機動6課副部隊長の憂鬱な日々


 

~お知らせ~

つぶやきでは以前から告知していましたが、本作のスピンオフ作品を新たに投稿しました。

タイトルは”シュミットさんちの日常”です。
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~11047

ぜひお読みいただけるとうれしいです。

なお、シリーズ作品は以下のとおりです。

機動6課副部隊長の憂鬱な日々(リメイク版)⇒本作のリメイク版
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~9887

特殊陸戦部隊長の平凡な日々⇒本作の続編
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~5232

副部隊長と戦技教導官の色ボケな日々⇒R18
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~5073 

 

第1話:怪しい勧誘には気をつけて・・・

ここは,ミッドチルダの首都クラナガンの繁華街にある、喫茶店だ。
俺は,ある女性との待ち合わせのためにこの店に来ていた。

(しかし、こんなメールを送ってくるなんて,あいつも相変わらずなのな)

俺の端末には,昨日送られてきたメールが表示されていた。

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愛しのゲオルグくんへ


 ちょっと話したいことがあるから、

 明日の昼休みにいつものお店に来てな☆


  PS

  バックれたらゲオルグくんの恥ずかしい秘密#21を局中に公開するので
  そのつもりで!
   
                 八神はやて

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(#21ってなんだよ・・・てか,いくつあるんだ??)

 しばらくコーヒーを飲みながら待っていると,ふざけたメールを送りつけてきた
 張本人が現れた。

 「いやー、ゲオルグくんと直接会うのも久々やなぁ。あ、アイスティー1つ」

 「ああ,久しぶり・・・ってこのメールはなんだよ!
  てか、恥ずかしい秘密#21って何!?」

 「ん?それをここで話してしもてええのん?誰が聞いてるかわからへんよ?」

 はやてはそう言うと,意地わるそうに笑った。 
 
 「すまん。勘弁してくれ。」

 俺は、両手を上げて降参するしかなかった。



 しばらく,お互いの近況なんかを報告しあいながら雑談をして,
 ふと会話が途切れた時に、はやての表情が急に真剣なものに変わった。

 「でな。今日ゲオルグくんを呼び出したんは,頼みことがあるからなんよ」

 「お前に貸す金ならねーですけど」

 俺がそう言うとはやての表情が少し険しくなった。

 「私は真剣に話してるんやけど。」

 「わりぃ、真面目に聞くよ。で? 仕事がらみ?」

 「うん,実は今度本局の古代遺物管理部で新しい部隊を作ることになってんけ
  ゲオルグくんにも来て欲しいんよ」

 「部隊を・・・作る?すまん。よく理解できないんだけど。」

 「えっと、どう言うたらええんかなぁ・・・」

 それから,はやては,ロストロギアに即応できる部隊を作ること、
 はやてがその部隊の部隊長になることそのための,人材集めをしている
 最中であることを説明してくれた。

 「ふーん,なるほどね。やっと理解できたよ。しかしなぁ。」

 はやての説明の中では今決まっている人員の話もあったのだが,
 ロストロギアへの即応では説明がつかないくらいの戦力だった。

 「まぁヴォルケンリッターはいいとして,なのはとフェイトも呼ぶのか? 
  やりすぎだろ。あと俺不要。」

 「いやいや、ゲオルグくんが来てくれんと,私はだいぶ困るで。」

 「なんで?戦力的には十分でしょ。てか能力リミッターかけないと
  いかんぐらいでしょ?これ以上集めてもしょうがないじゃん」

 「ん~、ゲオルグくんに来て欲しい理由は戦力もあるんやけど,
  それより大きい理由があんねん」

 「何さ。もったいぶらないで早く話せよ。もう時間ないし」

 もうそろそろ昼休みも終わろうという時間が近づいていた。

 「さっき見せた通り,個々の能力的には申し分ない人間を揃えたつもり
  なんやけど,なのはちゃんもフェイトちゃんも集団戦の指揮って
  まともにとったことないんよ」

 「いや、なのはもフェイトもかなり現場経験積んでるじゃん」

 「うーん,そうなんやけど,なのはちゃんは基本戦技教官やし,
  フェイトちゃんは執務官やから個人行動が多くてな。
  まともに部隊の指揮なんかやったことないんよ。」

 「じゃあ、はやてがその分フォローすりゃいいでしょうが。
  何のためのキャリア研修さ?」

 「それやと、部隊を2つに分けて対応するときの代役がおれへんやろ。
  そやから,その代役が欲しいっちゅうのが1つ目の理由」

 「まだあんのかよ」

 「あとはな、こう知り合いが多い部隊やとどうしても規律とかに対して
  ルーズになるやんか。そこをバシっとやってくれるのを期待してんのよ。
  ゲオルグくんそういう切り替えうまいやんか」

 「それこそはやての役目じゃないのかよ・・・って,はやてじゃ無理だな。
  冗談にしか聞こえないわ」

はやてでは身内成分が強すぎるし,onとoffの切り替えもうまいほうじゃない
からそういう抑えは効かないだろうと思った。

 「そやろ。ちゅうわけでゲオルグくんには是非うちに来て欲しいんやけど。」

  (はやてが俺に来て欲しい理由はわかったし、納得もできるんだけど・・・)

 「悪い。即答はできないわ。俺も部隊長だし、
  いろいろしがらみもあるからさ。」

  俺がそう答えるとはやては少し残念そうに笑っていた。

 「まぁ,そうやろうね。でも1ヶ月くらいの間ではどっちにしろ答えが
  欲しいんやけどな」

 「わかったよ。俺もはやての力にはなりたいと思ってるから、
  なんとか考えてみるわ」

 「ありがとうな。ほんならまたね」

  


 はやてと別れてから職場に戻る道中,俺は自分のデバイスに相談していた。

 [なぁ、レーベン]

 《なんですか?マスター》

 [はやての話,どう思う?]

 《・・・非常に言いにくいのですが》

 [いいよ、はっきり言ってくれ]

 《何か裏があるのは間違いありませんね。あれだけの戦力を集中させる
  理由として,ロストロギア対応は弱すぎます》

 [だよなぁ。じゃあ裏ってなんだろ?
  俺ははやての誘いに乗っていいんだろうか?]

 《どちらも情報不足です。マスター》

 [うん。わかってる。そのへんをはっきりさせたいとこだね]

 《ええ、ですが。》

 そこで,レーベンが珍しく言い淀んだ。

 [どうしたのさ。] 
 
 《はやてさんはむやみに人を傷つけるような方ではないと思います。
  信じてもいいのではと考えます。》

 [レーベンにしては情緒的な回答だね。]

 《私はマスターが傷つくのを見たくないだけです。
  あと,時にはマスターが光の当たるところに立たれるのもよいのでは
  と思いまして》

 [そっか。ありがとうな,レーベン]

 いずれにせよ,今の仕事をどうするかとか考えないといけないことも
 いろいろあるし、ここは頼りになる上官にでも相談してみることに
 しようと思う。

   

 

第2話:これってヘッドハンティング?


はやてと喫茶店で話した翌日,俺は上司である本局情報部統括官の
ナオキ・ヨシオカ一佐の元を訪れていた。

「ふーん,お前が何か裏がありそうだっていうのもわかるねぇ」

俺がはやてから聞いた話をヨシオカ一佐にかいつまんで説明すると
ヨシオカ一佐は頭を掻きながら言った。

「しかも,相手があの八神の嬢ちゃんだろ?
あいつはあんななりして狸だからね。」

「はやてをご存知なんですか?」

「ん?ああ。二年ほど前になるかな?あいつの捜査してた事件に絡んで
調査要請があってね。お前も派遣したと思うよ。覚えてないか?
第73管理外世界でちょっとした戦闘になったやつ」

「ああ,あれですか。覚えてますよ。あれってはやてが絡んでたんですか。」

その件ならはっきり覚えていた。管理外世界にあったロストロギアの研究施設の探索任務だった。

「まあね。まあ,あいつもたくさん事件を抱えてたみたいで,自分自身じゃ
動けないから情報部に依頼を出したみたいなんだけどね。」

「はあ。そうですか」

「てなわけで,あいつのことは少しは知ってるつもりなんだけどねぇ・・・」

一佐はそこで言葉を切り目を閉じた。

「何です?」

「あいつは狸だけどさ,友達に嘘をつくような奴じゃあないと思うんだよ。
 ただ,何か隠してるかもしれないとは思う。お前さんの言うとおり
 いくつか説明のつかない部分があるのは確かだからね」

「それが何か?っていうのは想像つきませんか?」

「情報不足だね。まあ,あいつが隠すってことは多分話が大きすぎるから
なんだろうけど」

「そうですか」

俺が少し落胆して答えると,一佐の雰囲気が少し柔らかくなった。

「ところで,お前さんはどうしたいの?」

「はい?」

「いや,結局のところ八神の話を受けるかどうかはお前の意思一つだろ?」

「友人ですからね。力になりたいとは思っているんですけど」

「何か引っかかる部分があるなら,正面からぶつかってみればどうだ?
 お前は情報部生活が長いから,正面切ってぶつかるのはあまり性に
 合わないだろうけど」

一佐はそう言うと椅子の背もたれに体重を預けて俺の目を見つめた。

「そうですね。そうしてみます。それで納得できれば行こうと思います」

「そっか。上司としてはお前さんが居なくなるのは痛手なんだけど,
お前さんが行きたいのならそうすればいいと思う。
きっとお前さんなら八神をしっかりサポートできるさ」

「恐縮です。あと,まだ行くとは決めてませんからね」

「そうかい」

一佐はそう言うとニヤリと笑った。


一佐の部屋を出たあと,俺ははやてにメールを書く事にした。

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はやてへ

昨日誘ってくれた件なんだけど,

ひょっとして何かまだ話してくれてないことってない?

もしあるなら教えてもらえないかな?

納得できれば副部隊長の件は受けるつもりでいるから。

               ゲオルグ・シュミット
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(さて,これで何が出てくるのか?それとも断られるか?見ものだね)



翌朝,出勤して端末を立ち上げるとはやてから返信があった。

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愛しのゲオルグくんへ

やっぱりゲオルグくんにはかなわへんなぁ。

まだ話してないこともいろいろ話したいから

今度の休みにデートせぇへん?

いつものお店で10時に待ち合わせでどうやろ?

                  八神はやて
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第3話:デートって2人でするものでしょ?



はやてからメールが来た次の休みに,前にはやてと話をした喫茶店で
俺ははやてを待っていた。

[レーベン]

[《なんでしょう,マスター》]

[はやてからはどんな隠し玉が飛び出すと思う?]

[《判りかねます。マスター》]

(相変わらずコイツは変なところで機械臭い反応するなぁ)

俺はレーベンからの返答に苦笑してしまった。

[根拠なしの推定で構わないからさ]

[《マスターのお考えを先にお聞きしたいのですが》]

[うーん。ロストロギア対応よりも大きな話となると,
大きなテロ組織が動き出したとかかな?]

[《管理局崩壊の危機が迫っている,とかかもしれませんよ》]

[あのなぁ。そういう笑えない冗談はやめなさいよ]

[《申し訳ありませんマスター》]

(しかし,管理局崩壊か・・・ブッ飛んだ発想だけど
現実になることを想像すると恐ろしいな・・・)

そうしてコーヒーを飲みながらレーベンと雑談をしていると,
見知った顔が現れた。

「クロノさん?」

「やあ,ゲオルグ。元気にしてたかい?」

俺は以外な人物の登場に狼狽していた。
クロノ・ハラオウン提督とは任官してから何度か同じ任務に
ついたことがあった。

「ええ,まあ。エイミィさんやお子さんたちは元気にしてますか?」

「まあね。あいつらはいつだって元気だよ。ま,なかなか会えないけどね」

「相変わらず忙しいみたいですね。」

「まあ,年の半分は艦の上だからね。だが,忙しいのはお互い様だろう。」

「クロノさんほどじゃないですけどね。
ところでクロノさんはなぜこんなところに?」

「はやてに呼び出されたんだよ。理由はわからないけどね」

「はやてに!?俺もですよ」

「君もか?なぜ?」

俺ははやてとここで待ち合わせをすることになった経緯を説明した。
するとクロノさんは妙に渋い顔でそうかと言ったきり,うつむいてしまった。

「お,お揃いやな。ほんなら行こっか!」

入口の方から聞き覚えのある声がしたので目を向けると,
淡い水色のワンピースに身を包んだはやてが立っていた。


・・・1時間後
俺たちは聖王教会の一室で優雅なティータイムと洒落こんでいた。
(展開が早すぎてついていけない・・・)

クラナガンの喫茶店を早々に出た俺とクロノさんは,
はやてが用意していた車に乗せられた。
車中では,クロノさんは何やら難しい顔でうつむいたままで,
俺が話しかけても生返事しか帰ってこないし,
はやてははやてで何を聞いても”まあついてからのお楽しみや”の
一点張りだった。

で,聖王協会についた俺たちはうら若いシスターさんに案内され,
優雅なティータイムを満喫することに相成った。

(しかし,さっきのシスターさんは巨乳だったなぁ///)

《はやてさん!マスターが”さっきのシスターさんは巨乳だったなぁ”
って考えてます》

「ははは。相変わらずゲオルグくんはムッツリやなぁ」

「ムッツリじゃねーよ。てかレーベン!余計なこと言ってんなよ」

《空気を和ませようかと》

「・・・はあ。君らは緊張感というものがないのか?まったく」

クロノさんは俺たちのアホな会話に心底呆れたようだった。

《まったくですね。マスターは。こんなときにシスターさんの
胸の大きさについて考察するなんて。呆れてものも言えませんよ》

「まぁ,しゃあないでレーベン。ゲオルグくんは神聖ムッツリスケベ皇帝
やからな」

「なんだよその称号!」

そんなアホな会話を繰り広げていると,ドアが開いておかっぱ頭のシスターと
おっとりした感じの金髪の女性が入ってきた。

「楽しそうですね,はやて。クロノさんもようこそいらっしゃいました」

「お久しぶりです。騎士カリム」

「お先にお茶さしてもーてたでー,カリム」

俺が3人の会話に取り残されていると,おかっぱシスターが話しかけてきた。

「ゲオルグさん,お久しぶりですね。その節はお世話になりました。」

「お久しぶりです。シャッハさん。」

「ん?ゲオルグくんはシャッハと知り合いなんか?」

「以前,教会から聖遺物の現地調査への協力を本局の情報部に依頼した時に,
 ゲオルグさんの部隊に出動していただいたのですよ。
 その際シャッハには教会の代表として調査に参加してもらったのです。」

はやてが俺とシャッハさんの会話に割り込んできたので,
カリムさんが経緯を説明してくださった。

「聞き及ぶところではかなり危険な調査だったとのことですし,
 すぐにでも直接お礼を申し上げたかったのですが,
 今日までお会いする機会がなく申し訳ありませんでした。
 私,カリム・グラシアと申します」

「いえ。自分は上からの命令に従って任務を遂行しただけですので。
 ですが,ご丁寧なお言葉を頂きありがとうございます。
 自己紹介が遅くなりましたが,本局情報部所属の
 ゲオルグ・シュミット三佐です。騎士カリム」

「よろしくお願いいたしますね。あと,カリムで結構ですよ。」

カリムさんはそう言うとにっこりと笑った。

「シャッハ。」

「はい,騎士カリム。ゲオルグさん,後ほどまた」

「ええ。」

シャッハさんはそう言うと退室していった。

「それでは,今日お集まりいただいた目的を果たすことに致しましょうか」

カリムさんがそういうと,部屋の中の空気が変わった。


 

 

第4話:裏の事情を教えてもらいました

聖王協会の俺たち4人がいる一室は,ピリピリとした空気で満ちていた。

(空気に形があったら肌に刺さりそうな感じだな)

カリムさんが言葉を発してからしばらく,全員が押し黙っていた。

やがて,クロノさんが空気に耐えかねたように言った。

「ゲオルグ。君ははやてからどれくらいのことを聞いているんだ?」

「大したことは。部隊を新設することと,目的がロストロギア対策であること。
 あとは,目的にしては強大な戦力を集めつつあること。それくらいです。」

「そうか。表向きのところは概ね聞いているわけだ。間違いないか?はやて」

クロノさんがそう言うと,はやては頷いた。
それを確認するとクロノさんはさらに口を開いた。

「機動6課,というのが新設しようとしている部隊の名称なんだが,
 その後見人は僕と母さん,あとは騎士カリムの3名だ。
 だが実際には秘密裏にかの3提督も力を貸してくださっている。」

「かの3提督って・・・,あの伝説の3提督ですか!?」

「そうだ。そして機動6課設立の本当の目的なんだが・・・」

クロノさんがそこまで言うとカリムさんが手を上げて話を遮った。

「ここからは私からお話したほうがよろしいでしょうね」

カリムさんはそう言うと紅茶を一口飲み,続きを話し始めた。

「機動6課設立の本当の目的には,私の希少技能が深く関係しています。
 私の希少技能はこの先起こることを詩文形式で予言する能力なんです。」

「予言・・・ですか。」

「ええ。もっとも古代ベルカ語の詩文形式ですから解釈の仕方も様々ですし,
 精度としてはよく当たる占い程度のものですけれど。」

カリムさんはここで言葉を切った。

「そしてここ数年の予言の内容が機動6課設立の本当の目的に密接に
 関わっとるっちゅうわけや」

「なるほど。で,その内容は?」

俺がそう言うとカリムさんが1枚の紙をテーブルの上に置いた。

その紙には,

 古い結晶と無限の欲望が集い交わる地,死せる王の下,聖地よりかの翼が蘇る
 死者達が踊り,なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち,
 それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる

と書かれていた。

「これは・・・」

「意味のわからない部分も多いが,”なかつ大地の法の塔”が地上本部,
 ”法の船”が次元航行艦であると解釈すると・・・」

「管理局による次元世界管理システムの崩壊・・・ですか?」

俺が絞り出すように言うと,クロノさんたちは大きく頷いた。

「つまり,この予言が当たるのを防ぐために機動6課を設立する
 というわけですか」

「そうや。納得できたか?」

「ああ,これはあれだけの戦力を集めたくもなるわな。
 てか,それで足りるのかどうか・・・」

「やろ?そやからゲオルグくんにも来てほしいんよ。どうやろか?」

はやては俺の目を見つめていた。

(管理局の崩壊か・・・これは行かないわけにはいかないな・・・)

俺は決意を込めてはやての目を見つめると,大きくうなずいた。

それを見たはやては,肩の荷が下りたかのように大きく息を吐いた。

「そう言ってくれてよかったわ。よろしくな,ゲオルグくん」

はやてが明るい声で言っているのは聞こえていたが,
生返事しか返すことができなかった。

(無限の欲望って・・・どこかで・・・)

「ゲオルグさん?どうかされましたか?」

「はい?何でしょう?カリムさん」

カリムさんに話しかけられて,俺は沈みかけていた意識をたたき起した。

「いえ,何やら難しい顔で考え込んでおられるようでしたので」

(言った方がいいのかな? いや,不確実なことは言うべきじゃないな)

「管理局が崩壊すると聞いて,少し平静でいられなかったんですよ。
 申し訳ありません」

「いえ,お気になさらないでください」

それから,お茶をいただきながら今後について少し話をしていると,
クロノさんがそろそろ帰ると言い出したので,今日のところは
解散することになった。

クロノさんとはやてに続いて部屋を出ようとすると,カリムさんに止められた。

「ゲオルグさん。お引き留めして申し訳ありませんが
 もう少しお時間はよろしいですか?」

「ええ,構いませんが」

「ほんなら私らは先に帰ってるわ」

そこではやてたちとは別れることになった。

 

 

第5話:シスターさんがお淑やかだって誰が言った!?

(はやてと帰っておけばよかった・・・)

早速だが俺は残ってカリムさんについて来たことを激しく後悔していた。

「ゲオルグさん。それでは参りますよ!」

目の前のおかっぱ頭のシスターさんはデバイスを両手に構えて殺る気を
全身に漲らせていた。

(・・・なんでこんなことになっちまったんですっけ?)


・・・遡ること10分前

先に帰ることになったクロノさんとはやてと別れ,俺はカリムさんと
教会の通路を歩いていた。

衝撃的な機動6課設立の裏事情を聞かされた部屋から
5分ほど歩いたところにある,石畳の中庭のようなところで
カリムさんの足が止まった。

中庭には特徴的なおかっぱ頭をしたシスターさん,
もといシャッハさんが立っていた。

「シャッハ。ゲオルグさんをお連れしましたよ。」

カリムさんがシャッハさんに声をかけると,
シャッハさんはこちらに向かって歩いてきた。

・・・両手にデバイスを抱えて。

(嫌な予感しかしないんだけど・・・)

「ゲオルグさん。ご足労をおかけして申し訳ありません。」

「いえ,何かご用ですか?シャッハさん。」

「この前の調査でご一緒した時にゲオルグさんの腕前を拝見して,
 是非一度お手合わせを願いたいと思いまして」

・・・というわけで俺はシャッハさんと模擬戦をやることになった。


俺のデバイスであるヤクトレーベンは曲刀型のデバイスだ。

「レーベン!」

《了解です,マスター》

俺は黒色の騎士甲冑を纏いレーベンを構えると,
正面から突っ込んでくるシャッハさんを見遣った。

(くっ・・・速い!)

シャッハさんは俺との間合いを一気につめると右から横殴りに薙いできた。

俺はレーベンでそれを受けると間合いを取ろうと後ろに飛んだが,
今度は左からの袈裟斬りが襲いかかってきた。

(単純なスピードじゃ俺の負けだな。シャッハさんは双剣だから手数も多いし,
 どうしたもんかな)

俺が戦術を練る間にもシャッハさんの双剣が次々と襲いかかってくる。

[レーベン!]

[《了解です》]

俺は加速の補助魔法を使って,一度シャッハさんから距離をとり,
牽制のために追尾型の魔力弾を6つ打ち出した。

シャッハさんは高速で右に左に移動しながら,俺の魔力弾を一つずつ
双剣で撃ち落としている。

[レーベン。ステルスモード]

[《はい,マスター》]

こいつは俺とレーベンの姿を完全に見えなくする魔法で,潜入なんかのときに
よく使っている結構便利な魔法だ。

だが魔力反応までは消せないので戦闘には向かないが,シャッハさんのように
近接タイプの相手にはそこそこ有効だ。

俺は姿を消してシャッハさんの後ろ側に回り込むと,シャッハさんの背中に
向かってレーベンで斬りかかった。

だが,シャッハさんは右手で魔力弾を撃ち落としながら,
左手で俺の斬撃を防ぐ。

(さすがにこんな小細工は通用しないわな,なら!)

俺は右足でシャッハさんの足を払ってバランスを崩させると,
体当たりでシャッハさんを地面に押し付け,
レーベンをシャッハさんの首筋に突きつけた。

[レーベン,ステルスモード解除]

[《了解です。マスター》]

レーベンを突きつけられたシャッハさんは妙に清々しい笑顔を浮かべていた。

「流石に見えない相手に体術を使われると防げませんね。私の完敗です。」

「いえ。シャッハさんのスピードにはついていけませんでしたからね。
 俺もまだまだ修行が足りませんよ」

《ところでマスター》

「なんだレーベン」

《早く左手をどけたほうがよろしいかと》

「はあ?・・・なっ///」

俺は自分の左手を見るとなんとシャッハさんの胸を鷲掴みにしていた。

「すっ,すいません!」

俺は速攻でシャッハさんから飛び退くと,全力で土下座した。

「い,いえ。お気になさらず/// 戦闘中のことですので・・・」

と,言いつつシャッハさんの顔は真っ赤に染まっていた。

《さすがは神聖ムッツリスケベ皇帝ですね。ラッキースケベ属性もお持ちとは》

「レーーベーーン!!!!!!!」

夕日に染まる聖王教会の中庭に俺の叫びがこだました。


「今日はありがとうございました」

さすがに聖王協会の誇る武闘派シスターとの模擬戦のあとだったので,
少し休憩してから,俺はクラナガンに帰ることになった。

「いえ,こちらこそ。はやてに力強い味方が増えて喜んでいるのですよ。」

「ご期待にそえるように努力します」


自宅に帰ってさっさと寝ようとしていると,レーベンが話しかけてきた。

[《マスター》]

[なんだよ。俺は疲れてるんだけど]

[《みなさんとのお話で何か引っかかることでもおありなのですか?》]

(まったく,コイツはなんでこんなとこだけ敏感なんだか・・・)

[そうだな。いや,もう少し調べてみてからにするよ]

[《そうですか》]

レーベンの声は心なしか残念そうな響きだった。

 

 

第6話:持つべきものは頼れる友人

はやてたちから聖王協会で機動6課設立の裏話を聞いてからというもの,
俺は今の仕事の引き継ぎと機動6課設立準備の事務作業を並行して進めている。
設立準備作業は本来なら,はやてがやってしかるべきなんだろうが,
はやては人材集めに奔走しているらしく,予算処置などは俺が受け持っていた。

(ったく,事務作業がめんどくさいから俺を引き込んだとは思いたくないけど)

ということで,とても忙しい毎日を過ごしているわけだが,
今日は,ほかの仕事は置いて,ある目的のために無限書庫を訪れていた。

「すいません。本局情報部のシュミット三佐ですが,
 スクライア司書長をお願いします。」

そこらにいた女性職員にそう言うと,彼女は少し待つように言って,
椅子を勧めてくれた。

15分ほど待っていると先ほどの女性職員が戻ってきた。

「スクライア司書長は,手が離せないので,
 書庫の方に直接お越しくださいとのことです。」

「分かりました。どのあたりにいるかを教えていただけますか?」


俺は書庫に入ると,女性職員から教えてもらったあたりに向かった。
すると,山のような資料に囲まれて浮いているユーノを発見した。

「おーい。ユーノ!」

ユーノは資料に集中しているのか,俺が声をかけたのに
気づいていないようだった。
俺は,そっと資料を覗き込んでいるユーノの正面に回り,
思い切りデコピンを食らわせてやった。

「痛っ!誰ですか?邪魔しないで下さいって言っ・・・て,ゲオルグ?」

「はいはい,あなたの愛すべき友人ゲオルグさんですよー」

俺がそう言うと,ユーノは半分涙目でおでこを押さえながら
恨めしそうに俺を見た。

「もう,邪魔しないでよ。ただでさえクロノの無茶な資料請求で
 てんてこ舞いなんだから」

「またか。あの人もいい加減人を労わることを覚えて欲しいね。
 俺も,この間ひどい目にあったよ」
 
俺の尊敬すべき先輩クロノ提督は,人使いが非常に荒い。
俺がクロノさんの依頼である観測世界の実地調査に赴いた時,
現地の巨大生物に追い回されたというと,ユーノは真剣な顔で言った。

「ねぇ,ゲオルグ。いつか僕らはクロノに過労死させられるんじゃないかな?」

「なぁ,ユーノ。冗談で言ってるよな?それ」

(笑えない冗談は,冗談とは言えないのだよ,ユーノ君・・・)


俺たちは,ユーノの司書長室に移動した。

「で,ゲオルグの用件はなんなのさ?」

「実はさ,ちょっとした調査をお願いしたくって」

俺がそう言うと,ユーノは露骨に嫌そうな顔をした。

「あのさゲオルグ。さっきの僕の話聞いて無かった?
 僕は,主にクロノのせいで今とっても忙しいんだよ。
 そもそも,ゲオルグは情報部なんだから,書庫内の調査なら
 自分でやればいいじゃない」

ユーノの言うことももっともだった。
情報部の士官には制限付きとはいえ無限書庫の調査権限が与えられている。
これまでは,そうしてきたんだけど・・・

「いや,実は今度異動になってさ。」

俺がそう言うとユーノは何かを思い出したようだった。

「そういえばなのはから,今度みんなと一緒に働くことになったって
 メールが来てたよ」

「そうなんだ」

(はやてから俺も機動6課に参加するってきいてるのかなあ?)

「でな,情報部での引き継ぎを新部隊の立ち上げ準備と平行して
 やらなきゃいけなくてさ。俺自身ほとんど首が回らないんだよ」
 
「で,僕ってわけ?」

ユーノは妙に疲れた表情で吐き捨てるように言った。

「まあ,そうだな。特に急ぐ訳じゃないから合間を見て少しずつで構わないよ」

(まぁ,この疲れた顔を見たら無理は言えないよなぁ)

「ふーん。ならいいかな。で?何について調べればいいの?」

「”無限の欲望”っていうキーワードしかないんだけど・・・」

俺がそう言うと,ユーノはため息をつきながら呆れた目で俺を見た。

「あのさぁ。それじゃあ検索範囲が広すぎるでしょ。
 もうちょっと絞り込めないわけ?」
 
「実は前に見聞きした覚えがあってさ,多分事件関係の調査報告書関係だと
 思うんだわ。だから,そっち方面の資料をさらってくれないかな」
 
「でもさ,その類のものだったら情報部なり捜査部のデータベースの方が
 早いんじゃない?」
 
「そっちは俺があたってみるからさ。な?頼むよ」

「はいはい。まぁゲオルグの頼みだし,ぼちぼちやっとくよ」

「ありがとう,ユーノ。恩にきるよ」

(やっぱり持つべきものは頼れる友人だね・・・)

「・・・その代わり。今日一日はクロノからの資料請求の検索を
 手伝ってもらうよ。さ,行くよ!ゲオルグ」
 
ユーノはそう言うと,急に明るい顔になって俺の手を引き部屋を出ようとした。

「いや・・・俺も帰って仕事を・・・」

「・・・ふふふ。今日はねー,特に請求資料がたーくさんあるから
 ゲオルグも楽しみにしてるといいよ。ふふふ・・・」
 
(クロノさん。もう少しだけ,ユーノの健康に気を使ってやって下さい・・・)

結局その日は明け方までユーノを手伝うことになった。
 

 

第7話:さらば情報部

とうとう,俺が正式に情報部を離れる日が来た。
既に,機動6課の隊舎は完成しているので,デスクの私物なんかは
そちらに移動してある。
が,まだ機動6課そのものはまだ発足していないので,
当分は遺失物管理部付き士官という宙ぶらりんな身分になる。

「お前さんが情報部に来て3年。特務隊の部隊長として1年だったか。
 俺としちゃあもう少し手元に置いておきたかったんだがなぁ」
 
俺は離任の挨拶をしに,ヨシオカ一佐の部屋を訪れていた。

「俺も,よもやこんな形で情報部を離れることになるなんて
 思ってませんでしたよ」
 
「お前さんにとって,情報部での生活はどうだったよ?」

「そうですねぇ,最初はショックでしたよ。管理局にもこんな部署が
 あるんだなって。どんな重犯罪者といえど殺さず更生の機会を与えるっていう
 管理局の正義を絶対だと思ってましたからね。当時は」
 
「特務隊には汚れ仕事が多いからなぁ。ま,作戦部からの異動じゃあ
 ショックを受けてもしょうがないわな。・・・後悔してんのか?」
 
一佐は真剣な顔で俺に問いかけた。

「いえ,後悔はしてませんよ。まぁ,任務だったんだし,
 俺の命もかかってましたからね。ただ・・・」
 
「ただ?」

「自分が殺した人間のことは忘れないようにしてます。
 自分の手でこの人の未来を奪ったんだってのは,
 忘れちゃいけないことだと思っているので」

「お前さんも不器用だねぇ。だけど,お前さんらしいっちゃお前さんらしいか。
 もっと気楽な生き方を選んでもいいんだぜ?なぁ」
 
一佐は苦笑しながらそう言った。

「一佐ならそう言われると思ってましたよ。でも,決めたことですから」

「そうか・・・辛いぞ」

「覚悟はしてますから」

「よし!じゃあ,そろそろお別れだな。心残りはねぇか?」

「ない,と言えば嘘になりますね。特務隊の連中にはもっと
 教えてやりたいこともいろいろありましたから。
 でもまぁ,しょうがないですよ」
 
「まぁ,今生の別れってわけでもないんだ。本局に来ることがあったら
 寄ってけよ」
 
「ええ。ありがとうございます」

俺は姿勢を正すと,一佐に向かって敬礼した。

「ゲオルグ・シュミット三等陸佐,異動のため離隊いたします。
 許可をお願いいたします」
 
「許可する。新天地での活躍を期待している。ご苦労だったな三佐」


そうして,俺は一佐と握手をしてから一佐の部屋を出ると,
俺の後任の部隊長である,シンクレア・クロス一尉が立っていた。

「よう,シンクレア。見送ってくれるのか?」

「そりゃそうでしょ。2年も一緒にいた上官を見送らないわけ
 ないじゃないですか」

「そうか,ありがとうな。俺の後,たのむな」

俺がそう言うと,シンクレアはうつむいて小声で話し始めた。

「任せて下さい!って言いたいとこなんですけど,正直自信ないですよ。
 ゲオルグさんの後任だなんて俺には荷が重いです」
 
「まぁ,うちの部隊は曲者ぞろいだからな」

「いや,そういうわけじゃなくて・・・。なんて言うか,俺って体術の組手でも
 一度もゲオルグさんに勝ったことないし・・・」
 
「あのな,シンクレア。別にお前が一番強い奴だから後任に
 推薦したんじゃないんだぞ。お前は,戦術構想力が俺なんかよりもずっと
 優れてるんだから,むしろ隊長にはお前の方がふさわしいくらいさ」
 
「そんなことはないと思いますけど・・・」

「自信持てよ。隊長だって隊員の一人なんだから,
 困ったら周りに頼ればいいのさ。お前の周りには大勢味方がいるんだから」
 
俺がそう言うと,シンクレアは吹っ切れたような笑顔を見せてくれた。

「そうですね。みんなの力を借りながら,なんとかやっていこうと思います」

「おう,頑張れ。じゃあ,みんなによろしく」

「はい。ゲオルグさん,今までご指導ありがとうございました」

シンクレアはそう言うと深々と頭を下げた。
俺はシンクレアの頭を軽く叩いてから,シンクレアに背を向けた。

 

 

第8話:機動6課へ

情報部を離れた翌日,俺は機動6課の隊舎に向かっていた。
まだ,6課の正式発足までは間があるが本局の遺失物管理部に
席を置く場所もないということだったので,ここで仕事をすることにした。

隊舎に到着すると,俺は自分の執務室の隣にあるはやての執務室に向かった。
ブザーのボタンを押すと中から”どうぞー”という声が聞こえたので
ドアをあけて入るとはやてがデスクの整理をしていた。

「おー,ゲオルグくんか。そういえばゲオルグくんも今日からここやったね」

「ああ。も,ってことははやてもか?」

「うん。そやから今こうして荷物の整理をしてんのよ」

「そっか。で?用ってなに?」

俺は,6課についたら自分の部屋に来るようにとはやてから連絡を受けていた。

「そうそう。新人フォワードの候補者リストなんやけど見といてくれた?」

「見たよ。しかし,よくこんな人材見つけてきたな」

リストには10人ばかりの候補者が載っていたが,
どれも,将来有望な人間ばかりだった。

「そら,私の人徳っちゅうやつやな。褒めてもええで」

「うん,さすがははやてだな。俺ではこうはいかないよ」

俺がそう言うと,なぜかはやては口をポカンとあけて呆けていた。

「おーい。はやてさーん。お元気ですかー」

俺がはやての目の前で手を振りながらそういうと,はやては急に
我に返ったようだった。

「どうしたのさ。ぼーっとして。」

「いや,びっくりしたんよ。まさかゲオルグくんが素直に私を褒めると
 思ってへんかったから」
 
はやてはそう言うと心なしか顔を赤くして,自分の頬をかいた。

(意味わかんねぇ・・・,自分で褒めろって言ったくせに・・・)

「で?マルのついてる2人がはやてのオススメってこと?」

「うん。オススメっちゅうか,私自身はこの子らを引き抜きたいなぁ,
 っていう感じやけど。どう思う?」
 
「いいんじゃないの。2人とも伸びしろありそうだし。
 うまく鍛えれば,いい陸戦屋になると思うよ」
 
「うっしゃ。ほんならあとはなのはちゃんにお任せやな」

「なのはに?」

「うん。だって,もしうちの隊に来てくれたらなのはちゃんが
 2人の直接の上司で教官になるんやからね」
 
「なるほどね,納得。って,新人て4人じゃなかったっけ?」

「あとの2人はフェイトちゃんの保護児童をな」

「はぁ?フェイトもなかなか大胆なことするなぁ」

「そやね。やけど2人ともなかなかやりおるで。
 1人は10歳で陸戦Bランクやし,もう一人もなかなか優秀な召喚師や」

「ふーん,その二人のデータは?送ってくれたリストにはないよな?」

「あ。ゴメン,送るん忘れてたわ。後で送っとく。」

「頼むよ。じゃあ,用事は以上?」

「うん」

「じゃあ,俺は部屋にいるからなんかあったら呼んでよ」

俺はそう言うと,はやての部屋を出ようとしたが,ドアのスイッチに
手をかけたところで,はやてに呼び止められた。

「ゲオルグくん,待った!言うの忘れてたけど,明日さっきの2人の
 Bランク試験を見に行くから,そのつもりにしといてな」
 
「え?俺も行くの?俺関係ないじゃん」

俺が振り返ってそう言うとはやては右手の人差し指を立てて,
ちっちっちとやりながらニッコリと笑っていた。

「2人とも直接ではないけどゲオルグくんの部下やし,ゲオルグくんにも
 新人の訓練に付き合ってもらうんやから,行かなあかんよぉ」

「いやいや,なのはが教導官なんだから俺はいらんでしょ」

「ん?なのはちゃんだけで4人も面倒見ろって?
 そらいくらなんでも酷っちゅうもんやで。どう思う?なのはちゃん」
 
「ひどいよー,ゲオルグくん。教導のお手伝いくらいしてくれても
 罰は当たらないとおもうの」

俺がさっき開けようとしたドアの方を見ると,航空隊の制服を着た
サイドポニーの女性が立っていた。

「よ,なのは。久しぶり。なのはもこっちに来てたんだな」

「お久しぶり,ゲオルグくん。私もはやてちゃんとお話があったからね」

「ふーん。じゃ,俺はこれで」

俺がはやての部屋から出ようとすると,なのはに腕をつかまれた。

「だめだよ,ゲオルグくん。明日のBランク試験のお話なんだから,
 ちゃんと聞いといてくれないと!」

「ちゃんと見に行くから,それでいいだろ?って,引っ張るなよ。
 おい,なのは!・・・俺はこれから残った仕事を片付けたいんだよ。
 おーい,なのはさーん。聞いてますかー?」
 
結局その日は,夕方まで開放してもらえなかった。


夜になって,寮の自室に帰った俺は,はやてからのデータを眺めていた。

(スバル・ナカジマ二士にティアナ・ランスター二士か。
 2人ともオリジナルデバイス持ちだったよな。
 陸士訓練校上がりじゃ珍しいな。
 で,こっちの2人がフェイトの保護児童か。
 エリオ・モンディアル三士とキャロ・ル・ルシエ三士ね。
 この歳でこれだけの実力があるとは,末恐ろしいね)
 
一通り渡されたデータを眺め終わると,俺はレーベンに話しかけた。

[レーベン]

[《なんですか,マスター》]

[この4人の情報を集めといて,明日の朝チェックするから]

[《はやてさんからのデータだけでは不足ですか?》]

[まあね。通り一遍の戦力確認の為だけなら十分だけど,
身上調査には不足でしょ]

[《了解しました。しかし,なんだかんだ言ってマスターもマメですね》]

[こりゃ,情報部の頃からの癖みたいなもんだよ。やらないと気持ち悪いだけ。
んじゃ,お休み]

[《ゆっくりお休み下さい,マスター》]
 

 

第9話:厄介な問題はとりあえず棚上げ

翌日,俺は早起きして夜の間にレーベンが集めた新人フォワード候補4人の
情報を一通りざっと確認した。
とりあえず,必要そうな情報は揃っていたのでしっかり読み込むのは後にして,
ナカジマ二士とランスター二士のBランク試験に立ち会うべく,
隊舎の屋上に向かった。

屋上に着くと,はやてとなのはが既に待っていた。

「あ,ゲオルグくん。おはよう。だめだよー,女の子を待たせちゃ」

なのはが偉そうに言うので,寝起きで少し機嫌の悪い俺は,
少しいじめてやることにした。

「高町一尉。階級に対する敬礼はどうした」

俺が不機嫌そうにそう言うと,なのはは少し狼狽したようだった。

「え?もう,何言ってるの?ゲオルグくん」

「それが上官に対する口の聞き方かね?高町一尉」

俺がさらに苛立った口調でそう言うと,ますますなのはは慌て始めた。

「高町隊長。シュミット副部隊長は三佐であなたの上官なんやから,
 挨拶くらいきちんとせなあかんよ。親しき仲にも礼儀ありやで」
 
どうやら俺の意図を察したはやてが諭すような口調でそう言ったので,
なのははかなり混乱し始めた。

[くっくっく。かなり慌てとるでなのはちゃん]

[だな。あー,相変わらずコイツをいじるのは飽きないなぁ]

[しかし,ゲオルグくんの演技力も大したもんやね。
最初は私もびっくりしたもん]


俺とはやてが念話でそんな会話をしているとは知る由もなく,
なのはは俺に向かって,ビシッと完璧な敬礼をしてみせた。

「おはようございます,シュミットしゃんしゃ。しゃきほどは失礼致しました」

なのはが噛みながらそう言うと,俺とはやては吹き出してしまった。

「あかん!あかんてなのはちゃん。面白すぎるわ!」

「そこで噛むのは反則だよ,なのは!」

俺たちが爆笑しているのを見て,最初は何が起こったのか理解できずに
きょとんとしていたなのはは,自分がからかわれたのに気づいたのか,
急に怒り始めた。

「もう!ひどいよ2人とも!私,本当にびっくりしたんだからね!」

それでも俺とはやてはしばらく笑っていたが,ようやく笑いが収まったところで
黒い執務官の制服を来た女性が屋上に上がってきた。

「ごめんね,遅くなって。道が思ってたより混んでて・・・。どうしたの?」

フェイトは腹を抑えている俺やはやてと,怒っているなのはを交互に見て,
何が起きたのか理解できず,きょとんとしていた。

「いやいや,大丈夫。ちょうどいい暇つぶしができたから」

「ゲオルグくんの言うとおりやで。なのはちゃんには悪いけど」

俺とはやてがそう言うのを聞いて,なのははフェイトに怒り心頭のまま,
何があったか説明しているようだった。


・・・5分後。
「・・・ということで,今後はこういうことはないようにね。わかった?」

「「はい・・・反省しています。なのはさん(ちゃん),すいませんでした」」

「ゲオルグくんもはやてちゃんももういいよ。だからフェイトちゃん,
 もうそのへんで・・・時間もないし」
 
両手を腰に当てて立っているフェイトの前で,俺とはやては正座をさせられ,
なのははフェイトを一生懸命になだめているという,
なかなかにシュールな光景が広がっていた。

「ところで,ゲオルグ」

フェイトがそう言ったので,俺はまだ叱られるのかと思い,ビクっとなった。

「久しぶりだね。半年ぶりかな?」

俺はフェイトのその言葉を聞いてほっと胸をなでおろした。

「うん,半年ぶり。元気みたいでなによりだよ,フェイト」

俺はそう言うとフェイトが差し出した手を握った。

「・・・ねぇ,いいかげんそろそろ行かないといけないと思うの」

試験官を務めるなのはは,しきりに時間を気にしながら言った。

「そやね。なのはちゃんを遅刻させるワケにもいかんし」

はやてがそう言ってフェイトを伴って一機のヘリに向かって歩き始めたので,
俺も2人についていこうとすると,後ろから腕を引っ張られた。

「ゲオルグくんは私といっしょだよ☆」

妙に機嫌が良さそうななのはに手を引かれて,俺はもう1機のヘリに
乗り込むことになった。


ヘリの中で, 俺はレーベンが集めてくれた新人候補たちの情報を
じっくり読むことにした。

「ゲオルグくん。今日の試験なんだけど・・・って何見てるの?」

「ん?ああ。新人フォワード候補たちの身上調査資料だよ。
 昨日の夜にレーベンに集めさせたんだ。どうも特秘扱いのもあるから
 なのはには全部は見せられないけど」

俺は資料に目を通しながら,なのはに答えた。

「身上調査って?」

「思想的に危険な人物でないか。生まれや育ちに特殊なものはないか。
 家族に同様の人物はいないか。あとは経済的なこととか,部隊運営上,
 危険となりうる因子が許容レベルを超えていないか確認してるんだよ」

「へえ。ゲオルグくんって,真面目に副部隊長やってるんだね」

「まあね。給料分の仕事はしないと。で,今日の試験がなんだって?」

「あ,ちゃんと聞いててくれてたんだ。
 あのね,試験そのものは私とリインでやるんだけど,
 できれば終了後にゲオルグくんにも講評をしてもらいたいなと思ったの」

「つまり,オブザーバーとして試験を見てろってことね?了解」

なのはに答えながらも俺は資料から目を離さない。

「ねぇ,レーベン」

《なんですか?なのはさん》

「これ,私の知ってるゲオルグくんじゃないよ」

《そうですか?》

「うん。だって,すごく仕事のできる局員に見えるもん」

《マスターは,やるときはたまにやる人ですよ,もともと》

「あ,たまになんだ・・・」

なんか,なのはとレーベンが非常に失礼なことを言っている気がしたが,
あまり気にせずに俺は資料を読みふけっていた。

(こりゃあ,またよくもこんな曲者ばっかり集まったもんだなぁ・・・,
 戦闘機人のプロトタイプに,プロジェクトFか。
 あとの2人は生まれに特殊な要素はないけど,過去の経験から精神的に
 もろい部分がありそうだし・・・。)
 
試験が行われる廃棄都市区域に到着し高度を下げていくヘリの中で,
俺は頭を抱えていた。

(厄介だ・・・)

 

 

第10話:若者は元気でいいですね

ヘリから降りた俺となのはは,ある廃ビルの一室に入った。
さっきから,なのはは試験の準備を進めている。

「リイン,遅くなってゴメンね。準備はどう?」

『もう,バッチリなのですよ。ターゲットも観測用のサーチャーも
 設置は完了済みなのです』
 
「レイジングハート」

《All right》

「うん,こっちでも確認できたよ。じゃあ,準備はOKだね」

『はいです。あとは時間を待つばかりなのです』

「受験者は?」

『既にスタート地点にいるのです』

「了解。じゃあ,時間まで待機ね」

『はいです』

どうやら,準備が終わったらしくなのはが俺の方に歩いてきた。

「ゲオルグくん。何,難しい顔してるの?眉間のしわがすごいよ」

俺は先ほどまで読んでいた新人候補たちの身上調査資料の内容について
考えていたのだが,かなり険しい顔をしていたらしい。

「ん?ちょっと考え事をね。悪いな,準備手伝わなくて」

「いいよ。ゲオルグくんはあくまでオブザーバーだしね。
 でも,試験の間はちゃんと見ててあげてね」
 
「へいへい。レーベン,サーチャーの映像とタクティカルディスプレイを表示」

《了解です。マスター》

すると,俺の周囲にいくつもの映像ウインドウが開いた。

『なのはさん,時間ですよ』

「うん,それじゃあはじめようか。よろしくね,リイン」

『はいです』

そして,ナカジマ二士とランスター二士の試験が開始された。


・・・30分後。
俺は,サーチャーの回収などを引き受けたために,
なのはに遅れて試験のゴール地点にたどり着いた。

俺が着地すると,ちょうど,リインがランスター二士の足の治療を
終えたところのようだった。

「リイン,彼女の足の具合は?」

「ただの捻挫ですから,もう特に問題はないのです。
 ・・・って,ゲオルグさん?」

「よ。そういえば,立派な試験官っぷりだったぞ」

「ありがとうございますです」

俺はなのはの方に向き直ると,サーチャーの回収を完了したことを告げた。

「ありがとう,ゲオルグくん。ごめんね,結局手伝ってもらっちゃって」

「気にすんな」

俺は,今回の受験者たちの方に目をやると,彼女たちは見知らぬ男の登場に
きょとんとしていた。

「あの,なのはさん。こちらの方は・・・」

「あ,うん。えっと,今回の試験のオブザーバーとして来てもらったんだ。
 ゲオルグくん」
 
なのははそう言って俺に自己紹介するよう促してきた。

「あー,さっきも高町一尉から紹介があったように,今回君たちの試験を
 オブザーバーとして観戦させてもらった。ゲオルグ・シュミット三佐だ。
 よろしくな,スバル・ナカジマ二士にティアナ・ランスター二士」
 
「「あ,はい。よろしくお願いします」」

2人はそう言うと俺に敬礼した。

「あー,いいからそういうのは。どうせオブザーバーだし,
 試験の合否にも関与しないから。あと俺のことはゲオルグでいいぞ」
 
「「はい!」」

2人は元気に返事を返してくれた。

「じゃあ,2人とも。移動しよっか」

そうして俺たちはここに来た時に乗ってきたヘリで訓練施設へ移動した。


訓練施設に着くと,はやてとフェイトが待っていて,スバルとティアナを
連れて行った。
俺は,なのはとリインが合否について協議する場にいるわけにもいかず,
施設の外でタバコを一本吸ってから,はやてたちのところへ向かった。
すると,既になのはとリインもその場に居た。

「えーと,遅れて申し訳ない。今の状況は?」

俺がそう聞くと,はやてが答えてくれた。

「私とフェイトちゃんで2人を6課に勧誘してたところに,
 なのはちゃんが戻ってきて,合否を伝えたところや」

「あらら,じゃあ俺はもう出番なしか。で,結果は?」

「不合格。でも,本局の武装隊での訓練に参加してもらって,追試だよ」

「そっか。2人とも残念だったけどよかったな」

「「はい!」」

2人はまた,元気に返事を返してくれた。

「ところで,八神二佐。ゲオルグさんも機動6課の方なんでしょうか?」

ティアナがそう尋ねると,はやてはなぜか自慢げに胸を張った。

「そうや。ゲオルグくんは機動6課自慢の副部隊長さんやよ。
 ゲオルグくんがいてくれるおかげで,私はだいぶ楽させてもらってる。
 ちなみに,私やハラオウン執務官,高町教導官とは結構前からの知り合いや」
 
そんな風にはやてが俺を持ち上げるものだから,スバルとティアナの2人は,
妙に目をキラキラさせて俺を見ていた。

「で,ゲオルグくん。2人の試験の講評を聞かせてもらえるかな?」

なのはがそう言うので,俺は一度咳払いをすると,受験者の2人に向き直った。

「まず,全体的な話からな。2人とも技術面については既にBランククラスと
 言っていいと思う。コンビネーションについても,スバルは近接攻撃での
 大打撃力と速度を生かした前衛,ティアナは精度の高い射撃と幻影系の
 魔法を生かした後衛と,はっきりとした役割分担もできていたし問題無い」

「「ありがとうございます」」

「ただし,ティアナが負傷した際の連絡不徹底はよくないぞ。
 今回は2人きりだったから,たとえ実戦でも死ぬのはお前らだけだが,
 より大きな単位での戦闘行動の場合,ちょっとした情報の行き違いで
 部隊全員の命を危険にさらすことも,往々にしてある。十分反省するように」
 
「「はい・・・」」

「あと,最後の場面だが,後先考えずに突っ走る癖があるなら,
 早めに直すことだな。この先命を賭けなきゃならない場面に遭遇することも
 あるかもしれないが,今回の状況が重症を負う可能性もある行動に
 走らなければならないほど切迫した状況だったかはよく考えることだ。
 まぁ,どうしても合格したいという心情は理解するが,取り返しがつかない
 ことでもないんだ。怪我は最悪の場合,2度と歩けなくなることだって
 考えられるんだからな。この点も十分反省しろ」

「「・・・」」

「最後に付け加えるなら,ティアナの負傷にしろ,最後の暴走にしろ,
 そうなる状況を作り出してしまった原因は,自分たちの戦術判断が
 甘いことにある。このことを理解して,技術だけでなく戦術理論についても
 十分勉強し,現場での戦術判断力の向上に努めることだ」
 
「「・・・」」

「ただ,2人とも才能はあるし,まだまだ伸びしろはありそうだからな。
 追試での合格を期待してるよ」

「「はい,ありがとうございます!」」

俺が講評を終えると,なのはたちが驚いた表情をしていた。

「ゲオルグくんもこんな立派なこと言えるんだね。私,びっくりしたの」

「私も,ゲオルグがこんなにしっかり話すところなんて初めて見たかも」

「さっすが我が愛しの副部隊長ゲオルグくんやね,なぁリイン」

「はいです!」

なんだか一部非常に納得いかない評価もあったり,誤解を招く発言もあったが,
俺の講評は概ね好評だったようだ。

「まぁ2人は追試で頭がいっぱいやろうし,さっきの件の返事は
 追試後でかまへんよ。ほんなら,みんなお疲れさまでした」

はやてのその言葉で本日は解散となった。


その夜,俺が寝ようとしていると,レーベンが話しかけてきた。

《マスター,例の身上調査の結果は,はやてさんにお話しなくていいのですか》

「あのなぁ,人にはそれぞれ他人に知られたくないことだってあるんだよ」

《しかし,危険要素とまでは言いませんが,厄介な問題であるのは
 間違いありませんよね》
 
「確かに厄介だよ。でもお前の言うように危険要素とまでは言えない以上,
 報告する義務はないよ」

《・・・マスターが一人で抱え込むんですか?》

「それで丸く収まるならそうするさ」

 

 

第11話:結成!機動6課

いよいよ,機動6課結成の日が訪れた。
俺は,隊舎のロビーで結成式の準備を進めていた。
準備といっても幹部陣の乗るお立ち台をロビーに置き,
部隊長挨拶のためのマイクなどを用意する程度だったので,
30分ほどで概ね結成式の準備が終わった。

俺が,外で一服しながら一息ついていると,はやての副官である
グリフィス・ロウラン准尉が近づいてきた。

「シュミット副部隊長。部隊員全員の着任を確認しました。」

「よし。じゃあ予定通り始めようか。全員をロビーに集めておいてくれ。
 俺は幹部連中を呼んでくるから」
 
俺はグリフィスに指示を出すと,はやてのいる部隊長室に向かった。
ブザーのボタンを押すと中からどうぞという声が聞こえたので,
ドアを開けて中に入った。

はやての部屋には隊長・副隊長が全員揃っていた。

「お,ゲオルグくんやないか。どうしたんや?」

「結成式の時間になったから呼びに来たんだが,全員ここに居たのか。
 ちょうどよかったよ」
 
「よっしゃ。ほんなら行こっか」


俺は隊長陣を伴ってロビーに向かうと壇上に上がった。

「これより,遺失物管理部機動6課の結成式を行う。
 私は,副部隊長のシュミット三佐だ。以後,よろしく。
 それでは,機動6課の幹部陣を紹介する。」
 
フォワード隊から順に隊長・副隊長陣が自己紹介をして,全員分が終わると,
最後にはやての挨拶の番となった。

「それでは最後に,機動6課の部隊長である八神はやて二佐より
 挨拶をいただく。八神部隊長,お願いいたします」
 
はやては壇上に上がると,ロビーに勢ぞろいした機動6課の全メンバーを
見渡してから,話し始めた。

「皆さん,今日は集まってくれてありがとう。
 本日ここに誕生する遺失物管理部機動6課は,特定遺失物の広域搜索を行う,
 機動1課から5課までの各課からの情報に基づき,特定遺失物の
 対策および維持管理を目的として,即時展開と迅速な解決の能力を持つ
 部隊として設立されました。
 そのために,実戦経験の豊富な隊長陣とフォワード陣から
 後方支援やバックヤードスタッフに至るまで,一流といえる
 優秀な人たちに集まってもらったつもりです。
 皆さんには,法秩序の使者として恥じない活躍を期待しています。
 それでは皆さん,これから力を合わせて頑張っていきましょう」
 
「以上で,結成式を終了する。解散!」
俺のその宣言で機動6課の結成式は終了した。


ロビーの後片付けが終了した後,俺は一息入れようと隊舎の屋上に向かった。
そこには,シグナムとヴィータが居た。

「よう,お二人さん。こんなとこで何やってんだ?」

俺がそう聞くと,ヴィータがついついと下の方を指さした。
そこには,教導隊の制服を着たなのはとフォワード4人がいた。

「おっ,早速訓練開始か。張り切ってるなぁ。2人は行かなくていいのか?」

「私は人に何かを教えるというのは苦手だからな。
 いずれ,模擬戦には参加するだろうが,まだ先になるだろう」
 
「あたしも訓練に参加するのはまだ先だな。あいつらはまだまだよちよち歩きの
 ひよっこだ。当分はなのは一人で十分だろ。それに,あたしも自分の訓練を
 しないとな」

ヴィータはそう言うと両手の拳をぎゅっと握り,フォワード4人と話している
なのはを真剣な目で見つめていた。
俺は,その様子を見て気になることがあったので,
念話でシグナムに尋ねることにした。

[なあ,シグナム。今いいか?]

[かまわんが,何だ?]

[ヴィータはまだなのはが墜とされたときのことを気にしてんのか?]

[そのようだな。まぁ,私や主はやてには何も言わないが]

[やっぱりそうか・・・。あれは,なのはの自業自得みたいなもんなんだから
ヴィータが気にすることはないと思うんだけどな]

[理屈ではそうだろうが,ヴィータは目の前でなのはが墜ちるのを見ているんだ。
そう簡単に割り切れるものでもないだろうな]

シグナムの話を聞いている限りでは,シグナムもヴィータの様子に
忸怩たる思いを抱えているように感じた。

「ところで,ゲオルグこそこんなとこで何してんだ?
 聞いた話じゃお前も教導官の資格は持ってるんだろ」

シグナムとの話が終わったところで,ヴィータが俺を見上げてそう聞いてきた。

「俺は,結成式の片付けが終わったから仕事に戻る前に
 一休みしようと思ったんだよ。ちなみに,フォワードの訓練には
 まだ参加しなくていいって,なのはから直接言われたよ。
 今俺が参加しても,自信喪失させるだけだってな」

「そりゃそうだな。ゲオルグは一切手加減しねーしな」

「ヴィータには言われたくねーよ。お,そういえば,訓練だったら
 俺が付き合おうか?久々にヴィータともやってみたいし」

俺がそう言うと,ヴィータは嬉しそうに笑った。

「ほんとか?じゃあ,あいつらの訓練が終わったあとにでもやるか」

「おう,いいぞ。あ,でも今日ははやてがフェイトと中央に出かけるから,
 その間はダメだぞ。部隊長代理として発令所に詰めてないといけないからな。
 だから,多分夕方だな」

「わかった。じゃあ,訓練スペースの準備はあたしがやっとく。
 シグナムはどうする?」
 
ヴィータはシグナムも誘ったが,シグナムは首を横に振った。

「今日の夕方からなら,私はダメだ。今晩は当直だからな」

「そっか。残念だけど仕事ならしょーがねーな。
 じゃあ,ゲオルグ。夕方だぞ。約束だからな!」
 
ヴィータはそう言うとシグナムと屋上を出ていった。

「んじゃ俺も,発令所に行きますか」

俺はフォワード達が訓練を始めた訓練スペースを一瞥して,屋上を出た。


その日の夜,ヴィータとの模擬戦を終えた俺は,寮の自室でシャワーを浴びた後
寝る前にニュースでもチェックをしようと個人用の端末を立ち上げると,
ユーノからメールが届いていた。

====================================
ゲオルグへ

この前頼まれた例の調査の件なんだけど,
ちょっと見てもらいたいものが出てきたんだ。

忙しいとは思うんだけど近いうちに,来てくれないかな。

              ユーノ
              
====================================

(資料が出てきたんなら,送ってくれればいいのに・・・。ま,いいか)

俺は疲れていたこともあって,深く考えずにそのまま寝てしまった。

 

 

第12話:疑惑の胎動

翌朝。
俺はレーベンに起こされると,今日の予定を確認した。
スケジュール表を見ると,今日は午後から本局での会議に
出席することになっていた。

(じゃあ,朝から本局に行って,ユーノに会うことにしますか・・・)

俺は制服を着ると,朝食をとるべく食堂に向かった。


食堂に着くと,はやてとリインが居たので声をかけることにした。

「おはようございます。八神部隊長」

「ああ,おはよう・・・ってゲオルグくんか。変な呼び方するから
 びっくりするやんか。いつもみたいに”俺の愛しいはやて”って呼んでーや」
 
「いやいや,”俺の愛しい”なんてつけて呼んだことないから。ここいい?」

「もちろんええよ。リインもええよな?」

「はいです!おはようございます,ゲオルグさん!」

「おはよう,リイン。んじゃ,失礼するよっと」

俺は座って朝食を食べ始めた。

「そういえば,昨日はお疲れさんやったね。私なんにもせんでごめんな」

「いや,ああいうのが俺の仕事でしょ。それに,部隊長には
 どしっと構えといてもらった方が,隊員も安心するしね。
 そういえば昨日の挨拶はなかなかよかったよ」
 
俺がそういうと,はやては嬉しそうに笑った。

「ほんまに?どのへんがよかった?」

「長くなかったところ」

俺がそう言うと,はやてはガクっと肩を落としていた。

「ゲオルグくんに期待した私がアホやったわ。
ま,ああいう場での長い挨拶は嫌われるからねー」
 
「そうそう。ああいうのは簡潔に要所を抑えたもので3分以内,
 ってのが俺の持論」

「さすが,部隊長経験者の言うことは一味ちがいますなぁ」

「その部隊長さんを副部隊長に格下げしたのは,八神二佐ですがね」

「そこはそれ,そうまでして欲しい逸材やったっちゅうことよ」

「はいはい。誠心誠意尽くさせて頂きますよ,八神部隊長どの」

俺は雑談をこのあたりで切り上げて,本題を話すことにした。

「ところでさ,今日なんだけど,俺って午後から本局で会議だったじゃん」

はやては少し考え込むと,思い出したように言った。

「ああ,情報セキュリティ管理者のなんたらかんたらっちゅうやつやろ?」

「そうそう。でさ,予定では午後にここを出るつもりだったんだけど,
 他に本局で片付けたい用事ができたからさ,朝から本局に行こうと思うけど
 問題ないかな?」

「ええと思うけど,人員構成表と指揮系統図は今日中に
 私まであげて欲しいんやけど。明日には提出せなあかんし」
 
「そっちの作成はグリフィスに任せてるから問題無いよ。
 会議が終わったらすぐ帰ってくるから,夕方にはチェックして
 はやてに上げるよ」

「了解。ほんならええよ」

「さんきゅ。じゃあな」

俺は朝食を食べ終えたので,立ち上がろうとすると,はやてに袖を掴まれた。

「あかんよ,女の子を置いて先に行ってまうなんて」

はやてがそう言うと,リインも続いた。

「ですです。リインもゲオルグさんとお話したいのです」

結局,俺はそれから10分ほど2人と雑談をして,食堂を後にした。


それから,俺は自分の車で近くの転送ポートまで移動し,本局に到着した。
そして,まっすぐ無限書庫に向かった。
無限書庫に着いて,ユーノに会いにきたことを伝えると,司書長室に通された。
俺が部屋に入ると,ユーノがデスクに座って,うとうとしていた。
俺はユーノの目の前まで来ると,ユーノの顔の前でパンっと両手を合わせた。

「ん?ああ,ゲオルグか。ごめん,うとうとしてたよ」

「お前大丈夫か?前にも増して疲れた顔してるぞ」

ユーノは目の下に盛大なクマのある顔で俺を見ると,盛大なため息をついた。

「クロノが,またどっさり資料を請求してきてさ。3日ほど家に帰ってない」

「そっか。ゴメンな,そんなに疲れてるときに」

「ううん。呼び出したのは僕だし構わないよ。それに悪いのはクロノだからね」

ユーノはそう言うと,右手で眉間を揉んだ。

「で,連絡をくれた件だけど・・・」

俺がそう言うと,ユーノは右手で部屋のドアを指さした。

「ちょっと外で話そうよ」


俺たちは,本局の居住区画にある公園のベンチに座っていた。

俺が缶コーヒーを買ってきて渡すと,ユーノは一口飲んで話し始めた。

「実はね,見てもらいたいのってこれなんだよ」

ユーノはそう言って,俺に一枚の紙をよこした。
そこには,

 業務記録 新暦67年6月23日
 
 本日,ポイントC23に襲撃あり。
 襲撃者は全員撃退し,特に問題なし。
 襲撃者は,首都防衛隊の1部隊。
 研究データおよび被検体は”無限の欲望”によりポイントD18に移設。
 情報工作を実施し,研究に関する情報漏洩なし。
 今後,情報管理の見直しを実施予定。
 
と書かれていた。

「ユーノ。お前にはこの内容の意味するところがわかるのか?」

俺が尋ねると,ユーノは首を振った。

「ううん,全然。ただ,コイツの出処がね・・・」

ユーノはそこで一旦言葉を切り,周囲の様子を伺っているようだった。
周囲に人影がないことを確認すると,また話し始めた。

「実は,コイツの出処は,管理局中央の最高評議会事務室の業務記録なんだよ」

「なんだって!?」

俺が思わず大声を出すと,ユーノが俺の口を手でふさいだ。

「だめだよ!大声出しちゃ」

「わりぃ。でも,この記録によれば,”無限の欲望”なるものは,
 最高評議会と密接に関係があるってことになるよな」

「そうだね。ねぇ,ゲオルグ。友人として言うけど,この件には,
 首を突っ込まない方がいいと思うよ」

ユーノがそう言っているのを聞きながら,俺はあることを思い出していた。

(この日って,確か姉ちゃんが死んだ日だよな・・・)

「ゲオルグ?どうしたの?聞いてる?」

ユーノが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「・・・大丈夫だよ。なあユーノ。この件,他には誰にも話してないよな」

「話せるわけないでしょ。こんなの」

「ならいいんだ。忙しいとこ悪かったな,ユーノ」

俺はそう言うと,時計を見た。もう会議にいかなければならない時間だった。
俺は立ち上がると,ユーノの方を振り返って言った。

「お前はもうこの件に関わらないほうがいい。じゃあな」


その後,俺は呆然とした頭で会議に出席したが,
内容はほとんど頭に入ってこなかった。

隊舎に戻ってからも,はやてに頼まれていた仕事をいつもの3倍は時間をかけて
なんとか片付け,俺は寮の自室に戻り,ベッドに倒れ込んだ。

《マスター,大丈夫ですか?》

レーベンが心配そうに話しかけて来たが,俺は返事をする気力も無かった。


翌朝,いつもより10分遅く起きた俺は,朝食も取らずに部隊長室に向かった。
ブザーを鳴らしてから入るとはやてに話しかけた。

「はやて。急で悪いけど今日俺休暇とっていい?」

はやては驚いて俺の顔を見た。

「どないしたん,急に」

「いや,別に。ただ,ミッドに移ってから実家に帰ってないから,
 里帰りしようかと思って」

「そうなんか。かまへんけど・・・」

俺はそこまで聞くと,はやての話を遮った。

「ありがと,はやて。今度なんか埋め合わせするよ」

そう言って,俺ははやての部屋を出た。
 

 

第13話:里帰り、そして・・・

はやての部屋を出た俺は,自室に戻って私服に着替えると,
格納庫にある自分の車に乗り込んだ。

俺の実家は,クラナガン郊外の居住区画にあり,
6課の隊舎からは車で2時間ほどの距離だ。

実家の前につくと,玄関脇の呼び鈴を鳴らした。
中からパタパタという足音が聞こえ,玄関のドアが開くと
母さんが顔を出した。

「はいはい,どちら様・・・ゲオルグ?」

「ただいま,母さん」

実に,1年ぶりの帰郷だった。


「もう,帰るなら帰るって前もって言っておいてくれないと困るじゃない」

1年ぶりに再会した俺たち親子は,居間でお茶を飲みながら,話をしていた。

「ゴメン,母さん。でも,急に休みが取れてね。ずいぶん帰ってないから
 久しぶりに母さんの様子でも見ようと思ってさ」
 
「そう言ってくれるのは嬉しいけどねぇ」

母さんの顔は複雑な心境を表しているようだった。

「そういえば父さんは?」

「仕事に決まってるでしょ。あんたが帰ってくるなんて聞いてないんだから」

俺の父はクラナガン市内の商社に勤めるサラリーマンだ。

「しょうがないよ。それに,父さんと顔を合わせても喧嘩になるだけだから」

「お父さんは,あんたのことが心配なのよ。大切な仕事だとは分かってるけど,
 息子が危険な仕事をしてたら当然でしょ?
 まして,エリーゼはあんなことになったんだし」
 
俺の姉,エリーゼ・シュミットは首都防衛隊に所属する魔導師だった。
だが8年前,俺が時空航行艦での任務に出ている間に,任務中の事故で死んだ,
と地上本部からは知らされている。

「俺はこの仕事はやめるつもりないから。少なくとも当分はね」

俺が断固とした口調で言うと,母さんはため息をついた。

「わかってるわよ。まったく,あんたもお姉ちゃんも昔っから頑固なんだから。
 そんなところだけ,お父さんに似ちゃって。
 ま,あんたも忙しいんだろうから,今日はゆっくりしていきなさい」

「うん,ありがとう。でも夕方には帰るつもりだから。明日も朝から仕事だし」

「はいはい。じゃあお昼は食べていくのね?」

「うん。ところで母さん。姉ちゃんの部屋に入ってもいいかな」

俺がそう言うと,母さんは驚いたようだった。

「・・・大丈夫?あんた,あれから一度もお姉ちゃんの部屋には
 入ろうとしなかったのに・・・」

「うん。やっと,心の整理がついたよ」


俺は2階に上がると,エリーゼと札のかかった部屋に入った。
部屋の中は,姉ちゃんが生きていた頃と何も変わっていなかったが,
時々母さんが掃除をしているのか,綺麗なものだった。

俺は姉ちゃんの使っていた机を右手で撫でた。

(姉ちゃん,ごめんな。ちょっと机の中漁らせてもらうよ)

机の引き出しを上から順番に開けていくと,2段目の引き出しから
俺は探していたものを見つけた。
それは,姉ちゃんが死ぬ直前までつけていた日記帳だった。

(そういえば,一度勝手に読んで姉ちゃん殴られたっけ・・・)

俺は後ろの方から白紙のページをめくっていくと,
最後に書かれた日記を見つけた。それは,6月22日。
姉ちゃんが死ぬ前日のものだった。


 6月22日
 
 今日は,ゼスト隊長に稽古をつけてもらった。
 最後に模擬戦をやったけど,やっぱり歯が立たなかった。
 いつか,互角にやり合える日がくるのかしら?
 ま,こんなふうに弱気になってる間は無理かな?
 明日は,出撃だ。
 隊長によれば,ジェイル・スカリエッティのアジトの一つみたい。
 今度こそ,足手まといにならないように頑張らなくちゃ。
 そのためにも今日は早く寝よう。


(ジェイル・スカリエッティ・・・だと!?)

俺は狼狽していた。
想像を遥かに飛び越えた大物の名前が飛び出したこともそうだが,
自分が指揮する立場になったからこそわかる,作戦の無謀さに。
いかに首都防衛隊が精鋭とはいえ、たかが一部隊という少数で
挑んではいけない相手だと思った。

(これは・・・当たりか?)

俺はさらに調査を続ける必要性を感じ,姉ちゃんの日記帳をそっとカバンに
しまいこむと,部屋を出ることにした。

(・・・姉ちゃん。姉ちゃんの敵は俺がとるから。もう少しだけ待ってくれな)


1階に降りると,母さんがキッチンで昼食を作っていた。

「ああ,降りてきたのね,ゲオルグ。今日のお昼はオムライスよ。
 あんた,好物だったでしょう?」
 
「ああ,うん。ありがとう,母さん」

俺がそう言うと母さんは何かに気づいたのか俺のほうを振り返った。

「あんた・・・泣いてたの?」

「は?泣いてねーよ」

俺はそう言って,自分の目から涙が溢れているのに気がついた。

「ゴメン,気がつかなかった。やっぱり,こみ上げてくるものがあったみたい」

母さんはエプロンで手を拭くと,俺の頭を抱き寄せた。
俺は母さんよりも頭一つぶん背が高いので,ちょっと不自然な感じだったが。

「あんたはお姉ちゃん子だったからね。泣きたい時は,泣けばいいのよ」

母さんの言葉を聞いて,俺は母さんの胸に顔を押し付け,声を上げて泣いた。


昼食にはすっかり遅くなってしまったが,俺と母さんはダイニングで
母さん特製のオムライスを食べていた。

「美味しい?」

「うん。うまいよ。昔と全然かわってない」

「ありがとう」

「母さん,ごめんな。みっともなく泣いたりして」

俺がそう言うと,母さんは呆れたような顔をした。

「あんたは,母さんの息子なんだよ。いくつになっても」

「そうだね。ありがと,母さん」

「どういたしまして」

そう言って笑った母さんの笑顔は,昔のままだった。


俺は,その後少し母さんと話をして,日も傾いてきたところで,
家を出ることにした。

「今はミッドにいるから。また来るよ」

「いつでも帰っておいで。今度は泊まっていけるようにね」

「うん,じゃあ母さん。行ってきます」

「はいはい。行ってらっしゃい」


1時間後,俺はクラナガンの繁華街から一本裏通りに
入ったところにあるバーに来た。
ドアをあけて入ると,顔見知りのマスターが声をかけてきた。

「やあ,いらっしゃい」

「よう,マスター。どれくらいぶりだい?」

俺がそう言うと,マスターは少し考えたように間をとると,口を開いた。

「・・・もう1ヶ月になるんじゃないかなぁ」

「そんなに来てなかったっけ」

「・・・なんにする?」

「今日は車だからな。ノンアルコールでなんか適当に」

「・・・はいはい。そういえば,例のもの入ってるよ」

「ホントに?見せてよ」

「んじゃ奥に行こうか」

マスターはそう言うと,アルバイトらしい青年にちょっとの間頼むというと
店の奥に向かった。
俺があとについていくと,マスターは棚を横にスライドさせた。
そこには,IDカードを通すためのスリットと,指紋認証プレートがあった。
マスターは,胸ポケットからカードを取り出し,スリットに通してから,
自分の親指をプレートに押し付けた。
すると,壁がスライドし奥には所狭しとたくさんの機器が並んだ部屋が現れた。
俺がマスターのあとに続いてその部屋に入ると,また壁がスライドして
入口が閉じた。そこで,マスターは息を吐いた。

「旦那。いい加減このめんどくさいやり取りやめません?」

「だめだ,魔法で俺やお前の容姿を使われる可能性がある。」

俺が店に入ってからの会話はすべて,俺が俺であること,
そしてコイツがコイツであることを確認するための合言葉だった。

「そっすね。で,今日はなんです?」

コイツは,俺が情報部に居た頃から情報屋として使っている男だ。
一応クレイという通り名は知っているが,本名は知らない。
表向き,場末のバーのマスターをしているが,本業は凄腕のハッカーだ。
前に,本局のデータベースに侵入したカドで俺が捕まえたのだが,
俺に協力する見返りに見逃してやっていた。

「お前さ,地上本部のデータベースに入れるか?」

俺がそう聞くと,鼻で笑った。

「楽勝っすよ。あそこのセキュリティはユルユルっすからね。
 地上本部だけでいいんですか,旦那」

「とりあえずはな,依頼内容と金はここにあるから。

俺はそう言うと,一枚の封筒を手渡した。
クレイは封筒から札束を取り出し確認すると,近くの机の上に無造作に置いた。

「毎度あり。んじゃ,2週間くらいしたらまた来て下さい」

「わかった」

俺は店を出ると,隊舎にまっすぐ帰り,自室で眠りについた。

 

 

第14話:僕らの出会いは・・・

《マスター,起きてください》

「ふぁー,ねみぃ。にゃんだよれーべん」

俺はレーベンに起こされた。時計を見ると,ちょうど起床時間だった。

「なんだ時間か。ありがとうレーベン」

《いえ,デバイスとして当然です。マスター》

俺は,身支度を整えると,朝食をとるべく食堂に向かった。


部隊発足からだいたい1週間たって,隊舎から浮ついた感じが
だいぶ無くなってきた。

食堂に向かう途中,後ろからスバルに声をかけられた。

「あ,ゲオルグさーん。おはようございまーす」

振り返ると,トレーニング服姿のフォワード達が歩いてきた。

「よう,おはよう。早朝トレーニング明けか?」

「「「「はい」」」」

「そっか,お疲れさん。」

「「「「はい,ありがとうございます」」」」

(どうでもいいけど,コイツら妙に揃ってるな・・・)

「ゲオルグさん。私たちこれから朝食なんですけど,
 よかったら一緒にどうですか?」
 
スバルがそう言って俺を朝食に誘ってきた。

「俺もこれから朝食の予定だったからいいけど,いいのか?」

俺は,誘ってくれたスバルはともかく他の3人の意向を確認したかった。
今は,フォワード同士のコミュニケーションの方が大事だと考えたのもある。

「私も是非ご一緒したいです。ゲオルグさんのお話も聞きたいですし」

ティアナはそう言って,スバルに賛成した。

「僕も,ぜひご一緒したいです」

「・・・あの。わたしも」

エリオとキャロも同意してくれたので,
俺はフォワード4人と一緒に朝食をとることになった。
食堂への道すがら,俺は実質初対面の2人に対して,自己紹介をすることにした。

「そういえば,ライトニングの2人はまだ俺と話したことなかったよな。
 俺は,ゲオルグ・シュミット。知っての通りここの副部隊長だな。
 階級は3等陸佐だ。ゲオルグと呼んでくれていいぞ」

「エリオ・モンディアルです。」
「キャロ・ル・ルシエです。」
「「よろしくお願いします。」」

2人はそう言って,軽く頭を下げた。

「おう,よろしくな。エリオにキャロ」


食堂について,5人で1つのテーブルに座ると,目の前に小高い
山のようになったパスタがあった。

「これ,何人前?」

俺が誰ともなしに尋ねるとスバルが,10人前だと教えてくれた。

(若いからよく食う・・・って量じゃねえよな)

ちなみに,俺はいつもの朝食セットを食べることにした。当然1人前だ。

山盛りの大皿から自分の取り皿にどっさりパスタを盛り付けているスバルの
横にいるティアナが,俺に話しかけてきた。

「ゲオルグさんって,6課の前はどちらに居たんですか?」

「本局の情報部だよ。んで,はやて・・・八神部隊長に引き抜かれて
 ここに来たってわけ」

「情報部ですか。どんなことをされてたんですか?」

「んー。それは,話しちゃいかん決まりになってるんだよ。悪いね」

俺がそう言うと,ティアナは残念そうな顔をした。
だが,情報部特務隊はその存在そのものが特秘だから,当然その任務内容も
特秘事項に該当する。おいそれと話せる内容ではないのだ。

(ま,聞いてもあまり気分のいい話じゃないしね・・・)

「でも,ゲオルグさんって陸戦Sランクの魔導士なんですよね。
 しかも,空戦もそこそこできるって聞きましたし。
 なのに情報部って,珍しいんじゃないですか?」
 
「よく知ってるね,ティアナ。なのはから聞いたのかな?」

ティアナに確認すると,ティアナは頷いた。

「まぁ,俺は2ランクのリミッタかかってるから,陸戦ランクもAA相当だし,
 空戦はちゃんとしたランク取ってないけど,リミッタかかっちゃうと
 いいとこCランクだからね。あんまり実戦では役に立たないよ。
 あと,確かに情報部にいる魔導師は多くないけど,
 全く必要ないかというとそうでもないんだな,これが」
 
「ほういへば,本局の情報部って,なんか特殊な戦闘任務を専門にしてる
 部隊があるって,噂で聞いたことがあるなぁ」

スバルがパスタをほおばりながらそう言うと,
ティアナがスバルの頭を小突きながら文句を言った。

「あんたね,ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ。
 こっちに飛んできたじゃない。あとね,あんたの言ってるのは
 都市伝説みたいなもんでしょ。鵜呑みにしないでよ」

(・・・都市伝説なんかじゃなく,現実に存在するんだけどね・・・)

俺はそう思いながらも,そ知らぬ顔で目の前のソーセージを食べた。

「ゲオルグさんって,フェイトさんたちと前からのお知り合いなんですよね?」

次にエリオが尋ねてきた。

「うん。6課にいる連中は結構知ってるよ。
 隊長陣は前から知ってるし,フェイトつながりでシャーリーなんかとも
 会ったことはあるからね。あ,シャーリーとはもう会った?」

「はい,初日の訓練前に。ところで,フェイトさんたちとは
 どうして知り合ったんですか?」

「みんな仕事がらみだよ。最初に知り合ったのはフェイトかな?
 で,なのはとはフェイトの紹介でだね」

フェイトと俺が知り合ったのは,7年前になる。
その当時,俺は三尉でフェイトは執務官になりたてだった。
俺が魔導師として配属された時空航行艦の執務官としてフェイトが居た。
フェイトになのはを紹介されたのは,そのすぐ後だから,
例の事故から復帰してすぐのころだったと思う。
もっとも,俺がその事故について知ったのは少し後になってからだったが。

「じゃあ,八神部隊長とは・・・」

今度はキャロがおずおずといった感じで聞いてきた。

「はやてとも仕事でだね。あいつが追ってた事件に絡んでね」

はやてと出会ったのは,はやてが上級キャリア試験を受ける直前だから,
約6年前になる。当時あいつが追っていたテロリスト集団の拠点を
攻略する作戦に,作戦部の下級参謀として同行したのが最初だ。

「じゃあ,皆さんと出会ったのはたまたまなんですね」

「そうだね。今考えるとすごい偶然だね」

そのあとも,5人でいろいろ雑談をしていると,入口から
グリフィス駆け込んできた。で,俺を見つけると俺の方に走り寄ってきた。

「シュミット副部隊長,こんなところにいたんですか。
 もう,会議始まりますよ」
 
俺は時計を見た。確かに,俺が主催の会議が始まる時間になっていた。

「ごめんな,グリフィス。話し込んでてすっかり忘れてたよ。
 じゃあ,みんな。悪いけど俺は先に行くな」
 
「「「「はい!」」」」

フォワード4人は相変わらず揃った返事を返してくれた。

俺は,カップに残ったコーヒーを一気に飲むと,グリフィスと会議室に向かった。

 

 

第15話:避難は計画的に

俺とグリフィスが会議室に入ると,既に出席者が揃っていた。
ちなみに,俺・グリフィスの他には,シャマルとザフィーラ,
通信・整備・輸送の各代表数名ずつ,またバックヤードスタッフからも
何人か出席している。

「遅れてすまない。それでは始めようか,グリフィス」

「本日の議題は,隊舎における緊急事態発生時の対処計画の協議です。
 具体的には,非戦闘要員の退避計画と限られた戦力での
 迎撃計画,それぞれの立案となります」

グリフィスがそう言うと,シャーリーが手を挙げた。

「質問なんですけど,緊急事態発生時の対処計画の必要性と,
 なぜ前線要員がいないのか。以上,2点について教えてください」
 
グリフィスを見ると,助けを求めるように俺を見ていたので,
俺が答えることにした。

「質問に質問で返す形になってすまないが,シャーリーは入局してから
 基本的に地上勤務は初めてか?」

「そうですね。入局してからずっと本局の所属です」

「本局ではこんな計画を立案する必要性がないんだが,なぜかわかるかい?」

「いえ」

「本局のある空間にはいわゆる身元が明らかでない人間が存在しないから,
 必要ないんだよ。テロの危険性なんてものは考慮する必要ないからね。
 だが,機動6課は本局所属とはいえ,ミッドの地上部隊だ。
 隊舎も地上にある以上,テロの標的となる可能性は否定できない。
 故に,我々も緊急事態への対策計画は必要不可欠なんだ。
 ちなみに地上本部所属部隊は非常事態発生時の対処計画立案は必須事項だ」

俺は一旦言葉を切って,先を続けた。
 
「あと,前線メンバーがこの場にいない理由だが,
 これは,われわれ機動6課の編成が通常よりも
 小規模であることに起因してる。
 つまり,前線メンバーが出撃するときには,基本的に全員が
 出動することになるために,警備・防衛のための戦力を
 隊舎にほとんど残せないことになる。最悪のケースを想定するなら,
 前線メンバー不在の状況でも実行可能な計画を立案する必要がある。
 これが,この場に前線メンバーがいない理由だ」
 
俺がそう言うと,シャーリーは納得したように頷いた。

「他に質問は?」

俺がそう問うと,整備のメンバーの手が上がった。

「この席に,八神部隊長が同席されない理由は?」

「八神部隊長も,有事となれば前線メンバーとともに
 出動することが多いだろう,というのが正式な理由だ。
 が,実際は外回りが多すぎて時間が取れないというのが理由だな」

俺が苦笑しながら答えると,メンバーから軽く笑い声が聞こえた。

「他になければ,本題に入ろうと思うが構わないかな?」

俺が室内を見回すと,全員が頷いていた。
それを確認すると,グリフィスに目で先に進めるよう合図をした。


・・・夕方。
俺は疲れた表情のグリフィスにコーヒーの入ったカップを手渡した。

「お疲れさん。どうだい,感想は?」

俺がそう問うと,俺に目を向けてからうつむいてしまった。

「疲れました。すいません,度々助けていただいて・・・」

グリフィスは本当に疲れたようで,普段よりも声に力がなかった。

「いやいや,助かったのは俺の方さ。会議運営をグリフィスがやってくれた
 おかげで,俺は考えることに集中できたからな」
 
だが結局,会議で決まったことは多くなかった。
1つは,各隊メンバーのうち戦闘経験のある人間のリストを作成すること。
これは,いざという時に使える戦力を明確にしておくためだ。

2つめは,緊急事態への対応用として,小火器類の装備を整えておくこと。
これには,異論もあったが保管体制をきちんと整えることと,
所持資格をきちんと取得したものだけが,使用すること,
そして,真に必要であると部隊長か副部隊長が認めて許可したときのみ
使用することとして,合意することができた。

最後に,非常事態への対処訓練を前線メンバーを敵役として実施することだ。
まぁ,今日の成果としてはこれで十分だろう。
あとは,各隊からのリストをもとに,迎撃・退避の計画を作成して,
俺やグリフィスの仕事は完了だ。
・・・まぁそれが大変なのだが。

「グリフィス。はやてへの口頭での報告は俺の方でやっておくから,
 議事録を作って,今日の出席者と各隊長陣に送っておいてくれ」
 
「事前にゲオルグさんにチェックをお願いできますか?」

「もちろん,送っておいてくれれば確認するよ。じゃあ,よろしくな」

俺はそう言うと,グリフィスの肩を叩いて部隊長室に向かった。


部隊長室に向かう途中で,シャーリーに出会った。
俺は,非常事態訓練についてシャーリーに相談しておきたいことがあったので
シャーリーに話しかけた。

「シャーリー,今いいかい?」

「あ,ゲオルグさん。いいですよ」

「あのさ。さっきの会議で話した訓練なんだけどさ,
 訓練スペースに隊舎を再現してやれないかな?」

俺がそう言うと,シャーリーは少し考え込んでから口を開いた。

「大丈夫だと思いますよ。スペースは十分ありますしね。
 データの準備をやっておきましょうか?」

「頼むよ。悪いね,新人のデバイス製作もあるのに」

「いいえ。でも,今度なにか美味しいものでも奢ってくださいね」

「それくらいなら,全然OKだよ。ありがとう」

(これで訓練実施の目処もついたな・・・)


部隊長室の前につくと,俺はブザーを鳴らした。
中からはやてのどうぞという声がしたので,ドアを開けて部屋に入った。

「ゲオルグくんか,お疲れさん」

「はやてこそ,今日は地上本部だっけ。お疲れ様」

「うん。ありがとう」

俺は,今日の会議についてはやてに簡単な報告をした。
それを聞いたはやては嬉しそうに笑った。

「ほんまにゲオルグくんさまさまやね。
 私には,そんな発想はなかったもんなぁ」

「ん,そうか?まぁ,俺も陸にいたことはないから探り探りだったけどね。
 まあ,グリフィスが助けてくれるからできたんだよ」

「謙遜しすぎやって。ゲオルグくんがいてくれるから,
 私は,安心して外と話をしにいけるんやで」

「それはどうも。でも,はやても特に地上本部からの
 風当たりが強いって聞いたぞ。大丈夫か?」

「うん。まぁ,今日はちょっと疲れたかな」

「そっか。あんまり無理はすんなよ。んじゃ,俺は部屋に戻るわ」

「うん。おやすみ,ゲオルグくん」

「ああ,おやすみ」


自室に戻ると,俺は姉ちゃんの日記帳を開いていた。
前に実家に戻ってからは,ほぼ毎日開いている。
読むというよりは眺めるといった感じだが。

《マスター,今よろしいですか?》

レーベンが話しかけてきたので俺は日記帳をしまった。

「なんだ?レーベン」

《マスターは,カリムさんの予言にあった”無限の欲望”が
 ジェイル・スカリエッティだと考えておられるのですよね?》

「ああ」

《さらに,ジェイル・スカリエッティは最高評議会と密接につながっていると》

「そっちはさすがにまだ自信がないよ。まぁ,クレイの情報待ちだね」

《でも,マスターはつながっていると考えているのでしょう?》

「まあな」

《・・・はやてさん達にお話しにならなくてよいのですか?》

俺はため息をついた。

「あのなぁ。こんな荒唐無稽なことを,何の証拠もなしに言って
 誰が信じると思うんだ?」

《例のメモと合わせればはやてさんは信じてくれそうですが》

「・・・俺はまだ話す気は無い」

《では証拠が見つかったら話すんですか?》

「さあな」

《またマスターは一人で抱え込むつもりなんですか?》

いい加減俺も腹が立ってきた。

「うるせぇよ,レーベン。もう黙ってろ」

《・・・はい。判りましたマスター》

俺はそのまま眠りについた。


 

 

第16話:シュミット式鬼ごっこ

6課が設立されてからそろそろ3週間になる。
いい加減,どのメンバーも新しい環境に順応してきて,
通常業務もかなりスムーズに進むようになってきた。
まぁ,もともと優秀なスタッフがそろっているわけだから
当然といえば当然とも思うが。
いずれにせよ,副部隊長として部隊の運営を預かる身としては,
誠に喜ばしいことだ。

夜間当直明けの俺が,外の空気を吸おうと外に出ると,
フォワードメンバーが朝の訓練に励んでいるのが見えた。
今日は,対ガジェット戦を想定した訓練のようで,
なのはが訓練スペースの手前でモニターを見つめているのが見えた。

俺は,気配を消してそっとなのはの背後に迫ると,
右手の人差し指でなのはの背中を上から下になぞった。

「っひゃうっ!」

なのはが愉快な声を上げながら振り返ったので,俺は右手を上げて挨拶をした。

「おはよ,なのは」

なのはは俺だと気づくと呆れたような表情をしてみせた。

「もう,それセクハラっていわれても文句言えないよ。ゲオルグくん」

「ん?大丈夫。なのは以外にはしないから」

俺が手をひらひらと振りながらそう言うと,なのはは頬をふくらませた。

「なんだか,ゲオルグくんって私を女の子と思ってないよね。相変わらず」

なのはが不満げにそう言うので俺はちょっとからかうことにした。
俺はなのはの肩に手を回し,口をなのはの耳元に寄せた。

「てことは,なのはは俺に女として扱って欲しいわけ?」

俺がちょっと甘い声でそう囁くと,なのはは驚いたのか
声を上げて身をよじった。

気がつくと,なのはが俺の腕の中にすっぽりと収まっていた。
・・・まるで抱き合う恋人どうしのように。

俺が少し目線を下げると,なのはが真っ赤な顔で俺を上目遣いに見ていた。

(うわ。なのはってこんなに可愛かったっけ・・・って可愛いってなんだよ俺。
 これはなのはだぞなのは。管理局の白い悪魔なんだよ。魔砲使いなんだよ。
 そうだこんなときは落ち着いて目を閉じて深呼吸・・・っと,大丈夫!)
 
俺がもう一度目を開けると,やっぱりなのはが真っ赤な顔をして,
少し潤んだ瞳で上目遣いに俺を見ていた。

(あー,なんか目がウルウルしてるよ。綺麗だなぁ・・・。ってだから
 これはなのはなんだよ!しっかりしろよ,俺!)

俺たちがそうして固まっていると,どこからともなく声が聞こえてきた。

「・・・さーん。なのはさん。訓練メニュー終わりま・し・・た・・・」

俺となのはは抱き合った(ような格好の)まま揃って声のした方を見た。

そこには,揃いも揃って口をポカンと開けたスバル達フォワード4人が
立っていた。

俺となのははもう一度お互いを見つめ合うと,慌ててお互いを突き飛ばした。

「ちちち違うんだよ!こここれは,ゲオルグくんが
 私をからかっただけなの!だから事故なんだよ事故!ね?ゲオルグくん」
 
「えーと,うん。そうそう。からかっただけだぞ!」

俺はそう言った。否,そう言うしかなかった。

「ほら,ね?だからだからえーっと・・・」

そこでなのはは,フォワード達に手を合わせた。

「・・・このことみんなには言わないで。お願い・・・」

「「「「はいっ!!!」」」」

フォワード達はブンブンと首を縦に振った。

《さすがはマスターですね。ラッキースケベ属性は健在ですか》

「「レーベンは黙ってろ!(黙ってて!)」」

俺となのはの声は揃って朝の空気の中に吸い込まれていった。


「うん,まだもう少し時間はあるね。
 せっかくだからちょっとゲオルグくんにも教導を手伝ってもらおうかな?」

なのはは,自分を立て直すためなのか,顔をパンと叩くとそう言った。

「は?俺,夜間当直明けだぞ」

《自業自得ですよ。マスター》

「そうそう,レーベンの言うとおりだよ」

(はぁ,しゃーないな・・・)

俺はため息をつくと,覚悟を決めた。

「で,何をやればいいですか?高町教導官」

「ん?普通に4対1で模擬戦かなぁと思ってたけど」

「は?そんなのつまんねぇよ。あ!なのはちょっと耳貸せ」

「え?また何か変なことしないよね」

「するか!いいから耳貸せ」

俺はなのはに思いついたアイデアを話すと,なのははいい笑顔で頷いた。

「面白そうだね!それ」

「だろ?じゃあお前ら,これからやることを説明するぞ」

俺はフォワードたちが整列している方に向き直った。

「本日午前最後の訓練は,鬼ごっこだ!」

俺がそう言うと,4人は訳がわからないという顔をしていた。

「ルールは簡単。俺は訓練スペースの中を逃げ回るから,お前ら4人のうち
 誰か一人でも俺を捕まえるか俺に攻撃を当てられたら終了。
 ただし,ガジェットを10機出すからガジェットの攻撃を受けたら即失格。
 あとは,何箇所か設置型のバインドも仕掛けるからそれに引っかかっても
 即失格。俺は全く攻撃しない。制限時間は20分。どうだ,簡単だろ?」

俺がそう言うと,4人は互いに顔を見合わせてから俺に向かって頷いて見せた。

「よし,じゃあ俺は先に行ってるから,5分後にスタートな。」


・・・15分後。
「お前らなぁ。せめて制限時間切れで終了まで頑張れよ」

俺とフォワード4人の鬼ごっこはスタート後10分で
フォワード全員が失格となり終了した。

スバルは,俺を夢中になって追いかけているところに,
ガジェット5機に囲まれ,スタート3分後に撃墜。

エリオは,俺が逃げる方にまっすぐ追いかけてきたところで,
正面からガジェットに攻撃され,逃げた先でバインドに捕まり
スタート5分後に失格。

ティアナは,隠れて俺を狙撃しようとしていたところ,
背後からガジェットに攻撃されスタート7分後に撃墜。

一番粘ったのはキャロだったが,ガジェット10機に逆に追い回され,
袋小路に追い詰められたところでスタート10分後に撃墜という結果だった。

『そんなこと言ったって・・・』

『攻撃をかわした先にバインドがあるなんて・・・』

『なんで私のいる場所がわかったのよ・・・』

『ガジェット10機を同時に相手になんて・・・』

「まだ時間あるから反省会やるぞー。全員スタート地点に集合」

『『『『・・・はい』』』』

フォワード4人の返事は元気が無かった。


俺がスタート地点に戻ると,なのはがニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。

「手加減なし?」

「アホか。すげー手加減してるよ。あいつらが素直すぎんの」

「にゃはは,ゲオルグくんは性格悪いからね」

「人聞きの悪いこと言うな」

俺となのはがそんな会話をしていると,一人また一人と
フォワード達が帰ってきた。


「よし,じゃあ反省会な。
 まず,今回俺がとった戦術について説明するな。
 基本的には,各人に連携した戦術をとらせずに各個撃破を狙った。
 つまり,短絡的に俺を見たら俺についてきそうなスバルやエリオの前に
 姿を見せたのは,スバル・エリオとティアナ・キャロを引き離すために
 わざと自分を餌にしたわけだ。
 さらに,お前らの今までの訓練での動き方の傾向から,設置型バインドの
 設置位置を決めて,それに合わせてガジェットを操作してた。
 ま,結果的にお前らはまんまとそれにはまった訳だ」

俺がそう言うと,フォワード陣はシュンとしてしまった。

「じゃあ,それぞれ自分の戦闘について反省の弁を述べてみ。
 んじゃ,やられた順ってことでまずはスバル」
 
俺がスバルに振ると,スバルは首を横に振った。
「なんで自分がやられたのかもわかんないです。
 ゲオルグさんを追いかけてたらなぜか囲まれてたって感じなんで・・・」

なのはの方をちらっと見ると,苦笑しながら俺にどうぞと合図をした。

「スバルは問題外だね。だから俺からは一言だけ。Bランク試験のときに
 俺が言ったことを思い出そう。んじゃ次,エリオ」

エリオもスバルと同じで首を横に振った。
「僕もスバルさんと同じですね。ガジェットの攻撃をかわして着地したら
 なぜかバインドにかかってました。何が悪かったのかもわかりません」

「うん。エリオもスバルと同じ。ただ,エリオの場合はもう一つ問題なのが,
 行動パターンが一定になってるところ。
 つまり,なぜかバインドにかかったんじゃなくて,俺が狙ったとおりに
 罠にはまったってこと。だから,過去の訓練映像をなのはにもらって,
 自分の動きをよーく見てみよう。ほい次,ティアナ」
 
ティアナは腕組みして考え込んでいるようだった。
「私は,スバルとエリオが突っ込んでいったんで,2人がゲオルグさんに
 接触できれば,狙撃する自信があったからそれを隠れて待ってました。
 でも2人がやられてしまったので,無理にでも当てに行くしかないと思って,
 ゲオルグさんに狙いをつけてたら,ガジェットに背後に回られてて・・・」

「うん。ティアナの場合は近接戦闘のできる2人がアウトになった時点で
 狙撃の選択は捨てるのが正解だったかな。でも当初の狙いは悪くないよ。
 まぁ,ガジェットは俺が操作してたから,後ろに回り込まれたのは
 しょうがないとしても・・・。
 ちなみに,スバルとエリオを攻撃したガジェットの総数は把握してる?」

「えっと,スバルが5機でエリオが4機・・・あっ」

「そ,1機足りないよね。まあそこまで判ってればこの訓練の意味はあったし,
 今の段階で言うことはないかな。あとは,自分で考えてみよう」
 
「はい,ありがとうございます」

「で,最後にキャロだけど・・・」

「私は・・・最初にガジェットに出くわして,逃げたらその先にも居て,
 その繰り返しでした。もうどうしたらいいか判らなくなって・・・」

「まぁ,キャロは一人でよく3分持ちこたえたってとこかな。
 もうちょっと,周りの地形とかも考えて,最悪逃げ切れるルートで
 逃げるところまで考えられれば,あの状況では100点満点だよ。
 じゃあ,なのはからは何かある?」

俺がなのはに話を振ると,首を横に振った。

「ゲオルグくんの言うとおりだと思うよ。ま,あえて言うなら,
 ちょっと今の4人にはレベルの高い訓練だったかな。
 私としては,この訓練をきっかけにみんながいろいろ考えて
 くれるようになれば,今の時点では十分かな。
 じゃあ,もういい時間だし,解散しよっか」

「「「「はい!」」」」

 

 

第17話:悪ノリも計画的に


俺となのはは,肩を落として隊舎の方に歩いていくフォワード達を見送った。

「ちとやりすぎたかな。後でフォローしといて」

俺がそう言うと,なのはは苦笑しながら,了解と返してきた。

「で,ゲオルグくんから見てあの子達はどう?」

「たった3週間であそこまで変わるとはね,予想外だよ」

「でしょ?4人とも頑張ってるもん」

なのははそう言うと,だいぶ小さくなったフォワード達の背中に向けて,
慈しむような笑顔を向けた。

「確かにあいつらの頑張りは認めるけど,それよりなのはの教導が
 いいんだと俺は思うよ。お前,マジでいい先生だな」
 
「へ?そうかな」

「うん。情報部に居た頃から,噂では聞いてたけどさ。
 本当にすごい教導官になったんだな。感心したよ」

俺がそう言うと,なのはは少し頬を染めていた。

「なんか調子狂っちゃうな。私いっつもゲオルグくんにはイジメられて
 ばっかりだから,そんなふうに褒められちゃうと照れちゃうよ」

「いやいや,イジメてるんじゃなくてイジってるの」

俺がそう言うと,なのはは頬を膨らませて不満そうだった。

「私にとってはどっちでも一緒だよ。まったく,ゲオルグくんは・・・。
 ま,あんまり度がすぎるようだったら,フェイトちゃんに言いつけるから」

「ぐえぇ。それは勘弁・・・」

俺が本気で嫌そうな顔をすると,なのはは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「にゃはは。だから,あんまりやりすぎないようにね」

なのはがそういうと,キューっという音が鳴った。
なのはの方を見ると,顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。

「・・・聞こえた?ゲオルグくん」

「いいえ,なのはのお腹が鳴る音など,聞こえておりませんが」

「もう!絶対,聞こえてるじゃん!うぅ,恥ずかしい・・・」

なのははそう言うと,肩を落としてシュンとなっていた。

(しゃーねーな。ちょっとだけ気を使ってやるか)

「ところでなのは。俺当直明けで動いたからもう腹減ってさ。
 よかったら朝飯付き合ってくれない?」
 
「え?あ,うん。もちろん」

「よし,じゃあ行くか!」

俺はそう言うと隊舎に向かって歩き出した。



食堂につくと俺はいつもの朝食セットを頼んだ。
ここの朝食セットはおかずが日替わりなので飽きがこないし,
量もほどほどなので,デスクワークがメインの俺にはピッタリなのだ。

空いている席を探して座ると向い側になのはも座った。
なのはのメニューを見ると,俺の1.5倍はあろうかという量だった。

「お前さ,朝からよくそんなに食うよな」

俺がそう言うと,なのははいつものように頬を膨らませる。

「あのさ,ゲオルグくん。女の子にそんなこと言ったらダメだって
 何回いえばわかってくれるのかな?だいたい,さっきまで教導で
 動き回ってたんだから,これくらいはしょうがないと思うの」

「はいはい。そんなに必死にならなくてもわかってるよ」

俺が投げやり気味にそう言うと,なのははとても不満そうだった。

「ふん!いいもん。だいたい,ゲオルグくんはそんなので足りるの?」

「ん?俺は誰かさんみたいに肉体派の局員じゃなく,頭脳労働派だから
 これくらいで十分。足りなきゃ,仕事中に甘いもの食べるし」

「だめだよ,仕事中におやつなんて食べたら。マナー違反だよ」

「俺には副部隊長室っていう鉄壁の城塞があるから大丈夫」

副部隊長室の窓際にあるキャビネットには,書類でなくお菓子が
詰まっているのは,誰も知らない俺の秘密だ。

「ずるーい!私なんかみんなの手前,仕事中は我慢してるのに!
 私も教導官室欲しい!」
 
「個室が欲しけりゃ偉くなれ!というのは,かの3提督の名言です」

「いやいや,それ絶対でたらめだよね。それにしてもいいなぁ個室。
 私にもちょうだい,ゲオルグくん」
 
「はやてに言えよ。というかおやつのために個室をおねだりする
 分隊長というのはいかがですか?スターズ04ことランスター二士」

俺は,たまたまそばを通りかかったティアナに話を振った。

「はい?何の話ですか?」

「うん実はな・・・」

「ティアナ!なんでもないから行っていいよ!」

「は,はい・・・」

「と,俺がなのはの真実をティアナに教えてやろうとすると,
 なのはがものすごい剣幕で邪魔をしたので,ティアナは
 すごすごと去っていったのだった」

「なんでそんな説明口調!?ていうか,ゲオルグくんのおかげで,
 私の威厳が崩壊の危機だよ・・・」
 
「いやぁ,そんなふうに言われると照れますなぁ・・・」

「褒めてないから!!」

そんな感じで雑談をしながらゆっくりと朝食をとっていると,
ピンポンパンポーンとチャイムが鳴った。

『緊急招集,緊急招集。スターズ01・ロングアーチ02は至急部隊長室へ』

はやての声でかかった放送を聞くと,俺となのはは勢い良く立ち上がった。
ちなみに,ロングアーチ02は俺のコールサインだ。

「行くぞ!なのは!」

「うん!」


食堂から全力疾走で部隊長室の前まで来た俺となのはは,
部屋のなかに駆け込んだ。

「どうした,はやて!」

「何があったの,はやてちゃん!」

俺たちが部屋に入ると正面のデスクに座り,デスクに肘をついた両手を組んだ
はやてが,重々しい顔をしていた。
その横には,沈痛な表情をしたフェイトが立っていた。

「大問題発生や。2人ともこれ見て」

はやてはそう言うと,1枚の紙を自分のデスクの上に置いた。
俺となのはは,2人で覗き込んだ。
それは,俺となのはが抱き合い,赤い顔をして見つめ合っている写真だった。

「ちょちょちょちょっとはやてちゃん!これどうしたの!!」

なのはが真っ赤な顔をして言った。

「ある筋から私にタレコミがあったんよ」

はやてがそう言うと,フェイトが続いた。

「なのは。2人はいつから付き合ってるの?」

「え?え?え?フェイトちゃん?ちょ,それ誤解・・・」

「言ってくれれば私だって,ちゃんと2人のことお祝いしたんだよ」

「いや,だからフェイトちゃん。誤解なんだって!」

「・・・ゲオルグくんの見解はどうなんや?」

はやてがそう言ったところで俺の意識はなくなった。


・・・10分後。
俺は,目を覚ました。
体を起こして部屋の中を見回すと顔を真っ赤にしたフェイトと,
机を叩きながら爆笑しているはやてと,頭を抱えているなのはが見えた。

「何があったんだ?」

《マスターは,なのはさんとマスターが抱き合っている写真に興奮して
 倒れたんです》
 
「・・・そうだ!はやてもフェイトもそれは事故だぞ!
 俺となのはは付き合ってないぞ!」
 
「うん,もうなのはから事情は聞いたよ。ゴメンね誤解して・・・」

フェイトが赤い顔のまま,小さな声で言った。
その横で,相変わらずはやては爆笑している。
その様子を見て,俺はすべてを把握した。

「・・・はやて」

「ん?なんや?ゴメン今腹筋痛くて・・・」

「・・・なのは」

「うん,そうだね。はやてちゃん。悪いけど今回ばかりは勘弁できないよ」

「ああ,いくら部隊長でもやっていいことと悪いことがあるよな」

俺となのはがうつむいて小声でそう言うと,はやては急に焦り出した。

「ちょっ,待ち!二人とも。謝るから!ゴメンって!やりすぎたのはゴメン!」

「・・・ちなみに写真を提供したのはレーベンだな」

俺は,はやての言葉に反応せずにそう断定した。

《・・・マスター?》

「・・・そうだな,レーベン」

《・・・はい,私が撮影し,はやてさんに送信しました》

「・・・2人とも,覚悟はいいよね」

俺はなのはのその言葉を聞くと,
はやての制服の後ろ襟を掴みそのまま引きずって窓から外に出た。
俺の後にはなのはが続いている。
はやてが何か言っているが俺には聞こえない。

「・・・レイジングハート」

《All right》

「・・・はやて。コイツを持って行ってくれ。三途の川の渡り賃がわりだ」
俺はそう言うと,待機状態のレーベンをなのはのバインドで縛られた
はやての首にかけた。はやての口が何かを言おうとしてパクパクしているが,
残念ながら俺には届かない。

「・・・スターライトブレイカーでいいかな?」

「・・・ディバインバスターで十分だろう」

「・・・しょうがないなぁ。じゃあ行くよ」


「本当に,すみませんでした!」

部隊長室で手を腰に当てた俺となのはの前ではやてが土下座をしていた。
結局,なのはは撃たなかったのだが,はやては十分肝を冷やしたようだった。
俺となのはは,はやてに2度とこのようなことはしないことを誓わせると
満足して部隊長室を後にした。


その日の夜,おれはクレイの店を訪れていた。
いつもの会話を店で交わしたあと,店の裏にあるスペースに入ると
クレイは,一枚のチップを俺に手渡した。

「ご注文の品はそのチップの中に全部入ってますんで」

クレイはそう言うと,自慢げな笑みを俺に見せた。

「足はついてないだろうな」

「旦那,俺がそんなヘマすると思います?アクセスログなんか
 残すわけないでしょ」

「そうか。ならいい。邪魔したな」

「へいへい。また何かあったらいつでも言ってください」

俺は,店をあとにすると,自分の車で隊舎に戻った。
自室に入ったあと,個人用の端末で簡単にデータを確認した。
俺がクレイに盗ませたのは,新暦67年の地上本部のすべての通信記録と
すべての公式文書,そして時空管理局中央の庁舎の図面だった。
その両方がきちんとあることを確認すると,レーベンに話しかけた。

「レーベン。公式文書からゼスト隊の作戦計画書をすべて抽出するのと,
 6月分の通信記録をすべて抜き出すのにどれくらいかかる?」

《1晩あれば十分です》

「そうか,じゃあ明日の朝には見れるな」

《はい》

「それと,レーベン」

《はい》

「度を過ぎた悪ノリは今後一切禁止だぞ」

《悪ノリはマスターも好きではありませんか》

「・・・レーベン」

《はい,了解致しました。マスター》

俺はレーベンの返答に満足すると,眠りについた。

 

 

第18話:はじめてのたたかい


機動六課が発足して1ヶ月がたった。
クレイから情報を受け取ってからの俺は,
昼は部隊運営関係の事務を淡々とこなし,
夜は寮の自室で通信記録と文書の分析という
まぁまぁ忙しい日々を送っている。

今は,俺の執務室でグリフィスとフォワード陣以外のメンバーの
戦闘可能者リストを見ながら,緊急事態への対処マニュアルについて
相談している。

「意外というかやっぱりというか,戦闘に耐えうる人間て多くないな」

後方支援やバックヤードのメンバーの総数の割にはペラペラなリストを
パラパラとめくりながら,俺はグリフィスに言った。

「そうですね。僕もそうですけど,後方支援に回る局員は
 戦闘に耐え得ないからそういう道に進まざるを得ないという側面が
 強いですから」

「うーん。実質魔導師として戦闘に参加できそうなのは,
 10人いればいいとこだね」

「そうですね。しかも彼らは継続して訓練しているわけではないですから」

「戦力化にも時間がかかるか。実質,俺とシャマルとザフィーラの3人で
 当面は支えなきゃならんのか。辛い状況だね」

俺はそう言うと,頭をかきむしった。

「ところで,小火器類の手配はどう?進んでる」

俺がそう尋ねると,グリフィスは渋い顔をした。

「いえ,本局の動きが鈍くて,もう少しかかりそうですね」

「ったく,運用部の連中はいっつも仕事が遅いんだよ」

俺が悪態をつくと,グリフィスがとても済まなそうな顔になった。
それを見て,俺はグリフィスの母親が運用部所属なのを思い出した。

「いや。ロウラン提督のことを言ってるわけじゃないからな」

「恐縮です」

俺は,ますます居心地悪そうなグリフィスを見て,
いたたまれなくなり話題を変えることにした。

「そういえば,今日はフォワード連中の実戦用デバイスが完成したらしいぞ」

俺は今日の朝食をたまたまなのはと一緒に食べた時にそう聞いていた。

「みたいですね。シャーリーが昨日やっとできたーって小躍りしながら
 デバイスルームから出てきてましたから」
 
グリフィスはその様子を思い出したのか苦笑していた。

「ま,これでやっと所定の戦力が整ったってとこか。やれやれだ」

「そうですね。こちらの計画はまだまだですが」

「まぁ,しょうがないでしょ。とりあえず,当面の対処計画としては,
 非戦闘員の迅速な退避に軸足を置くことにして,並行して
 防衛戦力になりそうなメンバーの訓練計画を立てていくことにしようや」
 
「了解です。では,僕のほうで素案を作成しますので,
 できたら一度協議しましょうか」
 
「おう,頼むわ。いつも悪いな,めんどくさいところばかりやらせて」

「いえ,いい勉強になってますから」

その時,突然緊急警報のアラームが鳴った。

「行くぞ,グリフィス!」

「はい!」


俺とグリフィスが発令所についたときには,
士官は俺とグリフィスしかいなかった。

「ルキノ!状況報告を」

俺は,ちょうど通信の当番だったルキノに今の状況説明を求めた。

「はい!教会本部からの入電によると,レリックを運搬中の列車が
 ガジェットドローンに襲われているとのことです。
 現在,情報を集めていますが,敵機の数・構成ともに不明です」
 
「了解。前線メンバーを招集。ヘリは緊急出動準備に入れ」

「了解しました」

「現在,招集可能な前線メンバーは?」

「スターズ・ライトニングともに副隊長は外出中,ほかは隊舎で待機中です」

「八神部隊長は?」

「聖王教会に行かれてます」

「そうだったな。通信はつながるか?」

「はい!」

通信がつながるとはやてがモニターに現れた。

『ゲオルグくん。私はこれから戻るから前線指揮を頼むわ』

「いいのか?初出動だぞ」

『かまへんよ。そのほうが効率ええから』

「了解。ロングアーチ02はこれより前線メンバーを率いて現場に急行し,
 前線指揮をとります。ついては,広域警戒要員として
 リインを借りたいのですが」

『許可します!』

「了解!」

俺は,モニターの中のはやてに敬礼すると,発令所から飛び出して
屋上ヘリポートに向かった。

[リイン!聞こえるか!]

[聞こえるです,ゲオルグさん!]

[俺が前線指揮を取るから広域警戒要員として同行してくれ]

[わかりました!屋上でいいですね]

[ああ,頼む!]


俺がヘリポートにつくと,ヘリが既に待機していた。
俺はヘリに乗り込むと,パイロットのヴァイス陸曹に話しかけた。

「陸曹!ロングアーチから現場情報はリアルで入ってるな?」

「もちろんっすよ。レーベンにつなぎますね」

「頼む」

俺は現場周辺の地図を確認して舌打ちをした。
列車が走っているのが崖の上だったからだ。
崖下への落下の危険もあり,あまり陸戦をやりたいロケーションではない。

『ロングアーチよりロングアーチ02。敵戦力の構成についての情報です。
 現在,列車周辺の上空に20~30機の飛行型ガジェットが展開。
 列車内には1型が30以上は侵入している模様。
 また,未確認情報ですが,新型の大型ガジェットが存在する可能性ありです』

「ロングアーチ02,了解」

そこで,前線メンバー全員とリインがヘリに乗り込んできた。

「ゲオルグくん,遅くなってゴメン」

最後になのはがそう言いながら乗り込んできた。

「構わないよ。ヴァイス,離陸だ!」

「了解っす!」

こうして,俺たち機動6課にとって初めての実戦が幕を開けた。


 

 

第19話:エアボーンミッション


ヘリが離陸してすぐに、ゲオルグは機内のメンバーの顔を見まわす。
なのはやフェイトは引き締まった表情をしているが、
固さや気負いは感じられない。さすがは歴戦の雄といったところである。
一方の新人達は緊張感でガチガチになっているのが容易に見てとれた。

(これは作戦開始前に一回話をしないとな・・・)

ゲオルグはそう考えるが、同時に前線指揮官として現場につくまでの間に
作戦を立案し、ブリーフィングを終えなくてはならない。
ゲオルグはレーベンが表示するディスプレイに映った現時点での情報から
作戦を立てるとブリーフィング用の作戦図を作成していく。

作戦図を作成し、作戦案の見直しも終えたゲオルグは機内の中央に立ち、
前線メンバーに向かって話を始める。

「ブリーフィングを始める。全員注目」

ゲオルグがそう言うと、機内のメンバーはゲオルグの顔に目を向ける。
全員の表情を確認すると、状況の説明から始める。


「まずは全体状況だ。
 約15分前に、指定ロストロギアであるレリックを運搬中の列車が
 ガジェットの編隊によって襲撃されているとの連絡が教会本部から入った。
 本作戦の目的は、第1に運搬中のレリックの確保。第2にガジェット編隊の
 完全撃破だ。ここまでのところで質問は?」
 
ゲオルグが機内を見渡すと全員が頷いているのが見えたので、先を続ける。
 
「では詳細状況を説明する。このモニターを見てくれ」

ゲオルグは、そう言って先ほど作成した作戦図を表示させた。

「列車は渓谷地帯を走行中のため、陸戦が可能な領域は列車内および
 列車の上面に限られる。また、片方は深い谷になっているため、
 列車から谷側への落下には十分注意するように。
 敵戦力は現在確認できている限りで上空に飛行型が10ないし20。
 列車内に1型10機以上、および未確認だが新型の存在する可能性がある」
 
ゲオルグがそこまでを一気に話すと、ティアナが手を挙げた。

「新型の数は?」

「不明だ。性能も含めてロングアーチで調査中。他になければ続けるぞ。
 レリックは、列車中央の車両に搭載されている。
 よって本作戦では列車の前後両端に部隊を降下させ前後双方から
 列車中央に向かって順番に制圧していく方法をとる。
 ただし敵に航空戦力があるため、降下前に制空権を抑える必要がある。
 よって陸戦要員に先行してスターズ01およびライトニング01が出撃し、
 敵航空戦力をせん滅してもらう。両名とも頼むぞ」
 
「「了解」」

ゲオルグがなのはとフェイトに目を向けると、2人はゲオルグに向かって頷く。
ゲオルグも2人に向かって頷き返すと、説明を続ける。

「現場周辺の制空権を確保した時点で、残り4名は列車に向けて降下・制圧だ。 列車前方はスターズ03および04、後方はライトニング03および04だ。
 いいな?」

「「「「はい」」」」

「降下完了後、先行した2名は上空警戒。
 前方部隊のリーダーはスターズ04、後方部隊は俺が直接指揮する。
 スターズ04は逐次状況を報告するように。
 また前方部隊は先頭車両を制圧後に列車を止めろ」
 
「なぜですか?迅速な列車全体の制圧が優先されると思いますけど」

ティアナが首をひねりながら尋ねる。

「列車が高速走行していると、揺れるし走行風もバカにならんからな。
 万が一屋根の上でバランスを崩したら崖下にまっさかさまという
 事態にもなりかねん。なので、安全に作戦を遂行するためにも列車は止める。
 いいな?」

「了解しました」

ゲオルグの言葉にティアナは大きく頷く。

「また、列車内という狭隘な空間に多数のガジェットが展開していることから
 列車内のAMF濃度はかなり高いと推測される。十分注意しろよ」

「「「「「「はい」」」」」」

「以上が作戦骨子だが、何か質問は?」

ゲオルグがそう訊くと、なのはの手が挙がった。

「ロングアーチ01の配置は?」

「俺は、リイン曹長とともに現場における全体状況の把握と指揮に専念する。
 ただし、列車内での戦闘において問題が発生した場合に備え、
 ヘリからは出撃して、上空で待機する。
 リイン曹長には広域警戒を担当してもらう。
 両隊長は知っての通り俺の空戦能力は実戦に耐えうるものではない。
 よって上空警戒は両隊長に依存する形になる。十分注意してくれ」
 
「「わかりました」」

「他に質問がなければ、以上だ。全員待機」

ゲオルグはそう言うとなのはに近づく。

「なのは、4人の実戦用デバイスの起動テストは終わったのか?」

ゲオルグがそう聞くと、なのはは首を横に振った。

「今日の午後にテストを予定してたから、ぶっつけ本番だね。ごめん」

「仕方がない。お前のせいじゃないから気にすんな」

「うん、ありがと」

「ゲオルグさん。列車が視界に入りましたよ!」

操縦室のヴァイスからゲオルグに報告が入る。

「よし、両隊長は出撃してくれ。気をつけろよ」

「「了解」」

なのはとフェイトはそういうと、後方のドアから出撃していった。

後には、緊張で固くなった新人たちが残された。
ゲオルグは、彼ら4人に話しかける。

「俺からちょっとアドバイスがあるんだけど聞くか?」

ゲオルグがそう言うと、4人は一斉に俺を見た。


 お前らはこれまでなのはの厳しい訓練を1カ月頑張ってきたんだ。
 だから,実戦くらいは頑張らなくていい。
 ただ,自分ができることを無理のない範囲でやればいい。
 やばいと思ったら助けを呼べばいい。
 さっきはレリックの確保が第一目的だって言ったけど,
 最優先すべきなのは,お前たちが無事に帰ってくることなんだ。
 お前たちが笑って無事に戻ってきてくれることが,
 俺やなのはやフェイトにとっては最大の喜びだからな。
 せいぜい,無事にもどって俺たちを喜ばせてくれ」

俺がそう言うと,4人の顔に笑みが浮かんだ。

『こちら,スターズ01。航空戦力のせん滅を完了。上空警戒に移行します』

『ライトニング01より,ロングアーチ02。こちらも制空権を確保』

「よし,ちょうどなのはとフェイトがお前たちの花道を用意してくれたんだ。
 ありがたく使わせてもらって来い!」
 
「「「「はい!」」」」

フォワード4人が降下してから,俺は気持ちを引き締めた。

「よし,俺たちも行くぞ!リイン」

「はいです!」

俺は,操縦室に向かうとヴァイスに声をかけた。

「ヴァイス。ここまでありがとう。気をつけてな」

「はい。ゲオルグさんも気をつけて。あいつらを守ってやってください」

「言われるまでもねぇよ。じゃあな」

俺は笑ってそう言うと,空中に身を投げ出した。

「レーベン!セットアップだ!」

《了解です。マスター》

俺は漆黒の騎士甲冑を身にまとうと,列車の速度に合わせて飛行を始めた。
列車の方を見ると,すでにフォワード達が戦闘を始めていた。
俺が,車両後方の状況を注視していると,ティアナから通信が入った。

『こちらスターズ04。先頭車両を制圧しましたが,
 手動での列車制御ができません。応援を要請します』

「リイン。列車制御の回復作業はできそうか?」

「現地に行けばなんとかできます!」

俺はリインの言葉に頷くと,ティアナに指示を出すことにした。

「ロングアーチ02よりスターズ04。列車制御回復要員としてリイン曹長を
 向かわせる。スターズFは次の車両の制圧に移行しろ」

『スターズ04了解。次の車両の制圧に移行します』

「ロングアーチ02よりロングアーチ,ヘリからのサーチャー散布と
 広域警戒を要請する」

『ロングアーチ了解。ヴァイス陸曹,サーチャーを散布してください』

『了解!』

「ロングアーチ02よりスターズおよびライトニング各員へ,
 広域警戒がリイン曹長からロングアーチに移行した。
 以後,広域警戒情報のタイムラグに注意。なお本信への返答は不要だ」

俺がもう一度列車後方に目をやると,エリオとキャロが
順調に制圧を完了し次の車両の制圧に向かうところだった。

ティアナからも順調に制圧が進んでいる旨の連絡が入っている。

(順調だな。これなら俺の出番はないか・・・)

エリオがレリックを搭載している車両に後一両まで迫ったとき,
エリオから通信が入った。

『こちらライトニング03。新型のガジェットと遭遇しました。
 AMFが強力で・・・』

そこで通信が途切れたかと思うと,中央部の車両から1両後ろの車両の屋根が
吹き飛び,触手のようなもののついた大型のガジェットが姿を現した。
新型ガジェットは,一方の触手でエリオを突き飛ばすと,
もう一本の触手でエリオを掴んで谷側に投げ捨てた。

「キャロ!!」

俺がそう叫ぶとキャロは列車から飛び降り,AMFの圏外に出ると,
フリードを大型化させた。
大型化したフリードはエリオを回収すると,列車と同じ高さまで上昇していく。

「ライトニング04。フリードの制御は問題ないか?」

『はい,問題ありません』

「ライトニング03。戦闘継続は可能か?」

『はい。可能です。』

「よし,キャロ。エリオに攻撃力のブーストをかけろ。
 エリオは新型を一気にブチ抜け!」

『『了解!』』

キャロの補助魔法で攻撃力が増大したエリオが,新型ガジェットを
撃破したのを見て,俺はほっと息を吐いた。

『ライトニング03よりロングアーチ02。レリックを確保しました。』
『スターズ04よりロングアーチ02。ガジェット全機撃破』

「ロングアーチ02了解。ライトニング04はレリック封印作業に移行しろ」

『ライトニング04了解』

『ロングアーチ02。リインです。列車制御を回復しました。停止させます』

「ロングアーチ02了解」

俺がそう言うのと同時に列車が停止した。

「ロングアーチ02よりロングアーチ。状況終了。警戒態勢に移行します」

『ロングアーチ了解。お疲れ様でした』


俺たちは停止した列車の脇に集合した。
俺の前にはフォワードの4人が立っていた。

「お前らよくやった。初陣なのにほぼ完ぺきだったぞ」

「「「「ありがとうございます」」」」

そこに,上空警戒に当たっていたなのはとフェイトが下りてきた。

「なのはもフェイトもお疲れ。とりあえずあいつらをねぎらってやって」

俺がフォワード達を指さして,そう言うとなのはとフェイトはそれぞれの
部下たちのもとへ行った。

『ロングアーチよりロングアーチ02。現場引き継ぎはライトニングに任せ,
 スターズとともに帰投してください』

「ロングアーチ02了解」

俺はそう返答すると,ライトニング隊のところに向かった。

「フェイト。さっきの通信のとおり,現場の引き継ぎは任せるよ」

「うん,任せて。ゲオルグもお疲れ様。おかげで安心して戦えたよ」

「どういたしまして。お,そう言えばエリオにキャロ」

「「はい?」」

「お前らよくやったよ。エリオは新型に勇気を持って向かっていったし,
 キャロの状況判断はとてもよかったぞ」
 
俺はそう言うと,2人の頭をグシャグシャとすこし乱暴になでた。

「「ありがとうございます,ゲオルグさん」」

「どういたしまして。んじゃフェイト」

「うん。先に帰ってて」

そして,俺とスターズ分隊の3人はヘリで隊舎へと戻った。


 

 

第20話:お姉ちゃんのカタキっ!


機動6課が初めての実戦を経験した日,その午後。
俺は,今日の戦闘の反省会に出席するため隊舎の会議室に向かっていた。
会議室に入ると,すでにほとんどの参加メンバーが揃っていた。
俺がはやての横に座ると,はやてが話しかけてきた。

「お疲れさんやったね,ゲオルグくん」

「いや,俺は何もしてないぞ」

俺がそう言うと,はやては少し笑みを浮かべた。

「ううん。ゲオルグくんが前線できっちり指揮してくれたお陰で,
 迅速に作戦を完了できたと思てるよ」

はやてがそう言ったのと同時に,現場での引き継ぎのために遅れて帰投した,
フェイトが会議室に入ってきた。
フェイトがなのはの隣に座ると,はやてが口を開いた。

「みんな今日はお疲れ様でした。
 ただ,今後も今回と同じような緊急出動が続く可能性もあります。
 そやから,みんなの記憶が鮮明なうちに本日の戦闘について振り返って,
 今後に向けて改善するべきところは改善していきたいので,
 みんな疲れてるところで申し訳ないけど集まってもらいました」

はやてがそう言うと,全員が頷いた。

「そしたら,まずは,今日の作戦で前線指揮をとった
 シュミット副部隊長から作戦の概要を説明してください」

「判りました。
 本作戦においては,第1にレリックの確保が目的でした。
 よって今回は列車の前後からそれぞれツーマンセルでの挟撃という
 戦術を採用しました。理由は,第1にガジェットによるレリックの
 列車外への持ち出しを防ぐため。
 第2に陸戦要員が分断されて各個に撃破されるのを防ぐためです
 ただし,戦場が走行中の列車内であること,および列車が走行しているのが
 峡谷地帯であることから地上での部隊展開には困難が伴うと判断し,
 陸戦要員をヘリから直接降下させる方法をとりました。
 また,周辺空域に飛行型ガジェットが展開しているとの事前情報もあったため
 陸戦要員の降下前に現地の制空権を抑えることを優先しました
 以上が当初立案した作戦の概要およびその理由です」
 
俺が話を終えると,はやてが俺を見て頷いた。

「ありがとう。ここまでのところで何かありますか?」

はやてはそう言って室内を見回したが,特に発言はないようだった。

「ほんなら,私から質問。作戦開始時点では敵戦力の情報も曖昧やったし,
 予想よりも敵戦力が多い可能性を考えると,降下部隊を2つに分けることで
 各個に突破される可能性が高まるから,分けへんほうがよかったように私は
 思うんやけど,ゲオルグくんの見解は?」

「今回に関して言えばその可能性はあまり重視してないね。
 理由としては,列車内の戦況悪化に対して追加投入できる戦力が,
 まず俺,次になのはとフェイトと充実してたから」

「そやけど,ゲオルグくんはともかくなのはちゃんやフェイトちゃんは
 敵の航空戦力の増援があった場合には対応せなあかんやろ。
 地上戦の予備戦力として計算に入れるんは期待度高過ぎちゃうやろか」
 
「だからこそ,リインに広域警戒・索敵を頼んだんだよ。
 まぁ,途中からサーチャーによる監視に切り替えたけど。
 いずれにせよ広域警戒情報が早めに出せる環境を整えることで,
 なのはやフェイトが空と陸のどちらにでも使える状況を作ったんだ。
 それじゃあ,対応できないほどの増援が出た場合には,
 撤退しかなかっただろうね」

「そうか,隊を割ろうが割るまいが,そのへんは変わらんかったやろうと」

はやてが俺を見ながらそう言ったので,俺は頷いた。

「なるほどな。納得や。ほんなら,あとは各自今回の作戦で思ったことを
 自由に発言してください」

その後,2時間ほど今回の戦闘について議論し,会議はお開きとなった。
俺が,席を立って部屋を出ようとしたところで,はやてが
俺となのはとフェイトを呼び止め,部隊長室に来るように言った。



部隊長室に入ると,はやてはモニターに1枚の画像を映した。

「これは今日捕獲した新型ガジェットの残骸の画像や。
 んでこっちが,制御装置と思われる部分の拡大なんやけど」

はやてはそう言うとモニターの画像を変えた。
すると,なのはとフェイトの表情が変わった。

「・・・ジュエルシード」

フェイトがつぶやくようにそう言った。

「ジュエルシードって,あのPT事件の?」

俺がそう聞くと,はやては頷いた。

「そう,なのはちゃんとフェイトちゃんには因縁のあるロストロギアやね」

はやてがそう言うと,なのはとフェイトは苦しそうな表情だった。
俺はPT事件は記録で読んだことしか知らない。
だが,なのはとフェイトが敵同士として死闘を演じたと聞いたことはあった。
今の2人しか知らない俺には想像もつかなかったが。

「んで,この画像のこの部分を拡大すると・・・」

はやてがそう言ってもう1枚の画像を表示させた。
俺はその画像を見た瞬間,全身の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。

「・・・ジェイル・スカリエッティ」

俺はかすれた声でそう言った。

「そう,稀代の天才科学者にして,最重要視名手配の時空犯罪者,
 ジェイル・スカリエッティ。こいつがレリック事件の背後におる
 可能性が非常に高いっちゅうわけや・・・ってゲオルグくんどないしたん」
 
はやてが俺に声をかけたので,俺は我に返った。

「ん?なんでもねーよ」

俺はそういったが,なのはが心配そうに見つめてきた。

「嘘だね。そんな顔のゲオルグくんなんて見たことないもん。どうしたの?」

「うん,なのはの言うとおりだよ。
 ゲオルグ,何かあるなら話してくれないかな。
 スカリエッティは私もずっと追ってきた犯罪者だし」

なのはとフェイトはそう言ったが,俺は首を横に振った。

「別に何もないよ。ただ,大物の名前が出てびっくりしただけ」

俺が下をむいてそう言うと,はやては俺を見つめてきた。

「あかんよ,ゲオルグくん。そんな泣きそうな顔して言っても
 何か隠してますって言ってるようなもんやで」

俺が顔を上げると,なのはとフェイトが心配そうな顔を向けていた。

《マスター,これ以上隠すのは無理でしょう》

「レーベン,やっぱりなんかあるんやな!」

はやてがそう言った。

《はい,スカリエッティはマスターのお姉さんを殺した犯人です》

レーベンがそう言うと,ハヤテたちは息を飲んだ。

「・・・ほんまなんか?ゲオルグくん」

はやてもなのはもフェイトも不安そうな顔をしていた。

「ああ,本当だよ。俺の姉ちゃんは俺より5つ年上だったんだけど,
 地上本部の魔導師でさ,8年前に姉ちゃんの所属部隊がスカリエッティの
 アジトの一つを発見して,踏み込んだんだけど全滅したんだ」

「8年前ってことは,私と出会ったときには,もう・・・」

フェイトが辛そうな顔をして聞いてきた。

「そうだね。ちなみに,俺は姉ちゃんが死んだときには
 時空航行艦に魔導師として配属されたばかりでね。
 姉ちゃんの葬式にも出られなかった」

俺は,絞り出すように言うと,両手を握り締めた。

「そうやったんか。ごめんな,嫌なこと話させてしもうて」

はやてが済まなそうな顔で俺に言った。

「・・・いいよ,もう。それに悪いのはスカリエッティだから」

俺はそれだけ言うと,部隊長室を後にした。



俺は,自室に戻るとクレイに盗ませた地上本部の公式文書の中から
最近見つけた文書を眺めていた。
それは,ゼスト隊が作成したスカリエッティのアジトに踏むこむ作戦の
計画書だった。
計画書は,実際に作戦が実行される3週間前に作成されていた。
そして計画書には,応援部隊のリストも記載されていた。

(当初の計画では,首都防衛隊をはじめとして5部隊で突入する
 つもりだったのに,実際にはゼスト隊だけで作戦を強行した。
 ってことは・・・)

俺は同じくクレイに盗ませた通信記録を調べ始めた。
ゼスト隊が応援を要請した部隊の通信記録を見ると
ゼスト隊からの応援を要請する通信があった後に,
地上本部上層部から内容のわからない秘匿通信が入っていた。

(地上本部上層部からゼスト隊を援護しないように
 圧力をかけたんだろうな。でも,証拠がないんじゃなぁ)
 
俺は端末を閉じると,眠りにつくことにした。
 

 

第21話:訓練は本番さながらに


今日は,朝から俺には珍しく緊張していた。
というのも,前からグリフィスと準備してきた
隊舎において緊急事態が発生したときの対処訓練を行うからだ。

というわけで今は機動6課自慢の訓練スペースの前に,
ロングアーチ・メカニック・バックヤードのスタッフが勢揃いしている。

「あー,朝からみんな集まってくれてありがとう。
 今日は,八神部隊長は出張で不在ではあるが,
 先日予告したとおり緊急事態対処訓練を行う。
 訓練とはいうものの訓練スペースに隊舎をまるごと再現して
 行う大規模な訓練だし,擬似的とはいえ敵の攻撃を受ければ
 隊舎が破壊されてがれきが発生したりする。
 なので,緊張感をもって訓練に参加し,怪我のないように注意するように。
 では,全員通常勤務の際の配置についてくれ」
 
俺が挨拶を終えると集まったスタッフがぞろぞろと訓練スペースに
再現された6課の隊舎に入っていった。
俺はその様子を一瞥すると,ほかのスタッフとは別に集めていた
前線メンバー全員とシャマル・ザフィーラの方に歩いて行った。

「で,今入っていった連中にとってはかなりリアルとはいえ
 ほぼ避難訓練に過ぎないんだが,お前らの役割はちょっと違う。
 今日の訓練では,前線部隊の隊長・副隊長陣に隊舎襲撃役をやってもらって,
 フォワード一同とシャマルにザフィーラは俺の指揮下で隊舎防衛の訓練な」

俺がそういうと全員が頷いていた。

「よし。じゃあ防衛側のみんなは通常勤務の配置で待機な」

俺は残った隊長陣の方を見るとニヤリと笑った。

「じゃあ襲撃者の皆さん。手加減無用だからな」

俺がそう言うとなのはが心配そうな顔をしていた。

「ゲオルグくん本当にいいの?戦力差がありすぎるんじゃない?」

「なのは。防衛側3倍の法則って知ってるか?」

俺がそう聞くとなのははこくんと頭を傾けた。

「おいおい,知らねーのかよ。
 攻撃側の戦力が防衛側の3倍で戦況が拮抗するっていう戦術理論だよ。
 ま,これは野戦の場合で,今回の俺たちは隊舎にこもっていて,
 さらに,スタッフ全員の退避完了までの時間稼ぎができればOKっていう
 条件だから,もっと防衛側の戦力が高くなるんだけどね。
 ま,見事に全員逃がしてみせるから見てなよ」

俺はそう言うと不敵に笑った。



俺は訓練スペースに再現された隊舎の副部隊長室で菓子を食べていた。
攻撃がいつ始まるかは,隊長陣に任せてある。

(さてと,連中はどんな戦術でくるかな?)

俺がそんなことを考えながらぼーっとしているとルキノから通信が入った。

「何だー。ルキノ」

『副部隊長,隊舎の南500mの地点にアンノウン1体出現です。指示願います』

「わかった。俺も発令所に行く。それまで監視を継続。あと招集できる
 前線メンバーは?」

『スターズ03・04およびライトニング03・04の4名です。自室にて待機中』

「了解。全員を発令所に招集しておいてくれ」

『了解しました』

ルキノとの通信はそのままつないだままにしておいて,
俺はシャマルとザフィーラに念話で話しかけた。

[シャマル,ザフィーラ聞こえるか?]

俺が2人に問いかけると2人から聞こえると返答があった。

[隊舎の南方500mにアンノウンが出現した。念のため警戒態勢をとる。
シャマルは広域探査,ザフィーラは隊舎南側で迎撃準備をたのむ]

[判りました]

[心得た]

シャマルとザフィーラからの返答を確認すると,俺は発令所に向かおうとした。
その時,ルキノの悲鳴のような声が聞こえた。

『副部隊長!アンノウンから高エネルギー体が発射されました!』

「了解!警報鳴らせ!」

俺はルキノに指示を出しながら,ザフィーラに呼びかけた。

[ザフィーラ!]

[見えている,任せろ!]

俺は,ザフィーラからの返答に一息つくと,レーベンをセットアップした。

「ロングアーチ02よりロングアーチ。状況に変化は」

『え?あ,はい。南側からアンノウン2,東西両方向から
 それぞれアンノウン1が接近中です』

「ロングアーチ02了解。シャマル!」

『ロングアーチからの報告のとおりよ』

「こっちにもデータを回してくれ」

『了解』

そのとき,隊舎が大きく揺れた。

[ザフィーラ!無事か!?]

[私は問題無い。がすまん,シールドを破られた]

[わかった。引き続き頼む。スタッフの退避を始めさせるから
きつくなる前に徐々に後退して時間を稼ぐぞ。俺もそっちに行く!]

[了解!]

『ロングアーチよりロングアーチ02。屋上ヘリポートが損傷しました。
 アンノウンは急速接近中。現在隊舎から300mです。』
 
「了解!隊舎は放棄する。総員退避!」

『ロングアーチ了解。管制はシャマル先生に引き継ぎでいいですね?』

「そうだ!お前らも早く退避しろ!」

『了解です』

「ロングアーチ02より機動6課各戦闘員へ。
 現在アンノウンが3方向より接近中。
 スターズFは東側,ライトニングFは西側のアンノウンに対処。
 スターズ04・ライトニング04に指揮を任せる。逐次状況を報告せよ。
 俺は,ザフィーラと協力して南側を抑える。
 以降,広域警戒および管制はシャマルに一任する」
 
『スターズ了解』
『ライトニング了解』
『シャマル了解』

「レーベン!南側アンノウンの距離は?」

《1体はまもなくザフィーラさんと接触。
 もう一体は隊舎から200mで停止しました》

(クソ・・・早いな)

俺は窓を副部隊長室の窓を破ると隊舎の南側に出た。
上を見るとフェイトとザフィーラがすでに交戦していた。

「レーベン!スピードブースト。突っ込むぞ」

《はい,マスター》

俺はレーベンを構えると,フェイトに向かって直線的に突っ込み,
フェイトの胴をなぎ払おうとした。
が,フェイトは俺の斬撃を躱すと,一旦距離をとった。

「すまんザフィーラ遅くなった」

「いや,よく来てくれた」

『シャマルよりロングアーチ02。南側から高エネルギー体接近!』

俺がそちらを見るとなのはのディバインバスターが
こちらに迫ってくるのが見えた。

「ザフィーラ!フェイトは俺が抑える!」

「心得た!」

ザフィーラはそう言うと,シールドをななめに張った。

なのはのディバインバスターはザフィーラのシールドに弾かれ
真上にそれていった。

一方俺の方は,ハーケンフォームのバルディッシュを構えたフェイトと
対峙していた。

『シャマルより各員へ。現在非戦闘員の退避は75%完了しました。
 退避完了まではあと5分ほど』

(5分か。俺の空戦技術じゃキツイな・・・)

「シャマル!ロングアーチ02だ。スターズおよびライトニングの状況は?」

『両方共押されていますが,なんとか退避完了までは持ちそうです』

「ロングアーチ02了解」

(援護は期待できないし,なのはにこれ以上砲撃されるのはうまくないな)

「ゲオルグ。私はなのはを抑えに行く」

「頼む。これ以上砲撃が来るのは厄介だ」

「任せろ」

ザフィーラはそう言うと南に向かって飛んでいった。

「ゲオルグ。空中戦で私に勝てるの思ってるのかな?」

フェイトが俺を見下ろしながらそう言った。

「さあね。簡単に抜けると思うならやってみればいいじゃない」

俺はレーベンを握りなおした。

フェイトがバルディッシュを振りかぶって俺に向かって突っ込んできた。

[レーベン。ここは防御に徹するぞ。抜かれたら終わりだ]

[《了解しました,マスター》]

俺はレーベンでバルディッシュの斬撃を受け流すと,
その勢いを利用してフェイトにレーベンを振り下ろした。
だが,フェイトはバルディッシュの柄で軽々と受け止めると
俺を隊舎に向けて吹き飛ばした。

「がはっ・・・」

俺は隊舎に叩きつけられ肺の空気が押し出された。
周りには隊舎が砕けた破片なのか砂埃が舞っている。

[・・・レーベン,ステルス起動]

《了解,マスター》

俺はステルスモードに入ると砂埃の中から上に向かって,飛び出した。

フェイトは俺が先ほどまで中にいた砂埃の方を見つめている。

[レーベン,カートリッジロード。メッサーレーゲンで行くぞ!]

[《了解しました》]

俺は,カートリッジを2発ロードすると,
俺を見失っているフェイトに向かって,魔力の刃を大量に降らせた。

フェイトはその魔力反応で気づいたのか,シールドで防御しようとする。

(それじゃあコイツは防げないぜ,フェイト)

メッサーレーゲンはただの魔力弾と違い,極限まで薄く磨いだ
魔力の刃を飛ばす魔法なので,威力は小さいがシールドを切り裂いて
相手に命中させることができる。

俺の目論見どおり,いくつかの魔力刃が命中したようで,
フェイトのバリアジャケットは何箇所か裂けていた。

『シャマルよりロングアーチ02。非戦闘員の退避が完了しました』

「ロングアーチ02了解!ロングアーチ02より機動6課各員へ。訓練終了!」

俺はそう言うと,ステルスモードを解除した。

(やっぱり,空中戦でステルスはキツイな。3分が限界か・・・)

俺は,もう魔力もほとんど残っていない。
飛んでいるのも限界だったので,地上におりた。

そこにフェイトが涼しい顔をして降りてきた。

「うーん。うまく時間を稼がれちゃったね。私もゲオルグに被弾させられたし」

「ギリギリだったけどな。ステルスはもう1分くらいしか持たなかったし」

「やっぱり,あいかわらず空中戦は苦手なんだ」

「うん。なんか飛行魔法の効率が悪くてね。
 多分魔力性質の相性の問題なんだけど」

「じゃあ劇的な改善は望めないか。惜しいね」

「こればっかりは,しょうがないよ。ま,空中戦なんかしないで済む状況を
 作れるように頭を使うさ。もともとガチンコで戦うのは好きじゃないし」

俺はそう言うとフェイトに笑ってみせた。

 

 

第22話:反省は大事ですよ


午後になって,俺は緊急事態対処訓練の反省会の1つめに
参加していた。
こちらは,非戦闘員の退避についての内容が中心である。

最初に,グリフィスから今回の訓練の結果について報告があった。

「今回の訓練では,退避命令発令から非戦闘員全員の退避完了まで
 12分。退避できなかったものはなし。負傷者は3名です」

「負傷者の負傷原因は?」

「3名とも転倒です。いずれも複数の退避経路が合流する地点で
 発生しています」

「では,敵側の攻撃による負傷者は0か」

「そうなりますね」

「結果だけを見れば上出来だね」

「はい」

「じゃあ,今回の訓練で気づいたことがあれば自由に発言を」

俺がそう言うと,全員の手が上がった。

「おっ,いいねぇ。ならシャーリーから順に時計回りで発言を」

俺がそう言うと,シャーリーが立ち上がった。

「今回の退避完了までの時間は12分だったみたいなんですけど
 デバイスルームから退避している感じでは,もっと短縮できる
 と感じました」

「理由は?」

「途中までは走って退避できたんですけど,バックヤード関係の皆さんと
 退避経路が合流するところで,詰まっちゃったんです」

「つまり,退避経路の見直しによって退避時間の短縮を見込めると」

「そうですね」

シャーリーが座ったので俺はグリフィスに目を向けた。

「では,映像での退避行動の分析を行う際に,
 退避経路の改善案についても検討するようにしましょうか,ゲオルグさん」

「そうだな」



その後も,いくつか今後の検討を要する意見が出て,
最後にグリフィスの番が来た。

「それでは最後に私の方から,迎撃の指揮をとったゲオルグさんに
 質問なのですが,今回の退避時間で十分なのでしょうか?」

「結論から言えば十分じゃないと俺は考えてる。
 というのも,今回はフォワード連中を迎撃戦力として使えたために,
 隊舎内部への侵入を防ぐことができた。
 また,敵の接近を感知してから攻撃を受ける形になったために,
 最初の砲撃からある程度迎撃することができて,
 隊舎そのものの損害を最小限にすることができた。
 最後に通信・索敵系統を戦闘終了まで維持できた。
 要は,迎撃戦力も整ってたし初動がうまくいったために
 理想的な迎撃ができた。
 それ自体はいいことなんだが,実際に攻撃を受けたときには
 より絶望的な状況も想定できる。
 それを考えると,退避時間は短ければ短いほどいいと俺は考えてる。
 なんで,退避時間短縮の検討は非常に重要だ」

「分かりました。ありがとうございます」

「他になければ今日のところは終了としたいがいいかな?」

俺が室内を見回すと,全員が頷いていた。

「よし。じゃあ今日は解散。みんなお疲れさん」

会議に参加したメンバーが次々と立ち上がっていくなか
俺は隣に座っているシャーリーに声をかけた。

「シャーリー。ちょっといいか」

「はい,なんですか?」

「素朴な疑問なんだけどさ,ガジェットってあのサイズでAMFを展開できる
 魔導機械じゃない。で,防衛用の機器として隊舎に
 AMF発生装置みたいなものを設置できないか?」
 
「可能ですよ。AMF自体は昔からある魔法ですし,魔導機械も既に
 実用化されて久しい技術ですから。
 隊舎に設置ということであればエネルギも外部からの供給でまかなえますから
 完全に魔力結合を阻害する強度のAMFを展開させようと思えば可能です」

「そうか,じゃあ次回の訓練では訓練スペースの擬似AMFを使ってみるか。
 導入するにしても効果は確認しておきたいしね」

俺がそう言うとシャーリーは頷いた。

「もう1つ聞きたいんだけどさ,AMFが昔からある魔法なのと同じでさ
 AMFを無効化する魔法としてAMFCってのも結構昔から知られてるだろ。
 で,AMF下での戦闘用としてさ携帯用のAMFC発生装置って作れないか?」
 
俺がそう聞くと,シャーリーは少し考え込んでから口を開いた。

「理論上は可能なんですけど,どういうシステムにするかも
 考えないといけないですね。魔力エネルギー調達方法とか。
 一度私の方で案を作りましょうか?」

「頼めるか?できれば複数案あるとありがたい」

「わかりました。1週間くらいで素案を持っていきますね」



シャーリーとの会話が終わっても俺は会議室から動かなかった。
というのもこれから迎撃チームの方の反省会が行われるからだ。

前線メンバーとシャマル・ザフィーラが揃ったところで
俺は,反省会を始めることにした。

「みんな今日はお疲れ様。疲れてるところで申し訳ないけど
 鉄は熱いうちに打てって言葉もあるし,今日のうちに反省できるところは
 反省しておこうか。じゃあまずは,今日の訓練での戦闘を
 映像で振り返ろう」

俺はそう言うと,今日の訓練での戦闘を戦域ごとに順番に見せた。

「じゃあ,ここからは自由討論で行こうと思うんだけど,
 まずは指揮官として一つ聞いておきたいことがある。
 ティアナにキャロ。俺が最初に出した命令は覚えてる?」

俺が2人にそう聞くと,ティアナが口を開いた。

「確か,現場指揮は私とキャロにそれぞれ任せる。だったかと」

「それじゃダメだね。俺は逐次状況を報告せよって言ったはずだよ」

俺がそう言うと,シャマルが頷いた。

「でも,俺は一度も2人からの状況報告を聞いてないし,通信記録を見ても
 シャマル宛の状況報告もなし。間違いないよね,シャマル」

「ええ。一度も2人からの状況報告は受けてないわね」

「で,結果として俺は敵と交戦中っていう1秒が惜しい状況にも関わらず,
 応援要請が可能かどうかの状況確認のために,
 シャマルに状況確認の依頼をせざるを得なかった。
 さて,2人とも。弁解があるなら聞こうか」

俺がそう言って2人を見ると,まずティアナが口を開いた。

「状況報告ができなかったのは申し訳ないと思ってます。
 でも,私もスバルもヴィータ副隊長の攻勢を支えるので精一杯で
 そんなことを考える余裕はありませんでした」

「あの,私も同じです。」

ティアナに続いて,キャロが発言した。

「・・・2人とも認識が甘すぎるな。
 前線指揮官への状況報告を”そんなこと”だって?
 お前ら戦場なめてんのか?あ?」

俺が少し声を荒げてそう言うと,フォワード4人はビクっと肩を震わせた。

「それから,スターズ・ライトニング両隊長」

「「はい」」

「部下に戦闘中の命令遵守を徹底をさせておくように」

「「了解しました」」



その後は,各戦域での戦闘について細かい戦技面での議論が続き
反省会は終了した。俺は,部屋に戻ろうとするフォワード4人に
声をかけた。

「なぁお前らさ。ちょっと面白いもん見せてやるから,
 ちょっと俺の部屋においで」

俺がそう言うと,4人はお互いに顔を見合わせてから,俺に向かって頷いた。



副部隊長室に入ると,フォワード4人以外に隊長・副隊長達も入ってきた。

「なんでお前らもいるんだよ」

「ゲオルグが面白いもん見してくれるって言うからな。
 あたしらも見てーと思ったんだよ」

俺がそう聞くと,ヴィータがニヤニヤしながら言った。

「ま,いいけどな。んじゃちょっと待ってな」

俺はモニターにある戦闘の記録を映し出した。

「これは,8年前に行われたある戦闘の記録を図にしたもんだ。
 この戦闘の目的は,洞窟内部にあるテロリストの拠点壊滅だ。
 で,魔導師隊が2個分隊投入された。
 この拠点は事前偵察で2つの坑道でつながっていることがわかっていたんで
 その両方を1個分隊ずつで抑えようって計画だな。ま,ありがちな作戦だ」

俺はそこまで話すと,少し映像を動かした。

「洞窟内部に突入した2つの分隊のうち1つは進んでいくうちに,
 事前の情報には無かった分岐を発見する。だが,その分隊の分隊長は
 指揮官への報告をせずに予定通り,拠点への突入地点へ向かった」

俺はさらに映像を動かす。

「だが,いざ突入を開始すると予想よりも敵の攻勢が強く,
 突破は不可能と判断した分隊長は,洞窟入口までの撤退を開始する。
 だがここでもこの分隊長は指揮官への報告はしてない。
 敵の攻勢が強く,自分自身が戦闘で手一杯だったからだと記録されてる」

俺はフォワード一同を一瞥すると先を続けた。

「撤退した分隊は無事洞窟外に脱出し,撤退を成功させた。
 だがな,もう一つの分隊は突入地点で戦闘を継続してたんだよ。
 もう一つの分隊がとっくに撤退したとも知らずにな。
 さらに悪いことに,撤退した側の分隊が最初に発見した
 事前情報に無かった分岐が,戦闘を継続している分隊の後背につながってた」
 
俺は映像を最後まで動かした。

「結局,戦闘を継続した側の分隊は予想していなかった挟撃により全滅。
 撤退した側の分隊は辛くも逃げ帰ったが,作戦は失敗。
 ちなみに犠牲者は10名。いずれも優秀な魔導師だ。
 あと,指揮官は責任を問われて減俸処分を受けた」

俺はそこまで話すと室内を見回した。
フォワード陣も隊長陣も息を飲んでいた。

「どうだ?これが作戦中の連絡をキチンとしていればどうなった?
 最初に情報にない分岐を発見したことを報告していれば,
 指揮官は偵察のやり直しと作戦の変更を考えただろうし,
 撤退するときに連絡していれば,もう一方も同時に撤退して
 犠牲になることは無かっただろうな」

俺が,もう一度一同を見回すと,ティアナとキャロがうなだれていた。

「これで俺の言ったことの意味がわかったよな?」

フォワード陣は大きく頷いた。

「よし。じゃあもういいぞ。時間を取らせて悪かったな」



フォワード陣が出ていったあとも,隊長陣は残っていた。

「ゲオルグ。一つ聞いていいか」

シグナムが聞いてきた。

「この撤退した側の分隊長はその後どうなったのだ?」

「コイツは士官学校出のエリートでね。特に処分はされなかったらしい。
 今でも局員をやってるよ。ちなみに,お前らもよく知ってる奴だよ」

「誰だ?」

「ゲオルグ・シュミット。現在3等陸佐。
 本局遺失物管理部機動6課の副部隊長をやってるらしいぞ」

「そうだったのか・・・。すまない」

「何が?俺はこの経験があったからこそここまでやって来れたと思ってるぜ。
 ま,犠牲になった10人には悪いけどな」

「お前はなぜそう偽悪的なことを言う?」

「別に,偽悪的とは思ってないけどね。今更過去の失敗を悔いても
 しょうがないしな。ただ,俺のせいで死ぬことになった連中のことは
 死ぬまで忘れないし,奴らの犠牲を無駄にしないためにも,
 俺だけじゃなく,できるだけ多くの後輩に俺と同じ失敗を
 実戦で犯させないようにしたいと思ってるだけさ」
 
「そうか。やはり強いな,お前は・・・」

「そうでもないよ」

そうして,その場は解散することになった。



《マスター》

寮の自室に戻ると,レーベンが話しかけてきた。

「なんだよ」

《どうしてあんな嘘をついたのですか》

「俺は嘘は言ってないぞ」

《嘘です。マスターは今でもあの時のことを後悔してるじゃありませんか》

「だってカッコ悪いだろ?時々あの時の夢を見てはうなされて
 夜中に目が覚めるなんて」

《・・・本当にあなたという人は。アホですね》

「アホで結構。んじゃお休み」

《マスター。私はあなたのデバイスに生まれたことを誇りに思ってますよ》

「うるせぇ。俺はもう寝るっつってるだろ!」



俺は部屋の明かりを消したあとに,レーベンに話しかけた。

「ありがとうな。相棒」

《どういたしまして,マスター》

 

 

第23話:シュミット3佐の妙に忙しい一日


翌日,俺は108陸士部隊への出張で訓練に参加できなかった
はやてへ訓練の結果を報告するために部隊長室を訪れていた。

「ほんなら,今回の訓練結果としては上々っちゅうわけやね」

俺の報告が終わった後,はやては上機嫌で俺に言った。

「今回の訓練の条件下では,だけどね。
 さっきも言ったように課題は山積みだよ」
 
「まぁ,初回としてはこんなもんやろ。
 フォワードの子らも限りなく実戦形式に近い形で
 ヴィータとかシグナムと戦って,それなりに作戦目標は達成したんやろ?
 得るもんは多かったと思うで」

「そっちも残った課題は多いけどな」

「そこは時間をかけてやっていかなしょうがないよ。
 まぁ,とりあえずは個々人の実力の底上げをせんことには
 戦術もクソもないからな。
 まだまだなのはちゃんにしごいてもらわんと」

「その点は同感なんだけどね。
 この部隊が訓練だけの部隊で,すぐにでも実戦投入なんてことが
 ないならいいんだけど,6課はそうじゃないからさ。
 指揮官としては,即修正しておきたいところは修正したいじゃん」

「まぁ,連絡不徹底の部分については,反省会の後にゲオルグくんが
 釘を刺しといてくれたんやろ?さすがに理解してると思うわ」

「だといいけどね」

「そこはあの子らを信じてあげようやないの」

「へいへい」

俺はそう答えると,話題を変えることにした。

「ところで108への出張はどうだった?」

俺がそう聞くと,はやては椅子の背に体重を預けて天井を見た。

「ま,時間を割いて恩師に会いに行っただけのことはあったよ。
 スカリエッティの捜査に関しては協力してもらえそうやし」

「ならいいじゃん。なんでそんなに疲れてんのさ」

俺がそう聞くと,はやては俺の方に身を乗り出してきた。

「なんか重要なピースが抜けとるような感じがしてならんのよ。
 スカリエッティがレリックを使って何かやろうとしとるんは
 間違いないんやけど,それが何かは手がかりも掴めてないやんか」

「そのためにフェイトは捜査に飛び回ってるし,
 108部隊の力も借りるんでしょ?今焦ったところで意味ないよ」

「そうなんやけど,カリムの予言のこともあるしな・・・」

「はやてはさ,ちょっと肩の力を抜いたほうがいいよ。
 何に追い立てられてるのかはわからないけど,
 焦りは人間のパフォーマンスを著しく下げるからね」

俺がそう言うと,はやては大きく息を吐いた。

「心配してくれておおきにな,ゲオルグくん」
 
「今更何言ってんの。はやては俺にとって大切な友人だし,
 6課に来るときに誠心誠意はやてに尽くす言ったでしょ」

俺はそう言ってはやてに笑いかけた。



部隊長室を出て隣の副部隊長室に戻ると,
俺は机の上の決済書類を処理し始めた。
半分ほどを片付けたところで,来客を告げるブザーが鳴った。
俺がどうぞというと,ドアが開きグリフィスが入ってきた。

「ゲオルグさん,昨日の緊急事態対処訓練の報告書です」

「お,早いね。ありがとう。で,退避経路の件はどう?進んでる?」

「少しずつですね,今は映像を確認しながら,避難経路の問題点を
 洗い出そうとしている最中です」

「まぁそのへんは,各隊からの意見書が上がってきてからでかまわないよ。
 ただ,ある程度方向性が見えた時点で俺にも報告してね」

「はい了解です」

俺はグリフィスがまだ動こうとしないのを見て怪訝に思った。

「まだ何かある?」

「実はですね,小火器類の調達について本局運用部から
 正式に却下すると通達がありまして」
 
「あらら,理由は?」

「たかが1部隊の隊舎防衛のために質量兵器の配備は許可できないと」

「本局は地上がどんだけ危険性に満ちているか理解してないんだよね。
 ったく,自分たちは安全なところにいるから平和ボケしてんだよな。
 だから陸に目の敵にされてんのにさ。ほんとに忌々しい連中だなー,
 殺るかぁ?」

俺が手に持ったペンで机をバシバシ叩きながら言うものだから
グリフィスは恐怖を感じたのか,身を固くしていた。
俺は,叩きすぎて折れてしまったペンをゴミ箱に放り込むと
少し考え込んだ。

(隊舎へのAMF発生装置と合わせて防衛戦力増強策として
 期待してたんだけどな・・・強引にねじ込んでもはやての
 立場が悪くなるし・・・)

「まぁ,人間あきらめも肝心だよな。しょうがないから,
 小火器類の配備はお流れってことにしよう」
 
「よろしいんですか?」

「よろしくはないよ。でもどうしようもないしね」

「わかりました」

グリフィスはそう言うと,退室していった。



俺が決裁書類処理を再開して,決済書類の山がそろそろ無くなろうとしたころ,
再び来客を告げるブザーが鳴った。
俺がどうぞというと,ドアが開きアルトが入ってきた。

「副部隊長。今よろしいですか?」

「すまん,ちょっと急用!すぐ戻るから適当に待ってて」

俺はトイレに向かってダッシュしていた。
トイレに着いて用をたした俺は,落ち着いて副部隊長室に戻って行った。

(あぶねぇ・・・危うく漏らすところだった・・・)

俺が副部隊長室に入ると俺が出て行く前と同じように俺の机の前に
アルトが立っていた。

「で,何の用かな?」

「先日の緊急事態訓練・・・でしたっけ?
 あれのロングアーチ分の意見書です」
 
「それなら,グリフィスに渡してやってよ」

「でも,なんかグリフィスさん見当たらないんですよ。
 なんで,副部隊長にお願いします」

「はいはい,以上?」

俺がそう聞くとアルトはニヤリと嫌な笑顔を浮かべた。

「そのはずだったんですけどー,ちょっとした発見をしてしまいまして」

「なんだ?」

「副部隊長の後ろのキャビネットって,何が入ってるんですかー?」

「・・・見たんか?」

「はい,それはもうバッチリ」

アルトの答えを聞いて俺は,アルトに向かって手を合わせた。

「すまん。このことは内密に頼む」

「えー,どーしよっかなー?
 じゃあ,私とルキノでここにお茶しに来てもいいですか?」

「しょーがねーな」

「やった!ありがとうございます!副部隊長」

アルトはそう言うとスキップしながら出て行った。



そのあとも,食堂に昼飯を食べに行くとなのはに
午後のフォワード訓練に参加するようにお願いされ,
フォワードの訓練が終わったらシグナムと模擬戦をすることになり,
流石にへとへとになって副部隊長室に帰ってきたのは日も落ちた後だった。

(なんで今日はこんなに忙しいんだよ・・・さっさと飯食って寝よ)

俺がドアを開けると,机の上には書類の山が復活を遂げていた。

「・・・え?」

結局,その日俺は日付が変わるまで眠りにつくことができなかった。


 

 

第24話:シュミット3佐のわりとヒマな一日


数日後,俺ははやてに呼ばれて部隊長室に来ていた。

「出張任務?」

俺が訝しげにそう言うと,はやては頷いた。

「そうなんよ,なんかロストロギアが発見されたらしいんよ」

「で,なんでうちが出動するのさ」

俺がそう言うと,はやては渋い顔になった。

「しゃーないやんか,カリムに頼まれてんから」

「ま,いいけどね。で,いつ出動するの?」

「今日。今から」

俺はそれを聞いてため息をついた。

「なんでもっと早く言わないのさ!」

「出動メンバーには言ったよ」

「出動メンバーって?」

「私とリインとスターズとライトニングとシャマル」

俺はそれを聞いて頭を抱えた。

「ちょっと待て!それじゃ隊舎にほとんど戦力が残らないじゃん」

「しょうがないやろ。行き先が私らの出身世界なんやから・・・」

「ついでに里帰りというわけ?」

俺がそう言うとはやてはニコニコし始めた。

「そうそう。そやからシャマルも連れて行ったらな可哀想やろ」

「へいへい。で,俺はお留守番ってわけね」

「うん。よろしくお願いします!」



1時間後,はやてをはじめとする出動メンバーを乗せたヘリが
転送ポートに向かって飛び立つのを,俺はグリフィスと屋上で見送った。

俺とグリフィスは,発令所に向かうことにした。

発令所では通信担当のアルトとルキノがお菓子を食べながら
おしゃべりをしていた。

「おーい2人とも,はやてがいないからってあんまりハメ外すなよー」

俺が普段ははやてが座っている部隊長席に座りながらそう言うと,
2人は俺の方を振り返りながら口を尖らせた。

「えー,いいじゃないですかーお菓子くらい」

「そうそう。副部隊長だって自分の執務室にお菓子溜め込んでるんだし」

この2人には,ひょんなことから俺の秘密のお菓子スペースを
発見されてしまっていた。

「食べるのはかまわねーから,こぼすなよ。そのへんの機械は高いんだから」

「「はーい」」

俺はその返事をきくと,個人用端末を取り出して、普段は自室でやっている
調べ物を始めた。



時々休憩しながら調べ物を続けていると,昼になった。
俺は,相変わらず賑やかにおしゃべりを続けているアルトとルキノに言った。

「アルトにルキノ。ここは俺らが詰めてるから,先に昼食べてきていいぞ」

俺がそう言うと,2人は満面の笑みを俺に向けてきた。

「え?いいんですか?じゃあ,お先に頂いてきまーす」

発令所を出ていく2人を目で追っていると,大口を開けてあくびをしている
グリフィスと目があった。

「・・・すいません」

「いや,わかるよ。暇だもんな」

「そうなんですよね。例の緊急事態対処訓練も,
 各隊から問題点を再度上げてらっているところですし」
 
「だよな。今ちょうど仕事がないんだよなぁ。普段勤勉に仕事すると
 こういう時に暇をつぶせる仕事がないんだよなぁ」
 
「ゲオルグさんはさっきから何やってるんです?」

「ん?これは俺の個人的な調べ物。普段は夜やってるんだけどね」

「・・・お手伝いさせてもらえませんか?」

「それはダメ。お前に見せられる類のものじゃないから」

俺はそう言いながら,いい暇つぶしを思いついた。

「なぁグリフィス。一局どうだ?」

俺は右手の人差し指と中指を立てて,グリフィスに聞いた。



30分ほどすると,アルトとルキノが戻ってきた。

「「ただいま戻りましたー」」

「おう,お帰りー」

俺が生返事を返すと,アルトが話しかけてきた。

「副部隊長とグリフィスさんもお昼にしたらどうですか?」

「いや,今いいとこだからいいよ」

俺がそう言うとルキノが興味津々とばかりにこちらに近づいてきて,

俺とグリフィスが向かい合って見つめているものを見た。

「なんですかこれ?なんか白いのと黒いのがいっぱい並んでますけど」

「ん?これ?これはな,イゴっていうはやて達の出身世界のゲームだよ。
 前にシグナムから教わってやってみたら面白くてね」
 
俺は白石を盤上に置きながらルキノに答えた。

「えーっ!じゃあ2人は遊んでるんですか?」

アルトが不満そうに言った。

「しょうがないでしょ。僕もゲオルグさんもやることないんだし」

グリフィスが黒石を盤上に置きながらアルトに答えた。

「えーっ!ずるーい。じゃあ,あたしの仕事手伝ってくださいよー」

ルキノが両手を腰にあてて言った。

「それはダメ。自分の仕事は自分でやりんさい」

「いいじゃないですかぁ。どうせゲームで遊んでるくらい暇なんだし」

「じゃあ手伝ってもいいけど,ルキノは減俸」

俺がルキノの鼻先に指を突き出してそう言うとルキノはピシリと固まった。

「そういえば,先月の収支報告書がまだ出てないよな。グリフィス」

「そうですね。僕は見た覚えがないです」

俺とグリフィスは揃ってルキノを見た。

「「手伝おうか?」」

「うぅ。自分でやります・・・」

そう言ってルキノは自分の席に戻った。



「やれやれだね」パチッ

「そうですね」パチッ

「あ,そこに割り込まれたかぁ」パチッ

「ゲオルグさん,待ったは無しですよ」パチッ

「いやいやここが手抜きになってるよ,グリフィスくん」パチッ

「やぁーってられるかぁーっ!!」

ルキノはそう叫んで立ち上がった。

「遊ぶんだったらよそでやって下さいよ,2人とも!」

「うん,それはダメ。俺は部隊長代理としてここにいないといけないから」

「ゲオルグさんがここにいるなら僕も副官としてここにいないと」

「だったら,2人とも仕事してくださいよ」

「「ない」」

俺たちがそう答えると,ルキノがプルプルしはじめた。

「なんでですか!?いっつもあんなに忙しそうなのに!」

「いつも真面目に仕事してるから,今日はたまたま暇なんだよ」

「じゃあ私を手伝って下さい!」

「だから,それは構わないけど,ルキノは減俸な」

俺がそう言うと,ルキノは”おーぼーだー!!”と叫んでどこかに行った。

「やれやれ,あいつはカルシウムが足りないな・・・それともあの日か」

俺がそう言うとアルトが呆れたような顔を向けてきた。

「いやいや,副部隊長がいじめるからですよ。あとさっきのはセクハラです!」

「いじめるなんて人聞き悪いなぁ。俺は正論を言っただけだぞ」

「いや,まぁそうなんですけど。遊んでる人に仕事しろって説教されたら
 腹立ちませんか?」
 
「あいにくと,仕事しすぎだとか休暇とれって説教を食らったことはあっても
 仕事しろって説教をされたことは生まれてこのかた一度もないんでね」

「うぅ~。グリフィスさんは私と同意見ですよね?」

アルトがグリフィスに話を振るが,グリフィスは首を横に振った。

「僕もゲオルグさんと同じなんで」

グリフィスがそう言うとアルトは”ちっくしょー!”と叫んでどこかに行った。

「あいつら勝手に持ち場を離れやがって。ホントに減俸してやろうか」

「さすがにそれは可哀想ですよ。あと,セクハラ発言はまずいかと」

「へいへい」



こうして,俺のワリと暇な一日は過ぎていくのだった。

 

 

第25話:オークション警備


その日,俺となのはとフェイトははやてに部隊長室に呼び出されていた。
俺が部隊長室に入るとなのはとフェイトが既にいた。

「おっ,ゲオルグくんも来たな。ほんならメンツも揃ったし話を始めよか」

はやてはそう言うと,自分の椅子に腰掛けた。

「明日,ホテルアグスタで古代遺物のオークションが開かれるんやけど,
 その警備を私らでやることになりました」

「オークション会場の警備?なんでまた」

俺がそう聞くとはやてこちらに身を乗り出した。

「明日のオークションには取引許可の出たロストロギアも出品される。
 当然,指定ロストロギアであるレリックは出品されへんのやけど,
 ロストロギアがある以上ガジェットが出現する可能性はゼロやない。
 そやから機動6課で警備を行う」

はやてがそう言うと俺となのは,フェイトは頷いた。

「でや,私となのはちゃん,あとフェイトちゃんは会場内の警備をする。
 そやから,外の警備は副隊長とフォワード4人にやってもらう」

「んじゃ俺は隊舎でお留守番か?」

俺がそう聞くと,はやては首を横に振った。

「ごめんごめん。ゲオルグくんは外の指揮を頼むわ」

「了解。じゃあ,この前と同じでリインを借りるぞ」

「それはあかん。リインには私と中に居ってもらうから。
 そやから,広域探査と管制にはシャマルを連れて行く」
 
「ちょっと待て。それだと,隊舎にはほとんど戦力が残らないだろ。
 それに,はやてとなのはとフェイトが会場内の警備なのはどうかな」
 
「うーん。フェイトちゃんとなのはちゃんの意見は?」

はやてがそう言うと,フェイトとなのはが腕を組んで考え始めた。

「私ははやてに賛成かな。会場内の警備はあまり目立たないように
 やったほうがいいから人数は増やしたくないし」
 
「そうだね。それに中の警備は個人の判断力が重要になるから
 あの子たちにはまだちょっと荷が重いと思う」

フェイトとなのははそう言ってはやての案への賛意を表した。

「3人が会場内に回るのは了解。でも隊舎に戦力が残らないのは・・・」

俺がそこまで言うと,はやてはストップと言うように手のひらを俺に向けた。

「ほんならどうすんの?ホテル警備の戦力は今でもギリギリやで。
 いざとなったら隊舎は放棄してスタッフは退避させればええやろ。
 そのために,ゲオルグくんが退避計画を練ってくれたんやからね。
 それに,隊舎には交替部隊も残すし,ザフィーラもおるんやから
 対ガジェット戦やったら,そこそこ時間は稼げると思うんよ」

はやては机を指でトントンと叩きながらそう言った。

「了解。じゃあ,俺は両副隊長と明日の作戦について話し合ってくるわ」

「うん。頼むで,ゲオルグくん」



副部隊長室に戻った俺は,シグナム・ヴィータ・シャマルの3人を呼び集めた。
はやてから聞かされたことを3人にも話すと,本題に入ることにした。

「というわけで,俺が外の警備の指揮をとることになったわけだ。
 なので3人と作戦の打ち合わせをしておきたいので集まってもらった」

俺がそう言うと3人は頷いた。
俺はそれを確認すると,ホテル周辺の地図をモニターに表示した。

「ホテルの一方は市街地に面しており,もう一方は森だ。
 市街地側からガジェットが侵攻する可能性は低いと考えられるため,
 森側を正面として右側にスターズ,左側にライトニングを配置する。
 両副隊長には指揮をとってもらう。あと,シャマルは広域探査と管制な。
 でシャマルの警戒網にかかった敵を逐次殲滅ってのが基本戦術だな」

そこで言葉を切ると,ヴィータが口を開いた。

「なあゲオルグ。森側に陣取ったら市街地側にガジェットが出た時に
 対応が遅れねーか」

「ヴィータの懸念は判るけど,使える戦力が2個分隊ではね。
 まぁ,広域探査にシャマルもいるし,俺は,シャマルと
 ホテルの上で待機してるから,万が一の時は俺が時間を稼ぐさ」
 
ヴィータが頷いたのを確認すると,先を続けることにした。

「まぁ,敵の出方がわからない以上いきあたりばったりな作戦で
 申し訳ないが,あとは臨機応変に対応していくしかない。
 3人とも頼むぞ」

「おーっし,わかった」

「いいだろう」

「わかりました」



翌日,俺も含めた出動メンバーは,ホテルに移動するヘリの中にいた。

「っちゅうわけで,フォワードのみんなには外の警備を頼むからな。
 あとは,ゲオルグくん頼むで」

「了解。じゃあ細かい作戦は現地に着いたら説明するからな」

「「「はい」」」
「・・・はい」

4人のうちティアナの返事が遅れた。

(なんか考え込んでるな,後でフォローしとくか?)

ヘリが着陸すると,全員で一度ホテルのロビーに向かった。
フォワード4人とシグナム・ヴィータ・シャマルを集めて
作戦内容を説明していると,肌も露なドレスを着た
はやてとフェイトが現れた。

「・・・お前らその格好何?」

俺がそう聞くと,はやてが自慢げな顔を向けてきた。

「どうやー,ゲオルグくん。セクシーやと思わんか?」

「いや,まぁなんというか。うん,よく似合ってるよ2人とも」

俺がそういうと2人は少し頬を染めていた。

「ありがとう,ゲオルグ」

「なんや,ゲオルグくんにそう言われると照れてまうなぁ」

そこに遅れてなのはがやって来た。

「はやてちゃん,フェイトちゃん。遅れてゴメンね」

なのはの顔を見た俺は絶句した。

(うわ!ケバい・・・どこのキャバ嬢だよ・・・)

「・・・なのは,お前そのメイク誰がやったんだ?」

「え?自分でやったんだけど,変かな?」

「いや,変っていうか・・・なぁ?」

俺がティアナに話を振ると,ティアナが恨みがましい目で見てきた。

[ゲオルグさん,なんで私に振るんですか!?]

[いや,あれは何とかしないといかんでしょ]

[じゃあゲオルグさんから言ってあげてください!]

ティアナは念話でそう言うと,目をそらしてしまった。

「あのな,なのははもうちょっとナチュラルなメイクの方が似合うと思うぞ」

「・・・ナチュラルって?」

なのはが首を横に傾けてそう聞くので,俺ははやてとフェイトに助けを求めた。

「なのは,私も少しメイクが濃い気がするよ。ちょっと私と行こ」

フェイトがそう言ってなのはを連れて行った。

「よ,よし。じゃあ俺たちも配置につこうか」

「「「「・・・はい」」」」

俺がそう言うとフォワード4人を連れて警備の配置についた。



俺は,自分の配置場所であるホテルの上でシャマルと雑談をしながら
待機していたが,しばらくすると飽きてきたので
警備状況を確認するため,ホテルの周囲を見て回ることにした。
スターズの警備地点に行くと,ティアナが深刻そうな顔で
クロスミラージュを見つめていた。
俺は,ヘリでの様子も気になったので,ティアナに声をかけることにした。

「よう,ティアナ」

俺が声をかけると,ティアナは我に返ったようにはっと顔を上げた。

「どうかしたのか?ぼーっとして」

「・・・いえ,なんでもありません」

「なんでもないってことないだろ。
 ヘリの中でも心ここにあらずって顔してたし・・・
 何か悩んでることでもあるなら話してくれないか?」
 
俺がそう言うと,ティアナは少し逡巡してから口を開いた。

「・・・6課の中で私だけが凡人だなって思って・・・」

「凡人?ティアナが?」

「だって,隊長たちはオーバーSかニアSランクぞろいだし,
 キャロもエリオもスバルだって・・・」

「ティアナは天賦の才能やレアスキルだけが局員としての価値を決めると
 思ってるわけ?」
 
俺がそう聞くと,ティアナは俺の方を睨みつけた。

「だってそうじゃないですか!ゲオルグさんだってSランクの魔導師だし」

「ティアナはさ,まだ陸士養成校を出てまだ2年目だよな」

「そうですけど」

「俺が士官学校を出て2年目の時は俺も陸戦Bランクだったよ」

俺がそう言うとティアナは目を見開いた。

「そうなんですか?」

「うん。しかも士官学校出だからいきなり分隊長でさ。
 周りには俺なんかよりよっぽど優秀な魔導師がゴロゴロしてたんよ。
 俺はそのころ射撃とか砲撃魔法の類がド下手でさ。
 ポジション的にも全然指揮官向きじゃなかったよ」

俺がティアナの方に目を向けると,真剣な顔で俺の話に聞き入っていた。

「それに比べればティアナの射撃精度は抜群だし,
 指揮官としてのセンスもある。
 俺なんかよりよっぽど大成すると思うけどな」

「・・・そうでしょうか」

「ま,これからの努力次第だよ。焦ることはないと思うな」

俺がそう言った時,シャマルからの通信が入った。

『シャマルより各員へ,森林地帯にガジェットの反応出現。
 現在反応増大中。各隊は迎撃準備をお願いします』

「ロングアーチ02よりシャマル。距離は?」

『現在ホテルから600ないし700mの地点に出現中』

「ロングアーチ02了解。データを各員に送れ」

『シャマル了解』

俺は,レーベンにデータが転送されてきているのを確認すると,
ティアナに向き直った。

「ティアナ!今はとりあえず迎撃に集中しろ。
 無理はするなよ!いいな!」

俺がそう言うとティアナは少しつかえがとれたような顔で
返事を返してから,ヴィータたちの方へ走って行った。

「よし!俺たちも行くぞ,レーベン」

《はい,マスター》

 

 

第26話:死者との邂逅


シャマルからの敵襲の報を受けた俺は,レーベンをセットアップすると,
走り始めた。
シャマルから送られてきたデータを確認すると,
ガジェット1型10機ほどの編隊が3つ,ホテルに向かっていた。

「ロングアーチ02より,各員へ。
 これより,接近中の敵ガジェットの殲滅にかかる。
 スターズは敵左翼。ライトニングは敵右翼の編隊を叩け。
 中央の編隊は俺が引き受ける!
 各隊とも副隊長に指揮を任せる。逐次状況報告を頼む」

『こちらスターズ02。了解したが,おめーのほうは一人で大丈夫かよ』

『こちらライトニング02。スターズ02と同意見だ。援護が必要だろう』

ヴィータとシグナムからそれぞれ俺を心配する通信が入った。

「こちらロングアーチ02。データを見る限り,中央の編隊は少し手薄だ。
 これなら俺一人で十分対応可能だ」
 
俺は通信にそう返すと,ヴィータとシグナムに念話で話しかけた。

[シグナムもヴィータも心配ありがとうな]

[そんなんじゃねーよ。けど,お前が怪我したらはやてが心配するかんな]

[主はやてだけではない。私もお前にとって友人のつもりだ。無理はするなよ]

[了解!手に負えなくなったら応援頼む]

俺はそこでもう一言両副隊長に言っておくことにした。

[あとな,シグナムもヴィータもとりあえずはあまり手を出さずに
指揮に集中してくれ。フォワード達に経験を積ませたい]

[[判った!]]

俺は,2人からの返答を聞くと,レーベンを握り直し,
正面に迫ったガジェットの集団に斬りかかった。

俺が半分位のガジェットを破壊したところで,シャマルから通信が入る。

『シャマルよりロングアーチ02。飛行型10機編隊が2つ接近中。
 距離は現在約800m』

「ロングアーチ02了解。スターズ02,ライトニング02迎撃に上がってくれ!」

『スターズ02了解!あとの指揮はスターズ04に引き継ぐ』

『ライトニング02了解。こちらもライトニング04に指揮を引き継ぐ』

「ロングアーチ02了解。スターズ04およびライトニング04は頼むぞ!」

『『了解!』』

ティアナとキャロからの返信を聞くと,俺は再び目の前のガジェットとの
戦闘に集中した。
10機のガジェットをすべて破壊したところで,シャマルから通信が入る。

『シャマルより各員。3方向からガジェット1型の増援を確認しました。
 数は各10機程度』

「ロングアーチ02了解。スターズ・ライトニングそれぞれ状況は?」

『こちらスターズ04。当初の10機はすべて破壊しました。
 これより増援の迎撃に向かいます』

『こちらライトニング04です。こちらもはじめに出現した分は破壊しました。
 引き続き迎撃します』

「ロングアーチ02了解」

俺は少し遠くに見えるガジェットの群れに向かって手のひらを向けると,
カートリッジを1発ロードした。

「パンツァーシュレック!」

俺の右手の前から放たれた魔力の塊がガジェットの群れを飲み込んでいく,
かに見えたが,ほとんどは寸前でかわしたようで,破壊できたのは数機だった。

「レーベン,おかしくないか」

《ええ。少しおかしいですね。いくら威力不足のマスターの砲撃でも
 半分は破壊できたと思ったのですが》

「じゃあ,接近戦で確認してみるか・・・行くぞレーベン!」

《はい!》

俺は,ガジェットの群れに向かって突っ込むと,そのうちの1機に向かって,
レーベンを振り下ろした。が,そのガジェットはひらりと交わして距離をとり,
砲撃を放ってくる。

「くそっ,間違いないな・・・」

《ええ,有人操作に切り替わってますね》

俺はレーベンと短い会話を交わすと,各隊の状況を確認することにした。

「ロングアーチ02より各員へ。こちらの増援分のガジェットは,
 どうやら有人操作に切り替わってる。各隊の状況を知らせろ!」

『こちらスターズ04。こっちも同じです。現状ではかなり辛いです』

『こちらライトニング04です。こちらもです。ちょっと支えきれそうに
 ありません』

(まずいな・・・時間を稼ぐか・・・)

「ロングアーチ02了解。スターズ02・ライトニング02。敵航空戦力の殲滅は?」

『こちらスターズ02。あと2機』
『こちらライトニング02だ。あと1機』

「ロングアーチ02了解。航空戦力を潰したら各分隊の応援に回ってくれ。
 スターズ04・ライトニング04。交戦状態を維持しながら徐々に後退しろ。
 両副隊長と合流するまで時間を稼ぐぞ!」
 
『『了解!』』

「シャマル!ガジェット以外の反応は?どこかに召喚師がいるはずだ!」

『了解。探してみるわね』

「頼む!」

俺は通信を終えると,目の前に迫ってくるガジェットの群れを見た。

《どうするんです?マスター》

「は?俺んとこには増援が来ねえんだから,俺一人でなんとかするさ」

《大丈夫ですか?》

「お前ね,俺とこれ以上の修羅場を何回もくぐってきたろ?
 頼りにしてるぜ,相棒」

《まったくあなたは。格好つけも大概にしたほうがいいですよ》

「はいはい。んじゃあさっさとケリつけようか!」

《了解です。マスター》

俺はレーベンを構え直し,ガジェットの上方に向かって飛び上がった。
そのまま落下しながらガジェットの1機を切り捨てる。

「レーベン,カートリッジロード」

《了解です》

俺はカートリッジをロードすると,目の前で背中を晒している
ガジェットに向けて右手のひらを向けた。

「パンツァーファウスト!」

俺の砲撃魔法でそのガジェットを貫くと,再びレーベンを両手で構えた。

「レーベン,スピードブースト!」

《はい!》

地面を蹴ってガジェットとの距離を詰め,斬るという動作を5回ほど繰り返すと
周囲にはガジェットの姿は無かった。

「こちらロングアーチ02。増援部隊を撃破した。各員状況報告」

『こちらライトニング02。ライトニング03・04と合流し戦闘継続中』

『こちらスターズ02。航空戦力を殲滅した。これよりスターズの援護に・・・
 ってやべぇ!』

「スターズ02どうした?」

俺はヴィータに向けて問いかけるが返信がない。
少し待ってみると,ヴィータの怒鳴り声が聞こえてきた。

『・・・味方の射撃の命中コースにいることも
 コンビネーションのうちだってーのか!?
 もういい!お前ら2人ともすっこんでろ!!』
 
(・・・ヴィータ,通信を切り忘れたな・・・)

俺は念話でヴィータに話しかけることにした。

[ヴィータ。何かあったのか?]

[ゲオルグ?な,何でもねーよ!]

[通信が入ったままだったぞ]

[げ,マジか・・・あー今戦闘中だから後で話す。とりあえずあいつら2人は
後ろに下がらせた]

[了解。ヴィータ1人で大丈夫か?]

[このくらい何てことねーよ!]

[はいよ。じゃあ気をつけろよ]

俺がヴィータとの念話を終えるとシャマルから通信が入った。

『シャマルからロングアーチ02へ。現在そちらの・・・あれ?』

「どうした?シャマル」

『あの,そちらの近くにアンノウンの反応が出たんだけど
 すぐ消えちゃったのよ。なんだったのかしら・・・』

「了解。調べてみるから位置を教えてくれ」

俺はそう言うと作戦図に印のついたところまで歩いて行った。
近くまで行くと,茶色のコートのようなものを羽織った男の背中が見えた。

「おい,そこの奴。両手を挙げてゆっくりこっちを向け!」

俺がそう言うと男はゆっくりとこちらを向いた。

「!!!!」

その顔を見た瞬間,俺は全身の血が沸き立つのを感じた。

「・・・なんで,なんであなたがここにいるですか!ゼストさん!!」

その男は,8年前に死んだはずの姉ちゃんの上司だった男。
ゼスト・グランガイツだった。

 

 

第27話:ゼスト・グランガイツ


あれは,そう。俺がまだ士官学校の生徒だったころだったな。
長期休暇で実家に戻っていた俺は,姉ちゃんが弁当を忘れたとかで
母さんから姉ちゃんの職場まで弁当を届けるように言われたんだったな。

電車を乗り継いで地上本部に入ると,迷子になっちまって,
いろんな人に道を聞きながら姉ちゃんのところにたどり着いたころには
とっくに昼休みの時間だった。

せっかく弁当を届けてやったってのに,姉ちゃんは遅いって俺を殴るし。
でも,その時姉ちゃんの隊の隊長さんがよくしてくれて,
俺が士官学校に在学中って言ったら,訓練を見てくれて。
結局仕事を終えた姉ちゃんと一緒に帰るハメになったんだったよな。



俺は回想から意識を浮上させると,目の前にいるもう死んだはずの男を
まじまじと見つめた。

(・・・間違いないよな・・・)

その時男が口を開いた。

「・・・貴様は誰だ。なぜ俺を知っている」

「あんたは覚えてないかもしれないが,俺は一度あんたに会ってる。
 あんたの部下で8年前に作戦中に死んだエリーゼ・シュミットの弟だ」
 
俺は自分でも意外なほど冷静に目の前の男と話していた。

「シュミットの弟・・・あの時弁当を届けに来た子供か・・・」

「覚えていてくれて光栄だよ。じゃあ,おとなしく俺についてきてもらおうか」

「断る。俺にはまだやらねばならんことがあるのでな」

「そうかよ。じゃあ・・・いくつか教えてもらいたいことがある」

「・・・何だ」

「8年前,あんたの部隊は単独で突入作戦を実行に移した。
 結果として全滅したわけだが,あれはなんだったんだ?」

「あの時俺たちが突入したのは,ジェイル・スカリエッティのアジトの一つだ。
 そして,ナンバーズによって全滅させられた」
 
「ナンバーズ?」

「スカリエッティの戦闘機人達のことだ」

「戦闘機人だと!?」

「そうだ・・・むっ,時間か・・・」

ゼストはそう言うと踵を返して立ち去ろうとした。
俺は,ゼストを止めようとレーベンを振りかぶった。
だが,その手前で何かにはじき飛ばされ,木に叩きつけられた。

「がはっ・・・」

ゼストは倒れた俺に向き直ると,俺に向かって口を開いた。

「・・・お前の姉はまだ死んではいない」

「・・・なん・だ・と・・・」

俺はそこで意識を失った。



目を覚ますと目の前にはオレンジ色の空が広がっていた。

「・・・あ,気がついたのね。よかったわ」

シャマルの声がする方を見ると,6課の出動メンバー全員が揃っていた。
俺は痛む頭を押さえながら上半身を起こすと,シャマルに状況を聞いた。

「ガジェットを全滅させたのにゲオルグくんから返答がないから,
 エリオとキャロに探しに行ってもらったのよ。
 そしたら,森の中で倒れてるあなたを発見して,ここまで運んだというわけ」

「すまん,クッ・・・」

俺は立ち上がろうとしたが頭がふらつき,倒れそうになった。
そこへエリオが俺を支えてくれた。

「だめですよ,ゲオルグさん。まだ横になってないと」

エリオはそう言って俺を心配そうに見つめていた。
そんなエリオの頭を俺はグシャグシャとなでると,
ふらつく足でなんとか歩き始めた。

話をしているはやてと隊長・副隊長陣のところに行くと,
なのはの肩に手を置いた。
なのはが”にゃっ!”と愉快な声を上げてこちらを振り向いた。

「ゲオルグくん!?まだ寝てなくて大丈夫?」

なのはが心配そうに俺の顔を見上げて言った。

「大丈夫・・・とは言えないけど平気だよ。でもちょっと肩貸して」

俺はなのはに笑いかけながらそう言うと,はやてのほうに向き直った。

「はやて。申し訳ない,戦闘中に気を失ってしまうなんて・・・」

俺がそう言うとはやては心配そうな顔を俺の方に向けた。

「そんなことより大丈夫かいな。シャマルが頭を強く打ってるって言ってたで」

「平気だよ。それより・・・」

俺が話そうとするとはやては手のひらを俺の方に向けて話を遮った。

「話は隊舎に戻ってからにしよ。とりあえずは撤収。ヘリも来たしな」

はやてが空を指さして言ったのでそちらを見ると,ヴァイスの乗ったヘリが
着陸しようとしていた。



ヘリが隊舎に着くと,俺は担架に乗せられて医務室に運ばれた。
そこで,改めてシャマルの診察を受けることになった。
頭を打ったということで,頭部の検査を一通り受けたあと,
ベッドで寝ている俺のところにシャマルがやって来た。

「検査結果を見る限り,頭蓋骨にも脳にも損傷や障害はなさそうね。
 まぁ,軽い脳震盪でしょ。まだ頭は痛む?」

「いや,寝てる分には全然」

「じゃあちょっと体を起こしてくれる?」

俺はベッドの上で上半身を起こしたが,ホテルの庭で目を覚ました時のような
頭痛やふらつきはなかった。
俺は少しぼーっとする頭を振ると,シャマルに大丈夫だと伝えた。
シャマルは黙って頷くと,医務室のドアを開けた。
すると,隊長・副隊長陣とフォワードの4人が立っていた。

「もう面会謝絶は解除ね。でもまだ頭がぼーっとしてるみたいだから今日は
 念のためにここで寝てもらうわね」

シャマルがそう言うとドアの前に立ってた連中が医務室に入ってきて,
俺の座っているベッドの横に並んだ。
俺は,みんなの方を見ると頭を下げた。

「今回は俺の判断の甘さで迷惑をかけてしまって済まない。
 作戦の前線指揮官として責任を感じてるよ」

俺がそう言うとヴィータが珍しく心配そうな顔を向けてきた。

「んなことねーよ。ゲオルグが仕切ってくれたからあたしたちが迷いなく
 動けたんじゃねーか」

「そうだな。ゲオルグが一人で調査に出た時も我々は戦闘中だった。
 他に選択肢が無かった以上やむ得ない判断だ」

ヴィータに続いてシグナムも俺をかばってくれた。

「2人とも,ありがとうな」

次にフォワード4人が俺の前に立った。

「あの,すいません。私たちが力不足だったためにこんなことに・・・」

スバルがうつむいてそう言うので,俺はスバルの頭をガシガシとかき回した。

「別に俺が負傷したのはお前らのせいじゃない。
 ただ俺に油断があったからだよ。だから,気にすんな。いいな!」

俺がそう言うと4人とも力なく頷いた。

「さ!もう夜も遅いし,ゲオルグくんはけが人なんだから
 早く寝かせてあげなくちゃね」

シャマルがそう言ってなのはとフェイト以外の全員を部屋の外に追い出した。
あとに残ったなのはとフェイトはうつむいている。

「なのは,フェイト。心配かけてごめん」

俺がそう言うとフェイトが顔を上げた。

「ほんとだよ。私,本当に心配したんだからね。
 もうこんな無理はだめだよ,ゲオルグ」

「・・・善処するよ」

「ダメ。ゲオルグは昔からいろんなことを一人で抱え込む癖があるんだから。
 もっと私達を頼ってよ。いい?ゲオルグ」

「了解」

俺がそう言うとフェイトは医務室を出て行った。
あとには,俺となのはだけが残された。

「なのは・・・」

「ゲオルグくんはさ・・・」

俺がなのはに声をかけようとすると,なのはが口を開いた。

「随分前に私に怒ったよね。無理しすぎだって。でも,私は本当の意味で
 ゲオルグくんの言ったことを理解してなかったよ。
 で,今回ゲオルグくんが戦闘中に倒れたって聞いて,
 声をかけても全然返事してくれなくて,やっと判ったんだ。
 無茶して,周りに心配をかけるっていうのがどれだけ悪いことか。
 だから,今までゴメンね。ゲオルグくん」

なのはが小さな声でそう言った。
俺はなのはに近づくと軽くデコピンを食らわせた。

「なーに殊勝なこと言ってんだ。そんなこと言ったって
 どうせなのははいざとなったら無茶するに決まってるだろ。
 なら,俺は俺のできることをするだけだよ。なのはが傷つかないようにね。
 んなことより,今日は心配かけてゴメンな。あと,心配してくれてありがと」

俺はそう言うとなのはの頭をやさしくなでた。

「うん!どういたしまして!」

そう言ってなのはが見せてくれた笑顔は,これまで見た中で最高の笑顔だった。



シャマルが帰ってきて電気を消していったあと,
サイドテーブルの上のレーベンが話しかけてきた。

《マスター,なのはさんに惚れましたね?》

「なっ・・・んなわけないだろ!」

《誤魔化してもだめですよ。あと,なのはさんも多分マスターに惚れてますから
 これで両想いですね。おめでとうございます》
 
「う,うるせえな。黙ってろよ。ったくなのはと俺はそんなんじゃないの!」

《はいはい。判りました。そういうことにしておきましょうか。
 そんなことよりも,マスター》

急にレーベンの声に真剣味が加わった気がした。

《もう皆さんに黙っておくことはできないのではないですか?》

「・・・そうだな。どう話すか考えないとな・・・」

そうして,夜は更けていった。


 

 

第28話:ティアナの過去


翌朝,シャマルに許可をもらうと,寮の自室に戻って制服に着替えてから,
食堂で朝食を食べると副部隊長室に行った。
机の上には未処理の書類が山を作っていたが,俺は昨日の戦闘のことが
気になっていたので,ヴィータを呼ぶことにした。

5分程してブザーがなったのでどうぞと返すと,
訓練用のトレーニング服姿のヴィータが現れた。

「おーっす,ゲオルグ。もう大丈夫か?」

「ああ。もうすっかり大丈夫だよ。悪いな,訓練中だったか?」

「いや,ちょうどフォワードの訓練が終わったとこだからいいぞ」

「そうか。来てもらったのはな,昨日の戦闘のことでちょっと
 聞いておきたいことがあったからなんだよ」
 
俺がそう言うと,ヴィータは渋い顔をした。

「あー,あれかー。なんつったらいいかなー」

「とりあえず俺が把握できてるのは,ヴィータが飛行型ガジェットを殲滅して
 スバルとティアナのところに戻ろうとしたところで何かに気づいて
 慌ててたこと。あとは,2人を叱り飛ばして下げさせたこと位だな。
 その間に何があったのか知りたい」

「あんときあたしが戻ろうとしたらティアナが無茶な射撃をやろうとしててな,
 一発がスバルに直撃しそうになってたから,慌ててあたしが
 はじき飛ばしたんだよ。
 後から確認したら,カートリッジを4発ロードしてたみてーだな」
 
「4発!?そりゃいくらなんでも無茶がすぎるだろ」

「ああ。あたしもそう思う。で,あたしがティアナを叱り飛ばしてたら,
 スバルが自分の動きが悪かったからだーなんてティアナをかばうからさ,
 あたしもカッとなっちまって,あいつらにすっこんでろって言っちまった
 ってわけだ」

「なるほどね。まぁヴィータの言ってることは正論だし,
 2人を下げたのもまあ,妥当な判断じゃないかな。
 で?ティアナがそんな無茶をした理由は?」

俺がそう聞くと,ヴィータは腕を組んで少し考え込んでから口を開いた。

「そこは,あたしにもわかんねーな。ゲオルグが気を失ってる間に
 なのはがティアナと話したみてーだけど」

俺は,ヴィータの答えを聞くと少し考え込んだ。

(多分,お兄さんの件が遠因にはなってるだろうな・・・
 隊長たちには話をしとくか・・・)

「わかった。俺もちょっとティアナのことは気にしておくよ」

俺がそう言うと,机の上の電話が鳴った。
俺はヴィータにちょっと待っておくように伝えると,電話をとった。

「シュミットだ」

『あ,ゲオルグくんか?おはよう,はやてやけど』

「おう,おはよう。どうした」

『ちょっと隊長・副隊長陣に集まってもらって話がしたいんやけど,
 私の部屋まで来てくれるか?』

「わかった。ちょうどヴィータも一緒にいるから連れてくよ」

『うん。頼むわ』

電話を置くとヴィータにはやてからの電話の内容を告げ,ヴィータといっしょに
部隊長室に向かった。



部隊長室に入ると,まだはやてしかいなかった。
俺とヴィータは,はやてに勧められるまま部隊長室のソファーに座った。

「ゲオルグくん,昨日は大変やったね。もう大丈夫か?」

「うん。おかげさまでもうすっかりいつもどおりだよ」

「そらよかった。あと,ごめんな」

はやてはそう言うと,深く頭を下げた。

「ん?何が?はやては何も悪いことしてないだろ」

俺がそう言うとはやては首を横に振った。

「部隊長として,総指揮を取る立場にありながら,
 フェイトちゃんとなのはちゃんっていう大きな戦力を会場内に配置したんは
 私の戦術構想が間違っとった。
 要人警護を敵戦力の迎撃より優先するべきやなかったって反省しとる。
 しかも,前線指揮官が負傷する事態になったんやから余計や」

はやては,苦しそうな顔でそう言った。
俺ははやての柔らかそうな頬をつまむと,ムニっと引っ張った。

「ま,そこははやての戦術構想に納得した俺も同じだよ。
 それに,結果論から言えばはやての戦術構想は間違ってたかもしれないけど,
 要人警護が今回の作戦でそれなりのウェイトを占めてたのは事実でしょ。
 あと,俺が怪我したのは俺自身の油断のせい。
 責任を感じるなら前線指揮を引き受けておきながらそれを最後まで
 全うできなかった俺の方。OK?」

俺がそう言うとはやては俺につねられた頬を押さえながら
恨みがましそうな顔をしていた。

「そやけど!」

はやてはなおも言い募ろうとするので俺はまたはやての頬をムニムニした。

「そやけどじゃないの。そもそもはやてはなんでも背負い込みすぎだよ。
 もうちょっと肩の力抜いて行こ!」

「むぅ,判った。そやけど今後はいくらゲオルグくんでも一人で動くんはなし。
 これは部隊長命令やからね。破ったら処分するから」

はやてはウインクしながらそう言った。

「・・・善処します」

「何か言うたか?」

「いえ,今後は単独行動しません,八神部隊長」

「よろしい!」

はやてがそう言うとちょうどドアが開いて,
なのは・フェイト・シグナムが入ってきた。
全員がソファに座ったところで,はやてが真剣な顔で口を開いた。

「今日みんなに集まってもらったんは昨日の戦闘の件でちょっと
 気にかけておいて欲しいことがあるからなんよ」

はやてがそう言うとフェイトが口を開いた。

「それは,ゲオルグが負傷したこと?」

「いや,そっちもない事はないけど,本題やないねん。
 本題は,こっちや」
 
はやてはそう言うとモニターに昨日の戦闘の映像を映した。
それは,ティアナが4発のカートリッジをロードし
自分の制御できる範囲を超えたクロスファイアシュートを撃った挙句,
制御しきれなかった1発がスバルに命中する寸前でヴィータが
弾き返したシーンだった。

「このフレンドリファイアそのものとティアナが無茶をしたことに関しては
 既になのはちゃんの方から注意してもらっとる。そうやね?」

「うん。ティアナには今後こんな無茶はしないように伝えたよ」

はやての問いかけに対しなのはが答えた。

「ありがとう。そんときなんやけど,ティアナは何か言っとった?」

はやてが重ねてなのはに聞くと,なのはは少し考え込んでから口を開いた。

「そうだね。ティアナとしては,この部隊での自分の立ち位置について
 悩んでるというかコンプレックスを持ってるというか,
 そんな感じだったよ。あと,早く強くならなくちゃって焦ってる感じ」

なのはがそう答えると,はやては頷いた。

「やっぱりそうか。フェイトちゃん」

はやてがフェイトに話を振るとフェイトは頷いて,話し始めた。

「私のほうでティアナの過去について調べてみたんだけど,
 ティアナがなんでそう考えるようになった
 原因らしきものを見つけたんだ」

フェイトはそこで一旦言葉を切り,一枚の資料をモニターに映し出した。

「ティアナは早くにご両親を亡くしてて,お兄さんに育てられてた
 らしいんだけど,そのお兄さんは首都防空隊の魔導師だったんだ。
 で,ある事件で違法魔導士を追跡中に死亡してる」

フェイトがそこまで話すと,なのはが口をはさんだ。

「それがティアナの焦りの原因なの?」

「ううん。実は死亡事故の調査委員会で,管理局員なのに犯罪者を
 取り逃がすなんて役たたずだ。みたいな意見が出たらしくて」

「なるほど,それでティアナは兄が優秀な魔導師だったと証明したくて
 早く強くなろうとしている訳か・・・」

「ひでー言い草だな・・・」

フェイトの言葉を受けてシグナムとヴィータが言った。
周りを見ると全員が沈痛な表情をしている。
その時,はやてと目があった。

「ゲオルグくんはこのこと前から知ってたんとちゃうか?」

はやては確信したような顔でそう言った。

「・・・まぁ,知ってたよ。
 6課設立前にフォワードの身上調査は一通りやったからね」

俺がそう言うとなのはが何かに気づいたように俺を見た。

「それって,スバルとティアナのBランク試験の時に見てた・・・」

「そうだね。あの資料にすべて書いてあったよ。
 ティアナのお兄さん,ティーダ・ランスターの死亡事件についてもね」

「なんで教えてくれなかったの?」

「1つには個人情報だから軽々に話す気にはなれなかった。
 あと1つは,これがここまで大きな問題になるとは認識してなかった」

俺がそう言うとなおもなのはが食ってかかろうとしたが,
はやてがそれを遮った。

「それに関しては今更やし,ゲオルグくんの判断もその時点では
 誤りやったとは言えんやろ。現に問題が顕在化したんは今回が
 初めてやったし。それより,ゲオルグくん」

はやてはそう言うと俺の顔を見つめた。

「さっきゲオルグくんは,事故やのうて事件って言ったな。
 ちゅうことは,ティーダ・ランスターの死亡には何か
 裏があるんか?」

はやてがそう言うと,全員の目が俺に集中した。

「まあな」

「説明してくれるか」

はやてがそう言うと,俺は一度深呼吸をしてから話し始めた。

「細かい話は省くけど,ティーダ・ランスターの遺体に残されていた傷と
 ティーダ・ランスターが追っていた違法魔導師の能力を比較してみると
 両者に齟齬があることが判明している。
 このことは事故調査委員会でも議題に上がってるんだが,
 追加調査をしようとしたところで,何者かの圧力によって
 調査が打ち切られてる。
 で,結局事故原因はティーダ・ランスターの独断先行と
 能力不足という結論で調査は終了。
 挙句に地上本部上層部からさっきのようなコメントが出た訳だ」

俺がそこまで話すと,はやて以外の全員が目を丸くしていた。

「その圧力っちゅうのはどこから?」

「はやての疑問はもっともだけど,さすがにそれは記録に残ってない。
 だからここから話すことは,俺の推測なんだけど・・・」

「ええよ。話して」

「事故調査委員会に圧力をかけられると言えば,地上本部の上層部あるいは
 管理局中央の上層部しかない。本局がこの件に介入する権限はないからな。
 それに加えて地上本部上層部から意図的とも思えるようなコメントが
 出ていることから考えると・・・」

「地上本部のトップに近い何者かが圧力をかけた可能性が高いっちゅうわけか」

「ああ。まぁ,その地上本部上層部の何者かがさらに上から圧力を受けている
 可能性は否定できないけどな」

俺がそう言うとはやては腕を組んで考え始めた。

「そやけど,地上本部の上層部なんてゲイズ中将のイエスマンの巣窟やろ?
 っちゅうことは,圧力の出処は・・・」

「まぁ必然的にそうなるわな」

俺がそう言うと,部屋の中はしんと静まり返った。
しばらく全員が黙り込んでいたが,フェイトが俺に目を向けてきた。

「でも,よくここまでの情報を集められたね。ゲオルグ」

「そら,ゲオルグくんは情報部におったからなぁ。こういうのは得意やろ」

はやてがそういうと,フェイトは納得したように頷いた。

「まぁ,証拠がない以上推測の域を出る話ではないから,みんなこの話は
 他言無用に頼むで」

はやてがそう言うと,全員が黙って頷いた。

 

 

第29話:内緒のお話


ティアナについての話が終わってなのは達が部屋を出ていったあとも,
俺は残っていた。

「ん?ゲオルグくん,まだなんかあるんか?」

「ちょっと聞きたいんだけどさ,フェイトやなのはは騎士カリムの
 予言についてもう知ってるのか?」
 
「まだ話してへんけど,なんで?」

「8年前のゼスト隊全滅事件のことは知ってるか?」

俺がそう聞くと,はやては腕組みをして天井を見上げた。

「確か,首都防衛隊の1部隊がテロ組織の拠点に突入して,
 全滅したんやったっけ」

「そう。そして,俺の姉ちゃんはそのゼスト隊の一員だった」

「なんやて!? ん?ちょい待ち。ゲオルグくんのお姉さんて
 スカリエッティに殺されたって前に言うてへんかったか?」

「そうだよ」

「っちゅうことはやで,ゼスト隊全滅事件のテロ組織の拠点っちゅうのは
 実際にはスカリエッティのアジトやったってことか?」

「そうだ」

「ちょっと待ってや,ゲオルグくんのお姉さんが首都防衛隊の一員で
 8年前にスカリエッティのアジトに突入した時に殺されたと。
 でも,それがカリムの予言とどう関係あんねんな」
 
はやてが首をひねりながらそう聞いてきた。
俺は,ユーノからもらったメモを机の上に置くと
読むようにはやてに促した。

「ん?ちょっと待って!なにコレ!?
 無限の欲望ってカリムの予言にあったよな!?」
 
「そうだな。だがもう一つ重要なのは日付だよ」

「どういうこと?」

「そのメモの中で襲撃があったとされる日はゼスト隊が全滅した日と
 同じなんだよ」

「は!?」

はやては驚きのあまり声を失っているようだった。
俺は話を続けることにした。

「同日に出動した首都防衛隊の部隊はゼスト隊以外にはない。
 つまり,ゼスト隊が襲撃したのは”無限の欲望”なるものの研究拠点の
 1つだった訳だな。もう何が言いたいかは判るだろ?」

俺の渡したメモを持つはやての手が震えていた。

「カリムの予言にあった”無限の欲望”は,スカリエッティを表しとる
 っちゅうことか・・・。ん?待って! ガジェットにはスカリエッティが
 からんどって,ガジェットはレリックを狙っとるやろ?
 っちゅうことは,”古い結晶”はレリックを表しとるんやろうな」

「間違いないだろうね」

「このメモの出処は?」

「そこが最大の問題なんだよ。
 実は,最高評議会事務室の業務記録からの抜粋なんだ」

「!!!!」

はやての手からメモが滑り落ちた。

「そうだね。俺も知った時にはびっくりしたよ」

「・・・この話はゲオルグくんの他に誰が知っとるん?」

「レーベンとはやてだけ」

俺がそう言うとはやてはホッとしたように眉間を揉んだ。

「まぁ,ようこんな爆弾持ち込んでくれたわ。どないしよ・・・」

「それで俺から提案なんだけどさ,俺の古巣の力を借りようと思うんだ」

「古巣って,情報部の特務隊かいな?」

「うん。俺たちが動くと目立ちすぎるだろ?」

「ほんならロッサは?査察部やったらちょうどええやろ」

「ダメだね。相手がデカすぎる。今回は誰にも気づかれずに潜り込んで,
 情報を抜き取って帰ってくるのが必須なんだよ。査察部じゃダメだ」

「・・・特務隊しかないと。しゃあないか」

「いいのか?」

「さっきも言ったやろ。しゃあない。
 あと,お願いしに行く時は,私も一緒に行くから」

「かまわないけど,本局にほかの用事がある時じゃないとまずいぞ」

「それはまかしとき。以上か?」

「今のところは。ゴメンな,巻き込む形になって」

「ううん。話してくれてありがとう。
 あと,なのはちゃんとフェイトちゃんにも話したらなあかんな」

「まあ,そっちは近いうちにでいいよ」



俺は部隊長室を出ると,隊舎を出た。
さすがに重い話の後で,外の空気を吸いたかったからだが,
外はもう暗くなり始めていた。
静かなところでタバコでも吸おうと訓練施設の脇にある林に向いながら
火をつけると,林の奥の方から声が聞こえてきた。

(・・・何だ?襲撃か??)

声のする方に行ってみると,ティアナが射撃訓練をしている姿が見えた。

(・・・こんな遅くまで何やってんだ・・・ったく)

俺はティアナに背後から近づくと,肩に手をかけた。
ティアナは,ビクッと肩を震わせると距離をとり俺の方を向いた。

「・・・ゲオルグさん?」

「よう。こんな時間に何やってんだ?」

「・・・自主トレです」

「自主トレねぇ。今日もなのはにしごかれたんだろ?
 早く寝たほうがいいんじゃないの?」

「・・・いいじゃないですか。別に」

「よくないね。無理なトレーニングで体調壊したまま現場に出られたら迷惑だ」

「それくらいわかってます。訓練や任務に影響のない範囲でやってますから」

(んなわけねーだろ。無理しやがって・・・)

「ティアナ。少し昨日の戦闘について話したいんだけど,いいかな?」

「いいですけど・・・」

俺はティアナの手を引くと近くの木の側に座らせ,俺はその隣に座った。

「タバコ吸ってもいい?」

「・・・どうぞ」

俺は胸ポケットからタバコを一本取り出すと火をつけて,一度煙を吐き出した。

「昨日は悪かったな。途中で倒れちまって」

「いえ・・・」

「ところで,ヴィータから話を聞いたよ。ティアナらしくないミスだったな」

「・・・すいません」

「ま,なのはからも言われてるだろうけど,4発ロードなんて
 俺でも制御しきれる自信もないし,体への負担も大きいんだから
 今後はやめとけよ」

「はい・・・」

「ずいぶん落ち込んでるみたいだね」

「いけませんか?」

「いけなくはないよ。ミスしたら反省すべきだとも思うしね。
 ただ,引きずるのは良くない。ミスの反省を次に生かせれば十分だよ」

「はぁ・・・」

「ミスは誰だってする。俺も昨日はミスしたし。
 それで今日は,はやてに怒られちゃったしね」

「ゲオルグさんがミスなんて・・・」

「したよ。安易に一人で調査に出たこと。敵の戦力も不明な状況で
 バックアップも無しに取るべき行動じゃなかったね。
 ま,油断してたんだな」

俺が笑いながらそう言うと,ティアナは俯いて何かを考えているようだった。

「ティアナはさ,何をそんなに焦ってるの?」

「焦ってなんかないです」

「焦ってるよ。ただでさえお前たちフォワードはなのはから厳しい訓練を
 受けてるんだから,その上自主トレなんて焦ってる証拠」

「・・・」

「ま,くどくど聞くのはやめようか。とにかく,無理な自主トレは
 ティアナ自身のためにもならないし,寝不足は美容にもよくないよ。
 さ,今日はもう戻ってさっさと寝るんだ」
 
「はい・・・」

俺は隊舎に向かって歩くティアナを見送ると,振り向いて林の奥に向かって
声をかけた。

「のぞき見とは趣味が悪いね。陸曹」

俺がそう言うと,ヴァイスが木の陰から姿を現した。

「気がついてたんすか」

「当たり前だよ。舐めんな」

「それは恐れ入りました」

「なんで割り込まなかったんだ?言いたいことはあったんだろ?」

俺がそう聞くと,ヴァイスは頭を掻いた。

「いや,そうなんすけどね。俺の言いたいことは全部ゲオルグさんが
 言っちまいましたからね」

「それは失礼しました」

「いやいや。それよりいいんすか?ティアナ」

「良くはないね。あれじゃ,自主トレはやめる気ないだろうし」

「どうするんです?」

ヴァイスがそう聞くので俺は腕組みをして少し考えた。

「このままほっとくのも手かな,とは思ってる。
 一度無理のし過ぎでどんな痛い目を見るかってのを体感しとくのも
 悪くはないかなってな」

「本気で言ってるんすか?」

ヴァイスの声に少し怒気が混じった。

「半分くらいね。でも取り返しのつかないようなことには
 ならないようにしないといけないからね。さじ加減が難しいわな」

「俺がそれとなく見ときましょうか」

「暇なの?」

「んなわけないっすよ。でもゲオルグさんよりは時間の自由が効くでしょ」

「頼んでいい?」

「もちろんっすよ」

「恩に着るよ。ありがとう」

「いや,俺もあんなの見てるとほっとけないタチなんで,気にしないで下さい」

「お互い損な性分だな」

「そっすね。ま,今更ですけど」

「じゃ,頼むな」

俺はそう言うと,ヴァイスを置いて隊舎へと戻った。

 

 

第30話:古巣への帰還


数日後,俺とはやては本局へ出張することになった。
目的は,部隊の後見人であるクロノ・ハラオウン提督との会談だ。
が,真の目的は本局情報部への協力要請である。

俺は,自分の車にはやてを乗せ,近くの転送ポートへ行くと,
本局へと向かった。

本局に着くと,まずはクロノさんの執務室へと向かった。
クロノさんの執務室に入ると,クロノさん勧められるままソファに座った。

「2人とも久しぶりだな」

「クロノくん,お久しぶりやー」

「お久しぶりです。というほどでもないんじゃないですかね」

挨拶を交わすと,クロノさんが話し始めた。

「順調みたいじゃないか,機動6課は。つい最近も出動したばかりだろう」

「まあ,クロノくんらのお陰で優秀なスタッフを集められたからね」

「お陰で僕は,いろんな部署からあまりいい顔をされないがね」

クロノさんは苦笑しながらそう言うと,俺の方を見た。

「ゲオルグもうまくやっているみたいだな。出動時の戦闘記録は確認したが,
 前線指揮官としての働きは流石というべきだろうな」

「いえ,なのはやフェイトを始めとして前線メンバーがよくやってくれてます。
 俺は口を出しているだけですよ」
 
俺がそう言うとはやてが口を挟んできた。

「何を謙遜してんのや。ゲオルグくんが現場で前線指揮をとってくれるから,
 みんなが迷いなく動けてるんやで。胸張っとき」
 
「僕も同感だよ。しかも,先日のオークション会場警備でも自ら前に出て
 戦闘したんだろう。もう僕では君にかなわないかもな。
 そういえば,負傷の方はもう大丈夫なのか?」

クロノさんが心配そうな顔で尋ねてきたので,俺は苦笑しながら
大丈夫ですよと返した。
そんな調子で1時間ほど歓談してクロノさんが会議に出席する時間となったので
俺とはやては辞去することにした。
別れ際,俺は前から気になっていたことをクロノさんに聞くことにした。

「そういえばクロノさん。この前ユーノと会ったときにずいぶん
 やつれてたんですけど,ユーノにずいぶんと無茶な資料請求を
 してるらしいですね」

俺がそう言うと,クロノさんはピシリと固まった。

「・・・何を言ってるんだ?そんなことはない」

「じゃあ,なんでユーノが3日連続の完徹をする羽目になったりするのか
 ご説明いただけますか?」
 
「・・・すまない。君からも言っておいてくれ」

「そういうことはご自分で言われる方がいいですよ。
 でないといつかユーノに後ろから刺されても知りませんからね」
 
俺はそう言うと,先に行ったはやてに追いつくべく駆け足で追いかけていった。



クロノさんとの会談を終えると,俺とはやては情報部のフロアに向かった。
その途中で,はやてが話しかけてきた。

「そういえば私,情報部フロアに入るんは初めてやわ」

「そうなの?ヨシオカ一佐と話をしたときは?」

「通信で話したり,会議室で会ったりやね。
 そもそも私一人では入られへんやん」

「それもそうか」

情報部フロアは本局の人間でも入れる人間が限定される。
情報部員であれば当然入れるが,それ以外では提督クラスでもないと入れない。
なので,はやてが入れないのは当然と言えば当然なのだ。

そうこうしているうちに,情報部フロアの入口に到着した。
情報部フロアのセキュリティは3段階で,
まずIDカードの認証,次に指紋認証,最後に網膜スキャンによる認証で
それを順番通りにこなさないとロックが外れないようになっている。

俺が,慣れた手順でロックを外すと目の前のドアが開いた。
俺ははやてを先に通してから自分も情報部フロアに入った。

「なんか普通やね。ほかの部署とそんなに雰囲気変わらへん感じや」

「あのなぁ,建物が同じなんだから廊下の雰囲気が
 そんなに違うわけないじゃん」

俺とはやては目的地であるヨシオカ一佐の執務室に向かった。
途中で,何人か見知った人間とすれ違い,その度にビシッと敬礼されるので
はやてが,少し驚いているようだった。
ヨシオカ一佐の執務室の前に着くと,俺はブザーを鳴らした。
中からどうぞという声が聞こえてきたのでドアを開けると,
ヨシオカ一佐が書類仕事をしていた。

「ご無沙汰しています。ヨシオカ一佐」

俺がそう声をかけるとヨシオカ一佐は書類から目をあげずに
部屋の中にあるソファを指さした。

「すまんが数分待ってくれ。これだけ片付ける」



俺とはやてがソファに座って待っていると3分ほどで
ヨシオカ一佐が俺たちの向かい側に座った。

「よう,ゲオルグ。意外と早い再会だったな」

「そうですね。こんな形でここに戻ってくることになるとは
 思ってませんでした」
 
「八神は久しぶりだな。1年ぶりになるか」

「お久しぶりです。今日は急に伺って申し訳ありません」

はやてがそう言うと,ヨシオカ一佐は手を振った。

「んなことはいいんだよ。ところでゲオルグはどうだ?
 ちゃんと仕事してるか?」
 
「ちゃんとやってくれてますよ。私はすごい助かってますから」

はやてがそう言うと,ヨシオカ一佐は嬉しそうな笑顔になった。

「そうか。なら,俺も貴重な人材を出した甲斐があったってもんだよ」

俺たちはしばらく近況報告なんかの雑談をすると,
ヨシオカ一佐が本題を切り出してきた。

「で?今日はどんな話をしに来たんだ?雑談をするためだけに
 本局まできたわけじゃねえだろ?」
 
俺は,前にはやてに話したのと同じ内容を例のメモを見せながら話した。
説明し終わると,ヨシオカ一佐は難しい顔で唸っていた。

「っつーとなにか?お前らはスカリエッティがロストロギアで何か
 やらかそうとしてて,そいつが管理局の崩壊につながると。
 おまけにスカリエッティは裏で最高評議会と繋がってる可能性まで
 あると考えてんのか」

「はい,そうです。ただ,スカリエッティと評議会については
 少なくとも8年前につながっていたのは間違いないと考えてますが,
 現在もその関係が維持されているかは,わかりませんね」

俺がそう言うと,ヨシオカ一佐は俺とはやてを交互に見てから
何かを考えるかのように目を閉じた。
しばらくして,目を開くと一度息を吐いてから話し始めた。

「お前らの考えは判った。で?俺にどうして欲しいんだ?」

「スカリエッティと最高評議会の関係についての証拠集めを
 お願いしたいんです」
 
俺がそう答えると,ヨシオカ一佐は俺を睨みつけた。

「お前しばらく情報部から離れて馬鹿になったのか?
 最高評議会の裏情報なんて探れるわけないだろうが。
 そもそも何者なのかも定かじゃねえんだ。探ろうにもその糸口すらねえよ」
 
「それはそうなんですが・・・」

俺がうつむきながらそう言うと,ヨシオカ一佐はため息をついた。

「まぁ,お前らの熱意と危機感はよくわかったから
 力にはなってやりたいんだが,今回ばかりはお手上げだよ。
 こういう場合,本人を尋問するぐらいのことでしか情報は引き出せない」

ヨシオカ一佐の最後の一言に俺はハッとした。

「そうか・・・その手があった」

俺がそう言うとヨシオカ一佐とはやては驚いた表情で俺を見た。

「情報のありかがわからないなら本人を秘密裏に誘拐して尋問すればいい。
 くそっ,特務隊の得意技じゃねぇか。なんでそこに発想がいかなかったんだ」

「待て!お前まさか最高評議会の連中を直接尋問する気か!?」

「ええ」

俺がそう答えるとヨシオカ一佐は頭を抱えた。

「お前,自分が何言ってるのか理解してんのか?
 そもそも最高評議会の連中はどこにいる?」

「それについては心当たりがあります」

「で?お前一人で潜入するつもりか?」

「そうですね。6課にはこの任務に対応できるのは俺しかいませんから」

俺がそう言うと,ヨシオカ一佐は肩を落として深いため息をついた。

「馬鹿野郎!バックアップもなしに成功するわけねぇだろ。ちょっと待ってろ」

ヨシオカ一佐はそう言うと部屋を出た。
はやては何かを考えているらしく,腕組みをしてうつむいていた。
しばらくして,ヨシオカ一佐はシンクレアを連れて戻ってきた。

「シンクレア?まさか貸してくれるんですか?」

俺がそう聞くとヨシオカ一佐は頷いてから口を開いた。

「俺はお前ら2人がやり遂げてきたことを見てるからな。
 お前らなら潜り込めない場所はないだろうさ」

「でも,いいんですか?部隊長が不在なんて」

「まあ,半年位なら俺が直接指揮するから問題ねえよ」

「すいません」

俺がそう言って頭を下げると,ヨシオカ一佐は俺の肩を叩いて言った。

「お前には4年間十分すぎるほど働いて貰ったからな。
 礼だと思ってとっとけ」

「ありがとうございます」

俺がもう一度深々と頭を下げると,シンクレアが話しかけてきた。

「あの・・・俺,まだ何も聞かされてないんですけど・・・」

「クロス一尉。お前はこれから最長で半年の間機動6課に出向だ。
 第1特務隊の指揮は俺が引き継ぐから1週間で引き継ぎを済ますぞ」
 
ヨシオカ一佐がシンクレアにそう言うと,シンクレアは頷いた。
そこで,はやてが割り込んできた。

「ちょっと話がとんとん拍子にすすんでるところ悪いんですけど,
 これ以上高ランクの魔導師がうちに来るんは困るんですけど」

「そこは大丈夫だよ。偽の身分で出向させるから」

ヨシオカ一佐がそう言うとはやてが目を丸くしていた。

「そんなんできるんですか?」

「余裕だね。なぁ,ゲオルグ」

ヨシオカ一佐が俺に話を振るので俺は黙って頷いた。

「よし,じゃあこれで決まりだな。八神にゲオルグ,シンクレアを頼むぞ」

「「はい」」



その後3人揃ってヨシオカ一佐の部屋を後にした俺たちは廊下で
改めて話を始めた。

「とりあえず,こちらの方を紹介してもらえるか?ゲオルグくん」

「ああ,コイツはシンクレア・クロス一等陸尉。
 俺の後任の特務隊部隊長だ」

「シンクレア・クロス一等陸尉です。八神二佐のお噂はかねがね
 伺っております」
 
シンクレアはそう言ってはやてに向かって敬礼した。

「機動6課部隊長の八神はやてです。よろしく。
 あと私のことははやてでええよ」
 
「はい。では私もシンクレアと」

2人の自己紹介が終わったところで,俺は話を再開することにした。

「でだ。シンクレアには6課に来てもらって俺たちのやってる調査に
 手を貸してもらう。よろしくな」

「はい。こちらこそ,またゲオルグさんと一緒にやれるなんて嬉しいです」

「なぁ,ゲオルグくん。シンクレアくんとは付き合い長いの?」

「そうだなぁ。シンクレアが情報部に来てからだからかれこれ3年か?」

「そうですね」

「へー,案外短いんやね。ゲオルグくんとの付き合いで言えば私のほうが
 長いやん」
 
「そうなんですか?」

「うん。ゲオルグくんとはじめに会ったんはゲオルグくんが
 まだ作戦部におったころやし」

「ま,腐れ縁だよ」

俺がそう言うと,はやてはむくれたような顔をした。

「ひっどいなぁ,その言い方」

俺とはやてのそんな様子をみてシンクレアは笑っていた。
俺は,シンクレアの方に向き直ると真面目に話すことにした。

「まぁ,細かい話は着任してからするから,とりあえずは
 1週間後を楽しみにしてるよ。あと偽装に使う身分は任せるから」

「了解です。俺も楽しみにしてます」

そうして,俺たちは別れ,俺とはやては6課の隊舎へと帰った。


 

 

第31話:教導官と副部隊長の対立

俺とはやてが情報部に協力を要請してから数日間,
特に何事もなく過ぎていった。
ヴァイスによれば,やはりティアナは無茶な自主トレを続けているらしく
スバルまでがそれに協力しているとのことだった。

俺は当直明けの眠気を覚まそうと,朝食後に屋上に向かった。
屋上では,フェイト・シグナム・ヴィータ・エリオ・キャロの5人が並んで
訓練スペースの方を見ていた。
俺はフェイトに話しかけることにした。

「おはよう。フェイト」

「あ,ゲオルグおはよう。当直お疲れ様」

「お気遣いどうも。しかし眠ぃー」

俺が生あくびをしながらそう言うと,ヴィータが呆れたような目を向けてきた。

「なんだよゲオルグ。朝から眠そうな声出してんじゃねーよ。だらしねーな」

「しょうがないでしょ,当直明けなんだから」

「ビシッとしろ。エリオやキャロの前だぞ。副部隊長自ら規律を乱すな」

俺がヴィータにだらしなく抗弁していると,シグナムも俺を注意してきた。

「何度も言わせんなよ。当直明けなんだから仕方ないでしょ」

「でもさ,当直の後って午前中は休みだよね。ゲオルグは寝ないの?」

俺がシグナムにあくびをしながらそう言うと,
フェイトが心配そうに尋ねてきた。

「事務が滞らないならそうするんだけどね。
 はやてが昼間は外回りでほとんどいないから,
 夕方までにやっとかないとはやてが困るでしょ」

「そっか。でもゲオルグ,あんまり無理しちゃダメだよ」

俺が手すりにぐてーっとたれかかりながら答えると,
フェイトは苦笑いしながらそう言った。

「へいへい。ところで,みんなこんなところで何やってんの?」

「模擬戦の見学です。今はスターズの番なんですよ」

エリオの言葉に釣られて訓練スペースの方を見ると,スバル・ティアナが
なのはと向かい合っていた。

「ふーん。なのはもタフだなぁ,毎日毎日大変だろうに」

「そうだよね。だから,スターズの模擬戦も私が相手しようと思ったんだけど」

フェイトが心配そうになのはの方を見ながらそう言った。

「あいつらの分隊長はなのはだからってのもあるんでしょ。
 それにフェイトだって,捜査関係の仕事もあるんだし」

「まぁそうなんだけど。でも最近のなのははちょっと
 無理してるんじゃないかなって思うんだ」

「なのはがすぐ無理するのは今更って感じだけどね。
 ま,あいつも一度痛い目見てるんだし,そのへんはうまく調整してるでしょ」
 
「だといいんだけど・・・」

そうこうしているうちに模擬戦が始まったようだった、

「おー,クロスシフトだな」

スバルがウィングロードで空中のなのはに向かっていくのと同時に
ティアナは射撃でなのはを牽制する。

「あれ?ティアナの射撃,キレがねーな」

「そうだね。狙いはいいみたいだけど・・・」

ヴィータとフェイトの会話を聞きながら俺は小さく舌打ちをした。

(何が訓練に影響はないだよ・・・)

なのはの正面に回ったスバルがなのはに肉薄していく。
なのはは砲撃を加えるが,スバルはシールドで防ぎながら
なのはに攻撃を加える。

「なぁ,あの二人のクロスシフトってこんなのあったっけ?」

「いえ,初めて見るコンビネーションですね」

俺の問いに対して,エリオは意外そうな口調で返してきた。

「それにしてもあぶねー機動しやがって。何やってんだスバルは」

「そうだね。エリオもキャロも安全には気を使わないとだめだよ」

「「はい」」

「ところで,ティアナはどこに行ったのだ?」

シグナムの言葉で,全員がティアナの姿を探した。
すると,なのはの顔に狙撃ポインターが見えた。
出処の方を見ると,砲撃をしようとしているティアナの姿が見えた。

「砲撃!?ティアさんが?」

キャロが驚いた口調でそう言った。
その間にも,スバルはさっきと同じようになのはに肉薄し,
また,攻撃を加えていたが,なのはのシールドに阻まれている。
その時,砲撃しようとしていたティアナの姿が掻き消えた。

「あっちのティアナは幻影?じゃあ本物は・・・」

そのとき俺はなのはの後方でウィングロードの上を走るティアナの姿を
発見した。右手のクロスミラージュには魔力刃が生成されている。

(ふーん。発想は悪くないけど,それじゃあ・・・)

ティアナがなのはの上方からクロスミラージュで切りかかると
ふいに爆煙がなのは達3人を包んだ。
俺は不測の事態に備えてレーベンをセットアップすると,
手すりを乗り越え,爆煙の方に向かって飛んだ。

「ゲオルグ!?」

後ろからフェイトの驚いた声が聞こえるが無視して
3人のいるであろう方向に飛んだ。
爆煙が晴れてくると,なのはの側でスバルがピンク色のバインドに縛られ,
ティアナとなのはがお互いを砲撃しようとしていた。
しかし,なのはの方が一瞬早く砲撃を放ち,ティアナはダメージで
意識が朦朧としているようだった。

(・・・やれやれ。なのはも大人げない攻撃しやがって)

俺がほっと息を着くと,なのはがほとんど意識のないティアナを
さらに砲撃しようとしているのが見えた。

(・・・!?あいつ,どういうつもりだよ!)

「レーベン!スピードブーストダブル!!」

《はい,マスター》

俺はなのはとティアナの間に割り込むと,なのはが放った砲撃を
シールドで防御した。

俺より少し下にいるなのはは,俺を睨みつけていた。

「・・・なんで邪魔するのかな,ゲオルグくん」

「なんのつもりだよ,なのは」

「・・・教導の邪魔しないでくれるかな?ゲオルグくん」

「教導?ふざけんなよ。ボロボロの奴に追い討ちかけて墜とすのが教導か?」

「・・・何度も言わせないで欲しいな,ゲオルグくん」

俺は聞く耳を持たないなのはにいい加減腹が立ってきた。

「模擬戦は終了だ。ここから出て行け,高町一尉」

「それは命令なのかな。ゲオルグくん」

「当然だ。機動6課副部隊長として命ずる。
 高町一尉は別命あるまで自室で待機。異議は認めん」
 
「・・・了解」

なのはは力なくそう言うと,隊舎の方へ行こうとする。

「なのは。右手はシャマルに治療してもらえよ」

俺はなのはの右手から滴り落ちる血を見て,なのはの背中に向かって
そう言ったが,なのははそのまま飛び去った。

「それから,ナカジマ二士」

俺がそう言うとスバルは肩を震わせた。

「貴様はランスター二士を医務室へ搬送。以後は別命あるまで自室で待機」

「・・・」

「復唱はどうした」

「・・・ランスター二士を医務室へ搬送後,自室にて待機します」

スバルはうつむいてそう言うと,ティアナを連れて隊舎に向かった。

隊舎の方を見ると,ヴィータがこちらに向かってきた。

「ゲオルグ!なんでなのはの教導を邪魔した!」

ヴィータが食って掛かってきたので,俺はヴィータの襟を掴み上げ
頬を張った。

「言葉に気をつけろ。ヴィータ三尉」

「うるせー。あたしはなんでなのはの邪魔をしたか聞いてんだ」

「部隊運営を預かる者として,部下への行き過ぎた体罰は認められんからだ。
 わかったか,ヴィータ三尉」

俺はそう言うとヴィータの襟を掴んでいる手を離すと,隊舎へと戻った。
屋上ではシグナムからすれ違いざまに一言だけ言われた。

「・・・不器用な奴め」

「ほっとけ」

俺は,屋上を出ると副部隊長室にこもった。

 

 

第32話:仲直りしましょ


午後になって,俺は副部隊長室になのはを呼び出すことにした。

「ルキノ」

『はへ?あ,すいません。なんですか?副部隊長』

「高町一尉は?」

『ちょっと待ってくださいね・・・寮の自室にいらっしゃいますね』

「副部隊長室に出頭するように伝えてくれ」

『・・・出頭ですか?』

「出頭だ」

『はい,了解しました』



10分ほどして,来客を告げるブザーが鳴った。
俺が入れというと,無表情ななのはが入ってきた。
なのはの右手を見ると包帯が巻かれていた。

(治療はちゃんと受けたみたいだな・・・)

「少しは頭が冷えたか?高町一尉」

「私は最初から冷静です。シュミット三佐」

「言葉を変えようか。少しは俺の話を聞く気になったか?」

俺がそう聞くと,なのはは無言で頷いた。

「まず聞くが,なぜ既に戦闘能力を喪失したランスター二士に
 大出力の砲撃を加える必要があったのか,貴官の見解を聞こう」

「ランスター二士が安全性を軽視した戦術を使用したことと,
 ランスター二士が冷静さを保ち得ていなかったためです。
 あの状況下で,ランスター二士に対して口頭での指導を行なっても
 無意味と判断し,頭を冷やさせるために必要と考えました」

「短絡的だな。頭を冷やさせるというなら時間を置けばいいだろう。
 一旦訓練を中止し,自室で待機させた後改めて口頭での指導を行う
 手段も取り得たはずだ」

「御説もっともですが,戦技教導隊には戦技教導隊のやり方があります」

「では,戦技教導隊においては訓練生に対する虐待行為が推奨されていると?」

「虐待行為というのは語弊があります。撤回してください」

「断る。戦意を喪失した相手に対して大出力の砲撃を加えるのは
 虐待行為以外のなにものでもない」

「見解の相違です」

「違うな,状況認識の錯誤だ。
 百歩譲って戦技教導隊ではあの行為を許容するとしても,
 機動6課では許容できない」
 
「理由をご教示下さい」

「機動6課が実戦部隊だからだ」

「仰る意味がわかりません」

「戦技教導隊とは,優秀な能力を持つ魔導師であり,更なる能力向上の意志を
 持つ者に対して,短期に濃密な戦技指導を行うことにより,
 より高いレベルの戦闘能力を獲得させることを目指す機関だ。
 即ち,戦技教導隊の実戦への出動機会はよほどのことでもない限り皆無だ。
 故に,一時的に一部の構成員が戦力として機能しなくなることを許容できる。
 一方,実戦部隊においては,つい先日我々も経験したように,
 いつ緊急出動が必要になるかわからん。
 常に実戦に即応できる態勢を整える必要がある。
 我々機動6課においては若いフォワード陣を訓練していく必要があるが,
 それはあくまで隊の戦力向上を第一義とするべきであって,
 構成員が短期的にあっても戦力として機能不全に陥るような行為は
 厳に慎むべきだ。いかに戦技教導とはいえ戦技教導隊のやり方を
 そのまま踏襲すればいいというものではない」

「仰ることは理解できるつもりです」

「では,以後注意するように。以上だ」

俺がそう言うとなのはは回れ右をして部屋を出ようとした。

「なのは」

「なにかな?」

俺がなのはを呼び止めると,なのははドアの方を向いたまま返事を返した。

「ここからは,友人としての話をしたいんだけどいいかな?」

「うん」

「なのははさ,自分がスバルやティアナにとっての何だと思ってる?」

「戦技教導官で分隊長だと思ってるよ」

「でもさっきのなのはの話を聞いてると戦技教導官の立場での話しか
 出てきてないよね」

「だって,教導中のできごとの話だもん」

「じゃあ,分隊長としてはどう考えてるの?」

「わかんない・・・」

「わかんないって・・・」

「だって,そんなふうに分けて考えたことなんかないんだもん。
 どっちの立場でも私は私だし・・・」

「じゃあ,なのはは分隊長の役割って何だと思う」

「・・・戦場で2人を引っ張ること」

「それじゃ0点だよ」

「じゃあゲオルグくんはどう考えてるの?分隊長の役割」

「戦場では作戦の目的達成のために隊員各人の能力・性格を考慮した上で
 それぞれに役目を割り当てて,状況に応じた指示を出すこと。
 平時には,隊員の能力・性格・健康状態・精神状態・隊内の人間関係を
 できるだけ細かく把握し,分隊が常にベストパフォーマンスを
 発揮できるように丁寧にケアしていくこと」

「私はそんなふうに具体的なイメージは持ててなかった」

「そっか」

「ゲオルグくんは,私がスターズの分隊長として失格だと思ってる?」

「少なくとも今回の件に関しては」

俺がそう言うとなのはの肩がビクッと震えた。

「・・・そうなんだ」

「なのははさ,ティアナが自分の能力に対して焦りを感じてることと
 その原因について知ってるよね」

「うん」

「じゃあ,この間の戦闘の後からスバルとティアナが早朝と夜に
 過剰とも思える自主トレをしてたことは知ってた?」

「そうなの?」

「うん」

「なんで教えてくれなかったの?」

「なのはは当然知ってると思ってた」

「そっか・・・」

「今日の模擬戦でやってた新しいクロスシフトさ。
 きっとティアナがなのはに勝つためにはどうすればいいか
 一生懸命考えに考え抜いた結果の戦術だと思うんだ」

「うん・・・」

「俺は戦術教官として,この姿勢を全否定する気にはなれない。
 だって,敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うでしょ。
 ま,今回のティアナとスバルは己を知らなかったわけだけど」

「私は,全否定したつもりなんてない」

「でも,ティアナはそう感じてるんじゃない?
 さっきの模擬戦の記録映像を見たけど,なのははティアナになんて言った?」
 
「なんで訓練通りやらないんだって言った」

「うん。それさ,取りようによっては”なんで私の言いなりにならないんだ”
 って言ってるようにも聞こえるよね」

「私,そんなつもりで言ったんじゃない」

「わかってる。俺もあれを見たときは,技術が未熟なくせに
 余計なことやるなって思ったよ。
 でもさ,自分が一生懸命考えて,一生懸命練習したことを
 全否定されちゃったらさすがにヘコむでしょ」

「うん」

「だから,ティアナとお話して,なのはがどういう思いでいるのかきちんと
 言葉で伝えてあげてほしいんだ」

「うん」

俺は席を立つと,ドアの前にいるなのはの包帯に包まれた右手をさすった。

「モードリリースしたのか・・・無茶しやがって」

「ゲオルグくん」

「ん?」

「ありがと」

「どういたしまして」

「あとさ,ちょっとだけ胸かりていい?」

「どうぞ」

俺がそう言うと,なのはは俺の方を振り返り,俺の胸に顔をうずめて
声を殺して泣き始めた。



「ごめんね。制服汚しちゃって」

「まったくだよ。クリーニング代よこせよ」

俺が冗談でそう言うと,なのはは泣きはらした真っ赤な目をしていたが,
満面の笑みを浮かべた。

「やっと,いつもの私たちだね」

「おう。まったく俺にらしくないこと言わせんなっての」

「ごめんごめん。じゃあ私行くね」

「おう。頑張れ!」

「うん!」

そう言ってなのはは部屋を出た。

 

 

第33話:事態は無事収拾しました


なのはが部屋を出て行ってからしばらくして,再びドアが開いて
はやてとシグナムに手を引かれたヴィータが入ってきた。

「いやー,最初はどうなるかと思ったけどよかったわ。
 お疲れさんやったね,ゲオルグくん」
 
「はやても覗き行為お疲れさん」

実は,俺となのはが副部隊長室で話しているのをはやて・シグナム・ヴィータの
3人は部隊長室で見ていたのだ。
ヴィータは俺がなのはの邪魔をしていると言い張っていたので
見かねたシグナムがはやてに相談したところ,こういう形になった。

「しかし,前半と後半のゲオルグくんのギャップはすごかったで。
 前半のシュミット三佐モードんときは私も見てて怖かったもん。
 でも後半になったら急に優しなるし。あれはすごいわ。
 ゲオルグくん俳優になれるで」

「そりゃどうも。でも演技じゃないよ。どっちも俺自身。
 ただ,立場の違いが態度に現れてるだけだよ」

「主はやて。まずは・・・」

シグナムがそう言うとはやてははっとした顔になった。

「そうやったな。ヴィータ」

はやてはそう言うとヴィータを俺の方に押しやった。
ヴィータはしばらく言い出しづらそうにうつむいていたが
キッと顔を上げると,口を開いた。

「ゲオルグ,ごめん。あたしはゲオルグがそんなに考えてるって思ってなくて。
 自分のことしか見えてなかった・・・」

「ま,しょうがないでしょ。なのはが気づけなかったことに気づけってのも
 酷な話だと思うし。こればっかりは隊長としての教育と経験がないとね。
 でも,これからはちゃんと考えてくれな」

「わかった!」

ヴィータはそう言うと俺に向かって手を差し出したので,俺はその手を握った。

「はい!これでヴィータとゲオルグくんも無事仲直り完了やね」

はやてがぽんと手を叩いて殊更明るくそう言った。

「あとは,なのはがティアナとうまくやってくれればいいんだけど・・・」

「そこはなのはちゃんを信じよ。大丈夫やって,ゲオルグくんの愛する
 なのはちゃんやったらうまくやってくれるって」

「そうだな・・・。って,愛するって何!?」

俺がそう言うとはやてはニヤニヤ笑いながら肘で俺のわき腹を小突いてきた。

「またまたー。あんな優しく話しかけるゲオルグくんなんか見たことないよ。
 少なくとも私はあんなふうに接してもらったことないもん。
 あー,ええなぁなのはちゃん。ゲオルグくんに優しくされて。
 これまでも,なのはちゃんはゲオルグくんに惚れてるんちゃうかと
 思ってたけど,これで落ちたな。フォーリンラブや」

「おい,はやて・・・」

「しかも,泣きじゃくるなのはちゃんの頭を優しく撫でてるときの
 ゲオルグくんの慈愛に満ちた表情!あれこそ愛やね」

はやてはそう言うと,俺の部屋のモニターを操作した。
すると,俺に抱きついて泣くなのはとなのはの肩を抱き頭を撫でる俺が
モニターに映し出された。

「・・・そんなんじゃねえよ」

「なあ,ゲオルグくん」

俺がそっぽをむいて言うと,はやては急に真面目な口調になった。
 
「私はな,なのはちゃんにもゲオルグくんにも幸せになって欲しいんよ。
 2人とも私の大事な友達やからね。多分,フェイトちゃんも同じ気持ちやで。
 ま,これ以上は本人同士の問題やからごちゃごちゃ言うのはやめとくけど,
 自分の気持ちに嘘はつかんといて。これは2人の友達としての私のお願いや」
 
「・・・へいへい」

俺は投げやりに返答しながら,心中では違うことを考えていた。

(わかってるよ,はやて。でも,俺は・・・)



夕食後,副部隊長室で書類仕事をしていると通信が入った。

「シュミットだ」

『ルキノです。ガジェットが出現しました。発令所へお願いします』

「判った。すぐ行く」

俺が発令所に入ると,既にはやてが部隊長席に座っていた。
俺は,はやての側に行き話しかけた。

「状況は」

「海上に飛行型ガジェットが20機出現したんよ。
 今,ヘリに緊急出動準備させてる」

「どうする?」

「ま,ここは定石通り航空魔導師を投入やろ。
 なのはちゃん・フェイトちゃん・シグナム・ヴィータと
 私・リインが出撃するわ。
 あとの前線メンバーは隊舎で警戒態勢を維持して待機。
 ゲオルグくんには隊舎側の指揮を頼むで」
 
「了解」

俺がはやてにそう言うと,アルトが立ち上がってこちらを見上げた。

「八神部隊長。ヘリの出撃準備が完了しました」

「判った。ほんなら私は行くからこっちの指揮は副部隊長に引き継ぐで」

「了解。アルト,俺はヘリを見送ってくるから何かあったら呼んでくれ」

「判りました」

アルトの返答を聞くと俺は,はやてと屋上ヘリポートに向かった。
屋上に着陸しているヘリにはすでにはやて以外の出動メンバーが
乗り込んでおり,ヘリのすぐ横にはフォワード4人が整列していた。
はやてがヘリに乗り込むのと入れ替わりで,なのはとフェイトが顔を出した。

「みんな,あとはよろしくね」

「何も無いと思うけど,警戒態勢の間は緊張を緩めないようにね」

「「「「はい!」」」」

なのはとフェイトの言葉にフォワード4人が揃った返事をすると,
なのはとフェイトはヘリの中に姿を消し,ヘリは離陸していった。

「よし,じゃあ警戒態勢だから全員発令所に移動するぞ」

「「「「はい!」」」」

俺たちは発令所に移動したが,特にやることもなく
俺はのんびり観戦しようと部隊長席に腰掛けたとき,
ルキノが立ち上がって俺の方を見上げた。

「副部隊長!隊舎の西方約5kmの丘陵地帯にガジェット1型10機が出現。
 接近してきます!」

「了解。前線メンバーは全員迎撃に出るぞ」

「しかし,出動しようにもヘリがありません」

「5kmなら移動指揮車で出る。アルト!通信要員として同行しろ。
 シャマルは索敵要員として同行。ザフィーラを発令所に呼んでおけ。
 ここの指揮はロウラン准尉に引き継ぐ。行くぞ!」

「「「「「「了解!」」」」」」



30分ほどで隊舎の西に出現したガジェットを殲滅した俺たちは,
隊舎に戻ったところで,隊長陣と鉢合わせした。

「お,ゲオルグくん。そっちも今戻ったか。お疲れさんやったね」

「ああ,そっちこそお疲れ」

「ホンマにゲオルグくんがおってくれてよかったわ。
 そやなかったら手の打ちようがなかったからな」

「ま,そのために俺を残したんでしょ。はやての判断がよかったんだよ」

「そらおおきに。ほんならね。みんなもお疲れさん」

「「「「はい!」」」」

 

 

第34話:ヒミツの作戦


俺とはやてが情報部を訪れてから1週間と少し経ち,
シンクレア・クロス一尉が今日,機動6課に配属されてくる。
もっとも人事異動の時期でもないのに情報部からの異動があっては
余計な注意を引きかねないということで,偽装された身分での配属だが。

かくして俺は,はやてから新人を迎えに行くよう仰せつかり,
自分の車で転送ポートまで来ていた。

俺が柱にもたれて待っていると,シンクレアの姿が見えたので
俺の方から声をかけることにした。

「ツァイス三尉か?」

俺がそう声をかけると,シンクレアは俺の顔を見た。

「はい。シンクレア・ツァイス三尉です」

「俺は機動6課副部隊長のゲオルグ・シュミット三佐だ。
 時期外れで申し訳ないが,うちの部隊長がわがままでね。よろしく頼む」

「いえ。私の方こそ魔導師でもないのに遺失物管理部に行けるなんて光栄です。
 よろしくお願いいたします,シュミット三佐」

「俺のことはゲオルグと呼んで構わないよ」

「判りました。では私もシンクレアと呼んでください,ゲオルグさん」

「判った。じゃあ行こうかシンクレア。車で来てるから」

俺はそう言うと,シンクレアを連れて車に向かった。
車に乗り込むと,シンクレアは一つ大きく息を吐いた。

「ふぅ。なんか変な感じですね。俺,手に汗びっしょりなんですけど」

「悪いな。無理言って来てもらった上に偽名で生活なんて」

「いえいえ,これも仕事ですしね。しかし,ゲオルグさんって
 いい車乗ってるんですね」

「そうか?ま,独身彼女なしの上に仕事が忙しいとなれば,
 こんなところにしか金を使えないんだよ」

「ゲオルグさん彼女居るじゃないですか」

「とっくに別れたよ。もう1年以上前だぞ?」

「そうなんですか?もったいない,可愛い子だったじゃないですか」

「いやいや,性格は最悪だった。凄いわがままでさ。
 それよりお前の方はどうなんだよ,例の彼女」

「おかげさまでうまくやってますよ」

「それはよろしいことで」

そんな雑談を交わしながら車を走らせ,30分ほどで隊舎についた。



隊舎に着いた俺とシンクレアは,部隊長室に向かった。
部隊長室に入ると,シンクレアははやての前に仁王立ちした。

「本日付けで作戦部より異動で着任しました,シンクレア・ツァイス三尉です。
 よろしくお願いいたします。」

「機動6課部隊長の八神はやて二佐です。こんな時期に異動してもらって
 申し訳ないけど,期待しています。
 部隊付の参謀という立場になるので,よろしく」
 
シンクレアの着任挨拶にはやてが返答すると,はやてがにっこり笑った。

「シンクレアくん,よう来てくれたな。早速話をしたいんやけどええかな?」

「もちろんですよ。はやてさん」

シンクレアがそう答えると,はやてはソファに座るように言った。

「で,シンクレアくんにはどこまで話してたっけ?」

はやてが俺を見ながらそう言った。

「何も話してないよ。シンクレアが知ってるのは,表向きの話だけ」

「そやったっけ?ほんなら,最初から話さなあかんね」

それから,俺とはやてはたっぷり1時間ほどかけて,
機動6課結成の舞台裏からスカリエッティと最高評議会の疑惑に至るまで,
これまでに掴んだ情報とそこから俺たちが推測したことをすべて話した。

「なんか,途方もない話ですけど・・・今ある状況証拠からは
 ゲオルグさんとはやてさんの推測が当たってると考えるのが
 しっくりきますね。残念ながら」

俺とはやての話を聞き終わったシンクレアは,
大きく一度深呼吸をしてからそう言った。

「でだ,シンクレアには俺と最高評議会への潜入をやってもらう。
 目的は最高評議会の連中への尋問による,スカリエッティの情報収集だ」

俺がそう言うとシンクレアは天井を仰いだ。

「マジですか。まぁほかのことはとりあえず置いといても,最高評議会の
 連中なる方々はどこにいるんです?」
 
シンクレアの言葉に対して俺はニヤリと笑った。

「そこで取り出したるは,こちらの図面です」

俺は少し芝居がかった口調でそう言った。

「話は変わるが,管理局中央の庁舎は何階建てか覚えてるか?」

俺がそう言うと,はやてとシンクレアは首を傾げた。

「ん?確か,地下2階・地上30階やったんちゃうかな」

「そんなもんですよね」

「そのとおりだよ。でもな,この図面は管理局中央庁舎の地下3階なんだ」

俺がそう言うと,はやてとシンクレアは口を大きく開けていた。

「なんやて!?そんなもんどうやって手に入れたんや」

はやてがそう言うとシンクレアはうつむき加減に俺を見た。

「情報屋ですか・・・。相変わらず危ない橋を渡りますね」

「他に手がないんだからしょうがないでしょ」

「情報屋って・・・。盗んだんかいな!?」

「まあね。で,話を戻すと,この地下3階なんだけど,地下2階からの
 エレベータでしかつながってない。しかも,だだっ広い部屋が一つだけなのに
 電気と通信の回線だけは異常にたくさんつながってるんだよ。怪しいよね」

俺がそう言うとシンクレアは図面を真剣に見始めた。

「エレベータでの潜入は無理でしょうね・・・この通気孔から行きますか?」

「さすがシンクレアだね。俺もそのつもりだった」

「んじゃ,決まりですね」

「ああ。セキュリティ関係は気にしなくていいと思うしね。
 ステルス使えば大丈夫でしょ」

「そうですね。じゃああとは決行日ですか」

「ま,その前にもうちょっと情報を集めようや。
 そのへんを任せたいんだけど大丈夫か?」
 
「もちろんですよ,任せて下さい」

「よし,じゃあ今日のところはこんなもんだな」

俺がそう言うと,はやてが手を挙げた。

「先生。質問なんやけど」

「なんだ?」

「2人だけで大丈夫なん?」

はやてが心配そうに聞いてきたので,俺は殊更軽い口調で答えることにした。

「大丈夫!俺らはその筋のプロだから。任せんしゃい」

「そうですよ。俺とゲオルグさんはこんなことばっかりやってたんですから」

俺に続いてシンクレアがそう言ったので,はやては少し安心したようだった。

「ほんなら,2人に任せるわ。私は予言にあった”死せる王”と
 ”かの地より蘇りし翼”についてユーノくんに調査を頼んでみる」
 
「そうだな。どうもそこだけは意味不明だからな」

「よっしゃ。ほんなら今日のところはこんなもんやな。2人とも頼むで」

はやてのその言葉で,俺たち3人の謀議は終了となった。



俺はシンクレアと一緒に部屋を出ると,寮の自室を整理するという
シンクレアと分かれて,副部隊長室に入った。
副部隊長室には俺の机の横に,少し小さめの真新しい机が置かれている。
ここが,シンクレアのオフィスになるわけだ。

俺が書類仕事に手をつけ始めると来客を告げるブザーが鳴った。
俺がどうぞと返事をすると,シャーリーが入ってきた。

「シャーリーか。どうした?」

「以前お話のあった携帯用AMFC発生装置のプランについてなんですけど,
 2案持ってきました。遅くなってすいません」

シャーリーはそう言うと2枚の紙を俺の机の上に置いた。

「1案は使用者の魔力エネルギを使用するタイプです。
 要は,普通にAMFCの魔法を発動させるのとあまり変わりありませんね。
 2案は魔力エネルギの供給源としてカートリッジを使うタイプです。
 こちらは,カートリッジ1発あたりの稼働時間は約5分です」
 
「両者の利点と欠点を説明してくれるかい?」

「使用者の魔力を使用するタイプの場合,デバイスに装置を
 組み込むことができますので,そこが利点ですね。
 また,使用者の魔力量にもよりますが,稼働時間は長いです。
 ただし,使用者の魔力特性がAMFCとの相性が悪いものであれば,
 魔力消費が激しくなりますから,戦闘への影響は少なからずあると考えます」

「装置として効果と稼働時間を計算できないのは辛いのと,
 AMFCを使ってるだけで,魔力を消費するのはいただけないね」
 
「はい。で,もう一方のカートリッジシステムを使用する場合ですが,
 こちらは,専用の筐体が必要になります。手のひらに収まる程度です。
 ですが,AMFCを使用していても使用者の魔力を消費しませんし,
 カートリッジシステムを使用することで,デバイス用のカートリッジを
 そのまま使用できますから,エネルギー切れになっても,
 カートリッジの再装填で再稼働できます」

「よし,カートリッジ案で行こう。試作にどれくらいかかる?」

「とりあえず1つ作るのに1週間下さい。そこでテストしてみて
 問題を洗い出せれば,前線メンバー全員分を用意するのに
 3週間ってとこです」

「トータルで最短1ヶ月か。判った,頼むよ」

「はい,判りました」

シャーリーはそう言うと,部屋を出ていった。
 


 

 

第35話:副部隊長を倒せ!


シンクレアが機動6課に来て数日が過ぎた。
シンクレアは管理局中央への潜入任務準備のための情報集めなのか
着任して以来ほとんど隊舎にはいない。
まあ,そのために参謀という曖昧な立場で出向してもらったのだが。

俺はというと,潜入任務を控えているとはいえ,副部隊長としての事務は
減るわけもなく,通常業務をせっせとこなしていた。

今日もいつものようにレーベンに起こされて制服に着替え,
食堂で一人寂しく朝食をとっていると,向かいの席に
ヴィータとなのはが座った。

「よーゲオルグ」

「おはよ!ゲオルグくん」

2人は早朝訓練の後らしく,寝起きの俺とはテンションに差があった。

「なんだよ。2人とも朝からテンション高いなぁ」

俺がそう言うと,なのはとヴィータは顔を見合わせて小首を傾げた。

「そうかな。私としては普通なんだけど」

「そーだぞ。あたしも普段からこんなもんだ」

2人の返事を聞いて俺は頭が痛くなってきた。

「いやいや。俺からすれば十分テンション高いよ」

「そうなの?」

「そーか?」

俺がそう言うと,なのはとヴィータは2人揃ってまた小首を傾げた。
俺は話題を変えようと,話を振ることにした。

「そういえば,あいつら4人はどうだ?」

「え,ゲオルグくん気になるの?」

「ん?そりゃまぁ,副部隊長としては部隊の戦力推移は気になるでしょ。
 それに,この間はいろいろあったしね。で,どうなの?」

「うーん。4人ともだいぶ強くなってるよ。
 もう,4人いっぺんに相手するのはキツいかな」

「なぁ,ゲオルグ。そんなに気になるなら自分で確かめればいーじゃねーか」

ヴィータがそう言うと,なのはが目を輝かせた。

「ヴィータちゃん,それいいね!」

(・・・あれ?なんか嫌な予感が・・・)



・・・午後。
俺はフォワード4人を前に,訓練スペースに立っていた。

「じゃあ今日の午後の訓練は,ゲオルグ副部隊長と4対1の模擬戦だよ」

「「「「はい!」」」」

なのはがフォワード4人に向かって,そう言うと4人は揃った返事をした。

「ゲオルグさんと模擬戦で戦うのは初めてだから,楽しみー」

「なに言ってんのスバル。前に鬼ごっこでコテンパンにやられたんだから,
 これは雪辱戦なのよ。しっかりやりなさいよね!」

「成長したところをしっかりゲオルグさんに見せないとね,キャロ」

「そうだね。がんばろ,エリオくん!」

[なんか,4人ともすげーやる気なんだけど,どうしようかレーベン]

[《どうするもこうするも無いと思いますよ,マスター》]

俺がレーベンと念話を交わしている間にも,なのはが話を進めていく。

「じゃあ,シールドを破って攻撃を当てられたら撃墜ってことでいいね。
 あと,ゲオルグくんはステルス使っちゃだめだよ」

「へいへい」

俺がやる気なさげに返事を返すと,なのはは念話で話しかけてきた。

[ゲオルグくん,あんまり舐めてかかると痛い目みるよ]

[舐めてないよ。俺はこれが普通なの]

[そっか,じゃあ頑張ってね!]

なのはは念話を打ち切ると,俺に向かってにっこり笑って見せた。

[《マスター,なのはさんにかっこいいところを見せるチャンスですよ!》]

[ほほう。ヤクトレーベンさんは余裕ですな]

[《戦うのはマスターですからね》]

[そりゃそうだわな。ほんじゃま,いっちょやりますかい。行くぜ相棒!]

[《何だかんだ言ってマスターも気合い入ってますね》]

俺はセットアップすると,レーベンを握っていちど大きく深呼吸する。

「よしっ,じゃあ模擬戦スタート!」

なのはの合図と共に,俺の前の4人が一斉に動いた。

[レーベン,まずは向こうの出方をみるぞ]

[《了解です!》]

俺は,4人から距離をとるために,後ろに向かって飛ぶと,
スバルがウィングロードで追ってきた。

ちらっと下を見ると,ティアナがカートリッジをロードして
こちらを狙っている。

その後方では,大型化したフリードに乗ったキャロとエリオが
俺の側面に回り込もうとしていた。

そうこうしているうちに,スバルが俺を攻撃しようとしていた。

「先手必勝!リボルバーシュート!!」

「そんなにモーションでかい攻撃が当たるわけないでしょ」

俺は,スバルの攻撃をレーベンで受け流すと,スバルの後方に回り込んで
切りつけようとした。だが,ティアナからの射撃が大量に襲ってくる。

俺はティアナの方を向くと,命中コースの魔力弾をレーベンで切り裂いた。

「レーベン!スピードブーストダブル!」

《はい!》

俺は,ティアナの方に向かって一気に突っ込むと,
至近距離から砲撃を打ち込むことにした。

「パンツァーファウストっ!」

周囲に大きな砂煙が上がる。俺は,砲撃の命中を確認せずに,
その場を離れると近くのビルの影に隠れた。

砂煙が晴れると,ティアナとエリオが立っているのが見えた。
どうやら,俺の砲撃はエリオによって防がれたようだ。

だが,4人とも俺を見失ったようで,キャロがフリードで
上空から探すことにしたようだった。

俺は,ビルの中に入ると,ほっと一息ついた。

[さて,どうするかね。できればティアナはさっきので
潰しておきたかったんだけど]

[《だったら斬るべきだったのでは?》]

[それだと,多分俺がエリオにやられてたよ。
ま,とりあえず隠れてチャンスを伺うことにしますか。
レーベン,サーチャーの情報からタクティカルディスプレイに
連中の位置を表示]

俺はさっきの爆発のどさくさに紛れて,サーチャーをばら撒いていた。

[《了解です》]

表示を見ると,エリオとキャロが上空から,スバルとティアナは地上から
俺のことを探すつもりのようだった。

[しっかりコンビネーション組んじゃってまぁ]

[《マスターが前にやった鬼ごっこの反省ですかね?》]

[なのはが鍛えたんでしょ。ったく厄介だな・・・]

表示を見ていると,スバルとティアナは俺が隠れているビルに当たりを
つけたらしく,ビルに入ってきた。

[おっ,入ってきたね。しめしめ・・・]

[《マスター,完全に顔が悪役です》]

俺は2階に上がると,階段を上がりきったところに,
設置型のバインドを仕掛け,そこらにあるがれきを少し離れたところに投げた。

表示を見ると,スバルが前,ティアナが後で階段を上がってくる。

俺はカートリッジをロードすると,レーベンを握り締めた。

スバルの姿がちらっと見えたところで,バインドが発動し,スバルを拘束する。

「あっ!」

スバルの声が聞こえた時には,俺はスバルの懐に飛び込んでいた。

「ツヴァイシュラーゲン!」

俺は,レーベンでスバルの胴をなぎ払い,バリアジャケットの一部が
裂けたのを確認すると,階段の下にいるティアナに向かって突っ込み,
ティアナに斬りかかった。

が,レーベンが当たった瞬間に,ティアナは消えてしまった。

「幻影か!?」

「クロスファイアー・・・」

階段の下に着地した俺の右側からティアナの声が聞こえた。

「シュート!」

ティアナの射撃が俺に迫る。

「舐めんなぁー!」

俺はティアナの放った魔力弾を切り裂くと,ティアナに向かって左手を向けた。

「パンツァーファウスト!」

俺の砲撃はティアナのバリアを破ると,ティアナに命中する。

《マスター!外です!》

レーベンの声に反応して表示を見ると,キャロとエリオを乗せたフリードが
俺に向かって降下していた。

「・・・決めるぞ。レーベン」

俺は,ビルの開口部に向かって右手を向けると,意識を集中する。
さっきまでの戦闘で俺のまわりに漂っている大量の魔力素を集め,
右手の前に集中させていく。

「パンツァー・・・」

その時,フリードの姿が開口部の外に見えた。

「ハンマー!」

俺の右手の前から砲撃がフリードに向かって飛んでいく。
砲撃が収まると,そこには何も無かった。

「・・・凄い」

ティアナがつぶやいているのがちらっと聞こえた。

《マスター!後ろです!!》

俺がレーベンの声でとっさに振り返ると,ストラーダを構えたエリオが
突っ込んできた。
俺は,シールドを張り攻撃を受け流そうとしたが,
シールドを破られ,咄嗟に身を捩ってかわそうとしたが,左肩に攻撃を受けた。

「はぁ,はぁ,当たった・・・?」

エリオが息も絶え絶えに言った。

「模擬戦は終了。結果は俺の負け。ほれ」

俺は少し騎士甲冑の裂けた左肩を見せた。


 

 

第36話:潜入作戦前夜


5人で揃ってなのはとヴィータのところに戻ると,
なのはが声をかけてきた。

「みんなお疲れさま。ゲオルグくんに勝つなんて,よく頑張ったね」

「「「「ありがとうございます」」」」

「ゲオルグくんもお疲れ様」

「・・・疲れたねさすがに」

「じゃあ,これで今日の訓練は終了!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

並んで隊舎の方に向かっていく4人を見送ると,なのはに話しかけた。

「さすがにリミッタ付きだとキツいな。
 ちゃんとコンビネーションもとれてるし。強くなってんじゃん」

「でしょ?」

なのはは胸を張るようにしてそう言った。

「でも,ゲオルグはステルス禁止だったしな。
 あれを使われたら,あいつらもまだ勝てねーだろ」
 
「ヴィータちゃん。あれはね,反則っていうんだよ」

その時,俺の腹がグーっと鳴った。

「・・・腹減った」

俺がそう言うと,なのはとヴィータが大笑いした。



シャワーを浴びて,3人で夕食を食べに食堂に行くと,
フォワード4人もちょうど,夕食を食べ始めたところだった。
俺たちが,4人のところに行くとスバルが声をかけてきた。

「あ,ゲオルグさん,なのはさん,ヴィータ副隊長!一緒に食べましょうよ!」

「いいのか?」

「もちろんですよ,ね?キャロ」

「うん!エリオくん」

「私もいいですよ」

俺が確認すると,3人とも快諾してくれたので,
俺たちは一緒に食べることにした。

大体全員が食べ終わったところで,スバルが話し始めた。

「ゲオルグさん,やっぱり強いですね」

「そうか? 俺結局負けたじゃん」

俺がそう言うと全員が首を横に振っていた。

「強いですよ。結局3人はゲオルグさんにやられちゃったし」

「希少技能は使わなかったみたいだし」

「しかも,能力リミッターがかかってるんですよね」

「私,何もさせてもらえませんでした・・・」

4人が口々に言うので,俺はちょっと圧されていた。

「みんなはゲオルグくんとの模擬戦は初めてだったよね。どう?感想は」

なのはが尋ねると,フォワード4人は少し考え込んでいた。

「私は,前にやった鬼ごっこの時も思ったんですけど,
 ゲオルグさんって,きちんと戦術を組み立てて戦うんで,
 ものすごく勉強になりました
 ひょっとするとなのはさんよりも戦いにくいかもしれませんね」

ティアナがそう言うと,スバルが続いた。

「そうそう,私は今回も罠にはまってやられちゃったし」

「でも,力技もつかえるのよね。
 私はきちんと計算して張った罠に思惑通り乗ってくれたのに,
 魔力弾を切り裂かれて,砲撃で打ち抜かれちゃったし」

ティアナがそう言うと,エリオが続く。

「僕がすごいと思ったのは,反応の速さですね。
 僕の最後の一撃は完全に裏をかいたと思ってたんですけど,
 きっちりシールド張られたし,シールドを破ったあとも
 体をひねってかわそうとしてましたよね。あれは凄いと思いました」

「キャロはどうだった?」

なのはに聞かれてキャロはうつむいてしまった。

「私は・・・攻撃しようとしたら,逆に撃ち落とされちゃいましたから。
 びっくりしたとしか・・・」

「だ,そうだけど。ゲオルグくんは?」

なのはが俺に話を振ってきたので,俺は一言だけ言うことにした。

「みんなの成長の速さにびっくりです。まさか本気を出すことになるとは
 思いませんでした。以上」
 
俺がそう言うと,ヴィータがうんうんと頷いていた。

「だな。あの動きは完全に本気だったよな。
 どさくさ紛れにサーチャーばらまくし」
 
ヴィータがそう言うと,4人ともえっ,という顔になった。

「サーチャーなんていつまいたんですか?」

「最初にティアナに攻撃した時だよ。だから,それ以降のみんなの動きは
 バッチリ見てたよ。あ,でもティアナの幻影には完全に騙されたし,
 エリオの後ろからの奇襲も直前まで気づかなかったなぁ」

俺がティアナの質問にそう答えると,キャロとスバルは
がっくりと肩を落とした。

「それで,あんなにタイミングよく砲撃が・・・」

「どうりでバインドにかかったあとの動きが早いと思った・・・」

「ま,ゲオルグくん並みに性格が悪い魔導師と戦う機会もなかなかないから,
 みんなしっかり反省しておいてね」

なのはがそう言って締めくくった。

「ちょっと待て,なのは。性格悪いってなんだよ!」



副部隊長室に戻ると,シンクレアが自分の席に座っていた。

「お,戻ってたのか。お疲れさん」

俺はそういって自分の席に座ると,目を閉じて上をむいた。

「なんかお疲れっぽいですね,なんかあったんですか?」

「なのはに新人フォワードと模擬戦やらされたの」

「なのはって,あのエースオブエースですか?」

「らしいね。ま,俺にとったらただの友達だよ」

「うらやましい話ですね,あんな美人と友達なんて」

「じゃあ替わるか? もれなく砲撃付きだぞ」

「・・・遠慮しときます」

「賢明だね。で,どうなの首尾は?」

俺がそう聞くとシンクレアは笑みを浮かべていた。

「潜入経路については調査完了です」

「セキュリティーは?」

「レーザーと赤外線センサーですね」

「んじゃもういつでも行けるな」

「そうですね,いつにしますか?」

「明日だ。今からはやてに話をしに行くぞ」

「了解です」

そして俺とシンクレアは部隊長室に向かった。



「はやて,ちょっといいか」

俺は部隊長室に入るなり,はやてに声をかけた。

「ん?ゲオルグくんやんか。どないしたん」

はやては書類から顔を上げると,俺の方を見た。

「例の潜入作戦だけど,明日行ってくるから」

俺がそう言うと,はやては頭を抱えた。

「あのなあゲオルグくん。そういう大事なことはもうちょっと早めに言うてよ」

「しょうがないじゃん,さっき決めたんだし」

俺がそう言うとはやては大きくため息をついた。

「しゃあないな。ま,ゲオルグくんが決めたんやったら私には異論なし。
 ただ,くれぐれも慎重に頼むで。ゲオルグくんは6課にとって
 替えのきかん重要な人材なんやからね」

「わかってるよ。じゃあ,そういうことで」

「はいはい。ちなみにいつ頃戻ってくるん?」

「順調に行けば明後日の夜には戻ってくるよ」

「了解。シンクレアくんも気をつけてな」

「はい。わかってます」

そうして,俺とシンクレアは部隊長室をあとにした。



 

 

第37話:スニーキング・ミッション


翌朝,普段よりも3時間早く起床した俺は,手早く私服に着替えると
自分の車の置いてある格納庫に向かった。
運転席に座り5分程待っていると,シンクレアが助手席側のドアを開け
乗り込んできた。

「お待たせしてすいません」

「いや,時間通りでしょ、じゃあ行くか」

「はい」

俺は車を発進させると,クラナガンに向かって走らせた。
1時間ほどでクラナガンの中心部に到着し,駐車場に車を停めた。
俺とシンクレアは車を降りると,駐車場を出て目の前の建物を見上げた。
それは,時空管理局中央の庁舎。これから俺たちが潜入しようとするところだ。

俺とシンクレアは庁舎の横にある路地に入ると,
1つのマンホールの上で足を止めた。
まだ早朝であり,官庁街であるこの辺に人通りはない。
シンクレアは,マンホールを手早く開けると,その中に潜り込んだ。
俺は,もう一度周囲を確認して,シンクレアに続きマンホールを閉めた。

底まで降りると,大量の電線や通信ケーブルが通る横穴に出た。
足音を立てないように慎重に進む。

[ゲオルグさん。懐かしいですか?]

[そうだね,6課に移ってからはこんなことしてないから]

[ゲオルグさんの本領はこういう任務だと思うんですけどね]

[俺もそう思うよ。ガチンコの戦闘なんて趣味じゃない・・・]

俺とシンクレアは念話で話しながら地下を進んでいく。
5分程歩くと,はしごが見えた。
俺とシンクレアは一度顔を見合わせ頷き合うと,はしごを登った。

はしごの上にある網状の蓋を外し,はしごを登りきると,
庁舎地下2階の機械室に出た。
ここからは,通気ダクトを通っていく。
ステルスを俺とシンクレアに使うと,通気ダクトへと登った。
シンクレアのあとに続いて1時間ほど通気ダクトを這い回ると,
前方にぼんやり明るいところが見えた。
そのダクトの床が網になっているところにつくと,
シンクレアが念話で話しかけてきた。

[ゲオルグさん,ここで間違い無いですよね?]

[間違いない。設置するぞ]

俺とシンクレアは念話で打ち合わせると,ダクトの下の様子を探るための
カメラを設置した。
設置が終わると,俺とシンクレアはカメラの映像を確認することにした。

モニターの映像を見ても人影らしきものは見えなかった。
カメラの向きを変えていくと,異様なものが目に入った。
培養タンクのようなものの中に巨大な脳が浮いている。
カメラを左右に振ってみると同じものが3つ並んでいた。

[ゲオルグさん。何ですか,あれ?]

[さあね。秘密の研究所かなんかなのかね。]

(こりゃ外れか?俺のカンもあてになんないね・・・)

1時間ほど映像を見ていると,ドアの開く音がして靴音が響いた。
少しすると,3つのタンクの前に一人の女性が立っていた。

(研究員か?にしてはそれっぽくない格好だけど・・・)

そんなことを考えながら映像を見ていると,女性は培養タンクらしきものの
前にある,端末で何かを見ているようだった。

(やっぱり研究員っぽいな・・・外れか・・・)

その時,耳に入れたイヤホンから話し声が聞こえてきた。

『・・・君か。いつもご苦労だな』

『いえ,これが私の仕事ですから』

俺はシンクレアの方を見ると,念話で話しかけた。

[なあ,あの女誰と話してんだ?]

[さあ?映像を見る限りでは他に誰もいませんよね]

[通信か?]

[ですかね?無線通信は使ってないみたいですけど・・・]

[んじゃ有線か・・・でもなんでわざわざ通信なんだ?
同僚かなんかとの会話なり上司への報告なら,直接すればいいよね]

[同感ですけど人それぞれというか,職場それぞれじゃないですか?
あ!あの女が出ていきますよ]

シンクレアがそう言ったので,カメラの映像に目を向けると,
研究員らしき女性が部屋から出ていったのが見えた。
部屋の中は再び静寂に包まれる。

[なんか外れ引いたっぽいな。ごめんな巻き込んじゃって]

[いえ。俺も納得して引き受けたんですから同じですよ]

その時,イヤホンから男の声が響いた。

『昨今,地上の方が騒がしいようだな』

『然り。何やら魔導機械が頻繁に出現しているようだ』

『しかも,特定のロストロギアを狙い動いているとか』

『レジアスも存外使えぬ男よな』

イヤホンからは依然として男の声で会話が続いているが,
俺は思わずシンクレアと顔を見合わせた。

[おい。やっぱり誰か部屋にいるだろ]

[確認してみます]

シンクレアがカメラを操作し,全方向を確認してみるが,
足元の部屋にはやはり人影はない。

[やっぱり誰もいないですよ]

[じゃあ誰が喋ってるんだ?]

[俺にわかるわけないじゃないですか]

俺とシンクレアが狼狽しながらそんな念話を交わす間にも,

イヤホンからの会話は続く。

『しかし,レジアスの計画はいかに考えるか』

『昨今の情勢を鑑みれば,あの男があのようなことを言い出すのも
 無理ないことだ』

『されど,あのような大規模な質量兵器の配備を,
 ましてこのミッドチルダにおいてなど認めるわけにはいくまい』

『左様。我らがいかに苦労して今の世界を作り上げたのかを
 奴は理解しておらんのだ』

[おい,今の聞いたか]

[はい。ひょっとしてこの会話をしている連中が最高評議会じゃないですか?]

[俺もそう思うよ]

[じゃあ奴らはどこにいるんです?]

シンクレアがそう聞くので俺は少し考え込んだ。

(マイクが拾ってるのはこの下の部屋の音で間違いない。
 でも,下の部屋にはだれもいない。
 あるのは気味の悪い脳みそのオブジェが3つ。
 3人の男と思われる連中の会話から察するに,
 連中が管理局による次元世界の管理体制を確立した・・・
 待てよ?それって今から100年以上前のことだよな・・・
 ひょっとして・・・)

俺はある突拍子もない考えに行き着いた。

[なあ,シンクレア。ひょっとしてあの脳みそのオブジェが
最高評議会の皆様なんじゃないのか?]

[何言ってるんですか?脳みそのオブジェが喋ってるって言うんですか?]

[まあ聞けよ]

そう言って俺は,シンクレアに俺の考えを話した。

[確かに人の寿命から考えれば,今の世界を作り上げた皆さんが
五体満足に生きてるわけないとは思いますけど・・・]

[でも,そう考えれば辻褄が合うだろ?]

[確かにそうですけど・・・]

シンクレアはまだ納得しきれていないようだった。

[とにかく,ここの連中の会話から察するにこの連中が最高評議会と
俺は判断した]

[じゃあどうやって誘拐するんです?]

[プラン変更だ。とりあえずはここの会話をモニターする]

[無線で飛ばしますか?]

[アホか。地下だろ?それに無線なんか使ったら傍受の可能性もある。
有線でさっきの機械室のところまで引っ張ってそこで記録する]

[モニターするって言いませんでした?]

[だから,定期的に記録媒体を取りに来て,それを再生するんだよ]

[了解です。じゃあ,その作業だけやって隊舎に帰還します?]

[いや,それだと遠すぎるから,俺のセーフハウスを使う]

[ゲオルグさんのセーフハウスって,近いんですっけ?]

[転送ポートの近くだよ。ここからなら歩いて20分ってとこだ]

[そりゃいいですね。そこで記録した会話をモニターですね]

[そうだ。じゃあ,記録装置を設置して撤収するぞ]

[了解です]

俺とシンクレアは,カメラをそのままにしてカメラから伸びるコードを
延長しながら,機械室近くのダクト内に記録装置を設置して,
その場を後にした。
そのまま真夜中になるまでマンホールの下で待ち,マンホールから出ると
俺とシンクレアは,徒歩で俺のセーフハウスに向かった。

 

 

第38話:隊舎への帰還


俺とシンクレアが最高評議会と思しき連中の監視を始めて1週間,
設置した機器をすべて撤収して,隊舎へと戻った。

一度,自室に戻って制服に着替えた俺は,すぐに部隊長室に向かった。
部隊長室に入ると,事務仕事をしていたはやてが顔をあげた。

「ゲオルグくんやないか・・・」

「ただいま戻りましたよ。部隊長殿」

俺がおどけた口調で言うと,はやてはおもむろに立ち上がって,
俺の方に向かって歩いてきた。
はやては俺の正面に立ってうつむいている。
その様子を見て,俺は何かあったのか心配になり尋ねようとしたとき,
俺の左頬に衝撃があり,俺は床に倒れ込んでしまった。

「遅い!2日で戻るって言ってたやんか!」

俺が痛む左頬を押さえながらはやてを見上げると,
はやてが右の拳を握り,鬼の形相で俺を見下ろしてそう叫んだ。

「ごめん。でも・・・」

俺がはやてに向かって言い繕おうとすると,はやては両の眉を跳ね上げる。

「でもやない!帰還が遅くなるならそう言ってくれんと心配するやろ!
 私はええよ。事情を知ってるんやから。そやけど,ほかのみんなが
 どんだけ心配してかわかるか?」
 
「ごめん・・・」

俺がそう言いながら立ち上がると,はやては俺に抱きついてきた。

「・・・無事に帰ってきてくれてよかったわ。めっちゃ心配したんやで」

「心配してくれてありがと,はやて」

俺がそう言うと,はやては俺に笑顔を向けた。

「友達を心配するんは,当たり前やろ」



「で,予定よりも5日も引っ張った甲斐はあったんかいな?」

はやては俺がソファーに座るやいなや,そう聞いてきた。

「まあね。当初の予定とは違ったけど」

「そういえば,誘拐したのはどこにおるん?」

「誘拐は実行不可能だったよ。ま,そのへんも含めて話そうか」

それから,俺は1週間の監視の結果得られた情報をはやてに説明した。
最高評議会の会話を盗聴した結果,やはりあの気味の悪い脳のオブジェが
最高評議会の構成員であり,彼らが今の体制の元を作り上げた人々の
なれの果てであった。
つまり,最高評議会は伝説の3提督よりも前の時代の人々であり,
100年以上にわたって,今の世界を支配し続けてきたことになる。
また,”無限の欲望”ことジェイル・スカリエッティは最高評議会の
意向によって作られた人工生命体らしく,人造魔導師に関する研究資金を
最高評議会がスカリエッティに提供していることもわかった。
さらに,地上本部の実質的支配者であるレジアス・ゲイズ中将が,
詳細は不明ながらも最高評議会と暗いつながりを持っていることもわかった。

俺が映像を交えながら話を終えると,はやては大きく一つ息を吐いた。

「・・・えらいもん掴んでしもたな。ゲオルグくんはどう動けばええと思う?」

はやては自分の足元を見つめながら弱々しい声で俺に尋ねてきた。

「少なくとも,最高評議会とスカリエッティが繋がってる証拠は掴んだ。
 この事実だけでも,最高評議会にとっては政治的な致命傷になりうると思う。
 だから,この事実を盾に最高評議会に対して秘密裏に接触を持つのは
 可能だと思う。ただね・・・」

俺は一旦そこで言葉を切った。

「何なん?」

はやては,俺の顔を見つめて先を促す。

「どうやら最高評議会側でもスカリエッティの狙いは掴みかねてるみたいでさ。
 俺たちが本当に必要としてるのは,スカリエッティの今後の動きについての
 情報だろ?だから,危険を冒して接触を持つほどの価値は今のところは無い
 っていうのが俺の考え」
 
「ふーん。そんなら,当面は静観するしかないっちゅうことか」

「そうなるね。あとは騎士カリムの予言とか他の線から探るべきかな」

俺がそう言うと,はやてはソファーの背もたれにもたれかかって,
さっきよりも大きな息を吐いた。

「そっちは,ユーノくんに調べてもらっとる最中なんやけど,
 相変わらずクロノくんがしこたま資料請求しとるらしいから,
 まだちょっと時間はかかると思うわ」

「そっか,あの人も懲りないな」

「いつかユーノくんがキレてクロノくんに殴り掛からんか心配やね」

はやてがそう言うと,俺たちは大声で笑いあった。
笑いが落ち着いたところで,はやてがもう一度真剣な顔で俺をみた。

「ところで,さっき見せてもらった映像に映っとった女やけど,
 素性は割れたん?」
 
「いや,データベースには該当者なし」

「その女はどこまで知ってるんやろか」

「さあね。ただ,最高評議会の連中が女の前では会話をしないところを見ると
 俺たちが必要としてる情報は握ってないと思うけど」
 
「女を攫ってくることはできひんかったん?」

「攫うの自体は簡単なんだけどね。あとの処理が難しいかな。
 最高評議会に察知されたら終わりなわけだし」
 
「ま,しゃあないか。以上?」

「そうだね」

俺がそう言うと,はやては立ち上がった。

「ほんならご苦労さんでした。シンクレアくんにもありがとうって
 伝えといてくれる」

「シンクレアには直接言えば。まだ6課に居てもらうつもりだから」

「そうなん?」

「まあね。今回欲しい情報を取りきれなかった以上,
 また同じようなことをする必要があるかもしれないからさ」

俺ははやてにそう言うと,立ち上がってドアに向かって歩き出した。
ドアを開けようとしたとき,背後からはやてが声をかけてきた。

「そういえば,なのはちゃんとかフェイトちゃんを筆頭にみんな心配してるで。
 ちょうど昼時やから,みんな食堂におるやろ。ちゃんと挨拶しときや!」

「へいへい」



俺は部隊長室を出るとその足で,昼食をとるために食堂に向かった。

食堂につくと,なのはが一人で食べているのが見えたので
ちょうどいいと思った俺は,なのはに声をかけることにした。
そっとなのはの背後に忍び寄った俺は,なのはの左肩に手を乗せた。
が,いつものように愉快な声が聞こえて来ない。
不思議に思った俺はなのはの横顔を見た。
なのはは,焦点の合わない目で,宙を見つめていた。

「おい!なのは!」

俺が立ち上がって強めに声をかけると,ゆっくりとした動きで
なのはは俺の顔を見た。

「ただいま戻りましたよ」

俺がそう言うと,なのはの目に光が戻ってきた。

「・・・ゲオルグくん?」

「おう。ゲオルグくんですよ」

そのとき,なのはの目から涙がこぼれ落ちた。

「・・・なのは?」

俺は予想もしなかった出来事になのはの名前を呼ぶことしかできなかった。

「・・・心配したんだよ。いきなりいなくなっちゃって。
 はやてちゃんに聞いたら2日ほど出張を頼んだって言ってたのに,
 3日たっても戻ってこないし・・・」

「なのは。心配かけてごめん・・・」

俺がそういった瞬間,俺の右頬になのはのビンタがさく裂した。
少しバランスを崩した俺がなのはを見ると,少し赤い目をしたなのはが
妙にすっきりした顔で座っていた。

「あー。すっきりした!」

「・・・いきなり殴るなよ」

「心配かけた罰だよ」

「ったく,はやてといいなのはといい,俺の扱いが雑だろ!」

「はやてちゃんにも殴られたんだ。しょうがないね」

「しょうがなくねえよ。ま,はやてはグーだったからなのはの方がましだけど」

俺がそう言うと,何かツボにはまったのかなのはが大笑いした。
俺がなのはに張られた右頬を抑えながらなのはの正面に座ると,
なのはは少し真剣な顔で俺の顔を見た。

「本当に心配したんだからね」

「御心配をおかけしてすみません」

俺はそう言って深く頭を下げた。

 

 

第39話:TVを見ながらご飯を食べるのは行儀悪いですよ


俺となのはが2人で昼食を食べながら雑談していると,
ヴィータが食堂に入ってくるのが見えた。
ヴィータは俺となのはを見つけると,昼食を乗せたトレーを持って
早足で近づいてきた。

「ゲオルグじゃねーか。1週間もどこに行ってたんだ?」

「はやてに出張を頼まれてね。本当は2日の予定だったんだけど,
 片づけるのに手間取って遅くなった」
 
「ふーん。どんな仕事だったんだ」

ヴィータは俺となのはがいるテーブルの空いた席に座りながら聞いてきた。
ちらっとなのはの方を見ると,なのはも興味があるらしい顔をしていた。

「本局で調べ物とか事務関係の打ち合わせとか。まあ色々だな」

まさか本当のことを言うわけにもいかず,俺は適当なことを言って誤魔化した。

「その程度のことで1週間もかかったのか?ゲオルグにしては
 時間がかかりすぎじゃねーか?」

「量が半端じゃなかったんだよ」

「ふーん」

俺の返答に納得したのか,そもそもそんなに興味がなかったのか,
ヴィータは微妙な返事をすると,自分の昼食に手をつけ始めた。

「あー!ゲオルグさんがいる!」

俺が昼食に手をつけるのを再開すると,俺の名前を大声で呼ぶ声が聞こえた。
声のする方を見ると,スバルを先頭に向かってくるフォワード4人の姿が見えた。

4人は空いていた隣のテーブルを寄せてくっつけると,それぞれのトレーを
テーブルに置いて席に着いた。
中央には相変わらず大量のパスタを乗せた大皿がドンと鎮座している。

(何度見ても圧巻だねこれは・・・)

俺がパスタの山に圧倒されていると,スバルが話しかけてきた。

「1週間もどこ行ってたんですか?みんな心配してましたよ」

「本局に出張だよ」

「へー。副部隊長って忙しいんですね」

スバルが感心したように言うと,ティアナが横から口をはさむ。

「当たり前でしょ。ゲオルグさんは6課の運営関係を仕切ってるんだから。
 あんたと一緒にしない」

「はいはい。ティアはゲオルグさんのこと大好きだもんねー」

「あんたねえ。そんなんじゃないって言ってるでしょ!
 局員として尊敬してるってだけよ・・・」

スバルがティアナを茶化すとティアナは少しムキになったように反論する。

(尊敬ねぇ・・・。俺はそんなに大した奴じゃないんだけどね)

そんなことを考えながら,目の前の昼食をつついていると
シンクレアが食堂に入ってくるのが見えた。
シンクレアは俺を見つけると,トレーを持って空いていた俺の隣に座った。

「ゲオルグさん,昼飯に行くなら誘ってくださいよ」

「ん?悪い悪い。はやてに出張の報告をしてそのまま来ちゃったから。
 シンクレアのことはすっかり忘れてた」
 
「ひどいなあ。俺拗ねちゃいますよ」

「勝手に拗ねてろ」

俺が突き放すように言うと,シンクレアははいはいと言って自分の昼食に
手をつけ始めた。

「あの,ゲオルグさん。こちらの方は?」

声のした方を見るとティアナが俺とシンクレアを交互に見ながら尋ねてきた。

「なのは。こいつらにシンクレアのことは紹介してないの?」

俺がなのはに聞くと,はっとした顔で首を振った。
ちなみに,隊長・副隊長陣には着任後すぐに紹介してある。
もちろん,偽装身分であるシンクレア・ツァイス三尉としてではあるが。
俺は,隣に座るシンクレアに自己紹介するように言った。

「じゃあ自己紹介ね。俺はシンクレア・ツァイス3等陸尉。
 6課での役割は部隊付の参謀ってことになってるけど,実際には
 ゲオルグさんの小間使いだね。よろしく」

「「「「よろしくお願いします」」」」

シンクレアがフォワード4人の方を向いて自己紹介すると、
フォワード4人はそろった返事を返していた。

そのまま,シンクレアへの質問タイムが開始されていたが,
俺は適当に聞き流しながら,モニターに流れているニュースを見ていた。
クラナガン市内での連続強盗事件のニュースが終わり,
次のニュースに移ったところで,俺の意識はそちらに集中した。

「・・・さん。ゲオルグさん!聞いてます!?」

隣のシンクレアが俺を呼ぶ声で俺は意識をニュースから会話に移した。

「ん?何?」

「どうしたんです。何かぼーっとされてましたけど」

シンクレアがそう聞くので俺は無言でモニターを指さした。
モニターの中ではアナウンサーが地上本部の防衛戦略に関する記者会見の
様子を伝えていた。

「そういえば,もう少しすると公開意見陳述会ですね」

シンクレアが思い出したかのように言う。
その間にゲイズ中将の会見の様子に映像は切り替わっていた。

「あのおっさんはまだあんなこといってんのか?」

ヴィータがあきれたような口調で言う。

「ん?ヴィータはゲイズ中将が嫌いなのか?」

俺が聞くとヴィータは黙って頷いた。

「ふーん。確かにあの人の言ってることは俺もどうかと思うけどね。
 犯罪発生率20%減に検挙率35%向上ってのはどう考えても無理とも思うし。
 でもね・・・」

俺がそこで言葉を切って,食後のコーヒーに口をつけた。

「でも,何なの?」

なのはが俺に先を促す。

「あの人が言ってることもわかるんだよね」

「なんで?管理局の基本方針には反してるよね」

「確かにね。でも,最近の地上の治安状況の悪化はひどいと思うんだよ。
 テロに限らず,窃盗とかの一般犯罪も俺がガキの時に比べると
 ずいぶん増えたような気がするんだ」

俺がそう言うとミッド出身のティアナが頷いた。

「地上の治安維持が地上本部の責任下にある以上,何らかの方法で
 テコ入れをしないといけないだろ。理想を言えば,強力な魔導師を
 地上に配備するのがベストだよ。でも,優秀な魔導師は限られるだろ。
 その上,優秀な魔導師は本局がほとんどもってっちゃうから,
 地上の戦力増強は遅々として進まない。
 結果として,武装強化に走ろうってのも無理ない話だよ」

俺が話しを終えると,全員が考え込んでいた。
少しして,スバルが手を挙げた。

「じゃあ,ゲオルグさんはゲイズ中将の案に賛成なんですか?」

「うーん,難しいところだね。少なくとも全部に賛成ではないよ。
 大規模な防衛力の強化が必要なのは確かだろうけど,それを
 すべて武装の強化で実現しようっていうのはちょっとね。
 質量兵器の大量導入による悪魔の誘惑に勝てると断言できるほど,
 今の管理局上層部が自制心豊かとはいえないし・・・」

俺がそこまで言うと,シンクレアが俺の脇腹をつついてきた。

[ゲオルグさん,言いすぎですよ]

[そうだね。ちょっと言いすぎた]

俺とシンクレアが念話を交わしていると,なのはが俺を見た。

「ゲオルグくんが言うことはわかるんだけど・・・ね」

「だろうね。俺もあの人の強引なやり口はどうかと思うし,
 過去の文明社会の反省をもとに作られた今の管理局の方針も
 それはそれで尊重すべきものだと思うからさ」

「政治に100点満点はあり得ないってことですよね」

なのはに返答を返すと,ティアナが反応してきた。

「おっ,ティアナはよくわかってるねえ。感心感心」

「いえ・・・」

俺がティアナを褒めるとティアナは少し顔を赤くしていた。

「あーっ!ティアが照れてる!」

スバルがその様子を目ざとく見ていて,大声で指摘すると,
ティアナは顔を真っ赤にして,スバルに拳骨を落としていた。

「いったいなぁ。図星だからって殴ることないじゃん」

「うっさい!」

俺はそんな光景を見ながら,少し考え込んでいた。

(あんたは何をそんなに焦ってるんだ・・・レジアス・ゲイズ)

 

 

第40話:若者たちは休暇だそうで


潜入任務から戻って1週間ほどたち,俺の生活は元の日常に戻っていた。
むしろ,シンクレアを手足としてつかえるようになった分,仕事量自体は
減っていると言っていい。
ただ,シンクレアにはクレイから受け取った情報の分析をメインで
やらせているので,部隊運営関係の事務仕事はほとんど減っていない。
しかも,前にフォワード陣と模擬戦をやって以来,なのはが俺を
訓練に引っ張り出すことが多くなったので,肉体的な疲労は増えている。

今日も朝からなのはに訓練スペースに引っ張り出されていた。
訓練の最後に模擬戦をして,訓練スペース脇の森に全員が集合した。

「みんな今朝もお疲れ様。今日の模擬戦はどうだったかな?」

今日の模擬戦はフォワード陣4人対なのは・ヴィータ・俺の3人という
形式だった。フォワードの4人は一様に疲労困憊といった表情だった。
なのはは全員の表情を確認すると,少し表情を緩めた。

「ところで今日の模擬戦はみんなの訓練の第2段階終了の
 みきわめだったんだよね」
 
なのはがそう言うと,4人は驚いた表情に変わった。

「で,ヴィータちゃんとゲオルグくんの意見は?」

なのはに話を振られた俺とヴィータは少し顔を見合わせると,合格だと伝えた。
それを聞いたなのはは俺たちに向かって頷いた。

「私の意見も同じ。なのでみんな晴れて2段階終了だよ」

「まー,あたし達がこんだけしごいたんだから,合格しねーと
 問題だってことだな」

なのはに続いてヴィータがそう言うと4人の表情は一様に明るいものに変わった。
「で,明日からの訓練はセカンドモードをメインにすっからな」

「明日から・・・?」

ヴィータの言葉に疑問を感じたのかティアナがそう呟いた。

「みんなこれまで休みなしで訓練漬けだったからね。今日一日はお休みだよ。
 明日からはもっと厳しい訓練になるから,しっかりリフレッシュしてね」

なのはがそう言うと4人は声をあげて喜んでいた。



シャワーを浴びて朝食を食べた後に,補給品の確認をしようと格納庫に行くと,
ヴァイスとスバル・ティアナが話しているのが見えた。
3人に近づいてみると,1台のバイクが目に入った。

「スバルにティアナ。こんなところで何やってんだ?」

俺が声をかけると,スバルとティアナが俺の方を見た。

「あ,ゲオルグさん。これからティアと街に出かけようとおもって,
 ヴァイス陸曹にバイクを借りようとしてたんです」
 
「へー。じゃあこれはヴァイスのなの?いいの転がしてるね」

俺がそう言うと,バイクを整備していたヴァイスがなぜか恨みがましそうな
顔を俺に向けてきた。

「何いってんすか。ゲオルグさんの方がいい車転がしてるじゃないですか」

「え?ゲオルグさんの車ってどれなんですか?」

スバルが聞いてきたので俺が格納庫の隅にある自分の車を指さすと,
スバルとティアナは目を丸くしていた。

「え!?あれですか!すごくいい車じゃないですか」

「そうか?フェイトもいいの乗ってるよ」

「でも,ゲオルグさんののほうがかっこいいですよ。一回乗せてください!」

「いいよ。今度機会があればね」

俺がそう言うとスバルは飛び上がって喜んでいた。
そうしているうちにヴァイスの整備が終わったようで,ティアナとスバルは
バイクにまたがると走っていった。

「やれやれ。若いってのはいいね」

「何言ってんすか。ゲオルグさんもまだまだ若いじゃないですか」

「ん?あいつらに比べたら俺なんかおっさんだよ」

「またまた。あ,そういえば」

ヴァイスはそう言うと俺に向かって手を合わせた。

「一回だけでいいんで,ゲオルグさんの車貸してください」

「いいけど,ぶつけたりしたら実費請求だぞ」

俺がそう言うと,ヴァイスは固まってしまった。

「ちなみにいくらぐらいになるんです?」

ヴァイスが硬直した顔で聞くので,前にちょっとした修理に出した時の
修理代を耳打ちすると,ヴァイスは目を見開いていた。

「・・・マジっすか?よく維持できますね」

「まぁ,情報部にいるとさ。長期の出張任務とかで色々手当がもらえるから」

情報部時代の俺の給料は,3等陸佐としての基本給以外に部隊長手当や
危険手当・出張手当・秘密任務手当などなど様々な手当のおかげで,
基本給の3倍以上に膨らんでいた。
しかも,ほとんど休みなしでたまの休みには家で寝ているという生活をしていた
おかげで,俺の貯金額は家一軒くらいは軽く買える額になっていた。

「うらやましい話ですね。俺なんか階級も陸曹だし手当も飛行手当くらい
 しかないんで,ゲオルグさんとは比べるのもバカらしい額ですから」

「だから親は言うんだよ。子供の間はきちんと勉強しなさいってな」

「・・・すげえ胸に突き刺さるんですけど」

「ま,自業自得だね。じゃあ,またな」

「はい・・・」

少しヘコんだ様子のヴァイスと別れて補給品の確認を終えた俺は
副部隊長室に戻った。



副部隊長室でいつものように事務作業をしていると,シャーリーがやってきた。
シャーリーはほくほくした顔で俺に話しかけてきた。

「ゲオルグさん。予定よりかかっちゃいましたけど,完成しましたよ!」

シャーリーはそう言って,机の上に小ぶりな箱状の物体を置いた。

「これが,携帯用AMFC発生装置の試作品です!」

シャーリーはそう言うと胸を張った。

「おっ!待ちかねたよ。で?効果は?」

「稼働時間はカートリッジ1発あたり5分です。
 範囲は打ち消すAMFの強度にもよりますけど,実験用に製作した
 AMF発生装置の最大出力時でも装置から半径3m圏内は完全にAMFを
 打ち消せます。その範囲外でも徐々にAMFの強度は上がりますが,
 AMFCの効果自体はあります」

「そうか,上出来だね。さっそく使ってみたいんだけど実験用の
 AMF発生装置ってどこ?」

「案内します」

シャーリーに案内されたのはデバイスルームの近くにある倉庫の1つだった。
シャーリーがドアを開けると,部屋の中に巨大な装置が置かれていた。

「今装置を起動するのでちょっと待ってくださいね」

シャーリーはそう言うと,端末に向かって何かを調整していた。
しばらくして,部屋に鎮座するAMF発生装置が小さく唸りをあげ始めた。

「今,この部屋の中にこの装置が発生できる最大出力のAMFを展開してます。
 まず,AMFCなしで魔法を使ってみてもらえますか」

俺はシャーリーに頷いてから,レーベンをセットアップすると,
レーベンに魔力をまとわせようとする。が,まったく魔力を結合できなかった。
試しに,砲撃のチャージをしてみようとしたが,こちらも同じだった。

「すげえ強度のAMFだな。まったく魔法が使えないぞ」

「そうですか?じゃあAMFCを起動してください。カートリッジを装填すれば
 勝手に起動しますから」
 
シャーリーはそう言いながらカートリッジを一発放ってよこしたので
俺は装置にカートリッジを装填した。すると装置は甲高い音を立てて起動した。
さっきと同じようにレーベンに魔力をまとわせようとすると,
何の苦もなくレーベンは俺の魔力で青黒い光をまとった。
さらに,右手の上に魔力弾を生成してみると,こちらも難なく成功した。

「すごいな。フルスペックの魔法が使えるぞ」

少し感動しながらシャーリーにそう言うと,シャーリーは自慢げに笑った。

「よかったです。これでずいぶん楽になりますよね?」

「ああ,これは助かるよ」

「何か問題はありそうですか?」

「片手がふさがるのは困るな」

俺は,今も装置を左手に握っている。

「じゃあそこは考えておきます。とりあえずはポケットにでも入れて
 おいてください。あとはないですか?」

「今のところはないよ。あとは実戦で使ってみてからだね。
 とりあえず,計測結果をまとめて報告書をあげといてくれる?
 前線メンバーへの導入は,俺からはやてに進言しとくよ」
 
「解りました。じゃあその試作品はゲオルグさんに預けておきますね」

「うん。じゃあよろしく」

俺がそう言って部屋を出ようとすると,アルトから通信が来た。

『副部隊長。発令所までお願いします』

「何かあったのか?」

『こちらに来られてからご説明します。とりあえず発令所にお越しください』

「解った。すぐ行く」

通信を終えるとシャーリーが心配そうに俺を見た。

「何かあったんですか?」

「詳しくはわかんないけど,そうらしい。シャーリーも早めに発令所に来いよ」

「解りました。ここを片づけたらすぐ行きます」

そして,俺は発令所へと走った。


 

 

第41話:えっ、幼女の保護ですか?


俺が発令所に入ると,部隊長席にははやてが座っており,
その周りにはグリフィス・シンクレアと前線の隊長・副隊長が勢揃いしていた。

「遅くなってすまない。状況は?」

俺が誰ともなしに聞くと,シンクレアが俺に近づいてきた。

「エリオ君から報告があったのですが,クラナガン市内でケースに入った
 レリック1個を発見したそうです」

「なら回収すれば事は済むだろ」

「はい。ですが,身元不明の女児がレリックの入ったケースとともに
 倒れていたらしく,ケースは女児の足に鎖でつながれていたようです。
 しかも,鎖にはもう一つケースがつながれていたような痕跡があるようで」

「なるほどね。で,どう動くの?」

後半ははやてに向かって言うとはやては俺の方を振り返った。

「とりあえずフォワード4人の休暇は取り消し。今,全員を合流させてる。
 で,フォワード陣には残り1個のレリックを捜索させるつもり。
 女児の方は意識不明やし,シャマルを派遣して応急処置させながら保護」

「レリック捜索の戦力は?」

「隊長・副隊長を全員合流させるつもりや。索敵にリインも付ける」

はやてがそう言うのと同時にアルトが慌てた様子で振り返った。

「部隊長!クラナガン南方の海上に飛行型ガジェットが出現。
 数は数十機。なおも反応増大中です」

「わかった!作戦変更や。隊長・副隊長陣は飛行型ガジェットの迎撃。
 ゲオルグくんはシャマルと一緒にヘリでフォワード陣と合流。
 残るレリックの捜索を頼むで!」
 
「索敵は?」

「リインは空の索敵に回すからあかんし,シャマルは女児を回収したら
 ヘリでこっちに帰還してもらうからあかん。索敵はキャロにやらせて」

「それはわかった。でもヘリの護衛は?」

「シャマルが居れば問題はないんちゃうか?」

「そうだね。では,ロングアーチ02はフォワード陣と合流しレリックの捜索に
 あたります」

そう言うと,はやてに敬礼をしてヘリがいるであろう屋上に向かった。
屋上に向かって走っていると,なのはが俺の横に並んできた。

「ゲオルグくん,気をつけてね」

「おう!なのはこそ,無茶すんなよ」

「うん!」



屋上に上がると,空の迎撃に上がるメンバーは各々のデバイスを
セットアップして空へと上がっていった。
俺は,すでに出撃準備が完了したヘリに乗り込む。
ヘリの中には既に白衣を羽織ったシャマルが座っていた。

「揃いましたね。離陸しますよ!」

「頼む!」

俺が操縦室に向かって叫ぶとヘリはすぐに離陸して高度を上げていく。

「シャマル。現地に到着したら,女児を乗せてすぐに隊舎に戻れ。
 応急処置はヘリの中で。あと,敵の襲撃も無いとは限らんから,
 警戒を怠るなよ」
 
「判ったわ。ゲオルグくんは?」

「俺は,フォワード陣を指揮してレリックの捜索だ」

「了解。気をつけてね」

「シャマルこそ。ヘリにはお前しか頼れるのが居ないんだから気をつけろよ」

「ええ」

俺とシャマルがそんな会話を交わしている間に,ヘリは目的に上空に
到達し,徐々に高度を下げていた。

「ゲオルグさん,シャマルさん。着陸しますよ」

「「了解」」



ヘリが着地すると同時に俺とシャマルはヘリを降りた。
ヘリから出ると,スバルが俺とシャマルを女児が発見された現場に
案内してくれた。
そこには,蓋の空いた地下水道へのマンホールがあり,
片方の足に鎖のつながれた金髪の女児が寝かされていた。

「ゲオルグくん。この子は私が連れていくわね」

「ああ,頼む」

シャマルが女児を抱きかかえてヘリに向かっていく。

「ティアナ,レリックは?」

「こちらです。すでに私が封印処置をしておきました」

俺が聞くと,キャロがケースを持ってきた。

「よし。じゃあヘリに運んでおいてくれるかい」

「はい」

キャロは返事をするとヘリにケースを置いて戻ってきた。
俺はフォワードを集めると,全員の顔を眺めた。
4人とも,引き締まってはいるものの固さは感じられなかった。

「全員状況は把握しているか?」

「「「「はい」」」」

「よし。ではこれから地下水道に入りレリックの捜索を行う。
 だが,みんなも知っての通り,空にガジェットが出現しており,
 リイン曹長は隊長や副隊長とそちらの迎撃に当たっている。
 シャマル医師は先ほど保護した女児を隊舎に移送中だ。
 よって本作戦ではキャロに索敵とレリックの反応追跡を頼むよ」

「はい。解りました」

「何か質問は?」

俺が4人に対してそう言った時,通信が入った。

『ロングアーチよりロングアーチ02。応答願います』

「ロングアーチ02だ。何か?」

『今,陸士108部隊のギンガ・ナカジマ捜査官から通信がありまして,
 6課の現場責任者と話がしたいそうなのですが,つないでもよろしいですか』

「いいよ」

俺がそう言うと,通信画面にスバルに似た雰囲気の女性が現れた。

『陸士108部隊で捜査を担当していますギンガ・ナカジマ陸曹です』

「機動6課副部隊長のゲオルグ・シュミット3等陸佐だ。
 で,早速で申し訳ないがどんなご用かな?」

『私の方で捜査をしている別の事件とそちらで保護された女児との間に
 関係があるのではないかと思われまして,私もそちらの作戦に
 合流させていただきたいのですが』

「申し訳ないが,時間に余裕が無い。ロストロギア捜索のために地下水道内の
 探索を行う必要があるのでね。しかも敵よりも早く。
 君がこちらに合流するのを悠長に待っているわけにはいかんよ。
 それに,そういうことには部隊長の許可が必要だ」

『八神部隊長には先ほど許可をいただきました。
 私も地下水道に別ルートで入りますので,途中で合流ということでは
 いかがですか?』

「いいだろう。では君の提案通りで行こう。合流位置は任せる」

『了解!』

そう言ってナカジマ陸曹は通信を切った。
俺は4人の方に向き直ると,今の通信で決まったことを話した。
すると,スバルが妙にはしゃいでいた。
事情を聞いてみると,先ほどのナカジマ陸曹はスバルのお姉さんらしい。
気持ちはわかるが,戦闘になる可能性もあるのではしゃぐなと注意すると,
スバルはもとの引き締まった表情に戻った。

「では作戦開始だ!」

俺はそう言うと地下水道へと身を投じた。

 

 

第42話:ミッション・アンダー・グラウンド


地下水道に降りると,女児がレリックのケースを引きずったらしい
跡が続いていた。
俺達は,その跡の続いている方向に向かって走り出した。

先に進んでいくと,キャロからガジェット1型が数機接近との報告があった。
俺は,ポケットの中にあったAMFC発生装置にカートリッジを起動すると,
速度を上げて,前方のガジェットとの距離を一気に詰めると,
レーベンを振りかぶって,1列に並んで進んでくるガジェットを
一太刀で斬り捨てた。

(すげえな,マジでフルスペックだよ・・・)

その後も,ガジェットと何度か遭遇しながら先に進んでいくと水路が
池のように広がっているところに出た。
俺が,その手前で立ち止まるとキャロからレリックの反応が近いとの
報告があった。背後を振り返ると,俺の方に向かって走ってくる
4人の姿が見えた。
俺は4人に止まるように伝えると,俺の少し手前で4人が立ち止まった。

[キャロ,レリックの反応は?]

[すぐ近くです。たぶんこの池のどこかにあると思います]

[解った。俺がちょっと探してくるからそのまま待機な]

俺はそう言うと,ステルスを使って姿を消し,足音を立てないよう慎重に
通路を歩く。
水路の方に目を凝らしながら先に進むと,水路の中にレリックの
ケースらしきものを発見した。

俺は,飛行魔法で浮かび上がると,ケースの方に向かって飛んで行った。
ステルスを使っていても俺自身の体が消えるわけではなく,
水の中を歩けば水面に波紋ができてしまうので,それを防ぐためだ。

ケースらしきものの上まで行くと,それはやはりレリックのケースだった。
俺がケースの持ち手を掴んで持ち上げた瞬間,左側で水音が聞こえた。
次の瞬間,俺は何者かに弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。

レリックのケースを握っていた右手を確認すると,手を離してしまったようで
ケースは無かった。
俺の周りには俺が叩きつけられて壊れた壁を目印にしたらしく,
フォワード陣が俺を守るように立っていた。
俺は,魔力消費を抑えるためにステルスを解除して立ち上がると,
通信をつなぐことにした。

「ロングアーチ02よりロングアーチ,現在未確認の敵と交戦中。
 応援を要請する」

しばらくして,アルトの声で返信があった。

『ロングアーチよりロングアーチ02。現在航空戦で手いっぱいです
 応援は出せません』

「ロングアーチ02了解」

俺が通信を終えた時,水路の奥から紫色の髪をした少女が歩いてきて,
俺が落としたレリックのケースに近づこうとする。
俺がティアナに目で合図すると,ティアナは少女に駆け寄り,
クロスミラージュを突きつけた。

「悪いけどこれは危険なものなの。近づいちゃだめ」

その間にキャロがレリックのケースを回収しようとする。
その時,キャロの正面で陽炎のように景色の揺れているところが見えた。

(さっき俺を弾き飛ばしたのは奴か・・・)

俺はスピードブーストを使うと,レーベンを構え陽炎に向かって突っ込んだ。
陽炎にレーベンで斬りかかると,何かを斬った感触があった。
俺が振り返って確認すると,虫のようにも見える人型の物が胴から体液の
ようなものを流しながら立っていた。

「ガリュー,下がって」

少女がそう言うと,虫のような奴は消えてしまった。

(召喚獣か・・・)

少女を捕縛するべく歩きだしたとき,水路の奥から炎が飛んできて,
レリックを回収したキャロと少女のそばにいるティアナに襲いかかった。

爆発による砂煙からキャロを抱きかかえたエリオと
ティアナを抱えたスバルが飛び出すのを見て,俺はほっと胸をなでおろした。

「ったく。ルール―が勝手に出かけるからだぞ」

声のした方を見ると,リインくらいのサイズの女が飛んできた。

「このアギト様が来たからにはおとなしくそいつを渡してもらうぜ!」

女はそう言うと,自分の周りに花火のようなものを打ち上げていた。

(アホか?こいつ・・・)

俺はそんなことを考えながら,相変わらず花火を打ち上げまくっている
女のそばまでステルスで姿を消して近づくと,バインドで拘束した。

「あー。危険魔法使用・殺人未遂および公務執行妨害の容疑で拘束する」

ステルスを解除してそう言った俺に,アギトとかいう奴は卑怯だなんだと
騒いでいたが無視して,状況を報告するために通信で隊舎を呼び出した。

「ロングアーチ02よりロングアーチ。レリックを確保,交戦中の敵を拘束した」
 
『ロングアーチ了解。スターズ02がそちらに向かってますので
 合流してから連行してください』

「ロングアーチ02了解。ちなみに航空戦は終了したのか?」

『まだです。大量の飛行型ガジェットが出現したため,
 現在八神部隊長が出撃して迎撃中です』

「はやてが!?で,両隊長は?」

『上空で待機中です』

「状況はわかった。ありがとう」

俺は通信を切ると,キャロにレリックを封印するように言って,
ほっと息を吐いた。

その時,水路の壁が突然破壊され,108部隊のナカジマ陸曹が現れた。

「遅くなりました・・・って,もう片付いてます?」

「そうだね。でも,まあ,ありがとう。ナカジマ陸曹」

「なんか役に立てなくてすいません・・・。あと,ギンガで結構ですよ,
 シュミット3佐」

「俺もゲオルグでいいよ,ギンガ」

その場で少し待機していると,ヴィータが現れた。

「応援を呼んだ割にはあっさり片付いてるじゃねーか」

「まあね。じゃあ連行しますか」

その時,バインドで縛られている少女が口を開いた。

「連行するのはいいけど,大事なヘリは放っておいていいの?」

それを聞いた時,俺達全員が凍りついた。
少女はさらにヴィータの方を向いて口を開く。

「あなたはまた,守れないかもね」

それを聞いたヴィータは逆上しているように見えた。
さらに少女は俺の方を見た。

「あの子は,あなたのお姉さんと同じ運命を辿るんじゃない?」

その言葉を聞いた俺は,全身の血液が沸騰するような感覚を覚えた。

「ロングアーチ02よりロングアーチ!ヘリは!?」

『高出力の砲撃を受けましたが,なのはさんたちが何とか間に合いました』

それを聞いた俺達が一瞬気を緩めたその時,ギンガが叫んだ。

「キャロちゃん!足元に何かいる!」

全員の目がキャロの足元に向いたとき,キャロの足元から現れた水色の髪の女が
キャロの抱えていたケースを弾き飛ばした。

俺は,とっさに水色の髪の女に体当たりして,ケースを確保する。
すると水色の髪の女は少女に近づき,少女とともに地面に潜っていった。
さらに,バインドで縛っていたはずのアギトとかいう女も,
全員が目を離した隙に姿を消していた。

「反応・・・ロストです」

キャロの報告にその場にいた全員が消沈した。

「起こってしまったことは仕方ない。レリックは確保できたんだし。
 全員地上に戻るぞ」

「「「「・・・はい」」」」

少し肩を落としながら元来た道を戻る5人を見送りながら,
俺はまだ少しこわばった顔をしているヴィータの肩に手を置いた。

「・・・大丈夫か?」

「・・・ああ。すまねー,浮足立っちまって」

「それは俺も同じだな。あの場に居た全員があの少女の言葉に
 浮足立ってた。ま,レリックは確保できたんだし,合格点でしょ」
 
極力軽い感じを出しながらそう言ったが,レーベンを握る俺の手は,
怒りで震えていた。
 
「・・・そうだな」

俺とヴィータは先に行った5人を追った。

 

 

第43話:みんなでお話しましょ、OHANASHIじゃなくて


地上に上がった俺達は,ギンガが呼んだ陸士108部隊のヘリで隊舎へと戻った。
ヘリから降りると,はやてが屋上で待っていた。

「お疲れさんやったね。で,疲れてるとこ悪いけどゲオルグくんと
 ヴィータとギンガはちょっと来てくれるか?」
 
俺達3人ははやてに向かって頷くと,はやてに続いて屋上を出た。
はやてについて部隊長室に入ると,なのは・フェイト・シグナムが居た。

「まずは,ゲオルグくんに報告してもらおか」

自分の椅子に座ったはやてがそう言ったので,俺は地下水道での戦闘について
簡単に説明した。俺が話し終えると,はやては腕組みをして口を開いた。

「襲撃犯を逮捕できひんかったんは惜しいけど,まあレリックは
 確保できたんやからよしとしよか。それよりもや」

はやてはモニターに映し出されている敵の画像に目を向けた。

「この少女が召喚師でこの虫みたいなんはその召喚獣で間違いないとして,
 このちっこい奴と水色の髪の女はようわからんな。特に,水色の髪の奴の
 能力は厄介やね」
 
「うん。しかも,この子の服って私たちが交戦した敵とよく似てる」

「交戦したって?」

「ゲオルグはヘリが砲撃されたのは知ってるよね」

「うん」

「私となのははその犯人2人と交戦したんだけど,逃げられちゃったんだ」

フェイトはそう言うと,2枚の画像をモニターに映し出した。
1人は眼鏡を掛けた女,もう一人はでかい狙撃砲みたいなものを持った女。
どちらも,地下水道に現れた地面に潜る奴と同じような服を着ていた。

「・・・同じだね。ん?」

画像に目を凝らすと,胸の部分にローマ数字が書かれているのが見えた。
その時,俺はホテルアグスタでの戦闘で遭遇したゼストが言っていたことを
思い出していた。

「・・・ナンバーズ・・・」

俺は声に出したつもりはなかったのだが,声に出ていたようで,隣に立っている
なのはには聞こえたようだった。

「ゲオルグくん。ナンバーズって何?」

なのはが俺に向かってそう尋ねると,部屋の中にいた全員の目が俺に集中した。
俺はうかつにも声に出してしまった自分に対して心の中で呪詛の言葉を
吐きながら,どう話したものか少し考えた。

「えっと,話すと長くなるんだけど・・・」

俺は,ホテルアグスタで8年前に亡くなったはずのゼスト・グランガイツに
遭遇したことや,ゼストに聞かされたことを10分ほどかけて説明した。
俺が話し終えると,全員が驚きと呆れの混じったような変な表情をしていた。
わずかな静寂のあと,はやてが口を開いた。

「とりあえず,ゲオルグくんに言いたいことは,
 そういうことはもっと早く言いなさい!かな」

はやてがそう言うと,部屋にいたギンガ以外の全員が怒りの表情で頷いていた。

「申し訳ございません・・・」

俺はそう言いながら深く頭を下げた。

「まあそれはいいとして,スカリエッティの戦闘機人か・・・厄介やな。
 しかも,今回出現した奴の中で一番数字がでかいのが10番やろ。
 少なくとも10体,おそらくもっと多くの戦闘機人を抱えとると
 考えるべきやろうね」

「俺はほとんどまともに戦ってないんだけど,強いのか?」

「うーん。私たちもほとんどまともには戦ってないんだよね。
 ただ砲撃の威力はSランク相当ってアルトが言ってたよ」

「Sランク!?ってことは,Sランクの魔導師が10人以上いると
 思うべきなのか。そりゃ厄介だね」
 
「ところで,なんでゼスト・グランガイツはあの場所にいたんだろうね」

「普通に考えれば,スカリエッティの協力者になったからって
 とこなんだろうけど,なんか腑に落ちないよな」

「まあ,敵の戦闘機人の能力については今日の戦闘映像の解析結果も
 含めてもう一回再検討やな。ゼストについてもここであれこれ言うても
 実際のところはわからんし,とりあえず敵側におるってことを認識しといて
 くれたらええよ。それより,ギンガの追ってた事件の話を聞きたいんやけど」

はやてがギンガに話を振ると,ギンガは咳払いをして口を開いた。
ギンガの話によれば,高速道路の地下トンネルでトラックの横転事故が発生し,
その調査に向かったところ,トラックに積まれていたと思われる生体ポッドが
破壊された状態で発見され,そのサイズが5歳児程度のものであったことと,
何かを引きずった痕跡が地下水道へのマンホールに続いていたことから,
エリオとキャロが発見した幼女と事故の間に因果関係のある可能性があり,
作戦への合流を要請したとのことだった。

「ということは,あの女の子は人工生命体の可能性が高いというわけか・・・」

「そやね。今はとりあえず聖王教会に預けてあるから,諸々の検査をしたうえで
 どうするかをカリムと相談して決めなあかん。
 まあ,その辺は明日教会に行ってカリムと話をするから,ついでに
 あの子の様子も見に行くことにしよか」
 
はやてがそう言うと,全員が頷いた。
俺以外の全員が部隊長室を出た後で,俺ははやてに話しかけた。

「なあ,はやて。なのはとフェイトにはいい加減にいろいろ話しておくべき
 だと思うけど」

「わかってるよ。そやから明日はなのはちゃんとフェイトちゃんも
 連れて行くし,ゲオルグくんとシンクレアくんにも同行して欲しいな」
 
「シンクレアも?」

「うん。ゲオルグくんがシンクレアくんと集めてくれた情報も話す必要が
 あるやろ。となると,シンクレアくんの正体についても話さなあかん」

「そうだね。シンクレアには俺から話しておくよ」

「うん。頼むわ」



・・・翌日。
俺ははやて・なのは・フェイト・シンクレアと一緒に聖王教会を訪れていた。
前に来たときと同じく若いシスターさんに案内された部屋には,
すでに,カリムさんとクロノさんがいた。
それぞれにあいさつを交わして全員が席に着くと,クロノさんとカリムさんが
機動6課設立に際して3提督の協力があったことや,カリムさんの予言と
6課設立の真の目的について説明した。
2人の話が終わると,なのはが口を開く。

「このことはフォワードのみんなには話した方がいいのかな?」

「とりあえず今のところは全部を話すのはやめといた方がええやろね」

「でも,何も話さないっていうのもどうかな?ゲオルグはどう思う?」

フェイトに問われて,俺は少し考え込んだ。

「予言のことについては伏せるべきだろうね。あまりにも話が大きすぎるから
 話した後のショックを考えると,話すべきじゃないと思う。
 ただ,地上本部が狙われてるっていうのは伝えておいた方がいいんじゃない?
 今後,地上本部の警備に参加する可能性もあるだろ?」

そう言ってはやての方を見るとはやてはうなずいた。

「可能性というよりも私としてはそのつもりなんよ。
 当面でいえば,地上本部の公開意見陳述会があるやろ。
 地上本部のお歴々が全員集合する場やし,公開される以上宣伝効果を
 狙うなら絶好のターゲットやからね」

「なら,4人には私となのはから地上本部に大規模なテロ攻撃の可能性がある
 ってことだけは伝えておこうか」

「そやね。2人とも頼むで」

「「了解」」

話が一段落したところで,クロノさんがはやてに向かって口を開いた。

「ところで,この場になのはとフェイトがいるのは当然で,ゲオルグも
 機動6課設立前に今日の話は知っているからいい。だが,ツァイス3尉
 だったか?彼がこの場にいるのはなぜだ?」

「実は,私とゲオルグくんの方からも話しておきたいことがあんねん。
 シンクレアくんを呼んだのもそのためや。じゃ,ゲオルグくん」

「まず言っておきますが,これから話すことは,この部屋の中だけのことに
 してください。外で漏らすと,我々全員が秘密裏に抹殺される可能性が
 あります」

俺はそう前置きすると,俺がこれまでに調べたことと,そこから推測したことに
ついて,1時間ほどかけて説明した。
俺が話を終えると,はやてとシンクレア以外の全員が頭を抱えていた。
少しして,クロノさんが俺の方をみた。

「整理するとだ,まず8年前に発生した首都防衛隊のゼスト隊全滅事件は
 スカリエッティのアジトに突入したゼスト隊が,スカリエッティの戦闘機人
 によって全滅させられたと」

「そうです。俺の姉もその時に亡くなりました」

「で,そのスカリエッティは最高評議会のお歴々の指示によって開発された
 人工生命体であり,最高評議会はスカリエッティの研究に資金を
 提供していたと」
 
「そうです。その資金提供は現在も続いている可能性があります」

「さらに,最高評議会のお歴々は100年以上前の人物で,すでに人の姿を
 保ちえていないというわけか」
 
「はい」

「最後に,以上の最高評議会の情報を探るために君とツァイス3尉が
 管理局中央の地下に潜入したというんだな?」

「そうです」

俺がそう答えると,クロノさんはシンクレアの方を見た。

「はやてから君を6課に出向させたいと連絡を受けた時に君の人事記録を
 確認したんだが,士官学校を去年卒業して,1年間作戦部にいたという
 ことだったな」

「はい」

「あれは嘘だろう」

クロノさんがそう言うとシンクレアは俺に目を向けた。
俺が苦笑しながら肩をすくめると,シンクレアは小さくため息をついた。

「ええ,その通りです。あの人事記録は6課に出向するにあたって用意した
 偽の記録で,本当の私は情報部第1特務隊部隊長のシンクレア・クロス
 1等陸尉です。つまり,ゲオルグさんの後任ですね」

シンクレアがそう言うと,なのはが不思議そうな顔をしていた。

「何で偽装する必要があったの?」

「それは,調査対象が管理局の中枢だったからだよ。
 人事異動の時期でもないのに情報部からの出向があったら余計な目を
 引くからね。それで最高評議会なりその下の連中に俺達のやろうと
 していることを嗅ぎつけられたらまずいだろ?」

俺がそう言うと,なのははうんうんと頷いていた。

「ところで,ゲオルグやクロス1尉のいた情報部特務隊とは
 どういう部署なんだ?僕は聞いたことのない部署なんだが」

クロノさんが俺の方を見て聞いてきた。

「それは言えませんね。特秘事項ですし情報公開の権限もないですから。
 しゃべったら,俺は軌道拘置所に死ぬまで入れられるか,
 悪くすれば即処刑されます」

「僕は本局の提督だぞ」

「それでもですよ。少なくとも俺はクロノさんに公開していいと
 聞かされてませんから」

「はやては知っているのか?」

「全部かどうかは知らんけど,知っとるよ。これでも特別捜査官やったし,
 おかげで情報部とは仲良くさせてもらってたから。
 ちなみに,私も話す気ないよ。命は惜しいから」

はやてがそう言うと,部屋の中の空気がかなり重くなったように感じられた。

「ところで,少し気になってたんですけど,仮に地上本部がテロ行為なりで
 陥落したとして,本局まで機能不全になると思います?」
 
俺がクロノさんの方を見て言うと,クロノさんは怪訝な顔をした。

「どういうことだ?」

「いえね。騎士カリムの予言によれば,まず落とされるのは地上本部でしょ。
 で,それをきっかけに本局も壊滅しますよって解釈してるじゃないですか。
 でもね,地上本部と本局って気持ちいいくらい別組織じゃないですか。
 しかも,地上本部を落としたところで,せいぜいミッドを支配下における
 くらいのことで,次元世界全体に影響を与えられるわけじゃないでしょ。
 どう考えても,管理局全体の崩壊までは到達できない気がするんですよね」

俺がそう言うと,クロノさんは腕組みをして少し考えてから口を開いた。

「そうだな・・・。確かに,地上本部が陥落したからといって
 本局や次元航行艦隊が行動不能になる可能性はほぼゼロだ」

「そこは私も疑問に思ってるんよ。ミッドの住民すべてが人質にとられて
 本局が脅迫に屈するっていうシナリオも考えたんやけど,説得力ないんよ」

しばらく全員が考え込んでいると,カリムさんが口を開いた。

「予言の中で,解釈できていないのは”死せる王”と”かの地より蘇りし翼”
 よね。そちらは調べているの?」

「ユーノくんに頼んでるけど,進捗はイマイチやね。
 抽象的な言葉やから検索しても当たりを引く確率が低いのと,
 誰かさんがユーノくんの仕事を増やしまくっとるらしいからな」

はやてはそう言うと,ジト目でクロノさんを見る。
クロノさんはわざとらしく咳払いをすると,今日のところは解散と言って,
部屋を出て行ってしまった。

「・・・ちっ,逃げられたか」

はやてが悪態をつくと,全員が声を上げて笑った。
その後,少し雑談をしてから,保護した女の子の様子を見に行くことになった。

 

 

第44話:少女の秘密


俺達が連れだって,女の子の収容されている聖王教会の医療院に
向かっていると,通路の向こうの方からシャッハさんが走ってきた。

「何かあったの?シャッハ」

「騎士カリム!申し訳ありません。お預かりしていた女の子が病室から
 姿を消してしまったようなのです」

「なんやて!?捜索はどうなっとんの?」

「今,20名ほどで捜索しているんですが,センサーにも反応がなくて・・・」

「わかったわ。なのはちゃんとフェイトちゃんは捜索に参加してくれるか」

「「了解」」

なのはとフェイトがシャッハさんについて走っていくと,はやては
カリムさんに話しかけていた。

「なあカリム,あの子の検査は一通り終わったんか?」

「ええ,終わってるわよ」

「ほんなら,検査結果について話を聞かせてほしいんやけど」

「わかったわ。ついていらっしゃい」

カリムさんはそう言うと,医療院で女の子を検査した医師のところに
俺達を案内してくれた。

「早速で申し訳ないんやけど,あの子は人工生命体なんかどうなんか
 教えてほしいんですけど」

はやてが単刀直入に尋ねると,検査を担当した医師は少し言いづらそうに
していた。

「事実をありのままに話してください」

カリムさんがそう言うと,医師は重い口を開いた。

「検査を実施した結果,遺伝子培養されたものであると考えられます」

「遺伝子培養・・・クローンか・・・」

俺が呟くようにそう言うと,医師は小さくうなずいた。

「他に何か気付いたことはありますか?」

はやてが尋ねると,医師は手に持ったファイルの書類をペラペラと
めくってから,首を横に振った。

「DNAパターンは解析されてますよね?」

俺が医師に尋ねると,医師は頷いた。

「ではデータを頂きたいのですが,よろしいでしょうか?」

さらに俺がそう尋ねると,医師はカリムさんの方を見た。
カリムさんが小さく頷くと,医師は端末から一枚のチップを取り出し,
俺に手渡してくれた。



医師のところを後にした俺たちが,医療院の前庭に歩いて行くと,
なのはとシャッハさんの姿が見えた。
2人に近づいていくと,なのはの足に女の子がしがみついているのが見えた。

「ずいぶんなつかれとるやんか,なのはちゃん」

「あ,はやてちゃん。この子って,ここに預けていくんだよね?」

「ん?そのつもりやったけど,その様子やったらなのはちゃんから
 離れへんのと違うか?」

はやてがそう言って,女の子と同じ目線の高さになるようにしゃがみこんだ。

「こんにちは。お名前は?」

はやてがそう尋ねると,なのはの後ろに隠れ,ますます強くなのはの足に
抱きついていた。

「こらあかんわ。嫌われてしもたみたいや」

はやてが苦笑しながらそう言うと,なのはは女の子の頭をやさしい手つきで
なでながら俺たちの方を見た。

「この子はヴィヴィオっていうみたいだよ。自分でそう言ってたから」

「なあヴィヴィオちゃん。なのはさんはもう帰らなあかんから,
 離してあげてくれへんかなぁ」

はやてがそう言うと,ヴィヴィオは泣きそうな顔になって,
なのはの足に顔を押し付けた。

「ヴィヴィオ。なのはさんはもう帰ってお仕事しなきゃいけないから,
 離してくれないかな?また明日も会いに来るから」
 
「やー!」

なのはは自分の足からヴィヴィオの手をやさしく引き剥がして,
しゃがみこむと,ヴィヴィオの手を握ってそう言った。
だが,ヴィヴィオは意地でもなのはを離そうとしない。

「こら無理やな。しゃあないから,隊舎に連れて行こか」

「いいの?はやてちゃん」

「こうなったらしょうがないやん。ま,危険はなさそうやしかまへんやろ」

はやてがそう言うので,なのはがヴィヴィオについて来るか尋ねると,
ヴィヴィオは満面の笑みで頷いていた。

「なんか納得いかんわ。何なん?この差」

「純真な子どもの目でみれば誰が一番きれいな心かわかるんでしょ。
 小狸なはやての邪悪な心が見透かされたんだよ」
 
「・・・ゲオルグくん」

俺が冗談交じりに言うと,はやては少し俯いて俺の方を見た。

「ん?なんでしょ」

「昨日の戦闘報告書,今日中に提出」

「は?もう夕方だぞ。無理だよ」

「・・・聞こえへんかったんかいな。耳悪いなぁゲオルグくんは」

「ひょっとして怒ってらっしゃる?」

「怒ってへんよ。ただ,腹いせに嫌がらせをしたいだけ」

「そういうことするから,ヴィヴィオがなつかないんじゃないの?」

「ふーん,そんなにゲオルグくんは仕事が好きなんか・・・
 いっそのこと本局に出す報告書も全部ゲオルグくんに書いてもらおっか」

「・・・勘弁してください」

結局,はやてに土下座をして謝るまで俺は許してもらえなかった。



夜になって,隊舎に戻り副部隊長室で溜まった書類仕事を片付けた俺は,
屋上に上がって,空に浮かんだ2つの月を眺めながら,タバコをふかしていた。

「ゲオルグさん」

声のしたほうを振り返るとシンクレアが2本の缶ビールを持って立っていた。

「飲みません?」

「いいねえ,いただくよ」

シンクレアから缶ビールを受け取ると,封を開けてシンクレアのビールに
コツリと当てた。
ビールを一口飲んでから,制服の内ポケットから1枚のチップを取り出すと
シンクレアに向けて差し出した。

「何です?」

「昼間に受け取ったヴィヴィオのDNAデータだよ。
 一致するのがないか調べてくれないか?」
 
「いいですけど,どれくらいの範囲で調べます?」

「データがある限りはすべて」

俺がそう言うと,シンクレアは軽くため息をついた。

「時間かかりますけど,そこまでする必要あるんですか?」

「この世界に無駄な調査なんてないよ」

「そうでしたね。久しぶりに言われましたよ,その言葉。
 最近は俺が言う側でしたしね」
 
「ま,特務隊のスローガンみたいなものだからね」

「そうですね。あとは,隠密こそ我が使命でしたっけ」

「ヴィンセンス部隊長か・・・懐かしいね」

ヴィンセンス部隊長は俺の前任の特務隊部隊長で,俺やシンクレアに
特務隊員としての技術を一から叩き込んでくれた恩人だ。

「あの人がいなかったら,今の俺は無いね」

「それは俺もですよ」

シンクレアは自分のビールを煽ると,少し真剣な表情になった。

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「ゲオルグさんは,高町一尉のことをどう思ってるんです?」

「不躾だね」

「すいません。でも答えてくれません?」

「・・・友達だよ」

「嘘ですね」

「嘘ではないな」

俺はそう言うとシンクレアに背を向けて手すりにもたれかかった。

「嘘ではないよ」

俺がもう一度そう言うと,シンクレアは小さく首を振った。

「ゲオルグさんだって高町一尉の気持ちには気づいてるでしょ?
 それに,ゲオルグさんだって・・・」

「だから何?俺にどうしろって言うの?」

シンクレアの言葉を遮ってそう言うと,シンクレアは少し苛立ったようだった。

「応えてあげないんですか?」

「俺じゃだめだよ」

「何でです?お互いに好きならいいじゃないですか」

「そういう問題じゃないの」

「じゃあどういう問題なんです?」

俺は小さくため息をつくとシンクレアの方に向き直った。

「あいつはさ,真っ白なんだよ」

「どういう意味ですか?」

「陰謀とか策略とかそんなの抜きで,真っ直ぐ相手に向かっていける
 奴なんだよ,あいつは。
 で,俺は一人の友人としてあいつのそういうところが好きだし,
 変わって欲しくないと思ってるわけ。
 でも俺は,陰謀とか策略にどっぷり浸かってきたし,数え切れないくらい
 人殺しもやって来た。だから,俺があいつに触ることであいつを
 汚しちまうんじゃないかって怖いんだよ」

「そんな風に考えてたんですか・・・」

「まあね。ヘタレって馬鹿にしてくれてもいいよ」

「馬鹿にはしませんよ。でも,もうちょっと高町一尉のことを信用してあげても
 いいとは思いますけどね」

「信用?」

「あとは自分で考えてください。じゃ,お休みなさい」

そう言い残してシンクレアは屋上から出ていった。

「・・・ちょっと酔ったかな」

俺のつぶやきは夜の闇に溶けていった。

 

 

第45話:シュミット3佐のタイマン指南


フォワード陣の訓練がセカンドモードを中心とした訓練に移行してから,
以前にもまして,俺が訓練に参加することが増えた。
個人技の訓練では刃物系のデバイスを使うという共通点からセカンドモードが
ダガー形態であるティアナとマンツーマンの訓練をしている。
訓練を初めて1週間もすると,ティアナはダガーモードの扱いにも慣れたのか
かなり強くなってきていた。

「よし,それじゃあ今朝の訓練の仕上げとして,模擬戦でもやるか」

「はい!お願いします」

ティアナはそう言うと,右手にダガーモード,左手にガンモードの
クロスミラージュを構え,俺から離れて行った。
俺とティアナの訓練は,最初にガジェット相手を想定した戦闘訓練をやり,
最後に1対1の模擬戦をやっている。
模擬戦では,ティアナの戦術構想力を鍛えるためにも,いろいろな
シチュエーションを設定してやっている。
今日は,ティアナが潜伏し,俺を迎撃するという設定だ。
俺は時計を確認して3分たったことを確認すると,もう姿の見えなくなった
ティアナの後を追った。

放棄都市区域を模擬した訓練スペースで,ビルに挟まれた通りを
抜けていくと,右側からティアナの射撃が飛んできた。

俺はシールドで防御すると,ティアナがいるであろう方向に向かって走った。
目を凝らすと,ビルの上を行くティアナの姿がちらっと見えた。
ティアナは移動しながら散発的な射撃を繰り返している。

(このままティアナの策に乗ってやることもないな・・・)

俺は足を止めてティアナのほうを向くと,右手をかざす。

「パンツァーシュレック」

かざした右手から俺の最大出力の砲撃が繰り出される。
ティアナのいたビルに当たった俺の砲撃はビルの一部を破壊して砂煙に変える。
俺は1ブロック分だけ迂回して砂煙に近づくと,レーベンを構えた。

砂煙が少しずつ晴れてくると,砂煙の中からいくつかの魔力弾が飛んできた。
俺は,魔力をまとわせたレーベンで魔力弾を切り落としていく。

(・・・威力が弱すぎないか?)

俺がティアナの射撃にしては弱すぎる威力に違和感を感じていると,
足元に俺のではない影が見えた。

「上か!」

俺が上を見ると,ダガーモードのクロスミラージュを構えたティアナが
落下のエネルギを利用して,俺に切りかかろうとしていた。
俺はレーベンでティアナの斬撃を受けた瞬間,ティアナの姿が掻き消えた。
同時に背後から何かをつきつけられた感触を感じた。

「やっと勝てましたね」

俺が背後を振り返ると,満面の笑顔をたたえたティアナが立っていた。

「・・・やられた。そっちが本体だったか」

「この1週間,ゲオルグさんに鍛えられましたから・・・って
 気づいてたんですか?」
 
「まあね。ただ,どっちが幻影かは解らなかったから,
 どっちかにヤマを張ることにしたんだよ」

「悔しいなあ。まだまだゲオルグさんの本気は引き出せないんですね」

「でも,たった1週間でこんなに力をつけるなんてね。
 もうあんまり手抜きはできないね」

「いえ,まだまだです。私の目標は本気のゲオルグさんを倒すことなんで」

「・・・リミッター付きとはいえSランクだぞ?俺」

「目標は高いに越したことないですよね?」

「そりゃそうだね。じゃあ次からは,もうちょっと力出そうかね」

「お願いします!」

ティアナと並んで,訓練スペースの入り口に向かって歩きながら,
俺はティアナにさっきの模擬戦について話をすることにした。

「さっきの模擬戦なんだけどさ,ひょっとして俺が最初見つけたのって幻影?」

「そうですよ」

「ということは,幻影が射撃してるように見えるように誘導弾を
 コントロールしてたのか」

「そうです。本体の私はビルの中に隠れてましたから」

「なるほどね,それで散発的にしか撃たなかったのか」

「はい。でも,ゲオルグさんが砲撃にシフトした時はちょっと意外でしたけど」

「まあ,この1週間はほとんど近接戦闘ばっかりだったからね。
 俺の砲撃は連射もできないし,威力不足だから強い相手だと
 使い物にならないんだけど,牽制くらいには使えるでしょ」

「・・・威力不足って・・・ビル吹っ飛ばしてましたよね」

「一部でしょ。なのはだったらあれくらいのビルは消し飛ぶよ」

「ビルが・・・消し飛ぶ・・・」

俺の言葉にティアナは少し顔を青くしていた。

「前に,俺とティアナ達4人で模擬戦やったときにさ,
 俺がビルに隠れたでしょ?」

「ええ」

「あのとき,ティアナとスバルは俺の隠れているビルにあたりをつけて
 突入したけど,なのはだったらたぶんそんな面倒なことはせずに,
 俺のいたビルを丸ごと消し飛ばす選択をしたと思うんだよ」

俺がそう言うと,ティアナは青いを通り越して蒼白な顔をしていた。

「私,もう2度となのはさんを怒らせないようにします」

「それがいいよ。なのはの全力全開の砲撃はトラウマものらしいから」

「トラウマですか?」

「うん。ずいぶん前になのはと逃亡したテロリストの追跡任務に出たことが
 あってさ,テロリストが隠れてる建物を見つけたら,さっき言ったような
 感じに砲撃で建物ごとドカンとやったのよ」
 
「・・・さぞ恐ろしい経験だったでしょうね」

「そうだったんだろうね。そいつの尋問は俺がやったんだけど,
 たまたまペンを忘れてさ,なのはからピンク色のペンを借りたんだけど,
 そのペンを見るとテロリストがガタガタ震えだしてね」

「何でですか?」

「ほら,なのはの魔力光ってピンク色でしょ。でピンク色の物に対して
 無条件で恐怖を覚えるようになったみたい。ま,おかげで尋問は
 楽だったけどね」

「というと?」

「しゃべらないとまたあの砲撃くらわすぞって言ったら,聞いてないことまで
 ペラペラとしゃべってくれたよ」

俺がそう言うと,ティアナは大笑いしだした。



「ゲオルグさん」

訓練スペースの入り口が近づいてくると,ティアナが少し真剣な面持ちで
俺を見ていた。

「私,この1週間ゲオルグさんに色々教わって,自分でも感じるくらいに
 強くなれたと思ってます。本当にありがとうございます」
 
ティアナはそう言って俺に向かって頭を下げた。

「別に俺のおかげじゃないでしょ。ティアナが強くなったのはティアナの
 努力のたまものだよ。俺はちょっとお手伝いしただけ。
 ま,あとはなのはが基礎からみっちり鍛えてくれたからかな。
 今までは成長を実感できなかったかもしれないけど,
 この1週間の成長はなのはの基礎訓練があってのものだから
 それを忘れないようにね」

ティアナは顔を上げると,大きく頷いた。

「あ,あと」

「なんですか?」

「さっきの話を俺から聞いたってなのはには絶対言っちゃだめだよ」

ティアナはものすごい勢いで,ぶんぶんと首を縦に振った。



訓練スペースの入り口の近くで,隊舎へと戻るフォワード4人を
俺はなのは・フェイト・ヴィータの3人と一緒に見送った。
ここ最近は,フェイトがエリオとキャロの,ヴィータがスバルの,
俺がティアナの面倒を見ている。

「あの子たちはどう?」

「スバルはまあまあだな。セカンドモードも基本は今までと変わらねーから。
 ただ,相変わらず行動が短絡的というか視野が狭いというか,
 言葉は悪いけど脳筋なんだよなー,スバルは」
 
「エリオとキャロもまずまずいい感じだよ。エリオはセカンドモードの
 扱いにだいぶ慣れてきたし,キャロはセカンドモードって
 言っても実際はリミッタ解除に近いから,今まで通りだしね」

「ティアナはかなり成長したぞ。最初はダガーの扱い方が解ってないみたい
 だったから,ただ振りまわしてるだけって感じだったけど,剣とダガーの
 取り回しの違いをちょっと教えてやったら,あっという間にモノにしたよ。
 おかげで,戦術面を鍛える余裕もできたからそっちも向上してるな。
 あとは俺がいなくても勝手に強くなるよ,個人戦ではね」

なのはの問いかけに対して,俺達3人がそれぞれに答えると,
なのはは満足そうに笑った。

「そっか。じゃあ,セカンドモードも使ったコンビネーションの訓練に
 進んでも大丈夫かな?」

「いいと思う」

「いーぞ」

「問題ないな」

「じゃあ,明日からはまた4人揃っての訓練だね。みんな今日はお疲れ様」

なのはがそう言うと,俺達4人は隊舎に向かって歩き出した。

「そういえば,ヴィヴィオはどうだ?」

「どうって,特に問題ないよ。今はフェイトちゃんと私の部屋にいるんだけど,
 フェイトちゃんにもちゃんと懐いてるし」

「そっか。じゃあ昼間はどうしてるんだ?」

「昼はザフィーラにそばにいてもらうようにしてるし,
 寮母のアイナさんが仕事の合間にちょくちょく様子を見てくれてるよ」
 
「なら安心だな。で,今後はどうすんの?」

俺がそう聞くとなのはは首を傾げた。

「今後って?」

「今後もなのはとフェイトが面倒を見続けるのか?」

俺がそう言うと,なのはは少し考え込んだ。

「当面は私が保護責任者って感じかな。でも,里親は探すつもりだよ。
 で,いい人が見つかってヴィヴィオが納得してくれれば・・・」

「そっか。なのははそれでいいのか?」

「いいも何も,私の仕事を考えるとこの先ずっとヴィヴィオを預かるのは
 ちょっと難しいと思うの」

「ふーん。ま,なのはがそれでいいならそうすればいいんじゃない」

俺がそう言うと,なのはは少し考え込んでいるようだった。



朝食を食べた後,副部隊長室に戻った俺は,相変わらず減ることのない
書類仕事を片づけ始めた。
半分ほど山が減ったところで,一枚の報告書にたどりついた。
俺はその報告書を見た瞬間,副部隊長室を飛び出した。

副部隊長室から共用のオフィススペースまで全力疾走した俺は,
なのはと談笑しているスバルを見つけると,ドカドカとそちらに向かって
歩いて行った。

「スバル!」

俺は大声でスバルを呼ぶと,その声につられて俺の方を振り向いたスバルの
鼻先に手に持った報告書を突きだした。

「何だこれは!」

俺がそう言うとスバルは自分の鼻先に突きだされた報告書を手に取り,
まじまじと見つめた。

「えーっと,この前の戦闘の戦闘詳報ですけど」

スバルがきょとんとした顔でそう言う。

「これが戦闘詳報?舐めてんのかお前。これじゃあ単なる感想文だろうが!
 戦闘詳報っていうのはこうやって書くんだよ!」

俺はそう言うと,ティアナ・エリオ・キャロの戦闘詳報を机の上に叩きつけた。

「戦闘詳報ってのはな,戦闘に至った状況・時間的推移・結果・反省点を
 簡潔かつ論理立てて書くもんなんだよ。
 ところが,お前の戦闘詳報はどうだ?
 ”敵はとても強いと感じた”ってガキの読書感想文じゃねえかよ!
 エリオやキャロですらきちんと書いてるのに,お前は何やってんだ!?」

俺が大声でまくし立てると,なのはがスバルの戦闘詳報を手に取った。

「まあまあゲオルグくん。報告書の不備くらいでそんなに怒らなくても・・・」

スバルの戦闘詳報を眺めていたなのはの言葉がそこで途切れる。

「・・・これは・・・ひどいね・・・スバル,真面目に書いたの?」

「えっと,一応真面目に書いたつもりです・・・」

あまりの剣幕にシュンとなったスバルを見た俺は,怒りのボルテージがすっかり
下がってしまった。

「なのは。今まで教導官としての仕事も忙しいと思ってたから,
 この類の報告書については,点検しなくていいって言ってきたけど,
 スバルの報告書に関してはなのはが分隊長の責任で点検した上で,
 俺に提出してくれ。頼む。」

「了解。ごめんね,今まで気がつかなくて・・・」

「いや,今まではそれなりにちゃんとした体裁で出てたから,
 俺も気がつかなかったんだけど,たぶんティアナが代筆してたんだな」

俺がそう言ってちらりとスバルの方を見ると,肩をびくっと震わせていた。

「スバル。一言言っておくけど,お前らの書いた戦闘詳報は俺や
 はやてが書く戦闘報告書の付属文書として本局上層部の目にも入るんだぞ。
 その辺をよく考えてこういうスキルも身につけておけよ。
 ただの戦闘バカじゃこの先困るのはお前だからな」

俺がそう言うと,スバルは報告書を書きなおし始めた。

「ところで,他の連中は?」

「ティアナははやてちゃんに連れられて本局に行ったよ。
 ライトニングはフェイトちゃんと現場調査。
 シグナムさんとヴィータちゃんはオフシフトだよ」

「じゃあ,前線メンバーはお前らだけか。何もないことを祈るよ」

「ゲオルグくんがいるじゃん」

「俺を前線メンバーに数えるなよ。一応副部隊長だぞ」

「そんなこと言いつつ,毎回出撃してるけどね」

「ほっとけ」

俺はそう言って,副部隊長室に戻った。

 

 

第46話:監査


最近はすっかり日常の一部になった,フォワードの訓練を終えて
食堂で朝食を食べていると,放送で部隊長室へと呼び出された。
俺が部屋に入ると,はやては頭を抱えていた。

「どうしたんだよ,はやて」

「地上本部から監査が入るって連絡があったんよ」

「監査?なんでまた」

「6課は高ランク魔導師をいっぱい抱え込んどるから,
 戦力制限が規定通りに運用されとるかどうかの監査やて」

「それなら,本局から監査が入るのがスジだろ?」

「そうなんやけど,6課は地上部隊やから地上本部もまるっきり
 無関係っちゅうわけやないし,ちょっと無理はあるけどスジは通るんよ。
 ま,所詮は表向きの理由やろうけどね」

「というと?」

「この前の戦闘では派手にやったからなあ,目についたんやろ。
 で,ちょっと調べてみたら私とかフェイトちゃんみたいな犯罪者もどきが
 上層部におる上に,高ランクの魔導師がゴロゴロしとって気に入らんから
 少し嫌がらせでもしたろと思ったんとちゃう?」

はやては少し苛立った様子で,ため息をついた。

「なるほどね。しかし監査か・・・これはちょっと厄介かな」

「そうなんよ。6課はぱっと見ツッコミどころ満載なんやけど,
 ちょっとほじくり返されたらやばいもんがゴロゴロしとるから」

「主に俺の部屋だな」

「そやからゲオルグくんを真っ先に呼んだんよ。・・・大丈夫やろな?」

「そのへんは抜かりなくやってるから,たぶん大丈夫だよ」

「シンクレアくんは?」

「あいつは調べ物で本局」

「そっか。ま,居らん方がええよな。ほんなら頼むよ」

「はいはい」



・・・午後。

俺とはやては隊舎の玄関で地上本部からの監査官を待っていた。
しばらくすると,黒塗りの公用車が目の前に止まった。
ドアが開いて,眼鏡をかけたいかにもキャリアウーマンといった風体の
女性士官が歩いてきて,俺達2人の前で止まった。

「今回,機動6課の監査を担当します,オーリス・ゲイズ3佐です」

「機動6課部隊長の八神はやて2佐です」

「同じく副部隊長のゲオルグ・シュミット3佐です」

「本日は,戦力運用が規定に則って適正になされているかの監査です。
 ご連絡が直前になり申し訳ありませんが,よろしくお願いします」
 
ゲイズ3佐は感情を感じさせない声でそう言うと,眼鏡をくいっと持ち上げた。

「理解しております。では先ずはこちらへ」

はやてはそう言うと,ゲイズ3佐を隊舎の中へと招き入れた。
部隊長室へと向かう道すがら,はやてが口を開いた。

「ゲイズ3佐はレジアス・ゲイズ中将とはどのようなご関係で?」

「娘です」

「そうですか」

あっという間に会話ともいえない言葉のやり取りは途切れてしまった。
それから,俺達3人は無言で隊舎の廊下を歩いて行く。
部隊長室に入ると,俺とはやてはゲイズ3佐と向かい合ってソファーに座った。

「それでは,まず人員配置と指揮系統に関する資料を確認させていただきます」

ソファーに腰かけるやいなやそう言ったゲイズ3佐に資料を手渡すと,
ゲイズ3佐は資料に目を通し始めた。

資料を読んでいたゲイズ3佐が資料から顔を上げたのは10分ほどたった
後だった。

「質問しても?」

「ええ,どうぞ」

「機動6課の幹部陣はほぼ全員が八神2佐の知人で固められていますが,
 理由をお聞きしたいですね」

「新設部隊な上に,本局所属でありながらミッドの地上部隊という特殊性から
 人集めに苦労しましてね。やむなく知り合いを頼ったんです」

はやてがにこやかにそう言うと,ゲイズ3佐はくいっと眼鏡を持ち上げて,
はやての目を見つめた。

「そうですか,それは大変でしたね」

言葉だけは,はやてを気遣うような言葉に聞こえるが全く温度を感じさせない
冷え切った声でそう言うと,ゲイズ3佐は再び資料に目を落とす。

その後,ゲイズ3佐から戦力運用や6課の戦闘についての質問がいくつか
あったが,はやては無難な答えを返していた。

部隊長室でのやり取りが終わると,各所を案内することになった。
発令所・格納庫・訓練スペース・デバイスルームなどを2時間ほど
かけて回った後,部隊長室に戻った。
部隊長室に戻り,再びソファーに座ると,ゲイズ3佐は口を開いた。

「本日は部隊運用・戦闘に関する資料一切と各施設を見せていただきました。
 今日拝見した限りにおいては,規則に従った適正な部隊と戦力の運用が
 なされているようですね」

「はい」

「ですが,些か過剰ともいえる戦力を機動6課が保有しているのは事実です。
 先日の戦闘でも一時的な能力リミッタ―の解除を実施されています。
 これらの処置については規則を順守し適正に運用するようにお願いします」
 
そう言って,ゲイズ3佐はたちあがった。
到着したときと同じように無言で俺達3人は玄関へと歩いて行く。
玄関前に止まっている公用車の前でゲイズ3佐が立ち止まり,
俺とはやての方を振りかえったかと思うと,右手を上げて敬礼した。
俺とはやてが返礼すると,ゲイズ3佐は公用車に乗り込み去って行った。

俺とはやては公用車が見えなくなるまで玄関先に立っていた。
公用車が見えなくなると,俺とはやてはお互いに顔を見合わせて,
同時に大きく息を吐いた。

「なんとか乗り切れたな」

「ああ。一連の違法行為が露見しなくて助かったよ」

「まったくや。あんなもんが見つかってしもうたら,私らがクビになるだけでは
 済まんからね」

はやてはそう言うと隊舎の中へ戻ろうとする。
俺が動かずにいると,はやては振り返って声をかけてきた。

「ゲオルグくんは行かへんの?」

「タバコ吸いたいから」

「そっか。吸いすぎはあかんよ」

はやてはそう言ってヒラヒラと手を振ると,隊舎の中へと消えた。
俺は,玄関前の階段の隅の方に腰を下ろすと,胸ポケットからタバコを
取り出し,薄暗くなった空に向かって煙を吐き出した。

1本を吸い終わり,もう1本吸おうと胸ポケットに手を伸ばした時,
玄関前に見覚えのある1台の車が止まり,運転席から執務官の制服を着た
フェイトが降りてきた。

「こんなところで何やってるの?ゲオルグ」

「ん?たそがれてた。なんかちょっと疲れちゃって」

「大丈夫?仕事のしすぎじゃない?」

フェイトが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「いや,そういうんじゃなくて,気疲れしたっていうか・・・」

俺がそう言うと,フェイトが何かを思い出したように手を打った。

「そういえば,地上本部の監査があったんだっけ。お疲れ様」

「いや。受け答えは全部はやて任せだったし,俺はその場に居たってだけ
 なんだけど,なんかね・・・」
 
俺はそう言うと,立ち上がってズボンについた砂埃を払った。

「非合法活動にどっぷり漬かってきたせいか,監査とか査察って聞くと,
 妙に緊張しちゃってさ。情けないね」

俺がそう言うと,フェイトは何かを考えるようにしばらく地面を
見つめていたが,何かを決意したかのように俺を見て口を開いた。

「ねえ,ゲオルグ。少しドライブにつきあわない?」



俺は,フェイトの車の助手席に座っていた。
しばらくして,フェイトが意を決したように話し始めた。

「この前ゲオルグが教会で話してくれたことってさ,調査そのものは
 非合法なんだよね?」

「そうだね」

「なんで,そこまでしたの?」

フェイトにそう聞かれて,俺はどう答えるべきか少し迷った。

「なんでだろうね。たぶん,憎かったからかな」

「憎かった?」

「うん。俺の姉ちゃんがスカリエッティに殺されたんだって知った時に,
 スカリエッティを殺したいと思うほど憎んだんだよ」

「うん」

「で,スカリエッティと最高評議会の間につながりがある可能性が高いって
 知った時に,スカリエッティに向かってた感情が最高評議会に
 向いちゃったんだと思う」

「うん」

「だから,あんな無茶な調査を実行に移したんだろうね。
 それがどれだけ周りに迷惑をかけるかも考えずに」

「迷惑だなんて。それに結果として最高評議会が犯罪者とつながってるのは
 事実なんでしょ?」

「まあね。でも,俺達はあくまで時空管理局の職員であって,
 命令には従わなくちゃならない。それはとりもなおさず
 上層部のことを絶対的に信じなきゃいけないってことなんだよ」

「うん」

「そういう立場に居るのに非合法な手段まで使って自分の憎しみを晴らそうと
 しているんだってことに気づいてさ。最近どうしていいかわかんないんだよ」

「そっか」

「俺,局員やめようかな・・・」

俺がそう言うと,フェイトは車を脇に寄せて停めた。

「本気?」

「半分くらい」

「なんでやめようと思うの?」

「自分のやろうとしていることに自信が持てなくなったから。
 自分が自分の欲望のためだけに機動6課のみんなを巻き込もうとしている
 と思ったから」
 
「そっか」

フェイトはそう言うと,黙り込んでしまった。
しばらくの間,車の中を沈黙が支配した。
やがて,フェイトが口を開いた。

「私は,ゲオルグがやっていることが間違いとは思わない。
 たぶんはやてもクロノもなのはも騎士カリムも同じだと思う。
 だから,あの時ゲオルグを誰も責めなかったんだよ」

「そうかな?」

「そうだよ。だって,あの場でゲオルグを逮捕することだってできたんだよ。
 でも,そうせずにゲオルグのやってることを黙認した。
 それは,みんながゲオルグのことを認めてくれたからじゃないかな」
 
「でも,みんなを巻き込んじゃって・・・」

「違うよ。ゲオルグがやったことは重犯罪者のスカリエッティを捕まえるための
 情報収集。そのためにちょっとだけ法を踏み越えちゃったけどね」
 
「ありがと,フェイト」

「どういたしまして」

そう言うとフェイトは車を発進させて隊舎に向けて走らせた。
車窓から見えるクラナガンの夜景がやけに滲んで見えた。

 

 

第47話:急に休暇と言われても・・・ねぇ


「ゲオルグくんとなのはちゃんは明日は休暇な」

フォワード陣の訓練を終えて朝食を食べているときに,
放送で部隊長室に呼び出された俺となのはが部隊長室に入るなり
はやては俺となのはに向かってそう言った。

「「休暇?」」

俺となのはが揃ってそう言うと,はやては少し困ったような顔をしていた。

「そ,休暇」

「何でまた。そもそも忙しくてそんな暇もないし」

俺がそう言ってなのはを見ると,なのはも頷いていた。

「わかってるよ。そやけどしょうがないやんか,本局から注意されてんもん」

はやての話によれば,機動6課設立以来休暇を一回も取っていないのは
なのはだけで,俺は休日出勤を繰り返しているいるため,2人に休暇を
取らせるように本局の人事担当から通達があったらしかった。

「そう言うわけで,2人には休暇を取ってもらわんと,部隊長の私が
 本局からこっぴどく叱られるんで,休暇をとってください」

はやてはそう言うと,俺達に向かって頭を下げた。

「ま,はやてがそこまで言うなら」

「そういう事情ならしょうがないよね」

俺となのはがそう言うと,はやてはにっこりと笑った。

「2人ともありがとう!ほんなら明日はゆっくり休暇を楽しんでな!」

部隊長室を出た俺は,廊下をなのはと並んで歩きながら考え込んでいた。

「ねえ。ゲオルグくんは明日どうするの?」

「うーん。それを今考えてたんだけど,突然だからな。
 まあ,自宅の掃除とか整理でもしてから少し実家に寄ろうかと思ってるけど」

「そっか。ゲオルグくんの実家ってクラナガンの郊外だって言ってたもんね」

「まあね。それよりなのははどうするんだ?」

「そうだね。私も急に休暇って言われてもね。実家に帰るのも大変だし」

「そうか,なのははここの出身じゃないもんな」

「そうなんだよね。ま,ヴィヴィオと遊んで過ごそうかな」

「そっか。ま,お互いめったにない機会だし,せいぜい楽しもうや」

「そうだね」

そう言って俺はなのはと別れて,副部隊長室に戻った。



副部隊長室で1時間ほど仕事をした後,予算関係の会議に出席するために,
副部隊長室を出ようとドアを開けると,目の前になのはが立っていた。
なのはは,ブザーのボタンを押そうと手を伸ばした格好で固まっていた。

「何やってんの?」

「え?あ,うん。ちょっとね・・・」

「俺に用事?」

「えっと・・・うん」

「今から会議なんだけど,歩きながらでもできる話?」

「あ,そうなんだ。じゃあ後でいいや。引きとめちゃってごめんね」

「別にかまわないけど,いいのか?」

「うん。またあとで来るから・・・」

そう言うとなのはは廊下をとぼとぼと歩いて行った。
俺は,普段とは少し違ったなのはの様子に違和感を覚えながらも
会議室に向かうべく,なのはとは逆方向に歩いて行った。



会議が終わって,ルキノと話をしながら副部隊長室に向かって歩いていると,
副部隊長室の前にいるなのはを発見した。
なのはは,ブザーのボタンを押そうとしては止め,また押そうとするという
不可解な行動を繰り返していた。

俺はルキノの手を引き,通路の角に身を隠した。

「副部隊長。なんで隠れるんです?」

ルキノが小声で尋ねてきた。

「え?いや,なんとなく・・・」

「なのはさん,副部隊長に用事があるんじゃないですか?」

「だったら何でスッと押さないんだ?」

俺がそう聞くと,ルキノは腕組みをして少し考え込んでから口を開いた。

「何か秘密の相談でもあるとか・・・」

「そういうのはフェイトにするだろ」

「いやいや,フェイトさんにも話せないこととか・・・」

「例えば?」

「うーん。恋の話とか・・・?」

「何で疑問形なんだよ」

「いや。自分で言っててアレなんですけど,ピンとこないというか・・・」

「2人ともそんなとこで何やっとんの?」

その時,突然背後から声をかけられたルキノは驚いて頭を上げた。
しかし,ルキノの頭の上には俺の顔があった・・・。

「「!!!!」」

鈍い音を立てて,ルキノの頭と俺の顎が衝突し,俺とルキノは声にならない
悲鳴を上げた。

「ホンマに何をアホなことやってんの?」

顎をおさえた俺と頭をおさえたルキノが声のした方を見ると,
呆れたような顔をしたはやてが立っていた。

俺が涙目になりながらはやてに事情を説明すると,
はやてはますます呆れた顔になった。

「アホなことやっとらんと早よ仕事して」

はやては心底呆れたようにそう言うと,部隊長室に向かって歩いて行った。

「副部隊長のせいであたしまで怒られちゃったじゃないですか!」

ルキノはそう言うと,肩を怒らせてオフィススペースの方へ歩いて行った。

「俺が悪いのか?」

《マスターが悪いです》

レーベンにまでそう言われて,俺は少しヘコみながら,相変わらず手を出したり
ひっこめたりしている,なのはに声をかけることにした。

「なのは」

俺が声をかけると,驚いたなのはは勢いでボタンを押していた。
なのはは,それに気がつくと妙にびしっとした姿勢で居住まいを正していた。
だが,いつまでも俺の声が聞こえないことに疑問を持ったのか,
首を傾げると,もう一度ブザーのボタンを押そうとしていた。

「俺はこっちなんですけど」

俺がそう言うと,なのははゆっくりと俺の方を振り返った。

「・・・ゲオルグくん?」

「何やってんの?」

「えーっと・・・にゃはは・・・」

なのははばつが悪そうに笑った。

「とりあえず,部屋に入るか?」

俺がそう聞くと,なのははゆっくりと頷いた。



なのはをソファーに座らせ,紅茶を淹れ,俺はなのはの前に座った。

「で?何か用があったんでしょ?」

「えーっと,うん・・・」

俺が尋ねると,なのはは小さくうなずいた。

「あのね?今までゲオルグくんと私ってあんまり一緒に遊んだことないよね?」

「そうだね」

「で,たまたま明日はお休みが重なったからさ,一緒に出かけたりしたいなって
 思ったんだけど・・・」

「いいよ」

「え?いいの?」

「別にいいよ。特に用事も無いし」

「ほんとにいいの?」

「だからいいって。それより,どっか行きたいとことかある?」

「え?あ,ごめん。考えてなかった」

「なんだよ。まいいや。んじゃ適当に街でもぶらつきますか?」

「うん!」

「じゃあ俺が車出すから,10時くらいでいいか?」

「うん!ありがと。じゃあね」

なのははそう言うと,妙に機嫌よさげに部屋を出て行った。

俺はなのはの後ろ姿を見ながら軽くため息をつくと,
机に戻って仕事を再開した。

 

 

第48話:7月19日


・・・翌朝。

普段から1時間ほど遅く起きた俺は,身支度を整え私服に着替えると
格納庫へ向かい,自分の車に乗り込むと寮の玄関前に車を止めた。

5分ほど待つとなのはが現れた。

「おはよう,ゲオルグくん。待たせちゃった?」

「おはよ。そんなに待ってないよ。5分くらいかな」

「そう?よかった」

パンツルックに身を包んだなのはは,にっこりと笑った。

「どうぞ,お嬢様」

俺は助手席のドアを開けると,少し芝居がかった仕草でなのはを
車の中へ誘った。
なのはは苦笑しながら俺の手をとると”どうも”と言いながら,
助手席に身を滑らせた。



俺は車を発進させると,クラナガンに車を向けた。

「なのはの私服姿って初めて見た気がするよ」

「そうだっけ」

「うん。よく似合ってるよ。なのはらしいと思うな」

「私らしいって?」

「健康的というか,活動的というかそんな感じがする」

「そう?ありがと」

なのははそう言うと,少し頬を赤く染めているように見えた。

「ところで,どうする?」

「そうだね,どうしよっか・・・。
 そういえば,ゲオルグくんってクラナガンで育ったんでしょ?」

「そうだよ」

「じゃあ,ゲオルグくんがどんなところで子供時代を過ごしたのか
 見てみたいな。ダメ?」
 
「俺は構わないけど,そんなのでいいの?」

「うん」

「じゃあそうしようか。でも,実家は勘弁しろよな。絶対誤解するから」

「あ・・・うん」

なのはは小さな声でそう言うと,俯いてしまった。
俺は,実家の方に進路を向けた。



1時間ほどのドライブの後,俺は実家近くのコインパーキングに車を停めた。

俺は車を降りると大きく伸びをした。
そんな俺を見てなのはは苦笑していた。

「なんだよ」

俺がちょっと不満を込めてそう言うと,なのはは声を上げて笑った。
俺はそんななのはにむくれた表情をして見せるが,なのはは相変わらず
笑っている。

「ごめんごめん。でもゲオルグくんがちょっとだけ年寄り臭いと思ったの」

しばらくして笑いが落ち着いたなのはは,俺に向かってそう言った。

「はいはい。どうせ俺はおっさんですよ」

「機嫌悪くしないの」

なのははそう言うと,道路に向かって歩きながら周りを見回していた。

「なんか大きい家が多いね」

「そうかもね。この辺は結構古くからの住宅地だし」

「そうなんだ。ゲオルグくんの実家もこんな感じ?」

「大きさはこんなもんだ」

「・・・見てみたいな」

なのはが俺を見てそう言った。

「実家は勘弁しろて言ったの聞いてなかったのか?」

「えーっ,いいじゃん外から見るくらい」

俺は手を振り回しながらそう言うなのはを見ながら,小さくため息をついた。

「・・・外からだけだぞ」

「やった!」

パーキングから10分ほど歩いて,俺の実家の前に来た。
なのはは,興味深そうに俺の実家を見ていた。

「おしゃれな家だね」

「そうか?」

「うん。素敵な家だと思う」

「そりゃどうも」

俺はなのはにそう言葉を返しながら,家の中から母さんが出てこないか
心配していた。
なのはは,へーだのふーんだのと言いながら,家の周りを歩きながら,
俺の実家をいろいろな方向から見ていたが,しばらくして俺の方に歩いてきた。

「ね。中も見てみたいな」

「ダメだって言ったろ」

「どうしてもダメ?」

「ダメ」

「けち」

「ダメっつったらダメ。もう行くぞ」

俺は,踵を返して実家に背を向けた。

「あ。ゲオルグくん,待ってよ」

なのはは小走りで先を行く俺に追いついてきた。

「怒った?」

「少し」

「・・・ごめん」

「別にいいよ」

俺となのはは並んで住宅街の中を歩いて行く。
しばらくして,なのはが話しかけてきた。

「ねえ,ゲオルグくん。今どこに向かってるの?」

「腹減ったろ?昼飯食いに行こうよ。近くにいい店があるから」

「いいね。行こ行こ」

5分ほど歩くと,目指すレストランが見えてきた。
入り口のドアを開けて入ると,店の中は7割くらいの席が埋まっていた。

「いらっしゃい・・・あら?あんたは確か・・・」

店のおばさんがそう言って少し考え込んでいた。

「覚えてないの?エレーヌさん」

「思い出した!シュミットさんちのゲオルグくんだね。
 久しぶりじゃないの,ちっとも顔を出さないで」

「仕事が忙しくてね」

「そういえば,管理局に入ったんだったね。大変ねえ」

エレーヌさんはそう言うと,俺の後ろにいるなのはに気がついた。

「あら,可愛い子。ゲオルグくんの彼女?」

エレーヌさんはニヤニヤと笑いながら聞いてきた。

「違うよ。友達で同僚。たまたま近くを通りかかったからさ」

「そうなの?お名前は?」

「あの,高町なのはといいます」

なのははエレーヌさんの勢いに押されたのか,少し小声になっていた。

「なのはちゃんね。いいお名前ね」

「ありがとうございます」

「そうだ,ゲオルグくん。席は窓際でいい?」

「うん」

「じゃあこちらにどうぞ」

そう言ってエレーヌさんは店の隅にある窓際の席に俺達を案内してくれた。
俺は奥側の席の椅子を引くと,なのはに座るように促した。

「ほら,座りなよ」

「え?うん。ありがとう」

なのはは俺の行動に驚いたのか,おずおずと俺の引いた椅子に座った。
俺がなのはの向かいに座ると早速なのはが話しかけてきた。

「すごい人だね。あの人」

「だろ?昔っからよくしゃべる人なんだよ」

「知り合いなんだよね?」

「うん。子供のころから家族で食事会をするときはいつもここだったから」

「そうなんだ」

なのははそう言うと,店の中を見まわしていた。

「いい雰囲気のお店だね」

「そりゃどうも,ありがとうね」

声のした方を見ると,水の入ったグラスを持ったエレーヌさんが立っていた。

「エレーヌさん。今日のランチは何?」

「今日は,ビーフシチューだよ」

「お,ラッキー。じゃあ俺はランチで。なのははどうする?」

「えーっとどうしようかな・・・じゃあ同じで」

「はいはい。じゃあランチが2つだね」

エレーヌさんはそう言って店の奥に消えて行った。

「ねえ。ビーフシチューだとなんでラッキーなの?」

「ん?俺がこの店で一番好きなメニューだから」

「なるほど」

俺となのはが話をしながら15分ほど待っていると,エレーヌさんと
白いコック服の男がトレーを持ってやってきた。

「はい。お待ちどうさま」

エレーヌさんは手際よく俺となのはの前にビーフシチューとサラダを並べ,
最後にバゲットの入ったバスケットをテーブルの真ん中に置いた。

「はい,どうぞ召し上がれ」

俺はエレーヌさんにお礼を言おうと振り返ったときに,
コック服姿の男と目があった。

「よ,ゲオルグ」

「え!?マルタン?なんで?」

「今,店の手伝いをしながら色々覚えてるとこなんだよ」

「継がないって言ってなかったか?」

「気が変わった」

俺が茫然としていると,マルタンはエレーヌさんに呼ばれて店の奥に消えた。

「どうしたの?」

なのはが怪訝な顔で俺を見ている。

「いや,ちょっと意外な奴に会ったもんだから」

「それってさっきのコックさん?」

「うん。俺の幼馴染でここの一人息子なんだけどね」

「じゃあ,ここにいてもおかしくないんじゃない?」

「いや,あいつこの前まで店なんか継がないって言ってたんだけど・・・」

「そうなんだ。ま,いいじゃない。それより食べよ」

「そうだね」

俺はそういうと,シチューに手を伸ばした。

「うーん,この味だよ。うまい」

「うん。すごくおいしいね」

「だろ?」

俺となのははビーフシチューに舌鼓を打った。
20分ほどかけて食べ終わった俺となのはは,食後のコーヒーを飲み終わると,
店を出ることにした。
俺は,店のレジに向かうと,バッグから財布を出そうとしているなのはを
手で制し,先に出ているように言った。
なのはは,納得いっていないようだったが,しぶしぶ先に店を出た。
俺はなのはが店を出たのを確認するとカウンターの向こうにいるエレーヌさんに
話しかけた。

「エレーヌさん,ごちそうさま。あと,例のやつを一袋頼むよ」

 

 

第49話:なのは、動く


5分ほどして俺が店を出ると,なのはが待っていた。

「ごめん,待たせちゃって」

「ううんいいよ。それよりいいの?払ってもらっちゃって」

「いいんだよ。俺の方が給料はいいんだし」

「そっか。じゃあごちそうさま」

「いいえ,どういたしまして」

それから,俺となのはは俺の通っていた学校や子供のころよく遊んだ公園を
歩いてまわり,そろそろ日も落ちようかという時間になった。

「あー。今日は楽しかった。ありがとね,ゲオルグくん」

「いや。ほんとにこんなのでよかったのか?」

「いいんだよ。ゲオルグくんのことがまた少し解ったし」

なのははそう言って,俺に笑顔を見せた。
俺は時計を確認すると,あと一か所だけ回ることにした。

「なのは,もう1か所だけいいか?見せたいもんがあるんだよ」

「え?うん,いいよ」

なのはの答えを聞いた俺は,なのはを伴って歩き出した。
住宅街のはずれにある丘にある砂利道を少し早足で上がっていく。
丘の頂上につくと,そこには東屋が一つあった。

「よかった,間に合った。ほらなのは」

「ちょっと・・・ゲオルグくん・・・待って・・・,あ!」

そこからは,夕暮れでオレンジ色に染まるクラナガンの街が一望できた。
俺が子供のころから嫌なことがあるとよく来た場所だった。

「きれい・・・」

なのはは景色に見とれていた。

「なのは」

俺はなのはをベンチに座らせると,俺もなのはの隣に座った。

「食べようぜ」

俺はそう言うと,バッグから1包みの袋を取り出した。

「何それ?」

「昼に行った店でさ,ラスクを作ってもらってきた」

「え?それであんなに時間がかかったの?」

「そ,ごめんな待たせちゃって」

「ううん。頂くね」

なのはは俺が持った袋からラスクを一枚取り出すと,口に運んだ。

「甘くておいしいね」

「だろ?ガキの時からの好物なんだよ」

俺も一枚かじって,そう言った。
しばらく,2人でラスクを食べながらだんだん夜景へと変わっていく
クラナガンの景色を見ていると,なのはがあっと声を上げた。

「そういえば,これを渡そうと思ってたんだ」

なのははそう言うと,バッグからきれいにラッピングされた
小さな箱を取り出し,俺に手渡した。

「え?なんで?」

「だって,今日ゲオルグくんの誕生日でしょ。プレゼントだよ」

なのはの言葉を聞いて俺は慌てて時計のカレンダーを見た。

「すっかり忘れてた・・・」

「にゃはは。らしくないね」

「最近忙しかったもんな・・・。それより,何で俺の誕生日を知ってんだ?」

「友達だもん,当たり前だよ・・・って言いたいところだけど,
 前にはやてちゃんにゲオルグくんの人事記録を見せてもらったから」
 
「そっか。ありがとな」

「ううん。大したものじゃないから」

「開けてもいいか」

「うん」

俺は丁寧に包装紙をはがして,箱を開けると銀色の羽根の形をした
飾りのついたネックレスが入っていた。

「ゲオルグくんがどんなものが好きかわかんなかったんだけど,どうかな?」

「気にいったよ。ありがと,なのは。大事にする」

「どういたしまして」

なのははそう言って笑った。

「この羽根,なのはが魔法で飛んでる時の羽根に似てるな」

「そうかな?自分じゃよくわかんないや」

「似てるよ」

俺はそう言うと,正面に見えるクラナガンの街に目をやった。
日も落ちて結構時間がたち,すっかり夜景になっていた。

「なのは,聞いてほしいことがあるんだけど」

「ん?」

「俺さ,情報部にいる時にいろいろやったんだ。
 なのはには言えないようなことをいっぱい。
 犯罪者とはいえ人を殺したこともある。この手で」

「・・・そう・・・なんだ」

なのはが息をのむ音が聞こえた気がした。

「情報部に行く前にもいろいろ失敗して,仲間を殺しちゃったこともあるし,
 いろんなものを犠牲にしてここまで来たんだ」

「うん・・・」

「だから,自分は人並みな幸せとかを望んじゃいけないと思ってるんだよ」

「ゲオルグくん?」

「それが俺の犯した罪に対する罰なんだと思ってる」

「それは違うよ。ゲオルグくん」

「なのは?」

「ゲオルグくんの言うとおりゲオルグくんはいっぱい失敗したんだと思う。
 でも,ゲオルグくんはそれを反省して,自分だけじゃなくて
 スバルたちやシンクレアくんにゲオルグくんと同じ失敗をさせないように
 一生懸命頑張ってるもん。
 犯罪者を殺しちゃったのだって,そもそも犯罪を犯す人が悪いんだから
 それはしょうがないと思うの」

「ありがと,なのは。でも俺は・・・」

その先は言えなかった。なのはが自分の唇を俺の唇に押しあてていたからだ。
なのはは唇を離すと,俺の顔を見つめた。

「私ね,ゲオルグくんのことが好き。だから,ゲオルグくんには幸せに
 なってほしい。ううん,できればいっしょに幸せになりたい」

「なのは・・・」

「さっき言ったように,私はゲオルグくんが幸せになっちゃいけない理由なんて
 全然ないと思ってるよ。でも,どうしてもゲオルグくんが自分を許せないと
 思うんだったら,私が半分ゲオルグくんの罪を背負ってあげるよ。
 1人じゃ重くても2人なら少しは軽くなるよね」

なのははベンチから立ち上がって少し歩くと俺の方を振り返った。

「ごめんね,いきなりこんなこと言って。でも,どうしても
 言いたくなっちゃったんだ。じゃ,もう遅いし帰ろっか」

なのははそういうと俺に背を向けて,歩き出した。
俺は,ベンチから立ち上がると,なのはを後ろから抱きしめた。

「ずるいぞ。自分だけ言いたいこと言って」

「ゲオルグくん?」

「ありがと。なのはの言ってくれたこと嬉しかった。
 でも,まだ俺は自分を許せそうにないんだ。
 だから,まだなにも約束なんてできないけど・・・」
 
俺はそこで一旦言葉を切った。
なのはは一言も発しないが,少し震えているように感じた。

「俺もなのはのことが好きだよ。友達としてとか同僚としてとかじゃなく,
 一人の女の子として,なのはのことが好きだ」

俺はそういうと,なのはを抱きしめる力を少し強くした。

「ほんとに?」

「うん」

「ありがと」

俺がなのはを離すと,なのはが振り返って抱きついてきた。

「うれしいよ,私」

「俺も」

「浮気はだめだよ」

「そんなことしないよ」

「そっか」

しばらく俺達はそうしていたが,夜風がさすがに冷たくなってきて俺は,
なのはを抱く手を離した。

「帰ろっか」

「そうだな」

俺はそう言うと,なのはの手を握って丘を降りはじめた。

「あったかいね。ゲオルグくんの手」

「そうか?」

「うん」

車に戻り,隊舎に向かって走らせている間,俺となのははずっと無言だった。
隊舎に到着して,車を降りると俺となのはは並んで寮への道を歩いた。
寮に入り,男子寮と女子寮の分かれ道で俺となのはは立ち止まった。

「じゃあまた明日ね」

「おう,また明日」

そうして俺達はいつものように別れた。

 

 

第50話:新兵器登場


その日,俺は珍しく自分からデバイスルームを訪れた。
中に入ると,シャーリーが作業をしていたが,集中しているのか
俺が入ってきたことに気づいていない。

しばらく部屋に入ってすぐのところで待っていると,作業が一段落したのか
シャーリーが顔を上げた。

俺がシャーリーに声をかけると,驚いた様子でこちらを見た。

「ゲオルグさんじゃないですか,どうしました?」

「この前の戦闘でAMFC発生装置を使ってみたんだけど」

「あ,どうでした?」

「問題なく機能したよ。でも,運用上の問題点を洗い出すところまでは
 使う機会が無かった」
 
「そうですか」

シャーリーはそう言うと,少し残念そうに視線を落とした。

「ただ,正常に機能して,きちんと効果があることは確認したから,
 前線メンバー全員分の装置を作ってほしいんだ」

「いいんですか?」

「こういうことは早めに動いた方がいい。使えるならとりあえず数が欲しい」

「解りました」

シャーリーはそう言って頷いた。

「あとな,運用上の問題点洗い出しのために,訓練スペースでAMFC発生装置の
 シミュレーションをやりたいんだが,データを組むのにどれくらい必要だ?」

俺が尋ねると,シャーリーは少し考えて口を開いた。

「それくらいなら今日中にやっておきますよ」

「そうか,じゃあ頼む」

「了解です」



シャーリーとの話を終えてデバイスルームを出た俺は,
その足で部隊長室に向かった。

部隊長室に入ると,はやてとなのはがいた。

「なのはもいたのか。ちょうどよかった」

「どうしたんや?」

「前に報告した携帯用AMFC発生装置の件だけど」

「ん?ああ,あれか。試作品のテスト中やったっけ」

「ああ。で,この前の戦闘で俺が試作品を実戦で使ってみたんだが,
 問題なく作動して,効果もあることが確認できたんで,前線メンバー分の
 製作にかかってもらおうと思うんだが,構わないか?」

「ええよ。そやけど,問題は洗い出せたん?」

「機能上の問題はない。ただ,運用上の問題を洗い出せる程には使えなかった」

「そやのに量産するんか?ちょっと判断が拙速やろ」

「運用上の問題と機能上の問題は別だよ。で,運用面の問題を検討するのに
 提案があるんだけど」

「なんや?」

「訓練システムにAMFC発生装置の模擬プログラムを組み込む」

俺がそう言うと,なのはが頷いた。

「いいアイデアかも。あのシステムはAMFの模擬プログラムも実装されてるし」

「だろ?で,隊長陣で何度かテストして運用面の問題点を洗い出したら,
 フォワード陣にもAMFC使用の訓練をすればいい。どうせ,人数分揃うのに
 時間がかかるから,実戦投入までにそれくらいの余裕はある」

俺はそう言ってはやての方を見た。
はやては,腕組みをして考え込んでいたが,しばらくして顔を上げると
俺の顔を見て,頷いた。

「ええやろ。報告書を見る限りは有用なんは間違いないしな。
 そやけど,フォワード陣への訓練に導入するまでに十分問題点を出しといて」

「了解。じゃあなのは。今日中にはAMFCのシステムへの実装が終わるから
 とりあえず1回目のテストに付き合ってくれるか?」
 
「いいよ。明日なら時間とれるし」

「了解。じゃあな,はやて」

「はいはい」



・・・翌日。
朝の訓練を終え,朝食を食べた俺となのはは,訓練スペースに来ていた。
訓練スペースの前ではすでにシャーリーが準備を進めている。

「お待たせ。シャーリー」

なのはがシャーリーに声をかけると,シャーリーが俺達の方に振り返った。

「あ,なのはさんにゲオルグさん。準備はできてますよ」

「了解。じゃあ,早速始めますか」

「うん」

そう言うと,俺となのははデバイスをセットアップし,訓練スペースに入った。
今は,機能のテストなので建物のようなものは特に出していない。

「シャーリー,まずはAMFを最大強度で」

『了解です・・・いいですよ』

その声を聞いた俺は,レーベンに魔力を纏わせようとする。
が,魔力結合ができずレーベンに魔力を纏わせることができない。

なのはの方を見ると,魔力弾を生成しようとしているようだったが,
やはり生成できないようだった。

「すごいね。まったく魔力結合できないよ」

「だな,まだ実戦ではこれだけのAMFに出くわしたことはないけど」

なのはと言葉を交わすと,俺はシャーリーに呼びかけた。

「AMFは問題なし。AMFC起動」

『了解・・・どうぞ』

シャーリーからの返信を受けて,俺はもう一度レーベンに魔力を纏わせる。
今度は,レーベンが俺の魔力光で青黒く光る。

そのとき,なのはが魔力弾を前方に飛ばした。
なのはの魔力弾は途中までは形をとどめていたが,10m程先で四散した。

「見た?」

なのはの声に俺は小さく頷く。

俺は,右手を前にかざすと,砲撃魔法を撃った。
俺の砲撃魔法は,5mくらいまでは元の太さを保っていたが,
そこから先はだんだん細くなり,20mくらい先で完全に消えてしまった。

「こうなるんだね」

「ああ。原理から言ってこうなるのが当然なんだけど,実際に見ると驚くな」

『お2人ともどうですか?』

「システムは問題なく機能してるみたい」

『じゃあ模擬戦モードにしますね』

シャーリーがそう言うと,目の前に廃棄都市区域を模擬したビルが立ち上がる。
そして,少し離れたところにガジェットが出現した。

俺となのはは目を合わせ,小さく頷きあうとガジェットに向かった。



1時間ほどいろいろな状況を想定して,対ガジェット戦でのAMFCの効果テストを
実施した俺となのはは,シャーリーのところに戻った、

「どうでした?」

シャーリーの問いに対して,なのはは首を振った。

「私にとってはあんまり意味無いかな」

「なのはさんは砲撃型ですもんね」

「そうなの。基本的にガジェットとの接近戦はやらないから。
 唯一利点があるとすると,不意にガジェットに近寄られても,
 防御の強度が落ちないことだけど,稼働時間が5分じゃね・・・」

「そうですか・・・」

シャーリーは肩を落としていた。

「俺はすごい楽になるけどな」

「だってゲオルグくんは接近戦が主体だもん」

「まあね。そう考えると,こいつは使い手を選ぶな」

「うちの前線メンバーだと私とキャロ以外は使える場面があるんだね」

「そうなるな。残念だったな,なのは。新兵器が使えなくて」

俺がそう言って,なのはの肩を叩くと,なのはは頬を膨らませた。

「いいもん。私はこんなのなくてもちゃんとできるもん」

「ちゃんとできるもんって・・・子供じゃないんだから」

「にゃはは。そうだね」

なのはが笑ったので,俺は内心で胸をなでおろした。

「じゃあどうします?全員分は作るのやめますか?」

シャーリーがそう尋ねてきたので俺は少し考えた。

「いや,一応全員に配備しよう。狭い空間での戦闘になれば,
 なのはやキャロにも防御面でのメリットがあるだろ」
 
「解りました。じゃあ人数分プラスアルファで作るようにしますね」

「頼む。あと,ヴィータやシグナムにも一度使ってみてもらわないとな」

「そうだね。2人の意見も聞いてみたいし。じゃ,戻ろっか」

なのはの言葉をきっかけに俺達は隊舎へと向かって歩き出した。

 

 

第51話:少女の真実


8月になり,空調を効かせている隊舎の中に居ても,少し動くと汗をかく
くらいの暑さになってきた。

携帯用AMFC発生装置のテストは順調で,運用面の問題も出し尽くし
そろそろフォワード陣の訓練にも導入しようとしているようだ。

戦闘の方は,ヴィヴィオを保護した時の戦闘以来1か月以上も大規模な戦闘は
発生しておらず,時折思い出したかのように少数のガジェットが出現する
程度のものだった。

俺はフォワード陣の訓練に参加した後,シャワーを浴びて朝食を食べるべく,
食堂に向かった。
空いている席に座って朝食を食べ始めると,隣に誰かが座るのを感じた。

「早いねゲオルグくん」

声のする方をみるとなのはが座っていた。

「なのはが遅いんだよ」

「女の子には色々あるんだよ。髪を乾かすのだって時間かかるし」

「じゃあ切れば?」

「いいの?切っちゃって」

「別に俺の好みに合わせる必要ないだろ。切りたいなら切れよ」

俺がそう言うと,なのはは少しむくれた顔をした。

「冷たいなあ。ま,いいけどね」

なのははそう言って俺に向かってにっこり笑って見せると,
自分の朝食に手をつけ始めた。それを見て俺も食べるのを再開する。
しばし,2人で並んで座り無言で食べ続けていると,
正面に誰かが座るのが見えた。

「おはよう,お2人さん」

「おはようございます。なのはさんにゲオルグさん」

俺が顔を上げると,はやてとリインがいた。

「「おはよう」」

「ユニゾンかいな」

「「そんなんじゃないよ」」

「・・・もうええわ」

はやては呆れたような声でそう言うと,自分の朝食に手をつけ始めた。

「そやけど,2人ともよう朝からそんなに食べるなあ。
 見てる私の方が胸やけしそうや」
 
「そうか?朝から動いてるからこれくらい普通だぞ」

「だね。毎朝これくらいだよ」

俺となのはが口ぐちにそう言うと,はやては無言で首を横に振った。
その時,俺の前にある朝食を見ていたなのはが口を開いた。

「あ,そのお芋おいしそうだからひとつ頂戴」

「いいぞ。ほれ」

俺は自分のフォークで芋をひとつ突き刺すと,なのはの方に向けた。
するとなのはは,芋にかぶりつき美味そうに咀嚼する。

「いい塩加減だね。ゲオルグくんも代わりに何かいる?」

「じゃあその肉一切れくれ」

「えーっ,お芋とお肉じゃ等価交換にならないよ」

「何かいるか?って聞いたのはなのはだろ」

「ま,そうだけど・・・しょうがないなあ,じゃあはい」

なのははそう言い自分の皿の上にある肉を一切れ突き刺すと,
俺の方に向けた。俺は,それにかぶりつく。

「げ,ソースが垂れた」

「あ,ごめんね」

なのははそう言うと,テーブルの上にある布巾で俺の制服に落ちた
ソースをふき取っていく。

「ありがと,なのは」

俺はなのはにそう言うと,また自分の朝食を食べ始めた。

「なんかあったんか?2人とも」

はやてが目を丸くして,俺たちの方を見ていた。

「ん?なんで?」

「いや,なんか2人の関係が前と全然違う気がするねんけど」

はやての言葉に俺となのはは顔を見合わせた。

「そんなことないよな」

「うん。別に変わりないよね」

俺達はそう言ったが,はやては納得いっていないようだった。

「どない思う?リイン」

「わからないです」

「そっか。あ,フェイトちゃん!ちょっと!」

はやては通りかかったフェイトに向かって手招きした。

「どうしたの?はやて。あ,おはよう。なのは,ゲオルグ」

「「おはよう」」

俺となのはがフェイトに挨拶を返していると,はやてがフェイトに向かって
話しかける。

「フェイトちゃん。この2人の関係が前と全然違うんやけど,
 何があったか知らん?」
 
はやてはそう言って,俺となのはのさっきの行動をフェイトに説明していた。
それを聞いたフェイトはきょとんとした顔をしていた。

「え?別にそれくらいいつも通りだよ」

「は?」

はやては,理解できないというように口を大きく開けていた。

「いやいや,私が知ってる2人はこんなんちゃうで?」

「はやてがなのは達と一緒にご飯食べたのはいつ以来?」

フェイトがそう聞くと,はやては腕組みをして考え込んだ。

「最近私,朝遅いからなあ。先月の初めくらいかなあ」

はやてがそう言うと,フェイトが得心いったという顔をした。

「じゃあそう感じるかも。7月の初めならまだ2人が付合い始める前だよね?」

フェイトが俺達の方を見てそう言ったので,俺となのはは頷いた。

「へ?どういうこと?」

はやてが混乱している様子でそう言った。

「なのは。はやてに言ってないのか?」

「ゲオルグくんの方がはやてちゃんと一緒にいる時間長いでしょ?」

「いやいや,そういう話は女性どうしでするもんじゃないの?」

「だって私はやてちゃんと会う機会少ないもん」

「2人とも,ストップ!」

俺となのはが言い合いをしていると,はやてが割り込んだ。

「つまり,なのはちゃんとゲオルグくんが付き合ってるってこと?」

はやてが早口で尋ねてきたので,俺となのはは頷いた。

「え?はやては知らなかったの?」

フェイトがとどめを刺すようにそう言うと,はやては勢いよく立ちあがった。

「知らんわあああああああ!!」

はやての絶叫が食堂にこだました。



・・・その夜。

夕食を食べた後に副部隊長室に戻ると,シンクレアが待ち構えていた。

「あれ?シンクレアだ。なんか久々に顔を見た気がするよ」

「それはゲオルグさんの人使いが荒いからですね」

「・・・そんな皮肉を言うためにわざわざ帰って来たのかね?」

俺がそう言うと,シンクレアは首を振った。

「ゲオルグさんから言われてたヴィヴィオちゃんのDNAパターンの
 件ですけど,ヒットしましたよ」
 
「すいぶんかかったね」

「俺,頼まれたときにそう言いましたよね」

「そうだっけ」

俺がそう言うと,シンクレアがため息をつきながら首を振った。

「ゲオルグさんは”聖王”ってご存知ですか?」

「当然だね。古代ベルカの王のことだろ」

俺がそう言うと,シンクレアは頷いた。

「じゃあ,10年程前にあった聖骸布紛失事件はご存知ですか?」

「知識としてはね,それがどうしたの?」

「あの事件のあと,聖王の遺伝子が裏社会に出まわったらしいんですよ。
 つまり,聖骸布に付着していた遺伝子を何者かが培養したってことですね」
 
「まさか・・・」

「ええ,そのまさかです。ヴィヴィオちゃんのDNAパターンは
 その時に出まわった聖王のものと完全に一致しました」

「つまり,ヴィヴィオは聖王のクローンと?」

「そうです」

俺は小さく息を吐くと,シンクレアの顔を見た。

「シンクレア」

「はい」

「この件は,はやてに報告しておいてくれ。フェイトやなのはも交えて
 対応を協議する。はやて以外には話すなよ」

「了解です」

シンクレアはそう言って部屋を出て行った。

 

 

第52話:父親


・・・数日後
はやてに呼び出された俺は,部隊長室に向かった。
中に入ると,正面にある席にはやての姿はない。

「こっちやこっち」

声のする方を見ると,ソファに座ったはやてが手招きしていた。
俺がはやてと向かい合って座ると,はやてが話しかけてきた。

「なあなあ。なのはちゃんとはどうなん?うまくやっとんの?」

はやてはニヤニヤしながら尋ねてくる。

「ん?別に普通だよ。特別なことなんてないな」

「普通って・・・。キスくらいするやろ?」

「そりゃ付き合ってればキスくらいするよ」

俺が平然とそう言うと,後ろから頭をはたかれた。
頭を押さえながら振りかえると少し顔を赤くしているなのはと
フェイトが立っていた。

「なんだよなのは,叩くなよ」

俺がそう言うと,なのはは抗議の声を上げた。

「ゲオルグくんがデリカシーのないことするからでしょ。
 恥ずかしいから,人前でそういうこと言っちゃダメ」

「変に隠す方が余計に恥ずかしいだろ。別にキスくらい普通だよ」

俺がそう言うと,フェイトが割って入ってきた。

「なのははそういうことは思い出として大事にしておきたいんだよ。
 ね?なのは」

フェイトがそう言うと,なのはは大きく頷いた。

「ね?だからゲオルグもなのはの気持ちをくんで,あんまり
 言いふらさないようにしてあげないと」
 
「別に言いふらしてるわけじゃないけどね・・・。ま,わかったよ。
 ごめんな,なのは」

「ううん。解ってくれればいいの」

なのははそう言って俺の隣に座った。
フェイトもはやての隣に座るとはやてが口火を切った。

「今日集まってもらったんは,別になのはちゃんとゲオルグくんが
 うまくいっとるのを確認するためやなくて,ヴィヴィオについて
 話しておきたいことができたからなんよ」
 
はやての言葉になのはとフェイトは不思議そうな顔をした。

「ヴィヴィオについて?何かあったの?」

なのはが首を傾げながらそう言うと,はやては俺に話を始めるよう目で促した。
俺は文字で埋め尽くされた2枚の紙をテーブルの上に置いた。

「これが何かわかるか?」

俺がそう言うと,なのはとフェイトは2枚の紙を覗き込んだ。

「全然わかんない。何なの?」

なのははそう言って,俺を見た。

「フェイトはわかるか?」

俺がそう聞くと,フェイトは少し考え込んでから俺の方を見た。

「ひょっとして,DNAパターンの解析結果かな?」

「フェイトさん正解。10ポイント」

俺は手を叩きながらそう言った。

「もしかしてヴィヴィオの?」

なのはがそう言って俺の顔を見た。

「片方はそう。もう片方は別の物だよ」

「別の物って?」

「それが今回の本題だよ。2人とも,ヴィヴィオが遺伝子培養による
 人工生命体,つまりクローン体だってことは知ってるよな?」

俺がそう聞くと,なのはとフェイトは苦しそうな表情で小さく頷いた。

「で,例の戦闘でヴィヴィオを保護した時に,聖王医療院でDNAパターン解析を
 他の検査と合わせて実施してるんだが,俺ははやての許可を得たうえで,
 シンクレアにヴィヴィオとDNAのパターンが一致する人物を探させたんだ。
 その結果,完全に一致する人物が見つかった」
 
「じゃあもう片方はそのDNAパターンなんだ」

なのはが確認するようにそう言うと,俺は小さく頷いた。

「で,その人物って?」

フェイトが尋ねてきたが,そこではやてが割って入った。

「ここからは私が話した方がええやろね。
 2人とも,聖骸布紛失事件って知ってる?」

はやてがそう言うと,なのはは横に,フェイトは縦に首を振った。

「聖王教会で保管されていた聖遺物である聖骸布が紛失した事件だよね」

フェイトはそう言うと,はやては頷いた。

「フェイトちゃんの言ってるのが聖王教会から公表されてる内容。
 実際には盗まれたんよ」

「盗まれた?」

なのはがそう言うとはやてが頷いた。

「うん。まあどうやって盗まれたんかは置いといて,聖骸布が盗まれたことで
 さらに大きな問題が持ち上がったんよ」

そこで,はやては一旦言葉を切り,グラスの水を一口飲んだ。

「聖骸布っていうのは,古代ベルカの王である聖王の亡骸を包んだ布でな,
 聖王の血液が付着してたんよ。
 で,そこから聖王の遺伝子が次元世界のあちこちにばらまかれたわけや。
 当然,非合法な組織の手によってやけど」
 
「ということは,まさか・・・」

フェイトがはやての言葉を受けてそう呟いた。

「ヴィヴィオのDNAパターンがその遺伝子と完全に一致した。
 つまり,ヴィヴィオは聖王のクローンというわけだ」
 
「より正確には,歴史書に”最後のゆりかごの聖王”って記載されとる人物の
 クローンやな」

俺とはやてがそう言うと,部隊長室の中は静寂に包まれた。

「ヴィヴィオが・・・聖王の・・・」

なのはが茫然としてそう呟いた。

「・・・大丈夫か?なのは」

俺がそう聞くと,なのはは力なく頷いた。

「・・・うん。かなりびっくりしたけどね」
 
「無理するなよ」

「平気だよ。心配してくれてありがと,ゲオルグくん」

なのはは小さな声でそう言うと,俺に向かって笑って見せた。

「まあ,この件でヴィヴィオをどうこうっていうつもりはないんよ。
 そやから安心してな,なのはちゃん」

「うん。はやてちゃん」

はやての言葉を聞いて,なのはは少し元気を取り戻したようだった。

「でも,これで考えないといけないことが一つ増えたんじゃないかな?」

少し俯いて考え込んでいたフェイトがおもむろに口を開いた。

「というと?」

俺がフェイトに尋ねると,フェイトは俺の方を見た。

「ヴィヴィオを保護した時の戦闘で,ヴィヴィオとレリックを乗せたヘリが
 スカリエッティの戦闘機人に狙撃されたでしょ?
 あれの狙いは何だったのかな?」

「レリックか,ヴィヴィオか,それとも両方か。やね」

「うん。その答えによっては今後の捜査の方向性も変わってくるし」

「なら,両方と考えるのがいいだろうね。ヴィヴィオ,というよりも
 聖王のクローンを手に入れることによって何をしようとしているのか?
 その答えを探す必要があるな」
 
「あとは,それとレリックがどう関係するのかやね。
 フェイトちゃんはその線で捜査を進めてくれるか。
 あと,ゲオルグくんもシンクレアくんと協力して情報収集をよろしく」

「「了解」」

「それと,今回のことが分かった以上ヴィヴィオの周辺警護は
 強化せなあかんやろね。前線メンバーが出動する時も,今までみたいに
 全員出動!ってわけにはいかんやろ。隊舎に残す戦力にも気を使わんと」

「なら,出動時には俺が必ず隊舎に残るってのはどうだ?
 俺なら,はやての代役としての指揮官の役割も果たせるし一石二鳥だろ」
 
「ゲオルグくんにはこれからも前線指揮官として働いて欲しかってんけど,
 しゃあないな。それでいこ。
 あと,ザフィーラには絶対にヴィヴィオから離れんように言っとくわ。
 とりあえずそんなとこか?」
 
はやての言葉に俺とフェイトは頷いた。



部隊長室を出た後,ちょうど昼ということで寮に戻るというなのはとフェイトに
ついて行くことにした。
寮の前に来ると,寮母のアイナさんと芝生の上で遊んでいるヴィヴィオを
見つけた。
俺達が近づくと,ヴィヴィオの方も俺達に気づいたようで笑顔で駆け出した。
が,途中で足をもつれさせて転んでしまった。
顔を上げたヴィヴィオは泣きそうな顔をしていた。
それを見た俺はヴィヴィオのほうにゆっくりと歩いて近づくと
ヴィヴィオの1mくらい手前で足を止めて膝をつくとヴィヴィオの目を見た。

「ヴィヴィオ」

俺が声をかけると,ヴィヴィオは色の違う両目に涙をためて,俺の方を見た。

「ゲオくん?」

ヴィヴィオはなぜか俺のことをゲオくんと呼ぶ。
なのはがそれを聞いて大笑いしていたのだが,理由は今もよくわからない。

「ヴィヴィオは強い子だから泣かないよな?」

俺がそう言うと,ヴィヴィオは頷いた。

「うん。ヴィヴィオ泣かないよ」

「そっか。えらいなヴィヴィオは」

俺はそう言ってヴィヴィオの頭をなでてやる。
すると,ヴィヴィオはえへへと笑っていた。

「立てるか?」

俺がそう聞くと,ヴィヴィオは頷いてゆっくりと立ち上がった。
ぱっと見たところ怪我はないようだった。
俺がヴィヴィオの服についた汚れを払ってやると,
ヴィヴィオはなのはとフェイトの方に走っていこうとする。
俺は片腕でヴィヴィオを抱きかかえるように止めると,
俺の方を向かせた。

「さっき走って転んだろ?ママたちは逃げたりしないから
 ゆっくり歩いていこうな」
 
「でも・・・」

そう言ってヴィヴィオはなのは達の方に顔を向ける。
俺はヴィヴィオの顔を俺の方に向けさせると,少し厳しい顔を作った。

「さっきは転んで痛かったよな?」

「・・・うん」

ヴィヴィオはこくんと首を縦に振る。

「ヴィヴィオはまた痛くなりたいか?」

「・・・ううん」

「じゃあ,ママ達のところにはゆっくり歩いていこう」

「・・・うん!」

俺がヴィヴィオから手を離すと,ヴィヴィオはなのは達の方へ歩いて行った。
が,なのはに近くなるとヴィヴィオは再び走り出した。
今度は転ぶことなく,かがんで両手を広げているなのはに飛びついた。

「やれやれ」

俺はその様子を見て立ち上がり,膝についた土を払うとアイナさんと共に
なのは達の方へ歩いて行った。

「ゲオくんはヴィヴィオのパパみたいね」

アイナさんがそう言うと,なのはの隣に立っているヴィヴィオはなのはを見た。

「ゲオくん,ヴィヴィオのパパ?」

「どうかな,ゲオくんに聞いてみたら?」

なのはがそう言うと,ヴィヴィオは俺の方を見た。

「ヴィヴィオは俺がパパでいいのか?」

ヴィヴィオは少し考えると,俺に向かって頷いた。

「よし!じゃあ今から俺がヴィヴィオのパパだな」

俺がそう言うとヴィヴィオは,にぱっと笑った。

「ヴィヴィオは父親の概念を理解してるんですか?」

俺が小声でアイナさんに尋ねると,アイナさんは頷いた。

「幼児向け番組を見て,だいたいは認識できているみたいですよ」

「そうですか」

俺はそう言うと,なのはとじゃれているヴィヴィオを見遣った。

「父親ね・・・」

俺は自分の両手を見つめて呟いた。

 

 

第53話:強さって何でしょうね?


フォワード陣に対するAMFC発生装置を前提にした戦闘訓練を始める日が来た。
俺は起床してトレーニング服に着替えると,訓練スペースへと向かった。
訓練開始時間にはまだ時間があったが,フォワードの4人はすでに揃っていた。
俺が,近づいていくとティアナが俺に気づいて俺に声をかけてきた。

「あ,ゲオルグさん。おはようございます」

「おはよう,ティアナ。みんなもおはよう」

「「「おはようございます」」」

お互いに挨拶を交わすと,フォワード陣は軽く体を動かすのを再開した。
俺も,軽く体操や柔軟をすると,訓練スペース周囲のランニングを始めた。

1周して戻ってくると,フォワードの4人が合流してきた。

「ゲオルグさんがランニングなんて珍しいですね。どうしたんですか?」

「最近出撃もしてないし,今日は訓練に参加しないからさ,
 体がなまらないように,走るだけでもやっておこうと思ってね」
 
スバルの問いに答えると,4人は感心したように頷いていた。

その後5周走ると,ちょうどなのはがやってきたこともあり,
ランニングは終了となった。
俺は息が上がってしまい,膝に手を突いてしまった。
一方,フォワード4人は平然な顔をしていた。

「だめだよ,ゲオルグくん。体がなまらないようにしないと」

なのははにやにや笑いながらそう言ってきたが,俺は息が上がっていて,
反論する元気も無かった。

「まあ,ゲオルグさんは副部隊長として忙しいんですし・・・」

「ティアナは優しいね。でも私は甘いと思うな」

ティアナは俺をフォローしてくれたが,むしろ心が折れそうになった。
しかも,なのはにばっさりとやられてしまっては・・・というわけだ。
数分たってようやく息が整った俺は,なのはの隣に立った。

「今日は,6課が新規導入する装備の導入訓練を行う」

俺がそう言うと,フォワード陣は互いに目を見合わせていた。

「新規導入する装備は,携帯用AMFC発生装置だ」

「AMFC・・・ってなんですか?」

スバルが首を傾げながら尋ねてきた。他の3人も首をひねっている。

「Anti-Magilink-Field-Canceler。つまり,AMFを打ち消す装置だな」

俺はそう言うと,AMFC発生装置の概要について説明した。
説明し終えると,ティアナが手を上げる。

「装置の仕様については解りましたが,私たちは装置そのものを
 受領してませんけど」

「装置はまもなく予定数が完成し,前線メンバー全員に配備する予定だ。
 今日の訓練では,擬似的に効果を体感し,各自の戦闘スタイルに合った
 使用方法を模索してもらう」

俺がそう言うと,なのはが後に続いた。

「今日の訓練としては,個人での対ガジェット戦闘を想定してやるからね。
 私と副部隊長はここでみんなの状況をモニターして必要だと思ったら
 アドバイスするけど,基本的にはAMFCの有効な使用法について
 自分で考えながらやるようにね」
 
「ガジェットの行動パターンは一定ですか?」

「言ってくれれば数とか行動パターンは私が変更するよ。
 他に質問が無ければ始めようか」

なのはがそう言うと,フォワード陣は頷いて訓練スペースの中に散って行った。



・・・1時間後
訓練を終えたフォワード陣が俺となのはの前に戻ってきた。

「どう?感想は」

なのはが4人に向けてそう言うと,まずスバルが口火を切った。

「私はものすごく助かると思います。魔力消費もかなり抑えられますし」

「僕も同じですね。ガジェット戦はこれでかなり楽になりますよ」

「スバルとエリオは接近戦が主体だからな。装置の特性から考えても
 お前ら2人には相性のいい装置だと思う」

俺がそう言うと2人は大きく頷いた。

「私は・・・使える場面と使えない場面にはっきり分かれますね。
 射撃メインのときは丸っきり役に立たないですけど,接近戦の時は
 かなり助かりますから」
 
「ティアナは使いどころを考えて使えばかなり有効だね。
 あと,射撃メインの時でも防御面では効果があるから,
 そっちの使い方も考えておくようにね」

なのはがそう言うと,ティアナは頷いた。

「私は・・・使う場面がないです・・・」

「キャロはそうだろうな。ただキャロもティアナと同じで防御での
 有効活用を考えてみてくれ」

「わかりました」

「じゃあ今朝の訓練は終了ね。午後はいつもの教導だからそのつもりで」

なのはがそう言うと,フォワード陣は隊舎に向かって歩いて行く。

「やっぱり接近戦以外での活用は難しいね」

「装置の特性上仕方ないよ。ただ,集団戦では別の使い方もあるけど」

俺がそう言うと,なのはが俺の顔を見た。

「どんなの?」

「複数のAMFCを干渉させるんだよ。射撃役と補助役を近接配置して
 より遠くまでAMFCの有効範囲を広げれば,中距離ならそれなりの
 効果が期待できるだろ?」

「なるほどね。それは試してみたいね」

「ま,それはまた今度だな」

「だね」

そうして,俺となのはも隊舎へと向かった。



朝食後,俺が副部隊長室で仕事をしていると,来客を告げるブザーが鳴った。

「どうぞ」

俺がそう言うと,ティアナが入ってきた。

「失礼します。ゲオルグさん,お忙しいところ申し訳ないんですけど
 今いいですか?」

「何だ?」

「ちょっとお聞きしたことがあるんですけど・・・」

「ん?」

「あの・・・隊長たちの中で一番強いのって誰ですか?」

「はあ?」

俺はティアナの言っている意味がわからず,聞き返してしまった。

「ですから・・・隊長たちの中で一番強いのって誰ですか?」

「強いって・・・どういうことだ?」

「いえ,漠然と誰が一番強いのかなって・・・」

俺はティアナの言葉に深いため息をついた。

「あのなあ,ティアナ」

「はい」

「前に”敵を知り己を知れば百戦危うからず”って言葉を教えたろ?」

「はい」

「あの言葉の意味をもう一度よく考えてみな。そうしたら,
 自分がどれだけバカな質問をしたか解るから」

「バカな質問・・・ですか?」

「そうだよ」

「・・・解りました。失礼します」

ティアナはそう言って,少し肩を落として部屋を出て行った。



昼になり,なのはとフェイトがやってきた。

「行こ。ゲオルグくん」

最近,俺はなのはやフェイトと同じようにヴィヴィオと昼食を
食べるようにしている。

「ん。もうそんな時間か・・・行こうか」

寮に向かって歩いている途中,なのはが話しかけてきた。

「そういえば,午前中にフォワードの誰かがゲオルグくんのところに
 来なかった?」
 
「ん?ティアナが来たよ。何か隊長陣の中で誰が強いか?なんてことを
 聞いてくるもんだから,”敵を知り己を知れば百戦危うからず”って
 言葉の意味をもう一度考えろって言っといた」

「そうなんだ。私のところにもスバルが来て同じようなこと聞いてきたよ」

「ふーん。で?なのははスバルになんて言ったのさ」

「自分より強い相手に勝つには,自分が相手より強くなればいい。
 って言葉があるから,その意味を考えてみれば答えは解ると思うよ。
 って伝えたよ」

なのはの言葉を聞いて俺は少し腕組みをして考えると,合点がいった。

「じゃあ意味合いとしては俺とほとんど同じことを言ってるな」

「そうだね」

「ところでさ,例えばゲオルグが私やなのはと戦うことになったら,
 どう戦うの?」
 
フェイトがそう尋ねてきたので,俺は少し考えてから話し始めた。

「2人に共通して言えるのは,空中戦を避けて地上戦に引きずり込むことかな。
 あと,なのはとならどんな環境でも接近戦に持ち込めば俺の勝ち。
 フェイトの場合はもう少し厄介だけど,室内での戦闘に引きずり込めば
 勝機はあるかな」
 
俺がそう言うと,フェイトが苦笑していた。

「言うのは簡単だけど,なのはの場合は接近することがまず難しいよ」

「そこがなのはの厄介なとこなんだよ。動きを止めた瞬間にズドンで
 終了だから」

フェイトと俺がそう言うと,なのはは不満そうに頬を膨らませていた。

 

 

第54話:穏やかな午後


寮に着いて,なのはとフェイトの部屋に入ると,床に寝そべっている
ザフィーラのそばでヴィヴィオが積み木で遊んでいるのが見えた。

「ヴィヴィオ」

なのはが声をかけると,ヴィヴィオが俺達3人の方に向かって
駆けてきた。

「ママ!パパ!」

跪いているなのはにヴィヴィオが抱きついているのを横目に見ながら,
俺は,ザフィーラに念話を飛ばしていた。

[ザフィーラ。異状はないな?]

[ああ,見ての通り異状なしだ]

[いつも済まないな。退屈だろう]

[そうでもない。私としてはこのような穏やかな時間も悪くないと
思っているのでな]

[そうか。これからも頼むな]

[言われるまでもない]

俺がザフィーラとの念話を終えると,ちょうどお弁当を抱えたアイナさんが
部屋に入ってきた。

「あら。もう皆さんお揃いなんですね。それでは食べましょうか」

「いつもすいません。お手数をおかけしてしまって」

俺がそう言って頭を下げると,アイナさんは苦笑していた。

「いえいえ。もともと,そこまで忙しいお仕事でもありませんし,
 お料理は好きですから,お気になさらないでください。
 私の方が恐縮してしまいますから」
 
「ありがとうございます」

「ねえパパ・・・」

俺がアイナさんに改めてお礼を言っていると,ヴィヴィオが俺の方を見ていた。

「ん?どうした,ヴィヴィオ」

「あのね。ヴィヴィオお外で食べたい」

「外で?」

俺がそう聞き返すと,ヴィヴィオはこくんと頷いた。
窓の外に目を向けると,燦々と夏の日の光が差している。

「さすがに暑いよな?」

俺がなのはとフェイトに向かってそう言うと,なのはは苦笑していた。

「私たちもそう言ったんだけどね・・・」

俺は膝をつくと,ヴィヴィオの顔を見た。

「ヴィヴィオ。お外はちょっと暑すぎるから,今日はここで食べような」

「やーだー。ヴィヴィオはお外で食べたいの!」

腕を振りながら我儘を言うヴィヴィオに,俺は頬が緩みそうになるが,
怒った表情を作ると,ヴィヴィオに話しかけた。

「わがままはダメだぞ,ヴィヴィオ。今日はここで食べよう」

俺がそう言うと,ヴィヴィオは頬を膨らませた。

「・・・でも,お外で食べたいんだもん」

「今日は我慢な。そのかわり涼しくなったら,なのはママやフェイトママや
 みんなでおでかけしてお外でお弁当食べよう」

「・・・ほんと?」

「うん。ほんと」

「やくそくだよ?」

「おう。約束だ」

「じゃあゆびきりげんまん」

ヴィヴィオはそう言って,右手の小指を差し出した。

「ゆびきりげんまん?」

俺が聞きなれない言葉に困惑していると,ヴィヴィオが首を傾げた。

「パパ,ゆびきりげんまん知らないの?」

「知らないな」

「じゃあ,ヴィヴィオが教えてあげる!」

ヴィヴィオはそう言って,にぱっと笑った。

「パパ,ヴィヴィオとおなじようにして」

ヴィヴィオは小指を立てた自分の右手を俺の方に突きだした。

「こうか?」

俺はヴィヴィオと同じく小指を立てた右手をヴィヴィオに向けて差し出した。

「うん。で・・・」

そう言いながらヴィヴィオは自分の小指を俺の小指に絡めた。

「じゃあ,ヴィヴィオがうたうから,”ゆびきった”っていったら
 ゆびを離すんだよ」

「わかった」

俺がヴィヴィオに向かって頷くと,ヴィヴィオは俺と小指でつながっている
右手を振り出した。

「ゆーびきーりげんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます,
 ゆびきった!」

ヴィヴィオに合わせて右手を振り,ヴィヴィオがゆびきったと言ったところで
俺はヴィヴィオの小指を離した。

「これでパパがヴィヴィオのやくそくをやぶったら,パパは針千本飲むんだよ」

「針を千本も飲むのか?痛そうだな・・・」

「痛いのやだったら,ヴィヴィオとのやくそくやぶっちゃダメだよ」

「わかった,約束は守るよ。一緒におでかけしような」

俺はそう言いながらヴィヴィオの頭を撫でる。

「うんっ!」

ヴィヴィオはそう言って満面の笑顔を俺に向けた。

「よかったね,ヴィヴィオ。じゃあお昼ご飯たべようか」

なのはがそう言うと,ヴィヴィオは大きく頷いて,テーブルの前に座った。

「ゲオルグはもうすっかりパパだね」

フェイトが俺に向かってそう言った。

「そうか?」

「うん。なのはがママでゲオルグがパパか・・・ぴったりだね」

「私がママで,ゲオルグくんがパパ・・・」

感慨深そうにフェイトが言うのを聞いていたのか,なのはがそう呟いていた。

「なのは,どうかしたのか?」

俺がそう聞くと,なのはは顔を赤くしてブンブンと首を横に振っていた。

「な,なんでもないよ!さ,時間もないし食べよ!」

「へいへい」

俺はそう言うと,昼飯が広げられているテーブルに向かった。



昼食後,副部隊長室に戻って仕事をしていると,またティアナがやって来た。

「ゲオルグさん。度々すいません」

「ティアナか,今度は何用だい?」

俺が椅子に体を預けてティアナに声をかけると,ティアナは姿勢を正した。

「朝は愚かな質問をして申し訳ありませんでした」

ティアナは固い表情でそう言うと,深く腰を折った。

「と言うからには,自分がどう考え違いをしたのか理解できたんだな?」

俺がそう尋ねると,ティアナは小さく頷いた。

「じゃあテストしてやるよ。自分が部隊長・隊長・副隊長と俺の6名
 それぞれと1対1の戦闘になった場合,どのように対処するか
 レポートにまとめて提出しろ。他の3人にもそう伝えてくれ。
 期限は今週中だ」

「了解しました」



それから数日して,4通の分厚いレポートが俺のデスクに置かれていた。
2時間ほどの時間を費やして俺はそのレポートに目を通すと,なのはと
フェイトを呼び出した。
しばらくしてなのはとフェイトがやってきた。
なのはとフェイトは部屋に入るなり,俺の顔を見て怪訝な顔をした。

「どうしたのゲオルグくん?なんだか妙に嬉しそうだけど」

「そう見える?ま,座りなよ」

俺はそう言って,ソファセットの方を指した。
なのはとフェイトが向かい合って座ったので,俺はフェイトの隣に座ろうと
すると,フェイトが俺を押しだした。

「ゲオルグはあっち」

そう言って,フェイトはなのはの隣を指さした。

「・・・ゲオルグくんのいじわる」

そう言って,なのはは頬を膨らませる。

「・・・仕事とプライベートは分けようぜ・・・」

俺はそう言って,小さくため息をついた。
俺はなのはの隣に座ると,さっきまで目を通していたレポートを
テーブルの上に置いた。

「それぞれ自分の部下の分について目を通して,本人に返却してやって」

「いいけど,何の報告書?これ」

「俺からあいつらへの宿題の答案だよ。内容は読めばわかるから」

「了解。じゃあ預かるね」

そう言ってフェイトはなのはを伴って部屋を出た。
後に残された俺は,窓から見える夕暮れの景色を眺めた。

「あいつら,ずいぶん成長したなあ・・・」

俺は,自然とこぼれる笑みを抑えることができなかった。

 

 

第55話:会議だよ!全員集合!!


8月の終わりごろになって,はやてに会議をするから来いと呼び出された。

「これはまた,錚々たる面々が揃ったもんだな・・・」

はやてに指定された会議室に入った俺は,そこに集まった人たちの顔を見て,
感嘆の声を上げずにはいられなかった。

聖王教会の騎士カリムとシスターシャッハ,本局の提督であるクロノさん,
機動6課の部隊長であるはやてと執務官のフェイト。

まさにオールスターと言っていいメンバーがそろっていた。

「ゲオルグくん。まだ全員揃ってへんから適当に座って待っとって」」

俺が空いていたはやての隣の席に座ると,会議室のドアが開いた。

「おや,もう皆さんお揃いのようだね。お待たせしたかな?」

そう言いながら緑色の髪をした優男風の人が入って来て,迷うことなく
カリムさんの隣に座った。

「やあ,シャッハ。お久しぶりだね」

「まったく。あなたはまだ遅刻癖が治っていないのですね,ロッサ」

その様子を見て俺ははやてに小声で聞いた。

「なあ,あの人誰?」

「ああ,あれは・・・」

「僕はヴェロッサ・アコース。本局の査察官だよ。シュミット3等陸佐」

「査察官・・・ですか?」

査察官と聞いて俺は少し身構えていた。

「そんなに警戒しなくても君のことを査察するつもりはないよ。今日はね」

俺はその言葉を聞いて,極力この人とは係り合いになりたくないと思った。

さらに,会議室の扉が開いて壮年の男性が現れた。

「八神すまん。道が混んでたんで・・・。失礼,遅れて申し訳ない」

「ナカジマ3佐まで?」

俺はナカジマ3佐と直接の面識はないが,スバルの身上調査の時点で
顔だけは知っていた。あくまで書類上の話だが。

「なあ,まだ揃ってないのか?」

「あと一人や」

俺の質問に対して,はやてがそう言ったとき,会議室の扉が開いた。

「あ,皆さんお待たせしてすいません」

「ユーノ!?お前もか!」

「やあ,ゲオルグ。僕もはやてに呼ばれてね」

ユーノはそう言いながら俺の隣に座った。

「それでは,メンバーが全員揃ったところで始めましょうか。
 皆さん今日はお忙しいところ,このようなところに集まってもらって
 申し訳ありません。本来なら,通信を利用して済ませたいところなんですが,
 極度にデリケートな情報を取り扱うために,態々集まっていただきました。
 早速,会議を始めたいところなんですけど,お互い知らんもん同士もおるかと
 思いますんで,まずは自己紹介から行きましょか。
 ほんなら先ずはうちの人間から。ゲオルグくん」
 
はやてにそう言われて,俺は立ち上がった。

「本局遺失物管理部機動6課副部隊長のゲオルグ・シュミット3等陸佐です」

「同じく,捜査主任のフェイト・T・ハラオウン執務官です」

「本局次元航行艦隊所属 クロノ・ハラオウンです」

「聖王教会のカリム・グラシアです」

「この2人は我々機動6課の後見人を務めていただいている方です」

はやてがそう言って,補足をいれていく。

「聖王教会のシャッハ・ヌエラです。主に騎士カリムの護衛を務めております」

「本局査察部のヴェロッサ・アコース査察官です」

「地上本部陸士108部隊の部隊長 ゲンヤ・ナカジマ3等陸佐だ」

「ユーノ・スクライアです。無限書庫の司書長をしています」

ユーノを最後に,全員の自己紹介が終わった。

「ほんなら,自己紹介もつつがなく終わったところで,本題に入りましょか」

はやてはそう言うと,一度咳払いをした。

「今日の集まっていただいたのは,我々機動6課で追っている事件について,
 今までのところでわかっていることを皆さんにご説明したいためです。
 ただ,残念ながら機動6課のマンパワーだけで処理しきれる大きさの問題では
 無くなってしまったために,私の個人的なつながりで申し訳ないんですけど
 組織の枠を超えて,皆さんに協力をお願いしたいんです」

はやては一旦そこで言葉を切ると,室内を見まわした。

「では,我々機動6課が現在追っている事件についてご説明したいと思います。
 ほんなら,フェイトちゃん」
 
はやてがそう言うと,フェイトははやてに向かって小さく頷き,立ち上がった。

「私たちは機動6課設立のはるか前,新暦71年ごろからあるロストロギアを
 追ってきました」
 
フェイトはそう言うとスクリーンを操作し,レリックの画像が表示される。

「指定ロストロギアであるレリック。膨大なエネルギーをもつこの
 ロストロギアを狙って,ある魔導機械が出現します」

スクリーンにガジェットの画像が映し出された。

「我々がガジェットと呼んでいるものです。
 昨今,このミッドでも度々出現していることは皆さんもご存じかと思います」
 
フェイトがそう言うと,部屋の中の全員が頷いた。

「機動6課での情報収集により,このガジェットを出現させレリックの奪取を
 目論む主犯と思われる人物が浮かび上がりました」

そこで,スクリーンにスカリエッティの顔写真が映し出された。

「ジェイル・スカリエッティ。重犯罪者として指名手配されている人物です」

そこまで言ってフェイトが座ると,はやてが先を続ける。

「とまあ,ここまでのことはこの部屋にいる人らならだいたい知ってますよね。
 そやけど,機動6課の真の設立目的は別のところにあるんです。
 ほんなら次はカリムがええかな」
 
「そうね。私からお話ししましょう」

カリムさんは一旦目を閉じると,大きく息を吐いた。

「機動6課の設立目的は私の希少技能と大きくかかわりがあります。
 私の希少技能は数年先に起こり得る事象を古代ベルカの詩文形式で
 予言として書き出すものです。そして,ここ数年の予言の内容は,
  ”古い結晶と無限の欲望が集い交わる地,死せる王の下,
  聖地よりかの翼が蘇る
  死者達が踊り,なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち,
  それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる”
 というものでした」
 
カリムさんがそう言うと,何名かが首を傾げていた。

「この予言については過去様々な解釈が為されましたが,
 現在の解釈は,何らかの形で地上本部が襲撃され,
 それをきっかけに管理局による次元世界の管理システムが崩壊する。
 という解釈で私や八神2佐をはじめとする関係者の間での
 意見は一致しています。
 つまり,機動6課はこの予言が現実のものとなることを阻止するために
 設立されたのです」

カリムさんが話を終えると,ナカジマ3佐とユーノの顔は蒼白になっていた。

「八神。質問してもいいか」

「どうぞ,ナカジマ3佐」

はやてがそう言うと,ナカジマ3佐は低い声で話し始めた。

「防ぐといっても具体的に誰が,いつ,何をしようとしているのかが解らん
 ことには,対応策を考えようもないだろう」

ナカジマ3佐の言葉に,はやては大きく頷いた。

「確かにナカジマ3佐の言われることはもっともなんです。
 ただ,予言からは先ほどの解釈以上のことは知りようがないので,
 機動6課の設立以降,私たちも独自の調査を行ってきました。
 その話をこれからしようと思うんですけど,よろしいですか?」

はやてがそう尋ねると,ナカジマ3佐は納得したように頷いた。
それを見て,はやては俺に視線を送って来た。
俺ははやてに向かって頷くと,一度会議室の中を見まわした。

「我々機動6課では,予言の実現阻止に向けて対策を練るべく,
 情報収集に努めてきましたが,具体的に誰が何を為そうとしているのかは
 当初まったく掴めていませんでした。
 しかし,そこに座っているスクライア司書長が探し当ててくれた一枚の
 メモから,急速に情報収集は進展したのです」

俺はそういうと,これまでの諜報活動のきっかけとなったメモの画像を
スクリーンに映し出した。
それを初めて見た人たちは,首を傾げていた。

「このメモは最高評議会事務室の業務記録の一部です」

俺がそう言うと,シャッハさんとナカジマ3佐の目が見開かれた。

「さらに重要なのは新暦67年6月23日という日付でした。
 ナカジマ3佐。この日付に覚えはありませんか?」

俺がそう尋ねると,ナカジマ3佐は腕組みをして考え始めた。

「67年っていうと,今から8年前だろ・・・まさか!」

「心当たりがおありのようですね?」

俺がそう聞くと,ナカジマ3佐は絞り出すような低い声を出した。

「・・・首都防衛隊ゼスト隊の全滅事件があった日だな」

「御明察です。よく記憶されてましたね。さすがです」

「そんなんじゃねえ。俺の女房もゼスト隊の一員だった。それだけだ」

「存じております」

「そうか・・・」

ナカジマ3佐は小さな声でそう言って,俯いた。

「話を続けます。この時,ゼスト隊が急襲したのが当時のスカリエッティの
 アジト兼秘密研究施設だったことが複数のソースから確認できました。
 すなわち,このメモと騎士カリムの予言にある”無限の欲望”とは,
 ジェイル・スカリエッティを指すものと我々は判断しました。
 さらに,このメモからスカリエッティと管理局の中枢たる最高評議会が
 ただならぬ関係にあると考えられたのです」

俺がそこで一旦言葉を切ると,会議室の何か所からか息をのむ音が聞こえた。

「そこで,我々は最高評議会に対する諜報活動の実施を決定しました」

俺がそう言うと,会議室は静寂に包まれた。

 

 

第56話:ご協力をお願いします


しんと静まり返った会議室を見まわすと,俺は話を再開することにした。

「どのような諜報活動を実施したかは,本題とはそれほど関係しませんので
 省きますが,諜報活動の結果として,まず最高評議会の構成員が
 いずれも管理局草創期の人物であり,現在に至るまで100年以上に渡って
 次元世界全体を裏から支配してきたということ。
 次に,ジェイル・スカリエッティは最高評議会の意向によって作られた
 人工生命体であり,最高評議会がその研究を資金面からバックアップ
 していること。以上2点が諜報活動によって得られた情報です」
 
そう言って椅子に座り,室内を見渡すと何人かがスクリーンを睨みつけ,
厳しい表情をしているのが見えた。

「というわけで,機動6課にとってはレリックと騎士カリムの予言の両方で
 スカリエッティが捜査線上に上がったというわけです。
 ただ,ここまでの情報を手に入れ,それをもとに捜査を鋭意やってきましたが
 一向にスカリエッティが何をしようとしているのか?については
 答えはおろかその糸口さえ掴めずに来ました。
 ですが,あることをきっかけに調査が一気に進展したんです」

はやてはそう言うと,ヴィヴィオの顔写真をスクリーンに映し出した。

「この子は先日の戦闘の際に保護した子です。検査の結果この子は
 古代ベルカの王,聖王の遺伝子を元に作られたクローンであることが
 判明しました」

会議室の中でどよめきが起こった。はやては,どよめきが収まるのを待ち
先を続ける。

「さらに,この子とレリックを乗せたヘリがスカリエッティの戦闘機人によって
 狙撃されてます。つまり,スカリエッティのやろうとしてることは
 聖王のクローンが必要となる何か,と考えてます。
 以上が我々機動6課の入手した情報とそこから推測したことの全てです」
 
会議室の中を見渡すと,それぞれの人が思い思いの姿勢で,考えをまとめようと
しているのが見てとれた。
わずかな静寂ののちに,クロノさんが口を開いた。

「最後の部分は僕も初めて聞く話だが,この先はどうするんだ?」

「さっきも言ったようにスカリエッティがやろうとしている,聖王のクローンを
 必要とすることが何なんかを調査するつもりや。6課でもこれまでやってきた
 捜査の延長で調査はやるけど,それだけでは十分やない気がするんよ。
 そやから・・・」
 
そこではやては言い淀むと,ユーノの方を見た。
はやての目線に気づいたユーノは小さく嘆息するとはやてに目を向けた。

「僕は過去の文献から何か情報を引き出せばいいんだね」

「ええの?ユーノくん」

「いいも何も,世界の危機と言われたら引き受けない訳にはいかないよ。
 それに,はやてとは付合いも長いしね。快く引き受けさせてもらうよ」

「ありがとうな。ユーノくん」

はやてはそう言うとユーノに向かって笑いかけた。
その時,俯いていたナカジマ3佐が顔を上げた。

「八神。それで俺には何をして欲しいんだ?」

「聖王関係についてはユーノくんメインで調べてもらうんですけど,
 それだけやなくて,今まで続けてきたレリック関係の捜査と
 レリックと聖王のつながりなんかについても調査をしたいんですけど,
 マンパワーが足らんのですよ。
 そやから,ギンガを一時お借りしたいんです」

はやてがそう言うと,ナカジマ3佐は腕組みをして少し考え込んだ。

「判った。いいだろう。ギンガは近いうちに機動6課に出向させる」

「ありがとうございます」

ナカジマ3佐がそう言うと,はやては深く頭を下げた。

「で,僕は何をすればいいんだい?はやて」

声のする方を見ると,アコース査察官がにこやかな顔で小さく手を
挙げているのが見えた。

「ロッサにはスカリエッティの居場所を探ってほしいんや。得意やろ?」

はやてがそう言うと,アコース査察官は芝居がかった感じで肩をすくめた。

「得意というほどでもないけど,苦手ではないね。ま,構わないよ。
 かわいい妹の頼みとあっては引き受けるしかないよ」

アコース査察官はそう言ってはやてに向かってウインクして見せた。

(ダメだ。俺やっぱりこの人苦手・・・)

そう思いながらアコース査察官の方を見ていると,俺の方を向いて
ニヤリと笑って見せた。

「私の方からは以上ですけど,皆さんの方から何かあります?」

はやてはそう言って会議室の中を見まわしたが,特に何もないようだった。

「ほんなら今日は解散しましょっか。ありがとうございました」



俺が椅子にもたれかかって,体をほぐそうと伸びをしていると,
さっきまでユーノが座っていた席に誰かが座ったのを感じた。
体を起こしながらそちらを見ると,ナカジマ3佐が座っていた。

「よう,シュミット3佐・・・だったか。お疲れみたいじゃねえか」

「最近に限らずずっと忙しいもので。あと,ゲオルグで結構ですよ」

「なら,お言葉に甘えさせてもらうか。ではゲオルグ,お前さんは
 女房が死んだあの事件についてどこまで知っている」

ナカジマ3佐は真剣な表情で俺を見つめてそう言った。

「先ほどお話した以上のことは何も」

「隠すんじゃねえよ」

「隠していませんよ。これ以上のことは何も知らないんです。
 誰かが知っているなら,この俺が教えてもらいたいくらいですよ」

俺が少し声を荒げて言うと,ナカジマ3佐は少し面食らったようだった。

「本当に隠している訳ではないみたいだな」

「御理解頂けて幸いです。お話は以上ですか?」

「ああ」

「そうですか。それでは」

俺がそう言って椅子から立ち上がろうとすると,ナカジマ3佐が
鋭い視線で俺を射抜いた。

「・・・お前さん。あの事件に何か因縁でもあるのか?」

「・・・ありませんよ」

「嘘だな」

「嘘じゃありません」

「いや,嘘だ。でなければさっきのように声を荒げることもないだろうし,
 因縁を否定するのに間を必要とすることもねえ」
 
ナカジマ3佐はそう言うと,俺の顔をじっと見つめていた。
俺は,小さくため息をつくとナカジマ3佐の方を見た。

「ナカジマ3佐はシュミットという姓に聞き覚えはありませんか?」

「ん?ちょっと待てよ・・・。そういえばあの事件の少し前に,
 女房が有望な女の子が入って来たとか言ってたな・・・
 確か名前は・・・」
 
「エリーゼ・シュミット・・・じゃないですか?」

「ん?ああ!そうだ・・・って。お前,まさか・・・」

「弟です」

「・・・そうだったのか,すまん」

「いえ,過去のことですしね」

「それでも,整理しきれてねえんだろ?本当なら俺がお前さんの気持ちを
 一番理解できる立場に居るはずなんだがな・・・本当に済まなかった」
 
ナカジマ3佐はそう言うと,深く頭を下げた。

「頭を上げてください。本当にナカジマ3佐にどうこうっていう気は
 無いんです」

「そうか・・・お前さんは若いのに強いな」

「割り切ってるだけですよ。そうでもしないとやってられませんでしたから」

「それでもだよ。ま,それは置いておいてもこれからよろしくな。
 うちの娘たちは2人とも6課に預けることになるわけだしな。じゃあまたな」

ナカジマ3佐は俺の肩をポンと叩くと椅子から立ち上がって,俺に背を向けた。

「ナカジマ3佐!」

俺は思わずナカジマ3佐を呼びとめてしまった。
ナカジマ3佐は振り返って俺の目を見た。

「何だ?」

「あの・・・俺は,姉のことを遺体が発見されるか,死んだという物証が
 見つかるまで諦めるつもりはないんです。なので・・・」

「そうか・・・俺もお前さんを見習わなきゃいけねえな・・・ありがとう」

「いえ」

そうして,ナカジマ3佐と俺は別れた。

 

 

第57話:男たちの友情は美しい?


会議室を出て,副部隊長室に戻ろうとすると,なのはとユーノが
談笑しているのが見えた。

「そこのお二人さん」

俺がユーノの肩を叩いて声をかけると,2人は俺の方を振りむいた。

「あ,ゲオルグ」

「お疲れさん。今日は遠いのに悪かったな」

「ううん。ちょうど仕事も一段落してたしね」

「会議はどうだったの?」

そこでなのはが割り込んできた。

「長い。疲れた」

俺がそう言うと,なのはは苦笑して俺の方を見た。

「ゲオルグくんは最近忙しいもんね」

「なのはが俺を教導に駆り出すからだろ?」

「そんなこと言って,自分も楽しんでるくせに」

なのははそう言いながら肘で俺の脇腹を突く。

「別に楽しんでなんか・・・。おい,スバルが呼んでるぞ」

なのはの肩越しに遠くの方で手を振りなのはを呼ぶスバルを見つけたので
そう言うと,なのははスバルの方に向かって走って行った。
なのはの背中を見送ると俺は,ユーノの方を見た。

「ユーノはもう家に帰るよな?」

俺が尋ねると,ユーノは首を振った。

「ううん,書庫に戻るよ。まだ仕事が残ってるからね」

「そうなのか?大変だな」

俺がそう言うと,ユーノは苦笑して俺を見た。

「それはお互い様でしょ。目の下にくまができてるよ」

「マジかよ・・・。うちは部隊長が人使い荒いからな・・・」

俺が冗談めかしてそう言うと,ユーノは声を上げて笑った。

「ところで,ユーノはどうやって転送ポートまで行くんだ?車ないだろ」

俺がそう聞くと,ユーノは少し困ったような顔をした。

「そうなんだよね。来る時は書庫の女の子に車で送ってもらったんだけど,
 今から呼んだんじゃ時間かかるし・・・」
 
「俺が送ろうか?」

俺がそう言うと,ユーノは手を振った。

「いいよ。悪いし」

「いや,わざわざ来てもらったんだから,それくらいはさせてくれよ」

「忙しいんじゃないの?」

「忙しいけど,仕事よりお前の方が大事だよ」

「そっか。じゃあ,お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「じゃあ隊舎の玄関で待っててくれ。車を回してくるから」

「うん。わかった」

ユーノからの返答を聞くと,俺は車を取りに走った。



助手席にユーノを乗せた俺は,高速道路をクラナガンに向けて走っていた。
はじめは,他愛もない雑談をしていたが,少し会話が途切れた後,
ユーノは急に真剣な顔で俺を見た。

「ところで,ゲオルグ」

「うん?なんだ?」

「なのはからメールで聞いたんだけど,付き合ってるんだって?」

「ん?ああ。まあ。そうだよ」

「なんでそんなに歯切れの悪い答えをするのさ。何か隠してることでもあるの?
 ・・・二股かけてるとか」

「いや。それはないけど・・・悪いなと思って」

「なんでさ」

「いや,だから。ユーノもなのはのこと・・・と思ってたんだけど」

俺がそう言うと,ユーノは声を上げて笑いだした。
ユーノはひとしきり笑った後,両目の涙をぬぐいながら話しかけてきた。

「いや,久々にこんなに笑ったよ」

「そんなに笑うことないだろ」

「ごめんごめん。でも,ゲオルグがあまりにも面白い誤解をしてるからさ」

「誤解?」

「そうだよ。僕は別になのはのことをそういう対象としては見てないから」

「そうなのか?」

「うん。子供のころはそうなのかもって思ってた時期もあったんだけどね。
 今なのはを恋人にしたいかと言われると,別にって感じだよ」

「そうなんだ。俺完全に誤解してたよ」

「だからさっき言ったじゃない。誤解だって」

「そっか・・・」

俺がそう言うと,ユーノは感慨深そうな顔をしていた。

「しかし,あのなのはに恋人ができる日が来るなんてね。
 しかも相手はゲオルグでしょ?いい選択とは言えないね」
 
ユーノの言葉に俺がすこしムスっとしていると,ユーノが俺の顔を
のぞき込んできた。

「あれ?どうしたのゲオルグ?怒った?」

ユーノにしては珍しく茶化すような口調で言う。

「別に・・・」

「怒ってるじゃん。何?ゲオルグは自分がいい男だと思ってるわけ?」

「そういうつもりじゃないけどさ・・・そこまで言うことないだろ」

「ま,ゲオルグは基本ヘタレだからね。思う存分なのはの尻に
 敷かれるといいよ」

「ヘタレって・・・間違っちゃいないけど・・・」

俺が小さな声でそう言うと,ユーノは少し真剣な顔になった。

「でもね。そんなゲオルグがいろんなことにぶつかりながら
 ここまでやってきたわけでしょ?僕はゲオルグのそういうところは
 尊敬してるんだよ」
 
「いきなりなんだよ・・・」

「ゲオルグは守ると決めたものは意地でも守るタイプだからね。
 そういう意味では心配してないんだ,僕」

俺がなにも言わずにいると,ユーノは日の傾いた外の景色を眺めていた。
転送ポートについてユーノを下ろし,隊舎に向かって車を走らせようとした時,
コンコンと運転席側の窓が鳴った。
そちらに目を向けると,にこにこしたユーノが立っていた。
俺は窓を開けると,ユーノに向かって話しかける。

「何だよ。忘れ物?」

「いや,もう一つだけ言っとこうと思って」

ユーノはそう言ってひとつ咳払いをした。

「ゲオルグ。なのはを幸せにしてあげてね。なのはは僕にとってとても
 大切な友達だから。もちろん,ゲオルグもね」

「わかってるよ」

「うん。頼んだよ」

そう言って俺とユーノは最後にコツンとお互いの拳を合わせて別れた。

 

 

第58話:新メンバー加入!


9月に入っても,表面上はこれまでと特に変わったことは無かった。
ユーノに依頼した聖王関係の調査も,アコース査察官に依頼した
スカリエッティの居場所の探索も今までのところ,目に見える成果は
上がってきていない。

この日,はやてに呼び出された俺は,部隊長室に向かった。
部隊長室に入った俺は,見慣れない2人の女性の後ろ姿を見た。

「お,ゲオルグくんか?なのはちゃんとフェイトちゃんも少ししたら来るから
 ちょっと待っといて」

はやての前に立つ2人の女性の間から,はやての顔がちらりと見えた。

「あ,ゲオルグさん。お久しぶりです。あれ以来ですよね」

紫色のロングヘアーの方の女性が俺の方を振り返りながらそう言った。

「ギンガか。久しぶり。今日出向してきたのか」

「ええ。よろしくお願いしますね」

そう言ってギンガは俺に笑いかけた。

「ゲオルグ?」

ギンガの隣に立っている,茶色のショートカットの女性が
そう言って振り返った。

「げ・・・」

俺はその女性の顔をみて,思わずそう漏らしてしまった。

「やっぱりお前かゲオルグ。久しぶりじゃないか」

「・・・ええ,お久しぶりです。ステラさん」

彼女はステラ・ハミルトン。俺の古い知り合いだ。

「何だ?久々だというのにずいぶん嫌そうだな。私と会うのがそんなに
 嫌だったのか?」

「いえ・・・そんなことはないんですけど・・・」

(嫌に決まってんだろ・・・)

俺が内心とまったく異なる言葉を口に出していると,はやてが興味深そうに
俺を見ていた。

「何なん?ゲオルグくんはステラさんと知り合いなんか?」

「えーっと,知りあいといえば知りあいかな・・・」

俺が目をそらしながらそう言うと,ステラさんが腰に手を当てて俺を見た。

「何だゲオルグ。お前のデバイスを作ってやった恩人に対して,
 ずいぶん冷たい言い方だな」

「デバイスを作った・・・っちゅうことは,レーベンを作ったんは
 ステラさんなんですか?」
 
はやてがそう尋ねると,ステラさんは自慢げに胸を張った。

「そうだ。私の自信作だぞ。そういえばゲオルグ,レーベンは元気か?
 きちんとメンテナンスはしてるんだろうな?」

「もちろんです」

《マスター,嘘はいけませんね》

「おお,レーベン。久しぶりじゃないか。元気か?」

《ええ,おかげ様で》

「それは良かった。ところでさっき聞き捨てならん言葉が聞こえたが,
 どういうことだ?レーベン」

《前に私がきちんとメンテを受けたのは2週間前が最後ですね》

俺はレーベンがそう言うのを聞いて,天井を仰いだ。
目線をステラさんに戻すと,どす黒いオーラがステラさんから上がって
いるように見えた。

「・・・おい,ゲオルグ」

「はい」

「レーベンを渡すときに約束したはずだな。週に2回は必ずメンテしろと」

「・・・そうでしたっけ?」

俺がそう言うと,ステラさんは一瞬で俺の懐に潜り込み,
左手で俺の制服の襟をつかみ上げた。

「ほう,とぼける気か。どうやらゲオルグ坊やはよほどお仕置きして
 欲しいらしいな・・・」

「ちょっ・・・ステラさん?」

「まったく,体ばかりでかくなって,そう言うところは成長せんのか・・・」

ステラさんはそう言って,右手を握りこんで振りかぶった。

(何でこんなことに・・・)

顔を殴られ,壁に向かって飛ばされながら,俺はそんなことを考えつつ,
意識を手放した。



(白い天井?・・・ここは?)

意識を取りもどした俺は,痛む頭を押さえつつ,顔をしかめた。

「あ,ゲオルグくん起きた?大丈夫?」

近くでなのはの声が聞こえた。

「ん。大丈夫。って,お前どこに居るんだ?」

俺は,目線を振ってなのはを探すが見当たらない。

「ここだよ」

なのはがそう言うと,突然目の前になのはの顔が現れた。

「お前,どこから現れたんだよ・・・」

俺がそう言うと,なのはは不思議そうな顔をした。

「ゲオルグくん。気持ちええのは解るけど,ええ加減起きてくれんか?」

「ん?ああ,悪い・・・今起きる」

はやての言葉に応じて,俺は身を起こすと,俺が寝かされていたらしい
ソファーに座った。俺の隣にはなのはが座っている。

(あれ?このソファーって,今さっきまで俺が寝てたんだよな・・・)
 
「なあ,なのは」

「なあに?」

「ひょっとして俺が気を失ってる間,膝枕してくれてた・・・とか?」

「うん,そうだよ」

なのははさも当然かのようにそう言った。
俺は顔が熱くなってくるのを感じた。

「ゲオルグにこんな可愛い恋人がいたとはな・・・世の中不思議なもんだ」

「ゲオルグさんとなのはさんってそういう関係だったんですか・・・
 知らなかった・・・」

ステラさんとギンガの声が背後から聞こえてくる。

「ゲオルグ,大丈夫?顔真っ赤だよ」

フェイトがそう言って俺の顔を見た。

「え?あ,ほんとだ。熱は・・・ないよね。どうしたの?」

なのはが俺の額に手を当てて,俺の顔を覗き込む。

「ぷくく・・・。なのはちゃん。ゲオルグくんは照れてるんやって」

「そうなの?」

なのはにそう聞かれて俺は思わず天井を見上げた。

(もうやだ・・・このメンツ・・・)



「で?ギンガはこの前の会議で出向が決まってたからいいとして,
 なんでここにステラさんがいるんです?」

俺が少しキレ気味にそう言うと,はやてが口を開いた。

「まあまあ,そうカッカせんと。それはともかく,ステラさんがここにおるのは
 私がクロノくんに頼んだからなんよ」

「はやてが頼んだ?」

「うん。最近捜査関係が大忙しやろ。シャーリーにはメカニックとしての仕事と
 フェイトちゃんの補佐官としての仕事が両方のしかかってて,ちょっと負荷
 かけすぎやからね。捜査関係はギンガにヘルプに入ってもらうことにした
 けど,メカニック関係もAMFCの話もあって忙しいやんか。
 で,誰か使えるメカニック一人頂戴って言ったらステラさんが来たって感じ」

はやてがそう言うと,ステラさんが口を開いた。

「私は自分の研究室でちまちまやってたら,レティ提督が来て,
 ”ステラは明日から地上に出向ね”と軽く言われてな。
 まあ,魔導機械関係が専門だが,デバイスについても力になれると思うぞ」
 
ステラさんの言葉にはやてが顔を輝かせる。

「魔道機械が専門!ほんならAMFCの量産はステラさんにやってもらうか。
 ステラさん。あとでうちのメカニックを紹介しますんで,
 やることを聞いたら早速お願いします」

「それは構わんがその前にレーベンのメンテが先だな。
 ミッドとベルカのハイブリッドだから繊細なデバイスなのに,
 こまめなメンテもできん馬鹿なマスターがほったらかしにしたようだからな」
 
「そこまで言うことないでしょ」

俺がそう言うと,ステラさんはギロリと俺をにらんだ。

「・・・何か言ったか?馬鹿者」

「何も言っておりません・・・」

俺はそう言って,心の中でため息をついた。

「ねえ,フェイトちゃん。ゲオルグくんが借りてきた猫みたいになってるよ」

「うん。珍しいものが見れたね」

なのはとフェイトが小声でしている会話を聞きながら,俺はそっと天井を
見上げた。

(マジで憂鬱なんですけど・・・)

 

 

第59話:教官vs教え子+α


朝起きて,いつものように訓練スペースに向かうと,
フォワードの4人が集まって話をしていた。

近づいて行くと,エリオが俺に気づいて手を振った。
それを見て,他の3人も俺に気づいたようで,エリオと同じように
手を振ってきた。

「「「「おはようございます」」」」

「みんな,おはよう。なのははまだか?」

俺が尋ねると,全員が首を横に振った。

「そうか。なのはから今日の教導について何か聞かされてるか?」

「いえ,何も聞かされてませんよ」

ティアナが答えながら首を横に振った。

「ていうか,そういうのってゲオルグさんこそ
 先に聞かされてるんじゃないですか?」

スバルが俺にそう尋ねてきた。

「いつもはそうなんだけどな。今日はなのはが頑として教えてくれないんだよ。
 ”それはお楽しみだよ”って言ってな」
 
そう答えると,スバルは顔を輝かせた。

「じゃあ,今日は何か変わったことをするんですね。楽しみだ!」

しばらくして,なのはがやって来た。なぜかギンガを伴って。

「ギン姉?」

スバルはなのはがギンガを伴って現れたことに疑問を持ったようで,
首を傾げていた。

「みんな揃ってるね。今日は,新しく機動6課に出向してきたギンガも
 一緒に模擬戦やるよ」
 
なのはがそう言うと,俺とフォワード4人は顔を見合わせた。

「一緒に模擬戦?」

俺がなのはにそう聞くと,なのはは大きく頷いた。

「そうだよ。フォワード4人プラスギンガの5人対私とゲオルグくん」

なのはがそう言ったのを聞いて,スバルは嬉しそうに声を上げる。

「なんか楽しそうだ!ね,ティア」

一方,スバルに話を振られたティアの顔は真剣だ。

「なのはさんとゲオルグさんか・・・厄介ね」

どうやら戦術を考え始めているのか,小声でつぶやいていた。

「じゃあみんなは訓練スペースの南西の角からスタート,私たちは北東の角
 からスタートするからね。模擬戦開始は20分後だよ」

「「「「「はい!」」」」」

なのはの言葉にフォワード4人とギンガは返事を返すと揃って訓練スペースに
入って行った。

「じゃあ私たちも行きますか」

「ん。そうだな」

そう言って俺となのはも訓練スペースの中に入って行った。



「さてと。どうしよっかゲオルグくん」

廃棄都市地区を模擬した訓練スペースの北東の角についた後,
俺が考え込んでいると,なのはが声をかけてきた。

「ん?今考え中。なのはの考えは?」

「私はあんまり込み入った戦術とか考えるの苦手だからね。
 その場に合わせてやれることをやるだけだよ」

「なのはの場合はやれることのレベルが高いからそれでいいんだろうけどね。
 俺はきちんと頭を使わないと」

俺がそう言うと,なのはは嬉しそうに笑った。

「ゲオルグくんが真剣に考えなきゃいけないくらいに,強くなったんだね
 あの子たち」

「まあな。ま,なのはだけじゃなく,俺やヴィータまで付きっきりで
 指導したんだから,いい加減あれくらいやれるようになってくれないと
 困るんだけど」

「そんなこと言いながらも,ゲオルグくんだって嬉しそうだよ」

なのはの言葉に俺は顔を上げた。

「そうか?」

「うん。口周りがニヤついてたよ」

「ま,俺にとっても生徒みたいなもんだから」

俺はそう言って,肩をすくめた。

「それより,あと少しでスタートだけど,どうする?」

「ティアナは,俺のトラップなんかには多分もう引っかからない。
 だから,最初はティアナを潰す。次にキャロだな。
 頭と目を潰せば,手足を切り落とすのは簡単だ」

「ま,常道だね。具体的には?」

「俺がステルスでティアナに接近してみる。それでティアナを潰せれば
 御の字だけど,キャロがいるから魔力反応を探知されて無理だろうな。
 とりあえず,かき回せるだけかき回したら頃合いを見て一旦撤退するから
 俺が合図したら,俺に向かって砲撃してくれ」

「了解。うまくよけてね」

「それはまかせとけ。あとな,俺がかき回してる間にエリアサーチを頼む」

俺がそう言うと,なのはは少し考えこんでから頷いた。

「そっか,私が目になるんだね」

なのはの言葉に俺も頷く。

「向こうにはキャロがいるからな。それくらいしないとこっちが不利すぎる。

「それにギンガがどれだけやれるかも未知数だしね」

「捜査官をやってるくらいだから,それなりに頭も切れるだろうし,
 あいつら4人に比べれば経験も豊富だからな。あいつがうまく
 指揮できるとなるとティアナとキャロを潰しても油断はできない」

「だね。それにしてもさ・・・」

なのははそう言うと俺の顔を見た。

「ん,どうした?」

俺がなのはの方を振り返りながらそう言うと,なのはが笑った。

「私とゲオルグくんが組んで戦うのって久しぶりだね」

「模擬戦で何度もやってるだろ?」

俺がそう言うと,なのはは首を振った。

「本気で,って意味だよ」

「ああ,そういうことか」

「頑張ろうね」

「当然でしょ。まだまだあいつらに負けてられないからな」

「うん。あ,時間だね」

なのはは時計を見てそう言うと,フォワード達に通信で話しかけた。

「みんな,時間になったから始めるよ。準備はいい?」

『はい』

5人が返事をするのが聞こえた。

「うん。じゃあスタート」

なのはの言葉と同時に,俺達の通信からフォワード達5人の声が消えた。

「じゃあ,さっきの通りで。よろしくね,ゲオルグくん」

なのはの言葉に俺は黙って頷くと,ステルスで姿を消しなのはのそばを離れた。

 

 

第60話:実は最強コンビ?


ステルスを使い姿を消した俺は,時折サーチャーを設置しながら,
訓練スペースを南西の角に向かって走った。
ちょうど,訓練スペースの中央付近まで来たところで,
上空にフリードの姿が見えた。
俺は,近くの建物の影に隠れると,レーベンにタクティカルディスプレイを
表示させる。が,ここまでに設置したサーチャーにはフリードとキャロ以外の
反応は見当たらなかった。

(まだここまで到達してないんだな・・・行くか)

俺は建物の陰から出て,移動を再開しようとした。
その時,目の前に炎の壁が迫って来た。

(やべっ!)

俺は咄嗟にそばの建物の中に飛び込んで,炎をやり過ごした。
タクティカルディスプレイを見ると,俺の隠れている建物に向かって一人が
近づいてきていた。
窓から上空を見ると,俺のいる周辺にフリードが炎を吐いて回っていた。
その様子を見た俺は,小さく舌打ちする。

(絨毯爆撃かよ・・・)

[《マスター,敵接近です》]

どうしたものか思案していた俺は,レーベンの声で意識を現実に戻す。

[誰かわかるか?]

[《魔力反応を見る限りはエリオさんですね》]

(エリオか・・・ティアナをあぶり出せてないけど,やってみますか)
 
「なのは」

『うん?』

「俺の位置は把握できてるか?」

『レーベンからデータは来てるから大丈夫だよ』

「了解。俺が合図したら砲撃よろしく」

『了解』

なのはとの通信を終えた俺は,隠れている建物の入り口に設置型のバインドを
仕掛けると,2階に上がり入り口の真上に立った。
そして,右手を下に向け目を閉じる。

[《マスター,バインド作動しました》]

レーベンの声を聞いた瞬間,俺は目を見開いた。

「パンツァーシュレック!」

建物の床に向かって放たれた砲撃は,床を突き破り真下にいたエリオを
直撃する。

[《エリオさん被弾です》]

[了解]

俺はレーベンの言葉に返事を返しながら,屋上に向かって階段を
駆け上がって行く。

屋上へ通じるドアの前に立つと,俺はなのはに呼びかけた。

「なのは,俺が合図したらキャロを砲撃。防御は抜けなくていい」

『了解』

なのはからの返答を聞きながら,俺はディスプレイを見た。
キャロを乗せたフリードが俺のいる建物に向かってくる。

「なのは!」

俺はなのはに向かって叫ぶと,3つ数えてからドアを開けた。
目の前でフリードに乗ったキャロがなのはの砲撃をシールドで防御していた。
俺は,ステルスを解除するとキャロに向かって真っすぐに飛ぶ。
それに気づいたのかキャロが俺の方を見た。

「え!?」

「悪いな,キャロ」

俺は直前で目のあったキャロに向かってそう言うと,
レーベンを振りかぶり,キャロの胴を薙ぎ払ってそのまま突きぬけた。

通りを挟んで反対側の建物に着地した俺は,キャロが被弾したことを
確認すると屋上から屋上へと飛び移り,南西方向に移動していった。

南西の角が近くなってきたところで,俺は一旦足を止めて後を振り返った。
すると,2つ手前の建物の屋上にスバルの姿が見えた。

(ティアナはまだ出てこないか・・・しっかり隠れてやがるな・・・)

その時,俺の近くの床が轟音を立てて崩れ落ちた。

(なっ!?)

予測していなかった出来事に,俺は一瞬呆ける。
落下を始めた俺は視界の隅で瓦礫の向こうに見え隠れする紫色の影を見た。

(ギンガか!)

俺は影の方を向くと,レーベンを構える。
次の瞬間,甲高い音をたてて,レーベンとギンガのブリッツキャリバーが
ぶつかり合う。
下から突き上げられる形になった俺は,その反動を利用して屋上へと
飛び上がった。
後ろ向きに一回転して着地しようとしていたところ,
ちょうど頭が真下を向いたところで,スバルが向かってくるのが目に入った。

「もらったああああ!」

そう叫びながら俺に殴りかかってくる。
マッハキャリバーの打撃をレーベンで受けると,反動で飛ばされる。
俺は,隣の建物の側面に足を着けると,そのまま壁を蹴り俺がさっきまでいた
建物の屋上に立つスバルに向かって飛んだ。

「へ!?」

俺はそのままスバルの懐に潜り込むと,スバルの腹に右手を向けた。

「スバル。砲撃にはこんな使い方もあるって覚えときな」

スバルに向かってそう言うと,右手から威力を加減した砲撃を放つ。
直撃を食らったスバルは少し飛ばされて建物の屋上に倒れこんだ。
その様子を見た俺は,小さく息を吐いた。

(さて,あとはティアナとギンガだけど・・・)

周囲を見ても,ティアナやギンガの姿は見えない。

「なのは,エリアサーチは?」

『終わったよ。データ送ろうか?』

「頼む」

俺がそう言うと,レイジングハートからデータが送られてきた。
ディスプレイを見ると,訓練スペースの中に4つの点が見えた。

「一旦合流しよう。俺のところまで来てくれ」

『了解』



しばらくして,なのはが飛んできた。

「どうするの?」

「2人が同じ建物に隠れてるから,なのはは砲撃で建物を破壊。
 出てきたところを俺がしとめる。ってのはどうだ?」

「いいんじゃない?私は賛成だよ」

「じゃあ決まりだな。さっそくやるか」

「うん」

なのははそう言うと,レイジングハートを構え,ティアナとギンガの反応が
あった建物に砲撃を打ち込む。
砲撃の直撃を受けた建物はあっという間に崩壊し,瓦礫と砂埃だけが残された。
俺は,立っていた建物の屋上から飛び降りると,砂埃に近づく。
俺が地面に転がる瓦礫を蹴飛ばして音を立てた瞬間,砂埃の中から,
ギンガが飛び出してきた。
ブリッツキャリバーが俺の鼻先にまで迫ったとき,俺は後に倒れこんだ。
目標を失ったギンガはそのままの勢いで進んでいく。
俺がギンガの片足をつかむと,ギンガはつんのめるようにして
盛大に地面に倒れこんだ。

「いたた・・・」

頭を振りながら身を起こすギンガの鼻先に,俺はレーベンを突きつけた。

「ギンガは撃墜。いいな」

「・・・はい」

その時,横からティアナの声が聞こえた。

「ここまでです!ゲオルグさん」

ダガーモードのクロスミラージュを構えたティアナが俺に向かって
突っ込んでくる。それを見た俺は,ニヤリと笑った。

「まだまだだね。ティアナ」

俺がそう言った次の瞬間,なのはの放った砲撃が俺の背後を
通過していった。同時に目の前のティアナは掻き消える。
なのはの砲撃が通過していった先にはティアナが倒れていた。

「よし,模擬戦終了だな」



「今日の模擬戦は結構ハードだったよね?」

訓練スペースを出たなのはは,開口一番にフォワード4人に対してそう言った。
4人はそれに対して力なく頷く。

「みんな,怪我はきちんとシャマル先生に見てもらってね。じゃあ解散」

「「「「はい!」」」」

俺となのはとギンガの3人は隊舎に向かって歩く4人を見送った。

「どうギンガ?」

「いつもこんなキツイことやってるんですか?」

「うーん。いつもはここまでハードじゃないかな。今日は特別だよ,
 ゲオルグくんもいつもより張り切ってたしね」

なのははそう言って俺を見た。

「別に張り切ってはいないけど,いつもより気合を入れてやったよ。
 ギンガもいたしね」

「別にそこまで気合を入れていただかなくてもよかったんですけどね・・・」

俺の言葉にギンガは苦笑していた。

「それより,スバルはどう?」

なのはがそう聞くと,ギンガは笑顔になった。

「強くなりましたね。単純に能力と技術が向上してるのもありますけど,
 結構複雑なコンビネーションもこなせるようになりましたし」

「よかった。ここまで鍛えてきた甲斐があったよ。ね,ゲオルグくん」

「ん?まあ,そうだね」

俺がそう言うと,なのはは怪訝そうな顔をしていた。

「じゃあ私は戻りますけど,お2人はどうされます?」

「あ,私もいっしょに戻るよ。ゲオルグくんは?」

「俺も一緒に行くよ」

そして俺となのはとギンガの3人は並んで隊舎へと戻った。

 

 

第61話:部隊長vs副部隊長


模擬戦の後,朝食を食べた俺はグリフィスと副部隊長室にこもって,
先日行った避難訓練の結果を確認していた。

「7分30秒か・・・ずいぶん早くなったな」

「ええ。最初が12分ですから約35%早くなったことになりますね」

5月に行った最初の訓練以降,何度か避難訓練をやっていたが,
当初は既存設備の変更をせずに退避経路の見直しだけで対応していたので
なかなか,退避完了までの時間短縮はできていなかった。
最近になってようやく,非常口増設と一部通路の拡幅工事が完了し,
一気に時間短縮が実現した。

「これ以上は難しそうか?」

俺がそう尋ねると,グリフィスは腕組みをして考え込んだ。

「難しいですね・・・映像を見る限り整然と流れてますし,
 各隊からの意見書も・・・特にないですね」

グリフィスは手もとの端末を弄りながらそう言った。

「となるとこれが限界か・・・あとは,戦闘部隊の仕事だな」

「いかに7分30秒を稼ぎ出すか・・・ですか?」

グリフィスの問いに対して俺は頷いた。

「これまでの実績から考えて,対ガジェット戦であれば7分30秒って数字は
 楽ではないけど,可能な数字じゃないかな。別にその場を死守しなきゃ
 ならんってわけじゃないから」

「ですが,例えば長距離からの砲撃とか爆撃みたいに最初の一撃で
 隊舎が大きく損壊した場合は退避時間も延びますよ」
 
グリフィスはそう言うと,不安そうな顔をした。

「前の戦闘でヘリが狙撃されたようなことがここでも起きると?」

「ええ」

俺は少し考え込んだあと,グリフィスの顔を見た。

「確かにその可能性は大いにあるけどな,一部の通路が使えなくなったという
 想定での訓練はやってるし,その時に必要な時間も解ってるだろ。
 それ以上の被害が出たらどっちにしろお手上げなんだから,
 今から考えたって同じだよ。そう思わないか?」

「・・・そうですね。今は,この計画に沿っていかに整然と退避を完了するかに
 全力を尽くすことにしましょうか」

少しすっきりしたような顔で言うグリフィスに対して俺は笑顔で頷いた。



・・・夜。
はやてに呼び出された俺は,部隊長室に入った。

「なんだよ。もう寝たいんだけど」

俺がそう言うと,はやては悪びれる様子も無く笑った。

「なんや,ゲオルグくんはお子様やなあ」

「はやての人使いが荒いのが悪い」

「それはゲオルグくんが仕事がデキるのが悪い」

あんまりなはやての言い草に俺は深いため息をついた。

「・・・で?本題は?」

「あら?ホンマに疲れてるみたいやね。ほんならさっさと話をしよっか」

そう言うと,はやては机に両肘をつき少し身を乗り出した。

「もうすぐ,地上本部の公開意見陳述会やろ。
 機動6課としても警備に参加するつもりなんやけど,
 戦力配置について相談しときたいんよ」
 
「うーん。戦力配置か・・・隊舎と地上本部って意味だよな?」

そう尋ねるとはやては頷いた。

「地上本部に戦力を出す以上はそれなりの戦力は出さんとあかん。
 そやけど,隊舎にヴィヴィオを残す以上スカリエッティがそっちに
 手を出す可能性は軽視できひんやろ。ちょっと悩んでしもうて・・・」
 
「予言をとるか,表面的な事実を取るか・・・だな」

俺はそう言うと,腕組みをして考え込んだ。

「地上本部の方は予言もあるけど政治的な側面もあるよ」

「というと?」

俺がそう尋ねると,はやては背もたれに体重を預けて俺の方を見据えた。

「警備に6課を割り込ますんにちょっと強引な手を使ったからね。
 それなりの戦力は派遣せんと格好がつかへんというか・・・」

「今後の立場が悪くなると・・・」

「ま,言ってしまえばそうやね」

「でも,格好をつけたために切り札を取られたんじゃ意味ないぞ」

俺がそう言うと,はやては苛立たしげに指で机を叩く。

「そやからこうやって相談してるんやんか」

「それは解るんだけどね・・・」

俺は天井を見上げて少し考えると,再びはやてに尋ねることにした。

「はやての構想は?」

「私・隊長・副隊長・フォワード陣とギンガ,あとリインは地上本部,
 残りは隊舎やね」

「というと,隊舎に残るのは俺とザフィーラとシャマル,
 あとはシンクレアか・・・」

「それと交替部隊やね」

「交替部隊はオフシフトだろ」

「それでも有事には使える戦力や」

「としても,フォワード陣なんかと比べると見劣りするんだよな」

「そら訓練も普通の地上部隊並みやからね。それでも当直もあるんやから
 頑張ってくれてる方やで」

「それは判ってる。俺が言ってるのは純粋な戦力計算の話」

「じゃあどうする?」

「せめて副隊長をどっちかこっちに・・・」

「却下」

「理由は?」

「シグナムとヴィータが居てへんかったら航空戦力がなくなるもん」

「は?なのはやフェイトは?」

「私と両隊長は会場内の要人警護」

「ちょっと待て!会場内ってデバイス持ち込み厳禁だろ?
 それで警護?笑わせんなよ!」

俺が少し言葉を荒げてそう言うとはやてが両方の眉を吊り上げて立ち上がった。

「何その言い方。私かていろんな事情を勘案して必死で考えてんねん。
 それをなんやの!?馬鹿にしてんのか?」
 
「俺は格好つけのためだけならわざわざ戦力を配置する必要なんて無いって
 言ってんだよ。そもそも両隊長が一番戦力になるんだから,それを
 戦場から遠いうえにデバイスも持てないようなところに配置してどうすんだ
 って言ってんの」

「そんなん解ってるわ!そやけど,要人警護かて今回の任務では重要な
 ファクターやで。オークション警備の時も同じような配置やったけど
 あんたは賛成したやんか。なんで今回はあかんのよ」

「あの時とは状況がまるっきり違うだろ。デバイスもない魔導師が
 戦力として役に立つわけないじゃねえか。
 お前はそんなことも判んねえのかよ!」
 
「主はやて」

俺は背後から聞こえてきた声に驚いて振り返った。
そこには,困惑した表情のシグナムが立っていた。

「勝手に入って申し訳ありません。ですが,声が外まで漏れていましたので」

シグナムがそう言うと,はやても少し頭が冷えたのか椅子に座りこんだ。

「ええよ別に・・・」

はやてはそう言うと,頬づえをついてそっぽを向いてしまった。

「ゲオルグ,状況を説明して欲しいのだが」

俺がシグナムに先ほどのやり取りについて簡単に説明すると,
シグナムは小さくため息をついた。

「どちらの言うことも判りますが,ここは一度中断しては?
 明日改めて,両隊長も交えて協議するのがよいかと思いますが」

シグナムがはやてにそう言うとはやては黙って頷いた。
シグナムはそれを確認すると,俺の手を引いて部隊長室を出た。

部隊長室から少し離れたところで,シグナムは俺の方を見た。

「ゲオルグ。戦術的にお前の言うことが正しいのは私も理解できる。
 が,主はやての立場も理解してはもらえないか。
 あの方は今部隊長として色々なものの板挟みになっていると思うのだ。
 だから・・・な」

「判ってる・・・いや,判ってるつもりだった・・・かな。
 俺もはやても寝不足でイラついてたからな。明日は冷静に話せると思う」

俺がそう言うとシグナムは安心したように少し笑顔を見せた。

「そうか」

シグナムは短くそう言うと俺に背を向けた。

「シグナム」

俺が呼び止めるとシグナムは俺の方を振り返った。

「止めてくれてありがとう。あとは・・・すまない」

「いや。これも烈火の将たる私の役目だ。気にするな」

そう言ってシグナムは通路の奥へと消えていった。

(ちくしょう。かっこいいじゃねえか・・・)

 

 

第62話:喧嘩したら、すぐに仲直りしましょう


・・・翌朝。
俺ははやてに呼び出された時間の10分前に部隊長室に向かった。
ドアの前に立つと一度深呼吸をしてからブザーを鳴らした。

「どうぞ」

はやての声を聞いた俺はドアを開けた。
部隊長室に入ると自分の席に座ったはやてと目が合った。

「・・・早いな」

はやては俺の顔を見ると,不機嫌そうな顔をした。

「悪い。会議の前に少しだけ話がしたくて」

「なんやの?」

「昨日は言い過ぎた。悪かったと思ってる。許してほしい」

俺はそう言って深く頭を下げた。

「ちょっ・・・待って!突然何なん!?別にゲオルグくんだけが
 悪いわけやないやろ。とりあえず頭上げて!」

「許してくれるのか?」

俺は頭を下げたままそう言った。

「許すもなにも,昨日のことはお互い様やろ。私もゲオルグくんも
 疲れきってて冷静さを欠いとった。昨日のことの責任は
 ゲオルグくんだけやなくて私にもあったと思ってるんよ。
 そやから,仲直りしよ」

はやてはそう言い,立ち上がってそばに来ると右手を差し出した。
俺が頭を上げ,はやての顔をみるとはやては笑っていた。

「仲直りの握手や」

俺ははやての手を握るとはやてに話しかけた。

「さっさと仲直りできてよかったよ」

「私もや。ゲオルグくんとはやっぱり軽口が叩ける仲がええわ」

「そうだな」

そう言って,俺とはやては笑いあった。



「でや,地上本部と隊舎の戦力配分をどうするか相談したいんよ」

なのはとフェイトが部隊長室に来ると,俺達4人はソファーに座り
公開意見陳述会警備の戦力配置についての話し合いを始めた。

「はやてちゃんの意向はどうなの?」

なのはが尋ねると,はやては口を開いた。

「私・隊長・副隊長・フォワード陣とギンガにリインは地上本部に
 配置したいと考えてる。で,私となのはちゃんとフェイトちゃんは
 会場内で要人警護やね」

はやてがそう言うと,フェイトは首を傾げた。

「ねえはやて。公開意見陳述会の会場ってデバイスの持ち込み禁止だよね。
 そんな状況だと私たちは誰一人戦力にならないんじゃないかな」

「フェイトちゃんもそう思うか・・・」

はやてはそう言うと,腕組みをして俯いた。

「なあはやて。なんで会場内に戦力を配置する必要があるのか
 説明してくれないか」
 
俺がそう言うと,なのはとフェイトは頷き,はやては小さく唸り声を上げた。

「公開意見陳述会で要人が殺されるんだけは避けたいんよ。
 今までは無かったパターンやけど,地面に潜れる能力を持った
 戦闘機人が直接会場内に潜入したら?とか考えると,
 どうしても,会場内に要員は配置しときたかったんよ」
 
「はやて。でも・・・」

俺がはやてに向かって話そうとすると,はやては手を上げて話を遮った。

「判ってる。フェイトちゃんやゲオルグくんの言うとおり,
 デバイスを持たん魔導師は戦力としては全く役に立たんのも事実。
 そやから,会場内には私一人が残る」
 
「はやてちゃん・・・」

はやての毅然とした言葉を聞き,なのはは心配そうにはやてを見つめた。

「ん?心配してくれてんのか?おおきにな,なのはちゃん。
 そやけど,私は部隊長としての責任において,会場の中におらなあかんと
 考えてる。ここだけは譲るつもりはないよ」

はやての目には強い意志が宿っているように見えた。

「なのは。はやてがここまで言うならもう意見は変えないだろうから,
 中ははやてに任せよう」
 
「ゲオルグくん・・・」

「判ってくれておおきにな,ゲオルグくん」

はやての言葉に俺は黙って頷いた。

「じゃあ,あとは地上本部と隊舎の戦力配分をどうするかだな。
 どっちが本命かが判れば簡単なんだけど・・・」

俺はそう言ってフェイトの方を見た。フェイトと目が合うと
フェイトは首を横に振った。

「そこまで捜査は進んでないよ。ごめんね」

フェイトは済まなそうにそう言った。

「いや,俺の方でも探ってるけどそういう情報は取れてないからね。
 しょうがないでしょ」

俺はそう言うと,腕組みをしてソファの背にもたれかかった。

「はやての案だと,隊舎の方に航空戦力がないだろ。
 俺としてはそれが不安でね・・・」
 
「シャマルとザフィーラがおるやん」

「シャマルには索敵をやってもらわないといけないし,ザフィーラには
 ヴィヴィオに張り付いてもらうつもりだからな・・・」

「それで副隊長のどっちかが欲しいと・・・」

はやてはそう言うと,なのはとフェイトの方を見た。

「私とフェイトちゃんが外の警備につけるんだったらシグナムさんと
 ヴィータちゃんには隊舎にいてもらっても大丈夫じゃないかな?」

なのははそう言って,フェイトを見た。

「そうだね。それに万が一の場合にははやても外に出てくるでしょ?」

フェイトに尋ねられたはやては少し考えてから頷いた。

「そうやね。ほんならシグナムとヴィータには隊舎に
 残ってもらうことにしよか」
 
「悪いな」

俺がそう言うとはやては首を横に振った。

「ヴィヴィオがスカリエッティに狙われとる可能性が高いことを考えると
 それくらいの備えは必要やろ。地上本部の方には他の部隊もおるんやしね」

はやての言葉にフェイトとなのはも頷いた。
はやてはそれを見て,満足げに頷いた。

「ほんなら,隊舎側の指揮はゲオルグくんに任せるからな。頼むで」

「了解」

俺がそう言ったところで,来客を告げるブザーが鳴った。

「誰や?」

はやてはそう呟くとドアに向かってどうぞと言った。
ドアが開くと,白衣を羽織ったステラさんが現れた。

「失礼するぞ・・・お,幹部連中が揃ってるじゃないか。ちょうどいい」

「何なんです?ステラさん」

はやてがそう言うと,ステラさんは自慢げに笑った。

「携帯用AMFC発生装置を10個作り終わったのでな。知らせに来た」

「ホンマですか!?めっちゃ早いやないですか」

「お前が公開意見陳述会に間に合わせろと言ったのだろう?」

「いや,そうなんですけど・・・。でも助かりました。ありがとうございます」

はやてはそう言うと,ステラさんに向かって頭を下げた。

「礼はいい,仕事だからな。では,メカニックルームまで取りに来てくれ」

「はい。なのはちゃん,フェイトちゃん。スターズとライトニングの分は
 2人に取りにいってもらってええ?」

「「了解」」

2人がはやてに返事をしたところで,ステラさんが俺の方を見た。

「そう言えばゲオルグ。レーベンをよこせ」

「は?何でですか?」

「どうせお前のことだからまたメンテナンスをサボるだろうと思ってな。
 ちょうど時間があるから,やっておいてやる」

「わかりました。お願いします」

俺がそう言って,待機状態のレーベンをステラさんに手渡すと
ステラさんはサッサと部隊長室を出て行った。
ドアが閉まったのを確認して,俺は小さくため息をついた。

「まったく,相変わらずマイペースな人・・・」

「そやけど,めっちゃ助かってるよ。AMFCが公開意見陳述会に間に合うと
 思ってへんかったし」

「技術者として優秀なのは認めるけどね。人格はどうかな・・・」

「ま,変わりもんなんは認めるけど,それはゲオルグくんかてそうやろ?」

「あの人とひとくくりにされるのはちょっと・・・」

俺がそういうと,全員が声を上げて笑った。

 

 

第63話:公開意見陳述会前日


公開意見陳述会を翌日に控えたこの日,俺は地上本部組の中で
先行するはやて・なのは・フェイトを見送りに,屋上のヘリポートに来ていた。

「私らは他の部隊との調整やら何やらで先行するけど,
 みんなは予定通り,明日の朝には地上本部に来てな」

はやてがフォワードの4人とギンガに向かってそう言うと,
5人は引き締まった顔で返事を返していた。

「ゲオルグくん,シグナム,ヴィータ。隊舎の守りは任せたからな。頼むで」

「了解」

「お任せください,主はやて」

「こっちはあたし達に任せとけ」

俺達3人がそう言うと,はやては満足そうに頷いてヘリに乗り込んだ。

「ゲオルグくん・・・ヴィヴィオのことお願いね」

スターズの2人と話し終えたなのはが不安そうな顔で俺に話しかけてきた。

「なんつー顔してんだよ。なのはがそんな顔してたら,あいつらは余計
 不安になるだろ」
 
俺はなのはの頬を軽くつねりながらそう言ったが,相変わらずなのはは
不安そうな顔をしていた。

「でも,やっぱり心配だよ・・・」

「ま,その気持ちは判るけど,これだけの備えを整えたんだから大丈夫だよ。
 なのはは心おきなく地上本部の警備についてくれ。な?」
 
俺がそう言うと,なのはは少し吹っ切れたのか笑顔を見せた。

「うん,わかった。じゃあ気をつけてね」

「ありがと。なのはこそ気をつけてな」

「うん,じゃあね」

なのははそう言うと,ライトニングの2人と話し終えたフェイトと共に
ヘリに乗り込んだ。
離陸したヘリが見えなくなるまで見送ると,俺はヘリポートにいる面々の方へ
向き直った。

「じゃあ,地上本部組は明朝の出発まで待機な。十分休息して英気を養うこと。
 居残り組は明日の最終確認をするから後で会議室に来てくれ」
 
俺の言葉に全員が頷き屋上を後にする。
一人屋上に残った俺はもう一度ヘリの飛び去った方向を一瞥すると,
大きくひとつ息を吐いて,屋上を後にした。



定刻の5分前に会議室に入ると,目の前に座っているヴィータの背中が見えた。
俺がヴィータの肩を叩くと,ヴィータはビクっと肩を震わせて振り返った。

「なんだよ,驚かすんじゃねーよ」

「悪い。ところで今いいか?」

そう尋ねると,ヴィータは頷いた。

「悪いな。なのはと別々の配置にしちゃって。
 ヴィータはなのはの側にいたかったんだろ?」
 
俺がそう言うと,ヴィータは少し考え込むような仕草を見せた後で,
ゆっくりと話し始めた。

「うーん。確かにあたしはスターズの副隊長だから,なのはとあいつらが
 地上本部に行くなら当然あたしもそっちだと思ってたけどな・・・」
 
ヴィータの言葉に俺は首を振る。

「そうじゃなくて,ヴィータはなのはを守るために側にいたかったんだろ?」

「なっ・・・」

ヴィータは俺に反論しようとするが,うまく言葉が出てこなかったらしく,
やがて,大きくため息をついた。

「まーな。でも,仕事なんだから隊舎の防衛だってしっかりやるよ
 ヴィヴィオもいるからな」

「そうか。頼むよ」

「おう!」

しばらくして,メンバーが揃ったところで席に着くと,
俺は一度咳払いをしてから話し始めた。
一通り状況説明を終えたところで,俺は今日の会議の本題に入ることにした。

「ま,状況としてはさっき話した通りなんだが,ここからは隊舎への
 襲撃があった場合の対処方法と分担について決めておきたい。
 まず俺の案を話しておこう」

俺はそう言うと,隊舎の平面図をスクリーンに映して説明を始めた。

俺の案は,

 ①隊舎への攻撃があった時点で,非戦闘員の退避を開始する。
 ②シグナム・ヴィータは敵戦力の迎撃に当たる。
 ③索敵・管制はシャマル,指揮は副部隊長に一元化する。
 ④交替部隊は隊舎内部で非戦闘員の退避を援護する。

というものだ。
もちろん,ザフィーラはヴィヴィオの直掩として配置するのだが,
ヴィヴィオが聖王のクローンというのは幹部だけの知る極秘事項なので,
ザフィーラの配置については伏せている。
また,シンクレアも戦力として計算に入れているが,ツァイス3尉は
魔導師ではないという設定なので,これも伏せてある。

「というのが俺の案だ。なにか意見や質問は?」

そう言って室内を見回すと,一人の手が挙がった。交替部隊の分隊長だった。

「交替部隊の配置はどうなりますか?」

「交替部隊のうちオフシフトの分隊は当然寮で待機だな。
 オンシフトの分隊も,隊舎の損傷がどうなるかわからん以上
 実際の配備箇所は事前に決めておくことはできないから
 分隊の待機室で待機だ。他には?」

室内を見回すと,特に質問は無いようだった。

「よし。では明日は何もないことを祈ろう!解散」



会議室を出た俺はヴィヴィオと昼食を食べるために寮に向かった。

「あ,ゲオルグさん。早いですね」

洗濯物の入ったかごを持ったアイナさんが通りかかり,俺に声をかけてきた。

「ええ。ちょうどよかった,アイナさん少しよろしいですか?」

「ええ,いいですけど」

アイナさんはそう言うと洗濯かごを床においてエプロンで手をぬぐい,
俺の方を見た。

「明日,機動6課が地上本部の公開意見陳述会の警備に参加するのは
 ご存じですね?」

俺が尋ねると,アイナさんは黙って頷いた。

「その際,この隊舎にも敵の攻撃があるかも知れません。
 アイナさんも避難訓練に参加されているので避難要領は把握されてると
 思いますが・・・」

「ええ,把握してます」

「もし,明日敵の襲撃が現実のものとなった場合,ヴィヴィオに構わず
 逃げてください」

俺がそう言うと,アイナさんは驚きで目を見開いた。

「え?ですが・・・」

「ヴィヴィオにはザフィーラを張りつかせます。万が一の場合には
 ザフィーラがヴィヴィオを安全に連れ出してくれるはずです。
 なので,アイナさんは逃げてください。あなたの命のためです」

「命・・・ですか・・・」

俺はアイナさんの呟きに対して軽く頷いた。

「判りました。そこまで言われるのであればそうします」

「御理解いただいてありがとうございます」

俺はそう言って,アイナさんに向かって頭を下げた。

「ところで,ヴィヴィオとお昼を食べに来たんですよね?
 お部屋にお持ちしますから,先に行ってください」

アイナさんはそう言って俺に向かって笑いかけた。



なのはとフェイトの部屋に入ると,ベッドの上でうつぶせになり,
足をパタパタさせながら本を見ているヴィヴィオが目に入った。
俺はそっとヴィヴィオに近づくと,ヴィヴィオの脇腹をくすぐった。
ヴィヴィオは笑い声を上げながらベッドの上で身をよじる。
俺がくすぐるのをやめると,ヴィヴィオは俺の顔を見て頬を膨らませた。

「もう!いきなりくすぐるのはダメって言ったでしょ!」

「ヴィヴィオがだらしないことをしてるからだぞ。
 本を見るなら座って見なさい」
 
「だって,ここだとママのにおいがして気持ちいいんだもん」

「それでもダメ。目が悪くなるぞ」

「目が悪くなるって?」

ヴィヴィオはそう言って首を傾げた。

「んー。そうだな。ヴィヴィオはここからザフィーラの顔が判るよな」

「うん。わかるよ」

「目が悪くなると,ザフィーラの顔かどうかわからなくなるんだ」

「そうなの?ヴィヴィオそれ困る」

「だろ?じゃあ,本を見るときは明るいところで座って見るんだぞ」

「うん。わかった!」

そこで,アイナさんが昼食を持って入って来た。

「よし,今日はママ達がお仕事で居ないから,3人でな」

「うん!」

ヴィヴィオはそう言って俺に笑いかけた。

 

 

第64話:公開意見陳述会前夜


昼食を食べ終わってしばらくすると,ヴィヴィオが眠そうにし始めたので
ベッドの上に寝かしつけた。

俺はベッドから離れると窓際で伏せているザフィーラの側に座った。

「ザフィーラ。いよいよ明日だからな」

「ああ」

「とにかくヴィヴィオを逃がしてくれ,それだけを考えてくれればいい」

「判っている」

「頼むな。あと,援護が必要な時はすぐに呼んでくれ。俺が行けなくても
 誰か差し向けるから」

「了解だ」

ザフィーラの返答を聞き,俺は窓の外の景色に目を遣った。

「何もなければいいんだけど・・・」

「それは甘い期待というものだろうな」

「判ってるよ。だからこそ,ここまでの備えを固めたんだ。
 ヴィヴィオのことを知らなければ異常と思えるくらいの戦力を揃えてな」

「ならば,あとはことが起きた時,過たずに対処できるように
 しっかりと休息をとるのがお前の仕事だ」

「そうだな。ありがとう,ザフィーラ」

俺はそう言って,ザフィーラの頭をそっと撫でた。



寮から隊舎に戻り,副部隊長室に向かって歩いていると,
ステラさんと出くわした。

「お,ゲオルグ坊やではないか」

「ステラさん。坊やはやめてください」

俺がそういうと,ステラさんは鼻で笑った。

「私にとってお前はいつまでたっても坊やだよ。いくら腕を上げてもな」

俺はその言葉を聞いて,深いため息をついた。

「で,何のご用ですか?」

「隊舎にAMF発生装置が設置されてるだろう?」

「ええ・・・」

ステラさんに尋ねられ,俺はそう言って頷いた。
以前シャーリーに頼んで設置してもらったのだが,小火器関係の導入が
蹴られたせいで,使い道に困って放置していたものだ。

「少し暇だったんで,あれを改造してAMFCも展開できるようにしたからな」

ステラさんの言葉が一瞬理解できなかった。

「はい?」

「聞こえなかったのか?隊舎の地下にあるAMF発生装置を改造して,
 AMFCも発生できるようにしたと言ったんだ」

今回ははっきりと意味を理解できた。
俺はまた深いため息をついた。

「誰の指示です?」

「聞いていなかったのか?暇だったからやったと言ったのだ。
 私が勝手にやったに決まっているだろう。感謝するがいい」

「役に立つのは間違いないので今回は構いませんが,
 今度からそういうことをするときは,俺か部隊長に一言相談してください」

俺がそう言うと,ステラさんは急に不機嫌そうな顔になった。

「ふん,お前もレティ提督と同じようなことを言うんだな。いいだろう」

そう言ってステラさんは元来た道を歩いていこうとした。

「ステラさん」

俺がステラさんの背中に向かって声をかけると,ステラさんは背中を向けたまま
立ち止まった。

「ありがとうございます。これで,いくらか隊舎での戦闘が
 楽になるかもしれません」

俺が深く頭を下げてそういうと,ステラさんは俺の方を一瞥すると
また歩きはじめた。

「気にしなくていい」

ステラさんの言葉に俺が顔を上げると,ステラさんの姿は無かった。



夜になり,俺は屋上で夜空を眺めていた。
機動6課に来て半年,いよいよこの時が来たかと思う気持ちが
俺の神経を高ぶらせていた。

「ゲオルグさん。やっぱりここでしたね」

声のする方をみると,シンクレアが近づいてきた。

「なんでわかった・・・って前にここで飲んだな」

俺がそう言うと,シンクレアは苦笑していた。

「それもありますけど,ゲオルグさんっていつもでかい作戦の前は
 決まって外に風にあたりに出たり,星を眺めたりしてたでしょ。
 だから,今夜もここに居るんじゃないかと思ったんですよ」

「お見通しか・・・」

「ま,付合い長いですから」

俺はシンクレアの言葉を聞きながら,手すりにもたれかかった。

「いよいよ決戦だと思う気持ちと,何もなければいいのにと思う気持ちの
 両方が入り混じっててね。なんだか複雑な気分だよ」

「俺も同じですよ。ここの人たちとは関係ない,って割り切るには
 少々長く居すぎましたからね」

「そうか」

俺がそう言った後,しばらく静寂が屋上を包んだ。
夜風が少し強くなって来た時,シンクレアが再び口を開いた。

「ゲオルグさんは本当は地上本部に居たいんじゃないですか?」

「何でそう思う」

「なのはさんと一緒に居たいんじゃないですか?」

シンクレアの言葉に俺は小さく笑った。

「何がおかしいんです?」

シンクレアはそんな俺の様子を訝しげに見ていた。

「あいつはそんなにヤワなタマじゃないよ。俺なんかよりよっぽど強いしな。
 魔導師としても,人間としても」
 
「そうですかね。でもなのはさんも一人の女性ですよ」

「そんなことは俺が一番よく判ってるよ。だから俺が残るんだよ」

「ヴィヴィオ・・・ですか」

シンクレアの問いかけに俺は小さく頷いた。

「あいつは里親を探すって言い張ってるけど,冷静にあの懐きようを見たら
 ヴィヴィオが今更他の人間を母親と認識できる訳がない。
 それはなのはだって判ってるはずなんだけどな」

「それはゲオルグさんも同じですよ。今更他の人を父親と認識できるとは
 思えませんね」

「判ってるよ,んなこと。でもな・・・」

「まだ過去の自分にそんなにとらわれてるんですか?」

「あんなにかわいい子を人殺しの娘にしたくないだろ」

「ゲオルグさんはよく自分を人殺しって言いますけど,
 上からの命令なんだから仕方ないでしょ」

「だからと言ってそれが許されるかどうかは別問題だ。
 少なくとも俺が過去4年にわたってやってきた任務の一部は
 外に露見したら後ろ指を指される活動なのは間違いないよ」

「暗殺・破壊工作・拉致,いろいろやりましたからね」

「それ自体は必要だったと俺も思ってる。
 けど世間がそう評価してくれるとは限らないだろ?」

「将来,自分の過去が露見した時のことを考えてるんですか?」

「まあね。考えすぎと言われても仕方ないけど,
 いざその時になって後悔するのはいやだからな」

俺はそういうと,屋上をあとにしようと歩きだした。

「もう少し単純に考えればいいんじゃないですか?」

背中からシンクレアが声をかけてくる。

「単純って?」

「ゲオルグさんは,なのはさんやヴィヴィオと一緒に居たいんでしょ?
 だったらそうすればいいじゃないですか」

「俺もそう思うよ。じゃ,おやすみ」

俺は屋上から降りる階段を歩きながら考えにふけっていた。

(んなことはお前に言われるまでもなく判ってんだよ,シンクレア・・・)

 

 

第65話:嵐の前の静けさ


《マスター,起床の時間です》

「・・・起きてる。ありがとう」

俺はベッドから身を起こすと,いつものように髭を剃り,顔を洗う。
クローゼットを開けて,3等陸佐としての制服に身を包む。
鏡を見て,階級章や徽章の類が正規の位置にあることを確認する。
身支度が整うと,部屋を出て隊舎に向かって歩く。

朝食を摂るべく食堂に向かい,新人の教導に参加する前の定番であった
朝食セットを注文し,受け取ると,空いたテーブルに座り,朝食を食べる。
半分程食べ終わったところで,シグナムが俺の向かいに座る。

「おはよう」

「ああ。おはよう」

シグナムからの挨拶に対し,返事を返すと再び朝食を食べ始める。

「ヴィータは?」

「先に行った」

「そうか」

俺はシグナムとの短い会話を終え席を立った。

「先に行くな」

「ああ」

食器を片づけ,食堂を出ると,通路を歩いて副部隊長室に向かう。
扉を開け,自席に座り端末でメールを確認し,急ぎの用がないことを
確認すると席を立ち,再び通路に出る。

しばらく歩き,発令所の扉の前まで来て一度深呼吸。
気分を落ち着けて,ドアを開けた。

「ゲオルグさん,おはようございます」

真っ先に声をかけてきたのはグリフィスだった。

「おはよう。当直からの引き継ぎは?」

「問題なしです」

「了解」

そんな受け答えをしながら俺は部隊長席に座った。

下の方を見ると,発令所メンバーは全員がすでに仕事を始めていた。
だが,普段とは違った固さが感じられた。

「おーい。ちょっといいかー」

俺が呼びかけると,全員が作業の手を止めて俺の方を見た。
全員の顔が強張っていた。

「お前ら顔が怖いよ。もっと,リラックスしようぜ」

俺がそう言うと下に居る連中はお互いに顔を見合わせた。

「そうは言っても,やっぱり緊張しちゃいますって」

アルトが全員の意見を代表するように言う。

「今から緊張してたんじゃ午前中いっぱいだって持たないぞ。
 しょうがないな。アルト,俺の部屋の例のキャビネットから
 お菓子出してきて。これから30分はお茶の時間だ」

「・・・いいんですか?」

「今日は俺がここの大将だから誰にも文句は言わせないよ」

「わかりました。すぐに取ってきます!ルキノ手伝って!」

「うん」

アルトとルキノが走って発令所を出る。
5分ほどして,お菓子をいっぱいに抱えた2人が戻ってきた。

(あいつら,全部持ってきたな・・・)

俺は心の中で舌打ちをし,2人に何か仕返しをしてやろうと決意した。



・・・30分後。
さっきまで盛大にお茶会が催されていたとは思えないほどきれいに片付いた
発令所で,全員がてきぱきと仕事をこなしていく。

「アルト。そろそろフォワード連中が出発する時間だよな」

「ええ。そうですね」

「見送ってくるから,その間ここはグリフィス,頼むぞ」

「了解です」

俺は立ち上がり,屋上へと向かった。
屋上には,すでにヘリが待機しており,副隊長2人とフォワード陣,
ギンガが話をしていた。
俺は邪魔をしないように,屋上へ上がってすぐのところで壁にもたれて
立っていた。
しばらくして,話が終わったのかフォワード陣がヘリに乗り込んでいく。
ヘリのドアが閉まり離陸していくと,シグナムとヴィータが俺の方に向かって
歩いてきた。

「おーっすゲオルグ」

「おはよう,ヴィータ」

「おめーも居たならあいつらと話をすればよかったじゃねーか」

「ん?今日の俺はあいつらの指揮官じゃないからな。
 それに,向こうに行けばなのはとフェイトも居るんだし,
 あいつらのケアぐらいは向こうでやってもらわないとな」

「ふーん。ま,ゲオルグがそれでいいなら,あたしは言うことねーけど」

ヴィータはそう言って屋上を後にした。

「本当によかったのか?」

シグナムが俺の顔を見て言う。

「いいんだよ。さっきもヴィータに言った通りさ」

「そうか。ならいいが・・・」

「それより,今日は頼むぜ」

「判っている。任せておけ」

「頼りにしてるからな」

「ああ」



その後,公開意見陳述会が開始されても特に動きはなく,午前中が過ぎた。
俺は,一旦寮に戻ってヴィヴィオやアイナさんと昼食を食べた後,
再び発令所に戻った。

「ここまで動きがないと,逆に拍子抜けしてしまいますね」

俺の隣に座ったグリフィスが公開意見陳述会の映像を見ながらそう言った。

「緩みすぎだよ,グリフィス。過度の緊張はまずいけど,
 緩むのはもっとよくないぞ」
 
俺がそう苦言を呈すと,グリフィスは姿勢を正した。

「すいません」

「いや,こういう状況で適度な緊張を維持するのって難しいんだよ。
 グリフィスは経験が浅いのによくやってる方さ」
 
「恐縮です・・・」

その時,レーダー画面を見ていたアルトが騒ぎ出した。

「あれ?おっかしいなあ・・・」

「どうした?アルト」

「あ,副部隊長。隊舎の沖合の方を民間機が飛んでたんですけど,
 レーダーから消えちゃって。たぶん,システムの誤作動なんで
 今,再起動してます」

「民間機の機影が消えた?高度低下とかの異常はあったのか?」

「いえ,ないです。突然消えました」

(システムの誤作動・・・たまにあったけど・・・)

その時,通信を担当しているルキノも騒ぎ始める。

「あれ?変だな。もう一回・・・やっぱりダメだ」

「ルキノはどうしたんだ?」

「地上本部との通信回線が切れちゃって。
 今,再接続しようとしてるんですけど,うまくいかないんですよ」

(通信まで・・・やっぱりおかしい・・・)

俺は立ち上がった。

「警戒態勢をレベル2に移行。戦闘要員はオフシフトも含め総員待機。
 レーダーと通信の回復を急げ」

俺はそう言うと,シャマルとザフィーラに念話で話しかける。

[シャマル,ザフィーラ,ちょっと様子が変だ。
シャマルは索敵を開始,ザフィーラは警戒を厳にしてくれ]

[わかったけど,何があったの?]

[レーダーと通信回線が落ちた。復旧を試みてるけどダメくさい。
今,警戒態勢をレベル2に引き上げた]

[了解。すぐに出るわね]

[ザフィーラも聞こえたな?]

[ああ,心得た]

その瞬間,隊舎を衝撃が襲った。

 

 

第66話:隊舎襲撃、そして・・・


隊舎を襲う強烈な揺れの中で,俺は状況を把握しようと必死だった。
悲鳴に包まれる発令所で俺は声を張り上げる。

「各所被害報告を!索敵・通信の回復はまだか!?」

矢継ぎ早に報告が上がってくる。

「レーダー回復しません!」

「通信回線は依然として回復せず!」

「屋上ヘリポートと格納庫の一部が損壊。他は被害なし!」

「了解!総員戦闘配備。発令所要員を除く非戦闘員は退避。
 シャーリー,AMFC出力全開で展開」
 
「了解!」

指示を出すと,即座に館内へ放送が流れる。
俺はシャマルに念話を飛ばす。

[シャマル,状況は?]

[今屋上に上がったところよ。隊舎の被害は予想以上に大きいわね]

[了解。レーダーは恐らくダメだ。索敵を頼む]

[了解,通信もダメね。できればゲオルグくんにはこっちに来てほしいわ]

[判った。状況が落ち着いたらそっちに向かう]

続いてザフィーラへも念話で話しかける。

[ザフィーラ,状況はどうだ?]

[ヴィヴィオを連れて退避を開始した]

[了解。頼むぞ]

[任せろ]

その時,交替部隊の分隊長2人がやってきた。

「副部隊長!我々の配置は!?」

「ちょっと待て!」

俺は被害状況を示すモニターを確認する。

「A分隊は23番ブロック,B分隊は13番ブロックだ。
 非戦闘員の退避を掩護しろ。ガジェットとの戦闘になるかもしれんが
 隊舎内はAMFCを展開してあるから,何とか対処できるはずだ。
 くれぐれも無理はするな。隊舎は放棄するから退避の掩護に専念しろ。
 通信は使えんから,報告は念話で」

「「了解!」」

2人が発令所を出たところで,俺は室内に声を張り上げる。

「発令所要員は全員退避。隊舎は放棄する。退避の指揮はロウラン准尉に。
 携帯用の通信機を持って退避しろ」
 
発令所の全員が返事をしたのを確認すると,隣に立つグリフィスに話しかける。

「グリフィス。他の隊と合流し次第地上本部のはやてと連絡を取れ。
 向こうもてんやわんやだろうから応援はいい。
 俺と副隊長2人のリミットリリースの許可を取り付けてくれ」

「わかりました。お気をつけて」

「お前もな!」

俺はそう言って発令所を出た。
シャマルのいる屋上に向かって走りながらシグナムとヴィータに念話を飛ばす。

[シグナム,ヴィータ,今どこだ?]

[私もヴィータも隊舎の上空だ]

[シャマルから敵の位置を聞いて対処してくれ]

[了解]

階段を駆け上がりながら,更にシンクレアにも呼び掛ける。

[シンクレア,今どこだ?]

[玄関前です。ガジェットと交戦中]

[了解。一人でやれそうか?]

[問題ないです。キツくなったら後退します]

[それでいい。聞いてのとおり隊舎は放棄だ。無理はするんじゃないぞ]

[了解]

目の前のドアを開け,屋上に飛び出すとひどい有様だった。
屋上ヘリポートのあたりは完全に崩壊し,下の階に瓦礫が散乱している。
俺は,シャマルを見つけると駆け寄った。

「シャマル。遅くなった」

「いいえ。状況は最悪よ」

俺はシャマルの開いたディスプレイを見て,唖然とした。

「飛行型ガジェット100以上に,ガジェット3型20以上,
 ガジェット1型50以上だと・・・。全部実体か?
 前みたいにフェイクも交じってるんじゃ・・・」

俺がそう言うと,シャマルは首を振る。

「もしそうだとしても,肉眼ですら区別できないのだから,
 実体と変わらないわ」
 
「シグナムとヴィータは?」

「今は飛行型の方に対処してもらってる」

「そうか・・・他には?」

「沖合に戦闘機人らしき反応か感じられたのだけど,今は探知範囲外ね。
 他にはないわ・・・待って!」
 
シャマルはディスプレイに目を走らせる。

「戦闘機人2体とアンノウン1体の反応ね。隊舎の山側に突然出現したわ」

「どこだ?」

俺が聞くと,シャマルがディスプレイを指さす。
そこは,寮と隊舎をつなぐ通路の山側にある草地だった。

「なんでこんなところに・・・」

その時,ザフィーラから念話が来た。

[ゲオルグ!聞こえるか!?]

[聞こえてる。どうした?]

[すまん。敵に囲まれた,援護を頼む。位置は連絡通路の山側の草地だ・・・]

そこでザフィーラからの念話は切れてしまった。

「・・・しまった!」

俺は悔しさのあまり唇をかみしめる。

「どうしたの?」

「さっき出現した敵の狙いはヴィヴィオだ!」

「え!?」

「行ってくる!」

俺はそう言うと,ザフィーラのいるであろう方向に向かって駆け出した。

隊舎の端まで来ると,下の様子を覗う。
人型になったザフィーラが倒れている近くで,茶髪の戦闘機人らしき女が
金色の何かを抱えているのが見えた。

俺は隊舎から飛び降りると,茶髪の女の目の前に着地した。

「あらぁん?」

俺は女の方を見た。
前の戦闘でなのはとフェイトが一戦交えた眼鏡の戦闘機人だった。
腕の中には泣きじゃくるヴィヴィオを抱えている。

「その子を渡してもらおうか」

俺がそう言うと,声で俺だと気付いたのかヴィヴィオがパパと叫び始める。
ヴィヴィオの声を聞き,レーベンを握る手に自然と力がこもる。

「そう言われてぇ,おとなしく渡すと思うのかしらぁん」

「そうかよ・・・」

俺がそう言って,レーベンを構えた瞬間だった。

ざくっ・・・という音が聞こえた。
どうも腹部に違和感を感じた。
そっと自分の腹部に目を遣ると,刃のようなものが俺の腹から突き出していた。
足を伝った血液が地面を赤く濡らしていく。

「パパっ!」

目を上げると,戦闘機人の腕の中に居るヴィヴィオが目を見開いて
狂ったように叫んでいた。

「ヴィヴィオ・・・」

俺はそう言って左手をヴィヴィオの方へ伸ばす。

「ルーお嬢様ぁ,ご助力ありがとうございますぅ。
 ではへ・い・か,参りましょうかぁ」

戦闘機人がそう言うと,俺を貫いていた刃が抜かれた。
とたんに傷口からは血が溢れてくる。
足に力が入らなくなった俺は膝から崩れ落ちた。
そのまま地面に倒れ伏し,俺の意識はそこで終わった。

 

 

第67話:死線


同日夕刻。
機動6課の隊舎を襲っていたガジェットの大群は少し前に突然退却した。
空中で戦い続けたシグナムとヴィータはさすがに疲労困憊の様子で,
隊舎の屋上に着地した。

「ひでぇな」

「ああ。これではここはもう使えまい」

中に侵入したガジェットによって蹂躙された隊舎の惨状を見て
ヴィータとシグナムは吐息をもらす。

「ゲオルグがいち早く隊舎放棄の決断をしていなければどれだけの犠牲が
 出たことか・・・」
 
「ああ。あいつのそういう決断の速さはこーゆーときに頼りになるよな」

「シグナム,ヴィータ。ゲオルグくんは?」

シャマルの問いに2人はそろって首を傾げる。

「見てねーぞ」

「ああ。私も見ていない」

「そうなの?どうしたのかしら・・・」

「ずっとシャマルといたんじゃねーのか?」

ヴィータが尋ねると,シャマルは首を横に振る。

「ザフィーラから応援要請があったらしくて,向こうに走って行ったきり
 全然姿が見えないのよ」

「は?何やってんだあいつ・・・」

「探してきてくれない?ヴィータ」

「わかった。ったくあいつも手間かけさせやがって・・・」

ヴィータはそう言うと,シャマルの指さした方へ飛ぶ。

隊舎の端まで来て下をのぞきこむと,何かが倒れているのが見えた。
片方はザフィーラだと見てすぐに判ったので,ヴィータはザフィーラの側に
飛び降りると,声をかける。

「ザフィーラ!おい!大丈夫か!?」

「私よりも・・・あいつを・・・」

そうやってザフィーラが指さす方を見ると,金髪の男が倒れているのが見えた。
ヴィータは男に駆け寄ると,絶句した。

「ゲオ・・・ル・・・グ・・・?」

そこには腹を何かに貫かれ,血を流しているゲオルグが倒れていた。

「お・・・おい。ゲオルグ!」

ヴィータがそう呼びかけると,ゲオルグは少し身じろぎした。

「ヴィヴィオが・・・」

「あ?何だ?ヴィヴィオがどうした!?」

「さら・・・われ・・・た・・・」

ゲオルグはそう言って,再び意識を失った。

「おい!ゲオルグ!しっかりしろ!!」

ヴィータはゲオルグをゆするが反応はない。
ヴィータの声に気づいたのか,シャマルがやってきた。

「・・・ゲオルグくん・・・ひどい・・・」

シャマルもゲオルグの惨状を見て絶句したが,すぐに応急処置に取りかかった。



同刻。
地上本部でもガジェットと戦闘機人による襲撃を受けたが,
無事これを撃退し,はやては胸をなでおろしていた。
隊舎との通信が途絶したのは心配だったが,地上本部にこれだけの戦力を
投入した以上,隊舎にそれ以上の攻撃があるとは考えていなかった。

『・・・隊長。八神部隊長,聞こえますか!』

「グリフィスくんか?聞こえるで」

『よかった,やっとつながりました。そちらは無事ですか?』

「被害なしっちゅうわけにはいかんかったけど,なんとかな。
 6課のメンバーも全員無事やで。そっちは?」

『こちらはかなり大規模な攻撃で隊舎は壊滅です。
 ゲオルグさんの素早い決断で非戦闘員の退避は迅速に行われたので
 今のところけが人は確認されていません』
 
「壊滅!?そこまでの被害が出たんか!」

『はい・・・すいませんちょっと待ってください』

グリフィスはそう言うと,向こうでの会話を始めたようだった。
微かに聞こえる声から察するにかなり慌てているようだから,
誰か重傷を負ったものが居るのかもしれない・・・はやてはそう考え
少し身構えた。

『はい,判りました。・・・八神部隊長!聞こえますか?』

「聞こえるで,何かあったんか?」

『落ち着いて聞いてください。シュミット副部隊長とザフィーラさんが
 敵との交戦で負傷しました。お2人とも意識不明の重体です』
 
「なんやて!?命に別条はないやろな?」

『それも含め現在情報を確認中です。それと,これも未確認なのですが・・・』

「なんや?さっさと言い!」

『すいません。ヴィヴィオちゃんがさらわれたと・・・
 ゲオルグさんが意識を失う前に言っていたらしいです』

「・・・それはほんまか?」

『すいません。情報が錯綜していて・・・』

「判った。はっきりし次第連絡して・・・」

『了解しました』

はやてはグリフィスとの通信を終えると,フォワードの4人やフェイト,
ギンガと話しているなのはを見た。はやては大きく息を吐くと,
全員に向かって言った。

「みんなちょっと聞いてくれるか・・・」



・・・同日,夜。

ゲオルグとザフィーラが収容された聖王医療院に機動6課前線メンバーの
姿があった。
ガラス窓で仕切られた向こうにある医療用ポッドではゲオルグの
治療が行われている。

はやては手のひらの上にある,待機状態のヤクトレーベンを見た。
先ほど,ヤクトレーベンの記録からゲオルグが負傷するに至った経緯を
確認していた。ヴィヴィオがさらわれたことも。

小さくため息をつき,はやては傍らに座るなのはを見た。
なのはは,ゲオルグが握り締めていた鎖のちぎれたネックレスを握りしめ,
茫然と座り込んでいた。

「ゲオルグさん,大丈夫なんでしょうか・・・」

エリオが不安そうに医療用ポッドを見つめる。

「医者の話では,助かるかどうかはゲオルグくん次第や。
傷はシャマルがほとんど治してくれたんやけど,
失血性ショックを起こしてたらしいから・・・」

なのはが肩を少し震わせた。

「なのはちゃん。私らは教会の方に行くな。なのはちゃんは隣にベッドを
 用意してもらったから,そこで寝たらええわ」

「・・・私も行く」

「なのは。無理はしない方が・・・」

フェイトの言葉になのはは首を振った。

「大丈夫だよ。ゲオルグくんはこんなことで死んだりしないよ。
 それより早くヴィヴィオを助けることを考えないと」

はやてはその言葉を聞いて,なのはの肩に手を置いた。

「なのはちゃん。そんな無理せんでええから。
 焦っても何も解決せえへんやろ?それに,ゲオルグくんが目覚めたとき
 一番に見たいんはなのはちゃんの顔やと思うから・・・。
 頼むからここにおってあげて。これはお願いや」

「はやてちゃん・・・」

なのははそう言うと,小さく頷いた。

「ありがとうな」

はやてはそう言ってなのはの肩から手を離し,なのはに背を向けた。

 

 

第68話:一夜明けて


目を開けると,目の前に白い天井が見えた。
周りを見回すと,壁も白く,寝かされているベッドもシーツも白い。

(病院・・・か?なんで?)

「ん・・・」

すぐ近くで声がしたのでそちらを見ると,俺の寝ているベッドに突っ伏して
眠っているなのはが見えた。

(なのは?何やってんだこいつ・・・)

俺は身を起こそうと力を入れたが,その瞬間痛みが走った。

「くっ・・・痛って・・・」

俺は身を起こすのを諦め,なのはに向かって手を伸ばす。
何とか顔に手が届いたので,頬を軽くつねる。

「ん?・・・なに?・・・」

俺に頬をつねられたなのはが目を覚まし,身を起こすと目が合った。

「ゲオルグ・・・くん?」

なのはは目を見開いてそう言った。

「なんだよ。俺が居たらそんなに不思議か?」

その瞬間なのはの両目から涙がこぼれおちる。

「・・・よかった・・・ゲオルグくん・・・ほんとに・・・よかった」

なのははベッドに横になっている俺に抱きつき,声を上げて泣き始めた。

「おいおい,どうしたんだよなのは・・・」

俺が声をかけるが,なのはは相変わらず泣き続けている。
俺は他に為すすべもなく,なのはの背中をゆっくりと撫で続けた。



しばらくして,ようやく泣きやんだなのはは,医者を呼びに行った。
一人になった病室で,俺は何があったのかを思い出そうとする。

「確か地上本部の公開意見陳述会があったんだよな,で・・・何だっけ?」

俺は何かないか探そうと周りを見回す。
すると,サイドテーブルの上に,小さな羽根の形の飾りがついたネックレスを
見つけた。
俺は手を伸ばしてそれを手に取ると,じっくりと見つめた。
鎖は引きちぎられて,羽根の形の飾りは赤く染まっていた。
その時,俺は激しい頭痛を感じうめき声を上げた。
目の前で泣き叫ぶヴィヴィオの姿と,自分の腹に刃が突き刺さる感覚が蘇った。

「・・・そっか。俺,守れなかったんだな」

一人そう呟くと,視界が滲んできた。

「ヴィヴィオ・・・」

「ゲオルグくん?」

医者を連れて戻ったなのはが,涙を流している俺に気づいて
駆け寄ってくる。

「どうしたの?ゲオルグくん。どこか痛いの?」

「・・・違う」

「じゃあなんで泣いてるの?」

「自分が情けないから・・・かな?」

「情けない・・・?」

「なのは,俺,お前との約束を守れなかったよ。ごめん」

俺がそう言うと,なのはは泣きそうな表情になった。

「ゲオルグくん・・・覚えてるんだね・・・」

「忘れるわけないよ。目の前でヴィヴィオが助けを求めてたのに・・・」

俺がそう言うと,なのはは俺を抱きしめた。

「ゲオルグくんは,命懸けでヴィヴィオを守ろうとしてくれた。
 ゲオルグくんはなにも悪くないよ」

なのははまた涙を流していた。

(ありがと,なのは。でも,俺は自分で自分を許せそうにないんだ)

「よければ診察したいのだが構わないですか?」

なのはの連れてきた医師がそう言うと,なのはは俺から身を離して涙を拭いた。

医師は,シーツをめくり,包帯を外すと俺の腹にある傷の様子を見てから,
もう一度包帯を巻きなおしてから,俺の顔を見つめた。

「傷の治りは順調・・・というより,予想より早いですね。
 さすがに鍛えているだけのことはある,といったところですか」

「どれくらいで治りますか?」

俺がそう聞くと,医師は眼鏡を指で持ち上げた。

「傷そのものはさほど重いものではありません。
 幸い内臓も外れていましたし,シャマル医師の初期治療もよかったですね。
 傷はもうほとんどふさがってます。痛みはもう少し続くでしょうがね。
 大量出血で命の危険はありましたが,もう大丈夫ですね。」

「そうですか。では退院は?」

「命の危険は無くなったとはいえ,体力も落ちてますから
 今からそういうことは考えずにゆっくり休養することですね」

「・・・判りました。ありがとうございます」

「いえ」

医師はそう言って病室を後にした。

「なのは,俺はどれくらい寝てた?」

俺がそう聞くと,なのはは真っ赤な目で俺を見た。

「え?丸1日くらいかな・・・今は夕方だよ」

「公開意見陳述会は昨日だよな」

そう尋ねると,なのははこくんと頷いた。

「なあ,昨日からずっとついててくれたのか?」

「え?うん。まあね」

「そっか,ありがとな。でも,もう大丈夫だ」

「え?」

「仕事に戻ってくれ」

「でも・・・」

「なのは,ヴィヴィオを助けるんだろ?」

「もちろんだよ!でも・・・ゲオルグくんだって私にとっては大切な人だし」

「俺ならもう大丈夫だよ。さっき先生も言ってたろ?もう命の危険はないって」

「うん・・・」

「でもヴィヴィオは今も危険な目にあってるかもしれない」

「うん・・・」

「ならどっちを優先すべきかは判るだろ?」

「でも・・・」

なのははそれでも決めかねているようだった。
俺は,なのはの背に手を回すと,俺の方に引き寄せた。

「ゲオルグくん!?」

「ヴィヴィオは俺達の大切な娘だろ。俺達の手で助けてやりたいじゃん。
 でも俺はまだ動けない。だからなのは,お前に動いてほしいんだ」
 
「ゲオルグくん・・・。うん,わかった。私,やるよ」

なのはが意を決したようにそう言った。

「頼んだよ,なのは」

「うん。じゃあ,行くね」

俺はなのはに向かって頷いた。
なのはも俺に向かって頷き返すと,俺の病室を出て行った。

「やれやれ,手のかかるやつ・・・」

俺は一人ぼっちになった病室で一人ごちた。

 

 

第69話:惰眠から覚めよ


夜になり,はやてが病室にやってきた。

「ゲオルグくん,目が覚めてよかったわ。気分はどないや?」

「最悪だよ。隊舎は守れず,ヴィヴィオも守れず,肝心な時に動けない」

「そこは,あんまり深刻に考えん方がええよ。
 いろんな記録から検証してるけど,ゲオルグくんは最善を尽くしてくれたと
 評価してるから」

「ありがと。でも,ヴィヴィオが泣き叫んでる顔が目に焼きついちゃってね」

「それは私は何もよう言わんよ。あんたら親子の問題やから」

「だな・・・。ところで,隊舎が無くなっちまったのはどうするんだ?」

俺がそう聞くと,はやてはにんまりと笑った。

「それについては解決済みや」

「どうやって?」

「廃艦になった次元航行艦を本部として使うことにしました」

「は?よくそんなの通ったな」

「そこは後見人の皆さんに感謝やね。私の力ではどうしようもなかったから」

「そっか。みんなは?元気にしてるか?」

「それなりやね。前線メンバーはゲオルグくんの負傷に少し動揺してるけど,
 よくやってくれてるわ。フェイトちゃんも捜査に全力であたってくれてる。
 ただ,ヴィータはちょっとな・・・」

はやてはそう言うと,少し俯いた。

「どうしたんだ?」

「怪我したゲオルグくんを最初に発見したんがヴィータやったんよ。
 で,あの子はなのはちゃんの事故んときも同じような経験してるやろ?
 それがかぶってるらしくてな・・・。元気がないねん」

「そうか・・・悪いことしたな」

そう言うとはやては慌てて手を振った。

「いやいや,別にゲオルグくんが悪いわけやないねんて。
 ただ,巡り合わせが悪いというか・・・な」

「ありがと。そう言ってくれると助かるよ。
 それで,これからどうするんだ?」
 
そう尋ねると,はやては渋い顔をした。

「ゲオルグくんなぁ,あんた死にかけたんやで。
 そういうことは気にせんとしっかり休み」

「・・・嫌だね。幸い傷も軽いし,さっさと復帰するよ」

俺がそう言うと,はやては深いため息をついた。

「ゲオルグくんがそう言いだしたら聞かんのは知ってるけど,
 今回ばっかりはあかんて。なのはちゃんの気持ちも少しはくんであげんと」

「わかってるよ。でもな・・・」

「全然判ってへんやん。判ってたらそこで”でも”はつかへんやろ。
 ・・・まあゲオルグくんの気持ちも判らんではないけど・・・」

「なら早めに復帰できるように計らってくれよ。頼む」

「・・・しゃあないな。歩けるようになったら事務作業には復帰してええよ。
 そやけど,前線には絶対出たらあかん。情報収集もなし。
 部隊運営の事務だけや。実戦でも後方での指揮だけ」

「判った。それで十分だよ。ありがとな,はやて」

「感謝なんていらんから,なのはちゃんに心配かけるようなことはせんといて」

「了解」

俺がそう言うと,はやては俺に背を向けて病室を出ようとした。
が,何かを思い出したようで振り返って戻ってきた。

「そうや。これを返しとこうと思ったんよ。」

そう言ってはやてが差しだしたのは,待機状態のレーベンだった。

「・・・ないないと思ってたら,はやてが持ってたのか」

レーベンを受け取りながらそう言うと,はやては肩をすくめた。

「どうせ今のゲオルグくんが持ってたって,何の役にも立てへんやん。
 それに,戦闘記録の解析もせなあかんかったし」
 
「はいはい。あ,そう言えばザフィーラは?」

「ここに入院してるけど,まだ目が覚めてへんねん。
 ゲオルグくんとは逆に,命の危険は無かってんけど,怪我が重うてな。
 ま,動けるようになったら顔だけでも見たって」

「そうか・・・わかった。必ず会いに行く」

「うん,そうしたって。ほんなら帰るわ」

「おう」



はやてが病室を出ると,俺はレーベンに話しかけた。

「レーベン」

《なんですか?》

「悪かったな。情けない持ち主で」

《まったくです。私を生かすことなくやられるなんて,マスター失格ですよ》

「・・・そうだな」

《マスター,いつもの調子が出ませんか?》

「そんなつもりはないよ」

《いいえ。普段のマスターなら”じゃあレーベンはマスターを
 守れなかったんだからデバイス失格だな”ぐらいのことは言いますから》
 
「・・・俺,そんなひどいこと言ってたんだな。悪い」

《マスター,私を失望させないでください。何をヘコんでるのか知りませんけど
 数々の修羅場を自らの能力と頭脳で乗り切ってきたマスターはどこに
 行ったんです?》
 
「俺はそんなに立派な人間じゃないよ」

《少なくとも,昨日までのマスターは今のマスターよりは立派でした》

「・・・それは自分を過大評価してたんだろ」

《どうやら,あなたは完全に腑抜けになったようですね》

「・・・なんだと?」

《そんなだからヴィヴィオも守れなかったんですよ》

「あ?黙って聞いてれば好きなことばっか言いやがって。
 お前に何が判る。目の前で助けを求めてる娘を守れず,
 むざむざ敵にさらわれて,ヘコむなっていう方が無理な話だろ」

《ヘコんでる暇があったら,自分に何ができるかしっかり考えなさい!
 いいですか?ヴィヴィオは,あなたの娘は今敵に捕らわれてどのような
 目にあわされているかも判らないんですよ。そんなときに父親のあなたが
 ただベッドに横たわって何もせずにいてどうするんです。
 満足に戦闘ができないなら他にやれることがないか考えないのですか?
 娘をさらわれたかわいそうな父親っていう悲劇の主人公になりきるのは
 結構ですが,それで何かが解決できますか?
 さっき,はやてさんにさっさと復帰するとうそぶいてましたけど,
 あれはただのポーズですか?そうじゃないでしょう》

「・・・言いたいことを言うね。でも,レーベンの言うとおりだな。
 俺は,自分で自分をかわいそうな奴だと思って自己憐憫に浸ってた。
 しかも,なのはに責任を全部押し付けて」

《ようやく目が覚めたようですね。おはようございます,マスター》

「まずは,さっさと動けるようにならないとな」

《ええ。まずはそこからです》

「そのためにはしっかり食って,しっかり寝ることだな」

《はい》

「じゃあお休み」

《はい,ゆっくりお休みください。今は》

「ああ。それとレーベン」

《なんでしょう》

「叱ってくれてありがとう」

《・・・どういたしまして》


 

 

第70話:剛毅さは無鉄砲の裏返し?


翌日,目を覚ました俺はベッドの上で身を起こした。

「まだ痛むか・・・」

昨日よりはましになったものの,まだ痛む体に顔を顰めると,
俺は,緩慢な動きで足を床につけた。
そのまま,徐々に足に体重をかけていきゆっくりとベッドから立ち上がる。

「なんだよ,立てるじゃん」

大量出血の影響なのか,少し頭がふらつくことと鈍い痛みがあることを
除けば,特段問題はないように感じた。
そのまま,ゆっくりと足を運び病室の窓に掛けられたカーテンを開けると,
朝日の光が目に差し込んできた。

「うげ・・・眩しっ・・・」

差し込む日の光に目を細め,窓の外の景色を眺めていると,
病室のドアを叩く音が聞こえた。

「どうぞ」

ドアの方を振り返りそう言うと,ドアが開いてなのはが現れた。

「おはよう,ゲオルグくん・・・何やってるの!?ゲオルグくん!!」

なのはは,窓の側に立つ俺を見ると慌てて駆け寄ってきた。

「ん?景色を見てたんだよ」

「そうじゃなくて,まだ寝てないと!」

なのははそう言って,俺の体を支えようとする。

「大丈夫だよ。ちょっと痛みはあるけどちゃんと歩ける。
 それより,なんでなのははこんなところにいるんだ?」

「なんでって・・・ゲオルグくんの様子を見に来たに決まってるじゃない」

なのはは心外そうな表情で俺を見上げてそう言った。

「そんな暇があるなら仕事しろよ・・・」

「それはちょっとひどいんじゃない?ゲオルグ」

声のした方を見ると,フェイトが立っていた。

「なのははゲオルグのことが本当に大切なんだよ。
 ゲオルグが眠っている間,なのはがどれだけ取り乱してたか・・・」

「いいよフェイトちゃん。ゲオルグくんの言ってることはわかるから。
 ごめんね,ゲオルグくん・・・」

なのははそう言って,病室を出ようとする。

「なのは,ちょっと待ってくれ」

俺はそう言うと,なのはに向かってゆっくりと歩いて近づくと,
俺の方を振り返ったなのはを抱きしめた。

「ゲオルグくん!?」

なのはが驚いた様子で俺を見上げる。俺はなのはの耳元に口を寄せた。

「冷たい言い方してごめんな。俺もなのはのことを大切に思ってる。
 でも,今はもっと優先しなきゃいけないことがあるだろ?」

俺がそう囁くと,なのはは俺の胸に顔をうずめて頷いたあと俺を見上げた。

「判ってるよ。でも,ゲオルグくんのことを心配させてよ。
 お仕事には支障がないようにはするから,ね?」

「俺はもう大丈夫だよ」

「それでも心配なんだよ」

「頑固な奴だな・・・」

「私が頑固なのはとっくに知ってたでしょ?」

「そうだな」

「ふふ・・・,じゃあ行くね」

俺がなのはの言葉に頷くと,なのはは病室を後にした。

「ゲオルグ,私がいるのを忘れてたでしょ」

フェイトが呆れたような表情でそう言った。

「いやいや,別に忘れてはいないよ。意識しないようにはしてたけど。
 ところでフェイト,頼みがあるんだけど」

俺がそう言うと,フェイトの顔は少し真剣な表情へと変わった。

「何かな?」

「俺を6課に連れて行ってくれ」

「何言ってるの?ゲオルグ。そんなこと無理に決まってるでしょ」

フェイトの声に怒気が混じっているのがはっきりと感じられた。

「昨日の夜に歩けるようになったら復帰していいってはやてと話したよ。
 だから,俺は復帰する。無理かどうかはフェイトが決めることじゃない」

俺がそう言うと,フェイトは首を横に振った。

「それでも,医者の診断を受けてからにして。
 今,足手まといに来られても迷惑だから」

「判った。医者の許可をもらえばいいんだな」

そう尋ねると,フェイトは頷いた。

「うん。また明日の朝来るから・・・」



フェイトが帰った後,主治医が回診に来た。
俺は,ベッドに腰掛けて医師を出迎える。

「体を起こせるようになりましたか,回復は順調のようですね」

「先生,俺はもう歩くこともできます。できれば明日にでも
 退院したいのですが・・・」

俺がそう言うと,医師は首を横に振った。

「それについては即答できかねますね。私個人の意見としては,
 あなたはまだ退院すべきではありません」

「ですが・・・」

医師は,俺の言葉を手で制する。

「判っています。騎士はやてからもあなたが歩ける程度まで回復したら
 退院を認めるよう頼まれていますので。
 ですが,本当に回復しているか確認するために,検査を受けていただきます」

「わかりました。お願いします」

「では,時間になりましたらお呼びしますのでお待ちください」



医師が病室を出ていった後,俺は病室を出て廊下を歩いていた。
ある病室の前で足を止めると,静かにドアを開けた。

「ザフィーラ・・・」

俺はベッドに横たわるザフィーラを見た。

「・・・ゲオルグか。すまんが,体が動かせんのだ」

「いいから,無理するなって。それより悪かったな,援護が遅れて」

「いや,私がお前の来るまで持ちこたえられなかったのが悪いのだ。
 お前が来るまで持ちこたえ,2人で敵に対すればこのような
 結果にはならなかっただろう」

「確かにそうかもしれない。が,今更そんなことを言っても何一つ
 問題は解決しないからな。ザフィーラも過ぎたことであまり気に病むより
 早く体を治すことを考えたほうがいいよ」

「・・・感謝する」

ザフィーラは俺から顔をそむけると,小さな声でそう言った。

「感謝するのは俺の方さ。そんなになるまで必死にヴィヴィオを守ろうと
 してくれてありがとう。じゃあ,俺は行くよ」
 
そう言って俺はザフィーラの病室を後にした。



自分の病室に戻った俺は,医師に呼び出され検査のために診察室へ向かった。
診察室のベッドに横たわった俺の身体の色々な部分を医師が触診していく。

医師の手が俺の腹に触れたところで,鈍い痛みが走った。
俺は極力平静を装おうとしたが,医師はしっかりと俺の顔を見ていた。

「・・・まだ,かなり痛むんですね?」

「そんなことはありません」

俺がそう言うと,医師は俺の腹に先ほどよりも少し強めに触れた。
痛みに俺は思わず息を漏らす。

「医者はだませませんよ・・・まったく,本来なら退院どころか
 院内を歩き回るのも禁止したいくらいなんですがね・・・」

医師はそう言ってため息をつくと,俺の顔を見つめた。

「シュミットさん。ご自分の身体のことですから御承知とは思いますが,
 本来ならあなたは歩けるような状態ではないはずです。
 今も,一歩歩くごとに痛みが走るのでしょう?」

俺は医師の言葉に小さく頷いた。

「そのような状態で見た目だけは平然と歩いているあなたの精神力には
 敬意を表しますが,医師としては称賛する気になれません。決して」

医師の厳しい視線に俺はつい目をそらしてしまう。

「とはいえ,騎士はやてには歩けるようになったら退院を認めるように
 とも言われてますからね。退院しても結構です」

医師の言葉に俺は安堵の息を漏らす。
が,医師はそんな俺を見て,大きなため息をついた。

「まったく・・・騎士はやての言うとおりですね・・・」

「はやては何と?」

「あなたは痛みがあろうが歩ける以上退院させろと言うはずだ。
 それを無理に入院させ続けたところで,あなたは脱走してもおかしくない。
 そんなことで迷惑をかけるわけにいかないので,身体の状況によらず,
 曲がりなりにでも歩けるまで回復したら退院させてくれと」

「・・・お見通しか」

医師は俺の呟きに小さく頷くと,真剣な表情で俺を見た。

「と,いうわけですので,明日の朝に退院して結構です。
 が,これだけは約束してください。
 絶対に前線に出ないこと。無暗に歩きまわらないこと。
 何か異常を感じたらすぐに医師に見せ,指示に従うこと。いいですね?」

医師の言葉に俺は大きく頷いた。

「前線に出たりしたら,長く後遺症に悩まされることも考えられますからね。
 あと,機動6課に戻ったら,隊のシャマル医師にこれを見せてください」

医師はそう言って,1枚の封筒を俺に差し出した。

「これは?」

「あなたの身体の状態を記載してあります。
 あと,痛み止め薬の処方指示も入れておきました。
 私にできることはこれで全部です」

医師はそう言って俺に背を向けた。

「先生。ありがとうございます」

俺は医師に向かって深く頭を下げると,診察室を出た。

 

 

第71話:副部隊長の帰還


・・・翌朝。

病室になのはを伴って現れたフェイトに,俺は一枚の紙を手渡した。

「何これ・・・え?退院許可証?」

「退院って・・・本当?フェイトちゃん!」

フェイトが茫然と俺の顔を見ながらなのはに紙を手渡すと
なのはは目を大きく見開いて,紙を見つめた。

「ホントだ・・・。ゲオルグくん,大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。きちんと歩けるし,大丈夫だから医者だって許可証を
 出したんだから」

俺がそう言うと,なのはは不安そうな顔でフェイトを見た。
フェイトは目を閉じてため息をつくと,俺の顔を見つめた。

「ねえ,ゲオルグ。本当に大丈夫だよね?」

「もちろんだよ」

俺はそう言うと,その場で何度がジャンプした。
身体には痛みが走るが,何とか顔には出さずに済んだ。

「ほらな?」

俺がそう言うと,フェイトはじっと俺の顔を見つめるとお手上げとばかりに
手を上げた。

「わかったよ,ゲオルグ。今の機動6課の本部に連れていくから,準備して」

フェイトがそう言うと,なのははフェイトを驚きの表情で見た。

「フェイトちゃん!?でも・・・」

フェイトはなのはを手で制した。

「医師の許可証があるんだからゲオルグは大丈夫ってことだよ。
 なのはが心配するのも判るけど,ゲオルグの退院をやめさせることは
 できないよ」

フェイトが肩をすくめてそう言うと,なのはは厳しい表情で俺の方を見た。

「ゲオルグくん。無理はダメだからね」

「判ってるよ。医者からも前線には絶対出るなって言われたしな。
 後方での指揮に専念するさ」
 
俺はなのはに向かってそう言うと,フェイトに向かって頷いた。



フェイトの車で転送ポートに向かい本局へと移動したあと,
フェイトの後について歩いて行った。
次元航行艦ドックの方に行くと,一隻の次元航行艦の前でフェイトの
足が止まった。

「これが今の機動6課の本部。アースラだよ」

振り向きざまにそう言ったフェイトは,なぜか自慢げに笑った。

「アースラねえ・・・。ん?そう言えばアースラってPT事件や闇の書事件で
 出動した艦じゃなかったか?」
 
俺がそう聞くと,フェイトは頷いた。

「そうだよ。だから,私やなのはやはやてにとっては思い出深い艦だね」

フェイトがそう言うと,なのはも頷いていた。

「なるほどね・・・。しかし大丈夫なのか?こんな老朽艦で・・・」

「それは大丈夫やって。すでに書類上は廃艦になってあとは解体待ちやったのを
 再整備したとはいえ,つい最近まで現役やったんやし」
 
声のした方を見ると,艦内からはやてが歩いてきた。
俺は,はやての方を向いて姿勢を正すと右手を上げて敬礼をした。

「八神艦長。シュミット3佐は負傷より回復し,本日より任務に復帰します。
 乗艦許可を」
 
俺がそう言うと,はやては真面目な顔をつくり返礼してきた。

「許可します。予測よりも早い復帰ですが無理をしないように。
 ようこそ,アースラへ」
 
そう言ったはやては俺に向かって笑いかけた。

「何やってるの?2人とも」

なのはが首を傾げながらそう聞く。

「こういうけじめはしっかりつけないとな」

手をおろした俺は,なのはに向かってそう言った。



アースラに乗艦した俺は,はやてについて艦長室に入った。
なのはやフェイトとは途中で別れたので,フォワード達のところにでも
行ったのだろう。

広い艦長室に入ると,はやてに言われるがまま,脇の方のソファーに腰かけた。
はやては俺の向かいに座ると,厳しい顔で俺を見つめた。

「やっぱり退院してきたか・・・。予想より早かったけどな。大丈夫なんか?」
 
「一応歩けるよ」

「それは見たから判る。痛みは?体力の低下は?」

「痛みは今も少しあるよ。体力は・・・落ちてるな」

「そっか・・・まあ無理せんことや」

「了解。で,状況は?」

そう聞くと,はやては腕組みをして背もたれにもたれかかった。

「進展なし。ユーノくんも必死で調べてくれてるみたいやけど,まだ有益な
 情報は見つかってないし,それはうちの捜査組もいっしょやね。
 ロッサもスカリエッティの足取りを掴んだとは聞いてへん」

「まあ,もう少し時間が必要ってことだな・・・」

「そやね。でも,あんまり悠長なことはしてられへんから,
 なんか突破口が欲しいんよ」
 
「そうだな・・・」

俺は目を閉じて考え込んだ。

「そうだ。もう一度最高評議会に潜入するのは?」

「却下や。そもそも潜入して何すんの?」

「ま,それもそうか。あんまり無理はするもんじゃないしね」

俺はそう言って,艦長室を後にした。



艦長室を出た俺は,シャマルのいるであろう医務室へと向かうことにした。
途中ですれ違う人に道を尋ねながら辿りつくと,ブザーを鳴らした。

「どうぞ」

シャマルの声が聞こえたところでドアを開けると,シャマルが机に向かって
何やら作業をしていた。

「シャマル。久しぶり・・・ってほどでもないか・・・」

俺が声をかけると,シャマルは驚いたようで少し慌てた様子でこちらを
振り返った。

「ゲオルグくんじゃない!どうしたの?まだ入院してると思ったけど」

「今朝退院したよ。それで,先生から預かってきたものがある」

俺はそう言ってシャマルに封筒を差し出した。
シャマルは中身を一読すると,俺の顔を見て大きなため息をついた。

「こんな状態で退院なんて・・・感心しないわね」

「はやてが先生にいろいろ言ってくれたらしいからな」

「何て?」

「曲りなりにも歩けるようになったらサッサと退院させないと,
 脱走して病院に迷惑をかけるから,退院させてくれだとさ」
 
俺が先生に聞いたはやての言葉を教えると,シャマルは声を上げて笑った。

「はやてちゃんにしっかりばれちゃってるわね。ゲオルグくんの性格」

「まあね。でもおかげで早く退院できた」

「だからと言って無理はだめよ。この手紙にもある痛み止めは処方するけど,
 決して身体が万全の状態になるわけじゃないんだからね。
 前線での戦闘なんてもってのほかよ。
 あと,何か不調を感じたらすぐに私に見せてね」
 
「了解。ま,無理はしないよ」

「ならいいけど・・・」

なおも心配そうな顔をするシャマルに向かって手を上げると,
俺は医務室を後にした。

 

 

第72話:聖王のゆりかご


翌日,はやてに呼び出された俺は艦長室に向かった。
途中,通路の交差点で出会いがしらに誰かとぶつかった。
女性の小さな悲鳴とともに衝撃を受けた俺は,痛みで床に屈みこんだ。

「ごめんなさい,大丈夫ですか・・・ってゲオルグくんじゃない」

声のする方を見上げると,なのはが心配そうな顔で俺を見ていた。

「大丈夫?傷が痛むの?」

「ちょっとね。でも大丈夫だよ。それよりごめんな,不注意で」

そう言うと,なのはは首を横に振った。

「ううん。私の方こそごめんね。立てる?」

なのははそう言って俺の方に手を差し出した。
俺はなのはの手を握ると,なのはの力を借りて立ち上がった。

「ありがとう,なのは」

「どういたしまして。ところでゲオルグくんはどこに行くところ?」

「艦長室だよ。はやてに呼び出されてね」

「そうなの?私もだよ。じゃあ一緒に行こうよ」

なのはの言葉に俺が頷くと,なのははにっこりとほほ笑んだ。
なのはと並んで艦長室に向かって歩いていると,なのはが話しかけてきた。

「ねえ,はやてちゃんの話って何かな?」

「さあね。たぶんこれからどうするかって話か,捜査に進展が
 あったかじゃないか?」

「そうだね・・・。いい話だといいんだけど・・・」

なのははそう言うと,少し暗い顔になった。

「何暗い顔してんだよ。元気出していこうよ!」

俺はヴィヴィオのことを考えているのであろうなのはを元気づけようと,
殊更明るい口調でそう言うと,なのはの背中をポンと叩いた。
だが,なのはは弱々しい笑みを浮かべるだけだった。



艦長室に入ると,はやてやフェイトとともに予想外の人物がいた。

「あ,ゲオルグになのは。しばらくぶりだね」

「ユーノ?何でこんなところにいるんだ?」

俺がそう聞くと,ユーノは肩をすくめた。

「忘れたの?依頼されてた聖王関係の調査で興味深いものが見つかったから
 教えてあげようと思ってわざわざ来たのに」

「そうなの!?ユーノくん!」

ユーノの言葉になのはが激しく反応した。

「なのは!ちょっと落ち着けよ。まずは座って話を聞こうよ」

俺がそう言ってなのはの肩を掴むと,なのはは弱々しく頷いた。

(なのは・・・ヴィヴィオのことで相当参ってるな・・・)

なのはの手を引いてソファーに座った俺は,はす向かいに座ったユーノの顔を
見つめた。

「で?どんな情報が見つかったんだよ。ユーノ」

俺がぶっきらぼうに聞くと,ユーノは真剣な顔に変わった。

「この前,調査を頼まれてから古代ベルカの兵器についての文献を
 中心に調査したんだけど,その中で飛びぬけて危険な兵器についての
 記述を見つけたんだ」
 
ユーノはそこで,一枚の図面をモニターに映し出した。
それは,乗り物のように見えたが,俺には何なのかは判別できなかった。

「これは何なん?」

「聖王のゆりかご,っていう古代ベルカ時代の戦艦だよ。
 文献によれば当時でもかなり危険視されてたみたいだね。
 この兵器は,このミッドの2つの月の魔力をエネルギーに転換して
 発射する武装と船体を守るバリアを張る能力がある」

ユーノの言葉に俺たちは一言も発することができず,息をのんだ。
俺がモニターに映るゆりかごの映像を見ていると,はやてが口を開いた。

「確かにこんなもんをスカリエッティが動かしたら管理局は崩壊やな・・・
 そやけど,これと聖王のクローンがどう関係すんねんな?」

はやてがユーノに向かってそう言うと,ユーノははやてに向かって頷いた。

「うん。実は,このゆりかごっていう兵器には玉座の間っていう部屋が
 あるんだけど,そこにある玉座にベルカ王族の血を引く者が座らないと
 稼働しないらしいんだよ」

「なるほど,それで聖王のクローンであるヴィヴィオが必要っちゅうわけか」

はやてが納得した様子でそう言うとユーノは頷いた。

「恐らくそういうことだね。ただ,ゆりかごの起動にはベルカ王族の血だけ
 では不足なんだよ」

「どういうこと?」

ユーノの言葉にフェイトが首を傾げながら尋ねる。

「これも文献によればなんだけど,ベルカ王族に特有の能力を発現することが
 ゆりかごの起動には必要みたいなんだよ」

「どんな能力なんや?」

はやての問いに対して,ユーノは首を振った。

「そこまでは書いてかなった。悪いね,これが精一杯だよ」

「ううん。めっちゃ助かったよ。ユーノくん,ありがとう」

「どういたしまして。役に立ててよかったよ」

ユーノはそう言って,にっこりとほほ笑んだ。



ユーノが帰ったあとの艦長室で俺達4人は,お茶をすすりながら
対策を話し合っていた。

「しかし,聖王のゆりかごか・・・。厄介なもんが出てきたな」

「でも,スカリエッティの狙いがこれと決まった訳じゃないんでしょ?」

フェイトの問いに対してはやては首を振る。

「そらそうやけど,これはありきで対策を考えとかんとあかんよ。
 ユーノくんのくれた資料によれば,こいつを軌道に上げてしもうたら
 私らには手も足も出ん。それこそ管理局の崩壊へ一直線や」

はやての言葉に全員が押し黙る。

「それにしても,この聖王のゆりかごってやつはどこにあるんだ?」

沈黙を破った俺の問いに対して,はやてが口を開いた。

「スカリエッティがこのミッドで暗躍しとる以上,ミッドのどこかっちゅうのは
 間違い無いんとちゃう?それ以上は知りようがないわ」
 
「じゃあどう対策を取るんだ?場所も判らないんじゃどうしようもないだろ」

「さすがにここまで話が大きくなった以上,もう私らだけの手には負えんよ。
 後見人の皆さんに話しをして,大規模な動員をかけるしかないわ」
 
はやてはそう言うと,大きなため息をつきながらソファーの背にもたれた。

「そっちは私の方でやっとくから,みんなにはこいつが実際に現れた時の
 対策を考えといて欲しいんよ」

「対策って,実際現れたら中に乗り込んで動力源を破壊して,
 ヴィヴィオを救出するしかないだろ。あとはどうやって乗り込むかだけど,
 それこそ戦力次第だな。今はできるだけ戦力を整えるだけだよ」

俺がそう言うと,フェイトが頷いた。

「そうだね。それよりゆりかごを起動される前にスカリエッティを確保するのが
 最優先課題だね」

フェイトの言葉にはやては頷いた。

「わかった。ほんなら私はできるだけ多くの部隊の協力が得られるように
 後見人の皆さんを通じてお願いしてみるわ。
 フェイトちゃんはこれまで通りスカリエッティの捜査に全力投入。
 ゲオルグくんとなのはちゃんは突入作戦の立案。頼むで」

「「「了解」」」

はやての言葉に俺とフェイトとなのはは返事を返すと,
ソファーから立ちあがって艦長室を後にした。
 

 

第73話:すべては勝つために


艦長室を出たところでフェイトやなのはと別れた俺は,
副長室に向かって歩いていた。
あと少しで副長室というところで,誰かに後ろから肩を叩かれた。
振り返って見ると,白衣を羽織ったステラさんが立っていた。

「何です?ステラさん」

「このアースラの装備増強について提案があるのだが聞くか?」

ステラさんは白衣のポケットに両手を突っ込んでそう言うと,
鋭い目つきで俺を見据えた。

「装備増強・・・ですか?武装強化とかそんな感じの?」

俺がそう聞くと,ステラさんは声を上げて笑った。

「そんな無粋なことを私がするわけがないだろう。
 私の提案は対ガジェット戦での魔導師の負担を減らせるものだ」
 
自慢げに胸を張りながら言うステラさんに,俺は心の中で小さくため息をつくと
ステラさんに向かって言葉をかけた。

「お聞きしましょう。が,アースラの装備に関わる以上部隊長であるはやてにも
 聞いてもらうべきでしょうね。艦長室に行きましょうか?」



ステラさんを伴って再び艦長室を訪れると,はやてが怪訝な顔を向けてきた。

「ゲオルグくんやないか。まだ何かあるんか・・・ってステラさんも一緒?」

「ステラさんがアースラの装備増強について提案があるって言うんで,
 はやてにも一緒に話を聞いてもらおうと思ってね。時間あるか?」
 
はやては俺の言葉に頷くと,ソファーに座るよう促した。
俺とはやてがステラさんと向かい合って座ると,ステラさんが口を開いた。

「私の提案は,隊舎に設置していたAMF/AMFC発生装置をこのアースラに移設する
 ことによって,アースラにAMF中和能力を与えるというものだ」
 
ステラさんの言葉を聞いて俺とはやては目を見合わせた。
すると,ステラさんはさらに話を続ける。

「これまでの戦闘記録を見ていると,ガジェットのAMFによって
 投入できる戦力が限られることで,戦術の選択肢が狭められているだろう。
 逆に言えばAMFさえなんとかなれば,多くの魔導師が戦闘に参加できることに
 なり,来るべき決戦においても多少は有利になろうと思ってな」

ステラさんはそう言うと,腕組みをしてソファの背にもたれかかった。

「確かに,AMFCが戦場全体に展開できれば戦術的に有利になるのは,
 この前の戦闘での交替部隊の働きぶりを見ても明らかですね。
 それにアースラに搭載できるのなら戦況の変化への対応もやりやすくなる。
 なので俺は賛成ですけど,いくつか聞いても構わないですか?」

少し考えてから俺がそう言うと,ステラさんは無言で頷いた。

「まずはエネルギー源ですね。隊舎に設置していたときは隊舎へ供給される
 電力によって装置が稼働してましたけど,アースラに搭載したら同じ方法では
 動かせませんよね。そこはどう解決を?」

「アースラの機関から直接エネルギーを供給して稼働できるように
 改造するつもりだ」

「機関に直結ってことは,アースラの機動力が損なわれるんじゃないですか?」

俺がそう聞くと,ステラさんはせせら笑う。

「お前は次元航行艦の機関がどれだけの出力を持っているのか判っているか?
 AMFCを前の戦闘での2倍の出力で展開したところで,定格出力の数%程度を
 使うに過ぎん。まして,アースラはミッドの上空を少々飛ぶ程度なのだろ?
 であれば,機動力の低下はおろか何ら影響はないだろうな」

「そうですか。であれば俺は反対しません。あとははやての判断だな」

俺はそう言ってはやての方を見た。
はやては腕組みをして目を閉じたままここまでの話を黙って聞いていた。
しばらくして,目を開け顔を上げると,はやては口を開いた。

「AMFCの有効距離はどれくらいになりますか?」

「装置の強化をしなければ半径1km圏内というところだな。
 時間があれば強化改造もできるが,残り時間は恐らくそう多くないだろう?」

「そうですね。あとは,搭載スペースがないと思うんですけど・・・」

「アルカンシェルを降ろしたのだろう?そこに置けばいい。
 ちょうど,エネルギー回路も来ているからな」
 
「なるほど。そんなら搭載に向けた課題は解決済みか簡単に解決するめどが
 すでに立っていると考えてええんですね?」

はやてが確認するように尋ねると,ステラさんは頷いた。
その様子を見て,はやては決意を込めたように小さくよしと呟くと,
ステラさんを見た。

「AMFC搭載の件は了承します。ステラさんはすぐに作業にかかってください。
 さっきステラさんも言われたように残された時間は決して多くないと
 考えられるので」

はやての言葉にステラさんは頷くと,ソファから立ち上がって艦長室を出た。
恐らく早速作業にかかるつもりなのだろう。
俺がステラさんを追っていた目を戻すと,はやてと目が合った。

「でや。ゲオルグくんはなのはちゃんとAMFCを前提とした作戦を考えといて。
 あと,なのはちゃんとかゲンヤさんのつながりで,航空隊と陸士部隊の一部
 部隊については力を借りられそうなんよ。でも,普通の魔導師やと
 AMFの対策ができてへんから前線に立たすんはキツいかなーと
 思ってたんやけど,AMFCが広範囲に展開できるめどが得られたからな」

「なるほどね。そのへんを生かした戦い方を考えろってことね」

そう尋ねると,はやては大きく頷くと,にっこりと笑った。

「理解が早くて助かるわ。頼むで!」



はやてとの話を終えて副長室に戻った俺は,なのは・シグナム・ヴィータの
3人を呼び集めて,ゆりかごへの対策を協議することにした。
フェイトにも声はかけたのだが,捜査が忙しく出席できないとのことだった。
3人が集まってきたところで,俺は話を始めた。

「忙しい時に集まってもらってすまないな。今日は,この先聖王のゆりかごが
 現れた場合の対応策について協議したい」
 
そう言うと,3人は神妙な顔つきで頷いた。
俺はそれを確認すると,俺の腹案から話すことにした。

「ゆりかごが動き出した場合だが,最大の目標はゆりかごを止めることになる。
 ユーノが調査してくれた結果によれば,ゆりかごの動力炉を破壊するか
 玉座の間のヴィヴィオを救出することでゆりかごの動きは止められるだろう
 ということだ。よって,戦術としてはゆりかご内部に2つ以上の部隊を
 侵入させて2つの目標を押えるのを基本とするべきだろうと考えてる」

俺は一旦そこで言葉を切ると,3人の方を見た。
3人はそれぞれの格好で考え込んでいたが,やがてシグナムが口を開いた。

「私としてはゲオルグの戦術方針に賛成だ。
 だが,目標とすべき動力炉と玉座の間の位置は把握できているのか?」
 
「これもユーノが見つけてくれた情報だが,ゆりかご建造時のものと思われる
 図面が見つかってる」
 
俺はそう言うと,モニターにゆりかごの図面を表示させる。

「これによれば,動力炉は最後部,玉座の間は前方だな」

俺がそう言うと,シグナムは顔をしかめる。

「真逆か・・・,厄介だな」

シグナムの言葉に俺は小さく頷く。

「ああ。だから,玉座の間を目指す部隊と,動力炉を目指す部隊の連携は
 不可能と考えた方がいい」
 
「侵入箇所も玉座組と動力炉組で分ける方がいいだろーな。
 中の状況がわかんねー以上,中を進む距離は短い方がいいだろ」

ヴィータはモニターに映るゆりかごの図面を睨みつけながら言った。

「そうだな。だが,そう都合のいい侵入口があるかっていう問題もある。
 図面によれば,なのはの砲撃でも外壁をぶち抜くのはちょっと難しそう
 だからな」

俺がそう言うと,なのはが俺の顔を見つめる。

「そうなの?じゃあ,どこから侵入するつもり?」

「ゆりかごの外壁各部には,搭載兵器の射出口がいくつかあるから,
 そこを侵入点に考えてる」

俺の言葉にヴィータがすぐさま反応する。

「ってーと,玉座組はこの辺で,動力炉組はこの辺か?」

ヴィータがモニターの図面を指差しながら尋ねて来るので俺は頷いた。

「ま,そんな感じだな。ただ,侵入点の候補はいくつか持っておきたい」

「理由は?」

シグナムが短く尋ねる。

「この図面には固定武装の配置が書かれてない。それに,侵入する時には
 敵側の苛烈な迎撃が予測されるからな。その場の状況に対応できるように,
 戦術選択の自由度はある程度確保しておきたいからだ」

そう言うとシグナムは理解したというように頷いた。

「じゃああとは,誰がどこに突入するかだね」

なのはがモニターを見つめながらそう言った。

「やっぱり,私たちとフォワードのみんなが突入かな?」

なのははそう言って俺の方を見た。
俺はなのはの言葉に対して首を横に振る。

「隊長・副隊長はともかく,フォワードの連中をゆりかごへの突入要員としては
 考えてないよ」
 
「え?なんで?」

なのはは俺の言葉に驚きながら首を傾げる。

「あいつらは飛べないからな。ヘリで輸送っていう手段も考えられるけど,
 飛行型ガジェットがブンブン飛び回る中をヘリでのんびり接近てのは
 どう考えても現実的じゃないからな。ゆりかごへの突入要員には
 飛行能力が絶対条件だよ」
 
「そっか,そうだね。でも,それだと隊長・副隊長の4人しか突入要員は
 確保できないよね。戦力不足じゃない?」

「それについては,さっきはやてから聞いたんだけど,他の航空部隊や
 陸士部隊の力を借りられるめどが立ったらしい。
 突入部隊については,空戦魔導師の中から選抜して,隊長・副隊長の誰かが
 指揮をとる形になる」
 
俺がそう言うと,なのはは大きく頷いた。

「そうなんだね・・・。さすがはやてちゃんだ。
 なら私は,玉座の間への突入部隊なの?」

なのはの言葉に俺は首を振る。

「いや,なのはには突入部隊に加わってもらうつもりはないよ」

俺がそう言うと,なのはが俺を鋭い目で睨みつけた。

「何で!?」

俺はなのはの方を見ると,小さく息を吐いた。

「それが原因だよ。なのは」

「それ・・・って,それじゃ判んないよ。わかるように説明して!」

なのははなおも俺に向かって食ってかかる。

「今からそんなに興奮してて,実際突入する時に冷静で居られるのか?」

俺の言葉になのはは少しひるんだようだった。

「・・・いられるよ」

「その言葉を信じろと?今も頭に血が上ってるのに?
 言っておくが,この作戦に次はないんだぞ。失敗は即世界の崩壊に
 つながるんだ。そこら辺をもうちょっと真剣に考えるべきだな」

「でも!」

なのはが俺に向かって反論しようとするのにシグナムが割って入った。

「2人ともそれくらいにしておけ。なのはは少し頭を冷やすべきだし,
 ゲオルグの言うことは正論だが,なのはの感情も考慮に入れるべきだ。
 いずれにせよ,拙速に結論を出すべきではないと思うが」

シグナムの言葉に俺もなのはも気勢を削がれてしまった。

「悪かったなのは。言い方が悪かったのは謝るよ」

「ううん。私の方こそ熱くなっちゃってごめん」

それからしばらく部屋の中を静寂が支配した。
気持ちを落ち着けた俺は,話題を先に進める。

「突入部隊の人選については,協力してくれる空戦魔導師の能力も見て
 決めることにしよう。それよりも,俺達の目標は,ゆりかごを
 止めることだけじゃないからな」

「どーゆーことだ?」

俺の言葉にヴィータが首を傾げる。

「敵の攻撃から市街地を防衛すること・・・だな」

シグナムの言葉に俺は首肯する。

「シグナムの言うとおりだよ。ゆりかごを止められたからと言って,
 それだけで俺達が守るべきものがすべて守れるわけじゃない。
 このミッドチルダに住むすべての人を守る責任が俺達には課せられてるんだ。
 それをおろそかにするわけにはいかない」
 
「ならばどうするのだ?」

「ガジェットとの地上戦については協力してくれる他の地上部隊に任せたい。
 あとは,戦闘機人が出張ってくる可能性が高いけど,これの迎撃については,
 うちのフォワードの連中をあてるつもりだ」

俺はそう言うと3人の顔を見た。それぞれに納得したようだった。

「じゃあ空は?」

「空も基本的には同じだ。ただし,空については突入部隊の道を開く
 仕事があるのと,戦闘機人への対応は突入部隊に加わらない隊長陣に
 やってもらう必要があるけどな」

なのはの問いに対してそう答えると,なのはは腕組みをして考え込んだ。

「空は突入部隊が突入した後はキツいかもね・・・」

なのはの言葉に俺は小さく頷く。

「俺もそう思うよ。だから,はやてに出てもらう必要があると思ってる」

「はやてちゃんに?」

なのははそう言って首を傾げる。

「そうだ。あいつの火力はガジェットを蹴散らすのには有効だからな。
 ガジェット戦が楽になれば,他の航空隊の連中を戦闘機人との戦闘に回せる
 からな」

「戦闘機人との戦闘をさせて大丈夫かな?」

「空戦魔導師には総じて能力が高い連中が多いからな。
 それでも1対1じゃキツいだろうけど,こっちには数の力もある。
 なんとかしてもらうさ」

俺がそう言うと,全員が頷いていた。

「じゃあ,今日のところはこんなもんだな。みんなお疲れさん」

 

 

第74話:ゲオルグとシュミット3佐


協議を終えて,俺以外の3人が立ち上がった時,俺はヴィータを呼びとめた。
シグナムとなのはが部屋を出ると,ヴィータが口を開いた。

「何だよ,ゲオルグ」

ヴィータはどこか不機嫌そうに俺を見ながらそう言った。

「この前の戦闘でさ,倒れてた俺を見つけてくれたのはヴィータ
 だったんだってな」

俺がそう言うと,ヴィータは苦々しげに俯いた。
ヴィータが何も言わないので,俺は話を続けることにする。

「ごめんな。迷惑かけちまったみたいで」

俺の言葉にヴィータはハッと顔を上げる。

「んなことねーよ!むしろゲオルグに怪我をさせちまうなんて,
 あたしの方があやまらないといけねーと思ってる」

「ヴィータはよくやってくれたよ。シグナムとの2人だけで,あれだけの
 ガジェットの攻勢を支えてくれたんだからな」
 
俺がそう言うと,ヴィータは首を振った。

「それでもあたしは・・・」

俺はヴィータの言葉を遮った。

「なあヴィータ。あの時俺が刺されることになっちまったのは
 俺自身に原因があると考えてる。ヴィヴィオを拉致されそうになって
 冷静さと慎重さを欠いたまま敵の前に飛び出したんだからな。
 怪我は言ってしまえば自業自得なんだよ」

ヴィータは俺を見る。

「そうかもしれねー。でも,あたしはあの時からなのはを守るって決めた。
 なのに,今度はゲオルグを守れなかった。だから,あたしは自分が許せねー」

「そっか。でも,自分が怪我をしたことでヴィータが気に病んでるのを見るのは
 俺はちょっと辛いかな。俺も局員として,魔導師として,納得して戦いに
 参加してるんだ。もちろんいざという時の覚悟はできてる。
 だからこそ,戦いの中で起きたことはすべて自己責任だと思ってる。
 ヴィータだって,自分が傷ついたときに俺がヴィータを守れなかったって
 ヘコんでたら,ちょっと辛いだろ?」

俺がそう言うと,ヴィータは少し考え込んでいた。
しばらくして,顔を上げたヴィータは晴れやかな顔をしていた。

「わかった!もう,グジグジ気にするのはやめにするよ。
 そんなのはあたしらしくねーからな」

「おう。やっぱりヴィータは元気じゃないとな」

ヴィータはソファーから立ちあがって部屋から出ようとした。
ドアの前まで来てヴィータは立ち止まった。

「・・・ありがとな。ゲオルグ」

「・・・それは俺のセリフだよ」

俺がヴィータの背中に向かってそう言うと,ヴィータは部屋から出て行った。



夜になり,俺はなのはの部屋の前に来ていた。
ブザーを鳴らすと中からなのはの声が聞こえた。
部屋に入ると,デスクで端末に向かっているなのはがいた。

「ゲオルグくん?どうしたの?」

「ちょっと,話をしないか?」

「いいけど・・・ちょっと待ってね」

なのははそう言うと,部屋に備え付けられている冷蔵庫からスポーツドリンクを
取りだすと,グラスについで俺に手渡した。

「ごめんね。こんなものしかなくて・・・」

俺は近くにあった椅子に腰かけ,なのはの言葉に首を振ると,
なのはの顔をじっと見つめた。
どう話そうか,しばらくそうして考えていると,なのはが目をそらした。

「どうしたの?ゲオルグくん。そんなに見られるとちょっと恥ずかしいよ」

そう言ったなのはの顔は心なしか赤く染まっているように見えた。

「悪い・・・どう話したらいいかなって考えてたんだよ」

「そうなんだ。何の話なの?」

「昼間に俺の部屋でシグナムやヴィータと集まって話を
 したときの話なんだけどさ・・・」

俺がそう言うと,なのはの表情がわずかに曇った。

「突入部隊に私が入るか?って話だよね・・・。どうしてもダメ?」

「正直言って,自分でもわかんないんだよ。
 個人としての俺はなのはに行ってもらいたいんだけどね。
 副部隊長としての俺はそれはダメだって言ってる」
 
「副部隊長としてのゲオルグくんはどうして私が玉座の間に突入するのが
 ダメだと思うの?」

「昼間も言ったろ?なのははヴィヴィオに対して特別な感情を持ってるから,
 冷静に作戦を遂行することが難しいと思ってるんだよ」

「そっか。そうかもしれないね・・・」

なのははそう言うとさみしそうに俯いた。

「どうしても行きたいっていうなのはの気持ちは判る。
 俺だって,身体がまともだったら,自分が突入することを選んでる」
 
「だったら!」

なのはが顔を上げて,俺に食ってかかろうとするのを手で制すると,
俺は天井を見上げた。

「笑ってくれていいんだけどさ,ゆりかごの中が実際どんな風になってるか
 なんて実際突っ込んでみないと判んないだろ?
 そう思ったら,なのはが帰ってこないんじゃないかって,怖くなった」

「そっか・・・」

なのははそう言うと俯いた。よく見ると,少し肩がふるえているように見えた。

「なのは・・・」

次の瞬間,なのはは突然立ち上がると,俺の顔を平手で打ちつけた。
その勢いで,俺は椅子から転げ落ちてしまう。
床に転がった衝撃で傷のあたりに痛みを覚えた俺は,なんとか声を上げまいと
耐えながら,なのはの顔を見上げた。
なのはは怒りの形相で俺を見下ろしていた。

「なんで!?なんでゲオルグくんは私を信じてくれないの?
 私ってそんなに信用できない!?」

「なのは・・・」

「ゲオルグくんの言ってることはわかるよ。私だって,逆の立場だったら
 ものすごく心配するし,きっと行ってほしくないって思うもん」
 
なのはは長い髪を振り乱しながら叫び続ける。

「でもね。私はたぶんゲオルグくんを止めない。だって,ヴィヴィオは
 私たちの大切な子供だもん。私たちが助けに行かないといけないんだよ!
 あの時,病院でゲオルグくんは私にそう言ってくれたよね!?」
 
そう言って俺を見つめるなのはに向かって,俺は何も言えなかった。

「それにさ。ゲオルグくんは私が帰ってこないんじゃないかって怖くなったって
 言ったよね?じゃあ,帰ってこないのが私以外ならいいの?
 フェイトちゃんやはやてちゃん,それにシグナムさんやヴィータちゃんなら
 いいの!?そんなの絶対おかしいよ!」

なのはの言葉に俺は鈍器で頭を殴られたかのような強烈な衝撃を受けた。
俺は床に手をついて立ち上がると,肩で息をしているなのはの前に立った。

「なのは・・・」

俺がそう言うと,なのはは怒り冷めやらぬと言った様子で俺を見上げていた。

「そうだよな。俺やなのはが助けに行かなきゃいけないんだよな。
 ヴィヴィオは俺達の娘だもんな・・・」

俺の言葉になのはは少し表情を和らげる。

「それに,俺はなのはを失いたくないばっかりに,フェイトやはやてなら
 危険にさらしても構わないって思ってた。みんな大切な友達なのにな・・・」

「ゲオルグくん・・・」

「ぜんぶなのはの言うとおりだよ。ゴメンな,こんなバカな俺で・・・」

俺はそう言うと,目の前のなのはを抱きしめた。

「あと,ありがと。なのはが居てくれなかったら,俺はとんでもない間違いを
 するところだった。ほんとに,なのはがいてくれてよかったよ・・・」

俺の腕の中で,なのはは俺の顔を見上げる。

「ほんとだよ。ゲオルグくんのばか」

「だな・・・。俺にはなのはがいないとダメみたいだ」

「・・・ばか」

なのははそう言って俺の胸に顔をうずめた。
俺はそんななのはの背中をゆっくりとなでた。
しばらく,そうしているとなのはが急に顔を上げた。

「でもね,私もゲオルグくんと同じだったんだよ」

「どういうこと?」

「さっきね,ゲオルグくんが私が帰ってこないじゃないかって怖くなったって
 言った時ね,嬉しかったんだ。ゲオルグくんがそんなふうに思ってくれてる
 ことが・・・」

「そっか」

「うん。でもね,そんな風に思った自分がちょっと許せなくって,
 あんなふうにゲオルグくんを叩いちゃった。ごめんね・・・」

なのはの言葉に俺は首を振る。

「いいんだよ。おかげで目が覚めた」

「そっか。ありがと」

「俺の方こそだよ」

俺はそう言うと,なのはの肩を握って身体を離すと,真剣な表情を作って
なのはの顔を見つめた。

「明日,はやてに玉座の間への突入部隊はなのはに指揮させるって上申する。
 でも,約束してくれないか?」
 
「なにを?」

「絶対,ヴィヴィオと2人で無事に帰ってくるって約束してくれ。
 じゃないと,俺はなのはが出撃するのを認めない」
 
「ゲオルグくん・・・」

「なのはだけでも,ヴィヴィオだけでもだめなんだよ。
 俺には2人ともが必要なんだ。これからもずっと,なのはとヴィヴィオと
 一緒に生きて行きたいんだ。だから,約束してくれ」

「・・・うん。絶対,ヴィヴィオを連れて戻ってくるよ」

「絶対だぞ。もし,なのはが戻ってこなかったら,俺が連れ戻しに行くからな」

俺がそう言うと,なのはは小声で笑った。

「じゃあ,ゲオルグくんに無理させないように絶対帰ってこないとね」

なのははそう言うと,右手の小指を差し出した。
俺はヴィヴィオと一緒に出かける約束をしたときのことを思い出し,
自分の右手の小指をそれに絡める。

「約束だからな」

最後にそう言うと,なのはは綺麗な笑顔で俺に向かって頷いた。

 

 

第75話:アースラ出撃


翌朝,目を覚ました俺は艦長室に向かった。
扉の前に立って、大きく一度深呼吸をすると扉の脇にあるパネルに手を伸ばす。
中からはやての返答があり、扉が開く。

「おはよう。こんなに早くからなんか用?」

「ああ。ちょっと長くなるかもしれないけどいいか?」

「かまへんよ。ほんなら座って」

「いいよ、このままで」

「ええから座り!ゲオルグくんはけが人やねんで!」

眉を吊り上げて有無を言わせぬ口調で言うはやてには勝てず、
ソファに腰掛ける。

「ほんで何なん?今日はアースラをミッドに移動させるんやから忙しいんやで」

「ゆりかごが出現した場合の作戦について話しに来た」

俺がそう言うと、はやては驚いた表情を見せた。

「早っ!昨日お願いしたとこやんか。もう作戦立案完了かいな・・・」

「いやいや、期待にお応えできずに申し訳ないんだけど、
 ゆりかごへの突入メンバーの選定と突入ルートについて決めただけ」
 
「なんや・・・それだけ?」

はやてが不満そうな顔を見せる。

「まあ昨日の今日だからな。とりあえず、そこだけでもはやての認可を
 取り付けておこうと思って」

「ふーん。ま、ええわ。それで?」

俺はディスプレイにユーノが見つけてきたゆりかごの図面を映す。

「まず押さえるべきは、玉座の間と動力炉だ。この2つのどちらかを押さえる
 ことができれば、ゆりかごは停止すると考えられる。
 なので、この2か所を制圧するための要員を送り込む」

そう言って、ゆりかごの図面の玉座の間と動力炉の位置に赤い点をつける。
それを見たはやては即座に顔をしかめた。

「って、めっちゃ離れてるやん。2チーム入れるってこと?」

「そうだ。玉座の間と動力炉、それぞれにチームを送り込む」

「で?そのメンバーは?それが今日の主題やろ」

「それぞれのチームは6課の隊長・副隊長クラスを指揮官にして、
 協力してもらえる航空隊の選抜メンバーによって構成する。
 選抜については作戦に参加する航空魔導師のリストを
 見てからになるけど・・・」

「作戦に協力してくれる部隊と隊員のリストは今日中には上がってくるはずや」

「了解。なら突入メンバーの選抜は突入チームの指揮官に任せるとして
 その指揮官の人選なんだけどな・・・」
 
「うん?どないしたん?」

最後の最後になって言い淀んだ俺に、はやては首を傾げる。
本当にそれでいいのか?その迷いが俺にその続きを言うことをためらわせる。

(クソっ。俺は覚悟決めたんじゃねえのかよ。しっかりしろよ!)

俺は自分の太ももに拳を振り降ろすと、はやてを見る。

「ホンマにどないしたん?エライ怖い顔してるけど」

はやての言葉に首を振る。

「いや、なんでもない。で、突入チームの指揮官だけど、
 玉座の間のチームはなのは、動力炉のチームはヴィータに指揮させたい」

「理由を聞いてもええ?」

「まず動力炉チームだが、動力炉の破壊が最終任務である以上、
 強力な物理的打撃力が必要になる可能性が高い。
 だからヴィータを選んだ」

俺がそう言うとはやては納得したように頷く。

「うん。それは納得。じゃあ玉座チームは?」

「・・・隊長・副隊長陣の中で最も対人戦闘における能力が高いからだ」

「ふーん。フェイトちゃんでもええと思うけど・・・」

「あとは、本人の強い希望だな」

「・・・そっちがメインやろ」

はやてはそう言ってため息をつきながら呆れたような表情で俺を見る。

「・・・そんなことはない。用兵家としての冷静な判断だ」

そう言った後、はやては俺の顔をじっと見た。
俺もはやての目を見つめ続けた。
しばらくして、はやては目を閉じると大きく息を吐く。

「ま、ええわ。なのはちゃんやったらうまくやってくれるやろ。
 で?突入ルートは?」
 
「ゆりかごの外壁には搭載兵器の射出口がある。そのうち、玉座の間と動力炉に
 近い数か所ずつを侵入点に考えてる。それぞれの侵入点から目標地点までの
 ルートもすでに選定した」

俺はそう言って、ディスプレイ上の図面に侵入箇所を表す数個の青い点と
侵攻ルートを示す青い線を表示させる。
それをはやては真剣な表情で見つめていた。

「最短ルートか・・・。まあ、ゆりかご内部の状況が判らへん以上
 中を通る距離は短いほうがええからね。まあ、ええんちゃう」

「了解。ならゆりかごへの突入に関してはこれで進めるよ」

「うん。そやけど、シグナムとフェイトちゃんは?」

「2人とはやてにはゆりかごの外を頼みたい」

「私も?」

はやては不思議そうに俺の顔を見る。

「いざゆりかごが動き出したら、向こうとしちゃ当然俺らに侵入されるのを
 防ごうとするだろ。ガジェットは大量に出てくるだろうし、
 戦闘機人だって出てくるだろう。そうなったとき、ガジェットを一撃で
 大量に蹴散らせるはやての火力は魅力だ」

「アースラの指揮は?」

「俺がとるさ。どうせ俺は現場には出れないんだ。
 現場の指揮をはやてに取ってもらうほうがいいだろ」

俺がそう言うと、はやては少し考えた後俺の顔を見て頷いた。

「ええよ。ま、当然の用兵策やもんね。そんときはアースラは任せるわ」

「了解」

「あとはスバルたちはどうすんの?」

「あいつらは地上で戦闘機人との戦闘にあてるつもりだ」

俺の言葉にはやては厳しい表情をする。

「大丈夫やろか?」

「なのはやフェイトとも話したけど、反対はされなかったぞ」

「判った。あの2人がええんやったらええんよ。話は以上?」

「ああ」

俺が頷くと、はやては立ち上がった。
それに合わせて俺も立ち上がり、はやてに背を向ける。

「なあ、ゲオルグくん」

はやてに呼びとめられて振り返ると、はやては真剣な顔で俺の顔を見ていた。

「なんだよ」

「自分で言うたからにはアースラの面倒は最後まで見てや。
 途中でグリフィスくんとかに押し付けるんは無しやで。
 私の言うてる意味、判ってるよね」

「前線には出るなって言ってるんだろ。判ってるよ」

俺がそう言うとはやては満足したように笑みを浮かべた。

「わかっとんのやったらええんよ。ほんならね」



艦長室を出た俺はそのまま艦橋へと向かった。
このアースラをミッド上空に転移させる作業に立ち会うためだが、
実際のところ俺になにか役割があるわけでもない。
実作業はすべてロングアーチの優秀なオペレータ達がやるのだから。
いまは主のいない艦長席の傍らに立つ俺はただの傍観者にすぎなかった。

やがて、艦橋にはやてが現れ俺のそばを通って艦長席に座る。

「転送準備の進捗は?」

はやてが俺の方を見て尋ねる。
俺は手元の端末の情報に目を走らせる。

「機関は始動済み、転送座標の算出も終了。
 あとは、転送先の安全確保が完了すればいつでも転送可能です」
 
「ほんならとりあえずドックから出そか」

「アイ、マム」

俺ははやての方に向けていた身体を正面に向ける。

「出航準備。全ハッチ閉鎖、係留装置解除!」

俺の指示に何人かのオペレータが復唱する。
出航準備の作業が進んでいるなか、はやてが小声で話しかけてくる。

「何?”アイ、マム”って」

「任官した時に配属された次元航行艦の副長が言っててさ、
 一度真似してみたかったんだ」

俺が目線を正面に向けたまま小声で答えると、はやての方からくくっという
抑えた笑い声が聞こえてくる。
思わず俺ははやての方に目を向ける。

「なんだよ・・・」

「いや・・・ゲオルグくんも意外とかわいらしいところあるんやなと思って」

はやては笑いを押し殺しながらそう言った。

やがて、すべてのハッチが閉鎖され、アースラをドックにつなぎとめていた
ロックボルトが外れたことをオペレータ達が報告してくる。
俺は手元の端末でもそれを確認し、はやての方に向き直る。

「艦長。全ハッチ閉鎖完了。全係留装置も解除完了しました。
 出航準備完了です」
 
「了解。アースラ発進!」

はやての掛け声とともに、操舵手を務めるルキノが機関の出力をわずかに上げ
アースラはゆっくりと前進する。
そのまま、船体が完全にドックを離れるまで進むと、アースラは徐々に
スピードを上げていく。
本局の港湾区画を出ると、ミッドへの転送準備に入った。
転送準備が整ったとの報告を受けるとはやては、艦橋をぐるりと見回した。

「よっしゃ、アースラ転送開始!」

はやての命令を受けて、担当のオペレータが転送を開始すると
真っ暗だった外の景色は真っ白に輝いていく。
やがて、その輝きが収まってくるとそこには見慣れたミッドチルダの
青い空が見えた。

「転送完了です。船体・周囲ともに問題ありません」

オペレータの報告にはやてはふぅっと大きく息をつく。
そして、6課の隊舎があった区域に向かうように指示を出すと、
席を立って艦橋を出て行った。

「ゲオルグさん。ここは僕が見てますからゲオルグさんも副長室に戻られては
 いかがですか?ずっと立ちっぱなしですよね・・・」

グリフィスが下から俺を見上げてそう言った。

「いや・・・」

そうはいかない、と続けようとして俺は言い淀む。
確かに立ち続けで身体のあちこちに鋭い痛みを感じていた。
俺はグリフィスの言葉に甘えることにして艦橋を出ると、副長室に戻った。

 

 

第76話:ロンゲスト・デイ


数日して、すでにはやてをはじめとして6課の全員と、協力を申し出てくれた
部隊には説明を終えた、対ゆりかご作戦案を眺めていると端末が呼び出し音を
鳴らした。ボタンを押すと、差し迫った表情のはやてのが画面に現れる。

「ゲオルグくん!今すぐ艦橋に来て!」

「あ?何かあったのか?」

「ええから早く来て!直接説明するから」

はやてはそう言うと通信を切ってしまった。
俺は小さくため息をつくと、副長室を出て足早に艦橋へと向かった。
艦橋に入るとすぐに、異様な空気に包まれていることに気がついた。
はやての周りにはフォワード部隊の隊長・副隊長が全員集合しており、
全員が深刻そうな表情を浮かべている。

「どうしたんだ?そんな深刻そうな顔を並べて」

軽い調子でそう言うと、俺はその場にいる全員からギロリと睨まれてしまった。

「チャラけてる場合やないねん。今、ロッサから連絡が入ったんやけど、
 スカリエッティの隠れ家を見つけたみたいや」

「な!?マジか?」

さすがにあっけにとられた俺に向かってその場の全員が真剣な表情で頷く。

「場所は?」

「ミッドチルダ東部の森林地帯。洞窟の周囲に警戒センサーが設置されとって
 不自然に思ったロッサが接近したらガジェットに迎撃されたって。
 今もシャッハと一緒に戦闘中や」

「・・・よく見つけたな。さすがは査察部ってとこか」

「ま、そうやね。で、すぐにフェイトちゃんには現地に飛んでもらう」

「了解。でも、大丈夫か?フェイト一人で」

「判らん。でも、いつゆりかごが動き出すか判らん状況ではそれ以上に
 出せんって」

苦虫をかみつぶしたような表情ではやては言う。

「大丈夫だよ、ゲオルグ。ヴェロッサさんやシスターシャッハもいるんだし」

「馬鹿かお前!相手はスカリエッティだぞ」

フェイトに向かって怒鳴りつけると、はやてが厳しい目を向けてくる。

「ならどうすんの?ゲオルグくんの案は?」

「・・・シンクレアを連れてけ」

「シンクレアくん?そやけど、対ゆりかご戦で・・・・」

「あいつは員数外。予備戦力としてしか考えてなかったから問題ない」

はやては俺の提案を聞き、目を閉じて一瞬考えるとすぐに目を開いて
フェイトを見た。

「フェイトちゃん。ゲオルグくんの言うとおりシンクレアくんも連れてって。
 相手が相手やし、警戒して悪いことはないやろ」

「うん。じゃあゲオルグ、シンクレアを借りて行くね」

「ああ。それとフェイト」

「うん?」

「・・・必ず生きて戻れよ」

フェイトは一瞬笑顔を見せかけたが、俺の剣幕に普段と異なるものを感じたのか
真剣な表情で俺を見た。

「うん。必ず」

そう言って艦橋を出たフェイトを見送ると、俺たちは艦長席の周りで
お互いの顔を見合わせた。

「さ。これで向こうさんがどう出てくるかやね」

「このままスカリエッティが捕まってくれればいいんだけど・・・」

なのはが不安そうな表情でついさっきフェイトが出て行った扉を見つめる。

「そんな、甘い考えは早めに捨てておくべきだぞ、なのは」

シグナムがなのはに向かって厳しい言葉を投げかける。

「おい、シグナム・・・」

ヴィータがシグナムをたしなめようとするが、なのははそれを手で制した。

「ううん。いいの、ヴィータちゃん。ありがと、シグナムさん」

なのははそう言ってシグナムに向かって笑いかける。

「だが、これで一気に情勢は流動的になったな。すぐにも
 スカリエッティがゆりかごを動かす可能性もある」

俺がそう言うとはやてが肩をすくめて口を開く。

「そんなんは今までかて変わらへんかったやん。どうあれ、私らのやることは
 一緒や。ゆりかごを止めて、スカリエッティ一味を全員検挙。それだけや」

はやての言葉にその場にいた全員が頷いたとき、艦橋にアルトの声が響いた。

「部隊長!ミッドチルダ東部の森林地帯に巨大なエネルギー反応です!」

「映像をスクリーンに出して!」

はやての指示に応じて艦橋正面の大きなスクリーンに木々に覆われた大地が
映し出される。

「なんもねーな」

ヴィータがそう言った瞬間、スクリーンの中の木々が不意に次々と倒れ、
地面が盛り上がりはじめた。
盛り上がりはみるみるうちに広がっていき、やがてその中から
紫色をした巨大な物体が姿を現す。

「あれが・・・ゆりかご」

「で、でけー・・・」

なのはとヴィータが唖然とした表情でスクリーンの中の巨大な宇宙船を
見つめながら呟く。

「ちっ・・・向こうさんもなかなか打つ手が早いな」

「ゲオルグくん。感心してる場合やないやろ!
 なのはちゃんもヴィータも、ゆりかごのデータは事前に見てるんやから
 ボーっとせんと!
 ゆりかごが現れたんやからこっちも迅速に動かな!」

はやての叱咤する声に全員が我に返り、対ゆりかご作戦を実行に移すべく
動き始めようとする。
が、そのとき再びアルトの声が艦橋内に大きく響いた。

「待ってください!ゆりかごから通信が送られています。どうしますか?」

「スクリーンに出して」

はやてがそう言うやいなや、スクリーンに眼鏡をかけた女が大写しになる。

「こいつは・・・」

俺は、頭に血が上りはじめるのを感じ、ギュッと両手を握りしめる。

『時空管理局のみなさぁん。ご機嫌いかがかしらぁん』

女の甘ったるいしゃべりが俺の神経を逆なでする。

『今からドクターと私たちの夢のはじまりを見せて差し上げるわぁん。
 そ・し・て、こちらがその要ですぅ』
 
その時、スクリーンの映像が切り替わり、俺にとって見慣れた少女の姿が
映し出される。だがその四肢は大きな椅子に固定され、左右で色の違う瞳には
恐怖が浮かんでいた。

『怖いよ・・・ママ・・・パパ・・・。いやぁぁぁぁぁ!』

次の瞬間、映像は終わりスクリーンは闇に包まれた。

「ヴィヴィオ・・・」

声のする方に目を向けると、なのはが待機状態のレイジングハートを握りしめ
目を見開いて何も映していないスクリーンを見つめていた。

「なのは・・・」

俺が肩に手を置いて声をかけると、なのははゆっくりとこちらを向いた。

「ゲオルグくん・・・ヴィヴィオが!」

「ああ、そうだな。だからなんだ?お前がこれから助けに行くんだろ」

感情を押し殺してそう言うと、なのはの目に光が戻る。

「・・・・・・うん!」

そのとき、アルトが悲鳴のような声を上げる。

「廃棄都市区域に複数の戦闘機人の反応です。
 クラナガン市街から至近に多数のガジェット出現。
 ゆりかご周辺にも多数のガジェット反応。
 他に、数か所で多数のガジェットが出現しています!部隊長!」

「さ、ここからは一秒も無駄にできひんよ!
 文字通り世界の命運はこの一戦にかかってるんやからね!
 みんな、全力で行くで!」

はやての言葉に応じてなのはをはじめとする全員が艦橋を出る。
俺はそれを見送ると、正面のスクリーンに映し出された戦況に目を向けた。

「ゲオルグくん、私も行くわ。あとこれ・・・貼っとき」

はやてはそう言って俺に一枚の絆創膏を差し出す。
受け取ろうとした手から、血がぽたりぽたりと落ちていた。
見ると、爪が手の皮膚を突き破ったのか手のひらから血が溢れていた。

「ありがとうな、はやて。あと・・・気をつけて」

「うん。ほんならね」

はやては最後に笑顔を見せて艦橋を出て行った。

俺ははやてから受け取った絆創膏を貼ると、艦長席に座り目を閉じた。
大きく一度深呼吸をして目を開く。

「アースラ前進!ゆりかごから500m圏内につけろ!
 シャーリー!AMFC発生装置は問題ないな!」
 
「はい!いつでも起動できます!」

「よし!AMFC出力全開!」

「了解!」

シャーリーが操作すると同時に、スクリーンに映ったアースラを中心とする
半径1kmの円が描かれる。これが、AMFCの有効範囲というわけだ。

「副部隊長!第218・335両航空隊から出撃準備完了との連絡です」

「わかった。218はゆりかご後方、335はゆりかご前方に誘導してやれ。
 あと、AMFC有効圏内から絶対出るなと伝えろ」

「了解しました」

アルトが航空隊との通信連絡を取っている間に他のオペレータからも
報告が入る。

「陸士108部隊のナカジマ3佐から通信です」

「繋げ」

手元のスクリーンにナカジマ3佐の顔が映し出される。

『ん?八神はどうした?』

「出撃しました。今は俺がアースラの指揮を」

『そうか。うちはいつでも出られるぞ。誘導してくれ』

「了解です。クラナガンの港湾地区に地上型ガジェットの集団が出現してます。
 これを抑えてください」
 
『了解した。また連絡する』

「待ってください。クラナガン港湾地区はアースラのAMFC
 有効圏外なんです。なのでくれぐれも無理はなさらないでください」

『判った。まあ、心配するな。じゃあな』

ナカジマ3佐との通信を終え、俺は艦長席の背もたれに身を預けると、
戦況を示す正面のスクリーンを睨みつけた。
戦いはまだ始まったばかりだ・・・。


 

 

第77話:激戦


「副部隊長!スターズFおよびライトニングFが戦闘機人と接敵!
 戦闘を開始しました!」

「副部隊長!陸士108部隊が港湾地区のガジェットと接敵しました!」

「副部隊長!218・335両航空隊が戦闘状態に入りました!」

矢継ぎ早に上がってくる報告に、俺の頭はフル回転を始める。

「スターズとライトニングにはギンガもついてる。とりあえずは
 モニタリングだけで十分だ。陸士108部隊と両航空隊には
 適宜ガジェットの接近情報を流してやれ。今はそれで十分だ。
 それより、突入部隊はどうなった!?」
 
「高町隊・ヴィータ隊ともにガジェットに阻まれてゆりかごに
 接近できていません」

「両航空隊に突入部隊の援護を優先させられるか?」

「難しいですね。両隊ともいまは目前の戦闘に対応するので手いっぱいです」

「了解だ。突入部隊にはあまり前線に出張らないように伝えとけ」

そのとき、背後で扉の開く音がしてコツコツという足音が聞こえた。

「まったく、騒々しくておちおち寝てもいられん」

見るとぼさぼさの頭でよれよれの白衣を羽織ったステラさんが
頭を掻きながら、不機嫌そうに俺を見ていた。

「すいません。無理をさせてしまって・・・」

ここ数日、ステラさんにはアースラへのAMFC発生装置搭載と
突入部隊に参加する航空隊員分の携帯用AMFC発生装置の製作で
連日ほぼ徹夜で作業にあたってもらっていた。
それらの作業が今朝終わって、文字通り泥のように眠っていたところで
この戦闘が始まって起こされたのだ。不機嫌にもなろうというものだろう。

「ならこの騒ぎをさっさと終わらせろ。この馬鹿が」

「さっさと終わらせるつもりです。ま、どちらにしろ後2時間半の辛抱ですよ」

ゆりかごは地上に姿を現して以降順調に上昇を続けていて、
今のペースでいけば軌道への到達までは後4時間。
生身の航空魔導師が戦闘を継続できる上限高度までは後2時間半しか
残されていない。
そこまでに突入部隊がゆりかごを止められなければジ・エンドというわけだ。

『ロングアーチ00から各局。これより広域殲滅魔法を使用します。
 指定空域からただちに退避を!』

はやての声で通信が入ると同時に、スクリーンの作戦図に赤い斜線のついた
領域が表示される。
ちょうど、ゆりかごの進行方向から見て11時方向にある飛行型ガジェットが
集中している空域だった。

「念のため335航空隊には重ねて退避勧告を」

「了解!」

その時、アースラの船体が小刻みに揺れた。
スクリーンを見ると、アースラの周辺に飛行型ガジェットが20機ほど
飛んでいるのが見えた。
作戦計画では、アースラがゆりかごに接近してAMFCを展開することにより、
対ガジェット戦を有利に運ぶことになっていた。
それゆえ、アースラがガジェットに攻撃されることは十分計算に入っていた。
だが、事前に想定していようが実際に攻撃されるとさすがに死の恐怖を
間近に感じるのか、艦橋内にも動揺がさざ波のように広がる。

「落ち着け!このアースラの装甲はガジェットの攻撃で破られるほど
 ヤワじゃない!」

俺がそう言うと、艦橋内の動揺は収まったようだった。
それを確認すると、俺はアルトのそばによって小声で話しかける。

「アルト。想定よりもアースラへの攻撃が激しい。両航空隊にアースラの直掩に
 人を回せないか確認してくれ。あと、ガジェットの侵入に備えて
 艦内各所の隔壁はいつでも閉鎖できるように準備を」

俺の言葉にアルトは小さく頷いて作業を始めた。
艦長席に戻った俺にステラさんが小さな声で話しかけてくる。

「大丈夫なのか?」

「それは俺が聞きたいんですけどね。ガジェットの砲撃ではアースラの装甲を
 破れないっていったのはステラさんですよね」

「それはそうだが・・・」

「なら、安心して自分の部屋にいて下さい。こんなことは言いたくないですが
 今ここにいられては邪魔です」

「・・・判った。邪魔して悪かったな・・・」

そう言ってステラさんは艦橋を出て行った。
少し言いすぎたかと思うところもあったが、今はそんなことに構っていられる
状況でもない。気を取り直して、正面のスクリーンに目を向ける。
ちょうど、はやての広域殲滅魔法が炸裂したところで、大量のガジェットが
破壊されて一瞬の空白をゆりかごの前方左舷の領域に作り出していた。
俺は、なのはに通信をつなぐ。

「なのは!今のうちに突入しろ!」

『うん。判ってる!もう、突入地点に向かってるところ』

「了解」

なのはとの短い通信を終えると、地上戦の様子を見守っていたグリフィスが
厳しい表情で近づいてきた。

「ゲオルグさん。戦闘機人との戦闘なのですが・・・」

「なんだ?お前の表情を見る限り順調って感じじゃないな」

「ええ。スターズ2人とライトニングの2人が分断されました。
 スターズの2人は結界のような空間に閉じ込められて観測もできません。
 ライトニングの2人は例の召喚師の少女と戦闘状態に入ってます」
 
「・・・ギンガは何やってんだ?」

「別の戦闘機人と戦闘中です。こちらはギンガさんが押してるようなので
 問題なさそうですが・・・」

「問題はあの4人か・・・。まあ、あいつらのことだ。うまくやってくれるさ」

「信じるしかない・・・ってことですね」

「そういうことだ。ったく、俺があんなヘマ踏まなきゃもうちょっと楽な戦いが
 できたってのに・・・」

俺は改めて戦況を示すスクリーンに目を向ける。
先ほど、はやてから第2射を撃つ連絡が入り、ゆりかご後方の空間にも
ガジェットのいない領域が生まれていた。

「空は今のところ順調・・・ですか」

「今はな。だが、これからが正念場だよ」

「そうですね」

その時、アルトの声が艦橋の中に響く。

「副部隊長!高町隊はポイントA1から、ヴィータ隊はポイントB2から
 それぞれゆりかご内部に突入しました。同時に通信は途絶しています」

「了解した。突入部隊に関しては連中を信じるしかない。
 ゆりかごの様子に変化がないか注意深く観測を継続しろ」

「はい!」

突入部隊との連絡が取れなくなったことで俺の心の中がざわつく。

(なのは・・・無事に帰ってくれよ)

俺は、ポケットからペンダントを取り出すと血で赤く染まったそれを
固く握りしめた。



2つの突入部隊がゆりかご内部に突入してから30分ほど経った。
はやての火力はやはり絶大で、ゆりかごはなおもガジェットを吐き出し
続けてはいたが、戦闘開始直後に比べれば目に見えてその数を減らしていた。

空中戦がようやく落ち着いてきたと感じた俺は、急に尿意を催した。
改めてスクリーンで戦況を確認するが、2つの航空隊はガジェットに対して
明らかに優勢に戦っているし、地上のガジェットも108部隊が
良く抑えてくれている。加えて、クラナガンから至近の位置に
ガジェットが出現したことで首都防衛隊も動き出しており、
地上戦も次第に優位に運びつつある。

(俺がいなくても大丈夫・・・だよな)

そう考えた俺は近くにいるグリフィスを呼んだ。

「何ですか?ゲオルグさん」

「ちょっとの間、ここを任せていいか?」

「・・・どうされるおつもりですか?」

グリフィスは剣呑な表情で俺を見る。
俺は、苦笑してグリフィスに向かって手を振った。

「お前が何を考えてるかはだいたい理解できるけど、外れだよ。
 ちょっとトイレに行きたいだけ」

「本当ですよね?」

「本当だよ」

しばらくの間グリフィスは俺のことを疑うような目で見ていたが、
ふっと表情が和らいだかと思うと、

「八神部隊長からゲオルグさんが艦橋を出ようとしたら、殴ってでも止めろ
 って言われたんですよ、実は」

と言って笑った。

「はは・・・俺って信用ないんだな」

「というより心配されてるんですよ。
 さっきはあんな映像も見せられちゃいましたし。
 それはそうと、トイレなら仕方ないです。できるだけ早くお戻りください」

「判った。少し頼む」

「了解です」

俺は艦橋を出ると一番近いトイレに向かった。
用を足し手を洗おうと洗面台に向かうと正面の鏡に映った自分の顔を見る。

(ひどい顔だな・・・。ま、最近眠れてないからな)

理由は、忙しさばかりではなかった。
復帰してからというもの、夜眠りにつくとよくあの時の夢を見て
その度に目を覚ますということを頻繁に繰り返していた。
ヴィヴィオが攫われたあの時の夢を。

手を洗い、ハンカチを取り出そうとポケットに手を突っ込むと、
カランと音がした。
床を見ると、俺の誕生日になのはがくれたペンダントが落ちている。
屈んで拾い上げると、もとは綺麗なシルバーだった羽根の形をした飾りの
一部が赤黒く染まっているのが目に入る。

それを見るとどうしても”俺はこんなところで何をしているのか?”という
自責の念がむくむくと胸中にわき上がってくる。

(くそっ・・・俺の役割はここで作戦を成功に導くことだろうが!)

俺は乱暴に頭を振り、心に浮かんだ考えを振り払うと、艦橋に戻るべく
トイレを出ようとした。
その時だった。近くで何かが爆発するような音がして、
トイレの中に風が吹き込んでくる。

(・・・なんだ?)

俺はトイレを出てその原因をすぐに理解した。
通路には煙が充満し、通路にはガジェットの姿があった。
振りかえると、艦橋へつながる通路の隔壁はすでに閉鎖されていた。

俺は近くの通信端末の受話器を取ると、艦橋に通信をつないだ。
しばらく間があって、グリフィスが出る。

『はい、艦橋です』

「俺だ」

『え?ゲオルグさんですか!?大変です。今、ハッチの一つが破られて、
複数のガジェットに侵入されました!』

「ああ、見えてる・・・」

『え!?今、見えてるって言いました!?』

その時、煙の向こうに人影らしきものが目に入る。

「ちょっと待て、今何か人影らしきもんが見え・・・」

俺はその時近づいて来るものの姿を見てその先を続けることが
できなくなった。
肩までで切り揃えられた金色の髪、青色の瞳、どれも俺が見慣れた姿
そのものだった。まるで、7年前に戻ったかのように。
だが、その服はまぎれもなくこれまで見てきた戦闘機人が例外なく
身につけていたものと同じで、それだけが俺の知っているあの人とは
違っていた。
否、その表情も俺は見たことがない表情だった。
どこまでも感情を感じさせない無表情。
それは、俺の知っているあの人が見せたことのない表情だった。

受話器のむこうではグリフィスが何かを叫んでいたが俺の頭には何一つ
入ってこなかった。
俺は手に持った受話器を取り落とすと、よろよろと歩いていく。

「ゲオルグ・シュミットか・・・。データで見たぞ」

その声も俺にとっては聞き覚えのある声だったが、
あの人はそんな平坦な喋り方をしたことは無かったはずだ。

「姉・・・ちゃん?」

その人は俺の姉、エリーゼ・シュミットと瓜二つだった。

 

 

第78話:No.13


俺は死んだはずの姉が突然目の前に現れたことに混乱していた。

(姉ちゃん・・・なのか?ありえない。だって、姉ちゃんは8年前に・・・)

改めて目の前の女性を見る。
顔・髪の色・目の色・背格好。どれをとっても間違いなく8年前に死に別れた
姉ちゃんそのものだった。
胸にXIIIと記された戦闘機人特有の衣装を身に纏っていることと、
何の感情も感じさせないその表情以外は。

(どっから見ても姉ちゃん・・・だよな・・・)

俺は一歩前に出て姉ちゃんに近づく。

「姉ちゃん・・・なんだよな?」

そう声をかけると、姉ちゃんは感情を感じさせない目で俺を見る。

「ゲオルグ・シュミット・・・。倒す」

姉ちゃんはそう言うと、俺に向かって突進してきた。
次の瞬間、姉ちゃんの繰り出してきた剣型のデバイスと
レーベンがぶつかり合い、甲高い音がアースラの通路に響く。

(嘘・・・だろ・・・)

俺は姉ちゃんの行動に戦慄する。
反射的にレーベンを緊急起動して受け止めなければ、
姉ちゃんの手にあるデバイスは確実に俺の心臓を一突きにしていた。

(姉ちゃんが・・・俺を殺そうとしてる? そんな・・・バカな・・・)

俺は自分の身に起きたことが理解できず首を振る。

「な、なんだよ姉ちゃん。冗談にしちゃちょっと本気過ぎるよ。
 危うく死ぬところだったぜ、俺」

恐らく引き攣っているであろう笑顔を浮かべて姉ちゃんに向かって話しかける。
が、姉ちゃんは何も言わず、デバイスで押し込んでくる。
俺はその力でじりじりと後退させられる。

その時、頭の中にレーベンの声が響く。

[《マスター!早く私をセットアップしてください!》]

レーベンの声に俺はかぶりを振る。

「だって、姉ちゃんなんだぞ。そんな・・・」

[《まだそんな寝ぼけたことを言っているのですか。先ほどの攻撃を
  見たでしょう。彼女はマスターを殺すつもりですよ》]

「でも・・・そんな・・・」

[《まだわからないのですか?目の前の女がマスターのお姉さんなら
  何故7年前と全く同じ容姿なんです?ありえないでしょう、そんなの》]

レーベンのその言葉に、改めて目の前の姉ちゃんの姿を見る。
レーベンの言うとおり、すべてが8年前の姉ちゃんと同じだった。
それに気づいた時俺の脳は急激に冷静さを取り戻していく。

[悪かった。こいつが何で8年前の姉ちゃんとまったく同じ外見をしてるかは
置いておいても、こいつは姉ちゃんじゃない]

[《やっと冷静になったようですね。行きますよ》]

[ああ、行くぞ。レーベン!]

俺は女から一旦距離をとるべく、後ろに飛んでレーベンをセットアップし
騎士甲冑を身にまとう。
その間に女は俺との間合いを詰めて下から切り上げてくる。
再びお互いのデバイスがぶつかり合い、鋭い金属音が鳴り響く。

(くそっ、受け流すつもりだったのに、身体の反応がワンテンポ遅れる・・・。
 怪我のせいか・・・。マズイな・・・)

両腕に力を込めて女を弾き飛ばすと、右手を女に向けた。

「パンツァーシュレック!」

俺の放った砲撃が女に命中し、爆煙で視界が遮られる。
その間に、俺は艦橋との通信をつなぐ。

「グリフィス!俺だ。聞こえるか?」

俺の呼びかけに、答えは帰ってこない。
しばらく待っていると、通路に広がった煙はだんだん晴れてきて、
女の姿が徐々に見えてくる。

『・・・さん!?ゲオルグさんですか!?』

「ああ、俺だ。今、右舷B-2通路で戦闘機人らしき女と遭遇。
 戦闘状態にある。モニターできるか?」

『ちょっと待ってください・・・はい。モニターできました』

「なら、俺と戦ってる女の反応パターンを過去の戦闘機人と比較してくれ。
 結果が分かったらすぐに教えろ」

その頃には通路の煙は完全に晴れ、女が傷一つ負っていないことが
明らかになった。

「こんなものか・・・」

女は相変わらず感情の浮かんでいない表情でそう呟くと、
俺に向かって右手をかざす。

「ISインビジブルシュート」

女がそう言った次の瞬間、俺は見えない何かに弾き飛ばされ、通路の隔壁に
叩きつけられる。

「がはっ・・・」

俺が床に倒れると、女は俺の方に向かって飛んでくる。
俺は壁に手をつきながら立ち上がると、女の繰り出してくる突きを
レーベンで受け流す。
そして女の側面に回り込むと、丸見えになった背中に向かって
右手を突き出した。

「パンツァーシュレック!」

至近距離から放たれた砲撃は女に命中し、女は先ほど俺が叩きつけられた隔壁に
叩きつけられる。

『ゲオルグさん。大丈夫ですか?』

「大丈夫だ。それより奴の反応パターンは?」

『・・・過去の戦闘機人のパターンと酷似。戦闘機人で間違いありません』

「判った。他の区画は無事か?」

『右舷B-3通路にガジェットが侵入しましたが、現在交替部隊の皆さんが
 応戦中。なんとかなりそうです』

「了解。じゃあ俺はこいつの相手に集中すりゃいいってことか。
 助かったよ」

『いえ・・・お気をつけて』

「はいはい」

俺がグリフィスとの通信を終えると、戦闘機人の女は壁に手をつきながら
立ち上がる。さすがにダメージがあったと見えるが、
その顔はあくまで無表情である。

[《マスター、提案があります》]

[なんだよ]

[《非殺傷設定を解除しましょう》]

[何言ってんだ。んなことできるわけないだろ]

[《ですが、このままではマスターは殺されてしまいます。
  お忘れですか?マスターの身体は満足に戦える状態ではないんですよ》]

[・・・俺に姉を斬り殺せってのか]

[《あれは戦闘機人です。マスターのお姉さんに瓜二つですが、
  お姉さんではありません》]

[んなことお前に言われなくても判ってる!でも・・・]
 
[《マスターが倒されれば恐らくこのアースラにいる全員があの戦闘機人
  によって殺されます。それでもいいのですか》]

[良くねーよ。良くねーけど・・・でも]

[《マスターにはなのはさんとヴィヴィオさんの帰る場所を守る
  責任があるのではなかったのですか?それを放棄すると?》]
 
[んなこと言ってねーだろ。でも、なにも殺すことは・・・]

[《マスターが万全の体調ならそれも可能でしょう。ですが、今はそうでは
  ありません。もう一度言います。非殺傷設定の解除を》]

そうこうしているうちに、戦闘機人はデバイスを構えて俺の方に
突っ込んでくる。
俺はと言えば、身体のあちこちが悲鳴を上げていて、もう長く戦える状態で
ないのは明らかだった。
戦闘機人は俺の胸を狙ってデバイスを突き出して迫ってくる。
俺は決断を迫られた。

「ちっくしょぉぉぉぉぉっ!」

次の瞬間レーベンが戦闘機人の胸に突き刺さり、赤い液体がレーベンを伝って
滴り落ち、通路の床を赤く染めて行く。

「・・・ちくしょう・・・ゴメン・・・姉ちゃん・・・」

動きを止めた戦闘機人からレーベンを引きぬくと、戦闘機人はその場に
ばたりと倒れ、ぴくりとも動かなかった。
俺は、レーベンを振ってついた血を吹き飛ばすと、待機状態に戻す。
そして、うつぶせに倒れた戦闘機人を仰向けにさせる。
最後まで感情らしい感情を見せなかったその目は見開かれたまま
光を失っていた。
俺はその目を閉じさせてやると、両手を血まみれの胸の上で組ませ、
ゆっくりと立ち上がった。
脇を見ると、戦闘機人が使っていた剣型のデバイスが無造作に転がっていた。
俺はそれを拾い上げると、先ほど組ませた両手に握らせる。
そして、俺はもう動かなくなった戦闘機人の側でじっと自分の決断の結果を
目に焼き付けようと、血まみれの身体を見つめていた。

しばらくして、閉鎖されていた隔壁が開いて隣の区画でガジェットと戦っていた
交替部隊の面々が駆け寄ってくる。
が、血で真っ赤に染まった通路にぎょっとした顔をすると、
少し離れたところで立ち止まってしまった。
やがて、分隊長の1人がゆっくりと俺の方に近づいて来る。

「副部隊長・・・。大丈夫ですか?」

「ああ。戦闘機人は始末した。もう大丈夫だ」

自分の声なのにどこか遠くで響いているように聞こえた。
意外なほど冷静な声だった。

「殺したの・・・ですか?」

「ああ。俺が、この手でな」

そう言って俺は自分の手を見つめる。
戦闘機人の血で真っ赤に染まっていた。

「あの・・・副部隊長。あまり気に病むことはないと思います。
 副部隊長が戦ってくださったおかげで、我々はこうして無事なわけですし」
 
「・・・そうだな」

その時、急に足元がふらついた。
通路の壁に手をついてなんとか身体を支えようとするがうまくいかず、
そのまま床に向かって倒れて行く。
目の前に通路の床が迫ってくるが、どうすることもできない。
すぐ近くで交替部隊の連中が何かを叫んでいるようだが、
良く聞きとることができない。
そのまま床に倒れ伏すと、俺は意識を手放した。

 

 

第79話:戦い終わって


「・・・はないわね。だけど・・・から、しばらくは・・・よ」

ぼんやりと近くで誰かが話しているのが聞こえた。

「・・・とう。ここ・・・ていい?」

声を聞く限り何人かが話をしているようだ。

「・・・わよ。でも、・・・てね」

目を開けようとするが、まぶたがものすごく重く感じられ、
俺は再び眠りに落ちていった。



「・・・まぶしっ!」

目を開けると、正面に白い天井が目に入った。
しばらく目を細めていると、目が光に慣れてきたのか
眩しさを感じることはなくなってくる。
目を左右に走らせると、使途不明の機械が定期的に電子音を立てている。。
次に目を下に向ける。
俺は病院の入院衣のようなものを着せられていた。
両腕には点滴のチューブが刺さっていて、身体のあちこちに電極のようなものが
取り付けられている。

(病院・・・か?)

首を横に向けて部屋の様子を確認しようとするが、
俺の寝ているベッドの周りにはカーテンがかかっていて、
周囲の様子を覗うことはできない。

(俺・・・どうしたんだっけ・・・。って、戦闘中・・・っ)

慌てて身を起こそうとした俺は、胸の痛みに襲われて身を起こすことが
できなかった。
身を起こすことは諦め、何があったかを思い起こす。

(確か、俺はアースラの指揮をとってたんだよな。
 で、なのは達がゆりかごに突入して、空中戦もはやてのおかげで一息つける
 くらいには落ち着いてきたから、トイレに行ったんだよ。
 で、戦闘機人と戦闘を・・・っ)

そこで俺は自分が斬り殺した戦闘機人の最期の姿を思い出し、
吐き気を催した。幸い、胃の中には何も入っていないのか、
なにも戻さずに済んだが。
そして、思わず自分の手を見る。
真っ赤に染まっていた俺の手は、誰かが洗ってくれたのか
すっかり綺麗になっていた。

(・・・殺したんだよな。俺が)

目の前の景色が滲んでくる。
その時、空気の抜けるような音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。
足音が近づいて来る。そして俺のベッドの側で止まると、カーテンが開かれた。
現れたのはシャマルだった。

「・・・シャマル?」

俺が声を上げると、シャマルは驚いたように俺の顔を見る。
目が合うとシャマルは俺に向かって微笑んだ。

「目が覚めたのね。よかったわ」

「・・・ここは?」

「アースラの医務室よ」

「・・・お前は何でここにいるんだ?」

「だって、私。6課の軍医だもの」

「そうじゃない。お前は・・・」

外で索敵にあたってるはずだ。と続けようとしたが、
シャマルが俺の頭を撫でたのでその先を言うことができなかった。

「いいの。もう全部終わったから」

「全部・・・終わった?」

俺の言葉にシャマルはゆっくりと頷く。

「そう。だから安心して今は眠りなさい、ゲオルグくん。
 あなたはよく頑張った。だから、今はゆっくり休みなさい」
 
シャマルは微笑んで俺の頭を撫で続ける。
俺はその心地よいリズムに誘われるように再び眠りに落ちた。



次に目を覚ますと、部屋はオレンジ色の光に包まれていた。
俺の身体には相変わらず、チューブや電極が刺さっていたが、
ベッドの周りにはカーテンがなく、部屋のブライドの隙間から
オレンジ色の光が差し込んできていた。

身体を起こすとどうせ痛いだろうと思いそれは諦め、
首だけ動かして部屋の中を見回す。
どうやら俺はアースラの医務室から移送されたようで、
部屋の様子がずいぶん変わっていた。

しばらくそうしていると、部屋のドアが開き白衣を着た男性が入ってくる。

「おや、目を覚まされたようですね。気分はどうですか?」

医師らしき男が俺の顔を覗き込みながら尋ねてくる。

「悪くないです」

「吐き気とかめまいは?」

「ないです」

「痛みはありますか?」

「体を起こそうとすると胸の下あたりが痛みます」

「そうでしょうね。あなたは肋骨を3本骨折したんですよ。
 ほかにも全身に打撲もありますし、頭も強く打ったようですからね。
 ですが、吐き気やめまいがないなら脳障害の心配はなさそうですね」

医師はそう言いながら手に持った端末に何やら入力していく。
そして、ベッドの脇にある機械を操作すると、再び俺の顔を見た。

「お見舞いの方が見えてますが、お通ししますか?」

「誰です?」

「機動6課の・・・八神二佐ですね」

「通してください。話したいことが山ほどある」

「判りました。では少々お待ちください」

医師はそう言って、部屋から出て行く。
しばらくブラインド越しに見えるオレンジ色の空を眺めていると
ドアの開く音がした。
見ると、はやてが俺の方を見て立っていた。
が、入口のところで立ち止まってなかなか近づいてこない。

「そんなところでつっ立ってないで、こっち来て座れよ」

「え・・・うん」

はやてはゆっくりと近づいてくると、近くにあった椅子を持ってきて、
俺のベッドのそばに座る。

「悪いけどこのままでいいか?あちこちまだ痛いんだ」

「えうん・・・ええよ。気にせんといて」

「でさ、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

俺の言葉にはやては無言で頷く。

「じゃあ、ゆりかごはどうなった?」

「作戦は無事成功。ゆりかごは破壊されたよ」

「そっか。悪かったな、途中から役に立てなくて」

「ううん、ええねん。ゲオルグくんが戦闘機人と戦ってるころには
 なのはちゃんもヴィータも無事にゆりかごから脱出してきたし、
 フェイトちゃんらもスカリエッティの身柄を確保できたから」

「そっか。じゃあ、なにもかもうまくいったんだな」

「ま、そうやね」

「ヴィヴィオは?」

「なのはちゃんが無事救出してくれたよ。
 今はなのはちゃんやゲオルグくんと一緒でこの病院に入院中」

「入院?怪我でもしたのか?」

「あ・・・うん。そのへんはおいおい話すわ。ゲオルグくんが
 退院したあとにでも」

「そんな悠長な・・・って、もう機動6課の設立目的は達成できたのか。
 焦ることもないんだな・・・」

「うん。時間ならたっぷりあるから」

「そうだな・・・。なら今までの分も含めてゆっくり休ませてもらうよ」

「うん、そうして。後始末は私らでうまくやっとくし」

「後始末?」

「あー、ごめん。そこも、おいおいってことでええかな?」

「了解。それでいいよ」

「ありがとう。それよりどうなん?ゲオルグくんは」

「俺?」

「うん、その・・・いろいろあったやんか・・・」

「ああ。まあ、そうだな。心の整理はあの場でつけたつもりだから」

「・・・強いんやね」

「そんなんじゃないよ。慣れの問題じゃないかな」

「慣れか・・・。ゴメン、なんて言ったらええんかわからんわ」

「そっか。あと一つ聞いていいか?」

「なに?」

「あの戦闘機人はどうなった?」

「今、ラボで解析中」

「そっか。あの戦闘機人って・・・」

「今わかってんのは、ゲオルグくんのお姉さんの遺伝情報を利用した
 クローン体をベースにしてるっちゅうことだけ。それ以外はこれから」

「クローンか。じゃあ、姉ちゃんそのものじゃないんだな」

「うん・・・。なんて言ったらええんかわからんけど・・・」

「いいよ。クローンって聞いてちょっと安心した。
 もしかしたら姉ちゃんを殺したのかもって思ってたから」

「・・・ゴメン」

「はやてが気に病むことは何一つないだろ。俺はあの時自分で決断して
 ああした。その責任は俺自身で負わなくちゃならないんだよ」

「そっか・・・。ゴメン、もう時間やわ。行かな」

「悪い・・・長々と引き止めちゃって」

「ううん。ゲオルグくんと話せてよかったわ。また来るね」

「ああ、待ってる」

「うん」

そしてはやては俺の病室を出ていった。
俺は少し長い間話して疲れたのかそのまま眠りに落ちていった。

 

 

第80話:病室ではおとなしくしましょう


聖王のゆりかごをめぐる戦いから1週間、
俺の回復は順調なようで、これまで身体のあちこちにつけられていた
チューブや電極の類からは解放され、病院内を出歩くことも許された。

この1週間の間に、はやてが3回、フェイトが2回見舞いに訪れ、
あの戦いの顛末についての大体のところは聞かされていた。
スバルとティアナは戦闘機人3体と互角に渡り合って勝利を収め、
エリオとキャロは地下水道でも戦った召喚師の少女と戦いこちらも勝った。

ゆりかごに突入したなのはは玉座の間でどうやらヴィヴィオと戦ったらしく、
そこでいつものように無茶をしたためにヴィヴィオと揃って入院と
相成ったらしい。
そこに至った経緯はまだ聞けていないが、いずれじっくりと
聞かせてもらうとしよう。

ゆりかご戦に先んじてスカリエッティのアジトに突入した、フェイト達も
どうやらいろいろあったらしいが、スカリエッティの身柄を確保した。
これについても、”いろいろ”については聞かせてもらいたいものだ。

とにもかくにも、俺たちにとっては上々の結果に終わったということで
またしても戦闘中に意識を失うという失態を演じた俺としては、
多少はその自責の念も軽くなろうというものである。

そして、病院内だけとはいえ晴れて自由の身となった俺は、
同じく入院生活を送っているなのはの部屋を訪れることにした。

はやてから聞き出した病室に向かい、俺は扉をノックする。

「どうぞ」

中からなのはの声で返事があり、俺は扉を開けた。
病室にはベッドが1台置かれており、その上でなのはがベッドの
背を起こして座っていた。

「ゲオルグくん!?あんな怪我してたのに、もう大丈夫なの?」

「一応、病院内なら動いてもい言って先生がな・・・って知ってたのか?」

「うん。ゲオルグくんがアースラの医務室にいたときにも
 お見舞いに行ったし」

「そうなのか。で、なのはは元気にしてるのか?」

「ゲオルグくん。それ、入院してる人に言う言葉じゃないよ・・・」

なのははそう言って苦笑する。

「ははっ・・・それもそうだな。で、実際どうなんだよ、調子は?」

なのはが座るベッドの脇にあった椅子に腰かけながら尋ねると、
なのはの表情が曇る。

「うん。別に怪我をしてるわけじゃないんだけどね。ちょっと無理が祟った
 みたいで・・・」

「どうせお前のことだからちょっとどころじゃない無理をしたんだろ。
 まあでも、その無理がなければヴィヴィオを無事に連れ帰ることが
 できなかったって聞いてるしな」

俺はそこまで言うと、椅子から腰を上げてベッドの上のなのはを抱きしめる。

「ゲオルグ・・・くん?」

俺の突然の行動に驚いたのか、なのはは弱々しく声を上げる。

「よく頑張ったな、なのは」

俺がなのはの耳元でささやくと、なのははそれまで浮かべていた笑顔を
クシャっと崩してしまう。やがて、その瞳からは涙があふれた。

「うん、わたし頑張ったの。一生懸命頑張ったんだよ」

なのはは俺の胸に顔をうずめると、両腕を俺の腰にまわす。

「判ってる。ヴィヴィオと一緒に帰ってきてくれてありがとな」

感情が溢れて止まらなくなったのか、なのは声を上げて泣き始めた。
俺は、黙ってなのはの背中をさすり続けることしかできなかった。
しばらくして、少し落ち着いたなのはは、俺から身を離すと、
俺の顔を見つめた。

「ゲオルグくん・・・」

「なのは・・・」

見つめあってお互いの名前を呼び合った俺達はそっと目を閉じて、唇を重ねた。
お互いの舌を絡め合わせながらより深くつながろうと俺は顔を少し傾ける。
一度離れて、お互いの顔をじっと見つめ合う。
上気した頬と半開きの唇が普段は凛々しいなのはを扇情的に見せていた。

「ゲオルグくん・・・」

「ん?」

「大好き・・・」

「知ってるよ・・・」

「そうだね・・・」

そして俺たちはまた唇を重ねる。
俺の背中にまわされたなのはの手に力がこもる。
俺は、舌でなのはの口内を蹂躙しながら、なのはの背中にまわしていた手を
なのはの胸にそっと当てた。

「んんっ!」

驚いたなのはが顔を離そうとするが、俺はそうはさせじと
なのはをベッドに押し付ける。
なのはが身をよじって抵抗しようとするので、俺は一度身体を起こして
なのはの顔を見る。

「ゴメン、嫌だったか?」

ベッドの上で肩を上下させながら息をつくなのはは首を横に振る。

「ちょっと・・・びっくりしちゃって」

「続き・・・してもいい?」

俺がそう訊くとなのははもう一度ふるふると小さく首を振った。

「ちょっと怖いかも・・・」

「そっか。じゃあまた今度だな」

俺はそのまま椅子に腰を下ろそうとする。

「あっ・・・」

すると、なのはは声を上げて名残惜しそうな顔で俺の入院服を掴む。

「もう一回・・・キス・・・しよ?」

「わがままな奴め」

俺はそういうと、降ろしかけた腰を上げてなのはのに顔を寄せた。

「あー、ごほん。病院でそういうことするんはちょっと
 控えてくれませんかねぇ、ご両人」

突然病室に響いた声に、俺達は慌てて身を離すと病室のドアの方を見る。
そこには、ジト目のはやてと顔を赤くしたフェイトが立っていた。

「どどどどのへんから見てたの?はやてちゃん!?」

「”続き・・・してもいい?”らへんからやね」

「うぅ・・・恥ずかしい・・・」

小声でそう言ったなのはは耳まで真っ赤になっていた。

「2人とも入院患者やねんから、そういうことはちょっと控えなさい。
 特にゲオルグくん!病室で何迫ってんねん!」

「あー、いや。あまりになのはが魅力的なもので・・・つい☆」

舌を出しておどけて見せるが、それがはやての怒りの炎に
油を注ぐ結果となってしまったようだ。

「あーん?何が ”つい☆”やねん。フェイトちゃんも何か言うたってーや!」

はやてがフェイトに話を振る。

「・・・いいなぁ、なのは・・・」

「・・・はぁ!?」

虚空を見つめてぼそっと呟いたフェイトに、はやてはあんぐりと口をあける。
それは怒られるであろうと想像していた俺やなのはも同じで、
唖然としてフェイトの顔を見つめる。

「・・・私だって・・・はっ!」

俺達3人の視線に気づいたのか、フェイトはふっと我に返る。

「けっ、どいつもこいつも色づきよって!」

やさぐれた口調ではやてが言う。

「フェイトちゃん!わたしは応援するよ!頑張って!」

グッと両手を握りしめ、目をキラキラと輝かせながらなのはが言う。

「で?いったい誰がフェイトのハートを射止めたんだ?」

ベッド脇の椅子に腰かけた俺が言う。

「わ、私のことは今はいいじゃない。それよりはやて!
 なのはに話があったんでしょ!」

フェイトの言葉にはやてが真顔に戻ってぽんと手を叩く。

「おっと、そうやった。なのはちゃん」

「なあに?」

「入院はとりあえず1か月くらいになりそうやって」

はやての言葉になのははさみしそうな表情を浮かべる。

「そっか・・・。まあ、しょうがないよね」

「今回の戦闘では相当無理がかかったみたいやしね。
 まあ、なのはちゃんはこれまでスバルらを鍛えるのに一生懸命
 頑張ってくれてたんやし、ご褒美やと思ってゆっくり休んで」

「うん・・・ありがと、はやてちゃん」

そう言ってはやてに笑いかけるなのはの顔は、やっぱりどこかさみしげだった。

「ところで、ゲオルグくん」

「あ?なんだ?」

「ちょっと話があるんやけどええかな」

はやてはそう言って病室の外を指さす。

「いいけど・・・ここじゃできない話なのか?」

「うーん、そういうわけやないねんけど・・・」

はやては困ったような顔で言い淀む。

「ねえゲオルグくん。わたしちょっと眠いの。悪いけど寝かせてくれない?」

なのはが眠そうに目をこすりながら言う。

「そっか。じゃあ、また来るよ」

「うん。またね」

そして、俺はなのはに軽く触れるだけのキスをすると、
はやてとフェイトについてなのはの病室を後にした。

 

 

第81話:屋上の密談


10分後・・・
俺とはやて・フェイトは屋上にいた。
俺はベンチに腰を下ろすと入院衣のポケットからタバコを取り出し
口にくわえて火をつける。

「ゲオルグ、ここ病院なんだよ」

俺の前に立つフェイトがたしなめるような口調で言う。

「1本くらい勘弁しろよ。ずっと病室に缶詰めだったんだ」

そう言って肺に吸い込んだ煙を空に向かって吐き出す。
数分かけて一本吸い終えると、携帯灰皿に吸殻を収めてポケットに押し込む。

「久々に吸うとやっぱりちょっとクラっとくるな・・・」

「いっそのことこれをきっかけに禁煙したらええんちゃう?長生きしたいやろ」

俺の隣に座ったはやてが口元に薄笑いを浮かべて言う。

「ご忠告は真摯に受け止めさせてもらうよ。
 ま、長生きしたいなら今の仕事から足を洗うのが一番だけどな」

「それはごもっともやね」

肩をすくめて軽い冗談で返すと、はやては小さく声を上げて笑いながら
同じく冗談を返す。
ひとしきり軽いやり取りを終えたところで俺は意識を切り替える。

「で?なのはに要らない気を使わせてまであいつのいないところでしたい
 話ってのはなんだ?」

俺がそう言うと、はやてとフェイトも真剣な表情になる。

「いろいろあるんやけど、まずはなのはちゃんの話からやね。
 なのはちゃん、ああ見えて結構重症らしいんよ。
 えーっと、ゆりかごの中での話ってどこまでしたっけ?」
 
「なのはとヴィヴィオが戦ったって話しか聞いてないぞ」

「そっか。実際のところは私も現場にいたわけやないからわからんねんけど、
 レイジングハートの記録によると、ヴィヴィオがレリックと
 融合させられてたらしいんよ」

「レリックと融合!?なんで?」

「ユーノくんの話は覚えてる?ゆりかごの起動には古代ベルカの王族としての
 特殊能力が必要やって」
 
「ああ、覚えてる」

「ヴィヴィオは聖王のクローンやけど、そのままでは特殊能力は
 発現してへんかったんよ。で、スカリエッティはヴィヴィオに
 その特殊能力を発現させるためにレリックと融合させたんやないか?
 っちゅうのが本局の推論。まだ確証はないけどな」

「・・・なんつーマッドな発想だよ」

俺は両手を強く握りしめて、何とか怒りを抑え込む。

「そやね。加えて、なのはちゃんを敵と思い込ませる催眠も掛けられてて
 結果として、助けに来たなのはちゃんと戦闘になった・・・」

はやてはそこで一旦言葉を切った。
はやての顔を見ると、その横顔には辛さと怒りが入り混じったような
なんともいえない表情をしていた。

「で、ヴィヴィオとの戦闘では相当な無理をしたみたいで、
 ゆりかごから出てきて、アースラに戻ってきたときには
 自分では立てへんくらいやったんよ」

「そうなのか・・・。でも、空戦魔導師が5人はついてたはずだろ?
 そこまでなのは一人に負担がかかったのか?」
 
玉座の間に突入する高町隊には、なのはのほかにAランクの
空戦魔導師を5人つけたはずなのだ。
にもかかわらず戦闘後に自分では立てないほどの高負荷な
戦闘になったというのが俺には理解できなかった。

「えっとな、玉座の間につくまでの間はほとんど他の空戦魔導師が
 ガジェットとかとの戦闘をこなしてたんやけど、それで、
 なのはちゃん以外は玉座の間に着くまでにほとんど魔力を
 使い果たしてしもうたんよ。
 まあ、あとはヴィヴィオにかけられてた催眠もちょっと・・・な」

「なんだよ」

「ヴィヴィオのパパとママを殺したのがなのはちゃんって
 思い込まされてたみたいやねん。そやから・・・」

「ヴィヴィオの攻撃がなのはに集中したってわけか。納得・・・」

「んで、とりあえずは身体を休めるためにも1か月程入院してもらうことにした
 ってわけなんやけど、今後後遺症が残る可能性もあるんやて」

「後遺症?」

「魔法を使おうとすると全身に痛みが走ったりすることもあるかもって。
 つまり、最悪なのはちゃんは2度と飛べへんようになるかもしれんってこと」

「そんな・・・」

「まあ、当面はそこまで酷い後遺症はないやろっていうのが医者の見解やけど、
 今後、同じような無理をすればそうなってもおかしくないって」

「そっか。まあ、なのははもう十分戦ったんだし、そろそろゆっくりしても
 いいと思うけどな」

「それをなのはちゃん自身がよしとするかはまた別問題やから・・・」

「だな・・・」

俺は2本目のタバコに火をつけると、真っ青な空に向かって吐き出す。

「まあ、なのはちゃんに子供でもできれば・・・とは思うけど。
 そのへんはどうなんです?」
 
はやてはニヤニヤと笑いながらマイクを突き出すようなポーズで
俺に尋ねてくる。

「茶化すなよ。俺だってなのはとのことは真剣に考えてるんだから」

そう言って軽くはやてを睨みつける。

「ゴメンゴメン。まあ、子供云々の話は冗談としても、
 今後もしなのはちゃんがそうなった場合には、
 ゲオルグくんの役割は重要やから、そこは理解しといて」
 
「判ってる。ただな・・・」

俺はそう言ってもう一度空を見上げて煙を吐き出す。

「どないしたん?」

はやてが俺の顔を覗き込むように見る。

「俺自身まだ迷いがあるんだよ。本当に俺はなのはに相応しい人間なのか」

「それは、ゲオルグくんの過去について言ってんの?」

はやての問いに俺は無言で頷く。

「そこはよう口出しせえへんねんけど・・・。私見を言わせてもらうとな、
 ゲオルグくんは自分のやったことに対して自分自身に責任を
 被せすぎなんちゃうかなと思うわ」

「どういうことだよ?」

「だって、私らって時空管理局っていう組織の歯車として動いてるわけやろ。
 その中には、なのはちゃんみたいに人を育てるのが役割の人もおれば
 ゲオルグくんみたいに暗殺とかをやるのが役割の人もおるわけやんか。
 で、それぞれの個人にどの役割を割り当てて何をやらせるかっていうのは
 組織の論理なわけやん。
 そこで起こったことに対して個人が100%の責任を負う必要は
 まったくないと思うんよ。
 まして、課せられた役割を果たすためにやったことならなおさらな」

「はやての言ってることは理解できるつもりだよ。でも・・・」

「感情がついていかへんのやろ?」
 
俺が頷くと、はやては雲ひとつない青空を見上げる。

「難しい問題やとは思う。けどな、例えば私の出身世界では犯罪者に対する
 死刑制度があるんよ。じゃあその死刑を執行する人って、その罪を背負わな
 あかんのやろか。もっと言えば、戦争で人を殺したらその罪を背負わな
 あかんのやろか。私は違うと思うねん」

「はやて・・・」

俺がはやての方に顔を向けると、はやては俺の肩に手を乗せてにっこりと笑う。

「まあ、それでもゲオルグくんが自分を許されへんのやったら私が許したる!」

「ありがと・・・はやて」

目の前のはやての顔が滲んでいく。

「なんやねん。ゲオルグくんは泣き虫やなあ。ええよ。
 私でよかったら肩くらい貸したるから」

はやてのその言葉をきっかけに俺ははやての肩に顔を押し付けて泣いた。



しばらくして、俺が落ち着くとフェイトがハンカチを差し出してきた。

「悪い。みっともないところを見せて」

「いいよ。友達でしょ」

俺は、フェイトのハンカチで涙を拭くと両手で自分の頬をパンと叩いた。

「もう、自分の過去のことで悩むのはヤメた!
 ありがとな、はやて、フェイト」

「ええって」

「私はハンカチを貸しただけだし」

2人は柔らかな笑顔をで俺を見ていた。つられて俺も笑顔になる。

「さて、今日の話は以上?」

俺がそう言うと、はやてとフェイトは急に表情を曇らせてお互いの顔を
見合わせる。
そして、はやてが俺に向かって真剣な表情を向けた。

「ゲオルグくんが大丈夫ならもう少しええかな?」

「まだあるのか?」

「あと2つほど」

「盛りだくさんだな、で?」

はやては一度大きく深呼吸すると、俺の顔を見る。

「ほんならまず1つ目な。
 結果だけまず言うよ。レジアス・ゲイズ中将が拘束されたんよ」

「は!?」

それは俺の想像をはるかに超える話だった。


 

 

第82話:急転直下


俺はレジアス・ゲイズ中将が拘束されたという話を聞いて、
驚愕のあまりしばらく思考停止に陥っていた。

「おーい、ゲオルグくん。帰っておいで―」

目の前で手を振りながらはやてがそう言っているのが耳に届き、
俺はようやく自失状態から覚醒する。

「ゲイズ中将が拘束されたって・・・なんで!?」

「ちょっと話はさかのぼるんやけど、2か月くらい前やったかな。
 シンクレアくんがどうしても気になるからって、最高評議会を探った時に
 ちょくちょく来てた女がおったやろ?アレを特務隊の人らに探らせてたんよ。
 で、地上本部の襲撃事件のときに戦闘機人のデータが一杯とれたから
 女をサーチしてみたら反応パターンが戦闘機人のと酷似してたんやて。
 で、シンクレアくんの命令で、特務隊が最高評議会を張ってたら、
 ゆりかご浮上の直前にのこのこと女が現れたから即拘束。
 同時に、最高評議会のお歴々への聴取によってゲイズ中将とスカリエッティの
 関係について証言が取れたから、査察部がゲイズ中将を拘束しに
 向かったんやけどな、ちょうどゼスト・グランガイツが中将の部屋
 に乗り込んで来てて、ひと悶着あった末に無事拘束っちゅうわけよ」

「はぁ・・・そんなことがあったのか・・・」

俺は、絵に描いたような劇的な逮捕劇に唖然としてしまった。
が、ひとつの疑問が心に浮かぶ。

「ゼストはどうなったんだ?」

俺が尋ねると、はやては急に苦々しい表情になる。

「ゼスト・グランガイツは・・・死んだんよ」

「・・・え?」

俺が茫然としていると、はやてがぽつぽつと話し始める。

「詳しいことは現場におったシグナムにでも聞いてほしいんやけど、
 中将が拘束された後にすぐ息を引き取ったそうや。
 詳しいことはよう判らんけど、ゼストとずっと一緒におったらしい
 アギトっちゅうユニゾンデバイスによれば、ゼストは7年前の事件で
 一度亡くなってるらしいんよ」

「は?じゃあ、あれはなんだったんだよ」

「話は最後まで聞きって。
 で、スカリエッティの人造魔導師実験の被検体にされたんやって。
 ただ、生命維持に問題があったらしくって、もう限界やったらしいわ」

「そうなのか・・・。あの人の行動原理は一体なんだったんだろうな?」

「判らんけど、ゲイズ中将とは旧知の仲やったらしいから、
 その辺が関係してるんとちゃうやろか・・・」

はやての言葉を最後に3人ともしばらく黙りこんでしまう。
やがて、はやてが気分を変えるように明るい声を上げた。

「ま、それをここでグジグジ考えててもしょうがないって」

「そうだな・・・。で、もう1つの話ってのは?」

「そうやね。じゃあ、フェイトちゃん」

はやてがそう言ってフェイトに話を振る。
フェイトは小さく頷くと俺の顔を見た。

「スカリエッティのアジトで7年前の事件の被害者が
 生体ポッドに入れられた状態で発見されたんだ。
 生きた状態で発見されたのは、クイント・ナカジマ,メガーヌ・アルピーノ,
 エリーゼ・シュミットの3名。いずれも意識不明だけど
 近いうちに意識を取り戻すだろうって」

俺は一瞬、フェイトが何を言っているのか理解できなかった。
少しずつその意味が脳に染み渡っていく。

「・・・え?姉ちゃんが・・・生きてる・・・のか?」

自分でも驚くほど声が震えていた。

「そうだよ。よかったね、ゲオルグ」

フェイトがそう言って俺に向かって微笑みかける。
そのフェイトの顔がまた涙で滲んでくる。

「くそっ・・・なんか俺、今日泣いてばっかりじゃねえか」

「ええやん。嬉しいことがあったんやから。おめでとう」

はやてが微笑みながら俺の肩を叩く。

「ゴメン、俺ちょっと・・・」

「うん。ええよ。私らはここで待ってるから」

はやての返事を聞いて俺は立ち上がって、屋上から降りる階段へと向かった。
階段を下りて一番近くのトイレに向かうと、個室に入って鍵を閉めた。
それから、30分ほど俺はさめざめと泣いた。



ようやく気分が落ち着いたところで、個室を出る。
トイレを出る前に洗面台の鏡で自分の顔を見ると、目が真っ赤だった。
しょうがないとあきらめ2人の待つ屋上へと向かう。

「おっ、戻ってきた。おかえり、ゲオルグくん」

「悪いな、2人とも忙しいだろうに」

「かまへんって。ま、もう話すことはないんやけどな」

「ところでクイント・ナカジマさんって、ひょっとして・・・」

「うん。ナカジマ3佐の奥さんだよ」

「やっぱりそうか、もう一人のメガーヌ・アルピーノさんってのは・・・?」

「今回エリオやキャロと戦った召喚師の女の子がおったやろ?
 あの子、ルーテシア・アルピーノっていうんよ。
 つまり、メガーヌさんはルーテシアのお母さんやね」

「そっか・・・。でも、あの子は・・・」

「そうやねん。公共施設破壊やら危険魔法使用やら
 ゲオルグくんへの殺人未遂やら罪状が一杯あるんよ・・・」

「え?俺を刺したのってあの子なのか?」

「正確にはあの子の召喚虫やね。ただ、あの子もスカリエッティから催眠を
 かけられてたみたいやから、刑はかなり酌量されると思うで」
 
「そっか。早くお母さんと一緒に暮らせるようになるといいな」

「そうやね。さてと、私らはそろそろ帰るわ」

はやてはベンチから立ち上がる。

「ゲオルグくんも早く復帰してや。仕事が多くてかなわんわ」

「はは・・・了解。それまでは、シンクレアをこき使ってくれや」

「大丈夫。もうこき使ってるから。な、フェイトちゃん」

「え?う、うん。シンクレアには私と一緒に捜査資料の整理とか分析を
 やってもらってるんだ」

「そうなのか。ま、あいつも情報部だからそういうのは得意だからな」

「そ、そうなんだ。私もすごく助かってるんだよ」

一見何でもないやりとりではあるが、俺はフェイトの様子に
わずかな違和感を感じる。
どうも先ほどからちょくちょくどもっている。
が、とりあえずはどうでもいいことかと俺は考えることを放棄した。

「なら結構なことだな。じゃあ、またな」

「うん。またお見舞いに来るわ」

「へいへい。今度は何か旨い菓子でも頼むわ」

「りょーかい。ほんならねー」

俺は2人を見送ると、日の傾きかけたクラナガンの町並みに目を向ける。

「さてと、それじゃあ我が娘の寝顔でも見にいきますか」

俺は屋上から降りて、ヴィヴィオが入院している部屋に向かった。



ヴィヴィオが入院している病室の前につくと、俺は控えめに扉をノックする。
中から女性の声で、どうぞと返って来たのでそっと扉をあける。
中に入ると、寮母のアイナさんが出迎えてくれた。

「アイナさん?なんでこんなところに」

「ゲオルグさんも、なのはさんも入院して動けないですし、
 フェイトさんはお仕事が忙しくてなかなか来れないということなので
 私が、ヴィヴィオの面倒を見るって買って出たんですよ。
 ほら、隊舎があんなになって仕事がないので暇でしたから」

「そうだったんですか・・・。お手数をおかけしてすいません」

「いえいえ。それよりヴィヴィオに会いに来られたんですよね。
 今は寝ちゃってますけど、寝顔だけでも見て行かれますか?」
 
「ええ、そうさせてもらいます」

ベッドのそばに寄ると、穏やかな顔で眠るヴィヴィオの顔が見えた。
俺はアイナさんが勧めてくれた椅子に腰を下ろすと、ヴィヴィオの顔を眺める。

「ゲオルグさん。私ちょっと売店のほうにいってきますので」

「あ、はい」

俺が返事をすると、にこやかにお辞儀をして病室を出て行った。

(気を使ってくれたのかな・・・)

俺は再びヴィヴィオの寝顔を眺めはじめた。

「ごめんなヴィヴィオ。パパが頼りないばっかりに辛い目に遭わせちゃって」

俺はそう呟くと、ヴィヴィオの綺麗な金色の髪を撫でる。
しばらくそうしていると、突然ヴィヴィオの目がパチっと開いた。

「んっ・・・ぱぱ?」

「あ、ヴィヴィオ。ごめんな、起こしちゃったか」

「パパっ!」

ヴィヴィオはそう言うと俺の首に飛びついてきた。
まだ治っていない肋骨のあたりに痛みが走る。

「いててて・・・おいおいヴィヴィオ、パパだってけが人なんだから
 もっと優しくしてくれよ・・・」

俺はそう言いながら、首にしがみつくヴィヴィオを引きはがす。

「ねえパパ、へーき? おケガはだいじょうぶ?」

心配そうに俺の顔を見上げてヴィヴィオが尋ねてくる。

「あんまり平気じゃないかな。でも、じきに治るから大丈夫だよ」

「・・・いたいの?」

「そうだな・・・まだちょっと痛いかな」

「じゃあねえ、ヴィヴィオがおまじないしてあげる!」

「おまじない?」

「うんっ。ヴィヴィオがころんだときにママがしてくれたの」

「じゃあ、やってもらおうかな」

「いいよ。じゃあねぇ・・・”いたいのいたいのとんでけー”」

ヴィヴィオはそう言いながら指を天井に向けた。

「どう?いたいのなおった?」

「そうだな・・・ちょっと痛くなくなったかも。ありがとな、ヴィヴィオ」

俺はそう言ってヴィヴィオの頭をやわやわと撫でる

「えへへ・・・どういたしまして」

その時、外に出ていたアイナさんが戻ってきた。

「あら、ヴィヴィオ起きたんですね」

「ええ、俺が起こしちゃったみたいで・・・」

その時、ヴィヴィオが俺の入院衣の袖をくいくいっと引っ張る。

「ねぇ、ママに会いたい」

「うーん、そうだな・・・」

俺はアイナさんの方を見る。

「ヴィヴィオは病室から出ても構わないんですか?」

「一人では出ないように言われてますけど、誰かがつきそうなら構わないと
 聞いてますよ」

「そうですか・・・。よしっ、じゃあママの顔を拝みに行くか!」

「うんっ!」

ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

ヴィヴィオの手を引いてなのはの病室へ向かう。
ドアをノックするが応答はない。

「なのはー、入るぞー」

小声でそう言ってそっとドアを開けると、なのははベッドで眠っていた。

「残念、ママは寝てるよ」

「えーっ、やだー」

ヴィヴィオは頬を膨らませる。

「やだって言ってもな・・・。ママを起こすわけにもいかないから
 ちょっとだけ寝顔を見てから部屋に戻ろうな」

「・・・わかった」

「そっか。いい子だな、ヴィヴィオは」

そう言って頭を撫でてやると、ヴィヴィオはくすぐったそうに目を細めた。
ヴィヴィオを抱き上げてベッドのそばまで行く。
ちょっと胸のあたりが痛むが我慢だ。
ヴィヴィオはなのはの寝顔を見ると不安そうな表情を浮かべる。

「ママ・・・どこかいたいのかな?」

「そうだな・・・ママはちょっと頑張りすぎて疲れちゃったんだよ。
 だから、しばらくお休みしてるんだ」

「・・・ヴィヴィオのせいなの?」

泣きそうな顔でヴィヴィオは俺の顔を見る。

「ヴィヴィオのせいじゃないよ」

「でも・・・ヴィヴィオがママと戦ったりしたから・・・」

「そうだね。でも、ヴィヴィオもママと戦いたくて戦ったわけじゃないだろ?」

「・・・うん」

「じゃあ、ヴィヴィオのせいじゃないだろ。な?」

「・・・うん」

(こんなことになったのは元はと言えば・・・)

少し自罰的な思考に陥りそうになり、俺は頭を振ってそんな考えを吹き飛ばす。

「さ、ママを起こしても悪いし、部屋に戻ろうか」

「・・・うん」

ヴィヴィオはなのはの顔をもう一度見つめると、さみしげに頷いた。

 

 

第83話:退院


ゆりかごを巡る戦いから1か月程経ったこの日、
肋骨の骨折も癒えた俺は退院することになった。
荷物をまとめて病室を出る準備をしていると、不意に病室のドアが開いた。

「お久しぶりです。ゲオルグさん」

そう言って入ってきたのはシンクレアだった。

「久しぶり。入院中は一度も見舞いに来てくれない薄情な後輩に恵まれて
 俺はとっても幸せだよ」

皮肉たっぷりに笑顔でそう返すと、シンクレアは苦笑する。

「皮肉は痛み入りますけどね、ゲオルグさんが離脱してなきゃ俺は
 ゲオルグさんの見舞いに来る時間を作ることができたんですよ」

「はいはい。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんね・・・
 で?お前は何でここにいるんだ?」

「部隊長から副部隊長の出迎えに行けと命令を受けまして」

「なるほど、ではこの荷物はシンクレアが持ってくれるんだな」

そう言って俺は手に持った荷物をひょいと持ち上げる。

「ご命令とあらば」

「では、クロス1尉。持ちたまえ」

「失礼ながら、自分はツァイス3尉です」

真面目な表情で言うシンクレアに、
まだそんな設定が生きてるのかと内心で苦笑する。

「それは失敬、ツァイス3尉」

「いえいえ」

俺はシンクレアに荷物を渡すと1か月間世話になった病室を後にして、
病院の通路をシンクレアと並んで歩く。

エレベータホールについたところで俺はシンクレアに声をかける。

「ちょっと寄るところがあるから先に行っててくれ」

「・・・なのはさんのところですか?
 聞きましたよ、病室でなのはさんを押し倒したって。
 言っときますけど今日はそんなに時間の余裕は無いですからね」

ニヤニヤと笑いながらシンクレアが言ってくる。

「誤解だ・・・と言いきれないところが悔しいな。
 真面目な話、あいつはもうちょっと入院が続くからな。
 ちょっと挨拶してくる程度だよ」

その時エレベータが到着したことを知らせる音が鳴り、
3つあるエレベータのうち1つのドアが開く。
俺とシンクレアは並んで乗り込むと、シンクレアは1階の
俺はなのはの病室があるフロアのボタンを押す。
ドアが閉まると、シンクレアが話を再開する。

「挨拶がわりに一発は無しの方向でお願いします」

「そういう下品なことを言うのはやめてくれるかね」

シンクレアに対しては冗談めかして言うが、実際のところ
俺となのはは所謂そういう行為にはまだ至っていない。
極めてプラトニックな関係を貫いていた。
いろいろあってそんな暇も無かったというのが実情ではあるが。

「それは失礼致しました。で、真面目な話ですけど、俺は先に降りて
 車を正面に回しておきますね」

「了解。頼むわ」

その時、エレベータが止まり扉が開く。
俺はエレベータを降りるとエレベータの中に残ったシンクレアの方を振り返る。

「じゃあ、また後で」

「はい。お待ちしてます」

そして、エレベータのドアが閉まった。
俺は通路を一人なのはの部屋に向かって歩く。
入院中に何度も訪れたなのはの病室の前につくと扉をノックする。

「どうぞ」

なのはの声で返事が返ってくるのを待って、俺はドアを開けた。

「あ、ゲオルグくん。どうしたの?その格好・・・って今日退院だったっけ」

いつものように、ベッドを起こして座っているなのはは
俺が茶色い陸士の制服を着こんでいるのを見て、俺が今日退院することを
思いだしたようだった。

「そうなんだよ。だから、しばらく今までみたいにちょくちょくは
 会えなくなるだろ?それで、ちょっとなのはの顔を見てから
 行こうかと思ってね」

「そっか、ありがと。座る?」

「うん」

俺はベッドの脇に置かれた椅子に腰を下ろすと、なのはの顔を見た。
前に比べるとずいぶん血色が良くなってきたようにも見える。

「どうだ?調子は。顔色はだいぶよくなったみたいだけど」

「うん。ずいぶん調子は戻ってきたかな。お医者さんからも
 病院の中なら歩き回ってもいいって言われてるし」

「そっか。なのはも再来週には退院だもんな」

「予定ではね。でも、予定はあくまで予定だから」

そう言ったなのはの表情にはちょっと陰りが見える。
もともとは1か月の予定だったので、俺となのはは同時に退院する予定だった。
だが、回復が予想よりも遅れているためになのはの退院予定が2週間伸びたと
数日前に見舞いに来たフェイトから聞かされていた。

「まあ、焦ることはないよ。今まで忙しかったんだし、
 ちょっと長い休暇だと思ってゆっくりすればいいよ」

「ありがと。でも、休暇にしては退屈すぎるんだけどね」

なのははそう言ってさっきまで読んでいた本を持ち上げて見せる。
ベッドサイドのテーブルにはなのはが入院生活中に読んだ本が
うず高く積まれていた。

「今度来るときはなんか面白そうなもんを持ってくるよ」

「うん。お願い」

俺は部屋にかけられた時計に目を遣る。

「じゃあ、そろそろ行くよ。シンクレアを待たせてるから」

「そうなんだ。じゃあ、早く行ってあげないとかわいそうだね」

そう言うなのはの顔は穏やかではあるが少しさみしそうに見えた。

「また時間を作ってちょくちょく会いに来るよ。ヴィヴィオも連れてさ」

ヴィヴィオは2週間ほど前に退院していた。
もともとレリックとの融合による影響がないか調査するための
検査入院だったらしい。
今はアイナさんの家で預かってもらっている。

「うん。でも無理はしなくていいよ。ヴィヴィオならアイナさんが
 ちょくちょく連れてきてくれてるから」

「そっか。じゃあ、またな」

俺はそう言って椅子から腰を上げて、病室を後にしようとしたが、
袖を引かれる感じがして立ち止まる。
振り返って見ると、ちょっと不機嫌な表情のなのはが俺の制服の袖を
掴んでいた。

「どうかしたのか?」

「忘れ物だよ」

なのははそう言うと、俺のネクタイを引っ張って自分の方に引き寄せる。
そのまま俺たちは軽く唇を合わせた。

「ごちそうさま」

俺がそう言うと、なのはは声を上げて笑う。

「ふふっ・・・じゃあ、おそまつさま・・・かな?」



なのはの病室を出た俺は足早に病院の通路を歩く。
階段を駆け下りて正面玄関に向かうと、シンクレアの車が見えた。
助手席の扉を開けて乗り込むと、シンクレアの方から声をかけてきた。

「遅いですよ。何分待たすんですか」

そう言いながらシンクレアは車を発進させる。

「悪い悪い。ちょっと話しこんじゃって」

「・・・口紅。ついてますよ」

そう言ってシンクレアはニヤリと笑う。

「んなわけないだろ。入院中なんだから化粧なんかしてないよ」

「ということはキスはしたと」

「・・・ノーコメント」

車はクラナガンの都市高速を抜け、壊滅した6課の隊舎があった
湾岸地区に向かって走る。

「そういえば、ゲイズ中将の件では活躍したらしいな」

俺がそう声をかけると、シンクレアはハンドルを握っていた手で頭をかく。

「いや・・・俺は念のためのつもりだったんですけどね。
 まさか大当たりを引くとは思いませんでした」

「謙遜するなよ。そういうのの積み重ねがああいう仕事は重要なんだから。
 胸張っていい成果だと思うぞ」

「ありがとうございます。ゲオルグさんにそう言ってもらえたのが
 一番うれしいですよ」

そう言ったシンクレアの横顔は心なしか頬がゆるんでいた。

「しかし、次の人事で昇任は間違いなしか・・・階級で並ばれちまうんだな」

「何言ってるんですか。ゲオルグさんだってたぶん昇任しますよ。
 はやてさんが”ゲオルグくんは絶対昇任させる!”って息まいてましたから」

「余計なことを・・・」

やがて、左側に海が広がってくると遠くに次元航行艦アースラの
巨体が見えてきた。
シンクレアは車をアースラのメインハッチから伸びるスロープの前に
停止させる。
俺はシンクレアの車から降りると、海岸線に横づけされたアースラの巨体を
見上げて嘆息した。

「話には聞いてたけど、何て言うか・・・非常識な光景だな」

「そうですか?まあ、見慣れてしまえばどうってことは無いですよ」

俺の隣に立ったシンクレアが何でもないような風に言う。

「それに、隊舎の再建工事も始まったんだな」

俺はアースラと反対側の隊舎のあった方に目を移す。
そこには防音シートで囲まれた工事現場があった。
中からガラガラと何かが崩れる音が聞こえてくる。

「あれはまだ解体工事ですよ。せっかく作りなおすんだからって、
 基礎から再設計するらしいですから」

「あと半年で解体される試験運用の部隊の隊舎を再建してどうすんだよ。
 市民の税金を無駄遣いしたらダメだろう」

「さあ?ていうか俺にそういうこと聞かれても困りますよ。
 ただ、6課が解体されたあとも何かに使うのは決まってるらしいです」

「ふーん。ま、作ったもんは無駄なく活用しないといかんわな。
 あんな立派な訓練施設もあるんだし」
 
そう言って俺は、アースラの後方にある訓練施設の方に目を遣る。

「あ、ちなみに隊舎再建工事の担当はゲオルグさんらしいので」

「ふーん・・・は!?」

シンクレアがサラッと言ったことに俺は驚きの声を上げる。

「それ以外にもたくさん仕事はあるらしいですよ。
 今日からゲオルグさんが復帰するって決まってから
 はやてさんがイキイキとゲオルグさんに割り振る仕事を決めてましたから」

「一応病み上がりなんだけどな、俺・・・」

俺は先行きに不安を感じながら、スロープを上がってアースラへと向かった。

 

 

第84話:副部隊長再復帰


アースラの艦内に入った俺とシンクレアは、
そのまま真っすぐ艦長室へと向かった。
艦長室の前につくと、扉の脇のパネルのボタンをシンクレアが押す。
しばらく間が合ってはやての声が響いた。

「はいはい。どちらさん?」

「シンクレアです。ゲオルグさんをお連れしました」

「ん!すぐ入って!」

プシュっという音とともに滑らかに開いたドアの向こうには、
難しい顔をして端末のキーを叩くはやてが見えた。
俺ははやての前で姿勢を正すと、挙手の礼をする。

「シュミット3等陸佐。本日より任務に復帰いたします」

俺が殊更固い口調でそう言うと、はやては俺の方をちらっと見る。

「判ってるっちゅうねん。ええからそっちに座って待っといて」

はやてはそう言ってソファの方を指さす。

「り、了解」

俺は少し肩を落としてソファに腰を下ろした。

「じゃあ、俺は仕事に戻りますので」

「はいはい。フェイトちゃんによろしく」

「了解です。はやてさんもあまり根を詰めないようにしてくださいね」

「ん?大丈夫。貴重な戦力が復帰してくれたから」

はやてはそう言って俺の方を見るとニヤッと笑う。

「そうですね。では」

シンクレアはそう言って艦長室から出て行った。
しばらくソファに座ってボケっとしていると、向かい側に端末を持った
はやてが腰を下ろした。

「退院おめでとう。さっそくやけど仕事の話をしてもええかな?」

俺が無言で首を縦に振るとはやては小脇に抱えていた端末を
テーブルの上に置く。

「ゲオルグくんにやってもらいたいんは、前からやってもらってた
 部隊の運営事務と隊舎の再建工事関係、あとはフォワードの子らの訓練やね」
 
「ん?他の2つはともかく、スバル達の訓練は俺でいいのか?
 なのははもう少し退院までかかるからしょうがないにしろ
 ヴィータとかフェイトとか・・・」

「ヴィータにはゲオルグくんのサポートをやってもらうわ。
 基本的に、訓練データの整理とかはヴィータにやらせて。
 フェイトちゃんは・・・そんな暇ないんよ」

「ああ、事件の処理か・・・」

俺がそう言うと、はやては真面目な顔で頷く。

「そういうこと。実際、捜査関係の仕事はアホみたいに多くて、
 私とフェイトちゃんで分担した上でも、シャーリーだけやととても
 じゃないけど手が足りんからシンクレアくんにもフェイトちゃんの
 サポートをやってもらってる。それでも遅くまでやってるよ」

「まあ、あれだけの大事件な上に、容疑者が大物ぞろいだからな」

「そうやねん。しかも過去の事件と複雑に絡み合ってるやろ。
 私も特別捜査官やったしこういう作業は慣れてんねんけど
 如何せん事件の裾野が広すぎてな・・・往生してるわ。
 ま、そんなわけでグリフィスくんも私のサポートで手いっぱいやし
 ゲオルグくんにも苦労をかけるけど頼むわ」

はやてはそう言って俺に向かって頭を下げた。

「指揮官がそう簡単に部下に頭を下げるなよ。
 部隊の運営関係は今までもやってきたことだし、隊舎の再建工事は
 業者との折衝がメインだろ。なのはももう少しで退院してくるだろうし」

「そうやね。捜査関係も捜査部と査察部に引き継げる状態まで持っていけば
 あとは私らの手を離れるから、もう少しの辛抱やわ」

「だな。まあ後1か月ってとこか」

「そうやね。あ、それと言い忘れてたんやけど、6課の来年3月での解散が
 正式に決まったから」

「そっか。ま、もともとその予定だったんだしな」

「ま、とはいえちょっとさみしいわな。これだけ実績を上げたのに
 解散っちゅうのも」

「まあそれは仕方ないよ。上には上の思惑があるだろうし」

俺がそう言うと、はやては少し前かがみになって俺の方に顔を寄せる。

「それなんやけど。どうも、管理局全体で大きな組織体系の変更が
 あるらしいんよ」

「・・・どういうことだ?」

「いや、私もクロノくんからちらっと聞いただけなんやけど、
 今回の事件の遠因に、上層部の人事の硬直化が挙げられてるらしくて、
 もうちょっと風通しのいい人事体系にしたいらしいんよ」

「いいことじゃん」

「まあそうやねんけど、どんな改革になるんか興味ない?」

「興味はあるよ。でも、俺も所詮管理局全体から見れば下っ端だからさ」

「それは私も一緒やけどね。ま、今からそんなこと気にしててもしゃあないか」

「そうだよ。そういうデカい話しは偉い人に任せとけばいいのさ」

「そらごもっともやね。それはともかく、またよろしくな」

「ああ、こちらこそ。じゃあな」

「うん」

そして俺ははやてと別れ、副長室へと向かった。



1カ月ぶり副長室に戻った俺は、まず端末を開いてメールを確認する。
そこにあったのは山のような未読メールの嵐だった。

(790通って・・・・やるしかないよな・・・はぁ・・・)

最初は1週間以上前のメールはすべて削除してしまおうかとも思ったのだが、
直近1週間の重要そうなメールを見ると、ほとんどがそれ以上前からの経緯を
把握していないと処理のしようがなさそうだったので、まずは明らかに
読む必要のないお知らせのようなメールをサクサクと削除していく。
1時間ほどその作業を続けると、残ったメールは350通。

(半分以上は読む必要のないメールってことかよ・・・ったく)

俺は舌打ちして次に、最近のメールの中で最も重要そうなものから順に
ピックアップして、必要ならその前に来た関連するメールを探すという
手間のかかる作業に取り掛かろうとした。
そのとき、来客を告げるブザーが鳴る。

「はいはい、どちらさん?」

「あたしだ」

聞こえてきたのはヴィータの声だった。

「ヴィータ?入っていいぞ」

俺はそう言ってドアを開けてやる。
部屋に入ってきたヴィータは俺の顔をじっと見つめると
不機嫌そうな表情を浮かべる。

「なんだよ。ずっと入院してたっつーからもっと顔色でも悪いかと思ったら
 ずいぶん元気そうじゃねーか」

「元気になるために入院してたんだよ。元気なのは当然」

「あ、そーか。ま、いいや。でよ、ゲオルグ」

ヴィータは俺の方を窺うように見る。

「なんだ?」

「なのはが復帰するまでおまえとあたしであいつらの訓練を見てやれって
 はやてに言われたんだけどさ、どんな訓練をしてやったらいいと思う?」

ヴィータの言葉に俺は考え込んでしまった。
これまでは、ガジェットや戦闘機人を想定した訓練をずっと続けてきた。
だが、これからはそれらと戦うことはない。
正直言ってどのような訓練を課すべきか悩む状況ではあった。
しばらく悩んで俺はあるアイデアを思いついた。

「決めた。一回あいつらを試してみることにしよう」

俺がそう言うと、ヴィータは怪訝な顔をする。

「試す・・・?どーゆーことだ?」

「この半年であいつらがどれだけ力をつけたかを試すんだよ。
 単純な戦闘力だけじゃなく、ここもな」
 
俺はそう言って自分の頭をトントンと指で叩く。

「そう言うからには何か案はあるんだろーな?」

「まあな。まあ、明日の朝のお楽しみだよ」

「わかった。じゃあゲオルグに任せる。じゃーな」

ヴィータはそう言って部屋を出て行った。
俺は再びいつ果てるとも知れないメールの山との戦いに戻った。

 

 

第85話:B・R


翌朝・・・。

訓練施設の前で4人の若者を目の前にした俺は高らかに宣言した。

「皆さんにはこれから殺し合ってもらいます!」

俺の声の余韻が朝の空気に溶けて行く中、スバル達4人の
表情は凍りついていた。
隣に立つヴィータの方を見ると俺の方を見てあんぐりと口を開けている。

(あれ?ひょっとして俺・・・スベった?)

俺の背中を冷たいものが流れ落ちる。
この場の空気に耐え切れなくなった俺は、大きく咳払いをすると
努めてにこやかな表情を作って、4人の顔を見た。

「というのは冗談で、今日はお前ら4人にバトルロイヤルをやってもらう」

俺がそう言うと、フォワードの4人は揃って首をかしげると
互いに目を見合わせる。

「バトルロイヤル・・・ですか?」

4人を代表するかのようにティアナが尋ねてくる。

「そ、バトルロイヤル。知らない?」

「いえ、バトルロイヤルは知ってます。ですが・・・」

「なんでバトルロイヤルかって聞きたそうだね」

「ええ・・・まあ・・・」

「それはな・・・面白そうだからだ!」

俺が少し胸を張ってそう言うと、真剣に話を聞く態勢になっていた
ティアナはガクッと肩を落とす。

「面白そうって・・・」

「え?面白そうじゃない?バトルロイヤル。誰が一番強いのか!?みたいな」

俺が明るい口調でそう言うと、ティアナは怪訝な顔をする。

「・・・ゲオルグさん、なんか人変わってません?」

「そんなことないぞ。なあ、スバル。お前も面白そうだと思うだろ?」

俺はバトルロイヤルという言葉を聞いた瞬間から笑顔を浮かべていたスバルに
話を向ける。

「はいっ!ね、やろうよ!ティア」

ノリノリで話しかけるスバルに呆れたのかティアナは頭を抱えていた。

「はいはい、わかったわよ・・・。それより・・・」

ティアナはそう言って先ほどから何も喋っていない2人に目を向ける。

「エリオとキャロはいいの?」

ティアナの質問にエリオはすぐに頷く。

「はい。僕らってお互いに個々で戦ったことってないので、
 一度やってみたいとは思っていましたから」

「そう。じゃあキャロは?」

「はい。わたしもいいです」

キャロは控えめにそう言うと、こくんと頷く。

「よしっ、決まりだな。じゃあルールを説明するぞ。
 舞台は廃棄都市区域を設定する。お前らはそれぞれ4隅からスタートだ。
 攻撃判定はいつものとおり、シールドを抜けて攻撃が当たったら撃墜だ。
 何か質問は?」

俺が話を終えると、スバルが手を挙げる。

「何か優勝商品とかないんですか?」

「・・・欲しいのか?」

「はいっ!」

「じゃあ、優勝者には俺が何かおごってやろう。食いもんじゃなくていいし
 制限金額も無しでいい。ただし、常識の範囲内でな」

「ホントですか!?これは燃えてきたよー!」

スバルが拳を握りしめて気合を入れている。

「・・・ただし、最初に撃墜された奴には、罰として1週間
 俺の仕事を手伝ってもらう」

俺がそう言うと、先ほどまで気分上々だったスバルがピシリと固まる。

「・・・マジですか?」

「マジだ。容赦なくこき使うからそのつもりで」

「・・・これは・・・負けられない・・・」

罰があるとなると急に悲愴な雰囲気が漂ってくる。
キャロなどはまだ自分がそうと決まったわけでもないのに泣きそうな表情だ。
そんななか、ティアナだけが飄々とした雰囲気を纏っていた。

「ん?ティアナは怖くないのか?罰」

「はい。別に・・・」

そんなティアナの様子にスバルが茶々を入れる。

「そりゃティアはゲオルグさんが大好きだもんね。
 1週間も一緒にいられるなら、願ったり叶ったりでしょ」

「うっさいわね。そんなんじゃないわよ。第一、ゲオルグさんには
 なのはさんっていう恋人がしっかりいるでしょ」

さすがにとりとめがなくなってきたので、俺は手を叩いて話を止める。

「いいからさっさと始めるぞ。お前らさっさと行け!」

俺がそう言うと、4人は訓練スペースの中に散っていった。
4人の背中が見えなくなったところで、ヴィータが話しかけてくる。

「で?おめーの狙いはなんだよ」

「は?なんのことだ?」

「おめーのことだから意味もなくこんなことはやらねーだろ」

「ん?レクリエーション的な要素が欲しいと思ったのは本当だよ。
 ここまでかなり辛い戦いが続いたしな」

「ふーん。で?狙いはそれだけじゃねーんだろ」

「あいつらはさ、お互いの手の内を知り尽くしてるだろ。
 そういう相手と、しかも単純に敵と味方っていう関係だけじゃない状況で
 どう考えてどう動くかを見てみたかったんだよ」

俺がそう言うと、ヴィータはなるほどというように何度も頷いていた。

「やっぱ、お前ってちゃんと考えてんのな」

感心したように言うヴィータに向かって俺はニヤっと笑ってみせる。

「ま、お仕事ですから」



ヴィータと協力して、4人の様子を逐一追えるように訓練スペースの
監視システムの設定をしていると4人から配置についたとの連絡が入る。
モニターには思い思いのやり方でこれからの戦いに向けた準備をしている
様子が映っていた。

スバルは元気に準備運動をしながら。
ティアナは目を閉じて戦術を練るように。
エリオはじっと訓練スペースの中央を見つめて。
キャロは小さな姿のフリードとコミュニケーションを取って。

こんなところにも個性が出るもんなんだなと感心していると、
ヴィータが俺の背中をつつく。

「お前は誰が最後まで残ると思ってんだ?」

「さあな、それはわからん。ただ、スバルが真っ先にやられるのは
 勘弁して欲しいな」
 
「ん?なんでだ?」

ヴィータは俺の言葉に疑問を感じたのか首をかしげて尋ねてくる。

「この先1週間の仕事の捗り具合を考えると胃が痛くなる・・・」

俺がそう言うと、ヴィータは声を上げて笑った。
俺はそんなヴィータにちょっと反感を覚える。 

「俺にとっちゃ笑い事じゃないんだけどな・・・。
 ところで、ヴィータはどうなんだ?」

「あたしか?あたしは意外とキャロが残るんじゃねーかと思ってるぞ」

「ほぅ。根拠は?」

「あいつは誰にも狙われなさそうだからだ」

表情から見るにヴィータは至って真面目に答えているのだが、
俺はその答えに笑いを堪えられなかった。

「くくくっ・・・そうきたか・・・なるほど、それは確かにそうかもな」

「・・・あたしは真面目に言ってんだけどな」

「悪い悪い。そんな切り口もあるんだなと思ってさ。勉強になります」

俺がそう言って頭を下げると、ヴィータは不機嫌そうに顔をそらした。

「さてと、無駄話はこれくらいにしてそろそろ始めるか・・・」

俺は4人との通信をつなぐ。

「そろそろ始めるけど準備はいいか?」

俺からの通信に対して、

「いつでもいいです!」
と、元気に返事をしたのは南東角からスタートからするスバル。

「準備OKです」
と、冷静に返すのは北東側にいるティアナ。

「はいっ!」
と、拳を握りしめて短く返す南西角のエリオ。

「はい、大丈夫です」
と、控えめに返してくるのは北西角からスタートのキャロだ。

4人からの返事を確認して、俺はヴィータの方を見る。
ヴィータも俺の方を見て頷く。

「よしっ、じゃあバトルロイヤル。時間無制限1本勝負。始め!」

俺が芝居がかった口調でそう言うと、4人は一斉に動き始めた。
俺とヴィータはモニターでその動きをチェックする。

「おっ!やっぱスバルはそー来たか・・・」

ヴィータの声に反応して訓練スペース全体の魔力反応を表示する戦術モニターに
目を遣ると、南東にある点が北に向かって真っすぐ移動しているのが見えた。
明らかにティアナを狙う動きだ。
スバルを追跡しているサーチャーからの映像を見ると、ビルに挟まれた
細い道を高速で移動している姿が映っていた。

「スバルは戦術家としてのティアナの強さを一番知ってるからな。
 戦術云々の争いになる前に叩いておかないとどうにもならないっていう
 判断なんだろ」

「だな。まー、ティアナもスバルがそう考えるのはお見通しだった
 みてーだけど・・・」

ティアナが映るモニターを見ると、手近なビルの一室に身をひそめている
姿が映る。

「ただ隠れてるだけ・・・か?」

俺は戦術モニターに目を走らせる。
見ると、ティアナの周りで小さな魔力反応が無数に飛び回っていた。
疑問に思った俺は、ティアナがいる辺りの映像を呼び出す。
そこに映ったのは、小さな魔力弾があちこちのビルの外壁に
ぶつかっている映像だった。

「ティアナは、何やってんだ?」

攻撃用にしては威力が小さすぎるし、そもそもスバルはまだ射程圏外だ。
ティアナのやっていることの意味を理解しかねた俺はモニターの映像に
目を凝らす。

「おいゲオルグ。サーチャーの反応が増えてるけど、おめーが追加したのか?」

「は?俺は増やしてないぞ」

ヴィータに向かってそう答えながら俺は戦術モニターに目を走らせる。
見ると、ティアナの隠れているビルの周辺の外壁に埋め込まれるように
小型のサーチャーが設置されていた。その数20超。

「ん?この場所って・・・。」

俺はじっと小型サーチャーの配置を眺めると、あることに気がついた。
確認のために、戦術モニターでティアナの魔力弾が着弾した地点を確認する。
すると、魔力弾の着弾地点と小型サーチャーの設置地点が見事に一致していた。

「そういうことか・・・。あいつ、なんつー器用なことを・・・」

俺が感心しながらそう言うと、ヴィータが首を傾げて俺を見る。

「何かわかったのか?」

「ティアナはサーチャーを小さい誘導型の魔力弾の中に仕込むことで、
 自分自身は動くことなく周囲に観測網を作り上げたんだよ」

俺がそう言うと、ヴィータは驚きで目を丸くしながら自分でも
戦術モニターを確認する。

「ホントだ・・・。魔力弾の着弾地点とサーチャーの反応がある地点が
 一致してやがる。器用なヤツだな・・・」

「まったくだよ。ところで、ライトニングの2人はどうしたかな?」

そう言って俺は戦術モニターの表示範囲を訓練スペース全体に広げる。
すると、南西から北東に向かって高速で移動する点と
中央からやや北西よりの地点で動かない点が見つかった。

「どうやらエリオもスバルと同じ結論に至ったみたいだな」

俺はそう言いながらエリオを追跡するサーチャーの映像を確認する。
そこにはストラーダの柄につかまって上空を飛ぶエリオの姿があった。

「おーおー、早えーな。こりゃティアナの観測網に引っ掛かるのは
 スバルと同時くらいか」

ヴィータはエリオの移動速度の速さに感心するように声を上げる。

「そうだな。しかし、これは見ものだぞ」

俺の言葉にヴィータが頷く。

「だな。いきなり三つ巴の戦いになるっつーことか・・・」

「で、不気味に沈黙を守るキャロ・・・か。キャロはエリアサーチで
 3人が戦闘状態に入りつつあるのは把握してるだろうしな」

「キャロはなんで動かねーんだろうな?」

ヴィータは首を傾げながら俺の方を見る。

「キャロはフリードに乗っかれば移動速度も速いし、攻撃力も高い。
 でも、必然的にあのでかい図体をさらすことになるからな。
 他の連中から見ればいい的になる。
 だから最初は身を隠すことを選んだんだろうな。
 幸いなことに、あいつは自分で敵を察知できる能力もあるし」

「で、他の3人が戦い疲れてきたところを一網打尽・・・か。
 侮れねーな」

ヴィータはそう言ってビルの一室で蹲っているキャロの映像に目を向ける。

「いや。俺ならもっと手っ取り早い手を考えるね。条件次第だけど」

俺がそう言うとヴィータはバッと俺の方を振り返る。

「そりゃどーゆー手だ?」

「安定してヴォルテールを召喚できるなら、3人が戦闘状態に入った瞬間に
 ヴォルテールを召喚して、一気に薙ぎ払う」

「うわ・・・反則くせー。さすがは6課イチの反則ヤローだな・・・」

ヴィータはそう言って嫌なものでも見るような目を俺に向ける。

「そんなに褒められたら照れるじゃねえか」

俺が冗談めかしてそう言うと、ヴィータは本気に取ったのか
呆れたように俺を見る。
俺は、さすがにそんな目線に耐えられなくなり、一度咳払いすると
真剣な表情を作る。

「ま、キャロがそんな手を使うとは思えないけど・・・って、
 2人がティアナの観測網にかかったな」

「ホントだ。お、ティアナが幻影を使いだした・・・」

モニターに映るティアナの本体は全く動いていないが、
接近してくる2人に合わせるかのように、その進路上に
ティアナの幻影が姿を現し、幻影が射撃を始める。

「・・・俺んときと同じ手か・・・」

「ゲオルグんとき・・・?」

何を言っているのか判らないのかヴィータはまた首を傾げて俺を見る。

「前にティアナとマンツーマンで訓練してた時期があったろ。
 そんときの模擬戦で一回使ってきたのと同じ手だな」

「ふーん・・・」

「でも、あの射撃は通常のよりも威力が半減くらいなんだよ。
 だから牽制くらいにしかならないし、幻影だってバレる可能性もあるんだ」

「じゃあ、ダメじゃねーか。なんのためにそんなめんどくせ―ことしてんだ?」

「ああいうのの目的は行きつくところ一つだよ」

「は?なんだよ、その目的って」

「相手の行動を自分の思い通りに誘導することだ」

ヴィータは俺に向けた目を大きく見開く。

「っつーことは・・・罠か!?」

「ご明察。たぶん2人を誘導した先に設置型バインドでも仕掛けてるんだろ。
 で、高威力の射撃かダガーモードで撃墜ってハラだろうな。
 っと、スバルはたぶん罠にハマるな」

そう言って俺は再びモニターに目を向ける。
幻影からの射撃に対して、スバルは弾き飛ばしながら幻影に向かって一直線に
向かっていく。
 
『でやぁぁぁぁっ!』

ずいぶん引いた位置にあるサーチャーにまで届くような声を上げて、
スバルは幻影に向かって拳を突き出す。
次の瞬間、ビルの屋上にいたティアナの幻影は掻き消え、
スバルの攻撃はビルに命中して屋上を破壊し大きな砂煙を上げる。
それは、ティアナの本体が隠れているビルの屋上だった。

その時だった。訓練スペースの監視システムが警報を鳴らす。

「何だ?・・・え!?巨大な召喚反応だと!」

ヴィータの声に反応して俺はすぐさま戦術モニターに目を向ける。
すると、スバル達3人がいるあたりに巨大な何かが召喚されつつあった。

「・・・ウソ・・・だろ・・・」

俺とヴィータが目を丸くして見つめるモニターの先にあるもの。
それは真竜・ヴォルテールの姿だった。
ヴォルテールは大きく息を吸うようにその巨体をそらすと、
次の瞬間に、巨大な炎をその口から吐き出した。

「・・・マジでやりやがった・・・」

撃墜判定を告げるウィンドウ相次いで表示される。
俺はしばし呆気にとられていたが、我に返ると4人に通信を送る。

「訓練終了。勝者はキャロ。って・・・キャロ以外には聞こえてないか・・・」

モニターには笑顔を浮かべてフリードに跨るキャロと、
ヴォルテールの攻撃によって気絶した他の3人の姿が映っていた。

 

 

第86話:お説教?あなたが!?


キャロがヴォルテールを戻した後、俺はヴィータとともに倒れている3人の
ところへと文字通り飛んで行った。
そして、3人とも大きな怪我もせず無事であることを確認すると、
ゆっくりと地上に降りてくるフリードを見上げた。
フリードから降りてきたキャロに俺は駆け寄る。
そして、ニコニコと笑っているキャロにの頭に拳骨を落とした。

涙目で俺の方を見上げるキャロに向かって俺は怒鳴りつける。

「キャロ!いくらなんでもやり過ぎだ。これは訓練なんだぞ。
 あいつらを殺す気か!?」

「・・・すいません。
 でも、ヴォルテールさんにお願いして、加減はしてもらいましたよ」

「当たり前だ!」

俺が声を荒げると、キャロは肩をびくっと震わせる。

「う・・・すいません・・・。もう、しません」

「判ればいい。あと、3人にはきちんと謝っとけよ」

「・・・はい」

キャロはさすがに反省したのか、肩を落としてうなだれていた。

「しかし、ヴォルテールを安定して呼び出せるようになったのか」

少し表情を緩めてキャロに尋ねると、キャロはころっと表情を変える。

「はい!ルーテシアさんの白天王と戦ってもらったあとに
 いろいろお話したら、気に入られちゃったみたいで・・・
 今ではすっかり仲良しです!」
 
そう言ってキャロは笑顔を浮かべる。

「そうか。でも、アレを呼び出すのは本当に必要な時だけにしとけよ」

「はい。気をつけます」

真面目な顔で頷くキャロの頭を少し乱暴に撫でると、
未だに倒れたままの3人を介抱するヴィータの方を振り返った。

「ヴィータ。アースラに戻ってシャマルを呼んで来てくれ。
 大丈夫だとは思うが念のためな」

「わかった」

ヴィータはそう言ってアースラへと飛んだ。



「やり過ぎちゃって・・・ごめんなさい」

ヴィータがシャマルを連れてきてしばらくしてから、
目を覚ましたスバル達3人に向かってキャロが頭を下げる。

「まあ・・・いいんじゃない」
肩をすくめて言うのはティアナ。

「いいよ。使えるものはすべて使うのが戦いってものだろうし」
キャロに向かって微笑みながら言うエリオ。

「いいよいいよそんなの。それよりやっぱり凄いね、ヴォルテール」
感心したように言うのはスバル。

3人ともキャロがヴォルテールを召喚したことはあまり気にしていないようだ。

「3人とも悪かったな。今回の件は俺の監督不行き届きだ」

俺はそう言って3人に向かって頭を下げた。
それに対して3人が口を開こうとするが、その前にシャマルが俺に向けて
鋭い目線を送る。

「まったくね。こういうことにならないようにゲオルグくんやヴィータが
 いるはずなのよ。金輪際こんなのは無しにしてもらいたいわね」

腰に手をあてたシャマルの口から強い調子で放たれた言葉に
俺やヴィータは身をすくめる。

「まあ、今回は大した怪我も無かったからいいようなものの・・・」

「悪かった!2度とこういうことにはならないようにする!」

このままではくどくどと説教されそうな雰囲気だったので
俺はそう言ってシャマルに向かって勢いよく頭を下げた。
そしてその勢いのままスバル達の方に向かって振り返る。

「と、いうことで本日の訓練はこれにて終了!解散!!」

俺はそう言うとそそくさとアースラの方に足を向ける。
すると、後ろから制服を引っ張られた。
見ると、キャロが俺の顔を見上げている。

「どうした?キャロ」

「えっと・・・あの・・・」

キャロはもじもじしてなかなか話そうとしなかったが、
やがて意を決したように俺の目を見た。

「ご褒美・・・もらえるんですか?」

「は!?」

俺は一瞬キャロが何を言っているのか理解できずに固まる。
が、すぐに訓練を始める前にそんなことを言ったのを思い出した。

「そうだな・・・。ま、いいぞ。約束だしな」

「本当ですか?ありがとうございます!」

キャロは嬉しそうに笑うとペコリと頭を下げる。

「で、何が欲しいんだ?」

「あの・・・前から欲しかったお洋服があったんですけど、
 いくつかいいなぁって思うのがあって・・・」

その時、キャロの背後に回り込んだティアナが俺に目で合図を送ってきた。
見ると、エリオの方を指さしている。

(ははーん。そういうことか・・・)

俺はティアナに向かって了解というサインの代わりにウィンクすると、
キャロの肩に手を置く。

「なあキャロ。さすがにいくつもは買ってやれないから、
 今度の休みにでもエリオに選んでもらってくれ。これで足りるか?」

俺はそう言って、何枚かの紙幣をキャロに手渡した。

「あ・・・はい。ありがとうございます」

キャロは呆気にとられたような顔で俺を見上げる。
俺はキャロにむかってひらひらと手を振ると、アースラに向かって歩き出した。

アースラのハッチに上がるスロープを上っていると、
後ろから追いかけてくる足音が聞こえてきた。
その足音の主は俺の横に来ると俺のペースに合わせて歩きはじめる。

「ありがとうございます。察してくださって」

俺は隣を歩くティアナを一瞥すると再び目線を前に向ける。

「別に構わないよ。でも、余計なお節介ってことはないか?」

「2人とも満更でもないみたいですよ。早速次の休みに出かける
 約束をしてましたし」

「ふーん。若いってのはいいねぇ・・・」

俺が遠い目をしながらそう言うと、ティアナがクスッと笑う。

「ゲオルグさんにはなのはさんがいるじゃないですか」

「そう言う意味じゃなくって、初々しくていいなと思ってさ」

「ゲオルグさんにだってあんな時期はあったんじゃないんですか?」

ティアナの問いに俺は自分が10歳のころを思い出す。
そして首を横に振った。

「いや。俺があいつらの歳のころはもうかなりスレてたかな」

「スレてた・・・ですか?」

ティアナは俺の言葉に首を傾げる。

「そう。当時の俺は勉強だけはできたから飛び級してたしね」
 
そうこうしているうちに俺達は副長室の前まで来た。

「じゃあな、ティアナ。今日は悪かった」

「いえいえ。それでは失礼します」

軽く頭を下げてからフォワード隊の待機室の方に向かうティアナの背中を
見送ると、俺は副部隊長室に入った。



午後は、昼食後すぐに隊舎再建工事の打ち合わせで本局に出かけ、
アースラに戻ってきたときには、もうすっかり夜になっていた。
艦内の食堂で少し遅い夕食を食べていると、向かいにはやてが座った。

「お疲れさん、ゲオルグくん」

「ん、お疲れ」

「今日は訓練でやらかしたらしいやん」

俺ははやての言葉に思わずむせてしまう。
見るとはやてはニヤニヤと嫌らしい笑顔を浮かべている。

「・・・誰から聞いたんだよ」

「シャマルから聞いたんよ。めっちゃ不機嫌やったよ」

「・・・しばらく医務室には近寄らないようにする」

「それが賢明やと思うわ。ところで」

そう言うとはやての顔が真剣な表情に変わる。

「隊舎再建工事の方はどう?うまくはかどってる?」

「今日打ち合わせに行って来たんだけどさ。ちょっとうまくないな」

「そうなん?」

はやては心配そうに顔を曇らせる。

「うん。はやても知っての通り、管理局全体の組織体系を見直す
 動きがあるだろ。その煽りで6課が解散したあとの隊舎の使い道についても
 考え方が二転三転しててさ。とりあえず建物の外観は今までと同じにする
 ってことしか決まらなかった」

「そうなんや。組織の話が決まらんと隊舎の仕様が決まらんのでは
 時間がかかりそうやね」

「そうなんだよ。困ったもんさ」

「とはいえいつまでも再建工事を始められへんのは困るよ」

「判ってる。だから今後のことは考えずに元の隊舎をそのまま
 建てなおすことになりそうだ」

俺がそう言うと、はやては露骨に表情を曇らせる。

「なにそれ、しょうもない」

「しょうがないだろ。一応もとの隊舎は標準的な地上部隊の隊舎構成だし、
 悪くない案だと思うぞ」

「まあ、そっか」

はやてはそう言うと、手元のグラスの水をぐいっとあおった。

「ところで、事件の捜査のほうはどうなってんだ?」

俺がそう訊くと、はやては眉間にしわを寄せる。

「フェイトちゃんたちが頑張ってくれてるけど、全貌はまだまだ見えへんね。
 スカリエッティは事件に関する限り完全黙秘やし、
 戦闘機人も肝心なことを知ってそうなんは軒並み非協力的。
 何人か協力的なんはおるからそこから得た断片的な情報を
 組み合わせてるとこ」

「ゲイズ中将は?」

「あっちは素直やね。もともと、世界を守るためにやむなく・・・って
 感じで手を染めたようなところがあるから。
 にしても、規模が大きすぎてまだまだ何がなにやらさっぱりよ」

「そっか・・・。そういえば、戦闘機人ってこの後どうなるんだ?」

「捜査協力を拒否した奴は軌道拘置所送り確定やね。
 協力的なんでも社会的常識を知らん奴ばっかりやから、
 何カ月か何年かはわからんけど更生プログラムを受けて、
 その後は管理局にご奉公の身の上やろうね」

「ま、そんなとこだろうな」

「気になるん?」

はやてはそう言って俺の顔を覗うように見る。

「まあ、それは・・・な」

「ほんなら、明日ちょっと私とドライブでもどう?」

はやてはそう言って柔らかな笑顔を浮かべる。

「はあ?」

「協力的な戦闘機人からはほぼ証言を取り終えたから、
 もう更生プログラムが始まってるんよ」

「そうなのか?」

「うん。そやから、気になるんやったら明日にでも見に行ってみる?」

「そうだな・・・行こうか」

「わかった。ほんなら10時に出よか」

「了解。車は俺が出すよ」

「頼むわ。ほんなら、お休み」

「おう、また明日な」

はやては立ち上がって食堂を出て行った。

(戦闘機人・・・か。どんな連中なんだろ)

俺は急に決まった明日の予定に思いをはせながら、少しさめてしまった
夕食に再び手をつけ始めた。

 

 

第87話:隔離施設


翌日・・・

俺は隣に座るはやてから指定された場所に向かって車を走らせていた。
右手には海が広がるほとんど直線の道路が海岸線に沿って走っている。
1時間ほど車を走らせると、ずっと先に白い建物と海に向かって伸びる
長い橋のようなものが見えてきた。

建物が近づいてくると、俺は徐々に車の速度を落とし、
道路から外れて建物に向かって車を走らせる。
しばらくすると、前方に2重になったゲートと検問所のような
建物が見えてくる。
俺は1つ目のゲートの手前で車を止めると、窓を開ける。
すると、走り寄ってきた職員の男が話しかけてきた。

「どちら様ですか?」

「本局古代遺物管理部機動6課の八神とシュミットです。
 海上施設に収容されているJS事件の参考人と面会に来ました」

職員の男ははやての返答を聞くと小脇に抱えた端末を操作する。
その間に俺ははやての言葉の中で理解できなかった点について尋ねる。

「JS事件ってなんだ?」

「最近になってスカリエッティの件をまとめてそう言い出したんよ」

「ふーん。しかし、PT事件といい管理局はネーミングセンスが雑だな。
 俺が言うのも変な話だけど」

「ま、わかりやすくてええやん」

その時、俺の車の横に立つ男性職員が端末から目を上げる。

「確認できました。どうぞお通りください」

男はそう言ってゲートの脇にある小さな建物に向かって手を振る。
すると、目の前のゲートが重々しい音を立てて開く。
俺はゆっくりと車を前に進ませると、2つ目のゲートの手前で
再び車を止めた。
すると、後でゲートが閉まっていく。やがて1つ目のゲートが完全に
ロックされると、2つ目のゲートが1つ目と同じように開いた。
完全にゲートが開くと俺は車を前に進ませる。

「相変わらずここは警備が厳重だな」

俺がそう言うとはやては俺の方を見る。

「ゲオルグくんも来たことあったんや」

「ああ。ほんの数回だけどな。それにしても、事件の解決に協力的な
 戦闘機人をわざわざここに収容する必要性があったのか?」

「私もそう思わんではなかったんやけどね・・・。
 まあ、あれだけの大事件を起こしたわけやし、それまでの犯罪行為もあるから
 こういうところに入れとかんと、上層部と世論が納得せえへんのよ」

「ま、言われてみればそうだよな。戦闘能力も高いわけだし・・・」

そのうちに、海上の施設へと伸びる橋の袂にある小さな建物へとたどり着いた。
ここから先は歩いていかなければならない。
車を降りると隣に停められた車を見ているはやてが目に止まる。

「どうかしたのか?」

俺が声をかけると、はやては俺の方を振り返って口を開く。

「ん?どうもギンガが来てるみたいや」

「ギンガが?」

俺が車のドアを閉めながらはやてに尋ねると、はやては頷いて建物の方に
向かって歩き出した。
俺は早足ではやてに追いつくと、改めてはやてに質問をぶつける。

「なんでギンガがここに?」

「知らんよ。私も車を見て気づいたんやもん」

俺とはやては建物に入るとそこにいた職員に声をかけた。

「機動6課の八神です。JS事件の参考人との面会にきました」

はやてがそう言うと、職員は人懐っこい笑顔を向けてくる。

「八神二佐とシュミット三佐ですね。ゲートの方から連絡は受けてますので
 どうぞお通りください」
 
橋の中に敷かれたムビングウォークの上で、俺は戦闘機人たちのことについて
はやてに尋ねることにした。

「なあ、はやて。戦闘機人って何人がここに収容されてるんだ?」

「捜査に協力的な7人やね」

「結局戦闘機人は全部で13人だから・・・半分以上はここにいるのか」

「そやね」

そう言ってはやては小さく頷く。

「そういえば裁判っていつごろ始まるんだ?」

「ここに収容されてる子らの裁判はもう始まってるよ。
 テロ行為の主犯とか共同正犯やなくてあくまで幇助の罪でやけど」

「・・・司法取引か」

「まあそうやね。もうすぐ結審するんやなかったかな」

「早いな・・・」

「まあ、罪状認否で罪を認めとるからね。あとは罪状と取引と情状の
 バランスを考慮して判決を出すだけやから」
 
「情状?」

「スカリエッティっちゅう稀代の犯罪者によって人格形成がなされた
 っちゅうことよ」

「なるほど。まともに育つ機会を奪われたから犯罪に手を染める
 ことになってしまった。っていう判断か・・・」

俺が納得してそう言うと、はやては前を向いたまま頷く。

「そういうこと。ま、甘いと言われれば甘いかもしれんけど・・・」

はやてはそう言うと少し表情を曇らせる。
俺は歩を進めながらはやての考えに思いを巡らせた。

(まあ・・・フェイトも同じような境遇だったしな・・・。
 はやてにしろ闇の書事件の責任を部分的に問われてるし・・・
 その辺を思ってるんだろうな・・・)

「・・・考えてみればあいつらも運が悪いよな」

俺がそう言うと、はやてはその歩みを止めて意外そうに俺を見る。

「運が・・・悪い?」

俺ははやてに合わせて歩を止めると、はやての方に顔を向ける。

「よく言うだろ。”子は親を選べない”って。それと同じじゃないかな」

「親って・・・スカリエッティのことかいな」

俺ははやてに向かって頷くと話を先に進める。

「あいつらにとってはそういうことになるんじゃないか?
 で、その親は希代の犯罪者で子供にその片棒を担がせるべく
 生まれたときから教育を施した。
 結果として子供は親の手伝いが世界的な大規模テロに手を染める
 ことになった。
 そう考えればあいつらはずいぶん不運じゃないか」

「そうやね・・・」

はやては微妙な表情を浮かべてそう言うと前に向かって再び歩きはじめたので、
俺もそれに合わせて歩きはじめる。
俺達はそれ以降無言のままムービングウォークの上を歩き続けると、
海上隔離収容施設の入口へとたどり着いた。

もともとは魔導兵器の実験施設として建造されただけあって、
建物は非常に堅牢で、実験場としては使われなくなったあと、
強い力を持つ犯罪者の隔離と更生教育を行う施設として改修されたらしい。

俺自身は情報部時代にここに収容されていた犯罪者から話を聞くために
何度か訪れたことがある。

ムービングウォークを降りると、いくつかのドアをくぐって
隔離施設の入口にたどりつく。
ここから先には一切の武器の類の持ち込みは禁止されているため、
デバイスはここでロッカーに預ける必要がある。
俺は待機状態のレーベンを首から外すとロッカーに入れて電磁ロックをかけた。

「ゲオルグくん、早よ行こ!」

声のする方を見ると、はやてが隔離施設への扉の前で手を振っていた。
俺は小走りで移動すると、はやてに声をかけた。

「はやてはデバイスどうしたんだよ?」

「ん?置いてきたよ。めんどいし」

きょとんとした表情ではやては言う。
俺はそんなはやてに小さくため息をつくと隔離施設への扉を開けた。
隔離施設への入場者が武器や危険物をもっていないか確認するための
スキャニングシステムを通り抜け、隔離施設へと入る。
白い壁に囲まれた通路を進んでいくと、右手に大きな窓が見えてきた。
窓の向こうには芝の敷かれたサンルームのような部屋があった。

「おっ、みんなこんなとこにおるやん」

はやての声に反応して部屋の奥の方に目を遣ると、白い服に身を包んだ
7人の戦闘機人たちが思い思いの格好で座って大きなモニターを見ている。

「あれ?ギンガがあんなとこにおる」

見ると、モニターの横にギンガが立っていて、時折モニターを操作しながら
何かを説明しているようだった。
声は聞こえないので何を説明しているのかはわからなかったが・・・。

「ひょっとして、ギンガが更生プログラムを担当してるのか?」

「かもしれんね・・・。あ、ルーテシアとアギトもおる」

「は?どこだよ」

「ほら、あの銀色の髪の子の横に・・・」

そう言ってはやてが指さす方を見ると、確かに三角座りをしている
ルーテシアとその肩の上に座るアギトの姿が見えた。

「あの子たちも一緒に更生プログラムを受けるのか?」

「さあ?聞いてへんけど・・・」

しばらくはやてと窓越しに様子を見ていると、ギンガが俺達に気づいたのか
小さく手招きをしていた。

「ん?ギンガが入って来いって言うとるで。入ってみよか」

俺ははやての言葉に頷くと、窓の横にある扉を開けてサンルームの中に入った。
芝を踏みしめながらギンガ達の方に向かって歩いて行くと、モニターの方を
見ていた戦闘機人の一人が足音に気付いたのか俺達の方を振り返った。

「あっ!はやてっス」

俺たちの方を見たピンク色の髪を後ろでまとめた戦闘機人が声を上げる。
すると、他の戦闘機人やルーテシア達も俺たちの方を振り返る。
そしてお互いに近くの者と俺たちの方を見ながら話し始める。

「ほら!まだ終わってないでしょ。きちんと聞いてちょうだい!
 すいません、まだ途中なのでしばらく後の方で待ってて下さい」

前半は戦闘機人たちに、後半ははやてと俺に向かってギンガが言う。
すると、戦闘機人たちは不承不承だったり、黙っておとなしくだったり
それぞれではあるが、モニターの方に向き直り、ギンガの話を聞き始めた。

俺とはやては、少し離れたところで芝生に腰を下ろすと、
ギンガと戦闘機人たちの様子を眺めながら待つことにした。
聞こえてくるギンガの声を聞く限り、善悪の判断についての
話をしているようだった。

「善悪判断・・・か。ちょっと胸に刺さる部分があるわ・・・」

はやては足をだらりと前に投げ出して、手を後ろにつくと天井のガラス越しに
見える空を見上げて言った。

「同感・・・。あ、人を騙すようなことはしてはいけません、だって。
 マジで刺さるわ・・・」
 
俺は芝生の上であぐらをかくとギンガたちの方を見ながらそう答える。

「なあ、ゲオルグくん。私らの義務と責任って何なんやろか・・・」

「そうだな・・・」

俺はそう言って少し考え込む。

「法的に言えば、次元世界の平和と安定を維持すること。なんだよな」

「そらそうや。そのために力を尽くしますって宣誓したもん」

「で、はやてさんはそういう答えを求めてるんではない・・・と」

そう言うと、はやては真剣な顔で頷いた。

「私らは今回の件を調査する過程で何回か法によって許された権限を超えた
 行動をとったわけやんか。公式にはお咎めなしって結果にはなってるんやけど
 どうも、私のなかで消化しきれん部分があるんよね」

「判るよ。でもまあ、結局のところ最後は自分自身の良心が
 拠り所になるんじゃないのか?」

「良心・・・か。そうかもしれんね・・・」

はやてはそう言うと大きくふぅっと息を吐くと、芝生の上に寝転がる。

「私は自分の良心に恥じん生き方ができてるんやろか」

「さあな。そこは人それぞれ自分自身で答えを出さないといけないところだろ」

「そやね。ちなみにゲオルグくんはどうなん?」

「ん?」

「自分の良心に恥じん生き方ができてると思う?」

「俺は・・・どうだろうな。わからん」

「わからへんの?」

はやてが芝生に寝転がったまま体にこちらに向ける。

「ああ。あの戦闘機人を殺したことも、情報部時代にやってきたことも
 まだ答えを出せてない」

「あの戦闘機人、ディレトっていう名前やったらしいわ」

「そうなのか?」

「うん。さっき私を見て最初に声を上げた子がおったやろ。
 ウェンディって言うんやけど、取り調べの時にあの子に聞いたんよ」

「そっか・・・。ディレトね・・・」

俺はそう言うと、目を閉じてあの時のことを思い出す。
姉と同じ容姿ではあるものの、一切の感情を感じさせない冷たい目が
印象に残っていた。

「やっぱ、簡単に答えが出そうにないよ。きっと死ぬまで答えは出せないな」
 
「結局のところ、そういう疑問と戦いながら生きていくしかないんやろね」

「だな。で、それはあいつらも同じだ」

そう言って俺はギンガの話を聞く戦闘機人たちに目を向けた。

「ただ一つ言えるのは、あいつらにも自分なりの幸福を見つけて欲しいと
 思ってるってことだけさ。俺が殺したあの子の分もな」

「そやね・・・」

ちょうどその時、ギンガの話が終わったのか戦闘機人たちが
立ち上がるのが見えた。

「大変やとは思うけど、あの子らには人並みの幸せを手に入れて欲しいわ」

はやてはそう言うと身を起こして制服についた汚れを叩き落としながら
立ち上がる。

「行こ。あの子らに紹介するわ」

俺ははやてに向かって頷くと、芝生から腰を上げた。

 

 

第88話:ナンバーズ


はやての後について戦闘機人たちの方に向かって歩いて行くと
はやてが来たことに反応したウェンディがピンク色の髪を揺らして走ってくる。

「はやてじゃないっスか。また来てくれたんっスね」

ウェンディはバンバンとはやての肩を叩きながら笑顔ではやてに話しかける。

「まあ、またちょくちょく来るって言うたしなぁ」

「うれしいっスよ。またはやてが来てくれて」

「ホンマか?そらうれしいなあ」

はやてはそう言って顔をほころばせる。

「お前の目当てははやてが持ってくるお菓子だろう。ウェンディ」

見ると、アイパッチをした銀髪の少女がウェンディの背後から現れた。

「うっ・・・そ、そんなことは無いっス」

「嘘をつくな。姉にはすべてお見通しだ」

「はは・・・。お菓子目当てでも私が来るのを楽しみにしてくれるんは
 嬉しいで。今日はケーキを買ってきたから後でみんなで食べてな」

「ケーキっスか!?うーん、待ちきれないっス!」

「・・・現金なヤツだ」

「まあまあ。それよりチンクも元気やったか?」

はやてがチンクと呼んだ少女は、はやての顔を見上げると
自慢げに胸をそらす。

「当然だ。私のコンディションはいつでも万全だからな」

「そらよかった」

「ところで・・・」

チンクはそう言って俺の方に顔を向ける。

「コレは誰だ?」

「あー、うん。今からみんなに紹介するからちょっと全員集めてくれるか」

「そうか、了解した」

チンクはそう言うと戦闘機人たちの輪の中に入っていく。
どうやら彼女がここにいる戦闘機人たちのリーダー格らしい。

「あの子はチンクっていうんよ。作られたんがここに入れられた子らの
 中では一番早いらしくて、みんなのまとめ役みたいになってるわ」
 
「みたいだな」

チンクが他の戦闘機人たちと話しているのを眺めていると
ギンガが俺達の方に向かって歩いてきた。

「おはようございます。はやてさん、ゲオルグさん」

俺達が挨拶を返すと、ギンガは俺の方を見る。

「ゲオルグさんは入院されていると聞いてたんですけど、
 退院されたんですね」
 
「ああ、一昨日ね」

「そうなんですか。スバルから重傷だって聞いたんで心配してたんです。
 あ、お見舞いに行けなくてすいませんでした」

ギンガはそう言って俺に向かって頭を下げる。

「いいよいいよ。ギンガも忙しかったんだろ?捜査官だし」

「それもあるんですけど、見ての通りあの子たちの更生プログラムを
 担当することになったので、それで忙しかったんですよ」

「それなんやけどさ、なんでギンガなん?」

はやてが不思議そうにギンガに尋ねる。

「私が戦闘機人だから適任ってことみたいです」

「それはまた安易な・・・。それで、プログラムの方は順調か?」

俺がそう尋ねるとギンガは困ったように苦笑する。

「いえ。今は一般常識とか社会通念を教える段階なんですけど、
 結構苦労させられてますよ」

「そうか・・・。俺で協力できることがあったらいつでも言ってくれよ」

「はい。ありがとうございます。だったら、あの子たちに時々会いに
 来てあげて下さい。外の人間と接触するのが面白いみたいなんで」

「判った。俺も忙しいからなかなか来れないかもしれないけど、
 時間を作って来るようにするよ」

その時、ギンガの後ろからチンクが現れる。

「全員集めたぞ」

「ありがとう。ほんならゲオルグくんを紹介しよっか」

「そうですね」

はやての言葉にギンガは笑顔で頷いた。



戦闘機人全員の名前を紹介されたあとで、ギンガは俺を戦闘機人の前まで
連れて行った。

「今日はみんなに紹介したい人がいます。じゃあ、ゲオルグさん」

集まっている戦闘機人たちの前に立つと、全員の目が集中するのが感じられた。
俺は一度小さく息を吐くと、全員を見回す。

「ゲオルグ・シュミットだ。はやてやギンガとも知りあいだし、
 これからも時間を見つけてここに来るつもりだからよろしくな」

俺は自己紹介を終えると、戦闘機人たちは興味なさそうに解散していく。
が、水色の髪をしたセインが声を上げた。

「あーっ!なんかどっかで見たことあると思ったら、あたしこいつと
 会ったことあるよ!」

そう言って俺のことを指さす。

「そうだな。お前とは地下水道で会ってる」

「ああ・・・あんときか・・・」

そう言うと、セインは少し沈んだ表情を見せる。

(こいつはなんというか・・・表情豊かだな)

「んん?どうしたんっスか?セイン」

ウェンディがセインに声をかける。

「あー、いや。あんときは失敗しちゃってさー。帰った後のクア姉の顔を
 思い出したらちょっと・・・」
 
「そういうことっスか・・・」

ウェンディはセインに同情するような目を向ける。
が次の瞬間にはころっと表情を変える。

「で?こいつ強いんっスか?」

「わかんないよ、ちゃんと戦ってないもん。
 でも、不意を突いたのに的確に当て身を食らわされたから
 弱くは無いと思うな」

俺は話している2人に近づくと、声をかけた。

「どうでもいいけど、こいつ呼ばわりはやめてくれ」

俺がそう言うと、2人はそろって首を傾げる。

「じゃあ、何て呼べばいいんっスか?」

「ゲオルグって呼んでくれ」

「判ったっス、ゲオルグ」

「あたしも判ったよ。ゲオルグ」

「よし。じゃあ改めてよろしくな。セインにウェンディ」

そう言って手を差し出すが、2人はきょとんとしてお互いに顔を見合わせた。

「ゲオルグは何がしたいんっスか?」

ウェンディの言葉に俺はガクっと肩を落としかけるが、気を取り直す。

「握手だよ。よろしくって意味をこめて手を握り合う挨拶の一種だ」

「へー。じゃあ、よろしくっス」

ウェンディはそう言って俺が差し出した手を握る。
・・・力いっぱい。

「いててて・・・握手ってのは軽く握る程度でいいんだよ」

「そうなんっスか・・・こんなもんかな?」

そう言って再び俺の手を握る。今度はきちんと力を加減されていて
きちんとした握手になっていた。

「ほれ、セインも」

俺はそう言って今度はセインの方に手を差し出す。

「うん。よろしく」

その時、2人の後ろから1人の少女が歩いてきて、俺の前に立った。

「あの・・・私・・・」

「ん?どうした、ルーテシア」

ルーテシアにそう尋ねると、ルーテシアは言いづらそうに顔を落とす。

「おい、ルール―」

その時アギトがルーテシアに声をかける。
ルーテシアはアギトに向かって小さく頷くと、顔を上げて俺の顔を見る。

「私、ゲオルグ・・・さんとお話したいことがある」

「そうか、じゃあちょっとそこらへんに座って話そうか。
 悪いけどセインとウェンディはまた今度な」

「はいっス」
「はいはーい」



俺はルーテシアの手を引くと他の連中から少し距離をとったところに
腰を下ろす。

「で?お話ってのはなにかな?」

ルーテシアは俺の前に立って、やはり言い出しづらそうにしていた。
何の話かは大体想像がついたので、しばらく無言のまま向き合っていると、
ルーテシアは意を決したように顔を上げる。

「あの・・・あのときはごめんなさい」

そう言ってルーテシアは深く頭を下げた。
見るとその肩は少し震えているようだった。

「あのときのことはもういいよ」

俺がそう言うとルーテシアは俺を見る。

「で、でも・・・」

「あの時のことも含めてルーテシアはここに入れられてるんだから、
 罪は償ってる。だからもういいよ。ただね・・・」

俺はそこで一旦言葉を切るとルーテシアの目を見つめる。

「2度とああいうことをしてほしくない。
 ガリューを大切に思うならなおさらね。いいかな?」

そう訊くとルーテシアはこくんと頷いた。

「よし。いい子だね」

俺はルーテシアの頭に手を伸ばすと、ゆっくりと撫でた。
俺の手が触れた瞬間にルーテシアはびくっ肩を震わせたが、
ゆっくりと撫でていると、気持ち良さそうに目を細める。

後から声をかけられて振り返るとはやてが自分の腕時計をトントンと
叩いていた。

「もうそんな時間か・・・」

そう言ってルーテシアから手を離すと俺はもう一度ルーテシアの顔を見た。

「悪いけど今日はもう行かないと。でもまた来るから」

「うん・・・待ってる」

ルーテシアはそう言うと俺に向かって微笑んでみせた。

 

 

第89話:高町1尉も退院


俺が初めて戦闘機人たちの収容されている隔離施設を訪れてから
1週間ほど経ち、なのはが退院する日がやってきた。

はやてになのはを迎えに行くよう”命令”された俺は、
朝からクラナガンの市内に向かって車を走らせていた。
向かう先は俺も2週間前まで入院していた病院である。

駐車場に車を停めた俺は、正面玄関をくぐりエレベーターで
なのはの病室があるフロアへとあがる。
朝の光が窓を通して差し込み、白い壁とも相まって明るい廊下を歩き
なのはの病室の前にたどりついた。

ドアをコンコンと2度ノックすると中からなのはの声で返事があり、
俺はドアを開けて病室の中へと入った。

「あれ、ゲオルグくん?どうしたの?」

退院のために荷物を整理していたなのはは俺の顔を見るなり
意外そうな顔でそう言う。

「今日退院だろ?荷物とかあるだろうし、足も必要だろうから迎えに来た」

「そうなんだ。ありがと・・・って、お仕事は?」

「これも仕事だよ。はやてからの命令だし」

「ふーん、ゲオルグくんにとって私を迎えに来るのは”お仕事”なんだ・・・
 しかもはやてちゃんの命令で。ふーん、そうなんだ・・・」

なのははそう言うと肩を落として落ち込んだように目を落とす。。

「あー、いや。そういうわけではない・・・わけでもないんだけど・・・。
 じゃなくて・・・」

俺はなのはの両肩をガシっと掴む。

「はやてに頼まれたのは間違いないけど、俺がなのはに会いたいと思ったから
 引き受けたんだぞ」

そう言うと、俯いているなのはの肩が少し震えているようだった。
泣いてるのかと思った俺はなのはの顔を覗き込もうとした。
その時だった。

「・・・くくくっ・・・・あはははははは!」

急に顔を上げたなのはが声を上げて笑いだす。
その様子を見て俺はすべてを察した。

「なのは・・・からかったな・・・」

俺が低い声でそう言うとなのはは笑いすぎで出てきた涙を指で拭いながら
俺の顔を見る。

「くくくっ・・・、ごめんごめん。まさかゲオルグくんがこんな古典的な
 手に引っ掛かると思わなくって・・・」
 
そう言うとまたなのはは声を上げて笑う。

「焦って損したよ。ったく・・・」

きっと仏頂面を浮かべているのであろう俺の顔をみながら
なのははひとしきり笑うと、柔らかな笑顔を浮かべる。

「でもね、さっきの言葉はちょっとグッときたの」

「ん?さっきの言葉って?」

そう言いながら俺は自分の発言を思い返す。

「”なのはに会いたいから引き受けた”って言ってくれたでしょ?
 あれ、結構嬉しかったよ。ゲオルグくんが本当に私のことを
 思ってくれてるんだって感じられたから・・・」

そう言ってなのはは少し頬を赤く染める。

「あ、そう?」

俺が普通の口調でそう言うと、なのはは不機嫌そうに頬を膨らませる。

「もう!せっかくいい雰囲気になりかけたのに・・・だいなしなの」

「別にいいだろ、なのはのことが大好きで愛してるのは本当なんだし」

「・・・っ!」

なのはは俺の言葉に反応してか顔を真っ赤にして俯く。
しばらくして、なのはは俺の制服の襟を掴むと自分の額を俺の胸に
軽く押し当てる。

「・・・ゲオルグくんのばか。そんなふうに言われたらますます
 大好きになっちゃうよ」

俺はなのはの背中に腕をまわしてなのはの耳に口を寄せる。

「ならこれからもいくらでも言ってやるよ。”愛してるよ、なのは”って」
 
囁くようにそう言うと、なのはは顔を俺の胸にうずめる。

「・・・うん。私もゲオルグくんのこと、愛してる・・・」

「ありがと」

「うん」

「なあ」

「うん?」

「キスしませんか?」

そう言うとなのはは俺の胸にうずめていた顔を上げて俺の顔を見上げる。

「いいですよ」

無邪気な笑顔を浮かべながらそう言って、なのはは目を閉じる。

「それじゃ、遠慮なく・・・」

最後にそう言って俺はなのはに顔を寄せた。



・・・10分後。

「もう!ゲオルグくんが激しくするからお化粧くずれちゃったじゃない!」

「・・・なのはだって喜んでたくせに」

「それは・・・そうだけど・・・。でもあんなに激しくすること無いと思うの。
 ほら、こんなとこに口紅ついちゃってる!」

そう言ってなのははウェットティシュで俺の首筋を拭く。

「あれ?とれないよ・・・」

「それ・・・キスマークじゃないのか?確かその辺に吸いついてたろ」

「うそ・・・どうしよ・・・」

なのははそう言って右往左往しはじめる。

「別に気にしなくっていいよ。訊かれたら虫に刺されたって言えばいいし」

「うぅ・・・でも・・・」

「気にするから恥ずかしいんだよ。そもそもついてるのはなのはじゃなくて
 俺なんだから、なんでなのはが恥ずかしがる必要があるんだよ」

「うぅ・・・そうなんだけど・・・」

相変わらずなのはは顔を赤くして煮え切らない。
さすがに少しイライラしてくる。

「もう荷物はまとまってるんだよな」

そう訊くとなのははバッと顔を上げて俺の方を見る。

「え・・・、うん」

なのはは驚きながらも頷きながら返事を返してくる。

「退院の手続きはもう終わってるんだよな」

「うん・・・」

「よし、じゃあ行くぞ」

俺は左手になのはの荷物を持ち、右手でなのはの手を引くと、
病室のドアを開けて通路に出る。

「え?あ!ちょっと!」

後ろからなのはの抗議の声が聞こえてくるが、ここは無視だ。
そのままなのはの手を引いてエレベータに向かう。
エレベータホールについてボタンを押したところでなのはが
強引に俺の手を振り切った。

「もうっ!ちょっと強引すぎるよっ!」

そう言ってなのはは俺の顔を軽く睨む。

「だって、あのままだったらいつまでたっても出られなかったろ。
 なのはが悶えてるせいで・・・」

俺がそう言うと多少ひるんだのか、なのはの表情が少し弱気なものに変わる。

「そ、そうかもしれないけど。でも、お化粧直したりしたかったのに・・・」

その時ポーンと音が鳴って1基のエレベータのドアが開く。

「ほら、行くぞ」

「うん・・・」

誰も乗っていないエレベータになのはと並んで乗り込むと
俺は1階のボタンを押す。
ドアが閉まって2人だけの空間が出来上がった瞬間に、俺は
隣に立つなのはに話しかける。

「あとひとつ言っとくけどな」

「え?」

急に声をかけられて驚いたのかなのはが俺の方をパッと見上げる。
が、俺は前を向いたまま話を続ける。

「なのはは化粧なんかしなくても十分美人だからな」

「へ?」

ちらっと見るとなのはがぽかんと口を開けて俺の顔を見上げていた。

「美人・・・って、・・・ありがとっ!」

そう言ってなのはは荷物を持っていない方の俺の腕にしがみつく。

「言っとくけど、すぐエレベータのドアが開くぞ」

「いいよ・・・だって、ゲオルグくんは私の恋人だもん」

「そうでしたっけ?」

「何?私の唇をあんなに激しく奪っておいて、シラを切るつもりなの?」

そう言うとなのははスッと目を細めて俺の腕にしがみつく力を少し強める。

「イテテ・・・ほんのささやかな冗談だよ」

「そういう冗談はやめてほしいの」

「心得ました」

俺がそう返すとなのははニコっと笑う。

「なら結構」

その時、エレベータが1階に到着しドアが開く。

「行こっ!」

そう言うなのはに引っ張られるようにして、俺となのはは腕を組んだまま
エレベータを降りると駐車場の俺の車に向かって歩き出した。



・・・1時間後

「おかえり!なのはちゃん」
「退院おめでとう。なのは!」

「ありがとう!はやてちゃん、フェイトちゃん」

俺の目の前には、手を取り合ってなのはの退院を喜び合う3人の姿がある。
俺の車でアースラに戻った俺となのははすぐに艦長室に向かった。
で、今目の前のような状況になったわけだが・・・。

(俺・・・ひょっとして蚊帳の外ってやつですか?)

除け者にされたような気がしてちょっとさびしい感じがする。
だが、弾けんばかりの笑顔を見せるなのは達を見ていると、
俺もなんだか心が暖かいもので満たされていく。

(ま、いっか・・・)

俺は3人を邪魔しないようにそっと艦長室を出た。

 

 

第90話:新しい約束


・・・その夜。

俺はなのはの部屋に向かった。
事前に連絡しておいたのでブザーを鳴らすとスッとドアが開いて
髪を下ろしたなのはが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、ゲオルグくん」

「うん。悪いな、病み上がりなのにこんな遅くに」

「ううん、いいよ」

なのははそう言って俺を部屋に招き入れる。

「どうぞ、ゲオルグくん」

「さんきゅ」

俺はなのはが出してくれた椅子に腰を下ろして、ベッドに腰掛けた
なのはと向かい合う。

「それで、相談したいことって何なの?」

「うん。ヴィヴィオのことなんだけど・・・」

「ヴィヴィオの?どんな話?」

なのははこくんと首を傾げる。

「今さ、アイナさんにヴィヴィオを預かってもらってるだろ」

「うん」

「でな、ヴィヴィオがママやパパと一緒に居たいって言ってるらしいんだよ」

「そうなの?まあ、私もできれば一緒に居たいと思うけど・・・ねぇ」

なのははそう言って困ったような表情を浮かべる。
俺はなのはの言葉に頷くと、先を続ける。

「そうなんだよ。アースラじゃヴィヴィオと一緒に寝起きできるような
 広い部屋は無いし、そもそも軍艦だから関係者以外は入れられないからな」

「だよねぇ。ま、それは隊舎も変わらなかったんだけど・・・」

「とはいえ、次元航行艦のセキュリティレベルは隊舎より高いだろ。
 さすがにヴィヴィオを中に入れるのは無理なんだよ」

「そっか・・・。じゃあ、隊舎の再建が終わるまでは無理なんだね・・・」

なのははそう言うとさみしそうな表情を浮かべる。

「でも・・・やっぱり一緒に居てあげたいよ・・・」

「なのはならそう言うと思ってた。で、一応代案が無いわけじゃないんだ」

「そうなの!?」

俺の言葉に、なのはの表情がぱぁっと明るくなる。

「ただ、それにはなのはが納得というか同意してくれないといけないんだ」

「同意って・・・。ゲオルグくんの案ってどんな案なの?」

「実は俺、ここから車で30分くらいのところにマンションを借りてるんだよ」

「知ってるよ。ほんとはそこがゲオルグくんの自宅なんだよね」

「そ。まあ、ほとんど住んでないけどな」

俺はそう言って苦笑する。

「で、そのマンションがどうしたの?・・・まさか!」

俺の言いたいことに気づいたのか、なのはは大きく目を見開く。

「うん。よかったら新しい隊舎ができるまで3人で
 そこに住まないかな・・・と」

俺はなのはに向かって頷きながらそう言う。
なのはは俺の言葉に俯きがちに迷うような表情を見せる。

「う・・・でも・・・」

「やっぱり、嫌・・・か?」

俺がそう言うと、なのははバッと顔を上げて勢いよく首を振る。

「ううん、そうじゃないの。そうじゃないんだけど・・・」

そう言うとなのはは再び俯いて考え込む。
俺はなのはがどう考えているのか判らず、再びなのはが口を開くのを待つ。
するとなのはは一人で顔を赤くしてなにやらぶつぶつと呟きはじめる。
さすがにこのままでは話が前に進まないと思い、なのはに声をかける。

「なのは」

「にゃひっ!?」

俺が声をかけると、なのはが愉快な声を上げて俺の方を見る。

「よかったら、なのはが何を考えてるか教えてくれないか?」

俺がそう言うと、なのははしばらく逡巡してからおずおずと口を開いた。

「あのね・・・わたしたちって、恋人どうしだけど・・・
 まだ、その・・・将来については・・・ね?
 だから・・・まだ、一緒に住むっていうのは・・・どうかなって思うの」
 
なのははところどころで詰まりながらもそう言った。
なのはの言葉を受けて俺は考え込む。

(将来か・・・俺はなのはと・・・)

俺がじっと考え込んでいるとなのはが不安そうな顔で俺の顔を覗き込む。

「ゲオルグ・・・くん?」

なのはのその顔を見て俺の心は決まった。

「なのは」

俺はなのはの名前を呼ぶとその両手を握る。

「さっきは新しい隊舎ができるまでって言ったけど、
 できれば俺は、ずっとなのはやヴィヴィオと一緒に居たい」

「ゲオルグくん・・・それって・・・」

なのはは驚いた表情で俺の顔を見る。

「うん。もし俺なんかでよかったら・・・」

俺はじっとなのはの目を見つめてそう言った。

「ゲオルグ・・・くん。私・・・」

なのはがうるんだ目で俺を見る。

「私、ゲオルグくんとだったら・・・。
 ううん、ゲオルグくんとじゃないと・・・」

「ありがと、なのは。でも、きちんとしたプロポーズはまた今度に
 させてくれないか?
 その前にいくつかやっておきたいことがあるから。
 なのはを待たせちゃうことになって悪いんだけど・・・」

俺がそう言うとなのははふるふると首を振る。

「いいよ、ゲオルグくん。私ならいくらでも待つから」

「ありがと。でも、そんなに待たせるつもりはないから」

「うん」

なのはは柔らかな笑顔で頷いた。

「で、本題に戻るんだけどさ、どうする?」

「3人で一緒に住むって話だよね・・・」

なのははそう言うと目を伏せて少しの間考え込む。
そしてすぐに目を上げるとなのはは笑顔を浮かべて口を開く。

「えっと、とりあえず隊舎の再建が終わるまで・・・ってことなら」

「そっか。なら、明日の朝にはやてに話しておかないとな」

「はやてちゃんに・・・って、なんで?」

そう言ってなのはは首を傾げる。

「あのなあ。はやては6課の部隊長だろ?住む場所を変えるなら
 報告しなきゃいけないだろ」

「あ、そっか」

なのはは俺に言われてそこに思い至ったようで、ぽんと手を叩く。

「それに引っ越しの日取りも決めないとな」

「そうだね」

「ま、それも含めて明日はやてと相談するか」

「引っ越しの日取りもはやてちゃんと相談するの?」

「休暇の日程調整をしないといけないだろ」

「あ、そっか」

「さっきから”あ、そっか”ばっかりだな」

俺がそう言うとなのははバツが悪そうに苦笑する。

「にゃはは・・・そうだね」

「もうちょっとしっかりしてくださいね。高町1尉」

俺が少し茶化すように言うと、なのはは頬をぷくっとふくらませる。

「むぅ、わたしはしっかりしてるもん」

「どこがだよ・・・っと」

そう言ってなのはのぷっくりと膨らんだ頬を指でつつこうと
ベッドに腰掛けているなのはに向かって身体をのばす。
が、なのははそうさせじと身体を後ろに反らせる。
そして俺はなのはを追いかけて身体をさらに前に伸ばす。

その時だった。
俺の座っていた椅子がバランスを崩してなのはの方に向かって倒れる。

「あ・・・」

椅子が倒れるに従って俺の身体もなのはの方に向かって倒れて行く。
みるみる近づいてくるなのはの顔が驚きに満たされる。
俺はなのはとの激突を予感し思わず目を閉じる。

「きゃっ!」

どさっという音とともに俺はベッドに手をついた。
恐る恐る目を開けると、目の前には目を丸くして俺の顔を見る
なのはの顔があった。

「ゲオルグ・・・くん」

「なのは・・・」

そう言ったきり俺となのはは無言で見つめ合う。

「わ、悪い・・・怪我してないか?」

「ううん・・・大丈夫・・・」

そう言ってなのはは俺の顔を見つめる。

「なあ、なのは・・・」

「ん?」

「いつかの続き・・・したいのですが・・・」

俺が恐る恐る尋ねると、なのはの顔が一気に赤くなる。

「へっ!?」

なのはのひっくり返った声が部屋の中に響く。
しばしの沈黙のあと、なのははスッと俺から目をそらした。

「・・・いいよ」

「え・・・?」

俺はなのはの答えが意外で、情けない声を上げてしまう。

「2回も・・・言わせないで・・・」

そう言うとなのはは真っ赤な顔をさらに赤くして目を伏せる。

「ホントにいいんだな」

確認するように尋ねると、なのはは小さく頷いた。

「優しくするから・・・」

そう言って、俺はなのはに顔を寄せた。

 

 

第91話:2人で迎える朝

・・・翌朝。

窓から差し込む朝日の光を感じて目を覚ました俺は、
腕の中に何か温かいものがあるのを感じ取る。

(ん?なんだ?)

目を開けるとそこには、静かに寝息を立てるなのはの顔があった。

「へっ!?・・・っと・・・」

驚きで大きな声を上げそうになるのをなんとか抑えると、
一度目を閉じて気を落ち着けるために大きく深呼吸する。
冷静さを取り戻した俺は昨夜のことを思い出す。

ゆっくりと目を開けると、変わらず穏やかな表情で眠るなのはの顔があった。
シーツの端からはなのは白い肩がのぞいていた。
時計を見ると、フォワード達の教導に行くなのははそろそろ起きなければ
ならない時間だった。
俺はなのはに向かって声をかける。

「なのはー。朝だぞー」

「ん・・・」

小さな声で呼びかけたのだが、なのはは少し身じろぎしただけで
目覚める様子はない。

「おい、なのは。早く起きないと教導に遅刻するぞ」

少し大きな声で呼びかけながら肩を揺すると、
なのはの目がパチっと開いて俺と目が合う。

「あ、ゲオルグくん。おはよー」

眠たげに目をこすりながら、なのはは笑顔でおれに朝の挨拶をする。

「おはよう、なのは」

そう言うとなのははニコっと笑う。

「朝起きて真っ先ににゲオルグくんの顔が見られてうれしいの」

「俺もなのはの寝顔が見られてよかったよ」

なのはは俺の言葉に頬を染める。

「寝顔・・・みてたの?」

「ああ、少しの間だけだけどな」

「ちょっと・・・はずかしいかな」

「そんなことないよ。その・・・かわいかったし」

俺がそう言うとなのはの顔が真っ赤に染まる。

「・・・ありがと」

「どういたしまして・・・」

俺がそう言うとなのはがクスッと笑う。

「ゲオルグくん、顔真っ赤だよ」

「なのはこそ」

「う・・・、ってもうこんな時間!」

なのははシーツを身体に巻きつけて立ち上がる。

「私、シャワー浴びるけど、ゲオルグくんはどうする?」

「俺も部屋に戻ってシャワーを浴びるよ」

「そっか。じゃあ、また後でね」

「おう。はやてに昨日話したことを相談しないといけないし」

「うん。じゃあね」

そう言ってシャワールームに入ろうとするなのはの肩を掴むと、
少し強引に振り向かせて、なのはの唇に自分の唇を押し付ける。

「んっ!?」

なのはは少し抵抗するが、すぐに力が抜ける。
しばらくなのはの唇を味わったあと、ゆっくりと顔を離すと
なのはの顔は上気していた。

「嫌だった?」

そう訊くとなのははふるふると首を振る。

「ううん。たまにはこういうのもアリかな・・・と」

「あ、そう?参考にさせていただきます」

「でも、いつもはもうちょっと優しくしてもらえるといいなぁと思うの」

「りょーかい。じゃあな」

「うん」

そう言ってなのははシャワールームに姿を消した。

「俺も戻るか・・・」

俺はひとりごちると、ベッドの周りに散らばった自分の服を着て
なのはの部屋を出た。



副長室に戻った俺はシャワーを浴びて制服に着替えたあと、
デスクについて仕事を始めた。
端末を開いてメールソフトを立ち上げると、各セクションからの
物資補給要求に関するメールがずらっと並んでいた。

それらの中からシグナムから送られてきているフォワード隊と交替部隊分の
補給要求についてのメールを開く。中身を見て俺は唖然とした。
応急治療パックや緊急用の糧食セットもいつもと比べて多いが
何よりも目を引いたのはカートリッジ1000発という
途方も無い要求だった。
通常であれば1か月の消費量は200発もいけば多い方で
今回の要求量は軽く半年分といったところだ。

(大きな戦いの直後とはいえ、さすがに多すぎだろ・・・)

俺は深いため息をつくと、自分で管理している補給物資の管理表にある
要求量の欄にシグナムからの要求分を入力する。

「ゲオルグくん、入るよー」

プシュっと小さな音を立ててドアが開いたかと思うと、なのはが
そう言いながら中の様子を窺うようにしながら部屋の中に入ってきた。

「なのは?ブザー鳴らせよ」

俺が抗議するように言うとなのはは口をとがらせる。

「鳴らしたよ!でも何の反応もないし、ロックもかかって無かったから
 大丈夫かなって思ったの!」

「鳴らした?マジで!?」

そう尋ねると、なのはは不機嫌そうに頷く。
どうやら、集中していたせいでブザーを聞き逃したらしい。
と、集中していた理由に思い至る。

「そういえばなのは」

俺が真剣な口調になったのを察知し、なのはも不機嫌オーラを脱ぎ捨てる。

「どうしたの?」

「シグナムから来月の補給物資要求が来てるんだけどさ、ちょっと見てくれよ」

「どれどれ?」

そう言いながらなのはが俺のデスクを回り込んで俺の隣に立つ。

「これなんだけどさ」

そう言って俺はモニターを指さす。
なのははモニターを覗き込んでから首を傾げる。

「確かに多いね・・・これは」

そう言うとなのはは腕組みする。

「でも、あんな大きな戦いがあったんだから、いざという時のための
 在庫回復分も含めるとしょうがないんじゃない?」

「俺も一度はそう考えたんだけどさ、カートリッジ1000発はさすがにな」

「無理そうなの?」

「無理じゃないよ。でも・・・いや、やめとく」

「そこまで言ったら最後まで言ってよ」

なのはは真剣な表情で俺を見る。

「わかったよ」

そう言って俺は一度小さく息を吐くと先を続ける。

「実は本局の主計部から隊舎再建計画について予算圧縮の依頼が来ててさ、
 無理だって突っぱねたばっかりなんだよ・・・」
 
「それがどうしたの?」

なのははそれがカートリッジの大量補給とどう関係あるのか判らないようで
首を傾げる。

「だからさ。隊舎再建の予算圧縮のお願いを無理だって断った上に、
 膨大な額の補給要求を出すとさすがに主計部に睨まれるだろ?
 主計部や運用部に睨まれるとこれからの部隊運営に支障をきたすから
 できるだけそういうことはしたくないんだよ」

俺がそう言うとなのはは腕組みして考え込む。

「ゲオルグくんの言うことは判るけど、シグナムさんの要求もそれなりに
 根拠があるはずだから、シグナムさんの意見も聞いてみたら?」

「それはそのつもりだよ。その前になのはにも意見を聞いておきたくてさ。
 ま、こっちは後でシグナムと相談してみるよ」
 
「うん」

そう言って、なのはは笑顔で頷く。

「じゃあ、そろそろはやてのとこに行くか」

「そうだね。行こっ!」

なのははそう言って立ち上がった俺の腕に自分の腕をからませる。

「・・・部屋の中ならいいけど、通路に出たら離せよ」

「わかってるもん」

なのははそう言って頬を膨らませる。

「ならいいけど・・・」

俺はそう言うと、なのはと共にはやての部屋に向かうべく自分の部屋を出た。

 

 

第92話:管理局の裏側


部屋から通路に出てはやてのいる艦長室へと向かう。
俺は自分の左腕にしがみつくように歩くなのはに目を向ける。
その顔には笑顔が浮かんでいて、なんとなく足取りがはずんでいる。

「なあ、なのは」

「ん♪」

「部屋を出たら手は離すって言ってなかったっけか?」

「そうだったっけ?」

「ったく・・・。ま、いいけどさ」

艦長室の前まで来て、扉の脇にあるブザーを鳴らすと、
不機嫌そうなはやての声が返ってきた。

「はやて、なんか不機嫌そうだけど・・・どうする?」

「いいよ。入ろ!」

そう言ってなのはは扉を開けて俺を引っ張っていく。
艦長室に入ると、はやてが眉間にしわを寄せて端末のモニターを
睨みつけていた。

「おはよう、はやて」
「おはよう、はやてちゃん」

俺となのはが朝の挨拶をすると、はやては端末から目を上げて
俺たちの方を見る。

「おはよう・・・って、なに?そのカッコ」

はやては俺の腕に抱きつくようにしているなのはを見て訝しげな
表情を浮かべる。

「えっとね。ちょっとだけ自分の気持ちに素直になろうと思って」

なのはがそう言うとはやては俺の方に目を向ける。

「なあゲオルグくん。規律保持のためにも公の場ではそういうのは控えて
 欲しいんやけど」

「なのはに言ってくれ。俺の意志じゃない」

俺がそう言うと、なのはは不機嫌そうに俺の顔を見上げる。

「ゲオルグくんは、私と腕を組むのイヤなの?」

「そうじゃなくて、公私のケジメをきちんとつけようって言ってるんだよ」

「むぅ・・・わかったの」

そう言うとなのはは不承不承といった体で俺の腕から手を離す。

「で?こんな朝から、しかも2人揃って何の用なん?」

「はやてにおりいって相談があるんだけど」

俺がそう言うとはやてはおやっという顔をする。

「2人揃ってっていうのは珍しいやん。何なん?」

「実はヴィヴィオの事なんだけどな。今はアイナさんに
 預かってもらってるだろ。ただ、ヴィヴィオがなのはや俺と一緒に
 いたがってるみたいでさ・・・」
 
「ほんならアースラに・・・って無理やな」

はやてはそう言って首を横に振る。

「そうなんだよ。で、隊舎の再建が終わるまで、俺が自宅として
 借りてるマンションに3人で住もうかと思ってさ。
 はやてに許可をもらいに来たんだよ。どうかな?」
 
「ええんちゃう」

俺の問いかけにはやては即答した。

「即答かよ・・・本当にいいのか?」

「そやからええって。ゲオルグくんは24時間待機の要員やないし、
 なのはちゃんも病み上がりやから、当分は24時間待機からは外すし。
 それにゲオルグくんのマンションってここから30分やろ?
 いざっちゅうときには1時間以内に来れるんやから問題無いよ。
 それよりも・・・」

はやてはそこでなのはを見る。

「なのはちゃんこそええの?これって同棲ってヤツやと思うんやけど」

はやての問いになのはは頷く。

「うん。昨日の夜にゲオルグくんとも話したんだけどね、
 とりあえず隊舎が再建できるまでってことならいいかなって。
 ヴィヴィオと一緒に居たいっていう気持ちもあるし」

なのはの答えにはやては微笑むと、なのはに向かって手招きする。
なのはが自席に座るはやてのそばにいくと、はやてはなのはの耳元に
口を寄せて、何かを囁いているようだった。
はやてがなのはから顔を離してニッコリ笑うと、なのはの顔が真っ赤になった。
なのはは顔を赤くしたままうつむきがちに俺のところまで戻ってくる。

「なあ、はやてと何を話してたんだ?」

俺がそう尋ねると、なのははさらに耳まで真っ赤にして俺を一瞬見ると
うつむいて小さな声でもごもごと何かを言っている。

「・・・ない」

「あ?何言ってんのか聞こえないんだけど」

俺がそう言うとなのははキッと俺を見て口を開いた。

「ゲオルグくんには話せないっていったの!」

なのははそれだけ言うとまたうつむいてしまった。

(耳元で叫ぶなよ・・・あー頭痛て・・・)

「話はそんだけかいな?」

はやてはそんな俺となのはのやりとりを見てニヤニヤと笑いながらそう言った。

「いや・・・。それと引越しのために俺となのはの休暇を合わせたいんだけど」

「ん?それやったら適当に有給休暇を使ったらええやん」

こともなげにはやては言う。

「いいのか?」

俺が尋ねるとはやてはひらひらと手を振りながらカラカラと笑う。

「ええねんって。どうせ何か起こってもウチに対応依頼は来えへんよ」

「はぁ?どう言う意味だ?」

「あのな、私らはJS事件でちぃとばかし活躍しすぎたんよ。
 そやから、これ以上私らが活躍できひんように出動制限が
 かかってるはずやねん。ま、昔からの管理局のやり方っちゅうやつよ」

肩をすくめながら言うはやての言葉に俺は少し引っかかりを感じた。

「昔から?」

俺がそう尋ねると、はやては大きくため息をついてから口を開いた。

「PT事件と闇の書事件のあと、アースラとその乗組員が
 どうなったか知ってる?」

「知らないよ。なのははどうだ?」

そう言ってなのはを見ると、先ほどまで真っ赤だった顔が青ざめていた。

「なのは?」

もう一度声をかけるが、なのはは口元を抑えてはやてを見つめていた。

「なのはちゃんは知っとるわな」

「そうなのか?」

はやてと俺の言葉になのはは小さく頷く。

「うん。でも、そんな・・・」

小さくそう言ったなのはの声は心なしか震えていた。

「なのはちゃんの気持ちは判るけど、事実やで。
 ま、私もそう言う事情があったんやって知ったんはつい最近に
 なってからやけど」

「すまん。話が見えん」

俺が手を上げてそう言うと、はやては苦笑する。

「ごめんごめん。ゲオルグくんは知らんかったんやったね」

そこではやては手元にあったカップの中身をあおる。

「でや、両事件の関係者についてやけど、まずはアースラの艦長やった
 リンディ・ハラオウン提督は本局運用部に転任して以降現場勤務は無し。
 当時、執務官やったクロノくんもその後3年間は本局捜査部勤務で
 現場に出始めたんは提督に昇進してから。
 他の乗組員も、軒並み本局の内勤か中央への転任が命じられてるんよ。
 ま、形式上は出世したことになるから論功行賞の結果ともいえるんやろうけど
 ホンマの目的は、あまりにも功績を立てすぎたアースラ関係者を
 現場から遠ざけることやったんよ」

「それ、証拠はあるのか?」

俺が尋ねると、はやては笑いながら頷く。

「あったりまえやん。他はともかく艦長クラスの人事を秘密裏に
 決められへんやろ。そやから公式記録にバッチリ残ってたよ」

「じゃあ、事実なんだな・・・」

「そやからそう言うてるやん。それに、それだけやないで。
 その他の事件関係者の取り扱いについてもいろいろあんねん。
 まずはユーノくん。抜群の調査能力と遺跡発掘の実績があるとはいえ
 いくらなんでもいきなり無限書庫の司書に抜擢はちょっとおかしいと
 思わへん?無限書庫の司書っちゅうたら、正規になろうと思ったら
 ものすごい倍率の試験を通らななられへんやん。
 それになのはちゃん。なのはちゃんはリンディさんに熱心に
 勧誘されて中学生の間は嘱託として管理局に協力。
 その後正式に管理局入りした。で、間違いないよね?」

はやての言葉になのはは小さく頷く。

「これも考えてみればおかしいんよ。何の専門教育も受けてへん
 10代前半の女の子を軍事組織が嘱託職員として雇うっちゅうのも
 変な話やんか。いくら魔法能力が高いとはいえやで」

「じゃあ・・・」

「うん。リンディさんに聞いたら、なのはちゃんを管理局入りさせるように
 上から命令を受けたって言うてたわ」
 
「そう・・・なんだ・・・」

「まあ、リンディさん自身もなのはちゃんの能力をそのままにしとくんは
 もったいないと思ってたらしいけどな。リンディさんの思いとしては
 きちんとしたルートで管理局入りさせて、きっちり基礎教育から受けて
 任務に付けるべきやと思ってたらしいわ。
 にもかかわらず、なし崩し的に戦闘任務に駆り出されるようになった・・・」
 
そこで一旦言葉を切ると、はやてはなのはと俺を交互に見た。
隣に立つなのはを見ると、口に手を当ててその顔は少し青ざめて見えた。
よく見ると、その肩は少し震えているようにも見える。
俺がなのはの肩に手を置くと、なのははゆっくりと俺の顔を見る。

「大丈夫か?」

「・・・うん」

なのはは小さく頷く。

「でも・・・ゴメン。手、握ってて」

「判った」

俺は短くそう言うと、なのはの手を握る。

「続き、話してもええ?」

はやての言葉に俺となのはは頷く。

「ほんなら話すわな。で、まあユーノくんとなのはちゃんについて言えば、
 管理局がその力を他に持っていかれるくらいなら、自分のところで
 飼い殺しにしてしまえっちゅう上層部の考えのもとに用意された立場なんよ」
 
「じゃあ、ユーノくんが司書長になったのや私が戦技教導官になれたのも?」

「そっちは完全に実力や。つまり、ユーノくんもなのはちゃんも
 上層部が考えてた以上に力を持ってたってことやね」
 
「そっか・・・」

なのはは少しほっとしたように表情を緩める。

「ま、管理局がキレイなトコばっかりの組織じゃないってのは
 わかってたつもりだけど・・・な」

俺がそう言うと、はやては頷く。

「ゲオルグくんは情報部の特務におったから、管理局上層部の
 汚いトコを直接見る立場やったからね」

「まあな」

その時、なのはが俺の手を握る力を少し強くする。

「・・・なのは?」

そう言ってなのはの顔を見ると、不安そうに俺の顔を見上げていた。

「ゲオルグくんが情報部で何をしてきたのか、結局私は何も知らないなって」

「知りたいのか?」

「うん。ゲオルグくんのことはなんでも知りたい。できればだけど・・・」

「なのは・・・」

なのはの表情と言葉に一瞬、すべて話してしまおうかと思う。
が、次の瞬間には話すべきでないと俺の理性の部分が判断していた。

「悪いけど、いくらなのはでも話せない。ホントに済まないけど」

俺がそう言うとなのははふるふると首を横に振った。

「いいよ。ゲオルグくんは私のために話さないって決めてくれたんでしょ。
 それに、私たちが初めて戦場で出会ったときのことを考えても
 ゲオルグくんが公に口外できないような任務についてたのは
 なんとなくわかってるつもりだから」

なのははそう言って俺に笑顔を向ける。

「ありがとな。なのは」

そう言って俺もなのはに向かって笑いかける。

「あー、こほん。ここは私の部屋なんやけど、わかってる?」

はやてのその声で俺となのははバッと手を離す。

「悪い・・・」
「ごめんね、はやてちゃん・・・」

「いや、そこまで謝られるほどのことやないんやけどね。
 で、思わぬ話題になったけど相談って以上?」

俺となのははお互いに顔を見合わせると、はやてに向かって頷いた。

「ほんなら話は以上やね。休暇の日程が決まったら連絡してや」

「うん。じゃあ、ありがとね。はやてちゃん」

「ええって。ほんならね」

なのははそう言って艦長室を出ようとする。
が、俺が動かないので手を引かれ、少しバランスを崩す。

「ゲオルグくん?」

「悪い。俺はもう少しはやてと仕事の話をしたいんだ」

「そっか。じゃあ私は先に戻るね」

そう言うとなのはは艦長室を出ていった。
音を立てて扉が閉まったところではやてが先に声を上げる。

「で?話っちゅうのは何?」

「ああ。ひとつ頼みがあるんだけど・・・」

そうして、俺ははやてに一つの頼みごとをして艦長室を後にした。

 

 

第93話:軌道拘置所


・・・数日後。

俺は朝から車に乗って出かけていた。
クラナガン市内に向かうと転送ポートから本局へと向かう。
本局につくと転送ポートの係官に行き先を告げる。
係官の案内である部屋に通されると、俺の目的地の管理を行う部署の
長である1尉が現れた。

「3佐。許可証と身分証をお預かりします」

「はい。どうぞ」

俺は本局運用部の発行した許可証と自分の身分証を1尉に手渡す。

「お預かりします。確認を」

「はい」

1尉から許可証と俺の身分証を受け取った係官は奥の部屋へと向かう。

「3佐。これから規則についてご説明させていただきます」

「はい」

それからたっぷり15分ほどかけて俺がこれから以降とするところについての
規則と注意事項について1尉から説明を受けた。
ちょうど説明が終わったころに、許可証と俺の身分証の確認に出ていた
係官が戻ってくる。

「1尉、確認できました」

「そうか」

1尉は係官から許可証と身分証を受け取ると、俺の方に向き直って
2つを俺に手渡す。

「ご協力感謝します」

「いえ」

俺は許可証と身分証を制服の胸ポケットにしまうと、椅子から立ち上がり
同じく立ち上がった1尉の後に続く。
奥の部屋に入ると、1つのボックスとスキャニング装置が置かれていた。

「それでは武器の類はこちらに」

「判りました」

俺は首から下げている待機状態のレーベンを1尉の指したボックスに入れて
施錠する。

「こちらへ」

1尉の誘導に従ってスキャニング装置の中に入る。
30秒程中で待っていると1尉に外へでるように促された。

「武器や危険物の類をお持ちでないことは確認できました。
 最後に、こちらの宣誓書にサインを」

そう言って1尉は1枚の紙が挟まったバインダーを差し出してくる。
見ると、先ほど別室で説明を受けた注意事項を守らなかった場合に
厳罰を受けることが書かれていた。
俺はサラッと書類に目を通すと、署名欄に自分のサインをして1尉に返した。

「ありがとうございます。それでは行きましょうか」

そう言って1尉はさらに奥の部屋へと向かう。
俺はその1尉について奥の部屋に入った。
そこには小さめの転送装置が設置されていて、先ほどの係官が操作していた。

「それでは3佐はそちらのポッドへ」

1尉の指さした方のポッドに入るとすぐに転送シークエンスが始まる。

「転送を開始します」

係官の言ったその言葉を聞きながら、俺は数日前のはやてとの
会話を思い出していた。




「で?話っちゅうのは何?」

なのはが去った後の艦長室で、はやては腕組みして俺の方を見ていた。

「ああ。ひとつ頼みがあるんだけど・・・聞いてくれるか?」

「そらコトと次第によるやろ。で、頼みって何?」

そう言ってはやては俺の顔をじっと見据えた。

「ゲイズ中将と会わせて欲しい」

単刀直入に俺が言うと、はやては眉間にしわを寄せた。

「それは難しいわ。ゲオルグくんも判ってるとは思うけど」

「判ってるつもりだよ。でも会っておきたい」

はやての言葉に頷きつつ、俺ははやてに向かって宣言する。
そんな俺にはやてはゆるゆると首を横に振る。

「判らんなあ。何でそんなにあの人と会いたいん?何をするん?」

「何をって・・・話を聞きたいだけだよ」

「調書やったら見れるはずやけど」

「読んでるよ。でも、そういうことじゃないんだ」

「何を話すつもりなん?」

「あの人が何を思い、何故あんな行動をとったのかを聞きたい」

「それは調書にも書いてある通りやと思うけど」

「それならそれでもいいんだよ。俺は俺の過去に対するケジメをつけるために
 あいつから直接話を聞きたいんだ」

「それやったら後でもええんちゃう?裁判が終わったあとやったら
 もっと楽に会えると思うで。それこそ私の仲介なんぞなくても」

「だとは思う。でも、俺は今あの人に会っておかないといけないと
 感じてるんだ。頼む、はやて」
 
俺はそう言って深く頭を垂れた。
しばしの静寂の後、はやてのため息が聞こえてきた。

「・・・頭上げて。私から捜査部に頼んでみるわ」

「いいのか?」

「頼むだけやけどね。許可が下りることは保障できひんよ」

「判ってる。ありがとな、はやて」

俺がそう言うと、はやては不機嫌な表情で追い払うように手を振った。

「早く出て行って。仕事の邪魔や」

その言葉に追われるように俺は艦長室を後にしたのだった。



回想から意識を引き上げ目を開けると、そこには先ほどまでとは
うって変わって重苦しい雰囲気の光景が広がっていた。
ポッドから出ると隣のポッドから同じく出てきた1尉と目が合った。

「さあ、着きましたよ。ここが第19無人世界、軌道拘置所です

部屋の窓からは漆黒の中にぽつぽつと光の点が見えた。

「時間も限られていますし、早速行きましょうか」

「はい、お願いします」

俺は1尉について部屋を出る。
通路は細く長く続いていて、そしてどことなく暗い印象を受ける。
本局やアースラの明るい色を基調とした内装とはちがう暗色系の内装からは
圧迫感に近いものさえ感じた。
1尉の後について歩いて行くと、通路の先にいかにも厳重そうな扉が目に入る。
1尉は扉の前まで来ると俺の方を振り返った。

「ここから先が重犯罪で起訴されている被告を収容する区画です」

俺が1尉の言葉に無言で頷くと、1尉は扉の脇にあるパネルに手をかざす。
一瞬パネルが青白く光ったかと思うと扉のロックが外れる音がした。

「さ、どうぞ」

そう言って1尉は俺に先へ進むように促す。
俺が促されるまま扉を抜けると1尉は俺に続いて扉を抜けた。
直後、自動的に扉は閉まり再びガチャリという音とともにロックされた。

「このロックは?」

俺がそう尋ねると1尉は申し訳なさげに首を振る。

「申し訳ありませんが機密です。お教えできません」

そう言って1尉はさらに通路の奥へと進んでいく。
先ほどまでと全く変わらない通路の様子に俺は少し不安を覚える。

「これほどまでにずっと同じような光景が続くと迷ってしまいそうですね」

俺がそう言うと1尉は小さく笑った。

「それが目的で全く同じ内装を全通路に採用しているのですよ。
 かく言う私も初めてここに来た時は迷ってしまいましてね」

顔だけ振り返りながらそう言った1尉の顔には苦笑が浮かんでいた。

「ですから、ここにいる間は私から離れないようにお願いします。
 監視システムは完備してますが、探すのも厄介ですので」

「わかりました」

やがて、他と何ら変わりない1つの扉の前で1尉の足が止まった。

「ここが面会室です。お入りください」

そう言って1尉はやはり扉の脇にあるプレートに手をかざし、
扉のロックを外した。
部屋に入ると簡素なテーブルが部屋の中央にあり、それを挟むように
向かい合わせに置かれた椅子が2脚あった。
部屋の隅にはこれまた簡素な机と椅子のセットが1つ置かれている。

「どうぞお掛けになってください」

俺は1尉に勧められるまま中央のテーブルに向けられた椅子の一脚に
腰を下ろす。正面には俺が入ってきたのとは違う、しかし全く同じ形の
扉が1つあった。

「間もなく来られると思いますのでそのままお待ちを」

そう言って1尉は部屋の隅に置かれた椅子に腰かけた。
俺も1尉も一言も発することなく、低く小さく唸るような空調の音だけが
面会室の中に響いていた。
しばらくして、1尉の持つ通信機が呼び出し音を鳴らす。

「はい・・・。了解した。お通ししてくれ」

1尉は通信機をしまうと、真剣な表情で俺を見る。

「3佐。ここに来る前にサインしていただいた宣誓書にも書いてありました通り
 ここでの会話はすべて記録されます。また、ここでなされた会話の内容は
 いかなる相手であっても被告の裁判が終了するまでは一切口外なさらないで
 ください。よろしいですね?」

「はい、理解しています」

俺がそう答えると1尉は固い表情で頷く。
その時だった。俺の正面にある扉がゆっくりと開き
俺がここに来て会うことを目的とした人物がゆったりとした歩みで
部屋に入ってくる。
その服装は収監者のものであったが、発せられる威厳というか
オーラのようなものは少しも損なわれていなかった。
その威圧感に俺は思わず立ち上がって敬礼する。

「お待ちしていました。中将閣下」

こうして、俺はレジアス・ゲイズ元中将と初めての対面を果たすこととなった。

 

 

第94話:レジアス・ゲイズ

部屋に入ってきたゲイズ中将は俺の敬礼に返礼を返すことも無く
ゆったりとした動きでテーブルを挟んで俺と反対側の椅子に座る。
腰をおろした中将に鋭い目で射抜かれ、俺は椅子に座ることもなく
立ちつくしていた。

「座ったらどうかね?」

「は、はい・・・」

野太い声ではあるが柔らかい口調でそう促され、俺は慌てて
自分の椅子に座る。
その場の雰囲気にのまれたまま俺は一言も発することなく
中将の顔を眺めていた。

「君は?」

「自分は本局古代遺物管理部機動6課所属のシュミット3佐です」

「機動6課・・・か。では、君もあの戦いに?」

「はい。しかし、自分はその前の戦いで負傷したため後方での指揮に
 あたっておりました」

「その前の戦いというと・・・」

「スカリエッティによって地上本部ほかの施設が攻撃された時ですね。
 自分は6課の隊舎の守りについておりましたが、敵の攻撃により負傷を」
 
「そうか・・・」

中将はそう言ったきり難しい表情で黙りこんでしまう。
俺もそんな中将になんと声をかけてよいかわからず、
部屋の中を沈黙が支配する。
しばしの時が流れて、中将がその沈黙を破った。

「で、君はなぜここに?」

「と、いいますと?」

「何の用も無くこんなところまで出向く者はおらんよ」

「そうですね・・・閣下と直接お会いしてお聞きしたいことが
 いくつかあるからですね」

俺がそう言うと中将は渋い顔をする。

「話・・・か。知り得ることは取調べで話したつもりだが」

「閣下・・・私は・・・」

そこで中将は俺の話を遮るように手を上げる。

「閣下はよせ。私はもう中将でもなんでもない。ただの被告人だ」

「では、ゲイズさんとお呼びしても?」

「好きにしろ」

憮然とした表情でゲイズさんはそう言った。

「では、ゲイズさん。最初に申し上げておきますが、私はJS事件の捜査を
 担当しているわけではありません。今日も捜査官や管理局員としてではなく
 いち私人としてここに参りました」

「詭弁だな。局員でなければここに来ることはかなうまい」

ゲイズさんは憮然とした表情を崩すことなく指摘する。

「確かに。ですが管理局員としての立場などとは関係なく私的に
 あなたと話をしに来たのだという点についてはご理解いただきたいのです」

俺がそう言うとゲイズさんはしばらく間をおいて鷹揚に頷いた。

「よかろう。それで、話とは?」

ゲイズさんの言葉を受けて俺は小さく息を吐くと、話を始めることにした。

「8年前、首都防衛隊に所属するゼスト隊がスカリエッティのアジトに
 突入した際、戦闘機人によって隊が全滅するという事件がありました。
 もちろんご存知ですよね?」

「ああ」

短くそう言ってゲイズさんは頷く。
その表情から感情をうかがい知ることはできない。

「調書によればその頃すでにあなたは人造魔導師計画と戦闘機人計画を
 推進していたとあります。つまり、ゼスト隊が突入する先には
 スカリエッティの率いる戦闘機人がいることは判っていたはずです。
 ここから導き出される答えは・・・」

そう言って俺はゲイズさんの目を正面から見つめた。

「あなたが戦闘機人の実験台としてゼスト隊を利用した」

俺がそう言った瞬間、ゲイズさんの眉がピクリと動いた。

「それは違う。私はあの件に直接関わってはいない」

「なら、何故ゼスト隊から発せられた応援要請を各隊に断らせたんです?
 あなた自身が圧力をかけてまで」

それはクレイから受け取った情報から俺が導き出した答えだった。
俺の言葉にゲイズさんの両目が見開かれる。
俺とゲイズさんの話が始まって、初めてゲイズさんの表情が動いた瞬間だった。

「何故それを・・・」

「地道な調査の結果から推論したことです。どうやら当たっていたようですね」

俺がそう言うと、ゲイズさんは苦虫をかみつぶしたような顔で俺を見た。
しばらく沈黙が続いたのち、ゲイズさんはぽつぽつと語りはじめた。

「あいつは最初、”スカリエッティのアジトを発見した。
 だから地上本部の総力を上げて叩きたい。協力してくれ”と言った。
 無論、私としてはそれに協力などできん。
 将来の貴重な戦力を失うわけにはいかんかったからな。
 だから私は危険だからやめておけと言った。
 だがあいつは、”スカリエッティを放置する方がよほど危険だ。
 協力してくれないのならそれで構わんから邪魔はするな”と言って
 独自に突入作戦を立案し、首都防衛隊の他の隊に応援要請を出した」

「さぞ焦ったでしょうね、あなたとすれば。
 万一スカリエッティとの関係が明らかになればあなたは破滅だ」

俺の言葉にゲイズさんは小さく頷く。

「そうだな。私は自らの保身のため、あいつに突入作戦の実行を
 諦めさせる必要に迫られた。だからこそ、あいつが突入作戦への
 助力を依頼した部隊に協力しないよう圧力をかけたのだ」

「そうすればゼストさんは作戦を中止するだろうと?」

俺がそう尋ねるとゲイズさんは頷く。

「そうだ。あいつはどのような状況であっても冷静な判断ができるし、
 部下や仲間の命を第一に考える指揮官だった。
 だからこそ、戦力が不足するのであれば作戦を中止するだろうと考えた」

「しかし、その目論見は外れた訳ですね」

俺がそう言うと、ゲイズさんは苦しげな表情を浮かべる。

「私はあいつの正義感や義務感を読み誤った。
 あいつは私が考えているよりもはるかにスカリエッティを脅威と感じていた。
 だからこそ、部下の命を危険にさらすと判っていながら作戦を
 強行したのだろう」

「そしてあなたはどうしたのです?何もしない訳にはいかないでしょう」

俺の言葉にゲイズさんは苦々しげな表情で俺を見据える。

「君は何を聞きたいのかね?」

「事実です」

俺が短くそう答えると、ゲイズさんは目を閉じて小さくため息をつくと、
再び目を開いて俺の顔を見つめる。

「私はスカリエッティにアジトへの突入作戦が行われることを教えた。
 突入部隊の構成や作戦の実行時期もな」

「それは、スカリエッティに迎撃の準備をさせるためですか?」

俺がそう言うとゲイズさんはカッと目を見開いて俺の睨みつける。

「違う!」

短く言ったゲイズさんの声に怒りを感じた。
俺はそれにあてられそうになりながらも、努めて冷静さを保つようにする。

「ではなんのために?」

「突入作戦が実行される前にアジトの移動をさせるためだ。
 俺はスカリエッティに言ったのだ。”襲撃が行われる前に退避しろ”とな」

ゲイズさんの言葉にはそれまでと異なり感情が込められていた。
一人称が”私”から”俺”に変わったことからもそれを感じられる。

「それは本当ですか?」

「本当だ。今更ウソをついても何ら得はないからな」

「ですが、実際にはスカリエッティは戦闘機人で迎撃しました。
 何があったんです?」

「俺は知らん。スカリエッティが勝手にやったことだ」

「そうでしょうか?スカリエッティの人となりを考えれば、
 そのような行動に出るのは簡単に予測できそうなものですが・・・」

「かもしれん。だが俺はできるだけのことはしたつもりだ」

「私はそれには賛同できかねますね」

「というと?」

そう言ってゲイズさんは試すような目で俺を見る。

「私があなたの立場であれば、スカリエッティには実際よりもはるかに
 大きな襲撃があるように情報を流します。
 そうすれば手持ちの戦力では太刀打ちできないと考え、
 アジトを移動するという方に思考を傾けさせることができると思いますが」

「だが、奴にも独自の情報網はある。偽情報と判ればどのような行動に
 出るかは予想できなくなる。その方がより危険ではないかね?」

「確かに・・・」

俺は様々なパターンを考えたが、ゲイズさんの説を論破できるだけの
説得力ある案を考え出すことができなかった。

「この件についてはもうやめにしましょう。建設的ではありませんし、
 究極的には結論が出ている話ですから」

「どういう意味かね?」

「あなたが保身に走ったためにゼスト隊のほぼ全員が命を落とす結果になった
 ということです」

俺がそう言うと、ゲイズさんはカッと目を見開いた。
が、反論はなくそのまま元の憮然とした表情に戻った。

「それにまだあなたには聞きたいことがあります」

そこで俺は一旦間をとった。

「ゲイズさん。ティーダ・ランスターという名に聞き覚えはありませんか?」

 

 

第95話:疑惑追及


「ティーダ・ランスター?」

ゲイズさんはそう言うと記憶を探るように目を閉じて腕組みをする。
しばらくそのまま沈黙の時が流れて行くが、やがてゲイズさんは目を開くと
首を横に振った。

「悪いが覚えがない名だ」

「そうですか・・・非常に残念です。
 あなたの子飼いの部下だった地上本部の上層部が揃って役立たず
 呼ばわりした首都防空隊員なんですがね」

「なんだと?」

「ティーダ・ランスター1等空尉は新暦70年、違法魔導師の追跡任務中に
 殉職しました。その後、首都防空隊を管轄する地上本部の上層部にいた
 お歴々は口ぐちに事故調査委員会の席上で”管理局員ならば命を賭してでも
 違法魔導師を止めるべきであり、殉職した上違法魔導師にも逃げられるなど
 役立たず以外の何者でもない”と断じた」

「新暦70年・・・思い出したぞ。独断で追跡に出た揚句、違法魔導師に
 よって返り討ちにされた件か・・・。アレを役立たずと言って何が悪い」

「彼にも家族や友人は居たんですよ?配慮が足りない発言だと思いますね」

「会見ではなく事故調査委員会の席上だ。公開の場ではないのに
 そのような配慮が必要かね?」

「議事録は公開されます。それも一言一句間違うことなく。
 彼らの発言を活字で目にするしかない家族はどう思いますかね」

俺がそう言うとゲイズさんは黙り込んでしまった。
だが、俺が本当に話したいのはこんなことではない。

「ところで事故調査委員会である疑念が持ち上がったのは
 覚えていらっしゃいますか?」

俺の問いにゲイズさんは無言で首を横に振る。

「そうですか。では思い出させて差し上げますよ。
 殉職したティーダ・ランスター1尉の遺体に残された傷ですが、
 追っていた違法魔導師の能力とは明らかに齟齬があると
 報告があったはずです。
 しかも、これについて追加調査を行おうとしたところで
 不自然に調査が打ち切られ、結果としてゲイズさんが
 先ほど言われたような結論で調査委員会は解散しています。
 少し調べてみたところ調査打ち切りには何者かの政治的動きが
 影響しているということだけは判りました」
 
「何が言いたいのかね?君は」

「では、単刀直入に言いましょう。この調査を打ち切らせたのは
 あなたではないのですか?」

俺の問いかけに対してゲイズさんは不機嫌さを隠そうともせずに
俺を睨みつける。

「私が違うと言ったら君は納得するのかね?」

「納得はできません。ですが、その言葉を信じた上でもう一度考え直します」

俺がそう言うとゲイズさんは俺の言葉を値踏みするように俺の目を
真っすぐに見据える。
俺も負けじと見返し、2人の視線がぶつかり合う。
しばらくしてゲイズさんがわずかに表情を和らげて口を開いた。

「調査の打ち切りを指示したのは私ではない。私が欠席した委員会で
 決定していた。これは本当だ」
 
ゲイズさんが圧力をかけて調査を潰したと考えていた俺は内心の狼狽を
必死で隠しながら言葉を探す。

「だとすれば他に誰が調査の打ち切りを?」

「その場にいなかった私に聞くのかね?」

「そうですね。またイチから調べ直すことにしますよ」

その時黙って俺達の様子を眺めていた1尉が椅子から立ち上がった。

「時間です」

短く、簡潔に用件だけを伝えると1尉は俺が入ってきた方の扉に向かう。
同時に、ゲイズさんが入ってきた方の扉が開いた。
俺は椅子から立ち上がり、同じく立ち上がったゲイズさんを見た。
一瞬目線が交錯するが言葉は無く、俺は扉の方へと振り向く。

「君は・・・」

背後からゲイズさんの声が追ってくる。

「君は一体何者だ?機動6課の前は何処にいた?」

ゲイズさんからの問いに俺はゲイズさんの方へと振り向いた。

「元中将ならご存知とは思いますが、6課に来る前は本局情報部第1特務部隊の
 部隊長をしておりました」

「情報部の特務・・・。では君があの・・・」

「それ以上は勘弁して下さい。特秘事項ですので」

「そうだったな。では、縁があればまた会おう」

「はい」

俺はそう返事を返すと踵を返して面会室を出た。



来た時と同じように1尉の先導で拘置所の暗い通路を歩きながら、
俺は先ほどの面会について考えていた。
所定の時間は30分。だが、俺には1時間にも2時間にも感じられた。
それだけ濃密な時間だった。
これからどうするかについて考えるのは帰ってからの宿題にすることにして、
俺は前を歩く1尉に声をかける。

「1尉、さっき聞いたことは全部聞かなかったことにした方が身のためですよ」

「そうもいきません。3佐と元中将の会話についてはすべて記録されていますし
 どのような会話が為されたかについて報告書を書く義務がありますから」

一度も俺の方を振り返ることなくそう言った1尉の声は面会の前と比べて
かなり堅く感じられた。

「まあ、そうでしょうね。無理を言って申し訳ない」

それきり俺と1尉は無言のまま通路を進み、転送装置のある
部屋までたどり着いた。

「申し訳ありませんが今日の面会についての報告書を作成する必要が
 ありますので私はここで」

「いえ。本日は色々と取り計らって頂いてありがとうございました」

そして俺は転送装置の中に入る。
次の瞬間、俺はミッドチルダの転送ポートへと戻っていた。



転送ポートから帰る車の中で、俺は今日の面会で話したことを反芻していた。

(ティーダ・ランスターの件への関与を否定されたのは意外だったな。
 てっきりスカリエッティがらみでの何かだと思ったんだけど・・・)

信号待ちの車の列を眺めながら、さらに俺は思考を進めていく。

(まあ、ゲイズ元中将のウソということも考えられなくはないけど、
 今の状況でウソをつく理由はない。とすれば、誰か別の人間が
 あの件に関する調査を止めなければならなかった理由があったわけだ)
 
信号が青に変わり俺はアクセルを踏み込んで車を発進させる。

(なら、それは誰か?どうももう一回調査委員会の議事を洗う必要があるな。
 そういえば、ゲイズさんは自分が欠席の会で決められていたって
 言ってたな。その線から何か見えてくるといいんだけど・・・)
 
再び信号待ちで車を停めると、ハンドルに身体をもたれかけさせる。

(なんにせよ、一度冷静になってゼロから考え直すしかないか・・・。
 それよりもだ)
 
ハンドルにもたれさせていた身体を起こしてシートの背に体重を預ける。

(ゼスト隊全滅の件にあんなウラがあったとはね・・・。
 話をしてる時には特に何も思わなかったけど、今にして思えば
 ちょっと冷静さを欠いてたよな。反省しないと・・・)

車を走らせながら小さくため息をつく。
やがて湾岸地区に入り隊舎が近づいて来る。

(ま、これでスカリエッティの件ではっきりさせておきたいことは
 だいたいはっきりしてきたかな・・・。あとは姉ちゃんか・・・。
 早く目を覚ましてくれればいいんだけど、医者もはっきりしたことは
 言えないって言ってたしな・・・)

車を停泊しているアースラの脇に停めて車から降りると
アースラに向かって歩を向ける。

(母さんや父さんも生きてたこと自体は喜んでるみたいだけど、
 いつ意識が戻るのか判らないんじゃな)
 
スロープの脇で警備に当たっている交替部隊の隊員にねぎらいの
言葉をかけてからアースラに向けてスロープを上る。

「ま、やるべきことを淡々とこなすだけか」

自分に言い聞かせるように小さくそう言うと、ハッチを潜って
アースラの艦内へと入る。

「おかえり、ゲオルグくん」

背後からかけられた声に足を止める。

「いきなり声をかけたらびっくりするだろうが」

振り返るとそこには通路の壁にもたれて腕組みしているはやてがいた。

「驚かせるつもりで声をかけたんやから、びっくりしてもらわな」

はやてはそう言ってニヤリと口をゆがめる。

「待ち伏せてたのかよ・・・暇人め」

「ま、暇っちゃ暇やね。裁判向けの捜査関係の仕事は捜査部と査察部への
 引き継ぎができるレベルまで片づけたから」
 
俺の皮肉にはやては真面目に返答を返してくる。

「そやからフェイトちゃんもシンクレアくんもようやく解放してあげられるわ」

はやてはそう言って物憂げな表情を浮かべると、小さくため息をつく。

「長い間ご苦労さまでした」

「そらご丁寧にどうも。それより・・・」

はやてはそう言って急に真剣な表情になる。

「どうやった?中将との面会は」

「はやてに骨を折ってもらった甲斐はあったよ」

「そらよかったわ。で、どんな話をしたん?」

「8年前の件について、ちょっとね」

俺がそう言うと、はやてはふっと表情を和らげる。

「そっか。具体的にどんなやり取りがあったかは・・・聞いてもムダやろね」

「まあな。一応口外は禁じられてるし話せないよ」

その時、はやてに通信が入る。はやては俺に断ると通信に出た。

「はい、八神です・・・。グリフィスくん?・・・・・ゲオルグくんやったら
 一緒におるけど・・・。へ!?・・・・・判ったわ、連絡おおきにな」

はやては通信を切ると俺の方を見る。

「ゲオルグくん!エリーゼさんが意識を取り戻したらしいわ」

はやての言葉に一瞬頭が真っ白になる。

「姉ちゃんが・・・。マジか!?じゃあ、すぐ病院に行かなきゃ!」

「うん。そうして!」

「おう。さんきゅ!!」

そう言って俺はメインハッチからスロープに向かって飛び出した。

 

 

第96話:父と子


アースラを出てから30分後、俺は姉ちゃんの病室の前に居た。
両親には車の中から連絡して、すぐに来るとは言っていたが、
あと30分はかかるはずだった。
俺は一度大きく深呼吸すると扉をノックする。

「はい」

懐かしい声で返事が返ってくる。
俺は病室のドアを開けた。

「どちら様?・・・って、ひょっとしてゲオルグ?」

起こしたベッドにもたれかかって座る金髪の女性が
俺を見てそう言った。

「そうだよ・・・姉ちゃん」

ベッドに向かってゆっくりと歩きながらそう言うと、
姉ちゃんはにっこりと笑う。

「へぇ・・・見違えたじゃない。最後に見た時はまだガキンチョだったのに」

「姉ちゃんが俺を最後に見たのは8年前だろ。変わってて当然だよ」

姉ちゃんのベッドの脇にある椅子に腰かけながらそう言った。
姉ちゃんの顔を見た瞬間は頭が真っ白になったが、
昔と同じように話す姉ちゃんを見ると、急に冷静さが戻ってきた。

「それより寝てなくて大丈夫なのかよ。まだ意識が戻ったばっかりだろ?」

俺がそう言うと、姉ちゃんは困ったような顔をする。

「うーん。先生は別に無理をしなければ大丈夫って言ってたけど?
 8年も寝てたせいで筋肉が衰えてるから気をつけなさいとは言われたけどね。
 ま、腕を上げるのも辛いくらいだから、気をつけるもなにもほとんど
 動けないんだけどね」

ニコニコと笑いながらこともなげに話す姉ちゃんに、俺は少し呆れてしまう。

「じゃあ、寝てろよ。危なっかしいなあ」

「だって退屈なんだもん。それよりゲオルグ・・・」

姉ちゃんはそう言って、俺の目をじっと見た。

「ただいま」

姉ちゃんのその言葉に抑えていた感情が一気にあふれだすのを感じた。
とたんに、目の前の姉ちゃんの顔が滲んでいく。

「お帰り・・・姉ちゃん・・・」

そう言うと、両目から涙がぽろぽろと流れ出て行く。

「ちょっ、あんた何泣いてんの!?」

「いいだろ!姉ちゃんは8年も死んだことになってたんだぞ!」

それから俺は、姉ちゃんがいなくなってからのことを一気にまくし立てた。
任務に出てて姉ちゃんの葬式に行けなかったこと。
管理局をやめるやめないで父さんと冷戦状態になったこと。
姉ちゃんがなんでいなくなったのか、必死になって調べたこと。
スカリエッティやゲイズさんのことは流石に話さなかったが、
俺は姉ちゃんがいなくなってどれだけ辛かったかを
感情の赴くままにぶちまけた。

ひとしきりしゃべり終わって姉ちゃんを見ると、辛そうな表情で
涙を浮かべていた。

「ごめんね・・・。そんなにあたしのことを思ってくれたんだね。
 ありがとね・・・ゲオルグ」

姉ちゃんはそう言って、まだ自由に動かせないだろう手を俺の方に伸ばす。
プルプルと震えているその手を俺は両手で握りしめた。

「あたりまえだろ。姉ちゃんは俺にとって大事な家族なんだから。
 あと、姉ちゃんは全然悪くないんだから謝んなって」

「うん・・・」

その時病室の扉がノックされ、姉ちゃんが返事をすると両親が入ってきた。

「エリーゼ!」

母さんがベッドの上の姉ちゃんに駆け寄る。

「よかった・・・本当に・・・」

姉ちゃんを抱きしめて涙を流す母さんにはじめは少し驚いていた
姉ちゃんだったが、しばらくするとぎこちない手つきで母さんの
背中を撫で始めた。

「うん・・・ごめんね、お母さん・・・ずっと心配させちゃって・・・」

揃って涙を流す2人を眺めていると、不意に後から肩を叩かれた。
振り向くとそこには父さんが立っていた。

「少しいいか」

俺が頷くと、父さんは病室の扉に向かって足を踏み出した。



5分後、俺は父さんと病院の屋上にいた。
風雨にさらされているにも関わらず手入れが行き届いている
ベンチに腰を下ろすとタバコに火をつける。

「タバコを吸うような歳になったんだな・・・お前も」

父さんはそう言いながら俺と同じベンチに腰を下ろす。
俺と父さんの間には一人分のスペースがあいていて、
俺と父さんの心の距離をあらわしているようだった。

「まあね。あ、父さんはタバコ苦手なんだっけ?」

「いや。別にかまわん」

「そう・・・」

それきり、俺と父さんの間には一言の会話も生まれない。
沈黙が辺りを支配する中、俺は夜空を見上げながら、
2度3度と煙を吐き出す。

「ゲオルグ。エリーゼのことだが・・・」

ふと父さんが口を開く。

「改めて礼を言う。助けてくれて感謝する」

父さんはそう言って俺に向かって頭を下げる。
俺はそれを横目で見ながら口を開く。

「俺にはその言葉を受け取る資格はないよ」

そう言って煙をふぅっと吐き出し、言葉を継ぐ。

「俺は姉ちゃんの救出に関しては何もしてない。
 だから、その言葉は俺の仲間に言ってやってよ」

「もちろん、お前の部隊の皆さんには改めてお礼をするつもりだ。
 だが、お前もエリーゼのことは必死で調べていたのだろう?」

顔を上げた父さんは、そう言って俺の方を見つめる。

「ま、それが仕事だからね」

俺がそう言うと父さんは悲しそうな表情で俺を見ていた。
再び2人の間に沈黙が横たわる。

「・・・ところでお前のほうはどうなんだ?怪我をしたと聞いたが」

しばらくして父さんはそんな話題を口にする。

「おかげさまですっかり良くなったよ」

「そうか・・・。大変だったな・・・」

「別に。こんなのは慣れっこだから」

俺がそう言うと父さんはそうじゃないと首を振る。

「お前、エリーゼのクローンと戦ったらしいな。そして・・・殺したと」

俺は思わずぽかんと口を開けて父さんを見た。
口から落ちたタバコが屋上の床に跳ねる。

「どうしてそれを・・・」

「お前の上司・・・八神さんだったか・・・彼女に聞かされた」

父さんの言葉に俺は心の中で舌打ちをする。

(あいつ・・・余計なことを言いやがって・・・)

そんな心中を顔に出さないように気をつけながら俺は口を開く。

「そっか・・・。ま、仲間を守るためだったし、仕方がないよ。
 殺しちゃったのは俺の未熟さのせいだからね・・・反省してるよ」

俺がそう言うと、父さんは厳しい表情で俺を見る。
少し間があって父さんが再び口を開く。

「・・・何故お前は自分の気持ちにウソをつくんだ?」

「はぁ?」

間抜けな声を上げる俺に向かって父さんは言葉を続ける。

「クローンとはいえ人の命、しかも自分の姉と瓜二つの人物の命を奪って
 辛くないわけがない。何故お前はそれを認めない?」

「それは父さんの勝手な思い込みだろ?
 別に俺はもう辛いとは思ってないし、人の命を奪うのだって初めてじゃない。
 今父さんが言った出来事だってもうとっくに気持ちの整理はつけたよ」
 
俺は少し声を荒げて一息にそう言った。
俺の言葉を聞いた父さんは目を閉じて何かを考えているようだった。
ややあって、父さんは再び口を開く。

「ハンスが死んだときのことを覚えてるか?」

父さんは穏やかな口調で俺に向かって尋ねる。
ハンスというのは昔うちで飼っていた犬で、俺が5歳くらいのときに
病気で亡くなった。
俺が黙って頷くと、父さんは話を続ける。

「お前がハンスの遺体にすがりついて、いつまでも泣きじゃくっていたのを
 昨日のことのように覚えているよ。母さんやエリーゼがいくらなだめても
 ”僕はずっとハンス一緒にいる!”と言ってな。
 そんなお前がさっきお前自身が語って見せたように器用な生き方を
 できるとは私には思えんのだ」

昔のことを持ち出してまでそんな話をする父さんに俺は苛立ちを感じた。

「そんな昔の話はやめてくれよ。あの頃とはもう違うんだよ。
 俺はもう何人も人を殺してるし、それに慣らされてきた。
 今更一人増えたところでどうってことない。
 それが姉ちゃんのクローンだろうと関係ないね」

俺は荒い口調でそう言うとタバコを吸おうと胸ポケットに手を伸ばす。
一本をパッケージから取り出すと火をつけて、夜空に向かって煙を吐き出す。
父さんはそんな俺を見て力なく首を振る。

「お前はなぜそうまでして自分を偽るんだ?」

「偽ってはいないよ。ただ父さんの知ってる俺とは変ったってだけさ」

父さんの方は見ずにただまっ黒な夜空を見上げてそう答える。
そうしなければ、自分の心の中を見透かされそうな気がした。
ディレトを殺してしまったことを責め続ける自分自身のことを。

「私にはそうは見えない。お前はハンスの亡骸にすがっていたときと
 少しも変わっていないように私には見える」

父さんはそう言って俺の顔をじっと見つめる。
俺は言葉を発することもできず、ただ虚空に向かって煙を吐き出す。

「私にも一本くれないか」

父さんはそう言って俺に向かって手を伸ばす。
俺はその手に自分のタバコを一本渡すと、父さんが咥えたタバコの先に
火をつけた。
父さんは深く煙を吸いすぎたのかせき込んでいた。

「ごほっ・・・久しぶりに吸うとやはりこうなるか・・・」

父さんはそう言って苦笑する。
意外だった。俺の記憶には父さんがタバコを吸っていた姿は無かったから。

「父さんも吸ってたのか?タバコ」

「昔は、な」

俺が尋ねると父さんは目を細めて星の浮かんだ夜空を見て言った。
その目は昔を懐かしむような思い出すような目だった。
父さんはもう一口タバコを吸うと、顔を顰めてタバコを俺の方に差し出した。

「灰皿あるか?」

俺が父さんの方に携帯灰皿を差し出すと父さんはタバコを灰皿に押し付けた。

「どうも吸いなれてないといかんな。少し気分が悪くなったよ」

父さんはそう言って最後の煙を吐き出した。

「この話はするまいと思っていたんだが」

そう言うと父さんは再び俺の方を見つめた。
俺は父さんが何を言い出すかなんとなく想像がつき、少し身を固くする。

「管理局をやめるつもりはないのか?」

(やっぱりな・・・)

想像通りの話題に俺は内心でため息をつき、いつもと同じように返事をする。

「ないね」

俺がそう言うと、父さんはそうか、と言って去る。
いつものようにそうなるだろうと思ったのだが、今日は違った。
父さんはやれやれと言わんばかりに首を横に振ると、悲しげな目で俺を見る。

「わからんな。なぜそうまでして管理局にこだわる」

「こだわってるつもりはないよ。ただ・・・」

好きでやっているだけ。そう言おうとしたとき、ふと前にフェイトに向かって
管理局をやめようと思っていることを話した時のことを思い出した。

(そういえば、なんで管理局に居続けるかなんて考えたこと無かったかもな)

そんな考えが頭に浮かび自分の言葉の続きを発することができなくなった。

「ただ・・・なんだ?」

そんな俺を見透かすように父さんは重ねて聞いてくる。

(俺はなんで管理局に居るんだろう・・・)

そんな疑問が湧いてきて俺は答えに窮する。

(思えば管理局には失望させられっぱなしだったしな・・・。
 今回の件で管理局も変わっていくだろうし、姉ちゃんも戻ってきた。
 ひょっとすると、もう俺は・・・)
 
管理局に居続ける理由が無いのかもしれない。
そう思った時、ふと新しい疑問がわいてきた。

(なら俺は管理局をやめた後どうしたいんだろう・・・)

その時、2人の顔が浮かんだ。
俺にとっての最愛の女性と俺と彼女の大切な娘。

(ああ・・・そうか)

その瞬間ある考えがふっと降りてきて、俺の心に空いた隙間に
ぴたりとハマった。

「俺には愛する人がいる。その人たちと生きていく世界は
 平和であってほしい。だから俺は管理局に居続けるのかもしれない」
 
俺は思わず心に浮かんだ言葉をそのまま口に出していた。
ややあって、父さんは俺に向かって話しかけてきた。

「そうか・・・。そうまで言うなら、もうお前に管理局を辞めろとは
 言わないことにするよ」

父さんの言った言葉に俺は思わず父さんの顔を見た。
その顔には柔和な笑顔が浮かんでいた。

「いい顔をするようになったな。それならもう心配はなさそうだ」

「どういう意味だよ・・・」

「私も子離れをする時期が来たってことさ」

「はぁ?」

ワケも判らず混乱しているうちに父さんはベンチから腰を上げる。

「さて、私はエリーゼの病室に戻るが、お前はどうする?」

「あ、ああ。こいつを吸い終わったら行くよ」

「そうか、じゃあ先に行っているからな」

「ああ」

俺の返答を聞いて、父さんは屋上から降りて行く。
その背中はずいぶん小さく感じられた。

「ああ、それから」

そう言って父さんが俺の方を振り返る。

「お前の愛する人とやらは、近いうちに紹介してくれよ」

「は!?」

父さんはそれだけ言うとそのまま屋上から去っていった。
父さんの言葉に俺はもう一度自分の言葉を反芻する。
そして、口にくわえた煙草を吹かすと、夜空を見上げて小さく呟いた。

「こりゃ、あんまりなのはを待たせるわけにはいかなくなったな・・・」

俺は携帯灰皿に吸殻を入れると、姉ちゃんの病室に戻るべく、
ベンチから腰を上げた。
 

 

第97話:シグナム2等空尉


ゲイズさんに会い、姉ちゃんが意識を取り戻した日から数日、
俺は日常業務に忙殺される日々にあっさりと引き戻されていた。
捜査関係での6課の役割がひと段落したこともあって、グリフィスの補佐が
再び得られるようになったとはいえ、忙しい状況には変わりなく、
この日も朝から本局で行われた隊舎再建についての会議に出席し、
アースラに戻ってこられたのは昼すぎだった。

戻ってくる途中の店で買ってきたパンをかじりながらメールを
チェックしていると、来客を告げるブザーが鳴った。
俺がどうぞと返事をすると、陸士の制服をきっちりと着込んだ
シグナムが入ってきた。

「失礼するぞ」

シグナムはそう言うとゆったりとした歩調で俺の前まで歩いてくる。
俺はくわえていた菓子パンをあわてて咀嚼してシグナムの方へ向き直った。

「悪いな、会議の前に呼び出したりして」

俺もシグナムもこの後来月の予算についての会議に出席する予定なのだが
どうしてもその前にシグナムと話しておきたくて俺はシグナムを呼び出した。

「いや、いい。で、話とは?」

単刀直入に本題をきり出してきたシグナムに対して、
俺はソファを指さしながら声をかける。

「まあ、座れよ」

シグナムは小さく頷くと副長室の隅にあるソファに腰を下ろす。

「コーヒーでいいか?」

「私はいい」

シグナムはそう言ったが俺は2人分のコーヒーをカップに入れて
ソファへと向かう。
2つのカップをテーブルの上に置いてシグナムの向かい側に座ると
シグナムが俺の顔を軽く睨んできた。

「私はいいと言ったはずだが」

「まあ飲めよ。この前本局からの帰りに新しいコーヒー屋を見つけてさ。
 そこで買って来たんだけど、うまいぞ」

「・・・私はコーヒーがあまり好きではないのだが」

「いいから」

おれが少し強めにそう言うと、シグナムはしぶしぶカップを口に運ぶ。
一口飲んだ瞬間、シグナムの眉間にしわが寄った。

「・・・苦い」

自慢のコーヒーだったのだがシグナムの口には合わなかったようで、
少し口をつけただけでカップを置いてしまった。

「そうか・・・。それは残念」

俺はそう言って自分のカップを手に取ると先ずその芳醇な香りを味わう。
そして口に流し込んで少し渋みの強い味を楽しんでから飲み込んだ。

「こんなにうまいんだけどなぁ・・・」

俺はそう言ってカップを置くと気分を入れ替えてシグナムの目を見る。

「で、本題なんだが」

俺の言葉でシグナムの顔は真剣な表情に変わる。

「来月の補給要求についてなんだけどな・・・。なんで平時半年分もの
 カートリッジの補給が必要なのか説明してくれないか?」

俺がそう言うとシグナムの表情が険しさを増す。

「どういう意味だ?」

「多すぎる。一度に2000発はさすがに無理があるだろ」

とげのある口調で言うシグナムに向かって俺は淡々と自分の見解を告げた。

「それはゲオルグも判っているはずだろう。あの戦いを経たことで
 6課の、特に実戦部隊の戦略物資はほとんど底を突いている。
 有事への対応を考えれば在庫量の回復は必要だと思うが」

「それは理解できる。でも、それは他の部隊だって同じだ。
 カートリッジの生産量にだって限りがある以上、
 要求量を100%満たすのは無理だ。
 他の部隊への補給を止めてでも6課にカートリッジを回さなければならない
 理由があれば別だけどな」

俺がそう言うと、シグナムは少し考え込むように目を伏せる。
その間に俺はシグナムに向かってたたみかけた。

「それに、シグナムも知ってると思うが来年3月で6課が解散することが
 正式に決定した。そんな部隊に優先的に物資を回す理由はないだろ」

「だからと言って有事への備えを怠るわけにはいかん」

再び目を開いたシグナムは断固とした口調で自分の主張を繰り返す。
この愚直さは俺も嫌いじゃないが、今に限って言えば少し苛立ちを覚える。

「なにも補給をゼロにしろとか平時の平均並みにしろって言ってるんじゃない。
 多少減らせないかと言ってるんだ」

「具体的には?」

「750だ」

実際、俺の本音としては訓練の継続に最低限の必要量。
つまり、平時の平均消費量に多少色をつけた程度に抑えたいところだが、
さすがにそれでは俺自身も不安なので通常の2カ月分強の補給量というのが
俺自身がはじき出した数字だった。

「馬鹿な!それでは要求量の半分以下ではないか」

ピンク色の眉毛を吊り上げて、どこが多少かと言わんばかりに
シグナムは声を荒げる。

「でも通常量の2倍以上だぞ。これでもギリギリの線だ。
 だいたい、あの戦いの直前にあった2100発以上の在庫だって
 半年かけてやりくりしながら確保したんだぞ。
 それを一気に回復させろなんて無茶にも程があるとは思わないか?」

俺がそう言うと、シグナムは気圧されたように弱気な表情になる。

「それは、そうだが・・・」

それでも簡単には折れないあたりはさすがはシグナムだ。
俺はあまり使いたくなかった伝家の宝刀を抜くことにした。

「それに、はやてだって俺の出した数字が妥当だと認めてる」

「な・・・」

俺の言葉にシグナムは一気に顔色をなくす。
シグナムははやてへの忠誠心が4人の中でも特に強い。
それはヴォルケンリッタ―の長としての責任感の表れなのだろうが、
この際は利用させてもらうことにする。

「いいな、シグナム」

俺が念を押すようにそう言うと、しばらくあってシグナムは小さく頷いた。
罪悪感を覚える光景ではあるが、やむを得ないと俺は自分を納得させる。
そのとき、俺の時計が小さな電子音を立てた。
時刻を見ると会議の始まる5分前だった。

「おっ、時間だな。行くか」

「・・・ああ」

シグナムらしからぬ弱々しい声で帰ってきた返事を聞いて、
俺は自分のカップに残ったコーヒーを一気にあおると、
デスクに戻って端末を小脇に抱える。
少しうなだれたシグナムを伴って通路に出ると、会議室へと向かう。
ちらりと後ろを振り返ると、少し肩を落としたシグナムが
視線を下に落として歩いているのが目に入る。
あまり見たことのないシグナムの様子に俺は思わず声をかけた。

「なあシグナム」

俺が声をかけるとシグナムはゆっくりと顔を上げた。

「何だ?」

「苦いの苦手なのか?」

何を言っているのかわからないという顔をしているシグナムに俺は話を向ける。

「コーヒー、飲めなかったろ」

俺がそう言うとシグナムはああというように少し天井を見上げると頷いた。

「そういうわけではないのだが、コーヒーを飲む機会が少なくてな。
 どうも慣れんのだ」

苦笑しながらそう言ったシグナムに、俺はシグナムが連絡役として
聖王教会との行き来を頻繁にしているのを思い出した。

「シグナムは教会に行くことが多いもんな」

「ん?それがどうした?」

俺が突然違う話題を振ったのでシグナムはワケが判らないようだった。

「いや、教会っつったらたいてい紅茶が出てくるイメージだからさ」

俺の言葉にシグナムは腕組みをして考え込むように目を閉じる。
その間も会議室に向かう歩みは止めていないのだが、
なんとも器用に他の隊員をよけて行くのを見て、いったいどうやっているのかと
不思議に思ってチラチラと見ていると、ふとシグナムの目が開かれた。

「そうだな。思えば主はやてが管理局入りする前から教会には
 頻繁に出入りしていたから、そのせいかもしれん」

そう言うとシグナムは遠い目で通路の前のほうを見た。
その表情はどこか遠いところに思いをはせているようにも見えた。

「はやてが管理局に入る前からってことは・・・相当前だよな」

俺がそう尋ねるとシグナムは小さくうなずいて俺のほうを見る。

「それで教会との連絡役はシグナムがやってたのか・・・。
 しかし、そんなに教会とのつながりが強いってことは、
 いずれはシグナムも聖王教会に入るのか?」

そう尋ねるとシグナムは少し考えてから首を横に振る。

「さあな。先のことは判らん」

「でも、半年もしないうちに6課は無くなるぞ。
 そのあとはどうするつもりだ?」
 
「とりあえずは元の部隊に戻る。その先は考えたこともないな」

「そっか・・・」

俺はシグナムの返答に一言だけ返すと、会議室につながるドアに手をかけた。

「さてと、それじゃあ会議だな」

「ああ」

そう言って小さくうなずくシグナムを先に通すと、
俺は皆が待つ会議室へと足を踏み入れた。



「さて諸君、我々機動6課は今危機に瀕している」

俺は席を立つとそう言って会議室の中にいる面々の顔を眺めた。
会議室にはフォワード隊と交替部隊の代表として出席しているシグナムのほかに
各部門の運営を担っている代表者が顔を並べていたが、
どの顔も俺の言葉に対して不思議そうな表情を浮かべていた。
俺は正面を向いて再び口を開く。

「確かにスカリエッティの攻勢を鎮圧し物理的な危機からは解放された。
 だが、今我々を襲っている危機はある意味でそれ以上に深刻なものだ」

真顔で俺がそう言うと、会議室の中にいる全員の顔が少し引き締まる。
心配そうに近くの者と小声で会話を交わすものもいる。

「今われわれを襲っている危機。それは・・・」

俺はそこでいったん言葉を切って会議室の中をもう一度見まわした。
室内にいる全員が息をのんで俺の顔を見つめていた。

「予算不足だ」

俺が鷹揚にそう言うとそれまで張りつめていた室内の空気が一気に弛緩した。
あるものは呆れたような目を俺に向け、またあるものは力が抜けたように
会議机に突っ伏していた。

「脅かさないでくださいよ、副部隊長。何事かと思ったじゃありませんか」

1人がほっとしたような笑顔で俺に声をかける。

「脅かしでもなんでもない。我々は予算不足による危機に瀕している」

俺はそう言って部隊の物資在庫を表す表をスクリーンに映しだした。

「JS事件、とくにゆりかごをめぐる戦いにおいて6課は予備分も含めて
 ほぼすべての物資を使い果たした。
 今はわずかに残った物資でなんとか部隊を維持できているが、
 それもあと1カ月ほどが限界だ。
 まあ、それは諸君が一番良く分かっていることだろうが」
 
俺がスクリーンを指し示しながらそう言うと、会議室に居並ぶ顔が縦に揺れる。

「特に実戦部隊であるフォワード部隊と交替部隊の物資は
 ほぼ底を尽きかけている。そうだな?」

シグナムに向かってそう問いかけるとシグナムは黙ってうなずいた。
そのとき、一人が手を挙げて立ち上がる。

「では、本局に予算の増額を要求すればよろしいのでは?」

俺はその発言をした3尉の方に目を向ける。

「確かに。だが我々が予算不足に陥っている理由はそれだけではない」

そう言葉を返すと俺は新たなグラフをスクリーンに映し出した。
それは先月の6課の支出構成を示すグラフだ。

「見ての通り、6課の通常予算のおよそ50%がアースラの維持費に流れている。
 これは金額にして普通の隊舎維持費の10倍以上だ。
 さらに、通常予算の増額を申請しようにも、
 すでに隊舎再建の工事を申請してしまったからな。
 工事費用は本局持ちとはいえ結局のところ大本の財布が一つである以上、
 6課の通常予算増額に応じてもらえる見込みは極めて薄い。
 すなわち、我々は現状の予算規模でなんとか部隊を
 維持していかなくてはならない」

俺がそう言うと会議室の中はしんと静まり返った。
何人かは小さなうめき声をあげながら頭を抱えている。

「つまりこのまま何の対策を打たないままでは、
 通常の半分程度の予算で部隊を運営しなければならないうえ
 物資の補充も進めなくてはならないというわけですか・・・」
 
整備部隊の曹長が言ったその言葉に俺はうなずきを返すと、
ふたたび会議室の中を見回した。

「当然そんなのは不可能だからな。我々としては何か対策を立てねばならない。
 そこで俺の案を示そうと思う」

俺はそう言うとスクリーンにここ数日かけて練った費用削減案を映し出す。

「まずは、代用隊舎であるアースラの維持費用だな。隊舎としての
 機能を維持するのに必要な最低限の機能は残さねばならないが、
 次元航行艦としての機能をそのまま維持する必要はない。
 そこで、補助動力装置と索敵装置以外の戦闘機能の維持をやめようと思う。
 これによってアースラの維持費用は現状の50%程度まで圧縮できる」

部屋の中を見渡すとほぼ全員が納得したようにうなずいていた。
そんな中で一人の手が挙がる。

「ですが、航行機能が喪失してしまってはいざ解体するときに
 困るのではないですか?
 解体は本局の次元航行艦ドックでないとできませんよね?」

「アースラの解体は今の場所で行う。これについては運用部とも
 交渉して決定済みだ」

手を挙げたメカニックの一人は感嘆したように俺のほうを見る。

「よく運用部が納得しましたね」

「そこはそれ。人徳ってやつだよ、部隊長のな」

俺が茶化してそう言うと会議室の中は一瞬笑いに包まれる。
が、シグナムを見るとどこか遠い目をして考え事をしているようだった。

(さっきのが後を引いてんのか?)

俺はシグナムの様子を気にしながらも話を前に進める。

「次に補給物資の調達だ。これは単価が決まっているから量を減らすしかない。
 そこで各自にあげてもらった補給物資の要求だが俺のほうで勝手に
 数字をいじらせてもらった。それがこれだ」

俺はそう言って補給物資の調達量を示した表をスクリーンに映し出した。
刹那、先ほどまで笑い声をあげていた面々の表情が固まる。

「最優先すべきは部隊員の生命と健康の維持。このために必要な
 食料品類についてはほぼ予定通りの数量を調達する。
 が、それ以外、具体的にはカートリッジや携帯糧食などの戦闘部隊の装備、
 あとはヘリの燃料なんかについては大幅に削減させてもらう」

俺が話を終えて席に着くと、とたんに不満が噴出した。
議論が白熱していくなか、普段であれば積極的に発言をするシグナムが
相変わらず黙りこんで虚空を見つめているのを見つけた。
今日の議題に関しては事前に調整していたから積極的に
議論に参加する必要もないだろう。
だが、普段ならこのように収拾がつかなくなりそうなときには、
その場を収めるべく口を出すはずなのに今日に限っては心ここにあらず
といった体でただ黙って座っている。
俺は議論に参加しながらも、そんなシグナムが気にかかって仕方がなかった。



会議が終わって出席者が会議室を出て行っても、シグナムは自分の席に
座りこんだままだった。
俺は端末をパタンと閉じて小脇に抱え込むとシグナムの席に歩み寄った。

「おい。もう終わったぞ」

そう声をかけるとシグナムはハッとしたように俺の顔を見上げた。

「あ・・・ああ。すまん」

シグナムはそう言ってのそのそと立ち上がる。

(らしくねえな・・・)

とぼとぼと会議室を出ようとするシグナムの背中に向かって俺は声をかけた。

「なあ、シグナム」

「・・・なんだ?」

ゆっくりと振り返ったシグナムに向かって俺は拳を突き出した。

「時間があるならちょっと模擬戦やらないか?」

俺の言葉にシグナムは目を丸くしながら小さくうなずいた。

「いいだろう」



なのはに訓練スペースの使用許可を取ってから俺とシグナムは
訓練スペースに向かった。
日も傾いた時間、少しオレンジがかった空の下で俺たち2人は
それぞれの騎士甲冑を身にまとい、
訓練スペースの真ん中で向かい合っていた。
俺はレーベンを構えるとシグナムの方に目を向ける。
シグナムもレヴァンテインを構えて俺に目を向けていた。

「はじめるか」

「ああ・・・」

俺が声をかけるとシグナムは小さく頷きながら短く答える。
直後、俺はシグナムに向かって地面を蹴った。
上段から振りおろしたレーベンをシグナムはレヴァンテインで受け止める。
そのまま俺をはじき返すと、上半身をねじるようにして
横殴りにレヴァンテインを振ってくる。
俺はレーベンを立ててシグナムの斬撃を受け止める。
甲高い金属音とともにレヴァンテインとレーベンがぶつかり合い、
俺の足が地面の上を滑る音が小さく聞こえた。

(ちっ・・・)

俺は心の中で舌打ちすると、後ろに飛んでシグナムとの距離をあける。
そしてモードリリースするとシグナムの方を睨みつけた。
俺の行動に面食らったのかシグナムは目を丸くして俺を見つめていた。
そんなシグナムに向かって俺は声をかける。

「なんだよ、その腑抜けた攻撃は。真面目にやれ!」

「・・・私は真面目にやっている」

無表情にそう言ったシグナムに向かって俺は強い目線を向け続ける。

「は!?んなわけないだろ。お前が本気なら俺が正面からお前の
 攻撃を受け止めきれるわけねえよ。
 お前は俺の事なめてんのか?烈火の将が聞いてあきれるぜ。
 こんなのやってられるかよ。やめだ!やめやめ!!」

俺はことさら強い口調でそう言うと肩をすくめ首を振りながら
シグナムに背を向けた。
次の瞬間、背後からザッという地面を蹴る音が聞こえ、
俺はレーベンを緊急起動して振りかえり、
襲いかかってくるであろう斬撃に備えた。

「・・・撤回しろ」

俺の目の前には鬼の形相で俺に切りかかろうとするシグナムの顔があった。

「何をだ?」

そう尋ねる間にもシグナムはレヴァンテインに込める力を強めてくる。
俺はじりじりと後ろに押し下げられていく。

「私を侮辱したことをだ」

シグナムは俺を押しつぶさんばかりにレヴァンテインを
俺に向かって押しつけてくる。
受け止めたレーベンに込める力を少しでも緩めようものなら
そのままレヴァンテインに切り捨てられそうな危うい
力のバランスを保ちながら、俺はシグナムを睨みつける。

「なら力づくでやれや」

俺がそう言うと、シグナムは少しの間目を閉じてから、キッと目を見開いた。

「・・・よかろう。後悔させてやる」



・・・30分後。
俺は力を使い果たして訓練スペースの地面に横たわっていた。
空を見ると、もう日は沈んでちらほらと星が見え始めていた。
カツカツという足音が近づいてくるのに気が付き、そちらを見るとシグナムが
ゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「・・・まいった。やっぱりシグナムには勝てないな」

俺がそう言うとシグナムは俺を見下ろす位置に立った。

「お前に負けてなどいられん。烈火の将としてはな」

そう言ってシグナムは仰向けに寝転がる俺のそばに腰を下ろした。

「ところで、なぜ急に私と模擬戦をやろうなどと言い出したのだ。
 暇でもあるまいに。
 しかも、わざとらしく私を挑発までして」

俺の隣に座ったシグナムは俺の方に目を向けながらそう問いかける。

「なんでそんなことを聞くんだ?」

「お前らしくない行動だからな」

逆に俺が問いかけると、シグナムは俺から目をそらすことなく
まっすぐに見つめてそう言った。

「挑発したのは単純にお前が本気を出してないのがムカついただけだよ。
 それよりもだ・・・」

俺はそこで一旦言葉を切るとシグナムの方に顔を向ける。

「今日はいったいどうしたんだよ。会議中も黙りこんでさ。
 シグナムのほうがよっぽどらしくなかったぞ」

そう尋ねるとシグナムは夜空を見上げて小さく息を吐く。

「私は主はやてと常に共にあろうと努めてきた。たとえ物理的な距離は離れても
 心だけはな。
 だが、今日お前と話した時に私の考えと主はやての意見が
 食い違っていることが判った。
 それが私にはつらくてな・・・」
 
「それであんなにしおらしい態度だったってのか」

俺は身を起こすとシグナムの隣に腰をおろし、小さく首を振った。

「別にあの程度の意見の食い違いはあって当然だと思うけどな」

「お前にとってはそうかもしれんが、私にとってはそうではないのだ」

シグナムはそう言って訓練スペースの先に広がる漆黒の海に目を向ける。
その表情は真剣そのもので、シグナムがはやてとの意見の食い違いを
いかに深刻な問題として考えているかを表しているようだった。

「少し前にはやてと話したんだけどな、はやてはお前やヴィータたちを
 自分が縛り付けてるんじゃないかって結構本気で悩んでたんだよ」

「だが、私たちは夜天の書の一部でその主は主はやてなのだ。
 縛られるのは当然だ」

「でも、少なくともはやてはそれを望んでない。お前たちには
 自分や夜天の書に縛られることなく自分の思うように
 生きてほしいとはやては思ってると思うぞ」

俺がそう言うとシグナムは小さく首を振る。

「それは・・・私も理解している。だが、私たちが夜天の書の
 防衛プログラムであることは変えようのない事実だ」

「確かにな。でも、それがお前の生き方を縛る理由になるのか?」

俺の言葉にシグナムは呆れたと言わんばかりに肩をすくめて首を振る。

「あたりまえだ。夜天の書の主を守るようにプログラムされているのだから」

「なら、さっき俺を殺さんばかりの勢いで俺に向かってきたお前はなんだ?
 俺は別にはやてを害そうとしたつもりはないぞ」

「それは・・・お前が私を侮辱する言葉を吐くからだ」

「だろ。それはほかの何にも縛られることのないお前自身の感情じゃないか」

俺がそう言うとシグナムは目を丸くして俺を見つめていた。

「それは・・・」

「俺はお前の友人としてそういう感情を大事にしてほしいと思う」

「だが・・・」

「あと、はやての友人として言わせてもらえば、はやての言葉に
 従うだけじゃなくて厳しい助言もしてやってほしい。
 たとえあいつの考えとは対立してても
 それが道理にかなってるならな」

俺はそう言うと立ちあがって傍らに座りこむシグナムを見下ろす。

「ま、お前にはお前の未来があっていいだろ。それが常にはやての
 進む道と重なってなきゃいけない理由はないさ」

シグナムは俺の言ったことをかみしめるように少しうつむくと、
急に立ちあがって俺の方を見た。

「お前の考えは判った。主はやての思いもな。私も考えてみることにしよう」

そう言ってシグナムはわずかに口の端を持ち上げて微笑んだ。

 

 

第98話:お引っ越し


秋も徐々に深くなり、めっきり涼しくなってきたこの日、
俺となのはは引っ越しのために2人そろって休暇を取得した。
前もって3人で暮らしていくために必要な最低限の家具などは購入して、
今日俺のマンションに届くように手配してある。

俺は朝起きるとまずはなのはを伴ってクラナガン市内にあるアイナさんの
自宅に向かうべく車を走らせる。

「ねえゲオルグくん。家具とかは大丈夫だよね?」

助手席に座るなのはが心配そうな表情で俺のほうを見る。

「大丈夫だよ。なのはも確認したろ?」

前方から目をはずさずにそういったが、なのははなおも心配そうな
表情をしている。

「うん・・・。でも、もしなんかの手違いがあったら、今夜寝るベッドも
 ないんだよ?」

「そりゃそうだけど、いまさら心配してもしょうがないだろ。
 最悪、なんかあったらアイナさんにもう1日だけヴィヴィオを
 預かってもらって、俺たちは俺のベッドで寝られるって」

俺が心配症ななのはの言葉に内心でため息をつきながらそう言うと、
なのはは顔を真っ赤にする。

「ゲオルグくんと一緒のベッド・・・」

「なのは?」

俺が声をかけると、真っ赤な顔で俺を睨みつけてきた。

「・・・ゲオルグくんのえっち」

「は!? 何言ってんだ?」

「だって・・・同じベッドで寝るって・・・」

「はぁ? 別に初めてでもないだろ。何を今さら・・・」

「もうっ!ゲオルグくんのばか!」

その後は特に会話もなくアイナさんのマンションの前に到着した。
俺となのはは車から降りると、マンションの中へと入っていく。
どうもなのはは怒っているのか、肩を怒らせてすたすたと先を行く。
俺はなのはに追いつくと、その肩をつかんだ。

振りむいたなのはは不機嫌そうな表情で俺を見る。

「何?」

「悪かったよ」

「何が?」

「車の中までの話。デリカシーがなかったよな。悪い」

俺がそう言