始まりはこの日から……


 

トラブルメーカーメーカー

 
前書き
リュカがリュカになるまでのお話です。
時は現代で、場所は日本。
都内では無いけれど都会ではあります。 

 
「おい、起きろ!…いい加減に目を覚ませ、もう昼だぞ!!」
俺は乱暴に身体を揺すられ目を覚ます…
まだハッキリしない意識の中で、懸命に目を開けようとする。

「仕事が休みだからってだらけすぎだぞ……昼食くらいは一緒に食べようと、父さんと母さんが待ってるんだぞ!」
「あぁもう…うるせーなぁ…今起きるって…」
俺の名前は『蔵原(くらはら)竜太(りゅうた)』…
そして俺を揺すり起こしたのは兄貴の『蔵原(くらはら)龍太(りょうた)

「お前…彼女に振られたてで落ち込んでるからって、不貞寝にも程があるぞ…」
「余計なお世話だ!別に不貞寝じゃねーよ…寝るのが遅かったから…」
俺は昨晩、4ヶ月付き合った彼女に振られた。
んで、ガッツリと落ち込んだのだ。

「おいおい…今までに何度も振られ続けてきたじゃねーか。何で今更そんなに落ち込んでんだよ!?」
ムカツク兄貴だ…痛い所を突いてくる。

そう…俺の失恋記録は膨大だ。
告白(こく)って玉砕もあれば、付き合って捨てられる事も多い。
今までに一番辛かった振られ方は、付き合って2ヶ月目にして初めてホテルへ入ろうとした瞬間、彼女の元彼が現れて『やっぱり俺、お前の事が忘れられない!』つって、俺の代わりにホテルへ入っていった時だ。

そりゃねーだろって感じだよ…
1発くらいヤらせてくれても良くね?
その元彼が筋肉ムキムキじゃなかったら、ぜってー譲らないのに…

俺は頭を振り嫌な記憶を吹き飛ばすと、『何時までもグータラするな!』と説教を飛ばす兄貴を見上げる。
「分かったから…起きるから黙れよ!うるせーんだよギャーギャー…」
昨晩から続く不機嫌な出来事の八つ当たり的に、兄貴へ罵声を浴びせ身体を起こし、ベッドへ腰掛ける。

まだハッキリしない頭で、俺の殺風景な部屋を見渡す…
根本的に物欲が少ないので、俺の部屋には物が少ない。
何か物を買う為に金を使うより、女とエッチする為に使った方が俺好みなのだ!
兄貴とは真逆だ!

兄貴は所謂オタクだ。
壁を一枚越えた隣が兄貴の部屋だが、物が多すぎて同じ六畳の部屋とは思えない程狭い。
別に散らかってるわけではない。
整然と片づいてるのだが、それでも狭い。

俺と兄貴は本当に正反対だ。
俺は社交的で、仕事も営業をしている…所謂サラリーマンだ。
兄貴は人と会話するのが苦手…というか嫌いで、仕事も在宅プログラマーだ。

年に1.2度程会社に顔を出す程度で、あとは全く人とは会おうとしない。
相当仲良くならないと会話も碌に出来ない程人見知りが激しいのが、俺の兄貴の特徴だ。
断っておくが、俺はこんな兄貴を嫌いではない。
つーか、俺は家族が大好きだ!

(ポカッ!)
「何時までもボーっとしてるな。早く着替えて昼飯を食うぞ!」
どうやら相当ボケッとしていたらしい…俺の頭を軽く殴り、着替える様言いつける。
「分かったって…兄貴が見詰め続けるから、恥ずかしくて着替えられなかったんだよ!…それとも兄貴はソッチの趣味があったのか?何時までも童貞で居るのは、それが原因か!?」

「何だ…やっと俺の気持ちに気付いてくれたのか。振られて丁度良い機会だし、手近な俺に乗り換えろよ(笑)」
「ふざけんなバカ!あっちいけ!」
俺は枕を投げ付け兄貴を追い出す。

兄貴の女の趣味は知っている。
タイプの女性が二次元の世界にしか居ないという事を…
男の俺が認めるくらいイケメンなのに勿体ない事だ。

俺はノソノソと着替えながら、学生時代を思い出す。
兄貴とは1学年しか違わなかった俺達は、小・中・高・大学と同じ学校に通ったのだが、事ある毎に比較された。

いや、別に嫌では無かった。
兄貴は本当に優秀な人物だったし、俺と違い品行方正で大人しい性格だったから、周囲の評判も凄く良かった。

だが何が嫌かって言えば、『あの…竜太君。龍太君にコレ(ラブレターorバレンタインチョコ)を渡して♥』って頼まれる事だ!(血涙)
狙ってた演劇部の先輩から、バレンタインチョコを兄貴に渡してって言われた時は、本気で兄貴を殺してやろうかと思った程だ。

しかも腹立つ事に、あのバカ彼女からの告白を断りやがった!
チョコを渡して事情を伝えたら、スゲー嫌そうな顔で『えぇ…興味無いし…』って言いやがったんだよ!

だから俺はその日の内に、チョコを先輩に返しに行ったんだ。
そして『ごめんなさい先輩…兄貴には受け取れないって言われた…だから捨てる訳にもいかないし………返します!!』って泣き崩れる先輩に返したのさ!
そこからが俺の時間だった。

泣き崩れる先輩を励ますフリをして口説いたね!
チョコには“龍太君♡”って書かれてたけど、俺がその日に食べたもん。
しかも先輩も喰べたもん!!

いや~…
お兄ちゃん様々ですな!
…あれ?
俺やっぱり兄貴大好きだわ!



軽く着替えを終え自室を出ると、1階のリビングの方から楽しげな笑い声が聞こえてくる。
きっと兄貴のヤツが俺の振られネタを両親に暴露して笑ってるんだろう…
ムカツク…

昨晩、ガッツリ落ち込んで帰ってきた俺の愚痴を聞いてくれたのは兄貴だった。
基本、昼夜の感覚がおかしい引き籠もり野郎には、深夜帯とか関係ない。
夜中の2時に帰宅しようが、ヤツは起きている事がある。

多分、表情からして落ち込んでいたのだろう。
廊下で会うなり『どうした、竜太?悩み事なら聞くぞ!』と優しく声をかけてくれた…
少しでも楽になりたかった俺は、縋る様な気持ちで兄貴に状況(こと)を打ち明ける。

その結果がリビングから聞こえてくる父さんと母さんの笑い声だろう。
言うんじゃ無かった…
でも笑いすぎだと思うなぁ………

父の名前は『蔵原 幸太(こうた)』普通のサラリーマン(課長)だ。
若い頃は浮き名を流したと聞くが、今では母さん一筋のナイスミドル。
女の口説き方は父さんに教わったんだゼ!
俺も息子が生まれたら一緒にナンパに出かけようと思う。

母の名は『蔵原 梨花(りか)』父さんと同じ職場で働く営業主任。
地位は辛うじて父さんが上だが、家では逆転する…と言っても、どちらもラブラブで苛ついて来るけどね。
母さんはマジで美人だ!

両親に面と向かって言った事がある…
『俺…血の繋がりがなかったら、絶対に母さんの事押し倒してるよ。だから頼むよ…俺の前で、下着姿で彷徨かないでくれよ!』と………

今でもそうだが、胸が大きく垂れてない。
笑顔も可愛いし、声もそそるんだよ…
何で母親なんだよ!?


そんな、そそる笑い声の響くリビングへ入ると、8つの瞳が一斉に此方へ集まった。
長方形のテーブルには既に昼食のカレー(多分昨晩の残り物)が5つ並んでいる。
入口から向かって奥側の左に母さん…その右に父さん…手前左に兄貴が母さんと向かい合う様に座り、その右の父さんの前が俺の席だ。

我が家は4人家族なのだが、俺の右前にもう1人ゲストが居る。
「………何でユキが居るんだよ!?」
「え~…だって~…リュー君、振られたんでしょ?私のチャンスじゃ~ん!」
ユキはテヘペロな表情で俺を見詰め、可愛らしく投げキッスをしてくる。

「良かったわねリュウ…早速可愛い恋人が見つかって(笑)」
「ははは、母さんの言う通りだ。幼稚園の頃から思われ続けてるのだから、そろそろその思いに応えてやれよ!(笑)」
母さんと兄貴が笑いながら勝手な事を言いまくる。

俺は辟易としながら席に着くと、2人を軽く睨んでカレーを食す。
この2人は何時もこうなのだ。
冗談で俺とユキを付き合わせようと試みる。

だが、こう言う冗談が通じない父さんは、真面目な顔で叱り出す。
「馬鹿な事を言うんじゃない!…どんな馬鹿女に惚れても構わないが、この子と付き合うなど絶対認めん!」

黒髪をポニーテールにし、胸の谷間を目立たせた服を着、赤いミニスカートからはみ出る白いフトモモ…それとコントラストな黒いニーソックスを穿いたユキと、俺を交互に見ながら父さんは腹を立てる。

「ちょっと…ユキちゃんが可哀想でしょ…馬鹿女以下なんて言っちゃ!」
幼い頃からユキの事が大好きな母さんが、頬を膨らませて父さんを叱咤する。
「いや、違う…馬鹿女以下と言ったのではない!この子は…」

遅くなったが紹介しよう。
俺の隣でカレーを食いながら、俺の両親の夫婦喧嘩を眺めているコイツは『ユキ』…
本名を『真田(さなだ)幸彦(ゆきひこ)』と言い、親が“戦国武将『真田幸村』のファン”だから娘に『幸彦』と名付けた訳ではない。
“戦国武将『真田幸村』のファン”だから息子に『幸彦』と名付けたのだ。

そう…ユキは歴とした男だ!
昔はバッチリ付いていた。
立派なヤリが股間に付いていた…

今はもう無い。
他人の立派なヤリを納める鞘があるだけ…
お恥ずかしい話、俺のヤリを納めた事もあります…
どっかの馬鹿女より遥に…ゲフンゲフン………

え~と…つまりアレだ。
父さんが言いたいのは“どんな馬鹿な女でもいいから、付き合うのなら女である事を優先しろ”と言いたいのだ。
最近、よく言ってるもん…『早く孫の顔を見たい!』って………

ユキとじゃ、どんなに頑張っても孫の顔を見せられそうに無いからね。
俺も子供好きだけど、どうせなら自分の遺伝子が入った子供が欲しいからね!
自家発電をするよりはって、時以外は…


“可愛いユキちゃん♥”と“男と付き合うのは許さん!”と言う永遠に交わらない口論を眺めながら、俺は二日目カレーを黙々食べる。
時折ユキが『あ~ん♥』と言って食べさせてくるので、断ることなく『あ~ん♥』する。

それを見て父さんが怒り出す。
そして母さんが『ユキちゃんは可愛いから良いの!』と言う。
因みに以前も同じ内容で口論をした事がある夫婦…

その時は俺が『母さんの方が可愛いよ』と言って、この場を納めようと試みたのだが、父さんに『馬鹿者!他の女の前で自分の母親を褒めるんじゃない!』と叱られた事がある。
時折レクチャーしてくれる、父さん流口説き術なのだが、甚だ不本意だった。

今回は別角度から責めようと思う。
それは…
「つーか何でユキが知ってるんだよ!?俺が振られたって…」

「あら知らないの?龍太君ツイッターで呟いたのよ。私はそれを見て、リュー君に会いに来たの♥」
こ、この馬鹿兄貴…
道理で何時も振られるとタイミング良くユキが現れたワケだ。

「お前…ツイッターで弟が失恋した事を呟くなよな!自分の事を書け馬鹿!」
「しょうがないだろ…俺と違ってお前は面白い事が多いんだから…」
「そうよリュー君…それに竜太君って名前で呟いてんのよ!初めはリュー君が呟いてるんだと思ったんだもん」
俺は呆れて何も言えなくなる…

ただ黙々とカレーを食べる。
そして時々『あ~ん♥』する…
そうすると両親が喧嘩をする。


「ねぇリュー君…この後の予定って決まってるの?」
俺が最後の一口のカレーを食べ終わると、見計らった様にユキが今日の予定を尋ねてきた。
間違いなく今夜俺とヤル気でいる…

今までもそうだった…
振られた翌日の9割はユキとシた。
心が弱り引き籠もる穴を求めてるのだろう…

「気分を変える為にカラオケに行こうよ!…私、リュー君の上手な歌を聴きたいの♡」
そう言うと食事の終わった俺を外へと連れ出そうとするユキ。
家族も流石に男に手を出さないと思い、“行ってこい”的な目で見送る…

うん、ごめんね。もう手遅れなんだ…
俺の初めての相手はユキなんだよ…
中学に入る前に、ヤリを鞘に変える手術を受けており、思春期真っ直中に見た目美少女に迫られた俺は、テクニックの殆どをユキで実戦し身に着けたんだよ。


軽く身形を整え家の外へ出ると、そこには新型のレクサスが停まっていた。
「ユキ…お前、また車を替えたのか?…1年前にアウディの新車を買ったばかりだろう?」
颯爽と青のレクサス“ISコンバーチブル”に乗り込むユキを見ながら呟いた。

「え~…だってぇ…アウディのR8スパイダーに飽きちゃったんだもん!それに左ハンドルって運転しにくいし…」
このブルジョアが!
ユキの実家はこの近辺でも有名な名家だ。

その上、ユキ自身が経営しているゲイバーが大人気で、俺とは比べ物にならない程稼いでいる。
そんな金持ちに思いを寄せられてるのも、幼少期に端を発するのだろう…


家も近く、幼稚園から一緒の俺とユキだが、流石にそんな頃から将来はヤリを取っちゃうとは思ってもいなかった。
ただユキ自身は、ずっと性同一性障害に悩んでいたらしい。
そんな言葉すら知らない俺は、気にすることなく同姓の友達として接してきた。

しかし小学校に進み、完全に己の肉体的性別と一致していない事に気付いたユキは、悩みつつも接し方の変わらない俺に恋心を募らせて行く。
父さんが母さんで実戦する、口説きテクニックを見習っている俺は、学校で女子生徒の些細な変化に気付き、褒めてポイントを稼いでいるのだが、それにジェラシーを感じたユキは、事もあろうか女装して登校してきたのだ!

俺も流石に驚いたのだが、男の姿をしているよりよっぽど可愛かったので、素直な気持ちで『可愛いね…ユキに似合ってるよ』って言いました。
あの時のユキの嬉しそうな顔を今でも覚えている…

しかし問題なのは周囲だった…
子供とは残酷な物で、その日からユキに対するイジメが横行する。
クラスのガキ大将的な馬鹿(俺は喧嘩とか嫌いなので仲良くない)が中心となり、えぐいまでのイジメが蔓延った。

馬鹿共がヤンヤ言っているだけだと思っていた俺は、それ程深刻に事態を捉えて居らず、放課後の教室の隅で、服をボロボロにされ蹲り泣くユキを見るまでは、事の重大さに気付かなかった。

俺は頭に血が上り、直ぐさまヤツを追いかけ校門付近で捕まえると、他の生徒や教師達(校長も居た)が見てる前でヤツをぶん殴る。
生まれて初めての喧嘩だったが、不意打ちが効いたのだろう…4対1と不利だたにも関わらず全員ボコボコにして圧勝。

まだ怒りの収まらない俺は、血塗れで泣き崩れる奴等に更に殴りかかろうとした。
だが兄貴に止められ教師陣に押さえ付けられ、即刻両親を呼び出された。
親が来るまで時間()があったので、流石に落ち着き冷静になったが、全員が揃った所で事の顛末を説明している時に、いじめっ子共が全てを俺の所為にして、ユキに対して行った事を隠蔽しようとしたため、再度エキサイト!

ボロボロのユキを見せつけ(奴等の親にも) 、俺の怒りを解らせた。
しかし姑息な奴等は、『男が女の恰好をしてるのが変なんだ!』と自身を正当化。
そこで俺は『何処が変なんだ!?可愛いじゃねーか!俺の美的センスはまともだぞ!』と、脱線気味に激怒。

フェミニストな俺は、見た目可愛い女の子で親友を苛められた事と、自分の美的センスを貶された事でまたもや怒り再発です。
『イジメは良くないが、暴力に訴えるのもダメだろう!』と教師の言葉に、『イジメに気が付かず、大問題に発展させた教師が言える事か!お前等にだって罪があるんだ!慰謝料を払えボケ!』と怒りの範囲が広がった。


俺は助手席に座りつつユキの方を見ながら学生時代を思い出していた。
「なぁに、私の事を見詰めちゃって!?運転中は襲っちゃダメだぞ♥」
「命が惜しいから襲わない!ただ…」

「ただ?」
「何でお前、勝負パンツ穿いてんだよ!って思っただけ…」
極ミニスカから覗くあからさまな勝負パンツをガン見し、呆れた口調で言い放つ。
「やだ~!もーエッチねー、リュー君は!」

言っておくが俺が覗き込んだのではない。
運転席に座りペダル操作をするだけで、中が見えるスカートを穿いているユキが悪い。
男だと頭で解っていても、どう見たって可愛い女のパンチラは見てしまうに決まっている!

「うふふ…どうする?カラオケ止めて、ホテル行く?」
あぁもうムカツク!
女にそう言われたら即答でホテル行きなのに…

「俺は今、熱唱モードなんだよ!早くカラオケボックスへ行けっての!」
見えるパンツを隠すことなくケタケタ笑うユキ…
俺は軽く怒鳴りながら、視線は外すことなく行き先を指示した。



俺とユキは、よく行くカラオケボックスへ着くと、早速受付に向かう。
ユキがイチャイチャ俺の腕に抱き付いてくるので、端から見れば100%カップルだ。
店員のヤツも『このカップル、絶対中でヤるぜ!今日は監視モニターから目が離せないな!』と、此方に視線を向けずに仲間内で会話していた。

聞こえてんだバ~カ!
ヤらねーよ、こんな所じゃ!
俺は歌うのが大好きなんだ…俺達が帰る頃にはションボリさせてやる!


部屋に案内され飲み物を注文(ウーロン茶を樽で!と言ったら、愛想笑いでスルーされた)すると、早速歌う事に。
ストレスを発散させたい俺はシャウト系の歌を選曲。
Xの『紅』で皮切りだ!

その後も俺は歌いまくる!
そして2時間程経過した時に、ようやく思い出す…俺一人が歌っている事実に。
ユキは俺が歌う歌にノってくれてはいるが、まだ1曲も歌ってない。

「ユキも歌いなよ…俺ばっかりが楽しんじゃ申し訳ない…」
「そんな事無いよ。私、リュー君の歌を聴いてるだけですごく楽しいよ!」
良い子や…女じゃないのが勿体ないくらい良い子や…

「いいからユキも歌うの!俺はトイレに行ってくるから、その間に歌を決めておけよ!」
「は~い」
俺は上目遣いで返事をするユキにトキメキながら、部屋を出てトイレへと向かう。

途中、店員が隣の部屋へ飲み物を届けており、中を覗く事が出来たのだが、どうやらお隣はお一人様のご様子で、女性が一人で熱唱していた。
既に彼氏を作る事を放棄した風貌で、独身を満喫している様に見えた。
ただ…歌はそれ程上手じゃなかったね!

トイレから戻り部屋へ入ると、ユキは手鏡を使いメイクや髪型を直していた。
「おい、何を歌うのかは決めたのかよ!」
ユキの可愛らしい仕草に襲いかかりそうになるのを必死で止め、ぶっきらぼうに言い放つ。
コイツ危険なんだよ!

「うん。もう決まってたんだ。あとはスタートを押すだけ!」
そう言うとリモコンを手に取りスタートさせる。
流れてきた曲はJUDY AND MARYの『クラシック』だった。
うん。可愛い…


気が付けば延長を重ねて6時間が経過していた。
うち8割を俺が歌い続け、流石に疲労と空腹で切り上げる事に…
「…じゃぁパスタを食べようよ」
会計を済ませ車に戻ると、ユキが提案してきた。

「…つまり、あの店か…」
俺達…と言うより、俺が行くパスタの店は決まっている。
俺が女を落とす為に使う店だ。

何が好都合かって…
味は絶品、価格も手頃、雰囲気も上品かつアダルティー…
そして何より素晴らしいのが立地条件だ!

そこは交通量の多い国道から少しだけ入った場所に存在しており、駐車場が狭いのだ。
だから歩いて10分程のコインパーキングを利用するのだが、店からパーキングまでの道のりが良い!

店から歩いて直ぐに国道に出る…横断歩道は無いので、めんどいが陸橋を使うのだが、そこからパーキングまではラブホテル街が続く。
そう、パスタを食べて、彼女を喰べるのがこのコースだ!

普段であれば、女の子を『パスタの美味しい店があるから行こうよ!』と誘い、車を止める。
ラブホ群に戸惑うレディーを爽やかに『違うって、この先に本当に美味しいパスタの店があるんだよ』と説得し、お店まで導く。
良い雰囲気と美味しい料理で心を掴み、帰りがけに真剣な瞳で『ねぇ…寄っていかない?』とトドメを刺す!
9割以上の確率で成功(性行)だ!

10割ではないのは、成功寸前で元彼が現れ俺の代わりに入っていった事があるからだ。
ヤツさえ現れなければ10割だったのに!
因みに、この店を教えてくれたのがユキであり、この利用法を伝授してくれたのもユキだったりする…俺を使った実戦で…

今日もどうやら俺を落とす気の様だ。
失恋直後にコレはズルイよね。
俺が変態なんじゃないよね!?



店に入り席に通され注文をすます。
料理が来るまで間があり、ユキが振られた経緯を質問してきた。
「今回はどうして彼女さんに振られちゃったの?」
小首を傾げた姿は凄く可愛い…困ったな…

「洋子(元カノ)とは4ヶ月も続いた良い関係だったんだ…」
そう、俺にとって4ヶ月とは最長記録だ。
平均2ヶ月…最短は5時間で振られた事もある。

ホテルで1発ヤったら『アンタとはムリ!』って振られた。
14の時に学校の先輩とだけどね。
今では技も体力も格段に向上したよ。

さて、そんな最長記録の洋子とは、飛び込みの営業先で出会ったのだ。
会社の受付嬢をしている洋子に、その会社の担当者に会わせて貰える様交渉したのだが、敢えなく玉砕。
しょうがないので仕事を忘れて受付嬢を口説く事に…

その日の夕食を約束し、付き合う事へと発展する。
そして付き合って1ヶ月後にベッドイン…勿論それで振られる事もなく、良い関係が続いて行く。

しかし異変が起きたのは3ヶ月経過してからだ…
洋子が子猫を飼いだしたのだ。
それまでは週に1度…多くて2度程、彼女の部屋に行ってたのだが、子猫を境に回数が増えて行く。

週に3度は必ず行き、子猫と戯れ洋子を喰う。
平日(翌日が仕事)の時は、子猫と戯れてそのまま帰る事もチラホラ…
そして遂に昨日言われたよ…『私と猫のどっちが好きなの!?』ってね…

だってしょうがないじゃんか…動物が大好きなんだもん!
でもね、そんな事を言える訳もなく、取って付けた様に『洋子の方が好きだよ』って言ったんだけど、効果無かったね。

俺も言っててワザとらしいなと思ったし…
『もう別れましょう』って言われて追い出されました。
せめて猫と戯れたかったのになぁ…

「……じゃぁ、振られた原因って猫ちゃんなの?」
「まぁ…そうなるのかな…?それとも俺の所為なのかもしれないなぁ………」
「そうね…猫に嫉妬する程、愛されてた訳だからねぇ…」
そう言う考えもあるのか…勉強になるなぁ…


他愛ない(時折ある)会話をしつつ、運ばれてきた料理を平らげる。
デザートのケーキが運ばれると同時に、ユキは俺の隣へと席を移りもたれ掛かってくる。
「ねぇ…食欲も満たされたし、次は………」

そう言うと俺の暴れん坊将軍をズボンの上から可愛がりつつ、潤んだ瞳で見詰めてくる。
周囲の男性客(連れに女性が居る場合も含む)から羨望の眼差しで見られながら、平静を装いケーキを完食する。

食休みもそこそこで席を立ち、ユキが支払いを済ませると店の外へ…
パーキングへ向かうのだが、間違いなく寄り道をするだろう。
だって俺の暴れん坊将軍がユキの鞘に引き籠もりたがってるんだもん!

国道へ出ると渋々陸橋の階段を登る俺…
車通りが少なければ、絶対に道を横断してただろう。
それ程に俺の暴れん坊将軍が大暴れ寸前だ!

陸橋を渡りきり、階段を下りようとした時、不意に後ろから声をかけられる。
「竜太君!」
声のする方へ振り返ると、そこには昨晩別れた(振られた)洋子の姿が…

「よ、洋子…ど、どうして此処に!?」
「ゴメンね…私、竜太君に相手にされなくて寂しくなっちゃってたの。それで思わず猫にヤキモチ焼いて…本当は竜太君の事が好きなの!」
よ、良かった!俺、振られてないよ!

「あ「ちょっと引っ込んでなさいよ!アンタとは終わったのよ…アンタが自ら終わらせたの!リュー君はこれから私とホテルでエッチするんだからね!」
い、いや…出来れば本物とがいい!
でもそんな事を言ったらユキを傷つけてしまう…
恋人同士にはなれないが、ユキを傷つけるのは嫌だ!

「何言ってんのよ!アンタなんて振られた痛みを紛らわす為だけに誘われたのよ!どう見たって身体だけしか目当てにならない女じゃないの!」
いや違うぞ。身体だけが目当ての女じゃない…身体だけが目当てになる男なんだ!
でもそんな事を言ったら、俺が変態視されてしまう。

「ふざけないで!私とリュー君は子供の頃から一緒に居る仲なんだからね!」
「子供の頃から一緒なのに、恋人同士になれないなんて、やっぱり身体しか魅力が無いからでしょ!」
色々言いたい事はあるのだけれど、言ってしまうともっと厄介な事になるので、何も言えないで居たが、気付けばユキと洋子が取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

俺は慌てて2人の間に割り込み、喧嘩を止めようと努力するのだが、エキサイトした2人は力強く、逆に俺が弾き飛ばされてしまった。
しかも階段を踏み外してしまい、凄い勢いで歩道まで転げ落ちる。

強烈に後頭部をコンクリートの歩道で強打し、俺の身体は仰向けで静止した。
体中が痛いはずなのに、不思議と何処も痛くない…
俺の視界には満天の星空が広がる。

ユキと洋子が血相変えて俺に近付き叫びながら話し掛ける…
しかし、どういうワケなのか声は全く聞こえてこない。
ただ静かに視界が暗くなって行く…








気が付けば俺は、暖かく居心地の良い暗闇で眠っていた。
何故此処にいるのか…そんな事は分からないし考えるのも億劫だ。
今はだた、この居心地の良い時間を堪能したい…

そう思っていたのだが、急に誰かが俺の身体を引っ張り、この居心地の良い場所から引きずり出した。
視界に眩しい光が差し込み、俺は思わず泣き叫んだ。

「ほぎゃーほぎゃー!」
………ほぎゃー?
今の俺の声ですか?

「おぉ!コレは随分と元気な男の子だな!」
ん?誰かが俺の側で嬉しそうに話している。
声からして男だ…それにしても近いぞ!

俺は我慢して目をこじ開ける。
するとそこには髭を生やした男が…ものっそい顔を近付け微笑んでいる!
「ほぎゃー!」

ビックリして思わず叫んだのだが、またしても“ほぎゃー!”だった。
何だ?上手く喋れん!
身体も上手く動かせない…つーかどういう状態なんだ今?

何とか頑張って自分の手を見る…
いや違う…コレは絶対に俺の手じゃない!
だって小さいし…その…何というのか…赤ん坊の手だし!

今度は身体を見る…が、身体も赤ん坊だ!
俺の立派な将軍の姿は無い…
男に抱かれている俺の下半身には、新米二等兵が佇んでいた…

嘘だろオイ!
「ほぎゃーほぎゃー!」
違う!“ほぎゃー!”じゃ無い…そうじゃないんだ!

「おぅおぅ…元気に泣いて!ほらマーサ、お前の息子は元気だぞ」
男はそう言うと俺を側のベッドで横になっている女性へと近付ける。
ものっそい美人だ!

「えぇアナタ…アナタの息子は元気ですわ」
ちっ…美人だと思ったが既婚者か…じゃぁ諦めよう。
………ん?

そう言えば、この男はこの女性に『お前の息子は…』って言ったよね?
そして女性の方も男に向かって『アナタの息子は…』って返したよ!?
この2人の言っている対象物って、もしかしたら………俺?

どう見ても身体が赤ん坊で、その俺を指して息子と言い喜ぶ夫婦…
……ん?
これってば……………………………………



 
 

 
後書き
此処からリュカ伝その1へと続きます。
 

 

妥協的勇者物語

 
前書き
リュカ伝2の10年前の話です。
主人公はアノ勇者様です。 

 
(アリアハン城)

いやはや……困ったね。
どうして世の父親共は、娘が男に喰われると目くじらを立てて激怒するのだろうか?
娘の自由意思によって喰われたんだから、そこは暖かく見守る器が欲しいよね。

今現在も俺の目の前では、娘を喰われちゃった父親が血管ブチ切れそうな勢いで怒鳴っている。
俺も初めての事じゃないし、普段だったらサラッと適当な事を言って有耶無耶にしちゃうんだけど、今回は相手が悪いからなぁ……

でも仕様がないじゃん、俺モテるんだからさ。
生まれ持った美形と、培った強さの所為で、大抵の女性は流し目一つで心と股を開いてくれる。
まぁ勿論、リップサービスも忘れないけどね。

だからこそ、このアリアハンでも知れ渡った美女で或る、アメリアを娶る事が出来たんだから。
小さいながらもマイホームを持ち、愛する美しい妻との間に可愛い娘を持つ事が出来たのだ。
親父が居候してて邪魔だけどね。

「聞いておるのかオルテガ!?」
「はい、勿論聞いております陛下!!」
聞いてねぇっつの! 長ーんだよ、お前の話は……

あ~あ……やっぱ拙かったかなぁ? お姫様に手を出しちゃうのは……
でもなぁ……お姫様の方から言い寄ってきたんだしなぁ……
『オルテガ様、外の話をお聞かせ下さい♥』ってな感じで話を聞きたがるお姫様の事を、王様も微笑ましく見てたし……

今でこそ魔王バラモスの存在は知れ渡ってるけど、俺が兵士に成り立ての頃は未だ知られてなかった為、モンスターが凶暴化した事の抜本的な解決法が見いだせてなかった。
従って俺達兵士が徒党を組み、モンスター討伐に出るのが通例だった。

アリアハンは島国だから、それ程特殊なモンスターも居なかったけど、魔王バラモスの影響が出始めて、見た事のないモンスターも出現した。
名ばかりの気取った兵士共には、強くなったモンスター相手では敵わなかったので、幼き頃よりモテる為のスキルとして剣術や魔道を高めていった俺の見せ場となった。

お陰で“勇者オルテガ”と呼ばれ、狙っていた以上にモテる事になったのだが……
その結果がコレですよ。
メイドや町娘を喰うだけで止めときゃ良かったのかなぁ?

でもなぁ……密室で男女二人きり。
最初は俺の冒険譚を話してるだけでも、互いのフェロモンにムラムラしちゃうってモンじゃねぇ?
これは不可抗力だよね? 俺、悪くないよね?

そんなこと言ったら殺されるかな?
いや、現状でも死刑なのかもしれないなぁ……
まぁ俺一人だけで罪を償わされるのなら構わないけど、家族にまで及ぶのはちょっと……
親父ぐらいは道連れにしても良いけど、アメリアとアルルは守らなくては!

「さてオルテガよ……如何に責任をとるのだ?」
「はぁ?」
何だ責任って? 喰っちゃっただけじゃんか。妊娠させてねーぞ!

「『はぁ?』ではない! お前はワシの娘を傷物にしたのだぞ! その責任を如何するのか聞いて居るのだ」
傷物ってなんだよソレ!? お互いが同意の上でエロっただけだろ。
周囲を見渡すと、俺に対して良い感情を持ってない連中がニヤニヤした顔で眺めている。

何コレ? 新手の苛め?
ガキの頃から美形過ぎて、周囲の野郎共の嫉妬対象だったから、苛めなんて屁でも無いけど、連中のニヤケ面はムカつく。
後でブッ飛ばすしかないね。

「如何した……責任のとりようがないか?」
「ええまぁ……なんせ私はしがない兵士ですから」
解ってんだろお前も。俺に大した事は出来ないって!

「ではワシから提案がある」
「はぁ……提案ですか……」
何か周囲のニヤケが酷くなっていく。

「オルテガよ……ワシの娘と結婚せい!」
「はぁぁぁぁ!? な、何を仰ってるのですか陛下は!? わ、私には妻と娘が居ります……それなのに姫様と結婚せよとは……意味が解りません!?」

「意味が解らん訳ないだろう。平民の女とは別れ、王家に入れと言って居る……簡単な事であろう?」
「か、簡単ではございません! 私も平民です……王家に入るなんて」
ふざけんな馬鹿。権威になんて興味ないわボケ!

「確かに貴様は平民だが、“勇者”として名を轟かせて居る。多少の反対意見など物の数ではあるまい」
反対意見が如何とかじゃねーんだよ……アメリアを愛してるんだよ。
あぁ……如何すっかな……いっそ“殺してくれ”と言った方が早いかな?

「陛下、オルテガ殿の言い分も尤もですぞ。下賤なる平民と姫様を結婚させるなんて……」
助け船を出したのはニヤついてる取り巻き連中の一人……アルトラム子爵だ。
大した実力も無いのに、縁故だけで近衛騎士になった男。

「ほぅ……では如何するのだ? ワシの娘を傷物にした罪は償わなくても良いと?」
「いいえ、勿論違います。ただ私の提案では、罪を償わせると言うよりも、それを上回る功績を挙げて補償とするのです」
何を言ってるんだ、このアホは?

「ワシの娘を傷物にした事と同等の功績とは?」
“オルテガの娘を犯させる”と言ったら、アイツ殺す!
アルルは未だ5歳……来月6歳になる子供だ。自分の意思で男を決めたのなら、俺としては見守るだけだが、力尽くは許さん!

「勇者オルテガ殿にしか為し得ない功績……即ち“魔王バラモス討伐”です!」
ど、何処に居るのかすら判ってない魔王を倒せと言うのか!?
これだからアホの考える事は……

「なるほど……確かに良い案じゃ」
本当に良いと思ってるのかよ……思ってるとしたら、このジジイも馬鹿だな。
まぁそれで許されるのなら俺は構わない。家族(親父は除く)の安全も得られそうだし。

「陛下……私はそれで構いません。魔王バラモスは(いず)れ討伐せねばならないと考えておりましたし……」
うん。ウソじゃないよ。
現状何処に居るのか判らなかったから、俺からは何ら行動に出れなかっただけで、可愛い娘の将来を考え平和な世界にしないとって思ってたからね。

「そうか、流石は勇者オルテガよ!」
あれ? 王様(ジジイ)が満面の笑みになったぞ?
大切な娘の処女と魔王討伐が等価なのか?

はっ! コイツ等最初からコレを狙ってやがったな!
ニヤケ連中と連合して、俺を危険な任務に就かせる事が目的だったな!
くっそぅ……まんまと罠に嵌まったって訳か、俺は。

「へ、陛下……」
「何かなオルテガよ?」
討伐に旅立つのは良い……だが言っておかねばならないことがある。

「来月になれば私の娘が6歳の誕生日を迎えます。魔王討伐となれば長き旅路となるでしょう……次は何時娘に会えるのかも判りません。せめて来月の誕生日だけは、娘と……家族と共に過ごさせて下さい!」
「来月……か……」
王様(ジジイ)は顔を顰め少し考えてる。そして……

「仕方なかろう……旅立ちの準備もある事だろうし、一月の猶予は与える。しかし準備できたら早々に旅立つのだ! 貴様の旅立ちに合わせ、いざないの洞窟を封印し凶暴なモンスターがこれ以上アリアハンに来ない様、措置をするのでな」

つまり俺には帰ってくるなって言ってるのか……
上等だよクソジジイ。勇者オルテガを舐めるなよ……
美女(アメリア)が居る限り、どんな事をしても帰ってきてやる!





(アリアハン城下)

俺は自宅へ帰るなり、事の経緯を妻に説明する。勿論お姫様喰っちゃったって事は省いて。
アメリアは不安そうな顔をし何かを言いかけたのだが、名誉とか栄誉とかに弱い俗物的親父殿が「よくぞ決断したオルテガ! 流石はワシの息子じゃ」って先に騒ぎ出した為、何も言わずに抱き付いてきた。

一人じゃ心細いって言って途中まで親父を連れて行こうかな?
いざないの洞窟は封印されちゃうのだし、ロマリアまで行ったら置き去りにしちゃおうかな?
でもなぁ……そこまでだって邪魔くさいし!

そんな事を敬愛する親父殿に対して考えていると、(アルル)が俺の足に抱き付いてきた。
「如何したんだいアルル?」
「お父さん何処かに行っちゃうの? もう帰ってこないの?」

「馬鹿だなぁ……お父さんは帰ってくるさ。お前達の為に悪い奴等を倒してくるだけで、全てが終わったら帰ってくるさ!」
そう……帰ってくるさ!

「だから俺が帰ってくるまで、良い子にしてるんだよ。お前がお母さんを守ってやるんだぞ」
俺は愛おしくなりアルルの額に口吻をする。
アメリアに視線を向けると、目に涙をためて頷いてくれた。



翌日から旅立ちの準備に勤しんだ。
城になんぞ出仕せず、一ヶ月という短い期間を悠々自適に満喫する。
一日の大半を家族と過ごし、そして気分転換で町を散歩する。

そんな日々を3週間過ごしたある日、教会の側で声をかけられた。
振り返るとそこには一人の少女が……
褐色の肌に美しい金髪、(アルル)よりは2.3歳年上であろう美少女。

「オルテガ様……聞きました。魔王を討伐しに旅立たれるんですよね?」
5年程前モンスターに襲われた一家が居た。
丁度その現場に出会(でくわ)した俺は、モンスターを倒し彼女を助ける事が出来た。

ただ……ご両親は助けられなかった為、俺は彼女をアリアハンの教会が運営する孤児院に託し、時折様子を見に来ている。
そんな高給取りじゃないから、あんまり良いものはあげられないけど、時々服とかを差し入れて……

「うん。チョロッと魔王を倒して、またミカエルに会いに来るよ。だから良い女になっておけよ(笑)」
未来の愛人候補に冗談を言ってハグしようとしたが、一緒に連れていた二人の子供に目が行き、流石に取り止めた。

「あ、ほら……ご挨拶をしてハツキ・ウルフ」
(アルル)と同年齢くらいの少女をミカエルは『ハツキ』と呼び、更に幼い男の子の手を引いてる彼女を俺の眼前に押し出した。
多分この男の子は『ウルフ』であろう……

「は……はじめめましてオルテガ様……」
「はじめましておるてがたま」
ハツキは恥ずかしそうに挨拶すると、それを見たウルフも真似をする。

「はじめまして。君達も孤児院の子かな?」
「そうなんですオルテガ様。まだウチに来たばかりですけど、私が話すオルテガ様の事を気に入っちゃって……憧れてるみたいなんです」

「憧れ? いやぁ~照れるなぁ~」
俺はそう言って二人の男女を抱き寄せる。
そして優しく頭を撫で「じゃぁ、どんな事にも負けるなよ」と言い残しその場から去った。

俺は憧れられる様な存在では無いのだ。
今回の件だって、俺のスケベ心が発端だし……
でも憧れる子供達の為に、そして大切な家族(親父は除く)の為に……

魔王バラモスを倒す決意を新たに固める。
本音を言えば面倒臭いけど、愛する者達の為に俺は旅立とう。



 

 

夢と現実の境界線

 
前書き
あの女の話です 

 
酷い頭痛で目が覚める。
碌な事の無い人生の新たなる朝をまた迎える。
昨晩の自棄酒は度を超しており、私の体内はカオス状態だ。

「うぇ……きもちわる……これは迎え酒の出番のようね」
そう独り言を呟いて起き上がり、散らかりきった部屋を出て、やはり散らかりきった台所へと向かった。そこに行けば冷えたビールがあるからだ……冷蔵庫に。

冷えたビールを手に布団まで戻ろうとするが、足がもつれて真っ直ぐ歩けない。
盛大に転びそうになったが、何とか踏ん張って体勢を整えようと試みる……が、
(バギッ!)という音と足の裏に痛みを感じ、結局スッ転んでしまった。

「いたたたた……何を踏んだ!?」
散らかった部屋で転び積み上げてた本やらCDやらに雪崩を起こさせても景色に代わり映えはなく、何を踏んだのかさえ不明のままだ。

「くそぅ……昨晩の深酒の所為で……」
そう独り言を呟いて昨日の出来事に怒りを蘇らせる。
そう……華の金曜日だという昨日の出来事を。

時計の針は16時50分を指し、もう少しでこの面白味のない仕事から解放されそうになった時……
(つぼね)のババアが『大神(おおかみ)さん。ちょっと残業をお願いします』と声をかけてきやがった。
顔を顰めババアに視線を向けると、

“どうせ今夜も予定はないのでしょう?”と言いたそうな面で私を見下ろすババア。
その後方3メートルにはニヤニヤこちらを伺う後輩OL4人の姿が……
どうやら奴等が終わらせられなかった仕事を私に押し付けてきたらしい。

『これ……あの()達の仕事でしょう。あの()達に残業させるのが筋なんじゃないですか?』
『仕様がないでしょ、彼女達はこの後予定が入ってるのよ。貴女は普段から残業せず直ぐに帰ってしまうのだから、偶には残業代を稼ぎなさい』

余計なお世話だ馬鹿女共!
私は就業時間内に自分の仕事を終わらせてるんだから、他人に残業の事を言われる筋合いはない。……尤も、他人の仕事を一切手伝わず、ひたすら自分の仕事だけを終わらせただけだけどね。

『ごめんなさぁい大神先輩~』
『私達ぃ……如何しても外せない予定がありましでぇ~』
『先輩なら休み前の金曜日だって予定はないでしょう……ですからお願いしますぅ』

余計なお世話だアバズレ共め!
何が“外せない予定”だ!? 昼休みの会話を私は聞いてたんだぞ……
『今夜、彼氏とデートなのぉ♥』とか『私達は合コン!! ちょ~気合い入ってまぁ~す』とか……

勿論私には彼氏なんぞ居ないし、合コンの予定もない!
仮に合コンに誘われたって、私の好みのタイプが居るはずないのだから、行く訳がないのだ!
万が一にも私のタイプが居たら……全員逮捕されるわ!

私のタイプは11~12歳の美少年……
えぇ……成人式を遙か昔に終えた私には犯罪になる年齢がタイプさ!
そんな子を合コン()の席に呼べるはずもなく、自宅で酒飲んでアニメグッズに囲まれてる私に、予定などあるはずないさ!

でも何で他人(ひと)の性行為の為に、私が残業をしなきゃならないんだ!?
今夜予定が入ってるのなら、日中に死ぬ気で仕事を終わらせりゃ良かったんだよ。
『え~これ分かりませんー♥ 如何やるんですかぁ?』と、若い男性社員に色目を使ってるから終わらないんだよ!

そんな憤慨を沢山抱えていたが、サディスティックに人生経験を積んできたお(つぼね)(かな)うハズもなく、渋々他人の仕事で残業する事になりました。
只でさえ楽しくない仕事を、より楽しくない状況で終わらせます。そして気付けば21時……しかも外は大雨!

怒りの収まらない私は“大神(おおかみ)麻里(まり)”と書かれた自分のタイムカードをレコーダーに叩き付ける様に通し、プンスカプンの状態で会社を出る。
まだ怒りの収まらない私は、守衛に怒鳴り付ける様に『お疲れっした!』と挨拶をし、プンスカプンプン状態で電車に乗る。

まだまだ怒りの収まらない私は、自宅の最寄り駅近くの居酒屋に入り、ドスの効いた声で『生、大ジョッキで!』と告げ、プンスカプンスカ一気飲みをする。
一向に怒りの収まらない私は、『麻里ちゃん何かあったの?』と聞いてくる居酒屋のオヤジに『うるせー黙ってお代わり持って来いやー!』とプンプンスカスカドカンな態度で接した。

私は酒が強いので、酔って記憶を無くす事はない。
だが脱ぎ上戸であるらしく、ある一定まで酔うと始末が悪いと周囲からは言われる。
しかし安心したまえ……私はまだ処女だ。

脱いでも襲われた事はない……
まぁ美人じゃないから……ね……
化粧っ気も少ないし……ね……

ってなワケで、怒りの記憶をプレイバック。
マッパで散らかった部屋の散らかった荷物の中に埋もれる私。
気を取り直して手にした缶ビールを一気に空ける。

「ぷはぁ~……よし、これで真っ直ぐ歩けるだろう!」
向かい酒で意識のハッキリしてきた私は、壁に掛けられたデジタル時計に目を移す。
そこには14時30分と時刻を表す物体が。

「げっ、もう昼過ぎてんの?」
まぁ別に予定がある訳じゃないから、今が何時でも問題ないんだけど……
そう思い周囲を見渡すと、大量の荷物で埋もれたテーブル(があると思われる場所)には、通勤用に使ってる鞄と返却予定が本日のアニメDVDが!!

やっべぇ~……本当は昨日の帰りに返そうと思って鞄に入れて会社に持ってったのに、怒りに忘れて飲んで帰ってきちゃった。
延滞料金は払いたくないし、どうせ予定は何も無いから返しに行こう。

それに今から行けばTS○TAYAへの途次にある小学校で、サッカー少年達が練習をしてるはずだ。
半ズボンの可愛い少年達が、私の為に太ももを露出させ若さをアピールしてるはず!
今夜のオカズ用に写真も撮っておこう。

そうと決まれば素早く行動。
部屋の端に積み重ねてある衣類の中から、わりかし綺麗な物を選び即座に装着。
枕元に置いてあったスマホを掴むと、ダッシュで外出!

んで気付く。
「レンタルDVD忘れた!?」
と……

慌てて室内へ戻り、放置状態のレンタルDVDをTSUT○YAの袋ごと掴み、クイックターンで方向転換。
しかし何かを踏んでしまい激しく転倒!
積み重ねてあった漫画の山にダイビング。

だが美少年達の太ももを愛でたい私は元気よく立ち上がり再出発。
築年数が私より先輩なボロアパートを勢いよく呼び出して、いざ行かんサッカー少年達のパラダイスへ!
……と思ったけど、鍵をかけ忘れて再度Back。

何度か邪魔が入ったけど、もう忘れた事はないだろうから目的地までルンルン行進。
サッカー美少年達の楽園までは徒歩で15分。死ぬ気で走れば約5分。
スキップ行進の私は8分で到着だ。

そしてそして桃源郷に到着しました。
ウキウキ気分で校庭を見れば……
ダ・レ・モ・イ・ナ・イ……?

如何いうこっちゃと校庭を睨み付けて答えが降りてきた。
昨晩の大雨でグランドコンディション最悪。
“こんな状態じゃサッカーは無理だよね”って声が聞こえてきた様な気がする昨今……

ションボリとした足取りで、ここから徒歩20分のT○UTAYAまで30分かけて到着。
取り敢えず返却だけは済ませ、店内を物色。
この沈んだ気持ちを変えたい私は、頭脳は大人のまま子供になった名探偵に憧れを寄せ、レンタルする事に……

私もアノ薬が欲しい。
今の記憶を所持したまま、また子供からやり直したい。
そして美少年を喰べちゃいたい! 下の口で♥

な~んつって欲望丸出しの妄想しながらレジに並んで気が付いた。
私……財布……持ってきてな~い!!
まぢかよぉ~……

レジの女店員が怪訝そうな目で見る中、商品を元の場所に戻して店から出る。
はぁ~……なにやってんだ私?
昨晩から碌な事がないわ。

仕様がないから帰宅の途につく……が、如何しても気分転換をしたい私は、金がなくても大丈夫な場所を思い出す。
それは私が以前バイトしてたカラオケボックスだ。バイト禁止な会社に黙って働いてた為、バレて止めざるを得なくなった店だ。

高校を出て今の会社に入ったのと同時に始めたバイトなので、現在の店長よりも古株な私は、後日支払うツケが利く。
踏み倒す事など有り得ないという信頼があるから、顔パスで利用させてもらえるのだ!

ルンルン気分が戻った私は、早速(くだん)のカラオケボックスへ直行!
店の駐車場を眺めると、知人店員の車が数台……こりゃ問題なくツケで歌えるわね。
そうほくそ笑んでると、見慣れない高級車が目に入った。

そんな高級な店じゃないし、金だけは持ってる馬鹿共が来る店じゃないんだけど……
車の事は詳しくないが高そうな車だ。
青色で“レクサス”ってメーカーの車……しかも新車!

客の車だろうか?
店員でこんな高級車に乗れそうな奴は居ないし……
この時間は客が少ないんだけどなぁ……

こんな場末の店に来るなんてどんな物好きだ?
顔でも拝んでやりたくなったので、早速入店する。
そして店員に目で挨拶をしジェスチャーで“歌える?”と語りかける。

案の定ツケでOKをもらえたので、受付カウンター内にある防犯モニターに目を移し「外に止まってる高級車は、どの客の?」と尋ねた。
すると私には及ばないが古株店員の佐藤が「このカップルのじゃね? 今はコイツ等しか居ないから……」と言ってニヤニヤ答えてくれた。

何が楽しいのか薄気味悪くモニターに見入ってるから、その訳を聞いてみると……
「コイツ等イチャイチャしながら入ってきてさ……もう少し待てばラブホと勘違いして始めるぜ」と申告。
まったく……神聖なカラオケボックスを何だと思ってるのか!?

そう憤慨しながら私もモニターに目を向ける。
そして思う……イチャりたい気持ちも解る。
男は平凡な容姿だったけど、女の方は(すげ)ー可愛い!

黒い髪をポニーテールにして、胸の谷間を強調させた服を着ており、赤いタイトなミニスカートからはみ出る白いフトモモと、コントラストな黒いニーソックスを穿いた女は、男共のオカズ対象でしかないだろう。

きっとあの高級車は、この男の車に違いない。
でなきゃこんな良い女が付き合ってくれるはずないから……
金だけは有るボンボンなんだろうなぁ……でもその金だって親のだぜ、きっと。

あの女も、頭はスカスカなんだろうけど見た目だけで良い人生を歩んでるんだろう。
馬鹿な金持ちを引っかけて、処女の安売りで安楽人生をゲットしたのだろう。
……死ねばいいのに。

まぁいい……私は私で歌を楽しむだけだ。
佐藤が後輩の大石に命令し、私をあのカップルの隣の部屋に案内させる。
本音を言えば離れた部屋にして欲しかったけど、ツケで歌わせて貰うので文句は言わない。

暫く一人で熱唱し、満足感を味わう。
佐藤が気を利かせてウーロン茶をサービス(っても後日支払わされる)してくれたので、何やかんや2時間程歌ってました。

流石に疲れたので終了する事に。
しかし隣の部屋のカップルは、まだ歌ってました。
私より先に来てて、私より長く歌い続けるって……本当に中でヤってたのか?

「ねぇ佐藤……アイツ等、本当にシたの?」
思わず受付で性行為があったのかを確認します。
「それがさぁ……シないんだよ」
と残念そうに報告される。

「あの男……一人で4時間以上歌っててさ、しかも上手いんだよ! 飲み物を届けた時とかに聞いちゃったんだけど、凄い歌唱力なんだよ!」
交尾シーンを見る事が出来ず、ガッカリしながらも些か興奮気味に男の歌唱力を評価する佐藤。

「あ、そ……」
ヤってないんなら興味ない私は冷めた返事で佐藤の言葉を流し、明日支払いに来るからと念を押して帰路につく。

正直言えばビールでも飲んで帰りたいのだけど、金のない私は素直に自宅へ直行。
家の冷蔵庫にも冷えたビールがあるだろうから、今日はそれで我慢だわ。
昨日からのゴタゴタも歌ってストレス発散したので、あとは家でDVD観賞しよう。

そう思い(言い聞かせ)ながら駅前商店街通りを歩いてると、昨晩飲みまくった居酒屋からオヤジが顔を出し、「お、グッドタイミング。麻里ちゃん、昨日財布を忘れてったよ」と声をかけてきた。

「マジでか!?」
家にじゃなくて居酒屋に財布を忘れてきたのね!?
いやぁ~助かったわぁ。何が助かったって、今日もビール飲んで帰れるって事よ!

そうとなれば即行動。
オヤジに礼を言い、生ビール大ジョッキを注文。
イッキにそれを飲み干し宴の開始だ。



そして3時間……


とっても良い気分で自宅に歩を進める。
今度は財布を忘れず持ち帰りましたよ。
でも店内で脱いだ上着を忘れて、今上半身ブラのみ(笑)

途中何人か驚いた目で見てきたけど、そんなの気にしたら負けだと思うので、気にせず自宅へ千鳥足で帰ります。
帰宅後そっこーでビールを取り出し一気飲み。

気分が良いので当初の計画通りアニメを観賞しようと、DVDが積んである壁際に近付く。
すると“バギッ!”という音と共に私はバランスを崩す。
また何かを踏んだらしく、何とか転ばない様に体勢を整えようと試みる。

しかしアルコールで足下の覚束(おぼつか)ない私は、盛大に転ぶ事となりました。
だがこれ以上CDとかを壊したくない私は、何とか何も無い場所に身体を落とそうと……
でもそれすら失敗。

私が転んだ場所は大量の荷物……に隠された堅いテーブルの上。
“ゴスッ”という鈍い音が聞こえ、私の意識を刈り取った。








気が付くと暗闇で眠ってた私……
だがとても居心地が良く、二度寝を試みる。
しかし人生というのは無常で、そんな幸せな二度寝を許してはくれない。

凄い力によってこの居心地の良い暗闇から引きずり出され、眩い光を放つ外の世界へ……
思わず大声で叫んでしまいましたよ「おぎゃー!!」って!
そう「おぎゃー」なんですよ。それ以外言えないんですよ。

ちょ……まって……な、何よコレ!?



 
 

 
後書き
はぁ~書き上げるのに時間がかかったぁ~

蔵原竜太と同時に構想を練り書き始めたんだけど、
蔵原竜太と違い書きにくかった。