銀河転生伝説 ~新たなる星々~


 

第1話 レンスプルト星域会戦

銀河帝国が自由惑星同盟を滅ぼし、銀河を統一してから5年。

帝国は、新領土《ノイエラント》(旧同盟領)にて新たな回廊を発見した。
この回廊は皇帝アドルフ1世によりドーバー回廊と名付けられ、調査が開始された。

ドーバー回廊は、フェザーン回廊ほどの広さは無く、最も狭い場所はイゼルローン回廊の最狭部に匹敵した。
これは、要塞を建造すれば軍事的に回廊を塞ぐことが可能であるということである。

そして、ドーバー回廊を抜けたその先(南十字・盾腕)には新たなる星々の海が広がっていた。

新天地。
それが、銀河帝国が新たな宇宙へ名付けた呼び名であった。


<アドルフ>

「何? ロアキア統星帝国だと?」

「はっ、ドーバー回廊を抜けた先にあった一つの恒星系には人が住んでおり、その恒星系はレンスプルト星系ということ、ロアキア統星帝国という国家に所属していることが判明しております」

「国家規模は?」

「不明です」

ふむ……どのようなアクションを起こすにしろ現段階では情報が少な過ぎるな。
もう少し情報集めに専念したいところだが……

「正直言えば気が乗らんが……接触してしまった以上は無視する訳にもいかんか」

「では?」

「ロイエンタールに一個艦隊を率いてロアキアとの国交樹立に向かわせろ。それと、向こうにも連絡を入れておけ。余計な混乱は無い方が良い」

「はっ」

やれやれ、俺には荷が重いな。
こういう事態は。


……自由惑星同盟との戦争が終結してから6年。
軍ではメルカッツやナトルプ、クラーゼンが既に退役しており、軍務尚書にはリーガンが、統帥本部総長にはシドーが、宇宙艦隊司令長官にはグライフスが就いている。


皇帝            アドルフ1世
軍務尚書          ドナルド・ダック・リーガン元帥
軍務次官          アフドレアス・ゴシェット上級大将
統帥本部総長        トルガー・フォン・シドー元帥
統帥本部次長        カイト・ソーディン上級大将
宇宙艦隊司令長官      アルベルト・フォン・グライフス元帥
宇宙艦隊総参謀長      ウルリッヒ・ケスラー上級大将
オリオン方面軍司令官    ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト上級大将
バーラト方面軍司令官    ウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将
ガンダルヴァ方面軍司令官  オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将
宇宙艦隊司令官       アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将
              アウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将
              アルフレッド・ガーシュイン上級大将
              ウィリアム・パエッタ上級大将
              エルンスト・フォン・アイゼナッハ上級大将
              カール・グスタフ・ケンプ上級大将
              クリストフ・フォン・ドロッセルマイヤー上級大将
              コルネリアス・ルッツ上級大将
              コンラート・ハウサー上級大将
              ナイトハルト・ミュラー上級大将
              ヘルマン・フォン・オットー上級大将
              マグヌス・フォン・フォーゲル上級大将
              ユルゲン・シュムーデ上級大将
              アルト・スプレイン大将
              アルフレット・グリルパルツァー大将
              エドウィン・フィッシャー大将
              グエン・バン・ヒュー大将
              ダスティ・アッテンボロー大将
              ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン大将
              フォルカー・アクセル・フォン・ビューロー大将
              ブルーノ・フォン・クナップシュタイン大将
              マリナ・フォン・ハプスブルク大将
              レオポルド・シューマッハ大将
近衛艦隊司令官       カール・ロベルト・シュタインメッツ上級大将
親衛艦隊司令官       ヘルムート・レンネンカンプ上級大将
帝都防衛司令官       ヘクトール・モルト上級大将
装甲擲弾兵総監       ヘルマン・フォン・リューネブルク上級大将
装甲擲弾兵副総監      ワルター・フォン・シェーンコップ大将
幕僚総監          エルネスト・メックリンガー上級大将
憲兵総監          アロイス・ブレンターノ上級大将


ちなみに、ホルスト・ジンツァー大将は近衛艦隊――つまりレンネンカンプ艦隊の副司令官を、バルトハウザー大将、チュン・ウー・チェン大将は俺直属部隊の司令官と参謀長をやってる。

上級大将だの大将だのがたくさん居るのにポストが少ないから人事に苦労するよ。
新しいポストでも作るか?

あ、率いる艦艇は基本的に上級大将が15000隻で、大将が8000隻ね。
無論、これはあくまで基本値で変動はするが。

え? シュターデンとエルラッハ?
シュターデンは何年か前に病死したな。
エルラッハは事故死。

両者とも死後元帥だ。


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 5月5日。
ロイエンタール上級大将率いる15000隻の艦隊は、ロアキア統星帝国との国交樹立のためドーバー回廊を通過し、ロアキア領レンスプルト星系へと侵入した。

驚いたレンスプルト星系の領主であるガウト男爵は、国交を樹立することになる銀河帝国への示威行為のため近づいていた統星艦隊の一つであるバートウッド艦隊に慌てて『早く来い』との連絡を入れた。
ロアキアは銀河帝国を(自分たちが存在すら知らないほどの)辺境の小国家と認識しており、まさか10000隻を超える大艦隊を有しているとは夢にも思っていなかったのである。

ガウト伯爵の連絡から銀河帝国が(伯爵領に)攻撃を加えてきたと勘違いしたバートウッド中将は、現地へ急行し遊弋するロイエンタール艦隊に問答無用で攻撃を仕掛けてしまう。

いきなりの攻撃にロイエンタール艦隊は混乱したものの、すぐに混乱を鎮め艦隊の秩序を取り戻した手腕はロイエンタールならではのものであった。

ロイエンタール艦隊15000。
バートウッド艦隊14000。

数は互角である。
だが、指揮官の力量には大きな差が有った。

「敵の攻撃には粗さが目立つ。その隙を突いて切り崩せ!」

いきなり陣形も整えずに攻撃を仕掛けた影響かバートウッド艦隊の陣形は縦に伸びきっている。
そして、そこを見逃すロイエンタールではなかった。

一部の部隊を長い縦列となったバートウッド艦隊の側面に展開させ、攻撃を仕掛けたのである。

「……くっ、いったん後退せよ」

バートウッド中将は堪らず艦隊を後退させ、艦隊の再編を図る。

「深追いは無用。こちらも艦隊を再編せよ」

一方のロイエンタール艦隊も一連の戦いで陣形が乱れており、無理な深追いをせず艦隊の再編にかかった。

・・・・・

両軍の再編が完了し、戦闘が再開されたのは八時間後のことであった。

しかしバートウッド艦隊の攻撃は先程とは違い、やや積極性に欠けていた。

「ほお、様子見か」

「最初とは打って変わって大人しくなりましたな」

「敵には我が軍の情報が無い。まあ、それは此方も同じだが……しかし、慎重になった敵を正攻法で切り崩すのは少々骨が折れる。ならば……左翼部隊に命令、敵右翼に攻撃を集中せよ!」

ロイエンタール艦隊の左翼はバートウッド艦隊の右翼に攻勢を仕掛ける。
気を抜けば一気に突き崩されそうな猛攻に、バートウッドはただ必死に堪えるしかなかった。

「ええい、ここは堪えるのだ! 敵の攻勢が限界に達したところで逆攻勢を掛ける!」

だが、それこそがロイエンタールの狙いでもあった。

「さ、更に右から敵が来ます!」

「何ィ!?」

ロイエンタールは左翼部隊に攻勢を掛けさせることで敵の目を引き、その間に自軍の中央と右翼より徐々に戦力を引き抜いて、攻勢を掛ける左翼の更に左からロアキア軍右翼の側面へと奇襲を仕掛けたのである。

これによりロアキア軍右翼の戦線は崩壊し、火達磨になってのた打ち回った。

あるいは、この時こそ(右翼を見捨てることが前提だが)ロアキア軍が最小の被害で撤退する好機であったかもしれない。
しかし、バートウッド中将は味方を見捨てることができず、されとて有効な手を打つこともできず悪戯に損害を増やしていった。

「脆いな。一度崩れるとこうまで脆いとは……まるで自分達より圧倒的に劣ったものとしか戦ったことの無いような……そう感じる」

このロイエンタールの推測は的を得ていた。
ロアキア統星帝国は長きに渡り宿敵ルフェール共和国と争っているものの、直接矛を交えることは無く、ルフェールとの緩衝地帯でもある辺境星域の小国同士の小競り合いに偶に顔を出すのが精々であった。
結果、ロアキアの将兵たちは自分たちと同等以上の敵と戦った経験が皆無だったのである。
オリアス皇子以下数人の提督が一度ルフェールと大規模な艦隊戦を行ったことがあるものの、バートウッドはそれには参加していなかった。

「ワルキューレを出しますか?」

「うむ、今が好機だ、敵を殲滅せよ!」


1時間後、戦場に残っているのはロイエンタール艦隊と、残骸となったバートウッド艦隊の成れの果てだけであった。

バートウッド中将は戦死し、艦艇3000隻が降伏、1000隻程が逃亡。
その他のロアキア軍は残らず撃沈されていた。


期せずして始まったこの戦闘であったが、結果は銀河帝国の勝利に終わった。
だが、これは長きに渡る新たな戦いの始まりに過ぎないのであった。
 

 

第2話 これはロアキアの陰謀ですか? いいえ、アドルフの責任転嫁です


――マリウセア星系第三惑星ロアキア――

ロアキア統星帝国の首都星でもあるこの星に緊急報告が届いたのは5月8日のことであった。

「バートウッド艦隊が壊滅……だと!?」

ロアキア統星帝国第五皇子であり、ロアキアの実質的な最高権力者であるオリアス・オクタヴィアヌスは、信じられないという表情で報告書を目にした。

バートウッド艦隊は14000隻の大艦隊であったが、戦場より無事に撤退出来た艦は1000隻に満たなかった。

13000隻。
一度の会戦でこれほどの損害が出たのは、ロアキアの歴史上初である。

「いささか、銀河帝国とやらを侮り過ぎていたようですな。よもや15000隻にも及ぶ艦隊を有しているとは……」

そう応えるのは宰相のプラヌス。
オリアスが幼少の頃より教育係として仕えており、オリアスに帝王学を叩き込んだ人物でもある。
それ故、オリアスは敬意と信頼を込め彼のことを『先生』と呼んでいた。

「報告によれば、こちらの誤解により発生した戦闘のようですが」

「バートウッドに非が有るとはいえ、報復は必要だ。このままでは我がロアキアの沽券に関わる」

なるほど、とプラヌスは返す。
確かに、この問題は現場の暴走で済ますことのできる事態では無かった。

「私が艦隊を率いて一戦を交える。奴等を打ち破った後、改めて交渉を開始するとしよう。無論、こちらに有利な形でな。出来るなら、こちらの支配下に置きたいところだが……」

「敵の規模が判らぬ故、確実なことは言えませんが、それは難しいでしょうな。あの艦隊が敵の全てというわけではありますまい。彼らとの戦いで下手に消耗すれば、ルフェールやティオジア連星共同体の連中を利すばかりですぞ」

ロアキアとほぼ同等の国力を有するルフェール。
先年発足し、辺境13国の内9ヵ国(アルノーラ、ウェスタディア、シャムラバート、大康国《ダージエン》、トラベスタ、ドルキン、ノス・ベラル、ハーラン、リンドガット)が参加するティオジア連星共同体。

ロアキアの国力低下は相対的にこれらの国々の地位を高めることとなる。
そうなれば、ロアキア傘下の国であるイグディアスやオルデランもロアキア陣営を離脱しかねない。

「……そうだな、先生の言う通りだ。多くを望んだが故に多くを失う愚は避けるとしよう」


この1週間後、オリアスは直営の艦隊15000隻を率いて帝都ロアキアを進発した。
途中、マルゼアス艦隊15000、オルメ艦隊11000を加えたその総数は41000隻に達する。

銀河の半分を統べるロアキア統星帝国が本格的に動き出そうとしていた。


* * *


――新帝都フェザーン――

一方、銀河帝国第38代皇帝であるアドルフ1世の元にも、先日の戦闘及びその後の調査結果に関する報告書が送られていた。

「……なるほどね」

レンスプルト星系を占領したロイエンタールからの報告で、アドルフはロアキア統星帝国という国家の概要がある程度分かってきた。

「10万隻以上の艦隊を常備している大国か……」

戦闘艦艇の数こそ全盛期の自由惑星同盟より劣るが、同盟が国家総動員体制を敷いていたことを考えると総合力では互角か……もしくはロアキアが上回るだろう。
どちらにせよ、容易にはいきそうにないことは確かである。

だが、指揮官や兵の質ではこちらが圧倒的に勝るとアドルフは考えている。

片や長きに渡る自由惑星同盟との戦争を勝ち抜いた銀河帝国。
片や自分よりも数で劣る敵に圧倒的な戦力を叩きつけることしか経験のないロアキア統星帝国。

同数以上の戦闘の場合、どちらが精神的に優位かは明白であった。


<アドルフ>

ここは、もうひと押しすべきだな。
資料を見る限り、ロアキアがこのまま大人しく引き下がるとは思えん。
最低でも、もう一戦はすることになるだろう。

敵も次は相当数の戦力を揃えてくるだろうから、ロイエンタールだけじゃちとキツイな。
幸い、ミッターマイヤーとスプレインが既に向かっているから兵力的に著しく劣勢になることは無いと思うのだが……。

念には念を入れておくか。

「ファーレンハイトとミュラーを呼べ」

・・・・・

しばらくして、ファーレンハイトとミュラーが俺の前に現れる。

「ファーレンハイト、卿は直ちに艦隊を率いて新天地へと向かえ」

「御意」

「ミュラー、卿はガイエスブルクの要塞司令官兼駐留艦隊司令官となり、要塞を新天地へと移動させろ。三長官には俺から話を通しておく」

「ガイエスブルクを新天地へ……ですか?」

「そうだ、この先何がどうなるか予測がつかん。補給と艦艇の整備ぐらいは支援しとかんとな」

「そういうことであれば、微力を尽くしましょう」

「うん。では、卿らの武運を祈る」

俺がそう言って敬礼すると、二人も敬礼して部屋から出て行った。


それにしても、気になると言えばロアキア以外の国家もだな。

ロアキアと同等の国力を持つルフェールに9ヵ国の小国が連合したティオジア連星共同体。
これら一つ一つは、銀河帝国には及ばない。

だが、我々という未知の勢力に対しロアキア、ルフェール、ティオジア連星共同体が協力態勢を築くことになれば……。

悪夢だな。
これは最悪のケースも考えて、ドーバー回廊にイゼルローン級の要塞を建設しておいたほうが良いか。

だが、イゼルローン級の要塞となると完成は少なく見積もって7、8年はかかる。
どうすべきか……。

よし、オダワラ要塞をドーバー回廊へ持って行こう。
あれはイゼルローン要塞には及ばないが、ガイエスブルク要塞に匹敵する。
新要塞の建造まで回廊を守り通してくれるだろう。

しかし、さすがにこれだけのことを俺の独断で決めるわけにはいかんな。
決定は三長官と協議をしてからにするか。



……やべぇ、そう言えば今日発売の新作エロゲ買うの忘れてた。
急いで買いに行かねば!

くそっ、これもロアキアの陰謀か!
この恨みは忘れぬぞ!
 

 

第3話 第二次レンスプルト星域会戦


宇宙暦805年/帝国暦496年 6月20日。
バートウッド艦隊との戦闘で、艦艇を14000隻に減らしたロイエンタール艦隊の元へミッターマイヤー艦隊15000とスプレイン艦隊8000が合流した。

これで新天地派遣軍の総数は37000隻となり、ロイエンタールが総司令官に任命された。

この後も、ファーレンハイト艦隊15000隻に駐留艦隊(ミュラー艦隊)15000を擁するガイエスブルク要塞が到着予定である。

また、アッテンボロー大将を要塞司令官兼駐留艦隊司令官としたオダワラ要塞(駐留艦隊8000隻)もドーバー回廊に居座ることとなっている。

この時点で、帝国が新天地(ドーバー回廊含む)へ向けて動かした戦闘艦艇は76000隻。

本国で更にパエッタ、グリルパツルァー、クナップシュタイン、グエン・バン・ヒューの4個艦隊40000隻の動員がかかったことを考えると、新天地に投入される兵力は10万隻を超えるだろう。

これは、銀河帝国の総戦力(戦闘艦艇のみ)の3分の1にもなる。

新天地の攻略準備は着々と進みつつあった。


<ロイエンタール>

ほう、俺がこの部隊の総司令官か。

今、俺の麾下には37000隻の艦艇がある。

指揮下の司令官はミッターマイヤーにスプレイン。
どちらも優秀な将官だ。
ファーレンハイトとミュラーも到着し次第俺の指揮下に入る。

6年前に帝国が同盟を征服したときは、もうこれで本格的な会戦を行うことも無いなと思ったものだが……。

新たなる地、新たなる星々に新たなる敵か。

世の中分からないものだ。
だが、だからこそ面白い!


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 7月10日。
オリアス皇子率いるロアキア軍はレンスプルト星域に侵入し、待ち構えていた帝国軍と対峙した。

「ファイエル!」

「攻撃開始!」

遂に第二次レンスプルト星域会戦が幕を開けた。

帝国軍37000隻、ロアキア軍41000隻。
戦力的には互角と言っていいだろう。

両軍のビームやミサイルが交差する中、帝国軍はスプレイン艦隊を、ロアキア軍はオルメ艦隊をそれぞれ予備兵力として後方に置き、互いに投入する機会を窺う。

しかし、両軍の将とも優秀であったためこれといった機会はなかなか訪れず、ビームとミサイルによる応酬が延々と続くだけであった。

・・・・・

戦闘開始から既に6時間が経つが戦況は依然膠着状態にあった。

ロイエンタールは、オリアスが攻勢に出ようとする都度その突出部分を潰してオリアス艦隊の攻勢を封じ込めたが、ロイエンタールとてオリアスの絶妙な指揮の前に攻勢の機会を見出せずにいた。

ミッターマイヤー艦隊はその迅速さで以ってマルゼアス艦隊を翻弄していたものの、堅実な用兵をするマルゼアスを中々崩せずにいる。

スプレイン、オルメ両艦隊は未だに動かない。

並みの将であればこの状況に焦りを感じ、焦燥感に駆られて前進か後退を命じていただろう。

だが、ロイエンタールは特に焦りを感じていなかった。

経験上、このような膠着状態はいつか解ける。
動くのはその時だ……と。

故に、ロイエンタールは艦隊を完全に統制しつつ的確な火力の集中によってオリアス艦隊に出血を敷いていった。

・・・・・

戦況が変わったのは、11日に入ってからのことであった。

ミッターマイヤーがマルゼアス艦隊の各所に小さな突破口を開き、それらの点を線に繋いで一挙に前進を果たしていた。

「敵が侵入してきます!」

「く、いったん後退せよ」

形勢不利とみたマルゼアス大将は艦隊をいったん後退させる。

「今だ、ワルキューレを出して前方の敵艦隊を蹂躙せよ!」

マルゼアス艦隊が後退したことで、敵艦隊の連携が一時的に途絶したことを見抜いたロイエンタールは、この気に攻勢をかける。

無論、オリアスとて一流の将帥。
敵が攻勢に転じてくるのは予想していたが、オリアスとロイエンタールの力量はほぼ互角。
もしくは、経験の差でロイエンタールといったところである。

であれば、上手くチャンスをものにした方が主導権を握るのは自明の理である。

戦いの趨勢は帝国軍に傾きつつあった。

「殿下、このままでは……」

「仕方無い、オルメ艦隊に入電。敵の側面を突け……とな」

オリアスはこの流れを変えるため、予備兵力であるオルメ艦隊の投入を決める。

帝国軍も予備兵力を出してこれを防ぐだろうが、オルメ艦隊との戦力差は3000隻前後。
十分に勝機はあると踏んでいた。

「ほう、ここで切ってくるか。スプレイン艦隊に抑えさせろ」

ロイエンタールも、予備兵力としていたスプレイン艦隊を投入する。

元々、こんなときの為に温存していた部隊だ。
ここで切らない手は無い。

激突した両艦隊はやはり数の差で勝るオルメ艦隊が押しつつあり、今にもスプレイン艦隊を突破しそうな勢いである。
スプレイン艦隊の中央は大きく下がり、もうすぐV字形になろうとしていた。

「ん? いや、待て」

ここでオルメは敵が意図的にV字型の陣形を構築しつつあることを悟った。
その証拠に、目の前の艦隊は崩れかけているにもかかわらず、その行動は妙に秩序立っている。

「ちっ、なかなか侮れん。いったん進撃中止だ」

オルメ艦隊が突撃を中止したことによって、オリアスは継戦か撤退かの決断を迫られることになった。

このまま戦闘を継続しても無意味な消耗戦でしかない。
しかし、撤退もまた安易に決断できるものではなかった。

そもそもこの戦い自体が、ロアキアの沽券を保つために行われた戦闘である。
ここで引けばロアキアの威信が失墜するのは目に見えていた。

軍事的な理由ではなく、政治的な理由で軍事行動が制限される。
やり難いことこの上ない。

この時、オリアスは思考に耽っており一時的に戦況を把握していなかった。
そのため、ロイエンタール艦隊の一部が前進と後退を繰り返すという奇妙な動きをしていることに気づくことができないでいた。

このロイエンタール艦隊の動きに釣られ前進してしまったのは、オリアス艦隊の先鋒であるミューリッツ少将の分艦隊である。

「青二才に用兵のなんたるかを教えてやるとしよう。ファイエル!」

ロイエンタール艦隊は、ミューリッツの部隊を火線の中心圏に引きずり込み至近距離からビームとミサイルを浴びせかけた。

「反撃しつつ後退!」

「ダメです! 退路を断たれました!」

ミューリッツが反撃と交代を交互に行うつど、ロイエンタール艦隊は先手を打ち、強かに損害を与えていった。

「ミューリッツ提督の部隊が!」

「これは……全艦前進してミューリッツを救い出せ!」

オリアスはすぐに救出の命令を下す。

「オリアスの本隊が出てきたか、ここまでのようだな。いったん後退せよ」

オリアスの本隊が出てきたことで、無意味な出血を嫌ったロイエンタールは艦隊をいったん引いて陣形を整えさせる。

この短期間の攻防で、3000隻だったミューリッツ分艦隊はその数を600隻にまで減らしていた。

「(この私としたことが、このようなミスをするとは……)全軍後退、撤退する」

ここに至って、オリアスは撤退を決断した。
元々、迷っていたところにこの損害……撤退を決意させるには十分であった。

ロアキア軍は戦場から撤退し、帝国軍も無用な追撃は行わなかった。
戦況は帝国軍に有利だったとはいえ、ロアキア軍は余力を持って撤退するのである。
地の理が向こうにあることも考えると追撃のリスクは大き過ぎた。


こうして、第二次レンスプルト星域会戦は終結した。
帝国軍の損失艦艇4200隻。
ロアキア軍の損失艦艇9700隻。

戦術・戦略的に銀河帝国軍の勝利であった。
 

 

第4話 第二次ガイエスブルク要塞攻防戦


「そんな、あのロアキアが負けるなんて……」

辺境13国の1国であるウェスタディア王国宰相アルベルト・アルファーニは、送られてきた報告に目を丸くしていた。

銀河帝国という未知の国家にロアキアがレンスプルト星域において敗れる。

これだけでも重大事件であるのに、再度のロアキアの敗北(オリアス皇子自らが報復に赴いた第二次レンスプルト星域会戦は戦術上引き分けであり、実質的にはロアキアの戦略的敗北であった)。

この一連の出来事は辺境星域に対するロアキアの圧力を減らすことになるだろう。
だが、アルファーニは単純にロアキアの影響力が弱まったと喜べなかった。

これは、ロアキアより強力な勢力が現れたということである。
その勢力がこちらに友好的とは限らない。
また、ロアキアが銀河帝国とやり合っている内にルフェールが触手を動かす可能性も考えられた。

ティオジア連星共同体の発足により、銀河を統べる二大国(ロアキア、ルフェール)に一定の発言権を獲得するに至ったばかりである。

余計な火種はウェスタディアとしても望むところでは無いのだ。

「これ以上の敗北をロアキアが放置できるはずがない。あのオリアス皇子なら必ず先日以上の大兵力で以ってリベンジを挑むだろうけど……」

それに失敗すればロアキアは内部分裂する。

四人の兄を殺し、皇帝を幽閉して実権を握ったオリアスに反感を持つ者は多く、そういった者たちがオリアスを失脚させようと動き出すのは十分に考えられる。
統制帝の皇子で残っているのはオリアス1人だが、皇女は何人も健在であるため神輿に困ることは無い。
あるいは、銀河帝国に下るか手を結ぶ者たちも出てくるかもしれない。

いずれにせよ、次の一戦がロアキアの命運を決めるだろう。

それと、銀河帝国についての情報が不足しすぎている。
どのぐらいの規模の国家なのか、どれほどの戦力を有しているのか、何も分からない。
もし、ロアキアが勝利していれば捕虜から情報を得ることも出来たであろうが……。

少なくとも、現時点で判明しているのは万単位の艦隊を有していることと、オリアス皇子を上回る優秀な将がいるということだけである。

前途多難であった。


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 8月15日。
レンスプルト星域において、新天地派遣軍にファーレンハイト艦隊とガイエスブルク要塞に駐留するミュラー艦隊が合流した。

先日の戦闘での損失艦艇は、ロイエンタール艦隊約1900隻、ミッターマイヤー艦隊約1800隻、スプレイン艦隊約400隻であり、その結果合計で4200隻程の艦艇を減らしている。
ファーレンハイト、ミュラー両艦隊合わせて30000隻の加勢はありがたかった。

更に、パエッタ艦隊15000隻とグエン・バン・ヒュー艦隊8000も既にフェザーンを出立しており、合流すれば新天地派遣軍の戦力は80000隻を超える。

ここまで艦艇数が増えるとガイエスブルク要塞だけでの補給は厳しくなるが、移動要塞に改造されたレンテンベルク要塞がレンスプルト星域に配置されることが決定しており、それまでの辛抱である。
また、先日ガイエスブルク級の要塞であるオオサカ要塞が竣工し、これも遠からず新天地に配備されるだろう。


ガイエスブルク要塞にて補給や損傷艦艇の修理を行うロイエンタール、ミッターマイヤー、スプレイン艦隊に代わり、ファーレンハイト艦隊がレンスプルト星域の先にあるウルガンテ星域の制圧に向かった。

ウルガンテ星域の領主であるコッツペラー男爵は抵抗したものの、圧倒的戦力差の前には屈せざるを得なかった。

・・・・・

第二次レンスプルト星域会戦の後、首都星ロアキアに戻ったオリアスは統星艦隊の集結を命じ、各地から艦隊を集めた。

その数、約75000隻。
ロアキア史上最大の動員である。

「これより、我がロアキアの総力で以って侵略者どもの軍勢を叩きつぶす。全艦出撃!」


* * *


宇宙暦805年/帝国暦496年 11月25日。
ウルガンテ星域にロアキア軍が侵入し、第二次ガイエスブルク要塞攻防戦は開始された。

帝国軍約55000隻、ロアキア軍約75000隻。
艦艇数ではロアキア軍が上回っていたが、帝国軍にはガイエスブルク要塞がある。

「ウルガンテから送られてきた情報によりますと、どうやら敵軍の一部がロッソルン星域とハルトン星域の制圧に出向いているようです。その内の片方は、先日合流した増援部隊かと思われますが」

「それは好都合だな、各個撃破の好機だ」

オリアスがほくそ笑んでいると、オペレーターから報告が入る。

「前方に敵2個艦隊を捕捉、数25000」

「先日の艦隊か、マルゼアスとオルメに相手をさせろ。我らはその隙に要塞を攻撃し敵戦力の分断を図る」

帝国軍の戦力はロアキア軍の3分の1でしかなく、要塞攻略に割ける戦力は十分にある。

「(あの要塞を落とせば敵の作戦行動範囲を狭めることが出来る上、補給線が長大になり分断しやすくなる。今いる敵も撤退を選択せざる得まい)」

ロイエンタール、ミッターマイヤー艦隊とマルゼアス、オルメ艦隊が交戦状態に入った。

「よし、ライニッツ艦隊を要塞へ突入させろ」

オリアスの命を受け、ライニッツ中将率いる9000隻の艦艇がガイエスブルク要塞へと突入を開始する。

「敵はこのガイエスブルクを動く要塞程度にしか考えていないようだな。ガイエスハーケン発射用意……撃てぇ!」

ガイエスハーケンがライニッツ艦隊に撃ち込まれる。

「ライニッツ艦隊……半減」

「第二射来ます!」

ライニッツ艦隊がガイエスハーケンの射程外に退避し終えたとき、残存艦艇数は2500隻。
8割以上の艦艇を失っていた。

「あれほど強力な砲があるとは……」

「直上より敵艦隊強襲!」

それは、ファーレンハイト上級大将率いる帝国軍15000隻であった。

「オリアス皇子をお守りしろ!」

ロズボーン提督率いる12000隻の艦隊がファーレンハイト艦隊の前に立ち塞がる。
しかし、数の上でも勢いの上でも勝るファーレンハイト艦隊を押し止めるのは不可能であった。

「ロズボーン艦隊、突破されます!」

「ほう、敵もやるではないか」

ロズボーン艦隊を突破したファーレンハイト艦隊は、そのままオリアス艦隊へと突撃する。

「殿下、このままでは!」

「心配いらん。窮地に陥ったのは敵の方だ」

オリアスは帝国軍に伏兵があるのを予測していたのである。

ファーレンハイト艦隊の側面にメルボド艦隊8000、ブルーナ艦隊5000が展開し、先のガイエスハーケンでボロボロになったライニッツ艦隊が名誉挽回とばかりに要塞への退路を断つ。
ファーレンハイト艦隊は完全に包囲された。

オリアス艦隊を突破できれば問題は無いのだが、ロイエンタールに匹敵する腕を持つオリアス相手にそれは難しい。

「逆にこちらが包囲されたか……よろしい、本壊である。砲撃を一点に集中して敵陣を強行突破する!」

アースグリムの艦首より大口径のビームが放たれ、包囲陣の中で最も薄いライニッツ艦隊を薙ぎ払う。
この一撃でライニッツ艦隊旗艦カイオリントが消滅し、ライニッツ中将は戦死した。

「逃がしたか……まあいい、あの艦隊が再編を終えるまでに決めればいいだけのこと。前線にメルボド、ブルーナ両艦隊を投入せよ」

包囲網を突破したファーレンハイト艦隊が後退し、前線にメルボド、ブルーナ両艦隊が出てきたことで戦力比はロアキア側に大きく傾いていた。

ロアキア軍の圧力に押された帝国軍はじりじりと後退する。

「味方が居ればあの巨砲は使えまい。突入の好機だ、全艦で押し込め!」

ロアキア軍がロイエンタール、ミッターマイヤー両艦隊に殺到する。
頼みのガイエスハーケンもこの状態では使えない。

「敵増援が要塞内より出撃してきます!」

それは、これまで要塞内で待機していた『鉄壁』ミュラーの艦隊であった。

「なんだと! 数は?」

「およそ、15000」

「く、まだ余力を残していたか」

それでも、オリアスは攻撃を続行した。
ここで手を引けば、強力な要塞砲を持つガイエスブルク要塞に再び肉薄するのは困難であることを分かっているためである。
ファーレンハイト艦隊が戦列に復帰しても数ではロアキアが上回る。
ここは攻め続けるしかなかった。

「数はこちらが上だ、戦闘艇を出して近接戦闘に持ち込め!」

ロアキア軍の艦艇より戦闘艇が次々と出撃していく。

「敵の戦闘艇が発進してきます!」

「こちらもワルキューレを出せ。総力戦になる、要塞からもワルキューレを出撃させろ」

しばらくの間、両軍の戦闘艇による激闘が繰り広げられる。

それが終わった後も、ロアキア軍は未だ『鉄壁』ミュラーの艦隊を抜けずにいた。
迂回しようにも、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ファーレンハイト艦隊の適切な動きによって防がれる。

戦いは、消耗戦の様相を呈してきた。

「ロイエンタール提督、このまま消耗戦になれば数に劣る我々が不利です」

「そうだな、次はこちらから動いてみるとするか。ミッターマイヤー艦隊旗艦ベイオウルフに連絡、『敵側面を突け』とな」

「はっ」

「ミッターマイヤー艦隊を援護する。主砲、斉射三連!」

ロイエンタール艦隊による砲撃でロアキア軍を牽制している間に、ミッターマイヤーは戦線より抜け出していく。
その後、艦隊を右へ回しロアキア軍の左側面を突こうとする。

「敵1個艦隊、側面に回りつつあります」

「ちっ、ロズボーンに防がせろ。正面はまだ抜けんのか!」

「敵、未だ崩れません」

「!! 前方に艦影、これは……敵の増援です!」

「く、ロッソルン星域かハルトン星域の艦隊が戻ってきたか」

オリアスの予想とは違い、現れたのはグエン・バン・ヒュー大将率いる艦隊であった。

ウルガンテ星域への到着予定は翌17日であったが、ロアキア軍襲来の報を聞いて急ぎ駆けつけて来たのである。

「おお、間に合ったようだな。行くぞ、全艦突撃だー!」

グエン・バン・ヒュー艦隊の参戦は、押されぎみであった帝国軍を活気づかせた。
これまで受け身だった帝国軍は少しずつ攻勢に転じるようになる。

それでも尚、兵力ではロアキア軍が勝っていた。

両軍の兵力差が逆転するのは11月27日、2時55分のことであった。

ロアキア艦隊襲来の報を聞いたパエッタ艦隊の半数とスプレイン艦隊が急ぎ戻ってきたのである。

『数において勝る敵軍と無傷の要塞。ここに至ってはもはや勝利は望めますまい、小官は撤退を具申致します』

「そんなことは分かっている! だが……」

ここでオリアスが敗北すれば、ロアキアの内部分裂は必至。
それ故に、オリアスは撤退を決断できずにいた。

『それでも、ここで殿下を失うわけにはいかんのです。どうか、ここは一度退いて捲土重来を』

「……分かった。全軍、退却」


11月27日 5時40分。
第二次ガイエスブルク攻防戦はロアキア軍の全面退却を以って収束した。

帝国軍の損失艦艇16025隻。
ロアキア軍の損失艦艇27402隻。

ロアキア軍の損害は帝国軍を大きく上回り、全軍の3割を超えていた。

そして、これがロアキア統星帝国没落の第一歩であった。




――後日談――

後日、この戦いの報告書を見たアドルフが、

「うわっ、ライニッツとか言う提督の艦隊あまりにもフルボッコ過ぎてワロタw これマジ涙目じゃね? エロ本でも葬式に送っとくか?」

と言って同情していたとか。

本当にどうでもいい話であった。
 

 

第5話 ロアキア動乱1


宇宙暦805年/帝国暦496年 11月30日。
セーラー○ーンを見て「変態《タキシード》仮面かっけー!」とか言う息子の将来を心配しているアドルフは、アルツール・フォン・シュトライト大将から差し出された書類に目を止めた。

「なんだぁ~、また報告書か?」

「先日行われた第二次ガイエスブルク要塞攻防戦の報告書です」

そう言って書類を手渡すシュトライト。
何日か前にそんな連絡あったな~と思いだしながら、アドルフは報告書に目を通す。

「うわっ、最終的に投入された兵力が両軍合わせて15万近くって……」

「それだけ敵も必死だったということでしょう。彼の国の実戦部隊のおよそ半数を投入したのですから」

ロアキア統星艦隊の総数は約15万隻。
星間警備隊や貴族たちの私兵部隊を合わせれば更に増えるとはいえ、先日の戦いでロアキアが動員した戦力はかなりのものであった。
ちなみに、ルフェールの正規艦隊は約12万隻である。

「勝ったはいいが、こちらも丸々1個艦隊を失っているため戦力の補充が出来るまで動けんか。それに、ロイエンタールとミッターマイヤーの艦隊の消耗が激しい。近々戻さねばならんな」

特にロイエンタール艦隊は3度会戦を行っており、これ以上の戦闘は厳しかった。

「クナップシュタイン、グリルパルツァー両艦隊が到着し次第ロイエンタール、ミッターマイヤー艦隊を順次帰還させよ。代わりとしてケンプ艦隊を派遣する」

「はっ、手配しておきます」

「……さて、そろそろ絡め手を使っても良い頃だと思うんだ」

「と、申しますと?」

「皇帝を幽閉して権力を握ったオリアス皇子がこれだけの大敗を喫したのだ、何らかの動きがあって然るべきだろう。例えば、反乱とか」

「……………」

「まあ、流石にそれは都合が良過ぎるとはいえ、我が国の勢力圏と隣接する領地の貴族共はさぞかし青ざめていることだろうな」

「つまり、彼らを味方につけるので」

「私は彼らに手を差し伸べてやるだけだ。『銀河帝国に付けば地位も領土も保証してやる』とな」

「確かに、有効な手です。しかし悪辣ですな」

「仕方あるまい、彼らの主が頼りにならぬのだ。新しい宿主を見つけたいと思うのも不思議ではないだろう?」

「分かりました。ロアキア内での分裂工作を進めておきます」

「うむ、頼む」

と、話がひと段落した所でいきなり執務室のドアが開いた。

「パパー、お話終わった~?」

入ってきたのはアドルフの三女カロリーネ。
年齢は5歳。

「ああ、今終わったよ。ついでに今日の執務も終わったから今からフリーだ」

「……陛下」

もちろん執務は全てどころか半分も終わってない。
が、アドルフにとってそんなことは些細なことであった。
書類なんぞ見たくも無いというのもあるのだろう。

「シュトライト、後は頼むぞ!」

そう言って執務室から出ていくアドルフ。

残ったシュトライトは大きく溜息をついた。


* * *


ウェスタディア王国の首都星ウェリンにある王宮。
その会議室に5名の人物が集まっていた。

ウェスタディア王国の統治は女王であるルシリア・ラデュ・ウェスタディア1世以下、

宰相アルベルト・アルファーニ
軍務卿ロンギ
内務卿ブラマンテ
財務卿ベリーニ

の5名による合議制でなされている。

今日の会議は、第二次ガイエスブルク要塞攻防戦におけるロアキア統星帝国の敗北についてであった。

「よもや、あのロアキアがこうまで立て続けに敗れるとはな……」

ウェスタディア王国は過去にロアキアと2度矛を交えている。

ラミアム領のストリオン星域で行われたストリオン星域会戦。
シャムラバート領で行われたシャムラバート広星域会戦。

どちらも戦略的にはともかく、戦術的には敗北していたと言っても良いだろう。

ストリオン星域会戦ではアルファーニの奇策によってロアキアの包囲を脱した。
シャムラバート広星域会戦ではティオジア連星共同体の発足とトラベスタの救援が間一髪で間に合い、結果的にロアキアが退いたことで全滅を免れた。

そのロアキアが連敗している。
仮に、ロアキアが潰れた暁には銀河帝国の次の標的は辺境13ヵ国になるだろう。
そうなっては目も当てられない。

「しかし、銀河帝国軍が如何に強いといっても餓えには勝てまい。ロアキアが大国としてのプライドを捨てて補給路の遮断を行えば容易に追い返せるのではないか?」

「確かに普通ならそうです。ですが……」

屈強な軍とて武器弾薬や食料が無ければ恐るるに足りない。
守り側が侵攻軍の補給を断つのは戦の常道である。

しかし、補給拠点そのものが要塞として移動してくるなら話は違ってくる。
それも巨砲を兼ね備えた難攻の要塞と共に……だ。

アルファーニがそれを説明すると、皆一様に苦い顔になった。

第二次ガイエスブルク要塞攻防戦に銀河帝国が投入した戦力は70000隻を超え、これはティオジア連星共同体の総戦力に匹敵する数でもある。
それだけの動員能力に補給拠点を兼ねる移動要塞。

「ロアキアはどうなるのでしょう?」

「オリアス皇子は実力によって実権を握りました。しかし、銀河帝国という未知の国家が現れオリアス皇子を下した。これは銀河帝国にはロアキア最高の実力者であるオリアス皇子でさえ及ばないことを意味します」

「つまり、裏切り者が出る……か」

「はい、統星帝を幽閉して権力を掌握したオリアス皇子を内心快く思ってない貴族達は多いでしょう。彼らが心の底から忠誠を誓っているとは思えません。そこで今回のような事態が起きれば……」

内乱になる。

この場に居る全員がそれを確信した。


* * *


ロアキア軍が3度目の敗北を喫したことは、ロアキア中に大きな波紋を呼ぶことになった。

銀河帝国に立て続けに3連敗。
しかも損失艦艇の合計が約48000隻と、その数は統星艦隊の約3分の1に匹敵する。

第二次ガイエスブルグ要塞攻防戦での敗北後、ロアキア内は大まかに言えば3つの派閥に分かれた。

現体制の維持を目的とするオリアス派。
幽閉されているテオジウス帝を救出し、オリアスの排除を目指す皇帝派。
ロアキアを見限り銀河帝国への寝返りを画策する帝国派。

オリアス派は現体制で要職に付いている者やオリアスを慕う者達が主であり、反対に皇帝派は先の政変により要職から叩き出された貴族達が中心となっている。

帝国派は銀河帝国の勢力範囲に近い場所を領地としている貴族達が多く、彼らはこのままでは時間稼ぎの為に切り捨てられるであろうことを正確に察しており『このまま捨て駒にされるぐらいならいっそ……』と決断した者も多かった。
また、銀河帝国から「こちら側に付けば爵位・領地・財産は保証する」との言が彼らの背中を押したのも事実だろう。

いずれにせよ、もはやロアキアの分裂は避けられないところまで来ていた。

そして……

宇宙暦806年/帝国暦497年 4月7日。
各地の貴族達がオリアスに対し一斉に反旗を翻し、内戦が勃発。

ロアキアは味方同士の血で染まろうとしていた。
 

 

第6話 ロアキア動乱2


宇宙暦806年/帝国暦497年 4月7日。
ロアキア統星帝国で内乱が勃発。

片方は統星帝を救出するまでの自分たちの盟主として、もう片方は銀河帝国皇帝アドルフに嫁がせることでロアキア統星帝国の皇族の血の存続を図るという自らの行いに対する正当性を得るために。
皇帝派は第六皇女メルセリアを、帝国派は第七皇女オルテシアをそれぞれ旗印として掲げた。

これによって、ロアキアは事実上3つに分裂。
互いに、もはや引き返せない所まで来ていた。

内乱の勃発による余波は、武力たる統星艦隊にも及んでいる。
統星艦隊の司令官であるロイン・クラフスト中将、ランデル・パナジーヤ中将は皇帝派に、ドレアス・ブルーナ中将は帝国派にそれぞれの艦隊ごと付いており、ガラハット・ガムストン大将とその艦隊はどの勢力にも関与せず不気味な沈黙を守っている。

これらを加味した各陣営の戦力は、オリアス派が約77000隻、皇帝派が約54000隻、帝国派が約22000隻である。
そして、それぞれの軍勢の呼称であるが、オリアス派は普段通りロアキア軍、皇帝派は貴族連合軍、帝国派は辺境軍と呼称されることになった。


* * *


オリアス皇子は、皇帝派に付いたクラフスト艦隊とパナジーヤ艦隊にオルメ、ロズボーン両艦隊を当てて抑えることとし、ボムド、エルッケン、ワイルター、ゴスハットの4個艦隊20000隻に皇帝派に属す各貴族領の制圧に向かわせる。
また、マルゼアス、メルボドの両提督に20000隻の軍勢を与え帝国派の討伐を命じた。

これに対し、今こそオリアスを撃つ好機と見た皇帝派はワグナー・レイボルト大将を総司令官とした30000隻の艦隊を帝都ロアキアへと差し向ける。

しかし、それは罠であった。
オリアスは各地に派遣した(と見せかけた)艦隊を反転させ、帝都ロアキアのあるマリウセア星域に集めることに成功した。

兵力差は15000対30000から35000対30000へと逆転。
銀河帝国に負けたとはいえ、オリアスの腕が健在であるとことを内外に証明して見せた。

貴族連合軍もここまで来て退くことはできない。
数の優位が逆転したとはいえ、その差は約5000隻。
決して覆せない差ではないことが彼らに決戦を強要した。

「このまま一気に敵中央を突破する。攻撃を集中させよ」

鶴翼の陣形で包囲殲滅を狙うロアキア軍に対し、貴族連合軍は中央突破で勝負を決めようとする。

「敵の攻勢が苛烈なため、このままでは戦線が維持できません!」

「もうすぐバルディの分艦隊5000が外側から敵の後背に回り込む。それまで距離を適度に保ち連携して敵の突出を阻め」

「はっ!」

貴族連合軍は攻勢を続けるが、オリアス艦隊が一定の距離を保ちながら後退するため、あまり損害を与えられないでいた。

無論、貴族連合軍の司令であるレイボルト大将はオリアスの狙いを正確に読んでいた。

「閣下、敵別動隊が背後に回り込もうとしております!」

「分かっている、ミュッツ提督の部隊を迎撃に回せ」

ロアキア軍の別動隊が貴族連合軍の背後に回り込もうとするが、予め予備兵力として戦線に参加してなかったミュッツ艦隊4000隻が迎撃に出たため背後を突くことは出来なかった。

「防がれたか、まあいい。両翼の部隊を敵に密着させ防御力を削り取るんだ!」

4個艦隊20000隻が貴族連合軍の側面に張り付いて攻撃を加える。
20000隻というのは無視できる数では無く、しかしそちらに構っていては正面のオリアス艦隊へ圧力を掛けきれない。

「閣下、このまま消耗戦になれば数で劣るこちらが不利です。いったん退きませんか?」

「こちらは半包囲されているのだ。そう易々とは退かせてくれまい。それに、このまま消耗戦になるとは限らん。仮に我々を消耗戦の末打ち破ってもその先には辺境軍や銀河帝国との戦いを控えているんだ。それは向こうも望むところではないだろう」

「なるほど、では敢えて消耗戦も辞さないという形を?」

「そうだ、消耗戦を嫌う敵軍はいったん退いて陣形を再編するだろう。それに合わせてこちらも退く」

この会話から1時間後、両軍はいったん退いて無意味な消耗戦を終了させた。

・・・・・

翌日、再編を済ませた貴族連合軍は速攻に転じ、その勢いにロアキア軍は押され始める。

「中々の勢いだな……左翼は後退、右翼は前進せよ」

ロアキア軍が陣形を斜めにシフトしていく。

「左翼の後退によってこちらの前衛を誘い込み、中堅と右翼を半回転させて側面を突く……か。だがその手には乗らんよ。全艦、敵の動きに惑わされるな! 我らが狙うはオリアスの首ただ一つぞ!」

この動きにレイボルトは惑わされず、ロアキア軍中堅のオリアス艦隊に砲火を集中する。

「ちっ、乗ってこないか……なら、このまま行くまでだ。ワイルター提督に連絡、敵の後背に出て後ろから突けとな」

「敵右翼がこちらの後背に回り込もうとしております」

「バウダー艦隊に敵の頭を抑えさせろ。それにしても、先の戦闘と同じ手で来るとは芸の無いことだな」

その後しばらく両軍の応酬が続いたが、戦況が動いたのは3時間後のことであった。

「敵右翼部隊の更に外側から艦隊が回り込んで来ます! 数、およそ9000」

「バカな!! どの部隊だ?」

「こ……これは敵の左翼艦隊です」

「左翼だと!? くっ……図られたか」

「司令官閣下、どうされますか?」

「このまま攻撃を続行する」

「閣下!」

「背後を取られたとはいえ、その分敵中央は薄くなっている。オリアスさえ討ち取ればこの戦いは我らの勝利だ! 全艦突撃!!」

貴族連合軍の全軍がオリアス艦隊に向け突撃を開始する。

「やはりそう来たか、ここに至っては戦力差で我が方に劣る貴様らが勝利するには私の首を狙うしか無いからな……反撃だ、敵の侵入を許すな!」

そう言って、オリアスは反撃を命じる。
オリアスにとっても、ここで敵の攻勢に耐え切れるかが勝敗の分かれ目であった。

オリアス艦隊が必死に耐えている間に、味方の艦隊が貴族連合軍の艦を次々と落としていく。
艦艇の損傷率が4割を超えても尚、艦隊の統率を維持しているのはオリアスの統率力の高さを物語っていた。

そして……勝利の女神がほほ笑んだのはロアキア軍であった。

貴族連合軍の攻勢を耐え切ったオリアスは反撃を開始する。
この時点でオリアス艦隊の損傷率は5割に達していたが、ロアキア軍の右翼・左翼部隊に散々に叩かれた貴族連合軍の艦艇は10000隻を割り込んでいた。

オリアス艦隊の反撃によって、貴族連合軍旗艦オズノーロが撃沈。
司令官のレイボルト大将が戦死し、勝敗は決した。

指揮権を継いだ副司令官のカスター・ウィンディルム中将は直ちに撤退に移ったが、どうにか追撃を振り切ったとき、艦隊の総数は4000隻にまで撃ち減らされていた。

・・・・・

戦いに勝利し歓喜に沸いていたロアキア軍であったが、その8時間後に入ってきた電報によってその歓喜は打ち砕かれた。

『討伐軍壊滅セリ。マルゼアス大将戦死』

帝国派の討伐に向かったマルゼアス、メルボド艦隊の壊滅とマルゼアス大将の戦死。
それは、ロアキアの命運に一石を投じることとなった。
 

 

第7話 ロアキア動乱3


「マルゼアスが戦死した……だと!?」

帝国派の討伐に向かったマルゼアス、メルボド両艦隊の壊滅とその総司令官マルゼアス大将の戦死。

それは、貴族連合軍との戦いにおける勝利に沸いていたロアキア軍にとって驚天動地の出来事であった。
ましてや、腹心であるマルゼアスを失ったオリアスの心境や如何ほどであろうか。

マルゼアス艦隊10000、メルボド艦隊10000を合わせたロアキア軍辺境討伐部隊はルシタール星域にてブルーナ中将を司令官とする辺境軍と交戦。

数はロアキア軍が20000隻、辺境軍が22000隻と互角であったが、実戦部隊である統星艦隊のみで構成されているロアキア軍に対して、辺境軍は統星艦隊の一部と帝国派貴族の私兵から成っているため、練度においてはロアキア軍が圧倒的に上回る。
如何に敵将がブルーナ中将であっても、2000隻程度の兵力差は楽に覆せるはずであった。

だが、今まで沈黙を保っていたガムストン大将の艦隊15000隻が突如背後に現れロアキア軍に攻撃を仕掛けてきたことで形勢は逆転した。

ガムストン大将が帝国派貴族である男爵の従兄であり、中将時代の艦隊副司令官がブルーナ少将(当時)だったことを事前に調べていたなら、この展開を予期して何らかの手を打つことが出来たかもしれない。

しかし、現実は前後から挟撃されのた打ち回るロアキア軍があるのみだ。

程なくして、総司令官のマルゼアス大将が戦死。
メルボド中将が全軍の指揮を引き継いで撤退を成功させたものの、その数は僅か700隻余りであった。

「ええい、奴ら許さぬぞ! 私自らがこの手で引導を渡してくれる!」

激昂するオリアス。
それを諫めたのは戦死したマルゼアスの伯父でもある宰相のプラヌスであった。

「殿下、どうか落ち着きなさいませ」

「先生、マルゼアスが死んだのだぞ! 私に仇を取らせてはくれぬのか!」

「辺境軍の司令官ブルーナ中将と裏切ったガムストン大将は一流の将帥。今の殿下では悪戯《いたずら》に兵を死なせる結果にしかなりませぬぞ」

甥を失ったプラヌスの言葉にオリアスは冷静さを取り戻す。

「それに、エルテピア星系の共和主義者どもに不穏な動きがあります。今は迂闊な動きをするべきではありません」

「……そうだな、すまない先生。マルゼアスを失って頭に血が昇っていたようだ」

「心中、お察しします。……ここは先ず力の弱まった皇帝派を叩き潰し、返す刀で裏切り者の帝国派を討つのがよろしいかと」

「それが最善だろうな。それと、共和主義者どもは今は放置でいいだろうか?」

「下手に摘発すれば各地で反乱の火が上がるでしょう。帝国派は所詮裏切り者。皇帝派を抑えれば奴等の蠢動も治まるかと」

「なるほど……」

エルテピア星系における共和主義勢力の反乱は数年前に一度鎮圧されている。
そのときに要した兵力が10000隻であり、今回の事件で如何にロアキアが弱っていようとその程度の兵力であれば捻出するのは難しくない。
故に、皇帝派を排除して足場を固めれば共和主義者たちも大きな行動は取れないだろうというのがプラヌスとオリアスの考えだった。

オリアスとしては直ちに帝国派勢力の鎮圧を命じたいところであったが、各艦隊はマリウセア星域の会戦を終えたばかりである。
将兵たちの休養に加えて損傷艦艇の修理や人員の補充を含めると1ヶ月は掛る見通しであった。


* * *


宇宙暦806年/帝国暦497年 6月2日。
準備を整えたロアキア軍は皇帝派貴族領の制圧に向けて動き出した。

ストネル少将率いる2000隻程の貴族連合軍部隊が補給路にゲリラ戦を仕掛けてロアキア軍を翻弄したが、それも一局地による戦果でしかなく、大半の貴族領は制圧されていった。

また、皇帝派の切り札であるクラフスト艦隊及びパナジーヤ艦隊もオルメ、ロズボーン両艦隊によって抑えられ、救援に向かえずにいた。

レイボルト大将の後を継いで貴族連合軍の総司令官となったウィンディルム中将率いる6000隻の艦隊(内4000隻はマリウセア星域会戦での残存戦力)も、皇帝派盟主であるバクーウェン公爵が自らの守りの為動かさなかったことで最後の勝機を逃すこととなり、僅か3ヶ月で皇帝派貴族領の大半はオリアスの手中に落ちることとなった。

だが、ここでオリアスにとって大きな計算違いが起こる。
バクーウェン公爵が暗殺され、一部の皇帝派貴族たちが帝国派に合流し出したのだ。

更には、皇帝派を見限った軍の将兵も帝国派に鞍替えし30000隻近い艦艇が帝国派に加わることとなった。

「くっ、これでは総力戦ではないか!」

互いの戦力は互角だが、帝国派の後ろには銀河帝国が控えている。
彼らが本格的に参戦してくれば敗北は必至であった。

「一度の戦いで大勝利を収めるしか方法は無い……か」

しかし、そのオリアスの構想は予想しない形で裏切られる。
10月10日、辺境軍が各方面で攻勢に出たのだ。

この報にロアキア政府上層部は騒然となる。

「奴等は何を考えている! これでは各個撃破してくださいと言わんばかりではないか!」

「所詮は脳無し貴族の集まり、特に深い考えなど無いのでは?」

「いや、向こうにはガムストン大将を始めとしてクラフスト、パナジーヤ、ブルーナなど優秀な将帥も多い。何らかの思惑があると見た方が妥当だろう」

ガムストン、クラフスト、パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの5個艦隊がそれぞれ別ルートで進撃してくる。

各個撃破の好機であるのだが、それ故に何らかの罠を疑ってしまう。
だが、結局彼らに出来ることは、軍勢を分けて迎撃に出るか各個撃破を狙うかの2択しかない。

そんな中、また新たな一報が送られてくる。

「エルテピア星系にて反乱が勃発しました。隣接するアーミア星系、ダレダン星系、テルジント星系でも反乱の兆しが見られます。どうやらこの4星系が1つの共和制国家として独立しようという模様です」

「このような時に……」

正に内憂外患である。

「よもやこれを狙ってではあるまいな?」

「まさか……むしろ狙ったのは共和主義者たちの方でしょう」

「だがどうする? このままでは身動きがとれんぞ」

「いっそのこと独立を認めてやればいかがでしょうか。銀河帝国は帝政国家、彼らが組むとは思えません。独立と引き換えにこちらを支援させればよろしいのでは?」

「バカな、共和主義者どもに屈せよと言うのか!」

「では、それ以外に良案でもありますかな?」

言い合いが続く中、またしても新たな一報が寄せられる。

「イグディアス王国とオルデラン王国がロアキア陣営からの離脱とティオジア連星共同体への加盟を表明しました」

「何だと!?」

イグディアス王国、オルデラン王国は辺境13国の中でロアキア陣営の貴重な国家であった。
それが、この度の離脱宣言。

これで、ロアキアの銀河辺境地域における影響力は消滅した。
もっとも、この国難にあって辺境への影響力も何も無いのだが……。

「こうなっては是非もない。アーミア、エルテピア、ダレダン、テルジントの4星系の独立を認め後方の憂いを無くす。然る後、迫り来る辺境軍どもを各個撃破にて宇宙の塵にするのだ」

オリアスのこの一声で今後の方針が決まった。

かくして、ロアキア軍も動き出し銀河の混迷の度合いは更なる深まりを見せる。
最後に立っている勝者はいずれであろうか。
この時点では、まだ誰も知る由も無い。




その頃のアドルフは……

「うおおおおおお、回想キター――(゚∀゚)――!!」

……エロゲ中であった。
 

 

第8話 ロアキア動乱4


アーミア、エルテピア、ダレダン、テルジントの4星系の独立を認めるというロアキアの声明は、銀河各国に驚きをもって受け止められた。

しかし、それは同時にロアキアがそこまで追い詰められているという証であり、ロアキアの危機的状況を物語っていた。
もはや手段を選んでられないほどに……。

このロアキアの譲歩によって、各国は改めてロアキアの状態を再認識し、この事態にどう上手く立ち回れば自国にとって益かを考えて暗躍を始めた。
それは辺境を挟んだ向こう側にあるもう一つの超大国ルフェールも同様であり、早々に共和制国家として独立する4星系への支援を明らかにした。

無論、その当事者たるロアキアにとってはそれらのことは先刻承知である。
この内乱に勝っても負けてもロアキアの国力は大きく減少するだろう。

いや、負けた場合はロアキアという国家が銀河帝国に吸収されて無くなってしまう。
それに比べれば、一宙域の独立など些事たる問題だ。
それに、元々あの4星系(特にエルテピア星系)は共和主義者の勢力が根強い。
こんな時期に腹に爆弾を抱え込むよりは、切り離した方がマシというものだろう。

そこには、そう考えて決断したオリアス皇子の並々ならぬ決意があった。

「敵は5部隊に分かれて進軍中である。数は各10000~15000隻程度で、これは我々にとって各個撃破の好機だ。だが、何も此方の全軍で敵艦隊を1個1個潰して回っていては敵の集結を促す結果になるだろう。こちらも部隊を2手に分け、敵に倍する戦力で以って早期に敵を撃滅する。片方は私自らが指揮を執るが、もう片方はロズボーン大将、卿に任せた」

「はっ、承知しました」

「編成は、私の方にオルメ、ゴズハット。ロズボーンの方にボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムス。メルボドにはロアキアの防衛を任せる。以上だ」

現在のロアキア軍の手持ちの戦力は60000隻弱。
それも星間警備隊などの艦艇も掻き集めてのことである。

これらの艦隊を30000隻ずつに二分して辺境軍を各個撃破していくのが作戦の骨子であり、もはやそこに活路を求めるしかなかった。


* * *


「前方に敵影、数12000」

「戦艦バウストリクスを確認。クラフスト艦隊の模様です」

「よし、射程内に入り次第攻撃を開始せよ」

オリアス率いるロアキア軍の見つけた最初の獲物はクラフスト艦隊であった。
しかし……、

「敵、逃走していきます」

「何だと、一発も交えずにか!?」

クラフスト艦隊はロアキア軍を確認するや否や撤退に移った。

「これは……不味いな」

5つに分かれて進撃してくる辺境軍の各個撃破を意図していたロアキア軍であったが、その目論みは外されたと言っても過言ではない。

ロアキア軍30000隻と遭遇したクラフスト艦隊が逃げに入るのは予想していたものの、一発も砲火を交えること無く撤退というのは想像の範囲外であった。

それをロアキア軍は追撃するが、辺境軍の不可解な行動に疑念を感じずにはいられない。

「どういうつもりだ……、我らを引きつけておいて別動隊が帝都ロアキアを落とすというのであれば有効な方法であるが、今の帝都にそれだけの価値があるとも思えん」

「罠……でしょうか?」

「そう見るのが妥当だろうな。もっとも、何を目的としているのかも分からんが」

そんな中、オペレーターの声が上がる。

「十時の方向に敵影。数……30000隻以上!!」

「バカな、集結したにしては早過ぎるぞ! 余剰戦力があったとでも言うのか!?」

艦橋が驚愕する中、スクリーンが映像を映し出す。

「あれは……銀河帝国軍か」

それは、銀河帝国軍のファーレンハイト、スプレイン、グエン・バン・ヒューの3個艦隊32000隻であった。

「撃て!」

「ファイエル!」

両軍の戦端が開かれる。

「(数においてはほぼ互角だが、じきにクラフスト艦隊12000隻が敵戦力に加わるだろう。別の艦隊も駆けつけてくるかもしれない……)」

この窮地をどう脱するかオリアスは思案するが、そんな簡単に名案が出てくるわけでもない。
こうしている間にもクラフスト艦隊以下、辺境軍の軍勢が近づいてきているだろう。
そうなれば数において著しく劣勢にたたされる。

別動隊を指揮するロズボーン提督から連絡が入ってきたのは、そんな時だった。

「ロズボーンか、現在こちらは銀河帝国軍による攻撃を受けている。そちらはどうだ?」

『こちらも、30000隻を超える銀河帝国軍の猛攻に晒されております。現状ではどうにか互角に戦っておりますが、辺境軍の増援が到着すれば我々の敗北は免れません』

「そうか……」

別動隊も銀河帝国の襲撃を受けているとなると増援は期待できない。
現状の兵力のみで目の前の艦隊と遠からず駆けつけてくる辺境軍を相手にするのは至難である。

『殿下、もはや帝都ロアキアの陥落は避けられないでしょう。ここはロムウェに遷都なさって捲土重来をお図り下さい』

「っ!! 私に生き恥を晒せというのか!」

『殿下が生きている限りロアキア再興の目はあります。そして、それが我々の悲願でもあるのです。どうか……』

「…………」

オリアスの旗艦デスペリアスの艦内に沈黙が流れる。
やがて、オリアスが搾り出すように一言発した。

「……全軍、撤退せよ」

この命令によって、ロアキア軍は撤退を開始する。

「む、敵は逃げる気か。逃がすな、敵の最後尾に喰らいつけ!」

無論、この機を逃すファーレンハイトではない。
執拗な追撃によって、ロアキア軍の速度を鈍らせていた。

そして、遂にレーダーにクラフスト艦隊の艦影が映る。

ロアキア軍全体に絶望感が漂い始めたとき、オルメ艦隊の旗艦ターロス以下10000隻近くが回頭して銀河帝国軍に多量のビームとミサイルを叩きつけながら突撃を敢行し出した。

だが、この残弾を無視した猛攻はいつまでも続くわけではない。
遠からず限界が来るだろう。
そうなればオルメ艦隊はただの的《まと》と成り果てる。

「オルメ、どういうつもりだ!」

『オリアスさま、ここは俺の艦隊が全力で食い止めますんでさっさと撤退してください』

スクリーン越しにそう言ったオルメの顔は、潰れた左目に白い刀傷の痕といつもと何の変わりも無い。
ただ、その表情は妙に晴れ晴れとしていた。

オリアスは悟る、オルメはここで死ぬ気だと。
オルメの犠牲無しにこの窮地を逃れる術は無い……と。

もはや言葉は不要であった。
オリアスは敬礼し、オルメも答礼で応える。

スクリーンが切れるまで、それは続いた。


* * *


「野郎ども、ここで盛大に花火をやろうじゃないか! 目の前のあいつらを俺達の死出の道連れにしてやろうぜ!」

オリアスとの別れを済ませたオルメは先程を凌ぐ勢いで突撃を続行し、銀河帝国軍の艦列を一時的に突き崩した。
が……そこまでであった。

無理な突撃で陣形を乱しバラバラになった各部隊は反撃を開始した銀河帝国軍によって各個撃破され、旗艦ターロスも多数の艦に包囲されて最後の花火を盛大に打ち上げた。


一方、ロズボーン大将率いるロアキア軍30000隻も敵の追撃を振り切れずにいた。
敵は銀河帝国軍32000隻にブルーナ、ウィンデイルム両艦隊25000隻が加わり、計57000隻。
足が止まれば包囲殲滅されるのは確定である。

「ボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムス。卿らは全速で撤退せよ」

『!! ロズボーン閣下は……』

「私はここで敵軍を抑える。せめて卿らだけでもオリアス殿下に合流するのだ」

そう言って、ロズボーン艦隊はボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムスたち4個艦隊の盾になる。

彼らに出来ることは、爆沈していくロズボーン艦隊に敬礼を送ることだけであった。


* * *


戦場から離脱したオリアスと各艦隊はレンヴァレル星系第五惑星ロムウェに集結。
帝都ロアキアの陥落は時間の問題であるため、オリアスはロムウェを遷都先とすることを発表した。

艦艇は37000隻と動乱開始時の半分以下ではあったが、それでも小国では保有することすら出来ない数であり、彼らは銀河帝国軍によって帝都ロアキアが占領された後もロアキアが健在であることを示し続けた。

辺境軍を傘下に入れ、帝都ロアキアを占領した銀河帝国もこれ以上占領範囲と戦線が広がることは望まず、ロムウェに侵攻することは無かった。


宇宙暦807年/帝国暦498年 1月7日。
ここに、ロアキア動乱はひとまずの終息を見せた。
未だ多数の火種を残したまま……。




その頃のアドルフは……

あれ?
執務中……

えっ?
バカな!
この男が仕事をしている……だと!?

これは天災の前触か!!?
 

 

第9話 ルフェールの支配者

――ルフェール共和国――

惑星イストアのとある建物の一室に、十数人の人間が集まっていた。
その人物たちは、いずれもルフェールの財界における重鎮たちである。

彼らは各方面に重大な影響力を持ち、民主共和制を掲げるこの国を陰から牛耳るルフェールの裏の支配者たちである。
その彼らが集うこの会合は、実質的にルフェールの最高意思決定機関とも言えた。

「ロアキアが落ちたか」

「オリアスも案外情けない。せめて銀河帝国をある程度道連れにしてくれればよかったものを」

「しかし……ロアキアがこうもあっさりと滅びるとは予想外でしたな」

「うん? ロアキアはまだ滅びてなかろう。ロムウェへの遷都を宣言していたハズだ。それに、オリアス皇子以下数人の艦隊司令官と2~3個艦隊程度の戦力はまだ健在ではなかったかな」

「それでも尚時間の問題だろう。銀河帝国の足場固めが終わるまでの間でしかない」

「今のまま推移すれば……な」

「では、彼らを援助すると? 私は別に構わんが国民感情が許すかな?」

「オリアスを直接支援するのはあの忌々しいティオジア連星共同体の連中だ。我々は共同体の連中にそれとなく働きかけ、多少の援助をするだけで良い。彼らがオリアスを支援したとなれば銀河帝国と敵対関係に成るのは必然。せいぜい奴等には我々の盾となってもらおう」

「なるほど……それは良案だ。だが、イザという時に備えて軍備の増強は必要だろう」

「無論だ。幸いロアキアの事が市民に対しての良い口実となる。今までの共和国艦隊は10個艦隊しか無かったが、この気に12個艦隊まで増やしたいものだ」

「まだ第五艦隊の再建がようやく成ったというのに気の早いことだ。まあ、世論も軍備増強に傾いているから、予算に関しては問題無く議会を通過するだろう」

「……数年前に第三、第五の2個艦隊を失ったのは痛手でしたな。あれが無ければ少なくとも3個艦隊は増強出来たものを」

第三艦隊はシャムラバート戦役でロアキア軍によって、第五艦隊は惑星エリエント上空戦でティオジア連星共同体によって壊滅させられており、現在の第三、第五艦隊はその後再建されたものである。
特に、第五艦隊は残存艦艇数隻という完全な壊滅であり、再建というよりは新しい艦隊を丸々作ったと言っても良いほどであった。

ルフェールの国力からすれば両艦隊の再建が既に完了していても可笑しくはなかったが、シャムラバート作戦における失敗とティオジア連星共同体の発足、ウェスタディア侵攻作戦での敗北、ルフェール陣営国家の相次ぐ離脱などから連鎖して起こった政治的混乱により十分な予算が付かず、最近になってようやく完了したばかりであった。

「過ぎた事を言っても仕方あるまい。それよりも、これからどうするか……だ」

「ティオジアの連中を支援しつつ地道に戦力を増強するしか無いのでは? 直接的な行動を起こそうにも敵は辺境のそのまた向こうだ」

「ましてや、銀河帝国の位置や規模すら未だ分かってませんからねぇ。こちらの情報はロアキア経由で得ているでしょうし、情報戦で後手に回っていることは否めませんな」

「我々に必要なのは……時間か」

「時間が利するのは向こうもですが……それでも我々には時間が必要ではある」

「退役寸前の艦を先日ロアキアから独立した4星系が建国した国家――エルダテミア共和国に供与しては? どのみち取り壊す予定のものです。それで銀河帝国の戦力を少しでも削ってくれるなら恩の字じゃないですか」

「ふむ……違いない。確かに銀河帝国があの国の独立をすんなり認めるとは思いませんな」

ロアキアの領土を血を流して奪い取ったのは銀河帝国(と辺境軍)である。
その彼らからしてみれば、エルダテミア共和国の成立(それも無血)など認められるわけはない。

「いずれにせよ、打てる手はすべて打っておくべきだろう。後で後悔したくなければな……では、次の案件に移るとしようか」

そう言って、議題は別の案件に移り出す。
ルフェールの実質的なトップとして君臨する彼らには議論すべき案件が多いのであった。


* * *


――ベトラント星域――

「巡航艦エイファス撃沈」

「戦艦フレッツン大破、駆逐艦ベルラーラ航行不能」

ゴズハット艦隊旗艦ヴィネスフーゼの艦橋に自軍の被害報告が送られてくる。
攻撃を仕掛けてきているのは銀河帝国のケンプ艦隊15000隻。

元戦闘艇のエースパイロットとして名声を馳せたケンプ上級大将の戦闘艇を巧みに使った戦術によりゴズハット艦隊は翻弄されていた。

「敵戦闘艇、退いていきます」

「ようやく退いたか、それにしても巧妙な……こちらの戦闘艇は?」

「敵の艦砲の射程内に誘い込まれ被害甚大です!」

「くっ……」

ここベトラント星域は現在のロアキア勢力圏の中で銀河帝国との最前線にあり、ゴズハット艦隊5000隻はテンボルト要塞に籠りながら防衛戦を展開することでどうにか持ち堪えていた。

「援軍はどうなっているか?」

「ワイルター艦隊とメルボド艦隊がこちらへ向かっています。到着まで後4時間」

「うむ、それまではなんとしても持ち堪えるぞ」


一方、その頃ケンプ艦隊司令部の方でも撤退が検討されていた。

「ふむ、そろそろ敵の援軍が到着しても良い頃合いだな。ここらが潮時か、いったん後退して艦隊の再編後撤収に入る」

「はっ、了解しました」

それに答えたのは参謀長のフーセネガー大将である。

「それにしても、あの要塞群の改造が完成すればこちらでの行動もずいぶん楽になるのだがな」

銀河帝国はロアキアから接収したアルコート要塞、カストヴァール要塞、トリエント要塞、メルフリーゼ要塞を移動要塞へと改造していた。
これらの要塞は収容艦艇10000隻の大型要塞であり、来るべき辺境、ルフェールへの侵攻時に役立つと期待されている。
また、収容艦艇3000~5000隻程の中型要塞を5基ほど移動要塞に改造する計画も立てられているが、こちらはまだ計画の段階であった。

銀河帝国内では、ガイエスブルク級の移動要塞であるオオサカ要塞が完成し、ミズキ要塞が艤装中。
ナルト要塞、ゴリョウカク要塞などの建造も進んでいる。
更にリョジュン要塞やコトウ要塞等の建造も計画されており、これが無理計画でなく実現可能な計画であることが銀河帝国の強大な国力を示していた。

「確かに。そう言えば、帝国本土で新たに艦隊が増設されたそうです」

「ほう?」

「8000隻規模の艦隊が9個艦隊。司令官にアルトリンゲン、ヴァーゲンザイル、カルナップ、グリューネマン、グローテヴォール、ザウケン、トゥルナイゼン、ハルバーシュタット、ブラウヒッチ大将が起用された模様です」

「いよいよ帝国としても本腰を上げるといったところか」

「それと、今年いっぱいで宇宙艦隊司令長官グライフス元帥と副司令長官ゼークト元帥が退役するそうです」

「ん? では新しい司令長官は誰になるのだ?」

「そこはまだ分かっておりませんが、ロイエンタール上級大将かミッターマイヤー上級大将ではと噂されています」

現在の宇宙艦隊司令官の中でも最も能力の高いのがこの2名である。
マリナ・フォン・ハプスブルクという異端の天才もいるが、彼女は階級も大将であるし実戦経験も少ない。

「なるほど、それが妥当なところか。面白くなってきたな」


宇宙暦807年/帝国暦498年 3月25日。
戦火は、未だ続いていた。





==今日のアドルフ==

新帝都フェザーンにある獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)宮殿の一室で、その談合は行われていた。

「同志J、お主も悪よのぉ」

「いえいえ、皇帝陛下ほどではございません」

日本人ならば誰もが(?)知っている越後屋と悪代官の密談である。
もっとも、扱われている物はエロゲにエロ本、エロビデオ(DVD?)等であったが。

バタン!

その時、急に開いた扉から現れたのは、軍人からメイドに再転職したメイド長マリアン・フォン・アントワープである。

「陛下、現行犯です。醜い言い逃れなど為さらぬよう……」

「ね、姉さん……」

「これはすべて没収します。それと、これから折檻です」

「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!」

かくして、悪は滅びたのであった。
 

 

第10話 ダレダン星域会戦


宇宙暦807年/帝国暦498年 6月6日。
この日、銀河帝国の新帝都フェザーンにある獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)宮殿で銀河帝国第38代皇帝アドルフ1世ことアドルフ・フォン・ゴールデンバウムと旧ロアキア統星帝国の第六皇女メルセリア、第七皇女オルテシアとの結婚式が行われた。

第六皇女メルセリアはこの年19歳。
第七皇女オルテシアは17歳と若干若い。

対するアドルフは31歳。
歳の差が大きいように見えるが、皇族・貴族社会ではこの程度の年齢差の結婚は良くあることである。
むしろ、20歳、30歳の年齢差も珍しく無い。
故に、気にするものなど誰もいなかった。


<アドルフ>

フハハハハハハハ、嫁が一気に2人も増えるとは俺のツキもまだ尽きちゃいないな。
ていうか絶賛フィーバー中だぜ。
嫁が8人に子供が10人。
くくっ、今の俺を止められる者は誰もいない!

あ、マリ姉さんと妹のマリナがいました、スイマセン。

コホン、気を取り直して……。

見ろよ、日頃から『おっぱいぷるんぷるん』とか『ちくしょーめ~!』とか『大っ嫌いだ!』とかほざいてる俺と同じ名前のチョビ髭のおっさんも祝福してくれているじゃないか!

えっ?
そんな人何処にもいなって?

…………

ま、まあ何だ、見間違えか変な電波を受信したんだろ……たぶん。

ん?
なんか見慣れない奴等が何人かいるな。
誰だあいつら?

…………ああ、旧ロアキア貴族ね。
道理で見た覚え無いハズだわ。

メルセリアとオルテシアが俺と結婚したことで、旧ロアキアの貴族達も正式に銀河帝国の貴族として認められることになる。

貴族の数ばかり増えてもやっかいなだけなのだが……さすがにあの広大な旧ロアキア領の統治は銀河帝国だけでは手に余る。
そういう意味では認めざるを得ないってわけだな。

まあいい、せっかくの結婚式だ。
今日くらいは、くだらん事を考えてないで楽しむとしよう。


* * *


宇宙暦807年/帝国暦498年 6月24日。
銀河帝国のグリルパルツァー艦隊8000隻はエルダテミア共和国を構成する4星系の1つ、ダレダン星系を攻めていた。

「敵軍の掃討、完了しました」

「よし、このまま惑星ヘイルガットへと侵攻し主要施設を破壊する。全艦……」

「所属不明の艦隊接近。数、およそ8000」

「あれは……ティオジア連星共同体の連星艦隊です」

「ティオジアだと!? 何故連中が介入してくるのだ?」

「おそらく、エルダテミア共和国が共同体に加盟したとかいう理由だと思いますが……」

そんな中、オペレーターから新たな報告が入ってくる。

「戦艦ザッフィーロ確認!」

「ザッフィーロ?」

「連星艦隊の総司令官、レオーネ・バドエル元帥の旗艦です」

「総司令官自らが出てくるとは。それほどの価値がこの国にあるとも思えんが……それにしても、連星艦隊などと呼称しても所詮は寄せ集めに過ぎないようだな」

目の前の連星艦隊が分艦隊ごとに艦形がまったく違う事から、グリルパルツァーは寄せ集めの混成軍と判断した。

ティオジア連星共同体は規格の共同化を図ってはいるものの、それは新規に建造される艦艇以降のことであり、発足後数年しか経過してない現状では艦艇は所属国ごとにバラバラであった。
そうである以上、それらの艦艇を一括して運用するのは容易なことではなく、寄せ集めという判断は間違ったものではない。

ただ、グリルパルツァーの誤算はその艦隊を率いる人物たちが並では無いことを知らなかったことだろう。
そのツケを彼は身を以って思い知ることになる。

「おもしろい、バドエルとやらがどれほどのものか……試してやろう」

そう言って、グリルパルツァーはほくそ笑む。

グリルパルツァーの階級は大将。
1個艦隊の指揮を任されてはいるが、その数は8000隻と上級大将の15000隻の半分程度である。
だが、ここで勝てば昇進はほぼ間違いなく、真の意味で1個艦隊を指揮できる。
彼にこの機会をみすみす逃す選択肢は無かった。


――戦艦ザッフィーロ 艦橋――

連星艦隊総旗艦ザッフィーロの艦橋では、総司令官レオーネ・バドエル元帥が先手必勝とばかりに攻撃命令を下そうとして副官に止められていた。

「閣下、さすがにいきなり攻撃するのはマズいと思うのですが」

「ちっ……そうだな、連中に警告を発しろ。『エルダテミア共和国はティオジア連星共同体に加盟した、直ちに軍を引け』とな」

グリルパルツァー艦隊に向け警告電が発せられる。

「彼らは大人しく従ってくれるでしょうか?」

「あのロアキアを下すほどの国家がこっちの言い分を素直に認めると思うか? だいたい、連中はエルダテミア共和国の独立を認めてねぇ。そう簡単には退かんだろ」

「銀河帝国軍より返信、『エルダテミア共和国なる国家の独立を銀河帝国は認めておらず。直ちにこの宙域より撤退せよ、さもなくば殲滅する』以上です」

「だろ?」

「仰るとおりでした」

そう会話している間にも、ティオジア軍に撤退の意思無しと判断した帝国軍が砲撃を始める。

「敵、撃ってきます!」

「こっちも攻撃開始だ。俺たちの強さをいけすかねー帝国のやつらに思い知らせてやろうぜ!」

戦いの幕が切って落とされた。


* * *


ダレダン星系に展開する帝国軍とティオジア軍の戦力は共に8000隻。

両艦隊の司令官であるグリルパルツァー、バドエル共に優秀な指揮官であったが、分艦隊司令の力量にはバドエル艦隊に分があった。

守勢に関しては鉄壁ミュラーに匹敵する実力を持つユリアヌス・ドルキヌス中将。
機動性に富んだ艦隊運用を得意とするダーフィット・ロン・カルデン中将。
攻守のバランスが良く、用兵の妙に長けるネルジュワール・ラミン中将。

銀河帝国であれば1個艦隊を任されても不思議ではない面子である。


開戦後2時間が経過したところで、最初に仕掛けたのは帝国軍であった。

「右翼を伸ばして敵を半包囲せよ」

グリルパルツァーの構想としては、右翼を伸ばして敵を半包囲下におき、その後左翼を前進させて敵右翼を拘束することで徐々に戦力を削り取って行くものであった。

だが、その構想は未完に終わる。

「頼むぜ、おっさん」

『まかせておけ』

そう答えたのはティオジア軍左翼を任されているカルデン中将である。
彼の指揮下にある2000隻の艦艇は元々アルノーラ軍に所属していた艦艇であり、アルノーラ軍は高機動戦術に定評がある国であった。
そして、元アルノーラ王室近衛艦隊副長という肩書を持つカルデンは当然ながら機動戦を得意としていた。

「全艦全速、敵に我々の速攻を見せつけてやれ!」

オレンジ色に染め上げられた戦艦ドライベルクの艦橋で叫ぶカルデンは、その能力を遺憾なく発揮し、見事帝国軍右翼の頭を押さえることに成功した。

「く、早いな。艦隊運動では敵に分があるか」

そう言って、グリルパルツァーは作戦の失敗に落胆した。
彼自身、『敵が自分たちより優れているわけが無い』と心に驕りがあったのは否めない。

「(このまま中央を突くか……いや、ここで攻勢に出るのは危険すぎる。右翼の頭を押さえられている現状、失敗すれば敵の包囲に曝されてしまう)」

そうグリルパルツァーは考えたが、実はこれによって勝機を逃していた。

このとき、カルデン分艦隊は帝国軍右翼の頭を押さえるため突出しており、バドエルの本隊との繋ぎをユリアヌス中将の分艦隊が担っていた。
つまり、一時的にバドエルの本隊が手薄になっていたのである。

グリルパルツァーがここで中央を突いていれば、数の差は3000対2000。
バドエルの首を取れなくても、後退を強いることは出来たハズである。

「左翼はどうなっている?」

「敵右翼の強かな反撃にあい膠着状態です」

帝国軍左翼は2500隻。
ティオジア軍右翼の2000隻に対して数で有利なはずであった。

「敵の方が一枚上手ということか……左翼のあの機動性といい、敵は優秀な中級指揮官を揃えているようだな」

数において互角である以上、それを指揮する司令官や分艦隊司令の力量によって優越が左右される。
現状、分艦隊司令の力量ではティオジア軍に軍配が上がっているようであった。

「敵中央、突っ込んできます!」

「何だと!」

突如、ティオジア軍中央にあったバドエルの直属部隊が高速で帝国軍中央へと突撃を仕掛けてくる。
不意を突かれたことも影響して帝国軍中央は混乱に陥った。

「なんというスピードだ……だが、数ではこちらが上。敵の先頭へ砲火を集中して勢いを削いた後、押し返せ」

「閣下、右翼部隊が……」

帝国軍中央がバドエル隊への対処で両翼との連携が崩れた隙を突いて、ユリアヌス中将の部隊が帝国軍右翼へと攻勢を掛けている。

「く、敵の狙いは始めからこれだったか!」

ようやくバドエルの狙いに気づいたグリルパルツァーであったが、時既に遅し。
戦況はティオジア軍に傾いていた。

「このままでは分が悪い、全軍を後退させて陣形を立て直せ」

グリルパルツァーも無能ではない。
このままでは遠からず右翼部隊が壊滅するであろうことは容易に予測できた。
そして、それを回避するにはある程度の損害を覚悟でいったん後退し、崩れた陣形を再編するしかないことも。

だが、今回は相手が悪過ぎた。

「おっと、逃がしはしねーよ」

バドエルは突型陣をとって帝国軍中央部へと突撃する。

「このままでは食い破られます!」

「(く、このままでは……)」

「直撃、来ます!」

一発のビームがグリルパルツァーの旗艦エイストラに直撃し、エイストラの推進力を大幅に奪い去った。

「こんなことが……」

直後、新たなビームの直撃を受けたエイストラは爆沈。
グリルパルツァーも戦死した。

エイストラの撃沈はバドエル艦隊旗艦ザッフィーロの艦橋からも確認できた。

「敵旗艦、撃沈」

オペレーターの報告に周囲から歓声が上がる。

「やりましたな」

「ああ。だが、まだ戦いは終わっちゃいねぇ。ここで叩けるだけ叩いておくんだ!」

旗艦を失って壊乱状態にあるグリルパルツァー艦隊に対し、バドエルは容赦なくたたみ掛ける。
このまま行けばグリルパルツァー艦隊の全滅も時間の問題であったが……

「後方より敵艦隊。数8000」

「何だと!」

「推定接触時間は?」

「およそ、3時間です」

「まだ多少時間はあるようですが……」

「いや、これだけやれば十分だ。直ちに撤収に入れ」

かつて、ヤン・ウェンリーは名将の戦いぶりについてこう述べていた。
『明確に目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する』

今まで積み上げて来た戦果だけではなく、そういった意味でもバドエルは名将と言えた。


6月24日23時10分。
クナップシュタイン艦隊が救援に駆け付けたことでバドエル艦隊は撤退。
グリルパルツァー艦隊は全滅を免れたが、残存艦艇は4000隻と実に半数を失っていた。

この戦いは、新天地戦争(銀河帝国呼称)が始まって以来、初めての銀河帝国軍の敗北であったと歴史に記されることになる。





==今日のアドルフ==

アドルフは哲学書を読んでいる。
と見せかけて、それは表紙が偽造されたエロ本だった。

無論、後でメイド長であるマリアン・フォン・アントワープにバレて折檻されたのはお約束である。

…………

やっぱり駄目だ、この男。
 

 

第11話 ティオジアの憂鬱


グリルパルツァー艦隊の敗北とグリルパルツァー大将戦死の報は直ちにアドルフの元へと伝えられた。

「グリルパルツァー艦隊が敗北しただと!?」

「はっ、グリルパルツァー大将はダレダン星域にて反乱軍を撃破後、援軍として駆け付けて来たティオジア連星共同体の艦隊と交戦。戦死された模様です」

「そうか……グリルパルツァーは逝ったか。それにしてもティオジア連星共同体か……小国が寄り集まっただけの烏合の衆だと思っていたが、どうやら認識を改める必要がありそうだな」

「グリルパルツァー提督を破った敵将は連星艦隊の総司令官レオーネ・バドエル元帥とのことです。レオーネ・バドエルは元々、共同体の加盟国の一つであるウェスタディア王国宇宙艦隊の総司令官を務めていた人物で、『シャラーゼアの光の矢(アレオ・アグ・シャラーゼア)』『ウェスタディアの双星(の片割れ)』などの異名や自軍の10倍以上の敵軍を撃退するといった戦歴を持つ『英雄』だそうです。また、あのオリアス皇子に何度も煮え湯を飲ませた人物でもあるとか」

「なるほど、同数の兵力ではグリルパルツァーには荷が重い相手であったようだな。だが、所詮1人の英雄だけであの広大な戦線を支えることなど出来まい。10倍の敵を撃退というのも、地形効果か何かを活用した結果だろうしな。でなければ相手がよほど無能であったか……」

「アルドゥオという広大な小惑星帯に囲まれ電磁嵐の激しい要害宙域に引きずり込み、旗艦を討つことで勝利したとのことですが……」

「如何に名将といえど倍する敵を正面から撃ち破るのは難しいからな。いや、名将であるからこそ正面切って戦わない……とも言えるか」

「その作戦を考案したのは双星のもう片割れであるアルベルト・アルファーニとのことです。彼は現在ウェスタディア王国宰相の地位に付いてますな」

「なるほど、しっかりと役割分担が出来ていたという訳か。だが、今現在アルファーニは王宮にあって、戦場に出張って来るのはバドエルのみ。これは好機と言えるのではないかな?」

「小官もそのように思います。しかし、彼がウェスタディア王国の実質的なNo2にあるということは、戦場でバドエルが十分な手腕を振るえるということでもあるかと」

「ふむ、そこらへんは共同体としてありがちな足の引っ張り合いで行動に枷を嵌めてもらいたいものだが……」

クナップシュタイン大将からの通信が入ったのは、そんな時であった。

『陛下、どうかグリルパルツァーの仇を……私にお与え下さい!!』

クナップシュタインとグリルパルツァーは良き親友であり、ライバルであった。
その片方(グリルパルツァー)が戦死したのである。
残されたクナップシュタインが復讐戦を望むのは、ある意味当然と言えるだろう。

「……いいだろう。クナップシュタイン、今日から卿を上級大将とする。グリルパルツァー艦隊の残存戦力4000隻を麾下に加えグリルパルツァーの無念を晴らせ。だが、今はその時では無い。いずれ機会を与えるからその時を待て。短気は起こすなよ」

『はっ!』

こうして、クナップシュタインは上級大将へと昇進し、12000隻の艦隊を率いることになった。

「よろしかったのですか?」

「予定を多少繰り上げただけのことだ、特に問題あるまい」

「と、申しますと?」

「年末の人事異動でクナップシュタインは昇進予定だったということさ、グリルパルツァーも含めてな。だから………ふむ、この際だ、他も繰り上げるとしよう」

「は?」

「シューマッハ、スプレイン、フィッシャーの三大将を上級大将に昇進させ、それぞれ12000隻の艦隊を指揮させよ。後、オダワラ要塞のアッテンフェルト艦隊もブラウヒッチ艦隊と入れ替えに本国へ戻せ」

「アッテンフェルト? アッテンボローの間違いでは?」

「……ああ、そうだった。似た名前だったから間違えたわ」

「…………」

「それは置いておくとして、年が明けたら(まだ半年近くあるが)、ファーレンハイト、ミュラー、ケンプ、パエッタの艦隊はこちらへ戻し、アフドレアス、オットー、ガーシュインの3個艦隊を代わりに派遣する」

「確かに、将兵たちの疲労や士気の面でもそれが妥当でしょう」

「派遣艦隊には戻る前に一働きしてもらうがな……」

そう、アドルフは意味ありげに呟いた。


* * *


ティオジア連星共同体の本部が置かれているティオジア星系第4惑星ティオジア。
そこで加盟国による首脳会議が開かれ、一つの議題について論議が行われていた。

すなわち、オリアス皇子率いるロアキア統星帝国(の残党)を支援するかどうかである。

ロアキアを上回る国力を持つ銀河帝国と事を構えるべきではないという意見も多かったが、実際のところエルダテミア問題で既に事を構えてしまっている。

エルダテミア共和国を共同体に加えたどころか銀河帝国の1個艦隊を司令官の戦死というオマケ付きで半壊させているのだ。
この代償は生半可なものではないだろう。

なにより、銀河帝国がエルダテミア共和国を認めていない以上、平和裏に事を収めるにはエルダテミア共和国を切り捨てることが前提となる。
しかし、それを一度でも行ってしまえば共同体内で相互不信を発生させることとなり、如いては共同体の崩壊を誘発してしまう危険性を孕んでいる。

故に、『敵の敵は味方』の論理でロアキアへの支援が決定されたのも当然の帰結と言えるだろう。

と、ここでウェスタディア王国の代表として参加しているアルベルト・アルファーニ宰相が声を発した。

「あのロアキア以上の強国である銀河帝国です。我々とオリアス皇子が組んだところで対抗するのは難しいでしょう。ですので、ここは過去の経緯を忘れてルフェールに支援を要請してはどうでしょうか?」

「あのルフェールが、傘下から離脱した我々に手を差し伸べるとは思えないが……」

「それは大丈夫でしょう。辺境が征服されれば次はルフェールです。彼らはより強大になった銀河帝国と戦わなくてはならなく成ります」

「なるほど、支援せざるを得ないというわけか。先ほどロアキアへの支援を決定したように」

「はい、艦隊の派遣までは分かりませんが資金・物資の援助なら十分に得られるかと」

後日、このアルファーニの提案は実行に移され、ルフェール、ティオジア、ロアキア間の協力体制(間接的に)が確立されることとなる。

だが、この時既に銀河帝国は新たな一手を打っていた。


* * *


宇宙暦807年/帝国暦498年 7月18日。
テンボルト要塞から哨戒にでていた戦艦オルコナの艦橋で、レーダーが異常を検知した。

「12時の方向にワープアウトしてくる物体あり、距離300光秒。質量……なっ!?」

「どうしたのだ?」

「質量、約40兆トン! 天体規模です!!」

「何だと!? ……っ! 時空震に巻き込まれる、急速後退!」

直後、発生した時空震がオルコナを揺らす。

「ぐぅ……」

揺れが治まったオルコナのスクリーンに映ったのは、巨大な要塞であった。

「あ、あれは」

「ガイエスブルク要塞……」

「司令部へ直ちに連絡しろ! これは……銀河帝国軍による侵攻だ!」

ワープしてきたガイエスブルク要塞はそのまま移動を開始する。
その先にあるのは、テンボルト要塞であった。
 

 

第12話 アスターテ会戦再び


宇宙暦807年/帝国暦498年 7月18日。
ガイエスブルク要塞襲来の報に、テンボルト要塞の司令部では大騒ぎとなった。

なにしろ、テンボルト要塞は収容艦艇5000隻の中型要塞でしかない。
収容艦艇16000隻を誇るガイエスブルク要塞とは大きさからして天と地ほどもあり、それはそのまま投入できる戦力の違いも意味する。
また、ガイエスブルク要塞の主砲であるガイエスハーケンに匹敵する要塞砲があるわけでも耐え切れる装甲があるわけでもない。

しかし、だからと言って容易に逃げるわけにもいかない。

ここでテンボルト要塞を放棄して撤退することは簡単だ。
だが、それではガイエスブルク要塞が来る度、拠点を放棄して逃げねばならなくなる。

ロアキアにはガイエスブルク要塞に匹敵する要塞は存在しない。
帝都ロアキアを守護していたロアキア史上最大の要塞であるテスタメント要塞(収容艦艇15000隻)も既に銀河帝国の所有物である。

要塞の死守か、戦略的撤退か。
確かなのは、司令官のゴズハット中将が両者を天秤に掛けている間にも事態は着実に動いているということだ。

ベトラント星域にワープアウトしてきたガイエスブルク要塞は、そのままテンボルト要塞へと進撃してくる。

「ともかく、艦隊を出せ。要塞に籠っていてはどうにもならん」

要塞そのもので劣っている以上、それは当然の選択であったが、それならば銀河帝国軍も艦隊を出撃させるだけである。
出撃したゴズハット艦隊は約4000隻であったが、ガイエスブルク要塞より出撃したミュラー艦隊は8000隻と倍の戦力であった。

ゴズハット艦隊をミュラー艦隊が押さえている間にテンボルト要塞へと近づいたガイエスブルク要塞は、要塞主砲のガイエスハーケンを放つ。

一筋の光がテンボルト要塞を貫き、巨大な爆発が起こった。

この一撃でテンボルト要塞は半壊。
出撃した艦隊も倍の敵艦隊に逆撃されている。

「……全軍に通達、直ちに要塞を放棄して…撤退せよ」

勝敗は、あまりにも呆気なく決した。


* * *


テンボルト要塞が陥落した頃、銀河帝国はウィンディルム大将、クラフスト大将、ブルーナ大将の3個艦隊を(テンボルト要塞のある方面とは)別方面からオリアス支配下の宙域へと侵攻させていた。
また、マリナ・フォン・ハプスブルク大将率いる8000隻の艦隊もエルダテミア共和国のダレダン星域へと向かっているはずである。

銀河帝国軍はレイスナティア星域に入ったところで、ロアキア軍の迎撃部隊を感知した。

3個艦隊約40000隻で侵攻してきた銀河帝国軍に対して、迎撃に出たロアキア軍オリアス艦隊の数はおよそ20000隻。

2倍の戦力差である。

圧倒的戦力差から勝利を確信した銀河帝国軍は3個艦隊による包囲殲滅を企図したが、彼らの予想に反し、オリアス艦隊は急進して中央のクラフスト艦隊へと襲いかかった。

「敵艦隊急襲!」

「やられた、我が方の13000隻に対しオリアス艦隊は20000隻。これでは勝負にならん!!」

「司令官閣下……」

「とにかく応戦だ。全艦、砲撃を開始せよ!」

まるでアスターテ会戦の再現のようだが、銀河帝国軍の司令官たちは旧同盟軍の司令官たちより優秀であった。
クラフスト大将は戦死するその瞬間までオリアス艦隊に可能な限りの出血を敷き、ウィンディルム大将とブルーナ大将もクラフスト艦隊の壊滅は免れぬと判断して最短距離で合流し、オリアス艦隊に対することにした。

「旗艦バウストリクスの撃沈により敵は潰走しております。追撃はどうなさいますか?」

「不要だ。それより、他の2個艦隊の動きはどうなっているか?」

「どうやら、こちらの後方の宙域にて最短距離で合流を図る模様」

それを聞いたオリアスや参謀たちは顔をしかめる。

「これは、不味いですな……」

「ああ、各個撃破には失敗したな」

クラフスト艦隊は壊滅したものの、銀河帝国軍はまだウィンディルム艦隊とブルーナ艦隊の2個艦隊が健在であり、これを合わせるとその数は26000隻。
対するオリアス艦隊は先の戦闘で2000隻を失って18000隻である。

被弾した艦艇に無理をさせず後ろに回したことで損失艦は2000隻に抑えることが出来たものの、やはり8000隻の兵力差は厳しい。

「せめてアルダムス艦隊だけでも間に合えば良いのだが……」

アルダムス艦隊2500隻が到着すれば、先の損害を補って余る。
だが、それでも尚戦力的には劣勢だ。

「敵軍、こちらへ向かってきます」

「全艦、戦闘用意」

レイスナティア星域会戦の第二幕が始まった。


* * *


両軍が接敵してから1時間が経過した。
戦況は今のところ数で勝る銀河帝国軍が優勢であり、8000隻の戦力差から来る圧力に、オリアス艦隊はじりじりと後退を余儀なくされている。

こうなると、優勢な方では調子に乗って無駄に突出する者が現れるものであり、今回も例に漏れなかった。

「今だ、押し返せ!」

オリアスの号令と共に、ロアキア軍は攻勢に転じる。

この動きに突出していた艦艇は対応できず、瞬く間に数を減らす。

が、それでも銀河帝国軍の全体としての優勢は動かない。
まともに撃ち合えば数に劣る方の消耗が多くなるのは必然であり、オリアスが勝つためには何らかのリアクションをとる必要があった。

無論、それはオリアスとて分かっているが、敵将たるウィンディルムやブルーナも理解しているだろうことは想像に難くない。
故に、彼は動かなかった。

・・・・・

劣勢にあるにも関わらず何の動きも見せず粘り強く応戦するオリアス艦隊に、ウィンディルムとブルーナは逆に焦りを募らせていく。

両名はオリアスが劣勢を挽回するため何らかの手を打って来るのを予測し、後の先を取るつもりであった。

ところが、蓋を空けてみればオリアス艦隊は一向に動かない。
本来なら、それは喜ばしいことであるが、どこか釈然としない……。

艦隊指揮官としての実力はオリアスの方が上であるというのも、彼らの不安を増大させた要因の一つだろう。

結果、ウィンディルムとブルーナの両名はそれぞれの艦隊にオリアス艦隊中央への砲撃密度を上げる命令を下した。
オリアスが中央の指揮に専念せざるを得ない状況を作り出すことで、両翼に効果的な指示を与えられなくなることを狙ったのである。

「あのまま順当に推移していればこちらが不利だったが、どうやら上手くいったようだな」

そうオリアスはほくそ笑み、新たな命令を下す。

「第二段階へ移行しろ」

「はっ、第二段階へ」

銀河帝国軍の攻撃に耐えかねたのかオリアス艦隊の中央が崩れ出し後退していく。

「敵が崩れました」

「よし、今が好機だ。全艦突撃!」

この気を逃すまいとブルーナ艦隊副司令官であるカルタス中将の部隊3000隻が追撃を掛ける。

だが、これはオリアスの仕掛けた罠であった。

オリアスは意図的に後退することで被害を軽減させると共に、カルタス分艦隊を凹陣に引き込んで集中砲火を浴びせ掛けたのである。

「戦艦モントリオット撃沈。副司令官カルタス中将戦死!」

「してやられた……これがオリアスの狙いか! だが、依然兵力では此方の方が上だ。このまま押し切る」

「十時方向に新たな敵、数2500!」

「何? 敵の別動隊か!?」

それは、ロアキア軍の増援として駆け付けたアルダムス艦隊であった。

「殿下、ご無事ですか?」

「ああ、よく来てくれた。これで対等に戦える」

この時点で、オリアス艦隊は約15500隻。
銀河帝国軍は約21000隻。

アルダムス艦隊が加わったことでロアキア軍は18000隻となり、兵力差は3000へと縮まった。

「ここまでだな……ウィンディルム、卿はどう思う?」

『私も同感だ。あのオリアス相手に僅か3000隻程度の優位でぶつかろうとは思わんよ』

「卿もそう思うか。損害こそ甚大だったが、オリアス軍の主力を引きつけるという戦略目標は達している。これ以上の戦闘は無用だな……全軍に撤退を命じろ」


宇宙暦807年/帝国暦498年7月19日午後2時10分。
銀河帝国軍の撤退を以ってレイスナティア星域の会戦は終結した。

ロアキア軍の方も戦力的に優位に立っているわけでは無いのでこれを見送り、追撃などは行わなかった。

銀河帝国軍の損失艦艇17000隻に対し、ロアキア軍の損失艦艇は4500隻。
だが、後の歴史には、ロアキア軍の戦術的勝利・銀河帝国軍の戦略的勝利と刻まれることになる。





==今日のアドルフ==

「よお、アッテンフェルト。元気だったか?」

「オイ、なんだそりゃ? 俺をあの猪とごちゃ混ぜにすんな!!」

「あん? お前の名前ってミミック・アッテンフェルトじゃなかったっけ?」

「俺の名字はアッテンボローだ! しかも名前に関しちゃ1文字すら合ってねぇよ! つーかミミックって……俺はトラップの宝箱型モンスターじゃねぇつーの!」

「はいはい、ワロスワロス」

「…………」

今日もフェザーンは平和であった。
 

 

第13話 第二次ダレダン星域会戦


広大な漆黒の海……宇宙。
その中を1隻の白き戦艦が多数の艦影を従えながら航行していた。

戦艦ブリュンヒルデ。

ブリュンヒルト級戦艦の2番艦として建造させたこの艦は、銀河帝国軍宇宙艦隊総旗艦、皇帝御召艦という経歴を経て、現在では皇帝アドルフ1世の妹であるマリナ・フォン・ハプスブルク大将の旗艦となっていた。

さて、そのマリナ・フォン・ハプスブルク大将は8100隻の艦隊を率いてエルデタミア共和国ダレダン星域へと向かっている。

作戦名:三叉槍(トライデント)(アドルフ命名)。

このなんの捻りもない名称の作戦は、ダレダン、ベトラント、レイスナティアの3星域へ同時に侵攻することで、敵に戦力の分散を強いて各個に撃破することを目的としている。

無論、敵が出てくるとは限らないが、ダレダン星系を制圧すればティオジア連星共同体(とエルダテミア共和国)は惑星ヘイルガットに住む民衆を見捨てたと喧伝でき、ベトラント星域のテンボルト要塞の陥落はロアキアの遷都先であるロムウェの喉元に剣先が突きつけられるのと同義。
また、レイスナティア星域は無人星域なので出て来なければそのまま通過してロムウェを突くだけのことである。

「予想に反して戦力を集中してきた場合、即撤退って……まあ、ロアキアがこちらに援軍を回す可能性は無いでしょうけど、あのバカ兄らしい杜撰《ずさん》な作戦よね。」

ブリュンヒルデの艦橋で頬杖をつきながら愚痴るのはマリナ・フォン・ハプスブルク大将。
この艦隊の司令官である。

「ですが、3方面からの侵攻というのは悪い策ではありません。兵力の分散とも言えますが、この作戦は敵にも兵力の分散を強いてますので」

マリナにそう返答したのは、参謀長のベルンハルト・フォン・シュナイダー中将。
かつてメルカッツ提督の副官をしていた人物であった。

「それでも、杜撰なのに変わりはないわ。兄の頭が残念なのもね」

シュナイダーは返答に窮する。
本来なら、いくら妹とはいえ皇帝をバカにした発言は諫めねばならないのだが、アドルフの頭が残念なのは周知の事実なので彼は何も言えなかった。

「そういえば、クナップシュタインがバドエルと戦いたいって意気込んでたようだけど、私の見立てでは同数の兵力ならクナップシュタインに勝ち目は無いわね」

「クナップシュタイン提督とグリルパルツァー上級大将(死後特進)の実力はほぼ互角でしたから、そのご懸念はもっともと思いますが……兵力ではクナップシュタイン艦隊が上回っております。そうそう遅れをとるとは……」

「確かに、兵力差で優位に立っていればクナップシュタインでも勝利を掴めるでしょうけど、数で劣る敵が真正面から挑んで来ると思う? それに、レオーネ・バドエルは連星艦隊の総司令官でしょう? その気になれば1個艦隊ぐらい動かせるでしょうね」

「なるほど……そこは盲点でした」

「まあ、私が叩きつぶせば問題無いわね。レオーネ・バドエル……グリルパルツァーを倒したその手腕、見せてもらおうかしら」

そう言ったマリナの目は、得物を狙う鷹の目であった。


* * *


宇宙暦807年/帝国暦498年 7月19日。
ダレダン星域へと侵入したマリナ艦隊は既に待ち構えていたティオジア軍バドエル艦隊と睨み合う。

ティオジア軍の指揮官バドエルは数多の激戦をくぐり抜けてきた歴戦の勇士であり、帝国軍の司令官であるマリナは実戦経験こそ少ないものの演習やシミュレーション上とはいえ銀河帝国の名立たる名将たちを尽く連破した新進気鋭の天才である。

この両者が今、激突しようとしていた……。

「撃て!」

「ファイエル!」

両軍が睨み合っていた時間はそう長くは無く、直ちに砲撃が開始される。

マリナ艦隊8100隻に対し、バドエル艦隊は7400隻。
艦数ではマリナ艦隊が多少上回るものの、それほど大きな差というわけでもない。

マリナ艦隊は両翼を交互に出してバドエル艦隊の両翼に攻撃を加えるが、バドエルも柔軟に対応し、戦線は早くも膠着状態に陥った。

「そろそろ頃合いかしら、敵の中央に砲火を集中させなさい!」

両翼の動きに気を取られていたバドエル艦隊は、この突然の猛攻に面食らった。

マリナ艦隊による攻勢は6時間に及んだが、それを耐え切ったユリアヌスの防戦能力はやはり群を抜くものがあった。

「中々固いわね。下手に無理押ししても反撃に遭うだけ……ここらが潮時かしらね。全軍、いったん退くわよ」

嵐のような攻撃の後の唐突な撤退行動に、ティオジア軍は唖然と見守るしかなかった。

否、バドエルであれば付いていけたかもしれないが、それを全軍に求めるのは酷な事である。
特に、先程マリナ艦隊の猛攻を支えきり消耗しているユリアヌス分艦隊は逆撃に打って出る余力を残していなかった。

・・・・・

翌20日、再編成を済ませたマリナ艦隊は前日と同様に攻勢を仕掛ける。
しかし、その勢いは前日と比べて明らかに劣っていた。

「んん~? 攻勢を掛けてきた割には積極性に欠けているな……。それに、敵の数が前より少なくねぇか?」

「先日に比べて若干少ないような気はしますが……」

「………そうか、しまった! これは罠だ、伏兵に注意しろ!」

バドエルはマリナの思惑に気付いたが、しかし、少しばかり遅かった。

「右方より敵の新手が出現!!」

「ちっ、遅かったか」

マリナ艦隊の別動隊1000隻がバドエル艦隊右翼のラミン分艦隊へ向け突撃を開始。
側面を突かれたラミン分艦隊は艦列を乱し、マリナ艦隊左翼も攻勢を強めてくる。

「閣下、このままではラミン分艦隊が崩れるのも時間の問題ですぞ」

「分かっている。全艦、最大戦速!」

バドエルは自らの直率部隊で以って、帝国軍別動隊の更に側面を突く。
だが、それすらもマリナの計算の内であった。

「ふふ、やるじゃない。だけど、それも予想済みよ。敵の左翼部隊に攻撃を集中させなさい」

そう言って、マリナはバドエル艦隊左翼に攻勢を加える。

ラミン分艦隊は元より、バドエルの直属隊も出払っている今、カルデン分艦隊を唯一支援可能なのはユリアヌス分艦隊だけである。
だが、ユリアヌス分艦隊は先日の帝国軍の攻勢で消耗しており、マリナの直属部隊から直に圧力を掛けられている現状では支援のしようも無い。

高速艦艇のみで編成されているカルデン分艦隊はその分防御力が弱く、マリナ艦隊の攻勢の前に次々と数を減らしていった。

「ちっ、敵さんもやってくれるぜ!」

「閣下、このままではカルデン中将が」

「ああ、カルデンの部隊を後退させろ」

「しかし、それではユリアヌス隊が半包囲されてしまいます」

「そうなったらなったで、態勢を立て直したカルデン艦隊が襲い掛かるまでだ。ユリアヌスならその間ぐらいは持ち堪えてみせるだろ。それに、敵もかなり陣形が乱れているからな。そのまま分断して各個に撃破するさ」

バドエルの命令に従って、カルデン分艦隊は後方へ退き始める。

「ふーん、敵も思い切った行動にでたわね」

「このまま追撃を行いますか? もしくは中央の敵を半包囲して撃滅するのも可能かと思われますが」

「いえ、追撃を行えば戦線が延び切ってしまうし、敵中央を半包囲しても敵左翼が戻ってくれば逆撃をくらうわ。今回はここまでね」

そう言って、マリナは攻撃を切り上げて部隊を退かせた。

「ふぃ~、なんとか切り抜けたか」

「危ない展開でしたな」

「ああ、ここまで危なかったのは久しぶりだぜ。おそらく、敵は次もカルデン隊を狙ってくるだろうから先に先手を取る。そーゆー訳でおっさん、速攻を頼んだぞ」

『またかよ。だが、任せておけ』

その頃、マリナたちも次の攻撃のための構想を練っていた。

「このまま、防御力に難のある敵左翼を叩いて右から順に潰していくのが良策と思われますが」

「そんなこと敵も想定済みでしょうね。あの部隊は防御力が低い分、機動力が高い。私だったら先手を取って襲撃を掛けるわ」

「では……」

「先ずは右翼の防備を固めることね。その上で敵右翼を砕く」

「右翼ですか?」

「中央もダメ、左もダメなら右しか無いでしょう。前の奇襲での損害も少なくないだろうし。……シュービット中将に連絡を」

「はっ」

旗艦ブリュンヒルデのスクリーンに分艦隊司令のシュービット中将の姿が映し出される。

「シュービット、敵右翼は中々用兵に秀でてるけど、そんな時だからこそあなたの攻撃力が必要なの。あなたの隊は最大戦速で突撃し、敵右翼を砕きなさい!」

『はっ、お任せを』

「上手くいくでしょうか?」

「さあ? それは相手しだいね。レオーネ・バドエル、聞いてたよりも手強い相手だけど……」

戦闘が再開されると、バドエル艦隊左翼のカルデン分艦隊が真っ先に速攻を仕掛けたが、マリナ艦隊右翼が事前に防備を固めていたことにより攻撃は不発に終わる。
だが、流れを掴むという意味ではこの速攻は悪くなかった。

事実、戦局全体の流れはバドエル艦隊に傾きつつある。
しかし、その流れはシュービット中将麾下のマリナ艦隊左翼が攻勢に転じたことで逆向きに転じることになる。

攻勢に強いシュービット艦隊の猛攻にバドエル艦隊右翼は徐々に押され始め、中央のバドエル本隊やユリアヌス隊の支援が必要になったのである。

結果として、マリナ艦隊右翼を攻めていたカルデン分艦隊は一時的に孤立しかけることとなった。

「不味いな、このままでは俺たちだけ孤立しかねん。攻勢を緩めて味方との連携を保て」

今は攻めている立場とはいえ先程の戦闘による損害も大きく、無理に攻勢を継続して孤立してしまえば逆にこちらが撃破されるとの判断である。

が、帝国軍としてはそこに付け込まないという選択はない。

「敵左翼部隊の攻勢が鈍りつつあります」

「そう、今が好機ね。右翼のビューフォート中将の部隊に反転攻勢を掛けるよう伝達しなさい」

「この気に敵左翼も潰すつもりですか?」

「もちろん、勢いの止まった高速部隊なんて唯の的よ」

マリナの言葉通り、スクリーンの向こうではカルデン分艦隊は反転攻勢に移ったビューフォート隊の前に為す術なく打ちのめされていた。

「思ったより順調そうね。どうせならこのまま中央も砕いてしまおうかしら?」

「しかし、敵中央を担当している部隊の指揮官はミュラー提督に匹敵するほどのやり手です。容易に崩せるとは思えません」

「でしょうね、だから『アレ』を使うわ。こんな時の為に兄に言って無理やり配備させたんだから」

「なるほど……そう言えばアドルフ陛下も多用しておられましたな」

「兄の二番煎じってのが気に入らないけど……あれは確かに有効な戦術よ。さすがの私もあれを初見で見切るのは不可能だわ」

「その点からすれば、ヤン・ウェンリーは化け物ですね」

「艦隊の僅かな動きの変化からあれを察知して損害を最小限に止めるなんて人間技じゃないわ。『魔術師』の異名は伊達じゃ無いってことね。それに、シミュレーションとはいえ私が勝てなかった唯一の人物よ」

ブリュンヒルデの艦橋でそのような会話が為されている間にも、戦況は刻一刻と変化する。

急激な変化は、マリナ艦隊のアースグリム級戦艦マツシマ、ハシダテ、イツクシマの艦首にある主砲から極太のビームが発射されたことによって起こった。

『敵の攻撃激しく戦線の維持不可能』

『アルラン隊壊滅! 我が隊も敵の攻撃を受け被害甚大、救援を請う!』

旗艦ザッフィーロの艦橋に凶報が相次いで入ってくる。
そのいずれもが、自軍の劣勢を伝えるものだ。

「ユリアヌス隊の被害甚大!」

「カルデン隊、ラミン隊も押されています!」

「敵全軍、更に前進してきます! このままでは敵の攻勢を防ぎきれません!」

「……両翼を後退させろ」

「はっ?」

「両翼を後退させろと言ったんだ」

「しかし!」

「俺に考えがある……」

・・・・・・

「ふふ、かなり手間取ったけど。これでチェックメイトかしら」

「中央がまだ持ち堪えていますが、敵の全面崩壊も時間の問題でしょう」

「そうね………」

この時、マリナは何かを感じた。
それが何なのかはマリナ自身にも分からない、得体の知れない感覚であった。

「えっ!? これは……」

気を取り直して、スクリーンに目をやったマリナは絶句する。
いつの間にか、バドエル艦隊の陣形が紡錘陣形へと変化していたのである。

バドエルは両翼をただ単に後ろに後退させるのではなく、中央寄りに斜めに後退させることでマリナに気づかれずに紡錘陣形を構築したのであった。

「よし、このまま中央突破だ! 全艦突入しろ!」

バドエル艦隊が一纏まりになって突撃してくる。

マリナ艦隊は各部隊がバラバラに追撃していた為、これを阻止するだけの重陣を形成するのは不可能だ。

「くっ、この勢いを押し止めるのは無理ね……道を空けて敵の勢いを受け流しなさい」

マリナは敢えて突破させることで被害を押さえることにした。
無理に立ちはだかったところで止められないのなら、止めないというのも一つの手である。

「まさかあの状態から中央突破へともっていくとは……」

「………三度目のぶつかり合いが引き分けに終わった以上、これ以上の継戦は無意味ね。全軍に撤退命令を出しなさい」

かくして、ダレダン星域における二度目の会戦は終了した。

マリナとしては無理に勝利に拘る意味も無く、バドエルとしても撤退する帝国軍を無理に追撃する意味は無かった。

ロアキアへの帰途の途中、ブリュンヒルデの艦橋でマリナは一言つぶやく。

「レオーネ・バドエル……あなたの名前は忘れない。次は叩き潰してあげるわ」





==後日談==

第二次ダレダン星域会戦の結果を聞いたアドルフが連絡を入れてモニター先のマリナを『何、引き分け? m9(^Д^)プギャーwwwwww』と態々からかっていた。

それを黙って聞くマリナ。
しかし、後ろで握られていた拳はプルプルと震えている。

次にアドルフとマリナの兄妹が直接対面する時……その日がアドルフの命日であった。
 

 

第14話 アルフォルト星域会戦


――銀河帝国 新帝都フェザーン――

先日行われた3つの戦いの戦闘詳報がシュトライト大将によってアドルフの元に届けられたのは、7月24日になってからのことであった。

「3方面すべてが成功していれば――あれ? 何故だ!?――残ったケンプ、ファーレンハイト艦隊で以って一気に制圧するつもりだったが――お、成功成功――それは少し虫が良すぎたか」

「ですが、これでロアキアの残存戦力にチェックを掛けました。1個艦隊の損失は痛かったですが、戦略的目的は達したかと」

「ああ、残っている――よしキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!――戦力を掻き集めたところでその数は2個艦隊にも満たんだろう。――よっしゃ、『ニートの剣』get――既にケンプ、ミュラーの後任としてクナップシュタインがロアキアに着任しているし、アルトリンゲン、カルナップ、ハルバーシュタットの艦隊も――やべ、ミスった!――数日後新天地へ向け出立する。――ちょ、このボス強過ぎだろマジで――ルフェールでもしゃしゃり出て来ない限り奴等に防ぐ術はないさ」

「重要な案件なのでゲームは後にしてもらいたいのですが……というか、よく両立できますな……。コホン、そのルフェールに動きが見られます」

「ほう?」

ゲームをいったん止めたアドルフが興味深そうにシュトライトの方を見る。

「どうも、ゼデルニア、ラミアムの2国に自陣営を離れて共同体に加盟するよう秘密裏に働きかけているようなのですが……」

「なるほど、足手まといを切り捨てたか」

「どういうことです?」

「少し考えれば分かる事だ。ゼルゼニア、ラミアムがルフェール陣営に所属したままだと我が国がその2国へ攻め入ったとき無理にでも援軍を出さねばなるまい。だが……」

「自陣営から放逐してしまえば無駄な負担を負わなくてよい……と?」

「表立っては出来んことだがな。ロアキアと銀河の覇権を争っていた頃ならともかく、今はルフェールにとっての辺境13国は我が国に対する防壁……いや、防波堤でしかないのだよ。防波堤を守る為に己の身を張る輩がこの世界の何処にいる?」

「所詮は都合の問題……ということですか」

「そういうことだ。他には?」

「ルフェールの市民の間で同じ共和制国家であるエルダテミア共和国に援軍を送ろうという動きがあるようです。また、最近のルフェールは軍備の増強に余念が無く、元々彼の国は10個艦隊の実戦部隊を有していたのですが、新たに2個艦隊が編成中とのことです」

「そんなことが可能なのか?」

「ルフェールは領土の広さこそロアキアに劣りますが、人口ではロアキアのそれを上回ります。むしろ、今までが過小な軍備態勢だったと言えるでしょう」

今まで、ルフェールとロアキアの国力はほぼ同等であり、両国が直接矛を交えたのは数度しかない。
つまり、ルフェールが国家存亡の危機に晒されたことは無かったのである。

だが、銀河帝国が現れロアキアの大半を併合したことで、ルフェールは猛烈な危機感を懐いた。

銀河帝国の国力は、得た情報から分析して最低でもルフェールの2倍以上。
今はまだ辺境13国という盾があるから良いが、遠くない内に旧ロアキアの平定を終えた銀河帝国が辺境13国を撃ち破り、ルフェールへとその触手を伸ばしてくるのは明白であった。

「なるほど、今までのロアキアとの争いは『陣取りごっこ』というお遊びだったわけか……いずれにせよ、此方としても予算の都合上今年はもう動けん。オリアス等の殲滅とエルダテミアの制圧は来年になるな」


* * *


宇宙暦808年/帝国暦499年。

銀河帝国では宇宙艦隊司令長官アルベルト・フォン・グライフス元帥と副司令長官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト元帥が退役。
空席になった宇宙艦隊司令長官にはオスカー・フォン・ロイエンタール元帥が、副司令長官にウォルフガング・ミッターマイヤー元帥が就任した。

また、本土へと帰還するケンプ、ファーレンハイト、ミュラー、パエッタ艦隊に代わりオットー、ガーシュイン、ゴシェット、ドロッセルマイヤーの4個艦隊が新天地へと派遣される(当初は3個艦隊の予定だったが、アドルフの夢の中に『4』という数字が浮かび上がったため、縁起を担いで4個艦隊となった)。

「くくっ、これでロアキアの残党やエルダテミアとかいうエセ国家の命脈も尽きたな。だが、その前に……」

年明け早々、クナップシュタイン上級大将の艦隊12000隻がオリアスを討つべくロアキアを発ち、それにアルトリンゲン、カルナップ、ハルバーシュタットの各艦隊が合流。
その総勢は36000隻に達した。

これに対し、オリアスはベトラント星系とレンヴァレル星系との間にあるアルフォルト星系で残存の艦艇すべてを以って迎え撃つことを決める。

アルフォルト星系は小規模な小惑星帯を複数形成している無人星系であり、ロムウェのあるレンヴァレル星系へ辿り着くには、ベトラント星系、レイスナティア星系のどちらのルートを通っても必ずアルフォルト星系を経由する必要がある。
つまり、ここを抜かれると遷都先のロムウェを直撃されてしまう。
故に、このアルフォルト星域こそがロアキア軍の最終防衛ラインであった。

・・・・・

「敵軍発見、約20000」

1月18日 11時20分。
アルフォルト星域へ侵入した銀河帝国軍のレーダーが布陣するロアキア軍を捉える。

「20000隻か……ハルバーシュタット艦隊を先鋒として、敵に攻撃を仕掛ける。カルナップ艦隊と本隊はそれに続け。アルトリンゲン艦隊は予備兵力として待機。戦況の変化に合わせて臨機応変に対処しろ」

クナップシュタインの策は、攻撃力の高いハルバーシュタット、カルナップの両艦隊を次々とぶつけ、ロアキア軍が消耗したところで兵数の多い本隊が押し潰すというものである。

「敵軍、縦列隊形にて接近してきます」

「敵先頭集団、数8000」

「あの隊形からして、敵の先陣は攻撃力に秀でた部隊と思われますが……」

「ふむ、ならば正面からまともにぶつかる愚は避けるとしよう。中央の防御を厚くし、鶴翼の陣にて待ち受けよ」

オリアスは真正面からのぶつかり合いでは不利と見て、防備を固めて敵の勢いを止めることを選んだ。

「敵軍、我が軍中央に攻撃を開始しました」

「よし、両翼を前進させ敵を半包囲に追い込め」

オリアス艦隊の両翼が前進したことで、ハルバーシュタット艦隊は凹陣の中に入り込んだ形となり、三方向から攻撃を受ける。

「敵は混乱しているぞ! 戦闘艇を発進させ、第二陣が来る前に壊滅に追い込むのだ」

三方向から袋叩きにされるハルバーシュタット艦隊はいったん退いて態勢を立て直そうと後退を始めるが、こうなると困るのは第二陣として突撃する予定であったカルナップ艦隊である。

「カルナップ提督、このままでは後退するハルバーシュタット艦隊と交錯してしまいます」

「……ハルバーシュタット艦隊の救援はクナップシュタイン艦隊に任せ、我々は回り込んで敵側面を突く」

カルナップ艦隊のこの動きは、オリアスの旗艦であるデスペリアスでも確認された。

「閣下、敵の第二陣が左に回り込みつつあります。このまま左翼部隊の側面を突かれ、それに敵の第一陣、第三陣が連動するようなことになれば、我が軍の全面崩壊は免れないでしょう」

「ああ、もう少しいけるかと思ったが……ここまでだな。全艦後退せよ」

明確に目的を持ち、それを達成したら執着せずに離脱する。
オリアスは徐々に名将としての素質を開花させつつあった。

あっさりと退いたロアキア軍に銀河帝国軍の将兵たちが訝しがっていた……その時、小惑星帯に潜んでいたロアキア軍の別動隊が動き出す。

「しょ、小惑星帯より敵軍出現。数、9000!」

「しまった、伏兵か!」

「敵別動隊にアルトリンゲン艦隊の後背を取られました!」

「前面の敵艦隊、再び攻勢にでます!」

「(くっ……このまま手をこまねいていれば、アルトリンゲン艦隊を打ち破った敵別動隊に背後を突かれることになるだろう。逆にアルトリンゲン艦隊へ援軍を出せば、正面の敵艦隊を押さえるのは不可能だ。ならば……)前方の敵軍を牽制しつつ、後退してアルトリンゲン艦隊と合流しろ!」

クナップシュタインは悩んだ末、アルトリンゲン艦隊との合流を優先した。

「装甲の厚い戦艦を外側に配置して密集隊形を採り、艦隊の立て直しを図れ!」

合流した銀河帝国軍は球形陣を敷いてロアキア軍の攻撃に耐えつつ、艦隊の立て直しを図る。

「敵は密集隊形を採りましたな。現在は別動隊との挟撃態勢にありますが、このまま敵を包囲いたしますか?」

「いや、まだ敵の方が数において此方を上回っている。下手に追い詰めて窮鼠と化したら思わぬ逆撃をくらいかねん。ここは半包囲に止めておくべきだろう」

「なるほど、敢えて逃げ道を作ってやるのですか」

「そうだ、逃げ道があれば窮鼠になることはないからな。この一戦で戦いが終わるわけではない。無駄な犠牲は避けるべきだ」

一方、半包囲された銀河帝国軍は懸命に立て直しを図るが、ロアキア軍の攻撃が激しくそんな暇は無かった。

「怯むな! 戦列を維持して、ここは堪えるんだ!」

「閣下、このままでは我が軍は全滅します! 幸い、敵の包囲陣は完成しておりません。ここはお退きになって捲土重来を期すべきです」

「……そうだな、卿の言うとおりだ。ここは退こう」


19時40分。
銀河帝国軍はオリアスが意図的に空けていた穴から脱出して、アルフォルト星域より撤退した。

この会戦における銀河帝国軍の損失艦8510隻。
ロアキア軍の損失艦は1870隻であった。

勝利したロアキア軍も僅かながらもその戦力をすり減らしており、いずれ今回以上の戦力を揃えて襲来するであろう銀河帝国軍に減少した戦力で対抗しなければならない。

だが、この日だけは、誰もがそんな先のことなど考えずに勝利を祝って飲み明かした。





==アルフォルト星域会戦時のアドルフ==

会戦開始時:「……zzz……」

1時間経過:「~zzz~~」

3時間経過:「…zzz~」

5時間経過:「zz……zzz……」

会戦終了時:「zzz……~☆♪≦@」

どうやらずっと爆睡していたようだ………。
 

 

第15話 それは嵐の前の騒がしさ


――惑星イストア――

ルフェール財界の重鎮たちは、この日、先日のアルフォルト星域会戦の結果について話し合っていた。

「銀河帝国軍は敗北したようだな」

いい気味だ、と男は笑う。

「だが、彼らは直ぐに次の矢を送り込んでくるだろう。今回の戦いにしても、36000もの艦艇を投入してきている。戦力の補充が容易でないオリアス軍の敗北は必至だ」

そう、もはや一度の敗北も許されないオリアス軍に対し、銀河帝国は艦隊が壊滅してもすぐさま次の矢を投入できる。

「敗北するのは構わんのだが、それで銀河帝国の力が増大するのは面白くありませんな。ロアキア最後の砦が潰れたとなれば、旧ロアキア領の反銀河帝国勢力も勢いを大幅に減じざるを得ないでしょう」

「それに、我々にもまだ時間が必要だ。彼らに多少の梃入れもやむを得んか……」

「だが、どうするのだ? 国民感情を考えるとそれは不可能だろう」

「……エルダテミアに1個艦隊を派遣してはどうかな?」

「どういうことだ?」

「我らルフェールがエルダテミア共和国の防衛を受け持つ。代わりにティオジアの連中がオリアス軍へ加勢する」

「なるほど、それは良策ですな」

「ティオジアにはレオーネ・バドエルやアイル・ジャラールという名将がいる。彼らには是非その手腕を発揮してもらいたいものです。銀河帝国に(・・・・・)

かつてルフェールに手痛い損害を与えた彼らが、現在の自分たちの敵である銀河帝国にも手痛い損害を与える。
それは何処か皮肉めいていた。

「と……なるとエルダテミアへ派遣するのはどの艦隊になりますかな。最悪失うことも覚悟せねばなりますまい」

「失っても構わないとなると精鋭部隊である第一、第二、第四、第八艦隊は除外ですな。後は……おお、丁度良いのが一つあるじゃありませんか」

「それは?」

「第七艦隊です。司令官はエリザ・ウィッカム中将」

ニヤリと男の口元が歪む。

「ああ、前に我がルフェール軍の栄光を泥で汚してくれたあの女か。確かに適材だな」

エリザ・ウィッカム中将は数年前のウェスタディア侵攻においてまんまと敵の罠にかけられた挙句、特に戦果も挙げられずに2000隻の艦艇を失って帰ってきたという実績(悪い意味での)を持つ。

本来なら更迭もあり得たのだが、この時は第三艦隊、第五艦隊が立て続けに壊滅したばかりであり、半壊した第三艦隊司令官のロバート・エイゼンタール中将は責任を追及され退役、全滅した第五艦隊司令官ラルフ・アーウィング中将は戦死。
彼らと比べれば損害を2000隻に抑えたという見方も出来なくは無く、軍は自分たちの責任を最小にするためにもウィッカム中将を積極的に弁護した。

結果、相手(ウェスタディア + シャムラバート、トラベスタ)が手強かったという結論に成り、ウィッカム中将はお咎め無しとなった。

故に、ルフェール財界の重鎮たちにとってエリザ・ウィッカム中将は信頼できる指揮官ではなく、失っても痛くない人材だったのである。


* * *


――ウェスタディア王国 首都星ウェリン――

王宮ではルフェールからの提案について会議が設けられていた。
おそらく、今頃は共同体に参加している各国でも同様に会議が為されているだろう。

「先日、ルフェールがエルダテミア共和国への艦隊派遣を打診してきました」

「結構なことのように思えるが……君がわざわざ議題に上げるからには何らかの思惑があるのだろう?」

外務卿から報告を受け取った宰相のアルファーニがルフェールの提案を伝えると、先ず内務卿のブラマンテが思うところを述べた。

「はい、要するにルフェールの言いたいことは『エルダテミアの防衛はルフェールが受け持つからロアキアの援軍に赴いてくれ』ということです」

「冗談ではないぞ! オリアス軍とエルダテミア、銀河帝国にとってどちらの優先順位が高いかは一目瞭然だ。とどのつまり我々に矢面に立てということだろう!」

軍務卿のロンギが怒りを露わに発言する。
彼の怒りは至極当然で、この場に居る誰もが抱いた気持ちであった。

「してアルファーニ、君はどのように動くべきだと思うかね?」

「ボクはこの話を受けても良いのではないかと思います」

この言葉に一同は驚愕するが、それに構わずアルファーニは話を続ける。

「ルフェールの世論からすれば、ロアキアへの援軍は最初から不可能です。それなら、エルダテミアの防衛を担ってもらえる分こちらが楽になります」

アルファーニの説明に唸る一同。

「それに、ロムウェが落ちればイグディアスやオルデランは銀河帝国と直に国境を接してしまうことなります。このまま座して手を拱いているわけにはいきません」

「だが……ルフェールの提案を全て丸飲みにするわけにはいかんぞ」

「もちろんです。なので、ここはボクたちからも1つ条件を付けちゃいましょう」

アルファーニは悪戯に誘い込むような口調でそう言うと、続いてルフェールに提示する条件を口にした。

「……ふむ、それならば」

「だが、ルフェールが承諾したとして、それを本当に守るかね」

「それに関しては大丈夫でしょう。僕たちとの関係悪化は時間を稼ぎたいルフェールにとっては悪手です」

「……いずれにせよ、すべては連星会議にかけてからだな」

その言葉を最後に、会議は締め括られた。


* * *


宇宙暦808年/帝国暦499年 3月2日。
惑星ティオジアで行われた連星会議にて、ルフェール第七艦隊のエルダテミア共和国派遣の受け入れと、正規艦隊のイグディアス駐留を要請する案件が賛成多数で可決された。
同時にロアキアへ援軍派遣の要請が為され、後が無いオリアスは即決でこれを受け入れる。

こうして、各々の思惑は違えどルフェール、ティオジア、ロアキアの対銀河帝国の準備は着実に整いつつあった。
だが銀河帝国も惑星ロアキアに4個艦隊60000隻が到着し、補給と休息をとっている。

戦いの時は近い。





==???==

「そうか、遂に完成したか!」

「装置自体は既に完成しておりますので、後は皇帝陛下の御召艦フリードリヒ・デア・グロッセに搭載するだけとなっています」

「ほう、詳しい説明を頼んで良いかな?」

「はっ、敵艦のスクリーンにエロゲの回想シーンを強制的に流し、そちらに注意を惹かせることで敵の動作を鈍らせるというのがコンセプトとなっており、試算では敵の艦隊運動効率を約3%~5%減らすことが可能となっています」

「素晴らしいではないか!」

「ですが、『敵だけ見れるのは不公平だ』と味方の将兵の士気を大幅に下げてしまう可能性も指摘されています」

「何!? それでは実戦で使用できんぞ!」

「はっ、この解決策として、戦闘開始前にエロアニメの上映会などを行うことで味方の士気の下降率を抑えられるのではないか……と議論中であります」

「うむ、期待している」

そう、満足気に答えたアドルフの後ろにメイドの影。

アドルフが『アドルフだったもの』になるまで後10秒。
試作装置が粉々に壊されるまで後3時間。
 

 

第16話 第二次アルフォルト星域会戦


宇宙暦808年/帝国暦499年 7月21日 6時2分。
ロアキアへの援軍として10000隻の兵力で惑星ティオジアを進発したバドエル艦隊は、途中イグディアスとオルデランの艦隊5000隻(各2500隻)を加え、アルフォルト星域に到着した。

アルフォルト星域には既にロアキア軍28000隻と同じティオジア軍のジャラール艦隊11000隻が遊弋しており、バドエル艦隊が加わったことでその総数は54000隻と大所帯である。

銀河帝国軍がアルフォルト星域に侵入してきたのは、バドエル艦隊の到着から4時間後。
6個艦隊73000隻という大軍であった。

ロアキア・ティオジア連合軍の布陣は、左翼にジャラール艦隊11000隻。
右翼にバドエル艦隊15000隻。
中央のオリアス艦隊は20000隻と群を抜いて多く、予備兵力としてメルボド艦隊8000隻が後方に控えている。

対する銀河帝国軍の布陣は、左翼にガーシュイン艦隊15000隻。
右翼にクナップシュタイン艦隊12000隻。
中央にオットー艦隊15000隻とゴシェット艦隊15000隻。
カルナップ艦隊8000隻とマリナ艦隊8000隻は予備兵力として後方で待機。

ジリジリと距離を詰めた両軍は、互いを射程に捉えると砲火の応酬を開始した。


開始早々、連合軍は銀河帝国軍を激しく攻め立てる。
艦艇数で下回る彼らにとって、戦いの主導権はなんとしても取る必要があったのだ。

しかし、そう簡単に行くほど甘くはない。
速攻での攻勢に銀河帝国軍は冷静に対処し、開戦後2時間が経過しても連合軍は依然その手に主導権を握ってはいなかった。

だが、ここで戦局は一気に動く。

バドエル艦隊である。
2時間の攻撃でバドエル艦隊はガーシュイン艦隊に三本の楔を撃ち込むことに成功しており、準備が完了すると先程を上回る勢いで攻勢を仕掛けたのだ。

ガーシュイン艦隊の傷口(楔を撃ち込まれた部分)が大きくなり、そこから一気に崩壊する。
前線の崩壊が早過ぎたためガーシュイン上級大将の指示が追い付かず、結果としてバドエル艦隊の跳梁を許してしまう。

バドエルは見事な艦隊運動と突撃でガーシュイン艦隊を切り崩すと、途中で方向を変え、ゴシェット艦隊に突撃。
予想外のところから襲撃を受けたゴシェット艦隊は大混乱に陥った。

これを見たオリアスは、攻撃をオットー艦隊のみに絞る。

「今が好機だ、予備も投入して一気に突き崩せ!」

元より、オリアス艦隊の方がオットー艦隊よりも兵力は上である。
そこに予備兵力8000隻が加われば、オットー艦隊だけで止められるものではなかった。

ジャラール艦隊も一部の部隊をクナップシュタイン艦隊の側面に展開させることに成功し、戦いを優位に進めつつあった。

・・・・・

戦況がまたも変化したのは、13時27分のことである。

「ふふ、残念ながらそうはいかないのよね」

連合軍が総攻撃をかけている間にマリナは艦隊を大きく迂回させ、連合軍の背後に回り込んでいた。
また、混乱を収拾したガーシュイン艦隊がバドエル艦隊への攻撃を再開し、カルナップ艦隊もクナップシュタイン艦隊への増援に駆けつける。

「突撃だ! このまま敵を殲滅しろ!」

カルナップ大将の怒号の下、カルナップ艦隊はジャラール艦隊に突撃を開始する。

「カルナップ提督か、ありがたい。今の内に退いて態勢を立て直すんだ」

元々、ジャラール艦隊とクナップシュタイン艦隊は数において互角である。
そこにカルナップ艦隊8000が加わった今、ジャラール艦隊は兵力において大幅に劣勢となった。

オリアス艦隊は優勢とはいえ背後を取られた状態であるし、バドエル艦隊も2倍の敵と戦っているため、いつまでも優勢ではいられない。
時が経つにつれ銀河帝国軍が態勢を立て直せば、戦況は一瞬で逆転するだろう。
ここにきて、兵力差という銀河帝国軍の数的優位が効果を表し出していた。

無論、連合軍とてそのようなことは分かっている。
バドエル艦隊の旗艦ザッフィーロでもそれに関する会話が行われていた。

「閣下、このまま悪戯に時間を消費すれば我々は窮地に陥りますぞ」

「右翼の防備を固めながらゴシェット艦隊への攻撃を続行しろ。あと少しで敵は崩れる」

バドエルは、ガーシュイン艦隊からの攻撃をユリアヌス分艦隊に防がせながらひたすらにゴシェット艦隊を攻撃し、崩れるのを待った。

そして、遂にその時は来た。

「ゴシェット艦隊、崩れました!」

「オリアス艦隊もオットー艦隊を崩した模様、敵中央は全面崩壊です!」

「よし、ここは突破だ。全艦突入!」

オリアス、バドエル艦隊は銀河帝国軍の中央へと突入する。

マリナ艦隊が追い縋ってきたものの味方との同士討ちを恐れて無理な攻撃は出来ず、結果としてオリアス、バドエル艦隊は中央突破に成功した。

一方、中央突破を許してしまった銀河帝国軍は窮地に陥っていた。

「敵に中央を突破されました!」

「敵艦隊、後方で左右に展開」

「くっ…………。全艦180°回頭、反転して敵の攻撃に備えろ!」

「で、ですが敵前回頭は」

「我々が前進して逃れれば、敵は孤立したクナップシュタイン、カルナップ艦隊を袋叩きにするだろう。ここは堪えるしかないのだ!!」

それは苦渋の決断であった。
何も好んで敵前回頭(それも180°の)などしたいわけではない。
彼らには(クナップシュタイン、カルナップ両艦隊の)見殺しか敵前回頭による大損害かの2択しか選択肢は無かったのである。

「チャンスだ! 戦闘艇を出して一気にたたみかけろ!」

銀河帝国軍の180°回頭を見たバドエルは即座にそう叫ぶ。

「(これで決着をつけれればいいが……まず無理だろうな)」

バドエルの予想通り、オットー、ゴシェット、ガーシュインの3個艦隊は少なくない損害を出しながらも全軍の反転に成功。
兵力が元々多かったのと、オリアス、バドエル艦隊も万全の態勢で無かった(左右に展開するため回頭中の部隊が多々あった)のが幸いした。

だが……

「頭を完全に抑えられました!」

オリアス、バドエルは銀河帝国軍の先頭に砲火を集中させ、銀河帝国軍の頭を完全に抑えた。

「反撃だ、撃ち返せ!」

「このままで終われるものか!!」

銀河帝国軍も負けじと反撃する。

この段階で両者の兵力は拮抗していたが、銀河帝国軍は先の反転中に中級指揮官が何名も戦死していたため、指揮系統において連合軍よりも脆弱であった。

そして、その点を突かぬオリアスとバドエルではない。
指揮系統の脆弱なところをピンポイントで砲撃し、傷口の穴を徐々に広めていく。

このまま連合軍が押し切るか……と誰もが思った、その時。

「天頂方向より敵艦隊急襲!」

「何!?」

それはジャラール艦隊と交戦中である筈のクナップシュタイン艦隊であった。

なぜクナップシュタイン艦隊がこの場にいるのかという疑問については、連合軍の中央突破後、マリナ艦隊はそのまま本隊に合流せずジャラール艦隊の後背を突いたことに端を発している。
これによってジャラール艦隊はカルナップ、マリナ両艦隊を相手取ることになり、態勢の立て直しを終えたクナップシュタインはその場を両艦隊に任せて本隊の救援に向かったのであった。

「レオーネ・バドエルゥゥゥゥゥゥ!!」

劣勢な味方を救い、また亡きグリルパルツァーの仇を討たんとクナップシュタインはバドエル艦隊に突撃する。

「こいつはヤバイな……」

「ユリアヌス隊を回しますか?」

「ああ、そうしてくれ。ラミンの分艦隊だけじゃあれを防ぐのは厳しいだろうからな」

「しかし、それでも一時凌ぎにしかならないでしょう。敵の数が多すぎます」

「分かっている、カルツ隊に例の作戦を実行するよう伝えてくれ」

「例の作戦というと……アルファーニ宰相閣下が考えられた作戦のことですか?」

「そうだ、この状況を打開するにはそれしかねえ」

バドエルの命令から15分後。
突如、銀河帝国軍の背後に10000隻規模の艦隊反応が現れる。

「後方に敵艦隊反応!!」

銀河帝国軍の艦隊司令官たちは、それが欺瞞であると即座に見抜いた。
だが、全軍に与えた動揺は大きかった。

その隙を、バドエルたちは逃さない。

「よし、敵は動揺しているぞ。全軍、敵を総攻撃だ!」

連合軍は総攻撃を掛ける。

「巡航艦ハートブルム轟沈」

「戦艦モンステント、出力70%に低下」

「戦艦ヤートグルフ撃沈、ハルミット提督戦死」

オットー艦隊の旗艦パンター・ティーゲルの艦橋には、味方の損害が引っ切り無しに入ってくる。

「ガーシュイン艦隊旗艦、ノーチラスが大破しました!」

この報に艦橋の全員が凍りつく。
もしガーシュイン上級大将が戦死していれば、ガーシュイン艦隊の崩壊は避けられず連鎖的に全軍が壊滅してしまう。

「戦艦トロイツェルより入電。ノーチラス航行不能のため、旗艦を戦艦トロイツェルに変更。移乗したガーシュイン上級大将が引き続き指揮を執られるとのことです」

「そうか、最悪は免れたな」

不幸中の幸いで、ガーシュイン上級大将の無事が確認された。
これで、劣勢ながらもガーシュイン艦隊はまだ統一した艦隊行動を行える。

しかしホッとしたのも束の間、またもや凶報が舞い込んでくる。

「戦艦マッケンゼン被弾!」

今度はゴシェット艦隊旗艦のマッケンゼンである。

「ゴシェット上級大将の安否は?」

「重傷を負われた模様。現在、副司令官のマイホーファー大将が指揮を執っています」

「ゴシェットが重傷か……これは耐え切れんかもしれんな」

現在、銀河帝国軍は窮地にあった。
味方の艦艇は次々と破壊され、艦隊司令官の重傷と艦隊旗艦の撃沈により士気は地に落ちている。

それに中級指揮官もかなりの数が戦死した。
これでは反撃など夢のまた夢だ。

「ん? これは……味方だ、味方の援軍です!」

18時49分。
ジャラール艦隊を追い払ったマリナ、カルナップの両艦隊が援軍に駆けつけた。

「撤退の好機だ。敵陣を強行突破し、そのままロアキアへ撤退する!」

銀河帝国軍は力を振り絞って最後の攻勢に出る。

「敵軍、大攻勢に出てきます」

「無理に食い止めようとするな。適度に道を空けて逃がしてやれ」

「よろしいのですか?」

「ああ、立ち塞がってもどうせ撃ち破られるだろうからな。損害は少ない方がいい」


こうして、第二次アルフォルト星域会戦は終了した。

ロアキア・ティオジア連合軍の損失艦艇22000隻。
銀河帝国軍の損失艦艇32000隻。

双方合わせて54000隻もの艦が失われるという大激戦であった。





==今日のアドルフ==

「怖い夢を見たんだ……いつの間にか触手になってて、仕方無いから目の前にいる女でも犯そうと思ったら、いきなり猛烈な炎で燃やされる夢だった」

「陛下、その夢は女性に対するセクハラです。ですので、今後そのような夢を見ることは禁止します」

「えっ!? いや、夢だぞ。自分の意思でどうこうできるもんじゃ無いんだぞ!」

「禁止です」

「だがっ!」

「禁止です」

「…………」

銀河帝国皇帝アドルフ・ゴールデンバウム。
もはや夢すら自由に見れなくなっていた。
 

 

第17話 ロアキアの終焉


――新帝都フェザーン――

「バカな! あれだけの戦力を揃えておいて敗北したというのか!?」

獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)宮殿の皇帝執務室にアドルフの声が響き渡る。

「はっ、損失艦艇32185隻。戦死者約300万人とのことです」

「…………」

あまりの損害にアドルフは絶句する。
敵を2万隻近く上回る艦艇に、それを指揮する将達も一流の将帥。
それだけの戦力を揃えながら大損害を出して敗北するなどアドルフには考えられなかった。

敵はヤン・ウェンリーではないのだ。
それとも、レオーネ・バドエルやオリアス・オクタヴィアヌスはそれに匹敵する存在だとでも言うのか。

「…………それで、敵の被害は?」

「敵は損失艦艇約22000隻。死者は不明ですが200万近い数になるのではと……」

「…………」

一応それなりの損害を与えているが、両軍の戦力差を考慮するとこれでは少ないと言わざるを得ない。

「それと、マリナ大将から『敵が疲労している今こそ好機、再度矢を放ち屈服させるべし』との打診が来ております」

「何、まだ戦うのか!?」

「ですが、確かにこれは好機です。こちらは敗れたとはいえ未だ40000隻の艦艇を維持しています。対する敵の戦力は損傷艦を含めても30000隻強。2個艦隊の増援を送れば損傷艦を下げても2倍近い戦力差になるでしょう。そして何より、敵は全軍が例外無く疲労しております」

「敵に増援がある可能性は?」

「無いとは言えませんが……その可能性は極めて低いかと。あってもイグディアスやオルデランのものしか時間的に間に合わないと考えられます。そして、両国の国力からして最大に見積もっても10000隻を超えることはありません」

「なるほどな………うむ、直ちにガムストン、パナジーヤの両艦隊を向かわせろ。それと、ドロッセルマイヤーにエルデタミアへ直行しルフェール艦隊を叩き潰せと言っておけ」

「エルデタミアのルフェール艦隊ですか?」

「横からしゃしゃり出てこられても面倒なだけだろう? もし出てくるなら、その間に空になったエルデタミアを制圧するだけだ」

「分かりました。直ちに」

シュトライトはそう言うと、配下の者を呼んで直ぐ手配させる。
その手際は手慣れたものであった。

手配が終わった後、シュトライトはアドルフに向き直って一言忠告する。

「そろそろ戦死者の数が多くなり過ぎています。このままだと……」

「分かっている、旧ロアキア領の全てを手中におさめたらそこで一息つくさ」

ロアキアとの戦争勃発から発した一連の戦闘により、銀河帝国の戦死者数は無視し得ない数になっている。
それに占領地も広がり過ぎており、これ以上の戦線拡大は自殺行為である。
未だ戦闘が続いているのは、単にオリアス等残党勢力とエルデタミア共和国という存在が新たに手に入れた領土内に巣食っているからであり、ティオジアやルフェールの介入が無ければとうに終わっている筈であった。

ここでオリアス等を滅ぼすか旧ロアキア領から放逐し、エルデタミアを占領すれば戦いは終わる。
ティオジアやルフェールとはいずれ決着をつけねばならないとしても、それは何年も後のことであった。


* * *


宇宙暦808年/帝国暦499年 8月4日。
銀河帝国軍はベトラント星系に隣接するカイマール星系にてガムストン、パナジーヤ両艦隊28000隻の増援と合流し、再びロムウェへと進発した。

一方、これを予想していなかった連合軍では大混乱が起きていた。
辛うじて司令部が冷静でいられたのは、銀河帝国軍がカイマール星系に留まっていたことから再度の侵攻もあり得ると予期していたからだろう。
それとて一応という面が強く、まさか本当に再度の侵攻があるとはあまり考えられていなかった。

「アルフォルトは間に合わん。ここレンヴァレル星系で迎え撃つしかない!」

ロムウェのあるレンヴァレル星系はロアキアの残存勢力とって最後の砦である。
ここが落ちれば、この宇宙にロアキアの国土は一欠片も存在しなくなってしまう。
それはロアキア統星帝国という国家の終焉を意味していた。

「……迎撃する。各艦出撃用意!」

かくして、連合軍は迎撃に出撃する。

だが、レンヴァレル星系へ来襲した銀河帝国軍の艦艇数は65000隻。
30000隻強の連合軍とは実に2倍以上の差があった。

「撃て!」

銀河帝国軍は無傷のガムストン、パナジーヤ両艦隊を先頭に激しい砲火を加える。
更に天頂方向からマリナ艦隊が、天底方向からクナップシュタイン艦隊が襲撃を掛け、オットー艦隊とカルナップ艦隊はそれぞれ左右側面に回り込む。

この立体的な攻撃に連合軍は為す術が無かった。

次々と爆沈していく連合軍艦艇。
先日と異なり、あまりに一方的な戦闘であった。

「戦艦プラッツラー、アグニテウス撃沈!」

「戦艦コメックロトム撃沈、メルボド提督戦死!」

「ここまで無様な戦いになるとはな……」

既に、連合軍の各戦線は崩壊している。
銀河帝国軍も予備兵力のガーシュイン艦隊を投入して戦局を決めに来ている以上、この状況からの挽回は不可能だろう。

「殿下、勝敗は決しました。ここはティオジアかルフェールに亡命して捲土重来を期されんことを……」

側近の一人はオリアスに亡命を勧める。
だが、オリアスは静かに首を振った。

「我が軍は既に敵の包囲下にある。このまま逃げる事など叶わんよ」

「敵の包囲は完全ではありません。今なら、今ならまだ間に合います」

「ここで私一人が逃げ出して……例えそれで命を永らえて再起したところで、もはや誰も私についてなどこないだろう。だが、私にもまだ誇りがある。せめてティオジア軍が撤退する程度の時間は稼いでくれよう。………全艦突撃だ、ロアキア軍の意地を敵に見せてやれ!」

このオリアスの言に覚悟を決めたロアキア軍は最後の反撃に出る。

「この勢い……やつらは死を恐れんのか!」

「オリアス軍は完全に死兵になってしまったわね……これは厄介だわ」

「主砲による弾幕を張って、敵を近づけさせるな!」

銀河帝国軍は必死になって死兵となったロアキア軍を食い止める。
そのため、撤退していくティオジア軍を追撃する余裕など無かった。


宇宙暦808年/帝国暦499年 8月13日 22時40分。
ロアキア軍総旗艦デスペリアスの撃沈とオリアス・オクタヴィアヌスの戦死によって戦いは幕を閉じた。

会戦後、銀河帝国軍はロムウェへと侵攻してこれを占領。
ここに、領土の全てと指導者を失ったロアキア統星帝国は真の意味で滅び去った。
 

 

第18話 第三次ダレダン星域会戦


宇宙暦808年/帝国暦499年 8月13日。
ロアキア・ティオジア連合軍がレンヴァレル星域にて散々に叩きのめされている頃、エルデタミア共和国ダレダン星域でも戦端が開かれていた。

エルデタミアの防衛に赴いていたルフェール共和国第七艦隊と侵攻してきた銀河帝国ドロッセルマイヤー艦隊の会戦である。

ドロッセルマイヤー上級大将率いる15000隻の艦隊に対し、エリザ・ウィッカム中将率いる第七艦隊の兵力は12000隻。

数において劣る第七艦隊は当初から劣勢に立たされていたが、それでもなんとか持ち堪えていた。

「右翼が敵に侵食されつつあります、至急援軍を!」

「……いや、敵の陣形からして狙いは中央突破だろう。本隊からこれ以上艦を減らすわけにはいかない。予備兵力2000の内1000を割いて補強するのだ」

ウィッカム中将の予想通り、ドロッセツマイヤーが狙っていたのはまさしく中央突破であった。
第七艦隊右翼への浸食は中央を薄くする布石だったのだが、それも予備兵力の投入で失敗に終わった。

「ちっ、そう上手くはいかないか……いったん左翼を後退させろ。無駄に損害を出す必要は無い」

目論見が失敗したと見るや、ドロッセルマイヤーは即座に兵を引く。

「しかし敵も粘りますな」

「ああ、良い指揮官だ。ルフェールの艦隊は本物の戦闘経験が少ないと聞いていたが……そうは見えんな」

「確かに……ですが、そこら辺が限界のようです。如何に善戦しようと戦局を覆すまでは至っておりません。ですので、このまま敵に消耗を強いていくのがよろしいかと」

「……そうだな。右翼と左翼は陣形を左右に展開、密着して敵両翼の戦力を削り取れ!」

この戦法により第七艦隊の両翼はじわりじわりと消耗していく。
元々兵力に劣る第七艦隊にとって消耗戦は望むものではなかった。

「くっ、一番嫌な戦法でこられたか」

「どうしますか?」

「今は耐えるしかない。敵としてもいつまでも消耗戦に興じているわけにもいかないだろう。どこかで何らかのアクションを起こすはずだ」

・・・・・

消耗戦に移行してから3時間が経過した。

「よし、前進を開始せよ」

「前進ですか?」

「ここらで一つ仕掛けてみようと思う。もし敵が乗ってくるのなら……」

ドロッセルマイヤーの命に従い、中央が前進を始める。
これに、第七艦隊は慌てふためいた。

「敵中央が前進してきます!」

「迎撃! 迎撃!」

「閣下、敵の意図は先程断念した中央突破にあると考えられます。このまま突破されれば分断された我が軍は各個に撃破されかねません」

「……そうか、残りの予備兵力1000隻を本隊に合流させろ。ここで敵を食い止めるのだ!」

参謀の進言を聞き入れたウィッカムは、直ちに予備兵力の投入を決定した。
しかし、それこそがドロッセルマイヤーの狙いであった。

「敵は残りの予備兵力全てを中央に注ぎ込んだか……後方で待機しているザムレス、シュラートの分艦隊に命令。敵両翼を外側から叩け……とな」

「はっ!」

ドロッセルマイヤーの命により、これまで予備兵力として後方に待機していた部隊が両翼のさらに外側から襲い掛かる。
この一撃に第七艦隊の両翼は耐えられない。

「右翼、左翼共に被害甚大!」

「既に戦線崩壊が始まっています!」

「……参謀長、両翼を中央まで戻せるか?」

「損害を無視すれば出来なくはありませんが……」

「かまわん、どのみちこのままでは両翼が崩壊するだけだ! 全軍に命令、中央に集結して突形陣をとれ」

「閣下!」

「上手くいけば最小の損害で切り抜けられる。もっとも、勝敗は既に決したがな……それに、私の進退も……」

第七艦隊の各部隊は後退しつつも次第に中央に集結し、陣形を整える。
ドロッセルマイヤーはそれを目聡く見つけた。

「ん! 待て、全艦進撃中止!」

「どうされました?」

「見ろ、敵の陣形を。いつの間にか突形陣をとりつつある。中央部に突撃されたら現状では防ぎきれないだろう」

「大きな損害を出しながらも両翼を引っ込めたのはこのためでしたか……」

「敵の意図が分かった以上、それに乗ることはない。中央を固めてから改めて仕掛ければ良いだけのことだ」

ドロッセルマイヤーは敵の突撃に備えて中央を固めさせる。
が、ドロッセルマイヤー艦隊の進撃が停止した隙に、第七艦隊はこれ幸いと撤退していった。

「…………やられたな。損害が致命的にならない内に撤退する……、良い判断だ」

「追撃はどうされますか?」

「我々の任務はエルダテミアの制圧。深追いは無用だ」


こうして、第三次ダレダン星域の会戦は銀河帝国の勝利に終わった。

勝利したドロッセルマイヤー艦隊はダレダン、テルジント、アーミア、エルテピアとエルデタミア共和国所属の星系を順次制圧していった。
これにより、先のロムウェ占領と合わせて銀河帝国は遂に旧ロアキア領のすべてをその手中に収めることに成功したのであった。





==今日のアドルフ==

「く、くくっ、くくく……遂に、遂に『回想シーン強制流し装置』の復元に成功したぞ!」

「おめでとう御座います陛下。しかし、あのメイド……いや冥土に見つかれば今度()ただでは済みませんぞ」

「もちろん、それに関しては抜かりない。この第二次製造計画は水面下の更に下の下、マリアナ海溝の奥深くで行ったからな。今度こそ大丈夫だ」

そう言って、アドルフは不敵な笑みを浮かべる。
これは……アドルフ初勝利…か?

― つづく ―
 

 

第19話 秘密結社


――新帝都フェザーン――

宇宙暦808年/帝国暦499年 8月19日。
執務室へ報告に訪れたシュトライトに、アドルフは質問を投げかけた。

「シュトライト、卿はどう思う?」

「は? 何がですか?」

「久しぶりに地上に出たら、いつの間にか旧ロアキア領を完全制圧しちゃってたことについてだ」

「………どうコメントして良いか分かりませんが……陛下がどこぞの地下室に引き籠って『回想シーン強制流し装置』とやらの製作に勤しんでおられる時も世界は動いている、ということでしょう」

「なるほど、この世の真理だな」

シュトライトは頭が痛くなった。
一週間ぶりに、ようやく姿を現したと思ったらこれである。
彼ならずとも溜息をつきたくなるというものだ。

その様子を見たアドルフは何やら弁解めいたことを言い出す。

「仕方あるまい。せっかく製造に成功した『回想シーン強制流し装置』があの暴力冥土とその手下どもに壊されたのだ。私は銀河帝国の皇帝として、メイドごときの暴力に屈するわけにはいかんのだ!」

「それで、復元しようとして失敗した……と?」

「いや、復元には成功したさ。だが、完成した頃合いを見計らってまたもやあの冥土が突入してきたのだ。よもや同士の中にスパイが混じっていたとは……見事にしてやられたわ! これではいくら計画を水面下の更に下の下で秘密裏に進めようと無駄ではないか! しかし、私は諦めない。いつの日か、『回想シーン強制流し装置』を敵軍に向け使用して見せる!」

「それは結構ですが……陛下がサボッてる間に大量の書類が溜まっております。是非とも再度の復元の前にそちらを処理して頂きたいものですな」

「ま…まあ、いずれにせよ、作戦に関わった者たちに御苦労だったと伝えておいてくれ。……これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「陛下のここ数年における1日の平均睡眠時間が、約12時間なのですが………」

「………これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「いえ、ですから陛下の平均す――」

「これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「……………」

もう何も言うまい。
シュトライトはそう思った。

「ま、まあそれは置いといてだ。ロアキア全土の制圧完了とオリアスの戦死についてはメルセリアとオルテシアに伝えねばなるまい。どう伝えれば……というのが…な」

「……なるほど。敵対関係にあるとはいえ、血の繋がったご兄妹ですからな」

流石のアドルフも、妻に肉親の死を能天気に伝えるほど空気が読めないわけではない。
だが、どう伝えたらいいか…良い案があるわけでもない。

そこで、困った時のシュトライト頼みであった。

「何か良い案はないか?」

「…………正直に伝えるしかないでしょうな」

「そうか……」

アドルフの心情としては顔を合わせては言いたくない報告であったが、これは全ての決定を下したアドルフ自身が直接伝えねばならない事であった。

・・・・・

メルセリアとオルテシア。
彼女たちは銀河帝国皇帝アドルフ1世の妃であると同時に、旧ロアキア統星帝国の皇女であった。

アドルフはその彼女たちに祖国ロアキアの完全滅亡と、オリアス・オクタヴィアヌスの戦死を告げる。

「ロアキアが滅んだのですか……それに兄も………」

「悲しいか? オルテシア」

「悲しく無い……と言えば嘘になりますが……ですが仕方無いという気持ちがあるのも確かです」

「そうなのか?」

「はい、兄オリアスは父を幽閉したり武力で以って辺境を支配下に置こうとしておりました。それが今、我が身に返っただけのこと……」

「耳の痛くなる話だな、俺も武力で以ってロアキアを制圧した。いずれはティオジアにルフェールも尽く滅ぼし、我が帝国の版図へ加えることになるだろう」

「…………」

「メルセリア、お前はどうだ?」

「……私もオルテシアと同様です。結局のところ、オリアスは……ロアキア統星帝国はこの銀河を統べるに相応しくなかったということでしょう」

メルセリアの言葉は辛辣であったが、それはある意味皇族として生まれて来た者たちにとっては常識であったのかもしれない。

「(いずれにせよ、2人とも理性・感情の両面で納得していてくれたのは幸いだな)」

アドルフは心の底からそう思った。


* * *


薄暗い地下室。
だが、そこは異常に広い空間であった。

ここは萌えを銀河中に広めることを信条とする秘密結社『銀河団』の本部である。

無論、結社の首領は我らがアドルフ・フォン・ゴールデンバウム。
銀河帝国の現皇帝でもある人物だった。

「諸君、私は遂にロアキア全土の制圧を成し遂げた!」

壇上に立ったアドルフがそう言うと、周囲から歓声が上がる。
声が静まるのを待って、アドルフは話を続けだす。

「これが何を意味するか……諸君等は気づいているだろうか?」

「…………」

「そう、ロアキアの全てに萌えを行き渡らせるのが可能であるということだ!」

「オオー!!」と、先程の数倍の歓声が上がった。

かつては、帝国全土に萌えを普及させるのが彼らの野望であったが、その野望は帝国本土のみならず自由惑星同盟、遂にはロアキアへと達したのだ。

「今現在、萌えは旧帝都オーディンや人類発祥の地である地球のあるオリオン腕のみならず、旧自由惑星同盟のあったサジタリウス腕にも広く布教され、遂には南十字・盾腕に達している。以前にも述べたと思うが、私の野望はこの銀河全体に萌えを行き渡らせることである。だが、その道はとてつもなく険しい。おそらく、私が生きている間にそれを達成することは叶うまいが、いずれ我らの子孫たちがこの野望を完遂してくれると私は信じている。………とはいえ、私は自分の代で可能な事は可能な限りやっておき、次世代の同志たちの活動を少しでも楽にしたいと考えている。そこで、先ず手始めに我が銀河帝国はオリオン腕の全てを制覇する。そして、私が生きている間にティオジアを、ルフェールを下し、帝国の全支配領域に萌えを広めてみせる。萌えで埋め尽くしてみせる!!」

そこでアドルフは声を切り、周囲を見渡す。
そして言い放った。

「萌えを銀河に!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「萌えを銀河に!!」」」」」」」」」」」」」」」」


1時間後、この会場に皇帝《アドルフ》捕縛隊が突入。
関係者は全員捕縛された。
 

 

第20話 未来の展望

宇宙暦808年/帝国暦499年 11月20日。

銀河帝国がロアキア統星帝国を完全に滅ぼし、その版図の全てを手中に収めてから3ヶ月。
大方の予想に反し、帝国は一向に新たな動きを見せる気配はなかった。

特に、隣接しているティオジア連星共同体は直ぐに侵攻があると予測していただけに、肩透かしをくらった感があった。

「来ませんな………」

「ロアキアの次は我らかと戦々恐々としておりましたが………」

「第二次アルフォルト会戦は激戦だったようですからな。いくら銀河帝国とはいえ、3万隻以上の損害は大きかったのでしょう。もしくは、既に行動限界点に達したのかもしれません」

「それに、彼らは広大なロアキア領を得たのだ。完全に掌握するまでに十年単位の時間が掛るだろう。あるいは、掌握どころか自壊してしまうかもしれない。あれ程の領土をいきなり統治するのは容易ではないでしょうから」

「そう言えば、ロアキア統星帝国も過去幾度となく反乱に手を焼かされていましたな」

「長年治めてきたロアキアでさえそれなら、新たな統治者たる銀河帝国も手子摺るのは間違い……いや、必然と言えるでしょう」

「そうなってくれれば、我らも安泰ですな」

そう言うと、彼らは互いに見合って笑いを洩らす。

誰もが恐怖していたのだ、あのロアキアを滅亡させ、自分たちでは逆立ちしても揃えられぬ程の軍備を有する銀河帝国に。
そして、直ぐにでも侵攻してくるとのかと戦々恐々としていただけに、その反動と言うべきか楽観的な考えをし、銀河帝国を過小に見るようになっていた。

「ですが、銀河帝国は自力で移動可能な要塞をいくつも保有しています。これらの要塞群を上手く使われれば長距離遠征における補給線の問題もある程度解決され、必要以上に占領地に気を配る必要もなくなります。おそらく、銀河帝国は遅くとも3~5年の間にはこちらへ侵攻してくると思います」

そう言ったのは、ウェスタディア王国宰相のアルベルト・アルファーニ。
彼だけは他の人物たちのように楽観的に考えることができなかった。

「アルファーニ殿、それは憂慮し過ぎでは?」

「左様、如何に銀河帝国であろうと少なくとも十年は旧ロアキア領の統治に掛りきりになるしかない。その間に、我々も準備を整えれば良い」

「…………」

アルファーニは沈黙するしかなかった。
今の彼らには何を言っても無駄だろうと理解したからだ。

「(そんなものじゃないんだ……内乱が起きたとはいえ、あのロアキアがその総力を以って対抗したというのに、銀河帝国は片手間だった。それだけ余裕のある銀河帝国が十数年なんて時間をくれる筈がない。奴等は5年以内に絶対に来る)」

アルファーニの考えは後に現実となる。
今、この時も銀河帝国は来るべき日のために着々と準備を進めつつあったのだ。


* * *


――新帝都フェザーン 獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)宮殿――

「首尾はどうなっている?」

「はっ、現時点における宇宙艦隊の総数は約50万隻。これに加え、移動要塞はイゼルローン級2、ガイエスブルク級5、テスタメント級1、レンテンベルク級1、アルコート級4、他中小8が稼働状態にあります」

以前、アドルフは旧ロアキア領の全てを制圧したら一息つくと言っていたが、それは一息つき準備が整ったら再開することを意味していた。

「ふむ……まあ現状ではそんなところだろうな。だが、ティオジアへと攻め込むにはまだ足りん。必ず介入してくるであろうルフェールのことを考えれば実働戦力として最低でも30万隻、できれば40万隻近くは欲しいところだ」

「っ! しかし、40万隻も遠征軍に引き抜いては……」

「4年だ。4年を目処に宇宙艦隊を55万~60万隻まで拡張する。それだけあれば問題あるまい。それに、その頃にはドーバー要塞やゴリョウカク要塞も完成しているだろう」

「………ロアキアを得た以上、4年間もの準備期間があれば確かに可能だとは思いますが……正気ですか?」

「もちろんだ、敵にイゼルローン級やガイエスブルク級に匹敵する移動要塞を建造されてからではこちらの損害も馬鹿にならん。が、僅か4年でそのクラスの要塞を建造するのは不可能だろう。それに、旧ロアキア領の統治政策も思いの外順調なのでな。やはりメルセリアとオルテシアを妃とし、多くの貴族どもを取り込んだのが上手くいったようだ」

そう言ってほくそ笑むアドルフ。

確かに、かつての銀河帝国ならいざ知らず、自由惑星同盟にロアキア統星帝国という二大国を取り込んだ今の銀河帝国ならそれだけの数を捻出するのは不可能ではない。
それも、ティオジアを征服するまでの一時的なものだ。

戦争が長々と続けばその負担は大きいものとなるが、アドルフはティオジアとの戦いを一撃で決するつもりであり、その為の大規模動員でもあった。

ティオジア連星共同体のような複数の国家の連合は、その性質上、加盟国の国家を戦略的観点であっても見捨てることはできない。
そんなことをすれば、共同体はあっさりと崩壊するだろう。

故に、いずれかの国家を直撃するような進路を取ればティオジア軍は地の利を捨ててでも銀河帝国軍の前に立ちはだかるしか選択肢は無い。

万一そうならなければ、1国ずつ順に落としていくだけのこと。
各国の連合軍であるティオジア軍の空中分解は避けられない。

「くくっ、4年後が楽しみだ」

アドルフは来るべき未来を思い浮かべ、もう一度笑みを浮かべた。


* * *


「これが新しい旗艦か!」

銀河帝国軍上級大将アルフレッド・ガーシュインは目の前の戦艦を見て感嘆の声を上げた。

竣工したばかりであるこの戦艦の名はサラトガ。
パーツィバル級の3番艦である。

ガーシュインは4ヶ月前の第二次アルフォルト星域会戦で旗艦であるバルバロッサ級戦艦ノーチラスが大破・航行不能になるも、旗艦を変更して指揮を執って艦隊が崩壊するのを防いだ。
結局、ノーチラスはその後の戦闘で失われたものの、そのときの奮戦が認められ皇帝アドルフ1世より代わりの旗艦としてサラトガを下賜された。

パーツィバル級はブリュンヒルト級の発展型と言える艦で、ビーム兵器を反射・拡散するシュピーゲル・コーティング(対ビームコーディング)を施した表面処理装甲はもとより、艦体全体にわたって傾斜・曲線が多用されており、その防御力は銀河帝国軍戦艦の中でも最高を誇る。
無論、その分コストも高く、この艦は銀河帝国の戦艦の中で最も高価な艦であった。

「ノーチラスも良い艦だったが、これは更に群を抜いているな」

ガーシュインは喜びを隠せない。
以前の旗艦であるノーチラスはブリュンヒルト級の量産型廉価版であったが、この艦は発展型である。
これほどの艦に乗って艦隊を指揮できるのは武人としての本壊であった。

・・・・・

こうして、銀河に燃え上がった戦乱の炎は一時の終息を迎える。
これが新たに燃え上がるのは、数年先のことであった。
 

 

第21話 戦争準備


――宇宙暦809年/帝国暦500年――

「よし、アロマ、今夜はお前の部屋に突撃だ~~グヘヘ」

銀河帝国は4年後のティオジア制圧作戦(第二次アシカ作戦)に向け動き出していた……が、アドルフはいつもと同じく平常運転だった。
アドルフはできるだけ自分が働かなくてもいいような体制を整えていたし、周りもアドルフに特に期待しているわけでもないので、これといって業務が増えたわけでは無かったのである(4年という長期計画であるのも影響している)。

幸いと言ってはなんであるが、この時代の銀河帝国の文官・武官には優秀な者が数多くいたため、特に問題も無く軍拡は進められていく。

『1億人100万隻体制』

大幅に誇張されているが、この未曽有の大軍拡はそう呼ばれていた。
実際のところ、期間限定かつ無理をすればそれとて達成可能なところが銀河帝国の恐ろしいところであり、その国力の強大さを物語っている。

だが、無論のこと軍拡を行っているのは銀河帝国だけではない。

ルフェールは既に第二次新規艦隊建造計画を完了させ第三次計画に入ろうとしていたし、ティオジアも各国の足並みの乱れからゆっくりとではあるが軍備を拡張している。

銀河帝国がティオジアに侵攻したときはルフェールが援軍を出すことが予想され、双方共に数十万隻規模を動員する空前の大会戦となるだろう。

来るべき戦いを思い浮かべた関係者は、震えを隠せなかった。


* * *


銀河帝国が軍拡に励む一方、ここルフェールでも軍拡は順調に成されていた。

「ようやく第三次新規艦隊建造計画が始動したか」

「これで多少なりとも銀河帝国に対抗できるだろう」

ルフェールは第一次計画で第十一、十二艦隊。第二次計画で第十三艦隊と計3個艦隊を新たに新設していた。
これで、ルフェールは既存の10個艦隊と合わせて13個艦隊を保有したことになる。

だが、銀河帝国の物量は圧倒的と言えるほど膨大。もはやチートの域である。
これだけでは到底満足できるものではなかった。

「第一次計画では2個艦隊、第二次計画では1個艦隊を増設しましたが……第三次計画はどれほどの規模になるのです?」

「計画では第十四、第十五の2個艦隊の予定だ。第十六から十八艦隊は第四次計画以降に持ち越されることになる」

「第十九艦隊以降は無いのですか?」

「それ以上はルフェールの国力が許さんのだよ。我々が保有できる艦隊は18個が限度だ。まあ、1個艦隊あたりの定数を減らせばいくらでも可能だろうが」

ルフェールの大統領でもある男は皮肉げに言う。
極端な話、1個艦隊を2隻とすれば1万個艦隊を揃えたところで総数は20000隻でしかないが、そんな艦隊など無価値だ。

「ですが、帝国は判明している正規艦隊だけで20個はありますぞ。ましてや8000隻程で編成されている半個艦隊も合わせれば………」

「それ故のティオジアよ。奴等の総力を結集すればなんとか10個艦隊は編成できるだろう。それを合わせれば現状でも23個艦隊になるではないか」

「しかし、そのティオジアとて何時まで持つか分かりません。あの手の共同体が崩れ出すと脆いのはお分かりでしょう!」

「別に永久に持たせようなどと考えてはおらぬさ。最低でも九王国連合との同盟が成るまで持てばいい」

「九王国連合との……同盟ですか!?」

九王国連合とは、近年ルフェールが発見・接触した新たな国家群の連合体である。
その名の通り、連合を構成するのは九つの王国であり、1国1国の国力はルフェールや旧ロアキアには及ばないにしろ、侮れない武力と技術力を有している。
そして、九つの国家全てを合わせた国力はルフェールより上であった。

この話はまだ民間には知らされておらず、知っているのは上層部の一部のみである。
それ故、この話(そんな国家が存在すること)はルフェール以外で知る国は無い。

「彼らは応じるでしょうか?」

「応じる他ないさ。なにしろルフェールが征服されれば次は彼らの番なのだから。そのときは、我らを吸収してより強大になった銀河帝国と相対するハメになることを分からぬ連中でもあるまい」

「そう持ちかけて我らと同盟を締結するよう揺さぶる…と?」

「揺さぶるも何も純然たる事実だ。我らは善意から帝国の危険性を教えてあげるのだよ、善意からな」

国家間の関係に純然な善意など存在しない。
この場合も表面上は善意であるが、実際には自国の利益からくる善意でしかない。

「そういえば、ティオジアの連中はどうしているのです?」

「話にならんよ。銀河帝国が攻めて来るのは当分先だと安心しきっている。彼の双星の片割れアルベルト・アルファーニは5年以内に来ると説いて回っているらしいが、ウェスタディア、トラベスタ、シャムラバートなど一部の国を除いて何処も本気にはしてないようだ」

「それはまた……頼りないことですな」

「だからこそ九王国連合との同盟を急いでいるのだ。彼らが頼りになるなら、もう少し余裕を持って交渉に臨めたというのに………」


* * *


――宇宙暦810年/帝国暦501年7月7日――

この日、アドルフは御召艦に乗り、10隻程度の護衛艦と共に宇宙を遊弋していた。

もちろん、基本宮殿内でゴロゴロしているアドルフが僅かな護衛しか付けずに宇宙海賊の多発するこの宙域へと赴いたのはそれ相応の理由があった。

「宇宙海賊のものと思われる艦艇30。こちらに向かってきます」

オペレーターから宇宙海賊出現の報告が入る。

彼我の戦力差は3対1。
数の上では圧倒的に劣勢である。

だが、オペレーターに緊張感は無い。

「愚かしいものだな。10隻とはいえ、新鋭艦と精鋭部隊で固められた我らに挑むとは」

アドルフは嘆かわしいと言わんばかりに首を振る。
そして告げた。

「『回想シーン強制流し装置』を作動させろ!!」

アドルフの命令の後、時を置かずして海賊船内のモニターが全てエロゲーの回想シーンに切り換わる。

海賊船はたちまち混乱し始め、もはや統一した行動など取れようもない。

「これは……想像以上の威力だな」

あまりの予想外の効果に、アドルフたちは海賊船の痴態を茫然と眺めるしかなかった。

「海賊たちはどうされますか?」

我に返った参謀の1人が、アドルフに問う。

「『回想シーン強制流し装置』の効果を確認した今、奴等はもう不要だ。速やかに宇宙のゴミにしてしまえ」

そう命令したアドルフは、味方艦の艦砲にて撃沈されていく海賊船を眺めながら(結局彼らは最期まで混乱から抜け出すことはなかった)喜びに打ち震えていた。

「くくっ…これは使える、使えるぞ!!」


後日、この『回想シーン強制流し装置』は皇帝陛下たるアドルフのゴリ押しもあり軍に正式採用されるかに見えたが……暴力冥土や良識派たちの必死の反対と妨害により、帝国軍の正式装備となることは無かった。
しかし、効果があったのは事実なので、特例としてフリードリヒ・デア・グロッセへの搭載は認められた。
 

 

第22話 会戦の足音


――宇宙暦812年/帝国暦503年 10月19日――

ティオジアへの侵攻が目前に迫ったこの時期、銀河帝国では新たな戦力が誕生していた。

「新型戦闘艇ヴァルキリーの性能は良好なようだな」

「はっ、なにぶんまだ模擬戦段階でしかありませんが、ワルキューレやスパルタニアンとのキルレシオは概ね3:1です」

「ほお、3:1とはまた高性能だな。必要十分な数を揃えれば空戦では圧倒的優位に立てるのだが………」

「ティオジアへの侵攻が数ヶ月後に控えている現状では、訓練の期間なども考慮すると配備可能なのは陛下の直属隊と親衛艦隊ぐらいが限界かと思われます」

「せめて近衛艦隊にも配備させたかったのだが……無理は禁物か」

「ええ、下手に一部に配備させても部隊間の足並みが乱れるだけで、むしろマイナスになる可能性が高いかと」

「…………」

確かに、ヴァルキリーの性能はワルキューレやスパルタニアンと比べて突出している。
上手く足並みを揃えることが出来れば良いが、そうでなければヴァルキリーの配備は逆効果にしかならない。
各機の連携が重要となる空戦での(性能差による)足並みの乱れは無視し得るものではないのだ。

それに、ヴァルキリーが完成して間もない新鋭機という問題もある。
何か重大な欠点があっても、それに気付いていない可能性は長年の運用実績を誇るワルキューレに比べて高い――つまり信頼性に乏しいのだ。

それが新鋭機の宿命とはいえ、不安の種は周囲の士気を低下させる。
下手をすればヴァルキリーのパイロットとワルキューレのパイロット間での諍いに発展する可能性さえもあった。

そういったリスクと引き換えにしてでもヴァルキリーを配備させるのか…と問われれば、答えは否である。

敵戦闘艇とワルキューレの性能にそれほど違いがない以上、高性能機を無理に投入しなければならない理由は無く、むしろ戦場に投入される戦力も艦艇・戦闘艇ともに銀河帝国に劣るだろうティオジア・ルフェール連合軍こそが高性能機を投入しなければならないのが現状であった。

「うむ、分かった。配備は直属隊と親衛艦隊に限るとしよう」


<アドルフ>

あ~マジかよ、大量のヴァルキリー投入で空戦無双とか考えてたのに。
せっかく俺が考えてたハルトマンorルーデル量産計画が……orz

あと1年…あと1年完成が早ければそれも可能だったものを………。

これも全部ルフェールやティオジアのせいだ。
あいつらの妨害工作で開発が遅れた…という風にしておこう。

くそ~、なんかそう考えてたらムカついてきたぞ!

よし、こうなったらアレだ。
迫り来る敵戦闘艇を『回想シーン強制流し装置』で無力化してやる!

何度か行われた検証で妨害電波が飛び交う戦場で敵艦隊に向け使用するのは難しいという結論になったからな……だが、接近してくる敵戦闘艇に対してならその問題もクリアされる。
しかも、『回想シーン強制流し装置』の優れたところは敵の機体性能が全く意味を成さないことだろう。
とどのつまり、新鋭機だろうと旧式機だろうと対策を施してない限りは性能差に関係なく無力化されるってことだ。

さすが俺、とんでもない物を創ってしまった。
自分の才能が恐ろしい……。
俺の進化はいつ止まるのだろうか?

…………

話は変わるが、領土が広がり過ぎてんだよなぁ~。
自由惑星同盟に加えてロアキアまで版図に加えるとか原作ブレイクにも程があんだろ。
ロアキアだのルフェールだのティオジアだの原作に出てきてすら無いじゃん!

この分だと、他にもまた新たな国家が存在しそうだな。
未だ俺達の知る範囲は天の川銀河内のオリオン腕9割とサジタリウス腕、南十字・盾腕の一部でしかない。
この宇宙全域だといったいどれだけになるのか…なんて想像もしたくない。

とにかく、これだけ領土が広大になると従来の方法だとどうしても非効率的なのは否めん。
となると……方面軍の編成が必要か。

なら、さしあたって旧ロアキア領を統括するロアキア方面軍の編成だな。
自由惑星同盟との戦争終結後に編成したオリオン方面軍、バーラト方面軍、ガンダルヴァ方面軍の3軍にロアキア方面軍を合わせた計4つの方面軍。
それを宇宙艦隊司令部が統括するといった形だ。

まあ、それについては今後の議題に上げるとして、ティオジア、ルフェールも征服後はそれぞれに方面軍を置く。
丁度ポストが不足気味だったのもあるし一石二鳥だ。


* * *


――宇宙暦813年/帝国暦504年 2月25日――

旧ロアキア領の完全制圧から4年。
銀河帝国は予定通り、宇宙艦隊の総数を58万7000隻にまで拡張することに成功していた。

「時は満ちた。今こそあの忌々しいティオジアを撃つ! 第二次アシカ(ゼーレーヴェ)作戦を発動せよ! メックリンガー、シュタインメッツ、出撃準備だ」

「お待ちください、態々陛下自身が前線に立たれる必要はありますまい」

今にも飛び出していきそうなアドルフを幕僚総監メックリンガー元帥が制止する。

「既に俺には後継ぎもいる。万一、俺が戦死しても問題は無いさ。もちろん、そうならないよう卿らには期待しているぞ」

そう言われては、メックリンガーとしてもこれ以上言うことは何も無い。
ただ主を全力で補佐するだけだ。

・・・・・

アドルフは直属隊5000隻(バルトハウザー上級大将指揮)にレンネンカンプの親衛艦隊15000隻、シュタインメッツの近衛艦隊15000隻を合わせた35000隻の艦艇を従え、新帝都フェザーンを出立した。

アドルフが乗艦するのはパーツィバル級2番艦フリードリヒ・デア・グロッセ。
その周囲には、バルトハウザーの旗艦バルバロッサにメックリンガーの専用艦クヴァシル。
ヴィルヘルミナ、ベルリン、オストマルク、フェルゼン、ラーテ、ウィルヘルム、ヴィクトリア、ピョートル、カルロス、クイーン・エリザベス、キング・ジョージ、マリア・テレジア、カイザー・カールのヴィルヘルミナ級戦艦13隻。
グラーフ・ツェッペリン、ペーター・シュトラッサー、ウェーゼル、ポメラニア、ケルンテン、スラボニア、シロンクスの7隻の宇宙母艦。
他にも、旧ナトルプ艦隊の旗艦レヴィアタンに、旧メルカッツ艦隊旗艦ヨルムンガンド、旧ゼークト艦隊旗艦スターリンの姿もある。

これに、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ファーレンハイト、ルッツ、ワーレン、アイゼナッハ、シュムーデ、ミュラー、パエッタ、シューマッハ、ベルゲングリューン、ビューロー、クナップシュタイン、スプレイン、フィッシャー、アッテンボロー、マリナ、アルトリンゲン、ブラウンヒッチ、ハルバーシュタット、グエン・バン・ヒューの21個艦隊が随行する。

総戦力は実に30万隻以上。

しかも、オダワラ要塞やオオサカ要塞などの移動要塞まで加わるのである(駐留艦隊各8000隻)。
まさしく、『大親征』と呼ぶに相応しい陣容であった。
 

 

第23話 辺境の嵐


――宇宙暦813年/帝国暦504年――

超長距離ワープを連続してロアキアに到着した帝国軍は、そこでガーシュイン、ガムストン、パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの5個艦隊と合流。艦艇数をおよそ40万隻にまで膨れ上がらせた。
これは通常戦力だけのことであり、輸送艦艇や後方拠点として随伴する移動要塞群の駐留艦隊を全て合わせれば、その数は凄まじいことになる。

その大艦隊の中央に位置する戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦橋で、皇帝アドルフ・フォン・ゴールデンバウムはテンションを無駄に上げていた。

「フハハハハハハハ。見ろ、この大艦隊を! 圧倒的ではないか我が軍は。これだけの艦艇を以ってすればティオジアだろうがルフェールだろうが恐れるに足らん。何やらルフェールは九王国連合だか旧王国連合だかという国家と手を組んだようだが、そんなの関係ねぇ! ケーニヒス・ティーゲルの主砲で吹き飛ばしてくれるわ!!」

見事に死亡フラグを立ててしまった。

「これで勝つる、勝つるぞ…フヒヒ……」

しかし、テンションがハイになっているアドルフは逸れに気づかない。
周りの人間も完全に白けているが、そんなのお構いなしである。

「ケーニヒス・ティーゲルは既に沈んだ筈では?」

「陛下は……酔っているのでしょうか?」

「私の知る限り、ここ数日アルコールの類を摂取してはいない筈です」

「であれば、これはいったい………」

参謀長であるチュン・ウー・チェン上級大将と幕僚総監エルネスト・メックリンガー元帥の会話である。
そして、この会話にアドルフのお目付け役にして一番の被害者である苦労人シュトライト上級大将が交ざった。

「おそらく、ティオジアを征服した後のことでも考えてらっしゃるのでしょう。先日、『ウェスタディアとシャムラバートの女王は若くて美人だとか…グヘヘ』と仰っていたことですし」

「それは……なんとも………」

3人とも互いの目を見合い、同時に苦笑する。
彼らに言葉は不要であった。

そんな間にも、アドルフの暴走は止まらない。
いや、むしろアクセル全開で加速していた。

「進め進め~、勝利の女神がパンチラどころかお尻を丸出しにして俺たちを誘っているぞ~。誰が最初に犯すか競争だ~!」

その姿は、とても一国の皇帝には見えなかった……。


* * *


6月28日。
大軍で以ってティオジアの領域内へと雪崩れ込んだ帝国軍は、手始めにイグディアス、オルデラン両国へと襲い掛った。

「敵軍接近、数30000隻以上!」

「迎撃だ! とにかく、国王陛下が脱出されるまでの時間を稼ぐのだ!」

両国とも抵抗したが、元より10000隻程度の艦艇すら揃えられない小国である。
迎撃に出た艦隊は瞬く間に殲滅され、王族と軍の残存部隊は慌てて脱出した。

「遂に来たか」

「来ましたね。数は40万隻だそうですよ」

レオーネ・バドエルとアルベルト・アルファーニは帝国に潜入させた密偵による情報から、帝国軍の侵攻が近い事を予測していた。
そのため、既に各方面に伝令を飛ばし、戦力を掻き集めていた。

「イグディアスとオルデランから無事撤退できたのは何隻程だ?」

「合わせて5000隻程です。およそ10000隻が撃沈ないし拿捕されたと思われます」

「10000隻か、痛いな。……まったく、俺達の忠告をちゃんと聞いてればもっと多くが脱出できたものを」

「まあ、これだけ集められただけでも僥倖といえば僥倖ですけどね」

ティオジア星域には連星艦隊のほぼ総戦力が集結していた。
その数11万2000隻。
これにイグディアス、オルデランから脱出してきた艦艇の内使用可能な4000隻が加わることになる。
また、ルフェール軍8個艦隊と九王国連合軍2個艦隊も援軍として派遣されており、総勢は25万3000隻となっていた。

「それで向かう先はあそこで良いのか?」

「はい、かねてからの計画通りミンディア星域に布陣します」

ミンディア星域はウェスタディア王国の領土内にある星域の一つであり、恒星ミンディアの周囲に無数の小惑星帯が存在する。
アルファーニは、この星域を銀河帝国軍との決戦場にするつもりであった。

「しかしなぁ……お前の策はこちらが半壊状態になるのが前提だろ………」

「それしか手がありません。まともに戦えば僕達は戦力差で磨り潰されます。ですが、双方がこれだけの戦力を投入している以上まともにぶつかるしか方法は無いんですよ。戦力をあるていど分散すれば奇襲は可能でしょうが、この場合敵の戦力が大き過ぎるので返り討ちの上、各個撃破されるのが関の山でしょうね。それに………」

アルファーニはここで言葉を切った。
本人としても、このような策を採るしかないのが悔しいようだ。

「それに、彼らに移動要塞群を前面に押し立てた戦術を採られるとこちらは手の出し様がありません。大出力の要塞砲と大艦隊を相手にしながら要塞内に籠る皇帝を討つなんて、いくらバドエルさんでも不可能でしょう?」

「俺に不可能はねえ……と言いたいところだが、確かにそれはキツイな。1つだけならともかく、今回の遠征に参加している移動要塞は大型だけで8つもある。しかも内3つは大出力砲付きだしな」

敵の大艦隊と要塞群に挑んでいく光景を頭に思い描いて、顔を顰めるバドエル。
今まで幾多の困難を乗り越えてきた彼でも、それを達成するビジョンは浮かばなかった。

「僕達が勝利するには戦場で皇帝を討つしかないんです。なので……次の戦いは僕も出ます」

アルファーニはウェスタディア王国の宰相であり、もう軍人ではなかったが、この度の戦いに同行を申し出た。

「ああ、次の戦いはお前がいないと話にならん。期待しているぞ」

「ええ、任せてください」

『ウェスタディアの双星』

そう呼ばれる2人が今、真の意味で復活した。


* * *


ウェスタディア王国領内に侵入した銀河帝国軍総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセの下へ偵察艦からの報告が寄せられた。

「陛下、偵察艦から連絡が入りました」

「敵はミンディア星系に陣取っているようです」

「ほう、奴等はそこを墓場に選んだか……良いだろう、決戦はこちらも望むところ。その挑戦受けてやろうではないか。全軍、ミンディア星系へ向け進軍せよ」

アドルフの命により、銀河帝国軍40万はミンディア星域へ進路をとった。


かくて、舞台は幕を開く。
 

 

第24話 ミンディア星域会戦 前編


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月15日――

ミンディア星域外縁部においてティオジア、ルフェール、九王国連合の連合軍と銀河帝国軍は対峙していた。

「敵はティオジア軍9個艦隊、ルフェール軍8個艦隊、それと所属不明の2個艦隊……おそらく九王国連合軍と思われますが、これらの総勢は19個艦隊25万隻に達します」

「25万か……よく集めたと褒めるべきかな?」
 
「我が方より10万隻以上少ないとはいえ、油断は禁物です。敵軍の総司令官レオーネ・バドエルの手腕はあのマリナ様が認める程。これにアルベルト・アルファーニなる人物の知略が加わるとなれば……ヤン・ウェンリーに匹敵すると考えておいた方がよろしいかと愚考いたします」

「そうだな……ならば、先ずは小手調べといこうか。ミッターマイヤー、パエッタ艦隊を前進させろ」

アドルフが最初の命令を下す。

13時21分。
ミンディア星域の会戦が開始された。

「前進!」

「前進せよ!」

ミッターマイヤー、パエッタの2個艦隊は命令に従い、連合軍に向け前進していく。
それは、連合軍旗艦である新鋭戦艦バルトクロスへ直ちに知らせられた。

「敵、前進してきます。数、30000!」

「艦形照合。戦艦ベイオウルフ、及びプロメテウスを確認。ミッターマイヤー艦隊とパエッタ艦隊です」

「最初からいきなり疾風ヴォルフ(ヴォルフ・デア・シュトルム)か……先手を取られたな」

連合軍の総司令官であるレオーネ・バドエルはそう言って溜息をついた。
これに、総参謀長に就任したアルベルト・アルファーニが同意する。

「確かに、敵は初手から大胆な手で来ましたね。出来ればこちらが先手を取りたかったですけど……」

「仕方ねぇだろ、戦いなんてそんなもんさ。一喜一憂してたらやってられねぇよ」

「ですが、緒戦で下手を打てば流れが完全に向こうに傾いてしまいます。数で劣る僕たちにとってそれは敗北と同義です」

「なら、尚更いきなりコケる訳にはいかねぇな。ガストー、コムーシュ艦隊を当てて防がせろ」

バドエルはガストー、コムーシュの両艦隊を前に出し、帝国軍の前進を阻む。

「ガストー艦隊とコムーシュ艦隊はそれぞれ13000隻。対する敵は15000隻と数で上回っている上、片方はあのミッターマイヤーです。そう長くは持ちませんよ」

「だろうな、ガストーやコムーシュではちょいと荷が重いか……モルゲン艦隊を支援に向かわせろ」

バドエルの命を受け、モルゲン艦隊が支援に向かう。
これによって、戦線はいきなり膠着した。

・・・・・

14時35分。

「戦闘開始から1時間が経過しました。そろそろ両翼を動かしてみませんか?」

アルファーニはそう提案し、バドエルは二つ返事でOKする。

「いいぜ、受け身ばかりでは芸が無いからな。ラミン艦隊とルフェール第四艦隊は前進して敵を叩け!」

ラミン艦隊が右から、第四艦隊が左から前進を開始する。

「そう来るか、ファーレンハイト艦隊、スプレイン艦隊で迎撃せよ!」

ラミン艦隊をスプレイン艦隊が、第四艦隊をファーレンハイト艦隊が迎え撃つ。

「敵はスプレイン上級大将の15000隻。相手にとって不足は無いわね」

ラミンはそう言って、不敵に微笑んだ。


「左翼ザーニアル隊、マリネッティ隊はそのまま前進。右翼デュドネイ隊は長距離射撃で援護しつつも戦局に応じて適切な行動を取れ。中央マリノ隊、デッシュ隊は本隊と共に別命あるまで待機せよ」

スプレイン上級大将はバルバロッサ級戦艦ヴェスヴィオの艦橋から、麾下の分艦隊に命令を下す。

スプレインの作戦は、左翼が圧力を掛け、耐え切れず右翼方向に流れたところを狙い撃ちし、然る後に温存していた中央の戦力で勝利を決定付けるというものであった。

「敵左翼の攻撃激しく、防御で手一杯です」

「このまま正面からやり合うのは愚の骨頂だわ。攻撃を受け流しつつ艦隊を左にシフトして敵の右翼を叩きましょう」

「しかし、それは敵の策に乗せられているのでは?」

「勿論そんなことは分かっているわ。けど、それはあくまで押された結果の話。こちらから積極的に左へ流れた場合は別よ。こちらの右翼を完全に防御に回し、残りの全艦艇で敵右翼を攻撃することで裏をかけるわ」

スプレインの思惑を読み切ったラミンは、それを逆手に取ることで見事に裏をかくことに成功した。

「デュドネイ提督の艦隊に敵の攻撃が集中しています」

「やるな、こちらの策を逆手に取るとは……。マリノ隊を動かしてデュドネイ隊の援護に回らせろ。それと、ザーニアル、マリネッティ、デッシュの分艦隊を敵側面に張り付けて防御ラインを削り取っていけ」

スプレインは作戦を変更する。

ラミン艦隊は右翼の防御に多くの戦力を割いている関係上、増援を得たスプレイン艦隊の右翼に圧力を掛け切れずにいた。

「本隊が手薄だけど………」

「側面に敵分艦隊が取り付いています。このまま本隊に攻勢を掛ければ敵旗艦を撃ち取る前に我々が分断されかねません」

「でも、あまりモタモタしていても右翼の防御ラインが削り取られてこちらの負けよ」

「では……いったん退いて陣形を再編するしかありませんな。この状況では二進《にっち》も三進《さっち》も行きません」

「……そうね。このまま袋小路になるよりは多少の損害覚悟で退くしか無さそうね」

・・・・・

一方、ファウスト・ベルゼー中将率いるルフェール第四艦隊はファーレンハイト艦隊と死闘を繰り広げていた。

「撃て撃てー、このまま突撃して敵を突き崩すのだ!」

第四艦隊は、機動性を伴った突撃と戦闘艇による近接戦闘でファーレンハイト艦隊を翻弄する。

「うむ……これは厄介だな」

「ファーレンハイト提督、どうなさいますか?」

「なに、そう難しいことでもないさ。こちらもワルキューレを出し、敵戦闘艇を艦砲の射程内に誘い込むだけのことだ」

果たして、ファーレンハイトの思惑通り誘い込まれたルフェール軍戦闘艇は艦砲射撃によって尽く屠られていく。

「何をやっておるか! ……ええい、こうなれば直接引導を渡してくれる! 全軍突形陣を取れ、我が艦隊はこれより前方の敵に突撃を掛ける!」

「真っ向勝負か……よろしい、本壊である」

ファーレンハイト艦隊も突形陣を取り、両艦隊は正面から激突した。


* * *


16時27分。

「そろそろ頃合いだな。パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの3艦隊は天頂から、ルッツ、ワーレン艦隊は天底より最大戦速にて敵本陣へ突入せよ!」

天頂よりパナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの3個艦隊40000隻が、天底よりルッツ、ワーレンの2個艦隊30000隻が連合軍へ向け進軍を開始する。

「敵が動きました! 天頂方向より3個艦隊、天底方向より2個艦隊です」

「天頂からの敵にはルフェール第六、第九艦隊を、天底の敵にはユリアヌス艦隊を当てて対応して下さい」

アルファーニは即座に指示を出す。

「各艦隊には負担が大きくなりますが……」

両方の迎撃部隊は敵より1個艦隊少ない。
それを承知で尚、送り出さなければならないことにアルファーニは良心の呵責を感じているようであった。

「いや、こちらは数で劣っている。お前の判断は正しいよ。それにしても……これだけの戦力を簡単に投入してくるとはな。大国の物量ってのはいつ見ても嫌なもんだぜ」

バドエルの脳裏に、かつて戦ったロアキア軍との戦闘が思い出される。

かつてのストリオン星域会戦はロアキア軍15000隻に対してバドエル率いるウェスタディア、ラミアム連合軍は4000隻。
其れに比べて、今回は比率こそマシではあるが、以前とはスケールが違い過ぎた。

「25万もの軍勢の総司令官ってのは僥倖だが、敵が40万もいるんじゃ楽じゃないぜホント」

そう言っている間にも、新たな戦闘は開始される。

ルフェール第六、第九艦隊とユリアヌス艦隊は数で劣勢にありながら良く凌いでいた。

「まだ敵の戦力には余裕があります。おそらく近いうちにもう一度動きがあるでしょう」

アルファーニは確信に満ちた声で、そう断言した。

・・・・・

アルファーニの予想通り、アドルフは新たな策を実行に移そうとしていた。

「アイゼナッハ、シューマッハの両提督に連絡を。外側より迂回し、敵の後背もしくは側面を突け…と」

アイゼナッハ、シューマッハの両艦隊が動き出す。

アドルフの戦術は至極単純なもので、要するに数で圧倒することにある。
古来より、数を頼みにした力押しは最も有効な戦術であり、艦艇数で圧倒的優位な立場にある銀河帝国がその戦法を採らないハズがなかった。

とはいえ、その全てを一度に投入するなど出来ない。
そこでアドルフは戦力を逐次投入にならない範囲で小分けに投入し、多方面に戦線を構築させた。

いかなレオーネ・バドエル、アルベルト・アルファーニといえど、その処理能力には限界がある。
アドルフは複数の戦線を構築することで、彼らの処理能力オーバーを狙ったのである。

「両側面に敵出現。数…各15000」

連合軍の側面にアイゼナッハ、シューマッハの両艦隊が出現する。

「回り込まれましたか……」

「ドズール、ブレッサー艦隊を当てろ」

ドズール、ブレッサーの両艦隊は九王国連合の艦隊である。
正確には、ドズール艦隊がタシリム王国所属の艦隊。ブレッサー艦隊がドルドラム王国所属の艦隊であった。

「前面に両翼、天頂に天底、それに左右側面と戦線が広がり過ぎています。今は各艦隊の奮戦により何とかなっていますが、このままでは……」

「ああ、分かっている。前衛部隊に反撃を命じろ、ここは攻めの一手だ!」

連合軍前衛部隊はこれまでと一転して攻勢に出る。
この突然の変化に、ミッターマイヤー、パエッタは対応が遅れた。

「よし、左の艦隊へ集中砲火だ!」

パエッタ艦隊に砲火が集中し、その勢いに押され徐々に後退し始める。

「反撃しろ、敵を押し戻すのだ!」

パエッタ元帥はそう言って鼓舞したものの戦況は変わらず、パエッタ艦隊とミッターマイヤー艦隊との連携が一時的に途絶してしまう。

そして、それを見逃すバドエルではなかった。

「よし、一気に斬り込む。カルデン!」

「了解、俺の艦隊の快足を見せてやるぜ」

カルデン艦隊はその快速を活かし、一瞬の空隙を突いて一気にパエッタ、ミッターマイヤー両艦隊の間に突進。楔を撃ち込むことに成功した。

「よぉし、全艦突撃だー!」

カルデン艦隊の攻撃が激しさを増し、それを帝国軍は支えきれなくなった。

「しまった、食い破られる!」

ミッターマイヤーは焦りを顕わにするが、もうどうにもならない。

「今だ、最大戦速で突入しろ!」

カルデン艦隊は空いた穴へと入り込む。
遂に、ティオジア軍は銀河帝国前衛部隊の中央を突破することに成功したのである。

「針の穴を抜け目なく突いてくるか……だがそう簡単に俺の首はやらんよ。ガムストン艦隊に迎撃させろ」

アドルフは、ガムストン艦隊に開いた穴を塞ぐよう命じる。

「前方に敵艦隊、数15000」

「戦艦ナグルファルを確認。ガムストン艦隊です!」

「ロアキアの名将ガラハット・ガムストンか……流石にこれの突破は容易じゃないな。だが、無理やりにでも押し込ませてもらうさ!」

カルデンは艦隊の勢いそのままにガムストン艦隊へと突っ込む。
元々勢いがついていたこともあり、一時的にガムストン艦隊を後退させることに成功した。

「カルデン艦隊が敵を押し込んでいる内にルフェール第八艦隊を敵本陣に突入させましょう。この機を逃せば勝機は無いですよ!」

第八艦隊が間隙を突いて帝国軍本陣へと突入する。
が、その前にシュムーデ艦隊が立ちはだかった。

「敵の侵入を許すな! 皇帝陛下をお守りするのだ!」

このシュムーデ艦隊によって連合軍の攻撃は失敗に終わった…かに見えた。しかし……

「ん? あれは……」

総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセのスクリーンに映るのは通常の戦艦の3倍(約2000メートル)はあろうかという数十隻の巨大戦艦。
『空色の守護天使』とも呼称されるルフェールのスカイキープ級戦艦であった。

その巨体からなる砲撃力は凄まじく、一本のビームで射線上の艦2、3隻を同時に落としてしまう程である。

「あれが噂のスカイキープ級か。それにしても2000メートルの戦艦とは……まだ無駄にデカイものを作ったものだな。その分機動性は低そうだが」

「あの艦体ですから通常の戦艦よりも機動性・運動性に劣ることは確実でしょう。ですが、一撃で2、3隻の戦艦を纏めて屠る主砲の威力は厄介です」

「しかしこれはマズイぞ! 今の状況ではシュムーデの艦隊はあのデカブツと真正面からやり合うことになる。如何にシュムーデと言えども………」

案の定、シュムーデ艦隊の艦艇はスカイキープ級の主砲の前に次々と撃沈されていく。
それは旗艦であっても例外ではなかった。

「ニーズヘッグ撃沈……シュムーデ元帥戦死」

「シュムーデが……おのれ!!」

怒りに打ち震えるアドルフ。
シュムーデは彼が第三次ティアマト会戦以来の部下であり、信頼する腹心でもあったのだ。

「目には目を歯には歯を……だな」

「はっ?」

「全艦前進! アースグリム級の艦首大型砲であの忌々しいうすらデカいだけの艦を始末してしまえ!」

怒りに燃えたアドルフは麾下の艦隊を前進させる。
そして、アドルフの直属隊に所属するアースグリム級戦艦群の艦首より、スカイキープ級の主砲を上回る威力を持つ砲撃が放たれた。

複数の光が走り、一瞬で数百隻の艦艇が薙ぎ払われる。
その中には、盾艦に守られていた筈である第八艦隊旗艦ヘイオームの姿もあった。
要塞砲に匹敵するこの大口径砲の前に、どんな盾艦も無力であったのだ。

「第二射用意」

アースグリム級は改装により、その艦首大型砲を2発まで確実に放てるようになっていたのである。

「撃て!」

止めと言うべきだった。
大口径砲複数の二斉射を受け、指揮官を失った第八艦隊は混乱の極みに陥り、烏合の衆と成り果てた。
さらに、アッテンボロー艦隊が第八艦隊側面より砲撃を開始したことで決定的となった。

慌ててバドエル、ジュラール、グルーデの3個艦隊が前線を突破して救援に駆けつけたものの、その時には第八艦隊の残存艦艇は5000隻を切っていた。

「第八艦隊が……」

「だが、敵本隊が前に出てきている今が好機だ。ジェントルーデ隊を先頭にして敵本陣に雪崩れ込め!」

真紅に染め上げられた1500隻の艦艇がバドエル艦隊の先頭へと出て来る。

「出番よ! 全艦突撃! 侵略者共にジェントルーデ隊の実力を見せつけてあげちゃいなさい!」

ジェントルーデ隊を指揮するロゼリエッタ・ルオ・ジェントルーデ中将はそう言い放ち、突撃を開始させた。

ジェントルーデ隊はティオジア軍最高の攻撃力を誇る部隊である。
しかしながら、ジェントルーデ隊が如何に精強であってもその数はたかだか1500隻。
出来ることは帝国軍本隊の面先を凹ませる程度であった。

が、バドエルにはそれで十分だった。

「よし、戦闘艇を発進させて混戦に持ち込め! マイラーノ、ロレダン隊はジェントルーデ隊を援護しろ!」

元より、バドエルの狙いは混戦に持ち込むことであり、それを可能な状況を作り出すのが目的であった。

「敵戦闘艇が発進してきます!」

「ほう、混戦に持ち込む気か。ならば、こちらも戦闘艇を投入して敵戦闘艇を駆逐せよ。丁度新型戦闘艇ヴァルキリーの実戦での性能評価にもってこいだ」

アドルフの直属隊の空母よりヴァルキリーが次々と発進する。

ワルキューレに対して3:1のキルレシオを誇るヴァルキリーは、ティオジア軍の戦闘艇に対しても圧倒的な性能を見せつけた。

「な、なんだこいつは!!」

ヴァルキリーは戦場を無人の如く駆け回り、敵戦闘艇をバタバタと撃墜していく。

このヴァルキリーの活躍が、後にルフェールでヴァルキリーショックを引き起こすのは余談であった。
だが、いかんせん数が少なく、遂には突破を許してしまう。

「敵戦闘艇の小部隊がこちらへ向かってきます」

「構わん、『回想シーン強制流し装置』を作動させろ」

「はっ、『回想シーン強制流し装置』作動」

『回想シーン強制流し装置』によってモニターを全て切り換えられたティオジア軍戦闘艇は唯の的と成り果て、次々と撃墜されていく。

「ふはははははははは、妨害電波によって敵艦隊には通用しないが、これだけ接近されれば『回想シーン強制流し装置』から逃れることなど不可能なのだよ……て言うか、砲戦で圧倒的防御力を発揮するパーツィバル級戦艦と戦闘艇による近接攻撃を無力化する『回想シーン強制流し装置』のコンボってチート過ぎね?」

『回想シーン強制流し装置』の活躍が嬉しかったのか、アドルフの顔は綻んでいる。

「しかしこれで、敵の近接攻撃を事実上封じることに成功しましたな」

「ああ、これだけの戦力差だ。奴らが勝つには俺を撃ち取る他無いが、その方法の一つが潰えたわけだ。さて、敵はどうするかな?」


その頃、バドエルとアルファーニは戦闘艇部隊壊滅の報を聞いていた。

「戦闘艇部隊が壊滅だと!?」

「敵は新型戦闘艇を投入してきたようです。それと、謎の怪電波によってこちらの戦闘艇が行動不能にされたようですね」

「厄介なものを作りやがるぜ!」

「ですが、その怪電波はこちらが敵旗艦に接近した時しか発動しませんでした。もしかしたら、射程か何かに制限があるのかもしれません」

「だが、何にしろ今詳しく調べている暇はねぇな。当面は戦闘艇を敵旗艦に近寄らせねぇようにして対処するしかないか」

「はい、それが妥当かと。それで、どうしますか? 戦闘艇を使った作戦は失敗に終わりましたが……」

「いや、突撃はこのまま続行だ。ここでなんとしても敵旗艦を討ち取る」

戦闘艇は大打撃を受けたとはいえ、バドエル艦隊が帝国軍の本隊に食い込んでいる事実に変わりはない。
バドエルとしては、このチャンスを最大限に活かしたかった。

「相変わらず狙いは俺か……本隊を後方へ下げろ。それでも追ってくるようなら縦深陣に引きずり込んで袋叩きにするまでだ」

帝国軍本隊が後退していくのはバルトクロスの艦橋でも確認された。

「敵本隊、後退します!」

「ちっ、皇帝には届かないか」

「そうですね。このまま進めば敵陣のド真ん中に飛び込んでしまい、四方から砲撃を受けるだけです」

「かといって、手を拱いていれば兵力差でこちらが圧殺されるって訳か……八方塞がりとはこの事だな」

「………ここは発想を変えてみましょう。確かにこちらは殲滅の危機ですが、敵の前衛部隊を挟撃する好機であるとも考えられます」

「なるほどな。お前は流石だよアルファーニ」

バドエルはアルファーニの献策を入れ、艦隊を回頭させる。

「む…いかん、直ちにミッターマイヤー、パエッタ艦隊を下がらせろ!」

この行動に帝国軍の各司令官は頭を捻ったが、唯一人ロイエンタールだけはティオジア軍の狙いに気づいた。

「もう遅い。全艦主砲斉射!」

ティオジア軍4個艦隊による砲撃がミッターマイヤー、パエッタ艦隊の背後から放たれる。
前方の艦隊を相手取っている両艦隊に成す術は無い。

「前進!ミッターマイヤーを救い出せ!」

「両提督を敵に討たせるな!」

窮地に陥った両艦隊を救出すべく、ロイエンタール、ガムストン、ミュラー、フィッシャー、アッテンボロー、クナップシュタインの6個艦隊が殺到する。

が、動いたのは帝国軍ばかりではなかった。

「今が好機だ、敵前衛部隊を殲滅しろ!」

ガストー、コムーシュ、モルゲン艦隊に加え、ルフェール第十、第十一、第十二艦隊が好機とばかりに突撃を開始した。

双方合わせて18個艦隊が入り乱れ、戦場は大混乱となる。


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月15日 22時51分。
ミンディア星域の戦いは、予期せぬ乱戦の中にあった。
 

 

第25話 ミンディア星域会戦 後編


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月15日 23時09分。
ミンディア星域の戦いは乱戦状態となっていた。

「戦線は期せずして乱戦状態になってしまいました。ここはミッターマイヤー、パエッタ両艦隊の救出後いったん退いて陣形を再編するのがよろしいかと」

参謀長のチュン・ウー・チェン上級大将がアドルフに進言する。

「……そうだな。それにしてもルフェールの馬鹿共め、奴らが無秩序に突撃してこなければ収拾は容易かったものを。これだから戦場を知らない奴は……」

アドルフは顔を顰めながらルフェール軍を罵る。

ここまで混乱が広がった背景として、大本の原因はルフェール軍3個艦隊の突撃にある。
銀河帝国軍の殺到も、ティオジア軍前衛部隊の突撃も、多少の混乱を齎《もたら》しはしたものの、ある程度の秩序はあった。
だが、ルフェール軍の3個艦隊が無暗に突撃したことで秩序は失われる。
残ったのは、18個艦隊が入り乱れるという混乱した戦場のみであった。

味方艦の砲撃が味方艦を沈め、僚艦同士が接触、退く事も横に逸れることも出来ずに前方の敵艦にぶつかる……そんな風景が到る所で見られた。

そんな中、ミッターマイヤー艦隊とパエッタ艦隊が敵中からの脱出に成功したとの報がフリードリヒ・デア・グロッセに届けられた。

「ミッターマイヤー、パエッタ両艦隊が脱出に成功しました!」

「よし、全軍に後退命令を出せ。多少の損害は構わん」

両艦隊の脱出を確認したアドルフは即座に全艦隊を後退させ、戦線の収拾を図った。

・・・・・

旗艦フリードリヒ・デア・グロッセから発せられた後退命令は、ファーレンハイト艦隊旗艦アースグリムでも確認された。

「ファーレンハイト提督、本営より後退命令です」

「そうか、味方は後退するか」

「はっ、中央の艦隊はもちろん、既にアイゼナッハ、スプレイン、シューマッハ3艦隊とも後退に移っています」

「ふむ……ならば我らも退かねばなるまい。だが、差し当たって目の前の艦隊が邪魔だな。容易に見逃してくれるとは思えん」

「ですが、このまま戦闘を続ければ我が艦隊は敵中に孤立することになります」

「分かっているさ、だからここで敵旗艦を討つ。艦首大型ビーム砲発射用意」

「艦首大型ビーム砲発射用意。照準、敵戦艦」

「撃て!」

アースグリムの艦首から放たれた大口径ビームがルフェール第四艦隊旗艦アブソートを僚艦ごと撃沈する。
ルフェール一の猛将と謳われたベルゼー中将は、一瞬にして宇宙の塵となった。

「敵が崩れました!」

「よし、続けて主砲斉射三連」

「主砲、斉射三連」

旗艦を失った第四艦隊は指揮系統が混乱し、続けて行われた攻撃に対処できずに統制を完全に失った。

「好機だな、後退するぞ」

ファーレンハイト艦隊は後退において損害らしい損害を受けぬどころか、敵に大打撃を与えてのけた。


こうして、ミンディア星域会戦の第一ラウンドは終了する。

ここまでの損失艦艇は、

帝国軍31852隻
連合軍42770隻

と、両軍合わせて75000隻もの艦艇が失われていた。


* * *


7月16日。
再編成を済ませた帝国軍は再度の攻撃に取り掛かろうとしていた。

「さて、次の先鋒だが……」

「敵は疲弊しています。これまで戦闘に参加していなかったフレッシュな戦力を投入することで敵の疲労を蓄積しつつ、一気に流れを引き寄せましょう」

「なるほど、では後衛に配置していたガーシュイン等5個艦隊を投入するとしよう」


6時15分。
ミンディア星域会戦の第二ラウンドが開始された。

帝国軍の先鋒はガーシュイン、ベルゲングリューン、ビューロー、アルトリンゲン、ブラウンヒッチの5個艦隊。

彼らは先日の戦いには加わらず、後方で待機状態であった。
そのため、ようやく戦場に立てる彼らの士気は高い。

対する連合軍はルフェール第二艦隊を除いたすべての艦隊が先日の戦いに参加しており、内2個艦隊が司令官戦死の上損傷率50%を超えるという有り様である。

「もう少し休ませてくれても良いものを……帝国軍の奴らも気が早ぇな」

バドエルは愚痴を溢しつつも迎撃を命じる。

銀河帝国軍の先鋒約65000隻に対し、迎撃部隊は約70000隻。
これは現時点における連合軍の3割超に相当する数である。

疲れが無く士気も高い帝国軍の12時間に及ぶ猛攻に連合軍は良く耐えた。
特にマイト・アルベイン中将率いるルフェール第二艦隊の活躍は目覚ましく、この第二艦隊と防戦に秀でたユリアヌス艦隊の奮戦が無ければ援軍を投入せざるを得なかっただろう程に、帝国軍の攻撃は苛烈だった。

やがて、帝国軍の第一陣が下がり始めると、各艦隊の間より第二陣であるガムストン、パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの4個艦隊が現れる。
それに伴い、連合軍も第一陣の迎撃部隊を下げ、ティオジア軍2個艦隊、ルフェール軍4個艦隊からなる新たな迎撃部隊を投入した。

「敵艦隊、有効射程に入ります」

「よし、砲撃開始!」

戦艦ナグルファルの艦橋で、この第二陣の指揮官であるガムストン元帥は砲撃命令を発した。

ガムストン艦隊の旗艦である戦艦ナグルファルは、新鋭の旗艦級大型戦艦トライデント級の2番艦であり、三又の特徴的な艦形は旧自由惑星同盟軍の戦艦トリグラフを彷彿させる。
これは、このトライデント級戦艦がトリグラフの設計思想や技術を取り込んだ艦である為で、その砲撃力は銀河帝国軍の艦艇で随一を誇る。

「ルフェール軍を集中して狙え」

ガムストンは連合軍の中で、ルフェール軍の艦隊を狙い撃ちにするよう指示を出す。

「奴等は戦闘経験に乏しい。一度崩してしまえばこちらのものだ」

ルフェール軍は基本的に自分達より強者との戦闘経験が無い。
これは、劣勢時において指揮系統の統一や行動の秩序が失われ易いことを意味しており、ルフェールでも精鋭と呼ばれる第一、第二、第四、第八の4個艦隊や戦闘経験のある第三、第七艦隊はともかく(第五艦隊は全滅している為除く)、それ以外の艦隊が劣勢な戦況においてどれだけ働けるかは疑問符が付く。

ガムストンは正にその点を突いたのだが、その判断は適中した。

先ず、まだ新設されてまもない第十一、第十二艦隊が崩れ、その両隣りにいた第六、第九艦隊も連鎖的に崩れる。
ティオジア軍のジュラール艦隊とモルゲン艦隊は懸命に防いでいるものの、決壊した流れを止めることはできなかった。

「そんな、ルフェール艦隊が脆過ぎる!」

「経験の無さが出たな……不味いぜこりゃ」

バルトクロスのスクリーンには、崩壊していく第二迎撃部隊の姿が映されている。

「第二迎撃部隊、突破されました!」

遂に、第二迎撃部隊はその任をまっとう出来ずに突破を許してしまった。

「仕方ねぇ、第三迎撃部隊を繰り上げて投入する。異論はねぇな?」

異論など、誰にも有る筈がなかった。


* * *


17日 0時20分。
連合軍はようやく帝国軍の第二陣を撃退する事に成功した。

だが、一息着く暇も無く第三陣が現れる。

第三陣は、ロイエンタール、ミッターマイヤー、パエッタ、ルッツ、ワーレンの5個艦隊であり、一昨日の戦闘で損害が大きかったミッターマイヤー艦隊とパエッタ艦隊は旧シュムーデ艦隊から艦艇を補充している。

連合軍は、ロイエンタール、ミッターマイヤーという帝国軍の双璧を相手に7時間に渡って持ち堪えた。

第三陣の攻撃が止み、第四陣であるファーレンハイト、アイゼナッハ、シューマッハ、スプレインの4個艦隊が現れた時は既に将兵の疲れはピークに達していたが、それでも連合軍は第四陣まで撃退してのけた。

そして、次の第五陣はアドルフの直属隊にシュタインメッツ、レンネンカンプ、ミュラー、クナップシュタイン、アッテンボロー、マリナの6艦隊。
だが、これは連合軍にとってはある意味最大の好機である。

「敵の総旗艦に攻撃を集中しろ! 皇帝さえ討ち取れば勝利はこちらのものだ!」

バドエルはそう叱咤し、只管にアドルフの本隊を狙う。
ただ残念なことに、この連戦での疲労からバドエル艦隊に追従できた艦隊は少なく、当のバドエル艦隊も脱落艦を何隻も出した程であった。

それでも、バドエルはジェントルーデ隊を先頭にした3次に渡る突撃で、立ち塞がったシュタインメッツ元帥の近衛艦隊を突破する事に成功した。
が、その前方に現れた艦隊に目を見張る。

それは異様な艦隊であった。

旗艦である超巡航艦バーキアを筆頭に、戦艦ベルリン、オストマルク、空母サニー・シーを主力艦とした800隻程で構成されているこの艦隊は、その全艦が痛艦である。

彼らは、

「嫁がいれば怖いものなど無い!」

「ヒャッハー、汚物は消毒だー!」

「○○○たんハァハァ…」

などと基本的に士気《テンション》が高く、1艦でも撃沈どころか損傷させたなら

「良くも俺の嫁をー!」

「○○○たんの仇は俺が撃つ!」

と、さらに士気が上がってしまうので余計に性質《たち》が悪い。

この艦隊を指揮するのは秘密結社『銀河団』の幹部にして厨二病患者、銀河帝国一の邪気眼使いロメロ・フォン・バルタン少将。
当然ながら、彼も転生者である。

「グハハハハ、俺の右手が疼くぜぇ!」

………何処から見ても唯の厨二病患者だが、その実力は『未来の宇宙艦隊司令長官』と称される程である(ちなみに、彼の夢は宇宙艦隊の全艦艇を痛艦にすることであり、『もしあいつが宇宙艦隊司令長官になったら大変なことになる』と反対派も多い)。

「敵は俺の異能で弱っている、このまま一気に押し返せ!」

バルタンの手腕と艦隊の士気の高さが相まって、800対3000という戦力差ながら疲弊の極みにあるバドエル艦隊を押し戻した。

更に、

「なっ、 これは……そんな!?」

「どうした?」

「て、敵が我が軍を半包囲しようとしています!!」

「なんだと!?」

後方に下がった筈の第一~第四陣の艦隊がいつの間にか連合軍を半包囲するように展開していた。
各艦隊はいったん後ろに下がった後、横にスライドして徐々に包囲陣を構築していたのである。

皇帝を討ち取ることに躍起になっていた連合軍はこれに気づけなかった。

「やられました。まさか皇帝の本隊が囮とは……」

「だが、敵の中央部が薄い。このまま中央突破を掛けるか?」

「他の艦隊が混乱しています。下手に中央突破に出てもタイミングがバラバラになり各個撃破されかねません。それに、敵はまだ予備兵力2個艦隊を温存しているので今の状態では突破は叶わないかと」

「くっ……」


連合軍のピンチは、逆に帝国軍のチャンスである。

「よし、敵の両翼を砕く。グエン・バン・ヒュー、ハルバーシュタット艦隊に出撃命令を。最大戦速で突進し敵の両翼を喰らい千切れ…とな」

「はっ、直ちに」

今が好機と見たアドルフは温存しておいたグエン・バン・ヒュー、ハルバーシュタットの両艦隊に突撃命令を下す。

「おう、やっと出番か。行くぞ、 全艦突撃だー!」

グエン・バン・ヒュー、ハルバーシュタットの両艦隊は、それぞれ連合軍の右翼と左翼へ喰らいつき、喰い千切る。

「敵の予備兵力により、両翼が崩壊寸前です!」

バルトクロスの艦橋にオペレーターの悲鳴が響き渡る。
それを聞いたアルファーニは、静かに告げる。

「……ここまでですね。これより作戦は第二段階《フェイズ・ツー》に移行します」

「ある意味予定通り…ってことか」

「こうなって欲しくは無かったですけどね」

アルファーニは何処か自嘲気に返答した。
そして、全軍に向け命令を出す。

「このまま全軍を恒星ミンディアまで後退。周辺にある小惑星帯に入り込み、籠城戦を行います」

戦闘可能艦艇が戦前の半数を割った連合軍は恒星ミンディアへ向け後退を開始した。

「敵は壊走したぞ!」

「逃がすな、追えー!」

帝国軍の各艦隊はここぞとばかりに追撃を仕掛け、放たれたビームとミサイルは連合軍の艦艇を次々と捉えていく。
だが、連合軍は多くの損害を出しながらも小惑星帯に辿り着き籠城戦を展開した。

「籠城戦だと? だがこの状況での籠城に何の意味がある。何をしようというのだ?」

「……何だ? 敵の狙いは」

「ふむ、何かある。だが、それが何なのか……」

連合軍の行動に不自然さ…違和感を感じた人物は何人かいた。
だが結局、アルファーニの狙いに気付いた者は誰もいなかった。

「全艦、小惑星帯に潜り込みました」

「帝国軍、小惑星帯の前で布陣しつつあり」

「よし、かかった! 第三段階《フェイズ・スリー》に入ります。作戦発動後、カイゼルダウン砲が放たれます。各艦隊はその後敵軍へ向け突撃、敵旗艦を討ち取って下さい」

アルファーニの命により、各艦隊は再度戦闘準備を整える。

「カウント開始、スリー」

「ツー」

「ワン」

「ゼロ!」

ロケットブースターを取り付けられた大小数百個の小惑星が帝国軍へ向け突っ込んでいく。

「隕石群接近!」

「緊急回避―!」

帝国軍の各艦隊は成す術もなく隕石群に呑まれ、無事な艦も大混乱に陥った。

「今です!」

「今だ、カイゼルダウン砲…発射!」

光が、帝国軍を貫いた。

「何だ、今のは!?」

「ゲルマン砲?」

「いや、違う。だが……」

「ワイゲルト砲…か? 何故この世界に!?」


唖然とする帝国軍将兵。
だが、連合軍は彼らに考える暇を与えなかった。

「敵軍、突っ込んで来ます」

「くっ、迎撃だ!」

混乱の渦中にあるアドルフの本隊へ連合軍は怒涛の勢いで攻めかかる。
未だ混乱から立ち直れない各艦隊は援護出来る状態に無い。

「いかん、このままでは……」

アドルフは何度目かの死を覚悟した。

……救いは、思わぬ方向から差し伸べられた。

「まったく……手間を掛けさせるわね」

位置的に被害を免れたマリナ艦隊は迫り来る連合軍の側面を砲撃し、分断する。

「おお、マリナか。助かったぞ!」

妹であるマリナ・フォン・ハプスブルク上級大将の機転により、アドルフは九死に一生を得た。

そんな中、1隻の艦艇がフリードリヒ・デア・グロッセに高速で接近してくる。

「敵強襲揚陸艦、接近!」

「『回想シーン強制流し装置』間に合いません!」

「くそっ、狙いは俺か!」

「おそらくは」

「我が軍に大損害を与えた小惑星群も先程のワイゲルト砲…いやゲルマン砲モドキも全てこのための布石とは……」

「敵強襲揚陸艦に接弦されました!」

遂に連合軍は総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセへの侵入を果たす。だが、

「リューネブルク、シェーンコップに連絡だ。敵を殲滅せよ…と」

小心者のアドルフはこんなこともあろうかと、装甲擲弾兵のNo1、2を自艦に搭乗させていた。
侵入した部隊は、控えていた装甲擲弾兵によって一人残らず殲滅される。

「危ないところでしたな」

「俺自身の憶病さに救われたな……、戦況はどうなっているか?」

「依然として我が方が不利です。ですが……」

「我が軍は立ち直りつつあり、後は時間が解決する……という訳だな」

「はっ、敵は形振《なりふ》り構わぬ攻勢により限界点に達しつつあります。新たな奇計奇策が無い限り、我が軍の勝利は時間の問題です」

「そうか、ならば良し。このまま攻撃を続行せよ」

アドルフの攻撃続行命令により、銀河帝国軍は態勢を立て直しつつも1隻、また1隻と敵艦を葬っていった。


* * *


「ルフェール軍、九王国連合軍、撤退していきます」

「そうか……」

「僕達は武器弾薬もエネルギーも尽き、最早抵抗のしようもありません」

「女王陛下はどうなる?」

「……分かりません。ですが、今の僕達にはどうする力もありません………」

「そうか……」

「バドエルさん、降伏の決断を」

「……分かった。全艦機関停止、全軍……降伏せよ!」


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月19日 3時19分。
双方に10万隻以上の損失艦を出した史上最大の会戦は、ティオジア軍の降伏により幕を閉じた。
 

 

第26話 グリニア星域会戦


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月26日――

ルフェール軍の残存部隊は、ルフェール本国と辺境との国境付近にあるグリニア星域まで辿り着いていた。

当初10万を数えていたルフェール軍はミンディア星域における会戦と、その後の撤退戦において帝国軍の追撃に次ぐ追撃によりその数を16000隻にまで減らしていた。
また、司令官が健在なのは第二艦隊のみという有り様であり、残存部隊の指揮は第二艦隊司令官であるマイト・アルベイン中将が執っていた。

「あと少し、あと少しで味方の勢力圏に入る。そうすれば敵も流石に追ってはこれまい」

アルベイン中将は、そう自分を叱咤することで挫けそうになる心を抑えつける。
ここ数日に渡る撤退戦は確実に彼の心を蝕んでいた。

撤退開始時は32000隻であったルフェール軍残存部隊は、この7日間で半数の16000隻を失っており、更には辛うじて航行可能というレベルの損傷艦は2000隻を数える。
いっそのこと損傷艦を放棄すれば良いのかもしれないが、その時間さえ惜しい。
それ程に、帝国軍の追撃は熾烈であった。

しかし、その苦労もあと少しで終わる――多くの将兵はそう感じていたが、アルベインは気を抜けなかった。
最期にもう一度、帝国軍の襲撃があることが予想できたからである。

ここグリニア星系は恒星グリニアと六つの惑星によって構成されており、別段特別な資源が有るわけでもないため何処の国にも所属していない無人の星系として放置されてきた。

無論、そういった情報は銀河帝国も征服したロアキア経由で掴んでいる筈であり、ここを過ぎればルフェール領に入る事も理解しているだろう。

だからこそ、銀河帝国軍はここで仕掛けて来る。
アルベインは確信していた。

そして、彼の考えは見事に的中する。

「こ、後方に熱源反応! これは……帝国軍です!」

「敵旗艦確認、グラン・ティーゲル……グエン・バン・ヒュー艦隊です!」

現れたのはグエン・バン・ヒュー艦隊12000隻。

「やはり来たか、全艦応戦用意。数ではこちらが上だ、一気呵成に蹴散らして本国へと帰投するぞ!」

アルベインはそう言って叱咤激励したが、本国間近ということで気が緩んでいた将兵の士気は簡単には上がらなかった。

一方、帝国軍のグエン・バン・ヒュー上級大将は旗艦であるグラン・ティーゲルの艦橋で咆えていた。

「シャハハハハハハハ、ようやく追いついたか。行くぞ、敵を殲滅しろ!」

数だけで見ればグエン・バン・ヒュー艦隊の方が劣勢であったが、ルフェール軍は疲弊の極みにあり、各艦隊の残存戦力の寄せ集めでもあるため指揮系統に乱れがある。
つまるところ、後ろから追撃してきている味方が来るまでの間なら互角に戦える程度の戦力差でしかない。
故に、グエン・バン・ヒューはルフェール軍を脅威とは見ていなかった。

攻撃重視で編成されたグエン・バン・ヒュー艦隊がルフェール軍に牙を剥く。

26日 19時11分。
グリニア星域の会戦が開始された。


* * *


――20時15分――

「ラウード隊、突破されました!」

「エーヴィン提督の艦隊が200隻にまで撃ち減らされています」

第二艦隊旗艦トイホーレの艦橋には悲痛な報告が引っ切り無しに入ってくる。
そのどれもがルフェール軍の劣勢を示していた。

「キュネイ隊をラウード隊の援軍に向かわせろ。エーヴィン隊は後退、オズン隊は前進してエーヴィン隊の穴を防げ」

アルベインは指示を矢継ぎ早に出すが、悪化する戦況には追いつかない。
これが全てアルベイン直属の艦隊であればこうはならなったのだが、混成部隊のため指示がスムーズに伝わらないのだ。

「このままでは埒が開かん、戦線を押し上げる。ヨルキン、ドーザン隊を横に展開させて敵の頭を抑えさせよ」

「しかし、それでは予備兵力が底を突いてしまいますぞ!」

「今の我々に出し惜しみをしている余裕があると思うか? 敵は目の前の艦隊だけではないのだぞ」

アルベインはそう言って、参謀の反対を却下する。
グエン・バン・ヒュー艦隊の撃退に手間取れば敵の増援が到着してしまうのは自明の理であり、無視して撤退しようにもグエン・バン・ヒュー艦隊の攻撃は激し過ぎた。

「それにしても、味方が脆過ぎる。如何に寄せ集めとはいえ、このままでは………」

・・・・・

――22時06分――

グエン・バン・ヒュー艦隊はルフェール軍前衛部隊の切り崩しに成功していた。

「敵の前衛の分断に成功しました!」

「なかなか手間取ったな、敵の指揮官は余程優秀と見える。だが、こいつで終わりだ!」

既にルフェール軍はグエン・バン・ヒュー艦隊の突撃に耐えるだけの余力は無い。
前衛を崩せばそのまま連鎖的に全軍が崩れるのがオチだ。

グエン・バン・ヒューは麾下の艦隊に敵中央への突撃を命じる。

が、その時――

「て、敵の新手です!」

「何だと!」

それは、本国より救援に駆けつけてきたロング・ニトラス中将率いるルフェール第一艦隊15000隻であった。

優劣は一気に逆転する。

今まで狩る立場であったグエン・バン・ヒュー艦隊は、一転して狩られる立場となった。

「ハハハ、こいつは参った。やられたぞ!」

グエン・バン・ヒュー艦隊は攻勢に秀でている反面、守勢に弱いという欠点を持つ。
これは旧ビッテンフェルト艦隊やファーレンハイト艦隊、ハルバーシュタット艦隊など攻勢特化型の艦隊に共通する特徴であるが、中でもグエン・バン・ヒュー艦隊は特に顕著であった。

数の暴力の前に先程の勢いは何処へやら、艦艇は次々に討ち取られ壊滅へと急落していく。

ハルバーシュタット艦隊が戦場に現れたのはそんな時であった。

「前方で戦闘が行われている模様です」

「交戦中か……ん、苦戦しているだと?」

見れば、グエン・バン・ヒュー艦隊は防戦一方だ。

「(元々攻勢において強力な攻撃力を発揮するあの男が一方的に押されているのか……。何が起きているというのだ?)」

その疑問に答えたのは、オペレーターからの報告であった。

「敵、25000隻を超えます!」

「何ぃ!? 馬鹿な、数が合わんではないか!!」

ハルバーシュタットは驚愕した。

「司令官閣下、どうなさいますか?」

「どうもこうも、ここは行くしかなかろう。味方を見捨てるわけにはいかん」

てっきりルフェール軍の残存艦艇15000隻程を予想していた彼らにとって、第一艦隊によるこの早期の救援は完全に想定の範囲外である。
故に、対処といっても場当たり的なことしかできない。

戦艦シュトルム・ティーゲルを旗艦とするハルバーシュタット艦隊は有効射程に入るや否や砲撃を開始し、グエン・バン・ヒュー艦隊を援護する。

「無事か?」

『おお、卿か。助かったぞ』

「ずいぶん苦戦していたようだな」

『ああ、ここで敵の援軍が現れるとは想定外だった。あのままだと流石にヤバかったな』

「生憎だが、まだピンチは去ってないぞ。こちらは約20000隻。一方の敵は25000隻以上だ」

『俺たちの艦隊の攻撃力を以ってすれば5000隻程度の戦力差、十分に覆せると思うが。ましてや敵は弱卒のルフェール軍だ』

「敵の片方は疲弊していないフレッシュな戦力、油断は禁物だぞ。だが、ここで一戦交えぬという選択肢も無いな」

『おう、まだまだ戦いはこれからだということを敵に教えてやるぜ!』

グエン・バン・ヒュー、ハルバーシュタット艦隊はその攻撃力に任せて攻め立てる。

だが、ニトラスとアルベインは良く連携して帝国軍の猛攻を防ぎ、それどころか抽出した戦力の一部を側面に回して逆攻勢をかける程であった。

「む、いかん! 急いで側面の防御を固めろ!」

ハルバーシュタットは即座に防御を固めたが、その分正面戦力が手薄になり攻撃力が低下してしまう。

それを見逃すニトラスとアルベインではない。
ハルバーシュタット艦隊に砲火を集中し一時的に後退させ、その後結果的に突出した形となってしまったグエン・バン・ヒュー艦隊に砲撃を浴びせる。
これにより、帝国軍の行き足は完全に止まってしまい守勢に転じざるを得なくなった。

「むう、敵もやりおる。側面の1隊、僅かあれだけで戦況をこうも変化させるとは………」

「16時方向より熱源多数」

「敵の新手か!」

「いえ、味方…味方です! 戦艦ヘルゴラント確認。ファーレンハイト艦隊所属、ホフマイスター上級大将の部隊です」

現れたのは、ファーレンハイト艦隊の副司令官であるホフマイスター上級大将の分艦隊2100隻。

このホフマイスター隊の参戦は兵力においてこそ過少であったものの、戦局全体においては小さく無い効果を発揮した。
一目で状況を把握したホフマイスター上級大将が、ハルバーシュタット艦隊の側面に張り付いている部隊へ攻撃を開始した為である。

「戦艦アムドレイシン撃沈、オズン提督戦死」

「敵の増援か……だが、それにしては数が少ない。おそらくは先行部隊だろうが、あまり良くない展開だな」

ルフェール第二艦隊司令官マイト・アルベイン中将は、スクリーンに映るホフマイスター隊に顔を顰める。
増援があの部隊だけならやりようは有るが、時間を掛ければ後続が次々と参戦してくるだろう。
それは望ましくない。

「どうされますか?」

「………退き時だな。第一艦隊のニトラス中将へ連絡を取れ、『これ以上の戦闘継続は不要、攻勢に出て敵を押し戻した隙に撤退する』とな」

「はっ、直ちに!」

このアルベインの進言をニトラスは入れ、ルフェール軍は攻勢の後、タイミングを見計らって撤退した。

「敵が退いていきます。追撃はどうなさいますか?」

「その前に艦隊の再編が先決だ。それとファーレンハイト艦隊との合流も必要だろう」

ファーレンハイト艦隊の本隊7500隻が到着したのは、それから1時間後のことであった。

『…………であるからして、追撃の是非についてファーレンハイト元帥の判断を仰ぎたく存じます』

「ふむ……これ以上踏み込めばルフェールの領土内に入ることになる。そうなれば敵の援軍も1個艦隊では済むまい。今回はここまでにしておこう」

そのファーレンハイトの一言で、帝国軍は追撃の断念を決めることとなった。


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月27日 3時51分。
ミンディア星域会戦より長時間に渡って続いた戦闘は、この時を以って終結した。
 

 

第27話 嵐の後は


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月27日 13時05分――

「酷い戦いだった……」

ウェスタディア王国首都星ウェリンの衛星軌道上に鎮座する総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦橋で、アドルフはそう呟いた。

ミンディア星域会戦の後、銀河帝国軍は撤退したルフェール、九王国連合への追撃部隊を送り込む傍ら、宇宙艦隊司令長官ロイエンタール元帥を総司令官とした50000隻の艦隊をティオジア連星共同体の本部があるティオジア星系に送り込み、残りをアドルフ自らが率いてウェスタディア王国の首都星ウェリンを直撃した。

10万隻を超える艦艇に囲まれ、最早成す術の無いウェスタディア政府は何の抵抗もせずに降伏。
無血開城を行い、女王ルシリアも他国へ亡命せずウェスタディアに残ることを選択した。

少々呆気無い気もするが、抵抗らしい抵抗が無いのは寧ろ喜ばしいことであった。

とはいえ、先のミンディア星域会戦で銀河帝国軍は10万隻に及ぶ艦艇の損失を出している。
ティオジアを下し、ルフェールに大打撃を与えた代価とはいえ帝国にとって大きな打撃であるのは間違いなく、再建の苦労を思うと溜息が出るばかりであった。

「この戦いで失ったものは多かったですが、得られたものも多い。そう納得するしかありませんな」

メックリンガーがそう言って慰めるが、それでもやはり納得できないのが人の心というものである。

「ルフェールはこれまでになく弱体化しておりますが……如何なさいますか?」

気分の転換も兼ねてであろう、チェン上級大将が別の話題を振ってきた。

「どうもこうも、ティオジアの領土運営と失った部隊の再建を考えれば今後10年は動けんよ。これ以上戦線を増やすのは自殺行為でしかない」

ここ10数年で銀河帝国の領土はかつてとは比較にならないほど拡大している。

だが、あまりに早過ぎた。
急速に拡大する領土に統治が追い付かないのだ。

現状ではロアキアすら持てあましており、それにティオジアの各国が加わるのである。
とてもではないが戦争などやっていられない。

考えれば考えるほど鬱になる思考をアドルフは止めることにした。

「そういえば、ロートリンゲン級の戦果は上々だったようだな」

ロートリンゲン級打撃戦艦は、帝国が新たに建造した新タイプの戦艦である。
艦首に備えられた2門の大口径拡散ビーム砲はその圧倒的な本数のビームによって巡航艦以下の軽艦艇を容易く沈め、範囲も広いため多くの艦を一度に葬ることが可能であった。
また、戦艦の場合は装甲こそ容易に貫かれないものの、それ以外の露出している通信アンテナ等は破壊される。
つまるところ、ロートリンゲン級の大口径拡散ビーム砲を受けて無事な艦はほとんど存在しないと言っても過言ではない。

このミンディア星域会戦には1番艦ロートリンゲンと2番艦カールスルーエが参加しており、共に数百隻の敵艦を屠るという戦果を上げている。
これは単艦での戦果としては極めて高く、この艦の有効性を示す良い結果であった。

「これほどの戦果です、量産が決定されるのは確定でしょう。ですが、標準戦艦以上の艦を沈められないというのが問題ではありますな。ここ一番という時の信頼性に関わります」

「うむ……だが、そこらへんには目を瞑るしかあるまい。何にも万能な艦など未だ存在しないのだから」

そう言いながら、――そんな艦が敵に有れば大惨事だな――とアドルフは思うのであった。
また、――降伏した国々の王女たちを喰う(性的に)のが楽しみだ――とも考えていた。

実に無駄な並列思考の使い方である。


* * *


ミンディア星域会戦における敗北と95000隻に及ぶ艦艇の損失は、ルフェール共和国内に激震を齎していた。
だがそんな中、その事実を冷静に受け止めて冷やかな目で見る人物たちも存在する。
ルフェールを陰から牛耳る財界の人物たちだ。

「覚悟はしていたものの、やはり負けたか……」

「『ウェスタディアの双星』などと持て囃されていても、結局本物の奇跡を起こすには至らなかったようだな。嘆かわしい」

「ですが、そう他人事を言っている場合ではありませんよ。連合軍の敗北により我等ルフェールは嘗て無い窮地に陥った訳ですから」

「統合参謀本部長ホーイング元帥、宇宙艦隊司令長官リッカー大将は責任を取り辞任。代わりに統合参謀本部次長ゲイム中将、第一艦隊司令官ニトラス中将がそれぞれ昇進して統合参謀本部長、宇宙艦隊司令長官に就いたようだが………」

「誰が就こうと立て直しは容易ではあるまいよ。それと、第四次新規艦隊建造計画の中止が決定された」

第四次新規艦隊建造計画では第十六~十八の3個艦隊を新たに編成する計画であったが、ミンディア星域会戦での未曽有の被害がそれを不可能にした。

「まあ、それが妥当だろうな。既存の艦隊の再編が急務である現状、新規艦隊の増設など出来るわけがない」

「奴等が、銀河帝国が次に動くまでどのぐらいかかる?」

「さすがに今度ばかりは10年単位の期間は必要とするでしょうが……逆に言えばその時がルフェールの終焉でしょうな。近いうちにこの国から脱出する手はずを整えておくべきかと」

この言葉が紡がれた瞬間、この場にいる者は一人残らずルフェールを見限った。
もとより、彼らにとって重要なものは自分や家族の命と財産であり、ルフェールという国や民主主義の存続などではない。

「なるほど……それが得策か。不動産を捨てねばならんのが残念だが、致し方あるまい」

「しかし、逃げると言っても何処へ逃げるというのだ。九王国連合か?」

「いえ、私がお勧めするのは銀河帝国です」

「何!?」

「ロアキアと辺境を呑み込んだ銀河帝国は遠からずルフェールを呑み込み、最終的には九王国連合をもその手中に収めるでしょう。その時になってまた逃げ出すのですか? 今度は何処へ?」

「ううむ………」

「ならば今、銀河帝国に下った方が賢明と言えるでしょうな。もちろん、何らかの土産は用意せねばならないでしょうが。ああ、それとどうしても不動産を捨てきれないという方はここに残って銀河帝国と内通するという方法もありますな。どの選択をなさるかは皆様方次第です」

その後、彼らは男の提案について検討し始め、最終的にルフェールを切り捨てて銀河帝国へ寝返ることを決定した。

・・・・・

誰も居なくなった部屋、銀河帝国への寝返りを示唆した男は不敵に笑う。
その様子は、まるでこの場にいない人物たちを蔑んでいるようでもあった。

「はっ、この期に及んで保身しか頭に無いとは度し難い愚物共だな。だが、それはそれで僥倖だった。おかげで事がスムーズに運んだよ」

男は、既に銀河帝国に寝返り内通していたのである。

財産の保全と相応の地位を与える代わりに、ルフェール財界の有力者たちを帝国に誘致する。
それが、この男と銀河帝国との密約であった。



――宇宙暦813年/帝国暦504年 8月15日――

銀河帝国の辺境制圧によって嵐は止んだ。
だが、それは次に嵐が訪れるまでの幕間に過ぎなかった。
 

 

第28話 幕間

――宇宙暦814年/帝国暦505年 3月10日――

先年にティオジア連星共同体を滅ぼしその所領を銀河帝国の版図に入れ、今年に入ってからはウェスタディアの女王ルシリアやシャムラバートのシェーラ王女など旧ティオジア加盟国の王侯貴族を己の嫁として側室に加えてこの世の春を謳歌している皇帝アドルフは、

「もうさ、週休6日とかでよくね? ……分かった、週休5日で我慢しよう。そこが妥協点だ」

今日も(・・・)相変わらずバカな事をのたまっていた。

周囲の者も慣れたもので「はいはい、アドルフアドルフ」と誰も相手にしない。

しばらくして、無視《スルー》されていることに気付いたアドルフは「1週間は仕事しないからなー!」と捨て台詞を残し自室へと引き籠る。

帝都フェザーンは今日も平常運転であった。

・・・・・

昨年の冬、軍務尚書ロナルド・ダック・リーガン元帥と統帥本部総長トルガー・フォン・シドー元帥が退役。
代わって軍務尚書にエルネスト・メックリンガー元帥、統帥本部総長にオスカー・フォン・ロイエンタール元帥、宇宙艦隊司令長官にウォルフガング・ミッターマイヤー元帥、副司令長官にアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト元帥が就任した。

また、新旧5つの方面軍の司令官は

オリオン方面軍司令官    ヘルムート・レンネンカンプ元帥
バーラト方面軍司令官    ウルリッヒ・ケスラー元帥
ガンダルヴァ方面軍司令官  マグヌス・フォン・フォーゲル元帥
ロアキア方面軍司令官    ガラハット・ガムストン元帥
ティオジア方面軍司令官   カール・グスタフ・ケンプ元帥

となった。

旧自由惑星同盟領に方面軍が2つも設置されているのは、ここが元々民主共和制国家であることと、帝都フェザーンに近いという理由からである。

他には、幕僚総監にシュタインメッツ元帥、近衛艦隊司令長官にミュラー元帥、親衛艦隊司令長官にアイゼナッハ元帥が就任しており、バイエルライン、ディッタースドルフ、ホフマイスターなどの上級大将も正規艦隊の司令官に任命された。
彼らは本来なら1個艦隊の指揮を任されてもおかしくない実力を有していたが、ミッターマイヤー、ロイエンタール、ファーレンハイト艦隊など有力な艦隊の副司令官を務めていたためその機会に恵まれずにいた。
だが、さすがにいくらなんでもこれ以上低い(?)地位に就けておくわけにはいかないということで、この度はれて1個艦隊を指揮することになったのである。

こうして見ると銀河帝国の人材面は一見順風満帆のようであるが、問題は次世代の――若手世代の提督たちであった。

彼らの能力が低いわけではない。
だが、どうしてもアドルフ等の世代と比べると見劣りしてしまうのだ。

もっとも、それも仕方のないことではある。
アドルフたちの世代は旧自由惑星同盟との戦争が激化していた時期であり、戦争経験は十分に豊富であった。

しかし、今の若手世代の提督たちにその手の経験は少ない。
ロアキアやティオジアとの戦闘経験を持つ者は多くいるが、これらの戦いはほとんど銀河帝国が戦力的に有利であり悪くても互角だ。
第二次ガイエスブルク要塞攻防戦という例外もあるが、銀河帝国側にガイエスブルク要塞があることを考えれば互角かやや有利だったといっても良いだろう。

ともかく、若手世代の提督たちが実戦の経験不足なのは否めず、それらをどう解決していくかが今後の課題といえた。


* * *


――???――

「前方にワープアウトしてくる艦影あり」

「ん、どこの船だ?」

「1隻ではありません艦影多数! 数……えっ!?」

「どうした?」

「数、10000隻以上!!」

「10000隻だと!」

「あ、あれは・・・・軍です!」

「ちぃ、至急本国に連絡を入れろ『遂に・・・・が牙を剥いた』とな」

宇宙暦815年/帝国暦506年8月10日、銀河のとある場所で1隻の偵察艦が撃沈された。
この出来事が巡り巡って銀河帝国まで辿り着くとは、このとき誰も予想し得なかった。


* * *


――宇宙暦816年/帝国暦507年 5月5日――

この日、ルフェール共和国にて宇宙艦隊の銀河帝国領出兵案が可決された。

――2年前、ミンディア星域会戦の敗戦責任を取って当時の政権は総辞職したが、代わって後を継いだ新政権はいきなり難問に直面することになる。

辺境十三国の尽くが銀河帝国に呑み込まれたため、これらの国々との貿易が途絶。
これが原因で多数の企業が倒産し、リストラの嵐が吹き荒れ、失業者が増大してルフェールは大不況に陥った。

新政権は雇用対策として若者を軍隊へと雇い入れる。
もちろん、これには『ミンディア星域会戦での損失兵員の補充』という裏の事情もあった。

だが、軍というものは膨大な金食い虫であり、軍それ自体は何も生み出さないという非生産的な存在である。
結局のところ、この政策はその場しのぎでしかなく、数年経てばその影響が目に見えて現れて来るのは必然と言えよう。
逆に軍備を削って経済再建の為の費用を捻出するという案もあったが、それでは銀河帝国に対抗できないという至極真っ当な意見の前に沈黙するしかなかった。

とはいえ、このような状況下では経済と軍備の両立など到底不可能である。
どちらかを優先すればもう一方が割を喰うのは至極当然であるのだが、新政権はどちらを優先するか決めきれず両立という最も選んではいけない選択をしてしまった。

案の定、時間の経過とともに状況は刻一刻と悪くなり、自然と支持率は低下していく。
それでも2年間も政権が持ったのは、『銀河帝国の脅威』これに尽きよう。

だが、それも限界であった。

一向に良くならない現状に国民は苛立ちを募らせており、支持率は政権交代ギリギリの線《ライン》にまで下がっていた。
追い込まれたルフェール首脳陣は一発逆転の方法を取る。
すなわち、軍の出兵とその勝利による支持率回復であった。

ルフェールの現政権は支持率獲得のため軍に「銀河帝国と一戦して打ち破れ」と出動を命じる。

軍のトップである統合参謀本部長フォルト・ゲイム大将、宇宙艦隊司令長官ロング・ニトラス大将の両名は揃って反対したが、これは政府による正式な命令であるため拒否はできない。

仕方無く、ニトラス大将は第三、第五、第七艦隊の3個艦隊36000隻に司令部直率の5000隻を合わせた計41000隻の艦艇を率いて出撃した。

時を同じくして、『ルフェール軍出動』の報を受けたティオジア方面軍司令官のケンプ元帥も麾下の艦隊とアイヘンドルフ、パトリッケン、ヴァーゲンザイル艦隊の4個艦隊50000隻を率いて出撃する。

両軍の接敵予想地点はグリニア星域。
この地で、今2度目の会戦が起きようとしていた。
 

 

第29話 第二次グリニア星域会戦

――宇宙暦816年/帝国暦507年 7月15日 08時17分――

グリニア星域でルフェール共和国軍41000隻、銀河帝国軍50000隻が今まさに戦端を開こうとしていた。

「ファイヤー!」

「ファイエル!」

双方合わせて65万隻の艦艇が戦った先のミンディア星域会戦と比べれば小規模に見えるものの、それでも90000隻以上の艦が繰り広げる戦闘は大会戦といっても言い過ぎではない。

緒戦は互いに相手の出方を見る形で始まり、戦闘開始から2時間が経過しても腹の探り合いは続いていた。

そんな中、この遅々として進まぬ戦況に不満を覚える一人の男がいた。
ヴァーゲンザイル艦隊の司令官、ヴァーゲンザイル上級大将である。

「どうも性に合わんな。一度攻勢に出たいところだが……」

「では、攻撃を強化して敵の反応を見てはどうでしょうか?」

「うむ、それがベストだな。ルフェール軍の実力、見せてもらおうではないか」

ヴァーゲンザイル艦隊が砲撃を強めると、正面のルフェール第三艦隊は勢いに押されたのか少々後退する。

「一当たりしてみた感想ですが、私見ながら敵艦隊の力量はあまり高くないように感じます」

「ふむ、敵はそれほどでもない……か。ならば……よぉし、全艦突撃だ。ルフェールの雑魚共に艦隊戦のなんたるかを教えてやれ!」

ルフェール第三艦隊は弱兵であると判断したヴァーゲンザイルは、ここぞとばかりに攻勢に出る。

だが……

「前方左舷に敵影!」

「何、どこの部隊だ!?」

「て、敵司令部の直属部隊と思われます。数5000」

ルフェール軍の総司令部が前線に出て来たことによって第三艦隊との間にクロスファイアーポイントが出来あがり、ヴァーゲンザイル艦隊はそこに突っ込む形となってしまった。

突然の事態に混乱したヴァーゲンザイル艦隊の艦艇は次々と撃沈されていく。

「ヴァーゲンザイルは何をやっておる!」

「どうやら、敵の誘導に乗ってしまったようですな」

「直ちに後退させろ、このままでは陣形が崩れる。……まったく、なんたる醜態だ。これでは先が思いやられるわ」

そう言った後、ケンプは自身の艦隊を前進させヴァーゲンザイル艦隊の後退を援護する。

「追撃は無用だ。他の艦隊との歩調を合わせよ」

さすがにニトラスは無暗に深追いをすることはなかった。
ヴァーゲンザイル艦隊にある程度の損害を与えたとはいえ、それでも兵力は銀河帝国軍が上回る。
下手な追撃は自分の首を絞めることだと彼は理解していた。

「む、敵は総司令自ら前線に出て来るか……一筋縄ではいかなさそうだな」


* * *


ルフェール軍がヴァーゲンザイル艦隊を散々に痛めつけた頃、帝国軍は総司令官であるケンプ元帥自ら前線へヴァーゲンザイル艦隊の支援に赴いた。

「敵を牽制しつつヴァーゲンザイル艦隊を後方に移動させろ。以後、ヴァーゲンザイル艦隊は予備に回す」

「では、中央は」

「我が艦隊が直に出る。これ以上の無様は許されん」

「はっ」

15000隻を擁するケンプ艦隊が出て来た事で、数の差から第三艦隊はじりじりと押され始めた。
とはいえ、現状ではケンプ艦隊が優勢というだけであり、今後の展開次第ではどう転ぶか不明であった。

「戦局は全体的に我が艦隊が押しています。ですが……」

「敵を突き崩すには至らないようだな」

「ええ、それに多少優勢になったところで敵総司令部の直属艦隊が出てくれば互角に戻されるだけかと」

「ふむ……ヴァルキリーを発進させろ。第一、第二戦闘艇部隊出撃用意!」

「閣下、今の段階で航空戦力を出しても然したる戦果は望めませんぞ。確かに、制空権を握ることで敵の行動に掣肘を加える――というのは可能でしょうが……」

「そうではない。こちらが戦闘艇を発進させれば敵も戦闘艇を出してくる。敵の航空戦力を奪い、戦局を出来るだけ単純化させるのが目的だ。シンプルであればあるほど戦力の多いこちらが有利となる。違うか?」

「はっ、仰るとおりです」

果たして、ケンプの予想通り第三艦隊は戦闘艇に戦闘艇を当てる方針をとった。

ルフェール軍の新型戦闘艇は銀河帝国の旧主力戦闘艇ワルキューレを凌ぐ性能を誇るものの、ヴァルキリーが相手ではまだまだ分が悪い。
撃墜されていくのは、ほとんどがルフェールの戦闘艇であった。

「空戦は我が方に有利です」

「そうか。では、次の段階に入るとしよう」

ケンプの作戦は、ケンプ艦隊が目前の第三艦隊を押し込み、開いた隙間に予備戦力のヴァーゲンザイル艦隊が入り込んで敵本営を叩くというものである。

これが成功していれば、指揮系統に大混乱を起こしたルフェール軍は大敗を喫することになったであろう。

だが、現実には総司令部直属の分艦隊司令であるロイド・ジーグ少将、カルスール・ミクロン少将2名の奮戦によりヴァーゲンザイル艦隊の前進を阻んだ。
ヴァーゲンザイル艦隊の動きが鈍かったこともルフェール軍にとって幸いであった。

先の戦闘でルフェール軍に嵌められたヴァーゲンザイルは罠の存在を過剰に警戒し、結果として消極的な行動に終始してしまったのである。
そして、本営の危機を察したルフェール軍の各艦隊が少数ながら分艦隊を援軍として差し向けると、包囲されるのを恐れてか作戦を断念して後退した。

「ヴァーゲンザイルめ、2倍の兵力差がありながら突破もできんのか」

「ですが、あの敵分艦隊の指揮官は中々の力量を有しているかと」

「それでも、あの状況で進攻を止められたのは単に奴の実力不足だ。それに勝手に退きおって……あの無能者が!!」

ケンプは吐き捨てるようにヴァーゲンザイルを罵る。
能力の有無はともかく、勝手な作戦中断は明らかにヴァーゲンザイルの失点である。

「もう奴には頼らん。この上はヴァーゲンザイル艦隊を戦力外とする」

当てにならないものは戦力として数えない――それがケンプの判断であった。

「しかし、そうなると戦力差ではこちらが不利になりますが」

「多少の不利は承知の上だ。それに先ほどの戦闘で敵の錬度は分かった。それ程低いわけではないが、我が方に比べると劣る。で、あれば正面からの力押しも一つの手だろう」

ケンプはそこで一度言葉を切り、命令を発する。

「全軍に全面攻勢を伝達しろ」

帝国軍の全軍が攻勢に出る。
銀河帝国軍の各艦隊の司令官は幾度の戦闘を経験してきた歴戦の実力者たちであり、彼らが一度本気になればルフェール軍司令官たちの及ぶところではなかった。

「スーン・スール中将の部隊が敵を突き崩しつつあります」

「エマーソンに連絡を入れろ。『敵を分断せよ』とな」

ケンプ艦隊の副司令官エマーソン大将はかつて自由惑星同盟軍の総旗艦リオ・グランデの艦長としてランテマリオ星域会戦などを戦った歴戦の将である。
退役間近の年齢ではあるが、その部隊運用には定評があった。

「今が好機だ。敵の中央に食い込み、一気に食い破れ!」

エマーソン大将の分艦隊は第三艦隊を真っ二つにするかの如く亀裂を入れていく。

「いかん、このままでは第三艦隊は分断される!」

第三艦隊の惨状に、ニトラスは慌ててジーグ隊とミクロン隊4000隻を援護に向かわせるが時既に遅かった。
第三艦隊は2つに分断され、各個に撃破されていく。

「仕方無い、あの部隊だけは使いたくなかったのだが……第一独立機動部隊に出撃を命じろ」

ルフェール軍の中で最後尾に位置していた部隊――第一独立機動部隊に司令部より出撃命令が発せられた。

300隻程で構成されるこの部隊――第一独立機動部隊――は、その全艦が痛艦である。
元々、ルフェールのような国家で軍艦にこのような塗装をすることは禁じられていたのだが、ミンディア星域会戦において銀河帝国軍の痛艦隊が大活躍したことから風向きが変わった。
一種の実験のような形で、痛部隊の創設が認められたのである。

この第一独立機動部隊の働きは凄まじく、自身の3倍の兵力を誇るオルゲン分艦隊1000を早期に撃退するなど目覚ましい活躍を見せた。

「僅か300隻余りでこれ程の戦果を叩きだすとは……厄介な敵が現れました」

「だが、所詮は寡兵に過ぎん。大兵力で包囲して殲滅せよ」

そう、如何に第一独立機動部隊が奮戦しようと兵数の不利は覆しようがない。
オルゲン分艦隊の他にラート、ハルツァ、ナイアルの3人の少将が率いる分艦隊2700隻に半包囲されてから部隊の半数を失うまであまり時間はかからなかった。

「第一独立機動部隊、損傷率7割を超えました!」

「さすがにこれ以上は持たんか……だが、時間は十分に稼げた」

第一独立機動部隊への対処にケンプ艦隊は全軍の2割以上を次ぎ込む破目になった。
その隙をニトラスは見逃さず、分断された戦力の再集結を行いつつもケンプ艦隊の薄い点に正確に砲撃を撃ち込んでその勢いを殺していく。
これにより、ルフェール第三艦隊は崩壊の危機を免れた。

「さて、一先ず危機は脱したものの……」

戦況は依然として不利であり、両隣の第五、第七艦隊はアイヘンドルフ、パトリッケン艦隊の攻勢に押されてこちらを援護出来る状況にない。
加えて、帝国軍には予備として後方に下げたヴァーゲンザイル艦隊が未だ8500隻程の規模で存在する。

ニトラスが『撤退』の二文字を真剣に検討し始めた時、

「第十三艦隊です、第十三艦隊が到着しました!」

「彼我の戦力差は逆転した。この好機を逃すな!」

第十三艦隊12000隻の増援を得たルフェ-ル軍は積極的に打って出る。
逆に、再度の攻撃を仕掛けようとしていたケンプ艦隊は機先を制された形となった。

「敵の援軍だと!? くっ……このタイミングで現れるとは!!」

ケンプ艦隊は既に突撃の態勢に入っており、今更陣形の変更など出来ない。
嫌でもこの形で激突しなければならないが、その場合数で劣るケンプ艦隊が不利である。

「ならば、増援が加わる前に砲火の一点集中で敵本営を叩く。火力の高い戦艦と砲艦を前衛に集中配備しろ」

ケンプにとってこれは賭けであった。
第十三艦隊の戦線参加前に総司令部を潰せればこのまま優位を維持できる。
が、出来なければジリ貧となり兵力を悉く消耗し尽くすだろう。

「配備、完了しました」

「よし、全艦……」

「後方に艦影多数! これは……ホルツバウアー艦隊です!」

旧アルノーラ王国領にて海賊退治に勤しんでいたホルツバウアー上級大将は、会戦勃発の報を受けグリニア星域へと急行してきたのである。

互いに援軍が現れたことで両陣営は迂闊な行動を行えなくなり、戦場は膠着状態となった。
そして、どちらからともなく軍を退き始めた。
これ以上の交戦に意味は無いと双方の司令官が判断したためである。

ここに、第二次グリニア星域会戦は終結した。


* * *


7月15日8時17分~同17時21分にかけて行われた第二次グリニア星域会戦は、全体で見ると然したる影響を与えなかった。
強いて言えば、この会戦が起きたことでルフェール軍の再編成が遅れた事と、銀河帝国軍のヴァーゲンザイル上級大将が最前線から外されたことぐらいであろうか。

しかし、戦略的に何の意味も齎さなかったこの会戦も政略的に考えれば時の政府――政権にとって十分有意義だったと言える。

そのため、ルフェール政府は第二次グリニア星域会戦の勝利を強調した。
実質は痛み分けに等しい形で会ったが、彼らにとってはどうでもよい事柄でしかない。

そんな政治的事情から、ゲイム大将とニトラス大将は揃って元帥へ昇進。
また、第三、第五、第七の3人の艦隊司令官も『グリニアの英雄』としてマスコミにクローズアップされ、第一艦隊の司令官に就任していたアルベイン中将と合わせて『ルフェール艦隊の四大提督』などと称されるようになった。

この結果、あまり有能とは言えないこの政権は支持率を回復し、もうしばらく続くこととなる。

反対に、銀河帝国では左遷されたヴァーゲンザイル上級大将に代わってシュナイダー上級大将がティオジア方面軍に配属された。

果たして、真の敗者はどちらであったのだろうか………。
 

 

第30話 望まぬ出征


――宇宙暦818年/帝国暦509年 4月10日――

「出兵だと!? いったい何を考えているのだ!!」

ルフェール共和国の軍統合参謀本部にある本部長室で、宇宙艦隊司令長官ロング・ニトラス元帥は憤りを露にしていた。

「落ち着け、貴官の気持ちも分からんではないが……憤ったところで事態は何も変わらんよ」

「…………」

彼を宥めるのは統合参謀本部長フォルト・ゲイム元帥。
ルフェール軍において最高の地位にいる人物である。

「先日、ティオジア方面軍の司令官が交代した。政府はこれを好機と見ている」

「好機だと……その新たな司令官の名は?」

「アウグスト・ザムエル・ワーレン元帥」

「ワーレン元帥といえば、帝国軍の名将ではないか。政府は何を血迷ってこのような決定を……」

「どうやら、司令官の交代によりティオジア方面軍の指揮系統に混乱が生じると考えているようだ」

「馬鹿な………」

その言葉に、ニトラスは絶句した。
そして、怒りを露にして吐き捨てる。

「そんな甘い話があるものか! 連中は何も分かっていない!」

「だが、政府上層部はそう考えている。それに、グリニア方面への侵攻は陽動だ」

「陽動?」

「この作戦の本来の目的は、第一、第二、第四、第六の4個艦隊からなる本体が帝国軍の耳目をグリニアに引き付けておいて、別動隊である第三、第五、第七の3個艦隊がルフェールと隣接する辺境各国――今は『元』が付くが――そこへ攻撃を加えることだ。成功すれば彼の地域における帝国への不信感は増し、未だ統治に苦労する帝国に政略的なダメージを与えることが出来る。それは、帝国のルフェール侵攻を大幅に遅らせることに繋がるとな。まあ、作戦としてはそれなりだろう。我々に事後承諾ということを除けば……だがな」

「ん? どういうことだ?」

「言葉通りさ。この陽動作戦は、本来作戦を立てるべき我々を差し置いて一方的に通達されたのだよ。こちらに出来るのは戦術的な算段だけだ」

ゲイムは忌々し気に語るが、これは彼らにどうこうできる問題ではない。

「気に食わん話だな。ところで、グリニア方面の本体が陽動ということは、戦わず……もしくは軽く戦闘を行うだけで切り上げてよいと?」

「本体にも会戦で勝利を収めよとのことだ……政府は会戦における勝利というインパクトを必要としているのさ。別動隊の方はある種の保険だろう」

「なんだと! それが今の政治家か!!」

バンッ……とニトラスは机を強く叩き、怒声を込めて言い放つ。
これに関しては、ゲイムもまったくの同感であった。

だが、だからこそ彼は言う。

「ニトラス。この件が成功しようと失敗しようと……いや、十中八九失敗するだろうが、私は本部長の職に留まることは無いだろう」

「勝てば勇退、負ければ責任を取って辞任……ということか」

「ああ。だが私が辞めた後、政治家共の思い通りに動くような人物が軍のトップに立つことだけは避けねばならんのだ。ここで貴官が短期を起こし要職から外れるとなれば、連中は嬉々として自分たちに忠実な者を代わりに据えるぞ。それも、統合参謀本部長に宇宙艦隊司令長官という地位にな」

「…………」

「幸いなことに、現時点でその地位に最も近い第一、第三、第五、第七の各艦隊司令官はそれほどの愚者じゃない。しかし、彼らは全て今回の出兵に参加するのだ。もし、大敗するようなことがあれば………」

「左遷して名誉職にでも回す……か。だが、現政権も転覆は必至だろう」

「ああ、もちろんだ。貴官は知っているか? 野党の議員たちが最近、第十四、第十五艦隊司令官と懇意にしてるのを」

「なんだと………」

第十四艦隊司令官ラムディ・エンソン中将と第十五艦隊司令官アラン・バンディーク中将たちの下へ政治家たちが足を運んでいるのはニコラスも耳にしていた。
しかし、それが与党ではなく野党の議員であったのは初耳である。

「野党の議員にとって、政権交代が起きるのは確定事項なのさ。無論、それは現政権の連中とて分かっている。だからこそ、この無謀とも言える出征を強硬に進めたのだ」

「では、此度の出征における艦隊の選定も………」

「そうだ。司令官が野党と親しい第十四、第十五艦隊に手柄をやりたくない。そんなところだろう」

囮部隊である本体に、まだ定数に届かず数の揃っていない第四、第六艦隊が含まれているのは、そういう理由であった。

「そんな下らん理由で……」

目先の危機より権力闘争。
そんな人物たちに軍の使用権を握られていると思うと、遣る瀬が無くなる。

「嫌な話はこれだけじゃないぞ。こんな現状のルフェールに嫌気を差す人間たちが出てきている。有象無象ならどうにでもなるが、一定の地位にある者ならその影響力は無視できん。で、そんな連中が何を考えると思う?」

「………クーデターか?」

「それもある。が、クーデターを起こすには軍部の協力が必須だ。私とお前が軍の掌握を出来ている限りは、その心配は無いだろう」

「では……亡命か」

「ああ、それも九王国へならカワイイものだが……問題なのは銀河帝国への亡命を考えている輩だ。帝国への亡命となれば、手土産が必要になるだろう」

手土産といっても、彼らに提供できるものは限られている。
即ち、情報である。

「今回の件、良い土産になると思わないか?」

「確かに……情報が洩れていれば厄介だな。こちらでも探ってみるが、確証が取れなければどうしようもないぞ。精々各艦隊の司令官に通達を出すぐらいだ」

「それでもいい、何もしないよりはマシだろう。とはいえ――」

そこで言葉を切ったゲイムは、再度話始める。

「情報が漏れることを前提として敵を嵌めることはできないものかな」

「………なら、1個艦隊を秘密裏に先発させて恒星グリニアの後ろに潜ませておき、戦闘が佳境に入ったところで敵の後背に奇襲をかける……というのはどうだ? どの道、先の作戦だけでは情報が漏れなかったとしても不足だ。別動隊は成功するかもしれんが、本体は勝つか負けるか分からん。どうせなら徹底的にやるべきだろう」

「なるほど。ところで、今度の出征会議だが……貴官は断固として反対しろ。もし作戦が失敗した場合、責任を取るのは俺だけでいい」

「ゲイム、お前………」

ゲイムの覚悟に、ニトラスは言葉を失う。

その後、数日後に開かれた会議において出征は決定された。


* * *


――フェザーン――

「ほぅ……ルフェールはこんなことを企んでいるのか」

「決戦を挑むと見せかけて、本命は艦隊によるゲリラ戦とは……ルフェールも見境無くなってきましたな」

「とはいえ、手品をやる前からそのネタが割れているのではな……この情報とバイエルライン、ディッタースドルフ、グリューネマンの艦隊を増援として秘密裏に送っておいてやれ。ワーレンならそれで対処するだろう」

ルフェールの内通者から情報を受け取った銀河帝国も動き始める。

グリニア星域に、三度目の嵐が訪れようとしていた。
 

 

第31話 第三次グリニア星域会戦


宇宙暦818年/帝国暦509年5月27日。
ルフェール宇宙艦隊は、第一艦隊司令官マイト・アルベイン大将を総司令官とした主力部隊をグリニア星域に向け進発させた。

ルフェール軍主力の陣容は、第一、第二、第四、第六の4個艦隊47000隻である。
この内、第四、第六艦隊はミンディア星域会戦で壊滅したのを再建した艦隊であるが、両艦隊とも10000隻と通常よりもやや少ない。

第四艦隊司令官はロイド・ジーグ中将、第六艦隊司令官はカルスール・ミクロン中将であり、両名とも第二次グリニア星域会戦での奮戦を評価されて昇進の後、艦隊司令官を任されていた。

また、これに先駆けてマリク・バーバラ中将指揮下の第十三艦隊13000隻がグリニア星域へと向かっている。
彼らの任務は、先に星域内に潜み両軍が戦闘を開始した後、帝国軍の側面もしくは後背を突いて奇襲を掛けることにある。

この他に、ルフェール軍は第三、第五、第七の3個艦隊を別動隊として、それぞれ個別にアルノーラ、ハーラン、ゼデルニアを襲撃する。

この作戦において、ルフェールが動員した艦艇は約10万隻。
これだけの数を動員した以上、ルフェールとしては是が非でも負けられない作戦であった。


対して、グリニア星域へ迎撃に向かう銀河帝国軍はワーレン、ホルツバウアー、シュナイダーの3個艦隊42000隻。
また、ルフェール軍へ奇襲を掛ける為にクルーゼンシュテルン艦隊14500隻が先行してグリニア星域へと向かいつつあった………。


* * *


――宇宙暦818年/帝国暦509年 6月13日――

グリニア星域において、妙な事態が発生。
先行していたルフェール第十三艦隊とクルーゼンシュテルン艦隊が鉢合わせしてしまったのである。

両艦隊はなし崩し的に戦闘を開始し、ここに第三次グリニア星域会戦の幕が開けた。

・・・・・

戦況は、数において勝るクルーゼンシュテルン艦隊がやや優勢に進めており、そこへ帝国、ルフェール両軍の主力が到着。
真の意味で、両軍は戦闘を開始する。

戦力は、ルフェール軍47000隻(+13000隻)、帝国軍42000隻(+14500隻)と僅かにルフェール軍が上回っていたが、ワーレンは巧みな戦術を展開して数においての劣勢を埋めていた。

この状況に、ルフェール主力部隊総司令官のマイト・アルベイン大将は頭を抱える。

彼は5000隻の兵力差を生かした攻勢によって圧力を掛け、帝国軍が防戦一方になった頃を見計らって第十三艦隊に援軍を送り敵別動隊を撃破。
しかる後に、正面の敵本体を叩き潰す算段であった。

しかし、戦況が互角である以上送れる援軍の規模は限られるため、良くて敵別動隊を一時的に後退させるのが関の山である。
だからと言って、現状のまま放置するのも悪手であった。

「ううむ……不味いな」

思考が漏れての言葉であったが、それに参謀長が異を唱えた。

「はっ? 現在敵との戦闘は互角かと思いますが」

「貴官にはそう見えるか?」

「敵は数の劣勢を戦術と艦隊運動でカバーしていますが、それとて無限ではありますまい。その事を加味すると、寧ろ我が軍が優勢と思っておりましたが……」

「確かに、本体同士の戦闘は今のところ互角。だが、別動隊の方は帝国軍が優勢に進めている。第十三艦隊が押し切られ、敵別動隊に側面を突かれれば……我々は窮地に陥る」

「!!」

参謀長の顔が驚愕に染まる。

「こちらの戦況だけであれば、貴官の言も尤もなのだが……下手な欲は掻かん方が賢明か。第二艦隊司令官、モンド中将を出してくれ」

しばらくして、スクリーンにモンド中将の姿が映し出された。

「モンド中将。貴官には艦隊の半数6000隻を率いて第十三艦隊の援護に向かってもらう」

『はっ、了解しました。しかし、残りの半数は………』

「残りは貴官らがこちらの戦列に戻るまで第一艦隊の指揮下に置く。心配は無用だ」

モルド中将率いる6000隻の艦艇がルフェール軍本体より離脱する。

無論、その隙を見逃すワーレンではなかった。

「先にクルーンシュテルン艦隊を片付ける腹か。だが、あの程度であれば、後退は免れんにせよ全滅することは無いだろう。ならば、今のうちに敵本体を叩くぞ!」

ここが勝負時と見て攻勢に出たワーレンは、第一艦隊の各所に穴を穿ち、その中で最も大きな3つの穴へ戦力を集中投入して一気に第一艦隊を食い破ろうとする。

が、アルベインもさるもの。
ワーレン艦隊が攻勢に出た時の一瞬の陣形の乱れを的確に突いて逆撃をかけてワーレン艦隊の突出を封じる事に成功した。

両軍の間に膠着状態が生まれるが、ここへクルーゼンシュルン艦隊を撃退した第二、第十三艦隊が戻ってくる。

「ここまでだな……全軍、敵を牽制しつつ後退。クルーゼンシュテルン艦隊と合流するぞ」

第二、第十三艦隊が向かって来るのを見て、ここが引き時だと判断したワーレンは即座に後退命令を出す。

「追撃は無用だ。第二、第十三両艦隊との合流を優先せよ」

また、アルベインも帝国軍の一糸乱れぬ整然とした後退行動と、自軍の艦列の乱れから追撃には大きなリスクを伴うと判断。

両軍とも、別動隊との合流と艦隊の再編を図った。

・・・・・

ルフェール、銀河帝国双方の主力部隊が艦隊の再編を行っている頃、ルフェール軍の別動隊3個艦隊はそれぞれの場所で銀河帝国軍の襲撃を受けていた。

第三艦隊は旧アルノーラ領トレーダ星域でバイエルライン艦隊の。
第五艦隊は旧ハーラン領オンデット星域でディッタースドルフ艦隊の。
第七艦隊は旧ゼデルニア領ワイオメイヌ星域でグリューネマン艦隊の。

これは、この作戦がルフェールの内通者により銀河帝国へリークされていた為で、銀河帝国は密かに3個艦隊を派遣して裏の裏をかくことにしたのである。

その狙いは当たり、どれも完璧な奇襲となったことでルフェール軍別動隊の被害は甚大であった。


* * *


――宇宙暦818年/帝国暦509年 6月14日 グリニア星域――


再編を終えた両軍は、再度の戦闘に入っていた。

もっとも、別動隊の回収を終えた両軍としては、ルフェール側はこの作戦における目的はあくまで囮であり無理に勝利する必要はなく(政府からは勝利するよう命じられていたが、アルベインは無視する気満々であった)、帝国側としてもこの戦いは防衛戦のため、この状況で積極的に仕掛ける意思は無かった。

ダラダラと砲撃戦が続くこと14時間。
ここで、ルフェール第三、第五、第七艦隊の壊滅……つまり作戦失敗の報が入ってきたことが、この会戦に終止符を打つ切っ掛けとなった。

ルフェール軍別動隊の被害は、第五艦隊、第七艦隊が司令官戦死の上艦艇のおよそ6割を失い、最も軽微であった第三艦隊でさえ4割近くを失うというものであった。

ここに至って、もはやルフェール軍主力に戦闘を継続する意味は失われる。
ルフェールの現政権は作戦の失敗を挽回するため戦闘の継続を望んだかもしれないが、アルベインは選挙の為だけに部下たちが無意味な血を流すことを嫌い、確認が取れると即座に撤退を開始。
第三次グリニア星域会戦は終了した。


この会戦による損害は、

ルフェール軍8275隻。
帝国軍8140隻。

とほぼ互角であった。

が、作戦全体としては、ルフェール軍の大敗北であった。
 

 

第32話 第四次グリニア星域会戦

第三、第五、第七艦隊の壊滅。
それは、ルフェール全土に激震と恐慌をもたらした。

この作戦を主導した現政権は総辞職し、軍部も統合参謀本部長フォルト・ゲイム元帥が全ての責任を負って辞職。
代わりにロング・ニトラス元帥が本部長となり、第一艦隊司令官マイト・アルベイン大将が元帥に昇進の上、宇宙艦隊司令長官へ就任した。
また、総参謀長の地位には元第三艦隊司令官エルマン・ガーディ大将が着き、各艦隊の編成は以下のようになった。

第一艦隊:13000隻(マリク・バーバラ中将)
第二艦隊:12000隻(ワルトゥ・モンド中将)
第四艦隊:12000隻(ロイド・ジーグ中将)
第六艦隊:12000隻(カルスール・ミクロン中将)
第十三艦隊:12000隻(ラルフ・エーヴィン中将)
第十四艦隊:13000隻(ラムディ・エンソン中将)
第十五艦隊:13000隻(アラン・バンディーク中将)

これに、司令部直属部隊5000隻と4つの独立艦隊が10000隻。それと1000隻程度の特殊部隊がある。
これが今のルフェールの全軍であり、他は星間警備隊と哨戒隊の艦が残るのみである。
自由惑星同盟の末期と比べればまだマシであるが、それでも銀河帝国との国力比を考えると絶望的な状況であった。

そして、このルフェールの窮状を見た銀河帝国皇帝アドルフは、宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥にルフェール侵攻を命令。
しばらくの準備期間の後、正式にルフェール本国侵攻が発令された。

・・・・・

帝都フェザーンを出立したルフェール侵攻部隊は、各地の部隊を吸収し、最終的に15万隻もの規模に達した。

ルフェール側もこれに呼応して大規模動員をかけると共に九王国連合へと援軍を要請するが、時間的に見て間に合わない可能性が高かった。


宇宙暦818年/帝国暦509年 11月24日。
ティオジアでの最終補給を終えた銀河帝国は、いよいよルフェール領へと侵攻を開始する。

ミッターマイヤー、ハウサー、アルトリンゲン、ウィンディルム、グローテヴォール、ザウケン、ディッタースドルフ、バイエルライン、ハルバーシュタット、ブラウンヒッチ、ホフマイスターの11個艦隊15万5000隻が辺境の国々を通過する様は、まさに壮観の一言に尽きた。

対して、ルフェールも全軍の7個艦隊(+4個独立部隊、1個特殊部隊)10万4000隻を率いて出撃し、帝国軍を国境で押しとどめるためにグリニア星域にて布陣する。

かくして、グリニア星域にてルフェールの命運を掛けた一大決戦が行われることとなった。


* * *


――宇宙暦818年/帝国暦509年 12月6日 2時21分――

「ファイエル!」

「ファイヤー!」

4度目となるグリニア星域会戦が幕を開けた。

銀河帝国は、攻勢に強いハルバーシュタット、ホフマイスター両艦隊30000隻を先頭にルフェール軍へと攻め寄せる。

「敵旗艦の艦形確認。シュトルム・ティーゲルにヘルゴラント……ハルバーシュタット艦隊とホフマイスター艦隊です!」

「なるほど、共に攻勢に強い指揮官だな………第一、第二、第十四、第十五の4個艦隊を翼形に展開して敵の攻撃を受け止めさせろ。間違っても単独で当たらせるなよ」


ルフェール軍宇宙艦隊司令長官マイト・アルベイン元帥はそう指示を出しつつも、心の中で考える。

「(それにしても、これは完全に意表を突かれたな。あの2艦隊は戦略予備として戦局を決定づける場面まで使用してこないと思っていたが……ままならんものだ。おかげで初手から防戦一方になったが、別動隊が敵の後背を突けば攻勢に転じることも可能だろう。下手に打って出て作戦全体が崩れるより遥かにマシだ。ここで何とか敵にそれなりの打撃を与えることができれば、当座は凌げる。凌げば………凌いでどうするのだ?)」

脳裏に、ある疑問が浮かび上がる。

「(凌いだところで、銀河帝国が圧倒的に有利な状況は変わらない。しかも、ロアキアと辺境を掌握した際には更にその差は開いてしまうだろう。ルフェールが生き残るには勝ち続けるしかない。だが、勝ち続けられるのか? そんなことは不可能だ! ならば、今ここを凌いだとして、その先に何がある? 何が待っている?)」

今まで蓄積されていた疑問が次々と、間断なく浮かび出していく。

と、そこへ

「閣下……閣下!」

思考の渦に耽っていたアルベインは、総参謀長であるエルマン・ガーディ大将の声によって我を取り戻した。

「ん、どうした?」

「そろそろ、別動隊が敵の後背に出る頃です」

「そうか……ここが正念場だな」


3時54分。
小惑星帯を隠れ蓑に帝国軍の後背に出た第四、第六艦隊が攻撃を開始する。

それを見たミッターマイヤーは、感嘆の声を上げた。

「ほぉ……小惑星帯を迂回してきたか。数において劣勢な中、あれだけの別動隊を組織するこの大胆な作戦。敵の指揮官は中々やり手だな」

「閣下、如何しますか?」

「後背に関してはザウケンとグローテヴォールに任せれば問題は無いだろう。両艦隊とも数で敵を上回っているし、少なくとも今すぐ突破されるような事態にはならないハズだ」

「はっ」

「しかし、ふむ………よし、今度はこちらから仕掛けるとしよう」

「はっ?」

副官が怪訝な声を返す。

「この艦隊を急進させ、敵左翼部隊に攻撃を加える。幸い、敵は別動隊にそれなりの兵力を裂いているため本陣が手薄だ。あの前衛部隊さえ突破すれば、こちらの勝利は目の前だ」

「ですが、その間の全軍の指揮は………」

「俺が指揮をしなくても、代わりにハウサーがやってくれる。なにも問題はないさ」

ミッターマイヤーはその神速の用兵を用いてホフマイスター艦隊の右方より飛び出し、ルフェール軍左翼を担当していた第十五艦隊へと襲い掛かる。

「くっ、総司令官直々に出てくるとは……第三、第四独立部隊を第十五艦隊の援軍に当てろ!」

アルベインは、遊撃隊として後方で待機していた4つの独立部隊の内、ダグラス・ドーザン少将の第三独立部隊とノルド・ヨルキン少将の第四独立部隊を投入することを決めた。

両部隊は合わせて5000隻程度でしかないが、第十五艦隊と戦っているミッターマイヤー艦隊にとっては無視できる数ではない。
彼らにある程度の戦力を裂く必要性が生じ、その分、第十五艦隊の負担は軽いものとなる。

後は、第四、第六艦隊が敵の後衛を突破するのを待てば良いだけだ。


一方、帝国軍の方でもこの動きは察知していた。

「閣下、敵の増援が出撃した模様です。このままでは我が艦隊の側面を突かれます」

「そうか。全軍に攻撃の強化を伝達。前方の敵を押し込んでから、改めて敵増援と対峙する」

ミッターマイヤー艦隊は第十五艦隊へ攻勢を掛けて押し込んだ後、直ちに90°反転してやってきた第三、第四独立部隊へと向かう。
合わせても5000隻程度にしかならない第三、第四独立部隊ではミッターマイヤー艦隊に太刀打ちできる筈もなかった。

・・・・・

第三、第四独立部隊を撃破したミッターマイヤー艦隊は、改めて第十五艦隊へと向き直る。
既に、第十五艦隊の損傷率は半数近くに達していた。
第十五艦隊が崩れればハルバーシュタット、ホフマイスターの艦隊を止める翼陣形は成り立たなくなり、帝国軍によって瞬く間に蹂躙されるだろう。

今が頃合いと見たのか、アルトリンゲン艦隊、ウィンディルム艦隊、バイエルライン艦隊が前進を始める。

「敵軍、待機していた3個艦隊が動き出しました」

「不味いな……別動隊を組んだ分、こちらの本陣は手薄だ。前線を突破されれば後が無い。第四、第六艦隊はまだか?」

「依然、敵2個艦隊と交戦中。突破は難しい模様」

「これは失敗だな……両艦隊には後退して本陣に戻るよう伝えろ。急げ!」

とはいえ、第四、第六艦隊が戻るまでには相応の時間が必要であり、その間、帝国全軍の攻勢に曝されるのは間違いない。

「全軍総力戦用意。第十三艦隊と第一、第二独立部隊は前線に出て敵の攻勢を防げ。それと、第一特殊部隊に出撃命令を出すんだ」

アルベインの命に応え、第十三艦隊と第一、第二独立部隊が前線に加わる。

帝国軍もアルトリンゲン、ウィンディルム艦隊が前線へと加わり、戦局は総力戦へと移行しつつあった。

ルフェール軍は、今や全軍で以って前線を支えている。
特に第十五艦隊の損耗は著しく、崩壊は時間の問題であった。

と、そこへ1000隻程度の部隊が更に参加していく。

この部隊――第一特殊部隊は第二次グリニア星域会戦で壊滅した第一独立機動部隊の流れを組む部隊であり、同様に全艦が痛艦で構成されている。
その勇猛さはルフェール軍随一であり、アルベインは切り札として切るタイミングを計っていた。

前線に参加した第一特殊部隊は暴れに暴れ、僅か1000隻の少数であるにも関わらず、3000隻以上の帝国艦艇を撃沈破する戦果を上げた。

これには、ミッターマイヤーでさえ唖然となる。

「痛艦隊か……敵として出てくるとこれほど厄介とはな。倒せない敵ではないが、こちらの被害もバカにならん。ここは同様の部隊を当てるとしよう」

「ですが、現在このルフェール侵攻軍に痛艦など――」

「彼らには、アーベ中将の部隊を当てようと思う」

オイゲン・アーベ中将は『戦場の穴掘り師』の異名を持ち、敵味方に――特に男から――恐れられている。
捕えられた捕虜が彼に『アー』される(男限定)ことが異名の由来なのだが、つまりそれだけ敵軍や反乱軍、宇宙海賊を破り、捕えているということの証明でもある。
また、この行動が軍上層部から事実上黙認されているという点から見ても彼の有能さが窺えるだろう。

実際、ホモやゲイが大嫌いなアドルフさえ彼を黙認しているのだから、軍人としての実力は言わずもなが。
次世代の将官で彼に匹敵できるのは、帝国一の邪気眼使いロメロ・フォン・バルタン中将だけであると言われていた。

そのアーベ中将は、自身の専用艦である戦艦ヤラナイカの艦橋で、歓喜に声を上げていた。

「久々の獲物だ! それも生きが良さそうじゃないか。よし、決めたぞ。俺はあの特に派手な艦の指揮官を食うことにする。あの艦だけは沈めるなよ!」

この瞬間、第一特殊部隊の将兵の運命は決定した。
彼らにとって、死ぬことは生きて捕虜になることよりも救いであった。


* * *


――12月8日 9時45分――

この総力戦を制したのは、やはり艦艇数において上回る銀河帝国軍であった。

全軍の三割強を失ったルフェール軍は、それでもまだ指揮系統を維持しながら秩序だって後退していく。
帝国軍も追撃を仕掛けたいところではあったが、彼らもそれなりに消耗していたため全軍の再編を優先とし、追撃を断念。

ここに、第四次グリニア星域会戦は帝国軍の勝利として終結した。

そして、このグリニア星域にて銀河帝国とルフェールが矛を交えることは、以後二度となかった。
 

 

第33話 ロナウディア星域会戦


第四次グリニア星域会戦で敗れたルフェール軍は、商業惑星イストアのあるロナウディア星域で再編を行っていた。

イストアは、かつてルフェールとロアキアの緩衝地帯であった辺境から最も近い有人惑星であり、辺境各国との貿易で潤っていた。
しかし、それも過去のこと。
銀河帝国が辺境を併呑したことで貿易は途絶し、帝国への恐怖から移住する者が後を絶たず人口が激減と衰退の一途を辿っていた。
が、それでも未だ残っている人口はかなり多く、20億を下らない。

軍事的見地から言えばもっと内部に帝国軍を引きずり込みたいルフェール軍が、この惑星を守るように布陣しているのは、この為である。

現在のルフェール軍は、グリニア星域から撤退してきた71000隻とエリザ・ウィッカム中将指揮下の第五独立部隊6000隻を加えた74000隻。
数が微妙に違うのは、損傷により戦闘が困難と見られた艦を破棄した為であるが、それを差し引いても74000隻分の戦力があるとは言い難い。

特に、第五独立部隊は新造艦とモスボールされていた旧式艦、警備・哨戒艦で急遽編成された部隊なため練度はまったくの不十分。
他の艦隊にしても中級指揮官を少なからず失っており、指揮系統に齟齬が生じる可能性は高かった。

数と質、その両方においてルフェール軍は限界に達しつつあった。


* * *


帝国軍が来襲したのは、15日、22時59分のことであった。

迫り来る帝国軍14万隻に対し、ルフェール軍はイストア防衛の観点から正面切っての相対を迫られている。
別動隊を編成して奇襲を掛けるべきという意見もあったが、これだけの兵力差があると各個撃破されるため却下された。

帝国軍の先鋒はバイエルライン艦隊。

30分程の戦闘の後、

「よし、バイエルラインを下がらせろ。こちらの凹陣に敵を引きずり込むんだ」

ミッターマイヤーはバイエルラインに後退を命じた。

「敵が退いていきます、追撃は……」

「無用。これは敵の誘いだ」

「はっ……」

アルベインとて数々の戦いを経験した名将。
この程度の誘いに易々と乗りはしない。
帝国側としては、当てが外れた形となった。

「乗ってこないか……先日の戦いといい、敵の指揮官は優秀だな。………広域に展開せよ。敵の防御力を削り取る」

帝国軍は陣形を広げ、ルフェール軍を包み込むように全軍を展開させようとする。

一方、迎え撃つアルベインは帝国軍の行動を苦々しい顔をしながら見ていた。

「嫌な手でくるな……だが、そうはさせん。右翼、左翼は敵両翼の先端部にピンポイント砲撃、敵の伸びる先を抑えよ。中央部は戦艦を前面に並べ、主砲で一点を集中砲火。これを繰り返し敵陣に断裂を作り出せ」

アルベインは帝国軍の両翼を牽制して背後へと回り込まれるのを封じると共に、中央部に攻撃を集中させて艦列を崩す。
時折、中央突破の気配を見せることで、帝国軍の動きを牽制していた。

「ちっ、上手く手を打つものだ……これでは両翼を伸ばしきれん。それに、あの一点集中砲撃………下手に満遍なく砲撃するより余程効果的だな」

「ですが、このままではこちらの消耗も大きくなり過ぎます。何かしら手を打つ必要があると思いますが……」

「無論だ、手は有る。敵は現状に全力を傾けているからな。ここで放たれる新たな一撃を受け止める余力はあるまい」

「では……」

「うむ、全面攻勢を掛ける。各艦隊は敵の分断を第一とせよ。ある程度分断できたら、ハルバーシュタットとホフマイスターに敵本陣を襲撃させる。………これでチェックだ」


帝国軍の全面攻勢に、たちまちルフェール軍の陣形はズタズタに寸断されていった。

「第一、第四独立部隊……壊滅!」

「第二、第十三、第十四艦隊の戦線が崩壊しました!」

「バンディーク中将の艦隊が800隻にまで撃ち減らされています!」

「第三独立部隊、旗艦ヘイオス撃沈!」

「第二独立部隊、損傷率50%を超過!」

各所から上がる被害報告が、ルフェール軍総旗艦トイホーレへと入ってくる。
その損害は、余りに大きかった。

そこへ、最悪の報告が入ってくる。

「敵、ハルバーシュタット、ホフマイスター艦隊が前進を開始しました!」

「いよいよ最終局面ということか………ハルバーシュタット艦隊には第一艦隊を、ホフマイスター艦隊には第五独立部隊を当てて対処しろ」

「耐えきれますかな……」

「おそらく、第五独立部隊の方は難しいだろう。戦力差に倍以上の開きがある上、あれは寄せ集めの混成部隊だからな。だが……やらねばこちらが全滅する。ウィッカム中将の手腕に期待するしかない」

第五独立部隊は数だけは6000隻と半個艦隊分あるものの、そのほとんどが旧式艦、警備艦・哨戒艦から成り立っている。
また、急遽編成して即実戦投入という状況から錬度など求めるべくもない。

だが、第五独立部隊を指揮するエリザ・ウィッカム中将は、この烏合の部隊を良く纏め奮戦していた。

「戦艦を左舷に配置して敵の攻撃を防げ! 敵の砲撃が止んだら、砲艦にて狙撃。それと、全スカイキープ級で敵中央部に集中砲火」

この時、第五独立部隊はスカイキープ級戦艦を百隻近く保有していた。
これは、スカイキープ級の鈍重さを嫌った各艦隊の司令官が厄介払いとばかりに押し付けたため、第五独立部隊にはルフェールに存在する全てのスカイキープ級が配備されていたのである。

2000メートルの巨体から繰り出される砲撃の威力は凄まじく、主砲の一撃で直線状にいたる帝国軍艦艇2、3隻をまとめて串刺しにしていった。

これには、勇猛で知られるホフマイスター上級大将もお手上げ状態であった。

「むぅ……やりおる」

「敵の守り固く、これを抜くことは困難かと。また、敵巨大戦艦の砲火が中央部に集中しています。このままでは逆にこちらが分断される恐れがあるかと」

「こちらは敵の2倍だ。分断など恐れはせんが……ハルバーシュタットの方はどうなっている?」

「敵第一艦隊の足止めを受け、突破は難しい模様」

「こちらの目論見は失敗だな。全艦を敵の射程外まで退かせろ」

「よろしいのですか?」

「既に決着は時間の問題だ。ここで無用な犠牲を出すこともあるまい……」

・・・・・

ホフマイスター艦隊が攻撃を切り上げたのは、ミッターマイヤー元帥の旗艦ベイオウルフでも確認された。

「ホフマイスターは断念したか……まあいい、敵艦隊の旗艦の半数は討ち取っている。このまま押すだけで十分だろう」

ミッターマイヤーは勝利を確信していた。

その時、

「閣下、ハルバーシュタット艦隊が敵艦隊の凹陣に誘い込まれ、被害甚大とのことです!」

「むっ、相手は第一艦隊か」

「はい。指揮官はマリク・バーバラ中将です」

「奇術師マリク……か。これまでの戦闘で、こちらに幾度か低手痛い一撃を入れた手並みは、彼のヤン・ウェンリーを彷彿させるものがあるな。もっとも、実力・戦績共にヤンには程遠いが……」

ミッターマイヤーはそう言った後、数秒思案して、

「ハルバーシュタット艦隊を後退させよ」

と命じた。

・・・・・

ハルバーシュタット、ホフマイスター両艦隊の攻撃が止んだことで、何とか一息つけたルフェール軍は、総司令官のアルベイン元帥が全軍に命令を発した。

「全軍突形陣を取れ。我らはこれより敵陣へ突撃し、突破後……撤退する」

「か、閣下! イストアを見捨てるのですか!」

「もう勝敗は決した。もうイストアを守る術は無い。これ以上の交戦は無益な損失を出すだけだ」

この時点でルフェール軍の戦力は5万を切っており、重損傷艦を除外すれば、戦力として数えれるのは4万強であった。
また、第二、第十三、第十四、第十五艦隊の旗艦が撃沈されたことで指揮系統が混乱しており、実質的な戦力は更に低くなる。

これは、アルベインとしても断腸の決断であった。

「敵の最も薄い一角に集中砲火!」

最も薄い一角――ハルバーシュタット艦隊を狙い撃ちにして、崩れたところを最大速度(最大戦速ではない)で一気に駆け抜ける。

ルフェール軍は、賭けに勝った。

「これは……やられたな」

そう言ってミッターマイヤーは苦笑した。



宇宙暦818年/帝国暦509年 12月16日 17時45分。
ルフェール軍の撤退を以って、このロナウディア星域会戦は終了した。

その後、帝国軍は惑星イストアを占領。

これが、ルフェール共和国崩壊の序曲となった。
 

 

第34話 マールデルタ星域追撃戦


「後方より敵艦隊。数11000」

「く……しつこい!!」

ロナウディア星域より離脱したルフェール軍は、銀河帝国軍の執拗な追撃を受けていた。
その度重なる襲撃に、ルフェール軍の全員が気力・体力を擦り減らしていた。

「これで5度目か……我が方の残存艦艇は?」

ルフェール宇宙艦隊司令長官マイト・アルベイン元帥は疲れた声で、隣にいる総参謀長のエルマン・ガーディ大将に尋ねる。

「既に40000隻を切っております。戦闘に耐えられない艦を除くと健在な艦艇は33000隻ほどです。反撃なさいますか?」

「いや、ここは逃げの一手だ。もう少し……もう少しで味方の勢力圏に逃げ込める、それまでの辛抱だ」

「ですが、根こそぎ動員した為、勢力圏内も既に兵力は枯渇寸前です。僅かに残る星間守備隊など如何ほどの戦力にも成りはしないでしょう」

「確かにその通りだ。だが、それを敵は知るまい。仮に予想できたとしても、そんな不確定な推論で危険を冒しはしないだろう」

「なるほど、では……」

「ここマールデルタ星域さえ通過してしまえば、敵は引くだろう」

アルベインの言葉に、周囲にいる全員の表情が明るくなる。
僅かであるが希望が見えたことに、皆の士気が上がった。

だが、アルベインの胸中は別のことを考えていた。

「(しかし、敵にとってこれは最後の接敵機会の筈。ならば、あの艦隊だけで済むはずが無いな……先程は逃げの一手と言ったが、あの敵にジワジワと時間を稼がれては堪らん。一撃を入れて即座に離脱するのが得策か)応戦用意。敵に一撃を加えた後、最大戦速で離脱する!」

戦闘隊形をとるルフェール艦隊。

戦闘可能艦艇の数において、ルフェール軍は追撃してきた帝国軍艦隊の凡そ3倍である。
だが、帝国軍の追撃部隊は戦力差を物ともせず執拗に攻撃を仕掛けてくる。

「食い下がってくるな……やはり、後続はすぐ近くにいるか」

アルベインは少しの間思案する。そして、

「敵の前面に斉射3連。敵が怯んだ隙を突いて撤退する」

ルフェール艦隊の各艦から3度主砲が放たれる。
斉射3連が効いたのか、帝国軍艦隊の動きが鈍った。

「よし、今――「さ、左舷方向より敵軍。数16000」――遅かったか………」

今まさに離脱しようとしたその時、不幸にもアルベインの予測は的中した。
帝国軍の新手2個艦隊が戦場に到着したのだ。

「数の上ではまだ我々が有利ですが……」

「今はな。そんなもの、直ぐに覆る」

アルベインはガーディの意見を冷徹に切り捨てた。

・・・・・

結局、ルフェール軍は帝国軍を振り切ることに失敗した。
戦場に、また新たに帝国軍の更なる増援14000隻が到着したのである。

「これで、数においても完全に逆転した……それも今回来たのはミッターマイヤー艦隊。『疾風』の異名を持つ彼を振り切るのは至難だろう………」

ミッターマイヤー艦隊の到着によって彼我の数の差は逆転し、ルフェール軍の損害は加速度的に増していった。

「巡航艦ゾルダム被弾!」

「戦艦テューシング損傷。戦列から落伍していきます!」

「駆逐艦ウェルンシェル、応答有りません!」

「空母ティグウェル、轟沈!」

「ヒルツ准将の艦隊が100隻以下に撃ち減らされています!」

総旗艦トイホーレの艦橋には各艦隊の被害が引っ切り無しに入ってくる。

「閣下、このままでは……」

「分かっている……。第6、第7陣展開、ヒルツ隊の穴を埋めよ」

第6陣と第7陣が展開して開いた傷口を塞ぐ。

だが、この処置とて所詮一時凌ぎにしかならない。
帝国軍の猛攻はルフェール艦隊に着実にダメージを与えつつある。

そんな中、不意に帝国軍の一隊が中央戦線へと雪崩れ込んできた。

「混戦に持ち込み時間を消費させるつもりか……だが、その手は食わん。戦闘艇発進用意!」

アルベインは戦闘艇を出撃させ突出してきた敵部隊を着実に葬っていく。
これだけの至近距離となると同士討ちの可能性のある砲撃よりも戦闘艇による攻撃の方が確実だ。幸い、敵の数も少なく駆逐するのに時間はかからないだろう。

しかし、ルフェール軍にとって致命的な報告がもたらされた。

「戦艦マエリオネス撃沈! ミクロン中将戦死!」

「なっ……」

この報に、司令部は愕然と沈黙する。

戦死したカルスール・ミクロン中将は第六艦隊の司令官である。
彼が担当していたのは左翼部隊であるが、ハルバーシュタット、ホフマイスターの2個艦隊の猛攻に遂に耐えきれなかったのだ。
ミクロンが戦死したとなると、左翼部隊の混乱は計り知れないだろう。

「閣下、このままでは左翼が総崩れになるのは時間の問題ですぞ。直ぐに対処を……」

「………いや、事はもう左翼だけに止まらぬ。それは全軍に言えることだ」

アルベインの言葉を聞いた周囲の者全員が、ゴクリと唾を飲み込む。

「既に前線全体が磨り減らされているな……艦隊を広範囲に展開させて猛攻を加えてきている。どうやら敵はこちらを表面から削り取っていき、不意の猛攻で一気に突き崩す意図のようだ。マエリオネスの撃沈は、その一例に過ぎんよ」

「で、では………」

「だが、手は有る。敵が広範囲に展開しているなら、当然各所はそれ程厚くはない。部分部分に砲撃を集中して敵陣に幾つか小さな穴を穿てば、敵はそこを修復に動く。そして、その時に必ず乱れが生じる」

「反撃を行うのは……その時と?」

「そうだ。だが、反撃も直ぐに息切れするだろう。長くは続かない。そうなる前に、機を逃さずに正面から突破して逃げるとしよう」

「しょ、正面からですか!?」

「ああ、敵は疾風ウォルフだ。背を向けて逃げるのを見逃してくれるとは思えん。直ぐにその神速で食らい付いてくるだろう。正面から突破するよりあるまい」

「なるほど……では、その時に猛攻を仕掛けるのはミッターマイヤー艦隊がよろしいかと。
多少は楽になるでしょう」

「ふむ、一理あるな。よし、ミッターマイヤー艦隊への砲撃を強化せよ。少しでも敵を消耗させ脱出の可能性を上げるのだ」

ルフェール軍の猛火力がミッターマイヤー艦隊を襲う。

これにはミッターマイヤーも驚かされた。

「まだこれだけの力を残していたか……おそらく最後の足掻きだろうが、窮鼠と化した敵の一撃をもらっては敵わん。ここは距離を保ち敵の行動限界を待つべきだろう」

このミッターマイヤーの判断により帝国軍が一時後退したとき、作戦は始動した。

「敵の薄い部分各所に砲撃を集中せよ。一つでも多くの穴を空けるのだ!」

ルフェール軍から放たれた砲撃が、ミッターマイヤー艦隊の各所に穴を穿つ。

「不味いな、このままでは陣形が分断される。直ちに修復に掛からせろ」

ミッターマイヤーの判断と行動は適切かつ迅速であったが、ルフェール軍の攻撃は苛烈を極め、穴は修復する以上に拡大する方が早かった。

「これは……いかん! 戦艦を前面に並べて敵の攻撃を防ぎつつ、巡航艦及び駆逐艦は急ぎ穴を塞げ!」

ミッターマイヤーは直ちに指示を出すが、時すでに遅い。

「よし、このまま攻撃を強化しつつ損傷艦を内側に密集体型をとれ。その際、ウィッカム中将のスカイキープ部隊を先頭に配備。スカイキープ級戦艦の砲撃力で以って活路を切り開き、強引にでも突破する!」

そして、その時は来た。

「今だ!!」

スカイキープ級の一斉射撃が空けた穴は、これまでより巨大なものであった。
その穴にルフェール軍の全軍が雪崩れ込んでいく。

既に各所が寸断されているミッターマイヤー艦隊にこれを止める余力はない。

「くっ、これが狙いか……だが逃がさん! 高速艦を中心として1000隻程度の追撃部隊を編制。準備が出来た部隊から順次追撃に移れ!」

「閣下、それは戦力の逐次投入になりませんか?」

「敵は逃げることに全力を傾けている。追撃隊を各個撃破する余力はないさ。もし万一そうするようなら、他の艦隊が追い付いくだけのことだ」

ミッターマイヤーは不敵に笑った。


* * *


「追撃、振り切れません!!」

結局、ミッターマイヤーの判断は功を奏した。

ルフェール軍は突破に成功したものの、未だいくつかの小部隊の追撃を振り切れずにいる。
本体が追い付いてくるのも時間の問題であった。

また、特に執拗な追撃を行ったのがロメロ・フォン・バルタン大将の部隊であった。

「デュフフ……ここで活躍すれば俺の野望にまた一歩前進する。この好機(チャンス)を逃す手はないな」

彼の言う野望とは、もちろん帝国宇宙艦隊の全艦を痛艦にすることである。
周囲の幕僚たちとしては、そんな野望に手を貸したくない……というより達成されては困るが、さりとて手を抜く訳にはいかないので嫌々ながらも己の職務を全うしていた。

「よし、今こそ皇帝陛下より賜ったこの兵器の出番だ。宇宙用パンジャンドラム、射出用意!」

「か、閣下。本当にアレを使われるのですか?」

「もちろんだとも。今使わずにいつ使うというのだ? それに、これは勅命だぞ」

バルタンの言う通り、宇宙用パンジャンドラムの使用は皇帝アドルフの勅命を得ていた。
流石に皇帝の勅命とあれば、使用する他ない。

「ゆけーパンジャンドラム!! 男のロマンを現実にするのだ!!!」

バルタン艦隊より、複数の宇宙用パンジャンドラムが射出された。
しかし……

「パ、パンジャンドラム……全て敵の対空砲火にて撃墜しました………」

「あ、あれ?」

想定外の結果に、バルタンは間抜けな声を上げる。
幕僚たちの視線もどこか冷たい。彼らからすれば、この結果は当然の帰結であった。
単にバルタンが(あと皇帝も)バカなだけである。

「コ、コホン。あ~……付かず離れずの距離を保ちつつ長距離砲にて砲撃せよ。敵艦を撃墜する必要はない。損傷艦を量産して行き足を鈍らせるのだ」

慌てて、取り繕うバルタン。
指示の内容そのものは間違っていないが、冷めた空気は元に戻らない。

それでも、バルタンはその天性の才能を生かしてルフェール軍の行き足を削いでいった。
『天は二物を与えず』その言葉がピッタリと当てはまる男、それがロメロ・フォン・バルタンである。

・・・・・

帝国軍の一部隊にてアホみたいな事が行われていたが、ルフェール軍としてはそれどころではない。
執拗な追撃と傷ついた味方艦の存在で行軍速度は遅れに遅れ、このままでは帝国軍の大部隊に再補足されるのも時間の問題であった。

「仕方ない、総司令部が盾となって見方を逃がす」

アルベインは決断を下す。

「我が第二特務艦隊も援護します」

そこへ、第二特務艦隊のエリザ・ウィッカム中将より通信が届いた。

「だが、ウィッカム中将!」

「私はこれまで負け続けました。ウェスタディアに負け、銀河帝国に負け……遂には祖国が滅亡しようとしている。私は、これ以上耐えることができないのです!!」

「………了解した。貴官にも加わってもらう」

ウィッカムの気持ちを汲みとったアルベインは彼女の参加を認めた。


結局、足止めに残ったのは約5500隻。
残りの20000隻はマリク・バーバラ大将の下、首都星ニューロントンへ撤退する。

猟犬の如く襲い掛かってくる帝国軍の追撃部隊相手に彼らは善戦した。
が、一隻、また一隻と脱落していき数時間後、ルフェールの足止め部隊5500隻は全艦が撃沈。文字通り全滅した。
これに対して帝国軍追撃部隊の損失・損傷艦艇は6000隻を超え、劣勢の中、彼らが如何に奮戦したかを示していた。