DQ4 導かれちゃった者達…(リュカ伝その3)
第1話:日常から非日常への転落
(グランバニア)
大国グランバニア城の一室で、王家と近親者達だけのパーティーが催されている。
このパーティーの主賓は3人…
マリー・リューラ・リューノの3人だ。
彼女等は全員、国王リュケイロムの実娘であるが、母親は各々別である。
では、彼女等3人が主賓のパーティーとは何なのか…
(グランバニア)
マリーSIDE
イエイ!
本日は私は12歳になります!
本当は2日後なんだけど、公式のは今日が誕生日なのです。
どういう事かと言いますれば…
ピエールさんの娘のリューラが、12年前の今日に生まれました。
そして12年前の明日には、スノウさんの娘であるリューノが…
更に翌日に、リュカ国王陛下の正妻ビアンカが私を生んでくれたのです!
つまり私達3人は、1日ずつ遅れて生まれたわけです。
でも“3日続けて誕生日パーティーを開くのは、時間とお金の無駄だから、3人纏めて済ましちゃおう”って結論になり、一番先に生まれたリューラの誕生日に、一緒に祝ってもらっておりますの。
以前は納得してなかったのですが、今はコレで良いかなと思ってます。
何故なら、私にはちょ~格好いい彼氏が居り、正式な誕生日にはその彼がディープに祝ってくれるからです!
さて、そんなわけで今は誕生日パーティーの真っ最中。
色んな人からプレゼントを頂いてます。
各々のお母さんから、手作りのスカーフを頂いたり…
お姉ちゃん達からは、アクセサリーを貰ったり。
あ、彼氏のウルフからは2日後に貰う予定です。
最近、絵を描く事に嵌っているらしく、誕生日には毎年描いて貰ってます。
周囲の人達も絶賛するくらい、腕前はプロ級なのよ!
まぁ、その後で他の物もプレゼントしてくれるんだけどね…
城下でも有数の高級ホテルのスイートをキープして…
キャ♥やだ~…もうエッチぃ!
そうこうしていると我らの大好きなお父さんが、大きな包みを3つ用意して近付いてきます。
毎年お父さんのプレゼントには、大きな期待を寄せてますの。
ともかくセンスが良いんです!
去年は3人色違いでお揃いのイヤリングでした。
今年は何でしょうか?
包みの大きさからしてアクセサリー類の小物ではなさそうです。
因みに、お父さんは私達(お母さんや愛人等も含む)にプレゼントを買う時、事前にアルバイトをして資金を調達して居るんです。
王様なのだからお金はいっぱい持ってるハズなのに…
わざわざ伊達眼鏡と付け髭をして、偽名で『プーサン』と名乗り、私達にも秘密でアルバイトをしているのです。
何で秘密なのに私が知っているかと言うと………現場を見てしまったからです。
国王陛下が政務を抜け出し仕事が滞ってしまった為、秘書官をしている彼氏に暇が出来た為、二人で城下にデートへ行ったのですが…
そこで何と、土木仕事をするお父さんを発見してしまったのです!
そりゃ最初は疑いましたよ!そっくりな別人では?と、疑いましたとも!
でもね…凝視していたら目が合って、お父さんの方から『げっ、マリーにウルフ!?』と漏らしてしまったのです。
直ぐにプーサンの休憩時間が来た為、近くの茶店へ連行し事情聴取をした所…
『国王の仕事で貰えるお金は、基本税金であり無駄遣いはダメだと思うんだよ…それに本気で仕事をしているワケじゃないし、愛しい娘達にあげるプレゼントには、心を込めたいじゃん!?だから苦労して働いて、そのお金でプレゼントを買った方が良いかな~と思ったんだよ』
極上に家族思いのお父さんは、何とも泣かせる思いから、国家の重要な仕事を放置して、変装までしてアルバイトをしていたというのです。
私とウルフも、10日前に発見するまで知りませんでした。
そしてお父さんは、私達に頭を下げ口止めをし、プーサンとして仕事に戻ったのです。
ところで………あの偽名は、ヒゲメガネをオマージュしたのか…クマの方をオマージュしたのか…
きっと前者よね!?
…つーわけで、お父さんはプレゼントに力を入れているわけですが、今回は何が入ってるのでしょうね?
私達一人一人に手渡しするお父さん。その際に「向こうで着替えておいで」とコメント…
つまり中身は洋服ですね。
私達はそれぞれ、中身を確認することなく隣室へ行きます。
そこで言われた通り着替えを行うのですが…
着替えを終え皆さんの下へ戻ると、其処彼処から驚きの声が…
そうなのです…“女の事ならヤツに聞け!”そう言われるほど、女性に対する見識の深さが際立つお父さん。
女性へのプレゼントで誰もを唸らせるセンスの良さ…流石のウルフも、この域まで達しておりませんわ。
3人ともワンピースとカーディガンをプレゼントされました。
カーディガンは淡いクリーム色で3人とも同じ…
だがワンピースの方で区別されております。
私にはワインレッド、リューノにはスカイブルー、リューラにはエメラルドグリーン…
そして腰回りにはベルトが付いてるのですが…
そこに各々が装備している『細波の杖』・『鋼の鞭』・『妖精の剣』を備え付けられる様になっておりますの!
勿論『細波の杖』は私の装備品…
『鋼の鞭』はリューノが、『妖精の剣』はリューラが装備してます。
以前、みんなでピクニック(お父さんが政務から逃亡)した時に、お父さんが二人にプレゼントした物です。
私達はそれぞれ、皆さんの前でクルクル回り見せびらかしております。
何より面白いのは、愛人ズが本気で羨ましがっている事です。
でも、お父さんのセンスの良さとプレゼントにかける意気込みは、本当に嬉しいです!
皆(主に愛人ズ)の羨望の眼差しを浴び、満足してきたところでケーキが登場しました。お母さん・お父さん・そしてウルフが運んできてくれました。
毎年、私のお母さんが3人分ケーキを作ってくれます。
そして今年の各ケーキには、可愛らしい蝋燭が12本立ってるの。
この蝋燭の炎を吹き消し願掛けをしたら、みんなで楽しくお食事会に突入です。
お母さんのケーキは絶品なので、早く食べたくてウキウキ状態です。
すると少し離れたテーブルに他の皆さんと着席し、食事準備万端のリュリュお姉ちゃんが…
「今年のケーキ制作は私も手伝いました!3つの内1つは私の作品です!」
と爆弾発言!
ケーキに近付く私達の足が止まります。
何ですか…このロシアンルーレットは!?
私達だけでなく、室内の全員が青ざめていると…
「ウソで~す。流石にそんな極悪な事はしませんよ~…お父さんのプレゼントが羨ましかったから、ちょっとからかっちゃいました(テヘペロ♡)」と、自白。
お母さんに目で問いかけると…
“本当に大丈夫よ!”と、声に出さずに伝えてくれます。
もう…ヤメテほしいわね、目出度い日に極悪ジョークは!
さて…気分を直して願掛けです。
私の願いは“ウルフと常に一緒で、最高の幸せを得られるように!”です。
私達3人は、ケーキを運んできたお父さん・お母さん・ウルフが見守る中、ケーキに近づきタイミングを合わせ、一気に蝋燭の炎を吹き消します!
「「「フッー!!」」」
小さな36個の炎(12×3)は消え去り、蝋の臭いが鼻腔を擽る。
周囲は薄暗くなり、視界が狭まってゆく…
え!?……どうして蝋燭の炎を消しただけで、こんなにも暗くなるの?
だって今はまだ昼間よ!?
直ぐ側にいたウルフやリューノ達まで見えなくなってるわ!?
『誕生日おめでとうマリー…』
すると突然どこからともなく声が聞こえてきました。
聞き覚えのある声です…
「アンタ誰?もしかしてルビスちゃん?」
『えぇ、私はルビス…以前お世話になり、そのお礼をしに参りました…と言っても、私は念波を送って話しているので、そちらには赴いてませんけど…』
…んな事はどうでもいいんだよ!
「何?真っ暗で何も見えないんだけど…これがお礼?嫌がらせって事?」
『いえ…マリーは私にお願いをしましたよね…『また冒険をしたい』と…』
言ったかそんな事!?
……………あ、言ったわ!うん、言ったわね…祝賀会の時に言ったわ!
「3年以上も経過してるから忘れてたわよ!」
「何だマリー…そんな事をお願いしてたのか!?」
真っ暗で何も見えないけど、この声はお父さんだ。
驚き呆れた口調で話しかけてくる…つーかお父さん達もこの状況なの?
『あらリュカ…側に居たのですか?すみませんねぇ…誕生日プレゼント代わりにサプライズしようと思ったので、貴方まで巻き込んでしまいました』
「ま、巻き込んで………?」
おや?何やら嫌な響きのする言葉だわね…
「ね、ねぇルビスちゃん…憶えてる?私のお願いを憶えてます?」
『えぇ勿論。『ウルフ達と一緒に、広い世界を旅してみたいの!』と仰いましたよ。ですから側に居りますウルフ達も一緒に…』
「「「「「え!?」」」」」
「ちげーよ馬鹿!『ウルフと一緒に!』って言ったんだ…『ウルフ達と一緒に』じゃねーよ!何勝手にお父さん達まで巻き込んでるんだよ!?」
「ちょっとマリー!私も巻き込まれてるって事!?」
この声はリューノだ…ヒステリックにうるせー女だ。
「な、何で誕生日に…マリー、どうするんだ!?」
この声はリューラか?基本寡黙だから判りづらい。
「お、おいマリー!それがお前の望みなら何も言わない…だが今すぐ、僕とビアンカ…そしてリューノとリューラを除外させろ!」
お父さんが慌てて除外を命じてくる…でも隣からはお母さんの笑い声が…お母さんは余裕なのね!?
「あのねルビスちゃん…私とウルフだけに範囲を絞ってくれないかな?」
『う~ん…そんな事言われましても…範囲を指定しているのはマスタードラゴンですし…私に言われても…ねぇ?』
「ヒゲメガネ!てめーまた拘わってるのか!?」
『あ、ルビスずるい…私の事は内密にって言ったじゃないですか!』
『あらごめんなさい…ちょっとムリでしたね。でも大丈夫、きっと解ってくれますよ』
「解らねーよ馬鹿!だから国王を拉致るなって言ってるだろ!」
『それなら大丈夫ですリュカ。今回は異世界ではなく、異時代への召還ですから…全てが解決すれば、自動的に“今、この時間”に戻ってきます。これなら安心ですよね!』
ヒゲメガネが不必要に明るい口調で安心を説く。
「ふざけるな馬鹿!望んでもいないのに、無理矢理召還される身になれっての!」
『あら、貴方の可愛い娘さんが私に望んだ事ですわよ。父親として一緒に楽しんできてくださいよ』
こ、この女神…私が怒られる様に仕向けやがった!
「馬鹿野郎…娘の望みは“彼氏と二人きりの冒険”だろ!僕達を巻き込『あぁ…すみませんリュカ。そろそろ出発の時間の様です…念波が届かなくなってきて、貴方の声が聞こえません!』
「ウソ吐いてるんじゃねー!お前等の声は聞こえてるゾ!」
『………そ、それでは皆さん楽しんできてください』
「あー、おい待て!」
『あ、そうそうリュカ…貴方達は過去の世界に行きます。そこには過去の私が居りますが、貴方達の事は知りません。優しくしてあげてね♡』
ヒゲメガネが言い終わると、突如足下が無くなり落下する私達。
「うわぁー!」「きゃー!!」「ぎゃー!」
こう言う出発は勘弁してほしい…
みんなの悲鳴を聞きながら、私は今回の冒険について考える。
怒られはするだろうけどお父さんも一緒に行くのだ。
100%安全で楽しい冒険になると思われる。
しかもお母さんまで巻き込まれたのだから上手く嫁を導けば、非協力的なお父さんを操り楽しむ事も出来るはず…
うん。結果オーライじゃね?
リューノとリューラはギャーギャー騒ぐだろうが、言わせておけば良いのだし…
あぁ…楽しみだなぁ~
過去の世界か…DQ4かな?DQ6かな?
どっちでも良いか…楽しければね!
マリーSIDE END
後書き
始まりました、リュカ伝その3!
今回は初回という事で、舞台は何時ものグランバニアです…
次話からDQ4の世界に乗り込み、大暴れする予定であります。
さて、第1章には誰が現れるのでしょうか?
第1話:出会い…そして冒険へ
前書き
章題を見れば誰が現れるかは分かると思います。
そう…ライアンと共に行くのはアイツです!
(バトランド地方・バトランド~イムル間の洞窟)
ライアンSIDE
私の名はライアン…
バトランド王国に仕える戦士である。
昨今、領内のイムル村で子供が神隠しに遭うという事件が多発しており、国王陛下から我ら王宮戦士等に、事件解決の命が下った。
私は当初、バトランド城下町にて情報収集を行っていたのだが、治安の安定している城下町には被害は出ておらず、他の戦士達と同様にイムル村へと向かっている。
とは言え、城下町でも事件は起きており、アレックスという名の夫を持つ妻…フレアが、イムル村周辺に赴いたまま帰ってこない夫の事を心配し探してほしいと懇願してきた。
今回の事件とは無関係だとは思うのだが、美しい女性にお願いされると、男としては了承するしか道はなく、その件も含めてイムル村へと足を進める。
城下町を出て4時間程…
バトランド城とイムル村を隔てる大きな川に出る。
以前はこの川を船で行き来していたのだが、バトランド王家が川を潜る様にトンネルを開通させた為、イムル村への移動が大幅に改善された。
尤も近年になり、このトンネル内にもモンスターが出現する事が多く、非武装で通行するのは困難な状況である。
そして今も、この近辺に生息するモンスター…スライム数匹と大ミミズ数匹に囲まれ、戦闘を余儀なくされている。
「ふん!」(ザシュッ!)
私は1匹ずつ敵を駆逐してゆく…
しかしながら敵の数が多すぎて、少なからず私もダメージを負っている。
バトランド城下町で薬草を大量に購入しておいたのだが、それも残り少なく心許ない状態になっている。
無茶をせず一旦引き返そうと考え始めた時…
(ドサ!)「んぎゃ!」
私の後方で何かが落っこちる音と、少女の悲鳴が聞こえてきた。
思わず振り返る私…
そこには3メートルばかり離れた私の目線と同じ高さの空間に、真っ黒い穴の様な物が浮かび上がり、その真下には黒髪の美しい少女が、1匹のスライムを押し潰し尻餅を付いて唸っていた。
「いたたたた……何よ、もっと優しく落としなさいよね!」
気が付くと穴の様な物は消えており、呆然と見詰める私を少女は見上げて唖然としている…
これは一体何なんだろうか?
ライアンSIDE END
(バトランド地方・バトランド~イムル間の洞窟)
マリーSIDE
(ドサ!)「んぎゃ!」
自分の指先も見えない真っ暗闇から一転…
突如視界が回復したと思ったら、お尻に強烈な衝撃が!
「いたたたた……何よ、もっと優しく落としなさいよね!」
どう考えても神様連合の所為であろう…
私の声は届かないのだろうが、文句の一つも言わないと気が済まない。
しかし気が付くと、目の前で私を不思議そうに眺める、ピンクの鎧を着た男性が一人…
もしかして私は急に出現したのだろうか?だとすれば驚くのもムリはない。
いきなり斬り殺される前に状況を説明するべきだろう…
そう思い話しかけようとしたら、男性の背後から2匹のスライムが襲いかかってきた!
私は慌てて『イオ』を唱えようと思ったが、よく見ると此処は洞窟内の様に見える…
なので慌てて『ギラ』に変更し、男性目掛けて襲いかかってきたスライム2匹を消滅させた。
これによって私が怪しい者ではない事を証明出来たかもしれない。
気を取り直して立ち上がり、プレゼントされたばかりのワンピに付いた土を叩き落とし、目の前の男性に挨拶をする。
「あー…いきなりの事で驚いておりましょうが、私は怪しい者ではございません。その証拠に、先程襲われそうになった貴方を助けたでしょ?………申し遅れました、私はマリー。ちょっとした手違いで異時代より参りました。敵ではないのでよろしくお願いします♡」
「あ…うむ…そ、そうか…えっと…あ、危ないところを助けて頂きありがとう…わ、私の名前はライアン。バトランド王宮に仕える戦士、ライアンだ」
ライアン………!?
何と、この人は王宮の戦士ライアンですか!?
つーことは、この世界はDQ4ですね!しかも1章ですのね!?
良いわね良いわね…楽しい冒険旅行になりそうな予感。
しかしお父さん達を巻き込んでしまった事を思いだし、慌ててみんなを探す…
嫌な事(お父さんの説教)は先に済ませてしまおうと、みんなを捜しウルフに甘えようと周りを見渡す。
だが誰も居ない…私の他には、このピンクの鎧を着込んだライアンさんしか存在しない…
どういう事だろうか?一緒にお父さん・お母さん・リューノ・リューラ・そしてウルフも巻き込まれたハズなのに…
この場には居ない…もしやこれは………?
「あの~…ライアン様…」
「ん?な、何かな…?」
「私の他にも一緒に現れた人は居りませんでしたか?この時代に飛ばされたのは、私一人じゃないんだけど………?」
「いや…この何もない空間に、黒い穴の様な物が浮かび上がり、そこから落ちてきたのはマリー…君一人だけだ。他の人物は影も見なかったが…」
何だと!?
あ、あの女神~…“間違えてみんな一緒に移転させちゃった♥”とか言っておきながら、みんなをバラけさせてんじゃねーよ!
使えない女神ね~…当初の約束“ウルフと一緒に”すら守れてないじゃないの!
アイツ何だったら出来んのよ!?
「ど、どうしたのだマリー…誰かとはぐれてしまったのか?…大丈夫なのか?」
目の前ではライアンさんが私の事を心配してくれている。
すっげー良い人じゃん!まぁ分かっていたけど、実物はすっげー良い人じゃんか!
マリーSIDE END
(バトランド地方・バトランド~イムル間の洞窟)
ライアンSIDE
突如現れた異時代の少女マリー…
彼女の言う事には、家族と共にこの時代へ飛ばされたそうなのだが、何故か離れ離れになってしまい困っているのだとか…
私としてもこの可憐で美しい少女の為に、何か力になってやりたいと思うのだが、現状ではイムル村の事件を解決せねばならない。
その事を告げ、近くの村(イムル村)まで送り届ける事を提案したのだが…
「まぁ…何とお優しい…お心遣い感謝します。しかし、家族が何処に居るのか見当も付かない状況…私には行く当てもありません。もしライアン様のご迷惑にならなければ、私にも神隠し事件のお手伝いをさせてください。先程見せましたが、攻撃魔法であれば私は得意ですので、ライアン様のお手伝いが出来ると思うのです………それともダメでしょうか?」
こんな可憐で美しく心の清らかな少女に、瞳を潤まされながら懇願されて断れる男がいれば、そいつは間違いなく同性愛者であろう!
私は違う!出来る事なら、この少女と一緒に事件を解決し、その先にある人生という名の事件も共に乗り越えられれば…
はっ!イカンイカン…彼女は家族とはぐれて心細いのだ。
その様な下心を持っては失礼に値する。
紳士的な態度で彼女に接しなければ…
「この地方の平和を乱す事件の解決を手伝って頂けるのは大変に助かる。無事事件を解決したら、マリーのご家族を捜す事に尽力させて貰うつもりだ」
私はマリーの申し出を快く了承した。
何より、美少女と共に旅をするのだ…
女日照りの続く昨今、こんな嬉しい事はそうないだろう。
私は楽しい未来を想像しながら、新たに加わった仲間と共にトンネルの出口へと進んで行く。
ウキウキとした足取りで……
ライアンSIDE END
後書き
ゴメン…私が書くと、ライアンも緩くなる…
人間味を出したかったんだけど…大丈夫?
第2話:戦士の誇りと…
(バトランド地方・イムル村周辺)
ライアンSIDE
驚いた事に、この可憐で美しく心優しい聡明な少女…マリーは、随分と旅慣れをしている様だ。
旅慣れだけではない…戦闘にも慣れており、私一人の時よりも大分戦闘が楽になった。
本人曰く『攻撃魔法しか使えない』との事だが、それで十分すぎる程の腕前である。
お陰で戦闘スピードも上がり、移動のスピードも向上したが、それでもイムル村までは遠く、今日はこの広い平原に立つ1本の大木の下で、野営を行い休息する事となった。
マリーの魔法で火を灯し、周囲の警戒を怠ることなく休息する…
とは言え、暖かい焚き火を囲み美少女と二人きりで食事をするなど…どうにもテンションが上がってしまうな!
「すまんなマリ-…一人で行動する予定だったから、大した食料を用意しておらんのだ。君の口には合わないだろうが、今日だけは勘弁してほしい」
私は無骨な携行食を火で炙りながら、お世辞にも女性の好みに合わない事を恥じてしまう…
「あらライアン様…私はモンスター蔓延る世界を、正義の為に冒険しておりますのよ。大きな町の小ジャレたカフェテラスで、優雅にお茶を嗜んでいるのとは状況が違います。本来お一人での行動を予定していたのに、急に加わった私の為に食料を分けて頂ける…それだけで感謝に絶えませんわ」
何という心の優しさだろうか!?
一見するとお上品な貴族令嬢の様に見える彼女…
しかし、我が儘を言うことなく置かれた状況を理解し、共に苦楽を共有する事の出来る少女………まさに理想的だ!
しかし…そうなると気になる事が……
「マリー…私の事を“ライアン様”と呼ぶのは止してくれないか?“様”付けで呼ばれる程偉くはないし、これから共に旅する仲間なのだから、もっとフランクに話しかけてほしいのだが…」
私としては少しでも親密度を上げたいと思う…
その一歩は互いの呼び方だろう。
私は年上である事から、当初より彼女の事を『マリー』と呼んできた…
彼女は礼儀正しそうだし、いきなり呼び捨てには出来ないだろうが、それでも少しはフランクな呼び方をしてほしい。
「あら…良いんですか?私としてもその方が楽ですし助かります…けど」
やはり礼儀正しい娘なのだな…
私に気を使っていたとは。
「構わぬよ。これから共に旅する仲だ…堅苦しいのは止めにしようではないか!」
私は持てる最大限の優しさと真摯さを前面に押し出し、マリーをリラックスさせる様努め話しかける。
「いや~…助かるわライアンちゃん!ブリッ子するのは馴れてるけど、やっぱり面倒なのよね!」
………ちゃん?……ブリッ子?…面倒だと!?
「あ…あぁ…うむ…そ、そうだな…(汗)」
ず、随分と…此方へ踏み込むことに躊躇のない少女の様だ…よ、予想とは違ったな…
「やっぱり言葉遣いって大切じゃん!最初は“ライアンさん”くらいで行こうかなと思ったんだけど、身分の知れない私がいきなり親しげにしちゃったら、失礼かなって思ったの。だから取り敢えずは“様”付けで呼んで、期を見て歩み寄ろうと考えたんだけど、ライアンちゃんからOKしてもらえると、すっごく助かっちゃうわ!」
うむ…予想とは遥に違う性格…なのか?
ちょっとフランクすぎる…かな?とは言え私からの提案だし、やっぱり止めようとは言い辛いなぁ…ちょっと言葉を濁して伝えてみるか。
「そ、そうだな…親しき仲にも礼儀ありと言うし…言葉遣いは大切だ!うん!」
「だよねぇー!初対面でタメ口ってあり得ないわよね!でも、そう言う人間って居るのよ…私の身近にも、初対面とか目上とか全く気にしない男が居るんだ!ビックリよね」
うん…どうやら私の気持ちは伝わらなかった様だ…
仕方ないか…私からの提案だったし…ここで止めにしたら、極端なまでの狭量さと、空気を読めない我が儘さだけが目立ってしまう……
諦めるしかないか…
「あ、そうだライアンちゃん!さっきまでは言い辛かった事なんだけど、この機会に言っておきたい事があるの」
言葉を選ばずに済む様になった所為か、先程より饒舌になったマリー。
一体何を言い出すのか……?
「あのね、ライアンちゃん…行動が遅すぎる!」
!?……何やら思いもよらぬ事を言ってくる。
確かに以前から、同僚等には“遅い”とか“のろま”等と、心無い暴言を言われる事も暫し…
今回の神隠し事件でも、私はバトランド城下での情報収集を行い、それからイムルへと出立した…
同僚の中には、私がバトランドを出る頃には、イムルに辿り着いている者も居ただろう…
しかし、その事を数時間前に出会った少女に指摘される謂われはない!
「あ、その顔はご不満プンプンだな!?断っておくけど私が言ってる“行動が遅い”ってのは、調査に乗り出すタイミングが遅いって意味じゃないからね!」
まるで私の心を見透かした様な言葉に、思わずたじろぐ。
「私が言いたいのは、戦闘を開始して敵に攻撃をするのが遅すぎるって言ってるの!さっきの洞窟を抜け、この遮蔽物のない平原を移動して思ったの…敵が近付いてるのは随分前から分かっているのだから、攻撃態勢に入るのが遅いなって…」
ぬぅぅ…私としても戦士としてプライドがある。
素人の少女にここまで言われるとは思っても見なかった。
何とか反論をしようと、自身の戦闘を思い出していると…
「あ、今ライアンちゃん言い訳考えてるでしょ。顔に出やすいゾ!…確かにね私は剣術の素人よ。こんな素人に戦闘のイロハを言われれば、多少なりとも腹が立つでしょう。でも私はね…冒険のプロと一緒に困難な旅をしてきた事もある女なの!」
ぼ、冒険のプロ…
それは一体…
ライアンSIDE END
(バトランド地方・イムル村周辺)
マリーSIDE
ふっふっふっ…
ライアンちゃんてばキョトンとしちゃって!
でもねぇ…戦闘が始まる毎に、スライムやらエアラットやらに一撃貰っていたんじゃ効率が悪いのよ!
本人はアレで敵を引き付け、自分の間合いで攻撃しているつもりなのだろうけど…
その内、一撃が強烈な敵が現れだしたら、反撃するまもなく戦闘終了って事になりかねない。
お父さんやお兄ちゃん…能力は落ちるがアルルさん達の戦闘を見てきた所為か、ライアンちゃんが頼り無く見えてしまう…まだ序盤中の序盤だし、これからに期待すれば良いのだろうけど…
「冒険のプロ…その方は戦闘に関してもプロ級なのであろうか?」
「そうよー…私のお父さんの事だけど、そりゃもう超強いからね!強すぎて大魔王が泣いて逃げたもん!」
まぁ正確には“不死身を捨てて、直ぐにトドメを刺してくれる方へ逃げた”だけどね。
「何とそんなに…お父上と言う事は、マリーと共にこの時代へ参られているのかな?」
お?さっきまでちょっと不愉快そうな顔をしていたのに、強い人が居ると聞いただけで目を輝かせ出したわ。
単純よね~…“戦士”とか“剣士”とかって、強いヤツが居るって分かると直ぐ戦いたがる…きっと今のライアンちゃんも、そんな気持ちで溢れかえってるんでしょうね。
「では、そのお父上に会い手合わせをして頂かねばなるまいな!」
ほ~ら~ね~!(笑)
思考回路が単純すぎー!
「あははははは、ライアンちゃん単純すぎー!ちょ~うける~!」
「むう…マリー、何が可笑しい!私は真剣なんだぞ!」
やだ~…ライアンちゃん、ちょっぴりご立腹!?
「ごめんなさい…でもムリなのよね。ライアンちゃんのその願いは叶わないのよ(笑)」
「叶わない…?それはどういう意味だ、私では差がありすぎて相手にもされないとでも!?」
あ、いかん!笑いすぎたか?目が超マジだ!
「う~ん…違うのよライアンちゃん。あのね私のお父さんに、手合わせをお願いしても『え~めんどくさ~い!良いよ君の勝ちで…僕は弱いから、やる必要ないでしょ!』と言って絶対に手合わせしてくれないのよ」
「な、何と…それは…言ってはなんだが腰抜けではないか!?」
「………ライアンさん……ライアンさんは私のお父さんの事を何も知らないだろうから、今回は我慢します………でも、二度と侮辱をしないでください!お父さんは強くて、格好良くて、面白くて、頼りになって、本当に凄い人なんです!」
気付くと今度は私が怒っていた。
「私は目の前でお父さんの凄いところを見てきたんです!あの人は“名”より“実”を取る人なんです…だから、どちらが強いのか比べる為手合わせを挑んでも『どっちが強くてもいいよ!』と言う気持ちから、戦う事自体を拒むんです!」
どうやら私は、自分が思っていた以上にファザコン・シスターズに近い心を持っていた様だ…
でも、面と向かってお父さんの事を侮辱されると、これ程までに腹が立つとは予想だにしなかった。
う~ん…でもこの場にいるのが私で良かったわ…他の姉妹だったら、ライアンちゃんを殺しかねない。
「す、すまん…私としては侮辱するつもりはなかったのだ…本当に申し訳ない事を言った。心から謝るので許してほしい……真に申し訳ない!」
些か怒りすぎたのか…深々と頭を下げて謝るライアンちゃん。
「…分かってくれれば良いです。言っとくけど、私だからこの程度の怒りで済んだんだからね!他の姉妹だったら、ライアンちゃん殺されてたかもしれないわよ!みんなファザコンばかりなんだから…」
「それは怖いなぁ…その、他の姉妹達もこの時代に来ているのかな?」
あれ?そう言えば…巻き込まれてたのはリューノとリューラだけだったわね。
あの二人だったら怒っても大したこと無いか………
「う~ん…怒ると怖いお姉ちゃんは来てねいわね。つー事は大丈夫かもしんない!」
それに今ここに居るワケじゃないし…良いか、アイツ等の事なんかは!
………でも、私が一人だけ此処(第1章)に来たってことは…もしかして他の連中も………?
マリーSIDE END
後書き
怒らせると怖い姉妹…
一体誰の事だろうか?
第3話:愛しきあの人
(バトランド地方・イムル村周辺)
マリーSIDE
………でも、私が一人だけ此処(第1章)に来たってことは…もしかして他の連中も………?
そうよ、他の連中も各章に飛ばされてる可能性が大きいわ!
じゃぁウルフも1人で、どっかの導かれし者と行動を共にしているって事よね!?
それマズイじゃん! ハンパなくヤバイじゃん!
ウルフってば本当に師匠に似てきたのよね……
元からイケメンだったけど、最近ではそれに磨きをかけてきたし。
暇があればメイドをナンパ……隙があれば女性兵士を口説くし……
あぁ…もしかしたら今頃、何処ぞの女をナンパしてるかもしれない………ん? 何処ぞの女をナンパ?
ぎゃー! やっべーって!
そう言えばDQ4にも美女が盛り沢山じゃん!?
マイパピィの頑張りどころ盛り沢山じゃん!
安全圏は『1章』か『3章』だけでしょ……しかも『1章』には私が来ちゃったから選択肢として消滅だし。
『2章』には美少女姫が待っているわ!
ミニスカートを物ともせずに、蹴るは跳ねるは大暴れ! だがお供の2人がまともそうだから、多少の抑止力になるかも…・
とすると……『4章』の方が危険よね!
だって露出狂女が居るし……相方はお淑やかだし……
ある意味、良い女の両極って感じじゃん!
簡単に股を開きそうな姉と、簡単じゃないが攻略しがいのある妹。
親子丼ならぬ姉妹丼!?
危険よ! 私のウルフが汚されかねないわ!
……だがしかし、危険度で言えば『5章』こそ最大級かもしれないわ!
勇者が男だったら問題ないのよ。男の子だったら、『3章』か『5章』に飛ばされている事を祈るんだけど……女だったらどうよ!
DQ4の主人公と言えば、DQ5に次ぐ悲劇の主人公……
小さいながらも村の人々に愛され育ってきた勇者……
しかし悲劇は突然やってくる……突如現れた魔族の軍勢に村は滅ぼされ、愛する家族を殺される。
そんな不幸の絶頂期に現れるイケメン野郎。
そっと少女を慰めつつ、剣と魔法で冒険をサポート……
優しく頼りがいのあるイケメンに、何時しか少女も恋心を抱き始める。
勿論此処までの流れはイケメン野郎の描いた通り……
うん。間違いなく喰うわね! パパなら間違いなくエンジョイするわ。
心と同時に股をも開かせ、“いただきます”から“ごちそうさま”まで最短距離よ!
何なのよこの状況!?
私言ったわよね!『ウルフと一緒に冒険したい』って……これのどこが一緒よ!
あのバカ女神も『ウルフ達と一緒に』って勘違いしてたけど、ヤツを野放しにするくらいなら集団行動の方がまだましよ!
色ボケ散らすのは親父だけで十分なんだから!
使えねー女神だなぁ…
私の知る限りで、あの女神が役に立った事は1度もない!
今度会う機会があったら絶対に殴る! マーサお祖母ちゃん似だろうが関係ない!
マリーSIDE END
(バトランド地方・イムル村周辺)
ライアンSIDE
何やらマリーの様子がおかしい……
父上を愚弄してしまった事は許してもらえた様だが、他の家族の話をしたら急に考え込み、不安そうな表情を浮かべている。
やはり家族と離れ離れになっているのが寂しいのだろうか?
急に恋しくなり不安が押し寄せてきたのだろうか?
それは当然か……か弱き美女が一人取り残されたのだから。
こんな時……男としては何と言うべきなのだろう? 頼れる男としては……?
「……マ、マリー。今回私が請け負っている事件を解決したら、その後は君の家族を一緒に探そう! 陛下にお願いして、各地へ赴く許可を得る。そして一緒にご家族を捜す旅へ行こう!」
私が事件を解決すれば、そのくらいの願いは聞き入れられるだろう……他者が解決した場合はどうしようか?
「本当? ものっそい嬉しいわ! じゃぁ、さっさと事件解決して、みんなを捜し出さないとね……若干一名が凄く目立つから、世界を巡れば直ぐに見つかると思うのよね」
どうやら彼女に笑顔を取り戻せた……と思う。
この笑顔の為にも、他者が解決した場合でも、一緒に家族を捜す旅に出てやらねばなるまい!
うむ……王宮戦士を辞する覚悟を決めねばな!
だが大丈夫! きっと私が解決するさ……マリーと共に、無事解決してみせるさ!
「さぁ、今日はもう遅い。明日は早めに出立したいので、マリーは寝た方が良いだろう。周囲への警戒は私が行うから、心配せずに休みなさい」
そう言い、周囲に聖水を振りまき、モンスターの接近を制限する。
「ありがとうライアンちゃん。寝不足は美容の大敵なので、お言葉に甘えちゃいます! でもでも、美少女が隣で寝ているからって、襲ったりしちゃダメだゾ!紳士を貫けよ!」
マリーは可愛くウィンクすると、私が持ってきた毛布にくるまり眠りにはいる。
確かに……私が不埒な男であったら、今は絶好のチャンスであろう。
しかし私は違う!
目の前の少女は、私を信用して眠りに就いたのだ。
一時の欲望に負けるなど、戦士として……いや、男として恥ずべき事だ!
大丈夫……私は栄えあるバトランド王宮の戦士ライアン!
神隠し事件を解決し、彼女を家族と再会させ、明るい未来を手に入れる事が出来るはずだ!
だから今は神隠し事件の事だけを考えよう。
そちらに集中すれば、美少女の寝息も気にならなくなる!
私は戦士だ。男の中の男……ライアンだ!
ライアンSIDE END
後書き
この時マリーちゃんは12歳です。
でも見た目が良い女すぎて12歳に見えません。
16~18歳くらいの黒髪美少女を想像して下さい。
それがマリーちゃんです。
でも中身の年齢はすっごい上です。
第4話:美女とお風呂と…
(イムル村)
ライアンSIDE
眠い……ものすごく眠い!
昨晩は一睡も出来なかった……
いっそ敵が襲ってくれば良かったのに……それもなかったので、拷問の様な一晩だった。
無防備な美女が隣で寝息を立てている事が、これほど辛い事だとは思ってなかった。
男とは度し難い生き物なのだと、つくづく思う一晩だった。
そんな状況の私とマリーは昼前にイムル村へとたどり着いた。
本来ならば直ぐにでも情報収集をせねばならぬのだが……
「ライアンちゃん、昨晩は寝てないからお疲れでしょう?寝不足状態で情報を集めても、正しい答えに辿り着けないわ!取り敢えず宿屋で休んで、それから行動に移りましょう」
と、マリーが私を気遣い休憩を勧めてくれたので、遠慮することなくそれに従う事にした。
事実、今の私は注意力散漫になっているので、碌な思考が出来ないだろう。
1時間か2時間程休憩をすれば、頭の方も冴えてくるだろうから、今はムリをせず休んだ方が効率的だ。
宿屋に入り部屋を2つ取ると、
「じゃぁ私はライアンちゃんが休んでいる間に、買い物でもしてくるね♡ 私自身は旅支度なんて何もしてないから……」
と言い、村を散策し始める。
まぁ言っている事は尤もだし、女性には女性専用の必須アイテムがあるのだろうから、男の私が一緒じゃない方が買い物もし易いだろう。
ただ…後で気付いたのだが、お金はどうするのだろうか?
ライアンSIDE END
(イムル村)
マリーSIDE
う~む…ライアンちゃんはチェリーか?
美少女と共に一晩を過ごした所為で、一時も心が安まる時間が無かった様だ……
目の前で無防備に寝姿を晒すなどして、悪い事をしてしまったかな?
“男は皆、獣だ!”と私は思っているので、昨晩はワザと寝たふりをしてチャンスを与えてみたのだが…
どうやらゲーム通り真面目君な様で、不埒な心に負ける事はなかった。
うん。これなら一緒に旅をしても大丈夫だね。もし襲ってきたら、イオナズンで吹き飛ばしてやったところだ。
さて……お金なんて1ゴールドも持ってない私だ!
正直心苦しいのだが、去年の誕生日にお父さんから貰ったイヤリングを道具屋に『家族を捜す旅に出る為、お金がいるんです! お願い……少しでもお高く買い取って下さい!』と、嘘泣きカマして売りつけ、5000ゴールドを手に入れました。
このお金で、寝袋とか携行食とか……必要な物を買い揃え宿屋に戻る。
ライアンちゃんの部屋を覗くと、まだまだ爆睡モードみたいだったので、この宿屋特設の露天風呂を堪能しようと思います。
宿屋の人にお風呂使用を告げ、脱衣所へ入ります。
ご主人さんが言うには、丁度誰も入ってないとの事なので、貸し切り状態で楽しもうと思います。
因みに、入浴場は1つしかない為、時間制で男女を切り替えているみたいです。
服を脱ぎ、キレイに脱衣籠へ収め、備え付けのバスタオルを身体に巻き、入浴場へ移動する………ここで或る事を思い出す私。
ゲームでは、不埒な覗き野郎が物陰に居やがったわね………
緑豊かな茂みに覆われた箇所を睨み、どうするか考えます。
ここはやっぱりイオナズンか? いやいや、流石にそれはマズイ。私のイオナズンじゃ、村自体を吹き飛ばしかねない。
じゃぁ手加減してイオでいくか!?
………それもマズイか?万が一、そこに覗き野郎が居なかったら、茂みを吹き飛ばし視界を開けさせるだけだ。
ダメじゃん! イオ系は使えないじゃん!
そうすると同じ理由でバギ系も使えない。
茂みを全て刈り取るだけに終わっちゃう。
私はお父さんと違って、風だけのバギは使えないのだ…
ギラ系も下手すると茂みを燃やし尽くしてしまう……かも?
う~ん…メラでやってみるしかないのかな?
ヒャド系を使えば良いのだろうけど、困った事に私にはムリなのだ。
使えないわけではない。……手加減が出来ないのだよ!
私がこの場でヒャドを唱えたら、下手するとお風呂までもが凍り付いてしまうかもしれない。
お風呂を堪能出来無くなっちゃう……
その点メラであればイオ系の次に得意なので、茂み全体を燃やし尽くすことなく、標的だけを燃やしちゃる事が出来るはず!
私は茂みの人が隠れられそうな1点を指差し、最大限威力を弱めたメラを唱え発動させる。
右手人差し指から放たれた、マッチの火よりヒョロい火の玉がチョロチョロ、茂みに向かって突き進む。
茂みの中に火の玉が消えた途端……
「ぎゃー! 熱い、熱い、熱いぃぃぃ!」
と大声で叫ぶ男が一人…
大慌てで茂みから飛び出し尻に付いた火を叩き消そうと飛び跳ね回る。
だが、なかなか消えない火に焦り、情けないダンスを踊りながら湯船に向かってダイブをした!
“バシャーン!”と大きな音を上げて、湯船に服のまま浸かる馬鹿野郎。
ふざけるな……私が入る前に、湯船を汚しやがって!
マヒャドでも唱えて凍り漬けにしてやろうと思っていた時……
「ど、どうしたのだ! マリー……無事なのか!?」「何が起きましたか!?」
と、大慌てで乱入してくるライアンちゃんと宿屋の主人。
バスタオル姿の私を……特に胸の谷間を見て、固まる乱入者……
言っておくが、私のボディーは高水準だ。
彼氏のを挟めるからね!
「あ………だ、大丈夫……か?」
視線は固定されたままだが、何とか無事を確かめるライアンちゃん。
私を心配しての行動なのだ……ここは私が我慢するべきなのだろう。
「私の事は取り敢えず……その湯船の中でベソかいてる野郎は覗き魔よ! 捕まえて、貴方達はこの場で待機して……私は着替えてくるから、脱衣所に入ってこないでね!」
そう冷静に指示を出し、平静を装って脱衣所へと戻る私。
ぶっちゃけると、コイツ等全員イオナズンで吹き飛ばしたい気分なのだが、それを我慢して着替えに戻る……
あの場でイオナズンを使ったら、私の着替えまで吹き飛ばしてしまうかもしれないので、落ち着いた行動が必要なのだ。
尤も…・この怒りは覗き魔に叩き付けてやりますけどね!
マリーSIDE END
第5話:夫婦の絆はエロかった!
(イムル村)
結局お風呂を堪能出来なかったマリーは、覗き魔を自らの手でイムル村の牢獄に叩き込む。
番兵に『ヤツの目玉をえぐり出しとけ!』と指示したのだが、冗談にしか受け取られず笑って終わらされた。
その際に、村のパン屋からパンを盗んだ為、投獄されている男に話しかけられる。
「お姉ちゃん……おじちゃん……ボク悪い事してないよ。お腹がすいただけなんだよぉ……え~ん、此処から出してよ……」
番兵や村の者に聞くと、『子供のフリをして罪を逃れようとする不埒なヤツ!』と言う事だ。
ライアンは無視して立ち去ろうとしたのだが……
「ねぇ君、お名前は?何処から来たのかしら?」
見た感じ100%年上の男相手に、子供と話す様な口調で問いかけるマリー。
「ボク、アレックス! あのね、バトランドから来たんだよ!」
初めて優しく話を聞いてくれたマリーに、慌てて自分の事を説明する男。
何故イムル村周辺に来たのか、バトランドでは何をしていたのか……そこら辺は記憶が定かではないのだが、アレックスは懸命に説明する。
最初は時間の無駄だという思いで眺めていたライアンだったが、“バトランドのアレックス”という言葉に、何やら思い出した様子だ。
なお、マリーは……急に慌てだしたライアンを含み笑いをしながら眺めていた。
(バトランド城下町)
ライアンSIDE
まさかあの様な場所で情報を入手出来るとは思わなかった。
バトランドを出立する直前に、夫の行方を捜してほしいとフレアに頼まれなかったら、完全に無視しているところだったろう!
だが何より、あんな頭のおかしい者の話を聞こうとするマリーの優しさが、今回の情報を引き出したのだろう。
やはり我々は、絶妙なコンビなのだ!
しかもマリーは、旅のし易い服装を買い揃えており、移動スピードも向上したのだ。
当初はカーディガンと赤いワンピース姿に、ヒールの高い靴という可愛らしい恰好であったが、現在は全身を覆う様なマントを身に着け、靴も歩きやすいブーツへと変更されている。
ちょっと残念なのは、胸の谷間とフトモモの露出度が低下してしまった事だ……
とは言え、イムル-バトランド間を1日で移動出来るのはありがたい。
早朝にイムルを出立すれば、日が暮れる前にバトランドに辿り着いたのだがら。
人通りも疎らな夕刻……
夫の帰りを待ち侘びるフレアの自宅を訪れ、アレックスの居場所を告げる。
「そ、そんな事に……!?」
あまりにもショッキングな事実に、フレアも戸惑いを隠せない。
本人の精神が不安定な為、連れ帰る事も出来なかった旨を伝え、謝罪をするが……
「戦士様。私をアレックスの下へ連れて行って下さい!」
突如、決意の篭もった表情で、我らに同行する事を告げるフレア!
「な、何を言っておるんだ!? バトランドからイムル村までは、結構な距離があり大変危険なのだ! 旅慣れしているマリーなら問題はないが、貴女は素人であろう……そんな危険目に遭わせるわけにはいかない!」
「どうかお願いします! イムルへ連れて行って頂けるだけで構いません! 私はどうしてもアレックスに逢いたいのです……彼の事を愛してるのです!」
私の断固たる拒絶も“愛”と言う名を纏ったご婦人の前に、脆くも揺らいで行く……
助けを求めようと思い、マリーに視線を向けると……
「解りますわその気持ち! 愛しい人の為に、少しでも何かをしたいのですよね!? ライアンちゃん、私達でフレアさんをお守りし、イムル村へ連れて行きましょうよ!」
恋する乙女は最強なのだろう……朴念仁の私では到底敵うはずもなく、済し崩し的にフレアの同行が決定されてしまう。
まぁ、ご婦人の一人も守れずに『王宮戦士』を名乗るのも烏滸がましいだろう……ここは私の実力をご婦人2人に見せる場であろう!
「では早速仕度をしてきます。少しお待ち下さい!」
そう言うとフレアは、そそくさと家の奥に向かおうとするが、
「ちょっと待ったー!」
大声でそれを阻むマリー。
「フレアさん……私達、早朝にイムルを出立し、1日かけてバトランドへやって来たの。流石に今夜一晩は休ませて下さいよ……こんな強行軍状態でイムル村へ戻るなんて、勘弁して下さいよ……明日の朝一に迎えに来ますから、今夜は宿屋へ泊まりたいと思います」
「………そ、そうですよね……ごめんなさい……あの人を想うあまり、気だけが焦ってしまい………そうだわ、今夜は我が家に泊まっていって下さいませ! そうすれば明日の朝、最も早い時間に旅立つ事が出来るはず。無駄を省く事が出来ますわ」
ご厚意は嬉しいが、独身の王宮戦士が夫不在のご婦人の家に、一晩厄介になるのは拙かろう……
そう思い断ろうとしたのだが、
「ありがとー! ベッドって3つもあるんですか? 無いのなら私はソファーでも良いですよ。あ、そうなるとライアンちゃんは床で寝てね!」
と勝手にマリーが話を進めてしまった……
済し崩し的に一晩厄介になる事となり、剰え暖かい手料理と風呂までもご馳走になってしまい、恐縮の極み。
マリーといい、フレアといい……私は安全な男として見られている様だ……少し複雑である。
ライアンSIDE END
(イムル村)
マリーSIDE
どうやら“フレア”という名前の人には、一途な女性が多い様で、彼女もまた夫の為に危険を顧みない。
周囲の敵が弱すぎて、私一人でも問題ない状況……ライアンちゃん一人が気張った感じで、無事フレアさんを無傷で到着させました。
とは言え、途中一泊をフィールドで過ごし、翌日の昼過ぎの到着は、一般人の足の遅さを物語る。
またも眠れぬ夜を過ごしたライアンちゃんを尻目に、直ぐさま牢屋を目指すフレアさん……愛は人を盲目にさせる。
「アナター!」
「おばちゃん誰?」
牢屋に着くなり、アレックスさんの牢へ叫び寄るフレアさん。夫婦の温度差が笑える。
「そんな……私の事を憶えてないの!? あんなに毎晩愛し合ってるのに!?」
でかい声で言う事じゃないな……
あぁ……マイパピーの愛人ズも、ところ構わず言い出しそうだ……
「こ、これならどう?」
自分の身内の事を考えていると、突如フレアさんが上半身裸になり、アレックスさんの頭をその巨乳で挟み、両サイドから圧力をかけだした! ……つまりパフパフね。
別の牢には、例の覗き魔も収監されており、鉄格子に顔を押し付け食い入る様に眺めている。
悪事を働いた割には、とんだご褒美になった様だ……
やっぱり凍り漬けにすれば良かったわ。
「……うお! ……こ、この感触は!? ……フ、フレア! ………フレアか!?」
「そうよアナタ! 私よ…アナタの妻のフレアよ!」
何だ?パフパフで妻の事を思い出すって……コイツの脳みそはどうなってるんだ!?
マリーSIDE END
後書き
エロは最強です!
第6話:有名な秘密基地
前書き
遂にこのパーティーにも新メンバーが加入します。
カワイイ、カワイイあの子です!
優しくしてあげてね。
(イムル村周辺)
マリーSIDE
私達は今、イムル周辺にある森の中の古井戸へと来ている。
元冒険家のアレックスさんが、井戸の底に洞窟が広がっていると聞きつけ、秘密基地代わりに使用していた子供達から情報を聞き出し、此処を探検したらしい。
その際に、とんでもなく恐ろしい目に遭い、心が子供返りしてパンを盗んでしまったのだという……ホントかよ!?
前代未聞の記憶蘇生術により、その古井戸の洞窟に今回の神隠し事件の有力な手懸かりがあると、教えてくれました。嫁の乳を揉みながら…
ツッコんだら負けだ!実の父親や、兄嫁の父親で体験済み…
冷たい目で見下ろし、去り際に“フンッ!”と鼻で笑ってやるのが最も効果的だ!
しこたま傷付きショボくれる。
だけど真面目なライアンちゃんには刺激的で、本心は見たいはずなのに視線を逸らし照れ笑い。
そして彼等と別れ牢屋から出たところで一言…
「まったく!人と話をする時にあの様な態度を取るとは…けしからん!」
ちょっと腰が引け歩き辛そうなライアンちゃんにはツッコまず、
「アレックスさんの情報が正しいのか、子供達に秘密基地の事を詳しく聞いて裏を取りましょう!冒険野郎マクガ…ゲフンゲフン、アレックスさんの及び腰で、今回の事件と無関係な洞窟を探索したくないですからね…」
と提案。
勿論即決OKで、授業が終わる夕刻に学校へ赴いて話を聞く。
子供心は単純で、出来の良い秘密基地を秘密のままにすることは出来ず、ちょっと自尊心を刺激したらペラペラ教えてくれました。
世の中に秘密基地などは存在しません。公然の秘密基地があるだけです!
そして、その公然の秘密基地に辿り着いた私達は、子供達からの情報に従い古井戸の中を探索するのだ。
マリーSIDE END
(古井戸の底)
ライアンSIDE
心優しいマリーの質問のお陰で、子供達も秘密基地の事を教えてくれた。
私相手では秘密を暴露してはくれないだろう…
流石マリー…美しく聡明なだけはある!
さて、いざ古井戸ないの洞窟を探検すると、所々で『こっちへおいでよ!』と子供の様な声が聞こえてくる。
どうやら我々を誘導している様で、違う道へ向かいそうになると『そっちじゃないよ!』と指摘してくる。
マリーを脅えさせてはならないと思い、手を握ってやろうと近付いたのだが…
「うるせー!私の好きに歩かせろ!お前の指示になんぞ従うか!」
と、何処からか聞こえてくる声に大激怒…脅えてはいなかったみたいだ。
何度目かの『そっちじゃないよ!』の声を無視して進む事数分…
地底湖の畔で1匹のホイミスライムに遭遇した。
戦闘の出だしが遅いとマリーに指摘されて以来、意識して先制攻撃をしてきた私は、咄嗟に剣を抜き攻撃態勢にはいる。
「あ、待って!ボ、ボクは悪いホイミスライムじゃないよ!」
ホイミスライムは何やら言い訳をしているのだが、振り上げた剣は止める事が出来ず、ホイミスライム目掛け振り下ろされる…
「とうっ!」(ドカッ!)
だが、直前でマリーに後ろからドロップキックをされ、勢い良く前のめりに倒れ込みホイミスライムを斬り殺す事を回避する。だが顔面から倒れた為、とても痛い!
「いたたたた………い、一体何をするのだマリー…」
私は顔を押さえながら立ち上がると、涙目でマリーの事を見詰めた。
「私には判るの…この子は良い子よ。目を見れば悪じゃない事は一目瞭然よ!」
「ボ、ボクはホイミン。人間になるのが夢なんです!人間と一緒にいれば、人間になれるかもしれない…だからボクも連れてって下さい!」
「キャー、可愛い!よし、一緒に旅して立派なイケメンになりましょう!」
勝手に話を進めないでもらいたい。
モンスターを連れて旅など出来るわけがないではないか!
「マリー…悪いのだが「私達ね、子供が神隠しになる事件を調べているの。ホイミン君は何か知っているかしら?」
私の拒絶を遮って、ホイミンと名乗るモンスターと楽しげに会話を続けるマリー…
この娘はモンスターが怖くないのか?
私が複雑な表情でマリーを睨んでいると、気付いたらしく向き直って告げてくる…
「私の故郷では、モンスターと共存するのは日常茶飯事よ!町中にも至る所に邪気のないモンスターが居り、人々と共に助け合って生活してます!私の友達にもホイミスライムのホイミン君が存在します!」
「わぁ、ボクと同じだぁ!お姉さんは仲良しなの?」
「えぇとっても仲良しなの!私が回復魔法を使えないから、怪我した時とかに重宝するのよ!数々の修羅場を潜り抜けてきてる子だから、回復魔法を全て使えるしね!」
「すごーい!ホイミスライムなのに、ホイミ以外の魔法も使えるんだ!………でもボクはホイミしか使えないよ。こんなボクじゃお役に立てないね………」
「何を言ってるのホイミン君!君は人間になるのが夢なんでしょう!?だったらその過程で、色々な魔法を憶えて行けば良いのよ。私と一緒に頑張ろう!」
私を無視してホイミスライムの同行が揺るぎない物になってゆく。
二人とも盛り上がり、かなり感動し合っている…
今更『モンスターと同行などできん!』と言えば、私はマリーに極悪人として見られるだろう。
「私はマリーよ、よろしくね♡ あっちの髭を生やした顰めっ面は……ねぇ、ホイミン君を連れて行く事に反対なの!?」
自己紹介を終え、私に向き直り紹介しようとするマリー。だが不本意が顔に出ていた様で、厳しい口調で突っかかってくる。
「い、いや…反対というか…何時モンスターの本性を現して襲いかかって来るとも限らん…危険では……?」
「何を言ってるのよ!ライアンちゃんだって、何時男の本能を剥き出しにして、私を襲うとも限らないでしょ!」
「な…失礼な!私はそんな不埒な事は絶対にしない!」
「それだったらホイミン君だって、私達を襲ったりなんかしないわよ!」
「何故そんな事を言い切れる!?モンスターなのだぞ!」
「ライアンちゃんも同じでしょ!風呂場では私の胸元ばかり見詰め…牢屋ではフレアさんの胸を見た後、私の胸元を見て顔を赤くし…男なんてスケベな事ばかり考えてるじゃない!それでも私はライアンちゃんの事を信じてるわ。何故なら目を見れば、その人の為人がある程度判るからよ!その私がホイミン君を信用してるのよ。私達を襲うわけないでしょ!」
う………一気に捲し立てられてしまった。
マリーの判断を信用出来ぬと言い切れば、それは即ち私自身への信用も危ういと自ら認める事となり、その様な発言は絶対に出来ん!
ここは諦めるしかないか……
私が常に注意をしていれば、寝首をかかれる事もないだろうし…
だがしかし、このホイミンを見る限りその様な事はしそうに感じないなぁ…
「ど、どうやらマリーの言い分が正しい様だ…私もホイミンからは邪気を感じない。まぁ、その~、何だ…モンスターという事だけで、偏見的な目で物を言ってしまい申し訳ない!」
「良かったねホイミン君!じゃぁ3人で仲直りの握手をしよう!」
そう言うとマリーは、ホイミンの手蝕の1本を右手で握り、空いた左手を私の方へ差し出してきた。
それを見たホイミンも、残りの手蝕の1本を私に差し出し、握手を求めてくる。
正直、ホイミンの手蝕に触れる事に抵抗があったのだが、戸惑っていると不快感を与えかねないので、思い切って2人の手(?)を握る事にする。
“ぐにゅ”っとホイミンの手蝕に驚いた…だが、想っていた程不快感はなく、むしろ柔らかくて心地良い。
その後、『私はライアン』と自己紹介をし、ホイミンの頭を撫でてみる…
此方も柔らかくスベスベして心地良かった。
勝手な先入観で物事を決めつけてはいけないのだな。
うむ。マリーと行動すると色々勉強になる!
ライアンSIDE END
後書き
だんだんマリーが父親に似てきている様に見えるのは私だけでしょうか?
第7話:湖の塔を攻略せよ
(古井戸付近)
ライアンSIDE
ホイミンの情報に従い洞窟内を探索すると、一足の珍妙な靴を発見する。
どうやら子供達はコレの所為で行方不明になっているらしい。
外に出てホイミンの説明通りに靴の使用を試みる。
ホイミン曰く、「みんなこのクツを履いたら、空に飛んで行っちゃったんだ」との事…
ホイミンが私の腕にしがみつき、マリーは鎧をしっかり掴み、飛び去る準備を整える…マリーにこそ腕に抱き付いてほしかった。
履いてたブーツを脱ぎ小脇に抱え、珍妙な靴に足を入れる…
すると………
ライアンSIDE END
(湖の塔)
マリーSIDE
「イオ!」(ドカーン!)
湖の塔の最上階に着地するなり、『大ニワトリ』と『リリパット』に囲まれ襲われる。
私はライアンちゃんの背中(鎧)から飛び降り、振り向き様にイオで撃退!
だけど…手加減したつもりなのだが、ライアンちゃんを巻き込み大惨事!
「ごっめ~ん!(テヘペロ♥)」
可愛く戯けて許しを請う。
「ホイミ…大丈夫ですかライアン様?」
「あ、あぁ…ありがとうホイミン。……マリー、魔法を唱えるのなら、我々を巻き込まないでくれ。私の体が盾になったからホイミンを巻き込まずに済んだが、あわや一大事だったぞ!これなら敵の攻撃を喰らった方が、被害は少なかったぞ!」
即座にホイミで回復してくれたホイミンを撫でながら、困った顔で注意してくるライアンちゃん。
うん。悪かったと思ってるよ。
本当に…
「は~い、次からは気を付けま~す」
まぁでも、お陰でライアンちゃんとホイミン君の距離も縮まったみたいだし、結果オーライじゃね?
モンスターって事で、ライアンちゃんには先入観があったみたいだし、これでホイミン君を信用出来ると思ってくれるだろう。多分…
「ふう…まぁいい、ともかく子供達を見つけださねばな!」
そう言うと表情を改め、先頭に立ち進み出す。
直ぐ側には塔の下へと続く階段があり、周囲を警戒しながら下って行く。
我々は幾度となく戦闘を繰り返し、塔内を探索している。
暫くすると一人の戦士が『ピクシー』相手に苦戦していた!
慌ててライアンちゃんが剣を抜き攻撃態勢に入るが、私はヒャドを唱え瞬殺する。
拍子抜けしたライアンちゃん…
どうやら知り合いの人らしく、薬草を取りだし手当を……
だが、それもホイミン君のホイミで片付き、ションボリ薬草をしまい込んだ。
「ん?おおライアンではないか!?随分と頼りになる仲間を連れているなぁ」
「ん?うむ…随分と苦戦をしている様だなガルド」
この戦士さんはガルドと言うそうです。
ライアンちゃん自身、何も出来なかったので面目なさそう…ま、関係ないけどね!
「そちらの美しいレディーは何処で口説き落としたのだ?美女と野獣だと思うのだが?(笑)」
どうやらガルドさんは正直者の良い人みたいですね!
ただ口説かれてはいませんよ。私には愛しい彼氏が居りますから!
「く、口説いてはおらんよ!ご家族とはぐれてしまった為、この事件を解決したら捜してやろうと思っているのだ」
「……そうか………では、そちらのホイミスライムは何だ?もしかして古井戸内に居たホイミスライムか?」
「うむ、古井戸で共に行く事となったホイミンだ。ガルドも出会っていたのか?」
「あぁ……仲間にしてくれと頼まれたのだが…その…モンスターを連れて歩くのは……解るだろ!?…色々と…なぁ?」
「そうは言うがホイミンは優秀だぞ!ここまでの戦闘で十分にそれが分かった!モンスターだからと言って、忌避してはいかん!」
アンタも最初は嫌がってたじゃん!
調子いいな~コイツ。
「どうやらその様だな…失敗したよ。この塔内のモンスターが、こんなにも強いとは予想外だった…」
「そうか?それ程敵が強いとは思わぬが…あぁそうか!私には頼れる仲間が居るからな…敵が弱く感じるのだろう!わっはっはっはっ」
うわっ、ライアンちゃんドヤ顔だ!
ちょっとそれ感じ悪いわよ。
「あの…ガルドさんもご一緒に行きますか?仲間は多い方が良いと思いますが…」
「………いや遠慮しよう!私にもプライドがあるのでな…女やモンスターと共に戦ったと言われるのは……何よりライアンと手を組んだと言われるのもシャクに触る!」
なんつー物言い!
心配してやってるのにムカツクぅ~…
「そうか…では行くとしようマリー、ホイミン」
どうやらライアンちゃんも、この戦士さんが嫌いらしく、しつこく共闘を勧めることなく先を急ぐ。
バカねぇ~…ソロモンでドズル兄さんが言ってたじゃない…『戦いは数だよ兄貴!』って。
ビグ・ザム1機じゃスレッガーさんの特攻と、おニューなタイプのアムロ君の前に、あえなく撃墜なのよ。
『やらせはせん!やらせはせんぞー!!』とか言ってマシンガンぶっ放してたけど、『悲しいけど、これって戦争なのよね…』って感じよ。
そんな事を考えながら、暫く塔内を進んだ時…
「すまんなお前等まで不愉快な気分にさせてしまい…アイツは何時も私を“のろま”と罵るのだ…」
そう悲しそうな口調で謝るライアンちゃん…
「ライアン様!僕は気にしてないよ。だってあの人のお陰で、僕はライアン様とマリーさんに出会えたんだから!」
ライアンちゃんとは違い、明るい口調で感謝を告げるホイミン君。
やっべ、この子可愛い!ウチのミニモン・ラーミアと交換したいわぁ…
ライアンちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせ、ホイミン君の頭を撫でている。
私はホイミン君の手(?)を握り、3人並んで笑顔を振りまく。
ゴールはきっともう少しだろう!
あ、そう言えばこの塔には『破邪の剣』があったわね!?
マリーSIDE END
第8話:ピンクの鎧は正義の証
前書き
何かすげーサブタイトルだな…
(湖の塔)
ライアンSIDE
先程からマリーが妙に周囲を気にし始めた。
目の前に下へと続く階段があるにも拘わらず、それを無視してフロア内を探索する…
一体何を求めてるのだろうか?
「わ~お、あれに見えるは宝箱!ライアンちゃん、開けてみてよ!」
どうやら塔内に置いてある宝箱を求めての行動だった様だ。
あまり感心できんなぁ………
「なぁマリー。こんな敵地に置いてある宝箱だ…罠とも考えられるだろう?開けない方が良いのではないか?」
私は出来るだけ優しい口調でマリーを宥めた。
「何を仰るライアン君!私は君を信用しているのだよ!例え宝箱の中身がモンスターだとしても、君なら一瞬でそれを駆逐し、他者の為にトラップを1つでも少なくすると。それにもしかしたら、中に凄いアイテムがあり、格好いいライアンちゃんを更に格好良くするかもしれないじゃない!?」
「………なるほど!確かに凄いアイテムがあるかもしれないな!!それに、その通りだ…他の冒険者達の為に、トラップを減らしておくべきだろう!」
マリーの深慮深い事…感服致す!
後の世の事を考え…
そして私の事を全面的に信用して…
私もその期待に応えなければならないだろうな!
ライアンSIDE END
(湖の塔)
マリーSIDE
私の目の前でライアンちゃんが宝箱を勢い良く開ける。
これで2つ目だ…どうやらお目当ての『破邪の剣』が入っている。
まったくもってチョロいぜ!
「わぁ!凄そうな剣ね♥ライアンちゃんにピッタリじゃない?」
私に褒められ、気取ったポーズで剣を構える。
お父さんだとこうは行かない…
だがライアンちゃんは簡単に煽てに乗ってくれる。
1つ目の宝箱には少額のゴールドが入っていた。
開けてくれたのはライアンちゃんだが、頂いたのは私である!
その代わり『破邪の剣』は彼の物!
まぁ尤も、このダンジョンに人食い箱系のモンスターが居ない事は100%分かり切っていた事だったので、危険な事など一切なかったのだけどね。
でもお父さんだったら宝箱を開けさせてはくれないだろう…あの人、物欲がなさすぎる。
ライアンちゃんの装備も整い、破竹の勢いで突き進む私達。
今の私達に怖い物など何もない。
…あるとしたら“一杯の昆布茶”くらいかな?(笑)
「む!?この先から子供の泣き声が聞こえてくるぞ!」
『饅頭怖い』を思いだしニヤニヤしていると、突然ライアンちゃんが立ち止まり、下層への階段を指差し呟いた。
「ラ、ライアン様…この先に子供達が…敵のボスが居るんだね?」
ホイミン君がライアンちゃんにピッタリ寄り添い、ブルブルと震えている。
う~ん…ラブラブ?
「準備は良いか二人とも?」
「う、うん…ボク頑張るよ!」
「うッス!何時でもオーケー牧場ッス!」
「「牧場?」」
思わず出ちゃった一言に、お二人キョトンと聞き返す。
お父さんが居れば、更なる被せで笑いを取るのに…
「気にしないで下さいませ。ガッツで行こうって事ですから」
「う、うむ…そうだな…」
う~ん…これも違う。お父さんなら『ガッツだぜ!』を歌い出す!
「ライアン様…マリーさんて時々よく分からない事言いますね?」
疑問いっぱいのホイミン君が、小声でライアンちゃんに囁いた。
聞こえてんぞコラ!
「うむ…あまり触れない方が良いかもな…」
触らぬ神に祟りなし…そんな言葉を思い出すライアンちゃんの囁き返答。
お前等、内緒話ならもっと小声でやれ!
私がジト目で睨んでいると…
「よ、よし!子供達を助ける為に行くとするか!」
と誤魔化しながら先へ進み出した。
納得のいかないまま地下へ下りると…
そこには泣き叫ぶ子供達と、子供達を恫喝する2匹のモンスターが!
すると1人の子供がモンスターの手を逃れ、ライアンちゃんの下へ逃げてきた。
「え~ん、おじちゃん助けて!コイツ等僕の事“勇者だろう”って言ってイジメるんだ!」
「もう大丈夫だよププル君!このライアン様がアイツ等をやっつけてくれるからね!」
「あ、ホイミン…助けに来てくれたんだね!?」
どうやらホイミン君は子供達とお友達の様だ。
「ふん、ご苦労な事なだ…無駄な事だと分からずにこんな所まで来るとは…」
2匹のモンスター…『ピサロの手先』と『大目玉』…
私達に一歩近付き、ドスの効いた声で脅してくる。
「我らピサロ様の忠実な部下の目的は、何れ現れるであろう“勇者”を、子供のウチに抹殺する事!キサマらなどに用は無い…だが、この事を知られたからには生かして帰すわけにはいかぬ!何処の誰だか知らぬが、自分の運命を呪うがいい!」
勝手に説明して、それを聞かれたからと殺すという…どういう了見だ!
「はっ、何処の誰だか知らぬとは笑止千万!であれば、冥土の土産に教えてくれよう。ピンクの鎧は正義の象徴!立派なお髭は強さの証!彼こそはバトランド王宮の戦士ライアン様だ!キサマらザコなど物の数ではない!」
先程、腫れ物扱いされた仕返しに、ライアンちゃんを矢面に立たせる私。
みんなの視線が困り切っている彼に集まります。
ホイミン君など「ライアン様カッコイイ…」と呟く程。
「ザコとは何だ!俺さ「メラゾーマ!」ぎゃー!!」
大目玉が出張り騒ぎ出したので、軽く瞬殺してやります。
そして…
「さぁライアンちゃん!ザコは私が片付けましたわ!あっちのメインはよろしくどうぞ♥」
そう言って子供達を一カ所に集め、細波の杖でマホカンタを張り、その他の事を丸投げする。
ちょっと父親に似てきたかもね(てへ♥)
マリーSIDE END
後書き
敵を煽っても、戦うのは他の者…
これぞリュカ家の伝統だね。
第9話:行きはヨイヨイ、帰りはフワフワ?
(湖の塔)
マリーの唱えたメラゾーマを皮切りに、ピサロの手先との戦闘が開始された。
早々にピサロの手先が火の玉を吐いて攻撃を仕掛ける…
ライアン・ホイミン共に小範囲に火傷を負うが、直ぐさまホイミで回復する。
直ぐにライアンが剣を振りかぶり強烈な一撃をお見舞いする…
ピサロに手先に当たったが、致命傷にはならずメラで反撃される。
またもホイミンのホイミで回復し、此方も致命傷は避ける事が出来た。
共に一進一退を繰り返す両者…
実力はライアン・ピサロの手先共に互角…
唯一有利な点はホイミンの存在である。
ピサロの手先は少しずつダメージを蓄積してゆき、能力を低下させているのだが、ホイミンが回復をしてくれるライアンは、能力を落とすことなく戦い続ける事が出来ている。
この差は次第に大きくなり、ピサロの手先は焦りを憶えていた。
更に言えば、手下の大目玉を一撃で倒す魔力を有するマリーの存在も大きい。
仮にライアンを倒す事が出来ても、全く余裕を残している強大な魔道士が控えているのだ…
精神的にも押されている。
(湖の塔)
ライアンSIDE
(ザシュ!)「ぎゃー!!」
遂に私の剣は敵モンスターの息の根を止める事に成功する。
ホイミンを仲間にした事は、かなり有利に働いた。
懸命に回復役に努めてくれたホイミンの頭を撫で、攫われた子供達の下に向かう。
そこには先制攻撃のメラゾーマを放ったマリーが、子供達と共に笑顔を浮かべて待っていた。
「おいおいマリー…一人後方で見物なんてズルイではないか?あんなに凄い魔法を使えるのだから、もっと援護してくれても良かったのでは?」
「そうしたかったんだけど、メラゾーマなんて大技を使っちゃったら、魔法力を全部消費しちゃって戦える状態じゃなかったのよね」
ペロッと舌を出し戯けて謝るマリー…そういう事情では仕方ない。
「お姉ちゃんスゲー!僕もあんな魔法を使える様になりたいなぁ」
「俺も、俺も!」
美しく強いマリーは男の子達の憧れの的の様だ。
皆マリーに抱き付きはしゃいでる…羨ましい限りだ。
「お姉ちゃんは凄いでしょう!魔女っ子美少女マイノリティー・マリーとは私の事よ!ホホホホホ!」
気を良くしたマリーが腰に手を当て高笑う。
…しかし何故に“マイノリティー”なのだ?
「さぁ、みんな無事だな!?では家に帰るとしようか!お父さんやお母さんが心配しているぞ」
何時までもこうしていられないので、子供達を纏め帰る準備を整える。
私が先頭に立ち、殿をマリーに任せ、子供達を間に挟み守る形で移動する。因みにホイミンは私の腕に絡み付いている…
暫く歩き塔の外へ出たところで、子供の一人がとある疑問を呟いた。
「この塔って周りを湖に囲まれているんだよね…どうやって帰るの?」
言われてみれば………
「こ、この靴を履けば、元の場所へ戻れるのではないかな?」
古井戸内で見つけ、この塔に来る事が出来た珍妙な靴を取りだし、皆に帰る方法を提示する。
「きっと塔の最上階に行くだけだと思うわよ」
「それはやってみなければ判らぬだろう!さぁみんな、試してみるから私に掴まってくれ!」
マリーに提案を却下され、ついムキになって靴の効果を試す私…
万が一という事も………
だがしかし…
マリーが言った通り、塔の最上階へと到着地点が決まっており、また同じ所へ戻ってきてしまった。
「どうするか…泳いで湖を渡るしかないのか?」
「おじちゃん…僕、泳げないんだ…」
勿論、子供達を泳がせようとは思ってはいない。
だが思わず呟いた言葉に、子供の一人が不安気に反応する。
「じゃぁボクがみんなを運ぶよ!」
途方に暮れていると、ホイミンが明るく提案してくる。
どうやら空を飛べる自分が、皆を運ぼうと言うらしい…
「し、しかしホイミン…言ってはなんだが、お前は力が無い…この人数を背負い、空を飛ぶのは不可能であろう」
「うん…一片に運ぶのはムリだけど、一人ずつなら出来ると思うんだ。多分だけど…」
多分か…どうにも心許ない話だな。
とは言え他に良い案があるわけでもない…
今はホイミンに託すしか無いのかもしれないな…そう考えていると、
「この塔の高さを利用すれば、湖の向こう側まで何とか行けるんじゃない?」
塔の高さを利用する…?
最初はマリーの言ってる意味を理解出来なかった…しかし、じっくり考えると解ってくる。確かに良い案だ!
「うむ。マリーの提案を採用しよう!手間ではあるが、一人ずつ向こう岸まで運んでほしい…お願い出来るかホイミン?」
「うん。ボク頑張るよ!」
「じゃぁ私が一番最初ね。次いで子供達を一人ずつ運んで、最後にライアンちゃんって順番で良いわよね?」
ホイミンの了承を得たところで、マリーが勝手に順番を決めてしまう。
「おいおい…先ずは助けた子供達が優先だろう。我が儘を言う物ではないぞマリー!」
「あ゙?我が儘なんて言ってないわよ!」
しかしマリーは凄く不機嫌な顔になり怒り出す。
「良く考えてよ!向こう岸にだってモンスターは居るのよ。子供達だけを先行させて、戦える私達が最後までここに残ったらどうなると思ってるの!?」
た、確かに…そ、それは……
「だから私が最初に向こうへ行って、敵が来ても倒しておくの!こっちで敵に襲われた場合は、ライアンちゃんが駆逐すればいいでしょ!私が先でライアンちゃんが後なのは、軽い私を先に運んだ方が、ホイミン君の体力消費が押さえられ、子供達を湖に落とす可能性が減るからよ!それに最後のライアンちゃんの時に、ホイミン君の体力が無くなっても、ライアンちゃんなら泳いで帰ってこれるでしょ!?」
どうやらマリーはちゃんと考えて順序を提案してきたらしい…
凄い勢いで正論を捲し立て、私に反論の機会を与えてくれない…
尤もこの意見に反論する気は無いのだが。
「わ、分かった…私が悪かった…で、ではマリーを一番最初に運んでくれホイミン…」
「は~い、分かりました~」
素直なホイミンに助けられる私…もうマリーを怒らすのは止めよう。
「あ、ライアンちゃん…空飛ぶ靴を貸して!」
「空飛ぶ靴?この珍妙な靴の事か?これをどうするのだ?」
『空飛ぶ靴』とは言い得て妙だな。良いネーミングセンスを持っているものだ。
「ホイミン君の負担を少しでも軽減させたいのよ。私達を向こう岸まで運んだら、空飛ぶ靴を履いてここまで戻ってくれば、体力消費を押さえられるでしょ!」
「なるほど…マリーは頭が良いな!」
私は大きく感心し、マリーに空飛ぶ靴を手渡した。
ライアンSIDE END
後書き
何時まで経っても戦闘シーンが書けないあちゃでございます。
第10話:馬鹿と魔法は使い用
(湖の塔周辺)
マリーSIDE
事前の打ち合わせ通り、まず最初に私が塔の最上階から湖の向こう岸へ、ホイミンに垂れ下がり運ばれた。
「うぅぅぅ…マ、マリーさん…お、重いよー!」
フラフラ左右に揺れながら、情けない口調でムカツク事を言うホイミン。
「重くないわよ!アンタ失礼な事言うと丸焦げにするわよ!」
「え~ん、ごめんなさーい(涙)」
私に脅され、マジ泣きしながら何とか向こう岸へと辿り着く。
これは全員運べないわね…
良かった…正論っぽい事言って、真っ先に運んで貰えて…
最後に運ばれる事になってたら、最悪途中落下もあり得たわね。
「はぁ…はぁ………じゃ、じゃぁボク…あっちに戻るね」
肩(?)で息をしながら空飛ぶ靴に足(?)を通すホイミン。
いまいち部位が判りづらいが、凄い勢いで塔の最上階へと戻っていった…つー事は、アレは足なんだ!
ホイミンが戻った塔の最上階を見詰めると、少しずつ此方に近付いてくる物がある。
多分ホイミンが最初の子供をぶら下げて、此方にフラフラ向かってきているのだろう。
遠すぎてよく判らんが………
何時までもボーっと眺めていると、周囲にモンスターが集まってきた!
遮蔽物のない平原に美少女が一人佇んでいる……チャンスに見えるのだろう。
ホイミン君が元気なウチに、100%安全に渡ることのために唱えた論理だったのだが、まさか本当に此方の安全を確保する事になるとは思ってなかった…
『スライム』や『大ミミズ』・『ハサミクワガタ』など、ザコザコしい奴等ばかりではあるのだが、数が多すぎてウザッたい!
本気を出すのも大人気ないと最初は思っていたので、メラやヒャドあたりで応戦していたが、しつこすぎて腹が立ってきた。
「イオナズン!」(ドチュ~ン!!)
大量に居たザコがスッキリ居なくなる…
イオナズンに巻き込まれなかった奴等も、目の前に出来た大きなクレーターを見て、慌てて逃げ出す滑稽さ。
「うわ~…お姉ちゃんスゲー………」
子供一番手…ププル君が私のイオナズンを見て呆然と呟く。
可愛い男の子なんだけど、6歳じゃ流石に範囲外よね!エノキを見てやろうとも思わないわ。
そんな事を考えていると、既に疲労が蓄積された表情のホイミン君が、再度空飛ぶ靴を履き塔の最上階へ向かう。
子供達くらいは無事に届けてほしいわね…
大丈夫か?
ププル君の「お姉ちゃんの魔法スゲー!僕にも教えてよ!」と言う、ウザったいアタックを「学校のお勉強を真面目に頑張りなさい♥」と大人ぶって躱していると、ホイミン君が続々と子供達を連れてくる。
気力と根性でライアンちゃん以外を運んできたのは凄い事だと思う。
「ねぇホイミン君。流石にもうムリでしょ!?ライアンちゃんは明日迎えに行く事にして、今日は子供達を先に送り届けない?」
私としては健気に頑張るホイミン君に気を使ったつもりなのだが…
「ダメだよ!ライアン様を一人で置いていけないよ!」
と、凄い剣幕で怒りまた塔の最上階へと戻っていった。
きっとライアンちゃん、途中で落っこちるわよ…
最上階へ着いたホイミン君は、何やらライアンちゃんと会話をしている様だ。
遠すぎて細かい事までは判らないけど、ライアンちゃんもホイミン君を気遣っているみたい。
しかし真面目なホイミン君は、最後の一人…ライアンちゃんを運ぶ為、両脇の腕(?)を絡め、浮かび上がろうと藻掻いている。
この距離で判る程だ…相当藻掻いているのだろう。
ある程度藻掻いているとムリだと悟ったのか、一旦藻掻くのを止め再び会話を始めるお二人。
そしてライアンちゃんはホイミン君を肩に絡めたまま、私達の居る方から見て塔の奥側に移動すると、「ぬおおおぉぉぉぉ!!!!」と言う雄叫びと共に、もの凄い助走を付けてジャンプした!
勿論、ライアンちゃんのジャンプ力だけで湖を飛び越す事など出来るわけもなく、ホイミン君の浮遊力と結合させて渡りきろうという作戦みたいだ…
だが、高度が下がる速度が圧倒的に早い!
この場にニュートンが居れば、この光景を見て万有引力を発見したに違いない。
しかし、今はそんな事を考えている場合じゃない…このままじゃ二人とも池ポチャになってしまう。
何とか助けてやらないと…
う~ん…マヒャドで湖を凍らすか?
………いやダメだ。凍らしたら余計大惨事になる…あの落下スピードじゃ、氷に激突した瞬間グチャグチャになるだろう…
じゃぁバギクロスの風圧で押し上げるか?
………それもダメだな!私にはお父さんの様に風だけのバギクロスは唱えられない。
空中で細切れにしてしまうのがオチだ。
でも風圧と言うのは良いアイデアかもしれない。
水面にイオナズンをぶつけて、爆風で押し上げる事は出来ないだろうか?
でも、一歩間違うとイオナズンを直撃させてしまうかもしれないわねぇ…
う~ん………迷っている時間はないか!
私は一か八かでイオナズンに賭けてみようと思う。
まだ水面から離れている今の内しかチャンスはないからね!
これ以上は迷えないわ!
「よし…イオナズン!!」
意を決してイオナズンを唱える私。
ライアンちゃん・ホイミン君の真下の水面に、私の唱えたイオナズンが炸裂する。
“ドバ~ン!!”という音と共に、大量の水が周囲へ飛び散った!
やべ…やりすぎたか!?
私の目の前には、湖からの大きな津波が押し寄せてくる。
魔法って手加減が難しいわ♥
私はライアンちゃんとホイミン君が爆風で押し上げられたのを見ると、振り返り猛ダッシュでその場から逃げ出した!勿論子供達など眼中にない!
キャーキャー、ギャーギャーと後ろから聞こえてくるし、私の後を追ってきているのだろう…振り返る余裕は無いので自力で逃げ切ってほしい。
先程ザコ敵を葬る為に作ったクレーターが役に立った。
津波として押し寄せた大量の水は、平地より低くなったクレーター内へと進んだので、猛然と逃げ出した私達(子供達を含む)は被害に遭わずに済みました。数人がびしょ濡れだけどね…
ライアンちゃんとホイミン君はと言うと…
新たに出来たクレーター湖でプカプカ浮いております。
結局濡れるんだったら、あのまま放っておけばよかったわ…
マリーSIDE END
後書き
年齢設定
ライアン:25歳(お髭の所為で老け顔です)
マリー:12歳(あと2日で…)
ホイミン:18歳(人間年齢で)
第11話:帰還と旅立ち
(バトランド城)
ライアンSIDE
私は一人、国王陛下の御前に傅いている。
「ライアンよ…此度の事件、よくぞ解決してくれた。心から礼を言うぞ!」
「ははっ!私一人の力ではございません。ここには居りませんが、共に力を合わせた仲間が居たからでございます」
「うむ、聞いておるよ。……しかし何故ここに居らぬのだ?」
「はっ!陛下の御前に姿を出すなど畏れ多い事と言い、城下で待機しております!」
「うむ…それは残念だ。一目会い礼を言いたかったのだが…」
私の目の前で陛下は残念そうに呟いた。
だが私は嘘を吐いたのだ…いや、正確には半分嘘を吐いた事になるのかな?
と言うのもマリーの事なのだが…
ホイミンは『ボクはモンスターだし、お城に入るわけにはいかないよ。お外で待ってますから、ライアン様だけ王様に会ってきてください』と、殊勝な事を言ってお目通りを辞退したのだ。
だがマリーは『ヤダ…私は行かない!だってめんどくさいじゃない…それに他人に傅くなんて嫌だし…ムカツク態度をされたら思わずフッ飛ばしちゃうかもしれないわよ!?』と、どこまで本気なのか判らない事を言い、お目通りを拒絶したのだ。
現在は戻ってきているアレックス・フレア夫妻の家にお邪魔しているはずだ。
間違っても陛下に彼女の本音を伝えるわけにはいかない…
私もムリにお目見えを勧めたのだ…だが今は後悔している。
あんな本音を暴露されるとは思わなかった。
意外と扱いづらいなぁ…あの娘。
ライアンSIDE END
(バトランド城下町-アレックス夫妻邸)
マリーSIDE
「もう!本当にマリーさんはヒドイんですよ!」
先日の“湖での津波巻き込み事件”の事でホイミン君が何時までも吠えている。
2日も前の事だと言うのにしつこいのぉ~…
私とホイミン君は、ライアンちゃんと行動を共にせず、バトランド城下町にあるアレックスさん夫妻のお宅へお邪魔している。
最初はモンスターのホイミン君を見て夫妻も驚いていたが、私が一緒でしかも問題ないと説得した為、今では和気藹々と今回の冒険談に花を咲かせている。
「何時までもうっさいわね~アンタ…もう済んだ事なんだからいいじゃない!結局みんな無事だったんだからいいじゃない!」
細波の杖でホイミン君の頬(?)をグリグリ突きながら、文句垂れる事を咎める私…
「そうは言いますけど、ボクとライアン様は考えがあって行動に移したんですよ!」
えぇ…筋肉ダルマとゼリー状君に考えなんてあるの!?
勢い良く飛び出せば、何とか向こう岸まで届くんじゃね?的な事は考えとは言わないわよ。
「ボクもライアン様も、普通に飛んだんじゃ対岸まで辿り着けないと判ってたんですよ!でも勢い良く飛び出せば、少しでも対岸近くの水面に落ちるだろうと考えて、助走を付けて飛び出したんです!その間ボクは、少しでも落下速度を抑える事に努めました。あのままいけば、ゆっくりと湖に着水して泳いで皆さんと合流する予定だったんです!」
本当かしら?その割には落下スピードが早かった様に見えたけど…
「それなのに真下でイオナズンを炸裂させるなんて…お陰で津波に巻き込まれ、揉みくちゃにされた挙げ句、新たに出来たクレーターの湖で浮かんでたんですよ!死ぬかと思いましたよ!」
二人がクレーター湖で浮かんでた時は、『あ、死んだか?』と思ったわよ(笑)
「何笑ってるんですか!?こっちは大変だったんですからね!クレーターが無かったら、地面に激突ですよ!大惨事ですよ!!」
「私はそれを計算に入れてクレーターを作っておいたのよ。私の努力も認めてほしいわね」
「絶対ウソだ!マリーさん、脇目も振らずに逃げてたじゃないですか!アレが計算ずくの人の行動ですか!?」
ちっ!しっかり私の動きを把握してるんじゃないわよ!
何かお兄ちゃんソックリねコイツ…
真面目でクレーマーで………
「ま、まぁまぁ…ともかくも皆さんが無事で良かったですよ。子供達も無事お家に帰れたのでしょう?みんな喜んだ事でしょう」
フレアさんがホイミン君を宥める様に撫でる…巨乳が左右にプルンプルン揺れ、ホイミンくんの頭(?)もプルンプルン揺れる。
ふん!私だって大きさじゃ負けてないからね!
暫くの間、会話をしたり揺らしたりしてると、ライアンちゃんが王宮から戻って参りました。
「遅くなって済まんなマリー、ホイミン。陛下から旅立ちの許可を得てきたぞ…尤も“まだ幼い勇者を見つけだし守る旅”と称してだがな…」
私としては理由など何でも良い。
早くマイダーリンに合流して、私以外の女に目が向かない様に取り締まらないと…
あぁ神様…どうか彼が第3章に飛ばされております様に……あ、神様にお願いしても役に立たないんだった!そもそもの原因が女神だったし…
「マリー…そんなに不安そうな顔をするな。直ぐにご家族と再会できるよう、私も尽力するから!ほら…陛下が褒美にとくれた物だ。“エンドール迄の乗船券”だぞ!最も繁栄している王国の首都であるエンドールだ。何らかの情報を得られるだろうて」
そうね…少しでも早く向かって、エンドールの武術大会が終了する前に辿り着かないと!
そうすればアリーナ姫一行と鉢合わせ出来るかもしれない…
マリーSIDE END
こうして王宮の戦士ライアンと心優しきモンスター・ホイミン…プラスαで異時代の少女マリー達の冒険が始まった。
あのトラブルメーカーの愛娘が、ライアン達の冒険にどの様な影響を及ぼすのかは、誰にも分からないだろう…
ただ…
ライアン・ホイミン両名には同情の念を禁じ得ない!
第1章:王宮の戦士とヲタ少女 完
後書き
ライアンとホイミンは、この場に現れたのがポピーでない事を感謝すべきだと思う。
第1話:どうして俺がこんな目に遭うのだろう?
前書き
待望の第2章始まるよ~ん!
遂にヤツが登場!
お姫様ピンチか!?
神官君の胃は大丈夫か!?
ジイやの寿命は縮まらないか!?
第5章で家族が増えてたらどうしよう………
(サントハイム城)
ここはサントハイム王国領の首都城、サントハイム城。
その城内の一室で、城の主が愛娘相手に怒鳴り声を上げていた…
「アリーナ…お前はまったく………自室の壁を蹴破り、城を脱走するとは何事だ!城下サランに、信頼の置ける家臣が偶然居たから良かった物の…お前はこの国の姫なのだぞ!ワシの後を継ぐ事になって居るのだぞ!」
「だ~って…城内に居ても面白くないんだもん!誰も私とスパーリングをしてくれないし…なにより私より強い男が居ないじゃない、この城には!」
姫と呼ばれている彼女…アリーナは、1ミクロンも反省の色を見せることなく、ふくれっ面で不平を言うばかり。
「お前は…外の世界がどれほど危険なのか解っておらんのだ!お前が我が国の姫であるとしれた途端、悪漢共が挙ってお前を連れ去りに集まるのだぞ!」
「大丈夫よ!そんな悪者は私が全員やっつけてやるから!」
先程からこの会話は平行線なのだ…
娘の身を思う王様と、自身の強さに絶対の自信を持つ姫様と…
「も、もういい…アリーナ、お前は暫く謹慎じゃ!自室から出る事は許さん…今、部屋の壁は修理させており、二度と壊せぬ様丈夫に作り直させる予定じゃ。分かったら部屋に戻りなさい!」
アリーナは不満顔だったのだが、発言を許さない王様に従い渋々と自室へ戻って行く。
(サントハイム城)
アリーナSIDE
また部屋を改造するのぉ…もういい加減諦めてほしいわよね。
最初に施された改造は、窓に鉄格子を通す事だった…
牢獄かと思ったわよ!仮にも姫の部屋に鉄格子って…
だけど所詮は後付けの鉄格子…鍛え抜かれた私の蹴りで、簡単に吹き飛び出入り自由に!
そうしたら窓ごと撤去されたわ…窓のない部屋ってあり得ないわよね!
次に施された改造は、扉を鋼鉄の重い扉に変える事だった…
扉を蹴破って、正面突破を計ったのが原因だったみたいね。
城の兵士総掛かりで私を止めに入ったけど、全員ノックアウトして気分スッキリだったわ!
まぁその時は、目的と手段を取り違えてしまい、外へ逃げ出すのを忘れちゃったけどね。
そんな訳で現在の私の部屋は、綺麗に装飾が施された独房の様だ。
ベッドに腰掛け、壁を修理している職人を眺めながら物思いに耽る…
今はまだ、蹴破った穴に木材を打ち付け応急修理をしているだけだが、何れ壁を上塗りして厚さを増そうとしているのだろう…
部屋が狭くなるわねぇ…何センチくらい厚塗りにするんだろうか?
1ミリ2ミリって事は無いわよね…
1メートルは盛るわね!それも四方全ての壁を…
う~ん…逃げ出すなら今しか無いわね。
よし!そうと決まったら………
アリーナSIDE END
(サントハイム城)
ブライSIDE
はぁ~…姫様にも困った物だ。
教育係を仰せつかって早数年…まるでワシの教育が拙かったみたいに成長しておる。
“元々あの性格なんだ!”とは言えず…ただひたすら苦労する日々じゃ。
ワシとしては王様の気持ちは痛い程解る。
たった一人の可愛い娘…危険な目に遭ってもらいたくは無いのだろうて…
ましてやお亡くなりになった王妃様に、見た目だけは似てきた昨今…変な男が寄り付くのも腹立たしい事じゃろう。
ワシはそんな王様の気持ちを解ってもらおうと、姫様のお部屋へと一人向かう。
途中、城の神官をしておるクリフトに出会い、奴も姫の事を心配しておるとの事で、共に部屋まで歩いて行く。
クリフトは神官という立場から…また姫様と年齢も近い事から、常に姫様を気遣いワシと共に苦労をしてくれる良き相棒じゃ。
姫様の部屋の前へと到着すると、そこには壁修理の作業員がポツンと扉を見詰め佇んでいた。
急務である壁修理をせず、何をしておるのだ?
「おい!壁の修理もせず、こんな場所でサボるとは良い度胸じゃな!」
「ち、違いますよ!修理をしていたら、姫様が『着替えるから出て行ってよ!』と仰られて…」
「なるほど…それで扉の前で覗こうとしておったのじゃな?」
「ち、違いますよ!そんな恐ろしい事する訳ないじゃないですか!それに、この扉は私が設置したんですよ。覗く隙間など少しもありませんよ!」
ちょっとからかってみただけなのじゃが、なかなか面白い反応をする。
まぁ尤も…あのペチャパイを見ても嬉しくも何ともないがな!
(ドゴーン!!!!)
突如、姫様の部屋から何かが壊れる大きな音が聞こえてきた!
「な、何事じゃ!?」
「わ、判りません!ア、アリーナ様に何かあったのでしょうか!?」
ワシの問い掛けに、クリフトは血相を変え答える。
そして慌てて姫様の部屋へ入ろうとするが…
「………あ、開きませんブライ様!扉の前に何かが支えていて、開ける事が出来ません!!」
ワシは慌てて城内の力持ち共を呼び立て、姫様の部屋へ入れる様命令した。
室内に入れる様になったのは小一時間後である。
室内にはいると最初に目に入ったのは天涯付きの大きなベッドだ。
この大きなベッドを扉の前に置き、時間稼ぎをした様だ…
どんだけ馬鹿力なんだ!?
そして修理途中の壁を再度蹴破り脱走を計った様子…
城内は上へ下への大騒動…
しかしワシとクリフトは冷静に頷き合い、姫の先回りをする事に…
ブライSIDE END
(サントハイム城-裏手)
リュカSIDE
(ドスン!)「うぎゃ!」(むにゅん!)「きゃぁ!」
神龍と女神と愛娘の所為で、また何処かに飛ばされた俺は、突如落下したと思ったら手痛く背中を打ち付け視界が広がった。
しかしそれも束の間…
突如顔に柔らかい何かが覆い被さり、またもや暗闇に迷い込む。
ただ…この感触は、俺の好きな部類の感触だ…きっと女の子のお尻だろう!
「きゃあ!何なのよアンタ!?」
思った通りあの感触は女の子のお尻だった…
俺の顔から飛び退き、警戒する様に問いかける美少女。オッパイは………アルルよりはあるか。
「『何なのよ』って…僕の顔に覆い被さってきたのは君だろ?僕が君のお尻の下に顔をねじ込んだんじゃ無いよ。勘違いしないでね。………て言うか、ここ何処?」
確か“異時代”とか言ってたよな、あの神龍…
グランバニアじゃ無い事は絶対だな。
「「「何事だー!!」」」
遠く…というか、直ぐ側の大きな建物の奥から、数人の叫び声が聞こえてくる。
「ちっ…気付かれたか!まぁ良いわ。ほら、話は後よ!急いでこの場から逃げるわよ!付いてきなさい!」
どうやらこの少女は追われている様で、俺の腕を取ると急いでこの場から逃げ出した。
どうして俺がこんな目に遭うのだろう?
俺、関係ないじゃん!
まぁ…美少女と一緒の方が楽しそうだけど…
リュカSIDE END
後書き
キターーーー!
僕等のヒーローが満を持して登場です!
第2話:僕はイケメン中のイケメンです!
(サントハイム城近郊)
アリーナSIDE
「だから、アンタ何者なのよ!」
「うん。だからね、僕はイケメンのリュカ君だよ。よろしくねアリーナ☆」
このリュカと名乗る男は、私の質問に爽やかな笑顔とサムズアップで答え、まともに会話をしようとしない。
「そうじゃないわよ!何処から来たのか聞いてるの!」
サントハイム城が遠くに見える林の中で、私の大声が響き渡る。直ぐにサランへ行っても城の者が先回りをしている可能性があるので、城付近で時間を潰すのが私の作戦だ…しかし、いい加減真面目に答えてほしいわね。
「え~…説明しても理解してくれないよ。それにめんどくさいじゃん!」
「理解出来ないかは、説明されないと判らないでしょ!それにめんどくさいってどういう事よ!?アンタ自分の怪しさを理解してないの!?」
「え~、僕は怪しく無いよ~…こんなイケメン中のイケメンが、怪しい訳ないじゃんか~!」
どういう精神構造をしているのよ!?
イケメンが怪しくないなんて理屈が通る訳ないじゃない!
(ガサガサ!)
私とリュカが問答をしていると、突如『キリキリバッタ』と『スライムベス』が現れ、攻撃を仕掛けてきた!
全く意識してなかった私は、敵の不意打ちに為す術が無い…
だが傷一つ負うことなく、戦闘は終了してしまう…
リュカが…この男が瞬時に反応し、敵全てを一瞬で消滅させてしまったのだ!
目の前で起きた現象なのに、私には何も解らなかった…
あまりにも早いこの男の動き…
間違いなくリュカは強い。
しかも今の私以上に!
「あ、ありがとう…危ないところ、助かったわ!強いのねアナタ…」
「礼には及ばないよ。お礼だったら、先に顔いっぱい貰ったからね!いちご柄パンツは可愛かったよ」
私はお尻を隠す様に覆い、思わず顔が赤くなる。
普段はパンツを見られても気にしないのだが、ワザワザ言われると恥ずかしくなる…
「あ、貴方が何処から来た何者なのかは兎も角…どうやら悪い奴じゃ無いみたいだし…どう、私と一緒に冒険しない?私、もっと強くなりたいのよね!」
恥ずかしさを隠す為、早口で喋り共に行動する事を提案する。
「ん~…それは良いけど…僕の家族を知らない?」
「え、家族?さぁ…家族を捜して旅をしてるの?」
初めて会う私が、リュカの家族を知る訳無い。何故そんな事を聞いてくるのだろうか?
「おっかしいなぁ…一緒にこの時代へ飛ばされてきたのに…はぐれたのかなぁ…」
“この時代に飛ばされてきた”って言った?
どういう意味かしら…別の時代に居たって事かしら?
またリュカの事を聞こうとした時…
「やはりここに居りましたか姫様!」
突如現れたのはブライとクリフトの二人だった…
「ア、アリーナ様…その男の人は誰ですか!?も、もしや…不埒な事をされたのでは…?」
やっべ…めんどくさい二人に見つかったわ!
クリフトの心配げな言葉に、ブライも顰め面をしている…
「僕からは不埒な事などしていない!アリーナから僕の顔にお尻を押し付けてきたけど…僕からじゃない!」
「か、顔にお尻を…!?ア、アリーナ様…そ、その様なイヤラシイ事を…」
「何という破廉恥な行い!ジイは悲しいですぞ!!」
「ちょ、ちょっとリュカ!そんな誤解を招く様な言い方しないでよ!ち、違うのよ!これはアレよ…フタ抗力ってやつよ!!」
「フタ抗力?……姫様…それを言うなら不可抗力でしょう!」
「ぷふっー!アリーナ頭悪~い!」
「ム、ムカツク男ねー!アンタが誤解を呼ぶ様な言い方をするのがいけないんでしょ!」
「誤解を招いた事は僕の所為でも、言葉を知らなかったのはアリーナの所為じゃん(笑)」
くっそー…お腹を抱えて笑いやがって…
「こ、このー!(涙)」
「うぉっとアブネ!」
私は怒りのあまり我を忘れて殴りかかった…しかし渾身の一撃も、何事もなかった様に躱されて笑われ続ける。
その後も私は彼に攻撃を仕掛けまくる…
しかし掠る事すら出来ず、逆にお尻を撫でられたり、胸を揉まれたりとイヤラシイ反撃を受けプライドをボロボロにされた…
「す、凄い…アリーナ様の攻撃を全て躱すなんて…」
「まったくじゃ…一体何者なんだ?」
アリーナSIDE END
(サントハイム城近郊)
クリフトSIDE
暫くの間リュカさんと呼ばれていた男性と、アリーナ様の戦闘は継続した…戦闘と言ってもアリーナ様が一方的に攻撃を仕掛け、リュカさんが全てを避けセクハラを行うだけの行動なのだが…
それにしても、アリーナ様の胸やお尻を触るなど、けしから羨ましい!
私としてはリュカさんの行為を止めたかったのですが、お二人の動きが凄すぎて止めにはいる事が出来ませんでした。
目で追うのがやっとの動きですから…
流石に疲れたアリーナ様が、肩で息をしながら動きを止める。
しかしリュカさんはにこやかな笑顔を浮かべながら、息一つ切らさずに佇んでいる。
この男性は相当強い!
サントハイム城内でも、一対一でアリーナ様に敵う者は居ない…それでもアリーナ様の楽勝というワケではなく、辛勝というのが実情だろう。
だがリュカさんは、そのアリーナ様相手に余裕を持って対峙している。一体何者なのだろうか?
「あ、あの……アリーナ様、リュカさんが不埒な者でない事は分かりました。しかし一体何者なのですか?その辺りを教えて頂けますか?」
「さぁ?私も知らないわ。ついさっき出会ったばかりだし…リュカも詳しく教えてくれないし…」
早くも息を整えたアリーナ様は、目の前の男性の素性を全く知らない事を平然と語る。
えぇ~!?素性も知らないのに一緒に居るのですか?
思わずブライ様へ視線を向ける…ブライ様も目頭を押さえ、頭を左右に振って困っている。
「あはは、僕はイケメンのリュカ君だよ。よろしくね☆」
リュカさんは自己紹介をすると、爽やかな笑顔でサムズアップする。
世の女性はイチコロの笑顔だろう…
あぁアリーナ様…私では役者不足ですか?
クリフトSIDE END
第3話:血圧の上昇には要注意!
(サントハイム城近郊)
ブライSIDE
ワシの思った通り姫様は直ぐにサランへ向かうことなく、城付近で時間潰しをして居った。
予想外だったのは見知らぬ男と共に居り、そやつと一緒に冒険に出ると言い出した事じゃ。
ワシとクリフトも一片痛い目に遭った方が姫様の為じゃろうと考え、旅に同行するつもりで追っていたのだが、見知らぬ怪しい男が一緒だとは思っても見なかった。
しかも奴は、此方が素性を問うてもヘラヘラ笑いながら『だからイケメンのリュカ君だよぉ~』とはぐらかしまともに答えない!
思わず『何時までもヘラヘラ笑って居らんで、自分の事を喋らんか!これから共に旅するのだぞ!素性を教えるのは当然じゃろが!!』と怒鳴ってしまう。
城内でもワシの怒号は恐れられている…陛下ですらワシに怒鳴られると泣きそうになるのに…
だが、この男はどうだ!?
『あはははは、おじーちゃんそんなに怒っちゃ血圧上がってポックリだゾ!(大爆笑)』
堪忍袋の緒が切れたワシは、リュカ目掛けヒャドを連発する!
だが我が目を疑った…まさか魔法を全て避ける人間が存在するとは思わなかった。
ワシのヒャドを全て避け間合いを詰めたリュカは、ワシの眼前にドラゴンを形取った杖を突き付け微笑んでいる。
しかし目は笑って居らず“敵対するなら容赦はしない!”と語っている…
暫く沈黙が包むと、また爽やかな笑顔に戻り杖を納めてくれた。
助かったのだと安堵の息を吐く…
そして頭を紫のターバンの上から掻きながら、溜息と共に自らの素性を語り出した。
初めからそうしてくれれば助かるのに…
ブライSIDE END
(サントハイム城近郊)
クリフトSIDE
リュカさんの素性は明らかになった…
ただ、とても信じがたい内容であり偽っている可能性も否定出来ない。
私もブライ様も胡散臭そうな表情を浮かべている。
「はぁ~…だから説明するのは嫌だったんだよ!面倒な上、絶対に信じてくれない」
心底辟易した表情でリュカさんはウンザリしている。
しかし此方の疑問はもっともだと思う。
「しかしのぉ…お前の言い分を証明出来ねば…」
「じゃぁさ…お前が突如、3日後の世界に飛ばされたとする。何の予告もなく一方的にだ!そしたらお前はどうやって3日後の世界の人々に、自分は過去から訪れたと証明する!?」
「そ、それは………」
ブライ様の疑いに具体的な例で対抗するリュカさん…確かに証明のしようが無いですね。
しかし、そうなると善悪の判らない者と共に、アリーナ様を旅立たせる訳にはいかないだろう。
私とブライ様は黙って頷き合う。
「別に良いよ…もう信じてくれなくても!」
リュカさんは私達の感情に気付いたのだろう…
不貞腐れた口調で言い放つと、踵を返して我らから遠ざかろうとする。
「ちょっとリュカ、何処に行くのよ!」
「何処って…さっきも言ったが、家族もこの時代に飛ばされてるんだ…みんなを捜して合流しないと。君はお姫様なんだろう?家臣のお二人は、謎多き僕と共に行動する事を快く思ってない。僕もムリに行動を共にする気もないし、一人で旅立つつもりだよ」
どうやら気分を害させてしまった様だ。
スタスタと我々から遠ざかるリュカさん…
しかしアリーナ様は彼の腕を掴み、一人で旅立つのを止めてしまう。
「そんなのダメよ!私より強い男が目の前にいるのに、何も教わることなく『ここでさようなら』なんて許さないわ!ブライ、クリフト…アンタ達がリュカを信用出来ないと思うなら、アンタ達はお城へ帰りなさいよ!アンタ達二人よりリュカ一人の方が頼りになるのだから、リュカと行動を共にする方が安全なのよ!」
アリーナ様はリュカさんが行ってしまうのを必死で止め、私達を睨み付け彼を信用する様に命じてくる。
私としては腹立たしい事この上ない!
幼少よりアリーナ様にお仕えして来ましたが、出会って数時間のリュカさんの方が、私などより格段に信頼されている。
本心としては彼の事を全面的に拒絶したいのだが、そんな事をすればアリーナ様に嫌われてしまう…
そんな悲しい事は避けねばならない。
では、私の取るべき道は…
クリフトSIDE END
(サントハイム城近郊)
リュカSIDE
「アリーナ様が仰るのなら、リュカさんは信用出来るのでしょう!私としましては、頼りになるお方と共に旅する事が出来るのは嬉しい限りです!」
さっきまで俺に対して疑いの目を向けていた神官君がアリーナの我が儘を聞いた途端、手の平を返す様に俺を頼りにしてきた。
コイツ…どうやらアリーナに惚れてるな!
何かティミーに似ているぞ!
からかうと面白そうだなぁ…よし!
「ありがとうアリーナ!僕を信じてくれるのは君だけだよ…家族とはぐれ、心細いのに」
俺は神官君に見せつける様に、アリーナを抱き締め頬擦りをする。家族と離れ離れになってしまった可哀想な男を演じながら…
「リュ、リュカさん!!貴方の事を信じますが、アリーナ様に変な事をしないで下さい!先程も申しましたが、アリーナ様は由緒正しきサントハイム王国の姫君なのですよ!今後、旅立つに際し身分を秘匿していきますが、その当たりをご理解下さい!アリーナ様に不埒な行いは絶対にダメですからね!」
あはははは…顔真っ赤にして怒ってるー!
コイツ…アリーナの事を喰っちゃったら自殺しちゃうかもしれないね(笑)
面白そうだけど可哀想だから手を出さないであげよう…それ程好みじゃ無いからね。
でも、彼女から迫ってきたら遠慮はしないけどね!
リュカSIDE END
後書き
設定年齢
アリーナ:15歳
クリフト:17歳
ブライ:67歳くらい
リュカさんの事は皆さんで計算して下さい。(ビアンカ姉さんと同い年になっているので、公表は控えさせてもらいます。)
因みに次話はリュカさん節大作列!
3/25に更新予定!
第4話:歌なら負けない!
(サラン)
サントハイム城付近の林の中で一晩を過ごし、アリーナを捜す者達の意識が他へ向かった頃、イケメン・トラブルメーカーを含む奇抜な四人組は堂々とサランの町へ辿り着く。
一晩とはいえ野宿をした彼女等は、一刻も早く宿屋へ向かい旅の疲れを取り去りたいのだが、若干一名が『あ、美女の匂いがするよ!』と急に走り出し、町中へと向かってしまった。
まだ旅をすると言う事に馴れてないサントハイムの三名は、唯一旅慣れした男とはぐれるのを不安に思い、渋々ながら後をついて行く。
勿論三人とも『美女の匂いって何だ!?』と疑問に思いながらだが…
(サラン)
リュカSIDE
俺の美女センサーが示す方へひたすら進んで行くと、そこには厳かな雰囲気の教会が佇んであった。
教会とは…
此処から漂う美女の気配と言えばアレしか居ないだろう!
う~ん…幸先良い!
教会の大きな扉を開け中へ入ると、神父さんがキョトンと此方を眺めている。
勿論そんなの無視して、気配の漂う二階へと早足で向かうのだ!
勝手に二階へ上がっても怒られないという事は、結構自由でOKみたい。好都合!
二階へ上がり周囲を見渡すと、一人のオッサンに口説かれている若く美しいシスターが一人…
年の頃なら20前後…白い肌と青い瞳、切れ長のまつげが印象的。
かなりの高得点だ!やはり俺の美女センサーに狂いはない!
シスターの向かい側に座るオッサンを押し退け、頻りに美しさを褒めるのは俺。
最初から居たオッサンが何やら文句を言ってきたから、股間を蹴り上げ黙らせる俺。
新たなる旅の仲間達が俺の行動にクレームを付けてきたので、お姫ちゃんのオッパイとシスターの胸を見比べて、盛大に溜息を吐く俺。
5分程、この6人の男女で問答を行っていると、この部屋に繋がるテラスからギターの様な楽器の音色と、下手くそな歌が響いてきた。
ただでさえナンパを邪魔されてるのに、下手すぎる歌を無理矢理聴かされて苛ついてくる。
「お前うるせーよ!下手くそなんだから上手くなるまで大声で歌うんじゃねー!」
我慢出来なくなった俺は思わずテラスへ出ると、歌ってた奴からギターを奪い取り歌う事を中止させる。
最初は奴もビックリしてたのだが、怒りが込み上げてきたのだろう…
「下手くそとは心外ですね!私の歌声は美しいと有名なんですよ!何せ『囀りの蜜』を飲んだんですからね!」
「サエズリだがセンズリだか知らないが、下手くそな物は下手くそなんだよ!声が美しい事と、歌が上手い事とは別の事なんだよ!見せてやる…歌ってのはこう歌うんだ!」
自分でも論点が脱線してるなとは思ったのだが、ギターを持ったら歌いたくなってきて、思わず“ゆす”の『夏色』を歌っていたよ。
それはもう気持ち良く歌いきったね!
気が付けばテラスの下には町の人達が大勢…
こりゃテンションが上がっちゃうでしょう!
勢いそのままに『栄光の架橋』を歌い『虹』・『いちご』と立て続けに披露していた。
大分気分がスッキリした俺は、ギターをさっきの奴に返そうとしたのだが、『貴方の仰る通り、私はまだまだ未熟者でした。もっと精進したいと思いますので、それはお持ち下さい。貴方が使った方が人々を喜ばせる事が出来る』と、殊勝な物言いで拒絶される。
そうすると先程の剣幕が大人気なく感じるのが人という物…
厳しく怒鳴ってしまった事を謝罪しつつ、握手で自己紹介をする。
因みに彼の名前は『マローニ』…この世界で言う吟遊詩人だ。
良い奴に知り合えたみたいだ。
室内へ戻ると、アリーナ達も先程の歌に聴き惚れていたみたいで、夢見心地で呆然としている。
何よりシスターまでもがウットリしているのがポイント高いね。
これはアレだぞ…大人なアレでアレだぞ!
リュカSIDE END
(サラン)
ブライSIDE
教会で一悶着があったが何とかそれを落ち着かせ、我々は旅に必要な物を購入し宿屋へと向かう。
昨日から色々あり過ぎて、1名を除き疲れ切っていた…
食事を済ませると各自部屋へ入り、手間取ることなく熟睡した様子。
翌朝は日が昇りだした頃に目を覚ます。
年寄りは朝が早いと言われるが、ワシとしてもまだ寝ていたかったのだ…
しかし、隣の部屋から気になる声と音が聞こえてくるのだ!
勿論、隣の部屋に居るのは姫様やクリフトではない!
そう…リュカがワシの部屋の隣を使っているのだ。
町へ入るなりいきなり教会へ赴きシスターを口説く男だ…ワシ等が部屋へ入るのを確認して、夜の町へナンパに出たのだろう。
今後、旅を続けて行くに当たって、奴と姫様の部屋を隣同士にするのはやめよう。
純真無垢な姫様には悪影響この上ない!
現に今も、朝っぱらから迷惑千万。
奴の行為が終わり次第、厳重に注意してやろうと思い、自室から出て廊下で待機する。
どうやらクリフトも同じ事を考えたらしく、既にリュカの部屋の前で待機をしていた。
とんでもなく迷惑な男じゃ!
小一時間待っていたのだが一向に終わる気配がせず、激しさはヒートアップして行く。
ワシなんかは歳じゃし問題ないのだが、若いクリフトが僅かしそうにへっぴり腰でモジモジして居る。
文句を言おうと待機していた手前、今更戻って自家発電に勤しむ事が出来ないのだろう。
これは待っていたのでは埒が明かぬなぁ…
そう思ったワシは意を決してリュカの部屋へと怒鳴り込む!
「朝っぱらからいい加減にせ……い……!?」
ブライSIDE END
後書き
これぞ“リュカ”ってエピソードだね。
でも、既に4話目なのに、ちっとも冒険に出ないね…
リュカさんが絡むと話の進行が遅くなる気がする。
だってリュカさん、勝手に動いてくれるんだもん!
第5話:俺の周囲には必ず小うるさいのが居る
(サラン周辺)
クリフトSIDE
私達は『つちわらし』というモンスターと戦闘を行っている。
と言っても最後の1匹をブライ様のヒャドで倒したところなのだが…
サランの町を出て数十回目の戦闘だ。
多分、普段平原を歩くより数倍も戦闘をこなしているだろう。
それは何故か!?
答えは簡単…リュカさんが大声で歌っているので、敵が聞きつけて寄ってくるのだ!しかも本人は一切戦わない。
何を考えているのだこの人は!?
この人の非常識さには正直参ります。
まさかサランのシスターである、シスター・パメラと昨晩男女の関係になっているとは思わなかった。
昼間熱心に口説かれても困り顔で断っていたのに、夜になりアッサリとベッドを共にするとは…神への誓いはどうしたのか!
この旅は気を抜く事が出来ないだろう…
アリーナ様がリュカさんの魔手に落ちない様、常に見張っていなければならない。
大体良く考えたら、リュカさんはご結婚されていると言っていた…どうやらとんでもなく不道徳な男である!
揚々と歌い続けるリュカさんを見て溜息が出てくる…
「ちょっとリュカ! 歌うのは構わないけど、敵が現れたら戦ってよね! この中で一番強いのだから、みんなと一緒に戦ってよね!!」
確かにその通りだ…いい加減頭にくる。
「嫌で~す! 僕は戦うのが嫌いだから、その要求には応じませ~ん」
「た、戦うのが嫌いって…じゃぁ歌わないでよね!」
アリーナ様は情けに口調で問い返し、歌う事を拒絶する。
「おいおいアリーナ…君は強くなる為に城を抜け出し冒険をしているのでは無いのですか? 折角実践という強くなる機会を提供しているのに、それをするなと仰るのですか? だったら大人しく城に帰れよ…お嬢ちゃんに冒険は向いてない!」
何という理論だ!? “自分は仲間の為に歌っている”とでも言うのだろうか?
どう考えたって歌いたいから歌っているだけだろうに!
私もブライ様も唖然としている…しかしアリーナ様は我らと反応が違い、憮然とした表情で言い放つ。
「やったろうじゃないの! もっと歌いなさいよ! どんなに沢山のモンスターが襲ってきても、この私が全部倒してみせるわ!」
あぁ…とんでもない事になってしまった………
クリフトSIDE END
(サラン周辺)
リュカSIDE
今まで冒険をしてきて初めて歌う許可が下りた(笑)
正式に許可されて無くても勝手に歌ってたからなぁ……
アリーナは良い子だけど、単純馬鹿だね。
「姫様…我らの事も考えて下さい! 我ら二人は、姫様の安全を考え付いてきているだけです。強くなる意志などございませんし、危険は少ない程良いと考えております! ご自身の我が儘で、我ら家臣の身を危険に晒すなど…王家の者として恥ずかしいですぞ!」
「じゃぁ帰ればいいのに…おじいちゃんがムリして若者に付き合う事はないよ。年寄りの冷や水って言葉もある事だし、そんなにサントハイムから離れていないうちに帰れば?」
初めて得た“何処でも歌ってOK権”なのに、それを邪魔する小うるさいジジイ!
「年寄り扱いするでない! ワシはまだまだ現役じゃわい!」
「何が現役なの? 床運動かな? 自家発電は数に入れるなよ!」
「違うわボケェ~!魔道士として…冒険者として現役だと言っておるんだ! 何でこの会話の流れで、床運動などと言う単語が出てくるんじゃ!? お前、頭の中がどうかしてるんじゃないのか!?」
やばい…とっても良いツッコミが返ってきた(笑)
ティミーが居なくて寂しかったけど、この爺さんが居れば楽しめそうだ。
う~ん…こりゃ、こっちの神官君も巻き込まないと…
「んだよ…折角美少女と二人っきりのラブラブ冒険旅行だと思ってたのに…お邪魔な二人は消えれば良いのに! 数年経ったら家族増やして帰ってくるよ!」
俺は二人(特に神官君)に見せつける様に、アリーナの事を抱き寄せてブイサインをする。
「な、な、な、何を仰いますか!? アリーナ様はサントハイム王家の正当なる御血筋の方ですぞ! そ、そ、そんなアリーナ様に不埒な行いをするなど、私は許しませんですぞ!」
わぁ…すげー顔を真っ赤にして怒ってるぅ~(笑)
「そんな事言うけどさぁ…若い男女が危険な冒険に出たら、お互いの距離が縮まって○○○になっちゃうんじゃね? ○○○を○○○で○○○しちゃうんじゃね?」
「あ、あ、貴方は何て下品なんですか!? もう少し慎みを持ちなさい!」
あぁ…昔のティミーを思い出すなぁ…
きっとコイツは童貞だね。
最近じゃティミーもノッてくる様になったしなぁ…
うん。良いオモチャを手に入れた!
爺さんと神官君の激怒模様を眺めていると、突如モンスターが襲来する!
今回は歌ってないから俺の所為ではない!
大声で怒鳴っている、この二人が悪いんだ。
「ぬぅ…『暴れ狛犬』か!? クリフト、姫様にスカラをかけよ! 奴の力は侮れんぞ!」
流石年の功…モンスターの知識とその対応が的確だ。
だが、それを台無しにするのがお姫様ってもんよ!
「たー!!」
何ら考えも無しに3匹の暴れ狛犬に向かって突撃するアリーナ。
持ち前の素早さを駆使し1匹に近付くと強烈な蹴りで吹き飛ばす。
だが良かったのはそこまでだ…
よりによって3匹並んだ敵の中央の敵目掛け突撃し、両サイドに敵状態で隙だらけになるアホ行動。
神官君のスカラも、爺さんの援護魔法も間に合わず、敵の攻撃を喰らいそうになっている。
…これだから世間知らずは困るんだ!
リュカSIDE END
後書き
シスター・パメラとの間に出来た子の子孫が、実はシスター・フレアだった………なんてどう?
第6話:体より先に頭を鍛えろ!
(サラン周辺)
アリーナSIDE
私の周りを突風が駆け抜ける…
2匹の暴れ狛犬に挟まれ絶体絶命だった私は、目にも止まらぬ早さで攻撃を繰り出すリュカによって助けられた。
屈辱だ!
二度目…リュカに危ないところを助けられたのは、出会ってまもない時に問答に夢中になり敵の接近に気が付かなかった時…そして今回と、二度も痛手を負う場面でリュカに助けられた。
しかもそれだけじゃない…
今私は、『戦い方がなってない!』と説教をされている…
サントハイム城に居た頃は私に敵う相手など居なかったのに…戦い方で私に説教を出来る奴など居なかったのに!
「滅多やたらに突撃するな! 折角一緒に戦う仲間が居て、援護をしてくれるのだから協力し合わないと! お前一人で敵を全滅させられるのなら問題ないけど、実際問題敵中で孤立し隙だらけになってたからね! …頭おかしいのかと思ったよ、あの戦い方は!」
「だって……簡単に倒せると思ったんだもん!」
そう…私は強いのよ! そりゃリュカ程じゃないけども、一国の兵士達よりも強いのよ。
あんな犬もどきに負けるはずがないじゃない!
「これだから世間知らずのお姫さんは困るんだよ…『彼を知り己を知れば、百戦殆うからず』と言い、敵の能力を把握し自分の力量を理解していれば、負ける事は無いと言う意味だ。お前はどっちも分かってないだろ!」
「わ、分かってるわよ! これでも私は、城の兵士達より強いのよ! 一度も負けた事が無いんだからね!」
プロの兵士達より強いのよ。
自分の事はちゃんと分かってるわよ!
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、これ程ヒドイ馬鹿だとは思わなかった…」
「な…ば、馬鹿とは失礼ね!」
何なのよ溜息混じりで失礼な!
「城の兵士に勝つのは当たり前だろう。一応とはいえ、アリーナはサントハイムのお姫様なんだぞ! 本気なんか出す訳無いだろうが! 間違っても怪我などさせる訳にいかないんだ…万が一、顔に一生消えない傷を付けてしまったらと思えば、自身が痛い思いをしても勝ちを譲るに決まってるだろう! そんな事をした兵士が、何時までも城で働けるはず無いからな!」
「私、そんな心の狭い事はしないわ!」
「違う! アリーナがどうこうすると言う意味じゃない! お前はお姫様なんだ…自分はそんな事を気にしなくても、周りの人々は気にするんだ」
「ま、周りの人々…」
「そうだ。現にアリーナの身を心配して、ブライとクリフトは危険を顧みず同行してるだろ! もし城の兵士の一人が、間違ってアリーナの顔に傷を付けたら、ブライもクリフトも…城の皆がそいつを許さないだろう。例えアリーナが許すと公言しても、周囲の人々は心から許す事が出来ず、精神的に追い込んで行くだろう」
そ、そんな事まで考えた事ないわ…
「良いかいアリーナ…お姫様気分を捨てきれないんだったら、今すぐお城へ帰って我が儘を言っていろ! 自由を手に入れ、世界を旅し、強さを求めるのであれば、自分一人の事だけでなく仲間の事も考えて行動をしなさい。自分の動きが、仲間達にどんな影響を及ぼすのか…それを考えながら行動しなさい!」
リュカは怒っている…
私が敵の事を理解しようともせず、ブライ達の動きを考えようともせず、我が儘に動いたから凄く怒っている。…………悔しいなぁ!
彼は少し強く旅慣れしている軽いだけの男だと思っていたのに…
凄く色々な事を考え、心身共に強い、本気で頼りになる男性なんだ。
どうしよう…城には居ないタイプだよ…
どうしよう…カッコイイよ…
アリーナSIDE END
(テンペ村周辺)
リュカSIDE
俺、カッコイイ!
まだまだ青いお嬢ちゃんを叱り、本当は頼れる男をである事を見せつけ、俺のパーティー内の立場を確定させる。
アルル達との冒険の時も同じ手を使ったしね…これで戦わずにいても怒られにくくなったね!
さっきの説教以後、3人が連携して戦闘をこなす様になり、ここら辺の敵であれば危なげなくなった様だ。
仲間って便利だよね。仲間がいれば面倒な戦闘をせずにビアンカ達を探せるし…
痛い思いもしないで済むし!
しかも戦闘が終わる毎に、アリーナが“これで大丈夫?”ってな感じで俺の事を見るんだ…
大人の包容力を見せる為、無言のまま笑顔で頷いて答える。
そうすると顔を赤らめて嬉しそうにする少女…可愛いよね!
ただアリーナに惚れているクリフトが、俺をチョイチョイ睨むんだけど…
嫉妬かしら? 鬱陶しいですねぇ…そんなにアリーナの事が好きなのなら、夜這いでもかければ良いんだよ!
もうちょっとオッパイが大きかったら、喰ってたからね俺!
早い者勝ちの世界だからね!
さて………
地図で見た感じでは、この近くに村があるはずなのだが…
日も暮れかけてきたし、野宿よりは宿屋のベッドで眠りたいなぁ。
できれば可愛い村娘付きで!
意外と田舎の教会には、スレてない美人シスターが居るんだよね…
それに畑仕事ばかりしている娘が、ダイアの原石だったりするし…
田舎を侮っちゃダメだよね!
あぁ…ワクワクしてきたよ。
冒険しているなぁ~って感じがしてきた。
やっぱ自由って良いなぁ!
リュカSIDE END
後書き
前作でも、リュカさんはこんな事を考えながら格好を付けてました。
格好いいリュカさん像を壊してしまってゴメンね。
でもこれが本当のリュカさんなんだよ。
第7話:良い女が居ないってどういう事!?
(テンペ村)
ブライSIDE
ワシ等は夕暮れ前にテンペの村へと到着する。
この村は山奥にある事から、それ程発展してはいない…所謂寂れた村なのだ。
とは言え、些か寂れすぎな感が否めない。
ワシも以前来た事はあるが、これ程寂しく暗い村だった記憶はない。
まるでゴーストタウン…いや、ゴーストビレッジ寸前だ。
一体何が………?
「何だこの村!?」
村に入るなり単独行動でテンペ内を散策したリュカが、嫌悪感を露わに我々の下へ戻ってきた。
因みに、宿を取りヤツの部屋を姫様より遠ざけた後の事だ…
「どうしたのですかリュカさん。この村が気に入らないようですけど…ナンパに失敗しましたか?」
非常識な行動が多いリュカに対し、常識的なクリフトが嫌味を含ませ問いかける。
真面目な男だと思ってきたのだが、意外な一面もあるんじゃな。
「ナンパに失敗するくらいなら大した事じゃないよ。極希にだが、僕だって成功しない時があるからね」
言い切りやがった。
ワシだって若い頃はブイブイ言わせてきたが、ここまで言い切る事はなかったぞ!
「では何が不満なんですか? 静かで落ち着いた良い村ではないですか」
「はぁ? お前の目は節穴か!? この村の何処が良いんだよ! 年頃の良い女が全然居ないじゃないか! 僕は今晩、どうやって欲求を満たせば良いんですか?」
そんな事知るか!
右手でも使ってればいいじゃろが!
姫様に手を出したら承知せんぞ!
ブライSIDE END
(テンペ村)
アリーナSIDE
何よ! 良い女ならここに一人居るじゃない!
村に着くなり勝手にどっか行ってたのは、村娘をナンパしに行ってたのね!?
こんな目の前に居るのだから、私を口説けば良いじゃないの!
私はリュカに気付かせる為、目の前に出て微笑みを浮かべる。
だが全然こっちを向かない…
ムカツクわね。どうすれば私の存在を無視出来なくなるの?
「あ、良い女の匂いがする!」
突如リュカが辺りを見回し突飛な事を言い出した。
っていうか、サランでもそんな事言ってたわね。一体何を感じ取ってるの?
宿屋を出たリュカは、明確な足取りで村内を歩き行く。
辿り着いた先には一見の民家が…
他の家より少しだけ大きい様に見える。
私が誰の家なのかを考えていると、リュカは戸惑うことなく家の中へと入って行く。
ノックすらしてないから、ほぼ押し込み状態だ。
どんな生き方してきたんだろうか?
「ほ~ら美女発見! やっとこの村で年頃の美女を見つけたよ…」
家の中には、家主らしき偉そうなオジサンが上座に…その右側には、リュカの言う美女が一人…美女と向かい合う形で座っている若い男性が一人…その男性の隣で、暗い顔で座る中年が一人…
合計4人が、何やら深刻そうな話をしていたらしい。
尤も、私達(主にリュカ)が話の腰を折っちゃったけど。
きっと怒られるわよね。だって無断進入だもん。
「な、何だ君達は!?」
当然の事だが、家主らしき人物が私達の乱入を驚き問いつめる。
正直、いきなり斬りかかって来られないだけマシだろう。
「“何だ君は!?”ってか? …そうです、僕はリュー君です! 美女を求めて東奔西走! 愛と美の探求者、ラブハンターことイケメン野郎リュカ君です!」
どんな贔屓目に見てもふざけきっている自己紹介を終え、小刻みに踊り出すリュカ…
家主達も呆れきって怒りも忘れてます。
「………も、申し訳ございません。ワシ等は旅の者…立ち寄ったこの村に年頃の女性が居らず、あまりにも異様に思えたのでそのわけを尋ねようかと思い、此方のお宅へ参りましたところ、やっとお美しいお嬢さんを発見してしまい、この馬鹿が舞い上がってしまいました。お見苦しい点、ご容赦下さいませ」
リュカの奇行をブライが何とかフォローし、取り敢えずこの村の事を聞き出す事が出来た。
そして分かった事は、最近になり村付近に恐ろしい魔物が住み着き、この村に生贄として若い女性を要求しだしたという事…もし逆らえば、村を全滅させると脅されている事…
実際に村の外(サントハイム等)に救援を求めようとしたらしいのだが、途中で気付かれ使者を殺されてしまったらしい。
その為、唯々諾々と魔物の言いなりになっているとか…
許せないわね、私がそんな魔物を倒してやるわ!
「へぇ~…じゃあさ、この村の美女は、みんなその魔物に攫われちゃったの? ハーレムじゃん!」
「ハ、ハーレムって…リュカ、娘さん達は攫われて食べられてしまった可能性が大きいのだぞ!」
「爺さん何言ってるの? そりゃ美女を攫ったんだ…喰っちゃってるに決まってるじゃん!」
ん? 何だかリュカとブライの会話が咬み合ってないわね…でも話は纏まってるし…何だろう?
私が二人の会話内容を確認しようとした時、二人の会話内容に反応したこの家の人々が、顔を覆い泣き出してしまった。
「うっぅぅぅっ…そうなんです…この村の若い女は、私の娘であるニーナしか残ってないのです…折角、道具屋の息子…ウティとの婚姻も決まっていたのに…」
どうやらこの場にいる若い女性がニーナさんで、その前に座る若い男性が婚約者のウティさん…そしてウティさんの隣に座るのが彼のお父さんみたい。
「え~…お嬢さんには婚約者が居たのぉ~? ……あ~ぁ、テンションだだ落ち~…疲れたし宿屋へ戻ろうか」
急にやる気のなくなったリュカが、宿屋へ戻ろうと出口に向かう。
ちょっと、悪い奴等を野放しにしておいて良いの!?
アリーナSIDE END
後書き
志村けんさんは最高のコメディアンです。
ちょっとリュカさん浮かれてます。
嫌な仕事から解放され、自由を満喫出来ている状況に浮かれ状態です。
多めに見てやってください。
第8話:ちょほいと待ちなぁ~
(テンペ村)
リュカSIDE
「ちょっとリュカ! 悪者を放っておいて良いの!? 私達でこの村を救いましょうよ!」
何言ってんだ、この嬢ちゃんは?
唯一の美女は他人の女…格好を付けたところで、一体誰が俺に群がって来るんだ!?
ババア共か? ロリータ共か? …どっちも興味ねぇ!
「そうですよねアリーナ様! 我らがこの村に訪れたのも、何か神のお導きかもしれません。私達でこの村を救ってあげましょう!」
おぉ…アリーナの前だからってカッコつけて点数稼ぎか?
だけど、ちょっと声と足が震えてるゾ! 魔物が怖いんだろうに…(笑)
「救うって………どうせ3分間しか変身出来ない豚が、村の女の子を攫って………はっ!?」
そうだよ…ウーロンが人攫いを行った時、隠れ家に女の子達を連れ帰り、うはうはハーレムを築いてたんだ!
その魔物を“バチーン!”と倒して隠れ家に行けば、美女達がこの俺に群がってくるんじゃ………うん。間違いなくそうなるね!
「よし、僕達で魔物をぶっ飛ばそう!」
「おぉ、本当でございますか!? そ、それでは教会へ行き、神父様に事情をお話下さい。そうすれば本日の生贄として、村奥の祭壇へ案内してくれるでしょう」
“本日の生贄”? …つまりアレか。
悟空みたいに、女装してウーロンを待ち構えようってワケね!
アイツ…立ちションしてバレたから、今回は気を付けないとね。
リュカSIDE END
(テンペ村)
クリフトSIDE
今私の目の前には、アリーナ様の美しい髪の毛が広がっております!
狭い…とても狭い籠の中…私とアリーナ様とブライ様は、今日生贄にされる予定だったニーナさんの代わりに、生贄として籠の中に身を潜め祭壇へ奉られております。
4人で旅をしているのに、ここに居るのが3人なのにはワケがございます。
それは教会での事…
・
・
・
「え~嫌だよ! こんな狭い籠の中に入るのは嫌だ!」
「リュカ…何を言っておる! この中に入って、魔物共が近付いてくるのを待つのが作戦であろう!」
「こんな狭い籠の中に、4人もの人間が入れる訳ねーだろ! 大体これは、女の子が1人で入る様に作られたんだぞ!」
「た、確かに4人はムリか…」
「それに僕は、アリーナと二人っきりなら喜んで入るけど、野郎と密着したくない!」
「き、キサマと姫さ…アリーナ様を、二人きりに出来るか! 生贄にするより質が悪いわ!」
「じゃぁ僕は入らん! それに爺さん…アンタ仁丹臭いんだよ!」
「よ、余計なお世話じゃ!」
「ま、まぁまぁブライ…落ち着いて…じゃ、じゃぁ籠に入って待ち構えるのは、リュカを除いた3人って事で良いわね?」
「ではリュカさんはどうするのですか? 宿屋に戻って我らの活躍を高みの見物ですか?」
「う~ん………それもアリかな?」
「ちょっとリュカ!」
「ジョーク、ジョークだよ! 魔物に気付かれない様に、外で籠を見張ってるよ。魔物が現れたら、みんなで応戦だ!」
・
・
・
と、リュカさんだけは何処かで我らを見守っている…ハズです。きっと…
「そ、それにしても…」
アリーナ様が何やらモゾモゾ動きながら呟いている。
正直、アリーナ様が動く度に、柔らかいお尻が私のアレに当たり刺激します。す、素晴らしい…
「リュカの言ってた事は本当ね…」
「と、言われますと?」
アリーナ様が動くのが苦しいらしく、ブライ様が苦悶の声で呟き問う。
「こんな籠の中に、人間4人も入らないわ。3人ですら苦しいんだもん!」
その通りだ…しかも我ら3人は、どちらかと言えばスリムな方なのだ。
しかしリュカさんは違う…見た目はスリムなのだが、体中の筋肉が凄いのだ。
とてもじゃないがリュカさん込みでは入れない…我らの内1人としか、この籠には潜めないだろう。
いい加減に見えて、何時も正しい事言ってくる人だ。
………ブライ様の仁丹臭さも!
クリフトSIDE END
(テンペ村)
ブライSIDE
生贄の祭壇へ奉られて暫く…
外の様子は見えんが虫の音が聞こえてくる事から、辺りは暗く夜へと変わったのだろう。
この窮屈な籠のなか…ワシ等の我慢も限界を迎え始めた頃…
「ぐっはっはっはっ…今宵も生贄を貪るとしよう…」
我らの入る籠の近くで、禍々しい声が聞こえてくる。
本来は引き付けて奇襲をする作戦だったのだが、この窮屈さに耐えかねた姫様が、颯爽と籠から飛び出し魔物と対峙する。
「テンペ村を困らせる悪いアンタ達は、この正義の味方アリーナが許さないんだから! この場で成敗してやる!」
本来ならば作戦を台無しにしたと怒鳴っているところじゃが、今回はワシも飛び出したい気持ちになっていた為、むしろ感謝をしておる。
「ん~? どうやら村の者共は我慢できなくなったようだ…旅人を雇い、我らに対抗しようとはなぁ…わっはっはっはっはっ!」
魔物のリーダー格…あれは『カメレオンマン』と言う魔物じゃった…が、暴れ狛犬を数匹従え、我らを恫喝してきおる。
くっ…暴れ狛犬も強敵であれば、それらを統率するカメレオンマンも並々ならぬ相手。
どうやら苦戦する事は必至であろう…
無茶な突出は控えるよう、姫様に目で合図を送る。
姫様もワシを見て小さく頷き身構えた。
どうやら成長はしているらしい…その点はリュカに感謝じゃな。
そんな事を考えていた時…
(デンデレ デンデレ デレデンデレ)
「ちょほいと待ちなぁ~」
どこからともなく鳴り響くギターの音と共に、リュカの力の抜けた声が響き渡ってきた!
ブライSIDE END
後書き
R・田中一郎
ファンの人、ゴメンね。
知らない人、ゴメンね。
はしゃいでるリュカさんを書いてたら、このシーンを書きたくなっちゃったんだ!
第9話:え、本当に食べちゃったの!?
(テンペ村)
クリフトSIDE
(デンデレ デンデレ デレデンデレ)
「ちょほいと待ちなぁ~」
ギターの音とリュカさんの声のする方へ視線を送ると…
それなりに高い木の上で、ギター片手にカッコつけるリュカさんの姿が…
「一曲、歌わせてもらうぜ!」(デンデレン デレンデレデン)
そして何やら歌い出す…
「や、喧しい! 何なんだお前は!?」
一歩も話を進めず、ただ歌い続けるリュカさんに、カメレオンマンは怒鳴りつける。
うるさいギターが止んだので、ちょっと感謝の気持ちが芽生えた。
「“何だ君は!?”ってか?………トウ!」
木の上で恰好付けていたリュカさんは、掛け声と共に飛び降り我らの側へと着地する。
結構な距離があったのだが、超人的な跳躍力だ!
「美女を求めて其処彼処! 美女の為なら何だって! …そうです、イケメンラブハンター・リュー君とは僕の事サ!」
爽やかな笑顔とサムズアップで決めポーズする…
この人、一体何なんだ?
「お前の事など知らんわ!」
「僕もお前になど知ってほしくないわ!」
「じゃぁ無駄な自己紹介などするな!」
「お前が聞いてきたのだろ! 何、人の所為にしてやがる!」
あぁ…話がドンドン脱線して行く…
「リュ、リュカさん! 一体何をやってるんですか…我々はそれどころではないんですよ! ふざけるのもいい加減にして下さい!」
私は大声で怒鳴り、リュカさんに今回の目的を思い出してもらった。
「あ…そうだね! こんな事してる場合じゃないや!」
私の大声に一瞬だけキョトンとしていたが、どうやら目的を思い出してくれたらしく、真面目な表情に戻ってくれた。
「おい悪者! お前等の隠れ家は何処だコノヤロー! 大人しく教え、今まで攫った美女達を返せば、命だけは助けてやるぞ! ………さぁ言え!」
リーダー格の魔物を指差し、高圧的に言い切るリュカさん…だが生贄にされた少女を返せと言うのは、些かムリがあるのでは?
「何を間抜けな事を言っていやがる…今までの生贄は全て食ってしまったに決まっておろう!」
やはりそうか…
神よ、彼女等の魂を天国へとお導き下さい。
「うん。喰っちゃったのは分かってるよ。美女を攫ったんだから、目的は喰っちゃう事だよね! でもそれは諦めてるんだ…別に僕は処女への拘りはないから、喰われちゃった美女でも大丈夫なんだよ。だからさ…みんなを返せよ! 攫った事も、喰っちゃった事も許してやるからさ!」
「だから…食ってしまったと言ってるだろう。返そうにも返せないんだよ!」
何処かリュカさんと魔物の会話が咬み合ってない…
と言うより、リュカさんは何を言っているのだろうか?
「おいリュカ…お前の言っている“喰う”と、奴等の言っている“食う”では、全然意味が違っているぞ」
「え!? 意味が違ってる? ………どういう意味ッスか?」
それより私は、リュカさんの言っている意味を知りたい。
「奴等の言っている“食う”は、本当に食す事だ。お前のとは違う…」
「え、本当に食べちゃったの!? ……美女を!?」
心の底から驚いているリュカさん…
魔物達とブライ様を交互に見て呆然としている。
どうやらリュカさんの想定していた事と、大分違っている様だ。
クリフトSIDE END
(テンペ村)
アリーナSIDE
「はぁ? お前等馬鹿じゃないの!? 食ってどうするんだよ! 違うだろそれは!?」
どうやらリュカの想定事項と、魔物達の行動は食い違いがあったらしく、かなりの勢いで腹を立てている。
ただ私には、何の事だか全く解らない…
「喧しい! 我々の為に捧げられた生贄を、どの様に処するかなど我らの勝手だ!」
「あーもー、うるせーバ~カ! ムカツクから喋んな馬鹿!」
何だか一気にやる気を消失してしまった様で、魔物達に背を向けガックリ項垂れている。
「くっそ…いい加減腹立たしい男だ! 暴れ狛犬よ、ヤツを食らってしまえ!」
魔物のリーダーの一声で、数匹の暴れ狛犬全てが背中を向けて隙だらけのリュカに向かい襲いかかった!
私は慌てて助けようと動くも間に合わず、暴れ狛犬達がリュカの間近に迫ってる!
「うるせーっての!」(バチン!)
しかし暴れ狛犬達がリュカに噛み付く寸前、振り向き様に放った彼の右ビンタ1発で、全ての暴れ狛犬が纏めて吹き飛ばされ、大木に激突し絶命する。
やっぱり凄いわ…あの暴れ狛犬数匹を、たった一撃で全滅させるんだから…
沢山居た仲間が一気に居なくなり、魔物のリーダーが一人で唖然としている。
これは一気にたたみ込むチャンスね!
そう思っていたのだが、リュカがトボトボと村の方へ歩き去る。
「ちょ、ちょっとリュカ! 何処行くのよ…まだ敵は残っているのよ!」
「あ~ん? やる気無くなっちゃって…でも期待だけは大きくて気持ちは高ぶってるから、シスター・パメラの所へ行ってくるぅ。じゃぁ明日の朝、村の宿屋に集合ね」
そこまで言うと、さっさと歩き去り居なくなった…
シスター・パメラって、サランのシスター・パメラ?
リュカは何を言ってたの?
いくらリュカが走ったって、ここからサランへは1日かかるわよ。
往復で2日………明日の朝、宿屋に集合って………?
って言うか、戦闘はどうするのよ!?ちょっと、リュカぁ~!
アリーナSIDE END
後書き
気を付けないとアリーナとアルルのキャラが被る。
もっと一直線馬鹿に仕立てないとなぁ…
第10話:アレの後の朝日は目に染みる
(テンペ村)
リュカSIDE
山々の隙間からテンペ村に朝日が降り注ぐ。
今し方までベッドで頑張っていた俺には、美しい朝日が目に染みる…
ルーラを憶えて本当に良かった…良い女の居ない村から、極上な女の居るサランまで、思い立ったら直ぐ往復出来る…本当に良かったよ!
少しは寝ておこうと思い、宿屋へと入る。
すると主人が深々と頭を下げ、この村を救った事のお礼を言ってきた。
勿論、俺は大して何もしてないし、どうでもいい事だと思っているので、適当にあしらって躱すのだが…それでもしつこく礼を言ってくる…うぜぇ~!
まぁ何もしてない俺にまで、感謝感激で礼を言ってくるのだがら、あの魔物を倒したんだろうと想像出来る。
一応無事を確認する為、アリーナの部屋を覗き様子を伺う…
だが驚く事に、アリーナの部屋に居たのは彼女だけでなかった!
こんな言い方をすると『お、クリフト…遂に姫様を押し倒したか!?』と、ピンク色の想像をしてしまうだろうが、実は違う!
泥の様に…と言うか、泥だらけでベッドに横たわるアリーナと、床に転がり爆睡する家臣二人が、色事の可能性を全否定する。
宿屋の主人に聞いた話では、魔物を倒して戻ってきたのは、つい2.3時間前の事で、帰って来るなり倒れる様に眠ってしまったらしい。
弱いワンコしか手下に居ないヤツごときに、そんなにも苦戦するとは…よえーなコイツ等。
あんまり手伝わない方が良いかもね…まぁ尤も、手伝う気なんか微塵もないけどね(笑)
でもアルル達と違って、アリーナは自分が強くなりたいという意志が強いから、俺に手伝えとは言ってこないだろう。
そう考えるとアルルってめんどくさい娘だよね。
(コンコン)
自室に入り息子の嫁(予定)の事を考えていると、誰かが扉をノックしてきた。
何だ? 俺は(アリーナ達とは違う事)頑張りすぎて疲れてるんだ…
少しは遠慮してほしいなぁ…
「どなた?」
「あ、お疲れの所お邪魔してしまって申し訳ございません。私はニーナです…この村の村長の娘のニーナです」
村長の娘っていうと…この村唯一の美女か!?
「どうぞ! 全然疲れてないから大丈夫だよ!」
もう寝ようと思ってたので、マントを脱ぎ服も脱ぎかけだったが、美女の…それも命を救われた(俺以外のヤツに)美女の来訪にテンションが上がり、そのままの恰好で扉を開け来訪者を迎え入れた。
「本当にすみません…宿屋の主人に今聞き、少しでも早くお礼を言いたかったので」
凄い勢いで上がったテンションは、ニーナが彼氏連れで訪れた事で、フリーホールの様に落下する…
どうやら“お礼に私を喰べて♡”と言う事ではないらしい。
「貴方達のお陰で、僕達はこの村で幸せになれます。本当にありがとうございます!」
「ふ~ん…あ、そう…」
ニーナの彼氏(名前忘れた)が、俺の手を取り必至に礼を言ってくる…
どうせならニーナに手をニギニギしてもらいたい。
「もう良いよ…別に僕は大した事してないから…他の奴等に礼を言って」
どう考えても『お礼に僕の未来の妻を、味見して下さい!』って事にはならなそうなので、さっさと切り上げて眠りにつきたい。
「おお、あの魔物を退治してくれたんだってな!」
だが俺の望みは、更に現れた村長によって打ち砕かれる。
許可してないのにズカズカ部屋に入ってきて、ニーナの彼氏を押し退け、俺と激しく握手する。
「そうだ、この後我が家で朝食を一緒にどうだね? 激しい運動の後だろうから、お腹がすいているだろう! 遠慮する事は無いぞ! 娘の命を救ってくれた方だ…盛大に持て成させていただく!」
うん。それより眠りたい…って言おうとしたんだけど、お腹のヤツが勝手に鳴りやがった。
実際、凄く激しい大運動会をしてきたので、お腹ペコペコではあるんだよね。
ご厚意を無駄にしちゃ悪いから、俺以上に疲れ切っているアリーナ達の分まで、お持て成しを受けてこようと思います。
だって…食える時に食っとかないとね!
リュカSIDE END
(テンペ村)
ブライSIDE
ワシとクリフトは姫様に蹴り起こされた。
極度の疲労で宿屋に着くなり、一番近かった姫様の部屋で眠ってしまった為、先に起きたアリーナ様が着替える事が出来なくなっていたのだ。
昨晩は汚れた服も気にならない程、カメレオンマンと激闘を行い心身共に疲れ切っていたから、姫様のお部屋で眠りこけてしまったが、本来ならばあってはならぬ事…
蹴り起こされるくらいで済めば御の字だ。
まだ寝ぼけているクリフトを引きずり、自分たちの部屋へと戻る。
ちょっと気になったので、リュカの部屋を覗いてみると、ベッドを使用した形跡がない。
アイツ本当にサランまで行ってしまったのか?
ワシ等三人とも湯浴みと着替えを済ませ、村長宅へ昨晩の報告に出向いた。
もう安心して生活出来ると教えてやれば、さぞかし喜ぶだろうし、救われた娘さんも彼氏と一緒に喜ぶだろう。
皆の喜ぶ顔を想像しながら村長宅にお邪魔すると…
既に宴が繰り広げられていた!
上座には何故だかリュカが座り、大量の食事を振る舞われている。
「あ、やっと起きたな! ほら、3人ともこっち来て座れよ…」
別に持て成されたい為に村を救ったワケではないのだが、最も苦労した我々を差し置いてコイツが勝手に持て成されているのは腹が立つ!
「何でリュカさんが宴の主役になってるんですか!?」
ワシと同じ気持ちのクリフトが、渋い表情でリュカに文句を言う。
「え……何でって………村の人達が『来い』って言ったから…」
責められているリュカは、キョトンとした感じで答える。
困っているのは村人達だ…
我々の険悪な雰囲気を感じ取ったのだろう。
ワシ等とリュカを交互に見て黙り込んでしまってる。
「え、何? 何で怒ってるの?」
「別に怒ってませんが、何もしてないリュカさんが、この村を救ったかの様に宴の主役になるのはおかしいでしょう! この場合、敵のリーダーを仕留めたアリーナ様こそが、その席に座り持て成されるべきです!」
うむ…全く持ってその通りだが…
喜んでいる村人達を不安にさせてまで言う事ではないな。
この村を出てから、個人的に咎めれば良いだけの事じゃ。まだまだ青いのぉ……
「だから僕も言ったよ。『大して何もしてないからお礼は他の人に言って』って…でも村の人達は直ぐにでも宴会をしたかったみたいで、出席をせがまれたんだ。君達は爆睡してるし…村人達の好意を無駄にも出来ないし…快く受け取るしかないでしょう!? …それともナニ? 好意を無駄にして、シカトすれば良かったの? 疲れている君達を叩き起こして、イヤイヤ宴会に出席させれば良かったの?」
確かにリュカは間違った事をした訳ではない。
村人達が強く勧めてきたのなら断る事など出来ないだろうし、ワシ等を叩き起こされても楽しく宴に参加出来ないだろう。
しかもこれで、何もしてないリュカを後でとっちめる事も出来なくなった。
あほクリフトめ…もう少し考えて発言せい!
「クリフト…貴方の気持ちは分かるわ。あの敵はとても強く、倒すのに苦労したからね…でもね、この旅は武者修行の旅なのよ! もしリュカが手伝いあの敵を倒したとしても、私にとっては無意味な事になるの。わざわざザコだけを倒してくれて、メインを私達に残してくれたリュカに、その言い様は無いと思うわ」
姫様がクリフトを窘める様に話しかけ、そしてリュカの隣に座り宴に参加する。
「そうじゃの~…」
ワシも姫様の発言に乗っかろうと、クリフトに話しかけながら宴の席へ移動する。
村人達も少し安心してきた様だ。
「ワシはな、宿屋を出る前にリュカの部屋を覗いたのだが…ベッドを使った形跡が無かった」
「そ、それが何でしょうかブライ様?」
「つまり、リュカはワシ等と別れた後、宿屋へ戻って眠っていたワケでは無い…物陰に隠れワシ等の戦いを見守ってくれてたんじゃろう。もし危険になったら助けようとして、ワシ等の事を見守っていたのじゃよ!」
「な。何を言ってるんですかブライ様…リュカさんは『シスター・パメラの所へ行ってくる』と言って、私達を置いていったではないですか!?」
「この村からサランまで、一晩で往復出来るワケがないじゃろう!“常に側にいて助けてもらえる”という思いがあると、自らの成長の妨げになる物じゃ…危険と隣り合わせだと思っておれば、自ずと成長して行くのが人間…村人達の好意を無に出来ぬリュカの事じゃ、そこまで考えておったのじゃろう」
クリフトはあまり納得してはおらん様じゃが、これ以上文句垂れるのを止めてくれた。
取り敢えずこれで良いじゃろう…村人に不安な気持ちを蔓延させてはならぬからな。
今は危機を脱した事を共に喜べば良いんじゃ。
ブライSIDE END
後書き
世の中には知らなくて良い真実ってあるよね。
第11話:偽者現る!……ぶっちゃけどうでもいいけどね。
(テンペ村-フレノール)
リュカSIDE
勝手な誤解が俺を良い人へと押し上げた。
面倒だし、好都合だし、否定も肯定もしない。
間違えた奴等が悪いんだ!
だが俺への評価は兎も角、アリーナ達は確実に強くなっている。
『暴れ牛鳥』というヘンテコなモンスター相手に、圧倒的な戦い方で勝利を収める。
ブライがラリホーで眠らせ…眠らなかったヤツはクリフトのマヌーサで惑わせ、トドメはアリーナの素早い一撃だ。
寝不足の俺は最初っから手伝う気など無く、サクサク次の町まで進んで行ける。
テンペの連中が言うには、山を下りれば直ぐにフレノールの町だそうだ…
早く行ってベッドで眠りたい……でも美女が居たら……う~ん、迷うね!
迷った時は歌うに限る!
ギターを弾きながら『TRUE LOVE』を歌えば、眠気も覚めるし敵も来る。
そして強くなりたガールが目を輝かせ跳ね回る……花柄パンツ見えてるよ。
リュカSIDE END
(フレノール)
ブライSIDE
いい加減にしてほしいもんだ…
手伝わないのは良いとしても、歌うのは控えてほしい。
とは言え姫様の為にと言われれば、こちらは黙るしか出来ない…何とも厄介な旅である。
それでも何とか日が暮れる前に、フレノールの町へと辿り着いた。
朝から宴会に道中の絶え間ない戦闘と疲れもピークに達している我々は、脇目も触れず宿屋へと足を運ぶ。
だが…何やら宿屋前が町人達で賑わっておる。
一体何事であろうか?
それとなく人々に尋ねてみると…
曰く『サントハイムのお姫様が宿屋にお泊まりになっている』との事…
遂にお忍びの旅もバレてしまったのだと思い、城へ帰る事を提案しようとしたら…
『先程、宿屋のテラスからお顔が見えたのですが、やはりお美しいんですね』と不思議な事を言う女子が数名…
まだ宿屋に入ってもいないのに、テラスから顔が見えたとは…一体どういう事であろうか?
しかも本人(アリーナ姫様)を目の前にして、全く騒ぎ出さないとは…
姫様・クリフトと顔を見合わせ考え込む。
「ちょ、退いてよ。僕はもう眠いんだ!」
困っているワシ等を無視して、リュカのヤツが勝手に人垣を掻き分け宿屋へと進んで行く。
コイツ本当に身勝手じゃな…
「こんちわー、部屋を4つお願いします…大至急ね!」
宿の者達がてんてこ舞いしているとこ、全く気にする様子も見せず部屋を確保しようとするリュカ…
主人らしき人物が、嫌そうな顔をしながら近付いてくる。
「申し訳ございません…本日はサントハイムのお姫様がお泊まりになるので、一般の方は宿泊出来ません」
「はぁ? 何でよ!? 姫様が泊まるったって、たかが数人でしょ! この宿屋は、そんなに部屋数が少ないの? ド田舎の旅館だって、10人程度は泊まれるぞ!」
「へ、部屋数の問題ではございません! 姫様の安全を考えて、お付きの方達以外は宿泊させない事にしたんです!」
「馬鹿じゃねーの!? 安全に宿泊したいのなら、こんな安宿屋には泊まらないよ…つーか、そんなにビビッてんなら城から出るなつーの!」
「何と言われましても他の方を宿泊させるつもりはございません!」
「姫さんが『私達以外の者は宿泊させるな!』って言ってるの?」
「違います。当宿の配慮でございます!」
「………分かった…じゃぁ直接姫さんに交渉してくる。お前等の所為で一般の客が迷惑しているって言ってくる。もし直接交渉して、それでも僕等を泊まらせてくれなかったら、僕は世界中でこの事を言い触らすね!『この国の王族は税金を取るだけ取って、国民の事を顧みず我が儘ばかり言う連中だ!』ってね…この町の名前も、この宿屋の事も織り交ぜて世界中で言い触らす!」
そこまで怒り口調で言い切ると、勝手に客室の方へと歩き出し、サントハイムの姫と呼ばれている連中を捜しに言った。
そんなリュカの行動を見た宿屋の主人は、慌てて後を追い止めようと試みるが、ヤツは素早く進んで行ってしまった。
ワシ等もサントハイムの姫と呼ばれている連中の事が気になり、リュカの後を追う様について行く。
急いで2階へ上がると、宿屋の主人が固まっているのが目に入った。
近付き視線の先を見てみると……
「おっと動くなよ…サントハイムの姫は預からせてもらう。後を追ってきたら、姫さんの命は無いぞ!」
と言う台詞と共に、裏口から逃げて行く黒ずくめの一団と、若い女性が1人………
何事だ?
「リュ、リュカ…一体何事なんじゃ?」
「知らね…ここに来たら黒のがいっぱい居て、女の子を連れ去ってった…」
全然分からん……
ブライSIDE END
(フレノール)
クリフトSIDE
どうやら姫様(私とブライ様を含む)のフリをしていた者達が居り、そしてその所為で偽姫様が攫われた様だ。
人々を謀り姫様の名を騙ったから天罰が当たったんだろう…
本来ならば王家の名を騙った事を我らも罰せねばならないのだが、今は身分を秘匿せねばならぬ身…
気付かぬフリをして偽者共に話を合わせなければならない。
少なくとも無関係な宿屋の主人には、彼等が偽者である事を我らから言ってはいけない。
その主人はというと…
青ざめた表情で慌てて町の自警団本部へ駆け込んでいった。
小さな町の自警団程度で、これ程の大事件は解決出来ないだろうが、行動としては妥当であろう。
「あ~あ…あの娘攫われちゃったね。そこそこ可愛かったから勿体ないなぁ…」
アリーナ様の名を騙るのだ…あの程度の容姿は最低ラインであろう!
しかし“勿体ない”とはどういう意味だ?
「お、おい…お前等…身形からして旅の者か? そこそこ出来そうだし、お前等もメイの……いや、姫の救出に赴くのだ! 見事救出したら、たんまりと褒美を取らせようぞ!」
偽者の分際で何を言うか!
しかも“褒美”をチラつかせねば物も頼めぬとは…
「ヤダよ…褒美なんかいらないし。それより僕は眠いんだ! 姫さんが居なくなって君達この宿屋を占領する必要が無くなったんだろ? 空いてる部屋を使わせてもらうから」
こう言う時はリュカさんの言動が楽しく感じますね。
「キサマ! 我らの姫様が攫われたのだぞ…その救出を断るとは、サントハイム王家より厳罰を下す事になるぞ!良いのか!?」
「別に…下せるのなら下せよ! 偽者の分際で偉そうな事言うな。話合わせてやってんだから、大人しく消えろよ!」
「な、何を根拠に我らを偽者と言うか!」
リュカさんの爆弾発言に、偽ブライ様が目を泳がせて抗議する。
見てて楽しいのは何故であろうか?
「うるせーな……1週間も待っていれば、王都から救出隊が大挙して訪れる。それを待っていれば、お前等が本物なのか偽物なのかはハッキリするだろう。その時お前等が本物だと分かったら、僕の事を罰せれば良いし、姫さんの救出もそいつ等に任せれば良い…ただ、お前等が偽者だと知れたら、町の人々はどんな反応をするだろうか?」
不機嫌な表情から一転し、身も凍る様な笑顔を見せるリュカさん…
そんな彼の笑顔を見た偽者共は、血の気の引ききった顔で震えている。
普段の行動がアレなので少し侮っていたが、リュカさんは怒らせると怖いのだろうか?
「「も、申し訳ございませんでした!!」」
突如、偽者二人が土下座で謝ってくる。
二進も三進も行かぬと悟り、許しを請いに出た。
「どうか我らが謀っていた事は、町の人々にはご内密にお願いします!」
「そしてどうかお願いします。メイを…姫様と間違われて攫われたワシの孫娘を、どうか助けてやって下さいませ!」
若い男(偽者の私)と老人(偽者のブライ様)が、冷笑を浮かべるリュカさんに必至で助けを乞うている。だが、本来謝るのであれば、我らにこそではないのだろうか?
「さっきも言っただろ…イヤだって! お前等の事なんか知るかよ。僕は寝るんだ…その邪魔をするなよ」
何とも無体な言葉を残し、空いた部屋へと入って行くリュカさん…
流石にそれは酷すぎるんじゃないですか?
クリフトSIDE END
後書き
リュカさんは、この時代に来てからまともに寝てません。
サントハイムでは城近くの森の中で野宿だった為、熟睡は出来ず…
サランでは宿屋で運動会をしていた為、一睡もせず…
テンペまでの道のりは野宿で、仲間の強さに信頼を持てず…
そしてテンペでは、わざわざサランまで舞い戻り運動会!
本気で眠くて機嫌が悪いよ。
第12話:俺は正義の味方ではない!
(フレノール)
アリーナ達は、興味なさげに眠ってしまうリュカを尻目に、悪漢に攫われたか弱き女性を助けるべく、連中の事を知ろうと町中で聞き込みを開始する。
すると一人の少年が、飼い犬が手紙を拾ってきたと言って、重要な手懸かりをアリーナ達に託してくれる。
手紙には『姫を返してほしければ、フレノールに古くから伝わる“黄金の腕輪”を差し出せ』と書いてあり、町に住む長老に黄金の腕輪の事を尋ねてみた。
すると長老は、黄金の腕輪に纏わる争いの歴史と、現在は町の南にある洞窟に封印してある事を教えてくれた。
正義の為に女性を助けようと息巻いているアリーナは、それらの情報を携えてリュカの寝ている部屋へと訪れる。
爆睡中の男を叩き起こして…
(フレノール)
アリーナSIDE
「…と、言う訳で! 早速フレノール南の洞窟に黄金の腕輪を取りに行きましょう!」
「はぁ? …どういう訳でそんな事をしなきゃならないの?」
まだ2時間くらいしか寝てないリュカは、ベッドに上半身を起こし不機嫌そうに呟いた。
「か弱い女性が目の前で攫われたのよ。放っておく訳にいかないでしょ!」
「王族の名を騙ったんだ…自業自得だよ」
欠伸をしながら不機嫌そうに言い放つリュカ…
う~ん…急ぐあまり、寝ているリュカを起こしちゃったけど…拙かったかな?
「おい、何で王族がチヤホヤされているか解るか?」
偽ブライのグレゴールさんと、偽クリフトのノルテンさんに厳しい目を向け問いかけるリュカ。
勿論二人は答える事が出来ない…わ、私もだけどね。
「王族ってのは大きな権力を、それ以上に大きな責任において行使する人種なんだ。そして、その権力と責任ってのを持っていると命を狙われる事に繋がるんだ。誰だって権力を、自分に不利になる様に使われたくないからね…」
姫(偽)を助ける為の作戦会議と称してリュカの部屋に集まったので、宿屋の主人が食事と飲み物を部屋に用意してくれた。
リュカは一旦言葉を止め、それらを手に取り喉を潤すと、また話し続ける。
「しかも基本的に王族とは、生まれた時から王族なんだ…他の職業になる事も許されず、責任から逃げ出す事も許してもらえない。だから人々がチヤホヤする…敬い傅き特別扱いをするんだ! そして命を危険に晒してる…その事を考えず、チヤホヤされている面だけを見て、羨ましがり名を騙ったりするから事件に巻き込まれる…完膚無きまでの自業自得なんだよ!」
「だ、だからって…女の子を攫う様な悪者を野放しにする訳にはいかないじゃない!」
「………その手紙に“受け渡しは明日の深夜”と書かれてるんだろ?だったらその時に、そいつ等を捕まえれば良いじゃんか! 黄金の腕輪に似せた偽物を見せつけ、誘き出せば良いじゃんか! 向こうの人質も偽者なんだから、こっちの身代金も偽物で十分だ」
「そ、そんなことしてバレたら彼女が殺されちゃうかもしれないでしょ!」
軽く食事を済ませ、再度眠りに入ろうとするリュカ…
慌ててリュカの意見に反論する私。
「そ、そんな!? ど、どうかリュカ様…メイを助ける為、黄金の腕輪を手に入れて下さいませ! 彼女は私の婚約者なんです…愛してるんです!」
私が言った“殺されちゃう”と言う言葉に、酷く反応した偽クリフトのノルテンさん…
布団を被り横になったリュカを揺すり懇願する…その時リュカが被っていた布団がずり落ち、彼の裸が晒された。
「何だよ! お前には男の裸を観賞する趣味があるのか? 布団返せ! 僕はまだ眠いんだ」
リュカは慌てて体を布団で隠した。
筋肉が凄いのは分かっていたが、実際に見るとその凄さで声も出ない…
しかし何より驚かされたのは、体中に付いた夥しい古傷の多さだ!
一体どんな人生を送れば、あれ程体中傷だらけになるのだろうか?
リュカの強さの秘密は、あの傷の多さに隠されているのだろう…
リュカは傷を隠す様に布団にくるまり、私達に背を向けたまま話し出す。
「兎に角僕はまだ眠い…起きたら方法を考えてやるから、それまで大人しく待ってろよ! 大体僕は正義の味方じゃないんだ…何でそんな苦労をしなきゃならないんだ?」
「な、何よ! じゃぁもう頼らないわよ! 私は正義の味方だから、全力で彼女を助けるの!」
“大体僕は正義の味方じゃない”その一言にカチンときた私は、大声でリュカを怒鳴り部屋を出てきてしまった。
「アリーナ様…どうしましょうか?」
クリフト(本物)が不安気に聞いてくる。
「どうもこうも…私達だけで洞窟に行って、黄金の腕輪を手に入れるしかないでしょう…」
最大の戦力が居なくなる事に不安を隠せないクリフト…
黄金の腕輪が封印されている洞窟となれば、モンスターの強さも桁違いだろう…
だけど悪者から女性を助ける為には、私達が頑張らなければならない!
「に、偽者二人も少しは戦闘が出来るんでしょ!? 貴方達の身内を助ける為に手伝うんだから、私達と一緒に洞窟へ来なさいよ!」
頼りにならないリュカへの苛立ちと、リュカに依存しているクリフトへの情けなさが合わさり、キツイ口調で偽者二人に当たってしまう。
二人も顔を青くしながら頷き、洞窟行きを決意してくれる。
「じゃぁ早速出発よ!」
タイムリミットは明日の深夜…
少しでも時間が惜しい私は、新たに加わった仲間と共にフレノール南の洞窟へと出発した。
何としても彼女を助けなければならない…
リュカの意見を無視した私には、彼女を助ける事で正しさを証明出来るのだ。
私が強さを求める理由が、弱い者を助ける為である事だから!
アリーナSIDE END
(フレノール)
リュカSIDE
十分睡眠を取って目を覚ますと、アリーナ達が挙って居ない。
偽者野郎ズも一緒に居ない…
まさか本当に洞窟なんぞに行っちゃったのかな?
馬鹿だなぁ~……
町の長老が『黄金の腕輪』に纏わる争いの過去を教えてくれただろうに…
曰くがあって封印された物には、それなりの根拠があるんだ。
下手に封印を解いちゃうと碌な事にならないのに…
やっぱりアリーナはお姫様だ。
俺は『起きたら考えてやる』って言ったのだから、それまで待つ事だって出来たはずなのに…
何でも自分の思い通りに事が運ばないと気が済まないんだ…
その点俺の娘達は良い子揃いだな。
父親がいい加減だから、反面教師として役だったんだろう。
あとビアンカ達にも大感謝だね。
さて……
“起きたら考えてやる”って言っちゃったし、町に出て色々考えてみようかな…
ついでに町の女の子でもナンパしよう。
リュカSIDE END
後書き
リュカは自分の事を“いい加減”だと解ってるんだね。
周りがそれを認めてない(家族と部下)だけなんだね。
第13話:誘拐はビジネスです。だから馬鹿には出来ません!
(フレノール)
アリーナ達はボロボロになりながらも、身代金の受け渡し場所である、フレノールの外れにある墓地へと、黄金の腕輪を携えてやって来た。
時間的にはギリギリである。
「誘拐犯達! 要求通りに黄金の腕輪を持ってきたわよ! 彼女…お姫様を解放しなさいよ!」
アリーナは高らかと黄金の腕輪を掲げ、どこかで見ているであろう誘拐犯に話しかける。
すると周囲をお堀に囲まれた墓地の茂みから、黒ずくめの男が2人…着飾った女性を伴い姿を現した。
「どうやら本物を持ってきた様だな…良いだろう、此方へ黄金の腕輪を投げな!」
「ひ、姫様も同時に離しなさいよ!」
「おい、お前等に命令する権利があると思ってるのか!? お前等が投げなければ、姫を殺すだけ…それが嫌だったら、さっさと黄金の腕輪を投げるんだな!」
アリーナは唇を噛み締め我慢する…
人質のメイを救う為我慢する。
そしてゆっくりとしたモーションで黄金の腕輪を投げ付けた。
(パシッ!)「よっと!」
すると突如墓石の影から現れたリュカが、誘拐犯達に届く前に黄金の腕輪をキャッチしてしまう。
そして黄金の腕輪を自身に装着すると、ニヒルな笑みを浮かべ周囲を見渡し仁王立つ。
(フレノール)
クリフトSIDE
「ちょっとリュカ! 何やってんのよ…それを早く奴等に渡してよ!」
突如現れ、身代金受け渡しを邪魔するリュカさん…
アリーナ様は本気で怒り怒鳴っている。
「嫌だね。僕も昔に妻を誘拐された事があるから、誘拐犯って奴を許す事が出来ない!」
「な、何言ってやがる! それを俺達に渡さないと、姫さんを殺すんだぞ! それでも良いって言うのか、あ゙ぁ?」
誘拐犯の一人がドスの効いた声でリュカさんを恫喝する。
「渡したら姫を無傷で返す補償はない! 姫を殺された挙げ句、黄金の腕輪を奪われて、お前等を逃がす事になりかねない! それだけは絶対に嫌だ! 罪を犯したお前等を許す事は出来ない。例え姫さんを殺されても、お前等を徹底的に罰するのが僕の気持ちだ!」
あ、あの人は人様の命を何だと思っているんだ!?
誘拐犯を逃がしても彼女の命を救うのが先決なはず。
それを行わないとは…見下げ果てた性格だ!
「てめー…俺達が本気じゃないと思ってるんだろう…」
「そんな事はない。でもそう思われたくないのなら、さっさと人質を殺せよ。そうすればお前等は、黄金の腕輪を手に入れる切り札も、自分たちの身を守る盾も失う事になる。まぁ尤も、僕が腕輪を持ってる時点で、手に入れる切り札は0だけどね(大爆笑)」
「な…ふ、ふざけんな! それを渡せば姫を返すって言ってるだろう! 絶対に返すんだから、先にそれを渡せよ!」
「嫌だ! 何故これを渡す気がないのに、この場に現れたと思ってる?」
な、何故でしょうか?
「何処にいるか分からないお前等を、この場に誘き寄せるのが目的で、お前等の指示に従ったフリをしたんだよ! どんなにお前等を殺そうとしても、居場所が分からなきゃ実行出来ない! でも指示に従ったフリをすれば、自ずとこの場に現れるだろ? …現にお前等はノコノコ現れたし(笑)」
「じゃ、じゃぁ…最初から姫の命は見捨てるつもりだったのか!?」
「姫の命~? 知った事か! 殺すのはお前等だ…僕じゃない! 罪は全部お前等の物だ。人気のない墓地で、お前等が姫を殺す…その後お前等を惨殺し、サントハイムには『腕輪を渡したのに姫を殺されてしまい、やむなく犯人も殺しました♥』って報告すれば、僕は何の罪も被らないで済む」
な、何と恐ろしい事を…
この人は“正義の味方じゃない”と言っていたが、極悪人である!
こんな人間とは早々に縁を切らねば…
「リュ、リュカさん! どうしてそんな事を…メイ「バギ!」(ドゴッ!)(バシャン!)
メイさんの祖父…グレゴールさんが慌ててリュカさんに文句を言おうとしたら、突如バギを唱えグレゴールさんとノルテンさんを、お堀へと吹き飛ばし殺してしまった!
「ふふふ…サントハイムの者も死んだ今、僕の言う事を疑う王家の者は姫だけだ。ほれ…さっさと殺して、自分等の死刑執行書にサインしろよ!」
ブライ様が慌てて吹き飛ばされた二人を救いに行く…その間もリュカさんの極悪な台詞は止まらない。
「言っておくが、お前等に残された選択肢は2つだ。1つ…姫さんを解放し、この町の自警団に掴まる事。此方の良い点は命が助かる事だね。そして2つ目は…姫を殺し、即座に僕に殺される事! 此方の良い点は僕の気分が晴れやかになる事だ♥ …どう足掻いても、お前等が腕輪を手に入れて、今後自由を謳歌する事などあり得ない! どっちにするか今すぐ決めろ!」
この極悪人はそこまで言い終えると、ゆっくりと誘拐犯へ近付いて行く。
「誘拐ってのはビジネスなんだ。そしてビジネスってのは、互いの需要と供給が一致して初めて成立する物だ。別にどうでもいい姫の命を救う為、大切な宝を渡すと思っているのか? お前等みたいな愚か者をぶっ殺す事の方が、余程重要な事だとは思わなかったのか? これだから安易に犯罪を犯す馬鹿は、度し難いんだよ!」
恐ろしいまでの冷笑を浮かべた極悪人は、立ち止まることなく墓石の合間を縫って誘拐犯に近付いて行く…
「ま、待て…と、止まれよ! こっちに来るんじゃねー!」
「お返しさせてもらうが、お前等に命令する権利があると思ってるのか? 自分たちだけで死にたくないのなら、早く人質を殺せよ! そうじゃないと僕が王族を見捨てたと罪に問われるんだ。サントハイム関係者の最後の一人を、お前等の手で殺せ!」
「あの男…思っていた以上にやり手じゃな…」
極悪人に吹き飛ばされた二人を助けに行ったブライ様が、感心する口調で呟き戻ってきた。
「やり手って…褒めてどうするんですか!?……そ、それよりもお二人はご無事ですか?」
私は極悪人を褒めるブライ様を怒鳴り、二人の無事を確認する。
「あっちじゃ…堀からは引き上げておいたが、これ以上はどうにも出来ん」
ブライ様が指差す方を見ると、びしょ濡れになったお二人が堀から引き上げられ倒れている。
私が治療するため近付こうとしたら…
「止せ…ワシ等に出来る事は何もない。今はリュカの動向を黙って見ておれ!」
と、ブライ様に止められる。
“出来る事は何もない”…つまり息を引き取ってしまったと言う事だろう…
私はあの人を…いや、あの男を許す事は出来ない!
いくら王家の名を騙ったとは言え、命を救うどころか犯人を殺す為に犠牲にしようとする…
あの極悪人は許せない!
クリフトSIDE END
(フレノール)
ブライSIDE
あの男やりおるわい!
まさかバギを改造して、風の塊をぶつけ吹き飛ばすとは…
強烈な衝撃波の為、二人は気を失っておるが命に別状はないじゃろう。
クリフトの奴は怒り心頭な様じゃが、これが奴の作戦じゃろうから、下手な事は言わないでおこう。
ブライSIDE END
後書き
怒らすと怖いリュカさん。
クリフト君は彼に学ぶと良いんじゃないかな?
少しだけだけどね…
第14話:起きたら考えるって言ったのに、先走ったお前等が悪い
(フレノール)
アリーナSIDE
私達は宿屋のカウンター側にあるラウンジで、食事をしながら昨晩(今朝早くか?)の出来事を語り合っている。
と言っても、一人勝ちした誘拐事件の顛末を聞いているのだが…
誘拐犯達は自分の命が惜しかったので、泣きながら人質を解放し命乞いをした。
その途端、墓地周辺に身を潜めていた自警団達が現れて、誘拐犯を確保し連行していったのだ。
どうやらリュカが前もって手を回しておいたらしく、今回の恫喝も全て作戦の範囲内だったという…
サントハイム王女誘拐という大事件を未然に回避し、大罪を犯した者達の逮捕に協力をした事で、リュカの意見が自警団内に通る事となり、メイ達は王家の名を騙った罪に問われず厳重注意だけで釈放された。
「はぁ…こう言う作戦なんだったら、最初から私達にも教えてくれたって良いじゃない! 私はリュカが最低の極悪人なのかと思っちゃったわよ」
宿屋の主人が今回の事件のお礼と言って、無料で用意してくれた食事を不味そうに食べるリュカを見て、不満をぶつける。
「何言ってんだよ…『起きたら考える』って言ったのに、先走って洞窟に行っちゃったのはアリーナ達だろ! ご丁寧に偽者達まで連れて行って…帰りを待っていたら受け渡しの時間になっちゃったから、説明も出来なかったんだ! 勝手な行動をしてるのはそっちじゃんか!」
“争いの元だから僕が貰う!”と言って無理矢理手に入れた黄金の腕輪を腕で光らせ、私達を意地悪く指差し説教するリュカ。
「だって…リュカが『僕は正義の味方じゃない』って言うから…酷い事を言う奴だと思っちゃって……」
私は俯き、両手をモジモジさせながら言い訳をしてみる。
「そうだよ…僕は正義の味方じゃないんだ! 赤の他人の為に洞窟にまで入って危険な事をしてやる義理はない。もっと簡単で危険がなく確実な方法を選択するさ」
可愛く誤魔化してみたのだが、リュカには効果がなかった様だ…
「それにしても大胆な作戦じゃったな」
「大胆とは?」
今回の事件(解決編)について、ブライが感想を述べると、不思議そうにリュカが問い返す。
「今回は誰の命も失われることなく、無事解決出来たが…下手したらメイは殺されていたのかもしれないじゃろう?」
「おいおい…爺さんは無駄に長生きをしているのですか? 今回の一連の情報をしっかり把握していれば、最も妥当で確実な作戦を実行したと言い切れるよ、僕は! ブライにならそれが理解出来ると思ってたのに…」
「ほぅ…お前の思惑では、犯人は人質を絶対に殺さないと確信していたのだな?」
それは本当かしら!?
黄金の腕輪を渡されなかったら人質は殺される…これは絶対条件な気がするけど。
「良いかい。誘拐とはビジネスなんだよ! ビジネスという物は、相手の立場になって物事を考えれば、相手が提示する条件の最低ラインが見えてくるんだ」
「相手の考え…お前はどう相手の考え方読み取ったんじゃ?」
「うん。今回の事件…事の発端は、この宿屋の愚かぶりが最たる原因だ!」
その宿屋のラウンジで、リュカは大声で言い切る。
聞いている宿屋の人々は俯きしょぼくれてる。
「本来宿屋という施設は、例えVIPが宿泊していても、その事は口外しないのが正しいあり方だ。だがこの宿屋はどうだ? 瞬く間に町内中に知れ渡った挙げ句、流れ着いた旅の者(我々)にまで、その日の内に情報が入ってきたろ」
「確かに…安全の為、宿屋全体を貸し切り状態にして、秘匿性は0じゃったな…」
「犯人連中にも情報は素早く届いただろう…そして、その事を利用しようと考えたんだ」
辺りを見渡すと、円卓を囲んで会話している私達を、宿屋の人達が囲む様に立ち聞き入っている。
「きっと数週間前から黄金の腕輪を手に入れようと、犯人達は計画を練っていたに違いない。もしかしたら当初は姫ではなく、町長の娘(家族)を攫って腕輪を要求しようと考えたのかもしれない。…だが状況が一転する! サントハイムのお姫様が、こんな田舎町に訪れ宿屋を借り切ったんだ! チャンスに見えたんだろうね…」
「何でそれがチャンスに見えるの?」
お姫様を誘拐するなんて、ハイリスクだと思う。
私は話の先を聞きたかったけども、その事が気になり問いかけてしまう。
「うん。そこが今回、人質を無事救出する事が出来るポイントなんだ! 良い所に気が付くねアリーナは」
褒められた…頭を撫でられた…
嬉しい♡
「黄金の腕輪について少し調べれば分かる事だが、コレはモンスターが多数蔓延る洞窟の奥深くに封印されている…さて、果たしてこんな田舎町の町長の娘を救出する為に、危険を冒して洞窟へ赴く人間が居るだろうか? …居たとしても少数だろうし、黄金の腕輪を持って帰ってくる事が出来る猛者が居るとは限らない。娘を誘拐し、目的のブツは回収出来なかったでは、無駄に罪を犯しているだけだからね…しかし、お姫様の命と引き替えであれば、人々の本気度も違い猛者が大勢現れるだろう」
ここまで言い終えると、リュカは出された紅茶に手を伸ばし一口啜った。
私も先程飲んだが、酷く不味い…
リュカも顔を顰めティーカップを置くと、水を要求する。
「さて…犯人がハイリスクを選択した理由は分かったね。じゃぁ次は犯人側の気持ちになって考えるんだ。ハイリスクを背負っても大丈夫な理由は?」
「つまり逃げ延びる算段があったってこと?」
私が躊躇いがちに聞くと、指を“パチン”と鳴らし褒めてくれる。
「そうなんだよ。どういうルートか分からないが、犯人達は黄金の腕輪を売却し、余所の国へ逃げ延びる算段があったんだと思う。でなければ、今回の様に誘拐を鮮やかに成功させるのはムリだったと思うし、その後の要求提示方法も段取り通りな動きだったと思うんだ! つまり犯人達は緻密な計画の下、今回の犯罪を実行していったんだね」
「し、しかし…それとメイさんの命を無事救出出来るかは、別問題だったのではないでしょうか!? 緻密な計画を練っていたのであれば、人質を殺す事も計画に入れていたと私は思うのですけど!?」
今回、リュカの行動に激しく憤慨していたクリフトが、強めの口調で抗議する。
「おい若いの…まだまだ青いなぁ、お前…」
クリフトはリュカに対して反抗心があるらしく、ムッとした表情で睨み返す。
でも、私も同じ事を考えてたわ。
「考えても見ろ…そこら辺の道具屋に黄金の腕輪が売られていたら? 100%犯人がその道具屋で金に換えたんだと考えるだろう! となると、犯人達の足取りが簡単に分かるんだ。一般市民であれば、それを調べるのに時間はかかるだろうが、今回の相手は国家だ。当初は町の自警団だったかもしれないが、それだって組織力は馬鹿に出来ない。つまり、そこらの道具屋には売る事が出来ないって事だ!」
「なるほど…じゃぁ犯人達は黄金の腕輪をどうするつもりだったの? …まさか家宝にするつもりだったとか?」
リュカは私の疑問を聞くと可笑しそうに笑い、彼の考えを答えてくれた。
「ははは…もしそうだったら、今回の事件は単独行動じゃなきゃ説明が付かない。腕輪が1つしかない以上、仲間には報酬を払わなければ協力しないだろうから…って事は、そこらの道具屋ではない誰かが裏にいて、腕輪と大金を交換してくれる予定になっていた事になるんだ。もしかしたら金以外にも、世界中の何処にでも逃亡出来る手筈を整えていたのかもしれない」
そこまで話すとリュカは水を飲み、聞き入っている私達を見回した。
「ここまで説明すれば判ってきたと思うけど、犯人共には黄金の腕輪が生命線だったんだ。それが手に入らない事には、大金どころか逃げ延びる事も出来なくなる…ましてや計画を変更して、王族を誘拐してしまった以上、逃げ延びる手筈だけは入手しなければならなかったはず…人質を傷つける訳にはいかなかったんだね(笑)」
「そ、そこまでは解りました…ですがリュカさんは、犯人達に向かって『黄金の腕輪は渡さない』と言い切ったじゃないですか! こんな事言えば、パニックに陥り殺してしまうかもしれないじゃないですか!?」
「だから僕は、最後まで彼女が王族であるフリをし続けたんだ! 僕の得意魔法である、風だけのバギを使い、偽のお供を殺した様に見せた…王家のお供を殺したんだ、それがバレたら僕は拙い立場になる。だけどその場に生きている王族は人質だけ…その人質が何も喋らなければ、僕は英雄扱いになるだろう。でも…僕自らが姫様を殺したら、流石の王家も気付き、僕はお尋ね者になっちゃうんだ。誘拐犯達は、掴まっても『姫様に危害を加えるつもりは毛頭なかった! 黄金の腕輪が欲しかっただけなんだ!』と力説すれば、誘拐の罪のみで殺人罪は免れる。だって殺人を犯したのは僕だからね(笑)」
「そうか! あの場でのやり取りで、メイの命を最大限に重要な物にしたのね! 凄い…犯人達は、自分のみを守る為にメイの事を殺せなくなったんだ…」
私だけじゃない…周囲の者皆がリュカの説明に感心し唸っている。
「交渉術だよ…相手にとって重要な物に仕立ててしまえば、それを放棄する事はなくなる。自分たちの思い描いた結末じゃなくても、最もベターな選択をするしかなくなる…そう仕向ける事が必要なんだ。正義感だけを振り翳したって、相手の思う壺に陥っちゃうんだよ」
流石のクリフトもグゥの音も出ない様子。
リュカって凄いなぁ…
アリーナSIDE END
第15話:プレゼントで大抵の女の子は騙される
(砂漠のバザー)
クリフトSIDE
フレノールの宿屋に、宿泊客情報漏洩について偉そうに説教をしたリュカさんと我々は、町を後にして砂漠へと向かった。
リュカさんが仕入れた情報(町の女性からヘッドの中で聞いたらしい)に従い、数年置きに開催される砂漠のバザーを楽しむ為だ。
世界中から集まった珍しい品々を前に、アリーナ様はハイテンションではしゃいでます。
フレノールではリュカさんの凄さを思い知らされた…
一時でもリュカさんの事を“極悪人”だと思った自分が情けない…
そう思い心を入れ替えリュカさんの事を尊敬しようとすると…
「ねぇねぇ…君は何処から来たの? 可愛いねぇ…僕とあっちの木陰で楽しい事しない?」
尊敬しようと努力すると、彼は不埒な振る舞いを行い私の心を乱してくる。
一体どちらが本当の彼の姿なのだろうか?
「ちょっとリュカ! このバザーは世界中から集まった品々を見て楽しむ場所なのよ! もっと商品を見て楽しみなさいよ!」
「え!? ヤダなぁ…この娘は商品じゃないよぉ~…そんな失礼な事を言うもんじゃないよアリーナ」
「そう言う意味じゃないわよ! 何でさっきっからナンパしかしてないのよ!? 何か買ったらどうなのよ!」
「ほっほっほっ…まったくその通りじゃな。リュカは先程、あっちの露店で何かを購入して居ったじゃろ…何を買ったんじゃな?」
「目聡いな爺さん…今夜渡そうと思ってたんだが…まぁいい。はい、アリーナにプレゼント」
何と…この女誑しはアリーナ様にプレゼントを買っておいたのか!?
この男の魔手がアリーナ様に迫るのは阻止せねばなるまい!
「あら、何かしら…凄く嬉しいわ!」
私が阻止の方法に頭を悩ませていると、アリーナ様は嬉しそうに包みを受け取り中身を出して確認する。
あぁ…あの笑顔を私に向けてくれたなら…
「………って、何よコレ!?」
しかし出てきた物を見て固まっている。
勿論、私やブライ様も同様に…
「何って…セクシーランジェリーだよ。一緒に旅を続けてきて見飽きちゃったんだよね…アリーナのお子ちゃまパンツのレパートリーに。だからそれ…黒でアダルティーな下着セット。早速今夜から着用してね!」
な、何と破廉恥な…
確かにアリーナ様はミニスカートであるのにも拘わらず、無防備なまでに蹴りを繰り出したり、飛び跳ね回って下着を見せつけておりますが…
それをお子ちゃまパンツとは…私はアレが気に入っております!
「し、信じらんない! 別に見せる為に下着を選んでなんかいないわよ! 放っておいてよ、私の下着の趣味なんて!」
激怒したアリーナ様は、プレゼントされた下着をリュカさんに投げ付けると、顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。
お一人で行動させる訳にはいかないので、我々も慌てて後を追います。
しかし、それ程離れることなくアリーナ様は立ち止まっていました。
と言うのも、突如兵士らしき男が現れアリーナ様に抱き付いたからです!
「ア、アリーナ様~! 随分捜しましたぞー!!」
「キャア!」(ドカ!)「ぎゃぁ!」
突然の行為だった為、アリーナ様の鋭い右が兵士らしき男の顔面にめり込んだ。
「あ、酷い…」
今回はリュカさんの一言に賛成です。
クリフトSIDE END
(砂漠のバザー)
リュカSIDE
「あいたたた…」
「ごっめ~ん! お城の兵士だったのね…突然だったから、思わず殴っちゃった(テヘペロ)」
砂漠の木陰で、青タンを作り鼻血を出している兵士に謝るお姫様…
「い、いえ…私も突然抱き付いてしまったので…申し訳ございません」
「まったくじゃ…幾ら慌てておったとしても、姫様に抱き付くなど以ての外じゃぞ!」
僕としては、突然女の子に抱き付く行為自体どうかしてると思える。
「で…何やら慌てておりましたが、どうしたんですか? アリーナ様を連れ戻す為に派遣されたのであれば、お一人というのは合点がいかないのですが?」
神官君の言ってる事を言い換えると『お姫様を連れ帰るには、兵士が数人必要だ』と言う事だね。
ゴリラ王国のお姫様か?(笑)
「は、はい…実は王様が一大事なのです! 大至急お城へお戻り下さいませ!」
「え!? お父様が一大事…ど、どういうこと!?」
パパ死にかけ?
う~ん…連れ帰る為のウソ情報であれば上手い事を考えたと言いたいが、本当だったら大変な事だ。
「私も詳しい事までは知らされておりませんが、一刻も早くお城へ戻って頂きたいのです!どうかお願いします」
「ど、どうしようブライ…ここからじゃ、どんなに急いだって1週間はかかっちゃうわ」
何だかんだ言っても、やっぱり女の子なんだな…お父さんの事が心配で動揺している。
「爺さんはルーラを使えないのか? あの魔法があれば、直ぐにサントハイムへ戻れるだろう」
俺が使えば良いのだろうけど、出来れば秘密にしておきたいし、経験豊富な魔道士の爺さんなら使えるかもしれない。
第三者が口を挟む事じゃないが、提案だけはさせてもらおう。
「本当ブライ? そんな便利な魔法があるの?」
「た、確かにワシはルーラを使えますが…リュカの言う通りにはいかないのじゃ…」
ん? 俺の提案は却下って事? 何でだろうか?
「ルーラという魔法は、術者しか効果のない魔法…つまりサントハイムへ瞬間移動出来るのはワシだけなんじゃ…リュカはその点を知らん様じゃな!」
あぁ…そう言えばそうだった。ベネット爺さんもそんな事を言ってたなぁ…
何だ…普通に存在する過去より、復刻して利用している俺等の方が、パワーアップさせてるじゃん。
さて、どうするか…
可哀想なお姫様の為に、俺が協力してやるかな?
1週間かけて帰ったら、お父さんが死んじゃっていたなんて…うん。可哀想すぎるよね!
リュカSIDE END
第16話:俺のお楽しみタイムを邪魔するな!
(サントハイム城の裏手)
リュカSIDE
「す、凄い…本当に複数人を瞬間移動させた!」
俺はルーラを使いサントハイムへ戻ってきた。
あまりの出来事にアリーナが驚き呟く。
「しかし何じゃって城の裏手に移動したんじゃ? 回り込まねば城に入れんじゃろうに…」
「しょうがないだろ…僕はこの場所しかサントハイムは知らないんだから。砂漠から徒歩で移動するより、段違いに早いのだから文句を言うなよ」
「そうよ、凄く助かったんだから文句を言うべきではないわブライ! それよりも早くお父様に会わないと…」
焦っているアリーナが俺を擁護し、入城を急かしてきた。
「あ、僕はサランの町で待っているよ…堅苦しいのは嫌いだから、お城に入るのは避けたい。全てが終わったら、宿屋に来てよ…部屋を取って待ってるから」
そこまで言うとサランに向けて歩き出す。
後ろでは慌てて城の正面に回り込むアリーナ達の気配が…
(サラン)
俺はサランに着くやソッコで宿を取り、直ぐさま教会へと赴く。
教会内に入ると、神父がキョトンと此方を見て驚いている…
コイツ何時もキョトンとしてるな…こう言う顔なのか?
「よっ!」と言って片手で挨拶し、反応を待たずに二階へ上がると…
そこにはシスター・パメラがお祈りをしていた。
だが俺の存在に気付くや、抱き付きキスをしてくる。
そして勿論、そのまま宿屋へ直行!
更にベッドへも直行!
もっと言えば、夢の国まで直行だ!
4度目の休憩を終え、第5ラウンドへ突入しようとしてた時…
突如部屋のドアが勢い良く開き、アリーナ達が乱入してきた。
「きゃ、キャー!!」
俺の上で艶めかしく腰を振る準備をしていたシスター・パメラは、突然の乱入者に驚きシーツで体を隠そうと藻掻き、ベッドから落っこちた。
お陰で俺はマッパをさらけ出し、マッパGOGOGO!だ。
「何だよ突然…ノックぐらいはしろよな!」
「ご、ごめんなさい! い、急いでいたから…その…つい…ごめんなさい!」
アリーナは、俺の準備万全状態の暴れん坊将軍を見て、真っ赤な顔で謝り俯く。
「ア、アリーナ様いけません! こんな下品な物を見てはいけません!」
「下品とはなんだ!? 僕の自慢の相棒だぞ! コイツと共に、数々の伝説を生み出してるんだぞぅ!」
俺は隠すことなく見せつけ、コイツ等の反応を楽しんだ。ちょっとだが露出狂の気持ちが解ったかも…
「分かったから見せつけんな! 早ぅ服を着ろ!」
「じゃぁ一旦出て行け! 僕は兎も角、女性が居るんだぞ…気を利かせろ!」
「そ、そうじゃな…分かった、大丈夫になったら呼べ…部屋の外で待っておるからな」
奴等が出て行くのを確認すると、ベッドの影からシスター・パメラが顔を出し目で訴えてくる…“大丈夫?”と。
その顔があまりにも可愛かったので、彼女を抱き上げると第5ラウンドへ突入した!
暫くすると…
「服を着ろと言ったじゃろ! 何で続きを始めるんじゃー!!?」
と、爺さんが怒鳴り込んできた。
「何だよぉ~…僕の楽しみタイムを邪魔するなよぉ~…」
リュカSIDE END
(サラン)
ブライSIDE
何とか二人に服を着させ、シスター・パメラには帰ってもらい話の出来る状況を作り出す。
「何? ルーラを使いみんなを大至急お城へ連れてきたってのに、この仕打ちって…」
ギンギンにいきり立っている状態での中止命令じゃった…多分まだ途中だったのじゃろう。
これ以上ないくらい不平を言うリュカ…
「済まんとは思っている。じゃが緊急極まりない用件があったんじゃよ!」
「何だ? 王様が死んじゃったのか? だから僕に王様をやれとか言うのか? アリーナと結婚しろとか言うのか?」
「そんなトチ狂った要求なんぞするかー! 何でお前を姫様と結婚させ、サントハイムの国王にせねばならんのじゃ!? 何より陛下は生きておられる…次そんな不吉な事をほざいたら、極刑にするぞ!」
はぁ~…コイツと会話すると、必要以上に疲れるのは何故じゃ?
何故もっと真面目に会話が出来んのじゃ!?
コイツの家族は、何時もどんな思いで会話をしているんじゃ?
「じ、実はねリュカ…お父様、声が出なくなっちゃったの!」
「へー…じゃぁ小うるさくお小言を言われなくなって良かったじゃん」
「良くないわい! 陛下が喋れなくなったんじゃぞ!」
「それが何!? 僕には関係ないじゃん! 声を戻す方法なんて知らないし…僕のお楽しみを邪魔する理由にはならない」
くっ…この男、その事を根に持ってるな。
「そうじゃないのよ…色々と調べたら、この町の吟遊詩人のマローニも、以前声が出なくなった事があり、それを直すのに『囀りの蜜』を舐めたらしいの。で、その蜜が何処にあるのか尋ねたら、砂漠の西部にある『囀りの塔』に落ちている事があるらしいって分かったの…だから、またリュカにルーラで連れて行ってもらおうと思って!」
「何で僕がそんなめんどくさい事をしなきゃなんないの? 昼間は親の死に目に立ち会えないのは可哀想だと思い、面倒だったけどルーラを使って協力したけど…今度は協力してやる理由は無いよね。お楽しみを邪魔される理由は無いよね!?」
コ、コイツ…女には不自由して居らんじゃろうに…そこまで根に持たんでも!
「うぅ…ご、ごめんなさいリュカ…私に出来る事があれば何でもするから…だからお願い。お父様を助ける為、貴方の力を貸して下さい!」
な、何と言う事だ…姫様が泣きながらこの阿呆に懇願している…陛下の為にこんな阿呆に頭を下げている…ここで、これ以上断る様じゃったら殺してやるぞ!
「………じゃぁ…コレ!」
姫様の涙を見たリュカは、一層不愉快な顔付きになり1つの包みを差し出した。
あれは昼間見た様な気が……
「お子ちゃまパンツは卒業して、アダルティーな格闘家を目指してよ…」
ブライSIDE END
第17話:美女に嫌われるとヘコむ…男に嫌われるのは大丈夫なのに!
(囀りの塔)
リュカSIDE
やっちまった…
久しぶりに女の子を泣かせてしまった。
激しく自己嫌悪ですよ。
違うんだよ…
最高に盛り上がっている最中に乱入してきて、高圧的に命令する爺さんが悪いんだよ!
思わず反発したくなっちゃうじゃん! 別にアリーナに協力するのが嫌な訳じゃないんだよ!
泣かしちゃった上『何でもするから言って』(多分アリーナ的にエッチな事前提)と言われて、引くに引け無くなっちゃって思わずパンツ渡しちゃったよ…
受け取った時“コレだけで良いの?”って目で言ってたけど、俺としてはこれ以上は何も言えないよ。
俺は愛があるエッチが好きなんだ…ただヤリたいだけじゃないんだ。
とは言え、素直なアリーナは俺が渡した下着を穿き、何時もの様に戦闘をこなしている。
アダルティーな下着のパンチラは、度し難い男の中枢を程良く刺激しますね。
う~ん…後方に控えている俺には、チラ率が低すぎるのが残念だ…
前に回り込もうかな?
「そう言えばリュカさんってバギを改造しちゃってましたよね!? アレって凄いですよね! どうやるんですか!?」
絶好のパンチラポイントへ移動しようとしたら、クリフトの奴が頻りに話しかけてきた。
おかしいな…コイツには嫌われていると思ったのだが……?
フレノールで非道な事をしてみせ、サランではアリーナを泣かし、気を抜くと大事なお姫様を喰べちゃいそうな勢いの俺を、完膚無きまで嫌っているハズなんだけど…
リュカSIDE END
(囀りの塔)
クリフトSIDE
「私にも風だけのバギを教えて頂けますか?」
私はリュカさんに近付き絶え間なく話しかける。
アリーナ様は彼のプレゼントして下着を着用して、ここまで戦闘を行ってきた。
「あぁ…私はバギを使えないからダメですかね?」
リュカさんもそれを知っているみたいで、アリーナ様のスカートの中を覗こうと、時折体を傾けたりしている。
「リュカさんは何時頃バギの改造が出来る様になったんですか?」
アリーナ様もリュカさんの視線を意識して、ワザと際どい動きを行っている…様に見える。
このままではアリーナ様が汚されてしまうのも時間の問題だ!
「他にはどんな魔法を改造出来るんですか?」
だから私はリュカさんに話しかける。
アリーナ様に近付かせない為に…アリーナ様の気を惹かない為に…
「あのリュカさ「うるせーな! ちょっとは戦闘に集中しろよ! ここはモンスター蔓延る危険なダンジョンなんだぞ! ペチャクチャ喋ってんじゃねーよ!」
貴方かそう言う事を言いますか…普段無意味に歌い続ける、厄介な貴方がそんな説教をしますか!?
「クスクス…仲良いのね二人とも。私…クリフトはリュカの事が嫌いなんだと思ってたわ」
アリーナ様に笑われた…いや、笑われるのは良い。
勘違いされるのが非常に困る!
嫌いですとも! 私はこの人が大嫌いですとも!
「ほれ…じゃれ合うのも終わりにせい! そろそろ最上階じゃ…エルフが居るらしいから、何とか説得して囀りの蜜を分けてもらうぞ」
ブライ様にまで勘違いされた…
アリーナ様を守る為、私が犠牲にならねばならないのです!
クリフトSIDE END
(囀りの塔)
ブライSIDE
まったく騒がしい面子じゃなぁ…
しかし…ワシもクリフトはリュカの事を嫌っていると思っておったが…
逆じゃったのか?
いくら神官として神に仕えているとは言え、城には年頃の女子が豊富じゃった。
顔がそこそこ良いクリフトも、女子達の人気の的じゃったのに、靡く素振りも見せんかったしな。
まさか本当に男色の気があるのか?
折角巡り会えた色男が、事ある毎に女遊びをしておるから、最初はヤキモチを妬いてツンツンした態度じゃったのか?
我慢出来なくなったから、今後は激しくアプローチする算段か?
う~ん…恋愛は自由じゃし、好みも人それぞれじゃ…文句を言う気は無いが、勝算は低いじゃろうに。
「あ、美女の匂いがするよ!」
男女分け隔てなくもてる男が、またしても突飛な事を言い走り出した。
そんな事を言うと、またクリフトの嫉妬を買うじゃろうに。
置いてかれぬ様ワシ等もリュカの後を急いで追う。
階段を駆け上がり、立ち止まるリュカの側まで辿り着く…
周囲を見ると、そこは一面の花畑じゃった!
「やぁお嬢さん! 僕はリュカ…仲良くしてね♡」
塔の最上階に咲き並ぶ花畑の中央には、耳の長い美少女2人が此方を見て驚いていた。
あれはエルフ属じゃな。まさか本物にお目にかかれるとは…
「きゃぁ貴方達人間ね!? …リース、帰るわよ!」
「は、はいお姉様!」
じゃがエルフ等は此方の話しも聞かず逃げにかかる。
どうやらエルフ相手じゃ、自慢の色男も無意味なようじゃ。
「あ、いけない…薬を落としちゃったわ!」
「いいわよそんなの! さ、早く!」
二人の少女エルフは何かを落としたみたいじゃが、一目散に空へ飛び立ち逃げていった。
「あ~ん、待ってー! 僕と楽しい事をしようよー!」
美女に逃げられた色男は、二人が飛び去った空を眺め、残念そうに叫んでる。
恐ろしい程自分の欲求に素直じゃなぁ…
ブライSIDE END
後書き
悲劇!
ゲイと勘違いされるクリフト君。
色んな意味で、早くアリーナに告白した方が良いよ…
第18話:何時の間にやら武術の師匠………何で?
(サントハイム)
リュカSIDE
「たー!」「何の!」「うりゃぁ!」「まだまだ!」「トウ!」「甘い!」
俺は今、サントハイム城の中庭でアリーナに稽古をつけている。
何でこんな事になったのだろう?
塔の最上階でエルフが落としていったのは、探し求めていた囀りの蜜だった。
またアリーナを泣かせたくなかったから、率先してルーラでサントハイムに戻り、王様に薬を飲ませました。
うん。本当に効果があったみたいで治っちゃったらしい。(“らしい”と言うのは、その場に俺は居なかったから。堅苦しい場には居たくなかったから!)
お城の美女をナンパして今夜の約束を取り付けた頃、アリーナ達が俺の所にやって来て嬉しそうに言いました。
「お父様から世界を旅する許可が出たわ!」
ふ~ん良かったね…って感じ。
興味が全くないのがバレたのか、爺さんが経緯を話してくれた。(別にいいんだけど…)
何でもアリーナパパには予知夢を見る病気があるらしく、声を失う前にも怖い予知夢を見たんだってさ。
怖くておねしょして、恥ずかしくて声が出なくなったのかな?って言ったら、すんごく怒られた。
んで、今回見た怖い夢ってのが…
世界の何処かで邪悪な魔王が蘇ろうとしている…らしい。
それを倒せるのは勇者だけ…って言ってた。
だからアリーナに世界を見せようって思ったんだってさ。
何でそう言う思考に達したのかは分からんけど、そうなったんだって。
やっぱりここでも「あっそ!」って興味なく答えたら、隣国のエンドールへ行くって言ってきた。
どうやらエンドールでは、現在武闘大会を開催しているらしく、それに出場する為大興奮している…アリーナだけが。
すると、多大なる温度差を感じ取ったクリフトが、エンドールについて教えてくれた。
この世界の国の一つエンドールは、最も交易が盛んな大国らしい。
人も物も沢山集まるから、俺の家族の事も何か分かるかもしれないって…優しく教えてくれた。
コイツ本当に俺に気があるのかな? 最近優しいんだけど…キモイ。
と言う訳で、今夜一晩サントハイムで過ごしたら、明日の朝一で砂漠に戻り、そこから東へ旅立つ事になった。
それは良いんだよ…
すっかり忘れてたけど、家族とはぐれてるのも何とかしたいし。
でもね…
「だからリュカ! 私に武術の稽古をつけて!」
って………“だから”って何?
絶対拒否ろうと思い口を開いた途端、アリーナが瞳を潤ませて言ってきた…
「私…リュカに言われた通り、子供っぽいパンツを止めて大人な下着に替えたんだよ…大人な武闘家になりたいから、言い付けを守ってるんだよ!」
大人な武闘家って何だ!?
そうツッコもうとしたのだが、セクシーパンツを穿いたアリーナの蹴りを正面から観察するのも、結構良いんじゃね?って考えが巡って来ちゃって…
何だかんだ言っても、アリーナは可愛いんだよね!
クリフトが狙っていると思ってたから遠慮してきたけど、アイツってばゲイぽいじゃん!?
コレを切っ掛けに、俺の上での特訓も行っちゃおうかな?
そんな訳で、夕飯をたらふくご馳走になった後、中庭でアリーナのパンチラ鑑賞会を行っています。
お城のメイドのケーラちゃんと、この後約束があるからアリーナにはまだ手を出さないけど、良い感じでムラムラ来ちゃってるね!
リュカSIDE END
(サントハイム)
クリフトSIDE
昨晩は最悪な夜だった…
陛下のお声が戻り、大変喜ばしいハズであるのに…
疲労だけが蓄積されて行く。
事の発端は、陛下へのお目通りを断ったリュカさんが原因だ!
断る事自体不敬に値する事だってあるのに、断る理由が最悪だ。
『他人に畏まるのはイヤだから、僕は王様に会わないよ』って………何様だコイツは!?
それも陛下が居られる国王の間の前で、大声で言い出すから始末が悪い。
国王の間に居合わせた多数の家臣等も…勿論陛下ご自身も、このアホの台詞を聞いており、入室した我々を冷めた目で睨んでいた。
しかし、陛下のお声が戻られた事と、アリーナ様の『リュカが居たから、お父様の声を治す事が出来たのよ!』と言う必至の弁護により、取り敢えず水に流す方向で雰囲気も元に戻った。
リュカさんは優しいアリーナ様に感謝すべきだ!
だが、コレまでの事は序章にすぎなかった…
アリーナ様が必至で弁護する人物が気になった陛下は、お礼をする意味も込めて晩餐を共にしたいと仰った…
私もブライ様も『礼儀の“れ”の字も知らない男です! お止めになった方がよろしいかと…』と止めたのだが…
『よい! 余の恩人であり、娘の信頼する人物でもあり…そしてフレノールの事件を速やかに解決させた人物だ。些細な言動に目くじらを立てるつもりはない! 他の者もそれを心得よ!』
と、半ば強引に晩餐列席が確定してしまいました。
勿論、これまで行動を共にし、そしてこれからも共に旅立つ我らも列席を許されました。
本来なら、陛下やアリーナ様とご一緒出来るなんて光栄の極みであるのに、リュカさんも一緒という事で心から喜べない。
案の定、リュカさんの言動は私の胃を苦しめる。
目の前には各地を巡ってきた我々でも、お目にかかれない様な素晴らしいご馳走が並んでいるのに、全く食欲がわかない程彼の言動が私を苦しめる。
最初に陛下が『この度は余の声を取り戻す手伝いをしてくれて助かった。礼を言うぞ』と、礼節を守りリュカさんに感謝を述べる。
ここで普通の人間なら“いえ…微力で大した事も出来ませんでした故、恐縮であります”的な、謙遜を示すのだろうが…
『別にお前の為にした訳じゃねーよ! 礼なら、涙ながらに訴えてきたアリーナに言え』と、出てきた食事を頬張りながら言い放つ。
私もブライ様も右手で顔を覆い、周囲を確認する…
思った通り列席した家臣の大半が、青筋をヒクつかせ拳を握り締めていた。
『じゃ、じゃぁ今回のは、私だけの功績って事ね!』
空気を読んだアリーナ様が、慌てて戯けて場を和ませたが、家臣等の表情は緩む事がなかった。
その後も食事をしながらの雑談は続き(彼のタメ口も続く)、エンドールの武術大会へ出る為、今後はリュカさんに稽古をつけて貰うという話しになった時、遂に事件は起きてしまった。
『どうかなリュカ殿…武術の師匠だけではなく、いっそのこと伴侶になってはみんか?』
無論冗談である事は陛下の顔を見れば一目瞭然。
リュカさんの直らないタメ口の所為で、陛下も会話中に冗談を織り交ぜだしていたのも、その証拠である。
だがリュカさんの返答が最悪…本当に、冗談抜きで、これ以上ないくらい最悪だったんです!
『イヤだよ! だって僕には奥さんが居るし…家に帰れば沢山愛人だって居るし……こっちの世界に居る間、エッチだけをする関係であればOKだよ。あ、でも今夜はダメね…もう先約が入ってるから☆』
断り方にも色々ある…
“畏れ多い”と謙遜したり、“妻を愛してるから”と柔らかく断ったり…
だがリュカさんは、アリーナ様に面と向かって『イヤだ』と言い切ったのです!
しかも、その後に肉体関係だけならOKと、ふしだら極まりない条件を付けてきたのです!
私やブライ様…そしてアリーナ様は、彼の事を多少は解っていたので憤慨しながらも諦めの境地に達しておりました…
しかし、リュカさんの隣で食事をしていた近衛騎士隊長殿には我慢の限度…
腰から剣を抜くや『こ、この無礼者!』と斬りかかってしまいました。
もう上を下への大騒ぎ…
この後の事を簡単に説明しますと、“リュカさんの言動は気にしない、目くじらを立てない”と告げていた陛下の面目は丸潰れ。
これまで擁護してきたアリーナ様の面目も丸潰れ。
一撃で負けてしまった近衛騎士隊長及び、近衛騎士隊の面目も勿論丸潰れ。
唯一残った面目は…『この城のメイドは美人が多いね!』だけでした。
誰の台詞かは言いませんけど…
クリフトSIDE END
後書き
哀れなサントハイム王家に励ましのお便りを…
第19話:頭ばっかりでも、体ばっかりでも、ダメよね!って言うCMがあった事を思い出す。
(サントハイム - エンドール)
リュカSIDE
やっぱりお城で振る舞われる料理は美味しいよね。
お城暮らしの長所はそれだけだと思う…
あとはめんどくさい事ばかりで、自由を愛する俺には向かない。
そしてここにも自由を愛する少女が一人…
俺の為に買い揃えたセクシーおパンツを惜しげもなく披露するアリーナ。
黒のパンストってセクシーだね。
「はぁはぁはぁ…ど、どうして私の攻撃は当たらないの…?」
膝を支えに肩で息をしながら苦しそうに呟くアリーナ。
先程から俺に、攻撃という名目でパンチラと爽やかな風をプレゼントしてくれている。
「はぁはぁ…私の素早さが足りないのかしら?」
俺としては素早さより、オッパイの大きさを足してほしいです。
背中の肉を掻き寄せて、ブラの中にセクシー収納。
「ねぇ! 何でなのよ!?」
「オッパイが小さいからじゃね?」
「か、関係ないでしょ! もう、真面目に答えてよ! 私の師匠でしょ!」
師弟の関係ってこんなだっけ?
何で弟子に怒られてるんだろう?
嫌なら弟子を辞めれば良いのに……
「………でも本当の事を言ったら怒るし…どうせ怒られるなら巫山戯てた方がマシだし…」
「お、怒らないわよ。強くなる為に指摘されるのなら、怒る訳がないでしょ!」
何か既に怒ってる感じがするけど、言質を取ったし言ってみるか。
「多分…アリーナは………馬鹿なんだよ」
「……………」
お、本当に怒らない。ちょっとはそんな気がしてたのかな?
「ば、馬鹿とは何よ失礼ね!!」
何だ…タメてただけか…
結局何時も以上に怒っちゃってる。
「だから言いたくなかったんだよ…もう二度と言わない…今後は自分で気付いて下さい…僕に頼らないで下さい…」
俺は大袈裟にしょぼくれて、座り込み拗ねるフリをする。
「ご、ごめんなさい…だって馬鹿とか言うから…ごめんなさい…」
アリーナはあまり言い訳をしない娘だ。
そこがアルルと大きな違い。俺の義娘は言い訳がましくヒステリック。
「うん。じゃぁ改めて説明するね」
「はい、よろしくお願いします!」
機嫌を直し笑顔を向けると、チョコンと俺の前に座り上目遣いで教わろうと身構える。
う~ん…可愛いなぁ…
「アリーナはね戦闘馬鹿なんだ。戦闘馬鹿ってのはね戦術馬鹿の事で、戦術馬鹿ってのはね目の前の戦いの事しか考えてないんだ。気持ちを一歩引いて、戦闘以外の事にも気持ちを向けて、全体の事を把握する必要があるんだよ」
「ぜ、全体の事?」
「うん。さっき攻撃が当たらないって言ってたけど、それって自分目線での考え方だよね。攻撃を避ける方の事を考えてないよね」
「避ける方の事って…どういう事!? 全然解らないわ」
「誰だって殴られそうになったら避けるよ…ただ黙って殴られる奴なんて希だ。そう言う趣味の奴ぐらいだと思うよ。だから相手の事を考えて、避けられなくしてやるんだ!」
「避けられなく……一体どうやって?」
「それは僕に聞かないでよ。それぞれ考える事が重要だ! …まぁ例えば、魔法で眠らせてから攻撃するのも、手段の一つだね」
「でも私、魔法使えないわよ! どうすれば良いのよ!」
「だから例えだって! アリーナはアリーナなりの方法を見つけるんだよ!」
本当馬鹿だ…何でも俺に聞くなよな。
「いいかい、アリーナなりの方法を見つける為に、さっき程言った『一歩引いて、戦闘以外の事にも気持ちを向ける』って事なんだ」
「でも、一歩敵から引いたら、攻撃がとどかなくなるじゃないの!」
「だから違うって! 本当に引かなくても良いんだよ…気持ちを一歩引く事が感じなの!」
「おいリュカ…姫様には、もっと具体的に言わんと伝わらんぞ」
俺の後ろでブライが欠伸をしながら忠告する。
「はぁ…つまりね、さっきまでの戦いでアリーナは、僕のフェイントに引っかかり攻撃をハズしまくってたんだよ。僕が右に動く様に見せかけると、それに騙され右へ攻撃を繰り出す。勿論それはウソだから、アリーナの攻撃は当たりはしない!」
「何よ、私の事を騙してたのね!? 狡い…卑怯じゃないのよ!」
「………どうしよう、イライラしてきたよ。あぁハツキは素直な良い子だった…色々教えてて楽しかったなぁ…」
「うっ…わ、悪かったわね…誰よそれ!?」
「僕の元愛人……って、彼女の事はいいんだよ! 兎も角、相手の動きを読み気配を感じながら戦う事が重要なの! “目”にだけ頼ってたんじゃ、何れは何も出来無くなっちゃうよ」
「気配を感じるって何? どうやんの?」
何でも直ぐ人に聞く…ちょっとは自分で考えて欲しいなぁ。
やっぱりお姫様として甘やかされてきたんだなぁ…俺の娘は皆しっかりしてて感じなかったけど、お姫様ってこうなんだなぁ。
「はぁ…簡単に言うと五感をフル稼働させる事だよ」
「ごはん?」
イラッ…結構真面目に教えているのに、ふざけられると苛つく。
「え、ギャグ? ワザとだよね、今の!?」
絶対ワザとだと思ったから、ちょっと怒りながら指摘した。
すると俺の後ろでブライが、顔を押さえ落ち込む気配が…マヂなの?
「ほ、本当に五感が分からないの?」
「分からないわよ! 誰も教えてくれなかったもん! 私に解る言葉で喋ってよ…」
俺は振り返りブライを睨む…アイツ、アリーナの教育係って言ってた。
使えないジジイだ!“ペッ”と唾を吐き、奴を見下し向き直る。
「はぁ…あのね『五感』ってのは、『視覚』『聴覚』『味覚』『嗅覚』『触覚』の事。目で見る『視覚』・耳で聞く『聴覚』・舌で感じる『味覚』・鼻で嗅ぐ『嗅覚』・肌で感じる『触覚』と五つの感覚の総称だ」
「へー…ゴカンって言うんだ! ………で、具体的にはどうフル稼働するの?」
「うん。まず一番使いやすいのは『聴覚』だね。次に『嗅覚』と『触覚』が使い勝手が良い! この3つを使いこなせれば、『視覚』が失われても日常生活は問題なくなる!」
「え!? それは言い過ぎでしょう? 幾ら何でも『視覚』を補えるとは思えないけど…」
「そんな事はない。むしろ『視覚』より色々な事が見えてくる」
「ウソだぁ~! 『視覚』が無かったら何も見える訳ないじゃない!」
「ホントだよ! 例えば…いま、僕の真後ろでブライが髭を触り感心し頷いている!」
一瞬でアリーナの顔に驚きが広がった。
そう、俺の言った通りブライは髭を触り感心し頷いていたのだ。
「どう? 『視覚』が無くても、真後ろの事が分かっただろ」
俺からは完全にブライは死角な為、目では見る事が出来ない。
しかし俺の前に座るアリーナからは、ブライの姿はハッキリ見えている…
そして彼女の綺麗な瞳には、驚き顔のブライの姿が映っている。
はい。とんだハッタリです!
でも今必要なのは、そう思い込ませて嬢ちゃんにも考えながら戦いをさせる事なのです!
体ばかりを鍛えても、頭がカラッポじゃダメなんだよね。
リューラも剣術を始めた頃は力押しばかりでアレだったけど、頭を使いながら戦う事を教えたら格段に強くなったからね。
目の前のお嬢ちゃんも、先程のハッタリに大変関心を寄せている…
これで少しは考えながら戦ってくれるだろう。
まぁ成長すれば、このハッタリにも気付くだろうし…
素直な奴は強くなったってフェイントに引っかかるもんだし…
真実は打ち明けなくても大丈夫だろう。
リュカSIDE END
第20話:夜に騒ぐのは止めよう。だってうるさいし…
(エンドール周辺)
ブライSIDE
あと半日程歩けばエンドールの城下町が見えてくる…
だが今日はここらで野営をする事に…
出来る事なら町まで行って宿屋で夜を明かしたいのだが、既に周囲は真っ暗で今動くのは賢明とは言えない。
何より修業を行いながらの旅じゃ…流石の姫様でも、体力が続かない。
食事を終え、リュカが近くの河原で汗を流しに行っている。
姫様は焚き火を眺め放心状態じゃ…
お疲れなら、先に寝てしまわれても構わぬのに…
「ねぇブライ…」
「…何ですかな?」
ワシの心配な視線が気になったのか、焚き火を見詰めながら姫様が話しかけてくる。
「リュカって結婚してるんだよね…」
「そう…聞いておりますが、何か?」
どうやらワシの視線に気付いてた訳ではないらしい。
「奥さんってどんな人なのかな?」
「さて…あまり話さぬし、どの様な人物なのかは…?」
確かに気になるな…あの男の妻になる様なチャレンジャーじゃ…どんな神経をしているのやら?
「そんなに気になるのでしたら、今度聞いてみては如何かな?」
「ん? …うん。別に気になるって訳では…」
何やら歯切れの悪い口調じゃな…姫様にしては珍しい。
クリフトが薪を集めに行っておって良かったわい。
アイツは大袈裟じゃからな…
こんな姫様を見たら、オロオロして騒ぎ出すじゃろう。
「私とどっちが美人かな? …私だって、それ程悪くは無いわよね!?」
「何を仰りますか! ワシの知る限り、姫様以上の女子など居りません!」
反射的に言ってしまった台詞…じゃが、良く考えたらこの流れでこの台詞は………(汗)
「じゃぁ何でリュカは私に手を出さないの!?」
やはり………考えない様にしてきたが、姫様はリュカに惚れておる。
姫様の教育係としてではなく、人間として奴だけは姫様のお相手として認めたくない!
奴の深慮深さはフレノールで十分に分かった。
頭の回転の速さも、戦士としての強さもズバ抜けて傑出している。
じゃが、女癖の悪さはだけは認める事が出来ん!
姫様が一般の女性であれば問題ないのだ。
浮気癖の多い旦那と、それに悩まされる妻と…
第三者として笑って見ていられる。
しかし姫様は由緒正しきサントハイムの王女…
未来の女王陛下なんじゃ!
万が一何かの間違いで、あの阿呆が国王になってしまったらと考えると、恐ろしくて眠れなくなる。
「ねぇやっぱり私って魅力が無いの?」
ワシは恐ろしい思考の海を漂っていた…しかし姫様の不安げな声に引き戻され、現世に舞い戻ってきた。
気付けばワシの事を潤んだ瞳で見詰めている姫様…
「い、いや…姫様に魅力が無いのではなく…リュカのセンスが変なのじゃろう」
「リュカのセンスが変? ……つまりどういう事?」
「あまり適切な言葉では無いのかもしれないが、所謂『ブス専』ってヤツじゃ! きっと奥方も見れた顔ではないのじゃろう…」
「そうかしら………サランのシスター・パメラは、女の私から見ても美人で可愛いわよ! スタイルも抜群だし、文句の付けようが無いと思うけど…世の中アレがブスなの?」
いや…シスター・パメラは美人じゃ。それも絶世の美人じゃ!
ワシがリュカぐらいの歳じゃったら、間違いなく同じ行動をとっているじゃろう…
つまりナンパするって事じゃ。
口説き落とせるかどうかは分からんが、口説かずには居られん美女じゃ!
「ねぇ、どうなの!? 彼女はブスなの? それとも私がブスなの!?」
「……………」
えぇ~い厄介な男じゃな!
姫様を口説けば口説くで、最悪な行動じゃと言うのに…
口説かなければそれはそれで厄介な事になる!
何じゃあの男は!? 何であんな男がこの世に居るんじゃ!?
ブライSIDE END
(エンドール周辺)
クリフトSIDE
薪拾いからキャンプ地に戻ると、複雑な表情をするアリーナ様と、そのアリーナ様に困っているブライ様が消えそうな焚き火の前で睨み合っている。
一体何が………?
「お二人ともどうされました?」
集めた来たばかりの薪を火にくべ、お二人の姿が一望出来る場所に腰を下ろし、何があったのかを尋ねてみた。
「いや~その~………」
珍しくブライ様が言葉を濁す。
拙いタイミングで戻ってきてしまったのか?
「クリフト! 私とシスター・パメラはどっちが美人?」
何やら少々お怒りのアリーナ様が、突如思いもよらない質問を私にしてきた!
ブライ様も同じ質問をされた為、困っていたのだろうか?………困る事ないのに。
「私はアリーナ様以上の美女を見た事がありません! 確かにシスター・パメラはお美しいですが、アリーナ様と比べられては可哀想ですよ。レベルが違いすぎます」
紛う事なき本心だ。私にとって絶世の美女はアリーナ様お一人。
「………貴方本気で言ってるの?」
「ほ、本気ですとも!」
「はぁ………聞く相手を間違えたわね…ゲイに聞いても、女性の善し悪しは判らないか…」
「な!? ゲ、ゲイとは何ですか!? 私は違いますよ! どうして私がゲイだと思われているのですか!?」
何と言う事だ…
誰に何と思われても、私は一向に構わない…しかし、アリーナ様にゲイだと勘違いされるなんて…
「だって…お城のメイド達はみんな言ってたわよ!『やっぱりクリフトはゲイだった!』って…この間帰った時に、みんなで噂し合ってたわよ」
「『やっぱり』って何ですか!? 何を以て『やっぱり』なんですか!?」
「だってクリフトってば、今までメイドに言い寄られても断ってきたでしょ!? 『私は神に仕える身』とか言い訳して避けてきたでしょ女の子の事!」
違っ! 私はアリーナ様が好きだから…他の女性などには興味が無いから…
「それにリュカに出会ってクリフト、饒舌になったじゃない! 今までは物静かだったのに、この間城に帰った時も頻りに話しかけてたじゃない…私も思ったもん、クリフトはリュカのに惚れちゃったんだなって!」
最悪だあの男! アイツの所為で私は勘違いされまくってる!
「違いますよ! 私はゲイじゃないですし、リュカさんに惚れてなどおりません! ゲイと言われる以上に、あの男に惚れていると言われるのは不愉快です!」
アリーナ様に向かって怒鳴るなど、本来あってはならない事だ…しかしこれだけは全力で否定しておかないと…この事だけは違うと解ってもらわないと!
「何だ何だうるせーなぁ…そんなに騒いでいると、周囲に聖水を振りまいただけじゃ、モンスターを遠ざけられないぞ」
騒ぎの元凶とも言える男が、水浴びを済ませ我々の下へと戻ってきた。
「あ、貴方の所為で私は騒いで居るんです!」
「はぁ!? 何で今までここに居なかった僕の所為になるんだよ? ……これだから神なんぞを信じる信者は馬鹿ばっかなんだよ…」
「な…か、神を冒涜する事は許しませんよ!!」
気が付けば私は、腰に携えたホーリーランスに手をかけていた。
私にとってアリーナ様の次に大切な神を冒涜されるのは我慢出来ない!
「神の事を冒涜したんじゃない! お前の事を馬鹿にしたんだよバ~カ!」
何と腹の立つ男だ…
この男さえ現れなければ…
クリフトSIDE END
第21話:愛される事…愛する事…好き嫌いはどうでもいい!
(エンドール周辺)
リュカSIDE
何だ何だ…水浴びから戻った途端、突然の言い掛かり攻撃は!?
フィールド・オブ・ビューの『突然』を歌っちゃうぞ!
“突然、君からの、言い掛かり”って感じで替え歌にしちゃうぞ!
「あ~リュカ…ごめんなさいね。私が悪いの…私がクリフトの事を勘違いしていたから…クリフトもごめんなさい」
全く状況が掴めないままアリーナが頭を下げて謝り、クリフトが泣きそうな顔で落ち込み、ブライが今にも死にそうな顔で俺を睨む。
「あ、謝ってもらうのは兎も角…何がどうして騒いでたのかを教えてよ。何を以て僕が悪者になってたのかを知りたい!」
まだ季節的に早い水浴びの所為で、体が冷え切ってしまったので、焚き火に近付き暖を取る様に腰を下ろし尋ねてみる。
「うん、実はね……私…クリフトが、ゲイだと思ってたの。しかもリュカの事が大好きなんだと勘違いしてたのよ…その事を言ったら怒っちゃって…本当にゴメンねクリフト」
またアリーナが心から謝罪をする。
悲劇だな…クリフトはアリーナからの謝罪など求めてないだろう…
きっと先程怒鳴ってたのは、好きな女に勘違いされていた為だろう。
自分の想いに気付いてもらえなくても、真逆の方向で勘違いされるのだけは嫌だったんだ! まぁ俺も奴がゲイかもって思ってたし…自業自得?
「何でそう言う話しになったんだ?」
俺は“やれやれ”と言った感じで3人を見渡し、更なる元凶を問いただす。
何時までも呆然と立ち尽くしているクリフトを座らせて…
「その…突然アリーナ様が…『アリーナ様とシスター・パメラはどっちが美人?』と聞いてきたもので…私は本心からアリーナ様だと答えたんですが…『ゲイに聞いても答えは出ない。聞く相手を間違えた』と言われまして…」
「うわぁ…アリーナ酷い! クリフトがゲイかどうかは別にして、その言い方は酷すぎるよ!」
「わ、解ってるわよ…だから謝ってるじゃない!」
胸の前で両手をモジモジさせながら、アリーナは俯き謝っている。この姿…可愛いなぁ。
「クリフト…お前も悪いよ。お前はアリーナの家臣なんだから“アリーナ最高! アリーナ№1”的な言い方じゃ、お世辞を言ってるだけにしか聞こえないからね!」
ガッツリ落ち込んでいるクリフト…だが俺の一言で顔を上げ、また睨みだした。
「わ、私は本心を言ったまでです! それの何が悪いのですか!?」
「言い方の問題だよ。…ただアリーナを褒めたって、比較する事柄が無ければ心に染み渡らない」
そう…女の子を褒めるにはテクニックが必要なんだ。
「今回パメラさんが話題に上がったんだし、彼女の事を褒めてからアリーナを褒めるべきなんだ…例えば『確かにシスター・パメラはお美しいです! しかし私にはアリーナ様よりお美しく見える女性は存在致しません!』って感じ!」
「………なるほど………」
睨み顔が一転…心底感心している顔で大きく頷くクリフト。
「流石リュカね…でも私はリュカに直接その台詞を言ってもらいたいわ!」
お!? 俺に惚れていると分かっていたが、とうとう行動に移してきたか…
だが…
「僕の台詞としては出てこないよ。だってパメラさんの方が良い女だもん! オッパイも大きいし、締まりも最高なんだ!」
俺が本心を言い終わると、アリーナが泣きそうな顔になり、クリフトが蔑む様な表情になり、ブライが複雑な思いを顔に出す。
「私って………そんなに魅力が無いのかな? 女の子をナンパしまくるリュカに、少しも興味を持たれない程、可愛くも美しくも無いのかな………?」
おっと拙い…本当にアリーナが泣きそうになってきた。
女の子を泣かすのだけは避けなければ…
「違うよアリーナ…僕はアリーナの事も可愛い女の子として大好きだよ! 大人パンツをプレゼントしたのも、オッパイ揉んだりお尻を触ったりしてるのも、可愛くて魅力的だからやってるんだよ! 興味のない女にプレゼントやセクハラをする程、僕は酔狂じゃ無いんだ!」
「じゃぁどうしてシスター・パメラや城のメイド達の様に、私に手を出したりしないの?」
さぁどう答える?『女には不自由してないから、オッパイの小さい女に慌てて手を出す必要が無かったんだよ』って言ったら泣かれるね! それは困るね!
「僕には異世界に親友が居るんだ。愛する妻と娘が居る男なんだけど…その彼がね、とある国のお姫様に手を出し妊娠させちゃったんだよ(笑)…それを知った王様がね、大激怒しちゃって『現在の奥さんと別れて、姫と結婚し王家に入れ!』って言ってきたんだよ! でも彼はね『妻も娘も愛してるから、姫とは結婚出来ない! 妊娠させた責任を取る為、子育てに協力はするが、妻と別れる事はしない!』って修羅場になっちゃったんだ!(大爆笑)」
「………それって…ご自身の逸話では…?」
無礼なクリフト君が、更に無礼な事を言ってくる。
「僕の事じゃ無いよ…僕だったら『愛人にならしてやる。でも結婚はしない!』って言い切るから…ってか実際に言い切ってるしね!」
「最悪な人だなアンタは…」
うん。そう思うけど他人に言われるの腹立つね。
「じゃぁさ…私がお姫様を辞めたら…もしくは責任を取らなくても良いって言ったら、私にも手を出してくれる?」
………随分と俺に惚れちゃったみたいだなぁ…
あぁそうか…きっとブライはアリーナの恋愛相談を受けていたんだ! そして、その相手が俺だったんだ…
だから先程から複雑な表情で俺を睨んでいるんだな! ………ちっ、仕方ない…余計なお節介はしたくなかったが、自分の為に動くとするか。
「そんな事を言うもんじゃないよアリーナ…クリフトが悲しむ。君に心から惚れているクリフトが、悲しみの涙で溺れちゃうよ」
あぁめんどくせー…この童貞神官め…さっさと自分で言い出しておけば良いのに…お陰で俺が面倒見なきゃならなくなった!
「な、な、な、何を言われるんですか!?!!? わ、私は幼少の頃より姫様にお仕えして参りました。尊敬の念こそあれど、その様な不埒な想「そう言うの良いから!」
めんどくせー男だな!
「彼女の事を想い、彼女の事を神聖視するのが、必ずしも彼女の為になるとは限らないんだぞ! さっきの“パメラさんとどっちが美人?”って質問で、お前の本心を“家臣としてのお世辞”にしか受け取られなかった事でも分かるだろう! 身分を取っ払って、男女として本音で語らなければ、本当の意味での信頼関係は築けないんだぞ!」
「ほ、本当の意味での信頼関係………」
俺って良い事言う~!
アリーナとクリフトは互いを見詰め考えている。
そう言えば、ちょっとだが息子夫婦(予定)に似てるんだよね(笑)
リュカSIDE END
後書き
リュカさんはリュカさんなりに気を使っておりました。
勿論それはクリフトの為じゃなくて、サントハイム王家の為だけどね。
翻って自分の為でもある!
第22話:今夜はウサギで盛り上がろう!
前書き
またも出します「BGS」
リュカさん大好き「BGS」
何の事か解らない子は、前作「リュカ伝その2」を読み返してね。
(エンドール城下町)
ブライSIDE
我ら4人は、繁栄を続ける都・エンドールの城下町へと昼前に辿り着いた。
馬鹿の所為で、姫様とクリフトがぎこちない態度になってしまったが、兎も角は目的地に到着で一安心じゃ。
陛下から通達してもらってある為、エンドール王は我らが訪れるの事を事前に知っている。
となれば、身分を秘匿するのではなく、ご挨拶に出向くのが常識じゃろう。
宿を取り荷を置いたら、早速城へと向かう事に…
しかし、若干一名だけお目通りに不向きな奴が居る。
ワシ等の品位にも拘わる事…
奴には宿屋で留守番をさせるべきじゃろう。
断固たる態度で謁見を断ろうと話しかけると…
「僕は城に行かず、城下でナンパでもしてるよ。もしかしたら家族の情報が手にはいるかもしれないからさ!」
と向こうから拒否してきた。
“おのれが拒否出来る立場か!?”とか“家族の事よりナンパが先か!?”とか、ツッコミ所は多分にあったのだが、相手していると疲れるだけなので、此方の思惑と一致したと納得し、黙って別行動をする事に…
これまでの旅で解った事は、“奴の言動は受け流すに限る!”と言う事だ。
奴を思い通りに動かそうとしても失敗するし、此方に被害が出る事が多い。
まともに相手してはダメだ。
………家族はどんな対応をしているのだろうか? お会いしてみたいものだ!
ブライSIDE END
(エンドール城下町)
リュカSIDE
町に着き、宿を取り、荷物を各自の部屋に置きに行った時、宿屋の地下へバニーガールのおねぇちゃんが下りて行くのが僅かに見えた。
宿屋の地下って事は酒場かな?………あれ? でも1階エントランスに酒場らしきカウンターがあったな。
………はっ!
これはアレか!?
劇場的な…ダンス的な…踊り子的な…!?
アレフガルドから帰還後、グランバニア城下の仕立屋にムリを言って作らせたバニーガールセット(BGS)…
愛人達やメイドさん達に着てもらい楽しんだが、やっぱりビアンカが一番最高だった!
誰でもBGSを着ると、5割り増しぐらいで魅力がアップする!
そして此処の地下には、そんな美女が大勢居る様な予感がするね!
アリーナ達はサントハイムより代表して来ている訳だから、お城へ行って挨拶しなきゃならないんだろうけども…俺の知った事じゃない!
俺にはバニーガールのおねぇちゃんの方が重要だ!
「僕は城に行かず、城下でナンパでもしてるよ。もしかしたら家族の情報が手にはいるかもしれないからさ!」
と断りを入れ、さっさと別行動をします。
よ~し…今夜のオカズはウサちゃんだぞぅ!
ボクちゃんのニンジンを食べさせちゃうぞぅ!
いそいそと地下へ下りると、そこはカジノだった。
けたたましく鳴り響くスロットマシーンの音…
モンスターどうしを戦わせるモンスター格闘場…
オラクルベリーの町にもカジノがあったが、俺入った事無いんだよね…
基本的にギャンブルは嫌いだし…
あん時は小うるさい男も一緒だったし…
でも今日の俺の目的は違う!
おねぇちゃんがお目当てなのサ!
ウサちゃんをゲットしたいんだよ!
リュカSIDE END
(エンドール城下町)
クリフトSIDE
(コンコン)「おいリュカ…至急話がある! 今すぐ中止し服を着ろ!」
エンドール王への謁見を終え私達は宿屋へと戻ってきた。
武術大会への出場許可を貰い、リュカさんに相談したい事が出来たのだ。
だが宿屋へ…いや、リュカさんの部屋へ来るなり室内からは異様な音と声が聞こえてくる…
例によって例の如く、この馬鹿者は女性を連れ込み励んでいるらしい。
これさえなければ…いや他にも欠点はあるが、これだけは自重して頂ければ私ももう少し尊敬出来るのだが…
思わずアリーナ様を見ると、同じ事を考えていたのか…私と目が合い顔を赤くし俯いてしまった。
彼の暴露で、私の秘めた思いを知られてしまった…アリーナ様も私の事を意識し始めた為、何ともぎこちない雰囲気が続いている。
ただ…リュカさんの毒牙にアリーナ様が掛からない流れになったので、概ね良かったのだと思う事にしている。
(ドンドンドン!)「おいリュカ、聞い「うるせーな! ちょっと待ってろ! 30分待ってろ!」
しつこくノックするブライ様…
室内のリュカさんもお怒り気味に答える。
「ふざけるな、急用じゃと言ってるだろ! 10分で終わらせ服を着ろ!」
リュカさんペースに流されたくないブライ様は、強固な態度で迎え打つ。
そして扉から一歩下がり懐から懐中時計を取り出すと、それを睨み待ち続ける。
10分…
あっと言う間に経過し、室内へ聞き耳を立てる。
だが女性の喘ぎ声は聞こえ続け、終了する気配は伺えない。
「こ、この馬鹿者が!」
怒り心頭なブライ様は、部屋の扉を勢い良く蹴破り怒鳴りながら乱入する。
「いい加減にせんか!!!」
私がリュカさんの立場だったら、慌ててベッドに潜り女性と共に体を隠すだろう…
だが彼は常人とは思考が違う。彼が連れ込む女性も、同族な様で全く動じない…
四つん這いになっている女性の後ろから、リュカさんは腰を打ち付ける作業を行い続ける。
我々の姿を見ても、作業を停止させる様子はない。
「や、止めろと言ったんじゃ! 10分で止め服を着ろと言ったじゃろ!」
「僕は30分待てと言った。大人しく待ってろ!」
これは平行線だな…アリーナ様にお見せする事柄では無いので、私は彼女を伴って部屋を出て行く。
ブライ様は納得できないようで、まだ室内で吠えているが…
あの人には全く無意味だろう。
“30分”と言ったが、あの様子では1時間は掛かると思う。
廊下で待っているのも馬鹿らしいので、自室に戻りお茶でも飲んで待ってようかとアリーナ様に目で訴える。
アリーナ様も黙って頷き、共に私の部屋へ…
その時気付いた…私は何気なくアリーナ様のお手を握っていた事に。
「あ…も、申し訳ございません!」
慌てて手を離し謝罪するが、
「わ、私の事が本当に好きなんだったら、そう言う遠慮はしないでよ…もっと積極的になって…ほしい…よ…」
アリーナ様は耳まで真っ赤にし俯きながら呟いた。
撤回します…リュカさん、貴方は素晴らしいお人の様だ!
私は貴方の事を心から尊敬出来そうです!
クリフトSIDE END
後書き
色んな意味でクリフトが落ちた。
色んな意味でリュカさん大活躍。
第23話:どうして権力や財力を持った親というのは、娘の結婚相手を勝手に決めたがるのだろうか?
(エンドール城下町)
リュカSIDE
うるせージジイだ…
まだ3発しかヤッてないのに『急用じゃ!』と言って邪魔をする。
若者二人は諦めて出て行ったが…それとも触発されちゃったのかな?
お手々繋いで仲良く見えたが……?
しょうがないので4発目を早々に終わらせて、余韻を味わうことなく終了させた。
バニースタイルへ着替えるジュディーに「慌ただしくてゴメンね」と声をかけ、ディープなキスで部屋を送り出すと、気配を察した若い二人がお手々繋ぎながら戻ってくる。
ジジイは俺に怒り心頭で、若者二人の成長に気付いていない様子。
「…っで、僕の邪魔をする程の急用って何?」
いかんな…若者二人の成長が嬉しく思えるのに、お楽しみを邪魔された事の方が響いているみたいで、声のトーンが低音でドスが効いている。
怒ってるかもしれない、俺…
「う、うん…実はね…一人の女の子の為に、どうしても武術大会で優勝しなきゃならなくなったの! 今も闘技場では予選大会が行われているらしいから、それを見に行って後日の私の試合に備えたいの。リュカの力で少しでも強くしてほしいの!」
どうやら真剣なアリーナ…
まだ裸で、ジュディーの移り香や分泌液の匂いがする俺に近付き、心からお願いをしてくる。
顔が近すぎ、キスでもしようとしてるのかと思うくらい…
チラッとクリフトを見ると、服の裾を握り締め不安そうに眺めている。…面白い。
「その女の子が僕にどう拘わるの? 未来の僕の愛人か?」
「ふざけるな馬鹿! この国の姫様が、武術大会優勝者と結婚させられるんじゃ! 姫様はそれを阻止すべく、どうしても優勝しなければならないんじゃ!!」
どうにもよく解らん…武術大会の主催者は国王だろ?
「主催者である国王が、優勝しても姫さんと結婚させないって言えば済むんじゃね?」
「そ、それがね…王様自ら高らかと宣言しちゃったの…『武術大会優勝者への褒美は、余の娘…モニカを娶らせようぞ!』ってノリで言っちゃったらしいの…それで、引くに引けなくなっちゃって…本人は後悔してるのよ!」
「はぁ、何だそいつは!? 娘の人生を何だと思っているんだ!? …これだから王族や貴族・金持ちって言うのは度し難いんだよ! 自分は何をやっても許されるって思ってやがる。例え家族の人生でも自分の思い通りになると考えてやがる!」
最悪だ…大嫌いだそう言う奴は!
腕白馬鹿が優勝して姫さんと結婚し、王位をガッツリ継いだ挙げ句、この国を滅ぼしてしまえ!
こんな大会で優勝できるような奴に政を行える奴が居る訳ない!
自分の欲求の為に、権力と財力を使い果たし、全てを混沌に落としてしまえば良いんだ!
「きっと現エンドール王は、この国を滅ぼす切っ掛けを作った愚か者として歴史に名を残すんだ…ざまぁみろ!」
「リュ、リュカぁ…そんな事言わないで、この国を救う為に手を貸してちょうだい」
瞳を潤ませたアリーナが、俺の顔を覗き込み懇願する…
またアリーナに泣かれるのも嫌だな…
それに国が混乱し、最も早い段階で不幸になるのは女子供と言った力のない者達だ…
特にジュディーの様な美女は不男共に最初に狙われる。
う~ん…知らなきゃ放っておけたけど、知っちゃったら放っておくのは嫌だなぁ…
昔のラインハットやサマンオサの様に、悲しい時代は見たくないなぁ…
リュカSIDE END
(エンドール周辺)
ブライSIDE
考えを改めなければならないだろう…
ワシもクリフトも…いやサントハイムの者全てが、最強ではないにしろ姫様はかなりの強者だと考えていた。
しかし…エンドールの武術大会予選を見て、その考えが間違っている事に気付かされた。
予選であるにも拘わらず、その激闘は予測を遙かに超え唖然とさせられた!
リュカが、『あ…このレベルじゃ、アリーナに勝ち目は無いなぁ…』と呟いたのだが、反論する事が出来なかった。普段なら姫様を愚弄したと怒鳴るのだが、ワシもクリフトも全く同じ気持ち…姫様さえ青ざめていた程だ。
姫様とリュカは、この国の将来を憂いで優勝への努力を誓っていたのに…
ワシは当初、隣国に恩を売る為にこの大会で優勝する事を希望したのだ。
だからワシ個人は“ムリ”と諦める事も出来るのだが、姫様には逃げ道が無くなり…それに協力するリュカが、途中放棄の発言すら許さない状況にしてしまっている。
今、ワシの目の前で姫様がボロボロになっている…
エンドール周辺のモンスター相手に、たったお一人で戦いボロボロになっている。
援護したい…お守りしたいと思っても、リュカがそれを許さない。
姫様を鍛える為の修業の邪魔を奴が許さない。
視界の悪い森の中で、リュカは大声で歌い続ける…
すると何処からともなくモンスターが近付き、姫様に攻撃を仕掛けてくるのだ。
クリフトは姫様の側で『スカラ』を唱え援護を許されているが、ワシはリュカの近くで待機を命じられている。
クリフトの奴には『アリーナ様危険でスカラ』とか『ムリをされては困りまスカラ』等、試合で使えるイカサマの練習をさせている。
具体的に言うと、セコンドとして側に着ける我々が、姫様を心配するフリ(勿論本心から心配している)をして“スカラ”の魔法を言葉の語尾に付けて援護する作戦だ。
良う思い付くものだ…
何でも、リュカが幼き頃に強制労働をさせられていた時期があり、その時に周囲の仲間を助ける為に思い付いた作戦じゃと言う。
どんな人生を送っておるのじゃ?
ワシには周囲を欺ける魔法が無く、ただ黙って見ているしか出来ない。
実質、姫様は一人で戦っている状況で、眺めているしか出来ないのは大変苦しい!
なんせリュカは、隙があれば姫様に向かって風だけのバギを放つのじゃ!
無論、突然の後方からの攻撃…
前方のモンスターに全力を注ぐ姫様に避けられるハズもなく、最も手痛いダメージとして蓄積されて行く…
あぁ…直ぐ隣で攻撃しておるのに、助ける事も出来ないとは…もどかしすぎる。
夜も更け…姫様の体力も大分前に尽きた頃、やっとリュカが引き上げの指示を出した。
立つ事も出来ず、気を失った姫様をクリフトが抱え、エンドールの城下町へと引き返す我ら…
これ程まで姫様に苦労をさせる意味はあるのだろうか?
リュカは言う…
ほんの数日で、あの武術大会で優勝できるほどの実力を得るのなら、常識を越えた特訓をしなければムリだろう…
本当にこの国の姫を助けたいと思い、この国の未来を救いたいと思っているのなら、この非常識な特訓に耐える事だ。
確かにその通りなのだろうと思う。
じゃが、他国の為に姫様が此処までする必要がワシには見出せん。
こんな国が滅びようとも、ワシには姫様の事の方が心配じゃ!
「アリーナが我が儘で、おてんばで、世間知らずなのは爺さんの所為だぞ」
ワシが現状を疑問に思っておったら、心を読んだかの様にリュカが話しかけてきた。
「教育係の爺さんが、もっと心を鬼にして向き合わないから、アリーナが弱くなったんだ」
「ぶ、無礼な! ワシは常に姫様の事を考「アリーナの事を本当に考えているのなら、彼女に苦労をさせるべきだ! “お姫様だから”とか“女の子だから”とか言って、苦労する事を回避させ続ければ、何れ纏めて苦労が襲いかかってくる」
ワシの言葉を遮って、ワシの苦労を非難するリュカ…
チャラ男のクセに…キサマはどんな苦労をしてきたと言うのじゃ!?
年頃の娘を育てる苦労じゃって知らんじゃろうに!
「爺さんが今回の特訓に反対なのは分かってる。でも今回の特訓はアリーナ自らが望んだ物…それを邪魔する事はアリーナへの最大の侮辱だと思え! アリーナが自ら考え、自ら望んだ、自らが選んだ道だ。親だろうと教育係だろうと、それを邪魔する事は許さん」
ワシが何も言わずにいると、リュカが激しくプレッシャーを与え恫喝してきた…
その恐怖もさることながら『姫様への侮辱』の言葉に、何も言えなくなる…
………ワシは間違っていたのだろうか?
ブライSIDE END
第24話:努力は報われる…とは限らないが、努力しなければ絶対に報われない!
(エンドール城-コロシアム)
大観衆が響きを放つ中、エンドール城に併設されるコロシアムでは、武術大会最終予選を迎えていた。
この最終予選を終えると、そのまま前日までに予選を勝ち抜いてきた選手等の本戦Bへと突入する。
そして本戦Bを見事勝ち抜くと、数週間前に決定した本戦Aの勝者である『デスピサロ』との決勝戦が開始される。
つまり、この最終予選から勝ち抜き優勝を納めるのであれば、圧倒的に不利な6連戦を勝ち抜かねばならないのだ!
本日で長きに渡った武術大会もフィナーレを迎えるとあって、その盛り上がりは予選から凄い物がある。
流石のアリーナも、コロシアム控え室に入ってから緊張を隠せず、終始無言で至る所を見詰めている。
(エンドール城-コロシアム)
クリフトSIDE
アリーナ様の緊張が手に取る様に分かる…
何とか解してあげたいのだが、一体どうすれば良いのか私には判らない。
こんな時はリュカさんの出番だろうに…先程フラッと何処かに行ったきり、まだ戻ってこないです。
ナンパではないだろうな!?
「アリーナ殿。もうそろそろ出番ですので、準備の方をよろしくお願いします」
すると係の者が我々に時間である事を知らせてきた。
どうしよう…私も緊張で震えてきました。
「お、時間か? 良かった…間に合ったよ!」
アリーナ様が立ち上がり、ぎこちない動作で試合場への階段へ動き出した時、何処からともなくリュカさんが現れ、何時もの軽い口調で話しかけてきました。
「ど、ど、何処に…い、い、言ってた…のよ…」
緊張のあまり上手く喋れないアリーナ様…
このままでは勝つ事など出来ないのでは?
「メンゴ。…あっちにさ、これが売ってたから…」
そう言うとリュカさんはアリーナ様の左手を取り、今し方購入した『鉄の爪』を装備させました。
「あ、ありがとう…こんな所に売ってる所があったのね?」
「うん。ここで売ってる訳だし、反則にはならないと思うんだ。試合では反則って言われたら外すしかないけどね(笑)」
だが見た限りでは、武器の使用も魔法の使用も許可されている大会だった。大丈夫だろう…
「でも何で左手なの?」
「アリーナは右利きだろ。いきなり使い慣れない物を装備しても、上手くいかない事があるから、これは武器としてではなく防具的な役割とハッタリを込めた使い方で良いと思うんだ。本気の攻撃は利き手の右で…敵が左手の武器に気を取られている隙に、会心の一撃を右手で打ち込める様に戦うのが良いと思うよ」
「なるほど…ありがとうリュカ!」
凄いなリュカさんは…
ちゃんと考えて購入したんだ…
「お礼はいいよ…購入代金は、この数日間でアリーナが倒したモンスターから入手したお金だからね…アリーナが稼いだもんだからね」
相変わらずの爽やかスマイルで、アリーナ様の心を奪いそうだ…
すると私の心を読んだかの様に、アリーナ様からは見えない位置で私にメモを見せつけるリュカさん…
メモには“これからやる事にお前もノって来い! 否定したり、常識論を言うな!”と書いてあり、読み終わると素早くリュカさんが握り潰しました。
何なんだろうか?
「ところでアリーナ…もしかして緊張してるの?」
「わ、分かる? そ、そりゃ緊張するわよ…私だって人間なんだから」
「分かるよ…こんなに乳首を堅くしちゃってんだもん!」
さりげない会話をしながら、あろう事かアリーナ様の服に手を滑り込ませ、胸を…ち、乳首を触り笑い出すリュカさん。
思わず怒鳴りそうになったのだが、先程のメモを思いだし我慢しました!
「ちょ…止めてよスケベ! こんな時に何してるのよ!!」
「でも触り心地が良いよ。ほら…クリフトも触ってみ!」
暴れるアリーナ様を簡単に押さえ付け、私に触る様差し出すリュカさん…
一瞬戸惑いましたが、先程のメモを思いだし…
「あ、本当ですね。服の上からも分かります!」
と触ってみました。
私はとんでもなく罪深い神官です…神様の罰も、アリーナ様の罰も甘んじてお受けします!
私がアリーナ様の乳首の触り心地に本気で浸っていると、慌てて我らの腕を払い除けたアリーナ様が、顔を真っ赤にしながら睨み付けてきました。
不埒な事をした罰に、殴られる事を覚悟したのですが…
「もう…男って奴は………あ、ありがとう。お、お陰で緊張が無くなったわよ!」
と、お怒りながら言い捨て、試合場へ続く階段を駆け上がっていきました。
ホッとして階段を眺めている私…
「良く我慢したなクリフト…お前のお陰でアリーナは全力を出し切れるはずだ」
そう頭を撫でられながらリュカさんに褒められました。
そしてリュカさんは、アリーナ様の後を追う様に試合場へ上がって行きます。
「キサマ…この状況じゃなかったら、殺してやるところじゃぞ!」
と、ブライ様に睨まれながら、私は苦笑いでお二人の後を追います。
どうしよう…本当にリュカさんは凄いお人なんだと分かり始めてきました。
クリフトSIDE END
第25話:権力欲って凄い…色んな人種がそれに群がってくる。
(エンドール城-コロシアム)
クリフトSIDE
私達が試合場へ上がると、既にアリーナ様の紹介が終了しており、最終予選を戦う選手達で舞台は盛り上がっていた。
「何だか皆さん強そうですね…」
気の弱い私は、周囲の雰囲気に飲まれたのか、リュカさんに小声で弱音を吐く。
「そうか? 予選だけだったら問題ないと思うよ…今のアリーナなら、全力を出し切れれば予選だけでなく本戦も大丈夫なはずだ。問題なのは決勝戦だね…相手の事を見た事ないけど、聞いた話じゃ強いらしいよ」
リュカさんは相変わらず飄々としており、アリーナ様に絶大な信頼を寄せている。
でも…リュカさんの仰る通りかもしれない。
何より我々が弱音を吐いては、実際に戦うアリーナ様に失礼だろう!
「そ、そうですよね! アリーナ様なら勝てますよ! 予選も本戦も軽く圧勝してくれますよ! きっと決勝だって…」
「う~ん…決勝はどうだろうか?」
「な、何を言われるんですか!? 何か『デスピサロ』の情報でも持ってるんですか?」
「うん。さっき鉄の爪を買いに行ったらね…『あれ? あんたデスピサロ選手では?』って、間違えられたんだ」
「………リュカさんがデスピサロに似ていた…って事ですか?」
「うん、そうなんだ! こんなイケメンに似てるなんてあり得ないよね!? …って事は、要注意だよ! イケメンは凄いから…体力が凄いからね!!」
「……………」
どうしよう…全然役に立たない情報だ…相手したくないな…
暫くするとアリーナ様が我々の下に戻り、早速試合が開始するみたいです。
緊張こそはしてない様子ですが、少し不安げな顔でリュカさんに近付き話しかけております。
「ねぇリュカ…本当に大丈夫かな?」
「何が心配なの? 今のアリーナなら、簡単に勝ち進めると思うよ」
「だって見てよ…対戦相手に女の子が居るよ…何でお姫様との結婚が掛かってるのに、女の子が出場してるの? もしかしたら私達と同じで、お姫様を助けるのが目的かもしれないわよ…倒しちゃっても大丈夫かな?」
確かに…良く見ると、対戦相手の中にはバニーガールの恰好をした可愛い女性が混じっている。
「女の子!?………あぁ、アレか!」
「“アレ”って言い方は酷いんじゃないの!?」
「だってアレ…男だよ! 匂いで判るよ…完全に男だね! 今はちょん切っちゃったかもしれないけど、昔はエノキが生えてたね!」
「えぇ!? アレが男ぉ~!? だってオッパイが私よりあるわよ!」
まさに驚きです!
あの方が男性とは…見る限りは可愛らしい女性なのに…何でこの距離から判るんでしょうか?
…って、匂いって何ですか?
「確かにオッパイ大きいねぇ~…でも僕の昔の知り合いに、アレより女みたいな男が居たよ。すんごく可愛い男が居たね!」
「はぁ~……リュ、リュカが言うなら本当なんでしょうね…」
些か信じられないと言った表情で、女の子もどき選手を見ながら呟くアリーナ様。
「それより…早速第一戦目が始まるぞ! 舞台中央に、初戦の相手が待ってるぞ! そっちに集中しなさい…他の事を考えるのは全てが終わってからにしなさい!」
ハッと舞台中央を見て慌てるアリーナ様…
「もう戦いは始まってまスカラ! 頑張って下さい!」
私は例の作戦をさりげなく発動させる。
リュカさん直伝の“語尾スカラ”作戦を…
クリフトSIDE END
(エンドール城-コロシアム)
リュカSIDE
う~ん…早速クリフトのスカラ炸裂。
普通に戦ってもアリーナが楽勝だろうが、少しでも決勝戦を楽にする為、俺も援護をしてやろうと思う。
俺って優しいね。
「おいアリーナ…最初の相手は『ミスターハン』って名前らしい…きっとフルネームは『ミスターハン人前』だと思うよ。半人前だから気楽に行け!」
俺は相手に聞こえる様な大きな声でアドバイスをする。
ミスターハン人前は案の定、茹で蛸の様に顔を赤くして怒っている…あれでは冷静な判断は出来ないだろう。
思った通り、怒りで単調な攻撃しか出来ず、アリーナのカウンターをもらい敢えなくKO…
楽に一勝出来た事で、アリーナの顔にも笑顔が戻った。
うん。女の子は笑顔の方が良い!
次なる相手は『ラゴス』と言うボーガン使い。
さて…どう怒らせようかなぁ…
苦手だなぁ…人を怒らせるのって(笑)
「アリーナ気を付けろ。相手は飛び道具を使う…きっと接近する事にはなれてないから、女の子を口説く事が出来ず童貞だゾ! 美少女が近付きすぎると、中二病が発病して押し倒しかねない! 避妊だけはしてもらえ(大爆笑)」
「え~…マヂ~…私の好みじゃないのになぁ…」
流石は我が弟子…
俺の挑発に乗っかり、両腕で体を隠す様な態度を取ると、小馬鹿にした口調で挑発をする。
「あんな男の子供を身籠もるのだけは反対でスカラね、私は!」
何とクリフトまでも挑発に乗っかりつつ、イカサマスカラで援護する。
良いチームじゃん!
そして結果は思った通り…ラゴスも怒りでまともな攻撃が出来ず、敢えなくアリーナに減り倒された。
奴…怒りで、俺に矢を放ったからね。アリーナに攻撃するフリをして、対角線上に居た俺に矢を打ち込んだからね。
まぁ、あんなゆっくり飛んでくる矢に当たってやる義理はないけどね!
さてさて…
気が付くと次の対戦相手が待っておりました。
お次の相手は先程話題に上った男の娘『ビビアン』です。
でも近くで見ると本当に女みたいだな…
匂いは男だから間違いなく男なんだろうけど…
あの股…どうなってるの? 全然膨らみがないよね!?
オッパイもどうやって大きくしたんだろうか?
この世界にも、それ系の技術は凄くて、ちゃんと処理してあるのかな?
お股はちょん切ってベホマをしただけじゃ、痕が哀れな事になるよねぇ?
「アリーナ様ならそんな男女は楽勝でスカラ!」
「うん、任せてよ! 本物の女の強さを見せてあげるわ!」
昔知り合いだった男の娘を思い出してたら、アリーナ・クリフト間でラブラブ・スカラ大作戦が発動していた。
やっぱ見た目女の子は侮辱しにくいね。
リュカSIDE END
第26話:試合をもっと良く見る為に必要な処置です!
(エンドール城-コロシアム)
リュカSIDE
トントン拍子で勝ち進むアリーナ…男の娘ビビアンにも圧勝し、遂に本戦へと駒を進める。
そう言えば男の娘ビビアンが退場する前に呟いたな…『お金かけて手術したのに…どうして男だと判ったんだろう?』って…
やっぱその技術が発展してるんだね。
つか、遂に予選も終わり直ぐさま本戦へと突入するみたい。
アリーナは連戦であるにも拘わらず、既に目の前に次の対戦相手が待ち構えている。
甲冑をスッポリと被った強そうな騎士が…
「さぁ遂に本戦Bの始まりです! 最初の対戦カードは…隣国サントハイムよりお姫様が登場! 連戦だが、その驚異的な身体能力で優勝を目指します! 戦う姫君アリーナ!!」
さっきまでは居なかった進行役が現れ、高らかとアリーナを紹介する。
かっけーな!
「対するお相手は…素性を隠し大会に出場! その圧倒的な威圧感に、多数の選手が敗北を味わう! 沈黙の騎士、サイモン!!」
何と…サイモンとは…これはアレか?
本名は“ポール・サイモン”なのか? じゃぁ“アート・ガーファンクル”は何処だ?
俺が懐かしのフォークロック・デュオ『サイモン&ガーファンクル』に思いを馳せていると、さっさと試合が開始された。
どうやらサイモンはパワー系な様で、スピードではアリーナに及ばない。
とは言え、あの甲冑が邪魔をして決定打を与えられないのも事実。こりゃ長期戦だな…
もう既に飽きてきている俺は、試合そっちのけでギターを弾き出した。
勿論曲目はサイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』だ。
続いて『スカボロー・フェア』を歌い出し、勝手に白熱をする。
気付けばアリーナが勝利を収めていた。
結構苦戦だったらしく、何カ所か怪我をしている。
敗れた黒パンストが色っぽいね…
あ、やべー…ムラムラ来ちゃったよ。早く終わらせて、町でナンパをしたいね!
「さぁて続いての対戦カードは…その驚異の能力に、多くの強者が為す術なく倒されてきた! 人知を越えた猛者、ベロリンマン!!」
ベ、ベロリンマン!?
何つー名前だ…俺だったらグレるね…間違いなく悪い子になっちゃうね!
「ふんがー!」
対戦相手の名前を哀れに思っていると、出てきたのは毛むくじゃらのモンスターだった…
え、良いの? モンスターが出場しても大丈夫なの?
俺の疑問は誰も感じていないのか…勝手に試合が開始され、ベロちゃんがアリーナに襲いかかってくる。
まぁ弱そうだから良いか…と思ったら、急にベロちゃんが4体に分身し始めた!?
え~…何でもアリなんだぁ…興醒めだなぁ…
「くらえー!」
掛け声と共に手近なベロちゃんに向けて跳び蹴りを放つ。
だが、そのベロちゃんは偽者で、アリーナを素通りさせて消え去った。
その隙に本体のベロちゃんが、その長い舌を駆使しアリーナを攻撃する。
“ベチャ”って音と共にアリーナは吹き飛ばされ、顔からはベロちゃんの唾液が滴り落ちる…
嫌だなぁ…あの攻撃。
その後もアリーナは分身したベロちゃんを攻撃し続ける。
でも全然攻撃が当たらず、幻影が消え去り“ベチャ”と舌で反撃される。
流石に疲労が蓄積されてきた様子で、肩で息をし困惑している。
良く見ればどれが本体なのか判るのに…
「アリーナ…焦らず敵を見極めろ! 本体と幻影にはハッキリした違いがあるぞ!」
俺はアリーナにアドバイスをしたのだが、焦ってきている彼女には見極められない様で、ただ一方的に攻撃を食らう様になっていた…
「リュ、リュカさん! 一体何処に違いがあるんですか!? 私には判らないのですが!」
此処にも焦りを隠せない坊主が一人…
しょうがないなぁ…手助けをしてやるか。
「レミーラ!」
俺は頭上に眩い発光体を出現させ、ベロちゃんの影を際立たせた。
「ほれ…良く見てみろ…1体以外の影に、違いが見えるだろ!?」
そう…偽者ベロちゃんは影が薄いのだ。
言い回しではなく、実際に影が薄く見分けが付くんだよ!
分身したくらいで焦って冷静さを失うから、地面にまで意識が行かなくなるんだよ…
本体が判ればアリーナの敵ではなかった。
簡単にぶっ飛ばし、決勝戦への切符を手中に収めた。
うん。数日だが実りある修業だったみたい。
すると客席から俺に向けて非難の声が降り注ぐ…
「おい、セコンドが試合中の選手に協力するのは反則だぞ! お前等の反則負けだ!!」
やっぱ言われるか…う~ん、どうしよう? これはアレか? …お得意のアレですか?
「うるせー! 暗くて試合が見えにくかったから、皆が見やすいようにと明るくしただけだろが! 文句があるなら下りてこい! ぶっ殺してやるから下りてこい! バギマ!」
ブチ切れたフリして誰も居ない場所目掛け風だけのバギマを見せつける。
ラダトーム王家も黙る、逆ギレスマッシュ!
何か凄そうな技を見せつければ、大抵の人間は喋らなくなる。
…だって自分が一番大事じゃん!?
「おい、どうした!? 文句があるんだろう…ここへ下りてこいよ!」
俺に文句を垂れた観客は、俯き黙り答えようとしない。
俺はトドメとばかりに客席へ飛び込み、文句を言った男の前で仁王立つ。
「す、すみませんでした…試合が見にくいから、僕達の事を思って明るくしてくれたんですね!? ぼ、僕…気付かなくて…ご、ごめんなさい…」
男は半ベソをかきながら言い訳を連ねる。
うん。可哀想なのでこの辺で勘弁してやろう。
リュカSIDE END
第27話:怪しいイケメンが居る…俺レベルのイケメンなら、怪しくはないのだろうに…
前書き
みんなが大好きな、あの少女が登場します!
ちょとだけど堪能してね。
(エンドール城)
リュカSIDE
俺の目の前でエンドール王が嬉しそうにアリーナを褒めている。
馬鹿決定だ!
そんなに娘を嫁にやりたくないのなら、ノリでも言うんじゃねー!
まぁ尤も…今回アリーナが優勝出来たのも、この馬鹿が協力したからに違いない。
俺が使ったイカサマを、全て合法にしてのけたのはこの馬鹿だ。
レミーラを見て、文句付けてきた客を脅し、黙らせた上で合法と認めたのはこの馬鹿だ!
でも口を開くとこの馬鹿に文句を言いそうなので、我慢して喋らない様にしている。
事前にブライも馬鹿に言っておいたらしく、俺には話し掛けないのでひたすら黙り続けている。
言いたい事が言えないのって嫌だなぁ…
そう言えば決勝戦が始まるって時に、対戦相手が行方不明になったのには驚いた。
係員の数人が、何度も俺に対し『本当にデスピサロ殿ではないのですか?』と確認に来たのだが、俺は『こんなイケメンが他に居る訳ねーだろ!』と言って払い除けたよ。
大事な決勝戦を前に、何も言わずに居なくなるなんて怪しすぎる…
俺ならそんな怪しい事はしない!
『飽きたから帰る』とか言って帰るね! 止められても『うるせー!』って帰るね!
「ではアリーナ姫達はこれからサントハイムへ帰られるのかな?」
「はい! お父様に優勝の報告をしたいので、直ぐにでも帰ろうと思ってます」
いい加減耐えるのに飽きてきた俺…気持ちが伝わったのか、馬鹿も話を終わらせようとしてくれた。
「しかし残念だったな…北の海域で嵐が起きなければ、北方の王国『バトランド』からの船も間に合い、多くの観客がアリーナ姫の勇姿を轟かせることが出来ただろうに…」
どうでも良いよそんな事…話し長ーよ。
リュカSIDEエンド
(エンドール城)
「なぁ…もう行かね?」
エンドール王の長話に飽きたリュカが、周囲を青ざめさせる口調で切り出した。
「な、何を急に!?」
胃の痛む思いで問い返したのはブライ。
「飽きたんだ…早くアリーナパパに報告しに帰ろうぜ!」
「う、うむ…そうだな…長々と引き止めて済まなかった…サントハイム王によろしく伝えてくれ…」
空気を読んだエンドール王は、アリーナ達(主にリュカ)に気を使い退出を促してくれた。
素直にエンドール王の行為を受けたアリーナ達(ブライ)は、帰り際リュカに思わず釘を刺す。
「もう少し我慢できんのか!?」
しかし、この一言もあと少し我慢すべきで…
「だってあの馬鹿話し長~んだもん! 娘の人生と、自国の未来を、ノリで台無しにしかねない事をするクセに、グダグダ話だけは長ーんだよ!」
普通の声でも聞こえるのだろうに大声で言い切り、エンドールの王室を硬直させるリュカ。
この後アリーナ達に手を引っ張られ、逃げる様に(リュカ以外)城を出て行った。
そして即座にルーラを唱えさせ、サントハイムへと帰還したのだ。
あと数時間エンドールに滞在していれば、バトランドからの客船に乗っていた娘と再会出来たハズなのに…
(エンドール城下町)
マリーSIDE
遅かった…
嵐に見舞われ船の運航が遅れた為、大事な武術大会に間に合わなかった…
一体誰がアリーナ達と行動を共にしてるんだ?
ウルフかな? 会えなかった以上、彼じゃない方が良いなぁ…
町で情報を集め、ウルフっぽかったらサントハイムまで行かないとなぁ…
他の奴だったら別に良いけどね!
「さてマリー…私は宿を取ってくるが、マリーはどうするのだ?」
「うん。私は家族の情報がないか、町の人々に聞き回ってくるね。ライアンちゃんも別行動で勇者の情報を探すんでしょ?」
「うむ…ではホイミン、お前は宿屋で留守番を頼む」
「はいライアン様! …あ、でもマリーさん。船の中でみたいに、面倒事を起こさないで下さいね!」
ちっ! 小うるさいスライムね。
アレは不可抗力よ!
不細工水夫が言い寄って来たんだから、海に叩き込むのが我が家の常識なの!
鏡みてから女をナンパしろっての!
「はいはい、うるさいわねー! もうしませんよ…叩き込む海が無い陸地なんだから…もうイオラで吹き飛ばすくらいしかしないですよ!」
私は笑顔で意地の悪い事を言い、ダッシュでライアンちゃん達と別れる。
後ろでは二人の悲鳴に似た声が聞こえてくるが、そんな事は無視だ!
兎も角、マイダーリンの情報を仕入れなければ…
町中至る所で情報を集めたのだが…
判った事はアリーナと一緒にいる人物がパパである事だけだった…
だったらいいや…わざわざサントハイムに行く必要はないよね。
ただ…あの人、武術大会でイカサマしたみたい(笑)
アリーナ姫の戦いを最後までみていた観客が言ってたわ…
セコンドに付いてる神官が、頻りに『………でスカラ』って話しかけ、スカラ強化を行っていたって…
しかも最後のベロリンマン戦で、セコンドで待機の男が、光の玉を出現させる魔法を使って分身を見破る手伝いをしたらしいの!
あの大会は、裏で賭け事がされていたらしく、ベロリンマンに賭けた男が文句を言ったんだって!
そしたらその男が大激怒…
無被害な場所目掛けバギマを唱えると、『暗くて観にくいから明るくしたんだ!』って逆ギレ…
これって間違いなくお父さんよね。こんな人間が他に居るとしたら、ポピーお姉ちゃんくらいなもんでしょ!?
しかもポピーお姉ちゃんじゃ、光の玉を出現させる魔法…つまりレミーラを使えないし。
間違いなくお父さんね!
う~ん…嵐さえなければ合流出来たのになぁ…残念!
…でも、今回の事に巻き込んじゃったお小言を言われたかもしれないから、結果的にはOKかな?
マリーSIDE END
後書き
一体船上で何があったのだろう?
機会があったら書きたいなぁ…
第28話:居なくなって初めて解る身内の大切さ…
(サントハイム城)
アリーナSIDE
「これ…どういう事…!?」
私は喜び勇んで城の中に入り、そして唖然としている。
騒がしいとは言わないが、常に何らかの物音がしている城内…だが今は静寂に包まれている。
「み、みんなはどうしたの?」
クリフトに…ブライに…そしてリュカに問いかけても答えは返ってこない。
誰に聞いたって解る訳が無いのだろう。
「ねぇみんなー…何処に行っちゃったのー? 冗談は止めてよね! みんなー!!」
私は歩き回り各部屋を探索する…響き渡るのは私達の足音だけ。
そして自身の木霊だけ…
「か、完全に無人ですな………!?」
「ブライ殿…一体どういう事なのでしょうか?」
ブライとクリフトも城内が無人な事を確認し、驚き困惑している。
「ねぇリュカ…どういう事だと思う…?」
無意味と判りながらも誰かに訳を聞かなきゃならない…
そうしないと不安で押し潰されそうだから。
「みんな……隠れん坊が上手いんだね! 全然見つけられないよ…まぁ、見つける気は無いんだけどね!(笑)」
「真面目に答えてよね! 隠れん坊の訳がないでしょ!」
リュカに聞いても解らないのは判ってた…でも、ふざけた答えが返ってくるのだけは我慢出来なかった…
「じゃぁ真面目に答えようか?」
私のヒステリックな怒鳴り声が木霊する中、声のトーンを落としたリュカが不安を煽る様な一言を言ってくる。
「な、何だって言うのよ…」
本当は聞きたくない。
大凡の事は私も解りかけている…でも誰かに八つ当たりをしたかっただけなの…
「夢で未来を見る事の出来る王様…以前見た夢は、地獄の帝王が復活する夢…魔族共がそんな能力者を放っておくとも思えない。つまり………」
「「「…………………………」」」
また静寂が城内を支配する。
私だけじゃない…クリフトもブライも同じ事を考えていたのだろう。
魔族が現れ、サントハイムの人々を皆殺しにしたのだ…
「じゃぁ…やっぱりお父様は殺されたのね!?」
私は残酷な現実に耐えられず、その場に崩れ落ち泣き出してしまう。
考えたくなかった…その答えにだけは辿り着きたくなかったのに…
「いや…殺されてはいないと思うよ。だって何処にも死体がない。血の痕すら残ってない。犯罪を発覚させたくない人間だったら兎も角、魔族が証拠隠滅を計ったとも思えない。城内の人々を丸ごとだからね…」
「え、それって…!?」
私はリュカの言葉に顔を上げる。
もしかしたら希望が残されているかもしれない。
「うん。憶測だけども魔族はサントハイムの人々を殺してないと思う。何かに使う為…何だかは解らないけど、殺さずに連れ去ったと思うのが妥当かな? まぁ城内の様子から、突如消えた感じが見えるから、連れ去ったと言うよりか、別空間に閉じこめた的な…」
「じゃぁ…この原因を作った犯人を捜せば、お父様達を助け出す事が出来るのね!?」
「う~ん…断言は出来ないが、多分助けられると思うよ」
凄いよリュカ…ちょっとの情報で色んな事を考えつくんだね!
何だかリュカが一緒にいれば、どんな事が起きても大丈夫な気がしてくるよ。
「アリーナ様、落ち込んでいても始まりません! リュカさんが仰る通りなら、一刻も早く陛下達をお助けせねば…」
「うん、そうだねクリフト。泣いてたって誰も助けられないもんね」
「では城下サランに行き、城内での事について情報を集めるとしましょう。無人の城にいても埒が明きませんからな!」
私の体に活力が戻ってきた。
クリフトと見合わせて、ブライの提案に頷く。
「でもその前に、事件の最中にこの城に居た子に話を聞いてみようよ」
「何を言っておるリュカ? 事件が起きている時に居った者は、皆異空間に飛ばされてしまったんじゃろうに…残っている目撃者など居らんぞ!」
「きっと魔族の目的は人間だけだったんだと思うよ…ほら、感じるだろ? 事件を目撃した子の気配を!」
私にはリュカが何を言っているのか解らない…
気配を感じろと言われても、何も感じないから理解する事が出来ない。
私達は三人して困惑していた。
するとリュカは、私達を導く様に歩き出す。
リュカにだけは何かが見えている様に…
国王の間を抜け階段を上がり、お父様の部屋の前を通り過ぎ、ぶ厚い扉の私の部屋へと入って行くリュカ。
「何だこの部屋? 窓もなければ扉は頑丈…でも中は綺麗に装飾されている。矛盾しねーか? 広い独房の様な王家の部屋…しかも壁には大穴が開いてるし」
私の部屋に驚くリュカ…
は、恥ずかしいよぉ~…
今までは誰に見られても恥ずかしくなかったのに…
「そんな事はいいから、お前の言う目撃者に早よう会わせんかい!」
ブライのお陰でリュカの気も他に移り、何となく恥ずかしさから解放された。
う~ん…全てが解決出来たら、私も女の子らしさを磨いた方が良いのかもね。
「こっちだ…この大穴の外から、その子の気配がする」
私が未来に思いを馳せていると、導き手のリュカが大穴から城2階の屋根に飛び降り、隈無く誰かを捜し続ける。
人が居るとは思えないけど、リュカが居ると言っているのだから誰か居るのだろう。
私達も屋根へと下り、周囲を探し出した。
そして、その子は突如姿を現した!
「みゃー!」
「ミーちゃん!?」
お城のメイド達が可愛がっている猫のミーちゃんだ。
「え? この子が残った目撃者!?」
「そうだよ。きっと一部始終を見てたと思う…ねぇ、ミーちゃん?」
そう言うとミーちゃんを抱き上げ話しかけるリュカ…
「のうリュカ…確かにお前の言う通り、その猫は全てを目撃していたと思う…じゃが、聞き出せないのじゃから意味がない事じゃろう?」
「そんな事ないよ…僕は動物の言葉が解るからね。今もミーちゃんが教えてくれたよ…“僕に似た顔だけど、目つきが怖い魔族が来て、お城のみんなを消しちゃった”って言ってるよ!」
「ほ、本当に動物の言葉が解るの…?」
折角協力してくれているリュカに失礼な質問だろう…
でも聞き返してしまう事でもある!
「………別に信じなくても良いけどね。でもミーちゃんは“魔族達は一旦デスパレスに帰るって言ってた”って言ってるよ。勿論シカトしても良いけどね」
「ううん、ごめんなさい。リュカの事を疑ってなんかいないわ! リュカを信じて私は行動する!」
「そうですな…実際この世界には南の方に、デスパレスと言う魔族の城があると聞いた事があります。異時代から来たリュカに、その情報があるとは思えません…」
「そうですねブライ殿。しかし我らとてデスパレスの正確な位置は知りません…どうでしょうか、南の方と言う事で取り敢えずはミントスに船で乗り付けると言うのは?」
「うむ…そうじゃなぁ、良い案じゃと思う。ミントスにて情報を集めるとしよう!」
さっきまで絶望していたのに、リュカの推理のお陰でドンドン話が進んで行く。
うん。嘆くのは私に似合わない…取り敢えず行動あるのみよね!
アリーナSIDE END
(サントハイム)
家族や知人を一片に失ったアリーナ達…
しかし異時代人のリュカがアドバイスを与えた事により、大きく心に活力を取り戻す。
大切な人々を助けるという使命を胸に…
此処からアリーナ達の壮大なる旅が始まったのだ。
・
・
・
若干一名がお気楽な気分のままだけども…
第2章:おてんば姫とチャラ王の冒険 完
後書き
さあ次話から第三章です。
トルネコさんが活躍するよ。
あちゃのトルネコは、ちょっとアレだよ!
第1話:一期一会
(レイクナバ周辺)
一人の中年男性がモンスターに追われ逃げ惑っていた。
「ひゃ~! わ、私は戦闘が苦手なんですぅ~!」
多数の荷物を背負い、手にはゴツイ破邪の剣が一本。
彼の名は『トルネコ』。
数時間前に故郷のレイクナバを出立し、長年の夢である世界一の武器屋を目指し旅立ったのである。
ただ漠然と…
ボンモール王国領の外れにある田舎町レイクナバを出て、幾ばくも経過しないうちにモンスターに囲まれ、現在逃亡中のトルネコ。
そこで運命的な出会いをする事となる。
物語はそこから始まる………
(レイクナバ周辺)
トルネコSIDE
あぁ…いい加減使われる身が嫌になって、偶然購入出来た『破邪の剣』を頼りに旅立ってはみたが…
外の世界がこんなにも恐ろしいとは思いもよらなかった!
スライムなんてザコだと思っていたのに…
大軍で迫られると、その恐ろしさは尋常じゃない!
どうしよう…町に一旦帰りたいけど、ドンドン距離が離れて行く。
このままでは世界一の武器屋になるどころか、生き延びる事も危ういぞ!
戦闘経験のない四十手前の中年に、夢を追う事は不可能だったのか!?
(ガサガサ!)「伏せてろ!」
夢を諦め死を受け入れようとしていた時、突如前方の茂みから小柄な人物が現れ私に指示を出した。
最早逆らう気力もなかった私は、素直に従いその場でしゃがみ身を縮める。
(ざしゅ!)(ぐしゃ!)
少しの間、何かが切り捨てられる音が響き、そして静寂が訪れる。
私は恐る恐る顔を上げ周囲を見渡す…
そこにはまだ幼い…息子のポポロ(10)よりも幼そうな美少女が一人佇んでいる。
どう見でも子供…しかし見た事もない剣を腰の鞘に収めながら、周囲を警戒しつつ私に近付いてくる…
本当に先程の敵をこの少女が倒したのだろうか?
「大丈夫?」
私の側で立ち止まり屈んで目線を合わせると、クールな表情で無事を確認する。
大人として、これはかなり恥ずかしい姿な気がしますね。
「だ、大丈夫ですよ。危ない所をありがとうございます! わ、私はこの近くのレイクナバという町に住む、世界一の武器屋を夢見るトルネコと申します」
私は恥ずかしさを吹き飛ばす為、素早く立ち上がり礼と自己紹介をする。
「私…リューラ………気を付けてね」
美少女騎士は自らを『リューラ』と名乗り、私の無事を確認すると踵を返し立ち去ろうとする。
何とも無口で恥ずかしがり屋な少女の様で、助けた私の無事を知るとそそくさと何処かに出発しようとする。
この少女は強い…少なくとも戦闘経験のない私などより遥に強い。
レイクナバから一番近い村まで、急いでも5日はかかる。
私一人ではこの危険な世界を旅する事は不可能…でもレイクナバに一緒に旅立てる人物など居ないだろう。
この少女は私にとってチャンスの女神なのかもしれない!
何とか彼女と一緒に世界を旅する事が出来れば…
兎も角ここで別れるのは惜しすぎる!
「あ、リューラさん! 危ない所を助けて頂いたお礼に、今夜は我が家でお食事でもどうですか? 妻のネネも息子のポポロも喜ぶと思うんですよ。このままでは危険な森の中で夜を明かさねばならない…一旦レイクナバに戻って、我が家で食事をしませんか?」
幼いとは言え相手は女性…
いきなり見ず知らずの男が“我が家で食事しよう”などと言っても、警戒されるだろう。
私には妻子が居て、家にはその二人も居る事をアピールすれば、私が危険な男でない事を理解してもらえる……と思う。
「………でも………私…お父さんを捜してる」
お父上を捜している……?
一体どういう事でしょうか? もっと詳しく聞いた方がいいですね!
・
・
・
「なるほど…気が付くと3日程前に、この森に落とされ迷っていたんですね!?」
話を聞けば凄い事になっていた。
何でも異時代より、姉妹の我が儘で巻き込まれこの世界に落とされてと言う。
しかもその際、共に巻き込まれたお父上達とはぐれてしまい、森の中を必至で探し回っていたらしい…
こんな幼い少女が、とんでもない試練を受けているのですね!?
しかし…私にとってもチャンスであろう。
ご家族を共に捜す為、一緒に世界を旅する口実が出来る!
だが今日は一旦レイクナバに戻り、暖かい食事とベッドで休息した方が良いだろう。
リューラさんも3日間この森を彷徨ったのだろうから、今日くらいは我が家で休んで、明日からご家族捜し&私の冒険を再開させよう。
(レイクナバ)
夕方になり、故郷レイクナバへ舞い戻った私は、早速家に帰り妻と息子にリューラさんに出会った経緯を話し、彼女を迎え入れる。
私の命の恩人という事で、ネネもポポロも快く迎え入れてくれた。
まだ出会って数時間だが、リューラさんは本当に寡黙だ…
ネネとポポロの歓迎にも、俯き顔を赤くして「ど、どうも…」と言うだけ。
う~ん…寡黙と言うより、恥ずかしがり屋さんなんだろうか?
ネネは早速彼女をお風呂へと誘う。
3日も森の中を彷徨っていたのだ…外見は幾分薄汚れている。
女の子は清潔な方が良いだろう。
しかし…ポポロが何時もより落ち着きがない。
少し観察していると、頻りにお風呂場を意識している。
なるほど…息子もやはり男なのだな。
リューラさんは美少女だ。
中年の私が口に出して言うと、何かと疑いを持たれるだろうが…
その手の趣味の人からしたら、これ以上ないくらいの美少女だ。
ポポロとも歳が近く、そんな美少女が我が家のお風呂を使用している…
これは落ち着けなくなるのは当然だな。
食事の用意をしているネネも気付いたらしく、私に目配せをして微笑む。
暫くしてお風呂からリューラさんが上がり、食事の用意が出来たテーブルに近付いてくる。
「あの…暖かいお風呂…ありがとう…ございます」
「いえいえ…私は命を救われたのですから…このくらいは何でもありません」
恥ずかしがり屋な彼女の気分を解す為、戯けた感じで言い席に着く様促した。
彼女の服装は、私が帰りがけに購入した衣類と、腰には室内にも拘わらず愛用と思われる剣が…
見た事もない不思議な剣…
「大切な剣なのですか? 家の中では外しておいても大丈夫ですよ。盗んだりはしませんから…とは言え、見た事のない剣ですねぇ。詳しく見せて頂いても良いでしょうか?」
職業病なのだろうか? 不思議な武器を見ると心が躍る感じがする。
「………どうぞ」
最初は戸惑いがちだったが、私の事を…いや、私と家族の事を信用してくれたのだろう。
腰から外し恐る恐る手渡してくれた…だが視線は鋭く、剣から外さない。
見れば見る程不思議な剣だ…
リューラさんの様な少女が使うのに打って付けの軽さ…
細身の刀身だがその鋭さはかなりの物。
グリップ部分は可愛らしく羽があしらわれている。
「この剣はどうされたんですか?」
剣を鞘に戻し、リューラさんにお返しする。
そして手に入れた経緯を教えてもらおうと問いかけた。
「お父さんが…」
「お父上が?」
「お父さんが…以前にくれたの……お母さんと同じ騎士を目指してるから…」
「ほぅ…お母上は騎士殿ですか!? かなりお強いみたいですね。リューラさんの実力をみれば私でも判ります」
リューラさんは私の言葉を聞き嬉しそうに頷いた。
余程お母上の事を褒められたのが嬉しいのだろう…初めて笑顔を見せてもらえた。
「でもね…お父さんはもっと強いの! 強いし、優しいし、格好いいし、面白いし、凄い人なんだよ!」
どうやらご両親を慕っているみたいで、急に饒舌になり此処には居ないご両親を自慢し始めた。
「こ、このイヤリングもお父さんがプレゼントしてくれたし…」
そう言うとリューラさんは耳からエメラルドで出来たイヤリングを外し、私達に見せ自慢する。
うむ…武器ではないので詳しい事は解らないが、見た感じからして値打ちのありそうな代物だ…
「それにね、あの服…汚れちゃったけど洗濯してくれた洋服も、3日前の誕生日プレゼントでもらった服なのよ! 凄く可愛いでしょ! 私のお父さん、センスが良いのよ!」
あの服か…確かに可愛らしい服だが、それ以上に気になったのは、魔法への防御力が幾分ある事だ。
つまりあの服を着ていれば、普通の服を着ている時に受けるメラより、ダメージを落としてくれる効果があるのだ。
服もそうだが、イヤリングに剣と…どれも高価な物ばかり。
もしかしたら彼女は随分と裕福な家庭で育っているのかもしれない…
上手く仲良くなり、ご家族捜しを協力すれば、後々有益な事があるかも………
うむ…是が非でも彼女のお父上を捜さねば!
トルネコSIDE END
後書き
私の描くトルネコは、世界一の武器屋になると言う夢を持っていながら、至る所でリアリストになります。
リアリストというか、打算的というか……
第2話:祈願息災
(レイクナバ)
トルネコSIDE
夜も明け、私はリューラさんと共に再度冒険に出る為、町で仕度を調えている。
もしかしたら彼女のお父上の情報を誰かが持っているかもしれない…
私の様にリューラさんのお父上を森の中で見た人が居るかもしれない。
すると…
「おぉトルネコ……可愛いお嬢さんと一緒の所済まんが、ワシを教会まで押してくれんかね?」
と、トム爺さんが頼み事をしてきた。
普段であれば急ぐ用事もないので、雑談がてらトム爺さんを教会まで導くのだが…
今日はリューラさんのお父上捜しをしている。
それ程暇ではないのだ。
今回は断ろうと思った時…
「ん? おぉ…お嬢ちゃんがワシを押してくれるか!」
無言のままリューラさんがトム爺さんを押し始め、先程立ち寄った教会へ戻ろうとしている。
ここで『忙しいので』と断れば、私の信用問題に関わってくる…
本心では先を急ぎたいのだが、渋々私もトム爺さんを押す事に…
ついでに彼女のお父上の事を聞いてみよう…まぁ知らないとは思いますけど。
「トム爺さんは彼女の事をご存じですか? 4日前に異時代から落ちてきて、お父上とはぐれてしまったのですが…」
「なんと…可哀想に。お父さんと離れ離れに…すまんのぉ…ワシはこの通り足腰の悪い老人。周囲で何が起こっているのか、まるで知らんのじゃ…」
まぁそうだろうな。
黙って押すのは気まずいから、雑談として聞いただけだし…
早く教会へ届けて、冒険に出発しなければ…
「お嬢ちゃん…ワシにも息子が居ってな。どうしようもない放蕩息子なんじゃが…それでも大事な家族なんじゃ。その息子から音沙汰が無くなってな…元気なら良いのじゃが、やはり心配じゃよ」
あぁ…そう言えばトム爺さんには、馬鹿息子が1人居たなぁ…
「大丈夫…お爺さんの息子さんも……私のお父さんも、元気にしてる! だから心配しないで…きっと再会出来るから!」
「そうじゃな…ありがとうお嬢ちゃん」
リューラさんの全く根拠のない励まし…だがトム爺さんには効果的だったのだろう。
嬉しそうに頷き涙を流している。
随分と心優しい娘なんだなぁ…
歳も近いし、ポポロの嫁にしたいところだなぁ…
「やっと着いた様じゃな…ありがとうお嬢ちゃん、トルネコ。…これは少ないがとっておいてくれ」
そう言って2ゴールド…二人で分けたら1ゴールドを差し出し礼を言ってくる。
なんの足しにもならないなぁ…
「トルネコに渡してください…私…お金の使い方…下手だから…」
私の溜息を消すかの様に、トム爺さんからのお駄賃を全額私に譲るリューラさん。
“使い方が下手”って…1ゴールドじゃ何も買えないだろうに…
まぁ貰える物は貰っておくのが得だろう。
断る理由も無いし、荷物がかさばるとも思えない。
今後もこの体勢を維持しよう…二人で稼いだお金は、私が一括して管理する。
うん。理想的だ!
「おぉそうじゃトルネコ…お前は『鉄金庫』を知っているか?」
「鉄金庫ですか…? さぁ、聞いた事ないですねぇ…」
何だろう? 名前からして鉄で出来た金庫だろうが…
「今後お前は、そのお嬢ちゃんのお金も管理する事になるのだろう? だったらレイクナバの北にある洞窟へ赴き、奥に眠る『鉄金庫』と言うアイテムを入手することじゃ。『鉄金庫』があれば、旅の途中でお金を紛失する事も、泥棒に盗まれる事も無くなるじゃろう。…ただ、謎を解かねば『鉄金庫』は手に入らぬらしい。頑張ってみることじゃ」
そこまで言うとトム爺さんは、覚束ない足取りで教会へと入っていった。
前に旅立ちを伝えた時は教えてくれなかったのに、リューラさんが一緒だと教えてくれる…
美少女という物は得ですねぇ…
「トルネコ…?」
私が呆然と考え事をしていると、リューラさんが不安そうに話しかけてきた。
彼女を不安がらせては拙いな…
「そうですねぇ…お父上の情報も掴めませんでしたし、闇雲に旅立っても危険でしょう。トム爺さんの言う通り、旅費の紛失や盗難は死活問題でしょうから、試しに北の洞窟へ行ってみましょうか?」
鉄金庫というアイテムに興味があり、手に入れたいと思うのが最大の理由だが、彼女の事を考慮して納得の出来そうな理由を言ってみた。
それが功を奏し、無言で頷き行き先が決定する。
3日間森で彷徨える程の彼女の腕前なら、大抵の場所で危機が訪れる事は無いだろう。
リューラさんを言葉巧みに導けば、私の旅は順調に行く事間違いない!
これは世界一の武器屋になる夢…意外と近いかもしれないな!
俄然やる気が出てきた私は、太陽が真上に来る前に町を出て、レイクナバ北の洞窟へと急いで向かう。
今後の冒険に役立つアイテムを手に入れる為…
私の夢を現実にする為に!
トルネコSIDE END
第3話:仕掛看破
(レイクナバ北の洞窟)
トルネコSIDE
私は幼き騎士リューラさんを連れ、レイクナバの北にある洞窟へと、鉄金庫を求め訪れている。
鉄金庫があれば、資金の紛失や盗難を避ける事が出来、今後の発展に大きく拘わる事と期待している。
しかし……
「此処の敵は随分と厄介ですね! この『切り株お化け』は、ダメージを与えても薬草で回復してしまい、倒すのが大変ですよ!」
私が『破邪の剣』を使い、少しずつダメージを与えていると、もう少しという所で薬草を使い回復を謀るモンスター。
だがリューラさんといえば…
私が1匹の敵に辟易している間に、『バブルスライム』『悪戯モグラ』『ハサミクワガタ』と、私の三倍もの敵を一瞬で撃滅させている。
流石騎士を目指し鍛錬を積んできただけの事はある。
私としては戦闘は全て任せたいのだが、後の為に“共に戦った”と言う事実がほしく、危険ではあるが努力をしている訳なのである。
彼女の口から『トルネコは戦わなくてもいいよ』と言ってくれれば助かるのだけど…
(ザシュ!)
私が苦戦をしていた敵を一撃で駆逐すると、無表情のまま剣を鞘に戻し先へ行く事を促してくるリューラさん…
やはり私だけ戦闘無しと言うのは都合がいい話か。
暫く進むと数々のトラップが私達を苦しめる。
中でも厄介なのは、大岩が後ろから迫ってきて私達を追い詰める仕掛けだ!
だが、このトラップは宝へと近付く為の足掛かりでもあった。
普通であれば飛び越せない大穴に、大岩を上手く誘導すれば、大穴が塞がってその先へと進む事が出来るのだ!
転がる大岩から必至で逃げ惑っている内に、偶然攻略する事の出来たトラップだ。
そして進んだ先には、ゴツゴツとした岩が多数散乱してある回廊…
歩きづらく疲労が蓄積されるばかり。
小柄で俊敏なリューラさんには問題がなさそうだ…良いなぁ…
「トルネコ……あれ!」
私の遙か前を先行するリューラさんが、突如立ち止まり私に何かを訴えてきた。
通路を曲がった先を指差す為、私にはまだ何も見えていない。
散乱する岩に足を取られ、何度も転んで傷だらけになり彼女の下へと辿り着く。
そしてリューラさんが指差す方を見詰めると、台座の上に四角い金庫らしき物体が置いてあるのが目に入ってきた!
「こ、これがトム爺さんが言っていた『鉄金庫』ですね!? さ、早速手に入れましょう!」
嬉しくなった私は、慌てて鉄金庫まで走り出す。
しかし悪い足場の所為で何度も転び、体中青痣と擦り傷だらけだ…
「ホイミ…」
すると突如、私の前を歩くリューラさんが回復魔法『ホイミ』を唱え私の傷を癒してくれた。
何と彼女はホイミを…魔法を使う事が出来たのか!?
「リュ、リューラさんはホイミを使う事が出来たのですか!?」
驚きのあまり立ち止まって確認すると、恥ずかしそうに黙って頷く彼女…
もっと早く言ってくれれば、薬草を無駄に買ったりはしなかったのに…
「ほ、他には「アレ…鉄金庫。早く手に入れよう…」
他に使える魔法を聞き出そうとしたのだが、言いたくないのか先を急がせてくる。
利用出来るものがあるのなら、徹底的に利用したいのだが…
とは言え、目的の物を手に入れる事の方が先決だ。
私もリューラさんの後を追い、慎重に鉄金庫まで辿り着く。
そして渾身の力を込め、目の前の鉄金庫を持ち上げた…その途端!
(ズ~ン!!)
思い音と共に目の前の通路に大岩の扉が下りてきて、私達を袋小路に閉じこめてしまった!
あまりの出来事に驚き、持っていた鉄金庫を元の台座に落としてしまう…
すると大岩によって閉じていた通路が解放され、逃げ出すチャンスが訪れる。
「こ、これは…鉄金庫を持ち上げると、押し止めてあったスイッチが解放され、通路を通過できないようになる大岩で塞ぐトラップが発動するみたいですね! どうしましょう…これでは鉄金庫を持ち帰れないですよ…」
鉄金庫の代わりにこのスイッチを押し続けてくれる何かがあれば…
代わりに人が乗っているだけで、通路は解放されるのだろうから…誰かが犠牲になってくれないだろうか……?
私は大岩が下りてきて通路を塞ぐ付近で、何かを捜しているリューラさんを見詰め考える。
彼女の体重でも、スイッチを押し続ける事は可能だろう…
後日、代わりになる何かを持ってくると言えば、信じてもらえるだろうか?
この場さえ信じてもらえれば、私の冒険は続けられる…
こんな事なら家族に会わせるのでは無かったな。
ポポロは気に入っていたみたいだし…
まぁ『お父上と再会出来、自分の住む世界へ帰った』と言えば信じるだろう。
「トルネコ…手を貸して!」
私が意を決してリューラさんを騙そうと決意した時、彼女から声をかけられた!
同じ事を考え、私を犠牲にするつもりだろうか!?
「これ…この岩が…鉄金庫と同じくらいの重さだ…」
い、岩…?
同じくらいの重さ…?
私は慌ててリューラさんの側に近付き、彼女が指差す岩を見詰める。
確かにあの鉄金庫と同じくらいの大きさと重さ…
これを鉄金庫の代わりにスイッチの上に置けば、閉じこめられることなく鉄金庫を持ち帰れるのでは?
「素晴らしい! 凄い機転ですよリューラさん!!」
先程までの私の思考など知らない彼女は、私の言葉に恥ずかしそうに俯き照れる。
良かった…私も後味の悪い思いをせずに利益を得られる。
やはり彼女は手放せないな!
私の夢の為に最大限利用させてもらわないと!
トルネコSIDE END
後書き
着々と腹黒さを醸し出してきましたトルネコ氏。
彼は知らない……
リューラさんを犠牲にしたら、大魔王より怖い父親が居るという事を!
第4話:年上年下
(レイクナバ)
トルネコSIDE
無事『鉄金庫』を手に入れる事の出来た私達は、次の地へ赴く前に一息入れようと思い、レイクナバへ戻り家族と夕食を共にしている。
ネネとポポロもリューラさんが心配だったらしく、無事戻ってきた事を心底喜んでいる。
まるで家族が一人増えた様だ…
娘というのも可愛くて良いものだなぁ…
犠牲にしなくて本当に良かったと、心底感じてます。
そう言えばリューラさんのお父上は、些か資産家の様な感じがする…
このままポポロとの仲を進めさせ、将来を約束させれば何かと都合が良いかもしれない。
彼女が他にどんな魔法を使えるのかも気になるし、今日は色々と質問してみるとしよう。
家族団欒状態であれば、気も緩み喋るかもしれない。
「そう言えばリューラさん…この時代に飛ばされた時、誕生日だったと言ってましたが、お幾つになったのですか?」
「じゅ…12…です…」
………じゅうに……?
「え、ポポロより2歳も年上だったんですか!?」
見えない…背も小さく、顔も幼い彼女…どう見たって7.8歳だ。
そりゃ態度は寡黙で大人っぽいが…恥ずかしがり屋だと思ったから、逆に子供っぽく見えてしまったし…
「よく…驚かれ…ます…」
ちょっと大きく驚きすぎたのだろうか…
恥ずかしそうに俯き黙り込んでしまった。
慌ててネネに膝を叩かれる…
「もう…そんなに驚かなくても良いじゃない! ねぇリューラちゃん…ちょっと背が低いだけよ…むしろ可愛くて良いじゃない!」
懸命にフォローしてくれるネネ…
「そうだよ。大人顔負けの強さだから凄いなぁって思ってたんだけど、僕より2歳も年上だったら納得だよ! リューラちゃん凄いなぁ!」
ポポロも頻りにフォローしてくれた。
良い家族に恵まれたなぁ……
だがしかし、私が大きく驚きすぎた所為で魔法の事を聞ける空気では無くなってしまった。
残念だが仕方ない…
一緒に旅をしていれば何れは聞く事が出来るだろう。
ホイミが使えると解っているだけでも、薬草を金に換える事が出来儲けものなのだ、今は別の事を聞いて気分を紛らわそう…
「そう言えばリューラさん…お父上等と共にこの時代に飛ばされてと言ってましたが、他にもご家族が一緒だったのですか?」
「………うん」
お父上に絡めた質問をすれば、饒舌になって話をしてくれるだろうと思い聞いたのだが…
顔を顰めて頷くだけ。
「どうかしましたか?」
「私とお父さん…それ以外は、お父さんの奥様と…腹違いの妹が2人…あとウルフ…」
“ウルフ”? 人の名前だろうか?
それと『お父さんの奥様』と言う言い方…
まるで他人の様…
腹違いの妹といい…複雑な家庭の様だな。
もしかしたら貴族なのかもしれない。
貴族の当主とその奥方…
そしてその貴族に使える騎士がリューラさんの母親なのか?
腹違いの妹2人というのも、正妻との間に生まれた娘で、母娘巻き込んだ不仲なのかもしれないな。
ウルフは……使用人か何かだろう。
「妹さんとは仲が悪いのですか?」
「………別に」
やはり喋らないか…深い事を聞きすぎたか?
「リューノは…うるさいんだ。……マリーは…偉そうだし…」
リューノ…マリー…妹2人の名前だろうか?
やはり仲が悪く、確執が絶えないのだろう。
「お二人とはどの程度お歳が離れているのですか?」
「1日ずつ…妹」
1日ずつ!? これは上手く取り込んでポポロと結婚させれば、家督相続に参入する事も出来るかもしれない!
「そうですか…でも大切なご家族です。一刻も早く再会できると良いですね! 私もご家族捜しに吝かではありません」
「ありがとう…ございます。でも…取り敢えず、お父さんとさえ会えれば……」
そうですね…私も資産家当主と早くお会いして、今後の人生設計を優位に進めたいですね!
「では明日は早めに出発し、この国の首都であるボンモールへと向かいましょう。此処の様な田舎とは違い、人も沢山居りますし情報も溢れていると思います。何処かにお父上の事を知っている人が居るかもしれません」
「ボンモール…」
「はい。もしボンモールで情報が無くても、更に南に赴けば世界一の都市エンドールです! そこでなら何かしらの事が分かるでしょう…」
「エンドール…?」
「えぇエンドールです。噂では今度そこで武術大会が催されるそうです。各国の強者が集結するそうですし、お父上の事を知っている人が居るはずですよ!」
よしよし…
リューラさんの瞳に輝きが戻ってきたぞ。
これでエンドールまでの安全は確保出来たと思って良いだろう。
私の目的の一つに、エンドールという大都市で自分の店を持つというのがある事だし…
あの町でなら私の“世界一の武器屋になる”と言う夢も、具体性を持たせる事が出来るだろう。
トルネコSIDE END
第5話:脱獄教唆
(ボンモール)
トルネコSIDE
リューラさんのお陰で薬草を持ち歩かずに済む様になり、代わりに保険として貴重なアイテム『キメラの翼』を購入する事が出来た。
この『キメラの翼』は、値が張る品物ではあるのだが、身に危険が迫ったら即座に行った事のある町や村に帰る事が出来るアイテムなのだ。
尤も、1つにつき1人しか効果が無いのだが…
リューラさんならば、1人になっても生き抜けるだろう!
私用の取って置きとして大事に使うとしよう!
さて…
そんな保険を用意して挑んだボンモールまでの旅…
リューラさんの活躍により、危機に陥ることなく目的地まで辿り着く事が出来た。
早速城下で情報収集をしていると、何やら不穏な空気を感じる事が出来る。
どうやらこの国は戦の準備を進めている様で、色々と物資が不足がちだという話だ。
これはチャンスか? 武器屋として王様に謁見し、この破邪の剣を高値で売りつける事が出来るかもしれない。
だが私はまだ駆け出しの武器屋…
唯一の武器、破邪の剣1本では大した利益を得られないかもしれない。
他の武器を要求されたら、何とかリューラさんを説得して、彼女の武器も売りに出そう。
お父上を捜す為には資金が必要なんです…って言えば信じるだろう。
決意を込めた私は、早速ボンモール国王に謁見している。
駆け出しだが武器屋である事を告げ、私に出来る事はないかを尋ねる…が、
「武器は間に合っている! 我が国は防具の方が不足がちなのだ…」
と、敢えなく儲ける事は出来なかった。
しかし…
「お前は北にあるレイクナバからやって来たと言ったな!? 途中で『ドン・ガアデ』に会わなかったか? エンドールへ行く為の橋が壊れてしまった為、ドン・ガアデに直す様依頼をしたのだ。材料を手に入れると言い、北の森に入っていったきり帰ってこなくなった…直ぐにでもエンドールへ攻め込みたいのに、困った事だ。お前等もドン・ガアデを見つけたら、大至急橋を直すようにと伝えておけ!」
と新たなる情報を入手!
私も北の森に赴き、橋修理の材料になる物を集め、ボンモール王国及びドン・ガアデに売りつければ、儲ける事が出来るかもしれない。
早速材料集めをしようと思い、王様の前を恭しく立ち去る。
気持ちが焦っていたらしく、謁見の間から出るなり走り出してしまい、前方不注意で誰かに激突し尻餅をついてしまった。
「も、申し訳ありません!」
「この痴れ者が! ボンモール王国の王子、リック殿下にぶつかるとは何事か!」
どうやらこの国の王子様にぶつかってしまい、側にいた性格の悪そうなメイドに大声で怒られてます…
権力を笠に着ていけ好かないですねぇ…
「ははは…良いんだよ。僕も前を見ていなかったのが悪いんだから。旅の商人さん…貴方は大丈夫ですか?」
同じように尻餅を付いていたのに、私より先に起きあがり手を差し伸べてくれる王子様…
このメイドとは違い心優しい様だ。
「殿下!? その様な卑しき身分の者に触れてはいけません! 先日捕らえられた詐欺師も、この者と同じレイクナバ出身と言われております…殿下に近付くのが目的で、ワザとぶつかってきたのかもしれませぬ。早々にこの場を離れるのが良いと思います!」
何とも腹の立つ女が側にいるものだ…
心優しい王子様が、真っ直ぐ育たれて本当に良かった。
この女の性格が感染したしまったら、まさに悲劇としか言いようがない!
そんな事を考えながらメイドを睨んでいると、優しい王子様は私を立たせ…
「後で城下にある武器屋の裏に来てください…貴方にお願いしたい事があります。人目に付かない様注意してください…」
と、耳元で囁き去っていった。
はて…一国の王子様が、駆け出しの武器屋如きに何の用だろうか?
“後で”と言っていたが、どのくらい後が良いのかな?
もう行って待っていても良いのかな?
「トルネコ…レイクナバの人が、牢屋にいるって…」
私が待ち合わせ場所に行こうとしていると、先程の囁きを聞いてないリューラさんが、意地悪メイドの『先日捕らえられた詐欺師も、この者と同じレイクナバ出身』を指摘し、牢屋へと私を導いて行く。
罪人なんか放っておけば良いのに…
下手に見つかると、私達まで共犯者扱いされてしまいますよ…
だが、私の手を掴んだリューラさんは、ズンズンと地下牢の方へと進み行き、危険な場所へと連れ去るのだった…
ジメジメと湿気漂う地下牢。
イヤイヤではあるのだが、子供とは思えない凄い力で私を導くリューラさんに連れられ、見張りの兵に見つからない様に牢の中を覗きまくる私達。
すると、1つの牢に見覚えのある顔が…
誰だったかな?
じっくり眺め思い出そうとすると…
「あ、トルネコさん!? もしかしてレイクナバに住んでいるトルネコさんだよね!?」
「は、はい…私はトルネコですが…貴方は?」
突然に話しかけられた為、素直に名を名乗ってしまったが、失敗だったかな?
「俺だよ! トム爺さんの息子…ジェリーだよ!」
「!? 貴方が…トムお爺さんの…?」
突然の自己紹介……嬉しそうに驚くのはトム爺と心を通わせているリューラさん。
しかし何でトム爺さんの息子がボンモールの牢屋に囚われているんだ?
もしかして…さっき性格の悪そうなメイドが言っていた、レイクナバの詐欺師ってのは彼の事なのか?
だとしたら関わり合わない方が身の為だろうなぁ…
これ以上話しかけられる前に立ち去りたいです。
「なぁトルネコさん…助けてくれよ…出来心だったんだ。もう二度と悪い事はしないからさぁ…」
助けろと言われてもどうしようもないだろうに…
そろそろ見張りが此方にやって来るタイミングだ。
早くこの場から逃げたい…と言うより、大きい声で話しかけないでもらいたい!
「頼むよトルネコさん!」
「た、頼まれても困ります…大体どうやって助ければ良いのですか!? 私は牢屋の鍵を開けられませんよ。コネも無いから、釈放をお願いする事も出来ませんからね!」
私は小声で遠回しに断りを入れる。
これ以上此処にいるのは本当に危険なのだ。
こんな場面を見張りに見られたら、絶対に仲間だと勘違いされ一緒に投獄されてしまう。
「トルネコさん…キメラの翼を持ってないか? 商人だったら、あんな便利アイテムを持っているだろう? それを1つくれれば、俺は静かに逃げ出せる。逃げ出せればレイクナバに戻って、真っ当に生活しようと思ってるんだ!」
「残念ながら「トルネコ…キメラの翼、買ってた…トムお爺さんの息子に、キメラの翼あげて…」
関わり合いたくない上、大事なキメラの翼を渡したくない私は、嘘を吐いて逃げ出そうと思ったのだが、トム爺さんに思い入れが出来てしまったリューラさんが、本当の事を言って脱獄を手伝わせようとする。
「ほ、本当かい!? 是非貰えないだろうか!? 一生恩に着るからさ!」
声がデカイ…
見張りが気付いてしまうじゃないですか!!
あぁ…困った。
隣ではトム爺さんを喜ばせたいリューラさんが、瞳を輝かせながら私を見上げている…
ここで私が断固拒絶をすると、リューラさんは私の事を嫌ってしまうかもしれない。
折角の無料ボディーガードを手放すのは非常に惜しい!
「わ、分かりました…貴方にキメラの翼を譲ります。……しかし、絶対に約束してください…もう二度と悪事を行わないと…そしてレイクナバから出ないと約束してください!」
脱獄の手助けをして、また彼が掴まったら…私の罪まで明るみに出てしまう。
「約束する! 本当に懲りたんだ…もう二度と悪い事はしないし、レイクナバで残りの人生を過ごすつもりだ!」
正直口約束なんて信じられないのですが、見張りの足音が近付いてきているので、急いでこの場を離れなくてはならない。
投げる様にキメラの翼をジェリーに渡し、リューラさんの手を引いて牢屋から逃げ出す私。
ジェリーが無事脱獄出来たのかは知らない。
結果を見る事もなく、急いでお城から出てしまったので、結果は分からない。
私が罪人にならなければそれで良いのだ。
トルネコSIDE END
後書き
トム爺さんと息子のジェリーです………
はい。その通りでございますよ。
第6話:妖狐擬態
(ボンモール北の森)
トルネコSIDE
見事なまでに迷ってます…
ボンモールを急いで出立し、北に広がる森を探索する事3日…
同じ所を歩いている様な感覚に陥り、些か困惑しております。
ボンモールの地下牢を急いで出た後、王子様に言われた事を思いだし城下の武器屋裏へと赴いた私達。
どんな無理難題を仰せつかるのか身構えていました…
しかし心優しい王子様は無理難題など言わず、一通の手紙をエンドールのお姫様に渡す様依頼をしてきました。
何でもボンモールの王子『リック』様は、エンドールの姫『モニカ』様と恋仲な様で、今回の“ボンモールによるエンドール侵攻”を防ぎたいと考えているみたいです。
軍の侵略準備が整う前に、手紙を渡すようにと頼まれました。
ボンモール・エンドール両王家にコネクションを作る絶好のチャンスです。
何とか私が戦争を防ぎ、両王家の信頼を得なければ!!
しかしながら現在橋が崩落中…それを直すドン・ガアデも行方不明…
橋修理の材料を調達しようと思ってましたが、ドン・ガアデを探し出す事の方が最優先です!
そう意気込んで森に入ったは良いが…
う~ん…困りました。
リューラさんの圧倒的強さのお陰で、私は傷一つ負ってませんが彼女の体力が心配になってきました。
そろそろゆっくりと休ませてあげたいのですが…
どうすれば森から抜けられるんですかね?
「トルネコ…何か…気配する…」
全方位同じ風景に辟易してきた私に、リューラさんが何かを訴えてきます。
何かの気配がするって…何でしょう?
誘われるままリューラさんの後に付いて行くと、見覚えのない村に到着した。
地図にも載っておらず森に隠れる様存在する村…
一体此処は何だろう?
畑仕事をしている村人は一人も居らず、点在する住宅からは人の気配はまるでない。
しかし色取り取りの花で飾られた道には、美しい村娘達が楽しそうに行き来する。
だが何処かがおかしい…何かが間違っている…そう思ってしまう村だ。
「トルネコ…この村…何かがおかしい…気を付けて!」
敵の気配は全然しないのだが、リューラさんは腰の剣に手をかけて、何時でも戦える状況を作り出している。
「と、取り敢えず…村の中を散策してみましょう」
リューラさん程ではないが、私も何かを感じている為、気を抜くことなく歩き出した。
そして程なく、住人の気配がする住宅の前に到着する。
他の住宅とは違い、人が住んでいる気配がするので、この村の事を聞こうと思いノックする…
だが、返事は疎か誰も出てくる気配がない。
室内で何かに夢中になっている様だ。
このままでは埒が明かないので、失礼とは思いながらも勝手に家の中へ入らせてもらう。
すると中には、ベッドの上で見つめ合い愛を語っている1組の男女の姿が…
直ぐ側まで近付いても、全く我々に気付かない。どうなってるんだ?
「あ、あの…すみません…」
「ん? 何だね君達は………あぁそうか! 新入りさんだね!? 私はドン・ガアデ…数日前にこの村に迷い着いた建築家だ。私も最初はこの村に驚いたけど、このリサーに出会って考えを改めたね! こんな素晴らしい村は今まで見た事がない! 何より私は彼女に惚れてしまってね…彼女も私の事を愛してるって言ってくれている…」
探し求めていたドン・ガアデは、私の存在に気付くと惚気話を織り交ぜ、この村の事を話してくれた。
要約すると“森の中で迷った彼は、この村に着き彼女に惚れ、この村で生きて行く事を決意。だから先程も他の事に気が行かず、我々のノックを無視し続けた”と言う事だ!
しかし困った…
やっと出会えたドン・ガアデは色ボケ腑抜け野郎になってるし、この森から脱出する事は出来ないし…このままでは橋が直らず、ボンモールとエンドールの戦争を止めた男として、脚光を浴びる事が出来ない。
私は目の前でイチャ付く馬鹿(ドン・ガアデ)を放っておいて、村の中を更に散策しした!
すると、村長と思しき人物の家に辿り着く。
こんな村の村長ならば、森の抜け方を知っているかもしれない。
今は一刻も早く森を抜け出し、助っ人を呼んでドン・ガアデに橋修理をさせなければならないのだ!
村長に森の抜け方を教わったら、あの阿呆(ドン・ガアデ)を引きずってでも連れて行き、橋を大至急直させよう!
(トントン)
「すいません…森で迷った旅の者なんですが…村長さんはいらっしゃいますか?」
私は営業スマイルに切り替え、出来る限りの低姿勢で声をかけた。
「どうぞ、開いてますよ」
中の住人から入る許可をもらい、腰を低くして家に入る…
そこには一人の優しそうなオジさんが…彼が村長さんだろうか?
「いらっしゃい…森で迷われたと言う事ですが、大変ですなぁ…どうでしょうか、今夜はこの村「キサマ何者だ!?」
優しい村長さんが、優しい口調で、優しい事を言ってくれている最中…突如リューラさんが剣を抜き放ち、凄い形相で村長さんを恫喝する。
「キサマは人間ではないな! 正体を現せ! さもなくば斬るぞ!」
鍛え抜かれた騎士の感覚なのか…何かを感じたリューラさんは、何時もの引っ込み思案な態度を一変させ、大迫力で村長に迫って行く。
「な、何の事ですか…? わ、私は…「黙れ…正体を現せと言っている!」
村長は顔を真っ青にして脅え言い訳をするが、リューラさんがそれを許さない。
これで本当は普通のオジさんだったら、私はどうにもフォローが出来ない…
『イタい子なんです』って言うしかできないです。
「くっ………! くそっ!」
観念した村長(偽)は我々から距離を取ると、腕を一降りして狐へと姿を変えた。
どうやらこの狐が森を迷いの森に変え、村の幻影を作り、ドン・ガアデを腑抜け野郎に変え、我々を困らせていたらしい。
だが正体が分かれば問題は簡単だ!
この狐を退治してしまえば良いのだ。
私もリューラさんに続き、腰の鞘から破邪の剣を抜き狐に迫って行く。
「ふん! お前達にはバレてしまったが、此処でやられる程オイラは間抜けじゃないんでね!!」
しかし狐はまたしても腕(前足?)を振ると、捨て台詞と共に姿を眩ます。
と同時に、周囲の景色も変化して行き、また森の中に戻されてしまった。
「あの狐…妖力を奪わないと…倒せない…」
もう敵が居ないと悟ったリューラさんが、鞘に剣を収めながら呟く。
そして思う…どうすればドン・ガアデを解放出来るのだろうか?
トルネコSIDE END
後書き
5月に入りました……
そろそろテコ入れの必要を感じております。
第7話:犬狐激闘
(レイクナバ)
トルネコSIDE
私とリューラさんはまたもやレイクナバへと戻ってきた。
何故かというと…狐に化かされた事に気付いた私達は、未だ騙され続けているドン・ガアデを救い出すべく、再度狐の村へ乗り込もうとしたのだが、どれほど森を歩いても狐村には辿り着けず、あれ程出られなかった森を簡単に脱出出来てしまうのだ。
見破った我々を近付けないように、あの狐が妖力を張り巡らせているのだろう。
困った我々は思案し、一つの答えに到達する。
“狐は犬が苦手!”と言う答えに。
更に私は、故郷レイクナバのトム爺さんが、大型の猟犬を…確かシベリアン・ハスキーを飼っていた事を思い出した!
その為、犬をお借りしようと戻ってきたのだ。
「トム爺さん、お願いがあるのですが…」
「ん…おぉトルネコではないか!? 聞いたぞ、ワシの息子を助けてくれたと…ありがとう。本当にありがとう…」
だ、誰から聞いたのだろうか?
脱獄を手助けした事がバレたら、私は大変な事になるぞ…
私が事の重大さに悩んでいると…
「あ、トルネコさん!」
奥からトム爺さんの息子…ジェリーがヒョッコり顔を出し嬉しそうに話しかけてきた。
もしかして犯人はコイツ?
「あの時はありがとうございます。お陰でレイクナバに戻ってくる事が出来ました! これからはレイクナバで慎ましく暮らそうと思ってます」
にこやかな顔で挨拶するジェリー…私は慌てて奴の胸ぐらを掴み、トム爺さんから少し離れ小声でコイツに話しかける。
「お前…何ベラベラ脱獄の事を喋ってるんだ!? そんなことしたら、私まで犯罪者ではないか!」
「だ、大丈夫ですよ…オレも流石に脱獄したなんて言ってないですから…詐欺を働いたなんて親父には言えないですよ!」
「じゃぁ何でトム爺さんは私に感謝してるんだ!? 『脱獄させてくれてありがとう』って意味じゃないのか!?」
「ち、違いますよ! オレ、親父には…『仕事も見つからず住む場所も無くし路頭に迷っている所をトルネコさんに助けられた。キメラの翼を貰い、故郷で静かに親孝行しろって言われた』って言ったんです!」
なるほど…確かに罪を犯して投獄された挙げ句、脱獄して戻ってきたと言うよりは、親は安心しますね。
「どうしたんじゃ二人とも?」
私とジェリーが角で内緒話をしているのが気になったらしく、リューラさんと共に不思議そうな顔で此方を見ているトム爺さん。
「い、いえ…何でもありません。もう親には迷惑をかけるなよ…と言っていたのです」
「そうかそうか…後は嫁さんを見つけてくれれば言う事無しなんじゃが…ふぁふぁふぁ!」
1ミクロンも疑ってないトム爺さん…幸せそうに笑って納得している。
「お爺さん…犬…貸してください。…狐退治に…必要」
自分の身を守るのに必至で、すっかり目的を忘れていた私の代わりに、リューラさんが此処へ来た本題を伝えてくれた。
「犬?…トルネコさん、オレの犬を必要としてるの? キメラの翼のお礼もあるし、自由に連れて行って構わないよ。ただ…トーマスはオレや親父以外には懐かないから…大丈夫かな?」
大丈夫じゃない…
ジェリーが居ない間、トム爺さんに散歩を頼まれ、何度も尻を囓られた事がある。
本当はあんな犬、連れて行きたくないのだけど…背に腹は代えられない。
私が過去を思い出し嫌な気分になっていると、ジェリーが飼い犬トーマスを連れて戻ってきた。
最初はジェリーにじゃれついてたトーマス…
しかし私の姿を見るや、急に牙を剥き唸り声を上げだした。
………ダメかもしれない。
「可愛い!」
私が咄嗟に尻を隠した時、唐突にリューラさんがトーマスに抱き付き撫で回している。
小柄なリューラさんよりも大きい犬…噛み付かれたら生死に関わるだろう。
慌ててリューラさんを離そうとしたが、トーマスが嬉しそうにリューラさんを舐め回す。
なんと驚いた事に、あれ程他人に懐かない犬が、初めて会うリューラさんに懐きじゃれついている。
「あぁ、これなら大丈夫ですね。トルネコさんだけじゃムリでも、此方のお嬢さんが一緒なら、トーマスも暴走する事がないでしょう」
ぼ、暴走って…どんな躾をしているんだお前は!
(ボンモール北の森)
私達はトーマスを連れ再度狐の村を目指し森の中へと入って行く。
犬はリューラさんに任せ、彼女の隣を歩いていると…
「う~…」と犬が牙を剥き噛み付きそうになる。
でもリューラさんの側にいないと敵からの攻撃で危険な為、森の中を探索する事に支障が出てしまう。
どうしようかと悩んだ結果、“ハスキー・ナイト”を完成させる事が出来た!
つまり、小柄なリューラさんを犬(シベリアン・ハスキー)に乗せ、手綱を締めてもらうって事です。
作戦は大成功。
私が隣を歩いても、犬全く気にすることなく嬉しそうに歩いている。
少女に乗っかられ喜ぶとは…前世は変態野郎だったに違いない!
そんな事を考えていると突然犬が森の中に向かい走り出した!
勿論乗っているリューラさんを連れてなので、私が独りぼっちに…
本気で怖かったので、慌てて後を追います!
すると…
あんなに探し回っても見つからなくなっていた狐の村が、犬の力により簡単に出現しました!
そして犬は村長の家に…
私も何とかついて行き、村長の家に入ります。
そこでは角の方で蹲り犬に脅えるオジさんが…
「ぎゃー! や、止めてくれ…オイラは犬が苦手なんだ!! 頼む…あっちに行ってくれ!! あぁ…じ、神通力が……」
私が走り追った疲れで肩で息をしていると、周囲の景色が歪み森の中が出現する。
此処までは前回と同じ結果だ。
後はサクッとリューラさんが腰の剣で狐を始末すれば万事解決ですね!
「ご、ごめんなさい…オ、オイラ…」
「何で…人を騙したんだ!?」
犬に脅えながら謝る狐…それを冷徹な瞳で見下ろし質問をするリューラさん。
「オ、オイラ…他の狐には無い、凄い神通力を持ってるんだ…でも誰もそれを認めてくれなくて…だ、だから凄い事を見せてやろうと思って…」
何たる勝手な言い分!
「そんなの…ダメ! 悪戯はいけない…」
リューラさんは犬から下りると、犬を少し離れた所で待機させ、狐と同じ目線で話し出す。
何をしているのだろうか? 一思いに殺せば良いのに…
「みんなに認めてほしいなら…みんなの役に立つ事を…」
「みんなの役に立つ事? た、例えば?」
これから死ぬお前に、そんな事は関係ないだろう!
「………何だろう? 私のお父さんだったら…直ぐに思い付くのだけど…」
「では貴女のお父さんは何処に?」
「そ、それが…はぐれちゃったの…だから世界を旅し…捜しているの…」
あ、あの…
身の上話はもう良いでしょう。
こうやって時間を稼いで、逃げだそうと考えているんですよ、そいつ!
「あの…じゃぁオイラも貴女のお父さん捜しを手伝っても良いですか? オイラの能力を役に立て、みんなに認めてもらう方法を聞きたいです!」
「………うん。是非一緒に行きましょう!」
あれ?
気が付くとリューラさんは剣を納め、床で蹲る狐に手を差し伸べ和解が成立してしまっているぞ。
そ、そんな事をしてドン・ガアデを解放出来なかったらどうするんですか!?
「こ、此処は何処だ…? リ、リサーは何処行った!? 私の可愛いリサーは、何処へ行ってしまったんだ!?」
すると森の奥から、フラつきながらドン・ガアデが現れ周囲を見渡す。
幻影彼女を捜しなから…
私が何かを言おうとした時…狐がリューラさん視線を合わせ頷き、ドン・ガアデに話しかける。
「ごめんなさいオジサン。貴方が見ていたリサーと言う女性は、オイラが作り出した幻影なんだ……ふん!」
そう言うと、腕(前足?)を振り女性へ変身してみせる。
「お、おぉリサー!!」
「ふん!」
愛しのリサーが現れて抱き付こうとした瞬間、狐は再度腕を振り変身を解き元の姿へ戻ってしまう。
「そ、そんな…私は本当に愛してたのに…」
ガックリ項垂れるドン・ガアデ…
コイツ…童貞か?
女一人にこれ程入れ込むなんて…
人生の殆どを女性にもてない時を過ごしてきたのか?
いい加減我に返ってもらいたいものだ!
「あのドン・ガアデさん…よろしいのですか、こんな所で油を売っていて…ボンモール王に橋の修理を依頼されたんでしょう? 怒ってましたよ王様…一向に橋が直らないって」
遠回しに『早く橋を直せ童貞野郎!』って意味を含ませたのですが…王様の事を話題に出したのが幸いしたらしく…
「そ、そうだった! 拙い…こうしては居られんぞ! こ、殺されてしまう!!」
と、大慌てで森を抜けて行った。
うむ…これで第一関門突破かな?
次は、ボンモールの軍隊が侵攻する前に、エンドールのお姫様にリック王子の書簡を渡し、戦争を回避させなければ!
さぁ~て…忙しくなってきたぞ!
そう言えば…
どうするんだろうか…この狐。
まさか一緒に連れて行くなんて事には…
トルネコSIDE END
第8話:出会微少
前書き
みんなのアイドル再登場!
(エンドール)
トルネコSIDE
やって参りました世界最大の都市エンドール。
流石に賑わっており、人混みに迷いそうであります。
リューラさんとはぐれないよう手を繋ぎ歩きたいのですが、何故だか私達と一緒に行く事になった妖狐が、11.2歳の男の子に化けて私とリューラさんの間に入ってきます。
簡単に説明しますと…ドン・ガアデを助けた後、他者を騙す能力を世界の役に立てたいと、リューラさんの許しを得て旅の仲間になったのです。
彼の名前は『アローペクス』と言い、自身でも『オイラの事はアローって呼んでくれ!』って事ですが…
一人称が“オイラ”の田舎狐がアローペクスなどという格好いい名前なのはどうなのかと!?
何より、狐のクセに優しく能力を役立てるようにと諭したリューラさんに恋心を抱いてしまったらしく、レイクナバへ犬を返しに戻った時、息子のポポロへ敵対心を露わにしていたのが腹立たしい!
先程も『迷子にならぬように…』と言って彼女に手を差し伸べたら、アローが私の手を取り中継役としてリューラさんの手を握るという、いけ好かない態度に出てきました。
犬如きにビビってたクセに…まぁ尤も、あの犬は私も怖いですけど…
「しかし都会は人が多いなぁ…」
「この程度で驚いていては、これから世界を旅するのに足手纏いですよ。 もう数日早ければ、武術大会が行われていた為もっと観光客が多かったのですから…見たかったですねぇ、武術大会」
お前の所為でエンドールへ来るのが遅くなったと嫌味を含めたのですが…
「良かった…私…人混みが…苦手……ちょっとでも…人が減ったくれたのは…助かります」
「じゃぁオイラ早速リューラの役に立ったんだね!」
違う!
お前は私達の邪魔をしてたんだ!
この勘違い狐め…
本当ならば直ぐにでもお城へ赴いて、リック王子の書簡を届けたいのですが…
時間は既に夕暮れ時。
こんな時間に謁見を求めるのは如何なものかという訳で、本日は宿屋に泊まり明日朝一番でお姫様の下へ伺う事にします。
『お金が勿体ないからオイラはリューラと一緒の部屋で良いよ』と、ペットOK的な事を言ってきたので、強引に3部屋を確保しルームキーを各自に渡します。
この悪たれ狐を幼気な少女と同室にしたら、何をされるのか分かったもんじゃない!
「何を言いますアロー…私達はもう仲間ですよ。お金の事など気にせず、君も一部屋使いなさい」
「ちっ………ありがとうトルネコ。心遣いに感謝です!」
アローは小声で舌打ちをし、直ぐに表情を変えて礼を言ってくる。
100%本心でない事が手に取るように分かった。
「トルネコは…優しい。…良かったね」
私も妖狐も互いの心は読み切っているのだが、その対象になっているリューラさんが唯一分かってない。
私の良い人像を壊さぬ為にも、今後もアローには優しく接する振りをせねば…
トルネコSIDE END
(エンドール)
アローペクスSIDE
生まれて初めて人間達と同じように宿屋へ泊まる。
すげーワクワクしてきたぜ!
これもリューラのお陰だろう。
大きな悪戯をしたオイラを殺す事もなく、優しく今後の事を考えてくれたリューラ…
美しすぎるぜ! 惚れちまったぜ!!
お父さんを捜す為、世界を旅しているみたいだし、協力してオイラの良さを知ってもらおう!
まぁ邪魔なのはトルネコの親父だな…
コイツの考えは直ぐに解った…
リューラの美しさに目が眩み、息子の交尾相手に確保しておきたいんだろう。
あんなヘタレにリューラは渡さねー!
この旅を通じて、オイラが男らしいと知ってもらい、一緒に幸せな未来を築き上げるんだ!
だからオイラは今、シャワーを浴びているリューラの部屋の前で、アホが忍び込まないように見張ってやってるんだ。
すると、どことなく性格の悪そうな女が階段を上がって、リューラの居る部屋の前を通り過ぎようとしている。
オイラとしては早く立ち去ってもらいたいのに、オイラの事をジロジロ見て笑顔を振りまいてくる。
何だコイツ…気持ち悪い!
「あら~、結構可愛い男の子じゃない!? 坊やお名前は?」
女はオイラに名前を聞いてきた…
何で名前を聞いてくるんだ? 大体“可愛い”ってなんだよ!
「う、うるせーなぁ…何だよお前…?」
「あら!? 随分と口が悪い坊やね…まぁ良いわ。私の名前はマリー…よろしくね」
お前の名前なんか聞いてねーよ…あっち行けよ馬鹿!
「お前の名前なんかどうでも良いんだよ…オイラに何の用だよ…」
「可愛い男の子に話しかけるのに、用なんて必要ないでしょ! こんな美女に話しかけられたんだから、本当は嬉しくてズボンの中が膨らんでるんじゃない?」
「あっち行けよ…お前みたいな下品な女に、興味を持つ男なんていねーよ!」
「ふっふ~ん! ところがドッコイ居るんだな。私にはアンタでも敵わないイケメンの彼氏が、ちゃ~んと存在するんですよ! ガッカリかな坊や?」
どんな悪趣味野郎なんだ?
オイラに人間の見た目を語られても、狐だから解らねーっての!
リューラみたいに、心の清らかさしか理解出来ねーんだよ!
「そんな彼氏が居るのなら、早くそいつんとこに行けよ」
「うふふ…言われなくても行きますよ! さっきモンバーバラからやって来た腕の長さがチグハグな旅行者が、あそこの人気踊り子と共に私の彼氏らしき人物が一緒にいたって情報を仕入れたのよ! これで離れ離れになった恋人同士が、一緒に甘い時間を過ごせるようにならわ。ライアンちゃんを騙くらかして、ハバリア行きの船に導かないとね! うふふ…やっと希望が見えてきたわー♥」
何やら一人で浮かれる馬鹿女は、嬉しそうに小躍りをしながら別の部屋へと入っていった…
イタイ女なのか?
良くは解らんが、放っておいた方が面倒が無くて良いだろう。
尤も翌日の早朝には、あの女達は宿屋を引き払い、言っていたハバリア行きの船に乗って出かけてしまったらしいけど…
世の中には変な奴が沢山居るんだなぁ…
アローペクスSIDE END
後書き
設定年齢
リューラ:12歳
トルネコ:アラフォー
ネネ:まだまだピチピチ
ポポロ:10歳
アローペクス:12歳ぽい
第9話:恋文配達
(エンドール)
トルネコSIDE
早朝に謁見を申し込んだにも拘わらず、我々がお姫様に書簡を渡す事が出来たのは昼過ぎであった…
それでもリック王子からの手紙を渡し内容を伝えた事により、現在ボンモールが攻め込んできそうである危機的状況な事は解ってもらえた。
何より、両国の王子・王女が愛し合っているという事が、平和的解決に繋がる切っ掛けだと王様が考えてくれ、戦争の回避を図ってくれた事は大きいだろう。
ただ…何故私達が、もう一度ボンモールへと舞い戻り、王様の書簡を届けなければならないのだろうか?
だが仕方ない…
これも大きなコネクションを築く為の布石…
これが無事に片付けば、褒美としてエンドールで店を出せるかもしれない…
そうなったらネネとポポロを呼んで、世界一の武器屋を目指そうではないか!
因みに、王様の前を去ろうとした時、モニカ姫が渡しに向かい『トルネコ様…リック王子にお会いしたら伝えてください。“モニカは貴方を愛しております”と…』とメッセージを託してきました。
勿論、私に向けて言っている訳では無いのですが、美女に“愛してる”と言われると顔が綻んでしまいます。
でも…
『オッサンに言ってるんじゃねーよ…キモイからニタニタするんじゃねーよ』
と、小声で私にだけ悪態を吐いてくる馬鹿狐。
何時か狐汁にしてやる!
トルネコSIDE END
(エンドール)
アローペクスSIDE
愛しのリューラが活躍したお陰で、無事エンドールとボンモールの仲を取り持つ事が出来たトルネコ…
その褒美として、エンドール城下で店を出す許可を貰った。
何で一番何もしてない親父が、一番の褒美を貰えるのか…?
何とも納得はいかないが、リューラは何とも思ってないみたいだからオイラも我慢しようと思う。
でもオイラだって活躍したと思うんだ…
ドン・ガアデって奴を騙し足止めをしなかったら、もっと早い段階で戦争になってたワケだし…
王様からの許可を得た事で、トルネコは城下で良さそうな物件を探し歩いている。
と言っても、都合の良い物件など早々見つかるはずもなく…
1日中歩いてオイラもヘトヘトになっちまったよ。
「ありませんね…安くて、既に建造されていて、大変広く、持ち主が居らず、立地条件の良い物件」
ある訳ねーだろ!
贅沢すぎるよ…取り敢えず、立地条件の良い土地を捜し、そこに自ら店を建てて行くしか無いのでは?
そう思い、言ってやろうとしたのだが…
「トルネコ…あそこ…閉まってる…けど…人の気配が…ある」
そう言ってリューラが一軒の店を指差した。
そこはまさにトルネコが言っていた贅沢な条件その物で、あとは価格がどうなのかが残るだけ…まぁ尤も、彼方さんに売る気が無ければ意味がないだろうが。
「何と!? お前さんはワシの店を買いたいのじゃな?」
「は、はい…お値段次第ですが…」
「うむ…そうじゃなぁ…ワシとしても早く売りたい気持ちでいっぱいじゃ。あまり高値を吹っ掛けるつもりは無い。じゃが、老後の為にある程度の金額はほしい…何より、孫に色々買ってやりたいからのぉ…」
まさか売る気があるとは思ってなかった。
結構真新しい建物で、広く立地条件も良い物件…
しかも家主は吹っ掛ける気がないと言い切る老人。
「……どうじゃ、35000ゴールドで手を打たぬか?」
狐のオイラには金銭の感覚はよく分からない…
でも、今まで交渉してきた連中の中で、一番安値を提示してきたのはこの爺さんだ。
次に安くても、200000ゴールドだったから。
「ぜ、是非私に売ってください! 直ぐにでもお金を用意してきますから…どうか他の人には売らず、私の売って頂きたい!」
今は金が無いのかよ!?
「うむ…じゃが早くしてくれよ。ワシは早く息子夫婦の下に行って隠居したいんじゃから…」
そこまで聞くとトルネコは急いで店を後にし、町を出て何処かに向かおうとする。
何処へ行くんだよ!?
「お、おい…何処へ向かうんだよ!? オイラ達にも説明しろよ…」
「え? …あぁ失礼しました。初めてエンドールに到着した日に、町中で色々と情報を仕入れていた時、エンドールの北にある洞窟に、『銀の女神像』というアイテムがあると聞きました。それをコレクターに売りつければ、かなりの高値で買い取ってくれるらしく、あの店の購入資金に充てたいと考えております」
か~…事前に金儲け情報は仕入れておいたのかよ。
あんなに目を輝かせやがって…
もうちょっとこっちに気を使えよ!
「ちょっと待てよ…オイラは構わないけども、少しはリューラの事を考えろよ。トルネコと一緒に一日中歩き回ったんだ…今晩は宿屋で休んで、明日の朝から洞窟には赴こうぜ!」
自分の事ばっかり考えてるんじゃねー!
「ありがとう、アロー…でも…私は大丈夫だよ…これくらいで根を上げてたら…お父さんに…笑われちゃう…」
か~っ! 何と健気で心優しい女なんだ!?
種族の壁とかどうでも良い! オイラ、リューラの為なら何でもするね!
「ありがとうリューラさん。では早速出発しましょう! 他の誰かにあの店を奪われる前に…」
こ、この親父は…
アローペクスSIDE END
第10話:念願成就
前書き
トータルで50話目です。
早いですねぇ……
夏頃には100話に到達しているでしょう!(スランプに陥らなければね)
何話で終わるか判りませんが、年内には200話へ到達する勢いですね。
まぁ勢いだけですが……
(エンドール)
アローペクスSIDE
やっぱりリューラは凄いぜ!
小柄な身体ながら身体能力の高さが尋常じゃない。
“女神像の洞窟”には、『吸血コウモリ』や『ポイズンリザード』・『エレフローバー』など、強力な敵が数多く襲ってきたのに、素早い剣舞で“あっ”と言う間に倒してしまう。
オイラもボンモールで購入した『クロスボウ』を使い、後方から援護を行ってはいるのだが…
あまり役には立ってなさそうだった。
でも戦闘が終わると『アロー…手伝ってくれて…ありがとう…』ってリューラが言ってくれるのが最高に幸せだ!
そしてオイラ達は、目的の『銀の女神像』を入手する。
大部分をリューラのお陰で乗り切ったダンジョン攻略だったが、トルネコは目的物を手に入れ大満足だ…
まぁオイラも、リューラの戦闘を眺める事が出来て満足してるけどね…スカートが短いから、チラチラ見えて嬉しかったけどね。
んで、大急ぎで町まで舞い戻り、『銀の女神像』を欲しがってるコレクターの家にやって来た。
トルネコがコレクターの人に、勿体ぶって話しかけ物欲を大いに刺激しきった所で、懐から『銀の女神像』を取りだし見せつける。
これが商人のやり方なのだろうけど…
オイラとしては尊敬出来ない人種だな。
チラッとリューラの表情を見たが、彼女も顔を顰めている。
「う~ん…正真正銘『銀の女神像』だな」
「勿論ですとも! 私自らが洞窟へ赴き入手してきた代物です…偽物などはお見せ致しません! ………どうです、お幾らで買い取って頂けますか?」
「う~む…今はそれ以上に手に入れたい品があってな…そちらが交渉中なので、『銀の女神像』には30000ゴールドしか出せんのだ…それ以上の高値だったら、今回は諦めるよ…どうする?」
「さ、30000ですか……!?」
おっと…どうするトルネコ。
あの店を買うには5000ゴールドばかり足りないぜ(笑)
でも『これ以上の高値だったら諦める』って言ってるし、値をつり上げたら交渉自体ダメになっちゃうぜ!
「じゃぁ…その金額で…良い…です」
トルネコが手に持った『銀の女神像』を睨み考えていると、突如リューラが口を挟み交渉を纏めてしまった。
「え!? …あ、あの「今すぐ…30000ゴールドを…ください。…女神像は…お金と引き替えに…渡しますから…」
トルネコの台詞を遮って、ドンドン話を進めるリューラ。
いい加減、飽きてきてたのかな?
「ちょっと、どういう事ですかリューラさん!?」
金と女神像を交換し、さっさとコレクターの家を出たリューラの後を追い、トルネコが必至に文句を言ってきた。
「はい…お金……金庫に…仕舞っておいて!」
しかしリューラは、何時もの無表情で金をトルネコに押し付けると、今度は近くの道具屋へ歩き出す。
一体何を考えているのか?
「あの…」
「いらっしゃい! 何か入り用かなお嬢さん?」
道具屋のカウンターでは、中年のオッサンが愛想良くリューラを迎えてくれる。
「これ…お父さんから貰った…とっても大切な誕生日プレゼント…でも…そのお父さんを捜す為に、どうしてもお金が必要になっちゃったの…だから…買ってください。お願いです…少しでも高く…お願い…」
リューラは自分の耳からエメラルドのイヤリングを外すと、瞳に涙を浮かべながら道具屋に見せ、買い取りを懇願する。
あれは大好きな親父さんから貰った、リューラの宝物だったハズ。
オイラが以前『綺麗な宝石だね』って褒めたら、嬉しそうに教えてくれた。
「そうか…お父さんを捜す旅をしてるのか…小さいのに大変だね…よし、見た感じ4000~4500ゴールドくらいだけど、思い切って5000ゴールドで買うよ! それでも良いかい?」
5000ゴールド!? 丁度足りない金額じゃん!
「お願いします…」
小さくそう言うと、震えながらイヤリングを差し出し、代わりに5000ゴールドを受け取るリューラ。
どうしてこんなオッサンの為に、そこまでするのだろうか?
アローペクスSIDE END
(エンドール)
トルネコSIDE
「ほ、本当に良いのですか?」
私はリューラさんから5000ゴールドを受け取りながら、しつこく気持ちを確認する。
私としては大変有難い申し出だが、彼女にとっては大切なお父上からプレゼントされたイヤリングを売ったお金…
「お父さんが…言ってた…高価な宝石を少し買うよりも…安価なパンを大量に買った方が、生き延びる事が出来る…って」
まぁ…宝石は食べられませんからねぇ。
「私は…この時代の事を知りません…この世界の事も分かりません…今の私にはトルネコが頼りです。お父さんと再会する為には…トルネコの力が必要です。だから…」
だから私の夢に協力する…と?
武器屋のネットワークを駆使して、お父上の情報を得ようとしているのか?
「おいトルネコ…これは大きな借りになったな! オイラもリューラに命を救われた…だからリューラの親父さんを捜す為、オイラは何処までもついて行くつもりだ。トルネコも軽い気持ちじゃいらんねーぞ!」
「わ、私は…最初から軽い気持ちなどでは…」
嫌な事を言う狐だ。
だが確かにこの金を受け取れば、お父上を見つけたくらいじゃ貸し借り無しにも出来そうにないな…
希望としてはポポロと結婚させ、財産を幾らかでも分けてもらう予定だったのに…
しかし、この5000ゴールドが無ければ、エンドールで店を開くのが遠退いてしまう…
う~ん…どうするべきか?
「リューラさん…お言葉に甘えて、お金を頂戴致します!」
背に腹は変えられない…
今は先ず、店を手に入れる事が先決だ!
「このご恩は、お父上の情報を得る事及び、再会出来るよう尽力する事で返させていただきます!」
兎も角は店を持ちエンドールに家族を呼んで、彼女を交えて一緒に生活して行く事で、ポポロとの仲を進めさせよう。
うん。そうしよう!
彼女のお父上がどんな人物かは判らないが、娘が好きになってしまった少年を無碍には出来ないだろう…
そこから家督相続に割り込む事も出来るかもしれないだろう…
今はそれに賭けるしかないな!
頼んだぞ我が息子よ!
トルネコSIDE END
後書き
リューラ・リューノ・リューナと、
似通った名前を付けた所為で、書いている途中で間違える事暫し……
もし気付かずに掲載しちゃってたら、ソッと優しく教えてね♥
第11話:情報取得
(エンドール)
ポポロSIDE
何かにつけてアロー君が突っかかって来る…
彼はリューラちゃんが好きみたいだ。
でも彼は狐じゃなかったのかな? 良いの?
お父さんがエンドールでお店を開く事となり、僕とお母さんもレイクナバを離れエンドールへとやって来たのだが…
エンドールまでの道すがら、アロー君が僕を目の敵にしてきた。
モンスターに襲われてリューラちゃんが戦う際、彼女の着ているワンピースのスカートが、あまりにも短い為、白いパンツがチラチラ見えてしまうのだが、僕の視線を遮るようにアロー君が目の前に出てくるんだ。
僕も男だし、見えそうになればどうしても視線が行ってしまう…
リューラちゃんのように可愛い女の子のであれば尚更だ。
だけどアロー君には許せないらしく、クロスボウで敵を攻撃するフリをしながら視線を遮ってくる。
僕はアロー君とも仲良くしたかったので、道中もなるべく話しかけてたんだけど…
『町や村の外で、無闇に話し声を上げるな。敵に気付かれ無駄な戦闘が増えるだろう! リューラの負担を少しでも減らしてやれ』
って怒られちゃいました。
だからエンドールに着いてからは、気兼ねなく話しかけてます。
勿論リューラちゃんにも沢山話しかけてます。
父さんとお母さんは新しいお店の準備で忙しく、僕達だけ(僕・リューラちゃん・アロー君)でエンドールを仲良く散策です。
「でもよ…トルネコが店を持てたのも、リューラのお陰だよな! リューラが一緒に冒険に出てなければ、あのオッサン一人じゃ危険だったし、何より店を買う為の金を集められなかったもんな! リューラがイヤリングを売ってくれた5000ゴールドが、最大の援護だったよね!」
アロー君は事ある毎に、リューラちゃんのイヤリングの話を持ち出します。
僕もお母さんも、勿論お父さんだって感謝に絶えません…この話題になる度に、心からリューラちゃんにお礼を言ってます。
でもアロー君の功績じゃないのだから、僕を牽制する為に度々言う事無いと思います。
僕もリューラちゃんもまだ子供なんだから、恋愛感情を警戒して牽制しなくても大丈夫なのに…
何よりリューラちゃんが僕に興味なさそうだし…
「アロー…もう…止めて…恩着せがましく言われると…何だか悪い事…したみたいで…」
ほら…結局マイナスアピールになったし。
リューラちゃんは目立つ事が好きじゃなさそうだし、純粋にお父さんの為を思っての事だったのだろうし、余計嫌がられるって解らないのかな?
「あ…ゴメン…でも…」
「………」
あ~あ…何だか凄く嫌な空気になっちゃったよ。
「そ、そう言えば…ちょっと前にエンドールで武術大会が行われていたんだよね!? 一体どんな人が優勝したんだろうね? ちょっと町の人達に聞いてみようよ!」
仕方ないので僕が話題を変えようと思います。
折角二人と仲良くなろうと思ってエンドール探索を始めたのになぁ………
ポポロSIDE END
(エンドール)
アローペクスSIDE
し、しくじった…
リューラを困らせるつもりはなかったのに…
でもトルネコもポポロも、リューラへの感謝が足りない気がするから…つい…
しかもポポロにフォローされた!
話題を変えられ、率先して人々に武術大会の事を聞きまくってやがる。
安心したリューラも嬉しそうに微笑んでいる…
くっそ!
奴にポイントを稼がれた…
本当は“親子揃って何もしてない!”ってマイナスポイントになるはずだったのに…
「そ、それ…私のお父さんだ!!」
オイラが落ち込んでいると、突然リューラが大声を上げた!
一体何がどうしたんだ?
話を整理すると…
数日前に終わった武術大会で優勝した、サントハイムのお姫様『アリーナ』のセコンドに付いていた人が、リューラのお父さんである事が濃厚に…
風貌もそうだが、眩い光の玉を発生させる魔法を唱えたり、風だけのバギで会場の壁を吹き飛ばしたりと、行動も合致するとリューラが言っている。
何だか凄そうな人だなと思いながらも「じゃぁサントハイムへ向かえば、リューラはお父さんと会えるんだね!」と励ましの言葉を言ったら…
「そうもいかないよ坊や…聞いた話では、サントハイム城の人々が魔族の魔法で異空間に消されてしまったらしく、人々を助ける為に南方へあると噂されている魔族の城『デスパレス』へ、姫様一行は旅立ったらしい」
と、テンションを下げる情報を与える馬鹿が…
するとポポロが、
「じゃぁお父さんに相談して、南へ行く方法を考えて貰おうよ!」
と提案…またしても美味しい所を持ていかれた。
そんな訳で、オイラ達は店の準備を終えたトルネコの下に集まり、リューラのお父さん捜しの方法を相談している所です。
「う~ん…南ですか? それには船が要りますねぇ…」
「お父さん、何とかならないの? お店を手に入れる事が出来たのも、リューラちゃんのお陰なんだから…何とか恩返しをしないと!」
父親の情報を得てから少し涙ぐんでいるリューラの為、必至で親父を説得するポポロ…
くそぅ…オイラも負けてらんねー!
「そうだぜトルネコ。船が必要って言うのなら、買ってやるくらいの太っ腹さを見せてくれよ!」
「か、簡単に言わないでくださいよ…船を手に入れるとなれば、世界一の造船技術を持つ『コナンベリー』に行くしかない! その為にはエンドールから東に行き、砂漠を越えて南下する…」
「何だよ…簡単じゃねーか!」
「それが簡単じゃないんです。東の地へ行くには、此処から東で開通作業をしているトンネルを、完成させなければならないのです!」
「だったら、それを早く完成させようぜ! 今すぐ行って急かしてくればいいじゃんか!」
「急かせて完成すれば、こんなに困ったりはしませんよ…資金が底を突き、トンネル掘りの労働者を雇えず、作業が滞っているのです。噂ではあと少しで開通なのに…」
「くそ…何だよそれ!? 一体幾ら必要なんだよ?」
「さぁ…分かりませんが、かなりの大金でしょうねぇ…」
ちきしょう…折角リューラのお父さんの情報を仕入れたのに、オイラ達には何も出来ないのかよ!?
「私…そのトンネルに行ってくる…」
「え!? どうしたんだよリューラ…突然に!?」
アローペクスSIDE END
第12話:商売繁盛
(エンドール)
トルネコSIDE
私達は新たに手に入れた店をオープンさせ、商売に全力を注ぎました。
目標金額は100000ゴールド。
何故この金額なのかと言うと…
ポポロ達がリューラさんのお父上の情報を仕入れてきて、東のトンネルを開通させる必要が出来、リューラさんが単身でトンネルへ赴いて必要な資金額を確認した所、残り60000ゴールドと判明しました。
更には、コナンベリーへ行った時に船を購入するのに必要であろう金額を、400000ゴールドと想定し目標金額にしたのです。
私とリューラさんは勿論、ネネにポポロ…更にはアローも目標達成の為に、全力を尽くしております。
とは言え、私は100000ゴールドという大金を即座に用意出来るとは思っておらず、長期的計画を立てていたのですが…
無事お店をオープンさせる事が出来た事を、エンドール王に報告したら…
「そうか、無事店を持つ事が出来たか! では、余から開店祝いに発注をしよう」
と言って、“鋼の剣を20本・鉄の鎧を20着”のご注文を賜った。
完納した暁には、代金として100000ゴールドを支払って頂ける事になっている。
まさに渡りに船とはこの事だろう。
私は店をネネとポポロに任せ、エンドール中の問屋を巡り格安で商品仕入れに勤しんでいます。
リューラさんとアローは、町を出てモンスターを倒しながら資金を調達し、他の町や村での仕入れを行っております。
その二人が、先程5日ぶりに戻って参りました…些か興奮気味に!
「トルネコやったぜ! ボンモールからご祝儀代わりに『鉄の鎧』を20着、貰ってきちゃったぜ!」
何と!? 店をオープンさせて半月…
『鋼の剣』はエンドールの問屋から格安で入手出来た為既に納品済みだったのだが、『鉄の鎧』までもがこんなに早く揃うとは!?
お二人に経緯を確認したら…
戦争準備の為集めていた防具が不要となり、王子様に交渉をしたところ『貴方達にはお世話になりました。私がモニカと結婚出来るようになったのも、皆さんのお陰です。私から父を説得し、不要になった防具をお譲りする様言いましょう』との事らしい。
やはり、持つべき物はコネクション!
私の目に狂いはなかったって事ですね。
トルネコSIDE END
(エンドール)
アローペクスSIDE
オイラ達は王様から金を受け取って、その足で東のトンネルへと行き、既に再開させておいたトンネル工事の責任者に60000ゴールドを手渡し、トンネル作業員達の給料にしてもらった。
トンネル工事の責任者は『そんなに時間は掛からずに開通するじゃろう…ブランカへ行ける様になったら、エンドールへ使者を送り知らせるから、それまで待って居ると良い』と言って開通作業を急がせてくれた。
でも待っていられないリューラとオイラは、ほぼ毎日トンネルへ赴き、作業の手伝いをしていたんだよ。
穴掘りが出来なくても、邪魔な土砂を外へと運んだり、既に掘り終わってる場所の足場を平にしたり…
お陰で開通を真っ先に知る事が出来、大慌てでエンドールへ戻りトルネコを旅立たせたぜ!
旅立つ際にポポロがオイラに近寄り、『皮の帽子』を手渡しこう言って…
「アロー君…頑張ってリューラちゃんの為に、彼女のお父さんを捜してあげてね! 僕は一緒に行けないけど、この皮の帽子をあげる。僕のお古で申し訳ないけど、旅をするのに少しは役立つかなと思って」
あれ? 何かコイツ良い奴じゃん!?
オイラが勝手に敵視していただけなのか?
悪い事したなぁ…別れは仲良く終わらせた方が良いな。
「ありがとうポポロ! オイラ頑張ってリューラのお父さんを捜し出すよ。お前に貰った帽子に誓って!」
ガッチリ握手をして別れを終わらせる。
生きてさえいれば再会できることはあるだろうから、泣いたりせず『またな!』と一言残して…
アローペクスSIDE END
(エンドール~東の地へ…)
最愛の妻ネネとの別れを惜しみながら、世界一の武器屋を目指すトルネコは、幼女騎士リューラと妖狐アローペクスと共に旅立った…
旅の目的は、リューラの父であるリュカを探し出す事。
しかしトルネコにはもう一つの目的が存在する。
それは…世界を自身の目で確認する事!
そしてエンドールへ帰った時、旅の経験を最大限活用する事である。
その為にトルネコは危険な冒険を行う決意を固めたのだ。
リューラの父が、良いパトロンになる事も夢見て…
・
・
・
きっと本人を見たらガッカリするだろうけど…
第3章:武器屋トルネコと幼女騎士リューラ 完
後書き
なんか3章の後半は、金儲けイベントがメインで端折り過ぎちゃったな……
でも頭悪い作者には、お金儲けの方法が解らず書けなかったんだよ。
それにオッサンを書く事に飽きちゃったし……
第1話:両手に花ッス!
(モンバーバラ周辺)
キングレオ王国に位置する歓楽街モンバーバーラ…
この町からそれ程離れていない森の中で、双子の姉妹が悪漢共に襲われていた。
町を出立したのを狙い、後を付けての犯行である。
姉妹の名は姉のマーニャと妹ミネア…
マーニャはモンバーバラでも評判の踊り子で、ガラの悪い下品なファンも多数存在する。
ミネアも美人占い師として評判で、占いを信じていないが彼女目当ての客も居る程だ。
「ん~!」
攻撃魔法が使えるマーニャの口に猿轡を噛ませ、男二人がかりで押し倒し…
「ね、姉さん!!」
回復魔法しか使えないミネアを 男一人が羽交い締めにし、身動きを封じ襲いかかっている最中だ。
マーニャの露出度が高い服を剥ぎ取り、上で馬乗りになっている男がズボンを脱ぎ出そうとした瞬間…
何処からともなく現れた一人の男性によって、彼女等は助けられるのである…
(モンバーバラ周辺)
マーニャSIDE
「とう!」(ドカッ!)「うげぇ!」
突如、私の上で股間を丸出しにした男が吹き飛んだ!?
「な、何だテメ「おりゃ!」(ゲシ!)「うぉっ!」
更に私の両腕を押さえ付けていた男も吹き飛ぶ!
「お前等、女性の口説き方も教わらなかったのか!? 女性というのは、もっと優しく口説くものなんだと、パパから教わらなかったのか!?」
服を剥ぎ取られた私に、自身のマントをフワリとかけ腰の剣を抜き放って、未だにミネアを拘束している男に向かい恫喝する男…
「な、何だテメーは!?」
「ふ…問われて名乗るも烏滸がましいが、俺の事を知りたいのなら教えてやろう。俺の名はウルフ…世の美女達と仲良くなりたいイケメン男とは俺の事だぜ!」
左手の親指を立て、自らの爽やかな笑顔を指さし自己紹介を終えるウルフと名乗る男…
ショックだ…
私達はこんなチャラい男に助けられたのか?
「さぁ…俺が誰だか分かったのなら、そちらの美女も離してもらおうか! さもないと…いぢめちゃうゾ♥」
助けようとしてくれているのは間違いないのだが、どうにも言葉に緊張感がなく、本気なのかを疑ってしまう人物だ…
「キ、キサマ…や、やろうってのか!?」
仲間二人を一瞬で伸してしまったウルフに対し、脅えた口調でナイフを取り出しミネアを人質にして抵抗する暴漢野郎。
くっ…ミネアを人質にしてなきゃ、私のメラで丸焦げにしてやるのに…
「ピオリム! そしてバイキルト!」
突如聞き慣れない魔法を2つ自身に向けて唱えると…
目にも止まらぬスピードでミネアを人質にしている男へ斬りかかるウルフ!
(ザシュ!)
あまりの出来事で反応する事が出来ない男は、ナイフを握り付き出していた腕を手首の辺りから切断される。
「ぎゃー!!!」
右腕の手首から大量に血を流しパニクる男…
そんな男の顔面に拳をめり込ませ、素早くミネアを救出するウルフ。
即座に私の方へミネアを流すと、殴られた痛みで顔面を押さえる左腕を、二の腕の中間辺りから切断する…
え、何で!?
「ぎゃー!!!」
両腕を切断され、大量に血を撒き散らしながら転げ回る暴漢に近付き、切断した腕を左右逆に付け傷口をベホマで治癒する。
うわぁ…酷いわねぇ…
「ほれ…もう騒ぐな! 痛みは無くなっただろ? まぁ、もう二度と両手は使えないだろうけどね(笑)」
「お、おい…何だよ、その腕は!?」
私を襲っていた二人が目を覚まし、腕の長さがチグハグになった仲間を見て、驚き悲鳴の様な大声を上げる。
「おや…お目覚めかな?」
返り血を浴びたウルフは、爽やかな笑顔のまま悪漢共を見渡し、剣を鞘に戻すと誰も居ない空間に向けて右手を翳し言い放つ。
「不男共…世界中の美女は俺等みたいなイケメンの為に存在する。それを弁えず、力ずくで襲いかかるのであれば………イオラ!」
(ドカーン!!)
マーニャSIDE END
(モンバーバラ周辺)
ミネアSIDE
何もない場所に直径5メートルほどの穴を開け、私達を襲ってきた三人組を脅し追い払うウルフさん。
突然の出来事だったので気が動転してしまい、姉さんに抱き抱えられ呆然とする私…
一体何がどうなったのだろうか?
「あはははは…血相変えて逃げて行ったよ! ちょ~うける~(大笑)」
「あ、あの…一応お礼を言っておくわね…危ないところを助けてくれてありがとう」
姉さんが私を抱き締めながら、大爆笑するウルフさんにお礼を言っている。
「あ、ありがとうございました…」
私も慌ててお礼を言う…
何時までも姉さんに抱き締められてもいられない…そう思い、身形を直して離れようとしたのだが…
激しい恐怖の為足が震えてしまい、その場にへたり込んでしまった。
「ムリしない方が良いよ。…この近くに、町か村は無いかな? 一旦そこで休んだ方が良いと思うよ。俺も一晩中森を彷徨ってたし…ベッドで眠りたいんだ。どっか知らない?」
一晩中森を彷徨っていたと不思議な事を言うウルフさん。
「そうね…ここから直ぐの所に、モンバーバラって町があるわ。私達そこから今朝出立したの…私達も一旦落ち着きたいし、案内するから行きましょう」
悪い人では無いのだろう…
ウルフさんのマントで身体を覆っている姉さんは、震えの止まらない私を抱き締めたまま、モンバーバラへ戻る道を指差し彼を先導する。
「こっちかい?」
姉さんが指差す方へ歩き出しながら、ウルフさんが話しかけてくる。
「また戻る事になって申し訳ないけど、モンバーバラとやらに行きましょう! 改めて自己紹介するけど、俺の名はウルフ。助けたお礼はベッドでが嬉しいな(笑)」
「助けて貰ったお礼は言うが、ふざけるのも大概にしろよ! 私はマーニャ…この娘は妹のミネア。お前みたいなチャラい男は、私達の様な絶世の美女とは釣り合わないんだよ(笑)」
助けて貰ったのに、失礼な物言いをする姉さんを、思わず睨んでしまう私…
「えぇ~!? 俺も結構良い線いってると思うんだけどなぁ…まぁ良いけどね。俺には彼女が居るから。お二人より絶世の美女な彼女が居ますから!」
「はぁ? そんな女が存在するものか! 大方、右手の事を指しているんだろう…」
右手? 何故彼女のお話をしていたのに、右手の話題が出てくるのだろう?
「いやん! マーニャちゃんお下品!(笑)」
しかし問題なく会話は続いている…
あとで姉さんに聞いてみよう。
ミネアSIDE END
後書き
皆様、大変長らくお待たせいたしました。
あちゃの駄文大作……リュカ伝その3の復活でございます。
駄文製造メカ ダブングルが始まるよ!
あれ? タイトルが変わったぞ!?
第2話:俺だって男ッス!?
(モンバーバラ)
ウルフSIDE
町に着き直ぐさま宿屋へ行くと、2部屋確保し一休みをする。
この時代(世界?)に来てから丸一日…
森の中を彷徨ってたので全然寝ていない俺は、十分すぎる程の睡眠を取って英気を養った。
あの双子の姉妹(特に妹さん)にも、落ち着く為の時間が必要だろうし…
目を覚まし、最初にやった事は…フロントに行ってルームサービスを、姉妹の部屋に届けさせる事だ。
睡眠同様、彷徨っていた間は碌な食事をしていなかったので、食欲を満たす必要もあるのだ。
姉妹の部屋に届けさせたのは、この時代(世界?)の事や姉妹の事…もし知っているのであれば、マリーやリュカさんの事を聞く為です。
ついでに俺の事も説明しないとね!
(コンコン)
「ル~ム・サービス!」
俺はノックと共に明るい口調で勝手に部屋に入り込み、宿屋の人と一緒に部屋のテーブルに料理を並べだす。
「あ、あの…お、おはようございますウルフさん…」
「やぁ、おはよう! 今日もミネアさんは美人だね! あれ、もしかすると昨日より美人?」
礼儀正しい妹さんが、俺の強引な振る舞いにちょっと引き気味だ。
リュカさん…気にしたら負けですよね!
「もう一人の美人さんは何処かな?」
宿屋の人が出て行くのを見計らい、さして広くない室内を見渡し膨れたベッドを見詰め尋ねる。
お寝坊美女を布団越しに愛でる。
「あの…ごめんなさい…姉さんは寝起きが…」
「おやおや…それは残念。では仕方ない…添い寝をして差し上げまスカラね!」
申し訳なさそうに口籠もるミネアさんを尻目に、マーニャさんが眠るベッドに入り込み、身体を密着させて温もりを味わう。
(ゲシュ!)「テメー何してやがる!」
「ぐはぁっ!」
即座に反応したマーニャさんの蹴りが、俺の腹部に命中しベッドから弾き出された。
「何だよ…起きてんじゃん!」
リュカさん直伝の“語尾スカラ”で防御力を高めておいたので、彼女の蹴りでは痛くも痒くもなかった。
サッと立ち上がり、服に付いた埃を軽く払うと笑顔で席に着く。
「ケロッとしてんじゃないわよ! 目は覚めてたけど、まだ眠かったから布団から出なかっただけよ!」
「うん、知ってる。でも今は完全に目覚めたでしょ?」
ミネアさんに続いて、食事の並んだテーブルに腰掛けるマーニャさん…表情は呆れ顔だ。
「で…レディーの部屋に断りもなく入ってきて、ベッドにまで潜り込んできたのは何の用があってなの!?」
手近なパンを取り、一口大に千切りポタージュスープに浸して、それを食べながら不満げに話しかけてくるマーニャさん。
「うん。まだちゃんと自己紹介とかしてなかったから、俺の置かれている状況を説明しながら、この時代の事や二人の事を聞いちゃおうっかな?って思ってさ」
鮮やかな色のスクランブルエッグを大量にパンに乗せ、それを頬張りながら答える俺。
「あ、あの…食べながら喋るのは…お行儀が…」
一人お淑やかに俺達を眺める美女が…
あぁ…俺の周囲には居なかったタイプだ…
「………なるほど。つまりアンタは、未来の世界からこの時代にやって来たのね?」
「うん。俺達を飛ばした馬鹿がそう言ってた」
「あの…そんな事の出来る方って誰ですか?」
「あぁ…そんなの神に決まってるじゃん!」
「………か、神様を“馬鹿”って…口が悪いです!」
やりづれー! 俺の周囲…つーか、リュカさんの周囲には神を敬う奴なんて居ないから、何時も通りの口調で喋ってると、ミネアさんが悲しい顔で怒ってくる。
「そんな些細な事は置いといて…二人とも俺の彼女を見た事無い? こんな顔なんだけど…」
プンスカプンと怒ってるミネアさんを無視して、俺は手近にあったメモ用紙にマリーの顔を描き二人に見せて尋ねる。
サラッと書いたわりには上々の出来栄えだ。
「アンタ絵が上手いわね…」
「本当…お上手ですねぇ」
「うん。そんな事は良いから、見た記憶は無い?」
「アンタ、ふかし扱いて無い? この美少女が本当にアンタの彼女なの? 妄想の彼女じゃないの?」
「失礼なねーちゃんだな! マリーは実在するし、このイケメンの娘なんだぞ!」
失礼極まりないマーニャさんに向け、リュカさんを描いた絵を見せつけ出会ってないかを確認する。
リュカさんの事だ…この二人と遭遇していたら、絶対に口説いて…口説き落としているはずだから、絵を見せれば直ぐに判るだろう。
「アンタの絵が妄想だったり、何割か盛ってるんじゃなければ、この人は相当イケメンね…ひと目でも見れば忘れやしないでしょう」
「つまり会った事は無いんだね?」
う~ん…どうやら俺は、みんなと離れ離れになってしまったらしい。
ついでだったので二人にビアンカさんとリューラ・リューノの絵を見せ、見覚え無いかを確認するが…
これも空振りだった。
ウルフSIDE END
(モンバーバラ)
マーニャSIDE
「それで…この後アンタはどうする気?」
ウルフが持ってきた食事を大方平らげて、知り合いとはぐれてしまったこの子を心配してみる。
昨日は危ないところを救われたのだし、優しく接するのも必要だろう。
「この後? 美女が二人も居て…ベッドがあって………シちゃう?」
「ふざけんな馬鹿! 何でアンタなんかとシなきゃなんないのよ!」
優しく聞いてやりゃ付け上がりやがって!
「そうじゃなくて、はぐれた彼女等を捜すんでしょ!? アテがあるのかって聞いてるの!」
「ああ、そう言う事か。この時代の事を詳しく解ってないから、アテなんてないよ…むしろ二人の事を聞きたいね! こんな物騒な世の中を、美女がたった二人で旅をするなんて危険じゃん? 昨日みたいに襲われたりしちゃうじゃん!? 俺が居れば守る事が出来ると思うんだよね…どう?」
確かに…
力の弱い私達だけでは、今の世の中は危険がいっぱいだ。
昨日も、旅立ち早々に顔見知り(私のファン)に襲われるなんて予想してなかった…
コイツは私達を力尽くで襲ったりはしないみたいだし、何よりそこそこ強そうだ。
私達の目標達成に、大いに役立つかもしれないわね。
ウルフ…狼か………うん、番犬代わりに連れて行くのが良さそうね!
マーニャSIDE END
第3話:敵討ちなんて凄いッス!
(モンバーバラ周辺)
ウルフSIDE
マイハニー求めて両手に花状態の番犬こと私ウルフは、マーニャ・ミネアの美女姉妹と共に敵討ちの旅へと出立致しました。
直接俺には無関係なんだけど、危険を顧みず冒険に出ようとしている美女を見過ごす事なんて出来ないよね!
だってリュカさんから、そう教わったし…
二人の話を聞いた限りじゃ、お父さんのエドガンさんは錬金術を研究していたらしい。
錬金術と聞くと、金塊を作り出し楽してウハウハ人生を歩もうとしているのでは?と勘違いしてしまうが、実際は色んな物を生み出す研究らしい。
グランバニアで言う“化学”だろう…以前リュカさんが教えてくれた。
んで、その父(エドガンさん)の敵っていうのが、弟子だった『バルザック』と言うらしく、そいつを捜しながら旅をするのが目的らしい。
居場所も分からないのに危険な世界へ旅立つって……
見慣れているから何とも思わないけど、コイツ等もファザコンだな!
ファザコンの取り扱いは注意が必要だ。
間違っても父親の事を侮辱してはいけない! 言葉の綾的な侮辱も禁止だ。
実体験に基づいた結論だが、此方が迷惑を被っていてもファザコン娘には関係ない。
ブチ切れる事間違いないのだ!
俺としてはこの二人と一緒じゃなくても構わないのだが、リュカさんとの遭遇率を考えると美女と一緒に居た方が確実だろう。
同じ町にいればリュカさんの方から『美女の匂いがするよ!』とか言って近付いてきてくれる…
嫉妬深いマリーも、俺が美女二人と一緒に居ると知れば、躍起になって探し出すだろう。
まぁ、再会した時は怒りのイオナズンに備えて、マホカンタを唱えておく必要があるけどね。
もしくはピオリムをかけて、素早く近付きキスで唇を塞ぐのも手段の一つだね☆
「ところでウルフ、アンタさぁ…立派な剣を携えているのに、結構強力な魔法を唱える事が出来たわよね!? 何なのアンタ?」
このねーちゃんは礼儀という物を知らない。
どの世界でも双子というのは真逆の性格になる物なのだろうか?
「俺は魔法を専行していたんだ。でも俺の師匠が剣術も憶えろって言ってきたから、現在努力中です」
「ふ~ん…魔法が得意なんだ…アタシと一緒じゃん!」
一緒か!? 色仕掛けと魔法は違うんだぞ!?
「言っておくけど、マーニャさんより強いからね、俺!」
「はぁ!? 随分と言うじゃないの…何だったら試してみる?」
「試すのは構わないけど、マホカンタを使えるんだよ、俺!」
「………マ、マホカンタを!?」
“マホカンタ”の単語に青ざめるマーニャさん。
やっと気付いてくれたみたいだ…
仮にマーニャさんがマホカンタを使えても、俺には剣術が残っている。
まだまだ修行中でも、マーニャさんよりかは白兵戦に長けている。
口を塞がれただけで、男共に犯されそうになっているお嬢ちゃんには負けやしないだろう。
普段、周囲には強すぎる人達で溢れているが、賢者(魔法使い+僧侶)の魔法と努力中の剣術があれば、結構強い男だと自負しております。
「姉さん! ウルフさんは私達の仲間ですよ。無意味に競い合わないでください!」
ミネアさんは良い子だなぁ~…
でも慣れって怖い…どっちかつーと、マーニャさんとの方が会話をしていて楽しいよ。
俺の周りにはこんなんばっかだし…
「わ、解ってるわよ…番犬の実力を確認しておきたかっただけじゃん!」
「まぁ、番犬なんて失礼ですよ!」
大丈夫ですよミネアさん…ポピー義姉さんに言われ続けてますから。
『お前はマリーの番犬だぞ!』って言われ続けてますから!!
「気にしないで…俺は番犬ですから!」
「そんな…自分を卑下しないでください」
「いえ…番犬でありバター犬でもありますから! さぁマーニャさん、バター犬としての俺をご堪能してください! 俺の彼女…マリーが絶賛したテクニックですよ!」
悲しそうに慰めるミネアさんを手で制し、マーニャさんの前で片膝を付き見上げる俺…
ポピー義姉さんには危険だけども、あんな女性がそうそう居るとは思えない。
この嬢ちゃんなら平気だろう。
「ば、馬鹿か…そ、そんなことする訳ないだろ! げ、下品な事を言うな!!」
おや? ほぼ下着のコスチュームで、踊り子として良い女ぶっているが…
もしかしてマーニャさんは処女か?
顔を真っ赤にして恥ずかしがっちゃったぞ!?
何かギャルっぽい感じで、多数の男をくわえ込んでいると思っていたが、この調子で世界を旅していれば、初めての相手はリュカさんになりそうだな(笑)
「あの…バター犬って何ですか? 何が下品なんですか?」
100%処女であろうミネアさんが、お上品な口調で先程の会話を尋ねてきた。
他の女が言ったらカマトトぶってるとしか思えないのだが、ミネアさんが言うと本当に聞こえてくる。
でもリュカさんが奪うんだろうなぁ(笑)
「良いのよミネア…アナタは知らなくて。アンタも、あんまし下品な事を言うんじゃないわよ!」
「俺の所為ッスか!? 我が家の基準じゃ、この程度はあんまり下品にならないんだけどなぁ…」
ウルフSIDE END
(モンバーバラ周辺)
マーニャSIDE
最悪な家庭環境ね!
まったく…ミネアに悪影響を及ぼしたく無いのに…
この娘には何時までも純粋無垢なままでいてほしいのよ。
「はぁ…まあ良いわ。そんな事より、アンタも憶えておいてよね! 私達の捜しているお父さんの敵は『バルザック』って男だから…行く先々で情報を集めてよね!」
私達にウルフ程の画力があれば、サラッとバルザックを描いて彼に渡すのだが…
「は~い。その代わりお二人も、俺の家族捜しを手伝ってね。さっき描いた絵を使ってさ! 特にマリーとリュカさんを優先したいから。次はビアンカさんかな? 他は小うるさいから後回しでもいい」
先程渡された5枚の絵…
ウルフの彼女(自称)のマリーちゃん。
その父親でウルフの師匠に当たるリュカさん。
更にはその妻のビアンカさん…残る二人は後回しでもいいって…酷いわね!?
「彼女を最優先したい気持ちは解るけど…他の優先順位は何で?」
「うん…リュカさんが一緒にいれば、どんな危機的状況になっても大丈夫なんだ! 本人は認めないけども、反則的に強いから…急に大魔王とかが現れても心配する必要が無くなるんだよ」
「はぁ? 自分の師匠を尊敬する気持ちは解るけど、ちょっとばかし話を盛りすぎじゃないの? 大魔王が現れても大丈夫って…そんな訳ないじゃん!」
馬鹿にするつもりは無かったのだが、あまりにも大袈裟に話を作るウルフに対し、思わず鼻で笑いながら指摘してしまった。
「いやいや…此処とは別の世界で冒険した事があるんだけど、その時にリュカさんがその世界の大魔王を、一人でイヂメている姿を目撃したんだ。諸悪の根元が泣きながら自らの命を捨てる程、反則的な強さでイヂメたんだよ!」
本当かしら?
俄には信じられないけど…ウルフがそこまで信頼を寄せているのだし、これ以上否定するのは止めた方がいいわね。
「あ、因みにビアンカさんだけど…リュカさんはどうしようもない女誑しだけど、奥さんの事を心底愛しているから、一緒にいれば躍起になって合流してくれると思うんだよね」
“どうしようもない女誑し”と“奥さんを心底愛する”って矛盾しない?
コイツの情報を聞いていると、益々解らなくなってくるわ…
まあいい…兎も角私達はバルザックを捜し出し、ぶっ殺す事が最優先なのよ!
だから故郷の『コーミズ村』に向かうの!
あそこには私達の実家があり、何らかの手懸かりを得られるかもしれないから…
マーニャSIDE END
第4話:すげード田舎ッスね!
(コーミズ村)
ミネアSIDE
暫くぶりに故郷へと帰ってきた気がする…
バルザックがお父さんを裏切り、研究を盗んだ挙げ句殺害し、私達まで殺そうとしてから1年も経っていないのに…
「此処がお二人の故郷ですか? すんごいド田舎ッスね。ミネアさんは兎も角、マーニャさんには似合わないなぁ…」
「あら、それは私がシティー派ってことかしら?」
「シティー派って言うか…騒がしい人だから、静かなところが似合わないって意味(笑)」
それは私も思う。
何時も騒がしい姉さんには、このコーミズ村の静けさはミスマッチだ。
「アンタ時々失礼よね!」
「あれ、怒ってる? 俺の彼女もそんな感じだから、褒めたつもりだったんだけど…」
褒め言葉だったんだ。
「全然褒められた気がしない!」
ふふふ…姉さんとウルフさんって、本当に言い掛け合いをするわ。
ウルフさんには彼女さんが居るみたいだけど…お似合いな気がするわ。
「まぁまぁ、マーニャちゃんにミネアちゃん! 戻ってきたんだね!?」
お二人の掛け合いを眺めていたら、宿屋の女将さんが声を聞きつけ私達に近付き、懐かしそうに話しかけてきた。
「ご無沙汰しております女将さん」
「本当にねぇ~…バルザックの奴があんな事をしでかしたから…二人とも無事で何よりだよぉ!」
バルザックがお父さんを裏切り殺害した事はこの村では有名で、私達が命辛々逃げ出す事が出来たのも、村の人々とお父さんの一番弟子…オーリンさんのお陰である。
「オバちゃん達が助けてくれたから、私達は逃げ出せたんだよ。本当にありがとうね!」
姉さんもあの時の危機的状況を思いだし、女将さんの手を握りお礼を言っている。
幾らお礼を言っても言い足りないわ。
「良いんだよアンタ等が無事ならそれだけで……ところで、そっちの優男は何だい? まさかアンタ等のコレかい!?」
女将さんはウルフさんを指さし、親指を立たせ尋ねてくる。
コレとは何だろう?
「冗談やめてよオバちゃん! 私の男の趣味は結構高いのよ! この程度で…」
「そッスよマダム。俺にはもっとグレードの高い彼女が居るんだから。愛人感覚で付き合っているだけッスよ!」
「ふざけるなワン公! 愛人感覚だとぉ~…」
「あれ、違うの? 俺慣れているから、初めてでも感じさせてあげられるよ。だから安心してよ」
また私のよく分からない会話が出てきた…
「おやおや仲が良いんだねぇ…お二人ともお似合いだよ!」
でも女将さんが笑顔で二人の会話を納得している。
うん。私も笑って頷いていれば良いわよね。
ミネアSIDE END
(コーミズ村)
マーニャSIDE
ヤレヤレだ…
古くからの顔なじみのオバちゃんもそうだが、こう言うチャラい男のくだらない下ネタはウンザリだわ。
無垢なミネアには聞かせたくないのに。
「そ、そう言えば…オーリンはどうなったのかご存じですか?」
これ以上ウルフとの関係を創り上げられたくなかった私は、話題を深刻な事へと変え意識をそちらに持っていかせる。
オーリンとは父さんの一番弟子で、裏切り者のバルザックの先輩に当たる人物だ。
「それがねぇ…私達にも分からないのよ。大怪我をして逃げ出してはいるみたいだけど、何処に逃げ延びたのか………無事だと良いんだけども」
心配ね…
ごつくて・田舎者臭くて・全然タイプの男じゃ無かったけど…真面目で・信頼出来る人間であった事は確かだわ。
父さんは私かミネアの未来の夫としてオーリンを考えていたみたいだけど…私はパス!
心配だし、無事でいてほしいけども…私は絶対にパス!
「そう言えばエドガンさん…この村以外にも秘密の研究室を持っているって話だったわよ。そこにオーリンさんも身を潜めているのかもしれないねぇ!?」
初耳だ…父さんが村以外に研究室を用意しているなんて。
しかも、娘の私達にまで秘密にして…
「う~ん…秘密の研究室かぁ……二人とも心当たりは無いの?」
オバちゃんの話を聞いて、ウルフが興味深そうに尋ねてくる。
尋ねたいのはこっちの方なのに!
「いえ…聞いた事ありません。でも……父さんはよく西の洞窟に足を運んでおりました。もしかしたらそこにあるのかもしれないですね…」
流石ミネア。よくぞ憶えていたわ……私なんてすっかり忘れてたもんね!
「西の洞窟? じゃぁ早速行ってみますか? それとも今日は、この村で一発ヤりますか? 俺、頑張っちゃいますよ(笑)」
「はぁ…一体何を一発頑張るのですか?」
「こらミネア! その馬鹿の言う事は気にしちゃいけません!」
最悪だなこの野郎…
今まで以上にミネアを俗世間から守らないと…私の可愛い妹が、世の中の汚れた情報で汚されてしまうわ!
何時までも純粋無垢な少女のままでいてほしいのに!
マーニャSIDE END
(コーミズ村)
ウルフSIDE
洞窟に研究室って…本当に研究室かねぇ?
モンスター蔓延る洞窟になら、誰だって好き好んで足を踏み入れたりはしない…逆に言えば、洞窟内のモンスターが危険すぎて、研究室(仮)から出る事も出来ない。
女の子を攫って監禁してても、誰も気付かないだろう!
研究と称して女の子を連れ込み、エッチぃ事でもしてたんじゃないのぉ?
さっき思わずそう言いそうになって、話題を今すぐ行く事へ向けたが、バレてないよなぁ?
ファザコンにそんな事を言ったら殺されかねない。
俺がリューラ・リューノ・リューナに嫌われているのも、上司に楯突く生意気な部下だからなんだ。
でも上司が悪いんだよ! 仕事を俺に押し付けて、自分は愛人達とイチャついてるんだもん!
嫌味の一つでも言わないと、精神の均衡を保てないだろ!
でも大人なリュリュさん以外のファザコンには、俺の苦労は解ってもらえないみたいで、事ある毎に嫌がらせをされ続けております。
まぁ内容が幼稚だから、セクハラで返してやりますけどね!
もう一つ気になる事が…
マーニャさんて妹さんの事を過保護にしすぎな気がする。
あまり良い事じゃない気がするけどなぁ…
ウルフSIDE END
第5話:俺の義父はやっぱすげぇッス!
(コーミズ西の洞窟)
マーニャSIDE
あぁ…憂鬱だ。
何が憂鬱って…この環境だ!
ジメジメジトジトで薄暗い洞窟…
父さんは何を考えてこんな所に研究室を造ったんだ!?
もっと簡単に行き来出来る場所に造れば、私達が困らなくても済んだのに。
何が一番困るって…モンスターの数だよ。
何でこんなに沢山居るの?
別にアイツ等の縄張りを奪うつもりは無いのだから、気楽に通してくれてもよくね?
そして更に腹立つ事がある!
ワン公が戦わないんだよ!
敵が現れると、そそくさと後方へ下がり援護魔法だけを唱え始める。
時折回復魔法も唱えてくれるけど…それよりお前も戦えよ!
「ちょっとウルフ! アンタも少しは戦いなさいよね!」
「はぁ!? 何で俺が戦わなきゃいけないんだよ!?」
「何でって…アンタは私達より強いんだから、率先して前衛をこなすのが当然でしょう!」
「意味解んね! この洞窟の奥に行く事が、俺にどんな関係があるんだよ。親父さんの秘密の研究室を捜したいのは俺じゃねーよ! 敵討ちを切望しているのは俺じゃねーよ! はぐれた彼女と合流する為に、一緒に世界を旅すると言ったけど、直接俺に関係ない事まで負担する気は無い! 友人として二人が大怪我をしない様に守ってあげるけど、全てを俺がやってやる気は無い!」
む、むかつく…
確かにウルフの言う通りだけど、か弱い美女の為に率先して戦ってくれても良いじゃんか!
ジェントルマンじゃないわね!
「お父さんの敵を討つってのは、二人にとって重要な事なんだろ!? 他人である俺がそれを行っても良いのか? もし二人の気持ちが『どんな形でも、敵を殺せればいい』って言うのなら、いきなり暴漢に襲われる危険を冒してまで冒険に出ずに、体でも売って金を稼いで殺し屋を雇えば良かったんだよ」
か、体を売って…
「ふざけた事言わないでよ! 憎いバルザックを私達の手で倒すのが、この旅の目的なのよ! 体売って金稼ぐとか、馬鹿にすんじゃないわよ!」
「解ってるよ。だから俺は一緒に行動しているんだ。敵討ちの手助けが出来ればと思い、俺には一切関係ない『化粧道具』とかが入った重い荷物を持って、後方から援護魔法を唱えて…一生懸命サポートをしているんじゃないか! “もっと前衛で戦え”とか舐めた事を言ってきたり、それを指摘したらキレたり…我が儘が過ぎるぞ」
くそぅ…
ワン公如きに説教されるとは!
言っている事が尤もだから、一層ムカツクぞ!
マーニャSIDE END
(コーミズ西の洞窟)
ウルフSIDE
「姉さん…ウルフさんの言う事は尤もです。バルザックは私達が倒さなければならない相手…そこへ辿り着くのも、私達自身で到達しなければ意味が無いと思います」
「そ、それは………解ってるわよぉ~………」
妹に甘いねーちゃんだ…
何処ぞの双子とは違った面白さがあるね。
あっちの妹は怖~からなぁ…
しかし、今回の冒険は勉強になる事が盛り沢山だ。
同じ立場になって初めて解る…リュカさんの偉大さ。
アリアハンを旅立って間もない俺達は、今のマーニャさん達よりも弱かった。
そんな俺達が此処まで強くなれたのもリュカさんのお陰だろう。
常に戦闘には参加せず、後方で援護だけを行うリュカさん…
あの頃の俺達では、ゾーマどころかバラモスですら倒す事は出来なかっただろう。
それを理解して俺達を鍛えてくれたんだ…まぁ、めんどくせーって気持ちもあったのだろうけど。
「ウ、ウルフ…怒鳴って…ゴメン…」
妹さんに窘められたマーニャさんが渋々謝ってきた。
彼女は馬鹿ではない。
俺の言いたい事…言おうとしている事は重々承知しているんだ。
でも前衛で戦う妹が、掠り傷とは言え血を流すシーンを見たくないんだろう。
そして見てしまったから俺に八つ当たりをしているんだ。
姉妹だと妹思いなのが良く分かる。
兄と妹だと、変態的シスコンと思われ迫害を受ける事が暫し…
ティミーさんとマーニャさんに性別以外で相違なんて無いのだろうに…
女って得だな!
「マーニャさん…本当に悪いと思ってる?」
「お、思ってるわよ!」
「じゃぁ謝罪の気持ちを行動で示してよ」
「こ、行動で!?」
「うん。オッパイ見せて(笑)」
「……………」
おや? リュカさんみたいにエッチな事を言って場を明るくしようと試みたのだけど…
何故だか一気に静まりかえったぞ?
これは一体………!?
(パァン!!)「ふざけんな馬鹿イヌ! 死ねアホ!」
強烈な平手打ちを俺の左頬へ喰らわせて、マーニャさんが怒りながら先へ進んでいまった。
この程度のジョークも通じんとは…
これだから処女は扱いづらい。
「あ、あの…ウルフさん、ごめんなさい」
身構えてなかったので、ガチで痛がり蹲る俺にミネアさんが近付き、左頬をさすりながら謝ってきた。
ミネアさんは悪くないのに…
「我が儘なお姉さんですね(笑)」
「本当に…ごめんなさい…」
謝るミネアさんをフォローしたつもりだったのだが、余計悲しそうに謝ってきてしまった。
「乳見せるくらい良いじゃんか…本当は揉ませろって言うつもりだったんですよ、俺(笑)」
もう後には退けない俺は、しつこくエロネタで攻め続ける。
悲しまれるくらいなら、ミネアさんにも怒ってもらったほうが救いがあるからね。
「あ、あの…姉さんよりは小さいですけど…これで…」
だが俺の予想は柔らかい感触と共に裏切られた。
姉の無礼を許して貰いたい妹は、乳を揉みたいと言った男の望みを自身の体で叶えたのだ。
つまりミネアさんは、俺の右手を自分の胸に押し当て揉ませてくれたのだ!
男の身体は不思議なメカニズムで出来ており、手の平に柔らかい感触があると自動的に指が動き出すのだ。
暫く混乱しながら乳を揉み続けると、ミネアさんが俺の手をソッと離し笑顔で語りかけてくる。
「男の人はこう言う事が大好きだと伺っております。姉さんは、ああいった性格なので大変ですけど、私で出来る事があれば何でも言ってください。今の私達にウルフさんは必要なんです! どうか見捨てず私達をサポートしてください」
そこまで言い終えると、先行してしまったマーニャさんに追いつくべく、駆け足で洞窟の奥へと進んでいくミネアさん。
俺は手に残る柔らかな思い出を見詰め、心の中でマリーに謝罪する。
ごめんなさいマリー…
俺…本気で浮気するつもりは毛頭無いんだよ…
君の独占欲を刺激して、俺だけを見詰めていてほしかったんだよ…
どうしよう…
もう怖くてミネアさんに下手な事言えない!
冗談半分でセクハラ出来ない!
助けてリュカさん!
貴方ならこう言う場合、どうやって切り抜けるんですか!?
『二人とも喰っちゃえば?』って答え以外で俺を助けて下さい!
ウルフSIDE END
後書き
彼の師匠に、その答え以外は無いと思う。
『取り敢えず喰べてから考えよう』とか言い出しそう。
第6話:俺の方がイケメンっす!
(コーミズ西の洞窟)
ミネアSIDE
お父さんが作り出した“エレベーター”と言う装置で、フロアの移動をする私達。
「このエレベーターって装置は凄いなぁ…仕組みを教わって我が国にも取り入れたいなぁ!」
一つの部屋が床ごと昇降移動し、階段を使わずに階を移動出来る装置にウルフさんが驚き感心する。
やっぱりお父さんの事を褒められると嬉しいですね。
それにウルフさんは機嫌を直してくれたみたい。
姉さん程大きい胸ではないけれど、男性はコレが大好きなんですね。
モンバーバラ劇場の座長さんも大好きでしたし…
何より彼には協力して頂かないと!
私は以前、自分の運命を占った事があります。
その時に出た結果は…
小さな光の私と姉さんが、やはり小さな光の勇者様に出会い、私達と同じように小さな光の仲間を残り5人集め、強大な暗黒に立ち向かう事でした。
そしてウルフさんの事も占ったところ…
一つ一つが私達より大きい光で、一際大きな恒星に集結し私達を守り続けてくれるものでした。
つまり私達には何かの大きな使命があり、その使命を達成させる為にウルフさんの力が重要不可欠な事だと思われます。
占いを信じない姉さんに言っても馬鹿にされ、わざと違った道を進もうとするはずです…
だから相談した事はありませんが、絶対にウルフさんは必要な存在だと確信してます。
ミネアSIDE END
(コーミズ西の洞窟)
ウルフSIDE
下手な事が言えなくなった俺は、取り敢えず二人の父親の発明を大声で褒め、先程の事を無かった事にしようとしている。
マリーが居れば、彼女の柔らかさで記憶を上書きして、何事もなかった様に振る舞えるのだが…
あぁ………マリーとシたい!
しかし、取り敢えずで褒めたエドガンさんの造ったエレベーターだが、本当に良くできた装置だと感心させられる。
リュカさんが無理矢理造らせた国…アリアハンにも、こんな様な装置は存在したが、あっちのは神様が造った装置だ。
人間でこんな物を造れるなんて、我が国にスカウトしたいところだよ!
ミネアパイの感触を忘れる為、懸命に他の事に意識を向けていると、何時の間にか地底湖が広がるフロアへと辿り着いていた。
そして地底湖の中央を見ると、小屋の様な建物がポツンと…
え…もしかしてアレが秘密の研究室?
もっとゴテゴテしたのを想像してたから、ちょっとばかり拍子抜け。
するとそこから一人の男が姿を現し、此方を見て大声を上げる!
「も、もしかしてマーニャお嬢さんとミネアお嬢さんですか!?」
「わ! 声がデカいよ馬鹿…モンスターが近寄ってくるだろ!」
二人の事を知っている筋肉ダルマが、大声を上げながら近付いてくる…間髪を入れずマーニャさんがツッコミを入れる。
ティミーさん程のツッコミではない。
しかし、実際に声が大きすぎてダンジョン内のモンスターに見つかり攻撃されてしまう。
本来ならば俺は見守るつもりだったのだが、今回に限り率先して敵を駆逐する。
腰の鞘から剣を素早く抜き放ち、多数の敵を格好良く殲滅し、しなやかな動作で納刀すると、ニヒルな笑みで女性方を見詰める。
うん。両手に花状態を邪魔されない様に、新たに合流した男を牽制したんです。
“やっぱ顔馴染みの方が頼りになるし安心する”なんて言われたくないじゃん!
だって俺の方がイケメンだし…
「あの、お嬢さん方…此方の男性は……?」
「え!? あ、うん…しょ、紹介するわね…彼はウルフ。はぐれてしまった家族を捜す為、私達と行動を共にしているの。見ての通り頼りになるのよ」
俺は髪をかき上げ、紹介してくれるマーニャさんを見詰め近付く。
薄暗い洞窟内の為、ハッキリとは判らないがマーニャさんは顔が赤くなっている…
俺に惚れちまったか?
「そうですか…お嬢さん達がお世話になった様で…私からもお礼を言わせていただきます」
「いやいや…美しい女性が困っていたら、イケメンとして協力するのは当然の事!」
マーニャさんがとろける様な瞳で俺の事を見詰め、それを見た筋肉ダルマが悔しそうに顔を引きつらせて俺に礼を言ってくる。
どうやらマーニャさんに気があるらしい…俺の事を“生意気なガキ”とでも思っているんだろうなぁ…
う~ん面白い…
リュカさんから学んだテクニックを総動員させ、本気でマーニャちゃんを落としてみようかな?
「あのウルフさん…紹介しますね。此方はオーリンさん…お父さんの一番弟子をされていたんです」
エドガンさんの弟子って事は、錬金術の弟子って事だろ!?
錬金術って…結構頭を使う学問だよね?
このオーリンって奴、どう見ても筋肉馬鹿なんだけど…
それでも弟子なの?
きっと荷物持ちとか雑用係的な役割として使われてたんだよね?
危険な秘密の研究室に来る時のボディーガード的な…
「ちょっとオーリン。今まで何をしていたのよ!? まさかずっと此処に隠れていたの?」
「いえ…バルザックからお二人を逃がした時、深手を負ってしまいまして…傷が癒えるまでは此処で身を潜めておりました。しかし傷が癒えてからは、バルザックの行方を捜す為、色んな場所へ行き情報を集めていたのです!」
「で、バルザックの行方は判ったの!?」
「確証は無いのですが…どうやら『キングレオ城』に居るらしいのです」
お城に!?
エドガンさんから盗んだ錬金術を手土産に、城に仕官したのかな?
「じゃぁ早速キングレオ城に入って、バルザックの奴を倒しましょう!」
簡単に言うな、このねーちゃんは……
城に入って、そこで働いている者を倒すなんて…かなりの難易度な出来事なんだぞ!
「マーニャお嬢さん…簡単に言わないでください!」
ほら…流石の筋肉ダルマだって理解しているんだ。
それがどんなに危険な事かって…
「城は特殊な鍵が掛かっており、勝手に入る事が出来ないのです! 簡単に入れれば、とっくの前に私が実行してましたよ」
違うだろ! 困難な事ってそこじゃないだろ!
「困りましたねぇ……ではどうすれば?」
あれ? 問題なく話が進んで行くよ…
俺がおかしいのか? 俺の方が非常識なのか!?
リュカさんとの付き合いが長すぎて、常識が判らなくなって来ちゃったのか?
「ミネアお嬢さんご安心下さい! 以前師匠に見せて頂いたのですが、『魔法の鍵』があれば城の扉は開くらしいのです!」
「まぁ! ではその『魔法の鍵』は何処ですか?」
「何処にあるかは判らないのです……お師匠様がここの研究室に隠したと思うんですけど。ですがご安心を……私も錬金術師の端くれ。作り出してみせますとも!」
そう言って俺達を研究室(小屋?)に招き入れ、魔法の鍵制作状況を見せつけるオーリン。
ただ………俺には散らかった室内しか目に映らないのだが?
ウルフSIDE END
後書き
キター!!
みんな大好きオーリン君!
彼の活躍に乞うご期待。
第7話:馬鹿ッスか!?
(キングレオ城)
ウルフSIDE
結論から言おう…
結局『魔法の鍵』は出来なかったよ。
だって彼奴馬鹿なんだもん!
一生懸命鉛の塊を溶かし、鍵型に流し込んで固め、用意した城にある扉と同じ扉を使って試すんだけど…ムリだよね!
だって、それは鉛なんだもん! 魔法とか関係ないんだもん!!
錬金術師の端くれって…誰にだって出来るからねそんな事は!
終いには失敗した事にブチ切れて、用意した扉を蹴り壊しちゃったから。
正真正銘の筋肉馬鹿決定です。
マーニャさんもミネアさんもガックリ気落ちしてましたよ。
だからね…俺は言ったんだ。
『それだけの馬鹿力があるのなら、鍵に頼らず扉をぶっ壊せばいいじゃん!』って…
そんな訳で、意気揚々とお城へ乗り込む気満々でやって来ましたキングレオ城。
力尽くで扉を壊して進入したら、3秒で衛兵に見つかり捕らえられちゃうんだろうなぁ…
きっと城レベルの衛兵クラスじゃ大して強くないだろうから、やばくなったらオーリンを囮にして逃げよう。
俺が二人を守らないと、敵討ちどころか生き延びる事も出来ないだろうな……
しかし、俺の予測は大きく外れる。
と言うのも、大きな音を立てて扉を壊し、城内に侵入しても誰も気に留めないんだ!
ここ……お城だろ!? どうなってんのさ!?
グランバニアも一般人が出入り自由で堅苦しさは無いのだが、それでも城内で大きな音を立てたり、重要な場所へ入ろうとする人間は掴まり注意される。
場合によっては牢屋へ入れられる事もあるのだが………でも、ここの状況は違う!
だって扉を壊し入り込んだのを見ても誰も何も言わないんだもん!
城内で兵士達よすれ違っても、全然気にされず普通に会話が出来るからね!
コイツ等仕事する気が無いの!?
ウルフSIDE END
(キングレオ城)
オーリンSIDE
このスカした男も、オレ様の凄さに唖然としている。
当然だな! キングレオ城に入る事が出来たのは、オレ様のお陰なのだから。
オレ様の鍛え抜かれたこの筋肉があってこその結果だ! この男には真似出来ないだろう。
何やらお嬢さん二人を狙っている様だが、オレ様がそうはさせない!
オレ様が先に狙っていたのだ……後から現れたクセに、図々しく二人の好感を得てるんじゃねー!
師匠の敵を見事討ち、オレ様が一番頼りになるところを見せつけてやる。
「お? お前等、新しく入った女共か?」
暫く城内をウロウロしていると、突然兵士の一人がお嬢さん二人に話しかけてきた。
どうやら無断侵入者だとは気付かれていない様子。
「バルザックにヤられちまう前に、俺達と楽しい事をしようぜ!」
「バ、バルザック!? やっぱりこの城にバルザックが居るのね!?」
兵士はマーニャお嬢さんの身体を舐める様に見渡しながら、重要な事を吐き出した。
「何処に居るのよ! バルザッ「申し訳ございませんが、私どもはバルザック様の為にこの二人を連れて参りました。バルザック様より先に二人をご賞味したいのでしたら、王様の許可を得てからにしてください」
マーニャお嬢さんが慌ててバルザックの居場所を聞き出そうとしたが、それを遮りスカした男ウルフが兵士と話を纏めだした。
何でバルザックの居場所を聞き出す邪魔をするんだ……馬鹿なのか!?
「へ、陛下に……いや…それは……」
「そうですか…では勝手にお手を出されない方がよろしいかと思いますよ。……で、バルザック様はどちらに居られるかご存じですか?」
「さぁな…アイツはこの城内に居るのだが、何かの研究中で大臣しか居場所を知らない」
手を出す事が出来ない女と判った途端、手の平を返す様に我々から興味を無くし、ウルフの質問に適当に答え去って行く。
「ふぅ~………頼むよ。ここは城内で敵陣の真っ直中なんだよ! 迂闊な発言は控えてよね……バルザックを見つける前に、城内の兵士達と一戦を交える事になっちゃうよ!」
兵士が立ち去り、周囲に誰も居なくなった事を確認したウルフが、呆れ口調で話しかける。
「だって……バルザックの居場所を……」
「居場所を知りたい気持ちは解るけど、不用意すぎるんだよ! どうやらこの城の兵士共は、忠誠心と勤勉さが皆無の馬鹿者達で、城内の変化に対応する気が無いみたいだけど……城に匿われている客の敵だと知れたら、一斉に襲ってくるんだよ!」
「大丈夫よ! 城の兵士ぐらいだったら私の魔法で瞬殺にしてやるんだから!」
その通りだ。
こんな腑抜け共が大挙して現れても、オレ様の鍛え抜かれた筋肉で全員倒してやるんだ!
ビビッてんじゃねーよ。
(パァン!)
「何が瞬殺だ馬鹿者!」
マーニャお嬢さんが大きな胸を反らしやる気を見せていると、突然ウルフが彼女の頬をひっ叩き怒鳴り出す。
「な、何よ……!?」
「お前等が捜しているバルザックは、お父さんを殺した憎い敵かも知れない……だが、この城の兵士が関係あるのか? バルザックが独断で父親を殺し、キングレオ城に逃げ込んだだけだろう! そこで働く兵士に何の罪もないだろう! もし先程馬鹿な事を言ってきた兵士に、娘が居たらどうする…敵を匿った城の兵士と言うだけで、殺すのか!? 父親を殺された娘の気持ちを知らないワケじゃ無いだろう!」
マーニャお嬢さんは叩かれた頬を押さえ驚いている…
オレもミネアお嬢さんも同様だ。
我々の邪魔をする者は皆敵だと考えていた……それが当然だと思っていた。
「ご、ごめんなさい…そこまで考えてなかった…わ……ごめんなさい」
マーニャお嬢さんはミネアお嬢さんに支えられ、か細く呟く様に謝る。
くそっ……お嬢さんの綺麗な顔を叩きやがって……許せねー!
今回は的を射た事を言っているから我慢するが、何時かギャフンと言わせてやる!
オーリンSIDE END
後書き
サマンオサで大きく学んだウルフ君。
頑張って師匠に近づいてほしいね……女癖以外は!
年齢設定
マーニャ:18歳
ミネア:18歳
ウルフ:17歳
オーリン:24歳~28歳(作者的にどうでもいい)
第8話:それは拙いッス!
(ハバリア)
ウルフSIDE
なんとか掴まらずにキングレオ城から抜け出せた。
それなりに情報も仕入れる事が出来たし、まずまずと言ったところだろう。
まぁ……マーニャさんをビンタしてから、オーリンの殺意が鬱陶しいけど。
「確か……この町(ハバリア)の牢屋に、小心者大臣を怒らせた奴が居るんだって情報だよね?」
そう…城の兵士の一人が、大臣の小心者ぶりを笑っており、大臣室の側で大きな爆発音をさせた男を、重罪班としてハバリアにある牢屋へ投獄したという…
「はいウルフさん。その時大臣さんは、大きな音に驚いて王様達の居る隠し部屋へと大慌てで向かったと言います……きっとそこにバルザックが居るはずです!」
城内での説教が効いたのか、マーニャさんもミネアさんも俺に対して尊敬の眼差しで接してくる様になった。
ヤバイ……惚れられちゃったか?
「でも……一体どんな音を立てたんだろう? イオでも唱えたのかな?」
「そんな事をしたら城が壊れちゃいますよ。確かに丈夫な城ですが、イオは強力な魔法ですから……加減したって壁に大穴が開いちゃいますよマーニャさん」
マリー程の威力がない俺のイオでさえ、壁を壊す事が可能なのだから、城内での魔法は論外だろう。
暫く潮風香ハバリアの町並みを探索していると、極悪人を捕らえておく為の施設…ハバリアの牢屋へと辿り着く。
中に入り目当ての人物を捜すと……
彼は“大臣をビビらせた男”として有名で、直ぐに話を聞く事が出来た。
彼が言うには……
『何時も生意気な大臣を脅かしてやろうと、湿気た火薬を爆発させて脅かした』
と言う事らしい。
更に彼は、
『火薬がほしかったら、アッテムト鉱山に行けば手にはいるよ』
と有力情報をくれました。
そんなワケで、早速『アッテムト鉱山』へ行こうと思ったけど、外は既に薄暗く……
危険を冒す訳にはいかないと提案し、今日のところは宿屋へ直行です。
我が儘マーニャさんも、俺の提案を素直に受け入れてくれました。
ビンタ効果的ッス!
町の酒場で食事を済ませ、明日に備えて各自部屋で休む事に。
でも個人的にアレで眠れず、マリーの代わりに右手に活躍して貰おうと思っていたら、俺の部屋にマーニャさんが訪れました。
彼女の露出度の高い恰好は刺激的すぎるので、早く自室に戻ってほしいですねぇ…
「あの……疲れているところ……ゴメン…」
「どうしたんですかマーニャさん? もしかして夜這いッスか?(笑)」
歯切れが悪く何しに来たのか解らないから、下ネタ飛ばして反応を見る。
「よ、夜這い……そ、そんなんじゃ……ただ……少しお話をしたい…な…って、思っただけ……」
あれ? 普段は下ネタ言うと激怒するのに、今回は恥ずかしそうに俯いて困っちゃてるよ!
本当に夜這いなの!?
「あ、あの…マーニャさ「キングレオ城での一件……ビックリしたけど、ありがとう!」
ビンタしたのに礼を言われた!?
この娘、M属性の娘じゃなかったら、この流れはヤバイよ…
「私ね…父さんを殺されて、ミネアを守らなければならなかったから、焦ってたのかもしれないの……だから私達の邪魔する奴は皆が悪で、殺しても気にする必要がないと勝手に考えてたんだと思う」
その考え方が解らないでもない。
俺もサマンオサでリュカさんの言動を見てなかったら、同じ思考で生きてきたはずだから……
でもね……こんな夜中に、瞳を潤ませながら、俺の部屋で二人きり状態で言う事じゃないんじゃないかな?
「ウルフって凄いよね……何時もはチャラく振る舞っているのに、本当は色んな事をしっかりと考えていて、正しい答えを分かっているんだもん」
ううん……コレは全部リュカさんから学んだ事なんだ!
俺が凄いんじゃなくて、俺の師匠が凄い人物なんだよ……だから、瞳を見詰めながら迫ってくるのは止めてくれ!
「あ、あのねマーニャさん……褒めてくれるのは嬉しいけど、夜に男女が二人きりで部屋に篭もって見つめ合うのってヤバくない? 俺には愛している彼女が居るから……」
「でも……ウルフは私と愛人的感覚ならOKって言ったわよね!? 私も……」
あぁ……『取り敢えず喰っちゃえば?』ってリュカさんの声が聞こえる。
うるせー! 今は黙ってろ馬鹿!
そして俺の股間の暴れん坊ソードも静まれっての!
「ダ、ダメですからマーニャさん! 俺にはマリーという可愛い彼女が居て、裏切る事なんて出来ませんから!!」
「………私って魅力ないかな?」
違ーよ…魅力の問題じゃねーんだよ!
ウルフSIDE END
(ハバリア)
オーリンSIDE
何やら奴の部屋から声が聞こえる……
もしやと思い部屋を訪ねてみると、マーニャお嬢さんが奴に接近し話しをしているではないか!?
狙った女の片割れとは言え、そんな浮ついた奴に奪わせる訳にはいかない!
「夜中に何を騒いでいるのですかマーニャお嬢さん!」
ノックも無しに部屋に乱入し、二人の良さげな雰囲気をぶち壊す。
ひょろい伊達男が、オレ様の女に手を出すんじゃねー!
「な、何よオーリン! わ、私はただ……ウルフに魔法を教わろうと思っただけよ!」
「しかしマーニャお嬢さん……夜中に若い男女が二人きりで部屋に篭もるなど……間違いの素ですぞ!」
「そ、そうだよマーニャさん。魔法談義だったら明日の昼間でも良いじゃん。お、俺もう眠いし……今日の所は……ねぇ?」
ちぃ……この期に及んで紳士を気取りやがって!
まぁいい、目的は果たせたのだから。
しかし今後は気を抜く訳にはいかないな。
お前の様な男が居るから、オレ様の様な“真の男”が日の目を見ないんだ!
今回の敵討ちを通して、オレ様の素晴らしさを世間に知らしめてやるぜ!
オーリンSIDE END
後書き
師匠の真似をしてるけど、根本的にヘタレ野郎。
その気になった美女に迫られると、彼女(マリー)の事を考えてしまいタジタジです。
う~ん……そう考えると彼の師匠は凄いね。
だってお構いなしだもん!
第9話:放っておけないッス!
(アッテムト)
マーニャSIDE
アッテムト鉱山………
私の生まれる前にゴールドラッシュを迎え、鉱山の町として栄えたアッテムト。
今は見る影もなく、辺りに毒性の強いガスを撒き散らしている。
「ゴホッ、ゴホッ……何よこの町……息苦しいわね……どうなってるのよ!?」
「私が以前聞いた話ですけど……金が出なくなって随分経ちますが、その間も鉱山を掘り進めており、数年前からガスが噴出し始めたとか……」
私の困惑にオーリンが説明をしてくれる。
そんな事は解っているのよ! どうしてこうなったのかを知りたいのに……
無意味な説明で私の事を子供扱いしやがって!
この間の晩もそうだ……もうちょっとでウルフと良い仲になれそうだったのに!
「あまり長居はしない方が良さそうだな。このガスには毒性が…それも魔属性の毒が籠もっている様だ。目的を達したら直ぐにハバリアへ戻ろう!」
流石はウルフ……このガスを即座に魔族性の毒だと断定した。
格好いいし頭良いし頼りになるし……良いなぁ。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……」
私がウルフに見とれていると、目の前で6.7歳くらいの男の子が咳をしながら苦しそうに蹲る。
何で子供がこんな町に!?
「大丈夫かい君?」
ウルフが咄嗟に少年を抱き起こし、優しい手付きで背中をさすりながら尋ねる。
「う、うん、ボクは大丈夫……それより病院で寝ているお母さんに、お水を届けなきゃ……」
そう言って少年が指差す方には、潰れかけの宿屋が……
ウルフは少年の手を引き一緒に宿屋へと入って行く。
私達もそれにつられ入る事に……
だが、入った事を直ぐに後悔した!
そこは病院なんてもんじゃなく、ただ処置のアテもない患者を寝かし付けているだけの施設。
「これは…酷い……」
皆一様に咳き込み苦しそうに寝込んでいる。
その中に少年の母親らしき人物も……
「ゴホッ……お母さん…ゴホッ、ゴホッ……お水だよ」
少年は手にした水筒から綺麗な水をコップに注ぎ、母親へと手渡し飲ませようと試みる。きっと町から離れた場所まで行き、綺麗な湧き水を汲んできたのだろう……
しかし酷く咳き込む為、折角の水を飲む事が出来ない。
「キアリー」
するとウルフが少年の母親に近付き、背中をさすりながら解毒魔法『キアリー』を唱えた。
途端、彼女の咳が軽くなり、少年の差し出す水を飲む事が出来た。
「あ、ありがとうございます。お陰で大分楽になりました」
「いえ……この魔法は解毒魔法ですが、長期に渡り毒ガスを吸い続けている貴女方には効果が薄いと思われます。一刻も早くこの町から離れる事をお勧めします」
効果が薄い……?
そうなのかしら……でも彼女の咳は収まり、さっきよりは楽になったみたいだけど?
まぁ確かに顔色の悪さは変わらないわね。
「マーニャさん、ミネアさん……申し訳ないけど今すぐ鉱山に入り、目的の物を手に入れて戻ってきてくれ! 俺はその間ここの人達にキアリーをかけて治療しようと思う。完治出来なくても自力で歩ける様になってくれれば、この町から離れる事も出来るはず……空気のまともな場所で、2.3週間養生すれば完治するはずだから、その切っ掛けを与えたいと思う!」
格好いい!!
弱っている人々を見捨てられない優しさ。
颯爽と私達に指示を出し、自分は脇目も触れず治療に専念する……
もうダメだ……こんなに格好いい男は他に居ないよ!
「ではマーニャお嬢さん、ミネアお嬢さん……我々は火薬壺を探しに行きましょう」
私がウルフに見とれていると、オーリンのゴツイ手が私の肩に触れ、この場から離れる様に指示をする。
鬱陶しい男ね……もう少しいい男の姿を眺めさせなさいよ!
マーニャSIDE END
(アッテムト鉱山)
オーリンSIDE
くそぅ! あの野郎め……
ちょっと魔法が使えるからって恰好付けやがって!!
二人とも完全にあの野郎へのぼせ上がっている。
どうせ毒ガスが充満するダンジョンの中に入るのが嫌だったに違いない。
それなのに弱者を助けるヒーローみたいなフリをして、格好を付けただけに違いないんだ!
美女の前だけで格好を付けるチャラ男なんだよ!
キングレオ城でもそうだ……
本来はオレ様の凄さが際立つはずだったのに、あの野郎がマーニャを殴り偉そうに説教を垂れて有耶無耶にしやがった。
今回だって、このダンジョン内の毒ガスとモンスターの前に、奴のヘタレ姿を晒し出す絶好の機会だったのに、上手い言い訳を見つけて回避しやがったんだ!
だがな……今に見ていろ!
火薬壺を手に入れ、大臣を驚かし、バルザックの居場所を見つけたらオレ様の出番だ!
城の兵士達を前に、あのヘタレが何も出来ずにいるところを、オレ様がこの筋肉を駆使して全てを解決させるんだ!
その為の秘密兵器だって持っている。
あとは機会が来るのを待つだけだ……
今の内に美女の視線を集めておけば良い……
最後に頼りになるのは、このオーリン様だと解るはずだから!!
オーリンSIDE END
後書き
オーリンのお陰で、ウルフの格好良さがグングン増しております。
彼にはキングレオ城で大活躍してもらうので、今のうちにパワーを貯めてほしいね。
……今のままでも十分かな?
第10話:大人の事情に巻き込むのは許さないッスよ!
(アッテムト)
ウルフSIDE
町中の人々を病院(宿屋)に集め、キアリーにより解毒治療を終えたところで、マーニャさん達が戻ってきた。
手には壺らしきアイテムが……多分あれが火薬壺だろう。
体中薄汚れ心身共に疲れ切った顔をしている。
でもこの町で休息する訳にはいかない。
目的の物を手に入れたのなら、早々に離れないと身体を壊してしまうだろう。
「皆さん聞いて下さい!」
俺は意を決し大きな声で病院の人々に話し掛ける。
俺に出来る事をするために!
「皆さんには説明するまでもない事ですが、この町は毒ガスで充満しており、まともに暮らせる環境ではありません。俺達は鉱山の中に捜し物があったので参りましたが、それを見つけた今ここに居る必要がなくなりました」
俺は人々の治療を行った為、かなりの信頼を得ていた。
その俺がもう居なくなると言いだし、人々の顔に不安が滲み出る。
だが仕方ない事だ……一生ここに居る訳にもいかないのだから。
「長期に渡り皆さんの身体を蝕んできた毒素を、俺の解毒魔法で治療した為、今は自力で立ち歩く事が可能になったはずです。しかし完全に体中の毒素を除去できたわけではなく、このままこの町に留まれば直ぐに先程と同じ状態に戻ってしまいます」
毒素自体は微量な物なんだ…
綺麗な空気の場所で安静にしていれば、キアリーがなくとも自然治癒力が勝り完治するはずだ。
この町を離れるのが先決だろう。
「俺達はモンバーバラを始め、キングレオなどを渡り歩きて来た冒険者です。俺達と一緒なら、近隣の町へ安全に行く事が出来るでしょう。自力で歩ける様になった今、直ぐにでも町を離れる事をお勧めします。俺達と一緒に行きましょう!」
俺は筋肉隆々のオーリンを前に出し、町の外のモンスターを退けられる事をアピールする。
こう言う時に筋肉ダルマは役に立つ!
オーリンも急に振られて驚いていたが、筋肉を褒められ笑顔で頷いている。
よかったアホで。
「そうは言うが若いの……ワシ等の家族は、あの鉱山で働いて居るんじゃ……彼等を見捨ててワシ等だけで逃げ出すのは……」
やはりそうか……
「ふざけるな馬鹿! お前等老い先短い老人は良い……だがな、まだ幼い子供を巻き込むんじゃない! 金に目が眩んだ愚かな大人の都合で、多様な未来が残っている子供達を巻き込むんじゃない! 馬鹿な大人などに無理強いはしない……が、子供を持つ親には強制的に来てもらうぞ! 子供には親が必要不可欠だ。子供だけ安全な場所に連れて行っても、一人では生きて行けない。親としての最低限の勤めは果たしてもらうぞ!」
そこまで言い切り、一旦口を閉じて皆を見渡す。
殆どの大人が、俺と目が合いそうになると俯き逸らす。
子供なんてそれ程多くない……殆どの人間がここに残るのだろう。
「さぁ、俺達と一緒に行くと言う者は、直ぐに準備してくれ。1時間で俺達はこの町から出て行く……それまでに町の入口に集まってくれ!」
俺は言い終わると同時に踵を返し、病院から出て行く。
そして宣言通り町の入口付近で人々が集まるのを待ち続ける……
仁王立ちで町の方を睨み続け人々が集まるのを待つ。
そんな俺を心配げに見詰める双子の姉妹が横目に見える。
そして呆れ顔のオーリンの顔も……
オーリンのヤツは誰も来ないだろうと思っているのだろう……
確かにそうかも知れない。
だが子供はそんなに多くない。
さっき解毒治療を行った時に確認したが、5人しか子供は居なかった。
以前はもっと居たそうだが、現在は5人……
その親(母親)も確認してあるし、町自体がそんなに大きくはないので、ここに集まらなければ探し出して脅し紛いな事をして説得するつもりだ。
『そんなに子供を殺したいのか!?』って言えば、泣きながらでも来るだろう。
金を掘り当てて金持ちになったって、身体が健康じゃなきゃ意味がないだろうに!
俺には解らん……そこまで金に執着する気持ちが。
ウルフSIDE END
(アッテムト)
マーニャSIDE
格好いい……
初めて会った時はチャラくてヒョロい男だと思ってたけど、良く見れば私より頭一つ大きく、体付きも男らしいのよね。
今も腕を組んで仁王立ちでアッテムトの町を睨んでいるけど、凛々しい顔が堪らなく素敵だ。
はぁ……今なら解るわ。
こんな良い男だもの、彼女が居るに決まってるわよね。
羨ましいなぁ……
どんな女なんだろう?
会ってみたいなぁ……
彼が描いた絵で見る限り美人そうだけど……性格も素敵な女性なんだろうなぁ……
だってウルフが一途に愛する女だもの!
あの晩以来、ウルフは私に対して距離を置く様になった。
嫌われてる訳ではなさそうだから、彼女さんへの愛を突き通そうとしているんだと思う。
もう……この場にいないのだから、取り敢えず愛人感覚で手を出しちゃえばいいのに!
でも、そんな真面目な性格もウルフの魅力なんだろうなぁ……
ウルフ……私、本当に愛人でも良いよ。
マーニャSIDE END
後書き
ちょっとここで、あちゃのドラクエワールドの魔法設定をご説明します。
魔法設定そにょ1。
基本的に蘇生系魔法は存在しません。
ザオリク・ザオラル・メガザル
それからアバカムも存在しません。
リュカ伝2の最後の鍵の件を読んでいただければ察しが付くと思いますが、便利すぎるので存在すると物語(ゲームとしては別)の世界観を壊してしまうと思うんですよ。
そして使用頻度の多い魔法であるルーラ……
これも読者様は解っていると思いますが、基本的に超高位魔法です。
術者1人しか移転出来ない事になってますが、魔法力の巨大なリュカやポピーは、苦労することなく大人数及び大型船も移転する事が可能です。
修業し魔法力を高めたリュリュやウルフは、8~15人くらいの人数なら移転可能ですが、船(乗り物)などが加わると不可能になります。
移動魔法という事でリレミトが原作にはありますが、あちゃの作品には存在しません。
と言うのも、ルーラは高速で空を飛んで瞬間移動するヴィジョンが浮かぶんですが、ダンジョン内を地を這う様に瞬間移動するヴィジョンが思い浮かびません。
すんごく個人的な意見で申し訳ないのですが、そんな理由で禁止です。
でもそのお陰で、洞窟内で閉じこめられてしまうかもしれないという恐怖感は醸し出せて良いんじゃないかな……
レムオルも存在しません。
姿を消せるってヤバいじゃん!
あとザキ・ザラキも、簡単に敵が死んでしまうのでナシ!
敵が唱えてきた場合の対処法が思い浮かばないんだ!
あぁシャナク・ラナルータも存在無し!
理由は面倒だから。
次話、そにょ2へ続く。
第11話:俺なんてまだまだッス
(コーミズ村)
マーニャSIDE
私達は生まれ故郷のコーミズに戻ってきた。
アッテムトでウルフが、町を逃げ出す者を募ったが訪れたのは子持ちの連中だけ……
彼の『子供を巻き込むな』と言う脅しを聞き入れた母親達だけだった。
それでも子供達を救える事実にウルフは満足で、村に着いて直ぐに私達に神父さんや宿屋の女将さんへの事情説明を指示してきた。
暫くの間は養生させ、身体が回復し次第この村で働き生活させようと言うらしい。
ひとまず村の人々へ毒ガス難民を引き渡し、この事態を作り出した張本人を捜す。
すると彼は村の外から戻ってくるところだった。
面倒事を私達に押し付けて、一体何処へ行っていたのか?
「あ、マーニャさん、ミネアさん……村長さん達は何処にいますか?」
「あっちにいるけど………アンタ何してたのよ!?」
別に面倒事を押し付けられて事に怒ってはいない……ただ、勝手にどこかへ行ってしまう事に寂しさと不安が募るだけだ。
「ごめん、ごめん。ちょっとコレを稼いでたんだ。村長さんに渡して下さい」
そう言うと結構な金額のゴールドをミネアに手渡し、村長へ託す様言い付ける。
もしかして外へ出てモンスターを倒してきたのか?
難民達の為に金を稼いできたのか?
「そのお金……どうしたの?」
「いきなり病気の親子を数人託されても、この村の人達だって大変だろうから……何かの足しになればと思って、少しモンスターを倒してきたんだ。さぁミネアさん……早く村長にお金を!」
「は、はい!今渡してきます」
ウルフに言われ、ミネアは慌てて村長の下にかけて行く。
それにしても格好いいわ!
「本当……アンタ格好いいわね」
「止めてくれマーニャさん……俺は尊敬する師匠の真似をしているに過ぎない。あの人に比べたら俺なんかまだまだ……」
「何言ってるのよ! 本来、術者一人しか移転出来ないルーラを使って、あれ程の人数をアッテムトからコーミズまで運んだのはウルフ、アンタなのよ! 十分格好いいわよ」
そうよ……ルーラを使える事だけでも凄いのに、大人数を一緒に移動させるなんて格好良すぎなんだから!
「それこそ俺はあの人に及ばない! 俺の師匠は、今回俺が運んだ人数よりも多い人数を……しかも大型の船を一緒に移転させる事が出来る人なんだ!」
ふ、船を一緒に!?
幾ら何でも……
「そ、尊敬してるからって話を大きくしすぎじゃないの?」
「俺は師匠と一緒に冒険をした事がある。その時にこの目で見たんだ! 俺だって最初に聞いた時は信じられなかったさ。でも本当に大型船ごと移転しちゃうんだもん……もう憧れるしか出来ないよ」
「……その人が捜しているリュカさんって人?」
「うん。俺の彼女の父親で、俺の上司であり、尊敬出来る師匠でもある!」
上司? そう言えばウルフって何の仕事をしているんだろうか?
「まぁ上司としては最悪だけどね! あ……思い出したら腹立ってきた!」
うっ……仕事の事を聞くのは拙そうね。
本気で機嫌が悪そうだわ。
「でも良いの……師匠の娘に手を出しちゃって?」
「本来は拙いんだろうね。でも手を出されたのは俺の方! リュカさんを師事した後で、娘の方に手を出されちゃったんだよ! 尤も今では俺の方も本気で愛しちゃってるけどね♡」
ちっ……ラブラブじゃん!
「師匠さんは許してくれてるの?」
「ああ、だから魔法専行の俺に剣術を教えてくれてるんだ。魔法しか使えないと接近された時にアウトだから、マリーを守る為に剣術も憶えろってね!」
親の公認かよ! 付け入る隙が無いじゃんか!
どうしよう……
今まで口説かれた事しかないから、男の口説き方が解らない……
彼女さんと合流する前に、何とかウルフを口説き落としたいのに!!
マーニャSIDE END
(コーミズ村)
ウルフSIDE
あぁ……マーニャさんが俺を口説こうとしている……
彼女を愛している事や、親に交際を認められている事をアピールしているのに、腕組みするフリして胸の谷間を強調させ、俺に迫ってくるよぉ……
ティミーさんからも色々学べば良かった。
この危機的状況では、リュカさんからの教えは全く役に立たず、状況を悪化させる事しか見込めない。
この場面でティミーさんだったらどうやって切り抜けたのだろう?
……………ダメだ!
童貞時代の青臭い彼しか思い浮かばず、ただ顔を赤くして『や、止めてください! ぼ、僕はそんなふしだらな事出来ません!』って狼狽えるだけだろう……使えねーな!
「ウルフさーん! 村長さんにお金を渡してきましたよー!」
尊敬する義父と、尊敬する義兄の事に思いを馳せていると、ミネアさんが先程の金を渡してきたと報告しながら駆け寄ってくる。
ついでに筋肉馬鹿を引き連れて。
「ふん! 面倒事を俺達に押し付けて、何処に行ったのかと思えば……泥棒でもして金を集めていたのか?」
めんどくせー男だな。
俺が姉妹の注目を集める事が本気で嫌らしい。
「ははは……俺は美女のハートしか盗まないゼ!」
しかも、もっとめんどくせーのは俺の体質だ!
リュカさん語録から丁度良い物をチョイスして、ニヒルな笑顔で言ってしまう。
この場合、リュカさん語録からの引用は危険が伴うのに!
チラッとマーニャさんを見ると……
案の定ウットリと見とれているではないか!
今こそ青臭童貞語録からの引用が最適だったのに!!
「そ、そんな事より……火薬壺も手に入れた事だし、明日は早速キングレオ城へ赴き、大臣を驚かしてバルザックの居場所を見つけだすんだろ? だったら今日はこの村で休み明日に備えようぜ。朝一に俺がルーラでキングレオ城まで連れて行くから、ゆっくり英気を養おう!」
ネチネチ五月蠅そうなオーリンと、ムンムン迫ってくるマーニャさんを振り切って、宿屋へと向かう俺。
姉妹は実家で休むと思われるし、宿屋なら難民達が養生しているからオーリンも黙るだろうし、明日の朝までは平和に過ごせそうだ。
自家発電は出来なさそうだけど……
ウルフSIDE END
後書き
前話に引き続き、あちゃのドラクエワールドの魔法設定をご説明します。
魔法設定そにょ2。
存在する魔法で特殊設定なのは、ドラゴラム・モシャスです。
ドラゴラムはリュカ伝2で説明した通り、術者の能力を何十倍にもする効果があり、パワーアップを謀れる魔法です。
でもドラゴラム作用中は他の魔法を使用出来なくなる欠点もあり……まぁリュカさんだったら関係ないけどね。
そしてモシャスは、外見及び声を真似するだけの魔法です。
つまり、術者は真似した相手の能力を引き継ぐ事はないのです。
ものまね王座決定戦に出れば優勝出来るけど………あまり意味はないね。
パルプンテは存在しますが、超レア魔法なのでルラフェンのベネット爺さんが伝授する以外に、得る方法はありません。
解っている限りでリュリュが使えます。
因みにリュカも教わりましたが、リュカ的に「使えない魔法」と言う事で使用する意志ナシです。
なおリュカがパルプンテを伝授された記述はありませんし、書く気もありません。何より使わせる気もありませんのであしからず。
説明の必要は無いと思いますが、一応……
勇者のみが使える「思い出す系」と「忘れる」はありません。
あとの魔法は原作通りです。
トベルーラ(ダイの大冒険)は存在させません!
飛びたいのなら舞空術を憶えて下さい。
ユキアン様、こんな感じを参考にして下さい。
ウルフはそにょ1.2を基準に、DQ3の賢者の魔法を使えます。
第12話:俺、インテリなんッスよ!
前書き
皆様お待たせ致しました!
我らのオーリンが大活躍致しますゾ!
(キングレオ城)
マーニャSIDE
私達は予定通り早朝に集まり、ウルフのルーラでキングレオ城へ訪れる。
以前にオーリンが壊した扉から再び侵入し大臣の部屋へ!
ソッと中を覗いてみると、ナイトキャップを被ったオッサンがベッドで眠ってるのが見える。
全く愉快にならないシーンだが、誰も居ない部屋の前で大きな音を出しても意味がないからね。
火薬壺を部屋の前に置き、私達は死角へ身を隠し、ウルフのメラで爆発させる。
“ドカーン!!”という大爆音と共に火薬壺は破裂し消え去った!
だが付近の壁には多少の焦げ跡だけで破壊された形跡はない。
鉱山用の火薬としては意味無いが、脅しに使うだけなら最適だ!
(バタン!)
私が火薬の性能について考えていると、大臣が部屋から大慌てで出てきて、情けない恰好で逃げ出して行く。
ナイトキャップに可愛いパジャマという姿で……
「よし……後を付けよう」
愛らしい姿の大臣に笑いを堪えていると、ウルフが真剣な声で指示を出してくる。
何度も言うが……惚れる。
広い城内をあたふたと逃げ出す大臣……
その後ろから追う私達。
物陰に姿を隠さなくても大臣は後ろを振り向かないので気付かれない。
暫く後を付けると、大臣が周囲を気にし始める。
流石に物陰に隠れる私達……
この付近なのだろうか?
「ん? あそこの壁……良く見るとスイッチになってるぞ!」
いち早く気付いたのはウルフ。
そして大臣がそのスイッチを押し、壁に隠し部屋への扉が出現する。
「あそこにバルザックが隠れているのですね!?」
「多分そうだと思いますよミネアさん……」
物陰に隠れての内緒話……ミネアとウルフの顔が近くてヤキモキする。
「では早速乗り込みましょうぞ!」
突如大きな声で指示を出したのはオーリン。
ビックリするじゃない!
マーニャSIDE END
(キングレオ城)
ウルフSIDE
突然大きな声を出したと思ったら、そのままの勢いで隠し部屋に突入する筋肉馬鹿。
おいおい……中の状況も解らないし、作戦を立ててもいないのに勝手に突入するなよ。
そんなに二人に対してアピールしたいのか!?
「あ、オーリン! 待ちなさい……一人じゃ危険よ!」
思わず反応してしまったのが面倒見が良いマーニャさん……
オーリンの後を追う様に突入して行く。
オーリンだけだったら、シカトしても良いかなと思ったけど、マーニャさんを危険に晒す訳にはいかない。
仕方ないのでミネアさんと頷き合い、俺達も隠し部屋へと入って行く。
あぁ……済し崩し的に不審者になってしまった。
「バルザック! 遂に見つけたぞ……お師匠様の敵、この場で取らせてもらう!」
中にはいると、多分オーリンによって殴り倒された兵士2名と、パジャマ姿で震える大臣……それと玉座らしき椅子にふんぞり返る男の姿が目にはいる。
どうやらここが玉座の間らしいが……
「ほぅ……筋肉馬鹿なオーリン先輩とエドガンの娘達ではないか!? 私が見逃してやったのに殺されに来たのか?」
あの男がバルザックらしい……
しかし何で玉座に座っているんだ?
「バルザック! 覚悟しなさい……父さんの敵、この場で討ってやるんだから!」
「口を慎め卑しき者共よ! 私はバルザック……キングレオの王、バルザック様だぞ!」
「何を言ってやがる! キサマがキングレオの王になれる訳ないだろう!」
「ふふふ……脳味噌まで筋肉のお前には理解出来まい。エドガンが見つけだした“進化の秘宝”により、私は強さを手に入れたのだ。そしてこの国の王として、今現在君臨している! ふはははは、エドガンも愚かよ。進化の秘宝を封印しようとしなければ、私に殺される事もなかっただろうにな!」
まだ解らん!
何故に強さを得ただけで、一国の王になれるんだ?
それに“進化の秘宝”で強くなるって……どういう事?
「ゆ、許さない! そんな理由で父さんを殺したの!? お、お前なんか殺してやる……イオ!」
“ドカーン!”という音と共に玉座に座るバルザック目掛けマーニャさんのイオが炸裂する。
考え無しの魔法の為、辺り一帯を煙が舞い、敵の姿を目視出来ない。
「くっくっくっ……進化した私の恐ろしさを、どうやら味わいたいらしい。良かろう、王となったバルザック様の力、キサマらの身体に教え込んでやるわ!」
煙が晴れたと同時に現れたのは醜く凶悪そうな姿に変身したバルザックだった。
……つか、多分バルザックだろう。
だって変身した所は見てないけど玉座の前に佇んでいるし、同一人物だと思うよ。
少なくとも声は同じだからね。
「偉そうな事言って……私のイオで既にダメージを負っているじゃない! アンタなんか簡単に倒しちゃうんだから!」
そうなのだ、先程のイオで既に深手を負っている化け物バルザック。
あんまり強くはなさそうだ。
「くっくっくっ……この程度の傷など何でもないわ! ベホマ」
あ、ヤバイぞコレは……
よりによってベホマを使ってきた。
速攻で倒さないと危険な状況になっちゃうな。
「くらえ、ギラ!」
「「きゃぁ!」」
今度はギラを使ってきた。
厄介だな……しょうがないから俺も出張るか! ……っとその前に、
「ベホマラー」
「「「「え!?」」」」
俺はギラでダメージを負ったみんなの傷を瞬時に癒し身構える。
「凄い……こんな高位魔法まで使えるなんて……」
「言ったでしょミネアさん。俺は魔法を専行しているの! 魔法での戦いだったら、そう簡単に負けやしない」
あぁ……マリーがこの場に居れば『ウルフ格好いい♡』とか言って、今夜はラブラブウハウハなのになぁ……
「バルザック、キサマの負けだ! 喰らえー」
俺が愛しのマリーを思い出していると、突如オーリンが叫びだし何かを掲げて使用した。
眩い光が周囲を照らす。
だがしかし何が起きたのか全く解らない。
「それが何だと言うのだ?」
今回はバルザックと同意見だ。
今更ながら馬鹿だ……何だか良く分からない事をしてくるよ。
「ふん…キサマもお師匠様から聞いているだろう。『静寂の玉』の事を……」
「せ、静寂の玉!?」
何だ? 俺やリュカさんの玉は、静寂とは縁遠いぞ!
「お、おのれ……ギラ!」
思わず身構えたが、バルザックの発したギラは発動しなかった。
どうやら『静寂の玉』とは、マホトーンの効果があるアイテムらしい。
そんな物に頼らなくても、俺はマホトーンを使えるのに。
「くっ……だがしかし、ピンチになったのはそちらではないのかな? 私は憶えているぞ……静寂の玉の効果は広範囲に渡り持続するとな!」
え!?
そ、それって……もしかして……
「メラ!」
俺は慌ててメラを唱える……
しかし火の玉は発動ぜず、虚しく俺の声が響き渡った。
血の気が引くのを感じたよ……“大ピンチなんじゃね?”ってさ!
「こ、この筋肉馬鹿が!! お前解ってるのか!? 俺達のパーティー構成が魔法戦中心であるのを! 魔法を封じられたら、戦力が激減するって事を!!」
まさかの大ピンチに思わず激怒する!
筋肉ダルマの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす!
「黙れ! こんな裏切り者などオレ様の筋肉だけで片付けてやる! そんなに目立ちたいのなら、その剣を使って活躍してみろ!」
「このバカタレがぁ!! 俺はインテリなんだよ! お前と違って頭を使って生きているんだよ! 弟分が裏切りそうになっているのに、気付きもしない筋肉馬鹿とは出来が違うんだよ!!」
「黙れー! オレ様を侮辱する事は許さんぞ!」
あまりの馬鹿ぶりに激怒し怒鳴りまくっていると、ブチ切れたオーリンが俺の鳩尾に強烈なボディーブローを入れてきた。
防御魔法を唱えてなかった俺にとって、その一撃は痛恨であり、アバラを数本折られて意識が遠退く……
な、何で味方に殴られてんだ……?
ウルフSIDE END
第13話:何か不利ッスね!?
(キングレオ城)
ミネアSIDE
「黙れー! オレ様を侮辱する事は許さんぞ!」
「うっ………」
オーリンさんに腹部を殴られ、そのまま崩れ落ちるウルフさん……
酷い……私達味方同士なのに!
「ふはははは……味方を攻撃し、更に戦力を減らすとは。相変わらず愚かな男だ」
「黙れ! お前なんぞオレ様一人で十分だ!」
怒りで我を忘れているオーリンさんは、凄い勢いでバルザックに殴りかかって行く!
火を吐かれ反撃を受けても怯むことなく、オーリンさんはバルザックを攻撃し続ける。
その間に私と姉さんは気絶したウルフさんの側に近付き、回復を試みるが……やはり魔法を封じられているらしく、ホイミを唱える事が出来ない。
ただ姉さんと二人、ウルフさんを抱き締めオーリンさんが勝つ事を祈るしかできない。
暫くオーリンさんとバルザックの激闘は続いた……
双方とも傷だらけになり、泥沼化の様相を呈してきた頃……
突如、部屋の奥の闇から複数の腕を持つ巨大な獅子の化け物が姿を現す!
「情けない姿だなバルザック! それではこの国を託した意味がないではないか!」
「キ、キングレオ様!」
キングレオ!?
ではあの化け物がこの国の本当の王!?
「も、申し訳ございません! 魔法を封じられてしまい……」
「言い訳をするな! ……まぁ良い。デスピサロ様に報告し、進化の秘宝を改良して頂こう。その為にはキサマにはまだ死なれる訳にはいかぬ! 余がお前達の相手をしてやる……覚悟するが良い!」
言い終わると同時に、4本もある太い腕を振り下ろし、傷付き疲れ切っているオーリンさんを吹き飛ばし気絶させる。
そして私達に向き直ると、少しずつ近付いてくる……
どうしよう……魔法の使えない私達に、オーリンさんを一撃で吹き飛ばす化け物に勝てるはずがないわ。
しかし何もせずに殺される訳にはいかない……
私は銅の剣を握り締め、戦おうと決意する……が、
「待って! 私達はキングレオ様に歯向かうつもりはございません! 憎きバルザックを倒す為、この城へ忍び込んだだけです。どうか私は兎も角、他の者はお許し下さい!」
私の腕を力強く押さえ付け、姉さんが恭しく頭を下げる。
何故こんなヤツに頭を下げるの!?
「ほぅ……お前は物分かりが良さそうだな。………良いだろう、お前に免じて今は殺さないでおいてやる。だが何れは進化の秘宝の実験台になってもらうがな!」
そこまで言い終えるとキングレオは兵士達を呼び寄せ、私達を牢屋へと連れて行かせた。
ただキングレオは、城の警備体制に激怒していたらしく、兵士達を怒鳴りつけお説教を行ったのだ。
その為か、私達を連行する兵士達が、手荒く扱ってきた為、私も姉さんも……気絶しているウルフさんもオーリンさんも、牢屋の壁に叩き付けられました。
とても痛くて涙が出てしまいます……
ミネアSIDE END
(キングレオ城-牢屋)
マーニャSIDE
乱暴に牢屋へと放り込まれる私達……
「うっ……うっうっ……」
「ゴメンねミネア……こうするしかなかったの」
壁に叩き付けられ泣き出したミネアを抱き締め、私は現状を謝り言い訳をする。
「い、いや……ナイスな判断だったよマーニャさん……」
すると意識を取り戻したウルフが、辛そうに腹部を押さえながら上半身を起こし話しかけてくる。
彼を巻き込んだのは私達の所為……本当にごめんなさい。
「あのまま戦っていても、全員殺されていただろう……投獄されたとは言え、生きていればチャンスはある」
ウルフは喋るのも辛そうだが、私達を励ますと両手を翳しベホイミで回復してくれた。
どうやら此処までは静寂の玉の効力も及ばないらしく、魔法を使う事が出来るらしい。
「あ、ウルフさんの傷は私が……」
「止めてくれミネアさん!」
壁にもたれ私達の傷を癒してくれたウルフに対し、せめて彼の傷は自分が治そうと思ったミネアは、彼に近付きホイミを唱えようとするが何故だか拒絶される。
「気持ちは嬉しいけど、今俺のアバラは折れているんだ。この状況でホイミをかけると、アバラが曲がった状態のままくっついてしまい、一生治らなくなる……時間をかけてアバラを元の位置に戻し、安全になってからじゃなきゃホイミは出来ない」
そう言えばウルフと出会った時に、私達を襲った奴相手に腕を逆にくっつけてたわね……
ホイミ系ってそんな弱点があったんだ!?
回復魔法は使えないから知らなかったわ。
ウルフみたいに強力な攻撃魔法と、高位な回復魔法を使える人物にしか解らない事なのかもね。
「ウルフ……ゴメンね、アンタをこんな事に巻き込んでしまって。謝っても許される事じゃないけど……ごめんなさい」
「マーニャさん……俺は自らお二人に付いていったんだよ。それよりも過去を悔やんでないで、脱出の方法を考えなきゃ!」
「その若いのの言う通りじゃよお嬢さん……」
ウルフが私達を気遣ってくれていると、突如牢屋内の端の方から弱々しい声が聞こえてくる。
どうやら同じ牢に閉じこめられた先客が居たらしい。
薄暗くて気が付かなかったわ。
「あの……ご老人、貴方は?」
ウルフが苦痛に耐えながら、先客の老人に話しかける。
礼儀正しく、何時ものチャラさは微塵もない。
余裕がないんだなぁ……
「ワシは…キングレオ。この国を治めていた国王じゃった男だ」
マーニャSIDE END
後書き
ウルフ、活躍の間もなく敗北!
敗因は味方の馬鹿さ加減か!?
明日の一面はこの見出で決まり!
第14話:秘策発動ッス!
(キングレオ城-牢屋)
「ワシは…キングレオ。この国を治めていた国王じゃった男だ」
閉じこめられた牢屋の先人の言葉に、唖然と固まる一同。
何故に元国王が投獄されているのか……
「さっき化け物に成り代わったヤツが『自分はキングレオだ』って言ってたわよ! アイツとはどんな関係なの!?」
みんなを助ける為、涙を飲んで降伏を決めたマーニャが身を乗り出して老人に尋ねる。
「あれは……ワシの息子じゃ……」
この一言から始まった老人の告白……
それはキングレオ王国を混乱させ、進化の秘宝を実験する魔族の策略だった。
マーニャとミネアの父…エドガンが偶然にも進化の秘宝を発見した事が全ての始まり……
その恐ろしさに気付いたエドガンは、誰にも気付かれぬ内に闇へ葬ろうと考えたのだが、魔族の王デスピサロに気付かれてしまう。
デスピサロに唆された二番弟子のバルザックは、進化の秘宝を奪い予てより魔族に従属していたキングレオ王子の下に迎合する。
そして数々の人体実験を繰り返し、ある程度の成果を得たところで自分達を進化させ化け物へとパワーアップを謀る。
それに気付いた元キングレオ王は、王子の暴走を停めるべく兵士を伴い武力制圧に出たのだが……
パワーアップしたキングレオ王子とバルザックの前に、敢えなく返り討ちにあいこの牢屋へと投獄されたという……
王子は進化の秘宝の完成度を上げる為、バルザックに王位を任せ各地から呼び集めた女性達を使い、人体実験を繰り返し続けた。
そこに現れたのがマーニャとミネアの姉妹と、二人を助けるウルフとオーリンだった。
進化の秘宝を使ったのに、人間如きに敗れたバルザックは、再度の進化をする為に更なる実験を続けるだろう……
そしてその矛先は、彼女等に向けられる事間違いない。
(キングレオ城-牢屋)
ウルフSIDE
「お若いの……こ、これを……」
キングレオ王国に纏わる現状を話し終えた元国王は、懐から小さな紙を取り出し俺に手渡そうと腕を伸ばす。
まだまともに動けない俺を見たミネアさんが、俺の代わりに紙を受け取り手渡してくれた。
「こ、これは……?」
「それはハバリアから出る船の乗船券じゃ……最近では海もモンスターの所為で荒れ、出港する船の数も激減しておる。何とかこの牢屋から逃げ出し、船に乗ってエンドールへ行けば、この国の者には追って行けないじゃろう……」
「だ、だがなジイさん……此処から抜け出す事が出来るのか? それが出来なければ、こんな紙切れは意味無いだろう!」
何時の間にか意識を取り戻したオーリンが、折角行為でくれた乗船券にケチを付ける。
「お前は黙ってろ! お前が後先考えず変なアイテムを使うから、俺達はこんな所に閉じこめられてるんだぞ! しかも俺を動けなくしたのはお前だと言う事を忘れるな!」
「う…ぐっ……」
俺の怒りが籠もった台詞に、何も言えなくなる筋肉馬鹿。
「でもウルフ……此処から抜け出すのは大変そうよ! 何か考えがあるの?」
「分からないけど……やるしかない!」
正直あまり奨められない作戦だが、取り敢えずはやるしかないだろう……
兎も角外に出られれば、俺のルーラで逃げ出せるのだから……
「オーリン……骨は折れてないか?」
「オレ様はそんなヤワに出来ていない! お前と一緒にするな!」
ムカツク奴だ……ぶっちゃけどこか折れてたほうが俺としては鬱憤を晴らせたのに!
「ベホマ」
淡い光がオーリンを包む。
何で俺がコイツを回復せねばならないんだ!?
「お、おい……一体どういう事だよ!?」
「さ、作戦を説明するから黙って聞け! これから俺のベギラゴンで、この牢屋の鉄格子を溶かし脱出する。俺はアバラが折れているうえ、内蔵の損傷が激しく立ち上がり歩く事が出来ない……ベギラゴンを唱えたら、激痛で気絶するかもしれない」
「けっ…情けない男だな!」
「黙ってなさいよオーリン! アンタがウルフを殴ったんでしょ! アンタだけは言っちゃいけない台詞よ!」
「うっ……くそっ!」
マーニャさんに叱られふて腐れる筋肉馬鹿。
この状況を無事切り抜けても、マーニャさんとの仲は絶望的だな。
まぁ最初から眼中になかったみたいだけどね(笑)……あぁ笑うと痛い。
「続きを話すぞ……鉄格子が溶け逃げ出せる様になったら、俺を担いで此処を出て行こう。陛下……貴方はどうされますか? 我々と共にエンドールへ逃げ出しますか?」
「……気付いたか若いの。ワシが逃げ出す気のない事に」
やはりそうか……彼は自らの不甲斐なさを贖罪する為、この場に残って死のうとしている……
「俺が元気でしたら、引きずってでも貴方をお連れするのですけどね……」
悲しい声で呟き俺は姉妹に目で訴える……“陛下を連れ出してはいけない”と……
優しい二人は涙を流して了承する…ただ黙って頷くだけだが。
「おいウルフ……俺達がお前を連れて行くとは限らないぞ! 俺の所為かもしれないが、歩けないお前は足手纏いだ! 一人でも逃げ出せる確率を上げる為に、置いて行くという選択肢もあると思うがな!」
そんな選択肢を考えているのはお前だけだろう。
「だからお前は馬鹿なんだ! 俺はルーラを唱えられるんだぞ……10人程度なら一度に移動させる事が出来るルーラを唱えられるんだぞ! 何とか外に出れば、ルーラを使って即座にハバリアまで逃げられるんだ! この方法が一番生き延びる確率が高いと思うがね!? お前には他に作戦があるのかよ馬鹿!」
「こ、この野郎……言わせておけば……」
ナワナワと身体を震わせて立ち上がり俺を見下ろすオーリン……
しくじった、ついムカツクから言ってしまったが、動けない俺ってばピンチじゃん!
「オーリンさん! それ以上ウルフさんに近付く事は許しませんよ……貴方は私達の足を引っ張るばかりで、何の活躍もしてないじゃないですか! バルザックすら討てなかったのは貴方が魔法を封じた所為なんですからね。もう少し自重して私達に協力してください!」
これは効いたな……
普段大人しいミネアさんから、かくも辛辣な言葉を浴びせられ黙り俯く筋肉ダルマ。
今後は大人しくなってほしいもんだ。
「分かったよ……じゃぁ俺はお前を担いで逃げ出せば良いんだな?」
「いや……牢屋から逃げ出せても、外に出るまでに兵士達が大勢居るはずだから、そいつ等を払い除けてほしい。俺を担いだままじゃ、まともに戦えないだろ? マーニャさんとミネアさんでは、大勢の兵士を相手するなんて大変だから……アンタなら城の兵士如きに遅れを取ったりはしないだろ。その筋肉を存分に活躍させてくれ!」
「……なるほどな。良いだろう、オレ様の活躍を見せてやる!」
散々貶めるだけ貶めて、重要な場面で活躍の場を与える……
単純馬鹿には効果的な手段だ。
「あぁ頼むよ……それと、さっきは言いすぎた事を謝る。すまなかった……」
トドメの一言だ。
活躍の場を与え、実は頼りにされていると思わせれば、自らを犠牲にしてでも活躍しようとするだろう。
こう言う腹黒いやり取りは嫌いなんだけど……
貴族達の相手をしてきた所為で身に付いてしまったなぁ……
ハツキが見たら悲しむだろうな。
ウルフSIDE END
後書き
次話は4章に最終回です。
あの娘が登場します。
「ライアン様、あの娘って誰の事ですかね?」
「さあな……私の事ではないだろう!」
第15話:いざエスケ-プッス!
(エンドール行きの船上)
マーニャSIDE
私達は悲しみに暮れエンドール行きの船に揺られている。
キングレオ城ではウルフの作戦通り、何とか牢屋を抜け出せたが……
彼の予想通り外に出るまでが困難で、大勢の兵士等に囲まれ絶体絶命に陥った。
しかしオーリンが……『マーニャお嬢さん、ミネアお嬢さん……この場は私が食い止めます! ウルフを…そのいけ好かない優男を連れて逃げてください……お二人が逃げ切ったのを見計らって私も逃げ出しますから!』と、自らを犠牲に私達を逃がしてくれた。
きっと助からないだろう……
そう思うと彼には酷い事を言いすぎた様で堪らない気持ちになる。
狭い船室のベッドで眠るウルフを見詰め、止め処なく涙が溢れ出してくる。
骨折の影響で高熱を出し、ルーラで私達をハバリアまで運んだ後、そのまま気絶したウルフの看病をしながら、泣いてる私の手を握り寂しく微笑んでくれるミネアが愛おしい。
あぁウルフ……早く元気になってよ。
貴方の笑顔を今すぐ見たいわ。
マーニャSIDE END
(ハバリア港)
ビビアンSIDE
遂に到着した新天地ハバリア……
エンドールの武術大会で、私が男である事をバラされた為、逃げ出す様に船に乗り込み新たなる人生を歩む土地へやって来た私。
船で仲良くなったマリーちゃんと一緒に、女子らしくキャピキャピはしゃいで下船する。
彼女は人を捜してこの地まで来たらしく、下りて早々人々に話を聞き回っている。
何でも家族とはぐれてしまったらしいが……
一緒に旅をしているメンバーが変なのだ。
一人は厳つい髭を生やしたピンクの鎧を着た戦士風のオッサン……
もう一人……って言うのか、もう一匹は何とモンスターのホイミスライム!
マリーちゃん曰く『ホイミンは良い子なのよ。人を襲ったりしないから怖がらないにでね♥』って事なのだけど……
やっぱり怖いから近寄らない様にしている。
「えー!? じゃエンドール行きの船は、私達が乗ってきた船と入れ替わりで出港した船で最後なのぉー!?」
何やら港の人達と話をしていたマリーちゃんが、ガックリと項垂れ此方へ戻ってくる。
どうしたのだろう?
「マリーちゃん……どったの?」
「ビビアンちゃん……私の知り合いらしき人物が乗った船が、既に出港しちゃったらしく……入れ違いでエンドールに行っちゃったの……こんな事なら船に乗るんじゃなかったー!」
まぁ、アンラッキー!
「じゃぁ再度船に乗ってエンドールへ帰っちゃうの?」
「ううん……それがこの国から出港する船は、もうないらしいの……何でも国王暗殺があったらしく、キングレオ領内は鎖国するって話! キメラの翼も王家が回収しちゃったんだって!!」
「しかし国王暗殺とは……物騒な事ですな! 我々としてはそこら辺も調べ、勇者様の足取りを追わねばなるまい!」
「ああそうですか……頑張って」
私この男苦手……お堅そうなのよねぇ……
男が堅いのは一部だけで良いのに♥
「あ、ヤベェ……あのウソを真に受けたままだったわ……」
ヒゲ戦士の熱い闘志に、小声で何かを言うマリーちゃん。
何やら後ろ暗い事があるらしい(笑)
詳しくは解らないけど、何か面白そうだし一緒について行こうかな?
新天地で素敵な彼氏が見つかるまでの間、マリーちゃん達と一緒に冒険してみようかな?
本当は武術大会で優勝し、興味ないけど姫と結婚して王位を継いだら、マッチョメンを集めたハーレムを築く予定だったの。
だけど筋肉姫(あとセコンドのターバン男)の所為で夢が叶えられなかったし、この土地で冒険しながら一生の伴侶を捜すのも良いかもしれないわよね!
うん。マリーちゃんと一緒にいると楽しいし、取り敢えず一緒に行こ~うっと!
ビビアンSIDE END
(エンドール行きの船上)
ウルフSIDE
俺は目を覚ます。
まだ腹部に痛みを残したままだが……
ゆっくり目を開け周囲を確認する。
「……!?」
思わず叫びそうになる……俺の隣では裸のマーニャさんが寝息を立ているではないか!?
腹部の激痛のお陰で、間一髪大声を上げずに済んだが……
慎重に起きあがりベッドから抜け出して腹部を確認する。
どうやら骨は元の位置に戻った様だ。
どのくらい気を失っていたのだろう?
最低3日は経つだろうな。
俺は内臓の損傷を直す為、自分の腹部にベホマをかけた。
よし! これで主導権を握る事が出来る。
裸のマーニャさんが隣で寝ていただけで大声を上げて驚いていては、今後の主導権を握れないからね。
青臭い頃のティミーさんを見ていれば良く分かる。
フッとベッド脇の床に目をやると、ミネアさんが毛布にくるまり眠っている。
これはどういう状況だ?
ベッドで寝るのはマッパの姉……愛しの妹は床で寝る。
月明かり差し込む船室で、俺は交互に姉妹を眺めて考える。
「ん……お目覚めですかウルフさん?」
すると目を覚ましたミネアさんが、気遣う様な視線で話しかけてくる。
やはり床では熟睡は出来ないのだろう……
「ご心配お掛けしました。俺はもう大丈夫なんですけど……この状況が飲み込めなくて」
俺は怪我していた部位を両手で軽く叩き、自らの魔法で完治させた事をアピールして、お二人の位置関係を尋ねてみる。
「あ、ご説明しますと……ウルフさんの作戦のお陰で、私達は無事船に「いえ……キングレオ領から逃げ出せた事は推測出来るんですが……ミネアさんが床で寝ていて、マーニャさんが俺の隣で裸な事が意味不明なんです」
だが真面目な性格のミネアさんは、俺が“キングレオからの逃亡経緯”を尋ねたと勘違いし、親切に説明しようと立ち上がった。
しかし俺は知っている……城から逃げ出すのが困難で、オーリンが自らを犠牲にしてお二人と俺を逃がした事。
何とか外に出て、俺がルーラを唱えハバリアまで逃亡できたこと。
そしてルーラの影響で俺の内蔵に負荷が掛かり、激痛で気を失った事など……
「あぁ……これはですね、只今姉さんの服は洗濯中なんです。私達慌てて逃げ出してきたので、ウルフさんの剣以外の荷物は回収出来なかったんですよ。だからエンドールに着くまでの間、服が1着しか無くて……昨晩は私の服を洗濯したので、ウルフさんの隣で裸になって寝てたんですよ(笑)」
なるほど……確かに牢屋から抜け出した時、最初に遭遇した兵士が戦利品とばかりに俺の剣をぶら下げていたので、オーリンが一撃で伸し回収する事が出来たが……
彼女等の荷物は何処に保管されたのか分からないから、探し出す事すら出来なかったし、そんな余裕も無かったな。
何より保管されているのかも分からないし。
「なるほど理解出来ました。てっきり『何時でもどうぞ♥』って意味かと思って考えちゃいましたよぉ(笑)」
「何時でも……? それは一体……?」
あぁそうだ……この女に下ネタは危険なんだった。
「いえ……何でもありません。それより俺はもう大丈夫ですから、ミネアさんもベッドで寝てください」
俺は剣を腰に下げ、きっと気絶中に洗濯してくれたのだろう綺麗なマントを羽織り、夜の海を眺めに船室から出て行く。
月明かりを浴びながら、何処にいるのか分からないマリーを考え黄昏れよう。
でも……リュカさんと合流出来たら必ず戻るぞ!
キングレオに戻って仕返しをしてやる!
あんな美女二人を悲しませた奴等を許しはしない!
ウルフSIDE END
(エンドール行きの船上)
深い悲しみの中、モンバーバラの姉妹と異時代の達人ウルフ達は、エンドールへの航海を続けて行く。
熱い決意を胸に秘め、はぐれた家族との再会を思い描きつつ……
そしてミネアのみが勇者の存在を新天地に感じながら。
蛇足だが……
翌朝ベッドで目覚めたマーニャは、隣で寝ているであろうウルフに目覚めのキスを行い、ミネアの悲鳴で我に返る。
夜中に入れ替わった事を知らない彼女は、妹に舌を絡ませたキスをしてしまったのだ……
「私……姉さんに愛されているとは感じてましたけど……そう言う意味でだったんですか?」
「ち、違うわよ! だって……隣はウルフだと……その……ね、寝ぼけただけなんだから!」
裸のまま慌てるマーニャを眺め“美人双子姉妹によるディープな百合劇場”ってのも乙かな? と思いを馳せるウルフ。
彼等の冒険はまだまだ続く……
勇者と合流し家族と再会し、受けた借りはキッチリ返す冒険の旅はこれからなのだ。
第4章:モンバーバラの姉妹は狼と行く 完
後書き
やっと4章も終わりました。
そして次話は遂に勇者様の登場です。
リュカ家の面子もビアンカとリューノを残すのみ……
勇者の性別やビアンカとリューノのどちらが登場するのかは、次回までの秘密ですけど……
勇者の性別は連載開始前から決めておいた事ですので、皆様大目に見てやってください。
「第5章:導かれし者達…トラブルを抱える」は6/10の0時1分掲載です。
お楽しみに!
第1話:迷子の美少女リューノです
前書き
皆様お待たせ致しました。
第5章の始まりです。
サブタイトルを見ればお分かりと思いますが、リューノ(スノウの娘)が登場します。
姉のリューラや妹のマリーに比べたら、遥に戦闘能力は低いです。
でも気位だけは一人前♥
(山奥の村)
シンSIDE
俺は初めて大好きなシンシアにキスをした……
バトウさんの剣術稽古を終え、丘の上の花畑で疲れ切っていた所にシンシアが近寄り、可愛い笑顔で『今日もお疲れ』って言われました。
だから俺は『シンシアの笑顔を見たら疲れも吹っ飛ぶよ』って真顔で言ったら、シンシアが顔を赤らめて顔を近付けてきたので、我慢出来ずキスをしちゃいました。
俺の名前はシン。
この名も無き村以外、外の世界を知らない見習い剣士。
優しい父さんと母さんに愛され、厳しいけど頼りになる剣術師匠バトウさんと、この村の長老でもある魔道士エイコブさんに指導を受け育ってきた。
そして大好きなシンシア……
彼女はエルフと言われ、俺達人間とは違うらしくエイコブさんでも使えない魔法を使う、凄く可愛い少女だ。
何時も俺を子供扱いするのが玉に瑕だけど、可愛いから許せてしまう愛嬌がある。
俺は彼女から唇を離し、綺麗な青い瞳を見詰めて囁く……
「シンシア……大好きだ……」
シンシアは俺の言葉に頷き、頬を染めながら囁き返す……
「私もよシン」
俺にとってシンシアが人間であるかないかは関係ない!
大好きなシンシアであるのだから、それ以外の事に興味はない。
何より相思相愛の俺達に障害なんて何もないだろう!
そう思い俺は再度キスをしようとシンシアへ顔を近付ける……と、
(ドサッ!)「きゃあ!」「うぎゃぁ!」
俺の上へ女の子の悲鳴と共に何かが落ちてきた!
もの凄く痛かったが、もの凄く柔らかい何かが俺の顔を覆い、真っ暗闇へと引きずり込まれる。
どうする事も出来ず、顔の柔らかい感触を味わいながら暗闇に佇むんで居ると、俺の顔を覆う何かの上の方で女の子の声が響いてくる。
……もしかして、俺の上に覆い被さっているのは女の子?
「あ~……ビックリした! ……ちょっと此処は何処よ!? ねぇビアンカさん……お父さん達は何処に行っちゃったの? あれ、ビアンカさん……若返った?」
シンSIDE END
(山奥の村)
ブランカ王国領の首都より北の山奥へ行った場所に存在する名も無き村で、まだ己の運命を知らない少年『シン』が、淡い青春の日々を過ごしていた。
彼以外の者は、彼が悪を打ち倒す伝説の勇者である事を知っている。
その為、魔族に見つからない様ひっそりと暮らし、勇者を育ててきたのだ。
そんな村に突如現れたのは、妹の我が儘と神々の計略で送り込まれた異時代の少女リューノ……
青春真っ直中少年シンの2度目のキスを邪魔しておきながら、当人は訳も解らず困惑している。
シンの恋人…シンシアを、敬愛する父の妻だと間違えて……
(山奥の村)
リューノSIDE
私がこの名前すら無いド田舎へ放り出されて数日が経つ……
突然の事で混乱しまくりだった私……何より混乱を深めた人物が、ビアンカさんにソックリのシンシアさんだ!
本物とは違い彼女はエルフなのだが、シンとイチャついてるとこをお父さんが見たらブチ切れるだろう。
因みに『シン』とはこの村に住む少年の事で、どうやら皆が特別扱いをしている。
と言っても、過保護にしているのではなく、恋人(だろう)シンシアすらも厳しく彼を鍛え上げているのだ!
しかも外界には出さず村の中だけで……
この村自体が妙な村で……
特別な理由が無い限り、村に立ち寄る事も出て行く事も出来ないルールになっている。
私みたいに突然異時代からやってきてしまった場合は、しょうがないとして村での生活を許してくれているが、そのかわり村を出る事を許してもらえない。
お父さんもこの時代に来ているはずだから、捜して合流しなきゃならないと泣き叫んだら、村の大人が順番で町へ買い出しを行いに行った時に、情報を仕入れてくるから、子供は村から出てはいけないと言われた。
村のルールに納得が出来何であれば、一人で勝手に出て行く様に冷たく言われる……
モンスター蔓延る外界に、幼く可憐な少女を一人で放り出そうとする大人達……
どんな神経してやがるんだ!?
私は我が儘マリーの様に神経も図太く攻撃魔法にも長けておらず、根暗リューラの様に好戦的筋肉娘じゃないから、一人で旅をする事なんて出来るはずもないので、シンのお家にご厄介になる道を選択しました。
基本的に皆さんは優しい人達ばかりなので、慣れれば普通に生活出来るのだけど……
やっぱりお父さんと会えないのは寂しくて、夜になるとベッドに潜って泣いてしまう。
気付いたシンが、気を使って優しく慰めてくれるのでかけれど……
自分のプライドが邪魔をして、彼に八つ当たりをしてしまいます。
本当は感謝しなきゃダメなんだろうけど……
お父さんやお母さんが見たら怒るかな?
早く会いたいよぉ……
リューノSIDE END
(山奥の村)
シンSIDE
突然俺の上に現れた少女リューノちゃん。
この村の掟で外界へ出る事が禁じられ、はぐれた家族を探せない事に激怒していたけど、本当に家族と会いたいんだなと思う。
毎晩ベッドに潜って泣いてるんだ……
最初はどうして良いのか判らず困ったけど、シンシアに相談したら『お兄ちゃんとして慰めてあげなさい』って優しく言われたんだ。
そうだよね!
リューノちゃんはまだ12歳らしいし、俺が優しく接してあげなきゃ可哀想だよね。
リューノちゃんには申し訳ないけど、何だか妹が出来たみたいでちょっと嬉しくなっちゃった。
だから『リューノちゃん……寂しいんだったら俺のベッドで一緒に寝ようか?』って言ったんだけど……
『アンタ馬鹿!? そんな事言って押し倒すのが目的でしょ! 私は尻軽女じゃないのよ、簡単に抱けると思わないでよね!』って、凄い怒鳴られ方をしました。
凄い台詞を知っている女の子だなぁ……
シンSIDE END
後書き
本当はリューノも良い子なんですよ。
ちょっとプライドが高く素直になれないだけなの。
第2話:私だって気を使います
(山奥の村)
リューノSIDE
昨晩はベッドの中で泣いている私の手を握り、シンが優しい声で『大丈夫だよリューノちゃん。必ずお父さんとは会えるから……』って慰めてくれた。
でも泣いている事を知られるのが恥ずかしくて、私は『そんな事分かってるわよ! 私のお父さんは凄いんだから……必ず私を見つけてくれるんだから!』って言っちゃった。
本当は優しくされて嬉しかったのに、どうして素直にお礼を言えないんだろう?
そう言えばティミーやウルフにも怒鳴っているなぁ……
素直になるのって難しい。
そのシンは、今日もバトウってオッサンに剣の稽古を付けてもらっている。
私は剣術の事には素人だけど、お父さんやティミー…大きくレベルを下げてウルフと比べても、彼等は弱く見える。
お父さんが言っていたけど、“実践に勝る訓練は無い!”って事らしい。
こんな村に閉じこめてないで、大人達と一緒に外界で戦闘をすれば、今よりも早く強くなれるだろうに……
無駄に厳しくシンを鍛えているのを見て、そう言おうかなと思ったがめんどくさくなりそうなので控えた。
さて……
今日もハードな訓練を終え、愛しのシンシアに会いに行こうとするシン。
ウキウキとした足取りで、村の池に掛かる橋を渡っている。
すると池の中から一匹の蛙がピョコンと……
そして徐に話し出す!
「剣士様…どうか助けて下さい。私は蛙の姿をしておりますが、本当は蛙ではございません。私はある国の姫…悪い魔法使いによって、蛙の姿に変えさせられてしまったのです!」
「え!? それは大変ですね……」
確かに大変な事ではあるのだが……
“ある国”の“お姫様”って……胡散臭さ大爆発!
何処の世界のおとぎ話だ?
「あ、いえ…慣れれば蛙の姿も楽しいんですけど……」
「はぁ? では一体何を助ければ良いのですか?」
コイツ等は私の目の前で、何を間抜けな会話してんだろうか?
こんなほら吹き蛙は放っておいて、さっさとシンシアの下へ行けばいいのに。
「え~っと……何を助ける……? え~っと……あ、大変! 人が来る気配がします」
お人好しなシンが蛙姫(自称)を助ける為、お困り原因を尋ねたのだが……
誰も来やしないのに『人が来る気配がする』って言って、村の地下室へ逃げて行く蛙。
我が一族の90%の人間であれば、シカトして先を急ぐのだろうけど、お人好しMAXのシンは蛙姫の後を追い、地下室へと行ってしまう。
私一人でシンシアの下へ行ってもいいのだが、シンが居ないとガッカリした態度になるので、気を利かせて彼を連れて行こうと思い、渋々私も後を追う。
地下室に下り突き当たりまで進むと、そこにはシンシアが一人で佇んでいた。
まぁ結果オーライだけど……蛙姫は何処行った?
「あら、シンにリューノちゃん……どうしたのこんな所に?」
「うん。こっちに蛙が来なかった? 何か困った事があるみたいで、助けを求められたんだけど……」
「さぁ……私はずっと此処にいるけど、蛙は見なかった……わ……ふ…ふふふ……あはははは! ご、ゴメン……もうダメ……我慢出来ないわ!」
本気で蛙姫の事を心配するシン……
それを見てケタケタ笑い出すシンシア……
ビアンカさん似じゃなかったら、私のヒャドをお見舞いしているところだ!
「ちょっと何を笑ってるのよ!? シンはお人好しだから、本当に心配してるのよ!」
「ご、ごめんごめん……モシャス!」
シンシアは謝りながら聞いた事のない魔法を唱える……すると!
「剣士様…どうか助けて下さい」
シンシアがさっきの蛙姫に姿が変わった!?
……蛙の区別は付かないけど、多分さっきの蛙だろう。台詞が同じだし……
「どう? 新しく憶えた魔法『モシャス』よ。嬉しくて早くシンに見せたかったから、ちょっとからかっちゃったの……ゴメンねシン」
そんな魔法も存在するんだ……
お茶目にテヘペロするシンシアを見て、お父さんが居たら絶対押し倒しているだろうなぁと思いながら感心する。
正直、少しだけ若く見えるのと耳が長くなっている以外、ビアンカさんと瓜二つのシンシアなのだ!
「シンシアは凄いなぁ……変身する魔法を使えるなんて! 俺なんか『ニフラム』しか使えないよ……エイコブさんから色んな魔法を教わっているのに……」
「シン……焦らないで良いのよ。私はエルフで、貴方よりも魔法力が高いから、高位魔法を沢山憶えられるだけ……貴方は貴方に出来る事を今は頑張ればいいのよ」
「うん……ありがとうシンシア。君は何時も優しいなぁ……」
「ふふふ……だってシンの事が好きだから……」
何やら二人がピンク色の世界に入っていった……
お父さんで慣れている私は、気を利かせて静かに地下室から出て行く事に。
しかも地下室への入口で、他の人が入らない様に見張ってあげる。
私のファミリーの子供達は、アレ系の事で気を利かせるのが大得意だ!
なんたって日常の事だからね!
地下室からダダ漏れる二人の声を聞いていて分かった事は……
あの二人とも初めてだ!
“ここ?”とか“大丈夫…痛くない?”とか、最初の内は聞こえてきたからね!
私も初めての時は彼等みたいになるのかなぁ?
手慣れたお父さんのしか見た事ないから……
リューノSIDE END
(山奥の村)
シンSIDE
シンシアと初めて……
凄く良かった……最高の時間を体験した……
一通り終わって、服を着直し地上へ出ると、そこにリューノちゃんが座っていた。
どうやら二人だけの世界に入ってしまった俺達に気を使い、地下室へ誰も入らない様に見張っていてくれたらしい。
普段はツンケンしているけど、本当は優しい気の利く良い娘みたい。
赤い顔をして地下から出てきた俺達を見ても『どうだった?』とか聞かず、ただ黙って立ち上がり家へ帰って行くクールさ……
恥ずかしかったけど、彼女の態度に救われました。
シンSIDE END
後書き
年齢設定
シン:15歳
シンシア:不明(エルフですからね。結構いってます! そう考えると彼女はショタです)
リューノ:12歳(あと1日で…)
第3話:悲しい現実
(山奥の村)
リューノSIDE
この村(時代)に来て数週間が経つ……
村の人達も協力はしてくれているみたいなのだが、全然お父さんの情報は入ってこない。
目立つ人なのだから情報くらいは入ってくると思ってたのに……
とは言え諦める訳にもいかず、今日も町から帰ってきた大人に話を聞きに行く。
本日は、客の来ない宿屋を経営しているポサダさんを尋ねます。
宿屋なんか潰して、他の事をやれば良いのにって言いたいけど、言わない方が面倒がなくて良い。
「こんにちはー……ポサダさん居ますか?」
「……………おやリューノちゃん!?」
普段は誰も居ないはずなのに、ポサダさんは客室で誰かと会話をし、それを区切らせて私の前に現れた。
「え……お客さんが来ているの?」
「そ、そうなんだよ……昨日、町からの帰りに森の中で迷っている人を見かけてね……」
………で、安易に村のルールを破ったのか?
興味本位で客室の方を見ていると、その客が顔を出し私と目があった!
「お、お父…さん……?」
驚いた事に、その客というのは私のお父さんにソックリなのだ!
「父? 君の? ……残念だか私は違う」
私が驚き呟くと、お父さん似の男性は額にシワを寄せ、私のお父さんである事を否定する。
分かっている……否定されるまでもなく、この男が私のお父さんでない事は!
ただ顔が似ているだけ……
髪の色が銀髪だし、瞳もお父さんと違って怖い感じがする……
何より雰囲気が全然違いから、この男がお父さんであるハズがないのだ!
「わ、分かってるわよ! 私のお父さんの方が、アンタよりもっとイケメンなんだから……違うって事は分かってるの!」
男のプレッシャ-に飲まれそうになった私は、慌てて大声を出し彼の存在を拒絶する。
「ちょ、ちょっとリューノちゃん……お客さんに対して失礼だろ!?」
「うるさいわねメタボ親父! 私のお客さんじゃないんだから、関係ないわよ!」
失礼な事を言っている自覚はある。
でも大声を出してないと、この男の恐怖に包まれ泣きそうなのだ!
「随分と口の悪いお嬢さんだ……この村の子供は、君だけなのかい?」
「いえ……他にシンという男の子も居りますよ」
私が恐怖で固まり男を睨み続けていると、ベラベラと村の事を喋り出すポサダさん。
勝手に村の事を教えてんじゃないわよ!
もしかしたら、この男は子供を攫って商売する悪人かもしれないのに……
私やシン……シンシアが危険になっているかもしれないのに!
怖くなった私は、急いでシンの下に駆け付ける。
バトウのオッサンに剣術を習っている最中だけど、それを遮って危険を伝える。
そんな時だった……
村の入口の方から叫び声が聞こえてきたのは!
リューノSIDE END
(山奥の村)
シンSIDE
突然村に魔物の大軍が押し寄せてきた!
俺は驚き何も出来ずに固まっていると、父さんが近付いてきて、俺とリューノちゃんを村の地下室へと連れて行く。
今まで行き止まりだと思っていた地下室の壁を押すと、更に奥へ部屋が続いている。
そこに俺とリューノちゃんを入れると……
「良く聞きなさいシン……私達はお前の本当の両親ではないのだ」
「え、何を言ってるの父さん!?」
「詳しい事を話している時間は無い……ただ知っていてほしい事は、お前が伝説の勇者である事だ。何れ現れる魔界の帝王を倒す天空の勇者である事だ!」
「お、俺が……伝説の勇者!?」
「そうだ……だから我々村の者は、お前を外界から隔離し秘匿して、立派な勇者になる様育ててきたのだ」
「で、でも……俺は父さんと母さんの子供だよ! 二人を尊敬し愛しているよ!」
俺は父さんに抱き付き泣きながら現実を否定する。
「ありがとうシン。私もお前を本当の息子と思って育ててきた……」
「ちょっと! そんな事より魔物が迫って来てるんでしょ!? みんなで力を合わせて、奴等を追い払いましょうよ! 私だって戦えるのよ……この鞭とヒャドの魔法を使って……」
その通りだ……リューノちゃんの言う通りだ!
俺が伝説の勇者であるのなら、襲ってきた魔物など蹴散らしてやれば良いのだ!
父さんから離れると、腰に下げた銅の剣を確認し、臨戦態勢を取る。
「お、おい……お前達は「シン、リューノちゃん!? まだこんな所に居たのね?」
父さんが何かを言おうとしてたのだが、現れたシンシアが遮る様に話しかけてきた。
何時もの優しい表情はなく、厳しく緊張している表情で……
「二人とも聞いて……敵は直ぐそこまで攻めてきているわ! 此処が最後の砦になるわ……魔物の中に、毒を撒き散らす奴が居たから、二人ともこの薬を飲んでおいて」
そう言うと小瓶に入った薬を俺とリューノちゃんに手渡すシンシア。
俺もリューノちゃんも言われるがまま薬を飲み干す。
すると突然身体が痺れ声も出なくなってきた!?
持っていた小瓶を落とし、その場に蹲る……
そして父さんとシンシアを見上げ、何かを言おうとする……が、声が出てこない。
「ごめんなさいシン……ごめんなさいリューノちゃん……」
「済まんなシン。お前はまだ成長途中の勇者なのだ……いま敵の前に姿を現せば、確実に殺されてしまうだろう……それだけは避けねばならない。お前は人類の希望なのだから!」
「貴方達が飲んだのはエルフ属に伝わるシビレ薬よ。目が覚めた時には薬の効果は無くなっているから、抵抗せずに受け入れなさい……抵抗すれば苦しいだけだから」
そこまで言って俺の身体を床に寝かし付けると「モシャス」と魔法を唱え、俺と同じ姿になるシンシア。
「目が覚めたら、巻き込んでしまった無関係なリューノちゃんを連れ、この村を離れなさい……貴方が彼女を守らなきゃダメなんだからね! ……大好きだよシン」
そう言って、この隠し部屋を閉じ魔物達の下へ出て行くシンシアと父さん。
彼女は俺の姿で魔物の前に出て、俺の代わりに殺され安心させる気だろう。
そんな事ダメだ! 俺はシンシアを助けなきゃならないんだ!!
勇者とか世界の平和とか、そんな事どうでも良いんだ……大好きなシンシアを守らなきゃ……
ぶ厚い地下室の壁から、外の音が聞こえてくる。
『お前が勇者シンか?』
『そうだ……私が天空の勇者シン! お前等魔族などこの場で滅ぼしてくれる!』
『ふん! 活きが良いボウズだな……良いだろう、魔族の王デスピサロ様が直々に殺してくれよう!』
違う……それは俺じゃない!
俺の大好きなシンシアなんだ……手を出さないでくれ……
俺は祈った……
心の底から祈った……
だが、その祈りは通じることなく、俺の意識を奪って行くだけ……
目が覚めた時、全てが夢で……父さんも母さんも、シンシアも村のみんなも……全員が無事であればどんなに良いか……
無力な自分が憎いよ……
シンSIDE END
後書き
リュカさんは、人質になってしまった自分の所為で父親を目の前で殺され、さらに10年間も奴隷として育ってきた……
そんで、あんな性格に成長してしまったけど、シン君はどうだろうか?
彼はどんな性格に成長するのだろうか?
第4話:現実は変わらず
前書き
ギャグ無しエピソードです。
(森の木こりの家)
シンSIDE
(コンコン)
「すみません……一晩で良いので、雨宿りをさせてもらえませんか?」
俺とリューノちゃんは、泥だらけの恰好で森の中に建っている家をノックする。
シンシアが飲ませたシビレ薬の効果が切れ、目を覚まして村を見回すと、そこは誰も住んでいない廃墟になっていた。
家々は燃やされ、畑には毒を撒かれ……至る所に人々の死体が横たわっている。
毎日を楽しく過ごしていた村が……何時も厳しくも優しく話しかけてくれてた人々が……そして大好きなシンシアが……
もう何もない。俺の帰るべき場所も、愛する人々も何も……
泣き崩れる俺を抱き締めてくれたのはリューノちゃんだった……
彼女も泣いているのだが、俺は何も言えずに泣くだけ。
お互い泣き声以外発せられない。
暫く泣きはらし、どちらからともなくお墓を掘り始める。
大切なみんなを野晒しには出来ないので、壊れた家の壁板を使い穴を掘ってみんなを埋葬する。
シンシアだけは何時も花を摘んでいた丘の上に埋葬する。
彼女は判別が出来ないほど無惨な姿になっていたが、何故だか俺にはシンシアだと見分けが付いた……
本当に何故だか解らないが、彼女だけは……大好きなシンシアの事だけは解らなくなる事はない!
みんなの埋葬が終わった頃、空から涙の様な雨が降り出し、早々に村を立ち去らねばならなくなる。
これ以上ここに留まっても何も出来ない……
俺はリューノちゃんの父親を捜す為……そして憎きデスピサロを倒す為、生まれて初めて村以外の土地に旅立つ!
「誰だ、こんな夜更けに!?」
月明かりもない土砂降りの中悲しい記憶に沈んでいると、家の中から1人の男性が現れ怪訝そうな顔で俺達を見据えた。
「あの……納屋でも良いので、一晩を過ごさせて下さい……」
俺は良い……
俺は雨の中、泥の上で放置されても構わない……
だけどリューノちゃんだけは雨風を凌げる場所で休んでもらいたい。
「こんな雨の中……辛気くせーガキ共だな!? んな所に立っていると、家ん中に雨が入ってくるだろ! さっさと中に入りやがれ!」
乱暴な口調とは裏腹に、泥だらけの俺等を室内へ入れ、綺麗なタオルを貸してくれる男性。
促されるまま暖かい暖炉の前で炎を見詰めていると、
「ほれ、どうせメシも食ってないんだろ!? いきなり現れたんだから贅沢言うんじゃねーぞ!」
と言って、山菜やキノコが入ったシチューを俺等に出してくれた。
「あの……ありがとうございます……」
「けっ! 礼を言われる筋合いはねー!! 丁度メシを食おうとしてた時に、お前等が勝手に現れただけだバカヤロー」
男性は乱暴な口調を変えることなく、俺の礼に反応する。
そして食事が終わると、
「お前等が兄妹なのか恋人同士なのか…もしくは赤の他人なのかは知らねー……が、この家にベッドは1つきゃない! グダグダ言ってねーで、二人でベッドを使え!」
と言って、男性は毛布にくるまり暖炉の前で横になる。
俺もリューノちゃんも少し戸惑ったが、ご厚意に甘えようと思い素直にベッドへ入りました。
最初は気を使ってリューノちゃんに背中を向けて寝てましたが、段々寂しくなってきてしまい、気が付いたら彼女を抱き締め泣いてました。
「良いよシン……泣いて良いんだよ……わ、私も泣いちゃうから……シンも泣いて良いんだよ……」
彼女の優しい言葉が心に響く……
俺は自分より年下で小さいリューノちゃんの胸に顔を埋め、涙が枯れ果てるまで泣き続けました……
悲しい記憶は無くならないが、泣きはらし幾分は気が晴れた朝……
この家の男性が起きた俺達に朝食を作ってくれる。
スクランブルエッグとレタスを挟んだサンドイッチ。
「オジサン……口は悪いけども良い人ね」
リューノちゃんが赤い目でサンドイッチを頬張りながら、この家の男性の優しさに感想を述べる……
俺も同意見だ。
「あぁ!? う、うるせークソガキが! それを食ったらさっさと出て行きやがれコノヤロー! あと4.5時間南に行けば、この国の首都ブランカだ……そこに行けば人も大勢居るし、進むべき向きも分かる! 行き先が定まったら、もう二度と来るんじゃねーぞ!」
男性は顔を真っ赤にして、怒鳴り散らしながら外へ薪割りに出て行った。
本当……口は悪いけど、優しい良い人みたいだ。
あんな悲しい出来事の後は、ただ優しくされるより心に染み渡る。
俺にもリューノちゃんにも、少しだが笑顔が戻ってきたよ。
食事も終わり、せめてものお礼に汚れた食器を洗った後で、外で薪割りをする男性に別れを告げて出発する。
男性は俺達に背中を向けたまま、最後まで何も言わなかったが、俺達は彼の優しさを一生忘れないだろう。
全てが終わったら、またここに戻って来ようと思う。
シンシア達の墓参りをしたら男性に教えを請い、俺も木こりになろうかな……
でも……その前に必ずデスピサロって奴を捜し出さなければ!
シンSIDE END
第5話:人が居れば情報が集まる
(ブランカ)
リューノSIDE
森に住む口の悪いオジサンに促されるままブランカという城下町に辿り着いた私達。
言うだけあって確かに人が大勢居る……
でもお父さんが統治するグランバニアに比べたら、この町も田舎にしか見えないわ!
兎に角お父さんと合流する事が先決なので、シンと一緒に人々へ情報を聞き回ろうと思います。
お父さんとさえ合流出来れば、シンの村を滅ぼした奴等なんてボコボコにしてもらうんだから!
そんな事を思いながら城下町を歩いていると、お城から完全武装した頭の悪そうな連中が数人、チームを組んで出てきました。
以前お父さんに『こう言う連中は武力馬鹿だから、相手にしない方が良いよ(笑)』って言われたので、シカトしようと思ったのですが……そんな事知らないシンが勝手に話しかけちゃいました。
「あの……戦闘準備万全ですけど、何処かで戦争でもあるんですか?」
「おや……君は旅の者かい? だとしたら知らないのだろうけど、少し前にこの町の北にある名も無き村が魔族に滅ぼされてね……」
私達が居た村の事だわ。
「今までその村の存在も知らなかったんだけど、人々が殺されたとあっては黙っておけないだろ? だからブランカ国王陛下が僕達を招集したのさ。正義の勇者一行をね!」
リーダー格的な剣士が苛つく爽やかさで状況を話してくる。
「俺様達にかかりゃ、魔族共なんてイチコロだぜ! がはははは、帰ってくりゃ俺達は英雄だ! 褒美をたんまり貰って、ハーレムを造ってやるぜ!」
一際頭の悪そうな筋肉男が、欲望丸出し馬鹿丸出しで大笑いする。
マリーだったらこう言うだろう……『アソコ丸出しじゃないだけマシね!』って……
アイツ下品だから。
「じゃぁ僕等は先を急ぐから……」
そう言って馬鹿ご一行様は笑い声と共に去っていった。
間違いなくアイツ等は死ぬわね。
気を取り直し人々に話を聞く事に……
すると城のお堀で佇む老人を発見。
ポピー姉様が『お年寄りの話は為になるものよ』って言ってたので、話を聞こうと思います。
「あの、お爺さん……北の村が魔族に滅ぼされた事について、何か知ってますか?」
「何と、とうとうあの村が魔族に見つかってしもうたか!?」
どうやら何かを知っている様子……
私はシンと頷き合い、黙って老人の話を聞く事に……
「もう10年以上前の事じゃが……木こりの親子があの森に住んでおってな。ある時、息子の方が森の中で傷付き帰れなくなった天空人の女を連れ帰ったのじゃ……天空人の女は最初こそ人間を毛嫌いしておったのじゃが、木こりの息子の優しさに、何時の間にか心を許しておったそうじゃ。そして二人の間には男の子が生まれたという……」
此方から話を聞き始めた手前、途中で遮る訳にも行かず……
随分と長い昔話をされ続ける。
そう言えばポピー姉様も言ってたっけ……『ただし老人の話は長いから要注意よ♥』って……
「男の子が生まれ、最初の内は幸せに暮らしておったのじゃが……天空城から使者が訪れて、天空人の女を連れ帰ってしもうたのじゃ! 木こりの息子は嘆き、妻を連れ帰る為に天空城を目指したそうなのじゃが……」
なるほど……木こりの息子はそのまま帰らぬ人になったのね。
……って、天空人ってヒゲメガネ達の事よね!?
ムカツク連中ねアイツ等……帰ったらお父さんに言いつけて、ギャフンと言わせてもらおう!
ご老人の有難いお話が一区切りしたところで、早々にその場を立ち去る私達。
ふとシンを見ると、さっきの老人の話を真剣に考えていた。
そっか……天空の勇者だし、もしかしたらシンの本当のご両親の事かもしれないのね。
「シン……さっきのお爺さんの話が真実なのかを確かめる為、一度天空城へ行った方が良いわね! 私のお父さんは天空人のお偉いさんを舎弟にしているから、早く合流して天空城への行き方を聞きましょう」
「え!? リューノちゃんのお父さんは、天空人を舎弟にしてるの? 一体何者なの?」
「私のお父さんは、世界一のイケメンよ! だから大魔王も大いなる神々も、皆舎弟なの! 解るでしょ!?」
「いや……イマイチ良く解らないけど、何か凄い人な事は解る」
「それで良いのよ。私のお父さんの事を口で説明するのは難しいから、何となく解ればOKなのよ」
ずっと暗い雰囲気が漂っていたので、私は殊更明るい口調で意味不明な説明をした。
うん。お陰でやっと笑い声が戻ってきた。
何時までも落ち込んでらんないし、少しでも明るい気持ちで旅をした方が良いわよね!
きっとポピー姉様も同じ事を言ってくれるはずよ!
リューノSIDE END
(ブランカ)
シンSIDE
リューノちゃんが気を使って雰囲気を明るくしてくれているのが分かる。
俺も彼女の悲しい顔は見たくないので、乗せられる様に明るく笑い声を上げた。
空元気でも笑っていれば本心になるはずだ!
さて……
更に情報収集をしていると、トルネコさんという凄い人の情報を得る。
何でも私財を投じ、世界一の都市エンドールと、ここブランカを繋ぐトンネルを掘ったとか……
そしてそのエンドールでは、少し前に武術大会が催されていたらしく、優勝したサントハイム王国のお姫様と一緒に、リューノちゃんのお父さんらしき人物が居たという。
それを聞いたリューノちゃんは、直ぐにでもエンドールへ行こうと言い出した。
気持ちは解るし、エンドール行きは決定事項だけど……
もう既に空は暗くなっており、今日は宿屋に泊まって明日朝一番で出発する事になった。
だが、ここで新たなる問題に直面する。
宿屋に泊まりたくても、お金を全然持ってないのだ!
俺の銅の剣を売ろうかと思ったが、世界を旅するのに武器は必要で、リューノちゃんの魔法と拙い鞭攻撃だけでは、大変危険極まりないのだ!
しょうがないから野宿しようって話したら、凄く真剣な目つきになって近くの道具屋へダッシュするリューノちゃん。
俺も慌てて後を追う……
一体どうしたのだろうか?
「あのオジサン!」
「いらっしゃい可愛いお嬢さん! 何か入り用かな?」
入り用も何も、欲しい物があってもお金がないから買えないんだよ……
「このイヤリング……買って下さい!」
「ほう……これは随分と高価な代物だねぇ……」
確かに俺もそう思ってた……
宝石とかの価値は良く判らないけど、見た感じからして凄く高そうなイヤリングだ。
「う~ん……これなら4000ゴールドで買い取るよ。どうだい、売るかい?」
「よ、4000……そ、それは大好きなお父さんに誕生日プレゼントで貰った大切なイヤリングです! そのお父さんとはぐれ、捜す旅をする為にお金が必要になりました……本当は売りたくないのだけど、どうしてもお金が必要なんです。だからお願いします……もうちょっと高くして下さい……」
リューノちゃんは泣きながら道具屋の主人に懇願する……
本当に大切な物を手放さねばならない事態に、心底涙を流している。
俺はどうする事も出来ない……だからこそ何としても彼女のお父さんを見つけないと!
シンSIDE END
後書き
リュカ伝1と話数だけは並びました。
その2が193話と200話に少しだけ足りなかったので……
目指せ200話越え!
なお、次話は早くもエンドールです。
ワンちゃんが再登場します。
第6話:浪費娘……最悪ッス!
(エンドール)
ウルフSIDE
「おはようございますネネさん。今日もお弁当を3つお願いします!」
「はい、出来てるわよウルフ君」
俺は今日も、優しい美人人妻の手料理を買いに来ている。
と言うのも、エンドールに着いて一番最初に知り合いになった恩ある人だからだ。
ハバリアから逃げる様にエンドールへ来た俺達は、宿屋に泊まる金すら無く……
2日程は野宿をしていたくらいなのだ。
だがミネアさんが得意の占いでお金を稼ぐ様になり、日々も何とか生活できるようになりました。
そしてミネアさんが占いを行う為のスペース(簡易テントを張る)を提供して貰っているのが、愛妻弁当屋のネネさんという事だのです!
愛妻弁当屋と勝手に言ったが、本来は道具屋だと言う……
何でも旦那さんが夢を求め旅立ってしまった為、家計を支える為自分に出来る事を始めたのが、弁当屋だと言っていた。
こんな美人を放置するなんて、勿体ない事をする男も居るもんだ!
さて、彼女に出会った経緯を説明するが……
俺達3人は極度の空腹状態だった為、なけなしの金を使って弁当を1つ買おうと店に入ったのサ!
そしたら中にいたのはこの美女だ!
一緒にポポロ君という息子さんも手伝っていたのだが、慣れというのは恐ろしい物で……
『お、少年! 美人のお姉さんと一緒にお店を手伝っているのか!? 偉いなぁ……』
って、無意識で口説き文句が出てきました。
確かにネネさんは美人で若いけど、ポポロ君と並んでいれば母子である事は一目瞭然!
でも師匠に鍛え上げられた俺の口は、勝手に女性を煽てる発言をしてしまうのです。
お陰で大変気に入られまして……占いの館(簡易テント)を開く場所を無料で提供して貰えたんです。(リュカさんに感謝だね!)
因みにこの時、マーニャさんに『アンタ余裕があるのね……じゃぁ弁当は私達だけで分け合って良いわよね!』って言われました。
危うく餓死するところでしたよ。(も~リュカさんの所為ですからね!)
さてさて……
萌え萌え美人人妻の話は置いといて……
エンドールに来て直ぐに情報収集を行ったところ、サントハイムという国のお姫様と一緒に、リュカさんらしき人物が行動を共にしている事が判明する。
頼りになる人物の消息を聞けて一安心したのと同時に、お姫様と一緒にいるという事実に胃が痛くなる感情も同時に発生した。
きっともう手遅れなんだろうなぁ……また家族が増えてるんだろうなぁ……
しかも相手はお姫様かぁ……あぁ、オルテガさんは元気かなぁ……胃が痛い。
話を戻そう。
サントハイムという地名を聞く事が出来、リュカさんを求めその地に赴こうと思ったのだが、サントハイム王家の騒動についても情報を入手し、目的人は現在、世界の何処かを旅していると結論に達した。
即ち何処にいるのかワカラナ~イって感じ!
でもエンドールにいれば世界中の情報が集まってくるので、当分はここで行き先を定めようと思ってます。
……何より旅費が無くて旅立てないんだけどね!(泣笑)
だから今の内に旅費を稼ぐ為、俺達3人は分担して作業に当たってます。
俺はエンドール周辺でモンスターを倒し金を手に……ミネアさんは先程から言っている通り、占いを行い稼いでます。
そして我らが姉御マーニャさんは『私が一発大金を稼いであげるわ!』と言ってカジノ通いです。
はい。あのネーちゃんが一人で散財しております!
稼いでも稼いでも、旅費が貯まる事はなく……
いい加減、あのネーちゃんを売春宿に売り払おうかと思ったくらいです!
まぁ半分冗談はさておき、今日もお勤め頑張ろうと思います。
ネネさんから買ったお弁当を、直ぐ外で占い屋(簡易テント)の準備をしているミネアさんに手渡します。
因みにマーニャさんの分は彼女に預けます……取りに来なかったらミネアさんが食べちゃってOKって事になってます。
「じゃぁ今日も行って来ますねミネアさん」
そう言って俺は外に出てモンスター狩りをしに行こうとしたのだが……
前方から何処かで見た事のある少女が近付いてきました。
「ウ、ウルフー!!」
何とその少女はリューノです!
リュカさんと愛人スノウさんの間に生まれた、マリーより1日年上の少女リューノでした!
リュカチルドレンの中では、一番お嬢様っぽく育ってしまったリューノは、独りぼっちが寂しかったらしく、俺に泣きながら抱き付いてきました!
ビックリですねー……普段はクソ生意気な事ばかり言っているのに、こう言う時は可愛い娘を演じちゃうんですね。
「リューノ……良かったよ、君が無事で」
マリー程じゃないが彼女も美少女……そして美少女に抱き付かれて悪い気がしないのは男の性……
ギュッと抱き締めて、頭を撫でながら優しい言葉を吐いてやります。
俺に惚れるなよ(笑)
「はっ! な、何を馴れ馴れしく抱き付いてんだコノヤロー!」
うぉ!! 突如我に返ったリューノ……
俺の鳩尾に小さな拳をメリ込ませ、顔を真っ赤に激怒する。
「な、何だ…こ、この……理不尽な…暴力は……」
完全不意打ちツンデレ拳は、俺を苦しめ蹲らせる効果が絶大だった。
リューノのツレが、彼女をあやす様に押さえ込む姿が視界の隅に入ってくる。
「だ、大丈夫ですがウルフさん!?」
成り行きを見ていたミネアさんが俺を心配し、側へ駆け寄って背中をさすってくれる。
胸を俺の二の腕に押し当てての背中さすり……
二の腕に意識を集中したいが、痛すぎて………
ウルフSIDE END
後書き
魔法設定そにょ3。
あーる燦々様に指摘されたので、インパスについて説明します。
作者が存在をガチで忘れてたのですが、宝箱を開けるドキドキ感が損なわれるので、あちゃのDQワールドには存在しません……って事に!
第7話:感動的な家族の再会劇
(エンドール)
シンSIDE
リューノちゃんが涙を流しながら売ってくれたイヤリングのお陰で、俺達は5000ゴールドを手に入れる事が出来、旅支度を調える事が出来た。
とても大事なお金だ……無駄遣いは出来ない。
節約の為、宿代以外は薬草を数個買うだけにしようと思ったのだけど、リューノちゃんが『回復アイテムは私が持ってるから、シンは装備を揃えなさい!』って言われ、恐縮ながら“鱗の盾”を買わせてもらいました。
何でもリューノちゃんの使う鞭には、彼女のお父さんが細工をしたらしく、グリップエンドに“賢者の石”という回復アイテムが付いているらしい。
鞭に慣れない最初の頃、自身を傷付けてしまったので、鞭を振るうたびに回復できるようお父さんが改造したとか……
そんな訳で気力体力を回復した俺達は、颯爽とエンドールという町へ訪れました。
このエンドールとは、ブランカ王国の西に位置し、稀代の大商人トルネコさんが開通させたトンネルを通って行き来する事が出来る土地です。
着いて早々リューノちゃんのお父さんについて、情報を集め回ったところ『良く当たる占い師が居るから、彼女に聞いてみると良いかもよ』って言われ、所謂女の子には占いはどんな情報よりも信頼が置けるらしく、直ぐさま向かう事になりました。
俺個人は胡散臭そうに思ったのですが……
そして占いの館があるという場所にやって来ると、突然リューノちゃんが男性に向かって走り出し、泣きながら抱き付いたのです!
最初はお父さんに再会出来たのかと思ったのですが、良く見れば男性はかなり若い方で、彼女も『お父さん』とは言わず『ウルフ』と言って抱き付いてました。
あぁ…彼氏なのかもしれないと、和やかな気持ちで見ていましたが……
我に返ったリューノちゃんは『はっ! な、何を馴れ馴れしく抱き付いてんだコノヤロー!』と男性の鳩尾に強烈な一撃を喰らわせました!
基本的に身勝手な少女だと感じてましたが、これ程までとは予想外です。
ウルフさんと呼ばれた男性も、お連れの美しい女性に背中をさすられ身悶えてます。
「な、何だ…こ、この……理不尽な…暴力は……」
うん。全くその通りだと俺も思う……でもそれを口に出して彼女を怒らすのは避けるべきだろう。
「てめ~……この馬鹿娘……こっちが優しくしてやりゃ付け上がりやがって! リュカさんの娘じゃなかったら、今頃スカート捲り上げてパンツ拝んでやるところだぞ!」
「ふざけんな馬鹿ウルフ! そんな事は常日頃から色んな娘に行っているお前の悪行だろ!」
「人聞きの悪い事言うんじゃねーよ! 俺が何時そんな事をしまくった!? お前の母ちゃんに“オッパイ揉ませて”って言っただけだろが!」
「そんなこと言ったのかコノヤロー! 十分有罪じゃねーか!」
「何だ有罪って? 無罪じゃボケェ! お前の母ちゃんは頭が緩いから、ちょっと試しただけだよバ~カ!」
「お、お前……言うに事欠いてお母さんの事を悪く言ったな! 妹の事を悪く言っても良いが、両親と私の事を悪く言うのは許さん!」
た、大変だ……
折角再会出来たお知り合いなのだろうに、お互いにもの凄い罵り合いを始めちゃったぞ!
どうしよう……周囲にギャラリーが増えてきた!
「こら、お店の前で騒いじゃ迷惑でしょ! 少し頭を冷やす為に家に入りなさい!」
直ぐ側のお店から出てきた綺麗な女性の方が、大声で罵り会う二人の耳を摘み、引きずる様に室内へと連れて行く……
誰だか分からないけど助かります。
さて……
綺麗な女性の機転で室内へ入っていった二人を追い、俺達もお店の中に入らせてもらいました。
先に入った二人は、さぞかし険悪な雰囲気で睨み合っているのだと思いましたが…
「んで……リューノも一人で放り出されたってワケ?」
「ウルフも!? 参るわよね……家族纏めて巻き込んだのだから、この世界に登場するのも纏めておいてほしいわよ!」
女性の方が用意してくれたお茶を飲みながら、テーブルに向かい合って座りノンビリ近況報告をしている二人……
先程の剣幕は何だったのだろう?
「あの……仲がよろしいんですね……ご紹介していただけないのですか?」
ウルフさんと一緒にいた女性が、遠慮がちに話しかける。
こう言う場合、リューノちゃんが俺を紹介してくれるまで黙っていた方が良いのかな?
「あ、そうですね! 遅れましたが紹介します。ミネアさん、この美少女が俺の師匠の娘リューノです。娘って言っても、師匠が愛人に生ませた娘だから、俺の彼女のマリーとは腹違いになるんですけどね」
へーそうなんだ……
リューノちゃんて結構複雑な家庭に生まれたんだな。
でも本当の両親が居るって羨ましい……
「今度は私から……シン、このイケメンがウルフよ。私の妹と付き合っている、お父さんの弟子で部下な優秀野郎よ! 頭も顔も良いけど、性格と女の趣味が最悪なの……シンは真似しちゃ絶対ダメよ!」
何だろう……本当は仲が良いのかな?
意外にお互いとも、褒め認め合っている。
俺が呆然とウルフさんを見ていると、爽やかに「よっ!」って片手を上げて挨拶してくれた。
真似しちゃダメって言うけど、格好いいよなぁ……
「それから、此方の美女はミネアさんです。ちょっと色々訳あって、キングレオ地方から逃げてきました。もう一人マーニャさんって言う、見た目そっくりな双子のお姉さんが居るけど、多分今はカジノで散財してる……もうマジでソックリなのは見た目だけだから!」
「どこの双子も同じね! まぁいいわ……こっちの頼り無いイケメンはシン。何でも伝説の勇者なんだってさ……だから暮らしていた村が魔族に滅ぼされたの。悔しくて仕返ししたいから、早くお父さんに合流しようとエンドールまで来たのよ」
「あ、貴方が勇者様ですか!?」
「おわっ! ど、どうしたのミネアさん突然に……」
突如ウルフさんと行動を共にしてきたミネアさんという美女が、俺の顔を覗き込む様に見詰め可愛い笑顔で話しかけてくる。
「あの私……以前に自分を占った事があるんですが……その時に伝説の勇者様の事が何となく見えてきたんです。勇者様と共に旅立ち、世界を平和にする未来が見えたんです!」
占いで言われてもなぁ……
「なるほど……伝説の勇者の下にリューノが送り込まれた……そして、その未来を予見しているミネアさんの下には俺が……」
ミネアさんの言葉を聞き、ウルフさんが何やら考え込んでいる。
その姿は本当に格好いい。
「なぁみんな……これは俺の推測なんだけど……勇者と共に世界を平和にする者達の下に、俺達異時代の人間は飛ばされたのかもしれない! 勇者の仲間全員が集まれば、そこに俺達家族も集結するのかも……」
「なるほどね。つまり私達は、シンを中心に旅をし続ければ良いってワケね!」
「流石リュカさんの娘…理解が早くて助かる!」
占いを基に結論を導き出したけど……本当にそれで合ってるのかな?
俺……自分がそんなに凄い人物だとは思えないんだけどなぁ……
「ところで……もう一人紹介してほしい人が居るんだけど!」
「ネネさんの事かな?」
俺が自分について悩んでいると、仲の良い恋人同士みたいに顔を近付け、同時にこの店の綺麗な女性店主に視線を向ける二人。
「なぁに……アンタの現地妻? とうとうそこまで師匠の真似を始めたの?」
「馬鹿じゃねーのお前……リュカさんの真似をするんだったら、人妻に手ぇ出しちゃダメだろう! あの人は血縁と他人の女には手を出さないのだから……」
何だそれは!?
一体どんな男なんだろうウルフさんの師匠って……ってか、リューノちゃんのお父さんなんだよね!?
あぁ……だから“腹違いの”って表現が出てくる家庭なのか!
「この方はネネさん。この美人人妻愛妻弁当屋を切り盛りする貧乏人の味方! そして此方の利発そうなお子さんが、息子さんのポポロ君。素直で良い子な、お兄ちゃんになってやりたい度ナンバー1の男の子だ。お前等姉妹とは正反対のな!」
「うるせー! 序列から行けば、アンタは私の義理の弟よ。分を弁えなさい!」
「何だとー! やろうと思えばリュリュさんを口説けるんだぞ!」
「はぁ~? アンタにリュリュ姉さんを口説き落とせるワケないでしょ! 寝言言ってんじゃないわよ」
何かまた喧嘩を始めちゃった二人……
どうやら本当に仲が良いみたいだな。
でも、もしかしてウルフさんって……ロリコン?
シンSIDE END
後書き
ウルフとリューノの罵り合い……
書いてて楽しかったよ。
第8話:進むべき道が定まったかな?
(エンドール)
リューノSIDE
「……でネネさんは、私のお父さんの事を何か知ってますか? 何か情報があれば今後の方向性を定める為、お聞きしたいんですけど……」
先程ウルフとの口論時に、喧嘩両成敗と耳を引っ張られ、ビアンカさんの様な為人だと把握した私は、出来るだけ低姿勢で情報を聞き出そうと試みる。
「おいおい、リュカさんが人妻に手を出す訳ないだろう。聞くだけ無駄だと思いませんか?」
しかしウルフが特定常識論で否定してきた。
こいつ情報を聞き出してないな!
「そりゃお父さんは他人の女に手を出さないけど、分からなきゃナンパくらいはするでしょ! ネネさんは美人なんだから100%お父さんのターゲットになると思うわよ」
私は自分の父親を正しく評価する……勿論それは部下であるウルフにも理解出来たみたいで、大きく頷き納得する。
「それもそうだね……じゃぁ改めてお伺いしますがネネさん。リュカさんにナンパされた事はありますか?」
「はぁ……あるかないかと聞かれても……リュカさんが誰だか分からなければ……何とも言えません」
「あぁ…そうか。えっとですね……紫のターバンを巻いた、すんげーイケメンです。今まで出会ったどのイケメンよりもイケメンです!」
「まあ…ウルフ君よりもイケメンかしら?(笑)」
「「はい!」」
ネネさんにはウルフの台詞が冗談だと思ったらしく、笑いながらお父さんのイケメン率を侮ってくる。
だから私もウルフも声を揃えて肯定する。
そう……ウルフの良いところは、自分をお父さんには敵わないイケメンだと自覚している事だ!
「ざ、残念ながら私には憶「僕、その人を知っているかもしれません」
ネネさんのガッカリ情報の発表を遮って、息子のポポロ君が期待出来そうな発言をしてきた。
男の耳にお父さんの情報が入ってくるのは信じがたいけど……
「え、マジッスかポポロ君!? 『僕、女の子に間違われてナンパされました』ってんじゃないよね!? 絶対にあり得ないぞ!」
「ち、違いますよ! 僕はそんなに女の子っぽくありません!」
そうよね……この子は女の子には見えないわよね!
それに例え女の子っぽくても、お父さんが間違えるとは思えないし……
匂いで『美女が居る!』って言うひとだものね!
「あの……リューラちゃんとはお知り合いですか?」
「え、貴方…リューラの事を知ってるの!? 私とは腹違いの姉よ。1日だけど姉よ!」
「やっぱりそうだ! 一度だけ妹さん達の名前を聞いた事があったんだけど、忘れちゃってて……」
ほぅ……リューラが私達の事を話題に出した!?
あの沈黙ロリータの事だから、きっとお褒めいただいたワケじゃないわね。
まあ私達3人とも、お互いを褒めたりはしないけどね。
「そ、それでリューラは今何処に!?」
「あ、はい……僕のお父さんと共に、リュカさんを……お父さんを捜す為、コナンベリーの町を目指してます。世界を自由に移動する為、コナンベリーで船を買うとの事ですよ」
ふ~ん……あの娘独自に動いているのね……
ウルフは食い気味にポポロ君の情報を聞き出したけど……別にアイツの事なんてどうでも良いし、こっちも独自でお父さんを捜した方が早そうよね。
「よし……じゃぁ俺達の目的地もコナンベリーに決定だ!」
「はぁ? 何でよウルフ……今はお父さんと合流する事の方が先決でしょ! あの娘を見捨てる気は無いけど、優先順位を間違えないで!」
「ふん……母親にソックリでお前は馬鹿だなぁ!」
「な、何だとコノヤロー!」
ムカツク言い方をする男ね本当に!
「良いかよく聞け! 今現在、俺達はリュカさんの居場所を知らない。だがリュカさんだって俺達の事を捜すはずだ! ましてや可愛い娘の事を、何時までも放っておける男じゃない! つまり俺達はバラバラで動き回るよりも、一緒に居てリュカさんを捜していた方が、互いに見つける確率が上がるんだ!」
な、なるほど……
言われてみればその通りかも……
ムカツク事を言われたけど、ウルフの言い分は最もだと思う。
「それにさっきも言ったが、俺達は勇者を中心に集まる運命になっている! 下手に足掻いて、集合が一番最後になるのは避けたい。リュカさんの居場所が分かり直行便が存在するのなら、それに乗るのが最短だが……あるのかい、それが?」
「いいえ……悔しいけどウルフの言っている事が最も正しいわ。まぁ私としては、喧しいマリーと最初に合流しないで済むのは有難いけどね!」
「ははははは……相変わらず仲が悪いなぁ、君達は!」
そう言えばそうね……
ラインハットのリューナや、サンタローズのフレイとは、そんなに仲悪くないのだけど……
生まれた時から一緒にいる私達3人は、何時も疎ましがっている気がする。
仲良くした方が良いのは解ってるのだけど……
リューノSIDE END
(エンドール)
シンSIDE
ウルフさんの大胆な推測と、的確な判断……そして格好いい指導力で俺等の進むべき道が確定した。
俺みたいな“駆け出し勇者”とは違い、圧倒的リーダーシップを取れるウルフさんに憧れてしまう!
この人の師匠であるリュカさんって、どんな人なんだろう?
「目的地が定まったのは良いとして……確かもう一人仲間が居るんでしょ? 似て異なる女が一人……帰ってくんのを待つの?」
確かマーニャさんと言ってたかな……ミネアさんとは双子って言ってた。
やっぱり美人なんだろうなぁ……
「あぁ忘れてた……もう放っておいても良くね? あんな浪費娘は、シカトしちゃってもOKっぽくね?」
あれ……随分ぞんざいな扱いだな。
ウルフさん、美女が好きそうなのに……
「あのウルフさん……お気持ちは解りますが、姉さんも私の占いでは“導かれし者”です。どうか寛大なお心で……」
「大丈夫……言っただけですから。本気じゃありませんから……」
何だろう……凄く疲れ切ってるウルフさんが居る。
「あ~…シン君。今後一緒に行動する事になるのだが……これから会うマーニャさんにだけは、お金を与えてはいけない! どんなに色仕掛けで攻められようとも、泣き落としを駆使されようとも、あの女に金を渡してはダメだ!」
会うのが不安になるウルフさんの言葉……
だ、大丈夫ですよね?
大丈夫なんですよね、俺達!?
シンSIDE END
第9話:めんどうとか言うな!
(エンドール - ブランカ 間の平原)
シンSIDE
エンドールのカジノで、もう一人の仲間マーニャさんと合流した俺達は、早速お金をせびる彼女を無視して冒険の旅へと出立する。
俺がリューノちゃんのお陰で旅費を得る事が出来たと告げ、心からの感謝を彼女に告げつと、ウルフさんが優しくリューノちゃんの頭を撫で、彼女の気持ちを察してくれた。
だけどマーニャさんが……
『よっしゃ! 私がその旅費を数倍にしてあげるわ!』
って、カジノに注ぎ込もうと両手を差し出す。
さっきウルフさんが言っていた『あの女に金を渡してはダメだ!』の意味が、こうも早く解るとは……
このお金はリューノちゃんの涙で出来ているんだ!
無駄遣いは絶対にさせない!
『マーニャさん……俺達は今すぐ出立するんだ。この場でカジノから出ないのなら置いていく……じゃぁね!』
ウルフさんは感情を込めない口調で言い放ち、マーニャさんの前から立ち去って行く。
勿論俺達も彼の後に続き、彼女の前から……カジノから出て行く。
『や、やぁ~ね冗談よウルフちゃん! 私も行くから……勇者様~、私も一緒に冒険するから! 置いてかないで~……マーニャちゃん頑張るぅ~!』
あはは、完全ダメ人間かと思ったけど、彼女も面白い人なだけだね。
実際マーニャさんとミネアさんは、結構強い女性だ。
メラ・ギラ・イオと幅広い攻撃魔法を駆使するマーニャさんに、回復系やバギ・ラリホーを使うミネアさん。
俺が前衛を務めれば、実にバランスの良いパーティー構成になる。
でもウルフさんが戦ってくれない……
戦闘が始まると後方へ下がり、リューノちゃんを守る様に身構えている。
彼女は戦闘が苦手なので後方待機も納得するが、ウルフさんは見るからに強そうなのに何で戦ってくれないんだろう?
「ちょっとウルフ! 何でアンタは戦わないのよ!? アンタこう言うときのために、お父さんから剣術指南を受けてんでしょ!」
どうやらリューノちゃんも俺と同じ事を思っていたらしく、言い出しにくい俺の代わりに言ってくれた。
「え~……だって~……めんどいじゃん! 俺が戦わなくても勝てるんだから、俺が面倒な事する必要ないじゃん!」
凄い理由が出てきたぞ!
え、ウルフさんてこんな人なの!?
もっと真面目な人かと思ったのに……
「はぁ!? ぶっ殺すわよアンタ! みんな真面目に命をかけてるのよ……ふざけてんじゃないわよ!」
案の定反応したのはリューノちゃんだった。
「この台詞を俺に教えたのは、君のお父さんだ。文句があるなら父親に言えよ」
「な、何でお父さんの名前が出てくるのよ!?」
うん。未だ掴めないリューノちゃんのお父さん……
どういう事なんだろう?
「落ち着いてリューノちゃん……ウルフさんは私達の為に、あえて戦闘には手を出さないでいるのよ。今後私達が強敵と戦う時の為に!」
「はぁ? 私達の為ぇ~?」
これ以上ないくらい胡散臭そうな思いを顔に出すリューノちゃん。折角の美人が台無しだ。
「ふぅ……リューノ、よく聞け。リュカさんやティミーさんに比べれば、俺なんてまだまだ弱っちぃ! それはちゃんと自覚している。だけども、今の君達……つまりリューノ・シン君・マーニャさん・ミネアさん達に比べたら、俺の方が圧倒的に強いだろう! 別に自惚れで言っているワケじゃないぞ。何だったら、今すぐ4対1で戦ってみるか?」
「そ、それは……解っ「是非お願いします!」
ウルフさんの事を知っているリューノちゃんは、彼の台詞に納得して引き下がろうとしたけど、俺としては彼の強さを知りたかったから、負ける事を前提で戦いを挑んでみる。
「え~……しくじったぁー! “やる”って言う奴が居るとは思わなかったよ~」
本気でめんどくさがるウルフさん。
でも言質を取った以上、手合わせをしてもらわないと……
「ふ~ん……面白そうじゃない。私もアンタの強さを実感したかったし、是非戦ってもらいたいわね!」
目のやり場に困る美女マーニャさんが、俺の気持ちに同意してくれた。
「くそっ……リュカさんがトコトンまで惚ける理由が解ったよ。圧倒的に強いとか言っちゃうと、腕試ししたがる奴が必ず居るのね……はぁ~、ホント…リュカさんは凄いなぁ……」
ウルフさんは大分嫌々みたいだが、既に4人が臨戦態勢に入っている為、渋々身構えてくれた。
流石に4対1だ……
ある程度は良い勝負が出来ると思っていたのだが……
蓋を開けたら大完敗だった。
リューノちゃんのヒャドと、マーニャさんのメラで、先制攻撃を開始したのだが、即座に唱えたウルフさんのバギマにより、二人の魔法は掻き消され、同時に突っ込んで来た重い一撃でミネアさんが吹き飛ばされる。
俺も反撃を試みたのだが、ウルフさんが唱えたボミオスと言う俺の知らない魔法で素早さが下がり、何も出来ないままリューノちゃん・マーニャさんが足払いで倒されてしまう……
やっとの思いでウルフさんの下に近付いた時には、俺の首筋に彼の剣が当てられており、身動きする事も出来なかった。
「満足かい?」
ウルフさんは爽やかで格好いいスマイルのまま、息も切らさず俺達に話しかける。
俺達4人は、たった1分くらいの戦闘で息が上がっており、彼の顔をまともに見上げる事すら出来ない。
「言っておく……俺なんてザコだ! 俺の尊敬する義兄……ティミーさん相手だったら、お前等と協力しても1分で負ける! 更に師匠のリュカさん相手だったら、ティミーさんを仲間に加えても、1秒未満で瞬殺されるだろう」
「そ、そんな強い人が居るなんて……お、俺…勇者なのに……自信無くすなぁ」
「大丈夫だシン君。今後俺達が相手にする敵に、リュカさんやティミーさんのような化け物クラスは存在しない!」
それは安心して良いのか?
「だけど……そのリュカさんですら、多少は手こずる相手が居るかもしれない。そんな相手が現れたら、今のお前達で勝てるのか? その時は俺も手伝うけど、俺だって最強でもなければ万能でもない! 俺一人の力じゃ勝てる訳ないんだ。だからこそ周囲の敵が弱いウチに……まだ敵が俺達を潰そうとしてこないウチに、実践を多くこなして強くならなきゃいけないんだ! そのチャンスを、俺が出しゃばって潰しても良いのか?」
凄い……凄いよこの人!
強いだけじゃなく…先の事も、俺達の事も考えて一緒に行動してくれているよ!
俺、この人から色々学ぼう!
立派な勇者になれるよう、ウルフさんから学んでいこう!
シンSIDE END
後書き
困ったねぇ……
シン君が悪い道に踏み込んでしまったかもしれない。
ウルフの延長線にはリュカが居る……
折角の勇者が(笑)
第10話:何か弟みたいッスね!
(ブランカ周辺)
ウルフSIDE
リュカさんが俺達(アルル・ハツキ・俺)に示してくれた事を、実力は下がるが俺がシン君達に見せて納得させる。
アルルやハツキが見たら『えっらそーに! アンタだってまだヒヨコじゃない!』って言われるだろうな(笑)
それでもリューノは大人しくなってくれたし、双子も改めて理解してくれて俺の立場も確立出来た。
なんせリューノなんかは、俺が戦う姿を目の当たりにした事がないから、父親に生意気な事を言う青二才にしか見られてなかっただろうから……
でも最大に俺を見る目が変わったのが、勇者様のシン君だ。
まるで尊敬する兄貴を見る様な目……
時折だが、俺がリュカさんやティミーさんにする目と同じ気がする。
なんか弟が出来たみたいで嬉しいぞ。
しかし厄介の事も併発する。
地図で見た限りブランカという城下町が近くにある。
多分、俺達の足で2.3時間くらいだろう……そこから来たリューノやシン君が言うのだから間違いない。
現在はまだ日も高く、ブランカへ言っても夕暮れには程遠い時間に辿り着くだろう。
町の宿屋で休んでから明日朝に出立する安全旅で行くのか、このままブランカを通り過ぎ、行ける所まで行って野宿をする急ぎ旅で強行するのか……
勇者であるパーティーリーダーに、決定権が託された。
父親に早く会いたいリューノは、少しでも先を急ごうと強行策を支持する……
魔法戦メインのマーニャ・ミネア姉妹はそろそろ魔法力切れの為、安全策で行く事を進める……
リーダーが決める事になり、困ったシン君は俺の顔を見詰めてくる。
個人的な意見を言えば、安全策を俺は進めるが……
俺の意見にパーティーリーダーがしたがっていては、リーダーとしての資質が育たない!
これはアルルを見れば一目瞭然だ!
リュカさんの欠点は、結局のところで我が儘を言う事だろう。
面倒事を避ける為、アルルが二度手間をしそうになると口を挟み、強引にパーティー方針を決めてしまうのだ。
あの時の冒険では、そのお陰で無駄が少なく意味ある旅が出来たのだが、アルルのリーダーとしての資質は育たなかった。
ヒステリックな姉ちゃんになっただけだ!
ミネアさんの占いを信じる限り、何れは全員が揃う事になっているみたいだし……無駄足を踏むかどうかを気にするのは止めた方が良いだろう。
それよりも、この若く経験不足な勇者を育てていったほうが後に有益だと俺は思う。
そう言う意味で、リーダーとしての資質が足りないのはティミーさんも同様だ。
巨大なる指導者のリュカさんが目の前に居る所為で、自らが難問を選択し解決する機会を逃してしまったのだと俺は思う。
国民達には権利を与え、自分等で歩む努力をさせるのに、やっぱり身内に甘い部分が出てくるんだなぁ……
数少ないリュカさんの人間ぽさだと思う。
ウルフSIDE END
(ブランカ周辺)
シンSIDE
どうしよう……
ウルフさんが俺と目を合わせてくれない。
俺が決めろって事だろうなぁ……
決められないよ……
“早くお父さんに会いたいの!”って叫ぶリューノちゃんと……
“疲れて戦えないわ”って色っぽく迫るマーニャさんとミネアさん……
どっちの意見も尊重したいし、どっちの意見を否定しても怒られそうだし……
強くみんなを説得出来るウルフさんが決めてくれれば良いのに……
どうすれば良いんですか!?
「あ、あの……ウルフさんの意見は……?」
「俺? う~ん、そうだねぇ……俺的には、マーニャさんが裸踊りをすれば良いと思うよ(笑) あ、オナ○ーショウでもOKね!」
「はぁ!? 何言ってんのアンタ!」「それじゃ何の解決にもならないでしょ!」
俺より先に文句を言ってくれたのはリューノちゃんとマーニャさん。
全然解決にならない事を言うウルフさんを大声で叱ります。
「何か解決を望むんなら俺に聞くなよ……俺は別に、エンドールへ帰るって選択肢でもOKなんだから……」
ダメだ……彼は道を示してくれても、決定はしてくれない。
勇者が……リーダーが決めるようにと、突き放してくる!
「……じゃぁ、今日はブランカへ泊まりましょう!」
「な、何よシン!? アンタ私の気持ちを解ってくれないの?」
やはりリューノちゃんが怒鳴ってきたか……
「ち、違うよリューノちゃん……俺は君の気持ちを知っているし、早く家族と再会できるように協力するつもりだ! でも、焦って取り返しのつかない事態になってほしくないんだ! 慌てて先に進んで、強敵が現れたらどうする!? 俺達が万全の体勢であれば勝てた相手でも、疲れ切った状態では負けるかもしれないだろ? “負ける”イコールそれは“死”なんだ!」
俺はリューノちゃんを説得しながら、チラッとウルフさんを見る。
彼は穏やかな目で見詰め、軽く頷いてくれた。
良かった……どうやら正解なのかもしれない。
「そ、そんなの……大丈夫よ! だってウルフが居るんだもん! 私達より遥に強いウルフが味方に居るんだもん!」
「そ、それは……そうだけど……でも……」
「リューノ!」(パシン!)
俺が口籠もって反論出来ないでいると、突然ウルフさんがリューノちゃんをひっ叩き、喚き散らす彼女を黙らせた!
「な……わ、私を殴ったわね!?」
「あぁ殴るさ! 本来は父親がやるべき事だろうが、此処にいないから俺が殴るさ!」
「お、お父さんが私を殴る訳ないじゃ「殴るよ!」
涙をボロボロ零しながら訴えるリューノちゃんの台詞を遮り、迫力のある大声で怒るウルフさん。
「お前は自分の父親を過小評価しているな! リュカさんは娘だろうが息子だろうが、悪いと思ったら迷わず殴る! 俺はそれを見てきたんだ……自分の都合ばかり言って我が儘を言うマリーを、リュカさんは躊躇わず殴った。そして冷たく見下ろし“最低な娘だ”と言い放ったんだ!」
流石、ウルフさんが尊敬する人だ……とても格好いい人なんだなぁ。
「さっきも言っただろ……俺は最強じゃないし万能でもない。強いと言ってもお前等達と比べてであって、それ以上の敵が現れれば簡単に負ける。エンドールで俺と再会した時、お前抱き付いてきただろ……その直後に俺の鳩尾に拳をめり込ませた! お前等より強い俺が、お前の一撃を受け蹲ったんだぞ! 不意を付かれれば俺だって負ける……そんな事をしてくる相手が居るかもしれないだろ!? 俺が一番最初に負けた後、疲れ切ったお前等だけで敵と戦って勝てるのか!?」
頬を押さえ涙を流しながら俯くリューノちゃん……
彼女はウルフさんの言葉に何も言えなくなっている。
俺は何も出来ず、ただ呆然と成り行きを見ていたが、ウルフさんが何かを目で合図してきた。
一瞬は解らなかったのだが直ぐに理解出来た俺は、リューノちゃんに寄り添い抱き締め、彼女を胸の中で存分に泣かしてあげる。
ウルフさん凄い……
美味しい所を全部俺に譲ってくれた!
シンSIDE END
第11話:一休みも必要だわ
(ブランカ)
マーニャSIDE
やっぱりウルフは格好いい。
カジノという魅惑のパラダイスに浸り、ウルフへの想いをおざなりにしてしまったけど……
あそこから離れた今、私の想いは止まらない!
ブランカの宿屋へ泊まった今夜こそ、彼の部屋で甘い一時を過ごそうと思います!
自室(ミネアと同室)のシャワーで身体を隅々まで磨いた私は、軽く口紅を付けると戦闘態勢でウルフの部屋に向かう。
シャワー後に化粧をする私を見て、ミネアが不思議そうな顔をしてたけど、あの娘にはまだ刺激が強すぎるので秘密だ。
胸の高まりを押さえ彼の部屋に近付くと……
部屋の中からは他の女の声が響いてきた。
くっそ、誰かに先を越された!
(ドンドンドン)「ねぇウルフ、話があるんだけど!」
慌ててドアをノックしウルフを大声で呼び出す。
すると直ぐにドアは開かれて、辟易した顔のウルフがこっちを見る。
「うわ……また面倒事が来た……」
何とも失礼な呟き……
私は聞き逃さなかったぞ!
「何さっきから騒いでんの!?」
ウルフによって半分開かれたドアを、私は勢い良く全開にして入室する。
どんな女が中にいるのかと思い、室内を見渡すと……
「ちょっと……いま立て込んでるんだけど……後にしてくんない!?」
中にいたのはリューノだった……
まさか彼女の姉妹にも手を出しているとは……と、ちょっとだけ疑ったのだが、
「アンタよくも私の顔を叩いてくれたわね!」
「うるせーな……我が儘ばかり言うから折檻したんだろ!」
どうやら今日の出来事で、叩かれたリューノが怒りを抑えきれず怒鳴り込んでいるところだったみたいだ。
とんでもない身勝手少女ね……
自分が悪いのだから、全てを受け入れて己の糧にしなさいよ!
私なんかはウルフに叩かれて、心底自分の為になったと感謝してるかんね!
「ちょっとお嬢ちゃん……いい加減に騒ぐのを止めなさいよ! 昼間の一件はアンタが我が儘を言うのがいけなかったんでしょ! それが解らないの!?」
夜は大人の時間なんだから、ガキはさっさと部屋に帰りなさいよ!
「はぁ!? 何言ってんのアンタ……私が我が儘を言って叱られた事については、私だって十分反省し以後気を付けようと思ってるわよ! 私が問題にしてんのは、私の大切な美しい顔を、気安くコイツが叩いた事にあんの! アンタの平凡顔と違って、私の顔はお父さんとお母さんの遺伝子を得た超美形なのよ! 気安く叩いて良い物じゃないの!」
へ、平凡顔だと……言わせておけば……
私の顔だって超美形よ!
私より美人な女は滅多にお目にかかれないんだから!
マーニャSIDE END
(ブランカ)
シンSIDE
今日の一件、ウルフさんのお陰で丸く収まったなぁ……
あの人には他にも色々学びたい事もあるし、今日のお礼ついでにお話を聞きに行っちゃおう。
まだ眠ってなければ良いのだけど……
手ぶらじゃアレなんで、フロントでオレンジジュースを貰いウルフさんの部屋へと訪れる。
すると部屋のドアは開かれて、中からは言い争いをする2人の女性の声が聞こえてきた。
ウルフさん格好いいしモテそうだから、町で知り合った女性とマーニャさんかミネアさんが修羅場になってるのかな?
そう思って部屋の中をソッと覗き込んだら……
中ではマーニャさんとリューノちゃんが、顔を真っ赤にして言い争いを繰り広げていた。リューノちゃんが絡んでるって事は、色恋沙汰での修羅場ではなさそうだ。
「あ、あれシン君じゃないか!? な、何か俺に用事かな?」
「え、えぇ…まあ……」
女性二人の怒気に尻込んでいると、俺に気付いたウルフさんが室内に招き入れる様に話しかけてきた!
「あ、あの……別に急用って程じゃ「何、急を要する話があるのか!? しかも内密になんだね!! そうか~……じゃぁ仕方ないね! 今すぐシン君の部屋に行こうじゃないか! 急用じゃぁ仕方ないよ!」
この危険な雰囲気に逃げ出す気全開だった俺の言葉を遮り、強引に俺の部屋へと避難してくるウルフさん。
「いや~……助かった! 良いタイミングで来てくれたねシン君。アイツ等似た者同士だから何時かは喧嘩するだろうと思ったけど、まさかこんなに早く……しかも俺の部屋で喧嘩を始めるとは予想外だったよ(笑)」
確かに気が強い所とかソックリで、何れは喧嘩しそうだったけど……笑い事じゃないだろうに。
「しかし何だって二人が喧嘩を?」
何時かするとしても、夜中に宿屋で……しかもウルフさんの部屋ってのは不自然な気がするなぁ……
やっぱり色恋事ので修羅場かな?
「出だしはリューノなんだ……今日の事で俺に謝ろうと思ったんじゃないかな? それで一人であろう夜に部屋まで来たんだ。でもああ言う性格だろ……素直に謝る事が出来なかったんだと思う。で、出てきた言葉が『今日は良くもぶったわね!』だったんだ……」
何だか状況が想像出来るなぁ……
リューノちゃんの可愛い所は、あのツンデレ所なんだよなぁ……
理解出来ないと腹立たしいだけだけどね!
「俺も面白くなっちゃったから、リューノの言葉に『はいはいゴメンね……じゃぁ痛い所を舐めて治してあげるよ』って言って、アイツの頬をベロって舐めたんだ(笑) そうしたら大激怒してね。まぁ予想通りだったけどね」
そりゃそんなことすれば……(汗)
「でも予想外だったのが、そのタイミングでマーニャさんが夜這いに来たんだ!」
「よ、夜這いですか……? それは何かの間違いでは?」
あの女、ウルフさんが言う下ネタに激怒してたのに……そんな事が本当にあるのかな?
こう言っちゃ何だが、ウルフさんの自惚れではないのだろうか?
「間違いじゃないよ…言っとくけど、俺の自惚れじゃないからね! だってマーニャさんからはこの宿屋備え付けの石鹸の香りがしたんだよ……つまりシャワーを浴びたって事だろ! なのに改めて口紅を引く……化粧をし直して俺の部屋に訪れたんだ。もう、あの露出度の高い服を脱ぎ捨てる気満々だろう!」
ふわぁ……良く観察しているんだなぁ……
「モ、モテる男は辛いですね……」
「ははは……ホントだよ。今モテても困るんだよね!」
じゃ、じゃぁ何時だったら良いんだ?
シンSIDE END
(ブランカ)
リューノSIDE
自己嫌悪……
本当はウルフを怒鳴りに行った訳ではないのに……
気付いたらウルフに対して怒鳴り散らしていた。
嫌気が刺したウルフがワザと私の頬を舐めたりするから、私も恥ずかしさが爆発してしまい怒鳴り散らすのが止まらなくなる。
私も別にウルフの事が嫌いではないのだ……いや、むしろ好きなんだ。
マリーが調子に乗るから言いたくはないが、格好いいし頼りになるし一緒にいて安心出来る男だと思ってるんだ。
でも彼を目の前にすると素直に謝れない自分がいる……
しかも後から現れたマーニャが、自分でも自覚している事をワザワザ言って、私を黙らせようとするから余計にヒートアップしてしまう。
マーニャは美人だから、本当は平凡顔なんて言う気がなかったのに……
止め処もなく口から他人の誹謗が溢れてくる。
心底自分の性格が嫌になる。
ウルフが逃げてしまった為、彼の部屋で口論をしていた私とマーニャの熱も冷めてしまい戸惑っていると、ミネアが部屋に現れて『夜中に騒ぐな』と怒られた。
だからトボトボと自室へ戻りベッドの中で落ち込んでいる。
明日……みんなと顔を合わせづらいよぉ……
リューノSIDE END
後書き
騒がしいなぁこのパーティー……
これにリュカさんが加わったらどうなっちゃうんだろう?
第12話:良い女ッスよね
(ブランカ)
ミネアSIDE
昨晩の騒動を終え、私達は全員宿屋のロビーに集合する。
朝一でウルフさんに確認したら、彼はシンさんの部屋で休ませてもらったらしく、気を使って床で寝たのでちゃんと眠れなかったそうだ。
姉さんを部屋に連れ帰り、朝までお説教をしようと思ったのだけど、珍しく激しい自己嫌悪に陥っていた為、優しく悩みを聞いてあげる事に……
すると驚いた事に、姉さんの口からウルフさんへの恋慕を聞く事が出来た!
今まで『良い男が居ない』とぼやいていたのに、とうとう春が来たのだと感じ嬉しくなる。
でも……だからこそ子供と喧嘩をするなんて大人として恥ずかしい事!
そんな女性はウルフさんも嫌いなはず……そう言って、今日は先に謝る様に説得しました。
暫くすると、リューノちゃんがロビーに下りてきました。
ウルフさんが言ってましたが、彼女も本意では無かったのでしょう……申し訳なさそうに皆の顔を伺いながらの登場です。
彼女は極度にプライドが高いのだと思います。
心の底では姉さんに謝り仲直りをしたいのでしょうが、口を開くと出てくる言葉が気持ちと裏腹になるのでしょう。
「リューノ……昨日はゴメンね。何か酷い事を言っちゃったよね私……本当は妹みたいで可愛いから、喧嘩をするつもりなかったんだけど……大人気なくてゴメン」
そう……リューノちゃんが先に口を開くと、また喧嘩になりかねないのです。
だからこそ姉さんが大人として彼女に謝り、全てを丸く収めるべきなんです!
「……がう……違うよ……」
姉さんが先に謝って、リューノちゃんが多少の憎まれ口を叩き終わると思っていた仲直り……
しかし先に謝られたリューノちゃんは、瞳から大粒の涙を流して泣き出してしまいました!
「わ、私が悪いの……本当はあんな事を言うつもりはなかったのに……マーニャは美人だから、あんな酷い事を言いたくなかったのに……でも言っちゃった私が悪いの!」
どうやらリューノちゃんは、私が思っていた以上に優しい良い子みたいです。
きっと一晩、一人で苦しんだのでしょう……
心にもない事を言って姉さんを傷付けてしまい、そして事態を解決せずに別れてしまった事に……
姉さんから謝り罪を全部引き受けられ、彼女の優しい心は強いショックを受けたのでしょう。
私達はとても素敵な仲間に巡り会えたみたいです。
ミネアSIDE END
(ブランカ)
シンSIDE
マーニャさんに抱き付き泣き続けるリューノちゃん。
とっても優しい顔で彼女の頭を撫で続けるマーニャさん……
良かった……二人の関係が修復されたみたい。
「おいシン君……ちょっと二人の側に行って『うわ~い! 僕もマーニャちゃんの細い腰に抱き付きた~い!』って言ってこい!」
突如小声で俺にだけトンデモない事を囁いてくるウルフさん。
一体何を考えてるんだ!?
「な、何ですかそれ!? 嫌ですよ俺……折角綺麗に解決しているのに、そんな事を今言いに言ったらボコボコにされるじゃないですか!」
「そうだよ……ボコボコにされて来いって言ってるんだよ」
何なんだ……理不尽すぎる命令だぞ!
何故俺がそんな事にならなければいけないんだ!?
「絶対に嫌です! ウルフさんがやればいいでしょ……ウルフさんはそう言うキャラを持ってるんだから!」
「俺じゃダメだ……マーニャさんがその気になっちゃうから! 二人に怒られなきゃならないんだよ。今は二人に共通の敵(怒られ役)が必要なんだよ」
共通の敵(怒られ役)?
「今あの二人は仲直りをした。ここで共通の敵(怒られ役)が現れれば、二人の絆は更に深まるんだ! 謝るという気持ちで共鳴している時に、怒るという気持ちで更に共鳴させれば、二人の心は共鳴し続けるもんなんだよ」
つまり……ワザと怒られて二人の仲をもっと結束させろって事か!?
マジか……リーダーとして、そこまでやらなくちゃならないのか!?
し、仕方ない……俺もウルフさんの様な格好良く頼れる男になりたいし……
「う、うわあ~い……俺もマーニャさんの細い腰に抱きつきたぁい!!」
俺は恥も外聞も捨て渾身の芝居でマーニャさんの腰に抱き付いた!
そして不可抗力なのだが…腕が腰に巻き付いた為、顔は胸の谷間に埋もれる形となる。
ほんの数秒、天国を味わい……そして地獄へと落とされた!
「このエロガキ何しやがる!!」
俺の股間に、鈍い音と共にマーニャさんの右膝がメリ込んだ。
「シン、アンタ何考えてんの!? 最低ね!!」
リューノちゃんの右手の平が俺の左頬にヒットする。
痛いけど……声も出ない……
言い訳したいけど……声を出せない……
チラリとウルフさんを見る……
軽く微笑み、小さくサムズアップをして褒めてくれた。
こ、これで良いのですね……
俺は貴方の期待に添えたのですね!?
頑張ります……俺、頑張りますから色々教えて下さい。貴方の様に格好いい男になれる様、色々とご指導して下さい!
シンSIDE END
(ブランカ)
ウルフSIDE
どうしよう……コイツ素直で可愛いな。
何だか弟が出来たみたいで、凄く楽しい気分になってきた。
しかもシン君は、俺がリュカさんから学んだことを積極的に吸収しようとしている。
やっぱりリュカさんは格好いいんだ!
俺が憧れる男の影を、会った事のない彼が追い求める……
すげーよリュカさん!
あとは仕事を真面目にやって、部下の俺に迷惑をかけなければ完璧なんだけど……
でもポピーお義姉様が言ってた…『お父さんが完璧な人間になったら、世界中の人々が彼を神と崇め、全てを託すだろう。世界を征服したくないお父さんには、悪夢以外の何物でもない! お父さんにとって欠点をさらけ出すのは、世界の為でもあるのよ』って……
解る気がする。
人々は努力する事をやめ、全てを神に任せるかもしれない……
それはリュカさんが常々思っている“人々の成長”とは真逆の効果だろう。
しかし俺は思う……
部下の身にもなってくれよ!!
ウルフSIDE END
(ブランカ)
マーニャSIDE
「このエロガキ……美女に簡単に抱き付いて許されると思ってるのか!?」
突然シンに抱き付かれ、思わず彼の股間を蹴り上げてしまったけど……
きっとウルフの計らいで、私とリューノの仲をサポートしたに違いない。
「そうよアンタ……突然の痴漢行為、ウルフの真似をしすぎよ!」
リューノは彼らの思いに気づいてない様だし……
好意を無駄にしてはダメよね。
「アンタ、私を安い女だと思ってんでしょ!」
リューノと共にシンを攻める事で、私たちの間に仲間意識が強くなる。
先ほどのまま、お互いに謝って表面だけ仲直りした感じじゃ、どことなくぎこちなさが残ってしまうが、こうやって連帯感を高めれば互いを信頼しあえる気がするわ。
「アンタ……今度気安く抱き付いたら、私のメラで丸焦げにするわよ!」
チラッとウルフを見て、サムズアップしているのを確認する。やっぱりね……
心から感謝ですよ。
「そうよ。私のヒャドで凍り漬けにするわよ!」
私とリューノの罵声を浴びながら、股間の痛みに苦しんでいるシンに近づき、胸座を掴んで立たせながら小声で彼に礼を言う。
「ありがとう。んでゴメンね…とっさだったからつい……」
そのまま乱暴にシンをウルフの方へ投げつける。
そしてリューノの肩を抱き寄せて、男二人に向かって指さし怒鳴る。
「なめんじゃないわよ! 私の身体は気安く触って良い物じゃないんだからね!」
「その通りよスケベども! ホント、男ってヤツは……」
同じように彼らを指さし罵声を浴びせるリューノ……可愛いわぁ~。
「何言ってやがる小娘が。男がスケベなのは当たり前だろう! そのお陰でお前は生まれたんだぞ! お前の父親が、品行方正・清廉実直な人間だったら、奥さん以外の女性に手を出し、お前を誕生させる事などなかったんだぞ! 男のスケベさに感謝しろ!」
ニヤニヤ笑いながら苦しむシンを抱き起こし、リューノを怒らせる様な事を言い続けるウルフ……
楽しそうねぇ~……
マーニャSIDE END
第13話:信じる者はすくわれる……足下を。
前書き
結構気に入ってます、このサブタイトル。
(裏切りの洞窟)
シンSIDE
「何で私がこんなジメジメ洞窟に入らなきゃなんないのよ!?」
先ほどからマーニャさんの不平が止まらない……
いや……先ほどからじゃないな、ずっと言い続けている。
ブランカを出立した俺たちは、東南に広がる砂漠地帯を抜ける為、砂漠の宿屋と呼ばれる施設に立ち寄った。
そこで“徒歩で砂漠を渡るのは大変危険だ。馬車を使わないと、とてもじゃないが生きてアネイルには辿り着けないぞ!”と、宿屋の主人に教えられた。
どうやらこの場所を拠点に、砂漠を渡る為の業者が居るらしいのだが……数日前にトルネコさんを運ぶ為出て行ってしまったららしく、その馬車が戻ってくるまで砂漠は渡れないと拒絶された。
困り途方に暮れていると、宿屋の隣に納屋があり……その中で立派な馬車と、綺麗な馬車馬が置かれているのを発見する。
馬車があるのだから何とかならないのかと宿屋の主人に尋ねたところ……
『その馬車と馬は、息子のホフマンの物だ。勝手に使う事は出来ない』
と断られる。
それではと思い、ホフマンさんに直接交渉をしたのだが……
『イヤだね! 人間なんて信用できない……どうせ砂漠を渡りきったら、そのままパトリシアと馬車を奪って逃げるんだろ! 下手に俺が付いて行ったら、砂漠の真ん中で殺されかねない。お前らなんか信用できるか!』
と不本意な事を言われ拒否られた。
彼の言い分を聞いて怒鳴りそうになったリューノちゃんを抱え、一旦外に出て対策を考える事に……
するとご立腹の少女から『ふざけやがってあの野郎。あんなヤツぶん殴って、馬車だけ奪いましょうよ!』と、感情丸出しのご意見を賜りました。
『落ち付けって……お前の父親が一番に言いそうな事を、娘のお前が言うんじゃない! もっと穏便に解決する方法があるはずだから、不穏な発言をするんじゃない!』
常識的なウルフさんの意見に従い、取り敢えず彼が極度の人間不信になった理由を聞き回って見る。
すると直ぐに判明。
何でも以前に彼が、心から信頼できる親友と共に東にある『裏切りの洞窟』へ宝探しを行ったときから豹変したと言う……
宿屋の主人……つまり父親が言うには、血だらけでパトリシアに連れ帰られたホフマンさんは、傷が治ってもその時の事は教えてくれず、極度の人間不信になったらしい。
う~ん……困った。
『こりゃぁお手上げね!』
と、マーニャさんが諦めると……
『ダメですよ姉さん! 信じられなくなった人を、そのまま放置するなんていけません! 何とか私たちでホフマンさんの心を癒してあげましょう』
と、ミネアさんが言い出し……
「あんなヤツの為に、私が洞窟で苦労する意味なんてないのに……」
と、俺を先頭にミネアさん・リューノちゃん・マーニャさん・ウルフさんの隊列で、この洞窟を探索し原因究明をしている俺達なのです。
彼女の愚痴と共に……
だがマーニャさんの意見も一理ある。
この洞窟は、ある程度腕力のある大人が2.3人で協力しないと突破できない石壁があり、結構先に進むのがめんどくさかったりもするんだ。
「おい気を付けろ……敵の気配はするのに、敵が襲いかかってこない。何かおかしいぞ……」
不平を言い辟易している俺やマーニャさんに、ウルフさんが格好良く状況を見据え注意を促してくる。
そうだよね、気を抜いちゃダメだよね!
気持ちを入れ替え俺が一歩を踏み出した途端……
“ガコン!”という音と共に、俺の後ろの床が抜け、隊列中央にいた女性3人が下の階へ落ちてしまいました!
慌てて後を追おうとしましたが、抜けた床が元に戻り俺達の行く手を遮りました。
「ど、どうしましょうウルフさん!?」
「落ち着け! リーダーが最初にパニクッちゃダメだ。見た目だけでも平常心を貫け!」
そ、その通りだ! ここでパニックを起こしては敵の思う壷……流石はウルフさん、格好いいです!
「何事もプラス思考だ……小うるさい女共が居なくなって清々したと思えば良い。……どうだ、気が楽になっただろ?」
えぇ~……それってプラス思考なんですか?
「よし、一旦町へ帰って作戦を練りながら、町の女の子でもナンパしようか!?」
すごい爽やかな笑顔で、一旦帰還案を提示するウルフさん。
ワザとなのは解っているけど、それでも不安になってしまいます。
「で、でもウルフさん……先ほど通ってきた道ですが、また石壁に塞がれてしまい、俺達だけじゃ帰れなくなってますが……皆さんを捜しません?」
「しょうがねぇなぁ……運良くミネアさんだけと合流できれば助かるが、きっと3人娘が一緒だろうなぁ(笑)」
ウルフさんは楽しそうに笑いながら、唯一行く事が出来る下りの階段を指さし、俺に行く先を指示する。
本当は彼もみんなの事が心配なのだろうけど、そんな様子は微塵も見せない。
出来る男ってのはこうでなきゃ!
シンSIDE END
(裏切りの洞窟)
ウルフSIDE
やっべぇ~……
よりによってリューノとはぐれてしまった!
アイツ戦闘能力は皆無だから、怪我でもしてなきゃ良いけれど……
マーニャさんとミネアさんが守ってくれるだろうけど……心配だ。
俺より先にシン君が取り乱しちゃったから、カッコつけて平静を装ったけど……
リュカさんが居ない今、娘等を守るのは俺しか居ないのに……
でもシン君が素直な良い子で助かる。
全てを言わなくても俺の考えを察して先頭を歩いてくれる。
唯一の通路を彼を先頭に慎重に進む俺達。
やぱり女っ気は欲しい……マーニャさんの匂いは、凄く良い匂いなんだ!
「「「きゃー!!」」」
そんな事を考え、ちょっとムラムラしていると……
前方で女性の悲鳴が聞こえてくる。
シン君と共に慌てて悲鳴の下へ駆け付けると、マーニャさん・ミネアさん・リューノの3人がモンスターに襲われていた!
直ぐさま彼女らの前に躍り出て、襲ってきたモンスターを倒す俺達。
やっぱイケメンは格好良く美女を救う姿が絵になるね!
俺は振り返り3人に無事を確認しようと見渡す……が、何かがおかしい事に気付く。
シン君は何も感じてない様子だが、何かがおかしい……なんだろうか?
そういえば……マーニャさんの良い匂いが感じない。
香水とかではない美女の良い匂いってヤツだ……それが感じられない。
「シン君気を付けろ……こいつ等は偽者だ!」
ウルフSIDE END
第14話:気分の良いもんじゃないッス!
(裏切りの洞窟)
マーニャSIDE
敵に襲われ苦戦をしていたウルフとシン……
私たち3人は、慌てて助けに入り共に敵を駆逐する。
取り敢えずの危機を脱して、男2人に振り返った途端……事もあろうに私たちへ襲いかかってきやがった!
正直突然の事で戸惑い何の反応も出来なかった私とミネア……
しかしリューノは咄嗟にヒャドで応戦し、シン(偽)に手傷を負わせる事に成功する。
その傷から流れ出てきた血が赤ではなく、人間とは思えない緑色だった事が私たちに応戦の心構えをさせた。
彼らが本物であれば……少なくともウルフの実力であれば、私たちなど一瞬で殺す事も出来ただろうけど、所詮は偽者……
出遅れて攻撃を始めた私たちですら倒す事が出来ました。
「ま、まさか偽者が居るなんて……気を付けないと!」
勘違いして本物のウルフ等を攻撃するわけにもいかない。
私は珍しく常識的な意見を言って2人に危機感を持たせる。
「でも……スッとしたわ! 偽者だと判ってもウルフのアホをぶっ飛ばせたのは気分が良い! もっと偽者出てこないかしら!? 間違って本物だったら嬉しいな」
何だこのお嬢ちゃんは!?
一応身内だろうに……どんだけ嫌ってるんだ?
「アンタねぇ……本物のウルフだったら、今の私たちに勝てるわけないでしょ! 逆に私たちの事を偽者と勘違いして殺されちゃうわよ!」
「あぁなるほど……アイツ、アホだけど強いからね!」
判っているのかどうか……
私はウルフと敵対したくないのに……
彼の彼女と合流する前に、誘惑しておきたいのに!
マーニャSIDE END
(裏切りの洞窟)
リューノSIDE
驚いた……
シンのヤツが我慢できなくなって、遂に私を押し倒しにかかってきたと勘違いし、咄嗟的にヒャドを放ってしまったけど……
彼に化けた偽者で助かったわ。
まぁ本物だったら私には敵わなかっただろうけど……
とてもじゃないが私は戦闘に不向きなんだ。
幼い頃から訓練をしているシンに勝てるはずない!
咄嗟に放ったヒャドだって、無駄な抵抗にしかならないだろう。
私のヒャドで化けの皮が剥がれ、その後はマーニャとミネアの二人が偽者を倒してくれたけど……
私は恐怖で……友達を攻撃してしまったという恐怖で何も出来なかった。
本当に偽者で良かった!
でも二人にその事とを知られたくない私は、強がってウルフを侮辱してしまう。
ウルフはチャラい素振りで私たち姉妹(マリーは除く)をからかい、ムカツク事をワザとしてくるけど……
本当はお父さんに似て良い奴で、心の底ではマリーを羨ましく思っているの。
しかし、そんな思いをマリーには勿論、誰にも知られるわけにはいかないし……
だから気分爽快なフリをして自分を偽ります。
妹の彼氏が羨ましいなんて、絶対に知られちゃだめだから!
リューノSIDE END
(裏切りの洞窟)
シンSIDE
はぁ~……
どうすれば俺もウルフさんの様な男に近付けるのだろうか?
俺は3人が偽者だなんて微塵も気付かなかった……
ウルフさんの指摘がなければ、無防備に近づき手痛い攻撃を受けていただろう。
最悪は死んでいたかもしれない……
出来る男というのは、女性の機微な違いに素早く勘付く事が出来るんだな。
倒して変化が解けたモンスターを見下ろし、何かを考えているウルフさんを見て俺は密かに志を立てる。
戦闘術は勿論、人間として……男として、もっとウルフさんに学び成長しようと心に誓いを立てました。
大好きなシンシアに、俺の成長した姿を見せられないのが残念です。
シンSIDE END
(裏切りの洞窟)
ウルフSIDE
やっぱ気分の良いもんじゃないな……
偽者だと理解してても、身内を……しかも女性を手にかけるなんて、出来ればもうやめてもらいたいよ!
殺した後、元の姿に戻られても……イヤな気分だけ味わっている感じだ!
しかし今回のタイムスリップ……
ヒゲメガネ等の陰謀ではあるのだけれど、俺にとっては成長の場として有効だったかもしれない。
遂にリュカさんの“美女の匂い”が解ってきた気がするからね!
でも出来れば“目が濁ってるよ”ってアレを習得したかったね。
別に美女はマリーが居れば必要ないから、人間と人間に化けたモンスターの違いを察知する能力を得たかったね。
さっきからシン君が“何で敵だと判ったんですか?”って顔で俺を見ているよ……
どうする? おちゃらけて『美女の匂いがしなかったんだ☆』って真実を言う?
それともカッコつけて『目が濁ってたから……俺にはモンスターだと判ったよ!』て渋くキメる?
「あ、あの……どうしてウルフさんは、彼女らが偽者だと判ったんですか? 俺、全然気付きませんでしたよ……だって見た目は同じでしたから」
悩んでいたら早速聞かれちゃったよ……
そうなんだよねぇ~……見た目の違いが全く無かったんだ。
「ふっ……目を見れば判るさ。人間に化け疚しい事を企んでいるモンスターは、目が濁っているんだ!」
「目が……ですか?」
「あぁ……俺を騙す事なんか出来ないぜ!」
「さ、流石ですウルフさん! 俺ももっと注意して、そう言うところにも意識を持っていかないとダメですね! 俺、頑張ります!」
あぁ……やっちまたよ。
尊敬の眼差しで見詰められたら、その思いを失いたくなくて、格好を付けてしまいましたよ。
その点リュカさんは凄いな……格好悪い自分をさらけ出す事に躊躇がない。
だからこそ格好いいんだけどもね!
ウルフSIDE END
第15話:慎重に本物を見分ける
(裏切りの洞窟)
マーニャSIDE
先ほどのアクシデントが終わり、更に洞窟内を歩き回る私たち……
すると、またしてもウルフ達に化けたモンスターが襲いかかってきた!
しかも今回は、化けているだけで突然の攻撃です!
勿論、偽ウルフ達の実力はヨワヨワで、不意を突かれない限り手傷を負う事は無いだろう。
だが偽ウルフ達の後ろから別のウルフ等が現れ、私たちの代わりに偽ウルフ達を倒してくれた!
やっぱりウルフは頼りになるわぁ~♡
「大丈夫だったみんな!?」
「ウルフさん、シンさん…ありがとうございます。お二人とはぐれてしまって心細かったです」
ウルフの爽やかな笑顔に、安堵の笑みで礼を言うミネア……
「ちょっと、どこ行ってたのよ馬鹿ウルフ! 可愛い恋人の私を放っておいて、フラついてんじゃないわよ!」
だがリトルレディーにはヤキモチ対象だったのか、自分の事を“可愛い彼女”等と嘘を言って困らせている。
ヤキモチの焼き方が可愛すぎて、思わず吹き出す私……
「すまないリューノ……お前が心配で慌ててきたのだが……本当にゴメンね」
しかし、そんな私にツッコミも入れず、キザったらしく片膝を付いて謝罪するウルフ。
あら、もしかしてコイツも偽者?
「ヒャド!」
「ぎゃー!」
キザなウルフに無表情でヒャドを放つリューノ……
「本物のウルフが、私に恋人同士と言われて、黙って跪くわけないでしょ! 化けんなら徹底的に研究しなさいよ!」
「お、おのれ~……」
リューノにヒャドを喰らい、強烈な罵声を受け、遂に姿を現すモンスター達……
だが奴らが臨戦態勢になるのを待つ必要はない!
何か言おうとしていた途中で、私のベギラマが炸裂する。
ミネアの目が『不意打ちなんて非道い……』と言っていたが、仲間になりすます奴らに遠慮など要らないのだ!
マーニャSIDE END
(裏切りの洞窟)
シンSIDE
偽者騒動から暫く……
洞窟内を再度探索していると、またしてもモンスターに襲われるリューノちゃん達を発見する。
いや……襲われているというより、襲われた芝居をしているモンスター達。
攻撃しているモンスターは、贔屓目に見ても本気で攻撃してないし、襲われているリューノちゃん達も必要以上に叫んでいるだけで、モンスターの攻撃は掠ってもない。
ウルフさんなんかは奴らを横目に見て、この場を通り抜けようとしております。
「きゃー」「タスケテ~」
慌てた奴らは悲鳴の音量を増大……
攻撃をよけるフリして俺達の前に……
「めんどくせ~……シン君、頼むよ」
えぇ~……俺ですか!?
心底辟易した顔のウルフさんが、俺を連中の前に付き出し全てを押しつける。
「えっと……ギラ」
取り敢えずモンスターを倒し、きっと偽者リューノちゃん達と会話できる状態にする。
このまま倒したのでは気分が悪いので、本当の姿をさらけ出させる様誘導するつもりです。
「あの……ご無事ですか皆さん?」
「ありがとうシンさん。お陰で私も姉さんも無事ですわ!」
取り敢えず騙されているフリをする為、女性陣の無事を確認すると、代表してミネアさんがお礼を言ってきた。
「良かった! 将来、結婚する事を誓い合ったミネアさんに何かあったら、俺は後悔に打ち拉がれますよ!」
「まあ、嬉しい事を言っていただけるのですねシンさん。この通り私は無事ですよ♥」
正直こうも簡単に引っかかると、相手するのも面倒だと感じてくる……チラリと見たウルフさんは、ウンザリ顔であらぬ方向に視線を向けている。
「あの……すみません。俺、嘘吐きました。別にミネアさんとは結婚の約束をしてません。もう偽者だと判ってますので、正体を現して下さい」
これ以上、馬鹿の相手をするのがイヤになってきたので、丁寧に正体を現す様お願いします。
『フッ! 引っかかったな馬鹿共が!』とか言うのも億劫だ。
「お、おのれ! よくぞ我らの変装を見破ったな! こうなっては実力行「うるせー!(ザク!)」…ぐはぁ~!!」
敵のリーダー格が変化を解き、芝居がかった科白を述べている最中に、いい加減我慢が出来なくなったウルフさんが斬り殺しちゃいました。
どうしようかと考えましたが、残り2匹は俺が倒しました……
もしかしてホフマンさんは、こんな程度の低い連中に騙され、親友を信じられなくなったのでしょうか?
シンSIDE END
(裏切りの洞窟)
ウルフSIDE
この洞窟の何が厄介かって……
仲間に化けたモンスター達の、知能指数の低さにある!
奴らの相手をする俺等の身にもなってくれ……
もういい加減疲れ切った状態で洞窟内を歩き回り、開けた場所に出てきた俺達。
すると目の前に、またしてもリューノ達がこちらを伺っている。
もう見た目とか気にしないで、一思いにベギラゴンで燃やしちゃおうかな……との思いが頭を過ぎった時。
「あれ? 美女の匂いがするぞ!」
無意識に口走った俺の一言……
「はぁ? 何お父さんの真似をしてんのよ!」
反射的に異論を唱えるリューノ。
もしかして……本物?
ウルフSIDE END
後書き
どうして私が描くと、頭の緩い連中が多くなるのだろうか?
この洞窟の敵……頭緩すぎでしょ!?
第16話:どうやら本物
(裏切りの洞窟)
ミネアSIDE
度重なる偽者達の襲撃に、心底参っていた私達……
そこへ奥の通路から現れたウルフさんとシンさんの二人。
またしても敵だと思い、遠巻きに警戒する私達。
こちらの行動が不審だったのか、現れたウルフさんとシンさんも5メートルほど離れた所で警戒しながら眺めている。
すると……
「あれ? 美女の匂いがするぞ!」
突然ウルフさんが突飛な事を言い出した。
美女の匂いって何ですかね?
「はぁ? 何お父さんの真似をしてんのよ!」
そしてそれに反応する様に、リューノさんが対抗する。
どこがお父様の真似なんですかね?
それはほぼ同時だった。
リューノさんが私と姉さんを引き寄せて内密に相談し始めたのと、向こうのウルフさんがシンさんに近づき相談し始めたのが……
「あのね……もしかしたら、あの二人は本物かもしれないわ」
「え、でも怪しくない? 何か向こうも集まって相談してるわよ……」
「でも姉さん、本物だったら攻撃するわけにも……」
「私に考えがあるんだけど……試しても良い?」
「良い方法なのリューノ? 失敗して大変な事にならない?」
「姉さん。ここはリューノさんに任せましょうよ……ウルフさんの事をよく知っているのだから大丈夫なのでは?」
私達はコソコソと相談をし互いに目で頷き合うと、ウルフさん達より先に正面に向き直る。
「ちょっとウルフ!」
徐に話しかけたのはリューノさんです。
本物のウルフさんだったら答えられる質問をするつもりみたい。
「な、何ッスか?」
「アンタが本物かどうかを確かめる為、今からクイズを出すから正確に答えろ! ちょっとでも間違ったら速攻で攻撃するから覚悟しろ!」
「おう! お前のスリーサイズだって答えてやるよ。まぁツルペタで色気なんて微塵もないけどね(笑)」
「う、うるせー! いいから黙って答えやがれ!」
黙って答えろってのは矛盾しますね。
「わ、私が以前着けていたイヤリングについて、事細かに答えなさい!」
以前着けていたイヤリングについて?
何か特別な事情でもあるのでしょうか?
「ん、あぁ……あれはお前等3姉妹が、父親のリュカさんから去年の誕生日プレゼントでもらったヤツだ。お前がブルーサファイヤのイヤリング、1日姉のリューラがエメラルドグリーンのイヤリング、そして1日妹で俺の彼女のマリーが真っ赤なルビーのイヤリングだ。リュカさんが決めたお前等3人娘のパーソナルカラー……そのワンピースも同じだ!」
そんな素敵なイヤリングをしていたのですか……
何故今は着けてないんですかね?
私も見てみたいのに……
「では、こちらからも質問だ! リューノ……今日のパンツは何色だ?」
「ふざけんな馬鹿ウルフ! 何でお前にそんな事を教えなきゃならないんだ!? 事前に知ってんのか、私のパンツの色を!」
「イヤ知らん!」
「じゃあ真偽の確認にならないだろ! 何の為に聞くんだよ!?」
そうですねぇ……答えの知らない事に答えられても、それが正解なのかは判らないですからねぇ……
「別に真偽を確かめるのが目的じゃない。ただパンツの色を知りたいだけだ! お前が本物である事は既に判っている……俺には質問などしなくても、仲間の事は理解できている。見ただけで偽者じゃ無いって判るサ!」
まぁ、私達の事を解ってくれているなんて…嬉しいですわウルフさん。
ミネアSIDE
(裏切りの洞窟)
ウルフSIDE
何か思わず格好いい事言っちゃったけど、本当はリューノの質問が殆どなんだよね。
偽者のリューノだったら『私が以前着けていたイヤリング』とは言ってこないだろう……
以前イヤリングを着けていたかどうかすら判らないのだろうから。
あと美女の匂いかな……
マーニャさん・ミネアさんからだけじゃなく、リューノからも感じる様になってきたんだ。
う~ん……流石リュカさんの娘だね。最近色っぽさを感じてきたよ。
「さて……みんなが揃った事だし、ホフマンさんが探していたって言うお宝を手に入れ、彼に教えてやろうぜ! 『こんな洞窟のモンスターに騙されたのかお前は!?』って」
「ウ、ウルフさん……そんな事言ったら逆効果ですよ! 優しく『貴方のお友達は裏切って等いませんよ』って教えてあげないと」
か~っ……真面目だねぇシン君は!
俺なんかリュカ家の毒素に浸かりすぎて、真面目な思考回路が失われちゃったよ!
でも義兄さんを見てると、あの家庭で真面目に生きるのは辛いと解るから……
「まぁどっちでも良いよ。そこら辺の事はシン君に任せるから……とっととお宝ゲットで、このアホ洞窟からオサラバしようぜ!」
「私もウルフの意見に賛成! 私嫌いなのよ……洞窟とか地下とかっていう暗いジメジメ空間が!」
「あははは、マーニャさんらしいご意見だね! でも俺は、彼女のジメジメヌルヌルな洞窟に出たり入ったり探検するのは大好きだぞ!」
「ア、アンタ…こう言う時に下ネタ言うの止めなさいよ!」
暗いのが嫌いと言ったから、俺が明るい雰囲気にしたのに……
顔を真っ赤にして怒ってるよ。
ははははは、勝手だなぁ!
ウルフSIDE END
第17話:本当は馬と馬車だけで良いんだけど……
(砂漠の宿屋)
ウルフ達は裏切りの洞窟で、モンスター達からの卑劣な罠をかいくぐり、『信じる心』と呼ばれる宝玉を手に入れた。
直ぐさま洞窟を抜け砂漠の宿屋へと戻り、疑心暗鬼に覆われたホフマンを説得しようと試みる。
彼の心を開かせて砂漠を安全に渡れる様、馬と馬車を借りる為……
(砂漠の宿屋)
シンSIDE
「こ、これが『信じる心』……あの洞窟の宝なのか? 不思議だな……何だか心が温かくなる……」
俺達は『裏切りの洞窟』で手に入れた『信じる心』を手に、ホフマンさんを説得しようと舞い戻ってきた。
リューノちゃんは『ソレ(信じる心)やるから、さっさと馬車を寄こしなさいよ!』と、ぶち壊しそうになる事を言い出したが、慌ててミネアさんが彼女の口を手で塞ぎ大事になるのを回避した。
ホフマンさんが自分の殻に閉じ篭もっていた為、リューノちゃんの台詞は聞こえなかった様です。
「で、でも……こんな宝玉が何だって言うんだ! 俺が親友だと思っていた奴等に裏切られた事実は変わらない……人間なんて信じられないんだよ!」
やはりこのアイテムだけではダメか……
「その事ですがホフマンさん……俺達も洞窟内で仲間だと思っていた奴に攻撃されました」
「何だって!? じゃぁ何でお前等は、今もなお一緒に行動しているんだ?」
俺の発言に驚くホフマンさん。
「それは……仲間だと思っていた奴が、実はモンスターの変装だったからです! 俺達は互いに離れ離れになり、仲間に偽装したモンスターが近付き攻撃をされたのです!」
「そ、そんな……あの洞窟には、そんな罠があったのか!? でも、よく無事だったんだな! ……あぁそうか、最初から仲間意識が薄いから、不意に攻撃されてもやり返せたんだな!」
「違います。俺達は仲間意識が強いから、モンスターが騙そうとしても直ぐに偽者だと判ったんです! 連中が不意を突いて攻撃してくる前に、偽者だと判るから先制できたんです! 俺達の絆を甘く見ないで下さい」
何とも不愉快な言い回しをしてくるホフマンさんに、俺は自慢気に仲間意識の強さをアピールする。
しかし俺の後ろではウルフさんとマーニャさんが笑いながら小声で『よく言うよ……』『私達に攻撃されて、半ベソかいてたんじゃないの?』とか言っている。
うるさいよ外野! 俺、良い事言ってるの……黙っててよ!
「あ、あの洞窟の本当の宝とは何か判りますか?」
俺は後ろの野次を極力無視し、賢明にホフマンさんを説得する。
ちょっとばかりカッコつけながら……
「ほ、本当の宝……? それは一体?」
「本当の宝……そう、それは仲間を信じる心! 巧妙かつ狡猾な敵の罠に、騙される事無く最後まで仲間を信じる強い心……それが本当の宝なのです!」
「そ、そうか! 俺は自分の事ばかり考えていて、仲間の事など思ってもいなかったんだ……だからモンスターの罠に易々と引っかかり、大けがをした上に疑心暗鬼に陥っていたんだね!? ありがとうシンさん、俺間違っていたんだね!」
大分クサイ事を言った自覚はあるのだが、結果オーライって事で……
だって感動して涙を流しながら俺を見詰めてるもん……
鬱陶しいけど、これで馬車を借りられるよね。
シンSIDE END
(砂漠の宿屋)
マーニャSIDE
この子結構口が巧いわね(笑)
馬鹿丸出しのお人好しホフマンは、瞳を輝かせてシンの言葉に浸ってる。
これなら馬車を借りられそうね。
「シンさんお願いがあるんだ! 俺、また人を信じようと思うのだけど、その手始めにシンさん達を信頼したいと思うんだ!」
何を言ってるのだろうかコイツ?
私達を信頼するのなら、黙って馬と馬車を寄こしなさいよ!
「馬と馬車をお譲りするのは当然として、俺自身もシンさん達の冒険に協力しようと思うんだ!」
はぁ!?
冗談でしょ……どう考えたって足手纏いにしかならないと思うんだけど!?
「え!? で、でも……俺等の旅は危険なモノだし……ホフマンさんの身に何かあったら……ねぇ?」
どうやらシンも私と同じ事を考えているみたいね。
「そんな……俺の事は気にしないで下さい! 俺は少しでも皆さんに恩返しをしたいと考えてるだけなんですから!」
う~ん……思いこみの激しい馬鹿は厄介ね。
でも『馬と馬車以外でお前の存在意義は無い!』なんて言ったら、また殻に閉じ篭もって面倒だし……
「わ、解りました……で、では共に旅立ちましょう。こ、これからもよろしくです……」
あ~あ……目を輝かせて言い寄ってくる馬鹿に負けて、一緒に行く事を了承しちゃったよ。
まぁ荷物持ちが増えたと思えば良いか!
欲を言えばもっとイケメン率が高い男が良いんだけど……
ウルフみたいな良い男って、そうそう存在しないわよねぇ……
シンはガキ過ぎて論外だし。
そう言えばホフマンが付いてくる事になって、リューノが冷静に呟いたわ、
『アイツの欠点は、自分がウザ男だって気付いてない事だと思う』
だってさ!
ウケル~(笑)
私、この娘の口に悪さが大好きよ。
どっから仕入れるの……“ウザ男”なんて言葉を!?
マーニャSIDE END
後書き
リューノの口が悪いのは、姉(ポピー)か妹(マリー)の所為だと思う。
みんなはどう思う?
第18話:温もりと安心感……いいえ、俺は戸惑ってるッス
前書き
遂に訪れるウルフへの試練……
彼はこの状況を克服出来るのか!?
(砂漠)
ウルフSIDE
新たな仲間ホフマンを加え、俺達は砂漠縦断へと乗り出した。
やる気満々のホフマンに導かれ、一休みもせず昼を回った時間に出立する……
当然、砂漠の真ん中で夜を迎える哀れな旅人……そう俺達ッス!
イシスでも体験したのだが、砂漠ってのは昼間の攻撃的な太陽光と輝く砂からの照り返しによって、強烈な暑さを醸し出している。
翻って夜は、日中の太陽熱を砂が即座に放出する為、寒さが尋常ではなく……寒暖の差が激しすぎるのである!
元気いっぱいで出立を促したホフマンを始め、冒険初心者のシン君達には辛く、日が暮れ幾ばくも歩かないうちに限界を迎えてしまう。
特にリューノには堪えたらしく、早々に馬車内へ下がりダウン状態であった。
俺は元より戦闘をしないでいたので、体力が有り余っている……ついでに言えば、荷物も馬車に入れて移動できる様になったので、荷物持ち要員としての役目もなくなった。
だからと言うわけでは無いのだが、皆が馬車内で眠っている間、外でたき火を囲い見張りをしています。
シン君はリーダーらしく『数時間したら俺が代わりますから、ウルフさんも休んで下さいね』って言ってくれた……
優しさに涙が出そうだが俺は彼を起こさない。
自ら起きてこなければ交代してやらない。
冒険初心者が偉そうにベテランへ指示を出してもらいたくない。
初心者は初心者らしく、しっかり休んで心身共にリフレッシュした状態で日中の行動に全力を尽くしてもらいたい。
俺は簡易ポットで暖めたコーヒーをコップに注ぎ、その熱さに耐えて飲みながら思い出す……
そう言えばリュカさんも一人で見張りをしてくれてたなぁと……
自分自身も今のシン君達みたいな時代があったなぁと……
「わぁ寒っ! 昼間とは大違いで寒いわね!」
満天の星空に義父の記憶を投影していると、その娘が馬車から起き出してきて呟いた。
見ると彼女はノースリーブのワンピース姿でこちらに近付いてくる。
「何だリューノ……起きたのか? 大丈夫か、昼間は辛そうだったけど?」
「あ、うん……ゴメンね迷惑かけて。一休みしたら大丈夫になった……っても、夜になって涼しくなったからだけどね」
そうか、そう言えばこの娘はスノウさんの娘……雪の女王と言われた事もあるほど、寒い系が得意な母親の娘だったな。
「それにしても、その格好は寒いだろう!? ほら……こっちに来てたき火にあたれよ。暖かいコーヒーもあるから……」
そう言って俺はリュ-ノを手招きし、もう一つのコップにコーヒーを注いで掲げて見せる。
「うん、ありがとう」
珍しく素直に礼を言うリューノ……
小さな両手でコップを受け取ると、自然な動きで俺の膝の上にチョコンと座る。
うん。膝の上と言ったが、俺は胡座をかいて座っているので、ほぼ股座に収まる感じだ。
そのまま背中を俺の前面に押しつけ、俺のマントを俺ごと羽織る様に引っ張るリューノ……
グイグイ密着してくるので、彼女の柔らかいお尻が、俺の暴れん坊ソードを心地よく刺激する。
コレまずくね!?
「お、おい……何だよ急に……そ、そんなに寒いのか?」
「うん…寒いよ。それに家族と離れ離れで寂しいし……ウルフが居てくれて凄く助かってる」
何だ!? どういう事だ!?
リューノが素直で可愛いぞ!
「私ね……ウルフに感謝してるんだ」
「え!? な、何をかな?」
何か感謝される様な事したっけ?
いや……それより、あんまりソコを刺激しないで!
「あのね……裏切りの洞窟で私の質問に答えた後、『俺には質問などしなくても、仲間の事は理解できている。見ただけで偽者じゃ無いって判るさ!』って言ってくれたじゃない。私ね凄く嬉しかったの……私の事を理解してくれてる人が居るって事に」
あれ~?
困ったな!
アレには裏があるんだけど……カッコつけてそれは言ってないんだよね。
「私ね……マリーの事が好きじゃないわ。でも、居ない方が良いとかて感情まででは無いの! ただアイツと会話していると苛つくだけなのよ。そんなマリーが連れ帰ってきた彼氏に、恋心を抱いてるって気付いた時に、私は自身で認められなかったの……」
何だって!?
絶対に俺の事が大嫌いだと思ったリューノだが……
まさかの告白に、お兄さんドキドキっす!
そして暴れん坊ソードがムックムクっす!
「私……勘違いされてるみたいだけどもファザコンじゃないよ。そりゃお父さんの事は慕ってるし、もし口説かれたら…………でも、私が恋してるのはウルフなの」
そんな可愛い事言っちゃいながら俺の両腕を自分の前面に回し、抱きしめる様促してくる。
まだ発育途中の胸が掌にあたり、何とも言えない幸福感を味合わせてくれる。
うん。無意識でモミモミしちゃってるけど、コレって絶対ダメだよね!?
だって俺には彼女が居るのだから……彼女を愛してるのだから!!
「ウルフは私の事……嫌いだよね……生意気だし……」
混乱で何も言えなくなっているのに、リューノは一方的に話しかける。
世の中の男に、美少女から告白されて(しかも乳揉みさせながら)嫌いと言える奴が居るだろうか?
居たとしてもソレは同性愛者だけだろう……
「馬鹿だなぁ……嫌いなワケないだろ! 俺はリューノの素敵な部分を知ってるんだから……嫌いになるワケないじゃないか」
違う! いや、そうなんだけど違う!
これでは俺がリューノを口説き落とそうとしてるみたいじゃないか!?
口説かないゾ! 落とさないゾ!!
俺はマリーを裏切りたくないんだから……
「本当?」
リューノは俺の言葉聞き、身体を反転させて顔を覗き込む。
彼女もリュカさんの娘……リュカさんが選んだ愛人の娘……そりゃ可愛いさ!
とっても良い匂いが漂ってきて、俺の理性を優しく取り去りそうさ!
「本当だとも……俺だってリューノの事は大好きだよ。……でもね、俺はマリーを裏切りたくないんだ! マリーもリューノも同じに好きで、だからこそ傷付けたくないんだ」
俺は残り僅かな理性を総動員して、彼女を傷付ける事無くヤンワリ断りを入れる。
もう暴れん坊ソードはバッキンバッキンだ!
「そ、そうだよね……ウルフにはマリーが居るんだもんね……ゴ、ゴメンね! な、何か気を遣わせちゃったね」
そこまで言うとリューノは慌てて立ち上がり、一口も飲んでないコーヒーのコップを俺に返し馬車の方へと歩き出す。
折角勇気を振り絞って告白したのに、何だか悪い事した気になった……
何を言うつもりになったのかは解らないけど、俺の横を通り過ぎたリューノに視線を向ける為振り返ると……
「ん……」
狙ったかの様に俺の唇に自分の唇を重ねてくるリューノ!
小さい両手が俺の両頬を押さえ、甘やかな時間に引きずり込む。
一瞬か永遠か……違いが分からない時を経てリューノは唇を離すと、恥ずかしそうに馬車へと入っていった。
どうして良いのか判らなくなった俺は、唇と両手と股間に残った彼女の柔らかい記憶を糧に、収まりのつかなくなった暴れん坊ソードど落ち着かせる為、一心不乱に自家発電に励んだ!
もうコーヒーなど要らないくらい眠気とは無縁の俺……
マリー以外を思い浮かべての行為は、何年ぶりだろう……
本人が直ぐ側に居るのに情けないよ……
でも願わくば、シン君が起きてこない事を祈る。
こんな姿は見せられないし、どうにも止まらない実情が俺を困らせる。
あぁリュカさん……俺はどうすれば良いのですか?
貴方の娘さんの事で悩んでるのですから、『二人ともモノにしちゃえば!?』って言うのはヤメて下さいね。
ウルフSIDE END
後書き
実は驚きの新事実!
両手に花を満喫出来るかウルフ!?
どっちを選んでも親父は変わらんよ。
第19話:我が家流、商魂魂撃破方!
(砂漠)
シンSIDE
今日も朝早くから砂漠を縦断している。
砂漠の気候は極端で、日が昇り直ぐに気温が上昇……
まだ夜明け一時間なのに、暑さで体力を減少してます。
そんな中、一晩中見張りをしてくれてたウルフさんの様子がおかしい……
やはり寝不足にこの暑さが堪えてるのだろうか?
俺が約束を破ったばかりに……
昨晩、ウルフさんが見張りを買って出てくれた時、俺は『数時間したら俺が代わりますから、ウルフさんも休んで下さいね』と交代する事を提案した。
だが俺は、砂漠での疲労が大きかったらしく途中で起きることなく、朝まで眠り続けてしまったのだ!
途中で代わるなど大口を叩いたクセに、一度も起きることなく全てを押しつけてしまうリーダー……
そりゃ怒るよ!
何も言わないでくれてるのは、若輩者の俺に気を遣ってくれてるからだろうなぁ……
昨日、一番最初に暑さにやられたリューノちゃんに対し、心底労る言葉と態度で接しているウルフさん。
普段だったら、ワザと怒るようなことを言って彼女の元気を確認するのに……彼らしくないです。
「あ、あの……ウルフさん。昨晩はごめんなさい! 俺、交代するとか言っておきながら、朝まで起きれませんでした……本当にごめんなさい!」
「何言ってるんだ、起こして交代しようとしなかったのは俺だよ。シン君が謝る事なんて無い……むしろ気を遣わせちゃってゴメンな!」
俺はウルフさんに近付き深く頭を下げて謝罪した。
しかしウルフさんは、俺の頭を上げさせて優しい表情と口調で謝罪の必要を否定し、逆に謝ってくる!
「俺は日中、戦闘をしてないし馬車を入手してから荷物持ちもしてないから、体力が有り余っているんだ。逆にシン君は戦闘指揮を行いながら自らも戦い体力を消耗している……元より俺一人で番をするつもりだったのだから、交代の為起きなくても俺は文句を言うつもりはないよ」
どうやらウルフさんは怒っているわけでは無い様子だ……
では、いつもの彼と違って見えたのは何だったのだろうか?
やっぱり寝不足でテンションが上がらないのかな?
シンSIDE END
(アネイル)
ウルフSIDE
俺はロリコンでは無いハズなのだが、昨晩のリューノの告白により少なからず動揺し、そして気持ちが上擦っている。
その所為か、昨晩交代要員を名乗り出たのに起きてこなかったシン君が、普段と違う俺に気付き謝罪してきた。
参ったな……彼が起きてこなかった事に、怒りなど微塵も無いのに……むしろ起きてこなくて助かったくらいなのだから。
やはり“勇者”と呼ばれる人間は、根が真面目に出来ているのだろう。
義兄カップルが良い例だ。
アレは“馬鹿”が付くほど真面目だから……
「おや、お兄さん達。この町は初めてだね!? 温泉街と知られた『アネイル』は、温泉だけじゃ無いんだよ……どうだい、俺が無料で観光地案内を引き受けるけど?」
昨晩の事に絡んでリューノとシン君の事を考えて歩いていたら、町一番の大きな宿屋の前で観光案内を買って出てくれる人物に遭遇する。
見た感じ今から入ろうとしている宿屋の人間ではないな……
もしそうだとしたら宿屋に入る前に勧誘する必要性が皆無だ!
沢山の荷物を持ったままの客をそのまま待たせるなんて、サービス重視の宿屋が行う行為じゃ無い!
これはアレか……
サービス・設備・その他諸々も大手に敵わない弱小宿屋が、客をかっさらう目的で始めた観光案内だろう。
どうするか……いつもの俺である事を証明する為に、コイツ相手にリュカさん節を炸裂させるか!?
「観光に来たワケじゃ無いからいいッス!」
マーニャさん・ミネアさんは勿論、リューノもホフマンさんも乗り気になっていた観光案内を、俺の一存で断り切る。
皆、声には出さないが不満そうだ!
「いや……観光じゃなくても町の事を知るには良い機会だろう!? そんなに時間を取らせないから、俺に任せてみてはどうだろうか? 何てったって無料なのだから!」
6人という宿泊人数……小さな宿屋には見逃せない客だろう。
ましてや俺達には馬車がある。馬の管理料も無視できない!
「しつこいなアンタ……“無料”をアピールしてるけど、そんなにこの町を紹介したいのか? 何でそんなに紹介したいんだよ!?」
ここで素直に『俺の宿屋に泊まらせたいから!』って言えば、俺の負けを認めコイツの勧めに乗ってやろう。
「そ、そりゃ……俺はこの町が大好きで、色んな人に町の良さを知って欲しいからさ!」
はい、アウトー!
『お前等を騙して、俺が得をする』って感情を抱いてしまったね。
これでリュカ家からは嫌われる事必至だね。
「全部お前の都合じゃねーか! こっちは忙しいんだって言ってんだろ! 沢山の荷物を持って、宿屋の手前でお前の長話を聞かされ……いい加減ムカついてんだぞ! お前の案内は無料だろうが、俺達の貴重な時間を奪った事は有料なんだよ! 今すぐ金払え! 俺達の時間を奪った代金100ゴールド払え馬鹿者!」
「え……な、何で俺が逆に金払わされるんだよ!」
「“逆”って何だ!? お前のは無料だろうが! それとも無料ってのは嘘だったんだな! 後から法外な料金を騙し取る算段だったんだろ! 不届き者め……斬り殺してくれよう!」
俺は奴の言うとおり、逆に金を要求しそれに反論したところで激怒して見せ、ゆっくりと腰から剣を抜き放つ。
そんな俺を見て顔面蒼白になる無料観光案内男とマーニャ達……
慌てて俺を止めようとするが、事の次第を理解しているリューノによって止められる。
流石は身内……よくぞお見通しで(笑)
「ま、待ってくれ……お、俺はそんなつもりじゃ……ゆ、許してくれ!!」
「許すも何も……俺達は今なおキサマに貴重な時間を奪われ続けてるんだ! キサマはどの様に始末を着けてくれるんだ!?」
俺は言外に『命が惜しかったら金払え!』って含め言い放つ。
直接言ったら単なる恐喝になっちゃうからね。
その辺は気を付けるようにと師匠からアドバイスされてるんだ!
リュカさん素敵です。
「わ、分かった! は、払うよ……100ゴールドを払いますよ!」
泣きながら財布を取り出し、一番手近なホフマンに100ゴールドを手渡す男……
しかし……この程度で終わらないのがリュカ式 商魂魂撃滅作戦。
「馬鹿かお前は!?」
ここでは怒りを露わに声を裏返させて言い切るのがポイント。
「俺達は6人居るんだぞ……先ほど俺が言った料金は、1人の時間を奪った代金だ! お前はそんな計算も出来ないのか!?」
後出し料金、待ったなし!
手に持っている剣を地面に突き刺し、金属音を響かせて追加料金を平然と突き出す。
目の前の武力的恐怖に加え、常識の通じないキチガイを相手にしている恐怖で反論を奪うのだ。
世の中、どんな奴が非常識なのかは見た目では判断付かない……
奴は今後二度と、同じ勧誘行為はしないだろう。
それを考えると、リュカさんはこの町に立ち寄ってはいないのだろう。
本家本元が立ち寄っていたのなら、この男だけでなく誰もが似た様な行為を行っているハズ無いからね。
真似てる俺などよりも遙かに理不尽なお人だからね!
「わ、分かった……600ゴールドだな! ほ、ほら」
合計600ゴールドをホフマンに渡し、これ以上課金されては堪らないとがかりに、脱兎の如く逃げて行く自称無料観光案内人。
リューノ以外の全員が、鼻白んで俺の事を眺めてる……
「流石ねウルフ。お父さんの弟子だけはある……一瞬だけどお父さんが居るのかと思っちゃたわ♡」
意味ありげな口調で抱き付き、俺の行為を賞賛するリューノ……
昨晩の事が無ければ『俺に惚れるなよ☆』って彼女にセクハラしたのだけど……今は出来ません!
ウルフSIDE END
後書き
ウルフ君は正しい人生を歩んでいるのだろうか?
もし道を間違えてしまったとするならば、一体何処で間違えたのだろう?
第20話:温泉は心も体もリフレッシュさせる
(アネイル)
マーニャSIDE
私達はアネイルの宿屋へ……各自に割り当てられた部屋へと向かう。
宿屋内に併設された食堂で夕食をすませ、町のメイン施設でもある温泉へと繰り出すつもりなのだ。
着替えやらタオルやらを用意し、再度フロントへ集合!
聞いた話では混浴温泉だとの事……
いけしゃあしゃあと男のシンとホフマンが集まっているのが気に入らない!
「おいキサマ等、私達は女性だけで温泉を楽しむつもりなんだよ! 覗く事は勿論、一緒に入る事など許さんからな!」
「ち、違いますよマーニャさん! 俺達は貴女達の後で入る予定なんですが、リューノちゃんが『おい野郎共……絶世の美女が入浴している間、不埒な者が覗かない様に見張ってろ! お前等が覗いたらブッ殺すゾ!』って強引に……」
この娘の良いところは、不必要なまでの上から目線だ。
どんなときでもお願いするのではなく、命令をする女王様体質だ!
「なるほどね。でも何でウルフが居ないの? アイツが一番見張りに適してると思うんだけど」
「ウルフは昨晩の見張りをしてから眠ってないし……集合前に部屋を覗いたら、ベッドで横になってたし……」
あら珍しい……この娘が気を遣うなんて。
私としてはウルフには一緒に温泉へ入ってもらい、誘惑攻撃を仕掛けたかったのだけど……
まぁ仕方ない!
見張り二人を従えて、絶世の美女軍団は温泉でリフレッシュしましょうか!
マーニャSIDE END
(アネイル)
シンSIDE
「シ、シン君……この直ぐ後ろで、美女達が全裸で入浴してるんですよね」
「まぁ温泉だからね……服は着てないだろうね」
「覗いたら……殺されますかね?」
「多分ね……そう言ってたし」
何時の世も、どんな時でも女性は主導権を握るのか……
俺も村にいた頃は、シンシアの命令には逆らう事が出来なかった。
基本的に理詰めで追いやられ反論を封じてからの命令……
仮に辛うじて言い負かせても、伝家の宝刀『泣き落とし』が待っている!
アレをやられて強硬手段に出られる男が居るわけない。
強硬手段といえば、昼間のウルフさんは凄かった!
俺もマーニャさん達も、完全に騙され観光案内の男について行くところだった。
あの悪質な勧誘を回避した手腕……凄いと思う。
でもお金を払わせる事なかったんじゃないかな?
あれではカツアゲに等しいよ……
まぁ……宿代が浮いたけどね。
食事も豪勢に出来たけどね!!
そう言えば、リューノちゃんがウルフさんの手腕を見て『凄~い! まるでお父さんが居るみたい!』と喜んでウルフさんに抱き付いてたな。
あのリューノちゃんが抱き付くなんて……相当凄い事なんだろうなぁ。
でも、リューノちゃんのお父さんでウルフさんのお師匠さんって……一体どんな人なんだ?
シンSIDE END
(アネイル)
ウルフSIDE
どうやら温泉に行ってた女性陣が各々部屋へと戻ってきた様だ。
正直現在、ミネアさん以外の女性陣には気まずくて会いたくないので、俺の部屋にやって来る前に温泉へと向かいます。
町に騒ぎは起きて無いみたいだし、シン君達は覗いたりはしなかったんだな。
こう言う時はリュカさんが居た方が面白くなるんだろうなぁ……
現状の俺では、率先して覗きを促す気になれないけど。
しかし困ったな……
まさかリューノに告白されるとは……
あれがツンデレってヤツだったのか?
昨晩以前にデレられた記憶が無いから分からなかったよ。
正直言ってリューノは可愛い。
それは当然だろう……何せリュカさんの遺伝子が入ってるのだからね。
あの人の子供で水準以下の子は居ないだろう!
100点満点中、低くて90点だ!(しかも無理矢理低く見積もって)
宿屋を出て温泉まで歩き考える……
俺は自分でロリコンじゃないと思ってる。
その証拠に、マーニャさんやミネアさんに欲情する事しばし……
勿論手は出さないけども、あのボディーは魅力だよ。
しかし考えると、まだツルペタ時代のマリーに欲情していた前科がある……
あの頃は“マリーの内面に惚れた”って自分でも思ってたけど、まだ膨らみかけのリューノに対し、あそこまで盛り上がれる自分に疑いを持つね。
今『お前……ロリコンだろ!』と言われたら、完全否定する自信が無いッス!
時間は既に深夜帯……
開いている商店などはなく、静寂が耳を刺激する。
そんな静けさの中、目的の温泉が見えてきた。
すると中から、シン君とホフマンさんが湯上がり姿で現れる。
女性陣の後で温泉に入ったはずだから、まだそんなに時間は経過してないのに……
随分と早いのだな!? 温泉を満喫すれば良いのに……勿体ない。
「あれウルフさん、お目覚めになったんですか?」
シン君が気遣う様に俺に話しかける。
あぁそうか、リューノが部屋を覗いた時に寝たふりをしてたから、俺が疲れ切っていると思ってたんだ。
「ん……うん。一眠りしたら温泉に入りたくなってね……俺の事は気にせず、二人は宿屋で休むと良いよ」
そう言って心配げな顔をするシン君と擦れ違い、俺は温泉へと入って行く。
服を脱衣所で脱ぎ、浴室へ入って直ぐに身体を洗い清め、無色透明な湯が張る大きな湯船に身を沈め寛ぐ俺。
時間も時間なだけに、客は俺一人……
実に開放的で気分が良い!
悩み多き年頃の俺には、この開放感は格別である!
とは言え、悩み多き年頃の俺には、まだ悩まねばならない事が多々ある……
俺のロリコン疑惑は置いといても、リューノの事をどうするかだ!
正直、好意を寄せてる女性を無碍にする事は出来ない。
きっとあの娘の性格からして、今まではマリーに遠慮してツンケンしてたんだろう。
妹が連れ帰ってきた彼氏を羨ましがる訳にはいかないだろうからね。
それに、あの二人は仲が悪いからね……“マリーの彼氏に手を出して、二人の仲を破滅させようとした”なんて言われたくないだろう。
では何で今更告白してしまったのか?
それはやはり……この非日常的時間の所為だろう!
家族(特に父親)とはぐれ、身を寄せた村は滅ぼされ、久しぶりに再会できた相手が密かに恋心を寄せる俺であった……
邪魔な(気を遣う)マリーも今は居ないし……
気付かずに俺は口説いちゃうし……
きっと我慢が出来なくなったんだと思う。
はぁ~……参った!
(ペタ、ペタ)
気付くと俺の背後(脱衣所への扉がある方)から、他の入浴客の足音が近付いてくる。
貸し切り状態は終わりかと、ガッカリ気分で振り返ると……
何とそこには裸のリューノがタオル一枚で身体を隠して立っていた!
温泉の熱気か、それとも恥じらいなのか、頬を赤く染めて湯船に入り、俺の真横で腰を下ろす。
勿論その際は湯船にタオルは付けません。
温泉ルールを守ってらっしゃる!
「リュ、リューノさん……眠ったのではないのですか?」
緊張で声が上擦る。
「うん。ウルフが温泉に行くのが見えたから、後を付けてきたの」
出遅れたか!? もっと早く……そして密かに出るべきだった!
「あ、あの……夜更かしは美容に悪いと思うよ……」
俺は右横に来たリューノを見ない様に、真っ直ぐ正面だけを見て話しかける。
すると彼女は俺の腕に柔らかい何かを押しつけ答えた……
「うん。美容には気を付けてるよ。我慢する事も良くないと聞くし、こうやって思いをさらけ出してるの」
一体俺の腕には何が押しあたっているんだ!?
柔らかい膨らみの中に、ポチっとコリコリの何かが存在する。
ああ、俺の暴れん坊ソードが眠りから覚めちゃった……
タオルとかで隠せないから、それを見たリューノが「うわ、すごっ……」って呟いてる!
この温泉は何で乳白色とかの濁り湯じゃないんですか!?
それとも俺が頑張って乳白色に換えろって事ですか!?
ウルフSIDE END
後書き
以前はニット帽の貴公子だったのに成長したものよのぉ……
第21話:愛とか夢とか希望とか幸せとかッス
(アネイル)
ウルフSIDE
俺は温泉近くにある安宿の一室で目を覚ます。
もっとランクの高い宿屋を確保してあるのに、何故にこんな安宿に泊まったのかと聞かれると……俺は隣に視線を向けるしかない。
そこにはリューノが静かに寝息を立てている……全裸で!!
やっちまった……
よりによって恋人の姉妹に手を出しちまった!
まだ他人のマーニャさんとかなら言い訳も出来るが、彼女は拙いだろ!
俺は安宿のベッドで半身を起こし、頭を抱えて自己嫌悪に陥る。
マリーに何て言い訳すれば良いのですか?
リュカさんはこの事を知ってどうするでしょうか?
まぁリュカさんは大丈夫だろう……
だって仮に叱られても『お前が言える事じゃないだろ!』って言える……多分言えるハズ……でも怖いからなぁ、怒ると……
それより問題はマリーなんだよ!
どうする……黙っておくか!?
いやダメだ……マリーとリューノは仲が悪い。
くだらない口論中にポロッとリューノが言いそうだ……
ではどうする?
やはり俺から申告した方が良いだろう。
反省をアピールできるし、反論を用意する事も出来る!
だが、そうするとリューノには何て言えばいい?
勇気(?)を振り絞って俺に告白(誘惑)をし、見事目的(?)を達成できたのに……
『1発ヤっちゃったけど、やっぱ俺マリーが良いッス!』って言う? つか言える!? つか1発で終わったけ?
ううん……そんな非道い事言えないッス、数発だったッス!
だってリュカ遺伝子を継ぐリューノは、やっぱり可愛いんだもん!
今にして思えば俺の事が好きだから、彼女の性格からしてツンツンしてたんだろうね。
そしてここへ来てデレが出てきたんだと思うよ…………やっべ凄く可愛いッスよ! 手放したくないッスよ!
俺はリューノの事を考えつつ、隣の彼女をマジマジと観察する。
恋人に比べたら遙かに小さい胸……しかし同年代の少女と比べれば、平均的であろう胸……
幼さが残る……というか、まだ幼い体つき……
いいよ……解ったよ……俺はきっとロリコンだよ!
でもただのロリコン男じゃないぞ! 豊満な体つきの女性も大好きなロリにも手を出せる男だぞ!
……………自慢なんねー!
大体リュカさんの娘は可愛すぎるんだよ!
これは犯罪だろ!?
理性で判っていても、男の第二の脳は判っちゃくれないんだよ!
俺はリューノの肢体を見て、またまた元気になってしまった第二の脳部分を見て酷く落ち込む……
第二の脳部分は立派で自慢の息子なんだけど、この状況が俺を落ち込ませる。
リュカさんはこんな気分になった事があるのかな? 無いだろうなぁ……
ウルフSIDE END
(アネイル)
リューノSIDE
私の隣でウルフが頭を抱えて悩んでる……
そうだよね……だって彼には彼女が居て、しかもその彼女は私の妹なんだもんね。
悩んじゃうよね……困っちゃうよね……
最近のウルフの頼もしさに揺らぎ、自分の欲求を優先させてしまった私……
でも大好きなウルフを困らせるのが目的じゃないの!
ただどうしようもなく我慢できなかっただけなの!
私、マリーの事が嫌いだけど……それでもあの娘を不幸にしたいとは考えてない。
勿論ウルフには幸せになってほしいし……
そうなると後から出てきた私が諦めるしかないよね……
「ウルフ……ゴメンね。貴方を困らせるつもりはなかったのよ。本当に……ただ本当に貴方の事が好きなだけだったの……ごめんなさい」
私は体を起こし隣で悩むウルフの腕に抱き付き謝る。
「リュ、リューノ……」
ウルフは起きた私を見て、更に困り顔で名前を呼ぶ……
本当は眠ったフリをしてた方が良かったのかもしれないけど……ウルフの悩んでる姿を見てられなかった。
「私ね……貴方とマリーの仲を壊すつもりないの! だから私の本当の気持ちも、昨日の晩の事も、絶対に誰にも言わない。だからウルフは気にすることなく、これからもマリーと仲良くすれば良いのよ。私の事は………うん、お父さんみたいに偶にコッソリ逢って、その時に愛してくれれば良いから! 私はお父さんの愛人・スノウの娘よ。だからウルフの愛人で良いの! コッソリの愛人で……」
私はウルフの顔を覗き込み、懇願する様に呟く。
ウルフは幸せになるべきなの。勿論マリーも……
後からしゃしゃり出てきた私が我慢すればいいのよ。
「リュ、リューノ!!「きゃ!」
突如ウルフが私を押し倒してきた!?
「ど、どうしたのウルフ!?」
「そんな悲しい事言うなよ……俺、マリーにこの事を話す! 全部話して説明する! そして二人とも幸せにしてみせるよ。リュカさんに出来た事だ……俺にだって出来る! 2人の女の子くらい幸せにしてみせるさ!」
「そ、そんな……マリーが納得するワケないわ。ムリする事ないわよ……私は絶対に誰にも喋らないから……」
嬉しかった。ウルフの心が、ウルフの優しさが嬉しかった。
でも、だからこそ秘密にするべきだと思う。
私の所為でウルフが不幸になっちゃダメよ!
「いや、君の存在を隠したままじゃ俺はマリーと心から幸せになれない。俺はマリーに……勿論君にもだが、嘘を吐きたくない! 俺は絶対に2人を同時に幸せにしてみせる…2人とも心から愛し続ける! もしマリーも君も、この関係がイヤだと言うのなら、俺は諦める。2人を諦めるよ……そして此方の世界に残り、二度と2人の前には姿を現さない」
嬉しかった。隠すことなく私も愛してくれる……ウルフの言葉に涙が出てきた。
それと同時に、私もマリーもこの関係を認めなければ、二度とウルフに会えなくなる事に恐怖を感じた。
イヤだ……それだけは絶対にイヤだ!
私はウルフに口吻をし、心の中で強く誓う。
今後はマリーと仲良くしよう……私がウルフと仲良くしても我慢してもらえる様に、彼女に対して態度を気を付けよう。
リューノSIDE END
後書き
スルスルと書く事が出来ました、今回の話は。
ほんとスルスルと……
でも悩んだ部分もあります。
それはサブタイトルです。
今でも納得してません。
「何を言っても言い訳っす」ってのもありましたけど、取り敢えず今のサブタイトルにしました。
第22話:幸せな秘密
(アネイル)
リューノSIDE
「あ、こんな所に居た!? 探しましたよ二人とも……あれ、二人で温泉に入ってたんですか?」
ウルフとの再戦を終え、身体を清める為に温泉へ赴いた私達……
湯上がりに温泉施設前でバッタリとシンに出会した。
「そ~なんだよ! 俺が朝風呂してたら、後からリューノが入ってくるじゃん! 目の保養の為、長風呂になっちゃったよ!」
何時もの口調でさり気なくお尻を触りセクハラをしてくるウルフ……
「このスケベウルフ! 調子に乗るなよ……本来なら私が入ってきた時点で、遠慮して出て行くのがキサマの礼儀だろ!」
私も可能な限り何時もの口調で答え、ウルフの脇腹に拳をめり込ませる……でも力が入りきらなかった。だって触られても嫌じゃないんだもん♥
第二ラウンドを終えた後ウルフから『マリーに事情を話すまでは、周囲に俺達の関係を悟られない様にしよう』と提案される。
理由は簡単で、説得しやすい状態でマリーに話を持ちかけたいそうなのだ。
解る気がする……
私達……というか、ウルフ以外から事前に私達の関係を知ってしまった場合、マリーの事だから大激怒するに違いない。
そうなったら手が付けられない……冷静な話し合いなんて望めないもの。
怒るにしろ説得できる状態……即ちウルフ自らが一番最初に真実を告げる事が必要なんだとか……
その為に先にお父さんに相談したいみたい。
そうよね……この状況はお父さんの専売特許みたいなものだもんね!
『俺も貴方と同じ道を歩みたいのですが、文句ありますか?』って聞くみたい(笑)
だから順序としては、お父さんに相談してアドバイスを得てから、マリーに真実を話し私を正式にウルフの愛人に納めてもらおうってワケ!
お父さんと合流する前にマリーと合流しても大丈夫な様に、私達の関係は秘密になりました。
でも一時的なモノだってウルフは強い口調で訴えたのよ。
必ず私もマリーも公然と幸せにしてみせるって……凄く嬉しい♡
リューノSIDE END
(アネイル)
シンSIDE
へー、あのリューノちゃんが大人しく混浴に浸かるなんて……
流石ウルフさんと言うべきなのかな?
女心を捉えるのが上手だなぁ……
俺も学ぶべきかな……
でもシンシアが居ない今、俺には無用かなぁ……
目の前で楽しそうにリューノちゃんへセクハラをするウルフさんを見て、羨ましさと悲しさで溜息が出てしまった。
「何だ溜息なんか吐いて……触りたいのなら触れば良いじゃんか、リューノのでも良ければだけどね(笑)」
「何勝手な事を言ってやがる馬鹿ウルフ!」
リューノちゃんに殴られて痛そうに蹲るウルフさん……
でも見た感じ、それほど強く殴ってない様に見えるんだけど……
何だろうか?
セクハラをされリューノちゃんが手加減をする理由が思いつかないのだが……
もしかして……混浴に一緒に浸かっている時に、ウルフさんは彼女を口説いたのかもしれない。
そしてウルフさんの口説きに、本気で落とされてしまったリューノちゃん……
ラブラブ状態になっちゃったのかな?
つーか、どこか別の宿屋で励んだ後に温泉へ浸かってたのかもしれないぞ!?
幾ら何でも朝風呂が重なるなんて偶然すぎる……
大分以前からラブラブだったのかも!?
ウルフさん……リューノちゃんの妹さんと付き合ってるって話だけど、大丈夫なのかな?
指摘した方が良いのかな? 俺の勘違いだと良いのだけど……
う~ん……勘違いだったら二人の状態を壊しかねないし、俺は口を出さない方が良いよね!
「お気遣いなくウルフさん。俺は未だ、シンシアへの思いが断ち切れてないので、他の女性へのセクハラはちょっと……それに俺はロリコンじゃないですし!」
俺はウルフさんの言葉を冗談と受け取り、笑顔で冗談を言い返しました。
だからワザと失礼な事を言ってリューノちゃんを怒らせます。
リューノちゃんは『何だとシン、コノヤロー! 私を馬鹿にするのか!?』と怒っているが、男女の事柄に俺が口を出すのは良くないと思うからね……
それにウルフさんの方が、その事柄には慣れてそうだし!
シンSIDE END
(アネイル)
ウルフSIDE
俺は何時も通りの態度をとっているのだが、やはりリューノには難しいらしく、少しだけぎこちなさが出てしまっている。
しかもシン君には判ったみたいで、愛想笑いで会話の方向性をズラしてきた。
俺の知っている天空の勇者と同列視してた為、彼の事を舐めていたかもしれない。
まさか女性の機微にこれほど的確に反応するとは思わなかった……
いや……よく考えたら、あっちの方がどうかしているのかもしれないな!
しかも気を遣って誰にも喋るつもりは無さそうだ……
ありがたい事だがアドバンテージを取られたみたいで良い感じはしない……
いっそコッソリと俺に確認をしてくれた方が助かる。
今後彼には注意を払わねばなるまい……
万が一にも、俺の説明より先にマリーが知ってしまう事が無いように!
リュカさんに相談して、切り出し方を確認してからじゃないと、事態を複雑にしかねないのだからね!
あぁでも……『そんな事僕が知るかよ!』とか言いそうだなぁ。
ウルフSIDE END
(アネイル)
マーニャSIDE
シンがウルフとリューノを見つけ戻ってきた。
二人とも朝一から温泉に入っていたらしい……
後から入ったリューノが、ウルフと混浴に浸かった事を屈辱的だと嘆いている。
私としては羨ましい。
早起きして温泉に行けば良かったと後悔している。
私は朝が弱いんだ……
裸で迫れば、流石のウルフだって誘惑に負けたかもしれない……
そうすればこの場にいない彼女対し、優位な状況を築けたかもしれないのに……
宿屋の食堂で用意してもらったサンドイッチを、お腹がすいているであろう二人に手渡し思う……
私も誘ってくれれば良かったのに!!
マーニャSIDE END
第23話:隠し事は苦手ですか?
(コナンベリー)
シンSIDE
どことなく色っぽさが増したリューノちゃんに気付かないフリをしながら辿り着いた『コナンベリー』という町。
エンドールで聞いた話では、この町に船製造を依頼しに来たトルネコさんという人物が居るはずです。
多分その人はミネアさんが占いで出した“導かれし者達”の一人だと思われます。
そして何より、彼と共に行動しているのは、リューノちゃんのお姉さんであるリューラさんだという事です。
あんまりリューラさんの話題を出さないお二人ですが、きっと再会できる事は嬉しいはずです。
だって家族なんですから!
「此処にトルネコってオッサンが居るはずよね! 何処かしら……?」
「そりゃ船を入手する為にこの町に来たのだから、港付近の造船所だと思うよ」
みんなの疑問をマーニャさんが代表して発言すると、即答でウルフさんが問題を解決する。
以前に訪れた事のあるホフマンさんが「じゃぁこっちですね」と俺達を導いてくれる。
地味だがホフマンさんの情報は頼りになります。
無駄に町中を歩かなくても良いのですから。
ホフマンさんに連れられコナンベリーの町を突っ切っていると、ウルフさんが眉間にシワを寄せ不思議がる……
「港町なのに……活気が無いなぁ」
そうなんですか? 俺はブランカ・エンドール・アネイル…そしてこのコナンベリー以外の町を知らないから、活気がないのかは判りません。
「そうですね……私達の故郷にあるハバリアという港だって、今のこの町より活気がありました。町の規模はハバリアの方が小さいのに……」
「でも今頃、キングレオが港封鎖をしてるから、ここより酷い事になってるわよ!」
おっとりとした口調で話すミネアさんに、寂しそうに強めの口調で話すマーニャさん……
気付けば海を見渡せる場所に出てきており、晴れ渡る青空を反射した海が眩しく煌めいている。
「どうやら活気のない理由が判ってきたぞ!」
流石ウルフさんです。俺には見当も付かないのですが、海を見ただけで原因を推測してしまったんですね!
「何が判ったのウルフ!?」
俺も凄く気になるけど、お二人の仲を秘密にしたいのなら、腕に抱き付き顔を覗き込んで質問するのは止めた方が良いと思うよリューノちゃん。
ラブラブしたくてしょうがないのだろうけど……
「あ、うん……アレだよ……その……」
リューノちゃんの行動に戸惑うウルフさん……それに気付いた彼女はさり気なく腕を放し離れる。
俺はチラッとマーニャさんに目を向けたが、気付いてる様子はない。思っていたより、その手の事に鈍感な女性らしい。
「えっとだね……び、美女が少ないから……町が廃れたんだと思うよ!」
「はぁ? アンタ何馬鹿事言ってんのよ!?」
何時もの二人の関係に戻すべく、ウルフさんが馬鹿事を言って誤魔化すと、それを察したリューノちゃんが冷たい口調で言い捨てる。
大変だなぁ……もてる男って!
「冗談だよ……そんなに怒るなよぉ」
「……で、本当は何なのよ!?」
何時ものリューノちゃんなら、この後も執拗に怒っているのだが、彼女もこの町の事が気になるのだろう……早々に引き上げウルフさんの推測を促す。
「ほら海を見てごらん……穏やかだろ?」
「それが?」
確かに穏やかで良い感じの海ですが……それが何でしょうか?
「こんなに海が穏やかなのに、船が一隻も見当たらない。港町として大規模な港が整備されているにも関わらず……港町が港として機能していないから、この町は活気が無く廃れ始めているんだと思うね! ただ……何で港として機能してにのかは判らないけど」
なるほど……言われてみれば確かに船の往来が無い。
何が原因なんだろう?
「ではやはり、取り敢えず造船所に赴いて、関係者達に訳を聞いてみましょう!」
「うん。俺もシン君の意見に賛成だ! もしかしたらトルネコさんも、それが原因で困ってるかもしれないしね」
俺はウルフさんの同意を付けるとみんなを見渡し無言で頷く。
ホフマンさんにも伝わった様で、先ほどよりも早足で造船所へと導いた。
造船所に入って最初に目に付いたのは、ほぼ完成間近の中型船が一隻……
出向の準備と共に細部の仕上げを行っている。
忙しそうに動き回る造船員を一人捕まえ、トルネコさんの事を訪ねてみる。
「ああトルネコのダンナならアッチでみんなに指示を出してるよ」
そう言った造船員の指さす方に目を向けると、良く言えば恰幅の良い男性が……悪く言えばおデブな男が偉そうに指示を出している。
「あのデブがトルネコ? リューラは何処に居るのかしら……」
飾る事のないリューノちゃんの台詞……
本人の前では遠慮してもらいたい。
「あれほどの美人(ネネさん)が、あのデブの何処に惚れたんだ? 男の趣味が最悪なのか、あの人妻?」
ウルフさんもトルネコさんに近付きながら思った事を口に出しています……
周囲が騒がしいのでご本人さんには聞こえて無さそうだけど、トラブルの元だから控えて欲しいのに!
「あ、あの……すみません。貴方がトルネコさんでしょうか?」
ウルフさんやリューノちゃん……ましてやマーニャさんに任せる訳にはいかないので、俺が率先してトルネコさんに話しかけます。
他の人には口を開かせない為に!
「はい、そうですが……あなた方は?」
「お、俺達は………」
口の悪い方々に喋らせない様、俺は慌てて説明する……これまでの事を!
シンSIDE END
後書き
あの程度の暴言で巻き起こるトラブルは、トラブルと認識していないご家族……
一体どんなご家庭で育てば、このような性格になってしまうのでしょうか?
品行方正な僕(あちゃ)には解らな~い。
第24話:性格の不一致
(コナンベリー)
シンSIDE
「そうですが、あなた方がリューラさんのご家族ですか!? あのリュカさんという方はどなたですか?」
俺の説明を聞き状況を理解するトルネコさん……しかし俺達の事よりリュカさん(リューノちゃんとリューラさんのお父さん)の事が気になるみたいで、存在を確認してます。
「リュカさんとはまだ合流できて無いッスよ! それよりリューラは何処ですか? 強い剣術少女だけど、まだまだ幼いから心配なんですよね……怪我でもされてたら、リュカさんに会わせる顔ないし」
確かにその通りだ!
俺もウルフさんに出会う前に、リューノちゃんに大怪我をさせてたら申し訳なくてまともに顔を見れなかっただろう。
「え!? えっと……彼女は……その……」
何やらとても言い辛そうなトルネコさん。
もしや、既に大怪我をして何処かで休んで居るのだろうか?
「はぁ!? お前……幼い少女を一人で危険な灯台に向かわせたのか!?」
「い、いえ……一人という訳では……旅の仲間のアローという者も一緒ですし……」
大変きつい口調でトルネコさんへ迫るウルフさん……
当然だろう。
トルネコさんの説明では、コナンベリーの東にある灯台に魔物が住み着き、船が目印にしている聖なる炎を取り払い、邪悪な炎で多くの船舶を沈没させているらしい。
それが原因でこの町も活気を失い、ゆっくりと滅びへ向かっているのだという……
そしてトルネコさんも、新たに船を建造し大海原へ旅立つ為に、灯台の聖なる炎が必要不可欠になり、優しいリューラさんが率先して危険な灯台へと赴き、聖なる炎を灯しに行ったという……
流石ウルフさんが尊敬する方の娘さん。
優しい心と強い意志を備えており、人々の為に危険を顧みない女性らしい。
そして翻ってトルネコさんは……
「誰が一緒とかじゃねーんだよ! 概ねアンタの為に灯台へ行ってる様なもんだろ! それなのにアンタは安全な町に残り、幼い少女を危険に晒しているのが許せないんだよ!」
「し、しかし……私が一緒では足手纏いになりますから……」
「アンタだって腰に立派な剣を下げてるだろ。リューラはホイミを使えるのだから、怪我の心配をする必要はない! 敵が複数現れた時に注意を引き付けるだけでも役に立つんだよ! 10匹敵が現れても、半数アンタが引き付ければ、戦闘は大分楽になるんだ……アンタが倒す必要なんか微塵もない。倒すのはリューラでアンタは囮として同行すれば良いんだよ!」
確かにその通りだ……
弱い敵でも集まれば厄介だし、連携されれば大変危険にもなる。
例え数匹でも、誰かが引き付け戦力分散をしてくれれば、勝つ見込みは大幅に上がる。
「そ、その……すみません……私……戦闘は苦手で……」
「苦手って……アンタ、エンドールに綺麗な嫁さんと可愛い息子さんを残して、夢を叶える為に旅だったんだろ!?」
そう言えばエンドールのお弁当屋で、美人の奥さんと息子さんが自慢気にトルネコさんの話をしてくれた。
それなのに戦闘が苦手だからって女の子に押しつけるって……
夢を叶える為に自分も努力するって姿勢が見えてこない!
「ごめんなさい……」
「………もう良いよ。今此処でアンタを責めたってリューラが無事に帰ってくるかは判らないんだ……それより俺は大至急灯台に赴く事にする。ホフマンさんは此処に残って出向の準備を手伝って下さい」
「は、はい解りました」
大きく溜息を吐いてホフマンさんに指示を出すウルフさん。
「シン君、悪いけど付き合ってくれるかな?」
「水臭いですよウルフさん。言われるまでもなく一緒に行くつもりです!」
遠慮がちに頼んでくるウルフさんに俺は快く返事をする。
「私は一緒に行くからね!」
するとリューノちゃんが同行を表明する。
「私も行くわよ!」「私もです!」
続いてマーニャさんとミネアさんも行く事を強調。
「まさか危険だから連れて行かないなんて言わないわよね? 敵の注意を引くだけでも役に立つのだから、私を置いては行かないわよね!?」
リューノちゃんが強い視線でウルフさんを見詰めている。
それに合わせマーニャさんとミネアさんも……
「はぁ……しょうがないなぁ。リーダーのシン君の言う事には絶対に従えよ!」
女性3人はウルフさんの台詞に嬉しそうに頷いた。
あれ……全責任は俺にかかってきちゃったぞ?
「じゃぁ勇者君。早速灯台へ行きましょうか!」
「え、あ…はい! 何か釈然としませんけど、はい!」
まぁ良いか。俺達も少しずつだが強くなってきてるし、何とかなるだろう……きっとウルフさんも助けてくれるだろうから。
シンSIDE END
(コナンベリー)
トルネコSIDE
しくじった……
まさかこんな所でリューラさんのご家族に会えるなんて思ってもみなかった!
これでは私が彼女の事を一方的に利用していたみたいに見えてしまう。
まぁ強ち間違いではないのですけど……
でもリューラさんだって私の商才と情報網を利用していたのだから、お互い様な気がするのですけど……
幼女を危険な場所へ送るって構図が、私を人でなしに仕立ててるんですよ!
あの一際怒っていた男性はリューラさんのお父上の忠実なる部下ですかね?
容姿端麗で誠実そうな風貌でした……
今回の事をお父上に報告されると厄介ですねぇ……
戻ってきたらどうにか媚を売って、私に対する誤解を解いておかなくては……
出港の手伝いをする為に残された、ホフマンっというお仲間から情報を聞き出し、先ほどの方の嗜好を聞き出さなくては!
色男だし女性に不自由して無さそうだが……
連れてた2人の美女が愛人ですかね?
そっち方面で攻めてみるのは不味いですかね?
やっぱり直接的な金銭や儲け話で攻める方が無難かな?
腰に立派な剣をぶら下げてましたし、感じからして熱血剣士風に見えました。
あまり頭の回転は速くないでしょう……儲け話をチラつかせるだけで、結構簡単に操れるかもしれませんね。
そう言えばコナンベリーより船で東南に行った所に、『ミントス』という町があり、そこには商売の神様と呼ばれる『ヒルタン』という老人が居るらしい。
そのヒルタン老人は若い頃に冒険した時、宝の地図を手に入れたと言われている。
その話を持ち出し気を逸らした上、良い情報を与えた者として仲良く慣れればこっちのもんだろう。
うん。一瞬ヒヤリとしましたが、何とかなりそうですね。
トルネコSIDE END
後書き
頑張れトルネコ。
ウルフという前哨戦を勝ち抜かねば、後に待っている本戦など戦う前に敗北だぞ!
第25話:再会不満
(大灯台)
アローSIDE
トルネコのオッサンがこれ見よがしに灯台の事を嘆いた為、心優しいリューラが灯台平定に名乗りを上げた。
案の定オッサンは付いてこず、危うくリューラ一人で危険地帯へ赴く事になりそうだったが、オイラがそんな事をさせるはずがない!
戦力として役に立たなくても、盾代わりにはなれるだろう……リューラが傷付かずに済むのなら、オイラは辛いと感じない!
そんな想いでリューラと一緒に灯台へ来たが、此処の魔物の多さは半端じゃなく、あのリューラですら大苦戦をしている。
どうやらオイラはリューラの盾として、ここでサヨナラになりそうだ。
「リュ、リューラ……オイラが敵を引き付けておくから、リューラはその隙に逃げてくれ!」
「な、何言ってる!? アローを見捨てるなんて出来ない!」
やっぱりリューラは優しいなぁ……
「だ、大丈夫だよリューラ……オイラは妖狐。リューラが逃げ切ったところで、モンスター達に幻影を見せてやり過ごすから!」
「し、しかし……」
勿論嘘だ。
好戦的になっている状況下で、オイラの神通力を駆使してもモンスター達に幻影は見せられない……
だが、これ以外にリューラを助ける方法が思いつかない。
「さあ早く逃げろ!」
オイラはリューラを押しやる様に彼女の前に出て、逃げるチャンスを与える。
「やっぱりダメ!」
しかしリューラは逃げ出さず、更に前に出てモンスターの攻撃を一手に引き受ける。
「きゃぁ!」
だがモンスターの激しい攻撃に遭い、大きく腕を怪我して倒れ込む!
「あ、危ないリューラ!!」
更なる追い打ちをかけてくるモンスターからリューラを守る為、倒れた彼女の上に被さり必至でガードをするオイラ……
きっとオイラはこのまま殺されるだろう……
でもリューラがこれ以上傷付くところを見ないですむのは幸いだ。
そんな事を考えていたら………
「ベギラゴン!」
凄まじい火炎がモンスター陣を焼き払い、まだ残っているモンスターとオイラ達の間に、見知らぬ男が割り込んでくる。
周囲を見ると、この男の仲間と思われる連中が各々モンスターを攻撃し、四面楚歌状態だったオイラ達を助けてくれた。
「ベホマラー! ……大丈夫かリューラ!?」
一際強烈な攻撃魔法を放った男が、今度はオイラ達の怪我を一瞬で治しきると、リューラに覆い被さっているオイラを立ち上がらせ、驚き顔のリューラを抱き寄せ無事を確認する。
「良かった……何処にも怪我は無さそうだね」
回復させたクセに怪我の状況を確認する為、リューラの体中を触る男……
何だか腹が立つ! 特に胸を何度も触るから、本当に腹が立つ!
「ウ、ウルフ……どうしてここに!? わ、私は大丈夫……」
「そっか……怪我は無いか。ついでにオッパイも無いね……相変わらず(笑)」
最終的にはリューラの胸を揉んでたウルフと呼ばれる男……
(ゲシッ!)「あうっ!」
鋭いリューラの右ストレートを左頬に受け、盛大に転げる男。
「余計なお世話だコノヤロー!」
目をつり上げて怒るリューラ……こんな彼女は初めて見る。
「ちょ……顔は止めてよ。俺はイケメンなんだから顔を殴るのは反則でしょ」
激しく転げたワリに、さしてダメージを負ってない様に颯爽と立ち上がり、リューラの頭を撫でながら話しかけるウルフ……何なんだコイツ?
アローSIDE END
(大灯台)
シンSIDE
取り敢えず灯台内で安全な場所を確保し、これまでの経緯を互いに説明し合う俺達。
リューノちゃんのお姉さん……リューラさんも色々と苦労をしたらしいが、持ち前の剣技を駆使し乗り切ったと言う事だ。
見た目からは想像できないが、ウルフさんも絶賛する剣術能力……今度お手合わせをお願いしたい。
見た目といえば、彼女はリューノちゃんより1日だが年上だと聞いていたが……
まぁ1日じゃ上も下もないだろうけど、リューラさんは12歳には見えない。もっと若く見える!
リューノちゃんは前後1歳の誤差はあっても、12歳くらいの女の子に見えるのだが……
でも、下手にその事を言ったりしたらさっきのウルフさんみたいに殴られるかもしれないなぁ……
あまり表情を見せなくて怖そうな娘だもんなぁ……
しかも俺は嫌われてそうだし……
別に嫌われる事などしてないんだよ。
つーか、そんな事する時間なんて無いからね!
まだ出会って数十分だからね!
ウルフさんはオッパイを揉みまくってたけど、俺はしてないからね!
ってか、やっぱりウルフさん……ロリコン?
そのウルフさんの紹介で、俺が勇者であると説明されてから、リューラさんの鋭い視線が厳しすぎる。
勇者はお嫌いですか? 俺……勇者と言っても、ボンクラ勇者だし……皆様が思い描いている神々しい勇者様とは違うんですよ!
だから俺を睨まないで……
「そろそろ行きますか!」
互いの状況を理解し合った俺達は、ウルフさんの一声で休息を終え立ち上がる。
俺は何時も通りに前衛として先頭を歩き出したのだが、リューラさんも前衛を務めようと俺の隣に布陣する。
「あ、あの……前衛は俺が担当するから、リューラさんは後方で休んでいて良いよ」
こんな小さな少女に危険な事をさせる訳にはいかないだろう。
今までは兎も角としても、前衛を行える者(俺の事)が居るのだから、彼女には安全な場所で万が一に備えて貰いたい。
「余計なお世話だ! ……私は戦える……侮辱するな!」
侮辱なんてしてないよぉ……
俺より数歩前に出てしまった彼女を見て、また個性的すぎる仲間を得た事に溜息を禁じ得ない。
俺……リーダーとしてやっていけるのかなぁ?
シンSIDE END
第26話:個性的すぎませんか?
(大灯台)
ウルフSIDE
このダンジョンのモンスターは、個々には強くないが数が多すぎる。
リューラの説明にあったのだが、灯台の聖なる炎を消し、邪悪なる火を灯しているから、モンスターも徒党を組んで現れるのだろう。
そう考えると、あの少人数でダンジョン攻略に出立するなんて信じられない!
あのオッサンの無責任さに腹が立ってくるよ。
リュカさんと合流する前に考えを改めさせないと、あのオッサンは地獄を見る事になる。
もう一つ困った事がある……
リューラの奴、シン君の事をティミーさんとダブらせて考えており、妙にライバル心を出してくるのだ。
現状は不安定な冒険中……あまり良い事ではないのだけれど……
ティミーさんは勇者である事を鼻にかけた事はない。
でも勇者であるから真面目に生きなければならないと思い込んでおり、真面目とは縁遠いリュカさんに対し反抗的な所も暫しあるのだ。
ファザコンからすれば許せない存在であり、常日頃からティミーさんは目の敵にあっている。
大人なリュリュさんは笑っているが、お子ちゃま連合には大敵として確認されているのだ。
部下として不平を言う俺も大敵予備軍だゼ!
何より剣術を専行するリューラにとって、専用武器のお陰でリュカさんと張り合える勇者ティミーは、最も許せる存在ではないのだろう。
言っておくがティミーさんの剣技は、天空の剣が無くても達人クラスだ。
ライバル視しているリュカさんが化け物クラスな為、天空の剣がないと引き分けに持ち込めないが、強さはハンパじゃない!
そんな気負いがある所為か、敵が現れると陣を崩して一人で突撃するリューラ……
直ぐ後ろにいるシン君がフォローにはいるから、敵に包囲される事はないけれど、あまり良い状況とは言えないなぁ……
「あ、あのリューラさん! 敵が現れても勝手に突撃するのは控えて下さい! 陣形という物があるのだから、みんなで協力し合って戦闘を行いましょうよ」
まったくだ……一人勝手に突っ込むから、後衛のマーニャさん達が魔法攻撃を行えない。
まさかリューラを巻き込んでイオを唱える訳にもいかないからね……マリーならやりそうだけど。
「うるさい! あんな敵など……私一人で十分だ! 勇者様は世界に必要な存在なのだから、後方で縮こまっていれば良いだろう!」
どうやら予想以上に勇者に対するアレルギーが凄いみたいだ。
強くない(リュカさんと比べての勇者の事)のに、勇者と呼ばれるだけで崇められているティミーさん。
同じ子供に生まれながら、剣術で及ばず父親の期待がティミーさんに集まるのが許せないのだろう。(あくまでもリューラ感)
でもなぁ……
「リューラさん! 俺等は仲間なんだよ……君の強さに疑いは持たないが、俺達は連携して敵を倒さないとダメなんだ! 君が一人で勝手に敵陣へ突入するから、囲まれない様フォローの為、俺も陣形を崩さざるを得なくなる。しかも敵陣には君が居るから、後衛の皆さんが魔法で援護も出来なくなる!」
「敵を倒しているのだから問題ないだろう!」
出た! 実戦経験のない半熟剣士等に良くある理論。
『敵を全滅させてるのだから問題ない!』って奴!
「リューノちゃんがお利口だから君もそうだと思ってたけど、どうやら君は馬鹿な様だ! 君が敵陣に飛び込み、そのフォローで俺が仲間から離れたら、一体誰が後衛陣を守るんだ!? 前衛の仕事は、敵を駆逐する事にあらず! 後衛の魔法部隊を守る事にあるんだぞ! 俺達前衛が目の前の敵だけに気を取られ、後ろから敵の増援が現れたら君はどう対処するんだ? 敵陣から抜けられなくなっているリューラさんには、どの様なプランがあるのですか!?」
珍しくシン君が怒っている……
かなり厳しい口調で、リューラの行動を注意している。
でも、基本この一家は我が儘だからなぁ……
「う、うるさい……こ、後衛には……ウルフが……居るから……その……も、問題ないんだ!」
そうきたか!
頼れる男はつらいねぇ~……
「アンタ最低!」
俺が何と反論しようか迷っていると、直ぐ横にいたリューノがトゲのある言葉で反撃に出る。
元々トゲのない言葉を持ってないのだけどね。
「ウルフの事をアテにしているのなら、アンタの存在なんて要らないじゃない! さっさと町へ帰って、アンタの彼氏と一発ヤってなさいよ! 私達足手纏いが居ない方が、ウルフの強さを発揮出来るのだから、一緒に行動しない方が良いのよ。でもそれじゃ意味がない……だからみんなで団結して冒険を行っているんでしょ! アンタ一人で我が儘言ってんじゃないわよ!」
流石三姉妹として常に口喧嘩をしているだけある。
言う事に遠慮が見あたらないね(笑)
俺やシン君だと、彼女を傷付けないようにと何処かで配慮するから、もう少しはオブラートに包むんだけど……
「おいリューラ……こっちに来て後衛を努めろ」
「……わ、私に……後衛を!?」
なるべく明るい声でリューラに下がる様言う俺……しかし納得してない顔付きだ。
「そうだよ……みんなの邪魔だから、お前は後ろへ下がりパーティー戦闘を見学しろ! 今のままじゃリュカさんと合流した時、大変な事になるぞ」
「た、大変な事……って?」
「リュカさんがお前の戦い方を見て、自分の娘の酷さに嘆き悲しむって事だよ! それともお前は、大嫌いな父親を嘆き悲しませたくて行動しているのかな? だとしたらゴメン、後衛に回る必要ない。そのまま我が儘全開で、俺達仲間を困らせていれば良い! 俺はリュカさんに再会出来たら、『あんたの娘は戦い方を知らない! どんな教育をしてきたんだ!?』って文句を言う」
ほらね……俺ならオブラートに包んだ言葉を選ぶでしょ……そうでもないか?
ウルフSIDE END
(大灯台)
リューノSIDE
悔しそうに下唇を噛み、少し俯き加減で後衛に来るリューラ。
私達姉妹にとってお父さんの事を出されたら、素直に従わざるを得ないのです。
キツイ事を私も言ったけど、その事が解るから優しくリューラを迎え入れる。
そっと手を繋ぎ一緒に歩いて行く。
最初は手を繋がれて驚いてたけど、笑顔を返したら恥ずかしそうに顔を赤くして前を向いてしまった。
何時もは喧嘩ばかりしてたけど、私達は家族なのだから共に協力し合おうと思います。
なんせ私は今後、ウルフの為に最難関のマリーと仲良くしなきゃならないのだから……
リューノSIDE END
第27話:アホは何処にでも居るッスね
(大灯台)
マーニャSIDE
どうやらこの一族は全体的に生意気らしい……
リューノも慣れれば可愛いが、最初は生意気小娘にしか見えなかったし……
このリューラってのも、己の強さに驕りがある生意気娘のようだ。
新たな仲間に思いを馳せていると、またゾロゾロと敵さんがお出でました。
前衛のシンが敵を引き付ける様に戦い、後衛の私とミネアが攻撃・補助魔法で援護する。
これが私達がこれまでに体得したパーティ戦闘だ。
チラリとリューラに目をやると、『私の方がもっと早く敵を倒せる……』と小声で呟いている。
足手纏いと言われたのがショックだったのでろう……
理解はしてるが納得出来ない様子で俯いている。
「リューラ……早く敵を倒す事よりも、安全に敵を倒す事が重要なのよ。私達は平穏なグランバニアで、暢気に遊んでいるのとは違うのだから。誰かが死んでから気が付いても遅いのよ……」
悔しそうなリューラの顔を覗き込み、リューノが優しく諭す様に話す。
この娘(リューノ)こんなにも物分かりが良かったけ?
「ケケケケケ、お前等トルネコの仲間だな!? ……トルネコは何処に行った?」
微笑ましい姉妹のやり取りを眺めていると、突如通路の前方にミニデーモンと思しきモンスターが立ち塞がった。
「な、何だお前は!?」
「ケケケ、俺様はミニデーモン様。この灯台に饅頭の様なトルネコって人間が現れると聞いて、食ってやろうと待ち伏せをしていたのだ! さぁトルネコを出せ……隠すと後悔する事になるぞ!」
どうやら大々的に金儲けをしているトルネコは、世界的にも・魔族的にも有名になったみたいで、ファン(?)が各地から押し寄せてきているみたいだ。
とは言え、町に置いてきてしまったので、隠すも何も無いのだけれど……
「さあ大人しく言え!」
「トルネコのオッサンならコナンベリーの造船所に居るぞ! オイラ達とは別行動中だ……あんな饅頭デブを隠せる余裕なんてない!」
トルネコの居場所を秘匿し、戦闘をしようと考えていたのだが、リューラの彼氏らしき少年が、アッサリと彼の居場所を暴露する。
「ケケケケケ、そうか……アイツは町にいるのだな!? では俺様自らが出向いて、饅頭トルネコを食べてやろう!」
嬉しそうに高笑いするミニデーモン……
町には行かせまいと身構えたのだが……
「ルーラ!」(ゴイン!!)
私達が攻撃する前に唱えたルーラで天井に頭を激しくぶつけ、そのまま絶命してしまった……
これは一体?
「何処の世界にもアホなモンスターって居るのね……」
「それはミニモンの事かなリューノさん……」
ミニモンって誰だろう……ウルフとリューノの会話に入っていけない。
「だってアイツ馬鹿じゃん!」
「そうは言うけど、アイツがラーミアの面倒を見てくれてるんだぜ。あのアホの子の面倒を見てくれるなんて感謝するべきだろ!」
何? 誰なのそいつら!?
楽しそうに話しているけど、私達には説明はしてくれないのかしら……
マーニャSIDE END
(大灯台)
シンSIDE
何だか良く解らないうちに事態は解決した。
ウルフさんとリューノちゃんが俺の知らない誰かの事を話している……
ラブラブ見えるのは俺だけだろうか?
しかし……
「アロー君。勝手にトルネコさんの居場所を教えちゃ拙いだろ……ミニデーモンのルーラが成功していたら、コナンベリーの町中にモンスターが現れる事になってたんだぞ!」
そう……もう少し状況を考えて発言してほしい。
「ごめんなさい……でも、オイラ達だけに苦労をさせておいて、あの饅頭オヤジが一人だけ楽をしているのが許せなかったんだ。……町にモンスターが現れる事まで考えなかったのはオイラの間違いです、本当にごめんなさい!」
気持ちは解るが気を付けて貰いたい。
「アロー君、大丈夫だよ」
するとウルフさんが、リューノちゃんとイチャラブするのを控えて話しかけてきた。
「何がですか?」
「このまま冒険が進めば、俺達はリューラの父親であるリュカさんと合流する事になる。あの人が横着なオヤジをソッとしておくハズがない! 俺達を利用してきた事を後悔する程酷い目に遭うはずだ。我々はそれを見て楽しもうじゃないか!」
相変わらずのイケメン爽やかスマイルで、何やら恐ろしい事を言い切るウルフさん。
リュカさんって何者なんですか?
怖い人なんですか?
「ウルフ……キサマ……お父さんを馬鹿にしているのか……?」
「とんでもないッスよリューラお嬢様! 俺が世界で一番尊敬してるのは、貴女方のお父上であらせられるリュカさんなんですよ! 娘の事は兎も角、彼を馬鹿になんてしませんよ!」
これを聞いてる何人がウルフさんの言葉を信用するのだろうか……
100歩譲っても馬鹿にしている口調で、尚かつリューラさんまでも馬鹿にしてきている。
しかし、良く考えるとリューノちゃんや彼女さんの事も含まれているよね。良いのかな………
シンSSIDE END
(大灯台)
リューノSIDE
ウルフが先程から蔓延していた、不機嫌リューラの雰囲気を払拭してくれた。
お父さんの事を馬鹿にする様な話し方をし、リューラの不機嫌を自らに集め、そしてお父さんと合流出来れば心配する事がなくなると皆さんを宥める。
「ざけんなよウルフ! 私達姉妹を馬鹿にするとは言い度胸だな……後悔するぞコノヤロー!」
更には、言外に娘である私達までも馬鹿にする様な事を言って、私達の仲を隠そうと画策する。
その程度の事には気が付く私は、ウルフの策に乗っかって怒った風を装いリューラとの絆を深めて行く。
私とリューラは手を繋いだまま、目の前のウルフに対しギャーギャーと罵声を浴びせ続ける。
彼も楽しそうに……というか、人の悪い笑顔で嬉しそうに私達をヒートアップさせてくる。
うふふふふ……楽しいわぁ!
リューノSIDE END
後書き
ウルフとリューノはもう少し控えるべきだと私は思う。
でも、思春期真っ盛りの男女の様で、オジさんは微笑ましいよ!
第28話:信じる心とは……
(船上)
アローSIDE
オイラ達は灯台の最上階で闇の炎の番をしていたモンスターを倒し、やはり灯台内に保管してあった『聖なる種火』を使い、元の灯台へと戻した。
リューラも番をしていたモンスター達との戦いに参加し、パーティー戦闘を身を持って憶えたらしく、更に頼れる剣士に成長した。
今まではオイラやトルネコが役に立たなすぎて、一人で戦う事に慣れきってしまっただけなのだ!
だからオイラやトルネコ(特にトルネコの方)が悪いのであって、リューラに罪はないのだ!
まぁこのウルフって人は、その点を解っているらしく、戦闘が終了した時は優しく褒めてくれてた。
それにしても、このウルフって人は凄い!
灯台を元に戻し外に出ると、瞬間移動魔法のルーラを唱え、オイラ達全員を瞬時にコナンベリーに運んでしまった!
オイラはウルフのアニキを尊敬しちゃってます!
そして饅頭と合流したオイラ達は、準備万端状態の船……エピカリス・ネネ号に乗り込み、大海原へ出港した。
饅頭が船名を告げた途端、『ほぅ……“魅力的なネネ”とは、隅に置けませんねトルネコさん!』って、瞬時に意味を理解するウルフのアニキ……
強いし博識だし、本当に格好いいぜ!
更に凄いのがアニキの絵の巧さだ。
出港の為、オイラを始め皆が準備を手伝ったのだが、それが終わり饅頭が金の力で雇った水夫等に船の事を任せると、奴等の邪魔にならない所に座り込み、町で買ったスケッチブックを広げて絵を描き始めた。
もう色々尊敬しまくりのオイラは、アニキの側に近付きスケッチブックを覗き込む……
するとそこには2人の美少女の姿が。
時折向ける視線の先に、リューノと会話するリューラの姿があり、2人の事をスラスラと描いているんだよ! しかも檄ウマ!
アニキの絵の巧さにも、リューラの美しさにも見とれていたオイラ。
気が付くと周囲にはギャラリーが……
頼り無いのに勇者だからってだけでリーダーのシン……半裸なのに平然としているネジの緩そうな女マーニャ……色んな意味掴み所がない不気味な女ミネア……
みんな口々にアニキの絵の巧さを褒め称えている。
流石アニキだ……何をやっても一流の男なんだ!
だが一流とは縁遠い男が、空気を読まずに近付いてくる。
それはホフマン……先程まで饅頭から商売の極意とやらを聞いていたお人好し男だ。
アニキが絵を描いている事は一目瞭然なのに、目の前に立ち興奮気味に話しかけてくる。
「ウルフさん、凄い情報を仕入れましたよ!」
「ふ~ん……」
無駄にテンションが高いホフマンに対し、まるで興味なさそうに流すアニキ……
何より凄いのは、もうリューラ達を見ないでも絵を描き続けられる所だ! 記憶しちゃったの?
「ふ~ん…って、反応薄いな!? 聞いて下さいよ、本当に凄い情報なんですから!」
「別に聞かないなんて言ってないだろ……俺は此処にいるのだから勝手に話せよ」
シビレる! 無駄に暑苦しい男に対して、ここまでクールに対応出来るなんって。
「あ、あのですね……今、我々は『ミントス』と言う町に向かっているのですが、其処に住む『ヒルタン』と呼ばれる老人が、若い頃に世界中を回って手に入れた宝の地図を持っているらしいんです!」
「……………」
「……あの、聞いてますウルフさん?」
「聞いてるよ」
一度もホフマンに視線を向けることなく、スケッチブックの絵を描き進めるアニキは、にべもなく言い捨て軽くあしらう。
「こ、これは是非とも宝の地図を譲って貰い、その宝を探し出しましょうよ!」
人間というのは金が絡むと異様にテンションを上げる生き物だ……
しかし全ての人間がそうではない。
ウルフのアニキは、ホフマンの話を聞いても顔色一つ変えやしない!
「はぁ~……ホフマンさん。俺達は貴方に信じる心を渡しましたが、人を信じる事とバカみたいに情報を鵜呑みにする事は違いますよ。貴方の将来の夢は、父親の様に自分の宿屋を持ち、世界中に展開させる事なのでしょう! だとしたらもう少し知恵を付けないと、何れ誰かに全財産を騙し取られますよ!」
「な、何ですか藪から棒に……こ、この情報は信憑せ「トルネコさん!」
アニキにキツイ事を言われたホフマンは、大分狼狽えながら情報の確かさを説明しようとしていたのだが、やっと顔を上げてくれたアニキの饅頭を呼ぶ声に阻まれてしまう。
「な、何でしょう……?」
おずおずとオイラ達の前に姿を現す饅頭……
スケッチブックを閉じ立ち上がったアニキは、ホフマンを押し退け饅頭の側に近付く。
「ホフマンさんを使い宝の地図で俺を懐柔しようとするのは止めてください!」
「な、何を言うんですかウルフさん!?」
「そ、そうですよウルフさん! 俺はトルネコさんに貴方を懐柔しろなんて言われてませんよ!」
確かに……何であの話がアニキの懐柔に繋がるんだ?
「はぁ~……解った解った、今説明してやっから!」
ホトホト疲れた様子でオイラ達全員を一瞥するアニキ……
やっぱりアニキはかっけー!
「いいか、仮に宝の地図が本物だとして、何で見ず知らずの俺達が譲り受けられると思うんだ? ホフマンさん、貴方はトルネコさんに『これは是非とも実質的リーダーのウルフさんに伝えて、宝の地図を譲り受けられる様に話した方が良いですよ』とか言われたんだろ!」
「え!? 俺とトルネコさんの会話を聞いてたんですか?」
本当にそんな会話があったのかよ!
すげーなアニキ!
「ホフマンさん……人を信じる事と、他人が言った事を鵜呑みにするのとは違うぞ! 貴方は物事の本質を見ようとしない……以前は“人は皆、裏切り者だ”と思い込み、個々の人間の本質を知ろうともしなかった。今は言われた事をただ鵜呑みにして、その情報の意味や何故教えてくれるのかを考えようとしない。それは人を信じているのではなく、その人の事を考える事を放棄しているにすぎない!」
「そ、そんな……」
アニキにキツイ事を言われたホフマンは、顔面蒼白で立ち竦む。
一体以前に何があったのかは解らないけど、コイツは前からこんなヤツだったんだろう。
「トルネコさん。貴方の考えは判ってます」
「わ、私の考え!?」
きっと饅頭は楽して儲けようと考えてるんだと思う。
「リューラは多くを語らない娘だ……きっと父親の事は『凄く強くて、格好良くて、優しくて、面白い人』以外、何も言ってないでしょう」
「えっと……はぁ……」
「だから貴方はリューラの行動や持ち物から推測した事だと思います」
「す、少しは……」
きっと少しじゃないと思う。
「貴方の推測を当てましょう。きっとリューラの父親は、何処ぞの大貴族だと思った事でしょう。リューラの世間知らずなところや、装飾品の貴重さ……腹違いで居る複数の兄妹の事」
「そ、その通りです……」
「本人に会うまでは詳しい事を説明するのは避けますが、リュカさんは貴族じゃありません。まぁ近い物はありますけど、あの人が自由に使う事の出来る金は少ないです。取り入っても旨味は少ないですよ」
「え、そうなんですか!?」
本当にそんな事を考えてリューラの手伝いをしてたのかよ……
最低な饅頭オヤジだな!
しかも最も危険な事はリューラが自分で解決してたからな……
「俺の事はどう考えました? 腰に剣をぶら下げてるから、脳味噌まで筋肉の馬鹿剣士だと思ったんじゃないですか? 宝の話を持ちかければ、ホイホイと手の平で踊ってくれる単純馬鹿だと考えたんじゃないですか!?」
「い、いえ……そ、そんな事は……その……」
こ、これも正解かよ……
饅頭の腐れ加減も凄いが、アニキの人を見る目も凄いなぁ……
そんなに会話はしてないだろうに……何を基準に判断してんだろうか?
「言っておきますが俺は頭脳派です。幼い頃より魔法を専行してきて、魔法戦であればまず負ける事は無いと自負してます! しかしながら剣術は初めて数年で、とてもではないが一人前とは言えないレベルです」
「そ、そうなんですか……!?」
色々な事実を知りガックリ項垂れる饅頭。
お前……その態度は全てを認める行為だぞ。
まぁアニキが全てを明るみにしちゃったから、今更取り繕っても意味はないけどね。
「ホフマンさん。解りますか……トルネコさんが貴方に宝の地図の情報をくれたのは、俺が単純馬鹿だと思ったからですよ。親切心でなく下心大有りなんですよ!」
「お、俺は一体何を信じれば良いんだ!?」
饅頭の隣で同じように項垂れるホフマン。
腹黒と脳空がアニキの前で蹲る……
うぜぇ~……
「コイツ等うぜっ……」
顔を顰めたアニキが、横を向いて呟いた言葉だ。
多分蹲る2人には聞こえてない……真後ろのオイラには丸聞こえだけどね。
「はぁ……ホフマンさん。人を信じるという事は、同時に疑うという事なんです!」
「え!? でもそれって正反対の事では?」
う~ん……疑いながら信じる? それとも信じながら疑うのか?
「違います。初対面の人間を疑うのは当然です……ですが以前の貴方の様に『人なんて信じられない!』とアピールするのではなく、『私は貴方を疑ってませんよ』と見せるのです。そうする事で相手も全てでは無いにしろ本心を晒してくるはずですから……そうしたら貴方も少しずつ本心を晒し出す。互いに少しずつ本音を語り合える様になり、最終的には心から信じ合える関係を築くんです」
はぁ流石アニキは良い事言う……
オイラには半分も理解出来なかったけど、良い事言ってるのだけは解る。
その調子で饅頭も改心させてくれよ……
「トルネコさん……今のままリューラの父親と合流すると、地獄の様な目に遭いますよ。他人を利用して自分だけ利益を得ようとする根性。あの人はそう言う事が大嫌いですからね!」
「ど、どんな目に……!?」
「さぁ……それは俺にも解りません。でも今の内から危険を伴う行動に率先して参加し、仲間との一体感を作り上げておかないと、リュカさんは俺以上に鋭い人ですから、出会って直ぐに人柄を理解されちゃいますよ」
アニキは饅頭に向けて薄ら笑いを浮かべると、リューラの父親の事を説明する。
オイラも怖くなってきたよ……
リューラの父ちゃんってどんな人なんだろう?
アローSIDE END
後書き
ちょっとウルフの凄いところを書いてみた。
彼は秀才なんですよ。
周囲の人物が極端に凄いだけで、彼自身も凄いんです……見えないかもしれないけど。
第29話:意気消沈
(船上)
トルネコSIDE
浅はかだった……
第一印象では欲望に弱く、何も考えてなさそうな人物に見えたのに。
だって造船所で働く女性をナンパしてたし……リューラさんの姉妹のリューノさんをからかって遊んでたし……
しかし実態は違った。
今までのチャラさは擬態だったかの様に、鋭く私の事やリューラさん・アローの事を観察し、これまでの力関係を捉えてしまった。
しかも私の心の中の計画も見事に看破され暴露されてしまったではないか!
あれ以降、リューラさんの態度が少しだけ余所余所しく感じるのは気のせいではないだろう。
唯一の救いは、ホフマンさんが態度を変えないでくれていることです。
彼も将来は商売人(宿屋の店主)になろうと夢見ているらしく、私のこれまでの功績が尊敬心まで彼から奪わないでくれた様です。
しかし……皆さんも私の功績を称えても良いはずでしょう!
だってこの船は私が造らせた船なんですから。水夫達も私が雇ってるんですから。
皆さんはその船に乗って大海原を楽に航海してるんですから!
……と、小声で言ったんです。
ウルフさんが怖かったので、誰にも聞こえない様な小声で言ったんです。
でも一番聞かれたくない人に聞こえちゃいました……
「では今すぐコナンベリーに引き返してください。俺達は貴方の船から下り、別の方法を捜して南のミントスを目指します」
ウルフさんの言葉を聞いたホフマンさんを除く全員が(水夫等は除く)、一斉に彼の下へ集まり下船の準備を始めるんです……
コナンベリーを出港して2日……
既に数十回に及ぶ戦闘をこなしてきた彼等は、紛れもなく戦闘慣れしていて強く頼りになる存在です。
その彼等が挙って下船すると聞き、水夫頭が不安そうに話しかけてきました。
「トルネコさん……彼等が下りるんなら俺達も下りたいのだが……」
つまりこう言う事です……彼等程頼りになるボディーガードは居ない! 私は派手に存在をアピールしすぎて、モンスター等に狙われており、並のボディーガードでは心許ない……彼等の様に本当に腕の立つ方々でないと命が危ない。
彼等が下り、別の強者を金で雇ったとしても、モンスター達の集中攻撃には不安で、金より命を優先させたいと言うのが水夫等の意見なのです。
そんな事は私も解ってるんです! 絶対に彼等と縁を切ってはいけないんです!
私は水夫等の給料を払い続ける為に、次の目的地宛の荷物を預かってるんです。
これらの荷物をミントスまで運ぶ事によって、料金を得る。そしてその金を水夫等の給料に充てる。更には船の維持管理費を捻出して行こうと考えてるのです。
(ミントスから次の目的地が決まったら、そこまでの荷物を募る予定です)
戦い慣れしている彼等……特に陸も海も関係なく強いウルフさんの存在は絶対に必要で、ここで決別をしたら船を造る為に大金をかけた意味が無くなるんです。
それが解っているから、冷たい目で言い捨ててくるウルフさんに謝るしか出来ない……
怖いんですこの人。
トルネコSIDE END
(ミントス)
ウルフSIDE
ちょっと言いすぎたかな……?
本音を言えば、船を入手(借用も含む)するアテがある訳じゃないし、ここで船を手放すのは面倒極まりないのだけど……
弱みを見せちゃ拙いと思い、強く出てみました。師匠がそうだしね!
でも、トルネコさん(水夫等も含め)が腰の低い態度で接してくるのは助かる。
ギブ・アンド・テイクなので俺も高圧的な態度には出ませんけど、職人堅気な水夫等は放っておくと偉そうになるので、このままで良いと思う。
さて……
ミントスという町に辿り着き、ひとまずはリュカさんの痕跡を捜そうと人々に話を聞く。
ホフマンさんとトルネコさんは商売人同士、商売の神様と呼ばれるヒルタンさんに会いに行ってしまった。
別に居ても居なくてもどうでも良いから良いんだけどね。
暫く町中を徘徊すると、トルネコさんと再会する……
なんでもヒルタンさんが持っていると言われた宝の地図は、既に他人の手に渡ってしまったらしい。
しかも極最近に。
本当に存在した事にも驚きだったが、もっと驚いたのは譲り受けた人物の事だ。
ヒルタンさんが町の中央の青空教室で商売学(経営学?)の抗議を行っていると、受講者の若い女性をナンパする紫のターバンを巻いた男が現れたそうだ。
授業の邪魔をされ少しムッとしたヒルタンさんは、今までに何人もの者が宝の地図を欲して、それらの者を試す為に出し続けてきた問題を、そのナンパ男にぶつけたそうだ。
するとナンパ男はアッサリクリアしたという……
気に入ったヒルタンさんは、惜しげもなくナンパ男に地図を渡し、青空教室から追い出したそうな……
コレって間違いなくヤツだよね!?
こんな男は他に居ないよね!?
「で、そのナンパ男は今何処に居るんです!?」
絶対的な確信を持った俺は、トルネコさんに迫り居場所を聞き出す。
これで冒険が楽になるぞ……もしくは大変に!
「さ、さぁ……宝の地図が手に入らないのなら興味はありませんし……」
「使えねーデブだな! それ100%リューラ達の父親だぞ!」
うん。酷い事を言った自覚はある……
「ど、どんな父親ですか……」
「どんなって……腹違いの娘を沢山生ませる男だよ」
彼と話してても埒が明かないと思い、巨漢を押し退けてヒルタンさんの下へ急ぐ俺。
町中央の青空教室では、ホフマンさんが教壇の爺さんと会話する姿が……あの爺さんがヒルタンさんか?
「ちょっと退いてホフマンさん! 貴方がヒルタンさんですか?」
「うむ、如何にもワシが商売の神様ヒルタンじゃ」
胡散臭ぇー……
自分の事を“神様”とか言うなよ。
リュカさんは他人に言われる事すら嫌うのに。
「貴方が宝の地図を渡した男性は、今何処に居るのか判りますか?」
『あんな奴の事など知らん!』って言うかな?
講義の邪魔をしたみたいだし、その後の事なんか気にしないか……
「あぁ、あのナンパ男なら………」
ウルフSIDE END
後書き
宝の地図入手の詳しい経緯は、また今度リュカの口から語ってもらいます。
……語る必要ないか?
第30話:病は気から……ってワケではなさそう
(ミントス)
ブライSIDE
まったく……
姫様の家臣でありながらクリフトのヤツにも困ったもんじゃ!
まさか旅の途中で病に倒れるとは!?
しかたないと言えばそれまでじゃが、この旅に掛ける気合いが足りんから寝込む事になるんじゃ!
じゃが姫様の前でこのような事を口に出したら、さぞかし激怒するじゃろうなぁ……
最近は特にイチャイチャしておるから……
家臣の分際で調子に乗りおって!!
「う、う~ん……」
ワシは目の前でベッドに横たわるクリフトを見下ろし、ヤツの頬を抓り上げる。
病の所為なのかワシの所為なのか……ともかく苦しそうにクリフトは唸り声を上げた。
(コンコン)
するとワシ等の部屋をノックする者が……
誰じゃろうか? ルームサービスは頼んでおらんのじゃが?
(ガチャ)
ワシは用心の為、少しだけ戸を開け廊下の様子を確認する。
「あ、いきなりの来訪申し訳ございません。少しお伺いしたい事がありまして……お話をよろしいでしょうか?」
戸の外には、綺麗な金髪で整った容姿の青年が礼儀正しい態度で立っていた。
そして彼の両サイドには2人の少女が……1人は青い髪に白い肌の美しい少女。
もう一人は栗色の髪をした幼い美少女……兄妹には見えないが、どんな関係なのだろうか?
「一体何用かな? 此処には病で寝込んでいる者が居るので、静かにしていただきたいのじゃが?」
「それは申し訳ございません。ただ1点だけ確認させて下さい。貴方達の連れにリュカと名乗る者は居りませんか? (バサッ)こんな顔なんですが……」
青年は崩す事無く礼儀正しい態度で尋ねてくると、先ほど描いたと思われる似顔絵を一枚、ワシの前に見せ尋ねてくる。
何とリュカの事を!
あのトラブルメーカー男の事を!!
「な、何じゃおヌシ等……リュカの知己の者か!?」
「ご、ご存じなのですねリュカさんの事を!?」
病人が寝ている事も忘れて大声を出してしまうワシ……じゃが、それに釣られる様にして青年も大声で問うてくる。
「ご存じも何も、ヤツの所為でこっちは迷惑のし通しじゃわい!」
「やはりそうですか! まぁ判っていた事ですけどね……彼に関わって迷惑を被らない人間は、嫁と愛人だけ……まぁ後は変態的な娘連中だけでスカラね(笑)」
「笑い事じゃないわい!」
ワシの苦労を知らない青年は、先ほどまでの礼儀正しさを吹き飛ばし、楽しそうに納得しおった!
なので思わず怒鳴ってしまったのじゃが、同時に両サイドの娘も青年に肘鉄を喰らわせおった。もしかするとこの二人はリュカの娘か?
「ま、まあまあ……で、リュカさんはどちらに居りますか?」
「ん? あぁ……ヤツなら今は……」
そうリュカのヤツは今頃姫様とソレッタ王国に向かっている。
ブライSIDE END
(ミントス)
ウルフSIDE
ブライさんの話によると……
仲間のクリフトさんが重い病で倒れてしまい、この町の医者等に話を聞いたら、かなり稀な病気らしくお手上げ状態との事。
愕然とショックに項垂れるアリーナ姫……しかし、ヒルタンさんが南にあるソレッタ王国に、どんな病にも効果がある『パテギアの根っこ』というアイテムがあると教えてくれたそうだ。
すると行動派のお姫様が大切な家臣を助ける為に、自らその『パテギアの根っこ』を採りにソレッタ王国へと赴いたそうな……
それに付いていったのが我らがトラブルメーカーのリュカさんらしい……
「えぇ、お姫様と二人きりで旅に出ちゃったの!? 短時間とは言えリュカさんと行動を共にしてて、あの男の生態を把握してないんですか!?」
大切な姫君を、そんな危険な状況に置くとは……家臣としては最低の行為だ!
「解っておるわい、あの男の手癖の悪さは! じゃがヤツが『え~、病人と一緒なんて嫌だなぁ……染ったりするんじゃないのコレ? 老い先短い爺さんが担当するべきだろ! 僕はアリーナと一緒にパンチラのもっこりを取りに行ってくるよ!』と言って……」
「「「あぁ……」」」
あの人らしい物言いだ。
あの人が言いそうな事……俺とリューノとリューラの3人は、大きく頷き納得する。。
「それにしても『パテギアの根っこ』だって言ってるのに……絶対ワザとだぜ!」
「その点はワシも突っ込んだのじゃが……」
戻ってきた台詞は………『『そんなんどっちでも良いよ!』』
「よく分かるのぉ……」
「えぇ……あの人の事なら大概(大笑)」
ブライさんは大きく溜息を吐く……俺は腹を抱えて爆笑!
「それに……ヤツはどういう訳か姫様に手を出そうとしなかった。じゃから渋々ではあるのだが、姫様一人を旅立たせる訳にもいかぬし同行を認めたんじゃ」
「ほ~う……失礼ながら姫様は貧乳かな?」
「まったくもって失礼じゃが完全にその通りじゃ! そちらの青い髪のお嬢さんの方が大きいくらいじゃからな!」
うん、そうなんだよ!
リューノは最近大きく成長してるんだよ! とっても良い感じに……俺のマッサージが効いたかな?
「まぁあの人が手を出さない女性は、血縁・他人の女・貧乳ですからね。世界に女性が姫様一人にならない限り、絶対に手を出したりはしないでしょう」
「本当にそうじゃと良いのだが……」
やはり信用されてないなぁリュカさんは(笑)
まぁそんな事よりも……
此処にいない人を待つのは時間の無駄だし、大人数で病人の部屋に押し寄せてしまってる事だし、俺達もソレッタ王国に向かう事にしよう。
「ではブライさん。俺達もソレッタ王国に向かい、先行している二人と協力してパテギアの根っこを取ってきますよ。リュカさんが居て安心なのは戦力面ですからね……」
「そうか、では申し訳ないのじゃが……何方かクリフトの看病をお願いできないじゃろうか? ワシも姫様が心配(特に貞操)で一緒にソレッタ王国へ行きたいのじゃが……」
えぇ~……リュカさんじゃないけど、病人の看病は嫌だなぁ。
染ったりしない?
ウルフSIDE END
後書き
ヤツの影が近付いてくる。
トラブル抱えたヤツの影が……
第31話:旅の仲間が増えました……けど老人
(ミントス - ソレッタ王国 草原)
ブライSIDE
馬車があると便利じゃのぅ。
特にワシの様な老人には有り難い事じゃ……
長距離でも幌の中で快適に楽が出来る!
徒歩じゃと最低でも自分の荷物は持たねばならんからのぅ……
しかも仲間が多いからワシが戦わなくても解決する。
良い仲間を得たぞ!
あの後、ダメ元でクリフトの看病をお願いしたら、まん丸の中年と頭の悪そうな青年が買って出てくれた。
中年はトルネコ……青年はホフマンと呼ばれておったな。
二人ともヒルタン老人に商売の極意を教わりたいと言ってた……
特にトルネコの方は必至にウルフを説得しておったが、戦力にはならなそうじゃし置いてきて正解じゃろうて!
ちゃんとクリフトの看病さえしてくれるのならな……
それにしても……
ワシはてっきりウルフがリーダーかと思っておったが、どうやら本当のリーダーはシンという少年の様じゃ。
何でも伝説の勇者じゃとか……胡散臭いのぉ。
ウルフの方がリーダーに適してると思うのじゃが……
容姿端麗じゃし決断力も統率力もある。
何よりシンが彼を慕っており、戦闘が終わる毎に目で評価を求めておるのじゃ。
これはどうなんじゃろうなぁ?
じゃが気になる事が一つ……
「のうウルフ……何でおヌシは戦わないんじゃ?」
そう……ヤツは戦闘になるとシン達に任せ、自身は数歩下がって見学に入ってしまうのじゃ。
まるでリュカの様に……
「俺が戦っては、みんなの成長の妨げになってしまうんです。自惚れてる様に聞こえますが、少なくとも今現在の彼らより俺の方が強いので、戦闘に参加してしまうと俺一人じゃ勝てない相手が出てきた時、全滅しかねない状況になってしまうんです。実戦は最高の訓練ですからね!」
「リュカみたいな事を言うのぉ……」
「そうですよ。俺はこの方法をリュカさんから直接教わったんです! 俺がまだ弱く……スライム一匹倒すのにも苦労していた頃、一緒に旅立ってくれたリュカさんが示してくれた行動なんです! もしリュカさんが全てを一人で片づけていたら、俺は弱いままでしたでしょうね」
いかん……瞳を輝かせてヤツの事を語り始めた!
最近のクリフトがコレと同じ目をする……
あのトラブルメーカーの何処に、そんな目になる魅力があるのだか?
話を聞くとこによると、このパーティーに参列している少女二人(青い髪の美少女と栗色の髪の美少女)はリュカの娘だとか……
しかし、それぞれ母親が違う上、本妻とも違う愛人に生ませた娘だと言うじゃないか!
そんな男を尊敬できる神経が解らん!
リュカに憧れを抱くウルフを見ていると、思わず苦言を言ってしまいそうになる……
しかし、ミントスを出立する前にウルフがコッソリ耳打ちしてくれた。
二人の少女は父親を尊敬しており、侮辱の類を言うと激怒する。
勿論、小娘二人が怒ったところで怖くも何ともないのじゃが、本気で泣き出すと言う事なので、可能な限りリュカの事を悪く言わない様に気を付けている。
まったく……女には人気じゃのぅ!
ブライSIDE END
(ミントス - ソレッタ王国 草原)
シンSIDE
はぁ……
ブライさんの視線が凄く痛い。
絶対『何でお前が勇者なんだ?』って思っているんだろうなぁ……
俺も同じ気持ちだよ……
ウルフさんの方が見た目も行動も勇者っぽいし、何より頼りになる人物だ。
初対面の人じゃなくても同じ事を考えるさ!
でも何故だか俺が勇者として村のみんなに育てられた。
その思いは無駄にしたくない!
だから俺は頑張る……例え勇者にそぐわない男だとしても。
戦闘ではマーニャさんとミネアさんに、そしてリューラさんに指示を出す。
やっと最近になってリューラさんが俺の指示に不満顔をしなくなった……
本当に剣術能力はズバ抜けているから、彼女が素直に従ってくれるのは助かる。
プライドが高いのは姉妹してそっくりだ。
彼女の場合、自分が認めた強者以外からの命令が不満なのだろう。
きっとウルフさんからの指示だったら、初めから素直に従ったはずだ……
そうなると彼女らのお父さんて、どんな人物なのだろう?
それぞれ違う方向にプライドが高い二人の娘の、尊敬を一身に浴びる人物とは……
更に言えばウルフさんが心底憧れている人物だ。
ソレッタ王国に辿り着けば、多分リュカさんが……リューノちゃん達のお父さんが居るはずだ。
ウルフさんが以前言ってたが、強さは桁外れ……
そしてウルフさんの行動を見れば、リュカさんの事をリスペクトしているみたいだし、かなり思慮深いと思われる。
でも、物事を丸投げされる事を嫌うらしいし、トルネコさんは危険だとウルフさんが言ってた……
怖い人物なのかもしれない。
俺みたいな頼りない勇者擬きは嫌われる対象かも……?
「あの……リュカさんてどんな人物なんですか?」
馬車馬より前を歩いていた俺は、少し速度を落とし手綱を引き馬を誘導しているウルフさんに近付き訪ねてみる。
「どうしたの急に?」
「いえ……トルネコさんとの会話を思い出し、もしかして怖い人なのかなぁと思いまして……」
「失礼ね、お父さんは怖くないわよ!」
なるべく小声で訪ねたのだが、御者台に座っていたリューノちゃんに聞こえてしまい、何時ものヒステリックな声で叱られた。
馬の誘導はウルフさんが行っているのだから、御者の必要はない……戦闘に参加しないリューノちゃんは、幌の中に入って休んでれば良いのに……
「怒らせなければ全然怖い人じゃないよ。ただ基本非常識な人物だから、怒らせると手が付けられないね! まぁ、そう簡単に怒らないから問題ないけど」
誰でも怒らせなきゃ問題はないだろうに……
「でも一点だけ注意が必要だ」
「ちゅ、注意!?」
やはりリュカさんにも心の琴線があるのか!?
「どんなにあの男の非常識さに腹が立っても、『オッサン』とか『オヤジ』とか言ってはいけない! 『イケメンお兄さんだ!』って擽られるゾ!」
………はぁ?
「ちょっとウルフ! アンタ私のお父さんを馬鹿にしてるでしょ! お父さんは世界一のイケメンよ!」
「勘違いするな……イケメンである事を否定はしてない。年齢的にオッサンであるにも拘わらず、何時までも『お兄さんと呼べ』って言い続けている事を疑問視している」
「い、良いじゃない……何時まで経っても性欲旺盛なんだから!」
「あはははは、そりゃ違いない(笑)」
ウルフさんは爆笑し、リューノちゃんは憮然としている。
考えているほど怖い人物ではない様だ。
あとは実際に会ってみないと解らない事だろう……
それにしても……女の子が大声で『性欲旺盛』と言わないでほしいなぁ……
シンSIDE END
後書き
オジサンって言われるとショックがでかいよ。
第32話:頼りになるトラブルメーカー
(ソレッタ王国)
マーニャSIDE
私は愕然とした……
何に愕然としたかと言うと、それはこのド田舎加減にだ。
ここはソレッタ王国の首都……ソレッタ。
見渡す限りの農村地帯。
ダメだ……私はここでは暮らせない!
刺激が少なすぎるわ……
カジノとは言わないまでも、酒場の一つも存在しないと、生きる楽しみを見出せない!
どんどんと村内へ進んで行くウルフ達を余所に、長閑な農村風景の中で立ち尽くす私。
気付いたミネアが私に近付き、心配そうに尋ねてきた。
「どうしました姉さん?」
可愛い妹に心配を掛けてしまう姉……
恥ずかしい限りなのだが、まだダメージから回復しておらず、即座に返答することが出来なかった。
その所為で困惑するミネア……
「わぁ~お、こんな田舎に美女発見! お嬢さん達ぃ~、僕と仲良くベッドで汗かかなぁい!?」
すると何処からともなく男が現れ、チャラい口調で私達をナンパし始める。
不機嫌になりながら、声を掛けてくる男の方に向き直る……
そして私は驚愕した!
い、良い男……
凄く良い男だ!
こんな田舎で燻っていては勿体ないくらいの良い男だ!
あまりの良い男に思わず我を忘れていたが、軽い口調でナンパしてくる事に不安を感じ、慌てて表情を直しミネアを気遣うように見る。
だが、当のミネアはウットリとした顔でナンパ男を見詰めている!
いけない、妹は私が守らないと……俗世の悪害から、私が守り抜かないと!
「ちょ、ちょっと……何なのアンタ!? いきなり現れて失礼でしょ! この村の人間は、皆アンタみたいに失礼極まりないの!?」
「違うよ、僕はこの村の人間じゃないよ。僕も少し前にこの村にやってきたイケメン旅人だよ。イケメンだから失礼じゃないよ」
何を言っているんだコイツは?
村人ではないことは解ったが、イケメンだからってナンパする事が失礼な事ではない訳ではない!
何より、自分で自分の事を“イケメン”と言うんじゃない……まるでウルフみたいじゃないか!
……そう、まるでウルフの様!?
「二人ともそっくりだね……もしかして双子ちゃんかな?」
「は、はい……私と姉さんは双子なんですよ♡」
こらー、勝手に答えるんじゃないミネア!
「そっか、僕の子供も双子してるんだけどね……兄と妹と性別が違って、性格はまるで似てないんだよ(笑) 顔は似てるんだけどね!」
「まぁ! 私と姉さんも、性格が正反対だと良く言われますわよ♡」
だから勝手に答えるな!
……つか、子供が居んのかい!
妻子持ちがナンパなんてするんじゃねーよ!
「こらナンパ野郎! 妻子持ちが気安くナンパなんてしてんじゃねー! 大人しく家に帰って、嫁さん相手に腰を振ってろ!」
「え~~~……妻子持ちってナンパしちゃダメなのぉ?」
「良いわけねーだろ!」
「お、良いツッコミをするね。でもね……ベッドじゃ僕が突っ込むよ(笑)」
最悪だ……チャラいし、浮気性だし、いい加減っぽいし、絶対にミネアに近付かせないようにしないと!
私が固い決意を持って、ミネアとナンパ野郎の間に割り込んだその時……
「あー、お父さん発見!!」
離れたところから少女の大きな声が聞こえてきた。
この声は……リューノか?
「あれ、リューノにリューラじゃんか!? どうしたのこんな所で?」
え、二人と知り合いなの!?
つか“お父さん”って叫んだわよね……あの娘?
「うぇ~ん……会いたかったよお父さ~ん!」
「さ、寂しかった……え~ん、寂しかったよー!」
私の目の前では、猛ダッシュで近付いてきたリューノとリューラが、ナンパ男に抱き付いて泣き散らしている。
え、マジで……コイツが二人の父親なの?
……って事は、ウルフのお師匠さんってコイツ!?
師匠で上司で最も尊敬する男って……コイツなの!?
「よしよし……ほら泣き止んで。折角の美人が台無しになっちゃうよ」
左右の腕で二人を撫であやし、優しい口調で落ち着かせるナンパ男。
先程までのチャラさは、今はもう見られない。
優しさに溢れる素敵な父親にしか見えない。
気付くと私も見とれていた……
きっとミネアと同じ表情で見とれているんだろう……
「お、ウルフ……お前も一緒だったのか?」
すると村の方に視線を向けた男が、誰かを発見して呟いた。
彼から目が離せない私には、その言葉で予測するしか出来ないが、どうやらウルフも気が付きやってきたみたいだ。
「パパ~ん!」
素っ頓狂な雄叫びと共に、男に駆け寄るウルフ……が、
(ゲシ!)「ふおっ!」
両腕を娘達で塞がれた男は、スラリと長い足を突き出し、抱き付こうとするウルフの顔面を押しとどめる。
「どういうつもりだキサマ……実の息子とだってハグなどしないというのに!」
「だ、だからって……顔はやめてよね。リュカさんには及ばないけど、俺だってイケメンなんだからさ……股間の次に大切なんだから!」
互いに凄い事を言っているが、表情は笑顔で嬉しそうだ。
しかし、急に男の表情が真面目になり、抱いているリューノと近付いてきたウルフを交互に見詰め、何やら呟きだした。
「あれ……もしかしてお前達……」
マーニャSIDE END
後書き
遂にリュカさんが合流!!
しかも次話はトータル100話!
色んな意味で目出度いね。
第33話:もろばれ
前書き
祝100話!
そんな目出度いエピソードに、こんな話をぶっ込んで良いのかな?
あちゃの作品だから良いのかな?
今後もこんな感じで行っちゃうけど良いのかなぁ?
(ソレッタ王国)
ウルフSIDE
「あれ……もしかしてお前達……」
リュカさんと合流でき、ホッと一安心できたのも束の間……
何やら速攻で俺とリューノの関係を詮索し始めた!
いや……リュカさんの場合これは詮索ではなく、自身の予測を裏付けるための確認であろう……
何でこんなに簡単にバレるんだ?
今再会したリュカさんには、ヒントになり得るモノなんて何もないはずなのに!?
「ちょっとリュカさん、あっちでご相談したい事があるんですが!!」
俺は大声で話しかけると、リューノ・リューラを引き剥がしリュカさんを離れた場所へと連れて行く。
勿論リューノは快諾してくれたが、リューラは顔から不満が滲み出ている。
「お前……リューノに手を出したのか?」
やっぱりバレてはる……
何でだろう?
「な、何を根拠にそんな事ヲ?」
い、いかん……
平静を装ったのだが、どうにも語尾が裏返る。
「だってリューノが処女じゃ無くなってた」
「な、何でそれが解るんですか!?」
匂いとか言うなよコノヤロー!
「何となくの雰囲気……っての? リューラは相変わらずだったけど、リューノは大人になったみたいな……そんな感じ。前の様にツンケンした感覚がなくなったんだ」
あの一瞬でそれを感じ取れるのか!?
この化け物め……
「し、しかし……聞いた話によると、ポピー義姉さんの時は本人からのカミングアウトまで気付かなかったと聞いてますが……今回のは思い過ごしでは?」
「ポピーはその前後で態度を変えなかったから気付かなかったんだ。あの娘は凄いよ……流石ビアンカの娘だね!」
もう何を言っても無駄だろう……
それに元から話すつもりだったのだし、これはこれで構わないか!
何よりこれ以上繕おうとすると、本当の事を話せなくなりそうだ。
「はい……仰るとおり、リュカさんの娘さんに手を出してしまいました……」
「うん。その言い方は正しくない。元々僕の娘……マリーに手を出してたんだから、その言い方だと問題点が浮かび上がらないよ」
手を出されたんだよ! 最初は向こうからだよ!
「す、すみません……リューノと肉体関係を持ってしまいました……それも一度だけでは無く、何度も……」
「やっぱり……お前はロリコンだったのか?」
「そ、そのつもりは無かったのですが……どうやら言い訳できそうにありません。でも、ビアンカさんみたいなアダルトも大好きですからね!」
「分かった分かった……お前の嗜好は理解した。でも気分悪いからビアンカを引き合いに出すな!」
「ご、ごめんなさい……以後気をつけます!」
こえー……
今リュカさん、滅茶苦茶怒ってた……
ビアンカさんを性的対象にした発言をしてはいけない!
「ところで……何で俺がリューノに手を出したって判ったんですか? リューノの雰囲気が変わった事については理解しましたが、手を出したのが俺だとは限らないでしょう! 共に旅立った別の男が、危険を共有し心を惹かれ合ったかもしれないじゃないですか!?」
「うん。その可能性は否定できないね。だからリューノを最初に見たときは、あの娘の変化にしか気付かなかった……でもね、その後でお前があり得ない行動をしてきただろ。『パパ~ん』とか言って抱き付こうとしてきただろ! あれで悟ったね……コイツがリューノに手を出したのかって」
くっそ~……
罪悪感から行った行動が裏目に出るとは思わなかった。
正面からまともにリュカさんと対峙できなかったから、思わず取った行動だったのに……
相変わらず目敏すぎる!
「それに……」
え!?
まだ何かあるのか?
「それに、リューノは元からお前に恋心を抱いてたし……普段はマリーが居るから押さえ込んでいたみたいだけど、状況が変わりマリーも側に居なくなって、我慢する事が出来なかったんだろうと、簡単に予測出来た」
か、敵わない……
俺は告白されるまで、リューノの気持ちには気付かなかったのに……
初めから打ち明けるつもりだったが、何も言わないうちに悟られるのは……
「……で、マリーには何て説明するの? それとも黙って二股フィーバー?」
「何ですかフィーバーって!? マリーに隠し事をする気はありません。ちゃんと説明して解ってもらうつもりですよ。ただ、何と言えば良いのか……」
「二股は止めないのね?」
「父親としてそれは怒りますか?」
楽しそうに問いかけるリュカさんを、申し訳なく見上げる俺。
「その件について怒る事が出来ると思いますか、僕に? 愛人が沢山居て、子供も複数居る僕に怒る権利があると思いますか?」
「いいえ、正直言ってこの件でリュカさんに怒られるのは不本意です。ですが二人ともリュカさんの娘ですし……」
「うん。二人とも僕の大切な娘だね。だから、泣かす事は許さないよ……不幸にする事は絶対に許さないよ! 二股だろうが三股だろうが、娘達を幸せに出来るのなら僕は何でも構わないよ」
父親の台詞として『二股も三股もOK』ってのはどうなの?
でもまぁ、リュカさんは怒らないと思っていた……あとはマリーの説得だ。こっちの方がよっぽど重要だよなぁ……
「マ、マリーが怒らない説得方法って何ですかね?」
「僕に聞くなよ……今やマリーの事なら親以上に詳しいウルフ君だろ? でも一つだけ言える事があるとすれば……話す前にマホカンタだけは唱えておけよ(笑)」
だよねー!
こんな事をリュカさんに相談しても結論は出ないよねー!
良かったマホカンタを覚えておいて!!
ウルフSIDE END
後書き
読者様方に『ウルフのリュカ化が激しい!』と言われますが、本家が登場するとウルフが如何に大人しいのかがよく分かる。
何だアイツは!?
第34話:身勝手とか言うな……放任主義なんだよ!
(ソレッタ王国)
リュカSIDE
「おいリュカ……そろそろ秘密の相談を切り上げて、姫様を呼んできてくれんか?」
義息の真剣な相談事を邪魔する様に、老いぼれ魔同士が横槍を入れてきた。
こっちの相談はかなり本気なのに……
「何だ……ブライも来てたんだ!? って事は……そっか、クリフトのヤツ死んだか! 良いヤツだったのになぁ……」
俺はさめざめ遠い目をして感傷に浸る。
「死んどらんわ! 縁起でもない……滅多な事を言うでない!」
相変わらずジョークの通じない爺さんだ(笑)
だからからかいたくなる。
「何だ……まだ生きてたか。意外にしぶとい……童貞のままじゃ死ねないのかな?」
「キサマ……どうあってもクリフトを殺したい様じゃな!?」
ここまで冗談が通じない人種も珍しい。ある意味珍獣だ!
「あのブライさん……リュカさんは貴方が怒る事を見越してふざけてるんですよ。怒れば怒るほど不真面目になって行く……逆効果です!」
「む……う、うむ……」
ウルフに宥められ口籠もる爺さま。
流石は俺の義息……良く解ってらっしゃる(笑)
「と、ともかく……姫様は何処じゃ? 薬は手に入れたんじゃろ?」
ちっ……冷静さを回復しやがった。
だがしかぁし、勝負はこれからだぜぃ!
「薬? ……あぁ『パンチラのモッコリ』だっけ?」
「リュカさん『パテギアの根っこ』です」
くそ……ウルフが素早くツッコミやがった。
これではブライを苛つかせられないじゃんか!
「そうじゃ、その根っこを手に入れたんじゃろ!? さっさと姫様と一緒に、クリフトの下に帰るぞ!」
「根っこなら無くなっちゃったってさ!」
「無くなった……って、どういう事じゃ?」
「うん。あっちで畑を耕しているオッサンが居るだろ。あのオッサンに聞いたんだけど、数年前に干ばつがあって、作物の殆どが全滅したらしいんだ。その全滅した作物の中に、パンチラの「パデギアの根っこです」
「……そう、その根っこも含まれてたらしく、今はもうこの村に無いんだってさ」
ワザと間違えようとすると、ウルフが素早く修正してくる。
有能だがムカツクぅ!
「こ、この村には無い……では何処に……!?」
「うん。あのオッサンが言うには、ここから南西にある洞窟に『パテギアの種』が保管されているらしい。パテギアは直ぐに成長するから、それがあれば根っこを渡せるって言われた」
「何と!? そんな物が存在するのに、誰も取りに行かず数年間も大根等を栽培しているのか!? そんな無駄な事をしているから、こんな貧困に喘ぐ国家へと落ちぶれてしまうんじゃ!」
この爺さんの悪い癖だ……全てに置いて自分本位。
「しょうがないじゃん、洞窟にはモンスターが蔓延ってて、一般人には危険極まりないんだから! あのオッサンだって、本当は直ぐにでも種を取りに行きたかったんだよ!」
「う……うむ……そうか……」
「それでリュカさん……貴方はパテギアの種の情報を仕入れたのに、何で此処に留まっているんですか?」
「え? ……だってあの洞窟 寒ーんだもん!」
留まっている訳ではない。
一度行ったが戻って来たんだ!
「何じゃ、一度は赴いたのか!?」
「うん。でも寒ーから帰ってきた……先ほど」
ホント先ほど……
「先ほど!? では姫様は何処に?」
「何処って……種を探してるよ」
何が疑問なんだ?
「待て待て待て……お前は寒いからと言ってソレッタに戻ってきた。しかし姫様は種を探してる……」
「うん!」
俺は明るく返事をする。
「キ、キサマー! 姫様一人を危険な洞窟に置き去りにしてきたのか!?」
「違うよ。一人じゃなく、自称勇者一行が一緒だよ。頭の悪そうな四人組がアリーナと一緒に、パテギアの洞窟で一緒に種を探してるよ」
「誰じゃ其奴等は!?」
「あ、うん。説明するとね……」
・
・
・
(ソレッタ王国=数時間前)
俺とアリーナは辿り着いたばかりのソレッタ王国を探索し、畑仕事をしている貧相なオッサンがこの国の王様である事を突き止めた。
そして『パテギアの根っこ』が既に全滅しており、モンスターの居る『パテギアの洞窟』に保管してある『パテギアの種』を手に入れなければ、根っこは入手できないと知る。
「よーし、じゃぁこのまま洞窟へ赴いて、パテギアの種を手に入れちゃいましょう!」
俺的には面倒臭い事この上ない事態なのだが、愛しのクリフトのため『パテギアの種』入手に燃える少女のテンションがウザい。
するとそこに、4人組の頭の悪そうな集団がボロボロのヨレヨレ状態でソレッタに入ってきた。
「お、こんな田舎に美少女が居るぜ! よう嬢ちゃん、俺と宿屋で○○○しねーか?」
中でも一際馬鹿丸出しが、アソコ丸出しにしそうな勢いでアリーナをナンパし始めた。
「はぁ? 邪魔よ馬鹿共! 私はこれからパテギアの種を手に入れる為、忙しいの……アンタら馬鹿共の相手をしている暇は無いのよ!」
可哀想に……一人の筋肉馬鹿の所為で残りの面子まで馬鹿者扱いされている(笑)
ちなみに……戦士っぽい筋肉馬鹿の他に、真面目っぽそうな細身の剣士と、インチキ臭そうな僧侶系のオッサンと、大袈裟なローブを着込んだ気の弱そうな魔道士系の若者で構成されたパーティーだ。
何処からどのくらいの距離を冒険してきたのかは解らないが、ここら辺のモンスターごときで身形をボロボロにしているようじゃ、実力の方は期待できない(笑)
「おいおい……お嬢ちゃんとそっちの優男だけで、俺達が断念した『パテギアの洞窟』に挑もうって言うのか? 止めておけよ……痛い思いをするだけだぜ。それより俺が気持ちい思いをさせてやるから、服脱いで股を開けよ(下品な笑)」
うふふ……どうする、この馬鹿?
“ボキッ”とやってベホマかな?
それとも“ゴキャッ”としてからのベホマですかねぇ?
(ゴスッ!)「ゴチャゴチャうるさいわね! 洞窟に行った事があるのなら、私達を案内しなさいよ」
俺が妄想の中でこの馬鹿を痛めつけていると、頑丈そうな鎧を着込んだ筋肉馬鹿の鳩尾に、強烈な正拳突きを打ち込むアリーナ……鎧をヘコませて、筋肉馬鹿を蹲らせる。
「お、おいゴンザレス……だ、大丈夫か!?」
剣士君が慌てて筋肉戦士馬鹿君の鎧を脱がせ、背中を擦って労っている。
他二人の魔法派は、顔面蒼白でブルってる。
「あ、あの勘弁してください……僕達、先程まで『パテギアの洞窟』を探検してたのですが、モンスターが強すぎて逃げてきたんです……もうあの洞窟には近付きたくない(涙)」
すげー……そんなボロ負け精神状態で女をナンパしてたんだ。
「うるさいわね! そんな事知らないわよ……私が居れば問題ないのだから、アンタ達は大人しく私を案内しなさいよ! 種を手に入れたら、根っこを少しは分けてあげるから、グダグダ言ってないで案内しなさい!」
「あ、あの……俺達二人は魔法での戦闘が専門なんです……もう魔法力が底を尽きてしまって、戦闘では何の役にも立てそうにありません。ここに残っても良いですか?」
気の弱そうな魔道士君が、恐る恐るの口調で暴君に問いかける。
「はぁ? どうせ魔法力全快だって、たいした役には立たないでしょ! 荷物持ち要員なのだから、大人しく付いてきなさいよ! 断ったらブッ飛ばすわよ!」
あはははは……よ~し、これからは“タイラント・アリーナ”ってコッソリ呼ぼう。
と、まぁ……
そんな訳で、洩れなくベソかき4人衆と共に、お目当ての『パテギアの洞窟』へ辿り着いた俺達。
「俺達ここまでで良いでしょ!?」と逃げ腰の4人に「荷物持ちがこんな所で引き返してどうすんのよ!?」と、暴君節全開のタイラント・アリーナ様(笑)
総勢6名で洞窟内に入り、早速後悔を口に出したのは……
「寒ー! 僕帰る。寒いからお家帰る!」
ベソかき4人衆ではなく、寒さに弱い俺なのさ!(テヘ♥)
返事を待たずに踵を返す俺。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! この洞窟の奥に、クリフトを助ける『パテギアの種』があるのよ! 寒いだけで帰れる訳ないでしょ!」
「いやぁ~……僕には関係ないし。クリフトがどうなろうと興味ないし。寒いの嫌いだし!」
「な、何言ってるのよ!? 危険な洞窟に私を一人残して帰る気? 身勝手しぎるんじゃないのリュカ!?」
「身勝手じゃないよ。放任主義なんだ。君は強いから大丈夫だよ。それにアリーナは一人じゃないし……頼りになる荷物持ちが4人も居るじゃん! いざとなったら身代わりにして逃げてくれば良いんだし……」
そして俺は洞窟を後にした。
可愛い田舎娘でもナンパしようと思い、ルーラを使ってソレッタ王国へ舞い戻ってきたところなのさ。
リュカSIDE END
第35話:寒いの嫌いなんだよなぁ……
(ソレッタ王国 - パテギアの洞窟 平原)
シンSIDE
俺達はソレッタを即座に出立し、パテギアの種が保管されているという洞窟を目指し進んで行く。
しかしながらモンスターが多数出現し、我々の行く手を遮ってくる!
勿論、今までもモンスターの襲来があったのだが、今回は状況が違う……
何が違うのかと言うと、大声で歌い歩く人物が存在するからだ。
黙ってたってモンスターに発見されれば襲われるのに、大声で歌い余計に存在をアピールしているから、普段以上に襲いかかられてしまう。
「あの……リュカさん……歌うの、止めてくれませんか?」
俺は恐る恐るリュカさんに歌を中止するようお願いする。
尊敬するウルフさんの師匠で、彼の尊敬を一身に受けるリュカさんに馬鹿みたいなお願いをしている。
「何で? 歌嫌いなの?」
だが返ってきた答えは俺の予想と大分違った。
大先輩に向かってクレームを付けたのだから、『俺の行動に文句言うんじゃねー!』とか『何でキサマ如き若造に命令されなければならないんだ!?』とか、凄く怒られるんじゃないかと怯えていたのだが……
「いえ……あの……好き嫌いではないんですよ……ね」
本当に理由が解らないのかな?
ご家族と再会できて気分が高揚しているから、無意識のうちに歌っているのかな?
「あはははは、やっぱり言われてやんの!」
俺が心底困っていると、ウルフさんがお腹を抱えて笑い出し、リュカさんを指さして失礼な発言をする。
師弟関係にあるのに良いのかな、そんな言葉遣い……
っていうか『やっぱり』ってどういう意味だ!?
「シン……気持ちは解るが、その馬鹿に何を言っても無駄じゃよ」
疲れ切っているブライさんが、リュカさんを睨みながら俺を諭してくる。
先程までお姫様を置き去りにしてきた事に大激怒していたブライさんだが、少しも反省しないリュカさんの態度に諦め、今は黙って突いてくるだけの老人。
「どうやらブライさんも相当苦労をしてきたみたいですね(笑)」
「笑い事じゃないわい! この馬鹿タレの所為で、ワシがどれだけ苦労した事か……」
「老人! お父さんを侮辱すると許さないぞ!」
なおも歌い続けるリュカさんの側で、ウルフさんがブライさんと語り続ける……
しかしリューラさんがブライさんの言葉に反応し、凄い形相で抜刀して恫喝する。
無口な娘だから、よくは為人を知り得なかったけど、父親を侮辱されると凄く怒るんだね……でも、どう考えたってブライさんが正しいような気がするよ。
「コラコラ止めなさいリューラ。その爺さんが僕に文句を言うのは当たり前な事なんだから、武力を持って恫喝するのは良くない事なんだよ。お父さんがワザと嫌がらせをしているのだから、その事にクレームを付けた人を脅すのは悪い事なんだよ」
凄い……
自分の行いが悪い事であると自覚していて、その上それをワザと行っていると言って、娘さんの行動を叱っている。
効果が薄い様にしか見えないのは何故だろう?
「ご、ごめんなさい……」
「良いんだよリューラ。お父さんを庇ってくれてありがとうな。凄く嬉しいよ」
叱られ弱々しい声で呟き俯くリューラさんの頭を撫で、優しい口調で慰めるリュカさん。
このシーンだけ見れば、凄く頼りになるお父さんにしか見えない。
「ちょ、ちょっと……感動的に纏まってるけど、ワザとってとこが気になるんですけど!?」
普段は言いたい事をズバッと言うマーニャさんだけど、リュカさんがイケメン過ぎる所為か発言にキレがない様に感じる。
それともソレッタに馬車を預けてきた為、リュカさんがみんなの荷物を一手に引き受けてくれた事に遠慮してるのかな?
彼女に関してそれは無いのかな?
荷物持ちをしてくれているから、代わりに戦闘は行ってくれないのだし、プラマイ0って思ってるかもしれないな!
「お父さんは良いんだよ! ちょ~強いし、ちょ~頼りになるから戦わず歌っていても良いんだよ! お前等弱者の育成の場を提供しているんだから、何をやっても良いんだよ! お父さんクラスのイケメンは、何をやっても許されるんだよ!」
ヤバイ……
段々解ってきた気がする。
リューノちゃんとリューラさんの性格形成が、この父親の所為である事が解ってきた気がする!
シンSIDE END
(パテギアの洞窟)
ウルフSIDE
相変わらずのリュカ節だなぁ……
でもシン君の俺を見る目が『どうしてこんなヤツに心酔しているんだ?』って感じになってきたよ(笑)
はっはっはっはっ……一緒に旅を続けていれば、そのうちイヤでも解ってくるサ!
「寒ー! やっぱりこの洞窟寒ーよ!」
うるせぇーなぁ……相変わらず自分の欲求に正直な義父。
流石の俺もちょびっと苛つくね♥
「ほ、ホント寒いわね……何でこんな辺鄙な所に、大切な種を隠しちゃうのよ!?」
これまたうるせーのが一人……お前の寒さは、その半裸のコスチュームが原因だろう!
どうしてこう良い大人が、我が儘な事ばかり言うんだろうか?
「よーしマーニャちゃん、こうして二人で抱き合えば暖かくなるよ!」
そう言うと我が儘キングが、我が儘クイーンを自分のマント内へ抱き寄せ、二人羽織みたいな感じで暖を取り寒さを凌ぐフォーメーションを完成させる。
う、羨ましくなんか無いぞ! マーニャさんの巨乳にリュカさんの手があてがわれているけど、全然ちっとも羨ましくなんかないんだから!
「わーい、マーニャちゃんオッパイ大きい!」
「こ、こら! 抱き合って暖まるのは許可するが、乳揉むことまでOKしてないぞ!」
そうは言いながら、顔を赤めるだけで離れようとしないマーニャさん……落ちるのは時間の問題だろう。
「でもマッサージをすれば血行が良くなって、身体も直ぐに温まると思うんだ。それに美容には最適だし」
何処の民間療法だ!?
マッサージと言っても乳を揉んでいるだけじゃんか!
「そ、そうね……暖まる為にはしょうがない事よね! そ、それに美容の為なら……」
認めるんかい!
あからさまな言い訳を認め、その痴漢行為を了承するんかい!
思わず周囲を見渡すと、シン君・ブライさんが羨ましそうに見詰めている……
更にはミネアさんとリューラまでもが羨ましそうに指を咥えて眺めている。
何より困るのは、『私もしたいなぁ……』的な表情で俺の顔を見上げるリューノの存在だ。
お、俺だってしたいさ!
ウルフSIDE END
後書き
やっぱリュカさんは書いてて楽しいなぁ……
第36話:結果が全て……まぁそれもアリ!
(パテギアの洞窟)
アリーナSIDE
思いの外この洞窟が広くて手こずっている。
奇妙に動く仕掛け床の所為で、ちっとも先に進めない私達。
苛ついて『全然種を見つけられないじゃない!』と、荷物持ちの4人衆に八つ当たりをしてしまいました。
そうしたら筋肉大男が突然『だったら俺様の種を注いでやるよ!』と私を押し倒してきたので、股間を蹴り上げマウントポジションを奪い、ボッコボコにしてやりました!
だから今、私達は4人パーティーです。
元々戦力としては当てにしてなかった4人(現在3人)だけど、難解なダンジョンに荷物持ちとしての体力も尽きてきたらしく、そろそろ町(ソレッタ)に戻らざるを得なさそうです。
役に立たないだけで無く、足手纏いになるとは……
もう、リュカがさっさと帰っちゃうから、私がこんなに苦労をするのよ!!
頭にきている私は、荷物持ち元4人衆を急かし洞窟から出ると、荷物を返してもらいソレッタまでダッシュします。
情けない声で『ま、待ってくれ~』と聞こえたけど、そんな余裕は皆無なので聞こえないフリをして置いてきました。
3日ぶりにソレッタに戻ってきたのだけど、驚いたことに畑には青々しい植物が覆い茂り、国中みんなで喜び合ってました。
何が起きてるのか解らず、なおも畑で仕事をする王様に状況を確認すると……
アリーナSIDE END
(ミントス)
トルネコSIDE
僅か5日でソレッタ王国より薬を手に入れて戻ってきた一行。
しかも薬を手に入れた経緯を聞くと、わざわざダンジョンに入り薬の元となる種を入手したそうではないですか!
それほど大事になっていたのに、僅かな期間で成し遂げてくるとは……
このパーティーは底知れない実力を秘めてますね。
その一員に名を連ねている私は、とっても運が良いと言えるでしょう!
私の目の前では、手に入れた『パテギアの根っこ』を煎じて、病人であるクリフトさんに飲ませている。
すると見る見る顔色が回復し、クリフトさんの身体を蝕む病は消え去ったみたいです。
しかし当分は安静にしてなければならない様で、彼が目覚めるまで私達は一旦廊下(1フロア貸し切りなので、廊下にソファー等を設置してある)に出て待つことになります。
ちょうど良いタイミングなので、初対面のリュカさん(リューラさんのお父上)にご挨拶をしようと思います。
ウルフさんの言う事を信じれば、大変目敏く怖いお人だとの事……
第一印象は十分に注意して挨拶をせねばならないでしょう!
「あ、あの初めまして……私はトルネコと申します。世界一の武器屋を目指し、リューラさんのお力を借りてここまで来ました。皆様のお力になれれば幸いと思い、今後の旅もご一緒させて頂きます。どうぞよろしくお願いします」
私は出来るだけ低姿勢に、そして娘さんとの関係を明確にして、今後の立ち位置をアピールしました。
もっと詳しい話は、会話が弾みだしたら追々するということで……
今は手堅く挨拶を!
「……何このデブ?」
リュカさんは設置されているソファーに腰掛け、右にマーニャさん・左にミネアさんを侍らせた状態で私を指さします。
もう第一印象最悪です。これが大人の挨拶ですか?
「あ、あのねお父さん……その人は「悪たれ饅頭デブです!」
失礼な言葉で私の事をリューラさんに尋ねるリュカさん。
一生懸命説明をしようとする彼女の言葉を遮って、アローの馬鹿が勝手な事を言う。
「あはははは、獣少年は面白い事を言うなぁ……それで、どのくらい饅頭なんだ?」
「い、いや……饅頭の度合いは関係ないから! ってか、何でオイラが獣だって判ったの?」
おや、そう言えばそうですね……ウルフさんあたりが知らせたのなら“獣”とは言わず“狐”と言うでしょうに……
「う~ん……まぁ目を見れば人間じゃない事は判るし、モンスターの類でもなさそうだから、獣かなって思っただけ。別に他意は無いよ」
……本当か!? 本当に目を見てアローの正体を見破ったのか!?
「あ、あのリュカさん、彼は……アローは妖狐なんですよ! 私とリューラさんがボンモール付近の森で出会った狐なんですよ」
これ以上私の悪い印象を与えない様に、慌てて経緯を簡潔に話す。
「狐かぁ……じゃぁ今の姿は化けているって事?」
「そ、そうなのよお父さん! アローは沢山の人を化かす事が出来るのよ!」
「人を化かすと言いましても、今は改心をしており私達に協力しているんですよ!」
本来なら馬鹿狐を庇う事などしたくはないのですが、一緒に旅をしてきた仲間を守る良い奴ぶりを見せる為、私は賢明にアローの事を擁護します。
そんな私の姿に、アローはビックリ仰天です。
トルネコSIDE END
(ミントス)
リュカSIDE
随分グイグイ迫るオッサンだな!?
アローと呼ばれる少年をチラッと見たが、オッサンの態度に驚いている……
ウルフの反応を横目で確認すると、困った表情で首を横に振っている。
どうやらウルフの奴が俺を使ってオッサンを脅した様だ。
まぁ“武器屋”とか“商人”とかとは昔から相性が悪かったから、それを恐れての事前脅しだろうけど……
こんな必死に怯えられると、此方としても良い気分はしない。
リューラも庇いたがっている事だし、いぢめるのは控えてやろうかなぁ……
エコナみたいな女商人だったら、俺も優しく出来るのになぁ……ベッドでは激しいけど(笑)
元気かなぁエコナ?
(たったったったったっ……バン!)
俺が別世界に残してきた愛人の事に思いを馳せていると、突然アリーナが階段を駆け上がり俺達の前に姿を現した。
「パ、パテギアの種を手に入れたのはリュカ達!?」
「アリーナお帰り~」
「挨拶なんかどうでも良いのよ! 種を手に入れて薬を持ち帰ってきたのか聞いてるの!?」
愛しの彼氏の為だから当然なのだが、その必至さが笑えてくる。
「何笑ってんのよ!? クリフトは無事なの?」
「姫様……クリフトめは無事です。リュカを初め、この勇者ご一行のお力添えでパテギアの根っこを手に入れ、先程クリフトに飲ませたところです。ですので今は安静に寝かせておく事が重要……はしたなく騒がれては困りますぞ!」
興奮気味のアリーナは、ブライに叱られ力なく座り込むと、
「な、何よ……『寒いから帰る』って言ったクセに、私を差し置いて薬を手に入れてんじゃないわよ! 私……頑張ったのに見つけられなくて、凄く不安だったんだからね!」
「メンゴメンゴ(笑) 本当は僕も洞窟に入りたく無かったんだけど、ソレッタに戻ったら娘達に再会しちゃってさぁ……ついでに心配になったブライにも出会して、すんごく怒られちゃったワケ(大笑) だから渋々アリーナを出し抜いちゃったんだ。ごめんね心配させて」
「い、良いわよそう言うことなら……結果的にクリフトが無事なら、私はそれで構わないんだから」
俺はへたれこむアリーナに近付き、優しく頭を撫でながら経緯を説明する。
泣かれるのは厄介だから。
アリーナは静かに立ち上がり頷くと、ソッとクリフトの眠る部屋に入って行き、椅子に腰掛けヤツを見詰め続ける。
気の利く俺は無言で扉を閉め、病人をアリーナに託した。
流石のブライも『若い男女が二人きりで部屋に籠もるなど……』とは言わず、黙って頷いてくれたよ。
リュカSIDE END
第37話:目的が一緒って言うけども、僕の目的はビアンカ探しだからね!
(ミントス)
シンSIDE
無事パテギアの根っこを手に入れ、病気のクリフトさんを助けた翌日……
病み上がりのクリフトさんは、まだお粥みたいな消化の良い食事なので、部屋でアリーナ姫に看病されておりますが、その他の我々はヒルタンホテルのレストランでお食事です。
朝から結構豪勢な食事を振る舞わられ、田舎者の俺なんかは恐縮中なのに、ウルフさんを初め彼の師匠のご家族達は、一切気にする事無くモリモリ食事を進めて行く。
俺も、昨日まで人間だと思っていたアロー君も、彼らの神経の図太さに脱帽気味です。
「で……リュカさんはまだビアンカさんとは合流してないんですよね?」
「まだだねぇ……何処に飛ばされちゃったのか? ヒゲメガネの野郎……今度会ったらぜってーブッ飛ばす!」
ヒゲメガネさんが誰で、何をしでかした人なのかは判りませんが、何だかとても気の毒な気がします。
「ところでリュカ……家族との再会を果たしたのじゃし、お前はこれからどうするのだ? ワシ等と別行動をするつもりなら、姫様が戻られる前に何処かに消えてもらいたいのじゃが……」
「お……何かそう言う言い方されると、意地になって同行したくなるね(笑)」
言外に“もう拘わりたくない”と含まれるブライさんの言葉……それを100%汲み取るリュカさん。
俺の想像していた人柄と違う……
尊敬するウルフさんが全幅の信頼を寄せる師匠、そんなリュカさんは、もっと頼りがいのある器の広い人物かと思っていたのに……
「ダメですよリュカさん。俺達と一緒にキングレオに来て下さいよ! 俺、あそこで酷い目に遭っちゃって、その復讐をしたいんです。手を貸して下さいよ」
え、ウルフさんほどの実力者が酷い目に遭ったって……この人に頼っても大丈夫なの?
「え~……めんどくせー! 僕には関係ないじゃん。気を抜いてたウルフが悪いんじゃないの?」
「しょうがないでしょ……馬鹿な味方の所為で実力を発揮出来なかったんですから! それより、義理の息子がイジメられたのに『めんどくせー』はないでしょ!? 『よ~し、パパがブッ飛ばしてやるぅ!』くらい言ってよ」
本当にそんな事を言われたいのか?
「え~……それもめんどくせー。実の息子がイジメられてても、多分言わない台詞だし……義理の息子じゃなぁ」
酷くね?
確かウルフさんはリュカさんの、部下で弟子で義息だと聞いてたけど、この反応は酷くないですか?
「そうよ……リュカは私達と共に、魔族の城……デスパレスを目指し旅しているのよ!」
不意にレストラン入り口の方から声が聞こえてきた為、みんなで一斉に振り向くと……
そこにはアリーナ姫様が真剣な表情で此方に歩んできました。
「はぁ~? オイオイお姫ちゃん、何勝手な事を言ってんだ? 家族と再会した今、我が家は揃って行動するに決まってるだろ! 他の家族が居そうに無い魔族の城より、俺が暴れてきたキングレオに戻って、他の家族が立ち寄ってないか調べるのが先決だろう!」
そっか……
リュカさんと合流出来た今、俺達と一緒に旅をする必要性が無くなっちゃたんだ。
俺としては魔族の王デスピサロを倒す為に旅立ったんだし、アリーナ姫様と一緒にデスパレスを目指しても問題ないなぁ……
「ふざけないでよ! 私の国は魔族の王にお父様達を消されちゃったのよ! それに、もしかしたらデスパレスにアンタ達の家族が居るかもしれないでしょ!」
そうかなぁ?
「居る訳ねーだろ! 仮にデスパレスとやらにマリーかビアンカさんが召喚されたとして、今現在まで無事でいる訳がない! 俺達の時代の神が度し難い馬鹿でも、いきなりそんな危険地帯に誰かを配置する訳ない……と思う」
「もし……ビアンカがデスパレスに飛ばされて、掠り傷でも負っていたら………あのヒゲメガネ殺す! 羽の生えた連中も皆殺しにする! そして気合いでアレフガルドに行き、ルビスのアホも……」
静かな……とっても静かな口調でリュカさんは語り出した。
しかし内容と彼から感じてくる気配が、チビリそうになるほど恐ろしい……
リュカさんの言う方々が誰なのか判らないが、怖くて声を出す事が出来ない。
「リュ、リュカ……さん……ご、ごめんなさい。大丈夫だよ……絶対にビアンカさんは怪我一つしておらず、元気にこの時代の何処かに居るよ……だ、だから落ち着いて……お、俺達で、残りの二人を探し出そう」
ウルフさんの言葉を聞き手元の水を一口飲むと、リュカさんは怒気を収めてコクリと頷く。
こえ~……滅茶苦茶こえ~よ!
さっきまでは不真面目なチャラ男にしか見えなかったのに……
この人怖すぎるよ。
もう良いよ、ここでウルフさん達とお別れでも構わないよ!
戦闘はしないどころか、歌で誘発するトラブルメーカな上、怒るとハンパなく恐ろしい人となんて、一緒に冒険するのはイヤだよ(泣)
「あ、あの……じゃぁ俺達はここでお別れですね。俺はアリーナ姫様達と魔族の城デスパレスを目指したいと思います。きっとそこに俺の村を滅ぼし、大好きだったシンシアを殺したデスピサロが居るはずですから」
俺は一刻も早くリュカさんから別れたかったので、早々に話を纏めて別行動を示唆する。よく考えたら当初からの予定も、リューノちゃんをお父さんに再会させて、その後は復讐の旅にする予定だったのだし……
「ん? シン君……今デスピサロって言ったか?」
「え? は、はい!」
俺の総纏めを聞き、ウルフさんが何かに気付き話しかけてくる。
どうしよう……何だか嫌な予感がする。
「マーニャさん……ミネアさん……確かキングレオのヤツ、デスピサロの事を口にしてましたよね?」
「確かに……言ってたわね。『デスピサロに報告して、進化の秘法を改良してもらう』って言ってたわ!」
ウルフさんに話を振られ、ミネアさんと頷き合いながらキングレオの事を語るマーニャさん。
あれぇ?
俺達って目的が似ているのかなぁ?
「リュカ! そう言えばミーちゃんが言ってたわよね……『リュカにそっくりな魔族が居た』って。しかもエンドールの武術大会に出ていたデスピサロって選手は、みんながリュカと間違えるほど似ているって話しだったわよね!?」
「そ、それって……俺達全員、デスピサロを探してるって事なのか?」
どうしよう……ウルフさんが最悪な結論を導き出した。
言いたく無いけど“つまり”って事を俺が言わなきゃダメなのかなぁ?
「つ、つまり……みんな揃ってキングレオに赴き、デスピサロの情報を得た方が、効率的なのかなぁ……?」
シンSIDE END
第38話:陸海空関係なく騒ぎを起こすのが我が一族
(海上)
ウルフSIDE
「お、お前何やってんだー!!!」
ミントスを出港し西のキングレオを目指す俺達。
アリーナ姫一行を仲間に加え、優雅な船旅を満喫するハズなのだが……
若干一名のトラブルメーカーを加えただけで、船旅1日目の朝から騒動が起きるとは思ってなかった。
俺もまだまだ想像力が乏しいなぁ……
リュカさんのクオリティーに付いていけないよ。
ヤツの奇行に慣れてないシン君には騒動を収められないと思い、仕方なく俺がリュカさんの部屋へと赴く事に。
ただ、今後の為にシン君は同行させますけどね。
ヤツの生態には早く慣れてもらわないと!
さて……
我が義父の部屋の前に、ヒルタンさんに弟子入りしミントスに残ったホフマンさんと、仕事中の水夫を除く全員が集まり、事の次第を興味深そうに見学している。
俺としては大体の想像は付いてるのだけど、取り敢えずは大声を上げたマーニャさんに話を聞こうと思う。
手ぇ出すの早ーなぁ……
「マ、マーニャさん……何を朝から騒いでらっしゃるのかな?」
「な、何をって……この野郎……」
俺は惚けて尋ねながら室内を見渡す。
そこには勿論、裸の男女がベッドで重なって……
「何、朝っぱらからみんなして集まって……僕は見られても構わないけど、ミネアちゃんが……」
「あ、いえ……私も別に見られたって大丈夫ですよ。何か問題でもあるんですか姉さん?」
うわ~い、彼女は何も知らないアホっ娘だと感じてたけど、ここまで重度のアホだとは思わなかったよ!
「キ、キサマ……ミネアの純潔を汚したな!! 私の大切な妹を傷ものにしてくれたな!!」
リュカ毒に浸食されてる俺から見れば、そんなに騒ぐ事じゃないと思うんだけど……
いや……まぁ……そうなるだろうとは思ってたけど、マーニャさんからしたら一大事だよね。
「純潔……ですか、姉さん?」
「はぁ……純潔ねぇ……」
未だに重なり合っている二人は、互いに顔を見合わせ不思議そうな表情でマーニャさんを眺める。
「そうだよ! ミネアの処女を奪いやがって! ミネアには永遠を誓い合える男と……そんな男を見つけ出して幸せになってほしかったのに!」
もうここまで来ると過保護を通り越して“姉馬鹿”の領域に入ってくる。
「でも……処女じゃなかったよ。僕より先にミネアちゃんを喰っちゃった男がいるよ!」
「な……何だとぉ!!!」
天地がひっくり返らんばかりに驚きを見せるマーニャさん……かく言う俺も驚いている!
しかし驚いてばかりはいられない……
マーニャさんを初め、ミネアさん以外の全員の視線が俺に集中したのだ!
ば、馬鹿言うな。リューノに手を出した事だって困っているのに、ミネアさんに手を出すワケないだろう!
「お、お前かー!? お前が私の妹に手を出したのか-!?」
「ち、違う! 俺はそんな事してねーよ! 本人に聞けよ……」
マーニャさんに胸座を掴まれ必死で否定する俺……危うく『リューノにしか手を出してない!』と言いそうになった。
「あの……純潔や処女って何ですか?」
当のヤリマンは言葉の意味すら知りもせず、リュカさんの上から下りようとしない。
……うん。まず分離させて服を着させよう。
ウルフSIDE END
(海上)
シンSIDE
こいつ等は何を考えてるんだ?
男の方も、女の方も、一体何を考え行動しているんだろうか?
田舎で育った俺には理解が出来ません。
大勢の視線が集まっているのに、気にする事なく服を着る二人……
当たり前の様にミネアさんの美体に視線が行く……と思いきや、リュカさんの身体の凄さが際立って、美女に目が行かなくなる!!
何が凄いって……
その筋肉は勿論だが、体中に刻み込まれた古傷の多さに目を奪われる!
幼少期から冒険に明け暮れた人物でも、あれ程の古傷は残らないだろう……
「さて……ミネアさん。お願いだから俺の無実を証明して下さい! 貴女と初めて○○○したのは何処の誰ですか?」
俺がリュカさんの古傷に目を奪われていると、何時の間にやら美女は服を着込み、容疑者ウルフさんが無実を切望しておりました。
「○○○……ですか? それって……「さっきアンタがリュカさんとやってた事だよ!」
カマトトもここまで来れば凄い事だが、彼女のアレは天然だろう。
見た目と違って姉の方が常識的だし……
「先程の事……ですか?」
「もっと具体的に言うと、男の○○○を女の○○○に○○○し、○○○を○○○に出す行為の事! 男女が互いを使って快楽を得る行為だよ!」
ギャラリー(特にリューノちゃんやリューラさんの様な子供が)居る前で、恥や外聞を捨てて叫ぶウルフさん。
「それでしたら……モンバーバラ劇場の座長さんとですね」
「はぁ~!? 何であのオヤジとヤっちゃってんのよ!?」
必死なウルフさんとマーニャさんに睨まれているのに、何時もと変わらぬオットリ加減で説明するミネアさん。
もうマーニャさんの動揺は止まらない。
この後もオットリと説明するミネアさんだが、パニック状態のマーニャさんが暴れ出し話が進みません。
なので、大まかな内容を説明します。
・
・
・
過保護なマーニャさんに育てられたミネアさんは、性の知識を得る事のないまま美女へと成長致しました。
そして一時的だが身を寄せていた劇場の座長に、『うちの劇場で働きたいのなら、座長の俺にサービスするのが習わしなのだが、君のお姉さんはそれが出来なくてねぇ……代わりに妹の君がすれば、お姉さんをここで働かせてあげてもいいよ』と言われた為、よく分からないまま初めてを経験したそうです。
・
・
・
「はぁ~……世の中にはクズな野郎も居たもんだ!」
「キサマが言うな! キサマも妹を誑かしたクズだろう!」
「ちゃんと口説いたもん! 僕は意味の分かってないミネアちゃんに内容を説明して、ちゃんと口説いてから中出ししたもん!」
「な、中……ふざけんなー!!!」
あぁ……またマーニャさんが騒ぎ出した……
「そうですよ姉さん。リュカさんは『気持ち良いから、僕の部屋でエッチしよ』って説明してくれましたよ! 本当に気持ち良かったんですよ……座長さんや酒場のゴランデさん達とは違って、本当に気持ち良かったんですよ」
「ゴ、ゴランデ達って……酒場で働くアホタレ連中の事か!?」
「はい。皆さんと一緒に○○○しましたけど、全然気持ち良くなかったんです。でもリュカさんは本当に気持ち良いんです! 姉さんも一緒にどうですか?」
何も知らないと言う事は恐ろしい……
ゴランデと言うのが誰の事かは判らないけど、ミネアさんの発言は間違いなく乱交を表しているだろう。
聞いてて想像し、恥ずかしながら勃ってしまいました。
シンSIDE END
後書き
ある意味、伝統の一戦ですね。
第39話:大事に育てれば良いってもんじゃないッス
前書き
またも炸裂!
リューノの秘技“完全不意打ちツンデレ拳”が……
誰が餌食になるのか!?
もしやパピィか?
(海上)
リューノSIDE
最初のうちは叫き散らしてたマーニャだったが、時が経つにつれ涙声になり、何時しか本泣きし初め、お父さんとミネアに抱き寄せられ眠ってしまった。
私も我が儘な方だが、これは何なのだろうか?
一時的ではあるのだが騒ぎが収まった為、お父さんとミネア……そして激怒→驚愕→混乱→悲哀と忙しかったマーニャを残し、私達ギャラリーも各々お父さんの部屋から散って行く。
しかし、あの3人だけを残し解散しても良いのだろうか?
「ねぇウルフ……マーニャが目を覚ましたら、また騒ぎになるんじゃないの?」
「う~ん……騒ぐだろうけど、さっき程の騒ぎにはならないと思うよ」
どういうことだろう?
さっきの騒ぎでは何も解決してないこの状況……同じ事の繰り返しな気がするのだけど……
「マーニャさんも馬鹿じゃない。突然愛する妹の濡れ場を目撃してしまい、我を忘れて騒ぎ出したけど、冷静に考える事が出来ればミネアさんの自由意思を尊重し大人な話し合いを行えると思う」
なるほど……ミネアの自由意思かぁ……私がウルフに迫ったのと同じ事よね!?
「それにリュカさんが居るから……今日のディナー前には、彼女も処女じゃなくなってるよ!」
「あぁなるほど……師匠も弟子と同じく、姉妹どんぶりを堪能するって事ね!」
私は自分が凄い事を言っている自覚はあるのだが、それでもウルフの反応を知りたくて彼の顔を覗き込んでしまう。
「し、師匠の方が純度は高い! あちらは両親共に同じ人だからね!」
簡単にやりこまれないのがウルフ……
顔を赤くしながらも、私の攻勢に反撃してくる。きっと私の顔も真っ赤だろう……
「何つー会話をしてるんですか!?」
突如後ろから話しかけられ、私とウルフは慌てて振り返る!
そこには呆れ顔のシンが……
「げぇ! シ、シン君……い、何時からそこにいらっしゃいましたか?」
「ずっと居ましたよ。リュカさんの部屋から離れる二人の後に付いてきたんですから……つか、騒ぎが起きて以来ずっとウルフさんの後ろに付いてたんですよ俺!」
やばい……私とウルフの関係が、マリーに打ち明ける前にバレてしまったわ!
シンの奴を脅して口封じをしないと……
ど、どうすれば……どうしたら良いの……?
「……うりゃ!」(ゲシッ!)「ぐはぁ!!」
困った私は、シンの鳩尾に正拳突きを喰らわした!
不意打ちの効果は絶大だった為、その場で蹲り身悶えるシン。
「な、何やってんだリューノ!?」
「だ、だって……他人に喋られる前に口封じをしないと!」
「お、俺を殺す気か……!?」
「こ、殺しはしないわ……多少痛めつけて私達の事を言いふらさない様に脅すの! ほら、ウルフも!」
「こ、怖~よこの女!」
蹲り涙目で私達を見上げながら、事の不条理さを叫ぶシン。
「リュ、リューノ……大丈夫だから! シン君はアネイルの時から気付いていたから……今更噂を広めたりはしないって!」
「え゛……まぢ!?」
私は驚きの事実に、ウルフとシンを交互に見て尋ねる。
「リューノちゃんの態度があからさま過ぎて、他の皆さんに悟られないかが心配でしたよ!」
「いやだン……シンちゃんてば気配り上手! ごめ~んね♡」
私はマリーが良くやる様に、自らの頭を“コツン”と叩き、テヘぺろウインクで可愛く誤魔化す。
「可愛くねーよチキショウ……」
「何だとこの野郎!?」
だが鳩尾付近を擦りながら立ち上がったシンは、怒りも露わに暴言を吐く……この子がこんな事を言うなんて、相当ご立腹ね!
「まぁまぁまぁ……俺もシン君がこんなに察しが良いとは思わなかったし……俺達の知る『天空の勇者』は色恋事に疎いボウヤだから、彼と君を重ねて理解していたんだよ」
「どんな男だよ其奴は……?」
兄の事を少し悪く言われ、ちょっとだけイラッとくる私……
意外に私は家族が大好きなのだよ!
リューノSIDE END
(海上)
トルネコSIDE
朝一からの騒動が収束し、太陽が真上を通過した頃……
一人の男性と、二人の女性がそれぞれ異なった表情で甲板に登場する。
勿論、誰の事か説明は不要だろう。
大人しそうに思っていたミネアさんが、スッキリとした大人の顔で笑顔のリュカさんと腕を組んでいる。
余っているもう一本の腕には、難しい顔のマーニャさんが抱き付き溜息を吐いている。
心なしか彼女も大人になった様に見受けられる……
「どうでしたかリュカさん、姉妹どんぶりの感想は? モテる男は大変でスカラねぇ……」「うるせー馬鹿ウルフ! あっち行ってろアホ!」
ニヤニヤ近付くウルフさんに、勢いよく蹴りを入れるマーニャさん。
あの女性の性格からして、あんな事を言えば手痛い目に遭うのは当然だろうに……
「自ら『弟子』と公言するだけあって、リュカの奴にやり口が似ておる……あの“語尾スカラ”がのぉ」
呆れ状態の私に話しかけてきたのは、冒険当初からリュカさんと行動を共にしてきたブライさんでした。
やはり彼らはリュカさんの事を熟知しているのでしょうか? 出会って日の浅い私には、まだ理解するには難しい人だ……
「ブライさん……リュカさんとはどの様な方なのですか?」
私の計画には彼の財力が必要不可欠……
少しでも為人を理解し、心の隙間に入り込める様考えているのだが……ブライさんの表情が硬い。
「ウルフから聞いたのじゃが……お前さん、奴を取り込もうと考えてるんじゃってなぁ」
「いや、『取り込む』なんて人聞きの悪い……世界一の武器屋になるのが私の夢。大物とは仲良くしておきたいと思っているだけですよぉ~……」
ちっ……ウルフさんの横槍が入っていたか!
リュカさんの耳に入ってると、私を信頼させるのが大変だ……
「どっちにしろ止めておいた方が良い。アイツが大物だとは思えないし……間違って大物だとしても、旨味より苦労の方が大きくなる輩じゃて」
“旨味より苦労が大きくなる”? 美少女な娘さん達と、うちのポポロを結婚させる事が、苦労の原因だと思えないが……
なおもブライさんに話を聞こうと思ったのだが、溜息と共に立ち去ってしまいこれ以上尋ねる事が出来ませんでした。
甲板に置いてある樽の上で胡座で座っているリュカさんを眺め、対応に困っている私が居る。
ウルフさんとの事もありますし、間違いは許されないですからねぇ!
トルネコSIDE END
後書き
当分船の上での物語が続きます。
ですがご安心下さい。
ピンク色も用意してますので、それなりに楽しめると思いますよ。
あ、前話もピンクっぽかったですが、アレよりも綺麗なピンクですよ!
第40話:男と女と不条理と……
(海上)
リュカSIDE
う~ん……いきなり騒ぎを起きちゃったから、水夫達を中心に俺を見る目に不信感が存在する。
特にこの船の持ち主らしいおデブ……トルネコだったかな? 彼が俺をチラチラ見るのが鬱陶しい。
でも娘がお世話になったみたいだし、大人としてご挨拶した方が良いのかな? 面倒いな……
リューラに惚れている狐君が言うには、『トルネコはリューラを利用しただけだ!』って事らしいし、挨拶しなくても良っか!?
大人としてとか俺らしくないし……何よりめんどくせーし!
でも挨拶は兎も角、商人として周囲の人々を利用する輩には注意が必要だろうなぁ……
ましてや幼女(リューラ)までも利用するんじゃ、利用価値が無くなった途端ポイ捨てされる危険があるし……
今のうちに何かを巻き上げてやろうかな?
重い雰囲気を払い除けようと双子姉妹(主にマーニャ)をからかっているウルフに、トルネコの事を訪ねようと視線を向けると……
「え~っと……俺も早くマリーと会いたいなぁ」
と言って、俺との会話を避けようとする。
どうやらウルフ自身は、トルネコにあまり良い印象を持ってない様だ。
良い奴だったら率先して良いところを言ってくるだろうし、極悪人だったら一緒に行動してないだろう。
商人として強かなだけで、人としては……
う~ん……やっぱり面倒い。挨拶はいいや!
悩み事がスッキリ解決すると、俺の目の前にシンと呼ばれる勇者君がやって来た。
ウルフもマーニャ・ミネアも、彼の事を勇者だと言っているのだから、間違いなく天空の勇者様なんだろうけど……これまた若いなぁ。
うちの勇者様も8.9歳で魔王を倒したけど、彼も14.5だろ!?
何で世の中は若人に運命という重荷を背負わせるんだ?
ヒゲメガネの所為か? あの馬鹿が若人を苦しめているのか?
「あ、あの……リュ、リュカさん……」
とっても緊張した面持ちで俺に話しかけてくる若き勇者。
リューノ・リューラが揃って俺の事を大きく話したのだろう。『私のパパは、強くて、格好良くて、頼りになって、面白くって、etc.』てな感じで……それともウルフが『面倒臭いから話しかけない方が良いよ』とか言ったかな?
「何すか? 『娘さんを僕にください』って言っちゃう?」
緊張を解してやろうと思い、凄く軽い口調でおちゃらける。
ここで『くれるんなら貰いますけど?』とか言ったら、面白い奴認定でブッ飛ばすね……勿論軽くだけども、笑いながらね(笑)
「……あ、貴方は何時もそうやって周囲の人々に迷惑を掛けてるんですか!?」
あれ……もしかして説教タイム?
勇者と呼ばれる者の必須事項は“真面目”って事かな?
だから俺は勇者になれなかったんだね。ちょ~納得(笑)
「聞いてますかリュカさん!?」
「ん~? 聞いてませんでしたぁ~! だぁって面倒いしぃ~」
ウルフの奴は教えてないのかな? 俺に対して真面目に接すると疲れるんだぞって!
「早朝から皆さんに迷惑を掛けたんですよ! 大人として……いや、人としてその態度で良いんですか!?」
あれ……俺の心を読まれたかな? 先程まで『大人として……』って考えてたの読まれたかな?
「……僕がどんな迷惑を皆さんに掛けた?」
「健忘症ですか貴方は!? 朝っぱらから大騒ぎを起こして、皆がリュカさんの部屋に集まったじゃないですか!」
「僕が皆を呼び寄せた訳じゃない! 勝手に集まってきただけだろ?」
おや……あの騒ぎの原因を押しつける気か!?
「そ、そりゃ……あんな大声を上げりゃ、誰だって集まるでしょう!」
「大声を上げたのは僕じゃない! マーニャちゃんが錯乱して大声を上げたんだ。僕は命じてないし、導いてもいない」
あぁ……若き頃のティミーと会話しているみたいで楽しい。
「マーニャさんが大声を上げる原因を作ったのは貴方でしょ!」
「はぁ? マーニャが大声を上げたのは彼女の妹愛が原因であって、僕に起因する事は何もない!」
リーダーとして俺を叱っておきたいのだろうけど、そうは問屋が卸さないゼ☆
「僕は大人の男として、大人な女性であるミネアを口説き、そしてベッドを共にした。決して力尽くで押し倒してはいないし、嘘偽りで騙し犯した訳でもない! ミネアの自由意思の結果、互いに合意のセッ○スをしただけだ! だが、妹は“純真無垢な生娘”と思い込んでいたマーニャには寝耳に水で、ガッチリ僕のをくわえ込んでいる様を見てしまったら、混乱して大声で叫んでしまっただけだ! 誰の所為でもない!」
う~ん……我ながら凄い言い訳をしてるよ。
ウルフなんか呆れ顔のニガワラ状態。
娘二人は“相変わらず……”って感じ!
「んなぁ……」
シンは目を見開き何も言えなくなっている。
これ以上この話はしたくないので、この辺で有耶無耶にするのがちょうど良いだろう(笑)
そんな訳で俺は歌い出す。
ギターを弾きながらJAYWALKの『何も言えなくて…夏』を……
リュカSIDE END
(海上)
シンSIDE
俺のクレームを遮って突如歌い出すリュカさん……
コイツ何考えてんだ!?
全然常識が通じない……
「あはははは、どうだ凄い人物だろ!? 凄い不条理さだろう!」
歌い続ける奴を睨んでいると、爆笑のウルフさんが話しかけてくる。
笑い事じゃないっての!
「その状態の其奴に、これ以上何か言っても無駄だから……」
そう言って俺を船首の方へ誘うウルフさん。
まだ話は終わってないのに!
「ウルフさんは奴の何処に尊敬したんですか!? ダメ人間の生きた見本じゃないですか!」
ウルフさんがリュカさんを尊敬している事は、これまでの会話から十分理解出来ている……
それでも声を荒げてバッシングしてしまう俺は心が狭いのだろうか?
「いや解るよ、解るけどさぁ……アレはアレで良いんだよ!」
「良い訳ないでしょ! これから共に冒険して行く間柄になるというのに、早々に女性問題で修羅場を迎え、その点について反省してないなんて……」
とてもじゃないが共に旅する自信がないよ。
「あれ……お前は何について怒ってるの? リュカさんが不倫している事か? それともリーダーのお前に媚諂わない事か?」
え、何についてって……そりゃ……
シンSIDE END
第41話:多角的視野ッス
(海上)
ウルフSIDE
「あれ……お前は何について怒ってるの? リュカさんが不倫している事か? それともリーダーのお前に媚諂わない事か?」
俺はてっきりまともに会話をしないリュカさんに怒りを覚えたのかと思ったのだが、シン君から出てきた言葉を聞くと違う様な気がしてくる。
「べ、別に媚諂わないから怒ってるんじゃありません! いい大人が起こす騒動では無いと言ってるんですよ!」
おかしな論理だな……
「いい大人だから起こす騒動だったろ……男が女とヤってるとこを見られ、女の姉が騒ぎ出す……子供はダメだろ、こんな騒動を起こしちゃ。まぁこのままいくと、俺も起こしそうだけどね(笑)」
俺は大人だけど、女2人が子供だからなぁ……
「何を言ってるんですかウルフさん! 貴方はあのトラブルメーカーの肩を持つんですか!?」
「肩を持つとか、そんなんじゃなくて……」
意外に潔癖症なのか? いや……俺とリューノの仲を知っても騒がなかったし、男女の事柄に厳しい訳ではないだろう。
「……はぁ、よし分かった! 今回の騒動の件を冷静に分析してやろう」
「ぶ、分析されるまでもありません……十分に解っていますから!」
めんどくせー……リュカさんがちゃんと説明しないからこうなるんだ!
何時もあやふやにして誤魔化すから……
「良いから聞け。確かに今回の騒動はリュカさんの手癖の悪さが原因だが、誰も彼を責める事は出来ないんだよ! 出来るとしたら、この場に居ない奥さんだけ……」
「そ、それはどういう意味ですか?」
「じゃぁ聞くが、既婚者の男が未婚の女性を口説き、性行為をするのは違法か?」
「……いえ」
う~ん……どうにも気に入らない様子だ。
「そう、違法じゃない! 不道徳ではあるが、何ら罰せられる事……責められる事はない!」
「で、ですが……」
言い募ろうとするシン君に右手を翳して止める。
「今回の事で、リュカさんに罵声を浴びせる権利を有するのは、各々の家族だけ……リュカさんの場合、妻と子供達……ついでに愛人ズ。ミネアさん側は姉のマーニャさんだけ。実際マーニャさんは怒鳴ってたけどね……」
ここまで説明しても不満顔だ……
「あの騒動の発端はリュカさんとミネアさんでも、原因はマーニャさんなんだ。彼女があれ程の大声を上げなければ、大勢のギャラリーは集まらなかったし、密かに終息させる事が出来たんだ」
「ではウルフさんはマーニャさんが悪いと言うんですか!?」
……そろそろブッ飛ばそうかなコイツ。
「そうじゃなくて、誰の所為でもないんだって言ってんだよ! 嫌な想像をさせるが……お前の母親が、父親以外の男とヤってる現場に遭遇する。お前はどんなアクションをする?」
「そ、そりゃ……怒ります。多分、男の方に対して怒ります」
「そうだ……仮に母親に対して怒るんでも、家族としての態度はそれで良い! でもシン君や他の皆は、リュカさん・ミネアさんの家族じゃないだろ。“不道徳な連中”と蔑む事は出来ても、声を荒げて説教する権利は無い!」
何となく理解出来てきたのか、唇を噛んで俯くシン君。
「勿論、他人でも怒って良い場合が存在する……」
「え、それは!?」
え~……聞かなきゃ分からないの?
「おいおい……そりゃ恋人が寝取られた時だよ」
俺が笑いながら言うと、強く顔を顰める。
まぁ、俺も笑ってる場合じゃないんだけどね……マリーからすれば、彼氏を姉妹に寝取られた事になってるし。
「お前あれだろ? リュカさんの事を知りたくて、勇気を出して話しかけた……そうしたら不真面目な事を言ってはぐらかされ、その事にイラついたんだろ!?」
俺はシン君の頭を軽く撫で、労る様に話しかける。
すると少し涙目になりながら“コクン”と頷き俺を見詰める。
あぁ……ティミーさんが年下だったら、彼みたいに可愛い存在として優しく出来るのに……
一応年上で、俺よりも地位が上で、世界を救った実績があり、圧倒的に俺より強い……
だから厄介なんだよ!
まぁ今はシン君の事を考えよう。
「あの人と会話をしたいのなら、まともな答えが返ってくる事を期待しちゃダメだ。巫山戯合いながら、その中にまともな事柄を織り交ぜて会話できるようにならなきゃ……」
「えぇ……何だか難しそうですねぇ……」
「何だかじゃなく、とても難しいぞぉ……しかもあの人は常に相手を推し量っているから、言葉のキャッチボールが出来ないと、まともに相手してくれなくなる」
「……厄介な人だなぁ。どうしてウルフさんは、リュカさんを師事してるんですか? 現状では納得いかないんですけど……」
だよね~……俺も時々そう思う!
「う~ん……一言でも百言でも説明するのは難しいな! あの人の凄さは、目の当たりにしてみないと分からないからね……」
そう……一緒に行動して、初めて解るのがリュカって人物なんだ。
「はぁ~……あんな事を言ってしまった俺は、もう嫌われているだろうし、手遅れですよね?」
「そんな事はないぞ! 俺も最初の頃はシン君みたいな態度をとったときがある。でも今は問題なく接してくれている……そんな心の狭い人じゃないから」
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ大丈夫だ! 俺が一緒に行ってやるから、リュカさん達と共におちゃらけてみようゼ! あの人色に染まれば、あの人の事が少しは見えてくるから……『人としてヤバイんじゃね』と思う事もあるけど、間違いなく楽しいから!」
言い終えるや、俺はシン君の手を取りリュカさんの下へ直行する。
娘達を従え、歌を歌っている師匠の下へと……
この時代の勇者の胃は、この俺が守ってやらないと!
ウルフSIDE END
(船上)
アリーナSIDE
船尾方でクリフトと二人、お喋りを楽しんでいると……
中央付近からリュカの歌声が聞こえてきた。
相変わらず綺麗で巧い歌に、クリフトと共に聴き入ってる。
クリフトの胸に耳を当て、リュカの歌に合わせて心臓の鼓動を楽しむ。
彼の手が私の頭を優しく撫で、更に強く抱きしめてくれる。
最高の一時だ……
だが心地よい時間とは短く終わるモノで、音楽を奏でる中央付近にモンスター達の気配が!
クリフトの瞳を見詰め互いに頷き合い、ダッシュで中央付近へ駆け付ける。
そこは勿論戦場だった!
進行方向右側からは『首長竜』が船に半身を乗り上げ、皆に向かって火の玉を吐き出す!
しかしミネアのバギマにより火の玉は打ち消され、逆に切り刻まれている。
そしてトドメはブライのヒャダルコ。
左側の甲板には、『トドマン』が2体乗り込んでおり、シンとマーニャ相手に戦っている。
敵の怪力を、剣や盾を使い受け流すシン……マーニャはギラを連発し、トドマンにダメージを与えている。
そこへクリフトがスクルトを唱え参戦!
防御力が上がったシンは敵の力を物ともせずに、強烈な一撃を浴びせトドマンを1体倒しきる。
出遅れた私は颯爽と踏み込み、ある程度ダメージを負っていたもう一体の敵を蹴り飛ばす!
会心の一撃だった……遙か彼方の海面に飛んでいったトドマンは、そのままあの世へと旅立ち戦闘は終結する。
「すげー嬢ちゃんだな……あの巨体をあそこまで蹴り飛ばすとは!」
私の蹴りを見て驚いてたのは、ウルフと呼ばれるリュカの弟子(部下? 義息?)だ。
きっと私の強さに惚れ惚れしたのだろう。
「本当に女かよ……」
だがしかし、続けて出てきた言葉に私は激怒する。
「な、何だと!?」
振り返り奴を睨みながら腕まくりをし、臨戦態勢になる私。
すると奴も剣を抜き、私の方に近付いてくる。
即座に間合いを詰めた私は、拳と足を駆使し連撃を試みる……が、全てをアッサリ躱され私は無防備状態になってしまった!
その瞬間“ザシュ”という音と共に、私の後方で何かが切り落とされた。
咄嗟に振り返り、自身の無事を確認する私……
だが何処にも怪我は無く、私が切られた形跡はない。
では何を切ったのか?
慌てて周囲を見渡すと、ウルフの足下に『突撃魚』と呼ばれる魚状のモンスターの死骸が……
「撤回する……やっぱり女の子だ。戦闘が終わると直ぐに気を緩め警戒を怠る。お姫様だなぁ……」
どうやら彼は、海面に漂っていた敵の気配を感じており、戦闘が終わったと思い込んで隙だらけになった私を助けてくれた様だ……
く、悔しい……
私はコイツに言い返せないでいる。
「い、一応お礼は言っておく……わ。あ、ありがとう」
悔しかったけど……認めたくなかったけど、助けられた事は事実。
だからウルフが私の横を通り過ぎる瞬間、お礼だけは言ったのだが……
(さわさわ)「きゃぁ!」
突如私のお尻を触り、振り返りもせず言い放つ……
「お礼は今貰った(笑)」
と、お尻を触った手をヒラヒラさせながら言い放った!
く、くそぅ……
確かに弟子だ……コイツはリュカの弟子に違いない!
ムカツクところも、強いところもリュカにそっくりだ!
頼りになるところまで一緒なのだろうか?
アリーナSIDE END
後書き
リュカさんはウルフの行動をニヤニヤしながら眺めてます。
ちょっと嬉しいんでしょうねぇ。
第42話:歌戦脅父
(海上)
アローSIDE
誰も咎めない……咎められない状況のリュカさんの歌で、案の定モンスターを引き寄せてしまい戦闘を行う面々……
新たに加わったアリーナとクリフトも結構な強さを持っている為、問題なく敵を倒し終わるパーティー。
戦闘終わり際に、アニキが姫さんに戦いを指摘してたけど……
アレってセクハラと言うのではないのですか?
格好いいアニキには、そう言うことをしてほしくないのですが、ムリなのですか?
「リュカさん……先程は失礼な事を言って申し訳ありませんでした!」
アニキと姫さんに気を取られていたら、シンが深々と頭を下げリュカさんに謝罪する。
確かに……目上の人に対してとる態度ではなかったと思う……けど、オイラもシンの立場だったら同じ事をしてたと思うよ。だってあの人イラつく……
「良いよ良いよ別に……何時もの事で気にならないから。僕と初めて会って大概の人は、君と同じ態度をする……第一印象で為人を決めつけるのは危険なのにねぇ!」
そ、そうか……確かにオイラは第一印象だけでポポロの事を嫌ってたけど、アイツ結構良い奴だったし、リュカさんの言うとおりだな!
「第一印象で判断して良いのは、ナンパして○○○だけを目的にしている時だけだよ(笑)」
「そっすよね、○○○に性格なんて関係ないッスもんね! 穴が開いてりゃ問題ないッスもんね!」
えぇ~……アニキまでそんな事言っちゃうのぉ~!
「お前の言い方には語弊がある……穴が開いてても美女じゃなきゃ!」
折角途中まで良い話しの流れだったのに……
互いに笑い合うリュカさんとアニキを眺め、呆然としてしまう。
「そ、そんなリュカさんにお願いがあります!」
話題を打ち切って話しかけたのは、我らのリーダーであるシンだった。
意を決した表情でリュカさんに話しかける。
「お願い~……なに?」
当のリュカさんは嫌そうな顔で問い返す。
何もそんなに嫌そうにしなくても……まだ内容を聞いてないのだし。
「俺、もっと強くなりたいんです! だから俺に稽古を付けて下さい……ウルフさんから聞きました。ウルフさんの剣術はリュカさんが教えているんだって!だから俺にもお願いします!」
「えぇ~? 面倒臭い!」
「はい、とても面倒臭いと思います。でもそこを何とかお願いします! 少しでも早く強くなって、世界を平和にしたいんです」
「別に僕の住む世界じゃないし……僕が面倒事を背負う意味ないし。ヤダなぁ~……」
凄い大人が居た。
これほど自分本位な大人って、滅多にお目にかかれないぞ!
「じゃぁ歌わないで下さい! 敵が寄ってくるので歌うのを禁止します」
「矛盾してね? 強くなりたいのなら、実戦に勝る修行はないと思うよ。なのに敵が寄ってくる行為を禁止するのって……矛盾だよね!?」
「いいえ矛盾しません! 俺は強くなりたいけど、死ぬのも嫌なんです! リュカさんによる稽古で安全(死ぬ危険無し)に鍛え、安全(死ぬ危険度を低く)に実戦を行える様にしたい! 言い換えればリュカさんの稽古無しに実戦を行うのは、安全(死ぬ危険無し)とは言えない……だから俺に稽古を付けてくれないのであれば、歌う事を禁止するんです!」
すげー……
コレを“理論整然”て言うんだろうな。
リュカさんも驚いているよ。
「おい、お前……」
「お、俺じゃねーよ!」
驚いてたリュカさんは、ジト目でアニキを睨み何かを訴えたが……
「本当か? お前が言ってきそうな屁理屈に聞こえたぞ! お前が仕込んだんじゃないのか!?」
「馬鹿っすかアンタは!? 俺の屁理屈は師匠直伝なんです……アンタから吸収した屁理屈レパートリーなんです! シン君の屁理屈が俺の所為なら、根本は全部リュカさんの責任じゃないですか! 自業自得ですよ……」
「ほら……すげー屁理屈野郎!」
「お前が言うな!」
「いや俺から見れば、お二人とも凄い屁理屈野郎です!」
リュカさん・アニキ・シンの3人が睨みながら互いを推し量る。
怖ーよ……オイラこの中には入れないよ。
チラッとリューラを見ると、瞳を輝かせながら3人を眺めてる。
彼らくらいのレベルに到達しないと、リューラの心は掴めないのか!?
アローSIDE END
(海上)
トルネコSIDE
「………まぁいい。口だけは達者な様だし、剣術面も僕に出来るとこまではやってみよう!」
「本当ですか、ありがとうございます!」
どうやらシンさんはリュカさんの心を捉えたらしく、直々の稽古を付けてもらえる事に……
「じゃぁ早速……」
決めた事は直ぐに実行するタイプなのか、抱えてたギターをウルフさんに渡し、軽やかな動作で座っていた樽の上から下りると、腰に差してたドラゴンを形取った杖を構える。
不思議な形の杖だが……リュカさんは剣を携帯してないのだろうか?
「よ、よろしくお願いいたします!」
構えたリュカさんに対面し、緊張気味にシンさんも身構える……
腰の鞘から銅の剣を抜き放ち!
「えぇ? 今までどのくらい冒険してきたのか知らないけど、何で装備がそんなにショボいの?」
う~ん……確かに勇者と呼ばれる人の装備にしては、若干インパクトに欠けますかね?
「済し崩し的に旅立ちが決まったもので……装備にお金を掛ける余裕がなかったんです」
なるほど……お金がないのは辛いですからねぇ!
「え、でも……あそこのデブはゴツい剣を装備してるよ。“高田の待ちくたびれ”だよ!」
高田の待ちくたびれ? 突如私を指差し意味不明な事を言うりゅかさん。
「リュカさん“宝の持ち腐れ”です」
「うん、それ! アイツ全然戦わないじゃん。実は戦うと超強くて、みんなの成長の為に遠慮してる……皆が危険になったら、腰の剣を使い大活躍するってなら理解するけど、娘を前面に押して旅してきたんじゃ、強さへの期待は……」
う゛……痛いところを……
「確かにその通りですねリュカさん!」
ウルフさんが追い打ちを掛ける様にリュカさんの言葉に同意する。
このままでは私が何の役にも立ってないイメージで見られてしまう……
「そ、そんな酷いですよ皆さん! まるで私が役立たずみたいな言い方をして……言わせて貰いますけど、皆さんが乗っているこの船は、私が私財を投じて造らせた特注品なんですよ! 普通の船より遙かに頑丈で、凶暴な海のモンスターに襲われても耐えられる設計なんですよ!」
「いやドラネコ君……僕が言ってるのは、君が役立たずって事じ「リュカさん“トルネコさん”です」
散々皆さんが私の事を『トルネコ』と呼んでいたのに、わざととしか思えない間違い方をするリュカさん……強敵だ。
「ん……あぁトルネコね! えっと……兎も角、アンタが役に立ってないなんて思ってはいないんだ。ただ『その剣はシンが使った方が効率的じゃねぇの?』って思ってるの!」
「た、確かにそうかもしれませんけど、万が一私の方に敵が襲ってきた場合、身を守る事が出来なくなるじゃないですか! その為にも私にだって強力な武器が必要です」
それにこの剣は私が買った私の物なんです。何で他人に無料で渡さねばならないんですか!?
「ふっ……確か世界一の武器屋を目指してるって言ってたよなアンタ?」
「い、言いました……私の夢は世界一の武器屋になる事です! な、何か問題でも?」
私の懸命な反論を聞き、鼻で笑ってくるリュカさん……こ、怖いです。
「アンタにはムリだね!」
「な、何ですかいきなり!? 失礼すぎやしませんか?」
そうだ失礼だ! これだけの遣り取りで、私の全てを解ったかの様に判断するのは失礼極まりない!
「世の中には歴史に名を残す程活躍した稀代の大商人ってのが居る。商人と呼ばれる人種は数多居るが、その中の一撮みだけが稀代の大商人へとなれる……何故だか解るかい?」
「そ、それは……う、運が良かったんです!」
「違うね! 稀代の大商人と呼ばれる連中は、その視野の広さが桁違いなんだ!」
「視野の広さ……そ、それは一体!?」
気付けば身を乗り出して聞き入っている私……
「お前はこのパーティーの一員として、自分の存在を認識させてない! いいか、このパーティーの誰もが倒せない敵が現れた場合、お前一人が立派な剣を振り回したって何にもならない。それよりも実力が上の仲間に自分の剣を託して、パーティー戦力向上を目指した方が、余程命の危険から遠ざかる事が出来るんだ!」
さ、先程までアホ面下げて歌ってた虚け者なのに、彼の言う事に反論出来ないのは何故だ!?
周囲の方々を見ると、皆さん呆れ顔で佇んでいる。
リューラさんなんか冷めた目で軽蔑する様な表情だ。
「別にお前の私財を我々に明け渡せと言ってるんじゃない……もっと仲間として皆を信頼しないと、僕達もアンタに信頼を置けなくなる。自分一人だけ万全な状態にして、我々の事をおざなりにされると、使い捨ての道具みたいに感じアンタへの協力は出来なくなる」
こ、この人はどこまで私の心を読んだんだ!?
「何度かあるんだろ? リューラを切り捨てて利益だけを求めようと思った事が……」
気付くとリュカさんは私の目の前に居り、冷たい笑いを携えて見下ろしていた。
正直言えば“はい”なのだが、そんな事を言う訳にもいかず……私は今後、言葉ではなく行動で“いいえ”の精神を皆さんに見せ付けなければならない。
リュカさんの質問には何も答えず、真面目な表情を崩さない様に腰から破邪の剣を鞘ごと抜き、シンさんの方へ差し出す。
シンさんはリュカさんに目で合図ずされ、小走りで近付き受け取った。
「心から信頼し合える仲間になれるよう、これから互いに頑張ろうゼ……」
私から剣を受け取ったシンさんが離れると、リュカさんが顔を近付け囁く様に言った言葉……
声は優しかったが、目は笑ってなかった。
こ、この人は本当に恐ろしいです!
トルネコSIDE END
後書き
サブタイトルの意味ですが、戦ったり歌ったり脅したりするのがお父さんって意味です。
勿論造語ですから辞書には載ってません。
今後も造語四文字熟語を活用します。
一つ一つの漢字の意味で全体を理解して下さい。
第43話:何かよく分からんが、貰える物は貰う主義
前書き
遂にミントスでリュカが宝の地図を入手した経緯が明らかに!
(海上)
ウルフSIDE
相変わらず相手の心理を読み脅すのが上手な男だ……
トルネコさんも肝を冷やしただろう(笑)
シン君の武器も強化され、リュカさん相手に頑張っている。
出会った頃は、剣術でも俺の方が上だと思っていたのだが、リュカさんとの稽古を見る限り現状ではシン君の方が強くなっているかもしれない。
魔法を織り交ぜて戦えるのなら、まだシン君に負けるとは思えないけど……
うん。俺も稽古付けてもらおう!
「くっそー……何で二人がかりなのに掠りもしないんだ!?」
「本当……ウルフさんの言ってたとおり、リュカさんってお強いんですね……」
途中から不意打ち気味に参戦し、共に鍛えてもらた俺とシン君は、体力の限界が訪れ甲板上で大の字になりヘタレてる。
「じゃぁ今日はこの辺で止める?」
ニヤニヤ笑いながら俺達を見下ろし、“もう降参か?”と聞いてくるオッサン……
マジムカツク!
勝てないのは解ってる……それは解ってるんだけど、俺達二人がかりを左腕一本だけで去なされるのは本当に腹が立つ。
俺にもプライドってのがあり、側ではリューノも見ているのだ。
格好いいところを見せたいよ!
「ま、まだですよ……まだ1時間くらいしか戦ってない。こ、これからが本番です!」
若さか? 若さが言わせる科白なのか!?
俺は後から参戦したのに、膝が笑っておりまともに立つ事も出来ない……なのにシン君は上半身だけでも起き上がり、負け惜しみにしか聞こえない科白を吐いている。
「そ、そうですよリュカさん……俺達はまだ戦えます。ただ……少しだけ休みたいなぁって思ってるだけですから!」
負けてられない先輩は、上半身すら起こさず口だけで健在ぶりをアピールする。説得力は皆無だけどね!
「一休憩の合間に聞いておきたい事があるんですが……」
「何……?」
起き上がりもせず突然別の話を持ちかけた俺に、周囲の視線が集まった……気がするね。
「ミントスのヒルタン老人から、宝の地図を譲り受けたと聞いたんですが……真実ですか?」
勿論、心底聞きたい訳ではない。
時間稼ぎの為に持ち出した話題……でも興味がある事は事実だ。
「ヒル……誰?」
「今そう言うのいいから! アンタのスッ惚けに付き合ってられないから! さっさと真実を教えて下さいよ!」
リュカさんはかなりの記憶力を持っているのに、ワザと忘れっぽいフリをするクセがある。
「……別に大した話じゃないよ。くれるって言われたから貰っただけだし」
そう言いながら澄んだ声で話し始めるリュカさん……
思っていたより面白い話を聞く事が出来た。
ウルフSIDE END
(ミントス - 数日前の事)
リュカSIDE
船旅の途中、クリフトが病に倒れこの町の宿屋に運び込まれた。
俺なりに心配はしているが、何か特別な事が出来る訳でもないし……
俺は普段通り今夜の相手を探す為、町へと繰り出しイケメンパワーを振りまきます。
町の中央付近に、何やら人集りが出来ており、その中にちょ~可愛い娘が居たので、近付いてナンパします。
だってイケメンの義務ですから……美女をナンパするのは、イケメンに生まれた男の使命ですから!!
「ねぇお嬢さん、何してるのぉ? 今暇だったら僕と一緒に気持ち良い事しない?」
「え、あ、あの……」
「何じゃお前は!? ここはワシの……ヒルタンの商売学教室だぞ! ワシを海の事に詳しいヒルタン老人と知っての事か!?」
はぁ……何を言ってるんだこのジジイは?
「いや……海の事に詳しいとか関係ないし……」
お前の事なんか知るか!
こっちは今夜の事で忙しいんだ……無意味に話しかけるんじゃねー!
「その通り……海の事だけでなく世界の事に詳しいのが、ワシ……ヒルタンじゃ。よくワシの事を勉強している様じゃの!」
え? 何言ってるのコイツ……
何か勝手に話を進めてるぞ!?
「お前さんもワシが持つ『宝の地図』目当てで、この町まで訪れたのじゃろう……よかろう、ワシが出す問いを見事クリアしたら、お前さんに地図をやろう。じゃが……出来なかった場合は、大人しくワシの授業を受け精進するんじゃぞ!」
何……何なの一体!?
「では問う。商売において一番大切な事とは何じゃ!?」
どうしよう……何かよく解らない事を言ってきた……
周りを見回すと、沢山居る連中の視線も俺に集まっている。
これは……下手に相手すると、後々まで面倒臭い事になりそうだ。
取り敢えず笑顔でも振りまいて誤魔化すしかない。
「………(ニコッ)」
「あっぱれ!!」
うぉビックリした!!
突然叫ぶなよ……ビックリするじゃんか! 大沢親分かキサマは!?
「商売の極意……それは多くを語らず、相手に譲歩させる事なり! よくぞワシの学んできた極意を身に付けた! お前さんにならこの地図を託す事が出来るじゃろう……ワシにも到達出来なかった宝へ、是非とも辿り着いてくれ。ワシからの最後の願いじゃ」
何か独り言を言い始め、懐から薄汚い紙を1枚取り出し、俺に押しつけてきたぞ……
くれるって事かな? 貰えるのなら貰っちゃうけど……面倒事に巻き込まれない?
何か地図っぽいけど……何なのこれ?
何だかよく解らないけど、みんなが羨望の眼差しで俺を見てるし……
居心地が悪いから逃げよう!
美女は……うん。また別の機会に口説くと言う事で……
リュカSIDE END
(海上)
ウルフSIDE
流石だ……
商売の極意なんか知った事じゃないこの人……
地図を託したヒルタン老人は、良い面の皮だね(笑)
「ほれ……聞きたい事を教えてやったぞ。そろそろ起き上がり、お稽古の続きを始めるぞ!」
どうやら休息時間は終わりを迎え、リュカ先生の厳しい修行が再開される。
俺は勢いを付け格好良く立ち上がると、熱い眼差しを送るリューノをチラリと見て微笑む。
「では再開だ……」
リュカさんは杖を持ってない右手でニヒルに手招きをすると、左半身を此方に向けて身構えた。
「ピオリム、スカラ、バイキルト!」
俺は自身に補助魔法を掛けると、飛び出したシン君とは別の方向からリュカさんに攻撃を仕掛ける。
この後、どうなったのかは語らないでおく。
か、語る必要がないとか、そう言うんじゃなくて!!
ご、ご想像にお任せするって言うのか……
格好いいウルフ君を期待している美女達に悪いと言うか……その……
ウルフSIDE END
後書き
皆さんお待ちかね……
次話はピンクなお話ですよ!
良い子は見ちゃダメなお話です……だから悪い子になるチャンスです!
みんな、あちゃの小説を読んで洩れなく悪い子になっちゃおうゼ!
第44話:世の中ピンク色ッス
前書き
R18指定ですよ。
でも作者からは規制しません。
自己責任の自主規制でお願いします。
だって大勢の人に読んでもらいたいんだもの!
(海上)
ウルフSIDE
エピカリス・ネネ号内で俺の部屋は角にある。
もっと詳しく説明すると、俺の部屋を規準に右へリューノの部屋→シン君の部屋→リュカさんの部屋……と続いて行く。
これはリュカさんが一方的に決めた部屋割りなのだが、本当に有り難いと思ってる。
何故なら、リューノが俺の部屋に訪れれば、一部屋空いて距離が保てるから。
しかも保った相手はシン君だし、隣室の住人が不在でも疑問に思わないのだ。
疑問に思わないと言うか、『あぁ、今夜も男の部屋に押しかけてるのね!』って理解してくれる。
俺の知ってる天空の勇者とは大違いだ!
お陰でリュカさん・シン君以外の面子には、まだ俺達の関係は知られてない。
夜中に俺の部屋に訪れそうだったマーニャさんは、今やリュカさんにゾッコンで、以前興味を持っていた男の事など忘れていし……
別に良いんだけどね……全然気にしてないから!
トルネコさんはこの船を造るにあたり防音性を高めており、その点も好都合に働いた。
きっと設計者は、リュカさんを交えた秘密の会合の為設計したんだぜ。
もしくは女でも宛がえて媚びる予定だったんだ。
まぁ何にせよこの状況を最大限有意義に使わせて貰ってます俺!
マリーは実はリュカさんと同じ転生者で、心の年齢は俺より遙か上……
その為か、俺を子供扱いする傾向があるのだ。
別に嫌ではないのだけど、リューノと付き合い主導権を握った○○○を体験すると、これはこれで乙な気持ちになれるんです。
最近、彼女も色々テクニックを覚えてきて、非常に充実した船旅を満喫中。
満喫するのは良いのだけど、最近頑張り過ぎな気がしてきて……
と言うのも、この環境にあると思うんですよ。
マリーとだったら周囲に何も隠す事がないので、何時でも何処でもハッスルハッスル!なんですが、現状のリューノとだと状況が違います。
甲板で悪戯な風に煽られ、男心を擽るパンチラを拝んだとします……相手がマリーだったら、ソッコで物陰に暴れん坊ソードに彼女の洞窟探検をさせるのですが……
まだ周囲には秘密の関係であるリューノとだと、その時の思いの丈をコッソリ伝え、皆に気付かれない様に別々に船室へと引き返し、入室の瞬間を目撃されない様注意する。
そして戸締まりをしっかり確認してから、互いに抱き付きetc.
と、まぁ障害物が多いのですよ。
その為か、運動会開始後は乱戦混戦大熱戦的な感じで、結構長時間に及び頑張ってるんです。
今もそうです……5ラウンドにも及ぶ真剣勝負を終え、放心状態で船室の天井を見詰める俺。
左側には俺の腕を枕にして寄り添う様に抱き付くリューノが……
言うまでもありませんが二人とも裸だよ♥
彼女の胸が俺の脇腹に当たり心地よく刺激する。
しかし全力を出し尽くした俺の暴れん坊ソードは、その感触に反応せず余韻を味わっている。
いっぱい頑張ったんだから休ませてやるのも必要だ。
だからこそ思う……
「リュカさんて凄ーなぁ……」
「……どうしたの突然?」
思わず零れた俺の台詞に、頬を赤く染めたリューノが不思議そうに問いかける。
5ラウンドにも及ぶ疲労からだろうか、瞳は潤み気怠さを纏っている。
マリーもそうだが女性のこの表情は、爽やかな笑顔の次に美しい!
「いや……リュカさんて凄いと思って……」
俺は彼女を抱き上げ、自分の上に俯せで寝かせ、瞳を見詰めながら話を続ける。
なお、疲れ切っている暴れん坊ソードは、まだ反応しない。
「この状況でお父さんの何を再確認したの?」
「体力だよ……あの人の体力は桁違いだ」
俺の瞳を見詰め続けるリューノの頭を、愛おしく撫でながら呟く。
「初めてヤる訳じゃない以上、リュカさんの奥さんや愛人ズも1.2回で満足するとは思えない……俺達みたいに4.5ラウンドを堪能すると思うんだけど、あの人一晩に複数人相手にするじゃん!? 俺、今リューノに『もう一戦しよ♥』って言われても、土下座して許しを請うに違いない。そう考えたら凄ーなと思ってさ」
今頃2つ挟んだリュカさんの部屋では、マーニャさん・ミネアさんを相手に大立ち回りを行っているに違いない。
マーニャさんは兎も角、ミネアさんの本性が達人だと知り、お二人の相手は難易度が高いと推測出来る。
弾切れにはならないのかな? 赤い玉って本当に出るのかな?
「関心ばかりもしてられないんじゃないのウルフ。マリーと合流したら真実を話し、貴方も2人を相手にしなきゃならないのよ。あの娘(マリー)の体力も凄そうじゃない」
うわぁ~……そうだった。
マリーも結構タフレディーで、仕事で疲れている時の相手は大変なのだ。
未だ再会出来ぬ彼女を思い、大きく溜息を吐いていると……
「ふふっ……この程度でへたばってられないんじゃないのウルフ?」
と言って、俺の暴れん坊ソードに手を伸ばし、熟れた手付きで程良く刺激するリューノ。
うぁあぁ……や、やめて……外部刺激には反応してしまうのがソノコだから!!
「お……まだまだイケそうじゃない♥」
そう言って俺の上で起き上がると、そのまま元気になってしまった暴れん坊ソードを、自身の洞窟探検に赴かせるリューノ……
先程まで俺が放出しまくった白い愛の想いが潤滑油になり、元気になっちゃったヤツを難無く出入りを可能にする。
マリーもそうだが、何で女性ってばこんなに連発しても大丈夫なの?
それともこれは父親譲り?
はっ!
よく考えたら二人ともあの絶倫野郎の娘さんだ…
互いの母親もかなりのウォーリアーっぽいし、生半可な体力じゃ勝ち目がないかもしれない。
このままだと俺の死因はほぼコレで確定する……
「ほらどうしたのウルフ。マリーと再開(再会)した時のために今のうちに体力面を強化しないと! 貴方の修行には私が付き合うから、もっと気合い入れなさいよ(笑)」
俺の上で艶めかしく腰振りダンスを踊るリューノ……
やったろうじゃんか!
死因が腹上死なんて、男に生まれたからには望むところだ!
ポストリュカは俺の物だ……あのヘタレ王子の物じゃない!
何発ヤったか憶えて無い……
放心状態で俺は考える……
“英雄色を好む”について考える……
逆説的だが、英雄と呼ばれる人種が戦士系ばかりなのは、コッチの体力も旺盛で一晩に複数人を相手にする事が出来たからに違いない。
夜中に女性の家をハシゴする姿を目撃され、好き者として名を馳せたんだと俺は考える……
まぁそんな事どうでも良いけどね……
今は隣で眠る……根性でイかせたリューノが起きてこない事を祈りつつ、俺も早々に眠りに付く事を優先させないと……
「リュカさん……やっぱりアンタは凄ー……」
ウルフSIDE END
後書き
『洞窟探検』と言う表現を気に入ってしまいました。
あと『白い愛の想い』って表現も気に入ってます……でもちょっと生々しいかな?
第45話:色んな趣味の人が居るから構わないけど、騙すのは良くないと思う。まぁ放っておくけどね(笑)
(ハバリア)
リュカSIDE
最近お窶れ気味のウルフに少しばかり気を遣いながら下船した町……
マーニャ・ミネアの故郷があるキングレオ地方の港町ハバリアだ。
ウルフにとっても因縁があるらしいが、何かもうそれどころじゃなさそう(笑)
本当は鎖国状態な国なのだが、トルネコの交渉術を駆使してコッソリ港に停泊する我ら……
まあまあ役に立つデブだ。
口に出して言うと、流石に落ち込んじゃいそうだから控えるけどね。
マーニャ達は早々に町に繰り出し、この国の現状を知るため情報収集に出かけた。
俺も町に繰り出しナンパでもしようかと思ったんだけど、無料で船に乗せてもらってるのだし、多少はお手伝いをした方が大人的かなと思い、ミントスから積み込んできた荷物を下ろす作業の手伝いをする。
大きな木箱を抱え船倉から運ぶ作業……
何が入ってるのか判らないけど、結構重いよコレ!
本当は奴隷時代を思い出しちゃうから、力仕事ってのは嫌いなんだけども、俺が手伝える事ってこれくらいじゃん!?
ふと気付いたら、本職の水夫達が俺の作業をぼーっと眺めてる。
何で給料を貰う訳でもない俺が頑張って、アイツ等がボケッとしてんだよ!?
「おい、本当はお前等の仕事だろう……ボケッとしてないで、荷下ろしを手伝えっての!」
“手伝う”って言葉もおかしいよな。
だってアイツ等の仕事であって、手伝ってるのは俺だから。
まぁ俺に指摘されて慌てて荷下ろしを再開する水夫達…
でも2.3人で1個の木箱しか運ばない……非力じゃのぅ。
「ば、化け物じみた怪力ね……」
同じく荷下ろしを手伝っているアリーナが、クリフトと共に木箱を運びながら呟いた。
奴隷時代の作業に比べれば、これくらいの荷物は軽いのに……
彼処は空気も薄かったから、今の作業より一層大変だったんだ。
さて……
荷下ろしも終了し、トルネコが忙しく金儲けに勤しんでいる中……
血相を変えたウルフがお手々繋いだリューノと共に俺の下に駆け付ける。
秘密にしたいのなら、イチャ付くのは控えた方が良いのでは?
「リュ、リュカさん! マー、マリーの情報を手に入れた! マリーはライアンって戦士と共にキングレオの不正を正す為、何やら動き回ってるって!」
はぁ……お前にとっては一大事だもんなぁ……ビアンカの情報は無いのかよ!
「今ライアンと言いましたか?」
話しに割り込んできたのは、金儲けで忙しいはずのトルネコ。
何か知っているのか、情報を渡したくてウズウズ顔。
「ト、トルネコさんは何か知ってるんですか!?」
「あ、はい……以前エンドールのカジノで、『勇者様を探してる』と仰るピンクの鎧を着た戦士様に出会いまして……」
ピンクの鎧!? 目立つなぁ……そんなに目立つ格好をしてるのだから、共に行動をしたとしても、俺が歌う事に文句は言わないだろう。だって文句言われても『お前の格好の方が目立つわ!』って言い返せそうじゃん!
「そんな訳で、状況を詳しく知る人物の所にマーニャさんとミネアさんが行ってます。俺達も行って話を聞きましょう!」
俺が別の事を考えていたら、何やら話が纏まったらしく、情報源のとこに伺う事になった……
めんどくせーなぁ……
大勢で行ってもアレなので、関係者(俺の家族とマーニャ・ミネア)だけで伺う事に……
ウルフの説明では、その女性はエンドールからマリー達と共にハバリアへやって来たらしく、共に行動をしてたのだが、大怪我をし瀕死状態の男を見つけ、看病の為ハバリアで生活していると言う……
その大怪我人はマーニャ・ミネアの古い知己で、ウルフも其奴の事を知っているらしい。
らしいと言うのは、ウルフの言葉を聞くと良い感情が含まれてないから……
まぁ兎も角、この偶然的な接点を頼りに、情報の収集を行おうって事みたいです。
暫く歩くと小さな平屋が見えてきた。
家の外には住人と思われる人とマーニャ・ミネアが会話をしている。
すると俺達の気配に気付いたのか、周囲を警戒する様に見回し、大きく手を振って俺達を室内へと誘導する住人……
……あれ? どっかで見た事あるな、アイツ。
「……げっ! ア、アンタはエンドールの!?」
エンドール? あぁそうだ、エンドールでアリーナが出場した武術大会に出てた男の娘だ!
確か……ビビアンって言ったかな?
「やぁ、お久しぶり」
「な、何だーお前等! こ、この男の知り合いなのか!?」
「え……あ、はい……この方はマリーの父親です。リュカさん、彼女とはお知り合いなのですか?」
「ううん、違うよ」
「え、でも……彼女はリュカさんの事を知ってるみたいですよ?」
そりゃ知ってるだろう……大観衆の前でバラした張本人だから(笑)
「ううん、彼女の事は知らない。でも彼の事は知ってるんだ(笑)」
「「「「彼?」」」」
ウルフ・リューノ・マーニャ・ミネアの視線が一斉にビビアンに向けられる。
「うわぁー、お願い! 彼には秘密にしておいて!! やっと見つけた理想の恋人なの……私が元男だって事は、中のオーリンには秘密にしておいて!!」
ビビアンが俺に縋り付き涙ながらに懇願する。
見た目は100%美女だから泣かれちゃうとちょっと……
「解ったって……女の子って事にしといてやるよ」
縋る男の娘の頭を撫でながら、ちょっとムラムラする気持ちを抑えつつ押しのける。
どうなっているのかオッパイの感触は本物ソックリだ。
「えぇぇ……コレが男ぉ~?」
「匂いで判るだろ!?」
ウルフが不思議そうにビビアンを眺める。
エンドールの時と違い、バニースタイルではなく普通の格好をしているビビアン。それでも胸元の大きく開いた服を着てるので、知らない男性は鼻の下ノビノビだ。
「匂いって何よ!?」
呆れ口調のマーニャ。
「俺もまだその域にまで達してないッスねぇ……」
悔しがるウルフ。
「んな事より、中に入んない? お茶の一杯くらい出して欲しいんだけど……お前のカルピスは要らないゾ(笑)」
俺の言葉を聞きビビアンは慌てて室内へ向かい入れる。
とても低姿勢で……
だけど、これでカルピスが出てきたらブッ飛ばす。
リュカSIDE END
後書き
酒を飲まない私は、会社に届いたのお中元の中でカルピスのセットを貰いました。
大丈夫、中身は本物だよ。
第46話:色んな趣味の人が居るのは解ってるけど、知り合いが騙されるのは……笑えるッス!
(ハバリア)
ウルフSIDE
ビビアンさんの家に入ると、奥の部屋から男の声が聞こえてくる。
「ビビアン……お客さんか?」
聞き覚えのある声……そう筋肉馬鹿の野太い声だ。
「うん、オーリン……貴方のお知り合いって方を連れてきたのよ」
どう見ても女性にしか見えないビビアンさんは、可愛らしい笑顔で奥の部屋のオーリンに話しかけ、俺達の入室を促す。
「オーリン無事だったのね! 良かった……心配してたのよ私達!」
マーニャさんとミネアさんが部屋に入るなりベッドで横になっていたオーリンに近付き話しかける。
見た感じ怪我は殆ど回復しているみたいだ……まだ彼方此方に包帯を巻いているけど……
「マ、マーニャお嬢さんにミネアお嬢さん!? どうしてここに……そ、それよりお二人ともご無事で何よりです!」
慌てて半身を起こしマーニャさん・ミネアさんに向き直るオーリン……
その際にイチモツがポロリと布団から零れる……
どうやら奴は、飯を食うかビビアンを抱くかしかしておらず、常に裸だったみたいだ。
「あ……し、失礼しました!」
慌てて布団で股間を隠し身を整える。
流石のミネアさんも最近理解してきたらしく、今のオーリンにドン引きしてる……と、思ったのだが「小さい……」と囁き溜息を吐く。ダメだこのネーちゃん……
オーリンの名誉の為に言っておくが、奴のは大きい方だと男の俺でも思います。
きっと彼女の規準がリュカさんに固定されているから、今みたいな呟きが零れるんだと思う……
俺の見ても同じ事言うだろうなぁ……同じくらいだし。
「ウ、ウルフ……その……元気だったか……?」
俺をブン殴った事を思いだしたのだろう……
気まずそうに話しかけてくる。
「俺は無事だ。そんな事より、アンタが無事で良かったよ……しかもこんなに可愛いコイビトまで作って……隅に置けないな!」
俺は自分を殴り窮地に追い込んだ奴の為、笑顔で賛辞を送る。
心からの笑顔だ……気を抜くと爆笑してしまいそうな心の籠もった笑顔だ!
「ああ……コイツには助けられた。何とかキングレオ兵を撒いたのだが、大怪我で動けなくなっているところを救って貰った。しかも町まで連れ帰ってもらい、甲斐甲斐しく世話までしてもらっている。俺は彼女を心から愛しているぜ!」
ビビアンさんを手繰り寄せ、膝の上に座らせると見せ付けるかの様にキスをするオーリン……
ダ、ダメだ……笑いそうで……
俺は慌てて口を押さえ、後ろを向いて堪える……が、身体がヒクヒクと動いてしまう。
「ど、どうしたんだウルフ……泣いてるのか?」
「え? あ、あぁ……お前が無事で本当に良かったと思ってな……」
本当は違うが勘違いしてくれたから……
「お前……良い奴だな! 済まなかったな迷惑をかけちまって!」
「いや……気にするな、済んだ事さ」
そう済んだ事なのさ……それより現在進行形の事態が面白くて耐えられない!
俺は慌てて家の外へ飛び出す!
もう耐えられなくなり、ビビアンさんの家から離れたところで笑い転げる。
何時かオーリンが真実を知る日が来る事を願って。
ウルフSIDE END
(ハバリア)
リュカSIDE
「ど、どうしたんだアイツ……?」
オーリンと呼ばれる男がウルフの行動に不思議がる。
まぁ当然だろう……今の恋人が元は男と知らずに付き合っているのだから。
とは言え感心しないなぁ……
人それぞれ趣味趣向があり色んな人生があるのだから、男の娘に対する偏見を持つのは良くないと思う。
後で叱った方が良いだろう。
「気にするな……アイツも色々あったんだ。それよりも僕の娘について情報を頂きたいのだが……」
「娘?」
「マリーちゃんの事よオーリン」
奴の膝の上に座るビビアンがイチャイチャしながら説明を入れる。
うん。イライラする……
「あぁ……あの生意気な女がアンタの娘なのか。子育てには気を付……」
オーリンの台詞を途中で遮り奴の頭を右手を掴むと、少し力を入れて呟く様に警告する。
「俺は怪我人だろうと遠慮しない……次に家族の事を侮辱したら、この役に立たない頭を握り潰すぞ!」
「うあぁあぁぁぁ! ご、ごめんなさい! もう言いません……娘さんの事を悪く言いません!」
馬鹿は泣きながら謝罪した。
ついムッとしてしまい脅しすぎたかもしれない……
だがお陰で色々情報を聞く事が出来た。
奴の頭から手を離すと、媚を売る様に色々な事を話してくれるオーリンとビビアン。
まぁ総合すると、キングレオの横暴を許せなくなったライアンという戦士が、色々情報を集めてお城に乗り込もうと画策しているらしい。
一緒に居るのはマリーだし、大事にならなければ良いけど……
被害を最小限に抑え、物事を解決出来れば良いのだけど……
あぁ……心配だ。
リュカSIDE END
(ハバリア)
シンSIDE
情報を仕入れに行ってたウルフさん達が、この町の宿屋に到着した。
先に俺達が部屋を確保しておいたので、各々の部屋に立ち寄る一行……
しかしウルフさんとリュカさんだけは違う行動をとる。
宿屋にあるラウンジに直行すると、ウルフさんを目の前にして説教を始めるリュカさん。
一体何があったのか解らず、ただお二人を見詰める俺が居る。
リューノちゃんに聞いても「ちょっと……ね」と言葉を濁すだけ。
「良いかウルフ……世の中には色んな人が居るんだ。その中には女の心を持ちながら、男の身体で生まれてきてしまう不幸な人も居る……」
ふ~ん……そんな人が居るんだ!?
「す、済みません……」
「いや……謝ってほしい訳じゃないんだ。理解して欲しいんだよ……人々は誰しも生まれを選べないって事を! そして身体に心を合わせるんじゃなく、心に身体が合わせなければならない事を!」
何か難しい事を言っている……
「お前、急に身体が女になって、僕に口説かれたら……抱かれるかい?」
「嫌ですよ気色悪い!」
うん。気色悪い……そんな想像はしたくもない!
「あの子は生まれつきそうだったんだ! 心は女の子なのに身体が男の子として生まれてしまった……苦しかっただろうね。好きになった男の子に告白しても、今のウルフみたいに『気色悪い!』って言われ続けたんだよ……きっと」
「そ、そうですよね……本当、俺のさっきの態度は酷いですよね……」
リュカさんに怒られ落ち込むウルフさん。
何だろう……男の人にナンパされて、酷い態度をとっちゃったのかな?
「あれ……ウルフってば説教されてるの?」
そこにマーニャさんがやって来て、ウルフさんとリュカさんを遠目に眺め呟いた。
何かを知っているのかもしれないと思い、俺はマーニャさんに目で問いかける。
すると教えてくれた一連の出来事。
オーリンさんとビビアンさんとの関係を……
なるほど……リュカさんが怒っている内容と一致するね。
でもウルフさんの気持ちも解らないでもない……
元男だと知らずに付き合っているオーリンさん……うん。笑ってしまいますよね!?
しかしリュカさんは偏見無く物事を見ている。
うわぁ~格好いいなぁ……
シンSIDE END
後書き
リュカさんの悟りきった態度が不思議な方は、短編「始まりはこの日から…」を読んで下さい。
第47話:城内に入らねば何も出来ないのだが……
前書き
本当は昨日更新するつもりだったんだけど、忘れてたよ……
既に書き終えてたのに、掲載させるの忘れてたよ!
もうビックリ!
(キングレオ近郊)
アローSIDE
皆が追い求めているデスピサロの情報を、この城に居るバルザックって奴が持っているらしいと言う事で、忍び込む隙を探しているアニキ達。
でも、以前にアニキ達が忍び込み大騒動を起こしてしまった為、城の警備が厳重になり入る込む事が出来ない。
オイラも狐の姿に戻り城の周囲を見回ったけど、フヨフヨと上空を漂うホイミスライムを見ただけで、他には特別な事は何もない。
警備は厳重そのものとしか言いようがない!
オイラなんかは馬鹿だから、アニキ達の総戦力を駆使して力尽くで突入しちゃえば良いのにって思う……
でも同じ事をリューノが提案したら、リュカさんが優しく『城の中には悪い事をしていない一般人も居るかもしれないだろ? 家で帰りを待つ奥さんや子供の為に、一生懸命お城の警備をしているだけの、真面目な兵士も居るかもしれないだろ?』と説明し、強行突入の危険性を教えてくれた。
かっけぇッス! 流石アニキの師匠……普段はふざけてる様に見えても、ちゃんと色んな事を考え行動しているんですね。
そうリューラに感想を述べたら、目を輝かせて喜んでいた……うん、今後はもっとリュカさんを褒めちぎろう!
「でもさぁ……このままじゃ城に入れないじゃん。どうすんのよ?」
お前等の地元なんだからお前等が案を出せよ……
そう思ってしまう様なマーニャの呟き。
「どうでしょう……私が商人として城内に入れる様、交渉をしてみると言うのは?」
するとトルネコが自分の価値を上げる為、役に立つアピールで提案してきた。
悔しいが良いアイデアだとオイラも思う。城内に入りさえすればどうにでもなるんだし……
「いや、それだと以前に大暴れした俺やマーニャさん・ミネアさんが一緒に入れない。コッソリ扉を開けて見つからない様に進まないと、バルザックやキングレオの下には辿り着けないよ! アイツ等には借りがあるんだから、俺達が直接行かないと……」
そうなんだよ……アニキ達は一度潜り込んじゃってるから、その方法だと一緒に行けなくなっちゃう。
「はぁ……ダメですか。良いアイデアだと思ったんですけどねぇ……」
「なぁ~に大丈夫ですよトルネコさん。俺には考えがありますから……」
だがクールなアニキは何か考えがあるみたいで、ニヒルに微笑みながらオイラ達を見回す。
格好いい! シビれる!
「気取ってないで早く言いなさいよ!」
でも全てをブチ壊しにしたのは筋肉姫。
アニキと相性が悪いらしく、直ぐ突っかかってくる。ふん、ブスが!
「慌てんな貧乳姫……気持ちばかり先走ったって乳は大きくならないぞ(笑)」
「ムカつくわねアンタ……キ○タマ蹴り潰すわよ!」
「姫様、はしたない事を言っては……」
「おいおい……女の子なんだから“キン○マ”なんて単語を大声で叫ぶなよ」
「あら、やり手のウルフさんは男女差別がお好みなの?」
ムカツク口調で筋肉姫が噛み付いてくる……イヤな女だ!
「どうせ叫ぶなら、もっとエッチな言葉を叫べ! ○○○とか○○○とかさ!! ……ほらカモン!」
「ふ、ふざけるなバカ! お前死ねアホ!」
しかし上手なのはアニキの方……筋肉姫、顔を真っ赤に大激怒(笑)
流石アニキだ!
筋肉姫如きの暴言など簡単にやり返せるんだ。
きっと師匠の影響が大きいんだぜ!
「……でウルフ、その方法ってのは?」
アニキの作戦が気になるリューノは、筋肉姫との口論を遮り、先を促す様に話しかける。
まぁオイラも気になるし、早いとこ説明してほしいッス。
「マーニャさん、ミネアさん、憶えてますか? オーリンがエドガンさんの秘密の研究室で話してた事を……」
「あの馬鹿が何か言ってたっけ?」
「さぁ……あの小ささが記憶に残ってしまい、その時の事はちょっと……」
小ささ? 何のことだろうか……どうにもこの不思議女の言う事は理解出来ない?
「あ、あのときオーリンは『お師匠様がここの研究室に魔法の鍵を隠したと思うんですけど……何処にあるかは判らないのです』と言ったんだ」
「あぁそう言えば言ってたわね……でも何処だか解らなくて探せなかったんでしょ!? これからあの洞窟に入って、虱潰しに探すの? 時間かかりそう……」
洞窟内を虱潰しって……やだなぁ。
「大丈夫! そんな時の為に俺達には力強い味方……リュカさんが居るのだから!」
「え、何? 僕に何を期待してんの?」
急に話を振られて、素っ頓狂な声を上げるリュカさん。
師匠を尊敬する気持ちは解るけど、捜し物をするのには人手の方が重要なのでは?
「リュカさんレミラーマ使えるでしょ! これからみんなで秘密の研究室へ行くから、着いたらレミラーマで見つけ出してほしいんです!」
「レミ?……あぁ、あのヘソクリ探索魔法か!」
何だそれは!?
「ヘソク……い、一体あの魔法を何に使ってるんですか!?」
「いやね……この間ピピンの家に遊びに行った時、何気なくレミラーマを使ったら……額縁の裏が光ってさ! 見たらピピンのヘソクリが隠してあったんだよ(笑) その後ピピンの奴ドリスに怒られちゃってさ……ちょ~うけるよねぇ!」
「お前、仕事もしないで何やってんだ!?」
「だってさぁ、ピパン君が僕の来訪を喜んでくれるから……」
一体誰の事を話してるんだろう?
「ドリス様言ってましたよ……『息子に悪影響だから、リュカには家に来てほしくない』って……嫌がってましたよ」
「酷いドリスちゃん! 僕達従妹同士なのに!!」
どうやら親戚の事を話してたみたいだ……
「……で、その魔法があれば魔法の鍵とやらを探し出せるのね!?」
筋肉姫がイラつきながら話を元に戻させる。
解らなくもないが、随分と性急な女だ……
「まぁそれは行ってのお楽しみだゼ☆」
急かす筋肉姫に悠然と答えるアニキ……
だから更にイラつく筋肉姫。
きっとワザとなんだろうなぁ……
アローSIDE END
後書き
便利なリュカさん始動!
ヒゲメガネ同様に、リュカさんをトコトンまで利用しまくれウルフ!
ちなみに、フワフワ漂ってたのはアイツです(笑)
第48話:言いたくないんだよねぇ……だって誰も信じない! まぁ気持ちは解るけどね
(コーミズ西の洞窟)
アリーナSIDE
こう言っては何だが、この洞窟の敵は大したことない。
自惚れる気は無いけど、私が強すぎるからそう感じるんだろう。
ただリュカの歌に誘き寄せられて、結構な数が襲ってくるから、大変である事に変わりは無い。
しかも例の如く戦わない……
まぁリュカはいい。冒険当初からこのスタイルでいたから……
だが気に入らないのは、ウルフも戦わないということだ!
敵が現れるとリュカの真似をして後方へ下がり、スカした顔で私達の戦いを眺めている。
船での一件を見る限り、アイツもそれなりに使えるのだから、気取ってないで参戦してもらいたい……つーか参戦しろ!!
ある程度洞窟を奥へと進み、奇妙な部屋に辿り着いた私達。
一息つけそうなので、スカし野郎(ウルフ)に参戦を命令しようと思う……が、息を整えて奴に向かった途端、急にこの部屋が動き出し私達を地下へと降ろして行く!
「リュカさん、どうですか……このエレベーターって装置は!? マーニャさんとミネアさんのお父さんであるエドガンさんが造ったらしいッスよ! 凄いっすよね……人間の知識でこんな物を造るなんて!」
どうやらこの洞窟では階段の代わりに、この装置が上下に移動し階移動を可能にしているみたいだ……
初めての事だったので、驚きしゃがむ私。
私の他にも、クリフト・ブライ・トルネコ・アローそれとシンも驚きしゃがんでる。
マーニャ・ミネア・ウルフは以前にこの洞窟に来た事があるみたいだから、驚かないのは当然として……
リュカやリューノ・リューラまでもが悠然と立っているのが凄いと思う。
リュカは兎も角、2人の少女は年の割に、肝が据わっている様だ。
「確かにこんな装置を造っちゃうエドガンって人は凄いけど……この大きさじゃ使い勝手が悪い」
「まぁ確かにそうですけど……もっとコンパクトに出来たら、グランバニアにも欲しくないッスか?」
グランバニア……? リュカ達が住んでいる所の名前だろうか?
「何? お前……ヒゲメガネにエレベーターを寄こせとでも言うつもり?」
「そうですよ。今回俺達に迷惑を掛けた詫びとして、アリアハンの塔で稼働させている装置と同じ物を、もっとコンパクトにして提供させたいと考えてます」
アリアハン? そこは何処の事なんだろう……そこにも同じような装置があるのかな?
「あそこには必要だからねぇ……あいつら気取って城を塔の天辺に固定したから、エレベーターがないと城に行くのが大変になるから。まぁ塔を修復して、居住空間や商業・工業施設を誘致し、城下の代わりとして使ってるから仕方ないんだけどね」
人が住んだり、お店や工場のある塔って、どんな大きさの塔なんだ!?
「でもグランバニアには必要無いよぉ! 一番高い建物だって、グランバニア城の地上4階・地下2階がせいぜいだもん……そのくらいは階段を使おうぜ!」
確かに『そのくらいは……』って思うけど、それにしたって大きいお城だ!
サントハイムだって2階建てなのに……
「そうは言うけど、大きな荷物を運ぶのにこの装置は便利ですよ! あのグランドピアノを運び入れるのに、どれほど苦労したか解りますか!?」
「僕が欲しいって言った訳じゃない。ビアンカが勝手に……」
「でしょうね! リュカさんは無駄遣いとかしない人だから、自分でグランドピアノが欲しいとは言わないでしょ……でもビアンカさんからすれば、エコナ劇場での弾き語りを再度観たいと思うのは当然でしょう! しかもグランバニアの財布の紐を実質握っているのはあの人だ……大好きなダンナの格好いい弾き語りを観る為、運び入れる苦労を考えもせず購入するのは当然です!」
「え、何!? お前、ビアンカの事を責めてるの?」
「責めてませんよ! ビアンカさんの気持ちは十分解ってます。俺もリュカさんの歌を聴くのは好きですし、誰も知らない曲を教えて貰えるのは楽しいですから! 俺が言いたいのは、部下の俺達の苦労を少しでも軽減出来るシステムを取り入れてくれって事です!」
「でもさぁ……もう大きな荷物を搬入する事何て無いよ。だからエレベーターなんて必要無いよ」
「必要ですよ! グランバニアの王家の居住空間に、どれだけ空きがあるのか解ってますか? あんな閑散としてるお城は、他に類を見ませんよ……見栄えを整える為に、今後は絵画や彫刻の類を買って、城内を飾り付けましょうよ! 他国からお偉いさんを来賓として招いた時、城に何もなくて恥ずかしいんですよ……」
何だろう……話が見えてこないぞ。
いや見えてはきてるのだけど……
それを認めると、とんでもない事実が浮かび上がってくるぞ。
「お父さん。私も彫刻とかを飾った方が良いと思うわ……」
「わ、私も……」
「ほら、娘さん2人も同じ意見だ。どっかの馬鹿王子が来賓として来た時、『広いだけの貧乏屋敷だ』って言ってたんだぞ!」
「の、のぅリュカ……話の腰を折って悪いのじゃが……どうしても気になる事があるんじゃが?」
「ブライさん……申し訳ないですが、結構大切な話をしているんで、後にしては頂けませんか?」
「まぁまぁウルフ。老い先短い老人のお願いは訊いてあげようよ! ……で何だい爺さん?」
「ん、うん。今更ながら気になったんじゃが……」
「恥ずかしがるなよ! 訊くは一時の恥……訊かぬは一生の恥って言うんだぞ!」
どうやらリュカはウルフからの話を断ち切りたいらしい……ブライの横槍に嫌な顔する事なく、親切に対応している。
嫌な顔したのはウルフだ。
「お、お前さんの職業は何じゃ?」
「うわぁ、めんどくせー質問してきやがった……」
話を中座させられたウルフが、吐き捨てる様に呟く。
何がそんなに面倒なんだ?
「何って……瘋癲のイケメンですが何か!?」
「ふざけるな、そんなんで飯が食えるか! キサマは何を生業にして生きているのかと聞いているんじゃ!?」
そう……今まで自由人過ぎて、あえて訪ねなかった事柄。
だが先程までのウルフとの会話を聞くと、ある特定の職業(職種?)しか思い浮かばなくなる。
「……ブライは僕が何をしている人に見えるの?」
「な、何って……まさに瘋癲の馬鹿じゃ。まともな職に就かず、フラフラふざけて生きている馬鹿にしか見えん!」
「じゃぁそれで良いじゃん! 今更訊かなくても、瘋癲のイケメンで良いじゃん!」
「良くないから聞いてるんじゃ! 先程までの会話を聞くと、ある職業が頭に浮かぶんじゃ……しかし、それだけは絶対に認められん! 認めたくないと思うから、真実を確認してるんじゃ!」
「教えても良いけど……絶対信じないよ。みんな信じないんだもん……嘘なんか吐いてないのに、誰も最初は信じないんだよ。なぁウルフ!」
「えぇ信じないでしょうね。俺も最初は信じませんでした。『馬鹿な事を言いやがって』って思いました」
どうしよう……
不安な想像が最悪の現実へと近付いてくる。
ブライはどんな想像をしたのだろうか?
「リュ、リュカ……もしかしてお前は国王なのか……?」
恐る恐るブライが質問する。
私と同じ事を考えていたらしく、認めたくない気持ちで訊いてみる……
「皆さん……改めて自己紹介をさせてもらいます。俺の名はウルフ……グランバニア王国国王の主席秘書官を務めております」
「私はリューノ。グランバニア国王と愛人であるエルフ族のスノウとの間に生まれたリューノと申します」
「わ、私は……国王陛下と……ホビット族の騎士ピエールとの間に生まれました……」
嘘だ……
そんなはずない……
国王という職業は大変なはず……お気楽魔神に勤まる程、楽な役職じゃない!
「……どうも僕はリュケイロム・エル・ケル・グランバニア……グランバニア王国の国王をしてます。もう辞めたいけど辞めさせてもらえません」
「「「「「「「「えぇぇぇ、本当に国王なの!?」」」」」」」」
リュカ家の面子以外が大声で叫ぶ洞窟内……
リュカが一番就いてはいけない職が国王だと思う。
皆が同じ思いだからこそ、この絶叫は洞窟内に木霊するんだろう……
アリーナSIDE END
第49話:もっと探せよ!
(コーミズ西の洞窟)
シンSIDE
驚いた!
自分が実は勇者だったって事より、ウルフさんがリューノちゃんに手を出した事より……
この世で一番驚くべき事実を目の当たりにした!
まさかリュカさんが……あのリュカさんが王様だなんて思いもよらなかった!
リューノちゃんも、我が儘だけどお姫様には見えないし……我が儘だけどね!
リューラさんだって、一方的だけど王女様とは思えない……本当に一方的だけども!
そうなると、リュカさんの娘さんとお付き合いしているウルフさんは、未来の国王陛下なのか?
お家騒動問題とか色々複雑な事があるだろうから、本人にはソッと尋ねてみる。
『もう一人の娘さんにまで手を出したのは、外堀を埋める為の手段だったのですか?』って……
そうしたら『イヤだよ……アイツの後を継いで国王になるなんて!』と、尊敬する師匠で上司で義父の事を指さし、盛大に否定するウルフさん。
コッソリ訪ねたのに台無しだ!
『アイツめちゃくちゃ善政を布いてるんだ! 国民からは絶大な信頼を得て、国家を何十倍にも大きくして……跡を継いでちょっとでも失敗したら、即座に革命が起きて殺されちゃうよ! 実の息子が済し崩し的に継いだのなら、国民も多少は我慢してくれるだろうけど……』
ウルフさんは続けざまに俺達を驚かせる。
あのリュカさんが統治者として善政を布き、剰え国民に支持されているなんて……
でもリューノちゃん・リューラさんの癇癪が怖かった俺は、驚くも本音を口にせず、心の中だけで“そんな訳ねーだろ! あんなお気楽魔神が、国民に好かれてる訳ねーだろ!”って叫びました。
このとき程、自分が小心者で良かったと思った事はありません。
何故ならば、心の絶叫では我慢出来なかったブライさんが、思いの丈を洞窟内に響き渡る大声でブチ撒けてしまったんです。
そうなれば勿論、大激怒するお方が存在するんですが……
真っ先に大激怒したのがウルフさんだったのです!
娘さん2人を差し置いて、義息で部下で弟子なウルフさんが、ブライさんの胸座を掴んでブチ切れちゃったんです!
『ふざけるなよジジイ! リュカさんは国民の事を優先して、政務を行っているんだぞ! 貴族から税金を徴収り、義務教育法を執行したり……城下を整備し、道路や海路を整備したり……人々が住みやすい国造りを行っている、最良なる国王なんだぞ!』
ウルフさんが言うには、国王の職務から解放されたリュカさんは、それまで背負っていた責任からも解放され、他者への迷惑を顧みない自由人へと舞い戻るそうです。
その為、そんなリュカさんしか見た事のない人々は、リュカさんを王に向いてない男と認識するそうです。
だから国王として政務を行っている姿を知らない人に、大声でリュカさんの王としての資質を否定されると、大変腹が立つそうです……
でも“他者への迷惑を顧みない自由人へと舞い戻る”訳だから、しょうがない気がするんだけど……それを言ったら怒られそうだから言わない。
そう言えば、トルネコさんが超小声で『王様とは……これは意地でも取り入らなければ!』って闘志を剥き出しにしてたけど『王様って言っても、この時代にグランバニアがある訳じゃないし、権力も財力も持ち合わせていないよ。僕に媚を売っても無駄な努力だよ』って、言い捨てられてました。
リュカさん耳が良すぎます!
シンSIDE END
(コーミズ西の洞窟)
クリフトSIDE
まぁ色々驚く事はありましたが、今は兎も角キングレオ城に潜入する事を成功させねばなりません!
その為に、ウルフさんの記憶を頼りにこんな洞窟へ入ってきたのですから……
魔法の鍵とやらを入手する為に、この散らかった研究所とやらに訪れたのですから!
「何で“研究室”とか呼ばれているところは、こうも散らかった場所が多いんだ!?」
結構きれい好きのリュカさんが、散らかった室内を眺め吐き捨てる。
そう言えばアリーナ様のお部屋も、鉄アレイとかで散らかってましたねぇ……
「元々は知らないけど、この状態にしたのはオーリンですよ……ハバリアで会った筋肉野郎が、鍵を探す為に散らかしたんですよ」
私はお会いした事無いのですが、ウルフさんが語るオーリンさんは、とてもアレな人物に感じます。
「これだけ探して見つからなかったんだから、本当は無いんじゃないかなぁ……」
「アイツはアホだから、探し切れてない場所が多数あると思います。それをリュカさんのレミラーマで総浚いして下さい! つーか、散らかった部屋に長時間居るのがイヤだったら、さっさと魔法使って帰りましょうよ!」
ウルフさんの言に一理あると思います。
リュカさんは文句ばかりで、行動を起こしてくれない事が多々あります……
王様じゃない時も、率先して我々の役に立ってほしいです。
「へいへい……レミラーマ!」
渋々で面倒臭そうに魔法を唱えるリュカさん。
翳した右手から光が四方へ飛び散り、ある一点に再度集まり瞬いた。
「………」
「………」
誰も何も言えない……
「あそこが……光ってる……ぞ」
暫くしてリュカさんが口を開く。
リュカさんの呪文により光を発する場所を指さして……
そこには1個の宝箱が……
色々な物で散らかった部屋の片隅に、ポツンと置かれた1個の宝箱が輝いている。
本当にコレか?
ウルフさんがゆっくりと宝箱に近付き、蓋を開けて中を確認する……
そして俯きながら中身を取り出し、私達にも見える様に掲げると……
「あ、あの男食馬鹿……もっとちゃんと探せよな!」
“男食馬鹿”の意味がイマイチ解らないのですが、きっとオーリンさんの事を言ってるんだと勝手に推測します。
間違っていたら大変失礼なので、口には出さないけど、勝手に推測しちゃいます。
「ま、まぁまぁウルフさん……これでキングレオのお城に侵入する事が出来るんだし、取り敢えずは良かったじゃないですか……」
「面倒だからその鍵はお前が保持してろよ!」
シンさんが気を遣って話を纏めようと試みるが、リュカさんがシラけ顔で鍵を押しつける。
しかも他の皆さんのシラけ顔も消える事がない。
こんな個性的な仲間を纏める勇者ってのは大変だなぁ……
クリフトSIDE END
後書き
さぁさぁ皆様お待ちかね。
次回は遂にあの娘が登場!
リュカ家でトップ3に入る問題児が遂に登場!
リュカさんかなぁ~……(もう居るよ!)
ポピー様かなぁ~……(この時代に来てないよ!)
ではでは誰でしょう? 皆様のご想像をお持ちしてます!
第50話:正義の味方は手加減知らず!
前書き
サブタイトルからして誰の台詞か解るね(笑)
そうです、あの娘が再登場します。
(コーミズ周辺)
マーニャSIDE
驚くべき事が多数あった洞窟探索だったが、目的の魔法の鍵も手に入れたし、さっさと地上へ出る私達。
本来なら疲れた身体をコーミズの村で癒し、日を改めてからキングレオ城へ突入するのが良いのだろうけど……
私達はお尋ね者として手配されているだろうから、村に迷惑を掛けない為にも、直ぐに城を目指す事になりました。
洞窟内で一晩を過ごしたので、まだ日は真上にも来てないけど、憎きバルザックとキングレオを倒す為、街道を突き進む。
すると当然、前方で大きな爆発が聞こえてきた!
誰かが誰かと戦っているらしく、複数の人間の叫び声が聞こえてくる。
「うわぁ……アイツだ」
リュカと視線を合わせたウルフが、端正な顔を顰めて呟く。
二人は騒動の原因を知っているのか?
状況の解らない私達は、駆け足で騒動の中心地へと赴く……
するとそこには、複数のキングレオ兵に追われる1人の女性の姿が。
悔しいが凄い美人だ!
「やっぱりマリーだ……」
黒髪の美女を見たウルフが、呆れた口調で言い捨てる。
え……彼女がウルフの恋人さん!?
やっべ……マジで凄ー美女だわ!
「あー、ウルフだー♡ タスケテーん……醜男にイヤラシしい事をされちゃうわ~ん!」
美女はウルフの事に気付くと、舐めた口調で叫びながら彼の胸に抱き付き、凄くディープなキスをする。
状況を解ってるのかな?
「イヤラシい事なんかせんわー! 不審者だったから、職務質問をしただけだろ!」
「うっさいボケぇ! 醜男が集団で職権を乱用し、美少女を物陰に連れて行こうとすれば、それはイヤラシい事をする以外に答えはないんだ! 従って私は、自己防衛の為にお前等モブを吹き飛ばしても、『正義の行い』と言い切れるんだ!」
酷い言い分だ……
でも何故だかリュカの娘である事に納得のいく言い分だ。
彼女が逃げてきた方向に目をやると、彼方此方に吹き飛ばされた兵士達の四肢が散らばっている……
一体何人居たのか判らない……
激しく飛び散りすぎて、人型を留めてないので判らない。
リュカの娘は非常識的だと感じていたが、彼女は極めつけだろう……
一体何処に惚れたんだウルフ……
私に手を出しておいた方が良かったんじゃないのかウルフ?
マーニャSIDE END
(キングレオ城付近)
マリーSIDE
道端で傷だらけのオーリンを拾う。
ビビアンがササニシキ……一目惚れで、オーリンをハバリアに匿い甲斐甲斐しく世話をする。
ある程度回復したオーリンに、この国の状況を聞き、怒りに燃える正義のピンク。
放っておいても勇者ちゃん達がやって来れば、チョロッと解決してくれるのだろうし、面倒事には拘わらない方が良いと思っている現実的美少女な私。
でも『ライアン様、一緒にこの国を救いましょう! 僕もお手伝いしますぅ!』って、正義のピンクを煽る青いブヨブヨ。
あとは時が経つのを待つしかないので、無意味にキングレオ地方を移動させ、時間を稼ぐ私。
『いきなりお城に飛び込んでも、状況を詳しく理解してなきゃ正しい事は出来ないので、取り敢えず情報収集をしましょう! まずはキングレオ最南の町、モンバーバラから!』
と言って、劇場のパノンを楽しもうと思ったのだが、『そんな低俗な施設に足を運ぶのは関心せんなぁ……それに、そんな場所にこの国を救う為の情報があるとは思えん!』と言われ、パノンを楽しむ事が出来ませんでした。
癪に障ったから、アッテムトへピンクを導き、用も無いのに鉱山へ入らせる私。
勿論、私は中に入りません。
だって毒ガスで苦しいし、面倒臭いんだモン♥
そんなこんなで国中を歩き回り、碌な情報も得られないピンクちゃん達は、お城が見える森の中に潜み作戦会議を開始します。
ちなみに私が提案した作戦は、もう一度モンバーバラに赴く事です。
だってパノンを諦めきれなかったから!
でも青いのが『僕が空からお城に忍び込んで、城内を偵察してきます!』って、やる気を全面に押しだし、ピンクちゃんに提案しました。
『いや……それは……危険……』等々、お髭のピンクはモゴモゴ何か言ってるんで、『流石は正義のホイミスライム、ホイミン君ね! 君の持ち帰る情報がこの国を平和に導くのよ!』って、面白半分で煽っちゃった。
そしたら『じゃぁボク頑張ってくるね!』って飛んで行っちゃった……
後を追ってお城に入る訳にもいかず、私とライアンちゃんは呆然とホイミン君を見送るだけです。
わ、私の所為じゃないわよ!
「う~む……丸一日経過したのに、ホイミンが戻ってこない。隠密行動で情報収集を行っているにしても、少しばかり時間がかかりすぎだ!」
ホイミン君が任務に出てから約24時間……
当初から落ち着きの無かったライアンちゃんのイライラも、臨界点を突破して危険状態だ。
「き、きっともうすぐ戻って来るわよ……」
私の所為ではないはずなのだけど、気を遣って根拠のない慰めを口にする。
こんな遣り取りが数十回……
「いや、何かあったに違いない! 私は突入するぞ……何とかホイミンを救出してくるから、マリーはここで待機していてくれ!」
言うが早いかライアンちゃんは、「ぬおおおぉぉぉぉ…………」という掛け声と共に、キングレオ城へと突入して行っちゃった。
確か原作でも、一人で突入したライアンちゃんと城内で合流する勇者一行だったわよね。
つー事はもうそろそろウルフ達とも合流出来るって事かしら?
うん。私はライアンちゃんの後を追わず、言われたとおりこの場で待機しちゃいます。
でもでも、世の中そう思い通りに行かないのが常……
超美少女が一人でポツンと佇んでいれば、股間を膨らませたお馬鹿ちゃんが群がってくる物……
私の目の前にも、キングレオ城から出張ってきた醜男ズが集まってます。
「おい女……怪しい奴だな! こんな所で何をしている!? 先程城に侵入してきた奴の仲間ではないのか?」
う~ん……“うん。ピンクの鎧とはお友達!”って言っちゃうと100%面倒い事が待っているので……
「おほほほほ、私は怪しい者じゃございませんことよ。こんな美少女が怪しい訳ございませんじゃありませんか! 私はここで、イケメンの彼氏を待っておりますの。皆様の様なNotイケメンには用がございませんことよ! ですから私の前から消えちゃって下さいまし」
私はできる限り丁寧に退散を促したのだが……
「何だと怪しい女め……ちょっと我々の詰め所までご同行してもらおうか!」
NOです! NOですわ醜男共!
お前等間違いなくこの美少女にエッチな事をする気満々じゃん!
真面目くさった面してても分かっちゃいます。美少女の私には分かってしまいますよ!
「さあ来てもらおうか!」
私の手を掴み、エッチな場所へと連れて行こうとする醜男!
良い女へ簡単に乗れると思うなよ!
「きゃあ止めてよ、メラミ!」
「ぎゃあぁぁぁぁ…………」
私の手を掴んだ醜男は、掴んだ腕の肘より先を消し炭にされ、あえなくお空に舞い上がる。
「キ、キサマ……て、抵抗するのか!?」
「何を言いやがる! 抵抗してるのではない。自己防衛を行っているんだ! 美少女が大勢の醜男共に犯されない様に、正義の名の下に自身を守っているんだ!」
「ふ、ふざけるなー! こ、このテロリストめー!」
自己防衛だってんだろ!
私の事をテロリスト判定した醜男共が、一斉に襲いかかってくる!
「私の身体はウルフ以外、乗り入れ禁止じゃボケぇ!」
ってな感じでイオラを唱える正義の美少女マリーちゃん。
手加減をしたつもりなんだけど、醜男共の臓物を目の当たりにして、ちょびっとビビっちゃったお茶目なワ・タ・シ♥
ベギラゴンで焼き払えば良かったと、後悔しながら踵を返して逃げ出しますぅ!
マリーSIDE END
後書き
ストッパー役が側に居ないと大変な事になる女……
リュカ・ポピーとの違いはここだね!
第51話:迷惑度がハンパない
(コーミズ周辺)
シンSIDE
大まかにだが、これまでの経緯を説明してくれるマリーさん。
「そんな訳で私の仲間がピンチってるのです! つべこべ言わず助けるのに協力してくれませんかお父さん?」
目の前に辛うじて生き残った数名の兵士が居るのに、最早眼中にない様子。
「別に……つべこべ言わないけど……まだそちらが解決してないんじゃねーの?」
「や、やはりお前達は、あの戦士の仲間だったんだな!? 完全に不審人物じゃねーか!」
協力を要請されたリュカさんは、残った兵士達を指さしトラブルを指摘する。
「ちっ……うっさいモブ共ね! ゴチャゴチャ叫いてると、私のメラゾーマで真っ黒にするわよ!」
「わ、我らは栄えあるキングレオ兵! テロリストの脅しには決して屈しない!」
う~ん……どうやら真面目な兵士達みたいだ。
マリーさんの言い分とは違う気がする。
「悪いが俺達はテロリストではない! テロを行っているのは、お前等の王だろ……俺達は奴を倒しに来たんだ」
マリーさんでは問題が大きくなると感じたウルフさん。
颯爽と前に出て兵士達を説得する。
「くっ……へ、陛下にお仕えするのが兵士の勤め! お前等の言い分を鵜呑みにする事は出来ん!」
まぁそうなるだろう……真面目に兵士をやっているけど、善悪の基準はそこにはないのだから。
結局倒すしかないのだろうか?
「では、君たちはここで俺達が事をなすまで、大人しくしていてくれ……ラリホー!」
「うっ……」
残った兵士達が一斉に倒れ眠りに就く。
「さ、流石ウルフさん! 血生臭い事をせずに問題を解決しました!」
既に何人もの死者を出している事には触れず、ウルフさんの状況に沿った判断を称え、遠回しにマリーさんの行いを注意する。
「だって仕方ないじゃん! 私は攻撃魔法以外使えないのだから……しかも親の血を強く引いてて、魔法力が大きいから手加減も出来やしない! だったらいっその事、何が起きたか解らない程一瞬であの世に送った方が良いじゃない! 苦しまなかったんだから、それで良いじゃんか!」
やべー……何だこの一家は!?
段々難易度が高いキャラが現れるよ。
リュカさんも厄介だけど、この娘の迷惑度はハンパないよ!
我々の行く手を遮る兵士達(少数)が眠りフリーになったところで、キングレオ城へと歩を進める。
このとんでもない状況に、何か明るい話題がないかと頭を悩ませていると、リュカさんが娘さんに向けて、先程の件を注意し始めました。
「マリー……お前が吹き飛ばした人達にも、帰りを待ちわびる家族があり、各々人生が存在するんだぞ! もう少しやり方ってのがあっただろうに……」
「しょ、しょうがないじゃん……咄嗟の事だったんだから! もしかしたら私はレイプされてたかもしれないのよ!?」
「違うよ……大人しく犯されろとは言ってない! やり方があっただろうって言ってるの! 例えば、イオ系で吹き飛ばすのではなく……ギラ系で炎の壁を造り、近付いて来れなくするとか。ヒャド系で奴等の足だけを凍らせて、身動きとれなくするとか……命を奪う事はないだろうって言ってるの」
「うぅ……だって……」
初めて見るリュカさんのまともな父親ぶり……マリーさんも俯き反省している。
何時もこのスタンスで居てくれると、旅の仲間としては助かるのだけれど……
「お前……その性格を早く直さないと、ウルフにだって捨てられるぞ!」
「にゃぁ!? ウ、ウルフは私を捨てたりしないわよ! ちょ~ラブラブなんだからね!」
そうだろうか……新たな恋人のリューノちゃんが現れた今、面倒極まりない女は必要無いのではないだろうか?
「ウルフ……マリーと別れても、お前は僕の義息だからな! 何時までも家族だから気にするなよ」
きっとリュカさんは、ウルフさんとリューノちゃんの関係を知っているんだと思う。
だってウルフさんから苦笑いが取れないもの!
「す、捨てられないって言ってんだろクソ親父!」
魅惑の三角関係に気付いてないマリーさんは、それでも必死になってウルフさんとの仲を強調する。
豊満な身体を彼の腕に押しつけて。良いなぁ……
「……ちょっと、お父さんってば機嫌が悪い? どうしましたかしら?」
そりゃぁ……娘の暴虐ぶりを目の当たりにしたのだから、多少の機嫌は損ねるだろう。
でもワザワザ訪ねたって事は、普段はこの程度で機嫌が悪くならないのか?
「きっとリュカさんは、何時まで経ってもビアンカさんに合流出来ないから、ちょっとヘソを曲げてるんだよ」
「あぁ……お母さんに会えないから、ご機嫌斜めなの! 子供ねぇ……」
ビアンカさんってリュカさんの奥さんなのか……
どんな人なんだろう? 娘さんがコレだから、ちょっと怖いなぁ……
「お父さん大丈夫よ。私達をこの時代に追いやったのは、この時代の事を熟知しているヒゲメガネよ! 貴方の奥さんは100%安全で無事に暮らしているはず」
度々出てくる『ヒゲメガネ』なる人物……一体誰なんでしょう?
「そんな確証があるの?」
「100%ある! だって聞いてお父さん。確かに新たな冒険を希望したのは私だけど、連中の本心としては、お父さんを送り込みたかったんだと思うの。お父さんを送り込んで、世界中を冒険させて、そして平和にさせるのが奴等の計画よ!」
「それとビアンカが安全なのと関係があるの?」
「じゃぁ聞くけど。もしこの時代に飛ばされて、最初からお母さんと一緒に居たら……お父さんは冒険の旅に出立した?」
元の時代に戻る方法を探す為、出立するのが当然なのでは?
「しない。近場の町か村に家を買い、ビアンカとひっそり暮らす! ビアンカが居れば時代や世界など関係ない!」
えぇぇ……元の時代に帰る事をボイコットしちゃうの!?
「ほら。だからヒゲメガネは一考を案じたの! お母さんを“世界補平和にする”事の重要地点に送り込めば、ズボラ王も渋々ながら世界を平和にする為、この時代の勇者等に協力するだろうって!」
そして、その通り俺等と冒険しているリュカさん……ヒゲメガネさんて頭脳派?
「はぁ……ヒゲメガネの奴ぅ……今度会ったら絶対殴る! あの髭を右半分だけ引っこ抜く!」
「ですからリュカさん、アリアハンにあるエレベーターって言う装置の提供をさせましょうよ!」
「おやウルフさん……国王筆頭書記官殿はアリアハンの便利装置がお気に入り?」
「そうなんだマリー。今回の詫びとして、リュカさんからアリアハンへ脅しかけてほしいんだ!」
「ダメだよウルフ。今回の件でヒゲメガネに何かを強要する気はない!」
……アリアハンというのはリュカさん達の時代の国なのだろう。ではヒゲメガネさんとはどういう関係なんだ?
「どういうことですかリュカさん!? 今回は何もお咎め無しで許しちゃうんですか?」
「そうじゃない。そうじゃないけど、何らかの技術提供すれば、今後も一方的に迷惑掛けても許される様な、そんな状況を造りたくないだけだ」
「し、しかし……グランバニア王を勝手に異時代に召喚させておいて、咎め無しというのは……」
「別に咎めないとは言ってない。事ある毎に今回の騒動を持ち出して、奴等の立場を弱めて行くんだ! 代替わりして僕程強硬的になれない奴が国王になっても、今回の事を歴史的な重罪として語り継げば、アリアハンより立場を上にする事は可能だ!」
「なるほど……ティミーさんではヒゲメガネに勝てませんもんね! でも今回の件を持ち出せば、奴等も弱腰になりかねない……流石陛下! 先の事まで考えてるぅ~!」
ティミーさんて誰だろう……会話の流れからすると、リュカさんの跡を継ぐ予定の人物だろうな。
でもその人じゃヒゲメガネさんに勝てないって事は、父親のリュカさんより幾分かはまともな人間なのかもしれない……
俺はトルネコさんやブライさんに視線を巡らせる。
お二人もリュカさんを取り巻く環境に興味があるみたいなのだが……
もう既にキングレオ城が目の前な為、質問する事を憚っている。
リュカさん達をタイムスリップさせる事の出来るヒゲメガネさん……
そのヒゲメガネさんと関わりのあるアリアハン……
リュカさん達の故郷はグランバニア。
凄い力を持っているのはアリアハンみたいだけど、それ以上の存在なのがグランバニアのリュカさんみたいだ。
知りたい……彼らの時代の事を、事細かに知りたいよ。
リューノちゃんに尋ねても、リュカさん至上的回答しか返ってこないだろうから、客観的な世界観が解らないだろうなぁ……
やっぱりウルフさんに尋ねるのが妥当なんだろうけど……
今後はマリーさんが常に側に居るだろうなぁ……
非常識すぎて怖いなぁ!
シンSIDE END
後書き
やり手ウルフは、マリーを助ける為にリュカさんの説教を別の話にすり替えた。
もしかしたらビアンカの次にウルフがリュカさんを操るのが巧いかもしれない。
第52話:想い
(キングレオ)
ウルフSIDE
何やら騒がしいキングレオ城に、手に入れた魔法の鍵を使い勝手に入る俺達。
城内があまりにも混乱しているので、コソコソする必要も発生しない。
お陰で久しぶりに抱き付いてくるマリーの巨乳を堪能出来る。
チラリとリューノを見たのだが、苦笑いで遠慮してくれている。
何だか罪悪感で胸一杯だ……
彼女の柔らかい胸が腕に押し当てられているのに、100%楽しめないなんて……早く打ち明けて楽になりたい。
しかし、今ここで言う訳にもいかないだろう。
人目もさることながら、敵陣でマッタリ痴話喧嘩をおっ始める事は出来ない。
宿屋で二人きり……いや、三人だけになる時じゃないとダメだろう!
だからムリしてでも何時もの自分をマリーに見せ付けようと……
「う~ん……やっぱマリーの巨乳は最高だ!」
と、不謹慎全開でマリーの身体を揉みまくる!
「アンタこんな状況だってのに、何ヤラシいことばかり行ってんのよ!?」
俺の気持ちも知らないで、アリーナ姫が突っかかってくる。
「うるせー! お前みたいな貧乳には、揉むところがないから誰も相手してくれないだろうが、マリーは可愛い上に最高バディーで心地良いんだよ!」
ごめんねアリーナ姫……本当は貧乳を馬鹿にする気はないんだ。だってそっちも大好物だから!
「な、何だと煩悩野郎……」
「ウルフ、言い過ぎだぞ!」
アリーナ姫の怒りを抑え、俺に注意をしてきたのはリュカさんだ。俺以上の巨乳フェチのクセに、何を偉そうに……
「アリーナにはちゃんと青臭い彼氏のクリフトが居るんだ……未だに童貞だから人前で彼女の乳揉む事が出来ないけど、空いている部屋を見つけて二人きりにすれば、忽ちアリーナは白濁液まみれにされちゃうんだゾ!」
流石はリュカさん……ご本人達を前にしても怯まず言ってしまう神経の図太さ。
「な、何を言うんですかリュカさん!!」「リュ、リュカ! わ、私達は……」
一緒に旅を続けてきて、本当に童貞と処女なんだな。
二人とも顔を真っ赤にして恥ずかしがってる。
青臭いカップルを見て、若かりし頃の義兄カップルを思い出してると……
「ぬおおおぉぉぉぉぉぉ……」
と、誰かの雄叫びが聞こえて……近付いてくる! 何か凄く鬱陶しい……
「あ、ライアンちゃんだ……どうやら無事だったみたい」
「マリーのお知り合い?」
何か知ってそうだったのでマリーに確認を取ると、俺の顔を覗き込みながらコクンと頷く可愛い仕草……あ~ん、彼女も彼女も捨てられな~い!
「ぬおぉぉぉぉ……うぉ!? マ、マリーではないか! おヌシも来たのか……そちらの方々は?」
雄叫びが角を曲がって目の前に現れると、マリーの事に気が付き停止して質問してくる。
ピンク色の鎧を着た厳つい髭のオッサン……アリなの?
「あ、うん。紹介するね……コッチのイケメンがお父さん。そしてコッチの金髪イケメ「居たぞー!」
マリーがリュカさんを先に紹介し、次いで俺の事を紹介しようとしていると、ピンクのオッサンがやって来た方から、多数の兵士が凄い形相で現れた。
「うむ……話は後だ! まずは奴等を遣り過