リュカ伝の外伝
リュカ伝の登場人物
リュカ:本作品の主人公。転生者。自他共に認めるイケメン。:初登場・リュカ伝1
ビアンカ:リュカの幼馴染。美女。:初登場・リュカ伝1
パパス:リュカの父親。:初登場・リュカ伝1
マーサ:リュカの母親。:初登場・リュカ伝1
サンチョ:パパスの召使い。凄くぽっちゃり。:初登場・リュカ伝1
フレア:サンタローズのシスター。爆乳美女。:初登場・リュカ伝1
アマンダ:ビアンカの母親。:初登場・リュカ伝1
ダンカン:ビアンカの父親。:初登場・リュカ伝1
ルドマン:サラボナ在住の大富豪。アトム禿。:初登場・リュカ伝1
フローラ:ルドマンの娘。お淑やか美女。妹。:初登場・リュカ伝1
デボラ:ルドマンの娘。ケバケバ女。姉。多分ツンデレ。:初登場・リュカ伝1
クライバー:サンタローズの薬師。岩の下敷きでも寝れる。:初登場・リュカ伝1
ジャニー:アルカパの悪ガキ1。:初登場・リュカ伝1
スネイ:アルカパの悪ガキ2。:初登場・リュカ伝1
ソフィア:レヌール城の幽霊。安らかに眠りたい。:初登場・リュカ伝1
エリック:レヌール城の幽霊。住み着いたモンスターを追い出したい。:初登場・リュカ伝1
親分ゴースト:レヌール城に住み着いたモンスターの親分。本当は弱い。:初登場・リュカ伝1
プックル:ベビーパンサーでキラーパンサー。リュカとビアンカに助けられた。:初登場・リュカ伝1
ベラ:妖精の国代表。本当はエルフ。パンツはピンク。:初登場・リュカ伝1
ポワン:妖精の国の女王。子供を利用する。でも天然。:初登場・リュカ伝1
ザイル:ドワーフの子供。チビだけど怪力。:初登場・リュカ伝1
エーグ:ザイルの祖父。ジジイだけど怪力。しかも器用。:初登場・リュカ伝1
スノウ:雪の女王だった。頭はユルいエルフ。露出度が高い。:初登場・リュカ伝1
ヘンリー:ラインハットの王子。リュカの親友。苦労人。:初登場・リュカ伝1
デール:ヘンリーの腹違いの弟。:初登場・リュカ伝1
ゲマ:魔界の魔物。紫色。:初登場・リュカ伝1
ジャミ:魔界の魔物。ジャミの手下1。:初登場・リュカ伝1
ゴンズ:魔界の魔物。ジャミの手下2。:初登場・リュカ伝1
マリア:光の教団の奴隷。元光の教団信者。:初登場・リュカ伝1
ヨシュア:マリアの兄。光の教団の兵士。:初登場・リュカ伝1
アンジェラ:海辺の修道院のシスター。:初登場・リュカ伝1
修道長:海辺の修道院の長。きっと昔は美人。:初登場・リュカ伝1
オラクル屋の店主:珍品を取り扱ってる。:初登場・リュカ伝1
パトリシア:リュカ所有の馬車馬。美牝馬。:初登場・リュカ伝1
スラリン:スライム。リュカの友達。:初登場・リュカ伝1
トム:ラインハットの兵士。カエルが苦手。:初登場・リュカ伝1
マリソル:ラインハット在住の少女。:初登場・リュカ伝1
デルコ:マリソルの弟。:初登場・リュカ伝1
ピエール:スライムナイト。ホビット族の美少女。:初登場・リュカ伝1
スラッシュ:ピエールが乗るスライム。通常のスライムより大きい。:初登場・リュカ伝1
太后:デールの母親。ちょっとアレ。:初登場・リュカ伝1
偽太后:ラインハットを乗っ取って世界征服を企んだモンスター。:初登場・リュカ伝1
ホイミン:ホイミスライム。リュカの友達。:初登場・リュカ伝1
マーリン:モンスターの魔法使い。リュカの友達。:初登場・リュカ伝1
クラリス:ポートセルミのダンサー。リュカとシた。:初登場・リュカ伝1
ベネット:ルラフェンで古代魔法の研究してる。:初登場・リュカ伝1
アンディ:フローラの幼馴染み。フローラの事が好き。ヘタレ。:初登場・リュカ伝1
リリアン:フローラの飼い犬。小型犬。短気。:初登場・リュカ伝1
テルパドールの宿屋のボーイ:KY。:初登場・リュカ伝1
アイシス:テルパドールの女王。心を読む事が出来る。:初登場・リュカ伝1
サーラ:メッサーラ。リュカの友達。無口だけどリュカとは会話出来る。:初登場・リュカ伝1
レミ:グランバニアのシスター。サンチョの幼馴染み。:初登場・リュカ伝1
オジロン:グランバニアの国王代理。パパスの弟。リュカの叔父。苦労人。:初登場・リュカ伝1
ドリス:オジロンの娘。おてんば。:初登場・リュカ伝1
ピピン:グランバニア在住の少年。:初登場・リュカ伝1
パピン:ピピンの父親。グランバニアの兵士長。:初登場・リュカ伝1
カンダタ:大盗賊カンダタ一家の親分。副業で暗殺も請け負う。:初登場・リュカ伝1
エクリー:グランバニアの国務大臣。オジロンの懐刀。:初登場・リュカ伝1
エリーヌ:グランバニアで侍女をしてる。スピーカー女。:初登場・リュカ伝1
ブレンダ:グランバニアで侍女をしてる。後にメイド長になる。:初登場・リュカ伝1
ティミー:リュカとビアンカの息子。天空の勇者。馬鹿真面目。:初登場・リュカ伝1
ポピー:リュカとビアンカの娘。ティミーとは双子の妹。:初登場・リュカ伝1
コリンズ:ヘンリーとマリアの息子。ポピーに一目惚れした。:初登場・リュカ伝1
リュリュ:リュカの娘。母親はフレア。リュカにソックリの美少女。:初登場・リュカ伝1
ルドルフ:ルドマンの先祖。面倒事を子孫に丸投げした。:初登場・リュカ伝1
ブオーン:ブサカワな巨大モンスター。:初登場・リュカ伝1
プオーン:邪気がなくなり小型化したブオーン。:初登場・リュカ伝1
ゴレムス:コーレム。リュカの友達。:初登場・リュカ伝1
プサン:自称天空人。実はマスタードラゴン。またの名をヒゲメガネ。:初登場・リュカ伝1
ラマダ:サイクロプス。魔界の魔物。:初登場・リュカ伝1
イブール:光の教団の大教祖。本当は魔界の魔物。:初登場・リュカ伝1
ミルドラース:魔界の魔王。何がしたかったのか理解出来ない。:初登場・リュカ伝1
リューナ:リュカの娘。母親はマリソル。:初登場・リュカ伝1
リューラ:リュカの娘。母親はピエール。:初登場・リュカ伝1
リューノ:リュカの娘。母親はスノウ。:初登場・リュカ伝1
フレイ:リュカの娘。母親はフレア。:初登場・リュカ伝1
マリー:リュカの娘。母親はビアンカ。:初登場・リュカ伝1
アルル:異世界のアリアハンの女勇者。勇者オルテガの娘。貧乳。:初登場・リュカ伝2
ハツキ:アリアハン在住の孤児の美少女。僧侶。巨乳。:初登場・リュカ伝2
ウルフ:アリアハン在住の孤児の美少年。魔法使い。生意気。:初登場・リュカ伝2
アリアハン王:アリアハンの王様。偉そう。でもケチ。:初登場・リュカ伝2
ルイーダ:酒場の女店主。色っぽい。:初登場・リュカ伝2
エルフィーナ:グランバニアのメイド。:初登場・リュカ伝2
最強の戦士ボーデン:自称最強の戦士。:初登場・リュカ伝2
魔王バラモス:魔王と名乗ってる。でも中間管理職。:初登場・リュカ伝2
ミカエル:アリアハンのシスター。孤児院を切り盛りしてる。巨乳美女。ウルフの憧れ。:初登場・リュカ伝2
いざないの洞窟の老人:いざないの洞窟に居る。:初登場・リュカ伝2
レーベのジジイ:魔法の玉を持ってる。偏屈ジジイ。:初登場・リュカ伝2
バコタ:盗賊の鍵を盗んだがナジミの塔のジジイに騙し取られる。:初登場・リュカ伝2
ナジミの塔で営業する宿屋の店主:ライバル店がない。でも客もない。料理の腕前は超一流。:初登場・リュカ伝2
ナジミの塔に住む老人:盗賊の鍵をくれる。:初登場・リュカ伝2
ロマリア王:ロマリアの王様。人を見る目がある。:初登場・リュカ伝2
カンダタ:盗賊団カンダタ一味の頭領。筋骨隆々。リュカ伝1のカンダタとは別人。:初登場・リュカ伝2
エコナ:女商人。巨乳美女。独特の訛り。:初登場・リュカ伝2
イノック:ノアニールに住む老人。:初登場・リュカ伝2
ノイル:イノックの息子。エルフの娘アンと駆け落ちした。:初登場・リュカ伝2
カルディア:エルフの里の女王。美女。:初登場・リュカ伝2
カリー:エルフの里の女戦士。美女。:初登場・リュカ伝2
ジェシカ:リュカがナンパした美女。オルテガが一晩過ごした美女。:初登場・リュカ伝2
アッサラームの愛想の良い店主:愛想が良い。客を友達と言う。:初登場・リュカ伝2
パフパフの女:そんなに大きくない。:初登場・リュカ伝2
レイチェル:イシスの女王。:初登場・リュカ伝2
ブレイザー:イシスの軍人。ハゲ。:初登場・リュカ伝2
ポルトガ王:ポルトガの王様。黒胡椒が好き。船くれる。:初登場・リュカ伝2
ノルド:アッサラームの西の洞窟に住むホビット。ポルトガ王とマブ。:初登場・リュカ伝2
ターゲル:バハラタで黒胡椒を売ってる老人。耳は良い。:初登場・リュカ伝2
タニア:ターゲルの孫娘。:初登場・リュカ伝2
グプタ:タニアの恋人。:初登場・リュカ伝2
ジェイブ:カンダタ一味の一人。指切られてキレた。:初登場・リュカ伝2
イプルゴス:イシスの大臣。器が小さい。:初登場・リュカ伝2
モニカ:海賊団の女頭領。カンダタに惚れてる。:初登場・リュカ伝2
バチェット:海賊団の下っ端。:初登場・リュカ伝2
エジンベア城の門兵:田舎者は通さない。怖い女は別。:初登場・リュカ伝2
エジンベア王:エジンベアの王様。偉そう。:初登場・リュカ伝2
スーの酋長:スーで一番偉い。:初登場・リュカ伝2
タイロン:スーの東の平原で町造りをしてる。:初登場・リュカ伝2
グリンラッドに住むジジイ:珍品を所持してる。変化の杖が欲しい。:初登場・リュカ伝2
オリビア:恋人のエリックを求め八つ当たり的に船の往来を邪魔する幽霊。:初登場・リュカ伝2
エリック:幽霊船で愚痴る幽霊。:初登場・リュカ伝2
浅瀬の祠のガイコツ:脅かす事が生き甲斐。でも死んでる。:初登場・リュカ伝2
ムオルの村人A:モブ。:初登場・リュカ伝2
ポカパマズ:色んな所に現地妻&子供が居る。:初登場・リュカ伝2
タリーナ:ムオルでのポカパマズの現地妻。:初登場・リュカ伝2
ポポタ:タリーナの息子。:初登場・リュカ伝2
女王ヒミコ:ジパングの女王。:初登場・リュカ伝2
ヤマタノオロチ:頭が八個ある龍の化け物。:初登場・リュカ伝2
ヤヨイ:ヤマタノオロチの生け贄。でもブッチした。:初登場・リュカ伝2
タケル:ヤヨイの彼氏。ジパングの民を犠牲にヤヨイを逃がす。:初登場・リュカ伝2
フィービー:サマンオサのスリ少女。臭い。:初登場・リュカ伝2
リサ:不幸少女。:初登場・リュカ伝2
サマンオサ王:サマンオサの王様。目が濁ってる。:初登場・リュカ伝2
特務警備隊員A:ロリコン。:初登場・リュカ伝2
チャールズ:サマンオサの元兵士。:初登場・リュカ伝2
マデリーン:チャールズの妻。:初登場・リュカ伝2
サマンオサ王(本物):本物。:初登場・リュカ伝2
サイモン:サマンオサから旅立った勇者。でも祠の牢獄に囚われちゃった……何したんだろ?:初登場・リュカ伝2
カノーツ:イケメンデュオ「カノーツ&エイカー」の一人。ロマリアの酒場とダーマでも出没。:初登場・リュカ伝2
エイカー:イケメンデュオ「カノーツ&エイカー」の一人。ロマリアの酒場とダーマでも出没。:初登場・リュカ伝2
愛想の悪い受付嬢:愛想が悪い。高額請求常習者。:初登場・リュカ伝2
エコナバーグ劇場のオーナー:小悪人。貧相。:初登場・リュカ伝2
オーナーの取り巻き4人衆:モブ。:初登場・リュカ伝2
ラングストン:ある意味大物。魚介類抜きシーフードピザをご馳走してくれる。:初登場・リュカ伝2
ミニモン:ミニデーモン。口が悪い。弱い。:初登場・リュカ伝2
ランシールの神官:神様の言う通り。:初登場・リュカ伝2
アルエット:ちびっ子のど自慢大会の優勝者。:初登場・リュカ伝2
ラーミア:不死鳥……らしい。アホの子。:初登場・リュカ伝2
スフェル:レイアムランドの双子美女。:初登場・リュカ伝2
スフェア:レイアムランドの双子美女。:初登場・リュカ伝2
エドガー:イシス女王の衛兵三人衆の一人。:初登場・リュカ伝2
アラン:イシス女王の衛兵三人衆の一人。:初登場・リュカ伝2
名前不明:イシス女王の衛兵三人衆の一人。多分「三波春○」ではない。:初登場・リュカ伝2
レティシア:イシス女王の娘。:初登場・リュカ伝2
竜の女王:光の玉をくれる。:初登場・リュカ伝2
大魔王ゾーマ:大ボス。闇の衣を纏っておりダメージを受けても直ぐ治る。:初登場・リュカ伝2
アメリア:アルルの母親。美女。:初登場・リュカ伝2
アルルの祖父:俗物。:初登場・リュカ伝2
シオン:ラダトームでのオルテガの現地妻。:初登場・リュカ伝2
トライ:シオンの息子。:初登場・リュカ伝2
ラルス1世:ラダトーム王。:初登場・リュカ伝2
ローリア:ラルス1世の娘。ある男の子供を身籠もってる。:初登場・リュカ伝2
フィリ:ちょっと足りない女。オルテガの現地妻。妊娠はしてない。:初登場・リュカ伝2
使用人のジジイ:メルキドの屋敷で働く使用人。口が悪い。でも義理堅い。:初登場・リュカ伝2
アスカリー:精霊神ルビスに仕えるエルフの女性。美人。:初登場・リュカ伝2
マイラの刀鍛冶:ジパング出身。:初登場・リュカ伝2
ルビス:女神様。美人。マーサに似てる。でも貧乳。:初登場・リュカ伝2
ナール:強さを求める馬鹿。凄く迷惑な馬鹿。:初登場・リュカ伝2
美少女ゾーマちゃん:イケメンを待ってる。妄想の産物。:初登場・リュカ伝2
バラモスゾンビ:魔王バラモスの成れの果て。:初登場・リュカ伝2
バラモスブロス:またの名を「バラモスブス」。バラモスの弟。:初登場・リュカ伝2
喋る馬エド:正論家。:初登場・もう一人の転生者(別視点)
ロリコン水夫:元海賊のロリコン。マリーに利用される。:初登場・もう一人の転生者(別視点)
魔女っ子美少女 マイノリティー・マリー:思い込みが激しい。:初登場・もう一人の転生者(別視点)
ライアン:バトランドの戦士。ピンクの鎧とヒゲが目印。:初登場・リュカ伝3
アリーナ:サントハイムの姫。おてんば。脳筋。小さめ。:初登場・リュカ伝3
クリフト:サントハイムの神官。アリーナLOVE。:初登場・リュカ伝3
ブライ:アリーナの教育係。苦労人なジジイ。:初登場・リュカ伝3
トルネコ:世界一の武器屋を目指してる。腹黒。金にがめつい。デブ。:初登場・リュカ伝3
マーニャ:モンバーバラで踊り子として働く美女。ミネアとは双子の姉。巨乳。褐色。実は純情。:初登場・リュカ伝3
ミネア:モンバーバラで働く美人占い師。マーニャの双子の妹。そこそこ巨乳。褐色。実はビッチ。:初登場・リュカ伝3
シン:天空の勇者。山奥の村で隠れて暮らす。:初登場・リュカ伝3
シンシア:シンの彼女。エルフ。モシャス使える。:初登場・リュカ伝3
デスピサロ:魔族の王。外見がリュカにソックリ。:初登場・リュカ伝3
ロザリー:ルビーの涙を流すエルフ。デスピサロの女。:初登場・リュカ伝3
フレア(DQ4):バトランドの城下町に住む。夫のアレックスを探してる。巨乳。:初登場・リュカ伝3
アレックス:恐ろしい目に遭い児童返りする。パフパフで我に返る。:初登場・リュカ伝3
イムルの覗き魔:マリーに折檻される。:初登場・リュカ伝3
イムルの宿屋の主人:風呂場で大きな音がしたから駆け付ける。下心無し。:初登場・リュカ伝3
ホイミン(DQ4):人間に憧れるホイミスライム。人間の年齢なら18歳。柔らかい。:初登場・リュカ伝3
ガルド:ライアンの同僚。:初登場・リュカ伝3
ププル:人違いで攫われたイムルの子供。:初登場・リュカ伝3
サントハイム王:アリーナのパパ。予知夢を見る事が出来る。:初登場・リュカ伝3
サランの町の教会の神父:キョトンとしてる。:初登場・リュカ伝3
マローニ:吟遊詩人。声は良い。:初登場・リュカ伝3
パメラ:サランの町のシスター。実はシスター・フレアの先祖。巨乳。美女。:初登場・リュカ伝3
ニーナ:テンペ村の娘。次の生け贄。:初登場・リュカ伝3
ウティ:ニーナの許嫁。:初登場・リュカ伝3
メイ:偽アリーナ。:初登場・リュカ伝3
グレゴール:偽ブライ。:初登場・リュカ伝3
ノルテン:偽クリフト。:初登場・リュカ伝3
サントハイムの兵士:砂漠のバザーに居る。いきなり現れ殴られる。:初登場・リュカ伝3
リース:囀りの塔の最上階で「囀りの蜜」を落とすエルフ。:初登場・リュカ伝3
リースのお姉様:人間嫌いで「囀りの蜜」よりも逃げる事を優先した。:初登場・リュカ伝3
ケーラ:サントハイム城のメイド。:初登場・リュカ伝3
ジュディー:エンドールのカジノで働くバニーガール。:初登場・リュカ伝3
モニカ姫:エンドールの姫。:初登場・リュカ伝3
エンドール王:娘を安売りする馬鹿。:初登場・リュカ伝3
ミスターハン:武術大会の対戦相手。半人前。:初登場・リュカ伝3
ラゴス:武術大会の対戦相手。中二病疑惑。:初登場・リュカ伝3
ビビアン:武術大会の対戦相手。可愛い男の娘。筋肉フェチ。:初登場・リュカ伝3
サイモン:武術大会の対戦相手。アート・ガーファンクル不在。:初登場・リュカ伝3
ベロリンマン:武術大会の対戦相手。ベロベロされる。分身する。:初登場・リュカ伝3
ミーちゃん:飼い猫は見た。:初登場・リュカ伝3
ネネ:トルネコの妻。美人。お弁当美味しい。:初登場・リュカ伝3
ポポロ:トルネコの息子。良い子。:初登場・リュカ伝3
トム爺:足腰が弱い。小遣いくれる。:初登場・リュカ伝3
ドン・ガアデ:色ボケた建築家。:初登場・リュカ伝3
ボンモール王:ボンモールの国王。野心満々。:初登場・リュカ伝3
リック:ボンモールの王子。モニカ姫LOVE。筆忠実。:初登場・リュカ伝3
高圧的なメイド:リック王子LOVE。:初登場・リュカ伝3
ジェリー:トム爺の息子。犯罪者。:初登場・リュカ伝3
トーマス:ジェリーの犬。シベリアン・ハスキー。トルネコ嫌い。:初登場・リュカ伝3
リサー:ドン・ガアデが愛した妄想の女。:初登場・リュカ伝3
アローペクス:アローと呼んで。妖狐。化けて化かして幻影見せる。:初登場・リュカ伝3
トンネル工事の責任者:金尽きて頓挫。でも夢諦められないジジイ。:初登場・リュカ伝3
エドガン:マーニャ・ミネアの父親。錬金術師。:初登場・リュカ伝3
バルザック:エドガンの弟子。でも裏切った。:初登場・リュカ伝3
コーミズ村の宿屋の女将:世話焼きおばさん。:初登場・リュカ伝3
オーリン:エドガンの弟子。脳筋男。女なら何でも良い。:初登場・リュカ伝3
キングレオの大臣:小心者。:初登場・リュカ伝3
キングレオ王:ライオンの化け物になってる。:初登場・リュカ伝3
キングレオ前王:息子に幽閉される。:初登場・リュカ伝3
シンの父親:実は義理の父。:初登場・リュカ伝3
シンの母親:実は義理の母。:初登場・リュカ伝3
バトウ:シンの剣術師匠。:初登場・リュカ伝3
エイコブ:シンの魔道師匠。:初登場・リュカ伝3
カエル姫:魔法でカエル姫の姿に……:初登場・リュカ伝3
ポサダ:山奥の村の宿屋の主人。規律を破る。:初登場・リュカ伝3
木樵の爺さん:ツンデレ。:初登場・リュカ伝3
ホフマン:頑なに他人を信じないか、無条件で信じ切るか極端な馬鹿。:初登場・リュカ伝3
アネイル観光案内の男:実はボロ宿屋の店主。:初登場・リュカ伝3
ミニデーモン:頭悪い。:初登場・リュカ伝3
ヒルタン:商売の神様。:初登場・リュカ伝3
ピパン:ピピンとドリスの息子。:初登場・リュカ伝3
スタンシアラの大臣:二大屁理屈男に苛められる。:初登場・リュカ伝3
スタンシアラ王:屁理屈師弟を受け入れた。:初登場・リュカ伝3
ピサロナイト:デスピサロの忠実な部下。:初登場・リュカ伝3
メリッサ:ガーデンブルグの兵士。:初登場・リュカ伝3
アルテミア:ガーデンブルグ女王。:初登場・リュカ伝3
盗賊バコタ:人当たりの良さそうな男。:初登場・リュカ伝3
ジュリエッタ:ガーデンブルグのシスター。十字架を盗まれちゃった。:初登場・リュカ伝3
ドワーフのシスター:ロザリーヒルのシスター。:初登場・リュカ伝3
ラピス:ピサロナイトの本名。ホビット族の美女。ピエールにソックリ。:初登場・リュカ伝3
二代目種馬野郎:ウルフの渾名。多分名誉な事。:初登場・リュカ伝3
気球を研究してる男:リバーサイドに住んでる。基本他力本願。:初登場・リュカ伝3
エビルプリースト:デスピサロの腹心。腹黒。:初登場・リュカ伝3
エスターク:地獄の帝王。ねぼすけ。:初登場・リュカ伝3
ルーシア:翼を怪我した天空人。美女。:初登場・リュカ伝3
ドラン:ドラゴン族の子供。:初登場・リュカ伝3
ドラきち:ドラキー。リュリュの友達。:初登場・リュリュちゃん日記
タナ:サンタローズに住む宿屋のオバサン。:初登場・リュリュちゃん日記
オリバー:サンタローズに住む武器屋のオジサン。:初登場・リュリュちゃん日記
デック:オリバーの息子。:初登場・リュリュちゃん日記
ジェック:サンタローズに住む初老の男性。:初登場・リュリュちゃん日記
ゲイツ:ジェックの息子。シスター・フレアに気がある。:初登場・リュリュちゃん日記
ギル:ホザックから来た少年。金の瞳。褐色の肌。:初登場・リュリュちゃん日記
エリオット:世界を旅する商人。:初登場・リュリュちゃん日記
ウォリック:エリオットの息子。:初登場・リュリュちゃん日記
ブラムス:サンタローズの復興物資を届ける老兵。:初登場・リュリュちゃん日記
ロイド:ブラムスの後任新兵。:初登場・リュリュちゃん日記
ナタリア:ラインハットに住む女性。マリソルの友人。:初登場・リュリュちゃん日記
マック:レヌール城の浮浪児。:初登場・リュリュちゃん日記
蔵原竜太:リュカの前世。サラリーマン(営業職):初登場・始まりはこの日から……
蔵原龍太:蔵原竜太の兄。在宅のプログラマー。:初登場・始まりはこの日から……
蔵原幸太:蔵原竜太の父親。サラリーマン(営業課長):初登場・始まりはこの日から……
蔵原梨花:蔵原竜太の母親。夫と同じ職場(営業主任):初登場・始まりはこの日から……
ユキ:本名「真田幸彦」。男の娘。美人。:初登場・始まりはこの日から……
洋子:蔵原竜太の元カノ。飼い猫の名前は「ゴンベイ」:初登場・始まりはこの日から……
アルトラム子爵:アリアハンの貴族。:初登場・始まりはこの日から……
大神麻里:マリーの前世。OL(中小企業):初登場・始まりはこの日から……
佐藤:大神麻里が以前働いてたカラオケボックスの店員。:初登場・始まりはこの日から……
アルカパの町長:町の為にビアンカ一家を追い出す。:初登場・大人の階段登る君はビアンカ……
イディオタ:ビアンカに惚れてる馬鹿。:初登場・大人の階段登る君はビアンカ……
ゴドラド:ポートセルミの酒場の黒服。:初登場・リュカ伝の外伝
メタリン:メタルスライム。リュリュの友達。:初登場・リュカ伝の外伝
はぐりん:はぐれメタル。リュリュの友達。:初登場・リュカ伝の外伝
アクデン:アークデーモン。リュリュの友達。:初登場・リュカ伝の外伝
ヘルバトラー:エスタークを守るモンスター。:初登場・リュカ伝の外伝
プチターク:エスタークの子供。リュリュの友達。:初登場・リュカ伝の外伝
ボルガーレ子爵:グランバニアの貴族。:初登場・リュカ伝の外伝
マーレス:ボルガーレ子爵の息子。底なしのアホ。:初登場・リュカ伝の外伝
カオフマン:ホザックの奴隷商人。:初登場・リュカ伝の外伝
ユニ:グランバニアに売られてきた奴隷の少女。:初登場・リュカ伝の外伝
メーロ:サンタローズでリンゴ農園を営んでる。:初登場・リュカ伝の外伝
マールス:メーロの息子。:初登場・リュカ伝の外伝
ポミエ:メーロの妻。:初登場・リュカ伝の外伝
カルバルト伯爵:グランバニアの貴族。:初登場・リュカ伝の外伝
プロム:ウルフの補佐官。軍事関係担当。:初登場・リュカ伝えくすとら
リック:ウルフの補佐官。政務関係担当。:初登場・リュカ伝えくすとら
MID45:グランバニアのメイドを45人集めて結成したアイドルグループ。:初登場・リュカ伝えくすとら
パトリモーニ・レガシー:グランバニア財務省次官。:初登場・リュカ伝えくすとら
シクーラ:グランバニアの貴族。公爵。法務大臣。:初登場・リュカ伝えくすとら
カタクール侯爵:シクーラの部下。独特なイントネーションで喋る。:初登場・リュカ伝えくすとら
カーネル:元グランバニア兵。Barヴェテラーノの店主。:初登場・リュカ伝えくすとら
レクルト:グランバニア軍務大臣の秘書官。ウルフとは友人。:初登場・リュカ伝えくすとら
スピーア:グランバニア軍務大臣の補佐官。:初登場・リュカ伝えくすとら
ライゼ:ウォンダー・トラベル社の副社長。:初登場・リュカ伝えくすとら
ヴァンデルング:ウォンダー・トラベル社の社長。:初登場・リュカ伝えくすとら
シグ:デルコの部下。元レヌール城の浮浪児。:初登場・リュカ伝えくすとら
コルト:デルコの部下。元レヌール城の浮浪児。:初登場・リュカ伝えくすとら
リンクス:プックルの子供。長男。:初登場・リュカ伝えくすとら
チロル:プックルの子供。長女。:初登場・リュカ伝えくすとら
モモ:プックルの子供。次女。:初登場・リュカ伝えくすとら
ソロ:プックルの子供。次男。:初登場・リュカ伝えくすとら
リンセ:プックルの妻。:初登場・リュカ伝えくすとら
ロバート:グランバニア城警備兵。:初登場・リュカ伝えくすとら
マーク:ロバートの同期。:初登場・リュカ伝えくすとら
スカーレット:グランバニア城の一般メイド。:初登場・リュカ伝えくすとら
クリス:グランバニア軍の海兵。:初登場・リュカ伝えくすとら
ジェレミー:グランバニア軍の海兵。:初登場・リュカ伝えくすとら
エリザベス:グランバニア城の一般メイド。:初登場・リュカ伝えくすとら
ドン:ロバートの同僚。:初登場・リュカ伝えくすとら
ピクトル・クンスト:芸術高等学校の生徒。上から85・55・88。:初登場・リュカ伝えくすとら
ファルマー:サンタローズの真面目青年。フレイの彼氏。:初登場・リュカ伝えくすとら
マズラー:サンタローズの農夫。ファルマーの父親。:初登場・リュカ伝えくすとら
ファム:サンタローズの農婦。ファルマーの母親。:初登場・リュカ伝えくすとら
アミゴ・フロイン:マリー達の同級生。:初登場・リュカ伝えくすとら
イサーク・クンドー:カタクール候の部下。キャラのモチーフは銀魂のあの人。:初登場・リュカ伝えくすとら
トシー・ヒッカータ:カタクール候の部下。キャラのモチーフは銀魂のあの人。:初登場・リュカ伝えくすとら
ソウゴ・オーキット:カタクール候の部下。キャラのモチーフは銀魂のあの人。:初登場・リュカ伝えくすとら
サガール・マウンザキ:カタクール候の部下。キャラのモチーフは銀魂のあの人。:初登場・リュカ伝えくすとら
アミー:ティミーとアルルの娘。:初登場・リュカ伝えくすとら
アーネ:カタクール候行き付けキャバクラのキャバ嬢:初登場・リュカ伝えくすとら
サビーネ:本名はエウカリス・クラッシーヴィ。芸術高等学校に通うキャバ嬢:初登場・リュカ伝えくすとら
マオ・イアン:グランバニア城の上級メイド。でも実は……:初登場・リュカ伝えくすとら
テレサ:グランバニア城のメイド。モブ:初登場・リュカ伝えくすとら
グレース:グランバニア城のメイド。モブ:初登場・リュカ伝えくすとら
ウェイン:グランバニア城の見回り兵士。モブ:初登場・リュカ伝えくすとら
ブラス国王:ホザックの王様:初登場・リュカ伝えくすとら
ラッセル王子:ホザックの第一王子:初登場・リュカ伝えくすとら
ギルバート:ホザックの第二王子。リュリュに惚れてる:初登場・リュカ伝えくすとら
エヴァン:ウルフ宰相の部下:初登場・リュカ伝えくすとら
ラウル:ウルフ宰相の部下:初登場・リュカ伝えくすとら
ルナリア・マルティス:芸術高等学校の生徒。ルナって呼ばれたい:初登場・リュカ伝えくすとら
ラッセル・クリステンセン:芸術高等学校の生徒。ラッセンって呼ばれる:初登場・リュカ伝えくすとら
マーシャル:ギルバート王子の腹心の一人:初登場・リュカ伝えくすとら
ノイキス:ギルバート王子の腹心の一人:初登場・リュカ伝えくすとら
シェラサード公爵:ホザックの貴族。奴隷推進派:初登場・リュカ伝えくすとら
アトキンス子爵:ホザックの貴族。奴隷推進派:初登場・リュカ伝えくすとら
ゴルディアス男爵:ホザックの貴族。奴隷推進派:初登場・リュカ伝えくすとら
パンタリオン伯爵:ホザックの貴族。奴隷推進派。エロ:初登場・リュカ伝えくすとら
ジョディー・フォースター:グランバニア城の上級メイド。レズビアン。ビアンカ様LOVI:初登場・リュカ伝えくすとら
ディレットーレ・コンポジート:芸術高等学校の学長:初登場・リュカ伝えくすとら
ピエッサ・パルティシオン:芸術高等学校の生徒。マリーの相方:初登場・リュカ伝えくすとら
ジョン・リース:軍人。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
ライオネル・ファスコ:元軍人。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
ジョスリン・カーター:元軍人。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
ハロルド・フィンチ:財務官僚。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
サマンサ・グローブス:メイド。通称「ルート」。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
サミーン・ショウ:軍人。名前は海外ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』から拝借:初登場・リュカ伝えくすとら
エリザベート:ナンバーワンのキャバ嬢:初登場・リュカ伝えくすとら
クロウ:ホザックの元奴隷。ユニの彼氏:初登場・リュカ伝えくすとら
ザミール:モブ。リューラ、リューノに恋してる:初登場・リュカ伝えくすとら
ルディー:アンディーとフローラの息子:初登場・リュカ伝の外伝
デイジー:デボラの娘。内気だが服装は派手:初登場・リュカ伝の外伝
トロデ:トロデーンの王様。姿は魔物:初登場・リュカ伝おぷしょん
ミーティア:トロデーンの姫様。姿は馬:初登場・リュカ伝おぷしょん
アハト:トロデの家臣。性格はちょっとアレ:初登場・リュカ伝おぷしょん
ヤンガス:アハトの弟分。でも年上のオッサン:初登場・リュカ伝おぷしょん
ドルマゲス:狂った道化師。「悲しいなぁ」が口癖:初登場・リュカ伝おぷしょん
ユリマ:存在感が儚い。ルイネロの娘:初登場・リュカ伝おぷしょん
ルイネロ:昔はブイブイ言わせてた凄腕占い師:初登場・リュカ伝おぷしょん
ドドン・ガアデ:仕事道具を無くした人:初登場・リュカ伝おぷしょん
トーポ:アハトのペットネズミ。怒鳴ると怖いが一般人には理解出来ない:初登場・リュカ伝おぷしょん
滝の洞窟の大木槌:自分より強い奴しか通さない(笑) ある意味フリーパス:初登場・リュカ伝おぷしょん
ザバン:滝の洞窟の主。半魚人的なモンスター的な何か:初登場・リュカ伝おぷしょん
ポルク:見知らぬ人は皆盗賊な考え方の子供:初登場・リュカ伝おぷしょん
マルク:ポルクの相方。存在空気:初登場・リュカ伝おぷしょん
ポルクとマルクを庇う老婆:一番の被害者:初登場・リュカ伝おぷしょん
ゼシカ:ナイスバディーの美女。アルバート家の令嬢。でも性格に難が……:初登場・リュカ伝おぷしょん
アローザ:ナイスバディーの淑女。アルバート家の当主。でも性格に難が……:初登場・リュカ伝おぷしょん
サーベルト:ゼシカの兄:初登場・リュカ伝おぷしょん
ラグサット:サザンビークの大臣の息子。ゼシカのフィアンセ……拒絶されてるけど……:初登場・リュカ伝おぷしょん
オセアーノン:大きなイカ。色々気に入らない:初登場・リュカ伝おぷしょん
マイエラ修道院の騎士:横柄な奴が多い:初登場・リュカ伝おぷしょん
マルチェロ:マイエラ修道院の騎士団長。デコが広い:初登場・リュカ伝おぷしょん
ククール:マルチェロの腹違いの弟。デコは狭い:初登場・リュカ伝おぷしょん
後書き
随時更新します。
男の幸せ①
前書き
リュカの結婚に纏わるエピソード…
本編ではあえてリュカSIDEで書かなかった物語。
<サラボナ>
俺はビアンカと共にサラボナへ帰り着いた。
本来ならばリング入手を手伝ってくれたビアンカを、山奥の村へ送り届けるのが筋ではあるのだが…
別れたくない俺はビアンカの手を握り、ルドマンさんの元へ赴こうとしている。
花婿候補が別の女と手を取り返ってきたらどう思うかな?
怒るかな?
娘はやれん!とか言うかな?
そうなったら盾だけ貰ってビアンカと帰ろ!
<サラボナ-ルドマン邸>
「あ~…遅くなりました~、水のリングです」
「おぉ!リュカ!待っていたよ。どれ、水のリングも預かろうか」
俺は左手で左腰にある袋からリングをぎこちなく取り出す。
その間、ビアンカの手を握ったまま。
だが、このおっさんはリングしか見てない。
おい!!
見てみろ!
ラブラブだろ!
気にしろよ!
「あ、あの…リュカ!…そちらの…方は…」
ルドマンさんは気付かなかったが、フローラが気付いてくれた。
細部に気が付く良い娘だ!
「あぁ、彼女は僕の「私はビアンカ!リュカとはただの幼馴染みよ!」
慌てて手を振り解き、力強く幼馴染みを主張する…
「じゃ、じゃぁ、私はこの辺で帰るわね!」
ビアンカは帰ろうと、踵を返すが…
「ちょっと待ちなさいよ!」
扉から、ものっそいケバい格好の女性が入ってきた。
俺は格好はともかく、そのでかい胸に視線が行く。
フレアさん以上だ!
「リュカ…って言ったけ?あんた凄いわね!本当にリングを2つ手に入れるなんて」
俺の視線に気付いた女性が、偉そうな態度で語りかける。
「はぁ~、どうも…あの…どちら様?」
メイド…じゃないよな?
「姉のデボラ姉さんです」
姉ぇぇぇ!?
これ絶対、血繋がってないだろ!
「そう言う事!だから、私と結婚しても盾は手に入るわ。そうよね、パパ」
あ゛!?どういうこと?
「あ、あぁ…まあ…そうだが…急に何を言「つまり、私と結婚しなさいって事!」
わぉ!俺モテモテ!
「いきなり何だ!リュカがお前と結婚する訳ないだろ!」
いやいや!そのオッパイは魅力ですよ!
「分かってないわねパパ。リュカは天空の盾を手に入れたいのよ。だったら、私の様な絶世の美女を選ぶでしょ!」
すげー自信だな、オイ!
だいたい、俺はビアンカが好きなんだ!
セフレにならしてやるけど…
「あの…ちょっ「今回の試練は私の婚約者を決める試練です!」
フローラに発言を阻まれました。
俺、挨拶以外碌に言葉を発してないんですけど…
「それが?」
「それに参加したリュカは私と結婚するつもりなんです!」
違う!
騙されて参加したんだ!
盾くれるって言うから…
「見なさい、リュカの連れている女を!」
ビアンカが?
「フローラ。貴女は可愛いわ。お淑やかだし清楚で可憐よ。でも、リュカの好みはスタイルの良い美女よ!」
イヤイヤ!スタイルだけでは選びませんよ!
「僕の話を聞「そう言う訳よリュカ!私と結婚するのなら、そんな田舎娘とは金輪際逢わないでもらうわよ!」
また、阻まれた!
「田舎娘って私の事!?」
「他にいないでしょ。さっさと帰りなさいよ!何時までも彼女面して居座らないで頂戴!」
「そうです!貴女がいなければ話がややこしくならなかったのに」
「な!?話をややこしくしたのは貴女のお姉さんでしょ!私は帰るつもりだったの!」
ビアンカが怒った!早く収拾を付けないと!
「ちょ、みんな僕の話し「静まらんか!」
思いの外でかい声ですね、ルドマンさん。
「みんなの気持ちはよく分かった!だが、リュカは一人しかいない。だからここは、リュカに決めてもらおうじゃないか」
やっと俺に発言の機会が巡ってきた。
「あの、僕は「つまり今夜一晩ゆっくり考えて、明日の朝に結論を出してもらう。リュカは宿屋に泊まりなさい。部屋を用意しておこう。ビアンカさんは我が家のゲストハウスに泊まるといい。遠慮はいらんよ」
阻まれた!
更に一晩待てってさ!
俺もう決めてるんだけどぉ!
どうして俺の話を聞かないの!?
<サラボナ>
食事を済ませ一息入れたところで、デボラに会いに行く。
もしかしたら、かなりの女で心移りするかもしれないから…ではなく、真意を聞き出したい。
だってあり得ないもの!
いきなり現れて『私と結婚しろ!』って!
相当な馬鹿じゃ無ければ裏があるね!
もし、本当に俺に惚れているのなら、一晩お試ししちゃってもいいしね!
<サラボナ-ルドマン邸>
広大なルドマン邸の三階部分の6割を占有しているデボラの私室。
どうやら我が儘いっぱいに育ったらしく、結婚したら手を焼きそうだ…
でも、あの胸は魅力的だ!
デボラは胸を強調させた色っぽいナイトドレスに身を包み、俺の来訪を歓迎してくれた。
これは罠なのかな?手ぇ出したらアウト?
我慢しないと不味いよね!?
「見た目良い女だなぁ…(ぼそ)」
「あ゛!?今、何つった!コラ!!」
ヤバい!口に出してた!
「見た目だけじゃ無いわよ!アンタ私の事を何も知らないでしょう!勝手な事を言うんじゃないわよ!!」
凄い勢いで怒鳴りまくるデボラ…
口を挟む事が出来ない…
・
・
・
「………ともかく!アンタはフローラの事を愛してないでしょ。そんな男と結婚したら私の可愛い妹が不幸になるのよ!だからアンタは私と結婚しなさい!命令よ!」
「あはははは…勝手だなぁ~…」
なぁ~んだ…結局妹の事を思っての事か…
確かに見た目だけじゃないな!
「な、何よ!」
「僕には僕の人生がある。だから僕は自分の意志で物事を決めるよ。命令は受けない」
「じゃぁ…一晩、じっくりと考える事ね!どの女を選ぶか…」
我が儘に育ったけど、馬鹿女では無い様だ。
俺はデボラの部屋を後にして、フローラへ会いに行く。
(コンコン)
2階の一角にあるフローラの部屋のドアをノックする。
「フローラ?入るよ?」
返事は無かったが鍵が開いていた為、ノックの勢いでドアが開いてしまった。
室内に入ると薄明かりの中ベットに横たわる人影が一つ…
近付き話しかける。
「あれぇ?寝てるのぉぉぉぉぉ!すげー格好だな!オッパイ丸見えじゃん!」
何この姉妹!
やり口があざといよ!!
頑張れ俺!
負けるな俺!!
常勝無敗の暴れん坊将軍を押さえ込むんだ!!
「話をしようと思ったけど…」
バレバレの狸寝入りですね。(クス)
(スッ)
俺はフローラに布団をかけ、下半身の暴れん坊将軍を理性で押さえ付け、寝た芝居をするフローラに対し、紳士的な芝居で対抗する。
「風邪引くよ…」
そして後ろ髪が引かれまくる中、フローラの部屋を後にする。
(バタン)
<サラボナ-ルドマン邸-ゲストハウス前>
もう、俺の頭にはビアンカの裸しか無い!
どうせ明日告るんだから、今すぐ告って前祝いしてもいいよね!
「リュカ!こんな遅くにどうしたの!?」
不意に上から声をかけられた。
見上げるとビアンカがテラスから身を乗り出し話しかけてくる。
「ビアン「何かごめんね!私がもっと早く帰っていればよかったのに」
俺の言葉を遮るビアンカ…口説かせない気か!?
今凄いんだゾ!
白い(物を発射する)巨塔が!
「ま、デボラさんも混乱の一翼ね!」
そう…あの女のあのオッパイ…
「あ、あぁ…」
「リュカはフローラさんと結婚して幸せになるべきよ」
「幸せ…に…」
俺の幸せはビアンカと共にある!
「天空の盾を手に入れて、パパスおじさまの遺志を継がないと…」
父さんもきっと、俺の幸せを優先してくれる…はず…
「父さんの…気持ち…」
「いい!もうリュカは不幸を背負い込む必要無いんだから…幸せに…ならなきゃ…」
まいったな…また、ビアンカを泣かせてしまった…
「幸せ…か…」
「そうよ!貴方のお姉さんとして…貴方が心配よ…」
………お姉さん!?ふざけやがって…そんな軽い気持ちじゃ無い事を明日分からせてやる!
「ビアンカは何時もお姉さんぶるね。」
俺は萎えてしまった暴れん坊将軍と共に、ビアンカの前から立ち去る事に決めた。
沸々とルドマンへの怒りが湧いてくる。
ビアンカを泣かせる原因を作り出した、あのおっさんへの怒りが…
<サラボナ-ルドマン邸>
あ~あ…結局昨晩は一発も出来なかったな…
今もメイドさんをナンパしたら怒られたし…
あ゛~!ルドマン、ムカつく!
(コンコン)
俺の事を叱ったメイドさんに案内され、みんなの居る応接室へ入室した。
「リュカ…良く眠れなかったかな?」
「え?バッチリ爆睡です!どうしました?」
あ゙?何だよ…一発も出来なかったし、寝るしかないじゃん!
「いや…表情が暗かったのでな…」
それはお前の所為だ!
自覚無いのか!?
「あぁ!いや…そこでメイドさんをナンパしたら怒られまして…『婚約者がいるのにふしだらです。』って…結婚したらナンパしちゃダメ?」
別にまだ独身なんだからいいじゃん!
「で!三人の内誰と結婚するか決めたのかね!?」
何か口調がきつい…
「あれ?イラついてる!?(クス)…冗談ですよ…」
何でお前がイラついてんの?
頭にきてんのは俺だよ!
「いい加減にしたまえ!昨晩の大騒ぎは君も知っているだろう!真面目にやりたまえ!」
お前が言うな!
「大騒ぎの原因を作ったのは貴方でしょう…僕にイラつかれても困ります」
もう今日は言いたい事を言わせてもらうかんね!!
「で、では、誰とけっこ「その前に!」
その前に言わせろ!
「その前に、僕はルドマンさん!貴方に言いたい事が…文句があります。それを言い終わらない内は、事態を進めるつもりはありません!」
「何かね」
すましてんじゃねぇ!
「まず最初に、この事態の原因になったフローラの結婚相手を決める試練の事です」
何で俺が巻き込まれなければならないんだ!
「貴方が築き上げた財産や資産を譲渡するのは貴方の自由だ。だが、フローラの人生を自由にしていい訳無いでしょう!」
金持ってるからって何でも自由になると思うのは間違いだ。
「今回…結果的に大事には至らなかったが、もし財産目当ての腕っ節馬鹿が合格していたらどうするつもりでした!?」
「だが…この物騒なご時世、フローラを守るには力がいる!だから「馬鹿ですか!あんたは!」
それじゃぁ婿捜しじゃなく、ボディガード探しじゃん!
「物騒な世の中からフローラを守るのなら、金を使って武装すればいいだろ!一人の物理的な力なんてたかが知れてる。盗賊が1000人で攻めてきたら何も出来やしない」
一人に期待しすぎなんだよ、馬鹿!
「むしろ、そんな腕っ節馬鹿はフローラを不幸にする!」
ルドマンさんの表情が驚きへと変化した。
コイツ結婚後の事を何も考えてねぇーな!
「多額の泡銭が入り、あっちこっちで金を散撒き女をつくる!フローラの事を顧みてない男は、その事を指摘されると腕っ節に物を言わせるでしょう!」
俺を含め、男なんて勝手な生き物なんだ!
自分を見ればよく分かるだろうが!
「もう一件、言いたい事が…これは、この場にいるみんなに言いたい!」
みんな自分の事ばっか…
「昨日、僕の話を誰も聞こうとはしなかった!何度自分の気持ちを言おうとして遮られた事か!挙げ句、一晩悩んで持ち越せって…」
言い終え我慢出来なくなり、俺はビアンカへキスをする!
俺の暴れん坊将軍は押し倒せと命令するが、さすがにそれは我慢した。
「ちょ、リュカ!何!?」
驚くビアンカ…
もう反論は許さない!
「ビアンカ!好きだ!愛してる!」
「な、何言ってるの!私なんかを選んだら天空の盾が「あんな物いらない!ビアンカがいい!」
「あんな物って…パパスおじさまの遺志は!」
「父さんを侮辱するのはやめてくれ!」
「ぶ、侮辱って…」
「父さんは偉大で優しい人だ!僕の幸せを思ってくれる人だ!」
父さんなら俺の幸せを一番に考えてくれる人だ…多分…きっと…
「それに天空の剣があれば、勇者を捜せる。勇者を見つけてから盾を貰いに来ればいいし…」
「リュカ…そんな…私…」
「後はビアンカの気持ち次第だ。もし僕の事が嫌いだったら…諦める…誰とも結婚しない…」
独身の方が気楽だよね。
「私 (ヒック)も…リュ (ヒック)リュカの事が (ヒック)大好き…」
うっ!やっぱりビアンカに泣かれると戸惑うな…
「リュカじゃなきゃヤダ!私…私…」
OKって事だよね!
俺は腕の中で泣きじゃくるビアンカを見つめながら思う、独身捨てるのちょっと惜しいなと…
「私を選ばないなんていい度胸ね!」
同じように泣きじゃくるフローラを抱き締め、デボラが嬉しそうに話しかける。
「(クスッ)…そうですね…妹思いの巨乳美女は捨てがたかったですね…(クスクス…)」
「フローラを馬鹿男共から守ってくれてありがと」
見た目とは裏腹に、優しい女性だな…
「ビアンカを救ってくれたからチャラです。」
ま、デボラにとってはビアンカは偶然救われたのだろうけど…
フローラとビアンカが一通り泣き止むのを待ってから切りだした。
「では、僕らはそろそろ行きます。」
これ以上ここに居たら、何に巻き込まれるか分かったもんじゃない!
「待て!私は結婚式の準備をしてしまっているのだ!これを無駄にする事は許さん!」
知るか、そんな事!
「ふう…つくづく勝手な人ですねぇ…貴方は…」
お前が勝手に準備しただけだろが!!
「何とでも言うがいい!私はリュカ…お前が気に入った!私の好意を受け取ってもらうぞ!」
「好意の押し売りです。それは…」
う~ん…結婚式って金かかるよね…
人の財布で挙げられるのは美味しいなぁ…
腕の中のビアンカを見る…泣き腫らした顔だが美人だ…
「そんな訳で2日後には式を執り行う」
ちょ、OKって言ってないし!
「2日!?はぇ~よ!準備は…」
「準備は殆ど出来ている!お前はほっておくと浮気をしそうだからな!サッサと結婚させておくしかないだろ!」
「そ、そんな事は…(ゴニョゴニョ)」
うっ!痛いところを…
「それとリュカにはやってもらいたい事がある」
やば!また、面倒事か?
「何ッスか?娘さん二人の今晩のお相手?」
「コロスぞ!…そうじゃない!お前のルーラで招待客へ招待状を渡し、連れてきてほしいのだ!」
何で主役の一人がパシらなければいけないの?
「えーめんどくせー」
「コラ!リュカ!貴方にしか出来ないんでしょ!」
ビアンカに怒られました…
「…は~い…その間ビアンカは?」
「ドレス合わせの為残ってもらう」
仕方ないか…ビアンカの為に盛大な式にしたいしね!
男の幸せ②
<ラインハット城>
ルーラでラインハットまでやって来た。
ヘンリー驚くだろうなぁ。
先ずはデール君に報告。
「ちっす、元気してた?デール君」
「はい。おかげさまで…ところで、お一人ですか?珍しいですね?」
「うん。今度、絶世の美女と結婚する事になったんだ!」
「ご結婚なさるんですか!おめでとうございます!」
「うん。2日後だけどね」
「2日!?い…いきなりで、いきなりですね…」
言いたい事は分かるが、酷い台詞だ。
「あ!待っていて下さい!今、兄さんを…ヘンリー兄王を呼んできます!」
澄ました面してヘンリーが下りてきた。
「やあ、ヘンリー。まだマリアさんは愛想を尽かしてない?」
「あのなぁ…まったく…お前こそどうなんだ?ピエール達に嫌われたん…じゃ?」
俺が一人で居るって、そんなに珍しいかな?
「おい!ピエール達はどうした!?本当に…」
「そんな訳ないだろ。他のみんなはサラボナで人質になっている」
「人質!?どういう事だ!」
「うーん…僕が逃げ出さない様に…かな?」
説明がめんどくせーからこれ読め!
「これ…読めば分かるから」
結婚式の招待状に目を通すヘンリー。
「お前、結婚すんのか!?」
・
・
・
式まで時間が無い事を伝え、参列者を募る。
「何でこんなギリギリで招待状を配ってるんだよ!」
「しょうがないじゃん!プロポーズしたのついさっきなんだから!」
「じゃぁ、それに合わせた結婚式のプランを立てろよ!」
「だって…早く結婚式を挙げないと浮気するだろ!って言われたんだもん!ヒドく無い?」
「ルドマンさんは賢いなぁ…」
納得しちゃったよ、この人!
ムカつかない!?ムカつくよね、これ!?
皆に声をかけ参列を確認するヘンリー…
ヘンリー、マリアさん、ヨシュアさん、マリソル、デルコ、この5人が参列する事に決まった。
マリソルなんかは泣きながら「私がリュカさんと結婚したかったのに…」と、可愛い事を言ってくれる。
でも、もう勘弁して欲しい…
あの騒動は二度と経験したく無い!
「リュカさん、このままサラボナへ行くのですか?」
「いえ、マリアさん。次は海辺の修道院へ行きます」
第二の人生の出発点だしね…
<海辺の修道院>
何か、ここに来るのも久しぶりだな。
修道長に結婚を報告する。
「まぁ、おめでとうございます。リュカもとうとうご結婚されるのですね」
「はい。つきましては、お世話になったシスター方にご参列頂こうと思いまして、お迎えに上がりました」
「シスター・アンジェラ。貴女がご出席してあげなさい」
「修道長様は?」
「私はここでリュカの為に祈りを捧げたいと思います。リュカ、シスター・アンジェラを連れて行って頂いてもよろしいですか?」
むしろ、ババアが来るより嬉しいね。
「はい」
「では支度をして参ります。少々お待ち下さい」
アンジェラさん美人だよねぇ~…
「アンジェラさーん!荷物はそんなに必要ないですから。殆どサラボナでルドマンさんが用意してくれます。着替えを1.2枚で大丈夫ですよ。何なら裸でもいいし…いや、むしろ裸の方が…」
(ゲシ!)
「お前は…結婚すんだろ!」
「関係ないだろ!結婚したって、嫁がいたって、女の裸は見たいだろ!」
良い子ぶってんじゃねぇーよ!
「リュカさん!私なら何時でも見ていいですよ!」
だからマリソル好き!
「マリソル…期待…しちゃうよ、僕…」
(ポカ!)(ポカ!)
「「いたーい」」
「お前らは~…」
「ふふっ…アナタは弟妹が沢山いますね」
「まったく…手のかかる…」
<サンタローズ>
相変わらずでかいオッパイを揺らしながら俺の報告に驚くフレアさん。
「リュー君、結婚するの!?」
「はい。アルカパに住んでいたビアンカと…」
結婚の報告に来たのにキスされた!
ちょっと結婚の意思が揺らぐね。
「こんなに愛している私を捨てるの!?」
「捨てないよ。結婚はするけど捨てないよ」
ちょくちょく遊びに来よ!
ビアンカにばれない様にしないとね!
(ゲシ!)
ヘンリーに蹴られる!
「そんな訳いかねぇーだろ!」
「あいた!」
「ちょっと!ヘンリー様!リュー君に乱暴しないで!」
「そうよ!ヘンリー様!」
「うっ!マリソルまで…」
ヤバイじゃん!
俺、モテモテじゃん!
やっぱ結婚すんの勿体ねぇーな!
「じゃぁ…それでいい!リュー君の事お祝いするね。でも、サラボナへ行ったら悔しいからビアンカちゃんをいぢめる」
「(クス)…ビアンカは強いよ。かなりの修羅場潜り抜けたから」
結構バラ色の人生だね!
<山奥の村>
あ~…やっべ~…緊張してきたかもしんない!
よく考えたら、ここに一番に来なきゃダメだろ!?
つーか全てにおいて順序間違ってるよね!
『娘さんを僕にください!』って言う前に結婚式の招待状を渡す…
今更断られたらどうすんの?
『お前にビアンカはやらん!』って言われたらどうしよう…
参列客を引き連れて来る所じゃないよね!?
ダンカンさんが優しそうに微笑んでいる。
「おや?リュカ…どうしたんだい?こんな大人数で…ビアンカの姿が見えないが…いったい…?」
「ビアンカはサラボナで結婚式の準備をしています。お義父さん」
「…?お義父さん?…リュカ…お前はサラボナのフローラさんと結婚する為に、危険な試練を受けたのではないのかね!?」
「何!どういう事だ!詳しく聞かせろ、リュカ!」
俺とダンカンさんの会話に割り込むヘンリー。
あ゛ー、うるっせーなコイツ!
今、それどころじゃねぇーだろ!
・
・
・
大分端折ったが、大まかには説明出来たね。
驚いてはいるが、納得はしてもらえたはず…
「…リュカよ!父親としては嬉しい限りだが…ビアンカと結婚しては、天空の盾が手に入らないのでは?」
アンタもそう言う事言うか!
「いりません!あんな物!どうせ装備出来ませんし!」
「しかし…パパスの…」
いいんだよ!あんなもん!!
「僕はこの世界の何よりもビアンカが好きなんです。ビアンカと結婚して後悔はありませんし、これからもしません」
アンタが『娘はやらん!』と言っても結婚するから!
「リュカ…お前に話しておく事があるんだ…」
何だぁ~、そんなに俺に娘をやりたくないのか!?
「もしかして、ビアンカとは血の繋がった本当の親子じゃないんですぅ~とか言う?」
「!!知っていたのか!?」
………嘘だろ!オイ!正解しちゃったよ!
言う!?
今ここで、そう言う事言う!?
「え!?…えぇ…まぁ…」
何て答えればいいんだ…
「そうか…知っていたか…ビアンカは私とアマンダの「どうでもいいです!」
「おい!リュカ!どうでもいいはないだろ!」
もうムリ!
これ以上難しい話はしないで!
キャパシティオーバーです!
もうどうでも良いです!
俺はただ、ビアンカとエッチしたいだけですから!
「僕とビアンカが実は血の繋がった姉弟だったら重要な事だけど、この場合はどうでもいいです」
血が繋がっていたらヤバいけどね!
「僕が愛しているビアンカという女性は、ダンカンさんとアマンダさんに育てられた素敵な女性です。そしてビアンカがダンカンさんをお父さんと呼ぶ限り、僕にとって貴方はお義父さんです。これからも娘夫婦を暖かく見守って下さい。よろしくおねがいします」
ともかく、そう言う事で納得しろ!
もうこれ以上話をめんどくさくするな!
また、あの花嫁選びを再開したくないから!
<サラボナ-ルドマン邸>
2日がかりで参列客を連れ帰り、ルドマンさんに報告をすると、
「リュカ、戻ってきて早々悪いのだが、もう一つ用事を頼みたい」
何だよこのおっさん!
結婚式費用を負担するからって、調子こいてんじゃねーぞ!
「何ッスか?」
「うむ、実はな…ここから北に行った所に山奥の村があってな、そこの職人に花嫁用のシルクのヴェールを注文してるのだよ。それを受け取って来てくれ。お前の花嫁の為に注文した物なんだから…」
(怒)今さっき、そこから帰って来たんだ!!
「分かりました!!行ってきますよ!!」
俺はビアンカに会いたい衝動を抑え、再び山奥の村へと飛んで行く。
「んだよ!あのハゲ!先に言えよ!二度手間じゃねぇーかよ!」
<山奥の村>
村に着き、件の職人を捜す。
村人に聞くと、村の入口付近の洞窟で商いをしているのが、その職人だそうです。
「あのぉ~…シルクのベールを受け取りに来たんですけどぉ~」
中にはおっさんが一人。
「おう!良く来たな。既に出来上がっているぞ!」
何か馴れ馴れしいおっさんだ。
………何処かで会った事がある様な………
「あれ?クライバーさん!?もしかしてサンタローズで薬師をしていたクライバーさんですか!?」
「何だ?俺の事を知っているのか?」
やっぱりそうだ!
「僕です!パパスの息子、リュカです!」
「なんと!?無事だったのかリュカ!良かった!本当に良かった!!」
「クライバーさんも、よくご無事で」
「うむ…ちょうどラインハットが攻め込んできた時に、サンタローズから離れておってな…俺だけが助かってしまったのだよ…」
………そうか、ご家族はもう…
「で、お前さんはどうしていたのだ、今まで?」
俺はこれまでの事をクライバーさんに告げた。
・
・
・
「そうか…パパスは死んだか…お前も苦労をしたのだな…」
「クライバーさん、大丈夫ですよ。僕は今、幸せ絶頂期ですから」
「お!?そうか、シルクのベールを必要としているという事は結婚するのか!」
「そうです。クライバーさんは覚えていますか?アルカパに住んでいたビアンカを…」
「覚えてる、可愛らしい女の子だった。あの娘の為にお前は一人で洞窟へ入って行ったけな!」
「そうです。ちなみにアルカパからこの村に移り住んでいた事はご存じですか?」
「何!?何時からだ!?」
「もう、8,9年前と聞きましたが…」
気付かなかったの?マジで!?
「3年もこの村にいて気付かなかった!この村の何処に住んでいたんだ?」
「一番奥の家にです」
「それじゃぁ、あの美人さんがビアンカちゃんか!!この村の若い男は…イヤ、若くない男も、みんな狙っていたのだぞ!上手い事やりやがって!」
「あはははは!」
俺は嬉しい再開に思わず時間を費やしてしまった。
・
・
・
「………おっと!これ以上引き留めては申し訳ないな!ほら、これがシルクのベールだ。ビアンカちゃんにお似合いだろうて」
「ありがとうございます」
俺はシルクのベールを受け取り、クライバーさんの元を後にする。
<サラボナ-ルドマン邸>
「ただいま!」
俺はビアンカが待機している部屋へ入る。
そこにはフローラやフレアさんがビアンカと楽しげに会話をしていた。
「おわ!ものっそいキレイじゃん、ビアンカ!」
侮ってました。
ビアンカすっげ~キレイ!
ヤバイ、ヤバイです!
押し倒したいです!!
「もう結婚式なんかより初夜迎えたいんだけどベット行かない?」
「何子供の前で馬鹿言ってんだ!」
うっさいのぉ~コイツは!
「いた~い。何すんの…主役よ!?今日、僕は主役なんですよ!」
「じゃぁ、真面目にやれ。」
出来るか!
こんな美女を目の前にして!
「みんなが居たから恥ずかしくって戯けたんじゃないかぁ~」
「みんなが居なかったら押し倒しているだろうが…」
さすがヘンリー…俺の事を分かってる!
「てへ」
男の幸せ③
<サラボナ-ルドマン邸-披露宴会場>
結婚式は滞りなく終了した。
参列客の幾人かは俺がやらかす事を期待していた様だが…期待を裏切ってやった!!
ザマミロ!!
俺の目の前ではヘンリーがエラソーに結婚について語っている。
相づちを打っているが聞き流す俺!
「………って、聞いてるのか、リュカ!!」
怒るヘンリー!
「聞いてませんでした。くどくどうるさいので」
「うるさいってお前…まぁ、いい…そんな事よりも!お前にビアンカさんを幸せに出来るのか?」
よけーなお世話だ!
「うっさいなぁ~…」
「お前なぁ~重要な事だぞ!!」
「ヘンリーさん。大丈夫です!私はリュカを不幸にしてでも幸せになってみせます!」
「ははは、なら安心だ」
何で安心なんだよ!
「そうです!!私の初恋の人を奪ったのですから、死んでも幸せになってもらいます!」
ちょっと!?
誰だよフローラに酒飲ませたのは!!?
「私だって初恋です!」
マリソル!?
火に油を注がないでほしいのだが…
「何ですか!?私なんかリュカのおかげで価値観が変わったんですよ!」
大袈裟だよ!
「サラボナから離れる事に不安を持っていた私に、世界の素晴らしさを教えてくれたんです!」
ちょっと何言ってんのこの娘!?
「私なんか人生を救われたんです!!」
マリソルさん!?
酔っ払いを刺激しないで!!
「リュカさんが居なかったら私も弟も餓死してました!リュカさんは私達の救世主です!」
話がでかくなってきた………
「さっすがリュー君!色んな人を救ってるのね!」
今の俺を救う人は居ないのですか?
「私も…レヌール城で救われたわ…」
「(クス)また懐かしい事を…」
「あの日、私の心は決まったの!リュカ以外の男性は好きにならないって!」
俺にとってレヌール城で一番記憶に残っている事と言えば、ソースまみれになった事だ!
「ソースまみれになった甲斐があったかな?」
「うん!バッチリよ!」
ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!!!
可愛い!可愛い可愛い可愛い!!!
今すぐベットインしたいですぅ!!
「だからあげたのよ!」
え!?何を?処女の事?
「ちょっとリュカ!?憶えて無いの?アルカパで別れの間際にあげたじゃない!」
「え?何の事?アルカパで処女貰ったけ?」
「ち、違うわよ!!何でそう言う思考回路なの!!」
「じゃ何!?」
「パ、パンツ…よ…」
「パンツ?」
何?
「本当に憶えてないの!?リュカが欲しいって言ったのよ!」
「お前…そんな事言ったの?」
…………!!
「あぁ!!言った!言った言った!確かに言った!」
「馬鹿なの?お前…」
呆れるヘンリー。
「いや…だって…本当にくれるとは思わなかったんだ」
もう無くしちゃったから忘れてたよ。
すると突然、ワインボトルを片手にフローラが立ち上がり叫ぶ!
「私もパンツあげたんです!」
うん。皆さん唖然です。
「リュー君の初めての相手は私よ!」
人の悪い笑みを浮かべたフレアさんが、やはり立ち上がり叫ぶ!
この人、素面だよね!
何でこんな事叫べるの!?
「うるさい!私だってリュカの事が好きなんだ!!」
まさかのピエールがふらつきながら叫ぶ!
知ってたけど、今叫ぶ!?
ピエールのテーブルの上には、空になった酒のボトルが俺の歳の数以上転がっている。
どんだけ飲んだんだ!?
洒落にならない空気になってきた…
ヘンリーに助けを求めようと視線を向ける。
手を左右に振り、『ムリ!』とジェスチャーで答える。
頼りになる親友だ!!(怒)
「でも結婚したのは私よ!」
ビアンカが手にしていたワインを一気に飲み干し高らかと叫ぶ!
ビアンカ姉さん!アナタまでそう言う事言っちゃうの?
俺も弾けちゃうよ!
「愛人募集中です」
ドサマギです。
もう、そう言う場にしましょう。
言いたい事を言いましょう。
「「「お前は………」」」
ヘンリー、ヨシュアさん、ルドマンさんが声を揃えて怒ろうとするが…
「はーい!私、リュカさんの愛人になりまーす!」
マリソルの元気の良い発言に、言葉を失う。
もう、この後は大騒ぎです。
飲んで、歌って、叫んで、泣いて…
・
・
・
結婚して良かったと思います。
<サラボナ-ルドマン邸>
俺の目の前で、ビアンカが俺の手から何かを取ろうと藻掻いている。
「おはよう、ビアンカ…何してんの?」
「何って…パンツ返して」
どうやら俺が握り締めていたパンツが目当ての様だ。
「何で?」
「あのねぇ~もう日が高い位置にあるのよ!リュカはみんなを送り届けないといけないでしょ!」
気にする事ないのに…
「いいよ、待たせておけば…それよりパンツ穿く前に!」
そう言ってベットに押し倒す…第2ラウンド開始だ!
・
・
・
服を着たままも燃えるな!
<サラボナ>
一通り満足し(ビアンカはお疲れです)、町のカフェテラスへ赴くと参列客プラス旅の仲間達が、雁首揃えて昼食中だ。
「やぁ、みんな!おはよう」
俺はヘンリーの隣へ座り、来たばかりのパスタを勝手に食べる。
多分ヘンリーのだろう。空腹は最高の調味料だ。
「おはようじゃねぇー!何時だと思ってんだ!もう昼過ぎてんだぞ!」
相変わらずうるさいのはヘンリーだ!
「まーまー、アナタ落ち着いて下さい」
さすがマリアさんは優しいなぁ。
ヘンリーには勿体ないなぁ。
「リュー君。ビアンカちゃんは?」
「ビアンカならまだ寝てるよ」
パスタを食べながら答える。
ところでこれ、うめぇーな!
「お前昨晩ガンバりすぎなんだよ!」
新婚だぞ!
頑張っちゃうに決まってんだろ!!
「いやいや…朝は起きてたんだ。でもさっき第2ラウンドになっちゃって…」
「お前…俺達待たせて、何やってんだよ!」
「うん。ナニやってた」
聞く方が間違ってると思いませんか?
公明正大にエッチ出来る仲ですよ!
足腰立たなくなるまで頑張るに決まってるじゃないですか!
「さて!じゃぁ行きますか!」
ヘンリーのメシも食い終わったし、これ以上待たせたらヘンリー以外の人に悪いし、出発するとしましょう。
<山奥の村>
最初はダンカンさんを村まで送る。
村の入口で「私はここで良いから…他の皆さんを送ってあげなさい」って…
さすがはお義父さん。いい人だ。
<ラインハット>
次はゴチャゴチャとうるさい男を送ってやる。
これでも一応王族だしね。
「俺達もここで良いよ」
城の入り口で軽く別れを切り出すヘンリー。
「お前の旅も大変なのは分かるが、ビアンカさんを大事にしろよ!」
「僕が女の子を大切にしなかった事があるか!?」
「そう言う意味じゃ…まぁ、いい!じゃぁ、気を付けて…」
珍しく歯切れが悪い?何だろう?お腹空いてるのかな?
<海辺の修道院>
シスター・アンジェラを修道院に送り届ける。
修道長と2.3話をし、別れを告げると寂しそうなシスター・アンジェラの顔が伺える…
「アンジェラさん。僕の愛人になりたくなったら何時でも言って下さい!随時募集中ですから(笑)」
苦笑いではあったが、笑顔で別れる事が出来た。
今生の別れでは無いのだから、涙や寂しさは不要だ。
<サンタローズ>
元実家裏の父の墓標。
遺体も遺品も無い石を組み合わせただけの墓。
もし父さんが生きていて、ビアンカと結婚すると告げたら、どんな顔したのかな?
ビックリするかな?
納得するかな?
…反対はしないだろうな!
………両親が居ないって、こんなにも寂しい事なんだ…
イカン…悲しくなってきた…
ビアンカの元に帰って、心と暴れん坊将軍を慰めてもらお…
俺は丘の上の教会へ向かいフレアさんに挨拶を告げる。
「じゃ、新妻を待たせると怖いので帰ります。」
すると、潤んだ瞳のフレアさんが抱き付きキスをしてきた。
い、今はマズイですから…
俺の暴れ坊将軍が命令を下す!
ゴー・アタック!
ゴー・アタック!
ゴー・アタック!
将軍閣下には逆らえませんでした。
哀れな男、心の闇、悲しい結末
前書き
このお話は、不愉快極まりないお話です!
重い話を目指しましたが、ただただ不愉快な話しに仕上がりました。
不愉快な話が苦手な方は、読まれない方が良いです。
それでも読んでしまい、不愉快な気持ちになっても、クレームをつけないでね!
<ポートセルミ-酒場>
俺の名はジャイー。
故郷のアルカパから出て2年。
今は、このポートセルミの酒場で黒服として働いている。
黒服とは…要は踊り子達のボディーガードだ!
酔っ払ったバカが踊り子にちょっかいを出したら、この鍛え上げられた肉体で駆逐する!
まぁ…後は雑用を少々…
俺の場合雑用が多い。
俺に刃向かうバカは居ない!
そんな俺の目下のお気に入りは、踊り子の『クラリス』だ!
整った容姿に、大きな胸、そして細いウエストは堪らない!
そのクラリスの出番も全て終わり店を出て行こうとしている。
俺はクラリスに近付き話し掛け口説く。毎日の日課の様なものだ。
こう言った日々の積み重ねで女は心を許すんだ!
「よう、クラリス!今日も色っぽくって良かったぜ!…なぁ、そろそろ俺と付き合えよ!お前も俺に惚れてんだろ!」
「ちょっと!冗談止めてよね!!何で私がアンタなんかと付き合わなきゃいけないの!?」
これがウワサのツンデレか?困ったもんだな…女って生き物は。
この後も口説き続けたが、
「いい加減にして馬鹿!!」
と、顔を赤くしてクラリスは逃げてしまった。
よほど恥ずかしかったんだろう…
顔…真っ赤だったぜ!素直になればいいのに…
少しばかりクラリスとおしゃべりがすぎた様で、仕事が溜まってしまった。
店長にどやされ、もう上がる時間にも拘わらず俺はステージにモップをかけている。
すると酒場の奥で一人の田舎者を三人のならず者が囲みカツアゲをしている。
俺は今、時間外だ!
面倒事に首を突っ込んでられない!
よく見るとならず者共は、最近ラインハットから流れてきた兵士をクビになった連中だ。
他のみんなも遠巻きに眺めている。
しかし、一人の旅人風の男が近付き不思議そうに眺めている。
ならず者のリーダー格が、男の視線に気が付き不機嫌な態度で男に詰め寄る。
「何見てんだ!?にいちゃん!!」
ならず者が恫喝をするが、男は怯えた様子もなく答えた。
「いえ…変わったナンパだな~と思いまして。あ!どーぞ-…気にせず続けて下さい。邪魔しちゃ悪いから。」
「ぷーっ!!」
ツレの女が思わず吹き出したのを合図に、ならず者は怒りのまま剣を抜き放ち、男へ斬りかかる。
勝負は一瞬で着いた。
近距離から斬りかかったにも拘わらず、男は軽く去なし、ならず者リーダーを遠く離れた壁まで投げ放つ!
頭から壁に激突したリーダーを、手下二人が抱え逃げて行く…
フン!俺だってあのくらい出来るさ!
俺はああ言うスカしたヤツが嫌いだ!
初恋のビアンカと仲良くしていたのも、あんな紫のターバンを巻いたスカしたヤツだった!
同一人物か!?
イヤ、そんなはずない!
ヤツの故郷のサンタローズは滅ぼされたんだ…
一緒に嬲り殺されたに違いない!いい気味だ!
・
・
・
俺はさっさとモップがけを終わらせ、自室へと帰る。
自室と言っても、店が提供するボロアパートだ。家賃は給料からの天引。
店長のアホにゴチャゴチャ言われなければ、もっと早く帰れたのに…
あのアホ、いつかぶっ飛ばしてやる!
今日も夕方になり、俺は酒場へ仕事に出かける。
店長のアホが、遅刻だ何だと喚いている。
朝、時間以上働いてたんだから、遅れて来ても構わねぇーだろーが!!
相変わらずムカつくヤローだ!
取り敢えず詫びの言葉を吐いて仕事に取り掛かる。
ステージでは既にクラリスが踊っている。
本当に良い女だ!
絶対俺の物にしてやる…こんだけ毎日口説いてんだ。もう少しで落ちるはず!
そうしたら毎日犯してやる!
ステージで腰を振るか、俺の上で腰を振るかの毎日にしてやるぜ!
そんな事を考えていたら、先輩黒服の『ゴドラド』が俺の頭を小突いてきた。
「テメェー、何サボってんだ!今日、遅刻してんだからその分多目に働けボケェ~!」
本当、この店はムカつくヤツらばかりだ!
いつかぶっ殺してやる!
その日俺は裏方の仕事を押し付けられた。
皿を洗ったり、倉庫から酒を運んだり…
そろそろクラリスが上がる時間だ!
俺は仕事を放り出し、クラリスを迎えに行く。
店内に入ると、クラリスはステージ衣装のまま、客とテーブル席で会話をしている…朝のスカした男だ!
顔を近づけ楽しそうに会話をしていたが、立ち上がり二人して宿屋へ向かって行った!
ふざけやがってあのヤロー!!
その女は俺の物だ!手ぇ出してんじゃねぇー!!
俺は男をぶっ飛ばしてやろうと思い、ヤツの元へ近付く………前に、突然店長が現れて俺に怒鳴りだした。
「テメー今日は裏方だろが!何で店内でサボってんだ!ちょっと来い!」
俺は後ろに控えていたゴドラドに胸ぐらを捕まれて店長室まで連れて来られた!
クソ!今それどころじゃねぇーんだよ!
俺の女が食われちまうだろが!!
・
・
・
もう1時間近く説教をされている!
ゴドラドは店内に戻ったが、店長の小言は尽きる事が無い!
俺の我慢も限度を超えた!
「うっせーんだよ!クソオヤジ!!」
俺の拳が店長の左頬にめり込む。
血を吐いて倒れた店長に、2度3度と蹴りを入れ俺様の怒りを思い知らせる!
本当はまだやり足りないが、それどころではないので、この辺で勘弁しておいてやった。
慌てて宿屋に向かい、受付のオッサンにヤツの部屋を訪ねたが『そう言った事を教える事は出来ない!』と、ナメた事抜かしやがった。
2.3発ぶん殴ってやったら、泣きながら喋ってきた。
最初から素直に喋っていれば痛い目をみないで済んだものを………
俺はヤツの部屋の前まで行くと、ドアに耳を当て中の様子を伺う。
ベットの軋む音と共にクラリスの喘ぎ声が聞こえてくる。
ぶっ殺してやるあのヤロー!!!
ドアを蹴破ろうとした瞬間、俺の脇腹に衝撃が走った!
周りを見るとボロボロの店長とゴドラド達数人の黒服に囲まれていた!
気が付いた時は既に翌日の夕方だった。
俺は酒場横のゴミため場に捨てられていた。
ヤツら数人がかりで俺をボコボコにして、ゴミと一緒に捨てやがった!
見渡すとゴミと一緒に自室にあった俺の荷物も捨てられている。
どうやら追い出された様だ…
フン!こんな店こっちから出てってやるよ!!
だが俺を裏切ったクラリスを許す訳にはいかない!
俺は痛む身体で酒場のステージ奥にある楽屋へ赴きクラリスに詰め寄った。
「おい、クラリス!昨日、あのターバンの男と何やってた!」
「何って…アンタには関係ないでしょ!」
「ふざけんな!お前は俺の女だ!他の男と寝るなんて許さねぇ!」
「何で私がアンタなんかの女にならなきゃいけないのよ!アンタの女になるくらいなら、スモールグールに犯された方がマシよ!」
ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!
「このアマ~…馬鹿にしやがって!!」
俺はその場でクラリスを押し倒し、下着同然のステージ衣装を引き剥がす!
「きゃ~~~~~~!!!!!!!」
クラリスの身体に馬乗りになり、左手で両腕を押さえ付け、右手でズボンのチャックを下ろそうとした瞬間、俺の脇腹に強烈な蹴りがめり込んだ!!
ゴドラドが駆け付けオレを蹴り上げた!!
「何踊り子を襲ってんだコラ!!昨晩、フクロにされただけじゃ足りないらしいな!」
アバラが折れ、上手く息が出来ない…
数人の黒服が集まり、俺の事を蹴りまくる!
「2度とこの町に入るんじゃねぇ!!」
そして俺は黒服の捨てぜりふと共に町の外へ捨てられた。
ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!
必ずぶっ殺してやる!必ずだ!!
<ルラフェン>
俺はルラフェンという入り組んだ造りの町で暮らしている。
行き交う通行人を襲い金品を強奪して暮らしている。
特に狙い目は若い女だ!
襲い、犯し、奪い、殺す。
この町なら隠れる場所も多く、官憲にも掴まりにくい!
今も、5日前に襲った親娘を、隠れ家の一つで犯しているところだ。
金はあんまり持ってなかったが、良い女だったので隠れ家まで持ち帰ってきた。
特に娘を気に入ってしまった。
まだ10歳にも満たないのだが、初恋のビアンカによく似ている娘だ。
だが、その娘も先程からぶち込んでいるのに反応が無い…どうやらくたばった様だ…
俺は娘の死体の中に欲望を注ぎ込むと、手近に置いてあったこん棒で娘の頭を叩き潰す!
その光景を見て悲鳴を上げる母親の頭へもこん棒を叩きつける!
性欲を満足させた俺は、今度は食欲を満足させるべく酒場へ繰り出した。
そこで、ここルラフェンより西にある山の滝の裏にある洞窟に、お宝があるとの情報を得た為、俺は一財産稼ぐ気になっていた。
<滝の洞窟>
酒の勢いで直ぐさま町を出てしまったが、何とか山も麓まで来る事が出来た。
山の岩壁をよじ登り、滝の裏側にある洞窟を発見。
そのまま洞窟内を探索する。
暫く洞窟内を探索していると、人の声が聞こえてきた…
「あれ!?誰かいる!」
緊張感の無い声…
振り向くと、紫のターバンを巻いたあの男がこちらへ近付いてくる。
「あら?本当ね?船もなかったし、どうやって来たのかしら?」
しかも、ド偉いベッピンを連れている!
この男は本当に腹が立つ!
「おいおい…ヒョロいニィちゃんは女連れで冒険ごっこかぁ?」
俺の女を寝取ったヤローだ!
コイツのせいで俺はヒデー目にあってんだ!
目の前でテメーの女をブチ犯してやる!!
「ここにはお宝があるらしいが、おめぇみてーなモヤシには無理だぜ!」
俺の言葉にシカトして通り過ぎようとしたので、ツレの女の尻を撫でてやった。
これから楽しませてやる事への挨拶代わりだ。
「きゃ!」
「ネェちゃん、良いケツしてんな!そんなヒョロいのじゃ無く、俺のぶっといので良くしてやんぜ!」
俺は自分の尻を押さえこちらを振り返る女に手を伸ばす…次の瞬間!
俺の左頬へ強烈な衝撃が迸る!!
記憶はそこで終わった。
何が起きたのか判らない…
気が付くと俺は数人の荒くれ者共に囲まれていた。
「おう、気付いたか!こんなモンスターもいない洞窟で誰にやられたんだ!?」
左頬が激しく痛い!
どうやらあのヤローにやられた様だ…
「ムカつくヤローに不意打ちを食らったんだよ!!」
俺の言葉を聞き荒くれ共は盛大に笑ってやがる!
笑い事じゃねぇ!
ムカつくヤロー共だ!!
「まぁ、いい…この洞窟にお宝があると聞いて来たんだが、その不意打ちヤローがかっさらって行った様だ…何もねぇ!!」
クソッ!あのヤロー…また俺から奪いやがった!
必ず殺してやる!
「俺達はカンダタ一家。おめぇー名前は?これからどうすんだ?俺達と来るか?」
カンダタ一家!?
フン!おもしれぇ………
「ああ…俺はジャイー。俺も仲間に入れてくれ…」
「構わねぇーが一番下っ端だって事を忘れんなよ!」
今は下っ端でいてやる…だが、いずれ盗賊団を奪ってやる!
ジャイー一家に変えてやる!!
<世界の某所>
俺がカンダタ一味になってから数ヶ月。
俺には盗賊が肌に合っている様だ。
人生最高に幸せな毎日を送っている。
俺達のやっている事は単純だ。
ルラフェンで俺がやっていた事を大規模にした様なもんだ。
町から町へ渡り歩く行商人を襲い、金品を奪う。
女がいれば持ち帰り、全員で死ぬまで犯す!
中には死んでから犯すヤツもいる。
俺達は同じ土地に長居はしない。
一定期間そこで稼いだら、別の土地へ渡り歩く。
カンダタ親分が海を渡りグランバニア地方へ行くと言ってきた。
何やら仕事を請け負った様だ。
何でも何処ぞの王族を殺すのが仕事らしい…
俺好みの仕事なので率先してやる気を見せる事にする。
<グランバニア地方>
試練の洞窟と呼ばれる洞窟入口で、カンダタ親分と俺達10人は身を潜めてターゲットの到着を待っている。
親分が言うには、洞窟の一番奥で殺しモンスターに死体を食わせる必要があるらしい。
めんどくせー事だ…
暫くすると男が一人で洞窟へ入っていった。
紫のターバンを巻いた男…とても王族に見えない男…アレはあの男だ!!
俺から全てを奪った男だ!!ヤローが王族!?
仕事じゃ無くたってあの男を殺してやる!!
今日は最高の日になりそうだ!
俺達はヤローの後を追い洞窟の一番奥まで辿り着いた。
「おっと!ここを立ち去るのは、待ってもらおうか!」
気の抜けた歌を歌っていた男に親分が怒鳴り付ける。
さすがはカンダタ親分…俺に向けて怒鳴っている訳では無いのにも拘わらず、思わず緊張してしまう程の声だ。
「何ッスかぁ?」
しかし、ヤローは緊張するどころか間抜けな返事で返してくる。
「あ!?もしかして…アンコール希望ですか!?う~ん、忙しいので1曲だけなら披露しますけど…」
コイツは王族として生まれ育ち、何一つ苦労することなく育ったに違いない。
我が儘いっぱいに育ったんだ!
許せねぇー!!
「ちげぇーよ!あんたにその証を持って帰られると、困る人がいるんだよ!」
「そう!然る止ん事無い方からの依頼で、オメーを殺しに来たんだよ!」
「うるせーぞ!テメーら!!余計な事言うんじゃねー!」
親分の怒号が飛ぶ。
「あの~…」
しかし男は緊張感無く話しかける。
「おサルさんがどうしたんですか?」
「は?」
何言ってんだ?コイツ!?
「イヤ…さっき、サルがどうのって…」
「然る止ん事無い方だ!誰も動物のサルの事なんか言ってねぇ!」
とんでもねぇ~馬鹿だ!
「あぁ…で、僕を殺して何になるんですか?」
「オメーが王様になるのを阻みたいんだよ!」
俺は自分の気持ちを思わず吐き出した。
「馬鹿だなぁ、君達は…」
馬鹿はテメーだろが!!
「僕の奥さんは妊娠中なんですよ。僕が死んでも、男の子が生まれたら無条件で王様じゃないですか。君達のやっている事は全くの無駄だね!」
「だったら、オメーの嫁さんとガキも一緒に始末すればいいじゃねぇーか!」
そんときゃ俺が犯し殺してやるよ!!
「がははは、ちげーねぇー!」
俺達は揃って大爆笑をしてやった…が、俺の視界に俺の身体が移り込む。
首から上が無くなり、血を吹き出している俺の身体が………
そして何も見えなくなった………いったい何が………?
父と娘と男と女①
前書き
ティミー達がミルドラースを倒してから、およそ4年の月日が経過した頃のお話です。
<グランバニア>
リュカSIDE
俺は家族団欒を大切にする。
これは転生前からの心がけだ。
今日も朝から家族揃って食事をします。
俺、ビアンカ、ティミー、ポピー、マリー、スノウ、リューノ、ピエール、リューラ。
母さんは4年前(ミルドラースを倒した直後)から、サンチョ夫妻と共にサンタローズで暮らしている。(サンチョとシスター・レミが結婚しました)
父さんの墓の側で生きて行きたいって…
ただ、ここに居たら何時息子に襲われるか分からないから避難するとも言ってました…
さすがに母親は襲わないよぉ!!!
この世界には『休日』と言う概念が無かった為、グランバニアでは強引に作りました。
週休2日制です。
曜日もめんどくさかったので、『月、火、水、木、金、土、日』です。
理由を聞かれたので「エレメントです」って適当な事を言いました。だって、説明めんどーじゃん!
今日は土曜日です。休日です。みんなまったり朝食です。
ちょ~幸せです!!
なので父親らしくティミーに「彼女の1ダースくらい出来た?」って聞いちゃいました。
14歳になったティミーはイケメンです。
ほっといても食い放題っぽいです。
………でも………
「そ、そんな…居ないよ、彼女なんて…」
顔を真っ赤にして俯いちゃうシャイなあんちきしょうです。
おいおい、跡取り!
大丈夫か?そんなんで!?
「え~、困るよぉ~。たった一人の跡取り息子なんだからさぁ~」
「勝手な期待はやめてよ!沢山娘が居るのだから、そっちで工面してよ!」
あれ?跡を継ぐ気は無いのかな?
「娘は誰にもあげたくないんです!」
「ちょ…人様の娘を何人も妊娠させておいて身勝手だな!」
「ティミー君。男とはそう言うもんだよ」
俺だけじゃないよ。きっと…
「お父さん。ティミーはリュリュの事を忘れられないのよ!」
え~近親相姦!!
「大切な跡取りの為に許してあげなさいよ!その内、駆け落ちしちゃうわよ!二人揃って『出来ちゃった♡』とか言って現れるわよ!」
「こらこら!許しませんよ!近親相姦はダメですよ!特にリュリュに手を出したらプンプンですよ!」
「ちょっと、リュカ!なんでリュリュだけなの!?私達の娘はいいの!!」
「ち、違うッスよ!誤解ッスよ、ビアンカねーさん!!僕は娘全員の処女を守りたいんですよ!!」
ビアンカを始め、ママさんズを宥める俺。
しかし、娘の一人から爆弾発言投下!
「私もう処女じゃないけどね」
「……………え!?……………あの……………ポピーさん?」
思考が追いつきません。
「あ!まだ、子供は居ないから安心して」
「当たり前じゃー!!!!!!何処のどいつだー!人の娘に手を出した野郎はーー!!」
「うん。今日、連れてこようか?」
「何でそんなに冷静なのさ!朝っぱらから重大発言ですよ!?」
「ほら…私、お父さん似だから!」
何でこの双子、性格が逆じゃないの?世の中間違ってます!
「………そいつの親も連れてきなさい!!責任取らせてやる!」
「うん!じゃ、今から行って来るね!あ、ティミーも手伝ってよ」
「ちょ、僕を巻き込まないでよ!」
「何言ってんの!私の初体験が何時だか知ってて黙ってたでしょ!同罪よ」
「な、ティミー!お前…「いってきまーす!!」
脱兎の如くポピーの手を引き出て行くティミー…
学校なんかに通わせるべきではなかったんですか?
娘を持つ父親とは、こうも辛いものなのですか?
リュカSIDE END
<ラインハット>
ティミーSIDE
ラインハットに着くなりポピーは勝手に別行動。
きっとコリンズ君とイチャつきたいのだろう…
僕はデール陛下とヘンリー陛下にご挨拶に赴く。
「お!?ティミー君じゃないか!どうした、またリュカを探しに来たのか?」
ヘンリー陛下は凄い。
よく、あの父と友人付き合いを続けて行けるものだ…
「こんにちはヘンリー陛下。今日は違います。ポピーの付き添いです」
・
・
・
3時間後だった…
ポピーとコリンズ君が現れたのは…
しかも…
ティミーSIDE END
<ラインハット>
コリンズSIDE
(バン!!)
ノックもなく俺の部屋のドアが叩き開けられる!
「な、何ご…むぅ………!」
現れたのはポピー。
部屋に入るなり俺を押し倒しキスをする!
イヤじゃないんだけど…基本、主導権を握られっぱなし!
2年前に初めてエッチをした時から…
あの時に大好きな女の子に強引にキスをした事が全ての原因だ。
確かに無理矢理キスをしたのは俺だ!
だが、その先はポピー主導だった!
俺の服を力任せに脱がし押し倒された。
キスだけのつもりだったんだけど…
・
・
・
「今日は朝から何なんだよ。」
一通り終わり、俺は服を着直しながら訪ねる。
ベットでは服を開けさせたままのポピーが横たわる。
顔を赤く上気させ俺を見つめるポピー。
もう一度服を脱いじゃおうかなっと思った時、今日来た目的を語り始めた。
「お父さんにバレちゃった」
絶対嘘だ!
バレたんじゃない、バラしたんだ!!
「お父さんに連れて来いって言われたの。だから行こ♥」
確かに、何れはご挨拶に赴かなければいけないと思ってました。
でも………でも!!
「…それとも…私とは身体だけの関係?」
ベットで身体を起こし瞳を潤ませ問いつめるポピー。
本当に可愛いんです!大好きなんです!
「そんな事はない!俺はポピーの事を愛している!!」
俺は本心から答えた。
何れが今になるだけさ!
「本当!嬉しい!親も連れて来いって言われたから、早速ヘンリー様の所に行きましょ!」
え~!!!!父上と一緒に~!!!!
ポピーは俺の答えを待たず…服も着直さず、俺の腕をひっ掴み父上の元へ連行する。
俺は慌てて落ちていたポピーのパンツを掴む。
そしてズルズルと引きずられて行く…
コリンズSIDE END
<ラインハット>
ティミーSIDE
「ポピー…なんて恰好を…」
コリンズ君を引きずる様な形で二人は僕達の前に姿を現した。
ポピーの恰好は最悪だ!
ブラウスのボタンは全て外れ上半身を隠そうとしない。つまりオッパイ丸見えだ!
下半身はスカートの為、大事な部位は隠れているが太腿から液体が滴り落ちる…
コリンズ君の手には白い布が…きっとポピーのパンツだ…
この恰好で城内を歩いて来たのか!?
僕はポピーのブラウスのボタンをはめ、恰好を正させる。
コリンズ君に目を向けると、バツが悪そうにヘンリー陛下と対峙している。
「コリンズ…お前…よりによってアイツの娘に…」
ヘンリー陛下、ぐったりしてる…
「そうなんです、ヘンリー様!私、コリンズ君に手ぇ出されちゃいました。しかも、その事が今朝お父さんにバレました」
間違っちゃいないが正しくもない。
「親と一緒に連れて来いって言われたので、これから一緒に来て下さい!」
「…………分かった………」
「…父上…その…済みません…」
落ち込む親子と、満面の笑みのポピー。
何時からこの状況を画策してたのだろうか?
ラインハットへ来て、いきなりコリンズ君とシたのも、半裸でヘンリー陛下に会ったのも、ワザとだろう…
酷い女だ!
絶対こんな女、彼女にしたくない。
ティミーSIDE END
父と娘と男と女②
<グランバニア>
ビアンカSIDE
昼も過ぎ、リュカは娘達相手に本を読んであげている。
母親が複数居る事を除けば微笑ましい風景だ。
「ただいまー!連れてきたわよー!」
ポピーを先頭に、疲れ切ったティミーが入ってくる。
そして………その後ろからヘンリー様!?嘘!!?
「な!!?まさかヘンリーがポピーに手ぇ出したのか!!?」
驚愕の表情で立ち上がるリュカ。
「お、俺じゃない!お前と一緒にするな!!…俺の息子だ!お前の娘の相手は…」
よく見ると更に後ろから躊躇いがちに入ってくるコリンズ君が…
「あの…お、お久しぶりです…リュ、リュカ陛下…」
「…………………………」
心底困っている様子のリュカ。
こんな表情初めて見るかも…
「………コリンズ君……」
名を呼ばれビクッと身体を震わすコリンズ君。
かなり緊張している様ね…当たり前か…
「……はぁ……で…僕の娘の具合はどうでしたか?」
えぇ~!!!?
「ちょっと、リュカ!最初の質問がそれってどういう事よ!」
「だって気になるじゃん!ヤっちゃったもんはしょうがないし…取り返しのつかない事だし…」
だからって…
「最高に決まってるでしょ!私なんだから!!」
ちょっとポピー…
「何なんだこの親娘は!?」
ヘンリー様の言葉に反論できない。
「コリンズ!お前本当にこの娘で良いのか?」
言葉は辛辣だけど表情は笑顔…親友の娘って事で嬉しいみたいね。
「……リュカ陛下!い、いえ…お義父さん!」
コリンズ君、声裏返ってるけど真剣な様ね。
「娘さんを…ポピーを僕にください!必ず幸せにしてみせます!」
さすが男の子!良く言ったわ!
ポピーも嬉しそう。
「え~…ヤダ~…」
はぁ!?
この流れ、違うでしょ!!
優しく容認するのが父親でしょ!!
「あら!じゃぁ…セフレ決定ってこと!?まぁ、お父さんの周りにも居るからねぇ…結婚はしてないけど子供を産んだ女性が沢山…それと同じって事ね!」
「それもヤダ!」
「勝手ねぇ~…じゃぁ、どうすればいいのよ!」
「コリンズ君はどうすればいいと思う?」
「え!?お、俺ですか…!?えっと…あ、あの…」
あ!リュカとポピーの表情が人の悪い表情に変わった!
二人とも碌な事を考えてないわ!
「どうやらコリンズ君はポピーの事を愛してはいないらしい!」
「違…「どうせアレだろ!ポピーの方から襲う様な形でヤちゃったんだろ!?」
うん。この場にいるみんなが頷いた。
一人を除いて…
「お父さん!そんな事無いよ!コリンズ君は真剣なんだ!僕、相談された事もあるんだから!」
ティミーは良い子ね。
親友を庇ってる。
でもね…リュカとポピーには通用しないわ。
その事も計算済みのはずよ。
「(ゲラゲラ!!)彼女もいない童貞のお前に相談している時点で大して本気じゃないって事だよ!!」
ほら!被害が増した。
「うっ!…た、確かに僕に相談しても力にはなれなかったけど…コリンズ君は真剣だよ!それだけは間違いない!!」
煽られる形で擁護するティミー。
まだまだ役者不足ね!リュカには敵わない。
「お義父さん!俺は本気です!!本気でポピーを愛してます!この世界の何よりも!」
ムリね…相手が悪い…そんな事じゃ、この泥沼からは抜け出せないわ!
「口じゃぁ何とでも言えるよ。僕なんかは死にそうな試練を受けて、合格して他の女性と結婚できる様になったにも拘わらず、その女性を蹴ってビアンカと結婚したからね!僕の…口だけじゃない愛の証明さ!」
言っている事は格好いいけど、やってる事は娘の恋人を苛めているだけだから…
しかも、その娘も楽しんでいるし…
何考えてるの、あの娘?
「つまり、そんなお父さんの上を行けば良いのね!お父さんに勝てれば良いのね!!」
「え!?…ま、まぁそう言う事だけど…勝つってどういう意味?」
「そのままの意味よ!お父さんと戦って勝つ!首洗って待ってなさい!このヒョロ男を、最強の剣士にレベルアップさせてくるから!」
「ちょっと、戦うってそう言う意味!!僕、ヤダから!乱暴事、ヤダから!!」
「そっちの都合なんて知らないわよ!ほら、行くわよダーリン!ティミーも来なさいよ!!!親友のピンチでしょ!!」
そう言うとポピーは、ティミーとコリンズ君の手を引いて出て行ってしまった。
「お前…娘にどういう教育をしてるんだ?」
「どうって言われても…」
「今朝、俺の前に半裸で現れたんだぞ!コリンズとの事の後に…」
間違いなくポピーはリュカの娘ね!
マリーに悪影響が出なければ良いけど…
ビアンカSIDE END
<サンタローズ>
リュリュSIDE
先程、ティミー君とポピーちゃんが見知らぬ男の子と一緒に、サンチョさんの家に入って行きました。
?今日はお父さん来てないけど…
気になったので私も行ってみよ。
中では一人楽しそうなポピーちゃんが、マーサお祖母様に何かお願いしている最中でした。
「あ…ティミー君…こんにちは。今日はどうしたの?」
「あ!リュリュも聞いてよ!お父さんが、私とダーリンの交際を認めてくれないの!」
絶対嘘だ!
きっと自らこう言う状況にしたに違いない!
だって目が楽しそうだもん。
「あの…初めまして、リュリュです。ティミー君とポピーちゃんの腹違いの妹です」
「あ、どうも。コリンズです」
はぁ………きっと、ティミー君とコリンズさんは被害者ね。
・
・
・
話は大体分かったわ…
主犯格が二人、お父さんとポピーちゃん。
被害者はその他全員。私も被害者の一員に加わってしまった様だ。
「…で、ポピーは私に何を頼みに来たのですか?」
「はい、お祖母様!魔界へのゲートを開いて下さい。」
「…………………………はい!?」
リュリュSIDE END
父と娘と男と女③
<魔界>
リュリュSIDE
何故だか私も魔界へ来ています。
簡潔に説明すると…
お父さんとコリンズさんが決闘をする事になりました。
でも、コリンズさんは弱いのでポピーちゃんは鍛えるつもりみたいです。
鍛えるのにもってこいの場所とは魔界。(ポピーちゃん極端です)
コリンズさんだけじゃ不安なので、ポピーちゃんとティミー君が同行。
そして心配してくれたお祖母様も同行。
さらに私と私のお友達モンスターも強制同行されました!
『ドラキー』のドラきち、『メタルスライム』のメタリン、『はぐれメタル』のはぐりん、『アークデーモン』のアクデンです。
私じゃ戦力にならないと言ったんですが…
「大丈夫!お父さんの娘なら立派な戦士よ!」
と言って『誘惑の剣』をプレゼントされました。
「男を惑わす貴女にピッタリ」って…
酷い言われ様です。
お父さん達は、こんなに空気の重い場所を旅していたの!
やっぱり凄いわ!
でもティミー君が「魔王が居なくなったから少し緩くなったよ」って…
今のこの状態でも私には苦しいのに…
私きっと足手纏いになる…
私…帰りたいです…
リュリュSIDE END
<魔界>
ティミーSIDE
「アンタ馬鹿じゃないの!」
ポピーが小声で失礼な事を言ってくる。
何なんだいきなり!
「リュリュを脅かしてどうすんのよ!」
「え!?そんなつもりは…ただ、本当の事を…」
「だから、アンタ彼女が出来ないのよ!」
本当、失礼な女だ!!
「そう言う時は『大丈夫だよリュリュ。僕が守ってあげるよ!』って言うのよ!そうしたらリュリュ、ティミーにメロメロよ!」
どうしてもリュリュと僕をくっつけたい様だ。
「何だ、ティミーは妹に惚れてんのか?ポピーには手を出すなよ!俺の彼女だ!」
「頼まれたってあんな性格の悪い女に手は出さないよ!」
ポピーとコリンズ君はクスクスと笑っている。
腹立つなコイツ等…
お前等のせいで酷い目にあってんだぞ!自覚しろ!!
「ほら!恐怖に震えるお姫様の元へ行けよ。『僕が居るから安心だよ』ってさ!」
僕はコリンズ君に押される形でリュリュの元へ赴いた。
「リュ、リュリュ…大丈夫だよ。どうせあの二人、すぐに挫折して帰ろうって言い出すよ」
僕は笑ってリュリュの手を握る。
柔らかい手、そしてとても良い香りがする…リュリュ…本当、可愛いなぁ…
するとアクデンが僕とリュリュの間に割り込み前進を促す。
「リュリュ様!我々も居ます。どうかご安心を!」
アクデンに目で『手を出したら殺す』と脅されました。
何奴も此奴も………
魔界の平原を突き進む。
襲い来るモンスターは皆強敵!
コリンズ君ではかすり傷一つ付ける事はムリだろう…
ここに来た意味あんの?
ジャハンナで『吹雪の剣』を入手し装備をしているが役に立たない。
僕はコッソリとポピーに話しかける。
「なぁ…コリンズ君はどんなに頑張ったってお父さんに勝てる見込みは無いぞ!」
さすがに本人には言い辛い。
「そんなの分かってるわよ!勝負度胸を付けさせる為に来たの!黙って護衛してなさいよ!」
本当、いい迷惑だ!
「あの~…妙な気配がしますが…ここは何でしょうね!?」
リュリュが地面に出来た亀裂を覗き込み大声をあげている。
以前に来た時には無かったが…
亀裂は深いダンジョンになっている様だ。
「よし!これも修行よ、行きましょダーリン♥」
コリンズ君、もう泣きそうだ!
でも、この状況で逃げ出さない…泣き言を言わない…本当にポピーの事を愛しているんだな…
ちょっと羨ましいなぁ…そう言う相手が居て…
ポピー相手じゃ絶対ヤダけど!
ティミーSIDE END
<謎の洞窟>
マーサSIDE
なんと魔界には私の知らないダンジョンが出現してあった!
襲い来る敵の強さが半端じゃない!
それでもティミーとポピーの連係攻撃はさすがだ。
リュリュも善戦している。
誘惑の剣を振るい戦う姿は、まるでワルキューレだ。
並の戦士より、遙かに強いだろう。
また、リュリュはモンスター達とも良いコンビネーションである!
しかしコリンズさんは戦闘へ参加する事が出来ないでいる。
当たり前だ…レベルが違いすぎる。
彼がここの来た意味が全く分からない。
そんな事を考えながら進んで行くと、正面に強烈な殺気を放っているモンスターが1体こちらを睨んでいる。
「我が名はヘルバトラー!地獄の帝王エスターク様の僕である!!」
『地獄の帝王エスターク』!?
ミルドラース以外にもこの様な魔族が居ると言うの!?
「貴様等は何用でここまで来た!?我が主は永き眠りよりまだ覚めておらぬ!我が主を害しに来たのか!?」
「いえ…「そうよ!正義のヒーロー、天空の勇者様と愉快な仲間達が、地獄の帝王エ、エ、…エクスタシー?…を成敗に来たのよ!」
ティミーの言葉を遮ってポピーはヘルバトラーを挑発する。
「エクスタシーではない!エスターク様だ!!間違えるな小娘!!」
ヘルバトラーは逆上し襲いかかってくる!
ポピーはヒラリと攻撃をかわし後方へ退がる!
父親と同じ動きだ…
ヘルバトラーは激しい炎を吐き辺りを火の海に変えるが、ティミーのフバーハで私達は殆どダメージがない。
ポピーのマヒャドがヘルバトラーへ襲いかかり、ティミーのギガデインがトドメを刺す。
「ぐぅぅ…この様な子供に遅れを取るなど…」
崩れ落ちるヘルバトラー…
しかし、満身創痍になりながらも、再度立ち上がり我々と対峙する…
「わ、私は負ける訳には…エスターク様をお守りせねば…」
気迫で立ち上がるヘルバトラー。
ティミーが剣を構え、踏みだそうとした瞬間!
「やめてください!!」
リュリュが二人の間に割って入る。
「バトラーさん。本当は私達、エスタークさんを倒しに来た訳じゃないの…ここには迷い込んじゃっただけなの…エスタークさんが私達人間に危害を加えないのなら、私達はここから出て行きますから…」
「何言ってんの、リュリュ!地獄の帝王よ!ミルドラースみたいに人間を滅ぼそうとするに決まってるでしょ!」
「ポピーちゃん………そ、そんな事聞いてみなきゃ分からないじゃない!」
「じゃ、聞いてみましょうよ!」
「「「「「え!?」」」」」
「ちょっとおっさん!そのエステティシャンの所に案内しなさいよ!直接聞くから!!」
「エ、エスターク様だ!間違えるな!!」
「ごめんなさい、バトラーさん。直接聞いて、私達に害は無いと分かったら大人しく帰るから…」
リュリュはヘルバトラーに優しく『ベホマ』を唱える。
リュリュを見て驚いた顔をするヘルバトラー。
「良かろう…付いて来るがよい…」
まさか本当に連れて行ってくれるとは…
ポピーが言っていたけど、リュリュは男を惑わす魔性の女ね…
無自覚だけど…
マーサSIDE END
父と娘と男と女④
<謎の洞窟>
ティミーSIDE
僕達の前には禍々しい妖気を放つ異形が大きな玉座に座り眠っている。
「寝てるし害は無さそうだから帰ろ!」
小首を傾げ帰る事を促すリュリュ。
可愛いです…本当、可愛いんです、リュリュは!
「ダメよ!聞いて確認するんだから!!ちょっとおっさん!さっさとエスエムクラブを起こしなさいよ!!」
「エスターク様だっつてんだろが!!」
そう言えばお父さんも、ああやって相手を挑発してたっけ…
「あの…バトラーさん。ポピーちゃん、ワザと間違えてるの、そうやって相手を怒らせるのが目的なの。だから無視して」
「う、うむ…すまぬ、大声を出してしまって…」
リュリュは優しいなぁ…
「う゛う゛う゛う゛…私の眠りを妨げるのは誰だ…………」
ヘルバトラーの大声でエスタークが目を覚ましてしまった。
「このおっさんよ、騒いでたのは!大声を出してたのは!!」
本当に僕と双子なのか!?こうも性格が違うものなのか?
「貴様か!!」
「も、申しわ「そんな事よりも!」
怒りの矛先をヘルバトラーに固定させたまま話を続ける性悪女。
「そんな事より、アンタの目的って何?」
「目的…?」
「起きたら何するかって聞いてるの!『朝食を食べる』とかのギャグはいらないからね」
「目的…起きたら…?」
何か悩んでるぞ…
「あの…人間を滅ぼしたりしませんよね?」
「う゛う゛う゛…思い出せぬ…私は何故存在しているのか…?」
「何よ!地獄の帝王じゃ無いの?人間界を滅ぼしてやるぅ~とかじゃないの?」
「…滅ぼされたいのか…?」
「ふざけんじゃないわよ!!やられる前にやるのが私の主義よ!!」
「よかろう!貴様等を滅ぼしてから考える事にしよう!私の存在意義を!」
はい。誰がどう見ても、こっちからケンカ売ってました。
エスタークの激しい炎が最も近くに居たリュリュに迫り来る!
慌ててフバーハを唱えたが間に合わない!!
「きゃー!!」
……………………………
しかし、リュリュは無事だった!
寸での所でヘルバトラーが身を挺して庇ったのだ!
「エ、エスターク様!お止め下さい!」
「やはり貴様も敵か!滅ぼしてくれよう!!」
「酷いです、エスタークさん!バトラーさんは味方なんですよ!それなのに…」
「黙れ!!ここに居る者、皆敵だ!滅ぼしてやる!!」
寝起きが悪いのか、聞く耳を持ってない様だ。
「リュリュ、無駄よ。寝起きで機嫌が悪いのよ!ぶっ飛ばしちゃいましょ!」
リュリュはヘルバトラーにベホマをかけ後方へ退がった。
その間にも僕等は、絶え間なくエスタークへ攻撃を仕掛ける!
「少女よ…何故私を回復する…?私は敵だぞ…」
「(ニコ)私に敵は居ません。私を庇ってくれたバトラーさんは、私のお友達です。」
あの笑顔に勝てる男は居ない…
「………少女よ、名は…?」
「リュリュです、バトラーさん」
「ふむ、リュリュよ!友達同士に『さん』付けは不要!」
やはり落ちたか…
「では、眼前の大敵を倒そうではないか!」
ヘルバトラー改めバトラーも加わり、僕達はエスタークを追いつめて行く。
・
・
・
激闘…まさに激闘の末、エスタークは倒れ崩れ去る…
「アレ何かしら?」
エスタークが消え去った跡に、直径70センチぐらいの卵のような物体が現れた。
「た、卵?」
「きっとエスターク様がお守りしていた物であろう…エスターク様の子供…」
「何!?アイツ女だったの!?」
「エスターク様に男女の概念は無い!」
「ふ~ん…ま、どっちにしろ叩き割っちゃいましょ!」
ポピーは手にした『ストロスの杖』を卵に向けて振りかぶる。
「ダメー!!!」
しかしリュリュが慌てて卵を庇った!
「ちょっと退きなさいよ!また、あんなのが生まれたら厄介でしょ!今の内に…」
「ダメです!まだこの子は何も悪い事をしてないのよ!なのに生まれる事すら許してもらえないなんて…可哀想です………」
リュリュは卵を抱き抱え蹲る。
あぁ…あの卵になりたい…
「じゃぁ…リュリュが責任持って育てるのね!」
「はい」
優しく卵を抱き立ち上がるリュリュ。
「よし!帰りましょう。もう、疲れたし、汗だくだし、ダーリンは一人震え上がってるし…」
僕達はポピーに続きダンジョンを出口へ向かい歩いて行く。
「なぁ…何一つ、目的を達して無いんじゃないのかなぁ?」
徒労に終わったこの冒険を嘆く様に呟いた僕。
「何言ってんの!?目的は達したじゃない!」
「どの辺が?」
「お父さんより上に行ったわ!」
「上?」
意味が分からん。
「そうよ、私達だけで地獄の帝王を倒したのよ!ダーリンが指揮する私達だけで!」
酷い言い分だ!
それで押し通すつもりなのか?
あのお父さんが認めるのか?
………まぁ、いい。
兎に角疲れた…帰りたい…
ティミーSIDE END
<グランバニア>
マーサSIDE
私達がグランバニアへ着いた時には既に日も暮れ、大きな満月の輝く夜になっていた。
中庭ではリュカがドラゴンの杖片手に佇んでいる。
こうして黙っていると格好いいのに…
「随分遅かったね。少しは強くなったのかな?」
リュカはコリンズさんを優しく見据え語りかける…
「お父さん。私達はお父さんの上を行ったのよ!」
「上?」
「そうよ!地獄の帝王エ、エ、エス…なんとか?を倒したのよ!」
「エスターク様だ!」
「へー…ご苦労さん。で、それとコリンズ君とどんな関係が?」
全く関係無いわ。
「ダ、ダーリンの指揮の下やっつけたの!だから、ダーリンは強いの!」
「じゃ、試してみますか…」
リュカは分かってて苛めてるのね…
「お父さん。僕が相手をします!」
え!?何で?
ティミーは関係ないでしょう!
「可愛い(?)妹と、親友の幸せがかかってます。僕がお父さんに勝てたら、二人の結婚を認めて下さい」
リュカの顔がウンザリした表情になった。
『ヤベ、やりすぎた!さっさと認めれば良かった!』って顔ね。
でも、今更引けないわね…父親としての威厳があるものね!
「お父さん!行きます!!」
ティミーの天空の剣がリュカに襲いかかる!
しかしリュカは難無くかわすと、ドラゴンの杖で反撃をする!
激しい打ち合い!
両者とも一歩も引かない!
だが、余裕があるのはリュカだ!
ティミーは渾身の力で打ち込んでいるのに対し、リュカは涼しげな表情で全てを去なす。
「メラ」
あらぬ方向からのメラに慌てて避けかわすリュカ!
メラを唱えたのはコリンズさんだった!
「お義父さん!俺は卑怯と言われても貴方を倒す。ポピーと結ばれる為に!!」
「ヒャド」
今度はポピーが唱えた。
「バギ」
リュカはヒャドをバギで打ち消す。
「魔王より強いお父さんだもの…みんなで攻撃したって卑怯じゃないわ!」
「ポピーは僕の事をそう言う目で見てたのか…」
「うん。お父さん大好き!」
「今言う台詞じゃ無いよ」
苦笑いするリュカ。
「うん。私も大好きよ、お父さん!」
大きな卵を小脇に抱え、剣を構えるリュリュ。
何でこの子はこんなに好かれているのだろう?
我が子ながら不思議だ?
「………(クス)分かった分かった!降参だ…」
リュカは杖を納め城内へ向かい歩いて行く。
「ともかくお前等全員風呂は入れ。汗臭いぞ!!」
「おめでとう、ポピー。認められたわよ!」
「うん!マーサお祖母様、ありがとう!」
?ポピーはまだ、納得をしてない様だ?
まだ何かあるの?
マーサSIDE END
父と娘と男と女⑤
<グランバニア>
ティミーSIDE
自室に天空の剣を置き、みんなの所へ戻ろうと廊下を歩いていると、ポピーとコリンズ君に文句を付けられた!
「アンタ尋常じゃないくらい汗臭いわよ!私に遠慮しないでいいから、先にお風呂へ入りなさいよ!」
失礼なのか優しいのかよく分からない…
「俺達はもう一汗かくから、先どうぞ!お前はもう汗かく事ないだろ!?」
はい。失礼なだけでした。
お言葉に甘えて(?)先に入る事にした。
脱衣所で服を脱いでいると、浴室に先客の気配が…
脱衣籠には紫のターバンが…
(ガチャ)
僕の後ろで浴室への扉が開く音がした。
慌てて振り向く…
その時僕は、時間が止まる事を心から祈った…
そこにいたのは驚いた顔のリュリュ!
濡れた黒髪、細い体に反比例する大きな胸、括れたウエスト、そして…
手を伸ばせば届く距離に裸のリュリュが居る!
風呂上がりのリュリュは色っぽい…
どうすればいいのか、どうしたらいいのか、分からない………
リュリュの視線が僕の腰に向かう。
僕もつられて視線を移す…
!!!
僕は裸だった!
慌てて脱いだ服を掴み股間を隠す!
「ごめん!!し、知らなかったんだ!!ごめん!!」
しどろもどろになりながら脱衣所から廊下へ逃げ出す!
壁にもたれかかり大きく深呼吸をする…
「……ったく!ヘタレねぇ~…」
「あんな美味しいエサを前に逃げ出す意味が分からんな!」
廊下では事の次第を見守るバカップルが1組…
「お、お前等…!リュリュが入浴中なの知ってたな!」
「知ってたに決まってるじゃない!」
「な!ふ、ふざけるな!!」
「ふざけてないわよ!私達の為に、お父さんに立ち向かってくれた優しい兄へ、お礼をしたかっただけよ!」
「そうだぞ!ヤったもん勝ちだぞ!」
何で僕はコイツと親友なんだ?
「あのねぇ~…何れリュリュにも彼氏が出来るのよ!それを指くわえて見てるの?どっかのバカ男に犯されちゃうのよ!いいの!?」
ぐっ!
正直…良くない…!
でも、リュリュの自由を束縛する権利は僕にはない!
「お前等の言い分だと、リュリュの心を無視してる!」
「心なんて後から付いてくるわよ!」
「うるさい!いい加減にしろ!僕とリュリュは兄妹なんだ!そう言う関係になるつもりは無い!」
「兄妹が何よ!血の繋がりが何だって言うのよ!そんなの気にする必要無いわよ!好きな人と結ばれるのが良いに決まってるじゃない!」
「だったら僕はリュリュの気持ちを優先する!リュリュが好きな人と結ばれる事を祈る!リュリュが僕の事を好きだったら、お前等の誘いに乗ってやる……が、それが分からない以上この話は終わりだ!!」
僕は一気に捲し立て二人を恫喝する。
「………(プッ!)裸でチンコ隠してなければ格好いい台詞なのに…その姿じゃぁ…」
こ、この女は~!!
(ガチャ)
脱衣所の扉が開き、リュリュが姿を現す。
「ごめんねティミー君。…どうしたの?随分騒いでたでしょ!内容は分からなかったけど、ティミー君の声聞こえたわよ!」
「な、何でもないよ!!気にしないで…」
僕は慌てて誤魔化した。
こんな内容話せる訳がない!
「…うん…分かった…あの、ティミー君…」
リュリュは納得してないのか、俯き口籠もる。
「何?どうしたの?」
「あ、あのね…ティミー君さっき…自分の服掴んで出て行った時にね…あの…私の…パンツ…一緒に持って行っちゃったの…」
…………………………
「何アンタ!?妹のパンツ、股間に押し当ててんの?どんだけ変態なのよ!?」
「ご、ごめん!!い、今か「ティミー君!落ち着いて!兎に角脱衣所へ入ってからでいいから」
僕は慌てて脱衣所に入る!
「…で、ティミー!パンツは返したの!?変な事に使わなかった?」
ポピーの台詞でリビングのみんなが僕を見る。
「か、返したよ!」
返したけど…ちょっと変な事に使ってしまいました…ごめんなさい…
「ポピー!ティミーを苛めるのはヤメなさい!純情男子なんだから!」
お父さんにフォローされた…屈辱です。
「それよりリュリュ!お父さんはパンツよりも、その抱いてる卵の方が気になるのだが…?」
「だから言ったでしょ!地獄の帝王エロティックよ!」
「も、いい加減にして!エスターク様だから!」
バトラーが涙目だ…可哀想…
「アンタもいい加減分かりなさいよ!ワザとだっつーの!」
何でコリンズ君はこんな女に惚れたんだ?
「ちょ、まって…さっきの地獄の帝王の件って本当だったの!?」
「お父さん本当なの!そして、この卵がエスタークさんの子供なの」
「何でそのエスニックの子供を、持って帰って来ちゃったの?」
「こ、この親娘は~………」
怒りに震えるバトラーを無視してお父さん、ポピー、リュリュは話を進めてく。
「だってポピーちゃん、この卵を壊そうとするのよ!」
「何言ってるの!地獄の帝王よ!人間を滅ぼそうとするかもしれないじゃない!」
「そんなの分からないじゃない!…あんな洞窟の奥に一人で居たら、性格も歪んじゃうかもしれないけど、みんなで仲良くすればお友達になってくれるわよ!」
リュリュは優しい良い子だ!
「うん。お父さんもリュリュの意見に賛成だ!将来邪魔になるからって殺してたら、光の教団の魔族達と同じだよ」
確かにその通りだ…まだ幼い勇者を捜す為に世界中の子供を攫って奴隷にしてたんだ…
お父さんも被害者の一人だ!
「むぅ!…分かってるわよ!リュリュが正しい事は…」
ポピーは頬を膨らませむくれる。
あ!ちょっと可愛いな!
「お父さんアレでしょう!私に彼氏が出来て処女じゃなくなってるから、私の意見に反対するんでしょ!」
「おいおい…酷いなぁ…確かに、父離れをした非処女の娘より、悪い虫の付いてない処女の娘の方が可愛いけど…」
言わないよ普通!
本人達の前で、娘達の前で、母親達の前で…そう言う事言わないよ!
「何よ!分かんないじゃない!もう、処女じゃないかもしんないじゃない!男、沢山侍らせてるかもしんないじゃない!!」
「わ、私まだ処女です!!」
思わず叫んでしまい顔を赤くして俯くリュリュ…
よ、良かった~…リュリュまだ処女だったぁ~!
「何、ホッとした面してんだ!」
コリンズ君が小声で話しかける。
「うるさい、黙れ!」
ニヤけ顔のコリンズ君がムカつく!
「なに?彼氏の一人も居ないの?」
「居ません!」
「好きな男性は?」
「好きな人は…居ます…」
何!?誰だ!?誰なんだ!?
「ねぇねぇ!誰よ!?教えなさいよ!もしかして…『お兄ちゃんが好き♥』なんて言う?」
だったら嬉しい!本当に嬉しい!
僕も告白してしまう!
「おしいけど違います…」
え!?
「じゃぁ誰よ!」
もういい!ポピー、もういいから!!ヤメロ!聞きたくない!!
「…お、お父さんが好きです♡」
………………………………………
「また、アンタか!!!」
思わず叫んでしまった…
分かってる…理性では分かってるのだが…
「ど、どうしたのティミー君!?」
驚くリュリュ…
「し、失礼…でも、何でお父さんはそんなにもてるんですか!?チャランポランで、至る所で愛人つくって、子供までつくって…」
「あはははは!1個も言い返せない!でも何でだろうね?」
このチャラいノリがイラつく!
「ご、ごめんね!ティミー君が怒るとは思わなかったから…ごめんなさい…」
「いや…リュリュのせ「しょうかないのよリュリュ!ティミーはリュリュの事が大好きなのよ!」
「え!?そうなの?」
「………はい……初めて会った時からずっと…」
こんな形で告白するなんて………
「やっと告ったか!このヘタレめ!」
僕はポピーを睨み付ける。
「ヘタレも何も、兄妹なんだぞ!告れるわけないだろ!」
「何で兄妹だと告れないのよ!?兄妹だろうが親娘だろうが、好きだったら好きって言えば良いのよ!」
「い、言えるわけないだろ!!」
「そうよね、アンタには言えないわよね!『兄妹だからそういう関係にはなれません!』って断られたらイヤだもんね!」
そうだよ!兄妹なんだよ!僕等は…
「守りに入ったムッツリスケベだからもてないのよ!何も言わず、何も言えず、ただひたすら思い焦がれているからもてないのよ!」
「あのねティミー君。私、魔界へ行った事で分かったの。お父さんが格好いい訳が」
え!?お父さんは一緒に行ってないのに?
「魔界ってね、凄く空気が重くて怖い所だったの。でも、お父さんが一緒だったらきっと怖くなかったと思うの。いつもの様におチャラけた雰囲気で和ませてくれると思うの」
「そうなのよリュリュ!私達お父さんと旅をしててダンジョン内で怖いと思った事ってそんなに無いの!お父さんが居るってだけで安心感があったのよ!」
確かに…いつも安心感はあったけど…
「ティミー君は真面目だけど…真面目すぎるの!でも、そこがティミー君の良い所だから落ち込まないで、元気出してね!」
あぁ……………
今日は散々な1日だ……………
もう疲れた……………
リビングでは僕のヘタレっぷりで話が盛り上がっているが、僕はもう寝ます………
・
・
・
朝起きたら、枕の横にパンツと一緒に1枚のメモが…
『元気出してね、お兄ちゃん。私の脱ぎたてパンツを好きに使っていいからね!最愛の妹ポピーより♥』
…………………………
アイツ大嫌いだ!!!
ティミーSIDE END
<グランバニア>
リュリュSIDE
昨晩はグランバニアにお泊まりしました。
やっぱりお父さんは王様なんですね…
客間のベットなのに、凄く柔らかくて寝心地がいいです。
朝起きたら、卵にヒビが入ってました!
壊れちゃったのかと思ったけど、中でカタカタ音がします。
生まれる寸前の様です。
みんなに知らせようと、卵を持ってリビングルームへ行く途中、大声で怒っているティミー君に遭遇!
凄い勢いでポピーちゃんの部屋に怒鳴り込んで行きました。
でも、すぐに顔を真っ赤にして出てきちゃったの。
私もちょっと中を覗いて見たら、コリンズ君とエッチしている最中でした!
鍵くらい閉めればいいのに…
私は気を取り直してお父さんに報告!
「卵から赤ちゃんが出てきそうなの!」
「うん。可愛いのが産まれると良いね」
お父さんは優しく頭を撫でてくれました。
お父さん大好きです。でも、親娘だから結婚は出来ないんだよね…残念です。
暫くして卵の中からエスタークさんを小さくした子供が産まれました。
お父さんがそれを見て、
「可愛くないなぁ~」
だって。
そうしたら小さいエスタークさんが、
「何でしゅか!しょの言い方は!初対面で失礼でしゅよ!」
って。
私は可愛いと思います。
協議の結果『プチターク』に名前が決定しました。
ビアンカさんのネーミングセンスって可愛いです。
あぁ、楽しい1日だった…
また、みんなと一緒に冒険したいなぁ…
今度はお父さんと一緒がいいな!
リュリュSIDE END
リュー君のお仕事①
前書き
この話は、リュカがDQ3の世界へ召還される半年前の出来事です。
<グランバニア>
ティミーSIDE
僕の目の前にはボルガーレ子爵と息子のマーレスが、僕の右前方の玉座に向かい、膝を付き畏まっている。
その玉座には僕の父…グランバニア国王リュカ陛下が、辟易した顔で座っている。
父さんの右隣には、国務大臣のオジロン、その右には先日、軍務大臣に昇進したピピンが並んで立っている。
つまり今は謁見中だ。
貴族の一人、ボルガーレ子爵が謁見を願い出てきたのだ。
基本的に毎日謁見を申し込む人が居る。
陛下に直訴したい事や、困った事などを言って解決をお願いする。
中にはご機嫌伺いの為に来る者も少なくない…
以前(オジロンが代理王をしていた頃)は、位の高い人から順に謁見していたらしい。
位の低い人は、陛下への目通りも出来ず、係の人に用件だけ伝える事もあったらしい…無論それは陛下の耳には入らなかったそうだ。
しかし父さんになってからは、先着順で謁見する事にしたのだ。
しかも1日5件と限定をした。
不平不満を言う人はキリがないから…
そしてボルガーレ子爵で本日4件目…
貴族と言うのは待たされるのが嫌いらしく、控えの間で随分と騒いでいた!
しかし、それを聞いた父さんが大激怒し、ボルガーレ子爵を殺しかねない勢いで怒鳴りつけていた。
その為か、さっきから一向に本題へ入らず、挨拶なのかゴマ擂りなのか分からない前口上が続いている…かれこれ15分…
「……………でして、陛下の政務の大変さは、重々承知しております。私が少しでも軽減でき「もういいから、本題に入ってくれないかな!?」
さすがに我慢の限度が来たみたいだ。
先程、こっぴどく怒鳴りつけてしまったから、少しは遠慮したみたいで、15分も我慢してたよ。父さんが…
出来れば、あと13分早く我慢の限度が来てほしかったけど…
「これは…申し訳ございません!ついつい陛下の政務の大変さ「本題入れっつってんだよ!!」
「はいぃぃぃ!!じ、実はですね、陛下にお願いがあって本日参りました!」
「んで、何?」
父さん、かなりなげやりだ!
「はい!我が領地の治安を維持すべく、増兵の許可を戴きたいのですが!」
「あ゛?勝手に増兵すればいいだろ!許可なんか必要ない!しかし子爵の領には、大規模な自警団があっただろ!?治安に問題は無いと思うが…?」
「いえ…その自警団は、平民が勇士で結成した物でして…今回は我が子爵家の兵を増やしたいのです…」
「どっちでもいいよ!勝手に増やしゃいいじゃん!」
「で、では…税金の免除を…お願い致します…」
以前、貴族達が挙兵した時に『貴族が大群を有するのは危険である』と言う結論に達した為、各貴族の軍事力を奪う事となった。
しかし領地を守る為には軍事力は必要な為、全てを奪うわけにもいかず、取った方法が『有する軍事力に対しての課税措置』である。
簡単に言うと、兵士(末端から上級指揮官まで)1人に対し、0.05%の増税する事が決まったのである。
そして現在、ボルガーレ子爵は約200人の兵力を有しており、10%程多く税金を取られる事になっている。
それでも全盛期は、その10倍の兵力を有していたのだから、今が心許なく感じるのもムリはない…
「何で税金を免除しなきゃなんないんだよ!兵力増やすのは勝手だけど、金は払えバカ!」
…父さん…もう少し言い方があるだろ…公式の場なんだから…
「しかし、これ以上課税されたら、私は破産してしまいます!」
「じゃぁ増兵しなきゃいいだろが!自警団と協力し合えば良いじゃんか!」
「陛下、その自警団が力を付けすぎ、我々領主を脅かす存在になっているのです!」
いきなり息子のマーレスがしゃしゃり出てきた。
コイツは僕と同級生で、学校では同じクラスだったんだが…
ポピー曰く、
『底無しのアホ』
との事だ。
子爵家の嫡男である事を鼻にかけた嫌なヤツで、理由は分からないけど、何時も僕に突っかかって来ていた。
友達に聞いた話では、ポピーに言い寄って酷い目に遭い、同じ顔の僕に逆恨みをしているのでは?との事だけど…
きっとポピーの事だから、とてつもなく酷い事をしたんだろうなぁ…
「はぁ?お前はアホなのか?何で自警団が領主を脅かしてるんだよ!?自警団とは、自分たちを守る為に組織された団体だ。自分たちに危険が及ばない限り、武力を行使する事は無い!どうせ領民達を力で押さえ付けてたんだろ!それを不満に思った領民達が、自警団を組織したんだ。自業自得じゃねーか、アホが!底無しのアホだな!」
父さんにボロクソに言われたマーレスは、顔を真っ赤にして震えている。
拳を握り締め、今にも殴りかかりそうだが…
出来れば止めてほしいな…
僕の仕事が無駄に増える。
僕は陛下直属の近衛兵として、任務に従事てる。
僕より強い人間を守らなければならないと言うのは甚だ不本意なのだが、ピピンが…いや、ピピン閣下が気を利かせて配属してくれたのだ。
父さんは『甘やかすのは良くない』と言って反対したのだが、オジロン大臣・ピピン閣下・文部大臣のドリス大臣・ビアンカ王妃陛下に説得(強制)され、渋々承諾していた。
従って、この場で陛下に襲いかかる者は、僕が身を挺して防がねばならない。
放っておいたって自分で何とか出来るのに…
「僕から見たら、君達が今しなければならない事は増兵ではない!領民達とよく話し合い、蟠りを解く事だ!貴族である事を鼻にかけず、領民達と同じ目線で対話をすれば、武力衝突を回避できるだろう」
睨み立ち尽くすマーレスを見て、さすがに不味いと思ったのか、珍しくまともな発言をしている。
普段からこうであってほしいのだが…
「我ら貴族が、領民達と対等に話すなど…」
…本当に底無しのアホだな…
「出来ないと…?」
「………………我らには貴族の誇りがある!」
「そうか…では死ね!」
「な!?」
「領民達が武力発起するまで、その傲慢な誇りで高圧的に生き、殺されてしまえ!」
父さんはそこまで言うと、右手の甲を上に降り無言で退室を促す。
そして僕に目で合図をする…これ以上此処に留まるのなら、反逆の遺志有りと認識せよと…
軍の支給品である『鋼の剣』を半分程まで抜き、こちらの意志をボルガーレ子爵親子に見せつける。
先程まで真っ赤だったマーレスの顔が真っ青に変わり、慌てて謁見の間から出て行った。
剣を元に戻し「ふぅ」と溜息を漏らす…
父さんも同じ気持ちだったのだろう…溜息を漏らすと愚痴が出る。
「底無しのアホだなアイツ!ボルガーレ子爵は何であんな息子を同伴させたんだ?何かの役に立つと思ってたのか?」
「きっと王女殿下との出会いを期待してでしょう…」
「やれやれ…さぁ、次で最後でしょ!疲れたから早く終わらせよ!あのアホのせいで、何時もの3.26倍疲れた…」
「何ですか…その具体的な数値は…」
僕は呆れながらも、思わず突っ込んでしまう。
「意味は無い!ただ、疲れたっぷりをアピールしたかっただけ」
はぁ…やれやれなのはこっちだよ………
ティミーSIDE END
リュー君のお仕事②
<グランバニア>
オジロンSIDE
本日4件目の謁見者も終わり、やっと5件目…ラストである。
基本、謁見には大人数では立ち合わない。
例外もあるが、それは直接立ち合わせた方が良いと、判断した場合である。
しかしボルガーレ子爵が出て行ったのと入れ替わりで、幾人かが入室してきた…
ビアンカ王妃陛下を筆頭に、ドリス・スノウ・ピエール・そして数人のメイドや女官等が…
確か次は…
「陛下、次の謁見者は、南方の国『ホザック』より参りました商人でございます」
そう、女性方のお目当てはショッピングだ!
本来この様な事は許されるべきではない!
これは公務なのだ!
買い物がしたいからと言って、気軽に立ち合う事など…
私はリュカに目で訴える。
気付いたリュカは、小声で…
「ムリだよ…僕に止められるわけないだろ!ビアンカ・スノウ・ピエールはどうにかなっても、アナタの娘さんにボッコボコにされます!」
………ハァ…困ったものだ…
瞳を輝かせた女性陣が、リュカの左側に並び終わると、控えの間との扉が開き商人等が入室してきた。
先頭を歩くのが代表者であろう…
背丈はあまり高くはない…肌の色は生白く、瞳が異様に大きいく、は虫類を思わせる様な顔立ちをしている。
その後ろに付き従うのは、筋骨隆々のボディーガード2名。
見るからに筋肉バカだ!
そして、その後に続く異様な一団…
20名くらいは居るであろう…全員、同じ恰好をし商品の服やら宝石やらを運んでいる一団…
この商団の制服であろうか…真新しい真っ白い麻のローブに白い靴…そして無意味にゴツイ首輪をしている…
嫌な予感がした私は、リュカの顔を見る…
先程までは疲れ切っていた表情だったのが、一変して険しい顔になっていた。
「お初にお目にかかります。私はカオフマンと申します。ホザック王国を中心に商いをしております」
カオフマンは不愉快なまでの営業スマイルで話し出す。
まるでエサを見つけた蛇の様に…
「偉大なるグランバニア国王陛下におきましては、ごきげ「前口上はいい!」
カオフマンの言葉を遮り、リュカは立ち上がる。
「此処には商いをしに来た…と言う事は、その後ろに並んでいる同じ恰好をした人達も、君の商品なのかな?」
「流石はグランバニア国王陛下!お目が高い!!」
営業スマイルを更に綻ばせ、腰を低く擂り手で話す男…
リュカは不機嫌な表情のまま、商品である彼等、彼女等に近付いて行く。
「商人にとって重要なのは情報です!僭越ながらグランバニア王国につきましては、調べさせて頂きました。そして現在、国土開拓の為に人員が必要であると結論に達しました」
リュカは商品を確認するかの様に、奴隷達の状態をチェックしている。
どうやら白いローブの下は裸の様で、外見だけをキレイにして体裁を取り繕ったみたいだ…
「なるほど!人員…労働力という事か!」
振り返ったリュカの表情は、満面の笑みで満ち溢れていた…
リュカの表情を見て確信した私は、ピピンに目で指示を出し、衛兵を謁見の間の外に待機させる事にした。
はぁ…今日は何って日だ…
「作用でございます陛下!簡単な食事だけで酷使できる労働力、壊れても代えでしたら私めが幾らでもご用意させて頂きます!」
「しかし20人しか居ないのでは…しかも半分は女性だし…」
「ご安心下さい!こちらに連れてきたのは、ほんの一部です。停泊中の私の船には、まだ50人程のストックがございますので…それに陛下…女は別の用途がございましょう…その為に見栄えの良い物を厳選して参りました。如何です?」
カオフマンは得意満面でリュカの顔を覗き込む。
「あはははは!気が利くねぇ、君!」
「お褒め頂き「でも、舐めないでもらいたいな!」
急にリュカの声のトーンが変わった!
そして背筋が凍る様な冷たい瞳に…
「金で女買わなきゃならない程、飢えてる様に見えるのか?」
「い、いえ…その様な事は…」
やっとリュカの怒りを感じる事が出来たのであろう、カオフマンは狼狽え始める。
「商人には情報が重要?お前、グランバニアの事しか調べてねーだろ!僕の事を何一つ調べてねーだろ!」
「そ、そんな事は…ぐはっ!」
リュカは左手でカオフマンの首を掴み、頭上高くへ持ち上げる!
ボディーガードが慌てて助けに動くが、同時に入ってきた衛兵達に阻まれ、身動きが取れないでいる。
「教えてやる、クソ野郎!現在のグランバニア国王は、過去に10年間、奴隷として生きていた時代があるんだよ!」
言い終わると、ボディーガードに向けてカオフマンを投げ付ける!
カオフマンはボディーガード二人と倒れ込み、咽せ返っている。
「おい!クソ商人!此処にある商品全てと、お前の船及び船内の商品、そしてお前等の命を買ってやる!」
そう言うと懐から1ゴールドを取り出し、カオフマンに投げ付けるリュカ。
「な、1ゴールド!?幾ら何でも…「じゃぁ買わん!お前は死刑だ!イヤなら1ゴールドで納得しろ!」
つまりは全て没収…と言う事だ。
カオフマンは渋々了承する。
しかしこのまま帰したら、まだ被害者が出るのでは…?
そう思った時にティミーが発言してきた。
「陛下!この者は不敬罪に類する行為を行いました!どうか処罰を求めます!」
「不敬罪?何それ?」
「……………えっとですね…へ、陛下が奴隷であった事を知らないにしても、奴隷を売りつけに来るなど、無礼極まりないという事です…」
「あぁ…つまり僕を怒らせちゃったから、懲らしめちゃおって事!うん。そこら辺はよろしく!」
「そ、そんな!さっき死刑は無いと…」
「それと不敬罪は別件だ!投獄しておけ!」
ピピンがテキパキと処理を進める…さすが私の義息子!ウンウン、良い働きっぷりだ!
「あ!ピピンお願いが…」
「は、何でしょうか!?」
「うん。アイツの船に部隊を派遣して、残りの人達の保護を頼むよ。アイツの部下が残っていると思うから、気を付けてね」
ピピンが部下を引き連れ港へと向かう…
リュカは元奴隷達に近付き、無骨な首輪を外そうとしている…が、
「お、お止め下さいませ、陛下!これは外してはなりません!」
必死で抵抗された。
「?…実はお気に入りですか?」
首を傾げ何時もの調子で呟くリュカ…そんな訳ないだろう!
オジロンSIDE END
リュー君のお仕事③
<グランバニア>
リュカSIDE
クソ商人共が連行され、戸惑い怯えている元奴隷さん達の少女に近付き、ダッサい首輪を外そうとしたら、
「お、お止め下さいませ、陛下!これは外してはなりません!」
必死で嫌がられた。
「?…実はお気に入りですか?」
それとも嫌われたかな?さっき服の中覗いちゃったからなぁ…
「も、申し訳ございません!この首輪は大変危険な物なのです!陛下にもしもの事があっては…」
「…何が危険なの?それ…ダサいから取った方が良いと思うんだよね」
「この首輪、仕掛けがありまして…勝手に外すと『メガンテ』が発動する様、魔法が施されております…」
元奴隷の少女が、悲しそうに説明してくれる…
「しかも、この首輪には奴隷の居場所を、特定する魔法もかけてあるらしいのです…以前カオフマンが、逃げ出した奴隷を水晶を使って探し出してました」
なるほど…奴隷である証って訳だけでは無かったんだ!頭良いねアイツ…後で一発ぶん殴ろ♥
「う~ん…困ったねぇ…お嬢ちゃん、外し方知らないよねぇ?」
まだ12.3歳くらいであろう元奴隷の少女に訪ねてみるが…首を横に振るだけ…当たり前か…
「お嬢ちゃんお名前は?」
「は、はい!私ユニと申します!」
「じゃぁ、ユニ。一緒にアイツの所に行って、外し方教えてもらおっか!えーと…何つったけアイツ?カ、カオフンデマンだったけ?」
「陛下、カオフマンです」
ティミーが優しく教えてくれた。
「ティミーも一緒に来てよ。一緒にお願いしよ」
「お願いって…教えるわけないじゃないですか!」
「相変わらずだなぁ~君は~!そんなもん聞いてみなきゃ分かんないだろ」
俺はユニの手を引き、地下牢へと下りて行く。
そう言えば俺、グランバニアの牢屋に行くのって初めてだ!
牢屋…其処はジメっとしてて、変な臭いがする所。
俺ここキラ~イ!
さして広くない独房の1つに、さっきの商人…カオ…なんとかってヤツが蹲っている。
少し離れた独房に、ボディーガードも別々に入れられている。
番兵に牢屋の鍵を開けてもらい、クソ商人の独房へ入る。
入ってきた俺を恨めしい目で睨むクソ商人。
取り敢えず1発ぶん殴ってから話を切り出した。
「ねぇ、お願いがあるんだ!この首輪の安全な外し方を教えてよ!」
「へ、陛下!何でいきなり殴ってるんですか!?教えてくれるわけ無いでしょう…それじゃ」
さすが突っ込み要員のティミー君!素晴らしい突っ込みだ…ナイスなボケ役が居れば、漫才師になる事も出来るだろう。
「うん。メンゴメンゴ!面見たら殴りたくなっちゃって!まぁ…許せよ…な?」
「ふざけるな!誰がお前になんか教えるか!」
口と鼻から血を垂らしながら、威勢良く突っぱねられた。
仕方ないからもう1発ぶん殴り、床に倒れ込んだクソ商人の顔を踏み頼み込む。
「そんな事言うなよぉ~…この通り、お願いだよぉ~」
「な、何がお願いだ!!これがお願いする態度か!!」
「だってカオフンデマンだろ?顔踏んでほしいんだろ?」
「私はカオフマンだ!顔踏んでほしい訳ではない!足を退けろ!!」
何だコイツ偉そうだな!
俺は踏むのを止め、このクズの頭を鷲掴みにし、俺の目線の高さまで持ち上げる。
「ほら、踏むの止めたよ。さっさと外し方を教えろ!言わないとこのまま頭を握り潰すぞ!」
少しずつ力を込め、苦痛を与える。
「うぎゃぁぁぁ!!ヤメロ!言う!言うから!」
俺は手の力を抜き、喋れる様にしてやる。
「………実は…私も知らないんだ…」
「……あ゛?何!?」
俺はまた手に力を込め、コイツの頭を締め付ける。
「ぎゃぁぁ!ほ、本当なんだ!外す事無いと思ってたから、知らないんだ!!ぐあぁぁぁぁ!!頼む!!止めて!!」
「へ、陛下!!止めてあげて下さい!!本当に知らないんだと思います!だから止めてあげて下さい!!」
驚いた事に、ユニが俺に止める様懇願してきた!
俺はカオフマンを独房に隅に放り投げ、ユニの頭を撫でながら呟く。
「優しいなぁ…ユニは…」
あぁ…思い出すなぁ…
子供の頃、レヌール城でクソジジイボコボコにした時も、ビアンカにこんな泣き顔で止められたっけ…
「おい!外し方知らないんじゃ、どうやって外すつもりだったんだよ!」
独房の隅でカオフマンが啜り泣きながら話す。
「外す事なんか最初から考えて無かった…光の教団に、首輪の作り方を教わった時に『外す方法は必要ない』と言っておいたんだ…本当に知らないんだ…だから…酷い事しないで…お願い…」
カオフマンは泣きながら話す…
頭を潰されそうになったのが、相当堪えたのか…元から打たれ弱いのか…
奴隷という弱者をいたぶるヤツだ…いたぶられるのは苦手なんだろう…
俺はカオフマンに唾を吐き付け、牢屋を後にする。
心優しいユニの手を引き…
「父さ…陛下は、そうやって女の子を誑かすんですね」
ユニと手を繋ぎ歩く俺を見てティミーが呟く。
甚だ不本意な言われ様だ!
最近生意気な事を言う様になってきた!誰に似たんだ?俺は違うぞ!!
「…何だ?ティミー君は狙ってたのか、この子を…何だったら譲るぞ!」
「ち、違いますよ!何でそう言う結論に達するんですか!?」
「それとも僕と手を繋ぎたかったのか?もう1本余ってるぞ。ほら!」
嫌がらせでティミーに手を差し伸べる。
「陛下の手を握るなんて、畏れ多くて遠慮致します!心底!」
可愛くない!
謁見の間に戻ると、みんな食堂へ移動したと報告を受けたので、俺達も向かう事に。
食堂に入ると、ビアンカ達と元奴隷の方々が、お茶を飲み語らっていた。
ビアンカ達が気を利かせてくれたんだろう…
元奴隷の方々も表情が軟らかくなっている。でも、まだ少し遠慮がちだ…
「お!?リュカ、どうだった?外し方喋ったか?」
ピエールが不安そうに訪ねてくる。
「うんにゃ!アイツも外し方知らねってよ!」
「…そ、そうか…」
しくじった…明るめだった雰囲気を、暗くしてしまった!
空気読めないとか言われたくねぇ~!
「陛下…手詰まりですね…」
そしてティミーが追い打ちをかけて暗くする。
よし、チャンスだ!ティミーに擦り付けよう!
「おいおい、ティミー!空気読めよ…そんな簡単に諦めちゃダメだろ!ヤツから聞き出せなかっただけなんだから、手詰まりじゃないよ!」
「そうよ!リュー君なら何とかしてくれるわよ!」
もー、スノウ最高!
その根拠のない信頼…ありがたいね!
「申し訳ございません…しかし、どうするのですか?光の教団は、もうございませんし…解除方法を言っている人間は居ないのでは?」
「ティミー君は堅いなぁ…頭も性格も…男が堅いのは一部分だけでいいんだよ。其処さえ堅ければ女の子にモテるんだよ」
「やだー!リュー君のエッチィ~!」
スノウが楽しそうに笑い、ビアンカとピエールが頭を押さえ首を振る…あれ?もしかして呆れてる?
リュカSIDE END
後書き
さて、今回出てきたメガンテの首輪は重要だから憶えておく様に!
リュー君のお仕事④
<サンタローズ>
リュリュSIDE
村でリンゴ農園を営んでいるメーロさんの息子のマールス君が、取れたてのリンゴを持ってきてくれた。
私は、お墓に供える花を摘んで帰って来た所だ。
村の入口に入ったら、
「ほらリュリュ!取れたてだから美味いぜ!」
って、リンゴを渡してくれた…
「何時もありがとう…」
私がリンゴを受け取ろうとした次の瞬間…空からお父さんが下りてきた。ルーラの魔法である!
「やぁリュリュ。今日も美人で安心したよ…あれ?またオッパイ大きくなった?」
「やだ、もう…目聡いわね…」
相変わらずのお父さん…急に現れ、爽やかにエッチな事を言う。
他の男性だったら嫌悪するのに、お父さんだと笑顔で許せる…ズルイよね。
「お!?美味そうなリンゴだね!貰うよ!」
マールス君が私に向けて差し出してたリンゴを勝手に貰うお父さん。
「あ!それはリュリュに…」
抗議の声を上げたが、お父さんが素手でリンゴを割るのを見て、言葉が出なくなっている。
半分にしたリンゴの片方を自らの口に…もう片方を、一緒に連れてきた女の子に渡し、話を進める。
「マーサばーさん居る?それとも、男作ってどっか行っちゃった?」
「怒りますよ!ばーさんだなんて…まだまだ若いじゃないですか!」
「あはははは!じゃ、内緒にしといて」
そう言うと、女の子の手を引きサンチョ邸へ歩き出した。
「…マールス君!リンゴありがとうね!」
私はマールス君にお礼を言って、お父さんの後について行く。
いったいあの女の子は何なんだろうか?
まさか…私の腹違いの妹だろうか?
う~ん…否定できないのが怖いわ…
「相変わらずサンチョの入れてくれた紅茶は美味しいなぁ…」
サンチョ邸でしみじみ紅茶を飲むお父さん。
マーサお祖母様を待っているのだ。
「ところでリュリュ…さっき入口で出会った少年は誰?彼氏?何か頼りなさげだったけど…」
「違うよ、お友達よ。3年前にサンタローズへ引っ越してきた、メーロさんとポミエさんの息子さんだよ。リンゴ農園を営んでいるの!美味しかったでしょリンゴ」
「うん。お腹空いてたからね…」
「リュカ様、お腹がお空きでしたら何か作りましょうか?」
「本当に!?いや~悪いねぇ~急に押しかけて食事たかっちゃって!ユニもお腹空いてるから、2人分お願いするよ」
そう言うと隣で大人しく座っている少女の頭を撫でる。
ちょっと羨ましいなぁ…
ところで何なんだろう、この少女は…
服装が変だ。
何が変って…あのゴツイ首輪が変だ…
取ればいいのに…お気に入りなのかな?
サンチョさんの料理と同じタイミングで、マーサお祖母様が2階から下りてきた。
「いらっしゃいリュカ…そちらのお嬢さんは誰?…アナタの娘?…やはりまだ居たのね!母親は誰!?」
お祖母様、決めつけちゃってる!
「ちまいまふ!ほくのふふへひゃはりまひぇん!!」
お父さん、食べながら喋るのは下品です!
「こらリュカ!食べるか喋るか、どちらかにしなさい!」
「…(もぐもぐ!)……(ガツガツ!)………」
お父さんは一心不乱に食べ続ける…
・
・
・
待つ事凡そ10分。(おかわりまでしたし…)
「………で、その娘は誰の子なの!?」
「違うって!僕の子供じゃないよ!」
「じゃぁ何なの?」
「うん。奴隷を買ったんだ!」
…………………………
(パシーン!!)
マーサお祖母様の平手がお父さんの頬を勢い良く叩く!
「アナタ自分が何したか分かってるの!アナタも奴隷だった経験があるのでしょう!なのに…「ち、違うんです!陛下を責めないで下さい!陛下は私達を救ってくれたんです!」
救った?いったい………
「まだ…救ってないよ…それを外さない事には救ったとは言えないよ…」
「いったいどういう事なの!?説明しなさい!」
「うん。あのね………」
・
・
・
やっぱりお父さんは優しい!
私も見たかったな、奴隷商人に1ゴールドを叩き付けたところを…
「なるほど…その首輪を安全に外したいのですね…」
「うん。母さんなら何とか出来るかなと思ってね。伊達に20年以上魔界に君臨していた訳じゃないでしょ!?」
「甚だ不本意な言われ様ですね。…まぁいいでしょう…では、ユニちゃんと言いましたね?…その首輪を調べたいので、一緒に書斎まで来て下さい」
ユニちゃんは、少し戸惑いお父さんの顔を見る。
「大丈夫だよ。僕のお母さんだから…とっても優しい人だよ。息子以外には!」
コクっと頷きマーサお祖母様と2階へ上がって行く。
「さて…あとは母さんに任せればいいか…あ~ホッとしたらお腹空いてきた!サンチョ、まだご飯あるぅ?」
「相変わらずよく食べますねぇ…」
そう言いながらもサンチョさんはお父さんの為に料理を始める。
「いや~…体力使うからねぇ~…毎晩!」
毎晩って…
「そりゃ体力使うわよね!未だにルーラを使って、世界を巡ってるんでしょ、リュー君は!」
振り向くとお母さんと妹のフレイが立っていた。
「もう、来たのなら声をかけてくれればいいのに!」
「ごめんごめん!急務があったからね…」
お母さんはお父さんに抱き付くと、娘の目の前で甘え出す…
「いや~でも、本当にルーラって便利だよね!大変な思いをして習得して良かったよ!」
いいなぁ…私もルーラを覚えたいなぁ…
「お父さん。ルーラってどうやって覚えるの?私も使える様になりたい!」
「ものっそい大変だよ!いいの?」
「覚悟はあります!これ程の魔法だもの…どんな試練にでも耐えてみせるわ!」
「……………う~ん…じゃぁ『ルラフェン』に行ってごらん」
「ルラフェン?」
「うん。ビスタ港から船に乗って、ポートセルミへ…其処から西に行くとルラフェンだ!迷路みたいな町だから、行けばルラフェンだと分かるよ。其処で『ベネット』って言う爺さんを捜しなさい。その人が知っているから…」
「お父さんが連れて行ってくれないの?」
「手間を惜しんじゃダメだ。苦労してこそ価値があるんだよ」
さすがお父さん!格好いい事言うわ!
「それに…めんどい!…あの町、迷うんだよね…」
………もしかして、こっちが本音?
「大丈夫?危なくないの?」
お母さんが心配してくれる。ちょっと嬉しいな…
「大丈夫だよ。リュリュは魔界へ行った事があるくらいなんだ!それに心強い仲間モンスターが居るだろ!え~と…アクユウ…だっけ?強そうじゃん!」
「アークデーモンのアクデンよ、お父さん!」
「そう、それ!アイツ、リュリュに近付く男を威嚇しまくってるだろ!僕も睨まれるんだ!娘に手を出すかっつーの!そりゃぁ、リュリュは僕好みに成長してるけど…」
ちぇっ!さすがのお父さんも、娘には手を出さないらしい…残念!
「じゃ、折を見てルラフェンに行ってみるわね!」
ルーラ習得について色々教わったところで、2階からマーサお祖母様がユニちゃんを連れて下りてきた…手には無骨な首輪を持って!
「母さん!?外す事が出来たんだ!」
「まぁ…ね!簡単だったわよ。『マホトーン』で封じる事が出来たわ」
「マホトーンでぇ!?」
「そのくらい思いつかなかったの?」
「だって、僕はマホトーンを使えないもん!」
「………確かティミーちゃんが使えたでしょう」
「アイツがそんなに気が利くと思うの?思考が堅いんだよ!まだリュリュに未練があるし…」
「まぁ…あの子の美点でしょ…父親に似なかった事は!」
「言ってくれるね!まぁいい…自慢の息子に活躍して貰う為に、今日はもう帰るよ」
お父さんはお母さんと濃厚なキスをして、ユニちゃんと一緒にルーラでグランバニアへ帰って行った…
うん!私もルーラを覚えよ!
リュリュSIDE END
リュカと貴族と娘達の騒動。……偶に息子が巻き込まれます!
<グランバニア城-謁見の間>
マリーSIDE
どーも、こんにちは…日に日に美少女のオーラを醸し出す0歳児、マリーちゃんです。
赤子生活を始めて早半年…
私は今、見た目だけは超イケメンのお父様の腕の中に抱かれてます。
そして、そのお父様が何処に居るかと言うと、グランバニア城の謁見の間で玉座に座っております。
何故そんな所で赤子をあやしているかと言いますと、現在目の前には謁見に訪れた貴族が一人、お父様にゴマを擂って居るからです。
はい、つまりは謁見中ですね!
国王の大事な仕事である、謁見中に赤ん坊と戯れるなど、言語道断!…って、ご立腹の方もいらっしゃると思いますが、違うんですよ。
どう頑張っても王様に見えないこの男が、王様らしい事をしているのを見てみたくて、策を巡らしてこの状況を造ったんです!
お父様に抱かれてないと、騒ぎだし泣きまくると言う、赤子ならではの荒技を駆使して…
普段はチャラ男のお父様が、仕事中は王様らしく威張り散らしているのかと思い、無茶して謁見に立ち合ったのですが………
この男、普段と変わらないんです!
今、目の前ではカリメロだか、カリフラワーだかの伯爵が、一生懸命媚びを売ってるのに…
「なぁ、カルバルト伯爵…ゴマスリはいいから、本題に入ってよ。長時間お前の面を見ていると、気分が悪くなるんだ…」
って………
公式の場面とは思えない発言!
たとえ王様にでも、こんな酷い事を言われたら普通は激怒しますよね。
でも彼は怒りません。
けして人間が出来てるからではありませんよ…だって額に青筋を浮かべて、引きつった笑顔をしてますもん!
そう、彼は怒れないんです。
何故かというと、3ヶ月前に端を発します。
この国で貴族に対する課税の法案を、無理矢理執行したからなのです。
勿論、そんな事が出来るのはだた一人…私を抱いているイケメンパパの、リュカ国王陛下です。
まぁ金はある所から取ろうと言う、考え方は間違って無いんですけど…
気位ばかり高い貴族が黙っている訳ありません!
直ぐさま兵を挙げ内乱を起こそうとしたのですが、貴族への課税と同時に、平民への減税と、グランバニアに住む全ての人々への福祉や公共機関の向上を約束した為に、最前線で戦う兵士が貴族軍には集まらなかったんですね。
その為グランバニア王国軍と貴族軍の、兵力比が1000:1と結構笑える結果だったんです。
それでも状況の見えない貴族は、数の差を奇襲という作戦で補おうと1カ所に集まったんです。
目の前に居るカルバルト伯爵を筆頭に、グランバニア有数の貴族達が集まったんですが…やはりバカはバカです!
【我らはリュカ王に奇襲を行う崇高なる貴族連合である!我らに賛同する者は同士として迎えよう! 奇襲作戦決行は、△月×日 正午より決行する! 当日の朝には○○○へ集合されたし! 志ある同士の参加を期待する!】
てな感じのビラを、グランバニア中に撒き散らした様です。
奴等、奇襲作戦の意味分かってんのか?
当日の朝、集合場所へお友達モンスターと共に赴いたお父様は、殺傷能力を無くしたハリケーン並のバギクロスで、貴族達を吹き飛ばし終わりにしたそうです。
因みに、この内乱での死者は0。
お父様のバギクロスで大怪我をした貴族が多数居たぐらいでした。
尚、この内乱に参加した貴族達には、お咎めは無かったそうです。
意外に寛大だなと思い、お兄様が「お父さんは優しいですね!」って、凄い尊敬の眼差しで見てたんですが…
「バカだなぁ、今後ネチネチいたぶるんだよ!」
と、嬉しそうに話してました。
素敵すぎて惚れそうです。
そんなわけで、目の前にいる元崇高なる貴族連合の筆頭は、お父様に対して媚び諂ってるんですね!
さて、話を今に戻しますが…
このカルなんとか伯爵が謁見に来た理由ですが、お兄様の花嫁を推薦しに来たようです。
と言っても、自分の縁者でしょうけど…
因みに、殆どの国民(貴族、平民問わず)は、この国の王子殿下の顔を知りません。
まだ11歳ですから…公式の場には出てこないんですね。
本人も嫌がってますし…
てなわけで、直接アプローチ出来ない貴族達は、お父様を使って縁戚を入手しようと躍起になってるんですね。
「………そんなわけでして、我が一門には殿下にお似合いの者が多数居ます。一度、お顔合わせなどをと思いまして…」
何で一度も見た事無いのに、お似合いだと分かるんだよ!
「う~ん…みんな可愛いんだろうねぇ…」
「えぇ、勿論でございます!」
「困ったねぇ…」
「は?何がお困りでしょうか?」
えぇ!何故に困るのですか?
「うん。僕の息子はねぇ…ブス専なんだ!」
「はぁ~?」
何言ってんのこの人!
お兄様はリュリュお姉様にベタ惚れの、近親相姦1歩手前でしょ!?
リュリュお姉様は可愛いわよ!
町を歩けば男は皆見とれるぐらい。
「ほら、僕の奥さんちょ~美人じゃん!愛人も美人揃いだし、娘達も美少女しか居ない!だからさ、美的感覚がおかしくなっちゃたんだよね…自分の周囲には居ないタイプが、美人に見える様でさ…まぁ本人の好みだから、僕としては強制したくないしさ…」
「そ、それは…また…その…何というか…」
伯爵、困ってる!ちょ~うける~!
なるほど、これが狙いね!
お父様特製、嫌がらせ爆弾!
「だから諦めてよ」
「何を言われます陛下!我が一門には殿下のお好みに添う者も居ります!近日中に王都へと呼び集めますので、暫くお待ちくださいませ!」
そう言うなり伯爵は、お父様にお辞儀をして大慌てで帰っていった。
数ヶ月後、噂を聞きつけた貴族共が、挙って平民の少女を多数養女へと迎える。
王家主催で行われたパーティーで、貴族に成り立ての少女達を、親達が挙って自慢する光景が繰り広げられた!
そして、それを影から見て大爆笑する国王が居たという…
どうやら真の狙いはこっちだったみたい…
後書き
リュカさんの趣味の一つ…
貴族イジメ。
親への感謝の気持ち①
前書き
この話は、2/13に思い付き、急遽書き上げた作品です。
<サンタローズ>
ポピーSIDE
魔界の魔王ミルドラースを、伝説の勇者とその一行が倒し、世界には平和が訪れ始めた。
世界を救った立役者…勇者の父であるリュカも、ミルドラース討伐後はグランバニアへと戻り、国王として自国民の暮らしを守るべく政務に励んでいる。
その英雄リュカの活躍により、長きに渡り魔界で幽閉されていた聖母マーサも救出され、生き別れになった親子の時を取り戻すかの様に、マーサもグランバニアへと帰ってきた。
しかし英雄王リュカの父パパスの墓が、サンタローズに築かれている事を知ると聖母マーサは、愛しき夫の側で暮らしたいとサンタローズへと移り住む事に…
リュカ王は、生まれ直ぐ生き別れた母とは一緒に暮らしたいと思うも、愛しき母の気持ちを優先し、聖母マーサのサンタローズへの移住を快く承諾する。
そして世界に平和が訪れた最初の年が明け2月14日…
今まで生き別れていた為に、親孝行らしい事も出来なかったリュカ王は、生を与えてくれた愛する母へ、感謝の気持ちを込めて、カーネーションの花束と王妃ビアンカと共に焼いたケーキを手に、サンタローズに移り住んだ聖母マーサの元へ訪れて、感謝の気持ちを伝えたと言う…
「私は忘れない…あの時のマーサお祖母様の嬉しそうな笑顔を…その笑顔から止め処なく零れる、涙の美しさを…」
「僕だって忘れないけどさぁ…何なの、僕達を集めて…しかも長々演説までして…」
マーサお祖母様の家のリビングで、テーブルを囲みお父さんの子供達が勢揃いしている。
私ことポピーを筆頭に、ティミーとマリー…マリソルさんの娘リューナ、スノウの娘リューノ、ピエールの娘リューラ、そしてシスター・フレアの娘フレイとリュリュ…
また私へと連なる様にテーブルを囲み円を作っている。
そして愚兄ティミーを筆頭に、皆が困惑した表情で私を見つめている。
「じゃぁ知ってる?その事がグランバニアの人々に広まり、2月14日は大切な人へ感謝を込めて、お菓子や花束をプレゼントする日になったって!」
「知ってるよ!さらに言えば、発祥元の父さんがそれを聞いて『へー…バレンタインデーみたいじゃん!』って言ったのが元で、この日をバレンタインデーって呼ぶ様になった事も!」
ティミーがリュリュの前で恰好つけようと、持てる蘊蓄を最大限に披露する。
そんな事に口を動かすのなら『リュリュ好きだ!ヤらせてくれ!』ぐらい言えれば早いのに!
「ねぇティミー君…そのバレンタインでーっで元々どういう意味なの?」
「うん、僕も知りたくて父さんに聞いたんだけど…『知らないよ、そんな事!だってそう言われてるんだもん!』って、よく分からない答えが返ってきた」
「はいはい、話を元に戻すわよ!」
放っておくとこの愚兄は、リュリュだけを見つめデレデレし始める…
私がしっかり纏めないと…
「で、明日に迫った2月14日に向け、私達でお父さんに何かプレゼントを贈ろうと思うのよ!」
「まぁ素敵ですぅ、ポピーお姉様!」
ふむ…本心かどうかは別にして、マリーは賛成してくれると思ってたわ!
「私は…別に…構わん………父上の事は…す、好き…だから…」
よし…口下手なリューラも賛成してくれたわ!
「ふん…まぁいいわ!お父さんが喜ぶと、お母さんも喜んでくれるから…か、勘違いしないでよ!私はお母さんが喜ぶ顔を見たいだけなんだからね!」
うん、ウザイけどリューノも協力してくれそうだ。
「うふふふ、私も頑張ります!お父さんに褒められたいの!」
まぁリューナは、私達の中でも1.2を争うファザコンだから、100%賛成してくれると思ったけど…リュリュとどっちがファザコンだろうか…?
「リュリュとフレイは手伝ってくれる?」
リュリュに関しては心配は無い…リューナと同じ理由だから。
ただフレイが読めない…
「手伝うと言われましても…何をするかにもよりますね。女好きのお父さんに、娘一同で身体を捧げると言われれば、協力は出来ませんから」
マリーと同い年とは思えないクールさ…思考が読みづらいわぁ…
「それも考えたけど、そうするとティミーが邪魔じゃん!だから、そんな事はしませんよ!でも、個人的にやりたい人はご自由にどうぞ…私は止めません!」
「ふむ…では何を?」
「うん。私はこの秋にラインハットに嫁ぎます…明日の2月14日がお父さんだけの娘である最後のバレンタインデーです…だから通例に従って、みんなでクッキーを焼きたいと思います!」
「「「おぉ…いいわねぇ…」」」
ふむふむ…概ね良好ね!
でも私の愚兄が困り顔?
「なぁポピー…僕は料理なんてした事ないんだけど…」
「バカじゃないの!?アンタ私の話を聞いてた?『みんなで』って言ったの!料理したことなくても、した事ある人の手伝いは出来るでしょ!ティミー一人で作れって言ってるわけじゃ無いのよ…」
「う、うん…わかったよ…何すれば良いのか指示をくれよ」
まったく…世話の焼けるお兄様ねぇ………あれ?何故だかリュリュまでもが困り顔ね…
「リュリュ…どうしたの?お父さんにプレゼントしたくないの?」
「ち、違うよ!私お父さんの事大好きだもん!プレゼントはしたいよ…クッキーだってケーキだって…私自身をプレゼントしたいぐらいよ!」
私の兄妹は変態揃いね…
極度のシスコンに暴走気味のファザコン…
「じゃぁ何で浮かない顔してんの?」
「………私…料理……ないの…」
「え!?何?聞こえないわ!」
珍しく俯き口籠もるリュリュ…
思わず強い口調で聞き返してしまう。
「りょ、料理が出来ないの!!」
叫ぶ様にカミングアウトしたリュリュ…
皆、黙ってしまった。
「だ、だからさぁ…みんなで協力してクッキーを焼こうねって言ってるんじゃないの!料理出来なくても、一緒にお父さんの為に頑張ろうよ…ね?」
リュリュは恥ずかしさのあまり涙目になっている。
盲点だった…リュリュが料理出来ないとは…
全てにおいて男受けするリュリュ…
そして男の心を鷲掴みにする料理の腕…
男は皆、リュリュのエプロン姿を想像し、シコシコ励んでいるに違いない…
マリーですら、簡単な料理ならこなせるのに…
「ともかく、そんな泣かないで…一緒に頑張るわよね、リュリュ?」
「ポピーさん、お姉ちゃんの料理下手は壊滅的なんですよ!それでも料理させますか?」
ひ、酷い事を言う妹ね…
少しはお姉ちゃんを庇いなさいよ…
…私も端から見たら兄を苛める酷い妹なのかしら?
気を付けた方が良いかしら?………まぁ私の場合はいっか!相手はティミーだし!
「フレイちゃん!そんな酷い事を言ってはダメだよ…お姉ちゃんだって、頑張れば上手く出来るよ!ね、リュリュ…一緒に頑張ろう!」
リュリュの事となるとコイツが張り切る…
今回は有りがたいが、正直引くね!
リュリュの手を握り、一生懸命励ますティミー。
お前知っているのか?妹(マリー)に『キモい』って言われてるんだぞ!
私ですら言った事無いのに…『キモい』って言われてるんだよ!
そろそろ気付いてよ…
「大丈夫よリュリュ…作って失敗したら、優しいティミーが全部食べてくれるから!ね、お兄ちゃん!」
「あぁ!勿論だとも!リュリュの作ったクッキーなら、喜んで食べさせてもらうよ!」
あぁ…本当だ…コイツ、キモい…
失敗した不味い物は全部お前が食えって言ったのに、コイツ気付いてない…
色々な意味で不安になってきたわ…
私、お父さんに感謝の気持ちを伝えたいだけなのに…
後書き
分かりやすくリュカチルドレンの一覧を掲載します。(この話の時点)
母ビアンカ=ティミー(男16)・ポピー(女16)・マリー(女6)
母フレア=リュリュ(女16)・フレイ(女6)
母スノウ=リューノ(女6)
母ピエール=リューラ(女6)
母マリソル=リューナ(女7)
言うまでもないですが、父親は同一人物です。
性別横の数字は現在の年齢です。
蛇足…
リュリュの料理下手設定は、以前「二次ファン」で掲載していた『リュリュちゃん冒険日記 』にて語られた事です。
知らなかった人、ごめんなさい。
知っていた人、ある意味ごめんなさい…多分『リュリュちゃん冒険日記 』掲載は遠い未来になりそうです。
親への感謝の気持ち②
<サンタローズ>
ポピーSIDE
辺りは暗くなり、後4時間もすればバレンタインデーへと日付が変わる頃、お祖母様宅のキッチンにある作業用テーブルで、俯せで気絶するティミーが目にはいる。
「ティミー君…ねぇ、ティミー君!大丈夫!?ティミー君!!」
隣には泣きながらティミーを揺さぶるリュリュが…
あはははは………すんごいカオス!
此処までの状況を説明しよう。
キモいティミーに我慢しながら、クッキー作りを開始したリュカチルドレン!
私が予め用意しておいた食材を使い、思い思いの形にクッキーを作って行く。
そして焼き上げ、出来栄えを試食する面々…
多少の焦げや型くずれなどがあったものの概ね成功で、ティミーも初料理を成功させた…
一人を除いて…
「リュリュ…これ…何?」
私は『フンコロガシ』と言う虫が転がしてる物体によく似た物を指差し、制作者のリュリュに尋ねてみる。
「…ク、クッキー?」
「私に聞かないでよ!確かにクッキーを作ってたはずよ…でもこれは…」
「何だよ!ちょっと見た目が悪いだけだろ!味に大差は無いよ!」
心優しき我らのお兄ちゃんが、リュリュが作り出した謎の物体を勢い良く口に放り込む。
「うっ………」(バタン!)
凄い…私初めて見た…人が泡ふいて倒れたよ。
「きゃー!ティミー君!しっかりして、大丈夫!?」
10分後…
黄泉の国から無事生還したティミー…
「大丈夫…ごめんね、私の所為で…ごめんねティミー君…」
目覚めたティミーを見て、メソメソ泣き出すリュリュ…
「ち、違うよ!リュリュの所為じゃ無いよ!勢い良く口に入れたから、喉に詰まっちゃっただけだよ!お、美味しかったよ!ほ、本当に…」
「あぁそう…美味しかった…じゃぁ全部食べなさいよ!見た目悪いから、全部失敗作よ、これ!」
「うっ………た、食べるよ!美味しかったもん…リュリュの作った最高のクッキー…全部独り占めだぜ!」
大変ね男って…惚れた女に泣かれると、ムリをしてでも嘘を吐くのね…
ティミーは残りのリュリュクッキーを一気にほおばり、そしてダッシュでトイレへと駆け込んだ。
「あの姿を見て、惚れる女が居るのかしら?………ふぅ、じゃ概ね成功だし、お嬢ちゃん達は早めにお家に帰さないとね。リュリュ、私はこの子達を送ってくるね…直ぐ戻って来るから、そうしたら再挑戦よ!」
「う、うん…頑張る…けど………ティミー君は良いの?」
便器に顔を突っ込み気絶する兄をチラリと見て…
「そっとしておきましょ…」
と呟き、ラインハットとグランバニアへちびっ子達を送り届ける為ルーラを唱える。
ちびっ子達を送り届け、サンタローズのお祖母様宅へ戻ると、リビングのソファーでティミーが横になっている。
フレイに膝枕されているが、リュリュクッキーの所為で苦しそうに寝ている…
フレイは心配そうにティミーの頭を撫でて、一生懸命介抱している。
変態が此処にも居た…
どうやらフレイはブラコンの様だ。
ティミーお兄ちゃんを愛している様だ。
二人を見つめる私と目が合うと、恥ずかしそうに顔を赤くしそっぽを向いてしまう。
うふふ…大変ね!其奴は貴女のお姉ちゃんにベタ惚れよ!
大変ね!そのお姉ちゃんは、実の父親にベタ惚れなのよ!
そしてお父さんは絶対に娘には手を出さないわ!大変ね♥
飽きないわぁ…見てて飽きない!
家族を見ているだけで、こんなに面白いなんて…
やっぱりお父さんには大感謝よ!
こんな素敵な家族に巡り会わせてくれて。
「おら!何時までも寝てんじゃないわよ!クッキング再開よ!」
心がほっこり和んだところで、フレイの膝枕で寝るティミーを蹴飛ばし、ソファーから転げ落とす!
「いって~…」
「大丈夫ティミー君?」
心配そうにティミーに近付き声を掛けるリュリュ…
「だ、だいじょう……ぶ……」
床に転げた状態で、リュリュを見上げるティミーの視線が停止する。
「リュリュ…その位置に立ってると、ティミーにパンツが丸見えよ。つーか今観賞中よ」
「きゃー!ティミー君のエッチ!!」
「ち、違…そんなつもりは…」
「あはははは、ティミー何色だった?」
「え!?し、白…」
真面目に答えてんじゃないわよ!
そう言う時は嘘を吐きなさいよね…
「エッチ!」
「あ、いや…ごめん…その…」
「良いじゃないのリュリュ。貴女のクッキーを食べて死にかけたんだから、それぐらいのご褒美をあげても!…さ、再開よ」
・
・
・
「ティミー君…ねぇ、ティミー君!大丈夫!?ティミー君!!」
隣には泣きながらティミーを揺さぶるリュリュが…
「…死んだ?」
「い、生きてるよ!リュ、リュリュのクッキーで死ぬわけ無いだろ…」
愛の力って凄い…
しっかし、そんなに不味いのかしら?
私はテーブルに落ちてた一つまみの欠片を試食してみた。
「うっ、ゲロまず!」
「ふぇ~ん…ごめんなさい…」
「口に気を付けろバカ女!不味くない!独特な味がするだけだ!」
それを不味いって言うんだよバ~カ!
「私もう止める…クッキー作らない!」
リュリュが泣きながら放棄する。
「止めるって…じゃぁお父さんへのプレゼントはどうするの!?」
「私…別の物をプレゼントする…」
「別の物?」
「お父さんエッチだから、私の脱ぎたてのパンツをプレゼントする!こんな不味い物より、ずっと喜ぶわ!」
あぁ…とんでもなく暴走してる…
「あのねリュリュ…プレゼ「もうヤなの!パンツがダメなら、私の処女あげる!」
もうそれお父さんの為じゃなく、自分の欲望だろ…
「リュ、リュリュ…諦めちゃダメだ…リュリュのクッキーは美味しくなってきてる…だから…諦めちゃダメだ!もう一息だ!」
リュリュのパンツと処女を守る為、ティミーは頑張るわ…
守ったってアンタの物になる可能性は低いのよ…
「リュリュ、聞いて…プレゼントってのは、心よ!相手を思う心が重要なの…例えお父さんが好きなパンツをあげても、それはクッキー作りを諦めた結果じゃない…それに心がこもると思う?きっと不味くても、手作りクッキーの方が喜んでくれるわ………せめて見た目だけ…見てくれだけでも良いのを作りましょ」
私は優しく、リュリュの頭を撫でて説得する。
「………うん………」
フレイに抱き付きメソメソ泣くリュリュ…何とか続行を承諾し、材料をこね出した。
「ティミー…アンタもういいわ。ご苦労様…あっちでフレイと休んでなさい」
「わ、分かった…ちょっと外の空気を吸ってくる…」
「出来るだけ川下でね!」
死相の出てるティミーがヨロヨロとした足取りで外へと出て行く…
「ティミー君、大丈夫かな?」
リュリュは残り少ない材料を、オーブンへ入れティミーを心配する。
「ダメでしょ、もう!…まぁ良いんじゃない?大好きなリュリュの手料理で死ねるなら!」
「ダメだよ、そんなの…だって私…」
「ティミーの事など眼中に無い?」
「そ、そう言うわけじゃ無いけど…お父さんが好きだから…」
「哀れねぇ、ティミーも………後ででいいから、ティミーにお礼をしてあげてね。リュリュの為に頑張ったのだから…」
「…う、うん…」
何とかリュカチルドレンのクッキーは揃った。
リュリュのクッキーも見た目だけは普通に…
後は明日、みんなでお父さんに手渡すだけ…
きっと不味くても、お父さんなら喜んでくれるはず…私達のお父さんは、凄く優しいから!
親への感謝の気持ち~そして…
<グランバニア>
ポピーSIDE
「「「「「お父さん、何時もありがとう!」」」」」
私達はグランバニア城の中庭で、お父さんに手作りクッキーを手渡している。
「お父様ぁ、これからも頑張ってくださぁい」
「ありがとうマリー…お父さん頑張っちゃうよぉ!」
お父さんはマリーからクッキーの入った袋を受け取ると、中から一つ取りだし食べ、彼女を抱き締めながらお礼を言う。
「お父さん、これ…ポピーさんほど美味しく出来なかったけど…」
「そんな事ないよ。フレイの作ったクッキーは美味しいよ。ありがとう」
やはり一つ食べ、フレイを抱き締め感謝を述べる。
そしてリューノ・リューラ・リューナと続き、お父さんはそれぞれに感謝の言葉をハグと共に返す。
「父さん、これは僕から…あ、ハグはいらないから…」
「うん。僕もお前は抱きたくない!………つーかお前、顔色悪いよ?大丈夫か?」
昨晩から体調の悪いティミーも、自作のクッキーを手渡しその場から少し離れる。
どうやらクッキーの匂いを嗅ぎたく無いようだ。
重傷ね…
「お、お父さん…これ…私の…」
リュリュは恐る恐るクッキーの入った袋を差し出す…
「ありがとうリュリュ」
誰もが固唾を呑んで見守る…
お父さんは袋からリュリュ作のクッキーを一つ取り出し眺める…見た目だけはリュリュの作品で一番の出来だ。
そして徐に口に入れ、ゆっくりと味わった。
昨日のティミーを思い出す…
泡をふいて倒れたティミーを…
「………うわ~…まずっ!」
あはははは、流石お父さん!正直すぎる!!
作ってくれた娘の前で普通は言わないもの!
「うぇ~ん…ごめんなさい!そんな物食べちゃダメです!やっぱり私はダメなんです…だからパンツをあげます!お父さんに私のパンツを…い、今脱ぎますから!!」
大好きなお父さんへ、手料理を振る舞えない不甲斐なさからか、昨日の集大成がこの程度の所為なのか、リュリュは泣きながらパンツを脱ごうと、スカートの中に両手を入れる…
「リュリュ…ありがとう」
だがお父さんはパンツを脱ごうとするリュリュを抱き締め、優しく感謝の言葉を口にした。
「料理が苦手なのに、いっぱい頑張ったんだね…お父さんは凄く嬉しいよ!バレンタインデーにプレゼントするお菓子は、味なんてどうでも良いんだよ…一生懸命頑張って作ったと言う心がこもっていれば!」
「そうよリュリュ。重要なのは心なのよ…お父さんへの感謝の気持ちと言う…」
涙の止まらないリュリュを横目に、最後は私のクッキーを手渡した。
「ありがとう…来年の今頃はグランバニアからラインハットになってるんだな…」
「うふふ…寂しい、お父さん?」
「………寂しくは…ないかな…何時でも会えるしね!ただ…」
「ただ?」
「ヘンリーの事を『お義父さん』と呼ぶんだと思うとムカつく!あんなヤツ『クソオヤジ』で良いからね!」
「あは…あはははは!」
私は感極まり、お父さんへ抱き付いた。
そして止め処もなく涙が溢れてきた…
私もお父さんが大好きだから…
優しいお父さんが…格好いいお父さんが…
一緒にいると、何時も楽しいお父さん…
結婚したら、私はラインハットで暮らす事になる…
お父さんとは何時でも会えるけど、常に会えるわけではない…
結婚する事に嫌になったわけではない。
コリンズ君の事は大好きだし、新しい家族も優しいだろう…
でもお父さんと離れる事が、こんなにも悲しいなんて…
私はお父さんに抱き付いて泣き続けた…
お父さんは優しく抱き締め、気の済むまで泣かせてくれた…
お父さんは知っていただろうか…本当は私もファザコンなのだ…
初めて会った時から、私はお父さんが大好きなのだ。
お母さんと再会した時、私は悔しくてティミーを誘い夫婦の邪魔をした!
それでもお父さんは何時もと変わらず、私に優しくしてくれた。
「お父さん…何時までも…私のお父さんで居てくれる?」
「ポピー…お前が嫌がっても、僕はお前のお父さんで居続ける!」
うん。お父さん大好き!
私が泣き止んだのを確認すると、お父さんはみんなを集め語り出す。
「みんな、今日はありがとう。今日は最高に幸せな日だ!…みんなは会った事ないから知らないだろうが、お父さんのお父さん…つまりパパスお祖父ちゃんは凄い人だった。僕は未だにパパスに勝てないでいる…でも一つだけ、パパスに勝てた事を今日実感した!僕の子供は、皆素晴らしいという事だ!それだけは勝てたね!」
お、お父さん…それって…
さて、お父さんも渋々政務に戻り、私達はリビングで談笑している…
「ポピーちゃん、みんな…ありがとう。お陰で私もクッキーを渡す事が出来たわ」
アレをクッキーと呼んで良いのなら、成功なのだろう…
「それとティミー君…本当にありがとう。ティミー君が味見してくれたお陰で、どうにか食べられる物を作れたわ」
「そんな…僕は別に…リュリュの努力のお陰だよ」
お礼を言われたティミーが嬉しそうにリュリュを褒める…
するとリュリュがティミーにキスをした!
「私のファーストキスよ…私の不味いクッキーを、食べ続けてくれたティミー君にあげる……本当にありがとう」
私はコレがいけないのだと思う…
これでまたティミーの心はリュリュから離れなくなるだろう…
もしかして、ワザとティミーの心を弄んでいるのか?
だとしたら相当な悪女だぞ…
私やマリーなど足下にも及ばない…
もしそうだと、この先また面白くなるのだが…
うん。今後はティミーに優しくしてあげた方が良いかもね…せめて私ぐらいは…
………ま、いっか…ティミーだし!
~追伸~
私はコッソリとリュリュのクッキーを一つだけ抜き取っておいた…
ティミーを呼び、キッチンで試食するつもりだ!
「ティミー、お父さんは不味いとは言ってたけど、何時もと何も変わらずに一個食べきったわよね…」
「ん?うん…そう言えば…」
「これ…見た目だけじゃなく、味も挽回出来たのかしら?」
そう言うと私とティミーはクッキーを砕き、一つまみの欠片を口にする…
「「う゛っ!」」
私達は慌てて流しに顔を突っ込み、全てを吐き出してしまった…
「おぇ…ゲホゲホ…な、何でお父さんは、顔色一つ変えずにコレを食べれたの?」
「僕にだって分からないよ…あの人は全てが常人じゃないんだよ…」
これが娘を愛する親心なのかしら…
やっぱりお父さんは凄いわ…
親への感謝の気持ち…後日談
<グランバニア>
メイドさんSIDE
あの感動的なバレンタインデーから3日…
お嬢様達からプレゼントされたクッキーも概ね食され、残るはリュリュお嬢様から戴いた一袋のみ…
リュカ様は城の中央広場で、その一袋からクッキーを一つ取り出し口にすることなく眺めております…
すると貴族に連なる若い兵士達が近付き、リュカ様に話しかけるではありませんか!
「これはリュカ陛下…ご機嫌麗しく…何をなさっておいでですか?」
あの馬鹿共、分かってて近付いたのですわ!
「うん…バレンタインデーにね…娘達にクッキーを貰ったんだけど…」
「何と、流石は陛下のご息女様方です。お優しい限りですね。そんなお優しくお美しい姫様達の、手作りクッキーを独り占め出来るとは…羨ましいですなぁ!」
「うん。ありがとう…そうなんだ、僕の娘達は良い子ばかりでね…でも、料理の腕前は…」
「何を仰います!陛下の為に作られたクッキー…心がこもってるではありませんか!」
「それは分かってるよぉ…だから困ってるんでしょ!折角娘が作ってくれたクッキー…残すのは忍びない…でもこのままじゃ腐っちゃうし…折角作ってくれた物を捨てるなんて…ねぇ?」
「で、では…私めが代わりに食しますしょうか?」
「え!?でも不味いよ!」
「何を言われます!姫様がお作りになられた物…不味いわけがございません!どうか我々にも姫様の愛をお恵みください!」
「………其処まで言うのなら…はい」
リュカ様は貴族の馬鹿共に、リュリュお嬢様がお作りになったクッキーを渡してしまった!
酷い…リュリュお嬢様はリュカ様の為に、お作りになったのに…
私が少し離れた物陰から、その光景を覗き軽蔑していると、次々に貴族の馬鹿共が倒れ、泡をふいてるではありませんか!
「ふん、馬鹿者共が!僕の娘の手料理一つ、顔色を変えずに食べられなくて、僕の娘を娶れると思うなよ!」
そう言うとリュカ様は、貴族達が手にした袋を取り上げ、中にまだ残っているクッキーを取り出し食べる。
「…本当に不味いなぁ…どうやればこうなるの?」
そう呟き、執務室へと戻って行った…
流石リュカ様です!
こうやって貴族共をいぢめるのですね…
やっぱり素敵ですわ!
僕の妹がこんなに…以下略
前書き
ティミー君ファンの方ごめんなさい。
僕の名前はティミー。
僕には妹が沢山います…
一人を除いて皆可愛くて良い子ばかりです。
そんな妹たちをご紹介します。
先ず先に除外対象の妹ポピーを紹介します。
コイツは僕と双子なのだが、顔以外は全く持って似ていない!
僕がそう思っているだけではなく、周囲の人々も声を揃えてそう言います。
別に僕が品行方正な良い子だとは言いません。
しかしポピーは酷すぎるのです!
人をおちょくる事に喜びを感じる…ある種のSです!
あと3ヶ月ほどでラインハットに嫁に行くのですが、その3ヶ月後が待ち遠しいです。
僕の親友の元へ嫁に行くのですが、コイツを嫁にするなんて正気の沙汰とは思えません。
彼には悪いですが、自身のミスだと諦めて、多大なる苦労を背負い込んでもらいます。
下手に説得して、考えを改められたら困りますから…
次に紹介するのはマリーです。
僕より10歳離れてますが、とても可愛い妹です。
本当は依怙贔屓をしてはいけないのでしょうが、ついついマリーばかりを可愛がってしまいます。
ただ最近、ポピーや父さんに感化されてる様な気がして不安です…
あの二人の性格に似てしまったら将来が地獄でしょう!
ポピーは運良く女の趣味が最悪な男と出会えたので、結婚する事が出来ましたが…
あんなキチ○イな男が他に居るとは思えません!
マリーの将来は僕が守ってやらねば…
さて此処までが僕のお母さんの娘達です。
不思議な言い回しをするとお思いでしょう。
解りやすく言うと、残りの妹は父さんの愛人の子供なのです。
先ずは一緒にグランバニアに住んでいる、エルフ族の女性…スノウとの間に生まれた娘リューノ…
悪い子ではないのですが、母親のスノウを敬愛しており、スノウの喜ぶ事が大好きな女の子です。
親孝行な良い子なのですが………母親の喜ぶ事…即ち父さんとエッチをする事!
その為に色々と画策し、周囲を巻き込む問題児なのです。
まぁポピーに比べたら、大して問題児ではないのですけど…
次に紹介するのは、スライムナイトとして父さんと共に冒険をしてきた、ホビット族の女性…ピエールとの間に生まれたリューラ。
母親同様、騎士を目指しているらしく毎日剣術に励む努力家な女の子。
僕も幼い頃ピエールに剣術を指南してもらったのだが、リューラも直向きにピエールからの指導を受けている。
僕も偶にだが、リューラと手合わせをしてあげるのだが、僕と対峙すると妙に殺気立つのだが…
嫌われる事はした覚えがないのだがけど………
その反面、父さんの前に出ると恥ずかしがって、僕やピエールの後ろに隠れてしまう事も…
難しい年頃だ!
続いて紹介するのは、ラインハット城に勤めるマリソルさんの娘リューナ。
正直言うと、あまり接点がない為、彼女の事はよく知らないのだ…
ただ言える事は、極度のファザコンであるらしい。
嘆かわしい事だ…
そしてラインハット王国領にある、サンタローズに住むシスター・フレアの娘…リュリュとフレイを紹介しよう。
先ず妹のフレイだが…
マリーと同い年なのだが、そうは見えないくらい落ち着きのある女の子。
物事を客観的に見ており、常に冷静で取り乱した姿を見た事がない。
父さんにからかわれる僕を気遣ってくれる良い子なのだ。
さて、最後にご紹介するのはリュリュ…
僕と同い年の女の子で、容姿は父さんに似ている絶世の美女!
体付きは母親に似ており、妹等の中でもナンバー1の大きさだ!
外見の素晴らしさもさることながら、内面は文句の付けようが無いほど素敵な女性なのだ!
双子の妹ポピーとは対極の存在だ!
兄弟の中で唯一、父さんの能力を受け継いだ彼女は、魔界のモンスターですら、その美しさにひれ伏している。
聡明で努力家…心優しく美しい!
あえて粗探しをして、彼女の欠点を上げるとすれば、それは料理下手な事だろう。
だが大したことはない!
本当…全然…ちょっとだけ不得意ってだけ…
つい数ヶ月前に、父さんに兄妹全員でクッキーを作った時の事だが…
失敗作は全部僕が食べてあげたからね…
全く問題ないよ!
その時に、彼女の失敗作を残さず食べたお礼として、僕にファーストキスをくれたのだ!
いやいや…ファーストキスにはならないよ!
だって僕等は兄妹なのだから…
僕もリュリュにキスされても、それは挨拶だと思っているから、舞い上がったりなんかはしてないし…
リュリュの方も、僕とのキスなんかは挨拶程度にしか見ていないはずだし…
………そのはずなんだが、今僕の隣にはリュリュが座っている…
僕の部屋で…僕のベッドに腰掛けて…僕の隣で、僕を見つめている…
そして頻りにあの時の事でお礼を言っている。
『ティミー君ありがとう…お陰でクッキーを作る事が出来たわ』と………
「そんな、気にする事無いよ!リュリュのクッキーは美味しかったし…」
『ううん…ティミー君には感謝してるの。そして気付いたの…私の本当の気持ちに…』
「え!?ほ、本当の気持ち………?」
そう言うとリュリュは顔を近付けキスをしてきた!
そして、そのまま僕をベッドに倒し、僕の服を脱がし始めたではないか!?
「リュリュ…ダメだよ…僕達は…」
『ティミー君…私の事…嫌いなの?』
「嫌いなわけ無いじゃないか!」
そう…僕はリュリュが大好きだ!
初めて会ったその時から…
気付くとリュリュは裸だった…
そして僕も何時の間にか服を脱がされている…
『ティミー君…大好き…』
もう止まるわけが無い…
止められるわけが無いのだ!
僕はリュリュに抱き付き、彼女の温もりを全身で感じる。
「リュリュ!大好きだ!!リュリュ…」
『ティミー君、私もよ…ティミー…』
「リュリュ…」
『ティミー…』
・
・
・
「…………ィミー………」
「ん…ん~……」
「ティミー…ティミー…!」
「リュ…リュ…」
「ちょっと、ティミー!!さっさと起きなさいよ!」
「………え!?うわぁ!!」
目を開けると、其処にはポピーが立っていた!
「………夢……?」
「な~に…愛しのリュリュの夢でも見てたの?珍しく朝寝坊だと思ったら…夢の中でリュリュを犯してたのね!」
最悪だ…よりによってコイツに見られるなんて…
「そ、そんなんじゃ無いよ!」
「ううん、良いのよティミー…恥ずかしがらなくて!男の子だもん…当然よね!使用済みの後ろの穴で良かったら貸すわよ…何時でも言ってね♥」
ポピーは僕を見つめ、嬉しそうにからかい始める。
「うるさいバカ女!もう起きたから出て行けよ!」
僕はそう言ってポピーの足下に枕を投げ付けた。
ニヤニヤ笑いながら出て行くポピー…
朝から憂鬱になりながらベッドから起きあがる…
(ネチャ)
あぅ…パンツの中が気持ち悪い…
この事だけはバレない様にしないと…
今日は朝から最悪だ!
後書き
私はティミー君の事が大好きです。
でも、こう言う話を思い付いちゃうのですよ…
ドキッ!男だらけの討論大会!
<海上>
ウルフSIDE
俺達は今、グリンラッドで『船乗りの骨』を手に入れ、ロマリア沖に向かう途中の海上にいる。
ある1名の我が儘により、寄り道をして『エコナバーグ』と言う新たに出来た町へ寄るところだ。
エコナバーグは出来たての町だが、多少は買い物も出来るはず…
だから今の内に確認しなければならない事がある。
マリーの事で色々相談したい事があるけど、ティミーさんじゃ無駄だしなぁ………
大変失礼な言い方だが、女関係の事でティミーさんに何かを期待する事は皆無である!
いくら家族の事だとしても、色恋が絡めば彼ほど役に立たない存在は見当付かない。
マリーの事をよく知っていて、色恋事に精通している男性に相談したいのだが、困った事に該当者が1人しか見あたらない…
はぁ~……………………
「よし!!」
俺は自分に気合いを入れ、その該当者の元へと歩み寄る。
「あのリュカさん…ちょっと話があるんだけど…」
俺は彼女の父親であるリュカさんに、思い切って相談を持ちかけた。
この世界一頼りになる、世界一のトラブルメーカーに…
「何ウルフ?…金なら持ってないよ」
「えぇ、分かってます。リュカさんに金の相談をするぐらいなら、マリーの移り香があるパンツを使って、自家発電でもしてたほうが数億倍時間を有効利用してますよ!」
「…オマエ最近生意気だよ…僕は義理のお父さんになるのだから、『えぇ!マヂッスか!?残念だなぁ…』くらい言ってゴマ擂れよ!」
「あぁ…じゃぁそう言う事にしておいて下さい。…で、本題に入って良いですか?」
「可愛くない…お前可愛くないなぁ………んで、何?」
疲れるなぁ…
本題に入るだけで、こんなに疲れるなんて…
「あのですね…マリーの誕生日を知りたいんですけど…何時ですか?」
「マリーの誕生日~?先週終わったよ」
「はぁ?何で何にも祝ってあげないんですか?みんなで簡単なパーティーでも催したって良かったんじゃないですか!?」
「ははははは、嘘だから。…そんなに怒るなよぉ!嘘ですよぉ!先週誕生日だったのはビアンカで、二人でコッソリお祝いしたんだよ!」
あぁもぅ、マジムカつく!
可能ならぶっ飛ばしてやりたい!ムリだけど…
「じゃ、じゃぁ何時なんですか!?」
「うん。来月だね…タイミング良かったんじゃね?」
来月か…エコナバーグに何かプレゼントになる物が、売ってると良いけど…
「何だぁ?彼女にサプライズプレゼントか?」
「はい。何か良い物が有ると良いですけど…」
「じゃぁ、大事な所が丸出しのエッチな下着なんてどうよ!?」
誰へのプレゼントか、分かって言ってるのか、この人?
「良いですね!そんな下着穿いてれば、スカート捲るだけで何時でも合体OKですね!」
「馬鹿野郎!マリーはまだ7歳だぞ!もうちょっと控えろよ!」
「リュカさんから先に話題を出したんでしょ!身勝手に怒らないで下さいよ!」
「くっ…僕の愛しの息子だったら『そ、そんな破廉恥な物、買いません!』って、顔を真っ赤にして恥ずかしがるんだぞ!」
ティミーさん、良くグレなかったなぁ…
「それは俺の義兄の役目ですから、俺が奪うわけにはいきません。そんな風に苛めてばかりいると、その内相談してくれなくなりますよ!」
「あはははは、気を付ける事にする…で、何をプレゼントするのかは決まってるの?」
「いえ…何が売っているのかも分かりませんから…エコナバーグへ着いてから考えようと思ってます…けど、リュカさんから見て女性にプレゼントするのなら、何が一番良いでしょうか?」
「あれ?…父さんにウルフ…こんな端で何やってるんですか?」
「おいおいティミー…旦那とウルフが、端っこで話し合ってるんだ…良からぬ事に決まってるだろ!」
其処にティミーさんとカンダタが現れ、俺の真剣な相談を悪巧みと決めつけられた。
「来月マリーの誕生日があるから、サプライスでプレゼントをしたいのだけど、何をプレゼントすれば良いのか相談してたんだよ!」
「はぁ?…そんな事は、本人に聞けば良いのでは?マリーにも欲しい物はあるだろうに…」
「相変わらずバカですねティミーさんは!サプライズだって言ってんだろ!聞いたらサプライズにならねぇだろ!」
「ご、ごめんよぉ…そんなに怒るなよ…」
これだからこの人には相談できないんだ…
もっとしっかりしていれば俺がこんなに疲れる事も無いのに…
「いえ…此方こそ失礼しました…許して下さい」
はぁ…良い人なんだけど…
何処かにこの親子を足して2で割った様な人は居ないのか!?
「…で、旦那は何をプレゼントするのが良いと思ってるんで?」
「う~ん…やっぱり僕なら下着だね!」
「父さん!!マリーへのプレゼントですよ!7歳…8歳になる女の子へのプレゼントなんですよ!」
「そうだけど…でも今回は、彼氏から彼女へのプレゼントだろ!?じゃぁ下着が一番だね!」
「何で、彼氏から彼女へのプレゼントに下着が一番最適なんですか!?」
「相変わらずだなぁティミーは!じゃぁ自分の彼女で想像してみてくれ…もしセクシーな服をプレゼントした場合、他の男もそれを見て美味しい思いをするんだ!美女のセクシーな姿って、見ただけで得した気分になれるじゃん!」
うん。確かにその通りだ!
俺もビアンカさんのパンチラを見ると、その日は最高にラッキーな日だと思えるし。
「でもさ…下着だったら、それを見る事が出来る…あくまで公然とだけど、見る事が出来るのはプレゼントした彼氏だけだろ!?自分に対するご褒美にもなるワケよ!」
なるほど…
確かに…折角彼女の為に買った物なのに、他の男まで楽しむのは腹が立つ…
でも下着だったら、基本俺だけの楽しみだ!
「…うっ!」
急にティミーさんが鼻血を吹き出した!
「うわぁ!お前、想像しただけで鼻血出すなよ!」
おいおい…嘘だろ…
想像で鼻血を出してたら、実際に見たら死ぬんじゃねーの?
大丈夫かこの人!?
「ちょっと…こんな端っこで何をやってるの…って、どうしたのティミー!?」
そこに現れたのはアルルだった!
ティミーさんが下着姿を想像し、鼻血を出す要因になったアルルが、俺等の討論大会を疑問に思い接触してきたのだ!
「ぎゃはははは!聞けよアルル!コイツな(ドゴッ!)うぐっ!」
爆笑しながら状況を説明しようとしたカンダタの鳩尾に、リュカさんのボディーブローが炸裂する!
「この2人、最近生意気なんだよ!僕に偉そうな事を言いやがる!…だから折檻してたんだ、こんな風にね!」
爽やかな笑顔でカンダタをねじ伏せ、リュカさんはアルルに優しく答える。
「最低な男ね!…ティミーあっちに行きましょ!こんな所にいると、リュカ菌が染つるわよ!」
蔑む様な目でリュカさんを睨み、ティミーさんの手を引き去って行くアルル。
「優しいッスね、リュカさんは…」
「自分の彼女の前で、彼女の裸を妄想してて鼻血出した…なんて言われたく無いだろ?」
まったくだ…
俺も…それくらいじゃ鼻血は出ないが、マリーの前で恥ずかしい事を言われたくない。
「だ、旦那…だからって…コレはやりすぎだよ…」
カンダタは蹲り身悶えながら訴える。
「うるせー!大事な息子を笑い物にしようとするからだ!」
やっぱ格好いいなリュカさんは…
こんな風になりたい。
はぁ…結局どうするか決まらなかったなぁ…
取り敢えず、来月が誕生日な事は分かったし…
やっぱ下着かなぁ…
エコナバーグで考えよ。
後書き
あちゃ作品伝統のパンツネタ!
まだまだ頑張りますよ!
魔女っ子美少女 マイノリティー・マリー
前書き
先に言っておきます。
夢オチですから!
おふざけですから!!
『魔女っ子美少女 マイノリティー・マリー』第6話、
「恋する乙女はメラゾーマ♥」
☆前回までのあらすじ
異世界より『フィーリングが合うかも~♥』とか言ってやって来た、高貴なる裏番女王ポピー様に見初められ、魔法の力を与えられた少女マリー。
『やっぱ少数意見は大事よね!』とポピー様の呟きを、我が使命と勘違いしまくり、多数決で事態を進めようとする人々を“悪の大集団 マジョリティ・ヒーローズ”と勝手に決めつけ決戦を決意した!
奇しくも時は選挙期間中…
憎きM(マジョリティ)H(ヒーローズ)の一味が、選挙事務所という名の秘密基地で悪巧みをしていると一方的に思ったマリーは、『くらえ!聖なる浄化、イオナズン♥』で秘密基地ごと成敗完了。
『生まれ変わって反省してね♥』と決め科白も可愛く決めて、今日も行く行く少数派の為に!
都立銅鑼九絵学園に通うマリーは、今朝も4年2組の自分の教室へ急ぎ登校中。
しかし異世界の裏番女王ポピー様に託された使い魔“プオーン”が、何やら不安げな声でマリーに訴えている。
「ぷーぷぷーぷー!ぷぷぷぷぷーぷ?ぷぷぷ!?」
「アンタ何言ってるのか分かんないのよ!邪魔だから帰りなさいよ!」
そう言って勢い良く自宅方面へ蹴り飛ばし、自らは小走りで学校へと移動する。
途中、3丁目のタバコ屋の角を曲がると、そこは愛しのマイダーリン・ウルフとの遭遇ポイントなのだ。
赤信号を無視し…轢かれそうになったらイオラで回避。
待望の3丁目のタバコ屋の角を曲がって元気よく『ウルフ、おはよう♡』と叫ぼうとしたのだが…
そこには彼以外にも待ち人が居て、愛しのダーリンと口論していた。
「んな所で“ボ~”っと突っ立てるからぶつかっちゃったじゃないの!退きなさいよ!!」
とマリーのクラスメイトで大親友のリューノが、愛しのウルフに愛の告白をしていた。
思い悩むマリー…
親友との友情を取るか…愛しの彼との愛情を取るか…
悩んだ末、マリーは放課後リューノを体育館裏へと呼び出し気持ちを打ち明ける事に。
「ちょっと…何の用よ、こんな所へ呼び出して!私…忙しいんだけど…」
「うん。あのね…今朝リューノが愛の告白をしていた男の子は、私の彼氏なの」
「はぁ?私が何時、愛の告白をしたって?」
「いいのよ、惚けなくて…私全部見ていたの…だから、お願い…ウルフの事は諦めて!私、貴女と争いたくないの!」
涙ながらに訴えるマリー…
しかしリューノの答えはマリーの求めるものとは違ったのだ。
「アンタ何言ってるのかよく分からないんだけど?馬鹿なの?前々から思ってたけど、アンタすっごい馬鹿よね!?」
リューノはマリーの事を鼻で笑い、そしてその場を立ち去ろうとする。
「こ、こんなに頼んでも分かってもらえないのね…じゃぁ仕方ないわ!私、愛の為に戦います!」
覚悟を決めたマリーは、魔法のステッキぽいものを取り出し、フリフリヒラヒラなコスチュームに着替え戦闘態勢を取る!
「………アンタ何、その恰好?真性馬鹿?」
「多数を憎んで、少数愛す!愛と美貌と偏見の魔道士、マイノリティー・マリー参上!」
マリーのミラクル変身に、驚き戸惑う怪人リューノ!
何時の間にやらマリーの意識内では彼女は怪人化されている。
「さぁ喰らいなさい!恋する聖なるメギドの炎、メラゾーマ!!」
死闘の末、憎き怪人リューノを倒したマリー…
「生まれ変わって反省してね♥」
可愛く決め科白を残して今日も去って行く…
★さ~て次回のマリーちゃんは?
怪人リューノを倒した事で、悪の大組織MHが動き出す。
警察という仮の名を持つMHの特殊部隊が、マリーの行く手を遮る…様な気がしてきた。
「先手必勝は正義の基本!」
自ら生み出した格言の下、MHを駆逐するマイノリーティー・マリー!
末端ザコを相手にしてもラチ空かぬ!
目指せ警察庁という名の秘密基地!
次回「荒れ狂う乙女心とベギラゴン!」をお送り致します。
「うわぁ!」
真夜中…グランバニア城の自室のベッドで目を覚ますマリー。
「ど、どうしたのマリー?」
隣では彼氏のウルフが心配そうに彼女を見詰めてる。
「変な夢見た…」
「変な夢?…悪夢なの?」
「う~ん…悪夢ね!…でも凄く面白かった!」
「面白い悪夢って何だよ!」
相変わらず冴え渡るツッコミを見せる彼氏。
「続きが見たいわ…もう一回寝よ!」
そう言うと、再度布団をかぶり爆睡体勢に入るマリー。
「何だったんだ?」
相変わらずの彼女に唖然とするウルフ。
朝起きたら、面白い悪夢の事を聞こう…と、そう思いながら眠りにつくウルフ…
聞かなければ良かったと思うのは数時間後だ。
後書き
やっちまったよ…
書く気はなかったのだけど…
会社でメモ用紙に悪戯書きしてたらスルスル書けた。
リュカ一座 ACT1
【浦島太郎】
むか~し、むかし……
あるところに浦島太郎という正直者が居りました。
浦島太郎は、その日も気ままに海辺を散歩しておりますと……
悪戯小僧A:ザイル「この亀! 鈍くさい亀め!」
悪戯小僧B:ジャイー「あはははは、コイツ変な声で鳴く」
悪戯小僧C:スネイ「え? 亀って鳴くの?」
前方で子供達が大きなウミガメを虐めている姿を目撃します。
心優しい(動物大好き)な浦島太郎は、直ぐさま近付き亀を助けようと試みます。
浦島太郎:リュカ「止めろクソガキ共! バギ!」
悪戯小僧A:ザイル・B:ジャイー・C:スネイ「「「ぎゃぁ!!」」」
優しい浦島太郎は、心の篭もった一言で子供達を説得し、土に……ゲフンゲフン、家に帰らせ亀を助けました。
亀:コリンズ「えぇ……やりすぎだろ!? ……はっ! た、助けて頂きありがとうございます」
浦島太郎:リュカ「いやいや礼には及ばないよ。だってアイツ等ムカツクんだもん! そんな事よりさ、お前はトロイんだから……こんな所にいないで海に帰れよ」
心優しい浦島太郎は、亀の事を気遣い海に帰る様告げる。
亀:コリンズ「不本意ですけど……助けてくれたお礼に、竜宮城へとご案内致します。どうぞ私の背中に乗ってください」
浦島太郎:リュカ「いや、いいって! お前の為にやったわけじゃないし……僕も暇じゃないからさ……」
亀:コリンズ「すげー暇そうに海辺を歩いてたじゃんか! 話が進まないから乗ってくださいよ……」
浦島太郎:リュカ「え~………」
亀:コリンズ「私を助けてくれた事を乙姫様にご報告したいので……どうか乗ってください」
浦島太郎:リュカ「乙姫!? それって美人?」
亀:コリンズ「勿論ですとも! 絶世の美女でございます!」
浦島太郎:リュカ「お前のカミさんじゃないだろうな? それは僕の娘でもあるんだぞ!」
亀:コリンズ「何で妻を差し出さなきゃならないんですか! 違いますし本当に美女なんですって!」
浦島太郎:リュカ「ん~……じゃぁ行っちゃう!」
こうして浦島太郎は、亀の熱意に負けて竜宮城へと訪れました。
浦島太郎:リュカ「おいコリンズ! 乙姫って彼女か?」
亀:コリンズ「今はコリンズじゃないです……亀ですから!」
浦島太郎:リュカ「そんな事より……」
亀:コリンズ「はい。絶世の美女でしょ?」
乙姫:リュリュ「大切なお友達を助けて頂きありがとうございます♥」
浦島太郎:リュカ「おいコリンズ! アレも僕の娘なんだよ!」
亀:コリンズ「知ってますけど、絶世の美女でしょ?」
乙姫:リュリュ「あの……浦島太郎様? 何か不都合でも?」
浦島太郎:リュカ「親子なんだから不都合大有りでしょ! エッチな事する気満々で来たんだよ!?」
乙姫:リュリュ「私は構いませんよ!」
浦島太郎:リュカ「僕が構うの!」
亀:コリンズ「まぁまぁ浦島太郎さん……鯛や鮃の舞い踊り等もご覧下さい」
浦島太郎:リュカ「鯛や鮃って……あっちで控えている彼女等?」
亀:コリンズ「そうですよ。美人揃いでしょ!?」
浦島太郎:リュカ「馬鹿野郎! リューラにリューノ・リューナ達じゃねーか! 全部僕の娘だよ! せめてマリアさんを出すとか……思い付かなかった?」
亀:コリンズ「何で母親を犠牲にしなきゃならないんですか!」
浦島太郎:リュカ「犠牲って……もういいよ! 帰ります……」
いい加減疲れてしまった浦島太郎は、乙姫達の引き留めを振り切って帰る事を決意。
乙姫:リュリュ「残念ですぅ……いっぱいエッチな事して貰おうと思ってたのに!」
浦島太郎:リュカ「ちょっとフレアさん……育て方間違ってませんか!? つーか良く考えたら、フレアさんとかスノウとかを出せば良かったんじゃね?」
乙姫:リュリュ「この役は譲れません!」
浦島太郎:リュカ「………あぁそうでございますか」
ガックリと項垂れる様に楽しい一時を満足した浦島太郎は、再度亀の背に乗り帰り支度を済ませた。
乙姫:リュリュ「あ、忘れてた! 浦島太郎さん……お土産にコレを持っていって下さい」
浦島太郎:リュカ「一応聞くけど……コレは?」
乙姫:リュリュ「はい。ご存じの通り玉手箱です。絶対に開けちゃダメですよ!」
浦島太郎:リュカ「開けちゃダメなお土産なんて要らないよ! そっちで勝手に処分してくれ」
乙姫:リュリュ「そうは言われましても……台本に書いてある事ですし……」
浦島太郎:リュカ「台本を逸脱しているのは初めっからでしょ! 今更いいじゃん、こんな終わり方で!」
乙姫:リュリュ「う~ん……それもそうですね♡」
浦島太郎:リュカ「じゃぁもう帰るよ。海辺で亀が虐められてても、二度と助けないから虐められるなよ! ルーラ」
亀の背に乗っていた浦島太郎は、めんどくさくなり自らのルーラで帰りましたとさ。
めでたしめでたし。
後書き
直ぐにACT2を掲載するよ。
次はシンデレラだ!
リュカ一座 ACT2
【シンデレラ】
あるところにシンデレラという少女が居りました。
彼女は継母と義姉達に虐められ毎日を惨めに生きています。
そんな彼女等にお城から舞踏会のお誘いが舞い込んできて、欲望丸出してどよめきました。
継母:スノウ「きっと王子様ってリュー君よ! どうしましょう……私が狙っちゃっても良いのよね!?」
義姉A:ピエール「ふざけるな! 私がアタックするに決まっているだろう!」
義姉B:マリソル「ちょっと! 私だってリュカさんは大好きなんですからね! 絶対に譲りませんよ!」
あれ? 配役間違ってんじゃね! と言うツッコミは受け付けません。
継母:スノウ「シンデレラ! アンタは家の掃除をしてなさい!」
義姉A:ピエール「そうだぞ。綺麗なドレスも、格好いい甲冑も持ってないお前は、行くべきではない」
義姉B:マリソル「だいじょうぶ! ご馳走はタッパに入れて持ち帰ってくるから」
シンデレラ:マリー「ふざけないでよ年増共! 舞踏会に行けないのは兎も角、何で私が掃除をしなきゃならないの!? アンタ達がメインで散らかしてるんだから、片付けるのはアンタ達でやりなさいよ!」
継母:スノウ「しょ、しょうがないじゃない……こう言うストーリーなんだから……」
義姉A:ピエール「そ、そうだぞマリー。台本通り劇を進めなければ……なぁ?」
義姉B:マリソル「そ、そうよ……それに私達も散らかしてないからね!」
シンデレラ:マリー「うるさーい!! 私の方が意地悪義姉の役が似合っているのに、こんな配役許さ~ん! イオナズン」
こうして一つの家庭が地上より消え去ったとか……
めでたしめでたし
ティミー「めでたくないよ! 全然ダメだよこんなんじゃ!」
【シンデレラ改】
あるところに……中略……
継母:ルビス「王子様に気に入られる様に、貴女達はおめかしをしなさい」
義姉:リューラ「はい……お母様……」
義妹:マリー「ま~かせて!」
継母:ルビス「貴女はお城へ行くのにそぐわないので、お留守番ですよシンデレラ」
シンデレラ:リューノ「ずっる~い! 私も舞踏会に行きたいのにー!」
義妹:マリー「アンタは家で掃除でもしてなさいよ! 台所にバナナがあるから、下の口で食して、自分を慰めるのもありじゃなくて、お~ほっほっほっほっ!」
シンデレラ:リューノ「い、妹のクセに生意気ねアンタ! 何より下品すぎるわ……喋るんじゃないわよ」
継母:ルビス「と、兎も角……私達はお城に行ってくるから、大人しくしていてね。お願いだから面倒事を起こさないでね!」
意地悪な継母と義姉妹は綺麗に着飾ってお城へと行ってしまった。
家に残されたシンデレラは……
シンデレラ:リューノ「私だって舞踏会に行きたかったのにぃ!」
大変悔しそうに地団駄を踏んでおります。
するとそこに……
魔法使い:ポピー「お困りのようね……私が何とかしましょうか?」
シンデレラ:リューノ「ん? 何アンタ……魔法使いのババア?」
(ゴスッ!)
魔法使い:ポピー「ババアじゃないわよ! 口の利き方に気を付けないと、木っ端微塵に吹き飛ばすわよ!」
突如現れた魔法使いの美女……
彼女は優しくシンデレラに魔法をかけ、綺麗なドレスを纏わせました。
シンデレラ:リューノ「いたたたた……ねぇ、魔法を使われる度に頭を殴られるの?」
魔法使い:ポピー「何か不満があんの?」
シンデレラ:リューノ「……いえ、義姉さんには逆らいません……」
魔法使い:ポピー「良し! ……あとは馬車ね。……おいウルフ! ちょっとこっち来い!」
前ネズミ:ウルフ「え、俺!?」
魔法使い:ポピー「そうよ……狼なんだからネズミもやりなさいよ! ついでに馬も!」
前ネズミ:ウルフ「何でだよ!? パトリシアが居るんだから、もうそれで良いじゃんか!」
(ゴスッ!)
魔法使い:ポピー「うるさいよ! アンタは馬になってカボチャを引っ張りなさい」
現ウマ:ウルフ「横暴だよ……それに何で何時までもカボチャなんだよ!? コレこそ魔法で馬車に変えてくれよ」
魔法使い:ポピー「ちっ……うるさいわね。分かったわよ!」
(ゴスッ!)
現ウマ:ウルフ「あいた! 何で俺を殴るんだよ!?」
魔法使い:ポピー「カボチャなんて殴ったら手を怪我するでしょ!」
暫くの間、魔法使いの美女とウマの言い争いは続いたが、『早く行け!』とドスの効いた声で魔法使いの美女に言われた為、ウマもシンデレラも震えながら従いました。
現ウマ:ウルフ「さて、着いたな。おいシンデレラ……俺は此処で待っているから、存分に楽しんでこいよ。でも0時に魔法が切れるらしいから、それまでには戻って来いよ」
シンデレラ:リューノ「何よ、その不親切な設定は!? お城の舞踏会が0時までに終わる訳ねいじゃない! 分かってんの?」
現ウマ:ウルフ「俺に言うなよ……さっきのサディステック魔女に言えって!」
シンデレラ:リューノ「義姉さんにそんな事言えないから、アンタに文句を言ってるんでしょ!」
心優しい魔法使いの美女に感謝の言葉を述べながら、シンデレラは舞踏会場へと入って行く。
そこで見たのは、豪華絢爛なダンス場……
離れたところには色取り取りの食事が沢山置いてあり、見慣れた人々が食事に夢中になっている。
シンデレラ:リューノ「……あの、何で舞踏会に来たのに、踊らず食べてばっかりなの?」
義姉:リューラ「だって……アレ……」
義姉が指差した先には、この城の王子様がダンスの相手を捜して立っておりました。
王子様を見たシンデレラは、駆け足で近付き……
シンデレラ:リューノ「お前か~い! お前が王子か!!」
とドロップキック!
王子様:ティミー「いってぇ~……何だよいきなり……しょうがないじゃん実際に王子なんだから!」
シンデレラ:リューノ「うるせー! アンタの為に私は後頭部を殴られたのか!?」
王子様:ティミー「きっと配役に問題があると思うよ」
シンデレラ:リューノ「ちょ…しんじらんない……通りで継母や義姉妹が興醒めしているワケよ……」
王子様:ティミー「相変わらず酷い事を言うなぁ君は……口が悪すぎる。……もしかしてオチが『ツンデレラ』なんて事はないよね?」
え!?
……………こ、こうしてシンデレラは幸せに暮らした様な気がします。
めでたしめでたし!!
魔法使い:ポピー「アンタ最悪……オチ言うんじゃないわよ」
王子様:ティミー「だ、だって……」
後書き
ACT3はウサギとカメ
リュカ一座 ACT3
【ウサギとカメ】
ウサギ:ヘンリー「やぁカメさん。君は世界一遅いと言われているが本当かい?」
カメ:リュカ「世界一かどうかは調べた事がないから分からないけど、遅い事は確かだね!」
ある昼下がり、足の速さ自慢のウサギと、忍耐強さ自慢のカメが、何やら会話をしております。
ウサギ:ヘンリー「まぁ俺の早さには勝てないのだから、世界一かどうかは関係ないか!」
カメ:リュカ「そうだね。どうでも良い事だし……」
ウサギ:ヘンリー「……いやいや、どうでも良くはないだろう。お前、俺に馬鹿にされてるんだよ!? 悔しくないの?」
カメ:リュカ「え? 忍耐強いから大丈夫ッス!」
ウサギ:ヘンリー「大丈夫じゃねーよ! そこで忍耐強さを使うなよ……話が進まないじゃねーか!」
カメ:リュカ「そんな事僕に言われても……だいたい配役が間違ってるんだよ」
ウサギ:ヘンリー「……た、確かにそうだけど。じゃ、じゃぁチェンジだ!」
カメ:リュカ「おいおい、デリヘル頼んだんじゃないんだから、チュンジはないだろ(笑)」
ウサギ:ヘンリー「う、うるさい…下品な事を言うんじゃない!」
……え~と、取り敢えずめでたしめでたし?
【ウサギとカメ改】
あるところに足の速さ自慢のウサギと、忍耐強いが負けず嫌いのカメが居りました。
ウサギ:リュカ「ねぇヘンリー……ウサギってそんなに早いのかな?」
カメ:ヘンリー「俺が知るかよ! つかヘンリーじゃねー、カメだ!」
ウサギ:リュカ「だってさ……ウサギより早い動物は幾らでも居ると思うんだ」
カメ:ヘンリー「今そんな事関係ないだろ! そんな事より俺達は競争するぞ!」
ウサギ:リュカ「え、何で僕等が競争するの? 別に……勝ち負けなんてどうでも良いんだけど」
カメ:ヘンリー「時間が押してんだよ! 台本通り、どちらが本当に早いのか競争して証明しなきゃならないだろう!」
ウサギ:リュカ「え~……別に僕の負けでも良いし……争い事は嫌いなんだよねぇ……」
カメ:ヘンリー「お前、それじゃ物語にならないだろう! この話は、いくら有能でも途中で怠ける者は何時か努力家に追い越されるって意味の籠もった物語だ! 子供達に教訓として語り継がなきゃ……」
ヘンリーさんは真面目だなぁ……
ウサギ:リュカ「それよりも僕は、争い事はダメだよって語り継ぎたいな!」
カメ:ヘンリー「いや……それもそうだけど……」
ウサギ:リュカ「そんな訳でめでたしめでたしだよ! またねー」
えぇ~………カメが勝手に話を終わらせて帰っちゃった!?
じゃ、じゃぁ……
めでたしめでたしって事で……
後書き
短いなぁ……
まぁ良いか!
次回は王道の桃太郎だよ。
リュカ一座 ACT4
【桃太郎】
むか~し、むかし……
あるところに残念系イケメンと、胸が残念系美女が住んでおりました。
胸が残念系美女:アルル「何よ“胸が残念系美女”って!? ぶっ殺すわよ!」
残念系イケメン:ティミー「ま、まぁまぁ……」
し、失礼しました……
改めて……残念系イケメンと残念系美女と言う事で……
残念系美女:アルル「もう良いわよ……」
さて……
残念系イケメンは山へ芝刈りに、残念系美女は川へ洗濯に行きました。
残念系イケメン:ティミー「えっと……取り敢えず山に入ったけど……芝ってどれ? 何を刈れば良いの?」
芝刈り初心者の残念系イケメンは芝がどれか分からず、残念系美女に聞く為に山を下りて川へ向かいました。
何か既に台本を逸脱してる……
残念系美女:アルル「あれ? どうしたのティミー……」
残念系イケメン:ティミー「うん。芝がどれか判らなくってアルルに聞きに来た」
残念系美女:アルル「そう言われても……私だって判らないわ。じゃぁ洗濯を手伝ってくれる!?」
残念系イケメン:ティミー「うん! 君のエッチな下着を優しく手洗いしちゃうよ♥ 何だったら、中身まで洗っちゃうからね僕!」
残念系美女:アルル「んもう…エッチねティミー♥」
二人は暫くの間、イチャイチャラブラブ洗濯を楽しみ、周囲を苛つかせる事に成功しました。
だから慌てて大きな桃が上流か流れてきたんですね!
(どんぶらこ…どんぶらこ…)
残念系美女:アルル「あら…ねぇ見て。上流から大きな桃が流れてくるわ!」
残念系イケメン:ティミー「本当だ……何だか大きなお尻みたい(笑) でもアルルのお尻の方が魅力的だけどね!」
残念系美女:アルル「ちょっとぉ~…えっちティミー! お尻を撫でないでぇ(笑)」
お前等、いい加減話を進めろや!
桃が流れ過ぎずに待ってるだろが!
残念系イケメン:ティミー「何だよ……前回なんか、競争すらしないウサギとカメだったのに……僕等の場合は厳しいなぁ……」
残念系美女:アルル「もてない男の僻みよ。気にせず話を進めましょう」
ムカツク感じに垢抜けやがって……
残念系イケメン:ティミー「さて……随分と大きな桃だし、二人で協力して持ち帰ろうよ」
残念系美女:アルル「うん。じゃぁそっちを持ってティミー」
ようやく桃を持ち帰ってくれた二人は、早速食べようと思い包丁……が無かったので天空の剣で一刀両断しました。
桃太郎:プサン「あぶな! ちょっと……どういう事ですかコレは!? 何で桃如きを切るのに、天空の剣を使うんですか!? 私まで一刀両断になるところでしたよ……」
残念系イケメン:ティミー「あ、済みません……でも中に人が居るとは思わなかったし……めんどくさかったので、つい(笑)」
桃太郎:プサン「あ、貴方……父親に似てきましたね……」
残念系イケメン:ティミー「親子ッスからしょうがないんじゃないですか?」
残念系美女:アルル「そんな事より……キビ団子を近所のスーパーで買ってきといたから、さっさと鬼ヶ島へ行きなさいよ! 川で盛り上がっちゃったから、私達は早く舞台袖に捌けたいのよ!」
こうして生まれて早々に桃太郎は、鬼ヶ島へと旅立つ事を強制される。
桃太郎:プサン「ス、スーパーで買ったキビ団子って……有難味薄っ! まぁしょうがない……旅の仲間を見つけないと……」
?:ルイーダ「いらっしゃい……お仲間を捜しているの? だったら活きの良いのが揃ってるわよ」
どこからともなく現れた、妖艶な美女に引きつられ…3人の仲間が共に旅立つ事を決意する。
イヌ:ウルフ「やっぱり俺かい! 『狼=犬』って図式が出来ているのは分かってたけど……安直だと思わないのか?」
桃太郎:プサン「そんな事言われましても私には……」
?:ルイーダ「お次はこの子……」
サル:カンダタ「俺ってサルっぽいのか!?」
桃太郎:プサン「違うと思います……以前書いた桃太郎 擬きを使ってるんですよ……」
イヌ:ウルフ「その流れで話が進行すると、鬼ヶ島に居るのはリュカさんじゃん! そうだとしたら裏切るからね俺! あの人を敵に回すくらいなら、悪魔と契約した方がマシだからね!」
桃太郎:プサン「わ、判ってますよ……兎も角今は状況を見定めてくださいよ……」
?:ルイーダ「さて最後はこの子よ」
キジ:ラーミア「おっす! ラーミアだぞ」
イヌ:ウルフ「うっわ…何だこのパーティー……」
桃太郎:プサン「あぁ……頭が痛くなってきた……」
3人の仲間を押し付けたルイーダは、満足したみたいで帰っていった……
何なんだあの女は?
桃太郎:プサン「まぁ兎も角は鬼ヶ島へ行きましょうか……ラーミアさん、鳥になって我々を乗せてください」
キジ:ラーミア「ヤダ! 何でお前等を乗せなきゃなんない!?」
桃太郎:プサン「えぇ!? 何ですかこの娘?」
イヌ:ウルフ「コイツはリュカさんが絡まないと、誰も乗せてくれないんですよ……」
サル:カンダタ「おいラーミア。鳥になって鬼ヶ島へ行けば、リュカの旦那に会えるんだぞ!」
キジ:ラーミア「カンダタ、本当か!? じゃぁラーミア、鬼ヶ島へ行く!」
そこまで言い終えると、ラーミアは大鳥に変身し勝手に鬼ヶ島へと飛び去ってしまいました。
イヌ:ウルフ「ちょっとカンダタさん!? ダメだよそんな言い方しちゃ……アイツ阿呆なんだから、勝手に行っちゃうだけじゃん!」
サル:カンダタ「す、済まんウルフ……」
桃太郎:プサン「はぁ…仕方ないですね。私が竜になって皆さんを運びますよ」
イヌ:ウルフ「え、プサンさんてそんな事出来るの?」
サル:カンダタ「冴えないヒゲメガネじゃないのか?」
二人が驚いていると、桃太郎の身体が眩く光り、そこには黄金の竜が姿を現しました。
桃太郎:プサン「あまり私を侮らないでほしい……私はマスタードラゴンなんですよ」
サル:カンダタ「でもよぉ……演劇なんだから、場面変更だけで鬼ヶ島に着いても良くね?」
イヌ:ウルフ「カ、カンダタさん…それを言っちゃダメッスよ!」
つーわけで場面変更!
お出でませ鬼ヶ島って感じ!
サル:カンダタ「うわ……何だかヒゲメガネのオッサンが『俺は凄いんだぞ!』って感をアピールしただけで終わった……」
イヌ:ウルフ「プサンさんかっこわるーい(笑)」
桃太郎:プサン「しょ、しょうがないでしょ……話を進めなきゃって思いがあるんですから!」
すると、先行隊として来ていたラーミアが、誰かをひっ捕まえて戻ってきた。
キジ:ラーミア「おいカンダタ! リュカが何処にも居ないぞ!」
サル:カンダタ「そ、そうか……居ないか。それよりその爺さんは何だ?」
ラーミアが連れてきた爺さん……
彼女に突かれたらしく、体中から血を流している。
イヌ:ウルフ「あの…老人。此処は鬼ヶ島ですよね?」
鬼ヶ島代表:親分ゴースト「し、知らんわい! 割の良いバイトがあると言われて、紫のターバン男に連れられて此処に来ただけじゃ! 全然割の良いバイトじゃないわい!」
イヌ:ウルフ「紫の……リュ、リュカさんですかね?」
桃太郎:プサン「そうですね……リュリュさんでしたら、そんな事はしないと思いますし……」
サル:カンダタ「あの…老人。その人は何か言ってなかったですか?」
鬼ヶ島代表:親分ゴースト「何も……でも、この手紙を渡された」
そう言うと鬼ヶ島代表は懐から一通の手紙を出し、桃太郎達に差し出した。
その手紙には……『飽きたから帰る。鬼の代わりを置いておくから、勝手に討伐して満足感を得てくれ! byリュー君♡』
桃太郎:プサン「………」
イヌ:ウルフ「これは……鬼ヶ島討伐ってことで良いんじゃないですか?」
桃太郎:プサン「そ、そうですね……疲れましたし、終わりにしましょう」
こうして桃太郎一行は、激闘を終わらせて悪さをする鬼達を退治したとかしないとか……
多分、めでたしめでたしです。
後書き
次回のリュカ一座は赤ずきんです。
リュカ一座で演じてほしい昔話募集。
採用するかどうかは分からないけど、参考にしたいです。
因みに、現在「赤ずきん」「金の斧」「白雪姫」「鶴の恩返し」を書く予定であります。
リュカ一座 ACT5
【赤ずきん】
むかしむかし、ある所に……
紫のターバンとマントを羽織ったナイスバディーの美少女が、1ミクロンも当て嵌まってないのに赤ずきんと呼ばれて居りました。
赤ずきん:リュリュ「何でだろう?」
細かい事を気にしてはいけないと、彼女は父親から教えられており、考える事を止めてお祖母さんの家にお見舞に行きました。
(コンコン)
赤ずきん:リュリュ「マーサお祖母様……お加減はどうですか?」
偽祖母さんの狼:ウルフ「あ、リュリュさん。遠い所お疲れ様です」
赤ずきん:リュリュ「やっぱりウルフ君が狼役なのね!?」
偽祖母さんの狼:ウルフ「そうなんですよ……ウルフって名前だけで、狼や犬の役が巡ってくる……ネズミまでやらされたよ!」
本物のお祖母さん:マーサ「ちょ、ちょっと……二人してマッタリ会話しないでよ! これじゃお話が進まないでしょ」
偽祖母さんの狼:ウルフ「そんな事言われましてもマーサ様……俺はウルフだけど紳士ですし……お二人を食べる事なんて出来ません! 女性を喰べるスペシャリストはリュカさんなのだから、配役変更を要求します!」
赤ずきん:リュリュ「良いわねウルフ君! 私もお父さんに喰べられたぁ~い♥」
本物のお祖母さん:マーサ「わ、私は息子に食べられたくありません!」
う~ん……配役が難しいし、これにて終わりで良いか!
よし、めでたしめでたし!
後書き
短っ!
う~ん……
リュカを狼にすれば良かったかな?
でもそれだと、みんな喜んで食べられちゃうし……
次回は「金の斧」です。
泉の女神が現れて、「貴方が落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」って聞くヤツね。
リュカ一座 ACT6
【金の斧】
むかしむかし……ある所に正直者の木こりが居りました。
その木こりが泉の側で仕事をしていると……
(つるっ……ぼちゃん!)
正直者の木こり:リュカ「アア……タイセツナ、鉄の斧ヲ、落トシチャッタよ(棒読み)」
正直者の木こりが大変困っていると、泉から美しい女神が現れて、彼に落とした物を尋ねます。
泉の女神:ビアンカ「木こりさん……貴方が落としたのは……」
正直者の木こり:リュカ「うわ~い、ビアンカだー!!」
正直者の木こりは泉の女神の台詞を遮って飛び付くと、そのまま泉へとダイブ!
そしてイチャイチャ一生を過ごしたとさ……
めでたしめでたし
【金の斧2】
むかしむかし、ある所に正直者で真面目な木こりが居りました。
彼が泉の側で仕事をしていると……
(つるっ……ぼちゃん!)
正直者で真面目な木こり:ウルフ「困ったなぁ……仕事に使う鉄の斧を落としちゃったよ……アレがないと仕事が出来ないのに……困ったなぁ」
すると泉から女神が現れて、正直者で真面目な木こりに尋ねました。
泉の女神:ルビス「きっと絶対真面目な青年よ…貴方が落としたのは、この金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
正直者で真面目な木こり:ウルフ「はぁ? 何だいきなり現れて……気に入らないな、その人を試す様な物言い!」
泉の女神:ルビス「す、済みません……」
正直者で真面目な木こり:ウルフ「大体考えてもみてよ……俺は木こりだよ! 斧を使って木を切り倒すのが仕事だよ!? 柔らかい金や銀の斧で仕事が出来ると思ってるの!? これだから人間の事を知らない女神ってのは……リュカさんが怒るはずだよ!」
泉の女神:ルビス「あ、あの……本当にすみません。この金銀の斧と貴方が落とした鉄の斧……それと底に落ちてたバトルアックスもお譲りしますから、もう帰って頂けませんか? ごめんなさい…私もうこの仕事止めますから……」
こうして正直すぎる木こりは、沢山のお土産を手にして帰りました。
めでたしめでたし
【金の斧3】
むかしむかし、ある所に【金の斧2】の話を聞きつけた、欲張り者の木こりが居りました。
んで、泉に鉄の斧を落とします。
欲張りな木こり:ナール「さぁ来い! 豪勢な斧を手にして現れろ女神!」
そんな訳で現れる女神。
泉の女神:マリー「お前……ワザと斧を落としたろ!?」
欲張りな木こり:ナール「えぇ~……今回の女神はコイツなのぉ……」
泉の女神:マリー「何だお前……私じゃ不満なのか!?」
欲張りな木こり:ナール「そんなんじゃねーよ……豪勢な斧を頂ければ、不満なんて……」
泉の女神:マリー「何だ豪勢な斧って?」
欲張りな木こり:ナール「そうだなぁ……金・銀・プラチナ・ダイヤモンド……そんな感じの斧を希望!」
泉の女神:マリー「ふざけんな! そんな物あるわけねーだろ! 失せろ馬鹿!」
欲張りな木こり:ナール「何だと!? オレ様の斧を奪う気だな! 返せコノヤロウ、泥棒女め!!」
泉の女神:マリー「(イラッ)イオナズン!」
こうして欲張りな木こりは何も得ることなく帰りましたとさ……
泉の面積を10倍に広げさせて。
めでたしめでたし
【金の斧4】
むかしむかし、欲張りだけど小心者な木こりが居りました。
そして欲に目が眩んで魔神の斧を泉に投げ落としたんです。
欲張りだけど小心者な木こり:カンダタ「か、返してくれるかな……斧? つーか誰が出てくるんだろうか? リュリュあたりだと助かるんだけどなぁ……」
そして現れる女神。
泉の女神:ポピー「お前か!? 泉に物を投げたのは……」
欲張りだけど小心者な木こり:カンダタ「さ、最悪だ……悪魔が出てきたぞ……」
泉の女神:ポピー「ん? 悪魔つったか今!?」
欲張りだけど小心者な木こり:カンダタ「い、いえ……そんな事は一言も……」
泉の女神:ポピー「で、お前……金か銀の斧を落としたろ!」
欲張りだけど小心者な木こり:カンダタ「アレ……普通に進めてくれるの?《でも怖いから本当の事を言おう》 あ、あの…俺が落としたのは魔神の斧です。金とか銀とか……そんな大層な物じゃありません!」
泉の女神:ポピー「やっぱり犯人はお前かー! 私の頭に直撃したぞコノヤロウ!」
欲張りだけど小心者な木こり:カンダタ「えぇ……こんなオチ!?」
この後、彼は女神にコッテリと絞られたと言う……
めでたしめでたし
教訓:物語を頓挫させたり、嘘を吐いたり、人を試したり、物を投げ捨てたりしちゃダメだぞ!
後書き
次回「白雪姫」
リュカ一座 ACT7
【白雪姫】
むかしむかし、ある所に自分の美しさに絶対の自信を持っている女王が居りました。
女王:スノウ「えっと……鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?」
魔法の鏡:ラングストン「そりゃリュリュさんッスよ! もうダントツって感じ!」
女王:スノウ「ふ、ふざけるなー!」(バリン!)
怒った女王は鏡を叩き割り、リュリュ……ゲフンゲフン、白雪姫を抹殺しようと森へ入ります。
何故森に居るかというと、女王が追いやった為です。
めんどいから端折りますね。
女王:スノウ「そこのお嬢さん。美味しい毒リンゴは如何かな?」
見るからに怪しい老婆に化けた女王は、白雪姫に毒リンゴを食べさせようと思い彼女の前に現れたが、頭が緩すぎて本当の事を言ってしまい、周囲の空気が膠着する。
白雪姫:リュリュ「あの……流石に毒リンゴと言われちゃったら……要りませんよ!」
女王:スノウ「ちょ、ちょっと間違えただけじゃないの! 揚げ足を取ってないで、劇に協力しなさいよ!」
逆ギレの女王……
しょうがないので白雪姫はリンゴと食べたフリをする。
さらに死んだフリまで大サービス!
女王:スノウ「さぁて……今度こそ聞くわよ。鏡、世界一の美女は誰!?」
魔法の鏡 二代目:ラングストン「だから、リュリュさんだって言ってんじゃん!」
女王:スノウ「何よ!? 毒リンゴ食べて死んだ事になってるんでしょ!?」
魔法の鏡 二代目:ラングストン「死んでねーし……」
(バリン!)
女王:スノウ「くっそー! 今度こそ毒リンゴ食わしてやる!」
女王が魔法の鏡の口の利き方に、大層激怒している頃……
死んだフリをし続ける白雪姫の下に、残念系なイケメンが鼻の下を伸ばして現れました。
残念系王子:ティミー「おお、何と美しい少女だろう! しかし何者かの所為で死んでしまっている……これはきっと、王子様のキスで目覚めるに違いない! いざ!!」
白雪姫:リュリュ「い、いざ!!じゃないですよティミー君! 私、生きてますから! 死んだフリなだけですから!!」
残念系王子:ティミー「えぇ~……折角この役をゲットしたのに……キス無しなの!?」
白雪姫:リュリュ「無しですよ! てっきりお父さんが来ると思ってたのに!!」
とっても残念なやり取りをする二人……
そこに現れる女王。
女王:スノウ「あの~……じゃぁ今度こそリンゴ食べる?」
白雪姫:リュリュ「食べませんよ! ……もう良いじゃないですか。私は世界一とか興味ないですから! お父さんが言ってたんです『争い事はダメだ』って! ウサギとカメで言ってたんですよ」
女王:スノウ「そうよねぇ~! リュー君てば格好いい事言うのよねぇ~♥」
こうして白雪姫と女王は仲直りをし、幸せに暮らしたとさ……
めでたしめでたし
残念系王子:ティミー「え~……キスぐらい良いじゃん! 初めてってワケじゃないんだからさぁ……」
まぁこんな感じでめでたしめでたし。
後書き
次回は鶴の恩返しです。
リュカ一座 ACT8
【鶴の恩返し】
むかしむかしある所に、動物好きの心優しいイケメンが居りました。
ある日そのイケメンが罠に掛かって動けなくなっている鶴を発見します。
心優しいイケメン:リュカ「うわデカッ! 鶴じゃないじゃん! これ……ラーミアじゃん!」
鶴と言い張る鳥:ラーミア(大鳥)「クケェ~!」
心優しいイケメン:リュカ「わ、分かったよ……助けるよ、取り敢えずは」
鶴と言い張る鳥:ラーミア(大鳥)「クケェ~!」
心優しいイケメン:リュカ「でも恩返しはしなくていいぞ! だいたい展開が読めたから……」
鶴と言い張る鳥:ラーミア(大鳥)「クケェ~!?」
そう言って心優しいイケメンは帰りました。
(ドンドンドン!)
するとその日の夜……何者かが心優しいイケメンの家の戸を叩き尋ねてきました。
心優しいイケメン:リュカ「いらねって言ったのに……」
しかし居留守を決め込む心優しいイケメン……
(ドンドンドンドンドンドン!)
だが来訪者は諦めません。
いい加減お前が諦めろリュカ!
心優しいイケメン:リュカ「ちっ……何だよ!?」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「オッス、ラーミアだよ」
心優しいイケメン:リュカ「何の用だよ……恩返しはいらねって言ったろ」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「うん。だから恩返しはしないよ」
心優しいイケメン:リュカ「じゃぁ何しに来たんだよ!?」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「交尾!」
誰だよこのアホに鶴の役を与えたのは!?
心優しいイケメン:リュカ「お前それじゃ“鶴の恩返し”にならないだろ!」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「でもラーミア、鶴じゃないよ! だから良いんだよ!」
心優しいイケメン:リュカ「いやいやいや……お前は鶴じゃ無いけども、本当は鶴って事で恩返しをするんだろ!」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「でも鶴だって言っちゃいけないってミニモンが言ってたゾ!」
心優しいイケメン:リュカ「いやそうなんだけど……本当は鶴で、でも鶴である事を隠し、そして昼間助けてくれた青年に恩返しをするのがこの話だろ」
鶴だけど秘密の女性:ラーミア「でもラーミアは鶴じゃないし……ラーミアはラーミアなんだゾ!」
えっと………
なんだかグチャグチャな状態で夜は更けて行きます……
鶴が恩返しをしたのか、それとも交尾をしたのかは不明という事で……
め、めでたしめでたし
後書き
掲載するの忘れてたよ。
男の甲斐性①
前書き
DQ5が終わって直ぐの時代のお話です。
マリーがまだビアンカのお腹の中に居ます。
(グランバニア城)
ビアンカSIDE
この世を我が物にしようとしたミルドラースを倒し、世界に平和を迎えて数ヶ月……
一国の王たる我が夫も、その職務を全うすべく日々政務に明け暮れ……てはなく、妻である私とイチャラブすること暫し!
そのお陰か3人目を宿す事が出来、息子も娘も喜んでくれた。
2人には10年という年月を行方不明という形で寂しい思いをさせてしまったので、このお腹の中に居る3人目の子には、そんな事の無い様に自らの手で子育てをしようと思う。
ただ……王宮で暮らす事になってる為、気を抜くと周囲の者が子育てを手伝って(と言うより代行)しまうので、我が子の為に……そして自分の為にも努力を怠ってはならない。
大体王妃なんてのは分不相応なのよ。
とは言え王妃である以上、夫たる国王陛下の顔に泥を塗る訳にもいかず、政務に協力できる事は最大限協力するつもりです。
今もそう……国王の執務室では、サラボナからの使者が訪れており、国王たるリュカに恭しく挨拶をしている。
「先日の出産祝い品。フローラ様もアンディー様も大変喜んでおりました。変わって御礼申し上げます。ありがとうございました」
そうなのだ……フローラさんとアンディーさん夫婦に、先日待望の男の子が生まれたのだ。
私とリュカの結婚騒動の時も色々とお世話(?)になったし、友人として祝い品を贈らせてもらいました。
小国たるグランバニアよりも金持ちなルドマンさんに、何を贈れば良いのか正直迷ったのだけど、リュカの『金では買えない物を贈ろうよ……金なんて無いから(笑)』との一言で、可愛くスライムを刺繍したベビー服を贈りました。
リュカなんかは木材を器用に加工して、可愛い木馬を造りプレゼント。
『今は未だ早いけど、子供なんて成長が早いから』と言い、『本音を言えば、男の子へのプレゼントって思い付かないんだよね』と笑いながらお二人に渡してました。
そんな訳で、世界有数の大商人とのパイプは健在です。
力の弱い国家にとって、あれほどの大商人とのパイプは重要で、この関係を壊してはならないとシロウトの私にも理解できます。
でもリュカは……
『あんなハゲと仲良くするのは不本意だ』と言って、普段と変わらない態度でルドマンさんとも接してます。
そんな二人の遣り取りを見て、オジロンが胃を押さえてるのが……笑える。
「と、ところで陛下。実はお願いしたき議があるのですが……」
サラボナとの良い関係に思いを馳せてると、使者の方が言いづらそうに何かを言ってくる。
リュカに対して言いづらそうにするって事は、何らかの面倒事を押し付けようとしてるのかしら?
「面倒事だったら却下! 帰ってあのハゲに伝えろ……“お前の思い通りになるか馬鹿”とね(笑)」
使者の方も周囲も、半分以上冗談である事は解ってるのだけど、それでも顔が引き攣ってしまう事を言う一国の王がここに居る。
「その……あの……私も内容を聞かされては居りません。ですが我が主のルドマンが、陛下にご足労願えと言っております。どうか何卒よしなに……」
顔を引き攣らせ大量の脂汗をかきながらも、主人からの言付けを言い切る使者。プロね……
「ちっ、めんどくせーな……んだよ、あのハゲ!?」
一国の王たるリュカ陛下は、視線を下に移すと大きな声でぼやき、この場に居ない特定の人物へ暴言を吐いた。
「リュカ……そんな事言わないで、ルドマンさんに会いに行きましょ。ルディー君(お二人のお子さん)にも会いたいし、私にも3人目が出来た事を直接知らせたいから……ね」
「……ビアンカがそう言うのなら」
ぼやく夫の肩に手を置き、私の正直な気持ちを伝えると、その手を握り爽やかな笑顔で承諾するリュカ。
あぁ……この笑顔は麻薬よ。この場で押し倒したくなってしまうわ。
「じゃぁ家族みんなでお出かけにしよう。……つー訳でちょっと待っててね。息子と娘が学校から帰ってくるのを」
「え、今すぐに行くつもりなの!?」
「え、今すぐじゃダメ? ヤなことは早めに終わらせたいんだけど……」
私も使者も口にこそ出して言わないでいるけど、ルドマンさんの用事というのは100%面倒事だと理解している。
だからこそ十分な備えをしてから出かけるのが当然だと思うのがけど……
ビアンカSIDE END
(サラボナ)
ティミーSIDE
学校から帰るとお母さんが出迎えてくれ、そして突然『さぁみんなで出かけましょう』と言ってきた。
僕もポピーも吃驚で言葉を失ってしまったけど、先に立ち直ったポピーが『わぁ楽しみ。家族みんなで小旅行かしら?』と大賛成。
最近妹に付いていけなくなっている気がする。
詳しく訳を聞くと、サラボナのルドマンさんがお父さんの事を呼び出したらしく、その要請に応える為に出向くついでに、家族でお祖父ちゃんの家に行き温泉に浸かろうって事らしい。
お祖父ちゃんの家に遊びに行く事に異論は無いけど、そんな遊び半分で良いのかな?
こんな事言うのは失礼かもしれないけど、ルドマンさんはきっと面倒な事をお父さんに押し付けるつもりだと思うから、結構な時間を要すると推測します。
まぁ僕達が家族総出で出向けば、大抵の事は素早く片づくと思ったのかもしれないな……
そう思ったので、僕も天空の剣を準備しみんなの下に合流したんだけど……
『ティミー……その剣は置いていきなさい』ってお父さんに言われました。
良いのかな? まぁお父さんが居れば大抵の事は片付くし、僕の力なんて必要じゃ無いだろうけど……
そんな事を考えてたらお父さんには分かっちゃったみたいで、『伝説の勇者様が何でも問題事を解決しちゃっては、誰も自分で解決しようとしなくなる。皆から努力する心を奪っちゃダメだよ』って言われました。
やっぱりお父さんは格好いいなぁ……
そう思ってたら『あのハゲに何か言われても全力で拒否るから備えなんて不要なんだよ(笑)』だってさ。
はぁ……お世話になった人に対して酷いと思うのだけど、隣では嬉しそうにお父さんの意見に同意するポピーが居たので、僕は黙っておく事にした。
ポピーに口喧嘩では勝てないからね……
そんな訳で“あっ”という間に僕等4人はサラボナのルドマン邸に訪れております。
町の様子も、周囲の様子も……何時ぞやの“ブオーン騒動”の時の様に慌ただしくは無いし、本当にトラブルが起きてるのか疑問です。
でも主のルドマンさんが何時まで経っても現れず、僕等はお屋敷の応接室で待たされっぱなし……
結構深刻なトラブルに見舞われてるのかもしれないですね。
これは気を引き締めないと……
「どーなってんだこの家は!? 人様の事を呼び出しておいて、家主が一向に現れないなんて……娘を嫁に出来ず、玉の輿に乗りそびれた嫌がらせかコノヤロー」
応接室の外に人の気配を感じたお父さんが、家中に響き渡りそうな声で訴えだした。
「相変わらずですねリュカさんは」
「お前も相変わらず……って言いたいけど、子供が生まれて幸せ絶頂って感じだなアンディー」
部屋に入ってきたのは苦笑い状態のアンディーさんと、奥さんのフローラさんでした。
ルディー君の姿が見えないのは、教育上良くない人へ近づけない為に、離れの住まいに残してきたからだと思われる。
正しい判断だろう……大人は挨拶の為に姿を現せなきゃならないけど、純真無垢な赤ちゃんにはそんな義務は発生しない。
「フローラさん……ルディー君はお元気ですか?」
「はいビアンカさん。今はお昼寝の時間なので乳母に預けて連れてきておりませんが、スクスク元気に育っております」
うん。大人としては“良くない人に近づけたくなかった”とは言いづらいだろうし、当然の受け答えなんだろうなぁ。
「残念……私ルディー君に会いたかったのに」
「ごめんなさいねポピーちゃん。また今度会いに来た下さい」
うん。良くない人さえ居なきゃ誰でも自由に会えるのだろう。
「ふふっ、そうしますわフローラさん。未来の彼氏候補を手懐けないとならないので(笑)」
あぁ……これでポピーも“良くない人”リストの仲間入りだ。
何で“良くない人”リストに載ってる人に限って、ルーラを使う事が出来るのだろう……迷惑な事に。
「は……ははは……」「……うふふ……ふふっ……」
ほら見ろ。お二人とも引き攣って笑ってるよ。
もっと場を和ませる事が言えないのか?
「ポピー……ダメだよそれは」
場の空気が微妙になったところで、まさかのお父さんが駄目出しをしてきた。
流石に大人な対応をしようって事か?
「お前とルディー君とじゃ近親相姦になっちゃう。お兄ちゃんの様に諦めなさい」
「ちょ……リュ、リュカさん!? ルディーは僕の子です! れっきとした僕とフローラの息子です!!」
「さて……それはどうかな? 君の奥さんに聞いてみると良い(ニヤリ)」
お父さんの爆弾発言を聞き、この場に居る誰もがフローラさんへ視線を向けた。
すると……
「あらアナタ……私の事をお疑いですか?」
「い、いや……信じては居るけど……その……相手がリュカさんとなると……」
その通りだ……前科が何犯も付いてるこの人じゃ、疑ってしまうのは当然の事だ。
「と言う訳ですリュカさん。その冗談はリアルすぎて冗談と認めてもらえませんから、もう言わない方が無難ですよ」
「おっかしいなぁ……僕は他人の女には手を出さない主義って広言してるんだけど」
肩を竦めながら冗談である事を認めるお父さん。
もう……シャレにならないから止めてもらいたい。
そんな事を思いながらお父さんを睨んでいると突然「お前かリュカ!? お前なんだろう!?」とルドマンさんが応接室に乗り込んできた。
「何がだよ?」
驚く事無く呆れた口調で問い返すのはお父さん。
「お前の子供なんだろうって言ってるんだ!」
だがルドマンさんからの返答で、またもや場の空気が凍り付く……
え、やっぱりルディー君はお父さんの子供なの!?
ティミーSIDE END
後書き
必要なかったから本編の何処にもフローラとアンディー夫妻の事を書かなかったけど、
ヤる事だけはヤってたので、ちゃんと子供をこさえてます。
男の甲斐性②
(サラボナ)
ビアンカSIDE
「お前かリュカ!? お前なんだろう!?」
突然登場したルドマンさんの大声に皆が驚き固まっていると、
「何がだよ?」
と、少しも驚いてないリュカがユルい口調で問い返す。
そして、それに続くのは
「お前の子供なんだろうって言ってるんだ!」
とルドマンさんからの爆弾発言!
やっぱりなの!? やっぱり、またやらかしちゃってたの!?
そんな思いでフローラさんとアンディーさんに視線を向けるが……妻は兎も角、夫も戸惑った様子は無い。先程はリュカの冗談に狼狽えてたのに……
「もう、いい加減にしてよパパ!!」
するとド派手な格好をした女が、この応接室に入ってきた。
そう、ルドマンさんのもう一人の娘……デボラである。
「やぁデボラ、久しぶり~。暫く見ないうちにオッパイがまた大きくなったね……つーか、オッパイだけじゃないけど」
うん。相変わらずのハデハデ衣装に身を包み(もういい歳なのに)露出度を高め見せびらかしてるが、彼女のお腹は膨らんでいる……今の私と同じ様に。
「そっか、デボラも遂にママになるんだね。パパは誰かなぁ?」
「何を白々しい事を……(怒)」
知人の妊娠に素直に喜ぶリュカ……だがそれを怒りの形相で睨むのは妊婦の父親。
「え……僕がデボラを孕ませたと思ってるの!?」
ごめんリュカ。私も疑っちゃってます。
アナタ前科多すぎなのよ。
「僕じゃねーよ父親は。つーかデボラ本人に聞けよ……誰がパパなのかを!」
「誰でもいいでしょ!」
どうやら本当にリュカは無実な様で、妊娠した張本人に真実を話させようとする……が、彼女は言いたくない様子。
「いいわけねーだろ。僕が疑われてんだよ……」
「……リュカじゃない! それさえ判ればいいでしょ」
「よくない! 全くもってよくないわ!!」
リュカの呆れた口調に対し何時もの様に高飛車な態度でリュカの無実を告げるデボラ。
私としてはリュカがこの手の事で嘘を吐くとは思ってないから、その一言で了解できるけど……お祖父ちゃんになるルドマンさんには納得できる訳ない。
「どうせリュカの事を庇ってるんだろデボラ!?」
「何でそうなんだよ?」
まったくだわ……何でそうなるの?
「お前以外にこんな事をしでかす奴は居ないだろうが!」
そうとは言い切れないでしょう……
リュカの普段の行動は多々問題あるだろうけど、今更嘘を吐く理由が存在しないわ。
「はは~ん、さてはお前……子作りの仕方知らないんだろ」
「な、何を言うか馬鹿者!」
激怒しリュカを責め立てようとするルドマンさんに、ニヤケた表情で突飛な事を言うリュカ。
「だってそうだろ。子供の作り方を知ってりゃ、それをデボラに行ってない僕を疑う事は無いのに……違うと言っても信じない。……って事は」
娘を2人も持つ父親に対し、ムカつく口調で馬鹿にするリュカは……面白い。
「それによく見ろ、お前の娘2人を!」
「ふ、2人が如何したというのだ!?」
フローラさんとデボラが何だって言うのかしら?
「このハゲの成分が1ミクロンでも混入されてたら、こんな美女になるわけないだろ。お前子作り知らないから、奥さんが他所で頑張ったんだよ(笑)」
「ふざけた事ぬかすなぁぁぁぁ!!!」
今のはリュカが悪い。
ルドマンさんを馬鹿にするだけなら兎も角、奥さんまでも巻き込んじゃ拙いわよ。
禿げ上がった頭頂部から湯気が出てるじゃない……
「ふざけた事をぬかしてるのはお前の方だろ。僕もデボラもヤってないって言ってるのに、それを信じようとしない。だから僕もお前の全てを疑ったまでだ。どうだ疑われる気分は?」
「むぅ……うむ……」
ルドマンさんが大人しくなったわ。
リュカの言う正論っぽい事に惑わされてるのかしら?
まぁあの状況じゃ話も出来ないし、これはこれで良いのかしらねぇ……
「で、では……本当にお前じゃないのだなリュカ?」
「オメーしつけーなぁ。ヤってたら“ヤった”って自慢してるよ……真っ先にお前に自慢してるよ」
しそう……本当に自慢をしそうだわ。
「で、では誰なんだ一体?」
「知るかよそんなこと」
「もう。誰でも良いでしょ!」
「良くないわい! ワシの孫の父親だぞ」
そうでしょうねぇ……良くはないわよねぇ。
でもデボラも言いたくないみたいだし……本当にリュカじゃないの?
「なぁルドマン。今重要なのはそんな事じゃないだろ! 今重要なのは、これから新たな命が誕生するって事だよ。そしてその子を立派に育てなければならないって事だよ」
頑なに父親の事を言いたがらないので、再度リュカの事を疑い視線を向けたが、一瞬何かを納得した様な表情をし、そしてデボラの援護に回り出した。
「良いかいルドマン。もしデボラの事も、これから生まれる子の事も大切じゃないと思ってるのなら、何時までも子の親の事を詮索すればいいさ。でもね、そんな状態で出産するデボラに……そんな環境で生まれる子供に、良い影響があると思ってるのかい? 出産でナーバスになるデボラに『ふしだらな女め!』と常に気配を漂わせ、生まれた子供の多感な時期に『誰の子だ貴様は!?』と感じさせ……それがより良い家庭環境だと言えるのかい?」
「あ、いや……それは……」
リュカの台詞に口籠もるルドマンさん。
しかし何か怪しい……デボラとは肉体関係は無いと言いきったから、その事は信用して良いのだろうけど、何かを隠そうとしている。何だ……?
「し、しかしだなリュカ……責任が如何のとか言う気は無いが、生まれてくる子供に父親は必要だろう。ワシはそれを心配しているんだ」
ふむ……ルドマンさんも言うわねぇ。“生まれる子供の為”って言われれば、リュカだって怯むかもしれないわ。
「なるほどね……確かに生まれる子供に父親は必要だな」
「だろ!? お前もそう思うだろ!」
お……ルドマンさん、勝利を確信したか?
「ではこうしよう。デボラさえ良ければ僕が父親になろう!」
「「「はぁぁぁ!?」」」
私を含めほぼ全員でハモった“はぁぁぁ!?”だった。ハモらなかったのは大笑いしてるポピーだけ……心配だわ、あの娘の将来が。
「や、やっぱりお前が父「だから違うと言ってるだろ! 実際は父親じゃ無いが、血の繋がらない父親になってやるって言ってんの!」
やっぱり何か隠してるぅぅぅ!
「ふざけんな馬鹿、何でアンタを父親にしなきゃならないのよ!? 御免被る」
「そうは言うけどデボラ……ルドマンの……君のお父さんの言う事にも一理あると思うな僕は。子供には父親が必要だよ。僕だったら打って付けだと思うね……何故なら既に沢山子供が居るから。母親の違う子供が複数居るからぁ(大笑) あはははは、ちょーウケるー」
ウケないいわよ!
「ウケるか馬鹿!」
「お前なんか父親に出来るか!」
ルドマンさんもデボラも、多分この場に居る皆(ポピーを除く)の気持ちは一致しただろう。
つーか何であの娘笑ってられるの?
あれ本当に私の娘?
「じゃぁ如何すんのさ?」
「父親なんて必要ないわよ。世の中の大多数の父親ってのが、養育費や生活費を稼ぐだけの存在よ。つまり金さえ稼いでいれば、私達の側に存在しなくたって問題ないのよ。だったらパパが居れば良いだけじゃない! 養育費も生活費も私のパパで、この子のお祖父ちゃんが稼いでくれれば良いのよ!」
凄い事言ってきたわこの女……
「なるほど……反論できないなぁ」
いや、父親代表として反論しなさいよリュカ!
「そ、そうですわお父様……姉さんの子供です、私も叔母として子育てに協力しますし、ルディーも弟か妹が出来たみたいで嬉しいです」
「そ、そうですよお義父さん。僕達皆で協力し合ってより良い家庭を築きましょう」
何だか話が纏まりつつある。
リュカの話術の所為か?
何か釈然としない物があるが、この雰囲気を壊さない為に何も言わない方が大人なんだろう。
「ルドマンは幸せ者だなぁ……こんなに素晴らしい家族を持ってるんだから」
ルドマンさんとデボラの肩を抱き、優しく諭す様に言葉をかけて二人を密接させるリュカ。
絶対に何かを隠してるのだろうけど、取り敢えずの解決を迎えたので、私は何も言わないで置く……この場ではね。
ビアンカSIDE END
後書き
さてさて~、デボラの子供のパパは誰なんでしょうねぇ?
男の甲斐性③
(山奥の村)
ポピーSIDE
サラボナでの騒動も終息し、フローラさん・アンディーさん夫妻のしつこい……ゲフンゲフン、深い感謝の言葉を軽く流し、私達は今お祖父ちゃん家に来ている。
当初の予定通り、温泉に入りみんなで楽しく夕食をし、お祖父ちゃんは先にベッドに入り私達もゲストルームで寝る準備を整え終えました。
なのでチャンスだと思い、昼間の一件をお父さんに確認しようと思います。
何を確認かって?
決まってるでしょう……
「お父さん。デボラさんの赤ちゃんのパパをご存じですね?」
ってな事ですよ。
「何だい藪からスティックに?」
“スティック”? ……ああ、“棒”か!
「それは本当なのリュカ!?」
「おいおい奥さん……如何いう経緯でそうなるのかな?」
お父さんはオーバーアクションで戯けて見せ、真実を言う素振りを見せない。
「やっぱりお父さんが父親なんですね!?」
「お坊ちゃん……君も存外しつこいなぁ。それは違うって完全否定したろぅ」
ティミーの悪いところだ。直進的な思考回路しか持ち合わせてない。
「違うわよティミー。お父さんはウソを……この手の事柄でウソを言わないわ。本当の事を言わないだけで……ね!」
私はティミーを諭す様に見詰め、そしてお父さんに視線を直すとウィンクで同意を求める。
「何かを隠してるとは私も感じてたけど、まさかデボラの相手を知ってるなんて……本当に本当なのリュカ?」
「……………」
お父さんは困った様な表情で私達を見詰める。もしかして私はお父さんを困らせてるの?
「別に僕も真実を知ってる訳でも、本当の事を知らされた訳でもないから、これから話す事は推測に過ぎない。それでも聞きたいかい? もしかしたら無責任な思い込みかもしれないよ」
なるほど……お父さんはこれまでに得た情報(状況)を分析して、今回の件の事実を推測してデボラさんの援護に回ったのだ。
だからその事の裏取りをした訳では無く、万が一にもその似非情報が一人歩きする事を警戒してるのだわ。
「お父さんが本当にデボラさんとの関係を否定するのならば、その推測を僕達にも教えて下さいよ! これでは何時まで経ってもお父さんへの疑いを拭う事が出来ません」
ホント直情的な馬鹿ねぇ……アンタだけよ、その疑いを未だに抱えてるのは!
「ビアンカぁ~……息子に信じてもらえないよぉ~。え~ん、え~ん(嘘泣)」
「自業自得ね、諦めなさい。それよりも私は真実を知りたいわ」
お父さんはワザとらしい嘘泣きでお母さんに泣き付くが、人様の家の揉め事を知りたい主婦代表は軽く流し結論を急がせる。
「ふぅ~……まぁいいか。でも言っておくよ、これは僕が思ってるだけの事であって、本当に事実に即してるかは確認とってないんだ。だから勝手に盛り上がって、噂を広げちゃ絶対にダメだよ。僕そんな奴は、たとえ妻でも大嫌いだからね」
ポピーSIDE END
(山奥の村)
リュカSIDE
困りました。
“たとえ妻でも大嫌い”と脅し文句を織り交ぜて聞く事を諦めさせようと思ったんだけど……何処の世界でも他家の揉め事は知りたいらしく、我妻の尋常ならざる瞳の輝きが眩しい。
ビアンカに期待されると断れないんだよなぁ……
喜ばせたくなっちゃうんだよなぁ……
チラリとこの話題を再燃させた娘に視線を向ける。
如何やら反省はしてる様で、申し訳なさそうな表情で軽く頭を下げる。
息子は未だに俺の不埒を疑ってる様で、無実ならば真実を話せと言わんばかりの顔をしてはる。
だから違ーっつてんのに……
嫁が疑ってないのが、せめてもの救いかな?
……仕様がない、話すか。
「結論から言おう。アンディーが父親だ」
そう、俺の予測が正しければ、デボラの子供の父親はアンディーだ。
何処から話して良いのか俺もいまいち分からんから、最初から話そう。
先ずデボラは幼い頃からアンディーに惚れてた。
しかし彼女はあの性格だ……素直に乙女チックな振る舞いが出来たとは思えない。
従って、デボラはアンディーに会う度に苛めてたんだと思う。
ここで1つの問題が発生する。
それはアンディーの性格だ……もう少し気の強い性格であれば、多少屈辱でも女の子のやる事として軽く流せるんだけど、奴には無理だろう。
さて……ここで更なる問題が発生。
そうです。無条件なまでの慈悲深さを撒き散らすフローラだ。
姉が苛めて泣いている幼馴染みに対し、優しく包み込む様に慰め続けてきた。
自分を苛める女が居る一方、自分に優しくする女が居れば、そりゃ惚れちゃうよ……優しくする女にその気が微塵も無くったって、男は惚れちゃうんだよ。
デボラも辛かったんだろう……苛めたくは無いのに苛めてしまう。その結果、惚れた男が自分の妹に惚れちゃったんだから。
デボラが世間で言われてる様に我が儘な女であれば、自分の妹を殺してでも惚れた男をモノにしようとするんだろうけど、彼女は本当は良い娘なんだ。
アンディーに惚れてても、妹の幸せを心から願ってるんだ……そして勿論、アンディーの幸せも。
……んで、出した結論が身を引くって事なんだよね。
アンディーはフローラが好きだから、絶対に妹を不幸にはしないと言い切れるし、大好きなフローラと結婚できればアンディーは幸せなんだろうからね。
これで目出度く話は纏まるはずだった……
奴等の父親が馬鹿じゃ無ければ、これで目出度し目出度しだったんだ。
でもあのハゲがね……余計な事をね……
『ワシの出す試練に合格出来た者には娘のフローラと財産をやろうぞ!』
って、脳味噌まで禿げ上がったハゲが言い出して、サラボナ大パニックぅ!
フローラ困っちゃ~う。でも、もっと困っちゃ~うのはデボラ。
折角大好きな二人の為に、自分が犠牲になる道を選んだというのに、ハゲ親父がブチ壊した。
悩んだだろうな……考えたんだろうなぁ……
そして出した結論が“試練に合格した奴と自分が結婚する”事だ。
例の試練に合格した俺だから言えるんだけど、突飛だったもん!
デボラさん……俺へのプロポーズが突飛すぎだったもん!
それまで一度も会った事無いのに、突然現れて『私と結婚しなさい』だもん。
ないね……いくら俺がちょーイケメンでも、それはないよ。
しかも上から目線でグイグイだったね。
“お前、本当に俺に惚れたのか?”って思ったもん。
まぁあの時は妹思いの良い姉ちゃんだとしか思わなかったけど、今考えりゃアンディーへの思いが大きかったんだろう。
だから今回も自分が犠牲になる事で、二人の幸せを実現させようとしたんだろう。
しかし、ここに来てデボラに誤算が発生。
それは俺が女連れであの場に赴いた事だ。
吃驚仰天だっただろうなぁ……
そんな訳で作戦は変更されたんだ。
何処まで素だか判らんが、我が儘いっぱいなとこを見せ俺に結婚を迫った。
“自分と結婚したら苦労するぞ”と見せ付け、でも“自分をフッたら許さないぞ”とも見せ付け……
もしデボラをフッてフローラを選んだら……
我が儘で怖い義姉が常に側に居る事になる。
しかもフッたと恨んでる義姉が……
男としてはあの一家とは無関係な女と結婚せざるを得ない。
そう考える様にデボラは誘導したんだ。
最悪自分と結婚すると言われても、フローラとアンディーの幸せだけは守られる。
結果としては最も良い結果になったが、デボラの計画はこんな感じだったんだろう。
さて……では何故、大団円で終結した問題が、現在捻れてるのかと言えば……
それは男女の事柄ですからねぇ……色々あるんですよ。
だってデボラのアンディーに対する思いは失われた訳ではないんですからね。
幸せいっぱいのフローラとアンディーの間に待望の子供が生まれました。
それを見た乙女デボラは……そりゃ羨ましかったんでしょう。
諦めるつもりで……我慢するつもりでいたのに、直ぐ側には愛した男とその子供が居る。
きっとあの二人の前で泣き出したんではないだろうか?
赤ちゃんを抱っこさせてもらって泣き出したんじゃないだろうか?
そして知ったんだと思う……あの二人もデボラの気持ちに。
だから皆で幸せになる道を選んだんだ。
あの三人と生まれた子供とこれから生まれる子供と……
他所の家庭とは違う形だが、最も幸せになれる道を選んだんだと俺は考える。
だって幸せの形に決まりはないからね。
リュカSIDE END
男の甲斐性④
前書き
取り敢えず「男の甲斐性」シリーズは終了
(山奥の村)
ティミーSIDE
昨晩のお父さんの衝撃話から一晩明けた朝……
僕にはディープな内容過ぎて、寝不足状態です。
それでも少しは眠れたみたいで、ぼやけた思考状態で目を覚まします。
お爺ちゃん家のゲストルームを見渡すと、お父さんとお母さんが居ませんでした。
しかしポピーだけは僕の隣のベッドに腰掛け、僕が起きるのを待ってたみたいです。
何の用があるのか分かりませんが、無表情で怖いです。
「おはようポピー……お父さんとお母さんは?」
「二人は朝一から温泉に行ったわ……解るでしょ、意味」
ホント下品な夫婦だ。公共の施設なのに……
「それで……ポピーは何で僕が起きるのを待ってたの?」
「決まってるでしょ、私もお兄ちゃんと温泉入りたいからよ。お父さんとお母さんみたいにお兄ちゃんとね♥」
気持ち悪い事言うな!
「ふざけるな馬鹿。僕は昨晩の話を聞いて気分が悪いんだよ……これ以上気分を悪くしないでくれ」
「ティミーは潔癖症ねぇ……だからお父さんは話したくなかったのね、この事」
何を言いたいのか解らないが、呆れた口調で溜息を吐かれて。
「何だよ! 潔癖症じゃなくたって、あんな話を聞かされりゃ不愉快な気分になるよ!」
「不愉快って何よ!? デボラさんもフローラさんもアンディーさんも、あの状態で幸せを手に入れたのよ! それともティミーは、好きな人が直ぐ側で他の人と愛し合ってるのを見せ付けられながら我慢するのが幸せだって言うの!?」
「そ、そんな事は言ってないけど……」
「“言ってないけど”何よ?」
ポピーは僕を説得する為に起きるのを待ってたみたいだ。迷惑な事に……
「良い……一人の人間が複数の相手と性的関係になることに不快感を持っても、それはティミーの勝手よ。でもね世の中には色々な状況ってモノがあるの。だからアンタはアンタの生き方をすれば良いけど、他人の生き方に不満を露わにしちゃダメなのよ、分かる?」
「わ、分かってるよ……」
「そう……なら私がこれから話す事をキチッと理解して、今回の件は強引にでも納得しなさい」
な、何を話すつもりだ?
「これからデボラさんに赤ちゃんが生まれ、その子は真実を知らずに育つでしょう……少なくとも、ルドマンさんが生きている間は」
「そうだろうね……可哀想な事だけど」
「可哀想? 本当に可哀想な事かしら?」
「だってそうだろ! お父さんの事を……直ぐ側に居る父親の事を知らずに育つんだぞ! 僕等は両親の居ない辛さを知ってるだろ」
「知ってるわよ……でも、その分だけ周囲の人が愛してくれる事も知ってるわ。違う?」
「……違くない」
それはそうだけど…
「もし今、この事実を世間に明かしたとして、アンタみたいな思考回路の人間が如何な目であの一家を見ると思う? そんな軽蔑視された環境で生きて行く事が、本当にこれから生まれてくる赤ちゃんの為だと言えるの?」
「だけど側に父親が居るんだから、知らせないのは酷い事だと思わないのか?」
「重要なのは父親が父親をすることじゃないでしょ……誰かが父親をすれば、その子に父親の愛を伝える事が出来るの。私達がそうだったでしょ……オジロンやサンチョが私達を愛してくれた。ピエールやメイド達だってそうよ!」
「言いたい事は解るけど……」
「言いたい事が解るなら、それを不満に思うのはやめなさい。アンタが不満に思う……いや、その不満を露わにすると、それを見た人が勝手な憶測をするの。それを知った他人が無責任な噂を巻き起こし、何れはデボラさん達に不幸が襲いかかるのよ!」
「そうかもしれないけど……」
「“そうかも”じゃなくて“そうなの”よ! 自分の家庭の事なら不満を露わにしても、その結末が己に降りかかってくるから私も注意しないけど、他所様の家庭を不幸にする様な言動は止めなさい。アンタのその態度、ホント最低だからね」
「そこまで言う事ないだろ! ちょっと僕には理解出来ないと思っただけだろ……」
「思っても言動に表すなって言ってんの! 昨晩お父さんの話を聞いてる時から不機嫌な表情をして、今朝もその表情をなくそうとしない。あの一家の出来事はアンタに関係ないでしょ! お父さんがお母さん以外の女との間に子供を作っちゃった時だけにしなさいよ、その表情は!」
「じゃぁ常にその表情をしてなくちゃならないじゃんか」
「ガキみたいな言い訳すんな馬鹿!」
最近口が悪くなってきたなぁ……
「解ったよ……気を付けます!」
「まぁこれ以上言ってもムダだろうから、今回はこの辺で勘弁するけど……」
肩を竦めてそう言うと、僕の手を取りベッドから引きずり出すポピー。
「じゃぁ気分転換に温泉に入りましょうよ。お父さんとお母さんもまだ入浴中だし、一家揃ってリフレッシュしましょ!」
と言い、寝間着状態の僕を強引に温泉に連れて行こうとする。
「い、いいよ僕は! お父さんとお母さんの邪魔をしちゃ悪いから……」
「心にも無い事言わないの」
直ぐバレた……本当はお母さんの裸を見るのが恥ずかしいからだ。
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。お母さんからすれば、お父さん以外の粗チンに興味ないだろうし、私もアンタのベイビーに微塵も興味持ってないから(笑)」
ベ、ベイビーってなんだよ!? 馬鹿にするなよな!
そんな憤慨もあったんだけど、ポピーの強引さに押されて気が付けば裸のお母さんを前にして大人しく温泉に浸かっていました。
ティミーSIDE END
(サラボナ)
アンディーSIDE
「しかしリュカさんは凄いね。僕達は何も言ってないのに、お義姉さんの態度だけで真実を察知してくれたよ」
「そうねアナタ。何時もの事ですけどリュカさんには感謝ですね……ねぇ姉さん?」
「……………」
僕とフローラはデボラ義姉さんを自宅(離れの自宅)に呼び、昨日のゴタゴタを語り出す。
デボラ義姉さんは他人に知られたくない心の内を、最も知られたくないリュカさんに知られてしまい、昨晩からすっごく不機嫌状態だ。
僕も最初は驚き戸惑いました……いきなりデボラ義姉さんに恋心を告白され、これまでも苛めが全て愛情の裏返しだったと知らされて、困り果ててしまいフローラに相談してしまった程です。
「でも私、お父様がリュカさんの事を怪しんで呼び出した時から分かってました。彼なら事態を直ぐに察知して、私達を助けてくれるだろうって」
僕の妻は未だに彼の事を語る時、恋する乙女の表情をする。相手が相手なだけに、とても不安になります。
「まったく……パパが余計な事を言うから。って言うか、あの馬鹿の日頃の行いが悪い所為で、こっちにまで被害がきたじゃない! いい迷惑よ……」
「で、ですがリュカさんが来てくれなかったら、今なお騒動は続いてたんじゃないですか?」
「それでも内々で解決すれば良いだけの事でしょ!」
はぁ~……やれやれだな。
思わずフローラに視線を向けたが、妻も僕と同じ様に“やれやれ”といった表情をしている。
「姉さん……それでもリュカさんに助けられたのは事実ですよ。我が家は何度もリュカさんに助けられてるんですから。リュカさんが居なければ、サラボナはブオーンに滅ぼされてたでしょうし、私もアンディーと結婚出来なかったんですから」
「そん時は私がお婿に貰ってやってたわよ!」
「それは無理ですお義姉さん。今ならばお義姉さんの気持ちも知る事が出来たし、如何なってたか分かりませんが、以前でしたら泣いて許しを得てましたよ」
「ムカつくわねアンタ……大体リュカがあの時に私を選ばなかったから、こんな状況になったんじゃない! 選りに選ってあんな田舎娘を選ぶなんて……アイツ何一つ助けてないわよ!」
「そんな事ありませんよ、あの時リュカさんが姉さんを選んでいたら、私は姉さんを嫌いになってました。本当に感謝に絶えません」
この姉妹がする独特の姉妹喧嘩だ。
結婚当時はこの喧嘩をされると如何して良いのか判らず唯々狼狽えてたけど、今では慣れた所為か微笑ましく眺める事が出来る。
「姉さん。リュカさんに手紙だけでも認めた方が良いですよ。直接は言えないでしょうし、言う訳にも参りませんから」
「必要ないわよ、あんな馬鹿に礼なんて!」
「いえ姉さん。手紙を認めるだけで、お礼を言えとは言ってません……ですが姉さんの言う通り、今回はとてもお世話になったのだし、お礼の手紙を認めた方が良いかもしれませんね」
ニッコリと微笑むフローラを、悔しそうに目を見開いて見詰めるデボラ義姉さん。
この勝負、我妻にあり!
アンディーSIDE END
(グランバニア城)
ビアンカSIDE
デボラの妊娠騒動から数週間……
ルドマンさんからの手紙と共にフローラさん・アンディーさん夫妻からの手紙がリュカの下に届いた。
その中にはなんと……デボラからの手紙まで入っていた。
「あの娘がリュカに礼状を出すなんて驚きね」
私達夫婦の私室に持ってきたデボラからの手紙を見せられ、正直な感想を述べる。
「さて……まだ中身を読んでないから、礼状だとは言い切れないよ(笑)」
そう言うと唯一未開封だったデボラの手紙を開封するリュカ。
「……で、何て書いてあるの?」
開封後A4サイズの便せんに目を移し、苦笑いをする夫に催促をする。
その言葉に苦笑いを強くし、私にも書面を見せ付けるリュカ。
そしてそこには……
『Thank you』
とだけ書かれてる。
「そ、それだけ……?」
A4サイズの便せんに、小さく“Thank you”だけよ!
礼だと言うのは解るけど、それで良いと思ってるのあの娘は!?
「デボラらしいなぁ(笑)」
「らしいけど……そんな手紙じゃ出す必要性がないじゃない!?」
呆れた口調で私が言うと、
「フローラに出せと言われたんだろうね。そして出すか如何かを迷ったんだろう……迷った挙げ句出す事にして、その内容にも迷い果てたんだろうね。きっと彼女は、便せんを何十枚とムダにしたんだと思うよ」
そうかもしれない……
そうかもしれないけど、前後の挨拶文くらいは書いても良いと思わない?
そんな思いでリュカを見詰めてると……ぐしゃぐしゃっとデボラの手紙を丸め、手近な屑籠に投げ捨てるリュカ。
「ちょ……捨てちゃうの!? デボラが悩んで書き上げた手紙なのよ?」
「だとは思うけど、彼女も捨ててほしがってると思うよ。僕にこんな屈辱的な手紙を持ち続けられるなんて……絶対に嫌だと思ってるよ」
そう言って最高の笑顔を私に向けてウィンクするリュカ。
何で女心に聡いんだこの男は?
私の苦労は続きそうだわ……
ビアンカSIDE END
後書き
色んな意味で成長を続けるティミーとポピー。
温かい目で見守りましょう。
「僕等の冒険は始まったばかり!」的な…
前書き
ご存じの方も居るとは思いますが、この話は『二次ファン』でサイトの閉鎖が決定した為に、急遽DQ3を完結(形だけ)させる為にこさえたエピソードです。
リクエストがあったら掲載しようと思っておりました所、パパスの息子様からリクエストを戴き、掲載へと踏み切りました。
リュカ「は~い………つーワケで、今回をもちまして『ドラゴンクエストⅢ そして現実へ…』は終了で~す! こ~んな中途半端な終わり方をするのには大人な事情がありますが、説明めんどいから省略! 作者が飽きた…って事でYO・RO・SHI・KU!」
ティミー「父さん、ふざけないでくださいよ! 掲載させてもらった『にじファン』というサイトが、閉鎖する事となった為、僕等の物語も強引に完結せざるを得ないのです! お世話になったのですから、最後くらいは真面目にやりましょうよ!」
リュカ「真面目にぃ~……? 二次小説作家を集めるだけ集めて、『やっぱり権利関係がうるさいから止めようぜ!』って一方的に追い出してるだけじゃん! お世話になるどころか、良い迷惑ですよ! こんな事になるくらいなら、最初から二次創作小説なんて書かねっての!」
ティミー「また、そう言う事を………い、一時でも楽しい思い出を造れたのだから、それで良いじゃないですか!」
リュカ「………何お前、運営側に賄賂でも貰ってるの?」
ティミー「貰って無いですよ! それよりも、ここまで読んでくださった読者の方々に、せめてダイジェストでも物語の続きを紹介しましょうよ」
リュカ「う~ん…………………………そうだね。 じゃ、僕から今後の展開を説明するね! 桃太郎と書いてアルルと読む彼女は、3人のお供…イヌっていうか狼なウルフと、鳥の様に舞い攻撃を繰り出すキジ的なハツキと、サルつーかゴリラ…っていうよりコングなカンダタ…つーかやっぱりコングの3人と鬼ヶ島へ渡る為に、『太陽のナントカ』ってアイテムと『雨上がり決死隊』的な名前のアイテムを揃えたらしい」
ティミー「ちょ、何ですか…それ…」
リュカ「んで、2つのアイテムを揃えたら、なんと飛行機が出てきましたとさ。 それを見たコングが『大統領でもぶん殴ってやるけど、飛行機だけは勘弁な!』と言ってきたので、アルルとハツキが後ろから殴り倒し、気を失っている間に、飛行機に乗せテイクオフ!」
ティミー「と、父さん…真面目に…」
マリー「ここからは私がご説明致しますわ! 無事に鬼ヶ島へ辿り着いた一行は、大魔王リュカの妨害に遭います」
リュカ「え!? 鬼ヶ島なのに大魔王なの? 鬼は?」
ティミー「ツッコミ所はソコかよ!」
マリー「大魔王、第1の刺客…それは大魔王の息子である、ムッツリ魔神ティミー!!」
ティミー「ムッツリって何だよ! 僕は違うぞ!」
マリー「うっさい、黙れ! …さて、ムッツリ魔神ティミーはアルル達の前に現れると、開口一番『僕アルルに惚れたから、一緒に行くね♡』と、アッサリ父親を裏切る荒技! 新たな仲間を加え、更に進む一行!」
リュカ「何だよ、女の色香に惑わされ、簡単にパパを裏切るなよな!」
ラングストン「続きは私めが… 次なる刺客は、大魔王の娘…我が儘マリー!」
マリー「な!? わ、私我が儘じゃ無いもん!」
ラングストン「アルル殿一行の前に現れ、お得意の我が儘を披露する! 討伐しようと剣を抜いたその瞬間、ロリコンイヌのウルフが後ろから皆を攻撃し、マリーに加勢する!」
ウルフ「お、おい! 俺はロリコンじゃない! マリーだから好きなんだよ!」
マリー「見つめ合うマリーとウルフ……… 二人の心は今一つに……… そして二人はルーラで去って行く…アダルティーな世界へと!」
リュカ「さぁ、そろそろ真打ちが登場…」
アルル「いい加減にしなさい! 1ミクロンも事実に即して無いじゃないの!」
リュカ「別にいいじゃん! 作者はサイトを変えて続きを書く予定なんだから、今ここで続きを教えなくても…」
アルル&ティミー「「え!? つ、続き書くの?」」
リュカ「え? 知らなかったの? 作者は色んな所で告知してたよ」
マリー「お父さん、きっと2人ともズッコンバッコン勤しむのに忙しくて、情報を仕入れてないのよ。 イヤラシイわぁ…」
ティミー「ちょ…そ、そう言う言い方って…」
ビアンカ「こら! 2人をいぢめちゃダメよ。 そんな事より、もう既にpixivってサイト(pixivでは『リュカ伝その1』のみを掲載)で作品を再開しているのだから、そちらの告知をしましょう!」
リュリュ「はい! http://www.pixiv.net/mypage.phpにて、今作品の作者である『あちゃ』が、第1作目にあたる『DQ5~友と絆と男と女』から掲載を開始しました。 多少の手直しをしてからの掲載という事で、1度読んだ事のある方でも、少しは楽しめるかと思います。 どうか皆様楽しんでやってください」
ポピー「つっても、あちゃの作品だから… 大したことは無いので、暇潰し程度の感覚で読む事! 期待しすぎると、すっぴんのキャバ嬢くらいのガッカリ感を味わうわよ!」
後書き
友人Bが「あんな馬鹿話にリクエストなどある訳ないだろう!」と、この話を貶しました。
しか~し…見事リクエストが上がり、掲載する事が出来ました。
やっぱりBは「馬鹿たれ」のBです!
プリティー・ファンキー・レイディオ
前書き
この外伝は、えくすとら100話目記念に書いたものです。
そこまでの物語を元ネタにしてますので、それ以前には読まない方が良いんじゃないかと思います。
あと、悪ふざけなので本編に影響はしてません。
マリー「は~い、今夜も始まりました『オール・ナイト・グランバニア!』DJのプリティー・マリーちゃんでぇ~す♡」
ピエッサ「同じくDJのピエッサです」
マリー「二人合わせて……」
マリー&ピエッサ「「マリー&ピエッサです」」
マリー「いやぁ~、カレーが美味しい季節になってきましたねぇ」
ピエッサ「カレーは年中美味しいですけど、マリーちゃんにとってカレーの季節って何時よ?」
マリー「そういう細けー事はいいんだよ! 今夜もリスナーからのお便りをバシバシ紹介しちゃいますからね♥」
ピエッサ「言わなきゃ良いのに……」
マリー「さぁて、お便りは常に募集してるから、メール・FAX・矢文・伝書鳩などなど沢山送ってくださいね」
ピエッサ「矢文と伝書鳩はガチ困りますので止めてくださいね」
マリー「メールアドレスは『marry_pretty@fiction.granvania.co.dq』へ、FAX番号は『0990-555-100100』まで」
ピエッサ「イタズラメールや間違いFAXはご遠慮ください」
マリー「じゃ早速最初のコーナー!」
ピエッサ「『グランバニアの七不思議』のコーナーです」
マリー「七つとは言わず七億でも募集してるから、身近にあった不思議な物事を教えてください。では早速ラジオネーム『平民王妃』さんから……『こんばんはマリー、ピエッサさん』」
ピエッサ「はい、こんばんは」
マリー「こんばんは、お母さん」
ピエッサ「ちょっと……お母さんとか言わないでよ。ラジオネームの意味がないでしょ!」
マリー「『私には一つだけ不思議で困ってる事があります』 一つだけ? もっとあるでしょうに……『私の旦那が格好良すぎなんですよね。結婚して随分経つし、もう孫まで居るんですけど、未だに恋しちゃってるんですよね。不思議ですよね!』 何言ってんだ、このババア?」
ピエッサ「まぁ。何時まで経ってもラブラブなんてステキですよね」
マリー「いい加減歳を考えて欲しいですけどね」
ピエッサ「そういう事を言わないの!」
マリー「まあいいや。不思議を提供してくれたビア……ゲフンゲフン、ラジオネーム『平民王妃』さんには、グランバニア王家印の特製毒消し草をプレゼント」
ピエッサ「普通の毒消し草に王家のマークを書いてるだけですけどね」
マリー「ではでは続いてのお便りは、ラジオネーム『天空の勇者王子』さんから……もう少し名前を捻れ、お兄ちゃん!」
ピエッサ「だから、バラすなっての!」
マリー「『グランバニアの七不思議……それは僕の娘が可愛すぎる事だ! もう可愛くって可愛く』 はい、ボツ! 次のお便りにいきましょう」
ピエッサ「こ、こらこら……ボツはないでしょ」
マリー「はいはい、じゃぁ王家印の薬草でもあげといてよ……そんな事より次のコーナーいくわよ。『みんなのお悩み相談所』のコーナー!」
ピエッサ「このコーナーはリスナーの皆様から様々な悩みを聞いて、私達で言いたい事を言わせてもらうってコーナーよ。悩みを相談されても解決出来ない……と言うか、解決しない事の方が多いからね」
マリー「ではでは最初のお便りは……ラジオネーム『パパ大好きっ娘』さんから……これあの女だろ!?」
ピエッサ「しーっ! 言っちゃダメよ」
マリー「まぁ良いわ。『こんばんはマリーちゃん、ピエッサちゃん。私の悩みを聞いてください』 嫌だなぁ……」
ピエッサ「そんな事言わないで続きを読んでよ」
マリー「どうせ変態的な内容よ……『私はお父さんが大好きです。お父さんの愛人になって子供を産みたいです。でもお父さんは嫌がります。如何すれば私の魅力にメロメロになるでしょうか?』 ……ほらぁ! だから読みたくなかったのよ」
ピエッサ「え、え~と……他人の嫌がる事はダメって子供の頃に習ったと思うんですよね。だから嫌がってるのなら止めましょうよ……ね」
マリー「王家印の天使の鈴をあげるから、とっとと頭を治しなさいよ!」
ピエッサ「あの、お願いですから、もう少しライトな悩みを送ってください」
マリー「はい、じゃぁ次々……ラジオネーム『ラインハットの兄王』さん……何で皆捻りのない名前なの!?」
ピエッサ「な、何言ってるのよ……誰の事だか解らないわぁ」
マリー「もう良いわよ。じゃぁヘンリーさんのお便り読むわ『こんばんは。俺の悩みは息子の嫁が親友みたいに厄介な事だ。父親に似てて、従来の習わしとかを平然とブチ壊す性格なんだ。何とかしてくれよ』 ……何とか出来る訳ないじゃん」
ピエッサ「そうね……これはムリね。王家印の命の石をプレゼントするので、長生きしてくださいね」
マリー「ムリね……ポピー姉さんを義理の娘にした時点でアウトよ」
ピエッサ「……ご愁傷様です」
マリー「さぁ暗くなってきた雰囲気を吹き飛ばす為、次のコーナーにいってみよう! 『私の自慢、聞いちゃって』のコーナー!!」
ピエッサ「このコーナーは、皆様の自慢話をどしどし募集して、他のリスナーに教えてあげるコーナーです」
マリー「さてさて、今宵はどんな自慢話があるかしらん? 最初のお便りは……ラジオネーム『天空の勇者王子』さん……ボツ! お前の自慢話は解ってんだよ! 娘だろ? 娘が可愛いって事だろ!」
ピエッサ「そうね……さっき別のを読んだし、今回は無しね」
マリー「そういう事……だから次よ。ラジオネーム『凄腕メイド二世』さんから……『マリー&ピエッサさん、こんばんは』 はい、こんばんは」
ピエッサ「こんばんは」
マリー「『聞いてください。頑張って仕事して出世したら、ビアンカ様の脱ぎたてパンツを貰う事が出来ちゃった♥ 超良い香りー! 私だけの宝物で~す』 ……何だコイツ? ド変態が投稿して来やがったわよ! 誰よコイツ!?」
ピエッサ「だ、誰だか判らなくて良いじゃないよ。ソッとしておきましょうよ……こんな変態は」
マリー「そ、そうね……つーか何かあげる?」
ピエッサ「いいんじゃない? もう宝物を持ってるみたいだし」
マリー「じゃぁそういう事で次のお便り……ラジオネーム『兵士だけど元奴隷』さんから。『こんばんは。俺は兵士として暫くの間、地方へ赴いていたんですけど、この度中央へ戻ってきました』 それはそれはご苦労様です」
ピエッサ「長い間お疲れ様です」
マリー「『無事に中央に帰ってきて幼馴染みの彼女に逢いに行ったら、未だ処女でしたぁ! てっきり陛下の愛人になると思ってたんですけど、俺にもチャンスが残ってました! 今ラブラブですよ』 ……けっ、浮かれてんじゃねーよ」
ピエッサ「何で他人の幸せを祝えないの? 何の為のコーナーよ」
マリー「……オメデトー。シアワセナきみニハ、コレヲぷれぜんと」
ピエッサ「はいはい……王家印のエッチな下着を送っておきます」
マリー「それを彼女に着せて励め」
ピエッサ「可愛い子供が生まれたからって、私達に報告は無用ですよぉ~」
マリー「これ以上は他人の幸せを見せられたくないから、次のコーナーにいきましょう。次は『グランバニア川柳』です」
ピエッサ「このコーナーは、皆さんの身の回りで起こった出来事などを、5.7.5のリズムに乗せて発表してください」
マリー「そんな訳で、最初の投稿は……ラジオネーム『元雪の女王』さんから。『エロ下着 義理の息子に プレゼントされちゃった♥』 ……5.7.5だってんだろ! 相変わらずアホだなスノウさんは」
ピエッサ「名前を言うなってんだろ!」
マリー「ちゃんと川柳になってないからプレゼントは無し!」
ピエッサ「そうね。他の物をプレゼントされた事があるみたいだしね」
マリー「じゃ次の投稿よ……ラジオネーム『異世界の女勇者』さんから。『我が旦那 親馬鹿極め 哀しきか』」
ピエッサ「これラジオネーム『天空の勇者王子』さんの奥様ですかね?」
マリー「間違いなくアルルさんね」
ピエッサ「だから名前言っちゃダメだっての!」
マリー「まぁそんな事より、何あげる? 結構心に染み入るんだけど……グリンガムのムチあげちゃう?」
ピエッサ「そうですねぇ……もう王家印とか面倒臭いから、グリンガムのムチをそのままあげましょう」
マリー「はい。本日一番良い物が出た所で、お時間が来ちゃったようです」
ピエッサ「他のリスナーも、どしどし投稿をお願いしますね」
マリー「それじゃぁまた来週まで……」
マリー&ピエッサ「「バイバ~イ」」
純粋な心の青少年と汚れた大人達の物語
前書き
田鰻さんがサラボナのキャラの事を思い出させてくれたので、
急遽書く事にしました。
掲載は「外伝」になってますが、物語の時期的な物は「えくすとら」の100話前後です。
(サラボナ)
ルディーSIDE
僕のお祖父様は商業都市サラボナを纏める大商人だ。
だから世界中に情報網を張り巡らせており、遠いグランバニア王国の事も随時把握出来るようにしている。
そんな訳で、まだこのサラボナの人々には浸透してない“マリー&ピエッサ”という音楽ユニットの情報も既に知っている。
そしてグランバニアで大人気の音楽ユニットをプロデュースしたウルフ宰相閣下とも知り合いなのだ。
ウルフ宰相閣下と言えば自他共に認める超天才で、王様のリュカ陛下と共に色々な世界を冒険し、勿論大活躍で陛下をお助けした方で、戦闘も政治も行える凄い人だ。
更に凄いのは、閣下の絵の上手さだ。
マリー&ピエッサがグランバニアで有名と聞いたお祖父様は、ウルフ閣下にお願いしてお二人のステージシーンを絵に描いて贈ってもらった。
その絵は今にも動き出しそうなほどリアルで、僕も父様も母様も……そして絵とかに煩いデボラ叔母様も唸るほど綺麗で上手い絵だった。
何よりデボラ叔母様の娘、デイジーも瞳を輝かせて絵に見入っていた。
デイジーは叔母様の趣味で何時も派手な服を着ているが、凄く恥ずかしがり屋で人見知りな女の子の為、普段だったら家族以外の人が居る場所では叔母様か僕の後ろに隠れて顔を出さない子なんだけど、ウルフ閣下の絵が綺麗すぎて絵を持ってきてくれたお祖父様の部下の前でも、恥ずかしいのを忘れて出てきてしまったくらいなのだ。
それ以来、暇があればマリー&ピエッサの絵を見ている。
それを見たお祖父様がデイジーの為に彼女等(マリー&ピエッサ)をサラボナに呼ぶと提案し、大人しい彼女(デイジー)が屋敷中を跳ね回って喜んだ。
いくらグランバニアの宰相と知り合いのお祖父様でも、そんなに人気のお二人を簡単に呼べるとは思ってなかったんですけど、詳しく聞いたらボーカルのマリーさんは、リュカ陛下の娘さんとの事で、お祖父様の頼み事を快く聞き入れてくれたそうです。
しかも驚いたのはマリーさんはデイジーと同い年……
ウルフ閣下の絵では僕よりもお姉さんだと思ってたんだけど、まさかの年下でした。
もしかしたら絵で見ると大人っぽく見えるのかと思ってましたが、直接お目にかかっても大人っぽくて吃驚です。
更に吃驚なのは、ウルフ閣下が直接来てくれた事です。
お祖父様も父様・母様もウルフ閣下と一緒に来たグランバニア王太子殿下ご家族にお礼を言っていました。
でも閣下は『ルーラを使えば直ぐですから、例には及びませんよ』って優しく仰ってくれました。
ただ『リュカさんもリュリュさんも面倒臭がって……』と小声で謙遜してました。
そうやって我々に遠慮させないように気遣ってくれるなんて、出来る男は格好いいですよね。
しかし……何で殿下と奥様と娘さんが一緒に来たのかは不明です。
ティミー殿下とウルフ閣下には何度かお目に掛かった事があるのですが、奥様と娘さんには初めてです。
殿下が抱いてる娘さんを紹介された時、素直に『アミーちゃんと言うんですか。凄く可愛い女の子ですね』って感想を言ったら、最初は笑顔で『ありがとう』って仰ったんですけど、直後に『嫁にはやらん!』と言われました。
何のことかポカンとしてると、奥様が『ルディー君が驚いてるでしょ!』て後頭部を叩いてました。
殿下に対してそんな事して良いのかと驚いてると、ウルフ閣下も『本当……あんたキモいわぁ~』と白い目で見ながら言いました。なんか大丈夫みたいですね。
そうそう絵を見て憧れてたデイジーは、最初こそ恥ずかしがって僕の後ろに隠れてたんですけど、マリーさんが『貴女凄い格好ね。そのままステージに立って歌うこと出来るんじゃないの?』と言われ、彼女に教えられるがまま歌を歌ってます。
最初は僕等だけの為に来てくれてたマリー&ピエッサですが、ウルフ閣下が『こんな少人数の為だけに俺がルーラを使うのはもったない。ルドマンさん、今すぐ町の人々を集めてコンサートを開きましょうよ』と提案!
凄い吃驚です。
でも一番吃驚なのは『ちょっとぉ~……私の歌は安くないのよ。これ(親指と人差し指で輪を作り、お金を意味してる)は大丈夫なのぉ?』って残念な事を言うマリーさんだ。
もうちょっと懐の広い女性かと思ってたのに……
でも流石はウルフ閣下だ。
『馬鹿だな。ここは通商国家で商業の中心地だぞ。無償で歌を披露して、世界中に評判を広めて貰えれば、長い目で見て大いなる利益になるだろうが』とマリーさんを説得。
確かにその通りだと言う事で、急遽ステージを屋敷の前に設置。
いきなり歌えと言われて歌える物なのか疑問だったけど、マリーさんも軽く歌い、ピアノを弾くピエッサさんも動じることなく演奏をする。
全ての曲目が終わり、僕の感想は……
凄い! 凄く良い!!
今まで聞いた事のないリズムに、感動出来る歌詞。
それらを綺麗に融合させるピエッサさんのピアノ伴奏と、全てを完成させるマリーさんの綺麗な歌声。
ウルフ閣下の絵は、まさにそのままを描いた凄い絵だけど、やはり音楽が加わると芸術性が格段に向上する。
デイジーはお二人の大ファンになってしまった。
でも僕はウルフ閣下の大ファンになってしまった。
だってコンサートが終わって屋敷に入ると、そこには大きな絵が置いてあり、皆がコンサートに夢中になってる間に書き上げた、僕等(僕・デイジー)がマリー&ピエッサと一緒にピアノの前に居る絵なのだ。
これは僕にだけでなく、デイジーにも思い出に残る一枚となるだろう。
あの恥ずかしがり屋なデイジーが、屋敷で待ってたウルフ閣下に抱き付くくらいなのだから。
先刻のコンサートには僕の友達も沢山来てたから、自慢出来るよ。
ルディーSIDE END
(サラボナ)
ティミーSIDE
僕は来るべきじゃなかったのかもしれない。
可愛いアミーを自慢したくて、ウルフ君等に付いて来ちゃったけど、愛娘を狙う野獣を増やしてしまったかも?
でも今の内に牽制しておいたら嫁に後頭部を叩かれた。
それを見てたウルフ君は『そんなんじゃ生ぬるいから、今後はグリンガムのムチを持ち歩いた方が良い』と嫁にアドバイス。
殺す気ですか?
しかし、それ以上に来るべきじゃないと思えたのは、ウルフ君が目敏すぎるからだ。
アンディーさんとフローラさんの息子であるルディー君と、デボラさんの娘のデイジーちゃんを見て、僕にコッソリと尋ねてきた。
『あの……デイジーちゃんの父親って……アンディーさん?』
何で判るのー!?
答えに困ったね。
でも、そんな僕の様子を見て彼は直ぐに悟る。
『やっぱりそうなんですね。しかも公には出来ないんですか……』
凄くない? この人、凄く聡くない?
『虫も殺せないような顔してて、俺やリュカさんサイドの住人なんですねアンディーさん』
いや……色々あるんだよ。
でも説明出来ないんだよ。
でも一番来た事を後悔したのは、ルドマンさんがグランバニアの新兵器について、色々聞く為にウルフ君を呼び寄せた事だった。
マリー等のステージが終わって帰り支度してると、僕と彼を書斎に呼び、真剣な表情で問うてきた。
「リュカが凄い兵器を発明させたと聞いたが、それは真実か?」
「真実ですが、お売りする事は出来ませんよ」
流石はやり手の大商人。孫娘の為にマリー等を呼べばウルフ君が連れてくると読み切り、本当の目的を隠しおおせた。
「だがなウルフ宰相。グランバニアだけが独占しているのでは、いつかは我々の町に侵略してくるかもしれないと考える者が居るやもしれんぞ。世界の均衡を保つ為に、多少は情報を広めては如何かな? 勿論有料にすれば、一財産稼ぐ事も出来るであろう……」
「財産に興味があったら、今頃俺はグランバニアの王になって、お前等全員奴隷にしてるよ。リュカさんもティミーさんも、以前は俺に王位を譲っても良いと言ってたんだからな。でも興味ないから、それらの権利を放棄してお二人のサポートに回ってるんだよ」
「なるほど……裏方で権力を振るうと言う事かな?」
「俺みたいな小物が大いなる権力を暴走させない為に、絶大な正義感とカリスマを持った人間がトップに君臨する治世を作ってるんだよ」
「そうは言っても時が経てば、権力に振り回される統治者が誕生するだろうて……その時は如何するつもりなのかな? お前もリュカ等も死んでるであろう」
「その時はアリアハンのマスタードラゴン様が、神の鉄槌を下されるだろう。権力に振り回される小物では、リュカさんのように神々を平伏させる事は出来ませんからね」
「ほほう……随分と自身があるようだが、リュカも同じ考えなのかな? 件の新兵器を一度見せて貰って、直接リュカに真意を確かめたいのだがな」
「はっはっはっ。ルドマン殿はアサルトライフルの性能を存じないから、我が王が交渉に応じると思えるのです。実物を一度でもご覧になったら、交渉する気も失せる事でしょう」
「逆ではないのかな? それ程の威力を誇るのであれば、良い金儲けだと私が考える……そうは思いませぬのか?」
「完成した新兵器が究極形だと思ってた頃は私もルドマン殿と同じ事を考えたでしょうが、悪しき者の手に新兵器が渡れば、更なる進化も有り得ると陛下に教えられ、思い改める事が出来ました」
「ほう……更なる進化があると聞いては、余計に知りたくなりますなぁ」
「製造方法等は決して教えられませんが、世界中に新兵器の威力を知らしめる為に、ルドマン殿たち商人等には知っていて欲しいです。ですから後日グランバニアに視察されては如何ですかな? その時に我が主を説得出来れば、私にリベートを払わずにもう一財産築けるでしょう」
「なるほど……ではその様に計らって戴けますかな、宰相殿?」
「陛下への説得以外の手はずは私が承りましょう」
こ、こわい……
何、この人達?
凄く悪い事を話し合ってるようにしか見えないんですけど!
いや、実際悪い事だよね?
あの兵器は絶対に世の中へ広めちゃダメな物だと思う。
でも商人のルドマンさんは、凄い金儲けの事柄だと考え、是が非でも武器を欲しがってる。
ウルフ君はウルフ君で、世界中にグランバニアの強さを強調したくて、父さんの意にそぐわない段取りを取っちゃってる。
父さんは大丈夫だよね?
あの兵器をルドマンさんにとは言え売ったりしないよね?
でも勝手に交渉の場を作ったりしたら、絶対に怒るだろうなぁ……
ウルフ君はそれを計算に入れてルドマンさんと打ち合わせしてるのかな?
僕は何も聞かなかった事にして、グランバニアに帰ったら口を噤もう。
こう言う悪巧みはウルフ君に任せるに限るからね。
そうと決まったら、こんな暗黒空間から逃げ出して、可愛い娘とステキな時間を楽しもう。
僕は気配を殺して、ルドマンさんの書斎から出て行こうとした。
でも気配は消せても姿は消せないから、二人に直ぐバレて……
「もう行きますかティミーさん?」
とウルフ君に聞かれちゃった。
「う、うん……君等のお話も終わった様なので」
終わったかどうかは判らないけど、逃げ出す口実は欲しい。
「そうですね、俺等の密談も終わりましたし、サッサと我が家に帰りましょう」
あぁ終わってたの……本当に。
それは良かったですね……
先に扉へ向かっていた分、ウルフ君より早く退室したけど、僕の側まで早足で彼は近付き「リュカさんに先程の密談を話しますか?」と聞いてこられちゃいました。
もう忘れたいのだけど、答え方次第で彼に利用されそうなので、何も言えないでいる。
「グランバニアに帰っても、その状況を貫いた方が良いですよ。リュカさんからの怒りは俺が一身に受けますから、殿下は清廉潔白を貫き続けてください」
清廉潔白を貫かせたいんだったら、こんな事に巻き込まなきゃ良いのに……
でもやっぱりお言葉には甘えよう。
父さんの怒りも怖いし、彼等の悪どさも怖いから……
ティミーSIDE END
後書き
このストーリーは、たった1日で書ききったんですけど、
前半と後半の落差が凄い事になってると読み返して思う。
作者の心はどうなってんの?
帰ってきた、プリティー・ファンキー・レイディオ
マリー「は~い、今夜も始まりました『オール・ナイト・グランバニア!』DJのプリティー・マリーちゃんでぇ~す♡」
ピエッサ「同じくDJのピエッサです」
マリー「二人合わせて……」
マリー&ピエッサ「「マリー&ピエッサです」」
マリー「今夜はなんと……オール・ナイト・グランバニア特別編と致しまして、特別企画でお送り致します」
ピエッサ「沢山のリスナー様からお便りを頂いてはおりますが、今夜だけ……今夜だけ特別に、ある1つの質問メールだけをお送りします」
マリー「質問に答えると、ちょ~っち長くなっちゃうから、特別編としてお送りするんです」
ピエッサ「返答の中には『え? それをアンタ等が言っちゃって良いの!?』的な内容も含まれてますけど、そこら辺は大人な事情があるとご理解の上、大人な対応でお願いします」
マリー「まぁ要するに『細け~ツッコミはするんじゃねーぞ』って事♥」
ピエッサ「間違ってはいないけど言葉を選ぶように……ね、マリーちゃん♥」
マリー「は、はい……」
ピエッサ「ではでは参りましょう!」
マリー「ほ、本日……重要な質問をくれたのは、ラジオネーム『リュカ伝の作者』さんから……って、オイ!」
ピエッサ「マリーちゃんも細け~ツッコミは無しよ♥」
マリー「ラ、ラジャー」
ピエッサ「じゃぁ質問を読んであげて」
マリー「え~と『ズバリ質問です。グランバニアでは“PN”と“FN”の二種類があると思うのですが、ウルフを初め、幾人かは片方しか発表されてませんけど、それで良いんですか?』だって」
ピエッサ「良いも悪いも作者次第なんだけど、今夜はそれにお答えします」
マリー「何で作者が質問してくるんだよ?」
ピエッサ「マリーちゃん、それは言わない約束でしょ。大人な事情……解る?」
マリー「はぁ~い」
ピエッサ「さて、ステキでナイスな質問にドシドシ答えちゃいましょう」
マリー「じゃぁまず初めに、名前も出てきたウルフのフルネームから教えちゃうね」
ピエッサ「そうね。嫌な事は先に終わらせましょうね」
マリー「……えーと、確か『ウルフ・アレフガルド』だったわね」
ピエッサ「へー……偉そうな名前ね」
マリー「一応理由もあって、FN《ファミリーネーム》を決めようって事になったとき、本人は故郷の『アリアハン』を使いたかったらしいんだけど、そんな名前の国が出来ちゃってるじゃん。だから上司に駄目出し喰らったんだって」
ピエッサ「で、その結果『アレフガルド』になった訳は?」
マリー「面倒臭くなって、誰も使わなそうで偉そうな名前にしたんだって」
ピエッサ「相変わらずな性格ね」
マリー「じゃぁ次はウルフ繋がりでユニさんとクロウさんね」
ピエッサ「お二人は何れ結婚して同じFN《ファミリーネーム》になるだろうけど、今は未だ別だから個々にご紹介」
マリー「『ユニ・バーンズ』と『クロウ・フリース』だって」
ピエッサ「そのFN《ファミリーネーム》の由来は?」
マリー「そんなの知らん」
ピエッサ「……………」
マリー「どんどんいきましょう。スノウさんとピエールさんは、『スノウ・ホワイト』と『ピエール・ストーン』です」
ピエッサ「勿論それの由来も……?」
マリー「知らん」
ピエッサ「そ、そうね……名前なんだし、由来なんて一々無いわね」
マリー「なお、私を含めたトリプルシスターズは、『マリー・アントワネット』に『リューノ・ウィンター』に『リューラ・グリーン』よ」
ピエッサ「聞かないわよ。特にマリーちゃんの名前の由来は!」
マリー「おほほほほ、ケーキを食べなはれ。次、意外と盲点なピピンさんとレクルトさん……それとラン君ね」
ピエッサ「あ、レッ君のは知ってる♡」
マリー「そりゃ彼氏ですからなぁ」
ピエッサ「うん。『レクルト・タウマン』って言うんだって」
マリー「何か“ヤクルト・タフマン”みたい」
ピエッサ「何それ?」
マリー「良いんだよ、細けー事は。それよりも、ピピンさんは『ピピン・ハンター』って言うんだって」
ピエッサ「そ、想像してたより格好いいわね」
マリー「PN《パーソナルネーム》がダサいから、FN《ファミリーネーム》は格好良くしたんじゃないの?」
ピエッサ「何か納得」
マリー「んで、ラン君は『ラングストン・フィッシュバーン』だったわ」
ピエッサ「ほほう……てっきり出身地をFN《ファミリーネーム》にしたのかと思ったわ」
マリー「当人が私のお父さんに相談しに来た時、丁度昼食中で食べてたのが焼き魚だったから、そんなFN《ファミリーネーム》にされたんだってさ」
ピエッサ「タイミングは考えないとダメね……」
マリー「ラン君的には一番ムカつくタイミングを選んだつもりなんじゃない?」
ピエッサ「嫌がらせの応酬か……」
マリー「まだまだ出番は少ないけどフルネームを知られてない人達が居るわよね」
ピエッサ「居るわね」
マリー「でもね……ちょっと疲れたから、ここで一曲いっちゃって良いかな?」
ピエッサ「そうね……質問は一点だけだけど、リクエストは受け付けても良いしね」
マリー「そんな訳でこの曲」
ピエッサ「『おれはオルテガさまだ』聴いてください」
♪俺はオルテガ~! ダンディー勇者!! 天下無敵のいい男ー!♪
♪戦士・賢者目はじゃないよ 剣も魔法どんとこい ♪
♪ナンパもうまいぜまかしとけ ♪
「なんだよなんだよ魔王倒しにいってこいなんて
そりゃないよクソジジイ(アリアハン王)」
♪俺はオルテガ~! ダンディー勇者!! 世界一の人気者 ♪
♪不敬・浮気目じゃないよ 気は優しくて力持ち ♪
♪顔もスタイルも抜群さ ♪
「うっせえうっせえ バコタ・ナ―ル
俺が自惚れてるだって? そんな事言うとおまえら
ギ~ッタンギッタンだぞ~ぃ」
♪俺はオルテガ~ダンディー勇者!! 世界一のイケメン ♪
♪ゾーマもバラモス目じゃないよ 手下なんかいなくったって ♪
♪愛人の数は負けないぜ♪
マリー「はい。『おれはオルテガさまだ』でした」
ピエッサ「凄い歌よね」
マリー「ではでは引き続き“あちゃ”の質問に答えていきましょう」
ピエッサ「だから名前言うなって!」
マリー「生意気狐のアローは『アローペクス・フォックス』ってそのままじゃん!」
ピエッサ「何がそのままなのか解らないわ、私には」
マリー「続いてはカタクール候ね」
ピエッサ「あの方は、FN《ファミリーネーム》だけが知られててPN《パーソナルネーム》が未公表だったのよね」
マリー「うん。まぁ誰も知りたくないだろうけど、一応教えとくね。『マツダーラ・カタクール侯爵』なんだって」
ピエッサ「……はい。次いきましょ」
マリー「……と、その前に、もう一曲いかない?」
ピエッサ「良いわね。流石に飽きてきたしね」
マリー「二人の意見が一致したところで、この一曲」
ピエッサ「『モブらはみんな生きている』です。聴いてください」
♪モブらはみんな生きている 生きているけど出番ない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど台詞ない♬
♪手のひらを太陽に透かしてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪子供だ~って メイドだ~って お城の兵だって~♬
♪みんな みんな 出ているんだ 台詞ほしいんだー♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど目立たない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど知られない♬
♪手のひらを太陽に掲げてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪男だ~って 女だ~って 町の人だって~♬
♪みんな みんな 目立ちたいんだ 知られたいんだー♬
マリー「はい。『モブらはみんな生きている』でした」
ピエッサ「心に染みるわね……記憶には残らないけど」
マリー「良いのよ、モブ等の歌なんだから」
ピエッサ「モブだものね」
マリー「さて引き続きフルネーム紹介にいきたいのですが……」
ピエッサ「そう。先程メールが届きまして、『我等のリュリュ姫のFN《ファミリーネーム》は紹介しないのですか?』ってラジオネーム“お前等の創造神”さんからのご指摘」
マリー「うっせぇよ、あちゃのクセに」
ピエッサ「ホント……一人芝居もいいとこよね」
マリー「一応答えるけど、リュリュちゃんはグランバニア国籍じゃ無いから、FN《ファミリーネーム》は存在しないんです」
ピエッサ「凄いわよね。他国籍の人を国家の要職に就けちゃうんだから」
マリー「あと因みに、リューナも他国籍だからFN《ファミリーネーム》は無いわよ」
ピエッサ「お二人ともラインハット出身ですものね」
マリー「おっと、忘れるところだったわ。そう言えばザイルさんのFN《ファミリーネーム》も未公表だったわね」
ピエッサ「あぁドワーフの!」
マリー「確かね『ザイル・キョーワコク』だったわね」
ピエッサ「ゴメン……その由来だけはすっごく知りたい」
マリー「え~とね、FN《ファミリーネーム》を決めろって王様からのお達しがあった時、ザイルさんも困っちゃって何も思い浮かばなかったんだって。そしたら私のお父さんが『ザイール共和国って在ったんだよね』って言い出して……」
ピエッサ「わ、わぁ~すてきナおナマエだわぁ」
マリー「気持ちは解る。とは言えあらかた紹介したし、今夜はこの辺で……」
ピエッサ「え? まだちょっと時間が余ってるわよ」
マリー「うん。残りの時間は、最後のリクエスト曲で埋めましょう」
ピエッサ「え~……この曲? 私キライなんだけど」
マリー「まぁそんな事言わず。今夜はこの曲『天才ウルポン』を聴きながらお別れです」
ピエッサ「この曲のモチーフになった男がキライなんですけどぉ」
マリー「うっさいわね。ほらお別れの挨拶するわよ」
マリー&ピエッサ「またの機会まで、バイバ~イ」
♫西から昇ったMS(マスタードラゴン)が♪
♫東へ落ちる~♪「え~、メラゾーマ命中!?」
♫これでいいのだ~♪「いいのか?」
♫これでいいのだ~♪「いや、ダメだろ!」
♫ポンポン ウルポン ウルポンポン♪
♫天才宰相 ウ~ルポンポン♪「ウルポンって呼ぶな」
♫眼鏡をかけてヒゲはやす♪
♫だから~ヒゲメガネ~♪「そんな安直な!」
♫これでいいのだ~♪「まぁいいのかな?」
♫これでいいのだ~♪「どうでもいいや!」
♫ポンポン ウルポン ウルポンポン♪
♫天才宰相 ウ~ルポンポン♪「ウルポンって呼ぶな」
♫見たまま風景を描く♪
♫これが名画だぞ~♪「そんな訳ねーだろ!」
♫これでいいのだ~♪「絶対ダメだね!」
♫これでいいのだ~♪「よくねぇよ!」
♫ポンポン ウルポン ウルポンポン♪
♫天才宰相 ウ~ルポンポン♪「ウルポンって呼ぶな」
♫異世界から来た 少年が♪
♫今では 宰相~♪「そ、そんなのありー!?」
♫これでいいのだ~♪「よくねえよ!」
♫これでいいのだ~♪「ダメだろ平宰相!」
♫ポンポン ウルポン ウルポンポン♪
♫天才宰相 ウ~ルポンポン♪「ウルポンって呼ぶな」
後書き
そう言えばリュカを讃える歌が無い。
どうしよう?
人徳と為人と
前書き
今回のエピソードは、
ウルフがラーミアに巻き込まれる直前のお話しです。
後書きに「リュカさんの歌」を掲載。
(グランバニア城・宰相執務室)
ウルフSIDE
最近、城の内外で『♪ウ~ルポンポン♫』と俺を馬鹿にしてる様な歌を歌う女子供をよく見かける。
見かける度に『ウルポンって呼ぶな!』と怒ってるのだが、何で城の外のガキまで歌ってるのかが不思議で仕方ない。
俺の予想では犯人はレクルトだと思ったので、呼び出して上から目線で事の真相を調査させた。
犯人のレクルトは狼狽えながらデマカセを言うと思ったのだが、『了解しました宰相閣下! 大至急調査して参ります!』とガチで調査を引き受けやがった。
“アイツふざけんなよ”と思ったが、俺も仕事が忙しくて深く追求出来ず奴を野放しに……
暇が出来、早速ブン殴ろうとレクルトを呼び出すと、『例の件……調査終わりました』と何時までも自分が犯人である事を認めなかった。
だから馬脚を現させようと、奴の言う調査報告を聞く事に。
すると本当に奴は犯人では無く、もっと身近な人物が犯人である事は判明。
そう……俺の彼女のマリー嬢だった。
しかも世間に広めたのはメイド等で、誰が主犯とか特定出来ない状態。
「ふ……ふざけやがって……」
「いやぁ~流石は天才宰相ですねぇ。国民への慕われっぷりが尋常じゃない! 羨ましいですなぁ~」
微塵も羨ましがってない顔で、レクルトは俺をコケにする。
「ユニさん! 今すぐこの歌を歌う事をメイド全員に禁止させろ! これは宰相からの命令だ」
「ムリです。天才宰相を慕ってる皆様は、この歌を大層気に入ってます。禁止にするなんてとても……」
ここにも俺を慕ってない輩が一人居た。
「そうですよ天才宰相閣下。もう皆の心に染み渡ってますから、今更禁止にした所で手遅れです。絶対に歌い継がれます」
「な、何なのそれ!? お前等ここぞとばかりに俺の事を“天才宰相、天才宰相”呼びやがって……」
レクルトの奴は、俺が最近コイツの事を『レッ君』と呼ぶから仕返しに『ウルポン』と公式の場でも呼んでくるのに、何で今は天才宰相閣下なんだよ!?
何にも解ってない……この歌を歌う奴等は俺の事を微塵も慕ってないんだ。
「知ってるのかお前等……先日城下でガキ共が、道路に落書きしてたから興味本位で見に行ったら『あ~ウルポンだぁ(クスクス)』って笑いやがったんだぞ!」
「可愛いじゃぁないですか、子供。天才宰相閣下も時機にお父さんです。心を広く保ちましょうよ……僕は未だ未だ先の事ですけどね」
「うるせぇ! 頭きたから道路に描いてた落書きを添削してやった! 辛口に……」
「本当に大人気ねーなぁ……」
何とでも言え!
「あ! そう言えばマリーはリュカさんの歌も歌ってたじゃん。何でアレは広まってないの?」
「何でって……あんな失礼な歌が広まる訳ないでしょ! 歌ってたマリーさんが、ビアンカ様を初め諸大臣・メイド長・複数の兵士……更にはプックルさんにまで叱れてたんですから」
「おかしくない? 俺の歌も失礼極まりないと思うのに、誰もマリーを叱らなかったの? 誰も失礼だと感じなかったの?」
「それが天才宰相閣下の人徳というか為人のなせる技でしょう」
「納得いかねぇ! 微塵も納得いかねぇ!」
俺は『納得いかねぇ』を連呼しながら、手を乱暴に振ってレクルトを下がらせる。
やれやれと言わんばかりに肩を竦めたレクルトは、去り際にソッと今回の報告書を俺の机に置いていく。
思わずそれを手に取り読んでみる。
・
・
・
・
何このリュカさんの『ウルポンのパパなのだぁ』って?
ウルフSIDE END
後書き
「リュケイロムでございま~す」
♪友達、攫われ遺跡へ 出掛けた~ら♫
♪父親、殺され 哀れ~なリュカさん♫
♪ゲマさん笑ってるぅ ジャミ・ゴンズも笑ってるぅ♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪明日から奴隷生活♫
♪奴隷を脱して町まで 出掛けた~ら♫
♪女を買えずに 怒られるリュカさん♫
♪ヘンリーが怒ってるぅ 関所兵士は泣いてるぅ♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪ラインハットを解放だ♫
♪外界出ようとサンタローズへ 訪れ~て♫
♪馴染みの、シスターと アダルティーな関係♫
♪フレアさんが色っぽい ピエールは怒ってるぅ♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪プックルと再会だぁ♫
♪ルーラを憶えてラインハットへ 出掛けたら♫
♪狙ってた、女が 親友に盗られた♫
♪ヘンリーが鼻下伸ばしてるぅ マリアさんは頬赤らめてる♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪いい女見付けるぞ!♫
♪立ち寄ったサラボナで何故だか 巻き込まれ♫
♪結婚レースに 強制参加だ♫
♪ルドマンは禿げてるぅ アンディーは息巻いてるぅ♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪盾だけ貰えないかな?♫
♪山奥の村に立ち寄り 散策してみた~ら♫
♪幼馴染みが 美人のナイスバディーに成長♫
♪親父さんが懇願するぅ ビアンカと結婚しろと♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪ヤり逃げしちゃおうかなぁ?♫
♪言われたリングを二個ほど 持ち帰り♫
♪何故だか 奇妙な 四角関係勃発♫
♪デボラが命令するぅ フローラは瞳潤ませるぅ♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪ビアンカと結婚したぁ♫
♪元カノ捨て去り故郷へ 逃げ込んで♫
♪初めて知らされる 僕って王族♫
♪サンチョが感涙する 大臣が睨んでる♫
♪ル~ルルルルルル~♫
♪命を狙われたぁ♫
名歌が生まれる時
前書き
このエピソードは、
『リュカの歌』の件でマリーがビアンカに叱られた直後で、
ウルフが『天才ウルポン』の歌を誰が作ったか知らない間での出来事です。
それと、
作中に『ビアンカの歌』が掲載されてますが、
内容がアレなので、ビアンカファンは怒らないでね。
一応言っておきますが私もビアンカが大好きです。
DQ5はプレイする度、嫁はビアンカです。
(グランバニア城・娯楽室 兼 練習室)
ピエッサSIDE
「んだよ、あのクソばばぁ! ちょっとしたおちゃっぴぃなのに、2時間も3時間も説教しやがって……」
無礼極まりない国王陛下の歌を歌い、王妃陛下等に説教されてたマリーちゃんが解放され帰ってきた。反省の色は微塵も見せずに……
「こりゃ仕返しに、あのばばぁの歌も作ってやらねばならぬなぁ(クックックッ)」
何でそうなる。100%マリーちゃんが悪いんでしょうに……
私は開いた口が塞がらないわよ。
「う~ん……だとすると何が良いかな? “キューティーハニー”かな? 『♪この頃枯れてる女の子 エロエロ大好き年増な娘 こっちに入れてよハニー♫』……この“ハニー”で旦那の名前出すか?」
長時間の説教に頭きたマリーちゃんは、またヤバイ歌を模索してる。
「そんな歌、ダメに決まってるでしょ!」
「……そうよね。女の子じゃないしね」
ダメな理由はそこじゃねーし。
「よし、セラムンで“ムーンライト伝説”にしよう。『♪ゴメンね素直すぎで 夢の中までエロい 思考回路は○○○一色 今すぐ嵌めて欲しい♫』……ってこれじゃぁ、あの男の娘は全員当て嵌まるじゃん!」
「ちょっと、本当に止めて! そんな歌、人前で歌わないでよ!」
「えぇい! 人前で歌わずして、何が仕返しになるというのだ!」
だ、ダメだこの女……もう私の力では止められない。
「あ、そうだわ。歌詞とリズムにギャップを持たせましょう。その方がインパクトが大きいわ!」
私の事を無視して不敬罪一直線な歌作りに没頭してる……
だから私はソッと部屋を離れる。
この女を止められる人物に直訴する為に……
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「よ~し出来たわ! “アンパンマンのマーチ”で歌ってやろうじゃないの」
「ほ~う……随分と面白そうだな。パパにも聴かせてくれよ」
進退窮まった私は、没頭娘を放置して最高権力者の下へ助けを求めにいった。
「お、お父……様(汗)」
「面白かったら認めてやる。歌ってみろ」
絶対認められる訳ない……面白いかどうかは別にしても、認められる訳ない。
「ほ、ホント?」
「良いから歌え」
もう既に切れ気味の陛下……でもマリーちゃんはニヤリと笑って歌い出す。
馬鹿なのね……この娘。
♫そうだ うれしいんだ♪
♫リュカとの生活♪
♫たとえ 愛人が多くても♪
♫ナニが君の幸せ♪
♫ナニをして喜ぶ♪
♫ワケ解らないまま終わる♪
♫そんなのは嫌だ♪
♫忘れないで子種 こぼさないで液を♪
♫だから君はイクんだ どこまでも♪
♫そうだ忘れないで みんなの為に♪
♫愛と エッチだけが 夫婦じゃない♪
♫ああ ビアンカさん やらしい君は♪
♫イケ 旦那の夢 守る為~♪
「どうよ! (ゴスン!) ギャッ!」
歌い終わり満面の笑みで評価を聞いた途端、後頭部に陛下のゲンコツが落ちる。
そりゃぁそうだ。
「いいわけねーだろ馬鹿! 次にこんなふざけた歌を歌ったら、活動停止を言い渡すぞ!」
「な、何よ。笑えるでしょ!」
笑えるか!
「笑える訳ねーだろ! 自分の妻を馬鹿にされて!」
当然だ……
何でそれが解らないのだ?
この後マリーちゃんは5時間程説教されたそうだ。
今日は練習にならないから私は早々に帰らせてもらったが、翌日に宰相閣下から教えてもらった。
あの『ウ~ルポンポン』って歌をマリーちゃんが作った事を宰相閣下に知られたら、また説教をされるかもしれないわね。
なんせあの歌はもう取り返しの付かないほど、世間に浸透してしまってるのだから……
ピエッサSIDE END
後書き
アンパンマンのマーチって凄く良い曲だよね。
だからこの歌を思い付いた時は凄く嬉しかったよ。
正くんに作れないか聴かれた時は困ったけど、
作り始めたら簡単に作れた。
逆襲の挽歌
前書き
リューノが懐妊したと発覚して、その事にマリーが困惑して、
そんな状態にピエッサが困り、ウルフに何事かを聞く前頃の話しです。
作中に出てくる曲は、吉幾三の「おら東京さいくだ」のリズムで歌って下さい。
(グランバニア城・娯楽室兼練習室)
ピエッサSIDE
最近マリーちゃんの様子がおかしい。
何というのか……大人しいのだ。
いや、それはそれでとても良い事なのだが、何だか不気味で仕方ない。
練習も上の空で、いつも以上に身が入ってない。
次のコンサートの予定だって入っているのだし、こんな状態じゃ問題だ。
多分だが何かに悩んでいるのだろうと推測される。
正直彼女の悩み事に関わりたくは無いのだけれど、私達の活動に支障をきたすので在れば見過ごすわけにもいかないのだ。
一体どんな事で悩んでいるのやら……全く見当も付かない。
だがかなり深刻な悩みである事は予想出来る。
何故なら、あの娘はトラブルがあると直ぐに口に出し、他人に解決策を求める傾向があるからだ。
簡単に例を挙げると……
金が無い金が無いと言い回り、宰相閣下に資金援助させたり、コンサートのチケットを売りさばく方法が思い付かず、その事を声高に言い回り宰相閣下の手を煩わせたり……
兎も角あの娘は自分一人で問題を抱える事はしないはずなのだ。
それなのに練習に身が入らない程何かに悩み、内に隠っているのは絶対に変だ。
出来れば会いたくないが、宰相閣下に聞いてみた方が良いだろう。
私に解決できることであれば、自分の為にも力を貸さないわけにはいかないから。
「あれ? もう来てたんだ」
渋々ながら相方の事を心配していると、この練習室に珍しい訪問者が現れた。
思わず私は持っていた譜面を全て落とし、直立不動で来訪者に向き直った。
「へ、陛下!? い、如何致しましたでしょうか? な、何かマリーちゃ……私どもが致しましたでしょうか!?」
「ううん、違う違う。最近ストレスが多いから、発散の為にギターでも弾こうかなと思って来たの。でも邪魔だったら出て行くけど?」
「じゃ、邪魔だなんて滅相も無い! 陛下のギターを拝聴出来るなんて至福の極みですわ!」
邪魔だなんて言えるわけないじゃない!
いや実際邪魔じゃないし……って言うか、ここ城だから陛下の自由にして良いわけだし。
「ああ良かった。マリーの我が儘に付き合ってもらってるから、君の邪魔だけはしないようにと思ってたんだよね」
「わ、我が儘だなんて……私にとっても良い経験をさせて貰っておりますから、とても感謝しております!」
う、嘘は言ってない……わよ。
「ありがとう。じゃぁ君に面白い歌を聴かせてあげよう。僕が作詞した歌だ」
「陛下の作詞ですか!?」
す、凄い。そんな貴重な歌を聴かせて貰えるなんて。
「最近、とある我が儘娘が僕の周りの者達を侮辱する歌を歌ってる……あ、ウ~ルポンポンは除外するけど、兎も角侮辱をしている」
「はぁ……」
「なので仕返しにこの歌を思い付いた。何だったら奴に君から聞かせちゃっても良いよ」
そう言うと陛下はギターのストラップを首から下げ、チューニングを始めた。
そしてチューニングを終えると、アップテンポで弾き出し歌い始めた。
♪知識が無ぇ 根性無ぇ 口を開けば文句だけ♫
♪才能無ぇ 努力し無ぇ だけど欲望ブックブク♫
♪性格も悪ければ 容姿以外はなんにも無ぇ♫
♪人生を舐めていて 変なプライドてんこ盛り♫
♪オラこんな奴嫌だぁ オラこんな奴嫌だぁ もう飽き飽きだぁ♫
♪だけど我が子だから 気には止めて 多少は知恵貸すだぁ~♫
……ひゃ、100%マリーちゃんの歌じゃん。
あの娘を表してる歌じゃん!
や、やばい……笑いが止まらない。
でも笑ってばかりは居られない。
私は笑いで震える手を押さえ付けて、今の曲を譜面に書き出していく。
勿論歌詞も忘れずに。
今は何かに悩んで居るみたいだから、トドメを刺す様な真似はしないでおくけど、元に戻ったら絶対に歌ってやろう。
あの娘の目の前で歌ってやるんだ。
貴女の父上が作った歌ですよって言ってね。
ピエッサSIDE END
後書き
つぶやきでも書いた「たすくこま」さんの替え歌『おら東京をでるだ』から触発されて思い付いた曲です。
因みに、リュカとピエッサだけの登場は初めてです。
復讐は虚しさを伴う
前書き
このエピソードは前回の「オラこんな奴嫌だ」の翌日です。
新曲『残念な天空の勇者』にご注目。
(グランバニア城)
ユニSIDE
今日も仕事を終え帰宅の途につく。
帰宅と言っても私の家は城内にあるので、それ程遠い道程ではない。
しかしグランバニア城内には多数の人々が勤めている為、短い帰途でも多くの人と擦れ違う。
そして同じく城に住んでいるとある女性に遭遇する。
そう……今をトキメク歌姫、マリー嬢が前方から鼻歌交じりで歩いてきた。
遺伝子が遺伝子なだけに見惚れてしまう程美しい。
擦れ違う誰もが見とれ振り返る。
更に口ずさむ歌に誰もが聴き惚れる。
美しいメロディー……心躍るリズム……
誰もが聞き入っている……ハズなのだが、何人かがドン引いた表情をしている。何だ?
何故だか解らないが、私もマリー様の歌(歌詞)に注意してみた……
そ、そしたら何と!?
とんでもない歌を歌ってるではないか!
♫残念な 天空の勇者♪
♫少年は 身内が好き♪
♫ずっと想ってた 愛しの妹 腹違い♪
♫貴女の事 好きでいた 結ばれる事を待つ♪
♫不意に 身内以外 結婚する事出来て♪
♫運命さえ まだ知らない 生まれてくる娘♪
♫だけど いつか 気付くでしょう その娘には♪
♫男を惹き付ける程の 美貌がある事♪
♫残念な 天空の勇者♪
♫娘への 疑惑膨らむ♪
♫ほとばしる 熱い想いで♪
♫娘の処女 守り続ける♪
♫この愛を 押し付け生きる♪
♫少年よ 神話になれ♪
あ、あの娘は説教され続けてるのに懲りたりはしないのだろうか?
昨日リュカ様が彼女を貶める歌を歌い我々(彼女の家柄を知る者のみ)にも教えてくれましたが、それの仕返しだろうか?
あまりにも愚弄が酷すぎて顔の筋肉が引き攣る。
ウ~ルポンポンくらいのライトさが丁度良いのに……
この歌を聴いて誰が得するというのだろうか?
「マリー!!」
「あ、やべぇ……見つかった!」
人伝に聞いたのか、直接耳に入ってきたのか、ティミー殿下が怒りを露わに現れた。
羨ましいくらいの巨乳を揺らし、脱兎の如く逃げ出すマリー様。
並の人間であれば一瞬で見逃していたであろう……
だが殿下は並でない。まさに神速だ。
「は、離せ変態ぃぃ!」
「ふざけるなよ。馬鹿にするのもいい加減にしないと、流石に怒るぞ」
いえ……もう大激怒しても良いと思います。
「ふふふ……ガルマ、聞こえていたら、君の生まれの不幸を呪うがいい」
「ガ、ガルマ? 何言ってるの……?」
「君は良い友人であったが、君の父上がいけないのだよ……フフフフ……ハハハハハハ!!」
「マ、マリー……如何した?」
腕を掴まれジタバタしながらもニヤケなが意味不明な事を言う。
何時もながら、この娘の言ってる意味が理解出来ない。
これが天才と言う事なのか? 宰相閣下とは違う意味で面倒臭ぇ……
「と、兎も角こっちに来い!」
「いやぁ~ん。痛~い」
微妙な表情の殿下に連れられ、王家のプライベートエリアへと消えていく二人。
今日も説教ですね。
ユニSIDE END
後書き
言わずもがな、
「残酷な天使のテーゼ」のリズムで歌って下さい。
言い争っても平行線
前書き
リュカ伝3.5の最終話手前と最終話の間のエピソード。
(グランバニア城)
ウルフSIDE
何とかリュカさんを動かす事が出来た。
俺が『自分の命を犠牲にする』的な事を言ったから、渋々受け入れてくれた。
ホント渋々……もう表情も渋々……態度だって渋々……ってか渋々言ってる。
我が国の最新兵器“アサルトライフル”を謁見の間で打っ放す訳にはいかないから、渋々言うリュカさんの後に付いていき、武器開発室へ大移動。
客人たるヘンリー陛下等やルドマンさん等は『やれやれ』って感じ。
慣れてないカボチ村代表やルラフェン代表達は目を丸くしていた。
武器開発室に着くと責任者のザイル部長が居ない。
研究室で更なる研究でもしているのだろうか?
居合わせた(って言うか居るのは当たり前)武器開発室士官のリブとバレルに試作型を持ってこさせる。
基本的にアサルトライフルは厳重に保管しており、武器開発室の地下の一番奥に仰々しい金庫を設置して保管されている。
因みにこの金庫は普通の金庫。厳重ではあるが変な仕掛けは無い。
その中から桐の箱に入ったアサルトライフル試作型を二人は持ってきた。
「随分と大切に保管して居るみたいだな」
我が国の箱入り息子(発射するから息子だろう)に、興味津々のルドマンさん。
あまり余計な事は言わない方が良いのに……
「やっぱ見せんのやめた」
ほらぁ……持ち主がヘソ曲げちゃった。
俺知らね!
「おいリュカ……いい加減にしろ! お前の我が儘にこれ以上付き合っていられないぞ」
「じゃぁ帰れよ、馬鹿ヘンリー」
子供だな、まるで……
「父さん……もう観念しましょうよ。取り敢えず見せるだけ見せれば、もう二度とこの話題に触れさせなければ良いんですから」
流石実の息子。気苦労が絶えないねぇ……
だがヘソを曲げた王様は、そう簡単に思い通りにはならず、そっぽを向いて口笛を吹き始めた。
堪らずガミガミ言い出すヘンリー陛下とルドマンさん。
珍しく兄妹協力して説得する義理の兄貴と義理の姉貴。
すると突然……
歌い始める我が主。
イライラが溜まって気が触れたかと思ったが、そうでは無い様だ。
何故なら歌詞が……
♫なんでも かんでも アイツ♪
♫イタズラしまくっているよ♪
♫ベッドの中から「ピョコン」と♪
♫嫌いなカエルが登場♪
♫いつだって 忘れない♪
♫ヘンリーは 王子様♪
♫そんなの不自然♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫ヒーこら ヒーこら 御家騒動♪
♫ヒーこら ヒーこら 命狙われ♪
♫ヒーこら ヒーこら 王位はいらな~い♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫ヒーこら ヒーこら 身柄攫われ♪
♫ヒーこら ヒーこら 売られる王子♪
♫ヒーこら ヒー 奴隷になったよ~♪
♫いつでも どこでも コイツ♪
♫へらへら暮らしているよ♪
♫大きな岩場の影から♪
♫奴隷の王子が登場♪
♫いつだって 大迷惑♪
♫ヘンリーは 働かない♪
♫そんなの有名♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫ヒーこら ヒーこら 俺はサボってない♪
♫ヒーこら ヒーこら ムチで打つな♪
♫ヒーこら ヒーこら アイツを咎め~♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫ヒーこら ヒーこら いつか逃げる♪
♫ヒーこら ヒーこら いつか泣かす♪
♫ヒーこら ヒー 友達選ぼう~♪
♫グチグチ ブツブツ 常に♪
♫不平を喋っているよ♪
♫貰ったお金で「ビシッ」と~♪
♫買い物してたら激怒♪
♫いつだって 口煩い♪
♫ヘンリーは 小言多い♪
♫そんなの常識♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫おいこら おいこら 無駄に使うな♪
♫おいこら おいこら お金は大事♪
♫おいこら おいこら お前が言うな~♪
♫ラ ラ ラインハット♪
♫たたかえ たたかえ お前も戦え♪
♫たたかえ たたかえ サボるな戦え♪
♫たたかえよぉ! 激弱王子~♪
最悪だ。
本人だけならまだしも、その息子や息子の嫁……果ては他国のお偉方まで居る前で、この歌を歌い切りやがった。
流石に俺もティミーさんも、ピピン大臣等だって総出で国王の口を塞ごうと襲いかかったけど、無理だよ……このオッサン強いんだもん。
歌いきるまで飄々と逃げ切りやがったよ。
恐る恐る客人等の方に視線を向けると……
大半は唖然としていた。
でも爆笑してる連中も居る。
ヘンリー陛下の息子の嫁とヘンリー陛下の秘書の女性だ。
「お前……つくづく俺を馬鹿にしてるな!」
「馬鹿にしてないよぉ~。今流行ってるんだよぉ~。我が国では知人を歌う事が流行ってるんだよぉ~」
そんな訳ねーだろ!
「そっかそっか! だから『ウ~ルポンポン』って歌を、皆が歌ってるのね(笑)」
俺を見てポピー義姉さんが涙を流して笑う。
だから早々にこの歌を禁止にさせたかったんだ!
これ……国際問題に発展か?
ウルフSIDE END
後書き
期待されると頑張ってしまう男……それは あちゃ!
田鰻さん、どうですか?
一応、本歌は『おどるポンポコリン』です。
レクルトの部屋(黒柳の部屋的な)
前書き
♫アルル妃 城の中 お義父さんに 出会した♪
♫華やぐ 昼休み 義父さん 出会した♪
♫お義父さんの 言う事にゃ 偶には 孫見せろ♪
♫孫連れ 顔見せろ 僕は 祖父なんだぞ♪
♫お義父さん お待ちなさい 貴方は 悪影響♪
♫私の 娘には 貴方は 悪影響♪
♫ところが お義父さんは 何故だか 笑ってる♪
♫今更 何言ってんの 手遅れ だと思う♪
(ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールールールル)←黒柳の部屋的な音楽
レクルト:「さぁ今日も始まりました、レクルトの部屋。本日のお客様はこちら。今をトキメク歌姫、マリーさんです」
マリー:「どーもー、こんにちはー。皆の歌姫マリーちゃんでーす♥」
レクルト:「さぁでは早速……最近また新曲を発表しましたね」
マリー:「そうなんですよぉ。『森のクマさん』じゃなくって『城のお義父さん』って曲です」
レクルト:「いやぁ聴きましたよ。ほのぼのする曲調なのに、何故だかハラハラする内容
なんですが……何ですかね?」
マリー:「うふふ、この歌はね、実際の事を歌にしたのよ」
レクルト:「ほほぅ……それを聞いて余計に胃が痛いのですが」
マリー:「私がお城を歩いていたら、偶然アルルさんがリュカ陛下に出会しちゃって、こんな遣り取りをしてたんですよぉ」
レクルト:「あはは、そうなんだぁー。じゃぁ今日は早いけどこの辺で終わりにしましょう。僕の胃が保ちそうに無いからね☆ 余った大量の時間は、世界の絶景を見てお楽しみ下さい。それではまた次回。さよーならー」
マリー:「ちょ……は、早くない!?」
(ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールールールル)←黒柳の部屋的な音楽
(ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールールールル)←黒柳の部屋的な音楽
レクルト:「さぁ今日も始まってしまいました、レクルトの部屋。今日のお客様は……って、前回と同じです。帰ってくれませんでした」
マリー:「何よぉ、ゲストに呼んどいて帰れってのは!? もう一曲あるんだからね!」
レクルト:「んまぁ……まだあるんですか! 止めてもらいたいなぁ」
マリー:「次の曲も事実を元に作ったのよ。曲名は『桃太郎さん』じゃなかった……『スノウさん』です」
レクルト:「あーた、気付いてないようですけど、事実を歌ってるから問題なんですわよ」
マリー:「事実は小説より奇なり」
レクルト:「……………」
マリー:「……………」
レクルト:「それでは本日もこの辺で。また次回……あるかな?」
マリー:「ちょっと何なのよ!? ちゃんとトーク繰り広げるまで帰らないわよ!」
(ルールル ルルル ルールル ルルル ルールールールールールル)←黒柳の部屋的な音楽
後書き
♫スノウさん スノウさん♪
♫お腰に着けたおパンツは♪
♫誰に貰った物ですか♪
♫息子です 息子です♪
♫娘の彼氏の義息です♪
♫ひとつ拝んで見ませんか♪
納得いかない事がある。それがこの国だ!
(グランバニア城:中庭)
ある晴れた昼下がり、グランバニア城のプライベートエリアにある中庭で、この国の宰相と上級メイドが紅茶を飲みながら談笑している。
いや……談笑という言葉で合っているのかは疑問だが。
「納得いかねー……絶対に納得いかねー!」
「うるさい宰相閣下であること。今に始まった事じゃないでしょ」
何かに納得してない宰相閣下が、偶然出会した上級メイドに紅茶を用意させ愚痴っている。
昼休みと3時の休憩の間の為、この二人以外は見当たらない。
「ふざけんなよ、馬鹿にされる歌を大勢が歌うんだぞ! そんな目に遭ってみろ」
「私は好きですけどね……『ウ~ルポンポン』って(笑)」
現在、城の内外で宰相の事を面白可笑しく歌う子供らが多数居る。その事への不満だろう。
因みに、その歌を生み出したのは宰相閣下の彼女の一人だ。
「ウルポンって呼ぶな!」
「皆さんに好かれてるとは思わないんですか?」
歌の内容次第だが……
「思うわけねーだろ!」
「小さいわぁ~」
断っておくが“器”の事である。
「何だと~!?」
「あぁ小さい。これだけ小さいと、アレも小さいんでしょうね。だから姫様は大丈夫だったのね」
今度は下ネタだ。
「それでは俺がお前の歌を広めてやろうか!」
「わ、私の歌!?」
不機嫌を絵に描いたような顔の宰相に、不気味な事を言われ戸惑う上級メイド。
「少し前にリュカさんが歌ってるのを偶然聞いちゃったんだ(ニヤリ)」
「へ、陛下が私の事を歌ってたんですか!? へ、変な歌じゃ無いでしょうね?」
宰相閣下を馬鹿にする歌を歌った女の父親だ……正直不安しか無いだろう。
「今から歌ってやるから、お前が判断しろ」
そう言うとご自慢の記憶力を披露するように、以前に聴いた国王の歌を歌い出す宰相閣下。
歌唱力は、可も無く不可も無くってところだ。
♫白くきらめく Triangle Cloth(トライアングル クロッチ)♪
♫そよ風になびく Every Time(エブリ タイム)♪
♫私の中の Passion Libido(パッション リビドー)♪
♫ひと嗅ぎだけで Fall in Love(フォリンラブ)♪
♫甘い香り 頭に被れば 今夜♪
♫秘密めいた 私の扉が開くよ♪
♫純白 Panty(パンティー)♪
♫マジ 手に入れた♪
♫白い色に光る♪
♫美し Panty(パンティー)♪
♫マジ 興奮する♪
♫日の光あびて We Get You(ウィ ゲッチュー)♪
♫Mysterious Girl(ミステリアス ガール)♪
「最低。お前やっぱ最低!」
「俺が作った歌じゃ無い! リュカさんが作ったんだよ」
激しく白い目を向けられ、慌てて言い訳する宰相閣下。
「作ったのは陛下でも、歌い広めようとしてるのは閣下でしょ!」
「そ、そうだが……で、でもこれで俺の気持ちが解るだろ!」
その為にこんな歌を広めようと言うのだろうか?
「でも陛下は、この歌が誰を表しているのか明確にしてないじゃない。でも閣下はそんな事に関係なく、歌を広めようとしてるじゃないですか! やっぱ最低」
歌の内容が酷い所為か、それを伝えた宰相への批難が止まらない。
「やっぱ納得いかねー!」
「閣下が頬を膨らましても、全然可愛くありませんから。それはリュリュ様の専売特許ではありませんか?」
不愉快さがぶり返した宰相閣下は、両頬を膨らませふて腐れる。まるでリュリュ姫のように……
果たして宰相閣下に幸せは訪れるだろうか?
それは誰にも解らない……なんせこの国はグランバニアなのだから。
後書き
キャッツ・アイの替え歌だよ。
人の事を笑ってる場合じゃ無いんだぜ
前書き
ちょっと時間を遡ったエピソード。
ウルフが正式に宰相へ就任する1日前の話。
(グランバニア城)
ユニSIDE
明日から遂に私の上司が宰相へと出世する。
それに伴いオジロン大臣が現役を退く。
そして大臣の下に居た部下が、全員ウルフ殿の部下になる。
なので、明日からオフィスが変わる。
今までは秘書官のウルフ殿と私を含む3人の補佐官だけだったので、こぢんまりとした部屋で仕事をしていた……が、いきなり人数が増えると言う事で、オフィス移転が決定した。
その為にデスクやら棚やらを元のオフィスから運び、新たなオフィスへ配置している。
だが考えてもらいたい。元国務大臣のオフィスと元主席秘書官のオフィスが合併し、その引っ越しをするのだ……重要機密書類の類いがどちらにも山盛りなのだ。
更に言えば、主席秘書官の職務には王家のプライベートな事とかも豊富に盛り沢山。
滅多やたらな人物に引っ越しを手伝わせるわけにいかない。
なので……引っ越し人員は、私・オジロン元大臣・ウルフ新宰相となる。
秘書官補佐には私以外にも、軍事担当のプロムと政務担当のリックが居るが、王家のプライベートには深く関わっていなかったので、除外されてしまった。
たった3人で、しかも期限は本日のみ……こりゃ地獄だと予想してたのだが、とある人物が手助けをしてくれると申し出てくれた!
「えぇ! いいよぉ……気を遣うよぉ……引っ込んでろよぉ~」
気を遣う者の台詞では無い。
ウルフ殿からは立候補者へ、手厳しい言葉が浴びせられる。
「でもホラ……一応さぁ僕ってば君等の上司じゃん。手伝わないわけにもいかないよ」
普通の職場であればその通りなのでしょうけども、ここは普通じゃない。
ここは国家の中枢……しかも最も奇抜なグランバニア王国の中枢なのだ。
決して地位を誇示しないリュカ様は、笑顔で手伝ってくれるのです……強引に。
そして始まった引っ越し作業。
通常であれば、棚の中身を取り出し軽くしてから移動をするのだけど、そうなると手間が倍以上に増える。書類等を取り出す作業と仕舞う作業、更には棚とは別に運ぶ作業が加わって面倒な事この上ない。
だがお優しいリュカ様は「面倒だし一回で終わらせようぜ」と言い、重い書類等が入ったままで棚を持ち上げ移動させてしまう。
「わぁ本当だぁ……すぐに終わったぁ。……って、そんな事出来るのお前だけだ!」
的確かつ無礼なウルフ新宰相のツッコミを全員で聞き流し、ある人(1名)は中身入りで棚を動かし、ある人等(他2名)は中身を取り出す作業に勤しんだ。
口ばっかり動かしてないで、お前も早く手伝え!
棚も書類もデスクも……兎にも角にも荷物が多く、しばらくは皆無言で作業に没頭。
しかし飽きてきたのか何処からか鼻歌が聞こえてきた。
まさかウルフ殿じゃ無いだろうなと思い、睨むように視線を向けたが、先方も同じ様な顔でこちらを見てきたので、真犯人が居る事を察知。そしてそれが誰なのかも察知。
えぇ、まぁ……リュカ様なんですけどね。
作業の手は緩める事無く、鼻歌交じりで空の段ボール箱を持ち上げるように引っ越しを続ける。
深く考えず私も作業に没頭せねば……
少しの間、リュカ様の鼻歌をBGMに作業していたが、気が付けばボソボソと歌詞らしき物が聞こえてきた。
最初の内は「♫僕の名前はヤン坊♪」って感じだったんですけど、何か探り探りな感じで歌を紡いでいくリュカ様。
如何やら引っ越し作業をしながら作詞作曲をしていたみたいです。
遂に全ての歌詞が出来上がると、徐に大きな声で歌い始めました。
♫僕の名前はオジロン 君の名前はマオ・イアン♪
♫二人コソコソ イチャイチャ ラブ♪
♫君と僕とで イチャイチャ ラブ♪
♫大きな声では言えないけれども♪
♫毎日囁く アイ ラブ ユー とね♪
♫君は私のペット 私はただの泥棒♪
♫二人の仲に ラブは無い♪
♫君は私の 情報源♪
♫小さな事から 大きなネタまで♪
♫つぶさに聞き出す 情報収集♪
「リュ、リュカぁぁぁ!!! もう許してくれよぉぉぉ!!」
リュカ様に歌われたオジロン元大臣は、顔を汚く乱しながら涙を流してしがみつく。
うん、泣く。こんな歌を歌われたら、私だって泣く。
同じ人物に騙された者として、私はこの歌に笑えない。
だが、お腹を抱えて笑う人物が一人居る……えぇウルフ新宰相閣下です。
他人の不幸を笑うのは、性格が捻曲がっているウルフ宰相閣下なのです!
「笑い事じゃ無いぞウルフ! お前もこんな歌を歌われてみろ……」
「はぁ? 俺は歌にされるようなアホなエピソードねーし」
そんな訳無いだろ。叩けば埃の一つや二つ、出てくる間抜けな青二才だろ。
私はソッとリュカ様に目で訴える。
私と目が合ったリュカ様は、少し首を傾げてブツブツと作詞作曲を開始する。
「う~ん……♫天才宰相 ウ~ルポンポン♪……かなぁ?」
何そのキャッチーなフレーズは!?
耳に馴染むし、歌いやすそう。
これは出来上がったら是非とも世間に広めないと……
「今度マリーに相談してみるか。アイツならアニソン得意そうだし」
“アニソン”が何なのか解らないし、マリーさんに作詞作曲が出来るとも思えないけど、ベソをかくオジロン元大臣を嘲笑ってるウルフ宰相閣下には、リュカ様の呟きは聞こえてない様子。
是非とも奴には内密に制作して、気付く前に世の中に広めてしまおう。
私はリュカ様にだけ見える様に、小さくサムズアップして今後に期待する。
オジロン閣下を笑ってられるのも今の内だと思い知れ!
ユニSIDE END
後書き
歌のタイトルは『オジロン・マオ 恋予報』です。
昔よくあったデュエットソングのように、
前半は男性パート、後半は女性パートとして歌って下さい。
ある意味、この歌が先駆け的なものですね。
しかも結局の所、やっぱりリュカさん発信です。
まぁリュカ伝ですからね。
ある意味、諸悪の根源ですよ。
後日相談されたマリーは、
9割リュカの作詞曲を城内で何気なく歌っていたのでしょう。
そしてそれを待っていたとある人物によって、
メイド等を中心に世間に広まりました……とさ。
めでたしめでたし。
みんなのうた
前書き
フルバージョン
今夜のみんなのうたは……
『城のお義父さん』です。
♫アルル妃 城の中 お義父さんに 出会した♪
♫華やぐ昼休み 義父さん出会した♪
♫お義父さんの 言う事にゃ 偶には 孫見せろ♪
♫孫連れ顔見せろ 僕は祖父なんだぞ♪
♫お義父さん お待ちなさい 貴方は 悪影響♪
♫私の娘には 貴方は悪影響♪
♫ところが お義父さんは 何故だか 笑ってる♪
♫今更何言ってんの 手遅れだと思う♪
♫あらお義父さん 安心なさい 何故なら 秘密なの♪
♫貴方の存在は 永遠に秘密よ♪
♫お嬢さん お待ちなさい 私は あげたでしょ♪
♫白いフワフワの 子猫のぬいぐるみ♪
♫物には 罪は無い 有難く 頂くわ♪
♫だけども送り主 永遠に秘密よ♪
♫アルルさん お待ちなさい それでは 逆効果♪
♫貴女の旦那とね 同じ過ちよ♪
♫マリーさん 如何いう事 ティミーが 何ですか♪
♫あの人何したの どんな過ちよ♪
♫アイツも 妹が 居るとは 知らなくて♪
♫始めて出会った日 一目で惚れたのさ♪
♫アミーも 育ってから 祖父さんに 出会ったら♪
♫一目で惚れるかも 取り返しつかない♪
今現在グランバニア王都で歌詞以外が流行っている曲ですね。
皆さん思い思いの気持ちを、この曲のリズムに乗せて歌ってますね。
一例を聴いてみましょう……
♫ある日 彼女の部屋 下着を 見付けたの♪
♫私や彼女のじゃ ない下着を♪
♫彼女に 問い詰めた このパンツ 誰の物♪
♫私が居るのにさ 浮気でもしてるの♪
はい。
これはとある上級メイドと彼女さんの修羅場ですね。
誰の下着なんでしょうかね?
♫ある日 お腹の子 元気に 暴れてる♪
♫彼の子供がね 私の中に居る♪
はい。
これはとある天才宰相の愛人さんの歌ですね。
元気な子が生まれると良いですね。
♫ある時 世界が 竜王に 奪われた♪
♫勇者の子孫さえ 最後に裏切った♪
はい。
これはとある貧乳女神の悲痛な叫びですね。
取り戻せれば良いですね、世界。
そんな訳で皆さんも身の回りの事を題材に歌いましょう。
♫そこにやってきた警察♪ とか、オリジナルでリズムを加えても良いでしょう。
ウクレレを弾きながら歌うのが似合うかもしれませんね。
後書き
提供は
GHK(グランバニア国営放送局)がお送り致しました。
プリティー・ファンキー・レイディオ、危機一髪
前書き
特別ゲスト登場
マリー「ど~も、今夜も始まりました『オール・ナイト・グランバニア!』DJのプリティー・マリーちゃんでぇ~す♡」
ピエッサ「……………」
マリー「ちょっとぉ~……どうしちゃったのピエッサちゃん? ご挨拶は?」
ピエッサ「え……あ……そ、その……こ、今晩は……」
マリー「どうしたのぉ。歯切れ悪いぃ(笑) もしかして、今夜のゲストに緊張しちゃってるぅ?」
ピエッサ「え……あ……うん。き、聞いて無かった……し」
マリー「うん。ゲストの予定は無かったからね(笑)」
ピエッサ「もしかして……突然決めたの?」
マリー「うん! ってなワケで、今夜のゲスト……“リュー君”で~す!」
リュー君「イェ~イ! リュー君で~す!」
マリー「先刻偶然、局内で会ったから、誘ってみた」
ピエッサ「……ぐ、偶然……って」
リュー君「誘われたから来ちゃった(テヘ)」
マリー「イェ~イ。そんな訳で今夜は“マリー&ピエッサwithリュー君”でお届けするわよ」
ピエッサ「……お、お届け……します……」
リュー君「イェ~イ! 早速始めようぜぇ」
マリー「じゃぁ早速、最初のお便り。ラジオネーム“天空の勇者王子”さんのお便り……って、またお前かい!」
リュー君「どうせコイツ、娘が可愛いとかしか言わないよ。ボツでいいんじゃね?」
(ビリッ!)
マリー「って、おい! 勝手にお便りを破り捨てるな」
リュー君「良いの、良いの、次、次ぃ」
マリー「か、勝手に決めるな。ま、まぁ良いか。じゃ次は……ラジオネーム“異世界の女勇者”から……ってこれまた常連」
リュー君「はいボツ」
(ビリッ!)
マリー「何で一々破るの!?」
リュー君「お便りを読んでほしかったら孫に会わせろ」
マリー「ホ、ホント勝手だなぁ。あ、リュー君宛のメールが来てる。え~とラジオネーム“フルーツチ○ポ侍G”さん……ひでぇ名前だな」
リュー君「そんなラジオネームをサラッと言うなよ」
マリー「しょうがないでしょ! 兎も角、読むわよ……『リュー君さんって何をやってる人ですか? 知り合いに似てる人が居るんですけど、違いますよね! 絶対に違いますよねぇ!? 王様じゃ無いですよね!!』ですって」
リュー君「僕はイケメンをやってます」
マリー「あ! 私、リュー君を紹介する歌を思い付いたわ。早速歌うわね」
♫口説こう 口説こう 私は元気♪
♫美人が大好き どんどん口説こう♪
♫金髪 茶髪に 黒い髪♪
♫ロングにショート ポニテも好物♪
♫どんどん口説いて 大家族♪
♫口説こう 口説こう 私は元気♪
♫まだまだ現役 どんどん口説こう♪
♫年上 年下 幼馴染み♪
♫恋人居なけりゃ 狙い放題♪
♫休まず口説いて 大家族♪
マリー「どう? 的確でしょ」
リュー君「ジブリ」
ピエッサ「……(誰か説明して! ジブリって何!?)」
マリー「よ~し、サクサクお便り紹介しましょうね。続いてはラジオネーム“妖狐”さんから……『オイラ勉強が苦手なのに、軍人になるのに勉強が必要になっちゃったよ。助けてよリュー君』だって。知るかよ」
リュー君「馬鹿者、勉強しろ! そんなお前には、リュー君サイン入り参考書を無理矢理プレゼントだ!」
マリー「ひゃっひゃっひゃっ、勉強しろ馬鹿狐!」
リュー君「ほら次のお便りは?」
マリー「はい、次……もリュー君に質問みたいね。ラジオネーム“ラインハットの兄王”さんから。『お前……何やってんの?』だって」
リュー君「煩い。親分のお便りはボツだ!」
(ビリッ!)
マリー「破るなって!」
ピエッサ「あ、あのぉ……こんなメールが……」
マリー「何々……ラジオネーム“ナンバー2”さんから。『お前、何やってんだ馬鹿。未だ仕事終わって無いだろ! 帰ってこいアホ!』だってリュー君」
リュー君「ボツ!」
(ビリッ!)
マリー「だから破るなつーの!」
ピエッサ「し、仕事は……終わらせないと……」
リュー君「あ、僕も歌を思い付いたよ。歌うから聴いてね」
♫ウルポン ウルポン ウルポン ウルポン♪
♫誰かが コッソリ♪
♫兵器の開発 進めて♪
♫出来たら 封印 機密の事案です♪
♫国家の大機密♪
♫直ぐさま 情報漏洩♪
♫宰相 ウルポン ウルポン ウルポン ウルポン♪
♫ヘタレのクセに やる事最悪♪
♫宰相 ウルポン ウルポン ウルポン ウルポン♪
♫更なる兵器の為 周囲を巻き込んで♪
♫開発させる♪
マリー「ジブリ繋がり……ってかトトロ繋がり!」
ピエッサ「……(だからジブリって何! トトロって何よ!)」
リュー君「さぁ、次のお便りを読んじゃうぜ。ラジオネーム“平民王妃”ちゃん……『リュー君愛してる♥』ありがとう、僕も愛してるぅ! じゃぁビアンカにはリュー君からセクシーパンツを脱ぎたてパンツと交換でプレゼント!」
マリー「こ、交換って何だ!? って言うか勝手に進めるな」
リュー君「じゃぁ次はねぇ……ラジオネーム“元雪の女王”ちゃん。『リュー君、大好きぃ!』僕も大好きぃ! よ~し、スノウにはリュー君特製の濃厚スペルm……ゲフンゲフン、えーとカルピスを直接プレゼント」
マリー「お前、今とんでもない事言いそうになっただろ!」
リュー君「さぁ、まだまだいくぞぅ。ラジオネーム“スライムナイトです”さんから。『私もカルピス欲しい』あげちゃう。一晩に10発……ゲフンゲフン、10杯くらい作れちゃう!」
マリー「ちょ、お前……いい加減にしろ!」
リュー君「じゃぁ次のお便りは、ラジオネームは不要、本名でOKってことなんで本名ユニから。『リュー君様聞いてください。私の上司が最悪なんです。何とかしてください』だって(笑) よ~し、そんなユニには“魔法の玉”をプレゼントだ。これでよしなに(笑)」
マリー「こ、殺す気?」
ピエッサ「ま、また彼からメールが来てるわよ。ラジオネーム“ナンバー2”から『俺を殺す気か馬鹿野郎!』って……」
リュー君「うるせぇボツだ。さぁさぁ次の……」
ピエッサ「そ、その前に……リクエストが来てるから、リクエスト曲をかけましょう!」
リュー君「え~~~……もっとお便り読みたいぃ」
ピエッサ「ラ、ラジオネーム“田鰻”さんからで『替え歌続くよ何処までも』です!」
♪替え歌 続くよ どこまでも~♫
♪血族越え 城も 街こえて~♫
♪はるかな 国まで ぼくたちの~♫
♪楽しい 替え歌 うたわれる~♫
♪マリーは 歌うよ いつまでも~♫
♪素敵な 調べを 声に乗せ~♫
♪リズムにあわせて ぼくたちも~♫
♪たのしい 数々の歌 うたおうよ~♫
♪ウ~ルポン 歌わ~れる みんなから~♫
♪ぼ~くから あなた~から 誰からも~♫
♪さあさあ 皆で ぼくたちの~♫
♪天才 宰相の歌 うたおうよ~♫
※
♪ランラ ランラ ランラ♫
♪ランラ ランラ ランラ♫
♪ランラ ランラ ランラ♫
♪ラン ラン ラン♫
♪ランラ ランラ ランラ♫
♪ランラ ランラ ランラ♫
♪ランラ ランラ ランラ ラン♫
※くりかえし
♪ウ~ル ポンポン♫
マリー「素晴らしい歌ですね!」
ピエッサ「ええ同感です。学校の教科書に欲しいですね」
マリー「さぁ今夜のゲスト、リュー君が部下に強制送還されたので、改めてお便りを読んでいきましょう」
ピエッサ「乗っ取られる寸前でしたね」
マリー「それと訂正があります」
ピエッサ「はい。先程ユニさんへ“魔法の玉”をプレゼントと勝手に言ってましたが、別の物に変更します。奴の部下って事でストレスが溜まるでしょうからグランバニア王家印入りの“胃薬”と、美容の為に“アナホルンリンクル”のお試しセットをプレゼント」
マリー「じゃぁ通常放送……って思ったけど」
ピエッサ「もう時間がきちゃいました」
マリー「先刻まで押し黙っていたピエッサちゃんがハキハキ喋り出したんですが、今夜はここまで」
ピエッサ「また次回も聴いてください」
マリー&ピエッサ「「バイバ~イ」」
後書き
田鰻さん。
ナイスな歌をありがとうございます。
使わせてもらいました。
ウルポンで2曲目。
♫ヘタレのクセに やる事最悪♪
がお気に入り。
あと、アナホルンリンクルお試しセットもお気に入り。
バレンタイン・キッス
前書き
バレンタインに因んだ
ハートフルなエピソード。
リュカ伝3.8の前の出来事と思い読んでください。
(グランバニア城・近衛騎士隊長室)
『2月14日はバレンタインデー♥
マリー&ピエッサは、日頃の感謝を込めて
2月14日バレンタインコンサートに来てくれた皆様に
手作りのチョコレートを手渡しするわよ♡
みんなこぞってコンサートに来てね❣』
「…………なんですか、これは?」
「読んで解るでしょぅ……バレンタインデーにコンサートして、そん時にチョコを配るのよ」
ここはグランバニアの近衛騎士長を務めるラングストンのオフィス。
王家の中枢に関わる職務なだけあって、それなりに重要な機密事項も扱う者の執務室だ。
そこにノックもせずに勝手に入ってきて、出来たてっぽい手書きのポップを見せつけるマリー……
部屋の主も怒鳴る訳でも無く冷静に質問を返す。
密室で男女が顔を近付け会話をする……傍から見ればイチャついて見えない事も無い。
「……なるほど。コンサート会場はいつも通り城内カフェを使用するのですね。となると……収容人数120人。テーブル等を取り払いギュウギュウに詰め込めば160人は入れるでしょう。チョコの量も膨大ですね……大変そうだ(笑)」
「その分~お金もぉ~いっぱいよ♥」
自分の行動が無礼であると微塵も感じてない少女は、満面の笑みでゲスい事を言う。
聞いてる近衛騎士隊長も慣れた感じで笑顔で返す。
そして少しずつ確信へと近付くのだ……
「いやぁ~……しかし手作りとは。どの辺から手作りなのですか? カカオの実から手作りするんですか? 詳しい事は知りませんが、今からでバレンタインデーに間に合いますかねぇ?」
「やだぁ~、ラン君がそうしたいのなら構わないけど、バレンタインデーには間に合わせてよね」
「おや? 何故に私の意見が関係するのですか? 私は無関係ですが……」
「も~う……何言ってんのよぉ。ラン君がチョコを作るんでしょう。まぁ市販のチョコを一旦溶かして固め直せば、それで手作りって言い張れるから問題ないわよ……何もカカオの実から作らなくても」
「変ですね……『マリー&ピエッサの手作りチョコ』と書いてあるではないですか。私が作っては詐欺になりますよ」
「おいおい、よく見ろよ。何処にもマリー&ピエッサの手作りなんて書いて無いだろ。『手作りのチョコレートを手渡しする』と書いてあるだけで、手作りしたチョコレートを渡すとは書いて無い。詐欺じゃないわよぉ!」
「いやいや、この文面から察するに誰もがマリピエが手作りした物だと考えるでしょう。間違いなくそれを狙ってるのでしょうから、これは詐欺にあたりますよ」
「如何思うかは受け取る方の勝手だろ! こっちは微塵もそんな事を書いてねーんだ。詐欺じゃねーし!」
「酷い言い分だ。ファンが聞いたら何というか……」
「うっせーな、いいから作れよチョコ。料理好きなんだろ!」
人に物を頼むとは思えない態度……これがマリーのスタンダードです。
「誤解があるようですが、私は料理が好きなのではありません。好きな人に作る料理が好きなんです。そうリュリュさんにね!」
「だったらリュリュ姉にも作れば良いだろ。そんくらいの材料費が増すのは許してやるよ!」
「何でこの期に及んで上から目線なんですか!?」
「そんなの当たり前「マリーちゃん!!」
口論が泥沼化しそうになった時、そこに現れたのはマリーの相方ピエッサ。
「こんな馬鹿な企画、通るわけないでしょ! ラングストン閣下に迷惑をかけないでちょうだい!」
「迷惑じゃねーし」
「いえ大迷惑です」
「それにこんな国家機密満載の場所に、無断で来ちゃダメです!」
「あぁピエッサ殿、その点は問題ありません。ここにある機密事項は王家に深く関わっている方々には知られても大丈夫な物ばかりですから。だからマリーさんは元より、貴女も既に深入りしておりますよ(笑)」
「ヒ、ヒィィィ! い、嫌です……深入りなんてしたくありません! そ、早々に出て行きますから……何も見てませんから!!」
「あ、ちょっと……引っ張んないで……ま、まだ話が終わって……お、憶えてろよ、ウルフに言いつけてやるかんな!」
こうしてマリーはピエッサに引っ張られながら捨て台詞と共に近衛騎士隊長室を後にした。
(グランバニア城内・廊下)
「んもう……交渉の邪魔しないでよね!」
「何が交渉よ。どうせ我が儘をぶつけてただけでしょ」
流石は相方。見て無くても見てたかの様に解るのですね。
「いいもん。それならウルフに言いつけるだけなんだから」
「またぁ……宰相閣下を巻き込まな……って、話を聞いて!」
マリーの次なる計画に溜息でダメ出ししようとするも、時既に遅し。大きな胸を揺らして宰相閣下の執務室へと駆け出していたマリー。
そしてそれを慌てて追いかけるピエッサ。
だが以外にマリーの足が速く、追いつく事無く舞台はグランバニア王国宰相の執務室へ……
(グランバニア城・宰相兼国務大臣執務室)
「ウルえも~ん、ジャイアストンがいじめるんだよぉ~~~」
相も変わらずノックなしで乱入するマリーに、周囲の者も呆れ顔。
だが部屋の主であり、乱入者の目的の人物たるウルフ宰相は微動だにせず、執務机に置かれた書類から目を離さない。まるでマリーの存在に気付いてないかの如く、書類を読み署名をしている。
「はぁ……はぁ……マ、マリー……ちゃん……ぜぇ……ぜぇ……」
遅れて登場した相方ピエッサ……
激しく息切れしている様子。
「あ、あのピエッサさん……飲みかけですけど、良ければどうぞ」
「ど、どうも……(ゴク、ゴク、ゴク)ぷはぁ~!! あ、ありがとうございますユニさん」
その哀れさに宰相閣下の秘書の一人であるユニが、自分が飲んでいたアイスティーを差し出した。
「と、兎も角マリーちゃん! もう我が儘を振りまかないで」
「我が儘じゃねーし! 当然の訴えだし!」
この場に居る誰もが我が儘である事を理解している……話の流れが見えて無くても。
しかしそんな中で宰相閣下だけが手を休めずに職務を遂行している。
集中しすぎて周りの状況に気付いてないんじゃ無いのかと思うほど。
「ねぇちょっとウルフ……聞いてる!?」
「あ!? 俺に話しかけてたのか……?」
「そりゃそうでしょ。私がここに来て訴えを起こしてるんだから、当然ウルフに話してるに決まってるじゃない!」
「俺もそう思ってたけど……お前、入ってくるなり『ウルえもん』って叫んだじゃん。だから俺じゃ無いと思ったんだよね。俺“ウルえもん”じゃないし」
「いや……あれは……ネタじゃん!」
「寝てないよ。起きてるよ」
「寝た・寝てないじゃねーよ!」
如何やら宰相閣下は彼女の存在に気付いては居たが、無視を決め込むつもりだった様だ。
「それで……如何した?」
「うん、あのねぇ……」
・
・
・
・
・
「……って訳なのよ! ウルフからガツンと言ってやってよ!」
「そうかぁ……ラングストンの奴、困ったもんだな!」
「でしょでしょ!」
訴えの内容を聞き周囲の者が呆れかえる中、宰相閣下だけが真剣に悩んでいる……風に見える。
「何とかしてやりたいのは山々なんだが、アイツは俺の直属の部下じゃない。なんせ国王直属の近衛騎士隊長だ。直属の上司に訴えろ……今なら執務室に居るから」
そう言うと爽やかな笑顔で“シッシッ”と手を振り退出を促す。
「ちょっと……ウルフはこの国のナンバー2なんでしょ! ラン君くらい何とかしてよぉ」
「そうなんだ……俺ナンバー2だから、ナンバー1には逆らえない。ナンバー1の直属の部下に命令なんてとても……何ならナンバー1を呼び出してやろうか?」
普段は直属関係なく命令してるくせに、こういう時だけ上下関係を強調する宰相閣下。
流石は姑息さナンバー1……更に自身のMHを取り出し見せつけ追い打ちをかけた。
「「ちょっ!!」」
それを聞いていたピエッサを始め周囲の連中が、ここにそんな理由で国王を呼ばれては堪らんと、慌ててマリーを外へと追い出した。
流石にマリーも父親に説教されたくないので、誰かの手作りのチョコレート手渡し企画は諦め、無難にメッセージカードを配布するだけに止まったという。
後書き
肺の手術一周年に相応しいエピソードですね。
サブタイトルの『キッス』は無視してください。
子供に好かれるのは良い事だ
前書き
おしえろ(アルプスの少女ハイジOP「おしえて」のリズムで)
♪政(まつりごと)なぜ こんなにも面倒なの♫
♪あの部下はなぜ 私をイビるの♫
♪おしえろ ウルポン♫
♪おしえろ ウルポン♫
♪おしえろ 天才宰相さん♫
♪あの案件(やま)をなぜ 馬鹿共が勧めるの♫
♪あいつらはどこで 学んでいるの♫
♪おしえろ ウルポン♫
♪おしえろ ウルポン♫
♪おしえろ 天才宰相さん♫
♪眠る時なぜ 運動会になるの♫
♪○○○の中なぜ いつも気持ちいいの♫
♪おしえろ ウルポン♫
♪おしえろ ウルポン♫
(グランバニア城:中庭)
ウルフSIDE
「呼んだ?」
「ああ……」
レクルトは俺に呼び出され、何時もの様に警戒しながらやってきた。
グランバニア城にある中庭の円卓に座る俺の対面に腰を下ろすと、懸命にここへ呼び出された理由を考えている。
仕事の話ならオフィスに呼ぶだろうし、個人的な要件なら呼び出さず俺から行くだろうから警戒は深まるばかりだ。
「また最近……俺をウルポン呼ばわりする歌が市井で流行っている。これもマリーの仕業か? この間、リュリュさんを……我が国の姫君を“変態”呼ばわりする歌を歌ってたのを、こっぴどく叱った仕返しか!?」
「さ、さぁ……その歌は聴いた事あるけども、誰発かまでは」
「私、知ってますよ」
俺の直球な質問に言葉を詰まらせるレクルト……しかし別の人物から『知ってる』の返答が。
それは俺達が集まるのを見つけ、気を利かせた風に紅茶を用意してくれた上級メイドのジョディーだ。
レクルトの前と俺の前にティーカップを置き紅茶を注ぎながら屈託の無い笑みで答える。
そして俺の横に腰を下ろすと、俺の為のはずの紅茶を勝手に飲み、事の真相を話そうとしている。
「あの歌は陛下が歌ってました」
マリーじゃなきゃリュカさん……
当たり前か!
「あのオッサンふざけやがって!」
「陛下がメイド達の前で披露し、聞いてた何人かのメイドが懸命に書き留め、閣下の前以外で口遊んでいるんです」
「城下を歩いていると、ガキ共が『おしえろウルポン!』って言いながら駆け寄ってくるんだよ! 主語を言え! 敬語を使え! つかウルポンて呼ぶな!!」
「まぁまぁ……子供に好かれてる証拠じゃないか。喜ぶべき事だよ」
「黙れレクルト! 頭にきたから子作りの方法を生々しく教えてやろうかと思ったよ……お前は両親の愛で生まれたんじゃ無い。ただの快楽の結果だってな!」
「本当に最低だなお前」
俺の紅茶を飲み続けながらジョディーが批判する。
レクルトも顔を歪めながら同意とばかりに首を縦に振る。
こんな歌を作るヤツは問題じゃないのか?
「思っただけだろ。本当に言ってはいない」
「思うだけで十分だ」
「思考回路と精神年齢が狂ってるんだよ」
紅茶組(紅茶を飲んでる者)が俺だけを責める。
何故俺だけがこんな目に遭うのか?
リュリュさんの歌を懸命に止めたのに……
「お前等もリュカさんかマリーに歌われてみろ! 俺の気持ちが解るから」
「いや無理だよ。僕らは君ほどキャラが濃くないから歌に出来ない」
何も知らないレクルトはドヤ顔で言い切った。
非公開だがリュカさんに歌われたジョディーは、黙って紅茶を啜っている。
「何とかこの歌を消せないものか?」
「無理ですね。メイド等が広める気満々で広め、城下の子供達も閣下の事が好きですから」
くっ……こんな歌でも『好き』と言われて歌われてると思うと、悪い気がしないのは何故だ!?
「メイド等に伝えておきますね」
「何だ、この歌を歌うの禁止って今更か?」
ジョディーの発言に少しビックリしながら問い返した。
「違います。『もう閣下が歌の事知っちゃったから、閣下の前で歌うの解禁』ってです」
「あぁなるほど! 取り返しの付かなくなるまで広がるのを待っていたんですね、メイドさん達は(笑)」
「最悪だ! お前等もあのオッサンも最悪だ!!」
数日後……
城内では誰も憚る事無く、あの歌が歌われる様になった。
しかも俺のオフィスの人間もだ!
頭にくるのは一番近場に居るユニさんが、仕事で分からない事があるとこの歌のサビ部分を歌いながら近付いてくる事だ。その都度オフィス内で『クスクス』と笑い声が聞こえる。
追伸……
マリーがこの歌を聴いて『何故私の歌は受け入れられないの!?』と嘆いていた。
後書き
大きなおっぱい(大きな古時計のリズム)
♪大きなおっぱいの リュリュ姉ちゃん♫
♪国王様の娘ー♫
♪万年いつも 振りまいていた♫
♪ご自慢のファザコンさー♫
♪リュリュちゃんが生まれた時に♫
♪開花した変態さー♫
♪今じゃ もう 止められない その変態♫
♪万年 休まずに パパLove パパLove♫
♪お母さんと 一緒に パパLove パパLove♫
♪今じゃ もう ドン引かれ いい おトシー♫
グランバニアの食文化と宰相閣下の扱い方
前書き
ヘンリー等がアサルトライフルの視察に来る前の話
(ラインハット城:プライベートエリア)
ラインハット城内の王族用生活エリアの一室で、とある夫婦が会話をしている。
次世代のラインハット国王である第一王位継承者のコリンズ王太子夫婦だ。
王太子妃であるポピーは身籠もっており、かなり目立ってきたお腹を愛おしそうに摩りながら10ページも無い小冊子を熟読している。
「それかい、君の可愛い妹君が持って来た情報誌ってのは?」
「ええ、私の可愛い妹のリュリュが誰彼構わず配り回っているサラボナ通商連合が全世界向けに発行した無料旅行冊子よ」
そう言うと近付いてきた夫に冊子を渡すポピー。
受け取ったコリンズも表紙を見て、肩を竦めながらそこに書かれている文字を読んだ。
『今、グランバニアが熱い! 2年後には世界中の猛者が集まる武闘大会開催!』
コリンズは妻をからかう様に冊子の見出しを読み出した。
「恥ずかしいから声に出して読まないでよ!」
「君の故郷の事だろ……恥ずかしがるなよ(笑)」
「恥ずかしいわよ、内容とそれを持って来たリュリュの考えが!」
「内容? どれどれ……」
コリンズは妻に促されるかの様に、手にした小冊子のページを捲る。
そして今度は声には出さずに内容を読み進めた。
その内容とは……
『今、旅行に行くならグランバニア王国だ! 2年後に迫った武闘大会の為、日々発展し続ける町並みの他に、直ぐにでも体験して欲しい他国には無いモノがある。それは何かというと……食文化だ!!』
「しょ……食文化ぁ!?」
冊子を読んでたコリンズが思わず声を出す。
そんな夫を見て、溜息で先を読む様に促すポピー。
そして再度冊子へと目を落とした。
『グランバニア王国は現国王が王位に就いて20年ちょっとの時が経過している。その中で最近になって新たなる食がグランバニアでは流行しているのだ』
知らなかった情報に思わず妻を見るコリンズ。
「へー……ポピーは知ってるの?」
「まぁ……ね」
妻があまり言いたがらなそうなので、続きを読む事にする。
『グランバニア王国独自の食文化は多数あるが、今回は2つほど紹介しよう。そのうちの1つ……寿司だ!』
「寿司?」
「美味しいわよ」
『寿司は非常に美味なのだが、どのようなモノか知ると顔を顰める読者もいるだろう。だが食せず判断するのは間違いだ。その旨さたるや神秘と言っても過言じゃ無い』
「どんだけ美味いんだ?」
「輸入したくなるくらいよ」
『さて……では寿司がどのようなモノか説明しよう。酢を適量混ぜた白米を一口サイズに握り、その上に生の魚介類の切り身を乗せて醤油を少量付けて食す! 生の魚介類と聞いて生臭い食べ物を想像する読者も多いだろうが、この寿司はそんな事無い。酢飯と醤油……そして人によっては好みの分かれるワサビという香草を摺りおろしたモノを間に挟むのだが、想像しているより臭みなど無いのである』
「俄には信じがたいな……」
「私も最初はそう思ったわ」
冊子に書いてある通り顔を顰めるコリンズに、優しく否定を入れるポピー。
『この寿司には数多くの種類があり、上に乗せる食材(この食材の事を“ネタ”と言う)で注文する。マグロ・サーモン・真鯛・アナゴ等々あり、また別の形態ではあるがイクラ等を酢飯の上に乗せ溢れない様に海苔と呼ばれる海藻を紙の様に広げ乾燥させた食材で包む寿司も存在する』
「魚介類の種類によって形態も変わるのか……」
「そこには書いて無いけど、海苔と酢飯でネタを棒状に巻いた寿司もあるわよ」
寿司経験者の妻に感心するコリンズ。
『さて……次の食文化を説明しよう。次の食はラーメンと言う名でグランバニア王国内に浸透している食べ物だ。これも食材の内容によって多数の種類に分かれるのだが、ラーメンも他には無い独特の食文化である』
「ラーメン? これも聞いた事無いなぁ」
「そりゃそうでしょ。グランバニア発ですから」
妻の言葉に“まあそうか”と納得しながら冊子を読み進めるコリンズ。
『このラーメンと言うモノは、その食し方に些か抵抗を感じる食べ物だ。説明すると、小麦粉を主成分に卵等を練り込み仕上げた生地を細く裁断しパスタの麺の様にする……そしてその麺を各種スープに入れて食すのだ。そのスープが醤油仕立て・味噌仕立て・塩仕立て・豚骨仕立てと様々ある。味は人それぞれ好みが分かれるだろうが食べ方は共通で、ホークやスプーンの代わりに箸と呼ばれる二本のステックを駆使して、麺にスープを絡ませて口に入れ、そして勢いよく啜るのだ!』
「え、啜るの!? 下品じゃ無いかな?」
「他の食事だったら下品よね。ズルズル音を立たせるからね」
本日2回目の顔を顰めさせ、ポピーの説明を聞く。
「ラーメンはそういう食べ物なの。食事マナーは一辺倒じゃ無いって事よ」
「なるほど……流石はグランバニア。既存のマナーは通用しないか。ポピーの故郷だけあるな(笑)」
ディスる様に褒め、続きを読み始める。
『何故今回、この2つを紹介したかというと、この両方が同一人物によって考案されたモノだからだ。その人物というのが……何とグランバニア王国の現国王であるリュケイロム陛下によって発明されたのである!』
「凄いな……でも誰? ここにアンダーラインを引いたのは?」
「リュリュに決まってるでしょ。大好きなパパの偉大なる偉業を解りやすくして、大量にこの冊子を配り歩いているのよ……恥ずかしい」
「彼女らしいけど、配る全部の冊子にアンダーラインを引いてるのか? 先刻父さんにもデール陛下にも配ってたけど……」
「根が真面目な娘だからね。間違いなく全部……しかも大量に!」
「はぁ~……色んな意味で凄い家系だな」
「私を見て言うな!」
解っていた事ではあるが、それでも笑ってしまうコリンズ。
「あれ? 君は両方とも食べた事あるのに、あまりラインハットで布教しようとしないね……何で? 美味しいんでしょ両方とも」
「美味しいわよ両方共ね。でもねお父さんが考案した事だから……」
「尚のことだろ? 君だってある種のファザコンじゃないか」
「そうよ、私もお父さん大好き娘よ。でもねリュリュと違って私はお父さんを理解してるの。自身が考案したモノを世界に自慢する様な人じゃないの。それを解っているから、私は自然に世界へ流行るのを待っているの。『私のお父さん凄いのよ。皆も食べてね♥』なんてしたら、間違いなく嫌がるからね」
「……なるほど。アンダーラインまで引いて配ってる娘が……なるほど」
「恥ずかしい限りよ」
『私のお父さん凄いのよ。皆も食べてね♥』な行動をしている娘を慮り天を仰ぐ夫婦。
「でもまぁ……美味しいのなら俺も食べてみたいなぁ」
「じゃぁ今度食べに行く? 丁度サラボナのルドマンさんが、グランバニアが発明した新兵器の視察に行くって言ってたじゃない。お義父様も行くみたいだし、それに同行する形でグランバニアに行って空いた時間にウルフに奢らせましょう」
「何で、さも当然の様にウルフ宰相に奢らせようとするんだよ?」
「あら。ラインハット王太子殿下は知らないでしょうけど、ラインハット王太子妃は給料を貰ってないからお金なんて持ち合わせてないのよ。でもグランバニア王国のナンバー2である宰相閣下なら、捨てるぐらいお金を貰ってるでしょうから、消費する手伝いをしてやろうって事よ」
「なんて言い草だ。ウルフ君キレるぞ」
「あんなヘタレ、怖くないわ」
国際問題にならないのが不思議だと思いながら、妻には逆らえない夫は大人しく状況を見守るのである。
間違いなくグランバニア宰相と言い争いをする未来を想像しつつ……
後書き
寿司もラーメンも美味しいよね。
恋人同士が密室で行う事
前書き
作中の歌は、
まんが日本昔話ED「にんげんっていいな」のリズムで歌ってください。
(グランバニア城:宰相執務室付属の応接室)
グランバニア城の宰相執務室に隣接している応接室では、とある美男美女が鍵をかけて二人きりで秘密の作業を行っている。
こう言うとイヤらしい事を想像するかもしれないが、残念ながら期待は裏切られる。
室内に居る美男はウルフ。
美女の方はマリー。
秘密の作業とはマリーの書く歌詞の校閲。
何故二人きりで密室で行ってるのかというと、マリーが転生者である事が国家を超えての機密事項の為だ。
流石にマリーの相方であるピエッサにさえも知らせる訳にはいかない。
二人で行うと言ってはいるが、主に作業をしているのはウルフだけ……
彼の知らない単語が出てきた時のみ、その単語が何なのかをマリーに問い答えるだけ。
国内で通用する単語に置き換える作業は全部ウルフの仕事だ。
マリーが歌姫を始めた当初は、ウルフも知らない単語が多かった為、彼女に問う行為が頻繁にあったのだが、回数を重ねていく毎に彼の知らない単語が減っていき、問う事無く歌詞の変換を行っていけている。
と言う事は……
娯楽などの無い密室で、マリーは暇を持て余し始める。
そして毎回の事だが、最初は小声で鼻歌を歌い始めるのだ。
当初は作業を行っているウルフの苛つきを得ていたが、BGMとして聞き流す能力を手に入れた為、シカトする事が出来る様になった。
大体いつもは、これまでに発表した曲の鼻歌だったり、近々発表する曲の反芻練習の鼻歌だったりしたのだが、今日に限っては違った。
♪ファンの子観に来たコンサート♫
♪新曲出したら一等賞♫
♪ユ~ラリ揺れてるサイリウム キレイだな♫
♪いいね いいね 歌姫(アイドル)っていいね♫
♪みんなで仲良くチケット購入♫
♪「あ、高い」って思っても支払うんだろうな♫
♪君も買いなよ チケット買いな♫
♪げん げん 現金払いで 売(ばい)買(ばい)倍(ばい)♫
「何だその歌は!? 前半は綺麗で良いなと思ったが、後半は最低じゃないか!」
「うふふ……『げんきんっていいな(作詞:マリー・アントワネット)』って曲よ。最初の『ファンの子』ってフレーズ、心の中では『金づる』って歌ってるの♥ 良いでしょ」
「良い訳あるか! ファンを金づるとか言うんじゃない。絶対よそで歌うなよ! ファンが減るからな!」
「やだぁ~……解ってるわよぉ、そんなこと」
「はぁ~……」
大きく溜息を吐いたウルフは頭を押さえながら元の作業に戻った。
歌詞が気に入ったマリーは、更に何度も歌い続ける。
美男美女の秘密の作業は、この後も続いていくのであった。
後書き
最後のフレーズがお気に入り。
若い男女が密室で行う事
前書き
「恋人同士が密室で行う事」の続編です。
作中歌のリズムは前話と同じです。
(グランバニア城:宰相執務室付属の応接室)
ピエッサSIDE
マリーちゃんの機嫌が頗る悪い。
でも何故だか練習熱心になっている。
こんな事はラインハット王太子妃様が見学された翌日以来だ。
機嫌の悪さと練習熱心さの訳を知りたかったが、本人に聞いたら絶対に拗れると思い、本気で嫌だったけどスポンサーでもある宰相閣下に尋ねる事にした。
出来る事なら練習熱心さを持続させたい……機嫌が悪くなっても、その方法が存在するのなら知っておきたかったからだ。
宰相閣下の執務机の前に立ち、なるべくオブラートに包んだ表現でマリーちゃんの状態を話し訳を聞いた。
すると少し考えた(素振りかもしれない)あと、隣接する応接室に誘われた。
密室で尊敬する宰相閣下と二人きりになることに表情で嫌悪感を表したら、ユニさんが『私も同席しましょうか?』と言ってくれた。
心から安堵したのだが、尊敬し信頼する宰相閣下が『彼女(私の事)以外には聞かせられない話だから、他者が同席するのなら話さない』と言いやがって、渋々二人きりで密室に入った。
「さて……マリーの機嫌が悪かった事だよね?」
「いえ……機嫌が悪かったけど練習熱心だった事についてです」
彼女が不機嫌だったのを興味本位で聞きに来たと思われたくなかったので、きっちり訂正をする。
「やれやれ……めんどくせぇ女だな」
「……………」
私がこんな面倒臭い事を言うのも、目の前に居る尊敬し信頼できる性格の素敵な宰相閣下様が私らのスポンサーだからである。
「あいつさ……こんな歌を口遊んでいたんだよ」
そう言って閣下は歌い始めた。
♪ファンの子観に来たコンサート♫
♪新曲出したら一等賞♫
♪ユ~ラリ揺れてるサイリウム キレイだな♫
♪いいね いいね 歌姫(アイドル)っていいね♫
♪みんなで仲良くチケット購入♫
♪「あ、高い」って思っても支払うんだろうな♫
♪君も買いなよ チケット買いな♫
♪げん げん 現金払いで 売(ばい)買(ばい)倍(ばい)♫
「さ、最低な歌です……ね」
「ああ……俺もそう言った」
こればっかりは尊敬し信頼できる性格が素敵で憧れの的な宰相閣下様と同意見になる。
「んで、俺は君らの……主にマリーの活動内容を陛下に逐次報告してるのさ。この歌も勿論報告した。そしたらこんなアンサーソングを即興で歌ってくれたんだ」
そう言って閣下は歌い出した。
♪父親観ていたコンサート♫
♪音程外すの一等賞♫
♪言うほど実力微塵も無い 才能無い♫
♪いいの? いいの? そんなんでいいの?♫
♪みんなもそろそろ気付くと思う♫
♪ゆったりのリズムは聴くには堪えない♫
♪ぼくは知らんよ お前の仕事♫
♪完全 ノータッチで バイバイバイ♫
「ま、まさか……その歌をマリーちゃんに聴かせたんですか!?」
「聴かせるに決まってんじゃん」
決まってねーよ!
彼女を練習熱心にさせる方法を知りたかったが、こんな歌を歌う訳にもいかない。
結局私には役に立たない。
家族か性格の悪い人間にしか歌う事の出来ない歌だ。
ユニさんすら同席させなかった理由がよく分かる。
そして私には聴かせた、この男の根性の悪さも……
後書き
こんな歌を即座に思いつくリュカさんは凄い。
そして一語一句間違わず本人に聴かせるウルフ君も凄い。
因みに凄いのは性格の悪さね。
続・恋人同士が密室で行う事
前書き
作中の曲は『おさかな天国』のリズムで歌ってください。
曲名は「格差が天国」です。
PS:出来はともかく、今までの中で最低の内容です。
(グランバニア城:宰相執務室付属の応接室)
今日も今日とて密室でウルフ宰相と恋人のマリーが、出来上がった(思い出した)新曲の歌詞の校閲をしている。
先日口遊んだ『げんきんっていいな』が頗る不評で、父親から同リズムで指摘を受ける歌を歌われ不機嫌なマリーは、自身の気分が晴れるという理由だけで、また近しい人を貶める歌を考えていた。
本人からすると別に貶める目的がある訳では無く、自分のストレス発散が目的で歌ってる訳で、尚のこと質が悪いと言わざるを得ない。
そして今日も暇を持て余した歌姫は、不謹慎で失礼極まりない歌を口遊むのだった。
♪好きだと言わしてピエッサちゃん♫
♪愛してるんだよレクルト君♫
♪イカした昨晩思い出し♫
♪今日も華麗に欲情するよ♫
♪方や 軍の 重鎮 総参謀長♫
♪方や ピアノ 弾くだけ 脇役♫
♪格差 格差 格差 格差は彼等を♫
♪男女 男女 男女の関係にするのさぁ♫
♪格差 格差 格差 格差がデカいと♫
♪濡れる 濡れる 濡れる 女は濡れるよぉ♫
♪さあさ 今夜もベッドでパコろう♫
♪女は権力(ちから)を 待っている おー♥♫
(ポカッ!)
「『おー♥』じゃねー馬鹿女!」
「あ痛! な、何よ……ぶつこと無いじゃ無い」
「お前……絶対アイツらにその歌を聴かせるなよ!」
「え~……そりゃ聴かせる気は無かったけどさぁ……結構良い出来じゃない?」
「全然良くねーよ! 俺の友人を侮辱するな!」
「はぁ? 全然レクルトは侮辱して無いじゃん! 寧ろ『重鎮』って褒めてる」
「全然褒めてねーし、ピエッサさんだって友人だ!」
「ピエちゃんがウルフの友人か如何かは置いといて、この歌は事実しか言ってないじゃん。怒られる筋合いは無いわ」
「はぁ~……」
「???」
自分も周囲も見えていないイタい意識高すぎ女の思考回路とは言い争っても平行線。
そんな事を新たに学んだウルフ宰相であった。
後書き
短くて申し訳ありません。
あまりに非道い内容過ぎて、長い文には出来ませんでした。
父の叱咤
前書き
作中の新曲は
「デビルマンの歌」のリズムで歌ってください。
PS:外国の方がYouTubeで「デビルマンの歌」を
格好良く歌ってました。
https://www.youtube.com/watch?v=3lPqYlAYImo
(グランバニア城:国王執務室)
ウルフSIDE
「い、痛い。そんなに強く引っ張らないで、痛いわよ!」
「うるさい、さっさと来い!」
俺は余りにも他者の心情を考えられない不良品美女を何とかしようと、製造元へやってきた。
(コンコン)「失礼します」
「如何したの?」
俺はリュカさんの執務室のドアをノックし、マリーと一緒に入室する……彼女の腕をしっかりと掴んで。
「アンタの娘が、また酷い歌を作りやがった」
「お前の恋人が、また酷い歌を歌ったのか」
ある意味責任の押し付け合い。
「い、言うほど酷く無いわよぉ……」
「そう思ってるのなら、ここで歌ってやれよ。パパも聴きたがってるぞ」
多分聴きたくは無いだろうが、流石に何も言えず黙っている……渋い顔で。
「じゃ、じゃぁ……僭越ながら」
♪好きだと言わしてピエッサちゃん♫
♪愛してるんだよレクルト君♫
♪イカした昨晩思い出し♫
♪今日も華麗に欲情するよ♫
♪方や 軍の 重鎮 総参謀長♫
♪方や ピアノ 弾くだけ 脇役♫
♪格差 格差 格差 格差は彼等を♫
♪男女 男女 男女の関係にするのさぁ♫
♪格差 格差 格差 格差がデカいと♫
♪濡れる 濡れる 濡れる 女は濡れるよぉ♫
♪さあさ 今夜もベッドでパコろう♫
♪女は権力(ちから)を 待っている おー♥♫
マヂで歌いやがった。
歌えとは言ったが、平然と歌いやがった。
本当に自分が酷い歌を歌ってるって自覚無いんだな。
リュカさんは聴いてる途中で頭を押さえて俯いちゃったよ。
当の本人は歌いきり満足げに胸を張る。
コイツには何を言ってもダメなのか?
♪あれは何だ 何だ 何だ♫
♪あれはマリー♫
♪音痴の歌姫(アイドル)♫
♪美しいだけの顔付けて♫
♪人前で歌う鋼の心♫
♪ポップスソングは ほぼパクり♫
♪アニメソングも ほぼパクり♫
♪演歌だって ほぼパクり♫
♪ロックンロールは まるパクり♫
♪自分じゃ何も 生み出せない♫
♪音痴の歌姫(アイドル)♫
♪マリーさん マリーさん♫
頭を抱えて俯いてたリュカさんが、突如顔を上げると歌い出す。
完全にマリーをディスる内容の歌を。
先程までドヤ顔だったマリーも、これを聴いて顔を真っ赤にして怒る。
「私、音痴じゃないわよ!」
「如何だ自分を悪く言われる気分は!?」
自分を悪く言われた事に文句を言うマリーを厳しい口調で諭すリュカさん。
今は言わないが、リュカさんも人を悪く言う歌を歌ってますよ。
「だ、だって……これは……その……」
グウ音のも出ない返しに口籠もるマリー。
手もモジモジさせて少し可愛い。
「もっと皆が楽しめる歌を作れよ。アレなんか良かったじゃん……『ウ~ルポンポン』とか」
その歌、俺は楽しめねーよ!
「で、でも……『ウ~ルポンポン』はお父さんが最初に作ったんじゃん!」
「な、何だと!? 結局お前が原因か!!」
「あれぇ……そうだったけぇ?」
「そうよ、お父さんが私に『こんな歌作った』って教えてくれたんじゃん」
「と、兎も角……他者を貶める歌を作るなって事! じゃぁ解散!!」
そう言うとリュカさんは、俺とマリーを執務室から追い出した。
納得いかん。
『ウ~ルポンポン』が今回の様な他者を貶める歌の起源みたいなものだし、最終的にはリュカさんの所為じゃねーか?
この親娘には面倒をかけられっぱなしだ!
くそぅ……
この女に惚れた所為で、えらい目にあってばっかりだ。
いっそ別れてやるか?
そんな事を考えながら俺より頭一つ背が低いマリーに視線を移す……
俺の考えを知ってか知らずか、俺を見上げて「テヘッ♥」と舌を出す。
……可愛いんだよ! ふざけんなよ! 別れるかよ!!
後書き
誰の目から見ても
ウルフの不幸はマリーに目を付けられた事。
才能と素質 前編
前書き
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。
まだ不安が残りますが、取り敢えずのお試しと言う事で更新しました。
(グランバニア城:娯楽室)
ある日の夕暮れ前……
グランバニア城内のプライベートエリアにある娯楽室(と言う名の音楽室)で、マリー&ピエッサ(マリピエ)のピアノ担当であるピエッサが、己が通う芸術高等学校の課題の為にピアノの前で頭を悩ませていた。
本来であれば、わざわざ王家のプライベートエリアで行う事では無いのだが、本来の目的であるマリピエの相方であるマリーが練習に現れない(多分サボり)為、空いてしまった時間を有効に使うべく己が技術の向上に時間を当てていたのだ。
なお、芸高校の課題と言うのは“ピアノ曲の作曲”である。
彼女は芸高校の音楽学科の演奏学部でピアノ専行を選んでおり、そこに準じた課題が課されるのだ。
“作曲”と言う事ではあるが、何も一人で行わなくても問題ない。
学友と共に共同で作曲をし、共同作として課題で発表する事も許されている。
勿論、一人で行えば講師の評価もより高いものにはなるが、及第点を得るには協力するのも止む無しだ。
ただ彼女には学友等と共同作業をする時間が無い……
マリピエの活動に時間を割かれる為、他者と時間を合わせる事が出来ないのだ。とは言え、その必要も無いほどの才能は持ち合わせている……自覚は無いが。
課題の曲も、既に8~9割ほどは完成してるのだ。
そんな時だった。突如、娯楽室に侵入してきた人物がいた。
この言い方をすると、まるで不法では無いが不躾で失礼な者と思われるが、そんな事は一切無い。何故ならば……この娯楽室、と言うか、城その物の持ち主だったからだ。
「お邪魔するよ」
「……!! へ、陛下!?」
ピエッサは突然の王様登場に慌てて立ち上がる。
「ど、ど、ど、如何されましたか!? 何かご不備でもありましたか!? マ、マリーちゃんに何かございましたでしょうか???」
「いやぁ~全然そんなんじゃないから大丈夫」
そう軽く言うと、滑らかな動作でピアノへ近づき優雅に腰を下ろすと、鍵盤を押して音を確認するリュカ。
王様がピアノを演奏しようとしてる事に気付いたピエッサは、即座に一定距離を取り彼の演奏を見学する事に……
「悪いねぇ練習の邪魔をしちゃって……最近ストレスが多くてさ。変だよねぇ……世界で一番ストレスとは無縁の仕事が王様なのに、ストレスが貯まるって如何言う事?」
「は、はぁ……」
音を確認しながら愚痴を溢す王様に“はぁ”としか言いようが無いピエッサ。
「部下に厄介なのが居てね……ナンバー2のくせに、上司の僕に嫌味言ってくるし(笑) アイツの性格何なの? 悪すぎでしょ!」
「その件については激しく同意致します陛下!」
当人がこの場に居れば『こうお前に育てられた』と反論する事間違い無しの台詞に、激しく首を縦に振って同意するピエッサ。
そんな彼女を横目で見てクスッと笑うと、本格的に演奏モードに入るリュカ。
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リュカが奏でた曲は前世の世界で有名な楽曲だった。
従ってこの世界に生きるピエッサには初めて聴く新鮮な楽曲だった。
そして……リュカが元いた世界の人々と同様、ピエッサの心に大いなる感動を与える楽曲でもあった。
「す、素晴らしいです! な、なんて素敵な……それでいて心が高揚する曲なんでしょう!! この曲は陛下が作曲になった曲ですか?」
「え! あ、あぁ……うん。この世界ではそうなるかなぁ?」
「流石です! 素晴らしいです!! 感動しました!!!」
目の前の国王は“この世界では”と不思議な事を言ってるのだが、感動の余りテンションが上がりっぱなしのピエッサには聞こえておらず、“リュカが作った”と言う都合の良い言葉だけが脳内に焼き付く事になった。
元々が素晴らしい曲をただ披露しただけだったのだが、観客の激しい感動と曲に対する質問攻めに遭い、流石のリュカもドン引き状態。
フリーの女性であればこの気に口説くのだが、ピエッサはリュカのターゲッティングから外れており、彼女のテンションに辟易模様。
彼女の猛攻を躱したくなったリュかは……
「そ、そうだ……この曲あげるよ」
「……は?」
「ほ、ほら……もうそろそろ芸高校で作曲の課題があるでしょう。それで使っちゃってよ。君が作曲したって事で良いからさ」
「そ、そ、そんな訳にはいきません! こんな素晴らしい曲……陛下が作曲なさったんですから陛下のお名前で世に広めるべきです!」
「あ……うん、それそれ。僕もこの曲を世に広めたいんだけど、『王様が作った曲だから素晴らしい』って音楽の知識も無いイエスマンに、中身の無い評価をされたくないから君が広めてくれると助かるんだよね」
「い、いえ……でも、しかし……」
「まぁまぁ……今、譜面書いちゃうから」
もう既に押しつける気満々のリュカは、手近にあった未記入の五線譜にサラサラッとコンデンススコアを書いてピエッサに押しつける。
なお、押しつける際にワザと胸を触る様押しつけ、条件反射で胸を庇う様に腕を沿わせ胸と腕で譜面を抱く感じにして、タイミング良くリュカは手を離し一目散に退出する。
彼にしか出来ない芸当だ。
疾風のごときセクハラと退散に呆気にとられてる中、ハッと胸の中の譜面に気が付くピエッサ。
如何したモノかと思いながら王様が残した譜面に目を落とす……
一瞬で書いた物なのにとても見やすい譜面には『ドラゴンクエスト序曲のマーチ』と題名が書かれていた。
「ドラゴン……クエスト……つ、つまりドラゴンを探求する冒険の序曲って事ね! だから聴いてるだけで、あんなにも胸がワクワクする曲だったのね!」
音楽に国境は無いと納得せざるを得ない彼女の理解力に誰もが脱帽する事だろう……才能の無い者以外。
この曲にインスピレーションを多大に受けたピエッサは、課題である作曲を瞬時に終わらせて、宝物となった王様作曲『ドラゴンクエスト序曲のマーチ』の練習に時間を費やす事になる。
勿論、自らの功績にする為では無く、王様が言っていた『理解ある者に評価され広めたい』を実行する為である。
だがそれは、彼女の失念によって崩されてしまうのであった。
後書き
続きも頑張ります。
才能と素質 中編
前書き
短めですが中編です。
(グランバニア城:国王執務室)
リュカSIDE
(ゴンゴン!!)
「どう(バン!!)……ぞ?」
真面目に仕事をしていると激しく扉をノックされ、入室許可の返事に食い気味で突入される昼下がり……皆様は如何お過ごしでしょうか? 私は元気です。
半乱入者の顔ぶれは、何故か泣きじゃくるピエッサと多分状況を理解しきれてないウルフとレクルトの3人だ。
痴情の縺れの修羅場だったら、取り敢えず男2人を殴って3人とも追い出すんだけど、多分違うと思うし男2人は本当に状況を理解してなさそうだから、泣いてるピエッサを宥めて話を聞き出すしか無い。
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さて……
大体の事情は理解できた。
メインの話は長いので、困り顔で随伴してきた男2人の事情から話そう。
如何やらピエッサは俺に直接会いたくて、一番コネのある彼氏に面会したが、俺に会いたい理由を話してるうちに思いが込み上げてきて泣き出してしまったそうだ。
レクルトも彼女が俺に会いたがってるって事は理解したが、軍人が何の根拠も無く直接王様に民間人を謁見させる訳にもいかず、取り敢えず友人で国家のナンバー2なウルフに話を通したそうな。
そして既に泣いてるピエッサを前に、理由を聞いても訳分からん。
付き添いの彼氏に訳を聞いても、コイツも理解してない頼りになる男。
進退窮まった宰相閣下も困りながらも俺の下へと彼女を通す事に。
さてさて……
では一体ピエッサに何があったのかを話しましょうか。
事の発端は先日あげた“ドラクエ序曲”だ。
俺はピエッサにあの曲を自分のモノにして良いよと言ったけど、真面目な彼女はそんな事せず……でも良い曲なので世間に広めようと日夜練習をしていたそうな。
それはもう……学校でも。授業の合間に黙々と……
だが、この学校で練習するというのが大問題だったのだ。
と言うのも、彼女の同級生に手癖の悪い奴が居るらしい。
その名も『アイリーン・アウラー』という女性らしい。
彼女はそこそこ可愛く講師受けが頗る良いらしい。
今回……と言うか本日行われている作曲の試験の講師にも凄く贔屓されており、毎回優遇されているそうな。
え、そんなアイリーンが今回の試験で事もあろうか“ドラクエ序曲”を披露したらしい。
しかも自分の作曲と言い張って。
うん、ピエッサの練習を聴いて盗作されたね。
俺個人としては、俺自身も盗作紛いだから強く非難が出来ないのだが、俺作曲と信じて疑わない真面目っ子は許せなかったらしく、その場でアイリーンの盗作を非難したのだ。
だが講師に贔屓されているアイリーンは擁護され、反対にピエッサに盗作疑惑をかけられたそうだ。
しかもその際に『学長の姪だからって調子に乗ってるんじゃないのか? 世間では人気者らしいが、それだって相方の才能に乗っかってるだけだろう』とまで言われ、悔しくて腹だたしくて学校から飛び出してきたとの事。
確かに講師の台詞にはむかっ腹がたつ。
盗作の件は強くは言えそうに無いけど、ピエッサの無念を晴らす為にも今から芸高校に向かおうと思う。
「と言う訳で僕はこれから芸高校に行ってくるよ。レクルトは仕事に戻れ……軍には関係ない事柄だからね。ウルフは……来い。後で説明するのも面倒だから、一部始終見ておけ」
「はっ!」「了解っす」
俺はルーラを使う為に執務室のベランダにピエッサとウルフを誘い呪文を唱える。
ホント……ルーラって便利だよね。
リュカSIDE END
後書き
なんとか後編で終わらせないと……
才能と素質 後編
前書き
この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。
(芸術高等学校)
ディレットーレSIDE
夕方と言うにはまだ早い時間……
姪のピエッサが私の執務室に訪れた……とんでもない随伴者を連れて!
随伴者は2名。
1人は彼女等のスポンサーであり、私に面倒な依頼をしてきた張本人であるウルフ宰相閣下。
そしてもう一方は、あろうことかこの国の王様……リュケイロム陛下であらせられました!
何事かと思いピエッサを見ると、何やら泣きはらした様な赤い目をしており、陛下のご来校もそれに関係する事柄の様子。
きっと陛下をも巻き込んで、ここに来たのはウルフ閣下の策略に違いない。
「へ、陛下! い、一体如何致しましたか!? 何か姪が……ピエッサがご無礼を働きましたか?」
「安心して。彼女は1ミクロンも悪い事はしてないよ。でも全部説明するのは面倒臭いから、途次簡単に話すから、一緒に来て」
そう陛下は言うと優しい声でピエッサに「教室まで先導よろしく」と言い、ウルフ閣下と共に部屋から出て行く。
私も慌てて陛下の後に続きます。
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アイリーンという生徒の盗作……
そして講師の屈辱的な発言……
ある程度の事は学長室からの途次に説明された。
そして問題の教室の前に到着。
「ここです」
とピエッサが小さな声で呟く。
「あ! 聞き忘れてたけど、講師の名前は?」
入室を前に陛下が今回の講師の名前を尋ねてきた。
咄嗟には思い出せず戸惑っていると……
「サム・ラゴウスだ」
とウルフ閣下が代わりに答えてくれた。
何で知ってるの?
「サ○ラゴウチ!?」
「違う。『サム・ラゴウス』だ!」
「ああ……『サム』ね。『サム』と『ラゴウス』ね。ビックリした」
「こっちはリュカさんの聞き間違いレベルにビックリだ。誰だサムラ○ウチって?」
「そんな事より……入ろうぜ」
「ちょっと待って」
普段からこんなんなのか国家のナンバー1と2の遣り取りを見せられながら、教室へ入ろうとした時……突如ウルフ閣下が待ったをかける。
「何?」
「教室への入室順だけど、身分の低い順からにしてくれ。その方が中の連中の思考回路も凍結しにくいはず」
なるほど。
いきなり陛下が登場したら、その後に誰が登場しても意識が回らず話の内容も頭に入ってこないだろう。
流石は若くして宰相を任されてるだけはある……
性格の問題を差し置いても出来る男である事は間違いない。
「分かった。じゃぁ僕からだね♥」
え!?
いやいやいや……ち、違うでしょ!!
「あ、悪い。言い間違えた……『建前上身分の低い順』だ。だから建前上リュカさんが一番最後に入って。じゃぁピエッサさん、入って」
陛下も陛下なら、この少年も困りものだ。だが私より多く(時間・回数)交流しているピエッサは気にする事無く指示に従ってる。
ウルフ閣下の指示通りピエッサが教室へ入ると一瞬のざわめきが起きる。
だがそれは直ぐに収まり、試験の為にピアノを弾いていた男子生徒も彼女を気にする事無く演奏を続ける。
続いて私が入る。
するとピエッサの時よりざわめきが長く大きく起こり、演奏者も一瞬だけ指が支えた。だが直ぐに立て直し演奏を続ける……大した胆力だと思う。
しかし、そんな胆力のある生徒もウルフ閣下が入室してきて完全に手が止まる。
そりゃぁそうだ。皆、私の登場時はこう思ったに違いない……盗作疑惑で進退窮まって叔父に言い付けに行ったピエッサ……と。
だが現れたのは国家のナンバー2……
言い付けに行ったレベルの問題では無い。
だが諸君。驚くのはまだ早いぞ!
「お邪魔するよ!」
軽く柔らかい口調と共に、試験会場である教室に入ってくるのは……国王陛下!
宰相閣下の登場で最大級の驚きを感じていると思ってた生徒諸君は、直ぐさまそれを上回る驚きを体験する。
「へ、陛下!?」
試験官で講師のサム・ラゴウスが跳ねる様に立ち上がり直立不動になると、驚きで思考が止まっている生徒らも同じように直立不動になる。
ちょっとだけ面白く感じていると、私の横に居るウルフ閣下が……
「ふふふっ……これが見たかった(笑)」
と、私やピエッサにしか聞こえない声で呟いた。もしかして入室順を決めたのって……
「ああ皆……気にしないで座って。ちょっとピアノを弾きたいだけだから」
ずっと変わらぬ口調の陛下は、そう言うと優雅な動作でピアノまで近付き、試験を受けていた生徒を他の待機生徒の下へと帰し椅子に腰掛ける。
そしてある曲を弾き終えた。
これが盗作された曲だろう。
ピエッサが感情的になるのが解る素晴らしい曲だ。
「さて……アイリーン・アウラーはどなたかな?」
盗作された曲を弾き終えた陛下は、座ったまま身体を生徒達の方へと向けると、問題の者の名をあげた。
すると幾ばくかの間を置いて1人の女生徒が震える様に手を上げる。
「君か……じゃぁ椅子を持ってこちらへ来て。立ち話もなんだからねぇ……」
言われたアイリーン・アウラーは震えながら椅子を持ち陛下の傍まで来ると、持って来た椅子を置き顔面蒼白で立ち尽くす。
「いや……立ち話したくないから椅子持って来させたんだけど(笑)」
そう言われ震えるぎこちない動作で置いた椅子に座るアイリーン・アウラー。
もう誰もが事態を理解してる。
「最初に言っておくけど……僕ね、一度会った女性は絶対に忘れないんだ。男は憶えられないけど(笑) だから自信持って聞くけど、僕と会った事無いよね」
「……ありません……」
アイリーン・アウラーは消え去りそうな声で答えた。
凄い能力だ……私なんか昨日の夕飯も憶えてないのに。
陛下の能力の真偽は兎も角、ここで『ある』とは答えられないだろう。
「うん。じゃぁ今弾いた曲……僕が君から盗んだって事は無いよね?」
「……ありません……」
「うん。じゃぁ聴くけど、今の曲と同じ曲を試験で披露したけど、君の作曲なのかな?」
「……ます……」
「え、何? 聞こえなかった」
「……違い……ます……」
遂に盗作を認めた。そして泣き出してしまった。
「あぁ泣かないで……泣かせに来たんじゃないんだ。ピエッサの名誉回復が目的の一つなんだから……」
「あ~あ、女泣かせてやんの。さいてー」
はい。これはウルフ閣下の言葉です。
「あのね聞いて。僕は君を責めようとは思ってないんだ。誰にだって過ちの1つや2つ……あるいは40~50個はあるさ」
「そんなにあるのはアンタだけだ」
はい。これもウルフ閣下の台詞です。
「聞いた話だと君はピアノや歌の技能は凄いらしいじゃないか。しかも聞いただけで完全にコピーできるんだから、才能は豊かで素晴らしいと思うよ。でも如何やら新たに作り出す能力が皆無みたいだね」
なるほど……
誰かが作り出した曲であれば、どんなに難しくても弾きこなせるのか。
でも自身じゃ作り出せない……この試験は厳しいだろうな。
「試験の内容的に誰かとの共作でも良いんでしょ? 友達に頭を下げて共作扱いにさせて貰えば良かったんじゃないの? ……頭を下げるのはプライドが許さなかった?」
「……は……はい……」
なまじ技量があるから、他者に頭を下げられなかったのか。
「そっか……で、先生に相談したらこうなったのか」
「……………」
アイリーン・アウラーは黙って頷いた。
「盗作を見逃す代償として身体での支払いにしたのは……君から? それとも先生が要求してきたの?」
「……………」
「へ、陛下! わ、私は「ちょっとサムは黙ってて! 後でゆっくりお話しするから」
サム・ラゴウスは慌てて言い訳をしようとしたが、厳しい口調の陛下に遮られる。
「……わ、私からです」
「あら……予想と違った」
私の予想とも違った。てっきりサム・ラゴウスからだと……
「追い込まれてたんだね……でも若いんだから遣り直しは効く。今日から……いや、今から少しでも努力していこうよ。あんなオッサンにこんな可愛いオッパイを託すのは勿体ないよ」
陛下は優しく言うと、服の上からでも解る巨乳にナチュラルにタッチする。余りにも自然な動作で誰もそれがセクハラに当たるとは思えない。
「うん。じゃぁこれからは努力するし、力及ばない時は誰かに頭を下げられるね?」
「は、はい陛下」
胸を触られてるのに、怒るどころか瞳を潤ませ陛下を見上げるアイリーン・アウラー。
「よし頑張れ」
優しい口調のまま胸を触ってた手を彼女の頭へ移動させ、ナデナデをする。
アイリーン・アウラーは完全に陛下に惚れてしまっただろう。
「さ~て……ここからが本題だな。なぁサム!」
ディレットーレSIDE END
後書き
まさか後編で終わらないとは思わなかった。
次回こそ終わらせるよ。完結編でね!
余談
「ふふふっ……これが見たかった(笑)」
この台詞を書いた時、作者の私でも
『こいつ性格悪っ!』
って思った。
才能と素質 完結編
前書き
やっと完結します
(芸術高等学校)
ウルフSIDE
「さ~て……ここからが本題だな。なぁサム!」
優しかったリュカさんの瞳が突然厳しい物になった。
まぁ教え子に手を出してたんだから怒るわな(笑)
「生徒に手を出した事は倫理的にとか的に拙いけど今回は大目に見る!」
あれ、違った!
倫理的に拙いんだから大目に見ちゃダメだろ!
「僕も男だから、こんな可愛い娘に迫られたら……だから今回に限り大目に見る。だからって生徒への淫行を推奨してるんじゃないよ」
当たり前だ!
「女の子の方から迫られたら、嫁や恋人が居ても心揺らぐし、歯止めが効かなくなっちゃうよね。なぁウルフ宰相」
こ、こいつ……
「さぁ……性格が悪すぎてモテない私には分かりかねます」
「おやおや……性格が悪いと大変だ(笑)」
俺個人の事情を察した教室内の連中から冷ややかな視線を浴びせられる。特に横に居るピエッサさんとディレットーレから……
「まぁ話を戻そう。今回問題なのは、サム君……お前の仕事は何なのかって事だよ。声に出して言ってみ、自分の仕事を」
生徒に音楽を教える事じゃないのか?
「わ、私の仕事は……私の持っている音楽の知識を生徒らに教え伝える事です」
「違うな」
違うの!?
「これは部下の教育がなってない上司の責任も大きいぞディレットーレ学長」
「は、はっ……も、申し訳ございません!!」
え、学長まで怒られるの? ピエッサさんに目を移すと、叔父に迷惑をかけてしまったと顔を青くしている。
「良いかい、君ら教師の仕事は“これまでの経験を生かし、若い世代にその知識と経験を伝え、その分野での成長を促し才能を育みつつ、間違った道に進まない様に注意を怠らず導き、努力を惜しませない事”だ」
……長い。
「つまり……知ってる知識を一方的に教えるだけじゃ職務怠慢って事だよ」
「何か……大変そうだなぁ」
思わず呟いてしまった。
「ウルフ宰相!」
「は、はっ陛下!」
突然厳しい口調で呼ばれ先程の生徒らの如く直立不動になってしまう。
「我が国の学校は民間企業か!?」
「いえ、今のところ全て王立制です」
入学金やら授業料やら徴収してるが、大半の資金は税金で賄われている。
「つまり彼等の給料は税金で支払われている。これは王家が……国家が未来への投資を行っているのと同義だ。未来に素晴らしい音楽家を沢山輩出する為に、国民から徴収した血税を宛がっているんだ。今回、この件が発覚しなければアイリーンはこのまま盗作を続けていただろう……学園内では教師が守れても、世に出れば守る者は居ない。それでも音楽家として生活したい彼女は、社会に出た後も盗作を続けるしか手段が無くなっていただろう。そしてグランバニアの音楽会は荒れてゆく事になる。彼女だけでは無い……盗作された生徒の方も、世の中は音楽家としての力量よりも容姿の端麗さが重要と思い込み、努力を怠り始めるだろう。もしその中にまだ開花してないがグランバニアの音楽会を覆すほどの才能を持った生徒が居たら如何する? その才能を埋没させるどころか、汚水に投げ捨てるかの如き事態だ。贔屓された本人も、贔屓されなかった者達も、税金を払っている国民をも不幸にする事態!」
「も、申し訳ございません!」
けっして捲し立てる訳でもないリュカさんの口調で教師としての重責を聞かされるサム・ラゴウスは、疎らに生える白髪の頭を深く下げて謝罪する。
因みに学長のディレットーレも頭を下げている。
「い、以後は心改め、教師として生徒を導きたいと思います」
顔を上げたサム・ラゴウスは、真剣な顔で改心を伝えた……だが、リュカさんの横顔を見る限り、そういう事ではなさそうだ。まぁそうだよなぁ……
「僕は今後の話をしてましたか?」
「は?」
リュカさんの嫌いな台詞『もう二度としません』だ。
「僕は今日以後の事で責めてたんじゃない。もう起きてしまった過去の事を言ってるんだ。今後のお前なんぞ知らん!」
「い、いや……『知らん』と言われましても……」
「先刻も言ったがお前の給料は税金だ。同じく税金から給料を貰っている国民を守る為に存在する軍人が、国民を守るどころか攻撃し始めたら如何する? 全ての悪事が発覚して『ごめんなさい、もう二度としません』って言ったからって無罪放免で許すのか? 『家族を守ってくれ』って言って金を渡したのに、その金で武器を買って家族を殺されたのに、『二度としません』で終わるのか?」
例えが極端だ。
「今の例とは違い、お前は人を殺してないが税金を不正に得て国家にダメージを与えたんだぞ。以後もその職に居られると思うなよ!」
「そ、そんな……」
クビで済むなら御の字じゃん。
「本来だったら今まで不正に取得した税金の返却を要求する所だが、何時まで遡って返却要求するのか判らんし、お前にも生活があるだろうから金を巻き上げるのは心苦しい。だから金返せとは言わんが、これ以上お前に税金を与える訳にはいかない。今後も教師を続けたいのなら個人雇用主を探せ。我が国はもうお前を雇わん」
肉体関係を迫ったのが彼女からだったからリュカさんも甘い罰で済ませてる。
国家としては本当は男女で差別をしないでほしいが、リュカさんには言っても無駄だろうなぁ。その点、誰にでも優しいティミーさんなら甘いが分け隔て無い罰則を与えるだろう。国王としてはそっちの方が理想だ。
「と言う訳で、今日までの分の給料を支払ってコイツを出て行かせろ。ウルフは学長と一緒に今回の件を個人名を伏せて世の中に伝達。既存の教師等にも再教育を! それと不在になる分の教師の補充。急を要する事案だから、宰相が手伝う事!」
「何でだよ。文部魔法学大臣がやるべきじゃねぇの?」
「文部魔法学大臣の指導がなってないから、この事態が起きたんだ。任せられるか!」
あ~あ……ストゥディオ文部魔法学大臣は今日怒られるな。少なくとも俺に!
「解ったら納得の是非関係なく行け! 僕はこれから忙しいんだ」
「忙しいって何だよ! 俺等に面倒事を押しつけたんだから暇だろうに!」
ぐったり項垂れるサム・ラゴウスの腕を引っ張る様に掴み、リュカさんへ文句を言う。
「馬鹿者。これから未来ある若人の試験の続きをせねばならぬのだ! まだ半分は試験を受けてなさそうだからね。さて……試験は名前の順で発表だっけ? 先刻入室時に発表してた君は名前なんでいうの?」
俺等に“さっさと出て行け”とジェスチャーを送ると、
「は、はい! お、俺……私はネイサン・ノーランドです!」
と緊張気味に答えた生徒に場所(ピアノの席)を譲り試験を継続させる。
リュカさん自身は先程までサム・ラゴウスが居た席に移って。
勝手だなぁ……
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奴の解雇など諸々の事務処理を終え、例の教室へリュカさんを迎えに行くと中から先刻リュカさんが弾いた曲が聞こえてきた。
試験も全て終わり、いつもの様にリュカさんがピアノを披露してるのかと思ったのだが、中に入って驚く。
なんと弾いてたのはアイリーン・アウラーだった。
リュカさんが弾いてるのかと思うほど上手く、本当に盗んだ曲かと思うほど流暢に、盗作がバレて怯えてた時の表情とは思えないくらい色っぽく曲を奏でる彼女。素人でも解るくらいのピアノの腕前だ。悪いがピエッサさんの遙か上……もしかしたらリュカさんよりも上手いのかも。素人には判らない領域だ。
みんな俺の入室に気付いてはいたが、曲の邪魔をしたくないのか誰も声も出さなかった。
そして俺は立ったまま入り口付近で静かに聴く。
暫くすると曲を弾き終えて華麗にフィニッシュをキメる。
するとリュカさんから盛大な拍手が送られ、
「いやぁ……本当に上手いねぇ。嫉妬も出来ないレベルだ」
と絶賛し、他の生徒らも殆どが頷いている。
「さて、前半の子達のは聴いてないけど、聴いた子達は全員上手かったし、全員上手い事は間違いないから、全員合格ね」
そう言うと立ち上がりアイリーン・アウラーの頭を撫でてこちらに来るリュカさん。もう帰るって事だろう。
教室を出る間際、リュカさんは室内へ上半身だけ入れると、
「そうだピエッサちゃん。『ドラクエ序曲』の完全な楽譜を近日中に書き上げるから、君が選んだ芸高校生徒だけで交響楽団を結成し、練習を重ねて何れ僕に披露してね。楽しみにしてるよ」
と、突然の重圧をかけて立ち去った。
数ヶ月間、ピエッサさんは重圧に耐え練習をし続けたらしく、芸高校の音楽堂に王家(世間に認知されてない娘等は除外。除外筆頭はマリー)を招待し披露した。
なお、アイリーン・アウラーもピアノ担当として交響楽団に参加していた。
リーダーのピエッサさんは指揮者だったけどね。
ウルフSIDE END
後書き
本当は1.2話で終わらせる予定だったのに……
また父が変な事をしている
前書き
ティミー君には不評でした
(グランバニア城:調理室)
ティミーSIDE
また父が変な事をしている……
国内の農家から大量に大豆を仕入れ、同時に藁も大量に手に入れ、何かを始めた。
“大豆”と言う事で、多分料理だと思われる。
父さんはこれまでに多数の新たな料理を世に広めていった。
今では国外の人々も知っている『寿司』や『ラーメン』に加え、まだ国内でしか有名になってない『とんかつ』や『肉じゃが』に『カレーライス』もあり、更には城下の人々しか知らない『うどん』と『そば』という料理も父さんが開発し広めたモノだ。
何日か前から準備をしており、噂を聞きつけた城内のシェフや元城内シェフで独立して城下で飲食店を営んでいる者等も集まってきた。
それを見た父さんが、
「お? 見学するのは良いけど、完成まで2.3日かかるよ。大丈夫?」
と時間がかかる事を説明。
正直『2.3日かかるんじゃ……ちょっと』と思うも、これまでの傾向から間違いなく美味しい物が出来上がるに違いないので、その過程も見逃せない雰囲気。
皆の無言を了承と捉えたのか、早速作業に取りかかる。
前日から水に浸しておいた大量の大豆を蒸し器にかけ、藁の方も大鍋で煮込んだ。
藁って食べれるのか?
暫くすると煮込んでた藁を取り出し、一掴みして藁を一束にすると、燃えさかる火に近付ける。藁なんて燃えやすいだろうと思っていたが、熱闘で煮ていた為に濡れてて燃えない。
それどころか濡れてた藁が乾燥していく。
乾燥したところで藁の一束を半分に折り、折り揃えた両端を麻糸で縛り、折られた方を器用に空洞にして藁の一束をテーブルに置く。
如何やら藁は器の様だ。食べる為に煮たのでは無く、煮沸消毒だったらしい。
ある程度藁の器を準備すると、蒸してる大豆を確認する。
因みに藁は煮沸消毒してない分が、まだ大量に存在する。
大豆を確認した父さんは、
「よし、こんなもんだろ!」
と言って大豆を蒸し器から外し、手早く藁の器に大豆を詰めた。
ある程度の量を藁の器に入れると、蓋をする様に藁を閉じ大豆入りの藁筒を完成させる。
全ての大豆を藁筒に詰め終わると、調理場に隣接する倉庫へと運んだ。
この倉庫は常温で保管する食料や日持ちする食料を備蓄する場所で、腐りやすい物を置く事は無い。
そんな倉庫の隅に用意しておいた麻布を敷き、その上にまだ余ってる藁を敷いて、その上に先程作った藁筒を置いていく。
そしてその上に藁を敷き詰めて、更に全体を覆う様に麻布を被せて、
「よし! 取り敢えず今日はここまでだね」
と本日終了を宣言。
「この布をかけた藁の中は約40度に保たなきゃならない。その管理は僕がやるから完成が気になる者は3日後に来て」
そう言って僕らに解散する様ジェスチャーで指示。
王様にそう言われちゃ従わざるを得ないシェフ等は渋々解散。
その殆どがこれまでの行程をメモしており、近くの人のをチラ見したら『ここで72時間放置!!』と書かれて締めくくられていた。
ここには20人ほどのシェフ等が集まったが、その半数以上は独立シェフだ。
店の経営もあるし、本心で言えば今日中に完成して欲しかったのだろうなぁ。
3日後……まさに丁度72時間が経過する時間。
3日前より多い人数が城内の調理場に集まった。
勿論その殆どがシェフで、城の内外で料理を振る舞っている。
前回とは違い見学者として目立ってるのがメイド等が数人集まってる事だ。
今日だけ来ていると言う事は、作る過程は興味なく完成した料理に興味があると言う事だろう。
そして最も完成品しか興味の無い人物が僕の隣に立っている。
その人の名はリュリュ。
僕の腹違いの妹で、現在僕の部下でもある。そして極度のファザコンだ。
さて……
大勢から期待の眼差しを向けられてる我が父は、何時もと変わらない雰囲気で料理の準備をしている。
如何やら3日前に仕込んだ食材は白米と合わせる様で、相当量の米を炊いていた。
その米が炊き上がったのを確認した父さんは、積み上がっている藁の中に手を突っ込み、藁包みの1つを取り出した。
そして蒸し大豆が詰まっている箇所を両手で広げ割る。
その瞬間……もの凄い悪臭が室内に蔓延した!
「うわ……何だこの臭いは!?」
慌てて鼻を押さえ、思わず呟く。
悪臭の元凶は勿論、父さんが持っている藁包みだ。正確には藁包みの中の蒸し大豆だ。
如何やら3日間も放置してた為、大豆が腐ってしまった様だ。
流石の父さんも失敗する事があるらしい。
父さんは悪臭の元凶の一番傍に居るのに、眉一つ歪めず腐った大豆を眺めている……
しかし徐に腐った大豆を一粒つまみ藁包みから取り出した。
腐った大豆はネバッとした糸を引き、その悪臭を拡散する。
次の瞬間、父さんは糸を引いた腐った大豆を口に入れた!?
「ちょ……と、父さん! そんな物を口にしちゃ……」
「うん。成功だ」
……は?
成功??
腐ってるのに!?
「父さん……珍しく失敗したからって強がr「今度は何作ったのー?」
父さんに今回の失敗を自覚させようと話しかけてると学校帰りのマリーが割り込んできて父さんに話しかける。タイミングが悪い。
「今回は納豆だ」
「うわっ、凄い臭い。おと……陛下、今回は失敗ですか?」
「陛下でも失敗する事があるんですね」
父さんがマリーの質問に答えてると、一緒に帰宅したリューラが『お父さん』と言おうとして慌てて『陛下』と言い直し僕の言いたい事を言ってくれた。
なお、同じく一緒に帰宅したリューノも今回が失敗だと悟る。
「うわぁ、ご飯も炊けてるじゃん! 一杯ちょうだい!」
「おう!」
「「「え!?」」」
僕らの驚きを他所に父さんは手早く腐った大豆を器に移すと醤油とカラシを足して掻き混ぜる。
そして混ぜ終わった腐った大豆を白米の上に乗せ、満面の笑みのマリーに渡した。
僕らが唖然としてると、マリーは何の躊躇も無く白米と一緒に腐った大豆を口に運ぶ。
「美味しー!!」
こんな悪臭を放ってる物を食べて、それを美味しいと言う。
僕だけでは無く、この場に居るほぼ全員が信じられないで居る。
すると父さんは更にもう一杯の腐った大豆ご飯を作成し、何時もの優しい笑顔でリュリュに向けて話しかける。
「臭いは凄いけど、本当に美味しいよ。父さんの事が信じられないのなら仕方ないけど、欺されたと思って食べてみる?」
彼女相手にこの男が笑顔でそう言えば、逆らう事が出来るはずも無く恐る恐る腐った大豆ご飯を受け取って、自らの手元を見つめる我が妹。
僕は小声で「無理はしない方がいい」と言ったのだが……
僕の一言で意を決したのか、眼を強く閉じ勢いを付けて腐った大豆ご飯を掻き込むリュリュ。
そして自暴自棄な様子で咀嚼をする……と、突然目を見開いて、
「うわぁ美味しい、何これー?」
「ご飯の上に納豆を乗せたから『納豆ご飯』だ。臭いもあるし好き嫌いは分かれるだろうけど、美味しいんだよ」
そう言いながら父さんは更に納豆ご飯なる料理を作成する。
そして目でリューラとリューノに納豆ご飯を勧めると、リュリュ同様逆らえない彼女らはその料理を口にする。
「え、本当だ。美味しい!?」
「確かにこれは美味しいな」
リュリュに続いて2人の妹が陥落すると、リューラにベタ惚れのアローも鼻をつまみながら父さんの作る納豆ご飯を受け取り食す。
そして箸が止まらなくなる。
それを遠巻きに見ていたメイド等が興味を掻き立てられた様で、父さんに納豆ご飯を強請る。
そして更にシェフ等も納豆ご飯を要求し始めた。
この場で食してないのは僕だけだ。
食のプロであるシェフ等も口々に『美味しい』と褒めているが、中には『臭いさえ無ければもっと美味く感じるのに』と言う意見もチラホラ……
父さんも『好き嫌いが分かれる』と言っていたから、万人受けする料理ではなさそうだ。
「ほらティミーも……」
僕だけ二の足を踏んでいると父さんが納豆ご飯を勧めてくる。
本当に食べても大丈夫なのか……腐ってるんじゃないのか?
「食べても大丈夫なのは、この場に居る皆を見れば判るだろ。食せない物であれば、今頃腹痛を訴える者が何人も出ている。好き嫌いが分かれる食べ物ではあるが、食べもせずに嫌わないでもらいたいな。一口でも食べてから嫌いになるのなら、僕もこれ以上お前にコレを勧めないよ」
そう言うと父さんは、リュリュの食べかけと箸を取り上げ僕に勧めてくる。
リュリュとの間接キスなら僕が食いつくと思ったのだろう。
だがこの臭いはリュリュの魅力も打ち消す。
「返してよお父さん。ティミー君はもう私との間接キスじゃ動きません。アミーちゃんの唾液でも混ぜないと食べないと思いますよ」
「つくづく変態だなお前は(笑)」
「僕を変態扱いするのは止めて下さい! 食べますよ……試してみますよ! 少量で良いので僕にも作って下さい、その納豆ご飯とやらを」
僕の言葉を聞くと父さんは器に半分の納豆ご飯を作り僕に手渡した。コレでも多く感じる。
鼻呼吸を止め意を決し納豆ご飯を口の中へ掻き込む。
ネバッとした食感が僕の嫌悪感を増幅させる。
だが咀嚼を続けると、納豆の味が口の中に広がり思っていたより食べられる事を実感する。
「どうだ、食べてみた感想は?」
「はい……思っていたより美味しい事は認めます。ですが僕には合いません……食べて美味しいと感じるまでの臭いと食感が僕は苦手です」
「そっか……仕方ないね。また何か新しい食べ物が出来た時に、また試そう」
そう言うと父さんは僕から空の器を受け取り、用意してあった水の張った桶に箸と一緒に沈めた。
「私はお父さんが発明した料理の中で一番好きだけどなぁ……お寿司やラーメンより美味しい♥」
「僕は寿司が一番だ」
リュリュの嗅覚と味覚を疑いながら遠巻きに納豆ご飯を貪る者達を眺める。
「ねぇ、おと……陛下。私、久しぶりに餃子を食べたいわ」
ギョウザ?
マリーが父さんに新しい料理のリクエストをする。
僕には納豆より期待できるかもしれない。
「餃子かぁ……中身は如何とでもなるけど、皮って如何やって作るの?」
「私ぃ……歌姫だから解んな~い」
相変わらず勝手な娘だ。
「丸投げかよ! どうせ中の餡も作り方を知らないんだろ」
「私ぃ……美少女だから解んな~い」
ティミーSIDE END
後書き
書いている最中に納豆を食べたくなって
深夜のコンビニに駆け込みました。
天使とラブソングを……?(第1幕)
前書き
サブタイトルを見て貰えば解ると思いますけど、
あの有名映画のオマージュです。
今話はまだサブタイトル以外で連想させる要素はないですけどね。
(サンタローズ)
フレイSIDE
「はぁ~~~……」
「如何したの、お母さん?」
日曜の夕食時……母の深い溜息に、姉が疑問を投げかける。
「う~ん……ちょっと……教会の方が……」
「教会、潰れそうなの?」
父の伝で毎日外国に働きに行っている姉は、この村の現状を知らない。もっとも父親以外の事には興味が無いのかもしれないが。
「王家から補助金が出てるから、潰れるって事は無いけど……」
「この国の王家って事は……ヘンリー様?」
ここはグランバニアではなくラインハットだ……当然だろう。
お父さんから聞いたのだが『村が滅びる原因を作った張本人だから、その負い目で多額の金を出してるんだろ。金で何でも片付くと思うなよ(笑)』と言っていた。
最後の一言がお父さんらしい。
因みにお母さんの悩みは単純だ。
ここ暫く前から教会に来る信者の数が激減してるのだ。
負い目なのか凄く立派な教会なのに、来る信者の数は片手で数えられる程度だ……時にはスライムの手でも数えられる。
「そーなんだぁ。困ったわね……? あれ、困るのコレって? お金の心配は無いのだから別によくない?」
「お金の問題じゃなくて、神様を敬ってない人が多数いる事に憂いを感じてるの!」
因みに神様を敬ってない人間の一人が貴女の娘で私の姉でもある女よ。
「敬うって言っても相手はヒゲメガネのオッサンよ。敬い様が……」
「そんなの直接会った事のある一部の人たちだけしか知らないでしょ! リュー君みたいに神をも凌駕する存在だったら敬わなくても良いけど、普通の人は弱いのよ。心の支えが必要になるの!」
それは解る気がする。
人には何らかの心の支えが必要だ。
自分の力が及ばない事態に心が壊れない様に……
「じゃぁ明日お父さんに相談してみるよ!」
「またそれ……ダメよリュー君に頼っちゃ!」
「何でよぉ~!?」
「だってリュー君は外国の王様なのよ!」
そう……私たちのお父さんはグランバニアの王様なのだ。
そんな外国のトップが、気分次第でラインハットの片田舎とは言え勝手に都市改革を行っては問題だ。内政干渉と言われるだろう。
勿論、両国の仲は良好で、国王同士も親友だから現状で問題だと声を荒げる者は皆無だろうが、未来においては別になる。
両国関係に亀裂が入り、過去の内政干渉を理由に戦争になるかもしれない。
この事は既にマーサ様に相談して結論が出ている。
サンチョさんも言っていたが、下手に相談したらお父さんは絶対に手を出してくるから、相談してもダメなのだ。
その事を天災的ファザコンの姉に懇切丁寧に説明する母は大変そうだ。
お母さんとしては毎週日曜に行われる礼拝だけでもお姉ちゃんに手伝わせたかったのだ。
と言うのも、この女の変態性を知らない村の男共だけでも礼拝に来させたかったから……
因みに、父に会うという目的の為だけに休日もグランバニアに行く姉の変態性は、この村では極少数しか知られてない。無駄な美貌だけが先行している!
さっさとウルフさん辺りと結婚すれば良いのに……
フレイSIDE END
(グランバニア城:外務大臣執務室)
ティミーSIDE
「……って状況なんだって! 何か良い方法は無いかな?」
「良い方法と言われてもねぇ……」
月曜の朝……出仕と同時に相談という愚痴を聞かされる。
この手の問題毎は、やはり父さんに相談するのが一番なのだろうが、内政干渉云々で出来ない。となれば次に頼りになるのはウルフ君だろうが、彼女が彼に相談を持ちかけるなんてあり得ない。と言う訳で消去法で僕に相談してるんだろうけど……
「やっぱりシスター・フレアが言った通り、リュリュが手伝った方が良いんじゃないの?」
「え~~~やだよぉ~~~……せっかくの休みなのに、時間を無駄にしたくない」
何所までも自分の変態的欲望に忠実なんだろう。
「じゃぁ僕には如何する事も……」
「……ちっ、仕えねぇ(小声)」
ウルフ君と口論(一方的)をしてる所為で最近口が悪くなってきた……自分の為に聞こえない振りをする。
「僕には思いつかないけど、君のお姉ちゃんなら悪知恵が働くし、何とかしてくれるんじゃないの?」
「ポピーちゃん? そうか! 他国の王族だから相談しちゃダメだって思っちゃたわ!」
「サンタローズから見たら自国だよ」
「そうだよね~、なんか混乱しちゃうぅ(笑)」
混乱するのも解らなくもないが、何だか不安になっている。
以前はこんな彼女が可愛く感じていたが……
結婚って凄いな。
「じゃぁ私、今日は早退って事で……」
「待ちなさい。一分一秒を争う事柄でもないだろう! 仕事が終わってからにしなさい」
何でこうも自分の欲求に正直なんだ!?
「え~~~~……」
不満の声と共に、頬をプクッと膨らませるリュリュ。
以前は可愛いと思っていたのに、今では心を苛つかせる。何故だろうか?
・
・
・
・
・
(ラインハット城:王家プライベートエリア)
「……と言う訳で、如何すれば良いかな?」
「アンタが裸で踊れば客は集まるわ」
心配になったので、僕も一緒にポピーのとこまで来たが、相談を聞いた第一声が凄い。
「な、なによぅ皆して! 私を客寄せパンダにしないでよぉ!」
「だって効果絶大じゃない!」
そうだな……僕も毎週通うな。
「じゃぁポピーちゃんも一緒に踊ってよ!」
「人妻に何させようとしてんのよ!」
「人妻好きだって居るでしょ!」
「そんなふざけた性癖の奴は打ち首獄門よ!」
「おいおい……論点がズレてきてるぞ」
堪らず、この人妻の旦那が話の軌道修正をする。
この人妻の旦那をするのは大変だろうな。
「そうね……ちょっとズレちゃったわね。でもね、私苦手なのよねぇ……」
重労働のツッコミを親友に任せた所為か、ポピーは僕に視線を向けながら何かを訴えようとしてきた。
さて……僕に堪えられるだろうか?
「何が苦手なんだい?」
「母の胎内に居た時に、相方に人助けの精神を全て奪われちゃったの。人を困らせる事なら大得意なのになぁ」
旦那の問いに、人妻好きなら堪らないであろう可愛さで視線をねじ込んでくる。
それに釣られ、この室内の全員の視線が僕に突き刺さる。
絶対僕の所為では無いのに……
「……………」
僕は少しだけ笑みを作り、恭しく皆にお辞儀をしてみせた。
コレでも僕はウルフ君に鍛えられてるのだよ。
「「「ちっ」」」
全員、僕が狼狽えながら言い訳をするのを期待したのだろう。
綺麗にハモって舌打ちをする。
「……冗談は兎も角、我が国の事なのだし真剣に考えようか」
唯一純粋なラインハット人のコリンズが、真面な意見で場を仕切る。
傍から見てるとツッコミ役って重要だね。
「気に入らないわね……」
人を困らせる達人が、何やら不満を言い出した。
「面倒事って意味では、私も気に入らないけど……一体何が?」
その面倒事を我らに持ちかけた張本人が問う。
「こんなに面倒で重要な事に私たちが貴重な時間を費やしてるのに、あの若造がノホホンと参加してない事よ!」
「いや……あの若造はいいよぉ。絶対に協力しないし、逆にムカつく事を言ってくるだろうし」
固有名詞を言わなくても話が通じるって凄いな。
「言うほど時間を費やしてはいないが?」
「量ではなく質の事を言ってるの!」
今日は楽だ。全てコリンズが担ってくれる。
「ムカつく事は全世界が認めてるけど、あの若造は有能よ。どうせ口先だけで嫌味を言ってくる事しか出来ないのだから、存分に利用するべきよ! その方が早く終わりそうだし……」
あの若造と対等に口論できるポピーだから行き着く結論だな……最後に本音が漏れてるが。
「じゃぁここで雁首並べてても仕方ない……あの若造の所に行って相談しようじゃないか。でも相談を切り出すのはポピーに任せたい。我々じゃ太刀打ちできないからね……人を困らせる達人なら人を腹立たせる達人の若造くらい如何とでもなるだろ?」
「あら、私が達人なら向こうは名人よお兄ちゃま。勝てるか如何か(笑)」
「力量の差は人妻の魅力で乗り切ってくれ。……あぁ相談を持ちかけるのは明日の終業前にしよう。今から行くと残業してる他の職員達に多大な迷惑がかかるから」
「あら……達人の私からしたら最適なんだけど?」
「訂正しよう……君も名人クラスだ」
ティミーSIDE END
後書き
次回、あの若造登場。
そしてまさかの状況に!
天使とラブソングを……?(第2幕)
前書き
してやられます
(グランバニア城:宰相執務室)
ティミーSIDE
16時30分……
約束してた時間に、ポピーが旦那を連れてルーラでやってきた。
もう既に仕事を終わらせてた僕とリュリュは、人を困らせる名人の後に連なって人を腹立たせる名人の下に向かった。
彼の部屋に入ると、何かの指示をユニから受けてた上級メイドのジョディーの存在以外は何時も通りの忙しさの様で、この面子が現れたのにもかかわらず一瞬だけ視線を向けただけで皆が仕事にすぐ戻る。「うぉ……何だ?」と言ったのはジョディーだけだ。
例の若造もこちらを見る事無く仕事に没頭している。
僕やリュリュに対しては兎も角、仮にも外国の王族が来てるのだから多少はリアクションをして欲しいと思ってしまう。
「ラインハット王家から非公式だけど相談したい事があるから、仕事の手を止めて黙って私の話を聞きなさい!」
かなり高圧的な口調で我が国の宰相に話しかける外国の王太子妃。国際問題だ(笑)
事態の重要さを理解したのか、はたまた今の台詞で何かを感じたのか、ウルフ君はポピーの言う通り手を止めて話を聞く体勢になった。
彼が素直だと後が怖く感じる。
「実は……」
・
・
・
・
・
「……って訳なのよ。何か知恵を出しなさいよ!」
サンタローズの教会の状況・父さんには言えない訳・内政干渉云々……
全てを話し終えてポピーはまた高圧的に参加を強制する。
「リュカさんには絶対聞かせられないなぁ……」
我々入室から初めて声を出したウルフ君……
かなりボソボソと独り言を言い、右手を顎に当て何かを考え出した。
何なんだ?
本当に素直だな今日は……
『俺の知った事か!!』と叫ぶと予想してたのに。
暫く何かを考えてたウルフ君は、突然ハッと何かに気が付き、僕らに視線を向け、その後に彼の机から右に2メートルほど離れた場所に座ってるユニ等に視線を向けて俯き黙る。
暫く沈黙しながらユニをチラチラ気にして、僕らに視線を向けるウルフ君。
右手人差し指をクイクイと動かし僕らに顔を近付ける様に促す。
何だろう?
そんなにも周囲に聞かれては拙い事でもあるのだろうか?
ウルフ君から観て左から、僕・リュリュ・ポピー・コリンズと並んで彼の机越しに顔を近付ける。
彼はユニを気にしながら小声で何かをしゃべってる……だが声が小さすぎて聞き取れない。
思わず我々は更に身体を乗り出した。
すると……
(ぐにゅ!)(むにゅ!)
「きゃぁぁぁぁ!!」「みぎゃぁぁぁ!!」
「俺の知った事か!!」
左手でリュリュの右胸を、右手でポピーの左胸を……
好き放題揉みながら大声で僕の予想した台詞を叫ぶ。うらやま……けしからん!
「お前、何しやがる!!」
「うるせー! 俺の貴重な時間を奪った料金じゃボケぇ!」
僕とコリンズは無料かな?
「だからコイツに相談したく無かったのよ!」
「そう思うなら来るんじゃねー! 乳ばかりに養分を回しやがって、脳にも栄養を分けろ!」
意思を以て配分できたら、如何なに良いだろうか。
「いいか、絶対にリュカさんにこの話はするなよ!」
「そんな事解ってるわよ! だからアンタんとこ来たんでしょ!」
よく考えたら彼も他国の宰相なんだし、問題になるんじゃ?
「俺んとこにだって来るな馬鹿! 俺はグランバニアの宰相だ! ラインハットの都市計画に口を出せる訳ねーだろ!」
「んなこたぁ解ってるわよ! でもアンタだったらお父さんと違って手は絶対に出さないから、アイデアだけ貰って使い捨てに出来るでしょ!」
我が妹ながら酷い事を言ってるなぁ……
そう思いながらポピーとウルフ君の口論を眺めていると、突然僕らの後方に視線を向けて叫んだ!
「誰か、そのメイドを捕まえろ!」
「は、はいぃぃぃ!!!」
「き、きゃぁー! どこ触ってんのよ!?」
突然捕縛されるはジョディー。ウルフ君の部下の一人に連れられ、僕らの列に参入する。
「お前、今どこ行こうとした?」
「し、仕事に……決まってんじゃない!」
普通だったら、その通りだ。
「お前の仕事はリュカさんに情報を流す事か?」
「……………」
まさか本当に!? 聞いて無かったのか、コレまでの状況を?
「あのオッサンが手を出したら、間違いなく問題事が増えるんだよ。解ってっか?」
「し、しかし……私は陛下に仕えるメイド。陛下に隠し事など出来ませんよぉ」
物は言い様だ。
「でもジョディー……それは困るのよ、流石に」
「いやでもぉ~……」
流石のポピーも困り顔だ。
「はっ!」
一瞬の沈黙が室内を支配した次の瞬間……
ユニが我々を見下す様な視線で見つめ失笑をしてみせた。ちょっと怖い……
「どいつもこいつも解ってませんわねぇ……リュカ様を!」
「ユ、ユニ……さん?」
僕らほどあの男を解ってる人種は居ないだろうが、突然の豹変にウルフ君も狼狽えてる。
「もうここまで大事になってるんですよ? リュカ様が存じ上げない訳ないでしょう。今頃サンタローズに行ってますわよ」
「な……まさか!!」
ユニの言葉を聞いたウルフ君が慌てて懐からMHを取り出す。
そして勿論コール相手は国王陛下。
数回のコール後、我が父の姿が映し出される。
『あれぇウルフ……何?』
父と一緒に背景も映し出されるが、青々しい木々だけで、サンタローズかは判断しかねる。
判るのは室内ではないと言う事だけ。
「リュカさん、今どこに居るんだ!?」
『え~……し、執務室だよぉ~』
何でバレる嘘を吐くんだ?
「サンタローズだな……サンタローズに居るんだな!」
『うぉ、よく分かるね!?』
興奮の余り立ち上がるウルフ君……対照的にすっとぼけてる国王陛下。
「おい、やめろよ! 変な事すんじゃねーぞ!」
『いや、変な事はしないけど……する事はするよ!』
そのする事が変な事だって解らないのかなぁ?
「馬鹿野郎。他国の教会が経営不振になろうが関係ねーだろ!」
『……………え!? フレアさん、経営不振なの教会?』
あれ?
『も~、何で言っちゃうのウルフ君!? 秘密にしてたのにぃ』
MHの画面外からシスター・フレアの声がする。
そして辻褄の合わないクレームが……
(ゴトン!)
顔面蒼白なウルフ君はMHを手から落とした。
そして自らも崩れ落ちると……
「し、してやられたぁぁぁぁぁ!!!!!」(orz)
何やら悔しそうに絶叫する。
珍しい事もあるもんだ。
だが正直、まだ何が起きたのか理解が追いついてないのだが?
「やるわねユニ……でも……」
理解できてるのかポピーが呟く。
だが表情は思わしくない。
「あら、私の勘違いでしたか……リュカ様でしたら、もう既に全てを存じ上げてると思ってましたのに(ニコ)」
ん? つまり……父さんは先程まで何も知らなかったって事かな?
「ユニさん……解ってるのか? あのオッサンが内政干渉をしない訳が無いって事を!」
「皆様こそ何も解ってらっしゃらない! リュカ様の事なら何でも知ってるぶってますけど、最もキモになる部分を理解して居られません!」
キモ……?
「何を言い出すかと思えば……『リュカ様は神をも凌駕する存在だから、不可能を可能にする』とでも言うのかよ!?」
流石に立ち上がったウルフ君が、何時もの調子で馬鹿にする。
「はぁ? “何を言い出すかと思えば”は、こっちの台詞です。リュカ様にも不可能はあります。ですが他者より可能に出来る事が圧倒的多数存在するのです!」
確かに……言われてみれば。この国の発展だって他者には不可能だったが、父さんだからこそ可能な出来事だ。
「ふむふむ……そうよ、そうなのよ! だからお父さんって凄いのよ♥」
隣を見ると、瞳を輝かせて大きく頷く我が妹が……
また病状が悪化した。
「さ……と言う訳で、偉大なる宰相閣下が機密事項をリュカ様に暴露してしまったので、後は成り行きを見守りましょう。ジョディーも皆も“本来”の仕事に戻り、王家の方々も邪魔ですので解散して下さいませ」
誰もが納得(ウルフ君を除く)し、面倒事から解放されたのを見計らってユニがこの場の指揮を執る。
「偉大で聡明なる宰相閣下も、私如きにしてやられた事を気に病んでないで、仕事に戻って下さい」
「……くぅ~!!!」
悔しそうに唸るウルフ君。
「今日は良い物見れたわね。グランバニアまで来た甲斐があったわ」
「秘密にしてた我々の努力は無駄になったがな」
ラインハットの王太子夫婦は、場の空気を読んだ一言を残し帰国の途についた。
リュリュはユニにしてやられたウルフ君を苛めると思いきや……
「あぁ……お父さんの凄さ再発見!!」
と、既に夢の中に入っていて暇がなさそうだ。
そんな彼女を引き連れ僕も退散する。
以後とは終わってるから、サッサと帰ってアミーの顔を見よう。
もう全部面倒な事は父上に任せて……
ティミーSIDE END
後書き
病状が悪化した娘がひとり……
次回、その母親SIDEからスタート。
天使とラブソングを……?(第3幕)
前書き
今回はシスター・フレアと
デール王の視点。
(サンタローズ)
フレアSIDE
『し、してやられたぁぁぁぁぁ!(ブチッ)』
「何だ!?」
ウルフ君の絶叫が聞こえたと思ったら、突然通信が途絶えた。何事なのかしら?
「何かウルフが誰かに“してやられた”らしい(笑)」
「まぁ珍しい。リュー君以外に彼を制御できる人居るの?」
思い当たる人は一人だけ居ますけど……ポピーちゃんかな?
リュー君も同じ事を思ったのか、肩を竦めて可愛く笑う。
あぁもう! リュー君は格好いいし可愛いし、毎週火曜日は必ず来てくれるし、本当に最高!
「ところでフレアさん……」
真面目な表情に戻したリュー君は何かを聞きたそうにしている。
ウルフ君がバラしたあの事ね……
も~……何でバラしちゃうかなぁ?
・
・
・
・
・
「……なるほど。別に経営難って訳じゃないのね(笑)」
「経営も何も資金は王家が出してくれてるから……で、でもね、お金の問題じゃ無いのよ! リュー君には必要ないけども、一般人には神様って必要なの! だから……」
「解ってる(笑) 僕もあのオッサンの存在意義は知ってる」
私の必死の良い訳も、優しく笑いながら諭してくれるリュー君。
姉の様に慕ってくれる時もあれば、妹か娘の様に接する時もある……それが凄く嬉しい。
「でも今日はお預けだよ。やる事も出来たし、僕に秘密を作ってたからね(笑)」
あぅ~……折角リュー君が来たのに、お預けなんてぇ……
夕食ぐらい……と思い、上目遣いでチラッと見たが、優しく首を横に振って断られた。今夜は不貞寝だ。
「ああ、でも紙とペンを貸して。教会を建て直すのに必要だから」
「紙とペン? 別に構わないけど、それだけで教会を建て直せるの……って言うか、無茶はしちゃダメよ! 国際問題とかになったら困るんだからね」
「大丈夫、大丈夫! もうそんなの日常茶飯事だから(笑)」
「ちょ、ちょっとリュー君!」
リュー君は笑いながらとんでもない事を言い、教会に紙とペンを取りに向かった。
(サンタローズ:教会)
リュー君は教会に入り事務用の部屋へ入ると、A4サイズの紙を数枚とペンを手に取り、机に座って何かを書き始めた。
気になって書いてる内容を覗いてみる。
“嘆願書”?
一枚目には嘆願書と書いてあり、ヘンリー陛下宛に色々書き連ねていく。
余談だが、リュー君は字を書くのが凄く早いが、それでいて字が綺麗だ!
私があのスピードで書いたら、推理小説より難解な書が出来上がる。
娘のリュリュも遅いが字は綺麗だ。
あの娘は料理以外は大抵の事が出来る。綺麗好きだし裁縫も上手だし……
何で嫁の貰い手が無いのだろうか……いやまぁ、理由は分かってるけど。
「フレアさん、ここにサインして」
才能と美貌を無駄にしている娘の事を考えてたら、リュー君からサインを要求された。
「この下の方で良い?」
サインを求められた用紙を見ると嘆願書という名の書類になっていた。
そして嘆願者は私。
その事を証明するサインを書く必要があるのだ。
受け取った書類にサインしようと私もペンを持つと、もう既に次の書類を書き始めるリュー君。
流石一代で小国を大国へと押し上げた人は仕事が早い。
次は何の書類なのだろうか……?
フレアSIDE END
(ラインハット:王座の間)
デールSIDE
日もかなり傾き、今日の仕事が終わったので兄と暫しの雑談をしていた所……
(バン!)「ヘンリー、この書類にサインしろ!」
と、リュカさんが突然現れた。
「うわっぷ……や、止めろ馬鹿!」
リュカさんは兄さんの顔面にサインさせたいらしき書類を押しつける。
それではサインはおろか、読む事もままならないだろう。
「早くサインしろよぉ~」(グリグリ)
「いい加減にしろ馬鹿野郎!」(バシッ!)
顔に押しつけられた書類を引ったくる兄。
「何の書類だコレは!?」
引ったくった書類に目を落とす。
すると兄さんは「嘆願書?」と呟き首を傾げた。
「コレは何だ?」
「説明するのが面倒臭い。ヘンリーはサインだけすれば良いんだよ。それしか出来ないだろ?」
リュカさんから見たら僕等は何も出来ない王族だけど、内容が解らない書類にサインは出来ないでしょうね。
「そんな訳にいくか! それに俺の事を馬鹿にs「あれー? お父さん来てたの……サンタローズに居たのに!?」
兄さんが何時もの様にリュカさんに文句を言おうとしてたら、甥夫婦がこの部屋に入ってきた。
「あれ、何でサンタローズに居た事知ってんの? ……やっぱりウルフをやり込めたのはポピーか?」
「あははははっ……そうだったら良かったんだけど、今回は何とユニなのよ(笑)」
あのウルフ宰相をやり込められる人物が他に存在する事に驚きを隠せないが、ポピーがここまでの状況を説明してくれる。
・
・
・
・
・
「……と言う訳♥」
「なるほどな……この書類はそれに関する事か?」
「そうだよ。だから今すぐ迅速にさっさと一瞬に秒でサインしろ!」
微塵も変わらずに兄をぞんざいに扱うリュカさん……それを見て心から楽しそうにケラケラ笑う甥の嫁。
「急かすな馬鹿! 状況は理解したが書類はまだ見てないんだ……急かすくらいなら説明しろ」
「一からか? 一から説明しないと理解できないのか? どんだけヘッポコなんだお前は!」
兄さんには悪いが、二人の遣り取りは何時見ても楽しい。
「ああ、ヘッポコなんで一から説明しろ! ……で何なんだ、この嘆願書ってのは?」
「僕とヘッポコヘンリーの間だけで事を進める訳にはいかないから、フレアさんからの嘆願書を持って来たんだよ。それがあればラインハット王家が動く理由が出来るだろ」
「なるほどな……そうなると次の書類“依頼書”ってのは何だ?」
「ラインハット王家からグランバニア王家への依頼書だ。それがあればグランバニアから人員を派遣しても内政干渉って言われないだろ」
「よく解った。では最後に“契約書”ってのを説明しろ」
「本当に何も解ってないのか!? 契約書は契約を締結する書類で……」
ほとほと嫌気がさした顔でリュカさんが説明を始めるが……
「契約書の意味は解ってる! そういう意味じゃなくて、この契約書を発行した業者の事だよ! “謎のコンサルタント プーサン”って誰だよ? 怪しすぎてサインできるかよ!!」
確かに……企業なのか個人なのかも解らない上に、自ら『謎の』と付けてる辺りが怪しい。
「プーサンは怪しくねーよ。マスタードラゴンが自分の能力を封印して人間の姿になってた時に“プサン”って名乗ってたからプーサンなんだよ!」
ああ、つまりプーサンってのは……
「じゃ、じゃぁこのプーサンってのはマスタードラゴン様なのか!?」
「何でそうなるんだよ!?」
「に、兄さん……流石の僕もヘッポコと呼びたくなりますよ……」
「な、何だよ……デールまで俺をヘッポコ扱いするのかよ!?」
「誰だってそうなりますよ父さん。今のリュカさんの言い方からすれば“プーサン = リュカさん”ですよ」
僕と同じく理解できたコリンズが実父に呆れてる。
「な、何だよ……コイツの考える事なんだから、そんなに単純だとは思わないじゃないか!」
「単純か如何かは判らないが、内政干渉にならない様に僕とプーサンは別人だよ……って言っておく。勝手に憶測する事は構わないけど、プーサンの事をリュカと呼ぶ事は禁じる」
「わ、解った……で、如何言う経緯で我が王家からの依頼が、このプーサンに行くんだ?」
「HHから来た『民間企業を派遣してくれ』って依頼を受けて、僕がグランバニアで活躍するコンサルタントに依頼を出すんだ。これでグランバニア王家は直接関わらない事になる」
「なるほど……そういう流れか。ラインハットとしてもグランバニアの民間企業に直接依頼を出す訳にもいかないからな」
「そういう事。これで筋は通るし、内政干渉にはなりにくい」
些か強引ではあるが……
「うん、理解した。それで……このプーサンってのは如何やってサンタローズの教会を建て直すんだ?」
「そんなのは解らん!」
「お、お前……建前上そう言うのは解るけど方針とかはあるんだろ!?」
「方針も何も、フレアさんが行っている日曜日のミサが、如何な内容なのかも解ってないのに、計画は立てられない。次の日曜日にミサを確認してから計画を立てるんだ。“彼を知り己を知れば百戦殆からず”と言って、何も知らない状況では上手くいかないんだ」
「よ、よく解りました……」
「じゃぁ状況を知る為に、HHも日曜日にミサの見学ね。迎えに行くのは面倒臭いからポピーも参加って事で!」
そこまで言い切るとリュカさんは踵を翻して帰ってしまった。
相変わらず強引ではあるが、合理的でもある……かもしれない。
デールSIDE END
後書き
結構、長丁場になりそうなストーリーです。
天使とラブソングを……?(第4幕)
前書き
書いてて楽しい回でした
(サンタローズ)
フレイSIDE
日曜日のAM9時30分。
お父さんが変装したプーサンを筆頭に、ウルフさん・ヘンリー様・コリンズ様・ポピーさん……そしてお姉ちゃんと10時からのミサを見学する為に集まってきた。
因みに、何故ウルフさんまで来てるのか聞いたところ……
『“してやられた”罰』
との事。よく意味は解らないですけど?
ミサ見学一行は早々に教会の聖堂へと入る。
中ではお母さんが黙々と準備をしている……
私も何時も通り準備の手伝いを始めた。
聖堂内は中央の道を軸に、左右15列の長い椅子が配置されており、入り口入って右側列の一番右後ろとその前列に一行は腰を下ろした。
座り順は、後方右側からお父……プーサン・お姉ちゃん・ウルフさん。そして前列右側からポピーさん・コリンズ様・ヘンリー様となっている。
聖堂内のロウソクに火をともしたりして手伝っていると、開け放しの入り口からマーガレットさんが入ってきた。
マーガレットさんは御年88才のお婆ちゃんで、ほぼ毎回日曜日のミサには参加している得がたい方だ。
“ほぼ”というのは、天気が悪いと膝関節に激痛が走るらしく、天気の良い日しか参加できないのだ。
そうなるとミサの参加者は私しか居なくなる……
それでも続ける事に意味があると言ってお母さんはミサを始めるのだ。
話を戻そう……
マーガレットさんは覚束ない足取りで聖堂に入ってくると、一番前の席に座る為ゆっくりと中央の道を進んでいく。
私は何時も通り、マーガレットさんの手を引き何時もの席まで誘導する。
何時もはマーガレットさんの隣に座るのだけど……
「マーガレットさんゴメンね。今日は他のお客様が来てるから、その人達の方に座るね」
と断りを入れてから例の一団の所へと戻った。
そして一団の端っこ……ウルフさんの隣に腰を下ろすと、入り口付近から人の気配を感じた。
視線を移すと、村の若い男性陣(それでも私より年上)が5人ほど入ってきてた。
行動を観察すると、珍しく日曜に村に居るお姉ちゃんに近付きたいらしく、まごまご入り口付近で煮え切らない態度をしている。
お姉ちゃんには近付きたいが、見るからに怪しいプーサンと何故か睨みをきかせているウルフさんが怖くて近寄れない。
結局近寄る事を諦めた若い衆は、ミサ終わりに声をかける作戦に変えたのか、同じ列の左側に陣を築いた。
因みに連中がそんな消極策に転じたのは、10時になりお母さんがミサを開始したからだ。
そんな気の弱い態度で、この女を落とせると思うなよ!
私が心の中で憤慨していると、隣のウルフさんが小さく「くくくっ」と笑った。性格が極悪と聞いてはいたが、紛う事無き!
さて……
村のヘタレ共は無視して、お母さんのありがたい説教に集中しよう。
病気にでもならない限り、このミサには毎回参加しているが、この説教を楽しいと感じた事は一度も無い。
お母さんは努力家で、何時も色々な本を読んで勉強している。
その本も、読みもしてないのに『面白そうだから買ってきた』とお姉ちゃんからプレゼントされた物や、『これ面白かったよ』と読んだ上でプレゼントしてくれるお父さんのだったりで、結構な量になっている。
そんな大量の蔵書の中から、皆さんの為になる事柄を解りやすく再構成して……そして神様への感謝へと繋げて話してくれるのだが、本当に退屈な時間なのだ。
マーガレットさんは何時も『為になりました』と喜んでくれてるのだけど……
「ウルフ……アンタだったら如何なアイデアを出した? 因みに私は“リュリュの裸踊りを披露させる”よ(笑)」
ポピーさんがこちらを向かずに話しかけてきた。
「ふっ……酷いお姉ちゃんも居たもんだ」
同感だ。
「ポピーの案は一時的で、しかも一部の人間にしか効果が無い。父親として以外でも却下だ」
「確かに万人受けでは無いわね……で、ウルフなら如何よ?」
流石に顔を少しこちらに向けて尋ねるポピーさん。
「俺の案ですか? そうだなぁ……リュカさんの言う通り一時的で一部の者対象ですけど“リュリュさんの使用済み下着配布イベント開催”ってのを提案します」
最悪な案が出てきた。
「アンタ……私のより酷いじゃない(笑)」
「そうですか? でも客と提供するこちら側とWin-Winじゃないですか。事前に準備が出来るから、リュリュさんが当日ミサに参加しなくても問題ないし、客側は形として永遠に手元に残るし(笑)」
余りの提案にお姉ちゃんはウルフさんを見ようともしない。
「でも大変ね……何人に配るのか分からないけど、一度はパンツを履かなきゃならないなんて……」
「はぁ? ポピー姉さんなら分かると思ってたのに」
ポピーさんでも分かってない事とは?
「俺は『使用済み』とは言いましたが、『着用済み』とは言ってません」
「……凄ーわウルフ。アンタは就く職を間違えてるわ。詐欺師になるべきよ」
“使用済み”と“着用済み”の違いが解らないわ。
私の疑問の視線に気付いたウルフさんは、
「“着用”となれば下着として股間に装着させるべきだろうけど、“使用”となれば話は別。あんなのただの布きれだ。新品であれば汚くないのだし、ぞうきんとして棚やテーブルを拭いても良い。まぁ紅茶を股ぐらの部分で拭いておけば、より勘違いを誘うだろうけどね(笑)」
と丁寧に教えてくれた。紅茶とこの人を嫌いになりそうだ。
「おいおいそんな目で睨むなよフレイちゃん。この案を最初に提示したのは俺じゃ無いんだよ……其奴の受け売りさ」
「誰よ……アンタ以上のクズって!?」
ポピーさんがあり得ないくらいの冷めた目でウルフさんに問いかける。
「母親が姉さんと一緒の女ですが、何か?」
「「「アイツか!」」」
お父さんとポピーさんとヘンリー様が同時に呟いた。因みに私も心の中では呟いた。
「『ファンから効率よくお金を巻き上げたいから、こんなイベントを企画したの♥』って俺にプレゼンしてきました」
あの娘歌姫に向いてない。
「……如何やらミサも終わりの様だ」
お父さんの言葉で気が付くと今日のミサも終わっていた。
何時もの様にマーガレットさんが「はぁ~、今日も為になる話でしたよ~」とお母さんにお礼を言って出口へ向かう。
ぶちゃけ……この人達の会話が強烈すぎて、お母さんの話は全然入ってこなかった。
ゆっくりと歩くマーガレットさんを見送りつつ軽く会釈をする……すると同じ列の反対側に陣取った連中に目が行く。
ヘタレはヘタレなりにタイミングを見計らって女に話しかけたいらしく、我々(主にお姉ちゃん)の動向をチラチラ伺っている。イライラする。
気付いてか気付いてないのか(多分間違いなく気付いてる)お父さん達は、ただ黙って連中が帰るのを待ってる。凄い威圧感で……
壇上のお母さんも気付いたらしく、説教に使った原稿用紙等を音を立てて整理し、この威圧感を加速させる。
勿論ヘタレ連中に我慢できる胆力は無く、こちら(主にお姉ちゃん)をチラチラ見ながら聖堂から出て行った。イライラする。
完全に出て行ったのを見計らい、私は聖堂の戸を閉め鍵をかけた。
普段は鍵はかけないが、今日この時間だけは特別だ。
それを見計らったお母さんが近付いてきて「ありがと」と小さく言う。
私が元いた場所に戻ると同時に「如何だった?」と両手を胸の前でモジモジさせながら上目遣いでお父さんに評価を求めるお母さん。
可愛い!
「うん。凄く良い内容の説教だったよ……退屈だけど」
「あぅ~……やっぱり信者さんが来ないのは私の話が悪いのね~」
お母さんの話が悪いのでは無くて、基本的に退屈なのが原因だと思うわ。
「違う違うフレアさん。良いんだよ退屈で……教会の説教が退屈ってのは最高の褒め言葉だ。とっても為になる良い内容だったんだ」
そうだろうか? 楽しいにこしたことは無いと思うけども。
「まぁお前が言わんとしてる事は理解できる……けど、そうすると如何するんだ?」
ヘンリー様が疑問をお持ちの様に、教会が退屈な場所である以上、手の施しようが無い。
お父さんは如何するのだろうか。
「うん。やっぱり思ってた通り“天使にラブソングを”作戦だね」
「「「……………」」」
作戦名の内容を聞きたく、皆が静かに待つが、答える素振りが見えてこない。
「いや……作戦名じゃなくてさ、作戦内容を言えよ」
「作戦名だけで感じろよ、本当にHHだなぁ」
いやいやいや……ヘンリー様だけでは無く、誰にも分かる訳が無い。
「いや、お父さん。流石に私でも解らないわ」
フレイSIDE END
後書き
本当は(第4幕)と(第5幕)は
一つのエピソードだったんですが、
長くなり過ぎちゃって
2話に分割しました。
まだ第5幕は書いてる途中ですけど、
それでもかなりの長さです。
3話に分割しても良いんじゃ無いかと思えてるくらいに。
天使とラブソングを……?(第5幕)
前書き
人間、素直なのが一番です。
それをフレイちゃんが教えてくれました。
(サンタローズ)
フレイSIDE
「いや、お父さん。流石に私でも解らないわ」
お父さんの説明無しに、流石のポピーさんもツッコミを入れる。
作戦名だけで理解できる人間がいるとは思えない。
「えぇ~……マリーだったら即理解してくれるのにぃ」
「私たちをあの娘と一緒にしないで」
珍しくポピーさんと同意見だ。
「うん、じゃぁ簡単に説明するけど……この教会に足りないのはエンタメって事だよ」
「「「……………」」」
またしても沈黙が辺りを包む。
「お父さん……簡単すぎて説明になってないわ」
「そうだよリュカさん。この教会に限らず、エンタメのある教会なんて聞いた事無いよ!」
この一団の中で比較的お父さんよりのポピーさんとウルフさんまでもがツッコミを入れる。常人に付いていけるはずが無い。
「僕はこの教会の建て直しを依頼されただけで、他の教会の事など知らん!」
「……わ、解りました。では以後“教会”と言うのは、この“サンタローズの教会”の事を指す事としますが、兎も角も教会にエンタメがある訳ないでしょ!」
「リュ、リュカ……一応聞いて置くが『エンタメ』とは『エンターテインメント』の事だよな?」
「他の『エンタメ』を僕は知らん!」
“エンドレスでタメ息を吐く”の略?(笑) お父さんの事を嬉々として語るお姉ちゃんを見る私とお母さんの状態だ。
「リュカさん……そもそも教会にエンタメなんて神への冒涜になりませんか?」
この一団で比較的常識人のコリンズ様が、これまた常識的な事を言ってくれた。
最も常識人の私にはオアシスだ。
「その質問に答える前に、今後“神”と称する存在の事について確定させておこう。“神”とは、なんかこう……神々しいフワッとした存在の事を指し示すとする。あのヒゲメガネや貧乳女神の事では無い!」
ヒゲメガネってプサンさんの事よね? 貧乳女神って……あの異世界の神様の事かな?
「……で、教会にエンタメは冒涜についてだが、何もそれはエンタメに限らずとも内容によるよ」
また常識人の私には何を言ってるのか解らない事を言い出した。
理解出来てるのか出来てないのか(多分出来てない)お姉ちゃんだけが瞳を輝かせて頷いている。エンタメである。
「じゃぁ例え話をするが……『ウルフ君、格好いい』と言う台詞は、お前を冒涜してるか?」
「いえ……言葉だけだと褒めてます」
言い方次第と言う事かなぁ?
「じゃぁこの台詞に状況と発した者の感情を加えてみよう」
「状況と発した者の感情?」
皆が感じた疑問をウルフさんが代表して言ってくれた。
「ウルフ……お前はリュリュが大好きでプロポーズするんだ。『大好きですリュリュさん。結婚して下さい』って。そうしたらリュリュは何て返答する?」
「死ね」
「もうちょっと言葉を選べよ!」
死んだ魚の様な目で即答するお姉ちゃんにツッコミを入れるウルフさん。良いコンビだ。
「予想通りだが……兎も角こっぴどく振られる訳だ。それを見ていたレクルトがお前に近付き見下した口調でこう言う『ウルフ君、格好いい』って。これは褒め言葉か?」
「いえ、大いなる冒涜です! 想像しただけで腹立つので、明日出会い頭に一発殴ります」
そのレクルトさんって人、関係ないのに……可哀想。
「じゃぁ次のシチュエーション。コリンズ『バカ』って言われたら嬉しいか?」
「いえ、主にリュカさんのご子息から言われる事が多いですが、言われるのは嫌ですね」
バカと言われて嬉しい人が居るのだろうか?
「それじゃぁ想像しろ。プライベートエリアの寝室でロウソクだけの薄明かりの中、目の前にはネグリジェのポピーだけが居て二人きり。そしてポピーは言うんだ……頬を赤らめて上目遣いで『バカ』って……どうだ?」
「な、何ですかそのご褒美な状況は!? 今までに一度も味わった事が無いんですけど!」
「え、なに? 馬鹿って言われたいのなら、何時でも連呼するけど?」
照れ隠しなのか、または素なのか見下す様にコリンズ様へ言葉を発するポピーさん。
「な。状況と感情次第で何事も価値が変わるんだ」
「なるほどな……じゃぁお前が俺の事をヘッポコと言い続けてるのは状況と感情次第では褒め言葉になると捉えて良いんだな?」
「え? 純粋に貶してますけど、何か?」
「いや……もういい」
こちらもこちらで良いコンビだ。
「と言う事で……聖歌隊を作ろうフレイさん」
「はぁ……聖歌隊……ねぇ……」
お父さんの提案に、いまいち乗り気になってないお母さん。珍しいわね?
「うん。人数は少なすぎても多すぎてもダメなので、10人から20人程度の聖歌隊」
「あのね……リュー君は石になってたから知らないだろうけど、この村にも以前は聖歌隊があったのよ。村の復興を思う有志の方々によって」
へぇ~そんなのあったんだ。
「何だ、じゃぁ話が早いな」
「で、でもね……その当時ですらご高齢の方が多かった聖歌隊だから、今現在ご存命の方は少なくて……しかも諸事情で村を出て行った方も居るし」
「でもゼロから集めるよりかは楽でしょ?」
「ま、まぁ……そうね」
この村でご存命の元聖歌隊って誰だろう?
「因みに、その中にピアノを弾ける方は居る?」
「当時もピアノを担当してたムジカさんが居るわ。でも、もう80才のお婆ちゃんよ。大丈夫かしら?」
へぇームジカさんってピアノ弾けるんだ!
「ズブの素人にゼロから教えるよりも、基礎が出来ている、もしくは経験がある人に思い出して貰いながら教える方が早いんだよ」
「はぁ、なるほど」
「とは言え大半が素人だろうし未経験だろうから、僕一人じゃ荷が重いな。ちょっとグランバニアから民間人の助っ人を連れてくる事にするよ」
「リュカさん……ピエッサさんを巻き込むつもりなら反対です。彼女にはマリーの相手をして貰ってるだけで、相当の負担になってますからこの件には巻き込まないでほしいんですが!」
「それは父親である僕が一番解ってる。ピエッサちゃんをサンタローズに連れてくる事はしない……でも聞きたい事があるから、今日会いに行こうとは思ってる。だからレクルトの今日の予定を教えろ」
ピエッサさんという方に会うのに、レクルトさんの居場所を聞くのは?
「正直、大まかな行き先は分かってるけど、今現在何所に居るのかは分からないですね。ですが確実に掴まえる事の出来る時間と場所は知ってます」
「何でお前がそんな事知ってんだよ? レクルト君のストーカーか(笑)」
お姉ちゃんの疑問は尤もだが、口には出さなかったし、今のは言い過ぎだと思う。
「ウルフは宰相として、軍の要人と大臣各人の休日の大まかな居場所は把握してるんだ。万が一にも他国が攻め込んできた場合『居場所が分からなくて呼び出せませんでした~』なんて言い訳で、軍事行動が遅れて被害が出たら目も当てられないだろ。それを避ける為に有事の際の行動を把握してるんだ。感情だけで人を貶すんじゃありません!」
「ご、ごめんなさい……」
理由を聞いて納得。
お姉ちゃんも納得して素直に謝った。でも顔はお父さんに向けて……ウルフさんに謝って。
「一応聞くが、お前が俺をヘッポコと貶してるのは、感情に左右されて無く理由があるからなんだろうな?」
「いや、純粋に感情で貶してますけども、何か問題でも?」
いや国際問題でしょ!
「……で、何時で何所だったらレクルトを掴まえられる?」
「アイツ久しぶりにピエッサさんと休日が合い、しかも給料日直後って事でかなり気合い入れてデートする予定なんです。で、ディナーに高級レストランを予約しちゃってて……ここ数日、超浮かれてました。ウザかったぁ」
なるほど……そのお二人はお付き合いしてるから、ピエッサさんに会いたい場合はレクルトさんの予定を聞けば良いのね。
久々のデートで奮発するなんて素敵じゃない。
「んで何所で何時なんだよ!?」
「あぁ……はいはい。今夜20時に港地区の“マーレ・パラシオ”ってレストランでイチャイチャするそうです」
言い方……
「ほぅ……本当に奮発してるなぁ。マーレ・パラシオって10階建てのビルの最上階にある港を一望できるオシャレなレストランだろ? 本当にお高いぜ。まぁアイツも軍高官でそれなりに高給取りだから、生活には支障が無いだろうけど……」
お父さんとウルフさんの話を聞く限り、そのレクルトさんって方はまだ若そうだけど、有事の際の為に休日の予定を把握しとかなきゃならないほどの偉い人なんだね。
ウルフさんみたく優秀そうだ。
「まぁ兎も角、奴のディナーまで9時間はあるし、他の問題を片づけよう」
「他にも問題があるの?」
正直、聖歌隊のメンバーを集めるだけでも大変そうなのに、まだ問題があると言われ不安を露わにするお母さんは可愛い。
「うん。見たところ、ピアノが見当たらないんだよね。だから聖歌隊が存在したなんて言われてビックリしたんだけど、今どこにある?」
「……ない……」
「……はい?」
「……もう無いわよ」
確かに……この村でピアノなんて見た事無いわね。
「如何言う事か説明を……」
「あのね……以前は聖歌隊と共に古くてそんなに良い物じゃ無かったけどピアノはあったの。でも聖歌隊が自然消滅しちゃって、誰もピアノを弾かなくなっちゃたから、手入れも何もしてなくて……壊れちゃったの」
「壊れたのなら直せば良いじゃん」
「そんな技術持ってる人、近くに居ないし……もう使う予定も全然無かったし……放置してたらもっと壊れちゃったの。だから真冬の薪にしちゃって……完全にもう無いの」
「お前買っておけよピアノくらい! 金だけ出しときゃ良いってもんじゃねーぞ、このヘッポコ(ポカリ!)」
「あ痛ぇ! 仕方ねーだろ、要望があったのなら兎も角、何も言われなかったんだから!」
間違いなく八つ当たりだ。やり場の無い怒りを外国の王様にぶつけた……なんで国際問題にならないんだろう?
「う~ん……如何すっかなぁ」
「如何もこうも買えば良いじゃないっすか」
八つ当たりされた外国の王様をニヤニヤ見ながら尤もな意見をウルフさんが言う。
「買うんだけど、今日欲しいんだよね」
「何でそんなに急ぐんですか?」
八つ当たりされた父親をニヤニヤ見ながら当然の質問をするコリンズ様。
「先刻フレアさんが言ってたけど、ピアノ担当の人は80才のご高齢で、20年ぐらいピアノに触れてこなかったから、思い出して貰う為には少しでも長く練習をして貰いたいんだよね。となるとぶっちゃけ、今日からピアノに触れててほしいわけさ」
「時間が勿体ないって事ね?」
八つ当たりされた義理の父をニヤニヤ見ながら大いに納得するポピーさん。皆さん、王様に対して失礼すぎませんか?
「う~ん……如何スッかなぁ……グランバニア城のを持って来ちゃおうかなぁ」
「アレはダメですよリュカさん。マリピエが練習で使ってますから、ピエッサさんに大きな迷惑がかかる。マジで彼女にこれ以上負担を与えないで下さい」
「分かったよぅ……おいヘッポコ、ラインハットに余ってるピアノは無いのか?」
「ヘンリーくらい付けろ」
ヘッポコだけ言われて自分だと思い反応するヘンリー様にも問題があると思います。
「正直、我が王家はお前ほど音楽に興味が無くて、城にはピアノなんて置いてないなぁ。貴族の誰かを頼れば見つけられるかもしれないけど、進んで譲ってはくれないだろうし、嫌がらせで高値を付けられるのがオチだろうな。民間からは徴用したくないし……」
「使えねぇな、この王様!」
「まぁまぁリュカさん……ヘッポコだし我慢しましょうよ(笑)」
「すみません、父がヘッポコで(笑)」
息子さんは解るが……ウルフさん、貴方は慎んだ方が良いですよ。
「う~~~ん……となると、あのハゲに頼るしかないかぁ。嫌だなぁ……」
「お父さん、あのハゲに頼ると絶対に足下見られて吹っ掛けられるわよ」
「いやいや姉さん。吹っ掛けられる程度なら良いですけど、あのハゲの事ですから恩着せがましい態度になるでしょうね、今後」
一体誰の事を言ってるのだろうか?
お父さんとポピーさんとウルフさんの間では、会話が成立している。
それにしても酷い言われ様だ。
「おい、お前等だけで話を進めるな! 誰だよその“あのハゲ”って人物は?」
「ハゲっつたら一人しか居ねーだろ!」
「いや大勢居るよ!」
「ルドマンだよ! ハゲのルドマン……略してハゲマン」
世界屈指の大商人に対しても酷い言い方だ。
相変わらず誰に対してもブレない態度ね。
ブレないと言えば聞こえは良いが、ただ失礼なだけな気もする。
「嫌だなアイツに頼るの……」
何がそんなに嫌なのだろうか?
国家として普通に取引してるはずなのに。
「お父さん、こういう作戦は如何? ハゲマンに最初から高額のピアノを要求するの。しかもヴィンテージが付いてる様な希少価値の高いピアノを金の糸目は付けなから今すぐって事で! 流石のあのハゲも用意できないだろうから『一番良いのじゃなきゃ嫌だし、それ以外のピアノに高い金を出すのはおしい。だから一番安くて一番状態が良いのを今すぐ売れ』って言って出された中古ピアノに『傷がある』とか『調律がなってない』とか難癖を付けて渋々買うの。こうすれば安く借りを作らずに買えるわ」
「姉さん……その提案には大きな欠点がある。あのハゲの事ですから、無理矢理にでも高額のヴィンテージ物のピアノを用意するでしょう。しかもここぞとばかりに安く売ってきたら如何しますか? こちらとしては自ら要求した物を格安で販売してくれるんですから、断る訳にはいかない。『金に糸目は付けない』と言った手前、格安と言ってもそれなりの値段に値引き交渉も出来ず、要りもしないヴィンテージ物のピアノを購入する羽目になり、無理難題を解決したので大きな借りを作ってしまい、一番最悪な状況になりかねません」
「う~ん……じゃぁ如何すんのよぉ!? あのハゲに借りを作らずに格安でピアノをふんだくるなんて出来るの?」
この人たち……思考回路が極端だ。
「あ、あの……こういうのは如何ですか?」
正直口は出したくなかったが、この人達に任せておくと世界が余り平和にならなそうなので、渋々私も提案する。
「素直にするのが一番だと思います。素直に現状を伝えて、素直に安いピアノを譲ってもらえる様にお願いする。これが一番だと思うんですけど?」
「素直……か」
私の提案に何かを感じ取ってくれたのか、プーサンの変相を解いてお父さんが静かに呟いた。
「うん。フレイの言う通りだね! 素直が一番だ。流石だなフレイ!」
優しい笑顔で褒められ、頭を撫でられた。
お母さんとお姉ちゃんがぼそっと「「良いなぁ」」と言うのが聞こえる。結構嬉しい。
「よし、じゃぁフレイの案でいこう。素直に状況を伝えて、素直に安いピアノを要求する……もしグズったら素直にプランBに以降だ」
プ、プランB?
「おい何だプランBってのは?」
「知らないんですかヘンリーさん? 我が家じゃ常識なんですけどぉ」
ウルフさんが他人を苛つかせる口調で常識だと言う……が、私は知らない。
「プランBの“B”は暴力に訴えるの“B”です。解りましたお義父様」
常識じゃ無いんですけどーー!
って言うか、私の提案にそんなの入って無いんですけどーー!!
「よし、じゃぁフレイの提案で決定だね」
「流石フレイね。私じゃ思いつかないわ」
「あぁ姉貴と違って凄い提案をするな」
「ち、違う……私の提案じゃない!」
お父さんもポピーさんもウルフさんも、完全に私の案としてあの非常識な案を実行しようとしている。
わ、私をそっちの世界に巻き込まないで!
「いいなぁお父さんに褒められて」
「孝行娘よねぇ」
褒められてねーよ! 孝行してねーよ! お前等親娘の頭、どうかしてんじゃないの!?
「善は急げだ。今すぐハゲマンの所に行ってピアノを貰ってこよう。HHも付き合え……重いピアノを運ぶのは2人がかりの方がバランスが良い」
「分かった……ヘッポコって言うな」
「あ、フレアさん。教会の前に薪割り用の手斧があったから借りてくよ……プランB用に」
「構わないけど……そんなにお手入れしてないから、刃物としては切れ味が悪いわよ?」
気にするとこ、そこじゃねーだろ!
「よ~し、フレイの案通り素直にピアノを奪ってくるぞー!」
「だ、だから違うって! それは私の提案した事じゃ無いってば! 私をそっちの非常識な世界に連れ込まないで!!」
フレイSIDE END
後書き
内容が楽しすぎて
長くなってしまった。
もしかしたら
全体を通して全10幕くらいまでいくかも。
天使とラブソングを……?(第6幕)
前書き
レクルト君の格好いい所を見せたくて書きましたw
(グランバニア:マーレ・パラシオ)
レクルトSIDE
夜の帳もおりきった午後8時……
僕とピエちゃんは、普段では行く事の出来ない高級レストラン“マーレ・パラシオ”に居る。
かなり前から予約をしていたので、海が見える窓際の席に座る事が出来た。
このレストランは、グランバニア港などがある港地区のまさに港沿いにあり、地上10階建ての最上階をワンフロア全部店舗として構える高級店だ。
開店してから15年近く経過してるが、人気は衰え知らず。
ただ、開店当時は周囲に高い建物が無かった為、海側に限らず反対の町側もグランバニア城が見え夜景も綺麗で見応えはあったんだけど、昨今は10階建てなんて当たり前で、建築技術の発展で20階・30階はざらなのだ。
その為、建物が無い海側以外は見はらしが悪くなっており、本当に早いうちに予約をしておかないと、こんな良い席には座れない。
ピエちゃんに良いとこを見せたくて苦労したよ……
「月明かりが水面に反射して綺麗ね……」
「……本当だ、光がゆらゆらしてて綺麗だね」
この席に感動してくれたピエちゃんが、窓から見える景色に見とれている。
本当は『君の方が綺麗だよ』なんて台詞を言いたいのだけれども、僕の柄じゃ無いし何より恥ずかしくて言えない。
こういう台詞をサラッと言える人って居るんだよね……うらやましい。
そんな事を考えながらピエちゃんに見とれていると「へ、陛下!?」と、入り口付近から店のウェイトレスが大声で叫んだのが聞こえてきた。
え……陛下!?
この国で陛下と言われると2人しか該当する人物を知らない……
敬意は持ってるが、出来れば休日にお会いしたくは無い方々だ。
ピエちゃんも僕と同じ事を思ったのか、顔を顰めている。
僕等の聞き間違えか、ウェイトレスの言い間違えなのか、祈りを込めて入り口付近に視線を移す。
客席と入り口付近の会計所を分け隔てる為に衝立が設置してあり状況は見えないのだが……「あぁ僕は客じゃ無いよ。ちょっと探してる人物がいるんだ。お邪魔するよ」と聞き慣れた澄んだ声が耳に届いてきた。
そして衝立の向こうから現れた人物は王様!
見まごう事無く国王陛下!!
ウェイトレスの発言も僕等の耳も正常で、こちらに向かってくるのはリュケイロム国王陛下で在らせられる!
折角のデートが台無しになる……と、一瞬だけ頭によぎったが、わざわざ陛下が僕を探しに来ると言う事は国家の緊急事態か何かだ。
僕もピエちゃんも慌てて起立し、僕は敬礼を……彼女はお辞儀をして迎える。
すると陛下から、
「あぁそんなに畏まらないで。君たちが思っている要件と全然違うから、畏まれると話しにくくなる。座って……さぁ座ってくれよぅ」
と、敬礼・お辞儀を解かせ着席を切望する。
僕もピエちゃんも、陛下が畏まるなと言うのに畏まる事がこの方にとってより無礼に当たる事を知っているので、直ぐに着席をして陛下の反応を待った。
陛下は手近にあった誰も座ってない椅子(そこは4人掛けのテーブルで3人で来店してた)を引き寄せ、僕等の2人掛けのテーブルに着席する。
「お前、奮発したなぁ……港と海が一望できる席じゃないか! 良い彼氏をゲットしたねピエッサちゃん」
「は、はい。月明かりが綺麗でとても素敵な席です」
話を振られたピエちゃんは顔を赤らめて返答する。
「景色も綺麗だけど、今日のピエッサちゃんも綺麗で素敵だよ」
そんなピエちゃんに僕が言いたくても言えなかった台詞をサラリと言ってのける陛下……うらやましいし、ピエちゃんが奪われないか心配になってしまう。
「あぁ……口説いてないからね。コイツが言いたかったけど言えなかった台詞を代わりに言っただけ。だろレクルト」
「あ……はい。ヘタレなもんで」
僕もピエちゃんも恥ずかしくて俯いてしまった。
そんな僕等を見ておかしそうに笑う陛下……
そんなに悪い気はしないのは、陛下の為人だろうか?
「さて……気分を解す雑談もここまでにして、本題に入りますかね」
あ、そうだ。
わざわざ軍の高官の僕の下来たのだから、何かしらの軍事的緊急事態が発生したのかもしれない。
「緊張が戻ったところ申し訳ないが、レクルト総参謀長……君に用は無いんだよ」
「はぁ?」
僕を探しておいて、僕に用は無いって如何言う事?
「今回はね、ピエッサちゃんに用があったのだよ」
ピエちゃんに?
「わ、私にですか!? 私、マリーちゃんにご無礼な事を……」
ピエちゃんに限って、そんな事するとは思えないが……
「あぁ違う違う。アイツの事はぶん殴っても無礼には値しないから好きなだけ殴って良いよ。まぁ君の手の方が大切だから、ある程度限度はあるけどね(笑)」
まぁ半分以上は冗談だろうけど、ピエちゃんの手を大事に思ってくれるのは嬉しい。
「えっと要件ってのはね……アイリーン・アウラーの居場所を聞きたくてね」
「え……アイリーンですか?」
アイリーン・アウラーとは、以前にピエちゃんから盗作して問題になった女性だ。
「うん。例の事件以来、和解して仲良くなったって聞いたからさ、今日何所に行けば会えるとか分かるかなって」
「彼女また何かやらかしたんですか!?」
立ち上がりそうな勢いで友達の不祥事を疑うピエちゃん。
「いやいやそうじゃないんだよ。まぁ僕がわざわざ探してるのが疑う原因だね。今回はそういう事じゃ無くて、彼女に仕事を依頼したいんだよ、個人的にね。んで、こっちの都合で大変申し訳ないんだけど、出来る事なら今日中に話だけは通しておきたいんだ。明日以降即座に行動できる様にね」
「そ、そういう事でしたか……」
「そ。明日学校に会いに行くって事も出来るんだけど、僕の我が儘で出来れば今日中に会いたいだけ。君らには迷惑をかけて悪いけどね」
「い、いえ……迷惑だなんて微塵も! ね、レッ君」
「え、あ……うん」
本当は一瞬思った。
「あはははは、お前は本当に思ってる事を顔に出すな。ウルフが重宝してたぞお前の事(笑)」
「は、はぁ……き、気を付けます」
ウルフ君に良い様に扱われてるのは知ってたけど……
「で、アイリーンちゃんなんだけど、今日何所に行けば会える?」
「そうですね……中央西地区にあるナイトバー“ナハト・クナイペ”で働いてます。あの店で、ピアノの弾き語りをして稼いでますよ」
「ああ場所は知ってるぅ。結構高級店だよね。流石だな……」
「彼女、例の事件以降は心を入れ替えて、作詞作曲が出来ない事を受け入れたんです。なので彼女の作曲力を期待してパトロンになってくれた金持ちと別れて働く事にしたんですよ」
「どっかの小娘に爪の垢を煎じて飲ませたいほどの努力家だな(笑)」
「は、はぁ……ソ、ソウデスネ」
そのどっかの小娘は、目の前の人の娘だから、返す言葉にとても困る。
「きょ、今日もアイリーンは出勤してますよ。もう今頃は演奏してるんじゃないですかね!」
話を変えたいピエちゃんはアイリーンの話題に軌道修正を試みる。
陛下もそれが分かったのか、小さく肩を竦めて笑顔だった。
「じゃぁ行ってみるよ。悪かったねデートの邪魔をしちゃって」
「い、いえ……そんな事ございませんから!」
「そうですよ陛下。陛下の家臣である以上このくらいは慣れております」
「あはははは(爆笑) サラッと嫌味を言うその性格、良いね! だからウルフに気に入られたんだ」
「そ、そうか……この性格の所為で貧乏クジを引いてるんですね」
トホホな事実を今知った。
「ど、如何な用件でアイリーンを探してたんですか!?」
僕のナチュラルな嫌味の話を逸らす為か、ピエちゃんが話題を戻す努力に出た。
そうか……一般人からすると、王族に嫌味を言う行為はドン引きなんだな。この王家に慣れすぎて忘れてたよ。
「うん。ちょっと個人的に仕事の依頼があってね。本当に個人的だから、王家……いや、国家は関係ないんだけどね」
「はぁ……陛下も色々とお忙しい様ですね」
「う~ん……まぁ色々ね」
何か複雑な表情をした後、苦笑いで返す陛下。
また面倒事なのだろうな。
「あ、そうだ。ピエッサちゃんにもう一個お願いがあってさ……」
「わ、私にですか!?」
間違いなく面倒事だろう。
「この後アイリーンちゃんに会うんだけど、詳しい仕事内容は話せないんだよね。だから明日城に来てもらおうと思うんだけど、いきなり城のプライベートエリアに来いと言っても、一人だと大変だと思うんだ。だから明日もマリピエの練習でピエッサちゃんも城に来るだろうから、その時一緒に来てくれるかな?」
「も、勿論私は問題ありません!」
「ありがとう。でも学校が終わってからで良いからね。無理して学校休んで午前中から来られても、僕も一応仕事してるからさ」
「りょ、了解致しました!」
ピエちゃんの焦りようからすると、午前中から来るつもりだったな。
思わず笑ってしまう……が、ちょっと彼女に睨まれた(笑)
「そうだレクルト……デートの邪魔をした詫びに、ここの食事代を経費で請求して良いよ。領収書は絶対に必要だけど」
ピエちゃんに睨まれた僕をフォローしてくれてなのか、とんでもない提案を陛下はしてきた。
「い、良いんですか……税金を個人のデート代に使ってしまっても!?」
「……………そうか、税金になるのか。それは~……拙いな」
あ……余計なこと言ったかな?
「今の取り消し! 忘れてくれレクルト大将」
「は、はい……」
失敗したぁ~……
「ピエッサちゃん」
「は、はい!?」
突然真面目な顔でピエちゃんの名を呼ぶ。
「領収書があるのなら、今日のデート代を全額経費として請求することを、王様として命令する!」
「はぁ!? い、良いんですか……今、税金で個人のデート代は賄えないと仰ったではありませんか!」
「ピエッサちゃん……君は何時から公務員になった?」
「え? わ、私は公務員では無いですけど……あ!」
そういう事か!
「ピエッサちゃんはウルフ・アレフガルドという人物に個人的に雇われてるだけで、グランバニア王家が雇ってる訳では無い。ウルフ宰相の給料は税金から捻出されてるけど、アイツが受け取った後は個人の資産だ。あのガキがポケットマネーで何しようが知ったことでは無い」
「でも良いんですかね?」
「おや……王様の命令に逆らうつもり?」
そりゃ逆らえないな(笑)
「もしこの命令に従わなかったら、罰として君らの夜の営みを赤裸々に発表してもらうからね……皆の前で(笑)」
「それは従わない訳にはまいりませんね!」
「そういう事」
陛下はニッコリと微笑み立ち上がる。
そして優雅な動作で店から出て行った。
「これは失敗したわね……お昼も領収書を発行して貰えば良かったわ」
「この店以降で挽回しようよ」
「テイクアウトは出来るのかしら?」
「取り敢えず食べるだけ食べてから聞いてみよう」
僕とピエちゃんは頷き合ってから慌ててメニューを開く。
これは忙しくなってきたぞ!
そうだ……ヴィンテージのワインもボトルで注文しよう!
『この店で一番高いワインを!』
なんてね。
格好良く言うぞ~!
レクルトSIDE END
後書き
デート代を経費で請求しろとの命令だが、
際限なく頼んで良いとは言ってない。
だが請求される人物以外は
誰も気にしないだろう。
天使とラブソングを……?(第7幕)
前書き
リュカ伝の世界では
1ゴールド = 100円 です。
1シルバー = 1円 です。
因みにシルバーは原作には無い通貨単位です。
(グランバニア:ナハト・クナイペ)
リュカSIDE
23時を少し回った頃、目的の店“ナハト・クナイペ”に到着した。
レクルトとピエッサちゃんがデートしてた“マーレ・パラシオ”を出たのが20時30分頃……
何でこんなに時間が空いたのには訳がある。
このナイトバーは、高級店で結構人気なのだ。
そこで弾き語りを披露するアイリーンちゃんに仕事の依頼話をする……閉店間際に伺った方が店には迷惑を掛けないだろうと俺なりに気を遣ったのだ。
なのでルーラを使えば一瞬だったのだが、敢えて歩いて港地区から中央西地区まで歩いたのだ。
途中、可愛い女の子が客引きをしているキャバクラに入りそうになったが、『30Gポッキリ』との言葉に、19Gしか持ってない事実を思い知らされ断念した。
ふぅ……夜の繁華街は誘惑がいっぱいだぜぇ!
さて……俺の冒険譚は置いといて、早速店に入ろう。
この店は0時に閉店で、23時30分にラストオーダーになる。
そんなタイミングでの来店客……受付のウェイトレスは良い顔をしてない気がする。
まぁこの店は音楽を聴くのがメインの店で、ステージ以外はかなり薄暗くなっており、ウェイトレスの表情も気の所為……もしくは見間違いかもしれない。
でも好都合だ。俺が王様だって気付かれてないからね。
俺は『端っこの席がいいな』と告げると、軽く会釈して席へ案内された。
ホント端っこだった。
店の出入り口はよく見えるが、ステージは柱が邪魔して半分見えない。ウケるぅ~。
席は2人用の小さなテーブル。
そのテーブルの上に、ほんのり灯るキャンドルが1本。
辛うじてメニューが見える様にしてある。
他の席を見ても同じで、客の顔は余り見えない。
俺は子供の頃から冒険をしてたし、奴隷時代にも暗闇で動ける様に鍛錬してきたから、この程度の明かりでも表情を見ることが出来るけど、他の人間には判らないだろう。
取り敢えず何かを頼まないと拙そうなので、メニューを覗き込む。
最初から酒は頼む気が無かったが、高額なことに驚く。
ブランデー1杯が15Gって如何言う事よ!?
これはアレだな……
各種飲み物も食べ物も、音楽の視聴料が加算されてるんだ。
なんせメインが音楽のナイトバーだからね。
そんな訳で一番安いソフトドリンクを探す。
在るには在るのだが、それでも高い。
この店で一番安いオレンジジュースが6Gって……!
「あ~……オレンジジュースをひとつ」
「畏まりました」
薄暗くて客から表情が見えないと思ってるのか、あからさまに嫌な顔をされた。ウケるぅ~。
因みに、今弾き語りをしてるのはアイリーン・アウラーだ。
このまま閉店まで演奏してるのか判らんが、今呼び出す訳にはいかないな。
6Gのオレンジジュースをチビチビやりながら待つとしよう。
そんなことを考えてると早速6Gのオレンジジュースが席に届いた。
運んできたウェイトレスの表情は相変わらずだ。
そういう顔なのか? 笑顔なら可愛いのに。
早速6Gのオレンジジュースを飲んでみる。
……美味いな!
6Gは伊達じゃない。
とはいえチビチビ飲むことに変わりない。
彼女の仕事終わりはまだ先だろうから、6Gもするオレンジジュースをガバガバ飲んではいられない。だって19Gしか持ってないのだもの!
さて……飲み物の方で楽しめないのなら、音楽の方で楽しむしかない。
俺は6Gのオレンジジュースを少し口に含んでは彼女の演奏と歌声に耳を傾ける。
披露してる曲は以前からこの国で流行ってる曲であったり、学友が作った曲を許可を得て演奏しているのだったり様々だが、自身が作った曲で無いことをアピールしている。
相当あの事件が堪えたのだろう。
だが彼女はこれで良いのだと思う。
才能が無い訳ではない。
無から作り出せないだけで、既存の名曲をこの上なく見事に表現できるのだ。
俺は彼女の事を女版ウルフだと思っている。
アイツも自身の想像力で絵は描けないし、新たな計画などを思いつくことはない。優秀な記憶力から導き出して表現しているだけだ。
そういう意味で彼女は一度聴いた曲は完璧に再現できるし、一度憶えたテクニックはミスること無く完璧に披露できるのだ。
正直言って羨ましい能力だし、作詞作曲が出来ないからと言って潰して良い才能ではない。
かなりの美人だしスタイルも良いし、正直なとこ口説きたい。
彼女も以前の事件で俺に好意を持ってるのは自惚れでは無く確かだし、ちょっと口説いたら間違いなく落とせるだろう。
だが今回は自重しなければならない。
何故ならば、彼女の才能を潰してはならないからだ。
天才と言える彼女の才能は伸ばすべきなのだよ!
仮に口説いて王様の愛人になってしまったら、音楽に詳しくない者達は彼女の才能に気付くことはなくなるだろう。
『王様の愛人だから活躍できてるんだ』と理解しようとせずに思考を止めてしまうだろう。
それだけは避けねばならない。
後ろ髪が引っこ抜かれる勢いで引かれるが、俺は彼女に手を出してはいけない。
こんな美人が傍に居るのにぃ(泣)
俺のこの悲しみを知ってか知らずか、例のウェイトレスが近付いてきた。
何だろう……“もっと高い物を頼め”と催促だろうか?
表情は同じで不機嫌そうだ。
「ラストオーダーです」
ああ……もうそんな時間か。
彼女の演奏が見事で気付かなかった。
「あ~……じゃぁもう一杯オレンジジュースを」
「……畏まりました」
凄い顔された。身分をバラしたら如何な態度に豹変するだろうか?(笑)
今ラストオーダーと言うことは、閉店まで30分。
俺の予想では閉店ギリギリまで演奏することはないと思ってる。
客に『もう終わりだから帰れ』と促す為に、そろそろ演奏も終わるだろう。
店の思惑よりも客を早く帰らせたい先程のウェイトレスが、最初のオーダーの時よりも早くオレンジジュースを運んできた。
因みに我慢できなかったのか、俺の席に近付く遙か前の段階ではブツブツと「貧乏人は早く帰れ!」と愚痴ってるのが聞こえたね。本人は聞こえてないと思ってるのだろう。ウケるぅ~。
「ねぇ君……」
「……はい」
俺は用事があって不機嫌ウェイトレスが戻る前に呼び止める。
「今ステージで曲を披露してる彼女に、終わったらで良いから僕の席に来る様に伝えて」
「……そういうサービスは行ってません」
サービスって(笑)
「別に彼女を金で買おうって事じゃないんだ」
「……しかし」
「兎も角、伝えるだけ伝えてよ。来るか来ないかは彼女の意思なんだし」
「……分かりました」
納得はしてないが、金払いの悪い客の相手はしたくないらしく、早々に立ち去る為に願いを聞き入れてくれた。
後は彼女次第。
もし来なかったら彼女に協力を仰ぐのは止めておこう。
愛人にしなくても、王様の周囲で働いてる噂が立てば、彼女の才能を評価しなくなるかもしれないしね。
またピエッサちゃんに手伝って貰って、新たな才能を芸高校で発掘しよう。
そんな事を考えてると、彼女は演奏を終わらせて、客達から溢れんばかりの拍手喝采を受けていた。
勿論俺も拍手したよ。力一杯。
客からの拍手を受けた彼女は深々とお辞儀をしてステージから控え室へと帰っていった。
あの不機嫌ウェイトレスは、俺からの依頼を遂行する為に、彼女の後を追い控え室の方へと向かっていく。これで君を責めることは無いよ。
ステージでの演奏も終わり、この店のメインイベントが終了したことで、客の大半が席を立った。
そして金を払いゾロゾロと店から出て行く。
残った客は、まだ余韻に浸ってたり、まだ飲み物が残ってる者ばかりだ。早く帰れば良いのに。
暫くして店員が待機してる場所に不機嫌ウェイトレスと一緒にアイリーンが現れた。
不機嫌ウェイトレスがこちらを指さし「あの金持って無さそうなオッサン」と言っている。“オッサン”じゃねーし!
アイリーンは不機嫌ウェイトレスが指さす方を凝視して俺が誰なのか確認している。
店内は薄暗いままなので、あの位置からでは誰だか判らないだろう。
このままでは警戒して席までは来ないかもしれない。
俺はテーブルに設置されているキャンドルを手に取り、顔の位置まで持ち上げて彼女からも認識しやすくする。
すると……
「陛下!!」
と大声で叫びダッシュでこちらに向かってきた。
店員も残ってた客らも、一斉に俺のことを見る。
おや? 失敗したかもしれん。
リュカSIDE END
後書き
一応断っておきますが、
アイリーン・アウラーは
リュカさんの好みにドストライクです。
天使とラブソングを……?(第8幕)
前書き
リュカ伝には珍しい、
貴族階級の人が登場します。
(グランバニア:ナハト・クナイペ)
アイリーンSIDE
本日のステージも終わり、控え室まで戻ってきた。
ぶっ続けでは無いにしろ約4時間の演奏は疲れる。
喉も渇いたし、着替えて水飲んだらさっさと帰ろう。
(コンコン)「アイリーン……今いいかしら?」
帰り支度を考えながら控え室のソファーでぐったりしてると、ドアをノックして室内を確かめる声が聞こえた。
声の主は“キャロライン・リーパー”だ。私はキャロと呼んでいる。
「どうぞ」
そう答えると、怪訝そうな顔をしたウェイトレスが入ってきた。
何か問題でもあったのだろうか?
「如何したのキャロ?」
「疲れてるとこゴメンね」
彼女は申し訳なさそうに私を見ている。
彼女とは芸高校での同期生だ。
とは言え彼女はサックスフォンを専攻しており、授業が一緒になることは希である。
それでも一時期、私は盗作をしてるうえ高飛車だったから、友達も少なく事務的にでも接してくる学友は少なかった。
そんな中、彼女は数少ない例外に該当する。
友好的では無いにしろ、私に対して嫌悪感を抱かずに接してくれた学友だ。
専攻が違うというのも大きな理由だろうが、もっと違う理由も存在する。
それは……私が彼女から盗作しなかったからだ。
私はサックスだろうがバイオリンだろうが、良いと思った曲は誰彼構わず盗んできたが、彼女の曲は盗まなかった。彼女に気を遣った訳では無い……盗むに値しなかったのだ。
その所為か、心を入れ替え被害者に謝罪し回ってからは、ピエッサに次ぐ友好関係を築いている。
勿論、盗むに値しなかったというディスりは誰にも秘密だ。
この仕事を紹介してくれたのもキャロだから、絶対に彼女の作詞作曲力にケチを付ける訳にはいかない。
「何かトラブル? 私、何かやらかした?」
「ううん、貴女は何もやらかしてないのだけれど、客の一人がね……」
どちらかと言えば普段から自分の感情を隠さない彼女なのだが、何か言いにくそうに話してる。
「ステージが終わったら貴女に席まで来る様に言えって……そう言って来たオッサンが居るのよ」
「そ、そういうのは断ってもらわないと……」
どっかのエロ親父を想像し慌てて拒否る。
「勿論断ったわ。でも言うだけ言えって……来るか来ないかは貴女の判断に任せるって」
何よ……随分余裕ぶっこいてるわね。
相当の金持ちが、私を囲いたくて来たのかしら?
「あのね……そのオッサンね……来店からラストオーダーまで、店で一番安いオレンジジュースしか頼んでないの。それも2杯だけ……金は持ってなさそうよ」
余裕ある金持ちって訳じゃない!? じゃぁ知り合いかしら……?
「ちょっと気になるわね」
「そ、そう? ケチな客に関わっても碌な事なさそうだけど……」
私は好奇心から疲れた身体に鞭を打ち立ち上がる。
そして納得はしてないキャロの後に続いて店内へ舞い戻る。
客への対応を素早く出来る様に店員達が待機している箇所へキャロと一緒に訪れて、彼女が指さすテーブルに視線を向ける。
「あの金持って無さそうなオッサン」
そうキャロは教えてくれた。
確かに誰か男性客が座ってる様だが、薄暗くて顔までは見えない。
私の存在に気付いた客は、テーブルのキャンドルを手に取り、顔の位置まで持ち上げて自らをアピールする……
そしてそのアピールされた顔を見た私は「陛下!」と叫び、慌てて陛下の席……お席まで駆け出したのだ。
「へ、陛下……わ、私めに何かご用でしょうか!?」
「しー……まだお客さんも居るのだし、大きな声で話すのは迷惑だよ」
人差し指を立てて口に近付け、私の大声を窘める。
ハッとなって周囲を見渡したら、案の定全員の視線を集めてしまっていた。
きっとお忍びで来店されたのに、私はとんでもない失態をしてしまった。
「も、申し訳ございません」
「あはは……仕方ないよ、いきなり僕が現れちゃぁねぇ」
優しく私の失態を許してくださる陛下……
そしてエレガントな動作で対面する席に座る様ジェスチャーで促された。
私は席に座り、背筋を伸ばして陛下に対面する。
「まぁそんなに緊張しないで。これでも飲んでよ……まだ口を付けてないから。美味しいよこの店のオレンジジュース」
「いただきます」
実際喉が渇いてたし、緊張で水分を欲してたし、促されるまま陛下のオレンジジュースを頂いた。だが陛下がお口を付けてた方が私は嬉しかった。
「さて……余りダラダラと無駄話をしても仕方ないし、いきなりだけど本題に移らせてもらう」
「は、はい!」
また声が大きくなってしまった。
「いや……そんなに緊張するほど大した用件じゃないんだ。ただちょっと仕事を依頼したくって……」
「はい。お引き受け致します!」
私は即答……と言うか、半ば食い気味に返答した。
「まだ仕事内容を言って無いんだけど(笑)」
「いえ、陛下からのご依頼を断る気など毛頭ございません!」
今度は何とか自重して小声で答えることに成功した。
「う~ん……色々複雑だから返答は内容を聞いてからにして欲しい」
「す、すみません……」
「いや良いんだ。なんせ人目があるからこの場で仕事内容は話せないからね」
「この場で話せないのですか?」
私が周囲の注意を引きつけてしまっただからだろうか?
だとしたら私はとんでもない愚かな女だ。
心を入れ替え音楽に真っ直ぐ向き合う様にしても、生来の愚かさは無くならないのだろう。
「別にアイリーンちゃんが周囲の視線を引きつけたから話せない訳じゃなくて、元々この場では内容を伝えるつもりは無かったんだ。その証拠に、ここに来る前にピエッサちゃんに会って、明日学校が終わった後に君を連れて城へ来る様に伝えてあるからね。元々から仕事内容は明日話す予定だったんだよ」
「そ、そうでございましたか……」
ちょっとだけホッとした。
だがわざわざこの店までいらっしゃったのだ……多少は内容を話されるつもりだったのだろう。私はまた陛下の優しさに救われた。
「そ。だからホントは今日お店まで押しかける必要性は皆無だったんだけど、僕の我が儘で押しかけちゃった。あの僕のことを“オッサン”って呼んでるウェイトレスの娘には申し訳なかったけどね(笑)」
「あ、あの娘陛下にそんなこと言ったんですか!?」
「いや……直接は言って無いよ、流石に。でもほら、僕って冒険者だったこともあるじゃん。だから小声でも聞こえちゃうんだよねぇ(笑)」
「キツく叱っておきます!」
「お手柔らかにね。王様云々は兎も角、お客さんに対しては優しく笑顔で接してあげてって」
陛下は優しすぎるぅ。
「で、さぁ……詳しい仕事内容は言えないけど、多分きっと引き受けてくれるだろうと思ってるから、報酬を先払いしようかなって思ってるんだ。あぁ勿論、依頼を断っても“報酬返せ”とは言わないよ」
「そ、そんな……報酬なんて不要ですわ!」
「いやいや、報酬が支払われないと『仕事』とは言わないから、仕事の体をなす為にも報酬の支払いは絶対条件なんだ。今回の依頼内容にも関わってくることだからね」
「そ、そうなのですか……で、では」
「うん。でね……単純にお金で支払う報酬でも良いとは思うんだけど、不思議な事にお金って使うと無くなるじゃん」
い、いや……不思議では無いですけども……
「それよりも、この報酬でよりお金を儲けることが出来た方が良いと思ったんだよね」
「より儲けることが出来る……ですか?」
如何言うことだろうか?
「そう……曲を報酬としてプレゼントして、アイリーンちゃんの能力で世の中に広めて、序でにお金も儲けちゃえば完璧じゃんって事」
「……………きょ、曲を!!??」
「しー。まだ他にもお客さんが居るから……」
「す、すみません!」
あまりの事に、また大声を上げてしまった。
「ピエッサちゃんからも聞いたけど、もう盗作は止めて既存の曲を弾くことで実力を世に示してるみたいだけど、これは君にあげるから自作の曲として世に広めて構わないよ」
これはありがたく嬉しいことだが、はっきりと断らなければならない。
「陛下……とてもありがたく光栄な申し出ではありますが、私はもう二度と他者の曲を自作だと偽るのは致しません。仮に陛下より賜った曲を自作と偽り世に出したとしても、それを基準に私の才能を買って作曲を迫られる事になるでしょう。そうなった時、私には二匹目のドジョウすら生み出すことが出来ず、また苦しむことになります。どうか陛下の曲を私が奏でるというスタンスで世に広めさせて下さい」
「なるほど……そうだね。ゴメンね、無用どころか迷惑な申し出をして」
「と、とんでもございません! 本当に光栄なことでございますから!! こちらこそ申し訳ございません」
私の気持ちを理解してくれた陛下は……まさかの、頭を下げられ謝罪を告げられた。私も慌てて頭を下げ、陛下のお気持ちを踏みじにってしまったことを詫びた。
「う~ん……でも出来ればぁ……王様発進って事を最後まで隠して世に広めてほしい」
「さ、最後まで隠す?」
最後って如何言うことだろうか?
「うん。『王様が作った曲です』って発表するんじゃなくって、発表して『誰が作った曲?』って聞かれるまで制作者のことには触れないでいてほしい。『アイリーンちゃんが作った曲?』って聞かれても『いいえ』って答えるだけで、なるべく王様発進って事を隠してほしい」
「か、畏まりました……」
「納得はしてないね(笑)」
顔に出てたのだろうか……私は思わず顔を伏せる。
「これはピエッサちゃんに『ドラクエ序曲』をプレゼントした時にも言ったんだけどさ……その曲を理解した上で、評価を出してほしいんだ。王様が作ったから良い曲だって言われても……ねぇ」
そう言えばピエッサが言ってたわ。
「はい。納得も致しました」
「うん、よかった。じゃぁ君にプレゼント……じゃなくって、報酬として渡す曲なんだけど、タイトルは『春よ、来い』だ。明日、城に来るまでに楽譜を渡せる様にするけど、アイリーンちゃんの才能なら、この場で弾き語れば覚えれちゃうでしょ?」
「自信在ります!」
「即答(笑) 良い返事だ。じゃぁ早速ピアノを借りよう。オーナーはあの伯爵かな?」
陛下は私の即答に苦笑いすると立ち上がり、ピアノの使用許可を得る為にオーナーの“イチーム・ハバローネ伯”を指さす。流石伯爵閣下……陛下にお目にかかったことがあるらしい。
「ハバネロ伯……だったけ? ピアノ借りるよ!」
名前は忘れかけられてる。
そんなことは気にする素振りも見せず、陛下は優雅な動作でピアノの前に座った。ここからでは店の柱が邪魔で、陛下のお姿は見えない!
陛下のお姿は見えないが、何音か調律を確かめると弾き始めた。
そう……まさに芸術とはコレのことだと思う素晴らしい曲を!
アイリーンSIDE END
後書き
もし「春よ、来い」を知らない人の為に補足説明致します。
松任谷由実さんの楽曲です。
効いた事が無い方、ほぼ居ないと思いますが
名曲なので聞いてみて下さい。
次回はキャロライン・リーパー視点です。
天使とラブソングを……?(第9幕)
前書き
新年明けましておめでとうございます。
本年もリュカ伝共々 あちゃ を
宜しくお願い致します。
(グランバニア:ナハト・クナイペ)
キャロラインSIDE
突如“陛下?”と呼ばれてた客がピアノを弾きだした。
オーナーのハバローネ伯も先刻アイリーンが『陛下!』と大声で叫んだ為、何事かと思い事務所から出てきてた。
明るいステージに登ったオッサンは確かに王様らしかったが、念のためにオーナーにあのオッサンが本当に国王陛下なのか聞いてみる。
すると「お前は陛下のお顔を知らないのか!?」と怒られた。
だから思わず「知ってるけど、こんな店に来るとは思わないじゃん!」と言ってしまった。
「『こんな店』とは何だ!」と、また怒られたが「静かにしてくれ!」と同僚のウェイターである“ヴート・ジョロキュア”に注意される。陛下の奏でる曲を聴きたいらしい。
心の中で舌打ちをしたが、陛下の曲に耳を傾けると凄ー良い曲だった。
未だに何で陛下がこんな場所でピアノの弾き語りをしてるのかが解らないのだけど、もっと聞いていたくなる凄ー良い曲だ。
弾き終わりステージから降りるとこちら(主にオーナー)に手を振り終わったことを告げる。
すると数組残ってた客席から、盛大なスタンディングオベーションを受ける。
オーナーや他の店員も盛大な拍手を惜しまない……そうか、陛下の演奏を聴き終えたのだから拍手しなきゃ!
店内に拍手が響き渡ると、陛下はそれを抑える様に両手をかざして鳴り止ませる。
そして先程の席に戻り、またアイリーンと何か会話を始める。
さて……我々は如何したモノか?
「みんな……閉店時間を過ぎた。陛下以外のお客様に退店を促してくれ」
そうか、陛下は追い出せないけど、他の客は追い出せるんだ。
陛下のことが気になって出て行こうとしないから叩き出さないと!
・
・
・
・
・
陛下以外の客の追い出しに成功。
客らは口々に『いやぁ~陛下の生弾き語りが聴けるとは……残ってて正解でしたよ』と言いながら帰って行く。こっちとしては何時までも客が残ってて不満でしたよ。
残りの客が帰っていくのを見計らってたのか、陛下も席を立ち出口へと向かってくる。
半歩後ろには普段では見ることの出来ないくらいの輝かしい笑顔のアイリーン。
悔しいが美人だ。
「悪かったねハバネロ伯。閉店時間後まで居座っちゃって」
「いえいえ、とんでもございません」
名前を間違えられてるのだが訂正できないでいる(笑)
「じゃぁそういう訳なんで、明日学校が終わったらピエッサちゃんと城までお願い。その時先刻の曲の楽譜を渡すから」
「はい。了解致しました」
“先刻の曲の楽譜”って……
あの曲を貰ったの!?
いいなぁ~~~~~! 美人は得だなぁ~~~!
「じゃぁお会計お願いするよ。オレンジジュース2杯頼んだから、12Gだよね?」
「いいえ陛下! その12Gを受け取る訳にはまいりません」
そ、そうよね……王様から金取るなんて出来ないわよね。
「そういう訳にはいかないよ。ちゃんと税金払ってるんでしょ? だとしたら料金は支払わないと」
いやいや……王様からは……ねぇ。
「いえ、勘違いなさらないで下さい。私どもは真っ当な商売をしておりますので、当店で飲食をして頂ければ陛下からでも料金はお受け取り致します。ですが今回はそれに該当しません」
「……どゆこと?」
うん、どゆこと?
「陛下は先程、当店のステージにてお客様相手に演奏を披露されました。当店は飲食と共に音楽を提供する店……そのステージで曲を披露すれば、それに対して演奏料を支払わねばなりません。本来でしたらそれなりの額の出演料なのですが、今回は唐突に発生したステージ……普段よりも少額の出演料となります。その金額が偶然12Gでして、わざわざ陛下の懐からお金を取り出して頂く必要が無いという訳でございます」
「なるほど……粋だねぇ」
上手い言い訳ね。
恩着せがましくなく、金を取らないのね。
「貴族だと思って舐めてたよ、ハバネロ伯」
「あ、因みに私はハバローネ伯爵でございます」
おお、訂正した。
「うん、分かった。もう憶えた。ハバローネ伯爵ね」
どうやらちゃんと陛下に名前を覚えてもらえたらしく、オーナーは深々と頭を下げる。
それを見て“スッ”と手を上げ、頭を上げる様に指示する陛下は格好いい。誰だ、金持って無さそうなオッサンなんて言ったのは!?
そして陛下は格好いいまま、店を出て行った。
私たちは全員で頭を下げてお見送りをする。
……私だけワンテンポ頭を下げるのが遅れちゃったけど(テヘッ♥)
「……いやぁ~まさか、陛下が急に来店されるとは思わなかったよ。君が関わり合ったのは聞いてたけど、尋ねて来るとはね」
「私も驚きましたわ」
「聞いて良いかな、如何いった用件だったのかな?」
「内容はここでは話せないとの事でしたが、私へ仕事のオファーとの事です。詳しい内容は明日お城で伺わせてもらいますが……」
仕事のオファー!? す、凄い……天才で美人は得だなぁ!
「ふむ……では陛下がこの店で弾き語りを披露して頂いたのは、如何いった訳だい?」
「今回の仕事への報酬です」
ほ、報酬で陛下から曲を貰えるなんて……凄い……のか?
「あ、それよりキャロ! あんた気を付けなさいよ……陛下には聞こえてたからね。お客様の事を『オッサン』呼ばわりした事とか、『貧乏人』って言ってた事とか」
ゲッ……聞こえてたの!?
「君はそんな事をお客様に言ってるのか!?」
「あ、いや……聞こえてないと思って」
だって小声だったわよ!
「陛下はね、幼少の頃から危険な世界を冒険なさってて、あらゆる事柄へ対処できる様に鍛錬なさってるの。あんたの小声なんか、店の外からだって聞き取れるのよ!」
流石にそれはないだろう……
「それと……」
何だか突然雰囲気が変わる。
何だ?
「陛下の事を侮辱して……あんた殺すわよ!」
「ちょ……ま、待って! 知らなかったんだって。あのオッサ……男性が王様だって! 目が……目が怖い! ど、瞳孔開いてる……目が怖いって!」
「まぁまぁアイリーン、落ち着いて。陛下は(女性限定で)お優しい方だから怒ってはいなかったのだろ?」
「ええ、あまり叱るな……と」
「じゃぁもう許してあげなさい」
助かったぁ~……マジ殺されるかと思ったぁ~……オーナーに助けられた。
怖ー、この女マジ怖ー。
「キャロラインも、客商売なのだから思ってても口に出さない様に!」
「はい。以後気を付けます」
この女怖ーから。
「ふっ、バーカ」
私の後ろでヴートが私を馬鹿にする。
マジむかつくんですけどぉ~!
「さて……お客様も全て帰られたし、我々は閉店の為に後片付けをしよう。アイリーンはピアノの練習をしたいんじゃないのかな?」
「え……そうですね。ピアノ使わせてもらえないか、お願いしようと思ってましたわ」
「今日は特別に良いよ、使って。我々は君の演奏をBGMに、後片付けをするとしよう」
「ありがとうございますオーナー」
いーなぁー! 天才で美人で巨乳は得だなぁ!
王様から楽曲提供されて、その上後片付けをしなくて済むんだもん。
先刻私を脅した時とは打って変わって、ルンルン気分を振りまいてピアノへ向かうアイリーン。
私はモップ片手に床清掃だ。
だが彼女は流石としか言い様がない。
たった一回しか聴いてないのに、もう何十年と弾き語ってきたかの様に、先程陛下が披露された曲を奏でてる。
いーなぁー! 天才で美人で巨乳で王様に伝があって……乳くらいよこせ!
キャロラインSIDE END
後書き
新年早々新キャラばかりw
新キャラの名前の由来は唐辛子です。まぁ分かりますね。
キャロを気に入ってます。
天使とラブソングを……?(第10幕)
前書き
こんなに長い外伝エピソードは初めてだ。
第8幕か第9幕くらいで終わる想定だったんだけどなぁ……
(グランバニア:芸術高等学校)
ピエッサSIDE
あの娘が学校に来てない!
如何言う事よ!?
陛下からの呼び出しをすっぽかす気なの!?
朝、教室に来なかったので、休み時間の度に学校中を探し回った。
それなのに見つからない。
つまり登校してないのだ。
一人でお城に行く訳にもいかないので、放課後になりダッシュであの娘の家へ行こうと校門へ向かうと、そこには着飾ったアイリーンが私を待っていた。
何で私が待たれる側なのよ!?
「ちょっとアンタねぇ……学校サボるって如何言うつもり!?」
「解ってる。言いたい事は解ってるわ。でも訳があるのよ。途次話すから、行きましょう……遅刻する訳にはいかないわ」
学校をサボったくせに私を急かすアイリーン。
でも遅刻は出来ないので黙って従う。
この場にレッ君が居れば嫌味の一つも言うのだろうけど……
校門を出て数十メートルでバス停に着く。
“バス”とは“魔道人員輸送車”の事であり、以前アリアハン(この時はまだ国が出来る前だった)からの技術提供で作られた“魔道運搬車”通称“トラック”を陛下のアイデアで人を運べる物にした魔道車だ。
何故“バス”なのか、何故“トラック”なのかは分からないが、陛下が命名したのでこの国ではその名で通用する。
きっと深い意味があるのだろう。
「昨日アンタのところに陛下がわざわざ足を運ばれたと思うけど、大体の事情は解ってるわよね?」
「えぇまぁ……仕事の依頼があったんでしょ?」
「そうよ。まだ仕事と内容は秘密だったけど、私を名指しで仕事のオファーにいらっしゃったのよ!」
「学校サボったくせにテンション高いわね」
「テンションも高くなるわよ。聞いて驚きなさい……仕事の報酬の前渡しをして頂いたのよ!」
「わぁ~すご~い、オドロイター(棒読み)」
「ムカつくわねアンタ。まだ驚く所じゃ無いわよ!」
「じゃぁ早く結論を言いなさいよ」
「報酬の中身よ」
「大金だったの?」
「馬鹿じゃ無いのアンタ。陛下は何でも金で解決する様な俗なお方じゃないわ!」
「ま……まさか!?」
何となく予想できてきた。
するとアイリーンは、左肩から右脇へ斜めがけをして巨乳をアピールしてた鞄から数枚の楽譜を取り出して私に見せつけてくる。
この娘も陛下から曲を頂いたんだわ。
「この曲を陛下より賜ったのよー!」
「ヘー、オメデトウ(棒読み)」
丁度魔道人員輸送車停に辿り着き、アイリーンが見せびらかす楽譜を手に取り見る。
「これ……アンタの字よね?」
「そうよ。本物の楽譜は今日陛下から頂ける予定なの」
「つまり『楽譜書いてて夜更かししちゃって寝坊して学校サボった』って事?」
「違うわよ。陛下から曲を頂いちゃってテンション爆上げになり、バイト先の店で20~30分練習のつもりが、気付けば2時間! 鍵締めの為に残ってた店員に謝罪しつつ帰宅後も興奮で眠れず、気持ちを落ち着かせる為に楽譜を何枚も書きまくってたら窓の外から太陽の光が……無理して学校に行っても寝不足でボロボロ状態。そんな姿を陛下にお目にかける訳にはいかないので、今日はサボる事に! 如何、理解できた?」
「理解出来ました。納得はしてないけど……」
はぁ……と溜息を吐いて楽譜に視線を移す。
解っていた事だが、それでも愕然とする。
多分1回か2回だろうが、聞いただけで楽譜まで起こせる彼女の能力と、この『春よ、来い』というタイトルの楽曲の素晴らしさに!
陛下とアイリーン……二人の天才に如何足掻いても辿り着けない凡人の存在……
「あ、魔道人員輸送車が来たわよ。アレに乗るんでしょ?」
「え……あ、うん」
はぁ……溜息しか出ない。
「ちょっと如何したの溜息ばかりして?」
バスに乗り後方の二人がけ席に並んで腰を下ろすと、アイリーンが問うてきた。
察して欲しい。
「二人が天才過ぎて、凡人は落ち込むしかないのよ」
「そんなことか。確かに私は音楽に関しては天才よ! そこは謙遜なんてしないわ。でもアンタだって私に無い才能があるじゃない。作詞作曲の才能が! 自分を凡人なんて卑下しない」
「ま、まぁ……確かに」
「それに目線を広く持ちなさいよ。確かに私は音楽だけは天才よ。でも陛下なんて如何よ!?」
「ど、如何と言われましてもぉ……」
「外を見てみなさい。魔道灯の魔道石を交換してる係の人たちがいるわ」
確かに魔道灯の魔道石を交換してる人が見える。
因みに魔道灯とは、陛下がアイデアを出され魔技高校の生徒らが中心となって技術を完成させた発明品だ。
魔道石も同じ……この国の魔法機械技術のエネルギー供給装置だ。
「遠くに見える列車も、ここからじゃ見えないけど海上を移動する蒸気船も、私たちが通う高等学校のみならず、その前身の義務教育も、全部陛下のアイデアで具現化されたものたちよ!」
「そ、そうね……」
「天才すぎるでしょ!? それでいて世界最強の強さ! そして優しく絶世のイケメン! 欠点があるのなら教えて欲しいわ!?」
「……宰相閣下は『性格が悪い』って言ってたわ」
「あのガキ、ぶっ殺すぞ!」
「気持ちは解るけど、私のスポンサーだから止めて」
この国では国家のナンバー2の悪口を面と向かって言っても、ほぼ罪にならない。
「まぁ兎も角……陛下に比べたら私もアンタも変わりないって事よ」
「比べる相手が間違ってる気がするけど、でも少しは気分が軽くなったわ」
そう言えば……
「慰めて貰ったお礼に、本当に数日前に解禁になった情報を教えてあげるわ」
「何々、陛下の事?」
「陛下の事というか……先刻も話題になった陛下のアイデアの事」
「何かまた凄い発明品でも?」
察しが良いわね。
「魔道力を使った新しい音響機器の開発を指示されたのよ。根幹のアイデアは陛下発よ」
「流石陛下だわぁ~……ところで音響機器って?」
当然の疑問ね。“新しい”と言っても、古い物がある訳では無い。
「アリアハンが作ったMHって通信機器が、王家の方々を中心に数台存在するんだけど、それは遠く離れた場所にいても、瞬時に姿と声を相互通信して会話が出来るアイテムなの」
「凄い……でもそれは陛下の発明では無いのよね」
「そうだけど、アリアハンの新王マスタードラゴン様に、アイデアを言って作らせたらしいわよ」
「やっぱり陛下のアイデアなのね! いやぁ~流石陛下……超天才!」
陛下の事になるとこの娘の性格が変わる……
「んで、そのMHを元にして音響機器を開発する為、魔技高校の優秀な生徒を中心に、開発チームが結成されたの」
「はぁ~学生だけを集めたんだ?」
「そ。未来への技術力を向上させる為に、伸び代がある学生をだけで構成したらしいわ」
「流石は陛下のお考え! 奥が深いわぁ~……ところで、何でアンタがそんなに詳しいのよ!? 彼氏からの情報で、国家機密に当たる事も聞き出しちゃっての?」
「残念。レッ君からでは無いわ。この情報に関してはレッ君とは何も話してない。……って言うか、国家機密情報を私に話したら別れてやる! そんな情報貰って面倒事に巻き込まれたくないわ!」
「はいはい。惚気はいいから、話の続きを……」
「そ、そうね。結論から言っちゃうと、その開発チームに“音響の専門家”として私が召集されたの」
「えぇー!! アンタばっかりズルい! 私も陛下のお役に立ちたいのにぃ!!!」
「まだアンタが私から『ドラクエ序曲』を盗む前の事よ……直ぐに使える芸高校の音楽専攻者が私しか居なかったんでしょ」
「それでも羨ますぃーわ」
「兎も角……そのチームで3つの音響機器を開発したの」
「3つも?」
「うん。集音装置の“マイク”。音声増幅装置の“アンプ”。音声拡散装置の“スピーカー”の3つ。この3つで1セットよ」
「ほほう……如何いった場面で使うのかね?」
「まぁ陛下的に開発させた一番の目的は、今度行われる武闘大会の為じゃないかしら?」
「と言うと?」
「建設中のスタジアムを見に行った事ある?」
「直接近くまでは行ってないが、遠目には見た事があるわ」
「じゃぁ解ると思うけど、かなり大きいわよね!」
「そうね。この国じゃ、お城の次に大きいわね」
「あれだけ大きい建物の中で、武闘大会などが催されるの。とてもじゃないけど地声じゃ隅々まで届かないわ……司会やレフリィーだって居るでしょうから」
「なるほどね……だから3つで1セットなのね。1つに纏めてない訳が解ったわ」
「実際に使ってみれば解るけど、感動するわよ……この装置の凄さに!」
「ふーん……凄そうね。内部の仕組みは如何なってんの?」
うっ……な、内部の仕組みと言われましても。
「……全然解んない」
「……アンタ開発側でしょ?」
そ、そうなんだけど……
「開発に携わったといっても、音は空気を振動させる事で発生するとか、波長があるとかそんなフワッとした情報を逐次供給してただけで……」
「肝心の装置開発は、魔技高校の生徒らだけで進められた……と?」
項垂れながら肯定する。
「ホント私なんか居なくても開発できたと思う……」
「馬鹿言わないの。陛下がアンタを招集したのよ! 役に立つか如何かじゃなくて必要だったのよ。直ぐ自分を卑下するの止めなさい」
「う、うん。そ、そう言えば……招集された魔技高校の生徒で凄い人が居たわ!」
「凄い人とな?」
「うん。超可愛い女の子なんだけど、超天才なの。ラインハットに実家があるそうなんだけど、飛び級のうえに海外留学。お淑やかで優しいんだけど、カリスマ的なリーダーシップ!」
「リーダーシップってことは開発チームのリーダーなの?」
「別に明確に決めてはなかったんだけど、開発を進めていくうちに彼女が実質のリーダーになってたわ」
「しかも美少女って凄いわね。私とどっちが美人?」
「断然向こう!」
「即答でムカつくわね」
「外見だけの評価で言えばマリーちゃんと同等の美少女よ」
「……あの娘レベルだったら負けを認めるわ、ムカつくけど」
アイリーンも美人だけど、何かマリーちゃん等は次元が違うのよねぇ……
「あ……そろそろ城門前に着くわ」
「そうね。私、お城に入るの初めてよ」
心なしか緊張で声が震えてる様に聞こえた。
「中は本当に広いから迷子にならない様にしてね」
「そ、そうするわ……ところで、緊張を紛らわす為に聞きたいんだけど、先刻話題に出た天才美少女の名前は? もし会えるなら一度見てみたいわ」
以外にミーハーね。
「ラインハット国籍だからPNだけだけど、リューナちゃんって言うのよ」
ピエッサSIDE END
後書き
物語的に影が薄いリューナちゃんですが、
裏では色々お父さんの為に活躍中。
天使とラブソングを……?(第11幕)
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
魔道人員輸送車を降り、城内へ入る。
私は顔パスで王家のプライベートエリアまで入れるが、陛下はアイリーンの事を警備の兵に伝えてくれてたらしく、彼女も問題なく奥へと進む事が出来た。
目的の娯楽室は、グランバニア城3階……王家のプライベートエリアの奥で、城門からかなり遠い。
宰相閣下から聞いた話では、元々この城に娯楽室は無かったらしい。だが陛下のピアノ演奏姿を見たい王妃陛下が、珍しく我が儘を言って作らせたそうだ。私でも我が儘を言うお方じゃないと知ってるので、本当に珍しい事だ。
そのような事等が理由なのか、兎も角遠い。
そして防音対策はバッチリだ。
娯楽室と言う名前だが、ほぼ音楽室なのも頷ける。
娯楽室へと続く長い廊下には、宮廷画家の方々が描いた陛下や王妃陛下、そして一応宰相閣下等とかの絵が飾られている。プロが書くだけあって本当に上手いと思うが、宰相閣下の絵だけ美化が入ってる気がするのは何故だろう?
因みに陛下の絵の前に来る度にアイリーンが立ち止まるから、中々目的地に近付けない。
さて、やっと娯楽室に到着した。普段だったら城門から10分位なのだが、今日は“何故だが”20分近くかかった。
宰相閣下の絵の前を通り過ぎる瞬間、ボソッと『この絵に需要があんの?』と聞こえた気がしたが、気のせいとして無視しよう。
さて……娯楽室前に着いたが、この部屋は防音対策の為、特殊な造りになっている。
と言っても大した事では無い。芸高校の音楽室も全て同じ造りになってる。簡単に言えば二重扉だ。
最初の扉(外扉と言う)を入ると、3メートルくらいの短い廊下があり、その先に次の扉(内扉と言う)がある。
外扉も内扉もそれなりに防音効果はあるが、二重にする事によって娯楽室内の音は完全に漏れる事は無くなる。
ただ先程も言ったが、それぞれの扉の防音効果はそれなりなので、室内で大きな音で演奏してれば外扉を通った時点で仄かに室内の音が聞こえてくる。
そして何故だか今日は室内からバイオリンの音が聞こえてきた。
バイオリンなんか今まで無かったし、誰が演奏してるのか気になって慌てて内扉を開けて中に入る……と、そこには陛下が古びたバイオリンを辿々しく弾いていた。
流石の陛下もバイオリンは苦手なのか、お世辞にも上手とは言い難い。
「……お? いらっしゃい。早かったね」
「も、申し訳ございません……お待たせしてしまった様で!」
私達の入室に気付いた陛下は、演奏の手を止めて眩しいくらいの笑顔で我々を向かい入れてくれた。
「待ってないよ。昨日手に入れたバイオリンの練習をしてただけだから」
「“昨日手に入れた”と言う事は、陛下はバイオリンを弾くのはまだ初心者ですか?」
私も気になった一言だったが、アイリーンが代わりに聞いてくれた。
「うん。今朝方に君らの学校へ行ってバイオリンの先生に教科書を貰って、午前中は謁見しながら教科書を読んで、午後から仕事サボって練習してた。ゴメンね、耳障りな音を聞かせちゃって」
「とんでもございません。何でしたら練習のお手伝いを致しますよ」
「お! アイリーンちゃんはバイオリンも出来るんだ?」
「作詞作曲以外なら音楽関連は天才ですから(笑)」
言うなぁ……陛下を前にしても。
「どっかの宰相みたいな物言いだけど、その時が来たらお願いするよ」
「是非♥」
何処かの宰相って何所の宰相だ? 知り合いっぽいなぁ……アイリーン、解ってるのかな?
「それで陛下。昨日バイオリンを入手されたようですが、今回のアイリーンへのオファーと関係があるのですか?」
「ああ……う~ん……直接は関係ない。まぁ序でだから仕事の内容を話すね」
「あ、でしたら私は席を外した方が良いのでは?」
「いや、これも序でだからピエッサちゃんも聞いといてよ。今後の為の注意事項もあるから」
出来れば面倒事には関わりたくないのだが……
・
・
・
「……と言う訳で、ラインハット王国の田舎にある村の教会を復興する手伝いをアイリーンちゃんにお願いしたい」
「なるほど……内政干渉になるかもしれないから、グランバニア王家は直接関わってない事にするのですね」
「うん。それに伴い、今後注意して欲しい事がある」
「「今後?」」
陛下のお言葉に台詞をハモらせる私達。
「ちょっと待ってね」
そう言うと陛下は懐から瓶底の様な眼鏡と付けひげを取り出し、それらを整ったお顔に装着した。 ……変相……かしら?
「この状態の僕を見たら『陛下』とか『王様』とか『リュカ様』とか呼んじゃダメね。後ろ姿だけ見て“陛下”とか呼んじゃって、正面から見たらコレだったら、速攻で人違いだった事を大声でアピールして。この男“プーサン”って名前なんだけど、グランバニア国王と混同する事は最大級の不敬罪になるからホント注意してね」
「なるほど……王家が関わってないのですから、プーサンさんが陛下で在る訳が無いですね」
「そういう事」
あぁ……私でも理解出来た。
「そう言えば、昨日バイオリンを入手なさった経緯が解らないままなのですが?」
「うん、それ! 実は愚痴を聞いて欲しかったのはそこなのですよ!」
アイリーンが興味本位なのか、質問したら愚痴を聞く事になった。
「仕事内容の説明でも言ったけど、昨日のうちにピアノが欲しかった訳さ。そこに居たラインハットの王にも何とかならないか聞いたけど、アイツってばヘッポコだからさ……全然役に立たなかった訳さ!」
「は、はぁ……」
「それは何というか……」
他国の王様をヘッポコと評され言葉に詰まる私達。
「でねぇ……本当は頼りたく無かったんだけど、背に腹は代えられないって事で、ハゲマンに頼る事にしたの」
「ハ、ハゲマン……?」
知らない人名が出てきた。
ピエッサSIDE END
後書き
宰相閣下の描かれた絵って
制作者は誰だろう?
天使とラブソングを……?(第12幕)
前書き
リュカ伝の世界では
1ゴールド = 100円 です。
1シルバー = 1円 です。
因みにシルバーは原作には無い通貨単位です。
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
「でねぇ……本当は頼りたく無かったんだけど、背に腹は代えられないって事で、ハゲマンに頼る事にしたの」
「ハ、ハゲマン……?」
知らない人名が出てきた。
「あぁそうか、知らないよね。ハゲマンってのはね、ハゲのルドマン。つまりサラボナの商人の事。会う事があったら気軽にハゲマンって呼んであげてね」
いやいやいや……サラボナ通商連合のトップになんて会う事は無いでしょうし、会えても呼べませんよ!
「それでね、HHを荷物持ちに従えて、ハゲマンのとこに行ったんだ。で、娘の一人のアドバイス通り、素直に現状を伝え、素直にピアノを格安で譲って貰おうとしたのさ……持って来た手斧の柄でハゲマンの頭頂部をペシペシしながら」
何で手斧を持ってるの!?
「何故か手斧の事を指摘されたけど『うるせぇ』って言って交渉を進めたんだ。そしたらサラボナにあるハゲマンの倉庫に通されて、その奥に放置されてたオンボロのアップライトピアノを紹介されたんだ」
手斧の件を『うるせぇ』で済ませられるの!?
「それでハゲマンが『このピアノはかなり古いし、ワシとお前の仲という事で、格安500Gでいいぞ』って言ってきたんだ」
「ご、500G! ピアノとして使えるのなら、かなりお安いですね」
「そうなの? ピアノの相場なんて知らないからよく分からないなぁ……まぁでも、ピアノとしては使用できたし、調律も直ぐに済んだし、物としては問題なかったね……物はね!」
「ど、如何かなさいましたか?」
「うん。まぁ奴が500Gって言うから支払おうと思ってポケットを探ったら、昨日は19Gしか持って無かったんだ」
「……全然足りませんね」
「うん。だから素直に言ったよ『19Gしか持って無いから19Gで売れハゲ!』って。素直でしょ」
きっと娘さんの一人は、こういう意味で素直って言葉を使ったんじゃ無いと思う。
「そしたらさぁ、あのハゲ『何所の世界に19Gで売ってるピアノがあると思ってるんだ!』って頭を茹でタコみたいに真っ赤にして怒るんだ。ピアノの相場なんか知らねーっての」
「は……はぁ……」
「もうホント……あまりにもギャアギャア言うから持ってた手斧を、後頭部のオシャレなアクセサリーとして突き刺してやろうかと思ったほどだよ!」
それは止めてあげて下さい!
「んで、2.30分の口論の末、HHが仲裁に入った事で『分かった! 300Gまで下げてやる!』ってハゲマンに言わせたんだ」
「凄い……更に40%オフ!」
もう殆ど無料同然じゃない!
凄まじい値切り術に、アイリーンも驚きの一言を放った。
このエピソードの何所に愚痴る要素が含まれるのだろうか?
「そう、更に40%オフ。 ……って事はだよ、その前に上から目線で『ワシとお前の仲という事で』って言って500Gだった価格は、素直に事情を話した我々から200Gもぼったくろうとしてたって事じゃん? も~信じらんないね! この300Gだって盛ってる可能性がある!」
いやいやいや!
流石に、使用できるレベルのアップライトピアノが300Gってのは売り手側の赤字価格だと思うわ。
「だからさ、『即刻現金払いの19Gじゃなきゃ買ってやらん!』っていったら『立場が逆だろう』とか訳分からない事言うし、更には『結婚式の費用はワシ持ちだぞ』とか『天空の盾の件だって在るだろ』とか今更身勝手な事を言ってくるし、遂には『リュカ……流石に無理があるぞ』って味方だと思ってたHHが寝返るし、だから傍にあったこのバイオリンを手にして『コレをおまけに付けろ』って言って二人ともぶん殴ったんだ」
ぶん殴る必要性!?
「そ、それでバイオリンを入手されたんですね?」
カオスな事情説明を終わらせようと、話題をバイオリンへ移そうと試みる。
「うん。小一時間の口論と暴行の末にね」
結局カオス説明は続いた。
「陛下からぼったくろうとするから悪いんですわ! 良い教訓になったと思います」
イカン……このカオス説明をカオスと思ってない女がここに一人居た。
断言しよう……この女は、あっちの世界の住人だ。
「うん。そういう訳でバイオリンも手に入ったから、勝手に使って良いからね」
そう言うと陛下は、またバイオリンを構えて今朝芸高校から入手してきたテキストに視線を降ろして奏だ。
先刻も思ったが、まだ拙い感じがする。
今奏でてる曲は、芸高校の音楽科で最初に習う基礎中の基礎を盛り込んだ楽曲だ。
曲は“アッチャー・ウヌヴォーレン”と言う名前の作曲者で、曲名は“歩く人”と言う曲だ。
本当にコード進行とか何から何まで基本しか使用してない曲で、慣れてアレンジを加えようとしてもパッとしない曲である。
この作曲者の他の曲も探した事はあるのだが、見つける事は出来ず……
凡曲しか作れないのだろうと推測される。
あまりにも凡曲すぎて、陛下が奏でてもパッとしないであろう。
「陛下……ちょっとお借りしても良いですか?」
「あぁ……うん、どうぞ。自由に使って」
陛下の拙いバイオリン技術がもどかしく感じたのか、バイオリンを借りるアイリーン。
「ここのコード進行は素早くした方が良いですよ……こんな風に」
そう言って受け取ったバイオリンを構えて、この凡曲を弾くアイリーン。
だがその曲は美しく心揺さぶる名曲に聞こえた。
「如何です?」
「いや~流石! 上手いもんだ」
訂正しよう……天才が奏でれば、如何な凡曲も名曲となり得る。
「でも本当に状態が良いですね、このバイオリン……」
弾いてたバイオリンをクルクル回転させ、状態を確認してる。すると……
「ん? ……っ!!」
何やら裏面を見て驚いているアイリーン。何だろうか?
「ピ、ピエッサ……こ、これ!」
傷でも気になったのだろうか、一点を指さして私に見せてくる。
そこにはバイオリンの制作者名が刻まれており、その名は“ストラディバリウム”と……
「ス、ストラディバリウム!!!???」
「え、なにそれ。バリウム? 何か不味そう」
え? 知らないの!?
「バリウムじゃなくてストラディバリウムです! 弦楽器の名工として名の通った人物です! その名工の作品なんですよ!」
「ふ~ん」
興味なさげ!
「ストラディバリウムの作品だったら、どんなに状態が悪くても2000G……いえ、3000Gは下らないと思われます!」
「ふ~ん」
何で響かないの!?
「如何な名工が作ったとしても、結局道具は道具だ。音楽の善し悪しは、それを奏でる者による」
う゛……た、確かに先刻アイリーンが弾いた“歩く人”は名曲に聞こえた。
「まぁただ……ハゲマンを大赤字にしてやったんなら最高だね(笑)」
「大赤字だと思いますわ陛下。ピアノの価値を差し引いても、このバイオリンだけで数千Gですから(笑)」
な、何で他人の大赤字を笑顔で喜べるのよ、この二人?
ピエッサSIDE END
後書き
ストラディバリウスじゃないよ。
間違えないでね。
天使とラブソングを……?(第13幕)
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
「まぁただ……ハゲマンを大赤字にしてやったんなら最高だね(笑)」
「大赤字だと思いますわ陛下。ピアノの価値を差し引いても、このバイオリンだけで数千Gですから(笑)」
な、何で他人の大赤字を笑顔で喜べるのよ、この二人?
「よし! この話はザマァって事で終わりにして、昨日約束した楽譜を今のうちに渡しておくね」
眩しいくらいの満面の笑みで話を終わらせた陛下は、傍らに置いてあった封筒を手にし、アイリーンへと手渡した。
「“春よ、来い”の楽譜ですね♥」
大事そうに封筒を受け取り中を確認。
私も軽く覗き込む様に中身を見ると、そこには陛下の綺麗な字で『春よ、来い』と書いてある楽譜が……羨ましい。
「ちょっとアイリーン。もう楽譜はあるんだから、それは私に頂戴よ」
「馬鹿じゃないのアンタ! 陛下より頂いた楽譜は、もう楽譜としての価値を超越して芸術品へと昇華してるのよ。持ち帰ったら額に入れて飾るのよ!」
「そんな大袈裟な(笑)」
「大袈裟じゃぁありませんわ! だってもう、楽譜は自分で書いたヤツがありますし!」
「じゃぁやっぱり陛下から頂いた楽譜要らないじゃん。私に頂戴よ」
「楽譜が欲しいのなら私が書いたヤツをやるわ! もうこちとら楽譜無しでも弾けるんじゃ!」
半ギレ気味に自分で書いた楽譜を私に押しつける。
「仲が良いなぁ(笑)」
そんな遣り取りを見て陛下が微笑む。何か嬉しい。
「でも流石だなぁ。まだ丸一日経過してないのに、もうマスターしちゃったんだ。昨日あの後お店で練習したの?」
「は、はい……ちょっとだけ(照)」
「ちょっとどころじゃないでしょう。先刻アンタ私に『2時間練習した』って言ったわよ」
「2時間かぁ……ハバローネ伯は意外と心が広いなぁ」
「2~30分のつもりが、熱中してしまって……」
モジモジとしおらしくするアイリーン……ちょっとイラッとする(笑)
「じゃぁ早速聴かせてもらおうかな、練習の成果を」
「はい。喜んで♥」
陛下に促されピアノに向かうアイリーン。陛下に貰った楽譜を大事そうに仕舞い込んで……って、楽譜使わんのかい!!
・
・
・
「いやぁ~流石だね。曲を教えてからまだ半日しか経ってないのに、もう完璧に自分の曲にしちゃってるね」
「そ、それしか才能が無いモノで……」
謙遜……とは違うわね。
「自信を持って良い才能だよ。僕なんか、ひたすら練習しないと上手くなれない。先刻のバイオリンで解るでしょ?」
「そ、そんな事ありませんわ! 陛下は多分野において凄い才能をお持ちですわ! 勿論音楽関係もです」
「その通りです陛下! それに練習する事こそ、最も大切だと私は思います!」
「そうだねぇ……ピエッサちゃんの傍には、練習しない奴が居るもんねぇ。はぁ~(溜息)」
ん、拙い話題だったかも。
確かに頭に思い浮かんだのはマリーちゃんだけど。
「練習しない……って、あのマリーって娘? 確かに、何時まで経っても下手よね、あの娘」
「そ、そんな事ない……事も無い(小声)……わよ。マ、マリーちゃんはマリーちゃんなりに……その……あの……い、良い娘なの!」
「いやいやピエッサちゃん。良いよ無理しなくて。アイツは根性がねじ曲がってるからね」
「……………う~~~~っ(汗)」
否定できない……もう話題を変えたい!
「……陛下は彼女の事を詳しく存じ上げてるのですか? ま、まさか……妾さんのお一人……!?」
「いやいやいや、違う違う違う! アイツに手を出したら、リュリュがブチ切れる。それに性格面が僕の好みとは真逆!」
「そ、そうですか……失礼な事を言ってしまい申し訳ございません」
まぁ陛下の反応としては、そうなるわよねぇ……
まさか『娘だ』なんて言えないだろうし。
「アイツはね、僕とビアンカの娘なんだ」
「「……え!?」」
言っちゃうのぉぉぉぉぉ!?
「そ、そうだったのですか! わ、私ってば姫様に対して失礼な言動を!!」
ですよね、ですよねぇ!
性格がアレでも姫様になるんですもんね!
「あぁ、そこは気にしないで良いよ。僕とビアンカの娘ってだけで、王位継承権は無いからお姫様扱いしなくていいよ。だから『下手は下手』・『音痴は音痴』とハッキリ言ってくれた方が助かる。まぁでも、テロとかの対象にならないように、わざわざ僕の娘である事は口外しないでね……それで人気が出て、それを実力だと勘違いされても嫌だから」
「解りました。この件は口外致しません……ただ気になるので伺いますが、宰相閣下は存じ上げてるのですか?」
「勿論存じてるわアイリーン。何せその事を前提に私を関わらせたんですから」
「まぁそういう事。仕事上グランバニア王家に関わらざるを得ない連中で、地位の高い者はほぼほぼ知ってるよ。地位が低くても関わってる仕事内容の所為で知ってる奴も居る。何所までの人間が知ってるのかを説明するのは面倒臭いから、基本的にあの娘は王家とは関係ないとしておいて……性格的に王家の恥だから」
「了解致しました……陛下も大変ですね」
「うん……子育てって難しいよ。多くは望んで無いんだけど、強烈に面倒な性格の娘が二人も居る。どうしてこうなったのか……?」
え゛……もう一人居るんですか、あんなのが?
「あ、そうだピエッサちゃん。今回の件……ラインハットの田舎の件の事だけど……アイツには秘密ね。手伝う気も能力も無いクセに、カタチだけ関わって自分の名前を広めようとするから」
「わ、解りました……音響装置の時と同じですね」
「おや? アイリーンちゃんの前で言い切っちゃうって事は、彼女には言っちゃったね」
「あ゛……も、申し訳ございません!」
や、やばいぃ……世間には秘密の案件だったのに!
「いや、良いって……大丈夫。もう今更バレてもマリーには関わる事が出来ないから、全く以て問題ないよ。来週には世間に広めるつもりだし」
よ、良かった……ギリギリセーフで!
「じゃぁ序でに、また新しい物を作ってもらおうと思ってたんだ。次回はアイリーンちゃんにも協力してもらおうと思うから、今の内に概要を言っちゃうね」
「ま、また新しい発明ですか? 既に思い浮かんでたなんて……流石です!」
「いや……思い浮かんでたと言うか……まぁいいや。えっとね、今回作った音響装置と既に存在するアコースティ……ゲフンゲフン……ギターとベースを合体させようと思ってるんだ」
「合体させる?」
「うん。名付けてエレキ……じゃぁなくって“マジカルギター”と“マジカルベース”だ!」
「マジカル……なるほど! 魔法技術と楽器の融合ですね!」
今ので理解出来たの!?
「うん、音楽の幅が広がると思うんだ」
「素敵ですわ陛下! 私に出来る事があれば、何なりとお申し付け下さいませ」
わ、私も協力するつもりだけど、まだ理解が追い付いてない。
「まぁ二人には、開発の手伝いより、世間に広める手伝いをお願いしようと思ってるよ」
「……と言いますと?」
あ、流石のアイリーンにも理解が追い付いてないみたい。
「まあまあ、そう焦らず。その時が来たら詳しく説明するよ……それよりもラインハットの件を先に片付けよう」
「そ、そうですね……まずは一つずつですね」
「さぁて……じゃぁ今回の件について更に話を進めよう」
そう言うと陛下は傍らに置いてあったバインダーを手にし、中から楽譜を出して私達に手渡して下さった。
「今回サンタローズの聖歌隊に教える楽曲だ」
そう言われ私もアイリーンも楽譜に目を落とす。
そこに書かれていた曲名は……
『Hail Holy Queen』
ピエッサSIDE END
後書き
次話、ストーリーが脇道に脱線します。
なので次回は「第14幕」じゃなく
「第13.5幕」です。
天使とラブソングを……?「おまけ」(第13.5幕)
前書き
多分、皆さん気になってると思うんだ。
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
私はまだ余韻に浸っている。
サンタロースという村の教会を建て直す為の楽曲『Hail Holy Queen』は素敵だった。
最初は厳かな聖歌として始まりつつ、途中から曲調がポップになり人々の心を鷲掴みにする。
そんな名曲に心を奪われてる状態だが、私には向かわなければならない場所がある。
先程サンタローズへ出立する直前の陛下に言われ思い出したのだ。
昨晩のデート代として発行した領収書の精算だ。
陛下に『そう言えば領収書は貰った?』と聞かれ、ハッと思い出し慌てて数枚の領収書を鞄から取り出しお目にかけた。
よく考えたら陛下にお見せする必要は無かったのかもしれないが、慌ててた為差し出してしまった。
そして『うわぁ~……随分と飲み食いしたねぇ。こっちなんかは高級ホテルの領収書じゃん。領収書貰ってこいとは言ったけど、際限なく贅沢して良いとは言って無いんだけどね(笑)』と言われてしまった。
なので『や、やはり拙かったですよね……』と落ち込んでしまったのだが、陛下は『いや、僕の予想を超えるはっちゃけっぷりに驚いただけで、税金じゃないから幾らでも贅沢して構わないよ』と満面の笑顔でGOサインを頂けた。
そして最後に『もしアイツがグズったら今だけ使える魔法の言葉がある。それを使うと良いよ』と隠し技まで伝授して貰った。
言葉の意味は解らないけど、払ってくれ無さそうになったら使おう。
なので今から私のスポンサー殿に領収書の精算をしてもらいに行く。
ピエッサSIDE END
(グランバニア城・宰相執務室)
ユニSIDE
(コンコン)「失礼します」
珍しい事もあるもんだ。
普段ならこちらから呼び出さない限り、政務に関わる場所へは訪れないピエッサさんが、自ら宰相閣下の目の前までやって来た。
「如何した……何かマリーがやらかしたか?」
悲しい事に避けてる彼女からやって来ると、マリーちゃんが何かやらかしたと推測してしまう……日頃の行いって大切なのよ。
「いえマリーちゃんは相変わらずですが、今日は別件で来ました。この領収書の精算をお願い致します」
そう言って手に持ってた数枚の紙を差し出した。
あれは領収書だったのね。
「何だコレは? 領収書ぉ? しかもデート代だぁ!?」
え……個人のデート代なのに領収書まで貰って、しかも精算するって如何言うつもり!?
あの常識的なピエッサさんとは思えないけど……
「お前ふざけてんの? 税金何だと思ってんの!? お前等が乳繰り合う為に国民から徴収してるんじゃねーぞ!」
「何か勘違いされておりますが、私は公務員ではございません。スポンサーであるウルフ・アレフガルド氏に個人的に雇われた民間人です」
なるほど。……背後にリュカ様の影がチラチラ(笑)
「くっ……あのオッサンに悪知恵を付けられやがって!」
「あのオッサンが、どのオッサンを指してるのかは解りませんが、昨晩陛下から命令を受けました『デート代をスポンサーに請求する様に』と」
「あ゛ぁ? あのオッサン共々舐めた事言いやがって!」
そう言うと差し出された領収書を奪い取り目を通す。
本当に払うのかな?
「高級レストラン“マーレ・パラシオ”で1250Gだぁ? どんだけ食ってんだ!」
「ボトルで頼んだワインが……高かったのかしら?」
値段を見ないで頼んでる(笑)
「次は……これまた高級なナイトバー“ヘブン・ナイト”で……840G!? レストランで高いワイン飲んでんだろが! 何でまたこんなに飲んでんだよ!」
「美味しいお酒ってスルスルと入るんですよ」
以外に酒豪。
「最後にこれは……ホテル代か? 二人とも地元に住んでるのに、わざわざホテル使ったのか!? しかもここ超高級ホテル“王国ホテル”じゃねーか! え? スイート宿泊費2100G! 家帰って交尾しろや!」
「お酒が回って上手く歩けなかったモノで……帰れませんでした」
いやいや……
マーレ・パラシオとヘブン・ナイトは共に港地区で近いから解るけど、王国ホテルはグランバニア城に近いから、レクルト閣下の家に行くのと大差ないわよ(大笑)
「合計4190Gだと! 払う訳ねーだろ馬鹿!」
「……してやられた罰金」
おおっとぉ~……リュカ様は必殺技も与えていたわ!
力なく椅子にもたれ天井を仰ぐ閣下。
ざまぁ……じゃなくて、ご愁傷様です(クスクス)
ホント……日頃の行いって大切だわぁ。
「おら、持ってけ!」
がっくりしつつも懐から財布を取り出し100G札の束を叩き付ける。
何だかんだ持ってるから凄い。
「あの……お釣り無いのでピッタリ欲しいのですが?」
「うるせー、釣りなんか要らねー! それ持って帰れ! 仕事しろ馬鹿!」
罵声を浴びせられながらも、表情一つ動かさずお金を受け取って退出するピエッサさん。
「おい、レクルトを呼べ! 今すぐ!!」
彼女が出て行ったのを見計らうと、部下の一人にレクルト閣下を呼ぶ様に命令する。
彼女には出来なかったから彼氏の方に八つ当たりするのかしら?
・
・
・
「呼んだ?」
20分後、レクルト閣下がやって来た。
臆する事なく堂々と。
レクルト閣下の執務室も近くにあり、この部屋から使いを出して呼び出しても5分とかからず来れるはずだ。
一体何をしてたのだろうか……余計に怒らせるだけなのに。
「あの僕、今日体調悪いんだよね……公務以外の呼び出しだったら困るんだけど」
「何だ……風邪でも引いたか」
遅れた原因は風邪?
「昨日食べ過ぎちゃって、お腹の調子が……」
「俺の金だ馬鹿野郎!!!!」(ぼかっ!)
あまりにも笑える体調不良の原因に、立ち上がったウルフ閣下はレクルト閣下の顔面を殴った。
「ぐわぁ!」
「痛~い。何か理不尽にぶたれたんですけどぉ~」
だが殴ったウルフ閣下の方が右手を押さえ痛がり、殴られたレクルト閣下は然程ダメージを負ってない。
「てめぇ……ここに来る前に、リュリュさんの所へ寄ったな!」
「何のことか解りませんが?」
なるほど。殴られる事は解ってたので、リュリュ様の下へ行きスカラをかけて貰ったのね!
「ホイミ……まぁいい。ところで質問なのだが……」
相当力一杯殴ったのか、ホイミで回復するウルフ閣下。
だが違う話をするみたいだ?
「リアルに想像して答えろ。俺はリュリュさんが好きだ」
「超絶一方通行の片思い」
永遠に実らない恋。
「うるせー。……で、俺は意を決して彼女にプロポーズする」
「秒でフラれる」
辛辣な台詞付き。
「俺はフラれガッツリ落ち込むんだが、それを見てたお前は俺に何て声をかける?」
「……う~ん、想像はしたけど言葉だけじゃ伝わらないのでジェスチャーを交えて答えるね」
そう言うとレクルト閣下は右手をウルフ閣下の右肩に置き、物凄く見下した表情で……
「ウルフ君、格好いい(プフゥークスクス)」
「一言一句同じかこの野郎!」(ドゴッ!)
そう言って机の上の書類の束に置いてあった大きめのペーパーウェイトを掴み、レクルト閣下の後頭部へと振り下ろす。
「痛~!! 流石にそれは反則だよ!」
「うるせー馬鹿野郎! 何奴も此奴も俺を馬鹿にしやがって! 帰れ! そして仕事しろ!!」
質問されて、それに答えたら殴られる……理不尽な職場だ。
見た目被害者のレクルト閣下を下がらせ、仕事に戻る宰相閣下。
今回の件はかなりご立腹の様で、ブツブツ文句を言いながら仕事をしている。
触らぬ神に祟りなしだ……
今日はソッとしておいてあげよう。
ユニSIDE END
後書き
こんな事を書くから
ウルポンが夢に出てきて文句言うんだよね。
天使とラブソングを……?(第14幕)
前書き
リュカさん遺伝子発動。
(グランバニア城・国王執務室)
ウルフSIDE
俺の目の前では、執務机に座ってるリュカさんが、俺の持って来た書類に目を通しサインをしている。
基本的にこの国の国務は宰相である俺だけで決済できるのだが、それでもトップの決済が必要な事柄は存在する。
その為、基本一日に一度リュカさんの下へ出向いて決済を貰っている。
何時もならもう少し遅い時間に決済を貰ってたのだが、例のサンタローズの件で夕方前には出かけてしまうので、早めに出向く事になった。
因みに、そのサンタローズの件の進捗状況は知らされていない。建前上国家は関わってないので、俺が知っておく必要性が皆無なのだ。如何しても困った場合、相談はされるかもしれないと考えていたが、こと音楽関係の事になると俺は無力だし、助っ人を雇ったみたいなので、俺に情報は入ってこない。
助っ人の盗作女を雇ってから丁度一週間が経ち、あの女も顔パスでリュカさんの執務室まで入ってこれる様になった。
そこでとある噂が城内で流布し始めた。
あの女が国王陛下の新たな愛人ではとの流言だ。
否定しにくい……前科がありすぎるから。
因みに、こんな噂を広めた者は特定してあるので、近々地方へと飛ばす予定だ。ふふふっ、何所が良いかな?
噂を広めただけで左遷なんて酷すぎると思ってる?
この噂が真実だったら、俺もこんな事はしない……はず。
今回に関して言えば、この噂が完全なるデマでしかないから強権乱舞したくなるのだよ。
別に不機嫌でこんな事をしてるんじゃないぞ。
確かに最近イライラしている。
あの盗作女がリュカさんに迷惑を掛けてるんじゃないかと……イライラはしてる。
なんせリュカさんに最大限貢献してるのは俺だからな。
国政は宰相として尽力してるし、家庭問題のゴタゴタも俺だから協力出来ているんだ。
あの女には無理だ!
確かに俺には音楽関係の事柄は無力だ。
だけどリュカさんには音楽関係での俺の力など必要ない。
リュカさんは全部一人で解決できるからね!
そう……だから本来はあの女なんか必要じゃ無いんだ。
所謂助手程度の存在。
見た目がちょっとだけ良いから、傍に置いてるだけ……俺とは立場が全然違うのさ!
「ふぅ……」
如何やら考え事をしてる間にリュカさんは書類にサインし終わった様だ。
リュカさんは一息吐いて書類の束を机でトントンと纏め俺に手渡す。
やはり今回の件で俺に何かを頼むつもりは無いらしく、一切の指示は無い。
いや……内政干渉にならない様に、宰相の俺には手を出させないだけだ。
きっとそうに違いない!
軽く会釈をしてリュカさんに背を向ける。
そしてそのまま出口へ向かう。
少しだけ……本当に少しだけ残念な気持ちを抱えながら国王執務室の扉を開けた。
すると少し離れた所から爽やかな歌声が聞こえてくる。
思わず視線を向けると、そこには上機嫌のリュリュさんが何処かに書類を届ける為に居た。
最近仕事が終わり家に帰ると、大好きなパパが居る事に機嫌が頗る良い様だ。
嫌な気分を吹き飛ばし、恋心を抱かせる歌声……
ずっと見ていたくなる美しさ……
変態的なファザコンだと解ってても、恋を諦められない男共の気持ちも解る。
思わず見とれ呆然と立ち尽くしてると、突然背後から何者かによる強い衝撃を受け、国王執務室前の向かいの廊下に激突した。
“何者か”と言ったが、誰だか判ってる……俺の背後に居たのは一人だけ。
「くっ……クソ親父」
ウルフSIDE END
(グランバニア城・国王執務室)
リュカSIDE
アイリーンが来る少し早い時間……
ウルフが俺の前で黙って立っている。
持って来た書類に俺がサインするのを待ってるんだ。
だが顔には少しの苛立ちが見える。
別にサインが遅くて苛ついてる訳じゃない。
国政に関わる書類だから、ちゃんと読んでサインしなきゃならないからね。
苛つきの原因は、思いがけない所からのライバル登場の所為だろう。
ライバルと言っても恋のライバルや仕事のライバルじゃない。
“リュカさんの実質全てにおいてのナンバー2”の座のライバルだ。
俺は神格化されるのが嫌い……と言う事を此奴は理解してる。
だから神と崇めたり、王様と平伏したりせず言いたい事を言い人間として接している……つもりだ、本人的に。
幼馴染みで姉的立ち位置で嫁のビアンカでさえ、言わずに胸にしまってる事があるのに、此奴は『言いたい事は言って人間扱いするんだ』と言う思いが前に出すぎて限度というモノが無くなってしまった。俺的には逆より全然良いんだけどね。
そんな“片腕”的存在だったのに、自分が関与できない音楽に関して重用される存在が生まれてしまったのだ。そう、アイリーンだ!
彼女はまさに音楽面でのウルフと言っていいほどの天才だ。
此奴の経歴が拙かったのかもしれない。
と言うのも、ウルフは同年代の人間と学びあった事が無い。
この国に来て直ぐに学校に通わせれば良かったのかもしれないが、直ぐに秘書官として登用してしまった。
そして済し崩し的に国家のナンバー2になってしまった。
俺もプライベート面を此奴に任せる事もあったし、自惚れ……とは違うかもしれないが、追随を許さぬ存在と思い込んでしまった感もある。
とは言え今更如何する事も出来ない。
もう個人の問題として突き放すのもアリだと思う……気がする……多分。
つーか俺は今それどころじゃないんだ!
サンタローズの聖歌隊の件の方が重要なんだ。
正直9割方完成している。
たった1週間で9割は上出来だ。
だが残り1割が問題なんだ。
9割完成で良しとして披露してしまっても良いのだが、やっぱりやるのなら100%が良い。
でも現状ではそれがむずがしい。
と言うのも、ソロパート2人分が埋まらない。
あの映画でも恰幅の良いシスターのソロと、美少女シスターのソロが『Hail Holy Queen』を芸術品へと昇華させている。
なので、あの二人の役目を担う者が必要なんだ。
恰幅の良いシスターの担当は直ぐ見つかった。
“母親の為”と手伝ってくれてるフレイが驚きの歌唱力で、あの恰幅の良いシスター分を担ってくれた。
才能なのか遺伝なのか、ちょっと練習しただけで、あの幅広い歌声を再現してくれてる。
問題なのは美少女シスターの方なのだ。
彼女はかなり高音を発するので、申し訳ないがお年を召した村の有志の方々では、かなり荷が重すぎるのだ。
高音かつ力強い歌声……足りないのはコレなのである。
「ふぅ……」
悩みは尽きないが、書類は読み終わったのでサインをして、サイン済みの書類と共に纏めてウルフに手渡した。
書類の束を手にしたウルフは、俺からの指示を何か期待してたが何も無い事を察すると軽く会釈して俺の前から下がった。
多分、今回の件でも何かの役に立って、アイリーンにマウントを取りたいのだろう。
さて、聖歌隊は如何するかなぁ……
そう思考を聖歌隊へ切り替えると、ウルフが開けた執務室の扉の先から、高音の美しい……それでいて力強い歌声が聞こえてきた!
俺は執務机を飛び越えて、目の前の邪魔な男を押し飛ばして歌声の聞こえる方に目をやった。
「くっ……クソ親父」
向かいの壁に衝突してるウルフが何か言ってるが、俺の探してた歌声が、こんな近場にあった。
リュカSIDE END
後書き
リュリュの歌唱力についてのアンケートは終了致します。
皆様、沢山のご回答をありがとうございました。
天使とラブソングを……?(第15幕)
前書き
フレイの闇が開花するかもしれない瞬間。
(サンタローズ)
フレイSIDE
まさか私が他人様の前で歌う事になるとは予想もしてなかった……
でもお母さんの為って思いもあるし、お父さんも凄く褒めてくれるし、以外と歌うって楽しいし、悪くないと思ってる。でもお姉ちゃんが歌う度に『上手かったでしょ? 私、頑張ってるでしょ?』って感じで、お父さん(プーサン)に擦り寄っていくのが苛ついた。
まぁ兎も角……
歌う事の楽しさを見出せた良い経験ではある。
……が、やっぱり本番当日ともなると緊張してしまう。
聖歌隊の皆(お姉ちゃんを除く)も、一様に緊張の面持ちだ。
でもお父さん(プーサン)が爽やかな笑顔で『たった2週間足らずで、この出来は凄い事です。教会を建て直す算段は既に打ってあるから、失敗を恐れず練習してきた事を出し切って下さい』と言うと、皆(お姉ちゃんを除く。元から緊張してないから)の顔に笑顔が戻った。
因みに皆(私は除く)には直前まで知らされてなかったけど、プーサンの打った算段とは“ラインハット王家ご臨席”だ。
知らされた皆に、また緊張が走ったのは言うまでも無い。
まぁそれもプーサンの笑顔で落ち着いたけど。
私が知ってたのは、ヘンリー様に何時もの通信機を使って直接交渉(と言う名の脅し)をしてる所を目撃してしまったからだ。
丁度一週間前だったのだが、その遣り取りが凄かった……
『おいヘッポコ。来週の聖歌隊初お披露目に王家を臨席させろ!』
『ヘッポコって呼ぶな! ……まぁ何れはそうするつもりだったし、こちらとしては初っぱなでも構わないぞ』
『あぁ……言葉が足りなかったな。お前等の隣席なんか如何でもいいんだよ! デールに臨席させろって話だ』
『いやまぁ……話はしてみるが、アイツが城から出るか如何か……解ってるだろ、お前にも』
『解ってねーのはお前だHH! 話を持ちかけろって言ってるんじゃねー! 無理矢理にでも連れてこいって言ってんだ』
『お前なぁ……そんな事、出来る訳ないだろ!』
『出来る出来ないじゃねーって言ってんだよ。連れてこいって言ってんだ! お前の説得で連れてこれないのなら、僕が行って幼少期のトラウマを抉る様な説得をするぞ!』
『ちょ……やめろ! 解った、何とか連れて行くから』
お父さんが“トラウマを抉る”と言うからには、生半可じゃ無い抉り方をするのだろう。
それが解るヘンリー陛下も慌ててる。
ヘンリー陛下の慌てぶりは兎も角……こんな遣り取りを目撃してしまったので、私だけが王家ご臨席を知っていたのだ。
さて……デール陛下のご臨席に、何故こんな脅しが必要なのかというと、この国では“引き籠もり王”と言う名で有名だからだ。
下手すると外国でも知られてるかも……
と言うのも、デール陛下は外国へは勿論、国内ですら人前に出ようとせず、城から出る事すら無いそうだ。
しかも城で催されるパーティー等でも、最初に王様として挨拶をしたら、10分程度会場に居るだけで、直ぐに自室に帰ってしまうそうだ。
マーサ様が言うには『最友好国がグランバニアで、その国の国王の相手をしたくないのでしょう……すっごく厄介だから』との事だ(笑)
納得できてしまうから悲しい。
勿論本当の理由がある。
デール陛下は幼少の頃に巻き起こったラインハット動乱に負い目を感じている……との事だ。
コレはお母さんから聞いたのだが……
ラインハット王国は二王体勢を敷いているが、正式にはデール陛下が正王で、ヘンリー陛下が副王となり、お父さんの治めるグランバニアで例えると、王様と宰相みたいな感じらしい。ちょっとニュアンスが違うかもとは言ってたけど。
その為、正式な王位継承権はデール陛下の血筋になるのだけど、デール陛下は自分が王様で在る事さえ間違ってると思い込んでおり、王位継承権順位を正規(デール陛下視点)に戻す為、結婚は勿論……恋人も作らず浮いた話一つさせない為に他人との接触を極限まで避けてるのだ。
そんな訳で、明日にはデール陛下がご臨席になるほどの聖歌隊として、我がサンタローズ聖歌隊はラインハット内で有名になる。これで100人程度しか人口が居ない小さな村でも、外から客が押し寄せてくる事だろう。正直お父さんの手腕は凄いと思う……
さて……王家の方々(特にデール陛下)をお迎えするにあたり、教会前の花壇の手入れをしてると、大聖堂で音響の確認などをしてたお父さん達が出てきた。“達”と言うのは、お父さんの他に今回の計画の音楽面を大きくサポートしてくれたアイリーンさんと、今回の聖歌隊の正式デビューを見学したいと今日だけお手伝いをしてくれたピエッサさんだ。
私はピエッサさんとお会いするのは初めてなのだが、あの“マリピエ”のピエッサさんと聞いて、思わず深く頭を下げて謝ってしまった……『腹違いとは言え姉妹が多大なるご迷惑をお掛けして申し訳ございません』と……
しかしピエッサさんは『そ、そんな……頭を上げて! わ、私も凄く貴重な体験と知識を得させてもらってるから……』と“迷惑”に関しては否定しないけど、アイツの存在を肯定的に表現してくれた。凄く良い人だと言うことが判る。先日、ウルフさんが『彼女(ピエッサさん)にはこれ以上迷惑を掛けたくない』と言っていた意味が分かる。
そんなお三方が教会から出てきたところで、この村の住人ではないある人物が近付いてきた。
その人物に視線を向けて確認すると、私は思わず顰めっ面になるのを感じた。
何故なら……
「何でお前がここに居んだ、ヒゲメガネ!?」
とプーサンの言葉。そう……ここの住民ではないこの人物はヒゲメガネさん……またの名をプサンさん。
……で本名はマスタードラゴンさんだ。
「ずいぶんな言い様ですね相変わらず。まぁ何時ものことなので気にしませんが、今日私がここに来たのは、ある噂を聞いたからです」
「噂? あぁ……あの噂か。なら安心しろ……お前がマヌケだって事は噂どころじゃなく真実だから。だから今日から“マヌケードラゴン”に改名しろマヌケ」
酷い言い様だが私も同じ思いだ。と言うのも、私はこの人が嫌いだからだ。
この人は異世界に飛ばされたティミーさんの命より、この世界にある伝説の武器の心配をしたんです! 信じられますか!? この世界の神とか名乗ってるクセに、命より武器を優先したんですよ!
「あの……どなた様です?」
幸運なことに今まで関わり合うことのなかったアイリーンさんが、同じ疑問を持ってるピエッサさんの分まで小声で私に尋ねてきた。
「あぁ……こちらの方は、この世界を創造だけして放置してそこら畏に不具合を起こさせてる、自称神と名乗るマヌケードラゴン様です」
そう聞いて畏まる二人……そんな必要無いのに。
「だ、誰がマヌケですか!?」
「トロッコに乗ってウッカリ20年間回り続けたお前だマヌケ」
何、そのエピソード? 詳しく聞きたいわ。
「そ、その事はもう忘れて下さい!」
「都合良いこと言ってんな!」
全くだ……自分の都合だけ言うな。
「きょ、今日は……貴方が私を称える歌を披露すると聞いて、それを聴きに来たんです」
「そんな歌、作った憶えはない。って言うか、称える箇所のない奴を称える歌なんて作れる訳ねーだろ」
「そ、そんなこと言って……神を称える歌を作ったんでしょ?」
「“神”をな。お前じゃなくて神様な。異世界の貧乳女神も違うぞ。我々のいう神ってのは、なんかこう……フワッと神々しい何かな! お前みたいに何もしない奴じゃなくて、人々に希望を与えてる様な何かだ」
「私だって神なんですよ!」
「お前……息子を見捨てようとした事を僕が知らないと思ってんだろ」
あれ……何でその事をお父さんが知ってんの?
「だ、誰から聞いたんですか!?」
慌てたマヌケードラゴンさんは私に視線を向けた。
だから思わず睨み返した。
「僕が居なかった間のグランバニアの事は、関わった皆が報告してくれてるんだよ。まぁティミー見捨て事件の報告はリュリュがしてくれたがね」
ナイスお姉ちゃん。少し見直したわ。
「ア、アレには……その……色々と事情が……」
「だろうな。こっちにもお前をマヌケ扱いする事情があるんだよ」
そういう訳だから大人しくマヌケードラゴンに改名しなさいよ。
「まぁいい。お前を称える歌じゃないけど、聴きたいのならミサに参加していけばいい。“枯れ木も山の賑わい”と言って、お前でも客が居ないより良いからな。まぁサクラはラインハット王家ってのを仕込んであるけどね」
流石にサクラ扱いは王家の方々に申し訳ないのでは?
「……………」
グゥの音も出ないマヌケードラゴンさんは、黙って教会へと入っていった。
確かにもうそろそろミサ開始の時間だ。
王家の方々の控え室代わりにしてるマーサ様のお屋敷に視線を移すと、お母さんの誘導で教会へと向かってくる一団が目に入る。
お父さんに目を向けると、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
よし……私も頑張ろう。
フレイSIDE END
後書き
マスタードラゴンと
マヌケードラゴンは
文字にして並べると、
何となく似ている事に
喜びを感じております。
天使とラブソングを……?「エンディング」(第16幕)
(サンタローズ)
アイリーンSIDE
サンタローズ村聖歌隊の初お披露目は無事成功に終わった。
リュリュさん&フレイちゃん姉妹の見事な歌声も相まって、歌い終わった後の歓声は凄かった。あの“引き籠もり王”と揶揄されるデール陛下のご臨席もあって、教会の大聖堂は満員状態だったので、あの歓声は本当に凄かった。
ミサの客も帰り、ラインハット王家ご一行と共に控え室用の村長宅で、陛下と一緒に談笑をしている。もっとも私やピエッサは緊張で王家の方々の会話になんて入っていけないけど。
因みにこの村の村長は、陛下のお母様でした。
正直言うと、もう帰りたいのだが……
ラインハット王家がご臨席なさらせたので、陛下も気を遣ってミサ後の談笑を行っている。
私の予想だと、普段であれば目下の相手にこんなに気を遣われないであろう。もしかしたらお母様の手前って事も影響してるのかも。
私がもう帰りたい理由は、勿論王家の方々とのご同席が緊張するってのもあるが、あの女に出来れば会いたくないと言うのが一番の理由だ。
あの女とは……リュリュさんの事だ。
陛下とフレイちゃんにはバレてしまってるのだが、私はあの女が大嫌いだ。
嫌いになったのはつい最近……
あの女が聖歌隊に参加してからだ。
王都グランバニアに住む者なら誰しもが知っている事なのだが、あの女はファザコンである。
だが想像してみよう……
実の父親がリュケイロム陛下なのだ。
よりいい男が現れれば、そちらに気持ちが移るであろう。
だが実の父親はリュケイロム陛下なのだよ!
“よりいい男?”……そんな男が存在する訳ない。(断言)
だから一国の姫君が未婚である事に、国民は一様に『仕方ないよね』という思いがある。
あの女と深く関わりが無い者は、諦めという名の理解が存在してる。
だが近しい存在になってみれば如何であろうか?
変態極まりないうえ、鬱陶しさが盛り沢山の苛つく女なのだ。
聖歌隊の練習でも、あの女は練習の必要無いくらい完成されていたのだが、歌い終わる度にプーサンが実父である事が秘密であるのを利用して『上手く歌えたでしょ~♥ 私、頑張ってるでしょ~♥』って感じで、擦り寄っていくのだ。
内実を知っているフレイちゃんやお母様のシスター・フレアは盛大に顔を顰めてるのだが、解ってない他の聖歌隊員のおばさま方は『まぁ~……リュリュちゃんにもやっと春が来たのかしら?♥』って感じで眺めてる。
またそれが、私らの苛立ちを一層誘うのだ。
いや、ちょっと(ではないが)大きい娘さんが父親に甘えていると思えば苛立ちも押さえられなくは無い様な気がしないでも無い様な気がする。
だが問題なのは陛下が嫌がっているという事なのだ。
陛下が巨乳好きだと言う事は周知の事実だ。
お妾さんは漏れなく大きいし、今目の前居るお妾さんのひとりのシスター・フレアも標高ウン万メートルだ。
なのにだよ……そのシスター・フレアを上回る巨乳を押しつけても、陛下は本気で嫌な顔をするのだ!
そんな父親の……大好きであるはずの父親の嫌がる事を、自分の欲望を優先して行う女を好きになれるはずがない!
いや……他所の家庭の親娘が同じ状態で、その娘と知り合いになっても私は何とも思わないだろう。
だが問題なのは、嫌がってるのが陛下で在らせられる事なのだ!
先程もミサが終わって、本来ならばシスター・フレアが後片付けをしているのだが、今回に限り王家の方々を接待しなければならない為、有志で参加して頂いている聖歌隊の方々に後片付けをお願いして、私達と共に村長宅へと戻ってきたのだが……
自分の欲望しか頭にないあの女は、後片付けの事なんか頭の片隅にも置かず、しれっと父親の後を追って教会を出ようとしてた。
勿論とっても良い娘なフレイちゃんに『ちょっとお姉ちゃんも後片付け手伝ってよ! いっつも自分の事しか考えてないんだから!』と叱られ、慌てて後片付けに参加してた。
多分……基本的には彼女も良い娘(年上に“娘”と言うのは気が引けるが……)なのかもしれない。
グランバニアでもファザコン関係以外の悪評は微塵も聞いた事はない。
だが私は、あの鬱陶しさ……嫌いだ。
陛下に迷惑を掛ける、あの鬱陶しさが大嫌いだ。
悪気が無い分、より一層鬱憤は溜まる。
そんな訳で大聖堂の後片付けが終わって、彼女がこちらに帰ってこない事を祈りつつ窓の外をチラ見している。
だが私が知らなかった“神”という存在が、あの貧相なオッサンである事を知ってしまったので、祈っても意味ないと感じている。
その証拠に、聖歌隊のおばさま連中が教会から出てくるのが見えた。
そして決定的なのは最後にフレイちゃんとあの女が出てくるのも見えてしまった。あのオッサン、ホントに役に立たねーな。
思わず小さく溜息を吐く。
すると……
「じゃぁ僕等はもう帰るよ。ていうかよく考えたら何で僕が自国内のイベントに参加した国王を労って接待してやらねばならないのか解らん。労われるのはこっちだっつーの(笑)」
と言って立ち上がった。
嬉しさを抑え、私とピエッサも陛下に続き立ち上がり、出口へと移動する。
陛下はサッサと出て行ってしまったが、私とピエッサは振り返り王家の方々にお辞儀をしてから退出した。リュケイロム陛下より格下だが、私達よりかは遙かに目上の方々なので、礼儀は守る。
「いや~悪かったね長居させちゃって。一応あれでもアイツら王族だから……(笑)」
「いえ、お気になさらないで下さい社長。王家の方々を接待するのは当然だと思っておりますから……」
外に出ていきなりの労いに、慌てて返答する。因みに私(ピエッサも)はプーサンの事を社長と呼んでいる。
「そうだね……早く帰りたい本当の理由は、あの娘だもんね(笑)」
そう言って教会の方を指さす陛下。
そこには村の若い男と会話している彼女が居た。
如何やらこちらに帰ってくる途中、村の者に呼び止められたみたいだ。
呼び止められたのは彼女だけの様だが、気を遣ってフレイちゃんも一緒に話を聞いてあげてる。良い娘や~。
村の者の話を聞いてる彼女と違い、手持ち無沙汰なフレイちゃんは私達に気が付き、軽く会釈をしてくれた。彼女に気付かれない様に。
陛下も彼女に気付かれない様に、無言だが優しい笑顔で手を振って帰る事を告げて、私達を巻き込み魔法を唱えた。
あの女に会わずに済んで本当に良かった。
アイリーンSIDE END
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
サンタローズ村でのミサも終わり、私達は陛下の魔法でグランバニアへと帰って来た。
魔法で到着したのは陛下の執務室へ繋がるテラス。
何時もアイリーンから聞いてた話では、練習が終わると自宅かバイト先前まで送っていただいてたそうなので、少し驚いた。
でも考えてみれば当然だ。
今回は私が居る。
アイリーンよりの場所に送り届けたら私が手間だろうと陛下はお考えになったのだろうし、私よりでもアイリーンに気を遣ったのだろうから、二人にとって公平なグランバニア城になったのだろう。
「それでは社長……では無く陛下。私達は早々に失礼させて頂きます」
私と同じ考えに至ったのか、アイリーンが挨拶をすると……
「まあまあ待ちたまえ。君たちに渡したい物があるので、娯楽室までご同伴願おう」
と、私達を娯楽室へと誘った。
(グランバニア城・娯楽室)
娯楽室へ着くと陛下はテーブルに2通用意してあった封筒のうち1つを手に取り、まずは私に手渡して下さった。
早速中身を見てみると、予想してた事だがそこには楽譜が……
タイトルを見ると『少女時代』と書かれている。
そしてピアノに向かわれた陛下は、徐に私に渡した楽譜の曲を弾き語る。
その曲はまさにタイトル通り……甘く切ない少女時代を唄った歌だ。
「あ、あの……この曲は……?」
「あげる。今日手伝ってくれた報酬」
そう言ってニッコリ微笑む陛下……隣では羨ましそうな顔をしてるアイリーン。アンタだって陛下から名曲を貰ってるのだから、そんな顔しないでよ! って言うかもう一通はアンタのよ。
「あの陛下。宜しいんですか私が貰っても?」
「いいよ。でもマリピエで披露するなら、作詞作曲は僕にしてね。絶対あの娘は自分の手柄にしようとするから。ピエッサちゃんが個人で披露するのなら僕の名前は極力伏せてね」
私は楽譜を抱きしめ静かに頷く。
これ以上陛下のご厚意に戸惑っても、もう1通を待ちわびてるアイリーンに悪いし。
隣でもう1通期待への圧が凄いのよ……
「んで、もう1通は予想通りアイリーンちゃんね」
「えぇー! もう既に報酬は頂いてるのに、宜しいんですかぁ~?」
白々しい。
「うん。本当に助かったから、1曲だけってのが申し訳なくてね……ボーナスって奴だよ。リュリュにも苛ついただろうし」
「ありがとうございますぅ~」
餌を貰った犬の様に喜ぶアイリーン。尻尾が生えてたらパタパタ振ってるだろう。
封筒を渡されたアイリーンは早速中の楽譜を眺める。
そちらのタイトルには『花咲く旅路』と書かれていた。
パッと楽譜を見る限り、私が頂いた曲とはまた趣が違った曲調の様だ。
そして当然の様に陛下はアイリーンの方の曲も弾き語る。
心を綺麗にしてくれる曲……
それが花咲く旅路だ。
「初めて聴く歌なのに、どこか郷愁を感じる」
アイリーンが陛下の歌を聴き終わり、感動と共に発した言葉。
うん、解る!
「そう……そうだわ! 初めてサンタローズ村に行った時に感じた感覚ですわ。この曲は陛下が故郷のサンタローズ村を想って作られた歌ですわね!」
「え!? そんな風に聴こえた? う~ん……じゃぁそうなのかもしれないけど……う~ん」
陛下ご自身は戸惑ってるけど、感動しきってるアイリーンは気にしてない。
「そうだわ陛下。早速この曲を今夜のバイトで披露して宜しいですか?」
「あげた曲だからそれは構わないけど、今日の今日で大丈夫?」
「愚問ですわ」
見えない尻尾を振り回し、自身が天才である事を間接的にアピール。
ハラたつ~。
「じゃぁバイトの時間まで、ここで練習していけば?」
「それは大丈夫です、もう完璧に弾けますから(笑顔) それよりもピエッサ……アンタが頂いた曲の練習を手伝ってあげるわよ、まだ時間があるから」
ムカつく上から目線での申し出。
取り敢えず頬をつねってやってから……
「宜しくお願いします天才先生!」と申し出を受ける。
そんな遣り取りを見ていた陛下が、
「じゃぁ一度も練習せずの、ぶっつけ本番を僕等も見学に行こうよピエッサちゃん」
と、今夜のアイリーンのバイト見学を提案された。
是非とも、ぶっつけ本番見学に行きたいけど……あの店、高いんだよなぁ(まぁ陛下からのお誘いなので断らないけど)
そんな事を考えてたら、陛下は懐をゴソゴソ探ってる。
「大丈夫。誘った以上、会計は僕が持つよ」
と言って懐から数枚のお札を取り出した。
正確には判らないけど、400~500Gありそうだ。
「あれ……僕、何でこんなに金持ってんの?」
いや知らんがな!
普段はお金持って無いって事ですか?
「あ、そうだ。一昨日アイリーンちゃんをバイト先へ送った時、帰りがけにカツアゲに遭ったんだ!」
「いや陛下。普通、逆でしょ? カツアゲに遭ったら、お金は無くなるモンでしょ!」
思わず我慢できずツッコんでしまった。
「え、そう? カツアゲしてきた奴らを、ちょっとブッ飛ばせば、勝手に金を置いて帰っていくよ(笑)」
「陛下か社長ならではのエピソードですわ(笑)」
そう言って陛下とアイリーンは笑い合っている。
私はあちらの常識には馴染めぬまま、二人の天才先生に優しく指導され、名曲の少女時代を練習する……
ピエッサSIDE END
後書き
まさかの嫌われ様w
次回
裏エンディング!
天使とラブソングを……?(第16.5幕)本当の最終話です。
追伸
皆さんご存知でしょうけど、
「少女時代」も「花咲く旅路」も、
原由子さんの楽曲です。
天使とラブソングを……?「裏エンディング」(第16.5幕)
前書き
天使とラブソングを……? の本当の最終回。
ある意味、『裏』と言うよりも『真』と
表記した方がいいのかも。
(サンタローズ)
フレイSIDE
アイリーンさんの嫌悪に気付きもせず、父親の後にノコノコ付いていく姉を諫め、手伝わせたミサの後片付けも終わり、私達も王家の方々に挨拶するべく教会を出る。
こちらからは確認できないが、マーサ様の家の窓から私達に気付いて、お父さん達が帰ってくれると、アイリーンさんの心も穏やかだろう。
私に出来る時間稼ぎは終わってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、村の若い衆(ヘタレ野郎共)の一人が意を決した表情で私達(主にお姉ちゃん)に話しかけてきた。
これで時間が稼げる……普段は只のヘタレモブなのに、今日は良い仕事をするじゃないか!
「あ、あの……リュ、リュリュさん!」
「あ……はい。え~っと……」
突然話しかけられたお姉ちゃんは、このモブの名前を思い出そうとしている。
だが中々思い出せない……当然だ!
何故なら名前なんか知らないからだ!
普段は仲間モブ等と共に牽制し合ってて、名乗った事すら無いのだから、名前を思い出すワケない。
「きょ、今日のミサは素晴らしかったです!」
「ありがとうございます」
『今日の』だと!?
ふざけた事を言う奴だ。
今までのミサに参加した事の無いクセに、『今日のミサは素晴らしかった』などと、何と比較して素晴らしいと言ってるんだ。
「と、特に……リュリュさんの歌声は本当に素晴らしかったです!」
「あ……ど、どうもありがとう」
名前が無い(判らないだけ)と不便なので、今日からこのモブを心の中で“ジョン・ドゥ”と呼ぶ事にするが……このジョン・ドゥはお姉ちゃんとの単独(私が傍に居る事は無かった事にしている)会話に大興奮だ。
どのくらい大興奮かというと、基本的に外面が良く誰にでも優しい感じで接してるお姉ちゃんが、ドン引いてるくらい大興奮だ。
他人の興奮具合にドン引いてるが、実父相手に自分の欲望をぶつけてるアナタの姿と大差ないからな!
ふと思い出し、チラリとマーサ様の家の方に目をやる。
すると私達(主にお姉ちゃん)が教会を出た事を察知したお父さん達が、既に帰宅の体勢に入っていた。
お姉ちゃんは気が付いてないけど、お父さんと目が合ったので軽く会釈をした。
お父さんもお姉ちゃんの状態を理解し、気付かれない様に手を振って応えてくれた。
そしてそのままアイリーンさん達と共に魔法でグランバニアへと帰って行ゆく。
一方、ジョン・ドゥは……お姉ちゃんとの会話(一方通行なのだが)に超大興奮だ。
因みにどのくらい一方通行かと言うと……
「いやぁホント……あのサビのファルセットは最高でした!」
「え゛……サビたコルセットが好きなの? 何それ!?」
「あ……え、え~っと……ラストのビブラートも素晴らしかったです!」
「オブラートに包まないと飲めないほどの歌だった?」
……と、ジョン・ドゥは音楽の知識があるみたいだが、相手が悪いらしく話は噛み合わない。
当然である。
この女は天性の素質で歌がうまいだけで、音楽の知識は皆無なのだ。
基本的に馬鹿では無いのだけれど、興味の無い事柄にはとことん無知なのだ。
そんな訳で、意味の解らない事を言ってくる男の事よりも、大好きな父親の下へ行きたい欲が溜まり……
「あの……何言ってるのか解らないのよ。それよりも私、忙しいんだよね」
と珍しく冷たい返答。
「あ! ご、ごめんなさい……そ、そうですよね。王家の方々のお相手をしなきゃならないんですよね」
「え、王家? ん? あ、ああ……そう! そうなのよ。王家の方々のね……そうなのよ!」
相手の勘違いを都合良く利用する姉。まぁ“王家”という意味では嘘は言ってないのだけど……国が違うだけね。
大義名分が出来たお姉ちゃんは、フローラルな残り香を残しジョン・ドゥの前から去って行く。
さて……時間稼ぎをする必要も無くなった事だし、私はちゃんと王家の方々にご挨拶をしておこうと思う。もう一人の王家の方は、きっと失礼な事を言ってから立ち去ったはずだろうから。
「あ、あの……フレイちゃん!」
「……はい?」
興奮が冷めたのか否かは判らないが、突如ジョン・ドゥが私に話しかけてきた。姉を諦めて妹に乗り換えようとか、そんなふざけた魂胆で無い事を祈る。
「あ、あのね……君のお姉さんは……如何な男性が……その……こ、好みなのかな?」
「……………」
如何しよう……手斧が欲しい。
「あ、いや、あの……と、友達の友達から聞いてくれって頼まれちゃって……」
『友達の友達』って、行って来いで自分の事だろ!
お前みたいないさぎの悪い男など絶対義兄になんてさせないからな!
「おーほほほほっ! あの娘の事なら、妾が詳しいですわよ」
ジョン・ドゥに苛立っていると、後ろからこの場では聞こえちゃダメな女の声が聞こえてきた。
恐る恐る振り向くと、案の定ポピーさんがそこに居た。目眩がする。
王家のご臨席と言う事で何時もとは違って豪華なドレスを身に纏い、もうすぐ生まれ出る赤ちゃんがいるお腹を愛おしそうに摩りながら、ニヤけ面を我慢できないのか煌びやかな扇を広げて顔を半分隠して、その人は目の前に立っている。
「お、王太子妃殿下!」
「苦しゅうない……妾の事はポピレアと呼びたもれ」
王家の生まれで王家の人なのに、王族っぽいしゃべり方に慣れてなく語尾が安定しない。
「は、はい……ありがとうございますポピレア様。そ、それでリュリュさんの好みの男性とは?」
この男も王族の登場にパニクって当初の目的を忘れろよ!
なに一貫して自分の欲求を貫いてるんだ!
「うむ。あの娘の事は幼き頃より知っておるが、好みの殿方のタイプ……それはぞな」
「そ、それは……?」
『そ、それは』じゃねーよ! 語尾に違和感感じろよ。
「リュリュは“女々しい”殿方に惚れる傾向があるざます」
「め、女々しい……ですかぁ?」
ざます(笑)
「疑うのは尤もだが、妾の話を聞くのである」
もうワザとやってんのかな、あの語尾?
語尾が気になって話が頭に入ってこない。
「女々しいと言っても色々あるが、あの娘の好みは『ゴキ○リを見ただけで「きゃ!」とか言って腰を抜かしたり、野に咲く花を見つけては「摘むのは可哀想」とか言って顔を近付け匂いだけを楽しむ』そんな女子っぽい殿方に好意を寄せる……のじゃ」
今、一瞬語尾忘れた!
「どうしてそのような殿方に惚れるかと言うと、リュリュは幼き頃より剣術を嗜んでおったじゃろ?」
「そ、そのようですね……」
詳しく知らんのかい!
「リュリュは心優しき娘でな、弱気を助ける事を目的として剣術を始めたざんす」
「そうなんですよ、リュリュさんは心優しい美女なんですよ! ……って、僕の友達の友達が言ってました」
まだそれ続けるんかい!
「じゃが同時に矛盾するところもある……それは剣術という他者と争う事を主目的としながらも、争い事を嫌う性格なのじゃ」
そろそろ語尾もネタ切れか?
「想像して見よ。筋骨隆々・男の中の男的な殿方が現れ、リュリュに近付き『俺様がお前を守ってやる』等と言い寄ってきた……心優しき娘じゃが、勿論プライドも持っておりんす」
お、おりんす(笑)
「幼き頃より弱き者を守る為、剣術を嗜んできたので、弱き者を守ると嘯いてる者相手に対抗心を燃やしてしまう……ぞな」
語尾を忘れるくらいなら、もう普通のしゃべり方に戻せば良いのに(笑)
「そして気付くのじゃ、競い合い争っている自分に……その事に嫌悪し、気付けば自信をの対抗心を掻き立てるその男をも嫌悪するざます」
それと女々しい男好きが如何繋がるざますか?
「翻って女々しい男は如何であろう。ゴ○ブリを見ただけで恐れおののく様を見て、あの娘はこう考えるのじゃ……『この男性は私が守らなきゃ』とな……ざんす」
その程度で恐れおののくのなら、マリーの部屋に入ったらショック死するな。
「そして気が付けばその殿方へ内から湧き出る母性を向け始め、それが愛へと変わってゆくのである」
ポピーさn……いや、ポピレア様も言ってて笑っちゃって、扇で顔半分を隠しているが、肩がピクピク震えてらっしゃるざます。
「な、なるほど……そうなんですね!!!」
「「え?」」
あのホラ話を信じたの? 発信源のポピレア様も驚いてるわよ! って言うか貴女が驚いて如何するのよ!
「そ、そうなのですわよ(笑) ……おぬしの友達の友dブファ(爆笑) ……ゲフンゲフン、失礼。おぬしの友達の友達にも直ぐに知らせよ。世間一般の常識に囚われ、雄々しい男を目指してたら取り返しの付かぬ事になるぞえ。ささ、早う行くがよい」
「あ、ありがとうございますポピレア様!!」
ポピレア様に急かされてジョン・ドゥは私達の前から去って行った。友達の友達に情報を伝える為……家帰って鏡に向かって今の話をするのだろうか?
因みに……ジョン・ドゥ以外のモブ等も遠巻きに今の話を聞いてた(ポピレア様は聞こえる様に話してた)らしく、各々急いで帰宅してゆく。
なんだ? スカートでも履くのか?
なお、ポピレア様はモブ等に見られない茂みの後ろに行き、辛抱溜まらんとばかりに笑い転げている……豪華なドレスに泥を付けて。
そして笑いながら涙を流し、こう言う……
「アイツら全員ガチで信じた(大爆笑) 馬鹿なの? ねぇ、馬鹿達なの!?」
笑いが止まらないらしく、芝生をバンバン叩いて笑っておられるポピレア様。
最悪だ……
明日から……いや今日の午後から、この村にはヨナヨナした男共で溢れるだろう。
多分、誇大解釈した者はおねえもどきになってるに違いない。
お父さんに言い付けてやりたいけど、一緒になって楽しみそうなので、それも出来ない。
笑い疲れ芝生でぐったりする着飾った妊婦を見下ろして、この村の将来を心配せざるを得ない。
フレイSIDE END
後書き
最終回に相応しいエピソードになったと
自負しておりんす。
最大の難点は、
ポピレア様の語尾でしたw
次回も外伝。
タイトルは
「解ってはいるけど止められない事もある」です。
投稿は6/15 0:00
解ってはいるけど止められない事もある
(グランバニア城)
ウルフSIDE
先程、俺は厄介な事に発展するかもしれない情報を手に入れた。
正直、まだ情報の量が少なく、何一つとして確実な事は言えないのだが、優雅に構えて大事になってから行動したのでは遅いかもしれないから、不確定な情報でもリュカさんに伝えておかなければならない。
何時もの様にリュカさんに“国王の署名”が必要な書類を渡し、署名が終わるのを待っている。
全ての書類に署名が終わり(もしくは承認できない場合も)、リュカさんからの連絡事項が無い事を視線で読み取り、俺の案件を伝える。
「リュカさん……もしかしたら、今この国で厄介な宗教が流行り始めてるかもしれません」
「“厄介な宗教”? それにしても随分とフワッとした情報だな。何時ものお前らしくない」
何時もならもっと情報を集めてから報告するから、リュカさんも一層怪訝な表情を見せてくる。
「先程……本当に先程察知した情報なのですが、俺の部下にもこの宗教に傾倒している者が居る様なのです」
「そうか……でも、宗教対策は法的にも万全だろ?」
そう、我が国は宗教に厳しいのだ。
宗教法人として国に登録しなければ活動はさせないし、登録すれば高い税率を課せられる。
常に監査と監視を行っており、危険な思想と感じたら、最悪は国家反逆罪まで適用される。
まぁそこまでのテロ組織はそうそう居ないけど。
「ですが、その対策をすり抜けてるかもしれないのです」
「結構監視の目が厳しいのに?」
リュカさんも驚いてる様子だ。
「本拠地を持たず……と言うより発見させず、王都を中心に近隣の村や町へも浸透してる、そんな団体らしいです」
「“らしい”とは?」
「はい。団体として体を成してる様には見えないのですが、その実熱心な信者が増えているのです」
「そ、そんな事があり得るのか?」
「正直解りません。もしかしたら完全秘密主義で、信者等の口も堅くなってる……もしくはその様に洗脳してるのかもしれません」
「洗脳か……ん? じゃぁウルフは何で気付いたの」
「先程も言いましたが、部下にも何人か信者が居るのですが、詳しく聞いても何も答えないのです。ただ『宗教じゃ無いですよ』とヘラヘラ笑うだけで……」
「うん、だから……その部下が信者だと思った訳は?」
「あぁそうですね、それを説明しなきゃダメですよね」
話を先に先に進めようとしすぎて、肝心な部分を話し忘れた。
いくら俺とリュカさんの間柄でも、話さなきゃ解らない事はある。
「実はですね、その部下が奇妙な念仏の様なモノを唱えていたのです。そしてそれに釣られる様にして他の部下も同じ念仏を……」
「そ、そうか……祈りの時間的だったのかもな」
「その念仏が実に奇妙で……凄く頭に残るのです。ここ(国王執務室)に来る直前に聞いたのに、リュカさんの署名を待つ間、頭の中で唱えてしまうほどの魔力を持ってるのです」
「え、凄くね!? そうやって信者を増やしていったんじゃ……因みに如何な念仏なの?」
「はい……気を付けて聞いて下さい。確か“スイスイ スーダララッタ”と……そんな感じの念仏です」
「……………」
「……? リュカさん……何か思い当たる節でも?」
「ウルフ済まん。その宗教の教祖……僕だ」
「……はい?」
「いや違うの、聞いて!」
いや“聞いて”と言われても、理解が追い付かないのだが?
「その念仏ね、歌なの。『スーダラ節』って歌なのさ!」
「歌?」
「うん、そう。別に宗教団体を立ち上げた訳じゃ無くて、バイト中に思わず口遊んでた歌のなのさ。因みにこういう歌!」
そう言ってリュカさんは何時もの美声を披露してくれた。
・
・
・
「迷惑!!」
「そ、そう言われても……広める意図は無かったけど、名曲過ぎて聞いた人たちがあちこちで歌っちゃてるんだもん」
かくして俺の不安は杞憂に変わり、腹立ちながらも自分の執務室へ帰る途次、件のスーダラ節を口遊んでいた。
執務室内に入り、先程の部下等に「済まん。如何やらお前等の言う通り宗教じゃなかったわ」と詫びて席に着く。
席に着くと直ぐにユニさんが話しかけてきた。
「元凶はリュカ様でしたでしょ」
え、何で知ってんの!?
「ユニさん初めから知ってたのか?」
「知ってましたよ。以前リュカ様が歌ってるのを見た事がありますから」
「じゃぁ何で最初に教えてくれなかったんだよ!?」
「教えるも何も、リュカ様の歌だから閣下も知ってると思ってましたし、先程も部下等を詰問するや否や凄い早さでリュカ様の下へ行ってしまい、話す機会も与えられませんでしたから……まぁ勿論、直ぐに知るだろうと思って後を追わなかったですけどね」
な、何だよ……俺一人で慌ててただけかよ!
「そう落ち込まないで下さい閣下。部下としてはリュカ様の下に行く前に伝えるべきだったのですが、落ち込んだ上司を見たいという欲求には勝てませんでした。これこそ『わかっちゃいるけど止められない』のです(笑)」
ウルフSIDE END
スーダラ節(リュカさんバージョン)
♪ちょいと一回のつもりで抱いて♫
♪いつの間にやら愛人増えて♫
♪気が付きゃ子供が沢山産まれ♫
♪それで息子に軽蔑された♫
♪わかっちゃいるけど止められねぇ♫
♪ア ソーレ スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイーダ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイ ときたもんだ♫
スーダラ節(ウルフくんバージョン)
♪見た目重視の娘に惚れて♫
♪公私に渡って迷惑受けて♫
♪気が付きゃ性格良い女と浮気♫
♪コレがバレたら命がヤバい♫
♪わかっちゃいるけど止められない♫
♪ア ソーレ スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイーダ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイ ときたもんだ♫
♪義理の父親師匠と仰ぎ♫
♪公私に渡って尊敬しきる♫
♪性格悪くて常識ないが♫
♪共に仲良く周囲を困らす♫
♪わかっちゃいるけど止められねぇ♫
♪ア ソーレ スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイーダ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイっと♫
♪ファザコン娘に思わず惚れて♫
♪よせば良いのに欠点つつく♫
♪気が付きゃ娘にゃ死ぬほど嫌われ♫
♪だけど忠告やめられないよ♫
♪わかっちゃいるけど止められない♫
♪ア ソーレ スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイーダ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイ ときたもんだ♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイ~~~♫
スーダラ節(リュリュちゃんバージョン)
♪実父に対してアイラブユーで♫
♪いつの間にやら変態扱い♫
♪気が付きゃ周囲にドンドン引かれ♫
♪だけど好きなの止められないの♫
♪わかってないうえ止める気ない♫
♪ア ソーレ スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイーダ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スラスラ スイスイスイー♫
♪スイスイ スーダララッタ♫
♪スーダララッタ スイスイ ってな感じ♥♫
後書き
ある意味ウルフは
「リュカ教」の信者です。
ラッキーカラー レッド
前書き
「ラッキーナンバー7」という
映画がありました。
今回のタイトルは
それにあやかってます。
内容は無関係です。
ルーシー・リューが可愛かった。
(グランバニア城:城壁北東の塔)
ムッカーイSIDE
俺の名は“ムッカーイ・チョボル”……グランバニアの軍人だ。
入隊して2年目の、まだまだ新米。
なので王城の重要警備箇所などには配属されない。
だが俺は、新米だからこそ任される、最高の警備箇所に配置されている!
そこはグランバニア城が誇る高い城壁の一カ所……
何本かある城壁と城を結ぶ空中廊下の接続点だ。
グランバニア城の城壁は、城の三階部分より少しだけ高い造りで、この空中廊下も王家のプライベートエリアにもなる三階へと繋がっている。
一般人(もしくは不届き者)が俺の警備箇所に来るには、城壁四隅に建造されている塔のどれかの城壁内側にある出入り口から入るか、もしくはグランバニア城三階から来るしか方法は無い。
各塔の出入り口から無許可で侵入するには、俺よりも腕が立ちベテランの先輩が重要警備箇所をしっかり警備してるし、城から来る事なんて無意味だ。
何故なら城に潜入する事が目的である訳だから、俺の警備する場所を目的地にするのは意味が無い。
だからといって俺(俺だけに限らないが)は、警備に手を抜いているなんて事はしてない。
グランバニアの兵士である事に誇りを持っているし、何よりもこの場所の警備から外されたくないからだ!
何故そこまでこの場所の警備に固執するかと言うと……
この場所の警備希は倍率が物凄く高いからだ。
基本的に配置場所は上層部が決めるのだが、配置条件(兵役期間など)にもよるが希望を出す事が出来る。
そしてこの“城壁北東の塔空中廊下接続点”は、男性兵士等に絶大な人気を有している。
俺も最初は、この場所の人気の理由を知らず、ただ皆が希望を出すから流れに乗っただけなのだが……ここの素晴らしさを知った今、配置換えには絶対なりたくない!
何故故にこの場所が人気なのかというと……
ここはリュリュさんのルーラの到着点なのだ。
そう……ここを警備していると、毎朝リュリュさんに出会えるのである!
ラインハット在住のリュリュさんは、勤め先のグランバニア外務大臣執務室に行く為、毎朝決まった時間にこの場へルーラ降り立つ。
俺は魔法には詳しくないのだが、到着場所は何時もここなのだ。
だが疑問に思う奴も居るだろう……
たかだか朝、決まった時間に会う……序でに『おはようございます』程度の会話をする程度の場所に、そんなに価値があるのだろうかと?
その通りだ……
ただ会う(挨拶込み)程度であれば、城内二階の各大臣執務室が密集してる廊下の警備の方が、会い会話をする機会も多いのだ。
だがこの場所は他とは違うのだ。
何が違うのか……
それをまさに今、リュリュさんの着地する瞬間に説明しよう!
(しゅたっ!)「あ、おはよう」
「おはようございます、リュリュさん! きょ、今日もお綺麗ですね!」
「ありがとう」
「はっ! 御政務頑張ってください!」
お解り頂けただろうか?
まぁリュリュさんの着地点に近い俺じゃなきゃ解らなかっただろうが……
ルーラという魔法は、発動中は重力も風の影響も無いのだが、着地の瞬間に効果が途切れ風圧を受ける様なのだ。
つまりだ……
何時もミニスカートを履いているリュリュさんは、ルーラで着地の瞬間にフワッとスカートが舞い上がるのだ。遠くからでは解らない……近くでだからこそ目の当たりに出来る瞬間なのだ!
今日もしっかりとスカートの中を確認でき、一日のやる気が漲ってくる。
そんな思いで場内へ向かうリュリュさんを見送っていると、城から会いたくない人物がこちらへ歩いてきた。
「げっ、ウルポン……今日は朝から最悪だわ~」
「おはようございます、リュリュさん。斬新な朝の挨拶ですね。流石……王家の血を引く方は違う(笑)」
この男は嫌味を言わないでは生きていけないのだろうか?
リュリュさんもこれ以上の口論は無駄と解っているのだろうか、「オハヨウ」と棒読みで応えて場内へと入っていった。
件の嫌味宰相閣下は、そんなリュリュさんを見送るや、俺の方へと近付いてくる。
「よっ、おはよう」
「はっ、おはようございます宰相閣下!」
何だよ……誰もアンタに敬意を払わないから、俺の様な下っ端のところに来て地位の自慢か?
「大変だな、こんな侵入者なんか来そうに無い場所の警備なんて……」
「いえ、とんでもございません! グランバニアを……引いては王家の方々をお守りする為、如何なる場所の警備にも全力を尽くす所存であります宰相閣下!」
早く自分の職場に帰れ。
「そうか……真面目だねぇ。まぁここはリュリュさんが毎朝来る場所だから、男としては張り切っちゃうよねぇ」
「い、いえ……そ、その……」
何て答えれば良いんだよ!?
「ところで話は変わるけど、今日……何色だった?」
「は……はぁ? あ、あの……」
こいつ……何言ってんだ?
「色だよ色! 俺にも教えてくれても良いだろ」
「い、色と言われましても……」
知ってるのか? この場所がリュリュさんのパンチラスポットだって事を!?
「別に隠す事はないだろ」
「はっ……その……あ、赤でありました」
言うしか無い……
言わなければ『情報を渡さない者』として、この場所の警備を他の口の軽い者に自らの権力で挿げ替えるかもしれない。
向こうから聞いてきたんだ……俺だけをスケベな変態野郎にはしないだろう。
「赤!? へー今日は赤なんだ……因みに俺はピンクだった」
「はぁ……そうですか……」
お前のパンツの色なんか知りたくねーよ!
「お前、魚座?」
「え! いえ……ち、違いますけど」
何だ急に星座を聞いてきて?
「あれぇおかしいな……今日の朝刊の占いコーナーによると、ラッキーカラーが赤なのは魚座だったんだけどな。因みに俺の双子座のラッキーカラーはピンクね、今言ったけど」
「ラ、ラッキーカラー……ですか……!?」
「そうだよ、ラッキーカラー! あれぇ? 話が噛み合ってなかったみたいだねぇ……お前、何の色の事を答えたの(笑)」
「い、いや……そ、その……」
コイツ、俺だけをスケベ野郎に仕立てようとしてやがる!
「答えろよぉ。何の色が赤だったんだよぉ!」
ああ! この野郎、解ってて聞いてやがるな。
なんて嫌な奴なんだ!
どうせバレてるのだし、ここで嘘を突き通しても“お偉方に嘘を吐く男”として悪い印象を風潮されるかもしれない……
それなら一層の事ハッキリと俺がスケベな男であると示した方がいいきがする。
「そ、その……赤が何色の事かと申しますと、毎朝着地時にスカートが捲れて見えてしまうリュリュさんの下着の色であります!!」
「へー、そーなんだー!? 毎朝ここではリュリュさんのパンツをこっそり覗く事が出来るんだー!」
自分は興味なかったかのフリ……わざとらしい!
「良いなぁ毎朝リュリュさんのパンツ見れて。本人は気付いて無いんだろ?」
「あ、はい。ルーラ着地時にスカートが浮き上がってる事自体、気が付いてはいないご様子であります!」
何か友好的な手応え。『俺も毎朝見に来ていい?』的な流れになるのかも?
「いいなぁ~……そっか~……明日は何色か楽しみだねぇ~」
だが俺の考えとは違い、宰相閣下は羨ましがりながら城内へと帰って行く。
わざわざ俺にリュリュさんのパンチラを覗く許可を得る必要が無いって事か?
ムッカーイSIDE END
(グランバニア城:宰相執務室)
ユニSIDE
今日も午前の仕事が終わり、昼休みとなったので昼食を取り終え職場に戻ると、まだ昼休み時間中にも関わらず、軍務大臣と総参謀長と一般兵士が呼び出された様で、宰相閣下の机の前に並んでる。
「悪いね昼休み時間に呼び出しちゃって。昼飯は食べた?」
如何やら彼等も集まったばかりの様で、これからメインイベントが開催されるらしい……丁度良いタイミングで戻ってきたみたいだ。
「我々は軍人ですので、何時何時招集されるか判りません。ですが常に備えておく為、早飯は基本であります!」
ピピン大臣の台詞に『消化に悪そう』と感じてしまうのは私だけだろうか(笑)
「休み時間に呼び出したのは訳があって、わざわざ正規の就業時間に呼び出すほどの案件では無かったからなんだ」
「その案件とやらは何事でしょうか? ご飯は早く食べ終われるけど、休憩はしておきたい派なんだよね僕」
どうせくだらない用件だと察したのか、レクルト閣下が嫌味を言う。
「今日の色は赤なんだってさ」
「?」「?」「……っ!」
突然の色発表に私共々『?』だ……一般兵士を除いて。お前、何を知ってやがる!
「ピピン大臣。何の色か分かるかい?」
「い、いえ……小官には見当も付きません」
小官にも付きませんですわ閣下。
「レクルト君には……分かるかなぁ?」
「わざわざムカつく言い方をするって事は、誰かのパンツの色かねぇ?」
何でパンツの色の事で軍の高官が呼び出されるのよ!?
「お前凄ーな!」
「え、当たり!?」
ウソ、マジで!?
信じられないという思いが大きいが、急に何故だか呼び出されている一般兵士の存在が疑問になり、ウルフ閣下以外の全員(私やこの部屋に居た少数のスタッフ)の視線が奴に集中する。
まさかお前のパンツの話題で呼び出されている訳じゃぁないよな!?
「もうレクルト総参謀長には、誰のパンツの事か見当付いてるんじゃないかな?」
「はい……分かります。彼(呼び出されてる一般兵士)の持ち場と警備の時間帯で……」
流石は総参謀長殿……なのか?
「い、一体誰のパn……下着の事なのですか?」
「察しが悪いなぁピピン大臣は」
ええ察しが悪いですわ……わざわざ軍の高官を呼び出す案件になる人物、彼女でしょうね。
「おいムッカーイ君。察しの悪い上官に説明して差し上げなさい(ニヤニヤ)」
「は、はい……」
あの一般兵はムッカーイという名前か。憶える必要は無いだろう。
「そ、その……きょ、今日の……リュリュさんの……下着の色でありま……す」
「何でお前がそんな事を知ってるんだ!?」
ピピン大臣の疑問は尤もである。
「あぁピピン大臣……そんなに怒らないでやってくれ。今回は別に叱ろうと思って呼び出した訳じゃないんだ。所謂注意喚起?……ってやつ」
「あ、はぁ……注意喚起ですか」
ほほぅ……
大好きなリュリュ様のパンツを他の男に見られて激おこプンプンってやつじゃぁないのかね?
それとも『そんなに器は小さくないぞ』アピールかね?
「彼も男……異性に興味ある男であるのだし、女性のパンチラ……しかも美女のパンチラは見てしまうだろう。それは問題じゃ無いんだ。じゃぁ何が問題だと思うレクルト総参謀長?」
「相手が……リュリュさんである事です」
「惜しい! 半分正解だ」
半分?
何だ、何が足りないんだ?
「相手がリュリュさんであろうが、ビアンカさんであろうが、そこら辺の一般庶民であれば、見れるパンチラは好きなだけ見れば良い。だが相手は王族なのだよ!」
ここに来て身分!?
「迷惑を掛けすぎる所為で王位継承権を失ったのなら兎も角、現在進行形で王族である以上ある一定の敬意をはらわねばならない。相手が『身分なんか気にしなくても良い』と言ってても、臣下として一定の敬意は維持しなければならない」
た、確かに……
「この国は現国王のお陰で基本的に不敬罪がユルい。だからこそ、王族に対して身分の低い者から指摘して……今回だったら『ミニスカを穿かない様に』とか『中にスパッツを穿く様に』等、指摘して見えてしまった事故を今後防ぐ努力をするべきなんだ。直接言えないのであれば上司に頼む等の方法だってあるだろう」
周り巡って何でも言える宰相閣下の下へくるだろうな。
「本当に勘違いしないで貰いたいのだが、男として……勿論状況が違えば女もだが、エロい気持ちを捨てろなんて言って無い。俺も見れるパンチラは指摘しないで見てる。昨日のユニさんは白だったし、基本的に白が多い」
「こ、このエロガキ……」
私は思わずスカートの裾を押さえて、この宰相を睨んだ。
更に腹立つのは、ピピン大臣・レクルト総参謀長・一般兵の視線が私の下半身に集まる事だ……男って奴は!
「まぁ兎も角……そういう訳で今後の為に、皆には注意喚起をしておいて欲しい。注意喚起なんだから怒ったりはしないでくれよ……パンチラは見ちゃうモノなんだ。見る側に罪は無い!」
そうだがムカつく。
「それとレクルト。今回の件を以て、あの場所はレスビアンじゃ無い女性兵士限定の持ち場に変えてくれ。問題が浮き彫りになった以上、上層部の方からも対策を施さないとならないからな」
「了解しました。早急に対応します」
・
・
・
その後、二三対応案を話し合い軍人連中は持ち場へと帰って行った……疲れ切った表情で。
宰相閣下も言葉通り怒ってる訳では無くて、何時も通り嫌味な言い回しはあるモノの、終始穏やかに会話は進んでた。
「……昼休みも終わったな。執務室に戻ってきてるだろう」
「え! まさか確認しに行くんですか?」
時計に目をやり、一枚の書類を持って立ち上がる宰相閣下。
「当たり前だろ。一方的な目撃証言だけで、軍の人事を動かす訳にはいかない(ニヤリ)」
「言ってる事は尤もですけど、やろうとしてる事は最低ですね。流石皆の尊敬を集める宰相閣下ですわ」
「はははははっ……もっと褒めて良いぞ!」
「はい。地獄へ落ちろ……ですわ」
ユニSIDE END
(グランバニア城:外務大臣執務室)
ティミーSIDE
昼休みも終わり執務室へ戻り午後の仕事をしてると、我が国が誇る極悪宰相閣下がやって来た。
あまり良い予感はしないが、一応和やかに対応しよう……後が怖いから。
「やぁいらっしゃいウルフ君」
「お邪魔するよティミーさん……そして部下の女性をちょっとお借りしたい」
「リュリュを?」
僕には見向きもせず、目的の女性に注視してる。見られてる本人は、盛大に嫌な顔をしてる。
「ちょっとリュリュさん、こっちへ来て貰えますか……って言うか来てください、命令です。従わない場合は国王陛下からのお小言付きの命令に変化します」
「え~ウルポンの命令に従うのは本当に嫌なんだけど、お父さんに怒られたくないから渋々従う。マジムカつくぅ」
「じゃぁリュリュさん、この書類を両手で持って明かりに透かして浮き出てくる文字を読んでください。声に出さなくても良いでスカラ、透かし文字を読む努力をして下さい」
そう言って一枚の紙を手渡され、リュリュは言われるがまま天井の明かりに両腕ごと向けて何かを読もうとする。
「何も……浮き出ないけど……?」
リュリュの言葉を聞くと、ウルフ君は彼女の目の前でしゃがみ……あろうことかスカートを捲り上げた!
そして……
「本当に赤だった。しかも紐パンかよ!?」
そう言って平然と彼女の下着の紐を引っ張り、取り上げて僕にもその赤い布を見せてくる。
だから彼女は今、何も穿いてない。
「これ天然ですか……それとも剃っててツルツルなんですか?」
状況に思考が追い付かないリュリュは、持ってる紙とウルフ君が持ってる赤い布と涼しくなってる自分の下半身に何度も視線を動かして、状況を理解しようと努めてる。
「……ホントにトロい女だなぁ」
「え……あ……き、きゃぁーーー!!!!!」(パンッ!!!)
ティミーSIDE END
(おまけ)
今回のテーマソング
赤パン魔法美女の歌(ガッチャマ○のリズム)
♪誰だ 誰だ 誰だ~♫
♪赤い紐パン見せる奴♫
♪魔法(ルーラ)で着地の♫
♪リュリュちゃ~ん♫
♪実父の為に穿いてれば♫
♪嫌な宰相 見て取りだ~♫
♪飛べ 飛べ 飛べ♫
♪リュリュちゃ~ん♫
♪行け 行け 行け♫
♪宰相~♫
♪パンツは一つ♫
♪実家(いえ)には複数♫
♪おお リュリュちゃ~ん♫
♪リュリュちゃ~ん♫
後書き
正くんさんのアドバイスで、
今回のパンツネタを連想できました。
「飛行する魔法少女」とか
「下手したら全裸も」とか……
ありがとうございました。
因みに先に出来上がったのは、
テーマソングですw
今日のポピー
(ラインハット城:談話室)
コリンズSIDE
ここラインハット城の王家プライベートエリア内談話室に、先日サンタローズの聖歌隊のお披露目公演にご臨席というカタチで参加した王族が集まっている。
デール陛下を初め父のヘンリー陛下・母のマリア陛下・妻のポピー・そして俺、コリンズの5人だ。
件の聖歌隊お披露目以降の、サンタローズの現状について色々話題が上がったので、報告がてらの談笑である。
いや、談笑であるはずだった……
「……と、我々が臨席した事による宣伝効果も相まって、控えめに言ってもサンタローズ教会は好調な様だ」
収集した情報を伝え、現状を報告する父。
「僕の耳にも入ってきてますよ。近隣のみならず結構な遠方からも見学に来る人が居るらしいです」
叔父上の耳にまで噂が入ってきてるらしい。
「こういう言い方は嫌いだが、流石はリュカの手腕だな」
「兄さん……グランバニア王は関与してませんよ。誰かの手腕だとすれば、プーサンの腕です」
知ってる人間には同じ事だとしか思えない。
「そうだったな。ところで……現状のサンタローズで、気になる噂も入ってきてるのだが」
「気になる噂……ですか? 何ですか兄さん」
今のサンタローズについて纏めた書類の中から、一枚取り出して何やら不安な事を言い出した。
「うん……聖歌隊関連では無いのだが、その何と言うか……サンタローズの男性、特に独身男性に……その……オカマ……の様な者が多い……と言う噂なんだが……」
何だその噂は!?
父も意味が解らない様で、報告も歯切れが悪い。
思わず肩を竦めて各々の顔を見回す……と、我妻だけが顔一面にニヤけ面を浮かべていた!
何か知ってやがる。
「おいポピー……お前何か知ってるな?」
「あらヤダお義父様。何かあると直ぐに妾を疑うのは悪いクセでありますわよ(笑)」
これは知ってるってレベルじゃぁないな……完全に元凶だ。
「それだけニヤけていれば馬鹿でも気付く」
「いやぁ~……面白い噂だなぁと思ってただけですわよ。おほほほほ」
最近気に入ってる煌びやかな扇を広げて顔を隠しながら笑う妻。
「ふ・ざ・け・る・な・よ・! 普段言わないくせに急に一人称が『妾』になる義娘が信じられる訳ないだろ」
「あ~ん、お義母様。お義父様が可愛い義娘をイヂめるぅ!」
「アナタ、可愛い義娘をイヂめちゃダメよ。 ……で可愛い義娘さん。貴女は何を知ってるのかしら?」
「あらヤダ、味方が居ない(笑)」
「いやぁ~、別にぃ~、大した事じゃぁ~、ないんですけどぉ~」
「ウソ吐け、どうせ元凶はお前だろ。この世の中のトラブルの7割はリュカで、残りの3割はお前が元凶だ」
この世の真理を知った。
「ひっど~いお義父様ぁ~! ウルフの存在を忘れてる」
「あれは小者だろう」
それはそれで酷いが、ポピーは腹を抱えて笑ってる。
「……はぁ~、面白い。私は困ってる妹を助けただけなんだけどね」
一頻り笑い終えたポピーは、流れる涙を拭いながらそれっぽい事を嘯いた。
事実なんだろうが額面通り受け取っては痛い目を見るだろう。
「如何言う事だ、説明しろ」
父も叔父上も……母でさえも、油断する事無く話しの続きを促す顔をしている。
勿論俺もだけどね。
「この間のご臨席の時に、一人の若者が私の可愛い妹フレイに『はぁはぁ……き、君のお姉さんの好みの男性のタイプって何? あとパンツ何色ぉ?』って迫ってたから、ビシッと私が代わりに答えてあげただけですわよ」
「パンツの件は絶対ウソだ」
「で、貴女は何と答えたの?」
父さんに完全否定され、母さんに促されてるが、当人は楽しそうだ。
「勿論『リュリュは実の父親が大好きなド変態女だから、好かれたいのなら実の父親になりなさい』って……」
「……言ったのか!?」
まさかな……
「言う訳ないでしょ! 私とリュリュの関係性は知られてないから、あの娘がド変態扱いされても問題ないけど、フレイは実の妹として周知されてるのよ。あの娘まで奇異の目で見られる訳にはいかないでしょ」
一応そういう常識は持ち合わせてるんだ。
「じゃぁ何て言ったのかしら?」
「え!? あ……いやぁ~……真逆……の事……かなぁ?」
真逆? それで、ああなるのか?
「真逆って……オカマが好きとでも言ったのか?」
「オカマじゃ無いわよ、女々しいだけよ!」
あの村の男共は大分逸脱した捉え方をしてるな。
「お前……何でまたそんな事を? そんなにリュリュを不幸にしたいのか?」
「何言ってるのお義父様。逆ですわ! 私は全ての妹に幸せになって欲しいと、常日頃から思ってるわ! お兄ちゃんは例外だけど(笑)」
笑えない。
「じゃぁ何で!?」
「考えてもみてください。あの娘の理想の男性像より、いい男がこの世に存在すると思いますか? ねぇお義母様。あんないい男、他には居ないでしょ!」
「え! あ……うん……まぁ……」
「そうなのよ! もうつまり、あの娘が結婚するには、妥協して男のレベルを下げないとならないのよ。お義母様もそうでしょ?」
「え~……その質問、答えなきゃダメ?」
「いやマリア、もう答えは解ったから大丈夫だ」
「あらヤダ、倦怠期かしら」
誰の所為だ!
「話を戻すが、男共のレベルを下げるのに『女々しい男』ってのは、些か下げすぎじゃぁないのか?」
「解ってないわねお義父様は……何時だって! だからHHとか呼ばれるんですわ」
「ヘッポコ言うな! じゃぁ如何言う事なのか説明しろ」
「私はあの村の男共を、リュリュの夫に宛がうつもりは毛頭ありません。生活している周囲の男共のレベルを底辺まで下げて、職場付近の男性を少しでも良く見せようって考えですわ」
「なるほど……言いたい事は解ったが、犠牲になったサンタローズの男共の将来は、如何するつもりだ?」
「はぁ? 何で私がそこまで考えなきゃならないんですか? 少子化が進み、あの村が存続の危機を迎えたら、またどこぞの王様が怒鳴り込んできますわよ(失笑)」
「そんな無責任な!」
「王都の未婚女性を連れて、彼の地で婚活パーティーでも催して差し上げれば宜しいんじゃないですか……知らんけど」
相変わらず無責任極まりない。
「私は、兄以外の家族の幸せを最優先に考えておりますのよ」
「兄の幸せは?」
思わず俺は疑問を口にしてしまった。
「私や根性悪義弟の試練に打ち勝って、自らの力で幸せを手にして欲しいわね」
「君の根性悪義弟は、別に義兄の幸せを邪魔しようとはしてないと思うが?」
ポピーだけだろ、そんな事してるのは。
「如何かしら。アイツの根性・性格・口の悪さは、如何な世界でも他の追随を許さないから」
コリンズSIDE END
後書き
タイトルの元ネタ
知ってますか?
以前から、このタイトルで
エピソードを書きたかったのです。
丁度良い感じで
後日談が書けました。
因果という言葉がある。ヤってみよう、そしたらデキるぜって感じ。
前書き
今回のテーマソング(『この木なんの木』のリズムで歌ってね)
知らない人は、このURLを参照
https://www.youtube.com/watch?v=WYNC8JzV5j8
♪あの日 なんの日 キケンな日♫
♪月に一度の 危ない日♫
♪月に一度に 女性は 巡るでしょう♫
♪あの日 なんの日 キケンな日♫
♪みさかい無いと できるから♫
♪みさかい無いと 子供 できるでしょう♫
♪いつか子が育って♫
♪身体大きく育って♫
♪根に持たれて オヤジ嫌悪の未来♫
♪その日を その日を みんなが思ってる♫
♪夢でも 夢でも みんなが思ってる♫
(グランバニア城:二階廊下)
ピクトルSIDE
如何しよう……
やはりウルフさんに相談すべきなんだろう……
でも……何て言えばいいのか……
私は今日何度目かのトイレ駆け込みから、自分に割り当てられたアトリエへの帰り道で、これまた何度目かの重い溜息を吐いて壁にもたれて悩んでいる。
誰かに相談できれば楽になるのだろうが、内容が内容なだけに誰にも相談できないで居る。
「ピクちゃん、如何したの? 体調悪いの?」
アトリエまであと数メートルのところで、後ろから澄んだ声で話しかけられた。
まさかの国王陛下に!
「へ、陛下……い、いえ……体調は大丈夫です。ご心配には及びません」
私は慌てて背筋を伸ばし、陛下に対して元気である事をアピールした……が、急な動きに身体が付いてこず、倒れそうになったあげくに、また吐き気に襲われた。
「おっと、体調悪いのなら無理しn……あぁ、そういう事か!」
俊敏な動きで私を支えてくれた陛下が、何かに気が付き勝手に納得された。
何に気付かれたのかは解らないが、二日酔いで吐き気をもよおしてるだけかもしれませんよ陛下。
「取り敢えずアトリエで休んでるといい。無理して絵なんか描かない方がいいよ。今君に一番必要な奴をここに寄こすから」
そう言うと私をお姫様抱っこして、アトリエまで運んでくださった。ちょっと恥ずかしい。
ってか、誰を寄こすの?
ピクトルSIDE END
(グランバニア城:宰相執務室)
ユニSIDE
「おいウルフ。今すぐ宮廷画家のピクトル・クンストの下へ行け。国王命令な」
突如現れたリュカ様が、何時も通り一方的に宰相閣下へ命令をする。
だが彼女が如何したのだろうか? 直属の上司は私だから、問題があるのなら私が赴くべきなのだけど……
「相変わらず藪から棒に何なんっすか?」
「先刻偶然にだが彼女が転びそうになって、それを支えたんだ。そしたらお前が彼女の下に行く必要が出来た。解ったのなら今すぐ行け」
一個も解らない。
私だけで無く、この部屋に居る誰もが頭の上に“?”を点してる。
それは我々が凡人だからだろうか? 凡人では無い宰相閣下は、リュカ様の言葉を聞いて顔面蒼白になっている。
「い、今すぐ……行って来ます」
そう言うと、あからさまに動揺した足取りで出口へと向かう宰相閣下。
宰相閣下が退出して扉が閉まると、私にしか聞こえないくらいの小声でリュカ様が呟いた。
「隠し事するから問題が大きくなるんだ……僕みたいにオープンなら困らないだろうに」
ユニSIDE END
(グランバニア城:二階廊下)
エウカリスSIDE
気分転換のティータイムを優雅に満喫し、城内カフェから自分のアトリエに帰る途中、あきらかに動揺している平宰相がピクちゃんのアトリエに入っていった。
何だあの野郎……ピクちゃんにセクハラでもするつもりか?
許せん。
ピクちゃんみたいに気の弱い娘相手に、権力を笠に着てエロい事をしようなんて……
私は現場を押さえるべく、ピクちゃんのアトリへの扉に右耳を付けて、中の様子を探る。
聞こえない。
この城は何所も重厚な造りをしていて、相当大声で話さない限り中の音は聞きにくくなっている。
もう少し安普請でも良い様な気がする。
そうだ、少しだけ扉を開ければ良いんだわ!
ホントちょっとだけ開ければ、中の声が聞こえるはず。
私は音が出ない様に、ゆっくりとドアノブを回し扉と壁に隙間を作ろうとした……その時!
「やぁサビーネちゃん。何してるの?」
「ひゃ、ひゃいぃぃ!」
突然後ろから肩を叩かれ話しかけられた。
変な声を出してしまったが、慌てて後ろに振り返ると、そこには優しい表情のイケメン……陛下が笑顔で佇んでいた。
しかも更に後ろには王妃陛下も優しい笑顔で佇んでいる。
「暇そうだね。だったらお菓子を持ってきたし、お話でもしようよ」
「紅茶も持って来たわよ」
如何言い訳をしようか悩む間もなく、私の手を引いてピクちゃんのアトリエから少し離れた位置で腰を下ろし、お菓子を広げる陛下……ここ廊下ですよ?
まさか両陛下のお誘いを断る訳にもいかず、ピクちゃんと平宰相の遣り取りを探るのを続けるわけにも行かず、半ば強制的に廊下に腰を下ろし、国王陛下のお話を聞く事になった。
何やら政治的な話をされると思ってたのだが……
「むか~し、むかし……」
と、奇妙な昔話を始める国王陛下。
だが内容は如何にも理解不能な話だ。
桃から生まれた男の子が鬼退治をすると言う奇抜な話。
桃から生まれるというのも理解不能だが、お供に『犬』『猿』『雉』なのも理解出来なかった。あと『きびだんご』って何?
そして次の話が、苛められてた亀を助けたが、最終的に不幸になる話だった。
息継ぎもせず海の底に潜れる主人公に理解不能だったし、帰り際に『絶対に開けるな』と手渡される土産に理解出来ない。開けちゃダメなら渡す意味は?
更に国王陛下の話は続き、雪の日に数体並んだ石像に笠を被せるジジイの話だ。
途中まで聞いては居たのだが、流石に我慢の限界が来て「すみません陛下、出来れば描き上げたい絵がありますので、お話はこの辺で……」と言い訳し自分のアトリエに逃げ込んだ。
逃げ込む際「また話を聞きたくなったら部屋から出ておいで。まだいっぱいお話はあるから」と言われ、アトリエから出る事が出来なくなった。
一体何がしたいのだろうか?
エウカリスSIDE END
(グランバニア城:三階中庭)
ビアンカSIDE
「んで、如何言う結論に達したの?」
二階廊下を通り過ぎる人々の目を気にする事無く、ヘタレ宰相が愛人のアトリエから出てくるのを待ち、出てきた直後に中庭へと連行して第一声が今のリュカの台詞だ。
「……げ、現状維持です」
「意味が解らないな」
流石ヘタレ……全く意味が解らない。
「ですから、現状維持で世間には何も公表せず、ピクトルさんは愛人のまま俺の子を産んで育てるんです」
「マリーにもリューノにも秘密にして、墓場まで持って行くって事?」
「そうです……」
「子供が生まれても、認知もせず、子育てもせず、養育費すら払わないで秘密を維持し続けるって事?」
最低だ。
「い、いえ……養育費だけは払います。あと、宰相である権力を使い、片親家庭に援助金を支給できる様にして、生活を少しでも楽にします」
「勝手に税金使われるの困るんですけどぉ」
「リューノも片親で子育てするんですし、その……親的にも……プラスな援助金ではないですかね?」
「え、なにお前……リューノの子育ても手伝わない気だったの?」
最低のクズだ。
「て、手伝いますよ!」
「ふ~ん……」
多分私もだが、リュカはこれ以上無いくらい白い目でヘタレクズ野郎を見ている。
「俺もピクトルさんの子育てを手伝うつもりだったんだ! だけど彼女に『私達の関係は秘密の関係なのだし、コレまで通り秘密でいましょう』って言われて……その……何も言えなくなって……その……」
うん、最低のヘタレクズ思考だ。
「一応聞くけど、生まれた子供には父親の事を知らせるの?」
「え? か、考えてませんでした……」
最低のヘタレクズ馬鹿だ。
「ピクトルさんと相談しようと思います。 ……っていうか、もう俺達の問題なんですから、干渉しないでください。こ、困ったら助けて欲しいですけど……」
「身勝手だなぁ」
「い、良いじゃ無いですか! リュカさんはその道のプロなんですから」
「僕は秘密にした事無いし、何ら力にはなれないと思うけど」
確かに……全く秘密にしないのは、それはそれで凄いと思う。
「と、兎も角……俺はもう行きます。仕事が滞ってるんです」
「こういう時、仕事に逃げてもミスするだけだよ(笑)」
笑って言ってるが言葉は重い。
「て、天才ですから、そんな事はありません!」
そう言うと勢いよく立ち上がり、逃げる様に職場へと帰っていった。
まだまだ子供だ。そんなのが父親になって大丈夫かしらねぇ?
ビアンカSIDE END
後書き
今回のエピソードは、
私の中ではまだ掲載(書く)つもりは無かったエピソードです。
タイミング的には
ウルフがDQ8の世界から戻ってきた後のエピソードなので、
作者的には、リュカ伝3.8とリュカ伝4(予定)を
書き終えた後のアフターエピソードでした。
でもワクチン接種の待ち時間に、
鼻歌を歌ってたら
テーマソングが出来てしまって
急遽書きました。
狙った相手が悪かった
前書き
珍しく一話が長いよ。
でもかなりサクサク書けたよ。
マサオ君が可哀想だよ。
(グランバニア城下町)
首刈りマスターSIDE
俺は殺し屋。凄腕の殺し屋。
皆からは『首刈りマスター』と呼ばれ恐れられている、プロの殺し屋……本名など生まれた時から無い。
某国のお偉方から依頼され、二ヶ月前からグランバニア王都に潜入して、実行の機会を覗っている。
なんせ世界でもトップクラスの要人……グランバニア国王の暗殺だ。
入念に準備しても、し過ぎると言うことは無い。
俺にとっても記念すべき仕事だ。
仕事として首を刈ってきた人数が、丁度100人になる記念すべきターゲット。
それが現グランバニア国王、リュケイロム・グランバニアだ。
俺の腕には、これまでに刈ってきた首を両腕にドクロマークとして99個タトゥーで記録している。
右の二の腕に50個……
左には49個……そして明日には一つ増える。
俺は普段、二の腕が隠れる程度の袖がある服を着ている。
だが一度袖を捲れば、99個のドクロがお目見えし、誰もが俺……首刈りマスターに恐れ戦くのだ。
そのドクロが明日には100個になる……ふっふっふっ、俺の伝説は未来永劫語り継がれるだろう。
とは言え、名前すら知られてなかった小国を、一代で世界屈指の超大国へと変貌させた国王だ。
その警備は厳重で、100個目にして最大の難易度……だと思っていたのだが、このターゲット……護衛も付けずに、夜の城下町をフラフラ闊歩していやがる。
今日……と言うか今も、この先にあるナイトバーにお気に入りの女が弾き語りをしてるらしく、そこへ向かって歩いてるのだ。
しかもご丁寧に、毎週日曜日の23時過ぎに来店するから、待ち伏せするのも至極容易だ。
この二ヶ月間、幾度もすれ違ってきたが、全く俺の存在には気付いて無い。
まぁそれは当然なのだ……俺の仕事スタイルは、ターゲットを入念に調査し行動パターンを掴んだら、気配を完全に消して腰に携えた仕事道具……ククリナイフで一気にターゲットの首を刈り落とすのだ。
99個というドクロが、俺を凄腕と表している。
ターゲットまで50メートル。
さて……俺も動き出そう。
道の端に立つ客引きの売女共に笑顔で手を振り、俺の方へと近付いてくる。
ターゲットまで30メートル。
相手は俺に気付いて無い。
こちらに顔を向けること無く、両サイドの女共にヘラヘラ笑って手を振っている。
ターゲットまで10メートル。
あと少し……ここで素人だと、慌ててしまい自らの間合いでも無いのに襲いかかってしまうのだが、凄腕と評される俺クラスになると、自分の間合いを熟知している。
ターゲットまで5メートル。
まだだ……俺の間合いじゃ無い。
確実に一閃で首を刈るには、あと少し。
ターゲットまで2メートル。
ここだ! 次の一歩を踏み出し距離を1メートル未満まで縮めて、身体に染みついた動作でナイフを抜き、その動作のまま首を刈り落とすのだ!
くらえ!
俺は完璧な距離で、完璧な動作で、ターゲットの首にナイフを振りきった。
俺の視界にククリナイフがターゲットの首、数センチ……と言うとこで突如視界が急変した。
グランバニア国王の顔は視界に無く、代わりに満天の星空が目に映った。
そして視界が暗闇に閉ざされると、俺の右頬に激痛が走る。
一体……何……が……あった……?
首刈りマスターSIDE END
(グランバニア城地下牢)
ピピンSIDE
深夜……0時を回ろうとしたころ、リュカ様が訪ねてきた。
右手には見慣れぬ男を引き摺っている。
男の右頬は赤く腫れ上がっており、リュカ様に殴られたのだと推測される……生きてるのか?
なんでも、この引き摺られてる男に命を狙われたらしく、色々と確認したいので夜番の警備兵を2人ほど引き連れ、私にも立ち会えとの事だ。
リュカ様の命を狙うとは……馬鹿なのか?
今や地下牢としては使用してない牢獄の一番奥の部屋に、件の男を厳重に手枷足枷を施し、鉄製の椅子に座らせ鎖で縛り付け待機する。
リュカ様が同席されてるのだから、手枷足枷どころか紐で縛り付ける必要も無いのだが、男の安全の為に縛り付けておく。
程なくして使いに出していた兵士が、もう一人の重要人物を連れて、この牢屋へと入ってきた。
兵士の顔には「ウンザリ」の影が覗える。
深夜の呼び出しに、相当嫌味を言われたのだろう。
「何すかこんな時間に呼び出して。明日月曜の朝一じゃダメなんすか、リュカさん?」
相手が誰であろうとブレないこの精神力には敬意を表したいとは思うが、それをさせてくれないほどの性格が悪い宰相閣下がお出ましだ。
「コイツ、誰?」
宰相閣下の性格の悪さを唯一凌駕することの出来る精神力を持っているリュカ様が、深夜の呼び出しに対する労いも、状況の説明も……あまつさえ主語すらも省いた質問を浴びせかける。
「知るかよ!」
だろうな。
いきなり呼び出され、顔の腫れ上がった男を見せられても、答えが出る訳も無い。
「何だ何だぁ……今をときめく天才宰相閣下は、この有名人のことも知らないのかぁ(笑) 『天才』って言うのも、もう止めた方が良いんじゃねぇの?」
まだ意識の戻らない男の髪を掴み、顔を見える様にしての嫌味である。一体いつこの男が有名人認定されたのか?
「あ゛ぁ? 相変わらずムカつくオッサンだな」
「オッサンじゃ無い、イケメンだ」
そこ重要ですか?
「……ん? ちょっと其奴の腕、捲ってみろ」
必要無いだろうと思うが、建前上警備用に2人の兵士を男の後ろに立たせてあるのだが、そのうちの一人……ジャナン軍曹に指示を出す。流石に上司には指示を出さなかった。
「……ああ、コイツ知ってる。殺し屋の……え~と……首取り……マタンゴって名前だった様な気がする」
多分ウソだ……この人の記憶力はずば抜けている。
一度見聞きしたことを曖昧に憶えるはず無い。
「首刈り……マスター……だ!」
多分リュカ様に頭を動かされた時から意識が戻ってたのだろう。失礼な名前の間違いに、黙ってられず訂正する。このお二人も、それを解ってての茶番だろう。何だよ『首取りマタンゴ』って……殺し屋の名前にある訳無いだろう。
「あぁソウダッタ。腕のタトゥーは今まで刈り取ってきた首の数って話だよ」
「へ~……じゃぁ、えーと5×10で50人の首を刈ったのか」
右腕だけを……ワザと右腕だけを見て数を数え納得するリュカ様。可哀想に……これから存分に馬鹿にされ続けるのだろう。
「左腕も見ろよ」
「左? あぁホントだ! あれでも、一個欠けてるよ。これじゃぁ左腕は49個しかドクロマークが無い。バランス悪くね?」
「50人、49人の都合99人しか刈ってないんだろ。察してやれよ」
「何だ。まだ二桁だったのか。中途半端だな。こんな中途半端な自称殺し屋の100人目のターゲットに選定された奴には同情を禁じ得ない」
「その同情を禁じ得ない奴がリュカさんだよ。解れよ(クスクス)」
「え? でも僕、首が繋がってるよ。あぁ物理的な意味だけど」
でしょうね。
「だからコイツはそこで縛り上げられてるんだろ! リュカさんの首が刈られてたら、今頃コイツの左腕には100個目のドクロが刻まれてるはずなんだよ」
「あぁ~……そっかぁ~……ゴメンね、空気読めず邪魔しちゃって。お詫びに僕が、100個目の場所にバランス良くなる様、ウ○コマークを描いてあげるよ」
そう言うとリュカ様は、もう一人の警備兵……タック少尉の腰からショートソードを抜き取り、刃の先端部分を掴み器用に男の腕に入れ墨を彫りだした。
「や、止めろこの野郎! ぶっ殺すぞ!!」
「ちょ……動かないで! 可愛くウン○が描けないでしょ!」
そう言うと我々に目配せをするリュカ様。
私は慌てて二人の兵士に指示を出し、男を押さえつけ傍に置いてある机に左腕を押し当て固定する。なお、天才宰相閣下は腹を抱えて笑っておられる。
「よし描けた」
そう言うとリュカ様はこの部屋の隅に蓄積されてる土埃を手に取り、刻んだばかりのあのマークに刷り込んで……「ホイミ」と傷口を塞いだ。
「どれどれ?」
笑っておられた宰相……天才宰相閣下が男に近付きマークを確認する。
そして「ぶはぁ!」と吹き出すと「色合いもバッチリですね(爆笑)」とリュカ様の作品を褒め称えた。
私も二人の兵士も、この男が哀れすぎて笑えない。
いや、一応上司方に合わせる為に愛想笑いはする。
この世で敵に回してはいけないナンバー1とナンバー2を敵に回した報いだろう。
「ところでさぁ……お前、本名何?」
散々笑った天才宰相閣下が、今更の質問を投げかける。
確かに……お二人の非常識ぶりに、そこへ気が回らなかった。
「お、俺の名は首刈りマスター! 本名など生まれた時から無い」
「え~……君、本名無いの!? 不便じゃん」
本心かどうか解らないが、リュカ様が同情する。本心な訳無いか。
「じゃぁ名前付けてあげるね。う~ん……首刈りマスターってダサく呼ばれてるんでしょ。じゃぁ格好良く『クサ○リ・マサオ』! うん、これからはマサオ君って呼ぶよ」
「あははははっ! 首刈りだって言ってんのに、何でクサカ○になるんだよ!(大爆笑)」
腕に変な入れ墨を彫られ、勝手に変な名前を付けられ、この男も涙が止まらない様子だが、違う意味で天才宰相閣下の涙も止まらない様子だ。
多分明日、腹筋が筋肉痛になってるだろう。
「クソッ! ふざけやがって!!」
「え~……わりと真面目なんだけどぉ」
「あははははははっ……あ゛~お腹痛い!! もうこれ以上笑わせないで!」
広い地下牢内には天才宰相閣下の大きな笑い声が響き渡る。
牢屋の中でも一番奥を選んでおいて良かった。
入り口付近だと地上階にまで笑い声が響いて、人々の安眠を妨害してただろう。
「く、くそ~……お、おい教えろ!」
「ん……なにを? パンツの色?」
何で下着の色が話題に出るんだ!?
「そんなことじゃない! 俺は……何時しくじった? この二ヶ月間……俺は気配を殺し、チャンスを覗っていた。そしてそれは完璧だった……貴様は一度も俺に注目しなかった。存在に気付いてもいなかったんだ! 貴様はどのタイミングで俺を怪しんだ!? 教えろ……処刑の前に教えろ!!」
「最初からに決まってんだろ(薄笑) 二ヶ月前に姿を現した時から、お前のことは怪しいと気付いていたさ! 顔が犯罪者だったからね」
「さ、最初からだと!? ウ、ウソだ!! 俺は完璧に気配を消しきってた。実行のタイミングまで武器すらも持たず、一般人に同化してた! 貴様は一度も気付いた素振りを見せなかったじゃないか!?」
「気付いた素振りを見せたら、お前は逃げ出してただろ? 罠にかかったフリをしてやるのも、結構大変なんだぞ」
「そ、そんな……お、俺の能力は……完璧だった……はず……」
「でもさぁリュカさん。今回は怪しんで正解だったけど、顔が犯罪者ってだけで全くの無関係者を殴ってたかも知れないんですよね? 間違ってたら如何するんですか?」
確かにその通りだ。リュカ様に間違いは無い……と言いたいが、100%なんてことはあり得ないだろうし。
「間違ってたらぁ? う~ん……そうだねぇ……『ゴメンね』って言う」
「……………ぶはぁ!! ゴ、ゴメンで済む訳ねーだろ(爆笑)」
全くだ、顔が倍近くに腫れ上がるほど殴っといてゴメンで済むとは思えないな。
もう既に心身ともゴメンで済まない自称凄腕の殺し屋は、お二人の遣り取りなど耳に入ってない。
心を重点的に壊され放心状態だ。
まだ気を抜くのは早いと思うぞ……このお二人を相手にはな!
「もう日付も変わっちゃってるし、そろそろお開きにする?」
もう終わることを匂わせ、油断を誘うリュカ様。
私は警戒を解きませんよ。
「あれ……マサオ君に聞かないの、重要な事?」
「え、重要な事? 初Hの思い出とか?」
それ重要ですかね?
「違ーよ。コイツは自称だがプロの殺し屋。って事はコイツに殺しの依頼をした奴が居る。重要だろ」
「誰でも良いよ。この状況が重要なんだから」
如何言うことだ?
「まぁ多分、依頼主はホザックだろう」
「火縄銃の件で恨んでいると?」
だとしたら恨まれるのは天才宰相閣下の方だろう……あの件の黒幕だからな。
「でも違ったらゴメンねじゃ済まないですよ」
「済ます気は無いよ」
いや国際問題になりますよ。
「一国の国王を暗殺しようとして失敗し捕縛される殺し屋。この件が知れ渡れば誰しもが“殺し屋は処刑される”と思うはず。でも投獄こそされるが生き残っていれば、周囲は何と思うかなぁ? まるで『司法取引』でもした様に見えない? 『依頼主のことを全て話すから、命だけは勘弁してくれ』ってさぁ!(笑)」
「でも何度も言うが間違ってたら大問題になる」
「お前だって僕に隠れて火縄銃開発……そしてそれ以上の兵器開発を企み実行しただろ。あの国だって王が命じて無くても、隠れて暗殺を手配した部下が居るかもしれない……と思い込むだろう。本当に居たって、殺しが失敗に終わってる状況で、王に正直なことを報告するはずも無い……と思い込む。こっちからのいちゃもんに、100%の自信を持って否定が出来ないんだ。火縄銃関連の武器開発情報を、まだ隠し持ってるかもしれない訳だし、家宅捜索の大義名分になるだろ(笑)」
「あぁ確かに」
悪魔が二人居る。
リュカ様のことは心から敬意を持ってるが、悪魔としか表することが出来ない。
「じゃぁと言う訳でピピン大臣」
「はっ!」
急に呼ばれて少し慌ててしまった。
「コイツは刑務所に放り込んで置いて。仮釈放無しの無期懲役ね。あと独房は禁止。皆に僕のタトゥー作品を見て欲しいからね。それと……渾名で登録する訳にいかないから、正式に○サカリ・マサオって記録しておいて」
そこまで指示を出されると、男でも惚れる様な仕草で翻り牢屋を出て行かれた。天才宰相閣下も一緒に……
私を含めた軍人はお二人が出て行くまで敬礼で見送る。
哀れなク○カリ・マサオに目をやると……
「お、俺は完璧だった」とか「俺の名は首刈りマスターだ」等と光の消えた瞳でブツブツ呟いている。
「はぁ……相手が悪いよ」
思わず呟くと、二人の兵士が吹き出し笑い出した。
やれやれだ。
ピピンSIDE END
(グランバニア地下牢通路)
重大な犯罪を犯した殺し屋の心を破壊したリュカとウルフは、並んで地下牢出口へと歩み進んでいた。
そして先程居た牢屋からは会話が聞こえないくらいの距離まで来た所で、ウルフがドヤ顔で今回の事件を語り出した。
「マオさんの情報が役に立ちましたね」
「大して役立ってねーよ。殺し屋がグランバニアに潜入したってだけの情報で、其奴が誰で如何な奴かは解らねーんだから」
「え……じゃぁ何時アイツが殺し屋だって気付いたんですか!?」
「直前だよ。気付いたらナイフが首元数センチに迫ってたから、慌ててアイツを裏拳で吹っ飛ばしてやったんだ。その結果が今に至る」
「じゃぁ『コイツ、誰?』の質問もガチだったの?」
「そうだよ」
凄腕なのは自称では無かったことを知り、同時に殺し屋に同情をしてしまうウルフ。
「狙った相手が悪かったな」
後書き
リュカさんとウルポンが
生き生きしてたね。
やっぱり僕は歌が好き 第一楽章「音楽は世界を救う……はず」
前書き
あけましておめでとうございます。
本年もリュカさん共々
宜しくお願い致します。
なのでリュカさんを登場させるエピソードを考えました。
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
不本意ながら私は今、グランバニア王国の政治の中枢に向かって歩いている。
比喩的表現では無くて、国王執務室へと向かっているのだ。
厄介事には関わりたくない。特に政治の厄介事は……
そう思うも王様から呼び出されれば伺うしか無い。
と言うのも、昨日ウルフ宰相閣下経由で、陛下の下へ赴く事となり、その時に用事を言い付かったのだ。
用件は簡単。
現段階までのマリピエが抱えてる楽曲をリストアップして、それを陛下に渡す事だ。
序でに、如何な曲か解る様に楽譜も付けてくれと言われ、昨日はほぼ徹夜で楽譜付きのリストを完成させた。
尤も陛下からは『急いでないよ』と言われたが、待たせたくないという気持ちが先走り、昨日の今日で完成させてしまったわ。
(コンコン)
「どうぞ」
陛下の執務室の扉をノックし許しを得て入室する。
「陛下、昨日の依頼を完成させました。どうぞ」
そう言ってリストと大量の楽譜を陛下に手渡す。
「え!? もう終わらせたの!! 流石、優秀だなぁ」
徹夜はしたが、マリーちゃんが何時もの様に練習に現れなかったので、作業が捗っただけである。
とは言え、彼女は目の前の方のご令嬢であらせられるから、批判めいた発言は出来ない。
陛下は気にしてない様だけど、私は気にする。
彼女がもっと真面目だったら、こんなに気苦労しなくて済むのに。
「結構な数だねぇ……因みに、既に世間へ発表してるのはどれ?」
取り敢えず楽曲のリストだけを見ながら私に質問される陛下。
「失礼します」
私は陛下の執務机に置いてあるリストの楽曲名の先頭に、丸印で発表済みの曲を示した。
「三分の一も披露して無いじゃないか! え~と……27曲。それだけアイツの歌唱力が未熟って事だね」
「はい……申し訳ございません」
陛下の言葉に、思わず謝罪する。
「いやいや……ピエッサちゃんの所為じゃないでしょ。寧ろアイツの音痴を世間に知られない様に、披露する曲を厳選してくれてるんだから、僕としては感謝だよ」
そう言って貰えると多少は気が軽くなる。
「あの……このリストは何に使われるのでしょうか? マリーちゃんにもっと練習する様に言って頂けると思っても宜しいのでしょうか?」
もしそうなら本当に助かるんだけど……
「う~ん……将来的な計画としては、アイツの練習への決意的なモノを刺激できるかもしれないけど、即効性では無い。当面は現状のままだろうね」
「はぁ~……そうですか……」
思わず溜息が出た。
「ゴメンね。今回リストを作って貰ったのは、僕が音楽関係でやりたい事があったから、アイツの楽曲と被らない様に知っておきたかったからなんだ」
「音楽関係でやりたい事ですか? またアイリーンに手伝わせるんですか?」
「う~ん……もしかしたら、そうなるかもだけど……当面は『謎のストリート・ミュージシャン、プーサン』の活躍がメインだね」
「え!? 陛下……違った、プーサン社長がストリート・ミュージシャンをやるんですか? 凄く気になります!」
「うん。先刻も言ったけど、音楽関係でやりたい事があって、それでお金が必要だから、小遣い稼ぎをしようと思ってるんだ」
「な、何も陛下が自ら稼がなくても、王様としてお金は沢山有るんじゃないですか?」
「王様は無給だよ。それに個人的な事に税金を宛がう訳にはいかないでしょ。あとプーサンがやりたがってるんであって僕じゃないよ」
陛下はもっと贅沢をするべきだと、私は思う。
「あれ? 『残酷な天使のテーゼ』は、まだ披露してないの? アップテンポな曲だから、あの音痴でも欺し欺し歌えるでしょ」
「はぁ……曲全体はアップテンポの名曲なのですが、出だしがスローから入るので、成功率が5回に1回なんです……」
「ウソだろ……そんなに成功率が低いのに、平然と人前で歌ってるのアイツ!?」
「私がマリーちゃんの美貌に嫉妬する余りに吐いたウソだったら、どんなに良いか……」
思わず大きな溜息を吐くと、目の前のお父様も一緒に溜息を吐いてた。
「アイツこの歌を使って僕の自慢の息子を貶してたけど、正しい歌詞の方は他人様に発表できないって……ふざけてるなぁ、相変わらず」
そう言えば、そんな歌を歌って説教されてたっけ……
「……………」
怒ってらっしゃるのか、陛下は腕を組んで何かを考えてる。
無理難題を言い付かるのは嫌だなぁ……
「……よし! ピエッサちゃん」
「は、はい!」
うぅぅぅ……怖い。
「多分、君の事だからこの歌に限らず、合格点のハードルは高いのだろうけど、この『残酷な天使のテーゼ』に関して、更に高いハードルを設定してくれるかな?」
「……? あの……如何言う事ですか」
「うん。例えばね、100点満点中80点以上の歌唱力になったら発表してたとして、この曲だけは95点以上の設定にして欲しいんだ」
「勿論陛下のご指示であれば従いますが、何故この曲だけなんですか?」
「僕の自慢の息子を馬鹿にした罰として、この曲で仕返ししてやろうと思ってる」
「でしたら絶対に合格させなくしましょうか?」
その指示の方が早いと思うのだが?
「それはダメだよ。多分無いと思うけど、アイツが死に物狂いで練習して、合格点を実力で超えたら、それはちゃんと評価しないとね。まぁ努力しないと思うけど」
「まぁ努力しないでしょう……あ、失礼しました!」
「イイって謝んなくて(笑)」
私が思わず頭を下げると、陛下は笑いながら謝罪が不要だと仰ってくれた。
それと同時に、執務机の引き出しを開けると、一通の封筒を手渡される。
「こ、これは……?」
まさかとは思いつつも、期待を込めて中身を確認する。
するとそこには楽譜が……タイトルには『エリーゼのために』と書かれている。
「今回の報酬。手間賃といった方が妥当かな? アイリーンちゃんと違って歌詞が無いピアノ曲の方が君には最適かなって思ってね」
「あ、ありがとうございますぅ! 早速これからアイリーンに見せびらかしに行きます!」
ピエッサSIDE END
後書き
今回のテーマソング
タイトル「残念な天空の勇者」
♫残念な 天空の勇者♪
♫少年は 身内が好き♪
♫ずっと想ってた 愛しの妹 腹違い♪
♫貴女の事 好きでいた 結ばれる事を待つ♪
♫不意に 身内以外 結婚する事出来て♪
♫運命さえ まだ知らない 生まれてくる娘♪
♫だけど いつか 気付くでしょう その娘には♪
♫男を惹き付ける程の 美貌がある事♪
♫残念な 天空の勇者♪
♫娘への 疑惑膨らむ♪
♫ほとばしる 熱い想いで♪
♫娘の処女 守り続ける♪
♫この愛を 押し付け生きる♪
♫少年よ 神話になれ♪
やっぱり僕は歌が好き 第二楽章「謎のストリート・ミュージシャン」
前書き
何所の誰だか丸判りだが、
謎のベールに包まれた男が登場。
(グランバニア城・城内カフェ)
レクルトSIDE
グランバニアは平和な国だが、だからといってお昼休みを全軍で一斉にとる訳にはいかない。
何時何時非常事態になるか分からないから、日勤は昼12時から13時・13時から14時・14時から15時と時間をずらしてとっている。
今日の僕は13時からの昼休憩で、12時から昼休憩をしてた兵士等と入れ替わりな形で城内カフェに入店した。
すると入店早々に気になる兵士に出会す。
「よし! 今日こそ止めさせるぞ!!」
そう気合いを入れてカフェから出て行こうとする兵士……
普段だったら関わらない様にしてるんだけど、彼は僕と同期の間柄だった。
「やあ、カール。随分と気合いが入ってるね?」
「あ、レクルト……いや失礼しました、総参謀長閣下!」
他の兵の目もあるから、慌てて彼も言い直したけど、普段は同期という事で気さくに会話してくれる掛け替えのない同期……それがカール・グスタフ中尉だ。
「たしか今、カールは城下の……中央地区の巡回警備が任務だったよね?」
「おう……いや、はい。その中央地区の中央公園内で、けしからん奴が居りまして。その者の行為を今日こそ止めさせようと思っております!」
「その人とは何をやらかしてるの?」
「はっ! 中央公園内は商売が禁止であるにも関わらず、ギターで音楽を奏で歌を歌い、通行人から金銭を受け取ってるのであります!」
「……ス、ストリート・ミュージシャンってやつかなぁ?」
「世間一般ではそう呼ばれてますね」
如何しよう……嫌な予感しかしないが、確認しない訳にもいかない。
「その人って……如何な感じの人……なのかなぁ?」
「はい。市井では有名人な様で、プーサンと呼ばれてるそうです。何でも日雇い労働者みたいですよ」
はい、アウトー!
トラブルてんこ盛りー。
先程まで僕の体内を占領してた空腹感が、今一斉に消え去りましたー。やったね、一食分浮く(泣)
「ま、まぁ落ち着こうよ。本当に公園内で商売してるのかなぁ? 通行人が勝手にお金を置いて行ってるだけでしょ?」
「何を言ってますか! 金銭を受け取ってるんですから、立派な違法行為ですよ!」
そう言うとより一層気合いが入ったカールは、自信に満ちた大股で午後の仕事に向かった。
拙い……絶対に拙い。
プーサンの正体を知られる事無く、彼の行動を阻止せねばならない。
いや……阻止は無理だろう。
でもせめて、被害を最小にしなければならない。
まずはピピン大臣閣下に報告だ……
そして嫌だが、宰相閣下にも伝えねば。
レクルトSIDE END
(グランバニア城下町・中央地区・中央公園内)
アイリーンSIDE
ピエから耳寄り情報を貰い、中央公園へと通う様になって4週間。
社長の弾き語りを生で聴ける機会が大幅に増える。
とはいえ、社長も忙しい身……週に3日、火・水・木の午後だけの公演だ!
一曲も聞き逃す訳にはならないと思い、授業をサボってまで公演に参加するつもりだったのだが、『こらこら、授業はちゃんと出席しなさい』と言われ、泣く泣く火曜日と水曜日の15時までは我慢する事に……その他の時間は授業が無いから、堂々と社長の公演を聴きに来れる。
なので今日、木曜日はお昼ご飯を食べたらダッシュで中央公園へ!
流石に早く来すぎてるのか、社長が来るよりも先に到着。
広い公園の南側入口方面を期待を込めて見続ける。
程なくして遠くからギターケースを担いだプーサン社長が登場。
「今日も早いね」と爽やかな笑顔で声をかけてくれる。
広い中央公園の中心にある噴水の前で社長はケースからギターを取り出し、既に名物となっている為、何人か集まったギャラリーに向かって手を振る。
「今日もこんにちは。夕方の16時くらいまでだけど、お付き合いよろしく」
そう言うとギターを奏で歌を紡ぎ出す。
この歌は初めて聴く……また新曲を聴かせて貰えたわ。
歌い終わり曲名を『夢の途中』と教えて貰う。
アダルティーな感じの切ない曲。
それでいて心に染み入るまさに名曲!
陛下の……違った、社長の色っぽさを表現してる曲だわ。
私は“夢の途中”を身体の隅々に染み込ませていると、社長が「なにかリクエストはあるかい?」と私に聞いてきた。
即座に「『いとしのエリー』を!」と答える。
「アイリーンちゃんはこの曲を気に入ってるね。まぁ凄い名曲だからね」と笑いながら受け入れられた。自ら『名曲』と言えるのは社長ならではだろう。
そして静かに弦を弾き歌い出した社長……
あぁ……先刻の曲も素晴らしかったけど、やっぱりこの曲は最高だわ。
そんな至福の時間に身も心も浸ってると……
「こらー! 昨日も言っただろ。ここでの商売は禁止だ!」
と、私のみならず周囲のギャラリーを現実に引き戻す怒鳴り声が!
昨日の終わり間近にも来た、名も知らぬ警備兵だ。
「またお前か……昨日も商売じゃねぇって言ったろが! 頭ワリーのか?」
「何だとキサマ」
激しく同意だ。頭悪いんじゃないの!
「キサマは周囲の客から金銭を受け取ってるではないか! これは立派な商売だ……それ即ち違法行為である!」
「じゃぁ何か……家の手伝いをしてお母さんからお駄賃を貰ったら、それ即ち商売か!? だとしたらそんな子供を探し出して、税金を取れよ」
「そ、それとこれとは状況が全然違うであろう!」
「こっちだって商売とは全然状況が違うわ! 確かに金銭を提供してくれる人は居るが、それを強要してない。僕の音楽を聴いて自主的に金銭を置いていってくれてるだけで、曲を聴いてもそのまま立ち去る人も居る。それについて僕は何一つ文句は言わない」
確かにその通りだ。
商売というのであれば、商品である社長の曲を聴いたら、必ず代金を支払う必要がある。
私もこの兵士に、その事を言ってやろうと思った時……兵士の後方から見慣れた人物達が、遠巻きにこちらを伺っていた。
その人物とは……
ピエの彼氏とその上司の軍務大臣閣下……そして宰相閣下もそこに居た。
何でさっさとこっちに来て、この騒動を治めないのか分からないが、多分性悪宰相閣下が他二人の行動を押さえ込んでいるのだろう。
それならそれで、私は私に出来る事をしようと思う。
勿論それは社長の援護だ!
アイリーンSIDE END
後書き
謎のストリート・ミュージシャンとは
プーサンのことでしたぁ~!
やっぱり僕は歌が好き 第三楽章「心底性格の悪い奴ら」
(グランバニア城・中央地区・中央公園内)
アイリーンSIDE
「ちょっといいかしら兵士さん」
「小官は兵士では無い。中尉だ……グスタフ中尉だ!」
そんな違い知るか!
「貴方が仮に……仮にだけども、レストランを営んでいたとして、そうなれば勿論お客から料金を授受するわよね?」
「仮にだとしてレストランを経営してれば、代金は受け取る」
「じゃぁお客の中にグルメな人が居て、貴方のお店で食事をしたのにも関わらず、味が悪いと文句を言って代金を払わないで帰ろうとしたら如何するのかしら?」
「それは無銭飲食になるから、掴まえてしかるべき措置を……あ!」
「そうよ。お気づきの様だけど、商売をしているのであれば、形の有る無しに関わらず商品を受け取ったら代金を必ず支払わなければならないのよ」
「それは……その……」
「レストランの例に倣うならプーサン社長がしている事は、『無料ですので食事をどうぞ。代金の支払いはお任せします』って言ってる様なモノ! 所謂慈善活動よ。税金の無駄遣いをしている兵隊さん達には、慈善活動が如何なるモノなのか、理解する事すら出来ないでしょうけどね!」
「な、何だと小娘!」
調子に乗りすぎたのだろうか?
自分の事ながら、あまりにも滑らかに台詞が紡ぎ出されるので、目の前の兵士を煽りすぎたらしい。
顔を真っ赤にした兵士は、激怒して腰の剣に手をかける。
“切られる!”と感じた瞬間、少し後ろに居た陛下が、颯爽と私と兵士の間(ほぼ私の目の前)に割って入り、私を庇ってくれる。凄ー格好いい!
「やめんか馬鹿者!!」
序でにだが、兵士の後方で事の次第を傍観してたお三方から、兵士へ怒号が降り注ぐ。因みに怒鳴ったのは軍務大臣閣下だ。陛下の格好良さに比べたら格段に下がる。
「こ、これは軍務大臣閣下……そ、それに宰相閣下も!?」
あれ? 総参謀長閣下はいいの?
それとも私が知らないだけで、大して偉く無いの?
まぁ見た目、この中で一番下っ端感があるしね。
この兵士さん、先刻自分の事を“中尉“だか”中火”だか言ってたけど、それより低い位なの?
「拙い……拙いなぁ。口論で負けたからって、腹いせに斬り殺そうとするのは、一般人としても拙いが、“国家”並びに“国民”を守る兵士としては頗る拙いなぁ」
かなり渋い顔で近付いてきて、状況の拙さを呟く宰相閣下。そう思ってるのなら、もっと早く出張って来いよ!
「あ、いえ、違うのであります!」
何が違うと言うのだ!?
「しょ、小官は、興奮すると咄嗟に腰に手を当ててしまうクセがあるのであります!」
馬鹿か? アンタのクセなんて知らないわよ。
「おい三下兵士。お前のクセなんかこっちは知った事じゃねーんだよ。重要なのは、お前の行動を見て僕等が如何感じたかが問題なんだよ。そして明言してやる……この場に居る全ての人……勿論、お前を除いてだが……全ての人が、お前は口論に負けて、こちらの美女を斬り殺そうとしたと思っている」
「だ、だから……それは……違うと……」
「グスタフ中尉。もう口を開くな。既にドツボにはまってるんだ……これ以上藻掻くと助ける事もままならなくなる」
ピエの彼氏が兵士を諫めた。
その際に『はっ!』と言って敬礼をしてたから、総参謀長の方が偉い事が覗える。
ただどのくらい偉いのかは分からない。多分、そんなに偉くは無いんだと思う。
「そこの性格の悪い宰相閣下殿に物申す!」
「何だね性格の悪そうな一般市民君?」
性格悪っ! 相手の正体が誰だか解っててニヤニヤこんな台詞を吐いていやがる。
「勿論今回の件だ!」
「勿論今回の件か!」
当たり前だろ。
「もし僕のやってる事が商売と認定されるのなら、僕もこの場に居る人たちも……いやこの国の国民全てが税金の支払いを拒否するし、それを咎める事を許さないぞ!」
「おやおや……納税は国民の義務だろう」
「僕等一般市民は、性格の善し悪しに関わらず国家運営の為に納税している。だけどその税金で飯を食ってる兵士が、口喧嘩に負けたぐらいで一般市民に攻撃しそうに……もしくはそんな恐怖を味合わせる連中に金なんて払えるか! こちらの美女の例えを借りて言えば、食事をしに入ったレストランで突然包丁で襲いかかってくる店に金を払いたいと思うか?」
「スリリングな毎日を過ごせてイイじゃないか」
「なるほど~……スリリングねぇ」
性悪宰相の一言に心から感銘を受けてない声で頷く陛下……
次の瞬間!
(ドカッ!)「ぐはぁぁぁ!!!!」
一瞬で下っ端兵士に詰め寄り其奴の腹部に見るからに強烈な一撃をお見舞いする。
何故素人にも強烈である事が判るかというと……
兵士は頑丈そうな鎧を装備しているのだが、その鎧を信じられないくらいヘコませる一撃だったからである。
それを見た総参謀長と軍務大臣閣下は、慌てて兵士から鎧を外してあげていた。
へっこんでる鎧が腹部に食い込んでる状態が危険だと思ったのだろう。
因みに性悪宰相閣下は、苦しむ兵士と慌てる総参謀長と軍務大臣閣下を眺めてるだけだった。
「おい一般兵士……スリリングだったろ? 金払え!」
「はははっ……そうだね。おい中尉、支払って差し上げろ。この方は他者に突然殴りかかりスリリングな一時を提供する商売をしてらっしゃる方だ。お前が代金を支払えば、この方はストリート・ミュージシャンも商売と認め、お前に素直に取り締まられてくれるし、国民が今後も税金を支払ってくれる。丸く収まるぞ(ニヤニヤ)」
流石に理不尽だわね(笑)
「そ、そんな……閣下……こ、こんな理不尽が……」
「因みに一般人のオッサン。料金は幾らだね?」
「2000兆G」
理不尽はまだ続いてた。
「そ、そんな額払えるわけない!」
「何だぁ……もう一発いくか?」
血反吐を吐きながら無理を訴える。敵に回すべきではなかったわね。
「もう許してやってください! この子は真面目なだけなんですぅ!! それが悪い方向に空回りしちゃいましたが、悪い子じゃないんです!」
兵士の背中を支えてた総参謀長が必死で許しを請うている。
「何だお前。其奴の保護者か?」
「同期なんです! 無意味に出世した僕に、以前と同じ感じで接してくれる友人なんです!」
……友人は大切よね。
「……おい中尉。その下っ端総参謀長閣下に感謝しろよ。守るべき国民に刃を向けた罪は無かった事にしてやる。だが次は無い!」
下っ端と評されてるが、閣下と呼ばれている……偉いのか偉くないのか本当に判らないわ。
「じゃぁ今回の件は何の問題も無いって事で良いのかな、ウルポン宰相?」
「代金を強制してなきゃ商売じゃない……それでイイですよオッサン」
「オッサンじゃない、プーサンだ」
「ウルポンじゃない、ウルフ・アレフガルド宰相閣下だ」
最後まで性格の悪さを見せつけられたが、やっと終わる……と思いきや、地べたに這いつくばり苦しんでる兵士を無理矢理立たせ嘯き始めた。
「取り敢えずはこれで終わりだ……」
「と、取り敢えず?」
「そうだよ。今回の件で俺も軍務大臣も、勿論総参謀長もお前を罰する事はしない。あのオッサンに十分罰せられたからな」
「オッサンじゃねーって言ってんだろ」
陛下は私にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。
本当にムカつくガキね。
「だがな本当の終わりじゃぁない。この件が陛下の耳に入ったら……解るだろ(クスクス)」
「そ、それは……」
流石の性悪さに、軍務大臣も総参謀長も目を見開いて宰相を見ている。
「陛下は音楽に関してかなり力を入れている。それを邪魔するが如き所業に加え、一般人を攻撃しようと……お前は違うと言うが、他者から見れば攻撃しようとした事実は許されるとは思えない。銃殺刑になった連中の事……忘れたわけじゃぁないだろぅ?」
よくもまぁ……
「俺達もお前の家族にまで罪が累積する事は止めるが、やっぱり自分の身が一番大事だ。お前の死刑までには口を出せない。そこは覚悟しておけ」
兵士は陛下に殴られたお腹が痛いのか、そこの性悪の所為なのか、べそをかきながら我々の前から去って行った。
するとやはり私にしか聞こえない声で陛下が……
「アイツ本当に性格悪いなぁ」
と呟かれた。
「はい、激しく同意しますわ。だから嫌いなんです、アイツの事」
アイリーンSIDE END
後書き
アンケートを作ったので、
皆様ご協力お願い致します。
やっぱり僕は歌が好き 第四楽章「性格の悪い者選手権開催」
前書き
何とか間に合った。
抗がん剤の所為で
書く時間が少なかった。
(グランバニア城)
ジョディーSIDE
まぁそこそこ忙しく仕事をしていると、この世の終わりの様な顔をした軍務大臣閣下と泣きそうな顔のレクが、陛下に連れられて歩いてくる。
超小声でレクに尋ねると……
「昨日の件……」
と、教えてくれた。
昨日の件とはプーサンの件だろう。
昨日の3時休憩の時に、死人の様な顔のレクと満面な笑みのポンが3階中庭で休憩していたので聞き出したのだ。
レクは言いたがらなかったが、ポンはベラベラ喋った。
これは楽しそうな事になるだろうと思い、私も陛下に付いて行く。
すると案の定、ポンの執務室へ……
扉を開けるなり、
「おい平宰相、面貸せ」
と陛下からのご指名が入る。
だが性格の悪いポンは、
「あ゛ぁ? 忙しいのが解らねえのか、なんちゃって国王!」
と、駄々をこねる。
いいから来い、話が進まねーだろ!
「良いのかなぁ、そんな事言っちゃてぇ? 面白いモノを見逃すぞぅ」
「……それは俺が楽しめるモノか?」
「性格の悪い奴なら楽しめるモノだ」
「行くぅ(笑顔)」
先刻までの険しい表情が嘘の様に満面の笑みで立ち上がるポン。
半ばスキップで我々の集団に合流すると、私を見て、
「何だ、性格悪い事を認めたのか?」と言ってきた。
「あの……僕と軍務大臣閣下は皆さんと違って性格悪くないので楽しめないと思います。仕事に戻ってイイですか?」
一言嫌味を入れてくるのがレクらしい。
「勿論ダメ。出世すると、それ相応の責務が付いてくるのだよ。諦めたまえ」
「『皆さんと違って』とか言う当たりが、お前もこっちサイドの人間って事だよ。諦めたまえ」
そういう事よ、諦めたまえ。
・
・
・
暫くグランバニア城2階を歩き、眼下に兵士等の訓練場が見下ろせる廊下へと到着。
「ここで待ってろ」
と陛下は言って、近場の階段を優雅に降りてゆく。
そして1階に到着した陛下は……
「あぁちょっと済まん。訓練を止めて僕の話を聞いてくれ」
と切り出した。さぁお楽しみの始まりだ!
「え~っと……この隊の隊長は?」
「はっ自分であります」
「あぁ君か。え~っと……中佐?」
「はっ! ジュガン・スターク中佐であります!」
「悪いね忙しいところ。実はとある噂を聞いてしまってね。一応確認に来たんだ」
「噂……ですか」
「そ……う・わ・さ。ほら、メイドとか噂話好きじゃん。んで、耳に入ってきちゃったわけよ」
「ど、どのような噂でありましょうか……?」
「うん。昨日ね、中央地区の中央公園でね、ウチの兵士がね、一般人にいちゃもん付けたんだってさ」
「い、いちゃもん……ですか」
「うん。しかもね、口論の末負けて、思わず斬り殺そうとまでしたんだってさ」
「そ、それは……い、一大事ですね……」
「しかも詳しい内容は、その一般人ってストリート・ミュージシャンなんだって。で、中央公園で活動してるんだけど、それを商売として取り締まろうとしたそうなんだ。ほらあそこは商売禁止じゃん。ストリート・ミュージシャンも少額ながら金銭を受け取るじゃん。だからあそこで音楽奏でるのダメって言ったらしいんだけど、口論の末ストリート・ミュージシャンは商売じゃないって結論になって、いちゃもん付けた兵士が逆上しちゃって暴力で解決しようとしたらしいんだ。 ……中央地区の警備をしてるのって、この部隊だよねぇ?」
「た、確かに小官の部隊が中央地区……並びに地区内の中央公園の警備をしておりますが……あの……そ、その様な報告は上がっておりません!!! も、勿論……昨日とは言わず以前も、その一般人との間に、多少の確執があったのかもしれませんが、小官の知る限り大きな問題にはなっておりません!!!」
「ふむ……じゃぁ只の噂かな?」
「……であると小官は確信しております!」
「部下思いだねぇ」
「き、恐縮であります」
「一応噂が出たって事で注意喚起して置くけど、音楽活動をしている人を迫害しないでほしい。勿論、法に触れる事をしてたら取り締まるのは当然だけど、音楽に関する興味の無さから差別するのは止めてくれ。そして……こっちの方が重要だけど、我が国で軍は国民を守る為に存在させている。その延長線上で王家を守ってもらってるが、納税者である国民を守る事こそが主目的である! 口論で負けてカッとなったからといって、守るべき対象に刃を向けるなどと言う所業は国王として看過できない。その点は重々注意してくれたまえ」
全員直立不動で陛下の話を聞いていた。
そして立ち去る陛下に、見事とまで言える敬礼で見送る。
ここまで伝わるくらいの緊張感だ。
あの中の一人が今回の件の関係者だ。
隊長さんを含め、隊員は誰も知らないのだろう。
知っていたら今頃皆にボロクソに詰られてるだろうに。
そんな事に思いを馳せながら1階を観察していると、我々の下に陛下が戻ってこられた。
因みに訓練してた部隊は、あまりの緊張感に襲われた為か、一時の休憩に入っていた。
う~ん。思ってたほど面白くなかったかも?
「アンタ本当に性格悪いわぁ……」
「お前が言うな! お前がこの道標を作ったんだろが! 昨日お前が最後に、性格の悪さを発揮しなければ、僕だってこの件は穏便に済ませてたんだ」
おやおやおや、如何言う事かね?
「あれ、バレてる?」
「あの部隊に、昨日の件が通達済みなのはピピンから報告は受けている」
となると、あの隊長は陛下に嘘を吐いた事になるが?
「全て通達済みで『今回の件を大きくしないようにと』指示してあるんだ。お前を飛び越して、僕に直接報告済みなんだよ!」
「うわぁ……軍務大臣も存外人が悪い(笑) やっぱりこっちサイドの人間だな」
「リュカ様との付き合いは少年時代からになります。性格もねじ曲がりますよ。ヨメも陛下と縁者ですし」
こ、これは……性格の悪い者選手権開催だな。
私がエントリーされてるのが不本意だけれども。
ジョディーSIDE END
後書き
サブタイトルの選手権……
あちゃ さんは
ノミネートもされないと思ってるよ。
だって あちゃ さん、
素直な良い子だもの!
リュカ'sキッチン レシピその1「よそみゆびきりパイ」
前書き
オリーブオイルを大量に使用する話ではございません。
(グランバニア城・メインキッチン)
ニックSIDE
俺の名はニック。
子供の頃から料理人を目指し、今はグランバニア城のキッチンで働く見習いシェフだ。
ここグランバニアでは、一流のシェフになるには幾つかの道がある。
まず1つめは、自ら店を持ち客の口伝てで有名になる事。
実家が金持ちなら有名になる事以外は楽な道だが、貧乏だとそうはいかない。
それに店の経営に意識が行って、料理の腕前が上がりにくい。
2つめの道は、既に開業しある程度金銭的に余裕がある店に雇われる事。
先述の場合と違って、料理に邁進できる分、腕前も上がりやすい。
だが所詮は雇われの身……その店のスタイルに合った料理以外は練習できない。
3つめは、実家が飲食店。これは大きなアドバンテージだ。
先述した2つの良いとこ取り。
だけども自分の力では如何にも出来ないのが欠点。
4つめが、グランバニア城の見習いシェフになる事。
実はこれが一番難関!
その代わり一流と呼ばれるには一番の近道だ。
一年に一度、宮廷シェフの採用試験がある。
応募者は毎年100人から150人くらいいるが、その中で採用されるのは10人だ。
そして古参の宮廷シェフが卒業していく。
卒業と言ったが、別に城から追い出されるわけではない。
宮廷の方でかなりの就職先を探してくれるし、俺の様な『見習い』から通常の宮廷シェフにランクアップすれば、給料も結構あるから卒業までの間に貯金をしておけば、頑張り次第で一等地に店を構える事だって出来る。
しかも卒業者全員に『グランバニア王家認定料理人』という、証明書を発行して貰える。
これを持っていれば、地方のレストランくらいだったら、無条件で採用して貰えるし、数ヶ月後にはその店の料理長にまでのし上がってる可能性がある。
因みに卒業をせず腕前も人柄も認められてる上級シェフってのが、我々見習いやその上のシェフ等の教師的な立場の人が居る。
この上級シェフを決めてるのが王家の方で、腕前をティミー殿下が、人柄をリュカ陛下が見てると言われるほど審査には厳しい。
そんなグランバニア城の宮廷料理人……見習いなのが俺。
厳しい上下関係もあるし、皆料理に関してはストイックなので時と場合によっては職場の空気が辛い時もあるけど、得られるモノは一般の店と違って大きい。
料理の腕前は“教わる”と言う事が出来る為、向上する振り幅が大きい。
一般店だと客に料理を提供する事が一番の目的で、店が終わっても明日の仕込みやら何やらで料理を誰かに教わるなんてないだろう。
そして何よりご褒美なのが、リュカ陛下やビアンカ王妃陛下が時折キッチンを使いに来る事だ。
両陛下のお側で料理を学ばせてもらえる事が何よりも貴重だが、お二人に接近する事が出来るというのは何よりの至福なのだ!
勿論、両陛下がお揃いでキッチンに現れる事は少ないが、ビアンカ王妃陛下は週に1.2回ほど、ご家族への料理を自らお作りになるので、新たな料理の開発以外では来られないリュカ陛下よりも、間近でお目にかかれる機会が多い。
ただ……間近でお目にかかれるってのが案外危険なのだ。
先日も、広い城内キッチンで俺の前の場所が空席だった。
別に人数分ピッタリ有るわけでもないし、そんな事は日常茶飯事なのだが、丁度その日にビアンカ王妃陛下が料理をされにきた。
高飛車な王妃が気紛れで料理をしに来た為、一番良い場所(善し悪しなんて存在しないが)を独占する……何て事はビアンカ王妃陛下には絶対に無く、その日の空いてる場所に自ら収まる。そう、つまりその日は俺の目の前!
あのビアンカ王妃陛下が目の前に居るのだ。
アルコールを摂取してなくても、そのフローラルな香りに腰砕けになるほどの距離に、一目間近で見たら数週間は他の女性の顔は“ジャック・オゥ・ランタン”に見えてしまうと言われてるほどの女神が俺の目の前に舞い降りたのだ。
ビアンカ王妃陛下は公式の場でもない限り、常に一般的な服装を好まれる。
その日も華美なドレスなどではなかったが、特筆すべき点が2点。
まず1点は、これは城下を散歩される時も同様なのだが、左の二の腕にホイミスライムが触手を絡ませて随伴してる事。
これは料理中に怪我をしたとき用にと、万が一暴漢に襲われてとき用にだ。
このホイミスライムはリュカ陛下と共に世界を救う旅をした強者で、俺なんかが包丁を振り回して襲いかかってもワンパンで伸されるだろう。
そしてもう1点……
こっちが重要なのだが、普段着で無意識なのか判らないのだが、ビアンカ王妃陛下の大きな胸の為に出来る谷間が、如何しても見えてしまう服装なのだ。
料理をするので少し前屈みになるのだが、その所為もあってより一層俺の視線を奪い取っていく。
ビアンカ王妃陛下の胸はかなり大きいので、前屈みになり服との隙間が出来、チクb……トップが見えるという事は無いのだが、それでも男は見てしまう。
そんな中、事件は起きた。
ビアンカ王妃陛下の手伝いという事で、料理の下拵えをしていた俺。
完全にビアンカ王妃陛下の胸元に視線を固定しながら、手元ではキャベツの千切りを高速で行っていた。
いくら料理人(見習いも含む)とは言え、刃物を扱っている時は手元を疎かにしては大問題だ。
そしてその大問題は、即座に明瞭になる。
(ゴリュ!)という鈍い音と共に、俺の指先に激痛が走る。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は痛みと共にその事態を理解し、情けないほどの悲鳴を上げてしまう。
傷口を見ると、骨まで達し……と言うか、その骨すら半分切断されており、指先を使う料理人生活の終わりを俺に突きつけてきた。
その時だ…
「ベホイミ」
と、何処からともなく聞こえてきて、指先の激痛が嘘の様に無くなった。
押さえていた手を離し指先を確認すると、骨まで達してた傷は綺麗に無くなっている。
大量に出た血が手にべっとり付いているが、それを洗い流すと何事も無かったかの様な指がそこに存在した。
ハッとなり顔を上げると、そこには美しいビアンカ王妃陛下と、しがみついてた触手の内2本をフヨフヨさせながら、何を考えてるのか解らない笑顔でこっちを見ているホイミスライムが……
「あ、ありがとうございます!!」
俺のお礼の言葉が伝わったのか分からないのだが、ホイミスライムはフヨフヨさせた2本の触手を使い、手近なタオルを持ち上げると、それをフワッとビアンカ王妃陛下の胸元にかけた。
めっちゃバレてるぅ!
「あらやだ。こんな所を見つめてたの? いけない子ねぇ(笑)」
ぐはぁ! 可愛くもセクシーなその一言。心と股間に突き刺さり、今夜はご飯三杯はイケる!
そしてクルッと俺等に背中を向けると、手近に居た女性シェフに手伝ってもらい、あの素敵な谷間をタオルで覆っている。
因みに手近に居た女性シェフは俺の彼女だ。生ゴミを見る様な目で俺を睨んでいる。
「こんなおばさんの胸なんか見ても楽しく無いでしょうに……もう孫も居るのよ、私」
タオルで完全に見所を覆ったビアンカ王妃陛下は、とんでもない……まさに、とんでもない言葉で自らを卑下なさった。
「な、何を仰います! ビアンカ王妃陛下の美しさ・若々しさは周知の事実! 手元を見ないで包丁を高速で動かすなど、危険極まりない事ですがビアンカ王妃陛下の魅力的すぎる谷間を前に、危ない事なんて虚空の彼方に忘れ去ってしまいます!」
ぎゃぁぁぁぁ!
パニクってとんでもない事まで言ってる。
如何しよう……如何しようぅ……な、何かフォロー的な事を言わねば。
「ニック、お前……自分の彼女が目の前に居るのに、ヤりたい時に私に吐く甘い言葉より、饒舌にビアンカ王妃陛下を口説いてんな!?」
何言ってんのこの娘!? 俺を最低男に仕立てるなよぉ。
「お、おま……ち、違ーし! 口説いてなんてねーし! お、お、お、俺が言った事は全部真実だし! ち、違うって言うんなら、真実ではない点を……そ、その……し、指摘せよ!」
パニックによるパニックで、自分でも何を言ってるのか解らない。
「……………うっ。ぜ、全部事実です」
隣に居たニャア(彼女)は、ビアンカ王妃陛下の上から下を見て、俺の言い分が正し事を認めてくれた……と同時に、
「あっ……わ、私ってばビアンカ王妃陛下のお胸に無遠慮に触れてしまいました! も、申し訳ございません」
な、何て羨ましい事をしてるんだ、この女は!?
「大丈夫よ、気にしてないから。私が昔からのお気に入りって事で、この服を着てきてしまった事が原因だからね」
そう言うとクルリンとその場で一回転して、その服がお気に入りである事を示してきた。
「あ~そうそう。私の胸に触った事は、リュカには内緒にした方が良いわよ。下手に言うと『え~僕専用のオッパイなのにぃ。勝手に触った罰として、君のオッパイにもタッチィ!』とか言って、意味不明にセクハラしてくるからね」
如何しよう……容易に想像できてしまう。
陛下を尊敬はしているが、その……女性に対するアプローチの数々で、そんなに接点の無い俺でさえ、想像できてしまうのが凄い。
「そう言えば私のオッパイが気になる貴方。お名前は?」
やべぇ……怒られるのかな?
「は、はい……あ、あの……『ニック・ジャガー』と申します!!」
ニックSIDE END
後書き
このエピソードは
時系列的に
納豆ご飯の前になります。
リュカ'sキッチン レシピその2「ダジャレ DE 肉じゃが」
前書き
後書きにて
今回のテーマソングを公開。
(グランバニア城・メインキッチン)
ニックSIDE
指ザックリ事件から3日後……
またビアンカ王妃陛下がキッチンへと訪れた。
今度はリュケイロム陛下と共に!
「おい、きっとこの間の件だぞ」
俺の傍に居た彼女のニャアが、俺を不安にさせる。
「あ~あ……きっとクビだな」
冗談でも言うな。
「クビで済むかね?」
同じく傍に居た先輩が苛める。
「そうですねぇ……極刑かなこれは(笑)」
笑いながら言う事では無い。
周囲が面白半分で色々言ってるが、俺の不安を増大させる要因が他にもある。
それは両陛下に随伴してる方々だ。
城内のプライベートエリアに存在するキッチンに来るのに、強そうな兵士が5人に上級メイドと一般メイドが3人。
兵士は捕縛する為の要員だと思われるし、メイドさん等は俺の普段の仕事ぶりを指摘するのだと思う。
仕事柄メイドさん等とは親しく(基本事務的)してるし、俺の問題点を指摘するのは容易いだろう。
ガチで不安になりニャアに視線を向けると、半笑いで肩を竦め声に出さずに『あ・き・ら・め・ろ』と……これ俺の自慢の彼女です。
「あ~……3日前に僕の奥さんの胸の谷間を凝視して大怪我した奴って何奴?」
はぁ~ん……やっぱりこの件だったぁ!
「あ、あの……俺です……」
黙っていても直ぐバレるし、素直に手を上げ自白する。
「アンタ死にそうな顔してるのに素直だな?」
とニャアが意地の悪い笑顔で囁く。
「序でに……僕の奥さんの巨乳に触った女の子が居るらしいけど、どの娘?」
そう言えばニャアは俺みたいに見るどころか触ってたな。
「げっ……何でその事知ってんの!?」
如何やらビアンカ王妃陛下は、リュケイロム陛下には言って無かった様だ。
では誰からの情報だ?
「ホイミンが密告った」
「も~……裏切り者ぉ」
ビアンカ王妃陛下に可愛く咎められ、ホイミスライムはその触手で頭をかいている。
「あの娘?」
両陛下の可愛い(可愛いのはビアンカ王妃陛下)遣り取りの中、頭をかいてたホイミスライムがその触手をニャアに向けた。
「あ……す、済みません! わ、私がビアンカ陛下様のお胸に触れてしまった者です!」
先刻まで俺をイジってたのに、いざ自分の番になると緊張して言葉遣いが変になってる。仕返しにイジってやるか?
「え~っと、確か君は……『ニャースノ・タンプラー』ちゃん……だったよね」
「あ……は、はい。ニャアと呼ばれてますが、よくご存じで」
何でニャアのフルネームを知ってるんだ?
「うん。城内に勤める女の子の名前は全部暗記してるからね。男は憶えられん! 10回くらい聞いてフワッと憶えられる程度。1週間、その名前を聞かなきゃ忘れる」
「さ、流石です……」
俺もそう思う。
「でもさぁ……勝手に僕専用のオッパイに触るなんて大問題だよね! 罰として君のオッパイも揉み揉みだぁ!」
そう言うと自然な流れで手を伸ばして、優雅な動作でニャアの両胸を揉むリュケイロム陛下……あまりにも自然すぎる動作に、誰もが疑問を感じない。揉まれてる本人も。
「ちょ、ちょっとリュカ! 何時まで揉んでるのよ!!」
「イテテテテッ……止めて、顔は! イケメンだから……僕イケメンだからぁ!」
一番最初にこの状況の不自然さに気が付いたビアンカ王妃陛下が、慌ててリュケイロム陛下の頬をつねってニャアから引き離す。
「う~ん……90・61・87……かな?」
「せ、正解……です(テレ)」
3つの数字……スリーサイズだよね? 金庫の暗証番号じゃないよね? 何で判るの!?
「え、何? 今日はセクハラする為にキッチンへ来たの? 新しい料理を伝授するって言ってたから、興味本位で仕事をサボる常習犯のメイドが勝手に随伴してきたのに、セクハラが目的?」
だとすると、あの屈強な兵士等は何要員だろう?
「ち、違うよぉ~。ちゃんと料理もするよぉ~」
「その割にはセクハラ行動しか見受けられませんけどぉ……如何言う事ですかリュケイロム国王陛下?」
「あ、あのオッパイが魅力的すぎて……」
「何よ……また愛人を増やそうとしてんの?」
それは困る……一応俺の彼女だし。
「それは無いよぉ。だってニャアちゃん、彼氏居るみたいだし。ユニ情報だから確実。名前聞いたが、憶えてないけどね」
「あの……それ俺です」
「えぇ! こんな魅力的なオッパイを自由に出来るのに、僕の奥さんのオッパイに見とれちゃってたの!?」
「しかしですね陛下……仮に世界中の女性の胸を好きに出来る様になったとしても、ビアンカ王妃陛下のお胸は、他者の追随を許さないレベルでの素晴らしさなんです!」
リュケイロム陛下からイジられ、ニャアからは腐りきった食材を見る様な目で睨まれ、思わず自己弁護という名の言い訳を織り交ぜたおべっかを言ってしまった。
ニャアを初め、周囲の諸先輩・同期・後輩等の視線が痛い。
「ね。言った通りでしょ?」
「うん、気に入った。ベクトルは違うけど、何時も一言嫌味を言ってくるレクルトみたいだ。ウルフとも気が合うかもしれんな」
え? 宰相閣下と気が合うのって、ちょっとした拷問では?
「実はさ、君の名前……ニック・ジャガーって名前を聞いて、一つ料理を思い出してさ、それを今日は伝授しようかなって思って、今日はここに来たわけ」
「は、はぁ……」
ニャアの乳を揉む事が目的では無く、俺を罰する事が目的でも無い……じゃぁあの兵士等は何でここに居るの?
「その名も『肉じゃが』だ!」
「に、ニクジャガ?」
「そう、ニック・ジャガーが作る肉じゃが。ダジャレだけど面白くねぇ?」
「は、はぁ……自分の名前がダジャレにされてるって事を除けば」
「今日は準備が出来てないから後日になるけど、ニャアちゃんの名前を捩った料理も伝授するね」
「ほ、本当ですか陛下!?」
ニャアは自分にお名前をダジャレにされる事に抵抗がない様だ。
「うん、ニャースノ・タンプラーが作る『ナスの天ぷら』って名前の料理。まぁ正確には天ぷらって料理名ね。ナス以外でも色々作れて美味しいよ」
「はい、楽しみに待ってます!」
先刻の俺を見る目と違い、ニャアは満面の笑みだ。
「さぁ取り敢えず今日は肉じゃがだ!」
そう言うとリュケイロム陛下は、料理に取りかかる。
手の空いてる者にライスを炊かせ、別の手空きの者には以前からリュケイロム陛下作って教えてくださってた『味噌汁』と言う名のスープも作らせながら……
・
・
・
「……如何よ?」
「す、凄く美味しいです! ライスと肉じゃがが合ってて美味しいですし、肉じゃが自体が甘めなので味噌汁との相性も最高です」
俺の感想に誰も異論を唱えない。
だって皆おかわりしてるくらいだし、その行為自体が美味しいと評価してる事だし……
食材と調味料さえ揃えば、凄く簡単に作れる……凄い料理である!
「さて……では本題に入ろう」
「ほ、本題? 肉じゃがの伝授が本題ではないのですか?」
急にリュケイロム陛下が不思議な事を言い始めた。顔は何時もの様に優しい笑顔だが、声のトーンと瞳の奥の輝きが俺を緊張させる。
「お前……ニックには、先刻言ったダジャレで、この料理を世間に広めて欲しいんだ。それも今すぐ!」
「……とおっしゃいますと?」
「お前には今すぐにでも宮廷シェフを辞めてもらい、肉じゃがをメインにした料理屋を経営して欲しいんだ……勿論“グランバニア王家認定料理人”の証明書は渡す」
「そ、そう言われましても……店を持つにも資金が……」
「解ってる。一方的に『店を出せ』とだけ言うつもりは無い……だが個人の店を出させる為に税金は使えない」
「で、ですよね」
「そう……だが、こんな時に頼りになる人物が居る!」
「た、頼りになる人物?」
サラボナ商会の方かな?
「おい、屈強なる兵士諸君!」
「「「はっ!」」」
え、彼等に金を出させるの?
「今すぐウルフ・アレフガルド宰相閣下をお呼びしろ。丁重に……失礼の無い様にだぞ(笑)」
ニックSIDE END
後書き
今回のテーマソング(ユカイツーカイ怪物くん)のリズムで読んでください。
タイトル「リュカさんの明るい家族計画」
♪パ~イ パイパイ パ~イ パイパイ♫
♪オッパイ大好き リュカ陛下は♫
♪グランバニアの王様だい♫
♪カワイコちゃんとか 好きすぎて♫
♪家族構成 トンデモな~い トンデモな~い♫
♪性欲集中 パ~コパコ ドビュン♫
♪たちまち 家族が 大増殖♫
忌憚の無い感想求む!!!
リュカ'sキッチン レシピその3「キョウカツ・トンカツ」
前書き
リュカ伝の世界では
1ゴールド=100円 です。
なので、20万ゴールドは2000万円です。
(グランバニア城・宰相執務室)
ユニSIDE
「ウルフ・アレフガルド宰相閣下。お忙しいところ大変申し訳ございませんが、リュケイロム国王陛下がメインキッチンにて閣下の事をお呼びでございます。至急、メインキッチンへとご足労をお願い申し上げます!」
あと一時間もしないでお昼休憩というタイミングで、突然宰相閣下がキッチンへと呼び出しがかかった。
城内の、それもキッチンとなれば私の管轄であり、何か問題があればまず先に私が呼び出され、状況に応じて上司である宰相閣下にお声がかかる……のだが、いきなり閣下へと私を飛び越えての呼び出し。
しかもリュカ様直々の呼び出しという事で、かなり大きなトラブルと思える。
呼び出しに来た兵士(しかも5人連れ)も、かなり真剣な面持ちで入室してきた。
凄く不安を感じるが、閣下と顔を合わせ無言で立ち上がり、私も同行する事に……
5人の兵士の内、一人が、
「え、ユニ殿も行かれるのですか!?」
と呟いた。
私は呼ばれてない……
と言う事は、リュカ様や宰相閣下……大臣レベルが解決するトラブルの様子。
私が赴いても何も解決に寄与できない……が、事態を知っておく必要はあるだろう。
兵士等の困った顔を無視して私は閣下の後に続いた。
諦めたのか私の事は無視して、キッチンまでの途次に居る方々から閣下を守る様に兵士等は先導する。
この根性悪をここまで丁重に扱う……
不安で吐き気をもよおしてきた。
だがこの程度で吐いてたら、この国で……この地位で仕事なんか出来ない。
下っ腹に力を入れ、覚悟を決めてキッチンへと入る。
そこには何故かメイドの姿も……
上級メイドのジョディーの姿もある。
そして……点呼をとって無いがコック全員。
更にはビアンカ様までいらっしゃり、何やら神妙な面持ちを……
そして勿論、リュカ様のお姿も……
「あれ、ユニも来ちゃったの?」
ユニSIDE END
(グランバニア城・メインキッチン)
ジョディーSIDE
凄く面白くなってきた……と思ったのだが、何を勘違いしたのか顔面蒼白のユニさんまでキッチンにやって来た。
迎えに行かせた兵士等が名演技だったのか、凄い勘違いをしているのだろう。
今すぐに状況を知らせてあげたいが、勿論そんな訳にもいかず、追々感づいてくれる事を願うのみ。
「ユニも居んのかぁ……まぁいいや」
そう言って陛下はキッチン内に特設したテーブル席へポンを座らせると、例の肉じゃがを器によそい提供する。白米と味噌汁・漬物も添えて。
「何すか、これ?」
「今日、新しい料理を作ったんだ。試食したい?」
目の前に置かれ試食の有無を問う。意味があるのかしら?
「そりゃ食べたいですけど、ユニさんの分は?」
「お前しか呼ぶつもり無かったから、ユニの分は今は無い」
いや、嘘である。陛下の後ろにある鍋には、まだ大量の肉じゃががある。
「まぁいいや。悪いねユニさん、俺だけ食べさせてもらうよ」
そう言ってユニさんに断ると、勢いよく肉じゃがを食べるポン。
添えられた白米・味噌汁・漬物も併せて食す。ユニさんは羨ましそうに眺めている。
「ど、どうかなぁ?」
「美味いっすねぇ!」
何故か自信なさげな陛下……確実に裏があるな(笑)
「おかわりもあるから、どうぞ」
「じゃ遠慮無く……? 『おかわり』? ユニさんの分は?」
ユニさんには一口も与えず、ポンにはどんどん食べさせる。警戒するよね。
「まぁそんな事より……実はお前の実力を提供してもらいたい件があるんだ」
「な、何すか……これってその為の接待だったんですか?」
肉じゃが等のおかわりを出し、程よい渋さの緑茶を提供した事で、今の状況を“接待”と考えるポン。ウケるぅ(笑)
「食べながらで良いから聞いてくれ」
「はぁ……」
「その料理……肉じゃがっていうんだが」
「その? この甘塩っぱい料理ですか?」
「うん。牛肉とジャガイモがメインの料理……だから肉じゃがって言うんだけど、偶然にもシェフの中にニック・ジャガーってのが居たんだ」
「リュカさん、過去形になってますよ(笑) そこに居るのがニック・ジャガーでしょ」
「あぁそうだね、すまんすまん。 んで話を戻すが、この肉じゃがをニック・ジャガーが売り出したら、面白くね? “ニック・ジャガーの肉じゃが”ダゼ! 面白いよね!?」
「ん? ま、まぁ~如何でしょう。笑いの感覚は人それぞれですし」
「で、ニックに肉じゃがを提供する店を出させたいのよ! “ニック・ジャガーの肉じゃが”ってね! なるべく費用は抑えたいんで、なんか良い物件知らない?」
「漠然と『良い物件』と言われましても、地方へ行けば無料みたいな価格で土地も建物も借りれますし……」
「ダメダメ。地方発じゃ肉じゃがの噂が広まるのに時間がかかる。それに賃貸はダメ……食材はその年の気候によって値が大きく変動するから、安定して家賃を払えない。王都内で、メインの通りに近く、それでいてお手頃価格な物件がいい!」
「なるほど、我が儘だな。う~ん……そうなると……一つ心当たりがあります」
「流石は天才宰相閣下!」
陛下が無邪気な笑みでポンを称える。ポンもそこはかとなく嬉しそうだ。
「え~とですね、その物件は中央地区にあるんですが、ほぼ城前地区との境界沿いにありまして、グランバニア城の北広場から港地区のグランバニア港までの大メイン通りから、1本裏に入った場所にありまして、以前は一階店舗の二階居住空間として道具屋を営んでいた物件です」
「ほうほう……それでおいくらかな?」
「そうですねぇ……不動産の現持ち主は良心的ですので、少しでも安くと言って交渉すれば、土地と建物で……16万~17万Gで譲ってもらえると思います」
「なるほど……城下で中央地区なのに、その価格はお手頃だねぇ」
確かに! 中央地区はグランバニア城下での商業の中心区。場所によっては一坪100万Gとも言われている。
「ですが、この価格はあくまでも不動産に対してのみの価格。飲食店を開店させるのであれば、一階店舗を改装しなくてはオープンできません。更に言えば、人一人・包丁一本で飲食店を切り盛りできるとは思えません。人件費・調理器具・食材などの初期費用を考えても、独り立ちするのには20万Gは必要でしょう。その若造に支払い能力はあるんですか?」
キサマと同い年を指して『若造』とは(笑)
「いや無いよ、そんな能力」
「じゃぁ無理じゃん…………………あっ!」
やっと気付いたか!
「ウルフく~ん♡ 僕の手料理食べたよねぇ~? もう咀嚼して飲み込んじゃったよねぇ~? 今更吐き出して『はい、元通り』なんていかないの解ってるよねぇ~?」
陛下は上半身を横に倒して、下から抉る様にポンを見つめ詰め寄る。
「肉じゃが代、一杯10万G……おかわりしたから合計20万G払って(ニコ)」
陛下は無邪気な笑みで両手のひらを上にしてポンへと突き出し金をせびる。
無邪気で可愛い笑顔なのに、悪魔が居る様な感覚に陥ってるのは私だけではないだろう……ゾクゾクして濡れそうだ!
「ふざけんなぁ……何所の世界に一杯10万Gの料理があるんだ!」
「この世界にはあるんだよ」
きっと陛下の生きてる世界だろう……私の世界とは違う。
「そんなん認めるとでも思ってるのか!?」
「おいおい……現グランバニア国王である僕が自ら作った料理だぞ。付加価値が付いて当たり前だろう。王様の手料理だぞ」
「ざけんな、オッサンの手料理にそんな価値ねーわ!」
「はん! なんも解ってねーな青二才が。イケメンとは言え男の手料理にそこまで高価な付加価値が付くとは、僕だって思ってないさ!」
「じゃ、じゃぁ何だこの馬鹿高い付加価値は!?」
「ふふん。聞いて驚け……この肉じゃがには“ビアンカの唾液”が隠し味として入っている!」
え、マジ!? もっと味わって食べれば良かった!
「舐めんなぁ馬鹿野郎……逆に金払えボケぇ!」
「まぁ落ち着きなさい。隠し味は他にもある……なんと“ビアンカのおしっこ”だ!」
ぐはぁ! 100万G出しても食べたいわぁ……まぁそんな金無いけど。
「アンタ食品衛生法って知ってる?」
「あれれ? まだこの料理の価値が解らない!? じゃぁ特別に最後の隠し味も教えちゃおう(笑) なんと“ビアンカの陰毛”も入ってるんだゼ! 更におかわりしたくなっちゃった?」
本当だとすれば一杯10万Gは安いわねぇ。
「……し……」
「……『し』?」
特設されたテーブルに突っ伏しながらポンは何かを言おうとしてる。
「死ねクソ親父!」
そう言って叫ぶと、テーブルを陛下に向けて引っ繰り返す。
勿論、ビアンカ様の隠し味の入ってた食器類ごと。
しかし陛下は、華麗な動きで食器類をキャッチすると、飛んできたテーブルを蹴りでポンへ跳ね返す……と同時に「スカラ」と呪文も唱えた。
攻撃直後の無防備なところに、行きの勢いよりも強力な返しを受け後方へ倒れる。
ポンは勢いよく倒れはしたが、テーブルがぶつかる直前に陛下が唱えたスカラで防御が上がってた為、外傷は無い様子。
反撃しつつも相手を気遣う余裕のある陛下……レズビアンでも惚れるわぁ!
「こ、この野郎……」
余裕の笑みを浮かべる陛下とは正反対に、鬼の形相で睨み付けるポン……
恪が違うわね。
「も~……嘘だよ嘘。唾液やおしっこなんて入れるわけ無いじゃん(ゲラゲラ)」
「んな事は解ってるわ……ん? い、陰毛は?」
え!? ポンに指摘されると、そっぽを向いて目を合わせない陛下。
「お、おいこらオッサン! 陰毛は入れたの? 何で陰毛だけは否定しないの?」
「プークスクス! 僕が大切な妻の陰毛なんて、誰かに提供する訳無いじゃん!」
右手の指を揃え、それを自らの口に当てて笑い慌ててるポンを嘲笑う。
「くっそー相変わらずムカつくオッサンだな! ……『大切な妻の陰毛なんて』って言った? 『陰毛なんて』じゃ無く『大切な妻の陰毛なんて』って言ったよね? え、じゃぁ陰毛自体は入れたのか? 誰のを入れたんだ!?」
え……だ、誰の!?
「えー、知らないよ誰のかなんてぇ……先刻トイレで拾ったんだモン」
「『モン』じゃねーよ馬鹿野郎! 本当に食品衛生法で訴えるぞクソ親父!」
左手で口を押さえて必死に抗議するポン……私達が食べたのにも入っていたのか?
「あはっはっはっはっ……必死なのチョーウケるんですけどぉ」
「お前……トイレで拾ったもん入れるなんて、冗談じゃ済まねーんだぞ!」
確かに……ビアンカ様のだって判っているのなら問題ないけれども……
「も~……常識的に考えてみ! 陰毛なんて入れるわけ無いじゃん(ゲラゲラ)」
「お前が『常識的』って言うな! 非常識の権化が!」
陛下に対するポンの言動に、ビアンカ様がメチャクチャ可愛い笑顔で笑ってらっしゃる。もはや天使としか評しようが無い!
「さぁて……異物混入が無いと判ったところで、いい加減20万G払えよ小僧(ニッコリ)」
「“異物混入”? んなの関係ねーよ。付加価値が無い事が判明したんだから、そんなバカ高い金額、払うわけねーだろオッサン(ムスッ)」
「無銭飲食してんじゃねーよ、馬鹿ガキが!」
「無銭飲食じゃねーよ、適正価格なら支払うって言ってんだよ、アホ中年!」
「だからこの20万Gが適正価格だって理解しろや、ヘタレスケこまし!」
「そんな非常識が理解出来る訳ねーだろ、無節操種馬野郎!」
どちらも引かない。
ポンは当然だと思うが、陛下が引かないのが笑える。
贔屓目に見ても、悪質極まりない恐喝なのに(笑)
ジョディーSIDE END
後書き
今回のエピソードには全く関係無いけども、
今考え中の、とあるお姫様を歌った替え歌を制作中。
♪可愛い顔してあの子 かなり変態だねっと♫
♪言われ続けたあの頃 わりとどうでもよかった♫
♪言ったりしたりエロい事 私の貴方への行為♫
♪いつか何処かで成就するって ことは永久(とわ)の妄想(ゆめ)♫
いつか完成形を披露したいです。
因みに、どの姫様かは秘密。
リュカ'sキッチン レシピその4「言い分はカレーに無視する」
前書き
イージー・ライダーって
面白かったっけ?
主題歌は好き。
(グランバニア城・メインキッチン)
ユニSIDE
ほぼ恐喝のリュカ様に対し、至極真っ当な意見で飲食代を支払わない閣下。
世間一般の常識から考えて、閣下の言い分は尤もであり、2億人のグランバニア王国民に聞いてもリュカ様の言い分は非常識であるのは明白。
でも、リュカ様が好きだからか、閣下の事が大嫌いだからか、またはその両方なのか……私を含めこの場に居る全員が“お前が20万G支払えば、万事解決なんだよ!”的な雰囲気を醸し出している。(人徳のなせる業)
「……………じゃぁ、如何あっても肉じゃが代20万Gは払わないんだな?」
「当たり前だ馬鹿野郎!」
“支払え”“断る”の押し問答に疲れたのか、リュカ様が溜息交じりで折れかけてる。リュカ様らしくない!
「解ったよ……もういいよ。肉じゃが代なんか貰わないよ……」
「当たり前だと言ってるだろうが馬鹿野郎!」
もうリュカ様が折れたのだから、口を慎みなさいよ、クソガキが!
「じゃぁ俺は仕事があるんで……」
そう言って立ち上がろうとした時、
「まぁ待ちたまえウルフ・アレフガルド宰相閣下(笑顔)」
笑顔で閣下に敬意を払うリュカ様……閣下の顔から血の気が引いてる。
「流石に頑固者のお前から20万Gを融通して貰う事は諦めた……」
「じゃぁ俺は帰っても良いだろ!」
そんな簡単に帰れると思うなよ(ワクワク)
「金を融通して貰う事は諦めたが、ニック・ジャガーの肉じゃが店を諦めたわけじゃぁない!」
「も、もう俺には関係無いのでは?」
非常識大王リュカ様の前に、そんな事が通じる訳が無い!
「ウルフ……正式に依頼する。20万Gを貸して♡」
「……………貸す?」
……? 先刻までの遣り取りと何が違うのだろう?
「うん。貸して」
「え……あれ……? 何だこれは? も、もしかして……先刻までは俺から20万Gを巻き上げるつもりだったの?」
……は?
「うん。だって飲食代じゃん!」
「え? えっ!? 20万Gも巻き上げて、1Sも返す気が無かったて事?」
う、嘘でしょ!?
「返すも何も、先に20万G分飲食したのはそっちじゃん(笑) その分の支払いをお願いしてたのであって、返済義務は無い!」
「言ってる事は解るけど、到底納得は出来ない言い分だ!」
「だから僕の方が譲歩してやったんじゃん! 20万G貸してって」
「…………………………っ」
閣下は右手でこめかみを押さえ、何を言っても無駄という事を理解した。非常識大王の勝利である……なんか誇らしい。
「分かりました! そのニック・ジャガーに20万Gを貸し付ければ良いんですね!?」
「うん!(笑顔)」
リュカ様の眩しい笑顔で、この部屋の空気も明るくなった。
「じゃぁ年利1.0%で良いですか? かなり破格ですg」
「お馬鹿!」(バシッ!)
「痛ぁ! な、何すんだよ!?」
「ウルポンのお馬鹿!」
突如リュカ様の平手打ちが閣下に炸裂。
先程スカラで防御力が上がっているのに、かなり痛そうだ。
いったい何が不満なのだろうか?
「お前の役職は何だ、言ってみろ!」
「はぁ? 俺はこの国の宰相兼国務大臣だ!」
そうだった、忘れがちだが兼務してるんだったわ。
「って事はお前は公務員だろ!」
「それが何だ!?」
うん。それが如何したのだろうか?
「金銭を商品として、それで利益を上げる……これは立派な商売だ! 公務員の副業は禁止されている!」
「お……お前、俺に『金貸せ』って言ったじゃねーか!」
確かに言ったわね。
「『金貸せ』とは言ったが、副業しろとは言って無い」
「え……何? それは利子を摂っちゃいけないってこと!?」
嘘でしょ? 20万G借りておきながら、全額無利子なの!?
「当然だ! 利子が付くならお前なんぞからは借りん」
「じゃぁ貸さねーよ!」
そうなるわね。
「じゃぁ飲食代を支払え! 今すぐ20万Gを支払え」
「な、何でそうなるんだよ!」
「20万Gが必要だからだ!」
「そっちの都合じゃねーか!」
「お前の都合になんか合わせてられるか!」
「一方的……そして理不尽すぎ!」
解っていた事だろうに……今更だなぁ。
「まぁ待て。お前にも特典はある」
「20万Gも出すんだから、それなりだろうな!?」
何だろうか? “肉じゃが生涯無料券”か? ……いやパンチが弱い。20万Gと釣り合わないわ。
「ふっふっふっ……聞いて驚け! 何と『リュリュにセクハラし放題』だ! どうだ、魅力的だろう」
「いらんわ馬鹿! もう既にセクハラなんぞしまくっている」
「な、何だとぅ……僕の大事な娘に、セクハラしてるだとぅ!? 許せん、慰謝料を請求する!」
「こ、こいつ……今更……」
分かっていた事だろうに。
「あ~……因みにリュカ、幾らほど慰謝料請求するのかしら(笑)」
「え~……僕の大事な娘にセクハラだよぉ~……そりゃぁ……ねぇ」
その大事な娘へセクハラする権利を与えようとした件は如何なった?
「はいはい、分かってる。分かってますよ! 慰謝料も20万Gなんでしょ、どうせ!」
「お馬鹿!」(バシッ!)
「何で、また!?」
「僕の愛娘が、そんなに安い訳ないだろ! 20兆Gだ!」
「お、お前先刻20万Gでセクハラする権利を売ろうとしただろが!」
「馬鹿者ぉ! 許しを得てするのと、無許可でするのじゃ了見が違う!」
凄い事を言い出すわね……流石ですわ。
「言ってる事が無茶苦茶だ!」
「だが一本筋が通ってるだろ」
「極細だ。しかも強引にな!」
「そんな些末な事は知らん!」
「じゃぁ20万G貸せば、俺はリュリュさんを押し倒してぶち込んでも良いんだな!?」
「それはセクハラの領域を超えている。だいたい、お前嫌われてるんだから、毎朝笑顔で挨拶するだけで、向こうからしたら大いなるセクハラだ。その程度」
「に、20万Gも出して、挨拶するだけ!?」
「だって“ハラスメント”……即ち嫌がらせじゃん。アイツお前の顔を見ただけで嫌がるよ」
確かに嫌がりますわね。
「あーもういい。あ~もういい! 絶対に今度あの女のパンツを剥ぎ取ってやるからな!」
「それはセクハラの領域か?」
もう存在自体が彼女にとってセクハラだからなぁ……
「それこそ、そんな些末な事しるか! 俺は帰る!」
「あ……ちょっと待って」
流石に怒り心頭な閣下は席を立ち出口へ向かう。
「待てウルフ……ストップだウルフ! ステッペン・ウルフ!」
「変な渾名を付けるなぁ!」
また新しい渾名を付けられたと感じた閣下は、傍にあった包丁を力任せに投げた。危ないなぁ……
「おっと……」
だがしかし少し軌道を外れビアンカ様の方へと進む包丁。しかしリュカ様は、その包丁を何気なく左手の人差し指と中指で受け取ると、左手首のスナップだけで投げ返し閣下の頬スレスレを掠めて出口の扉に突き刺さる。扉には“ビーン”という音と共に大きめの包丁が深々と刺さってる。恐っ!
「まぁ落ち着け。お前も言ったが、細かい事は気にするな。ワイルドで行こう!」
そこまで言うと突如歌い出すリュカ様。
リュカ様にしては珍しく渋めの声で歌う……ちょっと怒ってる?
歌いながらだが、ジェスチャーで閣下を先刻まで座ってた椅子に誘うと、渋めの緑茶を出して落ち着かせる。
果たして落ち着くだろうか?
「分かった……分かったから!」
如何やら閣下は落ち着いた(というよりも諦め? 恐怖?)様で、20万G無利子貸し出しの話を進める様だ。
歌うのを途中で遮られたリュカ様は、ちょっと残念そうな顔。なんか可愛い。
「はぁ~……良いだろう。細かい事は気にしない。だが無利子とは言え20万Gも貸すんだ……ワイルドでも月々の返済計画は提示してもらう」
「お馬鹿!」(バシッ!)
「三度目っ!?」
コントかと思うリュカ様の平手打ちで左頬を殴られた閣下の台詞が、面白くて笑ってしまう。
「飲食店を舐めんなよ!」
「お前の人生観ほど舐めてねーよ!」
だとしたら舐めきってるのでは?
「いいか、飲食店ってのはなぁ……固定客である“常連さん”が出来るまで時間がかかるんだ! 新規開店して直ぐに繁盛するわけねーだろ! 常識ねーなぁウルフ閣下は(笑)」
「お、お前に常識を語られたくないわ!」
「うるさい、黙れ。そして聞け! 常連客が出来るのに数ヶ月……そこから常連客を含め客足が増えるのに数ヶ月。経営に余裕が出来るのなんて1年~2年先だ! 返済なんてそこからだ」
何でこんな無茶苦茶を押し通せるんだろう?
「無利子、無担保、無期限が原則だ!」
私を奴隷商人から買い取ったときのような強引さ……
だから好きなんです!
ユニSIDE END
後書き
今回言わせたかった台詞……
「お馬鹿!」です。
リュカ'sキッチン レシピその5「三段論法・小籠包」
(グランバニア城・メインキッチン)
ビアンカSIDE
「無利子、無担保、無期限が原則だ!」
凄い事を言う男が居たもんだ……
私の最愛の夫という事は秘密にしておきたい。
「それじゃ20万Gをくれてやるのと同じじゃねーか! 返済される保証が何所にも無い!」
「……ほ、保証はあるよぉ~」
自信なさげ。
「じゃぁその保証を見せろ。今すぐ、この場で!」
ウルフ君の言い分は尤もである……
リュカはキョトンとした顔でこちらを見てる……わ、私に如何しろと?
「か……彼は……し、信用……出来るわ……………多分(ボソッ)」
「そうだ! アイツは信用できるよ。僕の妻が認めるんだからね」
リュカはサムズアップで私の言葉を後押しする。でもね……それを証明しろとウルフ君は言ってるのよ。
「どの辺が信用できるのか言ってみろ!」
「……………?」
またこっちを見るリュカ……私を見るな!
「か……彼は……き、巨乳好きよ!」
「だから何だ!」
全くその通りだわ!
「僕は王様までやってるくらいだから信用できる。僕も巨乳が大好きだ。だから巨乳好きのニック・ジャガーも信用できる! どうだ解ったか?」
「そんな三段論法が罷り通ると思うなよ!」
「アイツの彼女……ニャアちゃんを見ろ」
「“ニャア”? 変な渾名!」
「ポンに言われたく無いわよ! 原型が微塵も無いじゃない(笑)」
中々言うわね、ニャアちゃん。
「くっ……ムカつく女だな」
「でも巨乳だ! そんな彼女の彼氏は巨乳が好きだ。従って巨乳好きは信用できる!」
如何すればそんなに自分の言葉に自信が持てるの?
「だ~か~ら~……巨乳好き=信用できるって論法が成立しねーんだよ! お前の息子は信用できる人間だが、嫁は真っ平らじゃねーか! グランバニアの大平原女じゃねーか!」
「う~ん……長いな。ポンの呼びやすさに敵わない。『渾名命名オブ・ザ・イヤー』にノミネートもしないぞ」
“グランバニアの大平原女”は渾名じゃないわよ。只の悪口よ。
「『渾名命名オブ・ザ・イヤー』なんか今は如何でもいいんだよ……っていうか、それ面白そうだな。何時開催すんの?」
興味を持つな! 開催しねーよ。
「うん。『渾名命名オブ・ザ・イヤー』の開催は未定だが、ティミーは生粋の巨乳好きだぞ。偶然お嫁ちゃんが育ちきらなかっただけで、巨乳っ娘の妹を追い回していたんだし、紛う事無き巨乳好き秘密結社の一員だ」
「何その秘密結社。楽しそう……如何やって入るの?」
「お前はロリコン教の信者な疑惑があるから、同秘密結社のは入団できない」
8歳の娘に手を出したからねぇ……まぁ当時、彼自身は12歳だったけど。
「え、なに? 俺に金を出させたいの、それとも出させたくないの? 出させたいのなら、もっとヨイショしなきゃダメだろ」
「え~……凄ーヨイショしてんじゃん!」
ど~こ~が~よ~!
「お前の常識でモノを言うな!」
「常識なんて人それぞれじゃん」
でもリュカのはちょっと……
「それより常識って言うのならさぁ……お前、僕の娘に手を出してんじゃん。しかも一人は既に……」
「ぐっ……何だよ急に!!!」
ちょっと……コック達は知らない事よ!
「いの一番にさぁ……『義理のお義父様の頼みなら尽力するか』って、なるべきじゃぁないのかなぁ???」
「や、止めろ……こんな所で話題に出すな……」
事情を知らないコック・メイド・兵士等は、それぞれ小声で何かを言い合ってる。
「世の義息は、産まれる子供の祖父の為に、色々気を使うんじゃないのかなぁ???」
まさかこの話題に触れられるとは思ってなかったヘタレ野郎は、汗をかいてキョロキョロと視線を動かしている。
事情を知ってるユニとジョディーは顔を見合わせて一言……「ダメ男が」
「わ、分かった……無利子、無担保、無期限で20万G貸すよ……」
「うん。やっと分かってくれたか義息よ」
そう言って座ってるウルフ君の右肩をリュカは右手で叩き満面の笑顔だ。
肩を叩かれた方は地獄に居る様な表情。
「あ~……この場に居るコック・メイド・兵士諸君。ウルフ宰相が入室してから、今までの会話等の一部は、他言してはダメだよ。『一部』と言ったが、どの部分か判らない者は気付かず他言するだろう……その時は“他言して聞いてしまった者”・“更に他者に伝えた者”・更には“三親等までの家族”諸々、銃殺刑に処す! ここに国王として明言したからね……慈悲は無いよ(笑)」
うわぁ……最悪だ。
「お前何でさっさと金出す事を了承しなかったんだよ!」
ウルフ君が座ってる椅子の脚を蹴る上級メイド。
「そうです閣下! お陰で被害が広がりました!」
事情を知ってるユニとジョディーから非難の声が……
「あ、あの……俺、絶対に返しますから!」
がっくり項垂れるウルフ君にニックが一生懸命声をかける。
いや、もうその事で落ち込んでるんじゃないからね。
「ほ、ほら……俺……き、巨乳好きじゃないですかぁ! だ、だから返しますから!!」
いい子ね……
でも何度も言うけど、その話題はもう終わったのよ。
「……じゃぁ聞くが、“ビアンカさん”・“リュリュさん”・“お前の彼女”の乳なら、どれが一番好みだ!?」
……関係なくない?
「勿論ビアンカ様です!!」
即答。
え、彼女が傍に居るのに?
「よし、信じてやる」
何で?
「な。だから言ったろ」
だから何で?
っていうか、精神的ダメージから回復しちゃってるのが腹立つわね。
思ってたよりも鋼の精神?
なんて思ってたら、私の腕から離れたホイミンが、フヨフヨとウルフ君に近付く。
そして手(?)の一本を彼の頭に乗せ摩っている。
ホイミンなりに慰めてるのかな……
なんて思ってたら突然頭の上の手(?)を振りかぶって……
(ゴスンッ!!)
と振り下ろして、椅子に座ってたウルフ君を前のめりに殴り倒し、床へと口吻を強要させた。
如何した急に?
満足したのか、私の下に戻ってくる間に、殴り倒した手(?)にホイミをかけてた。
先刻リュカがスカラをかけてたから、結構痛かったのね……っていうか、そこまでして急に殴った意味は何!?
「何だホイミン……先刻ビアンカに包丁が飛んでいった事、根に持ってるのか?」
リュカの言葉に手(?)で頭を掻いて照れてる様な仕草をする。
それを見て笑いながら……
「アイツホイミンの会心の一撃で完全に気絶してるから、序でにホイミしてやってよ(笑)」
確かにピクリとも動かない……生きてる?
「ぷっ……ははははっ! 確かにそうだね」
如何やらホイミンとの会話は続いてた様で、リュカは楽しそうに笑った。
リュカとリュリュ以外にホイミンの言葉が明確に解る者が居ない為、通訳を希望する視線がリュカに集まる。すると……
「ホイミンがね『その小僧もホイミが使えるから、回復してやる義理はない。それに今ソイツに必要なのは、外傷を治す魔法より、精神的ダメージを治す方法だ。自分の女の乳にでも縋り付けば良い』だってさ(笑)」
た、確かにその通りだけど……
意外に口が悪かったのね。
ビアンカSIDE END
聖母たちの子守歌
前書き
今回珍しく長編。
入院中にプロットを考えました。
時期のずれたイベントになってますが、
その辺はご容赦下さい。
(グランバニア城・国王政務室)
ウルフSIDE
何時もの様に国王決裁が必要な書類を持ってリュカさんの下へ赴いてると、何か良い事があったのかリュリュさんがリュカさんの執務室へ入って行くのが見えた。
俺には全く気付いて無い様子だったので、俺も悟られない様にリュリュさんの後に続いて入室をする。
部屋の主はこちらに一度だけ視線を動かして存在を確認すると、また手元の資料に視線を移す。
俺はリュリュさんの真後ろに居たので、彼女からは自分しか注目されてないと思ってるだろう……だって未だに俺の存在に気付いて無いし。
「お父さん、ハッピーバレンタイン! だからお父さんに私からエロエロなプレゼントっ!」
そう言って前屈みになると、ミニスカートを捲し上げて両手でパンツを脱ぐバカ娘。
以前の紐パンではないが、今日のは黒のシースルー……大事な部分はしっかり布で覆われてるが、脱げば意味ない丸出し娘。
俺は前屈みでパンツを脱ぐ女の真後ろに居たので、どっちの穴も丸見え。
相変わらずのツルツルなので、これは天然なのかもしれない。
因みにコイツの妹の一人は密林状態だ……母方の遺伝だとしたらビアンカさんも妖精の森レベルだろう。
パンツを脱ぎ終えたバカ女は、ほぼ一日中密着していた内側部分を見せる様に父親に差し出し……
「これと、これの中身……どっちがいい?」
と、馬鹿の追加注文な台詞。
「同じ物を今朝お嫁さんから貰ったから要らない」
「えー、今朝貰ったんじゃ、温もり的なモノが薄いでしょ。私のは濃いわよ」
濃淡じゃねーよ、解れよいい加減に!
「僕には用途が無いから要らない。本当に欲しがってる奴にあげなよ」
「お父さんへのプレゼントなのにぃ~」
これさえ無ければ最高に良い女なんだけどなぁ。
「だから僕は要らない。欲しだろう後ろの奴にあげれば?」
「後ろ?」
別に汚れた布きれなんぞ要らないが、脱ぐ時にもっと観察できる様に上半身を傾けてた俺に譲渡を促す父親……どっちも馬鹿だ。(俺もか?)
「げっ! いつの間に居たのウルポン!?」
「お前と同時に入って来たよ」
慌てて俺に向き返り、スカートの裾を押さえる美女……バ~カ(笑)
「最低~……後ろから見てんじゃないわよ!」
「お前が勝手に脱ぎだしたんだろ」
理不尽なクレームを突っぱねて、手に携えた書類を馬鹿娘の横を通り過ぎて上司に手渡す。
俺もリュカさんも何時もと同じ様に……というか全く興味を示さず、無言のまま政務を続ける。
隣では慌ててパンツを履き直している女が……
このシーンだけを何も知らない奴が見たら、誤解するだろう……
美女との情事に耽っていたところ、空気を読まない部下が入室してきて、気まずいながら服を着直してる現場!
だが登場人物の事を知っていれば、そんな誤解は生まれないだろう。
「つーか、居るなら居るって言いなさいよ」
「……居るよ。俺はここに居るよ」
「言うのが遅いのよバ~カ!」
「でもリュカさんはちゃんと気付いていたから」
室内の沈黙に堪えきれなかったリュリュさん。
理不尽なクレームは尚も続く。
でも紳士な俺は、優しく対応してみせる。
「お前になんかあげないわよ!」
「要らねーよ! ティミーさんじゃあるまいし……」
「なんも知らないのねアンタ」
「その代わりリュリュさんと違って変態じゃないぜ」
「ムカつくガキね!」
「なんも知らないもんで……」
「じゃぁ教えてあげる。ティミー君はね、もうアミーちゃんじゃなきゃムラムラしないのよ」
「ストレートに変態チックな事実を言うな(笑)」
「人の息子を変態に仕立てるな!」
書類に承認のサインをしていたリュカさんが、終わったと同時に軽く怒る。
そうやってリュカさんもポピー姉さんも、アイツばっかり贔屓するからボンボンって呼ばれるんだ。
「え~……絶対言うよぉ~。『興味を失った女のパンツより、アミーの使用済みオムツを被った方が興奮する』って感じの事」
「言いそ~。『僕はアミーのオムツを替えてる時が最高にビンビンになってるんだ!』とかさ(笑)」
「うわぁ~、もうヤバいって! アミーちゃん、まだ処女だよね?(笑)」
「流石にティミーさんのは、まだ挿入らないだろう……ただ後ろは伸縮性が良いからなぁ(笑)」
珍しくリュリュさんと会話が弾む。
「不愉快だな」
リュリュさんとの会話が弾んだのはいいが、リュカさんが少々機嫌を悪くしている。
俺は流石に言い過ぎたと思ったんだが、ティミーさんの事を悪く言っても許されると思い込んでるリュリュさんは気にもしない。それどころか……
「じゃぁ賭ける?」
「賭け?」
何を言い出すんだこの女?
「私が先刻と同じように目の前でパンツを脱いで、ティミー君にプレゼントしたら何と言うか」
「……何を賭けるんだい?」
本気で息子で賭けをする気か?
「私が勝ったら、先刻のパンツの中身を貰ってもらう」
「ふむ……………じゃぁ僕が勝ったら、今後一切お前から性的に誘わない」
この女が少しでも利口なら、この賭けの分の悪さに気付くはずだ。
もしリュカさんが負けても、中身を貰うだけで使用するか否かはリュカさんの一存だ。
例えるのなら、リンゴを貰っても所有するだけで食べないという選択肢もある。
腐るまで放置だし、他者に譲渡するのも所有者の権利だ。
ただ気になったのは、リュカさんがこの賭けを受けるか否かを一瞬迷った様に見えた事だ。
リュカさんの勝ち内容が何であれ、リュリュさんの勝ち内容の頭の悪さに、即答で賭けを受けても良いはずなんだけど……何で『ふむ』なんて言って迷ったんだ?
「賭け……成立ね!(ドヤ顔)」
あぁ……やっぱり利口じゃ無かった。
いや……もしかしたら、リュリュさんに分の悪さを気付かせない為の演技だったのかもしれない。そんな必要は無い気がするけども……
・
・
・
(グランバニア城・外務大臣政務室前)
みんな暇なのか、俺達が揃ってティミーさんの執務室へ向かってるのを見て、何か面白い事が起きると予想し付いてきた。
なお、いの一番に付いてきたのは上級メイドのジョディーだ……目聡いというか何というか(笑)
件の部屋前まで着き、リュリュさんが扉を開けようとドアノブを少し回した瞬間……
「ちょっと待て」
と言ってリュリュさんの手首を掴み制止させる。
「忘れるところだった……勝敗の判定を明確にしよう!」
そういう事か!
流石はリュカさんだ……賭けに負けても構わないが、ほぼ確実に勝てる状況にするらしい。
「ティミーがリュリュの脱ぎたてパンツを受け取るか否かで、こんな賭けは出来ない。何故なら、この賭けに至る経緯が『今のティミーは愛娘のオムツじゃないと性的興奮をしない』って事だったからな。だからティミーが『リュリュのパンツを受け取るくらいなら、アミーのオムツに頬ずりする』的な事を言わなければ、賭けとしてお前の勝ちを認める事は出来ない」
おやおや……リュリュさんは自分が勝つ為の条件が厳しくなったぞ(笑)
ここで賭けを止めれば、まだ及第点の利口さだ。
だがリュリュさんは勝った時のリターンの大きさ(彼女の思い込み)に、賭けを止める事は出来ないだろう。その程度の利口さだ。
「い、良いわよ……ハイリスク・ハイリターンね」
ハイリスク・超ローリターンだ。
いい加減気付けバカ!
賭けが成立した事を目配せで確認し合うと、リュリュさんは自分の職場である外務大臣執務室へと入っていく。中での遣り取りが確認できる様に、扉を少しだけ開けたまま……
勿論確認できるのは音と声だけだ。
「ハ、ハ~イ……ティ、ティミー君♥ ハ、ハッピー・バレンタイン!」
そうぎこちなく言うと、先刻と同じようにパンツを脱ぐリュリュさん。
何度も言うが音と声だけで室内の様子を確認してる。
「……それは?」
「も~う……今見てたでしょ♥ ワ・タ・シの脱ぎたてパンティーよ。ティミー君は超絶変態シスコン野郎だから、これをア・ゲ・ル♥」
一秒ごとに頭が悪くなっていくなぁ、あの女。
「……要らない」
「な、何でかなぁ~? お兄ちゃん、私のパンツ大好きでしょぉ。脱ぎたてだから温もりも満載よぉ」
リュリュさんなりの最大限の煽りだろう……自分のパンツを拒否する理由を言わせる。
「……………」
「や、やっぱりぃ……ア、アミーちゃんのオムツが良いのかなぁ?」
リュリュさんが唯一賭けに勝つプロセス……言動を導く事だ。
だが、アレじゃぁダメだろう。
なによりリュカさんは、既に策を張り巡らせ終わってる。
リュリュさんは勿論、勝手に付いてきたギャラリーも気付いて無いだろう。
リュカさんは彼女にワザと執務室のドアノブを少し回させ、中の人物に気付かせた。そして今回の賭け等の事を部屋の前で話し、中の人物に聞かせた。
一般人であれば、扉が閉まっている状態での外の音(逆も然り)は聞こえない。流石に政治の中枢なので、盗み聞きをされては困るからね。だが中の人物は勇者として名を馳せた一流の冒険者だ。
防音設備がそこそこあっても、ドアノブの回される音は聞こえるだろうし、ドアノブが動いたのに入室してくる気配がしなければ、神経を集中して室外の音や声を聞きのがなさい様になるだろう。それが出来なければ、物陰に隠れる敵からの不意打ちに為す術無く散っていただろうから。
「そんなにアミーのオムツに興味があるのなら、今すぐ我が家に行ってみるといい。今頃、お前のパンツの温もり以上のアレが満載だ。僕にはゴミだが、興味のある者にはお宝なんだろ?」
「わ、私にだってゴミよ!」
「そんな事より、このおふざけを裏で仕組んでる扉の向こうの馬鹿者共……入って来なさい!」
「あれぇ、バレてました?」
俺はティミーさんの軽い怒号に、ワザとらしく頭を掻きながら部屋へと入る。
俺の後には、興味本位で見物してたギャラリー群も入って来た。
「あれ、主犯格は?」
今回の件に面白半分で首を突っ込んだ物を前に、ティミーさんが疑問を言った。俺も慌ててギャラリー群を見る。
「あれ、本当だ!? あのオッサン、何所行きやがった?」
気付けば一人だけ居ない。
今回の件の中心人物なのに……
「陛下なら、殿下が『入ってこい』って言われる前に、居なくなってましたわよ」
「止めろよ、基本的に中心人物なんだから」
ジョディーの報告に呆れながら注意する。
「何所に行ったか分かる者は?」
「……ど、何処かまでは分かりかねますが、プライベートエリアの方へと早足に向かったのを自分は見ました!」
警備兵の一人の目撃報告。
「相変わらず狡賢いな」
「まぁ陛下ですから(笑)」
また別の兵士からの一言で、その場に笑いが起きた……まぁただ、ティミーさんと俺は笑ってないけど。
俺にもやっと理解出来た。
圧倒的に有利にも関わらず、リュカさんが『ふむ……』等と言って賭けに躊躇した理由が。
いや躊躇したのでは無いな……ティミーさんから言質を取れるか、頭の中でシミュレートした瞬間だったんだ。
そして予定通り言質を取った。
だから慌ててプライベートエリアに行ったんだ。
声には出してないが、俺の顔もニヤけてるだろう。
だがティミーさんに説教されている他の連中とは笑いの意味が違う。
ウルフSIDE END
(グランバニア城・プライベートエリア・ティミー宅)
アルルSIDE
愛娘にお乳を与え、残った母乳を搾乳機で絞り終えた頃、我が家の玄関をノックする音が聞こえた。
ティミーが帰って来たのかしら……と一瞬思ったが、わざわざノックする意味も無いし、何より反応を待つ必要も無い。なんせここは彼の家なのだから、サッサと入ってくれば良いだけ。
凄く嫌な予感がするが、居留守も出来ない。
一応だがこの国の王太子夫妻の自宅。
門前に警備兵が居り、留守か否かの確認は出来てしまう。
もうほぼ私の予感は確定なのだが、渋々そして嫌々で玄関を開けてみる。
「こんにちわ~。アミー、元気にしてたぁ?」
予感は的中した、と言うより外しようがなかった。
「お、お義父様……どうしてここに!?」
「うん。息子がね『そんなにアミー……(ゴニョゴニョ)に興味があるのなら、今すぐ我が家に行ってみるといい』って言ったからさぁ。僕ぅ興味津々だしぃ!」
「あの野郎、裏切りやがったな!?」
「“裏切り”?」
小声だが思わず叫んでしまう。
私の言葉に不思議そうに首を傾げるお義父様……だが何時も通り、自然に優雅にそして格好良く私の腕から愛娘を受け取る(受け渡した記憶は無いけど)と、我が家のリビングまで入って来た。
「あのお義父様……勝手な事をされると、ホントに冗談では無くマジで非常に困ります」
私はそう言ってアミーを奪還する。勿論、私もお義父様も人間の赤ちゃんを奪い合ってるので、奪われる際に無理な抵抗はしない。一旦奪わせて再度奪還した方が娘が怪我をする心配が減るからだ。
「あはははっ、言葉にしつこいほどのトゲがある(笑)」
私のクレームを一切意に返さず、またもやアミーを奪われた。
本当コイツ何しに来たの?
私達は数度、嫌味を言いながら(嫌味は一方的に私からだが)アミーを奪い合っていた。
そして腹立つ事に、お義父様が私から娘を奪う際、彼の手が私の胸に当たるのだ。勿論、アミーを怪我させない様にしてる為、ワザとでは無い事は解っている……が、それでも腹は立つ。
「あのお義父様……先程からお義父様の手が私の胸に当たってるんですが! 息子の嫁に手を出すのは如何なものかと……」
奪われる事数度目……アプローチを変える為に無駄と承知でお義父様に痴漢行為として指摘する。
「……………」
するとお義父様は私の胸を凝視して、アミーを左腕だけで上手に抱っこすると、徐に空いた右手で私の胸を鷲掴みにした。そして勿論、揉む!
一昔前の私なら大声を張り上げて胸を庇いつつセクハラをするリュカさんを罵っただろう。
だが今は違う。
そんな事をしてもアミーを怖がらせてしまうだけで何一つとして利点は無い。
寧ろ冷静にお義父様を見据えて、隙だらけの左腕からゆっくり安全に愛娘を奪還し、娘の身体で胸を隠す。
そしてお義父様にニッコリと微笑みかける。
大概の男なら顔を引きつらせて大人しくなるのだが、目の前の男は大概外だ。
私の満面の笑顔に……「乳揉みたくなったら、そんな遠回しな事せず、揉む!」と言い切る。
分かってたさ、そんな事は!
だが私を不機嫌にする要因がまた一つ……
それは愛娘が、私に抱っこされてる時よりもお義父様に抱っこされてる時の方が喜んでいる事だ。
基本的に娘はあまり泣かない。
だから私に抱っこされたからと言って、泣き出したりする事は無い。
だが、あからさまにお義父様抱っこされてる時と、私に抱っこされてる時では機嫌の良さが違う。
明確に言うと、お義父様に抱っこされてる時は『キャッキャッ』と笑っており、私が奪い返すと笑顔が消え軽く頬を膨らませる。
だからこの男に愛娘を近付けたくなかったのだ!
女なら、ヘソの緒が付いてる状態の女から、老衰で天に召される直前の女まで誑し込む男。
それも無意識で行う。
それがこのリュケイロム・グランバニアという男なのだ!
「あの、そろそろアミーの食事時間なので出て行ってもらえますか。母乳を与えるので……」
「あははははっ、相変わらずアルルは嘘が下手だなぁ。オッパイは先刻与えた直後だろ? オッパイも張ってないし、揉んだ時も簡単に出なかった」
くっ! 下手に子育て経験があるから、取って付けた嘘じゃ通用しないわ。あの野郎……簡単に言質とらせやがって。
そんなタイミングに……
「ただいまっ!! あ、やっぱりここに居やがった!」
何時もよりも早い時間に、突如として夫が帰って来た。
何やら手には黒い布が……女性の下着か?
「あれぇ、なに早引きしてんだお前?」
「うるさい。主犯が居ないから不思議に思い、早めに帰って来たんだ! 勝手に家に来るな!」
お義父様の主張だと、アナタが行って良いと言ったらしいけども?
「お前言ったじゃん。『アミーに興味があるのなら我が家に行け』って」
「そんな事、言って無い!」
主張の食い違い……
「言ったよぉ『そんなにアミー……(ゴニョゴニョ)に興味があるのなら、今すぐ我が家に行ってみるといい』って!」
「その言葉を濁した部分が重要だ。僕は『そんなにアミーのオムツに興味があるのなら、今すぐ我が家に行ってみるといい』と言ったんだ。『オムツに』興味がある奴と!」
「大して違いは無いじゃん。だってオムツ代えをするのも吝かではないんだし」
なるほど……
何時もの如くリュカさんの強引な解釈の違いだったのね。
「そんな事よりさぁ……如何したのソレ」
「ドレ?」
多分、手に持ってる下着じゃないかしら?
「ソレ……リュリュの下着だろ? 何でブラまで持ってるの?」
「上下でワンセットだからです」
そうだけど、そうじゃない。
っていうか、リュリュの下着だったのね。
相変わらずデカいわね! 何よ“I-70”って!? Iカップ!?
ブラに付いてるタグに驚く。
「でもプレゼントはパンツだけだったんじゃね? しかもお前『要らない』って言ってたんじゃね?」
「言いましたよ。父さんの策略で部屋の外にギャラリーが居る事が分かったので、変な言い掛かりを付けられない様に、あの場では要らないと答えましたよ」
じゃぁ何で持ってるのよ!?
「じゃぁ何で持ってるんだよ!?」
「ギャラリーが居なくなった後に、今後同じように僕を馬鹿にする企画を企てなくする為に、『やっぱり欲しいからよこせ。上下セットで!』と脅して奪ってきました。普段は言わない様な威圧的な口調で言ったので、リュリュもビックリして差し出しましたよ……渋々ですけどね」
「本心は欲しかったんだ」
「要りませんよ、こんな汚れた布なんて! 本来渡したかった相手は父さんでしょうから、周り巡って父さんにあげます」
そう言うとアミーを抱っこしてて両手が塞がってる隙に、父親のポケットに強引にリュリュの下着をねじ込む夫……成長したわぁ。
「あ、こら……僕だって要らん。勝手にポッケに入れるな!」
「はいはい、自由に使って下さい」
夫は妹の下着を父親の服にねじ込むや否や、自然な動作で愛娘を奪い返す。だが……
「い、痛い……痛いよアミー!」
「だぁ! だぁだぁ!」
普段ではあり得ないが、お義父様から夫に移動した途端、実父の顔を手でペチペチと叩き、嫌がる愛娘。
「ほ~ら、嫌われた。妹から下着を奪うなんて変態行為をするから」
そう言うと、これまた自然な動作でアミーを奪い返すリュカさん。
それを悔しそうに見つめる夫……お義父様もポッケの事を忘れてしまった様だ(笑)
「そ、そんな事より……もうそろそろアミーもおねむの時間だと思われる様な気がしないでも無い気がするので、いい加減、今すぐ、速攻で、一瞬のうちに、秒で、帰ってくれませんか。ホント、マジで、切に、心から!」
「夫婦揃って言葉にトゲがあるぅ」
貴方……悪影響なんですよ!
「そっかぁー……もうおねむなのかぁー」
「ええ、だから帰って……そして二度と来ないで下さい」
主張が凄い。
「よ~し、じゃぁリュー君が特別に子守歌を歌ってあげよう! タイトルは“聖母たちのララバイ”だ!」
「止めて下さい。赤ん坊の教育に悪い歌を聴かせないで下さい!」
教育に良さそう感が微塵も感じられないタイトルよね。
「馬鹿者! お前は何時もそうだ……食べ物も食べもしないで批判したり、名曲も聴いても無いのにダメ出しする。上っ面だけで判断するのは良くないゾ」
「で、ですが……子守歌としては不適切だと……」
「タイトルに“ララバイ”って付いてるんだから、不適切なわけ無いだろ!」
そうだろうか?
そんな疑問を指摘しようとしたが、お義父様はハミングで前奏部分を歌い出してしまい、何も言えなくなった。
そして歌詞……
・
・
・
「……や、やっぱり赤子に聞かせる歌じゃねーじゃんか!」
「そうかい? でもアミー寝ちゃったよ。スヤスヤだ」
あの歌でスヤスヤ眠られるのは困る。
「何でだ!?」
「はいはい……アミーちゃんをベビーベッドに誘いましょうねぇ」
子供が馬鹿みたいに大勢居るだけあって、手慣れた手つきで孫をベッドに寝かしつける。
「じゃぁ用が済んだからもう帰る」
「二度と来んな馬鹿!」
「二度と来ないで下さいお義父様」
「嫌われたもんだ(笑) まぁいいや……そんな事より君たち夫婦に耳寄り情報。あの歌でスヤスヤになったて事は、かなり深い眠りについてるよ……久しぶりに夫婦の営みが出来る! 頑張れ(サムズアップ)」
……思わず夫と視線が合う。そして一気に恥ずかしくなった!
「う、うるさい帰れ!」
恥ずかしさのあまり、手近にあったアミーのぬいぐるみをお義父様に向けて投げつける夫……
だが既にリュカさんは出て行っており、“ポフッ”と音を立ててぬいぐるみだけが玄関先に落ちた。
自分で投げたぬいぐるみを回収すると同時に、リュカさんが再突入してこない様に鍵を閉めて、私の傍まで戻ってきて顔を赤らめる夫。
久しぶり……本当に久しぶりの事なので、私の顔も真っ赤になってるだろう。
お互いに何も言えないで居ると、意を決したティミーが私を所謂お姫様抱っこして寝室へと向かった。
そして……
アルルSIDE END
(グランバニア城・プライベートエリア・ティミー宅)
グランバニア城のプライベートエリアに存在する王太子夫婦の自宅では、奥方が妊娠していこう久しぶりの営みに突入していた。
お二人の間には乳飲み子が生まれてとしても、お互いまだ若い男女である。
久しいその感触に、夫も妻も酔いしれていた。
そして夫の逞しいモノが、妻を突き上げてクライマックスに突入する直前……
「ふぎゃぁ……」と、子供部屋からこの男女の愛娘の泣き声が聞こえてくる。
互いに絶望的な表情で見つめ合っていたが、次の瞬間……
「あの野郎、欺しやがったな!」
と旦那様の雄叫び。
まだ旦那様のモノはいきり立っていたが、娘の泣き声に奥様の中から抜き出すと、服も着ないであやしに駆け出す。
奥様も手近にあったブランケットで身体を纏い、子供部屋へ……
夫が泣く娘を抱き上げあやしている姿を眺めながら不安に思う妻。
夫婦の営みが中座して少しの時間が経過したが、全く萎む気配を見せずギンギンな状態で娘を抱っこする夫……
それは旦那様の若さからなる持続力ではあるのだが、妻からは『本当に娘に対して変な気は持っていないのだろうか?』と疑惑を浮かべる要素になっていた。
なお翌日……
王太子殿下はお父上に対し、昨晩欺された事に不平を言いに執務室へ押しかける。
だがお父上の国王陛下は……
「大好きなパパが、他の女にとられる様な気がして、目が覚めちゃったんだよ」
と、ふざけた言い訳で誤魔化す。
だが言われた王太子殿下はニヤけながら嬉しそうに欺され出て行った。
その後ろ姿を見つめ、こちらも不安を募らせるのであった。
因みに、ポケットに入っていた黒の下着セットは、信認厚い部下たる宰相閣下の執務机の引き出し奥に、誰も居ない時間を見計らって隠した事はまだ発覚していない。
今回のテーマソング「待てない」(待つわのリズムで歌ってね)
♪可愛い顔してあの子 かなり変態だねっと♫
♪言われ続けたあの頃 わりとどうでもよかった♫
♪言ったりしたりエロい事 私の貴方への行為♫
♪いつかどこかで 成就するって事は永遠(とわ)の妄想(ゆめ)♫
♪アオカンだって構わない 誰に見られてもいい♫
♪彼の濃いめのエキス 生して中だして♫
♪私待てない いつまでも待てない♫
♪たとえ貴方が実の父親だとしても♫
♪待てない いつまでも待てない♫
♪他の妾(おんな)と同じエロ事する日まで♫
後書き
アルル様……淑女になろうと努力中。
また酷い替え歌を作ってしまった……
感想聞かせて下さい。
下手なシャレは止めなシャレ?
前書き
今回のエピソードは前話の「聖母たちの子守歌」の
少し前の事になります。
なおネタ提供は田鰻様からのコメントからであり、
許可を頂いております。
いつもありがとうございます。
(ラインハット城:王族プライベートエリア)
コリンズSIDE
とある日中……
愛しの妻と、さらに愛し(くなる予定)の妻のお腹を優しく触りながら談笑をしていると、突然妻の所持するMHから呼び出しのコールが鳴り響く。
怪訝な顔になり妻がMHを懐から取り出すと、そこには可愛い可愛い妹君であらせられるリュリュ姫からの呼び出しコールだった。
「あ~もう……」と言い天を仰いだが、直ぐに表情を元に戻すとMHに応答するポピー。
俺はその場から遠離ろうとしたが、ポピーが「居て良いわよ……どうせ大した用事じゃ無いだろうし」と言って一緒にMHに映る位置へと留まる様掣肘する。
多分内容は実父との近親相姦に纏わる事だろうから、正直関わり合いたくないのだが……
「こんにちわリュリュ……如何したの? まだ仕事中でしょ……ってか、何その格好?」
『……………ダメだった』
会話が成り立たない。
平日の日中に呼び出した上に、何故だか彼女は母親と同じ修道女の衣装を身に纏っている。
相変わらずこの一族の行動は理解出来ん。
産まれてくる子供が、俺の血の影響を強く受けるのか妻の方になるのか……不安である。
「如何したのよ。母親の跡を継ぐ気になったの?」
『……うん』
何時ものふざけた物言いのポピーだったが、何か落ち込んでるリュリュからは予想外の返答がきた!
「「はぁ!?」」
俺ら夫婦は揃って大声を上げてしまう。
MHの向こうでは俯きがちのリュリュ。だが意を決して顔を上げると……
『あのね、お母さんと同じ格好でお父さんに会えば、きっとお母さんの跡目として愛人にしてくれると思ったの!』
ダメだ、やっぱりこの一族……特にこの娘と末娘の思考回路は理解出来ない。
「あんたねぇ……」
流石のポピーも、左手でこめかみを押さえながら唸る様に発声してる。
その感覚……解るよ。普段、君からも感じさせられてるよ。
『お父さんにね……私もシスターになったの、ムラムラする? って聞いたらね、『しない』って言われたの!』
話の内容以外……口調や仕草、それに表情などは凄く可愛いのだけど、その全てを台無しにするのが思考回路。
「あのねぇ……聖職ってのは生殖って意味じゃぁないのよ!」
今のポピーにはこれが精一杯なのだろう。
苦々しい口調ではあるが、なんとかダジャレで誤魔化そうとしている。
『あははははっ、面白いわポピーちゃん!』
だが思考回路が異次元のこの妹には気持ちが伝わらず、姉のダジャレを心底面白がっている。これが兄貴だったら、心が折れるくらい文句を言われてるだろう。
ポピーも両手で頭を抱えて俯いている。
『お父さんにもソレを言って、場の雰囲気を和ませてから抱いて貰うわね♥ ありがとうポピーちゃん。ポピーちゃんのお陰ってお父さんにも言っておくから……』
との妹君からの台詞に、ガバッと顔を上げて……
「や、止めなさい馬鹿女!」
『ふっ……ふえぇぇぇっ……馬鹿って言われたぁ』
普段ポピーに言われない言葉にショックを受けるリュリュ。
「アンタいい加減にしなさいよ! こちとら妊婦なんだぞ! 解るか妊娠中なんだ……外的要因、病気や怪我だって母子ともに命の危機にさらされる上に、心的ストレスだって大問題なんだぞ! まるで私がアドバイスしたみたいにアンタがお父さんにその格好とダジャレで迫ったら、私がお父さんに嫌われるだろうが! こんなストレス他にあるか!?」
『ううっ……ごめん』
一気に捲し立てられて落ち込むリュリュ……
可哀想だが、可哀想じゃ無い。
「そんな訳分からない事しないで……そうね、来週バレンタインでしょ。それにかこつけて何かプレゼントでもしなさいよ」
言い過ぎたと思ったのか、もう少しマイルドな代案を提示する嫁。そうやって甘やかすからぁ……
『バレンタインプレゼント……? でも私料理苦手だし』
“苦手”?
そんなレベルじゃないだろう。
「別に食べ物じゃ無くたって良いでしょ、プレゼントなんて」
『う~ん……分かった。なんかプレゼントする』
そう言うと何かを思いついたのか、少しは明るい顔になり通信を終了する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛……もう!」
かなりのストレスだったであろう嫁は唸り声を上げてテーブルを叩いてる。
我が一族からすると、君の言動も同等だぞ。
「さっさとウルフが押し倒して、子供でも孕ませておけば、私がこんなに苦労しなかったのよ! 何なのあのヘタレ!? 役に立たないイ○モツぶら下げてるわね!」
凄い事を言い出したぞ。
「これで私が流産したら、アイツ絶対コロス!」
八つ当たりも甚だしい……
ってかこれ、八つ当たりってレベルか?
来週のバレンタインに、また一悶着ありそうだ……
被害がこちらに飛び火しない事だけを祈ろう。
コリンズSIDE END
後書き
田鰻さま、
もし思っていたのと違ってたらゴメンなさい。
私にはこれが精一杯でした。
やっぱり僕は歌が好き 第五楽章「新たなステージへ送り出す者達」
(グランバニア城下町:中央地区:アマン・デ・リュムール)
アイリーンSIDE
私は人見知りする方では無い……だけども、この状況は何だ?
ピエに巻き込まれ、全く面識の無い人間とカフェで紅茶を飲んでいる。
私の左隣にはピエ……そして正面に3人の宮廷画家が並んで座っている。
思い返そう、何があったのかを!
元々私は無関係だった。
全部ピエの問題だった。
今朝方ピエが学長に呼び出された。
あまり良い事では無いが、何分学長はピエの叔父だから、彼女に問題があって呼び出されたわけでは無い事は分かる。だが内容は最悪だった。
あと8ヶ月ほどで最上級生の4年生が卒業する。(勿論留年する奴も居る)
その創業式をピエが任された。
毎年卒業式は在校生(特に私らの様な3年生)が、音楽学部と美術学部と合同で何かを催して卒業を祝うのだが、その責任をピエに一任された。
学長の言い分では「マリー&ピエッサで最新のポップスミュージックを学んだお前なら、その新たなる音楽で卒業式を盛り上げられるだろう」との事。
簡単に言えば、ポップスで卒業式をやれって事だ。
例年なら、優秀な在校生等が寄って集ってオペラやらミュージカル風の卒業式の余興を行うのだが、今年も同じ様な感じでマリピエの経験を生かさせようという感じだろう。なお、美術学部は絵画なり彫刻を舞台セットとして提供するのが通例だ。
さて……単純な思考ではあるが、マリピエの影響で我が国のみならず近隣諸国にも多大なる影響を受けてるポップスミュージックを、まさに生み出した中心に居る張本人に活躍させるのは至極当然。学長も無駄に年くってないなと思われる。
だが問題なのは丸投げされた張本人。
マリピエの殆ど(というか全部)の楽曲は相方のあの娘が生み出したモノばかり。
ピエも勉強してきてるとは言え、まだまだその境地には遠く及ばず、卒業式を彩る曲を作るなんて夢のまた夢……の更に夢!
寝起きには何だったのか憶えてないレベル。
困った挙げ句に助けを求めたのは私にだ。
いや、私も困るわよ。
私の方が作詞作曲の能力は無いのだからね!
内容が内容なだけに、学校が終わりピエも何時も通りにお城の練習室(音楽室)に私を連れ込んでの相談だ。
急に「一緒にお城へ来て」と言われ、陛下から何か仕事でも言付かってるのかと思って期待したのにコレかよ! ざけんなよ!
取り敢えず私はあの女がハミング(鼻歌)で発表し、それをピエが書き起こしたとされる楽譜を見て、良さげな曲を選ぼうとしたが……「だめ! その曲等は使わないで!」とダメ出し。
「じゃぁアンタ作れんの?」と問いただせば、「む、無理……レクイエムなら得意なんだけども……」と言う始末。
卒業式よ。葬式じゃぁないんだから!
因みにあの女の楽曲を使えないのには理由がある。
ざっと眺めたが卒業式には向かない楽曲しか無い事……それとこちらが本命だが、あの女の曲を使うと、あの女自身がしゃしゃり出てくる可能性が大いにあるということだ。
それは避けたい。
我々の学校の行事なのだ……
部外者を参加させるのは恥さらしだし、あの女では荷が重い。
ピエが言うには、あの女が参加するのならば絶対に「ギャラを出せ」と言うだろうし、基本的に練習とかはしない女だから、いざ本番になればプロの音楽家に今まさになろうとしてる手合いに下手な歌唱力を披露する事になる。
金を払って、部外者に頼って、最低な歌声を聞かされる卒業生には、大いに悔いの残る卒業式になるだろう。
最悪、金を払って部外者に頼むのは良いとしても、本番で披露するのは我々在校生で無ければならない。
そう結論が出たところで、私はピエに提案する。
あの女に卒業式に使えそうな新曲を生み出してもらえる様に、マリピエのスポンサーに直訴してみよう……と。勿論あの女は本番に出しゃばらない様にしてもらう。
そう言ったら「え~アイツに相談するの~!?」と、凄っいヤな顔された。
「他に居ないでしょ。私も一緒に行ってあげるけど、口は出さないわよ……喧嘩になると思うから」
そう言ってスポンサー殿が居る執務室へとピエの腕を引っ張り連れて行く。
スポンサー殿が鎮座する執務室へ入り、仕事中の執務机の前に並んで立つと、野郎から先制口撃……
「何だ……今日は何を盗んで連行された?」
ムカつく……
ぶっ殺してやりたい。
この点だけはリュリュ姫と同意見だ……不本意だけど。
私が額に青筋を立てて立ち尽くしてると、ピエが事の経緯を説明する。
そしてあの女を上手く操作して欲しいとも……
だが帰って来た答えは何とも腹立たしい。
「無理だね。あの娘はあの悪名高きリュカ一族の女だぞ。俺の様な凡人に操れるわけないだろ(笑) なにより面倒臭い」
使えねー……こいつ本当に使えねー!
私が何か文句を言おうと口を開けた瞬間……突如手を翳して発声を遮り、部下に向かって、
「おい誰か、今すぐ宮廷画家の三人をここへ連れてこい。宰相命令だと言って、何らかの作業中でも来させろ!」
そう言ってスポンサー殿は視線を下に向け仕事に戻った。
暫く居心地悪く待っていると、3人の若い男女が部屋へと入ってきた。
多分この連中が宮廷画家だろう。
私らは少し端にズレたが、その隣へ並ぶ様に立ち、目の前のいけ好かない男を待っている。
宮仕えも大変ね。
少しして書類作業を一段落付けると、思い出したかの様に顔を上げて宮廷画家達を眺め見る。
一々イラつく野郎ね。
何でここの人間はコイツの下で働いてられるのかしら?
そして先程までの経緯(あの女が姫君である事は除く)を説明し、「同じ学校の者同士なんだから、お前等も協力して何か催し物を考えろ」
そう言って手で払う様に私らを追い出そうとする。だが……
宮廷画家の一人……背の低い女の子が、満面の笑みで目の前の上司に両手のひらを上に差し出す。
それを見て上司殿は「……何だ、手相占いして欲しいのか? そうだな、お前男運最悪。ボロボロにされて捨てられろ」とクズ発言。
「違ーよ馬ー鹿! 面識の無い奴と何かやれって言うんだから、まずは打ち解けやすい様にお茶でも飲みながら雑談が定石でしょ! カフェでお茶飲みながらアンタの陰口言うから、経費出しなさいよ!」
私この娘……好き!
「ふざけんな馬鹿! お前等が通う学校行事は、公務じゃぁねーだろ! 経費なんか出せるか、馬鹿、アホ、貧乳!」
取り敢えず殴ろうとしたら、それを遮るかの様にピエが前に出て両手のひらを差し出した。
「ポップスミュージックを広める一環として、マリー&ピエッサの一人である私が活動します。つきましてはその為の遊行費を経費としてお願いしますわ」
おや、以外にやるわねアンタも。
「くっそ……あのオッサンに悪知恵授かりやがって」
“あのオッサン”?
まさか陛下の事じゃ無いだろうな……そうだとしたらぶっ殺すわよ!
「何で俺ばっかり金を出さなきゃならないんだ……」
そう呟く様に言いながら懐から財布を取り出し、ピエッサの差し出してる手の平に50G札を一枚置いた。
だが「お前本物の馬鹿か!? 私ら5人居るのよ。一人10Gで何が出来る? ケチケチしてんじゃ無いわよ甲斐性無し」と先程の娘が!
良いわ、この娘。
因みに少し離れたところに居る部下の女性が、彼女に呼応して「甲斐性無し」と呟くと、執務室内の部下さん連中からもボソボソと「甲斐性無し」と……
なるほど……だからコイツの下でも働いてられるのね。
「ムカつくなお前等全員!」
そう言いながら再び財布から100G札を取り出して、ピエの手の平に置こうとすると、すかさず先刻の娘が100G札と50G札を掴み取り「はぁ~い、合計150Gの経費を頂きましたぁ~♥ あざぁ~っす」と、先の50G札までも奪い取る。ステキ♥
「え、あ……ちょ……違……」
「お、なんだ? 甲斐性無し発動かぁ?」
甲斐性無し野郎は何かを言って50G札は取り返そうとするが、あの娘がそれを遮る。
するとまたしても室内に「甲斐性無し」コールがブツブツと……良い職場だ。
「うるせー馬鹿共! 分かったよ、持ってけよ! そしてサッサとどっか行けよボンクラ共!」
と、大声で喚かれ今に至る。
まだ名前も知らない宮廷画家の3人とカフェに……
アイリーンSIDE END
後書き
ちょっと登場人物が多くなります。
何人かは空気と化すでしょう。
やっぱり僕は歌が好き 第六楽章「上司の陰口は結束の為のマストアイテム」
前書き
今回、リュカさんの娘の
リューナとリューノが登場します。
今回は出番ないけど
もう一人リューラって娘が居ます。
書いてる作者の私が混乱して
間違えてるかもしれません。
見直しはしたんですけど、
間違えがあったら、そっと教えて下さい。
(グランバニア城下町:中央地区:アマン・デ・リュムール)
アイリーンSIDE
「と、取り敢えずは自己紹介から始めますか……」
今回の責任者たるピエが先陣を切って、面識の無い方々との面識を得る行動に出た。
「じゃぁ私から……私はピエッサ・パルティシオン。今回の騒動の責任者ですぅ」
ピエがフルネームで自己紹介をする。この件に巻き込んで申し訳なさそうだ。
「あ、じゃぁ俺から……俺はラッセル・クリステンセンです。何故だか陛下からは“ラッセン”と呼ばれてますけど……」
何で? ラッセルが何でラッセンになるの?
「あ、私はエウカリス・クラッシーヴィ。源氏名はサビーネよ♥ 因みに私だけまだ2年生だから、よろぴくパイセン方(笑)」
源氏名? 風俗でもやってるのか?
「あの……私はピクトル・クントスです。その……別名とかは無いです。地味です……すみません」
いや別に、地味は悪くないわよ。ってか体付きは隣の風俗嬢よりも色っぽいじゃないの!
「最後は私ね……名前はアイリーン・アウラー。まぁ芸高校の生徒なら、多少は私の悪名を聞いてるんじゃないの?」
「知ってるぅ、有名な盗作女でしょ!」
この風俗嬢は遠慮が無いわね。まぁ悪意が感じないから良いけど。
「で、でもね……もう盗作はしてないのよ! ホントよ!!」
「え、そうなの? 何で?」
この風俗嬢、踏み込みが凄い……
「い、以前……陛下の作曲だとは知らずに、ピエが……ピエッサが練習してる曲を自分のモノとして発表しちゃったの。そしたらこの娘ってば陛下や、あのクズ宰相まで呼んで大事にしちゃって……もう懲り懲りよ」
「うはぁ~……そりゃキツい。あのダメ宰相だけだったら、鼻くそでもぶつけてやるんだけどねぇ(笑)」
良いわ~この娘……もっと仲良くなりたいわ。
「ダメ宰相と言えば、本当にダメですねアイツ」
「な、何よ急にラッセル……ウルフ宰相閣下は別にダメじゃ無いと思うわよ」
「出た……あのアホの批判になると、ピクちゃんは何時も擁護に回るわね。惚れてるのぉ?」
男の趣味悪!
「そ……そんなんじゃ……無いけど……で、でも今日だって150Gもくれたのよ! 太っ腹じゃない?」
「何言ってんの、それも渋々でしょ? 私が先に出してた50G札をも奪い取らなきゃ、あのアホは100Gで済ませようとしたのよ! しかも最初は50Gしか出さないっていうセコさ」
「そうそう。国家のナンバー2で宰相と国務大臣を兼任してて、個人としてもエンターテインメント事業に参入して、マリー&ピエッサなんていう超人気音楽ユニットを展開してるんだから、実入りは凄いだろうに……なのにあのセコさ」
ラッセン君も言うわねぇ。
「あ、これ彼女から聞いた話なんですけど……まだ見習いの宮廷シェフの才能を見出した陛下は、陛下自らが編み出した料理を伝授して早々に城下へ出店させたそうです。その際にかかる初期費用等は20万Gらしいんですけど、それも“無担保・無利子・無期限”で融資したって話ですよ……凄くないですか? どっかの宰相閣下は150Gですら出し渋ったのに!」
「流石陛下よねぇ~♥ ってかアンタの彼女は何でそんな事に詳しいのよ!?」
「俺の彼女、魔技高校に繰り上げ入学したラインハットからの留学生で、メチャクチャ若いのに既に学内の成績はトップを維持してる絶世の美女なんです!」
「あ、もしかしてリューナちゃんの事かしら?」
「あらピエの知り合いなの?」
ラッセンの彼女自慢に口を出してきたピエ……あのまま惚気に突入したら、紅茶をぶっかけてたかもしれないわ。
「アイリにも以前話したでしょ。陛下から依頼があって音響装置の開発に協力した件」
「あぁ……何か言ってたわね。陛下の偉業にしか興味ないから、その他の事は忘れてたわよ」
「でも一目でも見たら忘れられないですよ、彼女美人過ぎるから(笑)」
「でもでもぉ~……私の仕入れた噂じゃぁ~……あの娘、アンタの他にも彼氏が居るわよ! しかもぉ~……外務省の官僚だって。更に貴族様」
うそ、マジ!? 二股かけられてるの、コイツ(大笑) 相手のスペックから言えば、どう考えてもキープされてるじゃんコイツ。
「知ってるよ。それを承知で俺は彼氏の一人になったんだから」
「し、知ってんのかよ! 何なんだよソレ!?」
はぁ? 信じらんない……何そのイカれた関係?
「結構前までは大分大勢彼氏が居たけど、今では俺とその官僚貴族様の二人だけ。えっと確か……グランバニア王国領では無いけど、独立貴族の伯爵様でクラウスター伯爵家の嫡男。名前は『ジージョ・クラウスター』さんだったはず」
「く、詳しいわね……私の情報網よりも詳しいって何なの? ライバルだから調べ上げたのかしら?」
「いや、リューナに紹介された。何でも彼は幼い時に魔物に攫われて数年間奴隷として生きてたらしい。そんな絶望的な時に、陛下とティミー殿下がマスタードラゴン様を従えて助けに来てくれたそうです。グランバニア王家……特に、陛下とティミー殿下には心酔していて少しでも尽力できるようにと、凄く真面目に頑張ってる人ですね。優しくって良い人で、彼にだったらリューナを取られても諦めがつく人ですね」
「お前何なんだよ先刻から!? 好きな女が他の男に寝取られても大丈夫って、訳分かんねーぞコラ!」
「落ち着けよエウカリス! 寝取るも何も俺等はまだリューナと一回もシてねーし」
「嘘吐いてんじゃねーよ! あんな美少女が彼女なのに、ヤってねーわけねーだろが! お前がキープだからヤラせてもらえないだけだボケェ! それとも何か? お前もその貴族様も禁欲中の修行僧だとでもいうのんか?」
「嘘でも無ければ修行僧でもないよ。彼女の意向なんだ……生涯の伴侶と決めた相手にしか純血は渡さないって」
「リューナちゃん……ピュアなのね」
“ピュア”の一言で済まそうとするピエ。
「女はそれで良いわよ……私だってまだ処女だし!」
「お前こそ嘘吐いてんじゃねーよ。お前が処女の訳ねーだろ。キャバクラの同伴とかアフターとかで、複数の脂ぎったオッサンとホテルに行ってるんじゃねーの?」
あら……風俗嬢じゃなくてキャバ嬢だったのね。
「うるさい。一回でもヤラせれば、もう店に来なくなるだろが! ヤラせずぼったくるのが女の仕事じゃぁ!」
「ちょ、ちょっとエウカ……そういう事はあまり大きな声で言わない方が」
こっちのピクトルって娘……このキャバ嬢の保護者か?
「それにそういう肉体関係を優先する輩が排除されていって、俺とジージョさんが残ったんだ。勿論……それ以外の判断基準もあるのだろうけど、その辺は本人に聞いてみると良いよ。ねぇリューナ」
この話の纏めにかかってるのかと思いきや、何かに気が付きオープンカフェの外に視線を移して話しかけるラッセン。
誰だと思い、奴の視線の先に私も意識を移す……
するとそこには、まさに“絶世”と言うに相応しい美少女が、不思議そうな顔をして立っていた。
そして表情を柔らかい笑顔に変えると、私らのテーブルに近付き、空いてた私の隣の席に座ってニッコリ一言……
「私の話をしてたのかしら?」
か、可愛い!! 容姿も可愛いが、声も可愛い……仕草も可愛く、凄く良い匂いがする!
持ち帰ってガラスケースに入れて飾りたい!
確か魔技高校に繰り上げ入学って言ってたから、年齢的にはまだ義務教育課程な若さ……私より少なくとも4つは下。なのに大人っぽい色気と、それでいて幼女っぽい可愛らしさが兼ね揃わっている。
服のセンスも良く、それほどボディーラインを強調する様な服では無いのだけれど、それでもスタイルの良さ……特に胸の大きさを周囲に知らせる事が出来ている。
私と同じくらいの大きさだが、私は嫌味な様に谷間を見せつける衣装だ。
「いらっしゃいリューナ。テーブルは空いてるけど、相席で良いの?」
「大丈夫よリューノ。半分以上は知った顔だから」
常連なのか、互いに名前を知っていて気さくに会話をする彼女とリューノと呼ばれたウェイトレス。
「そう言えば新作のケーキが出来たんでしょ、リューノ? それを頂くわ」
「新作というか、まだ試験段階よ。試食してくれる?」
「そのつもりで今日は来たの……その新作にはコーヒーと紅茶の、どちらが合うかしら?」
「兄妹中唯一の男児を甘やかす父親くらい甘いから、ブラックコーヒーがお勧めね」
「それは甘いわねぇ……身近に似た様な人が居るけど(笑)」
「私にも居るわ。甘やかされてる方には、その意識が無いのがムカつくけど(笑)」
そう言うとお互い笑顔を交わして会話を終了させる。先程の会話を注文と受け取ったウェイトレスは、フンワリした服を更にフワッとさせて奥へと引き返す。
気にしてなかったから気付かなかったけど、あの娘も、かなりの美少女だわ。
若くて可愛くて、自ら働きケーキ作りの勉強をしてる……
私が男だったら放っておかない……ってか放っておけないわ。
「え……リューナはあの娘と知り合いなの?」
自分の彼女の事なのに、知らない事があったらしく不思議そうに尋ねるラッセン。
「えぇ……ちょっとした大きい共通項がある仲なのよ」
“ちょっと”なのか“大きい”のか……?
「ふ~ん……じゃぁ知ってるリューナちゃん? あの娘目立たない服着てるけど、お腹に子供が居るって」
ええぇぇ……あのウェイトレス妊娠してるの!?
私より年下……ってか、まだ義務教育期間でしょ!
「勿論知ってますよエウカリスさん。発覚して直ぐに知らせてくれましたから」
「そんな報告受けるくらい仲が良かったんだ? どんな共通項で通してるんだ?」
“彼氏の知らない彼女の事情”……三流エロ小説みたいなタイトルね(笑)
「……あの娘の……リューノの父親については、何かご存じですか?」
「私がぁ聞いた話じゃぁ……グランバニアのどっかで働いてるけど、忙しくてあまり会えてないって話よ。何してるのかは分からないけど、母親も似た感じだって」
「それが共通項よ」
「「「???」」」
皆揃って首を傾げる。どれだ共通項?
「父親が同じなの」
「……………えっ!?」
爆弾発言投下!
「えっ? えっ!? ……じゃ、じゃぁ……し、姉妹なのか?」
「そうよラッセル。ただし腹違いだけどね(微笑) 私の母はラインハットで働いてるし、あの娘の母親はグランバニアで働いてるわ」
凄い事実に皆が固まる。
年齢はそれほど離れていないだろうから、不倫の結果……か?
ウェイトレスの両親は共にグランバニアで働いてるって事は、ここが夫婦って事で……
ん……ヤバい。
この三流エロ小説、読みたい!
アイリーンSIDE END
後書き
久しぶりに登場させるキャラが多かったから、
フルネームを忘れてしまってた。
やっぱり僕は歌が好き 第七楽章「基本的に身近な人物」
前書き
込み入った家庭の話
(グランバニア城下町:中央地区:アマン・デ・リュムール)
アイリーンSIDE
「ちょっとちょっと、凄い事じゃない! 何々このドロドロな演劇みたいなシチュエーション?」
「ドロドロ? う~ん、まぁドロドロっていえばドロドロねぇ。でも……内情はもっとドロドロよ、聞きたい?(笑)」
「聞きたーい♥」
キャバ嬢が嬉々として手を上げ答える。
私も聞きたいわ。
「じゃぁ問題ね。私の父は私の母親と、あの娘の母親と……結婚してるのは誰の母親でしょうか?」
あ、そっか……二人とは結婚できないから、どちらか片方とは夫婦なのよね。
この場合……二人共がグランバニアに居るらしいから、あのウェイトレスの母親と結婚してると考えるのが自然じゃないかしら?
「うーん……出題者がわざわざ言うって事は、貴女の母親と結婚してるんじゃないの?」
なるほど……そういう考え方も出来るのか。
キャバ嬢なだけの、ちょっと捻た考え方な気がする。
「はずれ。ドロドロって言ったでしょ」
「じゃぁやっぱりリューノちゃんのお母さんと?」
澄ました顔で誤答を伝えるリューナ……それに思わず沈黙を破って発言してしまったピエ。アンタも興味津々ね。
「あらあらウフフ……芸術家にしては発想力が足りなすぎませんか?」
「え、如何言う事?」
ピエもそうだが、この場に居る全員が怪訝な顔で固まる。
「そんなサラサラなドロドロ劇は無いわよ(笑) 私の父は他の女性と結婚して、お二人の間には一男二女の子宝に恵まれてるわ。因みに私の母は私しか産んでないし、リューノの母親も同様よ」
「うわぁ……ドロッドロ」
流石のキャバ嬢も言葉を失っている。
「何か……こう言っちゃぁ悪いけど……貴女のお父さんって最低ですね」
「……? ピエッサさん、私の父親のどの辺が最低なのでしょう?」
いやいやいや……だって……
「結婚して奥さんとお子さんが居るのに、色んな女性に手を出して無責任なところです」
もしかしたら“結婚前の火遊び”かもよ?
「そうねぇ……確かに結婚して長男となる息子さんが生まれてから私達が生まれたから、所帯を持った後の不貞って事にはなるけど……」
一縷の望みでもある“結婚前の火遊び”説は無くなった。
「じゃぁ今の内にもう一個情報を投下しておくわね(微笑)」
「え、まだ何かあるのか?」
流石の彼氏もドン引いてる。
「私の父には、奥様と私・リューノの母親とは別の女性との間に、二人の娘さんが居ります……私が判っている限りで、男一人・女七人の子供が居ますわよ(ニッコリ)」
「うわぁ~もう最低中の最低な奴じゃん!」
おいキャバ嬢、面と向かって父親の事をディスるな!
「ウフフ……その考え方は押し付けですね。私も私の母も不幸に感じた事はありませんし、何時でも会いに来てくれて父親をしてくれましたから、寂しい思いはしませんでした。母もそうですし未だにラブラブです。金銭面も苦労した事は無いですし。これは他の女性方も同じだと思います……と言うよりも、私を含めた男一人・女七人に会ってますが、誰も父親の事を嫌ってたり憎んだりしてる者は居りません。まぁ唯一の男子が違った意味で反抗期になってますけどね……いい加減大人になれば良いのに」
「いやいやでもでも……そんな男が父親で幸せなわけが……いくら養育費を払っているからって言っても……ねぇ?」
「いや、私に同意を求めないでよ」
少し強めな口調で良い責められ、弱気な口調で自分の主張を通そうとするも、負け戦に同情を私に求めるキャバ嬢。
「器じゃないかしら?」
「「「器?」」」
如何言う事だろうか?
「器が大きいから、愛人が居ようと腹違いの子供が居ようと、皆を公平に愛し幸せに出来る。一般の男では、その器が小さいから、そんな事をすれば何処かに歪みが出来て不幸になる」
「う~ん……理解は出来るけど、納得は出来ないわね」
ピエは潔癖気味なのか、リューナちゃんの言葉に嫌悪感を見せた……私は、100%ではないが、ある程度納得できる。
「でも随分とハッキリ、そして明確に言い切ったわね。何か理由でもあんの?」
キャバ嬢は仕事柄なのか、嫌悪感こそ無いが不思議そうに尋ねる。
「私の身近にね、結婚前提で付き合ってる……しかも別れる事が出来そうに無い彼女がいるにも関わらず、別の女に手を出して……剰え孕ませやがったクズ野郎が居るんだけど、ソイツとの器の違いを実感してるのよ」
「うわぁ~クッズぅ~(笑) ねぇねぇどんな奴? ソイツってばどんな奴なのぉ?」
キャバ嬢身を乗り出しすぎ!
ウェイトレスがケーキとコーヒーセットを運んできたのに、テーブルに置けないでしょ!
「さぁて……私の口からでは~」
そう言うとテーブルから離れようとしてたウェイトレスの腕を掴み、
「皆さん貴女の彼氏の事を聞きたいそうよ。教えてあげたら?」
と話しかけ留める。
「えっ!? そ、その……お腹の子の父親って……不倫?」
「あー……せ、正確にはそうなりますね(苦笑)」
何なの先刻から展開するドロドロ劇場は!? もうお腹いっぱいなんですけど!
「ねぇねぇ教えてぇ~。おねいさんにカレピの事を教えて~ん♥」
やだ……この娘と同じ人種に思われたくない。でも本音は聞きたいから止める事も出来ない。隣のピエを見たが、表情からして同じ気持ちらしい。
「そ~ですねー……一言で言うと『ヘタレ』ですね」
「ヘ、ヘタレなの? 何所に惚れちゃったのかなぁ……?」
惚れてないけど、ヤったら出来たって事かしら?
「か、格好は良いんですよ!」
「見た目だけね」
「や、やる時はやる男だし……」
「男は皆、ヤれる女の前ではヤるわよ」
「う゛っ……み、皆には誤解されてるけど、本当は優しい人だし」
「誤解される事自体が問題なのよ」
「う゛ぅぅぅぅぅ~……え~と、その……強い……そう、強いの!」
「メンタルは激弱よ」
「あの……その……え~と……お、お金……持ち? だし」
「金無きゃただのクズじゃ