とある星の力を使いし者
プロローグ
前書き
ようやくにじファンから移転する事ができました。
改めまして、wawaです。
とある星の力を使いし者、始まります!
とある第七区の男子学生寮。
ビビビ!!と目覚まし時計が部屋中に響き渡る。
男、上条当麻はその目覚まし音を聞くとうっすらと目を開ける。
まだ眠いのか目が完全に開いていなかった。
それでも何とか目を開ける。
「さて、今日から高校の始業式だな。まずは第一印象を大事に・・・・」
そう言いながら今も鳴り響く目覚まし音の音を鬱陶しそうに見て、その時計の時間を確認するついでにボタンを押す。
音が消えると同時に、今の時間を見て上条の動きが止まる。
現在時間 八時十五分
上条の額に嫌な汗が流れる。
(確か、始業式の始まる時間は八時三〇分・・・・・・)
上条は昨夜目覚まし時計を設定し忘れていたことに気付いた。
上条の高校まで今から走っても、入学式に間に合うかどうか。
「ち・・・遅刻だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
一気に眠気が吹き飛び急いで着替える上条だった。
「ち・・・遅刻だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
そんな叫びが隣の部屋まで聞こえ寝ていた男が目を開ける。
(ちっ・・・誰だ?あんな大声で叫んだ馬鹿は・・・・・)
自分が寝ているところを邪魔されて、少し不機嫌そうな顔になった。
そして、隣人は誰だっただろうかと考えを巡らせたが、すぐにやめた。
(隣が誰だった何てどうでもいいか・・・・・)
そう自己解決して麻生恭介は時計を確認する。
時刻は八時十六分
彼も本日は高校の入学式だ。
普通の学生なら今の時間を見て上条の様に慌てるのだが、麻生は比較的落ち着いていた。
(始業式か・・・・別に行かなくても大丈夫だろう。
行かなかった所でどうなる訳でもないからな・・・・)
そう思いもう一回ベットに寝転がり二度寝をしようとする。
しかし、目を閉じても一向に睡魔がやってこない。
麻生はまた舌打ちをするとベットから起き上がり洗面所に行き顔を洗う。
そして自分の顔を鏡で見る。
そこには肌が若干焼けていて髪の色は白、瞳の色は黒・・・紛れもなく麻生恭介の顔がそこにあった。
(変わらないな・・・・何も・・・)
そう思った時、隣の部屋から何か物音が聞こえた。
麻生は隣と自分の部屋の間にある壁を一瞥してから、服を脱いで麻生がこれから行く高校の制服に着替える。
(眠くないしこのままじゃあ暇だしな・・・・始業式に行くか・・・・)
麻生はすぐに着替えて鞄を持ち、部屋から出て扉を閉めたが、鍵は掛けなかった。
するとその時、隣の部屋の扉が激しい音を立てて開き、一人の男が今にも走らん勢いで飛び出してきた。
いきなりだったので麻生も避ける事も出来ず、対して男の方も麻生が居るとは思ってもなかったらしく、結果二人はぶつかった。
「いてっ~・・あっ・・悪いな大丈夫か?」
ぶつかった男は同じように、尻餅をついている麻生に手を差し伸べる。
麻生はぶつかった男を見る。
男が着ている制服は麻生と同じ制服だった。
男もその共通点に気づく。
「お前も同じ高校なのか?」
「制服を見た限りではそうだな。」
「そうなら急がないと始業式に間に合わないぞ!!!」
男、上条当麻は未だ尻餅をついている麻生に今度は手を取れ、と言わんばかりの勢いで差し伸べる。
いつもの麻生ならその手を握らずに自分で立ち上がり、何か一言言って"終わらせる"のだが、何故だろうか。
今回は素直にその手を握ってしまった。
麻生が立ち上がると、上条はそのまま麻生の手を引っ張って走り出した。
「お・・おい!!」
「早くしないと始業式一発目から遅刻学生のレッテルを張られるぞ!!」
(俺は別にそれでも構わないんだけど・・・・・)
そんな事言っても多分聞かないんだろうな、と思いため息を吐きながら麻生も一緒に走り出す。
もしこの時麻生が二度寝をすれば、もしこの時上条の手を取らず一人でいつも通りにゆっくりと学校に向かえばこの物語は始まらなかった。
これは神が決めた運命なのか・・・・それとも星が定めた運命なのか・・・・
麻生恭介の物語が始まる。
後書き
これから、毎日一話ずつ投稿していきます。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第1話
麻生は学校の窓から外の景色をぼ~っ、と見つめている。
あの始業式には何とかギリギリに間に合ったが、先生達の間では結局目をつけられることになってしまった。
麻生はやっぱり二度寝をしていればよかったと後悔しながら、始業式で校長の長い話を聞かされながら思う。
クラス分けは上条と同じクラスになった。
上条と麻生はあの始業式の後、名前を教えあい(麻生は教える気はなかったのだが上条が何度もしつこく聞くので仕方なく教えた)家も近いので行き帰りはよく一緒に行動している。
これも上条が勝手についてきているので、一緒に行動しているかと言われれば違うかもしれない。
部屋も隣だからか麻生が学校をさぼろうとしても、上条が部屋まで押しかけて強引に連れて行くのでさぼることも出来なくなっていた。
(ちっ・・・・面倒な奴に捕まったな。)
麻生は窓の外の景色を見ながら思う。
そんな時、授業中にぼ~っとしている麻生を見た教師、月詠小萌は麻生に注意する。
一年七組の担任であり身長一三五センチとどう見ても一二歳くらいにしか見えないこの高校の七不思議の一つにも数えられる教師だ。
「こらっ~!!麻生ちゃん!!!先生の授業中に何ぼ~っとしているんですか!!!」
その注意を聞いた麻生は視線を小萌先生に向けず口だけ動かす。
「気にしないでください、先生。
俺なんかの為に授業を止めたら皆に迷惑ですよ。」
「先生は麻生ちゃんがちゃんと授業を聞くまでは何度でも注意するのです!!」
「じゃあ俺はこのクラスに存在していないと思って授業してください。」
「大事な生徒をそんな風に思えないです!!」
麻生はこれ以上話しても平行線を辿ると思ったのか、視線を小萌先生の方に向ける。
それを確認した小萌先生はにっこりと笑うと授業を再開する。
そして授業が全て終わり放課後。
「麻生、一緒に帰ろうぜ。」
「勝手にしろ。」
適当に答えて鞄を持つ、麻生。
そんなやり取りを見ていた青髪ピアスは言う。
「カミやんと麻生はほんま仲ええな。」
「そうか?
部屋も隣だから普通じゃね?」
「僕だったら部屋が隣でも一緒に帰らんわ。
あっ、女の子やったら話は別やで。」
「お前は女の子だったら誰でもいいんだろう。」
「そんなことないよ。
僕にだってちゃんと好みあるよ。」
二人が話をしていると麻生は会話に入らず教室から出ようとする。
上条は視界の端で麻生が教室から出ようとするのが見え、麻生を引き止める。
「待てよ、麻生!!
俺も一緒に帰るって!!」
急いで鞄を持ち麻生を追いかける、上条。
それを見た青髪ピアスは思う。
「もしかして麻生とカミやんがこんなに仲ええんは二人の間に肉体関係が・・・・・」
「そんなわけあるか!!!」
全力で否定しながら上条は麻生を追いかける。
麻生に追いついた上条は二人並んで歩いて帰っている。
二人が歩いている道には風力発電のプロペラが見えたり、二人の間をドラム缶に車輪をつけた警備ロボットが追い越していく。
学園都市。
東京西部を切り拓いて作られたこの都市では「超能力開発」が、学校のカリキュラムに組み込まれており二三〇万の人口の実に八割を占める学生達が日々「頭の開発」に取り組んでいる。
そしてこの学園都市は能力開発以外の科学技術も最先端の技術などが使われており、外と比べると数十年分くらい文明が進んでいると言われている。
上条と麻生も日々「頭の開発」をしているのだがレベルは二人とも0。
所謂、無能力者である。
「あと一か月とちょいで夏休みだな。」
「その夏休みにお前は補習が入ってくるんじゃないのか?」
最初は楽しみな顔をしていた上条だが、麻生に指摘されて目に見えて落ち込む。
上条はそれほど頭はよくない。
赤点や補習など毎回引っかかるくらい成績が悪い。
麻生もそれほど成績は良くはないが補習にかかるほど成績は悪くない(本来、麻生は頭が非常に良いのだが本人はめんどうと言う理由でテストなど適当にしているから)。
すると上条が前を見た時歩くのをやめる。
麻生も一応歩くのを止めて上条が見ている視線を追う。
その先には一人の男の学生に何人かの不良が囲んでいる。
おそらく金でも要求しているのだろう、と麻生は考えるが俺には関係ないことだ、と無視しようとするが・・・・
「麻生、助けに行くぞ。」
この男、上条当麻が真剣な表情で麻生に言う。
「行くならお前一人で行け。」
「あの数相手で俺一人だけじゃあ勝つ事は難しい。
けどこっちが二人だったらまだ勝てる可能性が残っている。」
「俺はあの男に助けてと頼まれた訳でもない。
だから、俺が助けに行く理由にもならない。」
「お前は頼まれなかったら助けにいかないのか?」
「そうだ。」
「なら、俺がお前に頼む。
一緒にあいつを助けてやってくれ。」
その言葉を聞いて麻生は沈黙する。
そして深くため息を吐く。
「相手は5人。
俺が3人相手するからお前は残りを倒せ。」
その言葉を聞いて一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべ不良達の所に走っていく。
(あいつに関わっているとどうも調子が狂うな。)
そう思いつつ麻生も不良達の所まで走る。
上条が不良達に何か言うと上条は顔を殴られてそこから喧嘩が始まる。
麻生は上条の後ろから殴ろうとする男の襟元を掴み右足で男の両足を払う。
男は後ろから引っ張られるので後ろに体重がかかり、その運動を利用して背負い投げの如く男を投げ飛ばす。
地面に叩きつけられて気絶する、男。
振り返ると別の不良がポケットからナイフと取り出すと麻生に突き刺してくる。
しかし、何度も突き刺してくるがそれを簡単にかわしていく。
そして不良のナイフを人差し指と中指の間で挟む。
不良がそれに驚いている内に顎を打ち上げて気絶させる。
(あと一人・・・早く終わらせて寝るか。)
上条の方を見ると一人は何とか倒せたようで今は一対一で喧嘩している。
麻生の前にはもう一人の不良が立っている。
「なかなかやるみたいだな。
けどな・・・」
不良が掌を開けるとそこに風が集まっていく。
「風力使い・・・お前、能力者か。」
「そうさ、見たところお前は無能力者みたいだしな。
どうだ、金を渡したら骨一本で許してやるが?」
不良は掌に集まっている風で脅しをかける。
しかし、麻生は驚きもせず逆に呆れた表情をする。
「はぁ~、たかが風をちょっと操れるからっていい気になって。」
「なんだと!?」
「それを見る限りだいたいレベル3って所か。
その力で不良達の従えて何が楽しいのか・・・・俺には理解できないね。」
憐みの表情で言う、麻生。
その言葉が頭にきたのか不良は、掌に集まった風を麻生に向けて放つ。
しかし、風は麻生に当たる直前にその風がいきなり止んだ。
「なっ!?・・ど、どうなっているんだ!?」
不良は何度も風を麻生に向けて放つが直前に風は勢いの無くし吹き止んでしまう。
「お前も能力者か!!」
「そんな事どうでもいいだろう。」
そう言い三メートル離れている不良に一気に近づき、左足で踏み込むと同時に左手で不良のみぞを殴る。
くの字に折れると不良はみぞをおさえる。
「て、てめぇ・・・何者・・だ。」
不良は消えそうな意識で麻生に問いかける。
「ただの通りすがりの一般人Aだ。」
麻生がそう答えてるのを聞いて不良の意識が途切れる。
麻生が上条の方を見るとちょうど上条も相手を倒したようだ。
「麻生って結構強いんだな。」
無傷おろか服に一つも汚れがないのを見て言う。
「たまたま俺の相手が弱かっただけだ。」
絡まれた学生の男はどうやら逃げたようだ。
麻生はそれを確認して自分の鞄を背負いすたすたと歩く。
それを追うように上条もついて帰るのだった。
部屋の前で上条と別れすぐにベットに倒れて麻生は睡魔が来て眠る。
二時間くらい寝ているとパチッと目を開ける。
そのまま立ち上がり冷蔵庫にある水を飲みながら時計を見る。
(六時か・・・・暇だし散歩するか。)
麻生は制服を脱ぐと黒のズボン、黒のシャツ、そして黒の袖のないコートを着て鍵も閉めずに外に出かける。
麻生は暇があればほとんど散歩をする。
その散歩に意味はなくただ歩いているだけ。
すると不良達がまた誰かを取り囲んでいる。
数が多くどんな人がまた絡まれているかは確認できない。
少なくともズボンをはいていない所を見た限り女性のようだ。
(まぁ、誰が絡まれていようが俺には関係ない。
あの正義馬鹿も居ないことだし無視無視。)
麻生が素通りしていこうとした時だった。
「うん?・・・あっ!!てめぇは夕方の!!!!」
不良の一人が麻生の顔を見ると何かを思い出しようだ。
対して麻生は・・・・
「誰だ、お前?」
「もう忘れたのかよ!?
夕方くらいに俺達ボコボコにしただろう!!!」
麻生は改めて不良達をよく見る。
知らない顔も居たが何人かは夕方に会った不良達も居た。
「あの時は油断したが今回はお前は一人だ。
そして数では俺達は圧倒的だ。」
そう言って今度は麻生を取り囲む。
女性を囲んでいた不良達が少なくなり、女性の顔を確認することが出来た。
肩まである茶色い髪に灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーターの格好をしている。
しかし、左の胸に他の女性学生とは決定的に違う物があった。
(あのマーク・・・こいつ常盤台の学生か。)
常盤台中学。
学園都市の中でも5本の指に入る名門校であり、同時に世界有数のお嬢様学校。
生徒数は二百人弱でレベル5二名、レベル4四十七名、それ以外は全員レベル3。
在学条件の一つにレベル3以上である事が含まれているとんでもない学校。
全生徒の能力干渉レベルを総合すると生身でホワイトハウスを攻略出来ると噂されている。
「おい!!どこ見てやがる!!!」
不良の一人が麻生を睨む。
はぁ~と大きくため息を吐く。
「お前達ってほんと馬鹿だよな。」
「なめてんのか、てめぇ!!!」
「だって、そうだろう。
いくら女の子にモテないからって中学のガキを狙うなんてな。
まぁ、こんなお子様を狙ってもお前達がモテないことには変わりないけど。」
「てめぇ・・・ぶっころす!!!!」
不良達が一斉に麻生に襲いかかろうとした時だった。
「子供とかお子様とかうっさいのよ!!!!」
突然、常盤台の女性がそう叫ぶと同時に凄まじい電撃が不良達を襲う。
一瞬にして不良達は黒こげになる。
「あー、こんな雑魚共に能力使っちゃ・・・・・」
頭をかきながら女性は言う。
しかし、黒こげになったのは不良達だけだった。
「何だ、一人で倒せるのならさっさと倒せばよかったじゃないか。」
「えっ・・・・」
女性は後ろを振り向くと麻生だけが火傷一つなく普通に立っていた。
「あんた、何者・・・・」
「通りすがりの一般人Aだ。」
「一般人が私の電撃を受けて無傷なわけないでしょ!!」
もう一度電撃を麻生に向けて放つ。
だが、その電撃は何か壁に当たったかのように弾け飛ぶ。
「あんまりほいほい電撃を飛ばすな。」
麻生はその光景が当たり前のように平然と女性に注意する。
「何よ、その能力・・・」
「能力と言っても身体検査では無能力者なんだが。」
「レベル0ですって・・・・・」
女性は驚きの表情を浮かべている。
(面倒になってきたな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げるか。)
麻生はそう考えると女性が驚いている内にUターンして逃げ出す。
それに気づいた女性も麻生を追いかける。
「こら、待ちなさいよ!!!」
誰が待つか、と思いながら逃げ出す、麻生。
(あいつの不幸体質・・・俺にうつったんじゃないのか・・・・)
今この場に居ない上条を恨みながら後ろの女性をどうやってまくか考えるのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第2話
「はぁぁ~~~~~~~~」
いつもの様に窓の外を見ながら大きなため息を吐く。
あの電撃少女こと御坂美琴(名前は何度か会っている内にあちらから勝手に教えられた)に会ってからこの1ヶ月、出会っては勝負しろと言ってくる。
もちろんそんなめんどくさい事を麻生がする訳がなく、そのまま逃亡すると美琴はそのまま追跡、この流れがずっと続いている。
そんな姿を見た青髪ピアスは麻生に話しかける。
「あれ~麻生、なんや疲れた顔してんな~。」
「ああ、少し面倒な女に・・・少女か・・どっちにしろ、面倒な奴に追い回されているんだ。」
「ええな、女の子に追い回されるなんてそんな羨ましいシチュエーション僕も会ってみたいわ。」
と自分の妄想に入る、青髪ピアス。
そこに上条が麻生に話しかける。
「なぁ、その追い回している女って御坂美琴って奴か?」
「よく分かったな。
何だ?あの女が好きだからストーカー行為でもして情報を集めているのか?」
「そんな訳ないだろう!!」
全力で否定すると左手で頭をかきながら答える。
「たまたま不良に絡まれている所を助けようとした時、ちょうどビリビリ中学生がビリビリ出してそれを この右手で消してしまってそしたらビリビリが「私の電撃を打ち消すなんてあんたで二人目よ。」とか言 って追い掛け回されたんだ。
まさかその最初の一人が麻生だったなんてな。」
あいつはまた不良に絡まれたのかと麻生は呆れる。
そして麻生は上条の右手を見る。
幻想殺し。
上条当麻の右手に宿る能力。
超能力・魔術問わず、あらゆる異能の力を打ち消す。
触れるものが異能であればあらゆる異能を消し飛ばす、強力無比な能力。
上条がよく不幸な目に会うのはこの幻想殺しが運と言う異能を消していから上条はよく不幸な事が起こる。
麻生は幻想殺しの事も知っている。
厳密には麻生が知っているのではなく星が知っているのだ。
これが麻生の能力。
名前がないが麻生は星と呼んでいる。
星。
星と繋がる事で星が知っている事を麻生も知ることが出来る。
また自然などの万物、秩序などの概念などを変化、利用することが出来る。
他にもさまざまな応用が可能な能力である。
麻生は最近上条が一緒に帰ろうとしないのは御坂が絡んでいるのが原因だなと考える。
そして放課後になると上条と麻生は別々に帰る。
(あいつの不幸は折り紙つきだ。
別々に行動すれば御坂は確実に上条の方に行くはずだ。)
そう考えながら帰宅する。
麻生の予想通り寮までの帰り道で、美琴に会う事はなかった。
麻生は水の飲みながら時計を確認する。
(この時間で何もする事もないし散歩でもするか。)
制服を脱いで黒一色の服に着替えて部屋を出る。
いつもの通り目的もなくふらふらと散歩する。
「見つけたわ!!!!」
突然麻生の後ろから聞きなれた声が聞こえた。
その声を聞くと麻生は大きくため息を吐いた。
(最近俺の幸運が低くなってないか?)
そう思い声のする方に振り向く。
そこにはパチパチと電気を出しながら御坂美琴が立っていた。
「今日と言う今日は決着をつけてやるんだから!!!」
美琴は麻生を指さして言う。
それを聞いた麻生は振り返る。
美琴は逃げるかと思ったが、麻生は逃げずにいつものペースで歩いていく。
「ちょ・・ちょっと!!待ちなさいよ!!!」
美琴は麻生にいろいろ話しかけるが、麻生はそれを全部無視する。
自分を無視された美琴はバチバチと、電気を出しながらと肩を震わせる。
「私を無視すんな!!!!」
その叫びと同時に麻生に電撃を放つ。
しかしその電撃は麻生の直前で何か壁にぶつかったかのように弾け飛ぶ。
すると麻生は足を止めて美琴の方に振り返る。
「ようやくこっちを見たわね。」
「お前、毎回毎回俺を見つけては追いかけまして暇なのか?」
「こっちだって無い時間を作ってるのよ。」
「わざわざ作らんでもいいだろうに・・・・それでどうしたらお前はどうすれば追い掛け回すのを止める んだ?」
麻生がめんどくさそうに美琴に聞く。
「え?・・そ・・そりゃあもちろん・・・・私が勝ったらよ。」
照れながら美琴は言う。
それを聞いた麻生はまた大きなため息を吐く。
「分かった。」
「え?」
「相手になってやるよ。
もう追いかけ回されるのは面倒だしな。
少し拓けた場所に移動するぞ。」
そう言って再び歩き出す。
美琴はようやく戦えると思い頭の中で色々考える。
少し歩いた所にある河原で向かい合う二人。
「ふぁ~~~~~、じゃあ始めるか。
どっからでもかかってこい。」
欠伸をしながら棒読みで言う、麻生。
普段の美琴ならこれを見て頭に血が上るのだが今回は違った。
「言われなくてもこっちはずっとこの時を・・・・」
電撃を身体から放ちながら言う。
「待ってたんだから!!!!」
それを右手に溜めて電撃の槍を作りそれを麻生に飛ばす。
その威力は今までとは桁違いの威力だ。
だが、それも麻生の直前で何かにぶつかり弾け飛ぶ。
(あれもくらっても無傷かよ。
それなら・・・・)
今度は動きながら電撃を放つ。
一直線ではなく四方八方からの電撃による攻撃だ。
美琴は麻生の前には何か見えない壁があり、それが電撃を防いでいると考えた。
その壁は前方だけしか展開できず、全方位からの攻撃には対応できないのでは?と考えた。
先ほどと同じ威力の電撃が麻生の全方位から襲い、そしてその電撃が当たり砂塵が舞う。
(しまった!!もし私の考えが当たってたらあいつは・・・・)
不安を抱えながら砂塵が晴れていく。
しかし美琴の考えとは裏腹に火傷一つなく麻生は立っていた。
あまつさえ未だに欠伸をしている。
(そう・・・・どうやらこいつ相手に手加減は必要ないみたいね。)
バチバチと音と同時に美琴の周りで黒い何かが舞い上がってくる。
「ほう、電磁力を使って砂鉄を操っているるのか。」
一度見ただけで原理を看破する。
美琴は一瞬驚くが麻生相手にいちいち驚いていられないと割り切る。
舞い上がった砂鉄が剣の形に変わっていく。
「砂鉄が振動してチェーンソーみたいになっているから触れるとちょーと血が出たりするかもね。」
美琴が砂鉄の剣を持ち麻生に向かって駆け出す。
「このままでも別に問題はないが退屈だし・・・・・攻めるか。」
麻生は左手を虚空に伸ばすと、そこに剣が突然現れる。
刀身80センチ、幅6センチの両刃の西洋剣が握られていた。
その突然の剣の出現に美琴は駆け出した足を止める。
電撃を防いだ事といい剣が突然現れた事といい、本当に無能力者とは思えない。
美琴が足を止めていると、今度は麻生の方が美琴に接近する。
麻生は剣を美琴に斬りかかり、それを美琴は砂鉄の剣で受け止める。
ガガガ!!!と音と同時に麻生の持っている剣が少しずつ削れていく。
それを見た麻生は一旦美琴と距離を開ける。
美琴の砂鉄の剣は電磁力でチェーンソーの様に振動している為、鍔迫り合いになれば砂鉄の剣の方が圧倒的に有利である。
しかも砂鉄はそこら中に幾らでもある。
砂鉄がなくならない限り砂鉄の剣が無くなることはない。
麻生は自分の剣を見つめている。
「ふ~ん、普通の剣じゃあ駄目ってことか。」
麻生が呟くと突然持っていた剣が粉々に砕け散る。
それと同時に別の剣が握られていた。
「私の電撃を防いだり何もない所から剣を出したり、どんな能力してんのよ。」
「俺に勝てたら教えてやるよ。」
麻生はさっきと同じように美琴に近づき斬りつける。
(何度やっても結果は同じ!!)
美琴もさっきと同じように受け止めようとする。
だが、その斬撃を受け止めた砂鉄の剣が真っ二つに折れた。
「なっ!?」
その結果に驚き今度は美琴が麻生と距離を開ける。
「あんた、その剣に何かしたの?」
「別に俺は何もしていていない。
これはそう言う剣なんだ。」
美琴は麻生の言っていることがいまいち理解できなかった。
麻生はそのまま話を続ける。
「科学側のお前に魔術の事を話しても信じないと思うが一応説明してやる。
この剣の名前は絶世の名剣って言うんだ。
簡単に説明するとこいつは何があっても折れる事はない。」
絶世の名剣。
フランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄・ローランが持つ聖剣。
「切れ味の鋭さデュランダルに如くもの無し」とローランが誇るほどの切れ味を見せたと言われている。
砂鉄があれば何度でも修復出来るからと言って、絶対に折れないわけではない。
渾身の力で斬りかかった絶世の名剣を受け止めれば折れるのは必然。
しかし、美琴は砂鉄の剣が折れた事に対しては驚いたがそれも予想の範囲内だった。
「魔術とか何だか知らないけどあれだけじゃあ勝てるとは思ってないわ。」
すると先ほどとは段違いの砂鉄が舞い上がりその砂鉄が麻生の周りを取り囲む。
「どう?降参したらすぐに電磁力を解いて・・「目障りだ。」・・え?」
麻生がそう言うと電磁力で操っていた砂鉄がいきなり元の砂鉄に戻った。
(あいつは何も動いていないのに!?・・・・くっ!!!)
美琴はもう一度砂鉄を舞い上がらせようとしたが幾ら電磁力を出しても砂鉄は舞い上がらない。
(どうして・・・どうして、反応しないの・・)
美琴が砂鉄が舞い上がらない事にうろたえていると・・・・
「もう一度同じ事をされても面倒だからな、此処から周囲1キロ内にある砂鉄をただの砂に変えた。」
美琴は信じられないと思った。
自分の知っている能力でこんな事をできる能力はしらないからだ。
(打つ手はなし。
それならもうこれしかないわね。)
美琴はポケットからゲームセンターのコインを出してそれを親指に乗せた。
「正直、これは使いたくなかったわ。
これに関してはあんまり手加減できないからね。」
美琴は自身の切り札であり自分の能力の異名である技を使おうとしている。
超電磁砲
膨大な電流を流す事によって発生する斥力をもって弾丸を発射する。
しかし麻生はそれを前にしても態度を変えない。
「いいぜ。
ちょうどその技がどれほどの物か見たかったしな。
本気で撃ってこい。」
その挑発で頭に血が上り美琴は今ある電力を全部使い超電磁砲を麻生に放った。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第3話
今の美琴が持っている全ての電力を超電磁砲に込めて麻生に放つ。
(しまった!!!)
超電磁砲を放ってから美琴は自分のした事にようやく気付いた。
全電力を込めた超電磁砲は凄まじい貫通力と威力をほこる。
美琴は何とかして超電磁砲を止めようとした時だった。
麻生が右手を超電磁砲に向けてつき出す。
「熾天覆う七つの円環」
麻生がそう唱えると麻生の目の前に7つの花弁が麻生を守るように展開される。
超電磁砲が熾天覆う七つの円環にぶつかり凄まじい音を発し、そのまま超電磁砲が威力を落としていき最後には消滅する。
熾天覆う七つの円環
投擲武器や、使い手から離れた武器に対して無敵という概念を持った概念武装。
美琴はそれを見てペタンと尻餅をつく。
体内の電気が無くなり力が出ないというのもあるが、それ以上にあの威力の超電磁砲を防いだ事に驚いているのだ。
「ふむ、一枚も壊せず・・か。
一枚は破壊できる物だと思っていたが少し期待外れだな。」
麻生がそう呟くと同時に麻生を守っていた花弁が砕け散る。
麻生は美琴が尻餅をついているのを確認すると、ゆっくりと絶世の名剣を左手に持ち近づく。
(まずい・・・今は電池切れで動けない。
それにさっきの攻撃を考えると私は何をされても言い返すことが出来ない。)
美琴は自分の身に降りかかる最悪の事を思い浮かべる。
麻生は美琴の前に立ち剣を振り下げる。
「っ!!!」
美琴はぎゅっ!!と目を閉じる。
しかし、襲ったのは剣で斬られる感触ではなく、凄くいい音と同時に思いっきり何かに叩かれる痛みだった。
「いったぁぁぁぁいいい!!!!」
自分が想像してた痛みとは全く違う痛みが来たので驚き目を開ける。
すると、さっきまで剣を持っていたのに麻生の手にはハリセンを持っていた。
「え・・・何が・・・どうなって・・・・・」
あまりの状況の変化に美琴の思考回路がついていけてない。
「これで分かっただろう。
お前じゃあ俺には勝てないよ。」
「へ?・・・・」
「だからお前は俺には勝てない。
もう俺を追い掛け回すことはするなよって言っているんだ。」
いつの間にか持っていたハリセンも消えていた。
じゃあな、と言って麻生は帰ろうとする。
「ちょ・・ちょっと待ちなさいよ!!!」
美琴の呼びとめを聞くかように足を止め美琴の方に振り向く。
「わ・・私は今電池切れているから動けないのよ!!
こ・・・こんな所に私を置いていく気!!!」
「自業自得じゃあ「うっさいわね!!!!」・・・それだけ元気があれば一人で帰れそうに思えるだが・・・・」
麻生は少し考えてから大きくため息を吐き、美琴に近づくと美琴をお姫様抱っこし始めた。
「ちょっと!!!!
あんた何しているのよ!!!」
「何ってお前を寮まで送るんだよ。
お前の回復何て待ってられない。」
麻生の腕の中でぎゃあぎゃあ言いながら騒ぐ。
麻生は絶対一人で帰れると思いながらも美琴を下ろそうとしなかった。
「ぎゃあぎゃあ喚くな。
これ以上暴れたら本気で置いていくからな。」
その言葉を聞いて美琴は頬を赤く染めながら納得しない表情をして騒ぐのを止める。
「それで寮の場所は?
この後に及んで寮は学舎の園の中とか言ったら置いて帰るからな。」
学舎の園。
第七学区南西端に存在する、常盤台中学を含む五つのお嬢様学校が作る共用地帯。
お嬢様が通う寮なので当然ながら敷地内には五つのお嬢様学校に関わる少女しか居らず(教職員は不明)、バスの運転手も女性。
また、敷地内には全二四五八台もの監視カメラが配備されているらしい。
さすがにそんな所に行くのは面倒だと麻生は思う。
幸いにも美琴が住んでいる寮は学舎の園の外らしく此処からそう遠くはないらしい。
美琴に道を聞きながら歩いていく。
「ねぇ、何個か聞きたい事があるんだけど。」
「何だ?」
「私の電撃はどうやって防いでいるの?」
美琴は自分の電撃をどうやって防いでいるか聞きたかった。
それを聞けば麻生の能力について何か分かるかも知れないと思ったからだ。
「ああ、あれは俺の前に空間の壁を作っているんだ。」
「空間の壁?」
「簡単に言えば見えない壁があると言ったところか。」
空間の壁とは空間移動が三次元的空間を移動するのに対し、麻生が作った空間の壁とはその三次元的空間を利用してそれを壁として防御する事だ。
しかし、決して絶対防御ではなくある程度の威力を受けると貫通する。
美琴は空間を使うと言う事は空間移動の能力関係なのか?と考える。
「これが一番の本命。
あんたの能力の名前は?」
美琴が一番知りたい事を麻生に聞く。
「教えない。」
「どうしてよ!!!」
「お前は俺に勝ってないし何よりこの能力を教えたらもっと面倒な説明をしないといけないから教えない。」
質問終わりと言わんばかりに口を閉ざす。
美琴も最初方は教えろと何度も聞くが答えが返ってこないのであきらめる。
(けど、どんな能力であれこの私を簡単に退けた。
そしてこいつは身体検査では無能力者と出ている。
本当に身体検査を受けたのかしら?)
美琴が色々考えている内に美琴が暮らしている寮が見えてきた。
美琴は動けるまで回復したのを確認する。
「此処でいいわよ。
私も動けるし何より他の生徒にこの光景を見られると色々面倒な事が起こるしね。」
美琴の言葉を聞いて麻生は美琴を降ろす。
すると麻生はすぐに振り返り帰ろうとする。
「あ・・あの!!」
「まだ何かあるのか?」
「その・・・・ありが・・・とう・・・」
「何だ、よく聞こえないぞ。」
「次に会ったときは絶対勝つって言ったのよ!!!!!
それじゃあね!!」
ドンドンと言う足音が聞こえそうな足踏みで自分の寮に帰る、美琴。
(ありがとうね・・・俺に礼を言っても意味がないのにな。)
美琴の言葉をちゃんと聞いてた麻生は少し暗い顔をすると自分の寮に戻るのだった。
「あ~~~~~、疲れた!!」
美琴はそう言うと同時にベットに転がる。
「あら?お姉さま、帰ったのですね。」
いつもは茶髪をツインテールにしているのだが、お風呂上りなのかその髪は下ろしている。
彼女の名前は白井黒子。
常盤台の一年生であり美琴のルームメイトである。
「もうすぐ寮監の見回りもありますしちょうど帰ってきてくださったので都合が良かったですわ。」
「あ~ごめん黒子。
ちょっと疲れたから寝るわ。」
おやすみなさいと言おうとしたがすでに美琴は寝ていた。
次は絶対に・・・と寝言言っているがその表情は少し笑顔だった。
「またあの殿方と何かあったのですね。
黒子は心配ですわ。
お姉様に悪い虫がついているのではと思い・・・・」
と寝ている美琴に言っても意味がないと言葉を止める。
そして白井はある人物の事を思い浮かべる。
(もしかしてお姉様が追い掛け回している殿方はもしかしてあの人なのでは?
・・・・・考えすぎですわね。)
白井はそんな偶然がある訳がないと思い、自分もベットに転がるのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第4話
「以上が昨日の夕方に起こった事件ですの・・・・・・聞いてます?お姉様。」
白井は昨日のとある店で爆発事件が起きた詳細を美琴に教える。
美琴はそれを聞きながらいつもの自動販売機を蹴り出てくるジュースの缶を確かめる。
「聞いてるわよ・・・・うっ・・ハズレだ。
確か連続爆破事件とか言うやつでしょ。」
「正確には連続虚空爆破事件ですの。」
白井は腰を上げ美琴が持っている缶をコンっとつく。
「アルミを基点にして重力子の数ではなく、速度を増加させそれを一気に周囲にまき散らす。
要は「アルミを爆弾に変える」能力ですの。
ぬいぐるみの中にスプーンを隠して破裂させたり、ごみ箱の中のアルミ缶を爆発させるといった手を使ってきますの。」
爆発の前兆があるのでまだ死人はでてませんがと白井は言う。
しかし未だに犯人の特定には至っていない。
「でもそれは能力者の犯行なんでしょ?
だったら学園都市の「書庫」にある全ての学生の能力データを当たって該当する能力を検索すれば容疑者は割り出せるんじゃないの?」
この学園都市には身体検査で測った能力の詳細やレベルなどを記録した「書庫」と言う物がある。
美琴はそれを調べれば簡単に犯人を見つける事が出来るのでは?とジュースを飲みながら言う。
しかし、白井の顔はもっと難しい表情になる。
「妙なのはそこですの。
「量子変速」・・それも爆発に使用できる程強い力を持った能力者は釧路帷子と言う生徒ただ一人。
しかし事件の始まりは一週間前なのですけれど、彼女は八日前から原因不明の昏睡状態に陥っていますの。」
病院から出た形跡もなく釧路には犯行が不可能と考えられる。
白井は前回の身体検査後の短期間で急激に力をつけたのでは?と予想している。
頭に花をかたどった髪飾りをした女性は友達と待ち合わせをしていた。
彼女の名前は初春飾利。
白井と同い年で風紀委員でもある。
「うーいはるーん♪」
自分の名前を呼ばれ振り返ろうとした時だった。
「おっはよーーーーーん!!」
その掛け声と同時に初春のスカートがバッとめくられる。
初春は叫び声と同時に素早くスカートを押える。
セミロングの黒髪に白梅の花を模した髪飾りをした女性は初春と同じ中学でありクラスメイトの佐天涙子。
挨拶代わりに初春のスカートをめくるセクハラ女子中学生である。
「男子のいる往来でこの暴挙!?
何をしているんですか佐天さんは!!!!」
「クラスメートなのに敬語とは他人行儀だね。
どれ距離を縮める為に親睦を深めてみようかね。」
そう言うとまた初春のスカートめくる。
まわりの男子は顔を赤くしながらも初春のパンツをしっかり見ていた。
「ごめん、ごめんちょっと調子に乗りすぎちゃった。」
あははと笑いながら謝る佐天。
それを見た限り全く反省していないようだ。
佐天は初春の機嫌を直してもらおうと初春が聞きたかった曲を聞かせてあげる。
それを聞いた初春は先ほどのやりとりをもう忘れたのか楽しそうに会話する。
佐天と初春は授業中に放課後セブンスミストと言う服屋に行く事になった。
放課後セブンスミストに向かっている途中初春は美琴の姿を見つけて声をかける。
「御坂さーーーーーん!!」
初春の呼びかけに美琴は初春の方に向く。
美琴と初春は白井を通じて知った仲だ。
美琴の愚痴を聞いたりと仲は良いようだ。
「おっすー、そっちはお友達?」
「これから一緒に洋服を見に・・・・」
初春は美琴も誘うとするが佐天が初春を連れて美琴から少し離れる。
そして美琴に聞こえない声で初春に話す。
「ちょっとあの人常盤台の制服着てんじゃない。
知り合いなの?」
佐天は初春が常盤台の生徒に知り合いが居たことに驚いている。
初春は美琴の事をなぜ知っているか教える。
「ええと風紀委員の方で間接的に・・・・」
美琴となぜ知り合った教えていると美琴の能力や異名について得意げに教える。
「しかもあの方はただのお嬢様じゃないんですよ。
この人は「超能力者」!!」
「レベル5!?」
「それも学園都市最強の電撃使いあの「超電磁砲」の御坂美琴さんなのです!!!」
美琴の事を知った佐天は驚きの表情を隠せない。
初春は超電磁砲を生で見た、と佐天に自慢したらどんなのだった!?と佐天は初春に聞く。
美琴はこうやって噂は広まるんだなっと実感しながら傍観する。
佐天の自己紹介を受けて美琴もセブンスミストに行く事になった。
佐天は常盤台のお嬢様がセブンスミストのような、全国チェーン店に行くような所ではないと言うが美琴曰く常盤台の生徒は外出時に制服着用が義務付けられている。
その為服にこだわらない人が結構多いらしい。
初春は白井の事を美琴に聞く。
何でも白井は忙しいらしく一緒には行動していないらしい。
「でも超能力者かあ・・・すっごいな。」
佐天は美琴とは違いレベル0。
上条や麻生と同じ無能力者だ(厳密には二人とも能力は持っている)。
「「幻想御手」があったらなぁ~。」
佐天の独り言に初春が首をかしげる。
「え?・・何ですか、それ?」
「いや。あくまで噂だしあたしも知らないんだけど。
あたし達の能力の強さを簡単に引き上げてくれる道具があるんだって、それが「幻想御手」。
まぁネット上の都市伝説みたいなもんなんだけどさ。」
少し苦笑いを浮かべながら答える。
美琴はその事を聞いて短期間で急激に力をつけた能力者の犯行が増えていると言う白井の言葉を思い出す。
(「幻想御手」か・・・・・・まさかね。)
所詮は都市伝説だと割り切る。
そして彼女達が楽しく話をしている時に一人の眼鏡をかけた男の学生が横を通った。
その男は初春の風紀委員のマークを見ると怪しく笑みを浮かべるのだった。
セブンスミストの中で三人は服を見て回りながら美琴の超電磁砲についてなど話しながら途中佐天が初春にひもパンを進めたりと楽しく店内を見て回る。
美琴はパジャマを見に来たと言いとりあえずパジャマのコーナーの所に行く。
「色々回ってるんだけどあんまいいのが置いてないのよね・・・・」
と呟きながらマネキンに着せてある花柄のパジャマを見る。
すると美琴はとても気に入ったのかぽか~んと見とれている。
「ね、ね、コレかわ・・・・」
美琴は二人にこのパジャマを教えようとした時だった。
「アハハ、見てよ初春このパジャマ。
こんな子供っぽいのいまどき着る人いないっしょ。」
「小学生の時くらいまではこういうの着てましたけどね。」
と二人はこのパジャマについて感想を述べる。
美琴もそれを聞いたのか中学生になってこれはないわ、と表面上興味のない振りをする。
二人が水着のコーナーを見て回るといい美琴から少し離れる。
(いいんだモン。
どうせパジャマなんか他人に見せる訳じゃないし!!)
そう思いながらマネキンが着ていたパジャマと同じ物を取る。
(初春さん達はむこうにいるし一瞬、姿見で合わせてみるだけなら。)
こっそりと全身鏡に近づきさっとパジャマと合わせようとした時だった。
「お前、何やっているんだ。
動きが怪しすぎるぞ。」
その全身鏡には呆れた顔をした麻生も一緒にうつっていた。
麻生が後ろにいる事に美琴は驚く。
「な、な、何であんたがこんな所にいんのよ!?」
「俺だってこんな所には来ないよ。
けど事情が事情だ。」
頭をかきながら答えると同時に洋服を持ってきた小さな女の子がやってきた。
遡る事一時間前。
麻生がいつも通り寮に帰っていると後ろから制服のズボンを小さく引っ張られる。
誰かと思い振り向くとそこには小さな女の子が涙を浮かべながら立っていた。
「何だ?」
「あ、あのね・・・此処に行きたいのに迷子になっちゃったの・・・」
ヒクッヒクッと涙を堪えながら言う。
女の子が持っているメモを見るとそこにはセブンスミストとその行き方が書かれたメモだった。
「おにーちゃん、此処に連れて行って。」
今すぐに泣き出しそうな顔で言う。
麻生は此処で見捨てたら面倒な事になりそうだなと思いセブンスミストまで案内してあげた。
セブンスミストに着くと泣き出しそうな女の子も顔も明るい笑顔に変わった。
麻生はそのまま帰ろうとしたが女の子が一緒についてきてほしいとお願いしたので一緒にいる。
この事を美琴に説明する。
「まぁそれはさておき・・昨日の再戦今ここで・・・・」
と今にも電撃を出しそうな雰囲気を出す。
麻生はそれを見て大きくため息を吐く。
「それも結構だがまずは周りを確認することだな。
こんなに人がいる所ましてや子供の目の前で戦うつもりか?
それでもやるって言うんなら俺は相手になるが。」
「うっ・・・」
それを指摘され黙り込む。
麻生は女の子に少し店内を見て回ってくるよ、と言って美琴から離れていく。
美琴は初春達に少し席を外すと言ってトイレに入る。
(我ながら見境ないな・・・・)
前の自分を思い出し少し反省する。
トイレから戻る途中階段でなぜかぬいぐるみを持っている男を見かけ少し疑問に思ったが初春達の所に戻る。
するとさっきまで一緒に居た筈の女の子が居なくなっていた。
美琴は疑問に思ったが初春の携帯が鳴り響く。
電話先は白井からのようだ。
「し、白井さん!?」
|風紀委員の仕事を少しさぼっていたのでその言い訳を言おうとしたが白井がその言葉を遮る。
「例の虚空爆破事件の続報ですの!!
衛星が重力子の爆発的加速を観測しましてよ!!」
「観測地点は!?」
「第七学区の洋服屋「セブンスミスト」ですの!!」
その店は初春達が今いる店だった。
「ラッキーです!!
私、今ちょうどそこにいます!!」
そう白井に言うと白井は何か言おうとするが初春は携帯から耳を離す。
初春は美琴に避難誘導を手伝ってもらうようお願いし、佐天も避難するように言う。
初春と美琴の迅速な行動のおかげですぐにセブンスミストに居る人を避難させる事が出来た。
初春は白井が大きな声で何か言っているので携帯を耳につける。
「初春、今すぐそこを離れなさい!!!
過去八件の事件の全てで風紀委員は負傷していますの!!
犯人の真の狙いは観測地点周辺にいる風紀委員!!!
今回のターゲットはあなたですのよ、初春!!!」
その白井の言葉と同時にさっきの女の子がカエルのぬいぐるみを持って初春に近づく。
「おねーちゃん、メガネをかけたおにーちゃんがおねーちゃんにわたしてって。」
そのぬいぐるみはさっき美琴が階段で男がもっていたぬいぐるみと同じだった。
そのぬいぐるみの中心がブンと音と同時に何かの小さい球体が出来る。
初春は子供が持っているぬいぐるみを手ではたき子供を守るように抱きしめる。
「逃げてください!!!
あれが爆弾です!!!!」
その言葉と同時に小さい球体が大きくなり、やがてぬいぐるみを吸収していく。
(超電磁砲で爆弾ごと吹き飛ばす!!!)
初春達を庇うように前に立つ美琴。
そして、ポケットからコインを取り出そうとするが焦ったのかコインを掴み損ねてしまう。
(マズった!!!!間に合・・・・)
そしてぬいぐるみが完全に球体に飲み込まれ爆発しかけた時だった。
突如その球体のまわりに四角い正方形が球体を包んだのだ。
そして球体は爆発することなく依然とその大きさを保っている。
「何がどうなって・・・・・」
美琴は目の前で起こっている事がよく分からないようだ。
すると後ろから足音が聞こえ振り向くとそこには麻生恭介が立っていた。
麻生は正方形で包まれた球体に近づきそれに掌をかざす。
すると包まれた球体は徐々に小さくなり最後にはパンッと音をたてて消滅した。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第5話
「あんた一体なにしたの。」
美琴は麻生が一体何をしたのか聞く。
麻生はめんどくさそうな顔をしながら美琴の質問に答える。
「あれは重力子の数ではなく速度を増加させそれを一気に周囲にまき散らす。
なら、あの重力子を空間の檻で囲みその中の重力子に干渉してその速度の増加を止める。
その後、速度を減少させていって最後には消滅する。
これで満足か?」
美琴はその説明を聞いて唖然とする。
美琴は麻生の能力は空間能力者の類だと思っていた。
しかし、重力子の速度に干渉するなど明らかに空間能力者とは違う能力を使っていた。
「ほんと、あんたは一体何者なの。」
前にも同じ質問をする。
「通りすがりの一般人Aだ。
それ以上でもそれ以下でもない。」
美琴と麻生が普通に話をしていると初春は何も起こっていない事に気づき周りを確認する。
「あの・・・爆弾は・・・」
「ああ、それはこいつが・・・・」
美琴があの爆弾を止めたのは麻生だと言おうとした。
しかし麻生が美琴の言葉を遮るように言う。
「それよりお前達はこの男を探せ。」
麻生はポケットから何かを出して美琴に見せる。
麻生が持っていたのは写真でそれに写っていたのはあのぬいぐるみを持った男の顔だった。
「こいつが例の爆弾をあの子供に持たせた犯人だ。」
「!?・・・どうしてあんたがこの男の写真を持ってんのよ?」
「あの子供にぬいぐるみを渡す所を見たからな。
その時見た男の顔を能力で写真化しただけだ。」
ますます麻生の能力が分からなく美琴。
ふと初春の方を美琴が見るとじーっと麻生の方を見ていた。
麻生もその視線に気づいたのか初春の方を見る。
「俺の顔に何かついているか?」
麻生が初春にその視線について聞く。
「やっぱりあの時の人ですね!!!」
初春はそう言って麻生の手を掴みブンブンと上下に振り回す。
「ねぇあんた初春さんと知り合いなの?」
「いいや、初対面の筈だが・・・・」
麻生は自身の記憶を辿ろうとした時、ヒュンと音と同時に何もない所から白井が現れる。
どうやら初春が狙われたことに気づき能力で此処まで飛んで着たようだ。
「初春!!!大丈夫ですの!?」
「あっ!!白井さん!!
見てください、この人を!!!」
初春に言われ白井も麻生の顔を見る。
すると白井も麻生の顔を凝視するとあっ!!の言葉と同時に麻生の左腕をがっちり掴む。
「ようやく見つけましたわ。
もう逃がしませんわよ。」
「あんた黒子とも知り合いなの?」
「どちらとも初対面だ。」
時を遡るほど去年の冬。
白井がまだ常盤台中学入っておらず風紀委員の資格は持っていたが実践に参加した事はなく裏方の雑用や先輩同伴のパトロールばかりなのだ。
風紀委員
学園都市における警察的組織その二。
生徒によって形成され、基本的に校内の治安維持にあたる。
九枚の契約書にサインして、十三種の適正試験と4ヶ月に及ぶ研修を突破しなければならない。
風紀委員活動の際には、盾をモチーフにした腕章をつける。
「こっちは特に異常なしっと。」
肩まで伸ばした黒髪と眼鏡が特徴の女子高校生、固法美偉が機械の画面を見ながら呟く。
今日も先輩である固法美偉と一緒に第七学区に見回りをしている。
白井は固法に自分の待遇について聞く。
「なぜわたくしに任されるのは裏方の雑学や先輩同伴のパトロールばかりなんですの?」
白井は座学も実技も能力測定全てにおいて成績優秀な自分が半人前扱いされるのが不満なのだ。
白井は自分が小学生だから任せられないのだと思っている。
固法はそんな白井の質問に白井の頭に手を乗せて答える。
「年齢の問題だけじゃないわ。
あなたの場合なまじポテンシャルが高い分全てを一人で解決しようとするきらいがあるからね。
もう少し周りの人間を頼るようにならないと危なっかしいのよ。」
頭をなでながら固法は言う。
白井はこの行為がすでに子供扱いされているのだと思う。
固法と白井は再びパトロールを再開する。
そして郵便局に入り怪しい人物がいないか確認する。
すると入り口の方で初春が郵便局に入ってくるのが見えた。
初春と白井は風紀委員訓練所で知り合った仲だ。
「白井さん!
偶然ですね。」
「初春・・・なぜ貴女がこんな所に?」
「もうすぐ中学生になるし学校や寮の下見に来たんです。」
「中学生?
どなたがですの?」
「やだなーもー私に決まっているじゃないですか。」
白井は初春が同い年である事に驚く。
白井は初春が絶対年下だと思っていたらしい。
「白井さんはもうどこに行くか決まっているんですか?」
「え・・ええ、わたくしは常盤台中学という所へ・・・」
白井が常盤台中学に行く事を知ると初春は白井に尊敬の眼差しを送る。
初春は常盤台のイメージを白井に語るが白井曰く、常盤台は生徒間で派閥なんてものを作っている生徒もいるらしく常盤台にあまり良い印象は持っていないようだ。
「特に『超電磁砲』などと呼ばれる超能力者がいるらしいのですがきっとコーマンチキでいけ好かない性悪女に決まってますわ。」
「知らない人の事をよくそこまで言えますね。」
白井は初春になぜ郵便局に来たのか尋ねる。
何でも帰りの電車賃が無くなったらしくお金をおろしにきたらしい。
白井と初春は一旦別れ白井は固法の元に戻る。
「すみません、知り合いがいたもので・・・・」
白井は固法に近づき謝ろうとしたが固法はある客を凝視していた。
そして白井にしか聞こえない声で話す。
「あの男、郵便局に入ってから順番待ちをするでもATMを使うまでもなく局員の居場所や目ばかり窺っているわ。
人の所有物を勝手に透視するのは気が引けるけど・・・・」
そう言って少ししゃがみ男を再び凝視する。
固法が持っている能力は透視能力。
眼球に頼らず視覚情報を得る能力。
内部が隠れて見えないものを解析したり、遠隔地を見たりできる。
固法はその能力で男のカバンの中身などを透視する。
「カバンの中に工具・・・バール・・・とワイヤー・・・ッ!!」
能力を使い、鞄の中を透視していく。
これだけ聞いていれば何かの作業の帰りなのかそれとも今から向かうのかもしれない。
次に持っている道具を見なければ。
その道具を見た固法は息を呑んだ。
「右ポケットに拳銃。」
それを聞いて白井はその男が強盗に来たのだと思った。
確かに郵便局で局員の動きを確認してさらに拳銃をもってくる輩など大抵は強盗かその類だろう。
固法は局員に伝え白井に避難誘導にを任せるよう指示する。
白井は逮捕しませんの?と固法に提案するが固法は既に風紀委員の手では負えないと判断してこれを警備員に任せようとする。
警備員
学園都市における警察的組織その一。
次世代兵器で武装した教員で構成されている
超能力を持たないが、暴走した超能力者をも取り押さえられるようかなり強力な武装が許されている。
白井は固法の判断に納得いかない表情をする。
固法は局員にあに連絡しようと呼びかけるが次の瞬間パンッ!!と音がする。
固法がその音の方に見るとさっきの男が拳銃を持っていた。
(クソッ・・・先に動かれた。)
男は局員や客に動くなと命令する。
そして男が局員の方を見ている時、白井はその男に向かって走る。
男が局員の方に向いている時は白井から見て背を向けているのだ。
(訓練通りにやれば・・・・)
まず白井は右足の踵で男の左足のつま先をおもっきり踏みつける。
相当痛かったのか男はすぐさま白井に向けて左手で殴りつける。
しかしそれはあまりに単純な殴りであり白井はそれをかわし男のパーカーの帽子を掴むと同時に左足で男の左足の膝を後ろから蹴りバランスを崩す。
後ろに体重が乗り仰向けに叩きつけられる。
男は拳銃で白井を狙おうとするがすぐさま白井が倒れた男のみぞを踏みつけて気絶させる。
(何だ、簡単ではありませんの。)
簡単に犯人を倒す事ができたと思った時だった。
「きゃあっ!!」
聞き慣れた声が叫び声をあげその方に向くとそこには別の男が初春にナイフと突きつけていた。
麻生はいつもの通り散歩していた。
真っ黒なズボンに真っ黒なコートを羽織り黒一色で染めた服装は麻生の髪の白さを際立てていた。
すると前の方の郵便局のシャッターが閉まっている事に気づき次の瞬間、ヒュン!!と音と同時に花飾りのカチューシャをした女の子が突然現れる。
女の子は自分が外にいる事に驚いているようだ。
女の子はシャッターの閉まった郵便局に何か言うと周りの人に助けを求める。
「お願いします!!助けてください!!!
中で風紀委員が強盗に襲われて!!!」
周りの女の子が助けを求めても誰も助けようとしない。
それもそうだ。
郵便局で何があろうと自分には関係ない。
誰も助けようとはしないだろう。
麻生もそう言った人間だ。
助けを求められれば助けそれがなければ助けない。
その女の子が麻生に助けを求めた訳ではない。
しかしその女の子は泣いていた。
おそらく知り合いの風紀委員が襲われているのだろう、と麻生は考える。
そして麻生はゆっくりと郵便局に近づき右手でシャッターに触れる。
(何で助けようと思ったんだろうな・・・・)
この時、麻生は突然助けようと思った。
本当に突然そう思ったので自分でもなぜそう思ったのか分からないのだ。
対する女の子も麻生が何をするかよく分からないようだ。
(映像に残ると面倒だから壁をつたって監視カメラに干渉してこれから起こる映像を映らないようにする。)
その作業が終了すると麻生は左手を握りしめ拳を作りシャッターに叩きつけた。
男に殴られ床を滑るように吹き飛ぶ。
仲間がいることを考えずに勝手に行動してあまつさえ先輩である固法も自分をかばい怪我をして気絶している。
何とか自分の能力で人質である初春を何とか外に飛ばす事が出来た。
後は人質がまた捕られないよう犯人に注意を白井に向け時間を稼ぎ警備員が来るのを待つ。
そう白井は考えていた。
「お前が何を考えているか当ててやろうか。
警報が鳴ってだいぶ経つ、間もなく警備員が到着するだろう。
コイツは外に出られないのだから人質を取られないよう引き付ければこちらの勝ち・・・図星だろ?」
白井が考えていたことを見抜かれていた。
男はポケットからパチンコ玉みたいな物を取り出す。
「警備員がいくら来たところで怖くはないがウジャウジャ囲まれるのは厄介だ。」
男はその玉を閉まっているシャッターに投げようとした時だった。
ドォン!!!と音と同時に男が玉を投げつけようとしたシャッターがいきなり外側から穴があいたのだ。
男は警備員と思ったが違った。
黒一色の上下の服を着て白い髪が特徴の麻生恭介が立っていた。
「何だお前は!!!」
男は麻生が突然シャッターに穴をあけた事に驚いている。
「俺は通りすがりの一般人Aだ。」
男はその言葉と同時に手に持っていた玉を麻生に投げる。
通常投げた玉は重力により下へと引っ張られ放物線のように下がっていく。
しかし男が投げた玉は下に下がることはなく一直線に進んでいく。
絶対等速
これが男の持つ能力だ。
投げた物体が、『能力を解除するか投げた物が壊れるまで、前に何があろうと同じ速度で進み続ける』能力。
速度は大したことはないが、手のひらに複数納まるサイズの鉄球と組み合わせることで、 防犯シャッターすら破壊可能な威力を発揮する。
そんな能力が付加した玉が麻生に飛んでくるが麻生はその玉を右手で掴んだ。
「は?」
男は一瞬唖然とする。
絶対等速の能力が付加した玉を掴む事は不可能だ。
そんな事をすれば麻生の身体が玉に身体が貫かれてしまう。
しかし麻生は掴んだ玉を指先でこねている。
「ふ~ん、絶対等速って所か。
そんなちんけな能力じゃあ俺を殺す事なんて出来ないな。」
玉をこねながら、麻生は呟いた。
麻生は飛んでくる玉に干渉して玉に付加している絶対等速の能力を消したのだ。
男にはその原理が分かる訳がなく今度は複数の玉を同時に投げる。
麻生がその複数の玉の原子に干渉しその玉を酸化させる。
玉を酸化させれば鉄である玉は錆びていきやがて崩れていく。
「ど・・どうなっているんだ!!!!!」
男が目の前の一連の光景が信じられないようだ。
麻生は素早く男の懐に飛び込み男の腹と左手に少し隙間を開ける。
そして空気を圧縮した物を間に作りそれを男に目がけて押し出すように放つ。
「ぐぶあ!!!」
その叫びと共に壁に打ち付けられ気絶する。
白井はその光景を目にして言葉が出ないようだ。
麻生は白井に近づき右手を白井の足に置く。
(!?・・・足の痛みがなくなっていますの!!)
次の瞬間には足の痛みや殴られた所の痛みが消えていたのだ。
麻生は固法にも白井と同じように手を置くと固法の背中に刺さっていた金属の破片がゆっくりと抜けていき刺さっていた傷も無くなっている。
「これで終わりだ。
傷の治療はサービスだ。」
そう言って麻生は自分が入ってきたシャッターの穴から出ようとする。
しかし白井は麻生の手を掴む。
「お待ちになって。
傷の治療はあなたがしたのですか?
それにこの事件に関わったのでしたら参考人ですので逃げられては困ります!!」
ちっと麻生は舌打ちをする。
この一連の事件に関わってしまった事に激しく後悔する麻生。
はぁ~とため息と同時に白井の方を見る。
「手を離せ」
その言葉と同時に白井の手が自分と意思と関係なく手を離す。
(何がどうなっているのですの・・・あのお方が言った瞬間勝手に手が・・・・)
自分の手を見つめてはっ!?、気がつき麻生の方を見る。
そこには麻生の姿がなかった。
「と、まぁこのような事件があったのですのよ。」
場所は変わり風紀委員の支部の一つである第一七七支部。
あの虚空爆破事件の後、麻生が持っていた写真のおかげで犯人は捕まえることが出来た。
今は麻生、テーブルを挟んで白井、初春、美琴、佐天が向かい合っている。
「どうして俺を取り調べるみたいな状況になっているんだ?
初春達を救ったの事に感謝されるこそすれ、こんな取り調べまがいな事をされるのはおかしいと思うのだが。」
「あの時の事件の事、そして今回の事件について色々聞きたい事がたくさんありますので。」
「あの時の事件に関わったのは気まぐれ、今回の事件に関わったのはその場に俺が居て被害を受けかけたからだ。
これでいいか?」
「そんな雑な説明で納得するとでも?」
白井の顔は笑いながらも全然笑っていなかった。
初春と佐天はその光景を見ながらオロオロして美琴は麻生の能力についての疑問が増えた。
麻生はため息と同時に席を立つ。
「どこえ行くつもりですの?」
「帰るんだよ。
こんな所に居ても時間の無駄だ。」
部屋のドアに手をかけて出ようとした時だった。
「お待ちになって。」
その言葉を聞いて立ちどまる。
「色々聞きたい事がありましたけどまずはこれだけ言わしてくださいまし。
あの時とそして初春やお姉様を助けていただいてありがとうございます。」
「何度も助けていただいてありがとうございます!!」
白井と初春の言葉を聞いて少しだけ白井達に振り向く。
「別にお前達の為にやった訳じゃない。
俺の目の前で死なれてはこっちが気分悪くなるからな。
だから助けた・・・・それだけだ。」
その言葉と同時に支部から出て行った。
「白井さん、よかったですね!!!
何度かお礼を言いたいって言ってましたもんね!!」
「初春・・・・少しお話があるのですけどよろしいですか?」
白井は初春に襲いかかりそれを美琴と佐天で止めようとするだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第6話
前書き
リアルが忙しかったり、暁に繋がらなくなったりと色々と大変だったみたいですが、ようやく落ち着いて良かったです。
投稿再開です。遅れた分を取り返すために今日は一話の投稿ですが、明日からは2話~5話の連続投稿などを考えています。
「それと明日から夏休みです。
皆さん、はめを外しすぎて事故など起こさないでください。
特に上条ちゃん!!!」
小萌先生はビシッと上条に指を指す。
まわりの生徒は無理無理、上条が問題を起こさない訳がない、とまわりにも上条の不幸がどれほどの物か知られているようだ。
上条も何とかして夏休みを生き抜きますと言って今から疲れた顔をしている。
クラスが笑いに包まれているのに麻生だけが笑うことはなく窓の外をじっと見つめていた。
放課後、麻生が一人で学校の廊下を歩いている時だった。
「おっ!麻生じゃん。」
自分の名前を呼ばれその方に振り向く。
「うん?・・愛穂か。」
尻まで届く長さのロングヘアを後ろに縛り冴えない緑のジャージ姿をした女性教師が麻生に近づく。
彼女の名前は黄泉川愛穂。
彼女は麻生の命の恩人の一人である。
麻生が真理を見て廃人になった時、麻生の親は学園都市に麻生を送り治療してもらおうと考えた。
その時、麻生の担当になったのが愛穂の友人である芳川桔梗だ。
桔梗は麻生の治療に困っていて外に連れ出した時、偶然愛穂と出会う。
愛穂は麻生の状態を桔梗から聞き二人を問答無用で色々な所に連れまわした。
その時麻生から見た二人はとても楽しそうに見えたのだ。
そして麻生は二人に問いかけた。
「何であんた達はそんなに楽しく生きていられるんだ?
この世界はとても醜く人間は欲深く傲慢な生き物だ。
こんな希望も何もない世界で何でそんなに楽しく生きていられるんだ?」
麻生の質問に愛穂は麻生の目線まで腰を落として優しく話しかける。
「ウチはそんな難しい事よく分からないけどそれでもこの世界にはあんたが思っている以上に楽しめる事があるとウチは思ってる。」
それを聞いて麻生は鳩が豆鉄砲くらったような顔をする。
続いて桔梗が麻生の頭に手をのせる。
「私は愛穂より人間のそういった暗い所は少しは知っている。
人間はそういった生き物だけど全部が全部そういった人間じゃあないわ。」
その言葉は麻生を元に戻すためのその場限りの嘘かもしれない。
それでも麻生の心に深く響いた。
桔梗は六時までに病院に帰ってくるのを約束するなら自由に見て回っていいわよ。
麻生は一人でふらふらと歩く。
そこである公園で何人か同い年くらいの子供達がちょうど遊び終わったのか解散する所を見た。
麻生はこちらに向かってくる女の子に声をかけて簡単に一つだけ質問した。
「ねぇ君は生きてて楽しい?」
その問いかけに女の子は最初、首をかしげたがすぐに満面の笑顔に変わる。
「うん!!私は今とっても楽しいよ!!!」
そう言って女の子は自分の家に戻っていた。
麻生はその答えだけで充分だった。
(もう少しこの世界を見て見るか。)
そう思い現在に至る。
彼女たちがいなければ麻生は今頃こうやって学校などには通っていないだろう。
なので麻生は彼女達に少なからず恩を感じている。
愛穂は麻生に近づきパコン!!と頭を殴る。
「学校では黄泉川先生じゃん。
ウチも恭介って呼ばないよう気を付けてるじゃん。」
「俺はその呼び名でも構わないだけどな。」
「駄目じゃん。
それで麻生は今から家に帰るの?」
「ああ、寮に戻って寝る。
愛・・「・・・・」・・・黄泉川先生は何をするですか?」
下の名前で呼ぼうとすると今にも殴られそうだったのですぐに呼び名直しなぜか敬語になる。
「明日から夏休みだけどウチは学校に行って色々作業があるじゃん。」
「何かあったら呼んでくれ、手伝うよ。」
期待しているじゃん、と言って用事を思い出したのか麻生から離れていく。
麻生も学校を出て寮に戻りベットに転がり目を瞑り睡眠をとる。
何時間か寝た後ガンガン!!とドアを誰かが叩いている音で目を覚ます。
麻生はゆっくり腰を上げ未だにガンガン!!とドアを叩いている方に歩く。
ドアを開けるとそこには上条が立っていた。
「よっ麻生。
これから飯を食いにいかないか?」
上条の誘いに麻生は時計を確認する。
午後八時。
麻生はこのままでは暇だな、と思い上条とご飯を食べに行く事にする。
とあるファミレス店。
上条は苦瓜と蝸牛の地獄のラザニアと言うよく分からない物を頼んだ。
ちなみに麻生は水だけだ。
「お前は何も頼まないのか?」
「こんな栄養の悪い物を食べるなら自分で作る。」
上条は麻生に作ってもらえばよかったと心底後悔する。
上条は何回か麻生の作ったご飯を食べた事あるがそのおいしさは凄まじくこんなファミレス店何かとは比べ物にならないくらいおいしいかったのだ。
「麻生に作ってもらえばお金もかからなくて済んだのに・・・・不幸だ。」
頼んでしまったのだから食べるしかないと上条は割り切る。
上条と麻生は向かい合わせで座っている。
麻生は通路側に背を向けているので後ろの状況は分からないが上条側から見ると後ろの状況がよく見える。
何か見つけたのか上条は席を立ちどこかへ行く。
麻生はその方向に視線を向けると何人かの不良が一人の女子生徒に財布を狙っているように見えた。
(あの制服にあの髪・・・・美琴か?)
上条から見て不良達が美琴にお金を取り上げようとしている様に見えたのだろう。
すると不良達と上条の間に不穏な空気が流れ今にも喧嘩が始まりそうな勢いだった。
上条が相手は不良三人。
不良の強さによるが上条の強さを考えれば何とか勝てるかどうかの際どい所だ。
上条が拳を構えた時だった、トイレの方からゾロゾロと何人も不良達が出てくる。
合計九人。
上条一人で勝てる人数でもなく上条はすぐに振り返り逃走する。
不良達は上条を追い美琴もその後を追う。
(美琴が追うという事は何かあったのか・・・・・どうでもいいか。)
すると麻生のテーブルに先ほど上条が頼んだ苦瓜と蝸牛の地獄のラザニアが運ばれる。
麻生はそれをスプーンですくい一口だけ口に運ぶ。
(不味い。)
そう思い席を立つとお金を払い少し散歩をしながら寮に戻ろうとする。
するとゴロゴロと音と同時に雷雲が現れ巨大な雷が落ちる所を見る。
麻生は美琴が上条に雷でも落としたのか、と予想した。
そして次の瞬間にはまわりの電気が消え停電になる。
(あいつらは必ず周りに迷惑をかけるな。)
そう思いながら寮に戻り寝るのだった。
七月二十日、夏休み初日。
上条当麻は朝っぱらから絶句した。
昨日美琴のおかげで電化製品の八割が殺られていて冷蔵庫の中身が全て全滅していた。
加えて非常食のカップ焼きそばを食べようとしても流し台に麺を全部ぶちまけ外食しようにもキャッシュカードを踏み砕き小萌先生から電話があり。
「上条ちゃんは馬鹿ですから補習です~♪」
と連絡網が来た。
とりあえず上条はカードの再発行と冷蔵庫・・・というより朝ご飯をどうするか悩んでいた。
麻生に作ってもらうかと思ったが上条の冷蔵庫が殺られていているのなら麻生の冷蔵庫も同じだろうと考えコンビニで何か食べるかという結論に至った。
「いーい天気だし、布団でも干しとくかなー。」
そう呟いて気持ちを切り替えて網戸を開ける。
天気もよく補習から帰ってくればふかふかの布団になっているはずだ。
二メートル先にビル壁がなければ。
「空はこんなに青いのにお先は真っ暗♪」
一人でこんな事を呟かないとやってられない状態まで追い込まれる。
とりあえず布団を干そうとベランダを見たら既に白い布団が干してあるのが見えた。
上条は一人暮らしなので布団をベランダにかけられるのは上条以外存在しない。
よく布団を観察するとそれは布団ではなく白い服を着た女の子だった。
「はぁ!?」
手に持っていた布団がばさりと落ちた。
鉄棒の上でぐったりとバテていて身体が折り曲り両手両足をだらりと真下に下がっている。
年は上条より一つか二つ年下に見える。
外国人らしく肌は純白、髪の色は銀髪だろう。
髪の長さはとても長くおそらく腰ぐらいまで伸びているだろう。
服装は教会のシスターさんが着そうな服装だった。
色は漆黒ではなく純白だが。
上条が観察しているとピクンと女の子の指先が動いた。
だらりと下がった顔がゆっくりと上がる。
女の子は割と可愛らしい顔をしていた。
上条は一目で外国人と判断した。
上条の英語のスキルは英語の教師に一生鎖国していろ、と言われるレベル。
どうやって対話をするか考えていると。
「ォ・・・・・・」
その言葉を聞いて一歩後ろに下がる。
次に女の子が言った言葉は。
「おなかへった。」
ガンガン!!と麻生の部屋のドアが音をたてる。
麻生はその音で目が覚めて昨日と同じ事が起こった事を思い出す。
麻生はおそらくドアの前に立っている人物も同じだろうと考えドアノブに手をかけドアを開ける。
ドアの前に立っていたのはやはり上条だった。
そしてその後ろには純白の色のシスターが着るような服装を着ていて銀髪の髪が腰まで伸びている外国人が立っていた。
「・・・・・・・・・・・・誘拐でもしたのか?」
「ちげぇよ!!!!なんでお前はそんな方向に考えるんだよ!!!!!」
麻生はなぜ上条が幼い外国人を連れているのかよく分からなかった。
ただこれだけは分かっていた。
(また面倒な事に巻き込まれそうだな。)
上条の説明を受けた内容によると布団を干そうとした時この女の子がベランダに引っ掛かっていて第一声がおなかへったらしい。
あいにく上条の部屋にはこの女の子に食わせてあげる食べ物がなく緊急事態として麻生の所に助けを求めに来たのだ。
麻生は俺の部屋はそんな部屋ではないのだがと思い二人を部屋に招き入れる。
上条一人だけなら追い出すのだが知らない人とはいえ上条のご飯を食べさせるともっと面倒な事がこっちに降りかかりそうなのでご飯だけだぞ、と言って部屋に入れた。
麻生の冷蔵庫も上条と同じ状況になっていた(中身は水だけだが)。
なので仕方なく麻生の能力で三人分の食材を具現化させる。
麻生が料理を作っている間、上条とその女の子が話をしている。
「まずは自己紹介からだね。
私の名前はね、インデックスって言うんだよ。」
「誰がどう聞いても偽名じゃねか!!!」
「見ての通り教会の者です、ここ重要。
ちなみにバチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね。
それと禁書目録の事なんだけど・・・あっ魔法名ならDedicatus545だね。」
「もしもし?もしもーし?
一体ナニ星人と通話中ですかこの電波は?」
上条はインデックスが何を言っているのか全く分かっていないようだ。
しかし麻生は違った。
麻生は料理を作りながらさっきのインデックスの言葉を聞いて考える。
(魔法名・・・禁書目録・・・・どうやらこいつはあっち側の人間ってことか。
どうやら上条の不幸は学園都市を超えてあっち側まで及ぶとはね。)
そう思いながら料理が完成したので二人の所に持っていく。
メニューは野菜炒めに目玉焼きに味噌汁とご飯の簡単なメニューだった。
それを見たインデックスは目を輝かせて、今にでも食べそうな勢いを出していた。
対する上条も同様にお腹が減っていたのか、すぐに食いつきそうな雰囲気を出していた。
麻生が食べていいぞと言うといただきます、と二人が同時に言い一気に食べ始める。
「おいしい!!これすっごくおいしい!!!」
「さすが麻生の作った料理だ。
この味なら料理屋とか出せるだろ。」
二人が興奮しながら話しかける。
麻生はそれはどうも、と軽くスルーして自分もご飯を食べる。
三人が食べ終わり麻生が食器を洗っている最中に、上条とインデックスの会話が再開される。
「そういえばどうしてお前はあんな所に引っ掛かっていたんだ?」
「落ちたんだよ。
本当は屋上から屋上に飛び移るつもりだったんだけど。」
確かにこの学生寮と同じようにビルとビルが並んでいて隙間はだいたい二メートルぐらいしかない。
走り幅跳びの要領で飛べば何とか飛び越える事が出来るだろう。
上条はなぜそんなことを?、と聞くとインデックスは。
「追われてたからね。」
インデックスがそう答えると一瞬空気が止まる。
「追われてるって何に追われてたわけ?」
「魔術結社だよ。」
また三人の空気(実際には麻生は会話に入っていないが)がまた止まる。
その言葉を聞いて上条はまじゅつなんてありえねぇ!!!、と頭から否定している。
対するインデックスは魔術はある!!、と言い張っている。
麻生は二人の会話が平行線を辿ると思い洗い物が終わると会話に入る。
「魔術はあるかもしれないぞ。」
麻生が以外にも魔術はあると言い出したことに驚いている。
「麻生はこいつの言葉を信じるのか?」
「いいや、あるかもしれないと言っただけだ。
世界は広い、そんな世界ではもしかしたら呪文を唱えて炎を出す魔術師だって居るかもしれない。
あくまで可能性の話だよ。」
麻生の言葉を聞いて上条は一応、納得?した表情をした。
麻生は続いてインデックスに質問する。
「インデックスは何でその魔術結社に追われているんだ?」
「私の持っている一〇万三〇〇〇冊の魔道書。
それが連中の狙いだと思う。」
三度目の空気が停止する。
今度は上条は呆れ顔をしながらインデックスに質問する。
「その一〇万三〇〇〇冊の魔道書はどこにあるんだよ?
まさか、馬鹿には見えないとか言い出すんじゃあないだろうな。」
「バカじゃなくても見えないよ。
勝手に見られると意味がないもの。」
上条はインデックスに馬鹿にされているのでは?と思う。
そして、上条はもう付き合ってられないと言った顔をする。
麻生は早く二人を追い出したい(面倒事には巻き込まれたくないので)ので話を進める。
「ならこういうのはどうだ?」
麻生の提案に二人が耳を傾ける。
「インデックスが何か魔術を使いそれを上条が打ち消す。
そうすれば、魔術が存在している事の証明になり超能力も証明にもなる。」
二人はその提案を聞いて納得するがインデックスは少し戸惑っているようだ。
「わ、私は魔力無いから魔術使えない・・・・・」
上条はそれを聞いて魔術の証明出来ないのに魔術があると言い張っていたのか、と呆れる。
「なら魔力の通った物はないか?
こいつの右手は幻想殺しって言ってな。
触れる物が異能であれば全て打ち消す能力を秘めている。」
魔力の通った物を出しても、それが魔術の道具だという証明にはならないが、この場を早く収めたい麻生は適当に提案していく。
「それならこの服。
これは「歩く教会」っていう極上の防御結界なの。
布地の織り方、糸の縫い方、刺繍の飾り方まで全てが計算されているの。」
そうですかい、と上条は言うと右手でインデックスの肩に触れる。
(待てよ・・・あいつの言っている事が本当なら俺の右手が触れただけでこの服が木端微塵になるってことじゃないか!!!)
そう考えたが時すでに遅し。
上条の右手はしっかりとインデックスの肩に触れている。
上条は反射的に絶叫(麻生はうるさそうな顔をしている)するが何も起きない。
「あれ?」
「ほらほら何が幻想殺し(イマジンブレイカー)なんだよ。べっつに何も起きないけど?」
インデックスは両手に腰を当てて小さい胸を大きく張るインデックスだが次の瞬間にはプレゼントのリボンをほどくようにインデックスの衣類がストンと落ちた。
頭の一枚布の帽子は右手で触れなかったので無事だがそれ以外は全部床に落ちている。
詰まる所完全無欠に素っ裸だった。
後書き
何やら他のサイトでも大変だったみたいですね。
落ち着いてよかったです。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第7話
インデックスは自分の状態が素っ裸の状態になった事に気づくと涙を溜めて麻生には噛みつかず上条だけに噛みついて上条は何で俺だけなんだよ!!!!、と叫びながらインデックスに噛みつかれ麻生はその光景を水を飲みながら傍観していた。
インデックスは麻生から毛布を借りそれを身体を包み安全ピンも借りてそれを使い何とか修道服の形を整えようとしてもぞもぞと動いていて上条はお前は蚊か何かか?とぶつぶつ呟いている。
そしてインデックスは毛布をばっ!!と脱ぎ捨てると元の修道服になっていた・・・安全ピンが何十本もギラギラと光らせていて上条はそんな服を着るのかと疑問に思ったがインデックスはシスターだから着る!!!とまた涙を溜めながら言った。
「そういえば補習があるのを忘れてた!!」
上条は焦って立ち上がると小指をテーブルの角に打ち付けあまりの痛みに悶絶しているとポケットから携帯がするりと落ちそれを足で踏んでしまう。
「ふ・・・不幸だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
両手を頭に抱えて上条は吠える。
インデックスは上条の右手をじっと見つめていた。
「もし君の右手が本当にそんな力を宿していたら仕方ないかもしれないね。」
「・・・・・・どういう事ですか、シスター様?」
「君は魔術の世界のお話なんて君は信じないと思うけど神様のご加護とか、運命の赤い糸とか、そういうものがあったとしたら君の右手はそういうものもまとめて消してしまっているんだと思うよ。」
クスクス笑い安全ピンまみれの修道服をひらひらさせながら「歩く教会」にあった力も神の恵みだからね、と言い上条は魔術の事は全く信じなかったが不幸の話は疑いなく信じているようで不幸だ、とまた一人で呟いていた。
「それでお前はこれからどうするんだ?
麻生の家に「俺はご飯だけと言ったはずだ。」・・・なら俺の部屋の鍵でも渡しておこうか?」
上条の不幸は今に始まった事ではなく、すぐに切り替え今度はインデックスの身の心配をしている。
インデックスの言っている事は全部信じた訳ではないが、実際上条の右手がインデックスの服に反応したので何かに追われている事は信じていいと思っている。
麻生は本当にこいつは、と呆れを通り越しているようだ。
「いい、出てく。」
インデックスは簡潔にそう言うと部屋の出口まで歩いていく。
「どうしてだ?
追われているなら俺の部屋でじっとしていれば問題ないだろう。」
「そうでもないんだよ。」
そう言ってインデックスは自分の服を掴む。
「この歩く教会は魔力でできているの。
だから敵はこの歩く教会の魔力を探知して追ってくるの・・・・君の右手に粉砕されちゃったけど。」
「悪かったから涙目でこっち見るな。
けどその発信源を俺がぶっ壊れてしまったんならもうその機能は無くなっちまったんじゃねーか?」
「だとしても「歩く教会が壊れた」って情報は伝わっちゃうよ。
「歩く教会」防御力は簡単に言うと「要塞」並みなの。
理由はどうあれ「要塞」が壊れたと分かれば迷わず打って出ると思う。」
「ちょっと待てよ、だったらなおさら放っとけねーだろ。
魔術は信じらんねー、けど「誰か」が追って来てるって分かってんのにお前を外になんか放り出せるかよ。」
その言葉を聞いたインデックスはきょとんとした顔をしてにっこりと笑顔になって上条に言った。
「じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
その言葉を聞いて上条は言葉を失う。
インデックスは優しい言葉を使って暗にこう言ったのだ。
こっちにくんな。
麻生は立ち上がり上条の肩に手を置くと上条に話しかける。
「これ以上は関わるな。
インデックスもそれを望んでいるはずだ。
もし何かに追われているとしてお前に何が出来る?」
麻生にそう言われ上条もそれ以上は関わろうせずインデックスもそれが分かると教会に逃げれば何とかなると言って部屋を出て行った・・・・帽子を麻生の部屋に置き忘れて。
「おい、上条。
この帽子、お前が持っていろ。
お前が起こした不幸なんだからな。」
麻生がそう言うと黙ってインデックスの帽子を左手で受け取り、上条は自分の部屋に戻り麻生は上条が出ていくといつもの服に着替えて部屋を出ていきそのまま散歩を始める。
ふらふらと宛てもなく歩いていると麻生の名前を呼ぶ声が聞こえ、その方に振り向くとそこには初春と佐天がこっちに来ていた。
「こんにちは、麻生さん。
何をしているんですか?」
佐天が麻生に質問する。
「散歩だ。」
簡潔に答えるとまた佐天が麻生に質問してきた。
「ところで麻生さんはレベルはいくつですか?」
「0だがそれがどうかしたのか。」
その事を聞くと佐天はなぜか嬉しそうな顔をすると麻生の手を取り良い物を見せてあげます、と言って強引に麻生を連れて行き初春が申し訳なさそうに頭を下げながらついてくる。
少し歩くと喫茶店に到着すると窓際のテーブルに美琴、白井ともう一人ボサボサな栗色のロングヘアの女性で、目の下には濃いクマがある女性も座っていた。
佐天は窓にぴったりとくっつき、美琴達に自分がいる事をアピールすると美琴達は佐天達に気づき、初春は美琴達に少し頭を下げ麻生はめんどくさそうに頭をかいていた。
店内に入り知らない女性の所に初春と佐天が座り麻生は美琴の隣に座る、麻生は帰ると言ったが佐天がそれを許さなかったので仕方なく座る事にした。
もう一人の女性の名前は木山春生と言う名前で大脳生理学専門チーム所属の女性で、AIM拡散力場について色々調べているらしい。
AIM拡散力場。
AIM拡散力場とは能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールド全般を指す言葉。
AIM拡散力場はとても微弱で、精密機器を使わなければ人間には観測できないレベルであるが、 千差万別の力や種類を持つ、現実に対する無意識の干渉であるこの力場を探ることで、 能力者の心や『自分だけの現実』を調査することもできる。
佐天と初春が木山に自己紹介をして麻生も一応自己紹介をする。
「麻生恭介、レベル0で通りすがりの一般人Aです。」
「ほう、面白い自己紹介だな。」
「何が通りすがりの一般人Aよ!!!
私の電撃を一度も当たってないでしょ!!!」
その発言を聞いて麻生と美琴以外が驚いた顔をする。
それもその筈、超能力者で超電磁砲で有名な美琴相手に一撃も電撃が当たってないと分かれば誰であろうと驚く。
麻生は面倒な質問をされる前にこちらから何とか話をはぐらかす。
「それでどうしてAIM拡散力場とか調べている学者と一緒に行動しているんだ?」
その質問を聞いて初春も同じ事を思っていたらしい。
「もしかして白井さんの頭に何か問題が?」
それを聞いた白井は少しむかついた顔をしていたが、真面目に答えを返す。
「「幻想御手」の件で相談していましたの。」
白井の言葉を聞いて佐天がポケットから音楽プレーヤーを取り出し、何か言おうとしたが次に白井が言った言葉で動きが止まる。
「「幻想御手」の所有者を捜索して保護する事になると思われますの。」
それを聞いて初春は疑問を述べる。
「なぜですか?」
「まだ調査中ですのではっきりとした事は言えませんが使用者に副作用が出る可能性がある事、そして急激に力をつけた学生が犯罪に走ったと思われる事件が数件確認されているからですの。」
「なるほど・・・・どうかしましたか、佐天さん?」
不自然な状態で固まっている佐天に初春は呼びかけるが、佐天はすぐに手を引っ込めながら別にと続きを言おうとしたが、腕にコップが当たりその中身が木山の足にかかる。
佐天は木山に謝るが木山は気にしなくていい、と言い立ち上がるとスカート脱ぎ始めその場でストッキングを脱ぎ始めた。
「かかったのはストッキングだけだがら脱いでしまえば・・・・」
目の前でスカートとストッキングを脱がれ周りの男性は顔を赤くして同性である美琴達も顔を赤くするがそんな中、麻生だけ、興味ないのか水を飲みながら窓の外をじっと見ている。
色々ごたごたがあり既に夕方になっていた。
木山は店の前で美琴達と別れる事になる。
「確か麻生と言ったか。
君に興味が出てきたから近い内に話が出来ればと思っている。」
木山は麻生にそう告げ去って行った。
佐天も何かに焦っていたのかすぐに美琴達と離れていき麻生も別れの挨拶もせずに美琴達から離れていき美琴は離れようとする麻生を追いかける。
「ちょっと待ちなさい!!
この間のリベンジよ!!!」
美琴がそう宣戦布告すると麻生はため息を大きく吐いて、美琴の方に振り向く。
「前にも言ったと思うがお前じゃあ俺には勝てないよ。」
「そんなのやってみないと分からないでしょ!!!」
「いや勝てないよ。
お前が人間である限りな。」
始め聞いたとき美琴は何を言っているか理解できなかった。
「人間である限り?
一体どういう事!!!」
麻生は美琴の質問にめんどくさそうに答える。
「簡単な事だ。
俺を殺す事が出来るのは人外・・・・所謂、神様や天使、悪魔と言った神話に出てきそうな奴じゃない限り俺を殺す事なんてできないよ。」
ますます美琴は麻生の言っている事が理解できなかった。
麻生は美琴の質問に答え終わると振り向き、どこかへ行こうとするのを美琴は引き止めようと声をかけようとした時だった。
麻生がちらっと美琴を見ただけなのに、一瞬美琴を見た目はとても冷たく拒絶の表しているかのような目だった。
美琴はその目を見ると足が止まりなぜか麻生を追う事が出来ず、麻生も視線を前に向けどこかへ歩き出して行った。
(あいつ・・・あんな寂しくて冷たい目してたんだ。)
美琴はなぜか麻生を追う事が出来ず自分も寮に戻るのだった。
上条は小萌の補習がようやく終わりまっすぐ部屋に帰っていて、エレバーターに乗り込み七階で降りるとその直線の通路の向こう、自分の部屋の前で清掃ロボットが三台もたむろしている。
この学生寮には五台の清掃ロボットが配備されておりその内の三台が上条の部屋の前で、身体を小刻みに前後させている所を見るとよっぽどひどい汚れを掃除している様に見える。
しかし上条にはこれを見てとても不幸な予感を感じた。
この清掃ロボットは床に張り付いたガムを素通りで剥がすほどの破壊力を持つドラム缶ロボなのだが、それが三台もいて苦戦するなど珍しい光景なのだ。
上条はその清掃ロボットが何を掃除しているか確認しに行くと、そこには不思議少女インデックスが空腹でぶっ倒れていた。
それを見た上条は不幸だ、と呟きながらインデックスに呼びかける。
「おい!こんな所でナニやってんだよ?」
そしてまた一歩近づくとようやく重大な事に気づく。
インデックスは血だまりの中に沈んでいる事に。
「あ・・・・?」
最初に感じたのは驚きではなく戸惑い。
インデックスの背中を見ると腰に近い辺りが真横に一閃されているのが確認できる。
さっきまで補習に出かけつい先ほどまで晩御飯はどうしようか、と考えていたのにあまりにもギャップすぎる現実に上条の思考は混乱させた。
上条はインデックスに集まっている清掃ロボットをインデックスから何とか引きはがそうとするが、清掃ロボットはとても重く1台どかしていると別の二台がインデックスに向かってしまう。
「何だよ、一体何なんだよこれは!?ふざけやがって、一体どこのどいつにやられたんだ、お前!!」
「うん?僕達「魔術師」だけど?」
インデックスの者ではない声が上条の後ろから聞こえた。
上条は殴りかかるように身体ごと振り返る。
男はエレベーターの横にある非常階段からやってきたようだ。
白人の男は二メートル近い身長だが顔は上条より幼く見えて服装は教会の神父が着てそうな漆黒の修道服、十五メートル離れているのに甘ったるい香水の香りを感じ、肩まである髪は夕焼けを思わせる赤色に染め上げられ、左右一〇本の指にはメリケンのような銀の指輪ギラリと並び耳には毒々しいピアス、ポケットから携帯電話のストラップが覗き、口の端には火のついた煙草が揺れて、極めつけには右目まぶたの下にバーコードの形をした刺青が刻み込んである。
これだけをみてこの男を「神父さん」と呼ぶ男は世界中を探しても誰一人として存在しないだろう。
神父と呼ぶにも、不良と呼ぶにも奇妙な男。
魔術師 ステイル=マグヌスがそこに立っていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第8話
前書き
2話連続投稿
美琴達と喫茶店で話を終えた麻生はまた散歩を再開していたが美琴達と話をして疲れたのか寮に戻る事にする。
寮の前につくと上条がそこに立っているのだがまわりには自転車が何台も倒れており上条はずっと上の方を見ていて何か考え事をしているようだ。
「おい、そこで何やっているんだ?」
「!?・・・・何だ、麻生か。」
麻生が声をかけると一瞬驚いた顔をしてこっちを見るが声の主が麻生だと分かると途端に上条は安心した顔をする。
麻生は上条が学生寮を見上げていたのを思い出し麻生も同じように見上げるとそこには炎でできて人の様な形をした者が二階の手すりを持ちながらこちらを見ていた。
上条はあの炎の化け物に麻生が気づいた事にどうやって説明しようか悩んでいると意外な言葉が麻生の口から出てきた。
「へぇ~「魔女狩りの王」か。
実際に見るのは初めてだな。」
「ど、どうして麻生はあれの名前を知っているんだ!?」
「理由はないな。
ただ知っている、それだけだ。」
麻生は上条にあれがいる原因を聞く。
上条はあれはステイルと言う男が魔術によって作られた物だと説明して、インデックスを追って来ていた奴らはあいつらの事という事をそしてインデックスが重傷である事を麻生に説明する。
説明を聞いた麻生は結局お前の不幸が招いた事か、と言うと興味をなくしたのか学生寮に入ろうとするので上条がそれを止める。
「ちょっと待てよ!!
お前はインデックスが重傷で死にかけているのにもしあいつらに捕まったら何をされるか分からない状況でお前はインデックスを放っておくのかよ!!!」
「そうだ、別にあいつらが何をしようとも俺に被害が及ばなかったら何をしてても俺は邪魔はしない。
それにインデックスと俺はご飯を作ってあげた仲、それだけだ。
あいつらの事情に深く関わるつもりはない。」
関わるだけで面倒だと麻生は言い放った。
その言葉を聞いた上条は麻生の胸ぐらを強く掴んだ。
「何でそんなことが言えるんだよ!!!
全くの赤の他人なら関わりたくないって気持ちはわかる、でもお前はインデックスが今どういう状況にいるのか知ってるだろう!!!」
上条は麻生があんな言葉を言った事がつらかったのだ。
なんだかんだ言いつつも自分の不幸や勝手な行動に付き合ってくれる麻生の口からそんなことを聞きたくなかったのだ。
麻生はそんな上条を見ながら思う、もし自分が星の真理を見なければこいつの手助けをしてたのだろうか?麻生はおそらく手助けするだろうな、と思いながら胸ぐらを掴んでいる上条の手を振りほどく。
「生憎これが俺の性格でな。
自分から決して動かないが誰かが助けを俺に求めない限り動かない。
俺はそういった人間だ。」
麻生は何で上条にこんな事を言ったんだろうな、と自分に疑問を持つ。
いつもの麻生ならこんな面倒事に関わろうとはしない、もしかしたら自分でも気づかない内に上条の性格に影響されているのかもしれない。
麻生の言葉を聞いて上条は少し笑いながら麻生に言った。
「麻生、一緒にインデックスを助けてくれ。」
麻生は大きくため息を吐くと上を見上げて上から落ちてきたオレンジ色にひしゃげた金属の手すりを受け止める。
「敵の注意は俺が引き付ける。
その間に上条は非常階段を登ってインデックスを確保して安全な所に避難及び治療しろ。
俺が手伝うのはここまでだ。」
麻生が一緒にインデックスを助けてくれるの事に上条は嬉しく思うがどうやって注意を引き付けるんだ?と上条は疑問に思う。
なんせ相手は魔術師とあの炎の巨神の二つを同時に相手にしないといけないのだ、上条は学生寮に入ろうとする麻生にその事を伝えると麻生は少し楽しそうな顔をして答える。
「安心しろ、俺を殺せるのは神様や天使くらいだ。」
ステイルは煙草を吸いながら学生寮から飛び出した上条が戻ってこない事について考えていた。
「魔女狩りの王」に怯えて逃げ出したのか?、と考えそれなら早くインデックスを回収して立ち去ろうとした時、後ろの方からキンコーンと音が聞こえた。
ステイルは上条が戻ってきたのか?、と思ったがそれはあり得ないと考える。
「魔女狩りの王」は戦闘機に積んだ最新鋭のミサイルと同じような物で一度でもロックしたら絶対に逃げ切る事は不可能で例え隠れたとしても三〇〇〇度という炎の塊は障害物や壁、鋼鉄さえも溶かして一直線に進んでくる。
もしエレベーターのような密室に逃げれば確実に「魔女狩りの王」に殺されてしまう。
なら誰が?と思い小刻みに揺れながらステイルは振り向くとそこには上条ではなく白髪に黒一色の服を着た男、麻生恭介が立っていた。
ステイルは上条でないことに少しホッ、として麻生に話しかける。
「君は此処に住んでいる生徒なのかな?」
ステイルは必要以上に騒ぎを起こしたくないので、あくまで魔術師としての顔を伏せようとしたが麻生が次に放った言葉で意味をなくす。
「無理をしなくてもいいぜ、魔術師。」
その言葉を聞くとステイルの周りの空気が一変する。
そして「魔女狩りの王」、と呟くとステイルの元にあの炎の巨神が戻ってくる。
「もしかして君もあの子の事を知っているのか。」
「まぁ事情だけな。
本来は魔術側に関わるつもりはなかったんだがな。」
ステイルは「魔女狩りの王」に命ずる。
殺せ、と。
その命令を遂行するかのように「魔女狩りの王」は麻生に向かって突進して麻生をその三〇〇〇度の炎で包み込んだ。
ステイルは一般人相手にやりすぎたな、と少し反省しようと思った時だった、カツンと「魔女狩りの王」の中から麻生が服が少しも燃える事なくステイルに向かって歩いていた。
ステイルはその光景を見て言葉を失った。
先ほどの上条は右手だけで「魔女狩りの王」打ち消していた。
それだけでみても非常に驚く所だがあくまで上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は右手だけなので、さっきの様に「魔女狩りの王」に包まれれば確実に死んでしまう。
それなのに麻生は火傷一つなくステイルに向かって少し笑みを浮かべながら歩いていた。
「い、「魔女狩りの王」!!!!」
ステイルがそう叫ぶと「魔女狩りの王」は再び麻生に向かって突進する。
「邪魔だ、そこで凍ってろ」
その言葉と同時に「魔女狩りの王」の身体が一瞬にして凍りつくが、「魔女狩りの王」の炎の温度は三〇〇〇度近くあるので凍った所で、すぐにその氷を溶かし麻生に突進する筈だ、とステイルは考えていたが一向に「魔女狩りの王」は動き出さない。
「どうした、「魔女狩りの王」!!!!
さっさとその男を殺せ!!!!」
「無駄だ、そいつは動かないよ。
その氷はただの氷じゃない。
魔力を練りこんで封印の術式をかけているからな。
「魔女狩りの王」でもその氷から出る事は不可能だ。」
ステイルは麻生の言っている事が信じられなかった。
「魔女狩りの王」を凍らせ封じる魔術などステイルは聞いた事がなかったからだ。
麻生はゆっくりとステイルに向かって歩いていく。
「それとお前の「魔女狩りの王」には色々弱点が多すぎる。
特に駄目なのがこれだ。」
そう言って麻生はステイルがこの学生寮に張り付けたルーンが書かれている紙を取り出す。
「これはコピー用紙を使っているみたいだがこれじゃあ水に濡れた途端、書かれているインクがとれてしまうぞ。
後、ルーンの紙の配置が集中しすぎているから簡単に「魔女狩りの王」をこちらが操る事だってできた。」
ステイルはこの男は何者なんだと、思う。
この学園都市の人間なのにやたら魔術に詳しくこっちの魔術にダメ出しをするなど、普通の学生とは到底思えない。
ステイルは呪文を唱え炎の剣を右手に作る。
「お、お前は一体何者なんだ!!!!」
そう言いながら炎の剣を麻生に向かって振りかぶる。
その炎の剣の温度は三〇〇〇度近くあるがその炎の剣を麻生は右手で受け止めた。
「ただの通りすがりの一般人Aだ。」
右手で炎の剣を握り潰し左手で拳を作りその拳がステイルの顔面に突き刺さり向こうの壁まで吹き飛ぶとそのままステイルの意識は途切れる。
麻生は指をパチン!!と鳴らすと「魔女狩りの王」の氷が砕けステイルが気絶したのかそのまま「魔女狩りの王」は燃え尽きてしまう。
どうやらインデックスは上条がうまく回収して逃げる事が出来たようだ。
それを確認すると麻生は欠伸をしながらいつも通り自分の部屋に入りベットに寝ころびそのまま睡眠をとるのだった。
朝になって携帯の音が鳴りそれで麻生は目を覚まし携帯をとり画面を見るとその名前は上条当麻と映っていた。
「何だ、こんな朝っぱらから。」
「その調子だとそっちは何とか撃退したみたいだな。」
声の主は間違いなく上条でどうやら麻生の無事を確認する為に電話をしてきたようだ。
「こっちは小萌先生の家に居候している。
そっちは敵が待ち構えているかもしれないからな、あとインデックスは怪我も治したし大丈夫だ。」
麻生はそんな状況の報告に一体何の意味があるのかよく分からなかったが上条が一方的に話しているだけなので適当に相槌を打つ。
「なぁ麻生に聞きたい事があるんだけど、どうしてお前は魔術の事とか知っているんだ?」
「別に昨日も言ったが俺はただ知っているだけだ。
実は俺も魔術師でした、なんてそんな落ちはない。」
「そうか・・・・けど、昨日は助かった。
また何かあったら助けてくれるか?」
「さぁな、俺はお前の様に困っていたら誰でも助けるような事はしないからな。」
麻生は上条にそう言い携帯のボタンを押して通話を切る。
そのまま立ち上がりいつもの服を着ると麻生はいつもの散歩に出かける。
学生寮から麻生が出ていくところを六〇〇メートル離れた所からステイルは双眼鏡で麻生を観察していた。
「禁書目録に同伴していた少年の身元を探りました。
・・・・禁書目録は?」
ステイルはすぐ後ろまで歩いてきた女の方も振り返らずに答える。
「生きているよ。
だが生きているとなると向こうにも魔術の使い手がいるはずだ。」
ステイルはあの男が治療したのでは、と考えている。
女の方は無言だったが誰も死ななかった事に安堵しているようだ。
女の歳は十八だが十四のステイルよりも頭一つ分も身長が低いが、ステイルの身長が二メートルを超す長身なので女の方も日本人の女性の平均からすればやはり高い。
腰まで届く長い黒髪をポニーテールにまとめ、腰には「令刀」と呼ばれる日本神道の雨乞いの儀式などで使われる、長さ二メートル以上もある日本刀が鞘に収まっている。
服装は着古したジーンズに白い半袖のTシャツで、ジーンズは左脚の方だけ何故か太股の根元からばっさり斬られTシャツは脇腹の方で余分な布を縛ってヘソが見えるようにしてあり、脚には膝まであるブーツ、日本刀も拳銃みたいな革のベルト(ホルスター)に挟むようにぶら下げてある。
彼女を「日本美人」と呼ぶのは少し抵抗があるだろう。
ステイルと同様まともな格好とは思えなかった。
「それで、神裂。
アレは一体何なんだ?」
「それですか、少年の情報は特に集まっては「そっちの方じゃない。」・・・・両方とも情報は集まっていません。
少なくとも魔術師や異能者といった類ではない、という事になるでしょうか。」
「何だ、もしかしたらアレらがただの高校生とでも言うのかい?
やめてくれよ。
僕はこれでも現存するルーン二四字を完全に解析し、新たに力のある六文字を開発した魔術師だ。
何の力持たない素人・・・・・・」
ステイルは言葉を続けようとしたが出来なかった。
最初にステイルと対峙した男、上条は確かに異常な能力を持っていたが魔術戦においては素人、神裂から見れば「ただのケンカっ早いダメ学生」という分類に入る。
しかし二人目の男、麻生は違った。
ステイルの「魔女狩りの王」を封じその弱点を一瞬で見抜き、ステイルを殴り飛ばした時も神裂から見れば何かしらの武術、それもかなりのレベルまで習得している事が分かった。
二人が注意しているのは上条ではなく麻生の方だった。
「神裂、本当にあの男はどこの組織の者か分からないのか?」
「ええ、何より貴方の「魔女狩りの王」を封じ込めるほどの者が魔術側に居たら確実に何か情報があるはずです。」
しかし彼の情報はほとんど見つからず学園都市からも目立った情報が手に入らなかったのでステイルと神裂と呼ばれる女は麻生を観察しているのだ。
すると麻生は足を止めとあるビルの屋上を見る。
その視線の先にはステイルと神裂がこちらを見ていた。
「っ!?・・・・気づかれている。」
「ステイル、場所を変えましょう。」
神裂がそう言うと二人はビルの屋上から移動する。
(視線を感じたから誰が見ていると思って目を変えて見たら昨日の奴らか。)
一人見慣れない女がいたが麻生は気にすることなく散歩を再開するのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第9話
前書き
コミケに行くので、今回は一話だけの投稿になります。
また、月曜日まで投稿できません、待たせてしまって申し訳ありません。
ステイル達の監視の目がなくなった事を確認すると、麻生は再び散歩を再開する。
いつもは街中など散歩しているのだが、今回はビルの間を適当に散歩して曲がり角を曲がった時、ちょうど目の前でガン!!!と何かがぶつかる音がした。
麻生は前を見て見ると男二人が傷だらけの男の両腕を持ち、もう一人の男が女の子の顔の真横に蹴りをしている所だった。
麻生は面倒な場面を見てしまったと思う、なぜならその女の子はあの佐天だった。
どういう経緯があって佐天が不良達に絡まれているか分からないが、確実に言える事は佐天が危険だという事は傍から見てもすぐに分かったが、麻生は手出しするつもりはなかった。
「なんだ・・・お前も俺達の邪魔しにきたのか?」
一人の男が麻生の存在に気がついたのか、声をあげる。
その声を聞いた佐天も麻生の存在に気がついたようだ。
傷だらけの男の腕を持っていた男の一人が、麻生に向かって歩き出し麻生の胸ぐらを掴む。
麻生は自分から人助けはしない、他人から助けを求められない限り動こうとはしないのだが相手から麻生に喧嘩を売るのなら話は違ってくる。
「汚い手で俺の服に触るな。」
麻生はそう言って胸ぐらを掴んでいる男の手首を右手で掴み左足で男の両足を払い一回転させて地面に叩きつける。
麻生の一連の動作は早く男は麻生がどうやって自分を地面に叩きつけたのか分からなかった。
麻生は男のみぞを踏みつけ気絶させて他の不良達を睨みつける。
「どうやらなかなか強いみたいだな。
けどな・・・・」
傷だらけの男の腕を掴んでいたもう一人の男が右手の指を動かすと、近くにあった鉄柱や鉄パイプなどが浮かび上がってくる。
「俺の能力でその高く伸びた鼻、へし折ってやるぜ!!!」
右腕を麻生の方に振りかぶるとそれに応じるかのように鉄柱などが麻生に向かって飛んでくる。
「危な・・・・」
佐天がそう叫ぼうとしたが麻生はそれを簡単にかわし、さらに飛んで来た鉄パイプを左手で掴みそのまま接近して男の脇腹に横一文字のように殴りつける。
うめき声もあげる事無く、そのまま真横に吹き飛び地面に転がり動かなくなる。
「カカカカカカッ、能力なしでそこまで戦えるってことは相当慣れてるな。」
佐天の顔の真横に蹴りをしていた男はいつの間にか煙草を吸って麻生の戦いぶりを見ていた。
「正直、手を出すつもりはあんまりなかったけどそっちから手を出してくるのなら話は別だ。」
麻生は手に持っていた鉄パイプを横に投げ捨てて男に向かって歩きながら接近する。
「オレ達はよー」
対する男の方も煙草を捨て麻生に向かって歩いてくる。
「盗みや暴行に恐喝にクスリ、他にもいろいろあくどい事して楽しんできたけどよ。
最後にはいつも風紀委員や警備員に追われてなウゼってー、目に遭わされてきたんだ。
だから、お前みたいに正義面した奴を見るとなぶっ殺したくなってくるんだよ!!!」
その言葉と同時に男は一気に麻生との距離詰めてくるが麻生は頭をかきながら言う。
「お前は何か勘違いしているようだな。
俺は一度も正義面をした覚えはない、そんなのはあいつだけで充分だ。
ただ俺はな・・・・」
男はポケットからナイフを取り出しそれを麻生の顔に向かって振りかぶるがそれをかわし左手で握り拳を作る
「俺に喧嘩を売ってくる奴らを叩き潰すだけだ。」
麻生は男の顔の顎を殴り男を打ち上げる。
そのまま後ろに倒れこんだ男は、すぐに立ち上がり麻生との距離をとる。
(なんでだ!?
俺の能力が効いてねぇのか!?)
男は自分の能力が麻生に通じていない事に焦りの表情を浮かべる。
男の能力は偏光能力。
自身の周囲の光を捻じ曲げ、誤った位置に像を結ばせ周囲の目を誑かす能力。
相手が無能力者や能力者でも一対一戦で広範囲ではなく単体攻撃の能力なら相手なら有利に戦える能力。
麻生は普通に男の顔を殴りに来ていたので偏光能力の影響を受ける筈なのに男の顔面を捉えてきた。
「お前が思っている疑問に答えてやろう。」
そんな男の心情を見透かすように麻生は答える。
「俺の能力の副産物でな、俺の五感や俺自身に干渉してくる能力は俺が受けていいと思わない限り、全て拒絶するようになっている。
お前の能力は俺の目を誤認させる能力だろうが俺には通じない、それにもしお前の能力が俺に通用してもお前は俺には勝てない。
なぜなら・・・・」
麻生は右手の掌を男の方に向ける。
「お前の能力は広範囲で攻撃する能力には何も役に立たないからな。」
すると、男は突然身体が重くなり地面に倒れこんでしまう。
そして、男の周囲の地面が大きくへこんでいく。
麻生は男の周りの重力を変換させて男を圧迫しているのだ。
今までにない重みを身体に受けミシミシ、と男の身体が悲鳴をあげそのまま意識を失った。
麻生は重力を元に戻し散歩を再び再開させようとするが待ってください!!、と佐天が引き止めたので足を止める。
「俺に何か用か?」
「あ、麻生さんは確かレベル0ですよね?」
「身体検査ではその結果が出たな。」
「で、でもさっき凄い能力を「これはどういう事ですの?」・・あ、白井さん。」
佐天と話をしていると今度は白井もやってきて麻生は早々に立ち去ろうとするが、白井にがっちりと腕を掴まれてしまう。
「何を逃げようとしているのですか?
貴方には色々聞かなければならない事がありますので一緒に来てくれませんか?」
どうやら逃げる事は出来そうにないので(能力を使えば簡単に逃げる事はできるが面倒なので使わないようだ)一緒に風紀委員の支部まで連行されることになった。
白井は佐天も来るように言おうとしたが佐天の姿はどこにもなかった。
第一七七支部につくとそこには初春もいて麻生は二人にさっきの出来事を簡単に説明する。
「ふむ、つまり貴方は喧嘩をふっかけられたのでそれに対応した、これでよいですわね?」
「まぁ、大体合っている。
それでもう帰っていいか?」
麻生は白井に聞いたがまだ帰してはくれないらしく、麻生は当分散歩は控えようかな、と考える。
すると、白井は何か思い出したかのように麻生に質問する。
「そういえば麻生さん。
幻想御手と言う物はご存知ですか?」
「いいや、俺は聞いた事はない。」
白井は最近、幻想御手使われ能力者の犯罪が増えその能力者が原因不明の昏睡状態になっている。
白井は麻生に何か情報を持っていると期待したのだが、その期待は外れたようだ。
しかし、麻生はその幻想御手に興味が出てきたのか白井に説明を求める。
「幻想御手は音楽ソフトの事を指しておりまして、それを聞く事で能力者のレベルを上がっているのです。」
その説明に続くかのように初春も麻生に説明する。
「麻生さんは木山さんを知っていますよね?
あの喫茶店にした人に聞いた話だと本来能力を上げるには学習装置のような五感全てに働きかける事で、レベルが上がるらしいのですがこの幻想御手は音楽、つまり聴覚だけでレベルが上がる事は困難だそうです。」
「しかし、情報提供者によれば幻想御手はこれで間違いはないそうです。
なぜ聴覚だけでレベルが上がるのかそれは作ったのは誰で何が目的なのかさっぱり分からないですの。
ですので少しでも情報を集めようとしているのですのよ。」
麻生は幻想御手の説明を受けて、もう興味をなくしたのか最後の方は適当に相槌をうっていた。
そして麻生は席を立ち帰ろうとする、白井もこれ以上呼び止める必要もないのか麻生を呼び止めようとしない。
すると、麻生は扉に手をかけると白井達にこういった。
「もしかしたら、その幻想御手は本当に聴覚だけでレベルを上げているのかもな。」
「どういうことですの?」
「例えばの話だが、曲だけで五感全てに働きかけているかもしれないな。」
その言葉を残し麻生は部屋を出て行った。
その後、初春は麻生が座っていた椅子の近くのテーブルに麻生の携帯が置かれていたのを発見して、初春は麻生に返しに行く。
幸い気づいたのが早かったのですぐに麻生に追いつくことが出来た。
「麻生さん~!」
「うん?」
「これ、携帯を忘れていますよ。」
初春の手には麻生の携帯が握られており、麻生は初春にお礼を言い携帯を受け取る。
「あの~突然で申し訳ないんですけど、麻生さんの携帯の番号を教えてもらえませんか?」
「なぜだ?」
「そのまた何かあったら助けてもらえたらな~と思って。」
少し笑いながら言う。
麻生は別に構わないと言って自分の携帯番号を初春に教える。
初春は嬉しそうに番号を登録して白井さんにも教えます!!と言って走って立ち去った。
麻生は教えた事を後悔して再び散歩を再開するのだった。
後書き
コミケ、頑張ってきます。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第10話
前書き
コミケから無事に生還できました。
TYPE-MOONの商品を買う事ができて良かったです。
朝、常盤台の女子寮の洗面器で美琴はパチン!と自分の頬を叩き気合いを入れる。
前回、麻生を追いかけようとしたが麻生の冷たい目を見てしまった日から、なぜだか分からないがいつもより元気がなかったが、グジグジしているのも自分らしくないと朝から自分に喝を入れる。
「いつまでもグジグジ引きずってらんないわね!
あの馬鹿達はいつか必ず倒すとして、今は自分にできる事からこなしていこう!!
まずは・・・・・・」
そう意気込むと美琴は女子寮を出て、ある所に向かった。
場所は変わり風紀委員の第一七七支部で、白井は初春に傷の治療を手伝ってもらっていた。
「幻想御手」の情報を少しでも集めようと「幻想御手」を取り扱っている不良達に情報を聞こうとしているのだが日頃、風紀委員に邪魔をされているのがむかついていたのか白井が風紀委員だと分かると、襲いかかってくる者もいれば犯罪に走る者も少なくはない。
しかも、相手は「幻想御手」でレベルが上がっており白井が苦戦する場面も何度かあった。
その為、日に日に生傷が増えている。
日常生活にまで支障が出そうなくらいの傷も出来ていた。
世間では「幻想御手」を使用すれば、植物状態になると言う事実はまだ知られていない。
これが知られれば「幻想御手」を使用した生徒が、自暴自棄になりどんな行動を起こすか分からない。
それに植物状態から回復した生徒はまだ一人もいない。
白井はまず「幻想御手」の拡大を阻止し、昏睡した使用者の恢復させ、最後にこの一連の騒動を引き起こした者を捉える。
これが白井達が解決しなければならない事だ。
その事を初春に伝えると白井は自分で巻いた包帯に違和感を覚え、初春に巻き直すようお願いをする。
「そうだ、白井さん。
この一件、御坂さんや麻生さんに頼まないんですか?」
「お姉様にわたくしのこんな姿を見せる訳にはいきませんわ。
ただでさえここ数日元気がないのに。
麻生さんに関しては何度も助けてもらってますし頼むに頼めませんわ。」
包帯を巻いて貰いながら初春と話をしているとある事を思い出す。
「そういえば麻生さんは前に気になる事を言ってらしたわね。」
「えっと、「幻想御手」と言う曲自体が五感に働きかけているかもしれない、でしたね。
一体何を言っているのでしょうか?」
「確か似た様な話をどこかでした覚えが・・・・・」
白井はどこで話をしたのか考えている時だった。
突然支部の扉が開くとそこにおっす!!、と掛け声と共に美琴が入ってきた。
その瞬間、白井は初春の身体を美琴の頭上に空間移動させ、美琴にこの傷を見られないよう初春で目隠しさせて美琴の頭と初春の頭がぶつかり二人が伸びている隙に急いで服を着る。
美琴は一応、「幻想御手」の事はあらかた知っており何か手伝える事はないか、と捜査を手伝いに来たのだ。
白井は美琴を巻き込みたくなかったが初春が美琴に自分達が知っている情報を美琴に教える。
「ふーん、「学習装置」かぁ・・・・」
「五感全てに働く機材がない事には能力開発はできないとの事なのですが・・・・」
「植物人間になった被害者の部屋を捜査しても「幻想御手」以外に何も見つからないんです。」
完全に手詰まりであることを美琴に知らせるが、その報告を聞いていた美琴はある事を思い出す。
「逆に仮の話だけど「幻想御手」という曲自体に、五感に働きかける作用がある可能性はないかしら?」
「そういえば、麻生さんも同じ事を言ってましたね。」
麻生の名前が出た事で美琴の顔が一瞬、ムッとした表情になるが今は気にせず話を続ける。
「前にカキ氷を食べた時の会話覚えてない?」
「えーと何でイチゴ味を注文してしまったのか・・「いや、そっちでなく」・・あとは赤い色を見ると暖かく感じるとか・・・・」
その会話を思い出すと美琴と同じ答えを答える。
「「共感覚性!!」」
「?」
共感覚性。
共感覚性とは一つの感覚を刺激することで二つ以上の感覚を得る事。
分かりやすい例を述べると暑い時に風鈴の音を聞くと涼しく感じる時があるだろう。
このように目や耳など一つの情報で五感に働きかける事を指す。
初春は木山の元に向かいながら早速、この事を報告する。
木山自身も共感覚性については見落としていたらしく、それらの理由があれば|「樹形図の設計者」《ツリーダイアグラム)の使用許可がおりるらしい。
「樹形図の設計者」。
ものすごい高性能な並列コンピューターで、正しいデータさえ入力してやれば、完全な未来予測が可能。
そのため学園都市では天気予測は「予報」ではなく「予言」、確率ではない完全な確定事項として扱われる。
それを使えばすぐに結果が出てくると初春は安心し、初春も木山の所に向かう為にバスに乗り込む。
その時、電話がかかってきたので画面を見ると佐天の名前が映っていた。
佐天とは最近連絡も取る事が出来ず、初春はとても心配していたようですぐに出る。
「佐天さん!!何日も連絡がとれないから心配したんですよ!!」
バスの中である事を忘れ、大声で話す。
すると周りの視線が初春に集まり、ようやく状況を掴み一旦切ろうとした時だった。
「アケミが急にっ・・・倒れちゃったの。」
「!?」
佐天の話では佐天もたまたま「幻想御手」を手に入れたのだが、前に喫茶店で白井が所有者を捕まえると言っていたので、誰にも相談することが出来ずに一人で悩んでいた。
その時、偶然アケミやその他の友達と会いアケミ達が能力の補習があると言い出した。
そして、試しに「幻想御手」を使ってみるという話になったらしい。
「でも、でも、本当は一人で使うのが怖かっただけ。」
「と、とにかく今どこに・・・・」
初春は佐天の様子が気になり近くのバス停で降り佐天の元に急ぐ。
「あたしもこのまま眠っちゃうのかな・・・そしたらもう二度と起きれないのかな?
あたし何の力もない自分が嫌で・・でも憧れは捨てられなくて・・・・」
佐天は学園都市に入れば誰でも能力者になれると思っていたが、実際に入ってみると無能力者と言う結果で何も能力を得る事が出来なかった。
同い年なのに大能力者白井や超能力者である美琴に少なからず嫉妬していたのだ。
「ねぇ初春、無能力者は欠陥品なのかな?
それがズルして力を手にしようとしたから罰があたったのかな?
危ない物に手を出して周りを巻き込んで・・わたしっ!!!」
「大丈夫です!!!」
初春の言葉を聞いて佐天は言葉を失う。
「もし眠っちゃっても私がすぐに起こしてあげます!
佐天さんもアケミさんも他の眠っている人達もみんな!!
だからドーンと私に任せて下さい、佐天さんきっと「あと五分だけ~」とか言っちゃいますよ?」
「初・・春?」
「佐天さんは欠陥品なんかじゃありません!!!
能力が使えなくたっていつも私を引っ張ってくれるじゃないですか!!
力があってもなくても佐天さんは佐天さんです!!
私の親友なんだから!!!・・・・だから・・だから・・そんな悲しい事言わないで。」
周りの目を気にすることなく涙を流しながら初春は佐天に言うと佐天は涙声で笑い初春に言った。
「迷惑ばっかかけてゴメン。
あと・・・よろしくね。」
その言葉と同時に電話が切れ初春は急いで佐天のマンションに向かう。
部屋を開けると佐天も他の被害者と同様に昏睡状態になっていた。
初春は病院に電話をして佐天を病院に運んでもらう、付き添いに行こうとしたが初春は行かずそのまま救急車が去っていくとある男に電話をかけた。
いつも通りに起きると麻生はいつもの服に着替える。
初春に電話番号を教えてからの三日間は何事もなく平和な三日間だった。
美琴に会う訳でもなければ白井や初春に会う事もなく、上条も電話で状況報告以外に連絡もなく魔術師からの襲撃もなかったので、麻生はようやく元の生活に戻ったか?、と思った時麻生の携帯の電話が鳴り響く。
学生寮を出て歩きながら画面を見ると初春の名前が映っていた。
麻生はまた面倒な事が起こると思ったが出ない訳にはいかず着信ボタンを押す。
「麻生さん・・・・」
元気な声で名前を呼ばれるかと思ったが以外にも初春の声は小さく元気がなかった。
「どうした、元気がないぞ。」
「佐天さんが倒れました。」
「・・・・・」
麻生は驚くわけでもなく初春の言葉を聞いていた。
佐天が「幻想御手」に手を出しそれの影響で昏睡状態になったと報告を聞く。
「麻生さん、佐天さんは欠陥品なんかじゃないですよね?」
あの電話の時に佐天にはああ言ったが、その答えを誰かに聞きたかったのだ。
そして、麻生なら良い答えが返ってくると思ったが麻生の口から返ってきた言葉は初春が思っていた言葉と逆だった。
「そうだな、欠陥品だ。」
「!?・・どうしてそんなこと言えるんですか!!!!」
周りの視線を気にせず電話越しに声を荒げて麻生に伝える。
麻生は最後まで聞けと初春を落ち着かせる。
「初めに言っておく、完璧な人間なんてこの世の中には存在しない。」
「えっ・・・」
「誰しも人間は人それぞれだがどこか欠陥している。
それは俺もそうだし美琴も白井もお前もどこか欠陥している。
たまたま佐天は能力のレベルが0という事実が、その佐天の欠陥している所なんだろう。
というより能力のレベル何てなものは自身の努力で幾らでも上がるものだ。
だが、佐天が努力してレベルが上がってもまた佐天のどこか欠陥が出来る。
人間はその欠陥を埋めようとしても、またどこか欠陥してしまう者なんだよ。」
麻生の答えは難しく初春はその意味をうまく理解できないでいる。
それを見透かしたように麻生は大きくため息を吐く。
「簡単に言うと佐天が欠陥品だ。
だが、それは人間である限り仕方がない事だ。
こういう俺もどこか欠品しているしな。
いいか、初春。
大切なのは自分を信じる事だ。
例え、周りがどんなに自分の事を無能だの欠陥品だの言われても自分を信じ続けろ。
自分で自分を信じられなくなった時こそ、本当の欠陥品になってしまうのだからな。」
簡単に言われても完璧に意味を掴めることはできなかった。
それでも麻生の言葉を聞いて初春の気持ちは軽くなった気がした。
「ありがとうございます!!!
私、佐天さんや他の人の目を覚ませるように頑張ります!!」
「ああ、それじゃあ切る「それと・・・」・・まだ何かあるのか?」
「麻生さんも手伝ってはもらえませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気分が乗ったらな。」
答えを曖昧にしたのに初春はありがとうございます!!!、と大声でお礼を言い多分電話の向こうでも自然とお辞儀しているな、と想像しているとブチッ!!と勝手に電話を切られた。
まだ行くとは言ってないんだけど、と思ったがもう聞こえないかと諦め麻生は散歩を止めて一七七支部に足を向けた。
一方、白井と美琴は佐天が昏睡状態になった事を聞いて、すぐに病院に向かうとあるカエル顔をした医者が美琴達に話しかける。
その医者が言うには患者の脳波に共通するパターンを見つけたらしい。
通常人間の脳波は活動によって波は揺らぐらしいのだが、その波を無理に正せば人体の活動に大きな影響が出るらしい。
被害者たちは「幻想御手」に無理矢理脳波をいじられ植物状態になったのか?、と美琴は推測する。
その医者は人間の脳波をキーにするロックがあり、それに登録されているある人物の脳波と植物患者のものと同じだという。
二人はパソコンに映った人物の顔写真を見て、驚きの表情を浮かべた。
初春も木山の部屋にたどり着き佐天が倒れた事、そして自分が今まで集めた情報を木山に伝える。
自分を責める初春を見た木山は落ち着かせるためにコーヒーを入れてくる、と言って部屋を出ていく。
その間に部屋を見渡していると棚の隙間から一枚のプリントがはみ出ている事に気づき、初春はそれを棚の中に直そうとして棚を開けるとそこには木山が調べたであろう研究の資料がたくさん入っていた。
ただの資料なら初春も気には留めなかったが、そこのファイルに書かれている題名を見て目を奪われる。
そこには共感覚性や音楽を使用した脳への干渉などの資料が書かれていたファイルが入っていた。
初春はそれを読むのに夢中になっていると後ろから木山が来ている事に全く気づかなかった。
「いけないな、他人の研究成果を勝手に盗み見しては。」
「登録者名、木山春生!!」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第11話
前書き
連続投稿です。
「幻想御手」。
「幻想御手」とは使用者の能力を引き上げる物ではなく、同じ脳波のネットワークに取り込まれることで能力の幅と演算能力が一時的に上がっているだけに過ぎない。
一人の能力者がいてその力が弱い力だとしてもネットワークと一体化する事で、能力の処理能力が向上してさらに同系統の能力者の思考パターンが共有される事でより効果的に能力を扱う事が出来る。
しかし、「幻想御手」の使用者は他人の脳波に強要される続ける事を意味している。
その為使用者が昏睡してしまうのもネットワークに完全に取り込まれ、脳が自由を奪われているからである。
白井と美琴は「幻想御手」の本当の力について話し合い、白井は風紀委員の支部のセキュリティを解いて部屋に入る。
そこには、テーブルに腰掛けている麻生が部屋の中にいた。
美琴と白井は思わぬ人物がいる事に驚いている。
「な、なんであんたが此処にいんのよ!!!」
「どうもこうも初春に手伝ってくれと頼まれたから、此処でお前達が戻ってくるのを待ってたんだよ。
それと白井、此処のセキュリティは甘すぎる。
もう少し強化した方がいいぞ。」
会っていきなりセキュリティの駄目出しをする。
白井は色々言いたかったが今の状況を考えると、そうも言ってられないので黙っておき麻生に今の状況について説明する。
一方、初春は手には手錠されている状態で木山の車に乗せられてどこかに向かっている。
木山は初春を拘束しただけで危害は加えるつもりはなく、初春の花飾りについて質問するなど何も変わらず初春に話しかける。
初春はその質問には答えず「幻想御手」を使い何を企んでいるのかを木山に聞く。
「あるシュミレーションを行う為にね。
「樹形図の設計者」の使用申請をしたんだがどういう訳か却下されてね。
代わりに演算機器が必要になんだ。」
「それで能力者を使おうと?」
「ああ、一万人ほど集まったから多分大丈夫だろう。」
「!?」
一万人もの人を巻き込んだ木山を初春は睨みつける。
「そんな怖い顔をしないでくれ。
シュミレーションが終わればみんな解放するのだから。」
そう言って木山はポケットに手を入れある物を初春に渡そうとするが止める。
それは「幻想御手」のアンインストールする治療用プログラムで、それを使えば植物状態の人達を後遺症なく元に戻す物だが木山は此処で彼女に渡したところで意味はない、と考え止める。
なぜなら、木山は誰が相手だろうと負ける訳にはいかない。
だから自分は負けてもいいと言う逃げ道を作る訳にはいかないと思った時、車の中にある画面が反応を示す。
「もう踏み込まれたか。
君との交信が途絶えてから動きだしたにしては早すぎるな。
別ルートで私にたどり着いたか・・・・」
木山のパソコンは所定の手続きを踏まずに起動させると、セキュリティが作動してパソコン内のデータが全て失われるように設定されている。
木山は尚更負ける訳にはいかないと決意を決めた時、目の前に警備員達が銃器などを装備して道路に展開していた。
「私も出るわ。」
風紀委員の支部の中でジッ、としているが性に合わないと言って現場に行こうと美琴が言い出す。
「初春も風紀委員の端くれ、いざとなれば自分の力で!!・・・・・多分何とか・・・運が良ければ・・・・・」
初春も風紀委員だが白井の様な強力な能力は持っておらず一人の力で抜け出すのは厳しい。
「ですが、単なる一科学者にすぎない木山に警備員を退ける術はないかと・・・」
「何千人もの昏睡した能力者の命を握られているのよ、そう上手くいかないかもしれないわ。
それに何か嫌な予感がするのよね。」
「ならなおのことここは風紀委員のわたくしが・・・・」
白井は美琴に行かせるわけにはいかないと、席を立つがそれと同時に美琴は白井の肩に手を置く。
そこは白井が怪我をしている場所で白井は触られただけで痛みに震えた。
「おねっ・・お姉様気付かれて・・・」
「当たり前でしょ・・アンタは私の後輩なんだから、こんな時くらい「お姉様」頼んなさい。」
白井はその言葉を聞くとそれを実行するかのように美琴に抱き着こうとするが美琴に叩かれてしまう。
麻生は依然とテーブルに腰掛けて二人のやり取りをずっと見ていたが、美琴は現場に行く前に麻生の前に立つ。
「あんたも一緒に来なさい。」
その言葉を聞いて、白井は信じられないような顔をする。
「お姉様・・・わたくしではなく麻生さんをお連れになるなんてお二人の関係はそこまで進んでおられたのですね・・・・」
「ば、馬鹿ね!!!誰がこんな奴と!!!!
こいつは私が何度も電撃を撃っているのに、一度も直撃した事ないから何かの役に立つと思ったから連れて行くだけよ。」
少し顔を赤くしながら白井に言う。
「初春にも手伝ってくれとも言われたしな、いいぜ一緒に行ってやるよ。」
美琴は警備員から何か情報が入ったら教えてくれ、と白井に頼むと麻生を連れて支部を出てタクシーを捕まえると現場に向かった。
「木山春生!!「幻想御手」の頒布の被疑者として勾留する、直ちに投稿せよ。」
「どうするんです?
年貢の納め時みたいですよ。」
初春も木山一人だけではあの数の警備員を退けない、と思っているのだが木山は余裕の表情を浮かべていた。
「「幻想御手」は人間の脳を使った演算機器を作るためのプログラムだ。
だが同時に使用者に面白い副産物を齎す物でもあるのだよ。」
木山はそう言うと車から降り警備員の言うとおりに両手を頭の後ろに組む。
警備員は初春が無事である事を確認すると木山を確保する。
だが、一人の警備員の銃が勝手に動きだし、他の警備員に向けて発砲する。
「!?・・・貴様一体何を!!!」
「ち、違う!!オレの意思じゃない!!!
銃が勝手に・・・」
男がそう言った時、木山は両手を前につき出すとそこに炎が集り一つの炎の塊が出来る。
「馬鹿な!!学生じゃないのに能力者だと!!?」
美琴と麻生は現場近くまで来ると突然大きな爆発音が鳴る。
「な・・何だぁ?」
「早くあそこまで!!」
「む、無茶言わないで下さいよ。
早く引き返しましょう。」
「だー!!!もういいわ、ここで降ろして!!!」
美琴はお金を運転手に渡し携帯を持って爆発音がした所に走って向かい麻生はゆっくりとタクシーから降りると歩きながら美琴の後を追う。
「黒子、何が起こってんの?」
何か情報が入っていると思い美琴は白井に電話を掛ける。
「それが情報が混乱してて・・・木山が能力を使用して警備員と交戦している模様ですの。」
「彼女、能力者だったの?」
「いえ、「書庫」には木山が能力開発を受けたという記録はないのですが・・・・」
白井は警備員の車にあるカメラの映像を見ながら答える。
「しかしこれは明らかに能力・・・それも「複数の能力」を使っているしか・・・」
「どういう事それこそありえないじゃない!!
能力ってのは一人に一つだけ例外はない筈よ!!」
「状況から推測するしかないのですが・・・木山の能力は「幻想御手」を利用したものではないでしょうか?
何千人もの能力者の脳とネットワークと言う名のシナプスでできた「一つの巨大な脳」、もしそれを操れるのなら人間の脳では有り得ない事も起こし得ますの。
この推測が正しいのなら今の木山は実現不可能と言われた幻の存在・・・「多重能力者」。」
「多重能力者」。
二つ以上の超能力を持つ能力者の事だが脳への負担が大きすぎるため、実現不可能とされていて幻の存在とも言われている。
美琴は急いで階段を登るとそこには車などが横転して、警備ロボも大破しており警備員も死んではいないがボロボロで気絶していた。
「警備員が全滅?」
すると車の中に初春を見つけすぐに駆け寄り声をかけるが反応がない。
「安心していい。
戦闘の余波を受けて気絶しているだけで命に別状はない。」
後ろから木山の声が聞こえたので振り向く。
「御坂美琴・・・学園都市に七人しかいない超能力者か。
私のネットワークには超能力者は含まれていないがさすがの君も私のような相手と戦った事はあるまい。
君に一万の脳を総べる私を止められるかな?」
美琴と木山は向かい合っていると美琴が登ってきた階段から遅れて麻生がやってくる。
「おや?君も来ていたのか。
意外だな、見た限りではこういった揉め事には積極的に介入してこない人だと思っていたのだが。」
「出来れば俺も関わりたくなかったがそこで寝ている花飾りに手伝ってほしいと言われたからな。」
「君に興味はあるのでね。
どんな能力かこの目で確かめさせてもらおう。」
その言葉と同時に木山は片手を美琴と麻生に向けると、サッカーボールくらいの炎の玉ができそれが二人に飛んでくる。
美琴は後ろに下がり避けるが麻生はじっと動かず、炎が麻生にぶつかり爆発する。
だが、煙が晴れると麻生は傷一つなく立っている。
「ふむ、あの攻撃で無傷か・・・ならこれならどうだ?」
木山は右手の指を握りしめると道路の割れ目から麻生に向かって一直線に炎が噴き出す。
麻生はそれを横に移動する事でかわす。
「本当に能力を使えるのね。
それも「多重能力者」!」
「その呼称は適切ではないな。
私の能力は理論上不可能とされるアレとは方式が違う。
言うなれば「多才能力者」だ。」
「呼び方なんてどうでもいいわよ。
こっちがやる事に変わりはないんだから。」
美琴は木山の頭上に電撃を降らせるが木山に当たる直前、電撃が木山の身体を避けるかのように移動する。
「!?」
「どうした、複数の能力を同時に使う事は出来ないと踏んでいたのかね?」
その言葉と同時に木山の足元から円を描くように何かが広がり、麻生はそれにいち早く気づき後ろに下がる事でその円の領域から逃れる。
だが、美琴はそんなに身体能力は高くはなく(女性からすればかなり高い方だが)その円の領域に入った道路が一気に崩れる。
美琴は電磁力を使う事で、道路を支えているコンクリートの柱の中にある鉄筋に反応させ足が柱に張り付く。
一方、木山は風を操り衝撃なく地面に降り立ち美琴に視線を合わせる、と空中に水が現れそれが小さく集まると美琴に向かって何個も飛んでいく。
美琴は柱を下るように走りその水の塊を避けていき、もう一度木山に電撃を放つがさっきと同じ様に電撃が独りでに木山を避けていく。
(やっぱり電流が誘導されている?
さっきの台詞からするといくつかの能力を組み合わせて、周囲に避雷針の様なものを作り出しているみたいね。)
「拍子抜けだな、超能力者というものはこの程度の者なのか。」
心底がっかりしたような声をあげる木山。
その言葉にカッチーン、ときたのか右手をあげると同時に電磁力を利用して、柱のコンクリートの一部を浮きあげる。
「まさか、電撃を攻略したくらいで勝ったと思うな!!!」
それを勢いよく木山に投げつけるがふむ、と木山が呟くと右手からレーザーの様なものが出てくる。
それが、一メートルくらい伸びて飛んでくるコンクリートに合わせるように振りコンクリートを切断する。
そして、左手の指を美琴が足で張り付いているコンクリートの柱に向けると、今度は指先からレーザーなものが発射されコンクリートに当たると円を描きコンクリートが消滅する。
張り付いていたコンクリートが剥がれ美琴は地面に落ちる。
「いたた・・・もう!!!あんたは見ているだけで手伝わないのか!!!!!」
美琴は腰をさすりながら上で自分達の戦いを見ている麻生に向かって叫ぶ。
「私も気になっていたところだ。
どうして降りてこない?」
「どうしてと言われても俺が手を出すまでもないからだ。
お前はそこの電撃少女に負ける。」
そう言って麻生は傍観に徹するようだ。
「君もあの子と同じように傍観してくれればいい。
私はある事柄について調べたいだけなんだそれが終われば全員解放する。
誰も犠牲にはしない「ふざけんじゃないわよっ!!!」・・・・」
「誰も犠牲にしない?
アンタは身勝手な目的にあれだけの人間を巻き込んで人の心をもてあそんで・・・こんな事をしないと成り立たない研究何てロクなもんじゃない!!!
そんなモノ見過ごせるわけないでしょうが!!!」
美琴の言葉を聞いて木山は大きくため息を吐く。
「君は何もわかっていない。
学園都市が君達が日常に受けている「能力開発」、アレが安全で人道的な物だと君は思っているのか?
学園都市は「能力」に関する重大な何かを我々から隠している。
学園都市の教師達はそれを知らずに一八〇万人にも及ぶ学生達の脳を日々「開発」しているんだ。
それがどんなに危険な事か分かるだろう?」
「なかなか面白そうな話じゃない。
アンタを捕まえた後でゆっくりと調べさせてもらうわ!!!!」
電磁力で地面の砂鉄を操りそれを何本の剣の形にして木山に放つが木山は地面を壁代わりにしてその砂鉄の刃を防ぐ。
「調べるか・・・それもいいだろう。」
君が関わっているのも少なくないしな、と美琴に聞こえない声で呟くと近くに落ちている空き缶を引き寄せる。
そして、それを美琴に投げつける。
「だが、それもここから無事に帰れたらの話だ。」
その空き缶を見て美琴は前にあった虚空爆破事件の原因である能力を思い出す、と同時に空き缶が爆発する。
しかし、美琴は咄嗟に電磁力で周りの鋼鉄や砂鉄を組み上げ即席の盾を作る。
それを木山は空き缶が大量に入っているごみ箱を浮かび上がらせ、その中身を全て美琴に投げつける。
「今度は即席の盾で耐えられるかな?」
「ハッ!!
だったら爆発前に全て吹き飛ばせばいいだけでしょーが!!」
美琴の周りに大量の電気が集め、それを使い爆発する前に空き缶を破壊していく。
(さすがに正攻法で攻略するのは不可能か。
だが・・・・)
密かに空き缶を一個だけ手に持ち、それを操り美琴の後ろに回り込ませる。
美琴は空き缶を打ち落とすのに夢中で、空き缶が背後に回り込んでいる事に気づいていない。
「ざっとこんなもんよ!!
もうお終・・・」
言葉を続けようとしたがその瞬間、空き缶が爆発した。
「正面が駄目なら搦め手に回るまで。
もっと手こずるかと思っていたが意外に大したことなかったな。」
美琴は空き缶に気づくことなく爆風に巻き込まれ、土砂に埋まって動かなくなった。
それを確認した木山は上で傍観している麻生に話しかける。
「さて、君は降りてこないのか?
君が勝つと言っていた少女は私に負けたがどうする?」
依然と木山は余裕の表情を浮かべながら言うが、麻生は木山には聞こえなかったがため息を吐いて木山に言った。
「あんたに一つ忠告してやる。
見た目だけを見てそいつが死んだとか思わない事だ。
ちゃんと確認する事をお勧めするよ。」
麻生の忠告を聞いて木山は振り向こうとした時、後ろから誰かに抱き着かれる。
この場面で抱き着ける者など限られてくる。
「つーかまーえたーーー♪」
先ほど爆発に巻き込まれた美琴だった。
木山は美琴が倒れていた所を見ると、そこには先ほどと同じ鋼鉄などで作られた盾が作られていた。
「AIM拡散力場の専門家に説明するのはアレだけど、私の身体からは常に電磁波が出てるの。
妙な動きとかあったら反射波で察知できるから死角とか関係ないのよ。」
さっき倒れた振りをしていたのは木山を油断させる演技だったのだ。
「零距離からの電撃・・・あのバカには効かなかったけどいくら何でもあんなトンデモ能力までは持ってないわよね?」
「くっ!!」
木山は周りにある鉄筋を操りそれを美琴に向けて放つ。
「遅い!!」
それよりも早く美琴が木山に電撃を浴びせた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第12話
麻生は橋の上から今までの戦いをずっと傍観していた。
正直、木山は美琴には勝てないと麻生は分かっていた。
なぜなら、木山はこの学園都市の全能力者の能力を手に入れた訳でもなく、そのネットワークにも超能力者は入っている訳でもない。
電撃使いにおいて最強の強さを持っている美琴相手に、幾ら能力を複数使って応戦しても勝てる筈がない。
麻生は結局無駄足だったな、と美琴を置いて帰ろうとした時だった。
「ああああああああああ!!!!!!!!!」
突然、木山の叫び声が聞こえてその足を止め再び橋の下を覗く。
そこには、木山の頭の中から頭に輪っかが浮いている胎児のような生物が現れる。
「はっ?」
突如、現れた未確認生物の出現に美琴は思わず声をあげた。
(胎児?
こんな能力・・・・聞いた事ないわよ。
肉体変化?・・・いやでも、これは・・・・)
胎児の出現に美琴は木山が何かしらの能力を使ったのかと、考えた。
しかし、胎児が出現する能力など聞いた事がなかった。
美琴が胎児について考えている間に、ゆっくりと胎児の眼が開かれる。
「キィィャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
目が開かれると同時に叫び声をあげる。
同時に周りの地面が抉られ、吹き飛んでいき美琴もその爆風に飲まれていくが、地面の砂鉄を使い盾を作り何とか防ぐ。
「何なのよ、アレ!!!」
その問いに誰も答えてくれる筈がなく、とりあえず電撃をその胎児に向けて放つとあっさりと電撃が直撃する。
(爆ぜた!?
血も出てないしやっぱり生物じゃない?)
すると、胎児の爆ぜた所が徐々に再生していき胎児の目が美琴を捉えると、美琴の足元の地面から土の柱が美琴に向かってくる。
美琴は後ろに向かって走り、何とか回避して応戦しようと振り返った時、胎児は美琴と逆の方向に向かって進んでいた。
「追ってこない?
闇雲に暴れているだけなの?」
その頃、木山の能力を受けた警備員の中でもまだ動ける人達が集まっていた。
何かしらの生物兵器なのか、それとも別の何かかを話し合っていた。
だが、悠長に事を構える余裕はない。
警備員はあの胎児に向けて発砲する事にした。
しかし、弾が貫通してもすぐに再生してさらにどんどん大きくなっていく。
男性の一人が背中に持っているグレネードランチャーような銃器で胎児に発砲する。
「よっしゃ、命中!!!」
「やったか?」
爆風で見えないが全弾命中したので倒したかのように思われたが。
「気をつけてください。
こういうパターンって大抵やられてない・・・・」
眼鏡をかけた女性の警備員言葉を続けようとしたが、その前の二人の警備員が突然吹き飛んだのだ。
警備員の発砲が癇に障ったのか、女性の警備員に近づいていく。
胎児はさらに大きくなり女性はそれに恐怖して発砲するが、全く効かず弾が切れてしまい胎児の身体から触手が一本、女の方に向かって伸びてくる。
「ア、アハハハハハ・・そっ・・・そっか立体映像よね・・・ぜんぶ幻・・・・」
胎児が女性に何かしようとした時、女性の後ろから誰かに引っ張られる。
女性のいた地面が数メートルくらいへこんでしまう。
女性が自分を助けてくれた人を見ると、そこには黒一色の服を着て髪が白髪の男性が立っていた。
もし、彼が引っ張ってくれなかったら女性は今頃ぺしゃんこになっていただろう。
「おい、あんたに聞きたい事がある。」
「えっ・・・何ですか?」
「今回の任務に黄泉川愛穂と言う女の警備員は居るか?」
「えっと、確か今回の任務に黄泉川さんは居ないはずです」
男性はそうかと心なしか安心したような表情を浮かべる。
「と言うよりあなた誰!?
民間人がこんな所で何しているの!?」
その言葉と同時に二人に向かって光の玉が飛んでくるが男性が掌をその光の玉に向ける。
何かにぶつかったのか爆発しても男性と女性を避けるように爆風が広がっていったので被害はなかった。
「今の内にどこかに逃げろ。
情報を教えてもらったから助けたが次はないぞ。」
「そうもいかないのよ。」
女性は近くにある建物を指さす。
「あの建物何かわかる?
原子力実験炉。」
その頃、美琴によって安全な所に寝かされていた木山は目を覚ますと遠くの方で暴れている胎児を見る。
「アハハハハハハ!!!
凄いな、まさかあんな化け物だったとは・・・・学会で発表すれば表彰ものだ。」
小さく息を吐くと後ろに差し込んでいた拳銃の銃口を自分の頭に向ける。
「もはや、ネットワークは私の手を離れあの子達を取り戻す事も恢復させる事もかなわなくなった・・・か。
おしまいだ。」
車の中で目を覚めた初春は状況を確かめようと、橋の上から降りるとそこに木山が銃口を自分の頭に向けている所を見る。
「ダメェェェェェェェ!!!!!!」
そのまま飛び込んで自殺を阻止するが、手錠の鎖が木山の首を絞めて死にそうになっていた。
木山に手錠を外してもらってあの胎児について聞く。
「虚数学区?
あれって都市伝説じゃなかったんですか?」
「巷に流れる噂と実体は全く違ったわけだがね。
虚数学区とはAIM拡散力場の集合体だったんだ、アレもおそらく原理は同じAIM拡散力場でできた「幻想猛獣」とでも呼んでおこうか。
「幻想御手」のネットワークによって束ねられた一万人のAIM拡散力場が触媒になって、産まれ学園都市のAIM拡散力場を取り込んで成長しようとしているのだろう。
そんなモノに自我があるとは考えにくいが、ネットワークの核であった私の感情に影響されて暴走しているのかもしれないな。」
「どうすればあれを止める事ができますか?」
初春がそれを聞くが木山はポケットから「幻想御手」のアンインストールする治療用プログラムを取り出す。
しかし、先ほどの美琴の電撃を受けて破損していた。
「やはり壊れているか。
こんな事になるのならあの時、君に渡した方が良かったな。」
「それは何のソフトですか?」
「これは「幻想御手」で昏睡状態を後遺症なく、元に戻すデータが入っているソフトだ。
だが、ご覧のとおり完全に壊れていて私のパソコンも警備員が手順を踏まずに、起動させたからデータは全て消えている。
あれを止めるには能力者を殺してAIM拡散力場そのものをなくすしか方法はないな。」
あの「幻想猛獣」は一万人の能力者で出来ている。
それらを殺す事など出来る訳がない。
学園都市も一万人の能力者を殺すなど、出来る訳がなく木山は「幻想猛獣」を止める方法はないと諦めた時だった。
「いいや、まだ手はある。」
木山が顔をあげると初春の後ろに麻生恭介が立っていた。
「話は全部聞かせてもらった。」
「何か考えがあるのか?
あれを止めるなど100%不可能だ。
それこそ一万人の能力者を殺すくらいのことしない限りは。」
麻生は木山の言葉を聞いて木山の視線までしゃがみ目をじっと見る。
「この世に0と100は存在しない。」
「なに?」
「あんたは100%止められないと言ったが、100%や0%ってことは絶対にできないということ。
この世に絶対はない。
もし絶対なんてことがあるとすればそれは人は必ず死ぬこれだけだ。」
そう言って麻生は立ち上がり「幻想猛獣」に向かって歩いていく。
「俺が証明してやる。
あんたが絶対にできないと言った事を俺が可能にしてやる。」
美琴は「幻想猛獣」の進行をどうにかして止めようとするが、何度電撃や砂鉄で攻撃してもすぐに再生してしまい全く意味がない。
さらに「幻想猛獣」は美琴の後ろにある、原子力実験炉に向かって進んでいる。
美琴は途中で出会った、眼鏡をかけた警備員にこの建物が原子力実験炉だという事は知っている。
(何でまた原子力施設に向かってくるのよ!!
怪獣映画かっつーの!!!)
すると、水の塊が空中に出現してそれが美琴に向かって放たれる。
それを後ろに飛んでかわすが着地した瞬間、足に「幻想猛獣」の触手に捕まってしまう。
「やばっ!!!」
視線の先には鋭い棘が生えている触手が美琴を襲おうとしている。
電撃で応戦しても再生するので全く意味がない。
(これってまずすぎる!!!!)
絶体絶命のピンチに「幻想猛獣」の後ろから何かが飛んでくるのが見える。
「死にたくなかったら動くな。」
その言葉と同時に雨の如く何かがいくつも飛んできて、美琴の足を掴んでいる触手に当たり何とか拘束が解かれる。
一旦下がり、飛んで来たものを見ると鉄で作られた矢が地面に何本も刺さっていた。
そして美琴を庇うかのように麻生が前に立つ。
その手には鉄で作られた弓が握られていた。
「あんたが助けてくれたの?」
「そうだ。
美琴、選手交代だ。
後は俺がやるから後ろで見ていろ。」
先ほど美琴を襲うとした棘のついている触手が麻生に向かってくるが麻生の手にはいつの間にか何本の矢が握られておりそれを連続で素早く放つ。
だがそれを受けてもすぐに再生して触手が麻生を襲うがそれを後ろに飛んでかわす。
「アレはAIM拡散力場の塊だ。
普通の生物の常識は通用しない。
体表にいくらダメージを与えても本質には影響しないんだ。
あれを倒すには自立させている核の様なものがあるはずだ、それを破壊すれば倒せるはずだ。」
木山も麻生についてきたのか「幻想猛獣」についてアドバイスする。
「ふ~ん、正攻法じゃあ駄目ってことか。
まぁあれは人間じゃないし少し本気でも出すか。
お前達もう少し下がってろ。」
「あんた一人に任せておけないわよ。」
「私も同じ意見だ。
あれを生み出した責任がある、私はどうなっても構わない。」
「そういう事じゃない。
俺が巻き込むかもしれないから下がってろって意味だ。」
麻生の後ろからまた触手が迫ってきて美琴は電撃で防ごうとしたが麻生が後ろに掌を向けると触手の動きが止まる。
「お前は人じゃないからな遠慮なく殺させてもらう。」
麻生の右手には刀が握られており、振り向くと同時に刀を抜刀し動きを止めている触手を一刀両断する。
美琴はすぐに再生するから無駄な攻撃だ、と思ったが何故かその触手は再生しなかった。
麻生を見ると先ほど持っていた刀ではなく、白い剣と黒い剣を両手で持っていてその両方を「幻想猛獣」に投げつける。
二本の剣は回転しながら飛んでいき「幻想猛獣」の身体を斬りながら飛んでいき、斬られた箇所も再生する事はなかった。
「どうなっている?
なぜ復元しないんだ?」
「私に聞いても何も分からないわよ。」
麻生は同じ白黒の剣を創り両手に握る。
すると飛んで行った白黒の剣が弧を描き再び麻生の方に戻ってくる。
麻生が持っている剣の名前は黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶。
干将・莫耶。
古代中国・呉の刀匠干将と妻の莫耶、及び二人が作った互いに引き合う性質を持つ夫婦剣。
その特性を利用して飛んでいる干将・莫耶を自在に操っているだがこの剣に再生を封じる能力は備わっていない.
その正体は麻生の目だ。
麻生の目の色は黒色だがなぜかこの時だけ青い色に変わっていた。
この目の名前は直死の魔眼。
直死の魔眼。
意味や存在が、その始まりの時から内包している「いつか来る終わり」を視覚情報として捉えることが出来るという能力。
この「死」は生命活動の終焉ではなく「存在の寿命」であるため、殺せる対象は生命体に留まらない。
それにこの眼に見えるのは死の線と死の点であり線をなぞれば本体の生死関係なく行動、治療、再生不能になり点を突けば対象の死期を発現させ殺す事が出きる。
曰く、生きているのなら神様だって殺せる。
麻生は能力を利用して一時的に目を直死の魔眼に変換しているのだ。
直死の魔眼を使い「幻想猛獣」の身体を殺して再生を不可能にさせているのだ。
麻生は夫婦の剣を持ち「幻想猛獣」に向かって走り出す。
「幻想猛獣」は身体から何本の触手を出しそれを麻生に襲いかかせるがその触手の間を移動しながらかわしていきすれ違い様に死の線を確認してそれをなぞるように触手を斬る。
すると触手は麻生に襲いかかるのを止めてまわりを取り囲み触手の檻を作り逃げ場のない空間を作ると内側から一斉に棘が麻生を襲うが突然麻生を守るかのように風が吹き荒れその触手の檻ごとずたずたに切り裂いていく。
しかしいくら直死の魔眼を使って触手を殺してもその大きな身体から新しい触手が何本も出現してきりがない。
「面倒な身体だ。
ならこれならどうだ?」
麻生は「幻想猛獣」に向けて掌を向けると突然「幻想猛獣」が苦しいそうな声をあげる。
麻生は能力を使って「幻想猛獣」に干渉して触手の出現をキャンセルしているのだ。
麻生の干渉能力は人間相手なら触れなければ駄目だが、「幻想猛獣」は人間ではなくAIM拡散力場によって生み出された言わば現象や概念といった部類には入る。
干渉能力は人間以外なら触れる必要はない。
ただし神や天使といった存在には干渉することすら不可能。
すると麻生の頭の中で何か映像が入ってくる。
ある一人の男の野球選手がいた。
その男は野球のチームに入り日が昇る時から日が沈むまでひたむきに練習していた。
それが積み重なりやがて自身に繋がっていた。
だが学園都市ではスポーツに能力の使用が認められており、幾銭幾万の努力がたった一つの能力に打ち砕かれる現実。
だから、男は何が何でも強い能力が欲しかった。
ある女学生がいた。
ある日その女に突然話しかけてきた女がいて、どうやら後輩らしくさらに能力も同じだった。
その後輩は能力の扱い方を教えてもらいたくて話しかけたらしい。
女はその後輩に親身に扱い方を教えたのだが何日か経つとその後輩の姿を見かける事はなくなった。
気になったので後輩の教室まで行くと、すでに身体検査を抜かれてしまった。
学園都市は残酷だった、能力を数値化してどっちが優劣かハッキリさせてしまう。
だからもっと強い能力が欲しかった、後輩を見返すほどの能力が。
ある男がいた。
その男は落ちこぼれた無気力な学生を見るとよく話しかける。
男は超能力者になる為に授業こなし少しずつだが能力が上がっていったのだがある日、本物の超能力者の力を目の当たりにする。
そして自分の目の前にはそこに辿りつく事が出来ない、大きな壁がある事にようやく気付いた。
だから男は落ちこぼれの学生を見かけたら話しかける。
上を見上げず前を見据えず下を見て話す。
だが、憧れは捨てる事が出来ずどうしても超能力者のような能力が欲しかった。
他にも様々な映像が麻生の脳にリアルタイムで流れる。
これは「幻想御手」の使用者達の記憶だ。
普通の人がこの膨大な負の感情や記憶を見せられれば手を緩め、ひと時の夢だけでも見せてあげようと思うかもしれない。
だがこの男は違った。
「それがどうした。」
たった一言だけ言い放った。
「壊れた幻想」
麻生がそう告げると「幻想猛獣」のまわりを飛んでいた干将・莫耶が爆発する。
壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。
魔力の詰まった宝具を爆弾として相手にぶつけ破裂させる技能。
土煙が晴れ、手に持っていた干将・莫耶の柄を合わせると二つの剣が繋がり弓に変形する。
「自身の能力を上げたいが為にこんなくだらない幻想に頼って、その幻想に飲まれ自身を苦しめてどうする。
自分の事だけを考えそれがどれだけ周りに迷惑がかかったか考えるんだな。」
麻生は左手を虚空に伸ばす。
「骨子、捻じれ狂う。」
その言葉と同時に螺旋を描く刀身を持つ剣が麻生の左手に握られる。
そして弓を構え直死の魔眼で「幻想猛獣」の死の点を探し狙いを定め魔力を込める。
「さて、良い夢は見れたか?
見れたのなら自分の脳に帰って少しでも能力が上がるよう努力するんだな。
前に進むのを止めてしまったらそこでお前達の物語は終わってしまうのだからな。」
その言葉を拒絶するかのように「幻想猛獣」が悲鳴を上げると空中に鋭い岩石が出現して麻生に向かって飛んでくるが風の刃がその岩石を切断する。
そして麻生はその剣の真名を開放する。
「偽・螺旋剣。」
偽・螺旋剣。
アルスター伝説に出てくる名剣カラドボルグ。
しかし、これはある男が独自に改良した物でありその威力は空間をも捻じ切る貫通力を誇る。
矢が放たれ「幻想猛獣」の死の点を貫き、その貫いた先には三角柱のような物体にぶつかりそれを捻じ切るように貫通してぼろぼろに砕けていった。
核を破壊されたのかそれとも死の点を貫かれたのか「幻想猛獣」は消滅していった。
一連の戦いを見て木山はつぶやく。
「あの少年は一体何者なんだ?」
その問いに美琴が答える。
「さぁね、自称通りすがりの一般人Aらしいわよ。」
その後、増援の警備員がぞくぞくやってきて、木山は抵抗することなく捕まる。
麻生は面倒な事を聞かれる前に立ち去ろうとするが、木山が麻生を呼び止める。
「君に聞きたい事が一つだけある。」
「何だ?」
「本来、あの核をアンイントールなしで破壊すれば、「幻想御手」の影響でネットワーク内に囚われた能力者達の意識を、恢復させる事はできない可能性が高かった筈だ。
しかし、周りの話を聞いた限り全員、無事に意識が戻ったと聞いている。」
「その事か。
あの「幻想猛獣」に干渉した時に、構成プログラムを読み取って治療用プログラムを作っていた。
核を撃ち抜いた矢にはそのプログラムを付加させていた。」
少し前の木山がこの説明を受けても信じる事ができなかった筈だろう。
だが、麻生恭介という底が知れない人物ならやれるだろうな、と納得してしまった。
「これで最後だ。
君に一つだけ、頼み事があるのだが聞いてくれるか?」
「内容によるな。」
「君の能力を使って私の生徒達を治療してくれないか?
もし出来るのなら報酬は何でも用意する。」
木山は麻生の凄まじい能力を目の当たりにしてもしかしたら生徒達を救う事が出来るのでは?と考えたのだ。
本来、自分が助けたいのだが此処までの事をしたのでいつ表舞台に戻れるか分からないからだ。
麻生はめんどくさそうな顔をしていつもの様にため息を吐く。
「病院は?」
「え・・・」
「その生徒達が入院している病院の事だ。
俺だとその患者のその後まで見てやれんから腕のいい医者に任せる事にする。」
「その医者は信頼できるのか?」
「一度俺も見て貰ったからな。
あの医者は患者を助ける為なら何でも用意する気前のいい医者だぜ。」
麻生がここまで言わせる人物なのなら信頼できると思った木山は病院の名前を教える。
それを聞いた麻生はさっさと立ち去ろうとする。
「君の言うとおりだ。」
麻生は振り返らず何がだ?と聞き返す。
「この世に絶対なんてない、まさにそれを思い知ったよ。」
木山の言葉を聞いて少しだけ笑みを浮かべるとそのまま立ち去ろうとするが今度は美琴が立ちはだかる。
「あんな力があるのなら前の戦いの時、あれくらいの力を使えば良かったじゃない。」
「あんな力を使えばお前を殺してしまうだろ。
俺はある女性と約束してな、どんな奴だろうと人は殺すなって言われているんだ。」
今回は人が相手じゃなかったからやり易かったよ、と言い麻生は携帯を取り出しある医者に連絡し木山に教えてもらった病院とその事情を説明する。
医者は二つ返事で了承した事を確認すると電話を切り美琴の横を通りすぎる。
「どこに行くつもり。」
「寮に帰って寝るんだよ。
白井とかには適当に言い訳でも考えて何とかしてくれ。」
私はあんたのパシリじゃないわよ!!と叫びながら電撃が飛んで来たが空間の壁を作りそれを防ぐと麻生は追いかけられると面倒なので珍しく走って寮に帰る。
しかし麻生の戦いはまだ終わっていなかった。
この夜、「幻想猛獣」よりも強い敵と戦う事になる。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第13話
あの魔術師の襲撃があってから三日がたち、上条とインデックスは洗面器を抱えて銭湯に向かっていた。
インデックスは背中に重傷と言えるほどの刀傷があったが、緊急避難に小萌先生の所に転がりこみ小萌先生の協力のおかげでインデックスの傷を何とか治療することが出来た。
小萌先生は上条とインデックスの関係や傷の事などは、一切聞かず二人を居候させてくれている。
傷を治した影響かインデックスは三日間は風邪をひいたような状態になったが、今ではすっかり治りようやく出歩けるようになったインデックスの願いが風呂だった。
「とうま、とうま。」
上条のシャツの二の腕甘く噛みつつインデックスはややくぐもった声で言う。
インデックスは噛み癖あり(なぜか上条にしかしてこない)服を引っ張ってこっちを向かせるぐらいのジェスチャーらしい。
「何だよ?」
上条は呆れたように答える。
インデックスは上条の名前を知らないと言われ今朝、自己紹介してかれこれ六万回ぐらい名前を呼ばれまくったからだ。
ちなみに、インデックスは料理を作ってくれ男の名前も知りたかったようなので、上条は麻生の名前を本人の了解なしで教えた。
「何でもない。
用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも。」
たったそれだけでインデックスはまるで、初めて遊園地に来た子供みたいな顔をする。
インデックスの懐き方は尋常ではないのだが、その原因は三日前のアレなんだろうと上条は嬉しいと思うより、今まであんな当たり前の言葉すらかけてもらえなかったインデックスの方に複雑な気持ちを抱いてしまう。
三日前、上条はインデックスの頭の中に抱えている物やその事情の全てはインデックスから教えてもらった。
インデックスの頭の中にある一〇万三〇〇〇冊がどれほど危険な物なのか、そしてそれがどれだけの力を秘めているのか上条はインデックスに説明してもらった。
いまいち実感が湧かなかったがインデックスは好き好んで一〇万三〇〇〇冊の魔道書を、頭に叩き込んだわけではない事は分かった。
ただ彼女は少しでも犠牲者を減らすために、ただそれだけの為に生きてきたというのに。
インデックスはごめん、と上条に謝ったがその一言で上条は本当にキレた。
なぜそんな大事な話を黙っていたのか、と上条はインデックスを睨みつけてたったそれだけのことだろ?、とその言葉を聞いてインデックスは両目を見開かれた。
自分の事情などを教えれば必ず嫌われると思っていたインデックスだが、上条はただインデックスの役に立ちたかったのだ。
たったそれだけの事だった。
そんなこんながあり現在に至る。
インデックスは日本の銭湯について独特の意見を述べる。
「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。
コーヒー牛乳って何?カプチーノみたいなもの?」
「んなエレガントなモン銭湯にはねぇ。
けどお前にゃデカい風呂は衝撃的かもな。
お前んトコってホテルにあるみたいな狭っ苦しいユニットバスがメジャーなんだろう?」
「私、気がついたら日本にいたからね。
向こうの事はちょっと分からないんだよ。」
上条はガキの頃から日本に居たら、そりゃあ日本語がぺらぺらに話せる訳だと答えるがインデックスはそうじゃない、と言う。
「私、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂の中で育っきたらしいんだよ。
どうも、こっちにきたのは一年ぐらいまえから、らしいんだね。」
らしい?、とその言葉に上条は眉をひそめる。
「うん、一年ぐらい前から、記憶がなくなっちゃってるからね。」
インデックスは笑っていた。
その笑顔が完璧だったからこそ上条はその裏にある焦りや辛さが見て取れた。
くそったれが、と上条は夜空を見上げて呟く。
インデックスがなぜ上条に懐くのか理由も分かってきた。
何もわからずに世界に放り投げだされて一年、ようやく会えた最初の「知り合い」がたまたま上条だっただけだ。
そんな答えが上条をひどくイライラさせる。
「むむ?とうま、なんか怒ってる?」
「怒ってねーよ。」
「なんか気に障ったなら謝るかも。
とうま、なにキレてるの?思春期ちゃん?」
「その幼児体型にだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント。」
「む、何なのかなそれ。
やっぱり怒っている様に見えるけど。
それともあれなの、とうまは怒っているふりして私を困らせてる?とうまのそういう所嫌いかも。」
「あのな、元から好きでもねーくせにそんな台詞吐くなよな。
いくら何でもお前にそこまでラブコメいた素敵なイベントなんぞ期待しちゃねーからさ。」
「・・・・・・・・とうま。」
名前を呼ばれたのでとりあえず返事をするがとてつもなく不幸な予感がした。
「だいっきらい。」
上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされる、というレアな経験値を手に入れた。
かじり終えた後、インデックスはさっさと一人で銭湯に向かってしまい上条はトボトボと歩いて銭湯に向かっていた。
インデックスは上条を見ると野良猫みたいに走り去ってしまうのだがしばらく歩いていると上条を待っていたみたいにインデックスの背中が見える、そして走り去る、これの繰り返しだった。
目指す所は一緒だからいつか合流できると思い上条は追いかけるのを止めている。
「英国式シスター、ねえ。」
インデックスを「イギリス教会」に連れて行ったら彼女はそのままロンドンの本部に行ってしまいそれで上条との縁は切れてしまうだろう。
そう考えると何か胸にチクリと刺さるものがある上条だが教会に保護してもらわないとインデックスはいつまでも魔術師に追われ続ける事になる。
そもそもインデックスと上条は住んでいる世界、立っている場所、生きている次元、何もかも違う人間、科学と魔術、この二つは決して混ざり合うことはない。
そう上条が考えている時だった、ある異変に気付いた。
時刻は午後の八時でまだ人が眠る時間でもないのに上条の周りには人一人見かけずまるでひどい田舎の農道でも見ているかのようだった。
「ステイルが人払いの刻印を刻んでいるだけですよ。」
全く気が付かなかった。
隠れていたわけでもなく上条の一〇メートルくらい先の滑走路の車道の真ん中に女が立っていた。
暗がりで見えなかったとか気づかなかったとか、そんな次元はなく一瞬前までは誰も居なかったのだが瞬きした瞬間にはそこに立っていたのだ。
「この一帯にいる人に「何故かここには近づこうと思わない」とうに集中を逸らしているだけです。
多くの人は建物の中ですのでご心配なさらず。」
上条は女の姿を見て無意識に右手に全身の血が集まっていき直感的に思ったのだ、コイツはヤバイと。
女はTシャツに片足だけ大胆に切ったジーンズという、まぁ普通の範囲の服装ではあったが腰から拳銃のようにぶら下げた長さ二メートル以上もの日本刀が凍る殺意を振り回していた。
「神浄の討魔、ですか・・・良い真名です。」
女は世間話をするかのように気楽に話しかけてくるが上条はその気楽さが恐怖を引き立てていた。
「テメェは・・・・」
「神裂火織、と申します。
できれば、もう一つの名は語りたくないのですが。」
「もう一つ?」
「魔法名、ですよ。」
ある程度予想していたとはいえ上条は思わず一歩後ろに下がる。
魔法名、ステイルが魔術を使って上条を襲った時に名乗った「殺し名」だ。
「テメェもステイルと同じ魔術結社とかいう連中なんだな。」
「禁書目録に聞いたのですね。
率直に言って魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが。」
「嫌だ、と言ったら?」
目の前の敵に悪寒を覚えながらも上条には退く理由など、どこにもなかったから。
「仕方ありません、名乗ってから彼女を保護するまで。」
ドンと衝撃が地震のように足元を震わせ視界の隅で蒼い闇に覆われてたはずの夜空の向こうが夕焼けのようにオレンジ色に焼けていた。
どこか遠く何百メートルも先で巨大な炎が燃え上がっているのだ。
「イン、デックス!!!」
敵は「組織」で上条は炎の魔術師の名前を知っている。
上条は反射的に炎の塊が爆発した方角へ目を向けようとして瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってきた。
上条と神裂の間は一〇メートルもの距離があり加えて、神裂の持つ刀は二メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回すおろか引き抜く事さえ不可能に見えた筈だったが次の瞬間には巨大なレーザーでも振り回したように上条の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。
驚愕に凍る上条の斜め右後ろにある風力発電のプロペラがまるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断される。
「やめてください、私から注意を逸らせば辿る道は絶命のみです。」
すでに神裂の二メートル以上ある刀を鞘に収めていてあまりに速すぎて上条には刀身が空気に触れた所さえ見る事が出来なかった。
「もう一度言います。
魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが。」
「な、なにを、言ってやがる。
テメェを相手に降参する理由なんざ・・・・・」
「何度でも問います。」
瞬、とほんの一瞬だけ何かのバグみたいに神裂の右手がブレて、消えると轟!という風の唸りと共に恐るべき速度で何かが襲いかかってきた。
地面が、街灯が一定の間隔で並ぶ街路樹が水圧カッターに切断されるように切り裂かれ宙に舞った握り拳ほどもある地面の欠片が上条の右肩に当たり吹き飛ばされて気絶しそうになる。
上条は右肩を押えながら視線だけで辺りを見回すと地面には合計で七本の直線的な刀傷何十メートルに渡って走り去っていた。
「私は魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが。」
右手を刀の柄に触れたまま憎悪も怒りもなく神裂はただ「声」を出した。
あの一瞬で七回もの「居合い斬り」見せその気になれば七回とも上条の身体を両断できるが刀が鞘に収まる音は一度きりだった。
上条はあの七つの太刀筋は何らかの魔術という異能な力で生み出された太刀筋だと考える。
「私の七天七刀が織りなす「七閃」の斬撃速度は一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。」
上条は右手を強く握りしめる。
あの斬撃は「異能の力」が関わっているのならあの「太刀筋」に触れる事ができれば打ち消す事が出来る筈と上条は思った、だが神裂の言葉がその思考を遮る。
「絵空事を、ステイルからの報告は受けています。
貴方の右手は何故か魔術を無力化する。
ですがそれは貴方が右手で触れない限り不可能ではありませんか?」
触れる事が出来なければ上条の右手は何の意味も持たない。
単なる速度だけの話ではない、御坂美琴の電撃の槍や超電磁砲と違い神裂の変幻自在の七閃の狙いを先読みする事も出来ない。
「幾らでも問います。」
神裂の右手が静かに七天七刀の柄に触れる。
距離はおおよそ一〇メートル、街路樹などを輪切りにする破壊力のある七閃に何かの物陰に隠れるといった行動は自殺行為にしかならない。
この距離なら筋肉が引き千切る勢いで駆ければ四歩で相手の懐へ飛び込める距離。
動け、と上条は先ほどから動かない両足に必死に命令を送る。
「魔法名を名乗る前に、彼女を保護させてもらえませんか?」
地面に張り付いた両足を無理矢理引き剥がすように一歩前に踏み込んだ。
「おおっ・・・ぁああああああああ!!!!!」
さらに一歩、後ろへ逃げるにも左右に避ける事も何かを盾にする事も出来なければ、残るのは一つ、前へ進んで道を切り拓く他に方法がない。
「何が貴方をそこまで駆り立てるのかは分かりませんが。」
神裂は呆れるより哀れみの色が混じるため息を吐きだす。
七閃。
辺りには砕かれた地面や街路樹の細かい破片が砂埃のように漂うよ轟!!、という風の唸りと共に砂埃が上条の眼前で八つに切断された。
上条は右手で消せると頭で分かっていてもとっさに回避を選んでしまう。
頭を振り回すような勢いで身を屈め、頭上を通り過ぎる七つの太刀筋に心臓が凍える。
避けれたのはたまたま運が良かっただけだがさらに一歩踏み出していく。
七閃がどれだけ得体のしれない攻撃だったとしてもその基本は「居合斬り」で一撃必殺の斬撃を繰り出す古式剣術、逆に言えば刀身が鞘から抜けている間は居合斬りを使えない無防備な「死に体」という事だ。
懐に飛び込めば勝てる、そう思った上条の最後の余裕はチン、と鞘に収めた刀が立てるほんの小さな金属音によって木っ端微塵に撃ち砕かれた。
七閃。
轟!!と上条の目の前でゼロ距離と呼べるほど間近で繰り出される。
身体の反射神経がとっさに避けようとする前に七つの太刀筋が上条の目の前に七つの太刀筋が目に迫る。
「ち、くしょ・・ぁああああああああ!!!!!」
叫びと共に右手を太刀筋に向かって右手の拳を突き出す。
ゼロ距離という事もあってか七つの太刀筋はバラけず一つの束ねて上条へと襲いかかるがこれなら立った一度の幻想殺し《イマジンブレイカー》で七つ全てを吹き飛ばす事も出来る。
だが月明かりに青く光る太刀筋が、上条の拳を作る指の皮膚に優しく触れてそのままめり込んできた。
「なっ!?」
上条はとっさに手を引こうとするが間に合わず、次の瞬間には辺り一面に肉を引き裂く水っぽい音が鳴り響いた。
上条は血まみれの右手を左手で押さえつけ、その場で膝を折って屈んでいた。
「なんて、こった・・・・そもそも魔術師じゃなかったのか、アンタ。」
七閃の正体は異能の力ではなく七本の鋼糸だった。
なによりあの馬鹿長い刀はただの飾りで刀を抜いた瞬間も見える訳がなかった、わずかに鞘の中で刀を動かして、再び戻す。
その仕草で、七本の鋼糸を操る手を隠していたのだ。
「言った筈です、ステイルから話は聞いていた、と。
これで分かったでしょう、力の量ではなく質が違います。
ジャンケンと同じです、貴方が一〇〇年グーを出し続けた所で、私のパーには一〇〇〇年経っても勝てません。
それに何か勘違いしているようですが、私は何も自分の実力を安い七閃でごまかしている訳ではありません。
七天七刀は飾りではありませんよ、七閃をくぐり抜けた先には真説の「唯閃」待っています。
何より私はまだ魔法名を名乗ってすらいません。
名乗らせないでください、少年。
私は、もう二度とアレを名乗りたくない。」
神裂は唇を噛んで言う。
それでも上条は拳を握る、血まみれで感覚もない右手を握りしめる。
神裂はステイルと明らかに違う、基本の基本、つまり作り方が全く違う人間なのだ。
「降参、できるか。」
インデックスを思い出す。
彼女は神裂に背中を斬られても上条を助ける為に降参しなかった。
「何ですか?・・・聞こえなかったのですが。」
「うるせぇっつたんだよ、このロボット野郎!!!!」
血まみれの拳で神裂の顔面を殴り飛ばそうとするが神裂のブーツの爪先が上条の水月に突き刺さり顔の横を七天七刀の黒鞘で殴り飛ばされ地面に叩きつけられる。
痛みと呻き声をあげる前に上条は自分の頭を踏み潰そうとするブーツの底を見て横に転がって避けようと転がった所で。
「七閃。」
声と同時に七つの斬撃が周りの地面を粉々に砕き、四方八方からの爆発で細かい破片が吹き飛び上条の全身に豪雨のようにぶち当たる。
まるで五、六人にリンチされたような激痛が走り、さらに・・・・
「七閃。」
先ほどとは違い七つの鋼糸は上条に向かって襲いかかる。
今の上条に七つの斬撃を避ける事は出来ない。
まずい!!、と思った時だった。
「弦結界、揺り篭。」
その声と同時に迫ってきていた七つの斬撃が何かにぶつかりそのまま神裂の元に戻る。
上条の前には彼を守るかのように糸が張り巡らされていた。
すると上条の後ろから足音が聞こえたので振り返るとそこには左手に糸の束を持った麻生恭介が歩きながらこちらに向かっていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第14話
麻生は帰りながら後悔していた。
あの「幻想猛獣」との戦いの後、白井や警備員などに色々事情を聞かれると時間もかかる。
何より麻生自身がめんどくさいと思っているので、早々に帰る事にした。
だが、あの場所から学生寮に戻るまでかなりの距離がありやっと見慣れた街並みに戻る頃には、日も落ちてすっかり夜になっていた。
麻生はこんな事ならめんどくさくても白井達に送ってもらった方が早く着いていた、と後悔しながら道を歩いていると裏路地から突然、人が現れ麻生とぶつかる。
ぶつかった人は麻生より背が低く、何より服装に見覚えがあった。
(確かあの時上条が助けた女・・・インデックスだったな。)
最初インデックスは驚いた顔をしていたが、麻生の顔を見るとほっ、とした表情になる。
しかし、インデックスが出てきた裏路地からインデックスと麻生に向かって炎が襲いかかってくる。
インデックスは麻生だけでも助けようと思ったのか自分を盾にするように前に出る。
だが、それよりも早く麻生の手が前に出た。
炎は麻生の掌の直前でその勢いが止まり麻生は何かを唱える。
「炎は御身に返る。」
そう唱えると炎は時間を巻き戻すかのように、先ほどと同じ勢いで裏路地の奥へと戻っていく。
炎が戻っても爆発音一つしないので麻生は上手い事退けたのだと考えて、次の炎が来るのを待つが一向にやってこない。
すると、インデックスは麻生の黒シャツを掴み大きな声で叫んだ。
「お願い、とうまを助けて!!!!」
いきなり上条を助けろと言われ麻生は唖然とする。
インデックスも色々事情を説明したいのだが、自分も追われているのでそう長く此処にいられない。
インデックスはかすかに覚えている。
あの炎の魔術師が自分を回収しに来た時に上条と一緒に麻生が自分を助けてくれた事を、インデックスは知っている。
上条は何かあれば麻生に助けを求めろ、と彼が言っていた。
それは彼が心から信頼している事を意味していた。
インデックスは正直な所、麻生も巻き込みたくなかったが今の自分では上条を救うことが出来ない。
麻生は事情も聞かずインデックスの頭に手を置き、目を瞑り再び目を開けると大きくため息を吐いた。
「帰ってきて早々また面倒な事に巻き込まれるとはな。」
すると麻生は後ろを振り向き来た道を戻っていき、少し歩いた所で振り返らずインデックスに聞いた。
「お前、一人で大丈夫か?」
「えっ?」
突然の麻生の言葉にインデックスは戸惑う。
麻生は面倒くさそうな顔をして行った。
「これから上条を助けに行くがお前は一人であの魔術師から逃げ切れるか?」
インデックスはその言葉を聞いて思わず笑みを浮かべる。
「私は一人でも大丈夫!!!
だからとうまをお願い。」
それを聞いた麻生はインデックスに返事を返さず上条の元に向かって行き、インデックスも麻生とは別の方角に走って行った。
「なぜ、貴方が此処に。
人払いの刻印が刻んであったはずです。」
神裂は七天七刀を構え、麻生に問いかける。
「残念だったな、ああいった俺自身に干渉してくる奴は自動補正がかかって俺には通じないんだよ。」
だが探すのに苦労した、と少し疲れた表情をする。
神裂は麻生の行動を観察していて、こちらから仕掛けなければ麻生は自分から向かっては来ないと判断していた。
(誰かが彼に少年を助けるように頼んだのか?
だが、一体誰が・・・・)
そこまで考えてようやく気付く、この一件に絡んでいる人間はごくわずかだからだ。
「お前が考えている通りだ。
俺はインデックスに上条を助けてほしいと頼まれたから此処に来たんだ。
そうじゃなかったら自分からは絶対に来ないよ。」
「インデックスは無事なのか!?」
地面に倒れながらも自分ではなく他人を心配する上条を見て麻生はため息を吐く。
「まぁ元気ではあったな。
上条、お前はその弦の結界からは出るなよ。
それは内側からなら簡単に崩れるように仕込んであるからな。
お前の右手とか関係なく触れるだけで結界が解けてしまう。
できれば、お前を連れてさっさと帰りたいのだがあの女性は簡単に通してくれなさそうだ。」
カツン、とブーツの音がこちらに一歩だけ迫ってくる音がして上条は神裂を見る。
さっきの表情とは違い真剣な面持ちでこちらに一歩ずつ歩いて来ている。
麻生も一歩ずつ神裂に向かって一歩一歩近づいていき、お互いの距離が約八メートルあたりで足が止まる。
「先ほどの七閃を防いだ技、お見事でした。」
「そりゃあどうも。」
「できれば貴方の方からあの少年を説得してもらえませんか?」
「俺もそうしたい所だけどあいつは俺なんかの説得で聞くような男じゃないぞ。
それはあんたが一番わかっていると思ったんだが。」
「そうですね、でしたら貴方を倒し、少年を倒し彼女を保護するまで。」
そして二人の間に言葉がなくなる。
「七閃。」
轟!!と七つの斬撃が麻生に襲いかかる。
先ほどとは違い加減なしの斬撃だったが、麻生は手に持っていた弦を口にくわえて引っ張り弦の束を空中に投げ捨てる。
「弦術、魔鏡。」
麻生が唱えると一本であった弦が七本に増え、さらに神裂の七閃と全く同じ軌道と勢いで神裂に襲いかかる。
同じ軌道と勢い通しがぶつかればその勢いは相殺される。
鋼糸と弦がぶつかり合いそのまま持ち主の所に戻る。
再び神裂は七閃を、麻生は魔境と呟き、先ほどと同じ様にぶつかり合いそれぞれの糸は持ち主にまた戻る。
神裂はその光景を見て麻生の術を観察していた。
「七閃と全く同じ軌道で同じ威力、相手が使う技をそのまま写し相殺する技ですね。」
「ご名答。
正確には同系統の技でしか使えないが、どうやらあんたとは相性が良さそうだ。」
神裂は七閃は封じられたと考え、今度は刀に持ち鞘から刀身を抜く。
すると、麻生の手にも神裂ほどではないが150センチくらいの長さを誇る日本刀が左手の手の中にあった。
神裂はすう~、と少し息を吸って一気に八メートルという距離を詰めて横一文字に斬り払う。
麻生はその斬撃を上に弾き右手で柄を持ち神裂の首を狙い斬る。
弾かれたのに神裂はすぐに自分の刀を手元まで戻し首を狙う一撃を防ぐ。
麻生はそのまま素早い突きを三連、突き出すが神裂はそれを見切り全て避けてカウンターの様に麻生の右側面に七天七刀を振う。
しかし、麻生の脇腹に当たる直前、何かにその刀の軌道を遮られる。
(これは糸!?)
神裂が気づいた瞬間、麻生の右足が神裂の顔面に向かってきていた。
神裂は七天七刀の鞘を持っている方の手で、その蹴りを何とか防ぎそのまま後ろに下がる。
「先ほどの七閃との打ち合いの時に張り巡らせていた、という訳ですか。」
「ご名答、さすがに分かるか。
それにしてもあんたは強いな、これじゃあ上条が手も足も出ないはずだ。」
麻生は自分を守っている弦の結界を解く。
同じ手は二度通じない相手だと分かっているから解いたのだ。
下手に結界に頼ってしまいそれが破られた時、それは麻生の負けが確定する。
それなら初めから解いておき警戒した方がまだましだ。
今度は神裂と麻生の純粋な刀の打ち合いが始まる。
神裂は二メートルの刀を振り回して攻め続け、麻生はその攻めをいなし、軌道をずらし、カウンターで攻めるといった戦法だ。
上条はその激しい攻防を見続けぎゅ、と感覚のない右手を握りしめると呟いた。
「なんでだよ。」
上条の小さな呟きに麻生と神裂の耳に届かない。
「何でだよ!!!!」
上条の叫びに二人の動きが止まる。
そのまま上条は震える足で立ち上がり前に進む、揺り篭の結界を内側から破壊するが上条は全く気にしない。
「何であんたはそんな力があるのにインデックスを傷つけるんだよ!!
そんな力があれば誰だって何だって守れるのに、何だって誰だって救えるのに。」
上条は悔しかった。
麻生に助けてもらわなければ今頃、インデックスは連れ去らわれてたかもしれない自分の無力が。
そんなにも強い力を持っているのに女の子一人を追い詰める事にしか使えない事が。
神裂は今、戦いである事を忘れたかのように刀の下げてしまう。
そして神裂は血を吐くような声で言った。
「私だって、好きでこんな事をしている訳ではありません。
けど、こうしないと彼女は生きていけないのです・・・死んで、しまうんですよ。
私の所属する組織の名前は、あの子と同じ、イギリス教会の中にある必要悪の教会。
彼女は、私の同僚にして大切な親友なんですよ。」
上条は神裂の言っている言葉の意味が分からなかった、対する麻生はその話を冷静に聞いている。
どうやら訳があると思い一旦、刀を下げている。
「完全記憶能力、という言葉に聞き覚えがありますか?」
その問いに麻生が答える。
「視覚、聴覚で捉えた映像や音などを完璧に覚えそれを忘れることが出来ない、だったな。」
その答えに神裂は頷く。
「その完全記憶能力のおかげで彼女は一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶する事が出来ました。
ですが、その完全記憶能力が彼女を苦しめているのです。」
「どういう事だ?」
その先の言葉を聞きたくなかったがそれでも聞かなければと上条は疑問を口にする。
「彼女の脳の八五%以上は禁書目録の一〇万三〇〇〇冊に埋め尽くされてしまっているんですよ。
残る十五%をかろうじて動かしている状態でさえ、凡人とほぼ変わらないんです。」
そこで、麻生は神裂の説明を受けて一つ疑問に思ったが最後まで話を聞く。
「だから、何だよ。
必要悪の教会ってインデックスの所属している教会なんだろう。
だったら何で必要悪の教会がインデックスを追い回しているんだよ。
インデックスはお前達を魔術結社の悪い魔術師だって呼んでいるんだよ!!」
神裂は一度言葉を躊躇ったが答えた。
「何も、覚えていないんです。
私達が同じ必要悪の教会の人間だという事も、自分が追われている本当の理由も覚えていない。
だから、自分の中の知識から判断するしかなくなった。
禁書目録を追う魔術師は、一〇万三〇〇〇冊を狙う魔術結社の人間だと思うのが妥当だ、と。」
上条はさっきのインデックスの言葉を思い出す。
インデックスは一年ほど前から記憶を失っているらしい、という話を。
「でも、おかしいだろう。
インデックスには完全記憶能力があるんだろ?
だったら何で忘れたんだ。
そもそもアイツは何で記憶を失っちまってんだ?」
上条の問いは神裂ではなく麻生が言い当てる。
「お前達が記憶を消したのか。」
麻生の答えに神裂は頷くが上条は麻生みたいに冷静にはいられなかった。
「どうして!
アンタはインデックスの仲間なんだろ!!
大切な仲間なんだろ!!
だったらどうして!?」
「そうしなければインデックスが死んでしまうからですよ。」
上条の呼吸が死んだ。
神裂は肩を震わせながら言った。
「言ったでしょう、彼女の脳の八五%は一〇万三〇〇〇冊の記憶に使われている、と。
ただでさえ、彼女は常人の十五%しか脳を使えません。
並みの人間と同じように「記憶」していけば、すぐに脳がパンクしてしまうんですよ。」
「そ、んな・・・だって、おかしい。
お前、だって、残る十五%でも、俺達と同じだって・・・・」
「ですが、彼女には完全記憶能力があります。
完全記憶能力は先ほど彼が言ったように見た事、聞いた事を全て記憶して忘れる事が出来ない症状です。
街路樹の葉っぱの数から、ラッシュアワーで溢れる一人一人の顔、空から降ってくる雨粒の一滴一滴まで「忘れる」事の出来ない彼女の頭は、そんなどうでも良いゴミ記憶であっという間に埋め尽くされる。
元々、残る十五%しか脳を使えない彼女にとって、それが致命的なんです。
自分で「忘れる」事の出来ない彼女が生きていくには誰かの力を借りて「忘れる」以外に道はないんです。」
「いつまで、だ?・・・・アイツの脳がパンクするまで、あとどれくらい保つんだ?」
上条は聞いてしまう、否定ではなく質問してしまった時点で心のどこかが認めてしまっていた。
「記憶の消去はきっかり一年周期に行います。
あと三日が限界です。
早すぎても遅すぎても話になりません、ちょうどその時でなければ記憶の消すことが出来ないんです。
あの子の方も、予兆となる強烈な頭痛が現れていなければ良いのですが。」
神裂は明らかに顔色が悪くなっている上条を見て一瞬悲しい表情になる。
だが、すぐに魔術師のインデックスの仲間としての顔に戻る。
「私達に彼女を傷つける意思はありません、むしろ私達でなければ彼女を救う事は出来ない。
引き渡してくれませんか、私が魔法名を名乗る前に。」
上条は目の前にインデックスの顔が浮かんだような気がして奥歯を噛むように目を閉じる。
「それに記憶を消してしまえば彼女は貴方の事も覚えていませんよ。
今の私達を射抜く目を見れば分かるでしょう?
貴方がどれだけ彼女を想った所で、目覚めた彼女にはあなたの事は「一〇万三〇〇〇冊を追う天敵」にしか映らないはずです。」
神裂の言葉を聞いた上条はわずかな違和感を捉え、その違和感が一瞬で爆発する。
「ふざけんな!アイツが覚えているか覚えてないかなんて関係あるか!!
俺はインデックスの仲間なんだ、今でもこれからもアイツの味方であり続けるって決めたんだ!!
それに何か変だと思ったぜ、アイツが「忘れてる」だけなら、全部説明して誤解を解きゃ良いだけの話だろ?
何で誤解のままにしてんだよ、何で敵として追いましてんだよ!
テメェらなに勝手に見限ってんだよ!!
アイツの気持ちを何だと・・・・」
「うるっせえんだよ、ど素人が!!!」
「「!?」」
上条の言葉に神裂は感情を剥き出しにして叫ぶとそのまま上条に突っ込んでいく。
上条を守っていた弦結界は上条の手で破壊されている、麻生はすぐに弦を口にくわえてもう一度結界を張ろうとした。
しかし、神裂の動きが止まり突然麻生の方に振り返る。
「七閃!!」
先ほどとは比べ物にならないくらいの七つの斬撃の勢いが麻生に向かってくる。
麻生は神裂は上条を狙っている、と思い上条に結界を張ろうとしてたので完璧に不意をつかれる。
(まずい、結界が間に合わん。)
何とか刀で七閃を受け止めることが出来たが、その威力は凄まじく刀で受け止めているにも関わらず、そのまま後ろのビルの壁まで吹き飛んでしまう。
「麻生!!!」
壁にぶつかり砂煙は舞い上がり麻生の安否が分からないでいる。
その一瞬で神裂は上条に近づき容赦なく上条の脇腹を蹴り飛ばされ、そのまま二、三メートル吹き飛んでしまう。
腹の中から口の外へ、一気に血の味が溢れ、神裂は脚力だけで真上に三メートルも飛びあがりそのまま七天七刀の鞘で上条の腕を潰す。
「私達だって頑張ったよ、頑張ったんですよ!
春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!
思い出を作っても忘れないようにたった一つの約束をして日記や写真を胸に抱かせて!!」
叫びながら電気ミシンの針のように鞘の先端が連続して降り注ぎ、腕、脚、胸に顔に次々と降り注ぐ鈍器が身体のあちこちを潰していく。
「それでもダメだったんですよ。
日記を見ても、アルバムの写真を眺めても・・・あの子はね、ゴメンなさいって言うんですよ。
それでも、一から思い出を作り直しても、何度繰り返しても、家族も、親友も、恋人も、全てゼロに還る。
私達は・・・もう耐えられません。
これ以上、彼女の笑顔を見続けるなんて、不可能です。」
何度も何度も味わっていく地獄のような在り方。
死ぬほどの不幸と、直後にそれを忘れて再び決められた不幸へ走っていく無残な姿。
だから神裂達は残酷な幸運を与えるよりできうる限り不幸を軽減する方法を選んだ。
初めからインデックスが失うべき「思い出」を持たなければ記憶を失う時のショックも減る、だから親友を捨てて「敵」である事を認めた。
しかし上条は奥歯を噛み締めて言った。
「ふ、ざけんな・・・・」
それに続かのように別の声も聞こえた。
「ああ、本当にふざけるな。」
その瞬間、神裂に向かって衝撃波が地面を抉りながら向かってくる。
神裂はそれを後ろに下がる事で避けるが、地面を抉った衝撃波はまるで上条を守るかのように境界線を引く。
衝撃波を放たれた所を見ると麻生が神裂を睨みながら歩いていた。
「何が彼女の笑顔を見続けるなんて不可能です、だ。
お前達は自分の無力さをインデックスの完全記憶能力のせいにして、その無力をインデックスに押し付けているだけだ。
結局はインデックスの事を考えていない、自分の事しか考えていない。」
麻生はそう言いながら神裂に近づき、神裂は麻生が近づくとそれに合わせるように後ろに下がっていく。
「何より辛かったのはインデックスだったはずだ。
自分達の思い出を見せられそれでも何も覚えてなくて、それを見て悲しむお前達を見てインデックスはもっと辛かった筈だ。」
麻生はあの時、インデックスの記憶の覗いた時に確かに見えた。
インデックスは覚えてなくても神裂達の悲しむ顔を見て辛い思いを感じている事を。
「あなたに・・・あなたに私達の気持ちが分かるっていうのですか!!!」
神裂の悲痛な叫びに麻生は正直に答える。
「分かる訳ないだろう。
俺はお前達みたいにそんな経験は一度もない。
けど、これだけは言える。
自分達に力が無いからってインデックスのせいにするな。
お前達は敵になる事を選んだわけじゃない、敵になる事でインデックスから逃げたんだ。
そんな小さな友情で親友なんて言葉を口にするな。」
「だまれぇ!!!!」
神裂は納刀の七天七刀を一気に抜刀して麻生に斬りかかる。
唯閃。
彼女が持つ技の中で間違いなく最強の威力を誇る、抜刀術。
麻生は刀を斜めに傾けそれを前に出し、右手で刀身を支え刀で道を作り神裂の唯閃を上に受け流す。
そして、神裂の懐に大きな隙が生まれる。
「ッ!?」
「そんな乱れた剣で俺を殺せると思ったか?」
そして、両手で刀を持ち右下から左上に斬りつけようとするが、神裂の身体に触れる直前に刀身が砕け散る。
刀が唯閃の威力に耐えられなかったのだ。
だが、二人の勝敗は今ので決まった。
神裂はそのまま後ろに尻餅をついて麻生は折れた刀を一瞬見て、そのまま上条の所に行って肩を担ぐ。
先ほどの神裂に身体を鞘で殴られたのか既に意識は無くなっていた。
そのまま小萌先生のアパートまで送る。
「私達は・・・私はどうすればよかったのですか。」
自分に聞いたのか麻生に聞いたのかどちらか分からない、だが麻生は答えた。
「自分でその答えを探せ。
俺からもらった答えを聞いた所で何の意味もないからな。」
麻生は振り返らずに神裂に言い、刻印の結界から出るのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第15話
上条を肩で担ぎながら小萌先生の家に目指すがある事に気づく。
(そういえば、先生の家ってどこだ?)
歩いていた足が止まり考える。
此処は第七学区でも結構な広さがあるので、その中で小萌先生の家を特定するなど非常に時間がかかる。
上条の記憶を覗こうにも幻想殺しが邪魔をして記憶を覗けない。
麻生は携帯を開け電話帳を見るとそこにある人物の名前が載っていた。
黄泉川愛穂。
彼女は小萌先生と同じ学校の教師なので、もしかしたら住所を知っているかもしれないと麻生は考え電話をかける。
「お前から電話をかけてくるなんて珍しいじゃん。」
ワンコールで出たので暇を持て余しているのだな、と麻生は思う。
しかも心なしか楽しそうな声で出たので何かいい事があったのか、と考えるが今はその事を聞いている場合ではないと思い用件だけ話す。
「愛穂、小萌先生の家の住所を知っているか?」
「・・・知っているけど知ってどうするの?」
さっきまで楽しそうな声だったのに、一気に不機嫌そうな声で答えるので麻生は本当に何があったんだ、と真剣に考える。
「いや、少しあの先生に届け物があってな。」
「それって授業の提出物とか何か?」
全然違うが事情を説明してもややこしくなりそうなので適当に答える。
「そうだ、いざ渡そうとしても住所が知らなくて困っているんだ。」
「なら、全然オッケーじゃん。」
さっきまでの不機嫌な雰囲気はどこにいったのか、住所を教えて貰い麻生は通話をきる。
きり際に愛穂は何か言っていたが、今は長話している暇はないのですぐにきる。
愛穂に教えて貰った住所を携帯のGPSを使い場所を特定してそこに向かう。
そこには超ボロい木造二階建てのアパートで通路に洗濯機に置いてあり、見た限り風呂場はないようだ。
本当に此処に住んでいるのか、と麻生は疑ったが二階の一室のドアが開くとそこから小萌先生がちょうど出てきた。
「あれ、麻生ちゃん?
どうして先生の所にって、上条ちゃんどうしたんですか!?」
肩に担いでいた上条を見て慌ててこちらに走ってくる。
麻生は詳しい事は話さなかったが、傷の具合を説明すると小萌先生に預けてこの場から去ろうとする。
「麻生ちゃんはどこに行くのですか?」
「用が済んだから寮に帰るんですよ。
此処まで運んできたのはアフターサービスだが。」
そう言って麻生は去っていき、ある程度歩いて周りに誰も居ない事を確認すると自分の右腕を確認する。
麻生の右手は青く腫れ上がっていた。
あの時、神裂の唯閃を受け止めた時その衝撃を直に伝わったからである。
(さすがに身体強化なしで厳しかったな。)
そう思いながら能力を発動して全身の怪我や痛みを治していく。
麻生の能力である「星」は一日三〇分しか発動できない。
麻生は能力がきれたり使えなくなったりした時の事を考え、戦闘経験や武術経験など戦闘に役立ちそうな経験を身体に刻み込む事で身体能力を上げている。
しかし、身体強化や自身の眼を変換させるといった能力の使用は身体に刻み込んで、常時発動する訳ではなく一時的に発動しているだけに過ぎない。
これが発動している間は能力使用時間は無くなっていく。
なら常時発動するようにして時間を節約すればいいと思うがそういう訳にはいかないのだ。
まず、麻生の身体能力はこれ以上上げることが出来ない。
上げるとなると星のバックアップがどうしても必要なのだが、もし身体強化を常時発動状態にすれば麻生の身体はその強化の負担に耐えられなくなり、動くおろか死んでしまう事もあるのだ。
ゆえに星のバックアップなしでは発動することが出来ない。
能力使用時間がきれればその瞬間、麻生は死んでしまうと同じ事なのだ。
魔眼などは日常生活に支障が出る可能性があるので常時発動型にしていない。
あの時の神裂は怒りで刀の軌道など先読みすることができ、唯閃に至っては本来の力は出ていなかったので身体強化なしで何とか迎撃することが出来た。
もし、神裂が冷静な状態なら強化なしで勝つ事など不可能なのだ。
なぜ、不可能なのか。
理由は簡単だ。
麻生が人間だからである。
この世界には強さの基準ができている。
天使は神に勝てない、人間は天使に勝てない、などといった強さの順列がこの世界にあるのだ。
聖人は人間より一段階上の存在なので、それらを勝つにはそれ相応の準備や能力などが必要になるのだ。
麻生が星のバックアップなしで身体強化できない理由もこれに該当する。
これ以上強化すれば、それは人間としての領域を超えてしまう事になる。
そうなれば、麻生恭介という人間は人間ではなくなり死を迎えるのだ。
これらを行うには麻生自身が人間をやめ、それ以上の存在になる他ない。
それらは存在改竄というもの。
改竄をすれば、この世界での麻生恭介は消滅し、誰の記憶にも残る事はない。
もっとも、麻生はそんな事をするつもりは毛頭ないのだが。
それから三日後。
三日経っても上条から何も連絡はなく自分の力で解決したのか、と思ったが自分でその考えを否定する。
(あの神裂の話を上条はほとんど信じているようだった。
だったら、あの疑問点に気づいていないだろう。)
神裂は三日後にインデックスの記憶を消すと言った。
もし、上条がそれを否定しても神裂とステイルと協力して、力ずくでもインデックスを回収して記憶を消すだろう。
あの時、神裂は麻生に答えを聞いたが麻生は答えなかった。
なら、今の神裂に残されている道はインデックスの敵になり続けること。
麻生は三日前から散歩に出る事はなく、ただ時計をずっと見ていた。
もうすぐ夜の十二時になる。
まるで上条からの連絡を待っているかのようだった。
上条は朝に一度目が覚めてその時、ステイルと神裂は小萌先生の家にやってきた。
その時は襲撃に来たのではなく様子を見に来たらしいがすぐに立ち去って行った。
そして、再び眠ってしまい気づけば夜になっていた。
神裂から電話がかかり最後の警告を言いにきたが、上条は最後まで足掻いてみせるとお前達を潰してみせると言った。
そして、何か方法はないか考えていて小萌先生に電話して脳について聞こうとした時、小萌先生の言葉を聞いて上条は凍りつく。
「だって、もう夜の十二時ですよ?」
えっ?、と上条が聞き返してギチギチとインデックスの方に向く。
インデックスは投げ出された手足はピクリとも動かないでいた。
そのまま受話器を取り落としてしまいカンカン、とアパートの通路を歩く足音が聞こえた。
最後に神裂が電話で言った言葉を思い出す。
「それでは魔術師は今晩零時に舞い降ります。
残り時間はわずかですが、最後に素敵な悪あがきを。」
上条がその言葉を思い出した瞬間、アパートのドアが勢い良く外から蹴破られた。
そこには二人の魔術師が立っていた。
土足のままステイルは部屋に入ると呆然と立ち尽くしている上条を片手で突き飛ばし、ぐったりと手足を投げ出したまま動かないインデックスの側にしゃがみ込んで、何かを口の中で呟いている。
「神裂、手伝え。
この子の記憶を殺し尽くすぞ。」
その言葉に上条の胸の一番脆い部分に刺さったような気がした。
あの時上条は神裂にこう言った。
本当にインデックスの為だけを想って行動するなら、記憶を殺す事をためらうな、と。
何度記憶を失おうが、そのたびにもっと幸せな、もっと面白い思い出を与えてあげれば、彼女だって記憶をなくし「次の一年」を迎える事を楽しみにする事だって出来る筈だ、と。
だけど、それはもう他に方法がないと諦めきった後の妥協案のはずじゃなかったのか?
上条は知らず知らずの内に爪が砕けるほど拳を強く握り締めていた。
そして顔を上げて魔術師たちに言った。
「待てよ、待ってくれ!
もう少しなんだ、あと少しで分かるんだ!
この学園都市には二三〇万もの能力者がいる、それらを統べる研究機関だって一〇〇〇以上ある。
読心能力、洗脳能力、念話能力に思念使い!
「心を操る能力者」も「心の開発をする研究所」もゴロゴロ転がっているんだ!
そういう所に頼っていけば、もう最悪の魔術なんかに頼らなくっても済むかもしれねーんだよ!」
「・・・・・」
「お前達だってこんな方法取りたかねーんだろ?
心の底の底じゃ他の方法はありませんかってお祈りしてんだろ!
だったら少し待ってくれ!
俺が必ず誰もが笑って誰もが幸福な結末を探し出してみせるから!
だから・・・!?」
「・・・・・」
ステイル=マズヌスは一言も告げない。
上条もどうして自分がそこまでするか分からないがあの笑顔が、あの仕草が、もう二度と自分に向けられる事がないと、この一週間の思い出が他人の手によってリセットボタンを押すように軽々と真っ白に消されてしまうといちばん優しい部分が、痛みを発した。
そして沈黙が支配する。
上条は恐る恐る魔術師の顔を見る。
「言いたい事はそれだけか。出来損ないの独善者が。」
そうして、ルーンの魔術師、ステイル=マグヌスが放った言葉はそれだけだった。
「見ろ。」
ステイルは何かを指さしたが上条がそちらへ視線を移す前に、ステイルは勢い良く上条の髪の毛を掴んだ。
「見ろ!!君はこの子前で同じ台詞が言えるのか?
こんな死人の一秒前みたいな人間に!
激痛でもう目が開ける事もできない病人に!
ちょっと試したい事があるからそのまま待ってろなんて言えるのか!!」
インデックスの指がもぞもぞと動いていた。
動かない手を必死に動かし上条の顔に触れようとしている。
まるで魔術師に髪を掴まれた上条の事を、必死に守ろうとしている。
「だったら君はもう人間じゃない!
今のこの子を前に、試した事もない薬を打って顔も名前も分からない医者どもにこの子の身体を好き勝手にいじらせ、薬漬けにする事を良しとするなんて、そんなものは人間の考えじゃない!!
答えろ、能力者。
君はまだ人間か、それとも人間を捨てたバケモノなのか!?」
上条は答えられない。
ステイルはポケットの中からほんの小さな十字架のついたネックレスを取り出した。
「これはあの子の記憶を殺すのに必要な道具だ。
推察通り、「魔術」の一品だよ。
君の右手で触れれば、僕の「魔女狩りの王」と同様、触れるだけで力を失うはずだ。
だが、消せるか、能力者?
この子の前で、これだけ苦しんでいる女の子の前で、取り上げることが出来るのか!
そんなに自分の力を信じているのなら消してみろ、能力者気取りの異常者が!」
上条は、見る。
インデックスの言う通り、これさえ奪ってしまえばインデックスの記憶の消去を止められる。
上条は震える右手を岩のように硬く握りしめて、けれど、できなかった。
この魔術は「とりあえず」安全かつ確実にインデックスを救う事ができる唯一の方法だ。
これだけ苦しんでいて、これだけ我慢を続けてきた女の子の前で、それを取り上げるだなんて、できるはずがなかった。
上条は本棚に背中を預けて呆然という。
「これだけの右手を持っていて、神様の奇跡でも殺せるくせに。
どうして、たった一人の・・・・苦しんでいる女の子を助ける事もできねーのかな。」
笑っていた、ただ己の無力さを噛み締めて。
「儀式を行うのに午前零時十五分まで、一〇分ほど時間が余っていますね。」
突然、神裂が言い出すとステイルは信じられないものでも見るかのように、ステイルは神裂を睨みつける。
「私達が初めてあの子の記憶を消すと誓った夜は、一晩中あの子の側で泣きじゃくっていました。
そうでしょう、ステイル?」
「だ、だが、今のコイツは何をするか分からないんだ。
僕達が目を離した隙に心中でも図られたらどうする?」
「それならさっさと十字架を触れていると思いませんか?
彼がまだ「人間」だと確信していたからこそ、貴方も偽物ではなく本物の十字架を使って試したのでしょう?」
「しかし・・・・」
「どの道、時が満ちるまで儀式は行えません。
ここで彼の未練を残しておけば、儀式の途中で妨害に入る危険性が残りますよ、ステイル。」
ステイルは奥歯を噛みしめて獣のように上条の喉を食い破ろうとする己を抑えつけて。
「一〇分間だ、良いな!?」
きびすを返してアパートを出て、神裂も何も言わずにステイルに続いて部屋を出たがその目はとても辛そうに笑っていた。
インデックスが命を削って作った一〇分間を、一体どうすればいいか上条は全く分からなかった。
「けどさ、こんな最悪な終わり方って、ないよな。」
上条は何もできない自分がひどく悔しかった。
インデックスの脳の八五%を占める一〇万三〇〇〇冊の知識をどうにかする事も。
残る十五%の「思い出」も守り抜く事だって。
「・・・・あれ?」
そこまで絶望的な考えを巡らされていた上条はある違和感を感じ取った。
その違和感は疑問に変わると上条は部屋の隅にある黒電話に飛びつくとある電話番号にかける。
小萌先生の携帯ではなく麻生の携帯電話に。
十二時五分になった。
本人は気づいていないようだが麻生は少し残念そうな顔をしていた。
上条があんな幻想に負けた事が残念だと思っているのかどうかはそれは本人でも分からない。
(何を俺は期待していたんだ。
元々、これは全くの他人が引き起こした騒動だ。
俺がわざわざ関わる必要もない。)
そう思いひと眠りでもしようとした時、麻生の携帯が部屋中に鳴り響く。
画面には知らない電話番号が表示されていたが麻生は通話ボタンを押す。
「麻生!!」
「誰かと思えばお前か。」
「麻生、インデックスの完全記憶能力の事について聞きたい事がある。」
麻生は上条がインデックスの記憶の矛盾点に気づいたのだと考える。
「どうやらお前も気づいたみたいだな。」
「お前もって、麻生はもう気づいていたのか!?」
「ああ、きっちり八五%って数字が出るのは少しおかしいと思った。
あいつらは科学の力を使ってその数字を出しわけでもない筈だ。
何より、一〇万三〇〇〇冊の魔道書が脳の85%を使われていたらインデックスは既に死んでいる。」
「何でそんな大事な事をあの時に話さなかったんだよ!!」
上条の問いかけに少しの間沈黙するが麻生は答える。
「彼女はお前が救わないといけない人間だ。」
「え・・・」
「確かにあの時に記憶の事を話せば今頃全て丸く治まっていただろう。
けどな、それは俺の力で解決しただけであってお前の力じゃない。
お前はインデックスを守ると決めたんだろう?
なら、お前が救え。」
麻生の言葉に上条は一瞬、言葉を失ったがその言葉を噛み締めるように言う。
「ああ、インデックスは俺が守る。」
それを聞いた麻生は、少しだけため息を吐いて説明を始めた。
「とりあえず、記憶について簡単に説明してやろう。
人間の脳の中は色々記憶する為にいくつかの引き出しがあるんだ。
言葉や知識を司る「意味記憶」、運動の慣れなどを司る「手続記憶」、思い出を司る「エピソード記憶」、といった感じに色々役割が決められている。
インデックスが覚えた一〇万三〇〇〇冊はこの「意味記憶」に記憶されているはずだ。
どんなに知識など覚えても「エピソード記憶」を圧迫する事はない。
そもそも人間は一四〇年分を記憶する事が可能だ。」
「それじゃああいつらは・・・・」
「教会側から騙されていたんだろう。
インデックスに首輪をつける事であの二人は反逆の可能性を潰していたんだ。」
上条の息が詰まるのが電話越しの麻生まで伝わるが、上条は次の瞬間には少しだけだが笑っていた。
先ほどまで絶望だった状況にようやく希望の光が見えてきたのだ。
「さて、俺の説明はここまでだ。
インデックスは何かしらの魔術で脳を圧迫されているはずだ。
その魔術の発信源をお前の右手で潰せ。」
「分かった。
麻生、本当に助かった。」
「礼を言うならインデックスを助けてからにしてくれ。」
麻生は少しだけ笑みを浮かべながら言った。
「さて、見させてもらうか。
幻想を殺す事しかできないお前の右手が人一人を救くえるのかどうか。
まぁ、何かあったらフォローくらいしてやるよ。」
そう言って麻生は通話をきると服を着替えて小萌のアパートに向かう。
本人は気づいていないだろうが、その口元は少しだけ笑みを浮かべていた。
なぜ、笑みを浮かべていたのかその理由は誰にも分からない。
「行け、能力者!!」
上条に向かってインデックスの「竜王の吐息」をステイルの「魔女狩りの王」が上条を守るように両手を広げて真正面から盾になる。
インデックスの脳を圧迫している魔術はインデックスの口の中にあった。
それを上条の右手が触れるとインデックスの両目は真紅の魔方陣が浮かび、上条当麻を侵入者だと決め破壊するとインデックスは言った。
その騒ぎにステイルと神裂がやってきて、インデックスが魔術を使っている事に驚いていた.
上条は騙されていた事などを説明すると、ステイルと神裂はインデックスを救えるのならと協力してくれている。
「竜王の吐息」をステイルの「魔女狩りの王」が防いでいる内に一気に近づきインデックスを救う、そう考えた時だった。
「ダメです!!上!!」
神裂の叫びに上条は足を止めず上を見上げるとそこには何枚もの光の羽がゆっくりと舞い降りていた。
上条は魔術の事は何も知らないがあれに触れてしまえば大変なことになることぐらい分かった。
インデックスはもうすぐ手を伸ばせば顔の前にある魔方陣に触れられる、だがあの光の羽は危険だ。
上条の右手ならあの光の羽を破壊することが出来るがそれでは時間がかかりすぎる。
その間にインデックスは「魔女狩りの王」の対策魔術を施したのかみるみる「魔女狩りの王」の再生速度が落ちていく。
このまま時間をかければインデックスの体制が立て直される恐れがあり、さらに「魔女狩りの王」がそれまで保たない。
だが、そんな事上条からすれば答えは決まっていた。
この右手は自分を守る為に振っているのではない。
たった一人の女の子を助ける為に魔術師と戦っていたんだから。
(この物語が神様の奇跡の通りに動いてるってんなら、まずはその幻想をぶち殺す!!)
上条は右手を振り下ろしその先にある亀裂を生み出す魔方陣に触れようとした。
だがその右手よりも早く上条の頭に一枚の光の羽が舞い降りた。
金槌で頭を殴られたように全身の指先一本に至るまでたった一撃で全ての力を失った。
(ちくしょう・・・おれは・・・だれもすく・・・え・・・)
そして上条は床に倒れかけ同時に「魔女狩りの王」の盾が破壊され「竜王の吐息」が上条に襲いかかる。
「能力者!!!」
ステイルがそう叫んだ時だった。
「いや、お前はこの子を救ったよ。」
ステイルと神裂の間から「竜王の吐息」に向かって、何かが飛んでいきそれがぶつかる。
それは何の変哲もない十字架だった。
「十字架を元に集まれ四大の元素よ。
汝ならはあらゆる物から守る盾となれ。」
ステイルと神裂は聞き覚えのある声が、後ろから聞こえたと思い後ろを振り向くと麻生恭介が立っていた。
十字架の先端には赤、青、緑、茶色の魔力の塊が集まるとそれを基点に魔方陣が描かれ「竜王の吐息」を防いでいる。
そして麻生は二人の間を抜けて上条の側に行く。
「お前はこの子を救ったよ、お前が俺に電話しなければ此処には来なかった。
出来れば当麻の手で助けてほしかったが、後処理くらい俺がやってやるよ。」
既に眠るように気絶している上条に言い聞かせる。
「「書庫」内の一〇万三〇〇〇冊により、障壁の魔術の術式を逆算・・・失敗。
それに一番近い魔術を検索・・・成功。
障壁に対して最も有効な魔術の組み込みが完了しました。
これより、新たに現れた侵入者を破壊します。」
先ほどまで防いでいた障壁が突然亀裂が走る。
麻生は右手を障壁に向け亀裂を復元していくが、それよりも早く亀裂が走っていく。
「君はどうして此処に・・・・」
「当麻がこの子を救えるかどうか興味があったから来てみたが、こんな事になっているとはな。
さて、魔術師。」
「竜王の吐息」の勢いが右手まで来ているのか麻生の右手がどんどん傷ついていくが、それを気にせず二人に話しかける。
「俺は上条のフォローするつもりだったんだが、具体的に何をすればいいか分からない。
インデックスを殺せばいいのか?
それともこのまま放置すればいいのか?
俺はどうすればいいか分からない。
だからお前達が決めろ。
彼女をどうして欲しいんだ?
お前達の思いを言葉にして言ってみろ。」
麻生の問いかけにステイルと神裂は一瞬、黙り込むが声を出したのは神裂だった。
「彼女を・・・助けてください。」
その言葉にステイルも続く。
「もし君が彼女を救えるのなら頼む。
もう僕では彼女を救う事が出来ない・・・だから・・・」
「お前は一つ勘違いしている。」
予想外の麻生の返事に二人は唖然とする。
「インデックスは上条と出会った時から既に救われているんだよ。」
その言葉と同時に障壁が破壊され「竜王の吐息」が麻生に襲いかかる。
だが、麻生は「竜王の吐息」の周りの空間に干渉して、壁ではなく歪める事で「竜王の吐息」の軌道を斜め上に逸らす。
「竜王の吐息」ほどの魔術となると常に麻生が空間の歪みに干渉して、復元し続けなければならないが麻生にはインデックスがどう対応するか分かっていた。
「警告、「聖ジョージの聖域」の軌道の修正・・・失敗。
これより術式を変え、新たな迎撃魔術を組み上げます。」
すると、「竜王の吐息」は消滅する。
麻生はあのインデックスはあらゆる事に完璧に対処してくると考え、もし修正不可能だったらすぐに新しい魔術を組み上げると考えた。
あのまま「竜王の吐息」を続けられていたら、麻生は常に空間の歪みの復元をしなければならなかったので、そのまま能力使用時間が終わり麻生の敗北は確定していた。
だが、「竜王の吐息」を何とか退けたがこのまま時間をかけるのはまずい、と麻生は思う。
(あいつの魔道書の中には星について書かれた魔道書があるかもしれない。
そう考えると俺の能力が星の力だと分かれば俺は負ける」
だから、麻生は新しい術式を組み上げる前に勝負をつけると、考えインデックスに近づくが一歩踏み出した瞬間、麻生の足元に魔方陣が突然現れる。
(これは重力を操り俺の動きを制限させる魔術か・・・だが。)
その魔術は麻生自身に干渉してくると同じ事。
その拘束を無力化にして前に進むが、既にインデックスは迎撃魔術を組み上げている。
インデックスの周りに光の球体が何個も浮かんでいた。
麻生は足を止めて、赤い槍を具現化させ身体を強化させる。
槍の名前は破魔の紅薔薇。
この槍で触れた時、あらゆる魔力的効果を打ち消す槍である。
そして光の球体が次々と麻生に向かって放たれるが、麻生は破魔の紅薔薇を巧みに動かしその球体を次々と打ち消していく。
そして、一瞬の隙をついて麻生は何かをインデックスに向かって投げる。
それは宝石だった。
「光れ」
それに応えるかのように宝石は輝きインデックスの視覚を一時的に封じる。
「警告、視覚に影響、これより術式を組み換え索敵魔術と聖域の防壁を展開。」
インデックスは周囲に索敵魔術を広げ敵の居場所を確認する。
だが、確認できたのは三人だけだった。
そして、防壁を破壊されると同時にインデックスに何かが刺さる。
「警、こく・・・・「首輪」致命的な、破壊・・・・再生、不可・・・消・・・」
インデックスの全ての声が消える。
ステイルと神裂は先ほどの光で目を奪われていたが、それが治ると麻生の手には先ほどの槍と刀身がギザギザに曲がっている短剣を持っていて、足元にはインデックスが気絶していた。
麻生が持っていた短剣は破戒すべき全ての苻。
あらゆる魔術による生成物を初期化する短剣である。
索敵魔術に反応したのはステイルと神裂と上条だけだった。
麻生は自分に結界を張る事で自分の存在を隠し、索敵結界を潜り抜けた。
聖域は破魔の紅薔薇で破壊して、最後に破戒すべき全ての苻で首輪を破壊したのだ。
ステイルと神裂はインデックスに駆け寄り、インデックスが無事である事を確認するとホッ、と胸を撫で下ろした。
麻生はある医者に電話をして救急車を呼ぶのだった。
朝になり麻生は右手にリンゴを一つだけ持ちながら病院の中にいた。
そして、ある病室に向かって歩いていると聞き覚えのある絶叫が聞こえ、その病室からインデックスが傍から見ても分かるくらい怒った足取りで出ていく。
インデックスと入れ替わるように麻生は病室に入るとそこにはカエル顔の医者と上条がいて、上条は一瞬驚くがすぐに表情を変え話しかける。
「よ、よう、・・・えっと。」
「無理に馴れ馴れしく話さなくてもいい。
どうせ、何も覚えていないだろう。」
上条は自分が記憶消失である事を、なぜこの男が知っているのか分からず驚いている。
上条はあの光の羽を頭に直撃したせいで、脳細胞が破壊され記憶を失ってしまったのだ。
麻生はそこの先生に教えて貰ったと話す。
「そうだったのか。
それで名前は?
俺とどういった関係?」
「名前は麻生恭介、高校もクラスも一緒で学生寮も隣の部屋だ。
ただそれだけの関係だ。」
麻生はリンゴの皮をナイフ(どこから出てきたのか上条には分からない)で剥きながら答える。
「それじゃあ俺と友達なのか。」
その言葉を聞いてピタッと麻生の手の動きが止まる。
「なぜそんな答えに辿りつく。」
「だってクラスも一緒で部屋も隣なんだろう?
それでわざわざ見舞いに来てくれるって事は友達じゃあないのか?」
「これはお前が記憶を本当に失っているのか確かめに来ただけだ。
リンゴはそのついでだ。
お前の為じゃない、自分の為に来ただけだ。」
麻生の答えを聞いて上条は少しだけ考えて言った。
「お前ってもしかしてツンデレなのか?」
それを言った瞬間、麻生はものすごい目つきをして上条を睨む。
そして、中途半端に皮を剥いたリンゴを上条の口の中に強引に押し込みそのまま病室を出ていく。
上条は思った、こいつは一生デレる事はないツンデレだと。
麻生は来るんじゃなかったと後悔しながら病院を出る。
すると、前にはステイルと神裂が立っていたが麻生は特に声をかける事無く、二人の間を通り抜けていく。
「君はいったい何者なんだい?」
ステイルが振り返って改めて麻生に聞く。
インデックスの聖域を破壊したのといい、首輪を破壊したのといい、麻生は普通の人間には思えない。
だからこそ、ステイルは麻生に問いただしたのだろう。
麻生は振り返り少しだけ笑みを浮かべて言った。
「何てことない通りすがりの一般人Aだ。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第16話
麻生恭介は今まで普通の生活をしていた。
能力はとてつもない能力で過去に凄まじい物を見せられたこと以外は至って普通の学生である。
高校に入学する前は面倒事など一度も出会わなかったのだが・・・・
「・・・・・・」
麻生の目の前に人が倒れている。
正確には散歩をしていた時、相手の方からぶつかりその衝撃が原因なのかふらふらと崩れ落ちてしまった。
これが普通の人なら麻生も手を差し伸べたかもしれないが、倒れている人の服装が巫女服なのだ。
性別は女性で髪は腰のあたりまで伸びていてサラサラとした黒色だ。
麻生はこの女性からとてつもなく面倒な匂いを感じ取ったので、一秒でも早く此処から逃げ出したかったが周りの視線がそれを許さなかった。
傍から見たら麻生がぶつかったせいで、女性は倒れたと勘違いされているようだ。
本当は全く逆なのだが。
とりあえず、麻生は女性に意識があるか聞いてみる。
「おい、大丈夫か?」
声をかけるとうう、と返事ではないが声は聞こえたのでとりあえず生きてはいるようだ。
すると、顔を麻生の方に向けて一言発した。
「お腹減った。」
「・・・・・・・」
麻生は逃げ出したいと心の底から思うのだった。
何でもこの女性は腹が減っていてその時、運悪く麻生とぶつかりそれが駄目だしになり動けなくなったらしい。
麻生はこの女性を置いてどこかへ行きたかったが、そうすることも出来ず結局近くの近くのファーストフード店に入る事にした。
麻生は無能力者なので学園都市からは最低限生活するくらいのお金しか振り込まれないが、麻生の親から仕送りが贈られてくるので普通の学生よりお金は持っている。
それに麻生はそのお金はほとんど使わないのでお金が有り余っている。
「何でも。頼んでいい?」
「一応、奢られる立場だって事を考えろよ。」
麻生がそう注意したのに一番高いセットを頼む。
麻生は以前の自分なら周りの視線とか全く気にしなかったのにと、自分でもよく分からない変化に少し戸惑っている。
この暑さなのか店内は客がとても多く見た限り席は空いてなさそうに見えたが、一つだけ空いていたので麻生と女性が向かい合わせになるように座る。
女性はいただきます、と言ってトレイにあるバーガーを食べ麻生は窓の外を眺めている。
「貴方も食べないの?」
「そんな見るからに栄養が偏っている食べ物は食わない。」
「その栄養が偏っている食べ物を私は食べている。
食欲が無くなったから別の物頼む。」
どうやらこの女性はまだ食い足りないのか女性は右手を差し出しお金を要求してくる。
麻生は財布からお金を渡すとそのまま女性はレジに向かって歩いていく。
麻生は今の内にどこかに逃げようかと考えた時だった。
「あれ、恭介じゃねぇか。」
後ろから声がしたので振り返ると上条とインデックスと青髪ピアスの三人が立っていた。
インデックスが持っているトレイの上にシェイクを三つ乗せているのを見て、席が空いてないので座れないのだろうと麻生は考える。
「相席空いているみたいだし、座ってもいいか?」
上条がインデックスの顔色を窺いながら聞いてきて目で座らせてくれと訴えてくる。
麻生は上条達が座ればあの女性が座れなくなると考えたが、ある一つの名案が浮かぶ。
「ちょうどよかった、俺はこれから此処を出ようとしてたから席を譲ってやるよ。」
それを聞くと本当に心から安堵した上条の表情を見て、記憶を失ってもインデックスに振り回されるのは変わらないんだなと思い、席を立ち去り際に上条にしか聞こえない声で言った。
「後は頼んだぞ。」
上条はへ?と聞き返したがその質問に答える前に麻生は素早く店を出て行った。
麻生の言葉の意味がよく分からずそのまま席に座ると三人が座っていた席に一人の巫女服の女性が近づいてきた。
麻生は店を出てからすぐに学生寮に戻った。
これ以上散歩をしていたらまた面倒な事に巻き込まれると直感したからだ。
麻生は今度は近場ではなくもっと遠い所を散歩しようと考えていた時、部屋のインターホンが鳴り響く。
不幸はどこにいてもやってくるのか、と半分諦めつつドアに近づき開ける。
ドアを開けると長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、腰のウエスタンベルトには七天七刀という格好をしているよく見覚えのある人物が立っていた。
「貴方に頼み事があって参りました。」
神裂火織は一言そう告げた。
神裂を部屋に入れる。
麻生はベットに腰掛け、神裂は床に正座して座る。
「それで前までは敵として戦っていた俺にどんな頼み事を?」
「貴方はもう敵ではありません。
貴方は彼女、インデックスを救ってくれた恩人です。」
「救ったのは俺じゃなくて当麻だけどな。」
もちろん少年にも感謝しています、と付け加えて言う。
話が進まないので一気に本題を聞く。
「それで俺にどんな頼み事を?」
「貴方は三沢塾と言う名に聞き覚えはありませんか?」
「確かシェア一位を誇る進学予備校だったな。
それがどうかしたのか?」
学園都市で言う「進学予備校」の定義というのはそれに一工夫加えたもので、本当は大学に受かるだけの実力があるのに、さらに上の大学へ進むためにわざと浪人して一年間受験勉強しよう、という人間の為に作られた予備校だったりする。
さらにこの三沢塾は普通の高校生も通う「現役予備校」の二つの顔を持つらしい。
神裂は封筒を取り出し中身を見せてくる。
その中に写真と三沢塾について書かれた資料が入っていた。
その写真に写っていたのはあの巫女服を着た女性だった。
「その三沢塾に写真の女性が監禁されています。
貴方への頼み事はその女性を助け出す事をお願いに参りました。」
資料を見ると三沢塾の見取り図や電気料金表や出入りする人間のチェックリストなど様々だった。
しかし、どれもおかしな点が多々あり何かあると言わんばかりの資料だった。
「三沢塾は科学崇拝を軸にした新興宗教と化しています。
教えについては何も分かりませんがそもそも三沢塾は潰れています。
需要なのはそこではありません。
端的に言うと三沢塾は本物の魔術師に・・・正確に言うとチューリッヒ派の錬金術師に乗っ取られているという事です。」
「どうして錬金術師は三沢塾を乗っ取ったんだ?」
「錬金術師のそもそもの目的は「三沢塾」に捕えられていた吸血殺しです。」
麻生は神裂の口から吸血殺しと言う言葉を聞いて眉をひそめる。
吸血殺しはその名の通りある生物を殺す能力である。
麻生はその能力とその生物について星から知識を供給する。
「吸血殺し、吸血鬼を殺すための能力。」
神裂は麻生の言葉に少し驚いているようだがそのまま話を続ける。
「元々その錬金術師は吸血殺しを狙っていたようなのですが、一歩先に「三沢塾」が吸血殺しを捕えたようです。
錬金術師も騒ぎを起こさないようにしたかったようなのですが、「三沢塾」が先に捕えていたのでそうもいかない事になりました。」
そして神裂はその言葉を最後に口を閉ざす。
麻生はいきなり説明が終わったのでどうしたのか聞いてみる。
「貴方は吸血鬼を信じますか?」
どうやら吸血鬼について考えていたようだ。
麻生は率直な意見を言う。
「吸血殺しって能力がある以上、存在はしているだろうな。
俺も見た事はないが。」
この星には吸血鬼が確かに存在している。
吸血殺しと言う能力も理由にあるが、何より星がいると麻生に教えたからだ。
「そんな事はまぁどうでもいい。
それで火織、お前は俺にこの女性を助け出せばいいのか?」
「はい、吸血殺しを利用して吸血鬼を捕まえれば、それをどんな事に使われるか分かりません。
彼女を保護する必要があります。」
「それにしてもどうして俺なんだ?
お前が行って片をつければいい話だろ。」
神裂は聖人と言って世界に二十人といないと言われる。
生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間だ。
『神の力の一端』をその身に宿すことができる。
具体的には、聖人の証『聖痕』を開放した場合に限り、一時的に人間を超えた力を使うことができその戦闘能力は精鋭集団である『騎士団』の一部隊すら単機で容易に壊滅させることが可能。
そんな力を持っているのなら神裂一人で行けば、すぐに終わると麻生は考えていたのだが。
「私は任務ですぐに日本を離れないといけません。
ですので、私ではなくステイルとそして上条当麻がこの救出に手伝う予定です。」
あいつまで巻き込まれているのか、とつくづく不幸だなと思ったがある疑問が浮かんだ。
「どうして俺や当麻を選んだ?
俺や当麻は魔術師でも何でもないぞ。」
「教会は麻生恭介と上条当麻をインデックスの裏切りを防ぐ足枷を命じました。」
それを聞いた麻生は神裂を睨みつける。
それでも神裂は表情変えず続ける。
「「首輪」が外れた禁止目録の裏切りを防ぐためです。
もしどちらかが教会の意に従わなかったら即刻インデックスを回収する事になりました。」
ちっ、と麻生は舌打ちをする。
普通に頼まれたのなら断るつもりだったが、インデックスと上条が関わっているのなら話は違ってくる。
此処で麻生が断ればインデックスは確実に回収されるだろう。
そして上条はそれに全力で抗うはずだ。
記憶が消えてもあいつは上条当麻だ。
彼女を守る為に拳を振うだろう。
以前の麻生ならこんな状況でも断っていたが、今の麻生は断るに断れなかった。
(ほんとどうなったんだろうな、俺。)
そう思いながら麻生は答えた。
「分かった、手伝おう。」
「ありがとうございます。」
神裂はあくまで魔術師の顔で答える。
「捕らわれている女性の名前は姫神秋沙、写真はもう見ましたね。
それではよろしくお願いします。」
そう言って神裂は立ち上がり部屋を出ていこうとするがピタッ、と突然動きを止める。
そして深呼吸をしているのか肩が上下に動いている。
そしてバッと麻生の方に振り向いた。
「申し訳ありません!!」
下げた頭が地面にぶつかりそうなくらい腰を曲げて謝る。
麻生はいきなり謝られたので呆然とする。
「前の戦いの時、私は貴方に一瞬とはいえ本気で斬りかかってしまいました。
最悪の場合、貴方を殺していたかもしれないのに。」
頭を下げながら謝る。
「お前、もしかして俺に謝る為にわざわざ此処に来たのか?」
それを指摘されると突然顔をあげてうろたえる。
照れているのか顔がとても赤くなっていた。
「わ、私は、別に・・・その・・・・」
「いいよ、俺は気にしていない。」
「え・・・」
「確かにあの一撃はまともにくらえば死んでいたが俺は生きている。
これで充分だろ、だから火織がそう悩む必要はない。」
彼らしからぬ優しい言葉をかけると神裂はさっきより顔を赤くして失礼します!!、と叫んで勢いよく部屋を出て行った。
「からかったらなかなか面白いな、あいつ。」
「星、ですか。」
窓もドアも階段もなくエレベーターも通路もない、建物として全く機能する筈もないビルは大能力者の空間移動がなければ出入する事も出来ない、最高の要塞の中で魔術師ステイル=マグヌスは目の前の人間の言葉を聞いて眉をひそめる。
目の前に直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスでできた円筒の器に赤い液体で満たされた中で逆さまになって浮かんでいる。
男にも女にも見えて大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える人間。
学園都市の最大権力者であり、学園都市総括理事長、アレイスター・クロウリーはステイルに言った。
「そうだ、麻生恭介が所有している能力の名前だ。
これほど彼の能力にあった名前はない。」
ステイルはあの麻生の能力について考える。
確かに自分の「魔女狩りの王」の弱点を一瞬で見極め、さらに封じ込めるという事までしでかした。
あの時、インデックスが自動書記モードになった時も麻生一人で解決した。
「君は星に意思があると思うか?」
突然のアレイスターの問いかけにステイルは答える。
「ない、と私は思います。
この星、地球はただ回り土地としての機能など有しているだけで意思などないと考えます。」
「それは間違いだ。
私達人間に感情などがあるように星に限らず植物と言った物、全てに意思はある。」
ステイルはその話はどちらかと言えば魔術側の話になるのにこの人間は淡々と語る。
「彼はその星と繋がっている。
単に繋がっているのではなく星の力を操る事が出来るのだよ。」
「ッ!?・・・それでは彼は・・・・」
「そう、彼がその気になればあらゆる秩序や法則など改変することができ、この世界を創り直す事も可能だ。」
そんなことは人間の領域を超えている。
それはもう神の位と同じだとステイルは考える。
もしあの時、麻生がその気だったらステイルなど簡単に殺せたのでは?と思ったがアレイスターの説明はまだ続いていた。
「だが、それは本来の力を操る事が出来たらの話だ。」
「どういう事です?」
「簡単な話だ、彼はまだ自分の能力を完全に制御できていない。
せいぜい、二〇~三〇%辺りの力しか使えていない。」
なぜそんな事をこの人間は知っているのか聞きたかったが聞けば自分の命はないとステイルは思う。
「だが、それでも彼の力は強大である事に変わりない。
吸血殺し(ディープブラッド)の件は君一人ではなく星と幻想殺しを使えばいい。」
「魔術師を倒すのに能力者を使うのはまずいのでは?」
「問題ない、あの二人は無能力者だ。
価値のある情報は何も持っていない。
魔術師と行動を共にしたところで魔術側に科学側の情報が洩れる恐れはない。」
ステイルは無能力者(レベル0)の意味がいまいち分からないが言葉の意味を考えればあの二人は力が無いという結果が出ているだろう。
しかし、ステイルの心情をアレイスターは答える。
「幻想殺しのように正体不明の能力者はいくらでもいるぞ。
星のように「強大な力を持ち主ゆえに、誰も本気を出している姿を見た事のない能力者」などいう種類も存在する。」
ステイルはあれで本気ではないのか、と麻生の底知れぬ力について考える。
そして「人間」は言った。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその者は等しく「笑み」を思わせる表情を作り言った。
「さて、吸血殺しが吸血鬼の存在を証明したと言うのならば、あの幻想殺しや星は一体何を証明してくれるのだが、ね。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第17話
上条とステイルは「三沢塾」の前に来ていた。
事情はステイルに教えて貰いファーストフード店で相席に座ってきた巫女服の女性、姫神秋沙が今回の事件の中心人物だったと知った時は上条は驚きを隠せなかった。
此処へ来る前にインデックスは猫を拾い飼うと言い出すわ、何やらあったがもうすぐ敵の本拠地なので頭を切り替える。
「三沢塾」を占拠してまで吸血殺しという能力を持つ姫神を捕えている、首謀者の名前はアウレオルス=イザードという名前だ。
知名度で言えば錬金術師の中では一、二を争う錬金術師らしいのだがステイル曰く、力は衰えているらしい。
そもそも魔術の世界で錬金術師などいう職業は存在しない。
占星、錬金、召喚など一通り勉強してその中で自分に一番合った専門を見つけるのが基本だ。
そもそも錬金術師も完成された職業ではない。
錬金術師は何かを創るというイメージが大きいが実際はそうでない。
錬金術師は「公式」や「定理」を調べてその先を目指している。
それは「世界の全てを頭の中でシュミレートする事」。
膨大な法則を頭の中で少しでも間違っていればそれだけで頭の中の世界は歪んでしまうが、それが歪む事無く法則を完璧にすれば頭の中に思い描いたモノを現実の世界に引っ張り出す事が出来る。
上条はそれを聞いて絶対に勝てないぞ、とステイルに言ったがステイルは心配はない、と言った。
理由は世界の全てを星の一つから砂の一粒まで語ろうとすればどれだけの時間がかかるか分からない。
錬金術の学問が完成されていない理由はここにあるのだ。
これを完成させるには人間の寿命では全く足りないのだ。
呪文を短くしたり、親が子に少しずつ詠唱させるいった方法もあるがそれでは呪文が歪んでしまう。
だからこそ、寿命を持たない吸血鬼は魔術師にとって立派な脅威であり、アウレオルスはその為に吸血鬼を捕まえようとしているのかもしれないと上条は考える。
なぜ、ステイルがここまで自信のある説明をしているのかというとアウレオルスとは宗派が違うが顔見知りらしい。
そして、ステイルと上条は三沢塾を見上げる。
「三沢塾」は一二階建てのビルは四棟もあり、そのビルが十字路を中心に据えられ、漢字の「田」の字を作るように配置されていた。
「とりあえず最初の目的は南東の五階にある食堂の脇だね、そこに隠し部屋があるらしい。」
「隠し部屋?」
「おそらく鏡視や鏡覚でも使って、中の人間には気づかせない作りになっていると思うけどね。
あのビル、子供が積み木を並べたみたいに隙間だらけなのさ。」
ステイルはビルを眺めながらのんびりとした口調で話す。
上条はふぅん、と何となく呟くと隣のステイルが忌々しそうに呟いた。
「怪しくは見えないね。」
「あん?」
「専門家の僕が見ても怪しい所は見当たらない。
怪しい所なんて何も見当たらないのさ、専門家の僕がキチンと見ているのにね。」
上条はステイルは怪しい所はないと言っているが危険な所はないとは言っていない。
そんな危険な所に足を踏み入れて大丈夫なのか?、と心配する。
「大丈夫なはずがない。」
そんな上条の心情を分かっているかのようにステイルはあっさりと答えた。
「けれど、入るしかないだろう?
僕達の目的は救助であって殺しじゃない。
いやビルごと炎に包んで良いって言うなら僕だって大助かりだけどね。」
間違いなく、半分以上本気でステイルは言っていた。
「入るしかないってちょっと待て。
まさか正面からお邪魔すんのか?
もうちょっと策とはねーのか?
気づかれないように侵入する方法とか安全に敵を倒す方法とか!!」
「何だ、それなら君は何か得策に持ち合わせがあるのかい?」
「テメェは本当にこのまま突っ込む気か!?
ようはテロリストが立てこもっているビルに正面から突撃するようなもんだろ!!」
「ふむ、まぁ身体にナイフで「神隠し」でも刻んでやれば気配を断つ事ぐらいはできるけどね。」
「じゃあやれよ!!痛いのはヤダけど!!」
「最後まで聞くんだ。
たとえ気配を断とうが透明人間になるが「ステイル=マグヌスが魔術を使った」魔力だけはごまかしようはない。」
それを聞いて上条はは?、と訳が分かっていないようだ。
それを見たステイルはため息を吐いてめんどくさそうに説明する。
「あのビルの中にはアウレオルスの魔力が充満している。
赤い絵の具一色で塗られた絵画と例えよう。
その赤一色の絵画に青い色が塗られれば誰だって気づくだろう?」
「良く分からんが、つまりお前は歩く発信器デスか?」
「そんなもんだが、君よりマシだと思うけどね。」
何でだよ、上条は問いかけようとしたがステイルが先に答える。
「君の幻想殺しは赤絵の具をごっそり拭き取っていく魔法の消しゴムだよ?
自分の絵画がどんどん虫食いされていけば誰だって異常に気付くだろ?
僕の方は魔術さえ使わなければ異常は感知されないけど、君の場合は異常が常時ダダ洩れじゃないか。」
「じゃあ何か?
俺達は二人して腰から発信器ぶら下げている状態で、何の策も持たずにテロリスト満載のビルん中に正面からドアベル鳴らしてお邪魔するってのか?」
「そのために君がいる。
できればあの麻生恭介も一緒に同行してほしかったが、まぁ居ない人間の事を言っても仕方がない。
君は死にたくなければ死ぬ気で右手を盾にしろ。」
死にたくなければ死ぬ気で右手を盾にしろ、と何とも矛盾した発言をする。
麻生も一緒に姫神を救出する事になっているが先ほどから携帯に連絡しても全く反応がない。
麻生も上条と同じインデックスの足枷となっているので参加せざるを得ない状況なので来るとは思う、とステイルは言っていた。
正直、上条は麻生がどれだけ強いかは分からない。
記憶を失っているので麻生恭介という人間性もよく分からないのだが、このステイルがあてにするくらいの男なら相当強いのでは?、と上条は思う。
ステイルは行くよ、と言って二人は自動ドアをくぐり「三沢塾」の中に入っていった。
上条達が「三沢塾」に入った同時刻、麻生はまだ部屋の中にいた。
正確にはあの神裂が出て行ったあとそのままベットに転がり寝てしまったのだ。
携帯を確認すると何件か上条の電話が来ている事に気づくが、どうせ一緒に行こうという誘いだろうと判断してかけ直さなかった。
どうしようか、と麻生は考える。
正直、あの二人が居れば事件は解決するだろうと考えているのだが、少しでもこの一件に関わる振りでもしておかないと指示に従わなかったとしてインデックスを回収されるかもしれない。
麻生はゆっくりと立ち上がり服を着替えて部屋を出て「三沢塾」に向かう。
出来れば着いた頃には全てが解決していると願いながら歩いていると。
「麻生恭介!!」
麻生の耳に聞きなれた声が聞こえ振り返る。
そこには麻生の恩人でもある、吹寄制理がなぜだか知らないが怒りながらこちらに向かって歩いてくる。
彼女は愛穂や桔梗と同じ麻生の命の恩人で幼い頃、学園都市に来た麻生がたまたま会った制理に問いかけた時、偽りない答えを答えそれが決め手のなり今の麻生がいる。
文字通り命の恩人なのだ。
それから高校になって再開したのだが制理はあの時の麻生の事は覚えていなかった。
だが、それでも麻生は恩人に変わりはないと思っている。
「お前は夏休みなのに制服なのか。」
「さっき学校に行っていたのだから仕方がないでしょ。
それよりも大覇星祭の出場する種目、まだ貴様だけ決まっていないのよ。」
「大覇星祭はまだまだ先の事だろ。
まだ決めなくても大丈夫だと思うのだが。」
「いいえ、既に運営委員会は種目のエントリー用紙を配っている。
大きな行事だから早めに決めて色々打ち合わせがあるのよ。
だから早く決めろ!!」
「お前、やる気満々だな。」
「貴様がやる気がなさすぎるのよ!!!」
麻生はこういった行事には一応参加するが、制理のように進んでやるような男ではない。
早く「三沢塾」に行って用事を片付けたいのだが、目の前の制理がそれを許してくれなさそうだ。
制理から種目標を受け取り比較的に楽な行事を選び、極力競技に入る回数を少なくする。
制理は麻生が決めた種目を見てもう少し参加しない、とぶつぶつ文句を言う。
「それじゃあ、俺は用事があるから。」
今度こそ「三沢塾」に向かおうとするが何かを思い出し振り返り制理に言う。
「この夏休みは色々健康器具が出てくるけどあんまり買いすぎるなよ。」
それを聞いた制理は一瞬赤い顔になるがすぐに怒鳴りかけてくる。
「大きなお世話だ!!!」
すぐにでも捕まえて頭突きをしてきそうなのでその場を退散する。
そして、「三沢塾」に辿りつき麻生は「三沢塾」を観察する。
(一見、何にも怪しい所はないが・・・・)
世界には力や意思がある、これは麻生自身が証明している。
地脈や龍脈といった人間でいう血管のような管が世界中に張り巡らされていて、人間の魔力と同様それ単体ではあまり力はない。
その世界の力は空気と同じく通常の人間、魔術師も感知することが出来ない。
それが出来るのは巫薙や風水師、そして麻生だ。
だが、このビルはそういった力がないのだ。
ステイルはルーンという魔術を主に使っているのでこの異常に気が付かなかったのだが、麻生は星の力を扱うのでその異常にすぐに気付いたのだ。
麻生は躊躇することなく「三沢塾」に入る。
中は学生で一杯になっていてこれから勉強する者や家に帰る者など様々だ。
すると、スーツを着て眼鏡をかけたいかにもインテリな雰囲気を出している男が麻生に近づく。
「この三沢塾に入学にきたのかい?」
ステイルは魔術師、上条は幻想殺しという能力を持っていたのでアウレオルスはこの二人を異常者と認識して表、つまり普通の学生には見えない様にした。
しかし、麻生は能力を使わなければ身体能力が高い学生だ.
アウレオルスは麻生を入学希望者だと思ったのだろう。
だからこそ、麻生はこういった。
「いいや、此処の錬金術師に会いに来たんだ。」
麻生がそう言うとまわりの空気が一転した。
先ほどまで話していた男は突然、振り返り自分の仕事場に戻る。
先ほどの雰囲気とは違い死が溢れる無人の戦場跡に切り替わったのだ。
麻生はその雰囲気を気にせず進みエレベーターの横の壁にもたれ掛けている鎧の纏った人がいる事に気づく。
その足元には大量の血だまりが出来ていて銀色の鎧は潰れている。
それは死体だった。
麻生は自分達以外にアウレオルスを討伐しにでも来たんだろうと考える。
麻生は死体を見るのは初めてだが冷静に判断する。
麻生はこんな死体が可愛く見えるくらいの地獄を見たので慣れているのだ。
エレベーターのボタンを触ってみるがものすごく硬く全く反応しない。
この建物は表の世界なので今は裏の世界にいる麻生はドア一つ開ける事は出来ない、さらに自力で出る事も不可能だ。
麻生の能力を使えば出る事は出来るがそれをするなら先にアウレオルスを倒した方が早いと麻生は考える。
麻生は早速、疲れた顔をしながら非常階段を上がっていく。
とりあえず最上階にいるだろうと適当に考え階段を上がっていく。
そして階段を上がっていくとふと目の前の廊下に黄金の水溜りが出来ていた。
麻生はそれに近づき右手を伸ばし指先がその水溜りに触れる。
(これは魔術で作られた黄金か・・・・そうなると・・・)
アウレオルスについて考えようとしたが後ろからヒュンと音がした直後、麻生の後ろでガン!!とぶつかる音がしてその思考を停止する。
振り返るとイタリア製の革靴を履いてそこから伸びる二メートルに届く細身の身体には、高価な純白のスーツに包まれていて髪は緑でオールバックのような髪型をしていた。
その名はアウレオルス。
麻生は何かが風を切る音がしたので即座に自分のまわりに空間の壁を作って防御したのだ。
アウレオルスの右手の袖口から黄金の鏃が出ていた。
「悄然。
我が「瞬間錬金」を弾くとは・・・・ただの少年だと思ったが、貴様何者。」
「俺か?俺は・・・・」
麻生は聞かれた事を答えようとしたが止める。
「いや、答える意味がないな。」
「なに・・・」
「お前は偽物だ。
そんな奴にいちいち話をしても意味がない。」
麻生は興味をなくしたのかそのまま振り返り階段を目指す。
その瞬間また何かがぶつかる音がした。
言うまでなく鏃と空間の壁がぶつかった音だ。
「厳然。
貴様は生きて此処から出さん。
此処で黄金となるがいい。」
殺意を込めた目でにらむが麻生は大きなため息を吐いてアウレオルスと向かい合う。
「素直に引けば自分が本物だという幻想を持てたのにな。
まぁ、お前は人形だし人を殺した事にはならないだろ。」
「厳然。
図に乗るな!!」
アウレオルスの両腕の袖口から十本もの鏃が、一斉に麻生に向かって飛んでくる。
麻生は欠伸をしながら飛んでくる鏃を見ている。
そしてアウレオルスの視界から麻生が消えた。
「なっ!?」
アウレオルスは周りを見る前に自分の右側面から強い衝撃が襲い壁に打ち付けられる。
眼を右方向に向けると麻生がアウレオルスの首を押えつけていた。
麻生は能力を使いアウレオルスの隣に空間移動したのだ。
「さて、お前に時間をかけている暇はない。
悪いが一撃で終わらせる。」
そして、アウレオルスの首を絞めていない方の左手に拳を作る。
アウレオルスは抗おうとするが動くどころか、声を出す事も考える事すらできなくなる。
麻生はアウレオルスに触れているので人体に干渉して一切の行動を封じている。
アウレオルスの脇腹に麻生の拳がめり込み、さらに裏の世界に居るので壁と板挟みになりその間に居るアウレオルスに凄まじい衝撃が身体に走る。
声をあげる事無くアウレオルスは絶命する。
麻生は運動の向きを変換して一時的に拳の衝撃を強くしたのだ。
足元でアウレオルスの死体が転がるが麻生は気にも留めず階段を目指す。
だが、階段を上がる直前麻生の上から紅蓮の槍が降り注いだ。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第18話
前書き
投稿が遅れてすみません。
上条当麻は急いで「三沢塾」に向かって走っていた。
ビルでステイルに囮として使われたりと、色々とあの神父をぶん殴らないと気が済まない所だが今はそれどころではない。
あのビルで姫神と会う事は出来たが偽物のアウレオルスと遭遇して何とか倒す事は出来たがその後、本物のアウレオルスが現れた。
そしてアウレオルスが上条に全て忘れろ、と告げられ今の今まで忘れていたのだ。
さらに全て忘れる前にアウレオルスは禁書目録を手に入れた、らしき言葉も聞いた。
急いで「三沢塾」に戻ろうとした上条だったがある異常に気づく。
夜の学園都市と言っても繁華街に誰も居ないという異常に。
(なんだ?)
この感じはステイルが夕方見せた「人払い」の結界と同じ感覚だ。
だが、誰も居ないという訳ではない。
「三沢塾」を取り囲むように何人もの人間が立っていて、頭のてっぺんから爪先まで、余さず銀の鎧で身を包んでいる。
上条は教会の関係者なのだろうと考え、話しかける。
「お前達、「教会」とかって連中の仲間なのか?」
鎧の一体が「教会」という言葉にピクリと反応した。
「私はローマ正教一三騎士団の一人「ランスロット」のビットリオ=カゼラである。
戦場から帰還した民間人か、全く貴様は運が良い。
死にたくなければ即刻退避せよ、これよりグレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃を行う。」
上条は思い出す。
あの「三沢塾」の中で大勢の生徒達が使われた、アレのオリジナルはローマ正教のものだったはずで。
生徒が使ったグレゴオリ聖歌隊は偽典で火傷くらいの怪我がするくらいなのだったが、それはただの学生が使ってこの威力。
それが正式な魔術師、それも三三三三人の修道士が一斉に聖呪を集めれば一体どれほど威力になるのか想像がつかない。
上条は何とかしてそれを止めようとした。
中にはインデックス、ステイル、姫神、それに関係のない一般人がまだ残っている。
「ちょっと待て!!まだ中には!!!」
「貴様の言葉は聞かない!攻撃を開始する!!
ヨハネ黙示録第八章第七節より抜粋、第一の御使、その手に持つ滅びの管楽器の音をここに再現せよ!!」
鎧の騎士は腰に下げた大剣を一度天上へと掲げ呪文を唱える。
その瞬間、あらゆる音が消えた。
夜空に切れ切れに漂っていた雲が根こそぎ吹き飛ばされ、夜空には何百何千の赤い火矢が束ねられ融合し一つの巨大な槍と化して一瞬でビルの屋上から地下まで貫き通す。
その直撃を受けたのは一棟だけだが隣のビルとは渡り廊下で繋がっており、隣もビルも渡り廊下に引きずられるように崩壊していく。
上条は奥歯を噛みしめて爆撃現場へと突撃する。
しかし突然変化は起きた。
上条の視界を奪っていた粉塵が引いていき、「三沢塾」の跡地へと一斉に流れていく、そして粉塵だけではなかった。
周辺に飛び散った破片が宙に浮かび、崩れた壁が起き上がると断面同士がくっつき傷口も粘土をヘラで整えるように塞がっていく、その光景はビデオを巻き戻すような光景だった。
バラバラに落ちた人々が亀裂の中へ吸い込まれていきビルの傷口も塞がっていき、気づけば「三沢塾」の四棟のビルが何事もなくそこに建っていた。
(巻き戻される・・・・まさか!)
上条が夜空を見上げた瞬間、「三沢塾」の屋上から天を穿つように、紅蓮の神槍が解き放たれた。
言うまでもなく術者の元へ巻き戻ったのだ。
上条の横から呆然とした声が聞こえ、見ると鎧を着た人が膝から力が抜けて座り込んでいる。
上条はこれがアウレオルス=イザードの真の実力なのだと知る。
どうやって戦えば良いか、と上条は呆然と立ち尽くしてしまうが、それを振り払うように元に戻った「三沢塾」へと走った。
北棟の最上階でアウレオルス=イザードは佇んでいた。
最上階は「校長室」と名付けられ一フロアを丸々使った巨大な空間だ。
アウレオルスは窓の外の夜景に見ている訳ではない、窓に映る己の顔を見ていた。
(存外、遠くまで歩んできたものだ。)
言葉一つ、本当に「元に戻れ」の一言で。
生き物のように起き上がったビルを見て眉一つ動かさない己の顔を眺めながら、アウレオルスはそんな事を考える。
アウレオルスの背後には黒檀の大きな机があり、そこには一人の少女が寝かされている。
Index-Librorum-Prohibitorum、禁書目録。
アウレオルスはこの少女を助けたいだけだった。
アウレオルスと彼女があったのは三年前。
彼は教会に所属しながら、魔道書を書き写すという特例中の特例でその書き写した魔道書で多くの人間を救える、守れると信じていた。
だが、ローマ正教は彼が書き写した魔道書を自分達の切り札にして、自分達の宗教に所属していない人達を救わなかった。
アウレオルスはそれが許せなかった、自ら編み出した「切り札」は全ての人々を救えると信じていた。
彼は「本」を外部に持ち出す事にした、そしてその外部がイギリス清教で内部に接触することが出来た。
そこで決して救われない少女がいた。
一目で分かってしまった、世界の全てを救いたいと願った錬金術師は目の前の少女だけは決して救う事ができないと。
その通りにアウレオルスは少女を救う事が出来なかった。
一〇万三〇〇〇冊もの魔道書を抱えていた少女はその知識に侵されていた。
その少女を助ける為にアウレオルスは魔道書を書き続けた。
だがどれだけ書き続けても失敗に終わりアウレオルスは気づいた。
この方法では誰も救えない、と。
アウレオルスは世界中の人間を敵に回しても少女を救えなかった、人体を調べ尽くしても救えなかった。
ならばこそ、アウレオルスはカインの末裔の力に頼る事にした。
その力を手に入れる為なら何でも裏切り、何でも利用する、吸血殺しさえも手に入れる。
そう新たに決意した時だった、後ろの扉からゆっくりとこちらに近づく足音が聞こえた。
アウレオルスはすぐに音の方に振り返る。
あの魔術師が来たのか?、否、それはありえない。
なぜならあの魔術師はさきほど入ってきた別の侵入者と合流して、こちらに向かっているのをすでに確認している。
此処に辿りつくのはもう少し時間がかかる。
なら、生徒なのか?、否、これも違う。
生徒には暗示をかけているので此処には絶対に来ない。
無論、教師も同様だ。
この「三沢塾」の中を自分の意志で行動できるのはアウレオルス、姫神だけだ。
そして姫神はアウレオルスの目の前に立っている、インデックスは黒檀の机で眠っている。
なら誰なのか?、アウレオルスは考えある一人の侵入者を思い出す。
禁書目録の後に入ってきた最後の侵入者。
だが、これもありえない。
なぜならその侵入者がいた棟はグレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃が、直撃した棟の真横にある棟に居たのを確認している。
「元に戻れ」と言ったがそれは侵入者が入ってくるまでの所まで「元に戻る」という意味を込めた。
この棟はグレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃を受けていないので、あの魔術師が生きているのは分かる。
だが侵入者がいた棟は確実に崩壊したので、あの侵入者が死んでも生き返る事はない。
もし、仮に生きていたとしてもその動向を感知できない訳がない。
「三沢塾」は彼の領域なのだから。
なら、一体誰だ、とアウレオルスが考え足音の主がアウレオルスの視界に現れる。
「貴方は・・・・」
姫神は現れた人を見て驚いている。
そこには麻生恭介がゆっくりと歩きながら部屋に入ってきた。
「なぜ、貴様が此処にいる。
必然、この「三沢塾」は私の領域。
侵入者の動向は常に頭に入っている。
貴様は隣の棟にいてグレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃を受けた筈だ。」
アウレオルスは答えの分からない問題の答えを聞くかように麻生に問いかける。
「その通り、俺は確かにお前のいうグレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃を受けた。
さすがにあれクラスの魔術は空間の壁では防げない。
だが一瞬くらいは持ちこたえてくれた。
俺はその瞬間に自身の周りに「歩く教会」クラスの結界を張って、グレゴオリ聖歌隊の聖呪爆撃をやり過ごした。
後はお前に動きを探られないように、俺の持ち物か何かにルーンの刻印を刻んで存在を隠していただけだ。」
淡々とアウレオルスに答えを教える。
ルーンを使えばそれを使用した魔力の痕跡などは残ってしまう。
この男はそれすらも隠したのか、と内心驚くがすぐに余裕を取り戻す。
「なるほど貴様のような魔術師がいるとはな。」
「魔術師じゃない。
通りすがりの一般人Aだ。」
「どちらでも私は構わない。
それで何しに来た、少年。」
そう聞くと麻生は姫神を指さす。
「俺はその女を此処から助け出してくれ、と依頼されたから来た。
それだけだ。」
その言葉を聞いて姫神を再び驚いた顔をする。
「それは無理な相談だ。
必然、彼女は私の目的の為にどうしても必要だからだ。」
アウレオルスは後ろに黒檀の机に眠っている少女、インデックスに視線を移す。
麻生はその視線を追いインデックスがそこにいる事に初めて気付き呆れた表情をする。
「あの修道女、此処に来ていたのか。」
その呟きにアウレオルスはピクンと反応する。
そして麻生の後ろの扉からステイル、上条が走って入ってきてそれを見た姫神はまた驚いた表情をする。
それもその筈、今日の昼間に会った二人がこんな所に来たのだから。
「麻生恭介か、神裂からの伝言をちゃんと聞いたようだね。」
「出来れば来たくなかったが、そうもいかないしな。」
一瞬だけ上条の方を向くがすぐに前を見る。
アウレオルスはこの二人が来た事にはさほど驚いていないようだ。
「ルーンの魔術師、なぜ貴様は私を止めようとする?
貴様がルーンを刻む目的、それこそが禁書目録を守り助け救う為だけだろうに。」
上条は机の上に眠っているインデックスを見て走り出そうとするがステイルの長い手に阻まれる。
「簡単だよ、その方法であの子は救われない。」
「それで吸血殺しを使って吸血鬼を呼び寄せ利用しインデックスを助ける訳か。」
麻生がアウレオルスの使用としている事を答える。
それを聞いたアウレオルスは少しだけ笑みを浮かべステイルは舌打ちをする。
「なるほど、噛ませるって訳か。
これは歴代のパートナーに共通して言える事だけどね。
誰かを救いたければ、まずは自分を殺して人の気持ちを知る事こそが重要なのさ。
ま、これは僕も最近覚えた事だけどね。」
早速残酷な切り札を使おうか、とステイルは言うと麻生と上条の背中を叩いて少しだけ前に押し出して言った。
「ほら、言ってやれよ今代のパートナー達。
目の前の残骸が抱えている、致命的な欠陥ってヤツを。」
「なに?」
アウレオルスは麻生と上条を睨みつける。
上条は今の台詞に判断がつかず、麻生は大きくため息を吐く。
「お前、一体いつの話をしてんだよ?」
「一つだけ訂正だ。
俺はあんな修道女のパートナーになった覚えはない。
それにアイツを救ったのは当麻だ。」
な、に、とさっきまでとは比べ物にならないくらいに二人を凝視する。
「そういう事さ、インデックスはとっくに救われているんだ。
君ではなく今代のパートナー達によって。
君にできなかった事をそいつ等は成し遂げてしまったんだよ。
ああ、信じられない気持ちは分かるよ。
何せ僕はそれを直接見たのに未だに信じられない、いや信じたくない、かな。
永遠にあの子はこっちに振り向かない。
その事実を突き付けられたようなものなんだから。」
「待て、それでは・・・・」
「ああ、ご苦労様。
君、ローマ正教を裏切って三年間も地下に潜っていたらしいけど、全くの無駄骨だよ。
今のあの子は君が望んだ通り、パートナーと一緒にいてとても幸せそうだよ。」
その一言が決定的だった。
アウレオルス=イザードは自分を支える全てを破壊されたように狂笑する。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
完全に狂ったな、と麻生は思いそして上条の方を見るとアウレオルスをじっと見ている。
どうせ自分もああなっていたかもしれない、と考えているのだと思うが麻生は絶対にそうはならないと考える。
上条当麻は例えアウレオルスのような境遇にあって狂っても、最後にはインデックスがこれ以上悲劇に遭わない事に喜ぶはずだ。
そしてアウレオルスは上条と麻生を再度睨みつける。
アウレオルスは噴き出した殺意をインデックスに向ける事も出来ず、行き場を失って暴れまわっている。
ならばその矛先がまず最初に、向けられるのは一体どこか?
考えてみればひどく当然だった。
「倒れ伏せ、侵入者共!!」
その怒号と共に麻生達に見えない重力の手に押えつけられる。
麻生は自分自身に干渉する者は麻生の了承なしに全て無効化する。
これはアウレオルスの何かしらの魔術で重力を操っている。
なので、自動補正が働かない。
「簡単には殺さん、じっくり楽しませろ!!
私は禁書目録に手をかけるつもりはないが、貴様等で発散せねば自我を繋げる事も叶わんからな!」
だから俺は救っていない、と言いたい麻生だがそう言っても相手は聞く耳を持たなさそうなので言うのを止める。
麻生はこの拘束を解こうとしたが、それよりも先に姫神秋沙がアウレオルスと麻生達の間に立ちふさがる。
既にアウレオルスは姫神秋沙に興味はない。
否、吸血殺しという能力ももはや不要になった。
「邪魔だ、女。」
アウレオルスは本気だ、本気で姫神を殺すつもりだと麻生達は知る。
上条は何とか自分の右手を強引に引き寄せ顔の前に、手繰り寄せるがそれよりも先に麻生が立ち上がる。
だが、麻生よりアウレオルスの言葉が早かった。
「死ね。」
傷もなく、出血もなく、病気ですらもありえない。
まるで電池を抜かれたかのように、人間で言うなら魂が抜けたかのように後ろに向かって、仰向けに倒れてゆく。
だが、地面に倒れる前に麻生がその身体を抱き留め、左手を姫神のでこに当てて目を瞑る。
すると小さくだが呼吸をし始め、姫神はゆっくりと眼を開ける。
「危なかったな。
さすがに死んでしまったら俺も救う事が出来なかった。」
「ど・・して・・・」
「さっきも言ったが俺はお前を助け出してくれと頼まれてきたんだ。
それなのにお前が死んだらその頼みが達成できないだろ。」
そう言って麻生は右手で姫神の眼の上に重ねる。
「寝てろ、起こさないから。」
聞こえた姫神は小さく笑うとそのまま静かに眠り始める。
幻想殺しの力で重量の拘束から逃れた上条は麻生と姫神に近づく。
「当麻、彼女を頼んだ。
俺はあの男を倒す、あの男を何とかしないと此処から帰れなさそうだしな。」
姫神を上条に預けると上条は一瞬驚いたが、姫神を壁際まで運ぶとそれを守るかのように姫神の前に立つ。
「我が金色の練成で確かに姫外秋沙の死は確定した。
何だ、貴様は。」
「さっきも言っただろう、通りすがりの一般人Aだ。」
距離は約一〇メートル。
麻生の身体能力ならすぐに埋められる距離だが麻生よりも早くアウレオルスの言葉が早い。
「窒息せよ。」
アウレオルスはそう言葉を告げるが麻生には何も変化がない。
「どうやら今度は俺自身に干渉してきたようだが残念だったな。
俺は自身に干渉する能力などは俺が了承しない限り通る事はない。」
先ほどの重力の拘束は間には魔術が入っていたから麻生を拘束することが出来た。
アウレオルスは麻生にそう言った言葉が通じないと分かるとすぐに言葉を変えてくる。
「感電死。」
瞬間、麻生の周りに青白い電撃が麻生を取り囲み襲いかかる。
だが、電撃を受けても麻生には平然と立っていた。
空間の壁で電撃を防いだのだ。
「絞殺。」
床から何本の縄が麻生の首をがんじがらめに縛りつけるが麻生に巻きついた瞬間、その縄が一斉に燃え尽きる。
アウレオルスは眉をひそめながら首筋に針を突き刺しその針を投げ捨てる。
「圧殺。」
麻生の頭上に錆びた車が出現し降ってくるがいつの間にか持っていたサバイバルナイフで真っ二つに切り裂く。
「ふむ。」
様々な言葉を告げるがどれも不発に終わるがアウレオルスは余裕の表情をしていた。
対する麻生も距離を詰める事はせずアウレオルスを観察しているようだ。
「それは黄金練成だな。」
「気づいたか。
さして驚いている訳ではなさそうだな。」
二人は何も驚いていないがステイルは驚愕の表情を浮かべている。
「馬鹿な、黄金練成は理論は完成しても呪文が長すぎて完成させられるはずもない。」
ステイルの問いにアウレオルスではなく麻生が答えた。
「だからお前はこの「三沢塾」の生徒を利用した、違うか?」
「ほう、存外頭も良いようだな。」
「どういう事だ?」
ステイルはまだ分かっていないのか再び問いかける、上条もその事に分かっていないようだ。
「一〇〇や二〇〇の年月では儀式は完成できない、だが一人で行えばな。
だから此処にいる二〇〇〇人もの人間を操り「グレゴオリの聖歌隊」のように、呪文を唱えさせ呪文と呪文ぶつける事で相乗効果を狙った。」
「ここは異能者達の集まりの筈だ。
「グレゴオリの聖歌隊」など使えば回路の違うヤツらは身体が爆砕して果てる筈だ!!」
「なぜ、気づかない。
壊れたのなら直せば良い話だろう。
あの壊れたビルを直した時のように。
伝えてなかったな。
あの生徒達は何も死んだのが今日が初めてではない。」
「てめぇ!!」
アウレオルスの言葉を聞いて上条はそのまま襲いかかろうとするが麻生が前に立ちそれを阻む。
上条はそのまま麻生を乗り越えてでも行こうとするが、先ほどとは違う麻生の雰囲気を感じ取る。
「正直。」
麻生は言う。
「姫神を此処から連れ出すだけだから、お前の相手は適当にしていたが気が変わった。
お前はここで俺が倒す。」
ふっ、と麻生の言葉をアウレオルスは鼻で笑うと再び首筋に針を突き刺す。
「私も貴様の力は興味があったがこれで終わりだ。
銃をこの手に、刀身をもって外敵の排除の用意。」
すると、アウレオルスの手に鍔は大昔の海賊が使っていたようなフリントロック銃の先に剣が埋め込まれていた。
「人間の動体視力を超える速度にて刀身を旋回射出せよ。」
アウレオルスが右手を振った瞬間、恐るべき速度で扇風機の羽のように回転して襲いくる。
普通の人間ではまず避けれない。
例え麻生が避けても後ろにいる上条に当たってしまう。
だからこそ麻生はその剣の弾丸を人差し指と中指の間で受け止めた。
「なん・・・だと・・・」
アウレオルスは信じられないような表情をしている。
それもその筈、自身が人間の動体視力を超える速度と設定したので避けるおろか受け止める事など不可能なはず。
例え受け止めたとしてもあの弾丸の速度を指で受け止めれば確実に指が吹き飛んでしまう。
なのに、目の前の男は受け止めたのだ。
「どうした、こんなものか?」
指で挟んでいる剣が砕け散ると同時にアウレオルスに言い放つ。
「くっ!?先の手順を量産、一〇の暗器銃、同時一斉射出せよ!!!!」
今度は一〇の弾丸が麻生に向かって襲いかかるが麻生にぶつかる前にその弾丸は砕け散る。
「な・・・馬鹿な・・・」
麻生はゆっくりと近づく。
それがアウレオルスの余裕を確実に奪っていく。
「お・・おのれ・・・断頭の刃を無数に配置、速やかにその身体を切断せよ!!」
天上から巨大なギロチンが出現する、だが出現した瞬間そのギロチンは一斉に砕け散る。
黄金練成は自身の思った事を世界に引っ張り出す魔術。
それは星を歪めると同じ事だ。
麻生は星と繋がっているので黄金練成で生まれた物を、いち早く察知して干渉し破壊したのだ。
しかし、アウレオルスは麻生の能力が分からないのでさらに不安がつのる。
(ば、馬鹿な!!ありえん、ありえん!!
なぜだ、私の黄金練成は完璧な・・・・)
そう考え不安の取り除こうとするが、麻生の言葉で不安が一気に押し寄せる。
「お前の言葉で世界を歪められると思っているのか?」
「な、ん・・・・」
「なら、まずはその幻想を破壊してやろう。
そして知るが良い、お前が思っている以上に星は甘くない事を。」
麻生が近づくとアウレオルスも下がっていく。
考えないようにしてもその考えに、思考の深みにはまっていく。
それが分かっているのに思考が止められない。
いつの間にか麻生はアウレオルスの目の前に立っていた。
「見せてやろう、これが原初の一だ。」
そして左手をアウレオルスに向かって突き出す。
麻生からとてつもない光が現れアウレオルスの視界を埋め尽くした。
ステイルと上条、そして麻生は公園に集まっていた。
ステイルは「三沢塾」その後についてなどを報告しに来たようだ。
麻生は別にどうでも良さそうだが上条が無理やり連れてきたのだ。
「そうそうアウレオルスについてだけど、君は一体何をしたんだい?」
ステイルは麻生に問いかける。
あの時、ステイル達から見た二人は麻生が左手をアウレオルスに突き出し、その直後にアウレオルスは叫びだし意識を失った。
「なに、少しだけ星の恐ろしさを見せてやっただけだ。」
「それを見たせいなのかアウレオルスは記憶を失っていた。
一応僕が殺しておいたけどね。」
それを聞いて上条は息が詰まるような声をあげる。
それを見たステイルはため息を吐いて煙草を携帯灰皿に捨てる。
「君は勘違いしているようだね。
殺すと言っても命を奪うだけとは限らないよ。」
「は?」
「アウレオルスは記憶を全て失った。
その状態で顔を作り変えてしまったら、中身も外見も全てがアウレオルス=イザードでなくなる。
これはアウレオルスという人間を殺す事と何の違いもないだろ?」
「お前、良い人!!」
そう言って上条はステイルの頭を背伸びしてでも撫でようとしそれをステイルが全力で避けてゆく。
それを見ていた麻生はため息を吐いて二人から離れていく。
二人の周りにはそんな光景を見て怪しがる人々で一杯だったからだ。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第19話
「暑い。」
麻生恭介は炎天下の中一人で散歩をしながら呟く。
今は八月、一年の中で一番温度が上がる月であり、さらに麻生の服装は黒を主体にしているので熱の吸収量が半端なく多いのだ。
それが分かっているのに服装は変えず、なおかつ散歩も止めない。
どうせ部屋に居ても寝る以外する事がないので、暑くても散歩に出かけているという訳だ。
麻生の能力を使えば気温などを制御する事が出来るが、そんな事に能力を使うのも何だかもったいない気がするのでやめておく。
そして、裏路地に入っていく。
表通りだと日光に当たり暑く感じるが、裏路地なら影も多く少しだけ涼しく感じる。
裏路地に入ると不良達に絡まれる可能性が高くなるが暑さに比べればどうという事はない。
そのまま裏路地を歩いていると何人かとすれ違う。
普段、こんな裏路地にこれだけの人とすれ違う事なんて滅多にない事なのだが、それにしても今回は異常すれ違う人が多い。
麻生は知らぬ内に面倒事に巻き込まれたのか?と妙な不安を抱いていると目の前に見知った顔がこちらに歩いて来ていた。
「あら、麻生さんではないですか。」
「こんな裏路地で会うとはな。」
白井黒子とその後ろに御坂美琴がこちらに歩いて来ていたが、白井の足元に空き缶が転がっていて白井はそれに気づかず空き缶を踏んで後ろに転んでしまう。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
ゴチン!!といい音が鳴ったので美琴は白井に声をかけ麻生は呆れた顔をしている。
すると、白井は何かを見つけたのか室外機と地面の隙間から封筒を拾う。
拾い上げると中からカードが落ちる。
麻生はそれを拾う。
「なにそれ?」
「マネーカードみたいだな。」
「どうしてこんな裏路地にマネーカードがありますの?」
「俺に聞くな。
こう言った事は風紀委員が一番知っているんじゃないのか?」
なぜ裏路地にマネーカードがあるか、それを調べる為に風紀委員の支部に向かう。
麻生も興味があるのか一緒についてく。
部屋の中には初春も居て白井がマネーカードについて話すと、初春はパソコンの電源を入れてそれについて報告する。
「ここ数日、第七学区のあちこちでマネーカードを拾ったという報告がきてるんです。」
「そんな話、わたくし聞いていませんわよ?」
「貨幣を故意に遺棄・破損する事は禁止されていますがマネーカードは対象外なので特に通達していません。
カードの金額は下は千円くらいから上は五万円を超えるものまで、決まって人通りの少ない道に置かれています。
宝探し感覚で裏道をうろつく人も多いみたいです。
ですが、今度はカードを奪い合ったり武装無能力集団のなわばりに入り込んだ、学生が絡まれたりしています。」
「放っておく訳にもいかなくなってきた・・と。
お姉様、残念ですがデートはまた今度・・・・」
「ううん、私一人で行ってくるから気にしなくていいわよ。」
白井は寂しそうな顔をしていたが美琴は気にせずそのまま部屋を出ていく。
麻生も話を聞いて興味をなくしたのか何も言わず部屋から出て行き、散歩しながら持っているマネーカードを見つめる。
(何の為にこんな事を・・・・)
そう考えている自分に気づきすぐにその考えを振り払う。
麻生は最近人助けをするようになってきている。
それは自発的な物ではなく他人に頼まれたという事もあるがそれにしても最近は特に多くなった。
今でも自分とは全く関係なくさらに誰にでも頼まれたのでもない、自分から首を突っ込もうとしたのだ。
(これじゃあまるで・・・・)
あの時の自分に戻ってるみたいじゃないか、と誰に言う訳でもなく自分に言う訳でもない麻生はただ夕暮れの空を見上げて呟く。
けど、絶対にあの時の自分に戻る事は絶対にできない。
知ってしまったから世界の姿を、その上に住む人の闇と言う物を。
それを知っていてもそれでもあの時の自分に確実に近づいている。
原因は一つしかなかった。
「上条当麻。」
彼に出会ってしまった時が全ての始まりだったのかもしれない。
上条は昔の麻生とよく似ていた。
だからこそ上条を見ていて無性に腹が立つのだ。
腹が立つのにそれでも何故か上条を助けてしまう。
麻生は無駄な事を考えているな、と思考を中断して寮に帰っていく。
そして五日間麻生はずっとベットの上で寝転がっていた。
体調が悪くなったとかそう言った事ではなくただ気分が悪いのだ。
この五日間で何回か誰かがドアを叩く音がしたが麻生は全部無視した。
おそらく上条なのだろうと適当に考えていた。
(どうなっているんだよ。)
自分に問いかけても答えが返ってくるわけでもなく、ようやくベットから身を起こすと麻生は散歩に出かける。
いつもの通り生活していれば元の調子に戻ると思っていた。
だが夜になっても調子は戻らなかった、むしろ悪くなったかもしれない。
麻生は苛立ちながら舌打ちをした時だった、大きな爆発音が聞こえた。
麻生は音のする方を見る、どうやら場所はすぐ近くの様だ。
何かが起こっている、いつもならすぐに振り返り寮に戻るのだがなぜかその足は自然と音の方に向かっていた。
爆発した所から離れた所で目を千里眼に変えて何が起こっているか確認する。
麻生は見た、麻生と同じ白髪の男が御坂美琴の足を引きちぎる所を。
美琴はその男に足を引きちぎられてもひるむことなく電撃の槍を男に撃ちこむ、その威力は確実に人の意識を刈り取るほどの威力を秘めていた。
だが電撃の槍が男に当たると同時に美琴の元に反射される。
麻生はこの一部始終しか見ていないが分かった。
あの男相手に美琴は勝てないと。
今ならまだ間に合う、麻生の力を使えばあの現場に割って入って美琴を助ける事は出来るだろう。
それが分かっているのに麻生は動けない、動かないのだ。
美琴は麻生に助けを求めたのか?
誰かが美琴を助けてやってくれと麻生に助けを求めたのか?
麻生は動かない、誰かが助けを求めない限りは。
足を引きちぎられ電撃の槍を浴びた美琴は何かを探すかのように地面をはえずりまわっている。
その光景を見た男は飽きたのか、近くにある電車に近づきそれを軽く叩く。
何キロあるか分からない電車が軽々と浮かぶとそれは美琴の頭上に落ちていく。
美琴は何かを見つけたのかギュッと何かを抱きしめるとその瞬間、電車に押しつぶされた。
誰が見ても分かる、美琴は死んだと。
「・・・・・・・」
麻生は先ほどよりいらついていた。
誰かの頼みなければ動けない自分にいらついているのか、それとも別の理由なのかは分からなかった。
その直後だった。
「ああああああああああああ!!!!!!!」
そんな叫び声と共に先ほど電車に潰された御坂美琴が男に向かって走り出していた。
麻生は何がどうなっているのか全く分からなかった、だが二人の戦いが再び始まる。
美琴は電磁力を使い周りの砂鉄を利用して男を砂鉄で包み込む。
その攻撃に一切の躊躇いがなかったが突然砂鉄の檻が突如崩れていった。
(あいつの能力は一体・・・・)
美琴は先ほど引きちぎられた足を見つけ再び叫ぶと同時に周りにあった線路のレールを電磁力で操る。
その数はおよそ五〇を超えていた。
そしてレールの雨がその男に降り注ぐが男に触れた途端そのレールが美琴に襲いかかる。
何とか横に移動してかわすことが出来たがその表情は驚きと困惑が混ざっていた。
男は何かが分かったのか悪魔のような笑みを浮かべ美琴に近づこうとする。
だが、美琴の構えを見てその足を止める。
右手を突きだし親指にはコインが乗っていた。
超電磁砲。
美琴の異名であり切り札でもある。
美琴と男が何か話をしているが麻生の位置からでは何を話しているか分からなかった。
だが、最後の言葉だけは聞こえた。
「そんなモノの為にあの子を殺したのか!!!!!」
叫びと共に一切の躊躇いのない全力の超電磁砲が放たれる。
しかし、男に触れた途端その超電磁砲ですら、はね返され美琴の顔の真横を通り過ぎていく。
そして、今度はこちらの番だと言わんばかりに両手を広げるが麻生は気づいた、そして男も美琴も気づく。
美琴の後ろに何人もの美琴達が立っている事に。
美琴と同じ制服を着て、髪の長さも色も全く一緒だった。
ただ一つ違う所があるとすれば暗視ゴーグルをつけている所だけだった。
美琴達と男が何かを話すと男は美琴に近づき何かを話してそのまま立ち去って行った。
「絶対能力進化か・・・・」
麻生はあの後、美琴達に話しかける事無く寮に戻った。
そして、少し躊躇ったが星に裏で何が起こっているかを教えて貰った。
麻生は星に聞くのは好きではない。
ある事柄について聞いたらその答えがちゃんと返ってくるのだが、それに伴い知りたくもない情報まで送られてくるのだ。
実際に絶対能力進化について情報が教えられた時、あの美琴のクローン達が実験動物のように扱われたりと知りたくない情報まで知ってしまったのだ。
吸血殺しの時も同様だった。
そもそも麻生は星が嫌いだ。
こんな能力を与え、見たくもないモノを見せた星が嫌いなのだ。
「こうやって星の知識を頼るのはこれで最後だ。」
そう心に決めた。
そしてもう一つ心に決める。
これ以上人に関わらない。
絶対能力進化については大体の事は分かった。
それを知っても助けようと思わなかった。
麻生恭介は上条当麻ではない。
上条ならこれを知ったら真っ先に美琴の元へ行き事情を聞くだろう。
麻生恭介は違う。
本来の麻生は頼まれなかったら絶対にしないし頼まれてもほとんど断ってしまう。
ここ数か月で何回か人助けはしたのはあの上条という存在が頭の隅にあったからだ。
あの男なら必ず助ける、と。
それに気づいた麻生は思ったのだ。
(こんなの麻生恭介じゃない。
俺はあいつのようにはなれない。)
麻生はベッドから立ち上がりいつもの様に散歩に出かける。
例え美琴が麻生に助けを求めても麻生は断るだろう。
それが麻生恭介なのだ。
いつもの街並み、いつもの人混み、その中で麻生は歩いていた。
目的もなくただふらふらと。
しかし、異変は突然起こった。
突然音が消え、人がいなくなったのだ。
(どうなっている。)
麻生は周りを見渡すが誰も居ない。
ルーンによる人払いだったらそれが発動した瞬間は麻生なら感じ取ることが出来る。
なのに、感じるどころか違和感すら感じなかったのだ。
「その生き方でいいのか?」
声は突然後ろから聞こえた。
麻生は後ろを振り返るが人影は見当たらなかった。
しかし、人ではなく猫がすぐ前に座っていた。
「もう一度聞く、その生き方でいいのか?」
声の主はこの猫で間違いないようだ。
麻生は警戒しながら猫に質問を返す。
この猫が普通の猫なら麻生も気には留めなかったのだが、この猫からはとてつもない存在感を感じるのだ。
「お前はどこかの魔術師の使い魔かなにかか?」
麻生が質問を質問で返したのが悪かったのか、少しだけ不機嫌そうな(猫なのでそこら辺は分からないが)顔をするが麻生の質問に答える。
「使い魔という概念はあっている。
しかし、魔術師の使い魔ではない。」
「つまり、お前は誰かの使い魔って事か。」
「それが人とは限らないがな。
そんな事よりこちらの質問に答えてもらう。
お前はその生き方でいいのか?」
「どういう事だ。」
「そのままの意味だ。
お前はさっきまで自分の生き方について迷っていただろう?」
その言葉を聞いて麻生は左手に剣を具現化させその剣先を猫に向ける。
麻生はさっきまで考えていた事は誰にも話していない、なのにこの猫は知っていたのだ。
猫は剣先を向けられていても全く動じなかった。
「そう警戒するな。
俺は話をしに来ただけだ。
その生き方でいいのか、とな。」
「当たり前だ、これは他ならぬ俺が決めた事だからだ。」
「なら、どうしてお前はまだ迷っているだ?」
麻生は言葉が出なかった。
自分でも気づかなかった事にこの猫は気付いているのだから。
「お前はあの幻想殺しの生き方に惹かれている。
あの男のように生きてみたいと思っているのにそれが出来ないと分かっている。
その矛盾がお前を迷わせている。
お前は本当は気づいていた筈だ、本当は自分がまだ迷っている事を。
だが、気づかない振りをして諦めた、違うか?」
「黙れッ!!!!」
麻生は剣を地面に叩きつけ衝撃波を生み出しそれが猫に向かっていく。
だが、猫に当たる直前衝撃波が二つに割れてしまう。
「ふむ、図星の様だな。」
それだけ言うと猫は振り返りどこかへ行く。
そして去り際に言った。
「それでもその道を選ぶと言うならそれはそれで構わない。
だが、どちらを選ぶにしろ選んでしまったらもう変える事は出来ないぞ。」
忠告のような言葉を残して猫は歩いていく。
すると音が突然復活する。
人も現れ、その人混みの中に猫は消えていった。
麻生は猫が言った言葉が頭の中で響き渡る。
(その生き方でいいのか?)
「何だよそれ、それじゃあまるで俺がこの生き方に納得していないみたいじゃないか。」
麻生は空を見上げて一人呟いた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第20話
麻生は歩き続けていた。
この三日間は寮に帰る事なく学園都市を歩き続けていた。
麻生は頭の中で三日前に会った猫の言葉が頭から離れないのだ。
(その生き方でいいのか、か。)
ふと、近くにあった看板に目をやる。
そこには第二三学区、宇宙開発エリアと書いてあった。
(かなり遠くまで歩いていたんだな。
幻想殺しに惹かれているか・・・・・)
言われてみて気づいた。
麻生が無くしてしまったモノを上条は持っていた。
だから、惹かれているのだが麻生は二度となくした物を取り戻すことが出来ない。
(結局、俺はこの生き方しか・・・・)
そう麻生は諦めた時、対向道路に御坂美琴が歩いていた。
その表情は暗く何か思いつめた表情していた。
そしてふらふらとどこかに行ってしまう。
その姿を見て麻生は美琴を追跡する事にする、それをしたところで麻生の迷いは晴れる事はない文字通り全く意味がない。
それなのに麻生は気まぐれか、それともあの猫に言われたのが原因なのか、どちらが原因かは分からないのだが息を潜めて美琴の後をつけていく。
美琴はもう打つ手がなかった。
あの実験、絶対能力進化を止める為に何個もある研究所を破壊してきた。
本当なら実験の核である学園都市第一位の一方通行を倒す事が出来れば、それで実験は中止になる。
だが、美琴ではどうやっても一方通行に勝てない。
もしかしたら、この地球上で一方通行に真正面から戦って勝てる人間などいないかもしれない。
彼は一方通行という名前ではない。
誰も本人の名前は知らないので能力の通称で呼ばれている。
彼の能力は一方通行。
運動量・熱量・光・電気量などといったあらゆるベクトルを観測し、触れただけで変換する能力。
美琴がいくら強力な電撃を一方通行に撃ちこんだ所で、全て反射されてしまい自分に返ってくるのだ。
だから、研究所を破壊するという回りくどい方法を取らざるを得なかった。
自身の全能力をフルに使い研究所を片っ端から破壊していった。
それでようやく、実験は止められたと思っていた。
だが、ある時に実験は終わっていないと分かってしまった。
最後の研究所に潜入した美琴は電気機器などが一切稼働していなかった。
罠かと思い潜入するが、人もおらずデータベースのデータも全て消去されていた。
データベースをハッキングするとどうやらこの研究所は破棄されたのだと知り、ようやく自分のクローンである通称「妹達」が犠牲になる事はない。
いつもの自動販売機で上条当麻が立っていた。
美琴は少しだけ笑うと上条を自動販売機から押し退ける。
「ちょろっとー、自動販売機の前でボケッと突っ立てんじゃないわよ。
ジュース買わないならどくどく。
こちとら一刻でも早く水分補給しないとやってらんないんだから。」
上条の腕を持ち横に押し退けるが対する上条は美琴の顔を見て言った。
「何だ、コイツ?」
その言葉を聞いてカチンと来たのかバチバチ、と美琴の前髪で電気音がなる。
「わったしっにはー、御坂美琴って名前があんのよ!
いい加減に覚えろド馬鹿!!!」
そして美琴の額から青白い電撃の槍が伸びていくが、上条は右手でそれを打ち消す。
毎回同じように軽く電撃をあしらわれているのが、少しむかつくが今は自動販売機の方が優先だった。
「その自動販売機な金を呑むっぽいぞ。」
「知っているわよ、だから・・・」
そういってリズムよくステップを刻む。
上条は嫌な予感すると思った時、その予感が当たった。
美琴はちぇいさー、とふざけた叫びと共に自動販売機の側面を蹴りを叩き込んだのだ。
その時、スカートの下が体操服の短パンだったので何だか夢を壊された気分になったのは上条だけの秘密だ。
「ボロッちいからジュースを固定しているバネが緩んでいるのよね。
何のジュースが出るか分からないけど。」
そう言いながら出てきたジュースのプルタブを開ける。
どうやらまだ当たり方だったようだ。
すると上条の様子が変だったので美琴は何かあったのかを尋ねる。
上条はこの自動販売機がお金を呑む事を知らなかったらしく、世にも珍しい二千円札が呑まれてしまったらしい。
それを聞いた美琴は腹を抱えて笑ったが自動販売機の前に再び立つ。
「ではその二千円札が出てくる事を祈って・・・・千円札が二枚とか出てきたら承知しないわよこのポンコツ。」
右手の掌を硬貨の投入口に突きつける。
上条は再び嫌な予感がしたが一応何をするか聞いてみる。
「どうやって自動販売機から金を取り戻すんだ?」
「どうやってって、こうやって。」
瞬間、美琴の掌から電撃が飛び出て自動販売機に直撃する。
そして、自動販売機の隙間から黒い煙が噴き出していく。
当然、上条当麻は全力でその場を離れた。
美琴は自動販売機から出てきたジュースを持ちながら上条を追いかける。
十分くらい走ってようやく上条も足を止めると美琴は上条に何本か空き缶を渡す。
上条はこれを受け取ったら共犯になるのでは?、と考えたがジュースの名前を見て言葉をなくす。
黒豆サイダーやきなこ練乳など名前からして確実においしくない商品ばかりだ。
美琴は誤作動を狙ってやっているので種類までは選べないわよ、と自動販売機を壊した件については全く反省していないようだ。
「とりあえずお飲み。
美琴センセー直々のプレゼントだなんてウチの後輩だったら卒倒してるのよん。」
「卒倒だぁ?こんな食品衛生法ギリギリの缶ジュースもらって喜ぶ奴がいるかよ。
大体少女マンガじゃねーんだから、女子高でレンアイなんざありえねーだろ。」
上条はそう言ったが美琴の表情は満更でもなかった。
「いや、少女マンガ程度なら可愛らしいんだけどね。
色々あるんですよー。
いろいろ?むしろどろどろ?
私が常盤台ん中で何て呼ばれているか教えてあげようか?
引いちゃうわよーん。」
自虐的に美琴が話している時だった。
「お姉様?」
不意にその言葉が響き渡った。
美琴は背中に氷を突っ込まれたような顔をして上条はあまりの衝撃的呼び名に驚いている。
ちょっと離れた所に美琴と同じ制服をきた女性、白井黒子がやってきて上条と美琴が仲良く?ベンチで座っているのを確認してすると大きなため息を吐いて言った。
「まさか、本当にお姉様が殿方と逢瀬を!!!」
「ちょっと待てぇ!!」
美琴の間髪入れずに突っ込みを入れたが白井はそれを無視してすさまじい速度で上条の両手を握る。
「初めまして、殿方さん。
わたくしお姉様の「露払い」であり唯一無二のパートナー。
もう一度言いますわよ、唯一無二のパートナー白井黒子と申しますの。
すっごく不本意なのですがお姉様の知り合いの様ですので、社交辞令として仕方なくご挨拶さしあげてます。」
そう説明されてもどう反応していいのか分からず困っている上条。
それを見た白井は。
「この程度でドギマギしているようでは浮気性の危機がありましてよ?
ですが、てっきり麻生さんかと思いきやまさかこんな殿方まで・・・黒子は喜んでいいのやら分かりませんわ。」
「え?麻生?」
白井の言葉を聞いて顔が真っ赤になる美琴。
「このヘンテコが私の彼氏に見えんのかぁ!!!!」
電撃と共にさりげなく上条の心を傷つける。
白井は空間移動電撃をかわし、近くの街灯の上まで移動する。
「ですわよねぇ、おかしいとは思いましたの。
そうなると麻生さんの方が本命」
そう言葉を続けようとするがまた電撃が飛んで来たので隣の街灯に移動する。
白井は最近、美琴が元気がなかったのが気になっていたが、今の美琴を見ると元気を取り戻したようなので少し安心する。
「それではくれぐれも過ちを犯しませんようお姉様。」
そんな言葉を残して白井はどこかへと空間移動した。
美琴は後でどうやって白井を締めようか考えていた時だった。
「お姉さま?」
上条はまたお姉さまかよ!?、と驚いていたが美琴はその声を聞いて固まってしまう。
それは一番聞きたくない声だった。
振り返ると御坂のクローンである「妹達」が立っていた。
美琴は「妹達」の一人を見て固まっているのをよそに話が続く。
「え?お?同じ顔?」
「遺伝子レベルが同質ですからとミサカは答えます。」
「ああ、双子なのね。
一卵性双生児は初めて見るけど、ここまで似るモンなんだな。
その双子ちゃんが何の用事?姉ちゃんと帰んの?」
「馴れ馴れしい人だなこの軽薄野郎、と本音の飲み込んでミサカは質問に応じます。
ミサカを中心とする半径六〇〇メートル以内の領域にて、ミサカと同等のチカラを確認したため気になって様子を見に来たのですが・・・・現場に壊れた自販機、大量のジュースを持つあなた達、まさかお姉さまが窃盗の片棒を担ぐとは・・・・」
美琴妹はため息を吐きながら言う。
「おいっ!!主犯はオマエのねーちゃん!!
俺は傍観者だぞ!!」
「電子で自販機表面を計測した結果、もっとも新しい指紋あなたのものですが。」
「ウソっ!!そんな事まで分かんの!?」
「ウソです。」
「・・・・・」
「・・・・・」
上条はもうどうしたらいいのか分からず美琴に助けを求める。
すると美琴は御坂妹を睨みながら近づき爆撃みたいな怒鳴り声をあげる。
「アンタ一体どうしてこんな所でブラブラしてんのよ!?」
上条は耳を押え御坂妹は美琴が怒鳴り声をあげても表情を変えない。
そして美琴の質問に答える。
「・・・・研修中です。」
「研・・・・」
美琴は一瞬で思い出す。
あの時電車に押しつぶされたあの子を。
美琴は御坂妹の片腕を掴み強引に引っ張っていく。
「研修って風紀委員にでも入ったのか?」
上条の問いかけに美琴は適当に答えた。
「風紀委員?
あーそうね、それよそれ。」
「ミサカにもスケジュールが「いいから、きなさい。」・・・・」
美琴が御坂妹を連れて行き上条は一人になる。
複雑な家庭なのか?と適当に考えていた。
公園から少し離れた所に移動した美琴は御坂妹に問い掛けるように言った。
「実験は・・・あの計画は中止されたんじゃないの!?
何で・・・・」
美琴の言葉に御坂妹は答える。
「計画というのが「絶対能力進化」計画を指すのなら予定通りに進行中ですとミサカは答えます。」
御坂妹の答えを聞いて美琴は驚愕の表情に染まる。
「ウソ・・・今も?」
「はい、先程第一〇〇二〇次実験が行われたばかりです。」
さっきまで実験を止められたと思っていたのにやり遂げたと思っていたのにそれが一気に崩されていく。
今もこの時もあの時のように「妹達」が殺されている。
そう考えると吐き気が出てきた。
違う、と美琴は思った。
(私が殺したんだ。)
そして目の前にいる御坂妹も殺される、そう思うとさっきよりも吐き気が出てきた。
「お姉さま?どうかされましたか?」
御坂妹にお姉さま、と呼ばれその声がその姿が美琴を追い詰めていく。
「やめてよ。
その声で、その姿で、もう・・・私の前に現れないで・・・」
自分は何を言っているか分からなかった。
気付いた時には御坂妹はどこかへ立ち去っていた。
そして、自分が何を言ったのかようやく気付き近くにあった街灯を殴る。
「最っ低だ。」
美琴は近くの公衆電話から実験の事について調べていた。
すると研究は中止されておらずまだ続いていることが分かった。
そして、その引き継ぎ先の研究施設の数は一八三施設だった。
美琴は何がどうなっているか分からなかった。
そして気づいた。
自分が相手にしているのがどれほど巨大な物なのかを。
この学園都市の中は衛星とカメラで常に監視されている。
あの非人道的な実験が野外で行われているのに学園都市の上層部は気づいている筈だ。
なのに実験は続いている。
この意味は学園都市そのものが敵である事を示していた。
そして美琴は考えた、こんなくだらない実験を確実に止める方法を。
そして次の日の夕方、ある事を決心する。
「おっすー、そっちも補習か?ビリビリ中学生。」
「ああ、アンタか。
今は疲れているし残った体力も温存しときたいから、ビリビリは勘弁しといてやるわ。」
上条を追い払うようにしっしっと手で追い払う。
上条は美琴の周りを見渡して言った。
「今日は妹は一緒じゃないのか?
昨日、ジュース運んでもらったから礼とかしときたいんだけど。」
「アンタ、またあの子と会ったの!?」
「へ?いけなかった?」
美琴と上条の会話を遮るかのように空から声が聞こえた。
空には飛行船が飛んでおり「樹形図の設計者」の予言が発表される。
その予言を聞いて美琴は言った。
「私、あの飛行船って嫌いなのよね。」
「何でだよ?」
「機械が決めた政策に人間が従ってるからよ。」
上条と別れた美琴はバスに乗り第二三学区の宇宙開発エリアに向かっていた。
そしてある計画を実行する。
この宇宙開発エリアは樹形図の設計者の情報を送受信している施設がある。
研究施設が一八三もあれば一つ一つ破壊していっても同じ様に引き継ぎされるだろう。
だが、美琴が調べた情報によればそもそもこの実験は、樹形図の設計者を使って計画された物だった。
なら樹形図の設計者が、その実験が続行不可能という結果を出せばどうなるだろう?
美琴の狙いはそこだった。
この学園都市の学者は樹形図の設計者の演算に絶対の信頼を寄せている。
それを逆手に取り樹形図の設計者に嘘の予言を言わせ、実験を中止させるつもりなのだ。
美琴は警戒システムを電撃で誤作動を起こさせ、中に侵入するがそこである異変に気付いた。
人の気配が全くないのだ
この施設は学園都市の頭脳と交信できる最重要機密施設だ。
それなのに心臓部の交信室まで、ものけのからだった。
デスクには埃がかなり溜まっており放棄されたのは昨日今日の話ではないと分かる。
とりあえず美琴はデータベースにハッキングすると、そこである報告書を見て全ての希望が失われた。
「樹形図の設計者は正体不明の高熱源体の直撃を受け大破したものと判明。」
七月二八日に正体不明の高熱源体が直撃した樹形図の設計者は、完全に破壊されていたのだ。
その事実を知った美琴は、施設を出ていきふらふらと歩いていた。
樹形図の設計者が壊されたことで最後の一手が失われた。
そして、樹形図の設計者が無くなろうとも実験は計画通り続けられているという事だ。
ふと、美琴の横に地図の看板があった。
前に引き継ぎ先の施設の一つがこの辺りである事を思い出す。
「ハハ。」
迷う事はなかった。
美琴は施設を襲撃した。
自身の電撃をフルに使い施設を破壊していく。
(そうよ、まだ終わった訳じゃない。
全部潰してしまえばいい、今あるものこれから引き継ぐものぜんぶ!!)
全てを破壊する覚悟を決めた時だった。
「お前、こんな所で何しているんだ。」
え?と美琴は聞き慣れた声が後ろから聞こえ振り返る。
そこに麻生恭介が立っていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第21話
前書き
毎日と言っておきながら、全然できない作者を許してやってください。
美琴は思わぬ人物がこの研究所にいる事に驚きを隠せない。
麻生はそんな美琴を気にせず会話を続ける。
「お前の趣味はこんな施設を破壊する事なのか?」
いつもの美琴ならすぐにツッコミを返しているのだが今はそんな事をする余裕がない。
「あ、あんた、どうして此処に・・・」
「この近くを散歩していてお前を見かけたから後をつけただけだ。」
適当に嘘をつきながら答える。
美琴は視界の端でモニターがある戦闘を映していた。
いや、映っているのは戦闘ではなく一方的な虐殺だった。
それは一方通行と「妹達」の一人が映っていた。
右肩を押えながら必死に逃げてゆく「妹達」の一人。
反撃かそれとも目眩ましなのか「妹達」の一人は電撃の槍を一方通行に向けて放つが、それも反射され放った電撃は自分の胸を貫いた。
一方通行は「妹達」の一人の血を流している右肩に指を入れる。
美琴はその光景を見て、ゆっくりとモニターに近づいて左手をモニターに伸ばす。
「やだ・・・や・・・やめ・・・」
次の瞬間、「妹達」の一人の身体中から血液が噴き出した。
おそらく、血液のベクトルを逆向きにしたのだろうと麻生は考える。
「驚いたでしょ?あの子ね、私のクローンなの。」
美琴は独り言のように呟く。
まるで自分の過去の過ちを懺悔するかのように。
「私が幼い頃自分のDNAマップを提供したの。
その時は筋ジストロフィーの病気とか治す為に必要とか言われてね。
私はこの力が誰かを救えると思ったけど本当はそうじゃなかったの。
本当の目的は超電磁砲という超能力者を大量生産するつもりだったの。
でも、生まれた私のクローン・・通称「妹達」は私の実力の1%も満たない。
だから計画は永久凍結したはずなの。
でも・・・・」
「絶対能力進化という計画ができ、それであの「妹達」が利用された。」
麻生の口から実験の名称が出てきたことに美琴は言葉を失う。
「なんで知ってんのよ。」
「実は俺もその実験が行われている所を見てな。
気になって調べてみたんだ。」
それを聞いて美琴は驚いていたが、すぐに笑みを浮かべる。
「はは、知ってたんだ。
それなら分かるでしょ?
私がどれだけ酷い事を事をしたのか。」
あの「妹達」は誰一人として美琴を攻めなかった。
自分がDNAマップを提供しなければ生まれる事もなく、殺される予定で生み出される事もなかった。
美琴と一人ではどうする事も出来ない。
「ふぅ~ん、それで?」
「え・・・・」
「それでお前は俺に何を求めているんだ?
俺に責められてほしいのか?
それとも助けてやる、とでも言えばいいのか?
お前は俺を正義の味方か何かと間違っていないか?」
そう言って麻生は振り返り歩いていく。
美琴は心のどこかで麻生なら助けてくれると思っていた。
なんだかんだ言いつつも虚空爆破事件、幻想御手の事件の時は助けてくれた。
だから一方通行に勝てなくても、一緒に実験を止めるのを手伝ってくれると思っていた。
だが、麻生の答えは美琴が思っていたのと全くの別だった。
「まって・・・・」
美琴は麻生を引き留める。
だが、麻生の足は止まらない。
「待ってよ・・・・お願いだから、私を・・・・あの子達を助けてあげて・・・・」
美琴の願いに麻生は答えない。
美琴はそのまま膝が崩れ落ちてしまい、麻生は一度も振り返る事なく施設から出て行った。
麻生がどこかへ行ってから美琴はとある鉄橋の上に立っていた。
「どうしてこんな事になっちゃったのかな。」
美琴はあの研究者の言葉を信じていた。
自分のDNAマップがあれば様々な病気を抱えている病人を助ける事が出来ると。
だがその願いが結果として二万人もの「妹達」もの人間を殺す事になった。
「私にできる、これ以上一人も犠牲者を出さない手段。
でも、それでも止まらなかったらもう・・・」
あの時、幻想御手の事件の犯人である木山は別れ際に言った言葉を思い出す。
「君も私と同じ限りなく絶望に近い運命を背負っているという事だ。」
その言葉の意味がようやく分かった。
美琴はうつむきながら呟いた。
「たすけてよ・・・・」
誰にも届かない叫びが美琴の口からこぼれていく
その時、ミャーという鳴き声を聞いて足元に優しいぬくもりを感じさせる黒い毛皮の子猫が座っていた。
一体どこから来たネコなのだろう?と思った時だった。
カツという足音が聞こえた、美琴は顔を上げる
「何やってんだよ、おまえ。」
美琴の叫びを聞いて駆け付けた主人公のように上条当麻がやってきた。
麻生は宇宙開発エリアから自分の寮に戻ってきていた。
そしてベットに寝転がり睡眠をとろうとした。
だが・・・・
(私を・・・・あの子達を助けてあげて・・・・)
その言葉が麻生の頭から離れなかった。
美琴は助けてと麻生に言った。
だが麻生はその救いに手を差し伸べなかった。
これが本当の自分なのだから、と自分に言い聞かせた。
なのに、麻生は自分でも驚くほどにいらついていた。
(その生き方でいいのか?)
今度はあの猫の声が麻生の頭に響く。
(俺はあいつの様になりたかった。)
目を閉じて思い出す。
過去の自分と上条当麻を。
(俺はあいつになれない。
当たり前だ。
俺は俺だ。
上条当麻のようになれる訳がない。)
麻生は立ち上がり携帯電話を電話帳を開けて電話をする。
数コールの後その人物が電話に出る。
「麻生さん、こんばんわ。」
その相手は初春飾利だ。
「麻生さんから電話を掛けてくるなんて珍しいですね。」
「夜分にすまないな。
実は調べてほしい事があるんだ。」
絶対能力進化のコードを初春に教えそのデータを送ってもらう。
「わざわざすまないな。」
「いえ・・・・」
「どうした?」
突然初春が黙ったので麻生は気になった。
「その麻生さん、少し変わったな~と思いまして。」
初春の予想外の返事に、麻生は唖然とする。
「前はこう、孤独感と言うかなんかそんな感じの声だったんですけど、今の麻生さんなんかすっきりしているって言うかなんていうか・・・・・」
「俺は俺だ、どこも変わってないよ。」
麻生はそう言って電話を切った。
初春から送られてきたデータを確認する。
次の実験の開始時刻は八時三〇分。
場所はとある列車の操車場だ。
今の時刻はちょうど八時三〇分。
場所をGPSで確認すると麻生はいつもの服でその場所に向かう。
(もし死んでても俺は知らないからな。)
そう思いつつも麻生の足は歩きではなく走っていた。
上条は実験を止める為に一方通行と戦っていた。
この実験は一方通行は最強である事を想定して計画された。
だがもし一方通行がものすごく弱かったら?
学園都市で最弱と呼ばれている無能力者に負けてしまったら計画は中止になるだろう。
そして今、上条は一方通行相手に押していた。
最初は一方通行のベクトル操作に苦戦していた。
上条は気づいたのだ。
一方通行は本当に弱いことを。
一方通行は全ての相手に負けた事がなかった。
それもどんな攻撃も反射して全ての敵を一撃で倒してきた、一方通行はケンカの方法なぞ知っている訳がなかった。
普通の相手なら一方通行の敵ではない。
だが、上条の右手、幻想殺しは超能力・魔術問わず、あらゆる異能の力を打ち消す。
一方通行のベクトル操作も例外ではない。
「面白ェ、何なンだよその右手は!」
小刻みな右の拳を何度も顔面に浴びた一方通行は、がむしゃらに手を伸ばしながら叫ぶ。
それもたやすくかわされ、上条は右の拳を作り一方通行の顔面へと突き刺さる。
今まであらゆる攻撃を反射してきた一方通行には、目の前の攻撃が「危ない」と分かっていてもそれを「避けよう」という動きに結びつかない。
ただがむしゃらに両手を振って追いかけるその姿は、大人に軽くあしらわれている小さな子供にしか見えない。
その事実は一方通行が一番分かっているからこそ耐えられない。
学園都市最強のプライドがギシギシと音をたて崩れていく。
「クソ、クソォ!クソォオオオオオオ!!!」
一方通行は足元の運動エネルギーを最適化させ一気に接近する。
だが・・・・
「何だ、ちくしょう。
何だってオマエにはただの一発も当たンねェンだよ、ちくしょう!!」
速度を得た所で狙いが先読みできれば簡単に避ける事が出来る。
勝負は決していた。
上条が小刻みに与えたダメージは今まさに蓄積していた、うたれ弱い学園都市最強の能力者の足を殺しつつある。
かくん、と一方通行のヒザから力が抜けた瞬間、ゴッ!!それまでにない上条の「本気」の拳が顔面に突き刺さる。
「「妹達」だってさ、精一杯生きてきたんだぞ。
全力を振り絞って必死に生きて、精一杯努力してきた人間が・・・何だって、テメェみてぇな人間の食い物にされなくっちゃなんねぇんだよ!!!」
上条の言葉を聞いて一方通行は思う。
(生きてる?何言ってだンだ?)
この時、無風状態だったこの列車の操車場に風が吹いた。
(アイツラは人形だろ?
そう言ってたじゃねェか。
力がいる・・・コイツを黙らせる力。)
一方通行はその風を感じ取るとかのように左手を上げる。
(いや、理もルールも全てを支配する・・・・絶対的な力がッ!!!)
その瞬間、轟!!と音を立てて巨大な大気の渦が一方通行の中心に、直径数十メートルに及ぶ巨大な破壊の渦が歓喜の産声を上げた。
「くかきけこかかきくけききこかきくここくけけけこきくかくきくこくくけくかきくここけくきくきこきかかッ!!!!!!!」
その暴風に上条は糸も簡単に飛ばされ折れた風力発電のプロペラの支柱に勢いよく、ゴン!!!と音を立てぶつかりそのまま地面にうつ伏せに倒れ動かない。
その様子を見ていた、美琴は信じられないような表情をしていた。
「空気、風、大気、あンじゃねェか目の前のクソをブチ殺すタマがここに。
この手で大気に流れる風の「向き」を掴み取れば、世界中に流れる風の動き全てを手中に収める事ができれば世界を滅ぼす事だって可能。
学園都市最強?絶対能力?そンなモンはもォいらねェ!
一方通行を止められるものなンざこの世のどこにも存在しねェ!!」
自分の開いている左手を月を掴むかのように力強く握りしめる。
「世界はこの手の中にある!!」
ゆっくりと立ち上がると良い事を思いついたのか悪魔のような笑みを浮かべる。
「空気の圧縮、圧縮ねェ、イイぜェ愉快な事を思いついた。
なンだよそのザマはァ!!立てよ、最弱ッ!!
オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねンだっつの!!」
学園都市の風が一方通行の頭上に集まる。
その時だった。
「一方通行!!!」
その後ろで美琴が超電磁砲の構えをとっていた。
「やめろ・・・御坂・・・」
声が聞こえた。
死んでしまったと思った上条の声だった。
美琴はそれを聞いて一安心する。
上条はあの鉄橋で言った。
「何一つ失う事なくみんなで笑って帰るってのが「俺」の夢だ。」
結局、自分のせいで上条の夢は叶いそうにない。
誰もが笑って誰もが望む、最高に幸福な終わり方はないのか?
誰一人欠ける事もなく、何一つ失うものもなく、みんなで笑ってみんなで帰るような、そんな結末はないのか?
そうぼんやりと美琴は考えた。
その考えを振り払うように超電磁砲を構え直そうとした時だった。
一方通行の頭上にある事が起きていた。
高電離気体が出来ていた。
周囲の空気中の「原子」を「陽イオン」と「電子」へ強引に分解し、高電離気体へと変貌させてしまう。
美琴が電撃を用いて高電離気体を元に戻したところで、一方通行はすぐに新しい高電離気体を作るだろう。
高電離気体を防ぐには風を操る必要がある。
美琴は電撃を操る事ができても風は操れない。
どうすればいい?と美琴は考えそして思いついた。
だが、これは美琴が実行する事ができない。
なぜならこの戦いに超能力者である美琴が関われば、実験を中止させる事が出来ないかもしれないからだ。
超能力者の美琴が関わっている事が分かれば、研究者達は超能力者のおかげで倒せたのだと判断する。
つまり、一方通行が最弱である事を証明していないのだ。
御坂美琴が関わってならないのなら、これは御坂妹にしかできない仕事だ。
美琴は振り返る。
そこにはうつ伏せに倒れている御坂妹がいた。
美琴は駆けより御坂妹に言った。
「お願い、起きて。
無理を言っているのは分かっている。
自分がどれだけひどい事を言っているのかも分かっている。
だけど、一度でいいから起きて!!
アンタにやって欲しい事があるの。
ううん、アンタにしかできない事があるの!」
誰一人欠ける事なく、何も失うものなく、みんな笑って、みんなで帰るためには。
「たった一つでいい、私の願いを聞いて!
私にはきっと、みんなを守れない。
どれだけもがいてもどれだけあがいても、絶対に守れない!
だから、お願いだから!!
アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!」
御坂妹は断続的に途切れる意識の中で確かにお姉様の叫びを聞いた。
御坂妹は嫌だな、と思ってしまった。
こんなちっぽけな命が失われたくらいで哀しむ人が出てくる事を知ってしまったら、もう死ぬ事などできなかった。
守るべきものを見つけ、そして守る為に御坂妹は四肢に力を込める。
「その言葉の意味は分かりかねますが、何故だか、その言葉はとても響きました、とミサカは率直な感想を述べます。」
御坂妹は美琴の右手を握りしめる。
そしての握りしめた手にもう一つ手が重ねられる。
「俺もその言葉、結構響いたぞ。」
もう一人の主人公、麻生恭介がその言葉に応えるかのように駆け付けた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第22話
麻生が此処にいる事に美琴は驚き、言葉が出ない。
御坂妹は初めて麻生を見たので、誰だか分からないので麻生に問い掛ける。
「貴方は誰ですか、とミサカはどこの誰だが知らない一般人に問い掛けます。」
「通りすがりの一般人Aだ。」
「ではこんな所になぜ一般人Aがいるのですか、とミサカは再三貴方に問い掛けます。」
「借りを返しに来た。」
麻生がそう言うと美琴はえ?と言葉が洩れる。
「お前のおかげで答えを、生き方を見つけられたからな。
その借りを返しに来たんだ。」
麻生は美琴と御坂妹の手に重ねていた手を離し、一方通行の所まで歩いていく。
美琴は麻生が一方通行に戦いを挑もうとしている事に気づき止めに入る。
「待ちなさいよ!!
いくらあんたでも、あの一方通行には勝てない!!」
「そんなのやってみなくちゃ分からない。
まぁ、お前達にも何か考えがあるようだけど此処は俺に譲ってくれ。」
一方通行は後ろで自分に聞き覚えのない声を聞いて視線だけを後ろに向ける。
その瞬間、一方通行の演算式で作り上げていた高電離気体が一気にその形が崩れ消滅する。
「な、に・・・・」
一方通行は驚きというより原因が分からなかった。
後ろに視線を向けたが演算式に狂いはなかった。
それなのに高電離気体は形が崩れ消滅してしまった。
今度は視線ではなく身体全体で後ろに振り向くと、そこに麻生恭介が少しだけ笑みを浮かべていた。
「テメェの仕業か。」
一方通行がその言葉を言うと同時に麻生の姿が視界から消える。
一瞬驚いたが、一方通行の後ろで砂利を踏む音が聞こえたので、振り向くと麻生は上条の側に立っていた。
(空間移動の能力者か?)
一方通行はそう考えるが、そうだとするとあの高電離気体が消滅した原因にならない。
だが、麻生は確かに一方通行の視界から消えたのだ。
こいつが原因じゃないのか?と麻生を睨みながら考える。
「おい、なに寝ている。
さっさと起きろ。」
麻生は乱暴に上条の腹を軽く蹴るとごほごほ!!と上条が咳き込む。
そして、麻生が近くにいる事が分かる。
「よ、よう、来てたのか。」
「ついさっき来たばかりだけどな。」
麻生は上条の胸ぐらを掴むとまた一方通行の視界から消える。
一方通行は驚く事無く、ゆっくりと後ろを見ると美琴達のいる所に立っていた。
そしてその側に上条を降ろすと、何言わず一方通行に向かい合う。
「さっきの三下を連れて空間移動したって事は大能力者って所か。」
両手を広げ再び風を操り高電離気体を作り出す。
一度演算式の組み上げた成果なのか、さっきよりも早く高電離気体が作り上げる。
一方通行はどこか計算が間違っていたのだと考え、次は完璧にしてみせると思った時だった。
「そんな危険な物を黙って作らせると思ったか?」
麻生の言葉と同時に一方通行の頭上にあった高電離気体が消滅した。
一方通行はさっきよりも強く麻生を睨みつける。
「テメェ、一体何の能力だァ。」
「それを教えると思うか?」
麻生の返答に一方通行は悪魔のような笑みを浮かべる。
「ふ~ン、いいねその態度。
お前をぶち殺したくなってきたじャねェか!!」
一方通行は上条を吹き飛ばしたのと同じくらいの風を操り麻生にぶつける。
すると、麻生の周りで一方通行が操っている暴風と同じ暴風が吹き荒れる。
暴風と暴風がぶつかりコンテナなどを吹き飛ばしていく。
「さて、九〇〇〇もの「妹達」を助けるのは面倒だからな。
ここでお前を倒して実験を中止させる。」
一方通行の視界から麻生が消える。
麻生は一方通行の真後ろに移動していた。
一方通行は麻生の能力を空間移動と考えたがそれは違う。
空間移動で麻生が空間移動できても、さっきの上条と一緒に空間移動する事が出来ない。
なぜなら、上条の右手がその能力を打ち消すからだ。
だから麻生は足に風の魔術の術式を作り上げ移動力を格段に上げたのだ。
これは麻生全体に付加されているのではなく足の部分だけに付加されているので、上条の右手が直接足に触らない限りは打ち消す事はない。
だから上条を掴みながら移動する事が出来たのだ。
麻生の右手にはナイフを持っていてそれを一方通行に向けて振りかざす。
だが、一方通行は麻生が視界から消えてもうろたえる事はない。
なぜなら、彼はデフォルトで全身に反射の膜が張ってあるからだ。
ナイフが一方通行に触れた瞬間、ナイフが尽く砕け散る。
麻生はそれを確認すると後ろに下がる。
「どんなに空間移動してもそンなちンけな武器じゃあこのオレには勝てねェぞ。」
一方通行は魔術の事は知らないので、麻生は空間移動で移動しているのだと思っている。
空間移動だろうと、風の術式による高速移動だろうと一方通行には関係ない。
突然、一方通行の地面が爆発する。
麻生は地面の成分を変換させ一方通行の周りの地面を爆発させたのだ。
それをくらっても一方通行は傷一つなく立っている。
「もう終わりか?
ンなら今度はこっちの番だな。」
一方通行が地面を優しく蹴ると、そのベクトルを変換させ巨大な衝撃波に変える。
麻生は横に飛ぶことでそれをかわすが、飛んだ方に何本のレールが飛んで来たのだ。
「オラオラ!!
オレの楽しみを奪ったンだからよォ、ちっとは楽しませてくれやァ!!!」
麻生は飛んでくるレールを避ける動きをしない。
むしろ正面から立ちふさがる。
自分に飛んでくるレールを正面から受け止める。
その衝撃で麻生の両足の地面が軽く吹き飛ぶが、気にすることなく飛んでくるレールに視線を送る。
麻生はそのレールを片手で振り回し飛んでくるレールを全て弾き飛ばす。
「お前、面白れェ能力だな。」
その光景を見ていた一方通行は余裕の表情をしている。
一方通行の反射の壁を打ち破るのは上条の右手だけだ。
その上条は今は動く事が出来ない。
一方通行に恐れるモノは何もないのだ。
麻生はレールを捨てると高速移動はせずに走って、一方通行に向かって行く。
左手を握りしめ一方通行の顔面、目がけて拳を振う。
それを見た一方通行はつまらなさそうな表情をする。
(最後の手段がこれかよ。
少子抜けだな。
さてどうやってコイツを)
その先を考えようとしたが出来なかった。
なぜなら、麻生の拳が一方通行の反射の壁を越えてきたからだ。
麻生に殴られ身体が吹き飛び地面に転がる。
訳が分からない。
一方通行はそう思いながら立ち上がる。
(どうなってやがる!?
あいつもさっきの奴と同じ能力を持ってやがンのかァ!?)
先程の余裕の表情から一転、驚愕と困惑が混ざった表情に変わる。
「なぜ反射の壁を越えてきたか、それが分からないのだろう?
なら、教えてやる。
俺の能力を使って拳の周りだけ一時的に物理的法則を捻じ曲げただけだ。」
「なンだと・・・・」
一方通行は麻生の言っている事が理解できなかった。
この星が誕生してから物理的法則などは全て決まっている。
それを捻じ曲げる事など不可能だ。
だが、麻生の能力に常識などと言った物は全く通用しない。
「俺の能力を言っていなかったな。
俺の能力は「星」。
この星の万物全てに干渉し、この星にある法則などを自由自在に変換できる。
だが、この能力はまだ完璧に操れていない。
せいぜい二割から三割くらいだから物理的法則も一時的、正確には三秒くらいしか歪められない。
でも、三秒あればお前の身体に十回は殴る事が出来る。」
そんな能力など一方通行は聞いた事がない。
もしそんな能力があれば絶対能力どころの話ではない。
「それに・・・・」
麻生は面倒臭そうに一方通行に説明する。
「お前の反射の壁は絶対じゃない。
お前は無意識の内にあらゆるベクトルに有害と無害のフィルタに分けている。
全てを反射していたらお前は酸素を吸う事も出来ないからな。
だからこうやって・・・・」
瞬間、一方通行の身体が後ろに数十メートルくらい吹き飛ぶ。
「反射の壁を越えてお前を倒す事も出来る。」
麻生はたった二回の攻撃で一方通行の反射の法則を見切り、その対策をその場で作り上げたのだ。
一方通行は自分が完全に遊ばれている事に気づき苛立つ。
「なめてンじャねェぞ!!!!
雑魚があああああ!!!!
勢いよく立ち上がりそのまま足元の運動エネルギーを変換させ、一気に距離を詰める。
そして両手を前に突きだして麻生の身体に触れようとする。
いくら反射の原理を掴んでも、それを実行させる前に殺せば問題はない。
一方通行の手に麻生の身体の一部でも触れた瞬間、血管に流れている血液の向きを、生体電気の流れを逆流させられる。
麻生は右手で一方通行の左手を受け止める。
一方通行は笑みを浮かべるが、突如自分が構築していた演算式が消える。
突然何が起こったのか分からない一方通行だが、再び麻生の拳が一方通行の顔面に突き刺さる。
「俺の血液の向きを変えるつもりだったのだろうが、それは俺の身体に直接干渉するという事だ。
俺は五感や俺の身体に直接干渉してくる能力は、俺の了承がなければ無力化されるようになっている。」
地面に仰向けに倒れている一方通行に言い聞かせる。
一方通行はふらふらと立ち上がる。
「さぁ立てよ。
今度はお前の能力、小細工なしで正面から突破してやるよ。」
左手で拳を作り、突き出しながら麻生は言う。
その言葉が一方通行を限界までいらつかせた。
「俺の能力を正面から突破するだァ?
調子に乗るンじャねェぞ!!!!」
最大まで足元の運動エネルギーを変換させ一瞬で距離を詰め、両手を麻生の顔面目がけて突き出す。
麻生は簡単にかわすと左の拳を一方通行の顔面に繰り出す。
麻生と一方通行の間で凄まじい衝撃が生まれる。
一方通行の反射は相手が強い攻撃すればするほど強く反射される。
二人の周りの地面が少しずつ抉れていく。
それほどまでに麻生の拳の衝撃がうかがえる。
なのに、麻生の身体は吹き飛ぶことなくそのまま拳を前に突きだしている。
(反射は適用されている。
それならどうしてアイツの身体は吹き飛ばねェンだよ!?)
すると、一方通行の耳に骨が軋む音や折れる音が聞こえた。
他の誰でもない麻生の身体中の骨が悲鳴をあげているのだ。
地面が抉れるほどの衝撃を受ければ指は折れ、腕も折れ、身体の骨は軋み、やがてひびが入るだろう。
その衝撃は骨を通り越して臓器まで伝わる。
それほどのダメージを受けているのに、麻生の身体は吹き飛ばず前に進もうとしている。
麻生は身体が後ろに吹き飛ぶベクトルをただ前に変換しているだけで、骨などは能力の治癒で治療させ続けている。
それでも痛みが無くなる訳ではない。
想像絶する痛みの中、麻生は拳を前に突きだしている。
そして少しずつ、だが確実に前に進んでいた。
一方通行は自分の反射の壁を補強するかのように、全演算式を反射の壁の補強に回す。
それでも麻生の拳は止まらない。
「俺はあいつのように綺麗事は言わない。」
一方通行ではなく自分に言い聞かせるように呟く。
「だが、俺は決めたんだ。
俺に助けを求める人がいるのなら俺は全力でその人を助けるってな。
そして美琴は俺に助けを求めていた。
だからお前を倒して計画を破綻にしてあいつを救うんだ!!」
麻生の拳は一方通行の反射の壁を突き破り、顔面に突き刺さりそのまま後ろのコンテナまで吹き飛んで行った。
次の日の朝、麻生はリンゴを片手に持ちながら病院の中にいた。
入院している上条にお見舞い(といってもリンゴの皮を剥くだけだが)をしにきたのだ。
受付で上条の病室を教えて貰い、そこに向かう。
上条の病室が見えてきた所で、その病室から美琴が出てきた。
美琴は廊下に麻生がいる事に気がついて話しかける。
「あんたもお見舞い?」
「そんなところだ。」
「なら、あいつは麻酔で寝てるからあまり意味ないわよ。」
それを聞いた麻生はリンゴをじっと見つめると、美琴に放物線を描くように投げる。
「それならお前が食べてくれ。」
リンゴを美琴に渡すとそのまま寮に帰ろうとする。
だが、美琴が麻生を呼び止める。
「ま、待ちなさいよ!!
わ、わた、私は・・・まだ・・あんたにお礼を・・・・いってな・・い。」
後半からは声が小さくなりよく聞こえなかったが、とりあえずお礼が言いたいのだろうと麻生は適当に考え頭をかきながら言った。
「そこまで気にする事じゃない。
俺は俺に助けを求める人は絶対に助けると、決めてそれを実行したに過ぎない。
俺は自分の為に戦ったのだからな。」
麻生はそう言って病院を後にした。
後ろでは美琴はまだ納得のいかない顔をしていたが、それでも前とは違い少しだけ笑みを浮かべていた。
その数日後、上条が退院して自分の部屋に戻った。
すると、麻生が珍しく上条の部屋を訪ねてきた。
そして開口一番に言った。
「ご飯を作ってやるよ。」
は?、と上条は呆けてしまったがそれに構わず部屋に入り台所借りるぞ、と適当に言って調理を始める。
ようやく正気に戻った上条はいきなりの展開についていけてないようだ。
「一体どうしたんだ。
何があったんだ!?」
「うるさいな。
今日は作りたい気分だったから、ついでに作ってやろうと思っただけだ。」
ぶつぶつ言いながら買ってきた食材をだし調理にかかる。
インデックスは麻生の料理を楽しみしているのか、すでに机に陣取りフォークとナイフを持ってスタンバイしていた。
麻生の突然の行動について考えた上条は、何かを思いついたのか麻生に尋ねる。
「もしかして、一生来ないと思っていたデレ期なのか?」
ピタッ、と麻生の手が止まる。
そして何も言わず部屋を出ていこうする。
「申し訳ございません、恭介様!!!
何とぞ、踏みと止まってください!!!
私達においしい食事を作ってください!!!」
目にも止まらぬ速さで麻生の前で土下座する。
麻生は大きくため息を吐くと台所に引き返していく。
調理を開始していると何だかおいしいそうな匂いがするぞ!!、とこれは麻生の飯の匂いだにゃ~!、とどこかの聞き覚えのある声が廊下から聞こえた。
おそらく舞夏と土御門だろうと考えた麻生。
二つの足音はこちらに向かって来ている。
ため息を吐いた麻生はもう二人分のご飯を作る準備を開始した。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第23話
学園都市はある噂で持ちきりだった。
それは学園都市第一位である一方通行タが二人の無能力に負けたという噂だ。
学生達の間ではその噂が流行り、今ではどこかの無能力者が一方通行に勝ったのは自分だと、と言い始める学生が出始めている。
そんな噂など気にせずにいつも通り街中を散歩している、麻生恭介。
正直、彼は噂の事などどうでもよかった。
麻生は自分の力で助けれる人を助けていくと決めたから、一方通行と戦っただけだ。
炎天下の日差しの中歩いていて、少し休憩をしようと考えていた時だった。
「麻生さ~~~~ん!!」
自分の名前を呼ばれたので声のした方に視線を向ける。
そこには、喫茶店の野外テーブルに座っている佐天がこちらに手を振っていた。
麻生は呼ばれたので佐天に近づく。
「こんにちわ、麻生さん。
何かしていたのですか?」
「ただの散歩だ。」
「こんな炎天下の中でよく散歩なんて出来ますね。」
「これ以外にすることがなくて暇なんだよ。」
佐天と会話していると、テーブルの上にプリントや教科書が並べられているのに気が付く。
その一枚のプリントを拾う。
プリントに書かれていたのは、数学の問題だ。
「それは夏休みの宿題です。
でも、なかなか進まなくて気分転換を兼ねて外でやっているんですけど・・・・」
あはは、と苦笑いを浮かべながら答える。
他のプリントを見た限、りあまり進んではいない事が確認できた。
ちなみに麻生は夏休みの宿題が配布されてからその日に全て終わらせた。
「そうだ、麻生さんは高校生ですよね?
だったらこの宿題を手伝ってくれませんか?」
神社にお参りするかのように手を合わせてお願いしてくる。
麻生は小さくため息を吐いて佐天の相席に座り、店員に水を注文する。
「答えは教えないが解き方くらいは教えてやるよ。」
その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる、佐天。
こうして麻生先生の勉強会が始まった。
「つまり、この教科書に載っている公式。
これをこの数式に当てはめると答えが出てくる。」
麻生の説明にふむふむ、と頷きながら問題と睨めっこしている。
「だが、この数式を解く公式はもう一つあってそれを間違えて入れると答えがまた違ってくる。
これはよくテストとかに引っ掛けとして使われるから覚えておいた方がいい。
とにかくだ、まずはこの二つの公式を覚えてその違いを把握してどの数式に当てはめるのかを見極めないと解けない。」
「むむむ、結構難しいですね。」
「耳で聞いていると難しそうに聞こえるが、実際にやってみると案外簡単だ。
まずはこの二つの違いから教えてるぞ。」
佐天に分かるように丁寧にかつ分かりやすいように説明をする。
佐天も違いに分かったのか、中盤辺りから一人で問題を解き始めている。
ふと、佐天の手が止まる。
「その・・・・ありがとうございます。」
「うん?礼なら結構だ。」
水を飲みながら、麻生は聞き返す。
「この宿題を手伝ってくれているのもありますけど私が幻想御手で昏睡した時、私や他の人を目覚めさせてくれたのは麻生さんなんですよね?
初春から聞きました。
お礼を言おうとしても、麻生さんになかなか会えなかったので少し遅れちゃいましたけど。」
「それこそ気にするな。
俺は俺の為に戦っただけだ。」
「それでも私は助けてもらいましたから。」
そして二人の間に沈黙が流れる。
佐天のシャーペンで答えを書く音だけが聞こえる。
しばらくすると・・・・
「佐天さんに麻生さんじゃないですか。」
二人の耳に聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げる。
そこに初春と白井がこちらに歩いて来ていた。
「何しているのですの?」
「見て通り佐天に数学を教えているんだよ。」
「佐天さんが夏休みの宿題を自分からするなんて珍しい事もあるんですね。
もしかして熱でもありますか?」
本気で心配しているのか佐天の額と自分の額に手を当てて熱を測る。
「あのね、初春。
いくら私でも夏休みの宿題くらいちゃんとするわよ。
それに明日は補習もあるから予習しとかないとまずいのよ!」
そう言って両手で初春のスカートを捲り上げる。
コーヒーを飲んでいた学生はスカートの中のパンツを見てコーヒーを吹き出し、通りがかっていた学生は顔を赤くしながらもしっかりとパンツを見る。
初春はすぐさま両手でスカートを押えつける。
「佐天さん!!!」
初春はチラッ、と麻生の方を見るが特に気にする様子もなく水を飲んでいる。
その全く興味も抱いてくれていない所を見てちょっぴりテンションが下がる、初春。
白井は何をしょうもないことを、と言って呆れている。
まぁ、白井が美琴にしている事とに比べると佐天のスカート捲りが可愛く見えるのだが。
すると、白井の表情が風紀委員の表情に変わる。
「ちょうどいいですわ。
お二人の耳にお入れしたい事がありますの。」
白井の雰囲気を感じ取ったのか初春も表情を引き締め、パソコンを鞄の中から取り出し起動させる。
「最近、能力者による無能力者狩りがこの学園都市で頻繁に起こっています。」
初春の言葉を聞いて佐天の驚いている。
「この第七学区以外でもよく行われているようです。
何人かの能力者達が集まり無能力者をゲーム感覚で襲っているのですの。」
「能力をそんな事に使うなんて・・・・」
佐天はこの学園都市の能力に憧れてこの学園都市に入ってきた。
能力に人一倍憧れを持っている佐天にとってショックな事なのだろう。
「風紀委員は何か対策をしているのか?」
「とりあえず、時間が許す限りは裏路地などカメラの死角となっている所を見まわるようにしています。
ですが、被害報告は減るどころか増える一方で・・・・」
「ですので、佐天さんなどの無能力者にこうやって注意を呼び掛けているのですの。」
「確かに無能力者の私が襲われたら大変だしね。」
以前の佐天なら白井の言葉に苛立ちを覚えていたのだろうが、幻想御手の一件で吹っ切れたらしく自分が無能力者であることを受け入れている。
「くれぐれも裏路地などには入らない様にする事、もし能力者が襲ってきたらすぐに連絡を入れてください。」
「なぁ、一つ聞きたい事がある。」
「なんですの?」
「能力者達はどうやって無能力者と能力者を判断しているんだ。」
「どういうことですか?」
佐天や初春は麻生が言っている事が分からないようだ。
麻生は説明を続ける。
「仮に美琴が制服を着ているのではなく、私服を着ていると考えてくれ。
制服なら常盤台ということが分かるから、無能力者でないことがすぐに分かる。
だが、今は夏休み。
制服を着ている人など少なく私服の学生が多くなるはずだ。
さっき言ったように美琴が私服で歩いていて、能力者が美琴を無能力者だと勘違いして襲いだす。
すると、どうなると思う?」
「あっ!」
初春は麻生が言いたい事が分かったようで白井もそこに気付いたようだ。
佐天だけは分かっていないので麻生は分かりやすく説明する。
「もし無能力者だと思って襲いだしても、その対象者が自分より能力が上だったら返り討ちに会う筈だ。
だが、さっきの二人の説明を聞いた時そう言った失敗をした報告は入っていないようだった。
つまり敵は何らかの方法で能力者と無能力者を判断している筈だ。」
麻生の推測に白井と初春は頷きながら納得している。
「そこまで考えが及びませんでしたの。
犯人がどうやって能力者と無能力者を判断しているか、それについても調べないと駄目ですわね。」
「凄いです、麻生さん!!
さっきの説明を聞いただけでこれだけの名推理をするなんて!!」
「さすがにどうやって判断しているまでは分からないがな。」
「いえ、麻生さんのおかげで少しだけ活路が見えてきました。
判断方法を知る事が出来れば捜査の効率が上がりますわ。
貴重な意見をありがとうございます。」
それでは、と言って白井は立ち去っていき初春も急いでパソコンを鞄に入れありがとうございます、と元気よく挨拶して白井の後を追う。
そして麻生と佐天の二人になる。
「あの・・・麻生さん。」
「どうした?」
「突然ですけど、携帯のアドレスと電話番号を教えてくれませんか?」
「理由を聞かせてくれ。」
麻生がそう言うと佐天は不安そうな顔を浮かべる。
「さっきの話を聞いてちょっと怖くなってしまって。
初春は麻生さんはとっても強いって言ってたから何かあったら助けてもらおうかと思って・・・・駄目ですか?」
断られるのが怖いのかさっきよりも不安そうな顔をする。
麻生は携帯を取り出す。
「分かった。
だが、あまり期待するなよ。
俺だって困ったらすぐに駆け付けるスーパーマンではないからな。」
「それでもいいです!!
ありがとうございます!!」
本当に嬉しそうな顔をしてアドレスと番号を交換する。
なぜか佐天はそのまま携帯をギュッと大事に握りしめている。
「さて、いい休憩にもなったし続きを始めるか。」
「はい!!!」
元気のいい返事で勉強を再開する。
そしてそれらがほとんど終わる頃には日が傾いていた。
「日も落ちてきたな。
そろそろ帰った方がいい。
初春達が言っていた事もあるしな。」
「そうですね。
早く帰った方が安全ですね。」
佐天はテーブルの上に散らばっているプリントと教科書をまとめ鞄の中に入れる。
そして、立ち上がり麻生に向かって頭を下げる。
「今日は本当にありがとうございました。」
「俺はただやり方を教えただけだ。
最後の方は一人で問題も解けていたし大丈夫だろ。」
「麻生さんはこれから何か?」
麻生は一瞬、後ろに視線を向けて言った。
「ああ、ちょっと野暮用だ。
悪いが此処でお別れだ。」
「分かりました。
それじゃあまた今度会いましょう。」
振り返って歩き少し進んでから振り返って麻生に向かって手を振る。
麻生も片手で軽く振り返してそれに満足したのか走って帰っていく。
さて、と麻生が呟き近くの裏路地に入る。
少しだけ歩くと、拓けた所に出る。
すると、麻生が通ってきた道と前の道から前後二人ずつの男が現れる。
裏路地の不良とは違い服装もきちんと整えてあり髪もセットしてある所を見ると不良ではない事がすぐにわかる。
「ごめんね~、俺達無能力者狩りをしているだ。
どれだけ無能力者を病院送りにさせたかで点数をつけて競っているんだ。
最近は風紀委員のせいで無能力者を狩れてないから、俺達は他のメンバーに比べて点数が低いんだよ。
だから、お前にはちょっくらカモになってもらうぜ。」
麻生の目の前にいる黒髪の男が楽しそうに話し始める。
どうやらカモという言葉が面白かったのか他の三人も笑っている。
麻生は大きくため息を吐く。
「くだらないな。」
「はぁ?」
「くだらない、と言ったんだ。
最近のガキはこんな屑が多いの。
こりゃあ教師達の頭痛の種だな。」
「調子に乗るんじゃねぇぞ、無能力者が!!!」
バチバチと青白い黒髪男の周りに火花を散らしている。
そして、電撃の槍が麻生に向かって放たれてそれが麻生に直撃し埃が舞う。
「おい、お前一人で倒したら点数はお前だけはいるじゃないか。」
「悪い。
能力一つ開発できない屑に偉そうに言われて腹が立っちまった。」
「でも、こいつも馬鹿だよな。
こりゃあ入院確定だな。」
四人の男達は心底楽しそうに笑う。
「何がそんなに楽しんだ?」
だが、埃のカーテンの中から声が聞こえ、一斉に笑い声がなくなる。
カーテンが晴れると傷一つなく麻生が立っていた。
「な、何でだ!?
俺の最高電力が当たった筈だぞ!!」
「あれで最高か、となると強能力者ってところか。
こっちは超電磁砲の電撃の槍を何度も受けているんだ。
この程度、空間の壁も使うまでもない。」
麻生はすぐさま後ろに振り返り、唖然としている男の顔面に加減なく拳が突き刺さる。
武術の達人が見たら足の踏込み、身体の向きや拳の握り方までが全く無駄がなく、その一撃はとてつもない威力である事が分かる。
殴られた男は後ろの壁までノーバウンドでぶつかる。
そして唖然としていた他の三人がようやく動き出すが、すぐ隣にいた男のみぞに掌底を突き刺し沈める。
電撃使いの隣にいる男の能力は発火能力らしく、サッカーボールの大きさまで火の玉が大きくなりそれを麻生に向けて放つ。
麻生は横に飛んでかわし、すぐ横にある壁を右足で蹴り一気に距離を詰める。
男はもう一度火の玉を作ろうとするが、それよりも早く麻生の左足が男の脇腹を蹴りつけ地面に勢いよく転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
黒髪の男が唖然としている間に、他の三人がやられてしまいようやく自分の状況に気づく。
「く、くるな・・・お願いだ、見逃してくれ・・・」
自分では麻生に勝てないと分かったのか涙を溜めながら麻生に命乞いをしてくる。
「お前は自分が襲った無能力者が同じ事を言った時どうした?」
男は何も言えない。
自分は助けてと言われても容赦なく殴る、蹴るの暴行を楽しく行っていたからだ。
「それが答えだ。」
麻生は左手で男の顎を打ち上げると一回転して、遠心力が掛かった左足で男の腹を貫くかのように蹴りが突き刺さる。
男の身体がくの字に折れボキボキ、と骨が折れる音がしてそのまま壁まで吹き飛ぶ。
呻き声を上げる男達を無視して路地から出ていく。
(これは俺が思っている以上に深刻な事態かもしない。)
裏路地を移動しながら、麻生はこの事態を再確認するのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第24話
次の日の夕方。
「ふふふ~ん♪」
「どうしたの、ルイコ?
ものすごく機嫌がいいね。」
佐天とその同級生は学校の補習が終わり、帰りにどこかに寄るか話をしている時だった。
同級生は隣で上機嫌で鼻歌を歌っている佐天に気が付いた。
「そういえば補習の時も先生、驚いてたね。
先生が出題した問題を全部ルイコが解いちゃうんだもん、私達も驚いたよね。」
「もしかして珍しく勉強でもしたの?」
「ふふ~ん、まぁそんな所♪」
先日、麻生に勉強を教えて貰ったおかげで今日の補習の問題を難なく解く事が出来た。
佐天はまた麻生にお礼を言わなければ、と思った時だ。
「ルイコ、もしかして彼氏とかできた?」
「ぶぅぅ!!!!!
な、ななな、なに言ってんのよ!!」
突然の質問に思わず動揺してしまう。
その反応を見た同級生達はまさか本当に出来たのか?と真剣に話し合う。
「そんなんじゃないよ。」
佐天の答えに一同はえ?、と聞き返す。
佐天は麻生の姿を思い浮かべながら答える。
「その人とはあまり話をした回数も少なくないし、そんなに親しくもないよ。
私はあの人に憧れてると思う。」
「憧れ?」
「うん、その人は私と3、4歳しか歳が離れていないのに凄く大人で、頭も良くて、最初初めて会った時は正直とても冷たい印象を持ってたの。
でも、昨日久しぶりに会った時、その冷たい雰囲気が無くなってて前よりも何だか暖かくて、私と同じ無能力者なのにとても強くて・・・・」
麻生の事を思い浮かべ気づいたらそんな事を話していると同級生達は佐天の顔をじー、と見ていた。
その視線に気づいた佐天は首を傾げる。
「どうしたの?」
「ルイコ、そりゃあ恋だ。」
「へ?」
「うんうん、ついにルイコに春が来たのか。」
「おめでとう!私、応援しているからね!!」
何だか話が脱線している事にようやく気付いた佐天だが、もう修復は不可能なくらい脱線していた。
佐天は分かっていた。
これは恋ではなく純粋な憧れである事を。
同級生達が佐天を置いて話を進めている事に気づき、その拡大を防ぎつつどこに行くか話し合う。
楽しく話している佐天達の後をつけるかのように、一人の男が笑みを浮かべながら佐天達を見ていた。
「なるほど、麻生さんも無能力者狩りに出くわしたのですね。」
麻生は風紀委員の支部にいた。
何故かと言うと昨日、麻生も無能力者狩りに出くわしそれをどうにかして止める為に、風紀委員の支部に訪れて情報を交換し合いに来たのだ。
例の如く、支部には初春と白井がいた。
「他の風紀委員が現場に向かった時にはその能力者達は既にどこかに逃走したようでした。」
「おそらく無能力者に倒された時の事を考えて、実行班と回収班の二つのグループに分けて行動しているのだろう。
捕まれば読心能力などの能力者に記憶を覗かれてしまったらそこでゲームオーバーだからな。」
「相手はわたくし達が思っている以上に大きな組織のようですわね。
それにしても珍しいですわね。
麻生さんが自分からこの支部に訪ねてくるなんて。」
以前の麻生がどういった人物なのか、少し知っている白井からすれば麻生の行動はらしくない行動なのだ。
白井の問いかけに麻生は少しだけため息を吐いて答える。
「俺だってこんな面倒な事に関わりたくなかった。
だが、無能力者狩りが続いている限り、散歩の邪魔をされてしまう可能性があるからな。
お前達の為でなく自分の為に動いているんだよ。」
麻生の答えに白井はしばし麻生の顔を見つめている。
「なんだ、俺の顔に何かついているか?」
「い、いえ、何も・・・・」
そう言って白井は初春の首根っこを掴み、麻生と距離をとり初春にしか聞こえない声で話し合う。
「あのお方に何かあったのですか?
以前とはまるっきり別人の様ですわよ。」
「私も同じ事を思いました。
でも、前の麻生さんより私はこっちの麻生さんの方が良いです。」
「それに関してはわたくしも同意しますけど、急な変化に驚いて「何が驚いているんだ?」・・ひゃあ!!」
いつの間にか白井と初春の後ろに麻生が立っていて、声をかけられたので驚く白井。
「な、なにも驚いていませんわよ。
さ、さて、作戦会議でもしますわよ。」
急に話を変えられたので麻生は怪しいと思ったがどうでもいい事だな、と考え近くにある机に腰を預ける。
「まず、わたくし達が調査する事は二つ。
一つ目はどうやって無能力者と能力者と見分けているのか。
二つ目は組織の規模、その目的。」
「見分ける方法について何かわかったか?」
「いえ、候補が何個か上がったのですが詳しく調べてたらてんで的外れでした。」
「見分け方が分かれば、それを辿って組織などの詳細が分かるのですが。」
麻生は捜査がそれほど進んでいない事に二人に気づかれないようにため息を吐く。
しかし、幻想御手の件は木山の単独の犯行だったので操作があまり進まなかったが今回は明らかに組織的な犯行。
なのに、捜査が進まないという事は相手はかなりの頭がきれるという事だ。
「地道の捜査しかありませんね。」
「そうですわね。
ですが、わたくし達が路地に入ってわざわざ巡回しているのに、無能力者狩りの犯行は一度も出会っていませんの。
逆にわたくし達が巡回していない所で犯行が行われていますの。
まるで、わたくし達の行動を先読みしているかのようですわね。」
「・・・・・・」
初春は白井の推測に笑いながら否定しているが麻生はある推測が浮かぶ。
麻生は初春にある疑問を尋ねる。
「初春、風紀委員達が巡回する路地や時間などは全員で打ち合わせしているのか?」
「はい、全員で決めた後その資料を配るといった形ですね。」
「あともう一つ・・・・・」
「確かに可能ですけど・・・・」
「そうか、分かった。」
麻生はそう言って立ち上がり支部から出て行こうとする。
「何か分かったのですの?」
「まだ仮説の段階だ。
少し調べに行ってくる。」
そう言って麻生は支部を出て行った。
佐天達は喫茶店でくつろぎながら、おしゃべりをするなどして楽しんでいた。
すると、同級生の一人がある事件について話題を出した。
「最近、無能力者狩りって言うのが流行っているらしいよ。」
「何それ?」
「何か能力者達が無能力者を倒して、その倒した数とかを点数にしてその順位を決めるらしいよ。
一位になった能力者は賞金としてお金がもらえるらしいよ。」
「何かそれ最低だね。
能力をそんな事に使うなんて。」
佐天も同じ感想を抱いている。
そんな話をしても気分が悪くなるだけなので、別の話切り替える。
そして、外を見ると日も暮れ始めているのでそろそろ帰ろうと言う話になった。
さっきの無能力者狩りみたいな事件が起こっているので暗くなると何かと危ないのだ。
皆で帰っていると突然、男が佐天達の前に立ちはだかった。
「やぁ、こんばんは。」
優しく笑いながら佐天達に話しかけてくる。
同級生達は見た目はなかなかかっこいいので話しかけられて、少し浮き足立っているが佐天はその男の笑顔がなぜか怪しく感じた。
「君達、これから時間空いている?」
「え~と、少しだけなら。」
「なら、これから僕達と一緒に遊ばないか?」
男がそう言うと何人かの男がいつの間にか佐天の周りを取り囲んでいた。
佐天達はとても嫌な予感がした。
そしてその予感が見事に的中する。
「遊ぶ内容は無能力者狩りっていう遊びなんだ。」
「ッ!?
皆、逃げるよ!!」
男の言葉を聞いて佐天は素早く行動する。
佐天の言葉を聞いてみんな佐天の後についていく。
周りは囲まれているが路地に入る道だけ開いていたのでそこに駆け込む。
男達は佐天達が路地に逃げられたのにも関わらず笑みを浮かべていた。
佐天に話しかけた男がポケットから携帯を取り出して誰かと通話する。
「ああ、予定通り路地に追い込んだ。
後はそちらで誘導を頼むぞ。」
そう言って電話を切ると何人かは佐天達を追いかけに行き、他の男達は路地とは別の道を通っていった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第25話
前書き
土日は大分県に旅行に行ってました。
湯布院凄かったです。
佐天は同級生達の手を引っ張って裏路地に入り男達から逃げている。
正直、逃げ道が見えたので慌てて入ったが、裏路地を走っている事に気づくのはそう時間はかからなかった。
(早く此処から出ないと!!)
自分は無能力者で、同級生達も低能力者程度の能力しか持っていない。
一刻も早くこの路地から脱出しないと佐天は走りながら考えていた。
入り組んでいる裏路地を右に曲がると数メートル先に出入り口が見えた。
佐天は出られると思った時、その出口を塞ぐかのように何人もの男達が立ちはだかる。
「おっと!
此処から先は通行止めだ。」
「ッ!?
引き返して!!」
すぐに振り返り、別の出口を探す。
しかし、どれだけ出口を見つけてもその直前で男達が立ちはだかった。
佐天達はさっきから全力で走っているので、そろそろ体力が限界に近づきつつあった。
(このままじゃあ・・・・誰か助けを・・)
ポケットから携帯を取り出し電話帳を開く。
普通なら風紀委員である初春や白井に電話するべきなのだろう。
だが、電話帳を開けた瞬間にある名前が佐天の目に映る。
麻生恭介。
電話帳は開けると、基本的に最初の画面はア行から始まる。
開けた瞬間に麻生の名前が出てきたのだ。
佐天はあの時に麻生が言った言葉を思い出す。
「俺だって困ったらすぐに駆け付けるスーパーマンではないからな。」
電話をかけても麻生は何か用事で来られないかもしれない。
初春や白井なら電話をすればすぐに駆け付けてくれるだろう。
それでも佐天は初春でも白井でもなく麻生に電話を掛けた。
「そうか、助かった。」
「それくらいお安いご用じゃん。」
第七学区のビルの壁に背中を預けながら、麻生は愛穂に電話をかけていた。
麻生は風紀委員の支部を出て、すぐに愛穂に電話を掛けある事を調べて貰っていた。
今はその調べた事の報告を聞いている所だ。
「それにしてもここ数日の能力者による犯罪事件の数を教えてほしい、と言われた時は驚いたじゃん。
恭介が風紀委員の仕事をしているみたいじゃん。
それかもしかしてなりたいの?」
「馬鹿を言うな。
俺が風紀委員や警備員といった機関に縛られる役割が、嫌いだってことお前が一番知っている筈だろう。」
「それは警備員をやっているウチに対しての嫌味?」
「お前がそう感じたのなら、そうなんじゃあないのか?」
会話を見る限り麻生が愛穂をおちょくっているように聞こえる。
なぜか愛穂は不機嫌な声をあげるどころか、少しだけ小さな笑い声が聞こえた。
「なんで笑っている?」
「恭介が変わったと思ったんじゃん。」
「今の会話で、どうやったらそう言う捉え方が出来るんだ?」
逆に麻生が不満そうな声で話すと愛穂は楽しそうな声で話す。
「ウチはあんたが小学校の頃から面倒を見ているから大体は分かるじゃん。
この夏休みで何かあったの?」
愛穂に言われて麻生はこの夏休み、正確には7月辺りから始まった出来事を思い出す。
電撃少女に追い掛け回され、隣の隣人は変なシスターを拾ったり、魔術師や錬金術師と戦ったり、あげくには学園都市第一位とも戦った。
それを思い返すと麻生は大きなため息が自然と口から洩れた。
「ああ、とても面倒な出来事がたくさんあったよ。」
「でもその出来事が恭介を変えたんじゃん。
麻生がどれほど変わったかというと月とスッポンってなくらいの違いじゃん。
まぁ、ウチはどちらかといえばそっちの恭介の方が好きだよ。」
愛穂は自分が何を言っているのか気づいたのか慌てた口調でさっきの言葉を撤回する。
「さ、さっきの言葉に深い意味はないじゃん!
ただウチは前の恭介より、今の恭介の方が親しみやすいと言うかなんて言うか・・・・」
「何をそんなに慌てている?
変な事でも言ったのか?」
へ?、と愛穂は呟くと今度は愛穂の方が大きなため息を吐く。
何をそんなに落ち込んでいるんだ?、と考えるが麻生は全く分からないようだ。
「とりあえず助かった。
今度そっちの家に行ってご飯でも作るよ。
どうせ、未だに炊飯器でご飯を作っているんだろう?」
うっ、と愛穂は言葉に詰まり言い返せないようだ。
「今度桔梗も誘って飯でも作ってやるよ、じゃあな。」
そう言って麻生はボタンを押して通話を切る。
麻生は愛穂の教えてくれた情報で無能力者狩りを行う本当の理由が分かった。
その情報と推理を今から白井達のいる支部に戻り伝える。
これだけ情報を教えれば無能力者狩りの行っている組織の頭を捕まえるのにそう時間はかからない。
後の事は白井達にでも押し付けるかと考えていた時、麻生の携帯がブルブルと震える。
画面を見るとそこには佐天と名前が出ていた。
「助けてください!!」
開口一番に助けを求められた。
「何があった?」
佐天の息が切れている事に気づき何かの事件に巻き込まれているのかと考える。
「友達と帰っていたら無能力者狩りに会ってしまって、今は裏路地を走りながら逃げているんです!!」
「正確な位置は分かるか?」
「さっきから走り回っているから今どこにいるか・・・・」
「なら、GPSの使用コードを俺の携帯に送る事は出来るか?」
「やってみます!!」
一度通話を切ると少ししてからGPSの使用コードが麻生の携帯に送られる。
そのすぐ後に、再び佐天から電話がかかってくる。
「とりあえずコードは届いた。
今からそっちに向かうから何とかして逃げろ。」
「は、はい、頑張って・・きゃあ!?」
佐天の叫び声が聞こえると次に聞こえてくる声は佐天の声を違う声だった。
「あれ~?
誰と電話しているのかな?
俺達と遊んでいるのにつれないな~」
「あ・・あ・・」
「とりあえず一度こっちに来てもらおうか。」
その声と同時に通話が切れる。
電話を取られたのかそれとも佐天が無意識に切ったのは、どちらかは分からないが佐天達が危険である事だけは分かった。
麻生は送られたGPSの使用コードを使いさっきまで佐天がいた場所に向かう。
そこに向かう途中の曲がり角で御坂美琴にぶつかりそうになる。
美琴は麻生が珍しく走っている事に少し驚いている。
「珍しいわね。
あんたが急いでいるなんて。」
「こっちとしては急ぎたくないんだが、助けてくれと頼まれたからには全力で助けるって決めているんでな。
その当事者が何やら危険な雰囲気だったから走っているんだよ。」
ふ~ん、と美琴は麻生の顔をじっと見つめている。
「ちなみに聞くけどそれは誰が困っているの?」
麻生は話すかどうか迷ったが此処で言わないと、余計に時間がかかってしまうと思った麻生は簡単に美琴に説明する。
説明を聞いた美琴は言った。
「なら私も一緒についていくわ。
あんた一人でも問題ないと思うけど、味方が一人でも多い方がすぐに終わるでしょ。
それに能力をそんなくだらない事に使う連中を黙って見過ごすわけにはいかないわ。」
どうやら美琴の耳にも無能力者狩りについての事件は聞いていたらしい。
止める理由も特に見つからなかったので、麻生は何も言わずに佐天達がいたであろう場所に向かう。
佐天は麻生に二回目の電話をかけた時、気づいたら前後には既に無能力者狩りを行っている男達が立っていた。
佐天の携帯電話を取り上げられ男達は佐天達をどこかに連れて行くつもりなのかついて来い、と言って歩き出す。
佐天は隙を見て逃げ出そうと考えるが、その佐天の心を読んだかのように男の一人が言った。
「逃げ出そうと考えているだろう?
俺の能力は読心能力の能力を持っているからお前が考えていることはバレバレだ。
次に妙な事を考えたら痛い目見るぞ。」
釘を刺されてしまい無駄な事すら考えられなくなる。
黙ってついて行くと既に使わなくなったのか、古くてボロボロな工場のような建物が見えてきた。
男達はその中に入り佐天達は入るのを躊躇ったが後ろの男が入れ、と言われ周りを警戒しながら建物に入っていく。
中に入ると目の前には三〇人くらいの男女が集まっていた。
その真ん中に立っているリーダーと思われる男の腕にはある物がついていた。
それは風紀委員がつけている腕章だった。
佐天は初春や白井の風紀委員の腕章をよく見るので見間違えることはなかった。
佐天がその男の腕章を見て驚いているの姿を見て、周りの男女が笑みを浮かべながら話し合う。
「ほら、時雨さんが腕章を隠さないからあの女の子が驚いているじゃないですか。」
風紀委員の腕章をしている男の名前は時雨と呼ばれている。
「でも此処に連れてきた奴は皆、時雨さんの腕章を見て一回は驚きますよね。」
「その驚く顔を見るのが楽しみでもあるんだけどな。」
佐天だけでなく同級生もその腕章を見て驚いている。
「どうして風紀委員の人が無能力者狩り何てしているんですか!?」
「此処にきた奴は皆同じ事を聞くから説明するのが飽きてしまったけど、まぁいいか。」
時雨という男は頭をかきながらめんどくさそうに説明をする。
「まずお前達は、この無能力者狩りがゲームのように行われていると思っているのだろうがそれは間違いだ。
これはこの学園都市の治安の為に必要なことなんだよ。」
それを聞いて唖然とする佐天だが男はその表情を見てニヤリ、とにやけながら説明を続ける。
「風紀委員の仕事をしている俺は能力者による犯罪の理由などをまとめてみた。
結果の大半は金が欲しかったなどのそういった理由だった。
そして能力者の犯罪以外にも無能力者の犯罪も数多く発生している。
俺は考えた。
この二つをどうやって解決するかをそして思いついたのがこの無能力者狩りだ。
能力者が無能力者を狩る度にそれを点数化する。
そしてその一位なった奴が俺から賞金を出すという仕組みだ。
これなら金にも困らないし能力者の憂さ晴らしにもなる。
無能力者も狩れるから無能力者による犯罪も減るといったまさに一石二鳥な訳だ。
此処に連れてきたのは路地で能力を使うと、他の人にばれてしまい騒ぎを大きくしない為だ。
まぁ、昨日は何人かの馬鹿が先走って路地で能力を使うというイレギュラーがあったが、何とかばれずにすんだからよかったのだがな。」
自分の考えた計画が完璧だと思っているのか楽しそうに話す。
そして自分の腕につけている風紀委員の腕章をトントンと指をさす。
「この計画は結構穴だらけで能力者と無能力者の判別の仕方を分からない。
いつ他の風紀委員が路地を見回り来るか分からない。
だからこそこいつが役に立った。
俺は風紀委員である事を利用して、他の風紀委員の巡回ルートを予め知ることができた。
それに合わせて穴になっている所で無能力者を狩ることが出来た。
風紀委員は「書庫」にアクセスする事も出来たから、無能力者のリストも簡単に作ることができ、さらにこの計画に必要な能力者を見つける事も出来た。
まさか同じ風紀委員が無能力者狩りの首謀者だって、誰も思わないからスムーズに事が運んでいる。」
時雨が楽しそうに話を聞いていた佐天は奥歯を噛み締めて叫んだ。
「ふざけないで!!
能力を風紀委員をそんなくだらない事に利用して、それに何の罪もない無能力者を傷つけるなんて許されると思っているの!!」
佐天の言葉を聞くとさっきまで楽しそうに話していた時雨の表情が、一気に鬱陶しそうな表情になり佐天をにらみつける。
「無能力者が俺に説教か?
学園都市の中ではお前達みたいな無能力者や低能力者はゴミみたいな存在だろう?
そんなゴミが学園都市の治安の為に必要とされているんだから、もっと喜ぶと思っていたんだけどな。」
時雨は指で合図すると何人かの男女がじりじりと佐天達に近づいていく。
出入り口も塞がれているので逃げることは出来ない。
「お前達をさんざん痛めつけても此処には精神系能力者もいるから、俺達の顔もさっき聞いた計画も全部忘れている。
恨むなら力のない自分達を恨むんだな。」
時雨がそう言った瞬間、この工場の出入り口でもある鉄の扉がいきなり爆発した。
その近くに立っていた見張りはその爆風で数メートルくらい吹き飛んでしまう。
「扉を破壊するとはいえ、やりすぎだと俺は思うのだが。」
「あんたが扉の近くに佐天さん達はいない、って言うから派手にぶっ壊したのよ。
こういうのは派手にやったほうが何かといいのよ。」
扉を破壊した爆風で埃などが舞い上がり誰だか確認できない。
だが、佐天はこの二人の声に聞き覚えがあった。
バチバチと電気が火花を散らす音が聞こえ、埃のカーテンが晴れると麻生と美琴が立っていた。
(来てくれた・・・)
麻生と美琴を見て心から安堵する、佐天。
同級生は佐天の安堵する顔を意味が分かっていないようだ。
「ルイコ、あれって・・・・」
「さっき話してた私が憧れている人だよ。」
安堵している佐天とは打って変わって時雨達は困惑している。
それもその筈、美琴の制服とあの電気を見て誰だかすぐに分かったからだ。
「常盤台の「超電磁砲」!!
どうして此処に!?」
「あら?
あんた達みたいな奴でも私の名前を知っているみたいね。
私は佐天さんの友達だから助けに来た。
、後こんなくだらない事をしている首謀者の顔を見て、一回はぶん殴るつもりで来たの。」
バチバチと電気を出しながら言う。
いくら、三〇人の能力者とはいえほとんどがレベル3程度の能力者だ。
それだけではあの超能力者には勝てない。
時雨は自分の腕章を見て必死に考え、ある名案が浮かぶ。
「ちょうど良い所に着てくれました!!
私もようやく無能力者狩りのアジトに辿り着いたのですが、能力者が多くて困っていたんですよ。」
時雨の言葉を聞いて周りの能力者全員が驚いた顔をして時雨を睨み付ける。
時雨は風紀委員の立場を利用して、此処にいる能力者達を切り捨てたのだ。
だが、名案かと思われていた案が麻生の言葉で一気に崩れ去る。
「残念だが、お前が首謀者だという事は既に判明している。
さっき知り合いの風紀委員に連絡して調べた結果、お前が「書庫」に何度もアクセスしている形跡が発見された。
後、さっきまでべらべらと自分の計画を話している声はこいつに録音している。」
麻生はポケットからボイスレコーダーを取り出し再生ボタンを押すと、さっきまで楽しそうに佐天達に話していた計画の全てが録音されていた。
それを聞いた時雨の表情が崩れる。
「もうすぐ風紀委員と警備員がやってくる。
大人しくしているのなら何も危害は」
麻生の言葉は最後まで続かなかった。
なぜなら、近くにいたショートヘヤーの金髪の女が能力で自分の腕に炎を纏わせ、麻生に襲い掛かる。
その腕を右腕で掴み、背負い投げで女性を地面に叩きつける。
能力を使っているので、麻生の腕には火傷などは一切ない。
「どうやら大人しくするつもりはないみたいだな。」
それが乱戦の合図だった。
捕まる訳にはいかないと、この場にいる能力者は一斉に能力を使い逃げようとする。
それをする前に美琴の電撃の槍が放たれる。
「一応手加減はしてあげるけど結構痛いわよ。」
対する麻生は近くにある鉄パイプを拾い、能力者達を一撃で沈めていく。
能力者のほとんどが美琴に注意が向いているので、簡単に急所を攻める事が出来る。
麻生の視界に時雨が裏から逃げていくのが見えた。
「美琴、此処は任せるぞ。」
返事を聞かずに麻生は時雨を追いかける。
裏口から逃げようとするが麻生だけが追いかけていると分かると、急に足を止めて振り返る。
「どうした、逃げるのを諦めたのか?」
「君が持っているボイスレコーダーを破壊することが出来れば何とかする事が出来る。
あの「超電磁砲」が厄介だが何とか出来るだろう。
問題は君が持っているボイスレコーダーだけだ。
どうだ、金はいくらでも払うからそのボイスレコーダーを譲る気はないか?」
「ないな。」
時雨を言葉を聞いて即答で答える。
時雨はそうか、と呟くと手のひらを麻生に向けると麻生が持っている鉄パイプが後ろに弾かれる。
「なら、力ずくで奪ってやるよ!!」
その言葉と同時に麻生の腹に衝撃が走る。
まるで腹を力いっぱいに殴られたような感触に似ているのだが、麻生と時雨との距離は五メートルは離れている。
時雨は一歩も動いていないのに麻生に攻撃をしているということは、何らかの能力を使っている事になる。
顔を右側から殴られるような衝撃が走り、軽くふらついてしまう。
「なるほど、それがお前の能力か。」
「そうさ、俺の能力名は「見えざる手」。
相手の位置情報を計算して特定のポイントに衝撃を加えることが出来る。
こんな風にな!!」
次の瞬間、麻生の身体全身に衝撃が走る。
まるで五、六人から集団リンチを受けているかのようだ。
ふらふらとおぼつかない足取りになるが麻生は倒れない。
「いい加減に倒れろよ!!」
麻生の顎に向かって能力を放つと、顎を打ち上げるような衝撃が走る。
これで確実に倒せると思った時雨だが麻生はまだ倒れない。
「もう終わりか?」
麻生は一歩ずつ前に進む。
時雨は何度も麻生の身体に衝撃を加えるが怯むことなく、麻生は一歩ずつ時雨に向かって歩いてくる。
その光景が時雨を焦らせる。
「なんでだ・・・なんで倒れないんだよ!!」
「理由は簡単だ。」
麻生は地面を蹴って一気に距離を詰め左手を握り締める。
「お前より俺のほうが強いからだ。」
麻生の左手が時雨の顔面に突き刺さった。
時雨が気絶したのと同時に外が騒がしくなる。
麻生は風紀委員と警備員が来たのだろうと考えたときだった。
「へ・へへ・・俺を倒したところで無能力者狩りはおわらねぇ。
俺達の他に無能力者狩りは行われているのだからな。
どれだけ必死になっても無駄だ。」
時雨は独り言のように呟いていて麻生は時雨の腹を踏みつけ今度こそ気絶させる。
「そいつらが俺の邪魔をするのなら同じように叩き潰すだけだ。」
他の能力者は美琴がほとんど片付けていた。
風紀委員が時雨を含む能力者を移送している。
白井と初春が麻生と美琴を見つけると麻生達に近づいてきた。
「お姉様までいらっしゃるとは驚きですわ。
それよりお二人ともこういった荒事は、風紀委員の仕事だと何度言ったら・・」
「まぁまぁ、白井さん。
今回の一件は二人が協力してくれなかったら、解決出来なかったのかもしれません。
だから抑えて抑えて。」
初春は白井を何とか静めようとしている。
白井が初春に気をとられている内に麻生は色々聞かれる前に立ち去るか、と考えていたとき腕の裾を引っ張られたので振り向くと佐天と、その同級生が立っていた。
「助けていただいてありがとうございます!」
佐天が深々と頭を下げると同級生も一緒に頭を下げる。
「気にするな。
無能力者狩りが頻繁に行われていたら俺の散歩に支障がでるからな。
だから、それを潰すついでに助けただけだ。」
「でも、麻生さんに電話をかけて私を助けてくれました。
だからお礼を言いたかっただけです。」
もう一度深々と頭を下げる。
そして佐天は麻生に聞いた。
「私も麻生さんみたいに強くなれますか?」
それを聞いた麻生は少しだけ笑いながら言った。
「さぁな。
俺は俺でお前はお前だ。
俺の様になる事は出来ない。
だからお前はお前の強さを手に入れればいい。
佐天涙子だけが持つ強さをな。」
白井が麻生を探す声が聞こえ麻生は早足でその場を去っていく。
しかし、髪は後ろで纏めている女の警備員に捕まってしまい逃走に失敗したようだ。
佐天は麻生の言葉を小さく繰り返す。
「私だけが持つ強さをか・・・・」
「いやぁ~ルイコが言ったとおりかっこよくて大人な人だね。」
「私、あの人に惚れちゃったかも。」
同級生が冗談ではないような眼差しで連れさらわれて行く麻生を見つめていた。
とりあえずこの場を何とかしなければと佐天は思うのだった
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第26話
八月二八日、天気超晴れ。
おにいちゃーん、という女の子ミルキーボイスで高校生・上条当麻は目が覚めた。
「何だ、今のトリハダボイス?」
上条は半分寝ぼけたまま、うっすらと目を開けた。
女の子の声はドアの向こうから聞こえたみたいだった。
横倒しの視界に映るのは六畳一間の和室。
床はボロボロの畳張りで、天井には古めかしい四角い電灯カバーのついた蛍光灯、油っぽい汚れのついた押し入れの襖に家のトイレにでも使われていそうな簡単なカギのついた木のドア、エアコンの代わりの扇風機はプラスチックのボディが黄色く変色していて、ちょっと鼻を動かすと潮の香りがした。
此処は学生寮の一室ではなく学園都市の中ですらない。
一般世界・神奈川県某海岸、海の家「わだつみ」の二階にある客室なのだ。
別の部屋にはそれぞれ上条の両親やインデックス、そして麻生恭介もいるはずだ。
「そっかー「外」来てたんだっけか。」
上条の住んでいる超能力開発機関「学園都市」は東京西部に存在する。
学園都市では機密保持と各種工作員による生徒の拉致の危険性などを考慮して、極力学生を街の外へ出す事を好まない。
許可をもらうには三枚の申請書にサインをして、血液中に極小の機械を注入し、さらに保証人まで用意しなくてはならないのだが今回のケースは異例だった。
だが、上条と麻生は一週間ほど前に、学園都市で最強の超能力者を倒した。
正確には上条があと一歩のところまで追い詰めたのだが、思わぬ奇襲を受けてしまって絶体絶命のピンチまで追い詰められた。
その後にやってきた麻生が倒したというのが正しいのだが、上層部は麻生と上条の二人で協力して倒したのだと思っている。
その情報は夏休みで生徒間の交流の少ない中あっという間に広まり、上条と麻生の地位が飛躍的に向上したかというとそうではない。
逆にあの二人の無能力者を倒せば学園都市の最強の称号が誰でももらえるんだという意見の元、腕に覚えのある不良さん達が大々的な人間狩りを始めてしまった。
この騒ぎに頭を抱えたのは学園都市の偉い人だ。
騒ぎが治まるまでどこかに行っていろ、と言われ今の状況に至る。
麻生は四六時中狙われていても何の問題はないと上に言ったが、そっちが困らなくてもこっちが困るからどこかに行ってろ、と言われ麻生も渋々従った。
(けど、行き先には明らかに悪意が感じられんだよな。)
今年は太平洋沿岸で巨大クラゲが大発生したおかげで、猛暑にも拘らず海の客足はゼロに等しかった。
さらに外出には保証人の動向が義務付けられているがその保証人は親である。
何が哀しくてこの歳で両親と海辺ではしゃがなくてはならないのかと上条の気分は既に下がりつつある。
ちなみに麻生の両親は来てない。
既に死んでしまったとかそんな複雑な事情ではなく、麻生の両親は仕事の都合上一時的だが海外に出ているので事情も事情なので上条の親の同伴で許されることになった。
上条はぼんやりと向かいの部屋でぐーすか寝ているであろう白いシスターの事を思い浮かべる。
当初その白いシスターは海の家「わだつみ」までやってくる予定はなく、小萌先生の所にでも預けて貰おうと考えていた。
何故かと言うと白いシスターは学園都市の人間ではない。
いわゆる、密入国者の様な状態なのでそんな状態で国境線へ向かえば警備員に捕まるかもしれないのだ。
しかし、白いシスターはそんな事情など知った事ではなくお留守番命令を受けて、ついには涙目になった白いシスターの視線に耐えられなくなり結果、密入国に挑戦することになった。
麻生からお前は馬鹿か?という視線をチクチク受けてたが、そんな事を気にしていては何も始まらない。
やり方は簡単、タクシーを呼んでその後部座席の下に寝そべってもらった状態でゲートをくぐるというものだ。
隣で麻生はもう馬鹿決定だな、と上条の耳に聞こえる声で言ったがさすがの上条も、こんな安い方法で大丈夫かと思ったが案の定ゲートの所で引き止められた。
逮捕されると思った上条だがゲート管理している警備員は特に怒らなかった。
モニタで照会すると「臨時発行」IDが登録されていたので正々堂々とゲートをくぐった。
(ぅ、ぁ、ねみー)
夏休み夜型行動パターンが身についた上条にとって、朝はまだ眠気の中だが「おにーちゃーん、おーきろー」という女の子のステキボイスがドアを突き抜けて廊下の方から飛んで来た。
巨大クラゲの発生で海の客足はゼロのはずなので上条は麻生の妹かと考えたが、どうやっても麻生が妹と仲良く話している場面をイメージする事が出来ない。
そんな事を考えていた瞬間、ズバーン!!という大音響と共に部屋のドアが開け放たれた。
「ほーら、いつまで寝てんのよう、おにーちゃーん!
起きろ起きろ起きろ起きろ!」
可愛らしい女の子のドリームボイスと共に、衝撃のボディブレスが腹の辺りに直撃した。
女の子の全体重に上条はげぼぁ!?という悲鳴をあげる。
しかし、上条当麻に妹などいないなによりとてつもなく眠いので一刻も早く、この間違いドッキリにどうにか片をつけたいので上条は腹筋に力を込める。
「誰だテメェは?
誰だテメェはおんどりゃあ!?」
叫んでバネ仕掛けの人形の様に勢いよく起き上がった。
上条の上に乗っかっていた体重が、きゃあ!?という悲鳴をあげて転がるのが分かる。
上条は自分の上から転がり落ちた女の子を見ると畳の上に転がっていたのは御坂美琴だった。
「いったぁ、ちょっとーそれがせっかく起こしに来てやった妹に対する態度なわけ?」
その赤いキャミソールを着た女の子は可愛らしく(本当に、真実本当に彼女には似合わない)尻もちをついたまま(彼女のアイデンティティを丸ごとぶっ壊しかねない)ほっぺたを膨らませてちょっと拗ねたような顔を作る。
どういう事!?、と上条の眠気が一気に吹き飛んだ。
御坂美琴、能力開発の名門、常盤台中学のエースで学園都市で七人しかいない超能力者の一人。
とある事件をきっかけに上条と麻生には一個借りがある訳だが、その話をすると問答無用で顔を真っ赤にしてビリビリしてくる。
もちろん、彼女は上条の妹でも義理の妹でもない。
上条は訳が分からないままとりあえず美琴に話しかける。
「え、なに?え?お前も量産型妹の件で学園都市から追い出されたクチでせう?
ってか此処は学園都市から追い出された人間が集められる島流しみたいなトコロなのか?」
「ナニ言ってんの?
私がおにーちゃんの側にいるのがそんなにおかしいの?」
「気持ち悪っ!!
だからさっきからお前ナニ媚び声だしてんの!?
テメェはそういうポジションから世界でもっとも遠い位置に君臨してたはずだろーが!!」
なによう!と分かりやすい顔で怒る美琴に上条は全身から鳥肌が立つ。
なぜこういう状況になったのか様々な可能性を考えるがロクな考えしか浮かばない。
上条が考えていると美琴はよっこいしょ、と畳の上から立ち上がって言った。
「ほらほら、そんなに元気なら起きる。
朝ごはん食べるから一階に下りといでー。」
とてつもなく自然な感じで美琴はぱたぱたと足音を立てて部屋から出て行った。
(えっと、結局何が起きてんだ?)
良く分からないまま上条は外着に着替えて部屋の外に出た。
短い直線の廊下の左右に客室のドアが三つずつ並んでいる。
上条の部屋は一番端でその向かいがインデックス、隣の部屋に麻生、インデックスの部屋の隣に上条の両親が泊まっている。
上条はとりあえず麻生の所に行こうとするが麻生の前の部屋のドアががちゃいと開く音が聞こえた。
「おはよう当麻。
ん?おい、後ろ寝癖がひどいぞ。」
どこか当麻に似た顔立ちの無精ヒゲで三〇代中盤の男の名前は上条刀夜、上条当麻の父親でもある。
しかし、記憶喪失の上条にとって親というのは微妙なポジションである。
だが、親である事に変わりないので朝の挨拶をする。
「ん、おはよーすって、あれ?」
上条刀夜の後ろから現れた人物を見て上条はギョッとした。
その上条を見て刀夜は眉をひそめるが上条はそんな刀夜の表情を気にする余裕はなかった。
なぜなら刀夜の後ろから現れたのは銀髪で緑目の外国少女が立っている。
「ちょっとインデックス?
お前ナニ着てんの?」
普段の上条なら「白いシスター」と表現していただろうが、今のインデックスは足首まである薄手の長い半袖ワンピースにカーディガンを肩に引っ掛けて、おまけに頭には鍔広の大きな白い帽子。
はっきり言う、極めて活動的な彼女には圧倒的に似合わない。
「どっからそんな服手に入れてきた訳?」
上条の問いに対して何を言っているんだ?、という顔で刀夜は上条の顔を見て言った。
「当麻、母さんが自分の服を着ているのがそんなに不思議な事なのか?」
はい?、と上条は刀夜の顔を見る。
刀夜は自分の隣に立っている少女を見て間違いなく「母さん」と言った。
「え、なに?
ひょっとして父さん、アンタそいつが母さんに見えるとでも?」
「当麻、それ以外の何に見える?」
「待て、ちょっと待て、何だその身代わりの術は?
ボケるにしてもそれはない。
そこまでボケられちゃうと、どこからどうツッコんで良いのか全然分からない。」
「当麻、お前は母さんの一体どこが納得いかないと言うんだ?」
「どこがって言ったら全部だ全部!その姿形で「母さん」はありえねーだろ!!」
上条に指を指された一四歳以下の少女は自分の服を軽く摘んで少し哀しそうに言った。
「あら、あらあら、当麻さん的には母さんのセンスが許せないのね。」
「こら当麻、母さんが哀しそうな顔してるだろ。」
「そこじゃねーよテメェどっからどう見ても俺より年下だろうが!!
たとえこれが小学生の文化祭の演劇だとしても、テメェに「高校生の子を持つ母」の配役は絶対無謀!!」
「あら、あらあら、当麻さん的には母さん歳より若く見えるのかしら。」
「こら当麻、母さん嬉しそうな顔してるだろ。」
記憶のない上条が一ヶ月前に頭部損傷の大怪我という非常事態を受けて、父母が病室にやってきたとき「初めて」自分の両親と対峙した際二人が同い年と聞いて、普通に疑ってしまうくらい母、詩菜は若く見える。
だが、いくら何でも見た目一四歳以下のインデックスを使った代わり身の術に騙される上条当麻ではない。
さらに、次の瞬間に上条をさらなる混乱へと巻き込む。
上条のすぐ隣の部屋のドアががちゃりと開いたのだ。
おそらくインデックスが廊下で騒いでいる音で目が覚めたのだろう。
インデックス?と上条がそちらへ目を向けると真っ白い修道服を着た、青髪ピアスが部屋から出てきた。
身長一八〇センチに届く大男で、しかもインデックスの修道服を無理矢理に着込んでいる訳でもなく、どこで手配したのか全く同じデザインで特大サイズの修道服を新たに用意したらしい。
世界三大テノールもびっくりの野太い男ボイスは重々しく告げる。
「あふぁ、んー?とうま、何だか朝からテンション高いみたいだけどなんかあったの?」
「・・・・あ」
大男はいかみも可愛らしい動作で目をこする。
「遅くなったけどおはようとうま。
それより海だねうみうみ、日本の海ってコンクリで固められてて油でも浮いているのかと思ってたけど割とキレイだったし、うーん、遊ぶぞー」
「ああ・・・」
大男は下からひょっこり上条の顔を覗き込もうとする。
「うん?どうしたのとうま、固まっちゃって。
あっ!ひょっとしてとうま、今から私の水着姿の事をあれこれ想像してるんじゃ」
「あああああああああああアアおおおおおおおおおおおァァあああああああ!!」
ついに耐えきれなくなり、上条はこちらに開きかけていた木のドアを青髪ピアスごと思いっきり閉めた。
「と、当麻!
そこに座りなさい、婦女子に対して先の一撃は警察沙汰だぞ!!」
「あらあら、当麻さんは女性に対して苛烈な思考の持ち主なのね。」
二人は何やら色々話しているがそんな事は放置して上条は考える。
(ちょっと待て、落ち着け、これはおそらく大規模な早朝ドッキリだ。
何で青髪いピアスが街の「外」にいるのか分かんねーが、派手なリアクションをすればするほどヤツらの思うツボだぞ!!)
刀夜とインデックスがドアごと吹っ飛ばされた青髪ピアスを心配しているのを無視して上条は一階に向かう。
麻生に会いに行くという最初の目的はもはや頭のどこかに飛んでしまっている。
海の家「わだつみ」の一階は板張りの広い空間だった。
道路側の入口と海側の出口はドアどころか壁すら存在しないので、潮風が直接吹き抜けている。
妹と名乗る謎の電撃少女、御坂美琴は部屋の中央にいくつか乱立しているちゃぶ台らしい台の一つを陣取ってつまらなさそうに雑誌を読んでいた。
「だから、そこのビリビリ。
何でお前は当たり前のようにそこにいんだよ?」
「なによう、おにーちゃんまだ反抗期なの?
いーじゃんおにーちゃんにぎゅーとしたってベタベタしたってゴロゴロしたって。」
どうやら未だに気持ち悪い媚びキャラは継続中らしく、上条は重たいため息をつく。
「そういえばおにーちゃん、ここのテレビって勝手にスイッチ入れてもいいのかな?」
「な、何だよいきなり?」
「むー、リモコン見当たらないしこーいう所のテレビって「公共のものです、勝手にいじんなチビガキ」って感じがするから、触れられないんだよおにーちゃーん。
それにあの海のおじさんの顔恐いから何となく聞きにくいんだよ。
おにーちゃーん、テレビ点けて良いかどうか聞いてきて?」
上条も朝は何となくテレビを点ける習慣があるので、それをやらないと何だか落ち着かないので仕方なく店主さんを探す事にする。
すると、海側の出口の方からしょう油が焦げるような匂いが漂ってきた。
上条がそっちの方を見ると出口からちょっと離れた砂浜の上で、炭火+金網で何かを焼いているらしい長身の男の背中が見えた。
髪は真っ赤に染められて長さは肩まで伸びていた。
「あ、ほら、おじさんいたよ。
テレビ聞いてきてテレビテレビ。」
美琴はそんな事を言いながらテーブルの下で足をバタバタさせるのを見て上条はあの、と声をかける。
赤髪の店主は振り返る。
Tシャツにハーフパンツに首からタオルを引っ掛けたその人物は魔術師ステイル=マグヌスだった。
「なばっっっ!!??」
青髪ピアスの事で頭が混乱している上条の頭は混迷を極めた。
身長二メートル強、赤髪長髪の英国人で炎を自在に操り人間を殺す事を何とも思わないような、魔術師とかいう別世界の人間だ。
「おう、随分早いお目覚めだな。
まだ海は冷ってぇぞ、それともあれか、昨日も暑かったから寝れなかったクチかい?
おっと、こいつはまだ焼き上がってねぇからお客さんの口にゃ入れらんねぇな。
オイ麻黄!客の注文取って適当に食いモン出しとけ。」
トウモロコシを焼く炭火に団扇で風を送りながら魔術師は言う。
ここにきて上条はようやくこの異常な事態に気づく。
他の連中ならともかくこの魔術師はこんな冗談やドッキリに協力的になるものか?と疑問に思う。
「おい父さん!客の前で「適当に」とか言っちゃまずいだろ!」
後ろからパタパタと足音が聞こえたので振り返ると、柑色の海パンの上からエプロンをつけて日に焼けた何とも純朴な御坂美琴が立っていた。
「なっ、一人二役!?
いや違う、これは量産型の御坂妹か!」
上条の訳の分からないツッコミに、彼女は顔を引きつりながらジャパニーズスマイルを浮かべる。
美琴は痺れを切らしたのかおにーちゃーん、テレビ点けるからね!!と言って勝手に点けはじめる。
テレビからレポーターさんの声が聞こえるのだが上条はどこか聞き覚えのある声だった。
そのレポーターさんの名前は古森と名乗っているのにそこにいるのは上条の担任である小萌先生だった。
上条は慌ててテレビの前までダッシュすると、そのブラウン管の中には外見年齢一二歳の女教師がマイクを握ってニュースの原稿を読んでいた。
画面の下にある小さなボタンを押してチャンネルを変えていく。
美琴はチャンネルを変えた事に不満を言っているが、そんな言葉は上条も耳に入らない。
そこに映っているのは全てがハチャメチャだった。
ニュースキャスターとして扱われているおじいちゃんや、某国大統領として戦争の正しさを演説する茶髪ガングロ女子高生らが映っているなどもうめちゃくちゃだった。
チャンネルをどれだけ回しても全てがちぐはぐだった。
まるでみんなの「中身」と「外見」がそっくり入れ替わっているような、そんな感じに思えたのだ。
上条は頭を抱える、現実的に科学的に考えるのが馬鹿らしくなってきた。
だが、此処である人物をふと思い出す。
麻生恭介。
もしや彼も別の人物にすり替わっているのか?
上条はそれを確かめるために走って二階に上がる。
途中、刀夜とインデックスと青髪ピアスに呼ばれるが無視して二階に上がり麻生の部屋に入る。
すると、麻生は布団に寝転がっていて掛布団がちょうど麻生の顔を隠している。
上条は息をのむ。
もし彼も同じようになっていたらどうしようかと考える。
「誰だ、朝っぱらから騒々しい。
この硬くて寝にくい床と布団でようやく熟睡し始めていたのに。」
のそのそと掛布団がめくれると、そこには白髪で若干焼けている肌が特徴の男、紛れもなく麻生恭介だった。
上条はその姿を見てようやく一安心する。
麻生は騒がしい原因が上条だと知って不機嫌そうな顔する。
「お前は俺の睡眠を邪魔しに来たのか?
俺の自己紹介はお前が適当にしておいてくれ俺は寝直す。」
「ちょっと待ってくれ!!
その前に一回だけでいいから下に降りてくれ!!」
もう一回寝直そうとしている麻生を止め無理矢理立ち上がらせるとそのまま背中を押して一階まで誘導する。
麻生は眠たそうな顔をしながら上条に押されるがままに進んでいき一階に下りる。
「一体俺に何を見せ・・・て・・・・・」
麻生の言葉が途中で止まる。
なぜなら赤いキャミソールを着た御坂美琴、足首まである薄手の長い半袖ワンピースにカーディガンを肩に引っ掛けて、おまけに頭には鍔広の大きな白い帽子のインデックス、白い修道服をきた青髪ピアス、Tシャツにハーフパンツに首からタオルを引っ掛けたステイル、柑色の海パンの上からエプロンをつけて日に焼けた御坂妹(話をした事はないが面識はある)。
何事も冷静に対処してきた麻生が珍しく驚き、対応に困っている。
対する刀夜達は麻生と会うのは初めてなのでこちらも対応に困っている。
そして、麻生は上条だけに聞こえるような声で聞いた。
「これは一体何のドッキリだ?」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第27話
目の前の現実がワケワカラナクテも時間は勝手に進んでいく。
とりあえず麻生は上条の両親に自己紹介をすると、事前に話は聞いていたのか麻生の名前を聞いて納得の表情をした。
上条の親が納得できても麻生は全く理解も納得も出来ていなかった。
上条の母親だと名乗るインデックスやおにーちゃーん、とミルキーボイスを出して上条に抱き着く美琴。
麻生は本気で美琴に妹プレイでもやってくれと土下座して頼んだのかと真剣に考えた。
白い修道服を着た青髪ピアスが妹に抱き着かれている上条にじーと睨んでいる。
さらにテレビを見た時、小萌先生がニュースのレポーターとして出ている所など見て麻生は本当に混乱を極めていた。
それは上条も同様なのだがそんな二人を放ったらかしにして、刀夜、インデックス、美琴はさっさと海で遊ぶという予定を組み上げる。
混乱中の二人にさっさと海パンに着替えて来いと命令され、浜に行ってパラソル立てて来い厳命され、何だかよく分からない内に砂浜に突き立てたパラソルの下、レジャーシートの上で上条は体育座りを麻生はパラソルの陰で立っている。
「なぁ麻生、世界は大丈夫だと思うか?」
「さぁな。
だが、今見た限り大丈夫だと思うぞ。」
「てか、何でお前は水着じゃないんだ?」
上条は麻生の姿を見て言う。
麻生は水着を着ているのではなく黒のTシャツの半袖に黒の長ズボンのジーンズ、さらに靴まで黒のスニーカーといういかにも熱を吸収しますよみたいな服装をしている。
さすがにこの猛暑の中でその服装は暑いのか麻生は既に暑そうな表情を浮かべている。
「俺は泳ぎに来たわけではなく少しでも身体や精神を休ませようと思って此処に来たんだ。
まぁこんな状況になったから計画は見事にぶっ潰れたがな。」
もう疲れた、と言わんばかりの表情をしている。
二人が話していると後ろからさくさくと砂を踏む足音が近づいてくる。
「おう当麻、それに麻生君も、場所取りご苦労さん。
といっても他に客がいないから労力ゼロか。」
わっはっは、という男の声は刀夜の声だ。
上条は体育座りをしたまま首を動かし、麻生は視線だけを後ろに向けると二人は凍りついた。
二人が見ているのは刀夜ではなくその隣にいる上条の母・詩菜が立っているべき場所にいるインデックスを見る。
インデックスはその幼児体型に似合わない、黒のビキニの水着を着ていた。
普通のビキニと呼ばれるモノは「ヒモ」と「布」によって構成されるものなのだ、がインデックスの場合「ヒモ」の部分が透明なビニールでできていた。
なので遠目から見ると隠すべき部分に布を直接両面テープで張り付けたように映ってしまう。
これは誰が見ても大人水着だと思うだろう。
それを見た上条は驚愕の表情を浮かべ、麻生は大きなため息を吐いてさらに疲れた顔をする。
「あらあら、当麻さん的にはこの格好は納得いかないのかしら。」
「それ以前の問題だろ!!
お前その水着どうしたんだ、昨日は違うの着てたじゃねーか!!」
「あらあら、二、三異なる水着を用意してきただけなのだけど。」
「あっはっは、うん、母さんもまだまだいけるじゃないか。
水着というものはこれで結構値が張るからな。
父さんもプレゼントした甲斐があったというものだ。」
「キサマァ!
金にモノを言わせてナニ買い与えてやがる!
っていうかどこでインデックスのサイズを知った?
それともこっそり二人で買い物でも行ったのか!?」
上条は父親である刀夜の首を絞めながら吠える。
そこに御坂美琴もやってくる。
「あれー、何ケンカしちゃってるのおにーちゃん。
ひょっとして実は血は繋がっていなかったとかステキイベント進行中?」
「テメェもテメェで無理矢理「義理設定」追加してんじゃねぇ!
ってか何だよその恰好!
塩素臭い学校のプールでもないのに何でスクール水着なんだよ!?」
やってくる人一人にきちんとツッコミを入れていく上条。
麻生はいちいち構っているから、しんどいのにと思いながら耳だけを向けて海をじっと見ていた。
すると、麻生は水着を着ていない事に気づいたヘンテコ三人組が話しかける。
「あれ、麻生君は海に入らないのかい?」
「ええ、水着は最初から持ってきていませんでしたので。」
一応、上条の両親で保証人でもあるので敬語で話す。
その横で上条の妹が続けて言ってくる。
「それなら海の家で借りればいいじゃん。」
「最初から海に入るつもりはなかったんだよ。」
そして敬語で話さなくていい相手はちゃんと見極めている。
「あらあら、麻生さんその恰好は暑くないですか?
それにお顔もなんだか疲れているように見えますよ。」
疲れている原因はお前達のせいだよ!!、と大声で言いそうになったがこれを言えば麻生の中で何かが失う気がしたので止めておく。
ヘンテコ三人は麻生との会話を終えるとそのまま一直線に海へと走り出す。
そして、麻生と上条の後ろから再びさくさくと砂を踏む足音が聞こえた。
二人は思い出す、ここにもう一人の人間がいない事を。
昨日、インデックスは清楚な白のワンピースの水着を着ていた。
今日、青髪ピアスは何故かインデックスと同じデザインの白い修道服を着ていた。
ならば、海辺の青髪ピアスの格好は?
「とうま、とうま、遅れてごめんね。
待っててくれたんだ。」
おそるべき、まことにおそるべき男の猫なで声。
麻生は振り返らずにじっと海を見ている。
そして上条はギチギチと後ろを振り返ると、そこに白いワンピースの水着の悪魔が女の子走りでやってきていた。
麻生は振り返っていないのでその様子を見た訳ではないが、まるで現場の人が道路をドリルで穴を開けるかのような音が響き、青髪ピアスの悲鳴?のような声がした後声が途絶える。
振り返ると青髪ピアスが気絶したまま首まで砂浜に埋められていた。
「うにゃーっ!カミやーん、麻生、やっと見つけたぜーい!!」
突然、奇怪な猫ボイスが飛んで来た。
二人は一緒に振り返ると妙に腕が長いのが特徴で短い金髪をツンツンに尖らせ、地肌に直接アロハシャツ+ハーフパンツ、薄い青のサングラスをかけ首には金の鎖のオマケつきと外見だけを見れば不良に見える。
だが、この男、土御門元春は不良ではなく単にこんな不良の様な恰好をしているかと言うと少しでも女子にモテたいというだけで義理の妹、土御門舞夏に甘々だったりするダメ兄貴だ。
「って、ちょっと待てよ。
何でお前が此処にいるんだよ!
どうやって学園都市の「外」に出たんだ、ひょっとして舞夏も一緒なのか!」
「何気にウチの妹を勝手に呼び捨てにしないで欲しいんだが、そんな事を言及している暇もナシ。
カミやん、麻生、一個確認するけどお前達はオレが「土御門元春」に見えるぜよ?」
「はぁ?
ナニ言ってんだお前?」
意図の読めない土御門の問いに上条は素直な答えを言う。
麻生は麻生で土御門の問いに答えを返さなかったが土御門からすれば既に答えているのと同じだった。
「となると、いやー、まさかにゃー、でも二人が偶発的に起こしたのかそれとも・・・・」
ぶつぶつと一人で何かを考え始めた後。
「まっいいか、とにかく二人とも此処から逃げよう。
此処は危ない、何が危ないかというともうすぐ怒りに我を失ったねーちんが来襲していくる辺りが激ヤバぜよ!!」
「は?ねーちんが来襲?まさかまだ何かあんのかよ。」
「いいから隣人の言う事は聞くんだぜい。」
「俺の部屋の位置からすればお前は隣人じゃないけどな。」
「ええい、そんな事は今はどうでもいいにゃー!!
お前達二人は朝起きたら変な事が起きていたって事に気づいているかにゃー!!」
「嫌ほど気づいている。
原因は知らないが「中身」と「外見」が入れ替わっているようだな。」
「その「入れ替わり」の魔術を引き起こしたのはお前達の二人のどちらか、それか両方が犯人だとねーちんはおもっているんだぜよ!!」
「「は?」」
麻生と上条が最初で最後かもしれないくらいに同じことを思い口に出した。
その時だった。
「見つけました、上条当麻!!」
何か思いっきり憎しみの込められた女の声が横合いから飛んできた。
うわちゃー、と天を仰ぎ見る土御門、その声のする方に麻生と上条は振り返るとそこに神裂火織がこちらに(正確には上条だけ)を睨んでいた。
憤怒の表情のままズカズカと上条の元に詰め寄ってくる。
「上条当麻!
貴方がこの入れ替わり魔術「御使堕し」を引き起こした事は分かっています!
今から三つ数えますからその間に元に戻しなさい。」
「え、なに?
この人ナニ言ってんの?
土御門、コイツがあれか、お前の言ってた「ねーちん」か?
ってテメェ一人で逃げてんじゃねぇ!!」
ちょっと目を離した隙に土御門はコソコソと砂浜に移動していた。
すると、さっまで憤怒の表情だった神裂は少しだけ頭が冷えたようだ。
「あ、はい、そうか、そうですね。
すみません、功を焦るばかり少々思慮に欠けていました。
念のために確認しておきます、貴方は私が誰に見えますか?」
神裂の質問に上条は首をひねった。
上条当麻は記憶喪失なのでこの神裂の名前は分からない。
相手は自分の名前を知っているので少なくともお互いに名前は教え合っている仲なのか?、と考えていると麻生が小さくため息を吐いて言う。
「神裂火織、イギリス清教必要悪の教会の魔術師だろ。」
え?と上条は麻生の方を見るが麻生は目で話を合わせろと訴える。
奇跡的にもその視線の意味が分かった上条は、麻生がフォローしてくれたのだと理解すると神裂も納得の表情をする。
上条はこのサムライ女がインデックスやステイルと同じイギリス清教で、魔術師だという事に驚きそして一つの疑問が生まれる。
本物の魔術師といかにも仲の良い友達みたいな顔をしている土御門は何なのか?
「おいおい神裂ねーちん、ちょっとばっかり好戦的すぎるにゃーですよ?」
「何を言っているのですか土御門。
私はただ目の前の問題に全力を尽くしているだけです。
大体私から言わせてもらえば、あなたの方こそ魔術師としての自覚が足りないのではないですか?」
「おい、今何て言った?
魔術師だって?」
上条は殺気の会話で出てきた単語を聞き逃さなかった。
そして土御門はニヤリと笑う。
「そーゆー事、オレも「必要悪の教会」の一員だって事だぜい。」
あっさりと土御門元春は言った。
上条はその言葉を理解するのに時間がかかったが、対する麻生はそれほど驚いていないようだった。
「ありゃ麻生も、もう少しは驚くと思ってたんだけどにゃー。」
「お前は何だか胡散臭い感じがしたから魔術師と言われても妙に納得できたからそれほど驚いていない。
それよりどうやって「外」に出たのかそれが一番気になるけどな。」
「にゃー、それは企業秘密だぜい。」
土御門と普通に話をしている麻生を見て上条は疑問が浮ぶ。
「そ、そうだ。
お前は学園都市で時間割りを受けたじゃねーか。
確か、超能力者に魔術は使えない筈だろ?」
学園都市の時間割りを受けると超能力と言う力が発現するのだが、これは人間の中にある回路をいじくることで使う事が出来る。
魔術を使うのに必要な回路を超能力を使用する為に別の回路に変換させるという事だ。
その為、超能力者は魔術を使う事が出来ない。
なぜなら、魔術を使うために必要な回路が存在しないからだ。
無理に超能力者が魔術を使うと拒絶反応を起こし最悪の場合、命を落とすかもしれない。
麻生が時間割りを受けても何の異変もなく魔術を使えるの、は星の能力で回路を超能力でも魔術でも両方使えるような特殊な回路に変換しているからだ。
「そうだぜい、敵地に潜り込むとはいえ陰陽博士として最上位の土御門さんも今じゃ魔術は打ち止めさ。
おまけにハンパにつけた能力は使えないにゃー、もうさんざん。
つまりこっちの顔が土御門さんのリアルって事ぜよ。
学園都市の動向をイギリス清教に逐一伝える盗聴器。
簡単に言えばスパイって事ですたい。」
スパイ、その言葉に現実離れしているが上条は土御門元春という像が壊れる事はなかった。
麻生も同様で魔術師だからと言って態度を変えるつもりはなかった。
「ま、こっちの話は置いとくとして今は入れ替わりの事について話し合おう。」
「その口調だとお前達はこの入れ替わりの原因が分かっているのか?」
「意外ですね、貴方は既に事の全貌を知っていると思っていましたが。」
「生憎と貴重な情報源を自分で封じているからな。
おかげで世界で何が起こっているのか全く分からないんだよ。」
三人は麻生の言っている事はよく分からなかったがとりあえず麻生も上条も何も知らないという事で話を進める。
「でもそうなると神裂の仮説は外れている可能性が高いな。
カミやんはともかくあの麻生ですら全く状況を把握できていない。
そんな奴らにこんな大魔術を発動させる事が出来るか?」
「ちょっと待て、俺達が関わっているってのはどういう事だ。」
「簡単に言えばある事件が起きてその事件がきっかけで世界中のみんなに何かしらの影響を受けました。
けれど、その影響を受けなかった少年が二人います。
その二人は騒ぎの中心にいてその影響を受けませんでした。
さてその少年たちを怪しいと思うのはおかしいでしょうか?」
「一つだけ訂正させてくれ。
どちらかと言えば俺も巻き込まれた側の人間だ。」
「何一人だけ逃げようとしているんだよ!
というよりおかしいだろ。
このバカ騒ぎが誰かの人為的な事件だっていうのかよ!!」
「この状況を見て自然現象に見えますか?」
土御門にそう言われると思わず黙り込んでしまう。
麻生はさっきから疑問に思っていた事を口にする。
「さっき火織が言っていたんだが御使堕しとはなんだ?」
上条も同じ事を考えていたのか二人の魔術師に聞いてみると、土御門は説明がめんどいので神裂に任せる事にする。
神裂はつまらなさそうに息を吐いて説明をする。
「この「入れ替わり」は魔術を使って誰かが仕組んだ人為的な「事件」です。
世界規模でとある魔術が展開されていて、英国図書館ですら特定の術式を知る事さえできませんでした。
我々は起きた現象の特徴から、便宜的にその魔術を御使堕しと名付けました。
この御使堕しは「セフィロトの樹」というものが関わってきます。
貴方達は聞き覚えがありますか?」
上条は知りませんと言った表情をする。
それを見た麻生はため息を吐くと地面の砂に三角の図形を書く。
「「セフィロトの樹」というものは簡単に言うとこの世界の身分を表した表だと思えばいい。
一番上、つまり頂上に君臨するのが神、その次に天使、次に人間と細かく説明するときりがないから説明しないがざっくり分けるとこうなる。」
麻生は三角形の図形に横直線に線を引いてその間の空間に神、天使、人間などのキーワードを指で書いていく。
「えっと、天使?」
「この世界には吸血鬼とかも存在するんだ、いても不思議じゃない。」
「でもな天使とか言われてもな、いまいちピンとこないだけど。」
頭をかきながら非常に申し訳なさそうな顔をしている。
麻生は再び大きなため息を吐いて面倒くさそうに説明を続ける。
「まぁ天使や悪魔、それに天国、地獄と言ったモノは目に見える訳ではない。
いわば概念みたいなものだ。
天使や悪魔が俺達の眼で見えるようになるという事は、この地上に干渉する事で初めて見る事が出来る。
まぁ、魔眼といった稀有な眼の持ち主は見えるかもしれないがな。」
麻生が説明を終えると神裂がじっと麻生の方を見ていた。
何だ?、と麻生は神裂に聞く。
「実はこの事件についても知っていたのではないのですか?
「セフィロトの樹」や天使についてなど貴方は様々な事を口で説明しました。
本当は御使堕しについても何か知っているのですか?」
「いいや、御使堕しについては全くの初耳だ。
星に聞けば色々分かると思うが俺は二度と星に聞かないと決めている。
それに「セフィロトの樹」や天使などといった事は、俺がこの能力を手に入れた時に勝手に教えられたんだよ。」
少し不機嫌な声を出しながら答える。
その表情を見た神裂は何だか聞いてはいけない事を聞いてしまったみたいだった。
気を取り直して神裂は説明を続ける。
「まずは「天使はいるもの」と考えてくださらないと話が進みません。
御使堕しは原形世界、創造世界、形成世界、物質世界に影響を与えているのです。」
「えっと、イッタイナニヲイッテイルノデスカコノヒトハ?」
「火織は今のこの状況を難しい言葉で説明しているんだよ。」
「難しく考える必要はないにゃー。
要は「不思議な事が起こっていて」「それを止めなきゃいけない」って事だけ分かれば。
幸いにもこの御使堕しは未完成のようだからな。
止めるなら今しかないという事だぜい。
おそらく完成してしまえばカミやんの右手でも戻る事は出来ない。」
上条は自分の右手を見つめ麻生は御使堕しについて考える。
星《テラ》の能力を最大まで扱う事が出来れば儀式場を探知する事も破壊する事も簡単にできるだろう。
何より完成された御使堕しすら破壊する事が出来るかもしれない。
だが、麻生は自身の能力の二~三割程度の力しか扱う事が出来ない。
そんな中途半端な力じゃあ完成された御使堕しを破壊する事は出来ないだろう。
麻生が考えにふけっていると土御門は説明を続ける。
「御使堕しを止める方法は二つ。
一つは術者を倒す事。
二つは「儀式場」を崩す事。
一応制限時間もあるのだがいつリミットがくるか分からないドキドキ状態ですたい。」
土御門は面白く言ったつもりなのだろうが麻生は思った。
あまり時間は残されていない事を。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第28話
「話を戻してほしいだけど、俺達はこの後どうなるの?」
上条は土御門と神裂が何が目的で此処に来たのかまだ知らない。
麻生は一緒にまとめるな、と少し上条を睨んでいるが土御門は気にせず話を進める。
「さっきも言ったが異変を調べた結果、どうにも「歪み」はカミやんと麻生を中心点にして世界中に広まっているらしいんだよにゃー。
それでいて、中心に立つ二人は無傷ときたもんだ。」
「ちょっと待て。
さっきも言ったが俺も巻き込まれた側だ。
後、当麻が中心点だ。
俺は関係ない。」
「俺だけ犯人扱いみたいにいうのはやめろよ!!
てか、お前達も姿に変化ないじゃねぇか!」
上条はそう言うと土御門はにゃーと笑い神裂は途端に暗い顔をする。
「これでもオレや神裂は運が良いんだよ。
カミやんを中心に展開された御使堕しが発動した時、オレと神裂ねーちんはロンドンにいたからにゃー。
その時にウィンザー城っていう城に居てなその城の結界レベルは、あの「歩く教会」と同等かそれ以上のものだぜよ。
これくらいの「距離」と「結界」の条件が合致して難を逃れられるって事。
魔術師の多くは御使堕しに呑まれていて異変に気づいているのはほんの一握りだにゃー。」
「ふうん、何だか良く分からないけど、つまり不幸中の幸いって事か。」
「いんやあ案外そうでもないんだにゃー。
ねーちんはともかくオレは最深部にいなかったから、城の城壁が三〇〇秒ほど御使堕しを食い止めている間にどうにか結界を張ったんだよ。」
「あれ、お前って魔法は使えないんじゃ。」
上条は三沢塾の学生達は魔術を使った途端、拒絶反応のように身体を爆発させたことを思い出す。
そんな上条の意図を読み取ったのか土御門はわずかに口を歪めて言った。
「ああ、だから見えないところはボロボロだぜい?
もっかい魔術使ったら確実に死ぬわな。」
土御門のアロハシャツの前が風になぶられた。
ぶわりと広がったシャツの中、左の脇腹全体を覆い尽くすように、青黒い内出血の痣が広がっていた。
それはまるで得体の知れないモノに浸食されているかのようにも見えた。
「だが、ここまでやっても完璧に御使堕しから逃れられた環ではないんだにゃー。」
それでも土御門は笑っていた。
「ウチらやカミやん、麻生は例外として周りから見るとオレは「入れ替わった」ように見えるらしいぜい。
ちなみにオレの中身はアイドル「一一一」。
なんか人気女優に手を出した事が週刊誌にすっぽ抜かれたみたくて、熱狂的アイドルファンの夢見る乙女と目が合うと金属バット片手に追い掛け回される愉快な人生を追体験中ぜよ。」
「それはまた大変だな。
そうなると火織も誰かと入れ替わっているのか?」
さっきからずっと黙っている神裂に聞いてみるとぴく、と肩がわずかに揺れた。
そして重苦しい声で神裂はいった。
「中身は魔術師「ステイル=マグヌス」」です。
世間から見ると私は身長二メートル強の赤紙長髪の大男に見えるそうですね。
おかげで手洗いや更衣室に入っただけで警察に呼ばれるし、電車に揺れているだけで痴漢に間違われました。
ええ、本当に驚きました。
始めは世界の全てが私にケンカを売っているように見えてしまって本当にどうしたものかと。」
上条は神裂の平たい声の無表情に怯え、麻生は神裂は話した状況を思い浮かべ珍しく、くくくっ、と笑いを堪えている。
どうやら麻生の笑いのツボに入ったみたいだ。
それに気づかず神裂は上条を犯人だと本気で思っているのか涼しい顔のまま、がしぃ!、と上条の両肩を掴んでいった。
「本当にあなたは何もしていないんですか?
本当は何かしたのではないですか?
正直に告白しなさい、怒りませんから。
私はもう嫌なのです、私はもうさっさと解決したいのです。
道行く人々から「妙に女っぽいシナを作る巨漢の英国人」など、と呼ばれるのは耐え難い苦痛なのだと言っています。」
そして眉一つ動かさず神裂は人間離れした恐るべき力でがっくんがっくん、と上条の首を前後に揺さぶっている。
「誰かコイツを何とかして止めてくれ!!
ていうか御使堕しってのは魔術なんだろ!
だったら超能力者の俺に魔術が使えるか!!」
ピタリ、と上条を揺さぶっていた神裂の手が止まる。
神裂は眉を寄せて困ったような顔になって言う。
「それでは八方塞がりです。
犯人が天使を使って何をしようとしているかも分からない以上、一刻も早く御使堕しを食い止めなければらないのに。
私はこれから一生「日本語は上手だけど何故か女言葉の巨漢外国人」として生きていかなければならないのでしょうか?」
上条は自分が悪くないのに何故か罪悪感に似た感傷を受けてしまう。
土御門は助け舟を出すかのように神裂に言った。
「こればっかりは一からやり直すより他に道はないぜよ。」
「しかし、彼の側には禁書目録がいます。」
「神裂ねーちんも三沢塾のレポートは見ただろう?
もしカミやんが御使堕しを使えば確実にこんなに健康体ではないぜよ。」
土御門の説明を受けて捜査がやり直しになってしまい一気にテンションが下がる神裂。
しかし、此処にもう一人の例外がいる事に気づく。
麻生恭介の存在を。
神裂の矛先が上条から麻生に移り変わる。
「やはり貴方の仕業でしたか。
貴方でない事を私は願っていましたが・・・」
そう言うと腰にある刀に手が触れる。
神裂はインデックスと麻生が戦っている時に麻生が魔術の様な術を使っているのを見た事がある。
だから、この御使堕しも発動したのも麻生だと思っている。
「貴方の実力がどれ程のモノかは前回の時に既に分かっています。
ですから手加減なしで行きます、もし術を解くつもりなのなら今のうちですよ。」
満更でもない雰囲気を醸し出す。
上条はえ?これから此処でバトルが始まるの?、と土御門に聞き、土御門もさぁ~どうなるかにゃ~、とのんきな事を言っている。
神裂が戦いの雰囲気を出しているにも拘らず麻生は面倒くさそうな顔し大きくため息を吐いて言った。
「お前、早くこの入れ替わりを解決したいからって無理矢理俺を犯人に仕立て上げるな。
それで俺が犯人じゃなかったらどう責任をとるつもりだ?
後、俺が御使堕しを発動したって証拠は?」
麻生の正論にさっきまでの雰囲気はどこ行ったのかうっ、と声をあげて神裂は怒られている子供の様な表情になる。
そんな神裂を気にせず麻生はざくざく攻めていく。
「確かに俺は魔術は使えるけど御使堕しを発動して何の得がある?
俺はお前みたいにどこかの魔術結社に所属している訳でもない。
早くこの事件を解決したい理由は自分にかかっている入れ替わりを治したいだけだろ?
そんな自分勝手な理由で俺を犯人にされてこっちはいい迷惑だ。」
麻生が言い終わる頃には神裂は明らかにどんよりとした空気に包まれていた。
土御門は神裂に聞こえない様にそっと話しかける。
「麻生、少し言い過ぎだにゃー。」
「俺は正論を言ったつもりだが?」
「そういう訳じゃなくて。
ねーちんも此処に来るまで精神的にかなりダメージを受けてたにゃー。
それに加えて麻生のあの言葉はまさにダメ出しぜよ。」
土御門に言われちらりと神裂の様子を窺う。
麻生の言葉が相当効いたのか未だに暗い空気を纏っている。
土御門は麻生の肩を叩いてGO!!、のサインを送る。
麻生は頭をかきながら以前と立ち直る兆しが見えない神裂に話しかける。
「あ~、火織。」
麻生に名前を呼ばれゆっくりと顔をあげる。
「ここでへこたれていても何の解決にもならない。
俺も手伝うから元気を出せ。
さすがに知り合いが入れ替わっていたら俺も困るからな。」
俺は悪くないのに何で俺が悪い雰囲気になっているだ?、と疑問に思ったがそれをツッコんでしまえば当分、神裂は立ち直れないような気がしたので言わないでおく。
麻生の慰め?を受け少しずつ暗い空気が無くなっていく。
「そ、そうですね。
ですがこれでは八方塞がり、手がかりは何もありません。」
「そんな事ないぜい、少なくとも御使堕しはカミやんを中心に起きているんだし。
犯人はカミやんの近くにいるって可能性が高いにゃー。」
「え?そうなのか?」
「かと言って犯人が必ずしも上条当麻に接触してくるとも限りません。」
「いや、こいつの不幸は折り紙つきだ。
その不幸が当麻と犯人を引き合わせるだろう。」
「ちょっと待て!!
それじゃあ、あれか俺はいつかこの御使堕しっていう魔術を発動した犯人に襲われるって事か!?」
「そうなるからウチらがカミやんを「犯人」から護って、カミやんには御使堕しの儀式場の魔方陣破壊に付き合ってもらう。
ギブアンドテイクのステキな取り引きだと思うんだがにゃー。
そこら辺はどうなのよカミやん?」
土御門に聞かれ上条は少し考えた後その取り引きに応じる事になった。
夏の夜は午後八時になってようやく訪れた。
海の家の一階、丸テーブルを囲むように上条一家はそこにいた、と言ってもメンツはヘンテコ入れ替わりメンバーであるが。
このヘンテコなメンツに「上条と麻生の友人」としてごく自然に神裂火織がテーブルに就いてた。
もっとも周りから見ると「むさ苦しい赤髪外国人のヤロウの友達」に見えるらしいが。
ちなみにこの場に土御門はいない。
彼は上条と麻生と神裂以外の人間から見ると「問題ありの男アイドル」に見えるからだ。
今頃、消波ブロックの陰にでも隠れてフナムシと戯れているかもしれない。
早くご飯を食べたいのだが何故か店員の姿は見えず、テレビも火野神作という死刑囚が脱獄したまま発見されないとかいう陰鬱なニュースしか流れていないので話題作りにもならない。
ちなみに、上条の事をおにーちゃんと呼んでいる美琴についてインデックス(母)に聞くと従妹らしい。
それならおにーちゃんと呼ばれても不思議ではないのだが、如何せん外見があれなので鳥肌が出る事に変わりはない。
すると、どすどすと大きな足音を立てて浜の方の入り口から店主がやってきた。
「おう、悪りぃな店を空けちまって。
浜の有線放送が壊れちまって、そっち直すのに時間食っちまった。」
声に店主から一番近くにいた神裂が振り返りながら言う。
「お気になさらず、それは津波の情報や災害救助にも利用される設備でしょう。
人命に関わるものならば優先してしかるべき・・ってステイル?なん、馬鹿な!?」
「すている?何かの流行語かそりゃ?
それはそうと今から晩飯だよな。
メニューは少ねえがその分マッハで用意するんで勘弁してくれな。」
どうやらステイルは思いっきり御使堕しの影響を受けているらしい。
土御門や神裂のように以上に気づいている人間の方が稀なのだ。
注文を取った巨大な店主がどすどすと店の奥に消えていくと、インデックスが頬に手を当てながら神裂の方を見て言った。
「あらあら、それにしても随分と日本語が達者なのね。
おばさん感心しちゃったわ。」
神裂は一瞬ビクッと肩を動かしてしまう。
「あ、いや、はい、お気遣いなく。」
神裂とインデックスは同じイギリス清教の人間だが、とある事情で絶交状態なので急に話しかけられると対処に困るのだ。
「あらあら、物腰も丁寧で、大柄でがっちりした人だからおばさん最初はもっと違うイメージを抱いていたのだけど。」
ぴく、と神裂の肩がわずかに動く。
だが、周りはそんな変化に気づく訳がない。
今度は美琴が率直な感想を言う。
「けど、その言葉遣いってちょっとニュアンスずれているわよ。
だって、それじゃ女言葉っぽいもの。
そんなガタイしてるのなら、少しずつでも男言葉に直していかないと。
仕草もちょっとだけ女っぽいよ?」
ぴくぴく、と神裂の頬の筋肉がわずかに引きつる。
神裂は口の中で何かを呟いている、ちょっとだけって、と確実に呟いている。
上条はやばい、と気づき麻生は必死に笑いを堪えている。
ダメ押しで刀夜が言った。
「こらこら、やめないか二人とも。
言葉なんてものは正しいニュアンスが伝わればそれでいいんだ。
おそらく彼は日本人の女性に言葉を教わったからこうなっただけだろう。
見た目がどうだろうがそんなものは関係ない。」
ピクビギ!、と神裂の身体のあちこちが小刻みに震えている。
上条が何かフォローを入れようとした時だった。
神裂の視界の端に麻生が必死に笑いを堪えている姿が映った。
ゆらりとゆっくり立ち上がるとがしっ!!、と麻生の襟首をつかみそのままズルズルと引きずられていく。
麻生が自分の失態に気づいたのは少し引きずられた後だった。
人目のない所まで連れ去らわれた後、抗議と苦情を麻生に述べる。
麻生は俺に言っても何の解決にもならないのでは?、と思ったがそんな事を言っても無駄だろうなと考え、適当に相槌を打ちながら聞いている。
そこで神裂はふと近くにある曇りガラスの引き戸を発見したようだ。
「言われてみれば海の家には風呂場もあるのですね。
こんな事を明言するのもどうかと思いますが、トラブル続きでロクに湯浴みもしていない状態なのです。」
「お前、今この状況を分かって言ってるのか?」
「私情を挟んでいられない状態なのは心得ているのですが、いけませんね。
あの子に笑顔を向けられる事に私はどうしても慣れる事ができないようです。
私にはそんな資格はありません。」
何かを噛み締めるように神裂は言った。
麻生は神裂がなぜそう思っているかを知っている。
だからこそ何も言わずに話を変える事にする。
「それで俺をここまで連れてきた理由なんだ?」
「貴方に頼みたいのは簡単に言えば見張りです。
そこの風呂は温泉や銭湯と同じく共用なのでしょう?」
この小さな海の家に「男湯・女湯」という区別はない。
風呂場は一つなので男が使っている時は男湯になり女が使っている時は女湯になるのだ。
そして、神裂は他の人から見ると「ステイル=マグヌス」に見えるのだ。
よって神裂が入っていると男が入っていると思い、他の男性が入ってくる可能性がある。
神裂はそれでは頼みましたよ、と言って脱衣所に入って行った。
麻生は曇りガラスの引き戸に背中を預けると通路の方から土御門が堂々と歩いてやってきた。
「そんなに堂々と歩いて良いのか?
他の奴に見つかったらひどい目に会うんじゃないのか?」
「なにバレなきゃ良いんだにゃー、これ土御門さんの基本概念でね。」
そうか、と言って視線を土御門から古い木で作られた通路に移す。
「そういえば麻生はどうやって御使堕しから逃れたんだ?」
「俺はてっきりお前が俺の能力について調べていると思ったんだが。」
「麻生の能力は学園都市が開発している能力とは違う能力だ、かといって魔術でもない。」
「それはイギリス清教として俺の能力を探る為に聞いているのか?」
麻生は視線を通路から再び土御門の方に移し質問する。
土御門は少し笑いながら答えた。
「半々ってとこだにゃー。
どちらかと言えば個人的に知りたいの方が大きいかなにゃー。」
それを聞いてどっちでも俺は構わないが、と言って土御門に教える。
「俺が持っている能力のおかげで俺の存在や身体に直接干渉してくる能力、魔術は俺の許可がなければ自動的に無効化されるようになっている。」
それを聞いた土御門はふむふむ、と麻生の能力について考えているようだ。
「一つ聞きたいんだが麻生はどうやってその力を手に入れたんだ?」
土御門の問いに麻生は答えない。
そして夜空に浮かんでいる月を見ながら答えた。
「小さい時に突然目覚めてな。
けど、何で星はこの能力を俺に与えたのか全く分からないんだ。」
麻生は独り言のように呟く。
土御門はそうか、とそう一言だけ告げた。
「んじゃ、ブルーなイベントはここまで。
こっから本題ですたい。」
突然のテンションの違いに麻生は土御門を警戒するが、とりあえず何をするか聞いてみる。
「何を考えている?」
「よくぞ聞いてくれました。
ざざん!夏のドキドキ神裂ねーちん生着替え覗きイベント!!」
携帯を取り出して高らかに宣言する土御門だが麻生はそんなイベントに興味がない。
「そんなくだらないイベントをするなら一人でやってくれ。」
「あれ、麻生は神裂ねーちんの脱いだ姿に興味はないのか?」
「ああ、全く。」
即答する、麻生。
土御門はこんなにも早く断られるとは思ってもみなかったらしくさらに思わぬ反撃を受ける。
「というよりお前、舞夏の事を愛しているみたいなことを言っているのに別の女の生着替えとか見て大丈夫なのか?
あいつ、なかなか鋭い所があるからすぐにばれるんじゃないのか?」
麻生はかなり冗談のつもりで言ったつもりだった。
だが、土御門は違った。
「あ、ああああああいしているって、な、なにを、根拠に!?」
満更でもない反応を見た麻生は。
「お前もしかして一線を越えたのか?」
「ばばばばばばバカやろう!!!!そんなのあるわけがないにゃー!!」
「土御門・・・・」
「そんな眼で見てくるんじゃない!!
それ以上そんな眼をしてくるならお前の眼球を取り除いてやる!!」
今にでも飛び掛かってきそうな土御門だったがきし、と床板が小さく軋んだ瞬間忍者のように物陰から物陰へと移動していく。
それと同時にインデックスと美琴がやってきた。
「あらあら、麻生さん。
どこかに行ってしまったと思ったらこんな所にいたのですね。」
「何か俺に用があったのですか?」
「あらあら、違いますよ。
ただ料理を出すのに時間がかかるらしくて、その間にお風呂をいただこうかと思ったんだけど。」
「ねぇねぇ、誰か入っている?」
美琴は曇りガラスの引き戸に目を向けて言った。
「ああ、入っているな。」
「それっておにーちゃん達のお友達でしょう。
だったら、一緒に入ったらいいじゃん。」
は?、と麻生は美琴の言葉を聞いて絶句する。
そして思い出す。
彼女達から見れば神裂火織はステイル=マグヌスに見える事を。
「ちょっと待て、俺はそのあれだ。
一人で入りたいんだ、他の人がいると落ち着いて入れないんだ。」
「えー、そんなの待っていたら料理が出来て絶対に冷めているよ。
別に他の人がいてもいいじゃん、男同士さっさと一緒に入っちゃってよ!!」
「おい、ちょっと待て!!」
「はいはーい、ごめんよごめんよー。」
遠慮なく開けられる引き戸、情け容赦なく脱衣所に放り込まれる麻生恭介。
その目の前に文章で表現してはいけない格好の神裂さんが立っていた。
どうやらタイミング悪くちょうど風呂から出てきた所らしい。
特に何も身につけず、お湯に濡れた髪を束ねようと両手を後ろに回し、髪を束ねる紐を口で小さく咥えた姿勢のまま彼女の時間は止まってしまったようだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
密室に下りるは沈黙の重圧。
神裂の顔には一切の表情がない、その手はゆらりと壁に立てかけられた長い黒鞘へと伸びていく。
黒曜石のように黒く輝く神裂の瞳は言っている。
最後に何か言う事は?
さすがの麻生もこれは何も言っても避けられないと直感しているが、それでも小さな希望にかけて言った。
「これって俺のせいじゃないよな?」
その直後麻生の顎に向かってアッパーするかのように黒鞘の先が襲いかかる。
麻生は腕をクロスしてその鞘を何とか防御するが相手は聖人。
人間では考えられない力を出し、加えて麻生も何の強化もしてないのでそのまま曇りガラスの引き戸を突き抜けて後ろの草むらまで吹き飛んでしまう。
麻生は頭上に輝く月を見て一人呟いた。
「こういう展開って俺じゃなくて当麻の担当じゃあなかったけ?」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第29話
神裂に吹っ飛ばされた後、麻生は「わだつみ」の広間に戻る事にした。
神裂は麻生を吹っ飛ばしたあといかにも怒っていますよ雰囲気を出しながら、どこかへ行ってしまい見張りをする意味がなくなったからだ。
広間に戻ると上条だけしかいなかった。
二階から女の子らしい声が聞こえたので上の階で遊んでいるのだと麻生は考える。
上条はぼ~っとテレビを見ていたが麻生が広間にやってくるのを確認すると視線を麻生に向ける。
「さっき凄い物音が聞こえたんだけど何かあったのか?」
「まぁ大した事じゃないから気にするな。」
麻生は適当に答える。
なぜなら今この場に神裂はいない。
あの時の事を上条に話せば、どこで聞き耳を立てているか分からないので適当に答えるしかなかった。
上条もそれほど興味がないのかそうか、と言って視線を再びテレビに向ける。
ブラウン管の中では小萌先生が原稿を読んでいて、そこに朝も同じニュースが流れている事に麻生は気づく。
そこには火野神作と言う殺人犯が刑務所から脱走したと言うニュースだった。
そのニュースを見て麻生はポツリと呟いた。
「二八人もの無関係の人間を殺害か。
殺人鬼だな。」
麻生の独り言に上条の耳に聞こえたのか麻生に聞いてくる。
「殺人鬼?」
「ああ、こいつは殺人鬼だ。」
麻生は上条に頼まれたでもないのに説明をする。
「人が人を殺すという事はそれに意味がある。
それは殺した人の人生、命、道徳などを背負う事だ。
これが殺人だ。
だが、殺人鬼は違う。
これは鬼が人を殺すという語源からきている。
鬼は人間じゃないから殺した相手の命や道徳を背負う事はない。
いわば自然災害みたいなものだ。
殺された二八人の人は運がなかったと諦めるしかない。」
麻生の説明を聞いた上条はテレビに視線を戻す。
その顔はいつになく真剣な表情だった。
上条もよく不幸な目にはよくあっている、彼は彼なりに思う所があるのだろうと麻生は考えて大きく欠伸をした。
「今日は色々あって疲れた。
俺は寝るから明日の朝になったら起こしてくれ。」
麻生は上条の返事を聞かずにそのまま二階の階段を上がっていく。
二階に上がっている途中で突然「わだつみ」全体の電気が消える。
麻生は停電か?、と考えたがどうせすぐに戻るだろうと思い、そのまま自分の部屋に戻ろうとするが下の方でベギン!!、という何かが爆ぜ割れる音が聞こえた。
麻生は下で何かあったのか?、と思い確認の為に下の広間まで戻る。
麻生が二階に上がってすぐにブツン、といきなり全ての電気が消えた。
停電?と上条は暗闇の中で眉をひそめる。
がさり、と上条の足の下、床板の底から、木の板を軽く引っ掻くような音が聞こえた。
何だ?と思わず腰を浮かせてすぐ足元の床板へと視線を向けた瞬間、ガスン!!と三日月のようなナイフの刃が足元の床下を貫通して突き出してきた。
上条は喉が干上がる。
それもその筈、足と足のわずかなスペースから刃物が飛び出している。
もし床下の音を無視して腰を浮かさなかったら、そう考えただけで全身の皮膚から気持ちの悪い汗が噴き出してくる。
三〇センチぐらいの長さの細長い三日月の刃はぎち、ぎち、と前後に軽く揺さぶられやがて床下へとゆっくり沈んでいく。
一刻も早くこの場から離れるべきなのに上条は動けない。
すると、わずかに空けられた床板の穴の奥からまるでかぎ穴から部屋の奥を覗き込むかのようにじっとりと、血走ったような、泥の腐ったような、狂ったような眼球が見えた。
「ひっ・・・」
上条は情けない声をあげて後ろへ下がった瞬間、後追いするかのようにナイフの刃が上条の足元すれすれの床下から飛び出した。
上条の足がもつれ床下の上に転がる。
ナイフの刃が再び床下に潜り、さらなる一撃の狙いを定める。
(落ち着け、落ち着け!!)
上条は呪文のように繰り返すがそれは余計に身体を縛り上げる。
とにかく床の上に倒れているのは危険すぎるので立ち上がろうとした時、ベキン!!と床下が大きく爆ぜ割れてそこから飛び出してきた腕が上条の足首を掴み取る。
得体の知れない衝動に上条の心臓が口から飛び出そうになる。
そして見てしまった、自分の足首を掴み取っている手を。
ある爪は割れ、ある爪は剥がされ、ある爪は黒く固まった血がこびりつき、指は内出血で青黒く変色し、手の甲は大きな傷のカサブタを何度も何度も剥がしてグチョグチョになった肉色の傷口が露出して
それはまるで、得体の知れない人食い細菌に侵された死人のように見えた。
「あ、ぅあ!い、ひっ、あ・・・・ッ!!」
呼吸がもつれ、心臓がおかしな動きを見せる。
襲撃者のナイフの刃が上条の胸に向かって振り下ろされる。
だが、横から別のナイフが襲撃者のナイフを受け止めそのまま上条の胸ぐらを掴み後ろに引っ張られる。
上条は自分を引っ張った人物を見るとそこにナイフを逆手に持っている麻生だった。
「落ち着け、相手は普通の人間だ。
ステイルや一方通行ような魔術や超能力は使えない。」
若干腰を落とし周りを警戒しながら麻生は言う。
とりあえず危機は脱出できたのを確認できると、少しずつだが上条の呼吸も心臓の動きも落ち着いてくる。
そして、襲撃者のナイフの刃が麻生の顔面に向かって飛び出てくる。
麻生はそれを自分の持っているナイフで受け止め、空いている右手で襲撃者の手首を掴む。
「さて、顔を見せて貰おうか。」
その時だった。
突然、「わだつみ」の入り口から赤い少女が恐るべき速度で飛び込んできた。
赤い少女は腰にあるL字の釘抜きを引き抜くと麻生が掴んでいる襲撃者の手首に向かって、思いっきり振りかぶる。
麻生は咄嗟に手を放し次の瞬間にはボギン!!、と凄まじく鈍い音と共に襲撃者の手首がおかしな方向へと捻じ曲がる。
それでもナイフを手放さなかったのは襲撃者の執念なのだろうか?
「ぎ、びぃ!ぎがぁ!!」
床下からの咆哮と共に襲撃者の手が床下へと逃げ込む。
「逃がすかよ。」
麻生は床下をダン!、と軽く踏みつけると麻生の前方の七〇センチくらいの大穴が空く。
踏みつけた衝撃を拡散、増加させる事で床下に穴を空けたのだ。
事前に打ち合わせでもしてたかのように、今度は赤い少女が大穴へと飛び込んでいき麻生は上条の前に立ちながら大穴を見つめている。
その大穴からガンゴン!!、と凄まじい音が床下から炸裂した。
すると、ズバン!!といきなり五メートル前方の床下が爆発するように弾け飛びそこから黒い影が飛び出てくる。
一目で内臓がボロボロだと分かるような不健康な肌、汗と泥、血と油によって汚れたページュの作業服、右の手には鉄の爪のような三日月のナイフ、左の手首は折れて青く鬱血している。
その唇から赤い血の筋が垂れていた。
前歯と犬歯、二本の歯が強引に抜かれていた。
「エンゼルさま、どうなってんですか。
エンゼルさま、あなたに従ってりゃあ間違いはない筈なのに!
どうなってんだよエンゼルさま、アンタを信じて二八人も捧げたのに!」
男の言葉を聞いて追撃をかけようとした麻生の足が止まる。
上条と麻生は今日一日流れていたテレビニュースを思いだす。
男の服装からして死刑囚などの犯罪者が着るような服を着ているので、彼が火野神作である事は分かる。
なのに、どうして火野神作は誰とも入れ替わっていないのか?
御使堕しによって誰もが入れ替わっていなければおかしいのに。
火野神作はナイフを振り上げて麻生に斬りかかるのかと思ったが違った。
火野は自分の胸に三日月のナイフを突き立てたのだ。
メチャクチャに振るうナイフは作業服を引き裂き、汗にまみれたシャツを切り裂き、あっという間に血に染まる。
一見して乱暴に見えた無数の傷は机に彫ったラクガキのような文字の形を取っていた。
GO ESCAPE
ただ英単語を並べただけの「言葉」、しかし火野はその言葉を見ると壮絶な笑みを浮かべる。
瞬間、麻生と火野の間に割って入るかのように床板が大きく爆ぜ割れ、赤い少女が飛び出してきた。
その手にあるペンチには何か白く小さな物が挟んであった。
人間の前歯のように見えたそれは赤い少女がペンチを握る手に力を込めるとそれはあっさりと砕け散った。
麻生は火野を見た時不自然に欠けている前歯と犬歯に気にも留めなかったが、あの少女がペンチで強引に引き抜いたのだと分かる。
火野は少女の動作に思わず一歩二歩と下がり、湿った革布を取り出し刃から塗れた血を拭い去ると手の中にある三日月のナイフを赤い少女に向かって投げつけた。
赤い少女はその三日月のナイフを簡単に避ける。
すると、ナイフは少女の後ろにいる麻生の顔面に向かって飛んでくるので麻生も簡単にかわす。
すると、ナイフは麻生の後ろにいる上条の顔面に向かって飛んでいく。
「え?」
思わず呟く上条。
麻生もしまった、と思うが既に遅くナイフは上条の目前へと迫り来ていた。
「うわっ!!」
とっさに転がるように回避したが三日月のナイフは上条の頬を浅く切り裂いた。
それだけの筈なのに次の瞬間には上条のバランス感覚が揺らいだ。
全身から嫌な汗が噴き出して船酔いみたいな吐き気が襲いかかる。
(ど、く?くそ、刃物に何か塗って・・・っ!!)
麻生は上条の様子がおかしい事に気づき上条の名前を呼ぶが、既に上条の耳では麻生が何を言っているか分からない。
火野神作は笑い声をあげて海の家の外へと飛び出していき、赤い少女も追うかどうか迷ったようだが上条の方へと駆け寄りナイフでできた切り傷に唇を当てる。
傷口から毒を吸い出しているのだと麻生は考えていると、入り口から騒ぎを聞きつけたのか神裂と土御門がやってくる。
二人は広間の惨状と赤い少女が上条の頬に唇をつけている事に驚いたが、麻生が説明すると納得の表情をする。
赤い少女は上条の頬から唇を離す。
どうやら毒は全て吸い出したようだ、改めて麻生は赤い少女を観察する。
緩やかにウェーブする長い金髪に白い肌、これだけを見ると可愛らしい少女なのだが身につけているモノ全てが異様だった。
本来なら修道服の下に着るインナースーツの上に外套を羽織っただけ、しかもインナースーツと言ってもほとんどワンピース型の下着みたいなもので華奢な身体のラインを誇示しているように見える。
しかも身体のあちこちに黒いベルトや金具がついていて拘束衣としても使えるように作られている。
さらには太い首輪から伸びた手綱、腰のベルトには金属のペンチや金槌、L字の釘抜きやノコギリなどが刺さっていた。
それらは決して工具ではない、魔女裁判専用の拷問具だ。
良く見れば工具とは違い改造が施されているのが分かる。
「あなたは何者ですか?」
神裂は突然やってきた赤い少女に話しかける。
「解答一。
私はロシア成教の殲滅白書所属のミーシャ=クロイツェフ。」
「あなたは何をしにここに来たのですか?」
「解答二。
世界中に展開されている御使堕しの儀式場、及び術者を見つけ御使堕しを解除する事。」
ミーシャの機械的な答えを聞いた神裂は警戒を解く。
どうやらミーシャは同じ目的なので敵ではないと判断したのだろう。
すると後ろの方でゴト、と何か物音が聞こえ四人は一斉にその音の方に振り向く。
そこには御坂妹が怯えた表情で立っていた。
「どうやらさっきまでの戦いを見られたようだな。」
「なぜあなたが此処にいるのですか?」
腰にある刀に手を触れながら御坂妹に質問する神裂。
さらに怯えた表情をした御坂妹は怯えながらも答える。
「わ、わた、私達従業員は一階で寝泊まりしているから、何か凄い音が聞こえたから様子を見に行こうとして・・・・」
「店主はどこに?」
「と、父さんは二階で作業している。」
それを聞いて神裂は少し申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、従業員も含めて皆が二階にいると思い二階だけにしか「人払い」の魔術をかけていませんでした。」
「それに関しては仕方がないにゃー。
俺も神裂のねーちんと同じことを考えていたからな。
何事にもイレギュラーはあるもんだぜよ。」
土御門と神裂がどうするかを考えていると上条がゆっくりと目を開ける。
そしてふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がる。
周りを見てなぜ御坂妹がいるのか疑問に思ったが、神裂から説明を受けると納得したようだ。
そして、ミーシャの素性もミーシャのおかげで助かったのだと上条に説明する。
「そうなのか、ありがとう。
お前が助けてくれなかったら今頃」
上条がかろうじて浮かべた笑みは唐突に凍りついた。
少し離れていたはずのミーシャがノコギリを引き抜いて、一瞬で上条に接近してノコギリの刃を上条の首筋に当てていたのだ。
誰も反応できなかった。
神裂も土御門もあの麻生ですら反応する事が出来なかった。
彼女は上条に機械的な声で質問する。
「問一。
御使堕しを引き起こしたのは貴方か?」
「ちょ、ちょっと待ってください。
ミーシャ=クロイツェフ、あなたは上条当麻が御使堕しの犯人でないと踏んでいたから、上条の体内にある毒を吸い出したのではないのですか?」
神裂の言葉にミーシャはジロリと眼球だけを動かして神裂の顔を見る。
「解答一。
私は御使堕し阻止の為にここまできた。
そして先ほどこの少年が犯人か否か、解を求められなかったため保留とした。
だからこそ今こうして問いを質している。」
彼女は神裂から視線を外し上条の眼球を観察するかのように視線を向ける。
「問一をもう一度。
御使堕しを引き起こしたのは貴方か?」
「違う。」
「問二。
それを証明する手段はあるか?」
「証拠なんて、ねーよ。
そもそも俺は魔術なんて何も知らねーんだし。」
上条の言葉にミーシャは理解できていないのか首を傾げている。
神裂はため息をついて言った。
「一応、我がイギリス清教必要悪の教会の公式見解ぐらいなら解答できますが。」
そう言って神裂はミーシャに説明を始める。
上条は魔術知識がなく、御使堕しを引き起こせるとは思えない事、超能力者が魔術を使うと肉体に負担がかかるがそれが見当たらない事、上条が御使堕しの影響を受けないのは彼の右手、幻想殺しの作用によるものだと。
ミーシャはそれらの説明を聞くとジロリと上条を、正確には上条の右手に視線を向ける。
どうやら、幻想殺しと言うフレーズに引っ掛かっているらしい。
「数価。
四〇・九・三〇・七.合わせて八六。」
ズバン!!とミーシャの背後で床下から噴水のように水の柱が飛び出した。
どうやら水道管が破れたらしい。
「照応。
水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ。」
ミーシャが続けて言葉を続けると水の柱が蛇のように形を変えると、何本も枝分かれして槍と化した水流が勢いよく襲い掛かる。
その内の一本が迷うことなく上条の顔面の真ん中へと向かってきた。
「うおっ!?」
上条は咄嗟に右手でガードすると、水槍は水風船のように弾けて四方へ飛び散った。
ミーシャは注意深く床に飛び散った水を観察して言う。
「正答。
イギリス清教の見解と今の実験結果には符合するものがある。
この解を容疑撤回の証明手段として認める。
少年、誤った解の為に刃を向けた事をここに謝罪する。」
上条は全然謝っているように見えないミーシャに色々ツッコもうとしたが出来なかった。
なぜならミーシャは麻生にノコギリの刃を首筋に当てていたからだ。
対する麻生もミーシャの首筋に手に持っていたナイフの刃を当てている。
しかし、ミーシャは驚く事無く先ほどと変わらない機械的な声で言った。
「少年にした問一を再度聞く。
御使堕しを引き起こしたのは貴方か?」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第30話
なぜミーシャが上条の接近に麻生は反応できなかったのに今回は反応できたのか、理由は簡単である。
麻生は上条の容疑が晴れれば、今度は自分の方に来ると予想していたからだ。
心の準備をしているのと、していないとでは大きく差が出る。
首筋にノコギリの刃を当てられているにも拘らず麻生はミーシャの質問に答える。
「俺はこんなめんどくさい事はしない。」
「問二。
それを証明する手段はあるか?」
「ないな、こればっかりはあんたの考え次第だ。」
ミーシャは眼球だけを動かし神裂に視線を向ける。
上条の時のようにイギリス清教の見解を聞こうと思ったが、神裂は先ほどとは違い口を閉じて困ったような顔をしている。
神裂は麻生の能力について詳しくは知らない。
もしかしたら、イギリス清教最大主教であるローラ=スチュアートなら、何か知っている可能性があるが今から連絡を取るのに時間がかかってしまう。
ミーシャは神裂から見解が聞けないと分かると視線を麻生の方に戻し言った。
「イギリス清教から公式見解を聞けないと判断し、貴方を御使堕しを展開させた魔術師として判断し排除する。」
瞬間、ミーシャの背後で水の柱が飛び出してきてそれが蛇の形となり麻生に向かってくる。
神裂や土御門はミーシャの早急すぎる行動に驚きを隠せないでいる。
ミーシャは自分の首筋に当ててる麻生のナイフを持つ手を空いている片手で押えつけ、麻生の腹を前に突きだすように蹴る。
麻生も空いている手でミーシャの蹴りをガードし、その勢いもあってか二人の間に距離が空く。
その間を埋めるかのように水の槍が麻生に向かって飛んでくる。
麻生は右手の人差し指を突き出し空中で何かを描く。
その指の動きについてくるかのように空中で何かが浮かび上がる。
上条は見た事のない記号に見えたが、魔術師である神裂や土御門にはそれが何かすぐにわかった。
記号ではなくルーンの文字である事を。
その文字を中心に麻生の前方に炎の盾が円を描くように展開すると水の槍とぶつかり水蒸気が発生した。
水蒸気で視界が悪くなりミーシャは周りを警戒しようとした時、腹に衝撃が走り「わたづみ」の家の外まで吹き飛ばされる。
何とか受け身を取り前を見ると「わたづみ」の中からナイフを手に持ちながらゆっくりと外に出てくる麻生がいた。
「中で戦うと周りに迷惑だからな。
場所を変えさせてもらった。
さて、お前が俺を殺すっているのなら俺は全力で抵抗させてもらおう。」
その言葉を皮切りに両者は五メートルという距離を一瞬で詰める。
金属と金属がぶつかり合おう音と火花が空中で散っていく。
ミーシャはノコギリからL字の釘抜きに持ち替え、さらに腰からドライバーを抜き取りそれを麻生に向かって投げつける。
麻生はナイフでそれを弾き落とすがその対応は間違いだった。
弾き落とした瞬間には既にミーシャは接近していて、L字の釘抜きを麻生のナイフを持っている手首に向かって振り下ろす。
麻生は無理矢理手首を曲げて直撃を避ける事が出来たがL字の釘抜きの先端が、ナイフとナイフを持っている皮膚の間に入り込む。
ガリガリ!!、と皮膚を削る音と同時にナイフを上に弾かれ、そのままL字の釘抜きを麻生の顔面に向かって振り下ろす。
麻生の両手には干将・莫耶が握られており、振り下ろされるL字の釘抜きを受け止める。
さらにはミーシャの左右から地面が盛り上がり先端が槍のような形なり、ミーシャに襲いかかるがそれを後ろに下がる事でかわす。
地面の槍と槍がぶつかり合った瞬間、その影から干将・莫耶が飛んでくるが冷静にそれを打ち落とす。
「今のが決まっていれば両腕は切り落とせたんだけどな。」
土煙が晴れると麻生の両手には赤い槍が握られていた。
槍の名前は刺し穿つ死棘の槍。
槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名開放すると「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因を作る。
しかし、これは麻生の技量関係なく真名解放をすればミーシャの心臓を貫き殺してしまう。
麻生はある女性と一つの約束をしている。
その女性とは黄泉川愛穂。
彼女がまだ警備員に入りたての頃、まだ実力も未熟だった時、武装無能力集団に捕まってしまった時があった。
しかし、武装無能力集団が愛穂の身体に何かしようとした時に麻生が愛穂を助けに来たのだ。
偶然にも麻生は武装無能力集団が愛穂を連れて行くところを見かけたからだ。
麻生は能力を最大まで使い、その場にいた人間を全員殺そうと考えていたがそれを止めたのは他ならぬ愛穂だった。
「ウチがこいつらに捕まったのはウチの力が無かったからじゃん。」
何をされるか分からなかったのにそれでも愛穂は麻生に笑顔を向けた。
「だからウチは強くなるよ、こいつらを更生させるだけの強さをね。
だから麻生とウチと約束じゃん、絶対に人を殺したらだめ。
例えそいつがどんな悪人でも。」
愛穂は自分の小指と血まみれになった麻生の小指を結びつける。
麻生はその約束をずっと守っている。
どんな奴が相手でもどんな腐った悪人でも絶対に命までは取らない。
先程の干将・莫耶を投げつけたのも首ではなくわざわざ弾かれやすい腕を狙ったのだ。
だがさっきも言ったが刺し穿つ死棘の槍を真名解放すれば麻生と愛穂の約束など関係なくミーシャの心臓を穿つ。
麻生は槍を握りしめミーシャに接近して槍を突き出す。
「刺し穿つ」
突き出した方向はミーシャの身体ではなくその足元の地面に向かって突き出される。
普通の槍ならそんな所に突き出したところで何の意味はない、そう普通の槍なら。
「死棘の槍!!」
突如槍は方向を変えて地面ではなくミーシャの身体に向かって軌道を変化させる。
ここで刺し穿つ死棘の槍についてもう一度説明しよう。
槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名開放すると「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因を作るというものだ。
これは、発動したと同時に「心臓を貫いたという結果」が成立しているため、仮に放った直後で麻生が死んだとしても、槍はひとりでに動いて相手の心臓を貫く。
つまり軌道が変化したのは麻生の技量ではなく槍自身がその軌道を変化させたのだ。
その先は心臓ではなくミーシャの右肩に向かっていた。
麻生の今の能力では因果律を操るほどの力はないが、刺し穿つ死棘の槍に直接干渉して「心臓を貫いたという結果」を改竄する事は出来る。
ここで麻生が予想もしていなかったことが起こる。
さっきまでミーシャの肩に向かって突き出されていた槍の軌道が、突如変化してミーシャの身体に触れる事なく横に逸れていく。
(どうなって・・・・)
麻生は気づいた。
刺し穿つ死棘の槍を回避するためには敏捷性ではなく、幸運の高さが必要になってくる。
つまりミーシャには刺し穿つ死棘の槍が自ら避けていくほどの幸運を持っている事になる。
ミーシャは手に持っているL字の釘抜きで麻生の身体を横一文字に振りぬく。
(槍自体を空間固定。)
素早く槍自体を空間固定してそれを基点に、空中に飛んでL字の釘抜きを何とかかわし、左手を突き出して唱える。
「壊れた幻想。」
それに応えるかのように槍が爆発する。
麻生は地面に着地してミーシャの様子を窺うが、ミーシャの身体の身体を守るかのように水の盾が周りに展開されていた。
麻生は刀を創り構え、ミーシャもL字の釘抜きを持ち直し構える。
すると、二人の間に神裂が乱入してくる。
「二人とも剣を引いてください!!」
神裂の問いかけに反応したのは意外にもミーシャの方だった。
「問一。
貴女も御使堕しを完成を阻止する為に動いていたのではないのか?」
「確かにそうです。
ですが、犯人ではないかもしれない人を排除するのとはまた違います。」
神裂の言っている事が分からないのかミーシャは首を傾げている。
そこに土御門が説明する。
「さっき店主の娘がカミやんを襲ったのは火野神作に見えたらしい。
そして、カミやんも火野神作に見えたと言ってた。
御使堕しの影響を受けている者とそうでない者が同じに人間に見えたのなら、そいつがこの御使堕しを展開した魔術師である可能性が高い。」
「問二。
それはこの少年も同じ事ではないのか?」
「これはオレの私情としての意見だが、麻生がこんな面倒な魔術を発動するなんてどうしても思えない。
とにかくだ、火野を捕まえて尋問してそれで何も情報が聞き出せなかったらそん時に麻生を問い詰めればいい。
それからでも遅くはない筈だ。」
神裂と土御門の話を聞いてミーシャは少しだけ考えるとL字の釘抜きを元に戻す。
それを見た麻生も刀を捨てる。
遅れて上条もやってきてこれからの事について話し合う。
ミーシャは麻生達と一緒に行動する事になった。
自分の事をまだ疑っているのかもしれない、と麻生が考えていると上条は何か思い出したような顔する。
「あ、ああああああああああああああああ!まずい、インデックス!?」
そう叫ぶと上条はダッシュで「わだつみ」に戻っていく。
とりあえず神裂達は火野が再び戻ってきて襲いにかかると言う可能性もあるので、見張りと「わだつみ」の修理をすることになった。
麻生も一応は一般人なので寝ても構わないという事になった。
麻生は言われなくても寝る、と欠伸をしながら「わだつみ」の自分の部屋に戻ると布団に寝転がり眠るのだった。
麻生が目を覚ますと既に昼の十二時になっていた。
麻生が起きるのと同じタイミングで土御門が麻生の部屋に入ってきた。
「おっ、ちょうど起きたみたいだにゃー。」
「この家に入ってきてもいいのか?
他の人に見つかるとやっかいだぞ。」
「その辺は抜かりないぜよ。
カミやんの家族は海に遊びに行っていて二階にいるのは、カミやんに麻生にねーちんとミーシャだけぜよ。
支度が出来たらカミやんの部屋に集合な。」
そう言って部屋から出て行く土御門。
麻生は起き上がり顔を洗っていつもの黒一色の服を着て上条の部屋に向かう。
部屋に入ると既にメンバーはそろっているのだが、上条の目の下にどす黒いクマが出来ていた。
何でも昨日は上条は一睡もしていないらしい。
本人に聞くと刀夜がインデックス(刀夜から見れば詩菜に見えるのだが)の布団にダイブしようとしていたので、それを阻止していたら朝になっていたらしい。
そんな絶不調の上条をほっといて話を進めていく。
「さて、これからどうやって火野を追跡するかが問題だぜい。」
「火野が魔術師なら彼の魔力の残滓を追跡する事はできないでしょうか?」
「解答一。
昨夜、火野が魔術を使用した痕跡は見つからず。
おそらくは追跡を逃れるための工作かと推測される。」
「一番ネックの「天使」の気配もないしにゃー。
もっとも天使クラスの魔力なんざ、そのまま放置すりゃあそれだけで土地が歪んじまう。
何らかの方法を使って隠蔽してることは間違いないんだろうけど、どちらにしてもまずは情報収集だぜい。」
土御門は客室の隅っこに置いてある古臭いテレビのスイッチを入れる。
ニュース番組では相変わらず小萌先生と、どこかの大学心理学者(見た目は小学校三年生くらいに見えるが)が火野の行動などについて話をしている。
上条は昨日火野が何度も言っていたエンゼルさまについて思い出す。
「なぁ、もしかして火野は天使に命令されて御使堕しを引き起こしたんじゃあないのか?」
「それはないな。」
上条の意見に麻生が否定する。
「天使にはそもそも心と言った考えを持っていない。
簡単に言えば天使って言うのは神様の使い勝手のいい人形みたいなものだ。
神様の命令を無視して行動する天使を「悪魔」と呼んでいるんだ。」
「ま、そこらは火野を捕まえて吐かせますか。
さて、具体的に敵戦力を考えようぜ。」
「天使を完全に掌握しているというのはおそらくない筈だ。」
「何でそう言いきれるんだ?」
麻生の言葉に上条が反応する。
「もし掌握できていたら、あの時に既に天使の力を使っている筈だ。」
あっ、と上条もそこに気づいたようだ。
神裂と土御門も麻生の考えに同意しているようだ。
「協力者がいるという可能性はどうでしょうか?
クロイツェフの話を聞いた限りでは歯を二本を引き抜かれ左手首は砕かれているはずです。」
「馬鹿正直に病院に行けば即通報。
闇医者の世話になるにも脱獄直後じゃあ金もない。
こりゃあ現金輸送車を襲って資金調達か、回復魔術の下準備ってとこか。」
「何にせよ、釈然としません。
私達は心理分析の専門家でもありませんし、これ以上は犯人予想は余計な誤情報を生むだけかもしれません。」
神裂が言葉を言い終えるとそこで会話の流れも止まる。
若干ながら重苦しい空気の中、テレビの方だけが妙に無機質に響き渡るがいきなりテレビの声がいろめき立った。
麻生が視線を向けると「臨時ニュース」というテロップが映っていた。
何でも火野は神奈川県内の民家に逃げ込んでいるというニュースだった。
「さてはて困った事になったぜい。
できれば警察に介入される前に、火野神作を回収しちまいたい所だけどどうしたもんかにゃー。」
「土御門!
仮に人質がいた場合どういう結果を招くか分かって言っているのですか!?」
神裂は珍しく激昂したが土御門は簡単に受け流してしまった。
「うにゃーん、それじゃ火野を回収するにしても人質を救出するにしても、とにもかくにも現場に行ってみないと。
それで現場ってどこなんだか、神奈川県内だけじゃあ結構広いぜよ。」
あの、と上条は恐る恐る片手を挙げて発現する。
「何ですか、現場に連れて行けという要望なら却下します。
ステイルはどうだか知りませんが私はあなたを戦場に連れて行く気などさらさらありません。」
「そうではなく、さっきの上空からの映像で気になる点が一個あったんだけど。
いや、でも、けど、見間違いかもしれねーし、あってたとしても。」
「即刻言いなさい。」
「ウチの母さんの趣味がパラグライダーらしくてさ、全然分かんねー近所の上空写真を山盛り持ってこられた事があるんだけど。
なーんかあの赤い屋根って見覚えある気がするんだよなー。
実家の上空写真で。」
上条はあまり正解であってほしくないような顔をしながら言うのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第31話
火野がどこにいるか分かったので、麻生達はタクシーを呼んで急いで上条の実家に向かう。
麻生は上条が記憶喪失なので正確な位置が分かるのかと聞く。
携帯のGPSやテレビに映っていた周りの建物などを見て、調べて何とか正確な位置を知る事が出来たと言っていた。
タクシーに乗り込み(運転手は女子高生が握っているので少し不安があったが)何とか現場から、約六〇〇メートル離れた位置に着く事が出来た。
テレビの情報が正しいなら、上条の家から半径六〇〇メートルにわたって大包囲網が敷かれているらしい。
「で、此処まで来たのはいいけどこれからどうするんだ?
警官隊の包囲は元より野次馬だっていっぱいいる状況で、どうやって俺ん家まで向かうんだよ?」
「もちろん、そこを通っていくに決まっているぜい。」
土御門は近くになる民家のコンクリート塀を指差した。
警官隊は全ての道路を封鎖したとはいえ、道路でないところまで警官は立っていない。
無人となった民家の庭や植え込みなどを通り上条の家に近づいていく。
警官が隣の警官と言葉を交わしたり、無線通信に意識を集中したり、何気なく空を見上げたり、そういったほんの一瞬の空白を突いて土御門達は警官のすぐ近くを走り抜けていく。
こういった人間離れした技術を見せつけられて、上条はやはり土御門もプロの人間なんだと痛感させられた。
何より驚いたのは、それに難なくついていけている麻生だ。
確かに麻生の能力は上条の右手に比べて絶大な能力である事が分かる。
だが、今は麻生は能力を使っていないにも関わらず土御門達に着いて行っているのだ。
半径六〇〇メートルの包囲網を超えるとしばらく人の姿が見えなかったが、走り抜けると今度は装甲服と透明な盾に身を包んだ物々しい面々が現れた。
「さてはて、流石にここから先は隠密だけでは難しいぜい。
カミやん家を取り囲んでいる機動隊は全員、双眼鏡でカミやんの家に大注目しているし。
誰にも気づかれずカミやん家に突撃して、火野を押えるのは不可能っぽいぜよ。」
「不可能って、じゃあどうするんだよ?」
「そうですね、機動隊を眠らせたり放心させたりする意識介入の術式は可能ですが、それでは無線通信などの沈黙で異常を感知される恐れがあります。
ですので、認識を他に移すという手法を取るのはどうでしょうか?」
「それが一番無難だな。」
路上駐車の車の陰に隠れながら、上条を置いてけぼりにしつつ話を進める。
何の話をしているのか分からない上条はとりあえず麻生に聞いてみる
「えっと、どういうこと?」
「簡単に言えば他人の家を「当麻の家」だと誤認させるって事だ。
それなら本来の当麻の家で何があっても、異常だと気付かれないだろ。」
少し溜息を吐きながら説明をする麻生。
「それで術式はどういう風な感じだ?」
「私の鋼糸を使って半径一〇〇メートルに禁糸結界を張ります。
糸を張り巡らすのに二〇分くらいかかりますので、その間はどこかに身を隠してください。」
「糸の結界なら俺も手伝えるから着いて行く。
それなら時間もそうかからない筈だ。」
麻生に右手には糸の束がいつの間にか握られていた。
神裂は麻生が手伝う、と聞くと少しだけ困ったような顔をする。
どうやら一般人に手伝ってもらうのは気が引けるようだ。
その神裂の考えが分かった麻生は言う。
「結界を早く張るのにデメリットはない筈だ。
それにもたもたしていると火野が御使堕しを完成させる可能性がある。
一刻も早く結界を張る必要があると俺は思うが。」
麻生の意見が正しいと分かった神裂は依然と困った顔をしているがと了承した。
神裂と麻生が結界を張りに行こうとするとき、何を思い出したのか神裂は上条の方に向く。
「それと、上条当麻。
あなたはこの糸には触れないでください。
結界の核たる糸にあなたの右手が触れてしまうと、魔術が解けてしまう恐れがありますので。」
「いや、いくら何でもこんな指ごとスッパリ切断されてそうな糸に触れようとは思わねーよ。
触れてしまって右手が切断されたら、それこそ「不幸だから」の一言で済む問題じゃねーだろ。」
神裂は上条の言葉を聞いてぴく、反応して表情が消えた。
それに気づいた麻生は早く行くぞ、と神裂に話しかける。
ええ、と神裂は答えると振り返り結界を張りに行こうとするが上条がその背中を見た時、ゾクリ、という背筋に感触を覚えた。
麻生と神裂は結界を張る為に走り去っていく。
無人の住宅街を走りながら糸を張り巡らせ結界を築いていく。
神裂はこういった細かい作業は苦手だが、麻生がうまくフォローしてくれているので順調に結界を張りつつある。
すると、糸を張り巡らせながら麻生は神裂に聞いた。
「当麻の言葉を聞いてから何だか暗いな。
何か癇に障る事でもあいつは言ったのか?」
え、と少し驚く神裂。
どうやら顔に出ているとは思ってもみなかったのだろう。
少し考えた後、神裂は自分の過去を話す。
本当ならこんな話を他人である麻生に話しても意味はないし、何より昔の事を思い出すので話したくはない。
なのに神裂は麻生なら話してもいいと思った。
「私は誰よりも幸運でした。
生まれる前から天草式十字教の「女教皇」の地位を約束されました。
代わりに「女教皇」を目指していた人たちの夢を潰しました。
たった一つの当たりくじを必ず引き当てました。
代わりに残りの人々に外れくじを引かしてしまうことになりました。
人々の中心に立つ人望がありましたが中心にいた人を輪の外へと追い出し、願った望みは全て叶い、日常は嬉しい誤算に溢れ、命を狙われても何故か生き残りました。」
神裂の表情が徐々に曇っていく。
麻生はその話を黙って聞いている。
「なぜ生き残ったのにも理由があります。
私を慕ってくれる多くの人が私を庇って飛んできた弾丸の盾として、爆風を防ぐ鎧となってくれたからですよ。」
思い出すのもつらいのに神裂は話を続ける。
まるで自分の罪を懺悔するかのように。
「私はこの幸運が許せなかった。
この幸運が周りの人たちを不幸にするのが耐えられなかった。
私の幸運で倒れていく人たちが、最後に私に出会えた事を幸運だと言って笑みを浮かべるのを見るのが耐えきれなかった。
だから私は全ての地位を捨て、自分の幸運や不幸に振り回されないほど強い集団、必要悪の教会に入る事にしたのです。」
ちょうど麻生に背を向けるように話していたので、自分の過去を話し終えた神裂の顔を麻生は見る事が出来なかった。
「お前はその仲間の為に天草式十字教を出て行ったんだな。」
神裂の過去を聞いた麻生は神裂に問いかける。
「そうです。」
そう一言だけ告げる。
麻生から返ってきた答えは神裂が予想しているのとは全く別の答えだった。
「俺はお前のような境遇になった事もないから、知ったような口を聞く事は出来ない。
だから俺が言えるのはこれだけだ。」
麻生は神裂の前に立ち神裂の目を見る。
「その生き方で、その選択で後悔はしないか?」
予想外の麻生の言葉に神裂は戸惑う。
単に慰めの言葉などを期待していたわけではない。
だが、この言葉はあまりにも予想外だった。
「どう・・いうことですか?」
「簡単な事だ。
お前のその生き方で本当に後悔しないかと聞いているだけだ。」
「だから、どういうことなんですか!?」
周りに警官がいるかもしれないこの状況にもかかわらず神裂は声を荒げる。
幸いにも周りに警官は居なかったらしい。
麻生は少し周りを警戒して何もない事を確認すると、神裂に背を向けて結界の設置のための最後の糸を張り背を向けながら言った。
「そんなの自分で考えろ。
前にも言った筈だ、答えは他人からもらっても意味はない。
自分で見つける事に意味はあるんだってな。」
結界がちゃんと起動していることを確認して麻生は土御門達がいる所に戻る。
神裂もこのままじっとしている訳にもいかないのでそのまま麻生に着いて行く。
だが、頭の中は麻生の言葉がずっと繰り返されていた。
土御門達の所に戻り結界がうまく起動している事を伝え、確認すると警官達は上条の家とは別の家を包囲していた。
上条の家の前に立つとカーテンが全て閉められており中の状況がよく分からない状態だ。
上条は麻生と神裂が戻ってきたとき神裂の表情が暗かったので、心配して神裂に視線を向けるとさっきの暗い表情から少しだけ明るい感じがした。
火野が目の前にいるので余計な事を考えている暇はないんだろうと考える。
神裂とミーシャは二階から潜入すると言って何の助走も無しで屋根に飛び移った。
上条はその光景に唖然としていたが、麻生と土御門は特に気にすることなく上条の家の玄関から潜入する。
玄関の扉を開けて中に入るとカーテンを閉め切っているが、完全な暗闇ではなくカーテンの隙間からわずかに光が入っていた。
中に入りリビングに行くと麻生は部屋の中に充満している異臭に気づき小声で土御門と上条に話す。
(ガスが充満している。
下手に火花とか起こすと爆発するぞ。)
麻生の言葉にギョッと二人は肩を震わせた。
だが、麻生が忠告したにも関わらず前に進んでいく。
(とりあえず上条は窓を開けるようにしてくれ。
土御門はその護衛を、俺は一階をくまなく探す。)
(危険だろ、一緒に行動した方が良い!)
(時間がない、それにガスが充満しているこの部屋で火野が余計な事をすれば大惨事になる。
窓を開けないと話にならない。)
これ以上の話は火野に場所を教えてしまう可能性があるので麻生は一人で奥に進んでいく。
台所に向かいガスの元栓を閉めようとした時、ゆらりと音もなく痩せぎすのシルエットが麻生の後ろから現れる。
火野は最初から台所に隠れていて麻生が横を通過した時に現れたのだ。
上条と土御門は火野の存在に気付いたが、麻生から見ると後ろにいるので麻生は気づいていない。
「きょう、・・・!!」
すけ、と上条が名前を呼ぼうとした時には既に三日月のナイフは麻生の頭に向かって振り下ろされていた。
上条と麻生の距離は離れているので助けることも出来ない。
上条は最悪の結果を想像した時だった。
火野の持っているナイフが麻生に当たる直前で止まったのだ。
正確には麻生とナイフの間に何かが挟まって、これ以上前に進めないといった表現の方が正しい。
麻生は振り返り、ナイフを持っている手首を殴りナイフを手から離させる。
「ぎぅ!!」
火野は後ろに下がろうとするが麻生がそれに合わせて前に進み、掌底を火野の腹に突き出すように繰り出しそのまま後ろの戸棚にぶつかった。
「残念だったな。
お前が後ろから奇襲を仕掛けてくると思ったから、背後に空間の壁を設置していたんだよ。」
麻生はそう言って台所のガスの元栓を閉める。
さっきの物音が二階まで聞こえたのか神裂とミーシャが二階へと降りてくる。
ミーシャは火野の顔を見るなりL字の釘抜きを引き抜こうとするが、土御門がミーシャの手を掴み事情を説明する。
上条に部屋の窓を開けるように指示するとそこから光が入り部屋の中の様子が分かる。
部屋中には海外からの民族性のあるお土産で溢れていた。
しかし、全員はそんな事に気にしている暇はない。
「さて、「審問」でも開始すっか。
一応、降参する場合は御使堕の儀式場を吐く事を覚えておくぜよ。
土御門は楽しげな口調で話しミーシャの右手にはドライバー、左手にはノコギリが握られている。
そんな状況でも火野の態度は変わらなかった。
何度もしらない、と呟き、エンゼルさま、とも呟いている。
麻生と上条以外は火野の威嚇行為などと思っているが、この二人は全く別の考えを考えていた。
そしてテレビで話していた事を思い出した。
「そうだ、二重人格だ。」
上条の言葉に麻生以外の全員が反応する。
神裂達は二重人格が何を意味しているのか分かっていないようだ。
上条に続けて麻生が説明をする。
「御使堕しの影響で火野の中で「人格A」と「人格B」が入れ替わっている事だ。
これなら外見が変わらない理由に説明がつく。
中身、つまり人格と言う中身が入れ替われば外見が入れ替わりに変化は起こらない筈だ。
火野は犯人じゃない。
こいつも御使堕しに巻き込まれた被害者だ。」
神裂は信じられないような顔をして火野に問い掛ける。
「医者に、医者に言われたのですか?
あなたのエンゼルさまはただの二重人格と、そういう診断を受けたのですか?」
「ひっ!やめ、やめろ、そんな目で見るな。
あの医者は何も分かっていないんだ、何も分かっていないだけなんだ!!」
その言葉を聞いて全員分かってしまった。
その結果を上条が告げる。
「火野神作は御使堕しの犯人じゃない。」
全員がその場で固まってしまった。
完全にとばっちりを受けた火野神作は「エンゼルさま」が偽物だった事にショックだったのか気絶している。
完全に犯人を追う手がかりを失ってしまった。
そこで上条の視界の中で違和感を感じた。
火野が寄りかかっている戸棚へと近づく。
そこには写真立てがあり、そこには幼い上条と両親が映っている筈だった。
御使堕しは写真の中まで影響を及ぼす。
ゆえに写真に写っている詩菜の姿もインデックスになっているのだが、父親である刀夜は海の家であった刀夜と同じ姿をしていた。
つまり入れ替わっていないのだ。
その事実にその場にいた全員が気づく。
「ま、さか・・・父さん。」
上条の呟いた時、隣にいたミーシャは冷たく息を吐いた。
「解答一、自己解答。
標的を特定完了、残るは解の証明のみ。
私見一、とてもつまらない解だった。」
言うな否やミーシャは開いた窓から庭へと飛び出し、どこかへと走り去ってしまう。
神裂は慌ててミーシャを引き止めようとするが既に姿はなかった。
「まずいぞ、ミーシャは上条刀夜を殺す筈だ。」
「ッ!?
何でだよ!!」
上条は麻生に迫り来るように問い詰める。
麻生は冷静に端的に告げた。
「ミーシャがお前や俺にした事を思い出してみろ。」
その言葉にゾッ!、と背筋を凍らせた。
ミーシャは犯人を追い詰める事に何のためらいも見せなかった。
それは経験した上条が一番分かっている事だ。
「火織、当麻、お前達は今すぐに「わだつみ」に戻ってお前の父親を保護しろ。」
「・・・・・分かりました。
あなたはどうするのですか?」
「俺はここに残って御使堕しを解除できるか試しみる。
出来ないと分かったらすぐにそっちに向かう。」
「俺も麻生と一緒にここに残って調べるぜい。」
神裂と上条は頷くと急いで家を出て行く。
「ちくしょう、ちくしょう!!」
容赦なく刀夜に金槌や釘抜きを振り下ろす姿を想像して、上条は歯を食いしばりながら、上条は絶叫しながら急いで海の家に戻る。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第32話
上条と神裂が家を出てから麻生はリビングに置いてあるお土産や部屋中をくまなく調べる。
土御門も同じように部屋を調べながら麻生に話しかける。
「さて、麻生。
この「儀式場」を見てどう思う?」
くまなく調べ終わったのか苦笑いを浮かべながら麻生に近づいていく。
麻生も表情は変わっていないが、顎に指を当てて何を考えているようだ。
「率直に言うと御使堕しが発動して良かったと思う。
この配置にこのお土産の数、一つ間違えれば「極大地震」、「異界反転」、「永久凍土」、術式をあげればきりがない。
確実に言えるのは、これらの内一つでも発動すればこの国は確実に消滅する。」
「にゃー、俺も同じことを思ったぜい。
それにオレにも正体が分からない創作魔法陣もちらほら存在するし、この事実をカミやんに教えなくて正解みたいだったにゃー。」
「あいつなら自分の右手で解決するのではと思いこの配置を動かされたらたまらないからな。
差し詰め、上条当麻が最強の不幸を持ち主なら上条刀夜は最強の幸運の持ち主といったところか。
全く変な所は似ているなあの親子。」
麻生は部屋を出て行こうとするが土御門が麻生を呼び止める。
「麻生、お前は一体何者だ?」
さっきまでとは違い冗談も笑いもない魔術師の声が後ろから聞こえた。
土御門はそのまま言葉を続ける。
「オレはお前がこの「儀式場」の感想を聞いた時に正確な答えが返ってきたときは正直驚いた。
お前はオレのような陰陽や風水のエキスパートでないのにだ。
麻生、お前は一体・・・・」
土御門の問いかけに麻生は少し溜息を吐いて背を向けながら答える。
「ただの一般人Aだ。」
そう一言答えただけだった。
土御門はその答えを聞いて少し驚いた顔をするが小さく笑みを浮かべた。
「それで麻生はこれからどうするのかにゃー?」
その声は魔術師のとしての土御門ではなく麻生のクラスメートとしての声だった。
「この「儀式場」はお前に任せる。
俺はミーシャに用がある。」
麻生は上条の家を出て「わだつみ」の家に向かう。
何とかミーシャよりも先に海の家に着いた上条は浜辺にいた。
途中で出会った美琴に刀夜の居場所を聞いてここまで来たのだ。
神裂は刀夜は自分が保護するといったが上条はそれを拒否した。
理由は簡単だ。
上条刀夜は上条当麻のたった一人の父親だからだ。
だから自分が救ってみせる、と神裂に言って今は一人で浜辺にいる。
刀夜は浜辺を歩いていた。
突然いなくなった上条を探していたのだろう。
上条を見つけると安心したような顔をする刀夜、その顔はただの一般人の顔だった。
だからこそ上条は奥歯を噛みしめた、刀夜を尋問するような真似はしたくなかった。
だが、ミーシャがやってくる間に終わらせないといけない。
「何で、だよ?」
声を振えない様に泣き出さない様に気をつけながら言った。
「何でオカルトなんてつまんねぇモノになんざはまりやがったんだ!?
どうして魔術師の真似事なんかしたんだ!?」
それを聞いた刀夜の笑顔が消えた。
だが魔術師としての表情になったわけではなく、息子にやましい所を見られた父親のようなそんな表情だった。
「それだけ元気だと夏バテは大丈夫そうだな。」
再び上条に笑いながら話しかける。
「さて、何から話そうか。
当麻、お前は覚えていないかもしれないが学園都市に送られる前に、周りの人達からお前がなんと呼ばれていたか覚えているかい?
疫病神、さ。」
刀夜はつらそうな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「お前は生まれ持ち「不幸」な人間だった。
周りの人間もお前の側にいると不幸になると言って、お前に石を投げつけたりした。
私は恐かったんだ。
「幸運」だの「不幸」だの信じてお前に暴力を振るう現実が。
だから私はお前を学園都市に送った。
科学の最先端なら「不幸」という非科学なモノを信じないと思っていた。
その科学の最先端でさえお前は「不幸な人間」として扱われた。
以前のような陰湿な暴力はなかったみたいだがな。
残された道は一つしかない、私はオカルトに手を染める事にした。」
上条刀夜はそこで言葉を断ち切った。
刀夜は御使堕しを使って上条の「不幸な人間」という肩書きを、誰かと入れ替えるつもりだったのだろう。
それは諸刃の剣と同じだ。
上条当麻という存在が誰かと入れ替わるという事は、自分の子供は二度と刀夜を父親だと思う事は無くなる。
それでも上条刀夜は我が子を守りたかったのだ。
「馬鹿野郎、ばっかやろうが!!」
だからこそ上条は吼えた。
刀夜は驚いた顔をするが上条はその表情が許せなかった。
「ああ、確かに俺は不幸だった。
この夏休みだけで何回不幸な目にあったか分からねぇよ!!
たった一度でも俺は後悔しているって言ったか?
こんな「不幸」な夏休みを送りたくなかったなんて言ったかよ!!
確かに俺が「不幸」じゃなければもっと平穏な世界で生きられたと思う。
けど、自分がのうのうと暮らしている陰で別の誰かが苦しんで、血まみれになって、助けを求めて、そんな事にも気づかずにただふらふらと生きている事のどこが「幸運」だって言うんだ!?
俺はこんなにも素晴らしい「不幸」を持っているんだ!!
「不幸」だなんて見下してんじゃねぇ!
俺は今、世界で一番「幸せ」なんだ!」
この不幸がなければインデックスに会う事も出来なかっただろう。
この不幸がなければ姫神に会う事もなかっただろう。
この不幸がなければ美琴が実験で苦しんでいる事を知る事はなかっただろう。
何より麻生恭介という男に出会う事はなかった筈だ。
だからこそ彼は宣言する。
自分の不幸は決して「不幸」ではないことを。
それを聞いた刀夜は言葉も出なかったがその時初めて小さく笑った。
「何だ、お前。
最初から幸せだったのか、当麻。」
刀夜の顔はとても安堵の表情に満ちていた。
「馬鹿だな、私は。
自分の子供から幸せを奪おうとしていたのか。
といっても何が出来た訳でもないがな。
私も馬鹿だな、あんなお土産にオカルトの力なんてないってことぐらい分かっていたはずなのに。」
上条はふと父親の言葉に眉をひそめた。
そして気づいた、何かがおかしいと。
刀夜はウソをついているように見えない。
刀夜はインデックスが自分の妻だと本気で信じているようだ。
刀夜が御使堕しの犯人なのになぜ、その違いに気づかないのか。
上条は考えようとした時、後ろから、さくっ、という砂を踏む音が考えを遮った。
上条は後ろを振り向く。
「ミーシャ=クロイツェフ。」
砂浜の波打ち際にポツンと赤いインナーの上に同色の外套を羽織った少女が立っていた。
上条は何かを言おうとしたが瞬間に喉が凍りついた。
ぞわり、とミーシャ=クロイツェフの小柄な身体から見えない何かが噴き出し上条の両足は地面に縫い付けられた。
殺意。
ただの殺意だけで上条当麻は石化していく。
ミーシャは腰からL字の釘抜きを引き抜き、ゆっくりと竹刀のように構える。
上条は身震いしたが下がる訳にはいかなかった。
震える手を握りしめて刀夜を庇うように前に立つ。
突然、あらぬ方向から神裂の怒鳴り声が飛んできた。
「そこから離れなさい、上条当麻!!」
ヒュン、という風鳴りの音が上条とミーシャの間を一閃する。
ミーシャの気が一瞬それて、その間に神裂が間に割って入った。
殺気立つ神裂の左右には土御門と麻生が立っている。
「ご苦労さん、カミやん。
ケリを着けたんだろ?
だったら下がりな、後はオレらの仕事だぜぃ。」
刀夜は土御門の顔を見て口をパクパクさせている。
刀夜から見ると土御門はキナ臭いウワサの立つアイドルに見えている筈だからだ。
だが、そんな誤解を解いている暇はなく上条は様子がおかしくなったミーシャの方を見る。
「あい、土御門。
アイツは一体どうしちまったんだ。」
「いやー、考えてみればおかしかったんだぜい。
どうせ他宗派のヤツは偽名を使ってくると思ったがそれにしてもミーシャはない。」
「?」
「ミーシャというのはですね、ロシアでは男性の名前につけられるものなのです。
偽名として使うにもおかしすぎる。」
「何だってそんな事を・・・」
「ロシア成教にはサーシャ=クロイツェフっていうのはいたけど。
おそらくそいつが「入れ替わっている」のがサーシャなんだろ。
この世にはな男にも女にもなれるヤツがいるんだよ。」
土御門の言葉に上条は眉をひそめた。
「忘れたかい、カミやん。
この大魔術が一体何の名で呼ばれているのか。」
瞬間、ミーシャの両目がカッと見開いた。
ドン!!、という地を揺るがす轟音と共にオレンジに染まる夕空が一瞬で星の散らばる夜空へと切り替わった。
上条は思わず頭上を見上げ、刀夜の息が凍る。
そんな中、麻生はヒュ~、と口笛を吹いていた。
「天体制御ってところか。
属性の強化のための「夜」となると・・・・なるほど、月の守護者にして後方を加護する者か。
神の力、常に神の左手に侍る双翼の大天使か。」
御使堕し。
上条はこの術式の名前を思い出した。
御使堕しは天使を地上へと落す術式。
ならば、落された天使が元の場所へ帰ろうと思うのは当然の事。
すると頭上の月が一際大きく蒼く輝いた。
光の輪が満月を中心にして一瞬で広がり、夜空の端の水平線の向こうまで消えてしまった。
さらに輪の内部に複雑な紋章を描くように、様々な光の筋が走り回ると巨大な魔方陣が描かれる。
その魔法陣を見てさっきまで口笛を吹いていた麻生が、さっきの態度と一変して焦りの表情を浮かべ大きな声で叫んだ。
「ふざけるなよ、神の力!!
そこまでして天の席に帰りたいのか!!」
「おい、何がどうなっているんだ!?
あの天使は何をしようとしているんだ!?」
「簡単に言うとあの魔法陣が発動した瞬間、核兵器並みの威力を持った火矢の豪雨が地上に降り注ぐ。
そんなことをすれば人類の歴史は終わりを告げる。」
それを聞いた上条の表情は凍りつく。
神裂もあの魔法陣がどういったモノか分かっているのかミーシャを睨みつけている。
ミーシャ・・・神の力に視線を向けたまま神裂は上条に言う。
「上条当麻、「神の力」は私が押さえます。
あなたは刀夜氏を連れて一刻も早く逃げてください。」
その言葉を聞いて上条は最初何を言っているのか分からなかった。
相手は核兵器並みの魔術を使う相手に神裂は押えるといったのだ。
「あの「一掃」は発動するのに時間がかかります。
おそらく三〇分といった所でしょう。
あなたはその間に刀夜氏を連れて逃げて御使堕しの解除をお願いします。
あの天使は御使堕しを解除すれば「一掃」をする意味も無くなります。」
ここで上条はようやく神裂の真意に気づいた。
神裂が時間を稼いている間に、上条が刀夜から御使堕しの儀式場を聞きだしてそれを破壊する。
それが分かった上条は歯を苦しばって神裂の背中を見て言う。
「頼んだぜ、神裂!
必ず御使堕しの儀式場を破壊するからな!!」
上条は刀夜の腕を掴んで海の家へと走っていく。
神の力の視線が上条達へと移すがそれに割り込むように神裂が滑り込む。
「貴方の相手は私です。」
神裂は腰の太刀「七天七刀」の柄に手を伸ばす。
そんな神裂を黙って見ていた神の力だったが、やがてポツリと人外の声で言った。
「――――――q愚劣rw」
ズバン!!と天使の背中が爆発するとそこから水晶を削って作ったような、鋭く荒削りな翼が何十集まり剣山のように飛び出した。
同時に膨大な海水が天使の背中へと殺到する。
神裂は「七天七刀」の柄を強く握りしめるとその後ろで肩を叩かれる。
土御門かと思った神裂だがそこには麻生が立っていた。
「なぜ、あなたがここに!?
土御門はどうしたのですか!?」
「あいつならどこかに行った。
それよりも火織、お前は後ろに下がっていろ。」
なっ、と神裂は麻生の口から出た言葉を聞いて絶句する。
「あなたは自分が何を言っているのか分かっているのですか!?
あいては神の力ですよ!!
聖人である私ですら全力を出しても時間を稼ぐことしかできない相手です!!
確かにあなたは強い、ですが神の力に勝てるほどの強さではない筈です!!」
神の力の目の前にいるのに、それを気にせず麻生の方に身体を向けて話す。
それを聞いても麻生は神裂よりも前に出て神の力を見る。
「何もあれ相手に勝つつもりはない。
ただ、何個か聞きたい事があるからそれを聞いたら下がるよ。」
そう言って麻生は神の力にどんどん近づいていく。
神裂は神の力が麻生に攻撃するかと思ったが神の力は黙って麻生を見つめている。
麻生と神の力との距離が一〇メートルとなったところで麻生は足を止めた。
「お前に聞きたい事がある。
あの時、俺と戦った時にこの力を使わなかった。」
麻生の問いかけに神の力は先ほどの人外の言葉ではなく人間の言葉で答えた。
「解答一。
あなたが犯人ではない事は最初から分かっていた。
ただ、あなたがどれ程まで力を使えるかを確認したかっただけだ。」
神裂は麻生の問いかけに神の力が普通に答えている事に驚く。
麻生はそれが当然の如く話を続ける。
「その術式を使えば抑止力が黙っていないぞ。
特に「アラヤ」がな。」
抑止力?と神裂が聞いた事のない単語が麻生の口から聞こえた。
「解答二。
抑止力は現在活動していない。」
「なんだと。」
神の力の解答に麻生は驚きというよりも疑問に思っている。
次の神の力の言葉を聞いて麻生の雰囲気が一変する。
「星の守護者。」
ポツリとそう呟いた。
ぴく、と麻生はその言葉に反応する。
「星の守護者であるあなたが現在の星の状態に気付いていないとは。」
神裂は先ほどから聞いた事のない単語が出てきているのでそれを麻生に聞こうとした時だった。
ゾクリ、と背筋に悪寒を感じたのだ。
それは神の力から感じたのではない、目の前の麻生から感じたのだ。
突然、神の力が爆発した。
正確には神の力の周囲に酸素を生成してその中に塵を混ぜて導火線の代わりにして爆発させたのだ。
しかし、神の力は背中から生えている水翼でその爆発を防御していた。
そしてそんな事をできるのはこの中でたった一人だけだ。
麻生の表情はとても冷たく無表情でいてその表情の中に怒りのようなものが混じっていた。
「俺が星の守護者だと?
こんなくそったれた星の守護者だって言ったなお前は。」
神裂は今まで聞いた事のない麻生の声を聞いた。
その声にははっきりと殺意が混じっていた、神裂ほどの武人が震えるほどの。
「火織、質問を聞き終えたら下がるといったがあれはなしだ。
このクソ天使は一回殺さないと気が済まない。」
麻生は殺意の籠った目で神の力を睨みつける。
「お前から色々聞きたい事がまだあったがそんなのはどうでもいい。
俺を星の守護者なんて呼んだんだ、死ぬ覚悟はできているだろうな?」
瞬間、麻生の元に何かが集まっていく。
魔力でもないそれは麻生だけが使える力だ。
星の力。
その莫大なエネルギーが麻生に集まっているのだ。
麻生は星の力を体内で循環させる事で身体能力を聖人レベル以上のものまで引き上げている。
だが、この力は麻生にとって諸刃の剣だ。
この力は人間が扱うには過ぎた力だからだ。
長時間扱うのはもちろん、一つ扱いを間違えば麻生の身体を滅ぼす事になる。
そんな事は麻生が一番分かっていた。
だが、相手は神の力。
普通の戦いでは歯が立たない。
だからこそ、この力を使う事にしたのだ。
左手を開けると青白い光が集まると二メートルもの蒼い両刃の剣が出現する。
柄の装飾など一切ない、文字通り刃だけある巨大な剣。
それを両手で掴み一気に神の力まで接近する。
それに合わせるように水翼を何十本も麻生に向かって振り下ろされる。
飛んでくる水翼を片っ端から切り裂いていく。
今度は水翼同士をぶつけ刃の豪雨を麻生に向かって放たれる。
麻生は剣でさばき切れないと判断すると星の力を集めそれを前方に展開して盾にする。
星の力の盾に触れた刃は次々と粉々に砕け散る。
そして神の力の背後に刀のような形をした剣が一〇本も生成されると、それは神の力に向かって放たれる。
その一本一本が星の力で作られた物だが水翼を圧縮して同じような剣の形を作ると、その飛んでくる刀に向かって放ち相殺する。
だが、神の力の意識が一瞬だけ背後に向いてしまった。
その一瞬を見逃さずに、麻生は手に持っている巨大な剣を神の力に向かって放つ。
「!?」
神の力がギョロリと眼球を飛んでくる剣に向ける。
すぐに何重にも重ねた水翼の盾を作り剣を防ぐ。
何とか剣の防いだ瞬間には、麻生は神の力の目の前まで接近していた。
今までの攻撃は神の力の目の前に接近するための囮だったのだ。
そして水翼の盾が壊されたいま絶対の隙が生まれてしまった。
左手に星の力を溜めて神の力の顔面に向かって突き出す。
拳は神の力の顔面を捉えたかに思えた。
だが、次の瞬間には神の力の身体はバリン!!、と音を立てて砕け散った。
その身体は水翼でできていた。
(これは偽物!!)
麻生が気づいた時にはドスン!、という音と同時に胸に違和感を感じた。
自分の胸を見下ろすと水翼でできた刀のような刀身が麻生の胸の真ん中を貫いていた。
麻生の口から血が溢れだす。
神の力はこの戦いが始まった瞬間には既に偽物を用意していたのだ。
「ち・・く・しょ・・・う・・」
麻生の身体に纏っていた光が徐々に消えていく。
神の力は刀身を引き抜くと重力に従うかのように、麻生は凍った海面へと落ちていく。
神裂はこの一連の戦闘を黙って見ているしかなかった。
手出ししようとしたが、その隙が全く見えなかったのだ。
気づいたら麻生の後ろに神の力がいて胸を貫かれていた。
「麻生恭介!!」
あの高さから氷の海面に激突すれば死は確実だ。
神裂は麻生を抱き留めようとするが距離が遠く間に合わない。
最悪の結果を想像しかけた時だった。
突如、氷の海面が落ちてくる麻生を優しく抱きかかえるように受け止めたのだ。
それを見た神裂は足を止め神の力を見る。
神の力は胸から血を流している麻生を黙って見つめていた。
すると空に流星のような光が飛んでいき、その光は上条の家の辺りに落ちていく。
夜空に展開されていた「一掃」の術式は消えると神の力の身体は粉々に砕け散った。
神裂は上条が御使堕しの儀式場を破壊したのだと思った。
神の力の力が無くなったので、海も元の海水に戻るが麻生を抱きかかえていた氷も、元の水に戻ってしまったので麻生の身体は海の底に沈んでいく。
それに気づいた神裂は海に飛び込み、麻生を海から引き上げると急いで海の家まで運び救急車に連絡するのだった。
「ふむ、経過は順調みたいだね?」
「ああ、あんたのおかげだ。」
「僕は大したことはしてないよ?
それよりも傷口を見て正直驚いたよ?
なんせ臓器や重要な血管を傷つけることなく、まるで空いている隙間を通り抜けるかのように傷が通っていたんだからね?」
カエル顔の医者は心底嬉しそうに言う。
麻生が廃人になった時、一度この先生に見て貰ったのだが「冥土返し」と呼ばれた、この医者ですら麻生を元に戻す事が出来なかった。
ゆえに今回は麻生を助ける事が出来て嬉しいのだろう。
すると、麻生の病室の扉がコンコンとノック音が聞こえる。
麻生は答えなかったがカエル顔の医者がどうぞ、と答えると少ししてから神裂が入ってきた。
カエル顔の医者はもうすぐ退院できるからね?、と言って神裂と入れ替わるように出て行った。
神裂はお見舞いに果物が入ったかごをサイドテーブルに置いて近くのパイプ椅子に座る。
「傷の具合はどうですか?」
「傷に至ってはもうほとんど回復した。
明日には多分退院できるだろうな。」
そうですか、と言って安心したような顔をする神裂。
あの時は出血もひどかったのですごく心配していた神裂だがそんな恥ずかしい事を言えるわけがない。
「土御門の魔術で御使堕しの儀式場は破壊できました。
それとあなたに聞きたい事があります。」
「なんだ?」
「星の守護者とは一体何なのですか?」
星の守護者と聞いて麻生はぴく、と反応する。
「俺もよく分からない。
神の力に聞いたら少しは分かるかと思うが、あの時は完全に頭に血が上っていたからな。」
窓の外の景色を見ながら麻生は答える。
その後、長い沈黙が続く。
麻生は自発的に話す人間ではないし、神裂は神裂で何を話したらいいのか分からず徐々に緊張して、余計に何を話したらいいのか分からなくなっている。
「悪い、一人にしてくれないか?」
ようやく口を開いた麻生から出た言葉がこれだった。
それを聞いて少しだけ哀しそうな表情になった神裂は席を立ち、病室を出て行こうとするが出て行く直前に麻生が呼び止める。
「火織、俺を助けてくれてありがとう。」
神裂は麻生の方に振り向くが、麻生は依然と窓の外をじっと眺めていた。
神裂は小さく笑って言った。
「あなたにはまだ借りがありますから、それではお大事に。」
そうして病室から出て行き麻生は外の景色を見ながら神の力の言葉を思い出す。
(星の守護者であるあなたが現在の星の状態に気付いていないとは。)
神の力は確かにそう言っていた。
(あの神の力は何が言いたかったんだ。)
外の景色を眺めて考えても答えが出る事はなかった。
火野神作は気絶した後、突入してきた警官達に捕縛され今は車に乗せられて刑務所に送られている。
彼は自分の中にエンゼルさまが居ない事が分かり放心状態だった。
武装している警官達も火野の変化に戸惑ってる時だった。
突如、強い衝撃が車を襲ったのだ。
何事かと思った次の瞬間には車の扉が破壊される。
そこから赤いローブを被った人が入ってくる。
警官隊の何名かが銃器を向けようとした瞬間には、警官達の身体が発火して一瞬で骨も残らず灰になってしまった。
火野はそんな状況を目の前にしても放心状態だった。
ローブを被った人は火野に近づき話しかける。
「己の神を見失ったか。」
その声は歳老いた老人のような声をしているがその声には老人のような弱々しさは感じられなかった。
そして火野に手を差し伸べる。
「私と共に来い。
お前を導く天使を私が授けてやろう。」
今まで何を聞かれても反応を示さなかった火野がその言葉を聞いてピクリと反応した。
そして藁にもすがるような目をしていった。
「エンゼルさまに会えるのか?」
「会えるともお前がエンゼルに会いたいというその信仰心が必要不可欠だが。」
その言葉を聞いた火野は今までにない笑みを浮かべその人の手を掴む。
「あなたの・・・あなたのお名前は。」
「私はダゴン秘密教団の教皇、バルズ=ロメルト。
お前を我が神達は歓迎するだろう。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第33話
「何にも!?何にも感じないってどういう事!
私はこれでも一応女の子なのであって少しはそう言った感情も抱いてくれなければ、ショックを受けてしまうというのに!!」
と、そんな今にも泣きそうな声が隣の部屋から大音量で聞こえた。
その声で麻生は目が覚めてしまう。
この声に聞き覚えがある。
上条当麻と一緒に住んでいるインデックスという白い修道服を着ていて、イギリス清教という魔術結社に所属している普通の少女とは少し違った少女だ。
一緒に住んでいると聞くと二人はそういった関係なのかと考えてしまうが、そんな彼氏彼女的な関係は一切ない。
麻生は再び寝直そうとするが隣から未だに騒ぎ声が聞こえて寝る事が出来ない。
麻生は能力を使って上条の部屋の間にある壁を防音の壁に作り変えようかな、と本気で考えるがそれを実行するのもなんだか面倒くさいそうなのでやめる。
時間を見ると深夜の十二時を過ぎた所だ。
これから寝直そうにも隣のバカ騒ぎのせいで完全に目が覚めてしまった麻生は、立ち上がるとさっさと服を着替えていつもの散歩に出かける事にする。
部屋の鍵をかけずに学生寮のエレベータに乗り込み最下層について学生寮を出た時だった。
麻生が立っている所から右の方を見ると、とある人物が麻生に向かって歩いて来ていた。
正確にはその人物の進行進路に麻生がたまたま入ってきたという表現の方が正しい。
その男は麻生と同じ白髪で右手にはコンビニの袋が持っていた。
その人物、一方通行は麻生の姿を確認すると驚いた顔をしている。
まさかこんな所で再開するとは思ってもみなかったのだろう。
「よう、久しぶりだな。
あの操車場で戦った以来だな。」
対する麻生も少し驚いた表情をしていたが意外にも麻生から一方通行に話しかける。
麻生が話しかけてくるの聞いて一方通行は少し不愉快な表情になる。
「オマエ、何で俺に普通に話しかけてンだ?」
「俺がお前に話しかける事がそんなに変か?」
「当たり前だろうがァ。
オマエと俺はあの操車場でお互い戦った仲だ。
少なくとも此処で偶然にも出会った時に馴れ馴れしく話しかける仲じャねェ筈だ。」
「俺はそんな事はあまり気にしていないがな。」
麻生の態度を見て一方通行はいらついてきた。
「そんな事よりよォ、オマエは俺の報復を受けるって事を考えなかったのかァ?」
そう言うと一方通行は若干腰を落として両手を広げる。
麻生と上条が一方通行を倒した事で一方通行が絶対能力になる為の実験、絶対能力進化という実験を凍結させてしまったのだ。
学園都市の「上」は麻生と上条の二人が協力したという結果を出しているが、一方通行から見れば麻生のせいで実験を凍結させられたようなものだ。
一方通行の戦闘準備を見ても麻生は態度を変えなかった。
「ふ~ん、まぁ俺はお前と戦う気は全くないけどな。」
それを聞いた一方通行の動きがピタリと止まる。
そのまま麻生は言葉を続ける。
「俺はあの時にお前を倒したのは別に最強の称号が欲しいとか、何か恨みがあった訳じゃない。
あの実験を中止させる為にはお前を倒すのが一番手っ取り早かったから、倒しただけでお前に何か個人的恨みは全くない。」
「そっちになくてもこっちには、オマエに恨みがあるって場合はどうするンだ?」
「そっちが喧嘩を売ってくるのなら話は別だが、俺はお前をどうこうするつもりもない。」
麻生の言葉を聞いて一方通行は舌打ちをする。
一方通行を見た瞬間に麻生が逃げ出したり、麻生から攻撃してきたのなら自分の中の変化に見切りをつける事が出来たのに麻生の態度のせいでますます変になった気がした。
麻生は一方通行の顔を見ると少しだけ笑った。
「いい顔してんじゃねえか。」
「あン?」
麻生の言葉をうまく聞き取れなかった一方通行だが麻生は何も、と言って一方通行に背を向けて歩きはじめる。
今なら後ろから攻撃することも出来るだろうが一方通行はしなかった。
一方通行は麻生に完敗している。
普通に攻撃しても勝てる相手ではない事は一方通行が一番分かっている。
何より一方通行は麻生を攻撃する気が全く起こらなかった。
ある程度散歩してから学生寮に戻ると騒ぎ声も止んでいたので麻生はベットに寝転がり寝る事にする。
そして、唐突にインターホンが部屋に鳴り響く。
もう少しで寝そうだったので麻生は一気に不機嫌になる。
そのまま寝ようとするが何度もインターホンが鳴り響き寝る事が出来ないので麻生は立ち上がりドアへと向かう。
ドアを開けると目の前には人はなく代わりに下を見ると深々を頭の額を地面につけている人物がいた。
その人物は麻生の隣に住んでいる上条当麻だ。
そして土下座している上条の目の前にはプリントの束が置いてあった。
麻生はこのプリントの束に見覚えがあった。
これは夏休みの宿題だ。
土下座したまま上条は麻生に言った。
「どうかお願いします、恭介様!!
わたくしめの夏休みの宿題を手伝ってください!!」
「嫌だ。」
麻生は即答してドアを閉め珍しく鍵をかける。
あまりの即答に上条は数秒ほど唖然として、すぐに麻生の部屋のドアに駆け寄りドアを叩きながら叫ぶ。
「まじで手伝ってくれ!!
この夏休み、いろんな不幸に巻き込まれて宿題の存在を今思い出したんだよ!!」
「そうなのか、大変だな、頑張れよ。」
ドア越しから麻生の適当な励ましが飛んでくる。
「本当に頼む、お願いします!!
夏休みが終わるまであと二四時間しかないんです!!」
その後も何度も何度も諦めずに麻生に助けを求める。
これでは周りの人にも迷惑が掛かるので麻生は大きくため息を吐くとドアの鍵を開けてドアを開ける。
「全部は手伝わない。
どれか一つだけ俺がやっといてやるから後は自分で何とかしろよ。」
上条の手から適当にプリントの束を取り上げて麻生は今度こそドアを閉める。
そしてベットに寝転がろうとした時ドア越しから上条の大声が聞こえた。
「ありがとうございます、麻生恭介様!!!」
それを聞いた途端に一気にやる気が無くなった麻生。
さらにさっきのやりとりのせいで眠気が素っ飛んでしまった。
御坂美琴は非常に困っていた。
午前七時三〇分に起床して朝ごはんを食べて今日が月曜日である事を思い出し、コンビニに行き漫画を立ち読みするまでは良かった。
学生寮を出て正面にあるコンビニに行こうとした時、横から男に話しかけられた。
「あっ、何だ御坂さんじゃないですか、おはようございます。
これからどちらへ?自分もよろしければ途中までご一緒しても構いませんか?」
美琴は何かものすごく苦手な物を前にした顔を必死に押し殺しつつ声の飛んできた方に振り向く。
そこには美琴より一つ上の背の高い男が立っていた。
線は細いがスポーツマンのような体型で、サラサラした髪に日本人離れした白い肌、テニスのラケットを握ってもノートパソコンのキーボードを叩いていてもサマになる反則的な容姿の持ち主。
海原光貴。
彼は常盤台中学の理事長の孫であり美琴が苦手とする人間の一人だった。
なぜ美琴が海原を苦手としているのにはちゃんと理由がある。
「あれ、どうかしたんですか?
気分でも優れませんか?」
「あ、いや、何でもないわ。」
彼は常盤台の理事長の孫という権力を使って女子校である常盤台の寮内や校内に入ってくることはない。
逆言うとそれ以外の場所では遠慮がない。
さっきも言ったように海原は理事長の孫なので、自分にもかなりの権力を持っているのだがそれを決して振おうとはしない。
美琴の高さに目線を合わせてから、対等な立場で話しかけてくる。
美琴からすればそれは「大人」として接してくるのと一緒なので、どこぞの高校生二人みたいにビリビリで対処するのは、自分がひどく子供のように見えてしまうのだ。
そしてなぜ美琴が海原を苦手意識を持っているのかと言うと、四六時中気を遣わなければならないからだ。
友達と接しているというより部活の先輩を相手にしているような気分になる。
(おっかしいわね、一週間ぐらい前ならこんなに付きまとわれることもなかったのに。
近頃は毎日毎日・・・夏が男を変えたのか?)
それまでは街で会えば話しかけてくる程度だったのだが、ここまでスケジュールに干渉はしてこなかった。
美琴が考えていると海原は美琴にこれからどこに行くのかを訪ねる。
美琴はこれからコンビニに立ち読みに行く所だったのだがそれを正直に言えるわけがない。
何も予定がないと思ったのかさっき朝食を食べたばかりなのに魚料理の美味しい店があるので行きませんか?と誘う。
美琴は朝食の直後に食事に誘うんかいコイツは、と心でツッコむが口で言えるわけがなく顔にも出さないようにする。
(うう、どうしようどうしよう。
そうだ、他の男と待ち合わせしている事にしよう。
それならご一緒する事は出来ない。
ベタな手段だけど「ごめ~ん待った~?」とかなんとかアドリブで演技してみるべし!!
巻き込んだヤツには迷惑かけそうだけどジュースの一本ぐらい奢ってやるわよ!)
美琴は「恋人役」となるべき男性を探すべく視線を左右に走らせる。
だが、今日は夏休み最終日。
今日一日は「家に引きこもって残った宿題と格闘する日」なので見渡す限り誰もいない。
うわもーこれ絶望的だわ、と美琴が心の中で頭を抱えた瞬間、通りの一角から一人の少年が現れた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第34話
あの後、二時間くらい経ってようやく寝る事が出来た麻生だが携帯電話が鳴り響き再び目を覚ます。
時計を見ると午前七時三〇分。
あれから三時間くらいしか寝ていないので凄く睡眠不足な麻生だが依然鳴り響いている携帯電話を手に取る。
「きょうす~け、おはようじゃん。」
声の主は黄泉川愛穂だった。
麻生は欠伸をしながら話をする。
「何だ、愛穂か。」
「むっ、何だとは失礼じゃん。
てか、恭介あんたもしかして眠いじゃん?」
「よく分かったな。
昨日色々あって、そんなに寝ていないんだ。」
寝不足なのだと麻生は愛穂に伝えるとふ~ん、と何か考えているのか少しだけ沈黙が続くとよし、と言う声が聞こえた。
「恭介、今日の昼頃空いている?」
「空いているといえば空いているな。」
「それならお昼ご飯をどこかで一緒に食べないかじゃん?」
「さっき、俺は寝不足だと言った筈だ。
この最悪なコンディションで炎天下の中を連れまわすのか?」
「若い者が寝不足くらいで倒れないじゃん。
じゃあ十二時にウチの家の近くのファミレス店に集合じゃん。」
そう言って一方的に伝え麻生の有無も聞かずに通話を切る。
麻生は数秒間は手に持っている携帯電話を見つめ、ため息を吐いて立ち上がり洗面所に行き顔を洗う。
あのまま昼まで寝ようかと一瞬考えたが、おそらく寝てしまうと確実に夕方まで寝てしまうので諦める。
いつもの服を着て出かけようとするが視界の端で上条から奪ったプリントの束が映る。
麻生は少し考えた後それも持っていくことにする。
どうせ愛穂と一緒にいたら確実に夜まで付き合わされるので、帰ってきてこのプリントを見てもやる気が全く湧いてこない筈だと考えた。
それなら昼間の内に終わらした方が良い筈だと思い、持っていくことにした。
学生寮を出てファミレス店に向かって歩く麻生だが、このまま一直線に向かっても早く着いてしまうので回り道をして散歩をしながら向かう事にする。
その選択が後に面倒な出来事に巻き込まれるとはこの時、麻生は思ってもみなかった。
ふらふら、と歩いていると声が聞こえた。
「ごめ~ん、待った~?」
そんな声が聞こえたが麻生が待ち合わせしている愛穂は、こんな声を出す女性ではない事は麻生が一番分かっている。
ので自分以外の人にでも声をかけているのだろうと適当に考え、ファミレスという目的地を目指しながら適当に散歩を再開しようと考えた麻生だが。
「待ったー?って言ってんでしょうが無視すんなやこらーっ!!」
麻生の背後から腰の辺りに女の子が思いっきりタックルしてきた。
しかし、麻生は本気の状態でないとはいえ聖人と戦える程の身体能力を身体に刻み込んでいる。
前のめり倒れそうになるが何とかステップを踏んで前にかかる体重を軽減して直前の所で踏ん張る。
麻生は俺にタックルしてきたのは誰だ!?、と腰にまとわりつく人物を確認する。
その人物は結構本気でタックルしたのに麻生が転がらない事に驚いているようだ。
その人物とは御坂美琴である。
「お前、何をしているんだ?」
表情は穏やかだが明らかに怒っていますよ雰囲気を醸し出す麻生。
だが、美琴はその雰囲気に気づいていないのか小声で麻生に話しかける。
(お願いお願い話を合わせて!!)
「は?」
訳が分からないといった顔をする麻生だが、美琴はどこか遠くを睨みながら小さく拳を握った。
麻生も美琴の見ている視線を追うと少し離れた歩道に、さわやか系の男が突っ立っていた。
美琴はさわやか系の男を一瞬だけ見ると引きつったような笑顔を浮かべて言った。
「あっはっは!
ごめーん遅れちゃってーっ!
待った待った?
お詫びになんか奢ってあげるからそれで許してね?」
「は?」
響く大声、絶句する麻生、遠くで気まずそうに視線を逸らすさわやか系の男。
そして唐突にバン!、と常盤台中学の女子寮にあるたくさんの窓が一斉に開け放たれる。
その光景を見た美琴の引きつった笑顔が凍りつく。
窓際に寄っている女子生徒達がひそひそひそひそ、と何か小声で話し合い、その中にはツインテールの少女、白井黒子が何やらものすごい顔をして口をパクパクと動かしている。
そして窓の一つに最高責任者らしき大人の女性が顔を出して何かを言う。
小声なのと距離が遠いので聞き取れなかったが美琴と麻生の脳内には確かに壮絶な言葉が叩き込まれた。
「面白い、寮の眼前で逢引とは良い度胸だ御坂。」
麻生はまた面倒な出来事に巻き込まれた、と心で呟き美琴はさらに顔の筋肉が引きつる。
「あはははははーっ!うわーん!!」
そしてヤケクソ気味に笑いながら麻生の手を掴んでそのままものすごい速度で走りだした。
麻生は訳が分からない状態で引きずられていった。
その後、一時間くらい街を走り回った。
「おい、俺はいつまで走り続けないといけないんだ?」
「うるさい、黙って!
ちょっと黙って!
お願いだから少し気持ちの整理をさせて!」
美琴はさっきから頭をブンブンと横に振り続けている。
麻生は周りを見渡すと、どこかの路地裏にでも入った辺りだろうと考える。
四方を背の高いビルに囲まれ、一つだけ背の低い寮のようなものがある。
美琴は深呼吸をするとようやく落ち着いたらしい。
「ふー、ごめん、ちょっと取り乱したみたい。
色々説明するからどっか座れる場所に行きましょう。」
「ちょっと待て、説明という事はまだめんどくさい出来事は続くのか?」
「もうすぐ一〇時だからお店も動きは始める時間よね。
ご飯は食べたばっかだし、軽くホットドックの屋台とかでいいかしら。」
「おい、俺の質問を普通に無視するな。
それと人を巻き込んで安いホットドックで済まされると思うなよ。」
「じゃ、それにしよっか。」
「は?」
「だから世界で一番高いホットドックにしよう、それなら文句ないでしょ?」
「俺が言いたいのはそんな事じゃな・・・人の話を最後まで聞け。」
麻生の意見を無視してずるずるずると美琴に引っ張られて路地を歩いていく。
一個二〇〇〇円。
その値段を見た麻生は店員ではなくどんな食材を使っているのか気になるのか、キャンピングカーを改造したような現代風の屋台の中を覗き込む。
だが、パンの具材や大きさが特別巨大という訳でもなく、何か奇妙な食材が放り込まれている事もない。
麻生は店員がホットドックを作っている作業を見てなぜか肩を震わせている。
「うん、あんたどうしたの?」
麻生の異変に気付いたのか美琴が尋ねる。
「俺は他人の料理ならどんなに手際が悪くても味が不味くても、その手順や作り方に口を出すつもりはないがこれは酷すぎる。
良い食材を使っているのにもったいない。」
そう言うと麻生はキャンピングカーの裏手に回り込み裏口から中に入り込む。
店員は麻生が入ってきたことに驚いているがそんな事を気にせずに麻生は店員に言う。
「一度しか見せないからよく見ておけ。」
そこから麻生の調理が始まる。
一つ一つの食材に丁寧に味付けをしていき、かつその速度は素早い。
美琴はホットドックに何を真剣にしているのか、とツッコミかけたが麻生の表情があまりにも真剣なので言えずにいる。
一〇分くらいした後、美琴と自分と店員の三人が試食できる数のホットドックが完成する。
美琴と店員はそのホットドックを一口食べると信じられないような表情をする。
「うそ・・・ホットドックってこんなにおいしい食べ物なの。」
「ホットドックだけじゃない。
全ての料理にはちゃんと丁寧に味付けや下ごしらえをすればおいしくなる。」
店員はさっき麻生がホットドックの手順を必死に思い出しメモに書いている。
麻生も自分で作ったホットドックを食べてまぁまぁだな、と呟く。
美琴はお金を払おうとしたが店員は四〇〇〇以上のモノを見せて貰ったからお金はいらないと言った。
美琴は何か申し訳なさそうな顔をしたが麻生は気にせず事情を聞くために近くにあるベンチに座る。
「ふ~ん、つまり海原って奴から離れればそれでよかったんだろ?
なら、その目標は達成できたんじゃないのか?」
大体の事情を聞いた麻生はそう美琴に質問する。
美琴は麻生の言葉を聞いてホットドックのマスタードが鼻につかないように格闘しながら考える。
「けどその離れるってのは「とりあえず」なのよね。
次に会ったらまた付きまとわれるのは確実だし、せっかくの機会だから二度と付きまとわられないようにしたいんだけど。
そうすると今日一日アンタと一緒に行動して、それをできるだけ多くの人に見て貰う。
そうすれば海原にも強い印象を与える事が出来て距離も離れていって・・・・ってどうしたの?露骨に嫌そうな顔して。」
「今の言葉を聞いて嫌な顔をしない奴がいたら教えてほしいね。
それに俺は昼ごろに知り合いと待ち合わせしているから一日中付き合ってやる事は出来ないぞ。」
ええ~、と残念な顔をする。
美琴からすればここで麻生が居なくなればこの計画が崩れてしまう。
そうなるとこれからどうすればいいのか?
手に持っているホットドックをテーブルの上において真剣に考える。
対する麻生もホットドックをテーブルの上において上条の宿題である古典のプリントを取り出す。
美琴はホットドックを食べようとして手を伸ばすが、テーブルの上にホットドックが二個置いてあることに気づいて手が止まる。
「アンタ、どっち食べてたか覚えてる?」
古典のプリントをパラパラと流し読みしていた麻生に聞く。
麻生は視線だけをテーブルの上に向けて適当に答えた。
「さぁな、こっちなんじゃないのか?」
と言って手前にあるホットドックに手を伸ばすが美琴がその手を掴む。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、確かめさせて。」
ええ~、とめんどくさそうな顔をする麻生だがそんなの無視して二つのホットドックを見比べる。
どうやら食べかけの部分を凝視しているようだが、そんなインデックスのような完全記憶能力みたいな能力がなければ分かる訳がない。
麻生も能力を使えば見分けがつくがそんなしょうもない事に能力を使う訳がない。
「分かったか?」
「・・・・・・・」
「分かっ・・・」
「ああもう!分かんないわよ!
じゃあいい、アンタの言うとおりこっちの右の方がアンタで左は私でいい!
まったく、ちょっとは気にしなさいよこの馬鹿!」
何で馬鹿呼ばわりをされないといけないんだ?、と思いながらホットドックを食べる。
美琴は両手でホットドックを掴み口がピッタリと閉じて黙っていて動きも凍りついてた。
そしてしばらく眺めてからやがて小動物のように口へ含んだ。
「それで恋人役は昼ごろまで付き合ってやるとして一体どんなことをするんだ?」
「え?どんなことって・・・・」
どうしよう?といった顔をする美琴。
その顔を見て何も考えていなかったのか、と呆れた表情を浮かべてため息をつく麻生だった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第35話
結局、麻生と美琴はベンチに座って世間話をすることになった。
「結局「実験」の後に学園都市に残った妹達って一〇人もいないのよね。
ほとんどは学園都市の「外」の機関に頼ってるみたい。」
「ふ~ん・・・・」
適当に返事をしながらプリントの束を、一枚一枚めくっては問題を見て小さくため息を吐く。
「学園都市にも協力する機関が「外」に存在していているみたいね。
まぁ、こんなでかい土地を学園都市単体で存続することも出来ないから、当たり前ちゃ当たり前よね。」
「ふ~ん・・・・」
問題を一通り見終わったのか先頭にあるプリントの問題を見て答えを書いていく。
だが、すぐに手を止めて呑気に欠伸をする。
ちなみにこの間、一度も美琴の顔を見て話をしていない。
それに気づいた美琴は適当に話しかけてみる。
「今日はいい天気ね。」
「ふ~ん・・・・」
「あんな所にツチノコが!?」
「ふ~ん・・・・」
「そういえば黒子があんたのこと好きだってさ。」
「ふ~ん・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
全く会話になっていない事に気づいた美琴はプルプル、と肩を震わせてバンバン!!、とテーブルを強く叩く。
その音を聞いてようやく麻生は美琴の顔をちらりと視線を移す。
「アンタは主旨を理解している!?
この会話を聞いてどこが恋人同士の会話に聞こえるっていうのよ!!
てか、女を無視して勉強に没頭するなんて中世のヨーロッパの男尊女卑じゃない!!」
「一応、返事はしているつもりだが。」
「ふ~ん、のどこが返事なのよ!!」
「ああ~、ぎゃあぎゃあ騒がないでくれ。
こっちは寝不足だから余計にうるさく聞こえるんだ。
それとこれは夏休みの宿題だが俺のじゃない。」
「じゃあ誰のなのよ?」
「隣の部屋に住んでいる同じ学校の生徒が土下座してくるから一つだけやっているんだよ。」
「うわ~、土下座してまで頼むとか・・・・」
美琴は少しだけ引き気味だが、その隣の人物があの上条当麻だと分かればどういった反応するのだろうか。
美琴は麻生が手に持っている宿題に興味を持ったようだ。
「それで見た限りその問題の答えが分からないように見えるんだけど?」
「いや、こんな問題はすぐに解けるんだがいかせんこれは俺の宿題じゃないからいまいちやる気が湧かない。」
美琴はそれを聞いてプリントの束を覗き込む。
頬と頬がぶつかりそうになるが麻生はそんなことで狼狽える男ではなく、美琴の方も宿題に夢中なのかそこまで接近している事に気づいてない。
ふむふむ、と呟いて麻生の持っているシャーペンを引ったくるとほとんどしなだれかかるような体勢で、サラサラとプリントに答えを書き始める。
髪からトリートメントの淡く甘い匂いがしたが麻生はその程度ではドキドキ、と胸が高鳴る訳がなく逆に美琴が寄りかかっているのを少し邪魔感じに思っている。
「これ本当にただの復習でしかないのね。」
「気がすんだら少し離れてくれないか?」
「へ?」
ようやく自分の体勢に気づいたのか顔を真っ赤にしてすぐに麻生から離れていく。
「ちょ、な、ななななんでそんなに・・・・」
「言っておくが俺からではなく自分から近づいてきたんだぞ。」
その言葉を聞いてますます顔を真っ赤にする。
すると勢いよく立ち上がる。
「ちょっと飲み物を買ってくる!!!」
そう言ってダッシュでその場から離されていく。
麻生は頭をかきながら何一人で慌てているんだ?、と思いながら再びプリントの束に視線を落とす。
と、そんな麻生の目の前を小型犬が走り抜ける。
麻生はチラっとだけ犬を見て飼い主の手から逃げたのだろうと考えて再びプリントに視線を落とす。
プリントの問題を見ている麻生の前を誰かが走り抜ける。
麻生はどうせ飼い主だろ、と考えてゆっくりであるが問題を解いていく。
すると、その後に別の足音が聞こえて誰かが二言三言と話し声が聞こえるが、麻生はそんな事に興味はないので無視する。
と、足音がゆっくりであるがどんどん麻生の方に近づいてくる。
「初めまして、あなたは御坂さんとご一緒していた人ですよね?」
うん?、と麻生は声の方に視線を向ける。
そこには先ほど常盤台中学の前で見かけた男の顔、海原光貴がさわやかな笑顔を浮かべて立っていた。
「あなたの事は何と呼べばいいのですか?」
「麻生恭介。」
「自分は海原光貴と申します。
あなたに聞きたい事があるのですが、あなたは御坂さんのお友達なんですか?」
「さぁな、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「自分の好きな人の側にいる男性となれば当然だと思いますが。」
ふ~ん、と美琴との適当な返事ではなく少し興味が湧いてきたの意味がこもった返事だった。
さてどうする?、と麻生は考える。
(今は美琴の恋人役を演じているつもりだが、それをどうするかはこいつと話をしてから決めるか。)
「だからね、御坂さんはもっと人に対して「好き」と「嫌い」をはっきり言うべきだと思うんですよ。
あ、そこの問題の答えは③です。」
「俺が思うにあいつは素直な性格だと思うぞ。」
「その「素直」にした所で、照れや演技が入っていると自分は思いますけどね。
そこの問題の答えは④です。」
「いや、あいつはそんな器用な事は出来ない女だよ。」
「御坂さんの事をよく分かっているのですね。
そこは①です。」
「単によく会うだけだ。
俺があいつの事を知っている事と言えばそれくらいの事だけだ。」
「ですが、はっきりしないという所はやっぱり駄目ですね。
そういうところをはっきりしないから自分みたいな人間がいつまでもずるずると追いかける羽目になります。
こちらが本気でアタックしているのですから、あちらも本気で答えてほしいものですね。」
「恐くないのか?
あいつの口から「否」という答えを聞くのが。」
「恐いに決まっているじゃありませんか。
彼女の口から直接「否」と告げられたらこの心がどうなってしまうか、それは自分でも分からないぐらいですから。
けどね、やっぱり無理ですよ。
彼女が泣くと分かっていて、それでもなお彼女を奪おうと考えるだなんて。
彼女が幸せにならなければきっと何の意味もないんですから。」
海原の言葉を聞いて麻生は小さくため息を吐いた。
海原は美琴が言うほどの人ではなかった、これなら美琴がはっきりと「否」という答えを出しても海原は苦しい思いをするかもしれないがちゃんと受け入れるだろう。
麻生がそう考えていると横合いから足音が聞こえた。
麻生がそちらを見るとジュースのペットボトルを二つ抱えた美琴が立っていた。
何か驚いたような顔でこちらを見ている。
そしてズガズガ、とベンチに近づいてきて、顎を動かして「立て」とジャスチャ―で示した。
「ちょっとこっち来なさい、アンタ。」
麻生の返事を聞かずに麻生の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
美琴は海原の顔を見て、言う。
「ごめんなさい。
私、今日はこの人と外せない用事があるの。」
「あ、そうですか。」
「ええ、ごめんなさい。
それじゃあ。」
美琴は笑みを浮かべてそう言ったが、彼女の事を多少知っている麻生からすれば不自然で他人行儀な仕草だった。
海原もそれに気づいているのか食い下がろうとする気配はない。
麻生は美琴に引っ張られながらも海原をチラリと見る。
海原は「行ってあげてください」と笑って言った。
しばらく無言で歩いて裏路地のような所まで着くと、美琴はようやく立ちどまった。
彼女は勢い良く振り返ると、心底呆れたように言った。
「アンタねぇ!
私がアンタに演技なんか頼んだと思ってんのよ。
アンタが海原と仲良くなっちゃ何の意味もないでしょうが!
いい?アンタは今、私の・・・こ、「恋人役」なの。
それは付きまとってくる海原光貴を諦めさせるためのものなの!
それを「やめだ。」・・・え?」
「やめだ、と言ったんだ。
もうすぐ十二時になる。
これ以上付き合っていたら俺の知り合いの待ち合わせ時間に遅れてしまう。
それに・・・・」
麻生はしっかりと美琴の顔を見て言う。
「アイツはお前の思ってる奴じゃない。
自分が傷つくのを分かっていてお前を好きだと言っている。
そんな奴のどこをお前は毛嫌いしているんだ?」
「・・・・・・」
美琴はものすごく何か言いたそうな顔で麻生の事を睨んでいた。
「アンタは・・・・そうよね、何でもないわ。」
何でもないように笑っていたがその顔は寂しそうな顔をしていた。
美琴は少しだけ自分が特別な存在だと思っていた。
その少年との距離も周りに比べて少しだけ縮まっているような、そんな風に思っていた。
けど、違った。
例え少年は千人の名簿がありそれを流し読みした時に「御坂」という名前を見つけても、それを気にも止めずに流すだろう。
たったそれだけの事なのに美琴の心は大きく揺らぐ。
この場から逃げ出したいのにこの少年の元からは背を向けて立ち去りたくない、そう思ってしまっていた。
そう思う原因も分からないまま。
麻生と美琴は裏路地から表通りへ歩きながら今後の事について話し合う事にした。
今後というのは海原についてだ。
「アンタはどうしたら良いと思う?」
「もう「恋人役」をすることも出来ないから素直に断ったらいいんじゃないのか?
あいつは断っても逆切れする奴じゃあなさそうだし。」
「それはそうなんだけど、最近人が変わったみたいに積極的になってきたから怖い部分もあんのよね。」
麻生は何かあればいつも俺に電撃をぶつけるみたいにすればいい話だろ、と思ったがそれを口にすると確実に話が脱線するのでやめておく。
「それにしてアンタ、やけにアイツの方持つわね。
なんかあったの?」
「俺が面倒くさいと思っていた宿題をやってもらってな。
それの借りを返すなんて言葉は大げさだがまぁ援護くらいはしてやろうかなと。」
麻生はそう言ったが、美琴は古文のプリントの束を麻生から借りて海原に教えて貰った答えを見ていると、徐々に不審そうな顔になっていく。
「確かに合っているけどおかしいわね。
アイツ、頭はそれほど良くないと思ってたのよ。」
「どうしてだ?」
「アイツの成績は主席クラスなんだけどそれは全部あいつの能力のおかげなのよ。
大能力の念動力。
この能力を使っていわばカンニングのような事をして点数を取っていたみたい。
だからアイツの成績に頭の良さは関係ないって訳。」
「自分の能力がどこまで上がっているのか確かめる為にカンニングをしただけで、実際は頭がいいとかそういったモンじゃないのか?」
麻生はそう言ったが美琴はまだ何か納得していないようだった。
ぶらぶらと歩いているともうすぐ十二時なる時間だった。
さすがに急がないと愛穂に怒られてしまう麻生はそろそろ向かおうと思った時だった。
「んじゃ、恋人ごっこは終わりにしますか。
お駄賃として最後に何か奢ってあげるわよ。」
「いや、それはもういいから俺はこれで・・・・」
「どうせアンタの事だから何でもいい、って言うだろうし注文は適当に決めてくるわよ。」
「おい、俺の話を・・・・行っちまいやがった。」
麻生は視線だけ美琴が走っていった所を追うと大勢で溢れているファーストフード店に入っていた。
麻生はファーストフードのような栄養バランスが悪い食べ物は好きではないのだが、それを伝えようとしたがあの大勢で溢れている所を行く気にはならない。
麻生はこのまま放って行こうかと思ったが、そうすると今度会った時に色々面倒な事になりそうなので離れる事が出来ない。
愛穂に連絡しようとした時、後ろから声をかけられる。
「あれ、こちらに来ていたんですか。
お一人ですか?用というのは、もうお済みですか?」
「ああ、美琴と話をしたかったのなら一足遅かったな。
アイツはあそこの店で格闘中だ。
話をするなら今が一番いいと思うぞ。」
「大丈夫でしょうか?先ほど随分怒っていたようでしたけど。」
そこで二人の間に沈黙が流れる。
麻生はさっき美琴が言っていた言葉を思い出す。
(勉強が出来ないね・・・・)
自分がさっき海原は実は頭がいいのでは?、と言ったが今思い返してみるとそれはあまりにも不自然だった。
どうしてわざわざテスト中に能力を使うのか、ばれればいくら理事長の孫とはいえ色々面倒事が起こる筈だ。
普通に頭が良ければテストを普通にこなして能力を確かめるのは別の機械でも問題はない筈だ。
それなのに危険を冒してまでテスト中に能力を使ったのか。
麻生は海原にどうやって聞こうと考えた時、ふと美琴が入っていったファーストフード店を見る。
その大勢の中にもう一人の海原光貴がいた。
顔立ちも背格好も服装まで何もかも「海原」と同じだった。
麻生は眼を千里眼に変えてもう一人の海原を注意深く観察してふっと小さく笑った。
その麻生の笑みに気づいた海原は聞いてくる。
「何を見て笑っているのですか?」
さわやかな笑顔を浮かべて聞いてくる。
麻生は依然とファーストフードに視線を向けて海原の質問に答える。
「いやな、俺が見ているファーストフード店にお前に凄く似ている人を見かけてな。」
「は、はぁ、そうなんですか。
きっと他人の空似では?」
海原は店と麻生の顔を交互に眺めている。
「お前は信じるかどうかは知らないが俺の能力を使えば自分の眼を千里眼のような眼に変える事が出来る。
その眼でそのもう一人の「海原」を観察したら服装も背格好も顔立ちも全く同じだったんだ。
いくら他人の空似といえど服装も背格好も顔立ちも全く同じなんておかしいと思わないか?」
「肉体変化という能力者もいます。
もしかしたらその能力者が自分に変装しているのかもしれません。」
ややイライラしたように言う海原。
逆に麻生はその声を聞いて少し楽しそうに聞く。
「そうだな、でももしかしたらお前が偽物だっていう可能性もある。
美琴から聞いてなお前の能力は念動力だって聞いてな。
それを今から見せてくれないか?」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第36話
麻生の問いかけに海原は何も答えない。
次の瞬間にはパン!!、という音が聞こえた。
海原の拳を麻生が掌で受け止めた音だ。
麻生は後ろを向いたまま海原の拳を受け止めたので、海原は驚いた表情を浮かべている。
麻生は聖人と多少なりとも戦えるほどの身体能力を持っている。
美琴にタックルしたとき避けれなかったのは完璧不意打ちだっただけで、今度は何かしらのアクションを起こすと準備していたので受け止める事が出来たのだ。
麻生は視線を後ろに向けると、海原は空いている手を後ろに回す所を見えたので麻生は海原と距離を開ける。
「海原光貴」の手には黒い石でできた刃物が持たれていた。
それはあまりにも武器らしくないので周りの人々は騒がない。
「全くあなたは一番警戒しなければならない人物だと聞いていましたが、ここまで頭が良いとは予想外でした。
しかし、本物が逃げ出すとは予想外でした。
やはり監禁ではなく徹底して殺すべきでしたか。
ちなみに自分の能力は肉体変化という科学の能力ではありません。
それ以外の方法でも似たような事は出来るんです。」
「海原光貴」は黒い石の刃物を切りかからずに天にかざす。
麻生はその一連の動作を見て背筋がゾク!!、と感じ横に大きく飛び出す。
麻生のいた所に見えない何かが通過する。
刃物の刃から見えないレーザーのようなものが、麻生の背後にある違法駐車の自動車に直撃するとゴンギン!!、という轟音と共に車のあらゆる部品が分解される。
まるで、完成したプラモデルを組み立て前のパーツに戻すような。
「お前、魔術師か。」
「ええ、その通りですよ。」
すると、海原は再び刃物を天にかざそうとする。
麻生は場所が悪いと考えてすぐさま近くの路地裏に入る。
あのまま戦えば周りの人々に危険が及び最悪あの見えない何かを受ければ死人が出る可能性がある。
さすがにそれは目覚めが悪いので麻生は路地裏に逃げる事にする。
誰もいないところまで逃げて勝負をつける為に。
後ろを確認しなくても足音が聞こえるので追跡されている事はすぐにわかった。
というより、ついて来てもらわないと麻生も困っていたところだった。
もし「海原」が周りの人を人質に取られたらそれこそ厄介な事この上ないからだ。
さて、と麻生は逃げながら考える。
「海原」は見えない攻撃を仕掛けてくるが精度が悪いのか麻生ではなく周りの物に当たっている。
そのおかげで麻生も逃げながら考える事が出来る。
(まずは相手の特徴を思い出せ。
変装、黒い刃物、見えない攻撃、分解・・・・)
麻生はインデックスのように一〇万三〇〇〇冊を記憶している訳でないので、すぐに相手の魔術を逆算する事は出来ない。
だが、麻生の頭にはあらゆる事柄や法則や起源などを記憶している。
インデックスのように一瞬で逆算することも出来ないし、実際にその魔術の特徴を目で見ないと判断する事は出来ない。
逆に目で見る事が出来れば時間はかかれど逆算する事は可能である。
これは麻生が星と繋がった時に全てを教えられた。
もちろん望んだわけではなく無理矢理に教えられた。
なぜ麻生の頭が莫大な情報量を与えられてもパンクしないのは、星が麻生の情報処理速度をバックアップしているからだ。
当然、全てを記憶しているのも星の力によるものだ。
星を嫌っているのに星の力に頼らなければ戦えないというのもなんと皮肉な事だろうか。
(あの黒い刃物は黒曜石だとすれば全て合点がいく。
槍の名前はトラウィスカルパンテクトリの槍。
あれは金星の光を反射する事でその光を浴びたモノは全て殺すと言われた槍だがあれはそのレプリカ。
海原に変装していたのは本物の海原から皮膚を剥いで変装していたのだろう。)
自身の中で次々と答えを箇条書きのように出していく。
相手の魔術が分かった麻生はそこで疑問に思った。
相手が魔術師ならどうして美琴を狙ったのだ?
もし上条を狙っているのならその側にいるインデックスを狙うのが、目的だと考えるがあの魔術師は上条ではなく美琴を狙っていた。
それはなぜか?
(今はそれを考えていも答えは出ないな。
直接聞いてみる事にするか。)
麻生は裏路地の角を勢いよく曲がるとその先はビルの工事中で通行止めになっていた。
麻生はそれを気にせず工事現場へと走っていく。
ある程度進んでから足を止めて振り返る。
曲がり角から「海原光貴」が飛び出し黒曜石の刃物を振り上げる。
だが、それよりも早くに麻生は左足のつま先で軽く地面を蹴る。
すると砂埃が一気に舞い上がる。
天上が全てが砂埃で塗り潰されるが「海原」は構わず「槍」を振うが発動しない。
なぜなら「金星」と黒曜石の側面部分である金星の光を反射するための「鏡」を繋ぐ空間そのものが砂埃で遮られたからだ。
麻生は一気に海原に近づき胸ぐらを掴んで背負い投げをして「海原」を地面に叩きつける。
麻生はこれで終わりかと思ったが意外にも「海原」は打たれ強かったのか、それとも麻生の投げが甘かったのかどちらにしても海原はすぐに立ち上がり距離を開ける。
その瞬間、ビュウ、と突風が裏路地を吹き抜けて周囲を覆い尽くしてた砂埃のカーテンがまとめて取り払われる。
麻生と「海原」の距離は数メートルくらいだがそれくらいあれば「海原」は麻生よりも早く「槍」を発動する事が出来る。
「ハッ、覚悟してください!!」
「海原」は槍を発動しようとしたが何も変化はない。
な、と「海原」は思わず声を出すがそこで気づいた。
黒曜石のナイフの表面に砂埃がびっしりとこびりついていた。
「鏡」が曇ってしまっては「金星」の光を反射する事が出来ない。
そして気づいた時には「海原」の目の前まで麻生が接近していた。
麻生は左手を握りしめてそこ拳が「海原」の顔面に突き刺さり、殴り飛ばされた海原の手から黒曜石がすっぽ抜けた。
麻生の拳の衝撃で殴られた「海原」の顔の表面が粉々に砕け散った。
その魔術師の顔は海原よりも幼く見え、肌も浅黒くかった。
「さて、どうして「海原光貴」に変装したのか教えて貰おうか。」
「どうやらあなたはまだ自分がどれほど危険な存在か分かっていないようですね。」
「なに?」
「あなたはあの上条当麻という私達、魔術師にとってはまさにジョーカーのような存在を仲間にしている。
それにその近くにいる「禁書目録」、イギリス清教の魔術師、常盤台の超能力者、吸血鬼に対する切り札など多種多様な人材を仲間に引き入れているらしいじゃないですか。」
魔術師の答えに麻生は何も答えない。
魔術師は自嘲するように答える。
「あなたの周りでは魔術世界の科学世界の両方に精通している人物が揃っています。
それはもはや一つの勢力と考えてもいい。
だから自分が送り込まれた。
あなたの勢力を観察してパワーバランスに影響のない存在だと分かれば問題ナシと報告するだけで済む話でした。
しかし、あなたはこの夏休みだけでいくつかの「組織」を壊滅したという情報を聞きました。
なにより自分が危険だと思ったのはその勢力ではなくあなた自身だ!!
あなた自身は金や圧力で操作・制御・交渉できるような類ではない。
さらに自分の魔術を看破しそれに対する迅速な対処、自分を偽物だと見破った知力、何よりあなたの強大な能力。
これだけ強大な力をもった人物を「上」の連中が危険視しないと思いますか!?
できうる限りあなたは最後に回したかったのですが、致し方ありません。
今度はあなたの「顔」をいただくとしましょうか、ね!!」
魔術師は地面に落ちていた黒曜石の刃物に飛びつく。
麻生ならそれを防ぐ事は出来たがあえてしなかった。
「鏡面」についた汚れを拭うと路地に倒れ込んだまま身体をひねるように「槍」を振う。
しかし、無理な体勢で放たれた「槍」は見当違いの方向へ飛んでしまう。
魔術師は舌打ちをして立ち上がり黒曜石のナイフを構え直そうとするが、麻生が一瞬で魔術師との距離を縮める。
「なっ!?」
海原はさっきほどとは段違いの速さで接近されたことに驚いている。
麻生は左手で黒曜石を殴り、粉々に砕き、右手で魔術師の顔面を掴みそのまま地面に叩きつける。
強い衝撃が魔術師の全身に走るがそれでも魔術師は気絶しなかった。
「残念だ、お前が美琴の事を話している時のあの覚悟もニセモノってことか。
ああ、非常に残念だ。」
その言葉に空気が静止する。
すると魔術師は口の中で何かを呟いた。
「ニセモノじゃダメなんですか?
ニセモノは、平和を望んじゃいけないんですか。
ニセモノには、御坂さんを守りたいと思う事さえ許されないんですか?」
「・・・・・」
「でもね結果が出てしまったから、麻生恭介は危険だと「上」が判断してしまったから。
分かりますか?
自分がどんな気持ちで「海原」と入れ替わったのか。
自分はただ御坂さんとその世界を守りたかった。
でも、もう守れませんよ。
自分はあなた達の敵になってしまいました。
なりたくなかったのに、なってしまった。
自分はあなたじゃないんですから、あなたのようなヒーローにはなれないんだから。」
再び二人の間に沈黙が走る。
その時だった。
海原は仰向けに倒れているので分かってしまった。
さっきの「槍」の能力が鉄骨にぶつかり鉄骨の構成をバラバラに分解したため、ネジやボルトの外れた太い鉄骨が今まさに麻生の頭上へ降り注ごうとしていた。
魔術師は咄嗟に麻生の身体を突き飛ばそうとしたが麻生の言葉を聞いてその魔術師の行動が停止する。
「お前はニセモノか本物かっていうくだらない事で悩んでいたんだな。」
え?、と魔術師は呟く。
麻生は左手を握りしめ頭上を見上げる。
そこには麻生の身体を貫こうとしている鉄骨が落ちてきていた。
そして降り注ぐ鉄骨をさっき魔術師の顔面を殴るように鉄骨も殴りつける。
殴られた鉄骨はミシミシと音をあげて最後には粉々に砕け散ってしまう。
その後に何本もの鉄骨が降り注ぐが麻生は右手を突きだすと、鉄骨同士がくっつき合い巨大な鉄の塊へと変化する。
そして鉄の塊の周りを取り囲むように透明な何かが覆う。
麻生の手と手の間にも大きさは違えど丸い球体があり、それを両手で圧迫していくとそれに反応するかのように鉄の塊を覆っている球体も徐々に小さくなっていき、鉄の塊もそれに圧迫されて小さくなっていく。
最後に麻生が持っている球体がパン!、と音を立ててなくなると鉄の塊を覆っていた球体は鉄の塊と一緒に消えてなくなっていた。
これは鉄骨を磁力で一つに纏め、空間圧縮を使う事で鉄骨を消滅させたのだ。
魔術師はその光景をただ唖然と見ているだけだった。
そして同時に思った。
この男には勝てないと。
「お前はニセモノが平和を望んじゃいけないですかと聞いたな。
俺は望んでいもいいと思うぞ。」
「何を言って・・・」
「平和を望む気持ちにニセモノも本物もない。
ただ自分が本気で望めばその気持ちにニセモノとか本物とかそういったものさしは必要ないからな。」
麻生の言葉に魔術師はただ黙って聞いている。
「それともう一つ、俺はヒーローでも何でもない。
俺はただの通りすがりの一般人Aだ。」
麻生はそう言って魔術師に背を向けて歩き出す。
魔術師は麻生を背後から襲う気はなかった。
襲っても勝てる相手ではないし、何より魔術師は麻生に負けたのだと思ってしまったからだ。
だからこそ、魔術師は麻生に言った。
「きっと攻撃は今回限りではありません。
自分みたいな下っ端が一回失敗した所で「上」が退くとは思えない。
むしろ、余計に危険視する可能性すらあります。
あなたや御坂さんの元には自分以外の者が向かうと思いますし、最悪、自分にもう一度命令が下るかもしれません。」
「だからどうした。
そいつらが俺に喧嘩を売るのならいつでも買ってやるし、俺の守る者に手を出したらその時はその組織を完膚なきまでに潰すだけだ。」
「その守る者に御坂さんは入っているのですか?」
魔術師は問いかけたが麻生は答えなかった。
魔術師はそうですか、と呟いて言った。
「守ってもらえますか、彼女を。
いつでも、どこでも、誰からも、何度でも。
このような事になるたびに、まるで都合の良いヒーローのように駆けつけて彼女を守ってくれると、約束してくれますか?」
それが彼が願いつつも決して叶えられない望み。
魔術師の望みを聞いた麻生は振り返らなかったがその言葉を聞いて立ちどまった。
「俺はヒーローじゃないからそんな約束はできない。」
ただ、と麻生は続ける。
「あいつが、美琴が俺の力を必要として俺の助けが必要になった時は俺は全力であいつを救う。」
これは麻生が心に誓った事。
美琴だけじゃなく麻生の力を必要とするのなら誰であろうと助けると彼は心に誓った。
その言葉を聞いた魔術師は苦笑いを浮かべて最悪な答えだと呟いた。
工事現場から出た麻生は土御門に連絡してあの魔術師を対処を任せようとして携帯を開けた時今の時刻を見て麻生の表情は凍りついた。
午後一時ジャスト。
愛穂との約束の時刻は十二時。
携帯には何度か愛穂からの着信がきていたが、さっきまでどたばたしていたので気づく訳がない。
麻生は愛穂が怒っているだろうな~、とため息を吐きながらそれでも最初に土御門に連絡する。
その土御門に事情を説明している間に麻生はどうやって怒りを鎮めるか必死に考えていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第37話
前書き
今回の話のほとんどが原作と変わりありません。
駄目駄目な作者をどうか許してやってください。
午後五時二〇分。
一方通行はとある研究所に来ていた。
その研究所とは「実験」の為に二万人もの妹達を用意するために建てられた培養施設だ。
なぜ、一方通行がもう「実験」が凍結している今の状況でこんな所に来たのかと言うと、それは今日の深夜0時の時間まで遡る。
あの時、一方通行と麻生が偶然出会い話をした後、一方通行は自分の違和感について考えながら家に向かって歩いていた。
その後ろから誰かがついて来ていた。
一方通行はまた自分を狙いに来た能力者あるいは無能力者だと思ったが違った。
頭から汚い毛布を被っていて身長は大柄でない一方通行の腹ぐらいの高さしかない。
声を聞いた限りでは少女の声で自分の事をミサカと言っていた。
一方通行はミサカという名前を聞いてピクリと反応する。
そして彼女が被っている毛布を引っ張り顔を見ようとする。
顔はあの量産型電撃使い「妹達」と同じものだが「妹達」の年齢設定は一四歳だが目の前の少女は一〇歳前後でしかない。
しかし彼女は毛布の下には何も着ていなかった、詰まる所、完全無欠の素っ裸の少女だった。
毛布を返してと涙目で言う少女に一方通行は毛布を投げつけ少女はそれを受け取ると、モソモソと自分の全身を包み込み、一方通行が求めてもいないのに自分の説明をする。
「ミサカは検体番号は二〇〇〇一号で「妹達」の最終ロットとして製造された、ってミサカはミサカは事情の説明を始めるけど。
コードもまんま「打ち止め」で本来は「実験」で使用されるはずだったんだけど、ってミサカはミサカは愚痴ってみたり。
でもところがどっこい見ての通り「実験」が途中で終わっちゃったからミサカはまだ身体の調整が終わってないのね、ってミサカはミサカはさらに説明を続けたり。
それでアナタは「実験」のカナメであるはずなので研究者さんとの繋がりもあるかと思うから、できうる事なら研究者さんとコンタクトを取ってもらいたいかな、ってミサカはミサカは考えてる訳。」
「他ァ当たれ。」
そう言って一方通行は打ち止めのお願いを無視して先に進む。
「いえーい即答速攻大否定、ってミサカはミサカはヤケクソ気味に叫んでみたり。
でも他に行くアテもないのでミサカはミサカは諦めないんだから。」
一方通行は「妹達」を一万人以上殺してきた人間だ。
脳波リンクによって「妹達」は記憶を共有させているので、その事をこの打ち止めは知っている筈だ。
何なンだコイツは、と一方通行はため息を吐きながらそう思った。
それが一方通行と打ち止めとの出会いだった。
五階建ての学生寮の前に着いても打ち止めはついて来ていた。
一方通行の部屋は不良達が襲撃に来たらしいが、標的がいないと知ったからか腹いせに部屋がメチャクチャに荒らされていた。
ドアもなく、テレビも真っ二つになり、ベットもひっくり返され、ソファの中の綿が飛び出たりともはや部屋とは呼べないくらいにボロボロに荒らされている。
こんないつ死ぬかもしれない状況でも、打ち止めは一方通行から離れる事はなかった。
部屋と呼べるかどうかの部屋で二人は一夜を過ごす。
二時になって一方通行は空腹で目が覚めた。
打ち止めはテーブルクロスを身につけてがっくりと項垂れていた。
どうも一方通行が打ち止めの毛布を無意識に引ったくり毛布代わりにして被っていた。
打ち止めはどうにかして取り戻そうとしたが、睡眠中でも一方通行の反射は適応されてるので、どんなに打ち止めが頑張っても起こす事は絶対に不可能なのである。
一方通行は被っている毛布を打ち止めに投げ渡し何か食べようかと思ったが、台所の入り口を眺めた一方通行はふてくされたようにソファの上に寝転がる。
夜の不良達の襲撃のせいで冷蔵庫は横倒しにされ、冷凍食品がビニール包装が飛び出ていた。
一方通行は料理などはしないので冷凍食品を食べるようにしている。
しかし冷凍食品があの状態なので食べる事は出来ない。
「おはよーございますってもうこんにちはの時間なんだけど、ってミサカはミサカはペコリと頭を下げてみたり。
お腹がすいたので何かご飯をご飯を作ってくれたりするとミサカはミサカは幸せ指数が三〇ほどアップしてみたり・・・」
「寝ろ。」
「うわーいサービス精神カロリー摂取量とも完璧なるゼロ、ってミサカはミサカはバンザイしてみたり。
というかもう朝だよあさあさあさー、ってミサカはミサカはお腹を空かせながら今にも二度寝しそうなアナタに呼びかけてみる。」
「クソったれが、午後二時で朝かよ。」
寝起き最悪な一方通行は目を開ける。
このまま「声」を反射して寝ることも出来るが打ち止めはしつこく無駄だと分かっていても一方通行を起こしに来るだろう。
さっさとこのガキを捨てにこよう、と考えついでに空腹を満たそうと思い玄関に向かう。
後ろで打ち止めは後ろで何か言っているが一方通行は無視して玄関に向かう。
打ち止めは何かブツブツ言いながら一方通行の背中を追いかける。
二人は大手外食店系列のファミレスで食事をとる事になった。
そこに着くまでの間、一方通行と打ち止めは会話をしていた。
打ち止めが一方通行の事で疑問に思った事を聞きそれを答えると言ったモノだ。
会話をしていて一方通行は首を傾げた。
「実験」の最中で「妹達」とはまともに会話が成立する事なんて一度もなかった。
なのに今は会話が成立している。
あの一戦で「何が」変わったんだろか、何が変わったか分からないが見えない「何か」が変わりつつあるようだ。
ファミレス店の入り口で緑のジャージをきて髪は後ろで纏めている女性がいつまで待たせるじゃん、と呟きながら傍から怒ってますオーラが感じ取れる。
一方通行はそんな女性なんぞ気にもせずに中に入る。
ウェイトレスは打ち止めの毛布一枚の姿を見て顔を若干引きつりながらも笑顔で迎え入れた。
窓際の席に誘導され適当に注文をとり運ばれてくるのを待つ。
レストランに入ってから随分と時間が経過してからようやく二人は食事を始める。
打ち止めの料理は一方通行が頼んだ料理よりも先に運ばれていたのだが、打ち止めは一切手を付けなかった。
何故かというと。
「誰かとご飯を食べるのも初めてだったり、ってミサカはミサカは答えてみたり。
いただきまーす、って聞いた事ある、ってミサカはミサカは思い出してみる。
あれやってみたい、ってミサカはミサカはにこにこ希望を言ってみたり。」
打ち止めは嬉しそうに笑いながら言った。
二人が食事をしていると打ち止めは一方通行に話しかけてくる、それを聞いた一方通行は呆れたような表情をして打ち止めに言った。
「ホントなら昨日の時点で訊いておくべきだったと思うけどよォ、オマエどォいう神経してンだよ。
俺がオマエ達にナニやったか覚えてねェのか?
痛かったし苦しかったし辛かったし悔しかったンじゃねェのかよ。」
「うーん、ミサカはミサカは九九六九人全てのミサカと脳波リンクで精神的に接続した状態なんだけど。」
「あァ?それが何だってンだ?」
「その脳波リンクが作る精神ネットワークってものがあるの、ってミサカはミサカは説明してみる。」
「人間でいう集合的無意識とかってェヤツか?」
「うーぬちょっと違う、ってミサカはミサカは否定してみたり。
脳波リンクと個体「ミサカ」の関係はシナプスと脳細胞みたいなものなの、ってミサカはミサカは例を述べてみる。
「ミサカネットワーク」という一つの巨大な脳があるというのが正解で、それが全「ミサカ」を操っているというのが正しい見方、ってミサカはミサカは言ってみる。」
一方通行は少し黙って打ち止めの説明を聞く。
「「ミサカ」単体が死亡した所でミサカネットワークそのものが消滅する事はない、ってミサカはミサカは説明してみる。
人間の脳で例えるなら「ミサカ」は脳細胞で、脳波リンクは各脳細胞の情報を伝達するシナプスのようなもの。
脳細胞が消滅すると経験値としての「思い出」が消えるのでもちろん痛い、けどミサカネットワークそのものが完全に消滅する事はありえない、「ミサカ」が最後の一人まで消滅するまでは・・・・」
一方通行は目の前で食器皿の上の料理と格闘している少女が、人間とは全く異なる構造した宇宙人のようなものに見えてしまった。
「ってミサカはミサカは考えていたんだけど、気が変わったみたい。」
その言葉を聞いた一方通行は首を傾げる。
「ミサカは教えて貰った、ミサカはミサカの価値を教えて貰ったって断言してみる。
「ミサカ」全体ではなく、「ミサカ」単体の命にも価値があるんだって、この「ミサカ」が他の誰でもないこの「ミサカ」が死ぬ事で涙を流す人もいるんだって事を教えて貰ったから、ってミサカはミサカは胸を張って宣言する。
だからもうミサカは死なない、これ以上は一人だって死んでやる事はできない、ってミサカはミサカは考えてみる。」
少女は言った、人間のように、人間のような、人間の瞳で真っ直ぐに一方通行の顔を見て。
それは一つの宣言。
一方通行の行ってきたことを決して許さないという、打ち止めは一生あの時の事を忘れないという、恨みの宣言。
それを聞いた一方通行は言葉が出なかった。
そういった感情を抱かれる事に気づいていても目の前で面と向かって本人の口から糾弾された事がなかったからだ。
「でもミサカはアナタに感謝している、ってミサカはミサカは言ってみたり。
アナタがいなければ「実験」は立案されなかったらミサカ達は生まれてこなかったから、ってミサカはミサカは感謝してみる。」
打ち止めは一方通行を迎え入れるような柔らかい声で言った。
それを聞いた一方通行はとてもイライラした。
「何だよそりゃァ?
全っ然、論理的じゃねェだろ。
人を産んで人を殺して、ってそれじゃあプラスマイナスゼロじゃねェか。
どォいう神経したらそれで納得できんだよ。
どっちにしたって俺がオマエ達を楽しんで喜んで望み願って殺しまくった事に変わりねェだろォが。」
「それは嘘、ってミサカはミサカは断じてみたり。
アナタは本当は「実験」なんてしたくなかったと思う、ってミサカはミサカは推測してみる。」
その言葉に一方通行の頭はますます混乱した。
そんな一方通行をよそに打ち止めは言葉を続ける。
「あの時を思い出して、あの時の事を回想して、ってミサカはミサカはお願いしてみる。
アナタはミサカに何度か話しかけている、でその目的は何?ってミサカはミサカは分かりきった質問をしてみる。」
一方通行は実験中に何度か「妹達」に話しかけている。
しかしなぜ話しかけた理由は一方通行にも分からない事だ。
それにその内容は全部「妹達」を罵倒するような言葉ばかりだった。
そんな罵倒するような会話に何の意味があるのか一方通行は考えた時、打ち止めは一方通行の見えない変化を分かっているかのように説明する。
「それらが仮に否定してほしくて言ったいた言葉だとしたら?
アナタの言葉はまるでミサカを脅えさせるように、ミサカにもう戦うのは嫌だって言わせたいように、ってミサカはミサカは述べてみる。
もしあの時にミサカが戦いたくないって言ったら?ってミサカはミサカは終わった選択肢について語ってみる。」
「妹達」がみんなそろってそんな事をしたくないと脅えた目で頼み込んでいたら。
彼はどんな行動に出ていただろう?
きっと彼はそれを望んでいた。
だからこそ彼は問いを発した、何度も何度も、それでも答えは返ってこないから少しずつ問いはエスカレートしていきいつしか目を覆うほどの暴虐の嵐となってしまった。
自分を止めてくれる誰かが欲しかった。
彼は思い出す、その操車場で戦った二人の無能力者の事を。
一人は何度でも何度でも立ち上がった、一人は一方通行よりも強力な能力を持っていてもそれを誰かの為にその力を使うといった。
最後の最後、あの少年に拳に打ち倒されるその瞬間、一方通行は何かを考えていただろうか?
「ちくしょうが。」
そうして、彼は目を閉じて天井を見上げて一言だけ言った。
打ち止めからの声はない、彼女は今どんな顔をしているのだろうか、と一方通行は思った所で違和感を感じた。
いつまで経っても打ち止めからの声がない。
次の瞬間、ごとんと鈍い音が聞こえた。
打ち止めが目の前のテーブルに突っ伏している。
眠いとか疲れたとかそういった単純な理由で突っ伏しているのではない事は一目でわかった。
まるで熱病にでもうなされているような感じがした。
「あ、はは、こうなる前に研究者さんとコンタクトを取りたかったんだけど、ってミサカはミサカはくらくらしながら苦笑いしてみたり。
ミサカは検体番号は二〇〇〇一、一番最後でね、ってミサカはミサカは説明してみたり。
ミサカはまだ肉体的に未完成な状態だから、本来なら培養器の中から出ちゃいけない筈だったんだけど、ってミサカはミサカはため息をついてみる。」
それでも彼女は笑っていた。
熱病に浮かされたような大量の汗を噴き出していてもそれでも笑っていた。
それを見た一方通行の顔から感情が欠落していくように表情が失われていく。
彼にあるのは学園都市最強のチカラだがそんなチカラでは誰も守れない。
一方通行は黙って席を立つ。
「あれ、どっか行っちゃうの、ってミサカはミサカは尋ねてみる。
まだご飯余っているのに。」
「あァ、食欲なくなっちまったわ。」
「そっか・・・ごちそうさまっていうのも言ってみたかった、ってミサカはミサカはため息をついてみる。」
「そォかよ、そりゃ残念だったな。」
その場に打ち止めを残して一方通行は伝票を掴んでレジに向かった。
そして彼は今、研究所の前にいる。
あの時、あの場で彼が出来る事は何もない、だから何もしないで立ち去った。
だから彼はここに来た。
こんな人間が今さらそんな事を願うなど筋違いだと分かっていてもそれでもたった一人の少女を助ける為に。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第38話
前書き
今回もあんまり変わりません。
一方通行は研究場のドアの前に立ちドア板を軽くノックすると、その「衝撃」をロック部分に集中させ、金属だけを正確に破壊する。
一方通行は実験の核なのでIDはあるのだが、まだ生きているとは思っていないので強硬手段をとったのだ。
中には研究所というよりも計算室といった感じの内装、で四方の壁を埋める業務用冷蔵庫のようなものは最新式の粒子コンピュータと言われているのだが、どう考えても型遅れの実験品を流用しているようにしか見えなかった。
窓のない部屋の中を無数のモニタが不気味に照らし出していて、大量のデータ用紙は床が見えなくなるほど機械から吐き出され、冷却用のファンの音だけが重く低く室内を満たしている。
研究室の真ん中に、一人の女がポツンと佇んでいた。
「実験」の当時は二〇人以上の研究員が寿司詰めのように働いていたのだが、現在では見る影もない。
その女も自覚があるのか、椅子ではなくテーブルの上に座って蛇のように吐き出されるデータ用紙を手に取って赤ペンで何かをチェックしていた、所内マナーも何もない。
「うん?あら、おかえりなさい一方通行。
ドアは壊さずともキミのIDはまだ九〇日ほど有効だから安心なさいね。」
彼女の名前は芳川桔梗。
二〇代も後半だというのにその顔には化粧らしきものが何一つなく、服装も色の抜けた古いジーンズに何度も洗濯を繰り返して擦り切れたTシャツ、その上から羽織っている白衣だけが新品のカッターシャツのように輝いている。
一方通行は桔梗の持っている長い長いデータ用紙を眺める。
現在、「実験」は凍結されている。
これは「中止」とは違い、この「実験」は樹形図の設計者がシュミレートによって組み立てられたものだが、その演算結果に狂いがあるから凍結という形で「実験」は止まっている。
よってその「狂い」を見つけ出し、その部分を修正してやればいつでも「実験」は再開される事が出来る。
しかし、一方通行はそれが可能とは思っていなかった。
樹形図の設計者が複雑な演算をしている訳ではない。
問題はその量なのだ。
人間は数える対象が多ければかけ算などして一気に計算する所を機械は一つ一つ数えて演算している。
機械的にはその方が楽のなのだが確認する方、つまり人間からすればそれは莫大な量になる。
その大量のコードに目を通すだけでも何十年かかるか分からない。
しかし、一方通行はそんなコードに興味はなかった。
「なァ、妹達の検体調整用マニュアルってどれだ?
肉体面と精神面・・・培養装置と学習装置の両方だよ。
あと、検体調整用の設備一式借りンぞ。
理由は聞くな、「実験」の凍結で未払いのままンなってる契約料だと思ってくれりゃあイイさ。」
一方通行がそう言うと桔梗は少し驚いた顔をした。
「少し待ちなさい、どうしてキミが知っているのかしら?
わたしですら、つい三時間前にやっと気がついたというのに。」
「あン?」
「だから、これの事でしょうに。」
桔梗は自分が持っているデータ用紙をひらひらと振った。
それは学習装置のスクリプトだった。
妹達は特殊な培養装置によって、およそ一四日で製造される御坂美琴のクローン体だ。
その人格も普通の「学習」では形成できないので彼女達の人格と知識を学習装置を使い脳に電気的に入力される。
桔梗が持っているのは妹達の心の設計図な訳だがそれを持っている桔梗を見た一方通行は眉をひそめる。
「ちょっと待て、オマエが今、眺めてンのは「実験」のデータじゃねェのかよ。」
「全く違うわ、どちらかといえば今は実験よりもこっちのデータの方が優先的ね。
これはね、人格データのバグを洗い出している所なの、ウィルスという表現の方が正しいかしら。」
桔梗は赤ペンでデータ用紙に印をつけながら説明する。
それを聞いた一方通行はさらに眉をひそめた。
「どォいうことだ?」
「キミには説明していなかったわね。
最終信号と呼ばれる特別な個体があるの。」
その単語を聞いた一方通行の首の後ろを電気が走るような嫌な感覚が走り回る。
「アイツが・・・何だと?」
「アイツ、ね。
やはり知っていたのかしら。
となると、あの子はまだこの街の中にいるのね。」
桔梗はデータ用紙から目を離して一方通行に視線を向け赤ペンをくるくる回しながら言う。
「まぁ、キミの知っている部分もあると思うけど、今一度改めて最終信号と今の現状について説明しましょう。
重要な事だからよくお聞きなさいね。」
テーブルから降りてキチンと椅子に座り直した。
桔梗は一瞬、視線を後ろに向けて軽く笑みを浮かべる。
一方通行はその笑みの意味がよく分からなかったが、そんなことを聞いている暇はなかった。
桔梗は一方通行の視線に気づいて説明を始める。
「そもそも、あの子は「実験」のために作られたものではないの。
その事はご存知?」
「何だァそりゃ?
ヤツらは超電磁砲の劣化クローン体で、「実験」で俺に殺されるために作られたンじゃなかったのかよ。」
「その通りだけどこの「実験」は何通りの戦闘を行えば完了するのだったかしら?」
「二万ジャストだろォが。
随分とキリのいい数字だと思っていたけどよォ」
言いかけて、一方通行は気づいた。
「そう、あの子の検体番号は二〇〇〇一。
キミもそれは知っていたようね。
あの子は「実験」のシナリオデータ上に必要のない個体、言ってしまえば安全装置のようなもの。
思い浮かべて御覧なさいな。
二万人もの能力者を用意した上で、仮に彼女達が反乱を起こしたらどうなるか。
到底、わたし達スタッフでは手に負えないでしょう?」
「そのための切り札があのガキだァ?
ありゃ何なンだ、人造の超能力者か何かか?」
「ミサカネットワーク、という言葉に聞き覚えはあるかしら?」
一方通行はその言葉に聞き覚えがある。
妹達の間で繋がっている脳波リンクのようなものだ。
「最終信号というものはね、自分の脳に一定の電気信号を送る事でミサカネットワークを操作する事が出来るの。
それによって非常時には二万人全ての「ミサカ」に対して停止信号を送る事を可能にすることで、わたし達を裏切れなくなるようにする。
故に最終信号は自由であってはならない。
そのためにあの子は敢えて未完成の状態に留めてある。」
一方通行は妹達と打ち止めとどこか印象が違うと思っていたがこれが原因なのだと分かる。
彼女は肉体も精神も意図的に未熟のまま管理されていたのだから。
「で、あのガキについたバグってのは?っつか、ウィルスだっけか?」
「「実験」終了後も最終信号はここの培養器で秘密裏に預かっていたのだけれど、一週間ほど前に突然異常な脳波が計測されたの。
慌てて培養器のある建物に行ってみれば、内側から設備を破壊されてあの子は逃亡した後だった、という訳。」
「警備員や風紀委員には通報しなかったンかよ。」
「できなかったの、わたし達の「実験」は上層部に黙認されていたものの、大っぴらに公言して良いものではないから。
でも、逃げ出すなんて思っていなかったわ。
それにこの七日間を生き延びたというのがすでに誤算だったわ。
そんなに強く作ったつもりはない筈なのに・・・やはり情が移ってしまったのかしらね。」
そう桔梗が呟いているが一方通行は桔梗の説明を受けて気になる所があった。
「おい、あのガキにバグ・・あァ~ウィルスだったかァ?
それはどういったもんなんだァ?」
「それを説明する前に最終信号の頭に不正なプログラム、つまりウィルスね。
それを上書きした人物がいるの。」
「誰だァそんな回りくどいしたヤロウは?」
「天井亜雄。」
その人物の名前を聞いた一方通行は昼間の事を思い出す。
打ち止めとファミレスにいた時、一方通行が何気なく窓の外を見た時に天井亜雄はファミレスの駐車場で車を止めてこちらの様子を窺っていた。
一方通行の視線に気づいた天井はすぐにどこかに立ち去った。
「それで不正データの内容についてだけど完全にコードを解析していないから何とも言えないけれど、
記述の傾向を追う限り予測できる症状は、人間に対する無差別な攻撃という所かしらね。
九月一日午前〇〇時〇〇分〇〇秒。
定刻と共にウィルス起動準備に入り、以後一〇分で起動完了。
ミサカネットワークを介し現存する全妹達へ感染、そして暴動を開始。
そうなったら誰にも止められないわ、鋼鉄破りを軽々と操るあの子達が一万も集まれば相当な戦力になってしまう。」
一方通行は桔梗の言葉の意味を考える。
現在、一万弱もの妹達のほとんどが学園都市の外、世界中で身体の再調整を行っている。
この事から学園都市に配備されている対能力者用の部隊「警備員」や「風紀委員」が穏便に事件を収拾する事が出来ない訳だ。
妹達が暴走すれば外部の人間で処分される、それが世界中で同時に事件を起こせばいくらなんでも隠蔽する事は出来ない。
そうなれば世界中にある協力派の企業や機関はその一件で学園都市の評価を丸ごとひっくり返す筈だ。
この一件で学園都市は外部との協力が絶たれ存続が出来なくなる。
存続が出来ないという事は学園都市の研究者達は職をなくしその未知の技術を世界中の軍事研究所へと流れるか、学園都市が強硬手段に訴え次世代兵器と超能力によって世界へ侵攻するか。
どちらにしても世界のバランスが崩れ、世界中で戦争が勃発するだろう。
それは世界の終わりを意味している。
「天井亜雄は量産型能力者計画の元研究者で「実験」に妹達を代用する際にウチへ転属したスタッフなの。
彼の専門は学習装置を用いた人格データの作成、彼以上に妹達の精神に詳しい者はいないの。」
続けて天井の説明をする桔梗だが一方通行はもはやそんな事はどうでもよかった。
一方通行には「滅ぼす力」がある分、世界の終わりという言葉の意味を他の誰よりもリアルに想像できた。
「ハッ、面白ェな、そいつァ最高に面白ェわ。
そいつァ俺の仕事だとずっと思ってたンだがなァ。
で、結局オマエはここでナニやってンだ?
ガキの頭ン中に入ってるウィルスはどう止める?」
「それを今調べてるの。」
桔梗の顔にわずかだが焦燥の色が見える。
リミットまであと数時間というこの状況でワクチンプログラムを作りだし、打ち止めを見つけて注入する。
正直、勝算は五分かそれ以下だろう。
もしワクチンが間に合わなかったらどうするか、答えは簡単だ。
ウィルスに犯された個体を「処分」すればいい。
そうすれば「外」にいる九九六九人の妹達はウィルスコードの感染から守られ、何事もない日常を送る事ができる。
「そうならないために努力しているのよ。
もちろん、キミにだって何かは出来る。」
一方通行の考えている事が分かったのか桔梗は静かに言った。
「誰にモノ言ってっか分かってンのかオマエ。
俺ァアイツらを一万人ほどぶっ殺した張本人だぜ?
そンな悪人に誰を救えって?
殺す事ァできても救う事なンかできねェよ。」
「キミにそれをさせたのはわたし達だった。
キミは「妹達を使わなくても絶対能力へ進化できる方法」を見つける事が出来れば、キミは誰も殺さずに済んだのだから。」
「そンな一言だけで、オマエを信じて従えって?」
「やりたくないのなら、仕方がないわね。
わたしにキミを拘束するだけの力ないもの。
最後に残った時間をご自由に過ごしなさいな。
そして祈りなさい、願わくばウィルスが起動する前にあの子の肉体が限界を超えて死滅しますようにって。」
一方通行は桔梗の顔を見る。
彼女はいつもと変わらずそこに佇んでいる。
「わたしにはあの子を捕まえる事が出来ない。
「研究者を見たら無意識に逃げる」というあの子の特性は、わたし達の身体から放出される微弱な電磁場のパターンに強く依存している。
たとえあの子の視界に入らなくても電磁場を検知して逃げてしまうわ。
そこをクリアする事が出来れば近づけるけどわたしはこのコードを解析しないといけない。
けど、キミがいるのなら話も変わる、二人で手を組めば何とか道は開けるかもしれないの。」
「クソったれが。」
そう言って一方通行は黙り込む。
一方通行はこの女が嫌いだ、なにが嫌いかというととにかく甘いのだ。
何かを背負うほどの強さがないから、どこまで行っても優しさにはならない。
桔梗は大きな封筒を二つ手にする。
「キミが出来る事は二つ。
一つは街の中に潜伏している犯人・天井亜雄を捕えてウィルスの仕組みを吐かせる事。
もう一つは起動前のウィルスを抱えた最終信号を保護する事。
好きな方を選びなさいな、もっともキミは守るより壊す方が得意でしょうけれど。」
封筒はテーブルの上を滑り一方通行の前で停止する。
左の封筒には天井亜雄の車が映った写真と赤い印がされた地図。
右の封筒にはデータスティックと超薄型の電子ブックのような物が出てきた。
データスティックには「検体番号二〇〇〇一号・人格要綱/感染前」と書かれたラベルが貼ってある。
どちらが一方通行に向いているかなど考えるまでもない。
一方通行は誰かを守るより何かを壊す方に優れている。
いやそれはもはや論理以前に概念の問題だ。
彼の力では誰も救えないし、彼の世界とはそういうものなのだ。
もし一方通行がその力で誰かを救うおうものなら、それは彼の取り巻く常識そのものが崩壊する。
それはもう「一方通行」という存在とは違う、人を救う一方通行など一方通行ではない。
「まァ、そォだよなァ。
どっちを取りゃイイかなンざ誰でも分かンじゃねェか。」
一方通行は自嘲するように口の中で呟く。
人を救うなどその役目に相応しい人間ならいくらでもいる。
その席はどこも満席で一方通行が入り込む余地などない。
一方通行の力が人を救う事に向いていないというならば、一方通行の力が殺す事に向いているというのならば。
一方通行は一瞬だけ、誰かの顔を思い浮かべた。
「ハッ、蔑めクソガキ。
どォせ俺にャァこっちしか選べねェよ。」
右の封筒を一方通行は選んだ。
打ち止めと呼ばれる一人の人造少女を保護する為に。
この瞬間、一方通行は一方通行でなくなった。
一方通行としての存在意義の全てを失ったと言っても良い。
「笑えよ。
どォやら俺は、この期に及ンでまだ救いが欲しいみてェだぜ。」
「ええ、それはそれは大いに笑って差し上げましょう。
キミの中にまだそんな感情が残っているとすれば、それは笑みをもって祝福すべき事よ。
だから安心して証明なさいな、キミの力は大切な誰かを守れるという事を。」
「俺はオマエ達、研究者のために働く。
だからそれに見合った報酬は用意してもらうぜ。」
「ええ、あの子の肉体の再調整ならわたしに任せなさい。」
芳川桔梗はそう答えると一方通行はきびすを返して封筒を手に持ち研究所から出て行った。
誰もいなくなると桔梗は小さく息を吐いて言った。
「さぁ、もう姿を現しても問題ないわよ。」
「そんなの見れば分かる。」
この部屋には桔梗しかいないのに部屋から別の声が聞こえた。
そして桔梗が座っていた椅子の隣にテーブルに腰を預けて立っている麻生恭介の姿が現れた。
彼は一方通行がこの研究所に来た事が分かり自身の周りの屈折率を操り姿を隠していたのだ。
「説明は全部聞いていたわよね?」
「ああ、今が学園都市の危機である事は充分にわかった。」
「それならこのコードの解析を手伝ってくれないかしら。」
桔梗は麻生の能力を他の誰かよりか知っている。
だから携帯で麻生を此処に呼んで手伝ってもらおうとしていたのだ。
麻生に詳しい説明をしようとした時、一方通行がやってきたという事だ。
ちなみに昼間の一件が思ったよりも時間がかかり愛穂を待ちくたびれさせ、食事をしている時に桔梗から電話がかかりそこで別れたのだ。
待ちくたびれたあげく対して話も出来ないまま、そのままファミレス内で別れたので愛穂の機嫌はすこぶる悪くなっていた。
麻生は後で何かフォローしておかないとな、と考えそのまま研究所を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなさい。
一緒にこれの解析を「俺は手伝わない。」・・・なんですって。」
麻生の思わぬ返答に桔梗の驚愕の表情を浮かべる。
「この一件に一方通行が関わっているのなら俺が手出ししていい問題じゃない。
あいつは今変わりかけている、それを邪魔する事なんて俺にはできない。」
「そんな事を言っている場合!?
もし、一方通行が最終信号を保護できなかったら学園都市は・・いいえ、世界が崩壊するのかもしれないのよ!!」
「アイツは打ち止めを救う。」
麻生は桔梗の目を真っ直ぐ見つめ答える。
「どうしてそれが分かるの?」
「アイツは俺とよく似ているからな。
だから何となくわかるんだよ。
俺が姿を消したのも俺が協力する事が分かれば、おそらくアイツは俺に全部任せていつもの一方通行に戻るだろう。
これは一方通行の物語だ。
俺が手出ししちゃあいけないんだよ。」
桔梗は麻生が手伝わない事を分かると大きくため息を吐いて椅子に座り直す。
そして、呆れたような表情で言った。
「キミ、変ったわね。」
「俺は変わった記憶はないがな。」
少しだけ笑みを浮かべると出口へと歩いていく。
すると、何かを思い出したのか振り返り桔梗に言った。
「あんたもあんたで解析頑張れよ。
一応、俺は最悪の事態を考えて打ち止めを見張っているがそれはあくまで最後の手段だ。
こんな事はないと思うがもし一方通行が打ち止めを守れなかったら、俺は打ち止めを殺す。」
そう言って麻生は研究所から出て行った。
桔梗はもう一度ため息を吐いて赤ペンを握りコードの解析を急ぐ。
麻生は愛穂との約束があり人を殺せない事を桔梗は知っている。
だが、最悪の事態になれば麻生は打ち止めを殺すだろう。
なぜなら、打ち止めを殺さなければ彼の守るべきものに危険が及ぶ可能性があるからだ。
麻生は守る者の為なら平然と人を殺す。
だからこそ、桔梗は解析を急ぐ。
麻生恭介に殺人などさせないために、何より今まで甘かった自分を捨て自分らしくない行動をする。
それは甘い自分ではなく一度でいいから優しい自分になる為に。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第39話
前書き
今回も変わらずです。
研究室を出た麻生は一方通行を遠くから見守っていた。
立ち並ぶビル群の屋上を能力を使い、渡り歩き眼を千里眼に変えてただ一方通行を見守っていた。
麻生は初めて一方通行に会った時に感じたのだ。
彼は「答え」を見つける前の自分にどこか似ていると。
あの夜に出会って時に一方通行の眼を見た時、一方通行に何か変化が起こっている事に気付いた。
だから麻生は見て見たいのだ。
一方通行は一体どんな答えを出すのかを。
一方通行は並みのバイクを軽く追い抜くほどの速度で街を走っていた。
そして、昼間に愛穂と待ち合わせをしていたファミレスに近づくとファミレスのウィンドウがガシャン!!、と音を立てて砕け散った。
一方通行はその光景を見て立ち止まり麻生も足を止めて視線をウィンドウに向ける。
そこには二メートル近い身長で漆黒のスーツを着て、さらには右手には和風の籠手が装着されており、そこには西洋の仕込み弓のように黒塗りの和弓が取り付けられている大男が立っていた。
少ししてからはっきりとは見えないが、誰かが砕けたウィンドウから出て行き一方通行とは真逆の方へと進んでいくのが見えた。
それに続くように砕けたウィンドウから見慣れた人物が慌てて飛び出してきた。
その人物とは上条当麻である。
上条を見た一方通行は目を剥いて上条を睨みつけ、麻生は麻生でまた不幸な事に巻き込まれたのだなと呆れた表情をしている。
(となると、あの大男は魔術師の可能性が高いな。
当麻の側にインデックスが居ないところを見ると連れ去らわれたか・・・・まぁ今の俺にはどっちでもいいが。)
上条は見えない大男が走り去ったと思われる方に走っていくと、上条の後を追うかのようにウェイトレスなどのファミレスの店員も出てくると上条を追いかけていく。
麻生はとことんあいつは不幸だな、と呆れを通り越して同情の念が湧いてくる。
一方通行は上条にも何からしら因縁があるがまずはファミレスへと入っていく。
一〇分ほどすると一方通行はファミレスから出てきて携帯を取り出し誰かと連絡を取っている。
おそらく桔梗だろうと麻生は考える。
桔梗と情報の交換をして天井がどこに行ったのか考えているのだろう。
歩きながら携帯で連絡を取っていると一方通行の表情がだんだんと笑みに変わっていく。
どうやら天井の居場所が分かったようだ。
天井亜雄は量産型能力者の開発を行っていた施設にいた。
スポーツカーに乗っている天井の車の助手席には毛布に包まれている最終信号が眠っていた。
全身汗だくで呼吸は浅く、医療に携わっている人物ならいかに危険な状態であるかすぐにわかるだろう。
天井は焦っていた。
最終信号にウィルスを注入するところまでは順調だった。
だが、注入した途端に逃げ出してしまったのだ。
この時点で天井の「計画」は崩れ始めた。
未調整の肉体である最終信号は長くは生きていられない。
もしウィルス起動前に死んでしまえば世界中に散らばった妹達にウィルスは感染しない。
そうなれば学園都市の外にいる学園都市に敵対しているメンバーに見放され、最悪は抹殺されてしまうかもしれない。
天井には莫大な借金があった。
量産型能力者計画の責任者であった天井だが、量産型の低い性能では超電磁砲を再現する事が出来ず、計画が頓挫し、研究所が閉鎖になった時に莫大な借金を抱えてしまった。
だが、一方通行の絶対能力計画に拾われて何とか借金を返せると思った。
が、その計画の永久凍結となっている。
このままでは借金を返す事が出来ない。
だからこそ、得体の知れない連中、つまり学園都市に敵対している勢力を手を組んだ。
しかし計画の核である最終信号がウィルス起動前に死んでしまったら、この敵対勢力に見放され奈落の底まで落ちる羽目になる。
(くそっ、くそ!
そうだというのに、何で!!)
天井は狭いスポーツカーの車内でハンドルを殴りつける。
逃げ出した最終信号を今日になってようやく捕まえる事が出来た。
後は最終信号を連れて学園都市を出れば、外にいる敵対勢力に保護してもらえるのだがさらに最悪な事態が起こっていた。
「外」から何者かが学園都市の警戒網を突破して強引に街の中に侵入したのだ。
そのせいで警戒強度は昼間の時点でオレンジ、今ではレッドまで達している。
このオレンジ、レッドの度合いについての説明は省くが、要は学園都市の内外の出入りが完全に禁止する事を意味していた。
どこかに逃げようにも至る所に検問が設置されており突破することも出来ない。
さらに助手席には毛布一枚の裸少女を連れているのでますます突破する事は出来ない。
天井は学園都市の「外」どころか、街の一ブロックからも逃げられなくなっていた。
そうして起動するかどうか分からないウィルスに全てをかけて狭い車内で震えてた時だった。
天井はふと、本当にただ視線をあげてたまたまルームミラーが視界の中に入った時に天井の眼が大きく見開かれた。
工法を映す小さな鏡にある人物が映っていた。
白濁し白熱し白狂したような純白の超能力者が。
「ぃ、ひ!」
天井の喉から変な音が漏れた。
一方通行は迷わず天井の乗るスポーツカーへと近づいてくる。
天井には一方通行が何をするために来たのか分からないが、あの一方通行が何かをしようとしているという事が危険なのだ。
天井の着ている白衣の懐には拳銃が収まっているがそんなものでどうにかできる相手ではない。
ならばどうするか、逃げるしかない。
ガチッと天井は車のエンジンキーを握りしめて鍵穴に挿し込もうとするが、手が震えているのでなかなか挿す事が出来ない。
泣きそうな顔になって何度も何度も挿し損なって、ようやくキーが刺さり勢いよく回すとエンジンが唸りをあげた。
緊張のあまりに天井はクラッチ操作を間違えて、スポーツカーは尻を蹴られて跳ねるように前進する。
一方通行はいかにも慌ててますと、言わんばかりの乱暴な発信をする天井の車をニヤニヤ、と笑って眺めていた。
(さって、と。
あのガキは・・・乗ってンのか。
てっきりトランクにでもぶち込まれていると思ったンだが、まァ天井にとっても死なれちゃ困る相手だろォしなァ)
適当に考えながら一方通行はわずかに身を落すとダン!、と地面を蹴る。
一瞬で一〇メートル近く上方へ飛び上がった一方通行はそのまま天井のスポーツカーを追い越して目の前へと着地した。
天井の顔が引きつりハンドルを切ろうとするが、対処が遅くそのまま砲弾のような勢いで一方通行へ突っ込んだ。
金属を押し潰す轟音が響くが潰れたのは一方通行ではなく自動車の方だった。
真っ直ぐ突っ込んでくる車の「向き」を全て真下へと変換されたのだ。
スポーツカーの四本のタイヤは一瞬でパンクし、ホイールが卵型に歪み車高は完全なるゼロに変貌し、アスファルトの中へ数センチもめり込んだ。
車体そのものが歪んだのか、前後左右全てのガラスが粉々に砕け散った。
これだけ自動車が破壊されているのに中にいる人は全くの無傷だ。
これが学園都市最強の能力者である一方通行の実力だ。
「ぃ、ぎ・・・く、くそ!!」
天井は何度もアクセルを踏むが、ホイール自体の形が歪み泥よけに食い込んでいる。
この状態では車が動く訳がない。
一〇秒以上も経ってようやくその事に気づいた天井は打ち止めを切り捨てて、運転席のドアを勢いよく開けどこかに逃げようとする。
「落ちつけよ中年、みっともねェっつの。」
ガン、と一方通行は車のドアを軽く蹴飛ばすと、その衝撃を操作して開きっ放しだった運転席のドアが勢いよく閉じる。
今まさに車の外へと逃げ出そうとしていた天井はドアに挟まれ、肺の中の空気を全部吐き出しずるずると地面の上に崩れ落ちてピクリとも動かなくなった。
「あー、悪りィな。
メチャクチャ地味な倒し方で、まァ死ぬよかマシだろ。」
返事は返ってこない、そもそも最初から期待していない。
一方通行は助手席を見ると助手席が優しい揺りかごのように優しく一人の少女を抱えていた。
「手間かけさせやがって、クソガキが。」
一言だけ、一方通行が呟くと携帯電話を取り出して桔梗に連絡する。
「芳川か?
ああ、ガキなら保護したぜ。」
打ち止めには電極のようなものがついていてこれを通じて打ち止めの健康状態を測っているのだ。
桔梗も培養器と学習装置を車に積み込んで一方通行の元に向かっているようだ。
ウィルスコードは八割方くらい解析できたと桔梗は言っている。
状況的にはギリギリだが必ず間に合わせる、と力強く言った。
普段の彼女らしくないと一方通行は眉をひそめる。
一方通行は知らないがもしウィルスを解除できない事になれば、どこかにいる麻生が打ち止めを殺す。
桔梗は愛穂と一緒に小さい頃から麻生を見ていた。
だからこそ彼に殺人なんてことをさせる訳にはいかない。
そして自分の存在価値を否定してまで一方通行は打ち止めを救おうとしている。
そんな二人を見捨てるわけにはいかない。
その決意を胸に秘めて桔梗は車を走らせる。
一方通行はようやくこの事態が解決の方向へと動きつつあることを感じ少しだけ肩の力を抜いた。
その瞬間だった、突如打ち止めが叫び出したのだ。
少女の華奢な身体は打ち上げられた魚の様に暴れまわっている。
電極に繋がっているノートパソコンのモニタの中には無数の警告文のウィンドウで埋め尽くされていた。
「くそ!オイ芳川、これはどォなっている!?
これも何かの症状の一つなのかよ!」
「落ち着いて、一から順に説明して!
それだけでは状況は伝わらないわ。
そうね、あなたの携帯電話にカメラはある?
テレビ電話の機能があれば一番好ま・・・」
言いかけた芳川の声が驚きに息を呑んだように途切れた。
ウソ、マサカ、デモコンナコトッテ、と芳川は独り言を呟いている。
「オイどォしたンだよ!
これって何か応急処置とかできねェのか!?」
「ちょっと黙って。
キミ、その子の言っている事をよく聞かせてもらえないかしら。」
「だから説明し」
「早く!!」
切羽詰まった芳川の声に一方通行はただならぬものを感じた。
一方通行は何をするまでもなく打ち止め絶叫のような声は届いているだろう。
「やっぱり・・・そうなのね。」
「何だよ?何が起こっている!?」
苛立つ一方通行に芳川は簡潔に答えた。
「ウィルスコードよ、暗号化されているみたいだけれど。
そのウィルス、もう起動準備に入っているんだわ。」
一方通行の全身が硬直した。
ウィルス起動は九月一日〇〇時〇〇分。
今は午後八時過ぎなのになぜ起動準備をしているのか、考えられる可能性は一つだけだ。
ダミー情報。
おそらく天井はわざと間違ったタイムリミットを伝えたのだ。
打ち止め小さな身体は電気でも浴びたように大きく仰け反った。
パソコンの画面も新たな警告ウィンドウで塗り潰される。
間に合わない、と一方通行は感じた。
桔梗はまだウィルスコードの解析が終わっていない、ワクチンも組んでいない、さらに設備のある研究所まで打ち止めを運ぶことも出来ない。
得体の知れない感触が一方通行の頭の裏をジリジリと焼いた。
その正体を知る前に、桔梗の冷静な言葉がその思考を無理矢理に断ち切る。
「聞きなさい、一方通行。
嘆くのはまだ早いわ、キミは手を打たなければならないの。」
「手?まだ手があンのか?」
「ウィルスはミサカネットワーク上へ配信される前に準備期間があるの。
時間は一〇分間、私が言いたい事は分かっているわね。
キミにできる事はただ一つ、処分しなさい。
その子を殺す事で、世界を守るのよ。」
どちらにしろ時間がくれば麻生が打ち止めを殺す。
その事を知らないしろ、その前に後悔の無いように一方通行自身で打ち止めを殺せと桔梗は言っている。
「クソったれが・・・・」
何を選んでどう進んだところで打ち止めはもう助からない。
「くそったれがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
一方通行は歯を食いしばった。
あの操車場で二人の無能力者に殴られたのとは違う痛みだった。
比べ物にならなかった、それが失う痛みだと知った。
そして気づいてしまった、この少女はこの痛みを一万回もこの痛みを感じていることを。
一方通行は思わず叫んだが彼に打開策がある訳ではない。
一方通行の能力は運動量、熱量、電気量などの力の「向き」を変換するしか能の無い能力だ。
この能力を持っていて思いつく事は他人の皮膚に触れて血液や生体電気を逆流させ身体を爆発させるぐらいしか・・・・・・・・・・そこまで考えて、ふと一方通行は何かが引っ掛かった。
そして、一方通行の頭の中で言葉の切れ端が思い浮かび、無駄な言葉の切れ端を削除していくとある事に気づいた。
生体電気の逆流。
一方通行は力の種類問わずあらゆる「向き」を操作できる。
皮膚に触れただけで血液や生体電気を逆流する事が出来たのならそれを操作する事も可能なはず。
学園都市最強という事は学園都市で最も頭が良いということも意味している。
一方通行は顔を上げる。
「オイ、脳内の電気信号さえ制御できりゃあ、学習装置がなくてもあのガキの中の人格データをいじくる事ができンだよな?」
桔梗は何かを言おうとしたが一方通行が何をするか気づいたようだ。
「まさか、キミ自身が学習装置の代わりをするというの?
無理よ、確かにキミの能力はあらゆる力の「向き」を自在に操る事が出来るわ。
それでも人の脳の信号を操るだなんて・・・・ッ!」
「できねェ事はねェだろ。
現に「実験」中にゃ皮膚に触れただけで全身の血液や生体電気を逆流させて人を殺した事だってあるンだ。
「反射」ができた以上、その先の「操作」ができて不思議じゃねェ。」
実際に他人の脳内の信号を操った事など一度もない、必ず成功する自信もない。
だが目の前の少女を救うにはこの方法しかない。
「できっこないわ、そんなもの。
仮にキミの力で最終信号の脳内を操る事が出来ても、対ウィルス用のワクチンプログラムは完成していない。
もし失敗すれば犠牲になるのは一万人もの妹達、さらには学園都市、最悪は世界すら巻き込んでしまうのよ。
今のキミにワクチンを用意できる?
もう数分で起動準備を終えてしまうこの状況で!」
「できるさ。」
一方通行は即答し、桔梗は息を呑んでしまう。
一方通行の手には「検体番号二〇〇〇一号・人格要綱/感染前」のデータスティックがある。
これを使い、今の打ち止めの頭と比較して余計な部分を見つけ、それを正常なデータで上書きすれば良い。
だが、これをしてしまえば「ウィルス感染後」に得た記憶や思い出は全て修正データで塗り潰されてしまう。
あの出会いも、あの会話も、あの笑顔も、全てを失う事になる。
「だから、何だってンだ。
忘れちまった方が、このガキのためじゃねェか。」
打ち止めは恐れる事無く一方通行を受け入れた。
そんな人間だからこそ一方通行のいる世界に居てはいけない。
データスティックを電子ブックに差し込み、画面に表示される膨大な量のテキストを滝が流れるような速度でスクロールさせて読破していく。
完璧に記憶して全ての準備が整った。
「反射」を切り彼の手が少女の額に触れる。
そこから生体電気を掴み、体内に侵入して「向き」へ接触する。
やがて一方通行の頭の中に一人の少女の脳内構造が表れる。
浮かび上がった少女の思考回路はとても温かかった。
失いたくないと、そう思ってしまうほどに。
だけど、それでも、打ち止めという一人の少女を救う為に一方通行の戦いが始まる。
「たく、このクソガキが。
人がここまでやってんだ、今さら助かりませンでしたじゃ済まさねェぞ。」
自分でもびっくりするような優しい笑みを浮かべて一方通行の戦いが始まった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第40話
前書き
ワラキア「カット」
戦いが始まったのにワラキアさんがその一部始終をカットしたみたいです。
はい、すみません。
カットしないと尺がとんでもないことになるのでカットさせてもらいました。
いける、と一方通行は確信した。
意味不明だった打ち止めの言葉は徐々に日本語へと変換され、膨大なコードを「理解」して上書きしていく。
ウィルス起動準備の方に先を越されていた分は、もはや完全に追いついた。
これなら時間内ギリギリだがウィルスコードを完全修正する事が出来る。
そう確信した時だった。
がさり、という物音が一方通行の耳に入った。
一方通行は視線だけを横に向けると、運転席のドアで挟まれて気絶していたはずの天井亜雄がいつの間にか一方通行の側まで近づいていた。
近づいているだけなら何も問題はないが彼の手には拳銃が握られていた。
「邪魔を・・・す、るな。」
血走った目で、天井亜雄が呻き声をあげる。
残りコードは二万三八九一。
まだ手を離すわけにはいかない。
モニタの警告文は数えるほどまでに減ったがこれが一つでも存在してはいけない。
お互いの距離は四メートル弱、外そうとしても外せる距離ではない。
今の一方通行は打ち止めの脳内の信号を操る為に、全力を注いでいるので「反射」に力を割けない。
「邪魔を、するな。」
今の一方通行はあのチャチな拳銃の弾が一発でも死ぬ。
生存本能が打ち止めから手を放せ、と告げる。
そうすれば一方通行は絶対に助かる。
だけど、それでも彼は打ち止めから手を放せなかった。
放せるはずがなかった。
残るコードは数はわずかに一〇二、警告ウィンドウはたった一つ。
「邪、ば、を・・・ごァああ!!」
絶叫する天井亜雄の震える手が握られた拳銃の引き金を引く。
乾いた銃声、それが耳に入る前にハンマーで殴り飛ばすような衝撃が一方通行の眉間に襲いかかった。
頭に受けた衝撃で、背が大きく後ろへ仰け反るがそれでも彼は手を放さなかった。
絶対に放さない。
「Error.Break_No000001_to_No357081.不正な処理により上位命令文は中断されました。
通常記述に従い検体番号二〇〇〇一号は再覚醒します。」
ポン、という軽い電子音と共に最後の警告ウィンドウが消滅する。
聞きなれた少女の声が聞こえると同時に一方通行は理解した。
危険なコードは全て、この手で上書きし終えた事を。
彼の手から力が抜けていく、銃撃の衝撃に浮いた身体がゆっくりと、ゆっくりと、温かい少女から離れていく。
宙にある一方通行は手を伸ばす、だが伸ばした手の先はもはや少女に届かない。
(まったく、考えが甘すぎンだよ。
今さら・・・・)
一方通行の意識が闇に落ちていきながら思った。
(誰かを救えば、もう一度やり直す事ができるかもしンねェだなンて)
「やった?どうして、ハハ。
どうして・・・・私は生きているのだ?」
額をぶち抜いた一方通行は一メートル近く後方へ飛んで仰向けに倒れていた。
この光景を見ていた天井は呆気に取られていた。
どういう訳か知らないが、今の一方通行は「反射」を使わなかった。
天井が使った弾は普通の弾とは違い学園都市の特注試作品だ。
それを額のど真ん中に受けたのだ、生きている訳がない。
「死んだ、な。
ハッ!最終信号は、ウィルスコードは!?」
天井は路上に倒れている死体から視線を外し助手席の上で意識を失っている少女へ目を向ける。
ウィルスが起動していなければ彼は破滅だ。
学園都市と敵対勢力、その双方から追われる身となってしまう。
「コード000001からコード357081まで不正な処理により中断されました。
現在、通常記述に従い再覚醒中です。
繰り返します、コード000001から・・・・・」
天井の全身の水分が、汗になって噴き出した。
ウィルスが起動していれば、最終信号はミサカネットワークを経由して一万人弱の「妹達」全員に「武器や能力を駆使して、手当たり次第に人間を殺せ」という命令文を送り込んだ後に、自分の心臓を自分で止めて死ぬはずだった。
それは最終信号経由で、暴走の取り消し命令を出させないための工作である。
にも拘わらず、最終信号はまだ生きている。
ウィルスは起動しなかった、それが何を意味するかを天井亜雄は知った。
そしてもうどうする事もできない事を知ってしまった。
「は、はは。
ぅ、あ、が、うォォアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
天井亜雄は絶叫して銃口を助手席で眠り続ける一人の少女に向ける。
天井は何も考えていない。
とにかく空になっても撃ち続けてやるという事しか考えていない。
炸裂する銃声、ただしその銃弾は少女の身体を貫かない。
「させるかよォ、くそったれがァ!!」
死体が起き上がった。
裂けた額からダラダラダラダラと血を流しながら天井の銃口を遮るように手を広げていた。
「反射」した弾丸は綺麗に銃口へ吸い込まれ、拳銃が内側から爆発した。
銃把を握り締めていた天井の手首がズタズタに引き裂かれる。
「う、ぐ・・・・ァあああああああ!?」
天井はザクロのように裂けた右手を左手で押えつつ、一方通行から距離を取る。
(くそ、特殊弾頭で額を撃ち抜いたのだぞ、どういう理屈で生き延びている!?)
天井が使った特殊弾頭の名前は「衝槍弾頭」という弾丸だ。
弾丸に特殊な溝を刻む事で、空気抵抗を逆手に取って衝撃波の槍を生み出す次世代兵器だ。
だが、これは弾丸の速度のほとんどが空気抵抗に食われてしまう事を意味する。
普通の弾丸と比較するとその誤差は〇.四秒に満たない誤差。
だがその誤差の間に打ち止めの治療を完遂し、彼は土壇場で「反射」を取り戻したのだ。
結果、速度の死んだ弾丸は一方通行の頭蓋骨に亀裂を入れたが、致命的な衝撃波の槍は防ぎ切った。
一方通行は幼い打ち止めを庇うように、額から流れる血も気にせずに天井亜雄の前に立ち塞がる。
天井は唯一使える左手で予備の拳銃を抜くがその手は小刻みに震えていた。
「ハッ、それは何をしているつもりなのだ?
今さら、お前のような者が。」
打ち止めを庇う一方通行を見た天井は半ばヤケクソのように言う。
「分かってンだよ。
こンな人間のクズが、今さら誰かを助けようなンて思うのは馬鹿馬鹿しいってコトぐらいよォ。
まったく甘すぎだよな、自分でも虫唾が走る。」
甘いだけで優しくない芳川桔梗。
誰かを守ろうとした男を一瞬のためらにもなく鉛弾をぶち込んだ天井亜雄。
一万人もの人間を殺しておきながら今さら人の命は大切なんです、と言い出す一方通行。
こんな腐った世界の人間が今さら人に救いを求めるなんて間違っている。
一方通行はそんな事くらい分かっている。
だからこそ彼は言った。
「けどよォ、このガキは関係ねェだろ。
たとえ、俺達がどンなに腐っていてもよォ。
誰かを助けようと言い出す事すら馬鹿馬鹿しく思われるほどの、どうしよォもねェ人間のクズだったとしてもさァ。
このガキが、見殺しにされて良いって理由にはなンねェだろうが。
俺達がクズだって事が、このガキが抱えているモンを踏みにじっても良い理由になる筈がねェだろうが!」
一方通行は己の血で視界を赤く染めながら叫ぶ。
打ち止めは誰かに助けてもらわなければいけないのだ。
一方通行や天井亜雄と違って、彼女にはまだそれくらいのチャンスが残っているはずなのだ。
あの「実験」を止める為にやってきた二人の無能力者。
一人は何の理由も目的もなく、ただ傷つけられる妹達を助ける為に立ち上がったあの男。
一人は自分の力が必要な人がいればその人を全力で助けると言ったあの男。
この二人の考えは全く違う物だ。
だが、根本的な所は一緒なのだ。
この世界には主人公なんていない。
都合の良いヒーローなんてどこにもいない。
それでも大切なものを失いたくなければなるしかないのだ。
無駄でも無理でも分不相応でも、自分のこの手で大切なものを守り抜くような存在に。
初めからヒーローになれるような人間はいない。
だからこそその場に居合わせた人間がやらなければならないのだ。
主人公のような行いを。
「確かに俺は一万人もの妹達をぶっ殺した。
だからってな、残りの一万人を見殺しにして良いはずがねェンだ。
ああ綺麗事だってのは分かっている。
今さらどの口がそンな事言うンだってのは自分でも分かっている!
でも違うンだよ!
たとえ俺達がどれほどのクズえも、どンな理由を並べても、それでこのガキが殺されて良い事になンかならねェだろォがよ!!」
がくん、と一方通行の足から力が抜ける。
それでも倒れる訳にはいかない。
絶対に。
「つ、がァあああ!!」
一方通行は身を低く落すと弾丸のような速度で天井亜雄の元へと跳んだ。
圧倒的優位に見えて実は追い詰められていたのは一方通行の方だった。
長期戦は期待できない。
だから最短距離を直線という一番単純な攻め方しか選べなかった。
この一撃で決めなければ意識が落ちてしまう。
その前に勝負をつけないといけない。
天井もそれが分かっているのか逃げに徹した。
後ろに逃げてもすぐに追いつかれる。
だからこそ天井は横に思いっきり跳んだ。
ついさっきまで天井がいた所に悪魔の爪が薙ぎ払われる。
一方通行は目だけを動かして左を見る。
視界の中に天井亜雄がいた、思いっきり横に飛んだのか無様に転がっている。
一方通行は身体ごと振り返ろうとした。
だが足がもつれたかのようにバランスを崩した。
慌てて踏み止まろうとしたが足が動かなかった、額の傷が一際大きく痛んだと思ったら、次の瞬間には痛みの感覚が消えていた。
どさり、という音を聞いて、自分がようやく地面に倒れた事を知った。
横倒しになった視界に、守るべき少女の姿が映ったが、意識は深い闇へと呑み込まれた。
天井亜雄は道路に倒れた一方通行を呆然と眺めている。
力なく笑うと爪先で一方通行の頭を小突きして「反射」が効いているか確かめる。
(「反射」は無効、か。
できるならこんなものに手を出したくはないが、しかし万が一再び立ち上がったら、次は絶対に避けられない。)
天井亜雄は一方通行の頭に銃口を向けて一方通行を見て軽く笑った。
「ハッ、結局お前にはヒーローみたいに決着を着けるほどの力はなかった訳だ。
無理もない我々みたいな人間はみんなそうだよ。
みんな、そんなものなんだ。」
天井は引き金にかけた指に力を込める。
パン!、という乾いた銃声が響いた。
その銃声は天井の持つ銃から響いたものではなかった。
天井の背中、腰の辺りから灼熱感が襲いかかった。
天井はゆっくりと振り返る、否、ゆっくりしか身体は動かなかった。
少し離れた所に中古のステーションワゴンが停まっておりその車のドアは開いていた。
そこから白衣を着た女が降りてくる、手には護身用の拳銃が握られていた。
「芳川、桔梗。」
その女の名前を言って天井は地面に倒れた。
倒れた天井はゆっくりと目を開けると、その視界の先には白衣を着た女性がいた。
芳川桔梗。
彼女は天井に背を向けてステーションワゴンの後部ドアを開けて何かを操作していた。
車内に収められていた装置に見覚えがあった、培養器だ。
あの中には最終信号が入っていると天井は予想して立ち上がろうとするが上手く身体が動かない。
かろうじて上体だけを地面から起こすと震える手で拳銃を構える。
ふと、桔梗は振り返った。
作業は終えたのか後部のドアを閉めて護身用の拳銃を天井へ向ける。
彼女の顔には笑みが浮かんでおり銃を天井に向けたままゆっくりと天井の元に近づく。
「ごめんなさいね、わたしってどこまでいっても甘いから。
急所に当てる度胸もないくせに見逃そうとも思えなかったみたい。
意味もなく苦痛を引き延ばすって、もしかしたら残酷なほど甘い選択だったかもしれないわね。」
「どうやって、この場所を・・・・?」
「携帯電話のGPS機能なんて何年前の技術かしらね。
貴方、気がついていなかったの?
その子の携帯電話、まだ通話中なのだけれど。
ここでの事は電話越しに拾った音でしか分からないけど、少なくとも「外」で騒ぎが起きている様子はないわね。
あと、その子なら心配ないわ。
知り合いに凄腕の医者がいてね、「冥土帰し」と呼ばれているぐらいだし、彼の腕なら何とかなるでしょう。」
天井の拳銃を見ても少しもひるむことなく近づいてくる桔梗を見て天井は言った。
「何故・・・理解できない。
それはお前の思考パターンではない。
常にリスクとチャンスを秤にかける事しかできなかったお前の人格では不可能な判断だ。」
天井は「実験」を通じて桔梗の人格を多少なりとも理解していた。
理解してたからこそ桔梗がこんな行動をとるのは天井には信じられなかった。
「答えるとすればわたしはその思考パターンが嫌いだった。
一度でいいから甘いのではなく優しい行動をとってみたいって。
信じられないでしょうけど、わたしはねこんな研究者になんてなりたくなかったの。」
彼女のその才能を知るからこそ、天井はその言葉に驚愕した。
「わたしがまだ研究者になりたてのころにね、親を通じて「外」から一人の男の子がわたしの所にやってきたの。
その子はこの世の全てに絶望してそれはもう凄い状態だったのよ。
なにせ、元の黒髪が白髪に変わるくらい絶望してたのだから。
何とかその子は生きる気力を取り戻したけどそれでも世界や他の人間を軽蔑するような目をしていた。
その時ほどわたしは教師になりたいと思ったわ。
この子の為に世界は、人はまだ貴方の思うようなモノじゃないと。」
結局なれなかったけど、と桔梗は力なく笑いながら言った。
そして互いの距離は一メートルにまで近づくと桔梗は片膝をついて地面に座り込む天井に目線を合わせる。
「きっと、まだ未練が残っていたのでしょうね。
わたしは一度で良いから甘いのではなく優しい事をしてみたかった。
たった一人の・・・いいえ、たった二人のために奔走するような先生のような、そんな行動を示したかっただけよ。」
二人の銃口がそれぞれの胸へ押し付けられる。
「終わりよ、天井亜雄。
一人で死ぬのが恐いでしょう、ならば道連れはわたしを選びなさい。
子供達に手を出す事だけは、私が絶対に許さない。
この身に宿る、ただ一度の優しさに賭けて。」
それを聞いた天井はふん、と笑った。
「やはり、お前に「優しさ」は似合わない。
お前のそれは、もはや「強さ」だよ。」
胸を打つ銃声は二つ。
身体を突き抜けた弾丸が、天井と桔梗、それぞれの背中から飛び出した。
二つの銃声が響いた後、何台かの黒いワゴン車がやってきて桔梗の乗ってきたステーションワゴンの近くで止まる。
その中からサブマシンガンを持ち特殊部隊のような装甲服に覆面を被った人が何人も降りてくる。
その数、十五人。
彼らの任務はここにいる筈の最終信号の回収、及びそれに関わった人物の処理だった。
周りに人がいない事は調査済み、救急車のサイレンが聞こえるがそれが此処に到着する前に処理、回収すればいい話だった。
情報では一方通行は能力を使用できないほどの重体だと聞いている。
能力の使えない一方通行などただの学生、彼らは簡単な仕事だと思っていた。
彼らは天井、桔梗、そして桔梗の腕を掴みながら倒れている一方通行に近づこうとした。
次の瞬間、どこから飛んできたのか覆面の彼らと一方通行達との間に鉄の矢が何本も飛んできた。
まるでこれ以上は先に進ませない、と言わんばかりだ。
彼らは周りを見渡すがそれらしい人物はどこにもいなかった。
視線を再び一方通行達に向けた瞬間だった。
そこに漆黒の服を着た、白髪の男、麻生恭介が地面にめり込んでいる矢の前に立っていた。
彼らはすぐにサブマシンガンを麻生に向ける。
麻生はサブマシンガンを向けられても表情一つ変える事無く、後ろで倒れている一方通行に視線を向ける。
そして小さく笑うと視線を再び前へと向ける。
「何が目的で此処に来たかは聞かないでおこう。
どうせロクでもない理由だってことは分かっている。」
麻生がそう言った瞬間、十五人が持つサブマシンガンの引き金が一斉に引かれる。
何百発もの銃弾が麻生に向かって放たれるが、その弾丸の速度は徐々に落ちていき最後には麻生の目の前で止まる。
その光景を見た覆面達は驚愕の表情を浮かべる。
「さて、今日は色々あったからもう能力使用時間は五分くらいしか残っていないんだ。」
誰かに聞かせる訳でもなく独り言のように呟きながら麻生は一歩ずつ前に進む。
「だから、手加減なんて出来ないから覚悟しろよ。
殺しはしない。
だが、死んだ方がマシだと思える体験をさせてやるよ。」
「手術完了。
うん、みんなご苦労様といったところだね?」
その声で芳川桔梗は目が覚めた。
蒼いタイル張りの床や壁が見え、天井だけは真っ白で天井近くの壁にはガラスの窓がズラリと並んでいる。
緑の帽子で髪を完全に包み、同色の大きなマスクで口よ鼻を塞いだ中年の男が桔梗の顔を覗き込んだ。
そしてようやくここがどこなのか分かった。
「なんて趣味の悪い。
部分麻酔で心臓手術をするだなんて。」
「負担は軽い方が良いだろうからね?」
「しかし、そうすると、わたしは生き残ったのね。」
「ああ、一方通行のおかげでな。」
桔梗の耳に聞き慣れた声が聞こえた。
視線を冥土返しが覗き込んでいるとは、逆の方に向けるとそこに麻生が桔梗の顔を覗き込んでいた。
「あいつ、意識を失っているのにお前の身体に触れて血流操作していたんだ。
おかげで本来は即死の筈だったのだが今はこうして生きているという訳だ。」
「彼はどうなっているの?」
桔梗の問いかけに冥土返しが答える。
「頭蓋骨の破片が前頭葉に刺さっているみたいだね?
僕もこれから応援に向かうけど前頭葉が傷ついているから言語機能と計算能力、この二つには影響が出るね?」
それは一方通行にとって致命的とも言える。
計算能力を失えば「向き」の操作をする事が出来なくなってしまう。
「まぁ、問題ないだろうさ?
どうにもならない事をどうにかするのが僕の信条でね?
彼の言語機能と計算能力は必ず取り戻す、必ずだ。」
桔梗の考えている事に気づいたのか、彼はいつものふざけた語尾上がりとは違いはっきりと桔梗に言った。
「キミの能力で治すの?」
「まさか、俺はそんな事はしない。
あの傷はあいつがこれまでに犯してきた罪を形にしたようなモノだろ。
もし俺が治すといってもあいつは断ると思うぜ。」
じゃあどうやって、と桔梗は考えようとして彼は言った。
「一万人の脳、つまりミサカネットワークにリンクさせれば一人分の言語や演算くらい余裕で補う事もできるだろうからね?
ああ、あとガラス容器に入っていた女の子の事だけどあの子の事なら心配ないよ。
ウチにも似たような子を預かっているからね。」
「けれど、ミサカネットワークは同じ脳波を持つ者だけで作られるものなのよ。
波長の違う一方通行が無理にログインすれば彼の脳が焼き切れてしまう。」
「ならば、双方の波長が合うように変換機を用意すれば良いね?」
彼は変然とした顔で言う。
桔梗は改めて思い知らされた。
彼が患者を救う為なら何でもするその覚悟を。
「さて、桔梗。
お前はこれからどうする?」
「どうしようかしらね。
この分だと実験は凍結じゃあなくなって完全に中止でしょうしね。」
桔梗はさほど困り果てたような表情を浮かべずに逆に少し笑みを浮かべながら言った。
それを見た麻生も小さく笑う。
「なら、手始めに退院したあいつらの先生にでもなったらどうだ?
あいつらには「常識」の「じ」も知らなさそうだしな。」
それを聞いた桔梗は一瞬だけ驚いたような表情をするが小さく微笑んだ。
「そうね、それもいいかもしれないわね。」
「それには早く傷を治さないとな。」
「あら、キミが治してはくれないの?」
「お前は今日までずっと研究室にこもっていたんだろう?
だったらちょうどいい機会だからゆっくりと身体を休めておけ。
退院したら研究者よりも疲れる仕事が待っているんだからな。」
「キミは手伝ってくれる?」
桔梗の問いかけに麻生は困ったような表情をしてから小さくため息を吐いた。
「気が乗ったらな。」
ただその一言を聞いた桔梗は小さく微笑んで目を閉じた。
それを確認した麻生と医者は手術室から出て行く。
麻生は医者とは違い私服で手術室に入っていた。
本来なら許される事ではないし何より部外者が勝手に入っていい所ではない。
だが、医者が彼の入出を許可した。
そして麻生は残り少ない能力時間を使い全身の細菌を除菌して手術室に入った。
「じゃあな、後は任せたぞ。」
「よく言ってくれるね?
僕には一方通行の後にまだ十五人の患者の治療が待っているというのに。」
その十五人とは言うまでもなくあの覆面を被った人達だ。
医者は彼らの容体を思い浮かべながら麻生に言った。
「君がやったんだろう?
全く生きているのが不思議なくらいだね?
腕や足がねぎれ曲がっていたり、顔が歪んでいる者もいた。
やりすぎじゃあないかい?」
「あいつらは一方通行が命を懸けて守ろうとした者を拉致しようとして、あまつさえ桔梗を殺そうとしたんだ。
本当なら全員死んでもおかしくなかったぞ。」
そう言いながらもこの冥土返しのいる病院に運んだのは彼が前に比べて優しくなった証拠だろう。
「まぁ彼らがここに運ばれた以上、僕は全力で彼らを治す。」
「そうしてやってくれ。」
麻生は冥土返しとは逆の方に歩いていき、冥土返しは患者が待っている手術室まで歩いて行った。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第41話
学園都市には窓のないビルがある。
ドアも窓も廊下も階段もない、建物として機能しないビル。
大能力の一つである空間移動を使わない限りは出入りできない密室の中心に、巨大なガラスの円筒器は鎮座していた。
直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスの円筒の中に赤い液体が満たされている。
広大な部屋の四方の壁は全て機械類で埋め尽くされ、そこから伸びる数十万ものコードやチューブが床を這い、中央の円筒に接続されていた。
赤い液体に満たされた円筒の中には、緑色の手術衣を着た人間が逆さで浮かんでいた。
学園都市統括理事長、「人間」アレイスター。
それは男にも見え女にも見え、大人にも子供にも見え、聖人にも囚人にも見える。
その「人間」は自分の生命活動を全て機械に預ける事で、計算上ではおよそ一七〇〇年もの寿命を手に入れていた。
(さて、そろそろか。)
アレイスターがそう思った瞬間、タイミングを合わせたように円筒の正面に、唐突に二つの人影が現れた。
一人は小柄な空間移動能力者の少女、そしてもう一人は彼女にエスコートされるように手を繋いだ大男だ。
空間移動能力者は一言も言葉を発しないまま会釈をして虚空へと消える。
連れてこられた大男は短い金髪をツンツンに尖らせ、青いサングラスで目線を隠した少年だった。
アロハシャツにハーフパンツという、こんな場所にそぐわない格好している。
土御門元春、イギリス清教の情報をリークする学園都市の手駒だ。
「警備が甘すぎるぞ、遊んでいるのか。」
スパイである土御門は雇い主であるアレイスターに向かって苛立った口調で言った。
スパイであるものの、土御門はアレイスターの従属的な部下ではない。
自分の不満を隠そうとしない土御門に、アレイスターは淡く淡く笑った。
「構わぬよ、侵入者の所在はこちらでも追跡している。
これを使わぬ手はない。
若干ルートを変更するだけで、プラン二〇八二から二三七七までを短縮もでき・・・・」
「言っておくが。」
土御門は遮るようにバン、と手の中のレポートをガラスの円筒に押し付ける。
クリップで留められた隠し撮りの写真には侵入者の女の姿が写っている。
歳は二〇代も後半で金色の髪と別の国の血を引いた褐色の肌が特徴的な女だ。
髪の手入れを怠っているのか安っぽい演劇用のカツラのようにあちこちの毛が荒れて飛び跳ねている。
服装は漆黒のドレスの端々に白いレースをあしらった、ゴシックロリータ。
ただしドレスの生地は擦り切れ、レースもほつれてくすんだ色を見せている。
「シェリー=クロムウェル。
こいつは流れの魔術師ではなく、イギリス清教「必要悪の教会」の人間だ。
アウレオルスの時のようにいかないぞ。」
土御門は苛立った様子で言葉を続ける。
「お前とウチのお姫様と結んだ「協定」を疑問視する者もいる、どこまで役に立つ分からん。
オレも教会に潜ればある程度の人心を操作する事もできる。
だがな、それにも限度ってものがあるんだ。
派閥や勢力が異なる所までは手を伸ばせない。
伸ばしたとしてもどこかでこちらの意図的に操作した情報は歪曲してしまう。
それにアウレオルスの時でさえ散々あちこちに手を回した。
魔術師は同じ魔術師で裁かなければならない。
これはオレよりもお前の方が分かっている筈だ。」
上条当麻と麻生恭介はこの一ヶ月で何人かの魔術師と戦った。
しかし、これらの戦いには事前のやり取りがあった。
アウレオルスなどは教会に所属しない流れの魔術師なのでそれほど波風は立たなかった。
だが、今回は意味の重さが違う。
今回侵入してきた「イギリス清教独自の術式」を抱えた魔術師で取り引きもない。
シェリー一人の独断かは判断できないがこれを勝手に倒すのはまずい。
下手をすればイギリス清教と学園都市の間に亀裂が走り、最悪の場合は科学世界と魔術世界の戦争となるかもしれない。
「今回の件でもよほど間抜けな選択をしない限り、火種が燃え上がる事はないだろうが万が一のことがある。
オレはシェリーを討つぞ。
魔術師の手で魔術師を討てば少しは波も小さくなる。
それからスパイはこれで廃業だ。
ここまで派手に動けば必ず目をつけられるからな。
全く、心理的な死角に潜ってこそのスパイだというのに、四六時中監視されて仕事が・・・」
「君は手を出さなくて良い。」
遮るようにアレイスターの一言に、土御門は一瞬凍りついた。
何を言っているのか、理解できなかった。
「本気で言っているのか?
可能性は決してゼロではないんだぞ。
手を間違えれば戦争が起こってしまうかもしれないというのに!」
確かによほどの事が起こらなければ全面戦争にはならない。
しかし、逆を言えばよほどの事があれば戦争が起きてしまうのだ。
国家と国家の戦争ではなく「科学」と「教会」、二つの世界の大戦だ。
どちらの間に圧倒的な戦力差はない。
つまり戦争が起きれば泥沼のように長引いてしまう。
「アレイスター、お前は何を考えている?
上条当麻に魔術師をぶつけるのがそんなに魅力的か。
あの右手は確かに魔術に対するジョーカーだが、それでもアレだけで教会全体の破壊などできるはずないだろう!」
「プラン二〇八二から二三七七まで短縮できる、理由はそれだけだが。」
それを土御門に言ったアレイスターは少し、ほんの少しだけ笑みを浮かべてこう告げた。
「それに侵入してきた魔術師にぶつけるのは幻想殺しだけではない。」
土御門はそれを聞いて言葉を失ってしまう。
アレイスターは上条当麻だけを魔術師にぶつけないと言った、そして土御門はすぐに気付いた。
アレイスターはあの麻生恭介も利用しようとしている事を。
土御門はさっきよりも苛立った口調でガラス容器を強く叩きつけて言った。
「お前はあの麻生恭介がどれだけイレギュラーな存在であるか分かっている筈だ!
あいつの持っている能力は魔術でも超能力でもない、どちらでも該当しない未知の力だ!
その力は本人にも分かっていない力だぞ。
イギリス清教、いや魔術側の人間は麻生の能力を危険視している。
麻生とシェリーと戦えばどういう結果が起こるかオレにも想像できない!!」
「確かに麻生恭介という存在はイレギュラーのようなものだ。
この私ですら彼の存在を解明するのに時間がかかった。」
「お前はあいつの事について何か知っているのか。」
「全てではないが君よりは知っている。
彼は星の守護者、ただそれだけだ。」
「星の守護者だと・・・・」
土御門はその単語の意味を考える。
星の守護者という事は文字通り星を守護する者という事なのだろうか?
だが、麻生の異質な力が星の力を使っているというのなら多少なりとも納得できる。
それでも星というあまりにも人間が扱う領域を超えた力をなぜ麻生が扱えているのか、疑問点を出せばキリがない。
もしかするとアレイスターはその事について知っているのかと土御門は考えた時だった。
「言った筈だ、全てではないと。」
土御門の考えを読んだかのようにアレイスターが答える。
麻生についてはまだ分からない点が多いがこれだけは分かる。
目の前の男は未知の力を持つ麻生恭介すらも利用するつもりなのだと。
そしてその利用し行きつく先、それは。
「虚数学区・五行機関の制御法。
そこまでして自分のモノにしたいのか、貴様は。」
虚数学区・五行機関。
学園都市最初の研究機関と言われている。
現在の技術でも再現できない数多くの「架空技術」を有しており、学園都市の運営を影から掌握しているとも噂される。
「外」の教会や魔術師はこのビルを指していると思っているようだが違う。
その存在は誰も制御できず何の為にあるのかも分からないまま潜んでいる。
学園都市を治めるアレイスターはあらゆるものを利用してでも五行機関の御し方を掴まなければならない。
いや、すでにアレイスターはおそらく御し方自体は既に掴んでいる。
ただし、それを実行するための材料が、キーが足りないのだ。
そして、そのキーが上条当麻だろう。
麻生恭介は膨大な「手順」を短縮する為のいわば引き立て役のようなモノだろう。
土御門はあの麻生恭介を引き立て役にするこの男に恐怖感を覚える。
できればアレイスターの命令を無視して独断でシェリーを討ちたい所だが、それも叶わない。
彼一人ではこのビルから出る事もできない。
出口もないし、ドアも窓も廊下も階段もない、生活に必要な大気すら施設内で生成しているため通気口もない。
それでいてこのビルは、火力だけなら核ミサイルの爆風を受けても倒れないほどの強度を誇る。
「外と連絡がつくはずもない、か。
おいアレイスター、お前の有線で外の空間移動能力者を呼び出せ。
さもないとそこらに伸びているコードを片っ端から引き抜くぞ。」
「構わんよ、ストレスを解消したいのならば好きなだけやるといい。」
土御門は苦虫を噛み潰したような顔をした。
薄々勘付いていたが、この部屋にあるチューブやコード、機械類はダミーなのだろう。
土御門は舌打ちをしてアレイスターの浮かぶ円筒器に背を預けて聞いた。
「お前、本当に戦争を未然に回避する自信があるのだろうな?」
「その自身は君が持つべきだろう。
舞台裏を飛び回るのは君の役割だ。
なに、君の努力次第では水面下の工作戦にしても死者を出さずに済むかもしれんぞ。」
ちくしょうが、と土御門は吐き捨てる。
詰まる所、彼はいつもそんな仕事ばかりしていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第42話
病院から寮に帰っている途中、麻生は久々に能力をフルに使ったのか酷い睡魔に襲われていた。
加えて昼間に会った愛穂には明日の始業式に遅刻したら罰則を与えるじゃん、と爽やかな笑顔で言われ寝坊が出来ない状況である。
一刻も早く寮に帰って寝ようと歩いている時だった。
「久しぶりだな、麻生恭介。」
いつの間に現れたのか、前に出会った喋る猫が麻生の二メートル先に座っていた。
「この前の猫か。
悪いが俺は今非常に眠い。
話ならまた今度にしてくれ。」
猫を見た麻生は少しだけ睡魔が晴れたがそれでも眠い事には変わりない。
欠伸をかきながら猫の横を通り過ぎていく。
猫の横を通り過ぎた時、猫から麻生に話しかけてきた。
「いい顔になった。
どうやら吹っ切れたようだな。」
その言葉を聞いた麻生は足を止めて振り返り猫に視線を向ける。
さっきまでとは違い、眠たそうな顔が無くなり真剣な面持ちで猫を見ていた。
「今のお前ならもう迷う事はないだろう。」
「そう言えばお前に聞きたい事があった。」
「今は眠いのではなかったのか?」
猫はそう聞き返すが麻生は無視して話す。
「お前は一体何者だ。
あの時俺自身ですら気づいていなかった俺の迷いをどうして知っていたんだ。」
麻生が猫に問いただすが猫は麻生の眼を見ずに明後日方向に目を向ける。
まるで誰かからの視線に気づき睨み返しているかのように見えた。
麻生も猫の視線を追うかのように見るがそこにはビルが建ち上るだけで人影など見当たらない。
「奴らはもうじき行動を開始するだろう。
お前も充分に気をつける事だな。」
「あ?」
麻生は再び猫の方を見るがそこに猫の姿は見当たらなかった。
(奴らって一体誰の事なんだ。)
そう考えながら麻生はもう一度猫が見ていたであろうビルを見つめる。
やはりそこには誰の姿も見当たらず麻生は首を傾げて寮に向かって歩き出す。
寮に着いて自分の部屋に入ろうとした時、隣の部屋、つまり上条の部屋から何やら言い争う声が聞こえた。
(どうせ、当麻がまたインデックスに余計な事を言ったんだろう。)
再び睡魔がやってきて適当に考えながら麻生は部屋に入りすぐにベットに寝ころび睡魔に身をゆだねるのであった。
次の日、突然携帯の着信音が部屋に鳴り響き麻生は目を覚ます。
寝起きなので意識が朦朧になりつつも携帯をとりボタンを押して耳に当てる。
「恭介、おはようじゃん。」
愛穂の声を聞いた麻生は一瞬、デジャブを感じた。
「愛穂さんが恭介が寝坊しないようにモウニングコールをしてあげたじゃん。」
「お前、昨日遅刻したら罰則を与えるとか言っていたよな。
なのにこんなことをしたら意味がないんじゃないのか?」
「ウチは教師じゃん。
生徒が遅刻すると分かっていて何もしないというのもおかしいじゃん。
そう言う事だからこれで遅れたら恭介に罰則を与えるから覚悟するじゃん。」
そう言って愛穂は勝手に電話をかけてきて勝手に電話を切った。
麻生は時計を見ると七時三〇分。
ゆっくり準備しても充分に間に合う時間だ。
欠伸をかきながらベットから起き上がり風呂に入る。
上がった後は制服に着替え、鞄に必要最低限の物を入れていつもより早い登校を始める。
校門が見えてくるとその前に緑のジャージを着た愛穂が生徒にあいさつしながら立っていた。
「お!麻生じゃん。
遅れずに登校できたじゃん。」
「あんたの罰則を受けるのは非常に面倒だからな。」
「それなら遅刻したら罰則するような制度にする?」
「そんな事をしたら俺は確実に学校をやめるぞ。」
他愛のない話をして麻生は下駄箱で靴を履きかえて教室に向かう。
自分の教室について扉を開ける。
扉を開けた瞬間に教室の中にいた生徒が一斉に麻生の方に見た。
どの生徒も信じられないものを見ているかのような目をしていた。
それもその筈、この教室で麻生は一番遅刻をしている生徒だ。
上条、土御門、青髪ピアス、麻生、この四人はこの学校の先生の頭痛の種の一つだ。
入学式ですら遅刻ギリギリで登校してそれ以外の日でも遅刻なんて日常茶飯事、そんな麻生が始業式に間に合いあまつさえ時間に余裕をもって教室に入ってくるなど、麻生の学校での日常を知っている者からすれば、まさに信じられない行動なのだ。
そんな生徒達の心情を知らない麻生は奇妙な目で見られている事に気づき、ゆっくりと全体を見渡して言った。
「俺の顔に何かついているのか?」
麻生がそう聞くと青髪ピアスは麻生に近づいて聞いてきた。
「麻生はほんまに麻生か?」
「何を訳の分からない事を言っているんだ。」
「遅刻で有名な麻生がこんな時間に来るなんてありえへんからな。
もしかしたら麻生の偽物が来たんやと思てな。」
青髪ピアスの言葉を聞いてようやく事情を呑み込めた麻生は大きくため息を吐く。
「いつもより早く起きて暇だったから登校しただけだ。」
そう言って麻生は自分の机に向かって椅子に座る。
あの麻生がこんなに早く来るなんて珍しい事があるんだな、という誰かの声が聞こえそこから世間話が再開される。
麻生は始業式が始まるまで窓の外を眺めていようと思った時だった。
「珍しい事もあるのね。」
麻生は声のする方に視線を送ると麻生の前の席に吹寄制理が座っていた。
麻生はそれを確認すると視線を再び窓の外へとやる。
「どうせ今日も遅刻ギリギリかそれとも遅刻するか。
どちらにしても小萌先生を困らせるような事をすると思ったんだけど。」
「さっきも言っただろう。
早く起きてしまって暇だから来たって。」
「貴様の私生活の事は全く知らないけど、早く起きても二度寝する奴かと思ったんだけど。」
確かに麻生は寝れるのなら二度寝をする。
だが、今日を遅れてしまったら愛穂からの罰則が待っている。
そんな如何にもめんどくさそうなイベントをわざわざ受ける麻生ではないので早く来た。
しかし、この事を話せば耳のいい青髪ピアスに聞こえ根掘り葉掘り聞いてくることは間違いない。
それもそれで面倒なので適当に言葉を濁す。
「たまには余裕の時間を持って行動するのもいいかと思っただけだ。」
「もしかして風邪でも引いている?」
麻生らしからぬ言葉を聞いた制理は本気で心配したような表情をしている。
ため息を吐いた麻生は視線を制理の方に向けた所で、制理の首に茶色い色のした小さな丸い物が貼ってあった。
「また健康商品を買ったのか、お前。」
「うっ、別にいいでしょう!!
何を買っても私の勝手でしょうが!!」
「それはあれか肩とかに張ると血行が良くなって肩こりがとれるとかそういうやつか。」
「何で貴様が知っているのよ!!」
「適当に言っただけだが・・・・・それで効果は出ているのか?」
「・・・・・・・」
「つまりまたハズレを引いたと。」
麻生と制理が会話?をしているとその話を聞いていた青髪ピアスが二人に近づいて言った。
「もしかして吹寄が肩こるのはその豊満な胸がえい・・・ぶばぁ!!!!」
青髪ピアスが何かを言い終える前に麻生の左手と制理の右手が青髪ピアスにクリティカルヒットする。
その時、上条当麻が緊張な面持ちで教室に入ってきた。
彼は記憶喪失なので自分のクラスでの立ち位置など全く分からない。
どうやって記憶を失っている事を気づかれずにやり過ごすかを考えている時だった。
教室に入った瞬間に前を見ると一八〇センチを越す長身が上条に向かって飛んできていた。
「へ?」
訳が分からないまま青髪ピアスの下敷きにされる上条。
学校でもどこでも不幸な立ち位置は変わりない事を知った上条だった。
「はいはーい、それじゃさっさとホームルーム始めますよー。
始業式まで時間が押しちゃっているのでテキパキ進めちゃいますからねー。」
小萌先生が入ってきた頃にはさっきまでの騒動が嘘のように静まり生徒のほとんどが着席していた。
「ありゃ?先生、土御門は?」
麻生に自分の座席を聞いた上条(ちなみに上条の席は麻生の右隣)は教室に土御門の姿が見えないので小萌に聞く。
「お休みの連絡は受けていませんー。
もしかしたらお寝坊さんかもしれませんー。
えー、出席を取る前にクラスのみんなにビッグニュースですー。
なんと今日から転入生追加ですー。」
おや?、と麻生の除くクラスの面々の注目が小萌先生に向く。
ちなみに麻生の視線は窓の外だ。
「ちなみにその子は女の子ですー。
おめでとう野郎どもー、残念でした子猫ちゃん達ー。」
おおおお!!、とクラスの面々がいろめき立つ。
そんな中、上条は一人だけ嫌な予感を感じながら転校生について考えていた。
(小萌先生繋がりなら姫神辺りが怪しい。
だが、年齢詐欺した御坂とか神裂が突撃してきそうだな。
いやいや、一方通行の本名が鈴科百合子ちゃんという名前で転校してくるとか。
もしかしたら、一万人弱もの妹達が押しかけてきて、一気に生徒総数が一〇倍以上に膨れ上がったりするかも。
最悪、羽を隠した天使が降臨してくるかもしれない。)
そんなありえない可能性の考えている上条は思った。
もし本当にそうなったら思いのほか楽しくなるのでは?と。
「い、いけない!それはちょっと楽しそうだと思った自分がいけない。」
「何を馬鹿な事を言っているんだ。」
横から鋭いツッコミが飛んでくる。
「とりあえず顔見せだけですー。
詳しい自己紹介とかは始業式が終わった後にしますからねー。
さあ転入生ちゃん、どーぞー。」
小萌先生がそんな事を言うと教室の入り口の引き戸がガラガラと音を立てて開かれた。
そこから三毛猫を抱えた白いシスターが突っ立っていた。
「なぼあっ!!!」
予想外といえば予想外の展開に上条の思考は真っ白になる。
麻生はチラリとインデックスに視線を向けて疲れたような溜息を吐いた。
クラスの面々も困惑している。
なんせ、着ている服が普通の制服ではない。
ありゃ一体どこのミッションスクールなんだ?、という感じのヒソヒソ声があっという間に教室中に広まっていく。
そんな中、インデックスは全くいつも通りだった。
「あ、とうまだ。
それにきょうすけもいる。
やっぱりここがとうま達が通うがっこーなんだね。
ここまで案内してくれたまいかには後でお礼を言っておいた方がいいかも。」
彼女の声を聞き、クラス中の皆が一斉に上条と麻生へ視線を集中させる。
麻生はまた勝手に巻き込まれた、と一人呟いている。
「あ、あれ?なのですよー。」
転入生を紹介した小萌先生もドアの前に立つインデックスの姿を見て凍りついている。
「ちょ、待って。
小萌先生、これは一体どういう・・・・?」
上条の声でようやく我に返る小萌先生。
「シスターちゃん!全くどこから入ってきたんですか!
転入生はあなたじゃないでしょう!?
ほら出てった出てったですーっ!」
「あっ、でも、私はとうまにお昼ご飯の事を・・・・」
インデックスは何かを訴えていたが小萌先生は聞く耳を持たずにインデックスの背中を押して教室から追い出す。
上条は反射的にインデックスを追いかけようとしたが、小萌先生の大声と泣きそうな顔をされたので追いかける事が出来なかった。
クラス中が唖然としている中、制理は麻生に近づき聞いてくる。
「あの女の子、知り合い?」
「ノーコメントでお願いする。」
ちなみに本当の転入生は姫神秋沙だった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第43話
教室にインデックスがやってくるという摩訶不思議なイベントが終え、生徒達は体育館で始業式を行うので移動する事になった。
麻生はさぼろうかと思ったが、体育館に自分の姿がいない事を愛穂にばれれば罰則を与えてきそうなので仕方なく向かう。
「あっ、麻生ちゃんー!」
体育館に向かっている途中で小萌先生が麻生の名前を呼びながらこっちに走ってきた。
「麻生ちゃん、上条ちゃんはどこに行ったか知っているですか?」
「いいえ、知りません。」
「う~ん、体育館でも姿が見えなかったですし、もしかしたらシスターちゃんを探しているのかもしれないですね。」
「というより、それしか理由はないと思いますよ。」
突然教室にやってきたインデックスだが彼女はまだこの科学の街に慣れていない。
下手をすれば学校から上条の家までの帰り道で何か面倒事が起こる可能性もある。
上条の性格を考えるとインデックスを探しに行っているのだろう。
小萌先生は少しだけ考えた後、申し訳なさそうな顔をして麻生に言った。
「あの麻生ちゃん、上条ちゃんを探すのを手伝ってくれないですか?」
「何で俺なんですか。
他の先生に頼んだらいいんじゃないですか?
何より俺はこれから始業式に出ないといけませんから、校舎をうろついている所を他の先生に見つかったら俺が怒られるんですよ。」
「確かに生徒にお願いするのは間違っていると先生も思うのですよ。
ですけど、此処に上条ちゃんがいないという事はまだシスターちゃんを見つけていないという事です。
シスターちゃんは何だか人には言えない事情を持っている人です。
そんなシスターちゃんが私以外の面識のない先生に見つかったら色々大変な事になるのです。
シスターちゃんを見つけるにしろ上条ちゃんを見つけるにしろどちらかを見つけないと話にならないのですよ。
麻生ちゃんはシスターちゃんと面識があるようですし、捜索を手伝ってくれると先生は嬉しいですよ。」
確かに小萌先生の言うとおりだ、と麻生は思った。
インデックスは「外」の、正確には科学側とは真逆の魔術側の人間だ。
一応、ゲストIDがあるとはいえ校舎の中をうろついていたら他の先生に捕まり、最悪警備員に引き渡されるかもしれない。
そうなると話がややこしくなるだろう。
麻生は始業式に出るよりかは退屈しないだろうと考え捜索を手伝う事にする。
「じゃあ、とりあえず校舎の中を手分けして探すのです。
もし他の先生に見つかっても先生が怒られないようにちゃんと言っておくから大丈夫ですよ。」
そう言って麻生とは逆方向の方に走っていく小萌先生。
麻生も歩きながら校舎の中を捜索していく。
すると、食堂の方で何やら聞き覚えのある声がしたので麻生はそこに向かう。
食堂の中を覗くと上条がいてテーブルを挟んでインデックス、それに長いストレートヘアから一房だけ束ねられた髪が伸びており知的な眼鏡を掛けているが多少ずり落ちている女性が椅子に座っていた。
その光景を見た麻生はため息を吐いて上条達に近づいていく。
「お前、こんな所で何をやっているんだ。」
「うん?ああ、恭介か。
何をやっているってインデックスを探していたんだよ。」
「俺の眼には二人の女性と仲良くお話をしている様にしか見えないがな。」
「そう言うお前は何をしているんだ。」
「小萌先生に頼まれてお前を探しに来たんだよ。」
そこで上条はようやく今が始業式をやっている最中だと思いだした。
小萌先生の性格を考えると姿の見えない上条を心配して探しに来ると思った。
「あれ?そうだとどうして恭介が探しに来るんだ?」
「小萌先生はお前がまだインデックスを見つけていないと思ったんだよ。
インデックスは色々事情を抱えているだろ、そこに他の先生とかに見つかったら色々厄介だからな。
それで面識のある俺に捜索を手伝ってほしいと頼まれたから探しに来たんだよ。」
眼鏡をかけた女性もいるのでインデックスの事情については簡単に説明して此処に来た理由を言う。
それを聞いた上条は納得した顔をする。
そこで麻生はインデックスの隣に座っている女性に視線を向ける。
「さっきから気になっていたんだがその子は一体誰なんだ?」
座っている女性は麻生達が通っている高校の制服を着てはいなかった。
自分の事を言われた女性は少し困ったような顔をしながら答える。
「え、えっと・・・私は・・・・」
「ひょうかは私の友達だよ!」
「お前に友達がいるとはな。
これは驚きだ。」
「むっ、その言い方ちょっと失礼かも。
私にだって友達の一人や二人いるもん!」
「ほう、じゃあその子以外で友達の名前を言ってみろ。」
「え・・・えっと・・・・・・・・スフィンクス?」
「それは人間じゃない、あと疑問形で答えるな。」
自分の自己紹介をしようとしたがインデックスに言われてしまいどうすればいいのか分からないようだ。
オドオドしている女性を見た麻生はもう一度女性に聞いた。
「それであんたの名前は?」
「わ、私の名前は風斬氷華。」
「では風斬、この学校の制服を着ていないあんたがどうして此処にいるんだ?」
「えっと・・・・それは・・・・気づいたら此処に・・・・」
風斬が何かを言おうとしたがインデックスが風斬が困っているように見えたのか、麻生に噛みつくように風斬を弁護するように言う。
「きょうすけ、ひょうかがどうして此処にいるかなんてどうでも良いでしょう!
ひょうかが困っているでしょ!」
「案外、どうでもよくはないんだけどな。」
至極真面な質問をしているだけなのに、なぜか悪者扱いされる麻生は呆れたような表情をして、上条は上条でインデックスをなだめている。
とりあえず、麻生は上条を体育館に連れて行こうと思った時だった。
「上条ちゃーん!!
アナタ一体何をやっているんですかーっ!!
麻生ちゃんも上条ちゃんを見つけたら連れて戻るように言った筈です!!
それなのに楽しくお話しするなんて一体何をしているんですか!!」
小萌先生の叫び声に四人は一斉にその声のする方に振り向く。
小萌先生は怒りのあまり頭に血が上っているのか耳まで真っ赤に染まっていた。
「先生が上条ちゃんを心配して探しに来たというのにそんな中、上条ちゃんはモテモテ学園生活満喫中ですか!?
麻生ちゃんも麻生ちゃんもです。
上条ちゃんを見つけたのにその会話に交じって楽しそうにお話しているんですか!?」
「先生はこの状況を見て楽しそうに会話をしていると思いますか?」
「ええ、先生にはそう見えますよ!!」
駄目だこりゃ、と麻生は思った。
小萌先生は二人の顔を見比べながら話を続ける。
「大体ですね、なんだって上条ちゃんの周りにはこう女の子がごろごろ転がり込んでいるんですか!!
麻生ちゃんも麻生ちゃんで黄泉川先生に色々麻生ちゃんについて話を聞かせてくれと、よく聞かれますですし二人にはそういう変なAIM拡散力場でも生み出しているんですかーっ!」
「そんなの関係ないでしょうが!」
「あいつ、先生にいらんことを聞きやがって。」
小萌先生は話をすればするほど話の方向性がどんどんおかしくなっていった。
「と、とにかく上条ちゃんと麻生ちゃんは別室でお説教です!!」
「あーもん!寝不足で頭痛いんだからワケの分かんない事で甲高い声出さないでくれ!
ほれ、風斬も何か言ってやってくれよ!
ここでの良心はお前しかいないんだから・・・・・って、あれ?」
上条はきょとんとした顔をして、インデックスと小萌先生と麻生もそちらへ視線を向ける。
同じテーブルに着いていたはずの風斬氷華の姿がいつの間にか消えていた。
「ありゃー、呆れて帰っちまったのか。」
上条はそう呟いたが麻生は風斬が座っていたパイプ椅子を見つめていた。
麻生と上条は小萌先生の説教からようやく解放された。
麻生は自分はちゃんと探して連れて帰ろうとしていました、と小萌先生に言ったが聞く耳持たずそのまま別室まで連行された。
上条は寝不足もあってかひどく疲れたような顔をしている。
「そうだ、恭介。
これからインデックスとどこかへ遊びに行く予定なんだけどお前も来るか。」
「いや、遠慮しておく。
お前達と一緒に行動していたらまた不幸な出来事に巻き込まれるからな。」
「俺は好きで巻き込んでいる訳じゃないんだけどな。
分かった、また今度な。」
上条はそう言って窓の外を見ると校門の前に、インデックスと風斬が待っているのを発見して急ぎ足で校門に向かう。
麻生は校門の側に二人を見つめていた。
いや、正確には風斬氷華を見つめていた。
食堂で出会った時の風斬の言葉を思い出す。
「えっと・・・・それは・・・・気づいたら此処に・・・・」
彼女はそう言っていた。
自分でも気づかない内にこの学校の食堂にいたと言っていた。
(風斬の顔を見た限り嘘を言っているようには見えなかった。
気づいたらという事は無意識にここまで来たのか、それとも本当に突然現れたのか。)
麻生は少し考えたが答えが全く出てこないので考えるのを止める。
見た限り特に害意もなさそうだった。
麻生は家に帰って寝直すかと考えた時、目の前の職員室から黄泉川愛穂が出てくるところだった。
愛穂はすぐにそばにいる麻生を見つけ近づいてくる。
「聞いたよ、恭介。
何でも小萌先生を困らせたみたいじゃん。」
「好きで困らせている訳じゃない。
全ては当間のせいだ。」
「でも、小萌先生から見たら楽しくお茶会をしている風に見えたって言ってたじゃん。
いいね、小萌先生のクラスの生徒は楽しそうな生徒が集まって。
ウチのクラスにもそういった馬鹿はいないかね。」
「あんな馬鹿が欲しいなら俺のクラスにはいくらでもいるから好きなだけ持って行ってくれ。」
「それが出来たら最高じゃん。」
学校なのに呼び方が恭介になっているが、それに気づかず愛穂は楽しそうな表情を浮かべながら話をしている。
麻生はふと疑問に思っていた事を愛穂に聞いてみる。
「なぁ、この学校の監視カメラに部外者が入ってきたって言う情報はあったか?」
普通こういった情報は生徒に教えると、生徒達に不安感を持たせてしまう可能性があるので、教師の立場である愛穂達は教える事は出来ない。
しかし、愛穂は何だかんだ麻生にお節介を妬いているが信頼はしている。
こういった情報は普通は教えないのだが、麻生になら他の生徒に言いふらす事は絶対にないと愛穂は考えているので教える。
「これはあんまり他言は無用だけど恭介だから教えるじゃん。
一応報告では二人。
一人は白いシスターの服を着た少女、あと小萌先生から聞いた眼鏡の女子生徒の二人。
これは恭介も知っている事じゃん。」
「そうだな、俺もその二人は確認している。」
「けど、実際に監視カメラに映っていたのは、その白いシスター服を着た少女だけしか映っていなかった。
もう一人の女子生徒はどの監視カメラにも映っていなかったじゃん。」
「能力を使ってカメラに映らなかったという可能性は?」
「それはないじゃん。
ここは学園都市、能力者の学生がいる所だから能力を使って姿を消していても確認できるように、監視カメラには特殊な細工がしてあるから監視カメラには映る筈じゃん。」
そうすると風斬は空間移動能力者の可能性が高い。
監視カメラに映らないとなればそう考えるのが妥当だろう。
しかし、麻生はそう考え風斬が何のために此処に来たのはその目的が分からなかった。
そして本人が口にしていたあの言葉。
(気づいたら此処にいた、か。
もしそうだとすると空間移動能力者という可能性はないのかもしれないな。
見た目はおとなしそうな女性だし何も問題は起こらないだろう。
そもそもどうして俺は風斬一人にこんなに考えているんだ。)
自嘲気味に笑いながら思った。
麻生は風斬の事で考えるのはやめて愛穂が職員室から出てきた理由を聞く。
「これからどこかに行くのか?」
「今から警備員の仕事じゃん。」
それを聞いた麻生は少し困ったような顔をした。
一応相手が学生とはいえ暴走した能力者を相手にする場合もある。
加えて愛穂は例え相手が大能力者の発火能力者だろうと、子供に銃を向けないというのが彼女の誇りだ。
なので、銃ではなくヘルメットやポリカーボネイドでできた透明な盾で能力者をどつきまわす。
麻生はそれを心配しているのだ。
何かの事件で能力者の攻撃を受けて重傷を負ってしまわないだろうかと心配している。
生きているのなら麻生の能力で何とか復活させる事は出来るが、死人までは生き返らせる事は出来ない。
この学園都市の闇は底知れない。
もし愛穂が警備員の仕事でその闇に触れ、殺されてしまえばおそらく麻生はどんな行動をとるか自分でも分からない。
黄泉川愛穂、芳川桔梗、吹寄制理、この三人は今の麻生恭介という人格を作り出した命の恩人だ。
この三人を守るためなら麻生はどんなことでもする。
だが、麻生はスーパーマンのようなヒーローではない。
麻生が見えている分には守る事は出来るが麻生が見えていない所で、何か事件があってもすぐに駆け付ける事は出来ない。
だから愛穂が警備員の仕事をしている事は快く思っていないのだ。
「どんな仕事だ?」
「あんまり人に言っちゃあ駄目なんだけどまぁ、恭介だしいいか。」
こんな軽いノリで愛穂は仕事の内容を教える。
「何でも「外」から強引にこの学園都市に侵入してきた奴がいるじゃん。
重傷者も三人でて負傷者も十五人もでている。
その侵入者が今は地下街にいるって情報が入ったから今から向かうところじゃん。」
その言葉を聞いて麻生は眉をひそめた。
「外」からの侵入者で中まで入ってこれる奴らなど、麻生は一つだけしか思い浮かばなかった。
魔術師。
科学の世界とは真逆の魔術の世界の住人。
しかも、今回はステイルや神裂のような穏便に事を済ませるような事はしない輩の様だ。
十中八九ただの警備員だけでは門を強引に突破できる魔術師に勝つのは難しいだろう。
下手をすれば死人が出る可能性もある。
「愛穂、俺もついていく。」
麻生の話を聞いた愛穂は一瞬驚いた顔をするが麻生の頭に手を置いて笑いながら言った。
「駄目じゃん。
恭介は学生でウチは教師。
学生を危険な場所に連れて行くわけにはいけないじゃん。」
他の警備員には内緒にしているが愛穂は、麻生に何回か事件の解決を手伝ってもらった事がある。
それらは全部話をして、麻生がそれらの情報を分析して麻生なりの解答を言うという簡単なものだ。
しかし、今回はそう言った簡単な事件ではない。
愛穂は麻生の能力を把握している訳ではないが並みの能力者ではない事を知っている。
それでも麻生は学生だ。
教師であり警備員である愛穂が守らなければならない存在だ。
「大丈夫じゃん、ウチ一人で戦う訳じゃないじゃん。
だから麻生が心配するようなことは起きないから安心して待ってるじゃん。」
事件が片付いたら電話するじゃん、と言って愛穂は時計を見て少し慌てて廊下を走っていく。
その後ろ姿を麻生は黙って見つめていた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第44話
麻生と別れてた愛穂は侵入者がいるであろう地下街の出入り口に立っていた。
服装もいつもの緑のジャージではなく耐衝撃用の装甲服を着て、手にはライフルを持っている。
その周りにも自分と同じ装備で身を固めた警備員が突入の準備をしている。
(恭介を置いて来て正解じゃん。
こんな所に連れて来れるわけがないじゃん。)
一人でそう思いながら今は自分の学生寮に戻っている事を祈りつつ、侵入者や今の地下街について情報を整理して作戦を考える。
「まず、敵の能力について考えよう。」
集まった警備員の中で隊長である男が話を始める。
「敵は門を強引に突破できることから何らかの能力を持っている可能性が高い。
目撃証言によると土の塊を巨大な人型に変換して操っているらしい。」
「学園都市の敵対勢力で作られた能力者でしょうか?」
「おそらくな。
だがこの学園都市でもあれほど巨大な土の塊を操れる能力者はそうはいない。
何か学園都市とは別の方法で能力者を作っているのか、それとも天然の能力者かのどちらかだろう。」
天然の能力者、またの名を原石と呼ぶ。
学園都市のような人工的な手段に依らず、超能力を発現させた天然の異能者。
偶発的に周囲の環境が『開発』と同じ効果をもたらした場合に発生するとされる。
学園都市の開発によって作られる異能者を人工ダイヤモンドとするならば、天然のダイヤモンドにあたる存在。
警備員のほとんどは教師だ。
彼らは自分の持っている知識を使い敵の能力について解析していく。
彼らは魔術についての知識がないのであくまで科学の方面で独自に解析していく。
「敵の目的は?」
「それが分からない。
敵が統括理事会の人間やこの学園都市に必要な科学者の抹殺などを目的としているのなら、どうして門から強引に突破して注目を集めたり地下街など、という逃げにくい場所を選んだ?」
「自分に注意を引き付けて他のメンバーが暗殺をするとか?」
「逆に強引に突破されたせいで警戒態勢はさらに厳しくなっている。
この状況で侵入してくるなど見つけてくださいと言わんばかりの行動だ。」
「じゃあ敵は単独犯?」
「そうと考えるのが妥当だろうな。」
目的が分からないとなると敵がどういった行動をとるか分からない。
しかし目的が分からないから動けませんとはいかない。
侵入者がいる地下街には多くの生徒達が残っているからだ。
「最後に地下街の状況について説明する。
今の地下街には数えきれないほどの学生がいる。
風紀委員の念話能力者に協力をしてもらい、何とか騒ぎを起こさないように学生達には避難してもらっている。
しかし、これは侵入者が行動を開始すれば一気にパニックになる可能性がある。
侵入者がいるフロアはここだ。」
地下街の地図を開けて侵入者がいるであろうフロアを指さす。
「私達がするべきことはたった一つ。
侵入者を即刻拘束して学生達の安全を確保する事だ。」
隊長がそう言うと他の隊員は応!!、と力強く返事をすると地下街に入っていく。
その中に愛穂の姿もある。
(帰ったら電話するといった以上さっさと終わらせるじゃん!!)
愛穂はそう思い、侵入者がいるであろう地下街に入っていった。
学校で麻生と別れた上条は門の前で待っているインデックスと何処に消えた風斬氷華と合流する。
話し合いの結果、というよりインデックスが地下世界(地下街の事)に行きたいと言ったので、昼ご飯を兼ねて地下街に行く事になった。
学食レストランという学校の給食を食べれるレストランで昼ご飯を食べた後、ゲームセンターで時間を潰す。
どうやらインデックスはそのゲームセンターが非常に気に入ったらしく、かなりのゲームがあるのにそれらを全部やってみたいと言い出すくらいだ。
大雑把に回っただけでも八〇〇〇円も使ってしまった。
もう一周してみる?、とインデックスは言ったが上条は全力で止めた。
その後、インデックスと風斬が超機動少女カナミンの衣装にコスプレして写真を撮ろうとするが、着替え室のカーテンが外れてしまい、上条に何とも言葉で表現してはいけない状態を見られてしまった。
上条は二人がコスプレをしているのは分かっていたのでその場から離れようとした。
彼は学校にいるときインデックスと風斬が体操服に着替えている所を見てしまったので、同じ轍は踏まないようにしようとした。
だが、彼の不幸スキルが発動して偶然にもカーテンが落ちてしまい、再び着替えている所を目撃してしまった。
当然、そんな言い訳が通じる訳がなく彼女達が写真を撮ろうと騒いでいる頃には、上条はインデックスに問答無用で襲われぼろクズのように変わり果てていた。
何だかんだ楽しみながら次はどこに行こうか、と話をしている時に突然女の風紀委員に呼び止められる。
何でも念話能力で何度も呼びかけているのだが、一向に反応しないので様子を見に来たという。
上条は右手の力のせいで念話能力が聞こえない事を説明すると今、地下街で起こっている事を説明する。
何でもテロリストがこの地下街に紛れ込んでいるので一般人は避難するように念話能力で呼びかけていたようだ。
周りを見ると念話能力を聞いた学生達は驚きながらも指示通り自然な感じで出口を目指していく。
上条達もこんなトラブルに巻き込まれる前に出ようとしたが、出口には警備員が四、五人固まっていた。
上条は何かやばい、と思った。
それはインデックスの事だ。
インデックスは一応ゲストIDを持ってはいるが、身元を調べられると捕まる可能性がある。
しかも、テロリストが紛れているこの状況なら、不審な人物はすべて調べ上げられるだろう。
上条は少し考えるがテロリストと銃撃戦に巻き込まれるよりかは、まだ検問の方がマシと考えて出口に向かおうとした時だった。
「見ぃつっけた。」
突然、女の声が聞こえた。
ただし何もない筈の壁から聞こえた。
上条は視線を壁に向けると硬直する。
そこには掌サイズの茶色い泥がへばりつきその中央に人間の眼球が沈んでいた。
上条と風斬はその目玉を見て驚いているがインデックスだけでは冷静にその目玉を眺めている。
「うふ、うふふ、うふうふうふふ。
禁書目録に幻想殺しに虚数学区の鍵。
どれがいいかしら、どれでもいいのかしら。
くふふ、迷っちゃう。
よりどりみどりで困っちゃうわぁ。」
泥の表面がさざ波のように細かく揺れ、その振動が「声」を作り出す。
その女の声は妖艶だがどこか錆びついていた。
「ま、全部ぶっ殺しちまえば手っ取り早えか。」
酒場でも聞かれないような粗暴な声色へと切り替わる。
上条はこの奇妙な泥が超能力によるものか、魔術によるものか判断がつかない
だが、インデックスは違った。
「土より出でる人の虚像、そのカバラ術式、アレンジの仕方がウチと良く似ているね。
ユダヤの守護者たるゴーレムを無理矢理に英国の守護天使に置き換えている辺りなんか、特に。」
「ゴーレムって、この目玉が?」
「神は土から人を創り出した、っていう伝承があるの。
ゴーレムはそれの亜種でこの魔術師は探索・監視用に眼球部分のみを特化させた泥人形だと思う。」
インデックスは上条の疑問に目玉に視線を向けたまま答える。
上条はその理屈は分からないがようはラジコンのように誰かが操っているのだと独自に理解する。
「って事は・・・この魔術師がテロリストさんって訳か。」
上条がそう言うと泥は笑った。
「うふ、テロリスト?テロリスト!うふふ。
テロリストっていうのは、こういう真似をする人達を指すのかしら?」
ばしゃ、と音を立てて泥と眼球は弾けて壁の中に溶けて消えた。
その瞬間だった。
ガゴン!!と地下街全体が大きく揺れた。
「なん・・・っ!?」
まるで嵐に放り出された小船のような震動に上条は思わずよろめき、インデックスも転びそうになるが風斬の腕の中にすっぽりと収まる。
さらにもう一度、砲弾が直撃したような揺れが地下街を襲う。
爆心地は遠いが、その余波が一瞬で地下全体に広がっている感じだ。
パラパラと、天井から粉塵のようなものが落ちてくると蛍光灯が二、三度ちらついたと思った途端にいきなり全ての証明が同時に消えた。
数秒遅れて非常灯の赤い光が薄暗く周囲を照らし始める。
それまでのんびりと避難していた人の波が一気にパニックを起こす。
すると、予定よりも早く警備員が隔壁を下ろし始めた。
隔壁が完全に下ろされ逃げ損ねた学生達は混乱したまま分厚い鋼鉄の壁をドンドンと叩いている。
閉じ込められた、と上条は思った。
敵はこの展開を予想していたのだ、目玉の泥を使い建物の構造や人の流れまで把握していたのだ。
「さあ、パーティを始めましょう。」
潰れた泥から女の声が聞こえた。
すでに壊れた「眼球」の最後の断末魔、ひび割れたスピーカーを動かすように。
「土に被った泥臭え墓穴の中で、存分に鳴きやがれ。」
さらに一度、一際大きな震動が地下街を揺らした。
同時刻。
麻生は愛穂と別れてからやっぱり心配になり地下街に向かって走っていた。
相手は魔術師。
上条のような右手や美琴のような超能力者や火織のような聖人などがついていれば、心配する必要はなかったが(最初の上条がいてもそれはそれで心配)警備員だけでは荷が重い筈だ。
愛穂を追いかけたが車に乗ったのか既に姿はなかった。
地下街という情報を頼りにとりあえず一番近い地下街に向かって走っていた。
すると、地下街の出入り口に大きな人だかりが出来ていた。
麻生は近くにいる学生に何が起こっているのか聞く。
「おい、何が起こったんだ?」
「何でもこの地下街にテロリストが紛れ込んでいるらしいぜ。
んで、警備員が予定よりも早く隔壁を下ろしたんだとよ。
まだ逃げ遅れた人がいるのにな。」
どうやら此処で間違いない、と麻生は考えた。
麻生は考える暇のなく野次馬の中をかき分けていく。
すると目の前に警備員が野次馬を近づけないように盾なので進行を防いでいる。
警備員が野次馬に気を取られている内に麻生は警備員の壁を突破する。
「おい!!そこのお前!!」
麻生が警備員の壁を突破したのを別の警備員が気づく。
「そこの学生を捕えろ!!」
すると盾を持った警備員が三人麻生の目の前に立ちはだかる。
麻生は迫ってくる先頭の警備員の目の前でジャンプして、後ろの二人の警備員の頭を飛び越える。
その光景に周りの警備員は驚き、野次馬も麻生のジャンプに釘付けになっている。
「ちょっと黒子!!あれを見なさい!!」
麻生が警備員の壁を突破したその場には御坂美琴と白井黒子もその場にいた。
白井の空間移動能力で逃げ遅れた学生を救助に向かう所だった。
「あれは麻生さんですの?」
「あいつ、あんな所で何をやってんのよ。」
目の前に盾を持った三人の警備員が立ち塞がるが麻生はそれをジャンプする事でかわす。
「黒子、追いかけるわよ!!」
「え!?ちょっと、お姉様!?」
麻生は警備員をジャンプして地下街に下りる階段を一気に下りていく。
隔壁が下ろされていて入れない状況だが、ただの鉄の壁など麻生からすれば無いに等しい。
(壁のすぐ傍には逃げ遅れた学生がいる可能性があるから破壊は出来ない。
それなら・・・・)
麻生は能力を使って隔壁を、正確には隔壁を動かす部分に干渉する。
隔壁を上にあげるとそこから逃げ遅れた学生達が出てくるが、麻生はその人と人の間を抜けていく。
地下街に入った瞬間に隔壁を下ろすように操作して、外から警備員が入ってこれないようにした。
美琴は麻生を追いかけるが隔壁が上がった瞬間に、逃げ遅れた学生達の人の波が押し寄せ思うように前に進めなかった。
(何であいつはその人の波で進めんのよ!!)
対する麻生は人の波の間を移動していて、全く追いつく事ができない。
能力を使って人の波を静めたかったが、まわりに警備員などがいるのでそんな強引な手段が使える訳がなく、人の波が終える頃には既に隔壁は下がっていた。
少し遅れて白井がやってくる。
「お姉様、少し落ち着い・・・・」
「黒子、あんたの能力で隔壁の内側まで飛んで!」
「ですから一度落ち着い・・「早く、お願い!」・・・はぁ~、分かりましたですわ。」
黒子は美琴の肩に手を置くと次の瞬間には地下街に立っていた。
しかし、その場に麻生の姿はどこにもなかった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第45話
戦場だと上条は思った。
上条は地下街の通路を走っていてその角を曲がった瞬間、思わず口元を手で覆いそうなった。
目の前に広がる光景は人々が争うものでも、銃声や怒号が響くものでもない。
傷つき、折れ曲がり、引き裂かれた人間が柱や壁に寄りかかっていた。
ここは第一線ではなく、敗れた者達が一時的に後退し、傷の応急手当をするための野戦病院のような所だった。
警備員の数はおよそ二〇人弱。
その場にいる警備員の傷は尋常ではなく、絆創膏を張るとか包帯を巻くとかいう次元を超えている。
この場にインデックスと風斬はいない。
上条が此処に来る前に、偶然にも白井と美琴に出会った三人は白井の空間移動能力でインデックスと美琴を運んでもらった。
なぜインデックスと美琴なのかというと、まず上条の右手の力で空間移動する事は出来ない。
最初は風斬とインデックスを運んでもらおうとしたが、そうすると美琴と上条の二人が残ってしまうのでインデックスが文句を言い、それなら美琴と風斬を運んでもらおうとしたら今度は美琴に変な目で見られてしまい、最後に美琴とインデックスと提案すると白井は二人を連れてどこかへ飛んでいった。
風斬と二人で白井が帰ってくるのを待っているとガゴン!!、と地下街が大きく揺れた。
さっきよりも爆心地は近づいていると思った上条は、風斬にここで待っている様に言って今の状況に至る。
インデックスは魔術師相手なら自分が戦うと言っていたが、上条はインデックスを此処に連れてこなくて良かったと思った。
彼女にこんな戦場を見せたくなかった。
何よりこの戦場を見た上条は疑問に思った。
この場にいる警備員の誰一人とて逃げ出そうとしないのだ。
少しでも体の動く者は近くの店から椅子なり、テーブルなりを運び出しバリケードのようなものを作り出そうとしていた。
彼らには身体が動く動かないという、そんなことを問う段階はとっくの昔に終わっている。
死ぬ気でやっているのではなく死んでも成し遂げるという決意しか感じ取れない。
(どうして・・・・)
上条は絶句していた。
彼らはプロとして訓練を積んでいるものの、その正体は「教員」・・・つまりは学校の先生でしかない。
誰かに強制されている訳でも、給料が高い訳でもない、命を賭けて戦う理由などどこにもないのだ。
それなのに一人も逃げ出そうとしない。
上条が呆然と立っていると壁に寄りかかるように座り込んでいた警備員が見咎めた。
驚くべき事に女性で彼女は傷ついた仲間の腕に巻きついてた止血テープの動きを止めて言った。
「そこの少年!
一体ここで何をしてんじゃん!?」
その叫び声にその場にいた十数名もの警備員達が一斉に振り返った。
上条が答えられずにいると、大声を出した女性はいかにも苛立たしい調子の口調で舌打ちして言う。
「くそ、月詠先生んトコの悪ガキじゃん。
どうした、閉じ込められたの?
だから隔壁の閉鎖を早めるなって言ったじゃん!
少年、逃げるなら方向が逆!
A03ゲートまで行けば後続の風紀委員が詰めているから、出られないまでもそこへ退避!
メットも持っていけ、ないよりはマシじゃん!」
月詠、というのは小萌先生の名字だ。
となると、この警備員は小萌先生経由で上条の事を聞かせれていたかもしれない。
警備員の女性は怒鳴りながら自分の装備を外して上条へ乱暴に放り投げた。
上条は慌ててそれを両手で受け止める。
そしてもう一度周囲を見回す。
上条は何となく知った、彼らが退かない理由が。
上条はさらに奥へと歩を進める。
「どこへ行こうとしてんの、少年!
ええい、身体が動かないじゃん!
誰でも良いからそこの民間人を取り押さえて!!」
警備員が叫び手を伸ばすが上条には届かない。
他の警備員達も上条を止めようとするが傷ついた彼らにはそれすらもままならない。
何の訓練も積んでいないはずの高校生一人すら、取り押さえる力も残されていない。
それでも彼らは逃げ出さない。
どれだけ訓練を積もうが彼らの本質は「学校の先生」だ。
元々、警備員や風紀委員は推薦などの立候補によって成立する。
彼らは誰に頼まれるまでもなく、子供達を守りたいから志願してここに集まってきただけという話。
(くっそたれが・・・)
上条当麻は思わず舌打ちしていた。
上条は傷ついた警備員達の制止を振り切って前へ進む。
闇の先にはこんな馬鹿どもがまだたくさん取り残されている、それも現状を見る限り、極めて絶望的な状況で。
彼はその右手を握り締めてそして前を見据えてただ走る。
薄暗く、赤い証明に照らされた通路の先へ彼は走る。
「うふ、こんにちは。
うふふ、うふふうふ。」
その先には漆黒のドレスを着た、荒れた金髪にチョコレートみたいな肌の女が通路の中央に立っていた。
ドレスのスカートは長く、足首が見えないほどだった。
随分と長い間引きずれていたせいかスカートの端は汚れ、傷つき、ほころびが生まれている。
そして彼女の盾にとなるように石像が立っていた。
鉄パイプ、椅子、タイル、土、蛍光灯、その他あらゆる物を強引に押し潰し、練り混ぜ、形を整えたような、巨大な人形だ。
そしてその周囲にはバリケードらしきものの破片が四方八方へ散らばっていた。
その破片を浴びた、七、八人の警備員達が床に倒れている。
まだ息があるのか細かく震えるように手足が動いていた。
「くふ、存外、衝撃吸収率の高い装備で固めているのね。
まさかエリスの直撃を受けて生き延びるだなんて。
まぁ、おかげでこっちは存分に楽しめたけどよ。」
笑みの端が残虐な色を帯びる。
エリスの直撃、というフレーズの意味が分からなかったが周りの状況を見ればどんなことをしたか想像がつく。
「どうして・・・」
そんな事が出来るんだ、と上条は絶句した。
対して、金髪の女は特に感概も持たずに言う。
「おや、お前は幻想殺しか。
虚数学区の鍵は一緒ではないのね、あの・・・・何だったかしら?
かぜ、いや、かざ・・・何とかってヤツ。
くそ、ジャパニーズの名前は複雑すぎるぞ。」
女は面倒臭そうに金髪をいじりながら言葉を続ける。
「別に何でも良いのよ、何でも。
ぶち殺すのはあのガキである必要なんざねぇし。」
「何だと?」
その言葉に上条は思わず耳を疑った。
この女は自分や風斬を狙っているらしい事は何となく察しはついたが、この投げやりな調子は何なのだろうか。
女は上条が自分の言葉の意味を分かっていないのか笑みを浮かべながら言う。
「そのまんまの意味よ。
つ・ま・り、別にテメェを殺したって問題ねぇワケ、だっ!!」
女が思い切りオイルパステルを横一閃に振り回す。
その動きに連動するように、石像が大きく地を踏みしめるとガゴン!!、という強烈な震動が走り、上条が大きくよろめいた。
続けてもう一度石像が足を振ると、上条は耐え切れずに地面へ倒れ込んでしまう。
何らかのトリックでもあるのか、女だけは平然と立っていた。
「地は私の力。
そもそもエリスを前にしたら、誰も地に立つ事などできはしない。
ほらほら、無様に這いつくばれよ。
その状態で私に噛み付けるかぁ、負け犬?」
勝ち誇るように言う金髪の女を上条は倒れたまま睨みつける。
だが、確かにこれは一方的な攻撃を可能とする戦法だろう。
銃を持つ警備員達も大して攻撃も出来ないだろう。
こんな不安定な足場で銃を撃てば照準が狂い、同士討ちを引き起こした可能性がある。
起き上がろうとする上条を牽制するように、さらに女はオイルパステルを一閃する。
再び石像の足が振り下ろされ、地が揺れた。
上条の右手、幻想殺しが異能の力は破壊するだろうが、そもそも一歩も動けない。
「お、前・・・っ!」
「お前ではなくて、シェリー=クロムウェルよ。
覚えておきなさい・・・っと言っても無駄か。
あなたはここで死んでしまうんだし、イギリス清教を名乗っても意味がないわね。」
なに?、と上条は眉をひそめた。
イギリス清教と言えばインデックスと同じ組織の人間。
「戦争を起こすんだよ、その火種が欲しいの。
だからできるだけ多くの人間に、私がイギリス清教だって事を知ってもらわないと、ね?エリス。」
シェリーが手首のスナップを利かせてオイルパステルをくるりと回す。
彼女の動きに引かれるようにエリスと呼ばれる巨大な石像が地を踏みしめて、その大きすぎる拳を振り上げる。
上条は避けようとするが地面の震動が移動を許さない。
死に物狂いで右手を振り回そうとした時、横から誰かが飛んできて上条を横に飛ぶ。
上条のいた所に石像の拳が振り下ろされ大きな震動が響く。
「全くさっさと離れろって言ったじゃん!!」
上条を抱き留めるようにさっきの女の警備員がいた。
ほとんど肌が密着していて、これが普段の日常ならドギマギしているのだろうが、今はそんな事にうつつを抜かしている場合ではない。
「エリス。」
シェリーがもう一度オイルパステルを回すと、石像の巨大な拳が上条と女性の所に振り下ろされる。
「くっ!!」
避けられないと分かったのかその女性は自分の身を盾にするように上条に覆いかぶさる。
上条はその行動に驚き、何とか跳ね除けようとするががっちりと抱きしめられて動く事が出来ない。
(まずっ!!)
何とか右手だけでも突き出そうした時だった。
フォンフォン、と風を切る音が迫ってきてズバン!!、と何かが斬られる音が聞こえる。
同時にドゴン!!、と鈍い音が聞こえた。
視線だけを石像に向けると石像の巨大な腕が見事に切断されて地面に落ちていた。
(何がどうなって・・・・)
上条がそう思った時、聞き慣れた声が聞こえた。
「ぎりぎり間に合ったみたいだな。」
その声は上条がやってきた通路から聞こえた。
視線を石像からその声のする方に向ける、覆いかぶさっている女性も同じように見ていた。
そこにはブーメランのようなものを持った麻生恭介が立っていた。
麻生はブーメランのようなものを持ちながらこっちに走ってくる。
シェリーはオイルパステルを横一閃に振うと石像が地を踏みしめる。
周りに大きな震動が響くが麻生は少しもよろめくの事なく走ってくる。
切断した石像の腕は時間を巻き戻すかのように石像の腕に引っ付く。
麻生は走りながらブーメランを投げ、弧を描きながらシェリーに向かって飛んでいく。
シェリーはオイルパステルを横に振うと石像の腕がブーメランの側面部分を地面に打ち付けるように叩きつける。
その間に麻生は女性の警備員と上条を抱えてバリケードの所まで下がる。
「恭介!!どうしてあんたが此処にいるの!?」
女性の警備員は麻生に抱えながらも叫び声をあげながら麻生に言う。
「どうして、と言われても理由は簡単だ。
お前が心配になったからに決まっているだろう。」
麻生は真剣な表情のまま女性の警備員の顔を真っ直ぐに見つめて言った。
すると、女性の警備員は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
麻生は女性の警備員と上条を地面に下ろす。
「どこの誰だか知らないけどエリスの腕を切断して、さらにあの震動の中で全くよろめく事無く走りきるなんて。
あなた、ただの学生じゃないでしょ。」
「ただの通りすがりの一般人Aだ。」
「うふふ、通りすがりの一般人・・・ね。
まぁ誰だろうと私のやる事は変わりないけど。
ねぇ、エリス。」
シェリーの呼びかけに答えるかのように石像がこっちに向かって歩きはじめる。
麻生は数歩だけ前に進むと拳を握り構えをとる。
「昨日は桔梗、そして今日は愛穂ときた。
どうしてこうも俺の守りたい人が事件に巻き込まれるかね。」
少しだけため息を吐いたがその眼は確かに怒りがこもっていた。
「まぁ愛穂に傷をつけたんだ。
一発殴るだけで済むと思うなよ。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第46話
麻生は拳を握り、前にいるエリスとシェリーを睨みつける。
「恭介、俺も」
戦う、と上条が言おうとした時だった。
「二人とも離れろ!!」
不意に横合いから叫び声が上がった。
傷ついた警備員の一人が倒れたままライフルを掴むと、麻生と上条が何か行動を起こす前に小さな銃口が勢いよく火を噴いた。
おそらく麻生の不意打ちに近い攻撃に勢いでもついたのかエリスに銃弾を撃ち続ける。
「がっ!!」
いきなり脇腹に衝撃がきたと思ったら、次の瞬間には上条は地面に転がっていた。
横を見ると麻生の右足が上条の脇腹を蹴り飛ばしたようだ。
「何で俺を!?」
そう聞いた瞬間だった。
上条が立っていた所に銃弾が飛んできたのだ。
なぜ銃弾が飛んできたのかというと警備員が撃った弾丸は確かにエリスに当たっている。
だが、エリスの身体は鉄やコンクリートの寄せ集めだ。
それらはトン単位の重量を持つ壁に向かって弾を撃てばピンボールのように跳ね返るに決まっている。
おそらく麻生は上条のいる位置に跳ね返った弾丸が飛んでくると予想して、乱暴な方法だが上条を蹴り飛ばす事で上条を助けたのだ。
「撃つのを止めろ!!
跳ね返りが当たったらどうする!?」
愛穂は叫び声をあげながらライフルを持っている警備員に言うが声が聞こえていないのか、一心不乱に銃を撃ち続けている。
(さて、どうする。)
一応、しゃがみながら作戦を考える麻生。
その時だった。
カツン、と唐突に麻生の後方から小さな足音が聞こえた。
連続する銃声の中でその弱々しい足音が確かに聞こえた。
麻生はしゃがみながら首を動かして後ろの方を見る。
上条も聞こえたのか同じように視線を後ろに向けていた。
非常灯の赤い光が照らし切れない通路の奥の闇から足音が響いてくる。
訓練された足音とは違い、頼りなくビクビクした足音だった。
「あ、あの・・・・」
その闇から聞こえたのは少女の声だった。
声の主のシルエットが浮かび上がってくる。
それは上条の見慣れた少女のものだった。
太股に届く長いストレートにゴムで束ねた髪が横から一房飛び出した、線の細いメガネをかけた風斬氷華が通路の真ん中に立っていた。
「馬鹿野郎!!
何で白井を待ってなかった!?」
銃声が響き渡る中でも負けないような叫び声が地下街に響き渡る。
上条は無防備に立っている風斬の元へ駆け寄りたかったが、跳ね回る銃弾のせいで立ち上がる事もできない。
麻生は苛立っているような舌打ちをすると立ち上がって風斬の所に向かおうとしたが、視界の端で跳ね返った銃弾が愛穂の所に飛んでくるのが見えたので麻生は盾を具現化させ愛穂の前に立って銃弾を防ぐ。
「だって・・・・」
「良いから早く伏せろ!!」
「え?」
上条の叫び声に風斬がきょとんとした顔をした直後、ゴン!!と彼女の顔が大きく後ろへ跳ねた。
「あ?」
上条は思わず間の抜けた声をあげていた。
エリスの身体に当たって跳ね返ったライフル弾の一発が風斬の顔面に直撃したのだ。
いつの間にか銃声が止んでいて警備員は呆然とした様子で撃ち抜かれた少女を見ていて、愛穂は信じられないような表情を浮かべている。
シェリーは己のターゲットが突然目の前にやってきて、思わぬ形で自滅した急な展開に若干ながら眉をひそめていた。
風斬は大きくブリッジを描くように後方へ仰け反りそのまま何の抵抗もなく人形のように倒れ込んだ。
麻生は盾を乱暴に放り投げると風斬の所まで走る。
「風斬!!」
上条も慌てて立ち上がり風斬の側まで駆け寄った時、二人の足がビクンと止まった。
二人の顔が驚愕の一色で塗り潰されている。
風斬の傷は確かにひどかった、頭の右半分が根こそぎ吹き飛ばれているが二人が驚いているのはその傷を見て驚いている訳ではない。
頭の半分を吹き飛ばすほどの傷なのだがその中身はただの空洞だった。
肉も骨も脳髄も何もない、加えて風斬の傷口から一滴の血も流れていなかった。
そして空洞となっている頭部の中心点に磁石でも使ったような小さな物体が浮かんでいた。
それは肌色の三角柱で底は一辺が二センチ弱の正三角形で、高さは五センチ弱、その場に固定されたままひとりでにくるくると回転する小さな三角柱の側面には縦一ミリ横二ミリの長方形の物体がびっしりと収められている。
(これはあの時の・・・・)
麻生はこの三角柱に見覚えがあった。
それはおよそ二カ月前に幻想御手事件で生み出された幻想猛獣の死の点を撃ち抜いた時に、一瞬だけ見えた物とよく似ていた。
(あの時出てきた三角柱はボロボロの状態だった。
だが、風斬のそれは完全な状態で出来ている。)
麻生が考えにふけっていると片目しかない風斬の目がぼんやりと開かれる。
彼女はゆっくりとした動作で上体だけ地面から起こした。
「あ・・れ?・・・・眼鏡はどこ、です・・・か?」
自分がメガネをかけていた辺りを指で触れようとして何かに気づいた。
一度、手を引っ込めると今度は恐る恐る自分の顔に指を近づけてその空洞の縁をゆっくりなぞる。
「な、に・・・これ・・・い、や・・・」
彼女の眼がすぐ側にある喫茶店のウィンドウを捉えていた。
そして自分の顔に気づきその顔から血の気が引いていく。
「いや・・ァ!な、に・・・これ!?」
風斬は髪を振り乱して思い切り叫ぶとガラスに映る自分の姿から逃げるように走り出す。
あろう事か巨大な石像、エリスのいる方向へと。
彼女の動きにシェリーはオイルパステルを横へ一閃する。
エリスは羽虫を振り払うかのように、裏拳気味の拳は腕と脇腹を巻き込むように直撃した。
前へ進んでいたはずの風斬の身体が真横へ吹き飛ぶ。
そのままノーバウンドで三メートル近く宙を舞うと華奢な身体は勢い良く支柱へと激突した。
そればかりか風斬の身体はピンボールのように跳ね跳び、柱を支点として「く」の字を描くような軌道でシェリーの足元に転がる。
エリスの一撃を受けた風斬の左腕は半ばから捻じ切れ、脇腹もまるで踏みつけられた菓子箱のように大きく形を変えてしまっている。
それでも風斬氷華の身体はもぞりと蠢いた。
「あ、あ、ア、ぁ、あああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?」
あまりの絶叫に流石のシェリーも驚いたようだ。
風斬へ注意を向けるようにオイルパステルを構えようとしたが風斬が千切れた腕の中も空洞だと知ると
身体についた羽虫を払うかのように手足を振り回して通路の奥に広がる闇の中へと逃げるように走っていく。
「エリス。」
シェリーが呟いてオイルパステルの表面を軽く指先で叩くとエリスは近くの支柱を殴りつけるとガゴン!!、と地下街全体が揺らぎ天井がミシミシと音を立てる。
瞬間、ライフルを構える警備員の真上に建材が崩れ勢い良く降り注いだ。
「ふん、面白い。
行くぞ、エリス。
無様で滑稽な狐を狩りに出ましょう。」
上条や麻生、生き埋めになった警備員に目も向けずシェリーは、手の中のオイルパステルをくるくる回しながらエリスを操りつつ闇の奥へと引き返す。
おそらくは風斬を追う為に。
上条はじばらく呆然と立ち尽くしていたが隣の麻生はひとり呟いた。
「まさか、風斬が虚数学区なのか・・・」
そう誰に問い掛けているのでもなく麻生は呟いた。
天上から落ちてきた建材は意外に軽く、生き埋めにされた警備員も特に怪我はなかった。
周囲に倒れている警備員も負傷こそしているものの死者は出なかった。
「全くウチの事を心配したから駆け付けたのは嬉しいじゃん。
けど、こんな危険な所まで駆けつける必要ないじゃん。」
「俺が来なかったら愛穂は最悪死んでいたかもしれないんだ。
命の恩人にその態度はないだろう。」
うっ、と言って反論が出てこない。
麻生は小さく笑うと麻生は軽く愛穂の額にデコピンとする。
「いた!
何すん・・・・あれ?」
麻生にデコピンをされるといつの間にか全身の痛みが無くなっていた。
そして愛穂のすぐ足元には消毒液や包帯などの応急処置の道具がたくさん置いてあった。
「それを使って他の人の手当てでもしてやれ。
ああ、一つ言っておくけど俺の能力で治療するのはお前だけだからな。」
愛穂は少しだけ驚いた後、笑顔を浮かべながら麻生の頭を乱暴に撫でまわして他の警備員の手当てに向かう。
愛穂と入れ替わるように上条が近づいてきた。
「恭介。」
上条が麻生の名前を呼ぶと麻生は周りを見渡す。
周りの警備員は怪我の応急処置で忙しいのか麻生と上条の二人を気にかけている者はいない。
それを確認すると麻生は警備員達から離れていく。
ある程度離れると壁に背中を預けて言った。
「お前の疑問に答える前に風斬について知っている事を俺に教えてくれ。」
麻生がそう言うと上条は自分が風斬について知っている事を話す。
と言っても上条が知っている情報と言えば姫神から風斬が虚数学区・五行機関の正体を知る鍵という事、姫神が霧が丘学園という学校に通っていた時、風斬氷華という名前があったが姿を見た者は誰もいないなどそのくらい情報だ。
だが、それを聞いた麻生はなるほど、と呟いた。
「恭介、何か分かったのか!?」
麻生は上条の顔に視線を向けて説明を始める。
「姫神が言っていた情報を聞いてようやく分かった。」
そう言って少しだけ間を開けて麻生は言った。
「まず、風斬の正体だがあれは人間じゃない。
あれはAIM拡散力場でできたただの物理現象にすぎない。」
麻生の言葉を上条は理解できなかった。
「どういう事だよ!?
風斬は人間じゃないって!?」
「順に説明してやるから落ち着け。」
麻生は興奮する上条を落ち着かせて説明を続ける。
「俺は風斬の頭の中にあった三角柱を見たのは今日が初めてじゃない。」
「え?」
「七月の半ばに俺は一万人もの能力者のAIM拡散力場が集まった存在、幻想猛獣というのを倒したことがある。
その幻想猛獣の核の部分が風斬の頭の中にあった三角柱と形状は一緒だった。」
どうしてそんなものと戦ったのか疑問に思ったが今はそれを追及している時ではないと上条は麻生の説明を聞く。
「それにある科学者は虚数学区はAIM拡散力場の集合体だと言っていた。
そして風斬の頭の中には同じ三角柱があった。
これらの情報を照らし合わせると風斬は人間じゃなくAIM拡散力場で出来た物理現象だという事が説明できる。」
「待ってくれ。
風斬はAIM拡散力場で出来たのだとしてもAIM拡散力場って能力者が無意識の内に放っている力なんだろ?
それって目には見えない力なのにそれなのにあいつはさっきまでそこにいたんだぞ!!」
「確かにAIM拡散力場は機械で測らないと確認できないくらい微弱なものだ。
だが、この学園都市には二三〇万人の能力者がいる。
二三〇万人のAIM拡散力場を集めれば人一人くらいは創る事は出来る。
現に一万人の能力者で不完全ながらも生物のようなモノが出来たしな。
発火能力者が体温、発電能力者が生体電気など一つ一つが人間が必要とする情報を、AIM拡散力場で補えば風斬という物理現象を起こす事が出来る。
おそらく霧が丘で風斬の姿を見た者はいないというのはまだ風斬という存在が不安定だったんだろうな。
だから姿が見えなかった・・・いや、違うな。
そこにいるのに誰も見えなかったのかもしれないな。」
言い返せなかった。
麻生の言っている事は正しく聞こえ反論できる隙がない。
認めたくなかった。
さっきまでインデックスと遊んでいた風斬がAIM拡散力場出来た物理現象という事を。
「それでこれからどうする?」
「何がだよ。」
「さっきの事が正しいなら風斬はAIM拡散力場がある限り死なない。
おそらくあの魔術師だけでは風斬を・・・いや虚数学区を破壊する事は出来ない。
風斬は二三〇万人の能力者のAIM拡散力場の塊。
下手をすればどの能力を扱う事ができるかもしれないし、あの魔術師よりかは余裕で強いかもしれないぞ。」
麻生の言葉を聞いた上条は一気に頭に血が上り麻生の胸ぐらを掴む。
だが、麻生の方は表情変える事無く言う。
「どうした、何を怒っている?」
「あいつを化け物みたいに言うな!」
「現にあいつは人間じゃない。
人間という存在を形を作る情報を持った、ただの現象だ。
それなのにどうしてお前は怒っている?」
確かに麻生の言っている事は正しい。
おそらくあのエリスがどれだけ殴ろうとも風斬は死なないだろう。
あの三角柱を破壊されてもいずれは復活するかもしれない。
そんな化け物のような存在の為に怒るなどおかしい。
だけど、風斬は苦しそうだった。
自分の正体を突きつけられてその事実を受け入れなくて、どうしていいのかも分からず闇の中へ逃げるしか道はなかった。
たった一人の少女。
そんな彼女を化け物だなんて上条は思えない。
そして見殺しにされても良い事なんて絶対にない。
そして彼女が消えても良い理由なんてどこにもない。
風斬はインデックスの最初の友達であり、上条の友達でもあるのだから。
「それでいいんだよ。」
「え・・・」
「お前は難しく考えすぎだ。
風斬が人間とか人間じゃないとかそんなのどっちでもいいんだよ。」
麻生はそう言って胸ぐらを掴んでいる上条の手を解き、真っ直ぐ目を見て言った。
「大事なのはお前がどうするかだ。
そうだろ、上条当麻。」
「・・・・ああ。
分かっている、俺のやるべき事もどこへ行くのかもな。」
(はぁ~らしくない事を言ったな、俺)
上条に気づかれないように大きくため息を吐く麻生。
すると後ろから愛穂とその他の警備員がやってくるのが見えて小さく笑った。
「おい、当麻。
今回は手伝ってやる、あいつにはまだ借りがあるからな。
あと、お前みたいに風斬を助けたいと思う奴は結構いるみたいだぜ。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第47話
風斬氷華は通路を少し走っていると、顔面の半分、左腕、左の脇腹にそれぞれ灼熱で溶けた鉄を流し込まれたような激痛が襲いかかり足が止まり立っている事もできなくなり冷たい地面に倒れ込んだ。
常人ならば死んでもおかしくないほどの痛覚情報を叩きつけられながら、死への逃避すらも許されない。
生き地獄とはまさにこの事だった。
だが、次の瞬間には恐るべき変化が起こった。
ぐじゅり、とゼリーが崩れるような音と共に傷口が塞がり始めたのだ。
まるでビデオの早送りのように、人間ではありえない速度で、あっという間に空洞が修復される。
発狂するほどの激痛が熱が冷めるように引いていく。
生きていてはおかしいはずなのに。
肌だけではなく、吹き飛ばされたはずのメガネや、破れたはずの衣服の端々が、ゆっくりとした動きでじわじわと元に戻っていく。
「あ、ああ・・・・っ!」
痛みが引いていくと同時に、それまで考える余裕すらなかった頭が、思い出したようなに思考を再開させてしまう。
自分の身体の中は、空っぽだったという事実が。
普通だと思っていた自分の正体が、異常な存在だったという真実が。
そんな風斬の絶望に引き寄せられるように、さらなる絶望が現れる。
ズシン!!という地下街全体を揺るがす震動。
風斬は暗闇の先へ目を向ける。
そこに、鉄とコンクリートで固めた、歪な化け物がいた。
その化け物の後ろには、さらに恐ろしい金髪の女が立っている。
風斬は、あの化け物の大木のような腕で殴り飛ばされた激痛を思い出して、反射的に逃げ出そうとしたが恐怖と焦りのあまり、思うように足を動かせない。
対して、女は何も告げない。
無言で白いチョークのようなオイルパステルを振うだけで、石像は風斬の背中を狙って拳を放つ。
風斬はとっさに地面に伏せて避けようとしたが、一歩遅れてなびいた長い髪が石像の拳に引っ掛かる。
まるで頭皮を丸ごと引き剥がすような激痛と共に、彼女の身体は砲弾の様に飛ばされる。
「げう!!」
ゴンギン!!、と風斬の身体の中で凄まじい音が鳴り響く。
恐るべき勢いを借りて地面を滑った風斬は、まるで巨大なヤスリに全身を削られたような痛みに襲われた。
「あ、あ、あ・・・・ッ!!」
地面に何メートルもの長さにわたって強引に剥がされた皮膚の破片や長い髪の毛などが一直線に走った。
ぐずぐずと、風斬の顔から異音が聞こえた。
彼女が己の顔を手で触れてみると、顔の表面が不気味に波打っていた。
地面を引きずり回され剥がされた顔の部品が、再び元に戻ろうとしているのだ。
「何なのかしらねぇ、これ。
虚数学区の鍵とか言われてどんなものかと思ってみれば、その正体はこんなもんかよ!
あは、あはは!こんなものを後生大事に抱え込むなんざホントに科学ってのは狂ってるよなぁ!!」
げらげらと笑い続ける女の前で、風斬の修復が始まる。
べちゃべちゃと湿った音を立て、ものの数十秒もしない内に顔の形が整ってしまう。
「ぃ、ひっ!?」
風斬は自分の身体に恐怖と嫌悪を覚え、シェリーは愉快げに言い放つ。
「くっくっ、しかしこれって殺すのも面倒臭そうね。
ああ、それなら試してみるか。
ひき肉になるまでぐちゃぐちゃに潰しても元に戻るかどうか。」
「ど、どう・・して・・・?」
「あん?」
「どうして、何で・・・こんな、こんな・・・・ひどい、事・・・っ!」
「んー?別に理由なんかないけど。」
その言葉を聞いて風斬は言葉を失う。
「別にあなたでなければならない理由なんてないの。
あなたじゃなくてもいいの。
でも、あなたが一番手っ取り早そうだったから。
理由はそんだけ。
な、簡単だろ?」
何だそれは、と風斬が思う前に、女はオイルパステルを振るい、石像エリスが倒れたままの風斬に拳を放つ。
彼女は何とか横へ転がったが、エリスの拳が地面を砕き、その破片が彼女の全身に突き刺さり、その衝撃で風斬の身体は跳ね跳ぶ。
あまりの痛みで頭が真っ白になるが、地面をごろごろ転がっている間に、みるみる修復されていく。
また死に損なった。
なのに、自分を殺そうとしている筈の女は、失敗しても表情を変えない。
まるで生きようが死のうがどっちでも良いと告げているかのごとく。
己の命をあまりに軽々しく扱われ、屈辱のあまりに風斬の瞳から涙が溢れた。
だが、そんな顔を見た金髪の女は興が削がれたような顔を浮かべていた。
「おいおい。
何なのよその面構えは?
えー、なに?
ひょっとしてあなた、自分が死ぬの怖いとか言っちゃう人かしら?」
「え?」
「おいおいおいおい。
ナニ当然ですっつー顔してんだよ。
いい加減に気づきなさいっての。
ここまでやられてピンピンしてるテメェがまともな人間なはずねえだろが。」
風斬はその言葉を聞いて血の気が引いていくような感じがした。
「なーに顔を真っ青にしてんだよ。
それで保護欲あおってるつもりか、そんなんありえないでしょう。
この世界からあなたの存在が消えた所で何か損失がある訳?例えば、ほら。」
金髪の女は、手の中のオイルパステルの側面を人差し指で軽く叩く。
瞬間、石像が真横に拳を振るった。
壁に直撃したその腕が、真ん中から千切れ跳ぶ。
「私があなたにしている事って、この程度でしょう。」
「あ・・・」
「化け物の手足が壊れた程度で、お涙頂戴なんてありえねーっつってんの。
分かってんのかお前?
何を物体に感情移入してんだよ。
モノに対して擬人化して涙なんか浮かべっと思ってんのか気持ち悪りぃな。
私は着せ替え人形の服を脱がして興奮するような変態じゃねえんだよ。」
「あ、ぅあ・・・っ!!」
絶望する風斬の前で、石像の壊れた腕が再び再生していく。
周囲のガラスや建材を巻き込んで元に戻っていくその姿は、奇しくも彼女と良く似ていた。
これが、風斬氷華の本質。
人の皮を剥いだ後に残る、醜い醜い本当の姿。
「これで分かったでしょう?
今のあなたはエリスと同じ化け物。
あなたは逃げる事なんてできない。
そもそもどこへ逃げるの?
あなたみたいな化け物を受け入れてくれる場所ってどこかしら?
だから分かったろ、分かれよ。
何で分からないの?
テメェの居場所なんかどこにもないって事が。」
女の手の中でオイルパステルがふらふらと揺れ、石像がゆっくりと迫り来る。
風斬氷華は吹き飛ばされたまま、ただそれを呆然と見る。
身体の傷はとっくに治っている、心も逃げろと叫んでいる。
だが、どこへ逃げれば良いのだろう?
風斬は学校へ行くのも、給食を食べるのも、男の人と話すのも、自販機でジュースを買うのだって、全部が全部が初めてだった。
自分の存在が霧に浮かんだだけの幻影のようなものだという事実にどうして今まで気づかなかったのか。
風斬に逃げ場はない。
こんな醜い自分を温かく迎えてくれるような、そんな楽園はこの世界に存在しない。
スカートのポケットにはある白い少女と一緒に写った写真シールが入っている。
そこで楽しそうに笑っているインデックスは、知らない。
風斬氷華の正体がこんな化け物である事なんて、知らない。
自分の正体を知れば彼女は笑顔を失う。
自分は人の皮を被った、醜い化け物しかないのだから。
風斬のまぶたに涙が浮かぶ。
暖かい世界に居たかった。
誰かと一緒に笑っていたかった、一分でも、一秒でも構わないから。
少しでも穏やかな時間が過ごせるのならば、死にもの狂いで何にでもすがりたかった。
結局、彼女がすがって良いものなど、何もなかった。
「泣くなよ、化け物。
アナタガナイテモ、キモチガワルイダケナンダシ。」
大木すらたたき折る事の出来そうな石像の腕がゆっくりと迫る。
確かに死にたくない。
だけど、それ以上に、これから先誰にも必要とされないで、顔を合わせただけでみんなから石を投げつけられるような、そんな化け物として扱われるぐらいなら、ここで死んだ方がマシかもしれないと。
彼女はぎゅっと両目を閉じる。
これから襲い来るであろう、地獄のような激痛に身を固めていたが、衝撃は来ない。
いつまで経っても、何の音も聞こえない。
風斬氷華は、恐る恐るまぶたを開ける。
すぐ近くに、見知った誰かが立っているような気がした。
涙が視界を遮り、ぼんやりとした像でしか捉える事ができないがその人影は、少年のようだった。
風斬は十字路の真ん中にいる。
その少年は、対峙する風斬と石像を遮るように、横合いの通路から歩いてきたらしい。
少年が何気なく差し出した右手が石像の巨大な腕を掴んでいた。
右手で掴んでいるだけで戦車も薙ぎ払えそうな巨大な腕の動きを止め、あまつさえ、ビシリ、と音を立てて亀裂が走る。
「エリス、反応なさい、エリス!
くそ、何がどうなっているの?」
珍しくうろたえるような女の声に、その少年は見向きもせずただ真っ直ぐに、風斬氷華の顔を見ている。
「待たせちまったみたいだな。」
その声に聞き覚えがあった。
元より、彼女の知る人物の数などたかが知れている。
その声は力強く、温かく、頼もしく、何より優しかった。
「だけど、もう大丈夫だ。
ったく、みっともねぇな。
こんなつまんねぇ事でいちいち泣いてんじゃねぇよ。」
風斬はまぶたをこするとその先に彼が、上条当麻が立っていた。
彼の背後にいた石像の全身に亀裂が走り回り、ガラガラと崩れていく。
「エリス・・・・呆けるな、エリスッ!!」
金髪の女は白いオイルパステルを握り潰しかねない勢いで掴みながら叫ぶ。
そして抜刀術のような速度で壁に何かを書き殴り同時に、何事かを早口言葉のようにまくし立てる。
すると、コンクリートの壁が泥のように崩れ落ち、ものの数秒で天井に頭を擦り付ける石像が完成する。
上条当麻は振り返る。
追い詰められた少女を守るように、歪な石像の前に立ち塞がるように。
その光景に風斬は驚き、金髪の女は笑みを引き裂く。
「くっ、はは。
うふあはは!何だぁこの笑い話は。
おい、一体何を食べたらそんな気持ち悪い育ち方するんだよ!
ははっ、喜べ化け物。
この世界も捨てたもんじゃないわね、こういう馬鹿が一人ぐらいいるんだから!」
そんな金髪の女の笑い声に風斬は肩を震わせたが上条は間髪入れずに答えた。
「一人じゃねぇぞ。」
は?、と金髪の女が間の抜けた声が上げかけたその瞬間だった。
風斬の真後ろの通路から誰かが走ってくる音が聞こえ、いきなり風斬と上条を抱きかかえるとそのまま真後ろに下がる。
それに合わせるかのように金髪の女がいる通路以外の三方から強烈な光が襲いかかる。
それは銃に取り付けられているフラッシュライトのものだった。
一丁、二丁どころではなく、三〇人から四〇人にも及ぶ人々がこの場に集まっていた。
警備員。
彼らは一人として、無傷な者などいない。
腹や頭には包帯を巻き、腕や足を引きずっていた。
病院に運ばれていてもおかしくないのにそれでも彼らは臆することなく駆けつけてきたのだ。
風斬は抱きかかえながら警備員達が持っている透明な盾の内側まで運ばれる。
「全く、あの石像を破壊したら風斬を連れて下がれとあれほど言った筈だぞ。」
その声は上から聞こえた。
言葉を聞く限り怒っているように聞こえる。
が、風斬は上を見上げその人物の顔を見るとその表情は怒ってはいなかった、むしろため息をこぼしている。
そして、その顔には見覚えがあった。
あの食堂で見かけたもう一人の男の学生、麻生恭介だった。
「いや、悪い。
完全に忘れていた。」
「まぁいい、どうせそんな事だろうと思ったからわざわざ此処まで運んでやったんだ。」
どうして、と風斬は思った。
自分は化け物だ。
銃弾を受けても、あの石像の拳を受けても平気で生きている化け物だ。
そんな自分をどうして助けてくれるのか不思議で仕方がなかった。
そんな風斬の表情を読み取ったのか風斬を抱えている麻生が答える。
「どうして自分を助けたのか理由が分からないような表情をしているな。
こいつから言わせるとお前は大事な友達なんだとよ。」
その言葉を聞いた風斬はその言葉が理解できなかった。
自分は人間ではないのに、見捨てられてもおかしくないのにそれでもこの少年は自分の事を友達だと言った。
「それで彼らは教師だ。
教師は生徒を守るのが役目だから、生徒が危険に晒されているのに黙って見ている訳にはいかないだとよ。」
じゃああなたは?、と風斬は思った。
麻生は上条とは違い友達でもなんでもない。
警備員のような教師でもない。
それなのにどうして助けに来てくれたのか分からなかった。
「あの女は俺の大事な人を傷つけた。
だから二、三発殴らないと気が済まないんだよ。
それに目の前で知り合いが傷つかれるのは目覚めが悪いからな。
ついでに助ける事にしたんだよ。」
上条ほどではないが彼の言葉にも少しだけだが優しさがこもっている気がした。
それだけで風斬は再び涙があふれてきた。
そして、上条は風斬の正面に立ち顔を見据えて言った。
「お前に教えてやる。
お前の居場所は、これくらいじゃ簡単に壊れはしないって事を!!」
「エリス・・・・」
石像の陰に隠れたシェリーはぶるぶると怒りに震えた声で叫んだ。
「ぶち殺せ、一人残らず!
こいつらの肉片を集めてお前の身体を作ってやる!!」
「させん!!
配置B!
作戦通り、弾幕を張り続けろ!!」
その合図で三方から一斉にライフルが撃たれる。
警備員達は透明な盾を持つ前衛とライフルを撃つ後衛の二組で動いていた。
そうしないとエリスに当たった銃弾が跳ね返り、自分達に当たってしまう可能性があるからだ。
集中砲火を浴びるエリスの足は、まるで暴風の中を強烈な向い風に向かって必死に歩こうとしているようだった。
エリスの身体は次々と剥がれていくが、周囲の床や壁などを利用して果ては撃ち込まれた弾丸さえも利用している。
その弾丸の嵐の中に場違いな赤い光がエリスに向かって飛んでいく。
それも一つだけではなく何個も飛んでいく。
その赤い光はエリスにぶつかるとエリスの身体の一部として吸収されていく。
その時だった。
「neun。」
その言葉と同時にエリスの身体がいきなり爆発する。
シェリーはその光景を見て驚いている。
すぐさまシェリーはオイルパステルを横に振うと、エリスは再び周りを利用して壊れた箇所を再生していく。
だが、修復するたびにエリスの身体は爆発していく。
(一体、何が起こっている!?)
シェリーはエリスの身体を調べるとその体内にはいくつか自分の魔力とか違う魔力の塊を感じた。
それは小さな塊だが、次の瞬間にはその塊が一気に膨らみ爆発する。
シェリーはこれを見て直感する。
これは魔術だと。
しかし、此処は学園都市、魔術を使える者など一人もいない筈。
例え、使えても拒絶反応を起こして最悪は死に至る事もある。
シェリーはその事を誰よりも知っている、知っているからこそ何度も襲う魔術が信じられなかった。
シェリーは舌打ちをするとオイルパステルを振るい空中に十字架を書いていく。
「『神の如き者』『神の薬』『神の力』『神の火』!
四界を示す四天の象徴、正しき力を正しき方向へ配置し正しく導け!!」
魔術師がそちらにいるのならまずはそいつを殺さないと厄介だ、と思ったシェリーはエリスを動かし集中砲火と内部爆発の中を無理矢理前へと進ませる。
ぎぢっ、とエリスの身体から、軋んだ音が鳴り響くがそれでも命令に従うかのように前へと進んでいく。
それを見たシェリーは歓喜したように、さらに激しくオイルパステルを振り乱す。
「あ、そんな・・・・」
火薬の弾幕の中、風斬は思わず声をあげるがその場にいた麻生は落ちついた声で言う。
「どうやら、俺が思った通りに進んでくれているな。」
その言葉に風斬は麻生の方を見る。
麻生の手にはいつの間にか赤く輝く物が指と指の間に挟まっていて、麻生はそれをエリスに投げつけている。
エリスが内部爆発を起こしている原因は麻生が指に挟んでいる赤い宝石、ルビーがエリスの体内で爆発しているのだ。
宝石魔術。
宝石の中に籠っている魔力を開放して魔術を発動させる魔術。
麻生は自分の能力でルビーを具現化させそれをエリスに投げつけているのだ。
透明の盾を持っている愛穂は心配した表情で麻生を見つめている。
「恭介、やっぱり行くの?」
「当たり前だ、警備員の銃弾だけじゃあ限界がある。
俺にはあの石像をもっと簡単に破壊する手は色々あるが、まずはあの女を殴らないと気が済まないんだよ。」
麻生の言葉を聞くと愛穂はため息を吐く。
「分かったじゃん。
けど、約束して。
必ず戻ってくるって。」
「約束する必要はない。
俺は戻ってくる。」
それだけを言うとエリスの方をじっと見つめる。
風斬は何をするのか全く分からないので上条に聞いてみる。
「あの・・・これから・・何を・・?」
「これから俺と恭介があの石像を超えてあの女をぶん殴りに行く。」
上条の言葉に風斬は耳を疑った。
しかし、上条の表情は冗談を言っているような表情に見えない。
「あいつは俺やインデックスの友達の風斬を化け物呼ばわりしたんだ。
一発はぶん殴らないと気が済まねぇんだよ。」
風斬は自分の為に此処まで怒ってくれることは嬉しかった。
嬉しかったがこんな銃弾が飛び交う中を走り抜けるなど自殺行為に他ならない。
だが、上条はいつもの笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫だ、風斬。
何も作戦なしで突っ込むわけじゃないからな。」
風斬を安心させるように優しく言い聞かせる上条。
麻生が一言、行くぞ、と伝えると上条は前を見据える。
麻生は両手の指に挟まっている宝石を合わせると麻生の手の中が光り輝く。
「Schuss schiest Beschuss Erschliesung。」
麻生がそう唱えると前方に横一列に広がっていた警備員は麻生の直線状の部分だけ隙間を開ける。
次の瞬間、麻生の両手から光の光線のようなモノが発射されエリスに向かって放たれる。
「ッ!?・・エリス!!」
シェリーは慌ててオイルパステルを振るいエリスを盾にしてその光を受け止めさせる。
エリスと光の光線がぶつかった瞬間、大きな爆発が起こると警備員達は一斉に撃つのを止めた。
シェリーはこの瞬間に何か行動を起こすと考え、すぐさまエリスを修復させる。
だが、エリスが修復するよりも一歩早く麻生と上条が土煙の中からシェリーに向かって走ってきていた。
土煙が晴れるとエリスは多少壊れながらもその場に立っていた。
警備員はそれを確認すると再び集中砲火を始める。
「え、エリス・・・」
シェリーは目の前にいる敵をエリスで薙ぎ払おうとするが出来ない。
もしエリスをこちらに呼び戻せば警備員の弾丸がこちらに飛んでくるからだ。
麻生と上条はゆっくりとシェリーに近づいてくる。
「はは。
何だ、そりゃ。
これじゃ、どこにも逃げられないじゃない。」
オイルパステルが不器用に宙を泳ぎながら引きつった笑みを浮かべながら言う。
麻生は左手を、上条は右手を強く握りしめる。
「お前は黙って寝てろ。」
二人の拳がシェリー=クロムウェルを殴り飛ばす。
彼女は二人の拳に殴られ地面を何度も転がった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第48話
シェリーが倒れてもエリスは動きを止めているが身体が崩壊してはいなかった。
警備員もエリスが動いてはいないがまだ残っているので攻撃の手を緩めない。
上条は自分の右手でエリスに触ろうかと思った時、上条の右手を麻生が掴み言った。
「まだだ、あいつは意識を失っていない。」
その言葉を聞いた上条は倒れているシェリーの方を見る。
確か自分は手加減なしでシェリーを殴ったつもりだった。
さらに麻生も一緒に殴っている、上条が疑問に思っていると麻生が答える。
「おそらく、浮遊術式でもかけていたんだろう。
そのおかげでエリスの震動も自分には通じなかったし、俺達が殴る瞬間、その術式を利用して後ろに飛んで衝撃を緩和したんだ。」
麻生はそう説明して忌まわしく舌打ちをする。
すると、シェリーは倒れたまま笑い声をあげると、オイルパステルを抜刀術のように振るい地面に模様のような、記号のような、判読不能の何かが勢い良く床へと書き殴られる。
「ちくしょう!
二体目を作る気か!?」
「うふふ、できないわよ。
ああしてエリスが存在する以上、二体同時に作って操る事などできはしない。
大体、複数同時に作られるのなら初めからエリスの軍団を作っているもの。
無理に作ろうとした所で、どうやっても形を維持できない。
ぼろぼろどろどろ、腐った泥みてーに崩れちまう。
けどなぁ、そいつも上手く利用すりゃあ、こういう事もできんのさ!!」
瞬間、シェリーが描いた文字を中心点にして、半径二メートルほど、彼女が倒れている地面が丸ごと崩れ落ちた。
シェリーは崩壊に巻き込まれ、まるで地面に呑み込まれるように姿が消える。
「くそっ!!」
上条は慌てて駆け寄ったが、そこには空洞しかなかった。
穴は深く、何メートルあるかも分からないが、底の方から空気の流れのようなものを感じる。
「地下鉄の線路が通っているのだろう。
上手く利用されたな。」
麻生も穴の底を見つめながら言う。
すると、動きの止まっていたエリスが、バラバラと音を立てて崩れていった。
エリスが崩れるのと同時に、銃声の渦もピタリと止まる。
「おかしい。」
ふと、穴を見つめながら麻生は呟いた。
「おい、当麻。
あの女が此処に来た理由を教えろ。」
麻生にシェリーの目的を教える。
それを聞いた麻生は周りを見渡す。
まるで誰かを探しているかのようだった。
「おい、インデックスはどこだ?」
「インデックスか?
それなら白井の能力で外に・・・・」
そこまで言うと上条は何かに気づいた。
シェリーは戦争の火種を欲しがっていたのに、そのターゲットの内の二人である上条と風斬が目の前にいるのにどうして逃げたのか。
「あいつは逃げたんじゃない。
目標を変えたんだ。
警備員に守られていないあと一人のターゲットにな。」
そこまで言われ上条はようやく気づいた。
「くそ・・・インデックスか!!」
上条はそう叫ぶと急いで警備員の元に駆け寄った。
おそらく、地下街の封鎖を解いてもらいに行ったのだろう。
麻生は封鎖はすぐには解かれないと考える。
警備員には様々な管轄があり、それぞれに命令系統が存在する。
愛穂達の警備員の管轄では独断で隔壁をあげる事は出来ないだろう。
なぜ、この事を麻生が知っているのかというと前に愛穂がこの管轄や命令系統の事で愚痴をこぼしていたからだ。
麻生の能力で隔壁を上げる事は出来るが、そうすると愛穂に迷惑をかける可能性があるので上げるに上げれない状況でもある。
(そうなると此処からシェリーを追うしかないな。)
麻生は目の前にある底の見えない穴を見つめながら思う。
その時だった。
「待て、風斬!!」
上条の叫び声が聞こえ後ろを振り向いた時、麻生の隣を風斬が走り抜けシェリーが空けた大穴の縁から、飛び闇に落ちる。
上条は咄嗟に手を出して風斬の腕を掴もうとしたが、反射的に利き腕である右手を出してしまったので捕まえる寸前で手が止まる。
風斬の身体はAIM拡散力場、つまり異能の塊である。
そんな風斬の身体に上条の幻想殺しが少しでも触れれば風斬の身体は崩壊するだろう。
そして風斬は深い闇の底へと落ちていった。
「くそ!!」
上条は自分の右手を強く握りしめながら叫ぶ。
これほどまでに自分の右手の能力を忌々しく思った事はないだろう。
上条はすぐにでも追いかけたいところだが目の前の大穴はどれくらいの深さなのか暗くて何も分からない。
少なくとも無暗に飛び込めば自分の足がどうなるかくらいは想像できた。
上条は周りを見渡し何は縄になる物を探す。
そんな上条を見ていた麻生は無線機で誰かと言い争いをしている愛穂に近づく。
ちょうど会話が終わったのか無線機から顔を遠ざける。
「愛穂。」
「恭介か。
どうやら無事みたいで良かったじゃん。」
「まぁな、それよりも隔壁は上がらないのか?」
「命令系統が違うからもう少し時間がかかるじゃん。
逃げたテロリストも追いかけないといけないのに。」
「その逃げたテロリストは俺が追いかける。」
麻生の言葉を聞いた愛穂は驚いた表情をする。
「何を言ってるじゃん!!
あんな先も見えない暗闇じゃテロリストがどこにいるか全く分からないじゃん!!
もし罠とか仕掛けていたら怪我ですまないかもしれない!!」
「まだあいつを殴り足りていない。
それにこのまま放置しておくのは色々不味いだろう?」
「それはそうだけど・・・・」
正直、愛穂もあのテロリストが次にどんな行動をとるか全く分からなかった。
もし次に起こす行動が取り返しのつかない事をされてしまっては遅い。
今すぐにでも追撃に行きたいのだが此処を離れる訳にもいかない。
かと言って学生である麻生に危険な所に行かせる訳にもいかない。
どうすればいいか迷っていると麻生は愛穂の頭に手を乗せる。
「大丈夫だ、俺は死なないし怪我もしない。」
麻生の言葉を聞いた愛穂は大きくため息を吐いた。
「どうせウチが止めてと行くのでしょ?」
「よく分かっているな。」
「ガキの頃から見ているんだから分かるじゃん。
絶対に無事に帰ってきて。」
任せろ、と言って麻生は愛穂の頭から手を放してシェリーを追いかける。
大穴の近くでは未だに上条が縄の代わりを探していた。
「おい、当麻。」
「何だ、今は忙しいから後に・・・「俺の能力で下に下ろしてやる。」・・・・え?」
麻生は大穴の縁に掌を置く。
すると、そこから穴から地面まで石で出来た梯子が下りてくる。
「でも、お前の能力で作った梯子なら俺の右手が触ると壊れるんじゃないのか?」
「お前の幻想殺しは異能にだけに反応する。
だが、俺の能力で作ったこの梯子は異能の力は働いていない。
元からこの梯子はここにあるものだと星に認識させている。」
「えっと・・・・つまりどういう事ですか?」
「簡単に言えばお前の右手で触れてもこの梯子は壊れない。」
「初めからそう説明すれば良かったんじゃねぇ?」
「・・・・・・」
上条の問いかけに麻生は答えず黙って大穴に飛び込む。
麻生の行動に上条は一瞬、驚いたが麻生の事だから大丈夫だろうと思い、麻生が作った梯子を下りていく。
梯子を下りるとそこには麻生がいて、地面にできた大きな足跡を見つめていた。
「これはあの石像の足跡だろうな。
二体目を作ったか・・・急ぐぞ。」
麻生はそう言って足跡を頼りに地下鉄を走っていき、上条も麻生に着いて行く。
地下鉄の構内の中央には等間隔で四角いコンクリートの柱があり、上り線と下り線を隔てている。
上条はどこまで走っても一向に変わらない風景に神経をすり減らされていたが、不意にすぐ側の柱が麻生に向かって崩れ始めた。
まるで見えない巨大な手で積み木を崩すような、明らかに不自然な現象だった。
「恭介!?」
上条は麻生の名前を叫ぶが麻生は自分に倒れてくる柱を右手の拳で殴りつける。
すると、麻生の拳に殴られた柱は木端微塵に吹き飛ぶ。
「流石に、簡単には潰れないわね。」
闇の先から声がかかる。
その先には薄汚れたドレスを引きずるようにして、シェリー=クロムウェルが立っていた。
お互いの距離はおよそ一〇メートル強。
その傍には、暴虐の象徴たる、エリスの姿はない。
「エリスなら先に追わせているわよ。
今頃もう標的の元に辿り着いているかしら。
それとももう肉塊に変えちまっているかもなぁ。」
「テ、メェ・・・っ!!」
上条は低く腰を落として拳を握る。
「当麻。」
不意に麻生が上条の名前を呼んだ瞬間、麻生は上条の胸ぐらを掴むとそのままシェリーに向かって投げ飛ばす。
「「!?」」
投げられた上条は訳が分からず、シェリーは自分に向かってくる上条を咄嗟にかわしてしまう。
シェリーに避けられてしまいそのまま地面に何度も転がる。
一〇メートル以上も投げ飛ばされれば意識を失う可能性が高いが、そこは麻生の投げ方がうまいのか上条はふらふらと立ち上がる。
「先に行け。」
立ち上がった上条の耳にはそう聞こえた。
その言葉を聞いて上条は麻生が自分を投げ飛ばした意味が分かった。
おそらく、シェリーの目的は時間稼ぎ。
二人で掛かればすぐに倒せるかもしれないが、エリスがインデックスの所に向かっているこの状況では一分一秒も惜しい。
それならエリスに触れるだけで倒せる上条を麻生は先に行かせたのだ。
上条はそのまま振り返りインデックスと、そこへ向かったであろう風斬の元へ急ぐ。
「行かせるか!!」
シェリーは上条の方に振り返ろうとした時、ヒュン、と何かがシェリーの耳元を通り過ぎた。
後ろを見ると立っている柱が横一線に切り裂かれていた。
「お前の相手はこの俺だ。」
シェリーは視線を麻生の方に戻す。
「やっぱりあの魔術はお前の仕業か。
能力者であるお前がどうして魔術を。」
「説明すると長くなるが簡単に言うと俺はそこいらの能力者とは違うんだよ。
俺もお前に聞きたい事がある、どうして戦争の火種を欲しがる?
今はどちら側もバランスがとれている筈だ。」
麻生の問いかけにシェリーは口元に含んだ笑みを浮かべて、彼女は告げる。
「超能力者が魔術を使うと、肉体は破壊されてしまう。
お前は例外みたいだけど。」
質問と全く違う答えだが、麻生は黙って聞く。
「おかしいとは思わなかったの?
一体どうしてそんな事が分かっているかって。
試したんだよ、今からざっと二〇年ぐらい前に。
イギリス清教と学園都市が、魔術と科学が手を繋ごうって動きがウチの一部署で生まれてな。
私達はお互いの技術や知識の一つの施設に持ち寄って、能力と魔術を組み合わせた新たな術者を生み出そうとした。
その結果が・・・・」
その先を言わなくても麻生には予想できた。
能力者が魔術を使えば身体は破裂する。
麻生のような強大な能力の持ち主は本当に稀なのだ。
「今の現状を見る限り、その施設は潰されているみたいだな。」
「その通りよ、お互いの技術や知識が流れるのはそれだけで攻め込まれる口実にもなりかねねえからな。」
シェリーはポツリと呟くように言った。
「エリスは私の友達だった。
エリスはその時、学園都市の一派に連れてこられた超能力者の一人だった。」
その言葉に麻生は眉をひそめる。
エリスという名前はあのゴーレムにつけられていた名前と同じだ。
「私が教えた術式のせいで、エリスは血まみれになった。
施設を潰そうとやってきた「騎士」達の手から私を逃がしてくれるために、エリスは棍棒で打たれて死んだの。」
暗い地下鉄の構内に、教会のような静寂が張り詰める。
シェリーはゆっくりとした口調で言葉を続ける。
「私達は住み分けするべきなのよ。
お互いにいがみ合うばかりではなく、時には分かり合おうという想いすら牙を剥く。
魔術師は魔術師の、科学者は科学者の、それぞれの領分を定めておかなければ何度でも同じ事が繰り返されちまう。」
その為の、戦争。
「要はお前はお互いが一切干渉しないようにするのが目的だろ。
お互いの完全に接点をなくし対立による激突も、協力しようして生まれる摩擦も防ぐために。」
「何を知った風な口で話してんだ、クソガキ。」
そう言ってシェリーはドレスの袖からオイルパステルを取り出す。
麻生はそれに合わせて拳を作り、構えるがそこである疑問が浮かんだ。
シェリーの言葉が正しければエリスを二体同時に作る事は出来ない。
エリスはシェリーの切り札だ、それを使えないのにどうして此処で待ち伏せなんてした。
どうしてわざわざ麻生の目の前に現れるようなことをした。
それに気づいた麻生は周りを見渡す。
能力を使い暗闇の中でも見えるように目を変えると見渡す限り全てに魔方陣が描かれていた。
地下鉄全体とは言わないが前後一〇〇メートル以上くらいまでは魔方陣が描かれている。
「うふふ、どうやら気がついたみたいね。
私がどうしてお前の前に姿を現したのかを。」
その言葉と同時にヒュン、と空を引き裂くようにオイルパステルを横に振るうと、魔法陣が反応して淡く輝き始める。
「地は私の味方。
しからば地に囲われし闇の底は我が領域。」
歌うように、シェリー=クロムウェルは告げる。
「全て崩れろ!
泥の人形のように!!」
絶叫に呼応するように、周囲はより一層の輝きを増した。
麻生は前後にある魔方陣を一つ一つ素早く観察していく。
そして、絶望的な状況なのに麻生は一向に取り乱そうとしない。
シェリーはその麻生の態度を見て眉をひそめる。
「この短時間でここまでの術式、見事と褒めておこう。」
「今さら命乞いしても遅いからな。」
「命乞い?
そんな事をする訳がないだろう。」
「なに?」
麻生は左手を垂直に伸ばしながら言う。
「命乞いって言うのは自分が負ける状況の時に使う行動の一つ。
なら、俺がそんな無様な事をする訳がない。
なぜなら、俺は負けないからだ。」
麻生の左手の掌に小さな魔方陣が現れた瞬間、地下鉄内に描かれた全ての魔方陣に被さるように別の魔方陣は浮かび上がる。
そして、二つの魔方陣が重なるとバキン!!、と一斉に音を立てて描かれた魔方陣が全て消え去った。
その光景を見たシェリーは絶句する。
「一体・・・・何をした!?」
「簡単な事だ。
お前が描いた魔方陣に込められた意味、方角、魔力の流れなどそれらの意味を打ち消すように魔方陣を組み立てて、描かれている全部の魔方陣に上書きして相殺しただけだ。」
シェリーは麻生の説明を聞いても信じられなかった。
あれらの魔法陣には別々の意味があり解析、分析、相殺、これらの手順を行うには時間がかかる。
さらに魔方陣の数は一〇〇を超えている。
莫大な数の魔方陣の短時間で見極め、魔方陣を構築して相殺する魔術師などシェリーは聞いた事ない。
ましては麻生は生粋の魔術師ではない、それなのにこんな離れ業をやってのけた。
「くそ、ちくしょう・・・・」
これだけ大掛かりな準備をした攻撃を糸も簡単に相殺され、シェリーは動揺を隠せないまま一歩、二歩、とよろめくように後ろへ下がりながら、忌々しげに呟いた。
「戦争を「火種」を起こさなくっちゃならねえんだよ。
止めるな!今のこの状況が一番危険なんだって事にどうして気がつかないの!?
学園都市はどうもガードが緩くなっている、イギリス清教だってあの禁書目録を他所に預けるだなんて甘えを見せている。
まるでエリスの時の状況と同じなのよ。
私達の時でさえ、あれだけの悲劇が起きた。
これが学園都市とイギリス清教全体なんて規模になったら!
不用意にお互いの領域に踏み込めば、何が起きるかなんて考えるまでもないのに!」
シェリーの叫びを聞いた麻生はため息を吐く。
「お前の考えは理解できる、なんて事は言えない。
けどな、お前のしている事は間違っていると俺は言える。
怒るのも哀しむのもお前の勝手だ。
だが、その自分勝手な感情を周りに八つ当たりのようにぶつけるのは違う。」
エリスが死んでしまったのは、一部の科学者や魔術師が手を取ろうとしたり、それを危険視したイギリス清教の人間のせいだったらしい。
それを知った瞬間、果たしてシェリーは何を考えたのだろうか?
自分の大切な友達を殺した人間に対する復讐か。
それとも、もう二度とこんな悲劇を繰り返さないという誓いか。
麻生の言葉を聞いたシェリーは奥歯を噛みしめる。
「ちくしょう、確かに憎いんだよ!
エリスを殺した人間なんてみんな死んでしまえば良いと思っているわよ!
魔術師も科学者もみんな八つ当たりでぶっ殺したくもなるわよ!
だけどそれだけじゃねえんだよ!
本当に魔術師と超能力者を争わせたくないとも思ってんのよ!
頭の中なんて始めっからぐちゃぐちゃなんだよ!」
相反する矛盾した絶叫が暗い構内に響き渡る。
彼女自身もそれに気づいているのか、余計に自信を引き裂くような声で叫ぶ。
「信念なんか一つじゃねえよ!
いろんな考えが納得できるから苦しんでいるのよ!
たった一つのルールで生きてんじゃねえよ!
ぜんまい仕掛けの人形みたいな生き方なんてできないわよ!
笑いたければ笑い飛ばせ。
どうせ私の信念なんか星の数ほどあるんだ!
一つ二つ消えた所で胸も痛まないわよ!!」
シェリーの叫びを聞いた麻生はもう一度ため息を吐いて言った。
「そこまで分かっているのにどうして気がつかない。」
「何ですって?」
「お前の言っている事は滅茶苦茶だし矛盾ばかりしている。
けど、お前が一番思っている信念は少しも揺らいでいない筈だ。
星の数ほどあると言ったがお前は最初から一つしかないんだよ。
お前は大切な友達を失いたくなかった、ただそれだけだろ。」
シェリー=クロムウェルがどれほど、それこそ星の数ほどの信念を持っていても一番最初の根っこの部分は変わらない。
全ての信念は、彼女の友達の一件から始まり、そこから分岐・派生した形にすぎない。
どれだけ信念があろうとも彼女がその友達に対する想いだけは、ずっと変わっていない。
「ここにあの幻想殺しがいればあいつはこう言っていた筈だ。
自分の大切な人を奪うなってな。」
その言葉を聞いたシェリー=クロムウェルの肩がビクリ、と震えた。
彼女は分かっている。
その願いがどれだけ大事な望みであり、それを奪われた時の痛みがどれほどのものかを。
それでも彼女には届かない。
なぜならそれはかつて彼女自身が放った事があった叫びだからだ。
「我が身の全ては亡き友のために!!」
そして彼女は拒絶するように絶叫した。
ビュバン!!と、彼女の手の中にあるオイルパステルが閃く。
シェリーのすぐ横の壁に模様が走った瞬間、それは紙粘土のように崩れ落ちた。
巻き上げられる大量の粉塵があっという間に二人の視界を遮断してしまう。
蠢く霧のような灰色のカーテンが迫り来るが麻生は微動だにせず拳を構える。
その瞬間、オイルパステルの手にシェリーは粉塵を突き破るように飛び掛かってくる。
「死んでしまえ、超能力者!!」
鬼のような罵声を放つ彼女の顔は、しかし泣き出す寸前の子供のようにも見えた。
麻生は拳を握りしめながら言う。
「止めて欲しいんだな。
振り上げた拳をどこに振えばいいのか分からないんだな。
それなら俺がその拳を受け止めてやるよ。」
麻生は右手でシェリーの持っているオイルパステルを砕き、左手でシェリーの顔面を殴り飛ばした。
ガンゴン!!、という凄まじい音を立てて彼女の身体は構内の地面に跳ね回った。
柱に寄りかかるようにして倒れているシェリーを麻生は一瞥して来た道を引き返していく。
「私を殺さないのか?」
後ろからシェリーの声が聞こえた。
麻生は振り返らずに答える。
「俺はある人と人を殺すなと約束しているから殺さない。」
「なら、禁書目録の所にも行かないのか?」
「それは当麻が行っているから問題ないだろう。」
「苦戦しているとは考えないのか?」
「そんな事は正直どっちでもいい。
あいつ自身が守ると誓った幻想くらい、あいつで守ってもらわないとな。」
そう言って麻生は来た道を引き返すのだった。
大穴の真下まで戻り能力を使い地下街まで戻ってきた麻生だが、穴の前には穴に突入する前よりも警備員の人数が増えていた。
その先頭には愛穂が立っていて、穴から突然出てきた麻生を見て驚くが麻生だと分かると抱きしめてきた。
「おい、愛穂・・・」
「心配したじゃんよ!!
怪我とかしてない!?」
「どこも怪我はしてないが・・・・その・・抱きしめるのは時と場合を考えてほしいんだけど・・・」
「え?」
周りを見ると他の警備員達が信じられないような表情を浮かべている。
それもその筈、愛穂はあらゆる意味を込めて「勿体無い女性」という評価を受けている。
だが、今の愛穂の行動や表情を見る限りまさに一人の恋する乙女に他の警備員達には見えたのだ。
あらゆる意味で衝撃的展開なのだが、麻生だけはその事に気づいていないようだ。
「えっと・・・・これは・・・その・・・・」
「愛穂、何か面倒な事になりそうだから俺は寮に戻る。
この先にあの女が倒れている筈だから。」
じゃあ、と言って麻生は警備員達の壁を突破してさっさと逃げていく。
後ろからは愛穂の声が聞こえたが麻生は無視して寮に戻るのだった。
「これで満足か?」
ドアも窓も廊下も階段もエレベーターも通風孔すら存在しないビルの一室で、土御門元春は空中に浮かぶ映像から目を離して吐き捨てるように呟いた。
巨大なガラスの円筒の中で逆さに浮かぶアレイスターは、うっすらと笑っている。
「あの麻生恭介すらも利用して虚数学区・五行機関を掌握するための鍵の完成に近づいた、という訳だ。
正直、オレにはお前が化け物に見えるぞ。
だが、麻生恭介は気づいているみたいだ。
虚数学区がAIM拡散力場そのものだという事が。」
「確かにそれはイレギュラーだがプランには何も問題はない。
幻想殺しを使い、風斬氷華に自我を植え付ける所まではスムーズに進んでいる。」
幻想殺しは虚数学区にとって唯一の脅威だ。
生死を知らないモノに自我が生まれる事はない。
だから、幻想殺しという死を教え込めば、心を持たぬ幻想が自我を持つようになる。
「思考能力を与えれば行動も予測できるし、上手く立ち回れば交渉や脅迫なども行える。」
「そこまでして虚数学区を掌握する事に意味があるのか?
今回はイギリス清教の正規メンバーを警備員の手を借りて撃退したのだ。
世界は緩やかに、確実に狂い始めた。
聖ジョージ大聖堂の面々はこれを黙って見過ごすとは思えない。
お前はこの街一つで世界中の魔術達に勝てるなどとは思っていないだろうな。」
「魔術師どもなど、あれさえ掌握できれば取るに足らん相手だよ。」
「あれ、だと?」
アレイスターの言葉に土御門は眉をひそめる。
虚数学区・五行機関はAIM拡散力場で出来ているので能力者がいないと周囲に展開できない。
つまりこれは学園都市内に限定される。
そこまで考えて土御門は背筋に嫌な感覚が走り抜けた。
「アレイスター・・・お前はまさか、人工的に天界を作り上げるつもりか!?」
「さてね。」
土御門の問いかけにアレイスターはつまらなさそうに一言だけ答えた。
科学の力だけで作られるということは全く新しい「界」を生み出す事を意味する。
新たな「界」が出現すれば魔術環境は激変する。
魔術師は魔術を使えば身体は爆発し、魔術によって支えられている神殿や聖堂などは柱を失って自ら崩れていくだろう。
今は虚数学区は未完成だが、完成すればあらゆる魔術師は学園都市の中で魔術を使う事が出来なくなる。
これが世界中に広がればどうなるだろうか?
そして、その下準備は既にできていた。
上条と麻生の手によって救われた一万弱もの人工能力者達「妹達」は、治療目的で世界中に点在する学園都市の協力機関に送られている。
わざわざ「外」で治療する理由はここにあったのだ。
一方通行を使ったあの馬鹿げた「実験」の真意は絶対能力進化計画などではなく、上手く「妹達」を全世界に蔓延する為のものだった。
「これがイギリス清教に知られれば即座に開戦だな。」
「馬鹿馬鹿しい妄想を膨らませるな。
私は別に教会世界を敵に回すつもりは毛頭ない。
なにより人工天界を作るには、オリジナルの天界を知らねばならない。
それはオカルトの領分、科学にいる私には専門外だ。」
「ぬかせ、お前以上に詳しい人間がこの星にいるか、そうだろう。
魔術師、アレイスター=クロウリー。」
彼は世界で最も優秀な魔術師であり、世界で最も魔術を侮辱した魔術師でもある。
彼は極めた魔術を全て捨てて、一から科学を極めようとした。
これこそが魔術に対する世界最大の侮蔑だ。
故に、アレイスターは全世界の魔術師を敵に回してしまう。
「丸っきり負け惜しみになるが、お前に一つだけ忠告してやる。」
「ふむ、聞こうか。」
「オレにはお前が考えている事など分からないし、説明を受けても理解はできないだろう。
だが、あの幻想殺しを利用するというのなら覚悟しろ。
そして、麻生恭介。
あいつはお前が思っている以上に特殊な存在で、甘く見ているとお前の世界を破壊するかもしれんぞ。」
彼がそう告げるとタイミングよく空間移動能力者が部屋に入ってきて、土御門は部屋から出て行く。
そして、土御門と入れ替わるように何もない所からブクブクと泡が噴き出してくる。
それはどんどん増えていくとやがて人の形へと形成していき、最後には全身を真っ赤なローブを着こんだ人の姿へと変わる。
身長はおよそ一六五センチくらいの小柄な体型だ。
「ごぎげんよう、アレイスター殿。」
その者はペコリ、と頭を下げてアレイスターの名前を呼ぶ。
「君達か、何か用かね?」
アレイスターは特に驚く事無く、突然やってきた来客に返事を返す。
その口ぶりからすると何回は会っているかのようだ。
「いいえ、あの星の守護者の様子を見に来たついでにご挨拶をと思いまして。」
「余計な気を遣わなくても構わない。」
「いいえ、教皇様から貴方様には一度は挨拶をするようにと言われております故に。」
「そちらがそう言うつもりなら好きにしてくれて構わない。
こちらもこちらで君達には感謝している。
何せ、麻生恭介の情報を教えてくれたのだからな。」
その言葉を聞いて赤い服を着込んだ者はうっすらと笑みを浮かべる。
「君達が教えてくれなければ彼の扱いに未だに困っていたかも知れない。
本当に感謝しているよ。」
「喜んでいただいて何よりです。
それではまたお会いしましょう。」
そう言ってバン!!と音を立ててその者の身体が弾け飛んだ。
アレイスターはその者がいた所を黙って見つめている。
「ダゴン秘密教団・・・か。
使える者は利用させてもらおう。」
とあるフランスの街中。
ごった返す人混みの中に二人の女性が並んで歩いていた。
一人は眼鏡をかけた女性で身長は一六五センチ程度、黒のショートヘヤーの女性。
もう一人は隣の女性より頭一つ分身長が低く、髪はピンクで肩まで髪が伸びているストレートヘヤー。
「それでアレイスターは何て言ってたの?」
ピンクの髪の女性が両手を後頭部に当てながら話す。
「特に何も、ただ挨拶に向かっただけなのでそれらしい会話はしていません。
それより、星の守護者の監視はどうですか?」
「順調だよ、今は私の分身が見張っているんだけど・・・・・」
そこまでピンク髪の女性は言葉を詰まらせる。
「どうかしましたか?」
「んとね、星の守護者が喋る猫と話していたの。
そしたら、その猫は私の存在に気づいてたのか知らないけどこっちに向いてきたの。
慌ててその場を離れたけどね。」
メガネをかけた女性は右手でメガネを位置を整えてその猫について考える。
「ふむ、それは教皇様も知らない事の可能性がありますね。
今から連絡を取ります。
貴女は念には念を押して分身を解除してください。」
「りょ~か~い。」
「一度、本部に戻り情報を整理しますよ。」
その言って次の瞬間にはその二人の女性の姿はどこにも見当たらなかった。
後書き
少しだけ皆様に報告します。
原作のとある魔術の禁書目録にSSの本があります。
それらを含めたストーリーを考えていますが、時系列がかなり違います。
答えを得た麻生恭介の方が私的にも物語的にも非常に都合がいいので、SSの話を書くときは時系列がものすごくずれます。
ご了承ください。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
第49話
どこにでもいる平凡な高校生、麻生恭介はいつもの様に窓の外を見ながら授業を受けていた。
最近は魔術師がらみの事件に科学側の事件に頻繁に巻き込まれるなど、普通の高校生ならまず体験しない経験をしながら生活を送っている。
「はぁ~~~~・・・・・」
盛大に疲れたような溜息を吐く、麻生。
前に地下街の事件の後、愛穂から電話がかかりちょっと家に来い、と殺気の籠った声で呼び出しを受けた。
そこから約三時間かけて説教をされるなど散々な目に遭った。
その事を思い出し、もう一度大きなため息を吐く。
「こら、麻生恭介!!
大覇星祭の事について色々話さなければならないのに何だその溜息は!!」
聞き覚えのある声がしたと思い視線を前に向けると、明らかに怒っていますよオーラを出しながら教壇に立っているのは吹寄制理だ。
麻生はいつの間にか授業は終わり、ホームルームになっている事に気がついた。
「大体、貴様は参加する競技は最低限しか参加しないし、こういった話し合いも全く参加しない。
お前にやる気はあるのか、やる気は!!」
「全くないです。」
「即答するな!!」
「ああ~、お前は怒りすぎだ。
ほら、牛乳持っているからこれ飲んでカルシウムでも摂取しろ。
何ならじゃこもあるが、こっちにするか?」
ぶちぶち、と明らかに聞こえてはいけない音が周りの生徒達の耳に聞こえるが麻生は気にしない。
このクラスで制理を平気で本気で怒らせるのは上条、青髪、土御門、麻生、この四人くらいだ。
次の瞬間、制理の怒りの叫びが教室中に響き渡った。
「あ~・・・疲れた・・・」
疲れた表情を浮かべながら麻生と上条は二人で寮に帰っていた。
「いや、さっきのは確実に恭介が悪いだろ。」
「あそこまで怒るとは思ってもみなかったけどな。
それとだ、疲れているのはお前の不幸に巻き込まれたというのもあるがな。」
うっ、上条は疲れたような顔をしながら頭をかきながらあはは、と苦笑いを浮かべている。
あの後、クラスの全員(麻生を除く)が麻生に襲いかからんとする制理を、何とかなだめる事が出来たが麻生はその後、小萌先生に軽くお説教を受けたのだ。
その後は大覇星祭の準備をする事になっている。
準備と言っても見物人用のテントを組み立てるだけなのだが、組み立てた所で愛穂がやってきて。
「ごっめーん♪
やっぱテントいらないじゃん。」
と苦笑いで両手を合わせられて謝られ、テントを片付けた所で小萌先生がやってきて。
「あーっ!何やっているんですか麻生ちゃん、上条ちゃん!
テントはやっぱりいるって連絡入りませんでしたかー?」
と麻生は二度目の小萌先生のお怒りを受け、能力を使って大覇星祭を無くしてやろうかと本気で考えたいしていた。
「何より、大覇星祭といった祭りみたいな馬鹿騒ぎは嫌いなんだよ。」
歩きながら麻生は言う。
大覇星祭とは学園都市に所属する全学校が合同で行う超大規模な体育祭。
要は異能者が繰り広げる大運動会のようなものだ。
その為、燃える魔球や凍る魔球、消える魔球はザラであり、外部からの注目度も高い。
生徒の関係者やただの一般客も開催中は学園都市に入る事ができ、応援・観戦等で開放区域を自由に移動する事ができる。
前に久しぶりに麻生の親から電話がかかってきて大覇星祭の日にちに合わせて休みを取ってあるからな、と電話を貰った。
親が見に来るので自分の種目は必ず出ないといけなくなる。
さぼる事もできなくなり今から大覇星祭の事を考え軽く憂鬱になる麻生。
「俺も能力者同士が本気でやり合うイベントに何てできれば参加したくないよ。」
上条も大覇星祭の事を考えていたのかさらに疲れた表情を浮かべる。
上条の右手、幻想殺しはあらゆる異能を打ち消す事が出来る。
だが、これ一つで何十人もの能力者が入り乱れる激戦区へ突撃したいとは思えない。
二人揃って同じ表情を浮かべながら学生寮の入り口辺りにきた時、不意に頭上から女の子の声が聞こえた。
「あー。
かっ、上条当麻、あ、麻生恭介ー」
「「ん?」」
二人が顔を上げると七階通路のある金属の手すりから、土御門舞夏が上半身を乗り出して右手を振っていた。
いつもは清掃ロボットの上に正座した状態なので、ものすごくバランスが危うく見える。
左手はモップを握り、それで床を突いて前進しようとしている清掃ロボットの動きを封じているらしい。
「よ、よよ用事があったの急用があったの。
というかお前は携帯電話の電源切って