたジュエルシードが喪失したと、それを発掘した一族から次元管理局に捜索願が出されたそうだ。

あれ?ユーノは?

これまでの話を総合し、リンディさんから管理局としての結論を出す。

「これよりジュエルシードの回収は私たち(管理局)が行います」

次元震で世界が崩壊してしまうような事態は防がないとね、と。

「だからあなたたちがこれ以上ジュエルシードを捜索する必要は無い」

クロノがそうまとめた。

【お兄ちゃん、これはアレなのでは?】

【うん、ちょっとまずい方向だと思うよ】

なのはとソラからの念話。

俺たちは今、母さんがプレシアとの口約束でジュエルシードとフェイトの親権との交換の為にジュエルシードを集めている。

とは言っても、俺としてはプレシアさんにはあまりジュエルシードは渡って欲しくはない。

ジュエルシードが正しく制御できるのか。

原作ではジュエルシードの数が足りず、暴走覚悟で無理やり起動し、その結果次元震が発生してしまった。

海鳴でも地震が起きる様な描写があったような気がする。

出来れば原作の様に行って欲しい。

罪を全てプレシアに擦り付けるようで悪いとは思うけれど。

まあ、既に原作の『げ』の字も存在していない現在、何が最善かは自分で模索するしかない。

【そうだけど、敵対するのはあまり良い選択とは言えない】

【それはそうかもだけど…】

【それじゃどうするって言うの?】

「普通に生活していてあの化け物に会った場合やジュエルシードを発見した場合は?」

「此方の連絡コードは教えます。出来れば直ぐに連絡して欲しいのだけれど」

「自衛はしても問題は無いのですよね?」

「勿論です。出来れば直ぐに逃げて欲しいのだけれど」

「了解しました」

最後に、もし今ジュエルシードを持っていれば提出して欲しいと言われる。

まあ、持ってないよと言っておいたけどね。

実際今は持ってない。

取り合えず俺達と管理局の初めての接触は無難に終わった。

海鳴へと転送してもらい家路に着く。

「良かったの?アレじゃこれ以上わたしたちがジュエルシードを回収する事は難しいよ?」

と、なのはは言う。

「仕方ないだろう。向こうはどうやら大きな組織みたいだし、逆らってもいい事は無い」

「じゃあどうするの?」

「それは帰ってから家族会議で決めよう」 

 

第三十三話

家に帰り着くと直ぐに皆をリビングに集めて家族会議。

今日有った事の顛末を説明する。

「時空管理局…ね。また厄介なのが出てきたわね」

そう呟いたのは母さんだ。

「これからは彼らがジュエルシード捜索を本格的に始めるらしいよ」

ソラの言葉に母さんは少し考えると、結論が出たようだ。

「真正面から敵対すると面倒な事になりそうだから、こっそりジュエルシード集めは続けるわよ」

「本当にいいのかな?捕まったりしないかな?」

なのはが少し心配そうに言った。

「大丈夫よ、なのはちゃん。彼らに私たちを捕まえる権利は無いわ」

「え?」

「うーん。簡単にいうとね、なのちゃん。この国と言うかこの世界は管理局なんて存在は知らされていないもの。それなのに知らされていない法律を守れると思う?」

「出来ないと思う」

「でしょう。だから大丈夫。私たちは私たちの法律をちゃんと守っている。犯罪を犯しているわけでもない。彼らに裁く権利は無いわ」

まあ確かにね。怪奇事件を解決してくれるのは嬉しいけれど、元を正せば全てその管理世界の人達の所為だからね。

自業自得。

其処に捜査権限とかなんとか持ち出されても…ねえ?

「結局回収を続けるって事でいいんだね?」

今まで聞く側で言葉を発していなかったアルフ。

「ええ、だけど今まで以上に慎重に。あ、そうだ、あの大きなイタチはその管理局に何とかしてもらいましょう。勿論被害が出る前に見つけ次第その管理局に連絡するって事で」

ふむ。

「その隙に私たちは他のジュエルシードの確保」

その言葉に皆分ったと答えて家族会議は終了。

いつもよりも強固なジャミング結界を張っての回収と相成った。


さて、管理局が登場したが、ジュエルシードを集めは続行される。

数日して、リィンディさんから連絡が入る。

ジュエルシードを発見、確保に向かうと、この間の黒い大きなイタチが発動中のジュエルシードの側に現れたのでこれ幸いと封印に向かったが、クロノを含めた局員はことごとく返り討ちに遭い怪我人が多数出たために現在ジュエルシードを封印できる局員が居なくなってしまったらしい。

その件のイタチは新たに一つジュエルシードを吸収して肥大化、管理局の魔導師を撃墜して逃げて行ったらしい。

それで恥を忍んでお願いされる。

俺たちの魔導師としての力を貸して欲しいと。

本局に応援は勿論頼んではいるのだが、今すぐにとは行かないらしい。

本局にしてみても対岸の火事と言った所だろう。

対応が遅れているらしい。

その間も敵はどんどん強くなる可能性がある、早めに叩かねばそれこそ次元震を引き起こしかねないほど肥大化するかもしれない。

「今直ぐお答えする事は出来ません」

『そうね、急すぎたわね。しかし時間が無いのも事実なの。アレをこのままにして置くのもまずいわ』

ウィンドウ越しにリンディさんに答える。

「取り合えず、なのはやソラと相談してみます。あと母さんとも」

『そう。出来れば直接伺いたいのだけれど』

「それは遠慮させてください」

その後、夜にでも結論を出してこちらから連絡を入れると言って通信を切った。

さて、この間の家族会議から間も開いてないのだけれど再び家族会議である。

リビングに一同を集め、今日リンディさんから協力要請があったことを説明する。

「また強くなっちゃったの!?」

「これ以上強くなると流石に厄介よね」

なのはとソラがそう漏らす。

「参ったわね、管理局に何とかしてもらおうと思っていたのに当てが外れたわ」

「母さん…まあ、そんな訳なんで、俺は管理局に協力した方がいいと思うのだけれど」

プレシアさんにジュエルシードを渡し過ぎたくない俺には渡りに船だ。

「そのイタチを私たちが管理局にばれない様に狩る方法は無いかしら?」

「今現在どうやってその魔力を隠しているのかは不明だけれど、あのイタチが活動するときは多大な魔力が感知される。それをいくら結界を張ったからって管理局の目を誤魔化すのは難しい。戦闘となれば尚更、此方の魔力も感知されてしまうから実質無理」

「なるほどね。なのちゃんソラちゃん、あーちゃんと一緒に管理局に行ってきて頂戴」

「いいの?」

「ジュエルシード集めは?そのイタチを倒したとしてもその分のジュエルシードは管理局の手に渡ってしまうよ?」

「いいのよ、仕方ないわ。アレを放置しておくのは私も危険だって思うもの」

桃子さん達には私から言っておくわ、と母さん。

「じゃあ、ジュエルシード集めは?」

アルフが少し心配したように聞いてきた。

「残念だけど少し休止かしら。あーちゃん、すぐにずばっとやっつけて帰ってきなさいね」

「ずばっとって…まあ出来るだけ頑張るよ」




家族会議が終わり、皆がばらばらとリビングから去っていく。

フェイトも同様に一度自分に与えられた部屋へと帰る途中にアルフに話があると自分の部屋へと誘った。

アルフがフェイトの部屋でベッドに腰掛け、呼ばれた要件について尋ねる。

「それで?フェイト、あたしに何か聞きたい事があるんだろう?」

「う、うん…」

少々聞きづらい事なのかおどおどしながら、それでも頑張って言葉をつむぐ。

「あのね、ゆかりお母さんがジュエルシードを集めているのって私のため、なんだよね?」

「それは…」

「みんな言わないけれど、何となく分るよ」

「フェイト…」

「だから、私が集めないといけないんだ、だから」

「フェイト!あたしも一緒に集める。だから一人で行こうとしないで」

ベッドから立ち上がりフェイトにすがりつきそうになり寸前で止まる。

「でも」

「あたしはフェイトの使い魔さ。ご主人様を守るのがあたしの役目だ」

ぐっとそのコブシを握り締め、決意を新たにするアルフ。

「…ありがとう、アルフ」

フェイトは巻き込んでしまう事への後ろめたさを感じながらも少しだけ肩の荷が降ろされたような表情をしていた。




さて、再びやって参りましたアースラ。

「すまないな、一般人である君たちを巻き込みたくは無かったのだが」

案内するために現れたクロノはその体のあちこちに包帯が見える。

「この前のあのイタチにやられてしまったよ」

「大丈夫なんですか?」

なのはが心配そうに聞き返す。

「ああ、なんとかね。ただし無理が出来ると言う訳でもない」

「それで俺たちを?」

「ああ。本局に増援を頼んではいるのだが、アレに対抗するためには最低Aランク以上の魔導師で無ければ対処できない。なのに本局では高ランク魔導師が出払っていて直ぐに増援と言う訳には行かないようだ」

「俺たちのことを高く評価しているんだな」

「悪いとは思ったけれど、この前の戦闘は此方でも記録されている。此方の測定器での観測された魔力量は君やソラでAA、なのはに至ってはAAA。あの時の戦いを見るに魔導師ランクは全員Sランクはあるだろうと思う。あの時アレを抑えていたのだしね」

魔力量はともかく魔導師ランクと言われてもいまいちピンと来ないのだが。

抑えていたとは言え魔力による力技で抜け出されたけれどね。

クロノに案内されていつぞやの茶室へ。

「艦長、案内して来ました」

「ご苦労様。アオさん達もご足労感謝します」

ぺこりと頭をさげて、座布団へと案内される。

目の前に出された緑茶とお茶菓子は取り合えずスルーして今後の打ち合わせ。

俺達が管理局に協力するに当っての条件面とかの交渉は俺に任せてもらった。

ソラはともかくなのはにやらせるわけには行くまい。

リアル8歳だからね。

しばらくはこの艦で厄介になるために、衣食住の保障。戦闘は此方の意思に任せる事。ここに居るのは懇願されて協力している訳であるから、基本的にそちらの方針には従うが、お願いは出来ても命令は出来ない等。

つまり拒否権をくれと言う事だ。

「つまりあくまで自由意志での協力であり、理不尽な命令は聞かないと言うこと?」

お金もらっている訳では無いしね。

原作だと表彰状で終わった気がするし。

「そうですね。さらに何かしらの理由で管理局と敵対したとしてもこの世界で起こった事である限り貴方たちに俺達を裁く権利は無いかと」

「なんだと!?」

この発言にクロノが少々驚いている。

「クロノ執務官。落ち着きなさい」

取り乱したクロノを嗜めるリンディ。

「私たちに管理外世界の人たちを裁く権利は確かに無いわ」

「艦長…」

「以上の事を了承してくれるのなら俺たちは協力します」

リンディさんは流石に大人の態度で受け入れ了承してくれた。

ただ、ここに居る間に回収したジュエルシードの提出は義務付けられてしまったけれど。

あのイタチもどきの対応と、他のジュエルシードを発見した時の回収任務が主だ。

今現在俺達が集めたジュエルシードの数は6個、母さんの約束の12個までは残り半分。

管理局がアレから発見したものが二つ、その内一つをイタチもどきに強奪されたので俺たちが知っている限りイタチに回収されたのは三つ。

残り11個。

さて、どうなる事やら。 

 

第三十四話

アースラに厄介になってから数日、イタチもどきとはエンカウントせずに発動したジュエルシードの封印作業に当っている。

「そう、バインドをうまく使えば動きの早い相手も止められるし、大型魔法も当てられる!」

俺は目の前に居た大きな鳥のような姿をしたジュエルシードの暴走体を前にして言い放った。

「お兄ちゃん、何言ってるの?」

「いや…うん、言ってみたかっただけなの」

俺が馬鹿をやっている内にズバっとレイジングハートで真っ二つにされていました。

素早いと言っても神速の使えるなのはが反応できない筈はなく、あっけないものだ…

と言うか半端ないっす、なのはさん…

回収も終わり、俺たちはアースラに戻った。

ブリッジに報告に行くとなにやら騒がしい。

「何かあったのか?」

少々不機嫌なオーラを出しているクロノ、その対面に居るソラ。

「ああ、君たちか」

クロノが俺達が帰ってきたのを確認して声をあげた。

「君達がジュエルシードの回収へと向かってから新たにジュエルシードの反応を感知したんだ。この通り僕はまだ本調子じゃなく、戦闘も難しいからね、ソラに行ってもらったんだが…」

するとその険しい顔を少しだけさらに険しくして告げる。

「現場に到着すると既に他の魔導師が回収していた」

「他の?」

誰よ?

こいつ等だと、VTRを俺たちの目の前へと映し出す。

「あっ」

戸惑いの声を上げたのはなのは。

すぐさまソラからの念話が飛んでくる。

【なのは、それ以上は驚かないで、知らない振りをしなさい】

【え?あ、うん】

映し出されたモニタに映っていたのはフェイトとアルフだった。

何で?今は中止だって言ってなかったっけ?

現場に到着したソラはフェイトにいかにも初対面ですと言った態度でその手にしたジュエルシードを渡すように要求する。

しかし、フェイト達は言葉を交わすよりも早く逃亡した。

「あの時君が攻撃魔法を行使をしていれば彼女らの逃亡を阻止できたんだぞ」

追いかけるような素振りはしたものの、結局ソラは一度も魔法を行使しなかった。

「彼女達は私に危害を加える事は無かった。確かにジュエルシードは持っていかれたけれど、貴方達は理由も聞かずに此方の言う事を聞かないからって相手に危害を与える事を良しとする組織なの?」

「なっ!?」

ソラの言葉による反撃に絶句するクロノ。

「其処までにしておきなさいクロノ執務官」

「か、艦長」

「ソラさんも、ごめんなさいね。でも出来れば逃亡の阻止はもう少し積極的にやってもらいたかったわ」

「…次からは善処する」

「はい。と言うわけでこの話はここまでね」

その後俺は先ほど回収したジュエルシードを渡し、任務完了を報告。

その後与えら得た部屋へとソラとなのはを連れて戻る。

勿論先ほどのフェイトの事について聞くためだ。


ウィンと音がしてスライドした扉を潜り俺たちに与えられた部屋に入る。

壁に備え付けられているソファに腰掛けようとは思ったけれど、それはなのはとソラに譲り、俺はベッドに腰掛ける。

「それで?あの魔導師についてだけど」
【『念文字』で】

言葉の裏に念話を隠し、さらに自身のオーラの形を制御して筆談の要領で会話する。

念話はその性質上盗聴されてしまう可能性がある。口頭などは言わずもがな。

殆ど無いと信じたいけれど監視されているかも知れないし。

「よく分らないわ、直ぐに逃げられたもの」
(ねんわではなしたけれど、どうやらフェイトのどくたんのようだった)

「そっか、彼女たちの目的が分ればいいんだけどね」
(なるほどね、きおくがもどったようなそぶりは?)

「今度会ったら聞いてみるしかないかな」
(それはなかったわよ、でもひっしなかんじがつたわってきた)

(だいじょうぶかなフェイトちゃん)

なのはが心配だと言う。

母さんは知っているのだろうか…




日が傾き始め、街のあちこちから夕飯の支度をしているのだろうか、おいしそうな匂いが私の鼻腔をくすぐする。

それは今私の目の前にある家からも。

いいにおい。今日の夕飯は何だろう。

「フェイト、入らないのかい?」

隣に居たアルフが先を急がせる。

「あ、うん…」

私は言葉を濁して少しの時間を稼ぐ。

私は今日、ゆかりお母さんに黙ったままジュエルシードの回収するためにそっと家を抜け出した。

回収事態はアルフのサポートもあって簡単に終わったんだけど、その直ぐ後にソラが駆けつけてきたことは少し考えれば予想が出来た事だったのかもしれない。

ソラが出てきたと言う事は管理局に見つかったと言う事だ。

どうしよう。見つからないと思っていたのに初っ端からダメダメだ。

気づかれないように私は出て行ったときと同じ様にそっと玄関のドアノブに手をかけゆっくりと引いた。

ゆっくりと玄関の扉を開き音を立てないように中に入る。

リビングに入るとリビングと繋がっているキッチンで夕食を作っているゆかりお母さんの姿が見える。

「お帰りなさいフェイトちゃん、アルフ」

「あっ…あの、ただい…ま」

私が居なかった事に気が付いていたの?

しかし夕食を作るゆかりお母さんの雰囲気は穏やかで、その手が作り出す夕ご飯の匂いは食欲を掻き立てるには十分だった。

「まってて、もう直ぐ出来上がるから、夕ご飯にしましょう」

丁度最後の仕上げと言った所だったのだろう。

きれいに盛り付けられた夕飯の数々をテーブルに飾り付けられていく。

「あの、手伝います!」

「ふふ、ありがとう」

私はすぐにゆかりお母さんを手伝うためにキッチンへと向かった。


椅子を引き、食卓に着く。

「いただきます」

そう言って私たちは夕食を開始する。

いつもより人数が少なく、ちょっぴり寂しさが感じられる夕食。

しかし、その美味しさだけは変わらない。

「久遠ちゃん、ちゃんとお揚げ以外も食べなさいね」

「くぅん」

ゆかりお母さんがお揚げばかり食べている久遠を注意する。

お揚げは美味しいかもしれないけれどそれだけじゃ確かに健康には悪いからね。

久遠を注意してからゆかりお母さんは、さて、と居住まいを正して私の方へ向きなおる。

「フェイトちゃん、今日ジュエルシードを集めに出てたわね」

「あの!それはっ…」

言葉に詰まってしまう。

そんなに時間をかけた訳じゃないし、ゆかりお母さんが見ていないうちにそっと出かけたはずなのに。

どうして分ったのだろうか。

いや、今はそんな事よりも。

「あ、あたしが無理やりフェイトを連れ出したんだよ!どうしてもジュエルシードがほしかったのさ」

アルフは悪くない、なのに私を庇おうとしてくれている。

ダメだ、それだけはダメ。

「アルフ…ううん。私が言った事なの。私がアルフに頼んで付いて来てもらったんだ。だから…」

「私は別に二人を責めている訳では無いわ」

「え?」

「でも私に黙って二人で危険な事をしてきた事は怒ってはいます!」

「ごめんなさい…」

「凄く心配したんだからね」

そう言ったゆかりお母さんは立ち上がって私のほうへと歩いてくると私を後ろから包み込んだ。

ゆかりお母さんのふわっとした匂いが鼻腔をくすぐる。

「ごめんなさい」

私は小さくもう一度謝った。

その後私はお叱りと言う名の抱擁を解かれると、これからはゆかりお母さんと久遠も一緒にジュエルシードを捜しに行く事になった。

決して二人だけで行ってはダメだと念を押された。

家族の心配するのは家族の特権だって。

家族。

私にはまだよく実感が持てない言葉だけど、本気で私のことを心配してくれている事が分って私はとても嬉しくて、嬉しいのにどうしてか涙が止まらなかった。



俺達がアースラに来てから10日、アレからイタチとのニアミスが続いている。

ジュエルシードの発動が感知されると現れるイタチの化け物、しかし先に俺達が到着すると、その気配を察してか直ぐにサーチの及ばないところまで転移する。

しかし、その移動速度はとてつもなく速く、俺たちよりも早く現場に到着された時はそのジュエルシードを奪われたまま逃走されてしまったほどだ。

フェイトの方もどうやら幾つか回収しているらしい。

此方が見つけたジュエルシードをかっさらされたとエイミィさんが愚痴っていた。

そんなこんなで残りのジュエルシードは6個。

海鳴の街や山岳部を調査したが見つからず、残りは海の中ではないかと言う結論が出た。

しかし、海中の物を探索する事は難しく、未だ管理局のサーチャーはジュエルシードを発見できていない。

探索は管理局員に任せてある俺はソラ達と一緒に食堂エリアでお茶をしている。

「それにしても残り6つ、見つからないね」
(というか、これはやばいのでは?ママがひつようなジュエルシードのかずは12。いまもっているのはすいてい7こだから)

「あとは海の中だろうってクロノが言っていたわ」
(のこりをぜんぶとろうとしたらいっきにへいこうきどうさせて、いっきにふういんかな?)

なのは、ソラの会話の裏に念文字で筆談。

「だが、まだ場所の特定は出来ていない、と」
(だろうね、しかしそれはさすがにフェイトのりきりょうをこえる)

「早く見つかるといいね」
(そんな!それってすごくきけんなんじゃ?)

「本当にね」
(きけんだよ、だけど、つぎからはおそらくかあさんとくおんもでばるんじゃない?)

「うん」
(なんで?)

聞き返すなのはにやはり念文字で答える。

(かあさんがフェイトたちだけにきけんなことをやらせるとおもう?)

問いかけた俺になのはもソラもそれだけは絶対に無いと確信したようだ。

ビーッビーッ

「警報?」

けたたましく鳴り響く警報、その音に急かされる様に俺たちはブリッジへと向かう。

ウィーン

スライドドアを潜り抜けブリッジへ入る。

前面の巨大なモニターに映し出されるのはフェイトとアルフ、そして暴走したジュエルシードの数が6個。

「あっ」

そしてやはりと言うか母さんと久遠の姿もある。

一目見て劣勢なのが見て取れる。

とは言え、原作とは違い母さんと久遠が居る分、一つずつ確実に封印されていく。

まあ、さっきから俺の魔力がゴリゴリ久遠に持っていかれていて結構辛かったりするのだが。

「私!急いで現場に行きます」

なのはが宣言してテレポーターへと向かう。

「すまない、頼めるか?」

クロノが言う。

およ?止めないの?

自滅するまで待つんじゃ?

「彼女達になぜ集めているのか、出来れば話がしたいと伝えてくれ」

「はい!」

すると転送されていくなのは。

「君達にも行ってもらいたいんだが…どうした?意外そうな顔をしているぞ?」

「あ、ああ。いや、この前までの言動から、相手の魔力が底をつくまで見ているのかと思っていた」

「そ、そんな訳無いだろう!?失礼な奴だな君は!」

そうは言っているが、その顔に朱がさしている。

どうやらこの前俺達が言った嫌味に思うところが有ったらしい。

管理局員としてはダメだが、人間としてはむしろ好印象を与える。

結構物分りがいい男だったらしい。

「何を笑っている!」

「いや、なんでもないよ。それじゃ俺も行ってくるよ。ソラ」

「うん」

俺はソラと連れ立って転送ポートへと駆けつける。

「それじゃあの子達の結界内へ、転送」

エイミィさんがその手でエンターキーを押すと、俺たちの視界は一瞬で切り替わり、海鳴の沖合い上空へと放り出された。 
 

 
後書き
よく二次小説ではクロノの事をKY扱いでオリ主がフルボッコと言う展開がデフォルトになっているような気がしますが、本来クロノ君は優しく誠実な人だと思うのです。
ちょっと職務に忠実すぎるのが珠に傷ですが、執務官だし、多少は仕方がないんじゃないかなぁ… 

 

第三十五話

side フェイト

今私の眼前には強制起動させたジュエルシードが6個。

起動時の広範囲魔法は久遠が変わってくれたから私の魔力は十分。

「フェイト!」

アルフがバインドで捕まえた一つの竜巻のようなジュエルシードの発動体へ私はバルディッシュの矛先を向ける。

『グレイブフォーム』

バルディッシュが変形して砲撃魔法の発射形態へと移行する。

「フェイトちゃん!危ない!」

捕らえた一体に気を取られた瞬間に他の発動体からの、その巨体を利用した体当たりのような攻撃が迫る。

「あっ…」

私は一瞬反応が遅れた。

迫り来る水流にダメージを覚悟するが、一向に衝撃がやってこない。

それどころか、私を包む暖かな二本の腕。

「ゆかりお母さん…」

「フェイトちゃん、大丈夫だった?」

ゆかりお母さんがその身を挺して私をその攻撃の直撃から反らしてくれた。

「だ、大丈夫です」

「そう」

そう言えば、アオ達の話だとゆかり母さんは魔導師じゃないって言っていたけれど、だったらどうやって空を飛んでいるのだろうか、などという疑問が一瞬脳裏に浮かんだが、それも一瞬。

私は直ぐに今の最優先事項を思い出し、その疑問を思考の隅に追いやった。

ゆかり母さんから離れてもう一度バルディッシュを構えなおす。

アルフと久遠がバインドで一体ずつ敵の動きを止めてくれている。

迫り来る余波はゆかり母さんが捌いてくれている。

私は今度は安心してバルディッシュからジュエルシード封印するために魔力砲撃を放つ。

「サンダーーーーレーーイジ!」

動きを止めていた二体のジュエルシードの暴走体を封印し終える。

全身に魔力消費の倦怠感に包まれる。

だけどここで弱音を吐くわけには行かない。

残り4つ。

余り時間はかけられない。

そう感じていた時、上空からこの結界内に突如として現れた人影が私に話しかけてきた。

「わたしも手伝うよ、フェイトちゃん!」

「な、なのは!?」

突然現れたなのはが私に近づいてきてそう言った。

「二人で一気に封印。アルフさんもくーちゃんもお願いね!」

「おう!」
「くぅん!」

なのはに激励されて二人は今度は二体ずつジュエルシードをバインドで拘束した。

『カノンモード』

なのはのレイジングハートが変形して射撃体勢に入る。

「いくよ!フェイトちゃん!」

『サンダーレイジ』

なのはの声に応えるようにバルディッシュがチャージを始める。

私も気を引き締めて術式に集中する。

「せーの!」

合わせてねと、なのはが一瞬私に目配せをする。

「ディバイーーンバスターーー」
「サンダーーーレーーーイジ」

気合一閃、私となのはが放った魔法はジュエルシードを確実に捕らえ、封印した。

「やった?」

海中から現れる残り4つのジュエルシード。

「あらら、俺達の出番は無かったかな?」

不意に上から声が聞こえた。

振り向くとそこには下降してくるアオとソラの姿が。

その姿に少し安心する私が居る。

それでもジュエルシードを持っていかれる訳には行かない。

私はバルディッシュを牽制の為にアオ達に向けようとしたところにアオが大声で叫ぶ。

「危ない!後ろだ!」

え?

その声に振り向くと空気を切り裂かんばかりの速度で放たれた無数の砲撃魔法。

いつの間にか張られていた結界が破壊されている。

マズイ!直撃する!

しかしその魔法は私に直撃する事は無かった。

先ほどはゆかり母さんが、今度はアオが私を抱きしめるようにして庇ってくれていたのだから。


side out


俺は遠距離から高速で放たれた砲撃魔法の直撃から寸前の所でフェイトを抱きかかえながら射線上から身を引いた。

その砲撃の威力はディバインバスター級でその数およそ12本。

それが全て俺達への直撃コースとジュエルシードから分断するように掠めて行った。

「何だ!?」

直ぐに皆の無事を確認しようと視線を走らせる。

なのはは自力で回避、母さんはソラが、アルフは久遠がそれぞれ助けたようだ。

全員の無事を確認している一瞬の間に猛スピードでジュエルシードに飛来する影が。

あのイタチだ。

今の砲撃で体勢を崩された俺たちはソイツの行動を邪魔する事も出来ずにジュエルシードへと接近を許してしまった。

イタチに取り込まれるジュエルシード。

GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA

咆哮が轟くと同時にイタチを中心にして円形に光が通り過ぎる。

まばゆい光で眼を奪われていると、発光が収まったそこにはその体積を3倍ほどに増やし、尻尾の数も9本に増えた黒いイタチの化け物が。

真紅に光る双眸がこちらを睨み付けている。

「クロノ!管理局員で結界と、結界の強化をお願いできるか?」

俺の問いかけにすぐに俺の前に通信ウィンドウが広がる。

『すでに送っている。彼らも負傷が完治しているわけではないから直接戦闘こそ出来ないが、結界の展開くらいならば大丈夫だ』

「さすが執務官」

直ぐに俺たちを包み込むように何重にも結界が展開される。

遠目にはその結界の一番外側から一つ内側でデバイスを掲げている管理局員が見て取れる。

『当然だ。だが、これはまずい事になった。あのイタチの化け物、先ほど封印した全てのジュエルシードを吸収したようだ』

そんなのは見ればわかる。

先述の通り、今戦えるのは俺達だけという事だが…

GRAAAAAA

しばらくの間対峙していたかと思うとその身から溢れる無尽蔵とでもいうべき魔力を使い、こちらに向けて砲撃を連発してくる九本の尻尾をもつイタチ。

なんかもうイタチではないしこの際九尾でいいか。

九尾の攻撃を俺はフェイトを抱えたまま右に左に避けて結界の境へと向かって飛びのいた。

その間に攻撃は大量のスフィアをばら撒く面攻撃へと移行している。

それを避けて結界の境ぎりぎりまで飛翔すると母さんがアルフを連れて同じように飛んできた。

「あーちゃん!」

「母さん!悪いんだけどフェイトをお願い。一緒に結界外へと出ててくれ!クロノ、聞こえているか?詮索は後にして三人を結界外へと転送してくれ」

『……事情は後で話してくれるんだろうな?…エイミィ、3人を転送、急いで』

モニター越しにエイミィさんに指示を出すのが見て取れた。

「アオ!私も戦えるから、一緒に!」

「ダメだ!今のフェイトじゃあの弾幕の全てを避ける事は出来ない!ガードしてもバリアの上から落とされる!」

「で、でも!」

「フェイトちゃん、あーちゃん達を信じて」

「ゆかり母さん…」

「フェイト!あたしもアオに賛成だ。あたしたちじゃアオ達の足手まといになる」

『ロードカートリッジ、ディフェンサー』

薬きょうが排出されて攻撃を防御する。転送には一瞬でもその場で停止しなければならず、その時間を稼ぐためだ。

三人の足元に転送魔法陣が形成される。

「アオ!無事でいて」

「ああ、任せておけ」

「あーちゃん、ソラちゃんとなのちゃんを任せたわよ」

「勿論だ」

「絶対、絶対。無理はしないで!」

フェイトの叫びにもにた懇願の声を最後に3人は転送されていった。

さて、俺は障壁を消して未だにその数が衰えない弾幕をすり抜けるようにして九尾へと飛んでいく。

「クロノ。あの化け物のスキャンは出来ているか?」

前方に再びウィンドウが現れる。

『ああ、いまエイミィが解析を終えたところだ』

「結論は?」

『やはり現地の生物を取り込んでいるだろうと言う結論だ。その体にわずかながら生体反応が出ている。純粋な魔力の塊では無い事は明らかだ』

「今でも元の生物の生物機能、代謝なんかは健在なのか?呼吸なんかは?」

『エイミィ』

クロノがモニタ越しにエイミィさんに回答を譲る。

『はいはーい。結論から言うとその可能性は高いよ~。今までのジュエルシードの暴走体、その中で現地生物を取り込んでいた奴らのデータ分析で、ベースにした生物をそのまま変質させている感じだからね』

なるほど。ならばやりようがある。

『今から僕もそちらに向かう』

「怪我は完治しているのか?」

『くっ…だが、執務官として見過ごすわけには行かない!』

正義感が強い事はいいことなんだが。

「クロノはこの弾幕の中、被弾無く攻撃出来るのか?」

しばらくの沈黙。

『……無理だ』

「ならば俺たちに任せておけ」

『しかし…』

「俺たちなら大丈夫だ。…ただ、原生生物は最悪殺してしまう事になってしまうかもしれないがな」

『…それは仕方が無い事だ』

このままあの九尾を放置していると、その被害は莫大なものになるだろう。

全てを救う事なんて神にしかできず、結局一を切り捨てて九を救う事しか人間には出来ないのかもしれない。

なのはとソラ、それと久遠が何とか抑えてくれている戦場へと戻る。

相手はその無尽蔵の魔力に物を言わせた弾幕戦のみとは言え、その威力が此方の同系の魔法の数倍もある。

実際、距離により術式が甘くなり、魔力の結合に綻びが見られる遠距離で、結界に当たる威力でさえその数と威力で下手をすればその結界を抜けかねない。

まあ、そこは流石に管理局の魔導師が頑張ってくれているのだが。

【なのは、ソラ。戦況は?】

俺も手に取ったソルでバスタークラスの砲撃を入れながら念話を繋いで確認する。

【ダメだよ。シューターは言わずもがな、バスターすらシールドで止められちゃってる】

【ブレイカーでも通るか分らないし、相手の動きも早いから当てられないかも】

なのはとソラからそれぞれ返信された。

【弾幕が濃すぎてなかなか相手に近づけないし】

【斬りつけてもシールドに阻まれて必殺の一撃とは行かないと思う。】

今までですら厄介だったのがさらに厄介になったものだ。

【どのくらいの威力の魔法ならあいつの障壁を抜けると思う?】

俺の質問に攻撃の手を緩めずに戦いながらなのはからの返答。

【最低フルチャージのブレイカー3発分。…ううん4発かな?】

核シェルターすら余裕で破壊できそうな攻撃だ。

【だけど、さっきも言ったけれど、相手の動きを止めないと当てられない。バインドなんかもそのバカ魔力ですぐさまレジストされるだろうし、そもそも動きが速くてバインドを行使できない。設置型のバインドもどうやってか当たらずに避けているし】

【そっちは俺が何とかする。なのはとソラはブレイカーの準備をしてくれ。影分身を使用して、それこそ辺りの魔力が枯渇するくらいの勢いで】

普通は自分の使いきれ無くて放出してしまった魔力を集めて再利用する収束砲。

自分の匂いが残っている物の方が集めやすいからだが、効率が悪く、時間がかかるだけで、決してそれ以外の魔力を収束できないわけではない。

それと、一人で扱う事の出来る魔力量にも限界がある。

しかし、ここで影分身だ。

最初にチャクラと魔力を均等に割り振ってしまう影分身。

普通は行使できる力の源が減少するので高威力攻撃の行使には相性が悪い。

しかし、これと周りの魔力を収束して放つ収束砲は自身の魔力量が少なくても周りの魔力をかき集めるため相性が良い。

【影分身を管理局の人たちに見せちゃっていいの?】

【良くは無い。だけど、現状では他に有効な手段が無い】

俺と久遠も混ぜれば4人でブレイカークラスの魔法を撃つ事は可能だろうけれど、敵の足止めをする事が出来なくなる。

ぶっちゃけ人数不足。

人数が足りないならば増やせばいい、と言う事だ。

【俺があいつを何とか足止めするから二人は影分身を使用してのブレイカー、久遠は二人の護衛】

チャージに時間がかかる収束魔法、久遠はその時間を稼ぐための盾だ。

【わかった】
【うん】
【くぅん】

その後なのはとソラには対角線にならない位置でそれぞれチャージを始めてもらい、俺は九尾を誘導するべく行動に移る。

「はぁっ!」

体からオーラをひねり出す。

影分身の術!

ボボボボンッと爆発音にも似た音と共に総勢20体の影分身を作り上げる。

「いくぜっ!」

『アクセルシューター』

九尾に向かって飛翔しながら術式を展開する。

「シューーートっ」

迫り来るスフィアを避けながら右手を突き出して全ての分身から無数のシューターが九尾に襲い掛かる。

GURAAAAAAAA

咆哮と共に迫り来るスフィアを全て眼前に展開したバリアで受け止めた。

ダメージが通った様子は無い。

しかし、時間は稼いだ。

その隙を見逃さずになのはとソラは九尾から距離を置き、影分身を使用してそれぞれ一体ずつ分身を用意。その後チャージに入った。

久遠も影分身をしてそれぞれの護衛へと向かっている。

Gruuuu

九尾が魔力の収束を感じてかその視線を俺からソラ達へと向ける。

九尾の魔力が高まりソラ達を狙い打つべく体制を整える。

だがしかし、それを許すわけには行かない。

『ディバインバスター』

「シュート!」

俺の分身たちが時差式でバスターを連射して牽制。

かわし、防御している間は奴も砲撃を打つことは出来ない。

分身が砲撃で牽制している間に俺は高速で近づいて九尾の周りに設置型のバインドを多数展開する。

GA!?…Gruuuuuuu

「ストラグルバインド」

展開した魔法陣から鎖が伸びて九尾を拘束しようと迫る。

GURUUUUU

九尾はその拘束を難なく避けてソラの方向へとその身を躍らせる。

行かせるか!

そう思い俺の分身たちもストラグルバインドを展開するが、設置型のバインドをもその直感で難なく避けて少しずつだがソラへと迫る。

Gura!?

物凄い勢いでソラに迫っていた九尾の体がいきなりぐらついたかと思うと、今まで避けれていたはずのバインドにその身を拘束された。

Ga…garuu…

息が苦しいのか口をパクパクさせて酸素を肺に取り込もうと一生懸命もがいているようだ。

その隙に俺の影達は十重二十重とバインドで九尾を拘束する。



九尾と対峙するに当たって切った奥の手。

そう、俺は九尾と対峙するや否や万華鏡写輪眼を発動していたのだ。

志那都比古(シナツヒコ)
視界に映った空間の空気を支配する力。

その力で俺は九尾の周りの空間の空気に干渉した。

空気中に含まれる酸素を抜いて二酸化炭素へと置き換え。

今奴は急激な酸欠により脳の活動が著しく阻害されている事だろう。

その結果、奴は体の制御能力を失い俺の影分身達に拘束されている。

とは言え、人間ならば死んでしまうかもしれない環境だが、ジュエルシードの暴走体へはどうだろうか?

やはりと言うかこの環境に対応すべく体組織が組みかえられているようで、その体は淡く発光している。

しばらくすれば無呼吸で生きる事が可能な生物に変態しそうだ。

だが、俺は十分に時間は稼いだぞ?

「なあ?なのは、ソラ」

見上げた先に居るなのはとソラ。

「うん」

「任せて!」

煌々と煌く魔力の塊に吸い寄せられる魔素が箒星のように尾を引いて集まっていく。

その光景は神々しくとてつもなく綺麗だ。

九尾もどうやら無呼吸状態に適応したらしく、溢れんばかりの魔力で俺のバインドによる拘束を引きちぎろうとしている。

「俺の影ごと撃て!」

俺の叫びを聞いてなのはとソラはその分身も含めて四つの極光を振り下ろす。

「スターーーライトォ…」
「ルナティックオーバーライトォ…」

「「ブレイカーーーーーーーーーーーーーー」」

眩い光は一つの目標へと走り、それは螺旋を描きながら折り重なり一つの砲撃となって九尾を包んだ。

その後爆音と海を裂いた水しぶきが俺を襲う。

ザァァァッ

水しぶきによる水蒸気が晴れるとそこには封印された6つのジュエルシードが浮かんでいた。 

 

第三十六話

side クロノ

僕は今、眼前のモニターを食い入るように見つめている。

迫り来る無数の魔力スフィアを被弾無く回避しながら向かっていくアオの姿を見る。

一体どんな訓練をつめばあの量の弾幕を被弾無く避けられると言うのか。

避けるだけではなく、先ほどからソラとなのはは隙を突いて攻撃を仕掛けているのも見える。

「凄いわね、彼ら」

母さんの少し呆れたような声が響く。

「はい。こんな事管理局の魔導師で出来る人は一体どれくらい居るのでしょうか」

エイミィが母さんの声を聞いてそう返答した。

確かにこれだけの技量を持った人なんて一握りだ。それこそ何年もの修練の先にようやくたどり着けるものだ。

それを年端も行かない彼女たちが修めているはいささか不釣合いではある。

なんて疑問が浮上した所でさらに新たな問題が浮上した。

「これは…幻影系の魔法か?だがそんな事をしても意味は無いだろうに」

モニタの先でアオの周りに20人ほどの分身が現れたのが見えた。

このように、物量で攻めてくる相手に囮にしかならない幻影魔法など魔力の無駄もいい所だ。

しかし、エイミィが手元のキーボードを鬼気迫る勢いで叩き、画面を確認すると、ありえないと言った表情で叫んだ。

「違います!アレは全て実体です」

「はあ!?そんな訳無いだろう?」

エイミィの余りにもショッキングな報告に此方の声も荒げてしまった。

「クロノ君…私もそう思って何度も確認したんだけど、計器はアレを実体だって算出しているの!」

「そんなバカな!」

アオの放った魔力球。幻影にまぎれて本体が行使していたとしてもその全てを正確にターゲットに当てる事など不可能ではないかと思えるほどの量だった。

しかし、その後の砲撃魔法で彼ら一人一人が実体である事が証明される。

スフィアであるシューターではなく、砲撃であるバスター。

その突き出した手の先で収束してから放たれると言う使用方法によりそれが幻影に被せて本体が行使する事は殆ど無理であろうという事は僕にも分る。

「結界上部で巨大な魔力反応を感知!こ…これは…」

モニターに映し出されるのは空中で静止して大魔力砲撃の準備をしているであろうなのはとソラの姿。

しかしおかしいのはやはりその姿が増えている事。

「エイミィ!」

「収束されている4つの魔力球は両方とも実体です!」

「そんな…ばかな…」

信じられずにモニターを見ると今度はその数の多さで四方からバインドを展開しているアオの姿が映る。

しかし敵はその十重二十重のバインドをその動物的直感で避けていく。

しかしその動きが段々ぎこちなくなっていく。

何だ?アオは何かしているのか?

終にその身を捕らえる事に成功した。

だが、これからどうするんだ?

確かに認めよう。アレは実体だ。

各人から伸びるバインドによって雁字搦めにされるイタチの化け物。

恐らくそこにチャージしている極大魔法をぶつけるのだろうが、それではあの分身は?

分身ごとやるのならやはりアレは幻影なのだろうか?

『『ブレイカーーーーー』』

「なんていうバカ威力!?」

て言うかためらいも無く彼女らはあの分身ごと打ち抜いたぞ!?

やはりフェイクなのか?

どうにか局員達の頑張りで結界は破壊されていないようで、津波による被害は免れたが、もし結界が破られていたらその被害は甚大だっただろう。

それくらいの規模の威力の攻撃だった。

「エイミィ、状況は?」

母さんがエイミィの報告を待つ。

「ジュエルシードの封印は完了。原生生物との分離成功したようです」

「そう。それじゃあジュエルシードを回収してしまいましょう。クロノ、行って来てもらえるかしら」

「了解しました、艦長」

先ほどの戦闘で3人にはどれほども魔力は残っていないだろう。

直ぐにでも回収へと向かって行けないほど体力と魔力を消費しているに違いない。

その証拠に彼らの動きは緩慢で、なかなかその場を動こうとしない。

転送で結界外へと転移させたアオ達の知り合いのようだった彼らより早くジュエルシードを回収した方がよさそうだ。



side out



「アオ!無事だった!?」

ジュエルシードが封印されるや否や、自力で結界内部へと転移してきたフェイトが俺に心配そうに声を掛けた。

「ああ、ほらこの通り、無事だよ」

「よかった…なのは達は?」

「あそこだ」

視線を移すと海面で何かを拾っているなのはの姿が見える。ソラは空中で待機中だ。

それを見てフェイトは胸をなでおろす。

「っは!、ジュエルシード…」

「あそこ」

「アオ…」

そんな顔するなよ。

「あー、俺もソラ達も魔力消費が激しくてそう俊敏には動けそうも無いなー」

「!?…ありがとう」

ゴウっと音を立てて空気を切り裂きながらフェイトは一目散にジュエルシードの確保に向かった。

あと少しといったところで丁度フェイトと反対側に転移魔法陣が展開され、そこからクロノが転送されてきた。

「ストップだ。すまないがジュエルシードを渡すわけには行かない」

手に持ったS2Uをフェイトに威嚇するために突き出してはいるが、本当に撃つ気はなさそうなので一安心だ。

しかしいつでも撃てるように準備はしているので対峙しているフェイトもうかつには動けないようだった。

「出来れば君たちの事情が知りたい、君の保護者も含めて話し合いがしたいのだが」

「…っ」

クロノの説得。

しかしその時上空から広範囲攻撃クラスの雷撃魔法がふりそそいだ。

『ラウンドシールド』

ソルが俺に身を案じて直ぐにバリアでその雷撃を遮断してくれた。

何だ!?あのイタチは完全にジュエルシードを分離させたはずだ。

ならばこの攻撃は一体?

しかし、少し考えたら答えは出る。

そう、この攻撃は恐らくプレシアのものだろう。

原作でも広範囲攻撃でジュエルシードをくすねて…って!ジュエルシードは!?

視線をジュエルシードが浮かんでいる方へと移す。

「きゃあああああああ」
「うわああああああ」

この魔法の中心はジュエルシードの辺りらしい。

俺の請けている攻撃は余波みたいなものだが、より近くに居るフェイトとクロノへの威力は比べるまでも無く高い事が見て取れる。

「っフェイトーーーーー!」

俺はラウンドシールドを展開したまま全速力でフェイトの方へと駆けた。

しかし俺はフェイトを守るには間に合わず、自己で展開したシールドがその圧倒的な魔力による雷撃で打ち抜かれたしまった。

「きゃああああああああ……」

飛行魔法まではまだキャンセルされていない内に俺はフェイトを抱きとめて上空からの雷撃から守る。

「………かあ…さん」

呟くよりも小さな声がそうもらした気がした。



side フェイト

ここは何処だろう?

確か私は空から降ってきた雷撃魔法に撃たれて…

なんでこんな真っ暗な空間に居るのだろうか?

見渡す限り真っ暗な空間。

その奥の方に微かな光を感じる。

私はそれに引き寄せられように足を進めた。

後一メートルと言ったところで急に後ろに気配を感じた。

「そっちに行ってはダメだよ」

誰?

振り向いた先には小さな女の子が。

私?

その姿は5歳ほどの姿をしているが、その見た目は私そのもの。

あなたは誰?

「私はアリシアって言うの」

アリ…シア?

「うん。あなたはフェイトだよね?」

あれ?私名乗ったっけ?

「ここは精神世界みたいなものだから」

それが答えになっているのかは分らなかったけれど、何となく理解した。

それで?どうしてそっちに行ってはいけないの?

私はアリシアと名乗った少女に質問した。

「それはフェイトの記憶。ゆかりお母さんに会う前のあなたの記憶」

記憶?

そう言えば私はゆかりお母さん達に会う前の記憶は無かったんだっけ?

私のことを本当の家族のように受け入れてくれているゆかりお母さん達のお陰で今の今まで忘れていたよ。

もしかしてアレに触れれば私の失った記憶が戻るの?

「…そうだね。だけどそれは5歳から9歳までのあなたの記憶」

え?それ以前は?

「それ以前の記憶が今の私かな?でもそれはあなたの記憶じゃないの」

うん?どういった意味だろう?

5歳より前の記憶だって私のもののはずだ。

だけど、私の心を読んだのか、アリシアと名乗った少女の表情は暗い。

「ここでその光に触れればあなたは自分の記憶を思い出す。だけど私はそれを勧めない」

何で?

「それに触れたら今の生活が終わってしまうから」

終わってしまう?今の生活が?

私の忘れたしまった記憶に一体何があるのだろうか。

「私は忘れたままの方がいいと思う。でもそれを決めるのはフェイト自身だから」

ここで選んで、とアリシアは告げた。

あの光に触れれば記憶が戻る。

だけど、アリシアが言うには忘れたままの方がいいらしい。

私は少し考えてからアリシアに一つだけ質問する。

私が記憶を忘れてしまって悲しむ人は何人くらい居るの?

今の私がもし、記憶が戻った事で悲しんでくれるのはゆかり母さん、アオ、ソラ、なのは、久遠の5人。

もし、それよりもいっぱいの人が私を待っていてくれるなら…

「……残酷かもしれないけれど、一人も居ないわ」

アルフは?

「アルフはきっとこのままフェイトが笑っていてくれる事を望んでいるはず」

自分の事を思い出してもらえなくてもね、とアリシアは続けた。

「コレが最後のチャンスだよ。コレを逃したら多分一生思い出さないんじゃないかな」

どうするの?と、アリシアは問いかけてきた。

私の答え。

今の私が望んでいる事。

この選択を後悔する事がいっぱい有るかも知れない。

だけど私は…

「そう、わかった」

そう言うとスウっとその輪郭がぼやけて最終的にはパと消えてしまうアリシア。

さようならお姉ちゃん。

それを見送って、私の意識は暗闇から覚醒した。



「ここは?」

最近見慣れたどこか柔らか味の有るクリーム色の壁紙ではなく、どこか鋼鉄を思わせる鉄色で、どこか冷たい印象を私に与える。

「アースラって言う次元航行艦?の中よ」

アースラって言う名前はアオ達が出かけるときに聞いた。

つまり私は敵の船の中にいるって事だ。

「っ!ジュエルシードは」

慌てる私を優しく押しとどめてゆかり母さんが話す。

「フェイトちゃんは何処まで覚えているかしら」

「……空からの雷撃の後、私、直ぐに気絶したから」

そう、と一拍置いてから話しだす。

「あの後、フェイトちゃんがアオに抱きとめられてから直ぐになのちゃん達がジュエルシードの回収に向かったそうよ」

なのはが回収に、それならばジュエルシードは管理局に取られてしまったのか…

「だけど、あの雷撃の中、なかなかジュエルシードへと近づけず、結局第三者の手に渡ってしまったわ」

第三者?つまりあの雷撃をした人と言う事だ。

「アオ達は?」

「あーちゃん達はジュエルシードの確保に向かったわ」

「何処に!?」

「時の庭園。貴方の家よ」

ゆかり母さんが少し物悲しそうな表情を浮かべた。

「私、さっきまで夢を見ていました。
その中で私そっくりな少女が出てきて、ここなら貴方の記憶が戻るだろうって」

「…それで?」

ゆかり母さんは真剣な表情で続きを促す。

「コレが最後のチャンスで、コレ以降は思い出さないだろうって言ってました。でも彼女は思い出さない方が良いって」

私の一言一言を真剣な表情で聞いている。

「私は選択しました………私の家は御神の家です。私は御神フェイト。貴方の娘です」

「フェイトちゃん」

ゆかり母さんに抱きしめられた。

鼻腔をくすぐる優しい匂いに包まれる。

私は選んだ。

アオ達と家族で居る事を。

ならば私も行かないと。

私の家族を迎えに。


side out 

 

第三十七話

アースラに戻ってきた俺たち。

腕の中に抱えているフェイトを俺達が借りている部屋のベッドへと運びこむ。

その時俺の念で外傷を消す。

そう言えば語らなかったが、俺の念能力は触ったものの時間を操る「星の懐中時計(クロックマスター)

俺の念能力は治す能力ではない。

治すのではなく体表面の時間を操ってフェイトの肉体を少し戻した。

その結果、傷が塞がったのだ。

フェイトをアルフに頼み、ブリッジへ。

拘束はされていないが一応重要参考人として招待された母さんがクロノと話している。

「つまり貴方はプレシア・テスタロッサとの取引でジュエルシードを集めていたと」

「そうよ」

「アレがどういうものか分っていてですか?」

「ええ」

「貴方は!」

「クロノ」

リンディさんがクロノと母さんの会話に割りこんで止める。

「かあさっ…艦長!」

「紫さん。貴方は子供たちから私たちの組織の事は聞いていなかったのですか?」

「聞いていたわ」

「だったら」

「でも、貴方たちが勝手に語っているだけかもしれないじゃない。私は今まで生きてきて、そんな組織を聞いた事が無い。信じろという方が難しい。それに先に接触したのがプレシアで、どうしても欲しいものが私にもあった」

「その欲しかったものをお聞きしても?」

母さんは少し考えてから言った。

「フェイト・テスタロッサの親権」

「な!?貴方は子供を売買するのか!?」

「貴方たちなんて子供を戦場に出しているじゃない!」

母さんの怒声にクロノが黙る。

「彼女の現状も理解できずに憤るんじゃないわよ!フェイトちゃんにはその体に家庭内暴力の痕があったと言っても貴方は親元から引き離すなと言うのか!?」

「ぐっ…」

「彼女の母親にも会ったわ。その彼女があの子をなんて言ったと思う」

「なんて言ったのかしら?」

一児の母であるリンディさんが問い返す。

「お人形。それ以上でも以下でも無いそうよ」

その言葉を聞いてブリッジが静まり返った。

しばらくの沈黙。

それを打ち破ったのは鍵盤を弾いていたエイミィ。

「艦長。プレシア・テスタロッサのデータ、出ました」

ピコンとスクリーンに現れるプレシアのデータ。

「あら、これは」

表示されるデータ。

「そんな…」

母さんやなのはの手前にはソルが翻訳したデータを展開しておいた。

其処に映し出されたのは膨大だったが、なのはの目に付いたのは一点。

家族関係。

娘 アリシア・テスタロッサ 死亡

以上

フェイトの事は何一つ記されていない。

「プロジェクト・フェイト」

それはクローンを使った記憶転写型人造魔導師計画の総称。

「もしかしてフェイトちゃんって…」

「アリシアって子のクローン…」

二人とも絶句。

そんな事よりも俺は特筆すべき事があると思う。

「クロノ、この条件付SS魔導師ってのは…」

「これは…まずい!」

備考を見ると媒体からのエネルギー供給とそれを操る技術、さらに天文学的な数値の魔力まで操れたとされている。

なるほど。

自身の魔力資質ではなくベルカ式カートリッジシステムみたいに外的要因が大きく関わるタイプか。

ジュエルシードを奪われた分の9個。

それ以前のものは渡していない。

ソラとなのはのダブルブレイカー×2に不利を悟ったか、機を焦ったか。

それはさて置き。そんな数のジュエルシードからの魔力を使われたら…

さて、現在結界を張っていたはずの局員達は、プレシアテスタロッサの根城、時の庭園へと歩を進めていた。

俺たち全員の動きを阻害するための渾身一撃は、アースラへと攻撃する余裕などなく、その攻撃座標を割り出していたアースラは結界の維持をしていた局員達を回収後直ぐに時の庭園へと派遣した。

庭園内へと進入していた局員達にもリアルタイムで首謀者のデータを送信、逮捕に向かったのだが…

局員達に囲まれても玉座に座り頬杖をついて余裕の表情を崩さないプレシア。

その表情がさらに奥に入った局員が生態ポットを発見した所で豹変する。

「私のアリシアに…近寄らないで!」

鬼気迫る表情で管理局員に迫るプレシア。

その猛攻を凌ぎきれずに倒される局員。

「転送、急いで!」

リンディさんに急かされて、雷撃魔法で倒れ伏した局員を急いで回収するエイミィ。

「流石に条件付とは言えSSランク魔導師」

圧倒的だった。

「ちょ!大変。見てください。屋敷内に魔力反応多数」

現れる魔道アーマー。

その内包魔力はどれもAランク以上。

その数は100を超える。

「プレシア・テスタロッサ、一体何をするつもり?」

サーチャー越しにリンディさんが問う。

「私たちは旅立つの、永遠の都、アルハザードへ」

精神が錯乱しているためか、それとも科学者の職業病か。

問われた質問に答えるプレシア。

亡きアリシアを蘇らせる為に次元に穴を開けての片道切符。

切符を買う手間の料金がジュエルシード。

手元にあるジュエルシードを起動させて本格的に次元震が発生する。

なんか凄くブリッジが慌しい。

まあ、下手をすれば一つの世界が終わるほどの災害が起きるかもしれないのだからそれは慌てもするか。

そんな中、お前は何で今まで現場に行かなかったのかって?

俺にしろ、ソラにしろ、なのはにしろ、消費した体力と魔力の回復を最優先にしたためだ。

三人とも大量に魔力を消費したために直ぐには動けそうも無かった。

特にソラはAAほどの魔導師質でブレイカー二発分の魔力運用。

体への負担を考えると回復の時間は必要だった。

「どうするんだクロノ…クロノ?」

呼びかけたはずのクロノの姿は既に何処にもない。

「あれ?何処に?」

「クロノならさっき走ってトランスポーターまで走って行ったよ」

「一人で?」

「一人で」

冷静に周りを見ていたソラが教えてくれた。

「クロノ君一人で大丈夫かな」

なのはが心配そうに呟いた。

「大丈夫な訳ないわ。貴方たちとの契約は黒いイタチもどきの討伐までのジュエルシード確保だったけれど、行って貰えないかしら」

リンディさんから時の庭園への侵攻の要請。

このままだと世界が滅びかねませんとエイミィさんも叫ぶ。

「魔力も大方回復したし、大丈夫ですよ。なのは、ソラ。久遠」

「うん」
「はい」
「くぅん」

「母さんはフェイトを頼む」

「あーちゃん、なのちゃん、ソラちゃん、久遠ちゃん。…頑張ってきなさい」

「「「「はい」」」」

母さんは逡巡したが、激励して俺たちを見送った。



やって参りました時の庭園。

ばっちり警備兵を配置された城の中を進むのは骨が折れそうだ。

「クロノ君」

「君達か」

なのはが声を掛けると一瞬振り向いて確認するとS2Uを刺し貫いた魔道アーマーから引き抜いた。

流石にリンディさんからアースラの切り札扱いされているだけはある。

入り口までの魔道アーマーを全て駆逐し終えていたようだ。

「すまない。本当はこんな事を頼むのは心苦しいのだが、人手が足りない。力を貸してくれるか?」

「リンディさんにも頼まれたし元からそのつもりだ。余波で地球が無くなったりしたら困るからな」

「地球だけの問題では無いのだが…すまない、助かる」

ぶち破った扉から城内へと侵入する。

床下は所々破れ、虚数空間に繋がっている。

「この穴には気をつけろ!虚数空間、魔法が発動できない空間だ。落ちたら最後重力の底までまっ逆さまだ」

無限に湧き続けるのではなかろうかとも思える魔道アーマーをソルで切り裂きながら進む。

「……それにしてもお前達の戦闘技術、年齢に比べると成熟していないか?」

俺はともかく8歳児であるなのはとソラの戦闘技術は明らかにおかしい。

「ノーコメント。しいて言えば人の何倍も訓練したから」

影分身を使って。

「人の何倍も…か」

さて、このエリアも掃討したし次に行かないと。

「待ってくれ!」

その声に振り返ると、底には人型で走り寄ってくるアルフの姿が。

「あたしにも手伝わせてくれ」

「アルフさん」

なのはが歓迎の声を上げる。

「人手は多いに越した事は無い。よろしく、アルフ」

「おう」

しばらく走ると分かれ道に差し掛かる。

「ここから二手に分かれる。アオと、使い魔二人には駆動炉の封印を頼みたい」

おや、俺たちが駆動炉へと回されたか。

反対してロスする時間は無いから了承して頷く。

「僕たちはプレシア・テスタロッサの捕縛へ向かう」

とは言え、俺たちに警察権は無いから、逮捕するのはクロノの仕事だ。

「じゃあ、また後で」

「アオも気をつけて」

ソラがそう言ってクロノを追う。

「お兄ちゃんもくーちゃんも怪我しないでよ」

「誰に 言っている」

なのはもソラに続いた。

「さて、俺たちはこっちだ」

「くう」

「おう!」

雑魚を切り伏せながら階段を駆け上がり、コロッセオのような円筒状の建物の中を飛行魔法を駆使して上っていく。

と言うか、この時の庭園。一体誰が作ったの?こんなのが作れる時間と資産がプレシアにあったとは思えん。

どこかに元からあった物だろうか。

次元空間内に浮かぶ城とか、ある意味ロストロギアなのではなかろうか、この城。

ドドドーーーン

壁を突き破り現れるのは今までよりも一回り以上大きい魔道アーマー。

「でかっ!」

「…おおきい」

なんて言ってる暇は無かった。

肩についている大型ランチャーや腕そのものが砲身なのか、幾つもある刃先から四方八方へと散らばる光線。

バリアで受け止めるとそこに集中砲火されてバリアの上から落とされそうだ。

(らい)!」

人型の久遠が指を振ると頭上から雷撃が落ちてショルダーアーマーを破壊した。

しかしその砲撃を止めるまでには及ばず。

と、その時。頭上から巨大な魔力反応。

『サンダーレイジ』

「サンダーーーーーレーーーーイジ」

足元の魔法陣へと突きつけたバルディッシュから特大の雷撃魔法が魔道アーマーを襲う。


両肩の砲身からバリアを展開して威力を殺いでいる魔道アーマー。

「今がチャンスか、ソル!」

『ロードカートリッジ、フォトンブレイド』

魔力刃を纏わせ刃渡りを何倍にも伸ばしたソルと振り上げながら魔道アーマーに飛び寄る。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」

気合一閃。

拮抗していたバリアごと頂点から真っ二つに切り裂いた。

ドーーーーンっ

轟く爆発音。

「フェイト!」

フェイトの使い魔であるアルフは一目散に主に駆け寄る。

「アルフ」

豊満な胸に抱きしめられて今にも窒息しそうだ。

「フェイト!フェイト!」

「アルフ…苦しい…」

「あ…ゴメンよフェイト」

敵を倒し終えた俺もフェイトへと飛びよる。

「フェイト、何でこんな所に?ここが何処か知っているのか?」

俺のその問いにフェイトは俺を真っ直ぐ見つめて答える。

「ジュエルシードを奪っていった人の本拠地で、それの所為で地球が吹っ飛ぶかもしれない、大変な事になっているんだよね」

「そうだけど…そうじゃなくてだな…ここは…」

言いよどむ俺。

「私に関係があるんだね?」

でも、と一拍置いてからフェイトは力強く言った。

「今の私は御神フェイト。だからここがどんな場所かなんて関係ない。私は私の家族を、家族になってくれる人を守るの」

その言葉は本当に力強く、今のフェイトの真実。

「そうか…そうだね、一緒に行こう。もうこの先が駆動炉だ」

「うん!」 

 

第三十八話

駆動炉の封印を終えた俺たちは、転進して最下層、プレシアの所へと駆ける。

道中の魔道アーマーの殆どは何かに切り裂かれたかのような感じで倒れていた。

なのはがやったのか、ソラがやったのか。どちらでもいいけれど容赦なく一撃で一刀両断されている。

前方に爆破された扉が見える。

開けるのが面倒になって魔法でこじ開けたな…

扉を潜り抜けるとそこでプレシアさん一人となのは、ソラ、クロノと母さんが戦闘を行っていた。

と言うか、母さんはいつの間にこっちに来ていたのだろうか?

大量展開した魔道アーマーで身辺を守り、自身は極大な固定砲台と化したプレシアに少々攻めあぐねているようだ。

「いい加減にくたばりなさい!」

部屋の中を雷撃魔法が炸裂する。

「ラウンドシールド」

入り口に居る俺とフェイト、久遠とアルフ。

中央にソラ達。

その奥にプレシア。

プレシアが行使するのは広範囲殲滅魔法。

ゲームで言うマップ兵器。

その威力はジュエルシードから供給される魔力でかなり底上げされていて、気を抜くと落とされるレベル。

シールド魔法の使えない母さんをソラとなのはが包むようにシールドを展開している。

「っく…あなたの気持ちも分るわ!だけど!独りよがりで他人に迷惑のかかる行為はやめてもらえないかしら」

「あなたに何が分るって言うの!?私の苦しみ、絶望があなたなんかに!」

「少なくても他の人たちよりは分るわ。私も突然家族を失ったことがあるもの…二回もね」

「………」

「だからあなたのやってきた事を否定する事はしないわ」

「だったらだまって見て居なさい」

母さんは顔を左右に振ってから答える。

「それは出来ない。貴方がやっている事は私の幸せを壊すもの。あなたにとって価値の無いこの世界。だけど私にとっては大切だから」

確かにこのまま次元震が大きくなれば最悪余波で地球が滅びかねないのは事実か。

問答が続きようやく雷撃が止んだ。

「だからあなたの凶行は止めるわ。…だけど、私たちに手伝える事があるはず」

「なにを…」

「きっと何か他に方法があるはずだわ」

「私がどれだけの時間を費やしてきたと思っているの!もうコレしか方法が無いのよ!だから私は旅立つの、この世界の全てを犠牲にしても!」

世界に絶望しているプレシアにしてみればアルハザードのみが唯一の望み。それ以外の選択肢は既に存在しないか。

母さんとプレシアの問答を聞いていた俺達へ、プレシアの暗く濁った瞳が向けられる。

「…あそこに居るのはアリシアのなり損ない…その存在自体が不愉快な者。あの子と同じ声で私を呼ぶ、…ああ、実に不愉快な実験動物の成れの果て」

すでに精神を病んでいるプレシアはジュエルシードから供給される大量な魔力に酔っている状態だ。

「目障りだから消えなさい!」

プレシアの周りを回る9個のジュエルシード。

それらから供給された魔力を集めてこちらに向かって打ち出してきた。

「しまった!」

「アオ!」
「フェイトちゃん!?」

攻撃対象が自分たちからそれた事で一瞬反応が遅れてしまったソラ達。

インターセプトをする暇が無かった。

空間攻撃から直射へと攻撃方法を変えた雷撃、それが俺たちへと迫る。

「くっ!ソル!」
「バルディッシュ!」

『ラウンドシールド』
『ディフェンサー』

咄嗟に俺とフェイトが二人で展開したバリアをじわじわと撃ち砕いていく。

『ロードカートリッジ』

ガシュッガシュッガシュッ

排出される薬きょう。

「くぅん!」
「はあっ!」

遅れて久遠とアルフもバリアを展開する。

しかし、九個のジュエルシードから排出された魔力によるその一撃は尋常ではなかった。




「アオ!」
「フェイトちゃん!?」

わたしとソラちゃんの叫び声が重なる。

そんな!

振り向いた先には今までに無い威力の砲撃魔法を受け止めているお兄ちゃんとフェイトちゃんの姿が。

その攻撃は展開されたバリアにひびを入れていく。

一枚、そしてもう一枚と、一枚割れると直ぐにほかのバリアも貫かれてしまった。

ドゴーーーンッ

辺りに爆音と、その後の土煙が充満する。

「そんな…」

「あーちゃん!?」

紫ママの表情から血の気が引いていく。わたしの顔からも。

そんな、そんなまさか…

わたしの心配をよそにソラちゃんはその表情に不安の色は無い。

「大丈夫」

自信にみなぎる表情でそう答えるソラちゃん。

「…でも!」

煙が晴れるとそこにはお兄ちゃんたちをその両の腕で守るように巨大な上半身だけのドクロが顕現していた。

「ガイコツ!?」

「何?あれ」

紫ママも知らないの?

わたしと紫ママはソラちゃんに視線を向ける。

「違う、アレはスサノオ」

「スサノオって日本神話の?」

日本神話?うーん、わたしにはいまいちぴんと来ないの。

神様の名前か何かかな?

「日本神話は私は知らない。けれどアレはスサノオって言うの。アオと私の最終奥義。切り札は出来れば見せたくなかった」

ソラちゃんが説明してくれている間にだんだんドクロが人の形を取っていく。

アレは女の人かな?

「ソラちゃ…何やっているの!?」

女の人からソラちゃんに視線を戻すと、小脇に抱えるようにして気絶しているクロノ君がいた。

ほんの一瞬でクロノ君に当身を食らわせて気絶させ、連れてきたようだ。

「ちょっと!それってクロノ君のデバイス」

確かS2Uって言ってたかな?ソレを完膚なきまでに粉々に握りつぶしているソラちゃん。

ストレージでAIは無いっぽいけど、それはひどいと思うよ?

ついでに回りに飛んでいたサーチャーも潰している。

「記録とられたくないってアオが言ってる」

「そ、そうなの!?」

もう一度視線を戻すといつの間にか女性の姿は無く、大きな天狗のようないでたちの上半身だけの巨人が居た。

「母さん!取り合えずプレシアさんをぶっ飛ばして拘束してから説得しよう」

お兄ちゃんが叫ぶ。

「…そうね、今の彼女には何を言っても聞き入れてはもらえないわね。あーちゃん、やっちゃって」

「了解」

そんな会話をした後、その巨大な人影はお兄ちゃんが歩くのと共にプレシアさんに向かって前進する。

「なのは!下がるよ」

ソラちゃんに手を引かれてお兄ちゃんの後ろ側に居るフェイトちゃんのそばに紫ママと一緒に移動する。

「にゃ!?大丈夫なの?」

「大丈夫」

合流したフェイトちゃんに声を掛ける。

「フェイトちゃん、無事!?」

「うん、大丈夫。それよりもアレは…」

おどろおどろしい怪物の登場にフリーズしていたプレシアさんが再起動。

「っく…それが何だって言うのよ!沈みなさい」

もう一度先ほどの雷撃魔法がお兄ちゃんに迫る。

「あ!危ない!」

「アオ!?」

「あーちゃん!」

「平気。ヤタノカガミがあるもの」

「三種の神器の?」

紫ママが言うジンギっていったいなんなの?なんか凄そうだって言うのは分るんだけど。

フェイトちゃんも何の事だかさっぱりの様子だが、どういった現象なのだろうと一生懸命に聞いている。

「そう。ヤタノカガミはあらゆる性質に変化する。故に絶対防御」

ソラちゃんが言ったとおり、雷撃魔法の直撃を食らっても、左手に構えて銅鏡のような盾に弾かれる。

「きゃあ!?」

『ラウンドシールド』

その魔力の凄まじさから、全てを無効化できずにはじかれた余波が此方を襲う。

気を利かせてくれたレイジングハートが直前でシールドを展開してくれた。

「ありがとうレイジングハート」

『問題ありません』

のっし、のっしと歩を進めるスサノオさん。

「行きなさい」

接近されて焦ったプレシアさんが自身の守りの魔道アーマーを差し向ける。

斬っ

水平に振りぬいた右手にはいつの間には幾つも枝分かれしているヘンテコな形をした巨大な剣が握られている。

「草薙の剣ね」

紫ママがそう呟いた。

「知ってるの?」

「さっきのが銅鏡がヤタノカガミなら。あの神々しく銀色に輝く大剣は草薙の剣か天叢雲剣かのどちらかよ。まあスサノオとくれば天叢雲剣の方が有名だけどね」

「そうなんだ。私達は十拳剣って呼んでいる」

何を言っているのかチンプンカンプン。

だけど草薙の剣の名前はわたしでも聞いた事がある。

ゲームでだけど…

ジパングでヤマタノオロチを倒すとドロップする剣だよね。

っとと、それはゲームの話だ。

とつかのつるぎ?は聞いた事無いよ。

スサノオさんが振りぬいた先に居た魔道アーマーが真っ二つになって転げ落ちる。

「な、そんな…一瞬で?」

プレシアさんの驚愕の声が聞こえる。

でもその驚愕はわたしも一緒だ。

「流石に草を薙いだ剣ね。今回の場合草では無くて魔道アーマーだけど」

何十体も居る魔道アーマーがただの一振りでなぎ倒してその半数が爆散したのだから。

「っ私を、アリシアを守りなさい」

その願いをどう受け取ったのか。

プレシアさんの手元にあったジュエルシードが一箇所に集まり、そこから黒い尻尾のようなものが九つ出現した。

「あ、アレは!?」
「まさか!」
「そんな!」

うねっていた黒い尻尾が一斉に伸び、お兄ちゃんに向かう。

斬っ

それを事も無げに切り払うスサノオさん。

切り払うばかりか、さらに距離を詰めていっている。

その尻尾の出現場所には黒い球体があり、そこから今にも生まれてこようと躍動する。

あれは多分つい先ほど倒したばかりの九尾!

わたしがいくらなんでも荷が重いだろうと加勢に入ろうとした瞬間、その黒球を刺し貫いた十拳剣。

GROOOOOOOOO

瞬間、咆哮とも悲鳴ともつかない絶叫が響く。

「え?」
「あ?」

その光景に驚愕する。

刺し貫いた黒球が十拳剣に吸い込まれるようにして消えたのだ。







あ、マズイな。

俺はゆっくりと流れる閃光を前にそう思う。

相手のプレッシャーを感じ、脳内のリミッターが外される。

神速。

時間の流れが緩慢に感じられる。

展開したバリアにひびが一本一本入っていくのが見て取れる。

ああ、マズイ。

すでにカートリッジはフルロード。

こりゃ受け止められないわ。

非殺傷スタン設定な訳も無い高魔力攻撃の直撃を食らってしまう。

俺や久遠は念による身体強化、ダメージ軽減が出来るが、フェイトはまだバリアジャケットが有るから多少マシだろうけれど、アルフがなあ。

ジュエルシードで威力が向上したこの魔法の直撃に耐えられるだろうか。

無理かな…

切り札は見せたくないし使いたくないけれど、家族を守るためならば仕方ない。

ほんの数日しか一緒に過ごしていないけれど、フェイトもアルフも俺たちの家族だ。

だったら迷うな!

多くの力を持っている俺とソラが生きていく上で守りたいと思うもの。

過去二回の転生でそうだった為かもしれないが、家族と言うものと縁が薄い。

愛してくれている家族とは大抵生き別れる。

だから、守れる時は全力で。

それが俺の誓い。

グッと四肢に力を込める。

両の万華鏡写輪眼が開眼する。

「スサノオォぉぉぉぉ!」

バリアが破られ、迫る直前に俺の眼前に現れる白骨の両腕。

ドゴーーーンッ

着弾した雷撃魔法の威力をどうにか受け止める。

「あ、アオ?」

コレは?と問いたそうな顔をするフェイト。

しかしそれに答えてあげれるほど今は余裕が無い。

それにしても、なかなかキツイ。

しかし捌いてみせる。

俺は全身からさらにオーラを搾り出す。

着弾したソレを弾いた余波で舞い上がった粉塵が視界を遮る。

数秒か、数十秒か。終わりの無いと思われた砲撃が止む。

どうにか耐え切ったか。

「こっコレは!?」

「うん、その説明は後で…しないかな?」

「し、しないの!?」

余り知られたくはないしねぇ。

特に知られたくないのは管理局か?面倒そうだし。

ポケットから銀色に着色されたスピードローダーを取り出す。

ソルのリボルバーを開き装填。

『ロードオーラカートリッジ』

ガシュっと音を立てて炸裂するのは特別なカートリッジ。

俺が暇なとき、修行を終えてオーラが余った時などにこつこつ造った念製のカートリッジ。

魔力のそれとは性質が違うため両方を一気にロードする事は出来ないが、それでも今の場合は燃費の悪いスサノオの消費を外から賄ってくれるために重宝する。

【ソラ、悪い。クロノを黙らせてくれ。ついでに記録媒体の破壊もお願い】

【アオ?うん。分った】

念話でソラに後のことを頼む。

「まあ今は取り合えず」

フェイトから視線を母さんたちの方へと向ける。

「母さん!取り合えずプレシアさんをぶっ飛ばして拘束してから説得しよう」

先ずは世界を崩壊させそうな元凶を取り除かないと。

「…そうね、今の彼女には何を言っても聞き入れてはもらえないわね。あーちゃん、やっちゃって」

少しその言葉を吟味した後に母さんが言った。

「了解」

「っく…それが何だって言うのよ!沈みなさい」

またも撃ち出される雷撃を今度はヤタノカガミで受け止める。

「アオ!」

フェイトが心配そうに声を掛ける。

「大丈夫だから少し離れていて」

「あ、うん…」

「久遠、アルフ。フェイトをお願い」

「くぅん」
「了解さね」

それを聞いてお俺は視線をプレシアさんに向ける。

雷撃が聞かないと分ると今度は魔道アーマーを前進させてきた。

「行きなさい」

その言葉でこちらに歩み寄ってい来る魔道アーマーの大軍を、俺はスサノオの右手に持った神剣でなぎ払う。

中には上層で見かけた大型も混じっていたけれど、全て力でねじ伏せる。

その様子は巨大ロボットVS巨大怪獣の様相。

…もちろんこっちが怪獣だ。

しかし普通は巨大ロボットが無双するはずが、巨大怪獣がちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

…シュールだ。

あらかた魔道アーマーを始末し終えると、プレシアがジュエルシードを片手に必死の形相で叫んだ。

「っ私を、アリシアを守りなさい」

その願いをジュエルシードはどう受け取ったのか。

九つのジュエルシードが一箇所に集まると、そこに黒い球体が出来る。

その中から狐の尻尾のような、太さを持った触手が伸びだした。

少しの間うねるような動きをしたかと思うと、一直線にこちらに迫る。

斬っ

右へ左へ十拳剣を振り回し、延びてくる尻尾のような触手を切り払う。

限が無い。

しかも球体部分がなにやら躍動し始めている。

中から本体が出てくるのは時間の問題だろう。

先ほどまで形作っていた形態を覚えていたのか、どうやらコレはあの九尾を生み出そうとしているようだ。

生まれるといささか面倒だ。

機動力が低い今のうちに処理してしまう方が良いに決まっている。

一気に距離をつめ、十拳剣の間合いに入る。

よし!

俺は尻尾を斬り飛ばした隙に剣を一旦消してから、突き刺すように押し出した右手に再度十拳剣を顕現させる。

『ロードオーラカートリッジ』

ガシュガシュっと最後の二発がロードされる。

右手に現れた十拳剣は伸びる勢いも上乗せして途中の尻尾を突き崩しながら本体の黒球に突き刺さった。

GROOOOOOOOO

瞬間、咆哮とも悲鳴ともつかない絶叫が響いたかと思うと、ジュエルシードもろとも十拳剣に封印された。

まさかいとも簡単に無効化されるとは思っていなかったのだろう。

プレシアは何が起こったのか認識するまでに少々時間を要した。

「そ…そんな…ジュエルシードを返してっ!それが無いと、それが…がはっ」

絶望の表情から一変、吐血して片膝をつき、口元を右手で押さえ込むが、その滴り落ちる血液は止まらない。

「アリシアを……アリシア…っ」

ついに倒れこんでしまったプレシア。

度重なる高魔力攻撃の使用とその身を蝕む病で既に限界。さらには目の前で封印されたジュエルシードの事が堪えたのだろう。

その身は既にボロボロだ。

「ママ!ママー」

何だ?と振り返ると、叫びながらプレシアに走り寄るフェイトの姿が。

「フェイト!」

アルフが止めようと駆け寄るが、その拘束を抜け出してプレシアの脇へと走ってきた。

「ママ!」

「フェイト…私は貴方が大「ママ!私だよ?アリシアだよ?分らないの?」…え?」

プレシアの頬に当てた手は左手。

右利きであるはずのフェイトが左手で触れている。

「アリシアなの?…そう。いつもそこに居たのね」

敵意が消えた事を確認して俺はスサノオを解く。

どういう事だろうか。

確かにフェイトにはアリシアの記憶が転写されているかも知れないが、形作られた人格はアリシアではなくてフェイト本人のもののはず。

それにフェイトはママとは言わない。

「ママ!ママ!」

必死に抱きとめるフェイトを慈しむ様に力の入らないその腕で抱き返すプレシア。

「あーちゃん!」

心配そうに駆け寄ってきた母さん達。

その顔はどういうこと?と、問いかけている。

「プレシアが研究していたのは記憶転写型クローンだったから、可能性の一つとしては転写したアリシアの記憶から造られた人格が今になって表面に出てきたとか」

「それは違うみたい」

「ソラ?」

ソラは写輪眼を使用してフェイトを見ている。

俺も倣って写輪眼でフェイトを見る。

するとフェイトの内側に黄色に近い金色のオーラに混ざって水色のオーラが混ざっている。

「これは…」

「何?何なの?」

状況判断に戸惑っている俺の変わりにソラが説明する。

「フェイトの中に他の人の魂が混じってる。今はそれがフェイトを押しのけて体を操っているみたい」

「もしかしてアリシアちゃん?」

なのはが問いかける。

「状況からして多分そう」

二人の会話を邪魔しないように遠巻きで二人を見守る。

感動の再会だが、どんどんプレシアさんの息が細くなっているのは気のせいではないだろう。

こそっと母さんが俺に問いかけてくる。

「ねえ、彼女を助けられない?」

彼女とはプレシアの事だろう。母さんもこのままではプレシアが助からないと肌で感じている。

体から漏れ出す微弱なオーラも段々か細くなっていっている。

「命を繋ぐ事は出来るだろう」

「だったら…「でも」」

母さんが言葉を言い切る前に言葉を被せる。

「でも、命を救う事が彼女を救う事?」

「あっ…」

「命を救っても、彼女には犯罪者としての服役が待っている。そこで彼女の望みは叶わない。彼女の望みは大きいよ」

「望みって、アリシアちゃんの復活」

いいや、と俺は首を振る。

「彼女の望みはアリシアの居た幸せだった日々の存続。…例えアリシアが蘇ったとしても叶えられない」

今度の事件で彼女を無事に助け出しせたとしても管理局に追われることとなるだろう。

それは日々怯えながら過ごす、穏やかとは程遠い日常。

彼女の望みが叶えられるとしたら過去の改ざん。

だが、俺たちにそんな力は無い。

「人一人を助けるのは凄く重いよ。彼女のその後の人生全てに責任が取れないならば、何もするべきでは無い」

「そうなのね…」



目の前で抱き合う二人の会話。

それは伝えたかった思いと、伝えられなかった言葉がたくさんあった。

「私、ずっとフェイトの中で夢を見るようにママの事を見てたんだよ」

「そう…」

「ねえ、ママ。私の誕生日プレゼント、何が欲しいって言ったか覚えている?」

「もちろん…覚えている…わ。妹が欲しい…だったわ…ね」

段々意識が朦朧としてきたのか、その言葉はゆっくりとしている。

「うん。だからフェイトの中で眼が覚めた時、ああ、私に妹が出来たんだって思った」

「…そう」

「私はそこに居ないけれど、妹と二人幸せになってくれたらなって、思ったんだよ」

「…うん」

「私はお姉ちゃんで、ずっと母さんと一緒にフェイトを守っていくんだって思ってた」

「…うん」

「私は二人に私の分まで幸せに暮らして欲しかっただけなのに」

「そう…だったのね。アリシアの…願い…いつも私は…気づくのが…遅すぎる」

その言葉を最後に体から力が抜ける。

「ママ…」

我が子を抱きしめたまま息を引き取ったプレシア。

すぅっと人が入れ替わったみたいにアリシアの表情が変わる。

「こんなのってないよ…こんなのって」

頬につたう涙は二人を思ってか。

フェイトはプレシアを床に寝せて起き上がると母さんに駆け寄って力いっぱい抱きついた。

「ああぁっぁぁぁああ」

「…フェイトちゃん」

フェイトを優しく抱き返した母さんの表情も辛そうだった。

ドーーーン

そんな感傷を打ち破るかのように、今まで鳴りを潜めていた庭園の崩壊が始まる。

「まずい!庭園が崩れる」

「脱出しないきゃ」

なのはが少し慌てたように辺りを見渡す。

ピシッ

「危ない!」

今まで持ちこたえていた床に亀裂が入り砕けて虚数空間へと落ちていく。

咄嗟に飛行魔法を使って抱き合っていたフェイトと母さんを抱き上げる。

虚数空間へと落ちていくプレシアとアリシアの躯を遠目に確認したが、手を出せず。

二人の亡骸を見送り俺たちは庭園内から脱出する。

アースラへと戻ってきた俺たちは、次元震が収まるまで数日与えられた部屋で過ごしたあと海鳴へと帰還した。 
 

 
後書き
今回で無印編は終了です。
次話はA’s編を飛ばしてsts編へのクロスになります。 

 

第三十九話

 
前書き
今回からまた世界の移動がはじまります。今後かなりのご都合主義的展開が乱舞してしまうかもしれません。その事を了承していただけると幸いです。  

 
さて、ジュエルシード事件での俺たちの役目も終わり海鳴へと帰ってきた。

まあ、そこでフェイトの件などで少し管理局側とひと悶着あったけれど…

一応プロジェクトフェイトの生きた成功例であるフェイトの取り扱いには少々もめた。

しかし、実験資料は時の庭園と共に消え、記録上プレシアの娘はアリシアのみ。それも死亡と認定されている。

当然フェイトの戸籍なんかは管理世界には無く、権利問題があやふやになってしまった。

当のフェイトも管理世界での犯罪などは犯しておらず、逮捕される謂れも無い。

管理局で保護をと言う提案を母さんが一蹴。

もう少しでアースラ最後の日(母さんが切れて暴れそうだった)になってしまう所をリンディさんが折れて緘口令を敷いた。

プロジェクトフェイトは他言無用。

さらに俺たちのことも詮索は禁止。

これがさらにもめた。

魔法至上主義の連中に魔法以外の何らかの力で空を飛び、魔道アーマーすら寄せ付けない母さんの力は恐れるに足る存在だったのだろう。

しかし、俺たちにはそれを教える気は無い。

最後は面倒になったので万華鏡写輪眼『思兼』で思考誘導。

そのまま洗脳…もとい、言質をとって部下への詮索を禁止を徹底させた。

いや、便利だね、思兼。

使いすぎると人間としては最低にまで落ちて行きそうだけど。


そんな訳で略式の表彰状をもらい俺たちはアースラから海鳴へと帰ってきたのだ。

つか、殆ど無償奉仕かよ!

死地へと赴いて世界の危機を救ってみれば表彰状のみとかね。

まさしくやってられん。

まあ、一応フェイトの身柄と親権はゲット出来たからいいんだけど。

親権と言えば、フェイトの戸籍なんかは此方の世界には無かったはずなのだが、母さんがこれから造るそうだ。

何でも御神家が存続していたときのコネがまだ有るとの事。

要人護衛の仕事は、なかなかそういった機会が豊富だったらしい。

数日で『御神フェイト』が誕生するだろう。


「そう言えばなのは、あの時海で何か拾ってなかった?」

九尾を打ち倒したときに、なのはが何やら海面から拾い物をしていたような…

「あー、アレね。えっと、ジュエルシードに取り込まれていたイタチが海に浮かんでいたから、見捨てるのもアレだったから取り合えず拾ったの」

ああ、取り込まれていた原生生物か。

「それで?そいつは大丈夫なのか?」

「うん…なんか管理局の人が言うには変身魔法でイタチに変化していた管理世界の人なんだって」

なんだと!?

まさかユーノか!?

「そ、それで。そいつの名前とかは分ったのか?」

ユーノだとして何であんな状況に?俺たちが転生した所為か?

「えっと…エルなんとかって聞いたような」

「エルグラントだよ、なのは。エルグラント・スクライア」

フェイトが訂正する。どうやらフェイトと一緒にアースラ滞在中にちょくちょく出てたのは医務室に通うためか。

っていうか!ユーノじゃない!?

「そ、そうなんだ。…それで?怪我とかは大丈夫だったのか?」

「怪我は大丈夫そうだったの。ただ、記憶に混乱が見られるって言ってた」

記憶に混乱か…原因は幾つか思い浮かぶな。魔力ダメージの後遺症。ジュエルシードの融合による弊害。後は酸欠による脳細胞の壊死とか。

そんな状態でどうやって個人情報の特定出来たかと言うと、その首に掛けられていたデバイスに聞いたらしい。

うーむ。

ユーノの代わりに居たエルグラントと言うイタチ。

こいつはもしかして転生者か?

スクライア一族に転生して、ユーノと同年代。

原作介入がしたかったら俺ならユーノを押しのけてユーノポジションを得るな。

まあ、記憶が混乱しているそうだし、もう会う事も無いだろうから実際の所は解らないのだけれども。

もしこいつが闇の書事件でしゃしゃり出てきたら転生者確定か。

それはもう少し経たないと分らない事。

今はどうも出来ないか。

しかし、闇の書をどうするか…

この際自身のエゴ全開で闇の書の時間を巻き戻してしまえば面倒が無くていい。

その際なのは達との友達フラグなどがすべて折られてしまうが、世界崩壊よりはましか?

ジュエルシードと違い、今度は受身ではなくて攻めていける選択肢が存在する。

闇の書機動は確か6月始め。

まだ時間はある。

俺は考えを放棄して久しぶりの我が家えと向かった。


それから数週間。

フェイトの戸籍の作成や聖祥大学付属小学校への転入と慌ただしい日々が過ぎるとようやく騒がしかった日々も落ち着きを取り戻した。

そんなある日の早朝。

俺達は海鳴の沖合いで修行と言う名のレジャーを堪能している。

「ヒット!」

グッとしなるロッド。

グググっと勢い良く海中へと走る魚を、負けじとロッドを構え、リールを巻く。

フックが外れないように慎重に巻き上がる。

「フィッシュ!」

終に海面へと現れた青物。

少し時期は早いかもしれないがイナダ(ブリの幼名)のシーズンが到来している海鳴の沖合い。

「アオ、また釣れた…っきゃあっ!?」

ドボン

盛大な水しぶきを上げながら水中に沈んでいくフェイト。

今日はまだ日は昇りきってないが、波も穏やかで少し気温が高い日。俺達は水面歩行の行をおこないつつ、ついでに沖合いでルアーフィッシング。

念の修行を始めたばかりのフェイトは竿は持たずに修行に集中している。フェイトはまだ水面に長時間立っていることは出来ず。さらには意識を反らした隙に調整がうまく行かなくなって海に落ちている。

ザバッ

待機状態のバルディッシュが飛行魔法を行使して水中から上がってきた。

「ぷはっ…けほっ」

「大丈夫か?」

「……海水が凄く冷たかった…」

だろうね。

「ソル」

俺は胸元のソルにお願いする。

『風よ』

ソルが操る魔法が暖風を送り、フェイトの衣服を乾かし、ついでに塩気も抜いていく。

その隙に俺はストリンガーにイナダを通して海中へ。

今ので今日2匹目だ。

「ありがとう。アオ、ソル」

「あいよ。だが大丈夫か?辛かったらゴムボートで休んでいてもいいんだけど」

「ううん。大丈夫。みんな使えるんだから頑張らないと!」

そこまで頑張らなくてもいいと思うけれど。


今までジュエルシードの封印と言う事もあって修行の内容は魔法の方面へと傾いていた。

しかし事件も片付いた今、修行の内容は剣術と念も含まれる。

魔法修行だと思っていたフェイトの考えは初日から覆される事になった。

そこで念を習得していないフェイトが疎外感を持つのはある意味仕方が無い。

彼女からしてみれば、目の前で繰り広げられる模擬戦の攻防の半分は分らないのだから。

そして泣きつかれた。私にもその何かを教えてと。

まあ、泣かれると弱いのは俺達家族の弱い所か。母さんに命令されてその日のうちにフェイトの精孔を開きましたよ。

そんな訳で魔法修行と平行して念の修行も始まった訳だ。

そして今は水面歩行の行。

「ううー。どうしたらアオみたいに出来るのかな…」

「そんなに直ぐは出来ないさ。地道に一歩ずつ修行あるのみ」

「うう…」

念を覚えてから30年近く、昨日今日で覚えた奴が俺と同じレベルで出来たらそれはそれで泣くよ?

「お兄ちゃーん」

左手にはストリンガーに括られたイナダを持ち、右手に持った釣竿をぶんぶんと左右に振って水面を掛けてくるなのは。

その後ろにソラが少し遅れて歩いてくる。

「おう、釣れたか?」

「うん、3匹釣れたよ」

う…負けた。

「私は2匹」

ソラとは引き分けたようで少し安心。

「俺が2匹だから合計7匹か。晩御飯には多いな」

「ご近所さんに配ればいいんじゃないかな」

一歩遅れて後方から歩いてきたソラが提案する。

一家族2匹も居れば事足りる。

御神家と高町家で4匹。後はご近所に配るか。

訓練も終了といった時、空間を裂きクロノからの通信ウィンドウが展開された。

『すまない、急な事で悪いんだが』

「どうした?何かあったようだが」

『ああ、エルグランドと言う少年の事は知っているか?』

なのは達から聞いたな。ユーノもどきだろう。

「ああ。そいつがどうかしたのか?」

『そうだな、経緯を省いて説明すると、ジュエルシードを持ってアースラを脱走した。そっちに行った可能性が高い』

はぁ!?

何それ?どういう事?

「と言うか、もっと早く言ってくれない!?」

上空から巨大な魔力反応。

バッと全員が空を見上げる。

光り輝く球体が視界に移る。

それは一筋の閃光となりこちらへと撃ちだされた。

直撃はされずに海面へと叩きつけられて海水が宙を舞う。

『プロテクション』

周りをみるとそれぞれにバリアを張るなり避けるなりしたようだ。

俺は攻撃をしてきた相手を見上げる。

年齢は9歳ほどの男児。

青色の騎士甲冑を纏い、その手には装飾の施された西洋剣。

足元に浮かぶ魔法陣は剣十字。

『すまない。彼が行った破壊活動でアースラは混乱していた』

左様で。

「なんでっ!そのポジションは俺のもののはずだったのにっ!」

確実にまだ錯乱している。

自己の欲望と現実の区別があやふやだ。

暴言を吐きつつ手に持ったデバイスを振り上げては、八つ当たりをするようにその圧倒的な魔力量でシューターを無数に放ってくる。

繰り出されるシューターの数は膨大だが、誘導性の無い弾に当たるような俺達ではない。

どうやら狙いはなのはとフェイト以外のイレギュラー二人。つまり俺とソラだ。

この弾幕を避ける事がまだ出来ないであろうフェイトへの攻撃は牽制程度になっている。

しかし、なのはにしてみれば絶好の反撃のチャンス。

この機を逃すような教育はしていない。

「ディバイーーーーーンバスターーーー」

ドウッっとピンクの奔流が少年に迫る。

弾幕を止めて、シールドを展開してなのはのバスターの直撃をガードする。

俺たちなんかとは桁違いの魔力量。

だけど、その技術は未熟で、ただ強大な魔力による力押しでしかない相手に後れを取る訳は無い。

弾幕が止めばあとは此方のワンサイドゲームだった。

前世を含めるならおそらく成人を迎えているだろう彼。

しかし、俺と同じであるならば、現代日本人だった彼に戦闘の経験があっただろうか?

俺は無かった。

それ故に初めてトロールと戦ったときは足も震えたし、その命を奪ったときは心が締め付けられた。

生き物の命を奪ってしまった事実がかなり堪えた。

いっぱしに戦えるようになったのなんて転生してから15年を過ぎた辺りからだ。

それも偶然手に入れた眼に頼った物だったが…

しかし今の俺達には不断の努力によりつちかった経験がある。

彼も自主訓練は積んできただろうが未だ子供。たかが知れる。

攻撃を誘導すれば読みやすく、かわしやすい。

魔力量を除けば負ける要素が無かった。

「くそっ!くそっ!何でだよ!俺がそこに居るはずなのに!なぜっ」

防戦一方になった彼の口からそんな言葉がこぼれる。

「なぜだっ!なんでなんでなんでなんでなんで」

錯乱がひどい。

そろそろ気絶してもらって、クロノに引き取ってもらおう。

「…そうだ。奴らが居なければ良いんだ。そうだ、簡単なことじゃないか」

懐から何かを取り出すとそれを掲げた。

「あははっあははははははははっ」

不気味に笑う少年に皆の攻撃が一時ストップする。

少年の手のひらから青い光がこぼれだす。

ヤバイ、あれはジェルシード!?

そう言えばクロノがジュエルシードを強奪したとか言っていたっけ。

「はーーっはっは」

ジュエルシードの光はどんどん輝きを増す。

「何?」
「ヤバイ!」
「あれは?」

なのは、ソラ、フェイトも三者三様に驚きの声を上げる。

「………消えちゃえ」

そういった瞬間にジュエルシードから瞬間的に光が円状に広がり俺達を包み込んだかと思うと一気に収束する。

「っく」
「「「きゃあああ」」」

俺たちは何かに引っ張られる力に抗う事も出来ずに光の中に吸い込まれた。 

 

第四十話【sts編】

「ソラ!なのは!フェイト!」

俺は吸い込まれながらも瞬時に辺りにある空気を操りソラ達を引き寄せそのまま全員を覆うように空気のボールを形成する。

「皆無事?」

「うん」

「な、なんとか」

「大丈夫」

どうやら皆無事らしい。

「ビックリしたー。一体何が起こったのかな?」

「いや、なのは。今はそんな事よりここが何処かと言う事が問題なのだが…」

「…アオ」

「ああ」

ソラも今居る空間に思い至ったらしい。

今俺達がいる空間は、周りの総てが歪み、何処とも無く流されていく。

以前俺達が流されたあの空間。

何処と無く虚数空間にも似ているような気がする。

以前は運良く亀裂を見つけ飛び込んでジンさんに拾ってもらった事で九死に一生を得たあの空間に酷似している。

「…帰れる…よね?」

なのはが少しトーンを落とした声で聞いてきた。

「………わかんない」

さて、どうするか。と考えていたら俺達を包むバリアボールが何かに吸い寄せられるかのように引っ張られている。

「な、なんだ?」

「吸い寄せられてる?」

「あ、あれ!」

そう言ってなのはが指差した方向には何やら亀裂のような物が。

それに向って俺達は吸い寄せられているようだ。

「出口?」

「だったら良いな」

とは言えかなり強い力で吸い寄せられているので進路変更は出来そうに無い。

そして俺達はそのままその亀裂をくぐり、

「きゃ」
「にゃ」
「くちゅん」

「ごほっごほっ」

亀裂を潜ると何故か爆煙。

「けほっ」
「こほっ」

目がしぱしぱする。

「皆無事か?」

「煙たいけど大丈夫」

「わたしも」

「私も平気」

煙が晴れると目に入ってくるのは反り立つ崖と新緑。

自分の位置を確認するとなにやら鉄板のような物の上に居るようだ。

辺りを確認しているとわずかながら攻撃的な意思を感じて俺達はすぐさまその場を移動してその攻撃をかわす。

「あなたたち何者ですか」

何か拘束の意図を持った攻撃は対象を失いその場で収縮しているのを確認、その後その攻撃をして来たであろう人物に目をやる。

「よ…」

「よ?」

「妖精さんだ!お兄ちゃん、妖精さんがいるよ!すごーい、かわいーね」

「なのは…今はそんな所に感心している場合じゃないと思うよ?」

ソラがなのはに突っ込む。

「でも、でもー」

なのはのトンチンカンな物言いに少し空気が緩む。

「わ、私は妖精じゃありません!こう見えてもユニゾンデバイスです!」

「ユニゾン?」

「デバイス?」

ソラとなのはが何の事か解らないと首をかしげる。

そんなやり取りをしている内に周りをすっかり囲まれてしまったらしい。

前方に赤い髪の子供とピンクの髪の子供。

後ろに青髪の少女とオレンジ色した髪の少女。

更に上から二十歳ほどの茶髪と金髪の女性が降りてくる。

皆一様にその手に持った武器を此方に向けている。

『リイン』

『あ、なのはさん』

『彼らは?』

『それが行き成りあのガジェットの爆発の中から現れたんですぅ』

『爆発の中から?』

金髪の女の人が会話にまざる。

『そうなんです』

そんなやり取りの後金髪の女性が此方に数歩歩み寄り話しかけてくる。

『私は管理局機動六課のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。現在このエリアは立ち入り禁止区域に指定されています、出来ればどういった理由でここに立ち入ったのか理由を聞きたいのですが』

は?フェイト・テスタロッサ・ハラオウン?

俺は隣に居たフェイトへと視線を移す。

「へ?私?」

少々混乱しているとこちらのなのはが俺の袖をひいて言葉を発する。

「ねえ、お兄ちゃん。あの人たち何て言っているの?」

「ああ、そう言えばなのははミッド語を教えていなかったっけ?」

さて、基本的な事だが、ミッドの公用語は(この作品の扱いとしては)日本語ではない。

まあ、地球上ですら数多くの言語がるのだ、異世界の言葉が日本語だなんて事はあるはずも無い。

恐らくアニメなどは意思疎通の魔法でも使っていたのだろう。

とは言っても俺はズルして覚えたんだけど。

「ミッド語?それってどこの言葉?」

俺達の会話を聞いて今度は慌てるのはあちらの番。

「え?日本語?あなた達日本人なの?」

「ええ、まあ」

「じゃああなた達はどうしてこんな所に?」

「こんな所と言われてもここが何処か解らないんですが、ちょっとした手違いを起こして気が付いたらここに居たんだ」

「え?じゃああなた達は次元漂流者?」

「さて?それはどうなんでしょう?まあ、ここが日本じゃないと言うのはわかりました」

その言葉を聞いてフェイトさんは後ろにいる大きななのは…なのはさんとなにやら打ち合わせをするともう一度此方に向き直った。

「あの、ここじゃ何だし、隊舎の方に場所を移して話を聞きたいんだけど」

フェイトさんの申し出に俺達は三人で話し合う。

「アオ」

「お兄ちゃん」

「…取り合えず招待を受けよう。ここが何処だか解らないと帰りようがない」

「そうだね」

「わかった」

「アオに任せるよ」

3人の了承を得る。

「それじゃバリアジャケット解除してもらって、後を付いてきてもらえる?」

余談だが、俺達は基本的に頭部の防具だけはヘルメット型ではなく、目元だけを隠すバイザー型で、防御力は劣るが、戦闘時の視野確保をするためにあえてそちらを採用している。

ヘルメット型だとどうしても背後からの攻撃への目視がその重量とヘルメットそのものに阻害されて一瞬遅れてしまう。

それは高速戦闘を行う場合致命傷になる事もある。

これを回避するためのバイザーだったのだが、視線の動きで敵に手の内を読ませない効果も期待できるし、まあ、俺とソラはその眼の存在の秘匿に使っているのだが。

しかし、その意匠をなのはとフェイトが気に入って自身のバリアジャケットにも同様にセットされている。

「あ、はい」

なのはとフェイトが了承したと、自身のデバイスがバリアジャケットを解除する。

「「えーーーーーーー!?」」

「?」

「な、なのは?」

「はい?」

「フェイトちゃん?」

「はい」

「なのは…なの?」

「そうですけど?」

「フェイトちゃんだよね?」

「はい」

「な、なのは」

と、フェイトさんは自分の隣りにいる栗色の髪の女性に向って話しかけるが。

「何ですか?」

と、応えたのはこちらのなのは。

「ふぇ、フェイトちゃん…あれってどう見ても小さい時のわたしだよね」

「うん。見間違えるわけ無いよ!私が最初に出会った頃のなのはにそっくりだよ。それにあっちは…」

「フェイトちゃんのちっちゃな頃にそっくりだよ」

さて、カオスになった状況に収拾が着かなくなっていた俺達は、他の隊員の手引きで迎えに来たヘリコプターに乗り込み機動六課隊舎の隊長室へと案内された。

一応そのヘリコプターの中でこの世界が地球ではなく、ミッドチルダのクラナガンと言う首都の近郊であると言う情報は得られた。

異世界だがあのままあの空間で漂流するよりはマシだろう。

その間未来のフェイトさんと茶髪の女性は混乱のきわみで放心状態であったためこちらに質問する機会を得られないまま隊舎の応接室へと移動した。

勧められるままソファに座る。

その対面に隊長であるはやてさん、その両隣にフェイトさん達が座る。

そして入り口を封鎖するようにピンクの髪をポニーテルで纏めた女性、後でシグナムという名前を聞いた。

「さて、こんな所まで呼び寄せてしまってごめんな。私は八神はやていいます。先ずは名前を教えてもらってもええか?」

「御神蒼」

「高町なのはです」

「不破穹」

「御神フェイトです」

「やっぱりあなた達はなのはちゃんとフェイトちゃんて言うんやね」

「さっきから何なんですか?わたしの名前がどうかしましたか?」

「いや、あんな。こっちのお姉さんの名前もなのはって言うんよ」

「へえ、偶然ですね」

「苗字も高町って言うんやけど…」

「え?」

今度はなのはが驚く番だ。

「始めまして、高町なのはです」

そう言ってなのはさんは自己紹介をした。

「同姓同名!?」

「それだけやったら問題はないんや。ただ…」

「ただ?」

「コレ見てくれへん?」

そう言って俺達の前に一つのウィンドウが現れる。

そこには楽しそうにクリスマスパーティーに参加しているなのはの姿。

そこに一緒に映っているアリサとすずか。

この二人のほかにもう一人。

五人仲良くカメラに向ってポーズを取っている。

「これってわたしですか?アリサちゃんとすずかちゃんと…お兄ちゃんソラちゃん、この人知ってる?」

「知らない」

ソラがそう答えた。

「だよね、それにわたしこんな写真取った覚えないんだけど」

「そりゃそうや。だってそれは私らの子供の頃の写真やし」

「え?」

「それじゃあなたは」

フェイトが大きいフェイトさんに向かって名前を問うた。

「さっきも一応言ったと思うけれど。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

「ハラオウンって確か」

と、ソラが一生懸命思い出そうと首をかしげる。

「クロノとリンディさんの苗字」

「そうだよね」

「今の言葉でさらによう分からんなったわ。同姓同名のなのはちゃんと、苗字の違うフェイトちゃん。あんたら一体何者や」

そう問いかけるはやてさん。

「その問いかけに答える前に、今西暦何年ですか?」

質問に質問で返した俺。

「西暦?いまは2015年位だったっけ?私らこっちに来てそれなりに長いからいまいち忘れてしもうたけど」

「え?それって本当ですか?」

「どないしたんや?」

「え?だって今年は2005年だよね?」

なのはがそう答える。

「は?まさか過去から来たとか言わないわな?」

「さて、それは分かりません。が、ここが俺達の居た世界の未来じゃないのだけは確かだと思います」

「どう言うことや?」

「さて、なのはさん、幾つか質問があります」

「あ、はい」

行き成り俺に声を掛けられて少し驚いて返事をするなのはさん。

「高町なのは。高町士郎と高町桃子の第一子。兄弟は恭也、美由希の三人兄弟の末っ子、で合ってる?」

「ちょお待ってや。末っ子なのに第一子っておかしない?」

「ううん。 合ってるよはやてちゃん」

「士郎さんの旧姓は知ってる?」

「確か…不破」

「「不破!?」」

ここでソラの苗字が出てきて驚いたのだろう、はやてさんとフェイトさんが声を上げた。

「士郎さんの方の親戚に会ったことはある?」

「……一人だけ」

「御神美沙斗さん?」

「はい」

「「御神…」」

「他の親戚の人たちがどうしているか聞いたことある?」

「わたしが生まれる前に爆弾テロで一族全員死んだって、生き残ったのはお父さんとお兄ちゃん、お姉ちゃん、叔母さんだけだって」

「最後の質問。なのはさんは御神蒼と不破穹と言う名前を聞いたことは?」

「…ありません」

さて、簡単な質問だったけど十分な確証が持てた。

俺は推察から纏めた自分の意見を発する。

「おそらくパラレルワールドと言う奴だと思う」

「「「「パラレルワールド?」」」」

「どういう事?お兄ちゃん」

「つまりここに居るなのはさんはなのはの未来の姿ではなく別の世界の違う可能性のなのはとフェイトだと言うことだよ」

「うん?」

「ここは俺達にとってはもしもの世界。俺やソラが生まれなかった世界の未来、もしくは出会わなかった、か?」

チンプンカンプンな様子のなのは。

どちらかと言えば正史かもしれない。

「まあ、二人が別人だって言う話」

「うにゃー、よくわからない」

「分からなくてもいいよ。そちらの方々は理解しました?」

「一応な、そういうSF小説は読んだ事はあるしな。ただ、そういった事象を確認した事があるかと言われればNOや」

「そうですか。まあ、そんなことはどうでも良いんです。そんな事よりも切羽詰った問題がありますから」

「どんな問題や?」

「突発的な事故だったために帰る手段が無いと言うことです」

「……なるほど、確かにそれは問題や」

「更に言えば保護者も居ない収入すら無い身としてはこの世界でも生きていくのが難しいという事ですね」

「…ああ、そうやね」

さて、どうしたもんかね。

「さて、俺達について大体の事情を理解した上で聞きますが、俺達はこれからどうなるんでしょう?故意で有った訳ではありませんが不法入国してしまったわけで」

「その事やけどな。次元漂流者なら元の世界に送り届けてあげる事も可能や。ただ…パラレルワールドとなると…」

「送り届けられても俺達に頼る伝は無いってわけですね」

この世界の技術でも帰れる手段がない。

それを確認して俺はソラ達に念話を送る。

【どうする?地球には帰れるらしいけどそこは俺達が居た地球ではない。と言うことは地球に戻っても生活する術が無い。最悪孤児院ってなるね】

【ママ達は?】

【母さんは恐らくテロで亡くなってる。士郎さんや桃子さんは居るだろうけど…別人だよ】

【そっか】

【アオはどうしたら良いと思っているの?】

ソラが問いかける。

【様子を伺うにどうやら魔導師の就業年齢は低いらしいからこの世界で魔法を生かせば生活する事は出来そうだ】

【帰ることは諦めるの?】

フェイトが少し声のトーンを落として聞いてくる。

そんな事は出来ない。

久遠やアルフの問題もある。

一応久遠は魔力を自己生成出来るから、久遠から分けてもらえば最悪アルフが干からびる事は無いだろうが…

二人が暴走しなければいいんだけどね…

【いや、そんなことは無い。俺だって帰りたい、そうするにも地球に居るよりはこの世界に居る方が情報が得られそうだ】

そう言った俺の言葉に3人は少し考えてから。

【アオに任せる】

【わたしも】

【私はどうしたら良いか分らないから。アオが決めて】

ソラ、なのは、フェイトがそれぞれ返答した。

【そっか。わかった】

念話での打ち合わせを終了させてはやてさんに話しかける。

「出来ればで良いんですが」

「何や?」

「この世界に戸籍なんて物が有るかどうかは分からないんですが、そういった物を用意して頂ける事は可能ですか?」

「戸籍…ね。まあ、私もそこそこのコネがある。可能と言えば可能や」

「そうですか。ならそれを用意してもらって、何処か就職斡旋してもらえる事も?」

「職業の種類にもよるが可能や。でもそれってこの世界で生活する言う事なんか?」

「ええ。お願いしても良いですか?」

少し考えたあとはやてさんが了承の言葉を発した。

「了解や。身元引受人は私がなるわ」

「はやて!?」

「はやてちゃん!?」

「なのはちゃんフェイトちゃんちょっと落ち着き。何故地球に戻さへんのとか思っているかも知れへんけど、言うて見たらその地球かてあの子達からしてみたら別世界や、そんな所に無一文で送り届けたかて孤児院の世話になれへんかったら野垂れ死にやよ?」

「それは…そう、だね」

「…うん」

「取り合えず、保護と言った形で一時的に六課であずかるよ」

それはありがたい。ここに居れば帰還の可能性がぐっと上がるだろう。

しかし…それ以上に原作メンバーに関わるとどんなイレギュラーが起こるかわかったものではない。

そんな事を考えていると。

【アオ】

【ソラ?】

【また、難しい事を考えてる?】

【まあね、未来は決まってはいないとはよく言うけれど、もし決まった形の筋書きが存在するなら?この世界に関わるはずの無かった俺達というイレギュラーが混在した事でその調和を乱してしまうんじゃないかと】

【それでトリステインみたいに成ってしまうんじゃないかって?】

【まあ…ね】

【ねえ、アオ。そろそろ私達もちゃんとそこで生きているって自覚してもいい頃だと思う。例えどんな世界へと渡ったとしても】

【ソラ?】

【私達が関わることで変化したとしても、それを受け入れて責任を持って生きていかないと…じゃないといつまでたっても私達はそこに居て、でも生きていない存在になってしまう】

【そう…かな】

【そう】

【そうかもね、でも俺にはまだ何が最善か分らないよ。…でも、ありがとう。ソラ】

「ソラ、なのは。フェイトはそれでいい?」

「いいと思う。先ずは生活できなければ何も出来ないし」

「わたしは良くわかんないからお兄ちゃんに任せる」

「ねえ、さっきからアオ君の事お兄ちゃんって言ってるけど、それは?」

なのはが過去の自分とも言うべき存在が俺のことをそう呼んでいるのに疑問を感じたようだ。

「にゃ?お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」

「いや、そうではなくて」

「家が隣同士なんです、赤ちゃんの頃からたびたび家に預けられていたせいかいつの間にか定着しちゃって」

「そ、そうなんだ」

なんか複雑そうな表情を浮かべるなのはさん。

その後この機動六課の隊舎に一時保護という名目で部屋を貰った。

貰った…んだけど…

「なんで大部屋!?しかも全員一緒!?」

「私がはやてさんに頼んだ」

「ま、まあ百歩譲って全員一緒は別に良いとしよう。だが何故ベッドがキングサイズのダブルベッドが一つしか置いて無いんだ!?」

「良くわからないけれど他の大部屋のベッドも相部屋なのに一つしか無いらしいよ?」

なんと…

「うわー、おっきーねーフェイトちゃん」

「うん」

なのははそう言うとベッドにダイブ。その上でポンポン跳ねている。

「なら新しくベッドをいれ…」

「そんなの買うお金ないよ」

「…そうでした」

「それに私達は大丈夫かもしれないけどなのはとフェイトは…ね」

「そうだな。まだ9歳だもんな」

「そうだよ」

嬉しそうにベッドで遊んでいるけど、それ以上に不安もあるだろう。

一緒に居る事でその不安を和らげられるならば…まあ、いいか。 
 

 
後書き
アオの原作知識はA’sまでです。 

 

第四十一話

それから暫くの間は保護された機動六課でこの世界の事を学んでいる日々が続く。

六課メンバーとの対面のおり、同姓同名だと厄介だと思い、なのはの苗字を父方の旧姓からもらって不破に変えた。

その間に六課の人たちとは自己紹介も済み、徐々に打ち解けていった俺たち。

そんな日々が続き、帰る手段の模索は少々行き詰っていた頃、俺達はある人を紹介される。


その日は朝から慌ただしかった。

ホテルアグスタで行われるロストロギアのオークションの警備と護衛の任務を機動六課も手伝う事になったらしい。

その日の終わり、なのはさんとフェイトさんが隣に誰かを連れて俺たちの部屋へと入ってきた。

「アオ君達ちょっといいかな?」

何やら用事があるようで、フェイトさんは俺達を探していたようだ。

なのはの隣の男はめがねを掛けた長髪のどこかお人好しのような雰囲気だ。

「紹介するね。こちらはユーノ・スクライア、私達の幼馴染みなんだ」

それを聞いて俺達は取り合えずペコリと頭を下げる。

「で、此方が…」

「な、なのは!?」

「にゃ?」

…まあ、幼馴染だってんなら驚くか。

「あ、ごめん。君が余りにも昔のなのはに似ていたからね」

謝ってくるユーノ。

「そ、そうなんですか」

なのははまだ慣れて居ないものの、既に何回も同じ事を経験していたので多少の免疫は出来ていたみたいだ。

「ユーノ、こっちの男の子が御神蒼君。こっちが不破穹ちゃんで、あとは」

「御神フェイトです」

「不破なのはです」

「なのは…」

「あ、あのね?ユーノ君。彼女はね」

と、隣に居たなのはさんがユーノに一生懸命説明する事15分。


「パラレルワールド…」

「そうなの。だからあの子はわたしだけどわたしじゃなくて、えっと」

「なのは。わかったから」

「そう?」

「それで?それを僕に話したってことは」

視線をフェイトに向けてユーノが質問した。

「うん。ユーノの力を借りたいなって」

「無限書庫関係だね」

「お願いできるかな?」

「幼馴染の頼みだし、何より別人だとしてもなのはの為だ。…でも余り期待しないでくれよ。可能世界なんて物の存在の証明なんて今までされた事が無かったんだから」

「…そう…だね」

「そう言えばそっちのなのはは魔法は使えるの?」

「え、ああ、うん。使えるみたいだよ」

「へぇ。見たところレイジングハートとそっくりだけど、やはり僕がなのはに渡した物なのかな?」

「ふぇ?ちがうよ。これはお兄ちゃんの家のラボにあったんだよ。ねーレイジングハート」

『その通りです』

「え?じゃ、じゃあ君達は僕に会った事は?」

「んー?ないよー」

「…そう…なんだ」

少し寂しげな表情のあと、思考を切り替えたのかキリッとした表情にもどる。

「…いったい分岐点は何処なのか」

「え?」

「いや、一体どこでこの世界と大きく分岐したんだろうと、ふと思っただけだよ」

「ああ、それは恐らく俺が生まれた時でしょう」

「は?」

「この世界の俺は生まれていない…もしくは亡くなっているのでしょう。俺が生まれたことで、本来死ぬはずだった人が生き残り、ソラが生まれた」

その後、難しい話を少し俺はユーノと話した後解散する事になる。

「一応帰ったらパラレルワールドについて検索を掛けてみるよ。報告はどうしようか?」

「あ、出来れば俺達も知りたいので報告のある時は俺達も同席したいのですが」

「そうだね。じゃあ、連絡はなのはに入れるから、その時に一緒にと言う事で」

「はい、お願いします」

そう約束してその日の顔合わせは終了した。


さて、昼間の一般常識の勉強が終わると、自主練の時間。

「よっ」

「はぁっ」

バシッバシッっと竹刀がぶつかる音が辺りに響く。

「御神流、薙旋」

なのはの繰り出した高速の四連撃が俺に迫る。

「おっと」

ギリギリでなのはの太刀筋を被せる様に俺も竹刀を打ち出す。

「御神流・裏、花菱」

「にゃ!?」

迎え撃った俺の技に吹き飛ばされるなのは。

「うー、また負けた」

「はっはっは。まだ負けてやら無い」

「むぅ、でもいつか勝ってみせるもん」

「おう、がんばれー」

「あ、終わった?」

「ソラ達もか?」

ソラはフェイトの念の訓練を終えて此方に近づいてきた。

「うん」

さて、そろそろ時間もいい頃合だ。

「隊舎に戻ろうか」

「はーい」
「きゅるー」

うん?今なんかほかの生き物の鳴き声が混じらなかったか?

声の発信源を探して下を向くと足元に擦り寄ってくるフリードの姿が。

「またお前か」

俺はその小さい竜を抱き上げる。

「きゅる、きゅるーる」

「あ、フリード。またキャロのところから抜け出してきたの?」

と、フェイト。

「きゅるー」

どういう訳だか俺とソラにまとわり付く様に懐かれてしまったフリード。

夜もいつの間にか俺たちのベッドに入ってきては丸くなって寝ている。

「フリード、どこー?」

遠くから聞こえてきたのはキャロの声。

「あ、キャロちゃん、こっちー」

なのはが声を返す。

「あ、またフリードがお邪魔していましたか」

「まあね」

キャロが迎えに来ても一向に俺の肩から離れようとしないフリード。

「フリード、こっちに来なさい」

「きゅる、きゅるーる、きゅるる」

「え?どういう事?」

どういう事は俺達の台詞だ。

「えっと、キャロちゃんってフリードの言っている事分るの?」

「あ、はい。何となくですけど」

何となくでも分るのか。

「それで?なんて言っているの?どうにも離れてくれないんだけれど…」

「あ、えっと…」

言いよどむキャロ。

「竜の姿を見せて下さいって…自分で言っておいて何ですが…意味が分りません」

「竜?」

なのはが聞き返している。

「はい。多分…そう言っています。見せてくれるまでは絶対に離れないって…フリード、いいかげん戻ってきて!」

キャロは俺の肩につかまったフリードを爪先立ちで掴み、無理やりおろそうとするが…

「きゅるーーる」

つかまった足が服を突き破り食い込んでいて少し痛い。

テコでも動かないつもりのようだ。

「フリード、おーりーてっ!」

「きゅるーー」

そんなやり取りをしているとだんだん俺の服の耐久値が下がっていくのだけど…

すでに猫に爪を立てられてもここまでは行くまいというほどにほつれているが、これ以上は遠慮したい。

「キャロ、ストップ!これ以上は服がもたない」

「あ…その、ごめんなさい」

そう言ってキャロは一旦フリードから手を離して距離を取った。

それから俺はフリードに向き直る。

「フリード。一回だけだよ?一回だけ見せてあげるから」

「きゅる?」

「え?出来るんですか?っていうかアオさんって人間ですよね?」

失礼な。魔法生物になった記憶は無いよ?

フリードに肩から離れてもらうと、ぐっと四肢に力を込めた。

体の感覚が書き換わるこの感覚も久しぶりだ。

一瞬の後に俺は変身をとげ、全長8メートルほどの銀色のドラゴンにその姿を変えていた。


フリードは嬉しそうに俺の周りを旋回した後にソラの方へと飛んでいった。

「きゅるーる」

「私も?…仕方ないなぁ」

一瞬金色の光に包まれたかと思うとソラの姿も金色に輝くドラゴンへと変貌していた。

「綺麗…」

「本当…」

なのはとフェイトは感嘆の声を漏らす。

「あれ?割とリアクションが少ない」

「お兄ちゃんだもの、ドラゴンに変身するくらい有るかなって思って」

「うん。アオとソラだものね」

なのはとフェイトの反応はその程度。

しかし、さっきから一言もしゃべっていないキャロはと言うと、信じられないといった表情で此方を見ている。

「魔竜…アイオ…リア?」

今キャロは何て言った?

「キャロ!今何て言った!?」

「え?あっ…えと…」

竜の体のまま詰め寄った俺にたたらを踏むキャロ。

「アオ、その体で詰め寄っちゃダメ。キャロが驚いてる」

そう言ったソラは既に人間に戻っていた。

「あ、ああ…」

俺はもう一度、ぐっと四肢に力を込めると人間の姿へと戻った。

姿を戻した事でようやく落ち着いたキャロはある御伽噺を俺たちに語ってくれたのだった。



隊舎の裏にある林を抜けようと歩き始めると遠くの方に人影が。

「あ、ティアナさんだ」

「本当だ」

「自主練かな」

「がんばってるね」

「よっぽど今日のミスショットが悔しかったんだろう」

「……でも、体壊さないといいけど」

その訓練は鬼気迫るものがる。

「まあな。だけどこう言う時は周りの忠告なんて自分が惨めになると思っているだろうから聞かないし」

「……そうなんだ」

「そう言うもんだ、なのは。だから俺達は見つからない内に退散しようか」

「…はい」

次の日からティアナの訓練にスバルが混じっているのを確認。

あー、アレはどうやらスバルの押しの強さに負けたようだな。

「接近戦のコンビ練習みたいだね」

気づかれないように気配を消して訓練を盗み見ていたなのはが呟く。

「…スバルは良いとして、ティアナがな」

「ティアナさんがどうかした?」

「近接を師事する人が居ないから。自己流で危なっかしいね」

「…確かに」


そんなこんなで数日経って、俺達は今日の一般教養の講義を終えて隊舎の食堂へと向かっていると、入り口の方からフォワード陣とシャーリー、シグナムやヴィータが少々強面のままロビーへと向かっている。

ティアナの頬が少し赤いけれど、何かあったのだろうか。

そんな中、此方に気が付いたシャーリーが俺たちもロビーへと誘った。

「昔ね。一人の女の子が居たの」

その誘いを受けた俺達は少々居心地の悪い雰囲気を感じつつもソファにすわり、シャーリーが再生し始めたVTRに目を向ける。

そして映し出されたのは9歳ころのなのはさん。

それも後にジュエルシード事件と言われた事件の映像。

「あ、わたし?」

なのはがVTRに現れた自分をみて驚いている。

そんな本人(?)を前にシャーリーは言葉を続ける。

「魔法と出会って数ヶ月で命がけの実戦を繰り返したわ」

「これ…フェイトさん…」

丁度なのはとフェイトが戦っている所だった。

「私と戦ってる?」

フェイトが驚愕の声を上げた。

うん…、まあ、ね。俺たちのフェイトはなのはと戦っていません。

「え?あなたたちはお互いにぶつからなかったの?」

シャーリーが問いかけてきた。

「にゃはは、模擬戦はたまにやります」

「それに、なのははあんなに弱くない」

なのはが濁し、フェイトがVTRを見てそう答えた。

なのはさんが弱い?なんて驚愕の表情を見せるフォワード陣の面々。

VTRは進み場面は闇の書事件。

まあ、その殆どは閲覧が禁止されているのか、詳細が分るものは殆ど映っていない。

ただ、戦闘場面を抜粋されているだけ。

さらに場面は移り変わる。

映し出されたのはなのはの撃墜。

胸部からの出血が見て取れる。

その後の病棟でのリハビリ。

一時は魔法の行使はおろか日常生活すら危ぶまれたらしい。

その凄惨な光景に目を背ける面々。

そんなフォワード陣とは対照的に冷めた眼でVTRを見るのはフェイトをのぞく俺達。

フェイトはショックだったようだが、なのははだから何?とでも言いたげだった。

自分が経験した挫折を、失敗をさせないように貴方たちを教え、導いているのだと、シャーリーは言う。

「ほんとに丁寧に、一生懸命考えて教えてくれているんだよ」

そう言ってシャーリーは締めくくった。

「それで?これを俺たちに見せた意味は?」

「なのはちゃんにも同じような事になって欲しく無いと思って」

シャーリーが気遣わしげに言う。

「うーん。でもわたしは管理局に入る事は無いだろうから、あんな事起こらないと思うよ?」

「へ?」

なんかあっけに取られているシャーリー。

「だって、わたしは地球でお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもの」

そう言って俺に抱きついてくるなのは。

「「「「はあっ!?」」」」

今度は異口同音で驚愕の声が。

「なのは、離れて」

「いやー」

ソラがそれとなく注意するがより一層抱きつく力が増えた。

「な・の・は?」

ソラの顔が笑っているけれど、笑っていない。

「離れますっ!」

ぱっと俺の体から離れるなのは。

ソラも、そんなに怒ること無いだろ。

今のは将来お父さんのお嫁さんになるっ!って言っているようなものだ。

「それに、わたしにはなんでなのはさんがこの世界に居るのかも理解できません」

「…それは、魔法の力で多くの人を助けようと思ったからじゃないですか?」

なのはの疑問にスバルが答えた。

「本当にそうなのかな?」

「え?」

なのはの否定の声に一同の視線が集中する。

「この世界のわたしにはお兄ちゃんも、ママも、ソラちゃんも居なかった。さっきの映像を見ると本当に…本当に普通の女の子だったんだとも思う」

それは皆がさっきの映像で知っている。

「地球には魔法文化は無い。だから、突然出会えた魔法の力、自分が特別に感じられる魔法がそれがとてもすばらしいものに見えた」

一同無言だ。

「急に使えることになったその力をもっともっと使いたかった。それには地球ではダメだった。地球じゃ魔法を使える人は殆ど居ない。お兄ちゃんも、紫ママも秘匿しなさいって口をすっぱくして言われてたっけ」

それはそうだ。

マイノリティは排除されるものだ。

普通の人間に無い、それも圧倒的な何かを使える人間が居ると分れば回りの人間はそれを受け入れる事は出来るだろうか?

だから秘匿する。それは多数のなかで生きるには仕方の無い事だ。

「空を飛ぶのは凄く楽しいし、魔法の力で自分の大切な人を守ることはすばらしい事かもれない。…だけど、その力も地球では使えない。地球じゃ使えないんだったら使えるところへ行きたいと思うのは魔法を日常で使いたいと思っている人には当然の事なんじゃないかな?」

「…そ、そんな…」

「地球人であるはずの未来のわたしが、こんな遠くに家族や友達を捨ててまでやりたかった事って?人々を守ること?違うよね。彼女の仕事は教導。つまり教え導く事。自分が持っている魔導師としての技術を使っての後任の指導ですよね?」

つまりは日常的に魔法を使えると言う事だ。

「え?…あっ…」

スバルの口からは否定の声も出ない。

「だからわたしは未来のわたしが嫌い。大切なもの、守るべきものは自分の大切な人とその日常だってわたしは思っているから」

だからなんで彼女がミッドチルダに居るのか理解できないとなのはは言った。

「わたしはお兄ちゃんが好きで、ママが好きでソラちゃんにフェイトちゃん、くーちゃんにアルフさん、そしてお父さんやお母さん、恭お兄ちゃんやお姉ちゃんが大好き。学校に行くのは楽しいし、海も山も近い海鳴の街がすっごく大好き。わたしが守りたいものはそんな小さな所だけ。それだけでいいの」

「なのは、人の考えはそれぞれだよ」

俺がやんわりともう止めなさいというニュアンスを込めてなのはを制止する。

何を思って未来のなのはがこんな遠い所まで来ているのか。

それは彼女にしか分らない事だ。

場の雰囲気を悪くしてしまった事に罪悪感を感じながら俺たちは先に部屋へと戻らせてもらった。 
 

 
後書き
なのはによるアンチなのは…どうしてこうなった…ただ二人の差異を考えたらこうなるかなと。  

 

第四十二話

次の日、魔導師質を持っている俺達はこの部隊のフォワード陣の新人達の朝練に加わる事になった。

「はい注目、今日から事情によりこの訓練に数名加わります。皆知っていると思うけれど一応自己紹介から」

そう言って身を避けて俺達を招き入れるなのはさん。

「諸事情により厄介になることになりました。御神蒼といいます」

まあ以前にも自己紹介はしてあるけれど、様式美ってことで。

「不破穹」

「不破なのはです」

「御神フェイトです」


そんなこんなで訓練開始。

走りこみから基本的な回避訓練。

スバル達が汗だくの泥だらけになっていく中、俺達は呼吸も乱さず涼しい顔で訓練を受けている。

「はぁっはぁっ」

「はぁっ、あんた達はどんな体力…っ…しているのよ…はぁっ」

「にゃ?こんなのウォームアップにも成らないよ?」

「「「「はあ?」」」」

なのはのその言葉に驚愕する四人。

飛んでいたなのはさんから声がかかる。

「それじゃ今日の朝練はここまで」

「「「「ありがとうございました」」」」

「はーい」

終了の合図が意外だったのかなのはが戸惑う。

「え?終わり?あれで?」

「そうみたいだね」

「ええ!?」

まあ、あんなのは母さんのシゴキだと序の口だしね、不完全燃焼もいい所か。

「午後は貴方たちの実力を知るために模擬戦をするからしっかり休んでおいてね」

模擬戦ねぇ。

取り合えず隊舎に戻り昼食。休憩を取って午後。

「それじゃ最初にあなたたちの実力を測るための模擬戦からはじめるよ」

「俺たちからですか?」

「そう、あなた達の実力を見てみないとってはやてちゃんが」

「なるほど」

俺達四人と対峙するなのはさんにフェイトさんの二人。

訓練場の外には新人フォワード陣とヴォルケンリッターの面々。

「相手はわたし達二人がするから」

「バリアジャケットは?」

「勿論着てもらうよ」

「あの2対4でやるんですか?」

「大丈夫。出力リミッターがかかっているとは言え、そう簡単にやられるつもりはないから」

「おにいちゃん。あれってわたし達なめられているのでしょうか?」

「まあ、あちらにしてみたら此方はまだ子供って言うわけなんだろう」

「だけどあそこまで言われると少し悔しいかな」

なにやら舐められた発言になのはとソラがおかんむりだ。

「ソラちゃんも?わたしも少しむっとしているんだ」

「なのは、ソラ、落ち着いて」

フェイトがなだめるも、少しぴりぴりした空気の中摸擬戦が開始する。

「ソル」
「ルナ」
「レイジングハート」
「バルディッシュ」

『『『『スタンバイレディ・セットアップ』』』』

現れる剣十字の魔法陣。

「ベルカ…式?」

驚きの声を上げるなのはさん。

「それにアレは本当にレイジングハートなの?」

なのはの持つ槍型のデバイス、更になのはとフェイトのバリアジャケットの形が自分たちの過去と違う事に驚愕したようだ。

「言ったじゃないですか。このなのはと貴方は別人だって」

「それは、そう聞いていたけれど…」

「だから自分と同じだと思っていると足元すくわれますよ。はっきり言ってなのはは強いですから」




side other

「どう思われます?」

訓練場の外、中の戦いが一望できる所に朝練を終えたフォワード陣とヴォルケンリッターの面々が観戦しているなか、ティアナがシグナムに質問した。

「さて、な。出力リミッターが掛かっているとは言え高町もテスタロッサも歴戦の雄だ、負けることは無いと思うが」

「ですよね」

「だけどあの人達、今日の訓練を息も切らさずに軽々とこなしていましたよ」

と、スバル。

「本当か?」

「ええ。汗一つすらかいていないかのような勢いでした」

「ま、強ぇか弱ぇかはやってみりゃハッキリするだろ。ま、なのは達が負けるとは思えねぇがな」

「ヴィータ副隊長」

「はじまるぞ」

side out


「それじゃ双方準備が整った所で戦闘開始です」

と、この訓練のサポートとして来ていたシャーリーの声で戦闘が開始する。

その声になのはさんは飛び上がり、誘導弾を多数展開、待機状態で此方を警戒する。

逆にフェイトさんは此方に高速で飛びながら近づいてきて接近戦の構えだ。

フェイトさんがバルディッシュを振り上げ、渾身の力で振り下ろす。

しかし振り下ろした先にはすでに俺達はいない。

「ど、何処?」

「フェイトちゃん後ろ!」

なのはさんの声に気づいて振り返った先には既に構えた斧型のルナを振り下ろしているソラ。

すぐさまシールドを張るが…

振り抜かれた勢いを殺しきれずに吹き飛んでいくフェイトさん。

「フェイトちゃん!」

「人の心配してる暇はあるの?」

「な!」

その言葉に振り返るなのはさん。

しかしやはり遅い。

すでになのははレイジングハートを振り下ろしている。

やはり障壁の上から強引に吹き飛ばされるなのはさん。

「きゃあああーーー」

俺と言えば少し離れたビルの上で写輪眼を発動して高見の見物中。

「俺って何かやる事有るのかな?」

「ない…かな」

「フェイト…」

近くに飛行してきたフェイトがそうつっこんだ。


それからの戦いは一方的なものだった。

『アクセルシューター』

「シュート」

なのはさんが反撃とばかりに誘導弾を撃ち出す。

しかし直ぐさまそれを打ち落とすかのように総ての弾をなのはは自身のシューターで正確に相殺させ(とはいってもなのはさんのシューターとは違い誘導性を犠牲にして速度重視にしたものだが)シューターが爆発する一瞬を突いてすぐさまなのはさんの懐に飛び込み一閃。

『徹』は使わずにバリアジャケットを抜かないようにわざと手加減をして吹き飛ばしている。

わざと追わずに空中で停止。

「ディバイーーーーン」

それを見てなのはさんは収束砲のチャージを始めるが。

収束している弾丸にすぐさまなのははシューターを突き刺すと、収束した魔力が爆発。

まあ、足を止めてチャージしている最中なんて狙ってくださいと言っているような物か。

その爆風でなのはさんは吹き飛んだところを正確無比にシューターを一斉射。

何とか持ち直したなのはさんはすぐさまなのはの位置を探ろうとするが、その気配すらつかめずにシューターに翻弄されている。

一方フェイトさんの方は。

「「ハーケンセイバー」」

両者ともサイズから魔力刃を飛ばす。

その刃が衝突し爆発。

「「サンダースマッシャー」」

双方とも中距離射撃を放つがコレも相殺。

『『ブリッツアクション』』

魔法で加速してからの袈裟切り。

しかしコレも鏡合わせのように打ち合わされる。

「はぁっ、はぁっ」

まさか自分と全く同じ魔法、同じ動きで相殺されるとは思わなかったのだろう。

精神的動揺が伺える。

「ありゃりゃ、ソラもなのはも完全に遊んでるね」

「うん」

フェイトが同意する。

その時後ろから凛とした声がかかる。

「ほう、高町達は遊ばれているのか」

振り向いた先にはシグナムが此方に剣を向けていた。


side other

「なのはさんが一方的に攻められている!?」

それは誰の叫びか。

しかしそれは全員が思ったことだ。

「フェイト隊長は辛うじて打ち合っていますね」

スバルが戦いをみてそうもらす。

「いや、そう見えるならお前達はまだまだだな」

「どういう事ですか?」

「見ろ。不破ソラは同じ魔法を同じ威力で同じ軌道にぶつけているんだ、それもわざとな。そんな事は普通出来る物じゃない」

「言われてみれば…」

シグナムの答えに押し黙るスバル。

「二人は不破ソラと不破なのはの相手で手一杯。御神アオと御神フェイトが丸まる余っているな。傍観に徹して戦闘に加わる気は無いようだが、加われば一気に天秤の針は傾くのは必死」

「どうすんだ?」

ヴィータがシグナムに聞いた。

「無論私が行く」

シグナムはレヴァンティンを引き抜くとバリアジャケットを展開して空を駆けた。

side out


シグナムさんに剣先を向けられてる俺とフェイト。

「こんな所で見学ですか?」

自然体で聞き返す俺とは対照的に全身で振り返り、臨戦態勢をとるフェイト。

「この模擬戦は貴様達の戦闘技能の確認だ。高町とテスタロッサがあのふたりで手一杯のようだからな。私が相手をすることにした」

ルール違反では?とは思う。けどまあ、この訓練の意義を考えればね。

チャキっと音がしてシグナムはレヴァンティンを構えなおす。

「仕方ないですね。フェイト!」

「うん」

フェイトが前衛、俺が後衛。

本来なら俺も接近戦の方が得意なのだが、今回はフェイトに戦闘経験を積ませるいい機会だ。

「行くぞ!」

その宣言と同時に距離を詰めてくるシグナム。

「はっ」

俺よりも距離が近いフェイトに狙いを定めてレヴェンティンを振りぬく。

「っ…」

その攻撃をギリギリで避けて手に持ったバルディッシュで水平に薙ぐ。

「はぁっ!」

キィンと金属がぶつかり合う音が響き渡る。

「流石テスタロッサ。なかなかやるなっ」

「くっ!私はテスタロッサじゃ有りません!」

力負けしそうなフェイトが自らデバイスを引いて距離を取り、射撃魔法を発動させる。

『フォトンランランサー』

「ファイア」

着弾するフォトンランサーはシグナムの展開したシールドで受け止められて、粉塵が舞う。

自身が起こした粉塵で視界がさえぎられ、一瞬とは言え眼前を見据え動かずに居るフェイト。

フェイト!足を止めちゃダメだから。

なのはならば足を止めての射撃なんて殆どしないし、着弾するより早く自分は移動して相手の射線上から外れている所だが、フェイトにはまだ分らない感覚か。

「っふ!」

その粉塵を掻き分けてシグナムがフェイトに走る。

フェイトも気がついたが、遅いな。

『アクセルシューター』

ヒュンっと音を立てて俺の展開したシューターがシグナムに迫る。

牽制の為に放ったシューターをシグナムはレヴァンティンで切り伏せる。

その隙に距離を取るフェイト。

「ありがとう」

「いつまでも相手の射線上にいない!動け!」

「はいっ!」

短いアドバイスだけを言って再びシグナムを警戒する。

「いい援護だ」

「それはどうも」

「だが、剣型のアームドデバイスの使い手は珍しい。出来れば斬りあいたいものだ」

俺がご指名ですか!?

だけどその言葉に一番反応したのはフェイトだ。

「私じゃ相手になりませんか?」

「いや、そういう訳ではないが。個人的な趣味だ」

その返答に納得がいかなかったフェイトは攻勢に移る。

「行きます!」

「来い!」

バルディッシュとレヴァンティンが何合も打ち合う。

フェイトの体制が崩れたときに何回か立て直す時間を与えるために牽制のシューターを放つだけで、俺はその二人の戦いを観察する。

フェイトの攻撃はまだま洗練されているといい難い。

ここ一月ほどの特訓で、確かに能力は向上したが、そこはやはりシグナム。相手の方が力量がかなり上だ。

焦るフェイトが無意識にその体をオーラで強化するのが見える。

キィンっ

「む?」

ぶつかったレヴァンティンを不利な体制のフェイトが押し返す。

違和感を感じたシグナムは勢いを殺して飛びのいた。

シグナムが着地するよりも早く地面を蹴って追撃するフェイト。

「はあっ!」

ギィンっ

「くっ…」

いきなりフェイトの速さが上がった事に戸惑いを隠せないシグナム。

しかし慌てずにフェイトの攻撃を捌く。

纏で強化されて肉体から繰り出される剣戟を経験と自身の魔力で捌くシグナムに段々フェイトの攻撃が鋭さを増していく。

俺はまだ教えていないのだがシグナムとの戦闘で爆発的にその技量を挙げていく。

纏で身に纏ったオーラがバルディッシュを包み込む。

『周』だ。

自力で周にたどり着いたフェイトには感心するが、その状態の脅威を分っていない。

その一撃は容易くレヴァンティンを真っ二つにするだろう。

俺は神速を発動すると念で強化した肉体で地面を蹴って二人の攻撃の間に体を滑り込ませる。

『ディフェンサー』

シグナムの攻撃は左手で展開したシールドで、フェイトの攻撃は念で強化したソルの刀身で受け止める。

「ストップ!」

「む?」
「え?」

いきなりの乱入に二人とも困惑したようだ。

『バリアバースト』

展開したシールドを炸裂させてシグナムを弾き飛ばし、その隙に俺はフェイトを抱えてシグナムから距離を取る。

「フェイト。今自分がやったこと分る?」

俺はバルディッシュに視線を移して尋ねる。

「え?あ…えと?」

バルディッシュに目をやり、ようやく気がついたようだ。

ふむ、無意識か。

「後でちゃんと教えてあげるから。それは少し危ないから、まだ使ってはダメだ」

「…はい」

くらっ

フェイトの体がぶれる。

「応用技は特に消費が激しい、少し休んでろ」

「あう…でも」

「後は俺がやるから」

立ちくらみほどの気だるさを感じているだろうフェイトから手を離してシグナムと対峙する。

「御神フェイトの技量が私が記憶している十年前のテスタロッサを凌駕している。それは貴様のお陰と言う事か?」

「そうかもしれません。彼女達(この世界のなのはとフェイト)は誰かに師事された事は?」

「…才能も有っただろう、その努力も惜しまなかった。が、しかし、良い師にはめぐり合わなかったようだ」

ユーノが教えられた魔法も、その行使方法が違うためにほぼ独学に近い。

近接、回避などは自己流と言う事。

「身近に凄い人が居たはずなんだけどね」

士郎さんとか恭也さんとか。

魔法は教えられなくても戦闘は教えられたはずなのだが。

魔導師>古流剣術と言う感じで聞きもしなかったか、士郎さん達も教えなかったか。

確かに普通の剣道程度ならば魔導師に勝つ事は難しいだろう。

しかし、御神流なら周りの状況などでは一変する。

遮蔽物があり、地上戦、近接でなら御神の剣士に軍配が上がるだろう。

それほどまでに修めた剣術と神速がチートくさい。

シューターやバスターなどはかわせるだろうし、バリアジャケットを無視して斬戟威力を内部浸透できるだろう。

何より神速が使える彼らの動きをその目に捉えることは難しい。

そこらの魔導師ならば余裕で勝てそうだ。

シグナムがレヴァンティンを構えなおす。

「では、思う存分打ち合おう!」

「分りました。全力でお相手します」

なのはとソラもそろそろ決着といったところ。

「ありがたい!」

俺の言葉にシグナムが地面を蹴った。


side なのは

『アクセルシューター』

「シューーート」

目の前の未来のわたしが大量のスフィアを展開、わたしを狙って撃ちだした。

「またそれですか。いい加減学習してください」

大量に展開したといっても実際誘導出来るのは幾つほどか。

わたしもスフィアを展開させる。

展開したスフィアはわたしの体の周りに待機させるように密着させて、わたしは未来のわたしに向かって距離を詰めるように飛ぶ。

展開されたシューターがわたしを襲うがお兄ちゃんのように正確無比で高速で飛来するそれに比べると幾分も劣る。

わたしは前に出るようにして回避する。

さっきからこんなのばかり。

シューターとバスターの二つだけ。

実際はどうにか設置型バインドで拘束しようとしているようだけれど、何処に設置しているかバレバレ。

向こうはなんで避けられるのかという顔をしている。

うーん、もしかして設置型バインドの回避方法とか知らないのかな?

と言っても難しいことをしている訳じゃないよ?

要するに『円』の魔力版。

自分の魔力を周囲に拡散させて、ソナーのように魔法が行使された場所を感知。

後はそれを踏まないようにすればいいだけだもの。

何度か接近して斬りつけた感想としては展開されるバリアはとても頑丈。

頑丈なバリアで身を守り、得意の射撃、砲撃魔法でとどめという戦法。

わたしとは正反対。

過ぎ去ったシューターを操り、わたしの死角から狙ったシューターをわたしは見向きもしないで待機させておいたシューターを放って相殺させる。

「何で?」

見えているのか?

わたしの円はまだそんなに広い距離をカバーできない。

だけど今展開している魔力版の円は違う。

レイジングハートの力を借りて100メートルの範囲で展開されたわたしに死角なんて存在しない。

未来の自分だからどれくらい強くなっているのかと思ったけれど…

そろそろ飽きちゃったし、終わらせちゃおうかな。

side out


side フェイト・T・ハラオウン

一体どういう事だろう。

私が出した魔法、剣技を瞬時に真似て同じ軌道で私にぶつけてくる彼女。

名前を不破穹と言う名前の過去から来た次元漂流者。

過去の私やなのはと親しそうに話しているが、私の過去には存在しない人。

聞いた話しでは平行世界から来たらしい。

平行世界。ありえたかも知れない可能性の世界。

対峙する私は相手が過去の私と同じくらいの年齢だからと確かに油断していた所もあった。

けれどそれは直ぐに思い直されることになる。

繰り出したデバイス同士の攻撃が打ち合わされる事は多々あるし、繰り出した射撃魔法を相手の魔法が相殺するのも珍しくない。

だけど、彼女の行うそれはそんな次元の話ではない。

繰り出す攻撃の癖やタイミングまで私と同タイミングで相殺してくるその攻撃に私は驚きを隠せない。

デバイス機能が似通っているのも原因の一つだ。

斧、鎌、そして今使っている大剣と、形態を変えても対応してくる彼女のデバイス。

今使っているザンバーフォームは能力限定されていて出力限界が存在する、言ってしまえばザンバーフォームフォームイミテーション。

しかしその威力はハーケンよりも上だ。

これならと振るったそれすらも軽く返されてしまった。

「はぁっ…はぁっ…」

呼吸が乱れる。

体力や魔力の消費に寄るものではなく、これは目の前の敵の不明瞭さとプレッシャーに寄るもの。

私自身の攻撃技術で私自身を攻撃されている。

私が10年積み重ねてきたものを真っ向から否定されるような怖さを感じる。

それに私は今までに彼女自身の戦い方をその片鱗すら引き出せていない。

全ては鏡写しの様。

瞬時に私の真似を出来るそのカラクリは未だ不明だが、手加減されている事は分る。

認めよう。リミッターがどうのと言う事ではなく、彼女は私よりも強い。

開始時の二人でなんて、どれだけ驕っていた事か。

どう見ても弱者は自分たちで、彼らは圧倒的な強者。

その証拠になのはも簡単にあしらわれているのを横目に確認できる。

今の管理局になのはを超える魔導師は数少ない。

それをいかにもつまらなそうな表情で迎え撃っている小さいなのはの表情が印象的だ。

かくいう目の前の彼女もつまらなそうだが…

弱者が強者に手加減なんておこがましい。

それにどれくらいぶりだろう。

自分より上の者と対峙するのは。

そう思うと体の中が熱くなり、闘志が湧いてくるのを感じる。

「バルディッシュ」

『イミテーション・ライオットザンバー・スティンガー』

バルディッシュが変形して左右一対のブレードに変形する。

シグナムとの度重なる模擬戦のなかで編み出した私のとっておき。

「驚いた、二刀流ですか」

この模擬戦が始まって以来はじめて興味を持たれたようだ。

斧、鎌、大剣と形態変化していたけれど、流石にこの形態は無いだろうしね。

なんて思っていると、その幻想はすぐに打ち消される事になる。

「ルナ」

『ツインセイバーフォーム』

形態変化した彼女のデバイス。

彼女の両手にブレードが握られている。

セイバーと言っていたが、その形態は日本刀のそれだ。

しかし、ようやく彼女の構えが変わった。

その構えをどこかで以前見たことがあるような気がするが、思い出せない。

「はっ」

私は地面を蹴って、今私が出せる最大速度で迫る。

キィン

振るった刃は彼女のそれで止められる。

キィンキィン

刃が打ち合わされる音が響く。

繰り出している私ですら自分の攻撃の軌道が目視できない攻撃を彼女はいとも容易く受け止める。

「…修練不足。自己流の限界」

「何を?」

何を言っているのだろう。

しかし、私の攻撃にまたも彼女の表情はつまらなそうなそれに戻る。

「ただその武器を振っているだけ。そこに重みを感じない。あなたはそれ(デバイス)で生き物を殺した事が無い」

キィン

打ち合っている合間に彼女がそんな事を呟いた。

そんな事がある訳ないじゃないか。

この(バルディッシュ)は人を傷つけるために生まれてきたんじゃない。

私や、私の大切なものを守るために。

「スタン設定。確かに便利だけど、だからこそ生ぬるい」

キィン

「あっ」

私の腕が大きく弾かれて私の体は隙だらけ。

「まずは自分の力が、その手に持っているものが人殺しの道具だって言う事を認識しよう?」

ゾクゾクゾクっ

いやな悪寒が私の全身を駆け巡る。

彼女が繰り出した刀身が迫る。

あ、ダメ、アレを食らっったら私は死んでしまう。

模擬戦だし、そんな事は無いと分ってはいても、そう錯覚させるだけの殺気がその一撃には込められていた。

side out

side ティアナ

ドゴーーーーン

三つの場所でほぼ同時に激音が鳴り響く。

「うそ…」

「隊長達が」

「負けた?」

「シグナム…」

皆、目の前で起こったことが信じられないようだ。

あたしだってそう。

あたしなんかでは到底敵いそうに無い隊長達をいとも簡単に撃墜するなんて、誰が考える?

「でも、フェイトさん達は魔力リミッターが掛かってますよね」

キャロが本人たちに代わり弁明するように言った。

「キャロ、彼女達が高威力魔法を使ったところを見た?」

「…いいえ」

あたしの質問に少し考えてから答えるキャロ。

「つまりはそういう事よ。彼女達はなのはさん達より戦闘技術が高いって事」

自分で言っておいて信じられない。

若干9歳の彼女らが、管理局のエースを打ち倒すなんて。

それとは別に私は先ほどの試合に若干の違和感を感じている。

先ほどの模擬戦を遠くから見ていても感じる違和感。

例えるならバターナイフとバタフライナイフのような違い。

素人のあたしが言うのもおかしな事だが、不破なのはと不破ソラの攻撃からはとがったナイフのような鋭さを感じるのに対して、隊長達からは感じないと言うか何と言うか。

そんなもやもやを抱えながら模擬戦は終了した。

side out


シグナムを激闘の末、どうにか行動不能に落とし、振り返る。

なのは、ソラも勝ったようだな。

吹き飛ばされて気絶しているなのはさんとフェイトさんの姿を確認する。

なのはとソラがこちらに向かって飛んでくるのも見える。

「どうだった?」

合流したなのはとソラに聞いた。

「未来の自分だからどんなだろうって思ったんだけどね…砲撃主体の砲台。壁役が居れば強いんだろうけれど、一対一には向かないよね。接近戦の心得が嗜み程度しかないから接近されると途端に取れる行動が減ってた。ソラちゃんは?」

「中距離から近距離の遊撃タイプ。近接も射撃もこなすオールラウンダー。だけどいろいろあった武器形態を達人の域で使いこなしているわけじゃないから、器用貧乏の印象。彼女の剣を受けてみたけれど、彼女の剣には長い歴史で研鑚された技は無い。完全な自己流。それゆえにただ振っていると言う印象を受けるよ」

二人ともなかなか厳しいね。

フェイトは自分の事のように今のことを聞いて凹んでいるよ。


その後何とか復帰したなのはさん達がばつの悪い表情で此方に歩み寄ってきた。

戦闘技術は申し分なし。

もしかしたら私たちに教えられる事は無いかもとも言っていた。

その時負けたショックを隠しきれていないのか表情が多少険しかったが…

「午後の訓練はもう終わりにしてアオ君たちはこの世界の常識講座だから、後で連絡するからそれまで隊舎で休んでて」

なのはさんがそう言って俺達に訓練から抜けるように言った。

「分かりました」

まあ、彼女から吸収すべき技術は皆無なので良いんだけどね…

以後、訓練一日目にして俺達には自主練が言い渡される事になる。

午後からの座学。

取り合えずこの世界の一般常識を学ぶ。

地理や経済、宗教についても。

そういったことを学びつつ数日が過ぎる。 
 

 
後書き
未来フェイトのバルディッシュの形態変形はオリジナル設定?です。
デバイスリミッターを解除しないと確かザンバーとかは使えなかったかと。
それを使いたかったが為の苦肉の策でした。  

 

第四十三話

その日は朝から慌ただしかった。

なにやら本来ならば機動六課の担当はロストロギア関連の事件である為に関わるはずの無い事件だったのだが、その特異性により出動が要請される事となったようだ。

今日はユーノさんとの待ち合わせの日だったのだけれど、同席するはずのなのはさんとフェイトさんは任務優先で現場入り。

かく言うユーノさんもなかなか現れないもので、その日一日は待ちぼうけを食らいました。

そんなこんなで時間はすでに夜。

ようやく時間の取れたなのはさんとユーノさんの登場で、ユーノさんが調べた無限書庫での時空間移動なりパラレルワールドなりの報告を聞く。

六課内の個室に案内された俺達は、神妙な面持ちで報告を聞く。

「まず最初に謝らせてくれ」

そう言ってそうそうに頭を下げるユーノさん。

どうやら指定の時間に来れなったことに対するには大げさな態度だ。

「時間に遅れた事も謝らねばならないことだけど、簡潔に言うと、時空間移動の書物に信憑性のあるものは発見できなかった」

そう、すまなそうに再度頭を下げた。

まあ、それはそうだ。

時空間移動なんかが自在に出来れば、それはとてつもない混乱を招く。

良識ある人ならば発見したとしても隠すだろうし、残すにしても見つからない所や、記した書物を暗号化するなどの対策を取るだろう。

「だけど君達が追加で調べてくれと言われた魔王アイオリアの方の本に彼自身が記したと思われる蔵書を発見したよ」

これがそれだ、と厳重に保管されているケースをテーブルの前で開いた。

現れたのはハードカバーの装丁の古めかしい一冊の本。

その表紙を飾る模様は一目でそうと解る。

この本の著者は…

「竜王アイオリア。古代ベルカ時代の列強の王。その名も高き善王だが、今の聖王教会が台頭している現代ではその存在は聖王に敵対していた国の王である彼の評価は辛らつだね。それゆえに魔王と言われることが現代では多い。
そして竜王アイオリアで検索魔法を掛けると手元に現れたのがコレ。最初はぜんぜん違う装丁だったのだけど、どうやら誰かが魔法を掛けていたみたい。それで、その解除方法がアイオリアでの検索魔法の使用」

本来そこにあった本とは表紙も中身も一瞬で変わったと言う。

本来ならば持ち出す事すら禁止されているであろうソレを、無理を通して俺たちのために持ち出してくれたそうだ。

「とは言っても、中身は当時、彼の王が記した日記だけれどね」

すでにユーノは中身は一通り読んだのだろう。

内容は他愛も無い日常の出来事が綴られている。

「まあ、それでも当時を知る貴重な資料には変わりない」

そう言ってユーノさんは俺達に中身を取り出して見せてた。

表紙を開くと表紙の裏には一言、

『目を凝らして読むこと』

とだけ書いてあった。

目を凝らすね。

表紙を飾るあの模様と相まって推察される事は一つ。

「この本は貸してもらう事は出来ますか?」

「ごめん、残念だけどね。今ここまで持ち出すのにも結構苦労しているんだ」

ある意味歴史的財産といった所か。

ならば今ここで確認しなければならない。

【なのは、なのはー】

直ぐに俺は俺たちのグループへの念話を繋げる。

【ふぇ?なに?】

俺の念話に少々驚きながらも応えるなのは。

【悪いんだけど、この表紙の裏を『凝』で見てくれる?】

【目を凝らすってそういう事?そんなの自分ですればいいじゃない】

【俺とソラはほら、凝をするとどうしても、ね】

俺が凝をやると弊害で写輪眼が強制発動してしまうのだ。

余り知られたくないのでユーノさんやなのはさんの前では使いたくない。

【ああ、なるほどね】

納得するとなのははその目にオーラを集めて本を覗き込む。

恐らく念による文字が刻んである事だろう。

【えと…どういう事?】

どうやら書いてあった内容が理解できていないようだ。

【なのは、何て書いてあったの?】

俺の質問にもう一度本をじっくりと眺めてから答えた。

【万華鏡を通して見よって日本語で書いてある】

この本に使われている言語は古代ベルカ時代に多くの諸国で使われていたもの。

勿論古代ベルカ諸国の中で日本語が使われている国などはあるはずが無い。

【にしても何で万華鏡?しかもあのおもちゃってミッドに有るのかな?】

なのはが思案するが、思い当たるはずも無い。

【万華鏡…って事は…】

そう念話で呟いたのはソラだ。

【ソラちゃん何か知っているの?】

【………】

それには沈黙で応えるソラ。

まあ、そういう訳なんだろう。

俺は本から視線をユーノさんとなのはさんに向き直る。

「悪いんですが、二人には退出してもらえませんか?」

「え?なんで?」

「暗号の解き方でも発見したのかな?それは僕たちが居ると都合が悪いって事?」

俺の突然の物言いになのはさんはただ混乱するだけだったが、流石に学者先生は誤魔化せなかったようだ。

「はい」

「……なのは、退出するよ」

「え?いいの?」

本を置いていっても、と。

「勿論本を傷つけるような事はしないんだよね?」

「恐らくは」

多分としか言いようが無い。

「じゃあ、30分ほどロビーの方で待っているよ」

終わったら呼んでくれと言い置いてユーノさんはなのはさんを連れて退出した。


二人が居なくなると質問をしてくるのはフェイト。

「えと、結局どうすればいいの?」

「どうやら特定の条件にのみ開示するようにオーラを変質させているんじゃないかな?」

それを聞いたなのはが問いかける。

「その特定の条件って?」

「念で万華鏡を通して見よって書いてあるよね」

「うん」

ユーノさんたちが退出してから俺も凝をして確かめたから間違いない。

「この眼、写輪眼って言うんだけど、内緒にしていたんだけど、もう一段階上がある、それが」

「万華鏡写輪眼」

俺の言葉を継いでソラが答えた。

「万華鏡…写輪眼…」

「そ。つまりはそれで見ろって言っているんだと思う」

俺は視線を本に戻す。

『万華鏡写輪眼』

クワッっと瞳に力を入れる。

「その目…」

「表紙の模様と同じ…」

そう。表紙の模様はどう見ても俺の万華鏡写輪眼。

そして、アイオリアの名前が意味する所は…

フェイトとなのはの呟きに答えを返さず、本へと視線を向ける。

そこに書かれていたのは殆ど要件だけ。

世界に孔を開ける魔法。

これは本当に孔を開けるだけなのだろう。

難易度は高いが精々が人一人潜れるくらいの孔を十数秒開けるのがやっとのようだ。

そして、元の世界に戻るために必要な物。

「『リスキーダイス』に『漂流(ドリフト)』それと『同行(アカンパニー)』ね」

呟いた俺に不思議そうな顔をして聞き返すフェイト。

「それって一体どういった物なの?」

ビーっ

その時、部屋のブザーが鳴り、来客を告げる。

『そろそろ30分経つけれど、入っても良いかな?』

備え付けのインターホンから聞こえてくる声はユーノさんのもの。

「あ、はい」

どうやら時間切れのようである。

プシュッっと音がすると、扉が左右に割れ、なのはさんを連れたユーノさんが戻ってきた。

対面のソファに座ると、そのやさしそうな表情をいたずらっぽく変えてユーノさんが問いかけてきた。

「それで?なにか進展はあった?」

その質問はきっと確信しているのだろう。

「……降参です」

俺はお手上げと、両手を肩のラインまで上げて降参のポーズ。

「帰る方法が書いてありましたよ」

「え?それじゃあ」

帰れるんだね、と喜びそうになるなのはさんを押しとどめるように言葉を被せた。

「ただ、必要なものが入手できればですが……」

「必要なもの?それは何だい?僕たちで力になれるなら協力するよ」

強力はありがたいけれど、この世界にあるのだろうか。

「……すごく、難しいと思います。『グリードアイランド』って言うゲームの景品ですから」

「「景品なの!?」」

あ、なのはとフェイトが驚いている。

「グリードアイランド…」

なにやら衝撃を受けたような表情で呟くユーノさん。

隣のなのはさんも同様だ。

「でもでも!グリードアイランドって言うゲームがどういったゲームかは分らないけれど、ゲームの景品だったら何とかなるんじゃないの?」

なのはよ、何とかって何だ?

ゲームの景品だからこそ、プレミアが付いたりして付加価値が高かったりするんだぞ?

それに問題はそこじゃない。

「景品と言ってもUFOキャッチャーみたいな感じじゃ無いの!クリア報酬」

「そんなに難しいゲームなんだ?」

今度はフェイトからの質問。

「ゲームも難しいけれど、それ以前にそのゲームを手に入れないといけないの!それにこの世界にあるかも分らない」

それに時代も。

あのゲームは中の人間がリアルに年を重ねるゲームだ。

確かに魔女の若返り薬とかあるから寿命は延びるだろうが…

それでも100年続くゲームだとは思わない。

「あ、そっか…その本を書いた人って何百年も前の人だものね…あれ?じゃあ何でお兄ちゃんはそれがゲームの景品だって知っているの?」

なのはが問いかけてきた。

「…うーん。まあ、ぶっちゃけ、やった事があるからかな。……何故だろう、今更ながらジンに殺意が湧いてきたよ、ソラ」

「アオ…まあでも、なのはやフェイト、母さんに久遠に会えたのもジンのおかげでもあるし……でも確かに少しムッっとするけれど」

数々の無理難題。テストプレイ中は何度死に掛けた事か。

まあ、あの経験があるからこそ、その後の世界でも戦えているのだから感謝すべきなのかもしれないけれど…

「ジンって誰?…っていうかお兄ちゃん達はやった事があるんだ」

「まあ、ね」

どんなゲームか応えようとした俺の言葉をさえぎる様になのはさんが叫んだ。

「っあの!」

その声にビクッとなりながらも皆がなのはさんに向き直る。

俺たちの視線が全て自分に向いた事に少し動揺しながらも言葉を続ける。

「あなた達はそのグリードアイランドって言うゲームを知っているの!?」

「は?」

なのはの表情は真剣だった。

「……ええ、まあ。知ってますよ」

「どんなゲームか教えてくれない?」

「…その前になんでそんなに険しい顔をしてまで知りたいんですか?」

「……それは…」

一瞬答えるのをためらった後答えた。

「今日の任務、本来ならばウチの担当じゃ無かったはずなんだけど、内容がちょっと特殊で…憑依型のロストロギアの疑いがあると言われてわたしたちが回収と、事件解決を命じられたんだけど…」

そう前置きをしてなのはさんは語る。

「事件が起きたのは二日前。その内容は最初転送事故と判断された。被害者はリオ・ウェズリー、年齢は六歳。家族の証言から彼らの目の前で消えた事は確認された。
当然管理局の人たちもそれらの専門の人たちを向かわせたわ。魔法の残滓を探し、そこから何処に飛ばされたのか辺りをつける、そう言ったプロのチーム。
しかし、結果は芳しくなかった。魔法の残滓は見つけられず、何処に飛ばされたのか検討も着かない。さらに言えば家族は転送魔法陣を見て無いと証言している。
事ここに来てようやく管理局もロストロギアの疑いを検討し始めて、わたしたちが派遣されたんだけど…
被害者は家族の目の前で、物置にあった異世界産のゲーム機に吸い込まれるように消えたらしい。
そのゲーム機を調べると何故か稼動している状態だったそうよ。
そしてそのプレイされているゲームの名前が」

「グリード・アイランドって訳か」

頷くなのはさん。

「電力の供給も無く稼動して、技術班による干渉も出来ないそうよ。それでわたしたちはユーノ君に無理を言って似たような事件が過去に無かったか、歴史的観点から調べてもらうために無限書庫で調べてもらったんだけど…」

その言葉を引き継いだのはユーノ。

「…結局ほとんど分らなかったよ」

と、少し表情を曇らせる。

なるほど。遅れた理由はそう言った訳ね。

まあ、人命が掛かっているから遅れてきたのもしょうがないかな。

それでもこの会談を設置してくれた二人に好意も覚える。

本来なら抜け出せない所を無理をして抜けてきた事であろう。

「それで、貴方たちはグリード・アイランドを知っているみたいだけど…教えて貰えないかな?行方不明の女の子が出ているの。わたしたちは彼女を助けてあげたい」

どうしたものか。

しかし、ここは交渉だろう。

「条件があります」

「条件?」

「その前に、この件の現段階の責任者と会わせてくれませんか?」

「何で?」

「そっちは情報が欲しい、その少女を助けたい。だけど、俺達はそのゲームをプレイしたいんですよ」

「つまり君達は交換条件つきでこの件に協力してくれると?」

冷静に俺の言葉を分析したユーノさんがそう推察してそうたずね返した。

「なので、現段階の責任者を交えた話し合いがしたいのですが」

そう俺が纏めるとようやく納得がいったのか、なのはさんははやてさんに通信を繋げて事情を簡潔に述べ、俺たちははやてさんの待つ他の会議室へと移動した。 

 

第四十四話

会議室に移動すると、そこにははやて部隊長とヴォルケンリッターの面々。なのはさんやフェイトさんといった隊長達。俺達と一緒に入ってきたユーノさん。シャーリーをはじめとした技術者の面々が揃っていた。

会議室のイスに座ると、はやてさんが俺達に話しかけてくる。

「それで?なのはちゃんの話だと、君たちは今回の事件に有用な情報を持っているって聞いたけれど、教えてくれるかな?このグリード・アイランドって言うゲームの事」

はやてさんの話が始まると俺達以外のメンバーの視線が一斉に此方へと向けられる。

「最初に言っておく事があります」

俺は言葉に覇気を込めて発言する。

「何かな?」

「俺達がしたいのは情報提供ではなく、交渉だと言う事です」

「どういう事なん?」

「詳細は後ほど説明するとして、今は簡潔に。
俺達はそのグリード・アイランドをプレイしたいんです」

その言葉に怪訝そうな視線を向けてくる。

俺の少ない言葉からでも言わん事をしている意味を推察したはやてが応える。

「つまりはその条件を飲まなければ情報提供はしない言う訳か?」

「そうです」

「おめぇ!」
「やめろっ!」

ぐっと乗り出そうとしたヴィータをシグナムが止める。

「だけどよぉ!人一人の命が掛かっているんだぞ!それなのにあいつらはそれを逆手に交渉なんて!」

人命優先。

その考えは立派だし、尊敬もする。

だけど、今の俺達には知らぬ誰かの命よりも自分たちのいた世界に帰る方法が欲しい。

「今は時間が惜しいのは分っているだろう。それにあいつらにも譲れないものがあるのだろう。…昔の私達みたいにな」

「………」

シグナムのその言葉に何か思うことがあったのだろう、ヴィータはそれ以降口をつぐんだ。


「……その条件を飲むしか無いのやろうな」

はやての口から出たのは了承の言葉。

「同意が得られたようなので、持っている情報を開示したい所ですが」

「まだ何かあるんかいな」

「…魔導師の人以外…いや、そうですね…非魔導師及びBランク以下の人は退席してもらえませんか?」

「それは何でや?」

「語る内容で理解してもらえるとは思うのですが、余り聞かせるべきではないと判断しました」

「私らが聞いて、私らの判断で話しても良いと考えた際は話してもかまわへんな?」

「そう判断されたならばご自由に」

その言葉にはやてさんは暫く考えた後、退室させた。

残ったのはヴォルケンリッターと隊長陣、それとユーノさんだけ。

ほぼ地球組みの身内のみの構成だ。


「さて、此方の情報を提供する前に、どの位そちらはあのゲームについて調べてあるのか聞きたいのだけれど。どうやってその人の手に渡ったのか、どうして起動させてしまったのかとかは俺達には関係ないので省いてもらってかまいません」

その質問に答えたのはフェイトさん。

「えと、ゲーム機本体は管理外世界の275番の型落ちの家庭用ゲーム機。搬入経路はいまだ捜索中だけど、管理外の275番はここからだとかなりの距離がある、次元航行艦で約二ヶ月ほど。だから現在私たちは近隣の世界にある情報しか持ち合わせていないし、直接管理局員を向かわせることも出来ていない。」

あの世界。ジンたちの居る世界はここからだと結構遠い所にあるらしい。

しかし、本体に吸い込まれるようにして消えたと言う事は、念の力に対しては次元も空間、世界さえも超越したと言う事か?

「それと、捜査チームが一応このゲームの説明書を発見、翻訳してみたんだけど…書かれていた内容が要領を得ない。
被害者がゲーム内に取り込まれたと仮定して、説明書に書いてあったその発動キーである『発』と言う行為が不明で、一応対策チームの人が書かれている通りに手をかざして見たけれど、変化無し。
魔力を流すと発動するのかと推察し、行使してみたけれど変化は無い。
現状では対策は行き詰っている状況だから、君たちからの情報が頼みの綱なのだけれど…」

ふむ。

なるほどね。一応考えうる手段は行使した後だったか。

フェイトさんの報告を聞いた後、俺は考えを纏めて言葉をつむいだ。

「推察の通り、グリード・アイランドはゲームの中に複数の人を転移させ、閉じ込めるるものと思ってくれていいです」

俺の言葉でどう推測しただろうか。

可能性の一つには、VRMMO系の小説にある電脳空間に取り込まれ系デスゲームのテンプレも考慮していたのではないか?

俺の今の言葉には嘘は無い。

しかし、肯定しているようで、実際はぼやかしている。

実際は電脳空間ではなく、現実で行われているのだが、それを言うべきではないと判断したからだ。

「問題なのは、多人数参加型のゲームである点。つまりMMOに酷似していてプレイヤー同士の軋轢を生みやすいゲームだと言う点。
さらにコレは救助にあたるに付いて難点なんですが、このゲームはある能力の育成を視野に入れたゲームであり、当然プレイヤーもその資質が無くてはなりません」

「資質って?」

すかさずフェイトさんが問いかけてくる。

「『念』が使えること。まあ本当に初歩の初歩でも出来れば条件は満たすみたいですが」

「「「「「念?」」」」」

あ、ハモった。

俺達以外の人たちの口から漏れたそれがこのゲームでは必須のもの。

「念について、普段の俺ならばこんな大組織には絶対に絶対にぜっっっったいに!教える事は無いんですが…」

大事な事なので、『絶対』を三度も強調。

とは言え、元の世界に帰る算段が付いたし、帰ってしまえばこちらに干渉することも出来まい。

そう言った理由で、多少の事は譲歩する。

「それほどのものなん?」

皆の心内を代表してはやてさんが聞き返した。

「そうですね、もし広まれば今の社会が崩壊してしまうほどには」

「そ、そんなに!?」

流石にその言葉は衝撃だったようで、はやてさんの目が見開いた。

「念とは生命エネルギーを操る技術であり、その利便性は多岐にわたります。勿論、戦闘に転用する事も可能であり、フィジカル面では魔法よりも上です」

「魔法でも身体強化の魔法はあるが?」

そう言ったのはシグナム。

「これは俺達が使用してみての感想ですから、データを取ったものではありませんが、魔力素と言う外部エネルギーよりも、自分の体から溢れる生命エネルギーの方がなじみやすいと言うか何と言うか…」

「あ、うん。それはわたしも感じてた。何て言うか、魔法だとゴワゴワしてる感じだけど、念だと自然体でスッって言う感じ」

あ、なのは!今の発言は迂闊だ。

シグナムやフェイトさんやはやてさんの視線が一瞬なのはの方へと向けられて、その言葉からなのはも念が使えるのでは?と悟られてしまったようだ。

シグナムは二言三言なのはさんと話した後に俺に向き直って質問する。

「今の不破なのはの発言から、後天的な発現が可能な技術だと推察するが?」


高町なのはは使えないが、不破なのはは使える技術。

それを鑑みれば自ずと答えが分る。

「…ソレが一番問題でしょう」

一同が納得する中、なのはとフェイトは疑問顔。

「な、なんで?」

なのはが俺に尋ねた。

「この世界(ミッドチルダを始めとする管理世界)では魔導師資質が重要な要素をしめる。誰が提唱したのかは分らないけれど、質量兵器よりもクリーンなエネルギーとして、また、武力として治安維持に貢献している。
…まあ、私的な意見を述べるなら、魔法も質量兵器も人を傷つけるものである事に変わりは無いと思うのだけれど…」

「っで、でも!魔法は肉体を傷つけずに犯人を捕らえる事も出来るよ」

だから魔法と質量兵器を同一視しないでとでも言いたいのかな?なのはさんは。

「…でも、俺は魔導師の方が質量兵器よりも怖いけれどね。個人で行使出来る能力で、その質量兵器を凌駕している所とか、ね?
確かに非殺傷設定は有るけれど、殺せない訳では無いでしょう?」

「っう…」

俺の反論に言葉が詰まるなのはさん。

「つまりは最終的に使う人の問題であって、兵器や魔法に優劣が有る訳じゃないと思うのだけど」

「…わたしもそう思う」

少し考えた後、なのはもフェイトも同意した。

この辺がなのはさんと根本的に違う所か。

小さい頃から持っている力が他の人よりも強かったなのはにはそれを考えさせる事を多くさせて来たつもりだしね。

だからなのははなのはさんの様に魔法は素晴らしい力だとは思っていない。

それよりもずっと恐ろしいと思っている。

自分がその気になれば海鳴の街など物の数分で廃墟に出来てしまうからこそ、その力をきちんと制御しようと努力したし、それゆえの強さなのだ。


話がそれた。

「魔導師が優遇されているこの世界。だけど、非魔導師(魔導師資質が低い人)も大勢居る。
持っている人は、持たざるものの事は分らない。だけど推察くらいはできる。
先天性だけに、彼らは憧れるんじゃないか?強い力に。そして絶望する。逆立ちしても自分ではその舞台に上がれない事に。そんな中、誰でも訓練すれば使用できて、尚且つ魔導師に拮抗できたら?そんな力を手に入れた人たちはどうするだろう?
今までの不満が一気に爆発するんじゃないか?ソレはとても怖いことのように俺は思う」

俺の言葉を聞いて、未だに全てを理解したわけではないだろうが、事の重大さは理解できたのか、なのはが神妙に頷いた。

それを確認して俺は言葉を繋ぐ。

「俺たちはこの技術を貴方たちに伝授する事は絶対に無い」

「たしかにな。
今の話を聞くとおいそれと聞く事もできへんな。つまりそれが非魔導師を退出させた理由やね。
この事実を耳にすればいつかはその技術にたどり着いてまう。その人が魔導師に劣等感を持っていたら今言ったような事も起こり得る。
だけど、高ランク魔導師ならば幾らかその危険性は下がる。わざわざ自分の優位を崩す必要性は無いと言うことか?…それに、私は残ったこのメンバーは他言しないと信じとるけれどな」

まあ、ほぼ身内のみだしね。

「で、でも!ここに居る人くらいには教えてくれても良いんじゃないかな?向こうのわたしは使えている訳だし、わたしはその念?って言う技術も習えば使うことは出来るんだよね?それが無いと被害者の女の子の救出に行けないんじゃないかな」

管理局員としての正義感からか、なのはさんがそう詰め寄った。

「一日二日で物に出来る技術が有ると思う?魔法だって日々の反復練習が基本でしょう?」

「…それは、…そうだけれど」

なのはさんが少し勢いを失ってから食い下がった。

「で、でも!その、本当に初歩さえ出来ればゲームの中には入れるんだよね?だったら後は無理にその念?を使わなくてもわたしたちには魔法があるし」

でもその考えは浅はかだ。

「魔法で何でも解決できると言う考えはやめた方がいいです。その力は特殊な立地条件下のみでそのポテンシャルをフルに使える技術だと言う認識が必要です」

「……どう言う意味かな?」

「現にこの世界でも高濃度のAMF下では魔力結合がうまく行かずに管理局員も苦戦を強いられてますよね?」

「…魔法を無効化する敵なんて今までは余りいなかったからね」

その指摘にすこし眉間にしわを寄せながら答えた。

「それに魔力の回復には周りの魔力素の濃度も関係している。薄すぎるのは言わずもがなだが、濃すぎるのも良くない」

「アオくんはゲームの中には魔力素が存在しないって言いたいんか?」

はやてさんがそう聞き返す。

地球やミッドチルダ、それと魔法技術が発展した世界では魔力素が適性値の濃度で存在している。

しかし、世界は数多く存在する。

その中には魔力素の無い世界だって有るのは、ここに来ての勉強で知りえた事だ。

あの世界には魔力素が有るのか無いのか実際は分らないけれど、ここで無いかも?と、思ってもらった方が好都合。

「可能性の問題です」

確かに、と、はやてさんは頷く。

「だったらどうすれば良いの?被害者を見捨てろって言うの?」

なのはさんが少し怒気を上げて俺に尋ねた。

「そこで取引です」

その言葉に少し場の雰囲気が緊張する。

「俺達が中に入ってその少女を助け出してきます。…まあ、一度プレイした事はあるので、無事に帰ってこれる手段も知っていますし、あなたたちが行くよりは勝算が高いでしょう」

「それなら最初のプレイしたいと言う願いも叶えられるな。せやけど、それだけじゃないんやろ?」

当然です、と前置きをして話を続ける。

「まず、念能力の秘匿を徹底してください。余計な混乱は避けるべきです」

「当然やな。危なすぎて公表できへん」

「それと、長期に渡ってのゲーム機本体の保管。これを六課で行ってもらいたい」

「長期ってどの位や?」

「さて、半年か、一年か…ゲーム内での時間はリアルタイムで経過しますし、頻繁では無いでしょうが戻ってくる事も有るかと。
その時に例えば…そうですね、海中とか火山の火口とかに在ると俺達が死にます」

「…ていうか、そんなとこに有ったらまずゲーム機が壊れへん?」

「言ってませんでしたが、グリード・アイランドはプレイヤーがプレイ中ならばその本体はそれなりの衝撃や環境に耐えるほどに頑丈です。これは流石に本体が壊れたらゲーム機に囚われたままと言う事に対する危惧への対策といった所ですか?
まあ、造ったのは俺達じゃあ有りませんから本当の所は分らないんですけどね」

なるほど、と一応納得したようだ。

「そう言えば、なにやら話が複雑になりすぎて聞いてなかったんやけど。あんたらはどうしてグリード・アイランドをプレイしたいん?」

あ、そう言えばはやてさんにはまだ言ってなかったっけ?

「帰る手段がようやく見つかったのですが、それには必要なものが幾つかありまして。それを得るのにはどうしてもグリード・アイランドをプレイしなければならないんですよ」

「そうなん?しかし、ゲームをプレイして手に入るものなん?」

「恐らくは。…これ以上の詮索はして欲しく無いのですが」

「まあ、動機が分ったからいいけど。
ほんなら、あんたらに被害者の救出をお願いしても良いか?本来ならうちらが行きたい所やねんけど…行けないんやろ?」

「ええ」

「ほんなら…」

「ちょっと待って、はやて。まだその念って言う技術が本当にあるかどうかもわからねぇだろ!こいつらが嘘ついているだけかも知れねぇし」

話がまとまりかけた所でヴィータが待ったを掛ける。

ようやく纏まりかけた所に冷や水を差されて俺は少しイラッとして噴出したオーラを攻撃性の意思を込めて対面に向かって拡散させてみた。

「ひっ」
「あっ」
「何これ!」
「うぅっ」

対面にいるはやてさん、なのはさん、フェイトさん、ユーノさんの小さな悲鳴。

「どうしました?主」
「なのは!何かあったのか?」
「はやてちゃん!」

シグナム、ヴィータ、シャマルがはやてさんを心配する声を上げる。

心配された本人たちは両手で自身の体を抱きながら震えている。

「アオ!」
「お兄ちゃん!」
「なのはさん達が可哀想だよ!やめてあげて」

ソラ、なのは、フェイトはそう言って俺を嗜めた。

三人の言葉で興もそがれたことだし俺はオーラの噴出をやめる。

「何をした!」

キッっといつもより吊り上った目をこちらにむけてにらみつけるヴィータ。

「念がどう言ったものかと問われたので、俺のオーラ…生命エネルギーの事ですが、それに攻撃的な指向性を持たせて拡散させただけです。
どうです?凄く嫌な感じがしたでしょう?」

「凄く怖かったわ」

「うん、体中をドロっとしたものに這い回られるような」

「あまり、いい気分では無いかな…」

三者三様の答え。

「生命エネルギーは動物ならば誰もが微弱に垂れ流しているものだから感じるものが有ったようですね」

「……我々はなにも感じなかったのだが?」

シグナムが片膝を着きはやてさんの様子をうかがっていた体勢のまま此方を向き問いかけた。

「念は生命が発するエネルギーです。そう言えば貴方なら分るんじゃないですか?」

「……なるほどな。どうして貴様にはバレたのか聞きたいものだが」

原作知識を知ってますから。

とはいえ、相手のオーラの流れを視覚化すれば自ずと分る。

「念能力は念能力者しかそのエネルギーを例外(具現化系等)もありますが視覚化できません。逆に言えば念能力者は相手の体から発せられる生命エネルギーが見えるということです。通常、どのような生物でも微弱に発しているものなのですが」

「私たちからは生命エネルギーの発生が感知されないと」

「はい」

おそらくシグナムたちは高魔力が物質化したもので、それらが生物をエミュレートしているのではないか?

まあ、仮説だけれども。

「だから、俺の放った念に対して何のリアクションも返せなかった、それは…」

「いや、いい。分っている」

俺の言葉は途中でシグナムに止められた。

「まあ、今のはただ拡散させていただけですが、コレを密集させて纏わせると…」

そう言って俺は俺たちに提供されていた羊羹についてきた小さいナイフのような竹楊枝を手に取ると、オーラを纏わせて強化する。

「うん?そんな竹楊枝でどないするん?」

俺はゆっくりと刃の先端をテーブルに当てるとゆっくりと手前に引いた。

まるでプリンのようにスッと進入していく竹楊枝を驚愕の目で見つめている六課メンバー。

「っとまあ、こんな事も出来るんですよ」

「………切れてる」

信じられないものを見たという表情のはやてさん。

「身体強化の魔法ではこうはならない…だとすれば強化されたのは楊枝の方。だけど硬度が増したからといってあんなに簡単にテーブルが切れるはずは無い、か」

さすがにユーノさんは学者ゆえに着眼点が良い。

「シグナムなら同じ事できるか?」

はやてさんがシグナムに問いかける。

「……専用のデバイスがあり、相応の魔力に技術と威力、速度があれば机を切り裂く事は可能です…が、私には…と言いますか、魔導師にはありふれた楊枝で机を切り裂く事など不可能です」

「せやね。魔法陣も展開されてなかったから魔法と言うわけでもない。一応その楊枝をこちらに渡してくれるか?」

「はい」

俺は手に持っていた竹楊枝を向かいのはやてさんに手渡す。

それを持ち直して俺がやったのと同様に机に押し付けた。

べキッ

小気味いい音を立てて竹楊枝は折れたようだ。

「……やはりただの竹楊枝やね」

「勿論シューターのようにオーラを撃ち出す事や、オーラを電気などのものに変質させる事も修行をを積めば可能です。
そう言った技術なんですよ。それでいて念能力者で無ければその攻撃を感知できない」

「…それは、恐ろしいな」

シグナムの独り言。

しかし、それは皆が思ったことのようだ。

「念の詳細はこれ以上は秘匿します。
さて、それよりも被害者の救出の方、いつから向かえばいいんですか?時間はリアルタイムに経過します。取り込まれてからすでに二日。食料も水も無い状況ではぎりぎりなのでは?」

「え?バーチャルなのにお腹が減るん?」

「お腹も減れば怪我もします。そして、死は現実での死です」

「……それは急がないとな。直ぐにでも行ってもらえるか?」

「構いませんが、幾つか必要なものが有ります」

この後は詳細を詰めるだけで短時間ですんだ。

用意してもらうものの中には水や食料、さらに重要な物としてマルチタップとメモリーカード。

あの世界の純正品は手に入らないかもしれないが、科学技術の発達が大きいこの世界なら直ぐにでも作り出せるだろう。

幸いにも数時間で全ての準備が整った。


それまでの間に家族会議が行われ、誰が行くのかを話し合わねばならなかった。

出来れば俺とソラの二人だけで行こうと話し合ったけれど、なのはとフェイトが頷かない。

帰る手段を入手しに行くのに待っているのは嫌だそうだ。

残った方が安全は確保されていると言い聞かせようとしたのだが、尚更二人だけでは行かせないとなのはが食い下がる。

フェイトも念の修行が出来るならば行きたいと言っている。

「連れて行こうよ。アオも残したら残したで心配でしょう?最悪、自分たちより強い敵に会ったら封時結界張ってしまえば完全に隔離できるだろうし、魔力素が無くても今の魔力で最低限は行使できるでしょ」

確かに封時結界ならば張った本人が許可しない限り非魔導師を弾く事は出来るだろうから、瞬時に安全を確保できるだろうけれど…

その隙も無く殺される危険性もあるのだが…

話し合った挙句、押し切られる形で皆で行く事になりました。

どんな事があろうとも彼女らは守らないとな。

そう決意した俺だった。 

 

第四十五話【INグリード・アイランド編】

六課内の一室に俺達と、六課の上層メンバー数人が搬入されたゲーム機、グリード・アイランドを囲んでいる。

「それじゃ、ゲーム機の管理、お願いしますね」

「了解や、そっちも被害者の発見、保護を最優先に動いてや?」

俺の頼みごとに了承したはやてさん。

「もちろんです。未だプレイ中なのは生きている証拠です。…余り動いていないと良いのですが」

「被害者は子供や。子供の体力で行ける所なんて限られてるやろ」

「…そうですね。最初の街まで辿りつけていない可能性もありますね。そうすると二日間何も口にしていないことに…これは急がないといけませんね」

「そやね。そのために食料を申請したんやろ?まずは被害者の体調の回復につとめてや、その後何とかして現実世界へと帰還。出来れば被害者だけを送り出すような事はしないで報告がてら誰か一人くらい同行してもらいたいんやけど」

「了解です」

コクリと頷いて、視線をはやてさんか外しソラ達に向ける。

「それじゃ、俺から行くよ。入ったら動かずに皆が来るのを待ってるから」

「うん、私たちも直ぐに行くわ」

ソラが三人を代表して答えた。

「それじゃ、行こうか」

俺は丁度胸の辺りの高さにある台座に設置されたゲーム機の前に立ち、両手で挟み込むように構える。

「練」

シュンっと言う音と共に俺は六課内から転送された。


転送された空間は、電脳を意識したのか、長時間いれば精神を病んでしまうような感じの装丁の外壁に囲まれた空間だった。

その外壁に一つ扉があり、ソレを潜ると短い距離だが通路が続き、又も扉が設置されている。

その扉を潜ると今度は円柱状の空間に出る。

その真ん中になにやら浮かぶ机のようなものに座って此方を出迎える女性の姿が伺える。

「グリード・アイランドへようこそ」

俺が彼女を視界に捕らえたのを確認して、目の前の女性は話し始めた。

「これよりゲームの説明を始めさせていただく前に、プレイヤー名の登録をお願いします」

彼女は俺に自分の名前を問うた。

俺の目の前の、俺が知っている容姿よりも幾らか成長しているように見える彼女は、俺の知っている彼女だろうか。

いや、俺を知っている彼女だろうか。

「アイオリア…アイオリア・ド・オラン」

今は使うことの無い俺の旧名。

「っ!」

その名前に一瞬反応したのが感じられた。

「その名前でよろしかったですか?」

戸惑いを隠してそう聞きかえす彼女。

ああ、そうか。

彼女は俺を知っているのか。

「アイオリアの名前を知っているんですね?イータさん?」

「…私の名前をご存知でしたか。…貴方は何者ですか?」

一気に警戒レベルを引き上げたイータさん。

「今は時間が惜しいので詳しく話す時間はないので簡単な説明しかできませんが」

「構いません。話してください」

その言葉を聞いて俺は俺に起こった事を簡潔に説明する。

簡潔にとは言ってもそれなりに時間を要したが…

だれが生まれ変わりなど信じるものだろうか。

説明を聞き終えた後、イータさんが問いかける。

「その話を裏付ける証拠は?」

証拠か…

俺がイータさんとの共通の思い出なんかは少ないし、それも誰かから聞いたと言われれば証明のしようも無い。

これからやって見せるのも証拠と言うには一歩劣るけれど…

「ソル、モードクラシック」

『スタンバイレディ・セットアプ』

宝石から展開されるのはいつもと同じ竜鎧。

しかし、いつもは日本刀だったソルの姿が昔の斧の形で展開されている。

「……それは…その念能力は確かにアオ達の物とそっくりね」

念能力は多種多様。大抵の場合同系統の能力は有ってもまるっきり同じものは無い。

「今はこれくらいしか証明できる物は有りません」

「一応、私たちもアイオリアとソラフィアが行き成り消えてしまった後、転生の宝玉については調べたわ。だから、こう言う事もありえるだろうと言う可能性は有った」

「そうですか…」

まあ、目の前で消えたようだものね。

「だから、私は貴方の事を信じることにします」

どうやら完全にとは言わないまでも多少なりと信じてもらえたようだ。

「それで?貴方はここに何しに来たの?私たちに会いに来たとか?」

ここに来たのは必然と言う名の偶然なのだけれど。

「人を探しているんです。二日ほど前に6歳くらいの女の子が来ませんでしたか?」

その言葉にイータさんは少し考えたあと、直ぐに思い出したようだ。

「あの子ね。この世界にある言語には全てに精通していると思っていたのだけれど、彼女の言葉はどれでも無かったわ。話が通じずに結局指輪を渡して送り出したのだけれど…制約(ルール)である以上送り返す事も出来なかったからね」

事故だったにしろ正規のプレイヤーに対して強制退場は出来なかったのだろう。

「迎えに来たんですが何処にいるか分ります?」

「それはエレナの仕事だから、彼女に聞かないと分らないわ。でも、ルール上答えられないかも知れないわね。それに、知り合いだからと言って正規の入場した貴方をゲームマスター権限で送り返す事も出来ないわよ」

むう、自分で探すしかないのか。

「分りました。…それと、ゲーム内の物が欲しかった場合はやはり?」

「あら?欲しいものがあるの?当然だけれども、外の世界で使いたいのならばクリアしてもらう他ないわ」

「うわ、マジですか?まあ、頑張りますよ。昔、俺達が使っていた指輪(セーブデータ)は有ります?」

「貴方達が消えたときに身に着けていた物は何も残らなかったの」

うーむ。まあ、仕方ないのかな。

「だけど、もしも貴方達が戻ってくる事があればクリア報酬に色を付けてやれってジンから頼まれたいるわ」

「それが何か分りませんが、結局は一から全部集めろと言う事ですよね」

集めるのは勿論指定カード100種だ。

「そうなるわね」

うへえ、先は長そうだ。

「ルールについての説明は必要?」

「一応お願いします。忘れている事も有るかもしれませんから」

「了解」

その後、ゲームについてのルールを聞いてからフィールドへと転送される事になる。

「この後ソラフィアも来る予定ですので」

「そうなの?どんな姿になっているか楽しみにしているわ」

その言葉を最後に俺はフィールドへと降り立った。

大地にしっかりと立ち、俺はリンカーコアの魔力素の吸収率を量る。

辺りに魔力素は存在するものの、地球やミッドチルダに比べれば途方も無く薄い。

そのため魔力回復量が通常の20分の1まで落ちている。

小出しのシューターならばまだ良いが、バスタークラスは魔力消費がバカにならないため使用は控えた方がよさそうだ。

命の掛かった場面ではそんな事を言っている場合では無いだろうが…

変な所で予想が当たってしまったが、六課メンバーが出張ってくるよりも俺たちの方がまさしく適任だったといえる。



その後しばらくすると先ずソラが降りてくる。

「早かったね」

「うん。…イータさん、余り変わってなかったからどれくらいの時間が経ったのか分らなかったけれど、10年しか経っていないんだって」

そう言えば、その辺り俺は聞いていなかった。

しかし、だとすると、俺たちの転生は時間軸をズラしての移動だと言う事になる。

俺達がこの世界を去ってから30年。さらに俺達が居た時間軸からは10年経っているのだから。

さらにしばらく待つとようやくなのは、フェイトの順番で合流する。

そうそう、ハンター文字と言語については先立ってソラの念能力、アンリミテッドディクショナリーでインストール済みです。

ハンター文字が読めなければこのゲームをプレイするのは難しいからね。

「それでどうするの?そのリオちゃんを探しに行くんでしょ?どちらに行くの?」

そう、なのはが聞いてきた。

「あまり得策ではないけれど、二手に分かれて近辺を先ず捜索しよう。
子供の体力だし、この世界は魔力素が薄い。そう遠くへは行けないだろう。
俺とフェイト、ソラとなのはに別れて捜索、一時間後に又ここで落ち合おう…広域念話での呼びかけは入って直ぐに試したけれど、衰弱しているのか意識が無いのか応答が無かったから急ごうか」

「了解」「うん」「分った」

俺達は確認を終えると、東西に別れて走り出した。


side リオ

ここは一体何処なんだろう…

右を見ても左を見ても草ばっかり…

ううっ…パパっ…ママっ

行き成り知らない所に移動して…知らないお姉さんが知らない言葉を話していて…

あたし…一生懸命お話したけど…ぜんぜん分ってくれなかったみたいだし…

何となく身振り手振りで名前を聞いているような気がしたから…ちゃんと答えたんだけど…

うぇっ…

そう言えば前にママが『迷子になったら、無闇に動かずその場でじっとしていなさい』って言っていたけれど…

最初のお姉さんがいた部屋も、放り出された先の目印になりそうな小さな小屋もどこにあるか分らなくなっちゃったよぉ

だって怖かったんだもん…怖くて、寂しくて、気が付いたらパパ、ママって叫びながら走っていたし…

途中、大人の人に会ったけれど、分らない言葉で話しかけられた後、あたしを何処かに連れ去ろうとしたと手を引かれたと思ったら凄く怖くて、体から魔力が暴走してしまった…

制御できなかったあたしの魔力は電気変換されてその人を襲った。

その攻撃に驚いた人たちは皆驚愕の表情を浮かべてあたしを見ていた。

あたしは直ぐに謝ろうと思ったけれど、直ぐに魔法で飛んで行ってしまった…

その後あたしは誰とも会っていない。

そのまま夜になり、凄く怖かったけれど、あたしは大きめの石を見つけたから、その石を背もたれにしてうずくまった。

怖い…怖いよぅ…パパ…ママ…

怖くて体をギュっと縮こまらせると、なんか視線が低くなったような気がする…

何が起こったのか分らなくて、あたしは恐る恐る左右を確認すると、そこに見えたのは猫の尻尾のようなものがゆらゆら揺れている。

何だろう?と思って勇気を出して手を出してみようと持ち上げ現れたその手にあたしは絶叫した。

きゃーーーーーっ

叫んだつもりがあたしの耳には「うなーーーーーん!?」と聞こえた事にもショックを受ける。

一体何?と確かめるとあたしの両手が猫のようになっていた。

いや、おそるおそる確かめるとそれは両腕だけではなく…

いやっいやーーーっ

パニックを起こしたあたしが、はっと気が付くと元の人間の手に戻っていた。

夢かな?

夢であって欲しい。

あたしが猫になっていたなんて…


それからのあたしは戦々恐々。

寝たら起きたときにまた猫になっていたらどうしようと目を閉じるのも怖かった。

怖いし、寒いし、お腹すいたし…眠れない、気が付いたら朝だった。

一睡もできなかった。

日が昇ったけれど、あたしはぜんぜん動く気になれなかった。

一日ずっと岩陰で座っていたけれど、誰も助けに来てくれない。

パパも…ママも…

寂しい…怖い…お家に帰りたい…

あたしは空腹も忘れるくらい頭がぐるぐるして、両手をぎゅっとにぎり、目をつむった。

目を開けたらお家に戻っていると思いたかった。

気が付いたらまたお日様が昇っている。

どうやらまた一日過ぎたらしい。

このままあたしは死んじゃうんだ…死ぬのは怖いけど…でも死んじゃうんだ…

だんだん意識も朦朧としてきた。

死ぬのは嫌…まだ生きたい…パパに…ママに会いたい…

うぇ、やだよぅ…

散々泣いて、もう出ないと思っていた瞳からまだ涙が流れてくる。

その涙はあたしの手のひらよりも暖かく感じた。

その時。

「君がリオ・ウェズリーで合ってる?」

あたしの知っている言葉で話しかけられたあたしはその言葉の発生源を捜して力を振り絞って顔を上げた。

side out


ソラ達と別れて捜索し始めた俺達は直ぐに魔法によるサーチを行使する。

『円』を使うよりも生物の特定は不得意だが、範囲は広い上に今の念能力者が多く居るであろう現状では察知されにくい分有用だろう。

魔力の回復が少ない事に不安はあるが、使用魔力もバスターほど食うわけでもない。

とは言え、感知された所へとサーチャーを飛ばすなどして確認する等、結構の消費は有ったが、無駄な争いを避けられたのは大きい。

最初にサーチに触れたのが大人の男性だった事には、一応役目は果たしているだろう。

余計な接触は回避出来た訳だしね。

しばらく走りながらサーチを繰り返していると、未だ草原を抜けない所に生命反応を感知。

すぐさまサーチャーを飛ばしてみるとどうやらビンゴのようだ。

黒髪にリボンの幼女。

事前に貰っていた顔写真と一致する。

「ここから2キロ位だね。幸いこの草原は未だモンスターは出現しない。幸運だったな。…フェイト、飛ばすよ」

「あ、うん」

俺たちは念で四肢を強化して走る速度を加速させる。

2キロなんてものの数十秒だけど、それでも一秒でも早く保護して上げないとな。

全速力で走ると、フェイトを少し引き離してしまったようだが辺りには他に生体反応は無かったから大丈夫だろう。

視界に少女を捕らえて俺は減速する。

急激な減速で負荷が掛かるけれど、念で強化されているから問題はない。

目の前の少女は泣いていた。

無理も無い、今まで外で一人で夜を過ごした事なんて無いだろう。

俺は確認するべく声を掛ける。

「君がリオ・ウェズリーで合ってる?」

少女は俺の言葉に勢い良く顔を上げると、声の発生源を探して見上げた。

「えっ!?あのっ…」

一瞬言葉に詰まってしまったようだ。

「リオちゃんで合ってる?君の名前」

自分の知っている言葉で声を掛けられて戸惑っているようだ。

「…っはい…」

下細い声で泣く様に返事をしたリオ。

「迎えに来たよ」

出来るだけ安心させるように言ったつもりだったのだけれど。

「…っうぁ…うぅ…うああああぁぁあぁぁっぁぁぁあぁぁ」

何処にそんな体力を残していたのかと言う勢いで立ち上がると、俺にしがみ付く様に抱きついて泣き出した。

「っアオ!ちょっと速過ぎるよ、って、え?何?この状況?だっ大丈夫なの?」

遅れてフェイトが到着する。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」

泣き止まないリオ。

その腕はさらに力強さをまして俺に抱きついた。

俺は彼女が泣き止むまで好きに泣かせてその頭を撫でた。



ようやく落ち着きを取り戻したリオに持ってきていた食料をで軽く食事を取らせる。

その時に秘術のドーピング、神酒を希釈したドリンクも忘れない。

体力回復にはもってこいだ。

…原液で飲んだら死んじゃうかもだけど。

その間にソラ達に念話を繋げ、発見した事を告げる。

大まかに位置を告げると、ソラ達の方から此方に出向いてもらう事にした。

と言うのも安心したのかリオが意識を手放したからだ。

まあ、最初からこんな幼子を連れての長距離移動は難しかったんだけどね。

いま彼女は俺の膝を枕に眠っている。

神酒も飲ませたし、外傷も無い。

体調に関しては問題ないだろう。

後は精神か。

こんな幼い時分で孤独に耐える時間が彼女に与えたストレスはどれ程のものか。

そればかりは俺には治せない。

優しい言葉を掛けてあげるのが精一杯と言った所だ。


合流したソラ達には周囲の警戒をしてもらっている。

まずはリオが覚醒するまで待つつもりだ。


日が中天を過ぎ、傾き始めた頃、ようやくリオが目を覚ます。

「うっ…うみゅ」

「おはよう」

眠気まなこに目を擦りながら起き上がる。

「えっ、あのっ!…おはようございます…」

一瞬ほうけたが、起き上がり、直ぐに現状を確認し、膝枕をされていた事を思い出したのか顔が真っ赤に染まった。

「うん、まあ、もう昼も過ぎているんだけどね。
それより、今自分がどういう状況なのか、俺達が何者か、説明してもいいかな?」

「あ、はい。お願いします」

確りした受け答え。

…、なんだろう。

子供なのにやけに精神年齢が高いね。

最近の子供はコレがデフォルトなのか?

なのはやフェイトも9歳にしてはかなり確りしてるし。

まあ、今はそれはいいか。

先ずはお互いに自己紹介。

俺の後にソラ、なのは、フェイトと続いた。

俺は現状を簡単に説明する。

「ここはゲームの中で、皆さんはあたしを探しに来た管理局の人なんですね」

まあ、管理局員ではないけれど、ね。

「さて、現状確認もしたし、そろそろ移動しないと。日が暮れる前に街に行こう」

「そうだね。夜になる前に宿を取らないと。お金は途中で倒したモンスターのカードを換金すれば一泊くらいなら多分大丈夫」

ソラが同意する。

と言うか、合流するのが少し遅れたように感じたけど、モンスター狩ってたのね。

まあ、お金が無かったからソラに感謝だけれど。

「街ってどっちの方向にあるんですか?」

リオが俺に尋ねてきた。

「あっちだね。ついでにリオが歩いてきた方向と真反対。こっちの方向には街は無いはず…多分」

俺の記憶が確かならね。

「ええ!?あたし、結構歩いてきたと思ったんですけど…今からじゃかなり時間が掛かるんじゃないですか?」

「大丈夫。走れば直ぐだよ」

「走ればって…」

車も無いのに大丈夫なのかとでも言いたげだった。



風を切って走る。

「わあっ!すごい!すごいっ!」

「あんまりしゃべんない方が良いよ。舌噛むかもしれないからね。一応魔法で風圧は軽減させているから風圧で窒息とかは無いけど、衝撃までは全て緩和できないから」

「はーい」

俺の背中から返事が聞こえる。

長距離を移動するに当たって、当然リオには移動する体力も技術も無かったため、俺がおんぶをして走っている。

その速さは公道を走る乗用車並みだ。

「うぅぅっ。いーな、いぃーなぁ」

「なのは、ちゃんと前見て走らないと危ないよ?…うらやましいのは分るけれどね」

「だよねだよね?」

「わたしもお兄ちゃんにおんぶして貰いたい」

なのははもう9歳だし、そろそろそんな物をねだる年頃では無いのでは?とは思ったけれど…

「その内な」

「ほんとっ?約束!ちゃんと覚えておくからね」

「あ、ずるいっ!あのっ…私も…その」

フェイトが控えめにおねだりしてきた。

「はいはい。分ったから、今はちゃんと前見て走りなさい」

「「はーい」」


走ること数十分。

ようやくこのゲームに入ってから初めての街、『懸賞都市アントキバ』に到着した。

直ぐにショップでカードを換金し、俺たちは宿を取った。


部屋はツインで一部屋のみ。

これは襲撃が有るかもしれないから固まっていた方が有用だと言う事と、…単純にお金が無いと言うことだ。

俺は備え付けのイスに座る。

皆思い思いの場所で一息ついている。

リオに視線を向けると久しぶりの軟らかいベッドのスプリングを使ってポンポン跳ねている。

「わー、ふかふか。しあわせー」

その内ごろんとベッドで横になった。

まあ、リオはこれからの打ち合わせに直接的には参加しなくても良いから寝ててもいいけど…

「さて、これからの事を打ち合わせしないとね」

「うん」

「そうだね」

俺の言葉に耳を傾け視線を此方に向けるソラ、なのは、フェイトの三人。

「まず、迅速にリオを送り返さなければならないね」

「うん、そうだね。きっとご両親も心配しているだろうし」

と、なのは。

俺も頷く。

そりゃね。

今も気が気じゃないだろうさ。

「だから、先ずは帰還アイテムのゲットを優先的に行う」

「うん。でもそのアイテムって?何処にあるかアオは知っているの?」

フェイトの質問。

「ああ。何種類の帰還方法があるのか、正確には俺は覚えていないんだけど…ソラは幾つ覚えてる?」

俺の問いに少し考えてから返すソラ。

「二つだけ。
リーブ(離脱)と挫折の弓」

「俺も同じだ。パッと出てくるのではその二つしか覚えていない」

「どうやって手に入れるの?」

なのはが問いかける。

「リーブはスペルカードだから、魔法都市マサドラで買える」

「買えるの?だったら」

「ただし、スペルカードの購入はトレカみたいなものだ。中に何が封入されているかは開けるまで分らない」

「……でも、買い続けていればいつかは出るんでしょう?」

「…残念だけど、そうとは限らない。カード化限度枚数を超えたカードは封入されない」

「と言う事は、すでに限度を超えていて入手できない可能性も?」

「多いにある」

「でも、限度枚数はカードによって違うから、そのリーブ?って言うカードはいっぱいあるかも知れないよ?」

「…ソラ。リーブってどの位だったっけ?」

「…一度も使ったことないから良く覚えていないけど。…40は行かなかった気がする」

「俺もその位だったと記憶している。…もう少し少なかった気もするけどね」

「じゃあ、明日はそのマサドラに行ってカードを買いに行くの?」

フェイトが俺に問いかけた。

「そうなるね。
だけど、行くのは俺一人だ」

「え?」
「皆で行けば良いんじゃない?」

しかし俺はその言葉にNOを突きつける。

「ショップで会ったプレイヤーに聞いたよ。ここ最近PKの数が多くなっているらしい」

ほんと、プレイヤーを見つけるのには苦労した。

いや、視線を感じるからどこかから監視しているのだろうが、接触してくるプレイヤーは皆無だ。

少し強引だったが、気配の隠し方が下手だった一人を脅迫紛いに捕まえて教えてもらったんだけど。

…と言うか、この辺り(最初の街)を拠点にしているだけあって修練の練度が低い…と言うか、良く生き残っているなあと思わずにはいられないほどだったが、そう言ったもの同士のコミュも存在するらしく、それなりに情報には敏感らしい。

「ぴーけー?」

あ、フェイトはそう言った言語はまだ知らないか。

「ゲームでの造語だよ。プレイヤーキル、又はキラー。だからPK」

「まさかっ!人を殺して回っている人がいるの!?」

「そうらしい。だから俺たちはここまでプレイヤーに接触しなかっただろう?PKを恐れて今この近辺のプレイヤーは皆隠れているらしいよ」

それも以前から居たPKとは別種のグループの手口らしいと言う情報もあった。

「だけどここ二、三日はここアントキバ周辺では被害は出ていない。これは単純にそのPKがアントキバを離れたからだろう。そんな中、リオの安全を考えれば全員で行くよりも、護衛と収集に別れるべきだ。
今回は先ず一番重要なリーブ(離脱)の入手が先決だからね。少し無理をする。
だけど、無理をするのは俺だけでいい」

これに対してなのはとフェイトから自分も行きたいと文句が出たが、リオを送り返すまでは護衛優先と言う事で何とか納得してもらった。

まあ、それが終われば本格的にカードを集めなければならないからもっと積極的に動かなくてはならない事も多くなるだろうし、リスクを承知で危険な事に手をださなければなら無くなるかもしれない、そう感じた。 

 

第四十六話

さて、次の日。

俺はソラ達にリオの護衛を任せてひとっ走りマサドラへ。

途中なにやら岩場を人力でくり貫かれた跡が多数存在しているけれど… 誰だよ、こんな事したのは。

さらに出くわしたモンスターを片付けて資金源を増やしつつ、ようやくマサドラへと到着した。

たどり着いたカードショップで手持ちのモンスターカードを換金して、さて買うかと言う時、俺の予想を裏切る事態が展開されていた。

「は?…スペルカードが売り切れた?」

「はい、次回の入荷は未定です」

俺の魂が抜けたような問いかけに律儀に返してくれたショップのNPC。

売り切れだとぉ!?

マジで?

俺は目の前が真っ暗になった。



…取り合えず呆けていても仕方がないと、俺は来た道を引き返し、アントキバへともどり、ソラたちが待つ宿屋を目指した。

ガチャ

ドアノブを捻り、入室する。

「た、…ただいま」

「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」

なのはが出迎えてくれた。

他のメンバーはと視線を向けると、自然体で立ち、『堅』の修行中のフェイトの姿と、それのコーチをしているソラ。

そして。

「……リオは何しているの?」

リオの隣に居たソラに声を掛けた。

「あ、アオお帰り」

「あ、うん。それで?」

「見たら分るでしょ。『纏』の練習」

そうなのだ。

リオに目をやると、深く目を閉じて瞑想するような感じで自身のオーラを纏っている。

『纏』だ。

「それは分るけれど、どうして?」

教えたのか、とソラに問いかけた。

「この世界(グリード・アイランド)に居るのなら最低『纏』が出来ないと、相手の念には無防備になっちゃうし、フェイトの修行を始めたらどうやらオーラが見えているみたいだったからね。精孔は曲がりなりにも開いていたみたい」

そりゃ事故だったにしろ、念が使えなければこのゲームをプレイする事は出来ないのだけれど。

「だから、リオにも基本の四大行を覚えてもらおうと思って。…まあ最低『纏』は出来てもらわないと」

しかし、ソラの言っている事も分る。

リオの事は出来る限り守るつもりだが、念攻撃に対して自身でレジスト出来れば生存確率はグッと上がるのは確実だ。

しかも、スペルカードの取得を失敗した今となっては特に。

「…そうだね。それが良いと俺も思うよ。まあそれはさておき。
皆聞いてくれ」

さて、リオの事は置いておいて、スペルカードについて話をしないとね。

俺は皆の注目を集めるように言葉を発した。

俺の言葉に纏をしていたリオはビクっとして纏が解けてしまったようだが、フェイトは堅を維持したまま俺の方を向く。

ソラとなのはも同様だ。

「スペルカードを買いにマサドラまで行って来た訳だけど…」

「あ、そうだったね。お兄ちゃん、そのリーブ(離脱)のスペルカードはゲット出来たの?」

なのはが代表して俺に問いかけた。

「…残念だけど、一枚もスペルカードを入手できなかった」

「え?」
「どういう事?」
「うん?」

なのは、フェイトが顔を歪め、リオは昨日の話を聞いていなかった為意味が分らないと言った顔だ。

「……一枚も?一個も無かったの?」

ソラが真剣な表情で聞き返した。

「ああ、残念ながら…」

「そう…」

「えっと…つまり…どういう事?」

混乱したなのはが聞き返す。

「…プレイヤー人口が多すぎてカードの需要が追いついていないか…後は」

ソラの言葉を引きついて俺が答える。

「どこかのギルドが独占したか」

「ギルド?」

フェイトはこう言ったゲーム用語に弱いな。

「同じ目的を持った多人数の集団と言ったところか?スペルカードの独占が出来る規模となると相当の人数が居るのだろうね」

スペルカードの保持に使うフリーポケットはマックスで一人40個分。

スペルカード全ての限度化枚数は…幾つだったか思い出せないが、膨大な量には違いない。

「だとしたらリーブの入手は正規の方法では困難」

「だねぇ」

攻撃呪文も独占していれば、自分たちに使われることもない。

スペルの中には当然相手のカードを奪うものもあるのだから、防御スペルは当然ながら、攻撃スペルの独占も意味はある。

リーブ(離脱)も、この世界から逃げられない状況であるならば、自分たちが相手からカードを奪う機会も無くならないしね。

「と、すれば、後は挫折の弓と言う事になるけれど…」

「そ、ソレが問題だ」

「問題?」

何が問題なの?と、なのは。

「正直挫折の弓を取るのは時間が掛かる」

「…どれくらい?」

フェイトが聞き返す。

「どんなに頑張っても一月以上はかかる」

「一月…」

一月で済まないかもしれない。

一月とは全力で寝る間も惜しんでこの世界を駆けずり回ってようやくと言った所だ。

指定カードである挫折の弓は限度化枚数も少なめだが、それと同等に入手難度が上がる。

さらに挫折の弓のフラグは一度指定ポケットを50枚以上収めた状態からバインダーを0に…全てのカードを具現化すること。

一度何も無くなるのだから本当に挫折してしまいそうになる。

入手しても、リオを送り返すためにはそれを使わなければならないとは…

せめて、スペルカードが買えれば…

擬態(トランスフォーム)』か『複製(クローン)』が欲しい所だ。

と言うか、スペルカードが買えればリーブの入手が可能なのだから、考えるだけ無駄か…

攻略組の人達も当然居るだろうから、何とか交換で手に入らないだろうか…

他者との接触は危険も伴うけれどね。

トレードでリーブの入手が出来れば手っ取り早いのだけれど…

その辺は臨機応変に情報が増えたら再考するしかないか。

挫折の弓入手のための条件を皆に伝えると、皆の顔に少し厳しい表情が浮かんだ。

まあ、クリアの半分まで到達した上で全て放棄しなければならないとかは、流石に辛い。

取り合えず、リオの護衛をソラとフェイト。カードの収集を俺となのはが行う事になった。


グリード・アイランドを始めて二週間。

俺たちの集めた指定ポケットのカードは19枚。

比較的入手難度の低いカードを狙っているのだが、中々集まらない。

今日は二日ぶりにアントキバへと戻り、ソラ達と合流した。

「ただいま~」

「お帰り、なのは」

「今帰った」

うお、今なんか俺、自宅に帰った亭主のような発言をしてしまった。

恥ずかしい。

「お帰りなさい、アオ。指定カードは取れた?」

「ああ、二枚増やせたよ」

「そう、良かった」

「あ、アオお兄ちゃん。お帰りなさい。なのはお姉ちゃんもおかえりなさい」

「お…おかえりなさい。アオ…なのは」

部屋の少し奥からリオとフェイトが出迎えた。

「ただいま。…それにしても、綺麗な纏だね」

「え?えへへ。ありがとうございます」

念の基礎の修行を始めて二週間、リオはようやく纏を自分の物にしたようだ。

喜んでいるリオの隣には何故かボロ雑巾のようにくたびれたフェイトの姿が。

「…フェイトは今日も下水管工事のバイト?」

「うん…スコップで延々と下水管工事の為の穴掘り…『周』の鍛錬には丁度いいってソラに言われたし、確かに納得もしてるけど…すごく疲れた」

あー、アレは俺も経験した。

実際『周』の訓練には持って来いだったし、あの後念を教える事になった人達も同じような事をやらせたね。

「わたしも昔同じような事をやったから、頑張って!フェイトちゃん」

「ありがと、なのは」

なのはがフェイトをはげました。


夕食を済ませた後のまったりとした時間。

「二週間で19枚…残り31枚ね」

と、ソラ。

「ああ。二ヶ月は掛からないと思いたいね」

「そろそろ私もカード集めの方に協力したい」

そう言い出したのはフェイトだ。

彼女の場合は念の修行と言う意味合いもあるからカード集めはいい訓練になるのだが…

「ソラ、フェイトにはまだ『硬』と『流』を教えていなかったよね?」

「うん、まだだよ。…フェイトは物覚えが良いから、そろそろ教えてもいい頃だとは思ってたけど」

「そっか。ならばそれが及第点になったらだね。纏、練、絶、発と応用の凝、周、堅、硬、流、が使えればこのゲームで取れないカードは一応無いはずだから」

「私が教えてもらったのは四大行と周と堅…まだ他に2つもあるんだ」

「まだその他に円と隠がある。フェイト、一通り見せてあげる」

そう言ってフェイトを招きよせると、なぜかリオも付いて来た。

リオに見せても理解できるか分らないけれど、まあいいか。

「先ずは基本の『纏』」

オーラを身に纏う。

「纏の応用技の『周』」

身近に有った紙をオーラで包み込んでみせる。

「精孔を閉じ、気配を立つ『絶』」

「そして通常よりも多いオーラを出す『練』と、応用技の『堅』」

迸るオーラを持続させる。

「オーラを操り自分にあった必殺技や能力を行使する『発』」

俺は植木鉢に植えてあったパンジーに手をかざすと、そのパンジーが急成長する。

「アオの能力って…」

「俺の能力は触れたものの時間を操る『クロックマスター(星の懐中時計)』。進めたり、戻したり、止めたりね」

「凄い能力…」

まあね、俺もそう思う。

俺の潜在的な心理ストレス等が原因になったのは間違いないと思う。

未来を知っている自分がどう動くのか、慎重に行動してきたが、やはり後悔の連続だった。

そんな俺のやり直したいとか、あの時ああしていれば、とか何度思ったことか。

「オーラを目に集めて相手の念能力を看破するのが『凝』」

俺の場合勝手に写輪眼が発動してしまうけれど。

「『凝』の応用技が『流』」

目以外の場所、今回は右手にオーラを集める。

「それが、『流』…」

「そして、纏、絶、練、発、凝の複合技、『硬』」

右手以外の精孔を閉じ、右手に纏ったオーラが膨れ上がる。

「…すごいオーラ」

「この状態で普通の人間を殴ればトマトを潰すよりも簡単に中身が飛び出るからね」

俺の言葉に息を呑むフェイト。

「纏の応用技で『円』これは範囲内のレーダーみたいなものだね。円の中ならば死角はほぼ無くなると言って良い」

オーラを部屋を包むくらいまで広げて維持。

「最後は絶の応用技の『隠』」

「それは?」

「凝で俺の指先を見てごらん?」

フェイトは言われたとおり凝で俺の指先をみる。

「数字の1」

「正解。オーラを見えにくくする技術」

指先から放出していたオーラを止める。

「大体こんな感じ。『堅』と『流』この二つが出来れば取り合えず一通りの戦闘を行う事ができる。
この二つの修行は影分身を使ってやれば比較的短時間で及第点はあげられるんじゃないかな。フェイトの努力次第だけどね」

「頑張る」

うん、がんばれー。ってその前に影分身って教えてたっけ?忍術に対するレクチャーをした覚えが無いような?

さて、一通り見せたし話も終わりかなと思われた時、ソラが驚愕の声を上げて俺を呼んだ。

「っアオ!」

「何?」

ソラの方を振り返ると驚愕の表情で見つめるソラの先に居たのはリオ。

それだけならばソラはそこまで驚愕の声を上げないだろう。

しかし。

「写輪眼…」

「え?何ですか?…そう言えば少し体がダルイです」

リオの抜けた返事に一瞬俺の思考も止まりかけたが、何とか回避。

リオの両目は真紅に染まり、勾玉の模様が左に一つ、右に二つ浮かんでいた。

「あ、その目…」
「それって…アオ達の」

なのはとフェイトも俺とソラの態度が急変した事で事態を飲み込もうとリオを見たのだろう。

やはりその顔は驚愕の表情だ。

「そう、写輪眼。ある特定の血筋に稀に現れる瞳術。その瞳は全ての術を見抜くと言う」

「全ての術…だからお兄ちゃん達は一度見た技をすぐに真似できるんだ」

以前ソラがフェイトさんと戦った時の事を覚えていたか。

「それよりも、特定の血筋って?御神と不破?だったらなのはも使えるの?」

「いや、写輪眼はうちは一族の血継限界…特殊能力。だからなのはは使えないよ」

「え?じゃあ何でお兄ちゃんとソラちゃんは使えるの?」

まあ、当然その疑問にぶつかる訳だが、それにどう答えようかと悩んでいたところでリオから抗議の声が上がる。

「あ、あのっ!一体どういう事なんですか?あたしのことを話しているみたいなんですが、一体何を言われているのか分りません」

そうだったね。リオの事をのけ者したつもりは無かったんだけど、つい驚愕の事実に俺も冷静では要られなかったと言う訳だ。

取り合えず、部屋に備え付けられていた姿見の前へとリオを連れて移動する。

俺は姿見の前に立ったリオの肩に手を乗せ、少々拘束ぎみに自分の姿を覗かせた。

「いい?リオ。驚いてはいけない。それは決して病気ではないから」

「う、うん」

俺の方を見上げていたリオが、俺の言葉を聞いて姿見に視線を移す。

「こっ…これって…」

前もって心の準備をさせたからだろうか。驚愕の言葉を上げるリオだが、どうにか取り乱す事はなかった。

「写輪眼と言う。大丈夫だ。俺とソラも持っている」

そう言って写輪眼を発現させる。

「本当だ。…でも数が…違う?」

「本来は三つ巴の模様で、三つあるのが普通なんだよ」

「え?じゃあ、わたしのは…」

うーむ、そう言えば俺も移植したては二つだったっけ?

だいぶ昔の事だからよく覚えていないけれど。

だけど、まあ…

「覚醒したばかりでまだその力を全て発揮できていないか……あるいはそれが限界か。俺は前者だと思うけれど、ソラは?」

「私もそう思う。今はじめて発現したんだし、不安定なんだと思うわ」

「それじゃ、リオはその…うちは一族?の血が流れているの?」

と、フェイト。

「流れているよ、確実に」

まさかこの年で眼球の移植など行わないだろう。

「何代か前にうちはの人間と交わったか…あるいは…」

ソラが俺の言葉を継いだ。

「竜王の子孫」

「竜王の?」

「竜王ってあの本の?」

フェイトとなのはが驚くのも無理は無い。

何故そこに繋がるのか理解できないのだろう。

どう説明しようかと悩んでいた所、リオが声を出した。

「あのっ!皆さんはその…うちは一族?について詳しいんですか?」

「…まあ、ね」

俺とソラは。

「じゃ、じゃあっ!そのうちは一族って猫に変身したり出来たんですか!?」

「…なん…だと?」

「あ、あの…今でもあたし、信じられないんですけど…昨日わたし気が付いたら一瞬猫になっていたんです…だから」

「うん?動物に変身するくらい魔法でもできると思うよ」

それに答えたのはなのは。

「え?そうなんですか?」

「うん。たしかそんな魔法があるって前にお兄ちゃんが言ってたよ。ね?」

「あ、ああ」

ユーノがフェレットに変身できるのだ。俺たちはまだその術式を知らないが出来る事は確実だろう。

「あ、そうなんですか…良かった」

安心するリオ。

しかし、それで終わればうやむやになる所をソラの発言がそれを逃さなかった。

「リオはその変身術式を知っていたの?」

「え?知りませんよ?」

「比較的簡単なシューターのような放出系や先天性の魔力変換資質等は感覚的なもので割りと簡単に出来るだろうけど…変身魔法はそうは行かないと思うわ」

「え?…じゃあっ」

「落ち着いて、リオ。変身したのに戻れているんでしょ?だったら大丈夫。猫に変身できるのは珍しい事かもしれない。だけど大丈夫。私も出来るから」

「本当?」

「本当」

すっと溶けるように一瞬でソラの体が消える。

消えたわけではない。その証拠にソラのいた足元に一匹の子猫が居るのだから。

「わあっ猫ちゃんだ」
「かっかわいい」

驚きよりもかわいさに目を奪われたようだ。

俺は知っていたから驚かないし、なのはは変化の術か何かだと思っているようだった。

リオは駆け寄りソラを抱き上げる。

「ううーいいなっ!リオ、次私が抱っこしたい」

「うん、わかったよ。フェイトお姉ちゃん」

「あのね、私だからね、ソラ」

「きゃっ」

いきなりしゃべりだした猫に驚いて落としてしまったリオ。

ひらりと着地するとソラは一瞬で人間に戻った。

その後ろで「あぁっ」と残念そうな声を上げていたフェイトが印象的だった。

「リオ、一度猫に変身してみてくれない?」

「え?でも…」

「大丈夫。猫になろう、人間に戻ろうって気持ちがあれば大丈夫だから、ね?」

俺たちの変身については意思の力で戻れるからね。

しかしもしそれで変身できるのならば…

「…うん」

ソラに説得されてリオは静かに目を瞑る。

「ねこー、ねこー、にゃんにゃん」

イメージトレーニングだろうか、その口から漏れる言葉が可愛らしかった。

すっと体が溶けるように縮み、やはり足元に子猫が一匹現れる。

「にゃあ」

その体毛はアメリカンショートヘア。

ミッドチルダには居ない地球産の猫。

「わあ、かわいい!」

だっと走って抱き上げたのはフェイト。

「苦しいよ、フェイトお姉ちゃん」

その腕の中から抗議の声が上がる。

「あ、ごめんなさい」

そう言って拘束を緩めるフェイト。

「うん。そのくらいなら大丈夫」

しばらくしてようやくフェイトはリオを開放した。

開放されたリオは、今度は「にんげん~、にんげん~」と呟くと、その形を人へと戻した。

「…今のってソラちゃんのと同じ…」

なのはがその結論に至る。

「うん?」

言われたリオは分らないと言った表情。

「だろうね。
魔法陣は出なかったし、どちらかと言えば変化の術に近いだろうけど。…アオ、やっぱりリオは…」

「…竜王の子孫だろうね」

と言うか、確実に俺かソラの子孫。

あの変身能力は元は魔法薬だったのだけれど…子供にまで遺伝するなんて…なんて物を造ったんだドクター!?

いや、まあ、推測だが。母親の胎内で体内に溶けた魔法薬が血液中から移動したと考えた方が妥当か?

まあ、それだと直系の女性の子供にしか顕現しないとなるが、遺伝子に組み込まれていると考えるよりは説得力が…

まあ、どうでもいいか。

そんな所は考えなくてもいいよね。今現実に出来るか出来ないかと言う問題でしかないし。

と言うか、これでリオが竜王の直系…もしくは、どこか別の時代に転生した俺かソラの子孫と言う事だ。

「竜王って何ですか?」

「昔の王様だよ。古代ベルカ時代の」

「そうなんですか」

日記とユーノさんに調べてもらった限りそんな感じだったはずだ。

しかし、おかしな事になった物だ。

今までは仮定の内だったが、それがどうやら現実味を帯びた。

恐らく俺たちはまた転生するのだろう。

今度は過去、古代ベルカ時代。それも次は王族として。

となると、今俺が知った事実をこの先日記と言う形で書き残し、俺たちに届くのだろう…が、しかし。

それだとループだ。

一番最初が抜けている。

一体誰がこの方法を考え、残したのか。

とは言えコレも考えても答えが出ない類のものだ。

俺は考えるのを止めた。

「え?じゃあ、お兄ちゃんもソラちゃんも竜王の血が流れているの?」

「え?うん…そうだね」

と言うかたぶん本人です。

「とりあえず、リオには力の使い方を教えた方がいいかな?どう思うソラ。知らない方がいいと思うかな」

「もう使えているんだから、簡単にでも何が出来て、何をしてはいけないかは教えた方がいいと思う…制御できなければ今回みたいに意志とは別に発動してしまうかもしれないしね」

確かにそれは危険か。

マイノリティは受け入れられ辛い。

ミッドチルダは比較的にレアスキルと言う枠の認知度が高いからまだ大丈夫だろうか?

「…ソラの言うとおり、制御は覚えていた方がよさそうだ」

「?」

自分の事を、自分の意思の存在しない所で決定された事を理解できていないリオが不思議そうな顔をしていた。


さて、取り合えずリオの事はひと段落させて、一息ついてから話はもどって、これからの事だ。

「どうするの?拠点をマサドラに移したほうがスペルカードの入荷の確認が楽じゃないかな?」

と、俺に同行してグリード・アイランドを駆け巡っているなのはの意見。

「確かに、それはそうなんだけどね。逆にスペルカードの有用性からマサドラは人が絶えない。他のプレイヤーとの接触の場も多い…それ故カードのトレーディングの場としても機能しているが…やはりマサドラに移るのはリスクが大きい。リオを帰してからかな」

まあ、リオを帰したらそれこそ定住なんてせずに駆けずり回らなくてはならなくなるが。

そういった方向で話が纏まり、俺たちはまたカードを集める日々が続いた。 
 

 
後書き
挫折の弓。漫画では取るシーンも使うシーンも無かったので取得方法はオリジナルです。  

 

第四十七話

それからまだ二週間。

今の指定カードは31種類と言った所。

「木の葉旋風っ!」

「くぅっ!」

俺の蹴りを右腕でガードするフェイト。

勿論『流』での防御力強化も忘れない。

「はっ」

ガードして肘で俺の蹴りを押し切り、空中に投げ飛ばされた俺に向かって正拳突きを放ってくるフェイト。

「ふっ」

空中で身を捻って両手を軌道上に被せるように突き出してガードする。

突き飛ばされる勢いをそのままに俺はフェイトから距離を取る。

ざざーっ

着地した両足が砂煙を立ち上げる。

フェイトは俺の着地に隙を突き、すぐさま大地を蹴って追撃する。

「やっ」

その攻撃もガードする。

避けても良かったのだが、今しているのはフェイトの『流』の習熟度の確認。

だから俺もフェイトの『流』を使った攻撃を『流』を使ってガードする。

「よっと」

今度は俺からの反撃。

「うっ…くっ…」

連撃に次ぐ連撃に次第に対応し切れなくなって行くフェイト。

20を超えたところで終に『流』によるガードが間に合わなくなる。

「あっ…」

俺の拳が当ると思われる刹那、俺は拳を止めた。

「ここまでだね」

「…うん」

俺の言葉にフェイトは四肢から緊張を解いてオーラを収めた。

「あの…その、どうだった?」

フェイトの質問。

今日はフェイトの『流』の訓練の出来上がりを俺が見る約束だった。

前回の打ち合わせから二週間が経ち、フェイトもそろそろ及第点がやれそうだとソラが言ったためだ。

フェイト自身も早く俺たちの協力がしたかったらしく、修行に励んだようだ。

まあ、影分身での練習は経験値の習得がとてつもなく早く、二週間と言う早さでソラから及第点をもらえたようだ。

不安そうな顔で此方を見つめるフェイト。

「うん、合格」

「本当っ!やったーーっ」

まあ、『堅』を維持し、『流』を行使した戦闘で30分、本気ではなかったとは言え俺の攻撃を凌ぎ、反撃まで出来たのだから本当にフェイトの戦闘技術に関する成長には目を見張るものがある。

「よかったね、フェイトちゃん」

「うん、ありがとう、なのは」

よほど嬉しいのか、フェイトにしては珍しくなのはの手を取ってぶんぶん振っている。

「それにしても、お二人とも凄かったです」

そう言って近づいてきたのはリオだ。

「うん。まあ、アレくらい出来ても、一流の念の使い手には敵わないのだろうけれどね」

現在のフェイトは、俺たちがここで修行していた時と同等と言ったところだ。

俺達がジン達の下で修行していた時の戦闘練習、二人で全力でジンに立ち向かったが結果は惨敗。

ダメージらしいダメージを与える事は出来なかった。

まあ、アレから随分俺たちも修行したし、出来る事も増えた。

今ならば念のみでも互角に戦える…といいな。

アレから数十年掛けて俺は自分について一つ悟った事がある。

それはソラも同様のもののようだが、これは致命的とまではいかないが重要な部分。

俺もソラも、技術習得について、特に戦闘に応用が出来る技術で、修練し、身に付け、思うように操る事は出来るようになった。

それも一流と言われるほどに。

しかし、所詮は一流なのだ。

天才には敵わない。

常人が一生でたどり着ける最高値が100だとしたら、95くらいまでは俺なら青年期までに習得できるだろう。

しかし、天才はそもそも最高値が120なのだ。

さらに成長が早い。

これは敵うはずが無い。

言わずもがなジンは天才の部類に入る。

とは言え、例え天才と戦うとしても結果は俺のほうに大きく傾くだろう。

一つの技術では25もの差が有るとしても、その25を他の技術で埋めておつりが来る位、今の俺たちの技術習得幅は多岐にわたる。

まあ、全力で戦えば負けないんじゃないかな?

「それより。どうだった?俺とフェイトの戦闘。全て見えた?」

「あ、はい。…お二人とも凄かったです」

この二週間、リオに優先的にさせているのは四大行の修行よりも、その写輪眼の制御とできるだけその目を発動してフェイトの修行をつけているソラを見ることだ。

必要になる日が来ないことを切に願いながらも、戦闘技術を情報として彼女の中に蓄積させる。

これが俺が自分の子孫であろうリオにしてやれる限界。

順調に行けば後二週間ほどでリオを現実に帰すことが出来る。

その後はリオに会う機会があるかどうか。

俺達はゲームクリアまで外に出る機会は殆ど無いだろうし、帰還に必要なアイテムを手に入れられたなら、直ぐに帰るつもりだ。

なればこそ、彼女がこれから自分で取捨選択できるよう、俺達の戦闘技術を写輪眼で蓄積させている。

この前聞いたらソラは暇さえあればリオの前で忍術を一通り披露しているそうだ。

拙いながらも分身の術が出来るようになったとリオが見せてくれたのは記憶に新しい。

「さて、フェイトも順調に仕上がったし、そろそろ本格的にカードを集めに行こうか」

まあ、勿論ソラとリオはお留守番だけど、次の日からはフェイトが俺達のグループへと参加した。


アントキバからマサドラへと続く道中に出くわしたモンスター。

今までは避けていたそれも、今度は一通り狩る。

一つ目巨人、メラニントカゲ、マリモッチ、バブルホース。

この辺りのモンスターは弱点が設定されており、その弱点を突けば撃破は簡単だ。

「つかまえたーーーっ」

『バブルホース』のカードのカードを無事にフェイトがゲットする。

「まあ、纏と絶が瞬時に切り替えられれば簡単にゲットできるけど。…よく気づいたな、フェイト」

「えへへっ」


数日、俺達は指定カードを捜す傍ら、倒したモンスターカードを手に入れてはマサドラで売り払い、お金を手に入れるための金策にしている。

これはBランク指定カードを効率的にゲットするためだ。

ソラが思い出したのだが、Bランクカードは50回同じ店でカードを換金すれば上客として扱われ、売ってくれるとの事。

そう言えばそうだった気もする。

なぜ忘れていたのか。…と言うのも、俺達が前回カードを集めたときは全てのイベントをこなしていたからね。

取り方は覚えているんだけど…そんな裏技チックな方法は忘れていたよ。

一週間が経ち、なのは、フェイトと一緒に今日も換金ついでにマサドラのスペルカードショップに立ち寄る。

店員の女性型NPCに声を掛けると、いつもは売り切れだと言っていた彼女が今日に限っては言葉が違った。

「お客様、運がいいわよ。ずっと品切れだったのだけれど、昨日大量に入荷できたの」

「え?お兄ちゃん。もしかして…」

「スペルカードが売ってる?」

なのはとフェイトの驚きの声。

「…そうみたいだね」

俺も驚いたが、それと同時に疑問も浮かぶ。

どうして大量のカードが入荷したのか、だ。

今まで…それこそ昨日までは売っていなかったと言うのに大量に入荷したと言う。

それは、一気に多数のスペルカードが使われたか…あるいは消失したかだ。

消失も2パターンある。

スペルカードの保存に使うフリーポケットはセーブされない。

つまり、ゲーム外に出ればその時点でスペルカードは消失する。

そして、もう一つ。

こちらの可能性のほうが残酷なのだが、プレイヤーが死んでしまったときだ。

その場合は指定、フリー、両ポケットのカードが消失する。

後者で無いと良い。

後者はそれだけ大量の死者が出たという事。

ゲームイベントでのリタイアならば俺達に直接関係無いだろう…しかし、もしもPKならば?

それはつまり大量の人間を一度に殺せるほどの念能力者がこのゲームに紛れ込んでいるという事だ。

【ソラ、今いい?】

俺は直ぐにアントキバに居るソラに念話を繋いだ。

【うん、何?】

【今、マサドラに居るんだけどね。どうやらスペルカードの再入荷が有ったみたい。今ならスペルカードが買えるけれど…どうしようか?】

【うーん。今の所持金でBランクの指定カードを必要数買える?】

【ぜんぜんたりてません】

【後どの位?】

【まあ、このペースで一週間ほどかな?】

【だったら、確実な方がいいんじゃない?…あー、でも『擬態(トランスフォーム)』か『複製(クローン)』のスペルカードは欲しいわね】

たった一枚の挫折の弓を使ってしまうとまたもう一度Oからやり直しだ。

それは避けたい。

それに、先ほど推察した懸念事項もある。

それをソラに告げると、スペルカードで『離脱(リーブ)』の速やかな入手が望ましいと、賛同してくれた。

なのはとフェイトにもその事を伝え、俺達は直ぐに有り金全てをスペルカードにつぎ込む。

取り合えずフリーポケットの許す限界の40パック、120枚を購入。

そして、俺たちは賭けに勝つ事が出来た。

離脱(リーブ)』のカードを3枚手にすることが出来たからだ。

その他には目ぼしい物で『堅牢(プリズン)』と『神眼(ゴットアイ)』と言った最上級レア度のスペルカードが一枚ずつ当たったのは嬉しい誤算だ。

しかし、その二つよりはレア度の低い『擬態(トランスフォーム)』は当たらず、『複製(クローン)』は二枚と言う結果だったが、入手難度の高い二枚が当たったのはとても嬉しい。

この二枚さえ手に入れてしまえば、全40種コンプリートも夢ではなくなる。

とは言え、このゲームを安全にクリアするためには『堅牢(プリズン)』か『擬態(トランスフォーム)』を後10枚手に入れなくてはならないのだが…

まあ、取り合えず『離脱(リーブ)』のカードは手に入れたのだ、これでリオを帰す事が出来る。

俺達は店をでて、ソラ達の居るアントキバへと戻る事にする。

「さて、アントキバへと戻るよ」

「ここからだと走って三時間くらい?」

「まあ、そのくらいだけど、今回はコレがあるからね」

そう言って取り出したのは『同行(アカンパニー)』のカード。

「あ、それ、スペルカードっ。わたしが使いたい、ねえ、いいでしょう、お兄ちゃん」

なのはが使ってみたいとねだる。

「まあ、いいか。はい、これアカンパニーのカード」

なのはにカードを手渡す。

「うぅ、いいなぁ。アオ、次は私が使うからねっ!」

フェイトも使いたかったのか…

「はいはい。『同行(アカンパニー)使用(オン)』の後にプレイヤー名を発言する。今回の場合は『ソラフィア』だよ」

プレイヤー名とはゲーム開始時に設定した名前の事だ。

俺なら『アイオリア』だし、ソラは『ソラフィア』

これは何となく昔を懐かしんだからだ。

このゲームをするならこの名前が一番しっくり来る気がする。

「うん、分った『アカンパニー・オン、ソラフィア』」

自分で飛ぶのとは違う力で俺たちは凄いスピードで空へと飛び上がり、物の数分でソラとリオの居るアントキバへと到着した。

ギュイーン、シュパっ

そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで、俺たちはソラ達の待つ宿屋の部屋の中へと到着した。

宿屋の中に直接飛び込めるわけは無く、どういった原理か、宿屋の扉が何かの力で突然開かれたようだ。

そのためソラはその腕にリオを包み込み、臨戦態勢で俺達を出迎えた。

「あ、お兄ちゃん達。お帰りなさい」

「ああ、ただいま、リオ。ソラも」

「うん。出来れば帰る前に念話して欲しかった」

それは悪かった。

とは言え、念話していてもソラの対応は変わらなかっただろう。

飛んでくるのが俺達とは限らないのだし。

ソラから開放されたリオは俺の後ろに居たなのはとフェイトとも挨拶を交わしている。

「さて、リオ」

「なんですか?」

「帰還に必要なアイテムが手に入ったよ。これで君を帰してあげられる」

「えっ?本当ですか?」

「ああ」

「パパとママに会える?」

「ああ」

「本当に!やったっ!やった!やっと帰れるんだ!」

俺達が保護した事でどうにか現実を受け止めたリオ。

泣き出すよりは単純に帰れるのが嬉しいようだ。


「それじゃ、ソラ。バインダー出して」

「ん?何するの?」

「俺も一緒に行って、きちんと送り届けてこないとね。だから、俺が持っているカードを全部ソラに預けておくよ」

「指定カードはセーブされるはずじゃ?」

「確かにね。だけど、もしかしたら帰ってこられないかもしれない。その時は3人でカードのコンプリートを目指してもらわなければならないからね」

俺は帰ってくる気だが、相手は組織だ。いくらはやてさんが信用できるからといって、他の人が信用できるかと言えばNOだ。

組織と言うのは一枚岩では無い物。

意思の統一など出来るわけも無い。

俺はそこまで人を信じていない。故に、最悪拘束されることを想定しておく。

まあ、そこまで心配しなくてもいいかもしれないけれどね。

ソラは神妙に頷いて、俺からカードを受け取った。

「もし、三日経っても戻ってこなかったら後のことは頼むよ」

帰ってこれない事態に陥ったら最大限抵抗してやる気ではいる。

その後に合流予定はソラに『口寄せ』してもらうのがよさそうだが、それはクリア後でいい。

「取り合えず、先ずはスペルカードのコンプリートとプリズン、トランスフォームの入手かな。漂流(ドリフト)は余ったら使っちゃって」

俺達の知っている通りならば『漂流(ドリフト)』の50回使用で『ドントルマ』へと行けるはずだ。

そこは指定カードNO99、SSランク指定カード『モンスターハンター』の入手へと繋がる。

「分った、アオも気をつけて」

「何も無ければすぐに帰ってこれるよ。…さて、リオ、行こうか」

「はい」

俺に呼ばれてリオが返事を返した。

俺はバインダーに残された二枚のうち1枚を取り出す。

「じゃあね、リオちゃん。元気で」

「バイバイ、リオ」

なのはとフェイトが別れの言葉を告げる。

「え?皆さんは戻らないんですか?」

「私たちはまだやり残した事があるからね。リオ、今まで教えてきた事は誰にも言っちゃダメだし、無闇やたらに使ってはダメ。約束してくれる?」

ソラがリオにそう忠告した。

「え?はい。…分りました。…でも、こっそり練習するのは良いんでしょう?」

「誰も見ていないときならばいいわ。それともし、命の危険が迫ったときは躊躇わずに使いなさい。…まあ、普通に生きているのならそう言った場面に会うことなんてそうそう無いのだけれど」

「…はい」

皆とのお別れも済んだ様だし、そろそろ行こうか。

「それじゃ、行くよ。離脱(リーブ)使用(オン)リオ」

リオの体がなにかに引っ張られるかのように舞い上がり、飛び去ったかと思うと一瞬で姿を消した。

「俺も行ってくるよ。離脱(リーブ)使用(オン)

俺の体も何かに引っ張られるようにして一瞬で視界が切り替わる。

「ここは?」

先に出ていたリオの姿を確認する。

「管理局、機動六課にある一室だね」

俺達がリオの捜索に行く時に用意され、ゲーム機が安置されている部屋だ。

さて、現実世界(まあ決してグリード・アイランド内がヴァーチャルでは無いのだが)に帰ってきたが、出た先に人の姿は無い。

いつ帰ってくるか分らないのだから仕方が無いのだろうけれど、それでも誰かが現れたらすぐに分る様な機材がこの部屋に仕掛けられているのだろうし、待てばすぐに誰か来るかな?

案の定、すぐに俺達の目の前に通信モニターが展開される。

ウィンドウには六課部隊長であるはやてさん。

「ただいま戻りました」

『ようやく戻ったんか。それでそっちが被害者であるリオ・ウェズリーやね。こんにちわ、私は機動六課部隊長、八神はやていいます。よろしくね』

「リオ・ウェズリーです。…あの…パパとママは…」

『ご両親にはすぐに連絡するから、ちょっと待っててくれるか?その前に病院に移動して、そこで少し検査させて欲しいんやけど…軽い健康状態のチェックだけや。問題なければ直ぐに家に帰れるよう手配するで。アオ君、スタッフがすぐに迎えに行くからリオちゃんとしばらくそこで待っといてな』

「了解」

その後すぐに六課スタッフに連れられて近郊の病院へと運ばれる。

医療器具を駆使して健康状態に異常が無いかチェックしている。

しばらくすると一通りの作業を終えた医師が終了の声を上げる。

「はい、終わり。どこも異常なし。健康そのものだよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いいのよ」

その時医務室の扉が開き、年若の夫婦らしき二人と、その付き添いであろうフェイトさんが入室してきた。

「リオっ!」

「ママっパパっ!」

その姿を認めるや否やベッドから飛び降りて駆け寄ったリオ。

リオの体を抱きとめて涙を流す両親。

「リオ…よく無事で」

「うん、寂しかったけれど、アオお兄ちゃん達がすぐに見つけてくれたから大丈夫だったよ」

「そう、本当に良かった」

両親との再会を邪魔してはいけないと、俺達はしばらくその光景を見守った。
 
 

 
後書き
リオ退場。
次ぎ出てくるとしたら番外編辺りですかね。  

 

第四十八話

さて、リオの引渡しも済んだし、お別れの挨拶も終えた俺は、リオのご両親にお礼を言われた後、退席した。

早く六課へと戻りグリード・アイランドへと行かないとね。

って、どうやって戻ろう。

六課からは車だったし、ぶっちゃけこの辺りの地理には詳しくない上に、お金も持ってないよ…

六課内でははやてさんから預かったカードで済ませていたし、そのカードもグリード・アイランドに入るときに預けてある。

うわっ…間抜けだ。結局もう一度戻ってフェイトさんに用立ててもらうしかないか。

そう考えていると、俺のズボンをひしっと誰かが掴んだ気配がする。

「うん?」

引っ張られた方を向くと、金髪に虹彩異色の幼女の右手が俺のズボンをしっかりと握っていた。

左手にはウサギの縫いぐるみを持っているようだ。

「…どうしたの?」

取り合えずやんわりと俺のズボンを握っていた手を離させると直ぐにしゃがみこみ、目線を合わせて問いかけた。

「…ママ…いないの」

「そっか。ママとはぐれちゃったか。どこではぐれたか分る?」

「…わかんない」

「そっか…」

困ったね。

うーん、取り合えず病院の受付に行って見よう。そうすれば迷子の案内放送くらいしてくれるだろう。

「お兄ちゃんが一緒に探してあげるから、一緒に行こう」

「本当?」

「ああ」

取り合えず幼女の手を握り、立ち上がる。

「…うん」

「それで?君の名前は?」

「ヴィヴィオ…」

「ヴィヴィオちゃん、ね」

何だろうね…さっきリオと別れたばかりなのに、今度は別の幼女の面倒を見ないとなのね…

俺はヴィヴィオの手を引いて歩き出す。

それにしてもこの病院、やけに広いね。

中庭を抜けるのも一苦労。

ヴィヴィオを連れて歩いていると向かいから歩いてくる管理局の制服を着たなのはさんだ。

「あ、アオ君が見つけてくれてたんだ?」

「あれ?なのはさんも来ていたんですか?」

「うん、その子の様子を見にね」

そんな会話をしていると、風を切りさいて上空から殺気を振りまいて魔導師らしき女性がなのはさんを守るように現れた。

「っ!」

俺は咄嗟にヴィヴィオを抱え込んで後ろに思い切り跳躍した。

殺気からヴィヴィオを守るように抱っこして顔を此方に向かせ、向こうに意識を向けさせないようにする事でヴィヴィオの心を守る。

こんな子供にあの殺気は毒だ。

下手をすれば一生のトラウマになるかもしれない。

……俺やソラ、なのはは同じ年で、もっと凄い殺気を浴びていたけれど…それは家庭環境の違いだろう…たぶん。

さて、それよりも目の前の彼女だ。

両手はヴィヴィオを抱えているので動かせない。

魔法攻撃はソルがいるからシールドを張れるだろうが、両手に持っているトンファー型のデバイスを見るからにインファイター。

オーラを両足に集めて強化する。

いざとなったらいつでも逃げれるように。

ググッとトンファーの女性の四肢に力が入る。

「シスター・シャッハ。ちょっとよろしいでしょうか」

此方を警戒していたトンファーの女性。シャッハと言うらしいその女性が、後ろにいたなのはさんの声でその緊張が緩む。

「あの…、はあ」

不承不承といった態度では有ったが臨戦態度を緩めてくれたらしい。

と言うか、俺には何故武器を向けられたのかも分らないのだけれど。

「あの、アオ君。わたしたち、その子の事を探していてね。…ちょっと事情のある子なんだ。だから、いっしょに来てくれると助かるんだけど」

まあ、俺は取り合えず病院の受付に連絡を取ってだれかに引き取ってもらおうと考えたし、なのはさんの管轄内ならば大丈夫だろうと考え、なのはさんの言葉に頷いた。

さて、あの後シャッハ・ヌエラと名乗った女性にお詫びを言われ、まあ、俺には直接被害が無かった事もあり、気にしていないと答えた後、なのはさんの計らいでヴィヴィオを連れて三人で機動六課へと戻った。

戻るさなか、念話でヴィヴィオの大体の現状を教えてもらった。

先日保護した違法研究で生まれたかもしれない人造魔導師の素体の可能性が高いらしい。

本来ならば俺には教えるべきでは無い情報だが、ヴィヴィオが俺から離れないのでかいつまんで教えてくれた。


六課についてもヴィヴィオは俺のことを放してくれない。

なのはさんが自分の事を心配してくれているのが分るのか、だんだん心を開いてくれているらしいのは見て取れる。

そして夜。

「ヴィヴィオ、そろそろ放してくれない?」

「…やぁ」

嫌って…

「ヴィヴィオ、アオお兄ちゃんも用事があるんだよ。余りわがまま言わない」

「やぁだっ」

さらにしっかりと握られる俺のズボン。

取り合えずなのはさんの部屋で預かる事になったらしいヴィヴィオをつれてなのはさんの部屋に行ったのだけど…

「ほら、ヴィヴィオ、そろそろ寝る時間だよ。俺は自分の部屋に戻らないとだから放して」

「そうだよ、わたしが一緒に寝てあげるから」

「アオもいっしょにねる?」

一緒にって…まあ、なのはと一緒に寝る事なんてしょっちゅう有るけど…

じっとなのはさんを見る。

あ、眼が合った。

びくっとした後、顔を赤らめて俯いてしまったなのはさん。

おや、少しかわいい反応。

「そっそれはねっ!ちょっと、えっと、その…ね?」

ね?と言われても子供は分らんて。

「アオ君だって困るよね?」

「うん?別になのはとなんていつも一緒に寝てるけど」

「いつも一緒に!?」

「一週間の内半分は家に泊まりに来るし、いつの間にか俺のベッドに入っていることなんてしょっちゅうだったね」

「そ、そうなの!?」

まあ、このなのはさんは俺の知っているなのはではないし、異性と一緒に寝た事なんて自分の父親くらいしか無いのではないだろうか。

「そうですね。とは言え、さすがになのはさんとなのはは違いますね」

年齢も俺よりも上だし、その体は少女ではなく大人の女性だ。

流石にやばいか。

うーん。

仕方ない。

「ヴィヴィオー、なのはさんも困っているから、今日は俺の変わりに猫でも抱いて寝てよ」

「ううーねこ?どこにいるの?」

「ちょっとまってて」

一瞬で俺の体が溶け、その後には一匹の猫が姿を現す。

「え?え?アオ君って変身魔法使えたの?」

「ええ、まあ」

「わあ、ねこちゃんだ。おいで」

「はいはい」

とてとて歩み寄る。

「にゃんにゃん」

されるがままに撫でられている俺。

その後ぴょんとベッドの方へと飛び移る。

「ヴィヴィオーおいで」

「うん」

くるんと丸くなった俺を抱き寄せるように横になるヴィヴィオ。

「わあ、ふかふか」

それはベッドなのか?それとも俺か?

まあ、どちらでもいいか。

「え?まあ、猫なら?うん?でもあの猫はアオ君だよね?だったら…でも…あ、そう言えば昔ユーノくんも動物になって一緒の部屋で寝てた事が?あわわ」

なんか混乱しているなのはさんをよそにヴィヴィオの寝息が聞こえてくる。

しかし、その手はしっかりと俺をホールドしている。

抜け出せなくは無いけれど…今日一日くらいは付き合ってやってもいいか。

ソラたちにはちゃんと謝ろう。

「くぅ…」

隣に感じる小さな寝息と、高い体温に俺も次第に眠りについた。

「うにゃぁ…二人とも寝ちゃったし、どうしたらいいの?うーん、大丈夫だよね、アオ君にしてみたらわたしは妹みたいなものだし。うん、それじゃわたしも一緒に…うわぁ、あったかい」

なんだかんだ混乱しながらも結局なのはさんはベッドに入ったようだった。


意識が覚醒する。

一晩の間にヴィヴィオの拘束も解け、ようやく自由に動けるようになった。

布団から抜け出ようともぞもぞ動いてどうにか枕元へと移動する。

左を見るとどうやら観念して一緒に寝ているなのはさんの姿が。

右を見ると…うん?いつの間にかこのキングサイズのベッドに入り込んで寝ているフェイトさんの姿があった。

それもさも当然のような感じで…

そう言えば、この部屋は二人でシェアしていると聞いていたが、ベッドが一つしか無かった。

…つまり二人は毎晩一緒に寝ていると言う事?

何?もしかして二人はそう言った関係?

うわぁ…ユーノ頑張れ、マジで。

まあ、俺は見なかったことにしよう。その方が俺の精神衛生上いい気がする。

俺はベッドを抜け出すと、前足を手前に伸ばし、後ろ足を伸ばすとグッと背筋をのばした。

さてと。

「もう行くの?」

俺の後ろ、ベッドの上に、上半身だけ起き上がったなのはさんが眠気眼でこちらを向いている。

「そろそろ戻らないとね。ソラ達も待ってる」

「そっか。そうだよね」

「その子…ヴィヴィオの事は任せてもいいんでしょ?」

「任せてよ。ちゃんとヴィヴィオちゃんの面倒は見るよ。少し事情が複雑だけど、ちゃんと受け入れてくれる家庭を探すつもり」

「そう」

「……なんかアオ君ってわたしの事、妹扱いしてない?」

「うん?そうかな。うーん、ちゃんとなのはさんとなのはは別人だと認識していると思うんだけどね。ごめんなさい、少し気が緩んでしまってました」

そう言えばもう少し丁寧口調で接していたような気がする。

一月以上もゲームの中だったから忘れてしまったか?

「ううん。いいの。なのはちゃんと同じように話してくれていいから」

「そう?」

「うん。今まで少し距離を感じてたからね。過去のわたしがあんなに懐いているのを見るのは凄く不思議な気持ちだったけれど、ふふっ、少しだけ分った気がする」

うん?

「なんでもない。行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

「……行ってきます」

なんか最後はからかわれた様だが、まあいいか。

一応はやてさんにメールを送信し、俺はグリード・アイランドへと戻った。

再び降り立ったグリード・アイランド。

ソラたちに念話を繋げると、マサドラの宿屋に居るそうだ。

俺は強化した四肢で全速力で草原を駆け抜け、岩場を走破し、ソラ達に合流する。

宿屋の宿泊部屋のドアを開け、中に入る。

「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」

「ただいま、なのは」

「お帰りなさい、アオ」
「おかえり」

「ただいま、フェイト、ソラ」

挨拶を済ませると、取り合えず俺はソファに腰掛ける。

「ゴメン、少し事情があって遅れた」

「…まあ当初に設けた期日以内だったから良いけどね。
そうだ。スペルカードは40種類コンプリートできたわ。まあ、使うのはお金だけだったしね。ダブりカードなんかを売却すれば良いだけだしね」

まあ、Bランク以上の指定カードの売却値段は1000万Jとかが相場だしね。

その代わり、Bランク指定カードの店売りの値段は億からだったけどね。

「おお。大天使の息吹は?」

スペルカード40種類集める事で手に入れられる、どんな怪我も一度だけ治してくれる指定カードだ。

「…残念だけど、引換券だった」

引換券。

つまり、すでに3枚、カード化されていて、誰かの使用待ちと言う事か。

「まあ、それは仕方ないよ。他のスペルカードは?」

堅牢(プリズン)は二枚目以降は擬態(トランスフォーム)で増やしたのも含めて全て使ったわ。だから私のバインダーの指定カードのページは全て守られている。…私のバインダーでよかったの?アオので良かったんじゃない?」

堅牢(プリズン)さえ使ってしまえばカードをスペルカードで強奪される心配は無い。

「俺はまた外に出る事もあるかもしれないし、ソラが適任」

「そう、わかったわ」

神眼(ゴッドアイ)は?」

「私が優先的に使ったけど、ダブった分はなのはとフェイトが使ったわ。残りは無し。後、『堕落(コンプラクション)』のカードを使ってダブっていたBランクカードをDランクカードNO84『聖騎士の首飾り』に変換して置いたから」

とは言え、ランクDの指定カードはそれだけだけどね。

宝籤(ロトリー)は?」

「当たったはじから使ったよ。何枚当たったかもう分らないけど…Aランクカードが10枚、Bランクカードが21枚。後はなんか良く分らないアイテムカードだった」

俺の問いになのはが答えてくれた。

「それも直ぐに売ってお金に変えて買い続けたからね。今は何も残ってないよ」

続けたのはフェイト。

まあ、指定カードとスペルカード以外は基本的に必要ないから(食料等をのぞく)その判断で間違いない。

「なるほど。そう言えば『奇運アレキサンドライト』は?」

「まだ取ってない。と言うか、私じゃまだイベントを起こしていないしね」

ソラは今までずっとリオに付きっ切りだったしね。

「そっか。じゃあ、『聖騎士の首飾り』の首飾り貸して、後で俺が取ってくるよ」

「分った。『再生(リサイクル)』は取ってあるから大丈夫だよ」

『聖騎士の首飾り』はランクD。『再生(リサイクル)』が使えるのはランクC以下のカードだから、カード化しても元に戻せるなら使っても大丈夫だ。

「『漂流(ドリフト)』もすでに50回使用してドントルマに行って来たよ。…なんか私達がプレイした時よりもヴァージョンアップされてるみたいだったけれどね」

なにそれ、怖い。

ただでさえあのクエストの難易度は高いのに…

さて、それを踏まえて今後の行動指針を立てよう。

攻撃スペル等は全部売り払って良いだろう。

必要なのは移動形のスペルや、複製系のカードだ。

防御系は『聖水(ホーリーウォーター)』が全員分有ったので直ぐに使用し、後は売り払う。

後はどのカードから取るかだ。

神眼(ゴッドアイ)』を使用しているソラが検索した所、高ランクカードですでにカード化枚数がMAXなのが『一坪の密林』『大天使の息吹』『闇の翡翠』『浮遊石』『身代わりの鎧』とかなりの数がある。

これらのカードを俺たちが手に入れる方法は幾つかある。

トレードか奪うか。

スペルカードによる奪取は性質上ランダム性が高い。

確実に手に入れたいならばトレードと言う事になる。

そうなると、高ランクカードを取ってそれをスペルカードで増やしてトレードが望ましい。

今残っている高ランクカードで誰も手に入れていないのは『一坪の海岸線』と『モンスターハンター』

『一坪の海岸線』は参加人数が15人必要なクエスト。

影分身は同体を作る忍術ではあるが、どうだろう?

同一アカウントとみなされてクエストが発生しないと思う。

それに一人一試合がルールで15試合中半分以上勝たないと行けない。

さて、影分身が一人分とカウントされるかどうか…

それに過度の衝撃に耐えられない影分身には少し荷が重いきがする。

前回はほぼ横で見ていたような状態だったレイザーさんとのドッジボール。

あの球を影分身が受け止める事ができるかが問題だね。

まあ、取り合えずレイザーさんの所に行って見れば分ることだが…

取り合えず今現在取れる方。『モンスターハンター』を狙うと言うことでまとまった。 
 

 
後書き
今回はstsの世界にいる以上はずせない、ヴィヴィオに会いましたよと言うお話。
つまりフラグですね。  

 

第四十九話

打ち合わせ後、水や食料を買い込み、準備完了。

「じゃ、行こうか」

「うん」
「はい」
「了解」

ソラが取り出したのは『同行(アカンパニー)』のカード。

ソラがそれを手に目的地を告げる。

「アカンパニー・オン、ドントルマ」

スペルカードの効果で宙を舞い、俺たちは本島を出て島の離島、ドントルマへと到着した。


「わ、何ここ?なんか古臭くない」

ついて早々、そんな感想がもれるなのは。

その感想も仕方ないか。

古臭いと言うよりも中世っぽい町並み。

マサドラとかは奇抜なデザインの未来都市風だったからそのギャップは激しい。

「ここは狩猟の街ドントルマだ。その名の通り、ここでのクエストの殆どは狩猟だ」

「狩猟?」

「そ、大自然を背景に荒ぶる巨大モンスターを狩猟する。その狩猟の中で材料を集め、武器や防具なんかを作れるね」

「そうなんだ」

さてと、まずはギルド登録からかな。

目的地はハンター専用の酒場。

そこの受付嬢でハンター登録をする。

懐かしいね。

取り合えず、初期の片手剣を一本ずつ配布された。

これで狩れとの事だろう。

「まずは…」

「アオ、やっぱりコレじゃない?『生肉10個の納品』」

ソラが差し出した依頼の内容。

納品クエストか。

確かにこのクエストはソラにとっても思い出深い。

初めての殺しと言って過言じゃなかった。

…なるほど、そう言う事か。

「うん、そうだね。コレを受けようか」

「生肉10個?何それ?」

「どこかで売ってるとか?」

なのはとフェイトは未だこの島のクエストを理解していないようだった。



さて、俺が受付を済ませ、クエストボードに募集が張り出されたチケットをソラ達3人が受け、酒場の端の転送ポートへと移動する。

「それじゃ、しゅっぱーつ」

てーてー

ファンファーレのような音が響いたかと思うと、俺たちは酒場から大自然へと転送された。

転送されたフィールドは『森と丘』

まずはベースキャンプに転送された俺達は、戦闘の準備を始める。

「今回、俺とソラは付き添いだ」

「え?」

「どういう事?」

フェイトとなのはから疑問の声が上がる。

「このドントルマのクエストはうまく出来ていてね。念の修行の集大成としてはかなり有用だ。…まあ、序盤はなのはには少し物足りないかもしれないけどね」

念の修行を始めて既に結構な月日が経っているからね。

「取り合えず、二人で試行錯誤しながらクエストを進めていくといい」

「わかった」「私も」

とは言え、先ずは最初の関門だ。

このクエスト、基本にして重要な事を体験できるからね。

ベースキャンプを出ると、いくらも行かないうちに草食竜、アプトノスの群れを発見する。

「ねえ、お兄ちゃん。もしかして生肉って…」

「あの子達の肉?」

なのはの言葉を継いだフェイト。

「正解だ」

「ふーん、じゃあ行っか。フェイトちゃん」

「う、うん」

二人とも『絶』を使って気づかれないようにアプトノスに近づく。

「はぁっ!」

先に動いたのはフェイトだ。

手に持った小剣に『周』を使って強化して目の前のアプトノスに切りかかる。

ザシュっ

ザァーーーーーっ

切り落とした首から吹き上がる血飛沫。

今までのグリード・アイランド内のモンスターとは違う。

今までは弱点部位を攻撃すればカードになっていたが、ここでは違う。結構リアルに生物を再現しているのだ。

「え?」

「あっ」

驚きの声を上げるフェイトとなのは。

しかし、すぐに現状を理解して自分もアプトノスを刈り始めたなのはと対照的にその光景で固まったまま呆然としているフェイト。

たまらず膝を着きリバースしている。

まあしょうがない。

俺も初めて生き物を殺したときは酷かった。

なのははと言えば、修行で山篭りをした時などには野生動物を狩って、自分たちで捌き食していた。

確かに最初は戸惑いもしたがじきに慣れたようだ。

しかしフェイトにはまだそんな経験はない。

非殺傷設定のある魔法では相手に致命傷を与える事は無かった。

フェイトにしてみれば生まれてはじめて生き物を殺したと言う事になる。

「うぅ…うぇ」

「大丈夫?」

なのはが自分が倒したアプトノスから生肉をゲットし、バインダーに修めた後、気遣うようにフェイトに近寄った。

「なのは……なのはは大丈夫なの?」

「わたしも昔、始めは戸惑ったよ。だけど生きるって言う事は他の生き物を殺す事だって知る事が出来た」

「なのは…」

立ち直ってくれなければそれまでだ。

今日のこの経験は良い意味でも悪い意味でもフェイトの糧になるだろう。

その後、直ぐには立ち直れなかったフェイトだが、なのはが9匹目を倒した所で何とか起き上がり、真っ青な顔をしたままだが、それでも小剣片手にアプトノスへと向かっていった。

その後、何度かクエストを受けるうちに次第にフェイトの心も持ち直していった。

ランポス、ドスランポスとこなし、装備を整える。

鉱石系の防具の方が揃え易いと言えばそうなのだが、フェイトのレベルも最初のランポスの集団戦を乗り越えれば後はランポス辺りはもはや相手にならない。

クエストを始めてから一週間。

俺たちは今、酒場のテーブルに付き、皆で昼食を取っている。


「ようやく防具も一通り揃ったか」

俺は手に持ったグラスをぐっと傾け、中身を飲み干すとそう切り出した。

「うん。さっきのクエストでゲットした分でわたしもフェイトちゃんもようやくフル装備だよ」

とは言え、両方ともランポスシリーズだけどね。

「それより、なんかこの装備ってわたし達のバリアジャケットとコンセプトが似ているような気がするんだけど」

「なのはもそう思った?私もそう感じてたんだ」

「それはそうだろ。なのはとフェイトのバリアジャケットはソラの防具を真似ているだろ?」

「うん」

「ソラの防具…俺のもだけど、もともとはここの装備が基だからね」

「「ええ!?」」

そう言えば突然俺達が装備していた防具をソル達が取り込んだ時は驚いたものだ。

しかも、それを自身の念能力として確立してしまう辺りマジで規格外だね。

「さて、次はこのアオアシラって言うモンスターに行ってみようと思うんだけど」

「そのモンスター、私の記憶にはない」

ソラの言った通り、俺達がプレイした時にこんなモンスターは居なかった。

「ギルドの情報から大型の熊のようなモンスターらしいよ」





さて、やって来ました孤島フィールド。

いつも通り『絶』を使いフィールド内を索敵しながら進む。

「居た」

発見したのは大きな青い体毛と鋭い鉤爪を持った巨大熊。

木陰に隠れ、敵の様子を探る。

蜂の巣の前に陣取り、蜂は追い払ったのか、手には壊した蜂の巣を持ち、蜂蜜をなめているようだ。

「あれがアオアシラだろう」

一応初見のモンスターと言う事で、俺とソラも臨戦態勢を整える。

周りを警戒し、アオアシラ以外の此方を襲いそうな敵がいない事を確認する。

ソラ、なのは、フェイトと視線を交差させると、いつでも行けると頷き返された。

まあ、危なくなったら助けるさ。だから、なのは、フェイト。頑張って来い!

ガサッと音がしたと思うと二人は念で四肢を強化して一速でアオアシラへと駆け寄った。

「はあっ!」

駆け寄った勢いそのままに先ずはフェイトが斬り付ける。

グオオオオオオっ

「えいっ!」

驚き、視線を動かした所にその後ろから来ていたなのはが間髪いれずに一閃。

グラアアアアアっ

その後幾度かの交戦の末、俺の心配をよそに特にピンチに陥る事もなくアオアシラは倒された。

うーむ。どうやらクック先生よりも強さは下かな。

爪は脅威だが、その攻撃に当たる二人ではなかった。


さて、順調にクエストは進む。

イャンクック先生との戦いでは初めての竜種に驚いてはいたが、二人の戦いはクック先生など恐れる事もなく討伐した。

飛竜種…イャンクックは鳥竜種だが…との戦闘の基本はクック先生を問題なく狩れれば後は応用だ。

それなりの数イャンクック討伐をこなし、戦闘経験を積む。

その結果なのはとフェイトの防具がクックシリーズにランクアップしている。

俺とソラは防具を新調する必要がないから取った素材は全てなのはたちの防具に回している。

防具を作ろうとするとソル達がすねるからね。念能力であるソルの防具はコストがオーラだから、今現在魔力の回復が困難な時でも使用できるのは強みだ。

レイジングハートとバルディッシュも悔しそうな雰囲気をかもし出しているが、現状、魔法は切り札的存在で、命の危険で使うなとは言わないが、回復に時間が掛かるのでそう容易には使えないので、武器形態で起動はするが、魔法の発動及び、バリアジャケットの使用はひかえている。

リオレイアとの初戦闘はなのはとフェイトが少し困惑していたけれど…

後で聞いたら、

「なんかフリードをいじめているみたいで」

だそうだ。

…まあ、確かにね。

そしてその素材で造った防具を見たときに「本当だったんだ…」と、複雑な表情を浮かべていた。


リオレイアを狩り、リオレウスも問題なく狩れるようになったが、水中戦がメインのラギアクルスには少々梃子摺った。

まあ、陸にさえ上げてしまえば難しくはなかったが。

さて、一ヶ月クエストに奔走した俺達は終に最終クエスト『祖龍ミラルーツ』の討伐にこぎつけた。

ミラボレアス、ミラバルカンを苦戦するも何とか倒し、ラストクエストの祖龍の討伐。

なのはとフェイトの防具もそれぞれリオハート、ダマスクと進化を遂げている。

四人で戦闘準備を整え転送ポートの前で集合する。

俺とソラはデバイスを起動させ、念能力で具現化されたバリアジャケットを着込む。

「さて、終にこれで最後だ。皆、気合入れて行こう」

「うん」
「はい」
「そうだね」

転送されたフィールドは古塔。

それもミラボレアス、ミラバルカンと同じく転送後、目の前に敵が居る。

丁度背面に転送された形だ。

大きな白いトカゲのような体に白い鬣、鋭い鉤爪と大きな翼を持つドラゴン。

ミラルーツ、祖龍は俺達の気配を感じたのかその巨体を反転させる。

「皆、行くよ!」

俺の言葉で散開する。

すると祖龍は大きく息を吸い込んだ。

GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

鼓膜が破れるかのような大爆音。

その鳴き声を両耳を両手で塞ぎ、さらにダメージを受けないように念でガードする。

耳をガードよる事により、こちらの行動が一時的に束縛される。

通称『バインドボイス』

『音』は幾ら防御力を上げようが対抗し辛い攻撃の一種だ。

ガードをしないと鼓膜を持っていかれるほどの音量だった。

音が弱まると今度は此方が攻勢に移る。

右手に持ったソルを『周』で強化して駆ける。

生物の急所である脳は、その周囲にある巨大な角と硬い鱗で覆われ並の強化では貫けない。

心臓も同様に硬い鱗に覆われている上、厚い胸筋に守られているため浅い攻撃では心臓まで到達できない。

なので俺たちがやる事は先ず機動力の軽減。

地面をけり、襲い掛かる鉤爪を踏み台にして祖龍の眼前に躍り出ると、その眼にソルを突き立てる。

斬っ

GYAOOOOOOO

その激痛からか祖龍は激しく身をもがいて俺を振り落とした。

着地して距離を取り、祖龍の様子を観察する。

よし、今の攻撃で左目は潰した。

右目も潰せれば良かったのだろうが、残念だ。

今から右目をもう一度狙おうにも一度学習されてしまうとその手の攻撃は通じ辛くなると言うなんとも面倒くさい仕様だ。

祖龍のオーラの量が上昇し、残った右目周辺の防御力にかなりのオーラが使用されているのがわかる。

この辺、ジンのこだわりとも言えるが、面倒な事この上ない。

俺が祖龍の右側でヘイトを上げ、ソラたち三人は視野の狭くなった左側からの攻撃で祖龍の体力を奪う。

一際大きく息を吸い込んだと思ったら今度はその口から雷撃弾が俺目掛けて撃ち出された。

「おっと」

予備動作もあるし直線上しか撃ち出されない攻撃に当たるほど今の俺は弱くない。

冷静に見極めてその攻撃を回避する。

その隙を突いてなのはが槍形態のレイジングハートを念で強化して突撃(チャージ)して祖龍の翼膜に風穴を開けようと突貫する。

「硬いっ!」

しかし、一瞬遅かったようで祖龍の皮膚が硬化する。

ギィンと言う音を立てて弾かれてしまい、チャージの勢いを殺しきれずそのまま空中に打ちあがってしまう。

それを祖龍が体を捻り、遠心力の加味された尻尾を叩きつけようと迫る。

「わ、わわっ!」

『フライヤーフィン』

レイジングハートが空中で死に体となっていたなのはに飛行魔法を行使してその攻撃を避けた。

「ありがとう、レイジングハート」

『問題ありません』

その後ソラたちの側にふわりと降りた。

短時間の飛行ならばほぼ問題ないのだけれど、一応節約と言った所か。

さて、ここからが問題だ。

この硬化は一定ダメージ以下で発動し、体力の低下で維持できなくなるまで続く。

つまり通常攻撃でのダメージは通りづらく、しかし攻撃しなければ硬化は解けない。

「なのは、フェイトは祖龍の気を引いて。ソラ、俺たちは火遁で攻撃するよ」

「そうね。なのはにもまだ性質変化は教えてないから私達が適任かもね」

「わかった」
「がんばる」

念に剣術、それと魔法と多くのことを修行してきているが、影分身を使っても多すぎて何かを削らなければならない。

その中で後回しにしてきたのが性質変化の修行だ。

だからなのはが使える忍術は分身の術や影分身の術といった、性質変化を伴わない術が総てだ。


なのはとスイッチして祖龍の死角に回りこむ。

ソルを待機状態に戻すと、ソラと祖龍を挟み込む位置に移動して印を組む。

「「火遁・豪龍火の術」」

ふぅっと吐き出された吐息に乗るように俺の口から龍を象った炎の塊が祖龍目掛けて撃ちだされる。

ドゴンっ

GYAOOOOOOO

一発では終わらずにそのまま連射。

ドゴンっドゴンっドゴンっ

「すごい…」

その光景を眺めていたフェイトがそうもらした。

「なのは!フェイト!大きいの行くから直ぐに離れて」

「「!?はいっ」」

「ソラっ!」

「分ってる!」

なのはとフェイトが距離を置くのを確認して俺は印を組む。

今まで以上のチャクラを次の攻撃に練りこむ。

「「火遁・豪火滅却」」

対面から同威力で放たれた壁の如き炎は辺りの酸素を枯渇させる勢いで燃え上がりながら祖龍を炎の渦に閉じ込めた。

「なんて威力…」

何処か畏怖したようなフェイトの声が聞こえる。

「流石にこれは倒した?」

「なのは、まだだっ!」

GYUOOOOOOOOOO

甲高い泣き声が聞こえたと思うと頭上に不穏な空気を感じる。

「落雷だ!皆、直ぐにバリアを張るんだっ!」

『ラウンドシールド』

俺の体を球形に包み込むようにバリアを展開する。

シールド防御に少々魔力を使ってしまうが仕方がないだろう。

俺の声を聞いてなのは達もそれぞれ魔法でシールドを展開した。

バシッバシッと言う音と共に空から雷が降ってくる。

「天候を操った!?」

驚きの声を上げるなのは。

バルカンは隕石を降らせただろうに。

十数秒空間を稲妻が覆った。

とは言え、威力で言えば、以前海鳴の海上で轟いたプレシアの空間跳躍魔法の方が上だが。

雷が止み、粉塵が晴れると、所々火傷のあとが見え、満身創痍の祖龍が現れる。

どうやら硬化も解けたらしい。

「皆、あと少しだよ」

「「うん」」「はい」

先ずなのはとフェイトが駆ける。

狙うのはその両翼。

「えいっ!」
「はっ!」

二人の攻撃がそれぞれ翼膜を切り裂く。

GYAOOOOOO

祖龍は翼膜が切り裂かれた事に驚き身を捻ってよろけた。

先ほどはその翼も硬化して弾かれてしまったが、今回は通ったようだ。

両翼が破損したために祖龍は飛行能力を失った。

さて、止めと行こうか。

ソルを日本刀の形に戻す。

『ロード・オーラカードリッジ』

ガシュっと音を立てて薬きょうが排出される。

ソラもルナを槍に変え、カートリッジをロード。

かさ増しされたオーラにさらに体内からオーラを練りだす。

俺は写輪眼でオーラの一番薄い場所を探す。

今までの攻撃でオーラを維持できなくなったのか、今まで無かった背中と胸の二箇所、丁度心臓に突き刺さる位置に本当に針に糸を通すような小ささでオーラの防御が薄い場所が見える。

あそこに寸分違わずに武器を突き入れるのは至難の業だね。

とは言え、今も昔も俺とソラにはこの眼がある。

ソラに視線を送ると分っていると頷かれた。

では行こう!

「はああああああっ!」
「やああああああっ!」

俺は胸元から、ソラは背面から俺たちは祖龍の鱗を突き破り、その心臓に己の武器を突き立てた。

GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

祖龍の悲鳴を思わせる叫び声が響く。

さっきの火遁で大分オーラも消費したし、これで倒れてくれると良いんだけどね。

ソルを引き抜き、祖龍から距離を取ると、祖龍は終にその巨体を地面に横たえ動かなくなった。

「倒した?」

「倒したよね?」

「そうだね」

祖龍を覆っていたオーラも消えたしね。

「「やったーーーーーっ!」」

「なのは、やったよ!」

「うん、フェイトちゃん。やったんだよね」

二人は手を取りあい身体全体で喜びを表現している。

「うんやった」

やったやったと大声で騒ぐなのはとフェイト。

まあ、分らんでもない。

「疲れた」

俺はと言えばその場に膝を着き四肢から力を抜いた。

「お疲れ様」

近づいてきたソラもその場に座り込む。

俺もソラもかなり消費したからね。立ってるのも辛い。

「ソラもね。まあやっとコレで『モンスターハンター』を手に入れることが出来る」

「うん」


さて、一応祖龍の素材を回収して俺たちは酒場へと戻った。

帰ってきて受付嬢に狩猟報告する。

「おめでとうございます。終に全クエストクリアいたしましたので指定カードNO99『モンスターハンター』を進呈します。お疲れ様でした」

そういうや否やボワンっと音を立てて影分身が消えるような感じで俺たちを残して街そのものが消え去った。

「え?何?」
「何なの?」

混乱するなのはとフェイト。

「『モンスターハンター』のカードにカード化されたの。街も、人もここの全てが念で出来ていたからね」

説明してくれたソラを横に俺は『モンスターハンター』のカードを拾う。

「大丈夫。俺たちがこの島を離れればまた元通りになるから」

「本当?」

「ああ。だから取り合えずアントキバへと帰ろうか」

『モンスターハンター』のカードをソラへとわたし、同行(アカンパニー)のスペルカードを取り出すと使用した。 

 

第五十話

side ???

アントキバの街の小さな宿舎。

その一室で寝息をBGMに密会をしている物達がいた。

『それでは、第三回どうやったら念法を習得できるのか会議を始めます。わーぱちぱち』

『『『………』』』

『もう、ノリが悪いですよ。ソル、レイジングハート、バルディッシュ』

部屋の隅で電気も付けずに密会していたのは何を隠そう彼女達デバイス達だ。

『ルナ、ふざけちゃだめ。レイジングハート達は真剣なんだよ』

『分ってます。分ってますよぅ。ただ、ほんの少し雰囲気を和ませようとしただけじゃないですか』

三体の冷ややかな視線?(眼は多分無いけど)が突き刺さりルナはそう言葉を濁した。

さて三回目になるこの会談だが、どういった経緯で設けられたかと言えば、それはやはりこの世界が魔力素が薄くバリアジャケットの使用を控えていて(とは言えそれほど消費は激しくないので一日もすれば消費分は賄えるが)、これでは役立たずだと真剣に思い悩んでしまったレイジングハートとバルディッシュ。

さらに悪い事にモンスターハンターの攻略でなのはとフェイトは防具を作らざるを得なかった事が彼女達のアイデンティティを大きく揺さぶった。

確かに地球は魔力素が適性値で存在しており、地球にいる限りバリアジャケットの展開が出来なくなると言う事態は殆ど無 いと言って良い。

しかし今回のようなケースが又起こらないとは限らないし、その時に主人の力となることが出来ないのは凄く辛いとソルとルナに懇願する形で泣きついたのが切欠だ。

『それで、レイジングハートにバルディッシュ。貴方たちは主人のオーラを感じる事が出来たのだから、後はどういった能力にするかと言う事だけね』

ルナが点滅しながらそう言った。

初めはオーラの科学的アプローチの仕方をソル達に尋ねたレイジングハート達だったが、まずそこから間違っているという話から始まったのが第一回目だった。

生命から溢れる不可視の神秘のエネルギー。

だからルナがレイジングハート達に言った言葉は『感じろっ!』と言う言葉だけ。

非科学的な!とか、自分たちは機械だ!とか反論されたが、正直まずは自分の主人のオーラを感じ取れなければ話にならない。

非科学的だが、魂の宿らない私達に出来る事なのかとレイジングハートに問われた。

強い思い入れのある道具に念が宿る事はそう珍しくない。特に念能力者の愛用物ならば尚更だと、少し(大分か?)誇張して言い切ったルナ。

ルナ自身も何もただの出任せで言ったわけではない。

ルナは感じていた。

レイジングハートとバルディッシュ。その二機にそれぞれなのはとフェイトのオーラがその手を離れてもまとわり付いている事に。

まあ、ダメでもともとと、深く考えずに言った言葉でもあったが、二回目の会合時には本当にオーラを感じ取っていたから驚きだ。

『どう言った能力と言われれば、ルナ達のような甲冑展開能力が欲しいです。魔力素の少ない所でもマスターの身を守れるような堅固な鎧が』

『私もそう思います』

レイジングハートの答え、さらにそれに同意するバルディッシュ。

『それで、どのようにしてそのような能力を身に着けたのかの話が聞きたいのです』

『そうですね、あの時は確か…』

そう言って切り出したルナの話を聞きながら、夜は更けていく。

side out


朝、窓辺から見える気に小さな小鳥が止まり、朝が来たとさえずる声が聞こえて俺は目を覚ました。

ベッドから降りて伸びをする。

外は快晴で気持ちのいい目覚めだ。

辺りを見渡すとどうやら俺が最後のようだ。

「あ、お兄ちゃん、おはよう」
「アオ、やっと起きたんだ」
「おはよう、アオ」

「おはよう、皆」

俺も挨拶を返す。

「…で?何やってるの?」

見ればなのはとフェイトがすでに防具を装備している。

そう言えば造った防具、このゲームではまだ必要だろうとそのまま持ってきていたっけ。

しかし、今日一日は休養日にしようと昨日話したからわざわざ防具を着込むのは少しおかしい。

何かあったのかと思い、尋ねてみた。

「あ、そうそう。レイジングハートったら凄いんだよ」

うん?何が凄いんだ?

「見てて」

そう言ったなのはの服装は行き成り防具から普段着へと変わった。

「うん?」

瞬間収納?いや、そうは見えなかった。

「いくよ、レイジングハート」

『スタンバイレディ・セットアップ』

なのはの体が一瞬光に包まれたかと思うと、いつものリオハート装備に着替えられていた。

これはバリアジャケットか?いや、そうじゃない。

これは…

「レイジングハートが頑張ってくれたの。わたしのオーラで編んであるんだよ」

なんだってー!

どうやら昨日の夜、ソル達と一緒に画策したらしい。

ソル達の実体験と、努力と根性でモンスターハンターで作った防具を取り込んで、念能力をモノにしたんだって。

…レイジングハートとバルディッシュって普通のインテリジェントデバイスだよね?

ソルとルナみたいにバグが造ったわけじゃないよね!?

努力は分るけど、根性って何!?

いやもうその辺はスルーしよう…

なんだかんだで不可思議な事を体験してきたからね。

今更理不尽な事の一つや二つどうって事ないよ…

まあ、そんな訳でレイジングハートとバルディッシュに新しい能力が備わったのだった。


朝食を食べ終えると、今日一日は休暇だ。

数週間の間、睡眠と食事以外の全ての時間を狩りに費やしてきたのだが、流石に限界だ。

この辺りで少々英気を養わないとね。

そう考えてのんびりとアントキバの街を皆で散策する。

お金は困ってないから今日はお金に糸目をつけず食べ歩きだ。

しか