ドラゴンクエスト5~天空の花嫁……とか、


 

第1話:始めました

俺は毎晩の様に夜空の星々に祈りを捧げた……
“自宅警備の仕事から解放され、ドラゴンクエスト5の世界に転生される様に!”と……
そして、その祈りは叶えられたのだ!

「おお、この子が私の子か!?」
「はい、そうですよアナタ……」
まだ定まらない視界の中で、二人の人物が俺を囲み会話している。
間違いなく“パパス”と“マーサ”だろう……

「元気な男の子だ! 名前をどうするか……?」
名前……“トンヌラ”とか言ったら盛大に泣き出す!
今の俺に出来る精一杯の抵抗をしてみせる!

「アナタ……私、考えてありますの」
マーサキター!!!
パパスの事は無視して素敵なお名前頂戴致します!

「な、何……そ、そうか……で、何という名前かな……?」
「はい。“アルス”というのはどうでしょ?」
お、よく聞くねそれ……でもトンヌラより良いんじゃネ?

「うむ、アルスか……マーサが決めたのだ、それが良いだろう」
嬉しそうに俺を抱き上げ、名前を定めたパパスだが、小声で「トンヌラの方が格好いいのに……」と呟いてた。
お前、美的感覚がおかしいぞ!




さてさて、そんな訳で始まりましたドラクエライフ!
前世でのドラクエ知識をフル活用し、“パパスの死”&“過酷な奴隷生活”を完全回避し、愛しのビアンカとラブラブでエッチぃ人生を満喫しようと思います。しかも王子様だしね、俺!

そんな決意を固めながらママのオッパイにむしゃぶり付いていると、どこからともなくゲマ登場!
有無を言わせぬ強引さで、マーサママは連れ攫われる……
パパスパパを初め、周囲の家臣達愕然……

この後、周囲の反対を押し切りパパスは旅立ちを決意する。
唯一サンチョだけがパパスの行動に反対せず、共に旅立つ事を宣言する。
俺としてはビアンカに逢う為やむを得ないのだが、王子様生活を手放すのは残念無念でいっぱいです。

危険な旅なのは承知してるけど、赤子を連れて行くぐらいなのだから、若くて可愛いメイドの一人も連れてきてほしかった……
出なくても良いからオッパイを吸わせてほしかったのになぁ……刺激してればそのうち出てくるかもしれないじゃん!?

王様の溜りに溜まったミルクを絞る処理係的にも、若い美女は必要じゃネ?
まぁそっちは現地調達するつもりなのかもしれないね。
サンチョは兎も角パパスはイケメンだから、その手の物事に困る事は無いのだろう。
良いなぁ……前世から引き続き“まだ”な俺には羨ましい限りです!


しかし……
俺の願いは叶う事なく、若くて可愛いお姉ちゃんとは無縁の旅を続けるお父さん。
気が付けばサンタローズに移り住み、『ドキッ! 男だらけの身分秘匿生活』を送っております。

だが悪い事ばかりじゃない。
サンタローズに住み暫くするとビアンカに出会う事が出来た!
まだロリなビアンカも可愛くて、一緒にお風呂に入った時は子供のフリ(見た目は子供なんだけどね)して、ツルペタオッパイに吸い付きました。コドモ最高!

バッチリ可愛い男の子を演じたところで、父と一緒に二人だけで旅立ちます。
どうやら天空の剣の情報を仕入れたみたいで、俺を連れて探しに行くらしい……
直ぐに帰ってくる予定との事で、サンチョはお留守番……

でも俺この時4歳……
原作のスタート地点へのイベントだとすると、2年間家を空ける事になるんだよね?
サンチョも連れて行けば良いのに! ご飯係が居ないのは辛いっす!





(船上)

「おぉ、起きたかアルス……魘されていたが怖い夢でも見たのか?」
どうやらゲームスタート時に辿り着いた様だ……
つー事は、あの情報は確かだな……今日“ビズタの港”に到着するというのは。

「おはようお父さん……あのね、変な夢を見たんだ……大きなお城に住む、僕とお父さんとサンチョの夢を」
本当はそんな夢は見ていない。
昨日、変態水夫に部屋へ連れ込まれそうになった事を夢でフィードバックして魘されてたんだ。

知っての通り今の俺は超美形だ!
美少年好きには堪らないエモノに違いない……
美形過ぎるのも危険なんだなぁ……

「ははは……寝ぼけてるな。顔を洗って外の空気を吸ってこい……もうすぐビスタの港に到着だ。2年ぶりのサンタローズだからな! 船員の皆さんに挨拶をしておくんだぞ」
「はい、お父さん!」

俺は素直に返事をし、言われた通り船室から出て行く。
潮風を大きく吸い込み、ポケットから手鏡を取り出すと、自分の表情を確認する。
うん。今日も可愛い! あの水夫にだけは気を付けて、皆さんに愛想を振りまきに行こう!

俺はナルシストではないのだが、常に手鏡を携帯している。
周囲はナルシスト認定をしており、深くは突っ込まない……
だから気にしない様にしているが、一応説明しておこう。

俺はパパスとマーサの間に生まれた子供だ。だからスペックは高いのだろうけど、どうにも戦闘に慣れない。
父に剣術とか戦術とかを習いはしたが、戦闘になり目の前にモンスターが現れると怖くて戦えないのだ……
情けないとは自分でも思う。

でも出来ない物は仕方ない!
だったら別方面の実力を伸ばした方が効率的だろう。
では何を伸ばすか……そう、美しさだ!

将来冒険をしていく上で、戦闘に参加しないで済む様に、この魅力を最大に利用し仲間を増やそうというのが俺の計画である!
その為に常に美を意識し、周囲の人々全てに愛想を振りまくのだ!

それに……
第一ターゲットはビアンカだが、ついでにフローラもゲットしちゃおうと考えてるしね!
デボラも性格は兎も角、身体だけは一級品だから俺のハーレムに入れようと思ってるし。

だから今日は重要なんです。
フローラ&デボラとのファーストコンタクトですから。
ここで俺の可愛さをアピールして、後の再会に繋ごうと思います。



1人の水夫以外全員に挨拶を済ませると、船長が到着したと伝えてきた。
勿論それは父への言伝なんだけど……
だから俺は船室へ戻り、到着を父に知らせる。
そしてここからが俺の勝負所である!

父と一緒に甲板へ上がり、港との渡し板の所まで来る。
ちょうどルドマン親子が乗り込むところの様だ。
しかし人数が少ない気がする……

護衛的な兵隊さん一人、太っちょオッサン一人、ロリロリ美少女一人……
アレ……デボラは? ロリータ・デボラは何処に居わす!?
ゲームでは船と桟橋がドッキングした途端、『邪魔よオジサン!』とか言いながら、ズケズケと乗り込んでくる生意気ロリータが居たはずなんだけど……

はっ! もしかして俺の居る世界ってDS版じゃないの?
SFCかPS版なの!?
あの性格は兎も角、身体は魅力的だったのになぁ……残念!

ならば仕方ない!
ロリーラ……違った、フローラに全神経を集中し美しき出会いを演出しよう。
そう考えたのも束の間……

「オジ様、どうもありがとうございます」
船に乗れなかったフローラを抱き上げ、優しくエスコートしたのはボクのパパ。
乗り込んだロリちゃんは既に船室へと行ってしまい、手を握る事も声をかける事も出来ぬまま、俺は父に連れられ船を後にする……

あれぇ!?
こんなんで記憶に残るのかなぁ?
将来再開した時に、大きなアドバンテージになるのかな?

『あの時に出会ったイケメンだよ』って言っても、『はぁ……誰ですか貴方は?』ってなっちゃうんじゃないかな!?



 
 

 
後書き
リュカ伝とは全く違ったDQ5を書きたくて制作しました。
皆様に気に入って頂ければ幸いです。 

 

第2話:ただいまです

(ビスタの港周辺)

た、助けて~!!
いきなりピンチです。
父さんが港の人と話している最中、『そこら辺で遊んでおいで』の言葉に素直に従い、イベントを進める為にフィールドに出た途端……

3匹の子ブタ……ではなく、3匹のスライムに襲われ逃げ出し中です。
最初はね、直ぐに父さんが助けてくれると信じ、戦う姿勢で挑んだんだよ……
でもね、俺の攻撃は当たらないし、奴等の攻撃は確実に当たって痛いし、戦うの怖いし……

俺はきっと凄い顔して逃げ回っているだろう……折角のイケメンなのに!
端から見たら100%情けない姿だろう……主人公なはずなのに!!
解ってるさ、そんな事は解ってるのさ!
でも怖いんだからしょうがないじゃんか!

森の中は逃げづらく、時折くる(モンスター)の攻撃を情けない跳躍で躱し避ける。
だって当たったら痛いし……痛いの嫌だし……兎も角怖いし……

何処をどう逃げたのか解らない……どっちを向いても木々が生い茂っている。
力の限り逃げ回った為、疲労が蓄積され足が縺れスッ転ぶ。
危うく顔面を地面に衝突させそうになったが、必至の動作で顔だけは守り抜いた俺……だから酷い転び方をして体中痛いです。

しかしながら敵を撒いた訳ではなく、絶体絶命の大ピンチ!
イヤ~!! 死にたくないよぉ~!!
顔だけは守ろうと身構える俺。すると突然、突風の如く現れる頼りになるパパスさん……俺のパパちゃんです。
一瞬でスライム3匹を倒しきると、振り向きざまのホイミで俺の傷を癒してくれる。心身共に生き返る感じがするね。

「アルス……もう少し剣術を頑張らないと、大きくなって大変な事になるぞ」
おいおい……もしかして最初から見てたのか?
それなのに今まで助けなかったのか? 俺まだ6歳だぞ……酷くネ?

スパルタって奴ですか?
もう諦めろよ……お前の息子は戦いが下手なんだよ。怖いんだよ……前世ではモンスターなんて居なかったからね。殺気を振りまいて襲ってくるモンスターなんて存在しなかったんだよ!
良いじゃんか王子様なんだから……頼りになる家臣をいっぱい付けて、身の安全を確保すれば良いじゃんか!

「ご、ごめんなさい……でも僕、モンスターを前にすると怖くて……」
剣術能力云々じゃないんだよ……
怖くて戦えないんだよ! だって前世じゃ喧嘩すらした事ないからね。

涙目で見上げる俺に溜息を吐き、「少しずつ頑張るしかないか……」と言って、サンタローズへの帰路につく父。諦めはしないのですか?
サンタローズまで真っ直ぐ行けば2.3時間なのに、俺に戦闘訓練をさせるから6時間もかかった帰路……
どうして諦めてくれないんだろうか?



(サンタローズ)

村に到着した時には疲労困憊いっぱいいっぱい……
これからビアンカとの甘々シーンが待っているのに、殆ど魂の抜け殻状態でイベントが進みます。
翌朝には何を言ったのか憶えて無い程です。『私は隣町のアルカパに住んでるビアンカ。貴方より2歳も年上なのよ。憶えてるかしら?』の遣り取りに、俺は何て答えたんだろう?

寝る子は育つと言いますが、寝過ぎるのは時間が勿体ない!
父さんもサンチョも気を遣ってくれたらしく、昼までグッスリ快眠魔神。
そりゃ幼い身体に、パパス鬼軍曹(国王だって!)のスパルタ強行軍は堪えたけど、朝になったら起こしてくれても良いじゃんか!
お陰でビアンカに昨晩のフォローを入れるのが遅くなった。

村の人々が俺に向けて挨拶をしてくるが、愛想笑いで適当に遣り過ごしラブリー・ビアンカが待つ宿屋へ猛ダッシュ!
カウンターに居る店主ににこやかに挨拶(コイツは無視出来ない)をし、ビアンカが泊まっている部屋を聞き出す。

「ビアンカちゃんとお母さんは、2階の奥の部屋だよ」
本来は客情報を口外しちゃダメなんだろうけど、相手(おれ)は子供だし知った仲だし、気にする事なく教えてくれた。
まぁ教えてくれなかったら、全部屋隈無く探すだけなんだけど……


「ビアンカぁ~!」
俺はビアンカ達が居る部屋をノックし戸が開くのと同時に甘えた声で彼女に抱き付いた。
幼い今ならばセクハラとは言われず合法的に抱き付けるだろうからね!
う~ん、柔らかくて良い匂い♥

「あらアルス……一人で遊びに来たのかい?」
「うん。昨日は疲れちゃっててビアンカとお話し出来なかったから……」
ビアンカママの質問に頬を赤くして答える俺。きっと愛おしく映ってるに違いない!

「うふふ、アルスは甘えん坊ね。そんなにお姉ちゃんの事が好きなの?」
キタキタキター! ビアンカ姉さんの年上アピールが!
彼女も一人っ子だから、弟がほしくて俺にこの態度をとるのだろう。

「うん! 僕ね……ビアンカの事が大好きなの♥ 大きくなったらね……ビアンカと結婚するのー♥」
可愛いだろ? 年下の男の子は可愛いだろぅ?
俺は君をお姉さんぶらせてあげる……だから生涯の伴侶として、よろしき頼むよビアンカちゃん! 一緒に子作り頑張ろうよビアンカちゃん!

「おやおや、良かったねぇビアンカ……可愛い弟が出来て。ところでアルス、パパスは……お父さんは今何してるんだい?」
ビアンカに抱き付き、柔らかさと香りを堪能していると、ビアンカママが父さんの事について質問してきた。
多分、薬師の事で父さんに頼み事をしたいのだろう。だが弟とか言うな、彼氏って言え!

「うん。お父さんはね、朝早くから何処かにお出かけしちゃったみたいだよ。何か用があるみたい……」
「そうかい……時間があれば洞窟に道具屋の主人を探しに行って貰いたかったんだけどねぇ……」
案の定……ビアンカパパのダンカンさんの風邪を治す、薬を調合する為に洞窟へ入った薬師の捜索依頼をしたいみたいだ。

「……ビアンカは、その道具屋のオジサンが居ないと困っちゃうの?」
俺はビアンカに抱き付きながら、間近で顔を見詰め問いかける。
可愛く優しく問いかける!

「うん……私のお父さんが病気でね、お薬がないと困っちゃうのよ」
よし、ビアンカから“私困っちゃ~う”発言ゲット!
これで俺が洞窟に入り、オッサンを救出してくれば好感度だだ上がり!
だが気を付けなければならない事が1つ……

「じゃぁ僕、お父さんを探してお願いしてくるね!」
6歳児の俺が自ら洞窟に入るなどと言ってはいけない!
100%『危険だからダメだよ!』と止められてしまうのがオチだろう。
ここは間接的に行動をアピールして、結局は全部解決してしまうのがベスト!

“お父さんを探してたら洞窟内でオッサンを見つけて、村まで連れて帰って来ちゃったの♡”とアピールすれば、ビアンカ胸キュン間違いなし!
「本当かい? それは助かるよ!」

ビアンカママの言葉を聞き、颯爽と宿屋を後にする俺……
彼女(ビアンカ)の心を射止める為に、多少の危険も顧みないラブハンターな俺って格好いい!
待ってろよビアンカ……俺は最高の夫になってやるゼ!



……意気揚々と出発したのだが、とても大事な事柄を忘れていたボクちゃんは、とってもお茶目さんだと思うね。
だって洞窟内にモンスターが居るって事を、すっかり忘れてたんだからね(笑)
目先の美少女の事で頭の中がいっぱいだったんだから、仕方ない事だと思うね俺は!



 
 

 
後書き
さぁ、激弱主人公アルス君の冒険がスタートしました。
スライム如きで泣きながら逃げ出す主人公ですが、一人でサンタローズの洞窟を制覇する事は出来るのでしょうか?
普段助けてくれるパパスが居ないのに、生き残る事は出来るのでしょうか?
この物語が続くよう、皆さんもアルス君を応援したやって下さいませ。 

 

第3話:足には自信あり!

(サンタローズの洞窟)

「ピキィー!!」
逃げる。俺は逃げる!
突如現れたスライム1匹に恐怖を覚え、俺はひたすら逃げまくる。

忘れてたよ……俺ってば戦うのが怖いんだったね!
一人で洞窟に入るなんて、自殺と同義語なんじゃねぇ~の!?
持ってる武器が棒っきれ(檜の棒)1本だし……戦闘なんてキチガイ沙汰だよ!

今までに倒したモンスターの数が0匹な俺ちゃんは、代わりに発達した脚力を駆使し、それ程広くない洞窟を逃げ惑う。
逃げ足だけならレアモンスター“はぐれメタル”にも勝てるね! まぁ経験値入ってこないけど……

な~んて余裕ぶっこいてるけど、本当はチビリそうな程怖いんです!
やべ~よ俺……絶体絶命(ピンチ)だよ俺!
何時までも走り(逃げ)続けられる訳じゃないし、なんとか助かる方法を考えないと……

最初に思いついたのは、このまま逃げ続け出口に向かう事だ。
だがそれだと、何一つ目的を達成してないし、勝手に危険な洞窟に入った事だけが浮き彫りにあってしまう……
結果、周囲の大人に怒られビアンカには呆れられ、何も良い事は無い!

ではどうするか……
危険を承知で洞窟内を逃げ回り、岩下敷きオッサンの所まで走り続ける……そんな賭に出るしかないな!
保つか俺の体力? 保つか俺の脚力!?
しかしビアンカの為……いや、俺の未来の嫁の為に頑張るしか無いだろう!

決意を新たにし下り階段を探そうと思ったところで、俺の逃亡劇に新たな展開が訪れる。
チラリと追ってくる(モンスター)を確認すると、スライム1匹だったのが3匹にグレードアップしており、俺への殺気が尋常じゃない状態だった。

更にビビった俺ちゃんは、前方への逃亡(ダッシュ)スピードを上げ死に物狂いに……
すると突然、俺の前に別のモンスター……『とげ坊主』が現れた!!
俺の行く手を遮る様に、とげ坊主2匹が立ち塞がり殺気を振りまいている。

ヤバいよ……今のスピードじゃ止まれない!
仮に止まれたとしても、前後を(モンスター)に阻まれ、残り人生あと僅か状態じゃん!
どうする、どうすれば良い!? 手段を考える時間がほしい……でも、そんな余裕はもう無い!

しかし、こんな所で死ぬ訳に行かない俺ちゃんは、咄嗟に大胆な行動に出る。
それはね……
「とうっ!」
って感じに大ジャンプするのサ!

まだこの辺のモンスターは小さい連中ばかり。
鍛え上げられた脚力で限界を超えた俺のスピードに、敵の攻撃を避けるのに発達した跳躍力を合わせれば、眼前のとげ坊主など簡単に飛び越えられるってモンよ!

華麗に(とげ坊主)を飛び越え、“キャット空中三回転”とばかりに着地……の予定だったのだが、あろう事か着地地点が例の大穴……『とってんぱーの にゃん ぱらりっ』の掛け声空しく、奈落へ落ちる主人公であるはずの俺。ニャンコ先生、助けて~……


(どかっ!)「ぐはぁ!」
奈落へと落ちた俺は、幸運にも目的地へと到達した。
まぁ、ドでかい岩に全身を強打しての到着だが……

「うわぁ~ん、痛いよ~!」
俺ちゃん号泣。
だって仕方ないじゃん……もう其処彼処から出血してるんだモン!

「おぉ……ボウヤはパパスさんの所のアルスじゃないか!? どうしたんだこんな所で? ワシの足に乗っかってた大岩を動かしてくれたのはお前さんか?」
どうやら俺の決死の体当たりにより、薬師のオッサンを拘束してた大岩を動かしたらしい。
結果オーライと言いたいが、体中が痛くて涙が止まらない。

「血だらけじゃないか!? 子供がこんな所に一人で来ちゃ危ないぞ……まぁ結果は見ての通りだが」
「うわぁ~ん!!」
助けて貰って言う事がそれか!? こっちは死ぬかと思ったんだぞ!

「ビ、ビアンカが(ヒック)……困ってて(ヒック)……オジサンが(ヒック)……必要で(ヒック)……」
俺はガチで泣き止めない状態で大まかな説明をオッサンに施す。
お願いだから原作の様に、幼い子供を置き去りになんてするなよ!

「そうか……お前はビアンカちゃんが好きだったからな。彼女の為に怖い思いをして、ワシを助けに来てくれたのか」
「う、うん(ヒック)……で、でも……もう歩けない(ヒック)」
マジです。ガチです。本当です! 体中が痛くて歩く事が困難です。

「困ったなぁ……ワシも足を怪我してるから、背負(おぶ)ってやる事が出来ない……アルスはホイミを使えないのか?」
「つ、使えるけど(ヒック)……効果が(ヒック)……低い(ヒック)」
そうなのだ……昨日の強行軍で、初めての魔法『ホイミ』を憶えたのだけど、ささくれを完治する程度の回復力で、現状の俺を治す事など到底出来ない。

「ではワシの足を治してくれんか? 多少歩ける様になれば、お前さんを背負(おぶ)って帰る事も出来るだろう」
そう言うとオッサンは真っ赤に腫れた足首を折れに突き出し、魔法(ホイミ)を要求してくる。
正直、今は他人に構ってる余裕は無いのだが、無事に帰還する為にはオッサンの戦力を当てにせねばならない……

「ホイミ(ヒック)」
俺の目の前でオッサンの赤く腫れ上がった足が微かに輝く。
しかし見た目には変化がおきず、足の痛々しさはそのままだ。
ただ、現状の俺の痛々しさに比べれば足の一本くらい何でもないだろう。

「おぉう、お前さんのホイミは良く効くなぁ! これでワシはもう大丈夫……お前さんを背負(おぶ)って帰る事が出来るぞ」
豪快に笑いながら俺の頭を撫でる薬師のオッサン。
絶対に嘘なのが見え見えなのだが、俺を背負(おぶ)るとヒョコヒョコ歩き出した。

俺は何してんだろう?
助けに来といて、逆に助けられ……
被害者以上の被害に見舞われ……

こんな事ならサンチョを駆り出せば良かったんだ。
あの人も結構戦えるのだし、『ビアンカの為なの!』とか『サンチョが手伝ってくれなければ僕は一人でも行くよ!』とか言って、色々利用法はあったはずなのに……
一人で助けたと言う既成事実が欲しくて、格好悪いとこだけがクローズアップしてしまった。



怪我人+お荷物(俺)付きなのに襲いかかるモンスターを粉砕し村へと戻ってきた薬師のオッサン。
血まみれの俺を見た村人Aが血相を変えて父さんを呼びに走る。
幸か不幸か父さんは既に帰宅しており、大分動揺しながら俺を抱っこする。因みにサンチョは号泣中。

話を聞きつけたビアンカとママさんも現れ、俺の姿に血の気引きまくり。
「ごめんよパパス! わたしが変な事を言ったばかりに……」
ビアンカママ泣きながら父さんに謝罪……ビアンカも気まずそう。
絶対に俺、格好良く見られてない……それどころか、情けない上に迷惑千万なガキと思われてる。

「アルスが助けに来なければ、ワシはあの場で死んでたよ。この子のホイミで歩ける様になったし、ワシの救世主だよ!」
薬師のオッサンが一生懸命フォローしてくれる。

だが、父さんの説教+サンチョの泣き説教+ビアママの泣き謝罪+ビアンカのシラけた目は止む事がなく、村中を巻き込んだ大騒動になっていた。
俺は少しでも許されるようにと、心からの号泣と「大好きなビアンカの為に……」と言う言い訳を連呼し、子供だから仕方ない的な空気に持って行こうと努力する。

しかし怒りながらもホイミを忘れないのが優しいパパだ。
勿論こっそり薬師のオッサンにもホイミしてます。
傷が治り体中の痛みが消え、やっと安全な父の下に戻ってきた安心感から、気を失い倒れる俺。

憶えて無いがこの後も大騒動だったんだろう……
気付いた時は翌朝で、ビアンカとママさんが我が家のリビングで談笑しておりました。
つー事は、次なるステージへ進出だね!



 
 

 
後書き
何とか一人で洞窟探索も終了出来ました。
だけど大丈夫かな、こんな激弱主人公で…… 

 

第4話:前払いでお願いします

(サンタローズ ~ アルカパ)

きっと村に一人残して危険な事をされるのが不安なんだろう……
「アルス……今朝早くに薬が届いた為、ビアンカ達はこれからアルカパに帰るのだが……女性2人だけでの道中は何かと危ない。送って行こうと思うから、お前も来なさい」

選択権無し。
勿論拒否などはしませんが、原作とは随分違った対応ですなぁ。
でも、もっとショックだったのは『え、コイツも来るの!?』って感じのビアンカの表情だ。

俺の所為で昨日はママさんが泣きながら平謝りしてたし、随所で俺は『ビアンカの為』を連呼してたし……
嫌われてるかな俺?
大丈夫だよね……これから胸キュン事件が勃発するよね!?
一緒に猫ちゃん(ベビーパンサー)助ければ、恋心特盛りになってくれるよね!?

でも道中は『危ないから私が手を握ってあげる』と言って、ずっとお手々握々状態だった。
やっぱりビアンカは優しいなぁ……可愛いし良い匂いだし柔らかいし……早く嫁にしてぇ~! そして早く初夜を迎えてぇ~!



(アルカパ)

ビアンカが握ってくれてた右手で、今すぐにもシコりたい俺だが、取り敢えずビアパパのダンカンさんの様子を窺ってます。
感染(うつ)るから近付かないでくれ」
とのダンカンさんのお言葉を素直に聞き入れ、数歩下がった所でビアンカの尻を眺め続けます。

疲れたフリして床に寝転がり、スカートの中を覗いちゃっても良いかな?
どんなパンツ穿いてるか確認しちゃっても、子供のする事だって笑ってくれるかな?
演技力が問われる行為だ……慎重に機会を窺わねば!

「アルス……暇だったらアルカパの町を見学してきなさい。町の外に出ないのであれば、自由にしてて構わないから」
ビアンカの足下と周囲の様子をキョロキョロ見ていたから、暇を持て余していると勘違いされ父さんに散歩の許可を与えられた。

何か病人を前に暇を持て余すのってダメな気がする。
全然心配してない感がバリバリ出ちゃってる気がする。
チラッとビアンカを見ると、白い目で俺を見据え“最低なガキね!”って感じを醸し出してる……

でも言い訳が出来ない。
だって本当はビアンカのパンツを覗く計画を考えてたなんて言えないじゃん!
だからションボリしながら黙って部屋を出て行く俺ちゃん。

「ほらビアンカも一緒に行っておやり。アルスが迷子にでもなったら大変だからね」
ビアママが情けないガキを心配し、あり得る未来を防ぐ為に娘さんに子守を言いつける。
可愛い顔が盛大に歪むビアンカ……ヤバイ、泣きそうだよ。


それでも優しいビアンカは、俺の手を握り町の案内をしてくれる。
優しいビアンカの柔らかい手の感触に全神経を注ぎ込んでいた為、観光案内は記憶に残らない。
ずっとビアンカの顔や身体を眺めていた。

だから突然走り出したビアンカに驚く!
手を握ったままであったが、何かを発見し猛ダッシュする。
イベントの進行合図だと理解したのは、俺の目の前に変な猫を苛めるガキ2人が現れてからだ。

「ちょっとあなた達! その猫ちゃんが可哀想でしょ……今すぐ放してあげなさい!」
この事件が俺にとって大切でなければ、ビアンカとのデートを邪魔するクソガキとクソ猫に殺意を燃やしているのだが、戦闘の不得意な俺にとって貴重な戦力になるベビパン(ベビーパンサー)は重要だ。

「な、何だよビアンカ……コイツ面白い声で泣くんだよ。ビアンカも一緒に遊ぼうぜ!」
間違いなくこのガキ等もビアンカに気があるのだろう。
突然現れ自分たちの行為を否定され、見るからに狼狽するガキ共……

「いじめちゃ可哀想だよ……その猫さんを放してあげてよ」
俺は好感度アップの為、ビアンカの意見に乗っかりガキ共の行為を否定する。
チラッとビアンカを見たら、俺の意見に満足そうに頷いた。良し!

「何だよチビ! うるせーんだよ……俺達が何をしようが勝手だろ!」
「勝手じゃないわよ、弱い者イジメをするなんて最低よ! 今すぐ猫ちゃんを放してあげなさい!」
好意を寄せる女に“最低”と言われるのは辛い……
ガキ共はかなり怯み目を合わせあう。

「じゃ、じゃぁレヌール城のオバケを退治して来いよ……そうしたらこの猫をあげるよ」
どうしてそう言う話になるのか解らないが、猫解放の言質は取った。
しかし、ここでただ『イエス』と言ったのでは俺の計画に支障がでる。

「分かったよ……レヌール城のオバケを退治してくれば良いんだね。でもその間、猫さんはどうするの? また苛めるんだったらダメだよ。絶対にオバケは退治してくるから、先に猫さんを放してあげてよ!」
そして俺の戦力にしてくれよ!

「はぁ? ダメだよ馬鹿! オバケ退治が先だ。猫を放すのはその後だよ」
「でもその間、猫さんを苛めるんだろ!? 可哀想だよ……今すぐ放してあげてよ!」
世話する手間を引き受けてやるから、俺の戦力に組み込ませろ!

「苛めねーよ! お前等がオバケ退治をしてる間、俺達もこの猫を苛めたりしねーよ! だからこれ以上ガタガタ言ってねーで、サッサとレヌール城にオバケ退治しに行けよ!」
行ける訳ねーだろ……こっちは戦いが不得意なんだ。
ビアンカが戦闘に加わるったて、後方からの魔法戦がメインだろ……前衛が必要なんだ。

「僕達は絶対にオバケを退治するから、先に猫さんを解放してよ……既に君たちに苛められて、猫さんは怯えてるから、これ以上苛めなくても一緒に居るだけでストレスがかかっちゃうよ。そんなの苛めてるのと同じじゃんか! 絶対……何があっても絶対にオバケを退治してくるから、先に猫さんを解放してあげてよ……お願い」

(ポカリ!)
「うるせー、お前等のオバケ退治が先だ! 出来もしない条件に、何で俺達が従わなきゃならないんだ!? いいから黙ってあっち行け馬鹿チビ!」
殴られた! 父さんには殴られた事ないのに……

「うわぁ~ん!!!!」
そっちがその気なら俺も容赦はしない。
大泣きをし事を大袈裟にする……そして大人が集まってきたところで、純真無垢な俺の涙ながらの訴えを披露する。

そうなればガキ共は有無を言わせず悪者扱いされ、大人の権力(ちから)ずくで(ベビパン)を手放す事になるだろう。
ふっふっふっ……我ながら恐ろしい計画だ。

だが……大人が集まる気配がない。
ただ俺が馬鹿みたいに大泣きするだけ……
段々大泣きするのにも限度を感じてきた。

「アルス、もう泣かないで。私と一緒にレヌール城のオバケを退治しに行きましょう」
優しく俺の頭を撫で、この場から離れようとするビアンカ。
サンタローズであればこんな事にはならないのに……
都会の人達って冷たいよな!

「良いあなた達! 絶対に猫ちゃんを苛めてはダメよ! 私達は直ぐにでもオバケを退治してくるのだから、その間は優しく世話しなさいよ!」
「うるせー早く行けよブスビアンカ!」
何だとクソガキが!?

「ビアンカはブスじゃない! 謝れ馬鹿デブ!」
今のままだって美味しく頂けそうな可愛いビアンカに対し、あまりにも失礼な事を言う馬鹿ガキに怒りを感じ、思わず叫んでしまった俺ちゃん。

「なんだと馬鹿チビ!?」
しかし馬鹿ガキも俺の言葉に激怒し、拳を握り締め向かってくる。
年齢も体格も腕力も向こうの方が上だろう……その恐怖の所為で思わず身を縮めてしまう俺。

「わっはっはっはっはっ……ビビってやんのこのガキ。こんな臆病者にオバケ退治が出来る訳ねーよ」
ムカツク……ベビパンが大きくなってキラーパンサーに成長したら、あのガキを脅かしに来てやる。
目の前でキラパンを牙剥き出し状態にし、ジリジリと躙り寄らせビビらせてやる!

つーか結局、オバケ退治の報酬前払いはダメだった……
どうすんだよレヌール城は……
ビアンカ一人に負荷をかけてしまうんじゃねーの?



 
 

 
後書き
この主人公は考える事がセコイ。
個人的には素敵だと思うね。 

 

第5話:夜中に廃墟へ行くのって尋常じゃないくらい怖い

(アルカパ)

「起きて……ねぇ起きてよアルス」
気持ち良く眠っていたら、誰かが俺を揺すり起こそうとする。
勘弁してほしい……サンタローズからアルカパに移動するのは、6歳児には結構キツいのに、昼間は結構疲れる事をしたんだ。

「ねぇ起きてってば! レヌール城にオバケ退治に行くわよ」
そう……俺の貴重な戦力になるベビパンを助ける為、昼間はオバケ退治を引き受けたんだ。
だが報酬の前払いには応じて貰えず、どうやってレヌール城を攻略するのか思案中……

……レヌール城!?
(ガバッ!)「そ、そうだオバケ退(モガ)」
「シーッ! パパスおじ様が起きちゃうでしょ!」

俺は起きると同時に、ビアンカの手で口を塞がれる。
チラリとビアンカが隣のベッドで眠る父さんを見る。
俺もつられてそちらに目を向ける。

しかし父さんは爆睡中らしく、起きる気配は見られない。
ホッとした俺は、そのままビアンカの手の匂いを堪能する。
とってもステキでトリップ中。

「ほら、静かに廊下へ出るわよ」
このまま指にしゃぶり付きたいが、そんな事したら嫌われるのは理解してるので、今は我慢しようと思います。
結婚したら好き放題しゃぶり付けるのだし……指だけじゃなく、何もかもをね!

静かに廊下へ出ると、そこには色々なアイテムが用意されていた。
薬草とか毒消し草とか……随分と準備万端にしてある。
そう言うのって俺がやらなきゃ拙かったのかな?

「はいアルスはこれを使って……」
そう言って渡してきたのは銅の剣と薬草を数個。
よく見るとビアンカは茨の鞭を用意してる。

「どうしたのこれ?」
「その剣はお父さんが使ってたお古よ。私の鞭はお母さんが昔使ってたらしいわ」
へー……原作でも武器を譲って貰えれば苦労しなかったのになぁ……

「その薬草と毒消し草はどうしたの?」
「昼間のうちにお小遣いで買っておいたの」
何これー!? 全部ビアンカ任せになってるじゃん!
俺ってばダメっ子全開じゃん!

「あ、ありがとうビアンカ……お金は必ず返すから……」
「良いのよ、武器も持たずにオバケ退治になんか行けないからね! お姉さんの私がお金を出すのは当然でしょ」
何とか格好いいところを見せないと……せめて率先してレヌール城を目指さないと!

「じゃぁ行くわよ」
だが、そんな俺の思いも無視され、ビアンカ先頭で隊列を組む形に落ち着いてしまう。
拙いじゃん……戦闘が始まれば、俺は今以上に役立たずだ。
何とかせねば……



(アルカパ ~ レヌール城)

何の対策も思いつかないまま、居眠りこいてる兵士を横切り、町の外へと出てしまった俺ちゃん達。
俺……もう怖い!
貰った剣を両手で握り、ガクガク震えて情けない姿を晒してます。

「確かこのまま北に行った方が、レヌール城へは近道だったはずよ」
そう言って鬱蒼と生い茂る森の中に入ろうとするビアンカ。
いや~ん! 月明かりも届かなくなる暗い場所じゃ~ん!
怖ーよ……何時モンスターに襲いかかられるか判らないから、滅茶苦茶怖ーよ!

「ビ、ビアンカ……森の中は危ないよ! 周囲を見渡す事が出来ないから、何時モンスターに襲われるか判らない。多少遠回りでも見渡しの良い平原を歩いた方が、危険度は遙かに低い……ここは焦らず安全策をとった方が良い!」
そんなおっかねー近道はごめんだ。安全でそれ程怖くない遠回りの方が俺好みだ。

「そ、そうね……(モンスター)の接近に気付けない道は危ないわね。流石アルスね……冒険し慣れてるわ!」
おや、謀らずも好感度がアップした気がする。
なるほど……戦えなくても、戦いを回避する……もしくは有利にする策を練れば、知将として輝いて見えるのか!

そう言えば『銀○伝』の『ヤン・ウェ○リー』がそうだった……
運動神経はダメダメだけど、頭がいいから……彼の場合は戦争の天才としてだけど、だから『フ○デリカ』にモテてた。
俺の方が間違いなくイケメンだし、頭を使って格好いいところを示せば、将来ハーレムも夢じゃないゾ!

よぅし……俺ちゃんの知謀を駆使して、危ない事をせずにレヌール城を攻略してやろうじゃんか!
見てろよビアンカ……直ぐに俺の虜にしてやんゼ!
やる気出てきた!!

「ちゅー!!」
「ぎゃーす!」
俺の闘志に火が点いた途端、草むらから1匹の『大ネズミ』が襲いかかってきた。

突然の事で既に泣いている俺……
戦闘が始まったら一際役に立たない俺……
ビアンカの華麗なる鞭さばきで、速やかに解決する戦闘。

先程は俺に対して感心する様な瞳をしていたのに、今ではシラけた目で見据えられている……
『アンタに剣を渡したでしょ!』って感じの冷たい瞳で見据えられている……
だって戦うの怖いんだモン!!





(レヌール城)

あれから戦闘は全てビアンカが片付けた。
俺、敵が現れる度に泣き叫んでた……
あぁ……どんどん俺の好感度が下がって行く様な気がする。

それにしてもビアンカの鞭さばきは見事だ。
そっちの趣味はなかったが、彼女になら鞭で打たれたい。
念を押すが、ビアンカ限定だゾ! 他の奴にはそんな事されたくない!

「さぁ、着いたわ……」
ビアンカのお尻を眺めながら、ステキ妄想を繰り広げてると、突如目の前のお尻が停止し、目的地への到着を教えてくれた。

「へ~……ここがレヌール城……!?」
ビアンカに促されるまま視線を城へ向ける。
そこには巨大な城が佇んでいた……薄気味悪く闇夜に君臨していた。
月明かりで照らされながらも、何故だか雷鳴とどろく闇夜に……

やっべー……怖ー……めちゃんこ怖ー!
怯んでますよ……(ワタクシ)怯みきってますよ。
だから報酬の前払いを要求したんだ!
こんな恐い所に子供だけで行っちゃダメだろう……あ、父さんへ正直に話し付いてきて貰えば良かったな。

(ガチャガチャ!)
「ダメね……この扉は錆び付いてて開かないわ。何処か他に入れるとこは無いかしら?」
行動力満点の美少女は、この城の雰囲気に飲まれる事なく入り口を探している。

「ビ、ビアンカ……待ってよぉ……置いてかないでよぉ!」
ボーッとしてると彼女はズンズン先に行ってしまい、恐ろしい雰囲気の中で一人ぼっちにされてしまう。
もう泣きながらビアンカの手を握っておりますよ、俺ちゃんは。

「ちょっとアルス……まだオバケは現れてないんだから、そんなメソメソしないでよ!」
「う、うん……ごめんなさい」
優しく手を握って貰ったが、流石に叱られてしまった……



城の裏手に回り込むと、原作通り最上階へと続くハシゴが1本設置されている。
「ここから中に入れるかもしれないわね」
そう言ってビアンカは、先行しハシゴに登り始める。

置いていかれたくない俺は、慌ててビアンカの後に続きハシゴを登る……で、気が付く。
見上げれば其処には純白のワンダーランドが広がってるではないか!
ロリロリビアンカの秘密の園は、美しい純白で俺を手招きしている。プリップリッと!

先程までの恐怖は消え去り、吸い込まれる様に純白を目指す俺。
あとちょっと……もう数センチ……
魅惑の桃源郷に俺の顔が到達する目前で、ビアンカが最上階に到達したらしく、俺の希望は消え去った。

「見てアルス。あそこから城へ入る事が出来そうよ」
それより俺は、貴女のアソコに入りたかったよ。
もうちょっとだったのになぁ……



 
 

 
後書き
ヤン・ウェンリーのファンの方々ごめんなさい。
アルス君の勝手な独り言だから怒らないで下さい。
私もヤンの大ファンです!
1番はナイトハルトです。 

 

第6話:振り向いちゃダメ

 
前書き
書いてる私が一番驚いた。
まさかこんな事になるとは…… 

 
(レヌール城)

桃源郷は目前(物理的な意味)だったが、敢えなく到達出来なかった。
だが、まだチャンスはあると俺は考えてる。
城内に入ったその時こそが最大のチャンスだと俺は考えている。

少しずつ慎重に最上階の入り口から中へと入る俺達……
ビアンカが先頭で、俺が後からで……
そしてその時は訪れた!

(ガラガラガラ、ガッシャン!)
突如入り口に鉄格子が下りてきて、俺達を城内に閉じ込めた。
原作知識から覚悟はしていたが、ガチでビビっちゃう俺ちゃん。

しかしビビってばかりもいられない……
このチャンスを利用し、俺はある場所に身を隠そうとする。
本当にビビってはいるのだが、更にビビっているフリをしてビアンカのスカートの中に身を隠そうとする。

「キャー! 何処に隠れてるのよアルス! エッチ、バカ、出なさいよ!」
「うわ~ん恐いよー!」
目の前には純白の三角形。
噎せ返る甘い香りは最高級フレグランス。
怖がるフリして彼女の○○○に抱き付き頬擦りをする。



ボッコボコに殴られましたが、大変満足な俺ちゃん。
大人になった時に行う予定の結婚式(披露宴?)で語る思い出として、とっても印象に残る事が出来たと思ってます。

ビアンカは俺に背を向け怒ったフリをしている。
『こんなエッチな事をされちゃったんだから、責任を取って結婚してもらわなきゃ♥』とか考えてるのかな?
悟空に“パンパン”されたチチと同じかな?

「こ、こんな所に何時まで居ても仕方ないわ……猫ちゃんを助ける為にサッサとオバケを退治しなきゃ!」
そう言うと俺の事を無視して先へ進もうとするビアンカ。
えっと……照れてるんだよね? 彼女は照れてるだけだよね!?

置いて行かれる恐怖と、嫌われない様にしたい思いで、ビアンカの後に慌てて付いて行こうとした時、突然部屋の隅に置いてあった箱(よく見たら棺桶じゃん!)から骸骨が飛び出し、あっという間にビアンカを攫って消えてしまった……

突然の事に1ビビり……骸骨の存在に2ビビり……取り残された事に3ビビりで、呆然とする俺。
だが外では雷鳴が鳴り響き、その轟音で我に返る。
忘れてた……入城早々にビアンカは攫われるんだった。
純白桃源郷の事しか考えてなく、ガチ忘れしてた……

しかし居場所は分かってる。
そこの階段を下り、中庭(?)にある墓の下に閉じ込められているはずだ。
分かっているのだから早く助けに行くべきだろう……でもね、一人恐~い!!

ガクガクブルブル震え涙も止まらない……
何時までも此処で立ち止まってる訳にはいかないのに、身体が動いてくれない。
それでも少しずつ足を動かし階段を下りる。

薄暗い階段をビクビク下っていると、足に力が入らず踏み外す。
体中を打ちまくり、辿り着いた所は6体の石像が並ぶ不気味な空間。
恐怖と痛みで泣きながら、ビアンカに貰った薬草を使い傷を癒す。

周囲を見渡せば薄っらと見える中庭(?)への扉。
だが、其処へ辿り着くには不気味な石像の前を通り抜けなければならない。
『ただの石像じゃん!』って言い聞かせたいが、どれか1体は(モンスター)で、襲いかかってくるはずだ……

原作知識の所為でこんなにも恐怖を感じるとは予想外だ。
だが、この場に居ても恐いだけだし、早くビアンカを助けたいし、汗だくの手でマントの端を握り締めながら進む事を決断する。

1歩……また1歩……
少しでも早くこの場を抜けたいけど、恐怖で身体が巧く動かずゆっくり進むジレンマ。
どの石像が(モンスター)か判らないから本当に恐い。

(ゴト……ズ、ズズズ……)
すると俺の後ろで、何やら重い石の様な物が引き摺られる音がする。
更なる恐怖で硬直する俺。
ポケットから手鏡を取り出し、身嗜みを整えるフリをして後方の状況を確認する。

そこには石像が1体……
さっきまで6体が等間隔に並んでいたのに、1体だけ俺の真後ろに並んでいる。
ちょー(こえ)ー! 100%モンスターじゃん!
この動く石像が『動く石像』じゃん!

振り向いて調べたりしたら『み~た~な~』とか言って攻撃してくるんだ!
見ちゃダメだ……調べちゃダメだ……
振り返らず出口を目指そう。

ゆっくり1歩、出口へ踏み出す。
(ズズズ……)
後ろの石像も付いてくる。

少し足早に2歩進む。
(ズズズズズ……)
それに合わせ石像もやって来る。

駆け足で出口へ到達する!
(ゴド、ヒュン……ドスン!)
見てはいないので音から想像するが、奴ジャンプした!

どうしよう……コイツ中庭(?)まで付いてくるのかな?
原作ではシカトすれば此処でお別れだったが、現実的にこの部屋から出られない理由が思いつかない。
だが悩んでも答えは出ない。ゆっくり扉を開けて中庭(?)に出る俺。

(ズズズ……ゴトッ)
拙い……一緒に出てきちゃったよ。
振り向かないと諦めないの?
相手しないと永遠にストーキングしてくるの?
何処の裁判所に訴えれば、接近禁止命令を出せるの!?

雷鳴は鳴ってるが月明かりも輝いてる不思議な天気の中庭(?)……
俺は再度身嗜みを整えるフリで鏡越しに後ろの石像を確認する。
すると何時の間にか残り5体の石像とは違う姿になっており、例の土偶(ハニワ)の様な姿に変わっていた。

あれ~……戦闘準備万端ってこと?
イヤイヤ……ボクちゃんまだ彼の存在に気付いてないから!
知らないよ……このままビアンカを助け、何食わぬ顔して先へ進むよ。

え~っと……どちらの墓かなぁ~?
手前は……“アルスの墓”って書いてあるー!
じゃぁもう一つのお墓だね(泣笑)

ピッタリと付いてくるストーカー(動く石像)を無視して、墓に手をかける俺。
その際ストーカー(動く石像)は見ない様に努める。
ビアンカを助け出したら、速攻で先に進むつもりです。
彼女にも『見ちゃダメ!』って言わないと!

「ふん……くっ……くぅ~……」
ストーカー(動く石像)には気付かないフリをし、力一杯墓石を動かそうと努力する。
しかし墓石が重く動かない……これって俺が非力って事ですか?

困るよ……恐いんだよ……早くビアンカと合流したいんだ!
「ふん! う゛~……動けぇ~……」
どんなに力を加えても俺一人では動かせない……

墓石に力をかけながら泣き出す俺……
恐いし無力感に苛まれるし、どうしてこうなんだ!?
せめてストーカー(動く石像)がどっかに行ってくれれば、冷静に方法を考えられたのに……

そんな事を考え墓石を押し続けてると……
(ズズズ、ゴト……グゴゴゴゴ……)
突如墓石が動き出した!

ふと横を見ると、動く石像が一緒に押してくれている!
(ズズズズズ……ゴトン!)
墓石を押し切り、中を覗くと蹲り泣いているビアンカが……

「ビ、ビアンカ!」
「ア、アルス!?」
俺の声に顔を上げるビアンカ。
しかし隣の動く石像を見て硬直する。

当然だろう……
だが助けてくれたのは事実。
これをどう捉えるか?
味方なのか? 気まぐれか? 何時までも気付かないから強硬手段に出たのか?

「ア、アルスの……友達?」
ビアンカも言ってて馬鹿らしく感じてるんだろう。
だが答えられないのは俺……コイツは何なんだろう?

「え~と……ビアンカを助ける為に墓石を一緒に押してくれたんだ……」
もう気付いている事を知らせる。
しかし襲いかかってくる気配はない。
本当に友達になりたいのか?

「あの……僕達これからこの城に居るオバケを退治するんだけど……一緒に行く? 君の仲間かもしれないけど、オバケ退治を手伝ってくれる?」
取り敢えずビアンカが仲間に加わった事で、多少強気に出れる様になった俺ちゃんは、襲いかかってくる事を覚悟で確認する。

(ズズズ!)
すると動く石像は俺に間合いを詰めてきた!
だけど攻撃する訳ではなく、多分一緒に行くとの意思表示だろう。
表情が変わらない(つか、動かない)から判りづらいが、敵意は感じられない。

「じゃぁ私達は友達ね。よろしく、私はビアンカよ! そしてこの子がアルス」
攻撃はしてこないが何を考えてるか解らない、ビアンカは明るい声で自己紹介をする。
原作には無いこの状況に、俺はどう対処すれば良いのだろうか?

しかし、俺の戦力が増強されるのには大歓迎だ!
俺は戦えないからね……守って貰わねばならないからね!



 
 

 
後書き
おいおいマジかよ……
本当に仲間になっちゃったのかよ!? 

 

第7話:大人はいつも勝手だ

(レヌール城)

「ところでこの子……名前は何て言うの?」
「え、知らないよ」
名前なんて知らないよ……原作では仲間にならなかったんだし、コイツは喋れないんだし……
似た様なモンスターなら、ミステリードールのミステルが原作では居るけど……その名前使っちゃダメだよね。

「でも友達になったのに名前が無いんじゃ呼ぶ時に不便よね……考えてあげましょうよ!」
「う、うん……ビアンカには何か良い名前があるの?」
ゲレゲレとかボロンゴって言ったら、コイツ怒って襲いかかってくるんじゃねーの?

「そうねぇ……石のお人形だから“ストーンドール”ってのはどう!?」
ストーンドールだぁ!?
見てよ……土偶だよ、ハニワだよ、間抜け面だよ!
声に出しては言わないけど、そんな格好いい名前は似合わないよ。

「それだと長すぎだよ」
俺はあえて長さ以外の問題点を指摘しない。
「何よ……じゃぁアルスには何か良い案があるの!?」
そう言われても……あ、そうだ!

「じゃぁ“ストーンドール”を略して“スドー君”ってのはどうかな?」
我ながら良いアイデアだと思う。
コイツに似合うし呼びやすい。
前世でこんな友達(須藤(スドー)君)が居たしね。ちょっと顔が似てるんだよ。

「へー良いじゃないスドー君って! あなたはスドー君と呼ばれるのでも良いかしら?」
スドー君は無言で間合いを詰めてくる。
これはOKって意味かな?
怒ってる訳ではないよね!?

「どうやら気に入ってくれたみたいよ。良かったわねアルス」
勝手に気に入ったと受け取るビアンカ……
本当にそうなのか判らないが、攻撃してこないし“スドー君”で決定しよう。

しかしコイツは使えるかもしれない。
ヘンリー誘拐イベントを回避し、パパスの死&奴隷生活の回避も出来るかもしれない。
やり方次第じゃバラ色の人生が待ち構えているぞ!
これは知将として実力の見せ所じゃん!



不気味ちゃんではあるが仲間も増え、多少恐怖が軽減された俺……
先程までとは違い軽い足取りで先に進む。
すると図書室の様な部屋に到達した。

「散らかってるわねぇ……」
まぁ当然だろう。
この城が廃墟になって月日が経つ。
何時までも整理整頓されている訳がない。

そんな事を考えながら室内を物色していると、突如目の前に半透明の女性が出現した! 俯き長く黒い髪で顔を半分隠した女性が出現した!
「ぎゃぁー!」
泣く俺。身構えるビアンカ。無表情なスドー君……彼は仕方ないか。

「貴女がこの城のオバケ!? 私達はオバケ退治に来たの、大人しく成仏してよ!」
勇猛果敢にビアンカは幽霊に話しかける。
ただ、この幽霊を退治しちゃダメなんだよね。
突然の出現にビビっちゃって泣いちゃったけど、この人は悪いオバケじゃ無いんだよね。(すげ)ー見た目恐いけどね。

「ビ、ビアンカ……見てよ。この人寂しそう(予想)だよ……悪い事はしてない(希望)と思うよ」
「た、確かにそうだけど……でもオバケ退治しなきゃならないんだから、この人をどうにかしないと……」
この幽霊を退治しても何ら解決には至らない……だけどそれが判ってるのは原作知識のある俺だけ。それに下手な事すると呪われそう。

「でも悲しそう(予想)な顔してるし、お話を聞いてあげようよ」
「一番最初に大声で怖がったアルスが、そう言う事を言う!?」
い、痛い所を突いてくる……
心なしかスドー君が笑ってる気がする……

「ぼ、僕は恐がりだから、突然目の前に出てこられたら、大声出しちゃうんだよ!」
我ながら情けない事を言ってるが、真実なのだからしょうがない……
オバケとか幽霊とかモンスターとか関係なく、突然の出現にはビビりまくってしまうんだよ! しかも見た目が(すげ)ー怖ーし!

(ゴゴゴゴゴ……)
俺の一方的な情けな口論をしていると、幽霊の人が右手を挙げ、それに連動し一部の本棚が動き出す。
原作同様隠し階段だろう。

「見て階段があるわ!」
思った通り隠し階段出現に、ビアンカは声を出す。
俺も思わず視線を階段に向け存在確認する。
スドー君は目だけを動かして……

そして視線を幽霊の人に戻すと……既に居なくなっていた。
この先の王家のプライベートルームで待機中かな?
ビアンカに視線を向けると黙って頷いた。先へ進もうとの意思疎通成功。やっぱ俺達ラブラブ!
スドー君とは……よく解らん。



暫く進んで王家のプライベートルームに辿り着く。
そこに入ると、先程の幽霊の人が控えており、か細い声で現状を訴えてきた。
もっとハッキリ喋ってほしい……半透明だし、表情が悲壮感漂ってるし、恐いんだよ!

名前はソフィアさんと言うらしいが、いつも俯いて長い黒髪で表情が隠れてるから、俺は心の中で『貞子(ソフィア)』と呼ぶ事にする。
口に出すと呪われそうな気がするから絶対に言わない!

取り敢えず貞子(ソフィア)の話しも終わったみたいだし、恐いから先へ進む俺達。
ぶっちゃけ半分以上聞き取れてない……でも怖いから先へ進む俺達。
プライベートルームを出て少しした所で「あの女幽霊(ひと)か細い声で話すから恐かったわ……」とビアンカが耳打ちしてきた。
井戸から出現すると、もっと恐いんだぜ!

「僕もチビリそうだったよ(笑)」と言い返すと、
「やだぁ~アルスったら(笑)」と会話が弾んだ。
よしよし……良い感じになってきたぞ! ラブラブ感上昇中!
スドー君とは……うん、まぁ良いでしょ!



下の階へ移動し、周囲を見回すと……
そこには半透明の厳ついオッサンが佇んでいた。
あれが王様幽霊か? 貞子(ソフィア)とは対照的に存在感があるぞ。

「あ、あそこにも幽霊の人が……行っちゃった!?」
ビアンカにも知らせる為、見たままの事を言おうとしたら、オッサン勝手に何処かへ行っちゃった。
確か俺等の度胸を確認するテストだったよね。

「もしかして今度こそ悪いオバケかしら?」
「さ、さぁ……兎も角行ってみようよ」
彼女の士気が高いのは良いが、無闇に退治しようとするのは控えて欲しい。
あのオッサンも悪いオバケじゃないからね!


やれやれな感じでオッサンを尾行すると、城の裏手の空中回廊で待ち伏せされる俺達。
オッサン敵だったら俺達アウトです。
でも勿論敵じゃ無いからセーフだよ。

ビアンカに任せると『退治してやる!』って言い出しそうだから、俺が話しかけようと思います。
でもね……「あの、僕達……「ここまで付いてくるとは見上げた度胸の持ち主だ!」って一方的に話し出しちゃったの。

その後も此方からの発言を許さず、敵ボスの居場所や其処への行き方、城内で閉ざされている扉の開放などを一方的に話し、俺達をオバケ退治に追い立てる王様(オッサン)
反抗的な発言をすると、突如雷が鳴り「はぁ~? 良く聞こえなかったぞ!」って押し通してくる。

身勝手な大人だ。
会話が成り立たないので諦めて言う通りにする良い子な俺達。
まぁ最初から目的は同じだったから良いんだろうけど、些か納得出来ない感が残るよ。

因みに王様(オッサン) の事を心の中で『信長(エリック)』と呼ぶ事にする。
一方的で我が儘で強引で……
本家の事を詳しく知らないけど、そんな感じがするから信長(エリック)と呼ぶ事にする。

しかし原作とは随分と違う状態だなぁ……
貞子(ソフィア)は恐いし……
信長(エリック)は強引だし……

でもスドー君が居るのは心強い!
無表情で不気味だけどね。



 

 

第8話:子供だけど子供騙しに騙されない

(レヌール城)

信長(エリック)に言われた通り、城の地下にあるキッチンへ松明を取りにやって来た俺達。
恐いから本当はスドー君を先頭に進みたいのだが、どうしても俺の後ろを付いてくる状況にしかしてくれない。
静かな城内を移動する度に“ズズズズズ……”と音を出されるのは恐いんだよね。

代わりにビアンカが張り切って先頭を歩くから、男の俺は形無しです。最初からそうだったと言われれば返す言葉もないんだけどね。
お墓に閉じ込められた事により、完全に恐怖心が吹き飛び姉御肌と言うか……男勝り感が否めないのは心配だ。
希望の隊列とは真逆ではあるが、事態が進んでいるので気にしない様にする。

キッチンで幽霊コックに料理をさせてるガイコツ等も、最初は俺とビアンカを見て身構えてたけど、後から現れたスドー君を見て『何だ……コイツ等も死者か。随分自己主張がハッキリしてるから、生きた人間かと思ったぜ』って攻撃してこなかった。

つまり城内に入ってからの戦闘は0。
スドー君のお陰ですね。
でも……幽霊って、ハッキリ見える奴の方が自己種等してるって事なのかな?
信長(エリック)はともかく、貞子(ソフィア)も割かしハッキリ見えてたけど……

「あったわ……王様が言ってた松明を見つけたわよ!」
どうでも良い事を考えてたらビアンカが松明を見つけてきた。
こう言うイベントアイテムは、俺が見つけないと好感度上がらないよね……ダメだなぁ俺。



さて、松明も手に入れたし、暗闇を歩ける様になったし、ボスの所まで行こうと思います。
そして、ここからは俺ちゃんの出番ですよ!
遂に活躍出来る原作知識……戦えない為、周囲の人々(特にビアンカ)に白い目で見られてきましたが、俺ちゃんの誇る原作知識を駆使し、鮮やかに『親分ゴースト』を倒し、人々(主にビアンカ)から憧れの眼差しを浴びたいと思います。

「ふぇふぇふぇ……こんな夜更けに人間の子供が何用かな?」
いかん、考え事(基本妄想)してたら何時の間にかボス戦直前。
姉御肌(男勝り的)なビアンカが猪突猛進する(アホ罠に引っかかる)前に、会話の主導権を俺が握らないと!

「ぼ、僕達はこの城で悪さをするオバケを退治しに来たんだ!」
俺ちゃん声がファルセット(裏声)。ビビっているのでファルセット(裏声)
だって相手のビジュアルが恐いんだモン! ムンクの“叫び”見たいなビジュアルで恐いんだモン!!
よし俺の中ではムンク(親分ゴースト)に決定だ!

「ふぇふぇふぇ……随分と勇ましい子供だのぅ……どれ、ワシがお前等にご馳走してやろう。もうちょっと近くに来るといい」
「いえ、遠慮します。知らない人から物を貰っちゃダメって言われてますから」
でもビビってられないから、精一杯勇気を振り絞って会話を続けます。
ビアンカが突出しない様に……

「ふぇふぇふぇ……何じゃ、ワシが恐いのか? 臆病なガキ共じゃ!」
「な!? こ、恐くなんて無「はい、とっても恐いです。特に顔が!」
侮辱され怒りのままに怒鳴ろうとするビアンカを押しのけ、俺は本心を語り主導権を握り続ける。

「ちょっとアルス! 私は恐くなんてないわよ!」
「ビアンカは黙ってて! アレを恐くないって、感覚おかしいよ!」
近付いて奈落の底へヒュ~ストンなんてご免な俺ちゃんは、騒ぐビアンカを叱咤して黙らせる。
結果さえ出せば嫌われないよね!?

「ワシは思っている程怖くないから、もうちょっとこっちへ近付いておいで」
なおもムンク(親分ゴースト)は俺達を誘き寄せようと話し続ける。
だが俺はそれを無視し、銅の剣を使って床を叩き始める。

(ゴッ……ゴッ……ゴッ……コン!)
皆が不思議そうな目で見詰める中(スドー君は無表情)、音の違う場所を発見する俺。
(コン……コン……ゴッ……ゴッ……ゴッ……コン)
軽い音(コン)が落とし穴だと思われるので、そこを回避しムンク(親分ゴースト)が座る玉座の真横に到着する俺達。

近くで確認すると、玉座の手すり部分にスイッチが見えた。
多分これを押すと落とし穴が開き、上に乗っている奴を奈落へ落とすのだろう。
ムンク(親分ゴースト)も“何故バレたのか?”と驚き顔だ。だがその顔が凄く恐い(泣)

「え、えぇ~い……礼儀を知らぬガキ共じゃ! 目上の者に対し横から話しかけるとは何事じゃ! しょ、正面に回って話しかけよ!」
完全に動揺しているムンク(親分ゴースト)……
俺からは話しかけてないのに、ムチャクチャ言ってくる。

「ヤダよ……だって落とし穴に落ちたくないモン!」
核心をつく俺の一言。
更に驚愕の表情を浮かべるムンク(親分ゴースト)。そしてその顔は恐ろしい。

「な、な、な、何を言ってる……お、落とし穴なんて此処にはないよぉ!」
「でもコレ……スイッチでしょ?」(ポチッ)(ガコン!)
見え見えな動揺で罠の存在を否定するムンク(親分ゴースト)に対し、俺は手すりのスイッチを押す事で対応する。

「ほら……スイッチ押した途端、落とし穴が開いたよ。あなたの正面に居たら、僕達は落とし穴に落ちてたよ。こんな間抜けな罠に引っかかる奴居ると思ってたの?」
「何故だ……何故この落とし穴の存在を知っていた!?」

あぁそうか……知ってた理由が必要になるのか。
何て言おう……原作知識とか言うのは拙いよなぁ……
隣でビアンカも知りたがってるし……格好いい事言っちゃおうかな。

「僕達はここへ来る前に、地下の台所に行ったんだ。其処ではガイコツ達が大きなお皿に料理の準備をしていた……とても普通の食材が乗るとは思えない。で、食材は人間……それも子供だろうと考えたんだ」
そこまで言うと一旦間を置き、大きく開いた落とし穴を見る。

「だ、だが……それと落とし穴と何の関係がある!?」
「オジサン馬鹿だろ! あの大皿の位置は、オジサンが座ってる玉座の前の真上なんだよ! オバケ達に怯えていても、僕は周囲の状況をちゃんと見ているんだ! オジサンが今にも押したくて手すりのスイッチを撫でてたのも、ちゃんと見てたんだよ!」

一応言っておくがハッタリだよ。
こんな暗闇の中じゃ、地下の大皿との位置関係を測るなんて出来ないし、恐怖でそこまで気が回らない。
でも出来る男っぽくて格好良かっただろ、今の俺って……

「くっ……」
ムンク(親分ゴースト)が悔しそうにスイッチを押そうとしてた自分の指を睨んでる。
どうやらハッタリ効果絶大だ(笑)

「僕はオジサンと違って臆病なんだ。オバケは恐いし、地下に居たガイコツも恐い。今だってオジサンの事が恐くて仕方ない。でもね……馬鹿ではないんだよ。オジサンと違ってね!」
イェ~イ……言ってやったぜ! 戦えない俺に出来る最大の攻撃、それは皮肉だ!

「こ、このガキぃ!(ツルッ!)あ、あぁぁぁぁ………(ぐちゃ!)」
俺の皮肉が効果的だったらしく、激怒のあまり勢いよく立ち上がったムンク(親分ゴースト)……
だが目の前が落とし穴だと言う事を忘れてたらしい。

立ち上がったのと同じくらいの勢いで落ちて行く。
そして最後に鈍い音……
穴の底は暗くてよく見えないが、ガイコツ達の声が聞こえてくる。

「お、おい! 親分が落ちてきたぞ!」
「何だって!?」
「親分、大丈夫ですか!?」
「おい、返事しねーぞ……」
「ま、まさか……」
「親分がやられた! 逃げろー!!」

確かコイツ等は魔界でもはみ出し者だったと思う。
はみ出し者と言っても、弱いから仲間に入れて貰えず、弱い者同士で連み更なる弱い者を苛める馬鹿連中だ。
そんな連中でも親分と呼ばれる奴は、その中では一番強いのだろう。

その一番強い奴が()られたとなれば、手下共は恐くて逃げ出すしかないだろう。
元々人望があった訳でもないのだろうし、復讐心に燃えて襲ってくる奴は居ないはずだ。
居たら困るなぁ……

気が付くと目の前に信長(エリック)貞子(ソフィア)が現れていた。
貞子(ソフィア)の存在感にガチ泣きそうになったが、グッと堪えて奴等の反応を窺う。
すると……

「よくぞ目障りな連中を追い出してくれた、礼を言うぞ!」
信長(エリック)が偉そうな態度で礼を言ってくる……これって礼か?
「これで……静かに……寝れる……」
貞子(ソフィア)の方は小さい声で喜びを表してる……でも怖い。

確かこの後……と言うか、本来なら中庭(?)の墓の前まで俺達を連れて行き、そこでお礼して貰うんだったよね?
なのに今はまだ真っ暗な玉座の間。
中庭(?)に連れて行く気配無い……

「これでお二人とも静かに寝れますね」
ビアンカが和やかに話しかける……
すると二人は黙って消えてしまった。

イレギュラーなスドー君が居るから、幽霊チックな空中移動は無しなのか?
まぁ良い……あとはゴールドオーブを手に入れれば、此処でのイベントは終了だ。
だから松明をビアンカから受け取り、周囲を探してみました。

「あら、これは何かしら?」
すると原作同様ビアンカが何か(ゴールドオーブ)を発見し、俺に見せてくれる。
流石女性は光り物に目敏く反応する。

「何だろうね……凄くキレイだ」
何だか解ってるが惚ける俺ちゃん。
説明が面倒だからね。

「きっとオバケ退治のお礼よ! アルスの作戦で親分を倒したのだから、これはアルスが貰ってよ」
「え、でも……薬草とかはビアンカがお小遣いから出して買った物でしょ? これはビアンカが貰うべきじゃ……」
はい、勿論本心じゃありません。イベントアイテムなのだし、貰わない訳にはいかないのだけど……一応こう言っておかないとね!

「それは大丈夫よ。ここへ来るまでに何度か戦闘をしたでしょ……その時に敵が落としていったお金は全部貰っちゃってるから、親分を倒して貰ったこれはアルスが貰って良いのよ」
なるほど……確かに戦闘では何の役にもたってないし、(ゴールド)は全部ビアンカの物だろう。

「じゃぁ遠慮無く……」
申し訳なさそうにゴールドオーブを受け取り、完全に誰も居なくなったレヌール城から脱出する。
すると何時の間にか日が昇っており、爽やかな朝になっていた。

「拙い……私達が町を抜け出し、レヌール城まで来てた事がバレちゃうわ!」
あぁそうか……子供なんだし、勝手に町を抜け出しちゃ怒られるのか。
血相を変えたビアンカに続き、急いでアルカパまで戻る俺達。

まぁ間違いなく大人に叱られるだろう。
父さんにも怒られるだろう。
とても心配だが、今はそれどころではない。

スドー君の事を何て説明すれば良いのだろう?



 
 

 
後書き
アルス君の大活躍により、親分ゴーストは倒されました。
しかしながら、この倒し方でビアンカの好感度は上がるのでしょうか?
今後どうなる事やら…… 

 

第9話:後悔しても後の祭り

(アルカパ)

朝日が昇っても(モンスター)に襲われる事に変わりは無い。
まぁ行きと違って帰りにはスドー君という味方も出来たから、安心感は増大した。
しかし戦闘を行えば帰るのが遅れる。

即ちアルカパに辿り着いたのが完全に朝だと言う事。
早起き老人だけでなく、パンピーも目覚め活動しているという事ですよ。
そうなれば町の入り口で居眠りこいてた見張り兵士も、しっかり目覚めて仕事中なのです。

何が言いたいのかと言うと……バレた! そして怒られた!
更に言えばスドー君を見てビビられた!
純真無垢な美少年の涙ながらの訴えで、スドー君は俺のお友達と言う事に落ち着いたけど……

それでも子供だけで町を抜け出し、レヌール城攻略をしてきた事は怒られた。
小一時間も兵士に怒られた……そして解放されたら、町中が俺達の事を噂してましたよ。
誰だよ言いふらしたのは……折角一晩で解決し、父さんに気付かれない様にしようと思ってたのに!
まぁ……スドー君の説明に手間取るだろうけど。

ビアンカの家(宿屋)に戻れば、またお説教が待っているだろうと思い、先に悪ガキの下に行き、ベビパンを奪取しようと話しが纏まる。
説教時間を減らさせる為、幼気(いたいけ)な子供と小動物の可愛さを武器に使用と思ってます。


そんな訳で、原作同様に池の中央の小島へ赴く俺達。
其処には悪ガキが驚いた様な顔して待っていた。
……あぁ、スドー君を見て本当に驚いてんだ。

「お、お前達スゲーな……」
「あぁ本当にレヌール城のオバケを退治してくるなんて……」
ご都合主義なのか噂の広がりが異常に早い。

「そんな事は良いから、約束通り猫さんを渡してよ!」
「あ゛ぁ!?」
俺の言い方が気に入らなかったのか、脅す様な口調で問い返す悪ガキ……コイツ等約束を守らないつもりか!?

「ふん……まぁいい。お前等も頑張ったみたいだし、この猫をやるよ!」
カチンとくる言い方をするガキだ。約束を守りベビパンを手放したが、言い方に腹が立つ。
どんな教育を受けてきたんだ!?
ここは一つ、このイケメン知将様がお得意の方法で懲らしめてやろう。つまり口先戦術ね!

「良かったね猫さん!」
「さぁこんな奴等から離れて、あっちに行きましょう猫ちゃん」
俺もビアンカもベビパンを撫でながら、この場を離れようと踵を返す。

だが俺は悪ガキ共から離れずに、ベビパンを抱き上げ宣います。
「でも変な猫だよね。僕本で読んだ事があるんだけど……この子は猫じゃないよ。地獄の殺し屋と呼ばれてる『キラーパンサー』の子供『ベビーパンサー』だよ!」

ベビパンを抱えながらチラリと後ろを振り返る。
悪ガキ共は目玉が飛びでそうな程驚いてる(笑)
よしよし……その調子でもっと驚け。

「きっとまだ子供だから、相手が子供とは言え人間2人を相手に勝てなかったんだね。まぁあと数ヶ月もすれば、この子も成長し人間の子供2人くらいはペロリと平らげちゃうだろうね。何せキラーパンサーってのは頭が良いから、何時までも苛められた事は憶えているらしいから……」

悪ガキ共は俺(ベビパン)と相方を交互に見て動揺している。
いい気味だ……報酬の前払いに応じていれば、俺もここまでしなかったのに。
だが、まだ終わらんよ!

「さぁ猫さん。これからは僕の家で一緒に暮らそうね! 僕の住んでる場所はね、このアルカパより東のサンタローズって村なんだ。子供の足じゃ時間かかる距離だけど、君の足だったら1時間で行ける距離なんだよ」

悪ガキ共はオシッコ漏らしそうな程怯えてる。
俺が抱いてたベビパンを降ろし手を放すと、ビクッとして身構える程だ。
勿論これは脅しだから、ベビパンには人間を襲わない様に教育していかねばならない。

だが、これに懲りて弱い者イジメはしないだろう。
それに俺は奴隷生活を回避するつもりだから、ちょくちょくアルパカには訪れるだろう。
勿論その時は成長した元ベビパンが一緒だから、連中も今日の教訓を忘れないと思う。

「そうだ……何時までも猫ちゃんて呼ぶのは可哀想よね。私達でこの子にも名前を付けてあげましょうよ!」
悪ガキから離れた所で、原作通りにビアンカが名付けイベントを発生させてきた。
あんまりビアンカの名付けセンスは当てにしたくないのだが、未来への予行練習だと思い付き合う事にする。

「じゃぁ私が幾つか名前を上げるから、アルスが良いと思ったのに決めてね……先ずは『ボロンゴ』ってのはどう?」
「ねぇビアンカ……申し訳ないけど、この子女の子だよ。せめてもっと可愛らしい名前を候補に上げてよ……」

さっき抱き上げた時にチェックした。
名付けイベントがある事は憶えてたし、万が一にも一方的な名付けにはしたくなかったから、チェックしておいた。

「あら……女の子なの。じゃぁ……『チロル』ってのはどう?」
まぁあまり文句ばかり言ってても仕方ないし、チロルってのは可愛い名前だから、もうそれで決定しちゃおう。

「うん。チロルっての良いね! この子可愛いからピッタリだと思う、流石ビアンカだね……凄くセンスが良い! だから僕ビアンカが好きなんだ」
残りの選択肢を聞くのが面倒になり、手近なチロルで妥協する。
ついでにビアンカへのゴマスリを行い、冒険中のヘタレな俺のイメージを払拭する。

「あ、ありがと……」
あれ……何か引いてない?
俺が歯の浮く様な台詞を吐いちゃダメなのかしら?

釈然としない気分のままチロルの肉球を堪能していると、視界の隅に父さんの姿を捉える。
勿論一緒にビアママも居る。
何時まで経っても帰ってこない俺達に痺れを切らし、あちらさんから探しに来てくれたみたいだ。
愛されてるって嬉しいけど……今回はお説教とセットだから、ちょっぴし逃げ出したいね。

「ビアンカ……危ないじゃない子供だけで町から出ちゃ!」
「そうだぞアルス! 怪我でもしたらどうするつもりなんだ!? お前はサンタローズの洞窟で大怪我をしたのだから、その怖さを知っているはずだろう!」
予想通りの説教導入部だ……でも大丈夫、きっと巧く切り抜けられるさ!

「ご、ごめんなさいお母さん……「お父さん、おばさん……ビアンカを叱らないで! 僕が悪いんです……この猫さんが苛められてて、どうしても助けたかったから我が儘を言っちゃたんです!」
チロル(ベビパン)を見つけたのも、オバケ退治のムチャ振りを受けたのも、本当はビアンカなんだけど、ここは庇う事で好感度アップを目指します。

「この子(ベビパン)を助ける為には、レヌール城へ行ってオバケを退治しなきゃいけなかったんだ。でも僕ら子供だけじゃ町の外には出られないし、オバケも夜しか現れないし……いけない事だと解ってたけど、夜中にコッソリ出て行くしかなかったんだ! おばさん……ビアンカを巻き込んでごめんなさい。でも僕一人じゃ恐くて何も出来ないし……ビアンカが居てくれなかったら、この子(ベビパン)は助けられなかった。弱虫な僕はビアンカの優しいさに甘えちゃったんです……本当にごめんなさい」

チロルの可愛さと俺の健気さを合わせ、涙目で見詰め謝れば大抵の大人はイチコロだろう。
元に父さんもビアママも怯んでおり、説教を続ける事が出来ない。
このままひたすら『僕が悪いの、ごめんなさい!』を突き通せば、万事解決しそうな予感大!

「う、うむ……そう言う事なら仕方ないか……以後は無茶な事をするんじゃないぞ! ところで……そっちの石像は何なんだ?」
予定通り少しの説教で終了したが、これまた予定道理にスドー君の事を聞かれた。
まぁ嘘言っても意味は無いし、真実を語れば大丈夫だろう。

「うん。あのね、この子は“スドー君”って言って、僕達がレヌール城で困っていたら助けてくれたんだよ! でね……僕の大切な友達なんだけど……一緒にサンタローズへ帰っちゃダメかな?」
先ず嬉しそうに“友達”であることを強調し、恩人である事もアピールする。そして上目遣いで連れ帰りを嘆願し、俺の戦力へ組み込みます。

「ほう……お前の事を手助けしたのか……うむ、危険な様子は無さそうだし良かろう」
よし! これで戦えなくても冒険する事が出来る様になった!
戦闘はチロルとスドー君に任せ、俺は今後の事を考えるのに専念出来る。

俺が喜びの為チロルとスドー君に抱き付いてると、とても小さな声で父さんが呟いた。
「モンスターと仲良くなれるとは……まるでマーサの様だな」と……
きっと他の人には聞き取れてない。パパス(父さん)が何かを言った事は気付いても、言ったない様までは聞き取れてない。

俺も原作知識で知ってなければ、何を言ったのかは解らなかっただろう。
この調子で仲間を増やし、俺自らが戦わなくても良い状況を作り上げよう!
俺は頭脳労働専門なのだ。



 
 

 
後書き
全然戦闘してないけど、アルス君て今レベルどのくらいなんだろう?
ゲームだったらパパスが敵を倒したときでも経験値が入り、多少のレベルアップはするのだろうけど……
コイツ、実質0匹だからなぁ……倒したモンスターの数。 

 

プレイバック Part.1 その1

 
前書き
この「プレイバック」編は、此処までの別視点物語です。
簡単に言えば、サンタローズの洞窟で大怪我し「ビアンカの為に……」を連呼してたアルスは、ビアンカからしたらどう見られていたかを書いてます。

今後もチョイチョイ「プレイバック」シリーズを入れていきますのでヨロシクちゃ~ん! 

 
ビアンカの視点
(サンタローズ)

昨晩は運良く、パパスおじ様の帰宅に遭遇した。
お父さんの病気を治す薬を買いに来たのだが、何時もより時間がかかった為、偶然立ち会うことが出来た。
あのエロガキだったアルスも、2年ぶりに帰ってきた……随分と疲れ切ってたから以前(まえ)の様にベタベタしてこなかったけど、私のことを忘れちゃってるのかな?

まぁあの子に忘れられてても問題ないから構わないけど、パパスおじ様が一瞬判ってくれなかったのはショックだわ。
でもその後で、『美人になってたから判らなかったよ』って言ってくれたの♥
おじ様に美人って言われて凄く嬉しいわ!






昼前にアルスが私とお母さんの泊まる宿屋に遊びに来ました。
アルスの言い分では、昨晩は疲れ切っててちゃんと挨拶出来なかったから、日を改めてやって来たらしい。
その際、私に抱き付きベタベタする……2年前と変わってないわ。

2年間もパパスおじ様と冒険に出てたのだから、もう少し男らしく変わってると期待してたのだけど……
オッパイやらお尻を触ってくるエロガキぶりは未だ健在だ。
この子に男らしさを求めちゃダメなのかしら?

「僕ね……ビアンカの事が大好きなの♥ 大きくなったらね……ビアンカと結婚するのー♥」
だが彼は男らしさ云々より、トンデモない発言をしてきた。
私と結婚!? だったらもっと頼りがいのある男になって貰わねば……

「おやおや、良かったねぇビアンカ……可愛い弟が出来て。ところでアルス、パパスは……お父さんは今何してるんだい?」
顔に出てたのかもしれない……お母さんは私が嫌がってると気付いたのだろう。
“弟”と言って有耶無耶にし、この話を打ち切る様に逸らしてくれた。

「うん。お父さんはね、朝早くから何処かにお出かけしちゃったみたいだよ。何か用があるみたい……」
「そうかい……時間があれば洞窟に道具屋の主人を探しに行って貰いたかったんだけどねぇ……」
そうなのだ……道具屋のオジサンが帰ってこず、予定を3日も過ぎている。

「……ビアンカは、その道具屋のオジサンが居ないと困っちゃうの?」
アルスは私にキスでもしそうな程顔を近付けて、私の心配をする。
この子は大人しくしていれば凄く可愛い子なのだ……エロガキで無ければ問題ないのに。

「うん……私のお父さんが病気でね、お薬がないと困っちゃうのよ」
「じゃぁ僕、お父さんを探してお願いしてくるね!」
私が顔を背けながら困り事を告げると、元気よく私から離れパパスおじ様を探してくれると宣言する。
色んな意味で助かるわぁ~……





サンタローズの村が大騒ぎだ。
何があったのかというと、アルスが一人で洞窟に入り込み、大怪我をして帰ってきたのだ!
どうやら道具屋のオジサンを探してくれたみたいで、オジサンに抱かれながら帰ってきた。

助けに行った相手に助けられるってどうなの?
自分の実力を把握出来てないのって危険じゃ無いの?
何でパパスおじ様に頼まなかったのよ……私達はそれをお願いしたのに!

とは言え、少なくとも原因の一部を担ってる私達は、慌ててアルスの下へ駆け付ける。
すると彼は血だらけでパパスおじ様に抱っこされていた。
その際懸命に「ビアンカが困ってたから……」とか「どうしてもビアンカの力になりたかったから……」とか訴えてます。

冗談では無い。
“余計なことを!”とは言わないが、最初からパパスおじ様への取り成しを頼んだのだから、勝手に洞窟入って大怪我こさえて、それを私の所為みたいに言うのは止めて欲しい。

道具屋のオジサンも帰ってきたし、これで明日には薬を手に入れられるから、助かったと言えば助かったことなんだけど……
同じくらいの迷惑を被ったことも事実だろう。

パパスおじ様がアルスの怪我をホイミで治し、安心感からか気絶してしまったので、そのまま彼は自宅へと連れ帰られた。
私達も宿屋へ戻ります。

その際にお母さんが言ってたわ……
「助かったのだけど……あの子には下手なことが言えないねぇ……」
はぁ~……溜息が出ちゃう。





夜が明け、朝一番で道具屋のオジサンが薬を届けてくれた。
お母さんは勿論お金を払おうとしたのだけど……
「いやぁ~……今回は随分と遅れちまったから、お代は結構です。その代わりなんですが、アルスボウヤに優しくしてやってくれ。あの子が居なかったらワシはあの場で死んでいたかもしれないのでな……ビアンカ嬢ちゃんの為と言って、アンタ等を困らせてたけど、どうか許してやってほしい」

お母さんは「勿論! あの子には感謝しきれないさ!」と居てったけど、私としては了承しかねる。
昨晩は村の人達に“あんな小さな子供に危険なことをさせて……”的なムードで見られ続けたのだ。
頼んでも無いのに勝手に大怪我されて、その責任を押しつけられるのは困る。
お母さんが感謝してると宣言しちゃってるから、私も口に出しては言わないが……

あの子は見た目だけは凄く可愛いから、大人達の受けが良いんだ。
本人もその事を意識してるらしく、常に手鏡で自分の容姿を確認している。
所謂ナルシストってやつだ! 私は……嫌だなぁ……

さて薬も手に入り、やっとアルカパに帰ることが出来る。
不本意ながら騒動を起こさせてしまったので、アルスの居るパパスおじ様の家にご挨拶に行きます。
朝早いから、あの子が寝ててくれると助かるんだけどなぁ……



だけど世の中巧く行かないの。
尋ねた時は寝てたんだけど、大人が会話をしてる最中に起きて来ちゃった……
でも気まずい感じで居るのはパパスおじ様に失礼だから、「アルスおはよう。昨日はありがとうね」って声をかけたんです。

せめてこれくらいは言わないと……
実際私の為に大怪我をしたのだからね。
本当はこれで当分のお別れのはずだったのに……

「アルス……今朝早くに薬が届いた為、ビアンカ達はこれからアルカパに帰るのだが……女性2人だけでの道中は何かと危ない。送って行こうと思うから、お前も来なさい」
ってパパスおじ様が提案してきたの!

おじ様ダメよ……それは迷惑よ!
だってこの子、足手纏いでしょ!?
おじ様だけで送ってくださるのなら、嬉しくて空を飛んでしまいそうになるけど、この子を連れて行くのは……





(アルカパ)

何とかアルカパに戻って来れた私達……
道中、アルスが妙な行動を取り大怪我をするんじゃ無いかと不安でいっぱいでした。
だから勝手に動かない様に、私がずっと手を握り行動を制限してました。

でも、それはそれで嫌だったわ……
あの子は私の手の感触を満喫するんです。
親指で私の手の甲を撫でたり、手を放した時に匂いをかいだり……

この子……私に対する執着心が気持ち悪い。
それとも美少年に好かれているのだから、女としては喜ぶべきなの?
家に着いて手を放して清々したわ。

でも……お父さんのお見舞いをしてくれてる時、病気が感染(うつ)らない様にとアルスだけ遠ざけたのだけど、その間ずっと私のお尻を眺めてるの。
どんだけエロいのよ……そのうち私、押し倒されるんじゃないの!?

「アルス……暇だったらアルカパの町を見学してきなさい。町の外に出ないのであれば、自由にしてて構わないから」
私のお尻にかぶり付きそうだった彼に、パパスおじ様が町への外出を許可する。

正直助かったわ。
流石おじ様よ……私のピンチを見捨てない。
でもね……身内が私を地獄へ落とすとは思わなかったわ。

「ほらビアンカも一緒に行っておやり。アルスが迷子にでもなったら大変だからね」
確かにこの子を一人で行かせたら、どんな騒動を巻き起こすか判ったモンじゃない。
判断としては正しいのだけど、私が付きっきりで面倒見なければならないのには憤りを感じる。



渋々だがアルスの手を引いてアルカパの町を案内する私。
何て優しいんだろ、私。何て良い子なんだろう、私。
そんな事を考えながら町を歩いていると、私の視界に無視出来ない事件が映り込んできた。

町の南にある公園……そこの池の中央に島があるのだが、そこで知り合いの悪ガキ共が奇妙な猫を苛め遊んでいた。
コイツ等は何時も碌でもない事ばかりして遊んでいる。
今日もそうだ……猫を苛めて遊ぶなんて許せないわ!

「ちょっとあなた達! その猫ちゃんが可哀想でしょ……今すぐ放してあげなさい!」
「な、何だよビアンカ……コイツ面白い声で泣くんだよ。ビアンカも一緒に遊ぼうぜ!」
確かに随分と変な声でなく猫ではあるけれど、それを理由に苛めて良い訳ではない。
何とかしてコイツ等から猫を取り上げないと!

「いじめちゃ可哀想だよ……その猫さんを放してあげてよ」
どうするかを悩んでいたら、アルスも猫を放す様訴えてきた。
解ってるじゃない……弱い者イジメなんてダメだって事を!

「何だよチビ! うるせーんだよ……俺達が何をしようが勝手だろ!」
「勝手じゃないわよ、弱い者イジメをするなんて最低よ! 今すぐ猫ちゃんを放してあげなさい!」
こんな小さな子にも解る事を、大きなお兄ちゃんがするべきではないわ!

「じゃ、じゃぁレヌール城のオバケを退治して来いよ……そうしたらこの猫をあげるよ」
しかし2人も後には引けないらしく、身勝手な交換条件を突きつけてきた。
ムリよ……レヌール城のオバケは、この辺では有名で凄く恐い存在なのよ。
それを子供だけで退治するなんて……

「分かったよ……レヌール城のオバケを退治してくれば良いんだね。でもその間、猫さんはどうするの? また苛めるんだったらダメだよ。絶対にオバケは退治してくるから、先に猫さんを放してあげてよ!」
私がオバケの存在に怯んでいると、アルスが勝手に話を進めて行く。

どうしてこの子はオバケ退治を了承出来るの?
私より弱いのに……町の外でモンスターを見かけただけで、凄く怯える程臆病なのに、どうして簡単にオバケ退治を引き受けちゃってるの!?

(ポカリ!)
「うるせー、お前等のオバケ退治が先だ! 出来もしない条件に、何で俺達が従わなきゃならないんだ!? いいから黙ってあっち行け馬鹿チビ!」
「うわぁ~ん!!!!」

事態について行けず困惑していると、猫の解放をしつこく迫ったアルスが、イジメっ子の一人に頭を殴られ大泣きする。
こんなにも弱い子なのに、猫さんを助ける為自らを犠牲に出来る意思を持ってるんだ……

だがらサンタローズでも無茶をして……実際大怪我までして洞窟に入り、道具屋のオジサンを助けに行ってくれたんだ。
私は少し誤解してたのかもしれない……この子は弱いけれど、臆病ではない。何かの目的があれば、凄い勇気が沸き起こってくる。

「アルス、もう泣かないで。私と一緒にレヌール城のオバケを退治しに行きましょう」
大泣きするアルスの頭を撫で、私も決意する。
あの猫を助け出す為に、今夜レヌール城へ行きオバケを退治してみせる!

「良いあなた達! 絶対に猫ちゃんを苛めてはダメよ! 私達は直ぐにでもオバケを退治してくるのだから、その間は優しく世話しなさいよ!」
「うるせー早く行けよブスビアンカ!」
私は念を押し猫の安全を約束させる……が、ムカツク暴言で返された。

「ビアンカはブスじゃない! 謝れ馬鹿デブ!」
だけど泣いていたアルスが反論。
「なんだと馬鹿チビ!?」
でも体格が大きい相手の威嚇に、ビクッと身を縮めている。

「わっはっはっはっはっ……ビビってやんのこのガキ。こんな臆病者にオバケ退治が出来る訳ねーよ」
確かにその不安は大きいが、それでも私はアルスに掛けてみようと思う。
恐くても猫の為に決意出来るその勇気に……
恐くても私への侮辱を許さない心意気に……



 
 

 
後書き
私は思う。
エロさは立派な男らしさだと! 

 

プレイバック Part.1 その2

ビアンカの視点
(レヌール城)

はぁ~……
この子の勇気に……心意気に希望を託したのだけど、ここ(レヌール城)へ着くまでの間に後悔へと変わってた。
私が冒険に必要な物を、買ったり家で見つけ出したりして揃えたのに、いざ町の外へ出たらガクガク震えて頼りにならない。

唯一、私が何も考えず近道の森を通過しようとした時だけ、視界の悪い場所は危険だからと言って、安全ルートを提示してきた事だけが頼りになると思えた時だった。
ただ……途中で『帰ろう』と言わないのだけは評価出来るわね。

まぁ流石に私もレヌール城の威圧感に気圧されたけども、アルスの手前それは見せられない。
足早に正面入り口等を調べ、入れる箇所を見つけ出そうと動き回る。
幸い直ぐに入り込む箇所は見つかった。
裏手にあるハシゴを登り、最上階からの侵入だ。

先に進む私に遅れまいと慌てて付いてくるアルスの姿は可愛かった。
だが、それは長続きしないもので……
城内へ入った途端、入り口が閉まってしまい閉じ込められたのだが、その時の音に驚いたアルスが、事もあろうか私のスカートの中に隠れようとしたのだ!

あまりの出来事に最初は為す術がなかったんだけど、彼を殴りつける事により何とか事態を収拾出来た。
ハッキリ言って信じられない!
いくら恐いからと言って私のスカートに隠れるなんて……己のエッチな心を満たす為、ワザと起こした行動だと私は思ってる。

「こ、こんな所に何時まで居ても仕方ないわ……猫ちゃんを助ける為にサッサとオバケを退治しなきゃ!」
今後も何かある度に怖がってるフリをしてスカートに隠れられては堪らないので、私はアルスから距離を置こうと考える。

その為、彼を置いていくかの様に先へ進もうとする私。
だが、それが失敗だったのかもしれない……
突如周囲が暗くなり、四方からガイコツが襲いかかってきて、私を何処かへ連れ去って行く!

気が付けば狭く光の存在しない場所に閉じ込められていた。
何とか事態を改善しようと、闇の中で動いてみるが……
身体を動かすのも困難な程狭い場所の為、私の力では何も出来ない。

恐怖と不安から涙が出てきそうだったが、それを何とか堪え身体を動かして抵抗してみせる。
何時か何らかの隙間が出来るかもしれない……
そんな希望に縋って私は闇からの脱出に身を藻掻かせる。

どのくらい藻掻いてたのか解らない……
突如頭の上で重い何かが動かされる音が聞こえてきた。
極度の不安と恐怖で泣きそうだったけど、そんな弱いとこを見せる訳にはいかないから、何とか堪えて頭上を睨み付けている。

するとそこには……今にも泣きそうなアルスの可愛い顔が!
安心と喜びから彼に話しかけようとしたのだが、その隣に奇妙な物体を発見し私は言葉を飲み込んでしまう。

「ア、アルスの……友達?」
何というか……土偶の様な……ハニワの様な……奇妙な物体を見て、とても間抜けな質問をしてしまう私。
さっきまでの恐怖感は全て吹き飛んでしまったわ。

「え~と……ビアンカを助ける為に墓石を一緒に押してくれたんだ……」
どうやらアルスも困ってるのだろう。
些か戸惑い気味に隣の変な奴の事を話してくれる。

「あの……僕達これからこの城に居るオバケを退治するんだけど……一緒に行く? 君の仲間かもしれないけど、オバケ退治を手伝ってくれる?」
どうやら今し方から付き纏ってきたらしく、アルスも怯えながら話しかけている。

(ズズズ!)
すると動く石像はアルスに間合いを詰めてきた。
でも攻撃するとか、襲いかかるとか、そんな感じではなく、何となく自己表現みたいな感じに思える。
多分イエスの合図なのだろう……

「じゃぁ私達は友達ね。よろしく、私はビアンカよ! そしてこの子がアルス」
助けてくれたのだし、敵意は感じられないのだし、お友達が多いのは良い事なので、私は元気に自己紹介を済ませる。

するとコイツは視線だけを私に向けてアルスへと詰め寄った。
何だろうかコイツ? あまり私には懐いてない感じがするわ……
もしかして……コイツはメス? 見た目だけは可愛いアルスに気があるのかしら?

参ったわね……私は恋のライバルじゃないのに……
どうにかして恋敵的ポジションから逃れないと……
う~ん……そうだ!

「ところでこの子……名前は何て言うの?」
「え、知らないよ」
それはそうだろう。喋れないみたいだし、名前があるのかも疑問だ。

「でも友達になったのに名前が無いんじゃ呼ぶ時に不便よね……考えてあげましょうよ!」
「う、うん……ビアンカには何か良い名前があるの?」
あるわよ。良い名前を付けて、私は敵ではないと印象づける、名前があるわよ!

「そうねぇ……石のお人形だから“ストーンドール”ってのはどう!?」
絶対に見た目からして、そんな格好いい名前は似合わないんだけど、私は味方である事を示す為に、媚を売る様な名前を提案する。

「それだと長すぎだよ」
そんな事はどうでも良いのよ!
「何よ……じゃぁアルスには何か良い案があるの!?」
変な名前で私に敵意を向けさせないでよ

「じゃぁ“ストーンドール”を略して“スドー君”ってのはどうかな?」
“スドー君”かぁ……男の子っぽい名前に聞こえるけど、下手に女の子である可能性を示唆しても、話がややこしくなりそうだし、アルスが命名したのならコイツも納得しそうだから、あえて反論しなくても良いか。

「へー良いじゃないスドー君って! あなたはスドー君と呼ばれるのでも良いかしら?」
一応確認しては見るが……怒ってる様子は見当たらない。
それどころか、何となくだが頬を染めてアルスに寄り添ってる様に見える。

「どうやら気に入ってくれたみたいよ。良かったわねアルス」
本当に良かったわ。
これで私が恨まれる事はなくなりそうだし……



暫く城内を捜索していると、図書室の様な場所で女の幽霊に遭遇する。
その姿があまりにも恨みがましく恐ろしかったので、取り敢えず臨戦態勢で挑んでみる。
しかしアルスは危険がないと言い切り、その幽霊が導くままに進んで行く。

渋々付いて行くと王様達のお部屋みたいな場所に連れてこられた。
そこではさっきの幽霊が、か細い声で何かを訴えてくる……
あまりにも聞き取りづらく内容を把握出来ない。

聞き返そうにも幽霊の表情(前髪で顔を半分隠してる感じ)が恐く、何度も聞き返せないし、近付いて声をハッキリ聞こうとも思えない。
兎も角恐いから此処から早く立ち去りたいわ……



今度は王様らしき幽霊に遭遇する……と言っても、私は最初気付かなくって、アルスの言葉を信じて付いていっただけなんだけど。
ただ、こっちの幽霊は見た目の怖さはなかったわ。
でも一方的で不愉快な人物(幽霊)であることは間違いない。

女の幽霊とは違う理由で会話が成り立たない為、これまた早々にコイツの側から離れオバケ退治に没頭する私達。
それに会話こそ成り立ってないが、王様幽霊は色々とヒントをくれたので、それに従って行動する事が出来た。

つまり、一旦地下へ行き松明を見つけたら、それを使って真っ暗闇な4階で、オバケの親玉を退治するって事!
明確な目的さえあれば、物事の解決なんて簡単よ!
私達は軽くなった足取り(スドー君は“ズズズ”と引き摺ってるが)でボスの所へ辿り着きました。

「ふぇふぇふぇ……こんな夜更けに人間の子供が何用かな?」
「ぼ、僕達はこの城で悪さをするオバケを退治しに来たんだ!」
見た目がガイコツみたいな骨と皮だけのオバケに、大分怯えながらアルスが律儀に答えてる。

「ふぇふぇふぇ……随分と勇ましい子供だのぅ……どれ、ワシがお前等にご馳走してやろう。もうちょっと近くに来るといい」
「いえ、遠慮します。知らない人から物を貰っちゃダメって言われてますから」
確かにそうだが、今はそう言う事を言ってる場合じゃないと思う。

「ふぇふぇふぇ……何じゃ、ワシが恐いのか? 臆病なガキ共じゃ!」
「な!? こ、恐くなんて無「はい、とっても恐いです。特に顔が!」
今の私には恐い物なんて存在しなくなっている。それなのに予想外の侮辱を受け反論しようとしたのに、アルスが怯えながら遮り勝手に怯えてる事を認めてしまう。

「ちょっとアルス! 私は恐くなんてないわよ!」
アルスはそうかもしれないけど、私は恐くなんてない!
「ビアンカは黙ってて! アレを恐くないって、感覚おかしいよ!」
だがアルスからの反論は、更に私を侮辱する様な内容で怒りが増してきた。

何かを言い返そうと思いアルスを睨み付けていたのだが、突如剣を手にすると床をコンコン叩いて歩き回ってる。
オバケのボスは何かを言っているのだけど、アルスはそれを気にする事なく、不思議な作業を続けてる。
疑問に思いながらもアルスの後に付いていきながら、辿り着いた先はボスの真横だった。

まるで何かを避ける様な感じにボスの側までやって来たアルス。
そんな彼を見たボスは「え、えぇ~い……礼儀を知らぬガキ共じゃ! 目上の者に対し横から話しかけるとは何事じゃ! しょ、正面に回って話しかけよ!」と言って怒ってる。

「ヤダよ……だって落とし穴に落ちたくないモン!」
だがアルスは突然奇妙な事を言い出した。
落とし穴……? 何のことを言ってるのだろう?

「な、な、な、何を言ってる……お、落とし穴なんて此処にはないよぉ!」
アルスの言葉にあからさまに動揺するボス。
「でもコレ……スイッチでしょ?」
そしてボスの事を無視する様に、手摺りのスイッチを押すアルス。

「ほら……スイッチ押した途端、落とし穴が開いたよ。あなたの正面に居たら、僕達は落とし穴に落ちてたよ。こんな間抜けな罠に引っかかる奴居ると思ってたの?」
「何故だ……何故この落とし穴の存在を知っていた!?」
そうだ……何故だ!? 何でアルスはそんな事を知っているのだろうか?

「僕達はここへ来る前に、地下の台所に行ったんだ。其処ではガイコツ達が大きなお皿に料理の準備をしていた……とても普通の食材が乗るとは思えない。で、食材は人間……それも子供だろうと考えたんだ」
「だ、だが……それと落とし穴と何の関係がある!?」

「オジサン馬鹿だろ! あの大皿の位置は、オジサンが座ってる玉座の前の真上なんだよ! オバケ達に怯えていても、僕は周囲の状況をちゃんと見ているんだ! オジサンが今にも押したくて手すりのスイッチを撫でてたのも、ちゃんと見てたんだよ!」

凄いわ……この子は戦う事だけ出来ないけれど、それ以外の事には頭が回る凄い子なのね!
そう言えば森を抜けず安全なルートを提示したのもこの子だし、頭は良い子なのかもしれないわ。
だからこそ戦闘が恐く感じるのよ。

「くっ……」
作戦を見破られたボスは、悔しそうにスイッチを押す予定だった指を睨み付けている。
こんな小さな子供に見破られたのだから、相当にショックなんだろう。

「僕はオジサンと違って臆病なんだ。オバケは恐いし、地下に居たガイコツも恐い。今だってオジサンの事が恐くて仕方ない。でもね……馬鹿ではないんだよ。オジサンと違ってね!」

更なる嫌味で精神的ダメージを増大させるアルス。
うん。コレが目的でさっき私に対して失礼な事を言ったのなら、今回は許してあげようと思います。
だっていい気味だし!

「こ、このガキぃ!(ツルッ!)あ、あぁぁぁぁ………(ぐちゃ!)」
勿論激怒したのはオバケのボス……
怒りにまかせて立ち上がると、暗くて見えなかったのか自らの落とし穴に落ちて行く……

「お、おい! 親分が落ちてきたぞ!」
「何だって!?」
「親分、大丈夫ですか!?」
「おい、返事しねーぞ……」
「ま、まさか……」
「親分がやられた! 逃げろー!!」





(アルカパ)

全てが無事片付き、私達はスドー君を引き連れ町まで帰ってきた。
しかし朝日が既に昇っており、人々もその日の生活を開始していた。
当然だが入り口の兵士さんも働いており、私達は夜に外へ出て危ない事をしていたのがバレてしまいました。

アルスも戦闘を頑張ってくれれば、もっと早く帰ってくる事が出来ただろうけど……
まぁアルスのお陰でオバケのボスを簡単に倒せたから、その事は言わないでおきます。
結局、一番美味しいとこを持ってったのはアルスだからね。

ある程度お説教が終わった所で、直ぐに猫さんの下へ向かいます。
と言うのも、一旦家に帰ったら絶対にお母さんとパパスおじ様のお説教が待ってると思うの。
この点はアルスと意見が合いました。
だから時間を無駄にしない為、先に猫さんを救出し目的を達成させようと思います。

「お、お前達スゲーな……」
「あぁ本当にレヌール城のオバケを退治してくるなんて……」
例の小島には、悪ガキ二人が猫さんを連れて待ってました。
まさか本当にオバケを退治出来るとは思っておらず、心底驚いて居るみたい。

「そんな事は良いから、約束通り猫さんを渡してよ!」
目的を早く達成したいアルスは、些か焦り気味に猫さんを渡す様訴えます。
気持ちは解るけど落ち着いてほしいわ……

「あ゛ぁ!?」
だけど悪ガキには、アルスの言い方が気に入らなかったらしく、怒りを露わに威嚇してきます。
だけどその瞬間、僅かにスドー君が彼らを威嚇する様な動きをして牽制します。

「ふん……まぁいい。お前等も頑張ったみたいだし、この猫をやるよ!」
どうやらスドー君の威嚇に気付いた様で、動揺しながら猫さんを私達に渡してきました。
猫さんしか見てなかったアルスは気付いてないでしょうけど、完全にアルスの虜になってるスドー君です。

「良かったね猫さん!」
「さぁこんな奴等から離れて、あっちに行きましょう猫ちゃん」
猫さんを助け出したアルスは凄く嬉しそうだ。
私も勿論嬉しいが、スドー君が問題を起こす前に彼らから離れた方が賢明だと思い、アルスを家まで連れて行こうとしました……でも、

「でも変な猫だよね。僕本で読んだ事があるんだけど……この子は猫じゃないよ。地獄の殺し屋と呼ばれてる『キラーパンサー』の子供『ベビーパンサー』だよ!」
と言って猫さんの正体を暴露しました!
え、嘘!? その猫さん……そんなに危険な存在なの!?

「きっとまだ子供だから、相手が子供とは言え人間2人を相手に勝てなかったんだね。まぁあと数ヶ月もすれば、この子も成長し人間の子供2人くらいはペロリと平らげちゃうだろうね。何せキラーパンサーってのは頭が良いから、何時までも苛められた事は憶えているらしいから……」

ちょっと……私達は大丈夫なの!?
確かに苛めてないけど、野生の本能に従って襲われたりしないの?
アルスは安心しきってるし、大丈夫って事よね……?

「さぁ猫さん。これからは僕の家で一緒に暮らそうね! 僕の住んでる場所はね、このアルカパより東のサンタローズって村なんだ。子供の足じゃ時間かかる距離だけど、君の足だったら1時間で行ける距離なんだよ」

アルスは猫さんから手を放す……
だが私の事は勿論、悪ガキ共の事も襲いそうな素振りは見られない。
スドー君の様にアルスの後を嬉しそうに付いて行く……

どうやらアルスはモンスターに好かれる素質を持っている様だ……
と言う事はアルスと仲良くし、尚且つ猫さんとも仲良くなる必要があるだろう。
間違っても襲われない様に……好かれておく必要が大いにあるだろう!
どうするか……どうすれば好かれるだろうか……?
そうだ!

「そうだ……何時までも猫ちゃんて呼ぶのは可哀想よね。私達でこの子にも名前を付けてあげましょうよ!」
とっても素敵な名前を付けて、私が良い子だというのをアピールしよう!
スドー君でも成功した方法だ……きっと大丈夫よ。

「じゃぁ私が幾つか名前を上げるから、アルスが良いと思ったのに決めてね……先ずは『ボロンゴ』ってのはどう?」
スドー君の時と同じように、私が提案をしてアルスがそれに修正を加える……
完璧ね。

「ねぇビアンカ……申し訳ないけど、この子女の子だよ。せめてもっと可愛らしい名前を候補に上げてよ……」
しくじった!
今回はスドー君とは違い、男女の区別が付きやすく、アルスにダメ出しをされてしまった。

チラリと猫さんを見ると、どことなく怒りが籠もってる様に見えてくる。
ちょっと……そんなに牙を剥かないでよ!
私は敵ではないのよ……

「あら……女の子なの。じゃぁ……『チロル』ってのはどう?」
慌てて代わりの名前を提示する。
我ながらチロルは良いと思う。咄嗟に思いついたにしては良い名前だと本当に思う!

「うん。チロルっての良いね! この子可愛いからピッタリだと思う、流石ビアンカだね……凄くセンスが良い! だから僕ビアンカが好きなんだ」
しかもアルスが賛成してくれた。チロルを見ると、アルスの賛成に上機嫌だ!

「あ、ありがと……」
ホッとしたわ……本当に良かったわ。
この後、お母さんとパパスおじ様が私達を迎えに来たのだけど、安心感が大きくて殆ど何も憶えて無い。

ただ、お説教がそれ程長くなかった事と、アルスとパパスおじ様は即日出立してしまった事だけ。



 
 

 
後書き
次話からまたアルス視点再会です。
暫く話が進んだら、またプレイバックシリーズで誰かの視点を書きたいと思います。 

 

第10話:未来は常に予定外!?

(サンタローズ)

父さんのスパルタ再発!
夜通しオバケ退治を行っていた俺に対し、“今後も冒険を続けるのなら、このくらい出来なければならない!”的な感じで、即日アルカパを出立しました。

もう一泊し、完全に英気を養えると思ってた俺には完全に予定外です。
眠い目を擦りながらサンタローズまでの険しい道(俺ちゃん的に)を歩き帰宅します。
お陰で朝一に出立したのに、辿り着いたのは夕暮れでしたよ!

スドー君は無表情だから疲れてるのかは解らないけど、チロルは元気モリモリで跳ね回ってました。
だってアイツ、夜はちゃんと寝てたんだモン!
俺、アイツの為に寝ないで頑張ってたのに、アイツはちゃんと寝てたんだモン!

しかもビアンカから『はいチロル。これあげるね……貴女にお似合いよ』と言われ、貰ったビアンカのリボン(鬣に結ってる)が気に入った様で、数分おきに俺に手鏡を要求してくる始末……
コイツ……ナルシストじゃん!

だが、戦闘になれば完璧に活躍する! まさに“攻・防・技”の三位一体である!
原作知識を駆使し、出てくるモンスターの特徴(弱点や習性)を即座に看破し、攻撃要員であるチロルに指示を出す。
攻撃を受けそうになっても、頑丈なスドー君が鉄壁の守りを見せてくれるので、俺ちゃん一安心!

そんな訳で心置きなく妖精の村へ出発出来る俺ちゃんだが、その前にやらなければならない事がある。
そう……それは勿論、未来の超イケメンに俺の持ってるゴールドオーブを手渡すことだ。
その際に奴隷生活を回避出来たのか……出来たのなら一応その方法等を聞き、今後の為に備えたいと考える。

だからサンタローズへ帰ってきてからは、毎日の様に教会前で待機してるのだが……
超イケメンが現れない。
ただ待っているのはアホらしいし、子供らしくボールを使いチロル・スドー君と遊びながら出現を待っている。

教会のシスターには“また今日も此処に来やがった”的な顔をされて、正直ウンザリなのだけど……
此処で待つしか方法は無いので、気長に待とうと考えてます。
そう言えば、DQ5二次創作の作品の中に、このシスターが超巨乳美女で主人公()とデキちゃう話が在ったなぁ……

所詮は空想だ……
このシスターは地味顔だし、胸もそんなに大きくない。
父さんに気があるみたいだけど、こんな継母は断りたい。
エッチぃハプニングは期待出来そうもないし、期待したくないからね。

「ねぇアルス君……こんな所で遊ぶのも良いけど、もう少し剣術のお稽古をした方が良いんじゃ無い? 聞いたわよ、レヌール城のオバケを退治した時、殆どの敵をビアンカちゃんが倒したんでしょ!? もう少し剣術稽古を頑張って、女の子を守れる男の子にならなくちゃ!」

どうにも何処かへ行かせたいらしく、シスターの方から話しかけてきた……余計なお世話だ。
俺の弱さは稽古云々じゃないんだよ! モンスターを前にすると、ビビって動けなくなる心の問題なんだよ!
日がな一日、教会(ここ)に居座ってるからって、そんなに邪魔者扱いしなくても良いだろうに……

俺だって飽きてしまい、村を散策に行ったことがあるさ。
もしかしたら別の場所で遭遇するのかも……ってね!
だけど超イケメンに会うどころか、村中で起きている悪戯の犯人にされかけたんだ!

それ俺じゃねーよ!
エルフ族のベラが、気付いて貰う為に巻き起こしてる悪戯だからね!
子供=悪戯って決め付けんじゃねーよ!

辛い事を思い出しションボリしてたら、悪いと思ったのか「危ない事はしちゃだめよ」と言ってシスターは俺の前から立ち去ろうとする。
正直ホッとしたのだが、突如俺の目の前に半透明の女が現れ、俺に背中を向けたシスターのスカートを勢いよく捲り上げた!

「え!?「きゃー!! 何するのよ!(バチン!)」
白と黒のシマシマが目に飛び込んできたと思ったら、こちらに振り向いたシスターの平手が鮮やかに俺の頬にヒットした!

強烈に痛い!
俺ちゃん涙目……見ちゃったけど見ようとはしてないのに。
冤罪なのに大激怒のシスターにガミガミ怒られる。

叱られ俯きつつチラリと横に視線を向けると、半透明女が腹を抱えて爆笑中。
髪は藤色、瞳も同色、肌が真っ白で耳が尖ってる……
見た感じ12.3歳くらいの少女、コイツがベラだろう。
これもコイツの悪戯の一環だろう。

何を目的とした悪戯なんだ?
人間界では誰にも気付いて貰えないから、自己アピールを主目的とした悪戯だろう……
これで良いのか? シスターが去ったら、俺殴るよ。絶対にこの馬鹿(ベラ)殴るよ!



2.30分ガミガミ怒られ、シスターが教会へ入っていったのを見計らい、半透明女(ベラ)の方へと近付く。
そして拳を握り締め振り上げたら、勢いよくベラに向けて殴りかかる!
だが、すんでの所で避けられ、勢いだけは残ってしまった俺は前のめりに転ぶ。

「え、アンタ私のことが見えるの!?」
(ベラ)は目をパチクリさせて驚いている。
「うるさい馬鹿女! お前……やって良いことと悪いことがあるんだぞ! 俺はこの村で“頼りないけど良い子”で通ってんだ! それなのに……」

俺は立ち上がり服に付いた泥を払いながら、半透明女(ベラ)を睨んで怒鳴り散らす。
やっと自分に気付いてくれる人間が現れ嬉しいのだが、その事へ驚いてしまいチグハグナ表情で俺を見ている半透明女(ベラ)……俺の怒りには一切感想は無さそうだ。

「良かった! 私ねずっと探してたの……私の事に気付いてくれる人を! でも……ここじゃ落ち着いて話が出来ないわ。この村に1軒だけ地下室があるお宅が在るの……その地下室で待ってるから、貴方も来てちょうだい。待てるからね!」

「お、おい……ちょ、待て……ちょっと待てよコラ!」
結局、驚きは吹き飛ばされ嬉しさを身体に纏い、半透明女(ベラ)は一方的に話をして去って行った……
何だあの半透明女(おんな)は!? 何だってあんなKY(ばか)を派遣するんだ? エルフ族も人材不足なのか?

大体……地下室のある家って、俺んちだろ!
自宅だから問題ないけど、余所様のお宅だったら勝手に侵入するわけにいかないだろう。
アイツふざけんなよマジで……こっちの都合も、人々への迷惑も、何考えてねーじゃんかよ!

兎にも角にも激怒中の俺はダッシュで自宅へ舞い戻る。
玄関入って即座に地下! 予定通り半透明女(ベラ)が待機中……
俺は勢いをそのままに半透明女(ベラ)へ体当たり!

だがヒラリと避けられ、置いてあった空樽群へ突っ込む。
「あらあら元気ね。やっぱり子供は元気でなくっちゃね!」
痛い……体中が痛いのもさることながら、チロルとスドー君の悲しそうな視線がなお痛い。

「避けんなよ!」
「そんな事より聞いて! 私の居る妖精の村が大ピンチなの。貴方の居る世界にも影響が出る事だから、貴方に力を貸してもらいたいの。詳しい事はポワン様に聞いて!」

俺の怒りを完全無視(気付いてもいない)し、一方的に話を進め俺の手を取り勝手に妖精の村へ連れ去る半透明女(ベラ)……
ちょっとは俺の話を聞けよ!





(妖精の村)

辺り一面銀世界の村に連れてこられた俺達……勿論チロルとスドー君も、予定通り巻き込まれました。
「ちょ、俺の話を……「いいから早く来てよ!」
半透明女(ベラ)は相変わらず俺の話を聞かず腕を引っ張り強制連行します。

この()、結構力強いの……
俺ちゃんね……ズルズルと引き摺られてるの……
でもね……階段くらいは歩かせて欲しかった。

段差で頭やら身体やらをガンガン打ち付けちゃったの。
顔だけは死守したけど、もう俺ちゃんボロボロ……
こいつゼッテー許さねー!



 
 

 
後書き
ごめんなさい。
手前味噌な話題を入れてしまいました。
気にしたら負けですよ。 

 

第11話:お前が責任とれ!

(妖精の村)

「この方が妖精の村の長……ポワン様よ! ほら、ちゃんと立って挨拶して!」
ここまで俺の事を引き摺ってきたベラが、無理矢理俺を引き立たせると、後頭部を押さえつけ頭を下げさえる。
俺は体中を打ち身と埃で纏ってると言うのに……

「ふざけるな馬鹿! お前何なんだ!? 何の説明もなく俺に大迷惑を掛けておきながら、これまた説明せずにこんなとこへ拉致って……尚且つお偉いさんの前だから頭下げろって! 会話という物が出来んのかキサマ!」

俺の事を押さえつけてたベラを取り払うと、今までの怒りをぶつける様に彼女へ怒鳴り散らす俺。
突然の事でビックリ仰天のベラが心底腹立つ。
“何でそんなに怒ってるの?”って顔してるんだよ……

「ど、どうしたの……急に怒っちゃって……私、何か悪い事した?」
やっぱり何も解ってない……
「お、お前……自分が今まで何してきたのか、全然解ってねーな!」
呆れた……更なる怒りが込み上げてきたが、それ以上に呆れるしかなかった。

「せ、説明してやる……テメーがしてきた事を、俺がキッチリ説明してやる! 先ず、やってもいないスカートめくりの冤罪を俺に与え、キサマは横で爆笑していた! 更にその事の説明を求めると、勝手に他人の家へ俺を(いざな)い一方的な用件だけを告げてきた! この間、先程の事への謝罪は一切ない! そして自己紹介すら互いにする時間を与えず、ほぼ強制連行状態で俺をこの村に連れてきた! そして先程の“市中引回し”だ! 体中に埃は付くし、体中を階段で強打するし……お前何考えてんだ!? あげくに、お偉いさんの前だから頭を下げろだと!? 先にお前が俺に頭を下げ、これまでの行為を謝罪し頭を下げるべきだろう!」

一気に捲し立てベラを批判する。
だが全く理解してない様子のベラは、キョトンとしてるだけで謝る気配も頭を下げる素振りの見せない。
あーダメだ……怒りが収まらない。

「人間の少年よ……真に申し訳ございません。私の指導が足りないばかりに、貴方様にはご迷惑をおかけした様で……本当に申し訳ございません」
代わりに上座で玉座に座ってたポワンが、立ち上がり俺に近付いて深々と頭を下げる。
違う違う……あんたに非はないんだ!

「ポ、ポワン様!? ポワン様が頭を下げる必要はありません! 全部私がしでかした事みたいですから……私が謝れば良いんです。ですから……」
カチンときた。この馬鹿(ベラ)の言い方にカチンときまくった!

「『しでかした事みたい』? 『謝れば良い』!? お前全然反省してないだろ! いや、反省どころか何でこんな事態になったのかすら理解してないだろ! こっちのお姉さん(ポワン)が頭を下げるのは当然だ! お前みたいな馬鹿を俺の下に派遣したのだから、全ての責任はお姉さん(ポワン)にある!」
もう怒りの収まらない俺はポワンに向き直り大声を上げる。

「本当にごめんなさい……お怪我の方は私が直ちにベホマで治しますので……」
そう言うとポワンはベホマを唱え、俺を暖かい光で包み込む。
自宅地下で空樽群に突っ込んで出来た怪我も、この村でベラに引き摺られて出来た怪我も、一瞬で治り身体の調子は万全になった。

「ポワン様……「ベラ! 貴方は先ず、何をしでかしたのかを理解しなさい!」
そこからポワンの説教が始まった。
かなり厳しい説教が始まった。
延々3時間……俺、今回の被害者だし……この場から暇潰しに出かける訳にもいかず……何だか俺まで拷問を受けた気がする。



そして拷問……ゲフンゲフン、説教が終わり……ベラが泣きながら謝ってきた。
何か俺も一緒に叱られた様な気がする連帯感と、よく見ると結構可愛い女の子(ベラ)のガチ泣きで、罪悪感が積もっている……
おかしいな……俺、被害者だよね?

「申し訳ございませんでした。私の名はポワン……そしてこの()はベラ。我々は「知ってます、エルフ族……いえ妖精の皆さんでしょ! 俺の名はアルス……俺は以前から、他の人達には見えない不思議な方々を見てきたので、大方の予想は付きます。何かお困りの事があるみたいですので、俺に出来る事があれば手伝いますよ」

はい。勿論ハッタリです。
半透明な奴等なんて、これまでにベラ以外見た事ないし、原作知識がなければ、この状況を理解する事なんて到底ムリ!
でも、もう飽きてきたんだよね……サッサと話を進めたいんだよね。

「これは驚きました……何か特別な能力をお持ちだと感じましたが、既に我らの事を理解しているとは!」
この部屋にはポワンとベラ以外にも、幾人かのエルフが立ち会っている。
その全てが俺の発言に驚き、俺を特別な存在として見詰めている。
う~ん……気分が良い。

「では話が早いです……是非ともアルスにお願いしたい出来事が在りまして……お力を貸して頂きたいのです」
そして今回の事件の経緯を説明するポワン。
まぁ内容は分かってたが、案の定『春風のフルート』奪還が俺への頼み事だ。

「ポワン様……勿論俺はご協力します。ですが問題が一つ……」
俺はポワンの依頼を快諾し、好印象を与えてから問題点を説明する。
あぁ……問題点ってのは俺ちゃんの事ね。

「あの……俺、戦えないんですよ。戦闘は苦手で……友達のチロルとスドー君に、戦闘は任せる事になっちゃうんです。ですから……」
言葉を濁しているが、俺は“戦闘要員を多数派遣しろ”的な事を訴える。
ベラは随行決定なのは当然として、戦士系のエルフを2.3人貸してくれても、罰は当たらないよね。
屈強な女戦士さんを2.3人派遣して“うふふ坊や……可愛いわね”的なシチュエーションになっても、ご褒美として見てくれるよね。

「解っております。私どもも子供一人に全てを託すつもりはありません! 共に戦う仲間を用意してあります。ご安心下さい」
ちょっと引っかかる言い方だったけど、俺を守る人数が大幅に増えるのは助かるね。

「さあベラ。出会いでご迷惑をお掛けした分、それを払拭させる様お手伝いしなさい!」
「はいポワン様。私、頑張ってきます!」
そう言うと、俺の側に歩み寄りポワンに向けてガッツポーズするベラが一人……

え……一人だけ!?
子供一人に全てを押してけないけど、子供とベビパンと動く石像とエルフの小娘には押しつけるのが貴女達の遣り口ですか?

「ベラ……アルスの言う事には従い、決して勝手な行動をするんじゃありませんよ!」
「はい、解ってます。もうこれ以上アルスに迷惑はかけません!」
ん、イヤ違う……根本が違う! もう迷惑を掛けまくってるんだから、それを軽減させる措置をとらねばならないのではないだろうか!?

俺がクレームを付けようとすると、ベラが俺の腕に抱き付き強引にポワンの前から移動させる。
俺もベラの胸の感触に、思わず言葉を失ってしまい何も言えないまま部屋から出てしまう。
ずるいよ……オッパイ押しつけて言葉を封じるなんて。全神経がその部分に集中しちゃうんだから、何も言えなくなっちゃうよ!



 
 

 
後書き
小心者は、他人が叱られてるのを見てるだけで、自分が叱られてる気になり萎縮してしまうのです。
私がそうですから! 

 

第12話:心ない言葉に心は傷つく

(妖精の世界)

子供の頃は雪が降ると嬉しくてはしゃいでた。
大人になって雪の邪魔さを理解し、観光地(スキー場とか)以外での雪を嫌う様になった。
身体は子供だが頭ん中は大人な俺は、現在進行形で雪が大嫌いになっている。

寒いわ歩きづらいわで良い事なし!
それに荷物までも増えてしまい、俺の動きを制限する。
まぁ荷物というのはチロルなんだけど……

どういう事かというと、素足(肉球?)のチロルには、雪の中を歩くのは拷問だろうと思うんだ。
最初はね、外的刺激に平気そう(鈍感?)なスドー君の上にチロルを乗せて、この豪雪地帯を突き進んでたんだけど……
スドー君の移動の仕方が、小刻みジャンプなんだよね。

つまり、雪が深くて摺って進めないから、ジャンプしながら移動してんだよ。
考えてみ……そんな物の上に乗ってたら酔うよね!
ゲロゲロに酔った状態で敵が出現してくると、チロルってば俺以上に役立たずなんだ! いや、俺も同じくらい役に立ってないな……まぁそれは良いとして!

妖精の村を出て10分で大ピンチだぜ!
目を回してるチロルを抱き上げ、ダッシュで村まで逃げ帰ったよ。逃げ足だけはチャンピオンクラスだからね!
そして色々考えたんだ……この事態をどう乗り切るか。

一番良いのはチロルに靴(またはそれに類する物)を穿かせて、雪道での移動を可能にする事なんだけど……
チロルの武器って爪じゃん!
攻撃力激減なんだよね……

それに俺……お金持ってないし。モンスターを自力で倒した事ないから、お金を手に入れた事がないんだ。
永遠の冬を回避する為、こんな子供が頑張ってるんだから、妖精の村内では買い物ただにしてくれても良いと思わない!?
連中、金取んのよ!

だから、まだ普通の猫と変わらない大きさのチロルを俺が抱っこし、村内で仕入れた情報に従い雪の中を西へ進む俺達なのです。
敵が現れたらチロルを離し、存分に戦って貰ってます。

さて、何で西に向かっているかというと……
妖精の村で集めた情報に“西に住むドワーフの孫が関係しているらしい”的な事を言う人が居たから。
まぁ複数人の情報を整合させたら、この情報に辿り着いたんだけどね。

俺は元々答えを知ってるし、即座にその情報が真実であると言い、ベラを納得させてドワーフのとこへ向かってます。
出会いは悪かったけど、実は良い()だから助かってます。
この寒い土地でギラを使えるのは、本当に便利ですしね!



(ドワーフの洞窟)

雪原を抜けドワーフの住む洞窟に辿り着いた俺達は、ここまでの寒さに大分まいっている状況。
洞窟に着くなり用意しておいた薪等にベラのギラで火を点け、取り敢えず暖をとってます。
本当は直ぐにでも奥に行きたいけど、身体を温めないと動けそうになかったから……

「ところでアルスって不思議な子よね」
何だ突然!?
とっても無礼な事を言いそうな雰囲気……この()ってばKYだからなぁ。

「私ね、あの村に……サンタローズに1週間程前から居たんだけど、貴方の事を最初に見た時は驚いちゃったの。丁度2日目だったんだけど、モンスターを連れて歩いてるじゃない! だから近付くのが恐くて、私の事を見つけてくれる人に出会えるのが遅くなっちゃった」
それはポワンより託された任務が遅延してしまった責任を俺に擦り付けてるのか?

「モンスター=悪い子って決め付けてたからダメなんだよ! チロルもスドー君も俺の友達で、凄く良い子なんだからね!」
見た目で勝手に判断して、責任を俺に押しつけるな!

「うん。それは分かったわ……今ではもう大丈夫。村の人達の会話から、チロルとスドー君が悪い子じゃないのは確認したから。それにアルスの事も色々聞いたしね……」
俺のこと? 何だろう……気になるなぁ。

「村の人達は俺の事を何て言ってたの?」
「き、聞かない方が……ほ、ほら。人の噂なんていい加減でしょ!?」
何で焦ってんだよ!? 俺の評価を聞いてるだけなのに……

「……でも、ベラは人の噂を当てにして俺達の事を安全だと認識したんだろ? 非常に気になるんだ……村人達は俺の事を何て言ってたの!?」
焚き火を挟み対面していたベラの横に俺は身体を移動させ、彼女の瞳を覗き込むように問い詰める。

「えっと……その……わ、私が言ったんじゃないわよ! そこんとこ勘違いしないでよね!」
「何だよぉ……喧嘩売られても、非力だから買えないよぉ……」
何やら言い訳ぶっこいて、ベラは俺の事を語ってくれる。

「端的に言うと、アンタの村人からの評価は……“お父さん(パパス)の頼りない息子”って事らしいわ。お父さん(パパス)は色々問題を解決させ頼りになるけど、その息子は弱々しく問題を起こしてる存在……モンスターを連れ帰ってきた時は皆さん驚いたみたいだけど、弱すぎてモンスターにも同情されてるんだって納得してたわ。数日前に、アンタが一人で洞窟に入り大騒動を巻き起こした事が、今の評価へと繋がってるみたいね。あぁ、それと……アンタんちの前の井戸端で焚き火している男性が言ってたわ。『何時も手鏡を持ち歩き、身形をチェックするナルシスト……イタイ子だよなぁ』って……」

よ、予想以上だ……
皆さんから“情けないガキ”と思われている事は薄々感づいてたけど、6歳児相手にそこまで酷い感想を持つなんて……
俺はガッツリ落ち込み項垂れる……

「あ、あの……その……ごめん……」
ベラが悪い訳ではないのだが、気を遣って謝ってくる。
それが更に俺を落ち込ませるんだけどね……

「ンナァン」
でも、チロルとスドー君が俺に寄り添い、温かい瞳で慰めてくれた。
そうだよね……今はまだ活躍してないけど、ラインハットに行きヘンリー誘拐を阻止すれば、俺の評価も上がるよね!
だって俺には、チロルとスドー君がついてるんだもん!

「大丈夫だよチロル……ありがとうスドー君。俺は大丈夫だから……二人が居てくれれば勇気100倍だから」
柔らかいチロルを抱き上げ、堅いスドー君の身体に頭を付け、二人の存在を強く感謝する。

「あ、あのぅ……凄いじゃん! アルスってば二人に凄く好かれてるじゃん……だ、だからかなぁ……私たち妖精を見る事が出来たのは!?」
泣きそうな俺を見て、ベラが一生懸命フォローする。
俺が聞き出した事だからベラに対して怒りはないし、そんなに気にする必要はないのだけど……

「ありがとうベラ……」
俺はベラの心が嬉しくて、彼女の身体に抱き付き礼を言う。
しかし……彼女の心地よい香りと柔らかさに、思わず理性を失ってしまい、彼女の胸に顔を埋め頬摺りしてしまった。

「きゃぁエッチ!」(ゴスッ!)
勿論そんなセクハラ行為を彼女は許すはずもなく、力任せに後頭部を殴られ地面とディープなキスをする事に……

「シャァー!!」(ズズズズズッ)
それを見たチロルとスドー君が、完全威嚇体制でベラに迫ってゆく!
「ちょ……私が悪い訳じゃないわよ!」
その通り、ベラは悪くない。スケベ心が勝ってしまった俺が悪い。

「やめてチロル、スドー君! 俺が悪いんだ……思わずベラの胸に顔を埋めちゃった俺の所為なんだ!」
慌てて起きあがり二人を押さえ込む。
まだ後頭部がズキズキするけれど、二人にベラを攻撃させる訳にはいかないからね。

だって、彼女のギラは便利だもん!



 

 

第13話:身内の事なんだから、重い腰上げろよ!

(ドワーフの洞窟)

「エルフのお嬢さんが来たと言う事は……やはり孫の事ですかな? ザイルがしでかした例の事件ですかな?」
俺の目の前に居るアメリカ映画に出てくるバイカーギャングのボスみたいな、厳つい老人が問いかけてくる。
ドワーフだから背は低いのだが、その体付きが凄い。筋肉モッリモリ……

「はい。貴方のお孫さんが事件に関わってると噂を聞いたので、その調査に伺いました。事実でしょうか? もし事実なら、何故そのような事に……」
老人の見た目にビビッちゃってる俺の代わりに、ベラが礼儀正しく話しかける。
どうして俺の時は、こんな風に礼儀正しく話しかけてくれなかったんだろう?

「儂の孫が……ザイルが関わってるのは事実です。理由は妖精の村の村長への恨み……いや、逆恨みからです」
「さ、逆恨みとはどういう事ですか!?」
俺……原作の時から思ってたんだよね。

この爺さんがザイルにちゃんと説明しとけば、こんなアホ現象は起きなかったと……
礼儀正しいベラに、丁寧に経緯を話す爺さんを眺めながら、今回の事件がめんどくさく感じだしてる俺ちゃん。

「……ですが、ポワン様はお爺さんを追い出してはいないでしょう!?」
「えぇ……ですから先程も申し上げました。ザイルの逆恨みなのだと! それに儂は追い出された訳ではない。先代の村長に自ら申し出て、“鍵の技法”を生み出した儂を追放処分にしてもらったんです」
おや、新事実か?

「偶然とはいえ、簡単な錠前なら開ける事の出来てしまう“鍵の技法”を生み出した儂を、村から追放する事で“鍵の技法”自体に悪のイメージを植え付け、それを手に入れようとする者を悪人に見せる。そうする事で本当の悪人以外、“鍵の技法”に近づかなくさせ守りやすくしました」

えー……
つー事は、下手に“鍵の技法”を手に入れると、妖精さん達からは悪人扱いされちゃうのかな?
イヤだなぁ……大人になって再度妖精の村を訪れたら、周囲から白い目で見られるのは勘弁してほしいなぁ……

「人間の少年よ! 妖精達の姿が見え、モンスターを共にする事が出来る少年よ! 君になら“鍵の技法”を安心して託せるだろう……この洞窟の奥に封印してあるので、それを使ってザイルに気付かせてやってくれ! あいつは勘違いをしているだけなんだ……どうかそれを気付かせ、助けてやってくれ!」

勝手に押し付けるなよぉ~……
俺だってそんなのイヤだよぉ~……
それに黒幕は『雪の女王』なんだから、“鍵の技法”より戦力をくれよぉ~……

「それはお断りさせてくださいお爺さん。俺に“鍵の技法”は荷が重いですよ……それにお孫さんを気付かせるのは俺の仕事じゃありません。それは家族であるお爺さんが行うべき事ですよ。俺達と一緒にザイル君の下に行き、彼に真実を告げ気付かせてあげましょうよ!」
そう……そして俺の戦力の一部になれ。その筋肉を俺の為に存分に役立てよ!

「しかし儂はもう歳で……とても“氷の館”まで行けるかどうか……」
ふざけんなよ! 筋骨隆々のそのボディーがあれば、俺達が徒党を組んで進撃するよりも、遙かに難易度が低くなるだろう!

「でも俺は“鍵の技法”を受け取る気がないんです。信用してもらってる様ですが、何時か悪用してしまうかもしれない……そんな重圧には耐えられないんです! でも生み出したお爺さんなら、“鍵の技法”の封印を解かなくても使用できるはずですから……」
そして俺の戦力になれ!

「……………」
爺さんは目を閉じ天を仰ぎながら考えてる。
良いんだよ考えなくても。良いんだよ原作なんて無視しても。
主人公である俺への危険度が下がれば、それが一番良い事なんだよ!

「少年よ……確かアルス殿と申しましたな?」
「あ、はい。アルスです」
出会って早々に自己紹介したのに、年の所為で忘れそうになったのか?

「君は清い心の持ち主のようだ……封印を解き危険度を上げることなく、今回の事件を解決させようと試みる。分かりました、儂は貴方に賭けてみましょう! 儂自らがザイルの下に赴き、この愚かな行為をやめるよう説得してみましょう!」
しょっしゃぁー! これでザイルが暴れても、爺さんパワーでガツンとKO!
雪の女王が相手でも、俺ちゃん安全に高みの見物!

「ところでお爺さん……先程仰った『氷の館』って何ですか?」
「ん? おぉそうでしたな! 氷の館とは……ザイルが立て籠もってる秘密基地の事です」
秘密基地って……ガキか!?

「何故……お爺さんはザイルがそこに隠れてるって知ってるんですか?」
「うむ……事件が起きて直ぐに、ザイルが一度だけ帰ってきてな……『爺ちゃん。もうすぐ爺ちゃんの汚名を晴らしてやるから! 俺が氷の館で全てを解決してやるから!』と叫んで出て行ったのだよ。だからそこに居るだろうと……」

愕然としたね俺!
知ってて何故に何もしないのかって!
『老体だから何も出来ないんですぅー』って傍観してないで、孫の説得にくらいは行こうよ!
きっと誰かが何とかしてくれるなんて思ってないで、身内の恥として事件解決に尽力しようよ!

「ではお爺さん……私達と一緒にお孫さん(ザイル)を説得し、春風のフルートを取り戻しましょう! 素直にフルートを返してくれれば、きっとポワン様も寛大な心で許してくれるはずです」
俺なら許せないな……これ程大事(おおごと)になるまで放置しておいた、このジジイを許すことは出来ないだろう。

「おぉ……ポワン様も許してくださいますか!? そうであるのなら儂も頑張らねばならないでしょう!」
そう言うと爺さんは“よっこいしょ”ってな感じで立ち上がり、部屋の隅に立てかけてあった『バトルアックス』を手に取り、旅支度を開始する。

正直……バトルアックスを見るのは初めてだ。
だからアレが本当にバトルアックスなのか判断できない。
見た目はバトルアックスなんだよ……でもね、大きいんだよね。

全長150センチ……きっと重さは10キロ以上あるだろう。
背の低いドワーフの爺さんの倍はある大きさ。
それを軽々と片手で扱ってる爺さん……何が『儂はもう歳で……』だよ!?
そんな化け物戦斧を扱えるんだから、俺達必要ねーだろが!

チラリとベラの事を見たのだが、俺の持つ疑問など微細も感じておらず、共に旅立つ事になった新戦力を、輝く瞳で見詰めている。
きっと馬鹿なんだろうなぁ……そうじゃなきゃ老け専筋肉フェチだろう。

「お待たせしました。それでは氷の館へ参りましょうぞ!」
「はい! 頑張って事件を解決させましょう。そうすればお爺さんも、また村で暮らせるようになると思いますから!」

うわぁ、どうしよう……今にも抱き付きそうな勢いで、ベラは爺さんに近付いて行く。
どうやら彼女は老け専筋肉フェチみたいだ。
だから出会い頭から対応が違ったんだ……俺は真逆のタイプだし、全然態度が違う理由に納得がいくよ。

折角可愛い顔なのに残念で仕方ない。
俺に惚れろとは言わないけど、もっとお似合いな男だって居るだろうに……
これならサンタローズのシスター……俺の事を冤罪でビンタしたシスターの方が、よっぽど男の趣味は良い!

「ほらアレス…… 早くザイルのとこまで行くわよ! ボーッとしてないでよね」
爺さんと共に出口に歩むベラは、振り返り俺を急かしてくる。
ピタリと爺さんに寄り添いながら急かしてくる。

俺にはビアンカが居るから良いけど、勿体ないよなぁ……



 

 

第14話:俺が居なくてもストーリーは進むの?

(氷の館)

ツルツル滑るイライラな館……
全面氷張りのイヤな造りが売りのダンジョン。
進入して早々に滑ってしまい、そのまま壁に激突……そして後ろから付いてきてたスド-君に激突され、もうボロボロです。

良かった点は、滑って転んだベラの花柄パンツをバッチリ見た事だけで……
『もっと見せてくれれば“シスターのスカートめくり、俺冤罪ビンタ”の件は許してやる』
と言ったのだけど、凄く白い目で睨まれました。
しかも、その後は爺さんの肩に乗ってしまい、モロパンは勿論パンチラも見れなくなってしまいましたよ。

爺さんはチャッカリとスパイク付きの靴を履いてきてるから、俺の苦労は知らんぷり……
仲間の分まで用意してくれても良くネ!?
お陰でザイルの下へ辿り着くのに、凄く時間がかかっちゃったよ。

「鈍臭いわねぇ~」ってベラが小声で言ってたけど、お前は楽してるんだから文句言うなよ!
お前も同じ苦労してみろっての!
面と向かっては言わないけどね……だって怒られるし(涙)




「ん? 何だお前達……げっ!? じ、爺ちゃん!」
何とか滑る床を攻略し、ザイルの下へ辿り着いた俺達。
そんな俺達を見て、筋トレをしていたドワーフの子供が吃驚してる。

「ザイル……もう止めるんだ。儂と一緒にポワン殿のとこに行き、今回の事を謝ろう……」
「な、何で爺ちゃんが!? ひ、卑怯だぞ……爺ちゃんを人質にとるなんて!」
身内の登場が余程ショックだったのだろう……ザイルは慌てふためきながら俺達の事を罵倒する。

だが、この筋肉ダルマを人質にするなんて出来るわけない。
俺は只の子供だぞ……
赤子の手を捻るのだって難しいんだぞ! いや、赤子にだって手を捻られるかもしれないんだぞ!

「そうではないザイル! 儂は自らの意思で、ここへ来たのだ。このアルス殿に言われ、お前を説得するために来たのだ。さぁ……一緒に帰ろう」
爺さんは優しい口調でザイルに近付き、一緒に帰るよう促すとそっと手を差し伸べて微笑む。

「ダ、ダメだよ……俺……爺ちゃんを追い出したポワンに、仕返ししなきゃならないんだ……」
「何を言ってるのよ! 優しいポワン様が、アンタのお爺さんを追い出したりする訳ないでしょ! 前の村長とお爺さんの意思で、妖精の村から出て行ったのよ!」

氷の館の最上階(と言っても2階)に辿り着き、ドンドンと話が進んで行く……
取り敢えず原作と違い爺さん(身内)が居るから、ザイルとの戦闘にはならないだろう。なっても俺は知らんからね!
だからその間に、滑って転んで激突して出来た体中の怪我を、大量に買っておいた(代金はポワン様持ち)を使い、治療する俺ちゃん。
自分で言うのもナンだが、俺のホイミでは直らないんだよね……何も。

「で、でも……雪の女王様が言ってたんだ。ポワンが爺ちゃんを追い出したって……そう言ってたんだ!」
「雪の女王? 誰よそれは! そんな奴は妖精の村に居ないわ。騙されてるんじゃないの?」
身体の治療に専念してたら、どうやら“雪の女王”の話題になったらしい。
そろそろ本番に備えようかな? と言っても、どう備えれば良いのか?

「嘘だ! 雪の女王様が俺を騙すわけない……あんなに美しいのに、とても不幸な彼女が、俺の事を騙すわけがない!」
「ザイル……その方は何者なんじゃ? 儂も聞いた事がないが、どんな経緯でお前と知り合ったのだ?」

「俺……爺ちゃんが村を追い出された事が許せなくて、色々と調べ回ったんだ。でも随分と前の事だから、知ってる人も少なくて……そんな時、一人でここに氷の館を造ってる雪の女王様に出会ったんだ!」
この建物は雪の女王が自分で造ったんだ。
女王のくせに部下が居ないんだね……まぁ自称女王だから仕方ないよね。

「女王様も妖精の村の奴等に迫害を受けて、一人寂しくここで暮らそうとしてたみたいなんだけど……爺ちゃんが追い出された事を訪ねたら、色々教えてくれたんだ! しかも俺にこの館を貸してくれて、復讐のチャンスをくれたんだ!」
何でそいつ(雪の女王)の事を疑わないんだろう?
情報とは、裏をとって初めて有用なのに……

「雪の女王については後にするとして、今は取り敢えず春風のフルートを返す事が優先だろう。ザイル……春風のフルートはどこにあるのだ?」
爺さんがザイルに優しく問いかける。
孫が自らの意思(あるいは思惑)で事件を起こしたのではないと知り、安心しているみたいだ。

「フルートは……そこの箱の中に」
一方ザイルは、自分が騙されていたのだと解り始め、ガックリ肩を落として後ろの宝箱へ近付いて行く。
もしかしたら、その雪の女王に惚れてたのかもしれないね(笑)

「おーほっほっほっ!」
ザイルがあと数歩で宝箱に到着するところで、突如高笑いが響き、宝箱を中心に強烈な吹雪が吹き乱れる。
その勢いで、ザイルは此方に吹き飛ばされ俺の上に落ちてきた!
気を付けてたとしたって俺に避けるのは無理なのに、完全に隙だらけだったから、ダメージはそこはかとなく大きい。

「何やつだ!?」
ザイルに潰された俺の事は無視で、高笑いの聞こえる吹雪の中心地に斧を構える爺さん。
ベラも一緒に爺さんと同じ行動してるし……俺の事を心配してくれるのはチロルとスドー君だけだ。もう涙も出ない……

「おほほほほ、もう少し妖精の村の連中を困らせてやろうと思ったけど、それもどうやらここまでのようね」
「ぬぅ……貴様が雪の女王か!? 儂の孫を騙した張本人なのか!?」
どうやら雪の女王が姿を現したらしく、あっちでは物語(はなし)がドンドン進んで行く。
俺はザイルの下敷きで、未だ立ち上がる事さえ出来てない……コイツ重いよ!

「別に騙してなんかいないわよ……ザイルちゃんが勝手に騙されちゃっただけなのよ。お~ほっほっほっほっ!」
「そんな……酷いよ……あんなに俺の事を好きだと言ってくれたのに……あんなに俺達……」
ザイルが自力で立ち上がってくれたので、やっと解放された俺ちゃん。

でも体中の痛みから立ち直れず、冷たい氷の床に倒れたまま物語(はなし)の流れを噛み締める。
んで、気付いたのは……こいつ(ザイル)は雪の女王に惚れてたって事。
多分ヤっちゃってるんじゃないかと俺は思ってる。

「あらごめんなさいザイルちゃん。でもね……妖精の村の連中に一泡吹かせられなかった貴方が悪いのよ。私の目的は連中への復讐なんですから!」
おや? ここでも原作との乖離が出てきたぞ。
何だか今回の目的の動機が、とってもショボイ事になってきたぞ!

「……貴女、もしかしてベロニカ?」
何だか色々面倒臭くなってきてた俺ちゃんは、物語(はなし)が勝手に進むのを良い事に、氷の床に寝そべったまま様子を覗っていたのだが、雪の女王に対して発したベラの一言が気になり起き上がろうかと考える。

「げっ、ベラ!? な、何を言ってるの……ベロニカなんて美女の事は知らないわよ!」
雪の女王(ベロニカ)の動揺が凄い。
名乗ってもいないベラの名前を言い当て、『美女』なんて一言も言ってないのに、ベロニカを美女と言い切り、自らの正体を明かしているのと同等な事を披露している。
どうやら頭は悪いらしい(笑)

ベラの知り合いって事はエルフなんだろう……
ザイルが内面度返しで惚れたって事は、自覚しているほど美人なんだろう……
これはやはり、面倒臭がらずに物語(はなし)に参加して、美人エルフを拝みましょうか!? うん、そうしよう!

「よっこいしょ……」
6歳児に似合わない掛け声で起き上がり、待望の美女求め周囲を見回す。
そして直ぐにお求めの人物が視界に入ってきた……が、



 
 

 
後書き
私の書く雪の女王は、基本的に頭が緩いらしい。 

 

第15話:ギャップに萌えると言うけど限度があるからね!

(氷の館)

雪の女王……
“雪”と言うワードを聞くと連想するのが“白”だろう。
“女王”となれば高貴で美しい感じを思い浮かべる。
だから雪の女王が、白く透き通るような肌で長く漆黒の髪を揺らめかせ、絶世の美女である事を想像しても、それは悪い事じゃないと思う。

でも俺の目の前に居る“雪の女王”は、そんな妄想をぶち壊してくれるツワモノだ。
先ず……ガングロ! 顔だけじゃないね……肌の色が褐色なんだよ。
そして髪……茶髪でウェーブがかかってるボブカット。

不美人じゃないと思うんだけど、化粧がケバいんだ。
例えるなら……コギャル? いや、ヤマンバギャルってヤツだね!(()ギャルに近いか?)
衣装もゴテゴテしてるし……超ミニスカなので背の低い俺にはパンチラ状態だが、そのパンツもヒョウ柄で、ちょっと……

何が言いたいかと言うと、俺の好みじゃないって事。
まぁザイルと付き合ってるみたいだし、割り込む余地もないだろうけど……
兎も角全然雪の女王っぽくない!

「ベロニカ、アンタ何してんのよ!?」
「だから()げぇってんだろ! 私は雪の女王よ、おほほほほ……」
もう無理がある……元から高貴な育ちではないのだろう。

「何言ってるのよ……その変な化粧を落としなさいよ。そしてベロニカだって認めなさい」
「変な化粧じゃないわよ! アンタ美的センス悪いんじゃないの!?」
「いや……俺もその化粧はどうかと思うよ。雪の女王様はスッピンでも美しいんだから、化粧を落とした方が俺は好きだなぁ」

「え、そう? やだ、ザイルちゃんってば……人目があるのに言うじゃない♥」
え、何コイツ等? 騙されたとか言ってたクセにラブラブじゃん。
ってか知り合い(ベラ)が居たから、正体を隠すために厚化粧してたのか?
だから現れるのにも時間がかかったのか?

「ちょっと待っててねザイルちゃん。今すぐにお化粧を落としちゃうから♥」
そう言うと懐からウェットティッシュ(コットン地の化粧落とし)を取り出し、慌てて化粧を落とし出す雪の女王(ベロニカ)……
折角時間かけて変装したのに、男の一言で化粧の意味を忘れ去る馬鹿女。

しかし、あの悪趣味な化粧を落とすと、やっぱり可愛いエルフだった。
そうなるともっと近くでパンツ共々眺めたくなるのが男の俺ちゃんです。
常備品の手鏡を貸すフリして近付き、美少女ベロニカを愛でようと思います。

「あの……俺、鏡を持ってるので使ってください」
「ありがとうボウヤ」
お礼代わりのパンツはガン見させてもらってるので、気にしなくて良いのです。


暫くして、若かりし頃のハル・ベリーの様な美少女が出現しました。
ホント……自分で言うだけあって可愛いッス。
黒人(褐色の肌って事)だけど、ザイル(男がって意味)が一目惚れするのも頷ける。

「ほら……やっぱりベロニカじゃん!」
「うっさいわね! もう判り切ってたんだから今更言わないでよ……性格悪いわね!」
違うな。ベラは性格が悪いんじゃない……KYなんだよ。致命的なKYなんだよ!

「ねぇベロニカ……どういう事なの? 何でこんな事しでかしちゃったの!? 突然村を出て行ったから心配してたのに……何でポワン様に敵対するような事をしてるの!?」
「うるさい! 私があの村でどんな迫害を受けてきたか、脳天気なアンタには解らないでしょう……魔族とのハーフエルフの私は、村に馴染もうとしても苛められるのよ!」

「そ、そんな……私とは楽しく過ごしてきたじゃない!?」
「アンタは自分しか見えてないから気付いてないのよ……他の連中は私の事を『ダークエルフ(暗黒妖精)』と呼び罵ってるのよ!」
酷いな……血筋なんて関係ないのに。
俺なんて王族だけど、前世でのパンピーが染みついてて、高貴な振る舞いが出来ないんだよ。

「それに……アンタと楽しく過ごしたって言うけど、楽しかったのはアンタだけだからね! ヒャド系の魔法が得意な私に、自分のギラを教え(押し付け)ようとしたり……熱いのが苦手な私に、熱い温泉に入らせたり……全然私の事を理解しようとしてないじゃないアンタ!」
それがKYだ。仕方ないだろう……

「そんな……言ってくれれば「言ったわよ! 他のエルフに苛められてる事も、アンタの進める事がどれも苦痛な事も、全部言ったわよ! でもアンタ『やだぁ~、ベロニカってば面白い! 冗談が上手いわね』って笑い飛ばしてたでしょ!」
マジかよ……

「え、アレってば本当の事だったの?」
記憶にあんのかよ!?
怖いわぁ~……無意識の苛めって怖い!

「でも……だからって春風のフルートを奪い、冬を永遠に継続させようとするなんてダメよ! 冬だけじゃ世界は滅んじゃうんだよ」
「え、冬だけじゃ世界は滅んじゃうの!?」
ベラの悲痛な訴えに、驚いて声を上げたのはザイルだった。

「ちょっと……ザイルちゃん本気!? ずっと冬が続いたら、植物が育たなくて食べ物が無くなっちゃうでしょ」
「で、でも……俺は肉食だし、植物がなくても食べるのには困らないけど……」
あれぇ~……もしかしてザイルってば筋肉馬鹿?

「ザ、ザイルちゃんがよく食べる牛肉……あれは牛の肉なのよ。そして牛は草食動物で、牧草地とかの植物を食べて生きてるの。つまり植物が育たない環境になると、食肉の確保も出来なくなり、行く行くは食べる物が乏しくなっていくのよ」
食物連鎖ってヤツだ。

「ベロニカ……そこまで理解してて何でフルートを盗んだのよ!?」
「わ、私が盗んだんじゃないわよ! ザイルちゃんが私の境遇に共感して『よし、俺が妖精共にギャフンと言わせてやる!』って言って……」
「……いやぁ~、春が来ないと世界が滅ぶなんて思わなかったから」

「私は、苛めに遭う村での生活より、ここで静かに一人暮らしをしようと思ってたの。その為にこの館を建設してたんだけど……そんな時にザイルちゃんが現れて、妖精の村から追い出されたお爺さんの話をするじゃない! 私だって良い思い出のない村に対しての愚痴を披露するわよ! そうしたら話が盛り上がっちゃって、さっきのザイルちゃんの台詞に期待しちゃったの……」
何奴も此奴も馬鹿ばっかだな……

「でも、まさか春風のフルートを盗んでくるとは予想外だったわ! 直ぐに返そうと思ったけど、私の為に危険を冒してまでフルートを盗んできたザイルちゃんに悪いかなって考えちゃったら、直ぐに返せなくなっちゃったの……で、雪の女王って言う架空の悪者を作り出して、村の連中に一泡吹かせたらコッソリ返そうって思ったの」
酷い計画だ……

「ベロニカとやら……そうなると一つ聞きたい事がある!」
今まで静かに話を聞いてた爺さんが、何かが気になりベロニカを威嚇しながら問いかける。
アメリカ映画に出てくるバイカーギャングみたいな風貌で威嚇してくるから、彼女も脅え震えている……可愛そうだな。

「儂がポワン様に追い出されたと言ったのはお主だろう。何故にそんな嘘を吐き、ザイルの事を騙したのだ!?」
「騙してないわよ! 村の者を追い出す事の出来る権限を持った奴なんて、村長以外あり得ないでしょ! だからお爺さんが村を追い出されたと聞いて、そんな事出来るのは『村長だけだ』と言ったの! だって私、お爺さんが村を追い出された事自体知らなかったんだもん!」

それをザイルは勘違いして、ポワン様が追い出したと思い込んだのか。
めんどくせぇ馬鹿だなコイツ……
でも、どうやら戦闘なしで事件を解決する事が出来そうだ。

爺さん程じゃないけれど、ザイルも筋肉ムキムキで倒すのは大変(俺一人じゃ無理)そうだし、ベロニカ(雪の女王)もヒャド系や吹雪系の攻撃が凄そうで、大苦戦(俺一人じゃ死)しそうだったし……安全第一の俺ちゃんにはハッピーエンドになりそうだ。

でも、ただハッピーエンドにしたんでは不十分だ。
今後に繋がるハッピーエンドに仕立てなくては……
こりゃぁ俺にとっての本番はこれからだろうな。



 
 

 
後書き
今回も戦闘らしい戦闘は回避しましたアルス君。
この先に待ち構えているであろう困難に立ち向かう力を備える事が出来ているのだろうか?
未来からのアルスも来なかった事だし、コイツに未来はないのかも……!? 

 

第16話:罪を憎んで人を憎まず

(妖精の村)

俺は春風のフルートを取り返し、今回の事件の当事者達と共に妖精の村のポワン様の下へ帰ってきた。
村に入って直ぐに、人々から好奇な目で見られた。
仕方ない事ではあるのだが、気分の良い物ではない。

モンスター2匹を連れ歩く人間の子供と、エルフ・ダークエルフ・ドワーフの子供と老人が一団となって移動する姿は驚愕だろう。
だから我慢はするのだが、ベロニカを指さし『あれってベロニカよね!? やっぱりあの()は問題児だったのね』と言ってくるエルフには腹が立った。

生まれや血筋で、その人の為人が決まるわけではない。
そんなくだらない事で他者を誹謗し、自身のアイデンティティーを確立させる輩には、ガツンと言ってやりたかった……けど、暴力に訴えられたら絶対負けるので今回は許してやろうと思う。俺って優しいよね。

でもやっぱり腹立つので、今回の事件の経緯をポワン様に報告するついでに、それとなく密告(チク)ってやろうと思います。
俺に視線を向けたポワン様が……
「アルスよ、春風のフルートを取り戻してくれて本当にありがとう」
と、俺に手を差し出しフルートを受け取ろうとした時……

「ポワン様……今回の事件は、村の人々の傲慢さが原因で発生した事件でもあると思います」
と、徐に話し出す。
やっとフルートを取り戻せたと思ってたポワン様は驚きを隠せない。

「そ、それは如何な意味でしょうか? 後ろに控えているベロニカが原因でしょうか!?」
「まぁ……原因と言えば原因ですけど、根本はもっと違う事だと思います」
不安を隠せないベロニカを見て、軽く頷き彼女を安心させてポワン様に答える。

「ここに戻る途中、一人のエルフさんがベロニカに向かって言いました。『やっぱりあの()は問題児だったのね』と……“やっぱり”って言ったんです。これはつまり、何もしてない時からベロニカに対して差別的な視線を向ける……或いは、行為・発言を行ってきたと言う事です。彼女は心ない者達に、精神的苦痛……所謂イジメに遭ってきたんです!」

「そ、そんな……間違いないのですか!? 私にはそのような報告は一度もありませんでしたよ?」
「誰が報告するんですか? イジメてた本人ですか? イジメを容認し、傍観してた他者ですか? 傍観……つまり何もしなくても、それはイジメと同義ですよ」
ポワン様はかなり狼狽えている……まぁ当然だろう。自分の納める村で、心ないイジメが発生してたのに、それすら気付かずにいたのだから。

「ベ、ベラ……貴女は何時もベロニカと仲良く過ごしてたではないですか!? 何故報告をしなかったのですか?」
「あ、いや……それは「ポワン様……ベラにそれを求めるのは些か酷ではないですか? 彼女ほど空気の読めない女は居ませんよ!」

口籠もるベラの発言を遮り、弁護的な事を発言する俺。
最初はホッとした表情をしたベラだが、後半の発言に顔を顰める。
でも文句は言えない……だって、良かれと思って行ってた行為が、ベロニカには苦痛である事に気が付いてなかったのだから。

「では……ベロニカが我々に復讐する為に、春風のフルートを盗み出し、世界を永遠の冬に変え滅ぼそうと画策したのですか!?」
「あ、いや……それはまた違うんですよ……」

エルフのイジメ問題を浮き彫りにして、ベロニカの罪を軽くしたところで今回の本筋を話し出す。
つまり……ザイルの馬鹿が知らずに巻き起こした“永遠の真冬化計画”を説明する。



「……と言うわけで、お爺さん思いのザイルは、真実を知らなかったが為に今回の事件を起こしてしまったんです。あと、お馬鹿であるのも要因ですけどね」

「ポワン様! 儂の孫が大変ご迷惑をおかけしました……簡単に許される事ではございませんが、儂が村を出て行った経緯をちゃんと話しておかなかった事が要因です。全ての罪は儂にあります故……孫には寛大な処置を賜りたいとお願い致します!」

「じ、爺ちゃん!? そんな……爺ちゃんは悪くないよ! 俺が何も知らずに暴走したのが悪いんだ。ポワン様……全部俺が悪いんです! だから爺ちゃんには何もしないでください! 俺……どんな罰でも受けますから、爺ちゃんとベロニカには罰を与えないでください!」

「何を言ってるのザイルちゃん!? 元はと言えば私にも罪はあるの……ポワン様、私がいけないんです! 村を離れて一人で静かに暮らそうと考えてたのに、思わずザイルちゃんに村の悪口を言ってしまったから……お爺さんとザイルちゃんを罰するのなら、私を罰するのが筋です! 二人の事は許してあげてください!」

大切な家族()を思って土下座する爺さん……
そんな家族(祖父)を守る為、彼女の事共々罪を引き受けようとするザイル……
更に彼氏(ザイル)とその祖父を守る為、自らを犠牲にするベロニカ……

多分……ポワン様は罪を問うつもりは無かったんだろうと思う。
事件の顛末は確認しなければならないけど、無事に解決したのだから誰かに償わさせようとは考えてなかったのだろう。
それを裏付ける様に、目の前で頭を下げてる3人を見て、辟易しているポワン様が存在する。

「あの……3人とも「ポワン様。どうでしょうか……今回の件を俺に一任してくれませんか?」
困り切ったポワン様が、この騒動を収めようとした瞬間、彼女の言葉を遮って俺がしゃしゃり出ていく。
良いとこ総取りの為、俺が出張っていくのです!

「……と、言いますとアルスには何か良い方法があるのですか? 今回の件……私は大事(おおごと)にするつもりはありませんよ」
良い方法も何も、これが俺の主目的だ!

「理由はどうあれ、ザイルとベロニカが事件を起こした事に変わりありません。その理由をポワン様達が説明したって、元から良い感情を持ち合わせてない者達には、簡単に許せる事ではないでしょう! となれば、ベロニカへのイジメもザイルへの対応も、ポワン様達に気付かれない様な陰湿なモノへと変わっていくと思います」
俺はそこまで言い終えると、ベロニカとザイルを見て微笑んだ。

「俺が提案するのは、二人を俺と一緒に人間界へ連れて行く事です。勿論これは追い出しと言う意味では無く、二人の自主性に委ねたいと思います。人間界へ行く事を拒み、この村……もしくはこの世界で暮らすのも自由です。二人を苛める方々の気持ちも、時間をかければ変わるでしょうから、(いず)れは幸せに暮らせる日が来るでしょう」

「しかし……アルス殿には迷惑な事ではないのですか? 人間の世界に……アルス殿が暮らす村に、突然エルフとドワーフが現れ、剰えその二人がアルス殿の知り合いであると知れれば……」
爺さんは俺への迷惑を考え、提案を否定的に捉えてくる。
確かにエルフとドワーフを連れ歩けば、村の連中以外にも驚く人が沢山でてくるだろう、けど……

「お爺さんの心配は尤もですけど、俺の村での評価は最低レベルなので、そこは気にしないで良いですよ(涙笑)」
ベラから聞いた村人達の俺への評価を思い出し、ちょっとヘコむ俺ちゃん……

「それに……俺にも下心がありますから! だから俺への迷惑は考えず、二人の気持ちだけで決めて下さい」
「下心……?」
誰もが気になる一言だったろう……それでも今回の事件を円満解決させようとしている俺に遠慮して、気付かぬフリをしている中、ベラ(KY女)だけが疑問を口に出してきた。
まぁ聞かれる事を前提で言った言葉だから良いけどね。

「うん。下心……と言ってもエッチな事じゃないよ。俺のお父さんは、何かを求めて世界中を旅する事が多いんだ。多分、俺が赤ん坊の時に攫われたお母さんに関係してるんだろうけど……兎も角世界中を冒険してるんだ! だから俺もそれを手伝いたいんだ。でも俺には戦う力が無い……戦闘力を数字に置き換えたら、きっと『3』とか表示され、エリート戦士に『ぺっ、ゴミが!』とか唾吐きながら言われると思うんだよね」

ちょっと自虐的に自分の事を語ったのだが、「はぁ……」と不思議そうに頷かれただけで、あまり感銘を受けてもらえなかった。
作画は同じ人なのになぁ……

「でね俺もお父さんと世界を旅する為に、戦力が必要だと考えてるんだよ。それが俺の下心……別に俺の手足となって戦えと言うわけじゃないけど、俺の事を守ってほしいなぁって思ってるのです! ダメかな?」

「なるほど……アルスは私の氷結魔法が必要なのね?」
「うん、出来ればザイルの怪力も……恋仲のお二人を引き離すのは忍びないから」
スドー君というイレギュラーキャラが居るのだし、ベロニカという原作に無いキャラが加わっても問題ないと思う。それにザイルは仲間になるキャラだから……本当は今じゃないけど、仲間キャラだから!

「俺は……ベロニカと一緒だったら何処でも行くぜ。爺ちゃんと離れるのは寂しいけど、俺……ベロニカの事が大好きだから!」
「ありがとうザイルちゃん♥ 私嬉しいわ!」
俺の目の前でイチャつく二人……

筋肉チビ(チビと言っても今の俺よりは長身)のクセに生意気だ!
ベロニカも化粧さえ落とせば(すげ)ー可愛いので、抱き付かれふくよかな胸の感触を味わうザイルが羨ましい。
見た目はベラと同い年(エルフなので実年齢は判らない)に見えるけど、発育面はずば抜けているから本当に羨ましい。

でも大丈夫……俺の嫁(未来のビアンカ)は絶世の美女だから、全然悔しくない。
10年後(奴隷生活回避予定)、ザイルにイチャラブを見せつけるから、全然悔しくない。