ハイスクールD×D ~銀白の剣士~
プロローグ
前書き
どうも、strikです。この度、このサイトでもマルチ投稿させていただくことにしました。
Side ??
「う・・・ん?」
目が覚めてあたりを見渡してみる。
前:どこまでも広がる白い空間。
後:どこまでも広がる白い空間。
右:どこまでも広がる白い空間。
左:どこまでも広がる白い空間。
上:どこまでも広がる白い空間。
下:どこまでも広がる白い空間。
真っ白だ。右を見ても左を見ても一面が白で塗りつぶされている。どうやら俺は宙を漂っているようだ
「知らない天j「そんなお約束は要らん」・・・誰!?」
天井など存在しないが、一応言っておこうと思った言葉を、いきなり聞こえた声に遮られた。後ろを振り返るとさっきまでいなかったはずなのに、そこには、髭をもっさりと蓄えた老人がいる。ぶっちゃけ、ダン〇ルドアにしか見えない。髭が足元に達しそうな長さだ。あれ、踏んでこけたりしないのかな?
「誰かと言われたら、まあ・・・神じゃな。名をミトラという」
ペルシア神話の主神ですね。わかります。神話関係はゲームの題材などでよく使われるので、意外とマイナーな神様とかも知っているのだ。
とりあえず、僕が取る方法は2つだ。
1. 黄色い救急車を呼んであげる。
2. 一応話を聴いてみる。
う~ん・・・・・・。2番だな。話を聴いてあげよう。アレな人だったら、話を聴いてから救急車を呼んであげればいいか。
「俺の名前は◆◆〇◎です・・・あれ?」
何故か名前が言えない。いや、自分としては言っているのだが、音が言葉にならない。
「ここでは、神以外は名を失うのじゃ」
へ~、そうなんだ・・・・・・。って、なんか、よくネットで読んだ二次小説と同じような展開な気がする。これはもしかするともしかするのか?
「それでその神様が、何の用でしょうか?」
「いや・・・その・・・じゃな」
妙に歯切れの悪い神様である。というか、何が言いたいかもうわかった。
「実はおぬs「あなたのミスで死んだんですね。」・・・その通りじゃ。本当にすまんかった」
見事に予想道理でした。テンプレ乙ww。
「テンプレ乙。とか言うな!」
心を読まれました。またまたテンプレ乙ww。
「じゃから・・・・・・もういいのじゃ」
どうやら神様はお疲れのようだ。←あなたのせいです。
・・・なにか変な電波を受信した気がする・・・・・・。
「それで・・・その、お主・・・怒ってない? 普通おこると思うのじゃが」
若干困惑気味に訪ねてくる神様。なんというか、ペルシア神話の主神なのに威厳が全く感じられない・・・。
「まぁ、唯一神の神様だったらぶちギレてましたけどね。あれは一人で万能なはずですから。でも、ミスラなら仕方ないですよ。あぁ、そうだ、死因はなんですか?」
冷静に考えると、純正日本人なのに出てくる神様が全く関係のないペルシア神話の神様ってどうなんだって思うが、それはスルーさせてもらおう。
「なんか・・・軽く馬鹿にされたような気がするんじゃが・・・・・・。死因は心臓麻痺じゃよ」
ちょっと落ち込んでしまった神様。まぁ、軽くスルーしよう。てか心臓麻痺ってどこのデス〇ートだよ。
「それで俺の処遇はどうなるんですか?」
「うむ。そのことなんじゃがな。こっちのミスじゃし、転生してもらおうと思っているんじゃが・・・・・・。『ハイスクールD×D』の世界に転生なんてどうじゃろ? もちろん、チートもしてあげるぞい」
う~ん・・・、『ハイスクールD×D』か・・・。まぁ・・・一応読んだことあるし、悪くないな。ただ、死亡フラグが多いからな~。でも、チートしてくれるらしいから大丈夫か。
「じゃあ、それでお願いします」
「おお、『ハイスクールD×D』かの世界でいいんじゃな。チートの方は1個だけじゃぞ? 世界観を壊すような能力はダメじゃからな。ちなみに魔力や身体能力はサービスで好きなようにしてやるぞ。性別は男じゃが容姿はわしが決めるがの。安心せい、ちゃんと神様印の容姿にしてやるからの。ちなみに、原作ブレイクもOKじゃ」
そうか。それならな・・・・・・・・。
「『fortissimo EXS』ってわかります?」
「あれじゃろ? 召喚せし者のやつじゃろ?」
言った身としてはなんだけど、何故知ってるし・・・・・・・。あれか?アカシックレコードにでも接続してるのか?
「ええ、そうです。それに出てくる鈴白なぎさの力の一式がいいです」
「それはスウァフルラーメとかのことじゃな」
「はい、他にも『白銀魔術礼装』とかも含めてです。」
「うむ。まあ、いいじゃろう。スウァフルラーメは神器扱いでやっておく。魔力や身体能力はどうするのじゃ?」
鈴白なぎさの力の一式で、それなりの魔力とかもらえるからな・・・・・。
「ほれ、早く言わんか」
「え、え~と。じゃ、じゃあ、芳野零二並みの魔力で身体能力はその世界の最高基準よりちょっと低めでお願いします」
これなら、黄金色の聖約を使っても魔力切れの心配はないだろう。身体能力も問題ない。まあ、魔力で強化すれば大抵のことは何とかなると思う。
「身体能力は最高基準じゃなくてもよいのか?」
「はい。大丈夫です」
「そうか、ならいい。それと、能力についてじゃが、『白銀魔術礼装』と『黄金色の聖約』は最初から使えるようにしておくが、『有限殺しの無限廻廊』は必要になったら発動できるようになっておる。『有限殺しの無限廻廊』が使えないうちに『黄金色の聖約』を3回使えばお主は死んでしまうので注意するようにな」
そう言って、神様は何もない空間に手をかざして、扉を作った。最初から、黄金色の聖約で無双はできないらしい。
「よし。それではこのゲート通過すれば『ハイスクールD×D』の世界じゃ。年齢は主人公と同じでいいじゃろう」
「わかりました。後、神様、容姿を変にしないでくださいよ」
「うむ。任せておくがいい」
「・・・・・・少し、不安ですが・・・・・・、よろしくお願いします」
そう言って、俺は扉を開けた。視界が光に塗りつぶされ、そこで俺の意識は途絶えた。
Side out
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Side ミスラ
さて、あやつは行ったみたいじゃな。
「さて、容姿はどうしてやろうかの~?」
ワシはとりあえず、奴の能力のもとになった資料を見ていく。
「ふむ、鈴白なぎさの力一式ということは奴は、この女子が好きなのじゃな」
少女の姿の書いてある資料を見る。そこで、ひらめくものがあった。
「そう言えば、男の娘というのが流行っておったの・・・・・・・。よし、ならばこれに決定じゃ」
ワシは、あやつの容姿を決めて、この空間から立ち去った。
Side out
第1話
Side 渚
皆さん初めまして、兵藤渚です。名前からわかるように兵藤家に転生したのです。イッセーとは双子。イッセーが兄で、僕が弟です。一人称が変わったのは、両親の強要です。神のせいで、見事な男の娘しかも、鈴白なぎさ似になってしまった俺に対し、両親は俺というと、一日中女装して過ごさせるようにしました。髪を切って短くすることもできません。見た目は女の子でも心は男なのです。女装は嫌です。したくありません。よって、一人称を変えるしかなかったのです。
「おーい! 渚~」
僕の名前を呼びながら、走ってくる人物に目を向ける。
「どうしたの? 兄さん」
みんなご存じ、僕の兄にして主人公の兵藤一誠。ちなみにクラスは別になった。まあ、イッセーは原作の通りスケベだ。ただ、僕の容姿が影響したのか、こいつは僕を男じゃなくて女と見ているような気がする。まあ、この学園の全員(一部を除く)がそうだろうが。
血縁関係は、この学校ではもっぱら嘘の扱いだ。一方はスケベな普通の男子。もう一方は、美少女にしか見えない男子。まあ、信じられないのはわかる。
ちなみに、この学園には僕専用のトイレと更衣室がある。原因は男子の「鼻血が出る」やら「男のはずなのに着替える姿が色っぽい」などの苦情?があったせいだ。まあ、正直男色の気がある人っぽいのもいたので、よかったといえばよかったのだが。
「一緒に帰ろうぜ」
「まあ、構わないよ」
周りの男子からは
「あいつ、抜け駆けしやがって」
「兵藤死ね」
の声。女子からは
「渚ちゃん、逃げて!」
「あのエロガキ・・・・」
「兵藤死ね」
の声。・・・・・・・我が兄ながら、ここまでの嫌われようは泣けてくる。
ちなみに、俺のちゃん付けは言っても直らないので諦めた。僕をくん付けで呼ぶのは一部しかいない。
そんなことで、僕は帰ろうとすると、急に腕を掴まれた。
「渚、今日は僕と剣道の約束をしていただろう? 部長さんもたまには参加してくれって言ってたし」
振り向いて、見てみるとこの学園で一番イケメンと名高い、木場祐斗だ。言い忘れていたが、僕は剣道部に所属している。去年は全国大会で優勝もした。僕は鈴白なぎさ本人とは違うので、試合で緊張して実力を出せないと言うこともなかったので優勝できたのだ。まあ、優勝してからは顧問の先生から『お前は、他のみんなと実力が離れすぎているから来なくていい』なんて言われてしまって、現在は幽霊部員のようなものだ。
『キャーーーーーーーーーーッッ!!』
女子の歓声が廊下に響き渡る。
「木場くん×渚くんのカップリングよ」!
「いいえ、もしかしたら、渚くん×木場くんかも!」
そう僕をくん付けで呼ぶのは、腐った女子の皆さんと僕をちゃんと男として見ている人だけである。後者はうれしいが、前者はちっともうれしくない。
「あ~、そうだっけ?」
木場とは、授業であった剣道の試合で勝ってしまったことと、僕が全国大会で優勝したことから、たまに試合をしてくれと頼まれるようになった。魔力を使うと気づかれるかもしれないので、四次元視は使わなかったが、それでも十分に剣筋が見えた。まあ、木場も悪魔の力を使っていないので、お互い本気でやったらどうなるか気になるところである。ちなみに木場は僕以外の剣道部員には勝っていた。
「そうだよ。約束はまもってね」
「あ~。兄さん、そういうことだから」
「ああ。(キッ」
一瞬、親の敵でも見るような目で木場を睨みつけてから、立ち去って行った。
その後、久しぶりに剣道場に行って、木場と試合をした。結果は僕の勝ち。木場が悪魔や騎士としての、力を使っていたら目で追えないかもしれないが、まだ大丈夫だろう。
Side out
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Side 祐斗
ああ、どうも。木場祐斗です。僕は今、剣道場で一人の男子と対峙している。名前は兵藤渚。外見は完璧に女の子にしか見えないが、彼の剣の腕は一流だろう。全国大会で優勝したのもうなずける。
周りには、何人もの部員が観客としている。何人かの女子部員は悶えているが放っておく。彼女たちを意識していて勝てる程、渚は弱くない。むしろ、意識していたら一瞬で負けるだろう。
「ふぅ・・・・・。それじゃあ、いくよ!」
彼女たちを意識から追い出し、駆け出して、竹刀を振るう。騎士の力は使わない。渚くん相手に使ってみたい気持ちはあるが、これはこれでいい。
「ハァ!」
僕にできる限りの速さで、振った竹刀は完璧に見切られて空気を切る。
「速い!」
おそらく初めて見る人が、驚いて声を上げているが、外野の声なんて聞いちゃいられない。
渚は、僕の攻撃を避けて、横なぎに竹刀を振るってくる。
「ヤァッ!」
僕はなんとか体をそらして、渚の竹刀を避ける。渚のスタイルはカウンター型。恐ろしいほどいい目で、攻撃を見切り相手を一撃で倒す。そういうスタイルだ。なので、僕は攻撃をしながら、一カ所にとどまらないように移動する。足を止めたら、間違いなく渚の竹刀が僕に当たるだろう。
「セァッ!」
できるだけ速く攻撃を繰り出す。上下左右考えられるだけの攻撃をするが、渚は完全に見切って体捌きだけで、僕の攻撃を避けていく。竹刀で受け止めることもしないなんて、なんという出鱈目。目で攻撃を追えることもさることながら、その目についていける身体能力も目を見張るものがある。
「面ッ!」
そして、攻撃の一瞬の停滞をついた面。僕はその隙を見事に突かれてしまった。渚の竹刀は僕の頭上数センチというところで、止まっている。
「僕の勝ち」
「・・・・・そうだね」
畜生・・・・・。結果はいつも僕の負けだ。
「それじゃあ、僕はもう帰るよ」
彼はそう言って、テキパキと防具を片づけて去っていった。
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「あら、祐斗。遅かったじゃない?」
「すみません」
あの試合の後、僕は剣道部の部長さんにお礼を言って、オカルト研究部にきていた。室内のいたるところに文字が書き込まれている。普通の人からしたらかなり変わった部屋だ。
「どうかしたの?」
出迎えてくれたのは、部長にして僕の主のリアス・グレモリー。見ると、僕以外の眷属は僧侶の一人を除き全員そろっていた。
「いえ、僕もまだまだだなと」
確かに、騎士としての力は使ってないけど、彼と僕では地力が違いすぎる。以前に悪魔の身体能力も使わないでやったことがあるが、彼は僕の初撃をカウンターで合わせ、一本を取っている。おそらく、騎士の力を使っても、ギリギリ勝てると言ったところだろう。いや、もしかしたら勝てないかもしれない。うぬぼれではなくて、僕には才能があるだろう。しかし、渚の前ではその才能は霞む。
「・・・・・・どういうことですか?」
この子は、塔城小猫ちゃん。小柄で無口な子だ。駒は戦車。
「うん。部長? 兵藤渚って知っていますか?」
「ええ、知っているわ。女の子みたいな男の子でしょう。去年は剣道の全国大会で優勝していたし、彼、有名ですもの」
どうやら、知っていたようだ。確かに、渚はいろんな意味で有名なので知っていてもおかしくはない。
「あらあら、その子がどうかしたのですか?」
この女性は、オカルト研究部副部長の姫島朱乃。ポニーテールが特徴のいつもニコニコ笑っているが実はドSな先輩だ。駒は女王。
「実は、彼と剣道で試合をしてきたんですが、結果はボロ負けでしたよ」
全員が驚いた顔で僕を見てくる。
「もちろん、騎士の力は使ってませんが使っていませんが、それでも彼は僕の竹刀を受けることはありませんでした。全部見切られて、体捌きだけで避けられたんです。地力の差、才能の差を感じました。全国大会優勝は伊達じゃないですよ」
「・・・・・・・・それは、事実なの? 駒の特性を使用しなかったということは、悪魔自体の身体能力で戦ったのでしょう?」
みんな、「驚愕」という言葉がぴったりな表情をしている。
「はい。周りに剣道部員もいましたから、間違いありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・祐斗は決して剣の腕は悪くないわ。その祐斗の剣を竹刀で受けることすらしないで、全部避けたですって・・・・・・・・」
「・・・・・・・びっくりです」
小猫ちゃん、そんな無表情で言っても説得力がないよ。
「だとしたら、その子欲しいわね」
部長が、あごに手を当てて言う。
「そうですわね、部長。いい騎士になるかと」
同意するように朱乃さんがそう言う。
「いいと思います。彼が味方になってくれるのは心強いです。それに本人は気づいてないようですが、かなりの魔力を持っているように感じます」
「本当に? だとしたら、かなりの逸材ね。」
そして、彼をどうやってこちら側に引き込むかの話し合いが始まった。
Side out
第2話
Side 渚
どうも、最近彼女ができたとか騒いでいる兄がいる兵藤渚です。名前は天野夕麻。写真を見せてもらいましたが、
(これは、どう見ても堕天使のレイナーレさんですね。わかります)
とりあえず、兄さんにはどうにかして、別れさせようとしましたが、
「羨ましいんだろ?」
と言ってこちらに聞く耳を持たない。殺されるところを助けようかとも思ったけど、下手に介入して予想外な出来事があったら困る。なので、兄さんが殺されるのはとりあえず、見逃すことにします。とりあえず兄には悪魔として転生してもらわなければいけませんから。
「それじゃあ、行ってきまーす! 渚、もしかしたら朝帰りするかもしれないからな!」
そう言って待ち合わせの時間の三時間以上前に家を出ていく我が兄。昨日から何度も歯を磨いたり、新しいパンツを穿いて行ったりと、いくら初デートとはいえこれには若干引いた。
そして、結局兄さんは悪魔として転生したらしい。らしいってのは記憶にないからだが。見事に堕天使に消されたらしい。
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Side 一誠
やあ、兵藤一誠だ。どうも、最近俺体はおかしい。朝の陽射しがやけに辛いし、朝に起きられない。逆に夜だとなんか漲ってきて、ハイテンションだ。そして、殺される夢を見る。
どうも、夜型の人間になってしまったようだ。だが、おかしい。確かに夜更かしする方だったが、深夜の一時まで起きていることはなかった。だが、いまでは、三時、四時まで余裕で起きていられる。この頃は日が昇ってくるのを確認して寝ている。
それに、夜中にダッシュしてみたら、自分でも信じられないくらいの速度が出た。ためしに、運動のできる渚と競ってみたが今まで勝てなかったのに、余裕で勝ってしまった。スタミナを切れない。しかし、昼間に走ってみたら、まったく駄目だったが。
とりあえず、朝日がキツイ。
「おーい、遅れるぞ?」
渚に手を振って返事をして走る。俺の体は夕麻ちゃんとのデートの日から変わってしまった。
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渚と別れて、教室に入って、自分の席に深く腰をおろす。
「よー、心の友よ」
「ふっ・・・・・・・、今朝は風が強かったな。おかげで、パンツが見れた」
声をかけてきたのは、丸刈りの頭をした松田と、キザな男のように格好つけているメガネの元浜だった。松田は「エロ坊主」「セクハラパパラッチ」元浜は「エロメガネ」「スリサイズスカウター」と呼ばれている俺の悪友だ。
そして、俺の机に十八禁の代物をならべ、悲鳴を上げ騒ぐ女子に「脳内で犯すぞ」と最低な発言をかます。机に広げられた物は、少し前なら俺も飛びついただろうが、最近はそんな気分になれない。
そんな俺の様子を見た悪友は、不審に思ったらしく話しかけてくる。
「あれか? 俺には彼女がいましたってやつの影響か?」
元浜がそう言ってくる。
「二人とも覚えてないのか?」
「「知らん」」
二人に聞いても、返答はいつも知らないだった。俺はこいつらに紹介したはずだが、こいつらは覚えてないという。写真を見せた渚にも聞いてみたが渚も知らないと言っていた。アドレスなどが残っていれば、よかったのだろうが一切残っておらず、まるで夕麻ちゃんが存在していなかったようだ。
そして、半ばヤケクソ気味にエロDVDを視聴することを決めた。今日は息抜きだ! とそんな風に結束した俺たちの視界に鮮やかな紅が映る。
リアス・グレモリー。三年生の先輩で北欧出身らしい。そんな先輩の碧眼が俺をとらえた時、心臓を掴み取られる感覚に襲われた。
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そして、松田の家でDVDを見て、図らずも泣きそうになりながらも、もう十時だということで解散する。
解散して数分。先ほどから体の疼きがひどい。そして、前から殺気を出す男と遭遇した。
「これは数奇なものだ。こんな都市部でもなんでもない地方の市街地で貴様のような存在に会うのだからな」
何かよくわからんことを言っている。危ないい人だろう。夜中でパワーアップしている今なら逃げれるだろう。
「逃げ腰か? 主は誰だ?」
わけわからんことを言っているが、俺は全速力で来た道を戻る。速い。自分で言うのもなんだがこれはおかしい。
十五分くらい逃げて、公園に着いたので俺は歩く。ここは夢に出てきた公園?
「逃がすと思うか? 主は誰だ?」
黒い翼?
「ふむ。答えないか。なら、お前ははぐれなのだろう。ならば殺しても問題あるまい」
男のかざした手に光が集まり、それが俺の腹を貫いた。
「ふん、これでとどめだ」
「その子に触れないでちょうだい」
紅い髪。夢の最後で出てきた赤い髪。
「紅い髪・・・・・グレモリーか」
男が憎々しげに睨みつける。そして去っていった。
助かった。そのことに安堵した俺は意識を失った。
「あら? 気絶してしまったわね。確か、あなたの自宅は・・・・」
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目を覚ます。いつもの朝だ。
「あれは、夢?」
首をかしげながら、自分の変化に気づく。
「なぜ、裸?」
パンツすら穿いてない。そういえば、家に帰ってきた記憶がない。
「・・・・うぅん」
なにやら、艶っぽい声が聞こえたので視線を移すと赤い髪の女の子。リアス・グレモリー先輩が寝ていた。
・・・・・・・・・・落ち着け。落ち着くんだ、俺。もしかして、初体験!? なんだ!? 昨日何が起こった?!
「イッセー!起きなさい! もう学校よ!」
「母さん。僕が起こしてくるよ」
「そう? じゃあ、お願い」
待て! ちょっと待て! 母さんが来るよりはいいが、この場面はまずい!
「待ってくれ! 俺なら起きてる! 今起きるから!」
「はいはい、母さんが呼んでるから急げ」
階段を上ってくる音が聞こえる。
「うーん・・・・・・。朝?」
先輩が起きた! 起きちゃったよ!
「ほら、急げ!」
ガチャ! と勢いよく扉が開かれる。渚の目には全裸の男女。渚は無言のまま携帯で写真を撮る。
―カシャッ
渚と俺の目が合う。渚は何も言わず、静かにドアを閉めた。その後ドタドタと下へ降りる音が聞こえた。
「母さん! 兄さんは昨日引っかけてきた、外国の人とよろしくするから今日は休むって!」
ちょっ!? 俺そんなこと言ってねぇぇぇぇぇぇぇっ!
「渚? 何言ってるんだ?」
「ほら、これ証拠写真!!」
「「イィィィィィィッッセェェェェェェー!!!!」」
両親の叫び声が聞こえる。家族会議決定だ。
「朝から、元気なお家ね」
先輩が場違いな感じで言った。
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朝の登校。さっきから視線が厳しい。原因は俺の両隣の二人だ。朝食時の簡易版家族会議で知ったことだが、渚の奴に「抱かれたい男の娘」という称号があるらしい。聞いたとき、おもわず羨ましくて泣きそうになった。なんなんだ、この差は! と思ったね。ちなみに、渚の撮った写真はリアス・グレモリー先輩によって削除されました。
「どうして、あんな奴が・・・」
周囲からの視線やら殺気やらがひどい。そんなに、俺が渚やグレモリー先輩と一緒にいるのが不満なのか。
「あとで使いを出すわ」
そう言って、俺たちと別れる。その後、俺は悪友たちに殴られた。大方羨ましかったのだろう。殴られた仕返しに「お前ら生のおっぱい見たことあるか?」って言ったら、二人は戦慄いていた。ちょっとだけ優越感に浸れたので満足だ。
Side out
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Side 渚
「どうも」
放課後、木場に話しかけられた。
「試合なら断る」
「それは、また今度で。今日は使いできたんだ」
「なるほど、キミも関係者か」
「そういうこと。次は君のお兄さんのところだ」
周りの女子がうるさい中、兄さんを迎えにいき、そのまま旧校舎に移動した。
「ここに部長がいるんだよ」
「ふ~ん。ここにグレモリー先輩がいるんだ」
兄さんは部長と先輩が結びつかなかったのか、首をかしげている。
木場はとある教室の前で止まった。「オカルト研究部」と書かれている。
「部長、連れてきました」
「ええ、入ってちょうだい」
部屋に入って目に付くのはよくわからない文字に中央の魔法陣。兄さんは壁の文字に目が言っているようだ。ふと、ソファに座っている子が目に入ったので挨拶をしておく。当の先輩はシャーワータイムのようだ。なぜオカルト研究部にシャワーがと思うが、ツッコまないことにする。
「はじめまして、兵藤渚です。壁の文字を見ているのが兄の一誠です」
「・・・・・・どうも、・・・・・・・・塔城小猫です。」
ふむ。無口な子みたいだが、名前は覚えてもらえただろう。
「渚!」
呼ばれた方を見ると、兄さんがグレモリー先輩たちと一緒にいた。いつの間にかシャワーから出ていたようだ。
僕がグレモリー先輩のところに行くと、先輩が話を切り出した。
「これで、全員そろったわね。イッセー、渚くん」
「は、はい」
「よろしく」
「私たち、オカルト研究部はあなたたちを歓迎するわ」
・・・・・・・・グレモリー先輩は俺が剣道部に所属しているのを知らないのだろうか? まあ、現在は幽霊部員だし、ここで話の腰を折るわけにもいかないから、黙っているけど。
「悪魔としてね」
Side out
第3話
Side 渚
「粗茶です」
「あっ、どうも」
「ありがとうございます」
ソファーに座った僕たちに、ポニーテールの姫島朱乃先輩がお茶を入れてくれた。元から知っていたのもあるが、リアス・グレモリー先輩と姫島朱乃先輩は校内で有名で人気もあるのでわかる。
「うまいです」
「たしかに、おいしい」
「あらあら、ありがとうございます」
先輩が入れてくれたお茶を飲む。家で淹れるお茶よりおいしかった。先輩はうふふ、と嬉しそうに笑っている。
テーブルを囲んで座っているのは、兄さん、僕、木場、塔城さん、グレモリー先輩。
「朱乃、あなたもこちらに座ってちょうだい」
「はい、部長」
彼女はそう言って、グレモリー先輩の隣に座った。
そして、全員の視線が僕と兄さんに集中する。
「単刀直入に言うわ、私たちは悪魔なの」
「ホントに単刀直入ですね」
兄さんは正直何を言っているのだ? と言う表情を浮かべている。まあ、いきなりこんなことを信じろと言う方が無理だろう。
「信じられないかもしれないけど、イッセー、あなたは昨夜黒い翼の男を見たでしょう?」
しかし、兄さん昨日はそんなファンタジーな目にあっていたのか。
「あれは、堕天使。神に仕えていた天使が地獄に堕ちてしまった存在。悪魔の天敵でもあるわ」
兄さんはファンタジーもここに極まる。とか考えているに違いない。
「私たち悪魔は堕天使と太古から争っているわ。冥界・・・人間で言うところの地獄の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分化しているの」
そして、天使を含めた三すくみの関係を説明される。兄さんがオカルト研究部ってそういうこと? と言っている。確かに信じられるような話ではないだろう。正直原作知識がなければ正気を疑っている自身がある。
「オカルト研究部は仮の姿よ。私の趣味。本当は私たち悪魔の集まりなの」
はい、そうですね。と兄さんは信じられまい。
「天野夕麻」
「? 誰です、その人?」
兄さんを見てみると目を見開いていた。
「あの日、あなたは天野夕麻とデートをしていたわね?」
俺は知識としては知っているが、記憶にないので黙っておく。
「・・・・・・冗談なら、ここで終えてください。正直、その話はこういう雰囲気で話したくない」
珍しく、兄さんの声に怒気が籠っていた。
「彼女は存在していたわ。確かにね」
はっきりと断言する、グレモリー先輩。僕は蚊帳の外だ。
「まあ、念入りに自分であなたの周囲にいた証拠を消したようだけれど」
グレモリー先輩が指を鳴らすと、朱乃先輩が写真を一枚取り出した。
兄さんはそこに写っていた人物を見て、言葉を失っている。僕もその写真を覗き見ると、彼女についての記憶が蘇った。
「ああ、思い出した。確かに、兄さんに彼女の写真として見せられた子だ」
「そう、渚くんは思い出せたのね。イッセー、この子よね?」
兄さんは黙ってうなずいている。
「この子は、いえ、これは堕天使。昨夜、あなたを襲った存在と同質の者よ」
グレモリー先輩は足を組み替えて、話を続ける。
「この堕天使たちはある目的があって、イッセーに接触した。そして、目的を果たしたから、自分についての記憶と記録を消したの」
「目的?」
「そう、イッセー、あなたを殺すため」
兄さんは隣で息を飲んでいる。
「なんで、兄さんが?」
「それは、今から説明するわ。イッセーは運がなかったのでしょうね。殺されない所持者もいるわけだし・・・・・・」
「運がなかったって!」
兄さんが叫ぶ。しかし、殺されたと言われたが自分が生きていることに不思議なようだ。
「さっき、所持者って言っていましたよね? 兄さんは何を所持していたんですか?」
「神器よ」
「なんですか? それは?」
僕の質問に、グレモリー先輩が答え、その答えに兄さんがさらに質問した。
「神器とは特定の人に宿る、規格外の力。歴史に名を遺した人たちはこれの所持者だと言われているんだ」
今まで口を開かなかった木場が説明する。
「現在でも体に神器を宿す人々はいるのよ。世界的に活躍している方々がいらっしゃるでしょう? あの方々の多くも体に神器を有しているのです」
木場の説明に、朱乃先輩が繋ぐ。さらにグレモリー先輩も続いた。
「大半は人間社会規模でしか機能しない弱いものばかり。ところが、中には私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器があるの。イッセー・・・・・そうね、試しに渚くんも、手を上にかざしてみて」
僕は右腕を、兄さんは左腕を上にあげる。
「じゃあ、まずはイッセーから、目を閉じてあなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」
「一番強い存在・・・・・・・。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな・・・・・・」
漫画のキャラかよ。まあ、確かに空孫悟は強かったけどさ、なんか怪しくなってきたぞ。
「それじゃあ、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」
グレモリー先輩はどうやら、あれをやらせるつもりらしい。空孫悟で思いつくのはあの技しかないからな。
「ゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がってちょうだい」
兄さんは腕を下げ、立ち上がる。
「そして、その人物の一番強く見える姿を真似るのよ。強くよ? 軽くじゃダメ」
兄さんは、かなり躊躇しながらポーズをとり始める。そして、兄さんはやった。
「ドラゴン波!」
気合の込められた兄さんのドラゴン波の掛け声とともに、左腕に赤い籠手が現れるが、僕はそれどころじゃなかった。
「ドwwwラwwwゴwwwンwww波www」
腹筋が崩壊しそうだ。腹痛い。ネタとしてやったならまだよかったけど、気合のこもったガチのドラゴン波だった。涙の滲んだ目で見ると、兄さんは顔を赤くしていた。恥ずかしいらしい。周りの人たちも肩を震わせていた。必死に笑いをこらえているらしい。
「はぁー、はぁー、はぁー」
「ようやく、息が整ったみたいね。次はあなたの番よ」
兄さんは僕に盛大に笑われたのが、悔しいのかニヤニヤしながらこちらを見ている。
「さて、俺の弟の考える最強の存在はなんなのかな?」
兄さんの顔が完璧に悪役の顔になっているよ。
とりあえず、グレモリー先輩が言っていたことを、思い出しながらポーズをとる。
(イメージするのは常に最強の自分・・・・・・)
某赤い弓兵さんの発言を思い出しながら、僕の原型である彼女だけの必殺の構えを取った。
右足を前にだして腰を落とし、右肩を突き出すように上半身を捻る、手に剣を持っているイメージをし、目を閉じる。
集中して、それが最大限に高まったと同時に目を開いて、握っている剣を一閃する瞬間に心の中で、こう唱えた。
(魔術兵装!)
「ハァッ!!」
上半身を捻って、剣を振り切る。その状態で止まっていると、光が集まって、重厚な剣になった。よく見ると、ペンダントもついている。
それと、同時に僕の体から何かが湧き上がってきた。
「・・・・・・すごい」
「うん。これは驚いた」
塔城さんと木場がそう言う。兄さんはよくわからないようだ。
「あらあら、これは」
朱乃先輩は片手を頬に当てて、驚いていた。
「どうしたんですか?」
兄さんがグレモリー先輩に聞いている。
「彼の魔力の量が桁違いなの。これは、魔王に匹敵・・・・いえ、たぶん魔王以上の魔力量だわ。私たちの誰よりも多いのよ。(祐斗から眠っている魔力の量はかなりあるとは聞いていたけど、これほど膨大な量だなんて・・・・・・)」
初めて、神器を出したので、ちょっと感動だ。人目につかないところで発動しようかと思ったこともあったが、神器を出して、天使や悪魔、それに堕天使の目に留まるかもしれないと思って自重していたのだ。
「ただ、渚の神器ははずれね。それは本で見たけど鞘に収まりし魔剣といって、扱いきれない代物らしいわ。歴代の所持者は誰も鞘から剣を抜けなかったみたいだし、しかも、重いし鞘に収まっているから切れないみたいね。それに、特に能力もないみたいだし、剣として使えない欠陥神器よ」
「確かに、これは鈍器といった感じですね」
兄さんが鞘に収まりし魔剣を見た感想を言う。しかし、あの神様は鞘に収まりし魔剣にそんな設定をつけていたのか・・・・・・。確かに、鞘から抜いてこそ真価を発揮する神器で、一応は神様が僕のために用意した代物だ。他の人には使えないのもうなずける。
「まあ、いいわ。それがあなたたちの神器よ。あとはあなたの意志で発動できるわ。ところであなたのあの構えはなんなの?」
「あれはオリジナルですよ。木場は僕と試合をしたからわかるだろうけど、僕の目のよさは知ってるだろ?」
「まあね。君は僕の竹刀を完璧に見切っていたし、後の先でしょ?」
「そう言うことです。そんな訳で、僕は一撃必殺のカウンターが得意なんだ。で、あの構えが僕の見出した必殺の構えってこと。つまり、僕の中の最強だったからあの構えをしたってこと」
さっきも言ったが、某赤い弓兵の言うとおり、『イメージするのは常に最強の自分』ってこと。僕は説明を終えて、再びソファーに座る。グレモリー先輩が話を続けた。
「それでイッセーは、神器を持っていたから殺された。渚くんには気づかなかったみたいだけどね。そして、私はあなたを悪魔として転生させたの」
バッ! と僕以外の全員に蝙蝠のような翼が生えた。兄さんは自分の翼に驚いている。
「改めて、紹介するわね。祐斗」
木場が僕たちに向かって笑う。
「僕は木場祐斗。同じ二年生で、悪魔です」
「・・・・・・・一年生。・・・・・・・・塔城小猫です。よろしくお願いします。・・・・・・悪魔です。」
小さく頭を下げている塔城さん。
「三年生の、姫島朱乃ですわ。副部長をやっています。これでも悪魔ですわ。うふふ」
礼儀正しく、頭を下げる。姫島朱乃先輩。
「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセーに渚くん」
堂々と言うグレモリー先輩。
「すみません、僕は悪魔ではないんですけど・・・・・・・」
空気を読んでないかもしれないが、ここは重要だ。
「それは・・・・・」
グレモリー先輩は一旦言葉を切る。
「よかったら、あなたも悪魔にならない?」
グレモリー先輩は懐から、幾つかの駒を取り出した。
Side out
第4話
Side 渚
結局、僕は悪魔になるとこはなかった。相性のいい駒であろう騎士の駒では数が足りず、グレモリー先輩の持っている他の駒ではだめだった。
「眷属にはできなかったけど、これからよろしくね。私のことはリアスでいいわ。渚くん・・・・・・ナギと呼んでもいいかしら」
「構いませんよ。リアス先輩」
ほかの部員もそう呼んでいいかと聞いてきたので、了承しておく。
そして、兄さんはオカルト研究部に入部し、僕は剣道部と掛け持ちすることになった。まあ、あまり剣道部にはいかないので構わないと言えば構わない。
そして今、僕たちは風を切っている。朱乃先輩に簡単な魔力の操作方法を教えてもらって、魔力を体に帯びさせ、瞬間的に放出。それを連続して、その推進力で兄さんの自転車に並走していて、兄さんのチラシ配りに付き合っているのだ。これを見た朱乃先輩は「魔力放出」とか言っていた。
「ほら、兄さん! 速く、速く!」
自転車をこいでいる兄さんに声をかける。
「なんで、自転車の俺より速いんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
今の僕は走っているというより、跳んでいる状態に近い。一歩一歩のストロークが大きいのだ。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 仕方ないよな! 仕方ないもんな! 俺、悪魔だもーん!」
兄さんが意味不明な絶叫をしている。近所迷惑なので速攻で黙らせた。
なぜ、兄さんがこんなに必死になっているのかというと、それはあの日に遡らなければいけない。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「じゃ、じゃあ! やり方次第では俺も爵位を!?」
「ええ。不可能じゃないわ。もちろん、それ相応の努力と年月がかかるでしょうけど」
「マジか! 俺が! 俺がハーレムを作れる!? エ、エッチなこともしていいんですよね!?」
「そうね。あなたの下僕にならいいんじゃないかしら」
リアス先輩を兄さんのやり取り。兄さんのあまりの発言に膝をついてorzになってしまった。僕はおかしくないだろう。そして姫島先輩と塔城さんが、ポンと僕の肩を叩いた。
「元気出してください」
「・・・・・いいことありますよ」
二人は慰めようとしてくれるが、僕にはその優しさが痛かった。木場は苦笑いしている。身内の恥を思い切り、晒している状態だ。
「ハーレム王に俺はなるッ!」
僕は止めを刺された気分だった。あの時は、もう泣きそうだった。目の前が涙で見えなかったのだから。
「・・・・・・・・きっといい事あります」
「ええ、その通りですわ」
「ありがとうございます。塔城さん、姫島先輩」
慰めてくれた二人に、顔を上げてお礼を言う。
「私のことは、朱乃でいいですわ」
「・・・・・・私も小猫でいいです」
二人とも顔が赤くなっていた。・・・・・・風邪だろうか?
「わかりました。朱乃先輩と小猫ちゃんですね」
正直ダメージは抜けないが、なんとか立ち上がる。まだ、涙目だ。その時に木場が手を貸してくれた。木場は、
「君も苦労してるんだね。僕のことは祐斗でいいから」
と語っていた。木場、いや祐斗はいいやつだな・・・・・・・・。そして、祐斗も苦労しているらしい、確かに女子の中に男子が一人じゃ大変だろう。
そこで、リアス先輩と兄さんが来る。僕の顔を見て、グレモリー先輩の顔が赤くなっていた。
「・・・・・・・・イッセー? あなたの弟は本当に男なのかしら?」
「俺も・・・・・・最近自信がなくなってきました・・・・・・・・・・・」
女にしか見えないのはわかっているが、面と向かって言われると結構くるものがある。僕は部室の隅に移動して、体育座りで座る。また涙が溢れ出てきたのだ。
元凶の二人は、他の人(悪魔)から責めるような目で見られていた。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
まあ、最後の方は余計だったが、そんなことがあったのだ。なので、兄さんはハーレム目指して頑張っているのだ。そして、数日後・・・・・・・・・・。
「今回はあなたに仕事を任せてみようと思うわ」
チラシ配りが終わり、ようやく仕事がもらえるようだ。
どうやら、小猫ちゃんへの依頼の代わりに兄さんが行くらしい。それも、魔法陣から依頼人のもとへ、瞬間移動するようで、今回僕はお留守番だ。
「それじゃあ、いってらっしゃい!」
魔法陣から光があふれ、兄さんの体を覆う。そして、光が収まった後には――――
「リアス先輩。兄さん、まだいますよ?」
兄さんも困惑した表情で先輩を見ている。先輩は額に手を当て、困り顔。朱乃先輩はあらあらと残念な表情。木場は溜息をついていた。
リアス先輩の説明している。どうやら、兄さんには魔力が悪魔の子供以下の量しかないらしい。僕は魔力が桁違いに多いので、兄さんにもそれなりの量があると思っていたようだが、違うようだ。
「こwwwどwwwもwww以www下www」
僕は大爆笑。ドラゴン波よりもクリティカルヒットした。
「・・・・・・・無様。ナギ先輩の搾りかすですね」
小猫ちゃんは痛烈な口撃。小猫ちゃん? 兄さんが泣いちゃうよ?
「あらあら、困りましたわね」
困り顔の朱乃先輩。
結局、足で行くことになった兄さん。足で行くならと僕もついていくことにした。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁん! がんばりますぅぅぅぅぅ!」
兄さんは涙を流しながら、走り出した。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 一誠
俺は今、依頼人の森沢さんの家にいる。魔法陣から出れないので、最初は変態扱いされたが、俺が泣いているのを見て入れてくれた。
「そうかい。魔法陣から出ていけないんで、ショックを受けたのか・・・・・・」
「みたいです」
不健康そうな見た目だが、部屋の中は小奇麗だ。職業は公務員らしい。人との触れ合いに飢えていたそうで、つい悪魔召喚をしてしまったようだ。
「小猫ちゃんじゃないんだね・・・・・。ところでそっちのかわいい女の子は?」
渚に聞いているらしい。
「僕は、ただの付き添いの人間です。兄さんが面白――いえ、何か変なことをしないか心配で。ちなみに、僕は『男』です」
今、渚面白いって言おうとしてなかったか? そして男を強調しすぎだ。
「ああ、そう・・・・・って男の娘だと・・・・・・」
悪魔の付き添いの人間って・・・・・・と言う目でこちらを見た後、驚いたような感じの森沢さん。
「ところで、ぼ、僕はかわいい系のお願いをチラシに願ったんだけど・・・・・」
「俺もかわいい新人悪魔ってことで、一つ納得してくれませんかね?」
「ハハハ! 無茶言うね、キミ! そこの男の娘ならまだ許すけど、キミだったら、もしここに祝福儀礼された銀造りの剣でもあったら切りかかっているよ!」
「なら、これをどうぞ。銀造りでも祝福儀礼もされてはないですが、剣の重さで潰せますよ」
渚は、鞘に覆われたあの剣を取り出して、森沢さんに渡そうとしていた。
「気が利くじゃないか!」
(な、渚ァァァ! お前! 何渡してるんだよ!?)
「ん! ふん! ・・・・・・ダメだ。重すぎて使えない・・・・・諦めるよ」
「そうですか」
森沢さんは重くて剣を持ち上げられないようだ。なので、渚は剣を消す。
(助かったァァァァァ!)
「と、ところで、小猫ちゃんに何をお願いするつもりだったんですか?」
ここで話を変えなければ、まずい。俺は何とか話題を変えようとする。
「これを着てもらいたかったんだ」
そう言って取り出したのは、アニメ暑宮アキノシリーズに出てきた、短門キユの制服だった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
森沢さんが取り出したのは、女子制服だった。話を聞くと、アニメの制服らしい。僕は見ていないのでまったくわからない。
「ところで、悪魔くん、君は短門が好きかい?」
「いえ、どちらかというと俺は夜水可子派です」
「理由は?」
「おっぱいです」
「――ッ」
兄さんの迷いない一言。あまりの迷いのなさに森沢さんは言葉を失っている。
「巨乳派かい?」
「はい、おっぱいには夢が詰まっている。これは断言できる」
兄さんはリアス先輩の胸のことでも思い出しているのだろう。すいません、お巡りさん! 変態がここに一人います。
「いい目をしてるね。おっぱいに並々ならぬ熱意を感じる。なるほど、僕とは真逆の性癖のようだね。僕はね、貧乳が好きなんだ。あと、男の娘が大好物でね」
はぁはぁとこっちを見ながら息を荒げている森沢さん。ここに変態は二人いた。いや、別に僕は人の趣向をどうこう言うつもりはない。ただ、こいつらはいきすぎだ。
「小猫ちゃんは短門に似ているだろう? 雰囲気とか。背は少しばかり足りないけど」
そうなのか? 僕にはわからないけど。
「だからこそ、これを着てほしかった。着てほしかったんだよッッ!」
森沢さんが悔し涙を流している。よほど着てほしいのだろうが、ここまでいくとドン引きだ。そして、兄さんは空気を読んだつもりなのかバカな発言をした。
「すみません。わかりました、俺が着ましょう―――」
「殺すぞ、この野郎!」
号泣しながら叫ぶ森沢さん。一度深呼吸をして涙を拭うと、こちらを見て言った。
「そうだ! キミが着てくれないか?」
「は?」
突然、話を振られて困惑する僕。
「頼む!」
まさかの土下座。兄さんも「ここまでしてるんだからやってやれよ」的な視線で見てくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました」
しぶしぶ、了承する。
「本当かいッ!」
「ええ、ただしッ! お金を要求します。見るだけなら三千円。写真は焼き増ししないことを約束して一枚五千円です」
嫌な女装をするんだ! 金くらい貰わないと誰がやるかッ!
「いいだろう!」
「あれ? もしかして俺、契約成立した?」
「兄さん、これは僕と森沢さんの契約。兄さんは関係ない」
「う、嘘ッ!?」
「ホント。それじゃあ、着替えてくる」
=数分後=
「こ、これは・・・・・・・」
「予想以上だよ、キミ!」
渡された制服は小猫ちゃん用なので、制服がかなり小さい。丈はギリギリでお腹が見えそうだし、スカートも短いのでパンツ(トランクス)が見えそうだ。
「クソッ! これでおっぱいが大きかったら!」
突然、叫びだす兄さん。
「何を言っているんだ!? おっぱいは小さい方がいいに決まってるだろう!! よって彼女はこれでいいんだ! いや、彼か! 男の娘ですね! 男の娘、サイッコォォォォォォォッ!」
それに張り合う森沢さん。そして今、僕を完全に女扱いした。後、男の娘扱いになって、叫びだした。正直、思わず手が出そうになった自分を抑えたことを褒めたい。
「わかってない! わかってないよ! おっぱいは大きいのが正義なんだ!! それに男の娘のなにがいいんだ!! 奴らは外見は女の子だがチ○コついてんだぞ!?」
「違うッ! おっぱいは小さいのが正義なんだ!! それにしても、男の娘の良さが理解できないなんて、キミもまだまだだね」
僕を蚊帳の外に、二人は身振り手振りを交え、盛り上がっていく。そして、森沢さんから距離を取る。貞操の危機を感じた。
「どうしても、譲れないんですね・・・・・」
「キミこそ・・・・なぜ、おっぱいは小さい方がいい事が理解できない?」
ぶつかり合う変態。この展開についていけず、蚊帳の外の僕。
「ならば、戦うしかない! 己の信念の為に!!」
「ええ、俺も負けません! 俺の煩悩にかけて」
・・・・・・・・・・・・僕はいつまで、この格好でいればいいのだろう? 僕はどうしたらいい・・・・・・・・?
僕は呆然としているしかなかった。
Side out
第5話
Side渚
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
依頼があった次に日の放課後。リアス先輩はどうやら怒っているようだ。無言で黙り込んでいる。
結局、兄さんは依頼人の森沢さんと一晩おっぱいと男の娘について語り合っていただけだった。僕は、臨時収入を得ることができてうれしかった。僕の懐は温かい。しかし、もう二度と森沢さんの家には行きたくない。
そして、兄さんと僕はリアス先輩の前に立っている。
「前代未聞だよ」
と祐斗が言っていたからな・・・・・・。
「イッセー、ナギ」
「はい!」
「はい」
低い声音のリアス先輩。
「依頼人と胸のことと男の娘について語り合って、それからどうしたのかしら? 契約は?」
兄さんの方を見ると、汗をダラダラ出ていた。
「け、契約は破談です・・・・・。あ、朝まで依頼人の森沢さんとおっぱいと男の娘について語り合い、写真撮影をしていました!」
「写真撮影?」
「それは、僕が」
リアス先輩と兄さんの話に割って入る。
「じゃあ、ナギ・・・・。説明してちょうだい」
「わかりました・・・・・・。まず、依頼人の森沢さんは小猫ちゃんにとあるアニメの制服を着てもらいたかったらしいのですが、行ったのは兄さんでした。もちろん着れるわけありません。そこで、代わりに森沢さんが僕に着てくれと、土下座して頼み込んだのでお金を払うならという契約で着たんです。そして、兄さんが「おっぱいが大きかったら!」と言って、それに反応した依頼主が契約そっちのけでおっぱいと男の娘について話し合い、写真撮影が始まった・・・・・・というわけです」
「ようするにコスプレ撮影会をしていたの?」
リアス先輩の顔が引きつってるように見える。仕方ないだろう、契約を取りに行った悪魔が契約もせずについて行った人間とコスプレ撮影会を繰り広げていたのだから・・・・。
「は、はい! 渚は短門キユのコスプレをしました! 個人的に胸が大きかったらもっと良かったです!」
兄さん・・・・・それは言わなくてもいいんじゃない? 小猫ちゃんの目が生ごみを見るような目だよ?
「申し訳ありませんでした! 自分でも恥ずかしいと思います! 反省しています!」
まったくだ。弟に女装させて、目的を忘れるなんて。しかも兄さんも写真を撮っていた。
「・・・・・契約後、あのチラシにアンケートを書いてもらっているんだけど、依頼人は「楽しかったです。こんなに楽しかったのは初めてです。主義が違ってもわかり合えるんですね。イッセーくんとはまた会いたいです。次はいい契約をしたいと思います。・・・・・・最後に聞きたいんですが、イッセー君を呼ぶと渚ちゃんも来てくれるんでしょうか?」ですって。これが依頼人からのアンケートの答えよ」
兄さんはおっぱいについて話しただけなのに、えらい高評価だな・・・・・・・・。まあ、身の危険を感じるから森沢さんの家にはもう行かないけど。
「こんなアンケートは初めてだわ。ちょっと、私もどうしたらいいのかわからなかったの。だから、少し反応に困ってしかめっ面になっていたのでしょうね」
おっぱいと男の娘について話しただけなのに、この評価だからな。わかります。
「悪魔にとって大切なことは召喚してくれた人間との確実な契約よ。そして代価をもらう。そうやって悪魔は長い間存在してきたの。・・・・・・・今回のことは、私も初めてでどうしたらいいかわからないわ。悪魔としては失格なんでしょけど、依頼人は喜んでくれた・・・・・・」
困惑顔のリアス先輩だったが、ふと笑みを漏らした。
「でも面白いわ。それだけは確実ね。イッセー、あなたは前代未聞尽くめだけれど、とても面白いわ。意外性ナンバー1の悪魔かもしれないわね。けれど、基本のことは守ってね。依頼人と契約を結び、願いを叶え、代価をもらう。いいわね?」
「はい! がんばります!」
「あと、ナギの女装写真を見せてくれないかしら?」
「はい!」
兄さんが携帯で撮った僕の女装写真を見せる。
「「「「こ・・・・・これは・・・・・」」」」
ついでと言わんばかりに、部員の全員が僕の女装写真を見る。全員の顔が赤かった。
「な、ナギ? 私もお金払うから女装してもらえないかしら?」
いい雰囲気で終わりそうだったのに、リアス先輩の一言により最後の最後で台無しになった・・・・・・・・・。
結局、僕のコスプレ撮影は実施された。かなり際どい衣装(どこにあったのだ?)などもあり、終始涙目の僕だった。しかも、涙目になったことによって、さらに顔が赤くなっていた。なんだか穢された気がするが、懐がとてもとても温かくなったので、我慢することにした。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
次の日。
「兄さん、昨日の依頼人はすごかったね」
「あれはすごいで、すませられるか!」
兄さんの次の依頼人は、ゴスロリ衣装を着た筋骨隆々な男、ミルたんだった。ゴスロリ衣装も衝撃的だったが、ネコミミに語尾の「にょ」。あれは、すさまじい存在感と威圧感だった。
そんなミルたんの依頼内容は「魔法少女にしてください」だったので、朱乃先輩に教えてもらった、初心者用の魔力の操作方法を教えてあげた。それにミルたんは感激して、コスプレ衣装を僕にくれた。その後、衣装に着替えてくると兄さんはミルたんと一緒にアニメを見ていた。まあ、結局契約は破談だった。評価はまた高かったが・・・・・・。ちなみにだが、ミルたんは一般人より少し多めの魔力量だった。言わずもがな、兄さんよりも多い。
それにしても、兄さんには一風変わった依頼人が来るようだ。木場は美人のお姉さんに呼ばれる確率が高いらしい。
「それじゃあ、兄さん」
「おう、また後でな」
表向きの部活を終えて、僕は兄さんと別れた。本屋に寄りたいからである。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「二度と教会に近づいちゃだめよ」
その日の夜。兄さんに向かってリアス先輩が言った。
詳しく話を聞いてみると、僕と別れた後にシスターさんあったらしく、教会に案内したらしい。かなり危ない状況だったとか。おそらくそのシスターはアーシア・アルジェントだろう。
「ごめんなさい。少し熱くなりすぎたわ。とにかく、今後は気をつけてちょうだい」
「はい」
「あらあら。お説教は終わりましたか?」
「おわっ」
音もなく兄さんの後ろに忍び寄っていた朱乃先輩に驚く兄さん。朱乃先輩はいつも通りのニコニコ顔。驚いた兄さんを見て思わず笑ってしまう。
「朱乃、どうかしたの?」
「大公から討伐の依頼が届きましたわ」
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「町はずれにやってきました」
「? 渚?」
「なんでもない」
ここに、はぐれ悪魔とかいう存在がいて、人間を食らっているそうだ。はぐれ悪魔というのは、ようは野良犬らしい。主人を裏切ったり、または主人を殺した悪魔のことだそうだ。
「・・・・・・・・血の匂い」
小猫ちゃんが袖で鼻を覆う。戦うのは祐斗、小猫ちゃん、朱乃先輩、リアス先輩で、僕と兄さんは見学だ。しかし、敵意と殺意があちらこちらに満ちていて、居心地が悪い。兄さんは足がガクガクと震えている。
「イッセー、ナギ。戦闘をよく見ていなさい。ついでに下僕の特性も教えてあげるわ」
「下僕の特性?」
兄さんがリアス先輩に聞く。リアス先輩は悪魔の歴史を含めて説明をしている。
話をまとめると、悪魔は大戦で数が減ったので、人間を悪魔と転生させる。それは少数精鋭の制度を取っていて、それが「悪魔の駒」と言われるもので、チェスの駒と同じだそうだ。そして、優秀な下僕は主人のステータスとなるらしい。
「私はまだ、成熟した悪魔ではないから、公式な大会などには出場できないの。ゲームをするとしてもいろいろな条件をクリアしないとプレイできないわ。つまり、当分はイッセーやここにいる私の下僕がゲームをすることはないってことね」
「部長、俺の駒の役割はなんですか?」
「そうね―――イッセーは」
兄さんの質問に、リアス先輩が答えようとしたがやめた。何かが近づいてきている。
「不味そうな匂いがするぞ? でもうまそうな匂いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」
「はぐれ悪魔バイザー。あなたを消滅させにきたわ」
出てきたのは、上半身裸の女性に獣の下半身をした悪魔だった。これは視覚的にきつい。
「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「こざかしいぃぃぃぃぃ! 小娘ごときがぁぁぁ! その紅の髪のように、お前の身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁぁ!」
吠える悪魔相手にリアス先輩は、鼻で笑うだけだった。
「祐斗!」
「はい!」
祐斗が駆けだす。僕との試合の時なんかより断然速い。
「祐斗の役割は「騎士」、特性はスピードよ」
祐斗は徐々に攻撃の速度を上げていく。兄さんは目で追えないだろうが、僕はまだ目で追えた。はぐれ悪魔も持っている槍で攻撃するが、全く当たる気配がない。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
接近して、はぐれ悪魔の両腕を切り飛ばす。血が噴き出していた。
「次は小猫。あの子の駒は『戦車』。戦車の特性は怪力を屈強な防御力」
いつの間にか、はぐれ悪魔の足元に移動していた小猫ちゃん。
「小虫めぇぇぇぇぇぇぇ!」
はぐれ悪魔は足で踏みつぶそうとするが、足は受け止められ、徐々に持ち上げられていく。足をどかした小猫ちゃんは、ジャンプして、はぐれ悪魔の腹を殴った。
「・・・・・・・ふっ飛べ」
かなりの大きさを持ったはぐれ悪魔が、後方へ大きく吹き飛ぶ。
「最後に朱乃ね」
「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」
ゆっくりと倒れているはぐれ悪魔のもとへ歩く朱乃先輩。
「朱乃は『女王』。『兵士』、『騎士』、『僧侶《ビショップ》』、『戦車《ルーク》』、すべての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」
「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・」
朱乃先輩を睨みつけるはぐれ悪魔。
「あらあら、まだ元気みたいですわね?」
そう言って、雷がはぐれ悪魔に落ちる。悲鳴を上げるはぐれ悪魔。
「あらあら、まだ元気そうですね?」
再び、雷を落とす。感電するはぐれ悪魔。それにもかかわらず、朱乃先輩はまた雷を落とした。
「グァァァァァァァァァ!!」
よく見ると、朱乃先輩は笑っているようだ。楽しんでいるのだろう。
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。そして彼女は究極のSよ」
兄さんは怯えているようだ。確かにあれは怖い。
「オホホホホホホホホホ!」
・・・・・高笑いしている朱乃先輩。数分間朱乃先輩の攻撃は続いた。少しはぐれ悪魔。に同情する。
「最後に言い残すことはあるかしら?」
リアス先輩が、近づいてはぐれ悪魔に聞いた。
「殺せ」
「そう、なら消し飛びなさい」
冷徹な声でそう言って、リアス先輩は魔力の塊を打ち出す。魔力ははぐれ悪魔を包み込んだ。そして完全に魔力が消えると、はぐれ悪魔の姿もそこにはなかった。
「終わりね。みんな、ご苦労様」
いつもの雰囲気に戻る部員たち。
「そう言えば、部長・・・・」
解散する前に兄さんが、リアス先輩に声をかける。
「なにかしら?」
「俺の駒ってなんですか?」
そう言えば、聞いたことがなかったな。僕を悪魔にしようとしたときは『騎士』、『僧侶《ビショップ》』、『戦車《ルーク》』の駒しかなかったし。おそらく原作通り『兵士』全部で転生だろう。
「『兵士』よ。イッセーは『兵士』なの」
「い、一番下っ端・・・・・・」
兄さんはorzとなった。
Side out
第6話
Side 一誠
「はあ・・・・・・出世街道は遠いな」
俺は自室でつぶやく。俺の下僕としての役割は兵士。
「一番下っ端じゃないか・・・・・・」
もし、渚が悪魔になったらどうだろう? 部長に聞いてみたが、渚は今ある駒では下僕にできないらしい。一番相性のいい騎士の駒も数が足りないらしい。あいつが悪魔になったらあっという間に、抜かれてしまいそうだ。そんなことを渚に言ったら、
『僕が悪魔に転生しないか? って言われた時、兵士の駒はなかったんだ』
あいつは微笑みながらそう言ってきた。・・・・・何が言いたかったのかは、いまいちわからなかったけど、励まそうとしている感じはあったので、たぶんいい事だろう。それにしても、あいつの微笑みはヤバイ。思わず赤面するところだったからな。ホント、双子なのに似てないことで・・・・・・。遺伝子はいったいどんな仕事をしたんだろう?
「あーあ、俺、最弱の兵士です。いいとこなしですが、爵位持ちになれますかね・・・・・・? えぇと、魔王様でいいのかな? って魔王様に相談しても仕方ないか」
思わず苦笑い。目標を立てよう。うん、そうしよう。
「まずは、魔法陣からジャンプすること!」
よし。最初の目標決定だな。なんか気合入っていた。いつまでも、自転車で移動するのは面倒だからな!
「よし! がんばるぞ、俺! やるぞ、俺!」
「兄さん、うるさい! それとそろそろ時間だよ」
・・・・・・・怒られてしまった。まあ、それはいい。とりあえず、悪魔に活動時刻となった。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
深夜、自転車を飛ばして訪れたのは一軒家だ。今日は渚はいない。部長と朱乃さんに魔術を教えてもらうそうだ。渚には俺と違って有り余るほどの魔力があるらしいので、有効活用するつもりらしい。正直羨ましいです。
しかし今回の依頼人は、家族とかに見つかる心配とかしてないのかね? 一軒家で一人暮らしはないだろうし。まあ、まずは呼び鈴を――――
「あれ? 開いている?」
押そうとすると、玄関のドアが開いているのに気付いた。
(不用心だな。――――ッ)
得体のしれない不安が俺を襲うが、俺は玄関から中を覗き込み、家の中を見る。廊下の電気はついておらず、二階への階段もあるがこちらも電気はついていない。一階の一番奥の部屋にだけ淡い光がついていた。
(おかしい。人気が感じられない・・・・・。寝ているのか? でもそれだったらこの空気はなんだ?)
玄関で靴を脱いで、その靴を手に持ち、廊下を進む。目標は、一番奥の部屋。抜き足差し足で奥の部屋に辿り着く。ドアから顔を覗かせて、部屋を見ると光の正体はロウソクだとわかった。
「ちわース。グレモリー様の使い魔ですけど・・・・・・・。依頼人はいらっしゃいますか?」
返事はない。仕方ないので部屋の中へ踏み込む。ソファー、テレビ、テーブルなどが置いてある。どうやらリビングのようだ。俺はゆっくりと部屋を見渡す。
(ん? あれは・・・・・)
ふと、壁に視線を移すと男の死体が上下逆さまで張り付けられていた。傷口から内臓らしきものも零れて―――――
「おぉうぇぇぇ」
俺はその場で吐いてしまった。生憎、今までこんな姿の死体を見るような経験はない。我慢などできなかった。こんな殺し方は常人の神経では無理だ。さらによく見ると、壁になにか書いてある。
「な、なんだ、これ・・・・・?」
「『悪いことする人はおしおきよ!』って、聖なる言葉を借りたものさ」
突然、俺の後ろから若い男の声がする。振り向くと、白髪の男がいた。若い。外国の人で、十代くらいじゃないか? 服装は神父っぽい。ついでに美少年だ。クソがッ!
その神父は俺を見るなり、ニンマリと笑う。
「んーんー。これは、これは、悪魔くんではあーりませんかー」
何故だか、実にうれしそうだ。
先日の部長の言葉を思い出す。教会関係者にはかかわってはダメって言っていたはずだ。目の前にいる少年は格好からして神父だろう。俺のことを悪魔と認識しているし、これはもしかしてピンチ?
「俺は神父♪ 少年神父♪ デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が嘲笑う~♪ お前ら、悪魔の首刎ねて~、俺はおまんまもらうのさ~♪」
神父が歌い出す。なんなんだ、こいつ! 訳がわからんぞ!?
「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している末端でございますですよ」
神父が名乗るが、俺には名乗らなくていいと言う。出会ったことのないタイプだ。言動もメチャクチャだぞ。だが、とりあえず、こいつには聞きたいことがある。
「おい、おまえか? この人を殺したのは?」
「イエスイエス。俺が殺しちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしぃ、殺すしかないっしょ」
な、なんだそりゃ!
「あんれ? 驚いてるの? 逃げないの?おかしいねぇ、変だねぇ。つーかね、悪魔と取り引きするなんて人間としえ最低レベル、クズ街道まっしぐらっスよ。」
その辺理解できまでかねぇ。と続けるフリードとかいう神父。ダメだ、こいつ! 話にならねぇ!
「もういいかな、かな? いいですね? 了解です。今から光に刃を突き立てちゃいます!」
神父が駆けだしながら、光の剣で俺を攻撃してくる。俺はすんでのところでそれを躱すが、足に激痛が走る。
神父を見ると片手に拳銃が握られ、そこから煙が出ていた。
「ぐあぁぁ!」
呻きながら膝をつく。この痛みは覚えている。光の痛みだ。
「死ね死ね悪魔! 死ね悪魔! 塵になって、宙を舞え!」
笑いながら俺に止めを刺そうとしてくる。
「やめてください!」
聞き覚えのある声がした。視線だけを向けると俺の知っている子だった。
「アーシア!」
俺が教会まで連れて行った金髪のシスターがそこにいた。
「おんやぁ? なんのつもりかな、アーシアちゃん?」
「! い、いやぁぁぁぁぁ!」
壁に打ち付けられている死体を見て悲鳴を上げるアーシア。
「かわいい悲鳴ありがとう! この手の死体を見るのは初めてですかねぇ。悪魔に魅入られた人間はそうやって死んでもらうのですよぉ」
「そ、そんな・・・・」
ふいに彼女の視線が俺をとらえた。
「フリード神父・・・・・・その人は?」
「人? 違う、違うこいつはクソ悪魔さ」
「―――っ。イッセーさんが・・・・・悪魔・・・・・?」
その事実にショックだったのか、言葉を失っている。
・・・・・・・・知られたくなかった。あのままでよかったんだ。知らないままでよかった。俺は二度と会うつもりなんてなかったのに・・・・・。
「なになに? キミら知り合い? もしかして、悪魔とシスターの許されざる恋とか?」
面白そうに言う神父。こいつは俺たちを交互に見ていた。
「アハハ! 人間と悪魔は相いれません! 特に教会関係者と悪魔ってのは天敵だ! まあいいや、とにかく俺はこの悪魔を殺せればぁ」
まずい、このままじゃ殺される。そう思うと俺と神父の間にアーシアが割り込んだ。
「おいおい、マジですかー。アーシアたん、キミ、なにしてるかわかってる?」
「はい。・・・・・フリード神父、お願いです。この方を許してください」
その一言に俺は声を詰まらせる。
「なにを言ってやがりますかぁ? 悪魔はクソだって教会で習ったろろうがぁ!」
フリードはキレている。
「悪魔にだっていい人はいます」
「いねぇよ! バァァァァァァカ!」
神父がアーシアを殴る。アーシアは床に転がった。
「堕天使の姉さんからはキミを殺さないように言われてるけど、ちょっとムカつきマックスざんすよ」
「おい、アーシア!」
神父は倒れたアーシアを一瞥し、再度、俺に光の剣を向けてくる。
「庇ってくれた女の子を前にして、逃げらんねぇよな。よっしゃ、こい!」
俺が勝てる見込みは少ないが、女の子を置いて逃げられるわけがない!
「え? え? マジ? マジ? 俺と戦うの? 死んじゃ――ウゲラッ!」
ガシャン! というガラスが砕ける音とともに、喋っている最中の神父が、突然吹き飛んだ。何事かと思ってみると、そこにはよく見慣れた、黒髪のポニーテールが揺れていた。
「助けに来たよ、兄さん。それと女の子を見捨てないなんて、なかなか、カッコいいじゃいか」
颯爽と現れたのは、女の子みたいな弟の渚だった。
Side out
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Side 渚
今日は、兄さんについて行かないで、リアス先輩と朱乃先輩と魔力の使い方を教わっていた。
「あらあら、ナギくんは魔力で自然現象を起こすより、物の強化や自分の強化、それに魔力の集束・圧縮・放出に向いているようですね」
朱乃先輩のように、魔力で炎を起こしたりしてみたのだが、使っている魔力に対して炎がやけに小さかった。だが、魔力による強化は少ない魔力で十全たる効果を発揮しているらしい。そう言えば、依然に僕が使っていたのを「魔力放出」と言っていたのを思い出した。
「そうなると、私ではあまり教えられないと思いますわ」
「そうね。私の魔力は特殊だから教えようもないし」
朱乃先輩は自然現象などを起こす方が得意で、強化系は苦手らしい。リアス先輩はグレモリー家特有の魔法だとか。僕は集束・圧縮も十分なレベルでできているらしいので教えることがないと言う。放出ができる人は極めて稀らしく、朱乃先輩では教えることができないらしい。自然現象として魔力を放出するのと、純粋な魔力を放出するのでは勝手が違うようだ。朱乃先輩は部室にある本の何冊かを抜き取り、僕に渡してきた。
「これが強化系の魔法が書いてある本。こっちが魔力の集束・圧縮に関する本ですわ。残念ですけど、放出に関する本はありませんの」
渡された本を見てみる・・・・・・。
「先輩・・・・・・・字が読めません」
「あらあら、そうだったわ」
仕方ないので朱乃先輩読んでもらうことになった。
「――なので、この魔法は―――という効果がありますわ」
「なるほど、なるほど」
しばらく、朱乃先輩に読んでもらっていると、祐斗が戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。祐斗」
「おかえりなさい」
「おかえり」
読んでもらった本から顔を上げて、時計を見る。
「そういえば、兄さんは大丈夫だろうか?」
「気になるのかい?」
「まあね」
「じゃあ、見てきてもらおうか」
そう言って、祐斗はどこからか小鳥を呼び寄せて、窓の外に飛ばした。
「さっきの小鳥は?」
「あれは僕の使い魔さ」
なるほど、悪魔にもそう言うのがいるのか。使い魔って言うとどちらかと言うと、魔法使いをイメージしてしまうけど。
数分待っていると、木場が慌てた様子で言ってきた。
「兵藤くんが悪魔祓いに襲われています」
「なんですって!? すぐに小猫を呼び戻して!」
「祐斗! 場所は?」
「え? ○○市××の3-2-4だけど・・・・・」
言われた場所を頭の中の地図で、大体目安をつける。
「先に行きます!」
「ちょっと!? ナギ!」
「ナギくん!?」
リアス先輩と朱乃先輩の呼ぶ声が聞こえたが、無視して僕は空に向かって走り出した。
「さっそく、役に立ったな」
さっき朱乃先輩に読んでもらった本に書いてあった魔力を集束、固めて足場にする魔法を使って足場を作り、魔力放出でジェットのように魔力を噴き出しながら、僕は空を駆けた。
Side out
後書き
今日はあと2回ほど更新予定。
第7話
Side 渚
部室を飛び出して、兄さんのいる場所に向かって数分空から地上に降りて、祐斗の言っていた住所の家を探す。
「3-2-4、3-2-4・・・・・・・・・・。ここか!」
兄さんが襲われている家を見つけたので、侵入する。気配を感じながら庭の方に回る。兄さんたちがいるであろう部屋は、幸い一階だったので、姿を隠すようにして窓から中を覗く。
(いるのは・・・・・・兄さんと神父っぽいやつに、倒れているシスターか・・・・・・。たぶん、アーシア・アルジェントとフリード・セルゲイ?とかいうのだろう)
ヒロインだったアーシアのことは記憶にあるが、敵キャラの名前はうろ覚えだ。
兄さんが女の子しかも、アーシアさんに手を出すとは思えないので、おそらくあのフリードとかいうのがやったんだろう。
「庇ってくれた女の子を前にして、逃げらんねぇよな。よっしゃ、こい!」
窓越しに兄さんの声が聞こえた。どうやらアーシアさんは兄さんを助けてくれたらしい。しかし、兄さんに勝ち目があるとは思えない。あの神父の気がそれた時に、なんとかするしかない。
兄さんがファイティングポーズを取ると、神父はうれしそうに言葉を紡いだ。
(今!)
窓を蹴破り、そのままこちらに反応できない神父を鞘に収まりし魔剣で吹き飛ばすッ! 家主さんごめんなさい!
「え? え? マジ? マジ? 俺と戦うの? 死んじゃ――ウゲラッ!」
目論見通り、僕の奇襲は成功し、神父は壁にぶつかり、倒れた。だが、この程度で終わりではないだろう。
「助けに来たよ、兄さん。それと女の子を見捨てないなんて、なかなか、カッコいいじゃいか」
兄さんを見ると左足のふくらはぎに怪我をしているようだ。
「だろ?」
光で攻撃されたはずなので、激痛だと思うのだが気丈にも言葉を返してくれた。
「なにしてくれるんですかぁ、あんたは!! せっかく愉快に楽しく、悪魔をぶち殺そうとしてたのによぉぉぉぉぉぉ!」
壁に激突していた、フリードが起き上がる。
「兄さん、そのシスターさんと僕の後ろに」
僕の前方で倒れていたアーシアさんの前に出て、兄さんと彼女を庇うように立つ。兄さんが僕のことをアーシアさんに説明していうようだ。
「悪いけど、キミの相手は僕がする」
相手は銃を持っているので、すぐに反応できるように鞘に収まりし魔剣を構える。
「なんですか、なんなんですかぁ! アーシアたんも、お前も俺の邪魔をしてぇ!」
神父が光の剣で斬りかかってくるのを、鞘に収まりし魔剣で防ぐ。てっきり銃を使うと思ったが違うようだ。そして、鍔迫り合いのようなことをしていると、床が光り始め徐々に形を作っていく。
「何事さ?」
「渚! グレモリー眷属の魔法陣だ!」
兄さんの声に、やっときたかと思いながら、強引に神父を弾き飛ばす。床に描かれた魔法陣から、見知った悪魔たちが出てきた。
「兵藤くん 、助けに来たよ」
祐斗がスマイルを兄さんに送る。さすがに今は睨み返したりはしなかった。
「あらあら。これは大変ですわね」
「・・・・・・・神父」
朱乃先輩に小猫ちゃん。どうやら、仲間が到着したようだ。
「ひゃっほう! 悪魔の団体さんに一撃目!」
フリードが構わずに斬りかかってくる。僕はそれを受け止める。
「祐斗! 代わってくれ」
「まかせて! 悪いね。彼らは僕らの仲間でさ! こんなところでやられてもらうわけにはいかないんだ!」
「おーおー! 悪魔のくせに仲間意識バリバリバリューですか? 悪魔戦隊デビルレンジャー結集ですか? いいねぇ。熱いねぇ。萌えちゃうねぇ! 何かい? キミが攻めで彼は受けとか? そういう感じなの?」
「・・・・・・・・・下品な口だ。とても神父とは思えない・・・・・・・。いや、だからこそ、「はぐれ悪魔祓い」をやっているわけか」
祐斗とフリードの会話を背に兄さんに近づく。
「兄さん、そのシスターさんは僕に任せてくれないかな?」
「ん、 なんでだ?」
痛みに顔を歪めながら兄さんが訊いてくる。悪魔にとって光は猛毒なそうなので、兄さんはよく我慢している。
「この魔法陣はグレモリー眷属専用なんだ。人間の僕たちは転移できない。だから、祐斗が相手をしてくれるうちに、一足先にその子と僕は脱出しようと思って」
「わかった。アーシアを頼む。さぁ、アーシア」
少し、びくびくしながら、僕に近づいてくる。
「初めまして、兵藤渚です。キミが庇ってくれたのは僕の兄さんなんだ」
「?」
・・・・・・そう言えば、日本語わからないんだっけ? 兄さんが僕の言った言葉をアーシアに訳してくれたようだ。悪魔は便利だな。
「ハジメマシテ、アーシア・アルジェントデス」
片言だが、日本語で返してくれる、アーシアさん。
「乗って」
彼女に背を向けて、乗るように促す。言葉はわからなくとも、通じたようで背中にのっかってくれた
「ちょっと、そこのキミィ。アーシアたんをどこに連れてくつもりですかぁ!」
「お前に、教えるはずないだろ!」
僕の代わりに兄さんが答える。
「Are you ready?」
「Yes!」
背中に乗ったアーシアさんの返事を聞いて、僕は再び空へ駆け上がった。
Side out
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Side リアス
「ナギったら、教会関係者を連れ去るなんて。・・・・・・・イッセー、ごめんなさいね。まさか、この依頼人のもとに「はぐれ悪魔祓い」が訪れるなんて計算外だったわ」
しかも、私の制止も聞かずに勝手に飛び出していくなんて・・・・・・。帰ったら、注意しなきゃね。
「・・・・・・・イッセー、怪我してるの?」
足を抑えているイッセーに話しかける。
「あ、すみません・・・・・。渚が来る前に、その・・・・撃たれちゃって。あ、あと、アーシア・・・・さっきのシスターは俺をかばってくれて・・・・・・。あ、あと、堕天使から狙われているみたいです」
半笑いで誤魔化そうとしているイッセー。ふつふつと怒りが湧いてくる。それと同時にナギがあのシスターを連れて行った理由に納得がいった。イッセーを助けたくれたから、ナギも助けたのね。
そして、私の視線ははぐれ悪魔祓いに移る。
「よくも、私のかわいい下僕をかわいがってくれたみたいね?」
低い声が私の口から洩れる。自分で言うのもなんだが、グレモリー家は情愛が深い。故に、自分の下僕が傷つけられるのを嫌う。
「はいはい。かわいがってあげましたよぉ。本当は全身くまなくザクザク切り刻む予定でござんしたが、どうにも邪魔が入りまして、それは夢幻となってしまいましたぁ」
神父の言葉に対し、私は魔力の弾を撃った。神父の後ろの家具が消し飛ぶ。よりにもよって、私の下僕をそんな目に合わせようとしていたなんて・・・・・・万死に値するわ!
「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対に許さないことにしているの・・・・・・」
私は殺気を発し、周囲には紅い魔力がゆらゆらと立ち上っていた。
「! 部長、この家に堕天使らしき者たちの気配が複数近づいていますわ。このままでは、こちら不利になります」
朱乃が堕天使の気配を感じたのか、そう言う。私は神父を一睨みした。どうやら、時間切れのようね・・・・・・・。本当はこのはぐれ悪魔祓いを見逃すようなことはしたくないんだけど、ここは仕方がないわね。
「・・・・・・朱乃、イッセーを回収しだい、本拠地へ帰還するわ。ジャンプの用意を」
「はい」
朱乃が、呪文を唱え始める。足元にグレモリーを表す魔方陣が広がった。
「逃がすかって!」
それを邪魔するように神父が切り込んでくるが、小猫が大きなソファーを神父に投げつける。神父はそれを切り払うが、朱乃の詠唱はすでに終わっていて、私たちは本拠地であるオカルト研究部の部室にジャンプした。
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「おかえりなさい」
部室にジャンプすると、そこにはナギとシスターがいた。シスターはイッセーを見ると一目散に駆け寄る。
「イッセーさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。アーシア、だいじょう―――痛ッ」
「どこか怪我してるんですか!? 見せてください!」
「あ、ああ」
イッセーは素直にズボンを捲って、傷を見せる。シスター・・・・・アーシアさんだったかしら? がその傷口に手を当てると、その手から淡い緑の光が発せられ、イッセーの怪我があっという間に消えてしまった。
「嘘・・・・・・」
「あらあら、これは」
私と朱乃が驚きの声を上げる。これは神器だ。しかし、悪魔を癒す物となると限られてくる。そして堕天使に狙われ、はぐれ悪魔祓いとともにいると言うことは、彼女は教会から追放されたのだと、簡単に予想がついた。
(悪魔を癒すこの子の力は欲しいわね)
どうにかして、この子を私の下僕にできないか考える。だが、まずはこの子を狙っている堕天使をどうにかしなければいけない。上に言わないで勝手に動いているようだし、おそらくこの子の神器が狙いでしょうから、必ずまた彼女を狙うわね。さて、どうしたものかしら・・・・・・・?
Side out
第8話
Side 渚
僕たちは今、堕天使たちへの対応を話し合っている
「もう、カチコミでいいんじゃないですか? はぐれ悪魔祓いがいるし堕天使もいるってことは教会には関係なんだから大丈夫でしょう。堕天使も一部が勝手にやってるみたいですし」
「・・・・・・・ナギ、あなたの顔でカチコミというのは、すさまじく違和感があるわね」
僕の提案にリアス先輩が答える。顔は関係ないだろう、顔は。おい、みんなうなずくな。
「それより、ナギはなぜそのシスターをさらったの?」
「さらったって言うのは、人聞き悪いですね。保護ですよ、保護」
肩をすくめながら言う。まったくもって、遺憾だ。
「まあ、アーシアさんが神父に逆らって兄さんを庇ったので、お返しと言うわけではありませんが、あの神父から助け出した・・・・・という感じです。それに、彼女を見る限り堕天使に利用されようとしてる気がしたので」
「渚の言うとおりです部長。あの神父は堕天使に殺さないように言われていたみたいです。そう言っていました」
兄さんが補足してくれる。
「お願いです、部長! アーシアを保護させてください!」
「・・・・・・・あなた、教会から追放されたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アーシアさんは、静かにうなずいて話し始めた。
Side out
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Side 一誠
部長の質問にアーシアはうなずいて語り始めた。それは「聖女」として祭られた少女の末路。
ヨーロッパのとある地方で生まれた少女は、生まれてすぐに両親から捨てられた。捨てられた場所は教会兼孤児院。
そこで、他の孤児たちと一緒にシスターに育てられる。
子供の頃から、信仰深く育てられた少女に力が宿ったのは、八歳の時。
偶然、負傷した子犬の怪我を不思議な力で治療したところを、カトリック教会の関係者に見られたらしい。
それから、少女の生活は一変した。
少女は、カトリック教会の本部に連れて行かれ、治癒の力を宿した「聖女」として、担ぎ出された。
訪れる信者に祝福と称して、体の悪いところを治療する。これは噂となりあっという間に広がった。
噂は噂を呼び、少女は多くの信者から「聖女」として崇められた。
少女の意志とは関係なしに。
だが、待遇に不満などなかった。教会の関係者はよくしてくれるし、怪我をした人を治療するのも彼女は嫌いではなかった。
逆に、自分の力が役に立つのがうれしかった。
神様に授けられたこの力に彼女は感謝した。
だけど、彼女は少しだけ寂しかった。
少女には心を許せる友人が一人もいなかったのである。誰もが優しくしてくれる。大事にしてくれる。だが、誰も彼女の友達にはなってはくれなかった。
彼女は理解していた。
彼らが裏で、自分の力を異質ものを見る目で見ていたことに。
彼らは彼女を、人間ではなく「人を治療できる生き物」のような感じで少女を見ていた。
そして、ある日、転機が訪れる。
少女はたまたま自分の近くに現れた悪魔を治療してしまった。
怪我をしていた悪魔を見捨てられなかっただけ。彼女の優しさだった。
怪我をしているなら悪魔といえど、治療しなくてはならない。
ただ、彼女の生来の優しさがそうさせたのだ。
しかし、それが彼女の人生を反転させた。
その光景を、偶然見ていた教会関係者の一人が、それを本部に報告した。
本部の司祭は、その事実に驚愕した。
「悪魔を治療できる力だと!?」
「そんな、バカなことがあるはずない!」
「治癒の力は、神の加護を受けた者にしか効果を及ぼせないはずだ!」
そう、治癒の力を持った者は世界各地にいた。
しかし、悪魔を治療する力は規格外だった。治癒の力は悪魔と堕天使には効果がないと言うのが教会内部で認知されていたからだ。
そういう事例は過去にもあったらしい。
神の加護を受けない悪魔、そして堕天使さえも治療できる力。しかし、それは「魔女」の力として恐れられていた。
そして、教会の司祭たちは少女を異端視するようになる。
「悪魔を癒す魔女め!」
聖女として、崇められていた少女は、悪魔を治療できるというだけで今度は「魔女」の烙印を押され、教会から恐れられ、呆気なくカトリックから捨てられた。
行き場のなくなった少女を拾ったのは極東にある「はぐれ悪魔祓い」の組織。
つまり、堕天使の加護を受けなくてはいけなくなった。
少女は、間違っても神への祈りを一度たりとも忘れたことなどない。感謝も忘れたことなどなかった。
なのに、彼女は捨てられた。
少女が一番ショックだったのは、教会内で誰も自分を庇ってくれる人がいなかったこと。少女の味方は誰一人としていなかった。
「・・・・・・・・・・きっと、私の祈りが足りなかったのです。ほら、私抜けているところがありますから」
アーシアは笑いながら、涙を拭う。言葉が通じない渚は、木場に通訳してもらっていたらしい。
部員の誰もが声をかけられなかった。想像を絶する彼女の過去を知り、どうやって声をかけたらいいのかわからない。
「これも主の試練なんです。私が全然ダメなシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。今は我慢の時なんです」
笑いながら、自分に言い聞かせるようにアーシアは言う。
「お友達もいつかたくさんできると思ってますよ。私、夢があるんです。お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったりして・・・・・・・・・おしゃべりして・・・・・・・」
彼女は涙を溢れさせている。もう見てられなかった。
「アーシア、俺が友達になってやる。いや、もう友達だ」
アーシアがきょとんとしている。
「悪魔だけど、関係ない! 俺たちは友達だ!」
「それは契約ですか?」
「違うッ! 契約なんか必要じゃない。ただ、俺がアーシアと友達になりたいんだ!」
「私・・・・世間知らずで、日本語もしゃべれませんし、文化もわかりませんよ?」
「これから、知っていけばいい! 俺が教えてやる!」
俺はアーシアの手を握る。
「・・・・・・・・・・・・・私と友達になってくれるんですか?」
「ああ、もちろんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・(こくん)///」
涙を流しながら、アーシアはうなずいてくれた。
「僕もよかったら、友達になってくれないかな?」
「・・・・・・・・・私も、お願いします」
木場と小猫ちゃんが言ってくる。
「ああ、木場も小猫ちゃんもアーシアの友達だ」
「・・・・・・はい」
アーシアは小さな声だったけど、はっきりと返事をした。アーシアの手を握っている手が、ギュッと握り返される。
「ありがとうございます」
涙を拭って、笑顔を浮かべながらアーシアは俺にそう言った。今更ながら、手を握っているのが恥ずかしくなってきたぞ。
「部長? どうするんですか?」
「そうですね、リアス先輩。どうするんですか?」
渚がニヤニヤしながら、部長に問いかけた。
「これで、ダメなんて言ったら私、悪者じゃない」
「ええ、私も仲間に入れてほしいですわ」
朱乃さんが微笑みながら言う。
「まったく、仕方ないわね」
「さすがリアス先輩」
「ナギ、やめなさい」
口ではああ言っているが、部長の顔は優しさに満ちていた。
「アーシア、明日は遊びに行こう。いいですよね、部長?」
「ええ、かまわないわ。ただし―――」
「リアス先輩、朱乃先輩、ちょっといいですか?」
なにかを言おうとした。部長を渚が止める。そして、部長と朱乃さんを部室の隅へ連れて行き、内緒話を始めた。いったいなんだ?
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
「(アーシアの表情を見ると、あれは完璧に兄さんに惚れています。それに兄さんもアーシアさんのことが気になるみたいです)」
リアス先輩と朱乃先輩を部室の隅に連れて行き、周りに聞こえないように話す。アーシアさんは兄さんに手を握られていて、うれしそうだ。兄さんは恥ずかしそうにしている。
「(あら、そうなの?)」
「(部長・・・・・・男のナギくんが気づいたのに、気づかなかったんですか?)」
朱乃先輩が呆れたような声で言った。
「(べ、別に気づかなかったわけじゃないわっ)」
なんとか誤魔化そうとしているようだ。ここはスルーしてあげよう。
「(とにかく、僕としてはアーシアさんの恋を応援したいので、なんとか二人っきりにさせたいのですが・・・・・・・)」
「(いい案だと思いますわ。私も賛成です)」
「(だけど、アーシアは堕天使に狙われてるのよ? イッセーだけじゃ心配だわ)」
「(そこは、僕が後ろからついていきます。でも、僕だけじゃ心配なので朱乃先輩についてきてもらいたいのですが・・・・・・)」
「(あらあら、私は構いませんよ。部長、ここは二人を応援すべきですわ)」
「(わかったわ。それじゃあ、二人のことはお願いね)」
僕らはうなずきあって、兄さんたちのもとへ戻る。
「ごめんなさいね、待たせてしまって」
「いえ、別に構いませんが、やっぱりだめですか?」
兄さんがリアス先輩に聞く。
「いいえ。遊びに行くのは構わないわ。ただし、二人だけになるわよ」
「なぜです?」
「堕天使との戦闘の準備よ」
「だったら、俺も――――」
「あなたたちはいいから、行ってきなさい」
「・・・・・わかりました」
有無を言わさないリアス先輩の言い方に兄さんも納得したようだ。
「いや~、すごいね兄さん。みんなの前でデート宣言ですか? 羨ましいね兄さん。アーシアさんみたいな美少女とデートか・・・・・」
「なっ!? ちが、違う! お、俺はそんなつもりじゃ」
「?」
僕の言葉はアーシアさんにはわからないので、兄さんをしばらくからかい、解散となった。
Side out
第9話 Side一誠
Side 一誠
昨日アーシアと遊ぶ約束をした。待ち合わせは12時。俺は30分前に待ち合わせ場所についていた。この際、昨日渚の言っていたデートうんぬんは、考えないことにする。
服装は、無難に赤いTシャツに、ジーパンだ。渚も出かけるようで、いろいろ準備をしていた。
(しかし、あいつの私服は私服っぽくない感じだよなぁ。確かに似合ってはいるけど)
「イッセーさーん」
そんなことを考えていると、アーシアが走ってこちらに向かっていた。
「はわう!」
見事に転ぶアーシア。格好はいつものシスター服だった。
俺は駆け寄って、アーシアに手を差し出した。
「ほら」
「はぅぅ、すみません。ありがとうございます」
パンパンとアーシアは服をはたく。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
「とりあえず、繁華街に行ってお昼にしよう」
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「あぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・」
不思議な光景だ。ハンバーガショップのレジの前でシスターが困惑している。
「あ、あの注文は・・・・・・?」
対応に困っているのは店員さんも同じようだ。
お昼をどこで食べようか、迷っていると「あそこがいいです」とアーシアが言ったので、ハンバーガショップに入ったわけだが、どうやらアーシアはこの手の店に入ったことがないようだ。
俺が「手伝おうか?」と聞いたが「大丈夫です。一人で何とかして見せます」と胸を張って宣言していたから、見守っていたが・・・・・・・・・。
アーシア・・・・・・・・、キミは日本語をちゃんとしゃべれないじゃないか。
見かねて、俺がフォローを入れた。
「すみません。俺と同じメニューでお願いします」
「わかりました」
店員さんもそれで注文を受け取ってくれた。アーシアは軽いショックを受けているようだ。
「あぅぅ、情けないです。ハンバーガー一つ買えないなんて・・・・・」
「ま、まあ、まずは日本語から慣れていこうぜ」
落ち込むアーシアを励ましつつ、俺とアーシアはハンバーガーのセットメニューを受けて取って、空いている席へと向かった。
店内を移動中、どの客もアーシアを目で追っていた。シスターが珍しいってのもあるだろうが、アーシアがかわいいのもあるだろう。
窓際の空いている席に対面で座ったが、アーシアは一向に食べる気配がない。もしかして・・・・・食べ方がわからないのか?
「姫君、こうやって包んでいる紙をずらして一気にかぶりつくのですよ」
苦笑いしながら、ハンバーガーの食べ方を教えてあげて、手本としてハンバーガーを食べる。
「そ、そんな食べ方があるなんて! すごいです!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて新鮮な反応なんだ。本当にかわいいなアーシアは。
「ポテトもこうやって手掴みです」
「なんと!」
フライドポテトを食べる俺を興味深そうに眺めるアーシア。微笑ましくて思わず顔が笑いそうになる。
「いやいや、アーシアも食べな」
「は、はい!」
ハンバーガーに小さくかぶりつき、もぐもぐと口を動かして食べ始める。
「お、おいしいです! ハンバーガーっておいしんですね」
目を輝かせながら言うアーシア。
「ハンバーガー食べたことないの?」
「はい。テレビではよく見るのですが、実際に食べたのはこれが初めてです。感動です! おいしいです!」
ふと、普段何を食べているのか気になったので聞いてみる。
「普段は何を食べてるの?」
「パントスープが主です。お野菜やパスタの料理も食べますよ」
なんとも質素な食事だ。おそらくは教会だからだろうが。
「そうか、そうか。なら、今度また別のものを食べに行こうな」
「はい!」
パクパクとおいしそうに食べるアーシア。
(さて、食べ終わったらどうしようか? ・・・・・・・・・・・・・うーん。ゲームセンターでいいか)
「アーシア」
「は、はい」
「食べ終わったら、ゲームセンター、通称ゲーセンに行くぞ」
「はい!」
しばらくして、食べ終わったアーシアを連れて俺たちは、ゲームセンターへ移動した。
「――――ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
誰かに見られていたような気がするが、気のせいだろう。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「峠最速伝説イッセーッ!」
アクセルを踏んで、カーブの手前で手早くギアチェンジ。そして、相手の車両を一気に抜き去った。
「速いです! 速いです、イッセーさん!」
フッ、見ているかアーシア? 俺のハンドルさばきに酔いしれな!
俺たちはゲーセンのレーシングゲームをしていた。
オカルト研究部に入るまでは、帰宅部だったのでゲーセンにはよく行っていた。レーシングゲームだろうとなんだろうと余裕だぜ。
『WIN』
俺の勝利を告げる文字が画面に映し出される。ふっ、俺に勝とうなんて、百年早いのだよ。
少し、自分に酔っていると、いつの間にかアーシアがいなくなっていることに気づいた。
キョロキョロと辺りを見渡すと、クレーンゲームの前にアーシアが張り付いている。
「どうした?」
「はぅ! い、いえ・・・・・・。別に何でもないんです」
俺が声をかけると、なにやら誤魔化してくる。
「何かほしいのか?」
クレーンゲームの中を見ると、人気キャラクター『ラッチューくん』の人形があった。ネズミを元にデフォルメしたかわいいマスコットキャラクターだ。
この人形、確か日本初なのに世界的に人気があったな・・・・・・・。アーシアも好きなのだろうか?
「アーシア、ラッチューくん好きなのか?」
「え! い、いえ、そ、その・・・・・・・・・」
アーシアは顔を赤くし、うつむきながら恥ずかしそうにうなずいた。
「よし。俺が取ってやる」
「えっ! で、でも!」
「いいから、俺が取るよ」
善は急げということで、即お金を投入し、クレーンを動かし始める。
こう見えてもクレーンゲームの成績はそれなりなのだ。
そうは思ったものの、少し苦戦してしまい五回目でようやく取ることができた。まあ、何回もチャレンジして取れない人もいるのでそれなりにいい結果だろう。
「ほら、アーシア」
人形を受け取ったアーシアは嬉しそうに胸に抱いた。
「ありがとうございます、イッセーさん。この人形、大事にしますね」
「おいおい、そんな人形だったらまた取ってあげるよ」
そうは言ったが彼女は、首を横に振った。
「いえ、今日いただいたこのラッチューくんは、今日だけのものですから、大事にしたいんです」
少し恥ずかしいが悪い気はしない。そこで、出かける前に渚がいたことを思い出した。
『いいかい、兄さん。兄さんはアーシアさんのお友達第一号だ。そして、アーシアさんは今日初めて友達と遊ぶんだ。お金は貸してあげるから、記念に洋服でも買ってあげるんだよ? いいね?』
そう言って、結構な額のお金を俺に渡してくれたのだ。出世払いで返さなければいけないが、どうと言うことはない。
時間を確認する。現在午後2時30分。大丈夫。まだまだ、時間はある。
「アーシア! 次はウインドウショッピングだ」
「はい!」
俺はアーシアの手を引き、繁華街へと繰り出した。
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「ここに入ってみようぜ」
「え? で、でも・・・・・・」
「いいから、いいから」
俺たちは繁華街で見つけた、ブティックに入った。
「いらっしゃいませ」
入り口付近にいた、店員さんが迎えてくれた。丁度いい。俺のセンスでは不安があるが店員さんなら大丈夫だろう。
「すみません、彼女に似合う服を見繕ってもらえませんか?」
「綺麗な金髪ですね~、これは腕が鳴るわ! 任せください!」
サムズアップする店員さん。
「えっ! イッセーさん、私お金そんなに持ってないですよ!」
「大丈夫、俺が払うから」
慌てるアーシアに言い聞かせ、アーシアは店員さんに連れて行かれた。
=数分後=
「お待たせしました~」
店員さんが持ってきた服を着るために、アーシアが試着室に入ってから数分がたった。どうやら着替え終わったらしい。しかし、待っている時間は居心地が悪かった。
「では、ご対面~」
試着室のカーテンが捲られる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉が出なかった。
アーシアが着ているのは、ところどころにフリルがついていて、胸元に大きな赤いリボンがついている白いワンピースだった。金の髪が白によく映える。
「ど、どうですか・・・・・・・?」
アーシアがうつむきながら聞いてくる。
「えっ! ああ、すごい! すごく似合ってるよ、アーシア!」
本当によく似合っている。店員さんも「さすが、私!」と自画自賛していた。
「あ、ありがとうございます」
顔が赤くなっていくアーシア。なんだか俺まで恥ずかしくなってきて顔が赤くなってきた気がする。
「店員さん、これ買います!」
即決だった。
「ありがとうございます。そのまま、着ていきますか?」
「そうしてください」
「かしこまりました。少々、お待ちください」
店員さんが、走っていく。
「イッセーさん、本当にいいんですか?」
アーシアが不安そうに聞いてきた。
「いいって、俺からのプレゼントだから」
「お待たせしました。え~、○○○○○円になります」
聞いたとき思わず耳を疑った。だが、言った手前買わないわけにはいかない。俺はお財布からお金を出した。
「ありがとうございました~」
そして、着替えたアーシアを連れてお店を出る。
「イッセーさん、このお洋服ありがとうございました! 絶対、絶対大事にします!!」
笑顔でアーシアが言ってきた。
「そう言ってもらえると、買った方としてもうれしいよ」
その笑顔を見て、つられて俺も笑顔になった。
その後、俺たちは日が暮れるまで遊び、アーシアが暫定的に厄介になっている部長の家に送り届けると、俺も家に帰った。とても充実した一日だっただろう。
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え? 洋服の金額? 俺から言えるのは、渚から貰った金が一気に無くなったとしか言えない・・・・・・・・・。女物の服がこんなにするとは思わなかった・・・・・・・・・・。
Side out
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Side リアス
「あら、どうしたの? その服」
帰ってきたアーシアを出迎えると、行った時と服装が変わっていた。
「イッセーさんが、プレゼントしてくれたんです!」
アーシアがうれしそうに言った。
(あら、イッセーもやるじゃない)
「そうなの、よかったじゃないアーシア」
「はい! 私、この服絶対に大切にします!」
「ふふ、そう」
思わず、微笑んでしまう。堕天使はきてないようなのでよかった。
(今度、イッセーを褒めてあげなきゃね)
後日。そのことをイッセーに言ったら、ナギの入れ知恵だったそうだ。服の代金もナギが貸してくれたらしい。イッセーにはそのことは言わないようにきつく言っておいた。
(ナギは女性に気が使えるのね。いい子だわ)
私は、ナギの好感度が上がった。
Side out
第9話 Side渚
Side 渚
僕は今、繁華街へ向かっています。昨日兄さんはアーシアさんを連れて行くのに繁華街へ行くと言っていたのだ。
それを昨日のうちに、朱乃先輩にも連絡しておいたので、待ち合わせは繁華街の入り口。待ち合わせの場所としてはここらでは定番の場所だ。
「さて、どこにいるのか・・・・・?」
やはり定番の場所なだけあって人が沢山いる。ちなみに僕の服装は黒のカジュアルスーツだ。思い切り男物の服は似合わないこの容姿で、なんとか男っぽくしようと考えて選んだ一品だ。店員さんが絶賛してくれたのを思い出す。髪もいつもは上の方で一つに縛っているが、今日は首元で一つにまとめて、背中に垂らしている。
「ねぇ、見てあの人!」
「うわぁ、すごい綺麗な男の人だね」
周りから、ちらちらを見られてささやかれている僕。
「しかし、毎度のことながら見られているな・・・・・・・・・」
周りから向けられる視線に、居心地が悪いが朱乃先輩を探さなくてはいけない。
キョロキョロと辺りを見渡していると、見慣れたポニーテールが視界に入った。どうやら、こちらには気づいてないらしい。
「お待たせしました。朱乃先輩」
後ろから近づいて、声をかける。
「あらあら、別に待っていま―――」
振り返って、返事をしようとした朱乃先輩が途中で止まった。
「どうかしましたか?」
「い、いえ! なんでもないですわ(思わず見惚れてしました、なんて言えないですわ)」
「ならいいんですが・・・・・・・体調が悪いなら言ってくださいね。顔が赤いですから」
「はい」
顔は赤いままだが本人は大丈夫って言っているけど、注意しておこう。
「朱乃先輩、そういう服も似合っていますね」
いつもの落ち着いた服を着てくるのかと思ったが、年相応の女の子らしい服装だ。
「落ち着いた感じの服を着てくるかと思ったんですが、そういう服の朱乃先輩もかわいくていいと思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうにはにかむ朱乃先輩。なんかいつものイメージとは違う、デートみたいだから緊張しているのかもしれない。そう思うと、僕も少し恥ずかしくなってきた。
「ナギくんのその格好もかっこいいですわ」
「ホントですか? あんまりかっこいいって言われないんでうれしいです」
この容姿ではかっこいいと言われることは少ないので、普通にうれしかった。
「とりあえず、兄さんとアーシアさんを探しましょう。アーシアさんはシスター服らしいのですぐに見つかると思います」
「わかりましたわ」
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やはり、シスターの服は目立つので、兄さんとアーシアさんたちをすぐに見つけることができた。
「どうやら、昼食を食べるようですね。時間も時間ですし、僕たちもごはんを食べましょうか」
とりあえず、兄さんたちの入ったハンバーガーショップの前にある喫茶店に入る。なかなか、いい雰囲気の喫茶店だ。
幸い兄さんたちは窓際に座っていたので、こちらから見ることができた。僕たちはランチセットを頼んで食べている。サンドウィッチ・サラダ・スープにコーヒーがついていて、なかなかお得なランチセットである。
「アーシアさん、ハンバーガーすごくおいしそうに食べていますね」
「ええ、見ていて微笑ましいですわ」
最初は緊張していたみたいだが、慣れたのかいつもの朱乃先輩になっていた。
兄さんがハンバーガーの食べ方を説明するような仕草をしていたから、アーシアさんはハンバーガーを食べたことがなかったんだろう。・・・・・・・・教会でハンバーガーを食べているシスターの姿なんて想像できないから、当たり前と言ったら当たり前だろうけど・・・・。
しばらく、雑談をしながら兄さんたちを見ていると、どうやら席を立つようだった。
「行きましょう」
「ええ」
僕たちも席から立ってお会計をしようとする。朱乃先輩がお財布を出そうとしていたので、僕はそれをやめさせた。
「僕が払うからいいですよ」
「それは悪いですわ」
「こういう時は、男が払うものですよ」
肩をすくめながら言って、僕は強引にお金を払って、喫茶店を出た。
「本当によかったんですか?」
「いいって言ってるでしょう。朱乃先輩は気にしないでください」
朱乃先輩に、気にしないように言う。ふと兄さんとアーシアさんの方を見ると、兄さんがこちらの方を振り返ってきた。
「――っと」
「きゃ!」
兄さんがとこちらの方を向いたので朱乃先輩を抱き寄せて、看板の後ろに隠れる。周りの人は何事かと見てくるが、愛想笑いで誤魔化しておいた。
「行ったみたいですね」
「え、ええ」
兄さんがこちらから視線を外したので、朱乃先輩を離す。朱乃先輩は真っ赤になっていた。
「すみません。急に抱き寄せたりして・・・・・・嫌でしたよね」
「だ、大丈夫です。別に嫌ではなかったですから」
顔をうつむかせながら、朱乃先輩はそう言った。
「あ、そ、そうですか・・・・・・・・」
嫌ではなかった、か。なんかちょっとうれしい気がするが恥ずかしい。
「おっと、兄さんたちを見失います。急ぎましょう」
「わかりましたわ」
そして、兄さんたちを追ってゲームセンターに入るまで、僕たちは恥ずかしさで終始無言だった。
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『峠最速伝説イッセーッ!』
・・・・・・・・・・・兄さんの声が聞こえた。こんな大勢がいるところで、あんなに大きな声を出すなんて、なにを考えているのやら・・・・・・・・・・・・・。
「うふふ、面白い子ですねイッセーくんは」
「身内からしたら、恥ずかしい限りですよ。それよりどうします? 僕、ゲームセンターなんて数えるほどしか来たことないですけど・・・・・・・・・」
「私は初めてですわ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
朱乃先輩はイメージ通り、着たことがないようだ。ふぅ・・・・・・二人そろって初心者同然ですか・・・・・・・・。初心者でも楽しめるのって何がある?
「とりあえず、プリクラでもやりますか」
我ながら無難なチョイスだ。これなら、初心者とか関係なく楽しめるだろう。
プリクラが集中している箇所に行く。同じプリクラでも、何種類もの種類があった。
「たくさん種類があるんですね」
「ええ、でもどれも大して変わらないらしいですよ。それじゃあ、早速やりましょう」
目についたプリクラの筐体にお金を投入して、撮影スペースに移動する。
音声の案内に従って、カメラの前に立つ。
「朱乃先輩、もっとこっちに寄ってください」
写真の撮れる範囲が思っていた以上に狭かったので、必然的に朱乃先輩と密着することになった。
「これは、ちょっと照れますね」
こんなに女の人とくっついたのは、母親以外にいないのでかなりドキドキした。
(というか、プリクラを男女二人っきりで撮るって普通は恋人同士のやることじゃ・・・・・・・・いや、考えるな)
冷静に考えてみると、付き合っているわけではないのに恋人っぽいことをしているのに気付いたが、顔が赤くなりそうなので考えるのをやめる。いや、すでに赤くなっていた。
「ええ、そうですわね」
朱乃先輩も気恥しいようだ。ほんのり顔が赤く染まっている。とりあえずピースをして、一枚目を取った。
「なんか、味気ないのでポーズを取りましょう」
そういうわけで、いろいろなポーズで残りを撮った。なかなか貴重な体験ができたと思う。
そして、撮影スペースから出て、筐体の横にあるラクガキができるスペースに移動してラクガキを始める。
「朱乃先輩もやってください」
画面は二つあるので、片方を朱乃先輩に撮ったプリクラの半分を任せる。他愛のないことを書いたりした。
そうこうしていると、時間切れになってラクガキが終了した。
写真が排出されるところで写真が出てくるのを待つ。数秒後、僕と朱乃先輩の二枚分の写真が出てきた。どうやら、朱乃先輩は飾りを付けたようで星などが写真を彩っている。
「あはははは、こうしてみると僕たちかなり恥ずかしい事してますね」
僕も朱乃先輩も顔が赤くなっていた。なんだか、さっきから赤面してばかりな気がする。
「そうですわね」
恥ずかしいので、その場をそそくさと二人で立ち去り、兄さんたちが別のところに移動するまで、エアホッケーなどをして時間をつぶした。
とりあえず、兄さんが朱乃先輩とエアホッケーをしたら絶対勝てないと思う。なぜかって? すごい・・・・・・揺れるんですよ・・・・・・・・・・・・胸が。なんとか視界に入れないようにがんばった僕はすごいと思う。
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「あら? ブティックに入ったみたいですわ」
「ええ、そうみたいです」
兄さんがアーシアさんにぬいぐるみを取ってあげた後に、すぐさま移動を開始したので何事かと思ったが、どうやら今朝に僕が行ったことを思い出したらしい。
「どうやら、今朝に兄さんに言ったことを思い出したみたいです」
「あら、なんて言ったのですか?」
「記念に洋服でも買うといいって言ったんですよ」
「ナギくん、さすがですわ」
「お褒めに預かり光栄です。それじゃあ、僕たちも入りましょう」
恭しくお礼を言い、僕たちも中に入ろうとする。
「見つからないかしら?」
「大丈夫ですよ。朱乃先輩はいつもと雰囲気違いますし気づかれないと思います。心配なら髪をおろしたらどうですか?」
「そうしますわ」
そう言って、朱乃先輩は髪を縛っていたゴムをほどく。いつもと違う雰囲気で少しドキッとした。
そのことに気づかれないように、お店の中に入った。兄さんは試着室の前にいた。おそらくアーシアさんを待っているのだろう。
「兄さんは試着室の前にいます。遠目から見てましょう」
そう言って、兄さんに気づかれないように移動した。移動している最中にふと目についた髪留めを手に取る。
「あっ、アーシアさんが着替え終わったみたいです」
「そうみたいですね」
出てきたアーシアさんが来ていたのは、ところどころにフリルがついていて、胸元に大きな赤いリボンがついている白いワンピース。
「店員さん、いいのを選びましたね」
「まったくです」
朱乃先輩に同意する。兄さんが選んだらどうなるかわからないからな・・・・・・・。
店員さんが、走っていく。どうやら、買うようだ。そのまま着ていくつもりらしい。
「これは、完璧にフラグが立ちましたね」
「ええ、アーシアさんの顔を見る限り、あれは完全に恋する乙女の顔ですわ」
そうして、兄さんはアーシアさんの服を買って店を出た。
「私たちも行きましょう」
「すみません。少し待ってください」
さっき手に取った髪留めをレジに持っていき、お金を支払う。朱乃さんは外で待っているようだ。
「どうぞ」
外で待っていてくれた朱乃先輩に買ったばかりの髪留めを渡す。
「兄さんみたいに服じゃないですが、今日付き合ってくれたお礼です」
「まあ、ありがとうございます。うれしいですわ」
「そうですか。ならよかったです。さあ、行きましょう」
「はい」
その後、兄さんたちは日が暮れるまで遊んで、兄さんはアーシアさんをリアス先輩の家に送っていき、家に帰った。僕たちはそれを見送る。
「朱乃先輩、送っていきますよ」
「でも、ナギくんの家はすぐそこですよ?」
「日が暮れているのに、女の子一人で帰すようなことはしません。さあ、行きますよ」
「ふふふ、それじゃあ、お願いしますわ」
そうして、朱乃先輩を家の神社まで送る。
「本当に今日はありがとうございました」
「いえいえ、私も楽しかったからいいですわ。髪留めもありがとうございます」
「気に入ってもらえたならいいです。それじゃあ、さようなら」
長い一日が終わり、僕は家に帰った。そう言えば堕天使は結局現れなかったな・・・・・・。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 朱乃
今日は、ナギくんの頼みでイッセーくんたちの後をつけた。最初は初めて男の人と二人で出かけるので緊張してしまいましたが、しばらくするといつもの調子に戻ったのでよかったわ。
「うふふふ、ナギくんかっこよかったな」
プリクラを取り出して眺める。黒のカジュアルスーツを着たナギくんは、いつもとは違う雰囲気で大人っぽさがあって驚いた、思わず見惚れてしまったもの。
「私の服もかわいいって言ってましたし」
いつもの落ち着いた雰囲気の服じゃなくて、女の子らしい服を着ていったのだが、ナギくんは似合っていてかわいいって言ってくれた。
「もう、私もこんなことしちゃってるし・・・・・・・」
ナギくんと撮ったプリクラで、二人でハートを作っているものを見る。ナギくんの肘が私の胸に当たって恥ずかしかったけど、プリクラを撮ったのはうれしかった。
でも、一番驚いたのは、急に抱き寄せられた時だった。ビックリする位近くにナギくんの顔があって、顔が赤くなってしまって、しばらく会話ができませんでしたわ。いつもの、かわいい顔が真剣な表情になっていたのが印象に残っている。
「それに・・・・・・・・・・・・・」
ナギくんにもらった、髪留めを見る。
私は鏡の前に移動して、ナギくんにもらった髪留めをつけてみる。
「うふふふふふふふふふふ」
思わず、顔がにやけてしまった。鏡に映った自分を見てみる。
私の顔はあの時に見たアーシアさんと同じ顔になっていた。
「あらあら、これは・・・・・・・・・・・・・」
今日のことを思い出す。ナギくんは常に私に優しくしてくれた。学校では二大お姉さまなんて言われている私を、普通の女の子の扱いをしてくれていた。
「これは、今日は寝られないかもしれないわ」
Side out
第10話
Side 渚
次の日。
「じゃあ、これから堕天使たちの根城の教会に行くわ。ナギの言うとおり堕天使の一部が勝手に行動しているようだから、遠慮はいらないわよ」
深夜、オカルト研究部に集まって教会に乗りこむ算段を話す。
「乗り込むのは、イッセー、祐斗、小猫の三人よ」
リアス先輩が作戦の概要を話し始める。
「わかりました」
「・・・・・・・了解です」
兄さん以外が返事をする。
「あ、あの部長? 俺は戦力にならないんじゃ・・・・・・」
確かに、今の兄さんじゃ戦闘は厳しいだろう。
「イッセー、あなたは兵士が一番弱い駒だと思ってるけど、それは誤りよ」
弱気な発言をする兄さんを励ますようにリアス先輩が兵士について説明する。
兵士はチェスと同じように王、つまりリアス先輩が敵陣と定めた場所に踏み込むことで、他の駒である僧侶、騎士、戦車、女王に昇格するとこが可能な「プロモーション」という特性がある。今の兄さんでは女王に昇格することは出来ないようだけど、確かにそれなら戦いようはある。そしてもう一つ。
「神器は持ち主の想いで動くの。その思いが強ければ強いほど持ち主の思いに答えてくれるわ」
リアス先輩の言葉に、自身の左腕を見つめる兄さん。
「私と朱乃、堕天使の殲滅。ナギとアーシアはついてきてもらうわ。ナギはアーシアの護衛よ」
「わかりましたわ」
「了解です」
リアス先輩の指示にうなずく。
「それじゃあ、行くわよ!」
僕たちは教会に向かった。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「部長、堕天使たちは教会の裏側にいるようですわ」
「そう、行くわよ」
兄さんたちと別れた後、朱乃先輩が堕天使の位置を探り、場所がわかったのでそちらに向かう。
そこには三人の堕天使がいた。
「悪魔と人間がなんの用かしら?」
「ミットルテ、おおかた我らに滅ぼされにでも来たのだろう。なあ、カラワーナ」
「ええ、ドーナシーク。きっとその通りね」
堕天使たちが、余裕とでもいうようにしゃべっている。
「一つ、いいかしら?」
「なんだね。冥土の土産に教えてやろう」
「あと一人、いたと思うのだけど・・・・・どこにいるのかしら?」
「レイナーレ様なら教会の中だ。お前の眷属どもは殺されるだろう。グレモリーの者よ」
「そう。でも、あの子たちなら堕天使一人何の問題もないわ」
リアス先輩はそう言うが、正直兄さんが少し心配である。
「フン、もういいか? なら・・・・・・・死ぬがよい!」
堕天使たちは悪魔である先輩たちを排除するつもりらしく、光の槍が二人に向かって放たれた。
「うふふふ、そんなんじゃ当たりませんわ」
笑いながら、光の槍を避ける朱乃先輩。
「まったくね」
リアス先輩も同じように光の槍を避けていた。
「それでは、次はこちらの番ですわ」
朱乃先輩がそう言って、雷を堕天使に落とす。
「チッ」
「危ないっと!」
「ンッ!」
かろうじて、全員が避けたようだが態勢が崩れていた。
「それじゃあ、さようなら」
そんな隙を、リアス先輩が見逃すわけがなく、その髪と同様の紅い魔力が堕天使に向かって放たれた。
「「ギャァァアァアアアァァアァァァァァァァァァァ!!」」
ドーナシークとか言う堕天使だけは何とか、リアス先輩の攻撃を回避していた。残りの二人は、黒い羽根を残してはぐれ悪魔の時と同じように消滅している。
「ミットルテ! カラワーナ! この小娘がぁぁぁぁぁぁぁ」
怒った堕天使が、再び光の槍を放つ。当然のように二人の先輩は避けた。
「バカめ、死ね! 人間が!!」
先ほどの光の槍を避けたせいで、僕とアーシアさんは先輩たちから引き離されていた。ドーナシークは僕らに狙いを変えたみたいだ。
「ナギ! 避けなさい!!」
「ナギくん!」
堕天使は光の槍を構えて突っ込んでくる。僕を殺してアーシアさんを人質にでも取るつもりなのだろう。二人の「避けて」という声が聞こえる。だけど――――
(残念。僕にはそれは見えている)
僕の視界は二重にぶれていた。映るのは現在のドーナシークと未来のドーナシーク。実はここに来た時に四次元視を発動させていたのである。
数秒前から、僕たちの方に攻撃が来るのがわかっていた僕は、迎え撃つために右腕に魔力を集めてコーティングをしていた。アーシアさんが後ろから、僕の服を引っ張っている。チラッと、後ろを向いて大丈夫というようにうなずいた。彼女もうなずき返してくれる。
「ハァァァァァァァ! 死ねぇぇぇぇぇ」
僕の右腕には二つの魔法陣が並びながら回転している。一つは魔力を周囲からかき集める集束の魔法陣。もう一つは集めた魔力を圧縮する魔法陣だ。その二つの回転速度を上げ、集束と圧縮の速度を上げる。
声を上げて上空から突っ込んでくる堕天使。だが、僕は慌てることなく構えて、未来の堕天使の像が、僕に攻撃した瞬間に右腕を突き出して、放出した。
「神討つ剣狼の銀閃!!」
今まで集められ、圧縮されていた魔力が堕天使に向かって打ち出される。銀色の純魔力の嵐は突っ込んできた堕天使を飲み込んだ。
右腕を突き出した格好のまま停止する。右腕からは余剰魔力が蒸気のように出ていた。
純魔力の嵐に飲み込まれた堕天使は、すでにその姿を消滅させている。ただ、黒い羽根が数枚、宙に舞っていた。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
数秒間、誰も言葉を発しなかった。
そして、離れていた先輩たちが近づいてくる。
「ナ、ナギ? さっきの神討つ剣狼の銀閃って、なにかしら?」
若干顔が引きつっているリアス先輩。後ろの朱乃先輩も聞きたいようで後ろでうんうんとうなずいている。
「ただ単に、周囲の魔力を集束させて圧縮したものを、ただ放出させただけです。簡単に言うなら、超魔力パンチと言ったところでしょうか」
うん。零二並みの魔力があるから、やってみたかったのだ。
「「・・・・・・・なんで・・・・・・・・・・・・威力が・・・・・・・・・・・・・・」」
先輩方はこめかみを押さえながら、何かブツブツ言っている。
「それより、終わったのなら兄さんたちと合流しましょう」
「・・・・・・・そうね」
「ええ、そうですわ」
なんか、現実逃避しているような感じがする。とにかく僕たちは表の方に移動した。
Side out
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Side 一誠
下の神父たちを木場と小猫ちゃんに任せて、俺はレイナーレを追って階段を駆け上がった。
「あはは、追ってきて馬鹿ねぇ。教えてあげるわ、あなたの神器は龍の手って言う持ち主の力を一定時間倍にするけど、あなたの力が倍になったところで全く怖くないわ」
『Boost』
神器から音声が聞こえた。ドクンと音をたて、力が増しえていくのがわかった。
「うおおおおおおおおおおお!」
すでにプロモーションで戦車になっている。俺は力を乗せて拳を突き出す。
「言ったでしょ? あなたの力が倍になったところで全く怖くないって」
俺の攻撃は避けられてしまった。
「力を込めてあげたわ! 食らいなさい!」
ズドンッと俺の両足に光の槍が突き刺さる。両足の腿へ深く打ち込まれていた。
「ぐぁあああああぁあぁぁぁあ!」
俺は絶叫を上げる。激痛が全身を駆け回った。俺は光の槍を掴み足から引き抜く。手が光でダメージを負い、両足からは血があふれ出る。
「バカね。光に自ら触れるなんて」
レイナーレが何か言っているが、痛みでそれどころではない。力が入らなくてしりもちをついてしまった。
「こういう時は神様に頼むのかな」
俺はいつの間にかそんなことを口にしていた。
「いや、神様はダメだ。悪魔なら・・・・・アレだ。魔王様だな。ちょっと俺の願いごと聞いてくれませんかね?」
「何を言い出しているのかしら? ついに壊れた?」
「お願い・・・・・しますっ! ほかには何もいりません!」
両足から血が噴き出すが、構わずに立ち上がる
「う、嘘よ! 立てるはずがない!」
レイナーレが驚いているがどうでもいい。ただ、ただ・・・・・。
「一発・・・・・・一発だけでいいです。こいつを殴らせてください!」
『Dragon booster!!』
神器から再び音声が聞こえ、今までなかった龍の紋章が浮かび上がった。
それに呼応するように、今までとは比にならない力がわき出てくる。
『Explosion!!』
籠手に埋まっている宝玉が眩しいくらいに輝いて、俺を覆った。そして、あり得ないくらい力が湧いてきていた。
「そんな・・・・・・どうして・・・・・・。それは龍の手でしょう? なんで・・・・・・あり得ないわ。どうして、私の力を超えているの・・・・・?」
何やら喚いているが、関係ない! 俺はレイナーレへと近づいていく。
「嘘よ! 嘘よ!」
光の槍を投げてくるが、それを殴り飛ばす。なんなく光の槍は消し飛んだ。
「い、いやぁぁ!」
俺に背を向けて逃げ出そうとするレイナーレの腕を即座に掴んだ。イケる! これならこいつを―――
「逃がすか、バカ!」
「私は至高の!」
「吹っ飛べ! クソ天使!」
―――殴り飛ばせる!
「ギャァァアァアアアァァァァァァァァアアア!!」
俺の拳は左頬を捉えて、レイナーレは壁をぶち破った。死んでいるかわからないが、も動けないだろう。
「ざまーみろ」
俺は倒れこんでしまいそうになった。
「お疲れ。堕天使を倒しちゃうなんてね」
木場が俺の肩を持って支えてくれた。
「遅せぇよ、色男」
「兄さん!」
「イッセーさん!」
堕天使の方を片づけていた二人がやってきた。後ろには、朱乃さんと部長もいる。
「さすが兄さん、堕天使に勝ったんだね」
「はわわわ、早く治療しないと!」
渚は俺の勝利を祝い、アーシアは俺の怪我を治してくれた。
「さすが、私の下僕ね」
部長も俺のことを褒めてくれた。
「部長たちも堕天使を倒してきたんですよね」
「ええ、小娘と思っていたみたいだったから、二人消し飛ばしてやったわ。一人は渚が消し飛ばしたんだけどね」
なぜか、こめかみを押さえる部長。うちの弟がなにかやらかしましたか?
「その一撃を食らえばどんな者でも消し飛ばされる。滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。部長は若い悪魔の中でも天才と呼ばれるほどの力量の持ち主ですわ。別名『紅髪の滅殺姫』」
すごい名前だな。物々しい感じがするよ。
「あの、じゃあ、渚はどうやって?」
「純粋な魔力の嵐でよ」
朱乃さんに質問したら、部長が答えてくれた。しかし、よくわからないのだが・・・・。
「物を消滅させるのにはグレモリーのような、特殊な例を除けば莫大な魔力がいるの。だけど、ナギはいとも簡単にそれをやったわ。しかも、周囲の魔力の集束や圧縮の術式もおりこんだ状態で。普通はそんな術式は出来ないものなのよ」
「あはははははは」
渚を恨めしそうな目で見る部長に渚は笑って誤魔化そうとしていた。
「でも、さすがですわ」
朱乃さんが渚の腕に抱き着く。おっぱいが渚の腕に当たっている。う、羨ましいぃぃぃ! 俺と代われ!
「ちょ、ちょっと先輩!?」
渚は驚いて顔が赤くなっている。なんとか、離れてもらおうとしているようだが、朱乃さんは離す気はないようだ。
「あらあら、教会がボロボロですね。まあ、構いませんか」
そんな状態で、朱乃さんが言う。なんかまずいのかと思ったがそうでもないらしい。
「部長、持ってきました」
さっきから、見かけなかった小猫ちゃんが、レイナーレを引きずりながら現れた。
「朱乃」
「はい」
朱乃さんは魔力で水を作るとレイナーレへとかぶせた。
「ゴホッゴホ!」
咳き込みながら起きるレイナーレ。
「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー家次期頭首よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」
そう言って、部長は黒い羽根をレイナーレの前に放った。
「それでわかると思うけど、あなたに助けは来ないわ」
そこで部長が俺の左腕を見る。何かに気づいたようだ。
「そう、そういうこと。あなたの敗因はイッセーの神器をおそらく、龍の手と勘違いしたことね。これは『赤龍帝の籠手』、神器の中でもレア中のレア。『神滅具』の一つよ」
部長の言葉を聞いて、愕然となるレイナーレ。その効果は十秒ごとに持ち手の力を倍にしていく。神や魔王さえ一時的に上回ることのできるもの代物らしい。
「それじゃあ、消えてもらうわ」
部長が手をかざす。
「俺、参上!」
そのとき、壁の穴から人影が出てきた。
「わーお! 俺の上司がピンチっぽい!」
フリード・セルゼン! あいつ逃げたんじゃなかったのか!?
「助けなさい! 私を助ければ褒美でもなんでもあげるわ!」
レイナーレがフリードに向かって叫ぶが、奴はにんまり笑う。
「どう見ても戦況不利マキシマムシュートじゃないですか~。無理です♪ 諦めてください♪」
絶望的な表情のレイナーレから、フリードは俺に視線を向ける。
「イッセーくん、イッセーくん。素敵な能力を持ってたのね。興味津々なり殺しがいがあるよ! 俺的に殺したい悪魔ランキングトップ5入りだからヨロシク。それと女顔のキミもね」
女顔―――おそらく渚に言ったのだろう。俺たちに明確な殺意が向けられた。
「じゃあね! バイバーイ! みんな,歯磨けよ!」
最後によくわからないことを言いながら、フリードは退場した。
「さて、下僕にも捨てられて哀れね。堕天使レイナーレ」
部長の口調には微塵も同情は感じられなかった。
レイナーレはガクガクと震えている。少しだけ同情したのは彼女が夕麻ちゃんだったからだろう。
「イッセーくん! 助けて!」
突然、俺に助けを求めてくるレイナーレ。それは夕麻ちゃんの頃のものだった。
「グッバイ。俺の恋。部長お願いします」
だが、俺は一切聞く耳持たなかった。少しでも同情した俺が馬鹿だったようだ。
「私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」
悲鳴を上げる間もなく、レイナーレは消滅した。後に残ったのは、宙に舞う数枚の黒い羽根だけだった。
Side out
第11話
Side 渚
堕天使を討伐した次の日。
「あら、ちゃんと来たわね」
兄さんと一緒に部室に行くとそこにはリアス先輩しかいなかった。
まだ学校は始まっていない。昨日、朝から集まりがあると言うことで早朝からここに来たわけだ。しかし、他に人がいないところを見ると、早過ぎたようだ
リアス先輩は、ソファーに座って優雅にお茶を飲んでいる。
「おはようございます、部長」
「おはようございます、リアス先輩」
「ええ、おはよう。もう朝は大丈夫みたいね」
「はい、おかげさまで」
兄さんは悪魔になってしばらくは朝がつらかったようなのだが、もう慣れたみたいだ。しかし、僕は悪魔でもないので夜に強いと言うわけでもない。そう言うわけでちょっと眠かった。
「堕天使にやられた傷は?」
「アーシアのおかげで完治しています」
兄さんが笑顔で答えた。あの力は本当にすごい。怪我がみるみる回復していくのだ。
「そう、あの子の治癒能力は無視できないものね。一堕天使が上に黙って勝手に動くのもうなずけるわ」
僕と兄さんはリアス先輩と対面になるように座る。
「あの部長、チェスの駒の数だけ『悪魔の駒』があるなら、俺のほかにも兵士があと七人存在できるんですよね? いつかは俺と同じ兵士が増えるんですか?」
兄さんがリアス先輩に質問する。あの時に僕が言ったことはあまり意味がなかったらしい。
「いえ、私の兵士はイッセーだけよ」
リアス先輩は首を横に振りながら言った。
「兄さん、僕が悪魔にならないかって言われた時に兵士はなかったんだ。つまり、兄さんは兵士の駒八個を全部使っているんだよ」
「渚の言う通りよ。チェスにこういう格言があるわ。『女王の価値は兵士九個分。戦車の価値は兵士五個分。騎士の価値は兵士三個分。』悪魔の駒でもそれは同じなの。あなたを悪魔として転生させるときにそれを知って、絶対下僕にしようと思ったの。神滅具を宿していたなら納得だわ。つまり、あなたは駒の消費で言えば朱乃の次に価値があるのよ。だから、イッセー、とりあえず最強の兵士を目指しなさい。あなたならそれができるわ」
兄さんは最強の兵士と言う響きに酔っているようだ。
「これはお呪いよ。強くなりなさい、イッセー」
「ヒュウ♪」
兄さんの額にリアス先輩がキスをした。僕は思わず口笛を吹いてしまった。兄さんの顔は真っ赤になっている。
「僕、お邪魔ですか?」
茶化すように僕は肩をすくめる。
「あら? そんなことないわ。羨ましいの?」
「そりゃあ、リアス先輩みたいな美人に額とはいえ、キスされていたのは男として羨ましいですよ」
「そ、そう・・・・・・(ナギは恥ずかしいことを平気でいうわね)」
僕の返しに、少し顔を赤くしながら動揺した様子のリアス先輩。
「ええと、それにイッセーにこういうことしていたら新人に嫉妬されるかもしれないわ」
動揺を取り繕うようにリアス先輩が言った。
「と、言うことは・・・・・・・彼女が?」
「ええ」
兄さんは何を言っているのかわからないようだ。頭の上に?が浮かんでいる。
「イ、 イッセーさん・・・・・・・・・?」
おお、なにを言っているのかわかるぞ! 後ろから聞こえた声がわかったことがうれしく感じる。
「紹介するわ。新しく私の下僕になったアーシア・アルジェントよ。駒は僧侶だわ」
兄さんはビックリして固まっている。どうやら、アーシアさんはリアス先輩が兄さんの額にキスしたところを目撃したようだ。
「な、なんで・・・・・・アーシアが悪魔に・・・・・?」
「そこはいいじゃない、イッセー」
兄さんはわかっていないようだが、大方リアス先輩が「悪魔になればイッセーとずっと一緒にいれるわよ」とか言ったに違いない。これは確信できる。
「そ、そうですよね・・・・・・。リアス部長は綺麗ですから・・・・・・・」
あーあ。落ち込んじゃったよ。まあ、自分の好きな人が額とはいえ、キスされている姿を見ればそうなるのもわかる気がするが。
「兄さん、何か言いなよ(服、服を見て!)」
最後の方は小さい声で言って、アーシアさんの服装に目を行かせるように言った。
「アーシア、その格好・・・・・・」
そう、アーシアは今、駒王学園の制服を着ているのだ。
「に、似合いますか?」
恥ずかしそうに、兄さんに尋ねるアーシアさん。
「すげぇ! かわいいよ! アーシア、最高だ! あとで俺と写真を撮ろう!」
「え、は、はい」
ちょっと反応に困っているアーシアさん。顔が少し赤い。なんか二人の周りにピンク色のオーラが見えるんですけど・・・・・・・・・。
「(リアス先輩、なんか二人だけの世界に入ってません? あの二人。僕はピンク色オーラを二人が出しているのが見えますよ)」
「(ええ、そうみたいね。見事に蚊帳の外だわ、私たち)」
「(どうします?)」
「とりあえず、私が何とかするわ」
「(おお、さすがリアス先輩! そこに痺れる、憧れるぅ!)」
「(ナギ・・・・・・・それで褒めているつもり? ・・・・・・・まあいいわ)」
二人で、密談をする。内容はこの状況をどうするかだ。
「ごほん! アーシアにもこの学園に通ってもらうことになったわ。イッセーと同じクラスよ」
リアス先輩が咳払いをして、二人だけの世界から連れ戻した。
「よろしくお願いします。イッセーさん」
「ああ、俺こそよろしくな」
そう言った後、兄さんは何か妄想しているようだ。
「アーシアは今日から私の下僕としてイッセーと一緒に走り回ってもらうわ」
「はい! がんばります!」
元気よくアーシアさんが返事をした。
しばらくして、祐斗、小猫ちゃん、朱乃先輩が部室に入ってくる。
「おはようございます、部長、イッセーくん、ナギ、アーシアさん」
「・・・・・・・・おはようございます、部長、イッセー先輩、ナギ先輩、アーシア先輩」
「ごきげんよう、部長、イッセーくん、ナギくん、アーシアちゃん」
それぞれが挨拶をした。みんな、兄さんのことを「イッセー」と呼び、アーシアさんを一員として認めていた。自分もその中にいることに思わず笑顔になる。
「さて、全員が揃ったところでささやかなパーティーを始めましょうか」
そう言ってリアス先輩が指を鳴らす。
すると、テーブルの上にケーキが出てきた。おお、この魔法は教えてもらいたい。
「た、たまにはみんなで集まって朝からこういうのもいいでしょ? あ、新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから、みんなで食べましょう」
リアス先輩が照れくさそうに言った。
そして、みんなでケーキを食べる。楽しい朝だった。言わなかったが、朝からケーキはつらいものがあった。
Side out
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追記
朱乃先輩が僕にケーキを「あーん」をしてきたので、お返しに僕もケーキを「あーん」してあげたら、兄さんが「百合の花が咲き誇って見える」とか言い出し始めたので、どこぞの魔法少女がするようなO☆HA☆NA☆SHIをした。具体的には中身がスカスカで形だけの威力ゼロの神討つ剣狼の銀閃を何発も打ち込んだのだ。しばらくの間「銀色怖い、銀色怖い、銀色怖い、銀色怖い、銀色怖い、銀色怖い」としか言わなくなってガタガタ震えていたのは仕方ないだろう。ドSの朱乃先輩以外、周りはドン引きだった。そんな兄さんをアーシアさんが必死に慰めていた。兄さんはある意味、役得だっただろう。
第1話
Side 一誠
みなさん、こんにちは。兵藤一誠です。
え~、現在、俺はなぜか教会にいます。周囲には見知った人たちもいます。
「ちくしょう! イッセーが何で結婚なんて!」
「何かの間違いだ! これは何かの陰謀だ!」
坊主頭の松田、メガネの元浜。悪友二人が恨めしそうな表情で、俺に言葉を贈っている。
「イッセー初孫は女の子だよー!」
「うぅ、立派になって! 性欲だけが自慢のどうしようもない子だったのに!」
「兄さん、おめでとう! でも、この歳で叔父さんは嫌だから、するときはちゃんとゴムしてよ!」
父さん母さんは号泣している。渚は笑顔だ。しかし、勝手なことばかり言いやがって!
俺の格好は白のタキシード。まるで結婚式のような場面。つーか、結婚式だろ。
お約束の音楽も流れている。あれ? 俺の結婚式!? いつの間にそんなことになってたんだ!?
突然の出来事に動揺を隠せないが、こうなると俺の嫁さんは誰だ?
「イッセーさん、キョロキョロしてはダメですよ」
隣から聞き覚えのある声。横を向けば金の髪をなびかせている美少女―――アーシア・アルジェントがいた。
偶然俺が街で見かけたシスター。オカルト研究部で堕天使から助け出した女の子。その後、悪魔となった子でもある。
眩しい! アーシアのウェディングドレス姿が眩しすぎる。直視できない。
アーシアが俺の隣にいるってことは、俺の―――
「アーシアちゃん! 綺麗だよ!」
「なんでだ! アーシアちゃん!」
参列者の悲鳴が教会の各地から上がる。誰も俺のことは褒めてくれないのね・・・・・・・。
というか、これは俺とアーシアの結婚式! いつの間にそういう関係になっていて、ついにこういう展開になってしまったわけか。よくわからないが、何も問題はない!
「いついかなる時も―――」
何やら神父さんが言っているが、俺はほかのことで頭がいっぱいだった。具体的には、今日の夜・・・・・・・そう、結婚初夜である!
脳内でアーシアがベットで待機している。こ、これは・・・・・・アーシアとエッチができるのか!!
だ、だが、俺に無事完遂できるだろうか? いや、できる! 知識だけは人一倍だし、シミュレーションを来る日も来る日もやっていたではないか!
そう、俺は模擬選ではエースパイロットなのだ。後は実践を待つだけのエリートなのだ!
「それでは、誓いの口付けを」
そうだ、まずはこれがあった。教会でのキス。アーシアとキス!
アーシアは目を瞑って、こちらを待っている。いいんだな! よし! いきます!
『随分と盛り上がっているじゃないか、クソガキ』
だ、誰だ!? 聞き覚えはない。しかし身近な存在のように感じる。
『そうだ。俺はおまえのそばにいる』
・・・・・・・・・誰だ? 周囲にあった教会は跡形もなく消えている。友人も両親も誰も彼もがいなくなっていた。
次第に、平衡感覚、触覚、視覚、聴覚もが消えていく。なんだ!? これはどういうことだ? それにさっきのは誰だ・・・・・・・・?
『俺だ』
目の前に、突然現れたのは、大きな目。血のように赤い瞳。耳まで裂けた口には鋭い牙が何本も生えそろっている。頭部には太い角が並び、全身を覆うのはマグマのような色の鱗。巨木のような腕、足。牙に劣らず鋭そうな爪。なによりも、大きく広がっている蝙蝠のような翼。
俺が知っている生き物に似ているのは―――ドラゴン。
『そうだ。その認識でいい。俺はずーっとお前に話しかけていた、だが、お前が弱小すぎたせいか、今まで俺の声が届かないでいた。やっとだ。やっとお前の前に出現できた』
こちらは口に出していないのに、目の前の存在はわかったらしい。こいつはなんだ?
『なんだ? とは随分ひどいじゃないか。これから共に戦う相棒なのに。俺はただ挨拶をしたかっただけだ』
相棒? なんのことだ?
『わかっているんだろう? なんとなく、そうかもしれないと思ったはずだ。そう、そうれでいい。俺はお前の想像通りの存在だ。いずれ、また話そう。なあ、相棒』
自分の左腕に視線を移すと、俺の腕は紅き鱗に包まれた異形のものになっていた。
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目を開けると、見慣れた天井だ。どうやら夢だったらしい。
左腕を見てみるが、異常はない。しかし、この腕に何が宿っているのかは理解している。
「兄さん、起きてる? リアス先輩もう来てるよ」
扉越しに渚の声が聞こえた。ハッ、と窓から下を見ると部長がいた。
「今、行く!」
渚に返事をして、速攻で寝間着からジャージに着替えた。
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Side 渚
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
「ぜーはーぜーはー」
「ほら、だらしなく走らないの。渚を見習いなさい。あとでダッシュ十本追加するわよ」
僕と兄さんは早朝の住宅街を走っている。兄さんはすでにきつそうだ。
後ろからは、リアス先輩が自転車で追いかけている。僕は剣道部とはいえ運動部なのでまだまだ余裕だ。
「ハーレム王に俺はなる・・・・・・・ぜーはー・・・・・・・・」
――ズルッ!
「痛っ」
兄さんがつらい状況なのに、そんなことを言ったのでこけてしまった。
「ぜーはーぜーはーぜーはー」
「ナギ、大丈夫?」
「ええ、平気です」
自転車を止めて、リアス先輩が心配してくれた。兄さんはそこまで余裕がないらしい。幸い怪我はしなかったのでよかった。僕の無事を確認して、再び走り始める。
「イッセー。まずは基礎鍛錬から少しずつでも強くなりなさい」
悪魔の世界は単純で力が強ければ強いほど、上を目指せるらしい。他の能力でも上に行けるが、兄さんにそっちの才能があるとは思えない。故に毎朝、体力を上げるために走り込みだ。僕はついでだから、一緒に走っている。
「私の下僕が弱いなんてことは許されないわ」
リアス先輩はそう言った。つまり結構なスパルタなのだ。朝から、二十キロ以上走り、ダッシュは百本以上。筋トレも各種かなりの回数をやっている。
さすがにこれはキツイが、最初に比べれば慣れたと思う。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・・・・・」
「ハッ、ハッ、ハッ。ふう」
「お疲れ様。さて、次はダッシュよ」
リアス先輩は本当にスパルタだ。
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「あなたの能力は基礎が高ければ高いほど意味があるのよ」
「ういっす・・・・・・・・六十五・・・・・」
現在筋トレ中だ。兄さんの上にはリアス先輩が乗っている。
「おうっ!」
兄さんが突然変な声を出したので、見てみるとリアス先輩にお尻を叩かれていた。
「邪念が入っているわ。腰の動きがいやらしいわよ」
・・・・・・・・・・・・・こんな時でもいやらしいことが考えられるなんて、本当にすごいと思う。尊敬なんて微塵もしないが。
「そ、そんな・・・・・・六十八・・・・。部長が乗っているので・・・・・・・六十九・・・・・俺のお馬さん根性がマックスになりますよ・・・・・・・・」
お、お馬さん根性・・・・・・・・・・。笑いそうで腹筋がプルプルと震えた。
「腕立て伏せしながらおしゃべりできるなんて、成長したわね、イッセー。もう百回追加しましょうか?」
リアス先輩、それはさすがに兄さんが朝から瀕死になりますって。
「うーん、そろそろ来てもおかしくないんだけど・・・・・」
「? だれか来るんですか?」
僕がそう聞くと、「すいませーん」と言う声が聞こえた。
「イッセーさーん、ナギさーん、部長さーん! 遅れてすみませーん・・・・・・・はぅっ!」
見ると走ってこちらに来ているアーシアさんが見事に転んでいた。見事な転び方だ。ある意味、才能だろう。
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「どうぞ、お茶です」
「ありがとう」
「どうも」
水筒を持っていたアーシアさんからお茶をもらう。兄さんはもらったお茶を一息に飲みほした。
「アーシア、どうしてここに?」
兄さんが僕も思っていたことを聞いてくれた。
「毎朝、イッセーさんがここで部長さんたちとトレーニングをしていると聞きまして・・・・・・その、私もイッセーさんのお力になりたいなーって。今日はお茶ぐらいしか用意できませんでしたけど」
アーシアさんは頬を赤く染める。いい子だな・・・・・・。
「うぅぅ、アーシア! 俺はアーシアの心意気に感動した! ああ、かわいい女の子にそんなことを言われる時が俺に訪れようとは!」
「そ、そんな・・・・・・・かわいいだなんて・・・・・・・///」
さらに頬を赤く染め、両手を頬に当てながらクネクネするアーシアさん。
「(ちょっとナギ、あの二人また二人だけの世界に入っているわよ)」
「(ええ、そうみたいですね。聞きました? 「私もイッセーさんのお力になりたいなー」って言ってましたよ。一緒にやっている僕は入ってません。兄さんだけです)」
兄さんたちの方を見ると仲良くお茶を飲んでいる。僕ら二人はお茶を飲みながらひそひそと話している。
「(ホントよね)」
「(まったくです。兄さん口では「ハーレム王になる」って言ってますけど、この光景を見ると、本気か疑わしいですね。それと、そろそろなんとかしてください、リアス先輩。見てるだけで恥ずかしいです)」
「(ええ、私もよ。ちょうど時間もいいし、任せなさい)」
「ううん! ちょうどいいわ。このままイッセーとナギのお家に向かいましょう」
え? 何で僕らの家に?
「もう荷物が届いているころだわ」
あ~、なるほどね。何が起こるのか理解できた。
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家につくと玄関前に段ボールが積み重ねられていた。
「さあ、イッセーにナギ。このダンボールを部屋に運びなさい」
予想通りの展開なので、黙って運び込んでいく。兄さんは訳が分からないようだ。
「あの・・・・・・これはいったい?」
「アーシアの荷物よ。今日からアーシアはあなたたちの家に住むの」
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その後、家族会議が行われた。当初は兄さんの性欲が問題視されたが、結局アーシアさんは家で住むことになった。
決め手は、リアス先輩が言ったこの一言だろう。
『今回はホームステイは花嫁修業も兼ねて―――というのはどうでしょうか』
この一言で、両親は目から大量の涙を流れ出していた。
父さんも母さんも、僕は別として兄さんがお嫁さんが――――つまり結婚できないと考えていたようで、アーシアさんに兄さんのことをよろしく頼むとお願いしていた。
こうして、アーシアさんは僕たちの家で暮らすことになった。
「・・・・・・・花嫁、ね」
ただ、最後にそう言って少し寂しげな表情をしていた、リアス先輩が妙に気になった。
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第2話
Side 一誠
「おりゃぁぁあぁぁぁ!」
俺は今、気合を込めて自転車のペダルをこいでいる。
目的地の前に辿り着くと、自転車の後ろに座っていたアーシアがポストにチラシを投函した。
「完了です」
「オッケー」
アーシアが後ろに乗ったのを確認して、俺は再び自転車をこぎ始めた。
今行っているのは、チラシ配りだ。
「・・・・・・イッセーさん、本当によろしいんですか? 私のチラシ配りをお手伝いしてくださるなんて・・・・・・」
「ああ、問題ねーよ」
そう、俺はアーシアがやっているチラシ配りのお手伝いをしているのだ。にけつで自転車に乗っている。
「だって、アーシアは自転車乗れないんだろう? なら、代わりの運転手が必要さ」
「うぅ、すみません。自転車とは縁がなかったものですから・・・・・。でも、歩いてなら―――」
「そんなの余計させられないよ。俺は、アーシアのことが心配なんだ」
見知らぬ土地をアーシア一人で走りまわすなんて俺にはできない。それにアーシアはお人よしで世間知らずだ。どんなことが彼女を襲うかわからない。・・・・・・・まあ、迷子になりそうな気もするっていうのもあるけど。
「ほら、アーシア。あれが神社だ。オレら悪魔は入っちゃダメだぞ」
通り道にあった神社を紹介する。
「はい。悪魔は精霊が集まるところや土地の神様に関係するところに行ってはダメなんですよね」
一神教の文化で育ったアーシアには、よくわからないところがあるみたいだ。
こんな感じで、チラシ配りをしながら、俺の暮らす町の様子をアーシアに教えていた。
「あ! あそこ。今は閉まっているけど、おいしいパン屋さんなんだ。今度一緒に買いに行こうか?」
「はい! 日本のパンは甘くて大好きです!」
何気ない会話がとても楽しかった。夜のデートをしている気分。
「イッセーさんは『ローマの休日』を観たことがありますか?」
ふいにアーシアが聞いてくる。確か昔の映画だったよな?
「いや、ごめん。観たことないな。昔の映画だろ、それ?」
「そうですか・・・・・・・・・」
少し残念そうな声を出すアーシア。
「でも、その映画がどうかしたのか?」
「・・・・・・・ずっと、憧れだったんです。こうやって・・・・・・・・。あれはバイクでしたけど。それでも私・・・・・・・・。うふふ」
よくわからないが、とてもうれしそうな笑い声だ。腰に回される腕もギュッとしてきている。
アーシアがうれしいなら、それで十分だ。それにしても、今夜も夜風が気持ちいい。
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時間を少し遡り―――――
Side 渚
「ナギくん、今日はイッセーくんについて行かないのですか?」
今日は、部室でゆっくりとすごしていると、朱乃先輩が聞いてきた
「兄さんはアーシアさんの手伝いですよ? あの二人の仲に割って入れと? 僕には無理です」
「あらあら、そうなんですか?」
朱乃先輩がお茶を入れてくれる。そして、僕の隣に座った。
「ありがとうございます、朱乃先輩。あの二人、すぐに二人だけの世界を作るんですよ。割って入る気にもなりません」
「あらあら、それは大変ですね。ナギくんは蚊帳の外ですか?」
「ええ。まあ、二人の仲を応援するのは吝かではないですけど、常時二人の世界にいられるのは困ります」
肩をすくめながら、朱乃先輩に答える。
「ははは、ナギも大変だね」
「・・・・・・・不憫」
祐斗と小猫ちゃんも会話に混ざってきた。
「でしょ? ホントに大変なんだ。リアス先輩もそう思いますよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ん? 聞こえなかったのかな?
「リアス先輩?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・」
ボーッとしたまま、あらぬ方向を見て、深いため息をついている。朱乃先輩たちを見るがみんなも、首をかしげていた。
「リアス先輩ってば!」
今回は大きい声で呼んでみる。
「―っ! ご、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ」
「どうかしたんですか? 最近なんか変ですよ?」
「なんでもないわ。心配しなくていいわよ」
「なら・・・・・・・いいんですが・・・・・・・・・・・」
なんだか、腑に落ちないが納得しておく。追及してもはぐらかされるだけだろう。
「ただ今戻りました!」
チラシ配りを終えた、兄さんとアーシアさんが帰ってきた。
「あらあら、お疲れ様。今お茶を入れますね」
朱乃先輩が席から立ち、お茶を入れに行く。
「やあ、夜のデートはどうだった?」
爽やかな笑顔を浮かべ、祐斗が兄さんにそう言う。
「最高に決まってんだろ」
親指を立てて、祐斗に突き出す。機嫌がいいのか睨んだりはしなかった。
「・・・・・・・・深夜の不純異性交遊」
静かな声で厳しいことを小猫ちゃんが言った。兄さんとアーシアさんがリアス先輩の前に移動する。
「部長。ただいま帰還しました」
「ご苦労様、イッセー、アーシア」
今回はボーッとしていなかったようで、すぐに返事をしていた。
「さて、今夜からアーシアにも契約を取ってきてもらいましょうか」
「え?」
きょとんとしているアーシアさんに、兄さんが言った。
「アーシア、今日から悪魔として本格的にデビューだ! 魔法陣から依頼人のもとへジャンプして契約してくるんだよ!」
「わ、私がですか?」
狼狽して自分を指すアーシアさん。
「そうよ。チラシ配りは今夜で終了。いつまでもやらせておくと、二人のデートの方が席に進んでしまいそうだもの」
さすが、リアス先輩はわかっているようだ。
「とりあえず、イッセーの前例があるから朱乃、調べてみて」
「はい、部長」
兄さんは魔力が微塵もなくて、魔法陣使えないからな。確かに心配だろう。
朱乃先輩はアーシアの額に手を当てて魔力の有無を感じ取っているようだ。
「部長、大丈夫ですわ。問題もありません。それどころか、私たちの中ではナギくん、部長、私に次ぐ魔力の持ち主かもしれません。潜在キャパシティが豊富ですわ」
よかった。兄さんみたいなことはないらしい。朱乃先輩の報告にリアス先輩は微笑んだ。いや、兄さんが規格外なんだろう。普通は誰もが転移できるのだ。
「それは吉報ね。『僧侶』としての器が存分に活かせるわ」
どうやら、僧侶は魔力関係の特性があるようだ。それなら、魔力が多い方がいいだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところで、兄さんなんで泣いてるの?
「・・・・・・イッセー、泣いてるの?」
リアス先輩が俺の代わりに聞いてくれた。
「部長、ダメです。ダメなんです!」
兄さんは首を横に振りながら、涙を流している。何があった?
「部長! アーシア一人じゃ不安ですぅ!」
兄さんの話を詳しく聞いていくと、どうやらいかがわしい依頼をされたらアーシア一人じゃ心配だということらしい。そういう依頼はグレモリーにはこないようになっているらしいが、兄さんはそれでも心配のようだ。
「わかったわ。初めのうちはアーシアの助手にあなたをつけるから。それでいいかしら?」
「あ、ありがとうございます! アーシア! 変態相手は俺に任せてくれ! アーシアは普通に何事もなく契約を取ればいいんだからな!」
「は、はい」
アーシアの手を兄さんが取る。おいおい、このままじゃ、また二人の世界に入っていくぞ?
「というわけで、依頼が入ったら、アーシアはイッセーを連れて魔法陣でジャンプしてね」
「はい、わかりました。部長さん」
そんな確認をしているそばから、部室の床に描かれている魔法陣が輝きだした。朱乃先輩がそれをチェックしている。
「あらあら、早速アーシアちゃんがこなせそうな依頼の方が私たちを召喚しようとしていますわ」
「それは都合がいいわ。依頼人のもとへ飛ぶのに必要な魔力はアーシアが捻出することで、イッセーの分を補えばいいでしょうから」
朱乃先輩の報告を受けて、リアス先輩がそう言う。
「行くぞ、アーシア!」
「はい、イッセーさん!」
おめでとう。兄さん、これが魔方陣での初転移だ。
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深夜、兄さんたちと共に帰宅する。アーシアさんは無事に契約をできたようだ。
「すみません、先にシャワーいただきますね」
そう言ってアーシアさんは、お風呂場へ向かっていった。
僕と兄さんもそれぞれの部屋に戻る。
僕は自分のベットへと寝転がる。
「ふう・・・・・・・・・・」
息を吐きながら、脱力する。
「なにかあったのかな?」
リアス先輩の思いつめた表情が思い出される。だいぶ薄れた原作知識を必死に思い出そうとするが、成果はなかった。
「思い出せないか・・・・・・・・」
ぽつりとつぶやくと、突然僕の部屋の床に光が走り始めた。
「は?」
何事かと思って、見てみると光は次第に見覚えのある形になっていく。
「グレモリーの魔法陣? なんで、僕の部屋に?」
いっそう魔法陣の輝きが、強くなると魔法陣から人影が現れた。
女性のシルエットに紅の髪。
「リアス先輩・・・・・・・・?」
魔法陣から出てきたのは、まぎれもなくリアス・グレモリー先輩だった。しかし、なぜ? 兄さんの部屋ならわかるのだが、どうして僕の部屋に?
何やら、思いつめた表情を浮かべているリアス先輩。部室にいた時から変わっていない。
「どうしたんですか? なにか・・・・・・・ありました?」
僕はリアス先輩に聞く。しかしリアス先輩は答えることなく、僕の姿を確認するとズンズンと詰め寄ってくる。
「ナギ、私を抱きなさい」
・・・・・・・・・・what? 今、リアス先輩はなんて言った? 怪訝そうな表情を浮かべているであろう僕にリアス先輩はダメ押しの一言を言った。“抱きなさい”って言ったよね? 抱きしめればいいのか?
「私の処女をもらってちょうだい。至急頼むわ」
この一言で、ほんの少し原作知識が蘇った。確かに、こんなシーンがあった気がする。そして、自分の考えが見当はずれだったことを思い知った。
(って、あれ? これ言われたのって兄さんじゃなかったけ?)
僕の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。
Side out
第3話
Side 渚
「ほら、ベッドへお行きなさい。私も支度するから」
リアス先輩は僕を急かしながら、制服を脱ぎだし始めた。
「え? ちょ、ちょっと! ちょっと待ってください!」
理解が追いつかないが、なんとか脱ぐのをやめさせようとする。だが、リアス先輩はすでにスカートを脱ぎ捨て、上も脱いでいる。下着姿だ。
思わず、視線がそちらに向かいそうになるのを、必死に耐える。
「お、落ち着いて! 一旦落ち着いてください!」
なんとか思い留まらせようと声をかけるが、一切聞いていないようだ。
「ねぇ、ナギ? 私ではダメかしら?」
下着姿になったリアス先輩は、一度深呼吸をした後、僕に詰め寄ってきた。僕はそれにしたがい、後ろに下がっていく。
「いや、ダメとか、そういうことじゃなくて!」
「いろいろ考えたのだけれど、これしか方法がないの」
リアス先輩は何を言っている?
「既成事実ができてしまえば文句はないはず。身近でそれが私とできそうなのは、あなたとイッセーしかいなかったわ。でも、イッセーはアーシアのことが好きみたいだから、あなたしかいないの」
いや、他にもいたんじゃないですか? ほら、ええと・・・・・・祐斗とか!
「祐斗ではダメ。彼は根っからのナイト。絶対に拒否するわ。だからこそあなただけだった」
僕の思考を読んだように答えた。そして、迫りくるリアス先輩に僕はついに追い詰められベットに押し倒される形になった。
「リ、リアス先輩・・・・・・・・・」
先輩は腕を後ろに回して、ブラジャーのホックを外した。胸が露出される。理性がガリガリと削られていった。
「ナギは初めて? でも『抱かれたい男の娘』って言われてるから・・・・・経験あるの?」
いやいや、それ周りが勝手に言ってるだけです。経験なんてありません。
「いや、その、初めてです」
「そう。私も初めてだから、お互い至らない点もあるでしょうけど、なんとかして最後までことを成しましょう。大丈夫、仕組みは簡単だわ。私のここにあなたのを入れるだけよ」
まずい! このままでは本格的にやってしまうことになる・・・・・・・。今のところは削られていく理性を必死に奮い立て、なんとか息子は鎮めているが、このままではヤバイ!
すると、突然リアス先輩が僕の手を取った。僕の右手はリアス先輩の胸に当てられている。
なんとも言えないやわらかい感触が、右手から伝わってくる。
「わかる? 私も緊張しているわ。胸の鼓動が伝わるでしょう?」
右手を通して、ドクンドクンという音が伝わってくる。
さらに、リアス先輩は僕の服に手をかけ始めた。まずい! このままでは脱がされる!
「リ、リアス先輩! 一寸、一寸待ってください!」
「私に恥をかかせるの?」
いや、恥とかじゃなくて! こんなのがいいわけないじゃないか! 猛れ、僕の理性! 奮え、僕の理性! 諦めるな、理性! もっと熱くなれ、理性! 今こそ現状を打破できる力を僕に! いくぞ!
「リアス先輩!!」
「キャ!」
理性を振り絞り、腹筋だけで上体を起こしてリアス先輩を抱きしめた。
「ごめんなさい・・・・・・僕にはこんな形で先輩を抱くなんてできません」
リアス先輩の胸がダイレクトに当たっているが、そんなことは関係ない。
「急にどうしたんですか? 何があったんです? 僕にできることなら力になりますよ、約束します」
僕がそう言うと再び、魔法陣が現れそこから銀髪のメイドさんが出てきた。
「こんなことをして破談に持ち込むつもりですか?」
メイドさんはリアス先輩を確認すると、淡々と言った。
「こんなことでもしないと、お父様もお兄様も私の意見を聞いてくれないでしょう?」
「だからと言って、女性としようとするのを知れば、旦那様もサーゼクス様も悲しまれます」
じょ、女性・・・・・・・・。ああ、初対面の人から女性扱いされるのは慣れているが、この状況で女性扱いされるなんて・・・・・・・・・。涙が出そうだ。リアス先輩にお兄さんがいたとかどうでもいい。僕はベットに倒れた。今日は枕を涙で濡らしそうです。
メイドさんの言葉を耳にして、リアス先輩は一気に不機嫌になった。
「私の貞操は私のものよ。私が認めた者に捧げて何が悪いのかしら? それにナギは男よ。女の子に見えるけど」
最後は余計です・・・・・・・・。「女の子に見えるけど」はいりません。
「それは失礼しました。女性にしか見えませんでしたので。それはともかく、グレモリ―の次期当主がむやみに肌を晒すものではありません。ただでさえ事の前なのですから」
メイドさん、リアス先輩の上着を拾ってかける。そして、メイドさんの視線が俺に移った。
「はじめまして。私は、グレモリー家に仕える者です。グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを。そして、先ほどは失礼しました」
メイドさん――グレイフィアさんが丁寧なあいさつと共に、僕に謝罪してきた。
「構いませんよ、慣れてます。慣れてますから・・・・・・・・」
「ところで、グレイフィア、あなたがここに来たのはあなたの意志? それとも家の総意?・・・・・・それともお兄様の意志かしら?」
半眼でいかにも不機嫌ですといった表情のリアス先輩。なんか新鮮だ。
「全部です」
グレイフィアさんは即答した。リアス先輩は諦めたように深くため息をつく。
「そう。兄の女王であるあなたが直々に人間界に来るのだもの。そういうことよね。わかったわ」
リアス先輩は、脱いだ服に手をかけた。
「ごめんなさい、ナギ。さっきまでのことはなかったことにしてちょうだい。私も少し冷静ではなかったわ。今日のことはお互いに忘れましょう」
「ナギ? この方が」
あれ? 僕のこと知ってるの?
「ええ、兵藤渚。魔王を上回るほどの魔力を持つ人間よ」
「興味深いですね。人間でありながら魔王を超える魔力を持つとは」
不思議なものを見る目で僕を見てくる。ほんのり顔が赤いのは、服装の乱れた僕を見たせいじゃないと思いたい。
「グレイフィア、私の根城で話しましょう。朱乃も同伴でいいわよね?」
「『雷の巫女』ですか? 構いません。上級悪魔たる者、女王を傍らに置くのは常ですので」
「よろしい。ナギ」
リアス先輩がツカツカと歩み寄ってきて、僕の頬にキスをした。
「今夜はこれで許してちょうだい。迷惑かけたわね。明日、また部室で会いましょう」
そう言って、グレイフィアさんと共に魔法陣に消えていった。
僕の頬にキスの感触を残して。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 一誠
俺は今、アーシアと木場と共に部室に向かっていた。渚は少し遅れるらしいと木場が言っていた。
「部長の悩み?」
「うん。最近部長の様子がおかしいのはイッセーくんも気づいていただろう」
確かに、心ここに在らずって感じの時が多かったな。
「たぶん、グレモリー家に関わることだと思うんだけど」
そう言えば、今朝の渚の様子が少し変だった気がする。あいつ何か知ってたのかな?
「朱乃さんなら知っているよな?」
俺の問いに木場はうなずく。
「朱乃さんは部長の懐刀だから、もちろん知っているだろうね」
うーん、俺たちにはわからないか。何か事が起きてからがんばりますかね。
「・・・・・・僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて・・・・・・・・」
部室の前に立って、目を細めて顔を強張らせる木場。なんだ?
気にせずに開けると、室内には部長、朱乃さん、小猫ちゃん、そして初めて見る銀髪のメイドさんだった。どなたでしょうか?
部員の面々を眺める。明らかに不機嫌そうな部長。いつも通りニコニコしているがどことなく冷たい感じの朱乃さん。小猫ちゃんは部室の隅っこで椅子に静かに座っている。メイドさんはなんかクールな感じだ。
(なんか張りつめた空気なんですけど・・・・・・・・)
後ろで、木場が小さく「まいったね」とつぶやいた。
そんな中をメイドさんが俺の前に歩いてきた。
「はじめまして。私は、グレモリー家に仕える者です。グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを。」
「ど、どうも。リアス様の下僕で兵士の兵藤一誠です」
メイドさん―――グレイフィアさんはピクリと片方の眉を動かす。
「リアス様。彼が?」
「ええ、そうよグレイフィア。彼が『赤龍帝の籠手』の使い手よ」
「・・・・・・・・・『赤龍帝の籠手』、龍の帝王に憑かれた者」
異質なものを見る目で俺を見るグレイフィアさん。何かやらかしましたか、俺?
「挨拶はそこまでにしてちょうだい。ナギがいないけどとりあえず、部活をする前に少し話があるの」
「お嬢様、私がお話ししましょうか?」
部長はグレイフィアさんの申し出をいらないと手を振った。
「実はね――――」
部長が口を開いた瞬間だった。床の魔法陣が輝きだす。
魔法陣はグレモリーの紋様から見たこともない姿へと形を変え始めた。
なんだ? グレモリーの関係者じゃないのか?
「―――フェニックス」
近くにいた木場がそう漏らす。フェニックス? やっぱりグレモリーじゃないのか!?
魔法陣が輝き、そこから人影が姿を現した。そして炎が巻き起こる。
熱い! なんなんだ急に!
炎の中から赤いスーツを着た男が姿を現した。
「ふぅ、人間界は久しぶりだ」
見た目は二十代前半と言ったところだろうか。整った顔立ちだが、どこか悪ガキっぽい印象がある。ぶっちゃけホストにしか見えない。
男は部屋を見渡して、部長を捉えると口元をにやけさせた。
「愛しいリアス。会いに来たぜ」
・・・・・・・愛しいリアス? こいつ部長とどういう関係?
部長の方は、一切歓迎しているとは思えない。しかし、男は部長の様子など気にせず、近づいていく。
「さて、リアス。早速だが、式の会場に行こう。日取りも決まっているんだ」
こいつ、軽そうなやつだな。
「・・・・・・・放してちょうだい、ライザー」
部長が手を振り払った。声が恐い。
「あんた、女の子にその態度はどうよ」
「あ? 誰、お前?」
俺が男に言うと、明らかに不機嫌な口調で返される。
「俺はリアス・グレモリー様の下僕。兵士の兵藤一誠だ!」
聞かれたからには答えなければな!
「ふーん。あっそ」
興味ないんかい! だったら聞くな! まったく、むかつく奴だなっ!
「つーか、あんた誰?」
こちらは名乗ったんだ、こいつの名前くらい聞いてもいいだろう。
「あら? リアス、俺のこと下僕に話してないのか?」
「話す必要がないから話してないだけよ」
部長は冷たく突き放す。
「あらら、相変わらず手厳しいねぇ」
男は目元を引きつらせている。
「兵藤一誠様」
そこへグレイフィアさんが介入してきた。
「は、はい」
メイドさんに話しかけられて、緊張する俺。・・・・・・なんだか情けない。
「この方はライザー・フェニックス様。純潔悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であります」
爵位持ちの悪魔ってことは上級悪魔か。それはいいとして部長とはどういうご関係で?
「そして、グレモリーけ次期当主の婿殿でもあります」
ん? 婿・・・・・・・・? 次期当主って部長だよね?
「リアスお嬢様とご婚約されてるのです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
図らずも、俺は絶叫してしまった。
Side out
第4話
Side 一誠
「いやー、リアスの『女王』が淹れてくれたお茶は美味いな」
「痛み入りますわ」
朱乃さんはニコニコしているが「あらあら」や「うふふ」がない。ちょっと怖いんですけど。怒っていらっしゃいますか?
ソファに座る部長。その隣に座り軽々しく部長の肩を抱くライザー。俺たち下僕は二人の上級悪魔から離れて、二人の様子を見守るしかなかった。
「それにしても、渚の奴遅いな」
「言われてみれば、ナギ来ていないね。アレのせいで忘れてたよ」
木場・・・・・・上級悪魔をアレ扱いして大丈夫なのか?
「・・・・・・・・・確かに遅いですね」
「きっとそのうち、来てくれますわ。うふふ、早く来てくれないかしら?」
朱乃さんは渚が待ち遠しいらしい。あいつ、いつの間に朱乃さんと仲良くなったんだ? 羨ましいぜ! ちくしょうっ!
「いい加減にしてちょうだい!」
激高した部長の声が部室に響き渡った。視線を向けると、部長はソファから立ち上がりライザーを睨んでいる。ライザーの方は相変わらずのにやけた顔だが。
「ライザー! 以前にも言ったはずよ! 私はあなたなんかとは結婚しないわ!」
「ああ、以前にも聞いたよ。だがリアス、そういうわけにはいかないだろう? キミのところのお家事情は以外に切羽詰ってると思うんだが?」
どんどん白熱していく、部長とライザー。その中でライザーは純潔悪魔や『七十二柱』の家について部長に言う。どうやら、前にあった戦争でその大半が死んでしまったらしい。部長とライザーの結婚は意外と重要視されているようだ。
「私は家を潰さないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」
部長の言葉を聞いて笑顔になるライザー。
「おお、さすがリアス! じゃあ、早速俺と―――」
「でも、あなたとは結婚しないわ、ライザー」
部長は自分がいいと思った者と、結婚する権利くらいあるはずだとはっきり言う。
それを聞いたライザーは目を細めた。
「俺はフェニックス家の看板を背負ってるんだ。この名に泥をつけられたら堪らない。どうしてもというなら――――」
そこで、ライザーは言葉を切る。ライザーの周りには炎が舞った。
「俺はキミの下僕を全部燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れて帰るぞ?」
「お二人ともおやめください。これ以上やるのなら私も黙ってはいられません」
二人に鋭い視線を向けるグレイフィアさん。
「・・・・・最強の『女王』と称されるあなたが相手になるんじゃ、さすがの俺もお断りだ」
グレイフィアさんってそんなに強いのか・・・・・・。ただのメイドさんじゃなかったのね。
「こうなると最終手段ですね。『レーティングゲーム』にて決着をつけてください。これはグレモリーもフェニックスも承知しています」
「なるほど、わかりやすくていいじゃないか。俺は受けるぞ、その話」
「お嬢様は、どうなさいますか?」
「・・・・・・・・もちろん受けるわ」
少しの間考えるようなそぶりをして、部長は了承した。
「承知しました。お二人のご意思はこのグレイフィアが確認させてもらいました」
グレイフィアさんは二人の顔を順に見る。
「ご両家には私が連絡させてもらいます」
確認したグレイフィアさんはぺこりと頭を下げる。
「なあ、リアス。まさかここにいる面子がキミの下僕なのか?」
「だったらなんだっていうの?」
部長の答えにライザーはおかしそうに笑いだす。
「そうか。でも、これじゃあ、話にならないじゃないか? キミの『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺のげぼ――――ッチ!」
そう言いながら、ライザーの後ろに魔法陣が出てきて、人影が続々と登場する。しかし、最後になにかに吹き飛んできて、ライザーはそれを回避した。出てきた人たちも唖然としている。
「ちょっとさぁ! いくらなんでも遅いからって締め出すことないでしょ! 扉吹き飛ばしたけど僕謝らないからね! それと主犯格! 僕とO☆HA☆NA☆SHIをしようか?」
声の聞こえた方を見ると渚がいた。そして部室の入り口の扉がない。どこにあるのか探すと、部室の隅に無残な姿で転がっていた。だがそんなことはどうでもいい。
(O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い。O☆HA☆NA☆SHI怖い)
俺は部屋の隅っこでガタガタ震えていた。神様に祈ろうとして、頭痛に襲われたことも追記しておく。
Side out
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Side 渚
トイレに行ったあと、剣道部の部長につかまってしまい、逃げるのにとても時間がかかってしまった。偶には参加してほしいとのことだったが、実力が離れすぎているせいで、周りの不興を買うのがわかっているのにわざわざ行こうとは思わない。気が向いたら行きます、とだけ言っておいた。
その後、急いで部室に向かうが、かなり遅れてしまっている。
「ふう、やっと着いた」
とりあえず、旧校舎に着いたので、もう走っても歩いても変わらないと思い、歩いて部室に向かう。
「よし、到着」
そう言って僕は、部室の扉を開けようとした。だが、扉がうんともすんとも言わなかった。
「あれ?」
押したり引いたりしてみるが、一向に扉動く気配がない。まさか、スライドか? と思って、横に移動させようとして見るが動く気配はない。
「開け、ゴマ!」
・・・・・・返ってくるのは、沈黙だけだった。慌てて回りを確認する。もし見られていたら、恥ずかしくて悶え死んでしまうだろう。・・・・・・幸い、誰もいないようだ。
その後も、様々な方法で開かないか試してみたが一向に開く気配はない。次第に苛立ちが募ってきた。
「いくらなんでも、遅いからって締め出すことないんじゃないかな? かな?」
これは主犯格にはO☆HA☆NA☆SHIが必要だな。
そう思い、右手に魔力を集め始める。
「セイッ!」
右手に集めた魔力を放って、扉を吹き飛ばす。扉は無残な形になって吹き飛んでいった。
さあ、O☆HA☆NA☆SHIを始めよう。
「ちょっとさぁ! いくらなんでも遅いからって締め出すことないでしょ! 扉吹き飛ばしたけど僕謝らないからね! それと主犯格! O☆HA☆NA☆SHIをしようか?」
僕はそう言いながら部室に踏み込む。すると、見慣れない人が沢山いた。
「あれ? お客さんですか?」
僕が首をかしげながら、部員たちに聞く。
「き、貴様! ライザー様になんてことをする!!」
すると、お客さんらしき人の一人が僕に攻撃を仕掛けてきた。
「おっと! 危ないじゃないか!」
相手の武器は長い棒――――いや棍か。それを僕に向かって横薙ぎに振るってくる。僕はバックステップでそれを避けた。狭い室内でよく振るな・・・・・・・。
「ハァッ!」
今度は顔に向かっての突き。だが、祐斗に比べるとはるかに遅い攻撃なので、首を右に倒すことで躱した。そのままの状態で棍を左手で掴み、体を半身にしてこちらに思いきり引き寄せる。突きの勢いもあって、容易に引くことができた。
「キャアッ!」
当然、持ち手の少女は僕に引っ張られたことで、こちらに向かってくる。
僕は向かってくる少女に、右肘で鳩尾にカウンターを叩き込んだ。
「ガハッ!」
向かってくる勢いもあって、僕の肘は少女の鳩尾に深く突き刺さった。そして、少女は仲間らしき人のところに吹き飛んでいく。おそらく気絶しているだろう。我ながら、かなりうまく決まった。
「ハッ! さっきのは訂正するぜ、リアス。なかなか、骨のあるやつもいるじゃないか。これは少し楽しみになったぞって・・・・・・・おいおい、そいつ人間かよ? まあいい、ミラ、無事か?」
「気絶しています」
お客さん(仮)の一人が答えた。
「・・・・・・・・ほう。相当やるようだなぁ、人間。しかし、お前女か? いや、その制服は男物か・・・・・・だとすると・・・・・・男装か? 変わった奴だな」
ふっ・・・・・・男とは見られないんだね・・・・・・・。
「ライザー。彼は男性よ」
「なに!? ・・・・・・最近流行の男の娘ってやつか? まあいい、とりあえず、リアス」
紅いスーツを着崩した男が、リアス先輩に言った。いったい何の話だ? それにしても、男装扱いされたのは久しぶりな気がするが、男の娘扱いはうれしくない。否定できない容姿なのはわかってるが・・・・・・・・・・。
「ハンデだ。キミたちには十日間の時間を与える。初めてのゲームなんだ。修行でもした方がいい。それとお前」
男が僕に話しかけてきた。
「なんですか?」
「お前もゲームに出ろ。これもハンデだ」
「はぁ?」
話の途中から入ってきたので、何の話をしているのかいまいち理解できない。
「ライザー、いいの?」
「言っただろう、ハンデだって」
そう言って、男とお客さん(仮)たちは魔法陣の中へ消えていった。どうやら目をつけられたようだ。
「さっきの誰です? それにゲームって?」
「先ほどの方はライザー・フェニックス様。ゲームとはレーティングゲームです」
僕の質問に答えてくれたのは、銀髪のメイドのグレイフィアさんだった。フェニックスってあの不死鳥の?
「レーティングゲームって確か、眷属たちを戦わせるやつでしたよね?」
「ええ、その通りです。そして、あなたにも出てもらいます」
「は?」
いや、僕眷属じゃないですよ? それになのに出るなんて大丈夫なんですか?
「ライザー様は出ろと仰っていました。それに公式のゲームではありません。あとはお嬢様が了承すれば、あなたも出場できます」
特別ルール的な感じなのか。公式戦じゃないこともあるけど、問題ないみたいだ。
「ナギ、お願い。出てくれないかしら? こちらはただでさえ人数が少なくて不利なの」
リアス先輩が頭を下げた。何でそういう話になったかは、わからないけどリアス先輩が下げる程の事なのだろう。
「わかりました。出ますよ」
僕はレーティングゲームに出ることを了承した。上級悪魔もピンからキリまであるだろうが、その実力を知っておくのも悪くない。
「さて、みんな、もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「なにかしら?」
部長が代表して答えた。さて、本題に入ろうじゃないか・・・・・・・。
「部室の扉を閉めたのは誰ですか? O☆HA☆NA☆SHIしないといけないので、教えてくださると助かるんですが?」
この時の僕はとてもイイ笑顔をしていたらしい。だれが、犠牲になったかは敢えて記さないでおく。
その後、僕は扉の修理をする羽目になった・・・・・・・。
Side out
第5話
Side 一誠
ライザーが、去った後今日の部活は中止となった。部長と朱乃さんは作戦会議をするために、旧校舎に籠っている。
「十日後か・・・・・・・・」
すぐじゃないか。ナギは襲い掛かってきた相手を簡単に倒していたが、俺が相手にしたら負けていたと思う。
「どうにか、強くならなきゃな・・・・・・・・」
俺は左手を見る。上限のない力の増加を可能にする『赤龍帝の籠手』。こいつを使いこなせれば話は別だろうが、俺にそこまでの力量はない。むしろ、人間のままで、悪魔や堕天使と戦える渚がすごいのだろう。まあ、魔力で強化したりしているだろうが。
「はあ・・・・・・・・・・・・。ああもう! やめやめ!」
部長は結婚したくないと言っていた。上級悪魔の家柄とか複雑なことはわからないけど、俺は部長の下僕として精いっぱい頑張るだけだ! 修行をもっと頑張ろう、うん!
俺はそう思って、風呂に入っていないことに気づいた。なので風呂場に行こうと決める。やることを決めたので、心なしか先ほどより気分がいい。
(明日、部長に修行についてお願いしよう)
服を脱ぎ捨てながら、そんなことを考えて、いざ、風呂に入ろうとして扉を開けた時だった。
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
風呂場でアーシアと出くわせた。
(お、落ち着け! 落ち着いて現状を確認するんだ)
俺 ← 風呂に入ろうとしていたのだから、当然全裸!
アーシア ← 風呂に入っていたんだから、当然全裸!
(入ってたのかぁぁぁあぁぁぁ!)
考え事していたから、まったく気が付かなかった!
アーシアの体は当然濡れていて、お湯に濡れた髪はぴったりと肌に張り付いている。
(なかなかいいプロポーションだな・・・・・・)
思わずまじまじと見てしまう。細く引き締まった腰。小ぶりなお尻が何とも言えない。細くもなく太くもない太もも。スリットから見えたら俺は撃沈するだろう。
そして、おっぱい! 服の上からじゃわからなかったが、なかなか悪くない大きさだ。
(クソッ! なぜスリーサイズスカウターがない! 今度元浜から教えてもらわなければ!)
アーシアの裸体を見ながら、そう決める。
って、まずい! 俺も全裸だったんだ。早く、息子を――――
アーシアを見ると、きょとんとしていたアーシアの視線が徐々に下に下がっていく。
「ホワァ!」
ど、どうだ・・・・・・・間に合ったか・・・・・・・? 思わず、意味不明な声を上げてしまったが、そんなことはどうでもいい。今は見られたか見られてないかが重要なのだ。
「――――はうぅ」
ふっ・・・・・・・・どうやら間に合わなかったらしい。アーシアは全身を紅潮させて、顔を背ける。
(ちょっと、隠そう、隠そうよ! 見えてるから! それとも、隠すの忘れるくらい俺の息子はグロいですか!? でも、眼福です! ありがとうございます!)
そんなことを考えていたが、ふと、解決方法を思いついた。
「ご、ごめん! 俺出てくから!」
そう、退避である。これですべて解決する。そう思ったが―――
「すみません。そ、その男性のを見たのは初めてでして、すみません」
なぜかアーシアに腕を掴まれて、引き止められていた。しかもなんか「すみません」って謝られてる。悪いのは俺なのに。
「い、いや、俺も悪かったよ・・・・・・・・。確認せずに風呂場に入ってきちゃったし。それにアーシアの・・・・・・・いろいろ見ちゃったし」
俺もアーシアに謝罪する。ホントにちゃんと確認するべきだった。住む人が増えたんだから注意すべきだった。だが、アーシアの裸は脳内メモリーに保存したぜ! これは後悔も反省もしてない!
ちなみに、渚が入っている時に風呂場に入ってしまい、鼻血を出して気絶したのは黒歴史だ。
そんな時だった。不意に風呂場の扉が開く。
「アーシアちゃん。バスタオル、ここに置いて―――――」
現れたのはお母様でした。タオルを洗濯機の上に置きに来たらしい。しかし、俺とアーシアを視界に映すと、そのままの姿勢で固まってしまった。
・・・・・・・・・・・・フ、フハハハハハハ! 言い訳できねぇよ、こんちくしょう! どう見ても風呂場で情事をしようとしている男女のようにしか見えない!
母さんは、カクカクとした動きで風呂場を出ると、叫んだ。
「お、お父さーーーーーーーんっ! 渚ぁぁぁっ!! 孫が! 孫ができるわよーーーーー!」
「「なんだって!?」」
父さんと渚の声が聞こえた。
「か、母さん! それはホントなのかいっ!」
「そうだよ母さんっ! ホントなの!? 僕はこの歳で叔父さんにはなりたくないよ!? 兄さんゴムしてなかったの?!」
俺は全裸のまま、お風呂場を飛び出した。アーシアが唖然としているが今は構ってられない。俺は両手で顔を覆いながら、自室に駆け込む。俺は自室で強く強く思った。
(死にたい!! 誰か俺を殺してくれぇぇぇぇぇぇ!!!)
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
次の日の朝。
両親は渚を連れて深夜営業のディスカウントショップに行って、赤ちゃん関係のものを買ってきたらしい。俺がどんなに言い訳しても、
「いいのよ、わかってるから。最近は出来ちゃった結婚も容認されるわ。安心しなさい。あー、私、初孫は女の子がいいわ」
「俺もおじいちゃんかぁ・・・・・・・・。男の子なら鯉のぼり新しく買わなくちゃなぁ。俺の家もインターナショナルになったもんだ。英語、習おうかな?」
「兄さん、僕はこの歳で叔父さんにはなりたくないけど、子供ができたなら素直に祝福するよ」
と言って、まともに話してくれなかった。
もうダメだ。渚だけはまともだと思っていたのに、父さんと母さんに洗脳されているらしい。ちくしょう・・・・・・。
「と、まあ、兄さんをからかうのはこれくらいにして」
「おい! からかっていたのかよ!?」
「当たり前じゃないか。わからなかったのかい?」
からかわれていたのはイラッとくるが、渚はまともだったので言うことはない。安心した。
「兄さん、アーシアさんにちゃんと話しておくんだよ」
「それくらいわかってるよ」
渚にそう言って俺はアーシアと話をしにいった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
「ひーひー」
「ほらほら、兄さんファイト!」
兄さんがアーシアさんと話をしに行ったしばらく後に、リアス先輩がやってきた。なんでも、修行をするために山に行くらしい。今はちょうど登っているところだ。
そして、兄さんは背中に巨大なリュックサックを背負っている。まあ、僕も同じくらいの大きさの奴を背負っているんだが、魔力を使っているので苦でもない。魔力様様である。
「ほら、イッセー。早くしなさい! 」
遥か前方から、リアス先輩が檄を飛ばしてくる。その隣にはアーシアさんがいる。
「・・・・・・あの私も手伝いますから」
「いいのよ、イッセーはあれぐらいしないと強くなれないわ」
二人の会話が聞こえる。アーシアさんは本当にやさしいな。
「部長、山菜摘んできました。夜の食材にしましょう」
祐斗が巨大なリュックサックを背負いながら、途中で山菜を摘み、山道を登っている。
「・・・・・・・ナギ先輩、先に行きませんか?」
兄さん以上に巨大なリュックサックを背負いながら、小猫ちゃんがやってきた。その荷物の量はさすが戦車といったところだろう。
「んー。いいよ」
「ちょっ! 渚! 見捨てないで!」
兄さんが僕を引き留めようとするが、僕は構わず先に行くことにした。
「それじゃあ、兄さん。先に行ってるよ」
「・・・・・・・・・・・お先に」
僕と小猫ちゃんはペースを上げて、山道を登って行く。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
しばらくすると、遥か後方から兄さんの叫び声が聞こえた。
結局、僕たちが目的地に着いてから、数分後に兄さんはやってきた。死にそうになっていたのは言うまでもない。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
僕の目の前にある木造の建物は、グレモリー家の所有物らしい。
普段は魔力で隠蔽されていて、人前には表れない仕組みになっているようだ。
兄さんはリビングで床に倒れこんでいる。女性陣は着替えるために二階に上がっていった。
「僕も着替えてくるね」
「それじゃあ、僕も」
祐斗は青いジャージを持って浴室へ、僕は黒いジャージを持ってトイレで着替えることにした。
「「覗かないでね」」
声が揃ったので、祐斗を見ると、祐斗もこちらを見ていた。
「マジで殴るぞ、この野郎どもがっ!」
疲れている兄さんが、睨んできた。
「そんなこと言ったって、兄さん前に僕の裸見て、鼻――――」
「すみません! お願いですから言わないでください!」
「わかったよ」
見事なDO☆GE☆ZAだったので、黙ってやることにした。祐斗が首をかしげているが、気にしない。
僕はトイレに向かった。
=数分後=
着替え終わって、トイレから出ると女性陣、並びに祐斗はすでに着替え終わっているようだ。あとは兄さんを待つのみらしい。
「ナギ、さっき言いかけていたのは何だったんだい?」
祐斗が話しかけてくる。
「うーん・・・・・どうしようかな? 教えてもいいって言えばいいけど」
「何の話?」
リアス先輩が話に混じってきた。
「いえ、さっきナギが何か言おうとしたらイッセーくんが土下座したんですよ。それで何を言おうとしたか気になって」
祐斗がリアス先輩に説明する。
「・・・・・・・・私も聞きたいです」
「あらあら、私も興味がありますわ」
「あ、あの、私も聞きたいです」
すると、全員が話に混ざってきた。みんな、興味があるらしい。
「イッセーが土下座ね・・・・・・・・。ナギ、なにを言おうとしたの?」
「・・・・・・・・気になります」
アーシアさんはこくこくとうなずいている。朱乃先輩も笑みを浮かべながら、僕を見ていた。
「あー・・・・・・・・みんなが知りたいんなら仕方ないですね」
僕は観念して話すことにした。
「兄さんがまだ悪魔になる前・・・・・と言っても、二カ月くらい前ですか? その位だったと思います」
みんなが聞き入っている。なんか変な感じがするな・・・・・・・。
「僕がお風呂から上がって、体を拭いていたら兄さんが入ってきたんです。僕は驚きましたが、同性なのであまり気にしなかったんです。でも、兄さんはそうじゃなかったみたいで、鼻血出して気絶したんですよ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
一同、無言だ。
「ちょっと集合!」
突然リアス先輩が、声を上げる。僕を除いた全員が少し離れたところで集まった。
「(朱乃・・・・・・どう思う?)」
「(しかたないかと)」
「(・・・・・・・・・必然です)」
「(同感です)」
何やら、内緒話をしてうなずきあうと、こちらに戻ってきた。同時に兄さんもやってくる。
「イッセー・・・・・・」
部長が兄さんに話しかけた。
「なんですか、部長?」
「ナギの裸を見て鼻血を出すのは仕方ないわ」
あれ? 兄さんの方につくの?
その後、僕を除く全員に兄さんは慰められていた。
Side out
第6話
Side 渚
「よっはっ」
兄さんが祐斗に向かって、木刀を振り回す。僕は座って見学中だ。
「おりゃ! おりゃぁぁ!」
兄さんは今日、祐斗と剣の修行をしている。
兄さんまるでダメだな。腕の振りは大きいし、体もそれに従い不安定。典型的に腕だけで振っている。はっきり言ってスキだらけだ。剣を扱う才能はほとんどないんじゃないかな?
それに対して祐斗は、軽やかに兄さんの攻撃をいなしている。さすがは騎士と言ったところだろう。祐斗は才能もあるし、それなりに修練しているみたいだから当たり前と言えば当たり前だが。
「そうじゃないよ。剣の動きだけじゃなくて、視野を広げて相手の周囲まで見るんだ」
祐斗はそう言うが、兄さんにはそう簡単にできるものではないだろう。
「それに、イッセーくんは僕が強いと思っているみたいだけど、ナギの方が剣の腕は上だ。悪魔や騎士の力を使って戦ったことはないけど、純粋に剣の腕だけならナギの方が断然強い」
そう言って、祐斗は兄さんの木刀をはたき落した。
「いやいや、俺からしたら十分木場も強いって。にしても、剣の動きだけじゃなくて、視野を広げて相手の周囲まで見るってのは難しいぜ。剣だけで精一杯だ」
落ちた木刀を拾いながら兄さんが言う。
「ようは慣れだよ。初めは剣だけ見て徐々に、視野を広げていけばいい」
僕が兄さんにアドバイスする。
「そうは言ってもな・・・・・・・・。渚はどうやっているんだ?」
「僕は参考にならないよ。僕は視力がいいからさ。空気中の塵くらいなら普通に見れるんだ。それを応用しているだけだからね」
兄さんの質問に答える。兄さんは微妙な表情を浮かべていた。
「俺の弟は規格外だな・・・・・・・・」
呆れながら兄さんが言うが、兄さんの性欲だって規格外だろう。正直、クラスの女子のいる中でエロい話ができるのはおかしいと思うぞ? まあ、元浜君と松田君もおかしいのだろうけど。
「そうだ、ナギ。今回は悪魔と駒の力を使って、戦ってみないか?」
「え? まあいいけど・・・・・・・僕も魔力で強化とかするからな? それでもいいなら構わないよ」
突然の祐斗からの誘いに、条件付きで応じる。
「うーん・・・・・・・・。そのままで戦ってもらいたいけど、まあ今回はいいよ。その変わり、今度やる時は魔力強化なしだからね」
いやいや、さすがに強化なしだったら、悪魔の力で押し切られるって・・・・・・。人間と悪魔じゃスペックが違うんだから。
「はいはい。わかりましたよ。場所はどうする? ここじゃあ、ちょっと狭くないか?」
苦笑いしながら、祐斗と次の勝負の約束をする。
「そうだね、少し移動しようか。イッセーくん参考になるかわからないけど、ちゃんと見てるんだよ?」
祐斗はそう言って、移動をし始めた。僕と兄さんも祐斗に続いた。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 一誠
さっきの場所より開けたところに移動して、渚と木場が向かい合っている。
「どっちが勝つのかしらね?」
「・・・・・・・・・・悩みます。早さでは祐斗先輩ですが、技量ではナギ先輩の方が上みたいですから」
「あらあら」
どこから聞きつけたのかは知らないが、他の三人も渚と祐斗の勝負を見に来ていた。悪魔や駒の力なしでは、渚の方が強いらしいから興味があるのだろう。正直、俺もどっちが勝つのか興味がある。剣道の大会の応援なんかで、何回か渚の試合を見たことはあるが、ほとんど一撃。相手の攻撃にカウンターを合わせての一本で終わっているので、試合らしい試合を見たことがないのだ。
「ナギ! 準備はいいかい?」
木場の野郎は渚と戦えるのが楽しみなのか、声が上ずっている。
「まあ、構わないけど・・・・・・・・・。なんでリアス先輩や朱乃先輩たちまでいるの?」
渚はこちらを見て、微妙な表情をしている。
「前に、僕がナギと戦った時のことを話たからだよ」
「ああ、そうなんだ・・・・・・・・」
何やら諦めた表情をしている。見られるのはあまり好きじゃないって言っていたので、そのせいだろう。
「じゃあ、この石が地面に落ちたら試合開始だからね」
「わかった」
木場はそこら辺に落ちていた石を拾って、それを放り投げる。
自然と空気が緊張していく。そして、木場の投げた石が放物線を描いて地面に落ちてきた。
「ハアァ!」
そう思った瞬間に木場は俺の視界から消えて、渚に木刀を振るっていた。いつの間に、移動したんだ!?
「ンッ!」
渚はそれを木刀で防いだ。カンッ! と木刀同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
「ハハ、やっと僕の剣を受け止めてくれたね」
「さすがに速い。体捌きだけじゃ避けきれないみたいだ」
・・・・・・・・渚は今の見えたのか? 俺は何も見えなかったぞ?
「それじゃあ、どんどん行くよ!」
そう言って、再び視界から木場が消える。
渚はそれを木刀で的確に防いでいった。渚は上、横、下と木刀を動かして防いでいる。俺は木刀同士が打ち合う音で木場が攻撃しているのだとかろうじてわかった。
渚はその場からほとんど動かないので見ることが、木場はかなりのスピードで動いているので視認ができない。この速度に反応して、防御を行える渚に俺は驚きを隠せなかった。
「これは・・・・・・すごいわね・・・・・・」
「・・・・・・・・・すごいです」
「うふふ、二人ともさすがですわ」
「あうぅ、見えないです」
見に来た三人も、驚いているようだ。
「ナギはあの速度についていけるのね。それに次の攻撃を予測しているみたいね。祐斗が攻めづらそうだわ。」
部長も驚嘆の声を上げている。・・・・・・・・みなさん木場の動きが見えているようだ。俺とアーシアだけ見えていないらしい。修行すれば見えるようになるのだろうか?
「部長、どっちが有利なんですか?」
俺は部長に聞いてみた。
「このまま、状況が変わらないのなら有利になるのは―――ナギでしょうね。祐斗はフェイントも入れて、何とか防御を崩そうとしているけど、ナギはそれも見切っているみたいだし」
「そうですね。ナギくんはほとんど動いていませんが、祐斗くんはかなり動いてます。必然的に、ナギくんの方が体力的に余裕がありますわ」
「なるほど」
うんうんとうなずく。状況は相変わらず木場が攻撃し、渚が防ぐといったものだ。
「さすが、ナギだね・・・・・・・。攻撃が一向に当たらない。それに防ぐ動作が連動しているといえばいいのかな? 隙が見当たらないよ」
「いやいや、お前のその速さも大したもんだよ。・・・・・・それじゃあ、第二ラウンドと行きますか!」
「ああ!」
一旦、木場が渚から離れた位置に移動する。そうして、二人が会話をした後空気が変わった。
「ナギくん、何かするつもりみたいですわね」
「ええ、そうみたいね」
お姉さま方がそう言う。俺は何とか見ようと目を凝らした。
「セイィ!」
木場が渚に攻撃を仕掛ける。
「ヤアァ!」
しかし今度は、防ぐのではなく迎え撃つように前に出て、渚が木刀を振るう。今までと違う点は渚が大幅に動いたこと。
「クッ!」
今回は木刀同士が打ち合う音が聞こえなかった。木場は攻撃しなかったらしい。
「・・・・・・・まさか、カウンターを合わせられるとは思わなかったな」
「目が慣れてきたんだよ」
どうやら、渚はあの速度にカウンターを合わせたらしい。それが木場の攻撃を中断させたようだ。
「さあ、次は当てるよ・・・・・・・確実にね」
「それは・・・・・・・・どうかな?」
二人が構える。先に動いたのはやはり木場だった。
「ハァァァァ!!」
俺の視界から木場が消える。
「―――そこっ!」
―ガキン!
木刀同士がぶつかり合う音が聞こえた。見ると木場の手から木刀が消失している。どうやら、渚の攻撃が木場の木刀を弾き飛ばしたらしい。
「僕の・・・・・・・勝ちだ」
「はぁ・・・・・・・また負けか・・・・・・・・」
木場は渚に木刀を突き付けられていた。木場は悔しそうに両手を上にあげて降参の意を示している。
大半は見えなかったがすごい戦いだったのは俺にもわかった。俺もここまで強くなれるだろうか?
「・・・・・・・・すごかったです」
「ええ、そうね」
俺以外の人も、感嘆の声を上げていた。
「あれ? ところで僕の木刀は?」
「ん? そう言えば、弾き飛ばしたけど、どこに行ったんだろう?」
二人がキョロキョロと周囲を見渡している。そう言えば木場の木刀が見当たらない。どこに行った?
みんなが木場の木刀を探すように、きょろきょろと辺りを見回す。
「あっ! 兄さん、危ない!」
渚の声に辺りを見渡すが何もない。なんだ? からかったの――――
「ゴォッッ!!」
突然、頭に激痛がはしる。頭を抱えてうずくまると、俺のそばに木刀が転がっていた。もしかしなくても、渚が弾き飛ばした木刀が俺に直撃したらしい。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「ク・・・・・クック」
「大丈夫ですか! イッセーさん!」
アーシア以外は顔を伏せて、肩を震わせている。どうやら笑うのをこらえているようだった。訂正、渚は堪えきれずに、震えているわ。
アーシアだけは、俺を心配してくれている。ほかのみんなも笑わないで欲しい。
ちくしょう! なんだこの木刀は! 俺に恨みでもあるのか! あれか!? イケメン死ね! って思っているのがいけないのか!?
思わず転がっている木刀を睨みつけた。だが、木刀がしゃべるわけがない。・・・・・・少し虚しくなった。
「痛くないですか?」
アーシアが俺の頭に手を当てて、治療してくれた。
「ああ。アーシアのおかげでもう大丈夫だ」
「そうですか、ならよかったです!」
俺に笑顔を向けてくる。これだけで痛みなんて忘れられそうです! アーシアちゃん、マジ天使!
「さあ、ナギと祐斗の試合も終わったし、修行再開よ!」
部長が手を叩きながら言った。みんなそれぞれの修行をしに移動を始める。
「行くよ、兄さん」
「がんばろうね、イッセーくん」
「まかせとけ!」
俺は元気に返事した。
その日の夜、俺の体はボロボロだったのは言うまでもない。
Side out
第7話
Side 渚
「そうじゃありませんわ。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ。ナギくん、お手本でやってみてください」
現在兄さんとアーシアさんは朱乃先輩から魔力について教えてもらっていた。僕はそれの補佐役のようなことをしている。
「了解です」
僕はたいして集中せずに、右手の人差し指の上に銀色の魔力の塊を作り出した。大きさはバレーボールくらいだろうか。
「どうです?」
「完璧ですわ」
朱乃先輩に褒めていただいたとこで、魔力を霧散させた。
「それでは、お二人もやってみてください」
そう言うと、二人は集中し始める。
アーシアさんの方は、次第に魔力が手に集まり始めているのがわかるが、兄さんの方は一向に集まる気配が感じられなかった。
「できました!」
兄さんの隣でアーシアさんは魔力の塊の作製に成功していた。色は淡い緑色をしている。綺麗なもんで、大きさはソフトボールぐらい。
「あらあら、やっぱり、アーシアちゃんは魔力の才能があるのかもしれませんわね」
「そうみたいですね」
アーシアさんは褒められて、頬を赤くしていた。
対して兄さんだが、まったく、てんでダメのようだ。魔力の「ま」の字すら出てきていない。
なんとか、魔力の塊を作り出せたようだが、大きさは米粒ほどだ。ぜひともがんばってもらいたい。
「では、その魔力を炎や水、雷に変化させます。これはイメージから生み出すこともできますが、初心者は実際の火や水を魔力で動かすほうが上手くいくでしょう」
そう言うと朱乃先輩が、ペットボトルの水に魔力を流し込む。
すると、ペットボトルの水は鋭い棘となって、ペットボトルを内側から突き破った。
さすが朱乃先輩である。
「アーシアちゃんは次にこれを真似してくださいね。イッセーくんは引き続き魔力を集中させる練習をするんですよ。魔力の源流はイメージ。とにかく頭に思い浮かんだものを具現化させることこそが大事なんですよ」
「朱乃さん、渚の魔術も見てみたいです」
兄さんが朱乃先輩にそう言う。朱乃先輩は僕に「お願いできますか?」と言う視線を向けてきたので、うなずいておいた。
「いいかい? 見ているんだ」
その辺に落ちていた適度な長さの木の棒を拾い、そこに魔力を流し込んでいく。
すると、木の棒に銀色の薄い膜のようなものが、張られ始めた。
「ナギくんが得意なのは、物質の強化です。壊れにくくしたり、切れやすくしたりする魔術ですわ」
朱乃先輩が簡単に説明をしてくれた。
僕は近くに生えているそれなりの太さの木へ近づいていく。
「ハッ!」
そして、強化した木の棒で突きを繰り出した。
―ガッ!
突き出した棒は、弾かれることなく木を貫通して、反対側から飛び出ていた。
「とまあ、こんなもんさ」
二人は木の棒が貫通した木を見ている。
「魔法はイメージですわ。得意なもの、いつも想像しているものならば、比較的早く具象化できるかもしれませんわ。ナギくんは剣道をやっていたからこうなったと思います」
朱乃先輩が僕の魔術について考察を述べてくれた。
「それに、ナギくんは珍しい魔力放出の使い手ですわ」
「魔力放出ですか?」
アーシアさんは聞きなれない言葉に反応した。
「ええ、魔力を何も媒介しないで、純粋な魔力のまま放出することですわ。これは自然現象や、強化として魔力を放出するのとは、勝手が違って使い手が少ないです」
「ナギさんは、すごいんですね」
アーシアさんがちょっと尊敬のまなざし的な感じで、見てくるがそんな大したものじゃないと思う。
「ナギくんは、部室にあった魔導書の類のほとんど読んでいますから、知識もそれなりですわ。わからないことがあったらナギくんに聞いてもいいと思いますよ」
「はい!」
アーシアさんは、先ほど朱乃先輩がやったことをやろうとしているようだ。ちなみに、部室に会った魔導書は悪魔の文字で書かれているものがほとんどだったので、朱乃先輩とかに読んでもらっていたが、今ではある程度の文字なら読めるようになった。
「兄さんはどうだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で手の上に作り出した魔力球を見せてきた。大きさは先ほどと変わっているようには見えない。相変わらず、米粒ほどの大きさだ。むしろ、この大きさはすごいことなきがしてくる。
「兄さんイメージだよ。朱乃先輩が言っていたようないつもイメージしているものは?」
「おっぱいと女体」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まさかの即答で答えられたのが「おっぱいと女体」だった。いや、兄さんなんだから予想通りと言えば予想通りだけど。でも、ねぇ・・・・・・・?
「ほ、他にはないのかな?」
「いや、だって俺だぞ? 渚は他に何かあると思うか? エロを俺から取ったら何が残る!」
正直思えないです。そしてそんな自信満々に言わないでください。弟として情けなく感じるから・・・・・・。
「渚、俺はこれからいろいろイメージしてみるから邪魔するなよ」
そう言って目を閉じてしまった。集中して考えるらしい。あっ、にやけた。誰かの裸でも想像したのだろう。
「あらあら、イッセーくんはどうしました?」
「イメージを鮮明にするために集中しているみたいです」
アーシアさんの方を見ていた朱乃先輩がこちらにやってくる。
「アーシアさんの方はどうですか?」
「うふふ、やはり才能があるみたいですわ」
アーシアさんの方を見てみると、ペットボトルに魔力を送っているアーシアさんがいた。ペットボトルの水はちゃぷちゃぷと波打っている。
「へえ、もう操作できているんですね」
「ええ。この分なら、修行中にでもペットボトルは破れると思いますわ」
始めて数分でこれはすごい。
「これだ!!」
突然兄さんが大声を上げた。僕と朱乃先輩を見つけるとこっちに近づいてくる。
「あらあら、イッセーくんどうかしましたか?」
「はい。渚は少し離れてろ。実際に成功したら教えてやるから」
兄さんはぐふふと悪そうな笑みを浮かべている。とりあえず僕は兄さんから距離を取った。
しばらく、兄さんと朱乃先輩が話していると朱乃先輩が別荘に戻っていく。何事かと思って兄さんに近づいた。
「兄さん、朱乃先輩はどうしたの?」
「わからない。ただ俺の考えたのは出来るみたいだ」
ふーんとうなずいておく。
「お待たせしましたわ」
そんなことをしていると、朱乃先輩が戻ってきた。そして、兄さんの前に大量の玉ねぎ、にんじん、ジャガイモを置く。
「では、イッセーくん。合宿中、これを全部魔力でお願いしますね」
「了解です。任せてください!」
「うふふ、がんばってくださいね」
朱乃先輩はそう言ってアーシアさんの方に行った。
そして兄さんはジャガイモを取り出して、魔力を込めはじめる。
「何をしてるの?」
「まあ、見てろ」
引き続きジャガイモに魔力を流していく兄さん。
「よし、ちょっと出来たぞ!」
兄さんはそう言うが、あまり変化があるように思えない。
「何したの?」
「よく見ろ! ここの皮がちょっとむけてるだろ?」
「え? なに、兄さんは皮をむく魔術を使いたいの?」
訳がわからない。兄さんが何をしたいか全く理解できなかった。野菜の皮をむくことが修行になるのだろうか?
「練習だよ。本番で失敗しないための」
そう言って、さらに兄さんはジャガイモに魔力を流し始めた。
しばらくすると、少しずつだが徐々にむける範囲が広がっているみたいだ。
僕はというと、それを横目で見ながら魔力の圧縮にいそしんでいた。
さっき作ったバレーボールくらいの大きさの魔力の塊を野球のボールくらいにするのが目標。今のところ、少し大きいソフトボールの玉ぐらいの大きさだ。
「うーん・・・・・・・なかなか目標までいかないな・・・・・・・・・」
これぐらい圧縮できれば、それなりに優秀らしいがどうせなら、もっと上を目指したい。
「あらあら、なにをしているんですか?」
「朱乃先輩、アーシアさんはいいんですか?」
アーシアさんを見ていたはずの朱乃先輩が僕のところにやってきた。
「ええ、あとは本人の努力次第ですわ」
どうやら、アーシアさんには基本的なことはすべて教えたようだ。
「ナギくんは・・・・・・・・魔力の圧縮ですか?」
「ええ。目標は野球のボールくらいの大きさです。でも、なかなか上手くいかなくて・・・・・・・・・」
朱乃先輩に今やっていることを話した。
「ナギくんは、圧縮するときにどういうイメージでやっていますか?」
「そうですね・・・・・・・・。小さくする感じでしょうか?」
朱乃先輩が聞いてきたので答える。
「うふふ、そうですか。では、それに周りから力を加えればいいと思いませんか?」
朱乃先輩がアドバイスをくれた。確かに、僕は小さくするようなイメージでやっていたので、それに周りから力を加えるようなイメージを足せば、小さくなるだろう。
早速試してみると、バレーボールほどの魔力の塊は見事に小さくなった。大きさも野球のボールより少し小さいくらいだろう。
「できました!」
僕は笑顔で朱乃先輩の方を向いた。
「あらあら、よかったですわ」
朱乃先輩の顔が少し赤くなっているが、そこには触れないでおく。色々あるんだろう。
そうして、僕らは魔力の修行をした。なかなか、身になったと思う。神討つ剣狼の銀閃の威力の向上もできた。しかし、使っていて思うが、我ながら出鱈目だと感じた。
そうそう、兄さんが修行で皮をむいた野菜はみんなでおいしくいただきました。
Side out
第8話
Side 渚
「おっと!」
黄色ジャージを着た小猫ちゃんとの素手での組手をしている。今はボディを狙った一撃を回避したところだ。
「・・・・・・・・・当たってください」
再び小猫ちゃんの攻撃を避ける。今度は足払い。バックステップで避ける。
実を言うとこんな感じのことを、もう五分間以上続けている。小猫ちゃんが攻め、僕がそれを避ける。
「シッ!」
女の子に手を出すのはいささか抵抗があるが、僕も攻撃を繰り出す。胴体を狙った蹴りだ。しかし、小猫ちゃんは容易に防ぎ、カウンターのように攻撃してくる。
いかんせん、僕の攻撃が効かないのだ。小猫ちゃんは戦車の特性を活かしているので、防御力が高い。鞘に収まりし魔剣を持っていればまだ違うだろうが、今回は素手での組手。魔力も身体強化以外は使用禁止だ。身体強化した攻撃でも、小猫ちゃんの防御は今のところ貫けない。僕の一撃が軽いのだ。
「ふっ!」
子猫ちゃんのカウンターを避ける。さっきからずっとこの調子。小猫ちゃんの攻撃は僕には当たらないが、僕の攻撃も小猫ちゃんにはダメージにならない。千日手っぽくなってきたようだ。
「おーい。まだかー?」
兄さんもさっきから同じような、攻防なので飽きてきたみたいだ。最初は高度な戦いを見るような目だったが、ずっと同じことの繰り返しじゃ仕方がないだろう。
「いったんここでやめにしない? このままじゃ結構時間がかかりそうだし」
「・・・・・・・・・・賛成です」
鳩尾を狙ったパンチを避けながら、小猫ちゃんに提案すると、あちらもそう思ったのか拳を引いてくれた。
「おっ! やっと俺の番か!」
座ってみていた兄さんが勢いよく立ち上がり、こちらに向かってくる。僕は兄さんと交代するように移動した。
子猫ちゃんは、肩をぐるぐると回して戦闘態勢に入る。
兄さんもボクシングのような構えをとった。
「・・・・・・・・行きます」
子猫ちゃんがそう言って、兄さんに向かって駆け出した。小柄な体なので結構素早い。
「うわああああああああああああああああああああああああ!」
さて、兄さんはどう対応するのかと思ったら、小猫ちゃんのボディーブローが兄さんに突き刺さっていた。そして兄さんはその威力で吹き飛んでいく。
(人が宙を舞う威力って・・・・・・・・当たらなくてよかった・・・・・・)
「あべしっ!」
吹き飛んだ兄さんは、周囲に生えていた木にぶつかった。見かたを変えると、兄さんが木に抱き着いているようにも見える。なんて熱い抱擁なんだ・・・・・・・・。
「に、兄さん? 大丈夫かい?」
声をかけると、兄さんは起き上がった。どうやら大丈夫だったらしい。さすが、悪魔頑丈にできている。それにどうやら小猫ちゃんは手加減したようだ。手加減しても人が宙を舞う威力には驚きだが。
「まだまだぁ!」
今度は兄さんのほうから仕掛けるようだ。小猫ちゃんに向かって右腕を振りかぶりながら駆け寄っていく。
「・・・・・・・・・大振りすぎます」
小猫ちゃんは兄さんのパンチを苦も無く避けると、小猫ちゃんのカウンターが兄さんの腹に決まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
再び宙を舞う兄さん。さっきと同じような軌跡を描いて木に向かっていく。
「ひでぶっ!」
先ほどとは別の木に、熱い抱擁をしていた。
「う・・・・・・・・まだまだぁ!」
多少、ふらついたが兄さんは立ち上がって、小猫ちゃんに向かって走っていく。本当に悪魔はタフだ。
そして、兄さんは先ほど小猫ちゃんに言われたからか、今回はコンパクトに構えている。
「おりゃ!」
小猫ちゃんの顔に向かって、右ストレートが放たれた。身長差のせいでボディに手が届きにくいのはわかるけど・・・・・・・なんだかなぁ・・・・・・・・。
兄さんに攻撃された小猫ちゃんは、右ストレートを避けて伸びた状態の腕を掴み、一本背負いみたいにして、兄さんを投げた。
「ぬがあああああああああああああああああああああああああ!」
「ぐふっ!」
再び、木に抱擁をかます兄さん。しかも今回は前宙をした後に木に抱き着いた。軽々男を投げ飛ばす小猫ちゃんの腕力に少し危険を感じる。
「・・・・・・・・・・・・弱っ」
ぼそっと言ったみたいだけど聞こえてるからね? 起き上がろうとしていた兄さんがorzになっているじゃないか。心にグサッと刺さったみたいだよ。
小猫ちゃんが兄さんのいるところまで移動する。
「・・・・・・・打撃は体の中の中心線を狙って、的確かつ抉りこむように打つんです」
小猫ちゃんはそう言うと、シャドーボクシングのようにシュッシュッと拳を打ち込む真似をする。
そうは言っても、素人の兄さんには当てることすら難しい気がする。今までに兄さんに武道の経験はないのだ。正直な話、10日でどうにかなるとは思えない。
そして、小猫ちゃんは腕をぶんぶん回したあと、兄さんに拳の照準を定める。
「・・・・・・・・さ、もう一回です。立ってください」
その後、兄さんは何回も宙を舞い、木に抱擁をしていた。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 小猫
イッセー先輩の相手を何度かした後、ついにイッセー先輩はダウンしてしまいました。
「大丈夫かい?」
ナギ先輩が、イッセー先輩に声をかけるが反応は返ってこないみたいです。
「・・・・・・・無・・・・・・・・理」
かろうじて、イッセー先輩はそう言った。まあ、少しやりすぎたかもしれません・・・・・・。
「小猫ちゃん、兄さんもう無理みたい」
私の方を見て、ナギ先輩が言う。男だとわかっているが、相変わらず女の子みたいな容姿です。
「・・・・・・・・なら、さっきの続きをしましょう」
私はそう提案する。避けられてばかりだったので、今度こそ攻撃を当てるつもりです。
「そうだね。そうしよう」
イッセー先輩は休ませておいて、ナギ先輩と続きをすることになりました。
ルールはさっきと同じで、素手のみ。魔力は身体強化だけ。そう言うルールです。
お互いに距離を取る。5メートルくらいでしょうか? 私もナギ先輩もその気になれば一瞬で詰められる距離です。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
私とナギ先輩はお互いに無言で向き合う。ナギ先輩は剣と同じで一撃必殺のカウンタータイプなので、構えも必然的にそういう構えになっています。左腕を前に出し、右手を引いたあからさまなカウンターの構え。
このままでは埒があきません。渚先輩は基本的に攻めてこないので私が攻撃します。
「・・・・・・・・・フッ!」
カウンターをもらわないように、なるべき隙のないパンチをジャブのように繰り出す。その際に、動くことも忘れない。足を止めてしまえば、格好の的ですから。
ナギ先輩は時には体捌きで避け、時には左手で捌いていく。かなり本気の速度で攻撃しているつもりなのに、すべて見切られているようです。祐斗先輩の攻撃を見切っていたあたりで予想はしていましたけど、すごくやりづらいです。ガードすれば、私の力でガードの上からでも、ダメージは通せるのですがいなされてばかりなので、まさに暖簾に腕押しの状態です。
「ハァッ!」
こちらの攻撃の合間の隙を狙ったカウンターの右ストレート。
「・・・・・・・・・・ンッ!」
両腕をクロスして防御。私の駒は戦車なので、ダメージにはなりません。まあ、部長と朱乃先輩が言っていた『神討つ剣狼の銀閃』というのをやられたら、防御の上からでもやられると思いますけど。
私は攻撃して伸びているナギ先輩の右腕を掴んで引き寄せる。膂力は私の方が上なのでナギ先輩はこちらに引き寄せることができた。
「!?」
突然引っ張られてナギ先輩は何とか振りほどこうとしているが、私ががっちりと掴んでいるので振りほどけない。
私はそのまま腕を引っ張りながら、イッセー先輩にしたように背中を向け背負い投げのようにナギ先輩を投げる。
投げられるのは予想していなかったようで、私の背負い投げは成功した。
「ガハッ!」
なんとか受け身を取ったみたいですけど、背中から落とされて肺から空気が押し出されたようです。
私はそのまま、ナギ先輩の上に馬乗りになる。
「・・・・・・・・・・・・私の勝ちです」
「僕の負けだ」
ナギ先輩の顔の前に拳を突きつけて、勝利宣言をする。ナギ先輩は素直にそれを認めた。私はナギ先輩の上からどいて、倒れている先輩に手を差し出す。
「ありがとう」
引っ張り上げられた先輩はお礼を言うと、服の埃を落とすためにジャージをはたいている。
「いやはや、まさかあそこで投げられるとは思わなかったな」
「・・・・・・・・・・・・油断大敵です」
「その通りだね。打撃しかないと思った僕が悪い」
ナギ先輩は肩をすくめました。そこで、イッセー先輩の方をチラッと見ました。
「兄さんはまだダウンしているようだし・・・・・・・・もう一本お願いできるかな?」
「・・・・・・・・・・・・・もちろんです」
私たちは再び構えをとった。
その後、イッセー先輩が復活するまで私たちの組手は続く。イッセー先輩が復活したあとは、組合せと変えて、何回も組み手をやりました。
Side out
第9話
Side リアス
「ほーら、イッセー! 気張るのよー!」
「ナギくんも頑張ってくださいね」
私と朱乃は、イッセーとナギの修行に付き合っていた。
「おおっす!」
「了解です」
二人は険しい山道を背中に岩を縄で巻きつけて駆け登っている。さらにその上に、イッセーのほうには私が、ナギのほうには朱乃が岩に座っている。本当はナギのほうにはだれも乗らない予定のはずだったんだけど、朱乃が協力してくれることになった。最近、妙に朱乃がナギの近くにいる気がするのは気のせいかしら?
「ナギは魔力のほうはやらなくていいの?」
「大丈夫です。兄さんと一緒にやった時に、いろいろ新しい案が出たんで試しましたけど、問題ないです。朱乃先輩のおかげですね。それにこれにも魔力は使いますから修行になりますし」
「あらあら、そう言ってもらえると手伝った甲斐がありますわ」
ナギは魔力関係のほうは問題ないようね。新しく考えた魔術についてかなり気になるけど・・・・・・・・・・・。また神討つ剣狼の銀閃のようなものじゃないでしょうね?
「それより部長? これいつまでやるんですか?」
もうこれをやりはじめてからそれなりに時間が経っているので、イッセーはそろそろ限界のようだ。
「そうね・・・・・・・・・あと2往復ってところかしら?」
「そのぐらいでちょうどいいと思いますわ」
「イッセー、ナギ、あと2往復よ」
「わかりました」
「それじゃあ、ペースあげますよ! 朱乃先輩!」
「わかりましたわ」
「お先に失礼します。リアス先輩」
ナギはそう言うと、走るペースを上げて私たちを置いて行った。
「イッセー! 負けちゃだめよ! こっちもペースを上げなさい」
「わっかりましたー!」
私たちはナギと朱乃の背中を追いかけた。
2往復後
結局、イッセーはナギに追いつけることはなかった。
「・・・ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・・・」
イッセーは地面に大の字になって倒れている。
「すぅ・・・・・・はぁー」
ナギは深呼吸して息を整えていた。元から運動していたナギと運動をしていなかったイッセーでは差があるのは仕方ないわね。
「ほら、イッセーにナギ、次は筋トレよ。腕立て伏せね」
「へ、へーい・・・・・・・」
「了解です」
基礎能力が不足しているイッセーにはほかの部員より練習量を多くしているけど、悪魔だからできることだ。それに余裕とは言わないけど、ついてきているナギは本当にすごいわね。
腕立て伏せの姿勢になったイッセーの背中に岩を乗っける。魔力を使っているので楽にできる。
「うう・・・・・・」
まずは一個。
「うぬぬ・・・・・・」
そして二個。
「ふぬぬぬ・・・・・・・」
最後に私が乗って準備は完了だ。イッセーの腕はプルプルと振るえている。ナギのほうも朱乃が岩を二個乗っけて、その上に朱乃が座った。
「ナギくん・・・・・・・大丈夫ですか?」
「・・・・・・・大丈夫です」
イッセーほどではないけどナギも腕がプルプルと振るえていた。
「さあ、腕立て三百回。いってみましょうか」
「オーッス!」
「はい!」
これでも、魔力を使っているナギの方が早く終わっていた。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 一誠
「うおおおおお! うめえええええ! マジでうまい!」
今日の修行を終えて、俺たちは夕食を食べていた。
テーブルには豪華な料理が盛られている。木場がとってきた山菜はおひたしにされていた。肉料理に魚料理といろいろな種類がある。そのほかにも色とりどりの料理が並んでいた。もちろん俺が皮をむいた野菜も使っている。
「あらあら。おかわりもあるからたくさん食べてくださいね」
今回の料理は朱乃さんの手作りだ。今日は本当に疲れたので箸がよく進む。
あの大量の荷物はほとんどが調理器具だったらしい。重たい思いをして運んだ甲斐があった。
「本当においしいですね。これなら、どこにお嫁に行っても大丈夫ですよ」
ナギがそう言って、朱乃さんの料理を褒めた。
「あらあら。それならナギくんがもらってくれますか?」
「え?」
「どうなんです?」
「えっと・・・・・・まあ、やぶさかではないですね」
「うふふ、そうですか」
なんかあの二人から甘い空気が感じられる。俺以外の部員も感じたようで、みんなで顔を見合わせている。クソッ! これだからモテる奴は!
「イッセーさん、私のスープはどうですか?」
アーシアが俺にスープを差し出した。どうやらアーシアのお手製らしい。
「どれどれ」
俺はアーシアから皿を受け取ると、一気に飲み干す。コンソメと玉ねぎの甘みがあってとてもうまい。
「うまいぞ、アーシア! 最高だ! もう一杯くれ」
「本当ですか! よかったです!」
うむ。美少女の手作りというだけあって、実にいいものだった。
「さて、イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」
部長がお茶を飲んだ後に俺に訊いてきた。
いったん箸をおいて、正直な感想を言う。
「俺が一番弱かったです」
「そうね。それは確実だわ」
・・・・・・・はっきりと言われると結構泣けるな。心にグサッと来るね・・・・・・うん。
「朱乃、祐斗、小猫はゲームの経験がなくても実戦経験がそれなりにあるわ。だから感じをつかめれば十分に戦えるでしょう。ナギは目の良さ、魔力による強化、それに生来のセンスがあるから実戦経験が無くても十分戦えるでしょう。あなたとアーシアは実戦経験が皆無に等しいわ。でもあなたの『赤龍帝の籠手』とアーシアの『聖母の微笑』による回復は無視できない。ライザーもそれは理解しているはずよ。最低でも相手から逃げられるくらいの力はほしいわ」
「逃げるのってそんなに難しいんですか?」
俺の質問に部長はうなずく。
「逃げるのも戦術の一つだわ。でも相手の力量によっては殺してくださいって言っているようなものだもの。無事に逃げるのも実力の一つ、だから逃げ方も教えるわ。もちろん面と向かって戦うすべも教えるわ。覚悟しなさい」
「了解っす」
「はい」
とりあえず、アーシアを守る力くらいはつけないとダメだな。最低でもアーシアの盾になる。そのぐらいの覚悟は持とう。
「それじゃあ、食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから景色がいいのよ」
な、なにーーー! 部長の一言で俺の意識がエロに染められた。
露天風呂っすか! 露天風呂といえば覗きだ! そう、覗きが王道なのだ! 男に生まれて覗かないでどうする!
「僕は覗かないよ、イッセーくん」
木場がニコニコスマイルで先制パンチを放ってきた。
「バッカ! お、お前な!」
「あら、イッセー。私たちの入浴を覗きたいの?」
部長の発言で全員の視線が俺に集中する。渚はやれやれといった顔をしている。すごい気まずいぜ・・・・・・・。
「なら、一緒に入る? 私は構わないわ」
な、なんだと!
「朱乃はどう?」
「私はどちらでも構いませんわ」
朱乃さんは俺が入ってもいいらしい。ば、バカな・・・・・・アリなのか!? そんなのアリなのか!?
「アーシアは愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」
アーシアは顔を真っ赤にしてうつむいてしまったが、小さくうなずいていた。
ど、どどどどど、どうしよう! こんな展開が待っているなんて予想もしてなかったぜ!
「最後に小猫。どうかしら?」
「・・・・・・いやです」
小猫ちゃんは両手で×を作る。拒否られたぁ!? ま、待て。感覚がおかしくなりそうだけど、これが普通の反応だ。
「じゃあ、なしね。残念、イッセー」
クスクスと笑う部長。上げられたとたんに、一気に奈落に落とされた気分だ。しかし・・・・・・ならば、覗くしかない。
「兄さん、言っとくけど僕も覗かないからね」
「覗いたら、恨みます」
渚も先制パンチを放ってきた。小猫ちゃんも釘を刺してきたぞ。やはりダメなのか・・・・・・・。
「あら? ナギは何を言っているの? あなたはこっちよ」
「えっ?」
突然の部長の発言に渚の動きが止まる。驚愕と言った表情がぴったりの顔をしている。
「温泉を血で汚すわけにはいかないわ」
俺が渚の裸を見て、鼻血を出したことを言っているんだろう。しかし、なんて羨ましいんだ! 俺も女湯に入りたい!
「小猫もナギならいいわよね」
「・・・・・・・ナギ先輩なら構わないです」
これが普段からエロい俺と渚の差なのか・・・・・・・。小猫ちゃんもかまわないなんて・・・・・・・。
「私も歓迎しますわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。僕は男! 男です!」
渚はそう言うが、徐々に渚の包囲網が完成している。
「さあ、行くわよ」
じりじりと距離を詰められていく渚。
「さ、サラダバーーーーーーッッ!!!」
部長たちに詰め寄られていた渚は猛スピードで逃げ出した。しかし、なぜネタを入れたんだろう。気が動転していたのか?
「あら、逃げられたわね。諦めましょうか」
「そうですね。強化もしてましたし追いつけませんわ」
一目散に逃げ出した渚を見て、部長たちはあきらめたようだ。おそらく木場は追いつけるだろうが、追いかける気はないみたいだ。
「それじゃあ、朱乃、小猫、アーシア行きましょう」
部長は女性陣を引き連れて、温泉へと向かった。
「イッセーくん、僕と裸の付き合いをしよう。背中流すよ」
「うっせぇぇぇぇぇぇぇッ! マジで殺すぞ、木場ぁぁぁぁぁ!」
俺の慟哭が山に響き渡った。なんで男と裸の付き合いをしなきゃ、ならねぇんだよ! BLなんて嫌だからな!? 俺はノンケなの! ノーマルなの!
そんなことがあったが、俺たちは普通に温泉に入った。いい湯でした! 覗けないことが心残りだが、機会はまたあるはずだ。次の機会を待つぜ!
そうそう、結局渚はみんなが寝静まった頃に戻ってきて、風呂に入ったらしい。どこでそんなに時間を潰したのかが気になった。
Side out
第10話
Side 一誠
山に籠って一週間がたった。俺はベッドで天井を見上げている。毎日朝から晩まで修行をした。
そして、俺には才能がないことがわかった。
木場はすごい。修行すればするほどその差を実感する。そんな木場に勝てる渚はもっとすごいのだろう。いくら魔力を使っているといってもあいつは人間なのだ。あの二人にはおそらく何年もかけなければ追いつくことはないだろう。いや、もしかしたら追いつかないかもしれない。
魔力の修行では、俺の隣でアーシアは順調に成長している。炎や水、小規模ながらも雷を使えるようになっていた。俺は未だに米粒ほどの魔力の塊だ。
そんなことを考えていると、俺はたまらなくなり、寝床を飛び起きる。のろのろと立ち上がり、キッチンで水を飲んだ。
「あら? 起きたの?」
「こんばんは、イッセーさん」
「やあ、兄さん」
リビングから部長、アーシア、渚の声が聞こえた。
「みんな、どうかしたのか?」
「少しね。ちょうど良かったわ、少し話しましょう」
俺はテーブルを挟んでアーシアと対面の席に腰を掛けた。
テーブルにはフォーメーションなどが書き込まれた紙や地図が置かれている。俺が席に着くと部長は戦術の書かれたノートを閉じた。
「・・・・・・正直、こんなものを読んでも気休めにしかならないのよね」
部長はため息をつく。
「どうしてですか?」
「相手がほかの上級悪魔なら、これを読めば戦いはできるわ。この本は研究されたものだもの。でも、問題はそこじゃないわ」
「? じゃあ、いったい何が問題なんですか」
俺の問いに答えたのは渚だった。
「ライザー・フェニックスだよ。兄さんもフェニックスぐらい聞いたことがあるだろう? ゲームの中でも蘇生アイテムで出てきたりするだろうし。フェニックス―――つまりは不死鳥。伝承でのフェニックスは死んでも炎を纏いながら蘇る鳥。ライザーは不死身なんだよ」
おい・・・・・・それって・・・・・・・。
「最強じゃないですか! 不死身ってそりゃいくらなんでも強すぎる! 勝てないじゃないですか!」
「そうよ。ほとんど無敵ね。攻撃してもすぐに再生してしまうわ。そしてフェニックスの炎は骨すら残さない高熱の炎。ライザーの公式戦での戦績は八勝二敗。しかも二回はフェニックス家と懇意にしている家系への配慮でわざと負けているの。つまりは実質全勝ということね」
俺は絶句していた。そんな相手をどう倒せばいいのかわからない。
「でも、倒せないことはないんですよね?」
「ええ」
アーシアの質問に部長が答えた。
「方法は二つ。圧倒的な力で押し通すか、起き上がる度に何度も倒して相手の精神を潰すか。前者は神や魔王クラスの力か、光のような悪魔の苦手なものが必要。後者はライザーが倒れるまでこちらが保つこと。フェニックスでも精神までは不死身ではないから、精神を押し潰せば私たちの勝ちね」
「僕の神討つ剣狼の銀閃は?」
「たぶんそれでも無理だわ。ナギのすべての魔力を使えば話は別でしょうけど、戦場ではそんなことは不可能だもの」
確かに、戦場では予想のつかないことも起きるだろうから厳しいな。そう言えば、前から疑問に思っていることを聞いてみよう。
「部長」
「なにかしら?」
「どうしてライザーのことを嫌っている・・・・・・・・っていうか、今回の縁談を拒否してるんですか?」
部長は俺の問いに嘆息した。お家の事情なんかはよくわからないが、無下に断れないものだと思う。
「それは僕も思いました」
俺の疑問に渚も同調する。
「・・・・・・・・私は『グレモリー』なのよ」
「なるほど・・・・・・・・そういうことですか」
渚はわかったようだけど、俺にはよくわからない。アーシアも?を浮かべている。
「どういうことなんだ? 渚」
「つまり、リアス先輩は『グレモリーのリアス』としてではなく、『ただのリアス』として見てもらいたい。ただのリアスという一人の女の子として、愛してもらいたいんですね」
「ええ、そうよ。私はグレモリーに誇りを感じているわ。でもそれは私自身を殺している。私はナギが言ったように、グレモリーを抜きとして私を愛してくれるヒトと一緒になりたいの。ライザーは私のことをグレモリーのリアスとして見て、そんな私を愛してくれている。それが嫌なのよ。矛盾しているけど、それでも私はこの小さな夢を持っていたいわ」
部長はそう言って黙ってしまった。何か言うべきだろうが何も思いつかない。
「僕はリアス先輩のこと、リアス先輩として好きですよ」
そんな中、渚がそう言った。それを聞いて部長は目を丸くしている。
「グレモリー家のこととか、悪魔の社会のことはわかりません。っていうか人間の僕には、あまり関係がありませんからね。僕にとってはリアス先輩はリアス先輩で、それ以上でもそれ以下でもありません。僕はいつものリアス先輩が好きですよ。きっとほかのみんなも」
さすがは渚だな。俺が言いたいようなことを言ってくれたぜ。しかし、部長の顔が真っ赤になっているんだが大丈夫だろうか?
「リアス先輩? 顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「な、なんでもないわ!」
あわてて、頭を振る部長。
「しかし、天才の部長の初陣がそんな奴なんて、前途多難ですね」
「天才って言葉は好きじゃないわ。私の力はグレモリー家と私のものよ。神からもらったものなんかじゃない。だからこそ負けられないわ。勝たないといけないの」
部長は自分に言い聞かせるように言った。すごいな・・・・部長は。
「俺はダメです。山に来てから・・・・・てんでダメです」
「イッセーさん?」
「修行して強くなっているような気はします。でも、それ以上にみんなとの差を感じるです。剣の修行では、木場や渚のすごさがわかります。魔力の修行では俺の隣でアーシアはどんどん成長しています。俺にはなにもできなくて・・・・・・・赤龍帝の籠手があるから、大丈夫だ! って強がってみたりして・・・・・・」
「兄さん・・・・・・」
「イッセー・・・・・・」
俺はいつの間にか涙を流していた。みんなに比べて俺は弱すぎるのが悔しくてたまらない。
「どうしよもなく、俺が弱いってことがわかって・・・・・・」
「そんなことはありません!」
俺の言葉を遮ったのは、アーシアだった。
「イッセーさんは弱くなんかありません! イッセーさんは私を助けてくれました。友達になってくれました! そんなイッセーさんが弱いなんてことありません!」
「その通りよ。あなたは弱くなんかない。とりあえず、今は眠りなさい。明日、あなたに自信をつけさせてあげるわ」
アーシアが俺に抱き着いてくる。その温もりを感じられただけで今は十分だった。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
翌日
「赤龍帝の籠手を使いなさい」
部長が俺にそう言った。この山に入ってから使用を禁止されていた赤龍帝の籠手の使用が許可された。
「相手は祐斗でいいわね」
「はい」
木場が一歩前へでる。
「イッセー、模擬選を開始する前に神器を発動しなさい。発動から二分後、戦闘開始よ」
「は、はい」
言われるがままに赤龍帝の籠手を発動させた。以前にどれだけ倍加できるか試したが、せいぜい5分が限界だった。部長曰く、「積載量を越えた」と言うことらしい。倍加に俺自身がついていけなくなったということだ。
「イッセーさん、がんばってください!」
アーシアの声援が聞こえた。
二分後
「イッセー、ストップよ」
部長が俺に赤龍帝の籠手を止めるように指示してきた。
「いくぞ、赤龍帝の籠手!」
『Explosion』
赤龍帝の籠手から音声が響くと、今まで感じたことがないような尋常じゃない力が湧いてきた。
「その状態でイッセーは祐斗と戦ってみなさい。祐斗頼むわよ」
「はい、部長」
木場が剣を構えた。対して俺は拳を構える。
「それじゃあ、初め!」
その言葉を合図に木場の姿が消えた。
俺は瞬時に腕を交差させてガードをする。
騎士の駒の特性はスピードだ。目を離すのは危険だな。
「っ!」
木場が驚いて、足を止めた。俺はその隙を見逃さずに拳を放つ。
しかし、木場は当たる寸前で再び姿を消した。すぐさま目を配らせるが真正面と左右には、木場の姿はない。ならば後ろかと思い、振り返るがそこにもいない。そしたら、残るは上だ!
上空を見ると木場は木刀を下に突き出して降ってきた。
―ゴッ!
鈍い音が聞こえる。防御が間に合わず俺の頭部に一撃決まった。痛ぇぇぇ! だけど我慢だ!
地面に降りた木場を狙って蹴りを繰り出す。しかしこれもまた、躱されてしまった。ちくしょう! 速くて当たらん! やりずらい・・・・・・。
「イッセー! 魔力の一撃を打ってみなさい!」
部長が俺に指示を出す。しかしここで魔力の一撃ですか? 当たらないと思うけど、とりあえず部長の指示に従おう。
魔力を手の平に集中させる。相変わらずの小さい米粒ほどの魔力の塊ができた。それを木場に向かって放つ。
―グオォォォォォォォォォォンッ!
米粒ほどだった魔力は俺の手を離れた瞬間に、巨大な岩ほどのものへと変貌していた。
え、ちょっ!? なにが起きた? ああ、そうか赤龍帝の籠手のおかげか・・・・・・驚かせんなって。
木場に巨大な魔力の塊が迫る。速度もそこそこだ。しかし、木場はそれを軽やかに避ける。
はぁ。やっぱり当たらないか。そんなことを思いながら避けられた魔力の塊は隣の山に飛んでいった。
―ぴちゅーん!
効果音はおかしかった気がするが、隣の山が吹き飛んでいた。あれって大丈夫なんだろうか? 山ひとつ消したってことは地図変えちゃったんじゃね?
『Reset』
籠手から音声が流れ、増幅した力が抜けて行った。魔力が尽きたようで体の内側が空っぽになった感じがする。
「そこまでよ」
部長がそこで手合わせを止める。木場も木刀をおろした。俺は腰が抜けたように座りこんだ。
「お疲れ様、二人とも感想はどうかしら?」
「正直驚きました。最初の一撃で決めるつもりだったんです。でもイッセーくんのガードは崩せませんでしたし、二撃目もダメでしたし・・・・・・・。それにこのままやっていたら僕は得物を失っていたでしょう。あとは逃げ回るだけでしたね」
木場が掲げた木刀はすでに折れかけていた。
「ありがとう、祐斗。イッセー、そういうことらしいわよ?」
これが、昨日部長が言っていたことだったんだな。俺は自信を持ってもいいらしい。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
兄さんとリアス先輩が会話をしている。
確かに兄さんに才能はないだろう。でも、『赤龍帝の籠手』を使えばそれは別だ。
『赤龍帝の籠手』は持ち主の力を倍にしていく。鍛えたことにより、兄さんの初期値が少し上がるだけでも、赤龍帝の籠手により倍になっていく力も大きい。源がたった1だけ上がるだけでも大きな成長なのだ。
「あなたはゲームの要になるわ。イッセーの攻撃力が状況を左右する。一対一だったら力の倍加中は無防備だけど、レーティングゲームはチーム戦。あなたのフォローをしてくれる仲間がいる。私たちを信じなさい。そうすればイッセーも私たちも強くなれる。勝てるわ!」
リアス先輩が自信満々に言った。確かにその通りだろう。
「そういうとこさ、兄さん。フェニックスだろうと関係ない。僕たちがどれだけ強いのか見せてやろう!」
「そうだな、渚!」
昨日の落ち込んでいた兄さんはもういなかった。思わず笑みがこぼれる。
「渚の言う通りよ。ライザーに目にもの見せてやりましょう!」
『はい!』
全員が力強く返事をした。
こうして決意を新たにした、山籠もりの修行は順調に進み、無事に終わりを迎え、あとはゲームを待つのみとなった。
Side out
第11話
Side 渚
深夜PM 11:50
僕たちは旧校舎の部室に集まっている。みんなそれぞれリラックスできる方法で待機していた。
「皆さん、準備はおすみになられましたか?」
部室の魔方陣が光ってグレイフィアさんが現れた。グレイフィアさんを確認するとみんなが立ち上がる。
「開始時間になりましたら、魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。そこではどんなに派手なことをしてもかまいません」
なら、思う存分派手にやるとしよう。
「あの、部長」
兄さんが部長に話しかけた。
「何かしら?」
「部長にはもう一人、『僧侶』がいますよね? その人は?」
言われてみれば、そんな人がいたことを思い出す。確か・・・・・・ギャ、ギャスパー?だったかな?
そして、僕と兄さん、アーシアさんを除くメンバーが何とも言えないような顔をした。
「残念だけどもう一人の『僧侶』は参加できないわ。いずれそのことについても話すわね」
彼が出てくるのはもう少し先のはずだから、まあいいだろう。
「今回は両家の皆様もほかの場所から中継で戦闘をご覧になります。さらに魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されております。それを忘れないようにお願いします」
大物が見てるって聞かされて兄さんは少し緊張しているようだ。
「それと、渚様」
「はい。なんですか?」
突然、自分の名前が呼ばれる。話の流れてきに僕に話を振る感じじゃないと思うんだが・・・・・・・。
「これをどうぞ」
そう言って、グレイフィアさんが差し出してきたのは「悪魔の駒」によく似た駒のようなものだった。
「これは?」
「特例のため、急遽作成した人間を一時的に眷属にする『仮の駒』です。与えられた人間は人間と悪魔のハーフのような状態になるので注意してください」
僕は仮の駒を手に取って眺める。人間と悪魔のハーフねぇ・・・・・・。日光がつらくなるのだろうか?
「それに駒の特性はありません。今後は眷属にするかのお試し期間用として使用するものでもあります。ただ・・・・・・」
「ただ・・・・・・なんですか?」
グレイフィアさんは一回言葉を切る。
「その駒はプロトタイプであり、製作には四大魔王の一人であるアジュカ・ベルゼブブ様が直接製作に関わっているのでどんな仕掛けが施されているか・・・・・・」
「はぁ・・・・・・・」
なんかやばいことでもあるのだろうか?
「あの方は隠し要素を仕込むのが好きですから」
・・・・・・ちょっと不安になってきたんですけど。
でも、駒が渡されるのは一回きりだから、お試し期間があるというのはいいと思う。
僕は覚悟を決めて、駒を体に押し当てる。すると、仮の駒は僕の体に溶け込むように消えた。
「そろそろ時間です。魔方陣の方へ」
全員が魔方陣へと移動する。そして、魔方陣が形を変え、光を発した。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
戦闘フィールドである駒王学園のレプリカに着いて、ゲームについての説明が終わり僕は作戦のために朱乃さんとともにいた。
「兄さんたちはうまくやってくれてますかね?」
「そんなに心配することありませんわ。小猫ちゃんもいますもの」
「そうですね。僕たちは兄さんたちのがんばりに期待しましょう」
朱乃さんは翼で宙に浮かび、僕は魔力で空中に足場を作ってそこに立っている。僕たちの視線の先には体育館があった。
中では敵の「兵士」3人と「戦車」1人がいて、兄さんと小猫ちゃんが戦っている。ちなみに、僕の役割は朱乃さんの護衛だ。
―「「「イヤァァァァァァァァァァァ!!!!」」」―
突然、体育館から悲鳴が響き渡る。
「兄さん? どうしたの?」
耳につけていた通信機で、何があったのか兄さんに訊いてみた。
『アハハハ! どうだ、見たか! これが俺の技だ! その名も『洋服破壊』! 俺は脳内で延々と女の子の服をはじけ飛ばすイメージをし続けたのだ!!』
兄さんは僕の声を無視して、声高らかに自分の技を自慢し始めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あらあら」
僕の頬はおそらく引きつっているだろう。結局教えてもらえなかった兄さんの魔力の使い方はまさかのセクハラだった。朱乃さんは知っていたのか、それほどの動揺はないみたいだ。
『イッセー、小猫、朱乃、ナギ。聞こえる? 私よ』
リアス先輩の声が通信機から聞こえた。
『朱乃、ナギ。準備はどう?』
『問題ありませんわ』
『そう。なら、例の作戦通りにお願いね!』
リアス先輩はそう言って、通信を切った。
「それじゃあ、兄さんたちが出てきたらお願いしますね。朱乃先輩」
「任せてください」
そう言ってから、すぐに兄さんと小猫ちゃんは外に出てきた。
「いきますわ!!」
朱乃先輩は空に向けて、手を掲げる。
―ドオォォォォォォォォォォォンッ!!―
体育館に向かって巨大な雷が降り注いで、目の前にあった体育館を吹き飛ばす。
「撃破」
朱乃先輩が僕に微笑みながらそう言った。
『ライザー様の「兵士」3名、「戦車」1名、戦闘不能!』
グレイフィアさんの声がフィールドに響いた。
「お見事です」
「あらあら、ありがとうございます」
下を見ると、兄さんが小猫ちゃんから距離を取られていた。あんな技を使ったんだから当然だろう。
「・・・・・・兄さん、ハーレム王になるとか言いながら、女の人に嫌われそうな技を使ってるのはなぜでしょうか?」
「それは、イッセーくんがスケベだからですわ」
一発で納得する返答だった。
『みんな、聞こえる? 朱乃が最高の一撃を決めてくれたわ。これで最初の作戦はうまくできたわね』
リアス先輩が考えた作戦は、重要地点を破壊すること。そして、それに相手の眷属を巻き込むことだった。それによっていきなり4人も倒せたのはいい出だしだろう。
『あの雷は一度放ったら二度目を打つのに時間がかかるわ。連発は不可能。まだ相手の方が数では上よ。朱乃の魔力が回復したら、私たちも前に出るから、それまで各自お願いね。ナギはしっかり朱乃を守るのよ』
「了解です」
部長に返事をして通信を切った。
「よろしくお願いしますね、ナギくん」
「任せてください――ッ!」
すべてを知るものが警鐘を鳴らす。方向は小猫ちゃんと兄さんのいる方だ。
「ナギくん?」
朱乃先輩が不思議そうな顔で僕を見てくるがそれに応えている暇はない。僕は兄さんと小猫ちゃんの方に急降下した。重力と魔力放出の推進力を得た僕は瞬く間に兄さんたちのもとに降りる。
「渚!?」
「先輩!?」
驚いた二人をしり目に、僕は距離の近い兄さんを突き飛ばした。兄さんは突然のことでなすすべもなく突き飛ばされる。あとは小猫ちゃんだが、すべてを知るものの鳴らす警鐘が一層大きくなる。このままでは間に合わない。僕は小猫ちゃんを庇うように押し倒して、魔力障壁を急速に構築した。
―ドォンッ!!
直後、障壁に爆発が叩きつけられる。急ごしらえの障壁では完全に衝撃を防ぐことができずに、地面に着いた腕が耐え切れなくなり、肘を着く形になるが、なんとか防ぐことができたようだ。
「ぎりぎりセーフかな」
下を見ると小猫ちゃんの顔がすぐ目の前に。ほんのちょっと5cmほど近づけばキスができるだろう。
普段表情があまり変わらない小猫ちゃんもこれは恥ずかしいのか顔を赤くしている。僕もつられて顔が赤くなるのを自覚した。
「な、ナギ先輩・・・・・・?」
「大丈夫、小猫ちゃん―――ッ!?」
心なしか瞳が潤んでいるように見え、小猫ちゃんが蠱惑的に見えた。女の子ではなく女の表情とでも言えばいいのだろうか? 戦闘中にもかかわらず、生つばを飲み込んでしまった。
そして、ちょっとずつ顔が近づいていき―――
「二人とも無事か!?」
―――ものすごい勢いで離れた。覆いかぶさった体勢から起き上がる。小猫ちゃんもすぐに起き上った。顔は真っ赤である。
(僕は何をしようとしていた!? これでは兄さんのことは言えないぞ!?)
軽く自己嫌悪に陥っていると、空中から声をかけられる。
「あら、残念でしたわ」
事前の情報で見た人だ。確か、敵の「女王」である。彼女がこちらまで飛んできた。
「ナギくん、彼女は私が相手をしますわ」
いつの間にか降りてきていた朱乃先輩がそう言って、僕の前に出ようとするが、僕はそれ止める。
「僕が行きます。朱乃先輩はまだ魔力が十分ではないでしょう。なので、兄さんたちと祐斗と合流してください」
僕と朱乃先輩は見詰め合う。先に折れたのは朱乃先輩だった。
「わかりましたわ。ここはお任せします」
「ありがとうございます」
「お気になさらず、イッセーくん、小猫ちゃん、行きますわよ」
朱乃先輩は二人を引きつれてこの場から移動する。
「逃がさな―—」
「やらせるとでも? 「女王」、ユーベルーナさん」
魔術を発動しようとしていたユーナベールに斬りかかる。彼女はそれを避けるために魔術の発動を中止した。
「ふふふ・・・・・・・。たかが、魔力の多い人間が私を倒せるとでも?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は何も答えず、鞘に収まりし魔剣を構えた。
(『四次元視』!)
目を魔力で強化する。視界が二重にぶれ始めた。
「だんまりですか・・・・・・まあ、いいわ。くらいなさい!」
ユーベルーナは僕に向かって、魔術を使ってくるがぶれた視界に映る光景を見て、僕はその爆発を回避する。
「あら? 避けましたか・・・・・・。なら、これはどうです!」
―ドォン! ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
今度は視界を埋め尽くすような爆発の連続をするようなので、爆発に紛れるようにして急降下する。
「アハハハハ! どうかしら? 私の爆発は?」
ユーベルーナは完全に僕を舐めきっているようで、わざわざ自分の視界を悪くするような攻撃をしてくれた。僕にとってはありがたい限りなので、文句はない。
しかも、彼女は僕に気づいている様子はない。ならば、これはチャンスだろう。
魔力放出で急上昇。ユーベルーナの背後に駆け上がる。そして、そのまま鞘に収まりし魔剣を振り上げる。ぶれた視界のなかで彼女に避ける様子は見られない。
「フッ!」
「なっ!? ―――キャァ!」
無防備な背中に鞘に収まりし魔剣による一撃を叩き込んだ。彼女はもろにくらって、吹き飛んでいった。
しかし、いかに無防備で僕自身を魔力で強化した状態だったといえど、鞘に収まりし魔剣ではやはり攻撃力に欠けるようだ。その証拠に彼女は、瞳に憤怒の炎を宿りながらこちらを睨んでいる。
「よくも、やってくれましたね・・・・・・・・。ここからは手加減しませんわ!」
ぶれた視界には僕を完全に囲むように爆発が起きている。僕はその場を転がるように退いた。
―ドドドドドドドドドドドドドドォンッ!
すると先ほどよりも短い間隔で、連続した爆発が起こった。あのままあそこにいたら確実にやられていただろう。
「これも避けますか・・・・・・・なら、次はこれです!」
―ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!
今回は先ほどのように短い間隔ではないが、避けた先を爆発させて追いこんで行くつもりらしい。このまま避けることは可能だが、避け続けても意味がないのでここら辺で仕掛けるとしよう。
魔力放出を細かく行い、爆発を避けながらどんどんユーベルーナへと接近していく。すでに僕の手から鞘に収まりし魔剣は消えており、代わりに右手に魔力を纏わせはじめた。
「ええい! 当たりなさいッ!」
『ライザー様の「兵士」3名、戦闘不能!』
突然アナウンスが流れた。どうやら祐斗か朱乃先輩がやってくれたらしい。
「本当に遊んでいられなくなりましたわね」
ユーベルーナは次々と爆発を起こすが、見える範囲は四次元視で、見えない範囲はすべてを知るもののおかげで、察知できるので、すべてを回避する。
回避しながら近づいていき、ついにユーベルーナはとの距離が5メートルほどになった。この距離では自分もまきこむ可能性があるので、彼女は自身の得意魔術である爆発を使うことができない。つまり、爆発がやんだ。
「この―—―」
別の魔術を発動しようとしたユーベルーナに、左手で掌底を叩き込んで弾き飛ばす。
「グハッ!」
そして、吹き飛んでいるユーベルーナに右腕に纏わせた魔力を解放した。
「『神討つ剣狼の銀閃』ッッ!!!!」
―ゴォォォォォォォォォォォォッ!
僕の右腕から、膨大な量の銀色の魔力が放たれた。以前、堕天使に使った時より圧縮率が上がっているので、比例して威力も上昇している。
ユーベルーナは辛うじて、防御の魔術を発動したようだが、入念に準備していたならともかく即興の防御ではなすすべもない。神討つ剣狼の銀閃はその防御ごとユーベルーナを飲み込んでいく。そして、神討つ剣狼の銀閃が地面にぶつかる。
―ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
着弾した地点は大きなクレーターができていた。そして、すでにそこにユーベルーナの姿はない。
『ライザー様の「女王」戦闘不能!』
グレイフィアさんのアナウンスが戦場に鳴り響くのを、僕は右腕から余剰魔力を吹き出しながら聞いた。
Side out
第12話
Side リアス
最初の作戦は見事に成功した。一気に4人の敵を倒せすことができた。
『ライザー様の「兵士」3名、戦闘不能!』
しかも、その数分後にライザーの兵士3名が戦闘不能になったという放送が流れた。状況的に倒したのは祐斗かしら? これでこちらは残り7人。ライザーの方は残り9人。相手の数はこちらの約1.3倍。微妙な状態ね。
「クハハハハ! なかなか、善戦してるじゃないか」
「ライザー!」
炎の翼を生やし空を飛んでライザーが私とアーシアのもとにやってきた。
「リアス、思ったよりもお前の下僕は優秀なようだな」
「あなたに私の下僕を褒められてもうれしくないわ」
「手厳しいね。まあいい。俺も下僕どもの戦闘を見て気分が高揚してきてるんだ。どうだ? 一騎打ちで決着をつけようじゃないか!」
『ライザー様の「女王」戦闘不能!』
グレイフィアのアナウンスがフィールドに響く。思わず笑みが浮かんだ。
これで相手の数は8。しかも、一番厄介な女王が落ちた。ライザーを見ると、少し意外そうな顔をしている。
「まさか、ユーベルーナがやられるとはな。本当に優秀な下僕がいるんだな」
「部長さん、どうしますか?」
アーシアが、私に問いかける。最終的に私たちがライザーを倒さない限り、私たちの勝ちにはならないのだから、邪魔が入らない状況で私がライザーを倒すのがベストね。
「いいわ! その申し出、受けてあげる!」
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 小猫
(あの時、イッセー先輩の声はもう少し遅れていたら―――)
私たちは祐斗先輩と合流するために移動しています。
そんな中、思い出すのはナギ先輩に押し倒されるように庇われたあの時のこと。頬が熱い。男の人に押し倒されるなんて初めてでした。
私の目の前一杯に、ナギ先輩の顔が広がり距離もほとんどないような状況。
(―――キス・・・・・・していたんでしょうか?)
初対面の人は間違いなく女の子だと思うような容姿のナギ先輩。しかし、外見とは違いナギ先輩は男の人です。
気づくと、私の手は唇をなぞっていました。
(ナギ先輩と、キス・・・・・)
思わず想像してしまいました。顔がさらに熱くなります。あんな状況になったのですから仕方ないです。でも、
(なんで私は・・・・・・?)
ナギ先輩が庇ってくれたあと、すぐに“どいてください”と言わなかったのか。イッセー先輩でしたら、すぐに言ったと思いますが、ナギ先輩だと言えませんでした。
「小猫ちゃん、さっきから難しそうな顔してるけど大丈夫ですか?」
朱乃先輩が心配そうに私を見てきました。・・・・・・今の私の顔はそんなに険しいのでしょうか?
「・・・・・・大丈夫です」
「そう・・・・・・ですか」
いまいち納得してなさそうですが、ここは引いてくれるみたいです。深く聞かれても答えにくいので助かります。
(キス。ナギ先輩と・・・・・・)
もう一度想像しかけて、慌てて首と振ります。今はレーティングゲーム中です。今はあんまり深く考えないことにしましょう。
(私は・・・・・・ナギ先輩のことが・・・・・・?)
でも、最後に浮かんだ疑問だけは心の中に残っていました。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 朱乃
ナギくんに敵の女王を任せて、祐斗くんと合流しようとしていると、アナウンスが入りました。
『ライザー様の「兵士」3名、戦闘不能!』
一瞬、ナギくんが負けたのかを思いましたが、祐斗くんが相手の兵士を倒したみたいですわね。
「祐斗くん!」
「木場!」
「・・・・・・祐斗先輩」
物陰にいた祐斗くんにイッセーくん小猫ちゃんとともに声をかける。
「朱乃さん!?」
私も来て驚いているようですね。
「ナギはどこに?」
当初の予定ではナギくんが来るはずでしたから不思議なのでしょう。
「相手の女王と戦闘中ですわ」
「そうですか・・・・・・。まあ、ナギなら大丈夫でしょう」
「なんたって、俺の弟だからな!」
「・・・・・・大丈夫です」
あらあら、心配するかと思いましたが信頼しているようですね。
「それより、どうしますか? ここには「騎士、「戦車」、「僧侶」が一人ずついますけど?」
なかなか、厳重ですわね・・・・・・。体育館を消し飛ばしましたから、仕方ないのかもしれませんが。
「このままいても、埒があきませんわ。思い切って行きましょう」
「わかりました。僕も誰も来なかったら、そうするつもりだったので問題ありません」
「・・・・・・私は念のため隠れて様子を伺います」
「そうですね。お願いしてもいいですか」
「・・・・・・はい」
ここから小猫ちゃんは別行動ですわね。さて、祐斗くんの賛成も得られたので、行きましょうか。
私たちは物陰から出て、グラウンドに向かっていく。
「こそこそとしないで、出てきたか・・・・・・。私はライザー様の『騎士』カーラマイン!」
「朱乃さん、彼女は僕がやります」
「それじゃあ、お願いしますわ」
祐斗くんが騎士の女性のもとへと歩みを進めた。
「僕はリアス・グレモリーの眷属、「騎士」の木場祐斗だ」
「リアス様の眷属におまえたちのような戦士がいてうれしく思うぞ。堂々と出てくるなど正気ではないからな」
あらあら、私たちはまともではありませんか。
「さて、やるか・・・・・・?」
剣を鞘から抜くカーラマイン。祐斗くんも剣を抜いた。どうやら、一対一の決闘みたいですわね。となると、私の相手は―――。
「あなたたち2人のどちらかですか?」
「いいや、その「僧侶」は観戦しているだけだ。その僧侶――—いや、その方はレイヴィル・フェニックス。ライザー様の実の妹だ」
あらあら、ライザーは実の妹もハーレムに入れるつもりなのかしら? これはますます、リアスをライザーと結婚させるわけにはいきませんわ。
当のその子は、こちらににこやかに手を振っていた。
「ライザー様曰く、『妹をハーレムに入れることは世間的にも意義がある。まあ、俺は妹萌えじゃないから形として眷属ってことで』だそうだ」
イッセーくんが激しくうなずいて同意してますわね・・・・・・・・。表情を見ればわかりますわ。とにかく、実あの子は戦わないみたいですから、よかったですわ。
「それでは、いくぞ! リアス・グレモリーの「女王」よ!」
相手の「戦車」が私の顔に向かって拳を鋭く突き出す。体を半身にして避けて、後方に距離を取る。魔力はそれなりに戦えるぐらいには戻ってきているので心配はないみたいですし、それに、ナギくんのこともありますから、さっさと済ませましょう。ちなみに、イッセー君は『僧侶』とお話し中です。
「受けよ! 炎の旋風を!」
祐斗くんが相手をしていた「騎士」から、炎の渦を作り出していた。こちらまで、巻き込むつもりでしょうか? 私の相手をしていた「戦車」も距離を取って私から離れた。
「止まれ」
祐斗くんの手に円状の特殊な刃の剣がある。その剣には不可解な渦ができていた。
「複数の神器所持者か?」
「いいや、僕の神器は『魔剣創造』。僕は任意に魔剣を創り出せるのさ」
そう言うと、祐斗くんは手を地面につける。すると、グラウンドから鋭い剣がいくつも生えてきた。相手の「戦車」は私から距離がある。
「な、なんだ、あれは!?」
「戦車」がそう言って、ある方角を指す。そこには銀色の閃光が地面に直撃し、爆発を起こしていた。
――ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
『ライザー様の「女王」戦闘不能!』
ナギくんがやってくれたようだ。ライザーの下僕は自分たちの「女王」がやられたことに、驚いて動きを止めた。
「くらいなさい!」
「戦車」の周囲に雷を落とす。
「くっ! こんなところで・・・・・・」
「戦車」の人は避ける間もなく、直撃して倒れた。
『ライザー様の「戦車」1名、戦闘不能!』
「おい、木場と言ったか? アレはなんだ?」
「あ~・・・・・・。あれはうちの人間の必殺技? 的なものだよ」
「バカな!? 人間があそこまで強力な一撃を放てるわけがない!!」
ナギくんの規格外さに、騎士と僧侶は驚いているようですわ。イッセーくんはトラウマを刺激されたみたいで、敵から心配されていますわ。
「ここね」
「あれ? イザベラ姉さんは?」
「まさか。やられちゃったの?」
ライザーの下僕が続々と集まってきた。残りの下僕全員でしょうね。それに対し、私たちはたったの伏兵の小猫ちゃんを入れて4人。これは厳しいですわね。どうしましょうか・・・・・・・?
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
ライザーの女王を倒した僕は、これからどうするか悩んでいた。
「うーん・・・・・・・。朱乃先輩の方に行くべきか、リアス先輩の方に行くべきか・・・・・・どうしようかな?」
『ライザー様の「戦車」1名、戦闘不能!』
お? どうやら、兄さん、朱乃先輩、祐斗、小猫ちゃんの4人がやってくれたようだ。あの4人なら大抵の事は大丈夫だろうし、リアス先輩のほうに行くとしよう。
『ナギさん! 聞こえてますか、ナギさん!』
そんなことを思っていると、アーシアさんから通信が入った。
「どうしたんですか? アーシアさん?」
『今、屋上にいるんですが、そこで部長さんとライザーさんが一騎打ちを――—キャァ!』
―ドォン!
爆音が響いた。音源を探すと、どうやら屋上でリアス先輩とライザーが戦っているのがかすかに見える。ライザーの方は無傷だが、リアス先輩の方は服も破れているし、息も上がっているように見えた。
「とりあえず、すぐに向かうよ!」
『お願いします!』
通信を切って、屋上に急いだ。
Side out
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Sideリアス
私は今、ライザーと対峙している。すでに戦闘を始めてから数分以上が経過しているが、ライザーは未だ無傷に対し、私は制服もところどころ破けていて、息も上がってきていた。
「そろそろ諦めたらどうだ? お前じゃ俺は倒せないのはこれでわかっただろう?」
「誰が、諦めるもんですか!」
私は手から魔力を放つ。グレモリーの滅びの魔力。触れたものを消滅させる魔力だ。
「フンッ」
ライザーはそれを、まともに受け止める。もちろん、当たったライザーは当たった部分が消し飛んでいるが、すぐにその部分から炎が噴き出して、元通りになってしまった。すでに私は、これを何回も繰り返しているが、ライザーは一向に倒せる気配がない。
「リアス、投了するんだ。これ以上はほかの場所で見られている君の父上にもサーゼクス様にも格好がつかないだろう。キミの下僕はそれなりに残っているが、キミはもうすでに詰んでいる。―――チェックメイトだ、リアス」
諭すようにライザーは言うが、私はそんなライザーを睨んで言う。
「黙りなさい、ライザー。私は私の為に戦ってくれている下僕の為にも諦めないわ!」
『ライザー様の「戦車」1名、戦闘不能!』
「聞いた? まだ私の下僕も諦めていないのに王である私が諦めるわけにはいかないのよ!」
まだ朱乃、祐斗、ナギ、小猫、そしてアーシアがいる。誰一人欠けていないのだ。そして彼らはまだ諦めていないのだから、王である私が先に折れていいわけがないわ!
「その通りですよ。まだ、諦めるには早いです」
その声に振り向くと、女の子のみたいな容姿の男の子が立っていた。
Side out
第13話
Side 渚
「その通りですよ。まだ、諦めるには早いです」
ライザーとリアス先輩のいる屋上に着地する。形勢はリアス先輩の方が不利のようだが、その瞳はまだ諦めていなかった。
「あの時の人間か・・・・・・・。下がっていろ、これは上級悪魔同士の問題だ」
こちらをちらっと見て、ライザーはそう言った。
「そういう訳にはいきませんよ。仮にもリアス先輩の下僕としてこの試合に出てるんですからね」
「チッ、なら先にお前から葬ってやるよ!」
「リアス先輩、選手交代です。今は休んでください」
そう言ってライザーを見据えた。
(正面に向かっての炎の弾!)
『四次元視』で見えた光景を参考に攻撃を回避する。
「そんな攻撃じゃ当たりませんよ?」
「フン、この程度避けてもらわないと困る」
ライザーは両手に炎を燃え上がらせながら、こちらを見た。周囲の気温が上昇するが修行中に学んだ、耐熱の魔術がある。しかし、それを以てしてもライザーの炎の熱を防ぐことができない。さすがはフェニックスと言ったところだろう。
「燃えろ!」
両手をクロスした状態で炎を放つ。炎は十字架になって僕に迫ってくるが、その光景はすでに見ているので、避けることはたやすい。
その後も、ライザーは攻撃を繰り返すが、僕はすべて避けきった。そんな時だった。
『リアス様の「騎士」1名、戦闘不能!』
チッ! 祐斗がやられたか・・・・・・・。思わず目を閉じてしまった。
「ちょこまかとしやがって!」
「!」
ライザーが炎を放つ。目を閉じてしまったので四次元視が発動されず、すべてを知るものが警鐘を鳴らしてくれたおかげで、なんとか回避したので、軽いやけどで済んだ。直撃したら大やけどは必至だろう。
「ナギ!」
「ナギさん!」
後ろから、リアス先輩とアーシアさんの声が聞こえる。アーシアさんはこちらに駈け出そうとしていた。
「大丈夫、軽く火傷した程度だから」
そう言ってアーシアさんを踏み留まらせる。しかし、避けているだけじゃ勝ち目はない。僕は右手に魔力を纏わせはじめる。周囲にはリアス先輩とライザーの魔力の残滓が散らばっているので、集めて僕の魔力を足せば先ほどとは比べ物にはならない威力が出るだろう。
「ほう・・・・・・・何かするつもりか? いいだろう、待ってやる」
そう言うと、ライザーは炎を消してその場に佇んだ。いいだろう。その慢心を打ち砕いてやる!
いつもより、大きく展開した魔方陣によって、フィールド全体の魔力の残滓を集める。量が膨大なので、僕の周りはそれぞれの魔力の色で虹のようになり、輝いていた。それを圧縮して、自身の魔力に上乗せする。
ライザーは一瞬眉をひそめたが、自分のプライドがあるため何もすることはない。
3分ほど魔力を集めると、ほぼすべての魔力の残滓を集めることができた。このフィールドで使われた魔力は僕を含め、かなりの量が存在しているので、集束している魔力はおおよそ僕の全魔力量の1.5倍ほどになった。
「それじゃあ、行きますよ?」
さすがのライザーも、これほどの魔力は予想外だったのか、緊張した面持ちでいる。
「『神討つ剣狼の銀閃』ッ!!!!」
視界一面を銀色で埋め尽くすほどの膨大な量の純魔力の嵐がライザーに向かって突き進んでいった。ライザーは炎の盾のようなものを展開するが、濡れた障子を破るように『神討つ剣狼の銀閃』はその盾を突き破る。
そのまま『神討つ剣狼の銀閃』はライザーを飲み込んでいき、フィールドの端、この世界の境界にぶち当たって轟音をたてた。そのせいで若干世界が揺らぐ。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
屋上にいる誰も声を発しなかった。
「相変わらず、理不尽な攻撃ね」
そんな中、リアス先輩が顔を引きつらせながら僕に向かって言った。アーシアさんは初めて見る僕の最大級の攻撃に唖然としている。
さすがに、この一撃を受けたら、立ち上がれないだろう。
僕はそう思った。しかし、これがフラグだったんだ。
ライザーがいた場所が燃え上がり、その炎が人の形を作り出す。そしてそこには多少、疲弊している様子のライザーが現れた。
「・・・・・・・・・・・・人間。正直お前のことを舐めていた。お前は化け物だよ。あの一撃をもう一回受けたら立ち上がれるか、俺にもわからない。だから、こっからは本気で相手をしてやる」
ライザーの背中が燃え上がり、炎の翼となる。そしてそのまま接近してきた。
「オラァ!」
右足で蹴りを放ってくる。その足には炎を纏っていた。僕はとっさに『鞘に収まりし魔剣』で防御するが、耐熱の魔術を使っていてもなお、その熱が僕の肌を焦がす。尋常じゃない熱量だった。
ライザーはそのまま僕に向かって、接近戦を挑んでくる。攻撃の度にその炎の熱が肌を焦がす。しかも、周囲の空気を急速に消費しているので、息をすることが厳しい。僕は何とか距離を離そうとするが、ライザーはしつこく食らいついて、距離が離せない。
「シッ!」
そして、ついにライザーの一撃が僕のボディーに命中した。肉が焼ける匂いが鼻をかすめる。
「ガハッ!」
その威力に吹き飛ばされて、屋上の貯水タンクに衝突する。すぐさまアーシアさんが駆け寄ってきて僕を癒すが、その途中でライザーの炎にやられてしまった。
「キャアァァァァァ!」
『リアス様の「僧侶」一名、戦闘不能!』
アーシアさんは僕のお腹の傷だけは完璧に治療したようで、何とか立ち上がることができた。
―バンッ!
「アーシア!」
屋上の扉を勢いよく開け放って、兄さんが登場した。そこで見たライザーの炎に唖然とする。
「ナギ! もういいわ! 下がりなさい!」
後ろでリアス先輩が叫んだ。
「リアスの言うとおりだ人間。お前は人間にしてはよくやったよ。この俺に本気を出させたんだからな。だから、もう眠れ」
ライザーもそれを促すように言う。
「すぅ・・・・・・・・はぁー」
僕はそれを無視して、離れたことによりようやく満足に据える空気を深呼吸で取り込む。そして『鞘に収まりし魔剣』を構えた。
「そうか・・・・・・それがお前の答えか・・・・・・・。ならこの一撃で眠れ!」
そう言って、ライザーは炎を集め始めた。人を焼き尽くすには十分以上な炎がライザーに集う。
「ナギ! お願いだから下がりなさい!」
「部長の言うとおりだ! いくらなんでもヤバイってッ!」
「大丈夫ですよ、二人とも・・・・・・・。約束しましたでしょ? リアス先輩、力になるって」
後ろにいる、リアス先輩にそう答えた。兄さんは首をかしげている。
「リアス先輩には、兄さんを助けてもらった恩がありますからね。だから、リアス先輩が困っていて、僕はそれを助ける約束をしましたから。だから、僕はあなたために戦います」
「約束がなんだって言うんだ。お前はこの一撃で終わるんだよっ!」
僕はそれに対して何も答えず、代わりにこう言った。
「ひとつ教えてあげるます。僕は約束は絶対に破らないようにしているんだ」
「だから、なんだ? 『鞘に収まりし魔剣』で何とかできると思っているのか?」
ライザーが嘲笑するように言う。
「そんなことは関係ない。・・・・・・・一方的だったけど、でも、ただ僕は何が何でも約束は守るだけだ!」
その言葉を皮切りに、僕の髪は銀色に染まっていく。結んでいたゴムは纏う魔力に耐えきれず、弾け飛んでしまい、ポニーテールから背中のなかほどまでに伸びたストレート髪型になった。
「『白銀魔術礼装』」
僕は静かにつぶやいて、魔術を発動する。誰にも穢せる事の無い聖なる意思をその身に宿し、持ち主に対して作用する類の、あらゆる状態異常系統のものを完全無力化させる魔術。
とりあえず、これでやけどの心配はなくなった。
そして、『鞘に収まりし魔剣』を覆う鞘の部分に罅が入り、そこから黄金の光が漏れ出していた。
「な、なんだ・・・・・・この威圧感は・・・・・・・・」
ライザーが狼狽えているが、関係ない。
そして、罅が『鞘に収まりし魔剣』全体を覆った瞬間、鞘が砕け散った。
そこから現れたのは、柄もベルトも黄金色で統一された一振りの剣。柄の中央には翠色の宝石が埋め込まれていた。
「これが僕の・・・・・・・剣敵必殺!」
右足を前に出して腰を落とし、上半身を背中を見せるように捻る。鞘から抜かれた『鞘に収まりし魔剣』は黄金の輝きを放つ、『黄金色の聖約』となった。
「なんだ・・・・・・その剣は? 聖剣じゃないか・・・・・・『鞘に収まりし魔剣』は魔剣のはず・・・・・・・」
ライザーが何かぼやいているが、答える必要はない。
「加減できないと思います。ちゃんと復活してくださいよ」
僕はそう言って、
「次元の彼方まで斬り裂けッ! 『黄金色の聖約』ッッッ!!!!!」
振り切られた『黄金色の聖約』から黄金の輝きがライザーに向かって放たれた。
その斬撃は、 世界を構成する『概念』そのものを絶つため、その次元のいかなる防御も打ち破る究極の斬撃。
当然、距離と言う『概念』すらも絶ち切るため、この一撃を回避する事は不可能。
たった二回だけだが、持ち主に栄光をもたらす聖剣の一撃。
それがライザーに向かって放たれた。
「オオオォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」
ライザーは全力をもって、その斬撃に抗うが、黄金の斬撃は一瞬でそれを切り裂き、ライザーに到達した。
僕は剣を振るった状態で、動きを止めている。剣撃の余波で校舎の屋上はボロボロになっていた。
そして、黄金の斬撃を受けたライザーの体は、再び再生を始めた。
「ウソ!?」
「あれくらってもダメなのか!? 冗談だろッ!?」
リアス先輩と兄さんが驚愕の声を上げるが、僕も同じ気持ちだった。すぐさまもう一撃を放つ準備に入る。
しかし、再生したライザーは微動だにすることなく、そのまま倒れた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
静寂が場を支配する。
『・・・・・・・ライザー様の戦闘不能を確認しました。よってこのゲームの勝者はリアス・グレモリー様です!』
静寂を破ったのは、グレイフィアさんのアナウンスだった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side リアス
ナギが全力で放った『神討つ剣狼の銀閃』でさえ、ライザーを倒すことができずに、ライザーを本気にさせただけで、先ほどから、ナギは防戦一方だ。
そして、ついにライザーの攻撃がナギに当たって、ナギはふき飛ばされる。貯水タンクに衝突した。すぐさま、アーシアが駆け寄って、ナギの治療をするが、途中でアーシアはライザーにやられてしまい、退場となる。
私の残った下僕は朱乃とイッセー、そしてナギのみとなった。朱乃はライザーの残りの下僕の相手をしているようで、こちらにはこれそうにもない。もう、打つ手はなかった。
しかし、それでもナギは立ち上がった。
「ナギ! もういいわ! 下がりなさい!」
「部長の言うとおりだ! いくらなんでもヤバイってッ!」
ナギの背中に向けて叫んだ。イッセーも同意するように叫ぶ。
「リアスの言うとおりだ人間。お前は人間にしてはよくやったよ。この俺に本気を出させたんだからな。だから、もう眠れ」
ライザーも私の意見を促すように言う。
「すぅ・・・・・・・・はぁー」
しかし、ナギは私たちの言葉を無視して、深呼吸をし『鞘に収まりし魔剣』を構えた。
「そうか・・・・・・それがお前の答えか・・・・・・・。ならこの一撃で眠れ!」
そう言って、ライザーは炎を集め始めた。離れている私でも感じるほどの熱。私より近くにいるナギは私よりはるかに熱いだろう。
「ナギ! お願いだから下がりなさい!」
「大丈夫ですよ・・・・・・・。約束しましたでしょ? リアス先輩、力になるって」
ナギに向かって叫ぶが、返ってきたのは、私とした約束について。そういわれて思い出すのは、私がナギに処女をもらってと迫った時の事だった。
「リアス先輩には、兄さんを助けてもらった恩がありますからね。だから、リアス先輩が困っていて、僕はそれを助ける約束をしましたから。だから、僕はあなたために戦います」
「約束がなんだって言うんだ。お前はこの一撃で終わるんだよっ!」
一人の男の子が自分のために戦ってくれる。そんな状況で思わず顔が赤くなってしまうわ。
「ひとつ教えてあげるます。僕は約束は絶対に破らないようにしているんだ」
「だから、なんだ? 『鞘に収まりし魔剣』で何とかできると思っているのか?」
ライザーが嘲笑するように言う。
「そんなことは関係ない。・・・・・・・一方的だったけど、でも、ただ僕は何が何でも約束は守るだけだ!」
その言葉を皮切りに、ナギの髪は銀色に染まっていく。結んでいたゴムは弾け飛んでしまい、ポニーテールで結んであった髪が背中に広がる。長さは腰の少し上くらいでそろている。
「『白銀魔術礼装』
ナギはそう静かにつぶやくと、清廉な雰囲気を纏い始める。
そして、ナギの持つ『鞘に収まりし魔剣』を覆う鞘の部分に罅が入り、そこから黄金の光が漏れ出していた。
「な、なんだ・・・・・・この威圧感は・・・・・・・・」
ライザーが狼狽えている。いつものナギにはない、威圧感があった。
そして、罅が『鞘に収まりし魔剣』全体を覆った瞬間、鞘が砕け散った。
そこから現れたのは、柄もベルトも黄金色で統一された一振りの剣。華美な装飾はなく翡翠のような宝石が刀身と柄の境目にあるだけだが、その剣は言葉では言い表せないくらい美しかった。
「これが僕の・・・・・・・剣敵必殺!」
そう言って、ナギが神器を出した時の構えを取った。
「なんだ・・・・・・その剣は? 聖剣じゃないか・・・・・・『鞘に収まりし魔剣』は魔剣のはず・・・・・・・」
ライザーのつぶやきが聞こえる。確かにナギの持つ剣は、聖剣としての風格を放っていた。
「加減できないと思います。ちゃんと復活してくださいよ」
ナギはそう言って、剣を振るう。
「次元の彼方まで斬り裂けッ! 『黄金色の聖約』ッッッ!!!!!」
『黄金色の聖約』とナギが叫び、剣から黄金の輝きがライザーに向かって放たれた。
「オオオォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」
ライザーは叫びながら、その斬撃に抗うが、黄金の斬撃は一瞬でそれを切り裂き、ライザーに到達した。
ナギは剣を振るった状態で、動きを止めている。
そして、黄金の斬撃を受けたライザーの体は、再び再生を始めた。
「ウソ!?」
「あれくらってもダメなのか!? 冗談だろッ!?」
私とイッセーは驚愕の声を上げてしまった。あれほどの一撃、しかも聖剣による攻撃を受けても再生を始めるなんて、規格外すぎるわ。
だけど、再生したライザーは微動だにすることなく、そのまま倒れた。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
静寂が場を支配した。
『・・・・・・・ライザー様の戦闘不能を確認しました。よってこのゲームの勝者はリアス・グレモリー様です!』
静寂を破るようにグレイフィアのアナウンスがフィールドに響いた。でも私はそれが信じられない。
「リアス先輩、勝ちましたよ」
ナギが微笑みながら、私にそう言った。いつもとは違う銀色の髪が風になびいている。
―ドクン
心臓の鼓動が大きくなった。ナギの顔を見ているとだんだん顔が赤くなっていく感じがする。
「リアス先輩?」
何も言わずに、自分の顔を見つめる私をナギが心配そうに見てきた。
「ありがとう、ナギ」
そう言いながら、私はナギに抱き着いた。
「え、えっと、その・・・・・・・どういたしまして」
「やったな! 渚!」
「ちょっ! 兄さん、痛いってっば!」
少し、動揺しながら話すナギ。イッセーはそんなナギを褒めながら、どついている。ナギも痛がってはいるけど、うれしそうに笑っていた。そんなナギの笑顔が私には、とてつもなく愛おしく感じた。
Side out
第14話
Side 渚
あのレーティング・ゲームから数日後。ゲームの疲労や怪我が完全に治った今日は、勝利を祝うパーティーだ。
「それじゃあ、始めるわよ」
悪魔のお仕事は今日は中止で、みんなが部室に集まっている。
「今回は私のためにみんながんばってくれたわね。本当にありがとう。私は本当にいい下僕を持ったわ。今日はそんな勝利を祝うパーティーよ。たくさん食べて、たくさん飲んで楽しみましょう!」
『はい!』
リアス先輩が、初めのあいさつをしてパーティーが始まった。初勝利ということと、それが公式戦実質無敗のフェニックスに勝ったということで、みんなの顔には笑顔が浮かんでいる。
今日は料理各種、飲み物各種充実したラインナップで豪華なパーティーだ。
「それじゃあ、かんぱい!」
『かんぱい!』
それぞれ手に持ったグラスを軽くぶつけ合って、飲み物を飲む。僕はジンジャエールだ。
みんなは思い思いに料理を取り、それに舌鼓を打つ。
「それにしても、勝ててよかったよな」
「そうだね。部長もこれで肩の荷が一つ降りただろうね」
兄さんと祐斗が話し出した。
「初めてのレーティング・ゲーム。俺はあんまり活躍できなかった気がするなぁ」
「僕も最終的にはやられちゃったからね」
「・・・・・・私はナギ先輩に庇われなかったらやられてました」
料理を食べていた小猫ちゃんが話に入ってきた。
「それは仕方ないよ、兄さんに小猫ちゃん」
男同士の会話に、僕も混ぜてもらおうと近づいて話しかけた。
「そうかぁ? あの時油断しなければもっと戦えたと思うぞ?」
「そう思うんだったら、修行だね。もちろん僕も付き合うよ、イッセーくんに小猫ちゃん」
「ホントか? それならよろしく頼むわ。今度のゲームでは活躍してやるぜ!」
「・・・・・・・よろしくお願いします」
「3人とも、僕を仲間外れにしないでよ。特に兄さんと祐斗、男同士だろ? ひどいじゃないか」
なんか3人で会話が進んでいくので、割って入る。
「「?」」
「・・・・・・・その通りです」
・・・・・・・・二人が何言っているんだ。的な顔で僕を見てきた。小猫ちゃんは僕の言葉にうなずいてくれてる。ちょっと顔が赤いのは僕が庇った時のことを思い出しているのだろう。
「・・・・・・・もしかして、O☆HA☆NA☆SHIが必要かい?」
「まさか! 渚も仲間に決まっているよ!」
冷汗が首筋を伝っているのが見えているぞ、祐斗よ。
「そうだぞ! 誰も渚の事を女の子だなんて思ってないって!」
顔に汗を滲ませながらそういう兄さん。・・・・・・・やはり、O☆HA☆NA☆SHIが必要か。よく見ると、小猫ちゃんもかすかに小刻みに震えていた。
「イッセーくん、それは墓穴だよ・・・・・・・」
「嘘だッ!?」
祐斗が兄さんに指摘すると、一気に兄さんの顔色が悪くなった。そんな兄さんをみて祐斗は合掌、小猫ちゃんは黙祷をしている。
「少し・・・・・・・・O☆HA☆NA☆SHI・・・・・・・・しようか?」
「あ、あ・・・・・・・ああ・・・・・・あ・・・・・・・」
言葉にならない声を上げ、がくがくふるえている兄さんに詰め寄っていく。
「ナ~ギくん♪」
しかし、兄さんへのO☆HA☆NA☆SHIは朱乃先輩によって止められた。
「今回のゲームは大活躍でしたね」
朱乃先輩は背中に抱き着いている。しかも、わざとかはわからないが、胸が背中に当たっていた。柔らかい感触が背中に広がる。
いつもなら羨ましそうな目で見てくる兄さんも、僕のO☆HA☆NA☆SHIから逃れられたことが、よほどうれしいらしくアーシアさんの方へ行ってしまった。
「ありがとうございます」
「その通りね。今回は本当にナギに助けられたわ」
リアス先輩もこちらに来た。
「『鞘に収まりし魔剣』のおかげですよ。」
なかなかタイミングが無くて『黄金色の聖約』を使えなかったから、少し心配だったけど問題はなかったようだ。
「『黄金色の聖約』だったわね。あの状態は。でも、髪が銀色になったのはなんなの?」
「あれは『白銀魔術礼装』です。状態異常系の攻撃を無効化する魔術ですよ。そして、『鞘に収まりし魔剣』を『黄金色の聖約』にする鍵でもあります」
「私も見たかったですわ」
朱乃先輩が少し、不満そうに言った。
「あまり、多用できませんがね」
僕は苦笑いを浮かべながらそう言う。
「どういうことですか?」
「伝承通りなら、『黄金色の聖約』が使えるのはあと1回です。『黄金色の聖約』は持ち主に2回だけ栄光をもたらし、3回目は持ち主を滅ぼす。そういうもののはずですから」
朱乃先輩の質問に答える。2人とも、眉をひそめた。
「それが本当なら、使うのは慎重にしなきゃね。それと3回目を使うことは許さないわ、ナギ」
「わかっています。僕も自分の命は惜しいですからね」
どういう条件かは知らないが、いずれ有限殺しの無限廻廊が使えるようになるはずだ。それまでは、黄金色の聖約の使用は控えて、神討つ剣狼の銀閃を主体にしていくのが無難だろう。
「なら、いいわ」
心配してくれるのは素直にうれしいな。
「それはともかく、朱乃? ナギから離れたらどうかしら?」
朱乃先輩をリアス先輩が若干睨みながら言う。
「あら? 別にナギくんが嫌がってるわけではないのですから、いいじゃないですか」
僕の左肩の上に顎を乗せながら、朱乃先輩はそう言った。朱乃先輩の顔がすぐ近くにあって、かなりドキドキする。それにより胸がより一層背中に押し当てられた。柔らかい感触が背中に広がっていく。
「そういう問題じゃないのよ。いいから、ナギから離れなさい!」
「嫌ですわ。ナギくんは私が先に目を付けたんですもの。あとから来たリアスの場所はありませんわ」
なんか、二人の雰囲気がだんだん悪くなっているんだけど・・・・・・・。兄さんとアーシアさんは二人の世界に入っているからいいとして、祐斗と小猫ちゃん、助けてくれ・・・・・・・。
視線で二人に訴えるが、二人はこちらを一瞬見ると目をそらした。
あれ? もしかして、見捨てられた?
「朱乃・・・・・・何度も言わせないで。ナギから離れないさい」
「嫌ですわ」
二人の間に火花が散っているように見えた。誰かこの二人を止めてください。
「お嬢様、その辺でおやめください」
部室の魔方陣が輝いて、そこからグレイフィアさんが現れた。あなたは救いの神だ!
「何か用かしら? グレイフィア」
グレイフィアさんが現れたので、全員が何か話があるのだろうと聴く態勢になった。朱乃先輩も僕の背中から離れる。
「ライザー様の一件についてのご報告です。約束通り、レーティング・ゲームに勝ったのでライザー様とお嬢様の婚約の話は正式になくなりました。しかし、学校を卒業したらまた、結婚の話が出ると思うのでそこはご留意ください」
「わかったわ」
リアス先輩が笑顔でうなずいた。嫌な相手と結婚することがなくなってうれしいのだろう。
「あとは、夏休みに入ったら一度冥界にお帰りください。私からの報告は以上です」
「そう、ご苦労様。あと、少しグレイフィアに意見を訊きたいことがあるのだけれど」
「なんでしょうか?」
「ナギのことなんだけど」
「僕ですか?」
グレイフィアさんと話していたはずなのに、僕の方にも話が来るとは思わなかった。
「ええ、あなた、ライザーに『神討つ剣狼の銀閃』を放った時、私たちの魔力残滓まで集束していたわよね?」
「ええ」
「やっぱり・・・・・・ナギは他人の魔力残滓まで集束できるのね。だから、虹色のように見えた・・・・・・」
顎に手を当てて考え込むリアス先輩。何かおかしいのだろうか?
「普通、魔力の集束は自分の魔力しか使えないのですわ」
なるほど、他人の魔力まで集束していたからリアス先輩は考えているのか。朱乃先輩説明ありがとうございます。
「グレイフィア、この現象に心当たりはある?」
「・・・・・・かなり昔に廃れた技術に他人の魔力の残滓を使う方法があります。おそらくそれではないかと」
「それの名前は?」
「彼女は魔力融和と呼んでいました。これの優れた点は戦闘時に魔力が尽きることがないことです。相手が魔力を使用すればするほど、自身の使える魔力が増えるのですから道理ですね。自身の魔力と他人の魔力を打ち解け合わせる技法」
僕そんな技術使ってたんですか・・・・・・。
「そんな技術ならなぜ廃れたの?」
「使用がまず不可能だからです。まず、術者は魔力の集束が極めて優れていることが条件です。さらに術者の魔力自体の親和性、柔軟性が非常に高くなければいけないのです。個人の魔力は千差万別です。同じ形質の魔力は存在しないと言っていいでしょう。そんな人によって形質の違う魔力を自分の魔力として扱うには、自身の魔力の形質を自在に変化させる必要が出てきます。そんなことはまず不可能なのです。現にこれの使い手は渚様が現れるまで一人でした」
「使い手の名前は?」
「エヴァンジェリン・マクダウェル。すでに滅ぼされた吸血鬼で、私の古い友人です・・・・・・。彼女が言うには“強さも弱さも善も悪も光も闇も受け入れることができればこの技法は真に完成する”そう言っていました。結局、彼女は完成させることができませんでしたが」
しんみりした空気になった。誰も、口を開かない。
「渚様」
「は、はい!」
「できれば、彼女の残した技法を完成させてください。私では、できませんでしたから・・・・・・。それでは、そろそろ失礼させていただきます」
グレイフィアさんはお辞儀をして、魔方陣の中に消えていった。
「・・・・・・さあ、パーティーを再開するわよ!」
リアス先輩がしんみりした空気を払拭するように言って、パーティーは再開された。
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パーティーも終わり、今は後片付けだ。現在部室には僕とリアス先輩だけ。ほかのみんなはごみを出しに行ってしまった。僕も行こうとしたのだが、僕は部室の掃除を任せられたので、掃除中だ。
「ナギ、今回は本当にありがとう」
掃除中の僕にリアス先輩がお礼を言ってきた。
「あなたがいなかったら、たぶん私は負けていたわ」
掃除する手を止めて、リアス先輩の方を見る。いつも強気なリアス先輩が弱気なことを言うなんて思わなかった。
「気にしないでください。一方的とはいえ約束しましたからね。僕は約束は破らないようにしてるんですよ」
それに、と僕は言葉を続けた。
「兄さんの命を救ってもらった恩に比べれば大したことはありませんから。また、何かあっても、僕はあなたを護りますよ」
「あなたはそうかもしれないけど、私にとっては大事だったわ・・・・・・・。だからこれは感謝の印よ」
そう言って、近づいてきたリアス先輩の唇が僕の唇に触れた。思考が停止する。不意打ちだった。
舌を絡めるようなディープなものではなかったが、1分近く僕はリアス先輩とキスをしていた。
「私のファーストキス。ナギにあげたわ。日本では女の子は大事にするものなんでしょう?」
「え、ええ・・・・・・・。確かにそうですけど」
リアス先輩が僕から離れてそう言うが、動揺を隠すので精いっぱいだ。
「いいんですか。僕なんかに大事なファーストキスを捧げてしまって」
「あなたはそれだけ価値のあることをしたのよ」
微笑みながらリアス先輩はそう言うが、顔が少し赤くなっている。リアス先輩も恥ずかしいようだ。
「そうそう、近々サプライズがあるわ。楽しみにしていてね」
微笑んだままリアス先輩はそう言った。サプライズが何か気になるが、今はリアス先輩がまた、笑ってくれるようになったので、今は気にしないようにしよう。
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「と、そのような感じで私、リアス・グレモリーもこの兵藤家に住まわせてもらうことになりました。不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますわ。お父様、お母様」
祝勝パーティーから数日後。現在、兵藤家のリビングではなぜかリアス先輩が家の両親に挨拶していた。
リアス先輩が言っていたサプライズとはこういうことらしい。兄さんと僕は唖然としている。アーシアさんは何やら思案しているようだ。
「まあ、どうしましょう。アーシアちゃんにリアスさん、娘が二人もできちゃうのね」
母さんはアーシアさんが来て以降、娘のようにかわいがっているので、女の子が増えるのは賛成らしい。
「うんうん。女の子が増えるのはいいことだな。特に若い女の子が増えるのは実にいいことだ」
父さんもうなずいている。しかし、その発言はまずいだろう。
「・・・・・・・お父さん? あとでO☆HA☆NA☆SHIしましょうか」
「ハ、ハハハハハハ・・・・・・・・母さん、冗談に決まってるだろう?」
父さんは顔色を悪くしながら母さんにそう言うが、母さんのO☆HA☆NA☆SHIから逃れることはできないだろう。兄さんも母さんのO☆HA☆NA☆SHIをよく受けていたので、心なしか顔色が悪くなってきていた。
「ナギのO☆HA☆NA☆SHIは母親譲りだったのね・・・・・・・」
リアス先輩がしみじみとつぶやいているが聞かなかったことにしよう。僕のO☆HA☆NA☆SHIは母さんほどではない。
「それじゃあ、ナギ。ご両親の許可は得たわ。これで今日から私もこの家の住人ね。さっそく、荷物を部屋に運ぶのを手伝ってもらえないかしら?」
とりあえず最終的には、リアス先輩が兵藤家に住むことは決定した。いろいろ苦労が増えそうです・・・・・・・。
Side out
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Side リアス
ナギとイッセーのご両親の許可をもらえたので、ナギに荷物を運ぶのを手伝ってもらう。
「了解です」
「部長、俺も手伝います」
「イッセーさん、私もお手伝いします」
ナギとイッセーが私の荷物を持って前を歩く。私とアーシアはその後ろを歩いていた。
「あぅぅぅ、部長さんはイッセーさんのことが好きなんでしょうか・・・・・・・? それだと一夫多妻制しか希望がなさそうです・・・・・・・。・・・・・・・でもでも、それは主の教えに反してしましますし」
アーシアはイッセーの近くに女性が近づくのは気が気でないみたいね。それと小さくつぶやいているつもりかもしれないけど、私には全部聞こえているわ。
「安心しなさい、アーシア。私はあなたからイッセーを取るつもりはないわ」
「!? ホントですか! 部長さん!」
「アーシア? どうかしたのか?」
突然大きな声を出したアーシアをナギとイッセーが不思議そうに見ている。
「な、なんでもないです」
アーシアは手と首をぶんぶん振って否定した。イッセーは首をかしげながらも、再び前を向いて歩き出す。
「あまり大きな声を出すと聞こえるわ。とりあえず、私はあなたからイッセーを取らないから安心しなさい。むしろ、応援してあげるわ」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます。心強いです!」
アーシアは小さい声で感謝の言葉を述べた。
「大したことではないわ。でも、その代わりと言ってはなんなのだけれど・・・・・・・その、ナギと私の・・・・・・・・・ね?」
「任せてください」
アーシアはこれで察してくれたようね。とりあえず、味方ができたのはよかったわ。朱乃もナギのことを狙っているみたいだったから、一緒の家に住んでる私は一歩リードね。
そんなことを話しているうちに、私の部屋になる部屋に着いた。
「ナギ、それはこっちよ」
「はーい」
さっそく、荷物をほどいて部屋に置いていく。4人もいるので意外と早く終わりそうね。
数十分後・・・・・・
「ナギ、それで最後よ。その装飾品はこっちだわ」
「了解です」
私の指示通りにナギが装飾品を設置する。これで、すべての荷物がほどき終わった。
「3人ともお疲れ様。ありがとう」
「どういたしまして」
私のお礼にナギが返事をしてくれる。イッセーとアーシアは二人で談笑している。
「そうね。荷解きも終わったしお風呂に入りたいわね。ナギ、お礼に背中流してあげるわ」
裸の付き合いで、新密度を上げる作戦よ!
「あ~、気を使わなくても大丈夫です。一人でゆっくり入ってきてください」
くっ、やっぱりなかなかうまくいかないわね・・・・・・・
「部長さんがナギさんの背中を流すなら、私はイッセーさんの背中を流します!」
「あ、アーシア!?」
イッセーはかなり動揺しているようね。アーシア、今は手を貸せないけど応援してるわ。
「そんな遠慮しなくていいのよ。いいから行きましょう?」
私はナギの腕をつかんで歩き出した。
Side out
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Side 渚
リアス先輩に手を引かれて、お風呂場へ連れて行かれそうになったが、寸でのところで脱出に成功した。
そして、僕は今自分の部屋にいる。そこで考え事をしていた。
(詳細は思い出せないけど、確かライザーを倒したのは兄さんのはずだった)
うろ覚えの原作知識を思い出しながら、知っている知識との差異を考える。
(でも、そのライザーは僕が倒してしまった。結果は同じだけど過程が違う。きっと何かしらの影響が出るだろう)
原作開始から起こった出来事を頭に思い浮かべる。
(いや、僕がいる時点でこの物語は決定的に違う物語だ。ある程度は原作知識も参考になるだろうが、あまり期待しない方がいいか・・・・・・・)
僕がいることで生じる差異に鬱になりそうになる。そもそも、あまり覚えていないのでどうしようもないのだが。
(まあ、なるようにしかならないか。とりあえずがんばろう。何をとは言わないけどね)
僕はそこで思考をやめて、目を閉じた。
Side out
第1話
Side 渚
「で、こっちが小学生の時のイッセーなのよー」
ライザーの一件からそれなりに、日が経ったある日のこと。
「あらあら、イッセーくん、全裸で海に」
「ちょっと朱乃さん! って母さんも見せんなよ」
今日は家でオカルト研究部の会議をやる予定だったのだが、母さんが持ってきたアルバムでそれどころではなくなった。
ちなみに、起床時に僕の部屋でひと騒動あったのは割愛させてもらう。え? 何があったかだって? リアス先輩が全裸で僕の隣に寝てたんだよ・・・・・・・・。しかも、タイミング悪くリアス先輩は起きちゃったのが何よりもきつかった。男性特有の朝の生理現象を見られたのだ。いや、もう過ぎたことは忘れよう・・・・・・・。
「そして、これが渚が幼稚園の時の写真なの」
「あらあら、これは・・・・・・・」
「・・・・・・・見事な美少年です。いや美少女ですか」
どうやら、母さんが見せたのは幼稚園のお遊戯会の時に、劇の主役を僕がやった時の写真のようだ。あのころは、美少女みたいな美少年で通ってたからな・・・・・・・。懐かしい。しだいに美少年みたいな美少女になったのはショックだったけど。
「「小さいナギ(くん)・・・・・・・・」」
リアス先輩と朱乃先輩が小さいころの僕の写真を見つめている。アーシアさんは兄さんの写真に釘付けだ。
「「幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)幼いころのナギ(くん)」」
二人はぶつぶつとつぶやいている。軽く怖いんですけど・・・・。
「朱乃、あなたたちにもわかるのね」
「ええ、もちろんですわ」
なんか二人で通じ合ってるみたいですね。まさか二人にはショタコンの気があるのだろうか?
「お、おい! 木場! お前は見るな!」
兄さんが祐斗の手からアルバムを奪おうとするが、祐斗はそれをひょいっと避ける。
「ハハハハ、いいじゃないか。もう少し、イッセー君とナギのアルバムを楽しませてよ」
兄さんはさらに祐斗に飛びかかるが、祐斗はひょいひょい避けている。地味に実力の差が出ているな。
「くそ! 渚、手伝ってくれ!」
「ん~・・・・・・。別に写真くらいいいじゃないか」
兄さんに助けを求められるが、僕は手を貸さずに静観することにした。
しばらく、兄さんと祐斗を見ていると、祐斗が予想外のものを見つけたといった感じで動きを止め、兄さんも何事かと祐斗の見ている写真を覗き込む。
「イッセーくんにナギ、これに見覚えは?」
なぜか僕も呼ばれたので、その写真を見る。その写真には昔近所に住んでいた女の子とその親御さんと兄さんと僕が写っていた。女の子の名前は確か・・・・・紫藤イリナだったかな?
そして、木場が指しているものを見る。古ぼけた西洋剣だ。
「うーん、いや、何分ガキの頃すぎて覚えてないけどな・・・・・・・」
「僕は少し覚えてるよ。なんか神聖なものだって聞いたよ」
「そうやっぱりか。こんなことがあるんだね。思いがけない場所で見かけるなんて・・・・・・」
祐斗は苦笑した。でも、その眼は憎悪に満ちている。
「これは聖剣だよ」
これが今回の事件の始まりだった。
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―カキーン
晴天の空に金属音が木霊した。
「オーライ、オーライ」
僕は飛んできた野球のボールをキャッチする。
会議から数日後。僕たちオカルト研究部は、現在野球の練習をしている。
「ナイスキャッチよ、ナギ」
リアス先輩が笑顔で褒めてくれた。なんで野球の練習をしているのかというと、
「来週は駒王学園球技大会よ。部活対抗戦、負けるわけにはいかないわ」
リアス先輩がそう言ったからだ。さまざまな種目があって今日は野球の練習をしている。というわけだ。
僕は兄さんの朝のトレーニングに付き合ってたりするので、ここ数日はかなり体力を使っている。
「バッティング練習はこれでいいわね。野球なら小猫は四番、ナギは一番に決定」
「わかりました」
「・・・・・・・了解です」
僕は目がいいので、どんな変化球かすらわかるので、打てる球は100%打つことができる。小猫ちゃんは持ち前の怪力でホームランを連発だ。
「次はノックよ! さあ、みんな! グローブはめたらグラウンドにばらけなさい!」
えらく気合が入っているリアス先輩。
「部長はこの手のイベントが大好きですからね」
朱乃先輩が笑いながら言う。
「確かにリアス先輩は負けず嫌いですからね」
「そう言うことですわ。まあ、余程のことがない限り私たちが負けることなんてありませんわ」
基本スペックが人間と悪魔じゃ違うからな。その通りだろう。
「ナギと朱乃! しゃべってないで、ばらけなさい!」
「あらあら、怒られてしまいましたわ」
朱乃先輩はそう言って、僕から離れて行った。
「それじゃあ、アーシア! 行くわよ!」
リアス先輩がアーシアさんのいるところにボールを打つ。
「はぅ! あぅあぅあぅ・・・・・・・・あっ!」
アーシアさんは取り損ねて、ボールは後方へ行ってしまった。俗に言うトンネルだ。
「アーシア! 取れなかったボールはちゃんと取ってくるのよ!」
「は、はい!」
アーシアさんはリアス先輩に言われたとおり、ボールを追いかけて行った。
「次、祐斗! 行くわ!」
今度は祐斗の方へボールが飛んでいく。
「・・・・・・・・・・・・・」
余裕でキャッチすると思ったが、ボーっとしていた祐斗の頭にボールが直撃した。
「木場! シャキッとしろよ!」
兄さんが祐斗に声をかける。その声に祐斗は気づいて視線を向けるが、きょとんとしていた。どうやら頭にボールが当たったことに気づいてないらしい。
「・・・・・・・あ、すみません。ボーっとしてました」
下に落ちたボールを拾って、リアス先輩の方に投げる。リアス先輩はため息をつきながら、ボールをキャッチした。
「祐斗、どうしたの? 最近、ボケッとしてて、あなたらしくないわよ」
「すみません」
素直に謝る祐斗。だが、リアス先輩の言うとおり最近の祐斗はおかしい。どこか遠い目をしていたり、何かを考え込んでいたりしている。あの写真を見てからああなった気がするから、祐斗は聖剣に何かしらの因縁があるのだろうか。
「ふむ・・・・・・・」
ん? リアス先輩がまた本を読みだしたな。最近リアス先輩はよく本を読んでいることが多い。
「まったく部長ったら・・・・・・・・」
「朱乃先輩」
いつの間にか朱乃先輩が近くに来ていた。
「マニュアル本なんか読んでもその通りに行くわけありませんのに」
「?」
朱乃先輩はなにやらリアス先輩の読んでいる本についてご存知のようだ。
「でも、部長が本を読んでいる間はチャンスですわね」
よくわからないことを言いながら、朱乃先輩は戻っていった。
「さーて、再開よ!」
リアス先輩がバットを振り上げる。練習は再開された。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
昼食をクラスの友人たちと食べた後、部室に向かう。
「渚」
「ナギさん」
呼ばれて振り返ると、兄さんとアーシアさんがいた。
「一緒に行こうぜ」
兄さんがそう言ってきたので、うなずいておく。
しばらく歩くと部室に着いたので。入っていく。すると、そこには部員以外の人物もいた。
「せ、生徒会長・・・・・・?」
兄さんがそう言う。確かにこの人は生徒会長だ。名前は支取蒼那。
「なんだ、リアス先輩、もしかして俺たちのこと話してないんですか?」
見ればその生徒会長さんの隣に、男子生徒が一人。最近生徒会に入った男子だ。匙元士朗と言って、僕は会いたくない人物だ。理由はまあ、いろいろあったのである。
「サジ、基本的に私たちは『表』の生活以外では、お互いに干渉しないことになってるのだから仕方ないのよ」
ふむ・・・・・・・。どうやら、彼女も悪魔ということらしい。僕は匙くんから隠れるように兄さんの背中に隠れる。幸い気づかれていない。できればこのままやり過ごしたいものだ。
「この学園の生徒会長、支取蒼那様の真実のお名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主様ですわ」
補足説明ありがとうございます。朱乃先輩。
話を聞いていくと、学園生活を送れるのは生徒会のおかげらしい。
「俺の名前は匙元士朗だ。二年生で会長の『兵士』だ」
「おおっ、同学年で同じ『兵士』か!」
兄さんは同じ『兵士」がいてうれしいようだ。しかし、匙くんの方はあまりうれしそうではない。
「俺としては、変体三人組の一人であるお前と同じなんてプライドが傷つくんだけどな・・・・・・って、あ・・・・・・・」
意外と手厳しいな。まあ、わからなくもないけど。そして、ばれた。
「どうも」
無難なあいさつをしておく。視線は合わせない。
「あら、あなたたち知り合いなの?」
「ええ、まあ・・・・・・」
リアス先輩の質問に答える。
「歯切れが悪いわね。何かあったの?」
「そうなのですか、サジ?」
興味を持った会長さんが匙くんを問い詰める。
「それは、その・・・・・・」
向こうも、言いにくそうだ。
「ナギ、何があったのか話しなさい」
リアス先輩が不審に思ったのか強い口調で言ってきた。
「・・・・・・わかりました。あれは1年位前のことだったと思います」
「おい! やめろっ!」
「サジ、おとなしくしてなさい」
止めようとしてくる匙くんを、シトリーさんが止める。
「まあ、自分で言うのもなんですけど、僕って女っぽいじゃないですか。名前も渚って男子でも女子でも使える名前ですし。それで男子の制服を着ていても、男装の女子って入学当初思われていたみたいなんですよね」
「待ってください・・・・・・。つまり、サジは・・・・・・」
「ええ、たぶん会長のご想像の通りです。彼に告白されました」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
沈黙が部屋を支配する。誰一人口を開かなかった。匙くんはorzの体勢だ。これが僕と彼の空気がよくない理由だ。
「仕方ないじゃないですかッ! 男子だなんてわからなかったんですッ! 女の子だと思ったんですよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!! 俺は悪くないぃぃっ!!」
涙を流し、床を叩きながら叫ぶ匙くん。そんな匙くんに兄さんが近づいた。まあ、男子からの告白は初めてではなかったが、顔を合わせたら気まずくなるのも仕方ないだろう。
「お前の気持ちはよくわかるぞ。匙」
みんな兄さんに同意してうなずくのやめてもらえないかな?
「・・・・・・兵藤」
兄さんは匙くんの肩をポンポンと叩く。慰めているようだ。構図は慰める兄さんと涙目で兄さんを見上げる匙くんという、なんともBL臭がする描写だ。
・・・・・・見ていて気持ち悪くなってきた。
さっきまで嫌っているような感じの匙くんと兄さんの仲が深まった。
「・・・・・・ホモですか」
小猫ちゃんのつぶやきがやけに心に残り、お尻がきゅっとなった。
Side out
第2話
前書き
約一か月ぶりの更新・・・・・・・お待たせして申し訳ありませんでした。<(_ _)>
もう少しで夏休みに入るので、これからは更新できるはずです。
とはいっても、夏休みに向けて、魔女と百騎兵、ドラゴンズクラウンなどを購入する予定ですので、どうなるかは・・・・・・微妙です。
まあ、毎日とはいかなくても、二日か三日に一遍は更新するよう努力します。
Side 渚
生徒会メンバーとの顔合わせも終わり、球技大会当日。夕方から雨のようだが、大会が終わるまでは大丈夫なようだ。
そして、僕たちは思い思いの方法でリラックスしている。アーシアさんは朱乃先輩に手伝ってもらってストレッチ。小猫ちゃんは球技のルールブックを読んでルールの最終確認をしている。祐斗は・・・・・・今日も何やら考え事をしているみたいだ。
そうそう、兄さんは朝の修行の成果が出て、『赤龍帝の籠手』が二段階目になって、力の譲渡ができるようになっていた。レーティングゲームが終わってから一層修行に力を入れていたので成果が出たようだ。
僕の方は正直微妙だ。魔力のコントロールなんかは上手くなっているが、強くなっているかと聞かれると返答に困る。それにグレイフィアさんが言っていた、『魔力融和』なるものの存在が気になって、修行になかなか集中できない。
そして、リアス先輩は部活動対抗戦の種目を確認に行っている。ん? 帰ってきたみたいだ。
「ふふふ、勝ったわよ、この勝負」
リアス先輩は不敵な笑みを浮かべている。
「部長それで種目は?」
兄さんがリアス先輩に質問した。そういえば、最近夜に何かしているみたいだったけど何をしてるんだろう?
「ドッジボールよ。この勝負貰ったわ!」
ピースサインをしながら、リアス先輩は言った。兄さんの顔色が少し悪くなったような気がする。なにか心配事でもあるのだろうか?
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
現在、僕はテニスコートに来ている。
「リアス先輩! がんばってください!」
フェンス越しに、エールを送った。テニスウェアが刺激的である。
リアス先輩はクラスの代表として、他クラスの代表とテニスで勝負しているのだ。
「おくらいなさい! 支取流スピンボール」
「甘いわ! グレモリー流カウンターをくらいなさい」
リアス先輩はボールを打ち返そうとするが、ボールは突然軌道を変えて落下した。
おい・・・・・・・どこのテニプリですか? あり得んだろ今の落ち方は・・・・・・・・。
「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」
「リアス。負けた方がトッピングを全部つけたうどんを奢る約束、忘れてないわよね?」
「ええ、私ですらまだ試してないそれをあなたに先を越されるなんて屈辱だわ」
賭けの内容がいささかしょぼい気がする。上級悪魔で爵位もちなんだよね、この人たち?
まあ、悪いことではないんだろうけど、若干イメージが崩れそうです。
結局二人の試合は、かなり長い一戦となり、最終的にはリアス先輩と会長のラケットが壊れたことで、同位優勝ということになった。ラケットが壊れるとか普通におかしいよね?
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
そして、ついに部活動対抗戦の時間になった。祐斗は相変わらずだが、他のみんなはやる気に満ちている。
「あなたたち、気合を入れなさい」
リアス先輩が喝を入れた。しかし、あんなにテニスで動いたのに元気ですね・・・・・・。さすが悪魔。
「みんな! これ巻いてチーム一丸になろうぜ!」
兄さんがそう言って配ったのは「オカルト研究部」と刺繍されたハチマキだった。夜中に何かしていたのはこれを作っていたようだ。
「意外に器用だね。兄さん」
「練習したんだよ、練習」
特別優れているというわけではないけど、それなりの出来映えだ。渡された鉢巻を額に巻きつける。
「・・・・・・予想外の出来映え」
珍しく小猫ちゃんが兄さんを褒める。みんな手に取って頭に巻きつけた。祐斗だけは相変わらず、心ここにあらずだったが兄さんに言われて、ハチマキを巻いていた。
『オカルト研究部のみなさんと野球部のみなさんはグラウンドへお集まりください』
放送で呼び出された。いよいよ、僕たちの戦いが始まるようだ。
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球技大会はオカルト研究部の勝利で幕を下ろした。ドッジボールは終始兄さんが集中的に狙われて大変そうだった。兄さんの息子にボールが当たるというハプニングもあってアーシアさんが治療を施すと言うこと起き、兄さんの弔い合戦(別に死んではいないけど)みたいな空気で戦い勝ったのだ。そして今――—
―バンッ!
「どう? 少しは目が覚めたかしら」
試合中、何度もボケッとしていた祐斗がリアス先輩に叩かれた。みんな一丸になってやっている中一人だけ非協力的だったんだから仕方ないだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
当の祐斗は無表情のままで、何も言わなかった。
しかし、唐突にいつもの祐斗の顔に戻る。
「もういいですか? 球技大会も終わりました。練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらっていいですよね? 昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」
「木場、お前マジで最近変だぞ?」
「キミには関係ないよ」
兄さんが祐斗に言ったが、祐斗は作り笑顔で返している。
「仲間だろ? 俺だって心配だ」
「仲間か」
祐斗は消えそうな声でつぶやいた。
「そうだ、仲間だ」
「キミは熱いね。・・・・・・イッセーくん、僕はね、ここのところ、基本的なことを思い出していたんだ」
祐斗が話し出した。
「僕が何のために戦っているか、ね」
「部長のためじゃないのか?」
おそらく、それが理由じゃないだろう。そんな理由だったらわざわざ悩む必要はない。
「違う」
予想通りの否定の言葉だった。
「僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」
強い決意がその言葉には込められていた。
Side out
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Side 祐斗
土砂降りの雨の中を傘もさささずに歩く。頭を冷やすにはちょうどいいだろう。
(喧嘩してしまった、部長と)
自分を救ってくれた恩人。『木場祐斗』としては失格だろう。
僕は聖剣への復讐を忘れたことはない。仲間もできて、生活も得て、名前を与えられ、生きがいももらった。だが、思いを果たすまでは、同志たちの分を生きていていいなんて思ったことなどない。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか目の前に神父がいた。僕の大嫌いなものの一つ。
しかし、その神父は腹部から血をにじませ、口から血を吐きだすとその場に倒れた。
「――ッ」
異常な気配を感じて、魔剣を創り出してとっさに防御した。
剣と剣のぶつかり合う音が響き、雨の中に火花が舞う。襲撃者は先ほど死んだ神父と同じ格好をしていた。
「やっほ。おひさだね」
嫌な笑みを浮かべているのは、かつて戦ったフリード・セルゼンだった。
「まだこの町に潜伏しているとは・・・・・・・。今日は何の用かな? あいにく今日は機嫌が悪くてね」
怒気を含んだ声で言ってみても、彼は嘲笑うだけ。それがさらに僕の神経を逆なでる。
「そりゃまた都合がいいねぇ! すんばらしい!」
ふざけた口調は健在のようだ。おちょくっているのだろうか? そんなことを考えながら左手にも魔剣を創ろうとすると、彼の剣が聖なるオーラを発し始めた。
(! これは・・・・・・・この光は!! あのオーラは!!)
忘れもしない。僕が憎んでやまないものだった。
「神父狩りも飽きてきたところでさ、ちょうどいいや。お前さんの魔剣と俺様のエクスカリバー、どちらが上か試させてくれないかい?」
そう、彼の持つ剣は僕が憎んでやまない聖剣エクスカリバーだった。
Side out
第3話
Side 渚
「聖剣計画?」
聞き覚えのない単語に僕は聞きかえした。
「ええ、祐斗はその生き残りなのよ」
一通りの活動を終えた僕たちは家に戻ってきていた。
「数年前で、教会内で聖剣エクスカリバーを扱える者を育てる計画があったの」
「・・・・・・・初めて知りました」
アーシアさんはこの計画のことを知らなかったようだ。極秘の計画だったのかもしれないので、耳に入らなかったかもしれないが。
話を聞いていくと、祐斗はその計画の実験体の一人だったらしい。聖剣は悪魔に対して究極ともいえる武器だ。それ故に教会は、なんとか聖剣の使い手を増やそうとその計画を行ったらしい。
「じゃあ、木場は聖剣を使えるんですか?」
兄さんがもっともな質問をする。
「祐斗は聖剣に適応できなかった。それどころか、祐斗と同期の者の中には一人も適合できなかったようよ」
リアス先輩は首を横に振りながら言った。
「そして、適応できなかった祐斗たちを教会は処分した」
処分。おそらくは殺したということだろう。アーシアさんは愕然としている。
「そんな・・・・・主に仕える者がそのような事をしていいはずが」
アーシアさんは目を潤ませながら言った。よほど信じたくない情報だろう。
「祐斗を悪魔に転生させたとき、あの子は瀕死の中で強烈な復讐を誓っていたわ」
リアス先輩は、そんな祐斗に聖剣に縛られずに、悪魔としての生を謳歌してほしかったんだろう。
「でも、祐斗は忘れられなかったんですね。聖剣のことを、計画に関わった者を」
リアス先輩は黙ってうなずいた。幼少の頃からの恨みとなると、相当なものだろう。かなり憎んでいると見ていいはずだ。
「とにかく、しばらく見守るわ。ぶり返した聖剣への想いで頭がいっぱいでしょうからね」
「あ、そう言えば、この写真が原因だと思うんですけど」
兄さんがリアス先輩にあの時の写真を見せた。リアス先輩は写真を見るなり、眉をひそめた。
「二人とも、知り合いに教会に関わりがある人がいるの?」
「身内にはいないよな、渚」
「うん、いないよ。その写真は子供の頃に近所に住んでいた子で、今は引っ越したんでわかりませんが、その子はクリスチャンだったみたいです」
「そう・・・・・・。この写真に写っているのは間違いなく聖剣ね。なるほど、これで私の前任の悪魔が・・・・・・・」
最後の方から何やらぶつぶつとつぶやき始めるリアス先輩。なにやら思うところがあるようだ。
「もう寝ましょうか。あれこれ考えても祐斗の悩みが解決するわけではないわ」
しばらく考え込んだリアス先輩が、みんなに寝るように促した。それに従ってみんなが自分の部屋に戻る。僕を自分の部屋に戻った。
「それで、なんでいるんですか? リアス先輩」
「ナギと一緒に寝るからに決まっているでしょう」
はぁ・・・・・・。すでに決定事項なんですね。僕と寝ることは。前にもいつの間にかリアス先輩が潜り込んできたときがあったが、僕のベッドは一人用なのだ。二人では寝られなくもないけど、密着しないとまず寝ることはできない。
だが、そんなことを言ったところでリアス先輩が諦めないことは、長くはない付き合いだが理解している。僕が折れるしかないのだ。
「この際、寝ることに文句は言いませんから服は着てくださいよ?」
「ナギ、私は寝るときに服は―――」
「O☆HA☆NA☆SHIしますか?」
「わかったわ」
リアス先輩の発言を遮って言うと、額に汗を浮かべながらリアス先輩は了承してくれた。
「わかってくれてうれしいです」
「そう・・・・・・。(さっきの目は本気だったわ・・・・・・危なかったわね)」
いざこざはあったが、寝ることになったのでベッドに潜り込む。リアス先輩は紅い髪と同じネグリジェを着ていた。ネグリジェから透けて見える胸は裸の時よりエッチだった。何か着てくださいと言ったのは僕だったが、これは逆効果だったかもしれない。
「それじゃあ、お邪魔するわね」
そう言ってリアス先輩もベッドに入ってきた。シングルベッドに2人で寝るので密着率が半端ない。それにリアス先輩は女性らしい体つきをしているので、柔らかい感触がいたるところから感じられた。
「よいしょっと。ナギ、おやすみなさい」
そしてリアス先輩は僕の右腕に抱き着いてきた。腕が胸に挟まれてとても――――やめろ、考えるな・・・・・・。考えたら理性が死ぬぞ!!
球技大会もあったので、リアス先輩はすぐに寝息をたてはじめるが、僕はそれどころではなかった。
(今日は・・・・・・・・寝られるだろうか?)
そんなことを思いながら、まぶたを閉じた。
結局、女の子特有の柔らかい感触のせいで、深く眠ることはできなかった。寝不足になったのは言うまでもない。
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翌日。深く眠ることができなかったので、寝不足なのは言うまでもない。しかも、寝ている最中に服を脱いだのか、朝起きた時のリアス先輩は何も来ていなかった。思わず、大きな声を上げてしまい、兄さんたちに誤解されたのは言うまでもない・・・・・・。
そして、現在は昼休み。つまり昼食の時間だが、眠くて食事をとる気にもなれなかった。いつも昼食を食べる友人にもそう言って、この昼休みは睡眠に充てることにする。僕は机に突っ伏した。
「ナ・・・・・ん、・・・・ギく・・・、ナギ・・・・ん」
心地よく眠っていると、誰かに声をかけられているような気がしてきたので、起きることにする。
「んぅ?・・・・・・・誰ですか?」
「私ですわ」
眠い目を擦りながら、呼びかけていた人物を見るとそこにいたのは朱乃先輩だった。
「あれ・・・・・・朱乃先輩、どうかしましたか?」
眠い目をこすりながら、視線を朱乃先輩に移す。
「よかったら一緒にお昼をと思いまして」
わざわざ、僕の教室までやってきたらしい。僕がすでに誰かと食べ始めていたらどうするつもりだったのだろか? まあ、手間をかけたのに追い返すわけにはいかないので、僕は応じることにした。
Side out
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Side 朱乃
今日はナギくんを昼食に誘った。場所は部室。そして私もナギくんも食べ終わっていた。誘いに行ったときは寝ていたみたいでしたから、寝不足になるようなことがあったようですね。
「そう言えば、誘いに行ったときになぜ寝ていたんですか?」
気になったので、訊いてみることにします。
「あー・・・・・・・。朱乃先輩ならいいですか」
「はい?」
私なら話しても大丈夫な内容の話ですか・・・・・・。
「家にリアス先輩が住み始めたのは知っていますよね」
「ええ。知っていますわ」
「それで、リアス先輩がたまにベッドに潜り込んでくるんですよ。それで眠れなかった。というわけです」
「あらあら、大変ですね」
そう言いながらも、内心穏やかではない。リアスは着実に距離を縮めようとしている。まあ、本を読んでいるうちは大丈夫だと思いますけど。
「よかったら、使いますか?」
私は膝をポンポンと軽く叩きながら言った。好きな男の人に膝枕をするのはある種の憧れですわ。
「えっと・・・・・・・じゃあ、お願いします」
少し、躊躇したみたいですが、眠気には耐えられなかったみたいですね。
ナギくんは私の座っているソファーに移動して、体を横にした。私の膝の上にナギくんの頭が乗る。
「具合はどうですか?」
「悪くない―いえ、とてもいいです」
正直な感想を言うと、朱乃先輩はうれしそうに笑った。
「なら、よかったですわ」
何気なく髪をすくように撫でてあげると、少しくすぐったそうな表情に名なったが、すぐに寝息が聞こえてきた。
「すぅー・・・・・・すぅー・・・・・・・・」
私はそのまま撫で続ける。ゆったりとした時間が流れていた。昼休みは有限だけど、ずっとこのままでいたいと思う。
「朱乃、いるの?」
そんなことを考えていると、リアスがやってきた。
「リアス、静かにして」
人差し指を口元にやる。そして、私の膝で寝ているナギくんを指した。今は部活中じゃないので、口調は変える。
「朱乃、なにしてるの?」
心なしかリアスの声が震えている気がしますわ。
「膝枕ですわ。ナギくんが寝不足みたいだったのでしてあげてるの」
「朱乃、私に譲りなさい」
「嫌ですわ。リアスは家で一緒に寝ているのだからいいでしょう」
リアスは同じ家に住んでいるというアドバンテージがあるのだから、膝枕くらいしてもいいと思いますわ。
「それとこれとは話が別だわ」
でも、リアスは納得していないみたい。お互い初めて好きになった男の子だから譲りたくない、ということですわね。
ナギくんが寝ているので、小声で言い争う私とリアス。結局、私とリアスの言い争いはどちらも譲ることなく、ナギくんが起きるまで続いた。ちなみにナギくんが起きたのは昼休みを過ぎて、5時限目も終わってからだった。三人仲良くサボったことになりましたわ。
Side out
第4話
Side 渚
朱乃先輩のお言葉に甘えて膝枕をしてもらい、そのまま寝てたら5限目をサボってしまった。部室にはいつ来たのか知らないけど、リアス先輩も来ていたのでなぜ起こしてくれなかったのか謎だ。
そして、授業と部活を終えて帰路についている。リアス先輩は用事があるらしいので、三人での帰宅だ。
兄さん、アーシアさんとたわいない話をしながら歩いていき、そして家の前まで着いた。そこから、兄さんとアーシアさんの様子がおかしくなった。
兄さんは急いで、ドアを開けて家の中に飛び込んでいく。何事かと思って追いかけていくと、そこには見慣れない女の子二人と談笑している母さんがいるだけ。何を焦っていたのだろう?
「でね、これがイッセーとナギの小学生時代の写真なの」
「か、母さん?」
「あら、みんなお帰りなさい。どうしたの? 血相変えて」
「はぅぅぅぅ。よかったですぅ」
アーシアさんがその場でぺたんと座り込んでしまった。この二人は危険人物なのか?
そう思って、二人の女性を見ると胸元に十字架が輝いていた。キリスト教の関係者だろう。二人が心配していたのはこれのせいらしい。しかも、そのうちの一人にはどこかで会ったな気がした。
「こんにちは、一誠くんに渚くん」
兄さんは緑色のメッシュが入った女の子の傍の、布に巻かれた物が気になるらしい。悪魔じゃない僕にも、あれは聖なるものだとわかる一品だ。
そして、僕と兄さんに微笑んでいる栗毛の女の子。やはりどこかで会ったような気が―――っと、そうだ。あの子か。
「久しぶ「はじめまして」
僕がしゃべろうとしたら、兄さんがかぶってきた。そして、兄さんは彼女のことを思い出せないらしい。
「兄さん? 覚えてないの?」
「なにを?」
無理やり感を感じる笑顔で兄さんはこちらを向いた。
「渚くんの言うとおりだよ。覚えてないの?」
「だから、なにを?」
再度、兄さんは僕らに訊いてきた。
「兄さん、彼女はあの写真の子だよ。紫藤イリナちゃん。よく遊んだだろ?」
「ナギ言う通りよ。紫藤イリナちゃん。この時は男の子っぽかったけど、今じゃ立派な女の子になって、お母さんもびっくりしたのよ」
母さんが写真を出して、イリナを指しながら言った。兄さんは何度も写真と見比べている。確かに、だいぶ変わったのでわかりにくいだろう。
「久しぶりだね、イッセーくんに渚くん。もしかして、私のこと男の子だと思った? まあ、確かに女の子っぽくなかったし、私より渚くんの方が女の子ぽかったからしょうがないか・・・・・・。でも、お互い、しばらく会わないうちにいろいろあったみたいだね。ほんとう、再開って何があるかわからないね」
僕が女の子云々は置いといて、どうやらイリナは兄さんの正体に気づいたようだ。
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「よく無事だったわね」
あの二人が帰ったあと、リアス先輩が帰ってきてそう言った。兄さんの時と同じように血相を変えて入ってきたのが印象的だ。
「あの二人もさすがに一般人のいるところで事を起こすつもりはないみたいですよ」
肩をすくめて僕は言った。
「ところで、用事ってなんだったんですか?」
下僕の無事を確認した後、リアス先輩に兄さんが質問した。
「どうやら、昼間にソーナたちと接触したみたいでね。その話だったのよ。ソーナの話では、彼女たちは私、つまりこの町を縄張りにしている者と交渉をしたいそうよ」
「教会の人間が悪魔と?」
兄さんがもっともな疑問を上げ、それにリアス先輩はうなずいた。
「と言うことは、依頼なんでしょうか?」
今度はアーシアさんがリアス先輩に質問する。
「わからないわ。でも、彼女たちは明日の放課後に部室に訪問してくる予定よ。こちらに一切の攻撃を加えないと神に誓ったらしいわ」
「信じられるんですか?」
「信じるしかないわね。それに近頃この町に訪れえる神父が惨殺されるみたいだし、教会側も相当切羽詰っているようね」
難しい表情のリアス先輩。フリードのことを考えるとわからなくもないが。
何かが起こる。この場に全員がそう思っていた。
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そして、次の日。
約束通りにイリナともう一人の女の子が部室のソファーに座っている。対面しているのはリアス先輩と朱乃先輩。眷属と僕は隅に控えていた。
そんな中、心配なのは祐斗だ。今にも斬りかかりそうな雰囲気で彼女たちを見ている。
「先日、カトリック教会本部バチカン及びプロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
話を切り出したのはイリナだった。
しかし、奪われるって・・・・・・・・。大事な聖剣じゃないのか? しかも複数の教会から盗まれたってどういうことさ?
「・・・・・・・エクスカリバーは大昔の戦争で折れてしまったんです」
疑問に答えてくれたのは小猫ちゃんだった。聖剣って折れるもんなんですね・・・・・・。ビックリだわ。
「折れたエクスカリバーの欠片を集め、錬金術によって七本の剣へと変わったのさ。そしてこれがその七本のうちの一本、『破壊の聖剣』。カトリックが管理している」
布を巻き取って、その姿をさらす。兄さんの顔色がすごぶる悪い。悪魔にとってはかなりまずいもののようだ。
メッシュの女の子は再び布を聖剣に巻きつけた。イリナもそれに倣うように、懐から長い紐のようなものを取り出した。
なんだろうと注目すると、紐がうねうねと動き出す。そして、一振りの刀へと姿を変えた。
「私の方は『擬態の聖剣』。形を自由自在に変えられる聖剣よ。このように七本のエクスカリバーは特殊な力を持っているわ。こちらの管理はプロテスタント側ね」
「イリナ・・・・・悪魔にエクスカリバーの能力を教える必要はないだろう」
「ゼノヴィア、いくら悪魔だからって信頼関係を築かないと。それに能力を知られたからといって、悪魔に後れを取ることなんてないわ」
メッシュの女の子―――ゼノヴィアさんがイリナに忠告したが、当のイリナは絶対に負けないのだから構わないと言う。よほど自信があるようだ。
しかし、ここには二本のエクスカリバーが揃っているのはすごいことなんだろう。
そんな中、祐斗の殺気がマジでヤバイ。本格的に斬りかかりそうだ。
「それで、あなたたちは私たちにどうして欲しいのかしら?」
それに答えたのはゼノヴィアさんだった。
「カトリック側には二本。プロテスタント側にも二本。正教会にも二本のエクスカリバーがあった。そしてそれぞれから1本ずつ奪われ、奪った連中は日本のこの町に逃げ込んだ」
「そうなの、私の縄張りは出来事が豊富ね。それで奪った連中は?」
「『神の子を見張る者』の幹部コカビエルだよ」
リアス先輩は目を見開いた。
「聖書に記されし堕天使が出てくるとわね。結局、私たちにどうして欲しいのかしら?」
苦笑いを浮かべるリアス先輩。
「先日から神父をこの町に潜り込ませているが、ことごとく殺されている。まあ、これはいい。私たちの要求は堕天使とエクスカリバーの争奪戦に悪魔が介入しないこと。つまりは今回の件には関わるなと言いに来た」
おいおい・・・・・・随分な言い方だな。そちらが悪魔のことを信用してないのはわかるが、言い方があるだろう。ここは悪魔の管理する土地なんだから。
「それは牽制かしら? 私たちが堕天使と手を組まないように」
リアス先輩も少し苛立ちを感じたようだ。
「そう取ってもらっても構わない。そちらの思っている通り、上は堕天使と悪魔のことを信用していない。まあ、魔王の妹であるあなたが、三すくみの状態に影響を与えようとは思わないが、一応ね」
「当たり前よ。私は堕天使と手を組むことなんてしないわ。絶対にね」
その返答にゼノヴィアさんはフッと笑った。
「それが聞ければ十分だ。私たちも三すくみの状態に影響を与えたくない。よって協力は仰がない。この町にはコカビエルが持ち込んだ三本のエクスカリバーがあることだけは伝えておく。注意した方がいい」
その後も、リアス先輩と教会側の話し合いは続けられた。
そしてそれが終わり、二人が去ろうとしたところで問題が起きた。
「兵藤家で出会った時から、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」
その言葉を聞いて、アーシアさんは体を震わせた。イリナもそれに気づいたのかアーシアをまじまじと見つめる。
「あなたが、一時期教会内で噂のなっていた元『聖女』さん?」
「・・・・・・・・・・あ、あの・・・・・・私は」
答えられないアーシアさん。なおも二人はアーシアに質問をしていく。あまりに不快にさせるような質問のしかただった。
そんな中、彼女たちがアーシアさんに触れようとした時だった。
「触れるな」
兄さんがアーシアさんを庇うように前に出た。
Side out
第5話
Side 渚
あの後、売り言葉に買い言葉と言った感じで、イリナとゼノヴィアさん、兄さんと祐斗の試合が始まった。
結果は二人とも敗北。祐斗は怒りにのまれて普段の実力を発揮できずにゼノヴィアさんに負けた。兄さんがアーシアさんと小猫ちゃんの服を洋服破壊で破壊すると言うハプニングが起こり、兄さんが小猫ちゃんにやられたのは予想外だったが。
「待ちなさい! 祐斗!」
そして今、リアス先輩が祐斗を呼び止めるが、祐斗はそのまま立ち去ろうとしていた。
「私のもとを離れるなんてことは許さないわ! あなたはグレモリー眷属の『騎士』なのよ。『はぐれ』になってもらっては困るわ」
「・・・・・・・僕は同志たちのおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ」
それだけ言うと、祐斗はその場から立ち去って行った。
「祐斗・・・・・・・どうして・・・・・・」
リアス先輩が悲しそうな顔を浮かべる。
「わかってはいましたが、過去に縛られているんですね。祐斗は」
僕のつぶやきに誰も反応することはなかった。
Side out
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Side 一誠
次の休日。俺は会長の眷属であり、同じ『兵士』である匙を駅前に呼び出していた。部長経由で、何とか連絡が取れたのだ。ちなみにだが、渚とは和解?したらしい。
「あー。で? なんで俺を呼び出したわけ?」
「そうだね。僕も連れてこられたはいいけど、理由は聞いてないし」
「・・・・・・・三人で何するつもりだったんですか?」
当初、俺と匙と渚で会う予定だったのだが、駅前に向かう途中で小猫ちゃんに捕まってしまったのだ。
俺は咳払いを一つすると三人に告げる。
「聖剣エクスカリバーの破壊許可を紫藤イリナとゼノヴィアからもらうんだ」
俺の告白に、この場の全員が驚いていた。
そして、一泊空けた次の瞬間――――
「嫌だぁぁぁぁぁ! 俺は帰るんだぁぁぁ!」
匙が逃げ出そうとした。
「・・・・・・・逃がしません。イッセー先輩、祐斗先輩のことですよね。私は協力します」
小猫ちゃんは察してくれたらしい。
「そう言うことなら、匙くん、逃げ出さないでほしいな?」
渚も匙の説得にまわってくれた。
「兵藤! なんで俺なんだよ! 俺はシトリー眷属だぞ! 関係ねぇ! 関係ねぇぇぇ!」
涙を流すほどいやなのかよ・・・・・・。まあ、無視するか。小猫ちゃんと渚にアイコンタクトを送る。よし、うなずいてくれた。
「とりあえず、このことはほかの部員には言わない方がいいだろうね」
「・・・・・・・同感です」
そうだろうな。止められるのはわかりきっているし。
「イリナとゼノヴィアは『堕天使の手から聖剣がなくなればいい』って言っていたんだ。三本盗まれたうちの一本ぐらい俺たちが壊してもかまわないだろうさ」
「・・・・・・そこで祐斗先輩にエクスカリバーに打ち勝ってもらうというわけですね」
そういうこと。俺はうなずいた。
「祐斗は聖剣に勝って、仲間の復讐をしたい。教会側は聖剣を破壊してでも堕天使の手か奪いたい。意見はあらかた一致しているね。まあ、彼女たちが悪魔の言葉を聞いてくれるかはわからないけど」
渚がそう言った。そう彼女たちが俺たちの話を聞いてくれるかが、問題だったがそれはもう心配ない。
「その時は、人間の渚が話せばいいだろ?」
俺がそう言うと、渚は納得したという感じでうなずいていた。
「それだったら、最初から僕が話そう。下手をすると悪魔が天使の事情に首を突っ込んだことになるだろうしね。最悪関係が悪化しかねない。その点、僕は悪魔と関わっているけど人間だから問題ない」
よし、これで大義名分的なものはできた。それと匙、天下の往来で騒ぎすぎだぞ。みんなの迷惑だろう。これだから、匙は困る
「普段、女子の中でAV広げてるやつが、何言ってんだよぉぉぉ! しかも匙だから困るって、お前は俺の一体何を知ってるんだ!」
なんと! 心が読まれただと・・・・・・・。
「心を読んでんじゃねぇ! 兵藤てめぇ、口に出してるんだよ! バカにしてんのか!」
おいおい、だからこんな大通りで暴れるなよ。一緒にいる俺たちが恥ずかしいだろ?
「殺す! てめぇはぜってぇに殺す!」
お巡りさーん! 公衆の面前で殺人予告です~。助けてください~。
「もうやめなよ」
「・・・・・ナギ先輩の言うとおりです。早く二人を探しましょう」
二人にそう言われて、俺は匙を弄るのをやめてイリナとゼノヴィアの捜索を開始した。地団駄を踏んでいる匙を置いて行ったのは気にせずに。
Side out
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Side 渚
「えー、迷える子羊にお恵みを~」
「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉぉ!」
彼女たちは極秘任務で来ているんじゃなかったのかな? それとも頭がアレなんだろうか?
「・・・・・・簡単に見つかりましたね」
いつもの口調で小猫ちゃんがそう言うが、少し目を見開いているので驚いているのだろう。
しかし、目立つな。路頭で祈りを捧げてれば仕方ないのかもしれないけど。しかも、なんだか言い争いを始めたし・・・・・・。何がしたいんだ?
「これだから、プロテスタントは異教徒だというんだ!」
「何よ! カトリックの方がおかしいじゃない!」
二人とも、所属してる人が聞いたらブチ切れそうな会話ですね。
「なんだと、異教徒め!」
「何よ、異教徒!」
顔ぶつけ合って喧嘩するなよ・・・・・・。見る人が見たら、女の子同士でキスしてるようにしか見えないよ?
少しの間静観していると、どうやら彼女たちはお金が無くて、お腹がすいているらしい。なんでも絵を買ったために、お金が無くなったとか。後先考えて行動しようよ・・・・・・。
このまま、静観していても何も始まらないので、意を決して話しかけることになった。
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「うまい! 日本の食事はうまいぞ!」
「うんうん! これが故郷の味なのよ!」
「もぐもぐ・・・・・・」
話しかけた瞬間、あまりにもひもじそうな視線を送ってきたので、食事に誘うことになった。ファミレスに到着するまでぶつぶつつぶやいていたのが気になったが。しかし、故郷の味がファミレスはないだろう・・・・・・。それと小猫ちゃん、いくら僕のおごりだからって少し食べすぎじゃないかい? 財布の中身は有限だよ?
お金の方は、兄さんの悪魔の仕事であった森沢さんがあの後も、何回か定期的に呼ぶので問題ない。お金の無駄遣いだと思うが、森沢さんは満足しているようなので、深くは突っ込むまい。最近女装に慣れてきている気がするのはきっと気のせいだ。
「ふぅー、落ち着いた。悪魔に救われるとは、世も末だな」
「奢るのは僕だから、僕は悪魔じゃないから」
「おっと、そうだったね。失礼した」
「もぐもぐ・・・・・・すみません、これ追加でお願いします」
悪魔じゃないと、意外と普通の対応してくれるんだな。・・・・・・小猫ちゃん、本当によく頼むなぁ。お金大丈夫かな?
「御馳走様でした。ああ、主よ。渚くんにご慈悲を」
イリナが十字を胸の前できる。兄さんたちにダメージを与えていた。
「あははは、ごめんなさい。ついうっかり」
テヘとかわいらしく笑みを浮かべた。
「それで、私たちに何の用なんだ?」
ゼノヴィアさんがいきなり切り出してきた。
「単刀直入に言うとエクスカリバーの破壊に協力したい」
僕がそう言うと二人は驚いている様子だった。
「一本だ」
ゼノヴィアさんが口を開いた。
「一本ぐらいなら任せてもいい。破壊できるのではあればね。ただし、そちらの悪魔も協力するのかわからないが、悪魔だと正体がばれないようにしてくれ」
意外に簡単に許可をもらうことができた。
「いいの? ゼノヴィア。確かに渚くんは人間だから、特に問題なさそうだけど彼は一応、悪魔側の陣営なのよ?」
「イリナ、この任務の成功確率は奥の手を使って三割だ。これは自己犠牲に等しい。確かに自己犠牲は信仰の本懐だろう。でも私は、任務を無事遂行し帰還することが本当の信仰だと信じる。生きて、これからも主のために戦う。―――違うか?」
「確かにそうだけど・・・・・・でも」
「だからこそ、悪魔の力は借りない。借りるのは人間の力とドラゴンの力だ。上も人間とドラゴンの力を借りるなとは言っていない」
「もぐもぐ・・・・・・」
ゼノヴィアさんはそう言いながら、僕と兄さんを見据えた。
(小猫ちゃん? 今、割とシリアスな場面だからね?)
「屁理屈ね。でも確かにそうは言っていないわ」
どうやら、協力関係は成立したようだ。
「協力関係は成立・・・・・・と言うことでいいのか?」
確認のために兄さんが二人に訊く。二人は顔を見合わせてから、うなずいた。
「じゃあ、今回の俺のパートナーを呼ぶわ」
兄さんは携帯を手に取った。
「もぐもぐ・・・・・・」
結局、小猫ちゃんは兄さんのパートナーが来るまで食べることをやめなかった。
Side out
第6話
前書き
今日から駆け足で3巻の終わりまで更新していきます。
一日、2回更新で時間は10:00と22:00の予定です。
来週の半ばには終わる予定。
Side 渚
「話はわかったよ」
兄さんは祐斗を呼んで、聖剣の破壊についての説明をした。
「正直言うと、エクスカリバーの使い手に破壊を承認されるのは遺憾だけどね」
「私も、そちらが『はぐれ』だったら問答無用で斬り捨てているよ」
祐斗とゼノヴィアさんがにらみ合う。そう言えば、彼女は確かもう一本聖剣を持っていたはずだよね。 さすがに名前までは思い出せないけど。
「やはり、『聖剣計画』のことで恨んでいるのね。エクスカリバーと教会を」
祐斗は「当然だよ」と肯定した。
「あの計画のおかげで、確かに聖剣使いの研究は飛躍しただろう。でも、計画が失敗したからと言って、被験者ほぼ全員を殺すことが許されると思っているのか?」
神に仕える側の行いにしては、確かにずいぶんと非人道的だ。
「その事件は教会でも嫌悪されている。処分を決定した責任者は異端の烙印を押され、いまでは堕天使側の住人をとなった」
「堕天使側に? そいつの名前は?」
ゼノヴィアさんの話に興味を持った祐斗が訊いた。
「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」
「・・・・・・・堕天使を追えば、その男に行きつくのかな」
仇敵のわかった祐斗は、新たな決意をしたようだ。
「僕も情報提供したほうがいいようだね。先日エクスカリバーを持った者に襲撃さえれたよ。その際に神父が一人殺されていた。殺されたのはそちらの者だろうね」
『!』
この場にいる全員が驚いた。今まで黙っていたのは、何かしら思うところがあったからか・・・・・・・。
「フリード・セルゼン。この名前に覚えは?」
思い出すのは、堕天使にかちこみをした時のことだ。祐斗の言葉に彼女たちは目を細めて、フリードについての情報を提供してくれた。
情報によると、とにかくフリードはいろいろな人に嫌われているらしい。まあ、あの性格ならわからなくもない。
「まあフリードについてはいいだろう。エクスカリバー破壊の共同戦線と行こうか」
紙にペンを走らせて、連絡先をこちらによこした。
「ありがとう。僕らの連絡先は―――」
「イッセーくんと渚くんの連絡先はおばさまからいただいているわ」
母さん・・・・・・・勝手に教えるのはどうかと思うよ・・・・・・・。
「では、そういうことで」
ゼノヴィアさんが席を立った。
「食事ありがとうね。また奢ってくれるとうれしいな」
イリナは図々しいな。
去っていく二人を見送り、大きく息を吐いた。屁理屈をこねただけだが、協力関係を築けたので、万万歳だ。
「・・・・・・・・どうしてこんなことを?」
祐斗が僕たちに訊いてくる。
「ま、仲間だし。眷属だしさ。お前に助けられたこともあるし、借りを返すってわけじゃないけど、今回はお前の力になろうと思ってな」
答えたのは兄さんだ。僕は眷属ではないけど、仲間だと思ってる。それに祐斗は友人だ。
「僕が下手に動けば部長に迷惑がかかるから―――。それもあるんだよね」
「それもある。あのまま暴走されたら部長が悲しむ。今回のことは俺が独断で決めたから、すでに部長に迷惑はかかってるだろうけど、木場が『はぐれ』になるよりはマシなはずだ。結果的には教会側と協力関係も築けたしな」
祐斗は難しい顔をしている。納得できないのだろうか。
「・・・・・・・・祐斗先輩、私は先輩がいなくなったら・・・・・寂しいです」
口を開いたのは小猫ちゃんだった。普段の無表情ではなく、悲しげな顔をしている。
「・・・・・・・私もお手伝いします。・・・・・・・だから、いなくならないでください」
小猫ちゃんが祐斗に訴える。僕が言われたわけじゃないのに、すごくぐっときた。あんな顔で懇願されたら、僕は絶対に断れないと断言できる。祐斗もそんな小猫ちゃんの表情に、困惑しながら苦笑いをしていた。
「ははは・・・・・・。まいったね。そんなこと言われたら、僕も無茶はできないじゃないか・・・・・・・。それにみんなのおかげで真の敵もわかった。やるからには絶対にエクスカリバーを倒そう」
祐斗もやる気になったようだ。小猫ちゃんも安堵の微笑みを浮かべている。
「よし! おれらエクスカリバー破壊団結成だ!」
「語呂悪いくないかな?」
兄さんに向かって言った。ちょっと空気を読めてないかもしれないが、仕方がない。
まあ、兄さんは聞こえなかったふりでやり過ごすようだ。
「あの・・・・・・・俺も?」
そんな中、匙くんが手を挙げて訊いてきた。
「つーか・・・・結構、俺蚊帳の外なんだけど・・・・・・。結局何がどうなってるわけ?」
そう言えば、グレモリーの眷属じゃない彼は、話が分からないのか。
「・・・・・・・少し、話そうか」
祐斗がコーヒーに口を付けた後にそう言った。そして、自分の過去を語りだす。
祐斗は次々と、自分の過去の出来事を語っていく。
「聖剣計画」によって集めたられた少年少女、いつか特別な存在になれると信じていた。聖剣を扱えるようになると信じていた。
しかし、待っていたのは「処分」という結果だけ。集められた子供たちは聖剣に適合できなかった。
「・・・・・みんな、死んだ。殺されたんだ。神に仕える者に。誰も救ってくれなかった。『聖剣に適応できなかった』ただ、それだけの理由で、僕らは毒ガスを浴びた。その中でも僕たちは神に救いを求めた」
なんとか逃げられた祐斗も、毒ガスによってその体を蝕まれていた。その時、たまたまイタリアに来ていたリアス先輩に拾われ、今に至る。
祐斗の過去を聞いて、みんなが思ったのは凄まじいの一言に尽きるだろう。
「うぅぅぅぅ・・・・・・」
匙くんは泣いていた。号泣と言って差し支えないだろう。
「木場! 辛かっただろう! きつかっただろう! 畜生! この世には神も仏もいないのか! 俺はぁぁぁぁ、非常にお前に同情している!」
祐斗の手を取って、泣きながらうんうんとうなずいている。祐斗は少し引き気味だ。
「俺はイケメンのお前が正直いけ好かなかった! だが、そういう話なら別だ! 俺も協力しよう! ああ、やってやる! 会長のしごきをあえて受けよう! 俺たちでエクスカリバーの撃破だ! 俺もがんばるから、お前もがんばって生きろ! そして、救ってくれたリアス先輩を裏切るな!」
なんというか・・・・・・匙くんは熱いですね。でも、いいやつだ。少し感動したよ。
「よし! いい機会だ! 俺の話もちょっと聞いてくれ!」
匙くんは気恥ずかしそうにしながらも、意気揚々と話し出した。
「俺の目標は―――ソーナ会長とできちゃった結婚することだ!!」
自信満々に話し出す匙くん。ただし、僕と祐斗、そして小猫ちゃんの視線は冷たくなった。
(((ああ、匙くん(先輩)も兄さん(イッセーくん)(イッセー先輩)と同じなんだ(ですね)・・・・・・)))
三人の気持ちがシンクロした時だった。
兄さんは同志を見つけた喜びに浸っているようだった。二人で盛り上がっている。
「・・・・・・あははは」
祐斗は乾いた笑い。
「・・・・・・最低です」
小猫ちゃんは侮蔑。
「場所を考えようよ・・・・・・・」
僕はファミレスという場所で、おっぱいと何度も言う二人を見て嘆息した。周りからの視線が半端ない。そのうち、お店の人から怒られそうだ。
この日、兄さんと匙くんは何かで通じ合い、繋がりあっていた。
Side out
第7話
Side 渚
エクスカリバーの捜索を始めて三日目。エクスカリバーを所持していたフリードを探すが一向に手がかりすら掴めない。僕は気分でなんとなく一人で捜索をしていた。
人通りの少ない所や、人気のない所を中心に探しているが、見つかる気配はない。
そこで、一旦道を外れて公園に向かうことにした。遊具も少なく、人が来ないという意味ではこの場所も探したほうがいいだろう。
「はぁー・・・・・・。少し疲れたな・・・・・・」
ベンチに座って公園の景色を見つめる。子供が遊ぶ時間をすぐ立公園は閑散としていた。数秒ほど景色を見つめて、目を閉じた。
「よっし! 探すのを再開しよう!」
閉じていた眼を開けて、立ち上がる。そこで違和感を覚える。
「いつのまに・・・・・・?」
目を閉じていた時間はほんの数秒だ。この静かな公園では足音も聞こえるはず。なのに、僕の視線の先には黒を基調に紫の装飾が施されたのゴスロリを着た少女がいる。そしてその少女は僕を真っ直ぐ見つめていた。
「見つけた」
決して大きくない声だが、僕の耳に届いた。
少女はこちらに歩いてくる。
そして彼女は僕を指さして言った。
「興味がある」
この子にあったのは初めてのはずなので、そんなことを言われても困ってしまうのだが・・・・・・・。
「人の身でありながら、桁違いの魔力を秘めているお前はグレートレッドを倒すのに使えるかもしれない」
ッ! 関係者か・・・・・・・・。しかし「グレートレッド」? かすかに記憶に引っかかるが、思い出せない。それによくよく見てみればこの子どこかで見たことあるような・・・・・・。
「えっと・・・・・・・力を貸してほしいのかい?」
「・・・・・・・・・・(こくん)」
僕の質問にうなずく少女。
「とりあえず、キミの名前を教えてもらえないかな? 僕は兵藤渚、ナギでいいよ」
名乗りながら、少女の名前を訊く。
「我はオーフィス。『無限の龍神』オーフィス」
オーフィス? ・・・・・ってちょっと待て! この人(?)名前は忘れたけどテロリストのトップで世界最強のドラゴンのオーフィスじゃん!! そうだよ思い出した! グレートレッドは『真なる赤龍神帝』。またの名を『真龍』、次元の狭間を飛び続けるドラゴンのことだ!!
ちょっ!? なんでそんな龍が僕に接触してくるわけ!?
「それでナギ。力を貸してくれるのか?」
首をかしげながら、尋ねるオーフィス。見た目美少女なのでちょっとドキッとした。
(これ断ったら何されるかわからないし、承諾したら犯罪者扱いだよね? 何この選択肢!? どっち選んでも危険だろ!?)
内心とても動揺しながら、なんとか口を開く。
「と、とりあえず、こんな所じゃなんだから、どこかでゆっくり話そう」
「わかった」
僕にできたのは少しの間、問題を先送りにすることだけだった。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
移動してやってきたのはどこにでもファミレスだ。ただ、オーフィスの格好のせいで目立ってはいる。僕は、着ていた神父服を脱いで制服に戻っている。
「それで・・・・・・なんで力を貸してほしいのかな?」
「我はグレートレッドを倒したい。そして、静寂なる世界へ戻りたい」
とりあえず、メニューを見てオーフィスがガン見していた、チョコレートパフェと飲み物を頼んで話を進める。
「静寂なる世界?」
「次元の狭間。我の故郷」
ふむ。自分の家に帰りたいけど、そこには他のドラゴンがいるから戻るために力が必要・・・・・・と言うことか。・・・・・・ホームシック?
「え、えと、僕以外にそういう仲間はいるのかな?」
オーフィスはしばし考えるようなそぶりを見せる。
「仲間ではないけど、グレートレッドを倒すのに力を貸すから、力を貸してほしいと頼まれたから、それに同意している」
おそらく『禍の団』のことだろう。そもそもの疑問なのだがグレートレッドを倒さないと、そこに住めないのだろうか?
「どうしても、そのグレートレッドを倒さないといけないのかい?」
オーフィスは無言でうなずいた。
「協力してくれてる人たちは何をしてるのさ?」
「我は知らない。興味がない」
あ~・・・・・・・。思いっきり利用されてるわけか。
「お待たせしました。チョコレートパフェです」
お姉さんが注文していたパフェを持ってきた。
「ごゆっくりどうぞ」
お姉さんはパフェと伝票を置いて去っていた。僕はパフェをオーフィスの方に移動させる。
「?」
「食べていいよ」
どうやら、オーフィスは僕が食べると思っていたらしい。しかし、僕がオーフィスの方にパフェをやると、スプーンで食べ始めた。
「おいしいかい?」
「・・・・・・・・(こくん)」
無表情のように見えるが、少しだけ笑みを浮かべているように見えた。外見相応に甘いものが好きなのだろうか?
そのまま、オーフィスは一心不乱にパフェを食べ続けた。少しだけほほえましく感じたのは胸にしまっておこう。
「それで、力を貸してくれるのか?」
「そんなことより、少しじっとしてて」
そう言いながら、備え付けらえているナプキンを取って、口の横についていたクリームを拭ってあげた。
「ん・・・・・・・」
なすがままにされる様子は、小さな子供を連想させる。
「これで良し。綺麗になった」
「ありがとう」
お礼を言われたのを少し意外に感じたのは、たぶん彼女に失礼だろう。
「それで、ごめん。協力はできないよ」
今の仲間を裏切ることはできない。僕が出した結論だ。
「・・・・・・そう」
心なしかしょんぼりした様子のオーフィスを見ていると、なんだか罪悪感が湧いてきた。
「あと、一つ訊きたいんだけどさ」
「何?」
「次元の狭間って何があるの?」
しょんぼりしたオーフィスにふと浮かんだ疑問を問いかけると、少し考えた後に口を開いた。
「・・・・・・古い時代の遺跡。それ以外は何もない」
「何もないの・・・・・・なら、そんな場所に戻る意味はあるの?」
僕はそう聞いた。
「それは・・・・・・・」
オーフィスはうつむいてしまった。どうやら、簡単に聞いていいことじゃなかったみたいだ。空気が重くなる。
「・・・・・・我にはあそこしか帰る場所がないから」
僕がこの空気をどうしようかと思っていると、オーフィスはゆっくりと口を開いた。
「我を受け入れてくれる場所はそこしかない・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
僕は何か言おうとして口を開いたが、何も言わずに閉じた。
(神すら凌駕する力を持ったが故に、きっと同族からも忌避されたのかな? 誰もが自分と違うものは恐れて迫害する。オーフィスはずっと故郷からも追われて、独りぼっちだったのか・・・・・・)
オーフィスは依然うつむいたままだった。
「じゃあ、僕が受け入れるよ」
うつむいたままのオーフィスを見ていられなかった僕は思わずそう言った。上手くいけば、テロ組織の弱体化につながるかもしれないと思ったことは内緒だ。
「ナギ?」
「僕が君を受け入れてあげる」
そう言いながら手を差し出した。
「・・・・・・本当?」
うつむいていた状態から顔を上げ、差し出された手を見つめながらオーフィスはそう言った。
「うん。僕とオーフィスは・・・・・・えっと、友達。そう友達だ」
一瞬、僕とオーフィスの関係をどう言い表そうか悩んだが、無難に友達ということにすることにした。
「ともだち?」
オーフィスは首をかしげた。意味が分からないのだろうか?
「友達って言うのは、どちらかが困っていたら助けたり、今みたいに一緒に何か食べたり、遊んだりする間柄の人のことだよ。あと、友達が間違っていることをしようとしていたら、止める存在でもあるかな?」
言葉にすると難しいが、間違ってはいないと思う。概ねこんな感じだ。
「我で、いい?」
「僕から言ってるんだ。嫌なんて言わないよ」
差し出しっぱなしの手を上下に揺らして握手を促す。
さすがに握手は知っていたのか、オーフィスは差し出された手を握った。
「よろしく、オーフィス」
僕はオーフィスの手を放す。オーフィスは握手をした右手をじっと見つめていた。
「とりあえず、連絡先を教えるから。何かあったら連絡してくれればいいよ。まあ、なくてもかまわない。気軽に連絡していいから」
ケータイの番号を持っていた紙に書いて渡した。友達なんだ、連絡先くらい教えるべきだろう。
「わかった。何かあったら連絡する」
「それじゃあ、僕は用事があるからこれで」
今はフリードの捜索の途中だ。あまりサボるのもよくないだろう。
「我もそろそろ戻る」
会計を済まし、オーフィスとファミレスの前で別れる。
「さて、どうしようかな・・・・・・・」
いろいろな想いが詰まったつぶやきがもれた。オーフィスと友達になるという予想外の出来事が起こった。それが今後にどう影響するか全くわからない。
「・・・・・・まぁ、なるようになるだろ」
とりあえず、そう結論付けて、僕はフリードの捜索に戻った。
ちなみにちょっと打算があったとはいえ、家に帰ってからオーフィスに言った発言を思い出して、恥ずかしさで悶絶。ベッドで転げ回ったことを追記しておく。
Side out
第8話
Side 渚
オーフィスと会ってから、さらに数日がたった。
連日、兄さん、祐斗、小猫ちゃん、匙くん、僕が夕方、フリード捜索している。
神父の格好をして、町中を歩きまわっているのだが、なかなか目的であるフリードに会うことはできなかった。
正直言って、そろそろまずい。リアス先輩が勘付き始めているのだ。
「ふぅ、今日も収穫なしか」
いつものように、歩き回るが成果なし。匙くんが気落ちするように言った。正直、一番気合が入っていたのは、匙くんだった。
「諦めずにやるしかないよ」
僕が励ますように声をかける。そして、先頭を歩いていた祐斗が足を止めた。
「・・・・・・祐斗先輩」
小猫ちゃんも足を止める。何か感じたらしい。
―ゾク
これは殺気だ! 場所は・・・・・・。
「「上だ!」」
僕と同じように気づいた匙くんが声を上げた。見上げると、長剣を構えたフリードが降ってくる。
「神父の一団にご加護あれってね!」
祐斗が素早く、魔剣を創造し防いだ。
「フリード!」
兄さんが叫び声をあげると、向こうも気づいたようだ。
「! その声はイッセーくんかい? これは珍妙な再開劇でござんすね! 女顔のキミもいるじゃないか! どうだい? そろそろ殺してもいいかい?」
相変わらず狂っているな、フリードは。
そして、あいつが持っているのがエクスカリバーね。確かにイリナやゼノヴィアさんのものと同質の気配を感じるな。
僕らは神父服を脱ぎ棄てて、いつもの制服へと戻る。
「『赤龍帝の籠手』!」
兄さんが『赤龍帝の籠手』を発動する。メインは祐斗なので兄さんはサポート。つまりは力の譲渡をする役だ。ピンチになったらもちろん介入するけどね。
「伸びろ、ラインよ!」
匙くんの手元から、黒い触手のようなものがフリードに向かって伸びた。
「うぜぇっす!」
聖剣で切り払おうとするが、軌道を変えてフリードの足に巻きついた。
「木場! そいつはちょっとやそっとじゃ斬れねぇ! これで逃げられない、やっちまえっ!」
「ありがたい」
祐斗は匙くんにお礼を言って、二本の魔剣でフリードを攻める。
「もしかして『魔剣創造』ですかぁ? レアなモノをお持ちですこと! でも、俺の聖剣の相手じゃあないねぇ!」
―バリィィン!
破砕音が響く。祐斗の持っていた魔剣は両方とも砕かれていた。
「くぅ!」
再び魔剣を創造するが、さすがはエクスカリバー。一振りで祐斗の魔剣たちは砕かれていく。
「木場ぁ! 譲渡するか?」
「まだやれるよ!」
兄さんのサポートを祐斗は拒否した。大分頭に血が上っているようだね。
「ハハハ! エクスカリバーを見る顔が怖いねぇ。もしかして憎悪とか持ってる?」
相変わらず、調子が狂うというか、いらいらするしゃべり方だ。
飛び出すフリードを祐斗が魔剣で受け止めようとするが、あっけなく砕かれる。これはまずいと思って、兄さんに譲渡を促そうと兄さんの方を向くと、兄さんは小猫ちゃんに持ち上げられていた。
「・・・・・・・イッセー先輩。祐斗先輩を頼みます」
ピッチャー小猫、大きく振りかぶって・・・・・・投げました。今のことを表現するならこんな感じだろう。
「うおおおおおおおおっ! 小猫ちゃぁぁぁん!」
悲鳴を上げながら、祐斗に向かって飛んでいく兄さん。
「木場ぁぁぁぁぁ! 譲渡するぞぉぉぉぉぉ!」
「うわっ! イッセーくん!?」
空中で覚悟を決めたらしい兄さんは、祐斗に飛びつき力を譲渡した。
『Transfer』
音声が発せられると、祐斗に兄さんの力が譲渡され、祐斗の体をかなりの魔力が覆う。
「もらった以上は使うしかない!『魔剣創造』ッ!」
周囲一帯に魔剣が生える。
「チィッ!」
フリードは自身に向かって伸びてくる魔剣を横薙ぎに聖剣を振るい破壊していく。
祐斗はそのうちに、すきを見つけて魔剣を足場に駆け出した。しかし、フリードは祐斗を目で追うことができているようだ。
そんな中、祐斗は足場の魔剣を抜き放ち、フリードへと投擲していく。その数はどんどんと増えていき、四方八方からフリードに向かって投げられた。
「面白いサーカス芸だね。腐れ悪魔がぁぁぁ!」
フリードはうれしそうな顔を浮かべて、飛んでくる魔剣をすべて払いのけた。
「俺様のエクスカリバーは『天閃の聖剣』! 速度だけなら負けないんだよぉぉ!」
おいおい、びっくりだな。剣先が強化してないとはいえ目で追えなくなってきたよ。
そして、フリードは周囲の魔剣を破壊しつくし、祐斗に向かって駆け出して斬りかかる。
「ダメか!」
祐斗は魔剣で防御するが、聖剣によって砕かれてしまう。
「死・ね!」
祐斗に向かって、聖剣が振り下ろされようとしていた。しかし、フリードは急に体勢を崩す。
「やらせるか!」
匙くんか。フリードに繋がっているラインを引っ張って体勢を崩させたみたいだ。そして、そのラインは淡い光を放っていて、光はフリードから匙くんの方へ流れていた。
「木場! もう文句言っている状態じゃない! そいつを倒せ! エクスカリバーの方は後だ! このままだと、会長にも害がありそうだ! 俺が力を吸収するから、今のうちに倒せ!」
匙くんが作戦を提案する。本当なら、みんなでフルボッコが最適なんだろうが、祐斗のこともある。妥協してこの作戦だろう。
「・・・・・・仕方ないか。確かにフリードはここで倒した方がいいだろう。奪われたエクスカリバーはあと二本ある。そちらに期待しよう」
「ハッ! 他の使い手より俺の方が強いんだぜ? 俺を倒したら満足な聖剣バトルはできませんことよ?」
不敵な笑みを浮かべてフリードが言った。祐斗はそれを聞いて、目元を引きつらせている。余計なことを言ってくれたみたいだな。
「ほう、『魔剣創造』か? 使い手の技量次第で無類の力を発揮する」
フリードの後方から、声が聞こえた。そちらの方に視線を向けると、神父の格好の初老の男性。
「・・・・・・・バルパーのじいさんか」
『!』
全員が目を見開いた。バルパーと言うことは、こいつがバルパー・ガリレイってことか。
「バルパー・ガリレイ!」
祐斗が憎悪のこもった視線で睨んでいた。
「いかにも」
男は堂々と肯定した。この男が祐斗の仇。
「フリード、体に流れる聖なる因子をできるだけ聖剣に集めろ。それでそのラインは斬れる」
「りょぉかぁい!」
聖剣のオーラが一層とよくなっていき、フリードはそれを振るうと、匙くんと繋がっていたラインは斬れてしまった。
「逃げさせてもらうぜ! 次に会う時に決着だ!」
捨て台詞を佩いて、逃げようとするフリードだったが―――。
「逃がすと思うか?」
ゼノヴィアさんが、フリード目掛けて斬りこんでいく。
「やっほー」
どうやら、イリナも来たらしい。これで、形勢は圧倒的にこちらが有利となった。
「撤退だ! バルパーのじいさん。コカビエルの旦那に報告しに行くぜ!」
「致し方あるまい」
「それじゃあね♪」
ゼノヴィアさんと斬り結んでいる最中に、フリードは懐から出した閃光弾を取り出し、地面へと叩きつけた。
―カッ!
眩い光が辺りを包んで、僕らから視界を奪っていく。視力が戻った時には、フリードもバルパーもそこにはいなかった。
「逃げられたか・・・・・・。どうしま―――」
「追うぞ、イリナ」
「うん!」
みんなの意見を訊こうとした矢先に、ゼノヴィアさんとイリナは駆け出してしまった。
「僕も追わせてもらおう! 逃がすか、バルパー・ガリレイ!」
祐斗は二人を追うようにして、駆け出して行ってしまった。
「おい! 祐斗!」
「木場! ったく! なんなんだよ!」
兄さんも声をかけるが、祐斗はそのまま走り去ってしまった。兄さんが毒づくのも仕方ないだろう。
僕と兄さんと小猫ちゃんと匙くんは取り残されてしまった。どうしようかと思案してると、背後から気配がした。
「力の流れが不規則になっていると思ったら・・・・・・・・」
「これは、困ったものね」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはリアス先輩とソーナ会長の姿があった。
兄さんと匙くんの顔が一気に真っ青になったのは、見ていてちょっと面白かったです。
Side out
第9話
Side リアス
「エクスカリバーの破壊ってあなたたちね・・・・・・・」
私は額に手を当てて、顔をしかめる。
力の流れがおかしかったので、ソーナと原因を探りに行ったら、そこにいたのはナギとイッセーと小猫とソーナの眷属のサジくんだった。とりあえず、場所を変えることになり近場の公園へと移動する。
現在その四人は、移動した公園にある噴水の前で正座をしている。いえ、正座をさせているわ。ソーナは一対一で話している。私は左から順にイッセー、ナギ、小猫の順番で正座させていた。
「サジ。あなたはこんなにも勝手なことをしていたのですね? 本当に困った子です」
「あうぅぅぅぅ・・・・・・・。す、すみません、会長・・・・・・・」
ソーナは自分の眷属に冷たい表情で詰め寄っていた。サジくんは余程恐怖を感じているのか、顔の色が真っ青ね。
「祐斗はそのバルパーを追って行ったのね?」
「はい。ゼノヴィアたちと一緒だと思います。・・・・・・・な、何かあったら連絡をよこしてくれると思いますが・・・・・・」
発案者であるイッセーに質問をする。いつもの祐斗なら連絡をくれるでしょうけど、今は無理でしょうね。
「復讐の権化と化した祐斗が悠長に連絡をよこすかしら?」
イッセーは「その通りです」といった表情を浮かべた。私はため息をつきながら、小猫へと視線を移す。
「小猫」
「・・・・・・・・はい」
「どうしてこんなことを?」
「・・・・・・・祐斗先輩がいなくなるのは嫌です・・・・・・・」
小猫の正直な想いに、怒りと言うよりも困惑の感情が出てくる。小猫は小猫なりに思うところがあったようね・・・・・・。
「・・・・・・過ぎたことをあれこれ言うのもね。ただ、あなたたちがやったことは大きく見れば悪魔の世界に影響を与えるかもしれないのよ? それはわかるわよね? 」
確かにナギは人間だけど、彼はほぼ悪魔側の陣営と言っていい。
「「はい」」
「・・・・・・・はい」
3人で声をそろえて返事をされた。
「すみません、部長」
「申し訳ありませんでした」
「・・・・・・・ごめんなさい、部長」
3人が頭を下げる。はぁ、どうやら3人とも反省しているようね。
―ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ!
何の音かしらと思って音源の方を見ると、ソーナがサジくんお尻を叩いていた。高校生がお尻を叩かれている光景は、見るに堪えないわね・・・・・・・。
「あなたには反省が必要ですね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん! ごめんなさい、ごめんなさい! 会長、許してくださいぃぃぃぃ!」
「ダメです。お尻を千叩きです」
―ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ!
ソーナったら、手に魔力を込めているわね・・・・・・・。あの子のお尻大丈夫かしら?
「イッセー、余所見をしない」
「は、はい!」
チラチラとソーナたちの方を見ていた。イッセーを注意する。
「使い魔を祐斗の探索に出させたから発見しだい、部員全員で迎えに行きましょう。それからのことはそのときに決めるわ」
「「「はい」」」
3人の返事を聴いて、そのあと私は3人をまとめて抱きしめた。
「バカな子たちね。本当に心配ばかり掛けさせて・・・・・・・・」
抱きしめたイッセーと小猫の頭を撫でる。ナギは私の胸の中だわ。イッセーは横目で羨ましそうな目で見ているわね。べ、別にナギのことは誘惑しているわけじゃないわよ!
「うわぁぁぁぁん! 会長ぉぉぉ! あっちはいい感じで終わってますけどぉぉぉぉぉ!」
「よそはよそ。うちはうちです」
―ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ!
よく親が言いそうな言葉を言いながら、ソーナはお知りを叩き続けた。
「さて、イッセー。お尻を出しなさい」
「え? 部長・・・・・・許してくれたんじゃ?」
私はニッコリ微笑みながら、イッセーに言う。
「下僕の躾は主の仕事。あなたは発案者なのだからお尻叩き千回よ♪」
私はソーナにならって、手に魔力を纏わせた。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 一誠
「下僕の躾は主の仕事。あなたは発案者なのだからお尻叩き千回よ♪」
部長は紅い魔力で包んだ右手を俺に向けてくる。
(バ、バカなぁぁぁぁぁぁぁぁ! お、俺も匙と同じように尻を叩かれるのか!? 魔力の込められた手で!?)
俺に向かった告げられた一言に、驚愕する。
(しかも、部長の魔力は消滅。俺の尻が死んでしまう! 何とか・・・・・・何とかしなくては!)
普段はエロいことにしか使うことのない脳みそをフル回転させ、どうにかして尻を叩かれるのを回避しようと考える。
そんな中、先ほどの光景を思い出す。そう、渚が部長の胸に顔をうずめていたときのだ。羨まし―――じゃない。今考えるべきことはそれではない。
とにかく、俺が発案者なら渚は実行犯だ! これを指摘すればいいんだ! 仮に同罪になったとしても、実行犯の渚の方が先に罰が執行されるはず。その間に何とか逃げ出せれば問題ない!
(イケる! これなら俺の尻は無事だ! すまない、渚。俺の尻のために犠牲になってくれぇぇぇぇぇぇ!)
Side out
Side 渚
(く、くるしい・・・・・・息が・・・・・・・)
3人抱きしめられる際に、僕の顔はリアス先輩の豊かな胸へと埋められてしまい、呼吸ができなくなっていた。ある意味羨ましいだろうが、このままでは死んでしまう!
「下僕の躾は主の仕事。あなたは発案者なのだからお尻叩き千回よ♪」
リアス先輩がそう言って、離れて行った。
(プハ! ようやく呼吸できる・・・・・・・)
酸素のありがたみを感じながら、呼吸を繰り返していると、兄さんがこちらをすまなそうに見ていた。なんだろう?
「部長、俺より部長のおっぱ―――じゃなくて、俺が発案者だとしたら渚は実行犯です! ここは実行した渚の方が悪いと思いますっ! 同罪だとしても、教唆した俺より実行犯の渚を先にするべきですっ!」
え? 兄さん何言ってるの? ていうか、今「おっぱい」って言いかけたよね? 何を言うつもりだったんだ?
「そうね・・・・・・・。それもそうかしら(イッセーったらもしかして私のサポートを? このチャンスを活かせということね!)」
(あるぇ~? もしかして、売られた・・・・・・?)
そんな風に考えると、兄さんが僕の方をドヤ顔で見てきた。弟を売って、ドヤ顔なんかするんじゃないよ・・・・・・・。
「それじゃあ、この件が終わったらナギは買い物に付き合うこと。いいわね?」
「・・・・・・・わかりました(あれ? 思ったよりきつくなさそうだな。荷物持ちってところだろうか?)」
兄さんも「バ、バカな・・・・・・」と言った表情をしている。
「さて、これでナギへの罰は決まったわ。イッセーお尻をこっちに向けなさい」
今度は、こっちが兄さんに向かってドヤ顔をしたやった。しかし、兄さんはこれからやってくる尻の痛みに恐怖していて、こちらを見る気配がない。チラッと小猫ちゃんのほうを見ると、やれやれといった感じで肩をすくめていた。
「ア、ア、アアアアァァァァァァァァァァァァッッ!! くぁwせdrftgyふじこlpッッッ!!!」
兄さんの悲鳴が公園に響き渡った。・・・・・・最後の方は何を言っているのかわからなかったけど・・・・・・。
「・・・・・・・南無」
小猫ちゃんが兄さんに向かってつぶやいた。別に兄さん死んでないからね?
「それより、小猫ちゃん。リアス先輩は何を買うつもりなのかな?」
「・・・・・・・鈍感です」
小猫ちゃんがぽつりとつぶやく。
「鈍感? いやいや、それが恋愛のことを言ってるんだったら勘違いだよ。僕みたいな女顔がモテるわけないだろう?」
「・・・・・・・自覚があるようで自覚がないんですね」
小猫ちゃんの少し憐れみを含んだ視線が僕に向けられた。僕は当然のことを言っただけだと思うのだが・・・・・・・・・。
―ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ!
「尻がぁぁぁぁぁ! 尻が死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!」
「会長っ! 許してくださいぃぃぃぃぃぃぃ!」
リアス先輩と会長さんがお尻を叩く音と、2人の悲鳴はなおも続いていた。それをBGMに聞きながら、僕と小猫ちゃんはもう少しで日が暮れそうな空を2人で見上げた。虚しい。
Side out
後書き
ふと、更新をしていて思いついてしまった。
いや、書きたくなったといった方がいいかもしれない。
渚の教会√を・・・・・・。
まあ、そんなこと言ってもこっちの更新もあるし、なかなか時間が取れないのもあるので書くかは未定です。
第10話
Side 渚
兄さんへのお仕置きは、夜になり始めたころに終わった。お尻を押さえて痛みをこらえる姿は何とも言えない悲壮感を漂わせていました。そして、家に帰ることになり小猫ちゃんと別れた。
ただ、フリードとバルパーを追いかけて行った三人のことが気になる。無事だといいんだけど・・・・・・・。
「「ただいま」」
「ただいま帰りました」
そんなことを考えているうちに、家に着いた。玄関で靴を脱いでリビングに向かおうとしたところで、台所から母さんが手招きをしている。三人で首をかしげながら台所の方へ向かった。少し母さんの顔が何やら企んでいるような顔だったのが気になった。
「ほら、アーシアちゃん」
「はぅ!」
母さんに押されて、アーシアさんが飛び出してきた。
アーシアさんがエプロンをしている。ん? ちょっと待て・・・・・・。あの肌の露出はおかしい。まさか、エプロンしかしていないだと・・・・・・・・? 僕の中で1つの答えが出された。つまり『裸エプロン』だと。
隣にいる兄さんを見てみると、笑顔を浮かべながら鼻血を出していた。とても幸福そうな表情を浮かべている。
「な、なんで・・・・・・?」
「クラスのお友達の桐生さんから。も、もちろん下着はつけてません! スースーします・・・・・・・あぅ」
言わなくていいことまで話しいてくれました。そして、どんな人かわからないけど桐生さん。あんたは何がしたいんだ!?
「うふふ、かわいいでしょう? 母さん、大賛成よ、こういうの。ああ、若いころを思い出すわぁ・・・・・・・」
知りたくなかった母親の過去の話を知ってしまった・・・・・・。自分の母親の裸エプロンとか誰得だよ・・・・・・? あっ、父さんか。
「なるほど、その手があったわね」
なにやら、リアス先輩がつぶやいているが、参考にしなくていいと思います。
「アーシア、魔性の女になれるわね。エッチな子だわ」
「えー! 私、エッチな子になりたくないです」
アーシアさん・・・・・・そんな恰好で言っても説得力が欠片ありませんよ。
「少し待ってなさい。私もそれをやってみるわ」
リアス先輩が足早に台所から立ち去っていく。
「リアスさん、私も手伝うわ!」
母さんはリアス先輩を追っていった。チラッと兄さんの方を見ると、あちらはあちらで忙しそうだ。
「リアスさんたら恥ずかしがっちゃて、追い出されちゃったわ。ってあらあら、アーシアさんは積極的ね。あーあ、初孫が楽しみだわ」
すべてを知るものをしていないが、なんとなく僕の直感がここにいるとろくな事にならないと訴えたような気がしたので、退散しよう。
「ナギ、どうかしら?」
リアス先輩の声がしたので首をそちらに向ける。どうやら、逃げることはできないようだ。
「えっと・・・・・・似合ってますよ?」
“?”がついてしまったが仕方ないだろう。リアス先輩のエプロンはアーシアさんよりきわどい裸エプロンでした。布地の面積が少なすぎる。しかもその場で1回転したので、見えてはいけない部分まで見えそうになりました。
「さあ、これで料理開始よ」
「は、はい!」
二人が台所に立ちます。少々手ぜまに感じているみたいです。
そんなことより、後ろ姿が全裸に等しいので、兄さんが失血死しそうです。僕は鼻血などは出ていませんが、顔が熱いのでおそらく真っ赤になっているでしょう。
「ただいま~」
どうやら、父さんが帰ってきたようです。
「ブハァッ!」
あ、鼻血を出しました。やはり、父さんは兄さんの父ですね。兄さんと仲良く鼻に、ティッシュを詰めています。
「父さん幸せだ。1日の仕事の疲れが吹っ飛んだよ」
「ああ、俺もだよ。なんか、いろいろ辛いことを一瞬忘れられたね」
「渚はどうだ?」
「僕はノーコメントで」
話を振られたので、黙秘権を行使した。
「イッセー、渚はむっつりだと思うがどう思う」
「父さんの言うとおりだと思うぜ」
なぜか不当な評価をされたんですけど・・・・・・・。
「しかし、若い子はいいな! 肌の張りが違う! 母さんとは―――」
母さんが父さんの後ろに近づいて行った。さながら、ジョー○のように。ネタで言うなら、志○、後ろ!、後ろ! 的な感じ。
「母さんとはなんですか? お父さん」
一瞬で父さんの顔が青ざめた。鼻に詰めていたティッシュが落ちる。視線で助けを求められているように感じるが、僕も兄さんも父さんから視線を外す。
「か、母さん! えっと、その、あれだよ! あれ!」
「あれですか・・・・・・・。O☆HA☆NA☆SHIですね」
「「(父よ、安らかに眠れ)」」
僕と兄さんの心はシンクロしていた。
母さんは父さんのシャツの襟をつかんで引きずって行った。父さんの顔は絶望に染まっていた。
「兄さん」
「なんだ?」
「口は災いのもとだね」
「ああ、そうだな・・・・・・・」
二人の裸エプロンで興奮していた兄さんも、母さんの覇気を感じて一気になりを潜めたらしい。ニヤニヤした表情が一変している。僕と兄さんは1つ賢くなったようだ。
ちなみにだが、リアス先輩とアーシアさんの二人は裸エプロンのまま料理を作った。・・・・・・裸エプロンのせいではないと思うが、いつもよりおいしく感じた。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
そして、夜。恒例のようにリアス先輩がベッドに潜り込んでくる。人間は慣れるもので、最近では普通に寝れるようになった。
―—ゾクリ
寝ている最中に殺気というかプレッシャーを感じて、僕とリアス先輩が飛び起きる。
窓に駆け寄って、下を見下ろすとそこには見覚えのある神父がこちらを見上げている。
「部長! 渚!」
兄さんとアーシアさんが血相を変えて、部屋に転がり込んできた。そして、窓の外を兄さんが覗く。
「クソ神父!」
兄さんが大声を上げる。僕たちを見上げていたのは、フリード・セルゼンだった。
あいつが無事となると、祐斗やイリナそしてゼノヴィアさんのことが気になる。無事だといいんだけど・・・・・・・。
窓の外を見下ろしていると、フリードが手招きしている。
「堕天使か・・・・・・」
リアス先輩が忌々しそうにつぶやいた。そして、僕らは急いで制服に着替えて部屋のドアを開け放ち、そこから飛び出した。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「やっほー、ご機嫌麗しいねぇ。元気にしてた?」
家の外にはふざけた口調のフリードがいて、話しかけてきた。
「何の用?」
問いかけるが、フリードは嘲笑するだけ。
ふいに、リアス先輩が上を見上げた。それに倣うように僕も上を見上げると、そこには月をバックに黒い翼を十枚も生やした黒いローブに身を包んだ若い男の堕天使が飛んでいた。
「はじめましてかな、グレモリー家の娘。紅髪が美しいものだ。忌々しいキミの兄君を思い出すよ。反吐が出そうだ」
苦笑いを浮かべ、憎悪を感じるような挑発的な物言い。リアス先輩も冷淡な表情を浮かべて返した。
「ごきげんよう、堕ちた天使の幹部―—コカビエル。私はリアス・グレモリーよ。それと我がグレモリー家は、魔王に最も近く、最も遠い存在。私に政治的なやり取りを求めるのは無駄だわ」
コカビエルね・・・・・・・。前にリアス先輩が言っていた聖書にも記された堕天使か。大物の登場だね。
僕がコカビエルを注視していると、やつが何か―――あれは人間か? 暗くてよくわからないがおそらくはそうだろう。とにかく何かを抱えているのがわかった。
「こいつは土産だ」
コカビエルは抱えていた人間(?)を放り投げた。
「おっと!」
僕が反応しようとしていたら、先に兄さんが反応してキャッチした。
「お、おい! イリナ!」
どうやらコカビエルが抱えていたのは、紫藤イリナだったらしい。血まみれで息も荒く、全身傷だらけ。一刻も早い治療が必要だ。
「俺たちの根城にまで来たのでな、それなりの歓迎をした。まあ、二匹逃したがな」
嘲笑しながらコカビエルは言った。どうやら、祐斗とゼノヴィアさんは無事らしい。
「アーシア!」
兄さんがアーシアさんを呼んで、イリナの治療をさせる。傷は治って、息も落ち着いていた。
「交渉などに興味はない。まあ、妹を犯してから殺せば、サーゼクスの激情が俺に向けられるかもしれないがな」
こちらのことは気にもしていないようだ。リアス先輩は侮蔑したような目でコカビエルを睨む。僕も顔をしかめた。自然とリアス先輩を庇うように前に出るが、コカビエルは僕の事など一向に気にしていないようだ。
「お前の根城である駒王学園を中心にこの町一帯で一暴れさせてもらう。そうすればサーゼクスも出てくるだろう」
「もしかして戦争が目的か?」
僕はそうつぶやいた。コカビエルはうれしそうな表情を浮かべて、僕の言葉に反応する。
「その通りだ人間! 脆弱ながらに頭は回るのだな。そいつの言う通りミカエルに喧嘩売ろうとエクスカリバーを盗んだが、よこしたのは相手にならない聖剣使いだった。だから、悪魔のサーゼクスの妹の根城で暴れるんだ! あの大戦が終わってから、俺は退屈でしょうがない! アザゼルもシュムハザも戦争には消極的だ! それどころか神器の研究に没頭し始めた! あんなクソの役にも立たないものを!」
堕天使の組織は神器を集めているのか・・・・・・。目的は禍の団対策だろう。
「とにかく、俺はこの町で聖剣をめぐる戦いをさせてもらう。戦争をするためにな!」
「戦争狂が」
唾棄するようにリアス先輩がつぶやいた。まったくもって同感です。
「ひゃははは! 最高でしょ? 俺のボスって。イカレ具合が素敵に最高さ。こんなご褒美もくれるしね」
そう言って、フリードが取り出したのは、エクスカリバーだった。しかも、両手に一本ずつ持ち、腰にも一本ずつ帯剣している。計四本だ。
「右のが『天閃の聖剣』、左のが『夢幻の聖剣』、腰のが『透明の聖剣』。そしてさっきそこのいる娘さんから『擬態の聖剣』もゲットしちゃいました。しかも聖剣を扱える因子をバルパーのじいさんからもらってるから、全部使えるハイパーな状態だぜ? ひゃははははは!」
狂ったように笑うフリード。コカビエルのことをイカレてると言ったが、人のことなど言えないだろう。
「バルパーの聖剣研究、ここまでくれば本物か。俺の作戦についてきたときは正直怪しいものところだったがな」
「エクスカリバーをどうする気なの!?」
リアス先輩がコカビエルに問う。しかし、コカビエルは答えることなく、背を向けて翼をはばたかせた。
「ハハハ! 戦争をしよう! 魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリーよ!」
―ピカッ!
眩い光が視界を埋める。どうやら、フリードにまたあの閃光弾を使われたようだ。
しばらくして、視力が回復すると、そこにはフリードもコカビエルもいない。だが、向かう場所はわかっていた。
「みんな、学園へ向かうわよ!」
『はい!』
堕天使の幹部が相手の勝負の火蓋が落とされようとしていた。
Side out
第11話
Side 渚
「リアス先輩、学園を大きな結界で覆っています。よほどのことがない限りは外に被害は出ません」
学校に着くと匙くんが現状報告をしてくれた。生徒会メンバーと祐斗を除くオカルト研究部のメンバー全員が集まっている。
「これは被害を最小限に抑えるものです。正直言ってコカビエルが本気を出せば、学園だけでなくこの町そのものが崩壊します。さらに言うならすでにその準備に入っているみたいです。私の下僕がその姿を確認しています」
ずいぶんとはた迷惑な存在だな。自分勝手が過ぎる。
「攻撃を抑えるためにも私と眷属はそれぞれの配置で、結界を張り続けます」
そう言いながら、ソーナ会長は学園の方を見つめた。学校に被害が出るのは免れないので、それを悔やんでいるのだろう。
「ありがとう、ソーナ。あとは私たちが何とかするわ」
「リアス、相手は桁違いの化け物ですよ? 確実に負けるわ。あなたのお兄様に―—」
「あなただって、お姉様を呼ばなかったじゃない」
リアス先輩がソーナ会長の言葉を遮って、首を横に振りながら言った。
「すでにサーゼクス様には打診しましたわ」
朱乃先輩が二人の会話の中に割って入りそう言った。
「朱乃!」
非難の声をリアス先輩があげる。
「リアス、あなたがサーゼクス様に迷惑をかけたくないのはわかりますが、これはもうすでにあなた個人で解決できるレベルを超えているわ」
怒った口調で朱乃先輩が言うと、リアス先輩も渋々ながら納得したようだ。
「サーゼクス様が到着するのは一時間後だそうです」
いつものニコニコ顔に戻った朱乃先輩がそう言った。
「一時間・・・・・・・。わかりました。その間、シトリー眷属の名にかけて結界を張り続けます」
「一時間後ね・・・・・・・・・。さて、私の下僕悪魔たち。私たちはオフェンスよ、結界内に入ってコカビエルの注意を引くわ。これは死戦よ! それでも死ぬことは許さないわ! 生きて帰ってあの学園に通うわよ、みんな!」
『はい!』
リアス先輩もソーナ会長も覚悟を決めたみたいだ。僕たちもそれに応えるように力強く返事をする。そして、僕たちは結界の中に突入した。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
堂々と正面から入り込む。兄さんはすぐさま、プロモーションで『女王
』に昇格して、力の底上げをはかった。
そして、突入した学校には、異様な光景が広がっている。
校庭の中央に神々しい輝きを放つ剣が四本宙に浮き、それを中心として怪しい魔方陣が校庭全体に描かれていた。
魔方陣の中心部にはバルバー・ガリレイが佇んでいる。
「これはいったい・・・・・?」
兄さんがみんなの気持ちを代弁するように言った。
「四本の聖剣を一つにするのだよ」
バルパーはおかしそうに口にした。
「バルパー、あとどれくらいでエクスカリバーは統合する?」
『ッ!』
空からコカビエルの声が聞こえると、みんなに緊張が走った。視線を空中に移す。そこには月明かりを背に浴びるコカビエルの姿があった。
「五分もいらんよ、コカビエル」
「そうか、では頼むぞ」
コカビエルはバルパーに向けていた視線を、僕たちの方に移した。
「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか?」
「お兄様とレヴィアタン様の代わりに私たちが――」
―ヒュッ! ドオオォォォォォォォォォォォォンッ!
何かを投擲するような音のあとに、爆音が辺り一帯に鳴り響いた。
爆風が生じる。そして、爆風が発生した場所にあった体育館は跡形もなく消し飛んでいた。
「つまらん。まあいい、余興にはなる」
体育館があったところには、光の槍が突き刺さっていた。ただし、以前に見たものよりも数十倍の大きさだったが。
「さて、地獄から連れてきた俺のペットと遊んでもらおう」
―パチン
コカビエルが指を鳴らす。すると、暗闇の中から何かが近づいてきた。
「ケルベロス!」
忌々しそうにリアス先輩が言った。3つの首を生やしたいかにも狂暴そうな犬。地獄の番犬と言われる存在だ。
「本来は地獄。つまりは冥界へ続く門の周辺に生息しているのだけれど、人間界に持ち込むなんて!」
「ヤバいんすか?」
「兄さん、首が三つある犬がヤバくないわけないだろ!」
「ナギの言うとおり! 消し飛ばすわよ!」
リアス先輩は気合が入っているな。さて、僕もやりますか・・・・・・・。
「『白銀魔術礼装』」
右手に握った鞘に収まりし魔剣が黄金色の聖約へと変わる。そして僕の髪が銀色に染まった。
「イッセー、あなたは今回サポートよ! 倍加した力を仲間の誰かに譲渡して、強化させなさい!」
「わかりました!」
兄さん後方へと下がる。もともと、サポート役のアーシアさんと一緒だ。
「なら、僕が兄さんの護衛になります」
「頼んだわ、ナギ! 朱乃!」
僕も後退する。リアス先輩は朱乃先輩とともに空へ舞う。ケルベロスは二人の方に飛び出していった。
首の一つがリアス先輩に向けて、炎を吐いた。
「リアルに怪獣だね」
「そうだな」
なんだか、感慨深く感じながら見守る。
「甘いですわ」
リアス先輩に向かって吐かれた炎は、朱乃先輩が前に入り炎を瞬時に凍らせた。
「くらいなさい!」
そして、朱乃先輩の後ろから、リアス先輩がケルベロスに向けて滅びの魔力の塊を放つ。しかし、他の二つの首がそれを迎え撃つように炎の弾を吐きだした。
空中でしのぎを削る。リアス先輩の魔力とケルベロスの火炎。しかも、追加でケルベロスは炎の弾を発射しているので、徐々にリアス先輩が押され始めた。
「隙あり」
しかし、小猫ちゃんがケルベロスの頭に拳を打ち込んだことで、さらに追加の炎の弾を発射させないようにする。
「くらいなさい」
朱乃先輩が得意の雷をケルベロスへと落とす。追撃でリアス先輩の魔力もケルベロスの脇腹に直撃した。ケルベロスの脇腹はリアス先輩の魔力によって、ごっそり持ってかれているが、いまだにケルベロスの眼光は鋭い。まだまだ、動くことができるようだ。
そんな中、後ろに気配を感じて振り返る。そこにはもう一匹のケルベロスがいた。
「兄さん、アーシアさん、後ろだ!」
すぐさま、2人に注意を促し駆け出す。
「ガァオァァォァォァォォォ!ッ」
叫び声をあげながら、ケルベロスも駆け出してきた。
目と足を強化し、祐斗には少し劣るであろう速さで接近する。そして、ケルベロスが振るう前足を、続いて噛みついて来ようとする首を避ける。
「セイッ!」
回避した首をすれ違いざま一閃。何の抵抗も感じさせることなくケルベロスの首を落とした。ケルベロスの傷口から血があふれ出す。宙を舞う首は塵になった。
「加勢に来たぞ」
そう言いながら現れたのは、青い髪に緑のメッシュが入ったゼノヴィアさんだった。彼女は僕と同様に首を斬り飛ばす。これで残る頭は一つ。宙を舞っていた首は僕が斬ったのと同様に、塵となって消えた。これが魔を滅する聖剣の力なのだろう。
「聖剣の一撃。魔物に無類のダメージを与える」
即席の連携。僕よりゼノヴィアさんの方が効果的な攻撃ができるので、ケルベロスの注意を僕が引きつけている間に、彼女がケルベロスの胸元に聖剣を突き刺した。
その瞬間、ケルベロスの体が塵と化し宙に霧散していった。これで、こちらの方は一応片付いた。リアス先輩たちの方を見る。
「部長! 朱乃さん! ケルベロスを屠れるだけの力を得ました!」
どうやら、大丈夫そうだ。兄さんもどの程度倍加すれば相手を倒さるか判断がつくようになったらしい。後で、『赤龍帝の籠手』のおかげだと知って、ちょっとガクッとなったのは、この時の僕はまだ知らない。
「イッセー! あなたの譲渡を私と朱乃、二人同時にできないかしら?」
「・・・・・・・・どちらも倍加した力の七割か八割しか、譲渡できませんけど可能です!」
兄さんは少し考えるような素振りをするとそう言った。
「それだけあれば十分よね、朱乃?」
「はい、いけますわ」
二人は顔を見合わせてそう言い、兄さんに譲渡するように言った。すぐさま、兄さんは二人に近づいて、肩に触れる。
「赤龍帝の籠手! ギフト!」
『Transfer!』
兄さんの体を通して、膨大な力がリアス先輩と朱乃先輩へと流れ込んでいく。そして両者から、魔力があふれ出した。
「いけるわね、朱乃!」
「はい! 天雷よ! 鳴り響け!」
リアス先輩の不敵な笑みに応えるように、朱乃先輩が雷の照準をケルベロスへと合わせる。しかし、それを察知したのかケルベロスはその場から逃げようとしていた。
「逃がさないよ」
だが、ケルベロスは逃げることはできず、その四肢を無数の地面から生えた剣によって貫かれた。この能力と声は祐斗だ。思わず笑みがこぼれる。ナイスタイミングだ!
そして、逃げられないケルベロスに朱乃先輩の雷が降り注いだ。今まで見た中で最も大きな雷。校庭の半分以上を覆い尽くしそうなほどの大きさだった。
―ドオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!
全身を揺さぶられるような轟音が鳴り響いて、思わず耳をふさいでしまう。ケルベロスはその身を雷に焼かれて無に帰した。
「くらえ! コカビエル!」
ケルベロスが消滅して、即座にリアス先輩がコカビエルへと手を向けそこから、必殺である滅びの魔力の塊が撃ち出された。
「でかい!」
兄さんがその大きさに驚愕して声を出す。いつも撃ち出している魔力の十倍近くの大きさだ。
対するコカビエルはただ、右手をかざしただけ。それで防げるのか? と思ったがその通りだったらしい。
リアス先輩が撃ち出した滅びの魔力をコカビエルは、かざした右腕で防いでいる。そして、コカビエルは受け止めていた腕を上に向けて、リアス先輩が放った魔力の軌道をずらし、天高くに消えていった。
「なるほど。赤龍帝の力があれば、ここまでリアス・グレモリーの力が上がるか。これはひどくおもしろい。それにそこの女はどうやらバラキエルの力を宿しているようだな」
右手を握ったり開いたりしながら、笑うコカビエル。そして朱乃先輩の方を見た。
「・・・・・・私をあの者と一緒にするなッ!」
目を見開いて、激昂した朱乃先輩が雷を連続して落とすがコカビエルは歯牙にもかけず、鼻で笑うとその翼ですべてを薙ぎ払った。
バラキエル・・・・・・堕天使の幹部の名前だ。そう言えば、朱乃先輩は人間と堕天使の間に生まれたんだったな・・・・・・・。
「・・・・・・・・・完成だ」
バルパーの声が聞こえる。そちらを向くと、校庭の中心にあった4本の聖剣が今までにないほどの輝きを放っていた。
「四本のエクスカリバーが一つになる」
神々しい光が辺りを覆う。そして、宙に浮いている四本の聖剣が重なっていき、一本の聖剣になった。
「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。あと二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」
衝撃的な告白。タイムリミットは二十分それまでにコカビエルを倒さなければ、町ごと僕らは全滅ですか。
校庭の魔方陣が光り、力を帯び始める。リアス先輩のお兄さんであるサーゼクス・ルシファーの到着は間に合わない。到着したころにはこの町はなくなっている! これは本格的にまずくなってきた・・・・・・・・・。
Side out
第12話
Side 渚
「フリード!」
「はいな、ボス」
コカビエルの呼びかけに応えるように、フリードが歩いてくる。
「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。 四本の力を得たエクスカリバーで戦ってみろ」
「ヘイヘイ。まーったく、俺のボスは人使いが荒いなぁ。でもでも! チョー素敵仕様のエクスカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み、みたいな? ウヘヘ!」
気味の悪い笑みをうかべて口走るフリード。そんな中、ゼノヴィアさんが祐斗に話しかけた。
「リアス・グレモリーの『騎士』、共同戦線が生きているのなら、あのエクスカリバーの破壊を共にしようじゃないか」
「いいのかい?」
祐斗の問いかけにゼノヴィアさんは不敵に言った。
「最悪、私はあの聖剣の核さえ回収できれば問題ない。もはやあれは聖剣であって聖剣でない。聖剣とて武器だ、使う者によって場合も変わる。あれは異形の剣だ」
「くくくく・・・・・」
そんな二人を笑うものが一人。バルパーだ。
「僕は『聖剣計画』の生き残りだ。悪魔に転生したことで生きながらえてる」
冷静そうに言っているが声は震えているし、瞳には憎悪がこもっていた。
「ほう、あの計画の生き残りか。数奇なものだな、こんな極東の島国で会うことになろうとは。ふふふ」
嫌な笑い方するバルパー。そして、バルパーは自身の過去を語りだした。
「私はな、聖剣が好きだ。エクスカリバーの物語に心を躍らせたこともある。だが、だからこそ自分に聖剣が使えない時は絶望した。それゆえに、私は聖剣使いに憧れ、その思いは高まり、聖剣の使えるものを人工的に創りだす研究に没頭して、そして研究は成功した。キミたちのおかげだ」
「成功? 僕たちを失敗作だとして処分したじゃないか」
怪訝な表情の祐斗。僕らが聞いた話では祐斗は失敗作だから用済みで処分されたんじゃないのか?
「聖剣を使うのには必要な因子がいる。しかし、被験者の少年少女たちには因子はあるものの必要な数値に満たなかったのだ。ならば、『因子を抽出して集めることができないか』と考えたのだよ。私は」
「なるほど。聖剣使いが祝福の際に体内に入れられるのは・・・・・・」
ゼノヴィアは事の真相に気づいたようだ。唇をかみしめて悔しそうにしている。バルパーはさらに続けた。
「その通りだ。聖剣使いの少女よ。持っている者たちから因子を抜き取り、このように結晶化させたのだ」
懐から光り輝く球体を取り出してこちらに見せてきた。
「これにより、聖剣使いの研究は飛躍した。それなのに教会は研究資料を奪って私を異端認定した。貴殿を見るに私を異端認定したくせに研究は引き継がれているらしい。あの天使のことだ、因子を抜き出しても被験者を殺すまではしていないようだな。まあ、私よりは人道的だろう。クハハハハハハ」
愉快そうに笑うが、こちらにとっては不愉快でしかない。聖剣使いを生み出すためには犠牲が必要になる。祐斗はその犠牲になったわけか。
「同志たちを殺して、因子を抜き出したのか?」
祐斗が殺気のこもった声でバルパーに問いかける。
「そうだ。この球体はその時のものだ。三つほどフリードに使用してしまったがね。これは最後の一つだ」
「ヒャハハハハハ! 俺以外の奴は因子についていけなくて死んじまったけどな! 俺様はスペシャルだねぇ!」
「・・・・・・バルパー・ガリレイ。自分の研究のためにどれだけの命を弄ぶつもりだ」
祐斗の手が怒りで震えている。そして怒りから生み出される魔力が祐斗の体を覆った。
「ふん。それだけ言うのならば、この因子をきさまにくれてやる。環境が整えばあとで量産できる段階までは研究できている。まずはこの町を破壊しよう。そして、世界各地の聖剣をかき集めて、聖剣使いを量産し、統合されたエクスカリバーでミカエルと教会に戦争を仕掛けてやる」
バルパーとコカビエルが手を組んだ理由がそれか・・・・・・・。どちらも傍迷惑で気にいらない。
話し終えたバルパーは、聖剣の因子を祐斗に向かって放り投げた。コロコロと転がり祐斗の足もとに行きつく。
「みんな・・・・・・・」
祐斗はしゃがんでそれを拾う。その瞳からは涙が流れていた。表情には悲哀の感情と怒りの感情がうかんでいる。
そんな時だった。祐斗が拾った因子が淡い光を発して、その光で校庭を包むまで拡大していく。そして、ぽつぽつと光が人の形をとっていった。
祐斗を囲むように現れた光でできた少年少女たち。
「この場に漂う様々な力が因子に宿っていた魂を解き放ったようですね」
朱乃先輩がそう言った。ということは、あの少年少女たちは祐斗の同志と言うことだろう。
祐斗はそんな彼らを見つめ、悲しそうでもあり懐かしそうな表情になる。
「ずっと・・・・・・・ずっと、思ってたんだ。僕だけが生きていていいのかって・・・・・・・。僕よりも夢を持っていた子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしをしていいのかって・・・・・・・」
祐斗の同志である一人が、なにかを口パクで訴える。読唇術ができないので何を言っているかわからない。でも、様々な力がこの現象を引き起こしたなら・・・・・・・・。
僕は彼らの力になるように念じながら魔力を放出した。銀色の魔力の輝きが少年少女たちの魂に届くように。
『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』
声変わりのしていない幼い声が、僕らの耳に届いた。僕の魔力は彼らの助けになったらしい。祐斗は僕の方を見てきた。その眼からは涙があふれている。
そして、他の子供たちも同調するように口を開く。聞こえてきたのは、詳しくない僕にはわからないが、おそらく聖歌。
「――聖歌・・・・・・・」
アーシアさんがぽつりとつぶやく。どうやらあっていたらしい。祐斗も彼らにつられるように聖歌を口ずさむ。歌う彼らは無垢な笑顔を浮かべていた。
歌う彼らの魂が輝き始める。その光は祐斗を中心に強くなっていた。
『僕らは、一人ではダメだった―――』
もう僕の魔力の手助けを必要としないだろう力強い声に、魔力の放出をやめる。
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―――』
『みんなが集まれば、きっと大丈夫―――』
悪魔は聖歌を聞くとダメージを受けるはずなのに、この場にいる誰一人として苦しんでいる者はいなかった。自然に涙がこぼれていく。
『聖剣を受け入れるんだ―――』
『怖くなんてない―――』
『たとえ、神がいなくても―――』
『僕たちの心はいつだって―――』
「―――ひとつだ」
魂が天へと昇り、祐斗のもとへ降り注ぐ。その光は優しく祐斗を包み込んだ。
そして、祐斗から感じられる力が増大していく。
(ああ、そうか・・・・・・これが)
薄れた原作知識の中でも忘れられなかったワード。
神器は所有者の想いを糧に成長しながら強くなっていく。しかし、それとは別の領域が神器には存在する。所有者の想いが、願いが、この世に漂う『流れ』に逆らうほどの劇的な転じ方をした時に、神器は至る。
それを表す言葉。それが『禁手』
夜の空を切り裂いていく光は祐斗を祝福しているようだった。
Side out
第13話
Side 祐斗
同志たちは復讐など望んでいなかった。でも・・・・・・・。
「すべてが終わったわけじゃない」
終わりではない。目の前の邪悪を倒さない限り何度でも同じことが繰り返されてしまう。
「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちの生が無視される」
「ふん。研究に犠牲はつきものだ。ただそれだけのこと」
バルパーはいかにもくだらないといった表情で、僕の言葉を切り捨てた。
「木場ぁぁぁぁぁぁぁぁっ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けぇぇぇぇぇっ! お前は、リアス・グレモリーの眷属の『騎士』で俺たちの仲間だ! 俺のダチなんだよ! 戦え木場ぁぁぁぁぁぁ! あいつらの想いと魂を無駄にするなぁぁぁぁ!」
イッセーくん。キミは僕を助けてくれた。何も得なんてないのに、主に罰を受けるかもしれないのに。
「祐斗! やれ! 祐斗ならできる! エクスカリバーを破壊するんだ!」
「祐斗! やりなさい! 自分で決着をつけるの! エクスカリバーを超えなさい! あなたはこのリアス・グレモリーの眷属なのだから! 私の『騎士』はエクスカリバーごときに負けはしないわ!」
「祐斗くん! 信じてますわよ!」
ナギ、リアス部長、朱乃さん・・・・・・。
「・・・・・・祐斗先輩! ファイトです!」
小猫ちゃん。
「ハハハ! 何泣いてるんだよ! 戦場のど真ん中で歌っちゃってウザ―――ブゲラッ!」
「空気を読もうよ。キミは・・・・・・・。祐斗!」
ナギがフリードを黙らせる。フリード・セルゼン。その身に宿る同志たちの魂。それ以上、悪用させはしない!
「僕は・・・・・・剣になる」
同志たちよ、一緒に超えよう。あのとき、達せなかった想いを、願いを!
「部長、仲間たちの剣になる! 今こそ僕の想いに応えてくれッ! 『魔剣創造』ッッ!!」
僕の『魔剣創造』と同志たちの魂が混ざり合う。同調し、形を成していく。
同志たちの聖なる力と僕の悪魔の力が融合していた。
そして、神々しいオーラと禍々しいオーラを放つ一本の剣が手元に現れた。完成したよ、みんな・・・・・・。
「禁手、『双覇の聖魔剣』。聖と魔を有する剣の力、その身で受けるといい」
フリード目掛けて走り出す。僕の駒『騎士』の特性はスピード! フリードは目で僕の動きを追うが、フェイントを何度も入れて彼の視界から脱する。・・・・・・・ナギは何回フェイント入れても引っかかってくれないことを思えばなんてことはない!
―ギィィィン!
それでも、僕の一撃を彼は受け止めた。本当に大した「はぐれ悪魔祓い」だ。
それでも、彼のエクスカリバーを覆うオーラは、僕の聖魔剣のオーラによってかき消されていく。
「ッ! その駄剣が、本家本元の聖剣を凌駕すんのか!?」
驚愕の声を出すフリード。
「それが真のエクスカリバーならば、勝てなかっただろうね。でも、そのエクスカリバーでは、僕と同志の想いは断ち切れない!」
「チィ!」
舌打ちをして、彼はバックステップをする。
「伸びろぉぉぉぉぉぉ!」
エクスカリバーが無軌道に激しく動きながらこちらに迫ってきた。これは・・・・・・『擬態の聖剣』か!
四本の聖剣を合わせたんだから、四本の能力を使えるというわけだね。さらに先端から分裂して、高速で迫ってくる。こっちは『天閃の聖剣』か。
三次元的な攻撃をすべて防いでいく。殺気が読みやすいので対処が楽なのだ。
「なんでさ! なんで当たらねぇぇぇ! 無敵の聖剣様なんだろぉぉぉぉぉ!」
どうやら、彼も焦り始めたようだ。
「なら、こいつも追加で行ってみようじゃねぇかぁぁぁぁ!」
聖剣の先端が消えた。『透明の聖剣』の透過能力だろう。だけど、さっきと変わらず殺気が読みやすいのだから、見えなくても関係ない。
透明な刀身と僕の聖魔剣が火花を散らす。僕は彼の攻撃をすべていなした。
「ッ!」
目元を引きつらせ、驚愕するフリード。
「そうだ。そのままにしておけよ」
横殴りにゼノヴィアが乱入してきた。左手に聖剣を持ち、右手を宙に広げる。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
言霊を唱えるゼノヴィア。なにをするつもりだ?
疑問を抱きながらゼノヴィアの方を見ると、彼女の周囲の空間が歪んでいた。そして、彼女はその歪みに手を突っ込み、そこから1本の聖なるオーラを放つ剣を引き出した。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。――デュランダル!」
デュランダル! エクスカリバーに並ぶほど有名な聖剣だ。切れ味だけなら聖剣の中でも最強の剣。なぜ、彼女が?
「デュランダルだと!」
「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」
バルパーだけでなくコカビエルもが驚きを隠せないようだ。
「残念。私はもともと聖剣デュランダルの使い手だ。エクスカリバーは兼任していたにすぎない」
そう言って、彼女はデュランダルとエクスカリバーを構える。聖剣の二刀流だ。
「バカな! 研究はデュランダルを扱える領域まで達していないぞ!?」
「それはそうだ。ヴァチカンでも人工的なデュランダルの使い手はいない」
「では、なぜだ!」
「イリナや現存する人工聖剣使いと違い、私は数少ない天然ものだ」
バルパーは絶句している。ゼノヴィアは真に聖剣に祝福された者だったのか。
「デュランダルは想像を遥かに超える暴君でね。触れたものは何でも切り刻む。私の言うことをろくに聞いてくれないんだ。だから、異空間に閉じ込めておかないと危険極まりなくてね。使い手の私ですら手に余る。さて、フリード・セルゼン。お前のおかげで、エクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。一太刀で死んでくれるなよ?」
好戦的な笑みを浮かべ、デュランダルはエクスカリバー以上の聖なるオーラを帯び始める。僕の聖魔剣をも超えていた。
「そんなのありですかあぁぁぁ!? ここにきてのチョー展開! クソッタレ! そんな設定いらねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
フリードが叫び、ゼノヴィアへと殺気を向ける。ゼノヴィアは無造作にデュランダルを横に薙いだ。
―ガギィィィィィィィィン!
透明になっていた聖剣が砕けて姿を現す。横薙ぎの余波で校庭が抉れていた。
「所詮は折れた聖剣か。デュランダルの相手にもならない」
つまらなそうに嘆息するゼノヴィア。すさまじい破壊力だった。『破壊の聖剣』とは比べ物にならない。
「マジか! マジですか! 伝説のエクスカリバーちゃんが木端微塵かよっ! これは酷すぎる! 折れたものを再利用しようとしたのがいけないんでしょうか!」
殺気の弱まった彼に僕は接近する。対応できていない! チェックメイトだ!
―バギィィィィィィィィン!
彼は聖魔剣をエクスカリバーで受け止めようとしたが、儚い金属音が鳴り響き、エクスカリバーは砕け散った。
「見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」
そのままの勢いで、フリードを斬り払った。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
祐斗の一撃を受けて、フリードは鮮血をしたたらせている。祐斗は目標であったエクスカリバーを超えることができた。しかし、生きる目的を一つ失った。まあ、祐斗ならなんの問題もないだろう
「バ、バカな・・・・・・・・。聖魔剣だと? あり得ない・・・・・・・。相反する力が混じり合うことなどないはずがないのだ・・・・・・・・」
バルパーは表情を強張らせている。忘れるところだったけど、まだ終わったわけじゃない。バルパーを倒さない限り、祐斗のような存在が増えてしまう。
「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう」
祐斗は聖魔剣をバルパーに向けて、斬りかかろうとする。
「・・・・・・・そうか! わかったぞ! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけでなく、神も――――」
バルパーは言葉を途切れさせた。祐斗はまだ斬っていない。バルパーの胸には光の槍が突き刺さっていた。
「バルパー。お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているからだろうな。しかし、お前がいなくても俺は別にいいんだ。最初から一人でやれる」
バルパーの胸には大きな穴が開いている。どう考えても絶命しているだろう。やったのはコカビエルだ。
「ハハハハハハハ! アーッハッハハハハハハハハハハハ!」
哄笑を上げながら、地面に降りたつ。今までに感じたことの名に重圧が僕たちを襲った。
「限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに譲渡しろ」
コカビエルは不敵な笑みを浮かべ、自身に満ちた一言を発した。それに対し、リアス先輩が激昂する。
「私たちにチャンスでも与えるというの!? ふざけないで!」
「ふざけないで? ハハハ、ふざけているのはお前たちの方だ。俺を倒せると思っているのか?」
コカビエルから、さらなる重圧が発せられる。ライザーなんかとは比べ物にならない。
「イッセー。赤龍帝の籠手を」
悔しそうな顔をしたリアス先輩が兄さんに促す。兄さんはそれに応じて赤龍帝の籠手を発動した。
『Boost』
機械的な音声が発せられる。
緊張感漂う中、コカビエルが嘲るように言った。
「しかし仕えるべき主を亡くしてまで、お前達は神の信者と悪魔はよく戦う」
「・・・・・・どういうこと?」
リアスが怪訝そうな口調で訊く。それを聞くと、コカビエルは大笑いしながら話を続けた。
「フハハ、フハハハハハ!そうだったな!お前達下々まで真相は語られていなかった。ついでだ、教えてやるよ。先の三つ巴の戦争で四大魔王だけでなく神も死んだのさ。だから、聖のオーラと魔のオーラが混じったそこの『騎士』のようなことが起こるのだ。当然、神がいないのに神の加護など存在しない。今はミカエルが必死こいて調整しているのさ!」
「・・・・・・・嘘だ・・・・・・・嘘だ」
衝撃の事実をコカビエルが語る。ゼノヴィアさんはショックでうなだれている。
「・・・・・・・主がいないのですか? 主は・・・・・・・死んでいる。なら、私たちに与えられる愛は・・・・・・・」
「そんなものあるわけがないだろう。死んだ者がどうやって加護を与えるというのだ?」
こちらをバカにするようにアーシアさんのつぶやきにコカビエルは答えた。アーシアさんが崩れ落ちる。兄さんが駆け寄っていた。他のみんなも驚愕で声が出ないようだった。
「これで、おしゃべりは終わりだ。あとは力の倍増が終わるまでの生を楽しめ」
コカビエルはそう言って、黙り込んだ。衝撃に事実を告げられたみんなは言葉を出せなかった、
Side out
第14話
Side 渚
誰も一歩も動かず、ただ兄さんの倍増を待つ。コカビエルに隙でもあればよかったのだか、そんなものは見当たらなかった。さすが聖書に記される堕天使だろう。
「―きた!」
赤龍帝の籠手が一層眩い光を発する。倍増の限界に達したようだ。
「で、誰に譲渡する?」
興味津々な様子のコカビエルが訊いてきた。
「部長・・・・・・・」
兄さんがリアス先輩に問いかけた。
「・・・・・・・ナギ、お願いできるかしら?」
「・・・・・・・わかりました」
「ふむ。いささか予想外だな・・・・・・・いくら感じられる魔力が魔王に匹敵すると言っても人間に任せるとはな・・・・・・・」
嘲笑うようにコカビエルが言う。誰も反応を返さなかった。さすがにコカビエルのこの物言いにはカチンとくるものがある。
「兄さん」
「ああ」
兄さんから力を譲渡される。元から、膨大な魔力量が跳ね上がった。今までにない高揚感を感じる。断言できた。コカビエルごときなら負けることはない。
「フハハハハハ! 人間! ただの人間でありながらよくそこまでの魔力を持った! 最早お前の魔力は魔王を凌駕している! たかが人間だと思っていたが、お前は違うようだ! 認識を改めるぞ」
コカビエルの声を聞きながら、ライザー戦の時のように足元に魔方陣を展開。この場に漂う聖なるオーラや魔力をすべてかき集める。そして、コカビエルを見据えた。すると、『すべてを知るもの』による直感が働く。
(これは・・・・・・・)
感じ取った先に視線を少しだけ向ける。強化された視力は上空に白い鎧を纏った何者かをとらえていた。どうやらこちらの様子をうかがっているようだ。少し考えて、牽制程度には攻撃をしておくことにした。
「『神討つ剣狼の銀閃』ッッ!!」
おそらく他の人からしたら“これが牽制?”と思われるであろう魔力砲を撃ちこむ。
「さあ! 俺に・・・・・・・」
僕の攻撃を受け止めるつもりだったらしいコカビエルは、僕の攻撃が見当はずれの方に放たれたのを見送った。リアス先輩たちも何事かと僕も見ている。
「どういう―――」
『Divide』
機械音声がどこからか発せられた。その音声が聞こえると『神討つ剣狼の銀閃』の大きさが半分くらいになってしまった。小さくなった神討つ剣狼の銀閃は真っ白い何かに弾き飛ばされる。
「これは・・・・・・・『白い龍』か」
「その通りだ。コカビエル」
そう言って現れたのは、白い龍を模した鎧を身に纏った青年だった。
「『神滅具』の1つ、『白龍皇の光翼』・・・・・・。鎧ということは『白龍皇の鎧』ということか。『赤龍帝の籠手』同様忌々しい限りだ」
コカビエルは嫌悪感を隠さずにそう言った。兄さんたちは新たな闖入者に警戒していた。
「俺はお前を回収してくるようにアザゼルから言われたんだが・・・・・・・どうやら俺が手を下すまでもなさそうだな」
青年は僕を値踏みするように見ると、満足そうにうなずきながら言った。
「コカビエルごときだったら、キミで十分倒せそうだ。傍観でもさせてもらおう」
「ふんっ! ならそこで見ているがいい! 構えろ人間!」
青年の発現を歯牙にもかけずに、槍を投擲する体制にコカビエルが移行する。
「お互い全力の一撃を撃ち合いましょう。まさか、断りませんよね?」
少し挑発するようにコカビエルに言った。
「ふん。いいだろう。受けて立ってやる。さあ! こい!」
コカビエルが体育館を消し飛ばした時より大きな光の槍を構える。
対する僕は散らばったオーラや魔力、譲渡された力、自身の魔力を一度に放出できる限界量まで高め、圧縮する。ライザー戦の時のおよそ10倍は僕に上乗せされた。それほど以外ではないが、兄さんから譲渡された力がとても大きい。割合的には5割を占めている。これが神滅具の力と言うことだろう。
そして、緊張感が高まる中、僕はその一撃を放った。
「『神討つ剣龍帝の咆哮』ッッ!!!」
聖なるオーラ、各人の魔力が兄さんから譲渡されたオーラによって、全体的に赤みを帯びた虹となる。今の僕が放てる最高の一撃がコカビエルに向かって突き進んだ。
「ハァァァァァァァァァッッ!!!」
コカビエルが巨大な光の槍を投げる。渾身の投擲と言っていい一撃だった。
しかし、槍と魔力砲は数秒間拮抗したように見えたが、『神討つ剣龍の朱閃』によって、コカビエルの光の槍は消し飛ばされる。コカビエルは光の壁を作ったが、即席の壁では持ち堪えられるはずもなく、魔力の嵐に飲み込まれた。
『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide』
「・・・・・・さすがにやり過ぎだろう。これでは連れて帰ることができん」
さっきと同じ機械音声が連続ですると、コカビエルを飲み込んでいた魔力がみるみる小さくなっていく。僕の放った一撃は普段の神討つ剣狼の銀閃以下まで半減させられた。
そしてコカビエルは魔力嵐の中から落下する。受け身を取ることもできないようで、ボロボロの様子で地面に衝突した。
「フフフフフ、お前名前は? 俺はヴァーリ」
「兵藤渚だ」
「覚えておこう。お前の名を」
そう言って、地に降り立ちコカビエルが立っていた辺りに歩いていく。
「いいざまだな、コカビエル。アザゼルに言われたとおりお前を回収するぞ」
コカビエルは全身傷だらけというか、辛うじて原形をとどめていると言っていいだろう。両腕は崩壊し、十枚あった翼も見るのも無残になっている。
ヴァーリと名乗った青年はコカビエルを担ぎ、さらに転がっているフリードも担いだ。そして、光の翼を展開し、空に飛び立とうとする。
『無視か、白いの』
すると、兄さんの『赤龍帝の籠手』の宝玉が光って、そこから初めて聞く声がした。
『起きていたのか、赤いの』
アルビオンの鎧の宝玉も光って声を発した。どうやら、二天龍同士のお話らしい。
『せっかく出会えたのにこの状況ではな』
『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』
『しかし、白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』
『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』
『お互い、戦い以外の興味対象があるということか』
『そう言うことだ。こちらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう? また会おう、ドライグ』
『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』
二龍の会話はこれで終わった。青年が宙に浮かんでいく。
「キミがもっと強くなるのを待っている。俺の宿敵くん」
最後に兄さんに向かって言い放ち、二人を抱え青年は飛び去っていた。
「これで、終わりか」
ボロボロの校庭を見渡した。きっと僕が神討つ剣帝龍の咆哮を地上に向けた撃ったらもっとボロボロになっていたに違いない。まあ、あれは兄さんからの譲渡があって初めてできるような技なので、そうそう使う機会もないだろう。
「やったじゃねぇか、色男! へぇー、それが聖魔剣か。綺麗じゃないか」
緊張が抜けたのか、兄さんは祐斗へと駆け寄って、聖魔剣を見ている。白と黒、反する色が混じってできた剣は確かに美しかった。
「イッセーくん、僕は―――」
「今は言いっこなしだ。いったん終了でいいだろう?」
「・・・・・・・そうだね」
祐斗ももとに戻ったようでよかった。
「祐斗」
リアス先輩が祐斗に声をかける。
「祐斗、よく帰ってきてくれたわね。それに禁手なんて、私も誇れるわ」
「部長・・・・・・・・。僕は改めて誓います。僕、木場祐斗はリアス・グレモリーの眷属『騎士』として、あなたと仲間を終生お守りします」
「うふふ。ありがとう。でも、私のだけ『騎士』は自分で選ぶわ。だから、あなたはみんなを守るのを優先しなさい」
そう言いながら、僕の方を見てくるリアス先輩。祐斗も僕の方を見てきた。何事だろう?
「なるほど、そうでしたか」
祐斗はしたり顔でうなずいている。滅多にしないようなニヤニヤした顔だった。
「そういえば、先にやらなければいけないことがあったわ」
リアス先輩はそう言いながら、手に魔力を纏わせる。
「なんですか?」
疑問符を頭の上に浮かべる祐斗。兄さんが思い出したようにお尻を押さえた。心なしか顔も青い。
「祐斗、勝手なことした罰よ。お尻叩き千回ね」
そうして、すべてが終わった後に魔王様たちが到着した。
到着するまでに、祐斗はお尻を叩かれ、それを見て兄さんは指をさしながら爆笑。
お尻を千回叩かれた後の祐斗の顔は、彼岸へと旅立ちそうな顔をしていた。お尻の激痛は余程のものだったらしい。
Side out
第15話
Side 渚
コカビエルの襲撃事件から数日後。少し気になる出来事が起きた。仮の駒が勝手に排出されたのだ。悪魔の時間間隔は人間とは違うので仮の駒の最大有効期限は10年だ。それを過ぎると、排出されるらしい。しかし、僕はまだ半年もたっていないのに排出された。排出する際には主である悪魔の承認が必要なのだが、そんなものは行っていない。謎の現象だ。
そんなことはさて置き、放課後の部室で、予想外の人物がいた。ちなみに、僕以外の部員は全員そろっている。
「やあ、ご無沙汰しているね」
1人は緑のメッシュを入れた女の子。言わずもがなゼノヴィアさんである。彼女は駒王学園の制服を身に纏っていた。
「ゼノヴィアさんは・・・・・・なぜここに?」
僕が問いかけると彼女は無言で、悪魔の翼を展開した。
「・・・・・・・なるほど」
理由がわかったのでうなずく。どうやらリアス先輩の眷属になったらしい。ゼノヴィアさんは肩をすくめた。
「神がいないと知ったんでね。破れかぶれで悪魔に転生したのさ。リアス・グレモリーから『騎士』の駒をもらってね。デュランダルがすごいだけで私はそこまですごくないらしい。キミとは違い1個の駒の消費で済んだみたいだぞ。そして、この学園に編入させてもらった。今日から高校2年の同級生でオカルト研究部所属だそうだ。よろしくね、渚くん♪」
「・・・・・・・最後はイリナの真似かい?」
キミ本来のキャラとは全然違うぞ。正直、悪いものを食べたとしか思えない。
「そうだが・・・・・・・。赤龍帝にもやってみたが、なかなか上手くかないものだ」
「真顔で言わなければ大丈夫だよ。それと、僕のことは渚、もしくはナギでいい」
「わかった。私のこともゼノヴィアと呼び捨てでいいぞ」
しかし、神が死んだのを知ったからって悪魔に転生するとはね。やけっぱちになったのか。まあ、今まで信じていたものが実はってなったらわからなくもないか。
「まあ、デュランダル使いが眷属にいるのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の二翼が誕生したわね」
リアス先輩は楽しそうに言った。まあ、主がいいと言うんだから、いいのだろう。
伝説の聖剣の使い手が味方なのは心強い。グレモリー眷属が強化されるだろうしね。ただ、悪魔が聖剣を振るうのは違和感を感じなくもないけど。
「そう、私はもう悪魔だ。後戻りはできない。・・・・・・だが、これでよかったのか? しかし、神がいない以上、私の人生は破たんしたわけだし・・・・・・・。だが、元敵に下るというのも・・・・・・うーん・・・・・・もう後戻りはできん。この際神に仕えるために諦めていたことをしよう」
なにやら、頭を抱えてぶつぶつとつぶやき始めてしまった。どうやらゼノヴィアさんもやっちまった感を感じているようだ。
「そう言えば、イリナは?」
兄さんが思い出したように言う。
「イリナは私のエクスカリバーを含めた五本とバルパーの遺体を持って本部に帰ったよ。統合したエクスカリバーは破壊されたが核は残っているからね。奪還任務は無事成功と言うわけだ」
統合された陣のエクスカリバーは祐斗とゼノヴィアによって破壊された。エクスカリバーは核が無事なら、再び錬金術で鍛え上げることができるみたいなので大丈夫らしい。
「エクスカリバーを返しちまっていいのか? そもそも、教会を裏切っていいのかよ?」
そうそう、そこは気になる。
「エクスカリバーは返さないとまずい。あれはデュランダルと違い私以外にも使い手は見繕える。私にはデュランダルがあれば大丈夫だ。裏切ったことについては神の死亡について指摘したら何も言わなくなったよ。教会は異端、異分子をひどく嫌う。たとえ、デュランダルの使い手だろうと捨てるのさ。それこそ、アーシア・アルジェントの時のようにな」
兄さんの質問にゼノヴィアは自嘲しながら答えた。
「イリナは運がいい。怪我をしたために神の不在を知らずに済んだのだからな。私以上に信仰心が強かった彼女だ。神が死んでいることを知れば、精神の均衡はどうなっていたかわからないだろう」
敬虔な信徒にその真相はつらいだろう。自分の信じていたものはすでにいないのだから。
「ただ、私が悪魔になったことをとても残念がっていた。悪魔になった理由は言えないし、何とも言えない別れだったよ」
目を細めてゼノヴィアは言った。そうなると、次に会うときはイリナは敵になるわけか・・・・・・。ゼノヴィアは複雑な心境だろう。
「教会は今回のことで悪魔側に打診してきたわ。『堕天使の動きが不透明で不誠実なため、遺憾ではあるが連絡を取りたい』と。バルパーの件は過去に自分たちが逃がしたことに関して謝罪してきたわ」
遺憾ね。まあ、わからなくもないけど。でも、謝罪があるとは思わなかったな。
言い忘れていたが、破壊された体育館などは、あとから来た魔王様の関係者が直してくれた。たった一晩で修復させる悪魔の技術にびっくりです。
「今回のことは堕天使の総督アザゼルから、神側と悪魔側に真相が伝わってきたわ。この事件はコカビエルの単独行為で、他の幹部たちは知らなかったそうよ。コカビエルは戦争を起こそうとした罪で『地獄の最下層』で永久凍結刑が執行されるわ」
二度と日の光は拝めないわけですね。もう会いたくもないので、好都合だ。
「『白い龍』が、回収して今回の事件は終わったわ」
『白い龍』の単語を聞いた時、兄さんの表情が変わった。『赤い龍』と『白い龍』は戦い合う運命だ。現時点で、彼は『禁手』に至っているが、兄さんはまだ至っていない。圧倒的に兄さんの方が弱いのだ。強敵との避けられない戦いに不安もあるだろう。
「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、アザゼルが会談を開くらしいわ。アザゼルから話があるだとか。そのときにコカビエルのことを謝罪するようね」
顔をしかめるリアス先輩。敵勢力なだけあって、いい感情はないみたいだ。
「私たちもその会場に招待されているわ。事件に関わったから、報告をしないといけないの」
「マジっすか!?」
兄さんが驚く。他のみんなも驚愕の表情を浮かべていた。
「そうだ、ゼノヴィアに聞きたいんだけど、『白い龍』は堕天使側なのか?」
「そうだ。アザゼルは『神滅具』を持つ神器所有者を集めている。何を考えているかはわからないがね。『白い龍』は『神の子を見張る者』の幹部を含めた強者の中で四番目か五番目に強いと聞く。現時点でライバルのキミよりも断然強いだろう」
なるほど、だから彼はコカビエルごときなんて言えたわけだ。しかし、前途多難な兄さんだな。
「・・・・・・そうだな、アーシア・アルジェントに謝ろう。主がいないのならば救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった。殴ってくれてもかまわない」
アーシアさんに向けて、ゼノヴィアが頭を下げた。
「私はそんなことするつもりはありません。私は今の生活に満足しています。悪魔ですけど、大切な人に出会えたのですから。私は本当に幸せなんです」
大切な人の部分で兄さんを見ていたのは、彼女なりのアピールなのだろう。兄さんは気づいてないみたいだけど。
「・・・・・・・ありがとう。しかし、クリスチャンで神の不在を知ったのは私とキミだけか。断罪するなんて言えないな。尊敬されるべき聖剣使いから異端に。私を見る目の変わった彼らのことは忘れられないよ」
ゼノヴィアの表情に影が落ちた気がした。
「それでは、私は失礼する。転校するにあたって、まだまだ知らねばならないことが多いのでな」
扉に向かって、ゼノヴィアが歩き出す。
「あ、あの!」
しかし、アーシアさんが彼女を引きとめた。
「今度の休日、みんなで遊びに行くんです。一緒に行きませんか?」
屈託のない笑顔で言うアーシアさん。ゼノヴィアは驚くように目を見開いた。
「今度機会があればね。今回は興が乗らないかな。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「今度、私に学校を案内してほしい」
「はい!」
二人とも笑顔になっている。友達まであと一歩というところだろう。
「聖剣デュランダルの名にかけて。そちらの聖魔剣使いとナギと戦いたいものだ」
「いいよ。今度は負けない」
「うん。受けて立つよ」
僕と祐斗に投げかけられた言葉に、笑顔で返事をした。
「それと・・・・・・」
何か言いたげなゼノヴィアに僕は首をかしげる。
「ナギ、よかったら私と子供を作らないか?」
その発言に部室の温度が下がった気がした。
突然の言葉に顔が引きつっている僕、祐斗、小猫ちゃん。刺激的な言葉に鼻血を出している兄さん。顔を赤くしているアーシアさん。表情が険しいリアス先輩と朱乃先輩。
後者二人から発せられるオーラが部屋の気温をどんどん下げている。
「神に仕えていた時は女の喜びは捨てたのだが、今は悪魔だ。なので、私はさっき考えて、子供を作ろうと思ったのだ」
うん、なんで僕なのかな?
「そして、子供には強くなって欲しい。そこで適任なのがナギ、キミなんだ。コカビエルを倒した一撃はすばらしかった。だから、協力してくれないかい?」
どう答えたらいいんだろうね、これ? いろいろな段階をすっ飛ばしていることを自覚しているんだろうか?
僕を見つめてくるリアス先輩と朱乃先輩が恐い。返答を間違ったら何をされるかわからなかった。
とりあえず、この後に起こったカオスについてはあえて語らないことにしようと思う。誰も幸せにならないから・・・・・・・・。
Side out
第16話
Side 渚
本日は晴天なり。夏も近づいてきたので日に日に熱くなってきているのがわかる。兄さんとアーシアさんは友達と遊びに行った。祐斗や小猫ちゃんも参加するらしい。朱乃先輩とゼノヴィアは不明だ。
「ナギ、準備はいいかしら?」
「大丈夫です。行きましょう」
コカビエルの一件が終わって、僕の罰である荷物持ちを今日行うのだ。
=移動中=
「はい、そんなわけでやってきました。ショッピングモール!」
「ナギ、どうかしたの?」
「あまり気にしないでください」
ちなみに、今日のリアス先輩はいかにもお嬢様という感じが漂う清楚な白の涼しげなワンピースを着ている。紅い髪とのコントラストが綺麗だ。そんでもって、僕の服装はというと・・・・・・・。
「それにしても、ナギはメイド服が似合うわね」
「うれしくありません」
「すごい! メイドさんがいる!」
「コスプレか? しかし、隣にいる子はお嬢様っぽいから本物か?」
周りの人たちが僕らの方を見てヒソヒソと話しています。もう皆さんわかりますね。正解はメイド服でした。急遽決まった罰ゲームの追加ルールです。対応もそれっぽくしないといけないのです。今日一日、僕はリアス先輩のメイドなのです。まあ、ミニスカートとか肌の露出が多いメイド服ではないのが唯一の救いです。ミニスカメイドだったらどうなっていたことか・・・・・・。
「それじゃあ、行きましょう。ナギ」
「かしこまりました。お嬢様」
一礼してリアス先輩の後に続く。・・・・・・結構恥ずかしいです。僕らが移動するのについてくる人も幾人かいるみたいですしね。さすがに写真を撮ったりする人はいないみたいなので、そこだけは安心です。
「ところでお嬢様、本日は何をお求めでしょうか?」
買い物をするのは聞いていたのだが、何を買うのかは聞いていなかったので質問する。
「今日の目的は水着よ」
その言葉に少しだけ、絶望した。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 朱乃
「見つけましたわ」
イッセーくんからの情報で、ナギくんとリアスが二人で買い物に行くと聞き、ショッピングモールで待ち伏せをする。リアスの髪は目立つのですぐに見つけることができた。リアスは白のワンピース。ナギくんはメイド服だった。
「メイド服のナギくん・・・・・・いいですわ」
リアスを自分に置き換えて、想像する。実にいいですわ!
「おや? こんなところで奇遇だね。副部長」
「あらあら、ゼノヴィアちゃん」
話しかけられたので、振り返る。そこにはゼノヴィアちゃんが買い物袋を持って立っていた。
「副部長も買い物かい? それより、日本のものはいいね。さすがmade in japanだよ」
袋の中から、文房具などをゼノヴィちゃんが取り出す。Made in Chinaのものがあったのにはツッコまないことにしますわ。
「ん? あの紅い髪は・・・・・・・部長か。その隣はナギじゃないか」
どうやら、ゼノヴィアちゃんも二人に気づいたようですね。彼女もナギくんに子作りを迫ったので、ライバルでしょう。
「ふむ・・・・・・・よし、私も追跡に協力しよう」
私がここにいる理由がすぐにばれてしまいましたわ。
「わかりました。リアスの髪が目立つとはいえ、あまり目を離すのも心配ですし、さっそく追いかけましょう」
「了解だ」
こうして、私とゼノヴィアちゃんの追跡劇が始まった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
たくさんの人に見られながら、ようやく水着売り場に辿り着いた。正直、ここで別れて僕は男物の水着を見たい。ああ、ちなみに僕の水着は上半身もないと、プールに入れない。学校からそうお達しが来たのさ・・・・・・・。
「さあ、行くわよ」
「かしこまりました・・・・・・・」
店内に入ると、視線がすべて僕に集中する。メイド服を着ている人なんて、まずいないので物珍しいのだろう。
リアス先輩は、ずんずん進んでいき水着を選んでいく。数多の視線を感じながらリアス先輩を追いかけた。
「あの、お嬢様? なぜ、そんなにたくさん手に取って・・・・・・・? まさか、すべて買うつもりですか?」
「だってどれもよさそうなんですもの」
「確かに、お嬢様は何を着てもお似合いにあると思いますが・・・・・・・」
「そ、そうかしら」
ほんのりとリアス先輩の頬は赤くなっている。我ながら少し恥ずかしいことを言ったな。
「と、とりあえず、試着してくるわね」
赤くなった頬を隠すように。リアス先輩は試着室へ入った。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side ゼノヴィア
「ふと、思ったんだが・・・・・・なぜナギはあんなにメイド服が似合っているのだろうか」
「ナギくんだからじゃないですか?」
ふむ。何となく納得できるのがすごいな。
「それにしても、ナギへの視線の集中はすごいものだ」
「それだけにあっている証拠でしょう。・・・・・・・せっかくですし、私も新しい水着を買おうかしら?」
「言われてみれば、私も学校の指定した水着以外持っていないな。ついでだし、買って行こう」
私たちも水着を買うことが決定した。しかし、勝手がいまいちわからない。どういうものを選べばいいのだ?
「あら、リアスが試着室に向かったわ」
おお、いいタイミングだ。こういうのは人の意見を訊くべきだからな。せっかくなのでナギの意見を聴いてみよう。
「ちょっと、ゼノヴィアちゃん!?」
副部長が声をかけてくるが気にすることはない。偶然を装えばいいのだからな。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
「こんなところで何をしているんだ? それにその格好も・・・・・・」
「ゼノヴィア、それに朱乃先輩」
声をかけられたので、振り返るとそこには見知った二人がいた。
「奇遇ですわね」
「そうですね。それにしても、珍しい組み合わせじゃないですか」
あまり接点があったと思えない二人が一緒にいることに少し驚く。
「なに、偶然ばったりと会ってな。買い物に付き合ってもらっているのさ」
手に提げたバックから、購入したものを見せてくれた。
「待たせたわね――――なんでここにいるのかしら?」
「学校用の水着しか持ってないので、買おうと思ったのさ。そしたら、ナギがいたものでね。副部長は私に付き合ってくれてな」
着替え終わったリアス先輩が試着室のカーテンを開ける。しかし、そこには僕だけでなくゼノヴィアと朱乃先輩もいたので、疑問に感じたようだ。
「そうなの、偶然ね(この二人・・・・・・あとをつけてきたのかしら?)」
「ところで、ナギのその格好はなんだ?」
「先日の事件の罰よ。買い物に付き合わせるだけじゃ、足りないと思って着させたの。それより、どうかしら?」
僕がメイド服の理由を説明しながら、リアス先輩が水着の感想を求めてきた。いつぞやの裸エプロンの感想を求められたときよりは簡単だな。
リアス先輩が着ているのは、切れ込みが鋭いワンピースの水着。色は髪に合わせた紅。太ももがまぶしいです。似合っています。でも・・・・・・・。
「似合ってはいるんですが、あんまりリア―――お嬢様のイメージと合わない気がします」
正直な感想を述べる。名前で呼びそうになったので、修正した。
「そうね。私もそれは感じていたわ。これはやめましょう」
そう言って、リアス先輩は再び試着室に引っ込んだ。てか、自分でもそう思ったのならなぜ着たんですか? う~ん・・・・・・女性というのは謎である。
「あらあら、せっかくですから、私もナギくんに見てもらいましょうかしら」
「賛成だ。ナギ、しっかりと見てくれよ?」
この後、ファッションショーのようになったのは言うまでもないだろう。なぜか三人とも張り合っていた。水着ではなく紐としか思えないもの。隠すべき部分を申し訳程度にしか隠さないマイクロビキニ。その他V字のやつ(スリングショットというらしい)などの刺激の強い水着ばかりが僕に見せられた。
刺激が強いので目をそらすのだが、ちゃんと見て感想を言いなさいと言うありがたい言葉が目をそらすたびに言われた。
役得と言えば役得なのだが、メイド服を着ていることを考えるとちっとも嬉しくない。そもそも、僕が男だと言うことをわかっているのだろうか?
いや、一回試着室に連れ込まれそうになったので、男と見られてないんだな。
ちなみに、三人ともかったのはビキニだった。マイクロビキニを買おうとしていたのは止めましたよ。
リアス先輩は布地の少ない赤いビキニ。朱乃先輩は白いビキニ。ゼノヴィアは青いビキニとパレオを購入していた。やはり、三人ともスタイルがいいので水着が映える。兄さんが前かがみになるのは必須だ。
水着を購入した後は、他のお店を周って何か欲しいものがないか見たりした。僕の持つ荷物がどんどん増えていったのは仕方のないことだろう。
それと店内にいる内はよかったが、外に出ると気温が高くてきつかった。メイド服は熱がこもるので、本職の人は夏場は大変だと実感した。ミニスカートだったらもっとよかったのだろうけど、死んでもミニスカートはお断りだ。
ああ、あと今回の水着のお金は僕が払うことになった。油断してたね。リアス先輩が自分で買うもんだと思ってたら、『ナギ、お会計よろしくね』って言ってくるもんだから。確かに、お嬢様が払うよりメイドが払う方が従者と主の関係だったら間違っていないと思うけど・・・・・・。しかし、布地が少ないのにそれなりに値が張るのは水着の謎だよね。まあ、迷惑かけたお詫びだと思って買いましたよ。メイド服とかよりお財布が軽くなることの方がきつかった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side リアス
「おつかれさま」
「ありがとうございます」
日が暮れてきたところで、本日はお開きとなり、私たちは家に帰った。
ナギとのデートは最初はよかったけど、途中から朱乃とゼノヴィアがきたせいでうやむやのような感じになってしまった。これでは女友達の買い物に男が荷物持ちで参加したようなものだ。
ナギはイッセーと違って性欲が強いわけではないけど、今回の水着の購入で少しは誘惑できたと思うわ。それにこの水着はナギが私に買ってくれた初めてのものだから、うれしくもある。
「ねえ、ナギ?」
「なんですか?」
メイド服を未だに来ているナギがこちらに振り向く。洗濯物を増やすのもなんなのでこのまま着ているらしい。達観した顔でそう言われたので少し罪悪感を感じたわ。
「今日は楽しかったかしら?」
「そうですね。荷物を持つのは少し大変でしたね。でも、割と楽しかったですよ。・・・・・・水着を見るのはかなり気恥ずかしかったりいろいろ思うこともありましたけど」
「ふふ、それがナギの罰よ」
そうですかと、ナギは笑みを浮かべた。あの時と同じ笑顔。
急速に顔が赤くなる。少し、うつむいて顔が赤いのを隠した。
「顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」
そう言いながら、私の前髪を分けてナギの手が私の額に当てられた。熱を測るために近づいているので私とナギの顔の距離は30cmほどしか離れていない。普段の生活ではなかなかここまで近づく機会がないので、より一層顔が赤くなる。
「うーん・・・・・・。少し、熱いかな? よくわからないな・・・・・・」
「ちょっ、な、ナギ・・・・・・?」
ナギが何か言っていたようだけど、緊張で聞いていなかったので急にナギの顔が近づいてくるのに動揺してしまった。
(キ、キスするつもりかしら・・・・・・?)
私は近づいてくる顔を確認すると目を閉じた。まさか、ナギが積極的に行動するなんて思わなかったわ。
―ピト
キスされると思った私の予想とは外れ、ナギの額が私の額に当てられている。目を開けば、すぐそこにナギの顔があった。キスをしようと思えばできる距離だ。
「ナ、ナギ・・・・・・」
「はい? ―――ッ!」
目を閉じていたナギが目を開ける。自分が私とキスできる距離にいることにあわてて離れようとしたが、私はナギを逃がさないように掴む。
「リアス先輩・・・・・・?」
ナギが不思議そうな顔で私を見る。私は意を決してナギに唇を寄せ―――。
「ナギ、ちょっと―――― あら。あらあら、ごめんなさいね。邪魔しちゃったみたいで、私のことは気にしないで続けていいわよ」
―――られなかった。ナギのお母様の登場によって。ナギは飛び退くように私から離れる。
「ち、ちがっ! こ、これはリアス先輩の顔が赤かったから熱を測っていただけなんだ! 母さんは誤解しないようにっ!」
ナギはブンブン手を振る。親に見られたのが恥ずかしかったのか顔を赤くして、この場―――リビングから去って行った。
「リアスちゃんごめんね。邪魔しちゃって。でも、よかったわ。あの子、自分が女顔だからって女の子にあんまり興味ないみたいだったから・・・・・・バレンタインでチョコとかもらっても、義理とか友チョコと思ってたみたいだし」
「そうなんですか・・・・・・。あ、お手伝いなら私がします」
ナギにチョコを渡した子たちに同情した。
「あら、本当? 助かっちゃうわ~。お礼にあの子のことを話してあげるわね。それより、あの子メイド服着ていたわよね? あとで写真撮らなきゃ!」
カメラを片手にナギを追いかけて行ってしまった。お手伝いはどうすればいいのかしら?
仕方がないので、お母様が戻ってくるのを待つ。5分ほど待っているとほくほくした顔のお母様が戻ってきた。
「ああ、いい写真が撮れたわ♪ スカートをたくし上げながら上目遣いでこちらを見てくれている写真が取れなかったのは残念だけど・・・・・・」
最後のつぶやきは、さすがにやり過ぎではと思ったが、ちょっと見てみたいとも思った。
そして私はお手伝いをしながら、ナギのことを教えてもらった。少なくとも、これで他の子よりは一歩リードね。ふふ、絶対にナギは私のものにして見せるわ!
Side out
第1話
Side 渚
もう季節は夏。僕たちの制服も夏服へと移行していた。コカビエルの一件からそれなりに日にちも過ぎて、悪魔稼業は平常運転へと戻っている。
そんな中、堕天使の総督であるアザゼルが兄さんに接触してきていた。
「冗談じゃないわ」
怒りを露わにして、リアス先輩が言う。怒りで体が震えていた。
「確かに悪魔、天使、堕天使の三すくみのトップ会談がこの町で執り行われるとはいえ、堕天使の総督が私の縄張りに侵入して、営業妨害をしていたなんて・・・・・・・・」
原因は先に述べたとおり、アザゼルが自身の身分を隠して兄さんの契約相手として接触してきたこと。最近は兄さんについていく事は無くなったので僕は知らなかった。
「私の下僕に手を出そうだなんて、万死に値するわ! アザゼルは神器に強い興味を持っていると聞くし。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手に興味を持って接触してきたのね。大丈夫よ、私が絶対に守ってあげるわ」
ちょっと過保護じゃないかな? と思う今日この頃。リアス先輩は眷属悪魔を大切にするタイプの上級悪魔だ。自分の所有物を他人に触れられたりするのをひどく嫌うので、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
「やっぱ、俺の神器を狙っているんですかね?」
兄さんが不安そうに口に出す。どんなことをされるか心配なんだろう。
「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。神器所有者を集めていると聞いている。でも、大丈夫だよ」
兄さんの不安を聞いて、祐斗が口を開いた。
「僕が守るからね」
うん。そのセリフは兄さんじゃなくて、女の子に言うセリフだと僕は思うな。兄さんも引いているじゃないか。
「・・・・・・いや、あの、う、うれしいけどさ・・・・・・。男にそんなこと言われても反応に困るっていうか・・・・・・」
「大丈夫。『禁手』となった僕の魔剣創造とイッセーくんの赤龍帝の籠手が合わさればどんな危機でも乗り越えられるような気がするんだ。・・・・・・・前はこんなこと言わなかったんだろうけど、キミと付き合っていると心構えも変わってしまう。でも、それが嫌じゃないんだよ、胸のあたりが熱くなるんだ」
「キ、キモいぞ、お前・・・・・・。ち、近寄るな! ふ、触れるな!」
兄さんがそう言いたくなるのもわかります。他の部員は祐斗のBL的発言に顔を見合わせている。アーシアさんは「あぅぅ、ライバル出現ですか?」なんてつぶやいていた。大丈夫だ、アーシアさん。兄さんにそっちの気はないよ。
「そ、そんな、イッセーくん・・・・・・」
兄さんの発言にあからさまに落ち込む祐斗。余計気持ち悪がられるだけだとなぜ気づかないのだろう。
「それにきっとナギにも接触してくるはずよ」
「僕ですか?」
「ええ、鞘に収まりし魔剣を励起状態とでも言える黄金色の聖約にしたのはナギが初めてのはずよ。興味を持たないはずがないわ」
「部長の言うとおりですわ。でも、安心してください。ナギくんは絶対に守ってあげますから」
「あ、ありがとうございます」
いつの間にか背後に忍び寄っていた朱乃さんが抱きしめてくる。一先ず、抱きついてくるのはいいとして朱乃さんの言ってくれていることはうれしいのだが、普通は男女の役割が逆じゃないだろか?
「ついでにナギくんに言い寄る悪い女の人からも守ってさしあげます」
それはありがたいのだが、なぜリアス先輩の方を見ながら言っているんですか? リアス先輩の額にうっすらと筋が浮かんできているように見えるんですけど・・・・・・。
「なぜ私の方を見て言うのかしら?」
「別に他意はありませんわ」
睨み合いに挟まれて、息苦しい。誰か助けてくれと視線を送るが見事に全員に逸らされた。
「しかし、どうしたものかしら・・・・・・。あちらの動きがわからないと、こちらも動きづらいわ」
こめかみをピクピクさせながらも、話の流れを元に戻すようにリアス先輩が口を開いた。相手は堕天使の総督なので下手に接触することもできないから、考えものだろう。三すくみのバランスを崩すわけにもいかないし。
「アザゼルは昔から、ああいう男だよ。リアス」
突然、知らない声が聞こえた。声のした方に視線を移すと、そこにはリアス先輩と同じ紅い髪の男性がにこやかにほほ笑んでいる。
誰だ? 知らない顔なので対応に困っていると、朱乃先輩たちはその場で跪いた。兄さんとアーシアさんとゼノヴィアも対応に困っている。
「お、お、お、お兄様」
驚愕の声を上げるリアス先輩。そう言えば、リアス先輩のお兄さんは魔王をやっていると聞いたな。・・・・・・・僕もひざまずいた方がいいのだろうか? まあ、ここは跪いた方がいいだろう。それより、婚約の件で何か言われないだろうか?
「先日のコカビエルのようなことはしないよ、アザゼルは。悪戯はするだろうけどね。しかし、予定より早い到着だな」
魔王サーゼクス・ルシファーがそう述べる。後ろにはグレイフィアさんもいた。
兄さんたちも、急いでその場にひざまずく。
「くつろいでくれたまえ。立ってもかまわないよ。今日はプライベートだ」
部員たちにくつろぐように促す。それに従ってみんな立ち上がった。
「やあ、我が妹よ。しかし、この部屋は殺風景だ。年頃の娘が集まるにしても、魔方陣だらけはどうだろうか」
部室を見渡しながら、魔王さんは苦笑した。変な部屋なのは否定できない。
「お兄様、ど、どうしてここへ?」
怪訝そうにリアス先輩が質問する。そうすると、ポケットから一枚のプリントを取り出した。
「何を言っているんだ。授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。ぜひとも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」
そう言えば、授業参観がありましたね。父さんは有給を取って見に来ると言っていたな。
「グレイフィアね? お兄様に伝えたのは」
「学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュールを任されている私のもとへと届きます。無論サーゼクス様の『女王』でもあるので主への報告も致しました」
それを聞くと、リアス先輩は嘆息した。どうやら乗り気ではないらしい。
「報告を受けた私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れて妹の授業参観に参加しに来たかったのだよ。安心しなさい。父上をちゃんと来られる」
「そうではありません! お兄様は魔王なのですよ! 仕事をほっぽりだしてくるなんて! 魔王が一悪魔を特別視されてはいけませんわ!」
「いやいや、これも仕事さ。三すくみの会談をこの学校でやろうと思っていてね。その下見に来たんだよ」
その発言にみんなが驚いた。例外はいない。
「―――っ! ここで? 本当に?」
「ああ。この学園はどうやら何かしらの縁があるようだ。偶然では片づけられない事象が重なっている」
確かに、この学校は普通じゃないので、わからなくもない。
「そう言えば、初対面の子がいたね。初めまして、魔王のサーゼクス・ルシファーだ。リアスの兄でもある」
突然の話題変換についていけなくなりそうだ。
「は、初めまして! 『兵士』の兵藤一誠です!」
「『僧侶』の、あ、アーシア・アルジェントです」
「『騎士』のゼノヴィアだ」
ゼノヴィア以外は緊張した面持ちで自己紹介をした。
「赤龍帝に癒し手、それに聖剣使いか・・・・・・・。妹の眷属は楽しいものが多くていいね。リアスの眷属として、グレモリーを支えてくれ。よろしく頼むよ。それで、そこのキミは?」
「人間の『仮の駒』の兵藤渚です」
一礼して名乗る。
「ふむ。見事な男の娘だな。レーティングゲームの時も画面越しで見ていたが、本物は違うな」
うんうんとうなずく魔王さん。男の娘扱いはもうあきらめることにしました。気にしたらきりがない。それに婚約の件については何も触れてこないようなので安心した。
「さて、自己紹介も終わったところで、聞きたいのだが、こんな時間に空いている宿泊施設はあるかね?」
空いているかもしれないけど、探すのに時間がかかるだろうな。もう深夜だし。
「それなら。うちに来ますか?」
こうして、リアス先輩のお兄さん。魔王サーゼクス・ルシファーが家にやって来ることになった。
Side out
後書き
今年の10月25日に『fortissimo FA//Akkord:nachsten Phase』が発売されるらしい。
早速予約しなければ!
第2話
前書き
この作品を保存していたUSBがお亡くなりになりました。
バックアップを取ったのは約3か月前です。
夏休み中に4巻も終わらせようと思っていたのに・・・・・・・。
Strikはめのまえがまっくらになった・・・・・・。
Side 渚
「なるほど、妹がご迷惑をかけてなくて安心しました」
「そんなお兄さん! リアスさんはとてもいい子ですわよ」
「ええ、リアスさんはナギにはもったいないぐらい素敵なお嬢さんです」
なんぞこれ? 現在うちのリビングで魔王さんと両親が談笑している。魔王さんの隣にはリアス先輩。その後ろにはグレイフィアさんが立っている。
兄さんの「家に来ますか?」の発言に魔王さんは二つ返事で快諾。リアス先輩は必死に抵抗していたが、魔王を止められるはずもなく、こうして家についてしまった。
僕と兄さんとアーシアさんの三人は少し離れたところでそれを見守っていた。ちなみに、魔王さんはサーゼクス・ルシファーでなく、サーゼクス・グレモリーと名乗った。捨てたはずの名前を名乗れたためか、楽しげに見える。
「そちらのメイドさんは―—―」
「ええ、グレイフィアです」
父さんの質問に魔王さんが答える。
「実は私の妻です」
『えええええええええええええええええええええええええッッ!』
リアス先輩以外の全員が驚きの声を上げた。しかし、グレイフィアさんは無表情で魔王さんの頬をつねる。
「メイドのグレイフィアです。我が主がつまらない冗談を口にして申し訳ございません」
「いたひ、いたひよ、ぐれいふぃあ」
静かに起こっているグレイフィアさんとは対照的に涙目で朗らかに笑っている魔王さん。リアス先輩は両手で顔を覆っている。よほど恥ずかしいんだろう。
「それでは、グレモリーさんも授業参観を?」
母さんが頬を赤く染めながら話しかける。イケメンフェイスにやられたようだ。
「仕事が一段落しているので、この機会に妹の学び舎を見つつ、授業の風景も拝見できたらと思いましてね。当日は父も顔を出す予定です」
「まあ、リアスさんのお父さんも」
「ええ、本人はリアスの顔を見たいだけだと思いますけど」
「グレモリーさん! お酒はいけますか? 日本のおいしいお酒があるんですよ」
父さんが秘蔵のお酒をキッチンから持ってくる。
「それは素晴らしい! ぜひともいただきましょう! 日本の酒はいける口なのでね!」
うちの両親に乗り気でフレンドリーに魔王さんは対応していた。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「そんな・・・・・・ナギと寝てはダメなのですか?」
宴の時間も終わり。就寝の時間となった。リアス先輩は僕の部屋の前で悲しそうな顔をして魔王さんに詰め寄っている。冷静に考えると、年頃の男女が一緒に寝ることの方がおかしいと思うのは、僕だけなのだろうか・・・・・・? この前なんて、母さんゴムを渡されましたよ。“妊娠には気をつけなさい”って・・・・・・。
「今夜は彼と少し話しながら床につきたいんだ」
前までは何日かに一回だったのが最近ではほぼ毎日僕のベッドに潜り込んでリアス先輩は一緒に寝ているのだ。
「一人で寝れる? 私が隣にいなくても平気? 私は平気じゃないわ。あなたが隣にないというだけで・・・・・・・」
明らかに依存されてます。リアス先輩はグレイフィアさんに手を引かれて自分の部屋に行った。
「さて、中に入ろうか」
「ええ」
二人だけになると、何を話せばいいのかわからなくなる。特に会話もなくお互いに寝る準備を進めた。
「あの・・・・・・」
電気も消して、横になる。さすがに無言でいるのがつらくなってきたので話しかけることにした。
「なんだい?」
「そのですね・・・・・・。婚約のことで怒っていませんか?」
「なんでそう思うんだい?」
「ライザー・フェニックスは公式戦実質負けなし。フェニックスの特徴である高い不死性があるのでまず負けることはない悪魔です。そんな悪魔とレーティングゲームで結婚を決めようとしていたのですから、出来レースに近かったのではないかと」
「ふむ。確かに出来レースの部分があったことは否定しない。だが、魔王としてではなくリアスの兄として言わせてもらえば、キミがライザーを倒してくれてよかったと思う。おそらく父もそうだろう。妹の幸せを願わない兄がいないように、娘の幸せを願わない父もいないのさ。あの婚約はもともと強引に進めていたところがあってね。リアスには申し訳なく思っていたんだ。そもそも、リアスが絶対に当主を継がなければいけないわけではない。私の息子が継いでも問題はないんだ」
僕の言葉を聴いて、魔王さんが答えてくれた。というか、あなた息子さんがいたんですか・・・・・・。悪魔は長命だから、見た目が当てにならないな。
「でも、婚約が破棄されたことでフェニックス家とグレモリー家の名に傷がついたんじゃありませんか?」
「気にすることはない。フェニックス家の方もあの婚約は急ぎすぎたと納得している。家名に傷がついたのは確かだが、あの程度のことを気にするほどフェニックス家もグレモリー家も狭量じゃない」
その言葉に一安心した。逆恨み的なことで攻撃でもされるのは嫌だったからだ。
「それと、キミの身柄は私が保証するから心配しなくていい。人間でありながら私たち魔王に匹敵するほどの魔力を持つキミを手放す理由はない。(悪魔全体のためにもキミの力は放っておくことはできないからね)私以外の魔王もキミに興味を持っていることだし・・・・・・。それに、妹がキミのことを大切にしているのもある。あんなに楽しそうなリアスは冥界でもめったに見れなかったからね。毎日が楽しいのだろう。私はキミのおかげだと思っている」
魔王さんはシスコンなんだろう。とてもリアス先輩のことを大事にしているのがわかった。
「兵藤渚くん。妹をこれからも頼むよ」
「もちろんです。約束しましたから」
魔王さんはそうかと言って、小さく笑った。
「ありがとう。・・・・・・そうだ、キミのことをリアスと同じようにナギくんと呼んでもいいかな?」
「構いませんよ」
「ありがとう。では、ナギくん、私のことも名前で呼んでくれないかな?」
魔王を人間が名前で呼んでもいいのだろうかという考えが頭をよぎるが、本人がいいと言っているのだから構わないのだろう。
「ああ、お義兄さんでもいいからね」
「ハハハ、お義兄さんですか? それは万が一、僕がリアス先輩と結婚したら呼ばせてもらいますよ。今はサーゼクスさんでお願いします」
「そうか。お義兄さんと呼ばれてみたかったのだがね。まあ、今はこれでいいだろう(ふむ・・・・・・。どうやら、リアスの気持ちには気づいてないようだな。しかし、脈がないというわけではないようだ。それにライバルも多そうだしね。ぜひともリアスにはがんばってもらいたいな。よし、私もサポートしようではないか)」
なにやら、考え中のようだ。魔王という役職なのでいろいろ考えることがあるのだろう。
「時にナギくん。キミはどんな女性が好みなんだい?」
「女性の好みですか?」
急な話題変換に疑問符を浮かべる。
「その通りだ。胸が大きいとかあるだろう」
「そうですね。でも、僕って女の子みたいな容姿じゃないですか。この容姿だと好きになってくれるような女の子がいるとは思えないんですけど」
「そこはひとまず置いておくんだ。ありきたりな言葉だが、人は見た目ではない」
「わかりました。そうですね・・・・・・・」
考えたことのないことなので、少し時間がかかるな。そもそもこの体は性欲が薄いのだ。あまりそういう目で女性を見ることはない。
「うーん・・・・・・・そうですね。きっと好きになった人が僕の好みなんだと思います」
あんまり意味のない答えしか出なかった。
「それでは、よくわからないな・・・・・・・」
「すみません。でも、そう言うことはあまり考えたことがないんで」
「そうか・・・・・・。ありがとう(リアスには女を磨くように言うしかないな)」
「いえ、ちゃんと受け答えられなくてすみません」
「ああ、気にしなくてもいいよ。何となく聞いてみたくなっただけだからね」
サーゼクスさんがなんでそんなことを聞いてきたのか考えるが、理由がわかることはなかった。
「そうだ、一つ訊きたいんですけど・・・・・・」
「何かな?」
「この前、仮の駒が勝手に排出されたんですけど、原因ってわかりますか?」
僕がそう言うと、サーゼクスさんはやれやれといった表情になる。
「おそらくそれは、アジュカが何か細工したんだろう。キミに害になることじゃないから気にしなくてもいいはずだ。まあ、念のため、彼に私の方から聞いてみよう」
「ありがとうございます」
「なに、気にすることはない。そろそろ、いい時間だね。おやすみ、ナギくん」
「あっ、はい。おやすみなさい」
サーゼクスさんはもう寝るようだ。明日も学校があることだし、僕も寝ることにしよう。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side リアス
グレイフィアに手を引かれて、自分の部屋に連れて行かれる。お兄様に言ったことを思い返して、自分がナギにとても依存していることを自覚した。少し前の自分では考えられないだろう。
「あ、あの・・・・・・部長さん・・・・・・」
私の部屋の前にアーシアが立っていた。
「どうかしたの?」
「その相談したいことが・・・・・・・」
私はグレイフィアをチラッと見る。グレイフィアは「構いません」という顔でうなずいた。
「わかったわ。入りなさい」
「はい」
アーシアが私に相談事ね・・・・・・・。十中八九、イッセーのことね。そんなことを考えながら、自分の部屋に入る。
私はベッドに腰を掛け、アーシアはソファーに座る。グレイフィアは立ったままだ。
「それで、私に相談したいことってなにかしら?」
「は、はい。あのグレイフィアさんにもお聞きしたいんですが、その・・・・・・」
「私にでしょうか? 私に答えられることならお答えしますが」
グレイフィアがアーシアに言う。
「ありがとうございます」
ぺこりとアーシアが頭を下げた。
「それでですね、相談したいことというのは・・・・・・・え、えっと・・・ど、どうやったら胸が大きくなりますか?」
私はグレイフィアと顔を合わせる。私の胸は特に大きくしようとなにかしたわけではないので答えられないわね。どうやら、グレイフィアもそうだったみたいだし・・・・・・。
「うーん・・・・・・そうね・・・・・・・」
すごい期待した目でアーシアが見てくる。
「胸を大きくする体操があると聞いたことがあります。それを試してみたらいかかでしょうか?」
「そ、そんな体操が! ぜひ教えてくださいっ!!」
キラキラした目で声を上げ、グレイフィアに詰め寄る。
「アーシア、声を抑えなさい。それと、少し落ち着いて」
「あぅ、すみません」
アーシアをたしなめる。素直に聞いてくれたのでよかった。
「それで、その体操はどういうふうにやるのでしょうか?」
「申し訳ございません。私も詳しく知らないのです」
「あぅぅぅ、そうなんですか・・・・・・」
目に見えて落ち込んでいくアーシア。
「パソコンで調べたらどうかしら?」
私は立ち上がってパソコンに向かう。すぐに起動してインターネットに繋ぎ検索する。
「ど、どうですか?」
表示された検索結果を見る。かなりの数が表示された。
「かなり数があって、どれがいいのかわからないわね」
とりあえず、一番上のものをクリックしてサイトを見る。
「そうですか・・・・・・ありがとうございます。いろいろ試してみることにしますね」
アーシアはそれを横から覗き込み、そう言った。
この時、アーシアの胸を大きくするための挑戦が始まることになった。
(こんなに思われているなんて、男冥利に尽きるわね。イッセー)
そんなことを思いながら、たどたどしい手つきでパソコンを使っているアーシアを見守った。そしてふと思う。
(もしアーシアとイッセーが結婚して、私がナギと結婚したらアーシアはお義姉さんになるのよね? なんか変な感じだわ)
不確かな未来のことを思い浮かべながら、夜は更けていった。
Side out
後書き
さて、USBがお亡くなりになったのは残念極まりないのですが、とりあえずアットノベルスに投稿されている分は何とかなりそうです。それ以降のちまちま書いていたものは不明。オンラインストレージやもう一台のPCにバックアップがないか探してみます。
第3話
Side 渚
サーゼクスさんの来日から数日がたった。
サーゼクスさんとグレイフィアさんは泊まった次の日に家から出立していた。
なにやら、町の下見をしているようだったけど、観光しているようにしか見えなかったな。まあ、何かしら考えがあるのだろう。
「行ってきます」
そんなことを考えながら、四人で休日出勤だ。理由は後程説明しよう。
「兄さん、よだれが垂れているよ」
「おおっと!」
兄さんが手でよだれを拭う。下品な笑みを浮かべていた。その横には少し不満そうなアーシアちゃん。きっと自分だけを見てほしいのだろう。
「おはよう」
学校に向かう途中でゼノヴィアが合流した。彼女は近所のマンションに一人暮らしをしている。まあ、そのマンションも悪魔の息がかかっているところみたいだけどね。
「アーシア、例の宿題は済ませたか?」
「はい。ゼノヴィアさんは?」
「私は日本語でわからないところがあってね。教えてくれないかな?」
クラスは違うが、出る宿題はほぼ一緒なのでゼノヴィアはアーシアさんに聞くことが多い。
「任せてください! ・・・・・・・でも漢字はちょっと」
「私もだ。日本人はこんな複雑な文字を覚えていくのだから恐ろしい。さすがは経済大国だ」
最初の出会いはよくなかったが、今はこうして仲がいい。休み時間も兄さんのクラスに行ったりすることもある。男子の中でも「静のアーシア」、「動のゼノヴィア」とこの二人を称していた。
そしてその二人は、祈りのダメージを受けている。これも何回か繰り返し見ている光景だ。
「何やってんの、キミたちは・・・・・・」
兄さんがこう言うのも何回目だろうか。リアス先輩もくすくすと笑っている。
「さて、今日は私たち限定のプール開きよ!」
休日出勤のわけはこれでした。一番最初にプールを使う条件にオカルト研究部で掃除をしたのだ。祐斗は用事があるので不参加らしい。
それにしても、兄さんのにやけ顔がひどい。オカルト研究部の女子はみんなかわいいので妄想が膨らむのだろう。アーシアさんはそんな兄さんに少し不満そうだった。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「ナギ、あなたが選んでくれた水着よ」
リアス先輩が水着を披露してくれた。先日の買い物で買った、布地の少ない紅いビキニ。前に見た時も思ったが、胸が零れ落ちそうだ。脚線美も綺麗で兄さんが鼻血を出している。
「あらあら、部長ったら、張り切ってますわね。ナギくん私の水着もどうですか?」
白いビキニで登場したのは朱乃先輩だ。こちらも布地が少なく扇情的だ。兄さんは前かがみになっている。僕は、大丈夫だ。兄さんほど盛っていないからね。
「イッセーさん、わ、私も着替えてきました」
アーシアさんがもじもじしながら立っている。学校指定のスクール水着だ。胸になぜかひらがなで「あーしあ」と書かれている。マニアックだ。
「お兄さんは感動だ! 似合っているよ!」
スクール水着でそれを言われてうれしいのだろうか?
「そう言ってもらえるとうれしいです。小猫ちゃんも同じ水着なんですよ」
うれしいようですね。小猫ちゃんも胸にひらがなで「こねこ」と書かれている。リアス先輩や朱乃先輩のような色気はないが、愛くるしさがすさまじい。兄さんも同じようだ
「・・・・・・卑猥な目で見られないのはそれはそれで複雑です」
なにやら、ぼそっとつぶやいた小猫ちゃん。はて? どうかしたんだろうか? ちなみに僕の水着は黒のぴったりフィットするスパッツのような肩口がなく、首元があるタイプで、お腹の上までの長さの上の水着と、ハーフパンツぐらいの長さのスパッツタイプの水着だ。着替えはもちろん僕専用の更衣室でした。なぜ、上があると言うツッコみはもうしない。するだけ無駄なのだ。
リアス先輩はそんな小猫ちゃんの肩に手を置き、ニッコリわらながら言った。
「それでね、悪いのだけど」
「「はい?」」
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「いち、に、いち、に」
小猫ちゃんの手を引いて、バタ足の練習に付き合う。
小猫ちゃんは泳げないらしいので、僕か兄さんに練習を手伝ってもらいたかったらしい。そして、練習に付き合うのは運動神経のいい僕になった。
小猫ちゃんは時折、息継ぎのために顔を上げながら、懸命にバタ足をしている。横目で見ると兄さんはアーシアさんの泳ぎの練習をしている。アーシアさんも泳げなかったらしい。
「ぷはー。・・・・・・付き合わせてしまったごめんなさい」
小猫ちゃんが申し訳なさそうに、僕に謝ってきた。
「別にかまわないよ。人にものを教えるのもなかなか楽しいしね」
そう言いながら、手を引いていくと端についた。勢い余って、僕にぶつかり抱き着いたような姿勢になる。
「ナギ先輩は優しいですよね」
抱き着いたような姿勢のまま小猫ちゃんが言う。少し、顔が赤かった。
「そうかな?」
「・・・・・・・はい」
この後も小猫ちゃんの泳ぎの練習は続いた。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「ふぅ・・・・・・」
小猫ちゃんの泳ぎの練習も一段落して、プールサイドで休む。小猫ちゃんは持ってきていた本を日陰で呼んでいた。
アーシアさんと兄さんも疲れたのか休んでいた。敷かれているビニールシートの上で横になっている。
(さて、これからどうしようかな・・・・・・・。体力的にも十分あるので、何回か泳ごう)
そう思って立ち上がろうとすると、赤いコウモリが僕の周りを飛んでいることに気がついた。リアス先輩の使い魔だ。
何かあったのかと顔をリアス先輩たちのいる方に向けると、手におそらく日焼け止めのクリームを持って手招きしていた。
立ち上がって、リアス先輩の前に移動する。
「クリームを塗ればいいんですか?」
「ええ、お願いしてもいいかしら? 悪魔は日焼けはしないけど日光は天敵なのよ」
手に持っている小瓶を僕に渡してきた。ちなみに、僕はもう塗っている。母さんが「渚は肌を焼いちゃいけません!」と言ってくるからだ。
「美容の特製オイルよ。背中塗ってくれるかしら?」
「了解です」
蓋を取りはずし、手の平に適量を垂らす。そして、手の平で少し温める。母さんに塗った時の経験がこんなところで活きるとは思わなかった。
「では、さっそく準備しましょうか」
リアス先輩は背中に手を回し、ビキニのブラの部分を外した。当然押させるものがなくなった胸は、零れ落ちるようにその姿をさらす。
「ちょ、ちょっと! なんで僕の目の前で脱ぐんですか!?」
そんなこと言いながらも、ばっちり胸を見てしまうのは男の性ゆえか・・・・・・・。普通うつ伏せになってから外すものだろう。
「ナギだからよ」
よくわからない返答をされた。
「さあ、お願いね」
順序が逆だが、リアス先輩は長い髪の毛をどかしてうつ伏せになる。胸がつぶれて横にはみ出ているのがすごい。
そればかり見ていると理性がどうにかなりそうだったので、塗ることに集中することにした。
塗っているとわかるが、スベスベの肌だ。触っていて飽きがこない。そんなことを考えながらむらの無いように満遍なく塗っていく。
「塗り終わりましたよ」
もう少し触っていたかったような気がするが、無事に背中にオイルを塗り終えた。
「ありがとう。ところでナギ・・・・・・」
「なんですか?」
「胸にもオイルを塗ってくれないかしら?」
思考が停止しそうになるが、気力を振り絞って何とか持ちこたえた。
「ま、前は自分で塗れますよね!?」
「ええ、でもナギに塗ってもらいたい気分なの」
(どんな気分ですか、それ!?)
心の中で叫んだ。このままだと、リアス先輩の胸にも塗る羽目になりそうだ。僕だって男なので嫌ってわけじゃないが、恥ずかしいというか複雑である。
「あらあら、部長だけずるいですわ。ナギくん、私にも塗ってくださる?」
突然背中に重みを感じたので、首をまわして確認すると、朱乃先輩が僕に抱き着いてきていた。
当然、僕の背中にダイレクトに胸の感触が伝わってくる。そう、ダイレクトなのだ。布地の感触がしない。他にも足を絡めるようにしてくるので顔が赤くなっていく。
「ちょっと、朱乃。まだ塗り終わってないのよ? それにそんなにくっつかないで!」
不機嫌そうにリアス先輩が上半身を起こす。再びリアス先輩の胸とご対面だ。丸見えですよ! 隠してください!
朱乃先輩はそんなリアス先輩に対抗するように、一層僕にくっつき、頬と頬とスリスリとする。
「ねえ、ナギくん。リアスが怖いですわ」
僕の耳を甘噛みしながら言っても説得力がないと思います。噛まれるたびに理性が削られていく。息子が目覚め始めていた。
「リアス、ナギくんに最初に目を付けたのは私なのよ? それをあとから掻っ攫うのはどうかしら?」
「こういうのは早い者勝ちのなのよ。いくら先に目を付けたからって絶対に譲らないわ!」
二人で言い争いを始めてしまった。僕は何とか理性を持ちなおそうと心頭を滅却する。二人の会話など耳に入っていなかった。
「ところでナギくん」
滅却しようとしたら、話しかけられた。失敗してしまう。
「いつもリアスと寝ているのよね?」
「ええ・・・・・・そうですが」
何が言いたいんだろう?
「じゃあ、エッチなことはもうしたの?」
「そ、そんなことするわけないじゃないですか!」
なんてことを聞くんだ! でも少し落ち着いてきた。理性のライフも少し回復したきがする。
「あらあら、それじゃあナギくんは悶々として溜まるばかりですか・・・・・・。良かったら私が吐き出させてあげましょうか?」
せっかく回復した理性が再びダメージを負った。確かに、兄さんほど盛んではないし性欲薄いわけだが性欲が存在しないわけではないのだ。
「大きくなったナギくんのを乱暴に私に突き込むんです。雄の本能のままに・・・・・・」
手で僕の体をまさぐりながら、耳元でささやいていく。思わずのどが鳴った。その場面を想像してしまい、息が荒くなるのを感じる。
―ヒュッ! ボンッ!
僕の横を紅い魔力が通り過ぎた。後ろで破砕音がし、見てみると飛び込み台の一つが消滅している。水をかけられたように一気に熱が冷めた。
「朱乃・・・・・・・ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら? あなた、私の下僕で眷属だということを忘れていない?」
ドスの効いた声でリアス先輩が言う。
「私は引かないわよ? リアスには渡しませんわ」
朱乃先輩が僕から離れる。リアス先輩は紅いオーラを、朱乃先輩は金色のオーラを発している。ただ、二人とも胸が丸出しなので締まらない。
「ナギはあげないわ。いやしい雷の巫女さん」
「それはこっちのセリフだわ。紅髪の処女姫さま」
「あなただって、処女じゃないの!」
「何回もチャンスを逃しているリアスよりましですわ!」
破壊音が巻き起こり、喧嘩のレベルを超えた争いが始まる。空中を飛び交い魔力を放ちあう。リアス先輩は水着の上をつけていないので
みんなも何事かとこちらを見ていた。リアス先輩は水着の上をつけていないので、兄さんが鼻血を出して、アーシアさんに抓られている。その光景は父さんと母さんを幻視させた。
―バゴッ!
僕のすぐ近くに魔力が飛んできて、プールサイドを抉った。
止めたいけど、僕が止めたらややこしいことになりそうな気がビンビンするので、心の中で謝罪しながら比較的安全そうなプール用具室に逃げ込んだ。
Side out
後書き
ずいぶん久しぶりの更新。USBが壊れてモチベーションが上がらなかったせいです。
ですが、大分モチベーションも戻ったのでこれからはちまちま更新していきます。
第4話
Side 渚
「あ、危なかったな・・・・・・・」
自身すぐ側をよぎる消滅の魔力と雷を避けて辿り着いた用具室で安堵する。
二人の会話から、もしかして二人は僕のことが好きなのだろうかと考えるが、その考えはすぐに否定した。さすがにそこまで自意識過剰ではない。
―ガサ
奥から物音が聞こえたので、振り向く。
「おや、ナギじゃないか。どうかしたのかな? 外が騒がしいようだが?」
「今は外に出ない方がいいよ。ところでゼノヴィアはこんなところでなにを?」
「水着というものにあまり着慣れてないのでな。時間がかかったのだ。似合うかな?」
この前の買い物の時に買った水着だ。パレオのアクセントがいい感じにゼノヴィアに似合っている。それはいいのだが、更衣室はあるのになぜ用具室にいるのだろう? まあ、深く考えなくてもいいか。
「うん。似合っているよ。綺麗だ」
「そ、そうか。こういうもの自体に私は興味がなかったから、新鮮だな。他の修道女はその手のものに手を出せなくて不満を漏らしていたがね」
確かに興味あるようにはゼノヴィアの性格的に見えないな。
「そう言えば、今二人きりだな」
「ああ・・・・・・・そうだね」
確かに僕とゼノヴィアの二人きりだが突然何を言い出すんだ?
「それはちょうどいいな」
質問の意図が読めない。自己完結しないで教えてくれないかな?
「良しっ! ナギ、子作りをしよう」
気合十分といった様子でゼノヴィアは言った。一瞬耳がおかしくなったかと思った。
「前にも言ったが、教会にいたころは貞操観念が高くてできなかったことをしたい。そして、私は子供を産んでみたいんだ」
しかも、さっきのことのせいで、理性は未だに全快ではない。これはピンチなのか?
「私じゃ不服かい? 確かに部長や副部長には及ばないが、女性としての身体の自身はそれなりにある。揉みごたえもあると思うのだが・・・・・・・」
僕が黙っていることにゼノヴィアは自分の体に魅力がないと思ったのか、自分の胸をもみしだく。ゼノヴィアの指の動きに従って胸の形はどんどん変わっていった。形を変えていく胸に否応なく視線が引き寄せられる。
「どうやら、興味を持ってくれたようだな」
視線に気づいたゼノヴィアがにやりと笑う。僕はあわてて視線を逸らした。
「それは・・・・・・・僕だって男だし興味がないわけじゃない」
「ナギ、私は生まれてくる子供には強くなって欲しいんだ。父親の遺伝子に特殊な力、もしくは強さを望む。イッセーも考えたが、アーシアから取るのは忍びない。ナギが1番適任なんだ。ここにはいま私たち以外に誰もいない。さっそく試そう。何事も早め早めがいい」
ゼノヴィアはそう言うと、僕の目の前で上の水着を脱ぎ、床に落とす。ふとリアス先輩の婚約騒ぎの時にも似たようなことがあったなと思い出す。
「悪魔の出生も知っている。なかなか子供ができないそうだ。しかも純潔同士はさらに難しいらしい。しかし、私は悪魔だがキミは人間だ。毎日していけば十年以内に妊娠することは容易いだろう。いや、まだナギは若いし、一日に数回も可能だろう。そう考えると五年以内も可能か? ああ、そうだ。子供の方は心配しなくていい。基本的に私が育てるし、教会でもらったお金もそれなりにある。ただ、子供が父親の愛を望んだら、そのときは遊んであげてほしい」
いや、僕はそこまで無責任になれそうにない。生ませるだけ生ませてあとはほぼ放置とか無理だ。
「ナギ、抱いてくれ。私は処女だから、過程さえちゃんとしてくれれば好きにしてくれて構わない」
ゼノヴィアが抱き着いてくる。ダイレクトに胸の感触が肌に伝わり鼓動が早くなる。
このまま、押し倒しても・・・・・・と一瞬考えたが、僕はゆっくりとゼノヴィアの引き離した。
「・・・・・・そうか。わたしでは・・・・・・ダメか」
「いや、そう言う行為は恋人とか愛し合っている者同士がするべきだと思うんだ」
落ち込んだ様子のゼノヴィアに僕はそう言った。
「愛し合っている者同士。ふむ・・・・・・難しいものなのだな」
「そうかな? ・・・・・・いや、そうだね。難しいよ。正直、僕もいまいちわからない」
僕の身の回りにいるリアス先輩達が綺麗で魅力的な女の子だと言うことはわかる。でも、恋と云うのがいまいちわからなかった。前世でも恋愛など幼稚園の時の黒歴史ぐらいしか思いつかない。
「なら、わからない者同士一緒に学んでいくのはどうだ? 手始めにもう一回抱きついてみるとしよう」
「おおっ!」
先ほどと同様にゼノヴィアが僕の胸にダイブしてくる。
「ドキドキしてるな」
「そりゃ・・・・・・裸の女の子に抱きつかれたらドキドキもするよ」
「ふふ・・・・・・私も心臓がバクバクいっているようだ」
―ガチャ
ゼノヴィアがそう言った瞬間に用具室の扉が開く。
「・・・・・・何をしているのかしら? 二人とも?」
怒りに震えるその声に振り返ると、紅い魔力を纏うリアス先輩が立ち尽くしている。
「あらあら、ゼノヴィアちゃんったらずるいわ。ナギくんの貞操は私がもらう予定なんですよ?」
いつものニコニコ顔だが、目が一切笑っていない朱乃先輩。一瞬、死の恐怖を感じた。
「はわわ・・・・・・刺激的ですぅ・・・・・・」
アーシアさんはチラチラとこちらを見ている。兄さんに目潰しをしているのはご愛嬌だろう。兄さんが「目がぁ~、目がぁ~!」と叫びながらプールサイドを転げまわっていた。アーシアさんがなかなかアグレッシブだ。
「・・・・・・意外です。そして不潔です・・・・・・」
心なしか小猫ちゃんの半眼がきつい。失望しましたと言わんばかりだ。
「見られてしまったな、ナギ」
ゼノヴィア、この状況をわかっているのか? 上半身裸のゼノヴィアと僕が抱き合っているという状況でその台詞は誤解されかねないぞ!
「ナギ、何をしていたのか詳しく教えてくれないかしら?」
「私も知りたいですわ」
リアス先輩と朱乃先輩に腕をつかまれる。そして、プールの方に引きずられていった。腕をつかむ力が強くて痛い。
「リアス先輩! 誤解です!」
身の危険を感じて何とか弁明の機会を得ようと口をまわす。
「誤解?」
「ええ。そうです!」
「あの光景を見て、何を誤解すると言うのかしら?」
「その通りですわ」
助かる確率はほぼ0%のようだ。
「・・・・・・連行です」
突然浮遊感を感じたので、足の方を見ると小猫ちゃんが持ち前の怪力で僕の足を持っている。
「ふむ・・・・・・・。もう少し詳しく知りたかったのだが・・・・・・・。わかっていたことだが、部長や副部長に勝たねばいけないのか。至難の業だね。しかし、ライバルが多いと燃えるものもある」
闘志を燃やしてないで、助けてくれないかな! ていうか、なんで僕だけ連行されるの!? ゼノヴィアは!?
「ナギ、また次の機会によろしく頼む!」
新たな火種を入れるゼノヴィア。もう諦めようかな・・・・・・・。
Side out
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Side 一誠
渚は刺激的なプールの時間だったようで、羨ましかった。しかし、あのお仕置きのことを考えるとそうは思えない。トラウマものだろう。俺はアーシアに目潰しをされたので全く見えなかった。最近のアーシアはだんだん母さんに似てきた気がするのは気のせいだと思いたい。
そして俺は気の向くままに校庭の方へ歩いている。悪魔になってから女の子との縁が増えたけど、前みたいにハーレムを作ろうという気があまりわかなくなった気がするな・・・・・・。
そんな時、校舎を出ようとした俺の視界に銀が映り込む。校門のところだ。
「・・・・・・・・・・」
一瞬、絵画の一場面かと錯覚してしまいそうだった。すごい美少年が校舎を見上げている。渚は美少年すぎて美少女に見えるが、彼はちょうどいい塩梅だ。
そんな彼の校舎を見上げるという行為が、幻想的に見える。彼も俺に気づいたのかこちらに視線が移った。
引き込まれそうな蒼い目の彼は、微笑んで俺に話しかけてくる。
「やあ、いい学校だね」
「えっと・・・・・・まあね」
笑顔を作ってできるだけ爽やかに答えた。留学生なのだろうか? だったら学校の印象を悪くするわけにはいかない。
質問されたらなんて答えようと考えていると、彼は予想外の一言を漏らした。
「俺はヴァーリ。白龍皇・・・・・・『白い龍』だ」
? こいつはなにを言っている・・・・・・。
「ここで会うのは二度目か、『赤い龍』・・・・・赤龍帝。兵藤一誠」
左腕が燃えるような感覚がこいつの言っていることが嘘じゃないと教えてくれる。
とんでもなくまずい! こんなところで戦ったら周りの被害がとんでもないことになる。それに『禁手』に至っていない俺じゃ、勝ち目などない。
身構える俺に『白い龍』は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。例えば俺がここで兵藤一誠に魔術的なものをかけたり―――」
『白い龍』の手が俺に迫った時―――
―チャキ
三本の剣が『白い龍』のもとに突き付けられた。
瞬時に現れたのは木場とゼノヴィア、そして渚だった。聖魔剣と聖剣デュランダルと『鞘に収まりし魔剣』を『白い龍』に向けている。
「何をするつもりかわからないけど、冗談が過ぎるんじゃないかな?」
「ここで赤龍帝との戦いを始めさせるわけにはいかないかな、白龍皇」
「兄さんと戦うなら僕も相手になる」
木場とゼノヴィアはドスの効いた声だ。渚は静かな声で剣を突きつけている。しかし、そいつは少しも動じていなかった。
「やめておいたほうがいい。・・・・・・兵藤渚以外、手が震えているじゃないか」
『白い龍』の言うように、木場とゼノヴィアの手は震えていた。渚の手は微塵も震えていない。
「誇っていい。相手との実力差がわかるのは、強い証拠だ。コカビエルごときに勝てなかったキミたちでは俺には勝てない。兵藤渚は別だが・・・・・・それでも俺には勝てない」
渚がいたおかげで勝てたコカビエル。あの一戦のことを思い出すと冷汗がでてくる。そんなコカビエルを「ごとき」と言ってのけるこいつはどれだけの力を持っているのだろう。
「この世界には強い者が多い。『紅髪の魔王』と呼ばれるサーゼクス・ルシファーですらトップ10内には入らない」
あの魔王ですらトップ10に入らないということに驚く。正直想像できない。そして『白い龍』が指を一本立てた。
「だが、不動の一位は決まっている」
「誰のことだ? まさか自分とでもいうつもりか?」
俺の問いかけに奴は肩をすくめた。
「俺じゃない。誰かはいずれわかることだ。兵藤一誠は貴重な存在だ。十分に育てることを勧めるよ、リアス・グレモリー」
『白い龍』が視線を後方に向ける。そこには部長が立っていた。表情はとても不機嫌そうだ。周りには臨戦態勢の朱乃さんに小猫ちゃん。
「白龍皇、なんのつもり? あなたが堕天使と接触を持っているなら過剰な接触は―――」
「過去に『二天龍』と称されたドラゴン。『赤い龍』と『白い龍』。過去に関わった者はろくな生き方をしていない。・・・・・・あなたはどうだろうな?」
「―――ッ!」
野郎の言葉に部長は言葉を詰まらせた。
「それじゃあ、俺は行かせてもらう。やることがそれなりに多いんでね」
そう言って、奴は去って行った。汗ばんだ手をアーシアが握ってくれてようやく少し落ち着く。どうやら、俺の周りにはは望んでいない者が集まりつつあるみたいだ。
Side out
第5話
Side 渚
「イッセー、ナギ、アーシアちゃん。あとでお父さんと一緒に行くからね」
朝から気合の入っている母さん。今日は授業参観日。まあ、目的はアーシアさんなのは明白だ。
その本人は元気よく「はい!」と返事をしている。
授業参観、正確には公開授業。親御さんだけではなく中等部の子たちが高等部はどんな授業をしているのか見に来たりする日だ。
自分たちの親だけじゃなく、中等部の子も来るとあって無駄に緊張している。後輩の前で恥はかきたくないからだ。
「・・・・・・・気乗りしないわね」
リアス先輩がため息をつきながら言った。どうやら授業参観が嫌なようだ。やはり親が授業を見に来るのは恥ずかしいものがあるのだろう。
僕の両親はアーシアさんが目当てのようなので、僕は普通に授業をさせてもらうとしよう。
そんなこんなで、学校に到着。昇降口でリアス先輩と別れ、教室の前で兄さんとアーシアさんと別れた。
「ねえ? 渚くんの両親って、今日来るの?」
席に着くと話しかけられた。前の席の高橋恵美さんだ。
「アーシアさん目当てで来るみたいだよ。父さんはわざわざ有給取ってたし」
「それはわかるな。俺もアーシアちゃんが娘だったら絶対に観に行くわ」
「急に話に入ってくるんじゃないわよ! 一樹!」
高橋さんが鋭い目で睨みつける。
「別によくね!? なんでそんな嫌悪されなきゃいけないの!? 渚もそう思うよな!」
「一樹だから仕方ないよ」
「ひどい!」
あんまりだと一樹が膝をつく。津島一樹。それが彼のフルネームだ。
高橋さんと僕はそれも見て小さく笑った。この二人は幼馴染でよく一緒にいる。しかし、付き合っているとかそういうことはないらしい。このクラスになって新しくできた友達である。
「相変わらず、渚くんの周りは騒がしいわね」
「おはよう。委員長」
今話しかけてきたのは日下響。このクラスのクラス委員で通称委員長だ。おさげに眼鏡と狙っているとしか思えない。彼女とは去年からの付き合いである。席がたまたま隣だったのだ。
「委員長! こいつら酷いんだ! いじめだと思います!」
「はいはい。そうね~」
「まともに取り合ってくれない!?」
委員長と一樹の漫才を高橋さんと一緒に見て笑う。
「ナギ」
そのまま一樹をいじっていると、ゼノヴィアが近づいてくる。一樹が一瞬で復活した。ゼノヴィアの人気の高さゆえだろう。男女問わず人気が高い。
「どうしたの、ゼノヴィア?」
僕がそう聞き返すと、ゼノヴィアは頭を下げてきた。
「先日は突然あんなことを言ってすまなかった」
あー・・・・・・。あれね。先日のプールでのことを言っているのだろう。高橋さんと一樹に委員長は何の事だかわからずにポカンとしているな。
「私はキミのことを考えずに突っ走りすぎたらしい」
「いや・・・・・・・まあ、わかってくれたならいいよ」
いきなり、抱きなさいとか子作りをしようとか普通は言われることないからな。
「そう言ってくれるのか・・・・・・・」
まあ、いきなり子供を作ろうなんて言われるなんて思わなかったね。最近、自分の常識が通じないことが多いから、僕がおかしいんじゃないかって思うこともある。
「そんなわけでだ。私もいろいろと試してみようと思う」
ゼノヴィアはそう言うと僕の右手を取り、自分の胸に押し当てた。周囲がざわつくのと自分の思考が停止するのがわかる。
「この前は抱き着いてみるだけだったので、今回は胸を触ってもらっているわけだが・・・・・・どうだろう?」
どうだろう? どうだろうってどういうことだ? 胸の感触についてか? それともクラスのみんながいるこの場所でのこの行動についてのことを言っているのか?
「ふむ・・・・・・。これもなかなか恥ずかしいな」
ゼノヴィアの顔がほんのりと赤くなっている。
「ナギ、私の胸はどうだ?」
「柔らか―じゃなくて!」
素直に感想を述べそうになって慌てて誤魔化す。ついでに胸を触っていた手を引き戻した。
「ゼ、ゼ、ゼノヴィアさん?」
「なんだ?」
委員長がゼノヴィアに話しかける。委員長は目の前で行われた出来事に動揺を隠せないようだ。
「ふ、風紀を乱すような行動は慎んでくださいね」
「委員長が言うなら従おう。っとそうだ」
何かを思い出した様子のゼノヴィアが、ごそごそとスカートのポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
「これもナギの母親からもらってね。今度使ってくれとのことだ」
ポケットから取り出したのは四角形のパッケージに包まれたゴム―――コンドームだ。
クラス全員がゼノヴィアの取り出したコンドームを見る。
「な、何してんのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
即座にゼノヴィアから奪い取る。しかし、すでにこの場にいる全員が見ていた。取り返しがつくわけがない。あちらこちらでひそひそ話が展開される。
「私のいたところではこれの使用に一悶着あったが、やはりつけたほうが都合がいいのだろう。何より、せっかくもらったのだ使わないのはもったいない」
ちくせう! なんでゼノヴィアはみんなの視線が平気なんだ!
「ま、まさか・・・・・・渚とゼノヴィアさんがそんな関係だったなんて! 二大お姉さまや小猫ちゃんとも怪しいのに! これはすぐにみんなに伝えないと!」
一樹がケータイを取り出す。
「不潔よ!」
高橋さん、ニヤニヤしながらそれを言うのはやめてくれないか? 明らかにこの現状を楽しもうとしているだろ!? とりあえず一樹を止めてくれ! このままだと、学校生活に支障が絶対に出る!
「く、クラスの風紀が・・・・・・」
委員長はショックを受けている。
「それじゃあ、ホットなネタをありがとよ! 渚!」
電話をしようと教室から出ようとする。大変だ・・・・・・これは少々手荒になっても止めるしかない。
「さて、まずは―――」
―バキ!
思わず魔力で強化したシャープペンシルと投擲して、ケータイの画面を貫通させた。
「ノォォォォォォォォォォッッ!! 俺のケータイがぁぁぁぁぁぁ!」
無残にシャープペンシルの突き刺さったケータイを掲げる。これで情報のこいつからの情報の流出は防がれた。あとは口を開かないようにするだけ。
「一樹・・・・・・・少し、O☆HA☆NA☆SHI・・・・・・しようか?」
「へ? あっ、ちょっと! 渚! どこに連れて行くんだ!?」
一樹の襟首を持ち、引きずって教室から出た。
「ふむ。いつこれを使うか予定を決めようと思ったのだが・・・・・・」
僕が去った後にゼノヴィアがそうつぶやいたらしい。高橋さんから教えてもらった。
このあと、校舎裏から男の悲鳴が響き渡ったのを、全校生徒が聞いたようだ。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
お昼休みになった。授業参観はつつがなく終了している。
「よくできているわね」
リアス先輩が手にしているのは、粘土で作られた全裸のアーシアさんだ。作成したのはもちろん兄さんである。作られた本人は顔を紅くしている。
「あらあら、本当によくできていますわ」
朱乃先輩もアーシアさんの像の出来映えを見ている。
「それにしても、そんなのいつ作ったんだい?」
僕の知る限りでは兄さんがそんなものを作っている様子はなかったはずなんだが?
「ああ、さっきの授業で作ったんだ。英語の授業だったんだんだけど、教師がわけのわからんことを言い出して工作の授業になった」
その教師に何が起こったのだろう? 英語の教師から工作の教師になったのだろうか? まあ、僕のクラスは音楽で、各自自由に作詞してくださいとのことだったので、前世の有名な曲を書いた。最終的に歌うことになるとは思わなかったけど。
「そう言えば、部長。サーゼクス様はいらっしゃったんですか?」
兄さんがリアス先輩に問いかける。サーゼクスさんは気安く読んでほしいみたいなので、兄さんにそう呼ぶように言っていた。
「ええ、父も一緒に来たわ」
リアス先輩のお父さんか・・・・・・。実質婚約をダメにしたのは僕だから何か言われるかな? サーゼクスさんは気にしなくていいって言ってけど。
「あ、部長。それにみんなも」
そこへ祐斗が現れる。
「何かあったの?」
リアス先輩が訊くと、祐斗は廊下の先をさした。
「いえ、何やら魔女っ娘が撮影会をしていると聞いたもので、ちょっと見に行こうかなと思いまして」
僕が魔女っ娘と言われて思い出したのはミルたんだった。
(さすがに違うよね・・・・・・・?)
少し不安になりながらも、気になったので僕らもついていくことにした。
Side out
第6話
前書き
約2ヶ月ぶりの更新・・・・・・・。
お待ちになっていた方は本当に遅くなってすみません。<(_ _)>
Side 渚
―カシャカシャ!
フラッシュがたかれ、カメラを持った男子たちが廊下の一角でシャッターを切っている。僕たちは件のは魔女っ娘を見に来ていた。一瞬ミルたんではという考えが頭をよぎるが、ミルたんだったらあの巨漢だ。人だかりで見えなくなるということはないのでミルたんの可能性はついえたので一安心する。
人垣を潜り抜けるように進んでいくと、そこには見覚えのある衣装が目に入った。ミルたんと同じ魔女っ娘の服だ。僕がもらった奴と同じものだろう。それをかなりの美少女が着こんでいた。確か『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』というアニメの主人公ミルキーの服だったはず。
「なっ!」
リアス先輩がミルキーを目にすると驚きの声を上げた。知っている人なのかな?
当のミルキーは手に持ったステッキをくるくる回している。彼女が動くにつれてカメラを構えた男子が興奮して撮影していた。スカートが短いのでパンツがちらちらと見えている。兄さんを見ると、パンチラを写真に収めようとケータイを取り出していた。しかし、そこに乱入者が現れる。
「オラオラ! 天下の往来で撮影会たぁー、いいご身分だぜ!」
乱入してきたのは知り合いの匙くんだった。
「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだぜ! こんなところで騒ぎを作るな!」
ちゃんと生徒会の仕事をする、匙くん。人だかりが蜘蛛の子を散らすようになくなっていく。写真を撮っていた男子も渋々と去っていた。兄さんもケータイをポケットにしまう。
「あんたもそんな格好しないでくれ。ってもしかして親御さんですか? そうだとしたらその場に会う衣装ってもんがあるでしょう。困りますよ」
「えー、だってこれが私の正装だもん☆」
コスプレが正装なのは、コスプレ会場だけなのではないのか? 可愛くポーズをとっても匙くんを怒らすだけだ。現にギリギリと奥歯を鳴らしているではないか。
「これはリアス先輩。ちょうど良かったです。今魔王様と先輩のお父さんをご案内していたところなんですよ」
リアス先輩を確認した匙くんが頭を下げてくる。そして匙くんが後方に顔を向けると、会長が後ろにリアス先輩を同じ紅髪の男性二人が歩いてきた。一人はサーゼクスさんなので、もう一人のダンディなおじさんがリアス先輩のお父さんなのだろう。
「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言ってい―――」
会長はそこまで言ってミルキーを見ると、言葉を止めた。心なしか顔色が悪いように見える。
「ソーナちゃん! 見つけた☆」
ミルキーが嬉しそうに会長に抱き着く。よく見ると会長とミルキーの顔が似ていた。もしかして、姉妹なのか? あれ・・・・・・そう言えば会長のお姉さんは確か魔王だったような気がするんだけど・・・・・・。彼女がそうなのか?
「ああ、セラフォルーか。キミも来ていたのか」
うん。サーゼクスさんの反応とセラフォルーの名前で確定ですね。彼女が四大魔王のお一人か。正直全然見えません。
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
兄さんが絶叫している。リアス先輩に教えてもらったんだろう。おそらく兄さんは妖艶な女性を想像していたんだろう、現実は可愛らしいコスプレイヤー。
「セラフォルー様、お久しぶりです」
「あら、リアスちゃん☆ おひさ~☆ 元気にしてましたか?」
軽い! 魔王らしい感じがしないよ! リアス先輩もちょっと困った様子じゃないか。
「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」
「うん☆ ソーナちゃんったら、ひどいのよ。今日のこと黙ってたんだから! もう! お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」
冗談だよね? たったそれだけのことで天界攻めるなんて冗談だよね?
「イッセー、それとナギ。ごあいさつしなさい」
おっと、自己紹介か。
「初めまして、兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の下僕『兵士』をやっています! よろしくお願いします!」
「兵藤一誠の弟の兵藤渚です。人間で『仮の駒』をやってます」
兄さんと二人で頭を下げる。
「初めまして☆ 私、魔王セラフォルー・レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね」
ピースしながら自己紹介する魔王っていったい・・・・・・。威厳が感じられないぞ。
「サーゼクスちゃん。この子たちが最近噂のドライグくんと鞘に収まりし魔剣の子?」
サーゼクスさんをちゃんづけですか・・・・・・。
「そう、イッセーくんが『赤き龍』を宿す者で、ナギくんが『聖約剣』だ」
いつの間にか二つ名がついていたんだ・・・・・・。ライザーの一件のせいだろうな。しかし、二つ名って聞くと前世の中二病を・・・・・・。いやいや、思い出すな。その先は絶望しかない。
「あらあら、グレモリーのおじ様」
いつの間にかセラフォルー様。いやレヴィアたんって呼んだ方がいいのか? まあ本人がレヴィアたんって呼んでっていったんだからレヴィアたんでいいか。とにかくレヴィアたんがリアス先輩のお父さんに話しかけている。
「ふむ。セラフォルー殿。これはまた奇抜な格好ですな。いささか魔王としてはどうかと思いますが・・・・・・」
「あら、おじ様☆ ご存じないのですか? 今この国ではこれが流行りですのよ?」
流行ってるのか? ミルたん以外着ているの見たことないぞ?
「ほう、そうなのですか。これは私が無知だったようだ」
「ハハハハハハ、父上。信じてはいけませんよ」
よかった。サーゼクスさんが言わなかったら、僕は絶対にツッコんでたよ。
「ぶ、部長、想像を遥かに超える軽いノリなんですけど・・・・・・・」
兄さんも困惑しているようだ。リアス先輩も申し訳なさそうにしている。
「言うのを忘れていた―――いえ、言いたくなかったのだけれど、現四大魔王様の方々はどなたもこんな感じなのよ。プライベートの時、軽いのよ。ひどいぐらいに」
言いたくないのがわかりますね。会長も顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。いつもクールな会長なのでレアだ。そんな会長の顔をレヴィアたんが覗き込んでいる。
「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくお姉様である私との再会なのだから、もっと喜んでくれてもいいと思うのよ?」
顔が赤いのは間違いなくあなたのせいですよ。もし自分の親がこんな格好で授業参観に来たら恥ずかしく学校に行けないだろう。
「お、お姉様。ここは学び舎であり、私はここの生徒会長なのです。いくらお姉様といえど、その行動と格好は・・・・・・その、容認できません」
プルプルと振るえているのは恥ずかしいからなのか、それとも怒りからなのか・・・・・。僕にはわからない。
「そんなソーナちゃん! お姉ちゃんが魔法少女に憧れてるって知っているじゃない! 煌めくスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから」
「お姉様、自重してください。お姉様が煌めかれたら小国が滅びます」
レヴィアたんはとてつもなく物騒だ。しかも重度のシスコン・・・・・・。
「もう耐えられません!」
涙目で逃げる会長。つらい現実に向き合うのはさすがの会長さんでも難しいものがあるようだ。
「待って! ソーナちゃん! どこに行くの! ソーたん! お姉ちゃんも見捨てないでぇぇぇぇぇぇ!」
レヴィアたんは会長を追いかけていってしまった。会長も苦労してるんだな
・・・・・・。思わず同情してしまう。今度会ったら、優しくしてあげよう。
「シトリー家は平和だ。そう思うだろう、リーアたん」
「お兄様、私の愛称をたんづけで呼ばないでください・・・・・・」
今度はこっちでですか・・・・・・。リアス先輩が恥ずかしそうにしている。それにしてもリアス先輩って「リーア」って呼ばれてたのか。
「そんな・・・・・・昔はいつも私の後をついてきていたのに・・・・・・。反抗期か・・・・・・」
ショックを受けているサーゼクスさん。顔がにやけているのはからかっているからか。
「もう! どうして私の幼少時のことを―—―」
―カシャ!
「いい顔だリアス。よくぞ、ここまで立派に育って・・・・・・」
感無量といった顔でリアス先輩の写真を撮るお父さん。ダンディな雰囲気が崩れている・・・・・・・。魔王の家族はすべてこんな感じなのだろうか? ずいぶんアットホームと言うか・・・・・・。
「おや、イッセー」
「あっ、父さん」
そんなことを考えていると、父さんと母さんがやってきた。
「兵藤渚くん、お二人がご両親かな?」
近くにいた僕にリアス先輩のお父さんが訊いてきた。
「はい、そうです」
「そうか。うむ・・・・・・。初めまして、リアスの父です」
両親の前に移動するとそう言った。握手のために手を差し出す。すると、父さんと母さんの顔が一変して緊張した顔になった。
結局うちの両親テンパってろくな受け答えができなかった。恥ずかしい。兄さんもリアス先輩も同じ気持ちのようだ。
「うむ。落ち着いた場所でお話ししたいものです。ここは目立つ上にお互いの子供が恥ずかしいでしょう」
リアス先輩のお父さんがそう言うと、祐斗に案内を頼んで廊下を歩きだす。サーゼクスさんはリアス先輩と朱乃先輩を伴って歩いて行った。
「教室に戻るか」
「そうだね」
僕たちも教室に戻ることにした。そして魔女っ娘がミルたんじゃなくて僕は心の底から安心した。
Side out
後書き
いつ更新するか明確にした方が、筆が進むんじゃないかと思う今日この頃。
まあ、休みに入ったので休みの期間中に4巻は終わらせたいです。
第7話
前書き
本日2回目の更新です。
もし前話を見ていない方はそちらからご覧ください。
Side 渚
公開授業も無事(?)に終わり、自宅でうちの両親とリアス先輩のお父さんがお酒を飲み交わしている。
「あら! アーシアちゃん、よく映ってるわ」
テレビに映し出されているのは授業を受けているアーシアさん。
「ハハハハハ! やはり娘の晴れ姿を見るのは親の務めです!」
日本酒を飲みながら、笑っているのはリアス先輩のお父さんだ。ダンディだった面影はとうにない。
現在わが家のリビングではお互いに撮影した授業参観の観賞会が行われている。撮影された僕たちは隅に集まって早く終わらないかと念じている。
「これは・・・・・・かつてないほどの地獄だわ・・・・・・」
「同感ですね」
真っ赤になって震えているリアス先輩の意見に同意する。先ほどは俺の映像も映し出され、“あなたと合体したい”で有名なあの曲を熱唱しているシーンが映し出された。とんだ羞恥プレイである。
「見てください! うちのリーアたんが先生にさされて答えるのです!」
サーゼクスさん、やめてあげて! リアス先輩のライフポイント(精神の)はもうゼロよ! ああっ! 顔を両手で覆ってしまったぞ。
「耐えられないわ! お兄様のおたんこなす!」
駆け出すリアス先輩。おたんこなすなど久しく聞かない罵声をサーゼクスさんに浴びせながらリビングから飛び出した。原因のサーゼクスさんはグレイフィアさんにハリセンで叩かれている。どこからそのハリセンを取り出したんだろう?
「リアス先輩!」
念のために僕は追いかけることにした。まあ、これ以上ここにいるのはつらいというのもあったが。
Side out
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Side リアス
リビングから駆け出して、ナギの部屋の前に座る。恥ずかしかったけど私の父とイッセーとナギの両親が仲良くなることは悪いことではない。それはわかっているが、お兄様のあの行動は恥ずかしすぎた。
しばらくすると、私を追いかけてきたのかナギがやってくる。
「僕の部屋、入りますか?」
頬を膨らませて、「私、不機嫌です」と全力で主張している私にナギが話しかけてくる。私は無言でうなずいた。
ナギが扉を開けて部屋に入ると私は一直線にベッドに飛び込み、うつ伏せになって黙ってしまう。ナギはどうやら勉強机の椅子に座ったらしい。ベッドに座ってくれてもよかったのにという想いが湧いてくる。
「うちの両親とリアス先輩のお父さん仲良くなってましたね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私は返事をせずに無言で返した。
「ちょっと盛り上がりすぎでしたけど、僕はよかったと思ってますよ」
「・・・・・・・・・わかっているわ。私も父とナギのお父様が楽しそうに話しているのはうれしいのよ」
わかってる。でも、あんなに恥ずかしいのは耐えられなかった。
「ねぇ、ナギ」
「なんですか?」
「ナギは私と出会えて幸せ?」
私はナギに質問する。
「私はナギと出会えて幸せよ。もうあなた抜きでの生活は無理ね。光栄に思いなさい。私の心中はあなたで結構占められているのよ?」
そう続けると、ナギはこう答えた。
「そんな風に考えてもらえているなんて光栄ですね。僕も幸せですよ。リアス先輩と出会えてよかったです。なんていうか今の生活は充実してますからね」
私は顔を上げる。ナギは優しく微笑んでいた。ライザー戦の最後で見せたあの微笑み。愛しさが湧き上がってくる。私は思い切って聞いてみることにした。
「ねぇ、ナギは今好きな人っているの?」
「どうしたんですか、突然? サーゼクスさんにも訊かれましたけど、特に好きな人はいませんよ。そもそもこの女顔のせいであまり考えたことないです」
「そう・・・・・・」
少しも動揺することなくナギはそう言った。嘘ではないようね。
「・・・・・・ただ、兄さんが悪魔になってからは女の子と関わることが増えてきているので少しずつ考えていこうと思います。一生独身でいたいわけではないんで」
最後の方は苦笑いを浮かべていた。
「リアス先輩はどうなんですか? 旦那さんを迎え入れないといけないんですよね?」
「ええ、そうね。でも、あなたがそんなことを口にするなんて少しショックだわ」
ナギは頭に?を浮かべている。私の気持ちには気づいていないみたい。この分じゃあ、朱乃やゼノヴィアの好意にも気づいていないみたいね。でも、これからは違うみたいだから、もっと積極的にアピールしていくべきかしら?
「私は自分の婿は自分で育てることにしたの。どうせなら自分の理想は自分で育成するわ。その方が早いのよ。ね、ナギ」
「はあ・・・・・・そうなんですか」
いまいちわかってなさそうね。確かにナギは人間だけど、コカビエルを倒したことを考えれば、爵位をもらえる功績の足掛かりになるはず。ナギがさっきお兄様のことを『サーゼクスさん』と呼んでいたし、お兄様にも気に入られているようだし親の仲もいいからから、爵位さえもらって悪魔になれば、私との結婚はできるはずだわ。
私はベッドから起き上がりナギに近づく。私の言った意味を考えているナギは、気づいている様子はない。私はその隙にナギの唇を奪った。
「んんっ!!」
ナギは目を見開いて私を見る。首に腕をまわして、ナギの唇を舐める。ナギは驚きのあまり固まっているようだ。私はそのまま舌を入れようとしたところで、扉が薄く開いていることに気づいた。
『い、イッセーさん、すごいもの見ちゃいましたね』
『ああ、あの渚と部長がキスしているなんて・・・・・ここは兄として応援するべきか!?いや、でも羨まし――痛い! アーシア、なんで抓るの?』
『・・・・・・なんでもです』
イッセーにアーシアったら・・・・・・ムードが台無しだわ。ナギにも二人の声が聞こえたようで私の腕を振りほどいて距離を取っている。そのまま、扉に近づいて開け放った。
『あ・・・・・・』
イッセーとアーシア唖然とした表情でナギを見ている。
「人の部屋をのぞき見するなんて・・・・・・これはO☆HA☆NA☆SHIかな?」
二人そろって震えはじめる。しかし、そんな二人に救世主が現れた。
「それは少し待ってもらえないかな?」
お兄様だ。お兄様がグレイフィアを伴って歩いてきた。あの悪夢の観賞会は終わったのかしら?
「改めて話があるから、ちょっと抜けてきたんだ。リアス、昼間の話の続きだ」
ギャスパーのことね。他の三人は何のことだろうと首をかしげている。
「もう一人の『僧侶』の話をしよう」
そうして、ギャスパーについての話し合いが行われた。
この後、二人の悲鳴が響き渡った。O☆HA☆NA☆SHIしているときのナギの顔が赤かったのは恥ずかしかったからでしょうね。ちなみに、イッセーとナギの両親たちはいつものことだと気にもしなかったらしいわ。
Side out
第8話
前書き
今回は短めです。
Side 渚
翌日の放課後。
僕らは旧校舎の開かずの教室とされている部屋の前にやってきた。【KEEP OUT】大きく書かれたテープや、人払いなどを織り込んだ札が張られている。当の開かずの教室は外からも見えないように厳重に封鎖されている。記憶が確かなら、ここにもう一人の「僧侶」の人間と吸血鬼のハーフくんがいる。
「もう一人の僧侶はここにいるの。一日中この中にいて生活しているわ。一応、深夜には旧校舎限定で部屋から出てもいいけど、あの子は拒否しているの」
リアス先輩が呪術的な刻印の刻まれた扉に手をかざす。魔方陣が展開された。しばらくすると、封印が解かれる。
「ひ、引きこもりなんですか?」
兄さんが質問すると、リアス先輩はため息をつきながらうなずいた。
「中にいる子は眷属の中でも一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」
朱乃先輩がリアス先輩を手伝いながらそう言う。ネオニートみたいだな。
「さて、開けるわ」
ついに封印が解かれて、扉を開く。
「イヤァァァァァァァァァァァァッッ!」
思わず耳をふさぐほどの絶叫が聞こえた。みんなも耳を押さえている。リアス先輩はため息をつきながら、朱乃先輩とともに中に入っていた。僕たちは外で待機。
『ごきげんよう。元気そうでよかったわ』
『な、何事なんですかぁぁぁぁ?』
中のやり取りが聞こえる。中世的な声だ。
『あらあら、封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのです。さあ、行きましょう?』
朱乃先輩の優しい声が聞こえる。しかし―――
『やですぅぅぅぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅぅぅ! 外に行きたくない! 人に会いたくないぃぃぃぃぃ!』
兄さんとアーシアさんは首をかしげ、ゼノヴィアは「?」を頭に浮かべている。事情を知っている祐斗と小猫ちゃんは、苦笑いとため息という反応だ。
そして、兄さんは意を決したのか中を覗き込むように足を踏み出す。僕も便乗して中を見ることにした。
部屋の中は可愛らしく装飾が施されていて女の子の部屋のようだ。だが、ギャスパー?くんは男だったはず。ただ、僕と同じではあるが。
どんどん中に入っていくと、金髪に赤い目をした人形のような顔立ちの男の娘が力なく座りこみ、後ずさりをしてリアス先輩たちから逃れようとしている。
「おおっ! 女の子! しかも外こk―――なんだよ、渚?」
「兄さん、よく見るんだ。あの子は彼女じゃなくて彼だ」
喜んでいる兄さんに、僕は真実を告げる。兄さんは「ピシッ!」と固まった。そして、鈍い動作でリアス先輩に確認を取る。
「ははは、う、嘘ですよね?」
「この子は男の子よ」
リアス先輩は首を横に振った。
「女装趣味があるのですわ」
しばしの停滞を含んで、兄さんは大声を上げた。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
「ヒィィィィィィィッッ! ごめんなさいごめんなさぁぁぁぁい!」
その声に反応して、謝り始めてしまった。兄さんは頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「こんな残酷な話があっていいのか? 確かに渚も完全な美少女の外見だ。しかし、渚は双子だから大丈夫だった・・・・・・・。だが! 渚のほかにこんなやつがいるなんて! こいつも完全に美少女の外見で○○○がついているなんて・・・・・・」
なんか僕は悪くないはずなのに、悪いことにされているんだけど。
「女装趣味ってのがさらに残酷だ! そりゃあ、渚も小さい頃は女装していたし、似合っていたけど初めからわかっていたからよかった。でも、こいつは酷い! 知らなかったもんだからショックだ! 引きこもりなのに女装癖って意味わからんわ!」
ちょっと待て! 僕は女装したくてしていたわけじゃないんだぞ!? あたかも女装壁があるみたいに言うんじゃない!
「イッセー、あとでその話詳しく」
「リアス先輩!?」
そんな僕の黒歴史ともいえる物を見てどうしようと言うのだ!?
「だ、だ、だって、女の子の服の方がかわいいもん」
「かわいいもん、とか言うなぁぁぁぁぁ! クソッ! 野郎のくせにぃぃぃ! 返せ! アーシアと二人で金髪美少女『僧侶』を夢見たんだぞ! 俺の夢を返せぇぇぇ!」
極論だが、確認取らなかった兄さんが悪いだろう。
「・・・・・・人の夢と書いて、儚い」
小猫ちゃん・・・・・・ナイスだ。頭を撫でてあげよう。
「と、と、ところで、この方たちは誰ですか?」
リアス先輩が僕、兄さん、アーシアさん、ゼノヴィアをさした。
「あなたがここにいる間に増えた部員よ。新しく導入されたお試し眷属の『仮の駒』の兵藤渚、『兵士』の兵藤一誠、『騎士』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシア」
紹介されたので、会釈をしておく。しかし、「ヒィィィィ! 人がいっぱい増えてるぅぅぅ!」と怖がらせる結果になった。
「お願いだから、外に出ましょう? ね? もうあなたは封印されていなくていいのよ?」
「嫌ですぅぅぅぅぅ! 僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁぁぁっ! 怖い! お外怖い! どうせ、僕が出ていっても迷惑かけるだけだよぉぉぉぉっ!」
リアス先輩が語りかけるが、ギャスパーくんは首を横に振るだけ。兄さんは次第にいらいらしてきたのか、ギャスパーくん腕を引いた。
「ほら、部長が外に出ろって―――」
「ヒィィィィィィ!」
叫び声が聞こえると目の前が白く―――ならなかった。ギャスパーくんと僕を除く他のみんなが停止している中、僕は動きが止まっていない。疑問に感じていると視界に一振りの剣と銀が映り込んだ。『黄金色の聖約』だ。『白銀魔術礼装』もいつの間にか発動されている。まさかとは思うが『黄金色の聖約』の意思がやったのだろうか? 止まっていない僕を見て、ギャスパーくんは驚愕の表情だ。
そんなことを考えていると、他のみんなも動き出した。何やら違和感を感じているようで首をかしげている。
「おかしいです。何か今一瞬・・・・・・」
「何かされたのは確かだね」
起こった現象に兄さんとアーシアさん、それにゼノヴィアが驚いている。リアス先輩や朱乃先輩、祐斗と小猫ちゃんはため息をついていた。
「怒らないで! 怒らないで! ぶたないでくださぁぁぁぁい! そして、なんで動いている人がいるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一斉に僕に視線が集中する。なんで剣を抜いているのかという表情をみんなが浮かべていた。
「いや、みんなが止まった瞬間に、なんか勝手に発動したんですよ」
僕の意思ではない。だから変な目で見ないでほしい。
「勝手に発動した・・・・・・? まあ、今は後にしましょう。イッセーたちに説明してあげるわ。その子は興奮すると視界に移したすべての物体の時間を一定の時間止められる神器を持っているの」
とりあえず、僕のことは後回しにされ、リアス先輩が兄さんたちに説明する。時間を止められるということで驚いていた。時間を停めるのは反則級の力だからだ。
「彼は自分の意志で神器を制御できないので、大公及び魔王様の命令でここに封じられていたのです」
朱乃先輩が補足説明をしてくれた。兄さんたちはしたり顔でうなずいている。まあ、時間停止を暴発されたら、たまったもんじゃないから仕方ない処置だな。
「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶』。一応、駒王学園の一年生だわ。そして、転生前は吸血鬼と人間のハーフよ」
リアス先輩が泣いているギャスパーくんを後ろから抱きしめながらそう言った。
Side out
後書き
第9話
Side 一誠
ギャスパーの説明が行われる。この野郎は『停止世界の邪眼』という神器の所持者で、能力は視界に映った物体の時間を止めること。反則級の力だ。
「そう言えば、こいつ日光は大丈夫なんですか?」
よくある映画とかだと、吸血鬼は日光が苦手のはずだ。
「彼はデイウォーカーだから大丈夫よ」
デイウォーカー?
「太陽が出ていても活動できる吸血鬼のことですわ。ギャスパーくんはそういう吸血鬼の血を引いているのです」
朱乃さん補足説明ありがとうございます。しかし、そんな吸血鬼がいるのか・・・・・・。
「日の光嫌いですぅぅぅぅ! 太陽なんてなくなっちゃえばいいんだぁぁぁぁぁっ!」
悪魔も日光は苦手だから、悪魔で吸血鬼なこいつはさらに日光が嫌なんだろう。しかし、学園の生徒ならば授業は受けないとダメだろう。
「お前、授業に出てないだろ? 力を克服してクラスのみんなと打ち解けないとダメだぞ?」
「嫌です! 僕はこのダンボールの中で十分です! 外界の空気と光は僕にとって外敵なんですぅぅぅぅっ! 箱入り息子ってことで許してくださぁぁぁぁぁい!」
誰がうまいこと言えって言ったよ・・・・・・。しかし、これは重傷だな。
「そう言えば、こいつ血は吸わないんですか?」
「ハーフだからそこまで血に飢えているわけではないわ。十日に一度、輸血用の血液を補給すれば問題ないの」
「血、嫌いですぅぅぅぅ! 生臭いのダメェェェェェ! レバーも嫌いですぅぅぅぅ!」
血が嫌いな吸血鬼って存在が矛盾してるだろ!?
「・・・・・・・へたれヴァンパイア」
「あはははは、なかなか厳しいね小猫ちゃん」
「・・・・・・事実です」
渚が小猫ちゃんの発言に反応する。
「うわぁぁぁぁぁん! 小猫ちゃんがいじめるぅぅぅぅ!」
なんというか、情けないな・・・・・・・・。
「とりあえず、私が戻ってくるまでの間だけでも、イッセー、ナギ、アーシア、小猫、ゼノヴィア、あなたたちにギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は三すくみトップ会談の会場打ち合わせをしてくるから。それと、祐斗、お兄様があなたの禁手について詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい」
「はい、部長」
本来ありえない現象らしいからな木場の禁手は。そりゃあ、調べたくもなるよな。
「イッセーくん、悪いけどギャスパーくんのこと、お願いするね」
「任せろ。まあ、俺だけじゃなくて他のみんなもいるから問題ないさ。・・・・・・たぶん」
正直不安だけどね。
「ギャスパーくん、そろそろお外になれないとダメですよ?」
朱乃さんが段ボールの中にいるギャスパーに話しかける。
「朱乃お姉様ぁぁぁぁぁ! そんなこと言わないで下さいぃぃぃぃ!」
「あらあら。困ったわね。ナギくん、イッセーくん、お願いね」
「了解です」
「任せてください!」
まあ、頼まれたんだから精一杯やってやるさ。
「では、こいつを鍛えよう。軟弱な男はダメだぞ。それに私は小さい頃から吸血鬼と相対してきた。扱いは任せてほしいね」
ゼノヴィアはそう言うと、段ボールに括りつけてある紐を引っ張り出す。キミはギャスパーを滅する気なのかい?
「ヒィィィィィィッ! せ、せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅぅ! ほ、滅ぼされるぅぅぅぅ!」
「悲鳴をあげるな、ヴァンパイア。十字架と聖水、さらにニンニクもつけるぞ?」
「ヒィィィィィ! ガーリックらめぇぇぇぇぇぇぇ!」
マジで滅ぼす気じゃないよね? 俺はそう本気で思ってしまった。
Side out
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
Side 渚
「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだ」
「ヒィィィィィッ! デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇぇ!」
夕暮れの時間帯に吸血鬼が聖剣使いに追いかけられていた。なんでも、「健全な精神は肉体から」らしく、ゼノヴィアはギャスパーの体力から鍛えることにしたらしい。はたから見たら、ただの吸血鬼狩りだけど・・・・・・。
「私と同じ『僧侶』さんにお会いできたのに、目も合わせてもらえませんでした・・・・・・。グスッ」
涙目のアーシアさんは兄さんに任せるとして、僕はゼノヴィアとギャスパーくんを見守ろう。あれ? そう言えば小猫ちゃんはどこに行ったんだろう?
「・・・・・・ギャーくん、ニンニク食べれば健康になれる」
「いやぁぁぁぁぁん! 小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」
ああ、そんなところにいたのか。それにしても小猫ちゃんは楽しそうだね。
「おーおー、やってるやってる」
「おっ、匙か」
生徒会の匙くんが現れた。
「解禁された引きこもりの眷属がいるとか聞いたから見に来たぜ」
「それならあそこだ。ゼノヴィアに追いかけられているぞ」
兄さんはギャスパーくんたちのいる方を指さす。
「おいおい、ゼノヴィア嬢、伝説の聖剣豪快に振り回してるぞ? いいのか、あれ。おっ! てか、女の子か! しかも金髪!」
うれしそうな匙くん。まあ、彼も僕と同じで男には見えないからね。
「残念だけど、あの子は男だよ。女の子の服の方が可愛いから女装しているんだ」
僕がサジくんにそう言うと、心底落胆した様子だ。
「マジかよ。そりゃ詐欺だ。初めて、兵藤弟を見た時と一緒だ・・・・・・。女装って誰かに見せるためにするもだろ?それで引きこもりって、矛盾してるぞ・・・・・・」
「そうだな。意味の分からん女装癖だ。似合っているのが何とも言えないしな。ところで、お前は何してるんだ?」
兄さんが匙くんに質問した。匙くんは今ジャージを着ている。手には軍手をしてスコップを持っていた。
「見ての通り、花壇の世話だよ。一週間前から会長の命令でな。ここ最近学園の行事が多かっただろ? それに今度魔王様たちもここにいらっしゃる。学園を綺麗に見せるのは生徒会の俺の仕事だ」
胸を張って堂々としているけど、それって雑用なんじゃないかな?
「ん?」
「どうかしたのか?」
「誰かくる」
僕は気配を感じて、そちらの方を見る。しばらくすると、浴衣を着た男がやってきた。
「へぇ。お前らはここに集まってお遊戯をしているわけか」
「アザゼル・・・・・・」
「よー、赤龍帝。あの夜以来だな」
兄さんがそう言うと、この場の全員が戦闘態勢に移った。ゼノヴィアはデュランダルをアザゼルに向け、兄さんはアーシアさんを守るように前に出て、赤龍帝の籠手を発動させる。僕も白銀魔術礼装を発動して、黄金色の聖約を構える。匙くんも自身の神器を発動させていた。
「ひょ、兵藤! アザゼルって!」
「マジだよ、匙。俺はこいつと何度か接触しているんだ」
匙くんの問いに兄さんは答える。当のアザゼルはそんな僕たちを見て苦笑いをしていた。それを見て、僕は白銀魔術礼装を解除して、黄金色の聖約を消す。
「おい! 渚!?」
兄さんが驚愕の目で見てくるので、説明することにした。
「兄さん冷静に考えるんだ。三すくみの会談の前で事を起こしたら、どんなことになるかは目に見えてる。それに、僕たちが束になっても勝てる相手じゃないよ」
『有限殺しの無限廻廊』が使える状態なら話は別だろうが。
「そいつの言うとおりだ。まあ、ちょっくら聖魔剣を見に来たんだが・・・・・・ちょうどいないみたいだな」
僕がそう言うと、みんなは構えをといた。ギャスパーくんは気に隠れたままだけど。
「ああ、そうだ。そこに隠れているハーフヴァンパイア」
アザゼルは急にギャスパーくんの方を見る。
「『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろ? そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足している要素を補えばいいと思うが・・・・・・。そういや、悪魔は神器の研究が進んでなかったな。五感から発動する神器は持ち主のキャパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」
アザゼルはギャスパーくんの目を覗き込むようにして言った。ギャスパーくんは堕天使の総督に近づかれてプルプルと震えている。
その後、匙くんの神器についてもアザゼルは説明を行い去って行った。
匙くんの神器『黒い龍脈』はいろいろ使い道があるようで、単に相手の力を吸収するだけでなく、神器の力も吸うことができるらしい。さらには吸収した力を他の人に渡すことも可能だとか。黒邪の龍王ヴリトラという五大龍王の一匹の力を宿しているそうだ。
ギャスパーくんの神器修行は匙くんも協力してくれることになった。その代わり、僕らも花壇の手入れを手伝うことになったけど、ギブアンドテイクだ。
そして、ギャスパーくんの練習は夜になるまで続いた。何度かデュランダルが掠めたようで、終始ギャスパーくんの鳴き声はやむことはなかった。
Side out
第10話
前書き
久々の更新・・・ずいぶんお待たせしました。
Side 渚
深夜、旧校舎にリアス先輩、兄さん、そして僕が扉の前に集まっていた。
「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ」
ギャスパーくんの部屋の前で、リアス先輩が謝っている。兄さんの依頼にギャスパーくんを連れて行ったみたいなんだが、どうやらうまくいかなかったらしい。
「イッセーと仕事をすれば、もしかしたらあなたのためになるかと思って・・・・・・・」
『ふぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇえええんっ!』
閉じこもったギャスパーくんは大声で泣いている。
さっきリアス先輩が言っていたが、ギャスパーは名門吸血鬼を父に持つが、母が人間の妾だったため純潔ではない。悪魔以上に吸血鬼は純潔であることを重視するので、腹違いの兄弟からずっといじめられ、人間界に行ってもバケモノ扱いで居場所がなかったそうだ。それに、ギャスパーくんは類まれなる吸血鬼の才能と人間としての強力な神器の両方を兼ね備えていたため、望まなくともその力は年を取るとともに大きくなっていったそうだ。
仲良くなろうとするが、ちょっとした拍子に停止世界の邪眼が発動して、相手を止めてしまう。僕が例外的に白銀魔術礼装が時間停止を異常状態だと認識して無効化してくれるが、そんなことは気休めにもならないだろう。
『僕は・・・・・・こんな神器はいらないっ! だ、だって、みんな停まっちゃうんだ! 怖がる! 嫌がる! 僕だって嫌だ! と、友達を、な、仲間を停めたくないよ・・・・・・。大切な人の停まった顔を見るのは・・・・・・、もう嫌なんだ・・・・・・』
すすり泣くギャスパーくん。
「困ったわ・・・・・・・。この子をまた引きこもらせてしまうなんて・・・・・・。『王』失格ね、私」
落ち込むリアス先輩。
「部長、サーゼクス様たちとの打ち合わせがこれからあるんでしょう?」
「ええ、でももう少しだけ時間を延ばしてもらうわ。先にギャスパーを―――」
「あとは俺に任せてください。何とかしてみせます」
兄さんがリアス先輩にそう言う。リアス先輩は兄さんに強く反対できなかった。眷属も大切だが、今回の打ち合わせは三すくみに影響する重要な会議だからだ。
「大丈夫です。せっかくできた男子の後輩です! 俺が何とかします!」
胸を張って宣言する兄さん。弟だからわかるが、本当は自身がないんだろう。しかし、兄さんはギャスパーくんに何かしら思うところがあるらしい。
「・・・・・・イッセー。わかったわ。お願いね」
「はい!」
勢い良く返事をする兄さんに、リアス先輩はうなずいた。そして、名残惜しそうにこの場をあとにする。兄さんは扉の前に座りこんだ。
「俺はお前が出てくるまで、ここを一歩も動かないからな!」
どうやら、兄さんは持久戦に持ち込むつもりらしい。
「怖いか? 神器と俺たちが・・・・・・」
『・・・・・・・・』
兄さんは語りかけ始める。
「俺は正直自分の神器が怖い。使うたびに、体のどこかが違うものになっていく感じがするんだ。でも、俺はこの力で前に進もうと思っている」
『どうしてですか? も、もしかしたら大切何かを失うかもしれないんですよ? どうしてそこまでまっすぐでいられるんですか?』
おっ! 返事が返ってきた。
「うぅん・・・・・・・。俺は難しいことはよくわからん。バカだからな。でも―――」
『でも?』
「―――みんながいる。部長、朱乃さん、木場、アーシア、渚、ゼノヴィア、小猫ちゃんがいる。一人じゃないから強くなっていけるんだ。一人じゃないから、俺は赤龍帝の籠手を使って戦える。みんながいるから怖くないんだ。だから、俺はこの力でみんなを守りたい」
兄さんがそんな風に思っていたなんて、ちょっと恥ずかしい・・・・・・。それにみんなと言いながら、視線はアーシアさんの方を向いていた。
―ギィ・・・・・・
「ぼ、僕もそんな風に考えられるでしょうか」
扉が少しだけ開いて、中から赤い瞳がこちらを見ていた。
「ああ。きっとな。心配すんな、俺たちはお前に停められても嫌いになったりしない。だから、一緒に頑張っていこうぜ? お前が何かを怖がるなら俺たちがそれをぶっ飛ばしてやる」
兄さんはそう言いながら、僕らを見回す。僕らはうなずいて返した。
「ぼ、僕も・・・・・・少しだけがんばってみます」
完全に扉が開く。中からギャスパーくんが出てきた。
「さすがだね。イッセーくんは」
祐斗がここで登場する。兄さんはしばらく、祐斗を見ると何かを考え付いたような顔をした。
「木場、渚、話がある」
「なんだい、イッセーくん」
「何の話さ?」
「俺とお前らは男だ」
兄さんはギャスパーくん、祐斗、僕の順で顔を見ていく。
「そうだね。でも、そんなことがどうかしたの?」
「俺はグレモリー眷属の男子チームで行える連携を考えた」
「それは・・・・・・興味がそそられるね。どういうのかな?」
実はこの前、仮の駒が勝手に出てきたのだ。その時は焦ったがもう一回入れようとしたら問題なく入ったので、安心したのを覚えている。このことはサーゼクスさんに報告したが、不具合なのかよくわからないそうだ。まあ、この話は今はいいだろう。
「まず、俺がパワーを溜める」
ふむふむ。それでどうするのかな?
「そして、溜めた力をギャスパーに譲渡して周囲の時を停める」
なるほど、その間に敵をボコるという訳か。なかなか鬼畜な戦法d―――
「その間、俺は停止した女の子を触りまくる」
―――あれ?
「―――っ。・・・・・・また、エッチなことを考えていたんだね。でも、それなら僕とナギは必要ないんじゃないかな?」
「いや、ある。お前は禁手で俺を守れ。渚はギャスパーだ。もしかしたらエッチなことをしている間も敵が襲来してくるかもしれない。ギャスパーが停めて、俺が触り、お前と渚で守る。完璧な布陣だろ?」
何がどう完璧なんだろうか・・・・・・? 欲望に正直すぎるのは考え物だろう。
「イッセーくん、力の使い方がエッチすぎるよ。ドライグ、絶対に泣いているよ?」
「僕もそう思うね」
『いいやつだなぁ、お前たちは』
兄さんの腕に赤龍帝の籠手が出てきて、そこから涙声が聞こえてきた。がんばれ、ドライグ!
「うるさいぞ、ドライグ! 木場もそんな目で見るな! イケメンのお前は女の子食い放題だろうけど、俺はそうじゃないだぞ!」
「キミのことだから、気づいたら気づいたでそっちにハマり込みそうだから、黙っておこう・・・・・・。覚えたては怖いというからね」
「僕もその考えに賛成」
兄さんのことだからサルになるに決まってる。
「お前たちは何のことを言っているんだ? まあ、いい。男同士、腹を割って話そうじゃないか。―――第一回『女子のこんなところ、こんな恰好がたまらなく好きだ選手権』だ! 俺は女の子のおっぱいと足を見るね! 服は胸と足を強調するものなら名でも好きさっ!」
笑顔でサムズアップしながら兄さんは言った。みんな苦笑いしている。
「すみません、段ボールの中でもいいですか? 蓋はしめないんで。ただ、人と話すとき、段ボールの中が落ち着くんです」
ギャスパーくん・・・・・・・キミは心底変わっているな。兄さんも遺憾そうだが、許可している。たぶん、ギャスパーくんの手が震えているのを見逃さなかったんだろう。
「あー、落ち着きますぅ。これですよぉ。段ボールの中だけが僕の心のオアシスなんです・・・・・・」
これはどういうリアクションを取ればいいんだろう? あんな狭い空間でしかぎゃスパー君はリラックスできないのだろうか?
「そんなに人と目を合わせるのが嫌ならこれなんかどうだ?」
兄さんが部屋にあった、紙袋に穴を二つ空ける。そして、それをギャスパーくんにかぶせた。
「こ、これは・・・・・・」
「どうですか~? 似合いますか~?」
穴から赤い瞳が除く。正直、ホラーです。子供は絶対に泣き出すね。
「イッセーくん・・・・・・これは・・・・・・・」
「ああ、俺が悪かった」
他の二人も同じように感じたみたいだ。
「あぁ、でもこれ・・・・・・・いいですねぇ。僕には似合うかも・・・・・・」
「ギャスパー、お前を初めてすごいと感じたよ」
「ほ、本当ですか・・・・・・? これをかぶれば、吸血鬼として箔がつくかも・・・・・・」
断じて箔などつかないだろう。ただの不審者・・・・・・いや、変態だ。
「まあ、いい。次は渚、お前の番だ」
「僕? う~ん、そうだなぁ・・・・・・」
ここでの選択肢は二つだ。ガチで行くか、ネタで行くかだ。しかし、あまり恋愛について考えてこなかった僕ではガチな話はできない。ネタで行くしかないだろう。
「おいおい、早く言えよ?」
「わかったから、急かさないでよ」
まったく、楽しんでるの現状だと兄さんだけだよ。
「僕も、ちょっと興味あるな」
って、お前もか祐斗。何気にお前も乗り気なのか。少し意外だ。
まあ、それは置いといて、何を言うかだな。あんまり突っ込んだことを言うと取り返しのつかないことになるだろうからな。
「で、結局渚はどうなんだよ?」
「僕も、最初に見るのは胸を見るかな?」
まあ、これは周囲にいる女性の胸が大きいのが原因だろう。あれだけ大きいと視線がそこに向かうのは仕方ない。
「やっぱそうだよな! 男はおっぱいだよな」
兄さんはなんだかすごくうれしそうだ。仲間がいてうれしいのだろう。
「じゃあ、次はどんな恰好が好きなんだ?」
恰好か・・・・・・。う~ん、悩むな・・・・・・。
「恰好は・・・・・・メイド服かな?」
パッと思いついたのはメイド喫茶だったので、メイド服をチョイスした。
「メイド服・・・・・・あれはいいものだ。ここだけの話だが、俺はグレイフィアさんのメイド姿にかなり心を惹かれた」
兄さんが感慨深そうにうなずいている。祐斗もなんだかんだで、しっかりと聞いていた。なかなかいい感じだ。
「あと、獣耳も好きかな」
テレビで見たメイドさんに猫耳がついていたのを思い出して、それも追加する。兄さんの目が怪しく光った。
「獣耳装備のメイドか・・・・・・。ふっ、やるな、渚」
「悪くないんじゃないかな」
「け、獣耳ですかぁ・・・・・・すごいです。奥が深いんですね」
う~ん・・・・・・ネタに走ったつもりだったので、“おいおい、それはねぇよ!”という反応を期待していたのだが、思ったよりここに居るのはスケベらしい。
このままでは、本当に獣耳メイド好きの称号をもらってしまうことになるだろう。ここでもう一度、ネタ的な悪ふざけを入れるべきだ。
そうゆう訳で、パッと身近にいる女子について思い浮かべる。リアス先輩、朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃん、アーシアさん・・・・・・・。
「ああ、あと・・・・・・こう、泣いている女の子を見るとゾクゾクするよね。もっと苛めたくなるというか・・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
今までの空気が一瞬で消滅した。確かに“おいおい、それはねぇよ!”とみんなで笑って言う反応を得ようとしたのは確かだが、限度と言うものがある。今の空気は“おいおい、こいつやべぇーよ”だ。
(なんで、朱乃さんのドSをチョイスしたんだ・・・・・・・)
完全な選択ミスだ。みんなの沈黙が痛い。悪ふざけがどうやら、致命的なミスになった。どれだけあがいても挽回は無理な気がする・・・・・・。
「渚・・・・・・」
兄さんがこちらを見つめてくる。精神力が削られていく。そんな目で見な―――
「さすがは俺の弟だな!」
―あれ?
「いや~、やっぱりお前も男だな!」
僕の側に移動して肩を組んでくる兄さん。
「そこまではっちゃけるなんて・・・・・・僕も恥ずかしがっていたらダメだな」
「す、すごいです・・・・・・・」
お、おかしいな? みんなから白い目で見られてと思ったら、なんかすごい打ち解けられた雰囲気になってるんですけど・・・・・・。
「これは俺も負けられん! 伊達に、女子から変態と言われていないことをお前らに教えてやるぜっ!!」
やる気を満ち溢れさせる兄さん。祐斗もギャスパーくんも囃し立てるように騒ぐ。訳が分からなかったが、どうやら白い目で見られていたのは僕の杞憂のようだった。僕もみんなのノリに合わせるように声を出す。
こうして、男子だけの猥談が始まった。僕は獣耳メイド好きのドSというありがたい称号を頂くことになった。どう反応していいかわからなかった。白い目で見られなかったのでよかったのだが、なんか納得できなかった。そして、祐斗が意外とスケベだった。内容は祐斗の名誉のために語らないことにする。ただ一言いうならば、祐斗はなかなかマニアックだということだろう。
ちなみにだが、今回語られた内容はお互いの名誉のために消して口外しないことをみんなで誓った。
Side out