『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』


 

第一話

 
前書き
ただチハを活躍させたかった。それだけだ。 

 




 日米の関係が少しずつ悪化していた。しかし、1941年一月に日本帝国は新たなる試練が待っている事に気付かなかった。

 1941年一月一日、東京府銀座午前十一時五十分にそれは起きた。突然、銀座のど真ん中に門が現れて、中からゴブリンやオーク、中世ヨーロッパの騎士の服装をした集団が出現して市民を殺傷し始めたのだ。

「蛮族どもよッ!! よく聞くがよい、我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名においてこの地の征服と領有を宣言する」

 死体が築かれた場所にその帝国の旗が置かれるのであった。

 この事態に時の近衛内閣は即座に軍の出動を要請。近衛第一歩兵連隊等が緊急出動をした。

 海軍も横須賀航空隊や館山航空隊から旧式の九六式艦上戦闘機や最新鋭の零式艦上戦闘機一一型が出撃をして銀座上空を飛行していたワイバーンを七.七ミリ機銃と二十ミリ機銃で駆逐してから地上に対して機銃掃射を始めた。

「砲撃始めェッ!!」

 現場に到着した砲兵隊が三八式野砲で砲撃を始めて帝国軍を蹴散らしていく。更に九二式重機関銃も射撃を開始して帝国軍兵士の命を刈り取っていく。

 九七式中戦車が五七ミリ戦車砲を撃ちながら帝国軍兵士を踏み潰していく。帝国軍は果敢に反撃してきたが、上空からの零戦や陸軍も九七式戦闘機を出してきて(隼はまだ制式採用されていない)機銃掃射で血の水溜まりに倒れていく。

「総員着剣ッ!!」

 連隊長の言葉に三八式歩兵銃を持つ兵士達は三十年銃剣を装着した。

「突撃ィッ!!」

『ウワァァァァァァァァァーーーッ!!!』

 日本軍は雄叫びを上げて混乱している帝国軍に必殺の銃剣突撃を敢行するのであった。




 近衛首相は事態の沈静化をしようとしたが、既に諸外国にも事件の事は知れ渡っておりどうする事も出来ずに内閣を総辞職をした。近衛内閣の後に陸軍大臣だった東條英樹が首相に就任して非常時を宣言するのであった。

 東條首相は集まった記者(外国人記者を含む)に説明をした。

「当然の事であるがその土地は地図に載ってはいない。「門」の向こう側はどうなっているのか? その一切が謎に包まれている。だがそこに我が国のこれまで未確認だった土地と住人がいるとすれば――そう、ならば強弁と呼ばれるのを覚悟すれば特別地域は日本国内と考えていいだろう」

 東條総理はそう言う。

「今回の事件では多くの犯人を『捕虜』にした。これは日本帝国に対する宣戦布告である事が明確だからだ」

 東條総理は捕虜を強調する。

「よって「門」を破壊しても何も解決しない。それはまた「門」が現れるかもしれないからだ。そのためにも向こう側に存在する勢力を交渉のテーブルに力ずくでも着かせなければならない。相手を知るためにも我々は「門」の向こうへ踏みいる必要がある。危険、そして交戦の可能性があろうともだッ!!」

 東條総理の演説に記者達は何も言わない。

「従って、日本帝国政府は特別地域の調査と銀座事件首謀者の逮捕、補償獲得の強制執行のために軍の派遣を決定したッ!!」

 その瞬間に多数のフラッシュが光った。この宣言に対してアメリカが内密に接触してきた。

「中国から撤退すれば日本を支援しよう」

 アメリカ大統領はルーズベルトであった。日本にこのように発言すれば必ず日本は乗ると判断したからだ。

 日本はこれに乗った。東條は即日、門侵攻のために中国にいる陸海軍の部隊は全て満州方面に撤退する事を宣言した。

 陸軍からは反対意見が出たが今回の事件で日本の治安を守るのに部隊を出さないといけないと分かっているため直ぐに意見は無くなった。

 また、三国同盟を結んでいるドイツからも接触があり、門の情報を求めた。

 日本は派遣部隊を編成して七個師団、戦車三個連隊、砲兵三個連隊、後に五個航空隊(陸海合わせて)を門に派遣した。派遣部隊司令官は今村中将である。

 派遣部隊は門を潜って異世界に突入した。門周辺には帝国軍が警戒していたが先鋒隊を九七式中戦車と九五式軽戦車部隊の機甲部隊にして突入。

 帝国軍は見知らぬ兵器に混乱し、混乱する帝国軍に向けて九七式中戦車は五七ミリ戦車砲を発射。着弾した榴弾は兵士を殺傷させた。機動力がある九五式軽戦車は戦場を駆け回って帝国軍を混乱に陥れる。

 そこへ歩兵を主力にした二個連隊が門周辺を守備をして迫ってくる帝国軍に対して射撃を開始した。

 小銃は主力を九九式短小銃としていたが生産が41年から始めたので大半は三八式歩兵銃である。七.七ミリ弾と六.五ミリ弾は帝国軍兵士の鎧を突き破って命を刈り取っていく。

 門からは続々と増援の部隊が到着して門周辺にいた帝国軍を完全に一掃するのであった。この戦闘で帝国軍は全兵力の六割を喪失する被害を受けるのであった。

 戦闘後、派遣部隊は仮の施設を設置した。

「簡単な城なようなのを作れば門もそう簡単には奪還されないだろう」

「ですがどのような城を作るのですか? 流石に大阪城等の城を作るのは……」

「西洋の城を作ればいい。日本にも西洋の城があるだろう?」

「……成る程、五稜郭ですか」

 派遣部隊参謀長の栗林少将がそう呟く。五稜郭の単語に他の参謀もあっとぽんと手を打った。

「五稜郭をモチーフにした砦を作る。そしてこの砦を守るように三重の防衛線を構築するのだッ!!」

 そして戦闘から翌日には工兵隊に防御陣地の構築が始まり、日本帝国の本格的な特地への進出が始まるのであった。








 
 

 
後書き
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第二話

 
前書き
まさか続きを出すとは思わなかったよ。 

 



「それで門の戦闘はどうかね?」

「今のところは平穏なようです。門周辺にいた敵帝国軍を撃滅した今村司令官は門を守るために防御陣地を構築するのに専念しているようです」

 一月十日、大本営で東條は報告を聞いていた。

「うむ、未開の地なのだから当然だな。それで菅晴次局長。私に何か質問でもあるのかね?」

 東條は先程から兵器局長の菅晴次少将が此方を見ていたのに気付いていた。

「は、実は御願いがあります」

「ほぅ願いか……」

「実は陸海で徴兵した技術者や工員等を退役させて職場復帰させてほしいのです」

 菅局長の言葉に会議にいた人間はざわめき出す。東條はそれを制して菅局長に聞いた。

「何故かね?」

「兵器を増産するためです。女子どもが兵器を生産しては荒い生産になるので熟練の腕が欲しいのです。それと九七式中戦車の生産も停止させてほしいのです」

「……理由は十分に分かるがチハもか?」

「はい。実は門周辺の一連の戦闘の結果を見たのですが、チハや九五式軽戦車の装甲が薄すぎて破壊されたのが多数あります。先の戦闘でもチハは十二両がオークやゴブリン等に破壊されました」

「……それで新型戦車の開発を進めろと?」

「はい。現地でもチハの車体に九〇式野砲を搭載した砲戦車を独自で作っています」

「……良かろう。戦車の開発は急ぎ進める。問題は鉄だ。今のところは満州からの輸送をもって生産しているが……」

「宜しいですかな?」

 その時、海軍大臣となった嶋田大将が挙手をした。

「今回の件で我が海軍も重く受けとめています。なので、GF長官の山本と相談しまして練習艦等を解体して資材をそちらに回します」

『おぉぉ』

 嶋田大臣の言葉に陸軍側は驚いた。そして嶋田大臣から解体する艦艇が発表された。

 旧式艦艇から対馬、浅間、吾妻、春日、平戸、矢矧が解体されて更に大和型戦艦の三番艦として横須賀工廠で建造していた一一〇号艦(後の空母信濃)を建造中止して資材を陸軍側に回す事にした。

「ありがとう嶋田大臣」

「いやいや、今は非常時なんです。海軍も建造は暫く軽巡等に絞る予定にします」

 この海軍の資材提供のおかげで陸軍は生産に弾みがつくのであった。

 一方、海外では門の出現に様々な反応をしていた。

「門は恐らくは我々のフロンティアだ」

 ホワイトハウスでフランクリン・ルーズベルト大統領はそう言った。

「ですが大統領。チャイナに市場を展開するのではないですか?」

 ハル国務長官がルーズベルトにそう返した。

「そうだ、チャイナに市場を展開してから日本へ接触する。トージョーはチャイナから撤退すると世界に宣言をしている」

「では地盤が整ってから……と?」

「その通りだハル。それに日本は北部満州やを我々に譲るような情報もある。更に北部仏印からも撤退するような気配もある」

「……それでは?」

「仕方あるまいが禁止していた輸出は解禁しよう。ただし北部仏印から撤退するならだ」

 ルーズベルトはそう言った。

「火中の栗はジャップに拾わして、我々は悠然と行こうではないか」

 反日派を動かしてきたルーズベルトにしては慎重な動きだったが、それは仕方ない。何せ、伝説に近い動物がいたのだ。

 これ以後、アメリカは徐々に日本に近づきつつあった。

「門は日本の物にしてはならんッ!!」

 ベルリンの総統官邸でドイツ第三帝国のアドルフ・ヒトラーがそう叫んでいた。

「何としても日本と共同して門の利益をドイツの物にするのだッ!!」

「ですが総統。我々はイギリスと戦っており、日本に支援するのも……」

「なら日本が支援を求めてきたら支援するのだ。日本が漁夫の利をするのは余が認めんッ!!」

 戦う前から勝ち馬に乗ろうとしている日本にヒトラーは警戒するのであった。

 一方、ソ連でも同様の警戒をしていた。

「……ヤポンスキーの門は我がソビエトが管理してやろうではないか」

 クレムリンでスターリンは集まった部下達にそう言っていた。部下達はスターリンの言葉にまず無理だろうと思った。ハルヒン・ゴール紛争(ノモンハン事件)で戦ったが日本軍の野砲、速射砲、火炎瓶の攻撃で手痛い損害を与えられていたのだ。

「書記長。幸いにも我がソビエトはヤポンスキーと中立条約を結んでいます。ヤポンスキーと密かに接触して様子を伺ってみましょう」

「それは言われずとも分かっている。ならば友好的に接触しておこう。何せヤポンスキーとは中立条約を結んでいるからな」

 スターリンはそう言って日本との接触を開始するのであった。そしてイギリスも門には関心があったがドイツから自国を防衛するので精一杯(バトル・オブ・ブリテン)でありそんな余裕はなかった。

「日本に東南アジアやインドを取られればイギリスは破滅する」

 チャーチルはそう言って日本とは友好的な関係にしておくのに留めた。下手に動けばドイツが何をするか分からないのだ。

 そのためか、日本とイギリスの仲は比較的に友好であった。(元々は日英同盟を結んでいた事もあった)

 一月十五日、アメリカからの交渉に東條は了承して北部仏印からの撤退を全世界に向けて宣言した。これによりアメリカは禁止していた輸出を再開して日本は何とか首の皮が残る程度でアメリカとの開戦は避けられたのであった。







 
 

 
後書き
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第三話





 日本特地派遣部隊は門周辺(アルヌスの丘)を占領して防御陣地の構築に追われていた。工兵隊ではとても足りないので、派遣部隊の兵士も防御陣地の構築に当たっていた。

「……ふぅ、流石に疲れたな」

 中尉の階級を付けた尉官が手拭いで身体に吹き出ていた汗を拭き取る。

「摂津ぅ、水くれぇ」

 そこへツルハシを持った大尉の階級を付けた佐官がやってきた。

「……伊丹大尉、一応は自分の上官なんですから部下の前でそんな情けない格好をするのは……」

「今は摂津しかいないから大丈夫だよ。それより水を……」

「はいはい」

 摂津中尉は伊丹大尉に水筒を渡して伊丹大尉は水筒の水を飲む。

「海軍だと防御陣地は作らないのか?」

「作るには作りますがこんなには作りませんよ。それに木陰が無いから酷しいです」

 摂津中尉は海軍陸戦隊から派遣されていた。特地派遣部隊には海軍陸戦隊も一個連隊(指揮官は太田実大佐で横須賀や舞鶴等の鎮守府の精鋭を集めた)も参加している。武器は全て九九式短小銃など陸軍と共通化していた。

 後に海軍は陸戦隊が所有する九五式軽戦車も持ってくるのであった。

「摂津……敵は来ると思うか?」

「来るでしょうな。門を占領されたんやから必ず取り返しに来るでしょう」

 若干関西弁が出たが伊丹大尉は気にしなかった。伊丹大尉は些細な事までは気にしない人柄であった。

「ま、此方は穴掘って敵が来るのを待つしかないだろ」

 伊丹大尉は再びツルハシを持って作業を続けるのであった。


――帝国皇城――

「あえて言上致しますが、大失態でありましたな」

 一人の男が皇帝の椅子に座るモルト・ソル・アウグスタスに言う。

「帝国総戦力六割の喪失ッ!! この未曾有の大損害をどう補うのか?」

 古代ローマ人が着ていたような服を着ている男が皇帝に叫ぶ。

「陛下ッ!! 皇帝陛下はこの国をどのように導くおつもりかッ!!」

「……カーゼル侯爵、卿の心中は察するものである……」

 漸くモルト皇帝が口を開いた。

「外国諸侯が一斉に反旗を翻すのではと恐怖に夜も眠れぬのであろうが、危機のたびに我等は一つとなり切り抜けてきたではないか。二百五十年前のアクテク戦役のように」

 周りにいる議員達はモルト皇帝の言葉に傾ける。

「戦に百戦百勝はない。よって此度の責任は問わぬ。まさか敵が門前に現れるまで裁判ごっこに明け暮れる者はおらぬな?」

「ッ……」

 カーゼル侯爵は何も言わない。

「だが敵の反撃から僅か二日ですぞッ!! 我が遠征軍は壊滅し「門」は奪われてしまったッ!!」

 頭に包帯を巻いた議員が立ち上がる。

「パンパンパンッ!! 遠くで音がすると我が兵が薙ぎ倒されるのだッ!! あんな凄い魔法は見たことないわッ!!」

 負傷したゴダセン議員は「門」の守備をしていた。

 しかし、「門」を潜り抜けた九七式中戦車、九五式軽戦車を先頭にした特地派遣部隊の攻撃で「門」があるアルヌスの丘は奪われた。

 ゴダセン議員は援軍の到着を待ってからアルヌスの丘に突撃をしたが、陣地構築していた派遣師団の攻撃を受けて壊滅したのだ。

 辛くもゴダセン議員は軽傷で戦場を離脱する事が出来た。

「戦いあるのみだッ!! 兵が足りぬなら属国の兵を根こそぎかき集めればよいッ!!」

 軍人ながら議員をしている者が叫ぶ。

「連中が素直に従うものかッ!! ゴダセン議員の二の舞になるぞッ!!」

「引っ込め戦馬鹿ッ!!」

「なにをッ!!」

 議員通しが喧嘩を始めるが、それを制するようにモルト皇帝が立ち上がる。

 立ち上がったモルト皇帝に、喧嘩を始めた議員達は手を止めた。

「余はこのまま座視する事は望まん。ならば戦うしかあるまい。諸国に使節を派遣し援軍を求めるのだ。ファルマート大陸侵略を企む異世界の賊徒を撃退するためにッ!!」

 モルト皇帝の言葉に議員達は何も言わない。

「我等は連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を糾合し、アルヌスの丘を奪い返すのだッ!!」

「……陛下、アルヌスの丘は人馬の躯で埋まりましょうぞ?」

 モルト皇帝の決定に、カーゼル侯爵は顔をしかめた。





 アルヌスの丘付近には帝国が召集した連合諸王国軍が勢揃いしていた。

 集まった連合諸王国軍は約二十一ヵ国ほどであり兵力は約二十万であった。

 それを小さな丘から見ている王がいた。

「連合諸王国軍か……」

「さてデュラン殿、どのように攻めますかな?」

「リィグゥ公」

 エルベ藩王デュランにリィグゥ公国のリィグゥ公が声をかけた。

「アルヌスに先発した帝国軍によると異世界の兵は穴や溝を掘って籠っている様子。此ほどの軍をもってすれば鎧袖一触、戦いにもなりますまい」

「そうですな……(そのような敵、帝国軍なら簡単に打ち破れるだろう……)」

 デュランはそう思った。

『なぜモルト皇帝は連合諸王国軍など呼集したのか?』

 しかしデュランに答えは出なかった。

「リィグゥ公、戦いに油断は禁物ですぞ」

「ハハ、貴公も歳に似合わず神経が細かい。敵はせいぜい一万、此方は二十一ヵ国二十万を号する我等が合流すれば自ずと勝敗は決しましょうぞ」

 リィグゥ公はそう言って頭に兜を装着する。

「それではまた後で」

「それでは」

 リィグゥ公はそう言って去って行った。





 連合諸王国軍はアルヌスの丘に向かって前進していた。

「報告ッ!! 前衛のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、続いてリィグゥ公国軍がアルヌスへの前進を開始ッ!!」

「うむ、帝国軍と合流出来たか?」

「それが……」

 伝令の兵士が困った表情をした。

「どうした?」

「それが、帝国軍の姿が一兵も見えませんッ!!」

「何ッ!?」

 伝令の報告にデュランは驚いた。

「後衛にはいないのかッ!!」

「いえ、後衛にはいません」

 後方を見ていた側近がデュランに言う。

「一体どういう事だッ!!」

 デュランの叫びに側近達は何も言えなかった。

 帝国軍がいないのには前進をした前衛も直ぐに気付いた。

「帝国軍は何処だッ!! 後衛にもおらんのかッ!!」

「は、伝令を飛ばしていますが帝国軍を見つけたような報告はまだ……」

 リィグゥ公の叫びに側近は弱々しく答える。

「まさか既に敗退――」

 その時、何かの音が聞こえてきた。

 そしていきなり爆発したのである。

「陛下ッ!! 敵の魔法攻撃ですぞッ!!」

「こんな魔法は見たことないわッ!! 敵の姿も見えておらんぞッ!!」

 リィグゥ公が叫ぶ。

「全隊亀甲隊形ッ!! 亀甲隊形ッ!!」

 リィグゥ公国軍は楯を上にかざす。

 しかし再び爆発が起きた。

「うわァッ!!」

 リィグゥ公は爆発の衝撃で吹き飛ばされた。

「うぅ……」

 リィグゥ公は傷だらけになりながらも立ち上がる。

 リィグゥ公が見たのは兵士達が次々と吹き飛ばされていく光景だった。

「……これは戦ではないッ!! こんなものが……こんなものが戦であってたまるかッ!!」

 そしてリィグゥ公も爆発に巻き込まれたのであった。

「な、何事だッ!? アルヌスが噴火したのかッ!?」

 それを見ていたデュランはそう言う事しか出来なかった。








 
 

 
後書き
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第四話

 
前書き
炎龍マジでどうしようか……。 

 



 連合諸王国軍の前衛を砲撃したのは砲兵隊であった。砲兵隊は先に九六式十五サンチ榴弾砲十二門で射撃を開始した。

 次に砲撃を開始したのは九一式十サンチ榴弾砲二十門である。両榴弾砲は射撃を開始して榴弾で連合諸王国軍の前衛を吹き飛ばす。

 最後に野砲の三八式野砲四二門と九〇式野砲二四門が砲撃を開始した。アメリカ軍のように大量に撃つのではなく一発一発撃っていたが大砲が初見な連合諸王国軍には十分であった。

 連合諸王国軍の前衛は瞬く間に崩壊して一時撤退した。

「……また来るぞ。各部署には油断するなと伝えておくのだ」

「分かりました」

 戦況を見ていた今村司令官はそう言った。それから三時間後に部隊を整えた連合諸王国軍は再び攻撃を開始するためにアルヌスの丘へと向かう。

 攻撃を察知していた派遣部隊は待ち構えており、再び砲撃を開始して連合諸王国軍はまたも撤退した。

「……参謀長、二度あることは三度あるという……」

「夜襲がある……と?」

「可能性は十分にある」

「分かりました。各砲に照明弾で十分に一回の割合で撃つように指令しておきます」

「それと今のうちに仮眠するように伝えておけ」

 時刻は午後四時を回ろうとしていた。兵士達は防御陣地で仮眠を取る事にして夜襲に備えた。

 そして日付が変わった午前二時。



 野砲から照明弾が撃ち上げられ、眩しくなるアルヌスの丘の周りには連合諸王国軍が展開している。

『此方見張り、此方見張り。敵を視認ッ!! 地面が三分に敵が七分、繰り返す地面が三分に敵が七分だッ!!』

 無線から見張り員の緊急連絡が入る。

「戦闘配置ッ!! 戦闘配置だッ!!」

「またかくそッ!! これで三度目で今度は夜襲かよッ!!」

 防御陣地で休憩していた兵士達が罵倒する。

「文句言うなアホッ!! 急げ急げ急げッ!!」

 兵士達は持っていたお守りを仕舞って九九式短小銃や九九式軽機関銃を持って陣地に入り射撃準備をする。

「流石に三度目はキツイですね摂津中尉」


「文句言うなよ水野兵曹長」

 九九式短小銃を構えた水野兵曹長がそう呟いた。

 陣地の周りでは特地に持ってきた陸軍の九八式二十ミリ高射機関砲や海軍の二五ミリ対空機銃等が照準を連合諸王国軍に向ける。

 九七式中戦車や九五式軽戦車も射撃準備をする。

 一方、連合諸王国軍は昼間の戦闘でやられた仲間の死体を踏み越えて進撃している。

「慌てるなよ……」

 俺は撃ちそうな水野に言う。

「まだや……」

パンッ!!

『ウオオォォォォォォーーーッ!!!』

 再び照明弾が撃ち上げられた時、連合諸王国軍は一斉に突撃を開始した。

『撃ェッ!!』

 突撃する連合諸王国軍に派遣部隊は一斉に射撃を開始してアルヌスの丘付近は三度戦場となった。





 そして一夜が明けた。

「……酷いもんやなぁ」

 摂津中尉は陣地を出て辺りを見渡す。あちこちに四肢を吹き飛ばされたり肉片となったりして戦死している連合諸王国軍兵士が地面に倒れている。

「摂津中尉、陸軍の檜垣中佐から命令です。戦死した敵兵士の埋葬を行うそうです」

 水野兵曹長と片瀬一等兵曹が担架を持ってやってきた。

「そうか、ならこの辺から片付けるか」

 摂津中尉は辺りを見渡す。この辺は四、五人の人間が折り重なって戦死しているけど何でこんな折り重なってるんだろうか?

「ま、それは後でだな。そんじゃあ上から埋葬していくぞ」

 摂津中尉と水野兵曹長は上から戦死者を担架に乗せて埋葬地に運んでいく。

 そして漸く五人目の戦死者を埋葬地へと運んだ。

「……ん? まだ戦死者がいたみたいだな」

 その戦死者は女性だった。地面に窪みがある事だからたまたま弾が身体に命中してこの窪みに潜ったんだろう。

「運ぶぞ水野」

「了解です」

 そして女性の両肩を持った時……。

「……ぅ……」

 微かに声が聞こえた。

「……なぁ水野、今……」

「はい……」

「………」

 摂津の言葉に水野は肯定し、片瀬は無言で頷いた。

 摂津は心臓辺りの胸に耳を当てる。

ドクン……ドクン……。

「……生きてる……」

「中尉、この女性は軽傷しているだけです」

 傷があるか調べた水野がそう言った。

「片瀬ッ!! 衛生兵の連中を呼んでこいッ!!」

「はいッ!!」

 片瀬が衛生兵がいる野戦病院まで向かう。

「それにしても激戦やったみたいだな……」

 生存していた女性は服がところどころ破れて、胸も左胸が見えていた。

「中尉、取りあえず何かを着せましょう。このままだと自分ら誤解されますよ」

「だろうな」

 摂津中尉は手拭いで女性の胸を隠す。

「うぅ……」

 その時、女性が目を開けた。女性はボンヤリと摂津中尉を見ていたが、自分の胸を見た。

 ちなみに摂津中尉は何も触ってない。手拭いで巻いた状態だからだ。

「~~~ッ!!」

 女性はいきなり叫んで摂津中尉にアッパーを……ん? アッパー?

「グハッ!?」

「せ、摂津中尉ッ!?」

 摂津中尉は水野の叫び声を聞きながら気絶した。

 その頃、司令部は頭を抱えていた。

「……砲弾が足りないな。日露戦争のようにはしたくない」

 今村中将はそう呟いた。三度の攻撃で日本軍特地派遣部隊は砲弾不足に陥っていたのだ。

「幸いにも敵が引き揚げた。内地から急いで砲弾を輸送してもらうしかないな」

 今村中将はそう呟いて急いで砲弾輸送に着手するのであった。







 
 

 
後書き
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第五話





「姫様ッ!! 早くこの窪みに隠れて下さいッ!!」

「嫌だッ!! 貴様らを犠牲にしてまで私は生き残りたくはないッ!!」

 連合諸王国軍の夜中による夜襲もほぼ失敗しようとしていた。

 数人の兵士が何処かの国の姫に穴が空いている窪みに入ろうと促せるが当の本人は否定している。

「今姫が生き残らなければグリュース王国どうなるんですかッ!? 昼間の戦闘で王は戦死をしているんですッ!!」

「しかし……」

 兵士の言葉に姫は躊躇する。

「えぇい御免ッ!!」

ドスッ!!

「ぐッ!?」

 一人の兵士が姫の腹を殴る。

「き、貴様……」

「姫、今は御許しを。皆、姫を守るのだァッ!!」

『オォォッ!!』

 兵士の言葉に周りにいた兵士は楯を持って姫を守ろうとするが、襲い掛かる銃撃に次々と倒れていく。

「み……みんな……」

 倒れていく兵士の姿に姫は涙を流しながら気絶をした。




「……此処は……」

 女性が立ち上がる。女性の髪はシルバーブレンドでショートヘアであり出るところは出ている。

 女性は辺りを見渡すがそこは何処かの部屋だった。

「あ、目が覚めたようですね」

 その時、扉が開いて赤十字の腕章を付けた衛生兵が入ってきた。

「ちょっと軍医を呼んでくる」

 衛生兵はそのまま部屋を出て医師を呼びに行ったのであった。




「……大丈夫すか中尉?」

「何とかな。まだ痛いし……」

 摂津中尉はあの女性にアッパーをされて気絶して医務室に運ばれていた。

「大分噂になってますから。アッパーで気絶させられたと……」

「……柳田大尉辺りがニヤニヤしながら言ってくるのが見えてくるな……」

 摂津は溜め息を吐いた。

「ところで、さっきの女性が目を覚ましたようですよ」

「俺を気絶させた後に自分もまた気を失ったあれ?」

「はい。事情聴取するみたいですけど中尉がするなら譲ると言ってますよ柳田大尉が……」

「……計算されてないか?」

「気のせいです」

 摂津はもう一回溜め息を吐いた。



「き、貴様はさっきの……」

「言っておくが俺は手拭いを巻いただけやからな」

 顔が赤くなっている女性に摂津はそう釘を刺した。

 結局は摂津が簡単な事情聴取をする事にした。柳田少佐はやっぱりニヤニヤされたが……。

「俺は日本帝国の特地派遣部隊の一員の摂津樹だ」

 摂津は女性に自己紹介する。

「……私はグリュース王国のシント・ダ・グリュースの娘のヒルデガルド・ダ・グリュースだ」

「……てことはお姫さまというやつか?」

「そうだ」

 摂津の言葉にヒルデガルドが頷く。ちなみに言語は銀座事件で捕虜にした貴族から教えてもらって派遣部隊全員に言語の本が配られている。

「それでお姫さまが何故戦っていた?」

「我が国は帝国からの支援要請を受諾して兵力八千で連合諸王国軍に参加した。我が国は領土も少ないし民も少ないからな」

 ヒルデガルドはそう説明する。

「そして参加したが、貴様らの攻撃で我がグリュース軍は全滅した。恐らく帝国が今頃グリュース王国に侵攻して占領しているだろうな」

 ヒルデガルドは苦々しくそう吐いた。

「……暫くは君の処遇は保護として扱う。食料や衣服は此方から提供する」

「……奴隷として扱わないのか? 戦争で捕虜になった人間は男性は奴隷として売られ、女性は貴様らの慰め物になるのが普通だが……」

「……俺らはそんな事はしない(てかそんなんしたら色々と問題が起こりそうだからな)」

 摂津は心の中でそう呟いた。

 そしてヒルデガルド・ダ・グリュースは大日本帝国で保護する事になった。

「……服は女性物を要請したのに何で男性物を着ているんだ?」

 ヒルデガルドは普通の男性服を着ている。

「男が生まれなかったからな。私が男装をして民の前に出ていた。まぁ古くから知る兵士達は知っていたがな」

 ヒルデガルドはしれっと言う。それに出るところ出てます。いやマジで御馳走様です。

 しかし、今のところはそのままで過ごすしかないので内地に女性の下着等を移送するよう手配されるのであった。

「メシはどうしてるんだ?」

「さっきはお粥を食べさせましたが、軍医からの話では普通に食べても大丈夫のようです」

「それなら大丈夫か」

「食堂は今開いてますので」

「分かった。ありがとうな」

 摂津は衛生兵に頭を下げて礼を言った。

「美味いッ!! 辛いッ!! けど美味いッ!!」

 食堂でヒルデガルドが二杯目のカレーを食べていた。ちなみに特地では毎週金曜にカレーが出される事になっている。

 金曜カレーで曜日が分かれば後は楽なのである。

「オリザルみたいな物だと思っていたがこれは美味いぞセッツ」

「そりゃあ良かったみたいで」

 監視役をしている摂津がそう返事をした。なお、摂津自身もカレーを食べている。

「お、摂津は昼メシか?」

「あ、伊丹大尉」

 その時を九〇式鉄帽(鉄帽)を被った伊丹大尉が食堂にやってきた。

「俺は今から偵察に行かないといけないんだよ。全く尉官は使われるぜ」

「第三偵察隊でしたね。頑張って下さい」

 樹はそんな事を考えながら伊丹にそう返事した。

「ヤバくなったら摂津に救援してやる」

 伊丹大尉はニヤリと笑って食堂を出た。

「仲間か?」

 サラダを食べているヒルデガルドが聞いてきた。

「まぁ色んな意味で仲間だな」

 樹はそう思いながら水を飲んだ。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

主人公と原作主人公の紹介と偵察隊の編成

 
前書き
伊丹少佐のオタクをどうするか悩みました。 

 


――摂津樹(26)海軍中尉――

 本作品の主人公。
所属は舞鶴鎮守府の陸戦隊であり、銀座事件以降の特地派遣部隊で精鋭で選ばれた陸戦隊に参加している。

元は戦闘機パイロット志望であったが、大村海軍航空隊で爆撃機の教官と戦闘機無用論で争い(樹は戦闘機無用論を反対)、それを切っ掛けにパイロットから何故か海軍陸戦隊へと回された。

一説には当時の教官が恨みであらゆるところに根回しをした結果とか言われているが真意は定かではない。特地派遣陸戦隊の第三小隊長をしていたが第三偵察隊への救援後、特地の陸軍と海軍を仲良くさせるため(特地で争わないために)に部下と共に陸軍の第三偵察隊副隊長へ昇進した。

海軍の人間なため、上官には殿をつけない。英語も少し話せるが今のところ使い道はない。

所有武器 ベ式機関短銃、九五式軍刀、コルトM1903。

服装 褐青色と称する緑色の陸戦隊用被服。




――伊丹耀史(33)陸軍少佐――

原作での類似主人公?名前は変えてます。

第三偵察隊隊長である。本人は軍自体にはあまり興味がなかったが何となく受けた陸軍士官学校の受験に何と合格してしまう。

成績は後ろに近いが、野戦演習をすれば相手の死角をついたりして一部の教官には好評価であったが大半の教官からは胡散臭そうな目で見られていた。

卒業後は部隊を転々としていたが、支那事変の発端となる盧溝橋事件に参加していてその後は戦線を転々としてノモンハンにもいた。

そして銀座事件でたまたま東京にいて民衆を救助して特地派遣部隊に参加した。

幼馴染みに仕立て屋の娘である梨紗がいる。たまに手紙のやり取りをしているので仲はいいみたいであるが伊丹自身はそこまで詳しくは語らない。

 ヨーロッパの文化や小説を読んだりしてヨーロッパ通でもある。

所有武器 九五式軍刀、コルトM1903、ベ式機関短銃(自衛用として海軍――樹を通して――から借りている)





 後付けのようですみませんが、偵察隊の規模を書きました。ネタバレあり。

初期 偵察隊(歩兵一個分隊)

隊長は主に大尉等であり、現地人との接触で位が高い人間と交渉する可能性があるので尉官クラスを隊長にしている。

後期 偵察隊

歩兵一個小隊(二個分隊、ただし第三偵察隊は陸戦隊も含めて三個分隊)

歩兵砲小隊(歩兵砲一門)

砲兵小隊(四一式山砲一門)

移動は遠距離を考慮して機械化されて九四式六輪自動貨車で移動する。整備のために一個組の整備兵が偵察隊に組み込まれている。







 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第六話

 
前書き
ハルバートを持つ死神が登場です。
盗賊に犯される母娘を救ってみました。 

 



 伊丹大尉の第三偵察隊が駐屯地を出て二日後、第三偵察隊から緊急連絡があった。

「ドラゴン……龍が目的地の森を焼いているだと?(龍って火を吐いたか?)」

 檜垣中佐は報告を聞いて唸った。

「(……異世界だから覚悟していたが……まさか龍が出るとはな……)……取りあえず応援を送るか。伊丹が何をするか分からんからな。それに報告だとエルフを保護しているし、無駄に死なせるわけにはいかんな」

 檜垣中佐は溜め息を吐いて人選をする。ちなみに第三偵察隊は炎龍が破壊した村で生き残りであるエルフの女の子を保護していた。

「待てよ……確か陸戦隊の摂津中尉はヒルデガルド王女の面倒を見ていたな。道案内をしてくれるかもしれんな。太田大佐に具申してみるか」

 檜垣中佐はそう呟き、伝令を呼んだ。




「何か伊丹少佐に予言されたみたいで怖いなおい……」

 樹はそう呟いて九四式六輪自動貨車に乗り込む。

「まぁ特地を行けるんですからいいじゃないですか」

「そうですよ」

 水野と片瀬はそう頷く。

「こんな物が動くのか?」

 道案内人をする事になったヒルデガルドが九四式六輪自動貨車を見ながら呟いた。

「……いいか。んじゃあ出発や」

「了解っす」

 片瀬が運転する九四式六輪自動貨車は走り出した。

「オォッ!? 動いたッ!! 動いたぞッ!!」

 ヒルデガルドは子どものように目を輝かせてはしゃいでいる。

「ちょっと黙っとれヒルデガルド。それで水野、応援は他にはいるのか?」

「外の門で準備しているようです」

「それならいいか。流石に俺らだけで行くのは死にに行くようなものだ」

 樹はそう言った。

「それで中尉、自分らが目指すのはコダ村でいいんですよね?」

 運転している片瀬が樹に聞いてきた。

「あぁ、伊丹大尉の第三偵察隊はコダ村を経由して目的地の森へ向かったらしいからな。俺達はコダ村付近まで行って第三偵察隊と合流予定や」

 樹は片瀬にそう説明する。

「それにしてもドラゴンだろ? やはり装甲は硬いんすかね?」

「可能性は十分あるやろな」

 片瀬の指摘に樹はそう言った。

「いざとなったら肉薄してアンパンでやらないとあかんかもな」

「……それは嫌ですよ」

 摂津の言葉に片瀬はそう言った。ちなみにアンパンとは九九式破甲爆雷の事である。

「それじゃぁ出発するか」

 集合した防御陣地の門には九四式六輪自動貨車が三台いた。その三台には陸軍の九八式二十ミリ高射機関砲を荷台に設置したのが二台、四一式山砲を載せたのが一台いた。

「四一式はドラゴン……じゃなくて龍対策ですかね」

「だろうな」

「……暗くなりますね」

 空は既に闇に包まれようとしていた。

「連絡が来るのが遅かったからな」

 樹は知らなかった。

 あの死神と出会うのが夜中だという事を……。


「それと私はヒルダで構わないぞ。国の皆もそう言ってたからな」

「そうか、ならヒルダと呼ぶからな」


 コダ村の住人が集団で逃げ出す一日前に、三人の家族がコダ村から逃げ出していた。

 三人だけでは危険だとコダ村の村長達は言っていたが、夫はそれを聞かずに妻と娘を連れて一足早くにコダ村から逃げ出した。

 しかしそれは間違った判断であり逃げ出してから二日目の夜に十数人の盗賊に襲われた。

 夫は首をはねられて即死して、妻と娘は今まさに盗賊達に奪われようとしていた。

「お頭ぁ。これは中々の上物ですぜ」

 したっぱの盗賊が捕らえた妻と娘を見て盗賊のお頭に言う。

「まぁ待てお前ら。最初は俺からだぜ」

 お頭は震える妻と娘を見ながらニヤリと笑う。

「母さん……!!」

「エミリア……」

 妻と娘は身体を抱きしめる。

ブオォォォォォンッ!!

「あん?」

 その時、何かの音が聞こえた。

「な、何だありゃッ!?」

 盗賊のしたっぱが声をあげた。南西の方向から光が近づいてきたのである。

「お、落ち着け野郎どもッ!!」

 ざわめくしたっぱ達に盗賊のお頭は落ち着かせようとするが光はドンドンと近づき、盗賊達を引いたのである。

「ぐぎゃッ!!」

「グアッ!?」

 光は物体であった。

「な、何だこりゃッ!!」

 盗賊のお頭がそう叫んだ時、物体の扉が開きタンと盗賊のお頭の頭を撃ち抜いたのである。

「水野ッ!! 凪払えッ!!」

「了解ですッ!!」

 樹が叫び、荷台にいた水野兵曹長が九九式軽機関銃の引き金を引いて盗賊を掃射していく。九九式軽機関銃の七.七ミリ弾は盗賊達の鎧を貫き、次々と倒れていく。

「おのれ盗賊どもめッ!! か弱き女を犯そうとしやがってッ!!」

 ヒルデガルド――ヒルダが剣を抜いて逃げようとする盗賊の後ろから斬りつけている。

 摂津中尉が盗賊に強襲してから五分が経つと、盗賊達は全て地面に倒れていた。

「……作戦終了やな……」

 樹は目を凝らして辺りを見ていたが作戦終了を告げた。

 樹は目を凝らして辺りを見ていたが作戦終了を告げた。

「大丈夫ですかッ!?」

 車上にいた水野兵曹長が荷台から降りて妻と娘に問う。

「は、はい」

 妻は物体から人間が降りてきた事に驚きつつも頷いた。

「中尉、もう一人は……」

「……あかん。もう亡くなっている」

 倒れていた夫の様子を見ていた樹は首を横に振った。

「あなたッ!!」

「父さんッ!!」

 亡くなった夫に妻と娘が抱きつき、涙を流す。樹達は気まずい雰囲気にどうしようとなかった。

 だが水野兵曹長は鉄帽で目元を隠して二人に近づいた。

「……奥さん、旦那さんの墓を作りましょう」

「……はい」

 涙を流して妻は水野兵曹長の言葉に頷いて夫から離れた。娘はまだしがみついていたが妻が「離れなさい」と言うと渋々と頷いて夫から離れた。

「穴掘るぞ。片瀬、シャベル持ってこい」

 樹は運転席にいた片瀬に指示を出す。

 そして樹達は亡くなった夫のために墓を作ったのである。

「黙祷……」

 樹の言葉に水野兵曹長達は手を合わせる。妻と娘は片膝を地面につけて夫の冥福を祈った。

「私もぉ祈っていいかしらぁ?」

 その時、樹の後ろから声がした。樹が振り返るとそこには黒いゴスロリの服を着た少女がいた。右手には少女には重すぎるハルバートを持っている。

「ロ、ロゥリィ・マーキュリーッ!!」

 少女を見たヒルダが叫んだのであった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第七話






「ロ、ロゥリィ・マーキュリーッ!!」

「し、知っている人かヒルダ?」

「知っているとも。ロゥリィ・マーキュリーは死と断罪の神エムロイに仕える亜神だ。亜神とは人の肉体を持ったまま、神としての力を得た存在の事だ」

 ヒルダが驚いたのを聞く樹でヒルダは驚きながらも説明をする。

「私も急いだんだけどぉ、間に合わないかと思ったわぁ。でもぉ……」

 ロゥリィはそう言って樹に視線を向けた。

「ん?」

 ロゥリィが視線を向けた事に完全に予想外だったらしい樹が首を傾げる。

「貴方達のおかげねぇ」

 ロゥリィはそう言った。

「摂津中尉、どうしますか?」

 水野が聞いてきた。

「どうするって……」

 樹は保護した妻と娘、そしてロゥリィを見る。

「……自分達はこれからコダ村から避難してくる難民と合流しますが一緒に行きますか?」

「はい。どのみちそれしか無いと思いますので」

 樹の言葉に妻は頷いた。

「いいわぁ。貴方達に少し興味があるしぃ」

 ロゥリィは樹の服装を見ながらそう言った。

「それじゃあ行くか」

 樹はそう言って九四式六輪自動貨車に乗り込む。

「奥さんと娘さんは荷台に乗せた方が良いですね」

「あぁ。少々狭いけど我慢するしか無いよな」

 水野兵曹長の言葉に樹は頷く。

「もう少し多めで来ればよかったなぁ」

 片瀬一等兵曹が呟く。

「仕方ない」

 樹は苦笑する。水野兵曹長は妻と娘を後ろに乗せている。

 二人は水野兵曹長に「これは動くの?」と訊ねていて水野兵曹長も「動きます」と教えている。

「ロゥリィさんの武器は立てとくしかないな」

 ロゥリィのハルバートは荷台から突き出すように固定された。

「ありがとうぉ」

「んでロゥリィさんの席は……」

 樹は車内を見る。運転席になどもってのほかである。

「いい場所があるじゃなぁい」

「え? おわッ!?」

 ロゥリィは何か思い付いたように言って樹を助手席に座らせて、ロゥリィ自身は樹の膝にちょこんと座ったのである。

「さ、流石にそれは教育上の問題が……(ロゥリィ……)」

 樹は内心喜んでいたが自制心を動かして席を半分ずつ座らせるのであった。




「失礼します。司令官殿、内地から電文です」

「御苦労だ柳田大尉」

 今村中将は柳田大尉から電文を受け取って文面を見た。

「内地からは何と?」

「ヒルデガルド王女の事だ。王女には時期を見てから内地に来て陛下に謁見してもらう」

 ヒルダは小国ながらでも王女であるので、内地にどうするか電文を送ったら王女であるので陛下と謁見する事になった。

「その後は王女の意思に委ねるそうだ。国に戻るか、日本……特地で暮らすか」

 正直に言えば日本で暮らせば各国のスパイがヒルダを誘拐しようとするなど企む事は明白である。なので政府は日本に保護を求めるなら出来るだけ特地で暮らしてと思ったのだ。

「まぁそれは彼女の判断だろう。我々は帝国とは交渉はするが決裂すれば侵攻するのは決定している。準備は怠るな」

「分かりました」

 今村中将はそう言ったのであった。




「中尉、人だかりが見えます。恐らくはコダ村からの避難民かと思います」

 夜が開けてから朝食をとって出発すると前方から人の集団が見えてきたらしい。

「伊丹大尉達は確認出来るか?」

 樹は鉄帽をかぶり直す。実は少し仮眠していた。

「確認しました。避難民の前方に九四式六輪自動貨車がトロトロとですが走っています」

「……確かにな」

 樹も確認する。多分、あれには伊丹少佐も乗っているのだろう。

「水野、手を振ってろ」

「了解です」

 水野が荷台で手を振る。

「向こうも気付いたみたいです」

「やれやれ……一先ずは合流成功やな」

 樹はそう呟いた。



「伊丹大尉、摂津以下応援部隊として合流しました」

「おぅありがとう……九四式六輪自動貨車がもう数台なら嬉しいんだが……」

「仕方ないですよ伊丹大尉」

 ブツブツと文句を言う伊丹に樹はそう言った。

「ま、それはそうと隊列に加わってくれ」

「了解です」

 そして樹達も隊列に加わり、コダ村から避難する住民の手伝いにはいった。

「……暑いですね中尉」

「文句を言うな水野」

 つい先日に雨が降ったので舗装していない道(当たり前だ)はぬかるんでいる。

 九四式六輪自動貨車なら多分大丈夫だが、馬で引く馬車だと泥濘に嵌まりやすい。

 今も第三偵察隊が泥濘に嵌まった馬車を押して泥濘から脱出させている。

「エルザさん達の体調は?」

「今のところは問題ないです」

 樹達が助けた妻と娘――エルザとエミリアは後ろの荷台で休憩している。

「水野、荷台から後ろも偵察しておけ。もしかするともしかするもな」

「……怖い事言わないで下さいよ中尉」

「可能性は高い。今の状態は炎龍というやつか、それから見たら絶好の獲物だからな」

 樹は水野にそう説明する。水野は顔を青ざめながら荷台から顔を出して後方を警戒する。

 それから二時間が経過した。

「中尉、ドラゴンのドの字も出ないですよ」

「馬鹿やろう。そこは龍だと言っただろ」

 水野は安心するように言う。なんだかんだ水野も実は恐かったりしている。

「……杞憂だといいけどな」

 樹はそう呟く。だが樹自身は何か嫌な予感がしていたのだ。

 そしてそれは直ぐに起こった。

「ちゅ、中尉ッ!!」

「どうした?」

 樹が振り返ると水野は顔を青ざめていた。最初は不審に思った樹だったが、今さっき話していた事を思い出した。

「出たのかッ!?」

「は、はいッ!! 後方から龍が接近中ですッ!!」

 樹が後ろを振り返る。後方の空から大きな物体があった。

「伊丹大尉ッ!! 後方から龍が接近してきますッ!! 合戦準備願いますッ!!」

 樹は無線で伊丹に叫ぶ。

『分かったッ!! 全員戦闘用意ッ!!』

 伊丹少佐の言葉に第三偵察隊員達は戦闘準備をする。樹もMP28短機関銃(ベ式機関短銃)

『攻撃開始ッ!!』

 九四式六輪自動貨車は一斉に方向を変えて龍――炎龍の元へと向かう。

 コダ村の避難民が炎龍から逃げていく。しかし炎龍が降り立った場所にいたコダ村の避難民は炎龍に捕まり、捕食されていく。

「急げ急げェッ!!」

「分かってますよッ!!」

 樹の叫びに片瀬は叫びながらアクセルを踏む。

「射撃開始ッ!!」

 隣の自動貨車に乗る伊丹大尉の叫びと共に樹はMP28短機関銃の引き金を引く。

 MP28短機関銃の9mmパラベラム弾が大量に発射されて炎龍の身体に当たるが厚い鱗に阻まれて貫く事が出来ない。

「二十ミリで牽制しろッ!! 四一式は準備て奴に砲弾を叩き込めッ!!」

『了解ッ!!』

 伊丹の命令に他の九四式六輪自動貨車の荷台に乗る九八式二十ミリ高射機関砲が発射される。その間に四一式山砲の砲兵分隊が急ぎ九五式破甲榴弾の準備をする。

 しかしこの九八式二十ミリ高射機関砲であっても炎龍の厚い鱗を貫く事はなかった。

「全く効いてないな……」

「ヤバいですね~」

 樹の呟きに運転している片瀬はそう言った。

「伊丹大尉ッ!! 目を狙って下さいッ!! どんな強敵でも目は弱いはずですッ!!」

 樹はただ当てるだけじゃない事を言う。

「分かったッ!! 目を狙えッ!!」

 伊丹の叫びに九九式短小銃、九九式軽機関銃、九八式二十ミリ高射機関砲が命令を実行する。

 弾丸が目の付近に命中している炎龍は流石に動きを止めた。

「山砲発射用意ッ!! ロゥリィさん、貴女の武器でドラゴンを足止めしてくれませんか?」

「了解ッ!!」

「いいよぉ」

 ロゥリィが助手席から軽快な動きをして荷台に向かい置いていたハルバートを持つ。そしてを山砲隊は炎龍に照準をする。

「片瀬止めろッ!! ロゥリィさん、頼む。山砲隊撃ェッ!!」

「了解ッ!!」

 山砲隊の砲撃に気付いた炎龍は逃げようと翼を広げて後ずさろうとするが突然脚をもつれさせて倒れ込む。

 炎龍の足下の地面にハルバートが突き刺さっていた。勿論ロゥリィが投げたからだ。

 四一式山砲が発射した九五式破甲榴弾が倒れ込んだ炎龍の負傷していた左目に突き刺さって爆発した。





 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第八話






『ーーーッ!!!』

 四一式山砲の九五式破甲榴弾が見えなくなっていた左目に突き刺さって爆発した途端、炎龍が苦痛の叫びをする。

「次弾装填急げェッ!!」

「了解ッ!!」

 樹が叫び、砲兵隊は急ぎ次弾の九五式破甲榴弾を装填する。

 しかし山砲が発射される前に炎龍は第三偵察隊を睨みながら上昇を始めて戦場を離脱したのである。

「……終わったのか?」

「……終わったんだろ」

 今まで出番が無かったヒルダの言葉に樹はそう呟いた。

 その後、炎龍を撃退する事に成功した第三偵察隊と応援隊はコダ村の犠牲者を近くの丘で葬り、犠牲者に黙祷を捧げた。

「伊丹大尉。村長から聞きましたが生存者の大半は近隣の身内の所へ行くか何処かの街か村に避難するそうです」

 ヒルダと共に聞いてきた樹は伊丹に報告する。

「でも街ったって知り合いとかいないんでしょ? これからの生活は大丈夫かなぁ」

 報告を聞いた伊丹はそう呟いた。

「残りは身内が亡くなった子どもとお年寄りに怪我人……か」

「それと何か違う理由で残ったのが数人で合わせて二七人です。どうしますか?」

「ん~、村長に聞いてみようか」

 伊丹はそう言って、樹とヒルダを連れて村長の所へと向かうが村長から返ってきた言葉は非情だった。

「へ? 神に委ねる?」

「薄情と思うかも知れんが儂らも自分らの世話で精一杯なんじゃ。理解してくれ、救ってくれたことにはとても感謝している」

 ヒルダが片言ながら訳した言葉に伊丹と樹はどうにも言えなかった。

 そしてコダ村からの避難民は二手に分かれて旅立っていった。

「さて、伊丹大尉。あの人達はどうしますか?」

 樹は集まっている残りの避難民をどうするのか伊丹に聞いた。

「……ま、いっか。だぁ~いじょ~ぶ、ま~かせてッ!!」

 伊丹は避難民達にそう言って笑うと避難民達も喜んだ。

「檜垣中佐への対応は自分も同行しますよ」

「お、悪いね摂津」

 樹の言葉に伊丹は喜ぶ。

「よし、全員乗車ッ!! アルヌスに帰投するッ!!」

『了解ッ!!』

 伊丹の言葉に第三偵察隊員達は敬礼をした。

「伊丹大尉、ついでにあの龍が落としていった鱗とか持って帰りましょうや。何かの役に立つかもしれませんし」

「それもそうだな。勝本、古田。龍が落とした鱗を皆で拾ってくれ」

 兵士達は炎龍が落とした鱗等を拾い、準備が完了してからアルヌスへと帰還するのであった。

「良かったんですかエルザさん? 此方に残って?」

 アルヌスへ帰投中、樹は後ろの荷台に座っているエルザに聞いた。

「はい。早く街か他の村に逃げたかっただけなので。それに貴方達といる方が安全だと思うので……」

「ハハハ、素直ですね」

 エルザの言葉に水野が笑う。

「そんなミズノさんったら……」

 水野の言葉にエルザは顔を赤く染める。

「……なぁ片瀬、あれはあれか?」

「どうですかねぇ」

 樹の言葉に運転している片瀬は頬を引きつかせる。

「あれって何かしらぁ?」

 隣にいたロゥリィが樹に聞いた。

「いや何でもないから……」

 流石にロゥリィには教える事はしない樹だった。

「しかしあの武器は凄いものだったな……」

 ヒルダは隣の四一式山砲を載せた九四式六輪自動貨車を見ながら呟いた。

「次にあの龍が出たら安全面を考慮して三八式野砲や九七式中戦車を出さないと無理だな」

 樹はそう呟いた。そして翌日、第三偵察隊と応援隊はアルヌスへと到着した。

「きっきっ君は……だっ誰が連れて来ていいと言ったッ!?」

「あれ? 連れて来ちゃ不味かったですか檜垣中佐?」

 檜垣中佐の叫びに伊丹はそう返事をした。

「~~~~~」

 檜垣中佐は顔を手で覆って溜め息を吐いた。

「失礼ですが檜垣中佐、これは良い機会なのは間違いありません」

「何?」

 横から樹が伊丹の援護射撃をする。

「今まで此方の人間は良く分からなかったので避難民を受け入れると釈明して保護すればいいと思います」

「それは分かっている。装備を解いて待っていたまえ。今村司令官殿に報告してくる」

 檜垣中佐は再び溜め息を吐いたのであった。十分後、檜垣三佐は戻り報告した。

「というわけで人道上の観点から避難民の保護を許可する。伊丹大尉と摂津中尉は避難民の保護及び観察を行うように」

 檜垣中佐は怒りたい気持ちを押さえてそう命令する。

「それと、摂津中尉、水野兵曹長、片瀬一等兵曹及び数名の陸戦隊隊員は第三偵察隊に編入する。摂津中尉は第三偵察隊の副隊長とする。これには海軍側も了承している」

「(要は自分らで面倒を見ろと……)分かりました」

 伊丹と樹は檜垣中佐に敬礼をして退出した。

「書類は伊丹大尉にあげますね」

「ちょ、おまッ!?」

 樹の言葉に伊丹は驚く。

「なんせ伊丹大尉は隊長ですから」

「ぐ……」

 樹の言葉に伊丹はぐうの音も出ない。その時、喫煙所にいた柳田大尉が声をかけてきた。

「お前さんら……わざとだろ?」

「何がです?」

「とぼけるなって。定時連絡を欠かさなかったお前が龍撃退後に突然の通信不良……避難民を放り出せとでも言われると思ったんだろう?」

 柳田はニヤリと笑う。

「いや異世界だし機械も故障しやすかったんじゃないですか?」

「ふん、韜晦しやがって。参謀の身にもなってみろ」

「いずれ精神的にお返ししますよ」

「大いに足りんね。ちょっと河岸かえようか。摂津も来い」

 そして柳田は二人を連れ出して屋上へと向かった。

「いいか伊丹に摂津。この世界――特地は宝の山だ」

 柳田はそう言って再び煙草に火を付ける。

「汚れのない手つかずの自然、そして何より世界経済をひっくり返しかねない膨大な地下資源、文明格差は中世と現代並、そんな世界との唯一の接点が日本に開いた。……なぁ伊丹、摂津。三宅坂や海軍省の連中は知りたがっているんだ。アメリカは兎も角、中露……世界の半分を敵に回す価値が特地(此処)にあるのかをな……」

「その価値があったら?」

「分かるだろ? 世界では持っている者が勝者だ」

「……柳田さん、あんたが愛国者だってのは分かった。俺も軍人だから全力は尽くす。だけどピンと来ないんだよ。連れてきた子どもと世界情勢の関わりが」

 伊丹は柳田にそう言った。

「お前らは連中と信頼関係を築いてきた」

「ハ?」

 柳田の言葉に伊丹は驚く。

「まさか子どもに聞けっての? 金銀財宝がどこにあるかって?」

「知ってる人間を探して情報を得られるだろう? 特に摂津、お前はヒルデガルドさんと仲良く話している」

「コミュニケーションの一環ですよ」

「まぁあんな出逢いじゃあな」

 柳田と伊丹は笑う。樹はまたかと思う。

「伊丹、あんたには近日中に大幅な自由行動が許可される。勿論それはお前の第三偵察隊だ。行動するのはいい、だがな最終目的は一つだ、それを覚えておけよ」

「たまらんね。柳田さん、あんたはセコいよ」

 伊丹はそう反論するが柳田は笑う。

「そういう仕事だ。今までのんびりしてた分は働いてもらうぜ」

 柳田はそう言って屋上を後にした。

「……ま、今は避難民の飯と寝床ですな」

「そうだねぇ」

 伊丹はそう呟いた。




 

 

第九話






 大日本帝国の特地派遣部隊は自分らの場所を作りながらコダ村からの避難民への仮設住宅を建築していた。

 仮設住宅が完成するそれまではテント生活ではあるが仕方ない。

 アメリカから提供されたブルドーザー等(元はフィリピンで使用されていたが門出現後に輸出第一次陣として早くに日本に到着した)の重機が唸りをあげて地面を掘り、切り倒した木の根本を取る。

 そうした中、陸海の会議室で樹はヒルダに日本語を教えていた。一応、樹はあのヒルダによるアッパーの衝撃でこの世界の人間とは話せるようにはなっていたが、一応は通訳がいた方が何かと楽なので樹はヒルダに頼み込んだのだ。

 ヒルダも向こうの世界を知る一環だし、向こうの政治も気になるので文句はなかった。

「これは?」

 樹はヒルダのノートに『あお』を書き込む。

「あお」

「よし、なら三文字だ。これは?」

 樹はそう言ってノートに『にほん』と書き込む。

「にほん」

「よしよし。平仮名は大分出来てきたなそろそろ片仮名に入るか」

 樹はそう言って小学一年生が使う片仮名の文字を書く。そしてそれを隣からずっとロゥリィが見ていた。

「楽しいか?」

「楽しいわねぇ。私の知らない文字だしぃ」

 ロゥリィはそう言って平仮名の紙を見ている。自分が知らない文字なのか幾分かは興味津々のようである。

「(美女と美少女に勉強を教えてるとか、夢に近いよなぁ)」

 樹はそう思い、ヒルダといつの間にか参加しているロゥリィに日本語を教えるのであった。

 数日後、仮設住宅は完成して避難民達はテントから仮設住宅に移り住む。そして翌日、竜の鱗を取りたいと伊丹に言ってきた。

「なんとッ!? 好きに取っていいとなレレイッ!?」

「そう言ってる」

 レレイの言葉にカトーは驚く。

「どうせ射撃訓練の的にしてるだけだし、自活に役立つならいくらでも持ってっちゃって」

 伊丹のあっけらかんとした言葉に流石のカトーも唖然とするしかなかった。

 しかし許可が降りたのもまた事実であり、避難民達は喜びながら竜の鱗を採取していく。

 その採取する横を訓練中の九七式中戦車数両が通り過ぎていった。




 それから二日の時が過ぎた。

「……おほん」

 坊主頭の大尉が新聞を読みながら咳払いをする。

「ぐぅ……ぐぅ……」

 伊丹大尉は自分の机で寝ていた。何もないので寝ているのだ。これが内地にいれば本屋に行って外国の本とかを立ち読みしていたりする。

「伊丹大尉殿」

 部下の黒河軍曹が伊丹を起こそうとするが起きる気配はない。黒河軍曹は仕方なく背中を思いっきり叩いた。

「ぬおッ!?」

「起きましたか?」

「黒ぉ~、いきなりは酷いぞ」

「栗山よりマシです」

「……納得した。で何よ?」

 伊丹は納得しつつ訪問者の黒川軍曹に訊ねた。ちなみに栗山とは第三偵察隊に所属する栗山軍曹の事でノモンハン事件の戦闘を経験している猛者でもあった。

「保護したテュカの事です」

「ん?」

「様子がおかしいんです」

「彼女の様子が?」

「はい。食事、衣類、居室は全て二人分を求めてきます。ですが食事は一人分だけ食べてもう一人分は手をつけないんです。それと衣類は男物を請求してきます」

 黒河の言葉に伊丹はお茶が入った瓶に口を付けたまま暫くは動かなかった。

「理由……聞いたみた?」

 伊丹はゆっくりと瓶を机に置いた。

「レレイちゃんやヒルダさんを通じて尋ねてみたのですが、「分からない」「食事時に」「いない」そうです。レレイちゃんもヒルダさんもまだ日本語が上手じゃないので……」

「……幽霊の彼氏を飼っているとか?」

 気分を紛らすために伊丹はそんな事を言うが黒河の表情は冴えない。

「それならばいいのですが……或いは亡くなった家族を一定期間生きているかのように扱うという葬送の週刊かもしれません」

「カトー先生には?」

「先生もよく分からないそうです。彼女はエルフという種族でも希少な部類らしく……」

「やっぱ妖精種のエルフか~」

 黒河の言葉に伊丹はそう言った。

「それか家族が死んだ事を無意識のうちに認めてないかもな」

 そこへ樹が口を挟む。

「恐らくテュカちゃんはあのドラゴンに家族を食われたんやろ。そのせいでまだ家族は生きていると思っているんやろ」

 樹はそう言ってお茶を飲む。

「……ま、よく話し合ってみるしかないんじゃない?」

 少し重くなかった空気を変えるために伊丹はそう言った。

「はい……けどあまり打ち解けてくれなくて……」

「え? 人気者の黒河(クロ)ちゃんに?」

 黒河の言葉に伊丹は驚く。ちなみに黒河軍曹はかなりの美形であり、避難民の女性達から人気があった。

「それは困ったな。栗山(クリ)は拳で語り合う男だしな~」

「アッハッハッハッ!!」

 伊丹の言葉に樹は思わず笑った。

「隊長、そろそろ時間です」

「え? もう?」

 その時、桑原曹長が入ってきた。

「まぁ今から偵察ついでに鱗を売りに行くし、彼女らを連れて街まで行く事だし時間があったら俺も話してみるよ」

「ありがとうございます大尉殿」

 伊丹の言葉に黒河は頭を下げた。







 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十話






 二月二十日、聯合艦隊司令長官の山本五十六大将は海軍省にいた。

「嶋田、何かと苦労をかけるな」

「そう思うなら少しは自重してくれ。一一〇号艦の建造中止と解体で大砲屋からは文句言われているんだ」

 山本の言葉に海軍大臣である嶋田大将はそう言った。その言葉に山本は苦笑した。

「大砲屋もまだ就役していないのに戦力と考えているのか?」

「あいつらは陸軍が活躍するのが憎いのだよ。特地での戦闘の殆どは陸軍がしているからな」

「そのために海軍も陸戦隊と工兵隊、航空隊を送っているからな。それにしてもアメリカが此処まで日本に近づくとは思わなかった」

「アメリカの目的はやはり……」

「特地だろうな」

 山本はそう断言した。嶋田大臣も頷いている。

「幸いにも北部仏印と大陸からは撤退を始めている。日米関係は取りあえず円満と行くかもしれんが……」

「崩れるのは直ぐかもしれんな」

「……そのために艦艇計画に補助艦艇の増産を主張したのか?」

「その通りだ」

 門出現後、山本は艦隊の編成を改めて軽巡や駆逐艦の建造を訴えた。

「戦になれば一番に消耗するのは航空パイロットと駆逐艦だ」

「パイロットは今、全国で育成体制を整えているが、配備するには時間が掛かる」

「軽巡は五千五百トン型が優秀過ぎた。新型を作らねば水雷屋は黙ってない」

「それに空母もだろう?」

「まぁな。だが今はまだアメリカとは戦をしていない。小さいのから生産していくのが妥当だろう。それにブルドーザーの件もある」

「あれは小松が手を上げて試作している。アメリカから百台くれた。特地には二十台送って残りは陸海で半分ずつにした」

「航空基地の増設や防御陣地の構築には役に立つ」

「後はだ……」

「「特地こそが日本の生命線なり」」

 二人はハマりあって言って思わず笑いあうのであった。

 第三偵察隊は戦力を補充していた。兵士には九九式短小銃であり(樹ら海軍はベ式機関短銃)、九九式軽機関銃は六丁、九八式二十ミリ高射機関砲一丁、九二式歩兵砲二門、四一式山砲一門に増えていた。

 これは第三偵察隊だけではなく何処の偵察隊も共通していた。今村司令官は先日のドラゴン対策としていたのだ。

 そのため、移動はほぼ九四式六輪自動貨車であり派遣司令部は内地に対して九四式六輪自動貨車の大量生産を具申していた。

 また、滑走路や格納庫が漸く完成して航空機による偵察も始まろうとしていた。これも全てアメリカから提供された重機で早めに作り終えたからだ。

 航空部隊も九七式司令部偵察機を十六機を特地に送り込んで滑走路が完成する以前から草原をある程度整備して臨時の滑走路を作って偵察飛行に従事していた。

 そしてアルヌスから二百キロ圏内でイタリカの街を発見したのである。今村はアルヌスの周辺は元よりイタリカの街までの道の地図を精巧に作らせて侵攻計画の第一作戦を策定するのであった。

「門を出たら戦闘地域って事になってるから各員それなりに気を張ってくれ」

 伊丹はそう言って兵士達は九四式六輪自動貨車に乗り込む。

「さて行くか」

 そして準備を整えた第三偵察隊は仮設住宅の場所に向かう。

「御願いします」

 仮設住宅の場所に到着すると、避難民が採取した翼竜の鱗が入った袋を九四式六輪自動貨車に載せる。

 そして第三偵察隊の同乗者としてテュカ、レレイ、ロゥリィの三人が乗り込む。しかしテュカとレレイが伊丹の乗る自動貨車に乗るのに対してロゥリィは樹が乗り込む自動貨車に乗ったのである。

「よかったな摂津」

 伊丹がニヤニヤしながらそう言ってきたので樹はそれを無視して自動貨車に乗り込む。

「中尉、イタリカって何処ですかね?」

「そういや知らんな。ま、後ろからついていけば分かるだろ」

 片瀬の質問に樹はそう答えるのであり、第三偵察隊は同乗者達を乗せて出発するのだった。




「……む?」

 その時、自動貨車の荷台から前方に顔を出して双眼鏡でイタリカの方向を見ていたヒルダが声をあげた。

「どうしたヒルダ?」

「イタリカの方向に黒い煙が出ている。あれは……火事かもしれないな」

 ヒルダは樹にそう報告する。

『全車に告ぐ、周辺と対空警戒だ。慎重に接近する』

 その時、無線から伊丹の指令が届いた。

「片瀬、前と速度を合わせろ」

「了解です」

 樹が乗る自動貨車は減速してゆっくりと走行する。後ろの席にいたロゥリィがにょきっと片瀬と樹の間から顔を出す。

「どうしたロゥリィ?」

「血の匂い♪」

 ロゥリィは嬉しそうに言う。ロゥリィの喜び顔に樹は若干の溜め息を吐いた。

「……嫌な予感がするな。ヒルダ、イタリカがどんな街か知ってるか?」

 樹はそう思いつつヒルダに聞いた。

「あぁ、イタリカはフォルマル伯爵領でテッサリア街道とアッピア街道の交点に発展した交易都市だ。確か今の当主はミュイとかいう少女だ。前当主が急死して十一歳にして当主になっている」

 ヒルダはそう説明する。水野はふぇ~と驚いている。

「十一歳で当主か……俺ら言えば小学生なのにな……」

「仕方ない、此処は日本じゃなくて特地だからな」

 樹はそう言った。第三偵察隊は慎重にゆっくりとイタリカへ走行していた。






 
 

 
後書き
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第十一話





「……これはどうするんですかね?」

「俺に聞くな片瀬」

 イタリカに到着した第三偵察隊を待っていたのは石弓や弩、弓矢を構えたイタリカ市民だった。更に城壁の上には機械式の連弩も設置されている。

「……熱湯は勘弁してほしいな」

 ヒルダはそう呟く。

「何者かッ!! 敵でないなら姿を見せろッ!!」

 城壁の上から兵士が叫んでいる。

『俺とレレイ、テュカで行く』

 無線で伊丹が知らせる。

「隊長、自分とロゥリィも行かせて下さい」

 樹はヒルダもと考えたが、ロゥリィは亜神だと言っていたのでロゥリィにしたのだ。

『……分かった。それ以外は全員待機だ』

「行くぞロゥリィ」

「分かったわぁ」

 樹とロゥリィが自動貨車から降りて伊丹達と共に門の横にある通用口へと向かう。

「よし、俺が……」

 伊丹が意を決して扉を叩くと、中からガタガタと音がして扉を開けようとするのだと樹は思った。

「よく来てくれたッ!!」

 勢いよく開かれた扉は伊丹を巻き込み、気絶させた。

 レレイとテュカは冷えた視線で扉を開けた女性――ピニャ・コ・ラーダを見つめた。

「……もしかして妾? 妾?」

 ピニャの焦った言葉にレレイ達は思わず頷き、樹はこっそり溜め息を吐いて倒れた伊丹に向かうが明らかに気絶している。

「ぁ~駄目だこりゃ。完璧に気絶してるわ」

 樹はそう呟きピニャを見つめた。

「そこの御嬢さん。一応加害者やし、ちょっと手伝ってくれ」

 樹の言葉にピニャは頷いて、レレイ達は城内に入った。

「貴女どういうつもりッ!?」

 テュカが水筒から水を伊丹にかける。

「ん……」

 程なくして伊丹が目を覚まして起き上がる。

「大丈夫すか隊長?」

「何とかな。悪い、大丈夫だ」

 樹からの言葉に答える。

「で、誰が状況を説明してくれるのかな?」

『………』

 伊丹の言葉にイタリカの住民達は視線をピニャに向ける。

「妾……?」

「だろうなぁ」

 樹はピニャが上の奴だと思って小さく呟いた。



 場所は館へと移動してピニャはこれまでの状況を説明した。

「隊長、司令部に救援要請を送るべきでしょう。時間を要するなら航空部隊が適任です。海軍航空隊が待機しているので十分に攻撃出来ます」

 状況説明を聞いた樹はすぐさま伊丹に具申する。

「……そうだな、司令部にはそう要請しよう」

 この時、二人の脳内には上空から急降下爆撃をする九九式艦爆と九九式襲撃機と機銃掃射をする零戦や九六式艦上戦闘機が浮かんでいた。まぁ実際にそうなるが……。

「では……」

 ピニャが身を乗り出す。

「一時的に休戦としましょう。今はこのイタリカの市民を守るのが先決です」

 伊丹はピニャにそう言った。

「有りがたいッ!! それで貴官らに死守してもらいたい場所だが……」

 ピニャは嬉しそうに伊丹に指示を出す。そして死守する門は南門だった。南門は一度破られており修復は困難な状況だった。

 そこで敵も南門を攻めるだろうから城門と城壁での第一防衛線と内側の柵で防ぐ第二防衛線をとピニャは考えていた。

 明らかに城門が突破される事を前提に戦術を構築していた。

「ピニャ代表」

 そこへ樹が口を開いた。

「何だ?」

「もし、敵が南門からではなく他の門から来た場合は直ぐに伝令で我々に伝えて下さい。若しくは我々で移動の判断をします」

「南門から来るはずだが……」

「敵とてそれを読んでいる可能性はあります。戦には常識は通用しない」

 樹はピニャにそう言った。

「……分かった、此方からも伝令は送るが独自で動いても構わない」

 ピニャはそう判断をした。ピニャの言葉に樹は無言で頭を下げるのであった。



「せっかく姫様が思案した作戦を少し変更するなんて……」

 伊丹達が退出した後、ピニャの傍らにいたハミルトンが作戦を若干変更させた樹に対してそう批判した。

「……仕方なかろうハミルトン。彼等もイタリカの市民を助けてくれるのだ。あまり文句を言うな」

 ピニャはハミルトンの頭を冷静にさせる。

「ですが……」

「そうだ、ハミルトン」

 ピニャは思い付いたかのように手を叩いた。

「彼等にも食事を提供するから彼等の様子を見てきてくれ。本当に彼等は強いのかどうかをな」

「わ、私がですかッ!?」

 ピニャの要望にハミルトンは驚いた。

「なぁに、食事を渡してどんなのかを見るだけだ」

「はぁ……」

 ハミルトンは反論したかったが相手は姫であるので結局は首を縦に頷き、夕食用の食事をメイド数人と共に南門へと向かったのである。

「古田、軽機関銃は此処」

「東、小銃は此処」

 南門では伊丹が防衛のために陣地の構築をさせていた。

「ねぇ? 敵のはずの帝国にどうして味方しようとしているのかしらぁ?」

 作業を見ていたロゥリィが樹に聞いた。

「……街の住人を守るためや」

 樹の言葉にロゥリィは苦笑する。

「本気で言っているのぉ?」

「……そういう事になってる筈だが?」

「私はぁあの女は気に入らないわぁ。出ていってやろうかと思ったわよぉ」

「成る程な、どうりで機嫌が悪いと思った」

 樹はその時のロゥリィを思い出しつつ、樹は栗山から受け取った日章旗の手拭いを鉄帽に巻こうとする。

「手伝うわぁ」

「お、済まんな」

 樹は鉄帽を外して巻いてもらう。

「エムロイは戦いの神。人を殺める事を否定しないわぁ。でも、それだけに動機がとても重視されるの。偽りは欺きは魂を汚す事になるわよぉ」

 ロゥリィはそう言って両手で樹の頭に鉄帽を載せた。

「……隊長とも話したが、住人を守るのは嘘やない」

「ホントぉ?」

「あの姫様に日本と戦うより仲良くした方が得やと理解してもらうためや」

 樹の言葉にロゥリィは微笑んだ。

「それ、気に入ったわぁ。そういうことなら是非協力するわぁ。私も久々に狂えそうで楽しみぃ」

 ロゥリィは黒いスカートを摘んで優雅な振舞いで頭を下げた。

「エムロイの戦いを貴方に見せてあげるわぁ」

 ロゥリィはそう言って微笑むのであった。







 
 

 
後書き
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第十二話



 第三偵察隊が陣地を構築中にハミルトン達が食事を持ってきた。

「食事です」

「お、これは有りがたい」

 伊丹はそう言った。もうすぐ夕方なので圧搾口糧や小型乾パンで食べようかと思案していたところだった。

「摂津」

「大丈夫です」

 伊丹が樹を呼んだ時、樹は運ばれた黒パンをつまみ食いしていたが問題は無いと首を縦に振った。

 その意図に気付いたハミルトンは慌てて弁解する。

「だ、大丈夫ですッ!! 姫様はそんな事しませんッ!!」

「まぁ一応だ一応」

 ハミルトンの慌てぶりに樹は苦笑しながらそう言った。樹が食べた理由は毒か痺れ薬でも入っているのかと警戒したからだ。

 皿が配られ、大麦の粥と焼けた黒パンの匂いが隊員達の胃を刺激する。

「ま、御馳走になろう」

 第三偵察隊は陣地構築から一息するように食事を始める。その中、ハミルトンはピニャの命令を実行しようと石壁の隙間から二脚を起こした九九式軽機関銃を見ようとしたのを樹がたまたま見つけた。

「それが気になるんか?」

「ひゃッ!?」

 ハミルトンは後ろから声をかけられた事もあって驚いた。しかも若干飛び跳ねってたりする。

「は、はい……」

 ハミルトンはバレたと思いつつ頷いた。

「ま、異世界の貴女らにしたら珍しいでしょうね」

 樹はそう言いつつ粥を食べる。

「うちらの世界では魔法は無いんですよ」

「えッ!? ほ、本当なんですかッ!?」

「えぇ、剣や弓も昔の戦争で行われてますよ」

 樹の言葉はハミルトンにとって驚きの連続だった。

「(あの武器は聞けないと思うけど彼等の世界は知れるかもしれない)」

 ハミルトンはそう思い、樹の言葉に耳を傾けるのであった。

「……中尉はモテるな……」

「あぁ、中尉なのにな……」

 水野と片瀬はそう呟きながら黙々と食べているヒルダを見る。

「(あれは……怒ってるよな?)」

「(絶対怒ってるな。怒ってなかったら恐ぇよ)」

 二人はヒソヒソと話している。

「………」

 そしてヒルダはヒルダで話している樹とハミルトンをチラチラと見つつ二杯目の粥を食べている。

 そしてロゥリィは微笑みながらハルバートを磨いていたりする。

「「これは帰ったら地獄だな」」

 二人の兵曹長と一曹(一等兵曹)はそう思うのであった。




「それでどうだった?」

 食事の提供から戻ってきたハミルトンにピニャは問いただした。

「残念ながら彼等の武器の詳細は分かりませんでした。ですが、彼等からの話を聞きましたが彼等の世界とはかなり文化が離れている事は分かりました」

 ハミルトンはそうピニャに報告する。対するピニャも真剣な表情で腕を組みながら考えていた。

「……茶色や草の色のような服を着たあやつらは妾達の常識から離れているかもしれんな」

「そうですね」

 二人はそう頷いた。ちなみに茶色ではなく国防色である。陸戦隊のは草色だが……。

 そしてイタリカの街は夜を迎えた。


「隊長、司令部から電文です」

「……これは本当か?」

「どうしましたか?」

 伊丹が電文を見て驚いているのを樹が聞いてきた。

「いやな……航空部隊を送ってくれるらしいんだが、第一戦車連隊と歩兵第二八連隊も出撃しているらしい」

「加茂大佐の戦車連隊と一木大佐ですか?」

 特地派遣の戦車連隊は四個連隊であり、中戦車中隊が三個、軽戦車中隊一個、砲兵中隊一個で臨時編成されていた。

 歩兵第二八連隊は史実ではガダルカナル島の戦いでの尖兵やミッドウェー島攻略作戦にも参加していたが、特地に送られていた。両連隊はたまたま野戦訓練としてイタリカとアルヌスの半分程度まで来ていたのだ。

「……戦車連隊が盗賊を蹂躙するな」

 伊丹はそう呟いた。


――0300――

 本来ならイタリカの市民は寝静まっている時間帯だ。しかしイタリカの市民達は夜襲の警戒をしていた。

 その時、東門で見張りをしていた一人の兵士が限界が来たのかうとうとし出した。

 そのせいで一瞬の回避が遅れた。東門に目掛けて数十本の矢が放たれたのだ。

 居眠りをしていた兵士は首に矢を受けて即死した。

「敵襲ゥッ!!」

 東門を指揮していた正騎士ノーマ・コ・イグルが叫んだ。

「伝令走れェッ!!」

「は、はいッ!!」

 ノーマの叫びに伝令の兵士が慌ててピニャ達がいる場所へ向かう。

「何ッ!? 敵は南門ではなくて東門から来ているだとッ!!」

 伝令からの報告にピニャは驚きを隠せない。

「(何という事だ。こうも妾の戦略が崩れるとは……)」

 ピニャは自分の思い通りに行かない事に腹が立つが今はそんな事をしている場合ではない。

「急いで東門へ向かうッ!! ハミルトンは南門の茶と草の服達に知らせるのだッ!!」

「は、はいッ!!」

「ほ、報告しますッ!!」

 ピニャの命令を受けてハミルトンが走ろうとした時、武装した市民がピニャの元へやってきた。

「どうしたッ!?」

「ちゃ、茶と草の服の人は既に東門に向かっていますッ!!」

 その報告はピニャにとって嬉しい報告であった。彼等はイタリカの市民を助けてくれる。ピニャはそう思った。

「姫様……」

「……妾達も向かうぞハミルトンッ!!」

「はいッ!!」

 ピニャの叫びにハミルトンはそう返した。



 一方、伊丹達はもうすぐ東門に到着しようとしていた。全員で来たかったが、南門から来るという案もあったので伊丹は隊を二つに分けて東門の救援には伊丹、樹、片瀬、水野、栗山、ロゥリィ、ヒルダと一個分隊、四一式山砲と九二式歩兵砲一門も向かわせたのだ。

 副隊長である樹が隊長である伊丹と共に行くのは躊躇したが、伊丹は樹も必要であると判断して連れて来させた。もう一隊の指揮は古参の桑原曹長が臨時で担当している。

「見えました東門ですッ!!」

 運転する片瀬一曹が叫んだ。

 片瀬はクラクションを鳴らして柵の周りに集まっていた民兵を退かす。

「茶と草の服の人だッ!?」

 伊丹達の到着で民兵達は活気出す。

「敵はッ!?」

「あそこですッ!!」

 伊丹の言葉に民兵は東門を指差す。盗賊達の猛攻によりもうすぐ東門は陥落しそうであった。

「水野ッ!!」

「何時でも撃てますッ!!」

 樹は叫び、水野は既に九九式軽機関銃を積み重ねられたバリケードの上に設置している。

 そして樹は伊丹を見た。伊丹も頷いた。

「射撃開始ィッ!!」

 樹の命令と共に九九式軽機関銃が軽快な音と共に射撃を開始した。






 
 

 
後書き
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第十三話





 射撃を開始した九九式軽機関銃の七.七ミリ弾は、今まさに武装した女性を槍で討ち取ろうとした敵盗賊達の鎧を貫いて薙ぎ倒していく。

「射撃開始ィッ!!」

 伊丹が叫び、ベ式機関短銃を構えた樹達も引き金を引いて射撃を開始する。既に白兵戦に備えて着剣をしている。(ただし樹のベ式機関短銃は現地改造していて、現地で手に入れた短剣を装備している。しかし取り付け部分が貧弱なため折れやすい)

 九九式短小銃と九九式軽機関銃、ベ式機関短銃の銃弾は東門にいて民兵を討ち取ろうとしていた盗賊達を次々と撃ち倒していく。

「早く中にッ!!」

 伊丹はそう叫び、東門で生き残っていた民兵達は慌てて味方の柵の中へと入っていく。盗賊達はそれを追おうとするが九九式短小銃と九九式軽機関銃の射撃で地面に横たわらせるのみだった。

「片瀬ッ!!」

「了解ですッ!!」

 片瀬が盗賊達に九七式手榴弾を投げる。地面に転がった手榴弾は数秒してから爆発してその破片が盗賊達を殺傷する。

「な、何だッ!? 爆発の魔法かッ!?」

「目が、目が~~~ッ!!」

「続けて投げろォッ!!」

 九七式手榴弾の効果を見た樹はそう叫び、他の陸戦隊員が九七式手榴弾を投擲して次々と爆風で盗賊を吹き飛ばす。そして負傷した盗賊達に樹達はベ式機関短銃と九九式短小銃で止めを刺していく。

 しかしそれでも盗賊達の数は増える一方であるが此処で山砲と歩兵砲の射撃準備が完了した。

「準備完了ッ!!」

「山砲撃ェッ!!」

 伊丹が吠えて四一式山砲が盗賊に対して九四式榴弾を発射した。九四式榴弾が東門に命中してその爆風で盗賊達がまたも吹き飛ぶ。

「こ、これはまさかアルヌスの……」

「続けて歩兵砲撃ェッ!!」

 生き残っていた盗賊の言葉を遮るかのように九二式歩兵砲が九二式榴弾を発射して再び盗賊達が吹き飛ぶ。

 その時、ロゥリィは「もう駄目ッ!!」と言ってハルバートを構えて盗賊達の群れへと突撃したのだ。

「あの馬鹿ッ!!」

 樹はそう叫んだ。更にロゥリィの突撃に我もとばかりに九九式軽機関銃を構えた栗山も突撃する。

「クソッタレッ!! 隊長ッ!!」

「あぁッ!! 軽機と砲兵以外は突撃ィッ!!」

 そしてロゥリィと栗山を守るために水野と軽機と山砲と歩兵砲を受け持つ砲兵を残して樹達も突撃する。勿論ヒルダも突撃する。そのため剣を抜刀していた。

 その頃、イタリカ上空にはアルヌスから出撃した航空部隊が漸く到着したのである。

「艦爆隊は城門にいる盗賊を攻撃しろッ!!」

 九七式司令部偵察機に乗り込む攻撃隊指揮官の健軍大佐が司偵の左を飛行している九九式艦爆隊に黒板を見せながら怒鳴る。日本軍の無線は聞き取れないのがあるので特地航空隊は無線機を新型にしようと計画中で出撃前に全て降ろしていたのだ。

 特地からの要請で政府はアメリカと交渉して無線機を購入したりするがそれはまだ先の話である。今のところはパイロット同士での合図や黒板でする事になっていた。

 それはさておき、命令を受けた九九式艦爆隊の三機編隊がダイブブレーキを開いて急降下を開始した。小隊は急降下をしながら機首の七.七ミリ機銃弾を発射して東門の城門にいた盗賊を蹴散らして二百五十キロ陸用爆弾を投下して東門を破壊する。

 そして制空隊の九六式艦上戦闘機と九七式戦闘機が地上に向けて機銃掃射を開始して機銃弾を盗賊達に叩き込む。

 一方、その下で栗山とロゥリィが猛烈な白兵戦を展開していた。

 そこへ樹達が追いつき二人を援護する。

「白兵戦をするとは思わんかったわッ!!」

 樹はそう叫びつつ盗賊の腹を銃剣で刺して引き金を引いて一連射を撃ち込む。そして直ぐに抜いて盗賊を蹴り倒す。倒された盗賊は地面に叩きつけられ二度と動く事はない。

 後方の柵では水野達が九九式軽機関銃で援護射撃をしている。そこへ戦闘機隊と九九式襲撃機隊が飛来した。

 両隊は急降下をした。ロゥリィ達が奮戦している盗賊へ向けてだ。

「ヤバッ!!」

 急降下を見た伊丹達が走る前に樹は走り出して白兵戦をしていたロゥリィの腰をガシッと掴んでそのまま逃げる。それはもう一目散に逃げる。

「ちょ、ちょっとぉッ!!」

「あれは流石に無理だッ!!」

「やかましいわドアホどもッ!!」

 暴れるロゥリィに樹は怒鳴り、両隊の邪魔しないように逃げる。勿論栗山は両隊の急降下を見てあっという間に退避した。

 そして水野達がいる柵まで逃げると両隊は一斉に七.七ミリ機銃弾を発射して六十キロ爆弾を投下した。

「全員伏せろォッ!!」

 伊丹の言葉に樹や兵士、民兵達が伏せた。

 七.七ミリの弾丸は盗賊達の身体を貫き、肉片へと変えていく。そして爆弾が命中して盗賊を吹き飛ばす。

「に、逃げろォッ!!」

 攻撃隊の攻撃に恐れを抱いた盗賊達は慌てて逃げ出した。しかし戦闘機隊が駆けつけて七.七ミリ弾をぶっぱなす。

 盗賊達は楯を構えるが弾丸はそんなのをものともせずに貫通して盗賊達の命を奪う。

 その状況をピニャは呆然と見ていた。ピニャの耳から聞こえてくるのは盗賊達の悲鳴、銃撃音、爆弾の演奏だった。

 それも程なくして終わりを告げる。

「突撃ィッ!!」

 朝日が上り、アルヌスの方向から加茂大佐率いる第一戦車連隊の九七式中戦車と九五式軽戦車が突撃を開始した。更にその後方に待機していた一木大佐の歩兵第二八連隊が突撃を開始する。

「突撃ィッ!! 突っ込めェッ!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!!』

 九九式短小銃に銃剣を着剣した兵士達が雄叫びを上げて突撃をする。更に一木大佐は士気を上げるために突撃ラッパを吹かせている。

 九七式中戦車が短砲身の五七ミリ戦車砲を発射して盗賊を吹き飛ばす。

「ヒイィッ!!」

 砲弾の攻撃で腰が抜けたのか地面にへばりつきながら逃げようとする盗賊もいたが、それらは追いついた歩兵第二八連隊の兵士が突いた銃剣が盗賊の喉を突き刺して絶命させた。

「くそォッ!!」

 一人の馬に乗った盗賊が剣を構えて九七式中戦車に斬りかかった。しかし、二五ミリの装甲が剣を貫く事は出来ずハッチを開いて出てきた戦車長が十四年式拳銃で撃って仕留めた。

 第一戦車連隊と歩兵第二八連隊の参戦で盗賊達は完全に戦意を失って次々と剣や槍、楯を捨てて両手をあげて降伏の意思を表したのであった。

 その光景を樹達は見ながら安堵の息を吐いた。

「……何とか間に合いましたね」

「あぁ、予想通りに盗賊が第一戦車連隊と歩兵第二八連隊に蹂躙されたな」

 ふと、樹は何も動かないロゥリィを見た。桜色の唇をニィと歪めてその隙間から鋭い犬歯を覗かせて視線はある方向を見ていた。

 ロゥリィを支えるために腰を掴んで攻撃隊から逃げていた樹だったが、いつの間にかロゥリィを持っていたため腰からロゥリィの胸に手が移動していた。

 樹の右手はロゥリィの左胸を押さえ込んでいたのだ。(言わばお姫様抱っこ)

「………」

 その事に漸くながら気付いた樹は顔を青ざめながらロゥリィを降ろした。そして地面に脚がついたロゥリィがまずする事は樹の顔を殴る事であった。

「ぷぎゃッ!?」

 樹はそんな声をあげて地面に倒れ、伊丹達はそんな樹に無言で敬礼をするのであった。



 一方、ピニャとハミルトンは第一戦車部隊と一木支隊の戦闘に終始呆然と見ていた。それは戦闘が終わり、傍らにいたグレイから声をかけてもらうまで呆然としていた。

「……何なんだ今の戦闘は……」

「「………」」

 漸くピニャの口から開いた言葉にハミルトンとグレイは何も言えなかった。

「ですが姫様、これでイタリカの戦闘は終わりました」

「そうであろう。……問題はこの後だ」

 奴等は一体何を要求してくる?

 もしイタリカを攻めるなら彼女では到底太刀打ち出来ない。全てはあの火を吹く鉄の軍馬や火を吹く杖(戦車砲や軽機関銃)等によって帝国軍の兵士達はミンチに変えられるだろう。

 あのような魔法を使われイタリカを占領したらあっという間に彼女はおろか、ハミルトンやミュイ達は首を鎖で繋がれて奴隷にされてしまうかもしれない。

「……どうしたものか……」

 ピニャの呟きはハミルトンには聞かれなかった。





 
 

 
後書き
何度も書き直した結果です。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十四話

 
前書き
今週は都合によりこれのみとなります。 

 





 戦闘後、樹達はフォルマル伯爵の館へ入り調印式をしていた。

 レレイが通訳としてその場で一番階級が高い健軍大佐の言葉を訳していた。

 それをピニャはポケ~っとしていたが樹や健軍達は気に止めなかった。(健軍大佐は草原に着陸して急遽参加していた。出席予定だった加茂大佐が流れ矢で負傷したためである)

 あれほど手を焼いていた盗賊達をあっという間に蹴散らして壊滅させたのだ。無理もない。

「捕虜の権利は此方側にあるものと心得て頂きたい」

 ハミルトンの言葉をレレイが訳す。健軍はそれに頷く。

「イタリカ復興に労働力が必要であるなら了承します。せめて人道的に扱う確約を頂きたい。我々としては情報収集の為に数名の身柄が得られればよいので確保されている捕虜の内、三~五名を選出して連れ帰る事を希望する。以上約束して頂きたい」

「ジンドウテキという言葉の意味がよく理解出来ぬが……」

 首を傾げるハミルトンにレレイは上手く言葉を伝えるのにどうするかを考えて彼女なりの理解で説明する。

「私の友人や親戚がそもそも平和に暮らす街や集落を襲い、人々を殺め、略奪などするものかッ!!」

「良かろう。求めて過酷に扱わぬという意味で受け止める事にしよう。此度の勝利はそなたらの貢献は著しいのでな。妾もそなたらの意向を受け入れるに吝かではない」

 怒鳴りかけたハミルトンを制するようにピニャはそうレレイに言った。

「そのような意味で解していただければよい」

 健軍の言葉を通訳したレレイはそう伝えた。

「あぁ姫様、漸くお心が戻られましたか」

 ハミルトンがピニャの目に生気が戻った事に気が付いて声をかける。

「済まない」

 ピニャはそう言って健軍大佐と向き合う。

「それではもう一度条件を確認したい」

 ハミルトンはそう言って条件を挙げていく。ハミルトンは読み終わるとピニャにその羊皮紙を渡した。

「(こんな条件で良いのか?)」

 ピニャはそう首を傾げながらサインをする。ミュイ伯爵公女にも渡してサインと捺印をした。

 そしてピニャは周りを見ると、健軍とレレイの他にテュカ、ロゥリィ、伊丹、樹がいた。

 樹の左目の周りには黒々としたアザがあったがピニャは別に気にしなかった。その隣ではロゥリィはそっぽを向いて不機嫌な様子ではあったが……。

 兎も角、調印式はそこで終了となり協約は直ちに発効される事になった。

「総員撤収準備ッ!!」

 健軍大佐の叫びに派遣部隊の兵士達は撤収準備に入る。

 その頃、伊丹はアルヌスへ連れて行く捕虜を決めている途中だった。

「隊長、流石に女性ばかりは……これからの事を考えれば分かりますけど……」

「そう? じゃあ男一人追加で」

 黒河軍曹の言葉に伊丹はそう言って新たに男を一人選んで五人の捕虜を獲得した。

 そして五人の捕虜は歩兵第二八連隊が乗ってきた九四式六輪自動貨車に乗せられる。全員が乗った事を確認した健軍は自動貨車を出させた。

 第一戦車連隊と歩兵第二八連隊は次々と去っていく。住民達も帽子や手を振りアルヌスへ帰還する派遣部隊に声援を送る。なお、健軍大佐も九七式司令部偵察機で離陸して帰還の途についた。

「さて俺達も帰るとするか」

 伊丹の言葉に皆が頷いた。樹はハミルトンに近づく。

「すいませんけど、自分達の国の話はまた今度で」

「あ、はい。異世界の国の話はとても新鮮でした」

 普通に別れの言葉を言っている樹とハミルトンを自動貨車の中からロゥリィとヒルダがじぃっと見ていた。

「……こりゃ帰ったら中尉も地獄を見せられるな」

「だな」

 片瀬の言葉に水野は笑う。

 そして第三偵察隊はイタリカの街を後にするのであった。



 ……と思ったはずであった。

「何て事をしてくれたんだッ!!」

 ピニャは怒り狂い、到着したボーゼスに持っていた銀製酒杯を投げる。

 勿論酒杯はボーゼスの右眉を傷つけて血を噴き出させる。

 その一方で、ボーゼスはピニャの怒号で完全に竦み上がっていた。

「イタミ殿ッ!! セッツ殿ッ!!」

 壁に寄り掛かるように気絶している伊丹と樹にハミルトンは声をかける。二人は顔中赤く腫れていて、服も泥まみれの擦り傷だらけだった。

「姫様、二人とも相当に消耗されています。直ぐにでも休ませませんと」

「分かった。そこのメイド達と協力して二人を運べ」

「はい」

 ハミルトンとメイド達は二人の手を自分の肩に回して急いで退出する。

「ひ、姫様。我々は一体何をしたと言うのですか?」

 ショックで座り込んでいたボーゼスの額に手巾を当てていたパナシュはそう説明を求めた。

「……はぁ、今から説明する」

 ピニャは額に手を当て、溜め息を吐くと二人に説明をした。

 ボーゼスとパナシュはイタリカへ向かう最中に第三偵察隊と遭遇、兵士がアルヌスへ帰る途中と説明するとボーゼスは敵だと判断して第三偵察隊を攻撃しようとするが、それを聞いた樹と伊丹がボーゼス達に訳を説明しようとするが、初陣であるボーゼス達は聞く耳を持たずにピニャへの手土産として樹と伊丹を捕らえた。

 隊員達は小銃を構えるが伊丹が「今は逃げろッ!!」と叫び、隊員達も渋々と自動貨車等を発進させあっという間に姿を消した。

 そしてそこに残されたのはボーゼス達と樹達であった。

「……どうしたらいいんだ……」

 ピニャは深い溜め息を吐いた。しかしボーゼス達を責める事は出来ない。

 彼女達は必死にイタリカへ来る途中だったし、協約は自分達で決めたのだ。彼女達が知るはずもない。

「取りあえず二人が起きないと動けない」

 ピニャはそう言って再び深い溜め息を吐いたのであった。






 
 

 
後書き
形式的に捕虜をとっていますが、この場合、日本軍は情報源としての確保です。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十五話





「何? 第三偵察隊の伊丹大尉と摂津中尉が拐われただと?」

 特地飛行場に戻った健軍大佐は部下からそう報告された。

「どういう事だ?」

 健軍大佐の声色が変わる。調印した協定を向こうから破るなら此方だって考えがある。

「いえ……第三偵察隊から聞けば、接触したのはピニャ代表の騎士団らしいのです。その騎士団はイタリカに向かっていたらしいので……」

「調印しているのは知らないの当然……か」

 健軍大佐は内心は無駄な戦にならずに済みそうでホッとした。

 そもそも日本が捕虜を取ったのは捕虜に日本の印象を好ましくするためであり、宣撫工作をするためでもある。

 大陸で長きに渡って戦争をしていた日本は莫大な戦費が翔んで行っていたので、特地の住人を日本の味方にして帝国を内側から崩そうとしていたのだ。

「ですが二人が戦死していたら……」

「恐らくはイタリカに侵攻するだろうな」

 部下の問いに健軍大佐はそう答えた。




「……ぅ……」

 樹はゆっくりと目を開ける。そこはいつも見慣れた宿舎の天井ではなかった。

「……イタリカだろうか……」

 樹はいたぶられながら連行されて来たのをおぼろ気に思い出した。

「ん……?」

 その時、樹は足下に重い物を感じて起き上がる。そこにはハミルトンが寝ていた。

「……何が起きた?」

 樹はそう自問するしかなかった。何せ、起きたら西洋の物語のように美女が自分の足下で寝ていたのだ。

「失礼します。おや、お目覚めになりましたか」

 そこへメイド長が入ってきた。

「あの此処は……」

「ミュイ様の館でございます。貴方ともう一人の方は別室で寝ておられます」

 もう一人とは伊丹の事だ。

「伊丹隊長に怪我は……」

「命に別状はありません」

「そうですか……」

 メイド長の言葉に樹はホッとする。

「それとイタミ様とセッツ様におかれましてはピニャ様が賓客としての礼遇を命ぜられました。そしてこの度の無礼を働かれました騎士団の隊長様は……」

 メイド長はそう言って樹に説明する。そして説明が終わるとメイド長は樹に頭を下げた。

「この度はこの街をお救い下さり、真に有り難うございました」

「い、いえ。自分らは……」

 樹は恥ずかしそうに言う。その時、ハミルトンが起きた。

「は、セッツ殿、傷は大丈夫ですか?」

「今のところは。それとハミルトンさん、口に涎が……」

「え? あ……」

 樹に指摘されたハミルトンは顔を赤らめて手巾で口の周りを拭いた。

「し、失礼しました」

「いえいえ、気にしてませんよ」

 謝るハミルトンに樹はそう取り繕う。

「セッツ殿、この度は真に申し訳ありません。此方の連絡が届かず、姫様配下の騎士団が初陣であり、貴方方を敵だと認識してしまい迷惑をかけてしまいました」

 ハミルトンはそう言って頭を下げた。

「大丈夫ですよハミルトンさん。誤解だと分かれば、それに伊丹隊長も許していると思いますよ」

 樹はそう言う。

「……貴方方の御厚意は本当に我が帝国では信じられないです」

 ハミルトンは染々と言った。

「まぁうちの国はお人好しというかなんというかですね。義を尊重するというかなんと言うか……」

 樹は苦笑しながらそう言う。それから二人は樹を心配するヒルダとロゥリィが部屋に入るまで談笑するのであった。

「……心配して損したな」

「そうねぇ」

 部屋に入ってきたヒルダとロゥリィはそう言ってジト目で樹を見る。

「……心配かけて済まん……」

 流石に樹は申し訳なく思い、二人に頭を下げる。そんな樹に二人は苦笑する。

「無事ならそれでいいわぁ」

「うむ」

 二人は頷くが、ハミルトンはヒルダを見て驚いていた。

「貴女はヒルデガルド皇女ではありませんかッ!? 何故此処に……」

「貴様は私を知っているみたいだな」

「は、はい。一度姫様と面会した事がありますので」

「そうか。それで此処にいる理由だが、今は亡き部下達に助けられてな。今はアルヌスでイツキ達といる」

「……国には戻られないのですか?」

 ハミルトンはそうヒルダに聞いた。ヒルダの国であるグリュース王国は、皇族がいないという理由で帝国が保護領としているのだ。

「戻らん。戻ったところで私に何が出来るというのだ? 前々から帝国の権威はグリュース王国にも及んで内政にも口を出していたではないか。商いも帝国の商人達が商業を押さえようとしている」

「そ、それは……」

 ヒルダの言葉にハミルトンは何も言えなかった。

「グリュース王国は帝国と戦う前から負けていたのだ。それに私は民が無闇に傷つくのは嫌だ。それならいっそ帝国に服従した方がいい」

 ヒルダはそう言った。グリュース王国と帝国の軍事力は帝国が数倍勝っていたのだろう。

 ヒルダの父なら戦わずして破れるより戦って破れるのが良かったかもしれないが、既に王は亡く、ヒルダは大日本帝国へと身を寄せている。

 諸国の力をもぎ取ろうとしていたモルト皇帝の思わない戦果であろう。

「民が幸せに暮らせるなら私は卑怯者と呼ばれても構わない。民の上に立つ者は相応の覚悟が必要だ」

 ヒルダはそう言って自国の事は気にしてないように思われる。しかし、樹やハミルトン達はヒルダの右手が強く握り締められ、血がポタポタと流れているのを見た。

 本当は悔しいのだろう。ハミルトンはそう口に出さなかった。

「……分かりました。それなら私は何も言いません」

 ハミルトンは気付かない振りをしてそう言った。

 そして樹達はボーゼスがした仕打ちに出席した。

「……で、何でこんな事に?」

 ピニャは伊丹の顔面の損傷と捕らえられたボーゼスを見ながら何となく分かってはいたがそう聞いた。

 ペルシアらメイド達は違うといい、ボーゼスは俯いたまま「わ、私がやりました」と打ち明けた。

「……この始末、どうつけよう」

「ピニャ代表、すいませんがそれについてそちらで決めて下さい。そろそろ自分らは帰りますので」

 伊丹はピニャにそう言ったがピニャは顔を青くしてそれは困ると反論する。

「実は伊丹隊長と自分は大本営から状況説明の命令が掛かっているので今日には帰らないとまずいんです」

 この言葉が樹の口から告げられるとピニャは大本営を帝国の元老院のような院と勘違いをして更に顔を青くする。

「(この二人はかなりの重要人物だ。何とかしなくては……)」

 ピニャはそう考えてある決断をした。

「では妾も同道させて貰うッ!!」







 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十六話






「妾も同道しよう。構わないか?」

「え、えぇ。ですが車の人数もあるので一、二名くらいなら……」

 伊丹はいきなりの事で驚くが、同行の許可を出す。

「よし、ボーゼスとパナシュは街の治安維持を、ハミルトンはフォルマル伯爵領の維持管理と代官選任を任せる。行くのは妾で十分だ」

 ピニャは自分で行くと宣言してハミルトンやボーゼスに後を任すのであった。

「ひ、姫様一人では危険ですッ!! 此処は私とボーゼスの供をッ!!」

 意外な事にハミルトンが、ボーゼスがピニャに反論する前に反論した。

 ハミルトンの意外な反応にピニャは驚きつつ頷き、ハミルトンとボーゼスを供にして維持管理と代官選任はパナシュに、治安維持にはグレイに任せるのであった。

「ヒルダ、ちょっといいか」

 ミュイの館を出て自動貨車に乗り込もうとするヒルダに樹は声をかけた。

「どうした?」

「悪いが、伊丹隊長の自動貨車に乗ってほしいんだ。ピニャ代表が乗るのは伊丹隊長の自動貨車だからな」

「? それがどうしたと言うのだ?」

「ヒルダはアルヌスで戦闘を経験した生存者だ。アルヌスで日本軍の車両に出会すと思うからレレイ君と共に日本軍――俺達の武器がどれだけ恐ろしいかをピニャ代表に教えてほしいんだ」

 樹はヒルダにそう言った。

「……よし、それならイタミの車に乗ろう」

 樹の考えが分かったヒルダは頷く。

「済まないな。あの戦闘を思い出してもらうようで」

「構わない。あの時の戦闘を知ってもらうためだ」

 ヒルダはニヤリと笑う。

「(何かいらん事まで言いそうやけど……まぁええや)」

 そして樹は伊丹に事情を説明し、伊丹も了承してヒルダは伊丹の自動貨車に乗り込む。

「あ、貴女はグリュース王国のヒルデガルド皇女ッ!!」

 先に自動貨車に乗り込んでいたピニャは乗り込んで来たヒルダを見て驚いた。

「先のアルヌスの戦闘で戦死したと聞いていたが……」

「日本軍に助けてもらった」

 ヒルダはそう言って外を見る。ピニャもこれ以上聞くのは不味いと思ったのか何も言わなかった。

 そして第三偵察隊はイタリカを後にした。

「……本当に動いてますね」

 樹の自動貨車に乗り込んでいるハミルトンがそう呟いた。

「そうよぉ。私も最初は驚いたけどねぇ」

 ハミルトンが呟いたのを聞いたロゥリィがそう言い返した。

「……帝国は大変な事をしてしまったようですね」

「自業自得ねぇ」

 ロゥリィは笑う。そしてハミルトンに近づき、小さく呟く。

「貴女、イツキの事をどう思ってるのかしらぁ?」

「え? わ、私はセッツ殿は話しやすい人だと……」

 ハミルトンは慌てて反論するが、頬は赤く染まっている。

「ふぅん」

 ロゥリィはニヤニヤと笑いつつ元の席に座る。ハミルトンはロゥリィが何でそんな質問を聞いたのか気になったが分からなかった。

 そして第三偵察隊は砂利で整備された道路へと入る。上空には陸軍の九七式戦闘機三機が飛行している。

 防御陣地の前縁までの地域は派遣部隊の演習・訓練場となっており、兵士達が実際に小銃を持って市街戦の対処訓練をしている。これは大陸での戦訓と独ソ戦の影響であった。

 ピニャとボーゼスは兵士達が何をしているのか理解出来なかった。

「彼等の持っている杖はイタミらの持つ物と同じ物のようだが、ニホンの兵士は魔導師なのか? もしそれなら話が分かるが……」

「魔導師は希少な存在ですし魔導とは特殊能力ですわ。もしかしたらニホンは魔導師を大量に養成出来る方法があるのかもしれませんわ」

 ピニャとボーゼスはそう話していたが、ヒルダが突然笑いだした。

「何が可笑しいのだヒルデガルド皇女?」

「クックック、日本軍に魔導師なんぞおらん。全て平民で構成されている軍隊だ」

「「ッ!?」」

 ヒルダの言葉にピニャとボーゼスの二人は衝撃を受けた。

「では魔導師はいないと?」

「そうだ。彼等が持つのは杖ではなく、武器だ」

「これが……」

「武器というのですか……」

 二人は伊丹や桑原、倉田らが抱える小銃を見つめる。ピニャは武器ならば普通の兵士でも使えると思い、何とか入手して量産してみようかと思案する。

「それは無意味」

 そこへレレイが口を開いた。レレイは九七式中戦車を指差した。

「『ショウジュウ』の『ショウ』は小さいと意味する言葉。ならば対義の『大きい』に相当する物がある」

「あれが火を噴くというのですか?」

 二人は九七式中戦車の短砲身五七ミリ戦車砲を見る。あんな小さいのが火を噴くというのだろうか?

「まだ直接見た事はない。だけど想定の範囲」

「私は見たがな」

 ヒルダはそう言う。三人の目がヒルダを見つめる。

「私はアルヌスでの戦闘に参加していた。あの車が火を噴くのは見た。あれが火を噴くと十数人の兵士が吹き飛び、直撃した兵士は肉片となり、直撃しなかった兵士は四肢をもぎ取られ死んでいった。我々は三度突撃して三度破れた。三度目は夜襲を敢行したが結果は一緒だ。突撃しても戦死し、立っているだけで戦死する。私は地獄にいるのかと思った程だ」

 ヒルダから語られる言葉にピニャとボーゼスは息を飲む。

「そしてイツキから聞いたが、あのような戦果はイツキ達の世界でも行われているようだ。イタリカでのような戦いをな」

「………」

 ヒルダの言葉にピニャはあの戦闘を思い出して顔を青くする。

 その表情を見ながらヒルダは脅しは成功と思い、内心笑っていた。

 しかし、その夜にヒルダをその悪夢を見てしまうのである。





 
 

 
後書き
多少修正します。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十七話

 
前書き
ブラックのコーヒーを用意した方がいいです。 

 




 アルヌスに到着した第三偵察隊は残った弾薬を弾薬庫に返納して、銃を整備して武器庫に収め、車両の泥を落としてから漸く夕食となった。

 ただし伊丹と樹は記者会見(大本営の報告もあるが)があるのでそれらの指示を受けていたりする。

「……流石に疲れたな……」

 全てが終わった樹は狭いが個室のベッドで横になっている。

 夕食は伊丹同様に机に隠匿していた戦闘糧食で済ませていた。

「さて俺も寝るとするか……」

コンコン。

 その時、扉を叩く音がした。樹が扉を開けるとそこにはヒルダがいた。

「どうしたヒルダ?」

 樹は首を傾げるが、ヒルダは視線を下にしたまま樹の胸に抱きついた。

「ヒ、ヒルダッ!?」

 ヒルダの行動に樹は驚くが、ヒルダは震えていた。

「……ヒルダ?」

「……済まない、アルヌスでの戦闘を思い出して……眠れないんだ」

『砲弾神経症』

 言わばシェルショックとか心的外傷後ストレス障害やPTSDとかなどである。アルヌスの戦闘を経験したヒルダには十分に起こりうる事だった。

 特地に派遣された部隊は大陸等の戦闘を経験しているために今のところはそう言った報告はなかった。

 だがヒルダはPTSDなど知らない。ヒルダも夢として見ていて、最初は思い出すだけだと思っていたが何日も続き、そして止めを刺すかのようにピニャ達に出来るだけ話した。

 あの夢を見たくないヒルダは遂に樹の元へ来たのだ。

「(やっぱ俺が説明すべきやったな……)……済まんヒルダ」

 樹はそう思いつつヒルダに謝る。PTSDについて樹はあまり知らない。よく知っていたのは伊丹大尉であった。

 伊丹大尉は洋書等を買い求めるために一度欧州の駐在武官に付いて行った事があった。(勿論、普通は無理であるが、武官がたまたま伊丹と同じ洋書等が好きだった事もあって欧州に行けた。後にこれが上層部にバレ、左遷の意味で伊丹は南樺太に半年程飛ばされたのである)その時にPTSDの患者を見たと言っていたが伊丹自身は深くは語らなかった。

 その事もあり、樹はヒルダがPTSDになったと思ったのである。

「いいんだイツキ……ただ」

「ただ?」

「私をギュッと抱き締めてほしい」

 ヒルダの言葉に樹は無言で抱き締めた。ヒルダも樹に抱き締める。

 そしてそれを扉の隙間から見ている女性がいた。

「……まぁいいわぁ。今日のところは許すわぁ」

 見ていたのはロゥリィだった。ロゥリィは少しだけ悔しそうな表情をしたが直ぐに扉を閉めた。

 その日、樹とヒルダはただ抱き締め合いながら寝るだけで読者の皆さんが期待するような事は一切していない。

 なお、部屋に入ってバレるような事も起きてない。そんな事をすれば軍法会議ものである。

 そして午前十一時、樹と伊丹は中央門管理前にいた。そこへやってきたのはテュカや栗山達である。

「ねぇイツキぃ。本当に駄目なのぉ?」

 帆布で包装されたハルバートを見ながらロゥリィが樹に文句を言う。

「悪い。俺達の世界では刃物を持ち歩いていると法律で逮捕されるんだ。それに刀剣類は事件があったせいで余計に厳しい目があるんだ」

 樹はそう言ってロゥリィを宥める。そこへ一台のトヨダ・AA型乗用車が来た。運転していたのは柳田少佐であり、柳田は運転席を降りると後部座席のドアを開かせて客人を降ろした。

「ピニャ・コ・ラーダ殿下とボーゼス・コ・パレスティー伯爵公女閣下、ハミルトン・ウノ・ロー准騎士のお三方がお忍びで同行される事になった。よろしくしてくれ」

「おい柳田。聞いてないぞ」

「あ? 言ってなかったか? それは済まんな。陸軍省と海軍省の方には客追加の連絡はしといた。それと伊豆の方にも連絡済みだ。二泊三日の臨時休暇なんだからしっかり楽しんでこい」

「あのな、このお姫様達に俺と摂津がどんな目にあったと思っている」

 伊丹が文句を言うが柳田は笑って水に流せと答えてニヤニヤしている。

「それに同行にはヒルダ皇女もいるだろ?」

 柳田はそう言って伊丹に一通の白封筒を渡して後は任したとばかりにその場を去った。ちなみに中身はお金であり百円があったりする。




「一気に寒くなったな……それでも少し暖かいかな」

 樹達は銀座にいた。ちなみに季節は四月である。

「本当に春だな」

 ヒルダはそう呟く。

「あいつらみたいに驚かないのか?」

 あいつらとはロゥリィ達の事である。ロゥリィ達はあまりの変わりようにポカンとしていた。

「アルヌスの建物の時点で何かあると何となく分かっていたさ」

 ヒルダはそう言うがそれでも視線はあちら此方に向いている。

「暇が出来たら色んなところを案内してやるよ」

「楽しみにしている」

「あらぁ、私もよねぇ?」

 二人が話しているとロゥリィが乱入してくるように言う。

「ん? そりゃあ構わんけど」

「………」

 樹の言葉にヒルダは少し悔しそうな表情をしていた。ロゥリィはそれを見てニィっと笑う。

 その後、護衛の代表である駒門が、伊丹が盧溝橋事件からの猛者である事がバレて栗山が大層驚き、何故か近くにいた富田軍曹が栗山を慰める状態になった。

「取りあえず、ロゥリィ達の服を調達しましょうか。流石に何時までも陸軍の服を着ているのは……」

「それもそうか」

 ロゥリィを除いたテュカ達は陸軍の九八式軍衣袴を着ている。そのため、出ているところは出ているヒルダやピニャ達(ピニャ達は帝国の正装)を見て赤面して視線をずらす兵士達がいたりする。

 その後一行はテュカ達の服を調達した。レレイはそのままであるがテュカは白のワンピースである。

 服を調達した一行はピニャ達を別のトヨダ・AA型乗用車に乗せて帝国ホテルへと向かった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十八話






 数台のトヨダ・AA型乗用車が帝国ホテルに到着すると、伊丹、樹、レレイ、ロゥリィ、テュカの五人は係員の案内の元、控え室へと案内された。

 ヒルダ達は護衛の栗山と富田と共に別室へ向かう。彼女達は公式の使節ではないがそれでもVIPでもあり帝国との秘密交渉が出来るのである。

「お待ちしていました殿下」

 ピニャ達を出迎えたのは特地駐留大使として就任した吉田茂であった。

「初めましてヨシダ」

 軽い挨拶の後に吉田は切り出した。

「(……何としても帝国を救わねば……妾は仲介役に徹するのみ)」

 ピニャはそう思っていた。そして話はトントンと決まっていき、捕虜の話へとなった。

「副大使の菅原です。捕虜ですが現在は我が国内の無人島の施設で収容しておりまして、数は約三千人」

「(三千……)」

 身代金の事を考えていたピニャは捕虜の多さに愕然としていた。ちなみに、人外を入れれば約三千五百人になる。

「聞くところによればゴブリンやオーク等はそちらの世界で迷惑をかけているという事なので此方で適正に対処します」

 菅原はそう言った。実際にゴブリンやオーク等はアメリカ等の諸外国へと内密に引き渡されている。

 この話にはルーズベルトやヒトラーも飛びつき、早速研究施設に放り込まれるがそれは日本の知ったこっちゃじゃない。逆にアメリカ等の諸外国は日本からの思わぬプレゼントに驚いている。

 実はこのプレゼントは二つあった。一つ目は今のゴブリンやオークであり、二つ目はテュカ達の紹介であった。

「捕虜の中には階級が高い人間もおりましてその扱いに苦労しています。我が国としてはそちらの求める形で捕虜を引き渡したいと思います」

 捕虜にはそれなりに高い人間もおり、食事が不味いなので文句を看守に言いまくっている。看守はそれに耐えていたが限界というのもある。日本としては早くどうにかしたかったのだ。

「(み……身代金が高ければ三千人は……)」

「で、殿下。お気を確かに」

 ピニャは思わず手を頭に添えてボーゼスが心配そうにする。

「……身代金はいかほどに?」

「身代金?」

 ピニャの言葉に吉田はポカンとした。

「ハッハッハ、御安心下さい殿下。昔ならいざ知らず、我が国には身代金の慣習や奴隷制度は存在しておりません」

 吉田の言葉にピニャは深い溜め息を吐くのであった。

「今回は金銭以外の譲歩を我が国は求めています」

「殿下のためにもこの名簿の中の指名される若干名は即刻引き渡しが可能です」

 菅原はそう言ってピニャに名簿を見せた。そこへボーゼスが親友の夫君が銀座事件に参加していたので安否確認を求めてきた。

 菅原も帰還するまでに翻訳を終了させておくと言って一応ながら大日本帝国と帝国の第一回の交渉は終了するのであった。




 一方、樹達は外国人記者も入れての記者会見をしていた。樹達が(特にテュカ達の特地組)を見た時にカメラのフラッシュが光った。

「ビューティフル……」

「あれがエルフか……」

 テュカを見た記者達は口々にそう言って驚きの声をあげた。対するテュカは自分に何故これほどにまで驚きの声が上がっているのか疑問に思っていたりする。

「それでは記者会見を行います。まずこの三人は勿論特地から来られた人達であり、強制的に連れて来たのではありません」

 少佐の階級章を付けた陸軍側の佐官が記者達に日本語と英語で説明する。

「まずは外国から質問を許可します」

 その言葉に多数の外国人が挙手をして佐官が指名する。

「ドイツから来ましたアルベルトです。ご紹介にありましたテュカ・ルナ・マルソーさんですが……耳は作り物ではないですよね? 良ければ動かさせてほしいのですが……」

「……こう? 触ってみます?」

『オォッ!!』

 アルベルトの言葉を佐官がレレイに翻訳してレレイがテュカに翻訳する。それを聞いたテュカが髪を掻き分けて耳を動かすと記者達はまたも驚いてカメラのフラッシュを焚かせる。

「アメリカのニューヨークタイムズのロバートです。レレイさんは魔法を使えるとご紹介で言っているのですが……」

 そう言ってレレイは魔法を見せてまたも記者達を驚かせる。

「朝日新聞ですが……ロゥリィ・マーキュリーさんが……肉体を持つ神……亜神であるとのことですが……」

 朝日新聞の記者は本当の事か分からないのでしどろもどろになる。そこへレレイが補足を付けた。

「私は門の向こうでは「ヒト種」と呼ばれる種族で寿命が六十から七十前後で住民の多くはヒト種である。テュカは不老長命のエルフで、その中でも稀少な妖精種で寿命は一般のエルフより遥かに長く永遠に近いと言われている。ロゥリィはヒトではなく亜神――肉体を持つ神である。元はヒトで昇神した時の年齢で固定されている。通常一千年程で肉体を捨て霊体の使徒へ、そして真の神となる。従って寿命という概念が無いのである」

『………』

 レレイの補足に記者達は口をパクパクと開けて唖然としていた。それはその通りだと思う。

「そ……それでしたら……非常に申しにくいのですが三人の年齢は……」

「九百六十一歳よぉ」

「百六十五歳」

「……十五歳」

『………』

 またも沈黙する記者達である。

「(こりゃあ……諸外国の一面だよな)」

 そう思う樹であった。この事は全世界の新聞のトップを飾る事になる。それは日本も例外ではなかった。







 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第十九話

 
前書き
色々と思考した結果、温泉と新型砲戦車をメインにしました。 

 





 東京での記者会見を終えた樹達一行は伊豆のとある温泉宿に来ていた。

 温泉宿は全て貸し切りであり従業員達も旅行が終わるまで箝口令が敷かれて軍機であった。

「……いい湯だなぁ」

「そうですねぇ」

 伊丹少佐や樹達は男風呂で頭に手拭いを置いて肩まで浸かっていた。その隣の風呂は女風呂であり、女風呂からテュカ達の声が聞こえてくる。

「元気だなぁ」

「そうですねぇ……ところで片瀬は何をしているんだ?」

「勿論覗きです」

 樹の指摘に片瀬はドヤ顔で言った。片瀬の言葉に樹は溜め息を吐くのであった。

「……お前、ドンガメに配備させるように言うぞ?」

「すみません、ちょっとした悪戯です」

 樹の言葉に片瀬は綺麗な敬礼をした。ちなみにドンガメとは潜水艦乗りの事である。

「わぁ、ヒルダ大きいね~」

「羨ましいわぁ」

 その時、女風呂からテュカ達の声が聞こえてきた。どうやらヒルダの話である。

「大きいのはいいが、肩が凝るからな」

『………』

 ヒルダはそう言っているが男風呂ではどうしたらいいか分からず、無言であった。

「本当にぃ羨ましいわねぇ」

「お、おいロゥリィッ!! んぅ……揉むなぁ……はぅ……」

「……上がりましょうか」

「……そうだな」

 ロゥリィに胸を揉まれたヒルダの喘ぎ声に樹達は若干前屈みでその場を後にするのであった。

 その頃、特地では内地から五両の新型砲戦車が輸送されていた。

「これが一式砲戦車か……」

 新型砲戦車の視察に今村中将自らが来ていた。

「車体自体はチハのを流用しています。砲は九〇式野砲で装甲は前面だけですが五十ミリです」

 一式砲戦車と共に特地へ来た技術者が今村中将に説明する。一式砲戦車は史実より早めに完成させて(かなり大忙しに)試験目的で特地に来ていた。

「こいつらがあれば炎龍も何とか退治出来そうだな」

 今村中将はそう呟いた。炎龍は派遣司令部は元より大本営でも危険生物と認定されており、早期の撃滅を思案していた。これが後にアルヌス共同生活組合に一人のダークエルフが助けを求めにやってくるのだがそれはまだ先の話である。

「参謀長、炎龍は重砲何門でやれると思うかね?」

 今村中将は参謀長の栗林少将に聞いた。

「……まずは翼を攻撃して飛び立たせなくしてからでしょうな。野戦高射砲や海軍さんの零戦を大量に投入して飛ばせなくしてから九六式榴弾砲や九一式を二十門ずつ投入して砲撃するしかないでしょう」

「……良かろう。大本営にも兵器の増産を具申しておこう」

 派遣司令部は直ぐに兵器の増産を具申したが大本営ではこれに頭を抱えていた。

「各砲に二千発も輸送しなくてはならんのにこれ以上文句を言われたらどうしようもないぞ」

 参謀の一人はそう呟いた。特地へ派遣する際に、派遣部隊の各砲は二千発ずつ用意をしていた。しかし、帝国軍と連合諸王国軍との戦闘で各砲は三百発くらいまでに減少しており、内地で砲弾の増産が急がれていた。

 今は漸く各砲千発くらいまでに戻っているが大軍で攻められたら持ち堪えられるか微妙であった。そんな時に声をかけたのが海軍であった。

 旧式であった四〇口径三年式八サンチ高角砲や四五口径十年式十二サンチ高角砲とその砲弾を提供すると言ってきたのだ。

 この言葉に陸軍省は歓喜の声をあげていた。一方の海軍では……。

「海軍が活躍しているのは陸戦隊と航空部隊しかいないんだ。これで予算なんぞ減らされたら対米戦は戦えない」とそういう意図もあったりする。

 実際に陸軍は大陸から撤退した師団を解体して兵士を退役させたりして資金を兵器の増産や開発に充てていた。退役した兵士も職場に復帰したりして産業兵士として活躍していた。

 この軍縮は宇垣軍縮の再来とまで言われており、実に十個師団が解体されていた。

 このように内地の人間が血を吐くような想いは実り、後の炎龍討伐に海軍の高角砲も活躍する出来事もあった。

 そして翌日、樹達一行は銀座に戻っていて、ロゥリィ達は銀座事件で犠牲になった人々に対して献花をして黙祷をしていた。

「伊丹少佐殿。梨紗さんから手紙が届いておりますよ」

 少尉の階級章を付けた尉官が伊丹に手紙を渡す。

『梨紗さん?』

 尉官の言葉に伊丹以外の人間が目を見開いて伊丹を見た。

「ん? あぁ俺の幼馴染みだ」

 伊丹はそう言って深くは語らなかった。

「(実家が仕立て屋だから自分で洋服を作って着ているなんて言ったら隣組とかが五月蝿いからなぁ。それに一応は俺の嫁だからまたこいつらが五月蝿くなるし)」

 伊丹はそう思っていた。なにせ梨紗は自分で洋服を作っては人に着せたりをしていて隣組から目を付けられていたりする。そして伊丹は梨紗と結婚している。

 親も親で梨紗のする事は聞いていながらもそのままにしていた。要するに親でも手に追えないからであり、仕立て屋として梨紗がする事は修行と考えていたのだ。

 そんな事を思っていた伊丹とは裏腹に樹達は梨紗とは何者なのかを考えていたりする。

「(……何となく少佐と同類な気がするな……)」

 妙に勘がいい樹である。

 そうした少しのいざこざはあったが樹達は無事に特地へと帰還したのであった。






 
 

 
後書き
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第二十話






「エルフに神にドラゴン……だと?」

 部下からの報告を聞いたルーズベルトは思わず椅子から転げ落ちそうになるが何とか踏ん張って部下からの説明を求めた。

 確かに日本政府から特地からの重大発表があると言っていたので記者を送っていたがまさかこんな大事になるとは思わなかった。

「それと日本から内密に特地で採取したドラゴンの鱗等を渡して来ました」

「何と……」

 ルーズベルトは日本の対応に驚いた。

「今は移送中でアメリカに到着次第、研究所に回す予定ですが……これはドイツとイギリスにも渡したようです」

「何?」

 炎龍との戦闘後、第三偵察隊は炎龍が落とした鱗等を多数採取していた。帰還後に現地で実験をした結果、短砲身五七ミリ戦車砲は勿論の事、三八式野砲、九〇式野砲で鱗を貫く事は出来なかった。

 唯一、鱗を貫くかヒビを入れたのは九一式と九六式十五サンチ榴弾砲であった。そのため大本営は炎龍対策として新たに九一式を十門と九六式を八門の特地輸送を決定した。

「……特地は我々が予想しているよりも遥かに想像を絶するかもしれんな」

 ルーズベルトはそう呟いた。

 一方、ドイツではアシカ作戦を中止して対ソ戦の準備をしている最中に日本から鱗等を渡す事が通知された。

「ドラゴンだと? あの伝説上の生物だぞ?」

「は、それに写真ではエルフもいるようで……」

「何? エルフもか?」

 部下からの報告にヒトラーはルーズベルト同様に驚いていた。

「それに日本からの情報ではドラゴンはかなりの厚い鱗を纏っているようで二十ミリでも効かないようです」

「……むぅ……兵士達が手頃で使える対戦車兵器を作るか……日本に売ればかなり使えるかもしれんな」

 門の利益を手にするためにあれこれと手を打とうとするヒトラーである。

「急ぎ、ドラゴンにも通用する対戦車兵器を作るのだ。それと日本に技術支援として技術者を送るのだ」

 この決定で史実より早めにドイツ軍のパンツァーファウストが開発されてドイツから対戦車用成形炸薬弾(夕弾)の構造を支援して四二年に夕弾が各砲に配備されたりする。

 世界各国の思惑が特地に向けられる中、アルヌスの丘周辺には日本軍と現地の交流の場としてコダ村から避難していた避難民達が店を作っていた。

 今村中将も現地と交流するならいいと思い、許可したのだ。最初は小さな店であったがイタリカから定期的に商人がやってきてこの世界の物と日本の物と交換したりして日本の物を貴族等に売ったりして利益を上げていた。

 詳しくは原作で。

 政府も品物の販売も悪くないとして特地へ渡る希望者を募って避難民と共に店を出させた。

 この商売で多く売れたのが日本刀と日本酒であったりする。

「如何でしたかな殿下?」

「……言えるのは貴国が帝国より遥かに上だと言う事です」

 今村中将の言葉にピニャはそう素直な感想を言った。今村中将は特地に戻ってきたピニャ達に対して日本がどれ程の戦力があるかを知るために特別観閲式を敢行したのだ。

 この観閲式には五個師団、一個砲兵大隊、三個戦車連隊、陸海航空隊が参加してピニャ達の肝は相当冷えたものであった。

「(……これを見て確信した。ニホンと講和しなければ帝国は滅びてニホンの物となる……)」

 この時、ピニャの脳裏にはボロい服でツルハシを持って働かされている自分やボーゼス、ハミルトンの姿が浮かんできた。

「(何としてもニホンと講和をせねば……)」

 ピニャは菅原から貰った捕虜の翻訳書を持ちながらそう思った。そしてピニャは直ぐに帝都に戻って議員達と接触するのであった。

 それから数日後、今村中将は一人のダークエルフと面会していた。

「……つまり、貴女の故郷が炎龍によって滅びようとしているので助けてほしいと?」

「その通りです」

 今村中将の問いにダークエルフ――ヤオ・ハー・デュッシはそう頷いた。

「我々も炎龍の退治は検討しています」

「そ、それでは……」

「だが場所が悪いのです」

 今村中将はそう言って地図を指指した。

「貴女の故郷はシュワルツの森ですが、そこは帝国との国境を越えたエルベ藩王国なんです。軍が国境を超える意味は語らずともお分かりになりますな?」

「そ、それは……」

 今村中将の言葉にヤオは言葉が詰まった。

「た、大軍でなくても良いのです。茶と草の人……数十人程だと聞き及んでいます。その人数なら軍勢とは言えないはず……」

「滅相もない。そんな人数で危険な炎龍と相対させるなど部下を死地に追いやるも同然。自分にはそのような命令を下す事は出来ません」

 いくら大日本帝国軍であっても兵士達には家族や妻、両親がいるのだ。無理矢理死なせるわけにはいかない。

 ヤオは両手で顔を覆ってただ声を殺して涙を流していた。涙は掌から手首へと伝わり、そのまま肘へと流れ落ちていく。

「くふぅ……」

 漏れた嗚咽に周りにいた参謀達も重々しい空気と痛ましさで黙りこんでいた。

「……ですが」

 その時、今村中将が口を開いた。

「我々は内地から炎龍撃滅の命令が来ております。取りあえず使者をエルベ藩王国に出して自国内の通過を認めてもらうようにしましょう」

「それでは……」

「我々の戦力が整い次第、炎龍の撃滅を開始します」

 その言葉はヤオにとって心が救われた瞬間であった。







 
 

 
後書き
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第二十一話






「宜しいのですか今村司令官? あのような返答をして……」

 ヤオが退出した後に柳田は今村中将にそう聞いた。

「構わない。我々も炎龍撃滅の命令は来ていたんだ」

「ですが彼女の故郷はエルベ藩王国の……」

「それについては手を打ってある」

「え……?」

「実は第四偵察隊がとある修道院にてエルベ藩王国の重要人物らしい人を保護したらしい。修道女からそう聞いたみたいだ」

「それでは……」

「まだ面会はしていないが近日中に面会する。ところで第三偵察隊は帝都に行っていたな?」

「あ、はい。外交員の菅原達と共に議員のパーティに出席をして日本の事を教えています」

「うむ、デュッシさんには寝床を与えて第三偵察隊が帰るまで待ってもらうしかない」

「……炎龍の戦闘経験ですか?」

「それもあるが伊丹大尉の元にはレレイ君達がいるからな。それなりの戦力として考えているのだよ」

 柳田大尉の言葉に今村中将はそう言った。



 伊丹大尉の第三偵察隊は帝都郊外にある庭園にいた。そこでは捕虜として捕らえた者の親族や議員達が集まってパーティをしていた。

「スガワラ殿、一家一族丸ごと招待するとは中々味のある催しを考えられたな」

「ありがとうございます。フォルマル伯爵からメイド長に来てもらえたのは助かりました」

 ピニャと菅原はそう言いながら庭園を歩き回って異常が無いか見ている。

 なお、子ども達にはアイスクリームが人気であった。ちなみに日本でのアイスクリームは明治からある。しかし、アイスクリームは値段が高いので民衆には手が届かない代物であった。

 このアイスクリームはわざわざ内地から輸送してきたものである。

 そして子ども達が立ち入り禁止の場所では第三偵察隊が四一式山砲と九二式歩兵砲の射撃をしていた。

「撃ェッ!!」

 二門の砲撃に議員や貴族達は腰を抜かした。

「な……何て威力なんだ……」

「帝国軍が負けるわけだ……」

 山砲と歩兵砲の威力を見た議員達はそれらを操る特地派遣部隊に恐怖した。

「アルヌスの丘にはこれを上回る榴弾砲――大砲もあります」

「何とッ!?」

「これより凄い物があるのかッ!?」

 伊丹大尉がそう説明すると議員達は恐怖より呆れてしまった。

「ピニャ殿下が「帝国は鷲獅子(グリフォン)の尾を踏んだ」と言っていた意味が分かったわい」

 老齢の議員がそう呟くのを周りの議員達も頷いた。

 その後、菅原とピニャは議員達と接触をしつつ講和条件を議員に提示した。

 それが一、帝国は戦争責任を認め謝罪し、責任者を処罰せよ。二、帝国はこの戦争によって日本側が被った被害について賠償すること。その額、スワニ貨幣で七億枚である。三、『門』のあるアルヌスを中心に半径五百リーグの円を描く範囲を大日本帝国に割譲すること。更に新規に引かれた国境から十リーグは双方ともに兵を配置しない事。四、通商条約の締結である。

 これには議員達が反対した。特に七億スワニなど払える金額ではない。それに対して菅原は七億スワニは資源に代える事も可能だと伝えた。

 それに地下資源の採掘権等でも大丈夫だと菅原が言うと議員達は漸くホッと溜め息を吐いた。

 その光景を少し離れたところで見ていた樹は苦笑していたりする。

「と、兎に角話し合おう」

「そ、そうだな。きちんと交渉を始めなければならん。特に賠償額については双方の実情を照らし合わせて双方が納得いくようにな」

 議員達は口々にそう呟いてまるで暗示しているかのようである。ちなみに菅原の言葉にピニャは地面に倒れていたりする。

「大丈夫ですか?」

 倒れたピニャに、何かあったのかと勘違いした樹がピニャに近寄る。

「セ、セッツ殿。妾は……妾はもう駄目かもしれぬ。なので此処で言っておきたい。あの時は本当に済まなかった。イタミ殿にも言っておいてほしい。許してたもれ、許してたもれ」

「だ、大丈夫ですから。そんな自殺するような事は言わないで下さいよ」

「いや妾はもう駄目だ。お願いだ、許してたもれ」

「~~よく分からんけど、許しますから許しますから……うぉッ!?」

 樹の言葉を聞いたピニャが樹にしがみついていた。

「許してくれるのか……有りがたい……本当に有りがたい」

 そしてピニャは号泣する始末であり、事情を知らない樹が慌てるのであった。

 その後、皇帝第一子のゾルザル・エル・カエサルがパーティに乱入してくる場面もあったがピニャが適当にあしらって議員達を上手く逃がす事が出来た。

 ゾルザル本人はマルクス伯の間違いかと思いその場を後にしたが、まさかの第一子の登場にピニャは驚いていたが何とかあしらう事が出来て安堵の息を吐いた。

「ふむ、帝国の議員と接触出来たか」

「は、交渉の中身はこれからになるでしょう」

 大日本帝国内閣総理大臣の東條英樹は特地駐留大使の吉田茂の報告に安堵した。

「ですがスワニ貨幣で七億枚はやはり難題のようです」

「構わない、あれは囮だ」

「囮……ですか?」

 吉田の言葉に東條は頷いた。

「聯合艦隊司令長官の山本からの発案でな。賠償金を貰うのが普通だが、今の日本の状況を考えれば必要なのは資源だからな」

「成る程」

 海軍からの提案に陸軍は驚いたが、確かに資源を貰えば例え『何処かの』国と戦争になっても一応は東南アジアを占領しなくても戦争継続は可能である。(それでも戦略上、必要な地域は占領する予定)

「特地は長期的に見ねばならんな……」

 東條が呟いた言葉を吉田は無言で頷いた。






 
 

 
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第二十二話






――1941年六月、東京――

「それではトーゴー大臣。ジャパンは門の周りを固めていると言う事かね?」

「簡単に言えばイエスですな」

 東條内閣の外務大臣を務めている東郷茂徳は日本に来日したハル国務長官やドイツ、イギリス、ソ連の駐日大使らと会合をしていた。

「失礼ではあるが、ゲートは国際的に各国で守るべきではなかろうか?」

「ほぅ、我が日本の東京に軍を派遣すると? それは宣戦布告ですかな?」

「ッ………」

 東郷外相の言葉にソ連駐日大使は口をつぐんだ。なにせソ連は門の情報を欲しかったがそれは他国もである。

「貴国が中国のような事をしないと保証はあるのかね?」

 ハル国務長官はそう東郷外相に問う。ハル国務長官が言っているのは支那事変の事であった。既に中国大陸にいた陸海の部隊は全て満州に引き揚げていた。

 日本軍が撤退した事により、国共合作をしていた中国国民党と中国共産党の間で不穏な空気が流れはじめていたのだ。日本という敵を追い出した事により中国は再び内戦の道へと歩もうとしていた。

「先に発砲してきたのは中国側です。まぁ今はそれは関係ありませんが、今回の事を戦訓にして無駄な事はしないと約束します」

「……ならば構わない」

 日本が暴走するような事はしないと判断したハルはそれだけにしておいた。そこへドイツ特命全権公使のヒュットマンが口を開いた。

「それにしても日本は面白い贈り物をしてくれましたな」

 ヒュットマンの言葉に他の駐日大使等は苦笑いした。ヒュットマンが言っているのはゴブリンやオーク、炎龍の鱗である。

「いやなに、銀座事件で多数の捕虜をしたのはいいが食糧が厳しいので他国へ贈り物したまでですよ」

 東郷の言葉に大使達が笑い出す。特地の情報が中々日本が開示しない中での受け渡しであったので各国の研究者達は大喜びである。

 特に炎龍の鱗は各国の軍人には顔を蒼白させるのは十分であった。これによってドイツはアハトアハトを搭載したティーガーが史実より早くに登場するといった出来事もあった。

 無論、それは日本でもあり前面装甲を七五ミリにして二式七糎半戦車砲二型を搭載した二式中戦車(史実の三式中戦車に追加装甲を施した戦車)、ドイツからティーガー戦車を購入してそれを元にアハトアハトを搭載した四式中戦車(史実の五式中戦車。史実ではアハトアハトは搭載してません)が登場する事になる。

「トーゴー大臣、率直に申しますと我々もゲートについてはよく知りたい。武官の派遣を申請したい」

 イギリス駐日大使はそう東郷に言う。他の大使もイギリス駐日大使の言葉に頷いている。

 東郷は予め予想していたのか、少し苦笑しながら口を開いた。

「武官の派遣は我々も予想していましたので。今は準備中です。その代わり、武官は此方のルールに従ってもらいます」

 東郷の言葉に大使達も頷いた。

「武官は各国二人までとし、武器の携帯は護身用の拳銃しか認めません。違反すれば罰金として十万ドルを請求します」

「……法外過ぎではないのか?」

「我々は武官の安全と信頼を考えてで言ったまでです。それに違反しなければ問題はありません。そうでしょう?」

『………』

 東郷の言葉に大使達は渋々と頷いて了承するのであった。


 一方、特地では新たな派遣航空部隊が到着していた。

「此処が特地……か」

「なに感傷に浸っているんだ坂井?」

 同僚である西沢一飛曹が坂井一飛曹に声をかけた。

「いやなに、これまで大陸にいたけど見知らぬ土地に送られたからな」

「まぁそれもそうだろうが慣れが必要だ。慣れれば大した事じゃないはずだ」

「そう言う西沢はどうなんだ?」

「まだ慣れてないな」

 二人はそう言って笑いあう。二人は横山保大尉率いる交代派遣部隊として特地に移動していた。

 機種はそれまでの九六式艦上戦闘機ではなく、四月に量産が開始された新型の零戦三二型である。

 零戦三二型は若干のエンジントラブルがあったが問題は無かった。

 なお、この零戦もそうだが陸海の航空部隊の機銃弾は互換性がないので双方で使用する事は出来ない。

 この結果、陸海は協議をして航空機銃の共通化をする事が決定した。

 この共通化は陸軍の一式十二・七ミリ固定機関砲であり、零戦も後の五三型から搭載されるようになった。

「それより聞いたか? 炎龍って奴は零戦の二十ミリでも効かないみたいだぞ」

「あぁ、遭遇した陸さんが二十ミリを撃ったらしいが貫く事は出来なかったみたいだな」

「だとすると炎龍とやらには陸さんの野砲くらいしか通用しないんじゃないのか?」

 二人はこそこそとそう話している。

「なに、龍と空戦が出来るんだからいいじゃないか」

「それもそうだな」

 二人はそう言い合った。なお、特地派遣航空隊は炎龍を考慮して戦闘機は全て新型機へと更新していた。

 海軍航空隊は零戦二一型四二機、零戦三二型十二機、九九式艦爆三六機、一式陸攻二七機である。陸軍航空隊は九七式戦闘機五四機、隼九機、九九式襲撃機三六機、九七式重爆二七機が新たに集結していた。

 特地であるがゆえに出番があると思いきや、中々出番が無かったりする。

 だが、そんな航空部隊にも帝都爆撃をする大役を任される事態にまで発展するのであった。






 
 

 
後書き
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第二十三話

 
前書き
取りあえず今のところ決定しているのはゾルザルフルボコッコと帝都空襲ですかね。 

 




 特地に派遣された菅原以下の外交員は帝都で密かに活動を開始した。

 これは帝都の市民がどのような住人であるか探るためとその接触と議員との接触である。

 ピニャは議員との接触に関与していたが住人の接触は知らなかった。これは日本が独自でしている事である。

 帝都で活動するには拠点が必要である。そのため数ヶ所の活動拠点を確保した。

 アルヌス共同生活組合の帝都支店の倉庫や街の居酒屋の二階など怪しまれない場所である。

 その中でも帝都『南東門』界隈にある貧民街の一軒家に拠点を新しく構えた。

 その地区は帝都でも様々な種族、民族、獣人が混在して生活している地区であり普通の市民や貴族が訪れる事はまず無かった。

 言わば無法地帯である。男もいれば女もいる。その女の殆どは交渉次第で娼婦として仕事している事もある。帝都の澱みを吸収して負の方向へと闇色に発展し続ける場所なのだ。

 日本特地派遣軍(部隊から改名して支那派遣軍や関東軍等の総軍の一つとなった)はそんな場所をあえて選んだ理由は簡単で人種の坩堝と言える場所ならば怪しい風体の者が出入りしても目立たないと考えたからだ。

 それに獣人等の種族を調べる事も大きな利点であった。地球では伝説等でしか見れない獣人がいるのだ。各偵察隊は内地から持ってきたカメラ等を使って彼等を写真に納めたり映像に撮したりした。

 この映像や写真は日本国内は勿論、諸外国の首脳陣にも送られて特地の様子が若干分かったりした。

「……日本も気前がいいものだな……」

「……プレジデント、むしろ火中の栗は我々が拾うというメッセージかもしれません」

「ほぅ、どういう事かね?」

 ハル国務長官の言葉にルーズベルトは疑問を持ち、ハルに問う。

「トーキョーで各国と会談中に日本が此方に接触してきまして、満州にアメリカの企業を進出させてもよいと言ってきています」

「……成る程、特地に自国の企業を送り込みたいわけか」

 特地の情報を嗅ぎ付けた日本の企業は特地に進出したがっており政府や大本営はほとほと困っていた。そこで特地に小規模ながら企業を進出させて満州の空いたところにアメリカの企業を進出させる事にしたのである。

「特地に進出したいが、代わりに満州を出す……と?」

「yes、それとプレジデント。……日本は北部満州から内々的に撤退するようです」

「……どういう事だ?」

 ハルの言葉の意味が分からないルーズベルトはそう聞いた。

「どうやら日本は中々の利口のようです。日本は『ドイツがソ連に負ける事を前提条件にした満州戦』を展開するようです」

「……ほぅ」

 ハルの言葉にルーズベルトはニヤリと笑う。三国同盟の同盟国であるはずの日本が独ソ戦を負けると踏んでいるのだ。

「それは面白いな……」

「それに日本は満州をソ連の防波堤にするようです」

「……成る程……これは当分、日本から目が離せなくなるな」

 ルーズベルトはニヤリと笑いながらそう言うのであった。

 その頃特地の帝都では偵察隊の隊員や陸軍中野学校出身者達が情報を集めていた。異世界であり、帝国の事をあまり知らない日本にとって帝国の情報は大変貴重であった。

 また、スリや泥棒といった連中は日本軍に媚びを売るように貴族を監視したり時には屋敷に侵入して書簡等を盗んだりしてその情報を日本軍に売って代わりにカネを貰っていた。

 しかし、当初は娼婦等の女性達からは不人気であった。娼婦達は偵察隊等に自分の身体を売り込んだが兵士達は「申し訳ないが、任務をしているので……」とやんわり断られていたからである。

 その代わりに隊附衛生部員等が建物の一角(事務所)で娼婦等に衛生サック(所謂コンドーム)「突撃一番」や「鉄兜」を銅貨一枚で売ったり、健康診断をしたりしてからは風向きが変わり始めていた。

 そんな日の夜半、隊附衛生部員である黒河が事務所で夜勤をしていた時に顔馴染みである背中に白い翼を持つミザリィという翼人の娼婦が他の娼婦を引き連れてゾロゾロとやってきた。

「どうしましたかミザリィさん?」

 黒河は念のためとして十四年式拳銃を携帯するがミザリィは落ち着かない様子だった。

「取りあえずは入りなさい」

 落ち着かない様子だったミザリィに黒河は何かあると思い、娼婦達を中に入れた。

「それで何かあったのですか?」

「あたしらはあんたらがこの街で……帝都で何をしようとしているかは薄々感づいている。だけど何も言わず、聞かず、見なかったで通してきている。それがこの街で長生きする秘訣だからね」

 ミザリィの言葉に娼婦達は頷いた。

「だけどね、そうも言ってられなくなったんだよ。この娘の名前はテュワル。この子の話を聞いてあたしらを助けてほしいんだ」

 ミザリィはそう言って種族の異なるテュワルを紹介した。テュワルはハーピィであり、翼人は背中に翼を持つがハーピィは上肢が翼を兼ねる。

「お願いですッ!! 助けて下さいッ!!」

 テュワルは目に涙を溜めながら黒河にそう訴えたが黒河は要領が掴めなかった。

 黒河は説明を求めるがミザリィ達は助けてほしいとその一点張りである。そしてとうとうミザリィが声をあらげた。

「まどろっこしぃねぇッ!! あたしらを助けてくれればこれからはあたしらに協力してやると言ってるのさッ!!」

「だから、何から助けてほしいと聞いているんですよ。何かが起きるんですか?」

「そうです。地揺れが来るんですッ!!」

 テュワルは黒河にそう訴えた。







 
 

 
後書き
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第二十四話






 その夜、帝都は地震に襲われた。幸いにも揺れは強烈ではなく、帝都の街並みやインフラを破壊するような事はなかったが人心に与えた傷は深刻なものとなった。

 震度は測定しないと分からないが、後の報告で被害の程度から震度は四から五弱と推定された。

 更に発生時刻が深夜という事もあり、帝都にいた人間は不意を突かれた事となる。

 ハーピィのテュワルは以前に似たような体験をしていた。南方の火山地帯に住んでいた彼女は噴火の寸前に大地が揺れるという希有な体験をしたのだ。

 彼女は最初は勘違いだろうと思っていたが、何かが引っ掛かり恐怖感を拭い去る事が出来ずにミザリィに相談したのだ。

 そしてミザリィは黒河のところへ来たのである。

「……これは自分では対処しきれないな……」

 そう判断した黒河は桑原に相談した。桑原も判断をこの事務所の所長である新田原少佐に報告した。

「……予知夢というやつだな」

 新田原はそう呟く。新田原は所長になる前に今村中将に呼ばれて言われている事があった。

「異世界では日本の常識は通用しない。非常識の事を考えて行動せよ」

 既に第三偵察隊によって炎龍の存在も確認されているのだ、日本での常識は通用しないと今村達司令部はそう判断していたのだ。

 そのため、危険と判断したら直ぐに司令部に知らせるようになっていた。

「……良し、信じてみよう」

 新田原はそう決断して彼女達を一時的に保護する事にしたのである。昔からの地震国である日本だからこそ、そう決断したのだ。

 これがアメリカなら笑い飛ばして追い返すのが関の山である。そして新田原は伊丹達にも連絡を入れといた。

「地震? ほんとに来ますか?」

「まぁ来なくても丁度いい訓練になるだけだよ」

 伊丹と樹はそう話しながら城館を出て外の森へ歩いていた。

「……眠い……」

「俺の右肩で寝ないで下さい……てかハミルトンさんもです」

 ピニャは菅原にほぼ無理矢理な形で叩き起こされていた。無論、それはハミルトンでもあり二人とも半分眠りながら歩いている有り様である。

「両手に花か?」

「そこ五月蝿いです」

 ニヤニヤしてくる伊丹に樹はそう返すだけである。

 この時、菅原の護衛でピニャの館に滞在していたのは伊丹、樹、栗山、富田、水野の五人である。

 伊丹と樹は完全武装とまでは言わないがそれでも九五式軍刀とコルトM1903を装備している。

 富田達は海軍から支給されたベ式機関短銃を主にしての完全武装である。九九式短小銃ではボルトアクション方式なので連射が出来ないために機関短銃を臨時で装備していたのだ。

 後に機関短銃の性能を知った陸海軍は銃剣付きの一〇〇式機関短銃やドイツからMP40を大量生産して下士官に配備したりしている。

 メイド達や松明を揚げ持つピニャの護衛兵達も戸惑いを隠せない様子であり、ただピニャに従っているという理由で応じているだけだ。

 すると小さな揺れが起きた。

「来ましたね」

「うん、ほんとに来たな」

 そして到来する本格的な揺れが起きる。僅か三十~四十秒程度の事だったが、産まれて初めて地揺れを経験するピニャ達にとっては顔面を蒼白させる事である。

 ピニャとハミルトンは思わず樹を抱き締めた。

「ちょ、大丈夫ですか?」

「「………」」

 樹の言葉に頷こうにも地揺れの恐怖で頷けない二人であるが、地揺れに平然としている樹や伊丹達を見て勇者のように思えた。

「大丈夫ですから……」

 足下に抱きつく二人に樹は二人の頭を撫でて落ち着かせようとしている。富田や栗山の足下にもメイド達が悲鳴を上げながら群がって落ち着かせるようにしていた。

 そして地揺れは漸く収まったのであった。

「この程度なら問題無いですね。まぁ城壁とか弱いところは崩れてるかもしれませんが」

「……うん……うん」

 樹の言葉に地揺れで思考停止状態のピニャはただ頷くだけである。

 漸く思考が戻ったのは五分が過ぎており、ピニャは樹から大きな地震の後には大抵はもう一度の余震が起きると聞かされた。

「直ちに皇帝陛下の下へ参らなくてはならない」

「分かりました。ではお気をつけて」

 樹や伊丹も反対する理由はないのでそう告げるがピニャとハミルトンは顔面を蒼白しながら同行してくれと言い出した。

 流石に親玉のところへ行くのは樹や伊丹は渋ったが二人は頭を下げた。

「セッツ殿、イタミ殿、お願いだ。傍にいてほしい」

「御願いしますイツキ殿ッ!!」

 ハミルトンもそう言ってきた。後ろではメイド達がうんうんと頷き、護衛兵達は胸を反らして伊丹達の背後で人垣を作っていた。

「……仕方ない。行くとするか」

 こうして皇宮に向かうピニャ達に伊丹達も同行する事になったのである。



 ピニャ達が皇宮に到着した時は皇宮は大混乱となっておらず、近衛兵や文官達がおろおろと辺りをうろついていた。

 そのため、伊丹達は誰何を受ける事なく皇帝の寝室前まで来れてしまったのだ。

「ほぅ、最初に来るのはディアボかゾルザル辺りかと思っておったがまさかピニャが来るとはな」

 皇帝は顔を冷や汗でいっぱいにしぬがらピニャ達を出迎えた。

「陛下、身支度をなさって下さい」

 ピニャはそう言い、文武の官僚達に指示を出していく。皇帝はピニャの横顔を見ながら感心するように口を開いた。

「一皮剥けたようだなピニャよ。時に見慣れぬ者を側に置いてあるな。将軍達が来るまで暫し時があるであろう。その間に紹介してくれぬか?」

「紹介します。ニホン帝国使節のスガワラ殿です」

 菅原は胸を張って一歩前に出るの頭を垂れる礼をもって敬意を表した。菅原の背後では伊丹達が挙手の敬礼を行う。

「確かかの国と我が帝国との仲介の任を引き受けていたのだったな。だが、何故このような時にお連れしたのか?」

「父上、この者らは此度のような地揺れに大層詳しく、聞けばこれより揺れ戻しがあると申しておりますので傍で助言をと思っておりました」

 ピニャの言葉に皇帝は顔色を変えた。

「また揺れると?」

「はい、そのために是非にと御願いして同行していただいた次第です」

「良かろう。使節殿、歓迎申し上げる」

「陛下におかれましては御機嫌麗しく」

 菅原が脳内で用意していた挨拶の口上を述べる。

「天変地異の直後に麗しいはずなかろう。が、お陰で我が娘の意外なる成長を見届ける事が出来た。礼を言うぞ」

「いいえ、殿下が日頃から研鑽されて参られた結果とお見受けいたします」

「使節殿、今は生憎と忙しくてもてなす事は出来ぬが時と所を変えて盛大な宴を開いて歓迎したい」

「はい陛下。お話する機会をいただきたく存じます」

「そう言えばニホンという国にも王がいるのだな?」

 皇帝は意外な事を聞いてきた。何故王……天皇陛下を知っているのか?

 それは直ぐに分かる事であった。







 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第二十五話

 
前書き
てなわけで救出。 

 





「はい、王の名ではなく天皇という位に就いて国の元首、統治権の総攬者としております」

「成る程、我が帝国と同じようなのであるか。考えてみれば『門』の向こうは異世界でありその世界にはその世界における君臨の有様があってもしかるべきか。対等の相手などこれまでに無かっただけにどのように遇するべきか分からぬ。無礼などがあってもご容赦いただきたい」

「父上、父上ッ!! 御無事かッ!!」

 その時、廊下から大音声が響いてきた。ゾルザルが謁見の間に乱入してきたのだ。

 ゾルザルの取り巻きもいたが慌てて出てきたようである。ゾルザルは手にチェーンを引きずっており、首輪を付けたゾルザルの奴隷達が引きずられていた。

 その光景に絶句する伊丹達であるが外交官たる菅原は顔色を変えなかったがそれでも心の中で舌打ちをしていた。

「早く逃げましょう父上ッ!!」

「何処へ行くというのか?」

「兎も角、此処から離れるのです」

 ピニャはゾルザルに対して取り成そうとした。

「何を悠長な事を言っているかッ!! ノリコの言によればもう一度か二度は地揺れがあると言うておるのだ。直ぐにでも逃げるのだ」

「兄上、それにしても再度地揺れがあると御存知ですな。妾も先程知人より聞いて知ったばかりだと言うのに」

「今言ったろう。ノリコがそう言っておったのだ」

「ノリコとは?」

 ピニャの問いにゾルザルは手にした鎖の一本を引っ張る。その時、ゾルザルの奴隷の中で小さな悲鳴が起きて他の奴隷達が呻く。

「黒髪の女だ。『門』の向こうから拐ってきた内の生き残りだ」

 その瞬間、伊丹と樹が前に出た。

「貴殿に御尋ねしたい。拐ってきたという女性はニホンの人か、ニホンの人であれば即時返還を求める」

 伊丹がいつになく真剣な表情でゾルザルに問い質す。

「イツキ……さん?」

 ハミルトンが樹の横顔を見た。樹の表情は明らかに憤怒していたからだ。

「何だ貴様ら? 俺は第一皇子だぞ。控えろッ!!」

「尋ねているのは此方だ。質問を罵倒で返すな」

 伊丹がゾルザルを睨み付ける。樹は黒髪の女性に近づいた。

「日本人ですか?」

「ッ!?」

 樹の言葉に黒髪の女性は咄嗟に顔を上げた。明らかに東洋人であった。

「日本人ですね」

「は、はいッ!!」

 女性は思わず泣き出した。樹はコルトM1903を取り出して鎖に向けて引き金を引いた。

「な、何だッ!?」

「雷かッ!!」

「隊長ッ!! 邦人女性確保しましたッ!!」

 樹は喋りながら水野にノリコを引き渡す。

「き、貴様らッ!! 俺の奴隷に何をしたッ!!」

「何をしたじゃないこの野郎ッ!!」

 ゾルザルの言葉に遂に伊丹もキレてゾルザルの顎を抉った。ゾルザルはかわす事も出来ずに吹き飛ばされて床に転がる。

「な、殴ったな貴様ッ!! 皇子たるこの俺を殴ったなッ!!」

「この無礼者めッ!! 皇子殿下に手を挙げるとは一族郎党皆殺しの大罪だぞッ!!」

 ゾルザルの取り巻きが剣を抜いて身構えた。

「構えろ富田ッ!! 栗山受け取れッ!!」

 伊丹が叫び、栗山に向かって九五式軍刀を渡す。

 一方、菅原は笑みを浮かべながら皇帝に尋ねた。

「只今皇子殿下が『門』の向こう側から拐って来たと仰られましたがこれは一体どういう事でしょうか陛下。そしてピニャ殿下はこの件を御存知でらっしゃいましたか?」

「ス、スガワラ殿?」

 菅原の笑みにピニャは思わず後退りをした。それほどまでにピニャは恐怖を感じたのである。

 日本は捕虜の取り扱いにしても人命を大切にしていたのを感じていた。だから此処まで苦労して準備してきた講和交渉をぶち壊しにするほどの事とはどうしても思えなかった。

 富田がゾルザルの取り巻きに向けている銃を見て即座に前に出た。

「止めて下されイタミ殿ッ!! 皆も武器を収めよ。何かの間違いじゃ、ここは妾に免じて武器を収めよッ!!」

 だが、ゾルザルの取り巻きはそれを無視して剣を構えて少しずつ包囲の輪を広げていく。

 ゾルザルは床に倒れたままほくそ笑んだ。

「いずこの国の者かは知らぬがこれで貴様らの国の運命は決したな。国王から民に至ることごとくを殺し尽くし、全てを焼き払ってくれるッ!! 全てはお前の責任だッ!! 我が身の罪深さを思い苦しんで死ぬがいいッ!!」

「ならば戦争だ。苦しんで死ぬのは貴様の方だ。富田、栗山は奴等を敵兵を殲滅しろ。あの馬鹿にはまだ聞きたい事がある」

「了解です隊長殿ッ!!」

 富田はニヤリと笑ってベ式機関短銃の引き金を引いた。

 銃撃音が聞こえた瞬間、ピニャはこの世の終わりを迎えたような表情をしていた。

 ベ式機関短銃の9mmパラベラム弾が次々と取り巻きの鎧を突き破って取り巻きの命を刈り取っていく。

 そして栗山は九五式軍刀を持って踊っているかのように取り巻きを斬り捨てている。

 生き残りの取り巻きが栗山に斬りかかろうとするが栗山は斬撃をギリギリで避けて摺り足で移動して反撃する。

 取り巻きの返り血が栗山に降り注がれるが、栗山は気にせず刈り取っていく。後に聞けば栗山の家は剣道場を持つ家庭であったらしい。

 樹も自分に迫る取り巻きにコルトM1903で撃っていた。水野はノリコを守りつつベ式機関短銃を構えている。

 数分後には取り巻きは一人も立っている者はおらず、全て床に倒れていた。

「……さて、皇子殿下。貴方は先程、この女性を『門』の向こうから拐って来た生き残りと仰られましたがそれはつまり他にも拐って来た者がいるという事ですね?」

 伊丹はニコニコしながらそう聞いた。それは「正直に答えないと殺す」というような暗示であった。






 
 

 
後書き
原作みたいにいきなりゾルザルを殴る事はありませんでしたが、やはり間をおいて殴りました(笑)拉致された邦人を救出するという一応の大義名分ですかね。
ピニャはそのうち心労で倒れそうです。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第二十六話

 
前書き
非常に不味くなってきたようです。 

 





「……さて、皇子殿下。貴方は先程、この女性を『門』の向こうから拐って来た生き残りと仰られましたがそれはつまり他にも拐って来た者がいるという事ですね?」

 伊丹はニコニコしながらそう聞いた。それは「正直に答えないと殺す」というような暗示であった。

「ふ、ふん。無礼者に答える口などないわ」

 ゾルザルはそう言い張るが、口は震えていた。余程、先程の光景が目に焼きついていたのだろう。

 対する伊丹はニヤリと笑って栗山に視線を向けた。

「栗山、こいつが喋りたくなるように優しく痛めつけろ」

「了解です隊長殿ッ!!」

 栗山はニヤリと笑って手をバキバキと鳴らしながらゾルザルの前に立った。

「な、何をするんだ貴様、俺を誰だと……ぎぃやぁぁぁッ!! そ、そこはやめ……ぐあぁぁァッ!! う、腕を折るな、勘弁して……ぎぃやぁぁぁァァァァァァァァァァァーーーッ!!!」

 栗山のやり方にピニャと皇帝は目を背けてしまう。誰一人、ゾルザルを助けようとはしぬかった。

 否、栗山に対する恐怖で助ける事が出来なかったのだ。皇帝は怒らせると危険な存在があることを初めて知ったりする。

 ハミルトンは腰を抜かして樹の脚に抱きついて震えており、メイド達も壁際に固まってしゃがみ込んで互いに抱き合ってガタガタと震えていた。

 そして漸くマルクス伯を始めとした大臣や将軍達や近衛兵達が到着したのである。

 伊丹はやってきた近衛兵達に心の中で舌打ちをすると、懐からコルトM1903を取り出して銃口をゾルザルに突きつけて再び尋問を始める。

「皇子殿下、そろそろ答えてもらえませんかね?」

「………」

「聞いてます?」

 ゾルザルが何か言おうとしたが、口や鼻から溢れる血液で人語が聞き取れず、ゾルザルの襟首をつかんで己の方へ引き寄せるともう一度尋ねた。

「殿下を殺さないで」

 奴隷が一人、伊丹の方へ来てそう告げるが伊丹はそれを無視して質問を続ける。

「殿下、貴方は先程此方の女性を『門』の向こう拐ってきた『生き残り』と称しましたがそれはつまり他にも誰かを拐ってきたという事ですね?」

 伊丹の質問にゾルザルはブンブンと繰り返して首を縦に振った。そして逃げようとするが伊丹は逃がさない。

「裕樹よ。裕樹はどうなったの? それにマックスやクリス、エイミィも返してッ!!」

「ノリコさん、その三人は誰ですか?」

 伊丹は嫌な予感を覚えながらノリコに問う。

「マックスとクリスはアメリカ人、エミリアはドイツ人よ」

「……これは非常に不味い……」

 菅原は小さく呟いた。

「クリスとエミリアはそこにいるわ」

 ノリコはゾルザルの奴隷達に指差した。二人は手を振る。

 樹が素早く駆け寄って二人の鎖を壊して解放した。

「……男達は奴隷市場に流した。後は知らん……」

 力を振り絞ってそう答えたゾルザルは気絶するのであった。そして菅原は皇帝に視線を向けた。

「皇帝陛下、歓迎の宴を開いて下さるとのお話でしたがそれは我が国より誘拐された者達をお返しいただいてからといたしましょう。どのような神を信仰しているかは存じませんが彼等が生きている事を御祈り下さい。ピニャ殿下、後でその者達の消息と、どのように返していただけるかを聞かせていただけるものと期待しております」

 菅原はそう告げると伊丹と視線を交わしてこの場から立ち去る事にした。

「そうはいかんッ!! 貴様らをみすみす逃しておけるかッ!!」

「……やれ富田」

 伊丹の命令に富田はベ式機関短銃で叫んでいた将軍に一連射をした。撃たれた将軍は全身に弾丸を受けて床に倒れて絶命した。

 その光景に近衛兵達は得物を落としてしまう。

「止めよッ!!」

 皇帝は死体の山が築かれる前に戦闘を止めさせた。

「スガワラ殿、認めよう。確かにニホンの兵は強い。だが戦いに強いばかりでは戦争には勝てぬもの。貴国には大いなる弱点がある」

「ほぅ、何でしょうか?」

「民を愛しすぎる事よ、義に過ぎる事よ、その動きが手に取るように予測出来る。信に過ぎる事よ、大いに損をするであろう」

「それは分かりきっている事です。ですが信義を無くせば國は亡ぶ。そう理解しています。いっそのことお試しになられますか?」

 菅原は皇帝にそう告げるのであった。

「そなた等に抗せるはずもなし。和平の交渉を始めるのが良いだろう」

「私達も充分に弁えているつもりです。平和とは戦の準備期間である事を。和平の交渉は今行われている戦を止める理由ではありません。我が国、我が世界は帝国を遥かに越える年月を血塗られた歴史の上に積み上げております。和平の交渉中に帝都を失う事を恐れていただきたい」

 つまりは脅迫である。

「それでも其処許らは和平の呼び掛けを拒絶する事は出来ぬ。違うか?」

「さぁそれはどうでしょうか? 我が国は一度、他の国と和平の呼び掛けは対手(あいて)とはしませんでしたからな。ですが虚言に下す鉄槌は凄まじいものとなる事を覚悟して下さい」

「信じておらぬのか。だが後で損をしなければ良いな?」

 その時、余震が襲ってきた。

「行くぞ」

 慌てる皇帝達には目もくれずに伊丹達は引き上げる。

「それではハミルトンさん。また」

「ぁ……」

 樹がそうハミルトンに言った時、ハミルトンはビクリと震えた。

「………」

 ハミルトンは樹を畏怖の対象で見ていた。樹は無言で敬礼をして伊丹達の後を追うのであった。

 そして一行は皇宮を出たところで伊丹が叫んだ。

「不味ったァッ!! やってしまったよッ!!」

 菅原も頭を抱えている。

「やってしまった……吉田大使にどう報告しよう……」

 二人は頭を悩ませるのであった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第二十七話






「今すぐにでも帝国の帝都を爆撃するべきだッ!!」

 特地派遣司令部で海軍派遣航空隊副司令の小園安名中佐が緊急招集で集まった将官達に具申する。

「……小園中佐、貴官の気持ちは分かる」

「ですが司令官ッ!!」

「帝都爆撃は私でもそう思っている。しかし、事は重大だ。何せアメリカ人とドイツ人までも帝国に誘拐されていたのだ。慎重に成らざるを得まいのだ」

 伊丹と菅原からの報告で流石に今村司令官も仰天していた。

「帝都爆撃の使用機体は海軍さんの一式陸攻でやる。爆撃手も陸海のベテランを募らせてやるつもりだ」

 今村司令官はそういい終えると溜め息を吐いた。

「問題はアメリカとドイツの出方だ。最悪の場合、奴等が干渉してくるのは間違いないだろう」

 誘拐されていたのが日本人だけなら今村も躊躇せずに爆撃隊に出撃命令を出していたが、外国人もいれば話は別である。

「爆撃の攻撃目標は皇宮、議事堂、元老院の建物のみに絞る。爆撃高度は三百で護衛には海軍さんの零戦隊に任せる」

「分かりました。戦闘機パイロットもベテラン揃いにさせます」

 海軍派遣航空隊司令官の斎藤正久司令はそう告げるのであった。

「指定場所のみだ。もし、帝都の街並みを爆撃してみろ。そこに他のアメリカ人やドイツ人がいたら洒落にならん。勿論民間人もだ」

「分かりました」

 こうして三時間にも及ぶ会議の末に帝都爆撃が決定された。

 零戦二七機、一式陸攻九機であり、使用爆弾は一発必中を兼ねての八百キロ陸用爆弾である。

 攻撃時間は払暁となり、整備兵達は徹夜で機体を整備する事なるがそれでも整備兵達の士気は高かった。

「日本人を奴隷にしていたなんて……許さねえな」

「故障機なんぞ出すなよッ!!」

 帝都の爆撃とその理由を今村司令官から直接聞かされていた整備兵達はベテランを中心に機体の整備をしていたのである。

 そして翌日の0300には全機の整備は終了していた。

 出撃は0500であり、爆撃隊の搭乗員も全てベテランで集められていた。

「司令官、攻撃隊は何時でも発進出来ます」

「うむ。時間は?」

「は、0458です」

「全機出撃せよッ!! 目標は敵帝国の帝都の皇宮及びその周辺の建造物也ッ!!」

「全機出撃ッ!!」

 飛行待機所で待機していた搭乗員達は愛機に駆け寄って乗り込み、零戦隊の一番機がプロペラを回し始めた。

「発進ッ!!」

 零戦が滑走を始めてゆっくりと離陸していく。それに続いて二番機も離陸する。

「帽振れェッ!!」

 見送りに来た整備兵や陸軍兵士や司令部の参謀達が帽子を振っている。

 兵士達の帽振れは攻撃隊が水平線に消えるまで続いた。

「……ハミルトンさん……」

 見送りに来ていた樹は飛び去っていく攻撃隊を見ながらそう呟いた。

 樹としては皇帝や帝都がどうなろうと知ったこっちゃじゃない。向こうが自爆するような事をしたまでだ。

 ただし、ハミルトンだけは何故か気になった。あの皇宮から去る時、樹を畏怖の対象を見るような視線に樹は心が痛んだ。

「……出来れば無事で……」

 樹は帝都の方向を見ながらそう呟いたのであった。



「隊長、もうすぐ帝都です」

「うむ、爆撃準備に入る」

 副操縦士の言葉に攻撃隊隊長の宮内少佐はそう命令をした。

 もうすぐ日の出である。攻撃隊は乱れたりせずに編隊を組んで飛行している。

「見えました隊長ッ!! 帝都ですッ!!」

「よし、皇宮を探せ。零戦隊は万が一に備えて高度一千で飛行するように伝えろ」

 正操縦士がハンドサインで零戦隊に知らせる。指令を見た零戦隊隊長の中島少佐はバンクして他の零戦と共に高度一千に上昇して辺りを警戒する。

「爆撃進路に入る」

「ヨーソロー」

 一式陸攻は小隊に分かれて爆撃進路に入る。

「目標皇宮ッ!!」

「用ぉ意……撃ェッ!!」

 宮内機から八百キロ陸用爆弾が投下された。列機も爆弾を投下した。

 爆撃高度が三百なので三発とも命中して皇宮を吹き飛ばした。他の小隊も議事堂と元老院の建物を爆撃を敢行して二ヶ所とも皇宮同様に吹き飛ばした。

「隊長、全機爆撃完了しました」

「よし、帰投しよう」

 攻撃隊は再び編隊を組んで意気揚々とアルヌスへ帰還するのである。




「陛下にお尋ねしたい。この未曾有の恥辱と損害にどのような対策を講じられるおつもりか?」

 カーゼル侯爵は議事堂があったはずの瓦礫の山に立つと玉座の皇帝モルト・ソル・アウグスタスにそんな言葉を突きつけた。

 周りは瓦礫の山である。全てが破壊されていたのだ。

「事の次第は開戦前に敵を知るために異境の住人を数人ばかり拐ってきた事に始まる。異国の使者はこの事を知るやたいそう怒り、事もあろうに陛下の面前において皇子ゾルザルを打擲するに及んだそうだが、陛下、間違いありませんな?」

「俺は殴られてなどいない。地揺れに足を取られ転んだだけだ……」

「転んだだけでそうなりますか?」

「階段から……転げ落ちたのだ」

 歯を失ってまでもゾルザルは懸命に否定し続けている。そしてその時に数人の近衛兵が慌てて駆け込んできた。

「大変です陛下ッ!!」

「何事だ騒々しいッ!!」

 近衛兵の言葉にカーゼル侯爵はそう叫ぶ。

「お、皇子ディアボ様が……」

「何だと?」

 近衛兵の言葉に皇帝モルトの眉がピクリと動いた。

 その頃、ハミルトンとはピニャの館で悲報を聞いた。

「そ、そんな……あの人が……」

 ハミルトンは顔面蒼白であり、膝からがっくりと床につけ右手を口に添えて嗚咽を漏らした。

「……あの人が死ぬなんて……」

 悲報とはハミルトンの婚約者が攻撃隊の爆撃で死亡したとの事であった。








 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第二十八話

 
前書き
この部分はいるか悩みましたが、テュカのトラウマフラグをしないといけませんから書きました。 

 





「ディアボが重傷だと?」

「は、はい。あの攻撃で皇宮の瓦礫に巻き込まれて右肩から右手は切断されました」

『………』

 近衛兵の報告にその場にいた議員達は黙った。日本と接触していた議員は即座にこれはニホンの報復なのだろうと判断した。

「……良い。生きているのならばそれだけで構わない」

 モルト皇帝は安堵の息を吐いた。しかし、気になる点があった。

「何故ディアボは皇宮にいたのだ? 皇宮は地揺れの可能性を考えて誰も近寄らないようにしたはずだ?」

「そ、それがディアボ様は荷物の忘れ物をしたらしく取りに戻ったのです」

「明け方にか?」

「はぁ、たまたま朝早くに目が覚めたらしく、そのまま……」

 モルト皇帝の問いに近衛兵は返答に困った。近衛兵自身も何故皇宮に戻ったのか知らないのだ。

「……まぁよい。貴様に聞いても仕方あるまい」

 モルトはそう言って近衛兵を下がらせた。

「陛下、これは良い機会ではありませんか?」

「何が良い機会なのだマルクス伯よ?」

 マルクスがモルトの元へ歩み寄る。

「此度の出来事がニホンの仕業であるならばニホンに賠償金を出すのですよ」

「賠償金だと? しかしニホンが納得するのかね?」

「此方は皇子が負傷したのです。彼等にしてみればテンノウとやらの家族が傷ついたのも同然の事でしょう。彼等が我々と交渉したいのならまず賠償金を支払うのが先と言えばいいのです」

「ふむ……勝算はあるのかね?」

「五分と五分でしょうな。向こうが話を蹴るなら呼び寄せたニホン人を殺せばいいだけです」

 マルクスはそう言った。

「……宜しい。次にニホンの外交使節が来ればそのような交渉をしても構わん」

 モルト皇帝はそう言った。



「確かハミルトンの婚約者はディアボ派にいたはずだ。だが何故……」

「……ひく…ひく……」

 ピニャは泣いているハミルトンの背中を撫でながらそう呟いた。

「実はディアボ様は地揺れ後に別荘へ避難していたのですが、荷物をそれほど持って行ってなかったんです。それで明け方から作業をしようと言う事になったんです。皇帝陛下から皇宮の進入は地揺れ後に禁止されてましたので」

 報告に来た近衛兵がそう伝える。

「そして荷物を纏めて皇宮を出ようとした時……」

「ニホンの攻撃が始まったのか」

「はぁ、ディアボ様は出口付近にいたので即死では有りませんが、瓦礫で一時的に生き埋めになってしまい右肩から右手は切断をしました。そしてハミルトン様の婚約者はまだ中にいたのでそのまま生き埋めになり……」

「もういい。分かった」

 ピニャは近衛兵の報告を止めた。これ以上、報告を聞いていたらハミルトンが発狂しそうだからである。

「……ハミルトン、暫く此処で休め」

「……はい」

 ピニャはハミルトンをソッとしておくべきと思い、近衛兵と共に外に出た。

 そしてピニャ達が部屋の外に出るとハミルトンは再び泣き出したのであった。




 その頃、伊丹達の第三偵察隊はアルヌスの基地に帰還していた。

 拉致されていた三人の女性を建設されたばかりの病院に入院された。健康状態なども調べられるが、問題は三人のうち二人が外国人である事だろう。

 この対処のため、政府はかなりの苦労をするのであった。

 そして伊丹自身は一通りの事を済ませると仮設住宅の方へ向かっていた。

「金髪エルフのところへ行ってみな」

 柳田にそう言われたのだ。その言葉に伊丹は何か嫌な予感を覚えつつ金髪エルフこと、テュカの部屋をノックした。

 そして出迎えたのはレレイであった。室内に入ると何故かロゥリィの姿もあった。

 そして伊丹はテュカの姿を見て、嫌な予感が的中したと思いながら外に出て吐きロゥリィに気絶させられるのであった。

「……で、これは一体どういう事だ?」

 アルヌス飛行場で新型機を見に来ていた樹をロゥリィが無理矢理連れて来た。

 伊丹も水を飲んで漸く落ち着いてきた。

「それは此の身が話そう」

 そこへダークエルフが話しかけてきた。

「貴女は……」

「挨拶が遅れた茶や草の人よ。此の身はヤオ。ダークエルフ、シュワルツの森部族デュッシ氏族。デハンの娘ヤオ・ハー・デュッシ」

 ヤオは伊丹と樹に深々と頭を下げた。

「確かシュワルツの森は炎龍に……」

「如何にも。此の身は茶や草の人に我が同胞を救ってもらうために来た」

「それが何故このような事をした? 何でテュカに余計な事した?」

「余計とは心外。事実を伝えたまでに過ぎない」

「問い直す。何故事実を伝えた?」

「決まっている。それがその娘のためだ」

 ヤオはキッパリとそう言った。

「テュカはオヤジを亡くしているのだぞ?」

「御身を父親と認識しているのを見逃すのか?」

「………」

 ヤオの言葉に伊丹は拳を握り締める。伊丹の睨みにヤオは臆しなかった。

「……ヤオさん、貴女は炎龍を退治してほしいと我々に求めたはずです。それなのにテュカさんを壊すとなれば退治自体の話は無くなりますよ」

 樹はヤオにそう警告した。勿論、樹がそう言っても炎龍退治に変わりはない。

 しかし、顔見知りであるテュカの心を壊すなど樹には許されない事であった。

「貴方方も炎龍には手を焼いているはず。そう断れはしない。それに炎龍と直接戦った貴方達に是非来てもらいたいのだ」

 ヤオはそう言って樹の反論を押さえた。

「人が愛する者を殺めたならその下手人を追い詰めれば復讐を果たす事も出来よう。天のもたらした災害ならどうしようもないから神を呪うしかない」

 ヤオの言葉にロゥリィは何も言わない。

「炎龍はどうか? 敵は確かに其処にいるのだ。だが手も足も出ない。捕らえる事も出来ず、罰する事も出来ない。天のもたらした災厄でもない。この怒りは何処へ向ければ良いか? 恨みのやり場は何処へ向ければ良い? 愛する者を奪われた憎しみは誰に向ければ良いのか?」

 ヤオは伊丹の前に出る。

「復讐とは愛する者を失った怒りと憎しみをはらし、自分の魂魄を鎮めるために必要な儀式だ。それを経て、初めて遺された者の心は癒され、現実に立つ事も出来るようになる。明日を見る事もやがて出来よう」

 ヤオは膝をついて額を床に擦りつけた。

「この娘のついでいいから此の身の同胞を救ってほしい。我が身を捧げる。何をしてもいい。お願いします、炎龍を退けた人よ」

 ヤオはそう言い放ったのであった。








 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第二十九話





 結局のところ、伊丹は首を縦に振らなかった。

 それもそのはずである。性根が腐っている伊丹でも日本帝国陸軍軍人なのだ。

 命令違反をすれば軍法会議ものだ。銃殺刑など嫌なのだ。

 本音を言えば行きたくない。西洋の本を読んでいるからある程度の事はドラゴンについては分かっている。

 分かっているから行きたくない。だが、上からの命令であれば行くしかない。

 それが今の伊丹の気持ちだ。

「おとうさん♪」

 伊丹はここ三日程、仮設住宅と基地を往復している。それはテュカのためである。

 伊丹自身もこのような事をしていてはテュカのためにならないのは分かっている。

「……はぁ……」

 どうしようもない事に伊丹は溜め息を吐くのであった。



――特地派遣司令部――

「では準備は完了しているのだな?」

「はい、何時でも行けます」

 今村司令官の言葉に柳田大尉はそう報告をした。

 炎龍の写真は既にある。これは偵察のためにエルベ藩王国に飛び立った十三試艦爆(後の彗星)がたまたま写真撮影に成功したのだ。

 この十三試艦爆は試作機の三号、四号機が特地に派遣されていた。

「戦力はどれくらいかね?」

「歩兵は三個師団で海軍陸戦隊も三個大隊、二個戦車連隊、二個砲兵大隊です」

 第三偵察隊の戦訓として師団には九二式歩兵砲や四一式山砲を多数携帯している。

 戦車連隊はチハやハ号が主体であるが本当の主体は一式自走砲である。

 この一式自走砲は全部で二十両が完成して特地に派遣されていた。中にはチハの車体を特地に持っていき、現地で九〇式野砲とくっ付けた車両もある。

 砲兵隊は九六式十五サンチ榴弾砲、九一式十サンチ榴弾砲、九〇式野砲、三八式野砲である。砲兵隊は遠距離からの射撃となる。

 また、エルベ藩王国との国境付近には臨時飛行場が設営されて海軍航空隊が進出していた。

「エルベ藩王国には言っているな?」

「勿論です。デュラン殿の工作のおかげで通行は可能です。まぁそのために部隊を派遣しないといけないのが難点ですが……」

 今村司令官とデュランとの会談でデュランは王子に乗っ取られたエルベ藩王国の救出を願い出た。

 勿論、ただでとは無く、代わりに金銀銅等貨幣に用いる鉱物以外の地下資源一切と免税特権を日本側に取り付けた。

 日本側も悪い話ではないが、お家騒動に巻き込まれるのは嫌だった。

 が、大本営は味方が増えるなら大丈夫だろうと判断して新たに特地に二個連隊と戦車一個中隊を派遣した。

 これはエルベ藩王国のお家騒動のための部隊でもあった。

「まぁ仕方ないだろう。炎龍を退治するのは利害一致しているのだ」

 今村司令官はそう言った。

「ところで、先に現地へ先行隊を向かわせたいのだが……あの部隊でいいだろう?」

「……伊丹大尉の第三偵察隊ですか?」

「そうだ。今、派遣軍の中で現地人と仲が良いのは伊丹大尉だからな」

「分かりました、そう伝えておきます」

「それと糧食は五人分増やしてくれ」

「……司令官、まさかとは思いますがあの五人を……」

「うむ、第三偵察隊に特別に組み込ませる。本人達からの願いでな」

「宜しいのですか?」

「現地の判断だ」

 今村司令官はそう言ったが、実際に五人の願いではなくロゥリィの脅しであった。

「私達ぉ、仲間外れにするつもりぃ?」

 流石の今村も断ろうとしたが、ハルバートに突きつけられては首を縦に振るしか出来なかった。

「(八百万の神々までには匹敵するかは分からないが、神であるからな。天罰など受けたくない)」

 そう思う今村司令官であった。

「第三偵察隊は準備が出来次第、直ちに出発せよ」

「分かりました」

 柳田は今村に敬礼をして退出をした。




「伊丹大尉以下、第三偵察隊は案内人と共に出発し炎龍討伐隊の先行偵察をせよ」

「命令ですか?」

「命令だ」

「……分かりました。直ちに出発準備をします。明朝0530に出発します」

「今村司令官にはそう伝えておく」

 柳田はそう言って部屋を出た。部屋には伊丹と樹がいる。

「第三偵察隊の中にはロゥリィやヒルダ達もいますな」

「……一枚噛んでたかもな。摂津、悪いけど準備頼む」

「了解です大尉」

 樹は伊丹に敬礼をして退出して水野達を召集する。

「炎龍討伐の先行隊ですか……」

「あぁ、恐らく炎龍と戦闘するかもしれない。二人とも、今のうちに遺書を認めた方がいい」

「………」

「どうした水野?」

 水野の表情は浮かなかった。

「いえ、何でもありません。中尉、自転車を借りてもいいですか?」

「構わんよ。では解散」

 三人はその場で解散し、水野は自転車を借りてアルヌス共同生活組合の仮設住宅へ向かった。

「こんにちわ」

「あら、ミズノさん。いらっしゃい」

 とある一軒の仮設住宅のドアをノックして(ノックした方がいいと伊丹から説明された)、中からあの時に保護したエルザさんが出てきた。

「……お話があります」

「……分かりました。どうぞ中へ」

 真剣な表情をした水野にエルザは水野を中へ招いた。

「それで話とは……」

 コップに入った水を水野に差し出す。【BGM:防人の詩】

「……自分は炎龍討伐隊の先行偵察隊への配属となりました」

「ッ!?」

 水野の言葉にエルザは驚愕した。

「この事は軍機ですので誰にも喋らないで下さい」

「……行くのですか?」

「……はい」

「お願いです。生きて……生きて帰ってきて下さいッ!!」

 エルザはそう言って水野に抱きついた。対する水野もエルザを抱き締める。

「……そういう事か……」

「……水野を外しますか?」

 外では樹と片瀬が聞き耳を立てて聞いていた。何か怪しいと思った二人が尾行していたのだ。

「いや、外しても水野は言うことを聞かん。行かせるよ」

「まぁ……偵察だけですからねぇ」

 片瀬はそう言った。そして明朝0530に第三偵察隊は案内人であるヤオと共にアルヌス基地を出発したのであった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

実は原作通りのもあった。






 二〇××年、東京都中央区銀座午前一時五十分。

 そこは死地となっていた。

「……酷すぎるな……」

 俺は溜め息を吐いた。

 銀座の至るところに人間の無惨な遺体が放棄されていた。

「遺体収容は警察の仕事やけど、自衛隊も必要やな」

 俺は首が無い民間人の遺体を担架に載せる。可哀想にな……。

「行くぞ水野」

「了解す」

 部下の水野三曹と共に担架を持ち上げて収容所へと向かう。

「しかし摂津三尉、あの敵は何なんでしょうね?」

「……分からんな(ほんまは知ってるけどな)」

 首元に三等陸尉の階級章を付けた俺はそう呟いた。

「ともかく収容していこうや。もしかしたら生存者がいるかもしれんしな」

「そうですね」

 二人の自衛官は交代まで遺体の収容をした。



ピリリ。

「はい、もしもし?」

 休憩中に携帯電話が鳴って俺は電話に出る。

『遺体収容御苦労さんだな』

「おぅ、それより標準語で喋んなや。今は俺と電話しているやろ?」

『ハハハ、毎日毎日党の豚共に頭を下げてるからな。やってられへんわ』

 電話先で男が笑う。

「それでよ……やっぱあのゲートか?」

『……恐らくな。北条総理だから特地への派遣法が決められるやろう』

「……政治は頼むで木戸?」

『此方は任せろ。特地は摂津に任したからな』

 そこで電話は切れた。

「……まさかあのゲートの世界とはな」

 俺は出されていた紙コップに注がれているお茶を飲んだ。

 味は烏龍茶のようだな。

 そろそろ説明に入るけど、俺の名は摂津樹(いつき)や。

 陸自の三等陸尉をしている。まぁ上の会話を見ている限り、俺と今電話をしていた親友の木戸孝は転生者になる。

 俺と木戸は前世でも親友であり、木戸は政治家に、俺は自衛官になる予定だった。

 けど、たまたま大学に行くのに使うバスが事故に合ってしまい俺と木戸は即死。

 気がついたら俺は子どもの頃の姿になっていたというわけや。

 家族もいたから過去に戻ったと思っていたが、日本の政治家の名前が違っていたんやな。

 そんでよく聞いた名前やなぁと思っていたら木戸が「ゲートの世界やないか?」と気付いたわけや。

 『ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり』は大学に本があったのでよく読んでいた。

 後漫画も買ったしな。

 取りあえず俺と木戸は前世同様に自衛官と政治家を目指す事にした。

 いつ銀座の事件が起こるか分からんからな。

 そんなわけで大学を卒業後に陸自の幹部候補生を受けて見事に合格して三等陸尉になったわけやな。

 そして遂に今日、ゲートが開かれて奴等がやって来たわけだ。

「取りあえずは原作が始まったという事やな」

 俺はそう呟いて、再び遺体収容に向かったのであった。



 数日後、北条総理が国会で答弁をした。

「当然の事であるがその土地は地図に載ってはいない。「門」の向こう側はどうなっているのか? その一切が謎に包まれている。だがそこに我が国のこれまで未確認だった土地と住人がいるとすれば――そう、ならば強弁と呼ばれるのを覚悟すれば特別地域は日本国内と考えていいだろう」

 北条総理は国会でそう言う。

「今回の事件では多くの犯人を『逮捕』した。逮捕と言わなければならないのは我が国に捕虜に関する有事法令が無いからである。現在の法令に従えば彼等は刑法を犯した犯罪者――いやテロリストだッ!!」

 北条総理はテロリストを強調する。

「よって「門」を破壊しても何も解決しない。また「門」が現れるかもしれないからだ。そのためにも向こう側に存在する勢力を交渉のテーブルに力ずくでも着かせなければならない。相手を知るためにも我々は「門」の向こうへ踏みいる必要がある。危険、そして交戦の可能性があろうともだッ!!」

 北条総理の演説に野党は何も言わない。

「従って、日本国政府は特別地域の調査と銀座事件首謀者の逮捕、補償獲得の強制執行のために自衛隊の派遣を決定したッ!!」

 北条総理は力強くそう言ったのである。

 そして派遣される部隊は約三個師団で、幹部、三曹以上を中心に編成される事になる。

 これに対してアメリカ及びEUは協力を惜しまないと表明。

 ロシアや中国、韓国等は門は国際的な管理下にと表明した。

 派遣部隊はゲートに入ったのであった。




「空気が美味いなぁ……」

 俺は防御陣地を作りながら言う。

「三尉、奴等は来ますかね?」

 水野三曹が持って来た布袋に土を入れている。

「来るだろうな、奴等は必死に取り返そうとするはずだ。このゲートをな」

 俺はそう言って布袋に土を入れる。

「そうですね」

「ま、今は陣地の構築をしようやないか」

「はい。本当は施設科じゃないんですけどね」

「文句を言うな」

 俺はそう言って土嚢を積み上げていく。

「日が暮れるまでに後三つも作らないとあかんからな」

「分かっていますよ」

 水野三曹はそう言って黙々と作業をするのであった。





――帝国皇城――

「あえて言上致しますが、大失態でありましたな」

 一人の男が皇帝の椅子に座るモルト・ソル・アウグスタスに言う。

「帝国総戦力六割の喪失ッ!! この未曾有の大損害をどう補うのか?」

 古代ローマ人が着ていたような服を着ている男が皇帝に叫ぶ。

「陛下ッ!! 皇帝陛下はこの国をどのように導くおつもりかッ!!」

「……カーゼル侯爵、卿の心中は察するものである……」

 漸くモルト皇帝が口を開いた。

「外国諸侯が一斉に反旗を翻すのではと恐怖に夜も眠れぬのであろうが、危機のたびに我等は一つとなり切り抜けてきたではないか。二百五十年前のアクテク戦役のように」

 周りにいる議員達はモルト皇帝の言葉に傾ける。

「戦に百戦百勝はない。よって此度の責任は問わぬ。まさか敵が門前に現れるまで裁判ごっこに明け暮れる者はおらぬな?」

「ッ……」

 カーゼル侯爵は何も言わない。

「だが敵の反撃から僅か二日ですぞッ!! 我が遠征軍は壊滅し「門」は奪われてしまったッ!!」

 頭に包帯を巻いた議員が立ち上がる。

「パパパッ!! 遠くで音がすると我が兵が薙ぎ倒されるのだッ!! あんな凄い魔法は見たことないわッ!!」

 負傷したゴダセン議員は「門」の守備をしていた。

 しかし、「門」を潜り抜けた一〇式戦車を先頭にした特地派遣師団の攻撃で「門」があるアルヌスの丘は奪われた。

 ゴダセン議員は援軍の到着を待ってからアルヌスの丘に突撃をしたが、陣地構築していた派遣師団の攻撃を受けて壊滅したのだ。

 辛くもゴダセン議員は軽傷で戦場を離脱する事が出来た。

「戦いあるのみだッ!! 兵が足りぬなら属国の兵を根こそぎかき集めればよいッ!!」

 軍人ながら議員をしている者が叫ぶ。

「連中が素直に従うものかッ!! ゴダセン議員の二の舞になるぞッ!!」

「引っ込め戦馬鹿ッ!!」

「なにをッ!!」

 議員通しが喧嘩を始めるが、それを制するようにモルト皇帝が立ち上がる。

 立ち上がったモルト皇帝に、喧嘩を始めた議員達は手を止めた。

「余はこのまま座視する事は望まん。ならば戦うしかあるまい。諸国に使節を派遣し援軍を求めるのだ。ファルマート大陸侵略を企む異世界の賊徒を撃退するためにッ!!」

 モルト皇帝の言葉に議員達は何も言わない。

「我等は連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を糾合し、アルヌスの丘を奪い返すのだッ!!」

「……陛下、アルヌスの丘は人馬の躯で埋まりましょうぞ?」

 モルト皇帝の決定に、カーゼル侯爵は顔をしかめた。





 アルヌスの丘付近には帝国が召集した連合諸王国軍が勢揃いしていた。

 集まった連合諸王国軍は約二十一ヵ国ほどであり兵力は約二十万であった。

 それを小さな丘から見ている王がいた。

「連合諸王国軍か……」

「さてデュラン殿、どのように攻めますかな?」

「リィグゥ公」

 エルベ藩王デュランにリィグゥ公国のリィグゥ公が声をかけた。

「アルヌスに先発した帝国軍によると異世界の兵は穴や溝を掘って籠っている様子。此ほどの軍をもってすれば鎧袖一触、戦いにもなりますまい」

「そうですな……(そのような敵、帝国軍なら簡単に打ち破れるだろう……)」

 デュランはそう思った。

『なぜモルト皇帝は連合諸王国軍など呼集したのか?』

 しかしデュランに答えは出なかった。

「リィグゥ公、戦いに油断は禁物ですぞ」

「ハハ、貴公も歳に似合わず神経が細かい。敵はせいぜい一万、此方は二十一ヵ国二十万を号する我等が合流すれば自ずと勝敗は決しましょうぞ」

 リィグゥ公はそう言って頭に兜を装着する。

「それではまた後で」

「それでは」

 リィグゥ公はそう言って去って行った。


 連合諸王国軍はアルヌスの丘に向かって前進していた。

「報告ッ!! 前衛のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、続いてリィグゥ公国軍がアルヌスへの前進を開始ッ!!」

「うむ、帝国軍と合流出来たか?」

「それが……」

 伝令の兵士が困った表情をした。

「どうした?」

「それが、帝国軍の姿が一兵も見えませんッ!!」

「何ッ!?」

 伝令の報告にデュランは驚いた。

「後衛にはいないのかッ!!」

「いえ、後衛にはいません」

 後方を見ていた側近がデュランに言う。

「一体どういう事だッ!!」

 デュランの叫びに側近達は何も言えなかった。

 帝国軍がいないのには前進をした前衛も直ぐに気付いた。

「帝国軍は何処だッ!! 後衛にもおらんのかッ!!」

「は、伝令を飛ばしていますが帝国軍を見つけたような報告はまだ……」

 リィグゥ公の叫びに側近は弱々しく答える。

「まさか既に敗退――」

 その時、何かの音が聞こえてきた。そしていきなり爆発したのである。

「陛下ッ!! 敵の魔法攻撃ですぞッ!!」

「こんな魔法は見たことないわッ!! 敵の姿も見えておらんぞッ!!」

 リィグゥ公が叫ぶ。

「全隊亀甲隊形ッ!! 亀甲隊形ッ!!」

 リィグゥ公国軍は楯を上にかざす。

 しかし再び爆発が起きた。

「うわァッ!!」

 リィグゥ公は爆発の衝撃で吹き飛ばされた。

「うぅ……」

 リィグゥ公は傷だらけになりながらも立ち上がる。

 リィグゥ公が見たのは兵士達が次々と吹き飛ばされていく光景だった。

「……これは戦ではないッ!! こんなものが……こんなものが戦であってたまるかッ!!」

 そしてリィグゥ公も爆発に巻き込まれたのであった。

「な、何事だッ!? アルヌスが噴火したのかッ!?」

 それを見ていたデュランはそう言う事しか出来なかった。


シュパ……パンッ!!

 照明弾が撃ち上げられ、眩しくなるアルヌスの丘の周りには連合諸王国軍が展開している。

『ニッフィー3、ニッフィー3。敵を視認ッ!! 地面が三分に敵が七分、繰り返す地面が三分に敵が七分だッ!!』

 無線から偵察員から緊急連絡が入る。

「戦闘配置ッ!! 戦闘配置だッ!!」

「またかくそッ!! これで三度目で今度は夜襲かよッ!!」

 RPG系の本や雑誌、DVDを見ていた隊員達が罵倒する。

「文句言うなアホッ!! 急げ急げ急げッ!!」

 隊員達は見ていた本等を放り出して六四式小銃やミニミを持って陣地に入り射撃準備をする。

「流石に三度目はキツイですね摂津三尉」


「文句言うなよ水野」

 ミニミを構えた水野三曹がそう呟いた。

 陣地の周りでは退役したのを特地に持ってきた陸自の35ミリ連装高射機関砲L-90等が照準を連合諸王国軍に向ける。

 七四式戦車や一〇式戦車も射撃準備をする。

 一方、連合諸王国軍は昼間の戦闘でやられた仲間の死体を踏み越えて進撃している。

「慌てるなよ……」

 俺は撃ちそうな水野に言う。

「まだや……」

パンッ!!

『ウオオォォォォォォーーーッ!!!』

 再び照明弾が撃ち上げられた時、連合諸王国軍は一斉に突撃を開始した。

『撃ェッ!!』

 突撃する連合諸王国軍に陸自は一斉に射撃を開始してアルヌスの丘付近は戦場となった。


 そして一夜が明けた。

「……酷いもんやなぁ」

 俺は陣地を出て辺りを見渡す。あちこちに四肢を吹き飛ばされたり肉片となったりして戦死している連合諸王国軍兵士が地面に倒れている。

「摂津三尉、檜垣三佐から命令です。戦死した敵兵士の埋葬を行うそうです」

 水野三曹と片瀬三曹が担架を持ってやってきた。

「そうか、ならこの辺から片付けるか」

 俺は辺りを見渡す。この辺は四、五人の人間が折り重なって戦死しているけど何でこんな折り重なってるんだ?

「ま、それは後やな。そんじゃあ上から埋葬していくぞ」

 俺と水野は上から戦死者を担架に乗せて埋葬地に運んでいく。

 そして漸く五人目の戦死者を埋葬地へと運んだ。

「……ん? まだ戦死者がいたみたいだな」

 その戦死者は女性だった。地面に窪みがある事やしたまたま弾が身体に命中してこの窪みに潜ったんだろうな。

「運ぶぞ水野」

「了解です」

 そして女性の両肩を持った時……。

「……ぅ……」

 ……ん?

「……なぁ水野、今……」

「はい……」

「………」

 俺の言葉に水野は肯定し、片瀬は無言で頷いた。

 俺は心臓辺りの胸に耳を当てる。

ドクン……ドクン……。

「……生きてる……」

「三尉、この女性は軽傷しているだけです」

 傷があるか調べた水野がそう言った。

「片瀬ッ!! 衛生科の連中を呼んでこいッ!!」

「はいッ!!」

 片瀬が衛生科がいるテントまで向かう。

「それにしても激戦だったみたいやな……」

 生存していた女性は服がところどころ破れて、胸も左胸が見えていた。

「三尉、取りあえず何かを着せましょう。このままだと自分らは誤解されますよ」

「だろうな」

 俺は迷彩色のタオルで女性の胸を隠す。

「うぅ……」

 その時、女性が目を開けた。女性はボンヤリと俺を見ていたが、自分の胸を見た。

 ちなみに触ってないからな。タオルを巻いた状態だからな。

「~~~ッ!!」

 女性はいきなり叫んで俺にアッパーを……へ? アッパー?

「グハッ!?」

「せ、摂津三尉ッ!?」

 俺は水野の叫び声を聞きながら気絶した。


――日本東京、民自党本部――

「……それでは君はゲートがいきなり閉じる可能性があると言うのかね?」

 北条前総理大臣から後を引き継いだ本位民自党総裁――内閣総理大臣は木戸孝に聞いた。

「あくまでも自分の視点からです総理」

 摂津の親友であり、一年生衆議院議員ながら防衛大臣政務官の木戸はそう補足する。

「今のゲートは何が起こるか分かりません。幸いにもゲート先の特地には派遣の陸自と空自がいますが、あの日いきなり現れたゲートがいきなり閉じる可能性もあります」

「……確かにそうだが……」

「そこで、一応ながら自給自足の支援してみてはどうですか?」

「自給自足か?」

「はい、ゲートがもし閉じる時、地震や津波のような前触れがあるかもしれませんがもし前触れが無くいきなり消えた場合、派遣した隊員達は日本からの補給が途絶えて戦国時代へタイムスリップした映画のような結末になるかもしれません。ですが食料対策で水田や畑の耕しや石油の精製工場、武器弾薬の生産工場を作ればある程度の自給自足は出来るでしょう」

「しかしゲートが閉じる可能性が君の中であるならば特地から撤退して銀座のゲートを警戒した方が良くないかね?」

「確かに総理の意見は尤もですが、それでアメリカが納得しますか? 彼等は中近東で手一杯なため石油や鉄鉱石等の資源は欲しいはずです」

「……彼等のために自衛隊の隊員を犠牲にしろと言うのかね?」

「犠牲ではありません。眠っている日本をたたき起こす必要があります。その役目が特地の隊員達なのです」

「……分かった。水田や畑の耕しからを農水省の人間を派遣したり農家の人からアドバイスを貰うとしよう。石油や武器弾薬はそれからだ」

「ありがとうございます総理」

 木戸は本位に頭を下げて総裁室を出た。

「……木戸の事を理想郷主義者だとか言われていたが、現実主義者のようだな」

 本位はニヤリと笑う。

「木戸ならば今の日本を……」

 本位は後から続く言葉を言わなかった。






 
 

 
後書き
てなわけで転生者二人を加えた原作沿いの展開でした。
ちなみにヒロインは栗林、ヒルダ、ピニャ、ハミルトン、ロゥリィと考えてました。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十話







「シュワルツの森を突き抜ければ良かったんだが……」

「悔やんでも仕方ないぞヒルダ。あんなに大木があるなら車では到底入られない」

 九四式六輪自動貨車に乗るヒルダに同じく乗っている樹はそう言った。

 シュワルツの森は樹海と呼んでも良いような広大な地域である。深さや険しさは伊丹達が予想していた範囲を遥かに越えていた。

 森は徒歩で踏み入るのが精一杯であり、車両で通過するのは不可能であった。

 当然の事ながらシュワルツの森を迂回して途中で一泊して漸くロルドム渓谷へ辿り着いたのだ。

 ヤオによればこの渓谷の洞窟等にダークエルフが隠れ住んでいるという。

 そしてヤオは第三偵察隊を崖の上で待たせて谷底へと下って行った。

 伊丹は一応ながら周囲を警戒する事にした。既に炎龍の勢力圏内に入っているのだ。

 第三偵察隊の兵士達は九九式短小銃に七.七ミリの弾丸を装填させていたり、九九式軽機関銃の弾丸を装填していた。(無論着剣済み)

「住みにくそぉねぇ」

 樹が乗る九四式六輪自動貨車の荷台にいるロゥリィは切り立った崖下を覗いている。

「落ちるなよロゥリィ」

「あらぁ、私を誰だと思っているわけぇ?」

 樹の言葉にロゥリィはフフフと笑う。一時の休憩であったがそれは直ぐに終わった。

「中尉、人影が……」

「お前達は何者だ? 何しに此処へ来た?」

 第三偵察隊は弓を構えたダークエルフの男女十人程に取り囲まれていたのだ。気付けないのも無理はなかった。

 彼等は草むらに同化するようにコッソリと第三偵察隊に近づいて来ていたのだ。対する第三偵察隊は此処に来るまでの疲労と炎龍への対空警戒をしており、周囲の事などあまり気に止めなかったのだ。

「ぁ~俺達は……」

 伊丹がそう言ってダークエルフ達に事情を説明しようとした時、上空警戒をしていた戸津軍曹が叫んだ。

「え、炎龍が降りて来ますッ!!」

『走れェッ!!』

『ッ!?』

 第三偵察隊の九四式六輪自動貨車は何時でも走れるようにエンジンは掛けており、運転手は思いっきりアクセルを踏んでその場を離れた。

 離れた時、踏ん張っていなかったロゥリィやテュカは頭をぶつけたりしたが伊丹や樹はそれを咎める場合ではない。

 ダークエルフ達はいきなり走った九四式六輪自動貨車に驚いて唖然としていたが、伊丹に近づこうとしていた男のダークエルフは舞い降りて来た炎龍に拐われてしまう。

 炎龍の牙の隙間にばたつく手足が見えていたが炎龍はバリボリと咀嚼して飲み干した。

「砲弾装填ッ!! 援護射撃せよッ!! 目を狙えッ!!」

 樹の命令に兵士達は九九式短小銃と九九式軽機関銃の引き金を引いた。

 七.七ミリ弾が炎龍の身体に命中するが、固い鱗で弾き返される。それでも目を狙って射撃をする。

 炎龍は射撃に攻撃が出来ず、砲兵隊の射撃準備の時間を与えてしまった。一番早くに準備が出来たのは九二式歩兵砲であった。

「撃ェッ!!」

 九二式歩兵砲の砲撃音が響く。九二式榴弾は炎龍の右翼に命中した。

「やったかッ!?」

 しかし、煙が晴れると健在な炎龍がそこにいた。

「四一式山砲はまだ撃てないのかッ!?」

「まだ掛かりますッ!!」

 樹の言葉に砲兵はそう答えた。砲兵の返事に樹は舌打ちをしつつベ式機関短銃を構えて粘ろうとした。伊丹もベ式機関短銃を構えつつテュカに何か言っている。

 しかし、そこへロゥリィが炎龍に駆け寄ってハルバートの一撃を放った。

 だがロゥリィの斬撃は炎龍の顔をひしゃげる事しか出来なかった。それでも炎龍には効いたようで翼と手足をじたばたさせながら大地を転がる。

 そこへレレイが魔法を発動させて炎龍に魔法を叩きつけようとしたが微妙に避けられて炎龍はバランスを取り戻した。

「撃ちまくれェッ!!」

 第三偵察隊がロゥリィに対して援護射撃をし、ロゥリィがハルバートでかまそうとするが炎龍はロゥリィに右腕で対抗した。

「きゃんッ!?」

「ロゥリィッ!!」

 炎龍の右腕に弾き飛ばされたロゥリィが地面を転がりながら勢いを殺して立ち上がる。

 ロゥリィが切れた唇の血を舐めた。

「やってくれるじゃなぁい?」

「撃ェッ!!」

 ロゥリィがハルバートを構えた時、漸く四一式山砲が砲撃をした。

 四一式山砲が狙ったのは右腕であった。九五式破甲榴弾は狙い通りに炎龍の右腕に命中した。

「やったかッ!?」

 伊丹はテュカを抱き締めながら炎龍を見ていた。煙が晴れると炎龍は右腕の根本の半分近くを抉られていた。

「この前は腕を吹き飛ばしたはずなのに……」

「違う。恐らく砲弾の角度が悪かったんだ。次弾装填ッ!!」

 ヒルダの言葉に樹が補足して次弾装填を急がせる。

 しかし、炎龍は吠えながら翼を大きく羽ばたかせた。

『伏せろォッ!!』

 その風速で四一式山砲の九四式六輪自動貨車を薙ぎ倒した。しかし炎龍は吠え、伊丹達を睨みつつ翼を羽ばたかせて飛び去ったのであった。




 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十一話






 炎龍を追い払ったという知らせはダークエルフの間を瞬く間に駆け抜けていった。

「茶や草の人が来た。ロゥリィ・マーキュリーと魔導師の娘までいる」

 炎龍に一方的に捕食されるだけであったダークエルフ達にとってそれは朗報となった。

 炎龍を退治し、安心で快適な森の生活を取り戻そうという掛け声に誰も彼もが武器に手を伸ばした。

 こういった動きに、周辺の谷や野に、山に隠れていたダークエルフ達が復讐心に燃えてロルドム渓谷へと続々と集まりだしたのだ。

 夜半になると狭い渓谷の川原にダークエルフの姿で一杯になってしまった。

 そして第三偵察隊の歓迎のために食料庫が開け放たれて工夫を凝らした様々な料理が振る舞われていた。

 しかし、伊丹の表情はあまりよくなかった。

「どうしましたか隊長?」

 伊丹の表情を読み取った栗山が伊丹に問う。

「テュカの事だ。お父さんお父さんと俺が幾ら否定しても頑として聞かないんだ。絶対に認めないような感じだ」

「まぁ……無理もないですね。父がいないと壊れそうですね」

「そうだな……栗山は父親は?」

「……関東大震災で亡くなりました」

「……済まない。変な事を聞いたな」

「構いません。自分は幼かったですからね」

 栗山はそう言って水を飲んだ。ダークエルフ側は酒を提供したが、伊丹は作戦の影響が出ると言って断った。その代わり、炎龍を倒した時に飲もうという話になったのだ。

 そして、離れた場所ではロゥリィと長老が話をしていた。

「言い伝え通りでしたか」

「………」

「……いやお怒りはごもっともですがそんなに悪い話ではないと存じますが……」

「どうして私ぃがあんな奴のお嫁さんにならないといけないわけぇ? 要は自分の駒に出来る肉の身を持った亜神が欲しいだけでしょぉ。そんな詰まらない事に残りの約四十年を費やすのは嫌よぉ。まぁお陰で興味深い男とは出会えたけどねぇ」

「おや。聖下のお心を射止めた者がおりましたか?」

其奴(そいつ)がどんな老い方をして死んでいくかぁ、看取ってやりたいくらいにはねぇ」

 長老は伊丹を見たがロゥリィは首を振った。

「イタミじゃないわぁ。あいつよ」

 そう言ってロゥリィの視線は樹に向けられた。

「ほほぅ、中々見処がある者ですな」

「でしょぉ。でもぉ、どうしてハーディはあんな大穴をアルヌスに開けたのかしらぁ?」

「穴? アルヌスに?」

 長老が呟く前にロゥリィは樹の側に寄り添うように腰を下ろした。隣ではヒルダがロゥリィを睨んでいるが……。

 長老はロゥリィの言葉の意味を問う事は出来なかった。



「明日の朝には本隊が到着します」

「戦士らも随伴させる」

「ですが……」

「道は険しいですぞ。それに周辺の様子なども……」

 そう言って長老は伊丹に説明すると、伊丹は申しでを受ける事にした。

「では明日の朝に……」

「恐縮です。荷物運びなんてさせて……」

「なあに、炎龍退治の場に居合わせたいと思う者がこれ程に集まったのです。何か仕事の一つでも言いつけてやりませんと拗ねかねませんぞ」

 長老達はそう言う。ちなみに日本軍の作戦は炎龍の住み処に八百キロ陸用爆弾や五百キロ陸用爆弾を爆薬と共に多数設置して炎龍が住み処に戻ると爆破して吹っ飛ばす『い号作戦』と海軍航空隊がテュバ山を爆撃して炎龍を住み処から外に出してそこを砲兵隊が一斉射撃をして吹っ飛ばす『ろ号作戦』があった。

 しかし、い号作戦は現実的に不可能だろうと思案していた。まず爆弾をどうやって住み処まで運ぶかだ。

 例え、爆弾を設置して爆破しても火山が噴火する可能性もあったのだ。

「……確実に考えればろ号作戦だが……」

「その分、犠牲はありますがね」

「戦に犠牲があるのは必然的だよ」

 伊丹は栗山にそう言った。そして翌日、加茂大佐率いる本隊が到着した。

「おぉ、これだけの人数が……」

 集結した部隊に長老達に笑みが溢れた。

「カモ大佐とやら。我等のダークエルフも九人、参加します」

 選ばれたのはヤオを含めた九人である。

「お心使い感謝します。全員出撃するッ!!」

 そして第三偵察隊と合流した炎龍討伐隊はテュバ山へと向かった。

 テュバ山へは四日の夜半に到着した。加茂大佐は辺りを見渡す。

「……硫黄の臭いがするな。やはり火山か」

 そして航空機の爆音が響いてきた。零戦二七機、一式陸攻九機が飛来してきたのだ。

 一式陸攻九機は高度千でテュバ山へと侵入して爆撃を開始した。

 投下される爆弾は火山を考慮して六十キロ陸用爆弾であるがそれでも威力はある。

「ち、海軍め。仕事が早すぎるぞ。戦闘用意だッ!!」

 加茂大佐はそう命令して砲兵隊が慌てて射撃準備に入る。火山の上空二千で零戦隊が警戒飛行をしている。

「……いないのか?」

 零戦のパイロットがそう呟いた時、黒煙の中から炎龍が飛び出してきた。

「炎龍出現ッ!!」

 そして炎龍はそのまま近場にいた零戦に火炎を吐いた。

「ウワァァァァァァァーーーッ!!!」

 零戦パイロットは炎に包まれ、零戦が爆発四散するのであった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十二話




「高田ッ!?」

 爆発四散をした零戦を見ながら坂井はそう叫んだ。その時、炎龍が坂井が乗る零戦に狙いを定めて向かってきた。

「来いッ!!」

 坂井は後方の炎龍を見た時、炎龍が口を開いたのを視認すると左旋回に移行した。

「食われりゃしないぞッ!!」

 その直後に火炎が坂井が先程までいた空域に通過した。炎龍は坂井機がやられていない事に気付いて改めて坂井機を追おうとした時、後方から爆音が響いた。

「落ちろォッ!!」

 後方から西沢機、太田機、隊長の中島機が七.七ミリ機銃弾と二十ミリ機銃弾を放った。

 狙ったのは炎龍の翼――特に牙の部分であり、七.七ミリは貫通せずに跳ね返されたが二十ミリは翼の薄い部分に貫通して炎龍の飛行能力を妨げた。

 炎龍は空中戦は不利と悟ったのか、そのまま地上へと降り立った。

「炎龍を視認ッ!! 砲撃準備完了ォッ!!」

「撃ェッ!!」

 加茂大佐は砲撃開始を指令して砲兵隊が砲撃を開始した。

 しかし、一部の砲は撃たなかった。

「撃たないんですか中尉殿?」

「あぁ、一斉射目で外した時の備えだ。俺としては一斉射目で仕留めてほしいがな……」

 九二式十サンチ加農砲の班長はそう呟いた。そして砲弾は炎龍の付近に命中した。

「……やったか?」

「煙で見えませんけどね」

 チハの後方に隠れている伊丹と樹はそう話している。

「……煙が晴れます」

 煙が晴れた時、そこに炎龍はいなかった。

「え、炎龍がいないだとッ!? 奴は何処に……」

「う、上です中尉ッ!!」

 水野の言葉に樹と伊丹は上空を見た。いつの間にか討伐隊の上空約三百メートルにいた。

「動け動けッ!! 狙われるぞッ!!」

 樹はチハの車長にそう叫び、操縦手が運転をして逃げ始めた。それに続くように他のチハや一式砲戦車等が逃げ始める。

 炎龍はそれを逃がさず、一両の一式砲戦車に火炎を放ち乗員は炎に包まれた。

「ぎゃあぁぁぁッ!?」

 炎龍は炎に包まれた乗員を口に加えてそのまま噛み砕いた。

「四号車がやられましたッ!!」

「糞ッ!! 誰でも良いから奴の動きを押さえろッ!!」

 加茂大佐はそう叫んだ。

「撃ェッ!!」

 その時、先程の砲撃に撃たなかった九二式十サンチ加農砲が火を噴いた。

 十加が砲撃するのは絶妙のタイミングだった。何故ならこの時、炎龍は一式砲戦車の乗員を捕食していた時だ。

 言い方が悪ければ、味方を犠牲にしたのだ。勿論、十加の砲兵や討伐隊の兵士達はそんな事は思ってない。

 戦死は覚悟しているのだ。どうこう言う暇はない。

 それは兎も角、十加の九五式破甲榴弾は炎龍の右翼の根本を貫通して右翼を吹き飛ばした。

「次弾装填急げッ!!」

 十加の砲兵は砲弾を装填していく。その間にも、漸く討伐隊も落ち着きを取り戻してきた。

 零戦隊が上空から炎龍に機銃掃射して炎龍が反撃しないようにしている。

「此方も射撃をするぞッ!! 砲兵隊の時間稼ぎだ。撃ちまくれェッ!!」

 歩兵達も九九式短小銃や九九式軽機関銃で応戦を開始する。

「中尉ッ!! 自分が手榴弾で……」

「手榴弾で倒せると思っているのかッ!! 機関短銃で牽制するんだッ!!」

 水野が陸軍から提供された九九式手榴弾を手に持ち、樹にそう言ってきたが樹は切り捨てた。

 そして別の一式砲戦車が炎龍を砲撃して以前に第三偵察隊が攻撃をして吹き飛ばした右腕の傷口に砲弾が命中した。

 炎龍は火炎を吐き出して砲撃した一式砲戦車を炎に包ませた。乗員は慌てて逃げ出していく。

「一式の七五ミリじゃあ決定的な打撃は与えられんぞ……」

 樹はそう呟く。伊丹は転んだテュカを助けていた。

「伊丹隊長ッ!! 援護射撃だッ!!」

 樹はベ式機関短銃を撃ちまくる。伊丹はテュカを背負ってレレイと共にチハの後方に回り込んだ。

「此処にいるんだテュカッ!!」

 伊丹はそう言ってベ式機関短銃を握り締めて射撃を始める。チハも五七ミリ戦車砲を撃つが元々対戦車能力を持っていない五七ミリ戦車砲では歯が立たない。

 戦車砲弾は虚しく弾かれてしまった。そしてテュカとレレイが言い合っていたが砲銃声で伊丹や樹の耳に入る事はなかった。

「糞ッ!! 陸軍の砲兵は何をしているんだッ!!」

 片瀬が思わず愚痴を言ったが、砲兵は何もしていないわけではない。

 砲兵隊も射撃をしていたが、炎龍は満身創痍ながらも寸でのところで避けて攻撃していたのだ。

「何か……何か炎龍の注意を引き付ければ……」

 負傷した賀茂大佐は炎龍を見ながらそう呟いた。レレイが魔法で攻撃するが炎龍は見向きもしない。

 そこへ、チハの後方に隠れていたテュカが出てきた。

「隠れていろテュカッ!!」

 伊丹はそう叫ぶが、テュカは精霊魔法を唱えた。

「いけえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 テュカは渾身の雷撃を召喚したのだ。その雷撃でも炎龍を倒す事は出来ないが、炎龍の注意を雷撃に向けられた。

「今だッ!! 撃ェッ!!」

 砲弾を装填した二門の十加と一門の九六式十五糎榴弾砲が九五式破甲榴弾を発射した。

 三発の九五式破甲榴弾は炎龍の首元、腹、左翼の根本に命中した。

「やったかッ!?」

 左翼の根本は吹き飛び、腹からは大量の血液が飛び散り、首元は抉られていた。

「止めの一発だッ!!」

 装填出来た別の十加が砲撃をして抉られていた首元を貫通して首と胴体を切り離した。

 炎龍はゆっくり倒れたのである。

 
 

 
後書き
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第三十三話




「……やったのか?」

 それは誰が発したのか分からない。それは討伐隊全員が共通する言葉だからだ。

「………」

 伊丹は意を決して首だけの炎龍に近づいた。炎龍は目を見開いたままであるが呼吸や伊丹が近づいても睨みをしなかった。

「……炎龍は死んでいますッ!!」

『ウオオォォォォォォォォーーーッ!!!』

 その瞬間、討伐隊は歓声を上げた。勿論、討伐隊に付き添ったダークエルフ達もである。

 片瀬など九〇式鉄帽を上に投げていたりする。

「どっと疲れが出たよ」

「それは自分もですよ伊丹大尉」

 首だけの炎龍を見ながら樹はそう言った。しかし、樹は辺りを見渡すが誰かがいない。

「大尉、ロゥリィを見ていませんか?」

「ロゥリィ? ロゥリィは……」

「お姉様なら此処よ」

 その言葉と共にボロくずのような有り様に成り果てた黒フリルの塊が樹の前に転がってきた。

「ロ、ロゥリィッ!!」

 それはロゥリィだった。ロゥリィは全身に傷を浴びており、両腕など皮一枚で繋がっている状況である。

 樹は慌ててロゥリィの左腕を元のように付け合わせた。傷口同士がくっつき始めたのだ。

「これは……」

「何にも知らないの貴方?」

 白ゴス神官服をまとった女性は樹にそう言った。樹自身も治るとは思ってなかったが、元の形にしようとした本能だったかもしれない。

 灰色の髪をたなびかせた女性はボロくずになったロゥリィをフッと鼻で笑った。

「お姉様、主上さんの奥さまになろうってお人が、汚らわしいヒト種なんぞに気安く肌を触れ、触れさせるとは不調法が過ぎまっせんか……」

 丁寧な言葉遣いに馴れないのか、自ら舌を噛みそうになって「ちくしょうめェェェェェッ!! だから丁寧な言葉は嫌なんだッ!!」と叫んでいた。

「煩い、あんな女の嫁に誰がなるもんですかッ!!」

「無茶をするなロゥリィッ!! 衛生兵ェッ!!」

 ロゥリィは文句を言いながらゆっくりと立ち上がるが、身体は震えておりぎこちない。

 両腕の切断面が繋がり、血まみれの手足もどうにか言うことは聞くみたいだ。

 ちなみに、他の討伐隊の面々はいきなりの展開に話はついてこれなかったりする。加茂大佐は白ゴス神官服の女性に話そうとしたが、ロゥリィ達が次々と喋るので発言の機会がない。

「主上さんに見初められて嬉しくないんですか?」

「何度も言っているでしょう。わたしぃの主神はエムロイ。死と断罪と狂気、そして戦いの神よぉ」

 話が通じないと判断した白ゴス神官服の女性は溜め息を吐いて樹に視線を向けた。

「そこのヒト種のオス。てめぇ、主上さんの妻女になろうってお人を寝取ろうとか考えてんじゃねぇだろうな? もしそうならそのケツに二つ目の割れ目をこさえてやっぞ」

「……よく分からんが、女でそんな言葉は使うな」

 樹はよく状況が分からないが一応そう言っておいた。そして伊丹が「質問質問ッ!!」と手を挙げて自己紹介をした。

 対する女性はジゼルと名乗った。そしてロゥリィが主上――ハーディを嫌がる理由を聞いた。

「ロゥリィはかなりの強さだ。貴女一人でしたのですか?」

 樹はジゼルに聞いたがジゼルはニヤっと笑った。

「そんなわけないだろ。お姉様は強いさ。だがな、人質を取ればどうだ?」

 ジゼルはそう言って遥か上空から新生竜二匹が降下してきた。

「それは……」

「オレ独りだと互角。だがこの二頭でお前達を人質に取ればお姉様にだって勝てるんだぜ? 炎龍には劣るとはいえ竜は二匹もいるからな」

 その瞬間、加茂大佐はジゼルに見えないように砲兵隊に合図を出した。砲兵隊も気付かれないように動き出す。

 その間も伊丹とジゼルが話して新生竜は炎龍から産まれた竜だったり、ヤオがジゼルに怒ってジゼルに斬りかかったりしたりしている。

 なお、樹がジゼルに伊丹は炎龍を倒した猛者と言っていたりする。(というより伊丹に任せた)

「ハハハ、ヒト種でも面白い奴がいるもんだな。イタミヨージと……お前は?」

 ジゼルは樹に聞いてきた。

「……摂津樹だ」

「イツキとは眷属の契りを交わしたわぁ。この男はイタミと一緒に炎龍を倒した男よぉ。わたしぃは炎龍すら倒す男を伴侶にするというわけぇ」

 ちなみにこれはロゥリィのハッタリだ。

「そういう事か……やってくれるじゃねぇかお姉様」

 そして新生竜二匹は親の亡骸を見て叫んでいた。

「嬉しいねぇ。こんな奴がヒト種から出てくるとは思わなかったぜ。使徒になった甲斐があるってもんだ」

「このイタミとイツキ、わたしぃを相手にぃ新生竜二頭とあんただけで果たして勝てるぅのかしら? 新生竜は死ぬわよぉ」

「あん?」

 そう言ってジゼルは炎龍の亡骸の付近にいる新生竜を見た。

「へ、まだ死んでもいねぇ……」

 その時、二門の十加が新生竜に砲撃をした。九五式破甲榴弾は新生竜の腹を貫通して爆発。

 この貫通で二頭の新生竜は致命傷を浴びた。そこへ一式砲戦車等の七五ミリ砲も砲撃して新生竜を炎龍と同じように亡骸へと変えたのである。

「な……ッ!?」

 一瞬の事にジゼルは唖然としていた。

「こ、此れがイタミヨージの力というのか……」

「(いや違います)」

 伊丹は反論しようと思ったがロゥリィが「するな」という表情をしていたので言わなかった。

「ッ!? 大尉、下がって下さいッ!! ロゥリィもッ!!」

 その時、一両のチハが砲搭を回転させてジゼルに照準したのだ。樹は二人にそう言ってロゥリィを抱き締めて地面に伏せた。

「ひィッ!?」

 チハの五七ミリ戦車砲は九〇式榴弾を発射して九〇式榴弾はジゼルの左三十メートルのところに着弾したが、これは威嚇射撃であった。

「……逃げるが勝ちだぜッ!!」

 ジゼルはとても勝ちそうにないと判断して敵前逃亡――所謂逃げたのである。

「良いのか?」

「良いわぁ。懲りずに来るのならぁ、追い返せば良いわぁ。それにぃハーディの妻女にならない理由も出来たしぃ」

「………」

 どう反応していいか分からない樹であった。

 
 

 
後書き
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未来編その二

 
前書き
すいません、間に合わなかった(間違ってデータを消去した)ので未来編その二を投稿します。
なお、投稿が間に合わなかった場合は未来編を御送りします。 

 


「姫ッ!! 早くこの窪みに隠れて下さいッ!!」

「嫌だッ!! 貴様らを犠牲にしてまで私は生き残りたくはないッ!!」

 連合諸王国軍の夜中による夜襲もほぼ失敗しようとしていた。

 数人の兵士が何処かの国の姫に穴が空いている窪みに入ろうと促せるが当の本人は否定している。

「今姫が生き残らなければグリュース王国どうなるんですかッ!? 昼間の戦闘で王は戦死をしているんですッ!!」

「しかし……」

 兵士の言葉に姫は躊躇する。

「えぇい御免ッ!!」

ドスッ!!

「ぐッ!?」

 一人の兵士が姫の腹を殴る。

「き、貴様……」

「姫、今は御許しを。皆姫を守るのだァッ!!」

『オォォッ!!』

 兵士の言葉に周りにいた兵士は楯を持って姫を守ろうとするが、襲い掛かる銃撃に次々と倒れていく。

「み……みんな……」

 倒れていく兵士の姿に姫は涙を流しながら気絶をした。




「……此処は……」

 女性が立ち上がる。女性の髪はシルバーブレンドでショートヘアであり出るところは出ている。

 女性は辺りを見渡すがそこは何処かの部屋だった。

「あ、目が覚めたようね」

 その時、扉が開いて赤十字の腕章を付けた衛生科の女性自衛官が入ってきた。

「ちょっと医師を呼んでくるね」

 女性自衛官はそのまま部屋を出て医師を呼びに行ったのであった。




「……大丈夫すか三尉?」

「何とかな。まだ痛いし……」

 俺はあの女性にアッパーをされて気絶して医務室に運ばれていたみたいや。

「大分噂になってますから。アッパーで気絶させられたと……」

「……柳田二尉辺りがニヤニヤしながら言ってくるのが見えてくるな……」

 俺は溜め息を吐いた。

「ところで、さっきの女性が目を覚ましたようですよ」

「俺を気絶させた後に自分もまた気を失ったあれ?」

「はい。事情聴取するみたいですけど三尉がするなら譲ると言ってますよ柳田二尉が……」

「……計算されてないか?」

「気のせいです」

 俺はもう一回溜め息を吐いた。



「き、貴様はさっきの……」

「言っておくが俺はタオルを巻いただけやからな」

 顔が赤くなっている女性に俺はそう釘を刺した。

 結局は俺が簡単な事情聴取をする事にした。柳田二尉にはやっぱりニヤニヤされたが……。

「俺は日本国の自衛隊特地派遣部隊の一員の摂津樹だ」

 俺は女性に自己紹介する。

「……私はグリュース王国のシント・ダ・グリュースの娘のヒルデガルド・ダ・グリュースだ」

「……てことはお姫さまというやつか?」

「そうだ」

 俺の言葉にヒルデガルドが頷く。

「それでお姫さまが何故戦っていた?」

「我が国は帝国からの支援要請を受諾して兵力八千で連合諸王国軍に参加した。我が国は領土も少ないし民も少ないからな」

 シリウスはそう説明する。

「そして参加したが、貴様らの攻撃で我がグリュース軍は全滅した。恐らく帝国が今頃グリュース王国に侵攻して占領しているだろうな」

 ヒルデガルドは苦々しくそう吐いた。

「……暫くは君の処遇は保護として扱う。食料や衣服は此方から提供する」

「……奴隷として扱わないのか? 戦争で捕虜になった人間は男性は奴隷として売られ、女性は貴様らの慰め物になるのが普通だが……」

「……俺らはそんな事はしない(てかそんなんしたら左どもや隣の国が反発するからな)」

 俺は心の中でそう呟いた。

 そしてヒルデガルド・ダ・グリュースは日本国で保護する事になった。

「……服は女性物を要請したのに何で男性物を着ているんだ?」

 ヒルデガルドは普通の男性服を着ている。

「男が生まれなかったからな。私が男装をして民の前に出ていた。まぁ古くから知る兵士達は知っていたがな」

 ……まぁええけど、それに出るところ出てます。いやマジで御馳走様です。

 取りあえず、衛生科の女性自衛官に訳を話してヒルデガルドに改めて服を着させた。

 え? 何の服か? ブラですが何か?

「メシはどうしてるんだ?」

「さっきはお粥を食べさせましたが、医師からの話では普通に食べても大丈夫のようです」

 なら大丈夫やな。

「食堂は今開いてますので」

「分かった。ありがとうな」

 俺は女性自衛官に頭を下げて礼を言った。





「……自衛隊への大幅な予算増額するのか?」

「はいそうです」

 木戸は再び本位総理と総裁室で面会していた。

「これは嘉納防衛大臣も認可しています。御願いします総理」

 木戸は本位に頭を下げる。

「しかしな木戸。この増額は一%から二%まで上げているじゃないか」

 自衛隊の予算は大体が一%弱であるが、木戸は緊急防衛予算案として二%の増額を本位に具申したのである。

「普通なら自衛隊の予算は二%から三%であるがの普通です。今の東アジアの情勢を見るならば」

 木戸はそう言った。民衆党だった政権時は中国や韓国に舐められ、脅されていた日本であったが民自党政権以降は海自の防衛力を強めたりして抑えてきた。

「この緊急予算は主に特地へ弾丸や砲弾の生産分が多いのです。アメリカが支援すると言ってもそう期待はしないのが得策です。この緊急予算で日本の中小企業を復活させようと思います」

「何?」

 本位は驚いて木戸を見た。

「現在、特地には旧式化した七四式戦車や七五式自走155ミリ榴弾砲を派遣していますが、もっと派遣した方が良いです。それに日本の部隊に新型を配備するだけでいいんですから」

「……分かった。取りあえず予算増額は閣議で話し合おう」

「ありがとうございます」

 木戸は本位に頭を下げる。

 木戸は特地が少しでも楽になれるよう奮闘していた。



――ホワイトハウス――

「「門」はフロンティアだよ」

 集まった部下達の前でアメリカ大統領のディレルはそう言った。

「「門」の向こう側にどれ程の可能性が詰まっているか想像したまえ。手付かずの資源、経済的優位、汚染のない自然、異世界生物の遺伝子情報……上げれば数えきれない」

 ディレル大統領は両手を広げた。

「だが『日本軍』は何をしているんだ? 「門」の周りに亀の子みたいに立て籠って……これほどの物を前にしているのにだ」

「……自衛隊は過去から学んだのですディレル大統領」

 補佐官はそう言う。

「自衛隊は戦力不足のため、要地を押さえる戦略しか選択出来ません。情勢の見極めに時間をかけているのでしょう」

「……成る程な。戦後の日本人らしい」

 ディレルはそう言って笑い、出されていたコーヒーを飲む。コーヒーは温くなっていた。

「ですが大統領。日本は同盟国です。「門」から得られる利益は我が国にも……」

「それでは不足だよ」

 国防長官の言葉をディレルはバッサリと切り捨てる。

「もっと積極的に関与すべきではないか? 例えば陸軍の派遣とか……」

「残念ながら我が国は中近東だけで手一杯です。戦力的にも予算的にも余力はありません。そこで武器弾薬類の支援はどうですか? 実は日本の関係者から駐日大使に武器弾薬類の支援要請が来ています」

 国防長官はそう報告する。

「……確かに。過度の肩入れは禁止だ。ならば火中の栗は日本に拾わせよう」

 ディレルはニヤリと笑う。

「あぁそれと、その関係者とは誰かね? 自衛隊関係者か?」

「いえ、今の政権与党である民自党のキドとか言う議員です。キドの親友は自衛隊隊員らしいです」

「……成る程な。お願いか」

 ディレルはその時はそう言った。

 しかし、この木戸という人物は後に大きくなる存在だとは今は知らなかった。



「美味いッ!! 辛いッ!! けど美味いッ!!」

 食堂でヒルデガルドが二杯目のカレーを食べていた。ちなみに特地では毎週金曜にカレーが出される事になっている。

 一応はゲートで異世界と日本は繋がっているが、万が一ゲートが閉じた場合に備えて金曜カレーをやる事にしたのだ。

 金曜カレーで曜日が分かれば後は楽なのである。

「オリザルみたいな物だと思っていたがこれは美味いぞセッツ」

「そりゃあ良かったみたいで」

 監視役をしている摂津がそう返事をした。摂津自身もカレーを食べている。

「お、摂津は昼メシか?」

「あ、伊丹二尉」

 その時テッパチ(88式鉄帽)を被った伊丹二尉が食堂にやってきた。

「摂津から借りてた同人誌、引き出しの中に入れておいたからな。俺は今から偵察に行かないといけないからな」

「(そうか、そろそろ炎龍か)第三偵察隊でしたね。頑張って下さい」

 樹はそんな事を考えながら伊丹にそう返事した。

「ヤバくなったら摂津に救援してやる」

 伊丹二尉はニヤリと笑って食堂を出た。

「仲間か?」

 サラダを食べているヒルデガルドが聞いてきた。

「まぁ色んな意味で仲間やな(オタク同士やからな……)」

 樹はそう思いながら水を飲んだ。


 伊丹二尉の第三偵察隊が駐屯地を出て二日後、第三偵察隊から連絡があった。

「ドラゴンが目的地の森を焼いているだと?」

 檜垣三佐は報告を聞いて唸った。

「(……例えオタクでも日本人は日本人だ)……応援を送るか。伊丹が何をするか分からんからな」

 檜垣三佐は溜め息を吐いて人選をする。

「待てよ……確か摂津はヒルデガルドさんの面倒を見ていたな。道案内をしてくれるかもしれんな」

 檜垣三佐はそう呟き、摂津を呼んだ。


「何か伊丹二尉に予言されたみたいで怖いなおい……」

 樹は軽装甲機動車に乗り込む。

「まぁ特地を行けるんですからいいじゃないですか」

「そうですよ」

 水野と片瀬はそう頷く。

「こんな物が動くのか?」

 道案内人をする事になったヒルデガルドが軽装甲機動車を見ながら呟いた。

「……いいか。んじゃあ出発や」

「了解っす」

 片瀬が運転する軽装甲機動車は走り出した。

「オォッ!? 動いたッ!! 動いたぞッ!!」

 ヒルデガルドは子どものように目を輝かせてはしゃいでいる。

「ちょっと黙っとれヒルデガルド。それで水野、パンツァーファウストは何個や?」

「三つです」

「(……三つは少ないけど少なくとも炎龍を追い払う事は出来るな)」

 樹はそう考えてた。

「それで三尉、自分らが目指すのはコダ村でいいんですよね?」

 運転している片瀬が樹に聞いてきた。

「あぁ、伊丹二尉の第三偵察隊はコダ村を経由して目的地の森へ向かったらしいからな。俺達はコダ村付近まで行って第三偵察隊と合流予定や」

 樹は片瀬にそう説明する。

「それにしてもドラゴンだろ? やはり装甲は硬いんすかね?」

「可能性は十分あるやろな」

 片瀬の指摘に樹はそう言った。

「いざとなったらパンツァーファウストをぶっぱなしゃあええんや」

 俺は片瀬にそう言った。

「……暗くなりますね」

 空は既に闇に包まれようとしていた。

「連絡が来るのが遅かったからな」

 樹は知らなかった。

 あの死神と出会うのが夜中だという事を……。



「それと私はヒルダで構わないぞ。国の皆もそう言ってたからな」

「そうか、ならヒルダと呼ぶからな」



 
 

 
後書き
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第三十四話




 加茂大佐の炎龍討伐隊が炎龍と交戦している中、エルベ藩王国との国境付近に特地方面軍から一個旅団と戦車一個中隊、一個飛行戦隊が布陣していた。

「ふむ……やはり森林が多いな」

「九八式直協(九八式直接協同偵察機)からの報告でもそのような事があります」

「流石に爆撃で森林を焼き払うわけにはいかんからな。此方が展開しやすい場所にいると向こうは来ると思うかね?」

 エルベ藩王国攻略司令官に命じられた狭間少将は元エルベ藩王国の王であるデュランに問う。

「息子が馬鹿正直なら来るぞい」

 デュランはニヤリと笑った。その表情は日本軍を試しているようであった。

 狭間少将はそれに苦笑しつつ、陣地構築をしている工作隊に視線を向けた。

 実はこの一個旅団、戦力の半分は海軍陸戦隊一個連隊であった。(残りは歩兵第二八連隊)

 帝国の反撃を予想してこの程度しか出せなかったのだ。(実際に帝国が再び反撃してくる事は無かった)

 そのため、装備は旧式の三八式歩兵銃や三八式野砲(十二門)、九六式軽機関銃である。(それでも大隊砲や連隊砲は多数ある)

 更に戦車中隊も旧式の八九式中戦車乙八両、多砲塔戦車の九五式重戦車二両、九五式軽戦車の代わりに九七式軽装甲車(テケ、三七ミリ戦車砲搭載型)四両の臨時編成であったのだ。

 九五式重戦車など内地にあったのを無理矢理持ってきた戦車である。

 最新と言えるのは航空部隊だろう。

「国境線でこれだけの森林だと向こうも此方が来た事に気付かないな」

「それでは国境線を越えるので?」

「仕方なかろう。此方はデュラン殿を協力するために来ているんだ」

「国境線付近の領主は全て儂の配下じゃ。儂を見せれば御主らに従うだろう」

 デュランも賛成した事により、旅団はエルベ藩王国の国境線を越えて近場の領主の館へと進撃した。

「何事かッ!?」

「は、はい。デュ、デュラン陛下がお見えですッ!!」

「何……?」

 領主のハインリッヒ・フォン・ブルクドルフは執事の報告に唖然とするのであった。



「何? 父上が国境付近にいるだと?」

「その通りです陛下」

 デュランから無理矢理王位を継承したヘルマン・ド・エルベは部下からの報告に耳を疑った。

「ふん、耄碌した父上が何しに来たんだ?」

「は、王位を返せと……」

 部下の言葉にヘルマンは笑った。

「耄碌したと思ったら頭も可笑しくなったのか父上は? エルベ藩王国は最早私の物だ。父上の出番は無い」

「ですがデュラン殿に同調する貴族もおります。更にアルヌスの丘の異世界の軍もいると……」

「父上が負けたのは連合軍で協調していたからだ。我がエルベ藩王国軍は精鋭揃い。異世界の軍など相手ではない」

 ヘルマンはそう言って笑い、軍の出撃準備を命令した。

 アルヌス戦役から帰還した将は出撃に反対したが、ヘルマンはそれを捩じ伏せて約五万の兵力で国境線へと向かったのである。

 一方、エルベ藩王国攻略部隊は国境付近の貴族達と会合を重ねて兵力を加えた。(それでも約七千名ほどしかいない)

 デュランとの会合で国境付近の貴族達は全てデュラン側に寝返ったのだ。

「ヘルマンが此処へ来るとしたら二日か三日じゃな」

「それまでには陣地構築も完了しています。航空部隊から航空偵察をしてもらい戦力を把握しませんと」

 デュランと狭間少将は天幕でそう話していた。そして九八式直協からの偵察報告が舞い込んできた。

「……兵力はかなりの多めですな」

「それでも君らなら勝てるだろう?」

「……無茶言わんで下さい」

 デュランの言葉に狭間少将は溜め息を吐いた。狭間少将は全軍に警戒態勢を発令した。

 二日後、エルベ藩王国軍はブルクドルフ領に侵攻した。

「敵エルベ軍来ますッ!!」

「砲撃用意ッ!!」

 野砲隊の三八式野砲十二門が榴弾を装填する。

「航空部隊に支援要請を打電せよッ!! 野砲隊は敵エルベ軍が射程に入り次第、砲撃始めェッ!!」

 狭間少将はそう叫んだ。そしてエルベ藩王国軍が三八式野砲の最大射程に入った。

「撃ェッ!!」

 十二門の三八式野砲が火を噴いた。榴弾は放物線を描きながらエルベ軍に着弾してエルベ軍の兵士を吹き飛ばした。

「陛下ッ!! 敵の攻撃ですッ!!」

「な、何だこの攻撃は……」

 三八式野砲の攻撃を見てヘルマンは唖然とする。

「陛下、御指示をッ!!」

「と……突撃だ突撃ッ!! 奴等は少ないんだッ!! 機動力で奴等を潰せッ!!」

 ヘルマンは突撃命令を出してエルベ軍は突撃を開始した。

「敵エルベ軍突撃を開始しましたッ!!」

「野砲隊は引き続き砲撃せよッ!! 歩兵砲、大隊砲、連隊砲も砲撃始めェッ!!」

 九二式歩兵砲や四一式山砲が砲撃を始める。が、それでもエルベ軍は引かず、戦車中隊も砲撃を始めた。

 旧式の八九式中戦車乙や九五式重戦車はとても活躍した。

 彼等の戦車砲は榴弾火力はエルベ軍の兵士を殺傷するのには十分過ぎる砲であった。

 更に守備陣地からも六.五ミリの三八式歩兵銃や九六式軽機関銃が射撃を始めた。

 六.五ミリ弾でもエルベ軍の鎧を貫通する事が出来、エルベ藩の兵士は次々と倒れていくのであった。


 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十五話




「くそッ!! また攻めて来たぞッ!!」

「往生際の悪い奴等だなッ!!」

 エルベ藩王国軍との戦闘は二日目に突入していた。初日の攻撃にエルベ藩王国軍は一旦は引き上げたが、戦力を補充して第二次攻撃を開始していたのだ。

「装填良しッ!!」

「復唱はいらんッ!! 装填出来次第撃ちまくれェッ!!」

「はいッ!!」

 九六式軽機関銃を持つ一等兵は准尉の言葉を聞いて引き金を引いた。

 九六式軽機関銃の銃口から六.五ミリ弾が発射されてエルベ藩王国軍の兵士の鎧を貫通させて兵士の命をもぎ取る。

「九九式なら良いんですがね」

 三八式歩兵銃に六.五ミリ弾のクリップを装填する軍曹はそうぼやいた。

「文句を言うな軍曹。俺達はまだいい方だ。高田の班の機関銃は十一年式軽機関銃だぞ?」

「……すいません、少し言い過ぎました」

 軍曹は謝って接近してくる騎兵に六.五ミリ弾を放ったのである。

「准尉殿ッ!! 弾がありませんッ!!」

 九六式軽機関銃を撃っていた一等兵がそう叫んだ。周りにある弾倉は全て空であったのだ。

 その間にも騎兵隊は守備陣地に接近していた。准尉は後退をしようかと思案した時、後方から射撃音が聞こえた。

「弾を持ってきたぞッ!!」

「海軍さんッ!?」

 補充の弾を持ってきたのは海軍陸戦隊の兵士達だった。

「これくらいあれば良いだろ?」

「助かりますッ!!」

 一等兵は陸戦隊員から弾倉を受け取って初弾を薬室に装填して再び射撃を始めた。

「済まないね海軍さん」

「いやぁ、良いって事ですよ准尉。増援には自分達もいますので」

 陸戦隊の二等兵曹はニヤリと笑ってベ式機関短銃を接近してくる騎兵に撃ちまくった。



「えぇい、何故だッ!! 何故奴等の陣地を突破出来んのだッ!!」

 エルベ藩王国軍の陣地でへルマンはそう叫んでいた。

「異世界軍の抵抗が激しく、陣地の突破が容易ではありません。このままでは前回同様に戦力は消耗しますッ!!」

「ぬぅ……。やむを得ん、第二次攻撃は中止して戦力の補充を努めるのだッ!!」

 エルベ藩王国軍は第二次攻撃を中止して引き上げたのであった。日本軍もそれを察知して弾薬の補充を始めた。

「ふむ……いくら異世界の軍でもそう簡単には勝てんか」

「炎龍討伐隊と比べると装備は旧式ですのでな」

「ほぅ、すると勝てないのは旧式だからかね?」

 デュランは狭間にそう聞いた。

「いえ、旧式であろうとも我が軍は圧倒します」

「では何故圧倒しない?」

「デュラン殿、戦は力押しで勝つだけではありません」

 狭間はニヤリと笑ったのである。

 そして数日後、エルベ藩王国軍は第三次攻撃を開始したのである。

「突撃ィッ!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!!』

 エルベ藩王国軍は雄叫びをあげながら突撃を敢行した。それを視認した日本軍は迎撃を開始する。

「撃ェッ!!」

 後方に陣地を構える三八式野砲が砲撃を始めて第三次攻撃を妨害するが、エルベ藩王国軍は味方の屍を乗り越えて突き進んだ。

「撃ェッ!!」

 小銃や軽機関銃も射撃を始めた。六.五ミリ弾が兵士の命を刈り取る。

「今度こそ異世界の軍を攻め落とすのだッ!!」

 へルマンがそう吠える。既にエルベ藩王国軍の兵力は底を尽き、この第三次攻撃に全てをかけていた。

 しかし、彼等に勝利の女神が微笑む事はなかった。突然、大きな爆音が響いてきたのだ。

「な、何だこの音はッ!?」

「異世界軍の後方上空に多数の飛翔体ですッ!!」

 日本軍の後方から飛来してきた飛翔体は徐々に大きくなり、姿を現したのである。

「陸軍飛行隊だッ!!」

「味方機だッ!!」

 上空を見上げていた陸軍兵士が歓声を上げた。飛来してきたのは九七式戦闘機二十機、九九式襲撃機二十機、九七式軽爆撃機同じく二十機であった。

「おぉ、いやがるいやがる。全機攻撃だッ!! 徹底的に叩けェッ!!」

 九七式戦闘機が急降下をして機銃掃射をする。七.七ミリ弾はエルベ藩王国軍の兵士の命を刈り取る。

 そして九七式戦闘機の後方から九九式襲撃機と九七式軽爆撃機が五十キロ、六十キロ小型爆弾を投下してエルベ藩王国軍兵士を吹き飛ばした。

「な、何だッ!? 爆発の魔法かッ!!」

 へルマンは動揺する。その時、伝令が駆け込んできた。

「ほ、報告しますッ!! 我が軍の後方にデュラン殿配下の軍団が展開していますッ!!」

「な、何だとォッ!!」

 伝令の報告にへルマンは吠えた。デュラン配下の部隊約一万はエルベ藩王国軍に気付かれぬように両翼へ展開していた。

「馬鹿息子の引導を此処で渡すッ!! 全軍突撃ィッ!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!!』

 デュラン軍が雄叫びをあげながら突撃を敢行した。

「へ、陛下ッ!! 如何なさいますかッ!!」

「ふ、防げッ!! 防ぐんだッ!!」

 その時、一機の九七式戦闘機が急降下してきて機銃掃射をした。狙われたのはへルマン達だった。

「ぐゥッ!?」

 へルマンは右脇腹を貫通する重傷を負って馬から落馬した。

「……ぅ……」

 へルマンは薄暗くなる意識の中、負けた事を漸く悟ったのであった。


 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十六話




――大本営――

「ふむ、炎龍を仕留めたか」

 炎龍を討伐してから二日後、炎龍を討伐した事は大本営でも情報が入っていた。

「従軍記者が写真を大量に撮っていますので号外に出す予定です」

 東條の言葉に辻中佐はそう答えた。

「エルベ藩王国に向かった攻略隊も若干の被害を出しつつもエルベ藩王国軍の主力を殲滅し、ヘルマン皇帝を捕虜にしたそうです」

「うむ、良い報せではあるな。では悪い報せとは何かね?」

「……特地にて発見された拉致被害者の事です」

「……うむ、それで?」

「アメリカとドイツには連絡しました。流石に両国の大使も顔を青ざめていましたが」

「そして両国は当然の如く被害者の帰還を促してきましたが、今のところ拒否しています」

「うむ、理由は勿論言ってあるだろうな?」

「勿論です」

 日本側としては拉致被害者は直ぐにでも母国の元へ送還したいのだが、伝染病を恐れていた。

 今のところは拉致被害者を含めて、特地へ派遣されている部隊に伝染病が発生してはいないが発生する可能性はあった。

 何しろ見知らぬ場所であり、生態系も分からないのだ。

 外務大臣の東郷は両国に加えてイギリス、ソ連の大使も集めて拉致被害者の事も報告して当面は日本が厳重に衛生面は徹底するとし、各国に協力と理解を求めた。

 勿論、他国の大使は不満な表情をしていたが東郷は此処で切り札を切った。

「伝染病の事は特地の住民を通して聞き取りをして情報を集めています。その中で、黒死病のような症例もありました」

 東郷の報告に欧州の大使は顔を青ざめた。黒死病――ペストは欧州の人間にはトラウマ並みのレベルである。

 これは真実であり、レレイがもたらした情報だ。実際に数百年前に黒死病が発生して数十万のヒト種が死亡していた。(他の種族は不明)

 東郷はこれを切り札としていたのだ。門の利益が欲しい欧州各国(ドイツ、イギリス、ソ連)は自国の研究者等を日本に派遣する事を決定した。

 また、アメリカも同様であり日本側に必要であれば更なる支援や防護服の提供を申し出たのだ。

 勿論、日本側も用心するのは当たり前であり、特地の鼠を一匹五銭で買い取り、欧州各国にも鼠を提供して黒死病をもたらすかどうかを調べてもらった。

「今後は戦いより衛生面を第一にしなければならんな」

 それは特地派遣軍の第一期の作戦はほぼ終了したと見えた。次に日本が目指すのは帝国及び周辺国との関係を築く事であった。

 いくら特地が魅力だからといって周辺国との関係を保たなければ、満州国の二の舞となると踏んでいたのだ。

 幸いにしろ、帝国の一部とエルベ藩王国とは窓口があったので和平交渉も進むのではと期待が持たれたが、後にそれは覆されるのであった。

「それにしてもアメリカが支援するとは思いませんでしたな」

 海軍大臣の嶋田大将はそう言った。アメリカは日本に対して特地への支援を表明しており、支援の表れとして石油や屑鉄の輸出を再開したのだ。

 そして軍事支援として史実でも日本軍に捕獲されて運用されていたM3軽戦車二十両を無償で提供した。

 M3軽戦車を提供された陸軍は驚愕した。何せ軽戦車なのに装甲はチハより上(チハ二五ミリ、M3軽戦車五一ミリ)で速度も上、登板力もチハより上だったのだ。

 陸軍関係者はM3軽戦車の性能に驚き、ある関係者は「ノモンハンの再来だ」と言葉を漏らしたらしい。

 そして陸軍は改めて戦車の性能を認識した。40年から始められていた新型中戦車の試作は急ピッチで進められる事になり、八月に最大装甲五十ミリの試作車、九月に最大装甲七五ミリの試作車が完成するのであった。

 史実のまま突き進めば、兵器生産は主に航空機や艦艇、次いで各種火砲に重点が置かれ資材・工場・予算をそちらにまわされていた。そのために新鋭戦車の開発・生産は遅々として進まず、試作チヘ車(一式中戦車)の完成は1942年(昭和十七年)九月、各種試験の末開発が完了したのは1943年(昭和十八年)六月である。

 しかし、門が現れた日本は大きく変化をしていた。今のところ、戦争は特地の帝国だけであり艦艇の建造は増加される事はなかった。

 これにより新型中戦車の試作及び開発は史実より遥かに進んでいるのだ。

 なお、貧乏クジを引いたのは海軍である。海軍がやる事は海軍航空隊と陸戦隊を派遣するのみである。

 艦艇の建造計画も見直され、翔鶴型の竣工は十一月になり大和は何とか史実通りの十二月ではあるがお粗末な物である。

 取り合えず、第一航空艦隊は設立されたが空母は五隻のみだ。他にある空母改装は出雲丸に橿原丸(後の隼鷹型)や祥鳳型くらいである。

 そのため、海軍は当分は新規の艦艇は中々建造されないと判断して、長門型や伊勢型の速度向上のための改装計画が作られ、しまいには扶桑型戦艦の空母改装計画もある。

「門のせいで海軍は廃れてしまう」と嘆いた佐官もいたりする。

 しかし、GF艦隊司令長官の山本五十六は嘆いてはいなかった。

「新規の艦艇が無いなら改装すればいい。時代は航空機の時代に着実になっていくのだから航空兵装を充実させねばならない」

 山本はこのように主張し、旧式軽巡の天龍型、球磨型は防空巡洋艦に改装されるのであった。

「向こうは恩を売っておきたいのだろう。兎に角、新型中戦車の開発はやらねばならない」

 門の出現により日本は史実より大きく異なっていた。



 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十七話

 
前書き
何とか仕上げれました。 

 



――ドイツ、総統官邸――

「黒死病か……」
「はい、そのため研究者等の調査団を派遣したいと」

 ヒトラーはリッベントロップからの報告にそう呟いた。

「……その調査団の中にSSを紛れ込ませて特地を調査するのだ」
「は、判りました。ですが、調査の方を優先させたいのですが構いませんか?」
「……良かろう。黒死病は防がなければならんからな」

 部屋にいる全員は黒死病の言葉に怯えていた。いくら屈強のナチスドイツでも黒死病はトラウマである。
 なお、史実なら既にバルバロッサ作戦が開始されて独ソ戦が展開されているのだが……独ソ戦は未だに展開されてなかった。
 日本に門が現れた事によりヒトラーが門に興味を持ったからである。これにより独ソ戦は展開されず、余剰の戦力をドイツアフリカ軍団(DAK)に回した。
 DAKは四個歩兵師団、三個装甲師団の増強を受け総司令官もエルヴィン・ロンメルからエーリッヒ・フォン・マンシュタインに交代した。
 これは南方戦域総司令官アルベルト・ケッセルリンク空軍元帥(地中海・北アフリカ方面のドイツ軍を統括)の独断であった。
 予てからマルタ島のイギリス軍が輸送路を妨害していた事もあり、ケッセルリンクはロンメルより先立ってヒトラーに直訴した。

「マルタ島を攻略しなければDAKは干上がり、ロンメルも捕虜になりますッ!!」

 ケッセルリンクはそう迫り、ヒトラーもロンメルが捕虜になるのを恐れて新たな戦力の補充とマルタ島攻略を優先したのだ。
 ケッセルリンクはロンメルをドイツアフリカ軍団総司令官から降格をして第七装甲師団司令官に任命した。

「正直に言えば、君は総司令官には向いてない。まだ師団長のが似合っている」

 ケッセルリンクはロンメルにそう言った。ロンメル自身も判っていたため格下げに応じた。
 それに後任がマンシュタインならと降格に応じた理由でもある。
 ともあれ、マルタ島攻略作戦は九月二十日に開始されるのであった。

「暫くは北アフリカ方面に戦力を投入して日本の動向を探り情報を収集するしかあるまい。それに拉致被害者の事もある。日本に突け入る隙間はあるのだ」
「ハイルッ!!」

 ドイツは北アフリカ方面に戦力を投入しつつ日本を探る事にしたのである。
 一方、アメリカも当面は日本に支援しつつ動向を探るしかないと踏んでいた。

「ジャップに宣戦布告をして日本を占領出来れば門の情報も手に入るが……それは無理だろうな」
「は、ジャップは炎龍とやらの遭遇で新装備を開発中との事です」
「むぅ……奴等にテコ入れをしたのは間違いだったかもしれんな……」
「それは違うと思いますプレジデント」

 ルーズベルトの言葉にハル国務長官はそう言った。

「それは何故だハル?」
「奴等にテコ入れすれば此方の産業は潤います。イギリスに支援していますが、日本にも支援すれば日本の市場にもアメリカ企業が潜り込めると思います」
「ふむ……外から侵略するのではなく内から侵略するのか……面白いじゃないか」

 ルーズベルトはニヤリと笑った。

「そうなれば善は急げだ。日本に対する支援を広げようか」

 ルーズベルトは更なる支援を承認するのであった。



――横須賀基地――

 この日、横須賀基地に二隻の特設巡洋艦と一隻の輸送船が欧州から帰還した。
 二隻の特設巡洋艦は金剛丸と金龍丸であった。この三隻の船団の任務は欧州――ドイツへ行き、ベ式機関短銃と銃弾の受け取りとドイツ海軍へ零式水偵二機の受け渡しであった。
 門の出現後、特地へ進出した日本軍であるが炎龍との遭遇で軽機関銃や機関短銃の使いよさの報告があり、陸海は共同でベ式機関短銃とその銃弾(MP28)の大量購入を決定して三隻はドイツに派遣された。
 しかし、ドイツもただ金だけでくれてやるわけにはいかず海軍の零式水偵の譲渡を言ってきた。(譲渡するなら購入金額を半額にすると言っていた)
 海軍は苦渋の末、二機の譲渡を決定したのだ。
 三隻は大西洋経由でドイツに向かい、何度かアメリカやイギリス艦艇の臨検を受けつつもフランスのブレスト港に到着。
 準備されていた機関短銃を受け取り、二機を譲渡した。(なお、購入した機関短銃は今回だけでも五千丁にも及ぶ。そのため輸送船に入りきらないのは特設巡洋艦に載せられたがこれもまた入りきらないので二回目の受け取りが予定されている)
 機関短銃を装備するのは下士官から上の階級となっている。
 陸海軍は少しずつではあるが内部の改革が出来ていたがそれでも相変わらず仲は悪い。
 しかし、特地派遣軍は割りと仲は良好であった。樹達の交流により派遣軍でも連帯感が出来ていたからだ。
 また、派遣軍司令官の今村中将も良識派である。(山本五十六と友人でもあった)

「特地派遣軍への物資輸送は完全であろうな?」
「は、特地派遣軍の要請は出来る限り応えるようにしてあります。それと、特地からの報告では油田地帯とダイヤモンド鉱山を発見したそうです」
 エルベ藩王国内を調査した結果、ダイヤモンド鉱山が三ヶ所と油田が四ヶ所も発見された。

 陛下に戻ったデュランは七ヶ所の周辺土地を日本に譲渡する代わりに日本に援助要請をした。
 つまり、日本の政治や軍事を学ぶため人員を派遣させろだ。
 日本は二つ返事で即答した。

「特地で味方があれば運営しやすい」

 政府をそう判断したのである。

「特地に技師を送る。上手くいけば日本は石油を自国で生産出来る」
「判りました」

 辻と東條はニヤリと笑うのであった。


 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第三十八話

 
前書き
遅れた理由?
……艦これしてました。 

 



「イヤッホォォォーーーッ!!」
「ちょ、ちゃんと運転しろやァァァーーーッ!!」

 アルヌスからイタリカへ向かう道で一台のくろがね四起が暴走行為に近い運転していた。
 くろがね四起の後ろでは車列を組んだ九四式六輪自動貨車群が走行していた。

「……まぁたヒルダちゃんが暴走したかな?」
「……それしか無いでしょ」

 後方の九四式六輪自動貨車で運転している片瀬と水野はそう呟いた。

「ふむ、君達が私を自動貨車に乗せたのはこのためだったのかね?」
「はい、そうです大田隊長」

 運転する片瀬に声をかけたのは外交使節団守備隊隊長の大田実大佐である。
 このほど、漸くイタリカ経由で交渉が行われていたのだが本格的に帝都で交渉する事になり、特地方面大使の吉田茂を筆頭に十数人の外交官を帝都に派遣した。
 今村司令官は外交官を守るために上海事変等で活躍した海軍陸戦隊を派遣する事にしてその隊長を大田実大佐に任命したのだ。
 吉田や菅原達も九四式六輪自動貨車の布で覆われた荷台に乗っていた。
 なお、特地にて自動貨車等車で移動する際は予備のタイヤが備えられていた。特地でも不毛な土地は多く、タイヤがパンクする事が暫しあった。
 この報告により、大本営では半装軌式の貨車や装甲兵員輸送車の開発が急ピッチで行われるのであった。それまでの間はアメリカから支援物資で来たトラック等で凌ぐ事になる。
 交渉により守備隊は外交官を守る事が出来、今村司令官は陸戦隊一個中隊を派遣した。
 一個中隊と書類には明記されているが、実際には一個中隊と九四式山砲二門、九四式三七ミリ速射砲三門、九二式重機関銃十二丁が派遣されている。(通信機も複数あり)
 これは念のためと今村司令官がコッソリと書類から外させていた。多すぎると大本営から苦情を来ないようにするためでもあった。

「……この交渉、上手く成功してくれればいいがな……」
『………』

 大田隊長の呟いた言葉に片瀬と水野の二人は何も言わなかった。

「それはそうと……水野兵曹長、エルザさんの事はどうする気だ?」
「そ、それは……」

 大田大佐の呟きに水野は口をつぐんだ。実は水野とエルザの交際は特地派遣軍の上層部にバレる事はなかったのだが、炎龍を退治してアルヌスに帰還した時にエルザは水野を出迎えてそのままキスまで突入したのである。
 しかもそれを今村司令官も見てしまい余計に混乱してしまったが、今村司令官は「構わん。愛に国境や人種等関係無い」と言って二人の交際を認めたのである。

「……両親に手紙を送りました。それから判断してみようと思います」
「成る程な……まぁ頑張ってこい。一発必中で出来たら私が一本奢ってやろう」

 大田大佐はハッハッハと笑うのであった。



――イタリカ――

「……おぇ……」
「……済まん、大丈夫か?」

 イタリカで小休止する事になり、樹はふらふらとくろがね四起から降りて城壁のところで胃の中身を出していた。
 既に十分も出しており、胃の中は空である。それでも樹は胃液を出していた。
 その後ろではヒルダが申し訳なさそうに背中を擦っていた。

「中尉、水です」
「す、済まん……」

 樹は片瀬から水筒を受け取って水をゴクゴクと飲んで深い息を吐くのであった。

「……九六式(九六式艦上戦闘機)で慣れてるはずなんだが……これはキツいわ……」
「ほ、本当に済まない……」

 樹はそう呟くのが精一杯だった。イタリカには特地派遣軍から整備部隊、工兵部隊、補給部隊、歩兵部隊と合わせて二個大隊ほどがイタリカに駐屯していた。
 これは無理矢理の駐屯ではなく、イタリカからの要請であった。
 イタリカ当主のミュイ自身ではなく、側近達が会議をして決めたのだ。
 彼等は帝国と日本との取引所としてイタリカを利用しようとしていた。
 イタリカには多数の商人達が集まっておりイタリカは以前よりかは増して栄えていた。
 そのため、使節団は滞る事なく燃料の補給をして帝都へ出発するのであった。
 ちなみに運転は樹が代わったらしい。

「(ヒルダの奴、車のレースがあれば優勝しそうだな……)」
「(……何をやっているのだ私は……折角ロゥリィがいないのだから頑張ろうと思っていたのに……)」

 両者はそのように考えていた。なお、伊丹はレレイ達と共にロンデルという学問の都へ向かっていた。
 そのため、ヒルダは異様に燃えていた。

「……ロゥリィに負けてたまるかッ!!」
「うぉッ!? な、何だ急に……」
「す、済まん……」

 二人の仲が深まるかどうかはまだ分からないのであった。
 そして使節団一行と守備隊はアルヌスから三日目で帝国の帝都へと到着した。

「日本外交使節団とその護衛だ」
「はい、上から聞いております。私が案内します」

 門の守衛がそう言って馬に乗って先頭を行き出した。使節団はそれに従うように車をゆっくりと走らせる。
 程なく到着したのは正門を構えた大きな館だった。

「此方は翡翠宮と呼ばれています。此方を使って下さい」
「そうですか。ありがとうございます」

 代表で吉田が言うのであった。使節団が到着したのは皇城にいるピニャの耳に届いていた。

「そうか、来たか……」
「姫様、どちらへ?」
「翡翠宮だ。シャンディー、付いて参れ」

 ピニャはそう言って騎士団の一人を連れて翡翠宮へお出向くのであった。


 
 

 
後書き
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第三十九話




「嶋田、このままだと海軍は戦わずして破滅するぞ」
「ですが永野総長、門の警備や特地の派遣のため追加予算等は殆どが陸軍が持っているのです」

 東京の海軍省の大臣室で海軍大臣の嶋田と軍令部総長の永野はそう会談していた。

「それは判っている……が、海軍の戦力が無ければ万が一の対米戦は乗り切れんぞ」
「それは判っていますが……」

 永野の迫りに嶋田は歯切れが悪かった。

「今、GFの山本が向かっています。山本が来てからでも遅くはありません」
「むぅ……」

 そして漸く山本が海軍省に到着して大臣、総長、GF司令長官の会談が始まった。

「……門の出現後、我が海軍の予算は日に日に少なくなっている。今のところは大和型三番艦の建造を中止して陸軍に資材を提供したりしているが……万が一、門を巡っての対米戦が起きた場合、我が海軍は立ち向かえなくなる」
「軍令部でもほぼ御手上げ状態だ。山本、艦隊を運用しているお前にも意見が聞きたい。そのために呼び出したんだ」

 二人はそう言って山本に視線を向けた。対して山本は出されたお茶に口を付けてから口を開いた。

「……実は会談をする前に堀に相談してみた」
「堀……同期の堀か?」
「うむ」

 嶋田の問い掛けに山本は頷いた。堀とは山本や嶋田の同期である堀悌吉であり山本権兵衛 、加藤友三郎らの系譜を継ぎ海軍軍政を担うと目されていたが、ロンドン軍縮会議後の大角人事により中将で予備役に編入されてしまう悲運とも言うべき人物であった。
 山本と堀、後輩の古賀峯一とは仲が良かった。そのため山本は堀に相談したのである。

「堀が言うには「ドイツを見習え」だった」
「ドイツを見習え……?」
「ドイツは陸軍国だぞ? 確かに第一次大戦前はドイツも強力な艦隊を保有していたが……」
「ドイツの水上艦艇ではない。水中艦艇だ」
「水中艦艇……まさかッ!?」

 山本の言葉に永野は目を見開いた。

「堀は潜水艦隊の増強をしろと言う事なんだ」
「しかし……何故潜水艦なのだ?」
「通商破壊作戦です。イギリスはドイツのUボートや水上艦艇の攻撃でシーレーンは一時はボロボロにまでなりました。即ち、潜水艦を増強して万が一対米戦になった場合は西海岸での通商破壊作戦を敢行するのです」

 山本は世界地図を開いて二人に説明した。

「西海岸で潜水艦が暴れれば、アメリカも輸送船に護衛艦艇を付けねばなりません。そうすると、ハワイにいる米太平洋艦隊も……」
「早々に身動きは取れなくなる……か」
「はい、その通りです」

 山本は永野にそう言った。

「ただ、問題は二つあります。一つ目は第六艦隊の人間です。艦隊決戦思想のため大型艦艇を狙う事が優先されてきましたので思想を変えるのに時間が掛かるでしょう。もう一つは潜水艦の性能です。伊号潜水艦は騒音が激しいようで、ドイツに派遣したりして潜水艦のいろはをもう一度学ぶ必要があります」
「確かにな……ドイツは第一次大戦でも通商破壊を敢行していた。我々もドイツのエムデンを追っていたな」
「その通りです。我々の艦隊決戦である漸減作戦が破綻した以上、大型艦艇の建造日数が多い我々の技術力では到底対米戦は完遂出来ません。逆に負け戦になるでしょう」
「……となると、我々は艦隊決戦思想や航空決戦思想でもなく潜水艦隊決戦思想を持つべきだと?」

 永野総長の問いに山本は苦笑した。

「いえ、あくまでも航空決戦思想です。パイロットの育成等課題はありますが、潜水艦を現状より強化するのが目的です」
「……良し、その方向でやってみよう。まずは潜水艦をドイツに派遣せねばならんな」
「第六艦隊の清水中将によれば十隻くらいまでなら送れると言ってますよ」
「流石に十隻は多いだろう。四隻で妥当だな」

 三人はそう会談をし、海軍は潜水艦隊の増強に乗り出したのであった。


「お久しぶりですピニャ殿下」
「此方こそお久しぶりですヨシダ大使」

 ピニャはお供を連れて翡翠宮を訪れていた。そして吉田茂と面会をしていた。

「今度こそは締結に向かいたいものですな」
「えぇ。それは此方も同じです」

 日本は帝国と事前交渉をしており、具体的な交渉内容まで行っていた。日本側の主張は賠償金、領土の割譲(アルヌス一帯)、銀座事件責任者の処罰であった。
 帝国側もほぼ日本側の主張を受け入れる方針であったが銀座事件責任者に関しては抵抗していた。
 銀座事件責任者は侵略開始を命令したモルト皇帝であり、モルトが日本で処罰されると帝国の権威に怯えていた周辺の属国が反旗を翻すと恐れていたのだ。
 日本側も「次の皇帝を立てればいい事であり、我々には関係無い」と帝国側からの責任者処罰の取り消しには応じてなかった。
 そのため、交渉は此処で停止する事が多かったのだ。それで二人は上記のような台詞を言っていたのだ。

「今日は長旅の疲れをゆっくりと癒して下さい」
「そうさせてもらいます」
「それと、つかぬこと聞きますが……摂津殿はおられますか?」
「はい、彼には護衛隊の一員として帝国を知っている人物として我々と同行しています」
「……少しだけの時間、彼を貸してくれませんか? どうしても助けてほしい事があります」
「……判りました。何日でも貸しましょう」

 吉田は承諾した。吉田も何かを感じ取ったのだ。直ぐ様樹は吉田は呼ばれてピニャと共に同行する事になったのであった。


 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第四十話

 
前書き
……ハミルトンは何時からメインヒロインになった?
ゴスロリ様の反応が怖い……。
感想の返信は後でします。 

 


「久しぶりですねピニャ殿」
「……そうだなセッツ殿」
「それと、私に何の御用ですか?」
「……セッツ殿しか出来ない仕事だ。まぁ詳しくは館に到着してからだな」
「はぁ……」

 今一つよく判らない樹だった。そして樹はピニャの館に到着した。

「実は……ハミルトンを助けてほしい」
「ハミルトンさん……ですか?」
「そうだ」
「よく話しが判らないのですが……」
「実際にハミルトンを見たら判る。それでは頼む」
「ちょ、ちょっとピニャ殿……」

 樹はピニャに押される形でとある部屋に入らされた。

「此処は……」
「……誰ですか?」

 暗い部屋を見渡す樹の視界に一人の女性が映った。ハミルトンだった。

「ハミルトン……さん?」

 ハミルトンの姿を視認した樹は驚愕した。目の下には隈が出来、髪はボサボサであり風呂にも入っていない様子だった。

「ど、どうしたんですかハミルトンさん? その姿は……」
「何かあったんですか?」
「………」

 ハミルトンがボソボソと喋るが樹は聞き取れない。

「え?」
「……婚約者が亡くなりました……」

 辛うじて聞き取れた言葉に樹は申し訳ない気持ちだった。

「そうでしたか……御冥福を御祈りいたします」

 樹はそう言った。普通ならこれで大丈夫なのだが、ハミルトンの婚約者の死亡原因はある意味で樹にあった。
 そしてこの言葉にハミルトンは目に生気を宿して樹をキッと睨んだ。

「……御冥福ですって……ふざけないで下さいッ!!」
「……え……?」
「婚約者は……婚約者は貴方方の攻撃で亡くなったんですよッ!! どうしてくれるんですかッ!!」
「………」

 樹は何も言えなかった。確かに味方の海軍航空隊が帝都を爆撃したのは樹の耳にも入っていたが、詳しい事など知らなかったのは当然だ。

「返して……返して下さいよ……」
「………」
「返して下さいよッ!!」

 ハミルトンの悲痛な叫びに樹はどうする事も出来なかった。ハミルトンは再び泣き出してしまい、樹は近寄ろうとしたがハミルトンに睨まれた。

「貴方方が……貴方方が来るから婚約者は死んだんです。もう……私の前に現れないで下さいッ!!」
「………」

 樹は元の原因はそっちだろと言いたかったが出さずに、ハミルトンに頭を下げて部屋を出た。

「……貴方でも駄目だったか……」
「ピニャ殿……」

 樹が部屋を出るとピニャが待ち構えていた。

「こういう事だったんですね。自分を呼んだのは?」
「気分を害したのであれば謝罪する。だが、これは貴方でしか出来ない事だと思ってな」
「……難しいですね。自分は医師ではないので断定は出来ませんが……時間をかけてやっていくしか無いでしょう」
「……そうか。失礼だがセッツ殿は家族とか亡くされた経験とかは?」
「残念ですが両親は健在です。まぁ……似たようなものであれば、戦友が異国の空で多く散りました」
「………」

 樹は支那事変の事を思い出していた。支那事変では樹は九六式艦上戦闘機に乗って敵戦闘機を撃墜したが、戦友も撃墜され失っていた。

「……今日は帰ります。またいずれ来ます」
「そうか、送っていこう」
「恐縮です」

 流石に一人で帰れば、事情を知らない帝国側に捕縛される危険性があった。その日は翡翠宮に戻った樹であるが、太田大佐に説明をして時間の許す限りピニャの館へ赴きハミルトンと面会していた。
 ハミルトンも最初は心を閉ざしていた。樹は無理に話そうとせず、面会終了までに無言でおり時間が来ればハミルトンに頭を下げて部屋を出ていっていた。
 その行為が数日続いたが、そこで日本は驚くべき情報を入手した。

「モルト皇帝が病に倒れて皇太子のゾルザルが実権を握っただと?」
「は、ピニャ殿下の使者からの報告ですが……」
「確かゾルザルはあまり良くない話を聞くな」
「はい、拉致事件の主犯核と目されています」
「……太田隊長、至急今村司令官に報告をしてほしい」
「判りました」

 翡翠宮から発信された電文は直ぐに特地方面軍に届けられた。

「司令官……」
「……よし、念のためだ。部隊を出撃させる」
「ではどの部隊にしますか?」
「加茂の戦車部隊とイタリカで演習中の第三八師団、健軍大佐の挺進隊を出撃させる」

 健軍大佐の挺進隊は陸海で集められた精鋭の落下傘部隊である。
 各兵士の銃はベ式機関短銃に定められている。後に百式機関短銃に代わるがそれは先の話である。

「ですが、輸送機が足りません。海軍の零式輸送機は十二機しかありません」
「代わりがある。爆撃機があるだろう」
「爆撃機を輸送機代わりにですか?」
「戦いは常に臨機応変でなければならんよ。地図や書類でにらめっこするより現場に出て知る必要がある」

 今村はそう言った。兎も角、アルヌスの丘では加茂の戦車部隊、第三八師団、挺進隊はイタリカへ向かいそこで帝都からの指示を待つ事になった。
 なお、イタリカには協議して航空基地が設営中だった。設営中だと言っても滑走路や格納庫等は完成しており、対空陣地の設営がまだだったのだ。
 また、加茂の戦車部隊には新しい自走砲があった。旧式の三八式十五サンチ榴弾砲を搭載した試作十五サンチ自走砲ホロがいた。
 このホロは史実のフィリピン戦線のクラークマルコット飛行場の戦闘にて活躍した四式十五サンチ自走砲ホロだった。
 陸軍がリサイクルとした形で完成した車両を特地に移送していたのだ。
 このホロは後に特地で大活躍をするのであった。





 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第四十一話




 帝都は今、帝権擁護委員部(オプリーチニナ)に支配されていた。人々は門を閉ざして委員部の支配から逃れようとしていたが、委員部は御構い無しに講和派の貴族を取り締まり、監獄に収監していた。
 大人しく捕まる者に関してはその場で処刑せずに収監する寛容さを見せていたが、抵抗したり逃亡する者についてはその本性を露にする事を一切躊躇わなかった。
 そしてこの日もとある貴族の館から炎が上がっており、人々は畏怖していた。

「戻っちゃいかんぞッ!!」
「離して下さいまし。きっと御父様と御母様が途中で難儀なさっていますわッ!!」

 地下水道では少女と初老の二人がもがみあっていた。

「戻っては駄目だッ!! 今戻れば……」
「嫌です。侯爵様、お手をお離しになって下さいまし。御願いです、離してッ!!」
「駄目だ。それより早く此処から逃げるんだッ!!」

 初老――カーゼル侯爵は少女――シェリーを担ぎ上げて走り出した。シェリーはじたばたともがくが、館の方角から黒煙が上がりだしたのを目撃した。

「いやあああぁぁぁぁぁぁーーーッ!!! 御父様ッ!! 御母様ッ!!」
「………」

 カーゼルは一瞬、立ちすくんだが直ぐに走り出した。そして二人は地下水道の中へと消えていくのであった。



――翡翠宮――

「……それでは、和平交渉は向こうから……」
「打ち切る可能性が高いな。主戦派が多いのが原因だな」

 和平交渉使節団の団長を務める吉田茂と護衛隊隊長の太田大佐が話していた。

「委員部を恐れて我々に匿ってほしい講和派の貴族達が続々と増えています」
「……今は動く時ではない。和平交渉が全て流れるぞ」
「ですが人命は何物にも代えません」
「……判っている。防衛線の構築はどうかね?」
「只今構築中であります。後二日あれば全て完了します」
「軍が来るまで粘れるな?」
「無論であります。兵の士気が高ければ帝都をも占領出来ます」
「ハハハ、流石は上海以来の精鋭部隊を持つ陸戦隊だな」

 太田の言葉に吉田は笑うのであった。しかし、夜半になって事態は急変した。

「何だこの太鼓を叩くような音は?」
「恐らく……獲物を誘き出すのでしょう」

 叩き起こされた吉田の問いに太田はそう答えた。

「講和派の貴族達を炙り出すのか?」
「斥候の情報ではカーゼル侯爵とテュエリ家の娘を委員部が追っているようです」
「……だとすれば二人は……」
「この翡翠宮に来るでしょうな」

 二人が来れば帝権擁護委員部も来るに違いない。

「翡翠宮を護衛しているピニャ殿の騎士団も気付いて動いているかもしれませんな」
「……戦になるかな?」
「……なるでしょう」
「……今までの外交が水の泡だな」

 吉田は溜め息を吐いた。交渉は後一歩のところだったのだ。悔しがるのは仕方ない。
 二人が話している間にも時間は刻一刻と過ぎていく。やがてはカーゼル侯爵とシェリーの二人が翡翠宮前で押さえられた。

「中尉ッ!!」
「動くな、まだ隊長から指示は出ていない」

 急造の陣地で九九式軽機関銃を構えた水野を樹が押さえる。
 そうしている間にも地面の雑草にしがみついていたシェリーの脚は大地から離れて掴んでいた雑草の千切れる音と共に高々と担ぎ上げられた。

「嫌ッ!! スガワラ様、助けてッ!!」
「中尉ッ!!」
「……我慢だ」

 樹がそう言った時、翡翠宮から一人の男が走ってきた。菅原である。
 菅原はシェリーの元へ走り、委員に叫ぶ。

「その子は十六歳になるのを待って俺の妻にしようと思っている。そういう関係だッ!! だからその子を連れて行くなッ!! 此方に寄越せッ!!」
「よっしゃ、許可が出たぜ。中へ入れて良しッ!!」

 ヴィフィータがそう叫んだ。それを見ていた樹達は菅原の元へ走る。

「下がって下さい菅原さん」

 樹はベ式機関短銃の薬室に弾丸を装填する。その間にもヴィフィータが掃除夫を斬り捨てる。

「き、貴様ら、反逆するつもりか? そこの奴等も我等に刃向かうつもりなのか?」
「馬鹿にすんなよ。俺達の行動は外交協定に基づく警備行動で完全に合法なんだぜ。何者であろうともこの境界を越えるにはニホン帝国政府の了承が必要となる旨、皇帝陛下の勅令をもって定められているからな。てめぇらはニホン帝国政府より立ち入り許可を得ているのか?」
「罪人を捕らえるのにそんな物が必要かッ!?」

 樹は咄嗟に後方の翡翠宮を振り返った。翡翠宮の窓から青旗が振られて発光信号が送られた。

「野郎共ッ!! 花嫁を守れッ!!抜刀ッ!!」

 騎士団達は剣を抜き抜刀した。

「我々日本帝国は帝国の行動を傍観する事は出来ない。亡命者を、騎士団を、日本帝国を守るために帝国に対し自衛の戦闘を開始するッ!!」

 樹は発光信号を読み上げてそう宣言した。これは勿論、口実であり大義名分のためである。
 文面を作成した吉田は溜め息を吐きながらも対峙する帝権擁護委員部を見つめた。

「目の前で人が殺されるのをムザムザ見て黙っているわけではない」

 吉田はそう呟き、翡翠宮の門に銃撃音が鳴り響いた。




 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

未来編その三

 
前書き
すいませんすいませんすいません。
卒論がまだ終わらない……。 

 




 コダ村の住人が集団で逃げ出す一日前に、三人の家族がコダ村から逃げ出していた。

 三人だけでは危険だとコダ村の村長達は言っていたが、夫はそれを聞かずに妻と娘を連れて一足早くにコダ村から逃げ出した。

 しかしそれは間違った判断であり逃げ出してから二日目の夜に十数人の盗賊に襲われた。

 夫は首をはねられて即死して、妻と娘は今まさに盗賊達に奪われようとしていた。

「お頭ぁ。これは中々の上物ですぜ」

 したっぱの盗賊が捕らえた妻と娘を見て盗賊のお頭に言う。

「まぁ待てお前ら。最初は俺からだぜ」

 お頭は震える妻と娘を見ながらニヤリと笑う。

「母さん……!!」

「エミリア……」

 妻と娘は身体を抱きしめる。

ブオォォォォォンッ!!

「あん?」

 その時、何かの音が聞こえた。

「な、何だありゃッ!?」

 盗賊のしたっぱが声をあげた。南西の方向から光が近づいてきたのである。

「お、落ち着け野郎どもッ!!」

 ざわめくしたっぱ達に盗賊のお頭は落ち着かせようとするが光はドンドンと近づき、盗賊達を引いたのである。

「ぐぎゃッ!!」

「グアッ!?」

 光は物体であった。

「な、何だこりゃッ!!」

 盗賊のお頭がそう叫んだ時、物体の扉が開きタンと盗賊のお頭の頭を撃ち抜いたのである。

「水野ッ!! 凪払えッ!!」

「アイアイサーッ!!」

 水野三曹が車上からミニミで盗賊を掃射していく。ミニミの弾丸は盗賊達の鎧を貫き、次々と倒れていく。

「おのれ盗賊どもめッ!! か弱き女を犯そうとしやがってッ!!」

 ヒルデガルド――ヒルダが剣を抜いて逃げようとする盗賊の後ろから斬りつけている。

 摂津三尉が盗賊に強襲してから五分が経つと、盗賊達は全て地面に倒れていた。

「……作戦終了やな……」

 摂津三尉は目を凝らして辺りを見ていたが作戦終了を告げた。

「大丈夫ですかッ!?」

 車上にいた水野三曹が軽装甲機動車から降りて妻と娘に問う。

「は、はい」

 妻は物体から人間が降りてきた事に驚きつつも頷いた。

「三尉、もう一人は……」

「……あかん。もう亡くなっている」

 倒れていた夫の脈を測っていた摂津三尉は首を横に振った。

「あなたッ!!」

「父さんッ!!」

 亡くなった夫に妻と娘が抱きつき、涙を流す。

 摂津三尉達は気まずい雰囲気にどうしようとなかった。

 だが水野三曹はテッパチで目元を隠して二人に近づいた。

「……奥さん、旦那さんの墓を作りましょう」

「……はい」

 涙を流して妻は水野三曹の言葉に頷いて夫から離れた。娘はまだしがみついていたが妻が「離れなさい」と言うと渋々と頷いて夫から離れた。

「穴掘るぞ。片瀬、シャベル持ってこい」

 樹は運転席にいた片瀬に指示を出す。

 そして六人は亡くなった夫のために墓を作ったのである。

「黙祷……」

 樹の言葉に水野三曹達は手を合わせる。妻と娘は片膝を地面につけて夫の冥福を祈った。

「私もぉ祈っていいかしらぁ?」

 その時、樹の後ろから声がした。樹が振り返るとそこには黒いゴスロリの服を着た少女がいた。右手には少女には重すぎるハルバートを持っている。

「ロ、ロゥリィ・マーキュリーッ!!」

「し、知っている人かヒルダ?(イヤッホーッ!! ロゥリィやものほんのロゥリィやッ!!)」

 ヒルダが驚いたのを聞く樹であるが心の中では歓喜していたりする。

「私も急いだんだけどぉ間に合わないかと思ったわぁ。でもぉ」

 ロゥリィはそう言って樹に視線を向けた。

「ん?」

 ロゥリィが視線を向けた事に完全に予想外だったらしい樹が首を傾げる。

「貴方達のおかげねぇ」

 ロゥリィはそう言った。

「摂津三尉、どうしますか?」

 水野が聞いてきた。

「どうするって……」

 樹は保護した妻と娘、そしてロゥリィを見る。

「……自分達はこれからコダ村から避難してくる難民と合流しますが一緒に行きますか?」

「はい。どのみちそれしか無いと思いますので」

 妻は頷いた。

「いいわぁ。貴方達に少し興味があるしぃ」

 ロゥリィは樹の服装を見ながらそう言った。

「それじゃあ行くか」

 樹はそう言ってラヴに乗り込む。

「奥さんと娘さんは後ろに乗せた方が良いですね」

「あぁ。少々狭いけど我慢するしか無いよな」

 水野三曹の言葉に樹は頷く。

「高機動車で来ればよかったなぁ」

 片瀬三曹が呟く。

「仕方ない」

 樹は苦笑する。水野三曹は妻と娘を後ろに乗せている。

 二人は水野三曹に「これは動くの?」と訊ねていて水野三曹も「動きます」と教えている。

「ロゥリィさんの武器は立てとくしかないな」

 ロゥリィのハルバートは車上から突き出すように固定された。

「ありがとうぉ」

「んでロゥリィさんの席は……」

 樹は車内を見る。後ろの荷物を置く場所は妻と娘が座り、座席には水野とシリウスがいる。運転席になどもってのほかである。

「いい場所があるじゃなぁい」

「え? おわッ!?」

 ロゥリィは何か思い付いたように言って樹を助手席に座らせて、ロゥリィ自身は樹の膝にちょこんと座ったのである。

「さ、流石にそれは教育上の問題が……(ロゥリィ……)」

 樹は内心喜んでいたが自制心を動かして席を半分ずつ座らせるのであった。






 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第四十二話





「今村司令官、帝都の翡翠宮より緊急電です」
「うむ」

 アルヌスの派遣司令部で何時ものように勤務していた今村の元に翡翠宮から緊急電が来た。

「………」
「司令官、何か悪いことでも?」
「……見たまえ」

 今村の表情を読み取った健軍大佐に今村は無言で紙を渡した。

「……翡翠宮で戦闘……ですか?」
「そうだ。紙に書いてあるように受け入れた亡命者を引き渡すよう命令した帝権擁護委員部の掃除夫と戦闘状態に移行した」
「それでは……」
「健軍大佐、待機している空挺部隊を出撃させろ」
「はッ!! 直ちに出撃しますッ!!」
「イタリカの部隊にも帝都への出撃を出せッ!! 使節団を守るのだッ!!」

 こうしてアルヌス基地はにわかに騒がしくなり始めた。空挺部隊は陸海合わせて六百名が降下する。
 携帯武器は海軍がドイツから購入したベ式機関短銃、九九式軽機関銃、九四式拳銃、手榴弾となっている。
 空挺部隊の隊員達は飛行場で待機していた零式輸送機、武装を外した一式陸攻、九六式陸攻、九七式重爆に乗り込んだ。

「帽振れェッ!!」

 そして手すきの整備員達から見送られながら空挺部隊は出撃していった。
 なお、護衛の戦闘機はイタリカ航空基地の零戦と隼がそれぞれ十五機が発進した。
 更にイタリカに交代したばかり精鋭の第二師団と第三八師団、加茂大佐の混成第一戦車連隊もイタリカから出撃をしていた。

「急げェッ!! 健軍の奴に手柄を全て持って行かれるぞッ!!」

 健軍と同期の加茂は少々焦っていた。炎龍の件は加茂が活躍したが、今回の帝都攻撃は日本軍初の空挺作戦であり今までの手柄が全て無くなりそうだと危惧していた。

「手柄が健軍に行けば……戦車は新型に更新は止まるかもしれん。そんな事はさせんぞ」

 加茂の脳裏には中隊長として参加したノモンハン事件を思い出していた。
 ソ連のBTやT-26軽戦車の四五ミリ戦車砲に味方の中戦車や軽戦車は次々と撃破されていった。(なお、日ソ戦車の最大装甲は九七式中戦車の二五ミリである)

「一秒でも早く帝都に到着するぞッ!!」

 加茂はそう叫ぶのであった。




「撃ちまくれ水野ッ!!」
「は、はいッ!!」

 自衛戦闘を宣言した樹は九九式軽機関銃を構えていた水野に叫ぶ。水野は忠実に樹の命令に従い、引き金を引く。
 途端に七.七ミリの軽快な音が響き、先程までヴィフィータと言い争っていた委員の身体を引き裂いた。

「なッ!?」
「騎士団は一時下がれッ!! 片瀬達も撃て撃てェッ!!」
「了解ッ!!」

 後方の陣地にいた片瀬達も射撃を始めた。ヴィフィータ達騎士団はいきなり始まった戦闘に唖然としていた。

「これが……異国の戦争……なのか?」

 次々と倒れていく委員や掃除夫達を見ながらヴィフィータはそう呟いた。

「ぼさっとするなッ!! 早く後方に下がれッ!!」
「お、俺達は騎士だッ!! 下がることなどしないぞッ!!」
「最後に出番があるから一旦下がれッ!!」

 反論するヴィフィータに樹はそう言ってベ式機関短銃を掃除夫に叩き込む。樹は射撃をしつつ九九式手榴弾を投げる。
 樹はヴィフィータ達を伴い陣地へ後退する。そして手榴弾は何も判っていない委員達の足下で爆発して数人の委員を吹き飛ばした。
 そこへ九二式重機関銃も射撃を始め、守備隊の最大火砲で虎の子である九四式山砲二門も砲撃を始めて掃除夫達を肉片に変えた。

「騎士団さん、今だよ」
「よ、よし。野郎共ッ!! 花嫁を守れッ!! 抜刀ッ!!」

 騎士団の兵士達は己の剣を抜いた。太陽の光で刃がキラリと光る。

「皇太子の配下だろうが構うなッ!!」
「女と年寄りは道を開けろッ!!」
「他人の恋路を邪魔する奴はコボルトに食われて死んでしまえッ!!」

 騎士団は先程の菅原の行動を見ており士気は最高だった。そしてヴィフィータが剣を掲げた。

「此処は外交特権に守られた使節の館。帝権も及ばぬ異国。力ずくで押し入らんとする者はだれであろうとこのヴィフィータ・エ・カティが皇帝陛下の御名の下に討つッ!! 突撃、前へェッ!!」
『ウワアァァァァァーーーッ!!!』

 抜刀している騎士団は雄叫びをあげて全滅寸前の委員と掃除夫達へ突撃を敢行するのであった。



「何ッ!? 翡翠宮へ向かった部隊が壊滅しただとッ!!」
「は、残存は僅か九名です」

 指揮を取っていた委員達の報告にルフルス・ハ・ラインズ次期法務官は驚愕した。

「た、直ちに帝都全域に展開している帝国兵を集結させるのだッ!!」
「はッ!!」
「いや、貴様らではない」

 下がろうとしていた委員達にラインズは呼び止めた。

「貴様らには委員裁判が待っている。即時裁決をしてやる」

 ラインズ次期法務官の言葉に生き残りの委員達は顔を青ざめた。ラインズはギムレット委員部長を死刑と宣告して言い訳を与える暇をせずに処罰した。

「くそ、何でこんな事に……」

 ラインズはそう呟いた。そして天気は雲が群がり雨となった。

「健軍大佐、これでは落下傘降下は危険です」
「むぅ……やむを得まい。出直すしかあるまい」

 空挺部隊を乗せた輸送機と爆撃機が帝都に飛行してきたが雲が厚く、風速と雨もありとても降下出来るものではなかった。
 空挺部隊はやむ得ず引き返した。そのためこの日の空挺作戦は失敗した。

「大田大佐、何日まで持ちこたえられるかね?」
「念のためにと弾薬類は多めに携帯しています。空路で上から補給してくれたら我々は何年でも持ちこたえます」

 吉田の問い掛けに大田大佐はそう答えた。



 
 

 
後書き
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第四十三話

 
前書き
ほんとにすいません。
リアルで色々とありました。 

 




「帝国の帝都で戦闘だと? 交渉は決裂したのか?」
「いえ、どうやら自衛の戦闘のようです」

 辻中佐からの報告に東條は思わず腕を組んだ。

「……不味いな。アルヌスの丘には諸外国の武官が視察しようとしているところだ。出撃を見られたら諸外国に戦力を調べられる」
「閣下。この際ですから戦力を見せてはどうですか?」
「何? 戦力を見せるのか?」

 辻の言葉に東條は目をギロリと辻に向けた。

「戦力を見せるのは此方の兵器を見られる危険性はあります。ですが、見せる事で我々に脅威を抱いてほしいのです」
「……抑止力か」

 戦力を見せるのも一手だが、見せすぎるもの良くない。特に史実海軍で大和型戦艦は秘匿中の秘匿であり、全てが知れ渡ったのは戦後という有り様である。

「……今村には独自の判断でやるようにしよう」

 東條はそう決断した。



「帝都へのパラシュート降下ですか?」
「えぇ、帝都で交渉団と帝国が戦闘状態に入りましてな」

 アルヌスの丘の基地で今村は観戦武官にそう説明していた。

「ですがそのような情報を我々に話しても良いのですかな?」
「その通り」

 イギリスとアメリカの観戦武官はそう頷いた。ドイツの武官はそれを見つつ無言である。ソ連の武官も無言である。

「事態は緊迫していますからな。良ければ出撃するところをお見せしましょう」

 今村の言葉に観戦武官達は内心は喜びつつ滑走路に向かう。滑走路では既に武装を外した一式陸攻や九六式陸攻、零式輸送機がプロペラを回し始めて離陸していた。

「ほぅ……これは中々壮観ですな(あれは爆撃機だな。我が軍のB-25のように速いな……)」
「ふむ、流石は東洋の国だな(流石に急降下爆撃の機能は付いてないか……)」
「………(航空機の性能はヤポンスキーが上か……)」

 観戦武官達は離陸していく輸送隊にそう称賛しつつ内心では日本の戦力を調べていた。
 観戦武官達も避難民で出来た飲み屋や市場に驚きつつ本国に報せるべく書を認めている。特に彼等が手に入れたかったのは特地の地図である。
 地図があれば日本に接触出来て或いは介入もしやすく……そう思い書店で探したが一冊も見当たらなかった。
 勿論日本側もそんな見逃すような事はしていない。書店を作る場合は憲兵が検閲して許可を出す仕様になっていた。地図を販売した場合など憲兵に拘束される事になっている。
 今回は憲兵の努力が実を結び、地図の有力な情報は手に入らなかったが写真撮影は許可されていたので写真を本国に持ち帰り現像して特地がどういったところなのかが諸外国に知る事が出来た。
 この写真により獣人という言葉が復活したりした。特にドイツなど親衛隊を投入して獣人の痕跡を探したりしたのである。

「帝都から連絡は?」

 観戦武官達が離陸していく輸送隊を見ながら今村は参謀長の栗林に問う。

「昨日、弾薬類を空中投下したのが効いています。翡翠宮の戦闘は相変わらず此方が有利です」
「そうか……。救出部隊は?」
「長雨の影響で進撃は遅れていますが、後一日で帝都に到着するようです」
「……上手くいけば脱出は可能だな。だが帝国が戦力を送り込めば……」

 後の言葉を今村が言わなかった。



「突撃ィ!!」
『ウワアァァァァァーーーッ!!』

 翡翠宮の正門では掃除夫が兵士を従えて突撃命令を出した。

「三度目の突撃が来るぞ!! 撃て撃てェッ!!」

 丸太で作った急造陣地で樹が叫ぶ。近くの急造陣地から九二式重機関銃が射撃を開始する。それに続いて水野が九九式軽機関銃の射撃を開始した。
 七.七ミリ弾は突撃する兵士達の身体を貫きその生命を奪う。彼等が身に付ける鎧は弾丸に全く歯が立たないのだ。
 たまに鎧を二重に重ねた兵士が現れるが、狙撃手がヘッドショットを決めて鎧の効果を無くしていた。
 攻撃には小銃と機関銃しか参加していない。歩兵砲や砲クラスは砲弾の節約していた。初日の攻防戦では砲弾を多数消費して翡翠宮の正門を瓦礫に変えていた。
 しかし掃除夫達は瓦礫を防御陣地にして激しく抵抗していた。

「しつこいね掃除夫達も……」
「もう少しすれば奴等も最後の突撃をするだろう。その時の介錯は頼むぞ」
「任しときな」

 ヴィフィータはそう意気込んでいた。兵士達を戦死させた後、掃除夫達も突撃してくるがそこはピニャの騎士団に任していた。
 弾丸の節約もあるし、騎士団も戦いたいという尊重もあったりする。
 数人を残して部隊は壊滅するのがここ三日での光景だった。なお、遺体は丁重に葬り翡翠宮の庭に埋葬している。
 何れはキチンとしたところで埋葬する予定だ。鎧や剣とか役に立ちそうなのは回収して装備している。鎧など陣地の楯代わりしたりしている。
 そしていつしか掃除夫達しかいなく、掃除夫達も突撃を敢行して騎士団に討たれた。

「……いつまで続くのかねぇ……」
「だな。こちとらピニャ様の安否を確認したいけどよ……」

 右頬に少量の返り血が付いたヴィフィータはそう呟いた。樹は手拭いをヴィフィータにやりヴィフィータは返り血を拭いた。

「強行突破しても帝国軍が待ち構えてそうだな」
「早く救出部隊が来てくんないかね……」

 陣地でそう呟く樹だった。




 
 

 
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 

 

第四十四話

 
前書き
お久しぶりです。長い間更新しなくてすみません。
更新しなかった理由
「お、新刊……ん? 伊丹が竜騎士? それはないわ~(ヾノ・∀・`)」

新刊は買ったけど、伊丹が竜騎士とか帯を見て読む気力がなく読まずに封印状態。そうじゃないんだよ……

「でもとりあえず書こう」

何とか奮起して書き上げて今此処。

今後の更新は未定、場合によっては削除か全面リメイク。 

 



 翡翠宮で戦闘が続いていた一方、皇太子府では皇女ピニャが半数以下に減った元老院議員達からの糾弾の嵐に晒されていた。
 その理由というのも翡翠宮で戦死した帝権擁護委員(オプリーチニキ)の多くが主戦論派である彼等の子弟、若しくは縁者だったからだ。

「皇女殿下は元老員院の権威をなんと心得ておられるのか!?」
「さよう。我等がどれほどの思いでオプリーチニナ特別法を可決したのか御理解下さってない!!」
「その通りだ!!」

 議員達はピニャに向けてこれでもかとばかりにヤジを飛ばしていた。対するピニャは黙したままである。どんな罵声でも言い返すをしない。
 ピニャの精神は皇帝の不豫に始まった事態の悪化の兄ディアボから見捨てられた事で不安定な状態だった。ゾルザルに対抗してもらおうとディアボに助けを借りようとしたが、従者のメトナスを失っていたディアボはピニャの言葉に耳を傾けず、そのまま帝都を脱出して何処かへと去って行ったのだ。
 ある目撃情報ではイタリカに向かったとか言われているが定かではない。そのためピニャはボケェっとしていたが、味方がいないわけではない。
 漸く公務に復帰したハミルトンが独りではあるが側にいて懸命に立ち向かってくれた。それでも時折、ハミルトンは人目が付かないところで泣いていた。樹に怨みを呟いて……。

「議員方、殿下の理解力が不足しているかのように言わないでいただきたい。殿下は理解なされている。ただ許容ならないだけなのです」

 ハミルトンは何とかピニャを守ろうと論戦に打って出ていたが、既に満身創痍の状態である。

「それを理解力の不足だと申し上げている。我等も何も好き好んでこのような法律を可決したわけでないのですぞ。断腸の思いを堪えたのです」
「フン、理解出来さえすればそれを許容するというのは妄想でしかありません。理解してもなお許容出来ないという事は幾らでもあるのです。自らの主張が許容されないからといってその理由を理解力不足に貶めようとするのはただの我が儘です」
「何と無礼な!! 貴女は妄想だと仰るのか!!」
「我が儘なのは殿下の方であるぞ!!」

 ハミルトンの反論に議員達は罵倒して口を閉じさせた。そして主戦論派の急先鋒たるウッディ伯爵がつけこんできた。

「兎に角殿下には翡翠宮に逃げ込んだ者共を帝権擁護委員部に捕らえさせることへの同意を願いたい」
「それは無理だと申し上げた。翡翠宮は皇帝陛下の勅によって外交特権が付与された使節の逗留の場であり帝国の法が及ばぬところです。そして我等はそれを守る楯。元老院議員の方々にこそ問いたい。使節の方々の安全を脅かそうとする帝権擁護委員部の行為を認めているのですか? 彼等の為していることこそ皇帝陛下の権威と帝国の名誉を貶める帝権干犯そのものではないですか!?」

 ハミルトンはそう反論するが元老院議員達も負けずと反論し、場は乱戦になっていた。

「そもそもだ。それならニホン側に犯人の引き渡しを求めてはどうかね?」

 軍部出身のクレイトン男爵の言葉にハミルトンは胸中で舌打ちをした。

「ニホン側は彼等を庇護すると回答して参りました」
「ほら見ろ!! 奴らはニホンと繋がっていたんだ!!」
「モルト皇帝が翡翠宮に外交特権を付与されたのは使節達との講話交渉を円滑に進めるためであって敗北主義者達を匿わせるためではないぞ!!」
「外交特権を停止するのだ!!」

 ヤジが怒号のレベルにまで高まり収拾がつかなくなってきた。

「我等はこれ以上の被害は出したくはない。無益な戦いで血が流されるのはこりごりのはず。殿下のご指示とあらば騎士団も守りを解くはず。いかがでしょう殿下? ここはお譲りいただきませんか?」

 ウッディ伯爵がそのように申してきた。ハミルトンは反論したが、ウッディ伯爵は吐き捨てた。

「我々は貴女に聞いていない。ピニャ殿下に尋ねているのです」
「そうだそうだ!!」
「大体秘書官風情が何故答弁しているのだ? 僭越だぞ!!」

 口ごもるハミルトンだったが後ろからピニャが口を開いた。

「もういいハミルトン。妾は帰る」

 ピニャはそう言って席を立ち、帰ろうとする。その行動に議員達はヤジを飛ばすがピニャは気にする気はない。しまいには騎士団を解散しろと脅してくるが、ピニャはフンと笑った。

「騎士団とニホン軍に負けているのは何処のどいつだ? 此処で議論せず翡翠宮に突撃したらいい。まぁ死ぬがな」

 ピニャの言葉に議員達は激怒したが、そこに今まで沈黙していたゾルザルが口を開いた。

「ニホンと講話交渉を打ち切るつもりはない。政情が安定しない上安全も確保出来ぬ故に一度ご退去いただくのだ。生き帰りの安全は俺の名で保障する。政情が安定した後に再び翡翠宮にお越し頂くのだ」

 ゾルザルの提案に議員達は賛同しているが、ピニャはゾルザルに一言言った。

「もう兄上の好きにすればいいのです」

 ピニャはハミルトンすらも見捨てるように皇太子府を後にした。ハミルトンはピニャを追いかけようとしたが、ゾルザルに呼び止められた。

「そなたは婚約者を失いニホンを恨んでいるはず。今なら僅かではあるが一軍を預けて最後の攻撃を敢行してくれぬか? 何せ講話交渉は一つでも有利な状況が欲しいからな」

 ゾルザルの言葉にハミルトンは心臓が鷲掴みされた感覚を覚えた。先程まで私情は切り捨てていたが、ゾルザルに促され議員達も攻撃に参加しろと言われ奥にし舞い込んでいたドス黒い感情が湧き出してきたのである。
 そしてハミルトンはゆっくりと口を開いた。



 
 

 
後書き
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第一話 リメイク

 
前書き
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致しますm(__)m 

 






 日米の関係が少しずつ悪化していた。しかし、1941年三月に日本帝国は新たなる試練が待っている事に気付かなかった。
 1941年三月一日、東京府銀座午前十一時五十分にそれは起きた。突然、銀座のど真ん中に門が現れて、中からゴブリンやオーク、中世ヨーロッパの騎士の服装をした集団が出現して市民を殺傷し始めたのだ。

「蛮族どもよ!! よく聞くがよい、我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名においてこの地の征服と領有を宣言する!!」

 彼等はそう言って死体が築かれた場所にその帝国の旗が置かれるのであった。

「ぎ、銀座にて謎の武装集団が出現……し、市民が虐殺されています」

 帝国軍の槍に背中を貫かれ致命傷を浴びながらも警察署に駆け込んだ新人警官はそう言って息を引き取った。

「小銃、機関銃類の武器類を装備して出動!! 軍が出動してくるまで時間を稼げ!!」

 署長自ら陣頭指揮を取りつつ陸軍に出撃を要請した。この事態に時の近衛内閣は即座に軍の出動を要請、近衛第一歩兵連隊等が緊急出動をした。

「撃て!! 撃ちまくれ!!」

 精鋭の近衛第一歩兵連隊の兵士達は三八式歩兵銃で突撃してくるゴブリンや騎兵部隊に弾丸を撃ちまくり防戦する。

「歩兵砲を持ってこい!!」

 大隊砲こと九二式歩兵砲が九二式榴弾を発射して帝国軍兵士を吹き飛ばした。更に連隊砲こと四一式山砲も参戦して九四式榴弾を放ち、帝国軍兵士を蹴散らしていく。そこへ爆音が響いてきた。

「海軍さんだ!! 海軍さんの戦闘機が来たぞ!!」

 海軍も出撃要請を受けており横須賀航空隊や厚木航空隊から旧式の九六式艦上戦闘機や最新鋭の零式艦上戦闘機が出撃をして銀座上空を飛行していたワイバーンを七.七ミリ機銃と二十ミリ機銃で駆逐してから地上に対して機銃掃射を始めた。

「よくも東京をやりやがったな!!」

 九六式艦上戦闘機に乗るパイロットはそう叫びつつワイバーンの後方に忍び寄り、七.七ミリ機銃弾をワイバーンに叩き込んだ。七.七ミリ機銃弾はワイバーンの操縦士の命をもぎ取り、ワイバーン自身の命ももぎ取ってワイバーンは地面に墜落した。

「砲撃始めェッ!!」

 現場に到着した増援の砲兵隊が三八式野砲で砲撃を始めて怯えていた帝国軍を完全に蹴散らしていく。更に九二式重機関銃も射撃を開始して帝国軍兵士の命を刈り取っていく。
 同じく到着した九七式中戦車が五七ミリ戦車砲を撃ちながら腰を抜かしている帝国軍兵士を踏み潰していく。帝国軍は果敢に反撃してきたが、上空からの零戦や九七式戦闘機の機銃掃射で血の池に倒れていく。

「総員着剣ッ!!」

 連隊長の言葉に三八式歩兵銃を持つ兵士は三十年銃剣を装着した。

「突撃ィッ!!」
『ウワァァァァァァァァァーーーッ!!!』

 日本軍は雄叫びを上げて混乱している帝国軍に必殺の銃剣突撃を敢行するのであった。



「これは最早私の手に逐えない」

 近衛首相は事態の沈静化をしようとしたが、既に諸外国にも事件の事は知れ渡っておりどうする事も出来ずにそう呟いて内閣を総辞職をした。近衛内閣の後に陸軍大臣だった東條英樹が就任して非常時事態を宣言するのであった。
 そして東條首相は集まった記者達(外国人記者を含む)に説明をした。

「当然の事であるがその土地は地図に載ってはいない。「門」の向こう側はどうなっているのか? その一切が謎に包まれている。だがそこに我が国のこれまで未確認だった土地と住人がいるとすれば――そう、ならば強弁と呼ばれるのを覚悟すれば特別地域は日本国内と考えていいだろう」

 東條総理はそう言う。

「今回の事件では多くの犯人を『捕虜』にした。これは日本帝国に対する宣戦布告である事が明確だからだ」

 東條総理は捕虜を強調する。これは事件などではない、最早戦争を意味していた。

「よって例え「門」を破壊しても何も解決しない。それはまた「門」が現れるかもしれないからだ。そのためにも向こう側に存在する勢力を交渉のテーブルに力ずくでも着かせなければならない。相手を知るためにも我々は「門」の向こうへ踏みいる必要がある。危険、そして交戦の可能性があろうともだッ!!」

 東條総理の演説に記者達は何も言わない。

「従って、日本帝国政府は特別地域の調査と銀座事件首謀者の逮捕、補償獲得の強制執行のために軍の派遣を決定したッ!!」

 その瞬間に多数のフラッシュが光った。この宣言に対してアメリカ――時の大統領であるフランクリン・デラノ・ルーズベルトが内密に接触してきた。

「中国から撤退すれば我がアメリカは日本を支援しよう」

 反日に近いルーズベルトにしては出来すぎた事であった。日本にこのように発言すれば必ず日本は乗ると判断したからだ。そして日本はこれに乗った。東條は即日、門侵攻のために中国にいる陸海軍の部隊は全て満州方面に撤退する事を宣言した。

「満州は日露戦争以来、日本が多くの血を流して手に入れた領土だ!! それをむざむざと放棄するなど散った英霊に申し訳がない!!」

 陸軍からはこのような反対意見が続出したが、東條は憲兵隊を総動員させて反対派を徹底的に排除、若しくは予備役に編入させた。今回の事件で日本の治安を守るのに部隊を出さないといけないと分かっているため直ぐに意見は無くなった。
 また、三国同盟を結んでいるドイツからも接触があり、門の情報を求めた。

「我が日本帝国は「門」の勢力、帝国に対して宣戦を布告すると共に軍を派遣する」

 日本は帝国に対して正式に宣戦を布告。派遣部隊を編成して七個師団、戦車三個連隊、砲兵三個連隊、後に五個航空隊(陸海合わせて)を門に派遣した。派遣部隊司令官は今村中将である。
 派遣部隊は門を潜って異世界に突入した。門周辺には帝国軍が警戒していたが先鋒隊を九七式中戦車と九五式軽戦車部隊の機甲部隊にして突入した。

「カク・カク、命令は簡単也、ただ蹂躙せよ、ただ蹂躙せよ」

 戦車第六連隊第四中隊長の島田豊作少佐は静かにそう告げた。

「な、何だあれは!?」
「あんな物、見たことないぞ!!」

 帝国軍は見知らぬ兵器に混乱し、混乱する帝国軍に向けて九七式中戦車は五七ミリ戦車砲を発射。着弾した九〇式榴弾は帝国軍兵士を殺傷させた。機動力がある九五式軽戦車は戦場を駆け回って帝国軍を混乱に陥れる。そこへ歩兵を主力にした二個連隊が門周辺を守備をして迫ってくる帝国軍に対して射撃を開始した。
 小銃は全て最新の九九式短小銃である。七.七ミリ弾は帝国軍兵士の分厚い鎧を突き破って兵士の命を刈り取っていく。
 門からは続々と増援の部隊が到着して門周辺にいた帝国軍を完全に一掃するのであった。この戦闘で帝国軍は全兵力の六割を喪失する被害を受けるのであった。
 戦闘後、派遣部隊は「門」を中心に仮の施設を設置した。

「簡単な城なようなのを作れば門もそう簡単には奪還されないだろう」
「ですがどのような城を作るのですか? 流石に大阪城等の城を作るのは……」
「西洋の城を作ればいい。日本にも西洋の城があるだろう?」
「……成る程、五稜郭ですか」

 派遣部隊参謀長の栗林少将がそう呟く。五稜郭の単語に他の参謀もあっとぽんと手を打った。

「五稜郭をモチーフにした砦を作る。そしてこの砦を守るように三重の防衛線を構築するのだ!!」

 そして戦闘から翌日には工兵隊に防御陣地の構築が始まり、日本帝国の本格的な特地への進出が始まるのであった。





 
 

 
後書き
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