Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-


 

キャラクター設定

 
前書き
 原作の士郎君と違いがあるのでその設定関連です。

 オリジナルキャラクター等の設定も載せていきます。 

 
名前:衛宮士郎
 どのルートと士郎というのはなく強いてあげるならhollowの後の衛宮士郎のような存在。

 並行世界を渡った魔術師にして死徒二十七祖の第十位。
 死徒としての親は死徒二十七祖の第九位、アルトルージュ・ブリュンスタッド
 血を吸われ、二週間昏睡し眼を覚ました時には完全に個の死徒となっていた変わり種。
 真祖と死徒の混血であるアルトルージュ・ブリュンスタッドが親であるためか普通の死徒に比べて遺伝情報の崩壊がほとんどない。
 吸血衝動は体内にある『全て遠き理想郷(アヴァロン)』により抑えている。
 アヴァロンに魔力が供給できなくなったり、肉体に激しい損傷を負い肉体の修復にアヴァロンの機能を奪われた場合は吸血衝動を抑えるのは士郎自身の意思。
 血を飲んだ経験は有り、ただし人を襲って吸血行為の経験はない。

肉体:無印開始時の肉体年齢は9歳
   リリカルなのはの世界に渡った際に若返った
   (若干精神も肉体に引っ張られている)
髪:白色
瞳:赤色
  封印回路解放時、金色
魔術回路:528本(通常魔術回路:264本 封印魔術回路:264本)

・封印魔術回路
 普段は封印されている魔術回路。
 本数的には通常魔術回路と同数だが量、質ともに通常魔術回路の比ではない。
 士郎の真の魔術回路ともいえる魔術回路。
 なお封印魔術回路の封印に伴い固有結界も封印されている状態。
 固有結界の使用には封印回路の使用が条件になる。
 ただし封印回路の魔力があまりにも膨大なため肉体に対する負荷が大きく、長時間の使用は肉体の崩壊に繋がりかねない上に剣が肉体を侵食しようとする。
 この剣の浸食はあまりの魔力に固有結界から剣が漏れ出すため。
 反面、士郎の身体を剣の浸食から守り、固有結界を制御している魔術回路でもある。
 そのため自分自身の崩壊と守りを兼ねた魔術回路。
 一度封印を外せば、再び封印してもしばらく剣が浸食するため肉体を食い破る。
 浸食時間は使用した魔力量と封印を解いていた時間などに比例する。
 あまりにも長時間使用や酷使をした場合再び封印するより前に抑えきれなくなり剣が浸食する事もある。
 
 無印時点ではリリカルなのはの世界に渡った際に肉体が若返り成長途中な不完全な子供の身体のため負荷が大きくなっている。


リンカーコア:有
魔力ランク:B以上A未満
魔法適性:古代ベルカ式

 魔力量はなのはやフェイトと比べると特筆して多くは無いが魔術を会得しているためか魔力効率が恐ろしく高く、高ランク魔導師レベルで魔法の行使が可能。
 またリンカーコアを魔術回路のようにオンとオフ切り替えることが出来、オフの時は一般時レベルに魔力を秘匿することが出来る。

 魔力コントロール技術はベテランの魔導師と比べても遜色ないレベルだが実体弾型ではない魔法は溜めたり、自身に纏わせることは出来るが、放出がほぼ出来ない。
 だがなぜか生成した実体弾には纏わせることが出来る。
 魔法であっても魔術と似たようなことに特化している。

 防御魔法はフィールド型、シールド型は問題なく使用できるが、バリア型は一方向一点展開のみの使用可能で、士郎自身から離れた地点での展開できない

 飛行は絶望的であり、デバイスによる手や足に力場を作り、空中を跳躍する方法を取る。(Fate/kaleid linerの美遊と同じ方法)

 




名前:クラウン・ハーカー
階級:中将(時空管理局本局所属)
年齢:年齢は三十代後半
魔導師ランク:A+

 現場の前線経験もあるが指揮能力の高さから中将まで上り詰めた人で現場の支持は高い。
 咄嗟の判断能力と思考の柔軟性が高く、型にこだわらない。
 その分、代々からの一族などからは反発も多い。
 家族は妻と一人娘(十歳)
 管理局の中では衛宮士郎に対する穏健派の筆頭的存在。





名前:エステート・カーラ
階級:三佐(時空管理局本局所属)
年齢:年齢は三十代後半
魔導師ランク:B

 クラウン・ハーカーの従兄弟で同い年。
 クラウンが現場指揮官時代から補佐官として共に活躍していた。
 魔導師しては優秀ではなかったが、混乱した状況でも冷静に思考でき、妙にカンが良い。
 ただし即座に状況を判断するという指揮官としてではなく、より効率的に物事を運ばせるようなフォローするほうが得意。
 クラウンと同じく穏健派 
 

 
後書き
オリジナルキャラクターの設定などこれからも追加していきます。

士郎の魔導師部分追加しました。 

 

宝具設定一覧   ★

 
前書き
本作『Fate/magic girl−錬鉄の弓兵と魔法少女−』に登場するオリジナル宝具の設定一覧になります。
 

 
獣束の足枷(グレイプニル)

 拘束宝具。神々が造りだした魔法の紐。
 幻想種すら拘束可能。拘束宝具としての能力はトップクラス。

 もっとも魔法の紐のため士郎でも完全な投影は不可能。
 かなりランクダウンしているため対獣拘束宝具レベル。
 獣相手には強い拘束力を示すが人には対してあまり効果が低く少し丈夫な紐程度。
 拘束の限界は魔獣クラス。幻獣クラスになると拘束は不可能。




空航る聖母の加護(プライウェン)

 アーサー王が持つ聖マリアが描かれた聖楯にして、魔法の船。
 盾として使用時には船の使用が、船として使用時には盾の使用が出来ない。
 真名開放は盾の能力のみ。
 所有者を守るためではなく、所有者が誰かを守るために使用した時に最大の力を引き出すことが出来る。所有者を守るためにも使用は出来るがランクは下がる。
 最大の能力解放時には並の宝具では破る事も難しい

 使用時の難点として本作衛宮士郎が死徒のため触れている間常にダメージを負う。
 真名開放時には盾を持つ腕にかなりの損傷を負う事になる。




雷切(らいきり)

 雷または雷神を斬ったという伝説を持つ業物の日本刀。
 複数ある内の一振り。
 対雷の概念武装。




叫び伝える黄金警鐘(オハン)

 ケルト神話の盾で4本の黄金角と4つの黄金の覆いが特徴。
 持ち主に危機が迫ったときに金切り声を叫びその危機を知らせるといわれている。
 持ち主のクルフーア王がフェルグスと戦った際はカラドボルグの一撃を受けても盾は無傷であったいわれる。

 所有者に危険が迫ると強烈な金切り声でそれを知らせる能力をもった盾。
 防御力自体も高く真名開放時には生半可な攻撃では傷一つつけられない。
 また金切り声には察知した相手に対しては攻撃を怯ませる効果がある不意打ち殺しの宝具でもある。
 真名開放せずとも不意打ちに反応してくれる非常に便利な宝具だが持ってないと意味が無いのが弱点。




病切り祓う豊布都神の剣(布都御魂)

 日本神話に登場する豊布都神が持ちし内反りの片刃剣。
 切れ味も高く、武器としての性能は高い。
 真名開放は武器としてではなく、治療もの。
 その剣の霊力は軍勢を毒気から覚醒させ、軍勢は活力を得てのちの戦争に勝利したという伝説の通り、体内の毒や病など内面の治癒などに関しては高い効果を持つ。
 ただし外傷の治療という意味ではあまり有効ではなくかすり傷の治療程度




旅人の羽靴(タラリア)

 メドゥーサを退治する際に英雄ペルセウスがヘルメスから貸し与えられた道具のひとつ。
 黄金の翼が生えた靴で、これを履くと鷲よりも速いスピードで空を飛ぶことができるという飛行宝具。

 性能としては最高速度も速く、旋回性も悪くはないが瞬間的な加速は苦手とする。
 また本作で登場したタラリアは士郎の投影品のため飛行速度や旋回性など全体的な性能は真作に劣る。




約束された勝利の極光(エクスカリバー)

 アーサー王のシンボルにしてセイバーの宝具。人造の武器ではなく、星に鍛えられた神造兵装。
 本来は光の斬撃だが、使えば地上を薙ぎ払うため、士郎が一点のみに攻撃をするために編み出した矢。

 神造兵器であり完全な投影が出来ず、矢とするために改造しているためランクは真作に比べれば数段下がっている。
 だが魔力を込めた剣を矢として撃ち、壊れた幻想を行えばエクスカリバーに近いレベルの威力を誇る士郎の奥の手の一つ。

 士郎のセイバーのイメージがあるため黒化したエクスカリバーでなければ改造が難しいため、黒いエクスカリバーを使用する。
 形状はゆっくりと緩やかな曲線を描く鍔は直線的に、柄は細く長く、同じように刀身も刃幅を細くしてわずかに長いものであり、剣のランクが高すぎるためカラドボルグやフルンディング程形状が大きく変えることが出来ない。

 使用時には投影の負荷で右手が焼かれ、矢として番えた剣から溢れる魔力に左手が焼かれる。
 さらに使用に膨大な魔力と負荷をかけるために封印回路の封印解除を必要とする。 
 

 
後書き
無印編で使用したオリジナル宝具です。
今後、登場に合わせて追加していきます。 

 

オリジナルデバイス&魔法関連   ★

デバイス名:シュミーデアイゼン(Schmiedeeisen)
所有者:衛宮士郎

 カートリッジシステム搭載型アームドデバイス。
 デバイスのAIの声は女性で士郎を呼ぶ時は「Mein Lade(マイン ロート)」
 士郎が遠慮なく使えるようにアームドデバイスとしてもかなりの強度を誇る。
 士郎の戦闘展開速度が一般の魔導師よりはるかに早いためそれについていけるように演算処理速度はストレージデバイスと同等レベル。
 また士郎が行えない飛行魔法の代わりの足や手に力場を展開して足場とする魔法はほぼシュミーデアイゼンが行っている。
 士郎は愛称でミーデと呼んでいる。

 カートリッジシステムはクリップ型弾倉内蔵5連装オートマチック型
 峰側の鍔の箇所がスライドして弾倉を挿入する。
 カートリッジのロードと薬莢の排出は弾倉挿入時と同じ箇所がスライドして行われる。
 弾倉の挿入口と薬莢の排出口が同じでありリアルな銃でM1ガーランドのようなイメージ。


待機フォルム:Warten form

 カード型で中心にコアとなる赤い宝石がある。
 シュミーデアイゼンがしゃべる際は点滅する。
 令呪が描かれているが、士郎が相棒ということを意識して描いた物で魔術的な効力はない。


双剣フォルム:Zwei schwertform

 シュミーデアイゼンの基本的なフォルム。
 士郎が使い慣れている干将・莫耶とサイズなどあわせているが、カートリッジシステム等の機構のため干将・莫耶に比べて重い。


弓フォルム:Bogenform

 シュミーデアイゼン遠距離攻撃及び狙撃時に使用されるフォルム。
 レヴァンティンと似た機構を持っており、双剣の柄を連結し姿を変える。
 変形時にカートリッジを一発使用する。


腕輪フォルム:Armband form

 左右の手首に装着される腕輪であり、士郎が魔術を使用しながらの空中移動、防御などの補助のみとして使用する際のフォルム。
 変形時にカートリッジを使用しない。
 またカートリッジを使用することも出来ない





<使用魔法>

-近接系-

・シャラロット・ヴィルクング(Scharlachrot Wirkung)
 闇の書の闇が使用していたシュヴァルツェ・ヴィルクングを元にされた魔法。
 闇の書の闇が使用していた効果破壊の能力はなくなっている。
 効果としては打撃力強化の能力のみであるが、拳だけでなく手に持つシュミーデに纏わせたり、実体弾にも纏わせることが出来る。
 シュヴァルツェからシャラロットに変わっているのは士郎の魔力光が赤のため


・紫電双牙
 双剣時のシュミーデの刀身に魔力を乗せた斬撃。
 使用するカートリッジは二発だが、追加のカートリッジロードは可能。
 双剣を一点に叩き込む以外に二連撃という使い方も当然できる。
 ただし一点に叩き込むことに比べれたら威力は落ちる。 



-遠距離系-

・魔力矢
 弓に番えて使用する実体弾型の矢。
 魔力を溜めて威力を高めるチャージすることもカートリッジを使って威力を増すことも可能で弓を使う時の基本弾


・螺旋弾(Spirale Kugel)
 一点貫通攻撃型の実体弾。
 基本形はカートリッジ二発を使用し、二本の矢を絡ませ捻じれた一本とした矢。
 通常の魔力矢と同じく魔力を溜めることによる威力強化も可能。
 カートリッジの追加ロードで絡ませる矢の数を増やしたり、捩れを増すことで威力の強化も出来る。
 ただし爆発能力はない。


・鋼の軛(Stahljoch)
 ザフィーラが得意とする捕縛魔法が元なのだが、士郎の魔導特性上、実体型の刃になっているため、捕縛より中遠距離魔法に部類される。
 とはいえ刃の強度が高いため攻撃を防ぐための盾、足場、周囲を囲うことによる捕縛などいろいろな使いようがある。


・剣弾(Schwertkugel)
 士郎が使用する剣型実体弾
 見た目は魔術のソードバレルまんま。
 魔力の関係上一回に展開できる剣弾は五十までだが、射出しながら展開する事ができる。
 クロノのスティンガーブレイド・エクスキューションシフトと似ているが実体弾のため見た目がより凶悪である。
 展開できる限界数まで一斉展開を行う場合は
 剣弾、全展開(Schwertkugel ganz Entwicklung)になる。
 カートリッジ一発に付き八十発上限上乗せ出来るので再装填なしの十発のカートリッジ使用時の最大展開数は八百五十発 
 

 
後書き
随時更新していきます。

2017/01/16:腕輪フォルム、追加
2018/01/09:剣弾、追加 

 

コラボ『剣製の魔法少女戦記&F/mg』第一話 魔法使いがやってきた!?前編

 
前書き
炎の剣製様の剣製の魔法少女戦記とコラボ作品になります。

物語の時間設定はA's完結後になっています。

 

 
 朝、プレシアを送り出して、俺も出掛ける準備をする。

 少し早い気もするがなのはの家に一旦皆で集まってからの出発だからいいだろう。

 黒のズボンにシャツに赤のジャケットを着る。
 まだ二月だが晴れているし暖かいから丁度いいだろう。

 ちなみにこの赤いジャケットだが、桃子さんが俺に似合いそうと買ってくれたものでお気に入りなのだ。

「お邪魔します」

 もはや通い慣れてしまった高町家に上がると既に皆勢揃いしていた。

「俺が最後か?」
「皆で買い物なんてすごい久しぶりだもんね」
「そうよ。なのは達も色々あるってわかってるけど最近なかなか集まれなかったしね」

 なのはもフェイト、はやても本格的に管理局に関わり始めて学生ながら、活躍しているからな。

 確かにこうして全員で集まって出掛けるなんて久しぶりだな。

 そんな時になる呼び鈴。

「あれ? 誰だろう?
 はーい!」

 玄関に向かうなのは。

「ちょうどええし、このままで出よか」
「そうだな」

 なのはは上着もないようだし、このまま出られるだろう。

「唯一の男でなんだししっかりと付き合いなさいよ?」 
「ああ、わかっているとも。だからそう耳元で叫ぶな、アリサ」
「アリサちゃん。士郎君も困っていることだし……」
「でも、みんなでお買い物は久しぶりだし楽しみだね」
「そやね」

 俺達の声に反応したのだろう。
 丁度、帰ろうとしていた朱銀色の長い髪をした女性が振り返った。

 どこかイリヤの面影を感じさせる女性。
 その女性の口から

「え、衛宮士郎……?」

 なぜか俺の名前が零れ落ちた。

「な、なぜ俺の名前を?」

 俺の名前を知るイリヤの面影を持つ女性。

 一体何者なのかは、何が目的でここに来た?
 僅かに警戒しつつ、すぐに動けるように足を軽く開き、僅かに腰を落とす。

 だが次の瞬間、その女性が取った行動は

「士郎君、会いたかったわ……」
「え? な……?」
「「「「「なぁっ!?」」」」」

 親しい人間に向けるような笑顔で近づき手を握ってきた。
 あまりの予想外の行動に反応が遅れる。

 握られた手と共に感じる馴染み深い魔力。

 リンカーコアとは違う魔術回路の魔力。
 魔術師!?

「私のこと、忘れちゃったのかしら? あなたの親戚のシホよ」
「ッ! きさ、いや……………そ、そうだな、久しぶりだ。シホさん……」

 少なくともここで一戦交える気はないようだ。
 だが何者だ?

「うん、よかったわ。覚えていてくれて。
 そこの子達、ちょっと士郎君を借りていくわね?」
「なのは達は少し待っていてくれ。
 なに、すぐに済む」

 なのは達の視線が痛いが、今は従うしかあるまい。

 幸いにも周りに気配も、視線も感じない。
 伏兵はいないと考えていいだろう。

 シホと名乗る女性に手をひかれて、なのは達の視覚から消えた事を確認する。
 それと同時に手を振り払い、間合いをあける。

 魔術回路を数本起動させながら、干将・莫耶とさらに無銘の魔剣の設計図を三十本ほど用意する。

「………貴様、何者だ?
 いつ、どうやってこの結界に感知されることなく町に入ってきた? 魔術師」
「質問攻めね……。ま、仕方がないか。
 さて、それじゃ私の自己紹介と行きましょうか。
 私は“シホ・エミヤ・シュバインオーグ・高町”。
 高町性がバレるとまずいからこの世界ではシホ・E・シュバインオーグで構わないわ。
 そして、平行世界のあなたとはおそらく違う道を辿った衛宮士郎の成れの果てよ」
「なっ!?」

 俺とは違う別の並行世界の成れの果てだと?
 この女性が?

「ど、どこにそんな証拠があると―――」
「この宝石剣と、投影開始(トレース・オン)

 自然と行われる投影魔術。
 自分が最も使い慣れている干将・莫耶。
 そして、自分の師でも宝石翁が持ちし宝石剣を見間違えるはずがない。

「この二つが証拠よ」
「なっ……ぐっ!」

 確かに異端の投影魔術。
 さらに宝石剣とシュバインオーグの姓。

 証拠としては十分だろうが、この女性が自分という事をどうしても認められていないようだ。

「それが本当ならこの世界に何しにきたんだ?」

 仮に俺として並行世界に来て戦いに来るとは考えにくいが、何が目的かわからないため最低限の警戒はしておく。

「宝石剣の起動実験をうっかり失敗しちゃってこの世界に来てしまったのよ。
 ちなみにだけど今って新暦何年?」
「新暦? ミッドチルダの事か? なら今は確か66年の年越しの冬だが……」
「ということは約十年前というわけね」
「……なに? お前は十年も先の未来の平行世界から来たというのか?」
「ええ。そうなるわね。
 大師父の助けを待つのもありだけど、できるだけ自力で元の世界に……私の世界のなのは達の下に帰りたいからね」
「なるほど。まだ完全に信用できないが理解した」
「ありがと、士郎」

 私の世界のなのは達の下に帰りたいか。
 その時の瞳を見る限り嘘は言っていないようだ。

 しかし、うっかりって……並行世界の俺は遠坂の呪いまで受け継いだのか?

 この調子だと昔の凛みたいについ、うっかりでとんでもない事を起こしたりしてるんじゃないか心配になる。

「それとだけど、ちょっとこの格好をどうにかしたいのよ。
 この制服って管理局の陸士部隊のものだから、もしうっかりリンディさん達の前に出たらバレちゃうから」
「それならちょうどいい。これからなのは達と買い物に行く予定だからその時に一緒に買えばいいだろう」
「そうさせてもらうわね。あ、それと今のうちに自己紹介しておく人がいるわ。
 アルトリア、ネロ、出てきて」
「はい」
「うむ」

 突如として現れる二人の女性。

「なっ!? セイバー! それもなんかもう一人似たような人がいるが、まさかサーヴァントか?」

 だけど俺の知っているセイバーの方はサーヴァントの実体化とは違う現れ方だ。
 サーヴァントというよりデバイスのような感覚だ。

「うむ! セイバーのサーヴァントだ」
「うん。私の世界でも色々あってね。そこらへんのあれこれはまた後ほど話すわ」
「……わ、わかった」

 並行世界でも巻き込まれた体質というのは同じなのだろうか。

「しかし、シロウでいいのですか? あなたは随分とナノハ達に慕われているのですね」
「うっ……セイバー、そのだな」

 セイバーの呆れたような視線が痛い。

 元いた世界でも何度か向けられた事があるが、慣れる事はないな。

「まぁ、いいでしょう。それと今はまだ私達は姿を現すのは得策ではありません。
 ネロ、まだ待機していましょうか」
「そうだな。奏者よ。なにかあったらすぐに実体化して守るからな!」
「ええ、お願いね。ネロ」

 シホの言葉に頷き、姿を消す二人のセイバー。

 やはり俺の知っているセイバーはサーヴァントとは違う感じだ。

「……赤い方はともかくセイバーはサーヴァントなのか? なにかデバイスから出てきたように感じたが」
「ええ。アルトリアも少し込み入った事情があってユニゾンデバイスになっているのよ」
「なっ!」

 サーヴァントがユニゾンデバイス?
 ……本当に何があったらサーヴァントを召喚して、セイバーがユニゾンデバイスになるんだよ。

「それじゃ戻りましょうか。なのは……いえ、彼女等にとっては私は初対面だからなのはちゃん達に挨拶をしないといけないからね」
「わかった」

 これ以上なのは達を待たせるのも悪いし、敵ではないようだから大丈夫だろう。

 そして、シホと共になのは達に戻るやいなや囲まれる俺。

「士郎君! なにか変なことされていない!?」
「士郎! あの女性は誰なの!?」
「いつからこんな綺麗な人とも交流があったの」
「士郎! どんな関係か白状してもらうわよ!」
「すみにおけんなぁ、士郎君は」

 なのはとフェイトは心配してくれていたようだが、すずかとアリサは心配というより尋問するかのように詰め寄って来る。

 アリサの凛やルヴィアのような悪魔気質は元々感じていたが、最近はすずかが桜のように黒くなるのが物凄く怖い。
 はやてに限ってはこの状況を楽しむつもりなのが丸わかりだ。

 このまま囲まれてても話が進まないのでシホに視線を向けると察してくれたようで頷いてくれる。

「挨拶をさせて貰っていいかしら。
 私の名前は“シホ・エミヤ・シュバインオーグ”。士郎君の親戚よ」
「えっ? エミヤ?
 それじゃもしかしてあなたは士郎と同じ魔じゅ―――…」
「……それ以上はここでは詮索はやめてね? 私も無闇矢鱈にみんなの記憶をいじりたくないから……」
「「「「「っ!?」」」」」

 フェイトの言葉に視線を強くして威圧するシホ。

 詮索されたくない気持ちはわかるが何を脅しているんか。

 もっともこの程度の威圧で動きを止めてしまうのも問題だよな。
 威圧や殺気等に対する耐性もつけさせないとな。

 近いうちになのは達の訓練プランに組み込むとしよう。

「……シホさん。子供相手になにやっているんですか?」

 内心ため息を吐きつつ、シホを止める。

「ごめんね、士郎君。
 でも私達にとって秘匿の話をこんな人がよく通るところで話そうとしたから口止めは必要でしょ?」

 気持ちはわからなくもないが、この秘密主義は魔術師として習慣みたいなものか。

 自分自身でも思うところがあるのでこれ以上は口は出さないでおく。

「それでだけど、士郎君のお誘いで私もショッピングに付き合わせさせてもらうわ。
 普段着を購入したいしね。
 あ、そうだわ。あなた達の名前をまだ聞いていなかったわね。よかったら教えてくれる?」
「え、えっと、高町なのはです」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
「八神はやてです」
「月村すずかです」
「アリサ・バニングスです」
「そう、なのはちゃんにフェイトちゃんにはやてちゃんにすずかちゃん、アリサちゃんね。よろしくね」
「「「「「はい!」」」」」


 シホが加わりショッピングに出かけたが、特にギクシャクしたところもなくすぐに馴染んでいる。

 俺はというとなのは達から数歩遅れるような形で買い物に付き合っている。

 男性一人で女性六人の相手だとこれぐらいがちょうどいいのだ。

 そんな時シホとなのはの 

「どうして普段着を買うんですか? 持ってきていないんですか?」
「ちょっとワケありでね。今は着ている服しか持っていないのよ。
 この制服も少しバレるとマズい格好なんで隠しておきたいの」

 などという会話が聞こえた。

 服ぐらいなら投影でどうにかできる気もする。
 だが何かの拍子に破けでもしたら霧散しかねない。
 女性としてはそれを回避したいのか?

 元は男性でも女性と生活しているのだがら感覚が共有できないところはあるかと納得しておく。

 そんな中でなのは達が顔を赤くし、小声でこちらをチラチラ見ながらシホと話し始めた。

 この距離、耳を澄ませば聞こえそうだが、女性の秘密の会話を聞こうとは思わないので意識を逸らしておく。
 そんな中でジト目を向けてくるシホ。

「……シホさん。
 その……ケダモノを見るような眼差しはやめてくれないか?」
「どうしようかしらねー」
「シホさん! 今はまだいいんです!」
「そうです! 今は停戦協定を結んでいますから!」

 停戦協定?

 物騒な話でなく、なのは達が頷いているから友達同士の約束なのだろうが一体何の事だ?

「そう、ならもういいかしらね。
 いい思いをしているわね、士郎君」
「……なんのことだ?」

 俺の問いのは答えず、またなのは達と談笑を始めるシホ。

 一度死んでも女性には敵わないが、こうして女性となった自分にも敵わないとは。

 しかし、意外だな。
 シホはミッドから来たと言っていたが日本のお金も持参していた。
 活動拠点を完全にミッドにしているわけでもないのか?

 そんな事を思いつつ、のんびりと色々なお店を見ながら食材を買ったり、洋服店でシホの服を買ったりとショッピングを楽しむ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎるものでそろそろいい時間だな。
 
「さて、それじゃみんなもそろそろ帰る時間だろう?
 よかったら送っていくぞ」

 俺の言葉に頷いたなのは達を送り、シホと二人で俺の家に向かって歩く。

 そういえば

「シホはこれからどうするんだ?」
「すぐに戻れるかわからないから、寝床を確保したいところね。
 生憎とこちらの世界では証明するものがないのだけど」
「なんならうちに来るか?
 部屋は十分あるしな」
「それじゃお願いできる?」
「ああ、帰る手段が見つかるまでの間、ゆっくりとしていくといい。
 同居人がいるが彼女なら問題ないだろう」
「ありがとね、士郎。
 ところで彼女って誰なの?」

 視線が痛い。
 なんだか変な勘違いをされているな。

「変な勘繰りをしないでくれ。
 同居人は“プレシア”なんだから」
「えっ……?」

 驚きの表情で歩みを止めるシホ。

「大丈夫か、シホ。落ち込んだ表情をしているが」
「ええ。少し考え事をしていたのよ。事情については士郎の家に到着したら話すわ」

 言いにくそうなシホの反応に

「……もしや、シホの世界のプレシアは……」
「……こういうことに関してはやっぱり鋭いのね。ええ、士郎の思っている通りよ」
「そうか」

 プレシアの一件。
 俺自身の時でさえ、一歩間違えばプレシアを救えなかったのかもしれないのだ。

 これ以上の事はシホから話さなければ聞く事はないだろう。 

 そして、辿りついた我が家。
 その外観にどこか懐かしそうな表情をしているシホ。

「なんかリンの家に似ているわね」
「シホもそう思うか。我ながら色々と犯罪めいたことをしてこの家を購入したからな」
「なに……? 暗示でも使ったの?」
「まぁな」
「それに解析の目で見てわかった事だけど認知阻害の魔術がかけられている。
 一般人はなかなか近寄れないものね」

 ずいぶんとあっさりと解析したな。

「わかるのか……?」
「ええ。これでもアインツベルンの千年の魔術の知識を持っているからね」
「アインツベルンの知識……だと? やはりイリヤに似た姿をしているのは何か関係しているのか?」
「それも家の中で話すわ。
 私、いろいろな偶然とめぐり合わせで自分で言うのもなんだけどちょっとしたチート体だから」
「ふむ、詳しく聞きたいところだ。寒いし中に入って話すとしよう」

 女になったことに加えて、アインツベルンの知識ね。

 俺も大概だと思っていたが、シホも大概だな。

 玄関を開けて、リビングに入る。

「ただいま、プレシア」
「あら、おかえりなさい。士郎」

 管理局から持ち帰った仕事なのだろう。
 空間投影されたディスプレイでなにやら、作業をしていた。

「後ろの方は?」
「シホ・エミヤ・シュバインオーグさんだ
 なのは達には親戚の人という事で説明してる」
「エミヤ?……それにしてはやけに雰囲気が似ているわね」

 ……さすがプレシアだな。
 なかなかに鋭い

「一言で言えば俺と同じような……」
「ちょっと待ちなさい!?」

 プレシアに説明しようとした俺を止めて、小声で耳打ちをしてくる。

「何いきなり明かそうとしてるのよ」
「俺の事はプレシアやなのは達、近しい人には俺の事は教えている。
 一緒に生活するなら教えておいた方が気にしなくていいだろう」
「それはそうだけど、私の世界の事を話すとなるとややこしいのよ。
 アリシアもいないようだし……」

 アリシアがいないか。
 向こうの世界ではアリシアは生きているのか。

 俺ではアリシアを生き返らせてやることは出来なかった。
 出来たのはただ亡骸を葬ってやることだけ。

「……あなた、どうしてアリシアの事を知っているのかしら?」
「えっと……どう説明すればいいのか」

 だがアリシアの事になると俺よりも反応が顕著なのはプレシアの方だった。
 まあ、アリシアと世界を天秤にかけてアリシアを取ったのだから当然といえば当然なのだが。

「プレシア少し落ち着け。こんな殺伐とした雰囲気になるところではないだろう」
「……そうね。謝るわ」
「こちらも勝手にアリシアの名前を出してすみません」

 プレシアが落ち付いたのをみて、紅茶を用意して改めて話を始める。

「まずは話をする前に、近しい人には俺の事は教えているって言ってたけど」
「なのは、フェイト、はやて、すずか、アリサ、プレシア、高町家と月村家のメンバーにもある程度は教えている。
 管理局だとリンディさん、クロノ、エイミィさん、レティさん、グレアムさんとその使い魔。
 それぐらいか」
「なるほど……。私よりは秘密にしているのね」
「なんだ? そっちではばれてしまっているのか?」
「えぇ、管理局にもばれちゃっているから結構ギリギリなところね」
「そちらは何があったか知らないが苦労していそうだな」
「まぁね」

 俺の現状を簡単に話す中で

「……話が見えないのだけど」

 ついて来れないプレシア。
 無理もないだろうな。

「すまん。そうだな、まずは」

 シホの視線を向けると俺の意図をすぐに理解してくれたようで

「そうね。まずは私の正体を話したほうがいいわね」

 シホが静かに語り始めた。

 元いた世界の別れ。
 イリヤの想い。
 
 そして、今度こそ後悔しないように自分の正義を変えて、複製されたイリヤの体に宿り、性転換して魔導の世界にやってきて、なのはの家族になった。

「なるほど……聖杯戦争中に第二魔法を会得した。
 そしてサーヴァントは全員消えて数年たった後にイリヤも死んでしまったのか」
「えぇ」

 それにしても元いた世界の経験はある程度似ているかと思ったが、聖杯戦争自体が俺の経験とは違うな。
 いや、そもそも吸血鬼になっている俺の経験の方がおかしいのか?

「でもこれからが驚く話になるわね」

 双子の兄妹のユーノとフィアットの出会い。
 それから始まるジュエルシード事件。
 事件の結末としてフェイトはプレシアの別れ。
 そして、魔術回路に宿っていたイリヤの意志の覚醒。

「これはプレシアの前で話すつもりはなかったのだけど、話の関係で話さざるえなかったんです。
 すみません、プレシア」
「いえ、いいわ。でもやっぱり平行世界は違うのね。
 この世界でも私は死んでいた可能性があったかもしれないという事ね」
「もしもの話なんてしないほうがいい。
 今生きている。
 ここにいて平穏に暮らしていけている。
 それでいいじゃないか」
「そうね、士郎」

 自分の選択がこれでよかったかなどわかるはずがない。
 だがこうしてここにいる事が出来る事を喜んだ方がずっといい。
 
 しかし気になる事はほかにもある。
 魔術回路に宿っていたイリヤの意志のことだ。

「……それでイリヤが宿っていると言っていたが」
《そうだよ、シロウ》
「っ! イリヤ、普通に念話で会話できるのか!?」

 俺の言葉に返事をするようにイリヤの声がシホの中から聞えた。

《えぇ、そうよ》
「イリヤもタイミングいい時に出てくるものよね」
《当たり前でしょ、シホ。こんな機会は滅多にないんだから楽しまなきゃ損よ。帰る宛もあるしゆっくりしていきましょう》
「そうね」
「……イリヤの件に関しては承知した。
 ところでさっきから思っていた素朴な疑問なんだが」
「ん? なに?」
「フィアットとは誰だ? ユーノに双子の妹がいるなど聞いたことがないんだが」
「えっ、フィアがいないの!?」
「あぁ」

 俺の言葉に考え込むシホ。

 そんな中言葉を発したのは

「それはきっと平行世界の別の可能性なのでしょうね」

 以外にもプレシアだった。

「別の可能性?」
「シホさんの世界はフィアットという子が一緒に生まれてくる可能性の世界だった。
 そして私達の世界はその可能性がなかった世界だということよ」
「なるほど……平行世界の神秘に当てはめれば納得がいくわね。
 平行世界は無限に分岐していくからフィアが生まれないという選択肢をした世界もあるという事ね。
 第二魔法の担い手としてすぐにそれに思い当たらなかったのは恥ずかしいわね」

 魔導師の研究者とはいえ、この世界で俺の次に魔術に関わりが深いだけあるな。

 しかし、別の可能性か……
 『もしもの話なんてしないほうがいい』とプレシアに言ったばかりだというのに考えてしまっていた。
 そんな自分に内心苦笑しつつ、俯くシホに声をかける。

「シホ、気にしないほうがいいぞ。気休めかもしれないが」
「ありがとう、士郎」

 大きく息を吐き、意識を切り替えるシホ。
 さすに切り替えははやい。

「はやてに会ったけど念のため聞くけど、この世界は闇の書事件はもう解決しているの?」
「あぁ。ちゃんと解決したよ」
「そうね。それじゃ……リインフォースは、どうなった?」
「何とか救えたよ。今日、明日は本局で留守にしているが元気にしている」
「なら、よかったわ」

 少しの間、どう話すべきか考えてからシホがこれまでの事を話し始めた。

「まずはやての話から始めた方がいいかしら。
 私がなのは達の世界に来たと同時に私と訳あって分裂した士郎が記憶喪失で使い魔状態ではやてのもとにやってきたのよ」
「分裂!?」

 なんだか初めからとんでもない事になってないか……

「まぁ、理由としては私の体には私とイリヤ、そしてアインツベルンの始まりの祖であるシルビア・アインツベルンの魂が宿っていたのよ。
 さすがに三つに魂が一つの体に納まらなかったから私の魂を分裂することでなんとか納まりを得たのよ」
「なるほど……なんとなくだが理解した」
「私も理解したわ」
「ならよかったわ。
 それじゃ少し話を飛ばしていくとヴォルケンリッターとの戦闘が起こり、なのははリンカーコアをシャマルさんに抜き取られて、
 そして私は仮面の男に扮したリーゼ姉妹の手によって死ぬギリギリの重傷を受けることになった」
「やはり、あの猫共か……」
「もう過ぎた事とはいえ許せないわね」

 あっちでもあの猫姉妹は色々やっていたらしい。
 まあ、こっちはこっちで痛い目を見ているので並行世界の事は眼をつぶろう。
 あんまり思いだすとプレシアがまた暴れで出しかねないので、話を進めてもらおう。

 俺のアイコンタクトを理解してくれて、若干首を傾げながらも話を進めるシホ。

「まぁ、進めるわよ?
 それで本来なら即入院の傷だったんだけどこのアンリミテッド・エアが起動。
 そして、過去にシルビアの手によって創造物質化の魔法でサーヴァントからユニゾンデバイスに物質化してもらったアルトリアが現界して、アヴァロンを介して私の傷を治療したというわけ」
「待ってくれ。
 そのシルビアという人はアインツベルンの始祖なのだろう?
 どうやってセイバーは会ったんだ?
 それと、創造物質化とはなんだ?」
「まぁ気になるのはわかるわ。
 まずシルビアは実は古代ベルカの聖なる錬金術師と呼ばれていたらしいの。
 でもその力が災いを呼ぶと予言されてある方の力によって異世界、つまり私達の世界の千年前に飛ばされたのよ。
 次にアルトリアは現界ギリギリの状態で大師父に連れられて世界を飛ばされる前のシルビアと出会い、私の話を聞いてユニゾンデバイスになる決意をしたのよ」

 そんなシホの言葉を引き継ぐようにアルトリアが姿を現し

「はい。私はシホの力になりたいためにその決断をしました」

 想いを語ってくれた。

「……そうか」

 シホのユニゾンデバイスにしろ、俺の赤竜布にしろ並行世界に渡ってからもセイバーに守られるとはな。

 本当に俺には出来過ぎたサーヴァントだな。

「そして最後に創造物質化の魔法。
 これは魂の物質化のもとになった魔法で、どんなものでも任意に物質化できたりできた。
 たとえばさっきの例でサーヴァントをユニゾンデバイスにしたり、ただの人工AIを人間にしたり、体を作り出すこともできた。
 魂の物質化もこの魔法の一つだったのよ」
「確かにチートだな」
「そうね」

 シホがチートと言っていた意味がよくわかる。

「それから話は再開するけど、私は魔導師として動いていけるようになって、シグナム達とも密会をしたり、士郎の記憶を戻したりしてはやてを裏から助ける計画を立てていった。
 グレアム提督達ともなんとか説得して協力してもらい計画を立てて、闇の書に捕われたはやての意識を起こすために使い魔状態の士郎を憑依させて闇の書を完成させた」
「シグナム達は納得したのか?」
「えぇ。なんとか協力してもらったわ。
 そして後ははやての意識を呼び戻すだけだったんだけど、ポカミスして闇の書の中の夢の世界にフェイトと一緒に捕われてしまったのよ」

 ……ポカミス。
 シホの奴、性別変わって遠坂の呪いが顕著になってないか?

「それからどうなったんだ?」
「えぇ、夢の世界で私は衛宮の武家屋敷でもとの姿で目を覚ました。
 そこにはかつての眩しいみんなとの暮らしが広がっていた。
 でも所詮これは夢の世界だとして私はアルトリアとイリヤの誘惑の言葉を断り出る決意をした。
 でも脱出した後もまた夢は続いていたの。
 そこではシルビアのかつての記憶が再現されていた。
 そしてある想いを私に託して私と魂を融合して一つの人間となり、そして根源に触れるイメージが沸いて私は第三魔法。
 劣化して一度きりの創造物質化の魔法。
 シルビアの記憶。
 アインツベルンの千年の知識を会得した」
「……なんというか、聞いていて思ったがかなりシホはチートな力を会得したんだな。
 第二と第三の魔法を両方使えるとは……」

 並行世界で性別が変わったとはいえ、自分が魔法使いの仲間入りを果たしているとは変な感じだ。

「私もそれは思うけど、もう今となっては今更って感じだしね」
「そ、そうか。ここは呆れるところか驚くところなのか……」
「どちらでも構わないわ。
 それで後は闇の書の闇を倒した後、消えようとしていたリインフォースを士郎と一緒に説得して創造物質化の魔法でリインフォースの意志に魂と人間の体を。
 使い魔状態の士郎にも新たに体を与えて全員助かって闇の書事件は終決した」
「そちらはそんな終わり方をしたのだな」

 同じ闇の書事件でも魔法を使ったりとずいぶんと派手にやったものだ。

 話が一段落し、紅茶にシホが口をつけて一瞬固まった。

 何かミスがあっただろうか。
 自分も口をつけるがいつも通りだ。

 シホの反応に首を傾げながら一息つく。

 ゴホンッ! と咳払いをしてシホの話が再開する。

「そして次の事件は多分この世界では起こらないと思うから話させてもらうわ」
「なんだ? また海鳴で事件が起きたのか」
「えぇ。きっかけはとある平行世界で言峰綺礼が世界を聖杯の泥で滅ぼした事が発端だった」
「なんだと!?」

 予想もしない男の名前に反射的に立ち上がる。

「落ち着いて士郎。もう終わったことだから……」
「……わかった」

 大きく息を吐き、落ち着き、再び座る。

 それにしても予想もしないところで聞きたくない男の名前が出てきたな。

「それがきっかけでその世界の死んでいった魔術師の因子がすべて私達の世界に移ってきて、次々と私達の次元世界に魔術師が誕生していった。
 そしてなのは、フェイト、はやて、すずか、アリサも魔術回路が宿り、同時に令呪まで宿ってしまった」
「令呪までが……」

 魔術回路に令呪までなのは達に現れるとは。
 少なくともこっちのなのは達には魔術回路の形跡は見られなかった。

「言峰綺礼は私達の世界に小聖杯を宿したホムンクルス、大聖杯を宝物庫にいれて改造したギルガメッシュ、黒化したセイバー三人を連れてやってきた。
 そして、自分を含めた七人のマスターを集めて聖杯大戦を起こした。
 私達は言峰綺礼の野望を阻止するためにサーヴァントを召喚して対抗して七対七の対抗戦を起こしたのよ。
 そして私が召喚したのがセイバー…ネロ・クラウディウスよ」
「うむ」

 シホの言葉に頷く様に霊体化を解除するセイバー。

 ネロ・クラウディウス。
 歴史上は男性の皇帝だったが、セイバー、アルトリアと同じように性別を隠した王ということか。

「そして聖杯大戦の最中、盗まれていたアリシアの体に無理やり魂を呼び戻してサーヴァントの魔力タンクに使っていた魔術師がいたのよ」
「なんですって!?」

 シホの言葉にプレシアが怒りの表情をして立ち上がった。

 リンカーコアから魔力が溢れ、目の前に敵がいれば消し炭にしかねない勢いだ。

「その魔術師の名前を教えなさい。今から殺しに行くわ!」
「落ち着いてプレシア。
 大丈夫、もうその魔術師は自害してアリシアも第三魔法で救って今はフェイトと楽しくやっているわ」
「そうなの。シホさん、アリシアを救ってくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです。
 話を再開しますけど敵のサーヴァントをほとんど倒したのはいいんだけど言峰綺礼が小聖杯のホムンクルスの心臓を抜き取り自分に移植して私達に最後の戦いを挑んできた。
 そしてなんとかギルガメッシュともども倒すことができて後に聖杯大戦事件と呼ばれた事件は終決したのよ」
「なかなかに破天荒な世界になったんだな」
「えぇ、これ以上は未来の話になってくるから禁則事項で言えないけど退屈しない毎日を送っているわ」

 これでシホの話はおしまい。

 だがシホもずいぶんな経験を積んでるな。

「それじゃ今度は士郎の話を聞きたいところだけど、プレシアがいる以外はほとんど変わらないみたいだし別にいいかしらね。
 でも一つ最初から気になっていたんだけど……士郎、あなたってもしかして死徒だったりする?」
「よくわかったな。
 さすが魔法使いといったところか」
「まあね。まぁそれなりに気配は読めるからね。士郎からは人の気配があまりしなかったのも理由の一つかしらね」

 気配だけで気がつく辺り、根源に至ったは伊達ではないという事か。

「それにしても隠してるみたいだけどかなりの魔力を秘めてるみたいね。
 二十七祖ともいい勝負なんじゃない」
「……………うれしくない事だが、聖堂教会からは第十位を与えられてはいた」
「十位って二十七祖の第十位?」
「ああ」
「あのネロ・カオスの後継者ってどうやったらそんな事になるのよ。
 ……まさか死徒の親も二十七祖とか言わないわよね」

 いい勘をしている。

「その顔、当たりみたいね。
 誰なの?」
「アルトルージュ・ブリュンスタッド」
「………黒の姫君。
 こっちの世界に来て私も大概だと思ったけど、貴方は元の世界で一体何をしてるのよ」

 シホの言葉はもっともだ。

 シホが大きく変わるきっかけになったのはこちらの世界。
 俺の場合、こちらに来る前から英霊エミヤともかけ離れている。

 ……そう考えると俺の方が特殊なのか?

「まあ、その話は今度にしましょうか。
 時間も遅いし、私がなにか作るわ?」
「いいのか?」
「えぇ。せっかくお世話になるんだからこれくらいさせて」
「わかった」

 キッチンに向かうシホが歩みを止めて振り返った。

「……ところで死徒って料理の味わかるの?」
「ああ。普通の死徒はどうかは知らないが、俺や周り皆もわかるぞ」
「そう、なら安心ね」

 一安心といった感じに再びキッチンに向かおうとしたシホの後ろ姿を見て、自然と訊ねていた。

「お前は、今……幸せか?」
「………!」

 俺の問いかけに一瞬驚きながらも何かを思い出すかのように眼を閉じる。

「……ええ。私は今、幸せよ」

 満面の笑みを浮かべて真っ直ぐと俺を見つめる。

 その表情と言葉だけで十分だった。

 ようやく始まった誰かとの歩み。

 未来で俺自身もシホのように笑っている事が出来るのだろうか。

「そうか。
 ……俺も掴めるだろうか?」

 誰かに問いかけるには小さく、まるで自分に言い聞かせるように漏れた言葉

「つかめるわよ。きっとね」

 その言葉に応えてくれるプレシア。

「士郎、私は貴方に救われたわ。だからあなたの幸せのためならいくらでも協力させてもらうわ」
「プレシア……」

 アルトリア達にも当然聞えており

「シロウ、やり直しはできませんが再出発はできます。
 ですから頑張ってください」
「奏者と同じ存在なのだからうまくいくだろう!」
《シロウ、頑張ってね》
「ああ」

 アルトリア、ネロ、イリヤの頷く俺。
 その姿を見ながら、どこか嬉しそうにキッチンぬ今度こそ向かうシホ。

 それから短い時間で簡単ながら満足のいく料理を味わうのであった。 
 

 
後書き
というわけで前書きにも書きましたが炎の剣製様の剣製の魔法少女戦記とコラボ作品になります。

その関係で今週と来週はA's編はお休みです。

物語の時間設定はA's完結後、闇の書事件の後になってます。

それではまた来週にお会いしましょう。 

 

コラボ『剣製の魔法少女戦記&F/mg』第一話 魔法使いがやってきた!?後編

 翌朝、眼を覚まし、トレーニング用のジャージを着て下に降りると

「おはよう、士郎」
「おはよう、シホ」

 もう眼を覚ましたシホがいた。

 さすがに早いな。

「朝食の支度には早くない?」
「鍛錬を少ししてから、朝食に取り掛かるからな」
「ならゆっくり鍛錬してきてちょうだい。
 どうせ手は空いてるから私が朝食をしておくわ」

 ならシホの言葉に甘えさせてもらうとしよう。

「なら頼む。
 あと俺とプレシアの弁当の分もあるからそっちも頼んでいいか?」
「いいわよ。いってらっしゃい」

 シホのに任せて、工房に移動し座禅を組み、投影の設計図を描いていく。

 それからしばらくして鍛練用の剣を二振り持ち、素振りを始める。
 体が温まったら仮想の敵を想定し、剣を振るっていく

 そんな時静かに姿を現すセイバー。

「おはよう。セイバー」
「おはようございます。シロウ。
 それとセイバーではなく、アルトリアと」

 そうか。
 俺にとってはセイバーはサーヴァントのイメージが強いがここではユニゾンデバイスで、アルトリアという名前で呼ぶのが普通なんだよな

「わかったよ。アルトリア」

 俺の呼び方に頷くアルトリア。

「それにしても、やはり並行世界でもシロウはシロウなのですね」
「? どういう意味だ?」
「死徒になった言っていましたが、それでも真っ直ぐ、自身を鍛えている姿は変わらないと思ったのです」

 そう言われるのはなんだか、こそばゆいな。
 だけどせっかくアルトリアがいるんだ。

 工房である鍛冶場に入り、無銘の西洋剣を一振りもってくる。

「あまり時間はないが一手所望してもいいかな」
「よいですよ」

 無銘の剣を握り、構えるアルトリア。
 双剣を自然体で握り、向かい合う俺。

 やはりこうして向かい合うとイメージとは比べ物にならない存在感だ。

「シッ!」

 一歩でアルトリアに踏み込み、剣を振るおうとするが、それよりも早くアルトリアの剣が俺に振り下ろされる。

 即座に左に避けながら左右の剣で受け流す。

 そのままさらに跳び、距離を取る。

 左右の剣で受け流して正解だ。

 成人している時ならまだしもこの身体で片手で受けようものなら体が持っていかれる。

「いい反応です。
 今度はこちらからいきます」
「ああ」

 アルトリアが剣を構え直し、一息に間合いを詰めると共に剣を振り下ろす。

 まともに受け止めれば子供の身体は吹き飛ばされる。
 そして、受け流し、軌道を逸らすにしても一瞬でも体勢を崩せば、アルトリアの次の一手で終わる。

 腰をおろし、眼でアルトリアの腕、視線を捕え、自ら隙を作り、攻撃を限定させる。
 それでも

「はあっ!」

 アルトリアの横薙ぎで腰をおろし、しっかりと大地につけていた足の接地感が薄れる。

「くっ!」

 一秒にも満たないわずかな時間。
 だがそれだけの時間があれば、アルトリアがさらに一撃を振るうには十分過ぎた。
 下からの斬激を受け流そうとするが、万全でない状態で完全に受け流せるはずもなく。

 金属の甲高い音を響かせて、右手の剣は弾きとばされ、返す刃は俺の首に突き付けられていた。

 そして、風切り音と共に弾き飛ばされた剣は落ちてきて大地に突き刺さる。

「ふむ、子供の未成熟な体ながら大したものです。
 このまま精進を続ければいい剣士になれるでしょう」
「せめてアルトリアに冷や汗の一つでもかかせることが出来ればいいんだが」
「そう簡単にはいきません。
 さて、続けますか」
「当たり前だ」

 大地に突き刺さった剣を抜き、アルトリアの改めて向かい合う。

 そして朝食の時間の直前まで剣を交えるのであった。


 朝食の前に汗や汚れた土を落とすためにシャワーを浴びて制服を着てからリビングに向かう。
 そこには

「いいタイミングね」

 丁度準備が出来たのだろう。
 ご飯をよそっているシホとテーブルについているプレシアとアルトリアとネロが待っていた。

「おはよう、プレシア、ネロ」
「おはよう、士郎」
「おはよう」

 シホも丁度最後のお椀にご飯をよそっていて手伝う事もなさそうなので、俺も席につく。
 テーブルにはハムエッグに味噌汁、ご飯にサラダという和洋が混ざった食事が並んでいた。

 最後にシホが席に着き

「「「「「いただきます」」」」」

 挨拶をしてから食事を始める。

「やっぱりシホさんは中身は士郎なのね。
 士郎に負けずの味を出しているわ。おいしい」
「あぁ、確かにうまいな」
「シホの料理は久しぶりに食べましたがやっぱりうまいですね」
「さすが奏者だな」
「お褒め頂きありがとうございます」

 食べ終わったとシホと並んで食器を片づけている中

「あ、士郎。ちょっといい?」
「ん? なんだ?」
「昨日泊まらせてもらった部屋に魔法陣を敷いてもいいかしら?
 手は早めに打っておいたほうがいいと思うから」
「ああ、構わない。
 好きに使えばいい。
 ただし地下と鍛冶場には触れないでくれよ?」
「了解。テーブルに士郎とプレシアのお弁当置いてるから忘れないでね」
「わかった。ありがとう」
「気にしないで」

 それからプレシアが一足先に家を出て、俺はまだ少し時間があるのでシホの淹れた紅茶を飲んで過ごす。

 そういえば昨日、フェイトにシホが会っているという事はリンディさん達にシホの事が知られている可能性が高いか。

「シホ、フェイトからリンディさん達にシホの事が伝わっているかもしれない。
 もしリンディさんやクロノが来たら魔術師として接してくれよ。
 一応、俺達にとっての魔法使いも説明しているから、魔法使いなんていったらややこしい事になる」
「了解。気をつけるわ」
「頼んだぞ。
 さて俺も行ってくるよ」

 シホのお弁当を鞄に入れ、学校に向かおうとしたときに鳴る電話。

 なんか嫌な予感がする。

「はい。衛宮です」
「リンディです。
 朝早くにごめんなさいね。
 シホ・E・シュバインオーグさんと話したいのだけど」

 予感的中。
 シホの方に視線を向けると誰から電話がかかってきたのかわかったのだろう。

「想像している人だ。
 俺が学校行くからうまくやってくれ」

 苦笑しながら頷くシホに受話器を渡して家をでる。
 さてさて、ややこしい事にならない事だけ願っておこう。




side リンディ

 昨晩にフェイトから聞いた、士郎君の親戚を名乗るもう一人の魔術師。

 本当かどうかは別にして士郎君の親戚を名乗っているのだから話し合いになること気にしながら、士郎君の家に電話をかける。

「はい。衛宮です」

 もしかしたらもう家を出てしまっていたかもしれないと少し心配したけど幸い間に合ったらしい。

「リンディです。
 朝早くにごめんなさいね。
 シホ・E・シュバインオーグさんと話したいのだけど」

 でももしかしたら電話に出てくれないかもと心配したのだけど

「……もしもし、変わりました」

 幸いなことに出てくれた。

「出てくれてよかったわ。
 フェイトさんから聞いたんですけど、あなたが士郎君の親戚で魔術師でもあるシホ・E・シュバインオーグさんかしら?」
「耳が早いですね」
「ごめんなさいね。
 士郎君以外の魔術師が発見されたのはあなたが二人目だから是非とも接触してみようと思いまして」
「自分で言うのもなんですけど、私が話が通じる魔術師でよかったですね。
 もっと気性の激しい人物だったらあなた達魔導師という存在に興味を持ち実験材料にする魔術師もいるでしょうね。
 そこのところを少し気をつけたほうがいいですよ。
 興味本位で魔術師に手を出したら手痛いしっぺ返しを受けることになりかねません」

 耳が痛い言葉ね。
 士郎君からも魔術師に対する注意は何度か言われた事がある。

「ええ、危険は承知しているわ。
 でも士郎君の親戚なら信じることは出来るわ」
「甘いですね。
 でも信用してくれるのはありがたいことです。
 さて、それでは改めて自己紹介をシホ・E・シュバインオーグ、魔術師です」
「私は時空管理局、次元空間航行艦船アースラ艦長リンディ・ハラオウンです」

 改めて魔術師という聞くとやはり緊張するものね。
 そんなとき、シュバインオーグさんから予想外の提案を受ける。

「受話器越しの会話では色々と話しづらいこともあるでしょうから、直接会って話しませんか?」
「わかりました。ではシュバインオーグさん、
 これから士郎君の家に窺わせていただきますがよろしいですか?」
「シホで構いません。
 それではまた後ほど会いましょう。ハラオウン提督」

 電話を切って大きく息を吐く。
 さて士郎君の親戚だから身の危険の心配はいらないけど、どうなるかしら。

 不安を感じながら出掛ける準備をする。


 僅かな不安を感じながら辿りつく士郎君の館。

 一度、深呼吸をして呼び鈴を鳴らす。

 そして、開く扉。

 そこには一人の女性が立っていた。 

「初めまして。あなたが……シホさん?」
「はい。そうです」
「先ほど、電話しましたリンディ・ハラオウンです」
「改めて初めまして、ハラオウン提督」
「管理局としてきたわけではないので役職は必要なりませんよ。
 それとリンディで構いません」
「ではリンディさんと。
 どうぞ、中へ」

 シホさんの案内でリビングに通される。

 それにしてもフェイトがいうとおり綺麗な人ね。

 お茶を出され、互いに向い合って座る。
 話を切りだしたのはシホさんの方からだった。

「先ほど、『管理局としてきたわけではない』とおっしゃってましたが」
「管理局の中では士郎君にそれなりに信頼されていると思ってます。
 もう一人の魔術師という話が出てきたのなら管理局内に伝える前に相談は必要でしょうから」
「配慮ありがとうございます。
 諸事情で士郎の親戚を名乗ってはいますが、事実は異なります。
 そして私自身、また姿を消すつもりなので今回の会談はなかったとしていただければ助かります」
「わかりました」

 今回の話し合いは順調に進みそうで安心した。

 それとは別に気になるのは

「ところであなたの後ろにいる二人は一体?」
「彼女達は私の従者で双子の姉妹です」
「私はアルトリアです。よろしくお願いします、リンディ」
「余はネロだ。よろしく頼むぞ、リンディ」
「はい。よろしくお願いします」

 凛とした立ち方。
 どこかシグナムに似た雰囲気。
 シホさんの騎士といったところかしら

「それで、わざわざ来られたわけですが、何か目的があったのでは?」
「そうですね。
 もう一人の魔術師と聞いて直接会って確認したかったのも本音です。
 あとはダメでしょうけど、シホさんの魔術や技術を教えていただくわけには」
「お断りします。魔術は秘匿するモノというのは士郎からも聞いているのでしょう」
「ええ、もしかしたらとも思ったのですがやはり無理ですか、残念です」

 案の定というか、あっさりと断られた。

 教えてもらえるとは思ってなかったけどやっぱりね。

 でも気になるのが、『諸事情で士郎の親戚を名乗ってはいますが、事実は異なります』という言葉。

 つまり士郎君とシホさんが知り合いではあるが身内ではないということ

「シホさん、士郎君の身内か、親しい人達がどこにいるか御存じないですが」

 いるという答えを願いを込めながらそう問いかけた。

 士郎君は強い。
 戦闘技能だけではない。

 心も強く、真っ直ぐ進む強さを持っている。
 だけど一人なのだ。

 確かにフェイトやなのはさん、はやてさん達はいる。
 でもそれは士郎君が大切にしたいと思っている人達。
 本当の意味で士郎君の横にいる人はまだ居ない。

 士郎君の本当の実力で肩を並べて戦える力を持ち、士郎君を支え、迷った時に背中を押せる人。

 このままではいつか取り返しがつかない事になる不安がある。

 例えばフェイト達を守るために辿りつく先が破滅とわかっている道があったとして士郎君は進むだろう。

 その時、彼を止め、道を正しい方向に導いてあげる事が出来る人がいない。

「恐らく、二度と会う事は敵わないと思います」
「そうですか、シホさんはいつまでこちらに?」
「明確には決めていませんが、次の目処が立てばすぐに経ちます」
「……そうですか。せっかく知り合えたのに残念です」
「士郎がここにいる限りまた会う事もあるでしょう」

 シホさんが私を安心させつつもりもあるのだろう、笑みを浮かべる。

 その柔らかな笑みに不覚にもわずかに見とれていた。

「し、シホさん……あなたは笑顔になると誰もが振り向くことはないかしら?」
「え? あ、はい。よく言われます。
 別段特別な笑みを浮かべているわけでもないんですけど……」

 明後日な方を向いて、どこか誤魔化すように「あはは……」と頬を掻きながら笑うのであった。

 ゴホンッと咳払いをして話を帰る。

「話は変わりますが、シホさんはまだお若いのにこういう話し合いは慣れているのですね。
 士郎君もそうでしたが、魔術師というのはこういう交渉ごとには慣れているものなのですか?」
「まあ、それなりに慣れた人は多いと思います。
 魔術師は同じ魔術師同士であっても隙をみせませんから。
 仮に何か協力する場合でも自分の方が得をするように交渉するのは基本ですから」

 魔術師という人種というべきなのかしらね。
 やはり油断ならないわね。

「あぁ、それと少し気になっていたんですが、さっきから誰かに見られている気がするんですよね」
「え?」

 士郎君に関わることでサーチャーは当然展開してないし、記録をするような真似はしていない。

「別に構いませんが、勝手に調べられていることに関して良い気はしません」

 シホさんの言葉と共に背筋がゾクリとした。

 凄まじい程の魔力。

 その時私の前に現れるモニター。

「待ってくれ。これは僕の独断だ!
 提督は関係がない」

 現れるのは私の息子であるクロノとその補佐官だるエイミィ。

 確かに出掛ける時に士郎君以外の魔術師がいて、会って来るとは伝えた。
 それが仇になったらしい。

 だけど

「シホ、おふざけが過ぎますよ? リンディが話ができなくなっているではないですか」
「そうね。すみませんでした」
「い、いえ、こちらもすみませんでした」
「平気ですよ。でも……次はありませんよ?」

 アルトリアさんの言葉にシホさんが魔力を納めるけど、わずかに警告をしてくる。

 それも、シホさんが大きく息を吐くと霧散する。

「と生粋の魔術師だったらこれくらい普通にしてくるという実演をしてみました。
 特にリンディさんの伝えていない独断だとしてもそれをここに連れてきたリンディさんに責任があります。
 下手をすればこれで交渉は破綻、そのまま戦闘になる可能背性もゼロではありませんよ」

 シホの言葉に耳が痛い。
 秘密の交渉で管理局の尾行を連れてきたに等しい。

「完全にこちらの落ち度ですね」
「魔術師に接触するなら、相応の準備と覚悟をしないと自滅しかねませんよ」
「耳が痛いですね」

 さて、勝手な行動をした問題児にも自己紹介をしてもらいましょうか。

「クロノ、エイミィ。
 シホさんに自己紹介なさい」
「はい。
 クロノ・ハラオウンです。
「エイミィ・リミエッタです」
「シホ・E・シュバインオーグです。
 改めてお願いしますね」

 今回はシホさんが相手で許してくれたけど帰ったらよく注意しておきましょう。

「それにしても魔術師というのは本当にこの地球に存在していたんですね」
「……というと?」
「今まで幾度も調べてきましたが、士郎以外の魔術師の足取りは一向に掴めませんでしたから、
 少し半信半疑なところがあったんですよ」
「そう」

 そう。
 結局、士郎君以外の魔術師に関する無限書庫での情報は見つかりはしても、今ここに繋がる痕跡までは見つかっていない。

「ねぇ、シホさん」

 その時意外な事にエイミィが質問をし始めた。

「なに? エイミィさん?」
「そっちが年上なんですからエイミィって呼び捨てでいいですよー。
 それで聞きたいんですけど、シホさんは昔の士郎君の事は知っているんですか?」
「知っているわよ。でも私はあまり会う機会はなかったからそんなに詳しいわけでもないけどね」

 ようやく現れたけど士郎君と同じ秘密が多い人。

 なかなか思い通りに情報は集まらないものね。

 そのあとシホさんの作った昼食を御馳走になり、会談は終わった。

 それにしても士郎君もそうだけど、シホさんの料理も素晴らしかった。

 料理がうまいのも遺伝的なモノなのかしら?




side 士郎

 昼休みなり、弁当を開く。

 昼食時は相変わらず俺となのは、フェイト、アリサ、すずかの五人で弁当を広げる。

 まだ屋上は寒いという事で教室で弁当を広げたのだが

「あれ?
 士郎君、今日のお弁当いつもと違う?」

 なのはが目ざとく気がついた。

 俺とシホの違いなのか、弁当の盛り付け方も当然違う。

 そしてなのは達は俺の弁当とフェイトの弁当を見比べるが当然違う。

 というのもプレシアが作る時俺とフェイトの弁当の中身は当然同じになる。
 だが俺が作るのとも違い、フェイトの弁当とも違うとなると

「もしかして、今日のお弁当ってシホさんが作ったの?」
「ああ」


「シホさんもライバルになるのかな?」
「親戚って言ってたし大丈夫じゃない?」
「でも士郎だし」
「うん。油断はできないよ」

 なのは、アリサ、フェイト、すずかが俺の返事に何やら集まってコソコソ言っているがなんだ?

 その時

「なのはちゃん、さっき言ってたシホさんってどんな人か教えてくれない?」

 なにやら興味津々と言った感じでクラスの女子が食いついてきた。

「シホさん? 士郎君の親戚のお姉さんで赤みがかった銀髪のすごい美人だったよ」

 なのはの言葉にクラスの男子達の雰囲気が変わった。

「美人の親戚のお姉さん」
「また衛宮なのか、またなのか」
「ふふふ、奴ばかりいい思いを」

 ああ、このパターンか。
 男子達の食事ペースが上がったのを見て確信する。

 俺も食事のペースを速めて、食べ終え、弁当をしまう。

 それとほぼ同じくして男子達が立ち上がる。

 そういえばこの鬼ごっこも久しぶりだな。
 そんな事を考えながら、一気に走り走り始めた。



 学校から家に帰ると

「ん? なんだ?」

 俺とは違う魔力の残滓を感じた。

 これはシホの部屋か?

 シホの部屋に入ると魔法陣が刻まれた部屋。

 魔法陣が動作した痕跡がある。

「まったく、帰るなら帰るで挨拶の一つでもしていけというのに」

 なにも言わず戻った別世界の俺に文句をつぶやきながら、部屋を後にしようとする。

 その時、再び輝く魔法陣。

 ……まさか誤作動で今度は俺がどこか別の世界にとばされたりしないだろうな。

 遠坂の呪いを受け継いでいるシホの事に内心不安に思いながら魔法陣を見つめていると

「……また来れたのね」

 現れるシホの姿。

「いきなり帰ったと思ったら、はやいお戻りじゃないか?」

 俺がいることに驚きながら振り返るシホ。

「ずいぶんないい様ね。
 まあ、事実一回帰っていた訳だけど。
 そうそう、この世界に自由に来る方法と元の世界に帰る方法も理解したからこの魔法陣が刻まれている部屋限定だけどいつでも来れるようになったわ」

 あっさりとんでもない事をいうな。

「さすが第二魔法の使い手だな」
「あと士郎。これを渡しておくわ」

 差し出されるミニチュア版の宝石剣。

「これは?」
「平行世界をまたいで通信ができるミニ宝石剣よ。
 だからなにか困った事があったら知らせて。
 これも何かの縁だし助けてあげるわ」
「助かる」
「それとこの世界のなのは達には私はまた旅立ったって伝えておいて」
「わかった」
「そして私も私の世界でやらなきゃいけない事があるから、同じ衛宮の名を持つもの同士お互いに頑張りましょう」

 宝石剣を持ち、魔法陣の上で俺と向かい合う。

「またいつか会いましょう、士郎」
「ああ、またいつかな」
「それじゃまたね」

 魔法陣が輝き、光が収まるとシホの姿はない。
 再び、元のいた世界に戻ったか。

 並行世界の自分との出会い。

 こうして出会ったのだ。
 また会う機会もあるだろう。

 そして、静かにシホ用の部屋になった扉を閉じるのであった。 
 

 
後書き
先週に引き続きまして炎の剣製の「剣製の魔法少女戦記」とのコラボ作品の後半となります。

今回はA's編の半ばでありながらA's後のおはなしであったり、中途半端なタイミングになりましたが、また機会があればやってみたいな~と思ったりしてます。

今度はちゃんと話の区切りがついた時にやろう。

来週から再びF/mg本編に戻っていきます。

それではまた来週にお会いしましょう。

ではでは 

 

プロローグ 辿りついたのは   ★

 
前書き
 この小説の士郎は基本的にはどのルート後というのがありません。
 しいて言うならhollowのような感じです。
 さらにもともとの士郎君の魔術回路等設定が原作かなり違う点があります。特に魔術回路
 そして、基本的に士郎君最強かつハーレムとして話を進めてまいります。
 そういうのが苦手という方はご遠慮ください。 

 
 闇に沈んでいた意識が徐々に浮上する。

 横たわった自身の体
 背中には固い感触
 そして、ゆっくりと瞼をあける。

 目の前に広がるのは星空
 周りに視線を向ければ金属のフェンスが周りを囲っている。

 静かに立ち上がりフェンスのそばまで歩み寄り、視線を下に向ければ街灯が灯る街が見える。
 だがなによりの疑問は

「……ここはどこだ?」

 ここにいる理由が思い当たらない。
 俺はなぜここにいる?
 何のためにここに来た?
 疑問が尽きない。
 現状を理解しようと思考を奔らせるが答えが出てこない。
 何らかの原因で記憶が混乱しているのか?

 そんなことを思いつつ振り返って初めて気がついた。
 俺が寝ていた……この場合倒れていただろうか?
 その場所のすぐそばに黒いカバンがある。

「なにか手掛かりがあればいいが」

 そんなことを思いつつカバンの中をあける。
 カバンの中にはいくつかの箱が入っていた。
 一つ目の箱には金の延棒
 二つ目には魔力も何もこもっていない純度も大きさも様々な宝石
 三つ目には懐かしい人たちの魔力がこもった宝石
 
 そして、四つ目には共に高魔力がこもったペンダントが二つ
 片方には深紅の宝石が
 もう片方には漆黒の宝石が

「……あ」

 静かに涙が零れおちた。

 その瞬間理解した。
 なぜ俺がここにいるのか?
 ここにいるのはなぜなのか?

「……ここは」

 魔術協会に追われ、聖堂教会に追われ

「……並行世界か」



 世界からも追われた俺が最終的に行きついた終着点だった。 
 

 
後書き
 『暁〜小説投稿サイト〜』が初めての方は初めまして。
 にじファンからの方はお久しぶりです。
 セリカ改め、Celicaです。
 ・・・アルファベット表記に変わっただけですが

 しばらくは今まで書いていたやつ確認しながら毎週数話ずつ更新していきます。

 改めてよろしくお願いします。

 ではでは 

 

第一話 現状把握

 箱から取り出した宝石をしばらく見つめ続ける。
 だがいつまでもこうしているわけにはいかない。
 涙を拭い、意識を切り替える。
 すでに俺はこの地に降り立ったのだ。

 まずは現状把握が最優先
 まだこの世界が並行世界であることしかわかっていないのだ。
 それに

「……並行世界に跳んだ影響か?」

 先ほどから全身に何とも言えない違和感がある。
 俺の体は普通の人の体ではないのだ。
 早いうちやっておいて損はない。

 目を閉じ、自身の内面に意識を向ける。
 魔術回路を1本起動し、自身の体を解析する。
 まずは自分の戦力である魔術回路。

 ―――魔術回路528本確認
 ―――動作可能回路264正常
 ―――封印回路264正常 封印も問題なし
 ―――魔力量正常

 次に肉体
 ―――身体外面の損傷個所なし
 ―――神経、内臓等内面も損傷個所なし
 ―――体内『全て遠き理想郷(アヴァロン)』正常動作中
 ―――吸血衝動抑制問題なし
 ―――身体機能の異常なし

 ―――警告1 肉体面の差異あり 肉体年齢、約9歳

「……なんでさ」

 どう考えてもおかしいだろこれ。
 怪我が治って、魔力が満たされてるのはおそらく遠坂とアルトのおかげだろう。
 でも明らかに成人していたはずなのに、気がついたら9歳って……
 全身の違和感の正体もこれで説明がつく。
 急激な肉体の変化のせいで足の長さや体の感覚に違和感があったのだ。
 さらに今いる場所がビルの屋上という事もあって視点の変化があまり気にならなかったのだ。

 まあ、肉体に関してはこれからの課題ということにしておくとしてだ。
 この世界がどういう世界なのかもわからない。
 金銭に関してはカバンに入っていた貴金属類。
 これはどこかで換金しないと使うのは難しいだろう。
 他にある物といえば赤竜布(せきりゅうふ)ぐらいである。

 ちなみにこの赤竜布だが、吸血鬼の俺がアーチャーのように聖骸布を纏えないので用意したもので
 竜の因子を持つセイバーの血と遠坂の宝石を使って作成した赤い外套である。
 構造もアーチャーの上下分かれているのと違い、深紅のコートである。
 またセイバーの竜の因子の血のおかげで対魔力が聖骸布より高い。
 さらに特殊な構造しており防刃防弾にも優れている。

 だがなによりの疑問は528本の魔術回路を持っていながら対魔力が全然上がらない俺なんだが

 そして、他にも問題はある。
 それが服装
 着ているものすべてがサイズが合っていない。赤竜布に至っては引きずっている。
 そして、血が渇いてドス黒く変色している。

 とりあえずボディアーマーは脱ぎ、赤竜布で包み、カバンの中へ
 あとは……

「……いいか。なんとかなるさ」

 悩んでもはじまらない。
 街に降りようとカバンを持ちあげると

「……手紙?」

 カバンの下に何かが入っているのか多少膨らんだ封筒がある。
 封筒をとり、中を確認する。
 中には手紙とアミュレットが入っていた。
 
 とりあえず手紙を読み始める。
 この字は遠坂の字だな

 ―――この手紙を読んでるってことは無事たどり着いたんでしょ。
 体に関してはごめんなさいね。私の宝石剣じゃ計算より穴が小さ過ぎたみたい。
 だから大師父に幼児化をお願いする羽目になったけど、特に異常はないはずよ

「なるほど、遠坂の呪いのう……」

 本当は、うっかりと続けるつもりだったのだが

 ―――あとこの手紙を読んでいる時に変な発言なんかしてないでしょうね?
 今はまだ不完全だけど、完成したら会いに行くつもりなんだから
 あんまり変なこと言ってると捻じ切るわよ

 禍々しい文字に反射的に口を閉じた。
 特に「捻じ切るわよ」のところ。
 どこを? どのように? どうやって?
 いろいろ問いただしたくはあるが遠坂なら本当やりかねない、というかやる。
 知らず知らずのうちに出た冷や汗をぬぐい読み進める。

 ―――ここからが本題だけど、この世界の吸血鬼と私達の世界の吸血鬼では概念が大きく違うわ。
 だからいくつか修正力が働いてるからよく頭に叩き込んでなさい。
 でも安心しなさい。
 吸血衝動は今まで通り『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で抑えることができるから。

 そこから先はこの世界の吸血鬼にことが書かれている。
 要約すると大きな違いとしては
 ・吸血鬼の概念が違うので修正力で血を誰かに与えても吸血鬼にはならない。
 単純に高濃度の魔力が込められた液体にすぎない。
 ・ただし相手を噛んだ場合、相手は死徒、または死者になる。
 この二つである。

 そして最後には

 ―――あんたのことだからトラブルに巻き込まれるだろうけど、うまく立ち回りなさい。
 念のため魔力殺しのアミュレットを入れてるから
 それと私達のことはいいからそっちで彼女でも作って、あんたも幸せになんなさい。

「……幸せになりなさいか」

 俺にはもったいないぐらいの言葉だ。
 自身が目指す正義の味方。
 それがなんなのかはまだわからないけど遠坂の言葉は忘れないようにしよう。

 それにしても『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で吸血衝動を抑える事が出来るのが変わらないというのは助かる。
 とはいえ絶対とは言えない。
 魔力が切れれば『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は動作しないのだ。

 自分の現状把握としてはこんなものだろう。
 あとは実際に動いてみないとわからないことが多い。
 魔力殺しのアミュレットを首にかけ、手紙もカバンにしまい。
 扉に向かう。
 この街がどんな街なのか知る由もない。
 だが

「少し楽しみでもあるかな」

 俺の気持ちはとても軽かった。 
 

 
後書き
 続いて第二話です。

 ではでは



 少々修正 

 

第二話 散策

 屋上からビルの中へと続く扉の鍵を解析し、十秒にも満たない速さで針金一本でピッキングを成功させ侵入。
 ビルの中の防犯センサーは天井や壁を蹴り、一切反応させず駆け抜ける。
 正面玄関の扉の鍵も再び解析し、ピッキング。
 外に出た後はちゃんと扉を閉めて、針金一本で鍵を閉める。
 ちなみにこの針金、投影品であるので使用後は消してしまえば証拠も残らない。

「完璧だな」

 侵入から脱出まで予定通りだ。
 遠坂に解析能力を伸ばす修行の一環として魔術的、科学的、あらゆる鍵やセキュリティシステムの解析を行ってきたかいがある。
 この程度のセキュリティなら朝飯前だ。
 そういえば、遠坂がどこからか銀行の見取り図らしきものを見ていた事があったな。
 まさかこの技能で銀行強盗でもして、宝石の資金を………

「……まさかな」

 嫌な感じがするのでこれ以上考えるのはやめておこう。
 とりあえずは街を散策してみるとするか。

 で散策を始めてすぐ少し後悔した。
 なぜなら

「さすがにこの格好はまずかったか?」

 周りの視線が痛い。
 靴もシャツもズボンもブカブカなので、ズボンは裾を捲りあげている。
 シャツとズボンは黒だから遠目には目立たないが乾いた血糊が付着しているのである。

 さらに死徒になった際に髪から色が抜け落ち白くなり、瞳は深紅になったのだが、それは幼児化した今も引き継がれている。
 この容姿に関してはイリヤが本当の兄妹(姉弟)のように見えると大層喜んでいた。
 そして、当然のことといえば当然なのだが
 そんな目立つ容姿をした子供がそんな恰好をして夜遅くに1人で歩いていれば注目を浴びる。
 
 まあ、その辺は諦めるとしよう。
 それに後悔と同時に驚いたことがある。
 街を見渡せば、見覚えのある字で書かれたコンビニや店の数々。
 単純に考えれば

「ここは日本か?」

 そんなことを思いつつ、街の中心部と思しき場所まで何とかたどり着いた。
 そこに近郊の案内図があったので見てみる。
 情報としてはこの街が『海鳴市』ということ。
 あとは近くに図書館があるので、そこでこの世界の情報を見る必要がある。
 それに海の方には海鳴臨海公園なる公園があるらしい。
 それも結構広い。
 とりあえず海鳴臨海公園と図書館の位置を覚え、海鳴臨海公園に向かう。
 しばらく歩いて海鳴臨海公園に到着した。

「予想通りだな」

 公園の周りには自然が残ってるし、大きい木もある。
 それに水道もある。
 とりあえずは大きい木に登る。
 そして自身の体重を支えきれる十分の太さを持つ枝に腰をおろし、背は幹に預ける。

「とりあえずこれで雨が降っても何とかなるか」

 一応周りを見渡し、警戒は最低限で瞳を閉じる。
 俺の並行世界での初めての夜は木の上での野宿となった。 
 

 
後書き
 続いて三話です。

 ではでは 

 

第三話 過去の思い出

 日の光を感じゆっくりと目を覚ます。

「……む、少し眠り過ぎたか」

 太陽を見ると結構高い位置まで昇っている。
 最低限の警戒はしていたつもりだが、並行世界に渡り体が疲弊していたのか、深く眠っていたらしい。

 しかし、死徒になり太陽の光を克服しているとはいえ、やはり吸血鬼だな。
 どうにも太陽が好きにはなれない。
 水飲み場で顔を洗い、頭から水をかぶる。
 頭を振るい、水気を払う。

「ふう」

 大きく息を吐く。
 その時、水面に自分の姿が写る。
 白い髪に深紅の瞳。
 人ではない肉体。
 極めつけは並行世界を渡るなどという奇跡
 こう改めて考えるとなかなか複雑怪奇な人生を歩んでるな。
 自分自身のことながら苦笑してしまう。
 目を閉じ静かに懐かしき日々を思い出す。

 俺の人生の大きな転機である聖杯戦争。
 そして繰り返される四日間。
 繰り返される四日間が終わり、出会ったのがサーヴァントが現界してるからという理由でお越しになった大師父のはっちゃけ爺さんことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
 そして、俺の能力を見て言った言葉が

「おもしろい!」

 ってどうよ。
 で、気がついたら弟子にされて世界中引っ張りまわされた。
 まあ、いろいろとつながりも増えたけど。
 死神とか人形師とか……
 だがおかげで出席日数が足りず、卒業が出来ない危機なんていう問題も起きた。
 もっともこれは教師の方々に頭を下げ補習を受けなんとか乗り越えた。

 そして、学校を卒業して一年後俺は桜とライダーと共にイギリスに向かったのである。
 イギリスに向かうのが遅れた理由は単純に大師父との修行の旅のせいである。
 ちなみに遠坂とイリヤ、セイバーにバーサーカーはすでにイギリスに渡っていた。
 セイバーがイギリスに渡ったのは遠坂のサーヴァントとして協会に報告したためだ。
 未来の英雄であるアーチャー(英霊エミヤ)は問題があるので存在を隠しているらしい。

 そして、イギリスに渡ってわずか数カ月で宝石代と時計塔の修理代で自己破産寸前まで追い詰められた。
 しかもなにげに時計塔の修理代のほうが高かった。
 どれだけ壊せば気が済むんだ……。

 そして、執事のバイトを始める俺。
 そのバイト先は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの屋敷だった。
 ええ、もうそんときは魔術師の家だなんて思いもしなかった。

「……エーデルフェルト家をご存じない?」
「あ、うん」

 その直後、ガンドを叩き込まれて意識がなくなった。
 これが最初の出会いなんだから今思えばとんでもないものだ。

 そして、ドイツに大師父に言われるがまま行き、そこでも新たな出会いがあった。
 俺の吸血鬼としての親でもある、アルトこと、アルトルージュ・ブリュンスタッド。
 しかも、大師父に

「ここに行って待っていればいい」

 なんて言われてのんきに待っている時に話しかけられたのだ。
 後で聞いた話では、大師父が言っていた会わせたかった人がアルト自身だったのだが。

 しかもそのとき、膝の上にプライミッツ・マーダーの頭を乗せて撫ぜながら、呑気に世間話をしていたのだから俺も結構鈍い。
 アルトの黒騎士と白騎士にも呆れられた。
 それにしたって、改めて思うとまともな出会いがほとんどないな。

 しかしというより当たり前なのだが、時計塔の主席、次席候補の二人と親しくし、大師父の弟子かつ、アルト達と繋がりを持てば俺に注目が集まり、投影魔術がばれたのは仕方がないことだろう。
 もっともバックにいる人が人だけに時計塔が動けず、穏やかな日々が過ぎていっていた。
 もっとも遠坂やアルト達の喧嘩は絶えなかったが。

 だがそんな穏やかな日々も崩れ落ちることになる。
 時計塔からの仕事を請け負ったのだが、それは俺を狙う魔術師たちの罠だったのだ。
 俺を狙ってきた魔術師はすべて倒したものの、右の肺はつぶれ、左腕は砕け、心臓のすぐ横には穴があいている状態だった。
 そこに助けに現れたのがアルト達だった。
 だがアルトはもちろん、黒騎士、白騎士、プライミッツ・マーダーも治癒の魔術は使えない。

「シロウ、まだ死にたくはないか?」
「ぐっ! ああ、まだ俺は死ぬわけには……だから頼む」

 だから俺は選んだ。
 最後の可能性に賭けたのだ。

「ああ。また会おうぞ、シロウ」

 そして、アルトに血を吸われたのだ。
 だが俺に吸血鬼としての素質があったのか二週間昏睡して目を覚ましたら、人形でも何でもなく個の死徒になっていたのだ。
 しかもその時にすでに太陽は克服していたのだからふざけた体をしている。
 もっとも吸血衝動がそれなりに問題だったけど……

 だがこれにより新たな問題が起きた。
 聖堂教会が俺のことをどこからか嗅ぎつけ、空席だった二十七祖第十位に俺を登録したのだ。
 それにより魔術協会、聖堂教会に狙われ、俺は遠坂達から離れることを選び、戦場をさまよい続けた。

 そして、辿りついたのは何もない荒野。
 体のいたる所から剣が突き出し、右腕はかろうじて繋がり、両足の骨は粉砕している。

「まだなんとか生きてるようね」
「遠坂。それにアルト、大師父」

 俺を見下ろしていたのは懐かしくて、愛おしい二人と師。
 そして瞬間、遠坂とアルトに一発ずつ殴られた。
 手加減しているとはいえボロボロの体には堪えた。
 だが殴られても仕方がない。

「これで私たちを置いて行ったのはチャラにしてあげる」
「だがなシロウ。この世界にお主の場所は無くなってしまった」

 アルトと遠坂が涙を浮かべて、言葉を紡ぐ。
 女の子を泣かしちゃいけないって親父に言われてたのに泣かしてしまった。
 だが居場所がないのは仕方がない。
 魔術協会、聖堂教会と敵対している上、魔術の秘匿の不完全。
 こうして二人に会えただけでも僥倖。

「二人の頼みもあるが、ここで死なすには惜しい。
 ゆえにお主を並行世界に送る。もっともこれは遠坂の試験も兼ねてじゃがの」

 大師父の言葉と共に遠坂が宝石剣を取り出す。

「そうか、至れたんだな」
「あんたのおかげでね。まあ不完全なんだけど、ちょうどいい等価交換でしょ?
 それと向こうの世界では絶対に大切な人とあなたが幸せになりなさい」
「掴んでみせよ。いつか会いに行くからの」

 二人と最後の言葉を交わし、軽く口づけをする。

「ああ。行ってくる」

 その言葉を残し俺は元の世界を別れを告げたのだ。

 そんな長くもない人生で吸血鬼として生まれ変わり、さらに並行世界に新たな人生を求め渡る。
 ここまで来るとアーチャー(英霊エミヤ)と俺が本当に同一人物かどうかも疑問に思えてくるな。
 少なくともアーチャー(英霊エミヤ)は死徒ではなかったはずだ。

 確かに穏やかとは程遠い人生だったが後悔はない。
 いや、あるとすれば遠坂達を泣かしてしまったことだろう。
 だが新たな世界での俺の人生は始まっている。
 とりあえずは

「前に進むことを考えるか」

 カバンを持ち、街に向かって歩き出す。
 この太陽の位置だともう店も開き出す頃だ。
 まずはこの世界のことを理解しないことにはこれからの方針も決まらない。 
 

 
後書き
 過去への回想編、三話でした。

 ではでは 

 

第四話 新たな住処

 街を抜けて、図書館に向かう。
 これが当初の目的だったのだが、その前にすることができた。
 理由は簡単。
 俺のあまりの恰好に誰かが通報したのか、警察に呼びとめられたのだ。
 だが自身を証明する物を持っているはずもないので暗示を使いやり過ごした。

 その後は路地裏を使い、目立たないように移動し、再び暗示を使い、魔力のこもっていない宝石を換金する。
 そして、ズボンやシャツ等の当面の着替えと目立つ白髪を隠すために帽子を購入した。
 死徒になり魔眼を持った事によりこういった暗示が簡単にできるのは助かる。

「しばらくはこれで大丈夫だな。次は」

 そのあと不本意だがコンビニでおにぎりと飲み物を買い食べる。
 本当なら手作りをしたいのだがそんな場所もない。
 死徒なんだから食べなくても死にはしないが、空腹がそのまま吸血衝動に変わることがあるので腹に何か入れておく必要はある。

 そんな事をしてせいで時間がかかり、昼前にようやく図書館に辿りついた。
 まずは地図を使い日本における海鳴市の位置を把握する。
 その後、冬木をはじめとする日本の霊地を調べてみるが

「……冬木はないか」

 冬木は存在せず、その他の霊地も存在していなかった。
 だがこの図書館に辿りつくまでの間に多少ではあるが霊脈を感じることは出来た。
 つまりは海鳴市の中に遠坂の土地には及ばなくても、それなりの霊地がある可能性も否定できない。

 その後、国内外問わず過去の新聞や事件を調べ、読み漁ってみるも魔術が関与したような事件、事故は見つけることができなかった。
 図書館が閉館時間になったので、図書館を出て、歩きながらこれからの事を思考する。

 当面は図書館に通って一日では調べきれなかった事件事故の資料に目を通す。
 それと同時に海鳴市の霊地を散策するのが一番だろう。
 それにいい物件もちょうど見つけた。

 図書館を出た後に、俺が向かっていたのは図書館のすぐそばを通る太い霊脈の先。
 それなりの太さがあったから霊地にたどり着くと予想したのだ。
 そして、辿りついたのは街から少し離れたところ。
 周りに家もなく、辺りには木々も多く残っている。
 さすがに遠坂の土地には及ばないものの予想以上の霊地だ。
 そして、そこには見覚えのある洋館が建っていた。

「見覚えのあるというよりほとんど遠坂の洋館と同じ造りだな」

 これならば文句のつけようもない。
 洋館には人の気配もないし、解析をしてもトラップの類も見当たらない。
 と雑草の中にボロボロの看板があった。

「一応売り家か。念のために調べておくか」

 看板に書かれた不動産会社を記憶し、街に戻る。
 交番で道を尋ねて不動産会社を見つけ出し、家の事を尋ねてみる。
 勿論、子供がそんな事をいきなり尋ねても教えてくれるはずはないのでまた暗示を使わせてもらった。

 不動産屋の話によると前の持ち主が亡くなり相続人もいない上にいろいろといわくがあり買い手も決まっていないらしい。
 本音でいえばこの土地は拠点としては申し分がない。
 借りるなり買うなりしたいのだが換金した金額ではとても足りるはずもないし、身分書もない。

 そういうわけで内心で謝りつつ、もともと俺がこの屋敷の相続人であるように暗示をかける。
 そして書類一式全てを貰いうけた。
 その際ここ十年の管理費用もすでに払っていると暗示をかけたので購入費は0円である。

「……俺もこれで犯罪者だな」

 この場合、詐欺になるのだろうか……気にするのはやめよう。

 そんなわけで郊外の空き家を自身の家として住み始める。
 中に入って驚いたのが家の間取りも遠坂の家とよく似ている。
 さらにありがたい事に大きな振子時計など放置されている家具もある。
 少し手を加えてればすぐに使えそうだ。

 それにこのレベルの霊地なら結界などの準備もすぐにできる。
 それから一週間ほどは午前中に図書館で調べ物をして、午後からは家の大掃除と結界等の準備を着々と進めていくことにした。

 であっという間に十日経ったのだが、結構いい感じというか予想以上である。

「あと一つほしいものがあるが、これでとりあえずは十分か」

 冷蔵庫やテレビなど必要な家電もリサイクルショップなどから故障品を貰い、自分で修理して揃えた。
 結界も十分なモノが用意できた。
 後は鍛冶場があれば工房としても機能し始める。
 さすがに鍛冶場はこれからだろう。
 それにこの家、台所に遠坂の家にもなかった石窯があった。
 これならば家で自家製のパンも焼ける。
 そう考えると本当にいい物件だ。
 ただで貰った不動産会社には申し訳ないが

 それから、俺は改めて海鳴市の他の霊地を調べ始めた。
 これだけの土地ならば魔術師がいてもおかしくはない。
 そして、調べて判明した海鳴市の主な霊地は三つ。
 一つ目は今俺が住んでいる土地。
 二つ目は神社。
 もっともこの神社は霊地とはいえ柳洞寺程ではない。
 もちろん周りが結界で覆われていることもない。

 そして三つ目が海鳴市外れにある最大の霊地。
 その霊地には俺が住んでいる洋館より遙かにでかい屋敷が建っており、その屋敷の所有者が

「……月村か」

 これだけの霊地の上に屋敷を構えているのだ。
 この屋敷の主に関しても少し調べる必要はあるか。
 屋敷を見ながら色々と思案するが、少し迂闊だったかもしれない。
 監視カメラがこっちをじっと見ている。
 カモフラージュしたものも含めおよそ二十。
 面倒事にならないことを願いたいものだ。
 踵を返し、帰路につく。

 だが俺の願いも虚しく、すぐに俺の背後を一定の距離を保ち、ついて来る者がいた。
 家についても特にアクションはなかったが、内心ため息をついていた。




side 忍

 部屋で恭也とのんびりとお茶を楽しんでいる時

「妙な子供がいるのですが」

 ノエルが困惑したような表情を浮かべ、部屋に入ってくる。
 ノエルの言葉に恭也と頷きあい、共に監視室に向かう。
 そして、その少年を確認する。
 ジーンズに黒の長袖のシャツを着て、帽子をかぶっている少年。
 年の頃は背丈から見て、すずかと同じぐらいかしら。
 パッと見は門から月村の屋敷を見ているようにしか見えない。
 だけど

「ただの子供っていうわけじゃなさそうね」

 立ち方が違う。
 明らかに素人ではない。

「それに全ての監視カメラに気づいてるな。さっき視線を動かして確認してた」

 恭也の言葉に驚くばかりだ。
 あからさまに設置している監視カメラは五台。
 それ以外はすべてカモフラージュしており、並の実力では見つけ出せるものではない。
 それをあっさり見破り、この屋敷のことを見ているという事は

「……敵なのかしら?」
「さすがにそれはわからないが、少しつけてみる。俺も気になるしな」

 踵を返した少年を追って恭也が外に駆ける。

 そして、しばらくして恭也が戻ってきて少年が住む場所は判明した。
 判明したのだけど

「……元空き家……ね」
「だな」

 恭也がたどり着いた家というか洋館を調べたら完全に空き家。
 いえ、正確には二週間程前までは空き家だった物件。
 だけど二週間程前にいきなり相続人が現れ、書類はその人に渡っている。
 だがその書類の受け渡しの経緯が明らかに不自然だ。
 今まで管理していた不動産会社には書類の受け渡しや管理費支払いの記録は残っている。
 だけど実際に受け渡しを行った人物の人相などは誰ひとり覚えていない。
 そして、その家の所有者が『藤村雷画』
 一応、確認したがそのような人物は過去百年には存在しなかった。
 だけどそれで書類は通っているし、少年が住んでるのも事実。
 しかし少年の情報は一切ない。
 いや、正しくは出てこない。

「……なんなのよ、これは」

 私の言葉に恭也もノエルもなんと反応すればいいか迷ってようだ。
 どちらにしても一度会う必要はあるでしょうね。
 そんな事を思いつつ私はため息をついた。




side 士郎

 霊地が見つかったので、それ以降はこの街の中で魔術の痕跡を探している。
 もっとも今まで特に痕跡が見つかったことはない。
 裏の世界のコネもないものだから海鳴市以外の情報も限られてくる。
 これでは調べ物にも時間がかかりそうだ。
 そんなことを考えつつ、夕飯の買い物をして家に戻ってくる。
 と家の扉の前に白い封筒が置かれていた。

「そういえば郵便受けを用意してなかったな」

 白い封筒よりそんな事を気にしつつ、封筒を解析する。
 特に怪しげなものは混入してはいない。
 魔術的な痕跡もない。
 結界が働かなかったという事はこれを持ってきた人物は敵意を抱いてはいない。
 家の中に入り、封を開ける。
 封筒の中には便箋が一枚入っており、書かれていたのは

「今週の日曜、月村邸にお越しくださいますようお願い申し上げます……か」

 要するに月村邸への招待状だった。
 最近、俺の周りをいろいろ嗅ぎまわっているのがいたが月村家の者か。
 だがいくら調べても俺の正体が割れない。
 さすがにしびれを切らしてアクションを起こすことにした、といったところだろう。
 こちらとしてもどうやって接触するべきか考えていたところだ。
 この招待、受けさせてもらうとしよう。
 だが準備するものがある。
 もっとも時間はまだあるからそれまでに準備できるだろう。

 というわけで赤竜布を投影し、裁縫を行っていく。
 今まで使ってきた赤竜布は将来のことを考えて残しておく。
 そして、今の肉体に合うサイズの外套を作り、余った布で暇つぶしがてら髪と口元を隠すフードを作っていく。
 ついでなので今回は着ては行かないが今の体にあう黒のズボンとシャツ、手袋、ブーツを購入する。
 本来、戦闘時に手袋をつけたりはしないのだが正体を隠すのに便利だから用意だけはしておく。
 それらを全て戦闘用に改造し、着々と準備していった。 
 

 
後書き
久しぶりの投稿の第四話です。

これからまた毎週チェックが済んだものから公開していきます。

ではでは 

 

第五話 出会いは騒動に満ちている

 外套の準備などしているとあっという間に日曜になった。
 そして俺は今、月村邸の前に俺は立っている。
 それにしても改めて見るとでかいな。
 あの死神の家と同等かそれ以上だろう。
 そして、自身の装備を確認する。
 ジーンズに黒の長袖のシャツに、投影した赤竜布を纏い、魔力殺しのアミュレット、そして帽子を被っている。
 赤竜布は投影品なので対魔力などの性能は劣るがないよりはいいだろう。

「よし。いくか」

 呼び鈴を押すと

 ピンポ~ン

 と結構庶民的な音がした。

「どちらさまでしょう?」
「本日招かれた者です」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞまっすぐお進みください」

 その声と共に門が開く。
 そして俺は普通に門をくぐり、先に進む。
 それにしてもこの屋敷とんでもないな。

 門から正面玄関に続く道。
 道に沿って植えられた植木。

 これだけならただ感心できるのだが。

 明らかに道を外れれば発動するように仕掛けられたトラップや攻撃用の武器がこれでもかと設置されている。
 最初は数を数えていたが、二十を超えた辺りから数えるのをやめた。

 それに俺に向けられる視線。

「荒事にならなければいいんだが」

 残念ながらそれを願って叶った事はないのだが




side 忍

 さて、今日は来客の日。
 あれから国外にまで手を広げたけど情報は一切出てこない。
 つまりこの世界の中で一切の記録がない。
 もっとも裏にいけばあるかもしれないけどさすがにそこまでは時間的にも手が回りきらない。
 ようするに私たちはこれから会う相手の情報をほとんど持っていないに等しいのだ。
 だからこそ敵の可能性を捨てきれなかったけど会うという事を選んだのだけど。
 気になるのが

「恭也、本当にやるの?」
「ああ、確かにやり過ぎかもしれないが、相手の素性が全く分かっていないんだ。
 それに剣を交えれば見えてくる事もある」
「まあ、そうなのかもしれないけど」

 恭也の言葉に美由希さんも苦笑している。
 確かにあの子が私達に害をなすモノなのかはっきりさせたいのは事実ではあるけど。
 
「そろそろだな。
 美由希、忍達を頼むぞ」
「わかった。任せて」

 恭也を先頭に玄関に向かう。




side 士郎

 発動してないとはいえ、周囲にトラップや武器が用意されている事で歩みは自然とゆっくりとしたものになる。

 そしてようやく玄関まで辿りついた。
 もっとも玄関の向こうには数人の気配がする。

「ここからが本番か」

 扉の向こうからこちらに向けられた視線に自然とため息が出る。

 これだけあからさまだと扉を開けようとした瞬間にということはないだろうが、警戒しつつ扉を開ける。

 かなりの広さの玄関ホールには俺を待ち構える様に黒い服を着た男性が一人。
 その男性の少し後ろに女性が一人。
 顔つきが男性と似ているところがあるから恐らく身内。
 そして、ホールの中央に長い髪の女性が立っており、その左右にメイドが控えている。

「よく来たな」
「ああ、ここまで警戒された招待は初めてだよ」
「さて招待しておいて申し訳ないが―――」

 男の姿勢が低くなる。

「―――覚悟してもらおう」

 抜刀される小太刀。
 それに合わせ外套から抜く様に投影する干将・莫耶と同じぐらいの刃渡りの無骨な剣鉈。

 男の一撃を受け止めるが軽い。
 この手応え、俺が動かなければ寸止めするつもりだったか。
 もっともその事を信用できる程、俺も相手の事を知っているわけではない。

「ずいぶんな挨拶だな」
「自覚はしているが、まったく得体の知れない相手ならば、自分達に害をなすモノなのか。
 相手の実力を測るためにも剣を交える必要もある」
「乱暴な考えではあるが、一理はあるな」
「それに」

 男は間合いを開け、もう一本の小太刀を抜く。

 小太刀二刀流か。

「剣を交えれば見えてくるものもある」

 生粋の剣士だな。

 この人なら付き合うのも悪くない。
 それにこの子供の身体でどこまで動けるのか試したくもある。 
 
 外套から抜く様に右手に握る剣鉈と同じものを左手に握り、静かにいつものように構える。

「御神流、高町恭也」
「衛宮士郎」

 これは死合ではなく、試合である。
 互いに剣を交え信頼に値するのか、荒っぽい剣の対話が始まった。




side out

 洋館の中で刃と刃がぶつかり金属音を響かせ、火花を散らし、刃が太陽光を反射し輝く。

 そんな中で衛宮士郎は二十歳ぐらいの男の予想以上の技能の高さとその秘められた才能に舌を巻いていた。

 対する高町恭也も自身の下の妹と同い年ぐらいの子供が自分と打ちあえる実力の高さに驚いていた。
 だがなにより驚くと同時に困惑していたのは

(打ちあい始めた時は身体が流れたりと乱れていたが凄まじい速度で技が冴えていく。
 同じ人物とは思えない)

 士郎の技能がこの戦いの中で急激に成長している事である。

 もっともこの原因は単純に士郎の肉体の変化である。

 柄こそ投影の際に子供の手にも握りやすいように少し細くしているが、それでも子供の手には大きい。
 それでも死徒である力で小さな手でも握り、振るう事は出来る。

 そんな事より士郎が困惑したのは

(体の変化が大きすぎる)

 190cm近い身長がいきなり子供の身長になり、体重が変わる。

 つまりは腕や足の長さも当然変わり、間合いも、一歩の踏み込みの距離も変わる。
 そして体重の変化は

(踏ん張りが利かない!)

 軽くなった体重は子供には大きく厚みのある剣鉈を振るえば、その重さに体勢が少しでも不安定だと身体が持っていかれる。
 さらに刃と刃がぶつかり合った衝撃で身体が浮かびかける。

(もっとコンパクトに無駄なく刃を振るえ。体勢を常に意識し、元の世界では振るえていた事など考えるな。
 攻撃は受け止めるな、間合いを修正し、受け流し、かわせ!)

 恭也との戦いの中で子供の肉体での的確な戦い方を組み立て、修正しているのだ。
 それゆえに恭也は刃を交え始めた時から急速に冴えていく士郎の動きに困惑し、攻めきれない。

 そして士郎と恭也の戦いを見ていた美由希や忍達も

(すごい。恭ちゃんとここまで打ちあえるなんて)
(この子、本当に何者?)

 恭也と正面から打ちあう士郎の得体の知れない技能の高さに驚いていた。

 打ち合う事、数十合。

 徐々に押され始める士郎。

(隙が出来てきた。
 集中力が切れて来たか?)

 恭也がそう感じ始めた時には互角だった戦いは攻める恭也と守る士郎という一方的なモノになっていた。
 そうその場にいる士郎を除く全員がそう認識していた。

 左手の小太刀の横薙ぎを受け流し出来た右脇腹の隙。

(貰った!)

 そこに右手の小太刀で突きを放つ。
 その時、士郎の表情は笑っていた。

(誘い!?)

 気がついた時には既に遅く、突きは受け流され、士郎の返しの刃が恭也の胴を薙ぐ。
 それを防ぎ、さらに攻め、加速する剣速。
 ぶつかり合い出来る隙。
 だが隙を攻めればまた当たり前のように防がれ、返される刃。

(なんて戦い方を)

 相手の察せられないように打ち合いの中で自然と隙を作り、その隙を狙わせることで攻撃を予測する。
 防ぎ損なえば死に直結する行為。
 だがそれをこれだけ自然とやれるという事は、何度もやり慣れているという事の他ならない。

 一旦、間合いを開ける恭也。

「……とんでもない戦い方をするんだな」
「生憎と非才の身でな。
 対価を上げねば勝てないのだよ」

 平然と返答する士郎に眉を顰めながらも

(息もあがってない。
 それに子供の手にとっては太い柄を握ってこれだけ戦える。
 なにか秘密はあるな。
 だが)

「そろそろ手合わせは十分じゃないか?
 貴方とは無駄に血を流す事はないと思うが」
「そうだな。
 それは同感だ
 だが」

 剣を握り直し、構える。

「この手合わせの決着はつけたい。
 付き合ってもらえるかな?」

(剣士としてこの試合をきっちりと勝敗をはっきりさせたい)

 恭也の剣士としての闘争心が剣を再び構え直させた。

「かまわないさ」

 対する士郎も自身の身体の変化による戦い方を実戦に限りなく近い状況で、この身体での戦い方を導き事が出来た。
 その礼も含めて付き合うのは悪くないと考えていた。
 それと同時に

(この人の技を見てみたい)

 剣士として格上な彼の技を見たいと思っていた。

「いくぞ」

 一息に詰められる間合い。
 恭也の右手の袈裟斬りを士郎は一歩下がる事でかわす。
 恭也はさらに一歩踏み込み、袈裟斬りから続けて左の小太刀を首への一閃。
 それを受け流し、逸らす士郎。
 攻める暇は与えないと右手の小太刀の横薙ぎを放つ恭也とそれを受け流そうと士郎の刃が触れた瞬間。

 今までとは比べ物にならない衝撃が士郎の右腕にかかり、今まで以上に甲高い金属音を響かせ弾き飛ばされる刃。

(何だ今の一撃は?)

 士郎は右手が若干痺れる中で思考しながらも動きを止める事はしない。
 なぜなら恭也の四撃目は既に放たれているのだ。

(今度こそ貰った)
(そう簡単に負けるのも癪なのでね)

 恭也の左の小太刀からの逆袈裟。

(残った左の剣鉈で防いでも次で詰む
 ならば武器を奪わせてもらうとしよう)
(っ!
 下か)

 剣鉈を放り投げると共に左側に自ら倒れ、恭也の視線から突如として消える士郎。
 両手を床につき、下半身を跳ね上げ、蹴りを恭也の左手に持つ小太刀の柄頭に叩き込む。

「ぐっ!」

 その衝撃に手から小太刀を奪われた恭也。

 士郎は両手に力を込め、宙に跳び、放った剣鉈を握り、突き出す。
 それを

「はあっ!」

 右の小太刀の下からの斬撃で迎撃する恭也。
 そしてぶつかり合った瞬間に衝撃が奔り、もう一つの剣鉈が弾かれると共に衝撃で飛ぶ士郎。

 空中で体勢を整えるが、飛んでいった方向が運が悪い事に花瓶がある。
 花瓶を破壊し、水を浴びながら、壁を蹴る。
 宙を舞った恭也の小太刀を空中で掴み、さらに一歩踏み込み。
 恭也から間合いに入ると共に繰り出される突き。

 それを前に倒れ込むように体勢を低くし、さらに踏み込む。
 士郎の間合いに恭也が入る。

 その時を同じくして伸ばされる恭也の左手。
 そこには士郎が先ほど弾かれた剣鉈があり、恭也の手に収まる。

 そして繰り出される士郎の小太刀の突きの一撃と恭也の剣鉈の振り下ろしによる一撃。

 士郎の頭の1cm手前で止められた剣鉈と恭也の左胸の1cm手前で止めれた小太刀。

 相討ちであった。




side 士郎

 はあ、と大きく息を吐き、剣鉈を引っ込める恭也。
 俺も方も力を抜き、小太刀を引っ込める。

「相討ちか。
 しかも最後はお互い相手の得物でとは」

 恭也さんは少し不満足そうだ。
 花瓶を割り、水を浴びた時点でやめてもよかったが、興が乗り過ぎたな。
 俺自身この身体での初めての試合とはいえ戦いにしっかり決着をつけたかったのだろう。

 それにしても恭也さんは基本的にバトルマニアなのだろうか?
 申し訳ないが今後、このような戦いには付き合いたいとは思わんぞ。
 
「すみません。花瓶まで割ってしまって」
「それは俺じゃなくて」

 髪の長い女性に向けられる恭也さんの視線。

「彼女に頼む」

 髪の長い女性がメイドさんを二人と小太刀を持った女性と共に近づいて来る。

「恭也、彼は?」
「色々秘密はあるだろうが、ちゃんと話しあえば心配はないと思う」
「そう。恭也がそう言うなら大丈夫そうね。
 改めまして月村家当主、月村忍です」
「衛宮士郎です」

 差し出された手を握り返し握手を交わす。

 だが驚いた。
 恭也さんが差出人の月村家当主かと思ったら女性の忍さんの方だったとは。

「とりあえずお茶でもしながら色々お話でもしましょうか。
 お互いに理解を深めるためにも」
「それは構わないが、彼女はいいのか?」

 俺の視線を追って皆の視線が一人の少女に向けれる。

「すずか、出てきちゃったのね」
「まあ、アレだけ金属音を響かせれば気付くとは思うが」
「それもそうね。
 しょうがないわね。あの子も同席させていい?」
「ああ、構わない」

 忍さんについて行こうとしたら

「ちょっと待って。
 忍さん、この子、士郎君服びしょ濡れだよ」

 恭也さんの身内であろう女性が濡れているのを確かめるように俺の身体に触れる。

「あ、そうね。
 ノエル、彼に着替えを、それが終わったら応接室に案内して。
 ファリンはお茶の準備を」
「かしこまりました。
 どうぞ、こちらへ」

 ショートヘアーのメイドさんが俺の傍に立つ。

「はい。とちょっと待ってください。
 すみませんが、これをお願いします」

 恭也さんの身内であろう女性に小太刀を渡す。

「恭也さん、俺の得物はお預けします。
 帰る時にでも返して下さい」
「わかった。預かっておくよ」

 恭也さんに剣鉈をお願いし、メイドさんに視線を向けるといつの間に近づいたのか、メイドさんの傍に立つ当主。

「じゃあ、お願いね」
「はあ、よろしいのですか」
「大丈夫」
「えっと、お待たせしました」
「あ、はい。
 ご案内します」

 メイドさんから離れる当主と先導を始めるメイドさん。

「また後でね」

 楽しそうに手を振る当主。

 何がそんなに楽しいのか内心首を傾げる。

 俺はこの時気が付いていなかった。
 当主こと、月村忍の口が楽しそうに、とても楽しそうに歪んでいる事を。

 防衛のためとはいえあれだけ数をのトラップや攻撃用の武器を仕掛ける人物だ。
 そして、死神の家の割烹着の悪魔という前例を知っていた。
 そう、知っているにもかかわらず、トラップを設置したであろう当主である彼女を疑わなかったのだ。 
 

 
後書き
続いて第五話です。

にじファンの時とは違い、色々と書きなおしてだいぶ変わっていたり。

ではでは 

 

第六話 協力関係   ★

 ショートヘアーのメイドさんに案内された部屋で汚れた服を預け、差し出された服に袖を通す。
 そして、応接室に案内され、月村家当主の月村忍さんとすずかと呼ばれた少女と向かい合うようにソファーに腰掛ける。
 左右の一人掛けのソファーには恭也さんと恭也さんの身内であろう女性がそれぞれ腰掛けている。

 互いの位置を確認していると髪の長いメイドさんがそばに来て

「飲み物はなんにしましょう?」

 と少し怯えた感じで尋ねられた。

 刃を振るっていた事に警戒しているのか、人見知りなのかはわからないが、あまりいい印象は持たれていないようだ。

 そんな事を思いながら月村忍さん達の前に置かれた飲み物を横目で確認する。
 紅茶のようだ。
 ならわざわざ違うものを頼む必要もないので

「私も紅茶を頼む」
「は、はい」

 ティーポットから紅茶を注ぎ、俺の前に置いてくれる。
 なんだかこのメイドさん……見ていてどうにも危なっかしいのだが、それは今は置いておこう。
 ソーサーを手に持ち、一口紅茶に口をつける。
 そして、静かにソーサーを置き

「とりあえず自己紹介云々の前にひとつ質問だが、この服はなんだ?」
「前々から機会があったらいいなと思って作ってたんだけどピッタリでよかったわ」

 俺が軽く引き攣った顔でした質問にそう平然と答えた。
 間違いない。
 この女性、あの割烹着の悪魔と同類だ。
 その光景に男性がものすごく同情の視線を向けてくれる。
 どうやらこの男性もいろいろと苦労しているようだ。

 なぜ俺がこのような質問をしたのかというと貸してもらった服が執事服なのだ。
 それもサイズを測って作ったかのようにピッタリである。
 サイズを調べられた覚えはないぞ。

 確かにルヴィアの屋敷やアルトの城でも執事はしたことがあるし着なれた格好ではある。
 あるのだが少なくともこの家に俺の肉体年齢と同年代の執事がいるとは思えない。
 なんでこんなものがある?

 いろいろと気になることはあるのだが、こういうのは突っ込んだら負けだ。
 大きく息を吐き、意識を切り替える。

「まずは改めて自己紹介をしておこう。衛宮士郎だ」
「月村家当主の月村忍です」
「月村忍の妹の月村すずかです」
「高町恭也。忍の知り……恋人だ」
「高町美由希です。恭ちゃん、高町恭也の妹です」

 俺が自己紹介するとそれぞれが自己紹介を行う。
 そして、月村忍さんが後ろに立っているメイドさん達に視線を向ける。
 それに応える様に

「月村家のメイドをしております。ノエルと申します。それから」
「は、はい。ファリンといいます」

 ショウトヘアーのメイドさん、ノエルさんは落ち着きを払って
 髪の長いメイドさん、ファリンさんは若干逃げ腰に自己紹介をしてくれた。

 余談だが、高町恭也さんが自己紹介の時の忍さんの目が怖かった。

「で衛宮君はいったい何者なの?」

 忍さんの雰囲気が変わる。
 さて、どう答えたものか。
 この屋敷の中には解析もしてみたが魔術の痕跡はない。

 そして、今のところ調べた限りではこの世界で魔術の痕跡は見つけることは出来ていない。
 現状の結論としては、この世界に魔術がない。
 または魔術師の数が元の世界よりかなり少ないかのどちらかという仮説しかない。

 仮に魔術師が元の世界より少ないのであれば裏に何らかの繋がりがなければ知り得るのは困難である。
 そういう意味であれば、この月村家は防衛の為であろう庭に設置されたモノから見ても裏に何らかのツテがあるのは確実だ。
 ならば

「魔術、魔法、根源、時計塔、埋葬機関、真祖、死徒、いずれかに聞き覚えは?」

 多少危険ではあるがこちらの情報を少し与える。
 聞き覚えがあれば魔術師が存在するだろうし、知らなければ本当に少人数で出会う事はほぼ無いと考えていいだろう。

 俺の言葉に忍さん達は少しだけ顔を見合わせて

「魔法や魔術は本とかでなら、時計塔はイギリスのアレでしょう。あとは聞いたことがないわ」

 俺の質問の意図がわからなかったのか不思議そうな顔をしつつ、答えた。
 なるほど。
 どうやら裏の方でも魔術の存在が知られていない。

 これだけの屋敷を持ち、裏へのパイプがありどれも聞いたことがないとなると魔術師が存在しない可能性も高い。
 そうならば俺にとっては幸いでもある。

 これなら交渉のために最低限ではあるが何者か明かしても問題は最小限だろう。

 しかしおかしなものだ。
 魔術師が存在しないの可能性があるというのに世界は魔術を認めている。
 もっともそれがなければ魔術が使えないのだが

「私は魔術師。魔術という神秘を行使する者だ」

 正しくは魔術使いなのだが区別を説明するのも手間なので魔術師としてまとめておく。
 俺の言葉があまりにも予想外だったのか、その場にいた全員が固まる。
 忍さんはどこか納得したのように眼を閉じ、息を吐き

「私達、月村は吸血鬼、夜の一族です」

 静かに言葉を紡いだ。
 と同時に恭也さんと美由希さんが軽く腰を上げる。
 どうやら俺の視線が無意識のうちに強くなっていたようだ。
 それにしても吸血鬼か。
 だが真祖はもちろん死徒のことも知らなかった。

「魔術師ではなく吸血鬼か。日光などは大丈夫なのか。それに血を吸った人はどうなる?」
「日光を浴びても別に問題はないわ。
 確かに血は飲むけど人から吸ったとしても少し貧血になる程度よ。
 間違ってもホラー映画みたいに血を吸った人が全員吸血鬼になったりはしないわよ」

 なるほど。
 これがこの世界での吸血鬼の概念。
 吸血鬼というよりは俺達の世界の混血に近い。

 遠坂の手紙にあった吸血鬼の概念が違いすぎるとはこういう事か。

 確かにこれだけ違えば修正力が働くのも頷ける。

「私としては海鳴市の最大の霊地であるこの土地に住んでいる海鳴市のオーナーであろう月村に挨拶を、と思ったのだがね」
「霊地? それに海鳴市のオーナーって?」

 俺の言葉に忍さんを始め、皆が首をかしげているが無理もないだろう。

「この海鳴市はかなりの霊脈がある。その霊脈の集まるところが霊地。
 この土地は海鳴市の中で最大の霊地なのだ。
 本来この規模の霊地がある土地ならば霊脈を管理する魔術師がいる事が多い。
 月村がそれに当たると思ったのだが」
「残念ながら私たちはそんな知識ないわね」

 まあ、そうだろう。
 だがこれだけの霊地だというのに何も使わないというのはいささかもったいな気がする。
 これを取引に使うか。

「どうだろう、私が霊地の魔力運用に力を貸す。
 その魔力によって月村邸の警備、魔術師にとっては結界だがそれを張ろう。
 うまく管理すればオカルト的ないい方になるが運や気の流れがよくなる」
「……その対価は?」
「今の私には戸籍がない。さらに子供の身では何かと不便でな。
 私と存在しない身元引受人の戸籍を偽造してもらいたい。
 それと協力関係を結びたい」

 俺の言葉に忍さんは眉をひそめる。

「たったそれだけでいいの?
 それに霊地の運用に関して私達に知識を与えても問題ないの?」
「ああ、それで問題はない。
 それに霊地の運用に手を貸したところで私に支障もない」

 事実、霊地の運用に関してのみならば何ら問題はない。
 それに形だけ、というか互いを黙認しあう存在だけとしても協力者がいるのは心強い。

 そしてしばらく思案していた忍さんだが、何か頷いて

「海鳴に住む魔術師、それはあなた以外に何人いるの?」

 警戒しながらそう尋ねてきた。
 なるほど協力関係うんぬんよりも俺の味方が何人いるかが気になったようだ。
 だが残念ながらこの世界においてそれはいない。

「私だけだ。親も仲間もこの世界にはいない。
 魔術は秘匿されるものだから他の魔術師の存在も知らない」

 将来的に遠坂達がくる可能性がないとも断言はできない。
 だが現状でいえば俺が知る魔術師は自身だけだ。

「……ごめんなさい。無神経だったわ」
「そんな顔をしないでくれ」

 さすがに並行世界から来たことは明かせないので曖昧な言い方だが俺が一人という事は理解できたようだ。
 もっとも見た目は子供だ。
 そんな子供が一人という事を改めて尋ねたせいか申し訳なさそうな顔をされた。

 その後、協力関係を結ぶのはOKのようなのでいろいろと話し合う。
 もっとも互いに対等な立場であり、俺は霊地の知識と結界の形成を行い
 月村の方は俺に裏のコネと戸籍を与える。
 その程度のものだ。

 まだこの世界のことをすべて理解したとは言い難い。
 何かの際に戦闘があることは想定しておかないとならないだろう。
 そして、戦闘の際にどれだけ魔術を秘匿できるかも関係してくる。
 剣は自分で鍛てばいいので問題はない。
 もっとも工房となる鍛冶場がまだ出来ていないので、それも少し考えておく必要がある。
 あと遠距離武器となると銃か。
 魔術協会で聞いた親父のスタイルだ。
 月村との繋がりで裏へのコネも出来たのだ。
 銃についてもこれから考えていこう。
 自分の身を守る上でも、魔術を秘匿する上でも役立つ。
 もっとも月村家の結界についてはすでに防衛システムがあるので不要な気もする。
 そんな事を思いつつ、敵意に反応する警報音と侵入者の視覚を歪める結界を用意することになった。

「ではこれからよろしく頼む」
「ええ、よろしくね」

 忍さんと握手を交わす。
 まあ、なんにしてもこの世界で大きな一歩だ。
 話の区切りもついたし、いい時間だなのでそろそろ帰ろうと思った時

「衛宮君!」

 すずかが急に立ち上がった。
 今までこちらとほとんど目も合わせようともしなかったので意外ではある。

「どうかしたか? あと俺のことは士郎でいいよ」

 すずかの様子がどこか不安そうなので普段の口調に戻し、優しく問いかける。

「……士郎君は怖くないの? 私達は血を吸って生きてる化け物なんだよ」

 それは恐怖。
 人と違う自分を恐れる純粋な恐怖。
 だがそれは間違っている。

「魔術のことを重視し、伝え忘れていたな。
 私も吸血鬼なのだよ。もっともすずか達のように優しくはない。
 血を吸い相手を人形にすることだって出来る」

 俺の言葉にその場にいる皆が息を呑む。
 元の世界の吸血鬼はこの世界の吸血鬼とは比べ物にならない。
 もちろんアルト達の様なのもいるが、単純に餌としてか人間を見ていないのもかなりいる。

「すずかには俺が化け物にみえるか?」

 俺の言葉にすずかはぶんぶんと首を横に振る。
 やっぱりこの娘は優しい。
 自身のことを化け物と呼びながら、自分達以上の化け物を化け物ではないと否定する。

「すずか、化け物の定義は血を飲むか、飲まないかじゃない。
 自らの欲望や悦楽のために明確な理性をもって誰かを蹂躙するモノ。それを化け物という」

 吸血鬼になった時、人ではない俺が遠坂達のそばにいていいのか迷った時もあった。
 だがイリヤはすぐに俺の迷いに気付き

「例え人じゃなくてもシロウはシロウだよ」

 ただ抱きしめてくれた。
 人である必要はない。ただ自身の心を失わなければそれは自分なのだ。

「すずかは誰かを殺したいと思うのか?」
「そんなことない!!」

 すずかが顔を上げ叫ぶ。それで十分なんだよ。
 その言葉に笑顔を見せる。

「なら、すずかが化け物のはずがない。忍さんだってもちろんそうだ。そうだろう?」

 その言葉に安心したのかすずかが泣き出してしまった。
 俺はそっと抱き寄せ、優しく、ゆっくりと頭を撫でる。



 ただ優しく、安心させるように。

 それから五分程だろうか、すずかが落ち着くまでそうやっていた。
 もっともその直後、今の自分の状態を理解したのかすずかの顔が真っ赤になってしまった。
 だが顔を赤くしつつも服を離さないのでしばらくそのまま頭を撫ぜ続けることになった。

 しかし当主よ。
 その新しいおもちゃを見つけた、みたいに顔はどうにかならないものだろうか。
 内心ではため息を吐いていた。 
 

 
後書き
続いて第六話です。

・・・にじファンから移行ということもあり、数話ずつまとめて更新するから後書きに何を書けばいいのやらと思うこのごろ。

ではでは 

 

第七話 就職先と……

side 忍

 衛宮君、いや士郎君が帰り、恭也と共にのんびりとお茶を楽しむ。
 だけど結構反則よね。
 すずかが一発で堕ちちゃったし。
 なんか恭也と似ているような……いえ、あれは恭也以上の天然の女誑しね。
 そのことも気にならないと言ったら、まあ嘘になる。
 でもなによりも気になることが

「親もおらず、たった一人……か」

 そんな長い期間ではないけど士郎君の周囲に関してはある程度調べている。
 だけど親はもちろん、友達や知り合いもいないようだった。
 そして彼自身、他の魔術師の存在を知らないと言った。
 吸血鬼の一族である分、裏の世界でも変わった一族やオカルトじみたことは他より詳しい。
 もちろんそっち方面のコネもある。
 でも魔術などというモノは聞いたこともない。

「士郎君のことが気になるか?」
「まあね」

 恭也の言葉に苦笑しながら頷く。
 すずかと変わらないぐらいの歳で仲間もいない。
 恭也と正面から立ちあう事が出来る実力に、冷静に交渉もこなす精神力。
 どれも子供が持つには不釣り合いのモノ。
 だけど彼にはそれが必要だった。
 それがなければ生きていけなかったのだろう。
 一体どれだけの戦いを超え、地獄を見てきたのだろう。

「そういえば士郎君、学校とかどうする気なんだろうな」
「……そう言われればそうね」

 士郎君の話では九歳。
 すずかと同い歳だから普通なら小学生。
 あまりにも自分達とは違う吸血鬼の事や魔術師のことでそっちまで気が回らなかった。
 確か調べた中でも学校には行っていなかったはず。
 その他にもこれからの生活資金などまだ知らないことも多い。
 今回結んだ契約だってそうだ。
 お互いの存在を容認し、戸籍偽造など裏へのパイプ役として月村が協力するということ。
 それ以外は何もない。
 ただ協力関係を結び、敵ではないというだけ。
 もちろん仮に士郎君に何か問題があってもこちらが手を貸す必要もない。

 だけどそれだと士郎君が余りにもさみしすぎる。
 今までどんなところにいたかなんて知らない。
 でもこのまま一人でいいはずがない。

「いい案ね」

 自分の思いつきについ笑みがこぼれる。

「……今度は一体何を考えてるんだ?」
「きっと楽しいことよ」

 恭也があきれたような顔でこっちを見てる。
 なんか失礼ね。
 でも士郎君にとっても悪い話じゃないはずだ。
 もちろんすずかにとってもね。




side 士郎

 月村と協力関係を結んでから一週間もしないうちに忍さんに呼び出された。
 あの協力関係はお互いのことを容認しあう程度のものだし、こちらにコネのない俺のパイプ役としての意味合いが強い。
 相手も明言はしてないもののそれは理解しているはずだ。
 そんな相手から呼び出されるとは思いもしなかった。

 もしや結界に何らかの不備が起きたのかとも思ったが、平日の昼間を指定してきたからその線の可能性も低いだろう。
 なぜならこの時間であればすずかは学校に行っている頃。
 結界の話であればすずかに立ち会ってもらった方が月村家全員に確実に説明ができるのだからわざわざ席を外してもらう必要がない。
 そうとなるとすずかには聞かせにくい話ということだろうか?
 考えても仕方がないのでとりあえず向かう事にする。

 しかし攻撃される心配はないとはいえ、こうして自分の周囲にトラップや攻撃用の武器があるというのは落ち着かないものだ。

 屋敷の中に入り、忍さんとお茶を楽しみながら結界に不備がなかったかなどなど簡単な世間話をする。

 世間話といってもそれほど会話も続かないので、本題に入らせてもらう。

「で本日の呼び出しは何用かね?
 まさか本当に世間話だけではあるまい」
「そうね。そろそろ本題に入りましょうか。
 士郎君、あなたこれからどうするつもりなの?」

 忍さんの質問の意図がわからず眉をしかめる。
 これからどうするつもりか。
 まずはこの世界の裏のことがわからなければ先はない。
 それ以降のことはなるようになるというかこの世界次第といったところだ。
 だがそれが月村に関係があるとは思えない。

「なぜそのようなことを聞く?
 私のこれからの行動が月村に直接関係があるとは思えない」
「そうね。確かに月村には関係ない。
 どちらかというと貴方のことが気になっての個人的な質問だもの
 士郎君。あなたこれからの生きていくためのお金や学校はどうする気なの?」

 ここにきてようやく忍さんが心配していることが理解できた。

 確かに宝石や金の延棒を売ればお金は出来るが万が一に備えて使いたくないのが本音だ。
 だが小学生の身ではまともに働けるはずもないし、いまさら学校というのも考えていない。
 いやそれ以前にこの身体の年齢でいえば八歳から十歳程度。
 自分自身でも曖昧で正確な年齢がわからないので、すずかと同じ九歳と説明したがそれは大した問題ではない。
 もし今の肉体年齢で学校に行くとなれば間違いなく小学校。
 こちらの方が問題だ。
 それだけは勘弁願いたいというか嫌だ。

 それに最近になって精神的な面で少し幼さが出てきているなと感じるところがある。
 恐らくは子供に戻った身体に精神が若干引っ張られているのだろう。
 だからといって小学生になろうなどとは微塵も思わないし、小学生になって何か得るものがあるとも思えない。

「学校には行く必要性を感じてませんので、資金に関しては裏の仕事でも稼ぐことは出来ます」

 だが忍さんの次の言葉で俺の考えは若干揺らぐことになる。




side 忍

「そうね。確かに月村には関係ない。
 どちらかというと貴方のことが気になっての個人的な質問だもの
 士郎君。あなたこれからの生きていくためのお金や学校はどうする気なの?」

 案の定というか士郎君は私の心配ごとをすぐに理解したみたい。
 だけど

「学校には行く必要性を感じてませんので、資金に関しては裏の仕事でも稼ぐことは出来ます」

 私の気持ちは分かっているんでしょうけど、学校等には行く気はないのね。
 ここまであっさり言われると説得は難しい。
 だけどまだ手はある。

「でも一応、学校に行かない?
 行ってくれたらアルバイトの斡旋ぐらいできるわよ」

 士郎君の表情が一瞬わずかにだけど揺らいだ。
 士郎君ならわかるはずだ。
 裏に関わる仕事をすればするほど悪い意味で顔と名前は売れていく。
 腕が立つ、銀髪の子供となれば、余計に目立つ分なおさらだ。
 しかも、裏の仕事に関われば、自然と敵は出来る。
 士郎君が魔術師という秘匿するべき立場もあるんでしょうけど、士郎君の言葉の端々から顔が売れることを嫌っているのは気が付いていた。
 それに表の仕事なら無駄に顔が売れることもほとんどない。
 士郎君にとってもこれは好条件のはずだ。

「当主よ。それはいささか卑怯ではないか?」
「そう? 小学校に行くだけで少ないながらも資金を確保できるんだから悪くない条件でしょう?」

 士郎君が悩んでいる。
 あともう一押しかしら。
 アルバイトの斡旋にはかなり興味を持ってくれたみたいだけど、学校に関してはかなり渋っている。
 特に学校を小学校と言った瞬間に眉がピクリと反応してた。
 そこまで小学校が嫌なのだろうか?

「それに学校に行かないと将来、基本的な知識を持たなくて恥かくわよ?」
「一応、大学レベルの学習は習得している」

 あれ?
 なんか予想外の返答が
 というか大学レベル?

「……大学レベルという事は外国語の知識は?」
「英語とドイツ語、スペイン語、アラビア語、中国語、その他の主要な言語は使える」

 ……この子は本当に小学生なのだろうか?
 下手をすればというか私や恭也より頭がいいんじゃないの?
 うん。押し込もう。
 説得は無理だ。

「小学校に入ってくれたら、希望の職を用意するわ。
 もちろん給料も一般人レベルだしたっていいわよ」

 斡旋するバイト先は決まっていたのだけど、そこら辺は月村の力技でどうにかしよう。
 とりあえずは小学校に入れることが第一目標よね。
 後はそれからだ。




side 士郎

「英語とドイツ語、スペイン語、アラビア語、中国語、その他、主要な言語は使える」

 と言ったらものすごく驚いた顔をされた。
 確かに九歳の子供がそれだけの知識を持っていたら驚くだろうな。
 ちなみになぜこれだけ俺の知識レベルが上がったかというと、はっちゃけ爺さんの修行の一環である。

「わしの弟子ならばそれぐらい出来ねば話にならんからな」

 の一言で勉強という名の地獄が始まった。
 一問間違えば拳が飛んできて、二問間違えば魔弾が飛んできて、三問間違えば魔弾の雨が降り、それ以上間違えば宝石剣の斬撃が襲いかかる。
 命がけの勉強であった。
 二度としたいとは間違っても思わないが、それにより俺の頭は鍛え上げられたのだ。
 なんか思考がずれたから戻そう。

 俺の思考がずれた間、忍さんもなにか考え事をしていたようだが何か頷き

「小学校に入ってくれたら、希望の職を用意するわ。
 もちろん給料も一般人レベルだしたっていいわよ」

 ととんでもないことをおっしゃった。
 ……なぜこの人はなぜそこまでサービスする?
 いや、それ以前に

「……そこまでして俺を小学校に入れたいですか?」
「もちろん」

 即答ですか。
 ここまで来るとどうやってでも俺を小学校に入れようとしそうだ。

「それに戸籍を作る上でその年だと、どうしても義務教育っていうのに引っかかるしね~」
「うぐっ」

 この世界にも義務教育は存在するらしい。
 ああ、逃げ場が減っていく。
 さすがに諦めねばならんか

「わかりました。行きますよ」
「本当!!」

 忍さんのうれしそうな顔を見て、一瞬後悔した。
 大丈夫だよな?
 割烹着の悪魔と似た雰囲気を持つこの人を信用していいのか若干悩むがたぶん、おそらく、生命には関わることがないと思っている。
 もとい、心より願っている。

「ただし! 俺の希望の職があった場合のみです」

 俺の言葉に神妙に忍さんが静かに頷く。
 希望の職を用意すると言っていたが限度はあるはずだ。
 この条件を付ければ、うまくいきさえすれば小学校は回避できる。
 もっとも本当にどんな職種でも用意されれば小学校に行くしかないのだろうけど。

 しかし、自分で言った事なのだが、希望の職種か。
 何があるだろうか?
 今までのバイトや仕事の経験なら居酒屋を含めた飲食店のアルバイト。
 バイクと車の整備。
 バイクは雷画爺さんの頼みでよくやっていたし、戦場では車やバイクなどの乗り物は貴重であり、修理して使うなんて当たり前だったから自然と身についた。
 後は執事ぐらいか。

「飲食店系のウェイター、車やバイクの整備系、あとは執事ぐらいです」

 俺の言葉に一気に忍さんの顔が笑顔になる。
 ええ、そりゃもう全て私の計画通りと嗤う割烹着の悪魔のような満面の笑み。
 個人的には見たくもない悪魔の笑みだ。
 もしかしたら…………いや、どうやら地雷を踏んだようだ。

「それなら問題はないわね。はい」

 と小学校の入学手続きを差し出された。
 書類には『私立聖祥大学付属小学校』と書かれている。
 ってすでに用意してたのか。
 それも私立の小学校ってどんだけ手が回るんだ?
 とそんなことにあきれている場合ではない。

「待て! 俺の職は」
「それなら問題ないわよ。士郎君の職はすずかの専属執事だから」

 ………この人は、今何と言った?
 すずかの専属執事?
 月村すずか、月村家当主である月村忍の妹。
 あの子の専属執事?

「いやいやいや! 技能も聞かないでそんなんでいいのか!」

 協力関係を結んだとはいえいきなり自分の妹のそばに俺を置くか?
 そもそも技能や経験を一切聞いてもいない。

「じゃあ、執事の経験はあるの?」
「む、イギリスで貴族の執事の経験がある」
「それなら問題ない……じゃ………な…………い?」

 あれ? 忍さんが固まった。
 どうかしただろうか?
 普通に執事の経験を言っただけなのだが

「……今のは本当?」
「このようなことで嘘を言ってどうするのかね? 
 ふむ。おやつにはいささか早いがケーキでも作らせてもらおう」

 さすがに技能を信用されないのはなんか納得いかない。
 
「それはいいけど」
「ならば厨房と材料を借りるぞ。ノエルさん。
 すみませんが先日借りた執事服、また貸していただけますか?」
「は、はい。こちらです」

 ソファーから立ちあがりノエルさんと共に厨房に向かう。
 その光景を忍さんはぽかんとした顔で見送っていた。
 それほど驚くようなことだろうか?

 ちなみに厨房に向かう途中でファリンさんと会ったので今からケーキを作ることを教えると

「わ、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

 と尋ねられ、特に断る理由もなかったので

「俺は構いませんよ」

 と笑顔で承諾する。

 それにしても初めて会ったときはオドオドしていたというか、警戒された感じがあったのだが、いや今でもそれはあるのだが、その俺について来るとは意外だ。
 俺が作るお菓子に興味があるのだろうか?

 まあ、俺の言葉にファリンさんの目が輝いているのだから気にしないでおこう。
 思考を止めて、ノエルさんとファリンさんと三人で厨房に向かう。

 そして、辿りついた月村家の厨房。
 さすがだ。
 綺麗に整理整頓された厨房。

「今服をお待ちしますので」

 ノエルさんがそう言って厨房から出ていく。
 ならば俺は下準備をしておこう。
 下準備といっても別に調理をするわけではない。
 この厨房のどこに何があるかを把握して、頭に叩き込んでいく。
 場所の把握ができなければ、作業効率が落ち、無駄な時間が生まれる。
 そんな仕事で満足できるはずがない。
 やるからには完璧に
 それこそ執事

 そして、厨房の中の物の位置を把握し終わったとき、ちょうどノエルさんが戻ってきた。

「お待たせいたしました」
「ありがとうございます。
 あとこのエプロン借りますね」

 厨房の隣の部屋でノエルさんが持ってきてくれた執事服に着替え、エプロンを身につける。
 さあ、戦闘準備は整った。
 始めようか。




side ノエル

 衛宮士郎様。
 はじめに出会ったときはお嬢様の敵になるかもしれない危険な相手という認識でした。
 そして、今日が二回目の出会いとなったのですが、最初のイメージが吹き飛ばされました。
 執事服を持って厨房に戻ってきた私を出迎えたのは猛禽類のような鋭い眼で厨房を見つめる衛宮様の姿。

 そして、執事服とエプロンを身につける。
 衛宮様が初めてこの屋敷を訪れた時も感じたことですが、
 執事服にまったく違和感がないのです。
 それこそ着慣れているかのように。

 さらに驚愕したのがケーキ作り。
 ケーキはシンプルなイチゴのショート。
 でもその手際は素晴らしい。
 作業には迷いもなく、いつもこの厨房を使っていると錯覚するほど
 ファリンもその光景に目を丸くしている。

「あ、あの士郎君はいつからそんなにケーキとか作れるようになったんですか?」
「ああ、親父がね。こういった家事が苦手でやってたら自然とね」

 ファリンの言葉に軽い感じで衛宮様が返事をしているけどそんなレベルではない。
 どこかで修行していたといっても不思議ではないレベル。
 それを当たり前のように言う衛宮様に内心苦笑していた。




side 忍

 厨房の方に向かった士郎君をお茶を飲みながらのんびりと待つ。
 正直な話、士郎君がどれくらいのレベルなのか判断がつかない。

 まあ、半分以上はすずかの為だし、執事としての能力はあるに越したことはないけどなくても問題はないのよね。
 それにイギリスで貴族の執事の経験があるとか言っていたけど、向こうの出身なのだろうか?
 あの年で貴族の執事をしているっていうなら履歴書でも書かせたらびっくりするような経歴が出てきそうだ。
 そんなことを考えていると

コンコン

 ドアがノックされた。
 ノエルかしら?

「どうぞ」

 と私の返事を受け、ドアが開く。
 それと同時に私は固まった。
 それはなぜか。
 ドアから入ってきたのは三人。
 私が予想した通りノエルもいた。
 そして、なぜかファリンも一緒だった。
 でも一番驚いたのはノエルとファリンの前を歩きながらカートを押す執事の少年、衛宮士郎

「失礼致します」

 テーブルのそばにカートを止め、ナイフを取り出す。
 その時初めてカートの上にある綺麗にデコレーションされたイチゴのショートケーキと紅茶のポットとカップに気がついた。

「ノエルさん、忍お嬢様のカップを下げてください」
「はい。かしこまりました」

 士郎君の指示でノエルが私が先ほどまで口をつけていたカップを下げ、
 士郎君はケーキをカットする。
 いや、それ以前にノエルに自然と指示を出しているあたり士郎君の方が子供なのに偉く見える。
 それも違和感がないのだからとんでもない。

 そんな事を思っている間にも士郎君は着々と準備をこなしていく。
 カットしたケーキを丁寧に皿に、カートで運んできたカップに紅茶を注ぐ。
 歩き方もそうだったけど、全ての動きが洗練されている。

「お待たせ致しました」

 私の前に音もたてず、カップとケーキの皿を置く。
 そして、静かに私の後ろに控える。
 一口紅茶を飲み、ケーキを口に運ぶ。
 紅茶の香り、ケーキのなめらかな生クリーム。
 全てがピッタリとマッチした二つ。
 全てがノエルの上を行く。
 これだけの紅茶もケーキもなかなかお目にかかることは出来ない。

「はあ、私の完敗。
 士郎君、すずかの専属執事としてよろしくお願いしますね」
「かしこまりました。忍お嬢様」

 私の言葉に、士郎君は静かに礼をする。
 全てが完璧な執事。
 これは完全に私の負けだ。


 そして、月村家に新たな執事が誕生したのである。 
 

 
後書き
少し時間があったので予定外更新決行!

たまにはこんな日もあるのです。

ではでは 

 

第八話 新たな出会いと学生生活   ★

 先日、すずかの専属執事という仕事の初日を迎えた。
 学校から帰ってきたすずかを

「おかえりなさいませ。すずかお嬢様」

 と出迎えたら、すずかが固まった。

 もっともすぐに復活したのだが、かなり驚かれた。
 それにしてもルヴィアの時といい、アルトの時といい、俺は執事をするという運命にあるのだろうか?
 人生の中で執事という仕事に関わる確率の高さに、そんな事を思ってしまう。

 もっとも今回は執事の仕事は給料もかなりいいので現金をあんまり持っていない俺としてはかなりありがたい。
 だが残念ながらかなり厄介な条件が付いている。
 しかもその厄介な条件が今日からである。

 ……そろそろ現実逃避もやめにしよう。
 内心ため息を吐きつつ、教室を見渡す。

「今日はみなさんに新しい友達を紹介します。では自己紹介してね」
「はい。衛宮士郎といいます。
 趣味は機械いじり、特技は家事全般です。
 これからよろしくお願いします」

 クラスメイト達からは拍手で迎えられた。
 というわけで人生二度目の小学校である。

 ちなみに桜達はよくガラクタいじりと言っていたが、ガラクタではないのだ。
 まあ、刀剣観賞や自己鍛錬も趣味なのだが小学三年生の趣味ではないので発言は控えておいた。

 改めて俺の人生を振り返ると、吸血鬼になったりと色々なことがあった。
 だからある程度のことは覚悟していた。
 だが今回のことに関しては自分の予想の斜め上をいっている。
 もっとも学費も月村持ちなのでこちらの懐は痛まないのだが、悲しいものがある。

 それにしても偽造戸籍の子供を私立の学校に入学させ、さらにすずかと同じクラスだ。
 本当にどれだけ手をまわしたのだろうか。

「じゃあ、衛宮君の席はあそこね。
 教科書がまだ届いてないから高町さんに見せてもらってね」
「わかりました」

 先生の言葉に返事をして席に着く。
 さすがに急な入学だったためか教科書が間に合わなかったらしい。
 教科書を見せてもらうために机を寄せあう。

「高町なのはです。よろしくね」



「衛宮士郎です。改めてよろしく。高町さん」
「にゃはは、なのはでいいよ」
「そうか? なら、なのはと呼ばせてもらうよ。
 俺も士郎でいいから」

 小声でなのはが声をかけてくれたので堅苦しくなり過ぎない程度に返事をする。

 それにしても聞き覚えのある名字が出てきたな。
 高町なのは、恭也さんと美由希さんと同じ姓。
 どこか恭也さんや美由希さんと似た感じがあるから二人の妹だろうか。

 それにしても美由紀さんも綺麗な人だったが、なのはもかなり可愛い子である。
 将来有望なのはほぼ間違いないだろう。
 だがそれよりも俺が気になることがある。

 それが遠坂を上回る膨大な魔力。
 恭也さんは魔術に関しては知らないと言っていた。
 なら単純になのはに素質があるというだけなのだろうか?

 それに最近妙なこともある。
 本当に魔術を使わない戦闘の事を考えて、銃のことを忍さんの頼んだ方がよいかもしれない。

 俺が最近やけに警戒する原因となる事の起こりは四日前。
 突如この世界に来て初めて他人の魔力を感知したのだ。
 だが一瞬という事もあり、結局魔力の持ち主と遭遇することは出来なかった。
 そして、三日前の夜に再び魔力を感知したのだ。
 武装を整え、魔力反応があった場所に辿りつくと壁は壊れ、アスファルトは陥没していた。
 どう考えても戦闘の跡。

 さらに二日前には俺が結界強化のために地下室にこもっている間に何らかの動きがあったのか、海鳴市の神社の霊地に妙な淀みがあった。
 ここまで集中して反応や痕跡があると本格的にこの街に魔力感知のための細工をする必要がある。

 現在の状況に内心ため息を吐きつつ、授業を聞く。
 いまさら小学生の授業を聞いたところで理解が出来ないところは特にない。
 だが俺が過去に小学校で受けていた授業よりはるかにわかりやすい。
 さすがは私立の学校といったところなのかもしれない。

「士郎君、ここの範囲はわかる?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 笑顔で返事をするとなぜか顔を赤くして向こうを向いてしまった。
 どうかしただろうか?
 なのはの行動に首を傾げつつ、無事に授業は終了した。

 そして授業が終わり、昼休みになると同時に俺は洗礼を受けた。
 まあ、転校生によくある質問攻めだ。
 授業と授業の合間の休みは時間が短いため皆昼休みを待っていたようだ。

「前はどこに住んでたの?」
「イギリスのロンドンだ」
「衛宮君って日本人だよね?」
「ああ、髪の色が変わってるけどね」

 などなど多数の質問であった。
 ちなみにロンドンに住んでいたというのは元の世界の戸籍上の話である。
 紛争地帯を巡っていたせいで正確な自分の位置はよくわからないが戸籍はイギリス住まいのままであったはずだ。
 髪は投影の使いすぎと死徒化という急激な肉体変化によるものだ。

 もっともあまりにも質問が多く、昼休みがつぶれると危惧したのだが、なのはの友達である、アリサ・バニングスさんが助け出してくれた。
 そして現在、すずかとなのは、バニングスさんと昼食中である。

「それにしても大変だったね」
「まったくだ。ここまで騒がれるとは思わなかったよ」

 俺とすずかの会話に二人が不思議そうな顔をする。

「なに? 二人って知り合い?」
「まあな。この学校もすずかのお姉さんの紹介だしな」
「へえ」
「それにしてもバニングスさんのおかげで助かったよ」
「アリサでいいわよ。なのはのことも名前で呼んでたみたいだし」
「ならそうさせてもらうよ」

 すずかとなのは、アリサの席は近いから俺となのはの小声での会話が聞こえていたみたいだ。

「でもこれから大変よ。すずかもなのはも男子から人気が高いから」
「アリサちゃん!」
「そ、そんなことないよ」

 アリサの言葉になのはもすずかも驚いた顔をするが、まあ当然のことだろう。
 穂群原に通っていた時に、遠坂と桜の二人と一緒に登校した時など凄まじかったの一言だ。
 なにせ学校の男子という男子が俺の命を狙って学校全体での鬼ごっことなったのだ。
 さすがに小学校ではありえない……と思いたいが

「アリサの言う事ももっともだが、アリサだって可愛いから人気あるだろ?」
「え? あう……」

 ん? アリサの顔が一気真っ赤だが大丈夫だろうか?
 アリサのそばに寄り、額をくっつける。

「「「なっ!」」」

 三人が固まって何やら口をパクパクさせているが、今は放置。
 少し熱いかな?

「な、なにしてんのよ!」
「なにって、顔が赤いから熱を計っただけだが?
 少し熱いが大丈夫か?」

 俺の言葉になにやらなのは達が集まってひそひそと話をし始めた。

「ねえ、士郎君って」
「うん。たぶん恭也さんと同じだと思うよ」
「っていうかそれ以上でしょ!」

 よく聞こえないので俺としては首をかしげるばかりであったが、無事に昼休みは終わりを迎えた。
 で四人で教室に戻るとそこは異界であった。

「「「「「「「「「「「え~み~や~!!!!」」」」」」」」」」」

 幽鬼のような虚ろな瞳をして、身体がゆらゆらと揺らしながら俺の方に集まってくる者達。
 そして、俺の名を怨念を込め呼ぶ声。
 忘れるはずがない。
 その姿、その声、穂群原での鬼ごっこの時に男子の姿と声そのもの。

「っ!」

 弁当箱を自身の机に放り投げ、全速でその場で反転。
 一気に体勢を低くし、初速から最高速で駆ける。

「「「「「「「「「「「え~み~や~!!!!」」」」」」」」」」」

 だが教室の扉も幾人もの男子で塞がれている。
 逃げ場はない?
 まさか、逃げ場はまだある。
 空いている窓から教室から廊下に飛び出し、そのままの勢いで壁を蹴り、天井を駆け抜け、男子の包囲網から抜け出す。

「逃がすな!!」
「捕まえて吊るしあげろ!!」

 後ろからは小学生とは思えない叫びが聞こえてくる。
 あの幽鬼のような瞳で全速力で駆けてくる姿はまるで死徒のようだ。
 ってそんな呑気な事を考えている場合ではない。
 昼休みが終わるまでおよそ十五分。
 その間逃げ切ってみせる。

 そして、俺は無事に生き残った。
 ちなみに放課後はなのは達と一緒に帰ることになったので鬼ごっこは起きなかった。

 こうして俺の人生二度目の小学校の初日は騒々しい中なんとか終えたのである。 

 

第九話 絡み合う運命   ★

 初日から全男子生徒の敵と認識された俺だが、それなりに学校生活を満喫している。
 まあ、なのは達三人と一緒にいないと鬼ごっこが始まるので学校生活の中でもなかなか気が抜けない。
 もっとも所詮は小学生だし、この程度なら可愛いものだ。
 男子生徒諸君も真正面から来るのみで裏で物を隠す等の行為は行わないのというのも一因ではある。

 そんなこんなで転入して初めての週末の昼休みである。
 いつものようになのは達と食事をしていると

「士郎、今週の日曜空いてる?」

 といきなりアリサに尋ねられた。

「いきなりだな。どうかしたのか?」

 正直にいえば珍しい。
 学校ではよく話してはいるが校外で会う事は今までなかったし、無論誘われたこともない。
 それにすずかの話ではアリサもお嬢様とのことで習い事やら結構やっているはずだ。

「なのはちゃんのお父さんがコーチをやってる少年サッカーの応援に行くんだけど」
「士郎君も一緒にどうかなって思って」

 すずかとなのはの言葉になるほどと頷く。
 だがタイミングが悪い。
 今週末はやることが詰まっている。
 勿論、月村家の執事の仕事も休みをもらっている。

 ちなみ土曜日に街の魔力探知用の簡易結界の形成。
 日曜にかけて鍛冶場を作るつもりだ。
 裏に古びた小屋があったのでそれを一気に大改装するのだ。
 さすがに手が空きそうにはない。
 それに昨日、忍さんに銃器やらいろいろと発注もしている。
 支払いは俺が所持する宝石から支払ったが、これからのことを考えると銀細工のアクセサリーでも作った方がいいかもしれない。

「すまないな。今週は予定が詰まっている」

 せっかく誘ってもらって申し訳ないが今回は断らせてもらおう。
 魔力反応があった今、あんまり悠長に構えているわけにはいかない。
 しかもあれからも魔力反応は不定期ながらあるのだから余計にだ。
 それに現状かなり大きな魔力が発動しない限り、なかなか感知できない。
 そのため感知してからその場所に向かってももう魔力の持ち主はいないのだ。
 魔力の発生場所が家の近くなら話は別なのだが。

「はあ、まあ急だったから仕方がないけど、少し気にした方がいいわよ。
 あんた、学校が終わればすぐに帰るし、男子は仕方がないにしても浮いてるわよ」
「まあ、否定できないな」

 アリサの言うとおりだな。
 だがいくら身体に精神が引っ張られても今までの経験があるのだ。
 完全に年相応とはいかない。
 それに学校が終わってすぐに帰るのは執事のバイトの件も関係しているためだ。
 これも俺の生活に関わることなので手を抜くわけにはいかない。

「でもクラブも何も入ってないわよね? 結構誘われたでしょ?」
「まあ、家庭の事情としか言いようがないな」

 体育の授業の際に、すずかと同等の運動能力をかわれ男子達から色々誘われたのだが全部断っている。
 ちなみに、なのはの運動神経に関しては明言しないでおく。

「そんなに習い事とかしてんの?」
「そうだよね。すずかちゃん達も結構しているけど」
「アリサちゃん、なのはちゃん」

 アリサとなのはの言葉に、すずかが静かに二人の名前を呼ぶ。
 それだけで踏み込んではいけないと察したらしい。
 そのうち気付くことになるだろうが教える必要はないだろう。
 二人とも気にしそうだし。

「そういえばアリサ達は一体に習い事は何してるんだ?」

 俺の話はおしまいとばかりに話を変える。
 俺の意思が伝わったのか三人ともすぐに自分達の習い事の話になる。
 他愛のない話をしながら、俺達はのんびりとお昼を満喫した。


 そして、土曜日になり朝食を摂り、投影した木刀で鍛錬をして、結界の準備に取り掛かる。
 この作業、実は結構簡単だ。
 なぜならこの海鳴市に魔術師が俺一人だけという事が関係する。
 ぶっちゃければ、海鳴市の霊脈を一人で自由に使えるのだ。
 結界を張るという意味ではかなりやりやすい。
 もっとも街全体を覆うので街の太い霊脈に基点を最低十個作らないといけないので時間はかかる。

 というわけで昼前までかかり街に基点を設置して、俺の家の霊地を終着点になるように霊脈に魔力を少しだけ奔らせ魔力探知用の結界を作り上げた。
 これで街で魔力反応があれば察することができる。
 もっとも感知できるといっても、俺がこの街にいる間だけで街から出てしまえば感知できなくなるものだが。

 小屋の修繕は昼からという事ではおにぎりを握って食べる。
 そんなときに石窯が無性に気になった。

「……石窯を使ってみるか」

 思い立ったが吉日。
 今晩は石窯を使いパンを焼く。
 そういうわけでフランスパンの下拵えをしておく。
 今日は無理だが、そのうち色々焼いてみよう。

 そして昼食を食べたら、裏の小屋の修繕を行い始める。
 修繕する個所はもうチェックしているので作業に迷いはない。
 一部の床や屋根が傷んでいる程度なのでそれほどかからずに修繕は終わりそうだ。

 小屋の修繕は俺の予想通りすぐに終わった。
 それからは炉を作り、砥ぎ場などの準備をしていく。

 だが何が大変って鍛冶場の道具を整えるのもだが、小屋の中や炉の中に魔法陣を描くことだ。
 なにせ魔剣を作るんだから霊地から魔力を汲み上げる必要がある。
 そして、剣を鍛える炎も汲み上げた魔力を燃料を使うので炉の中にはそれ用の魔法陣を描く必要がある。
 そのため小屋の中心に魔力を汲み上げる魔法陣を、そこから伸びる様に炉や砥ぎ場などに陣が描かれる。
 大きさは大したことないのだが細かい。
 なにせ小屋の中の蛇口から出る水まで魔力を纏わせる。
 つまりあらゆるモノに魔力を纏わせ、それを使い剣を鍛える。
 それこそ魔剣を鍛える魔術師の鍛冶場なのだ。

 それにこの魔法陣が乱れると魔力が乱れて半端な剣しか出来ないので慎重に慌てず丁寧に魔法陣を描いていく。

 でなんとか一日で形にはなった。

「ふむ。なんとかなるものだな」

 汗だくになったのでお風呂に入って時計を見ればすでに夜の八時。
 さすがに空腹なので、下ごしらえしていたフランスパンを焼き始める。
 さらに挽肉があるのでハンバーグと粉吹芋を作る。
 ハンバーグのソースはデミグラス。
 さらに鯛のマリネをお皿に盛り完成。

「いただきます」

 少し遅くなった夕飯を食べて、ソファーで紅茶を少し楽しみ、少し早いが眠りについた。


 そして、次の日には軽く鍛錬をして朝食を摂り、まだ作業が続く。
 なにせ今日のが本番。
 小屋の中の魔法陣は完成している。
 もちろん炉も砥ぎ場も完成している。
 なのであと必要なモノは一つのみ。
 だがこの最後の一つが大変なのだ。

 これから作るのは循環の結界である。
 魔剣の鍛冶場とは先に語ったように汲み上げた魔力を全てに纏わせる。
 だが、ここに問題がある。
 魔剣を鍛え精製するための魔力が淀むと上質の魔剣は出来ない。
 よって魔力が溜まらないように、淀まないように、常に循環させる必要がある。
 何が問題かというとこの結界の大きさである。
 今回描く循環用の魔法陣は小屋を中心に半径二メートルの大きさである。
 それをアゾット剣で描いていく。
 ただもくもくと

 もくもくと

 もくもくと

 もくもくと描き続ける。

 そして

「で、出来た」

 作業にかかること約六時間。
 魔法陣が書き終わる。
 で描き終わったら、今度は溶かした宝石を流しこんでいく。
 これで魔法陣は完成した。

 魔法陣の細かいところを確認していく。
 問題はない。
 なら最後の仕上げだ。
 起動させる。

「―――Anfang(セット)

 俺の詠唱と同時に魔法陣がぼんやり光り、そして見えなくなる。
 そして、炉には自然と炎が生まれ、魔力は循環していく。
 防音、認識阻害の結界は俺の家の周りにあるので小屋の周りに張る必要もない。
 防音に関してはこれから同居人が増えたら別だが、今は不要だ。
 小屋の中、外と最終確認を行うがどこも問題ない。
 うまく魔力も循環しているし、炎の魔力も申し分ない。
 無事完成したことに満足する。
 だが

「……二日でそれも一人でするものではないな」

 そのまま後ろに倒れこむ。
 正直疲れた。
 魔法陣を描くのはかなり神経を使う。
 それも約六時間地面を這うように黙々と描き続ける。
 さらに二時間ほどかけて描いた魔法陣に溶かした宝石を流し込むのだ。
 学校に入る前に作っておくべきだったと少し後悔する。

「ところで一体今何時だ?」

 朝の七時には作業を開始したはずなのだが……
 太陽の位置もかなり高いというかもう昼を過ぎているだろう。
 午後の三時ぐらいか?
 とりあえず汗を流して、夕飯の買い物に行くことにしよう。
 夕飯の材料がない。
 そんな事を考えながら浴室に向かう。

 汗を流し、一杯の牛乳で喉を潤す。
 とその時

「魔力! それもかなりでかい」

 コップを置き、小屋に駆け込み、先日用意した戦闘用のズボンとシャツ、手袋、ブーツを身につけ、赤竜布のコートを纏う。

 そして、小屋から飛び出し一気に跳躍し、発生源を目指す。
 だが妙だ。
 魔力がどんどん広がっていく。
 どういう事だ?

 そんな疑問もビルの上から街を見て理解した。
 巨大な樹が街を支配していた。
 とその時、もうひとつ魔力を見つけた。
 左1kmのところだ。
 ちなみに死徒になり強化の魔術を使わなくても2kmぐらいまでなら十分見ることができる。
 そこに立っていたのは

「……なのは?」

 肩にイタチのような動物を乗せて杖のようなものを持ったなのはだった。
 なのはが杖を振ると周りに魔法陣が出来あがる。
 あれを見るとあれだ。
 カレイドルビーなる呪われたマジカルステッキを思い出す。
 やめよう。
 あれは思い出してはいけない。
 呪われたマジカルステッキの記憶を封印し、なのはを見つめる。
 なのはの杖に魔力が集まり、先端から小さな魔力光がいくつも放たれる。

「なるほどコアを探しているのか。それにしてもあれは魔術ではないな。
 肩に乗ったイタチと話していたようだが使い魔か?」

 正直疑問が多すぎる。
 あの魔術に関しても構成が違いすぎる。
 なのはの正体も気になるので、この樹の処理は任せるとしよう。
 もっともこの樹の処理が終わったら少し話す必要はあるか。

 しかし、知り合いが相手となると隠す必要があるな。
 少なくともまだ正体を知られたくはない。
 そうとなると顔全体を隠す必要もあるな。
 そんな事を思いつつあるものを投影しておく。




side なのは

「リリカルマジカル ジュエルシードシリアル10……封印!」

 レイジングハートから放たれた光はジュエルシードを捕え、ちゃんとレイジングハートに回収された。
 それと同時にレイジングハートから蒸気が排出される。

「ありがとう、レイジングハート」
「Good Bye」

 私の思いに応えてくれたレイジングハートに感謝し、赤い宝石を握りしめる。
 無事に封印できた。
 だけど目の前にあるのは夕焼けに染まる壊れてしまった街。
 気付いていたのに、気のせいだと思ってしまった。
 私がちゃんとしていないから。
 それがただ情けなく思えてしまう。
 そんなときいきなり私とユーノ君の周りに細い剣が突き刺さる。

「なにっ!」
「後ろだ!」

 咄嗟の出来ごとに固まることしかできない私。
 それでもユーノ君の言葉で慌てて振り返る。
 後ろには私たちのいる場所より少し高いビル。
 あそこの屋上から投げたのかな?
 剣が斜めに突き刺さってるからそう予想してみる。
 だけどそんなことを考えている暇なんてあるはずがなかった。

「無駄な抵抗はしないことだ。無益な殺生は好まん」

 さっきまで私達が向いていたほうから声がした。
 慌てて再び振り返る。
 塀の上には上下黒の服に、黒の手袋をし、赤いコートとフードを纏って、白い髑髏の仮面で顔を隠した子がいた。
 そして右手には指と指の間に三本の剣が握られていた。

 でもなぜかその子を見た時、私は恐怖もなにも感じなくて、ただ寂しそうに見えた。

 だって

 赤い月の光に染まる

 数えるのが馬鹿らしく思えるくらいの剣が突き刺さった荒野が見えたから

 

 

第十話 厄介事と平穏な学生生活

side ユーノ

 なのはが無事にジュエルシードの封印を終えて一段落ついたとき、いきなり僕達の周りに剣が降り注いだ。
 その数、六
 剣の弾道から後ろと判断し、振り返るけど誰もいない。
 恐らく後ろの僕達がいる建物より高い建物から投げたはずだ。

 だがこの相手はとんでもなかった。

「無駄な抵抗はしないことだ。無益な殺生は好まん」

 その言葉と共につい先ほどまで僕達が向いていたほうの塀の上に平然と立っていたのだから。

 全身黒ずくめに、赤い外套とフードを纏って、白い髑髏の仮面をつけた人。
 なのはとそんなに身長も変わらないので、恐らくなのはと同じ年頃の子。

 だけどその子が放つ威圧感はとてもなのはと同じ年頃の子とは思えない。
 さらに右手には指と指の間に三本の剣が握られていた。
 その姿はまるで死神を連想させた。

「……っ」

 頭を振り嫌な連想を振り払う。
 気を引き締めろ。この子は油断できる相手じゃない。

 いつでも動けるように身体に力を入れるけど僕じゃ恐らく敵わない。
 持つ剣は僕らの周りに突き立つ剣と同じ形状。
 それにわずかに魔力を感じるけどデバイスじゃない。
 明らかに質量兵器。
 こちらが警戒していると相手が静かに言葉を発した。

「貴様らは何者だ? 先の樹はなんだ? 何が目的で我が領域に侵入した?」

 デバイスを見たのに僕達が魔導師だとわかっていない?
 それに我が領域って
 嫌な予感がする。

 この世界には魔法技術はないはずだけど、それは単純に僕が知らないだけで秘密裏に存在したとすれば最悪だ。
 彼から言わせれば僕らは自らを脅かす敵でしかない。
 交渉する余地があればよかったんだけど彼にそんなものはない。
 それどころか僕となのは、フェレットと少女相手に油断も慢心もない。
 下手に動けば本当に殺される。
 なら正直に答えるしかない。

「僕はユーノ・スクライア。
 ミッドの魔導師で、この子は僕に協力しているだけです。
 僕達の目的はロストロギア、ジュエルシードの回収。
 先の植物もジュエルシードが原因です」

 正直に答えるけどなのはの名前を出すわけにはいかない。
 声からして男の子だろうけでど、彼はここを自分の領地といった。

 どういった意味かは知らないけど、名前がばれればなのはの家がばれる可能性が高い。
 そうなれば無関係な人達をさらに巻き込みかねない。

「魔導師……か。重ねて問う。
 貴様、魔術師ではないのだな。
 それとロストロギアとはなんだ?」

 魔術師? この世界の魔導師のことなんだろうか?
 どうやら魔導師やロストロギアに関しても一切知識がないみたいだ。
 間違いない。彼は魔導師じゃない。
 だからと言って油断できる相手じゃないけど

「僕達は魔術師ではありません。
 ロストロギアとは過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称のことです」

 僕の言葉に満足したのか右手に持つ剣をしまう。
 それに僕も少しだけ安堵するけど

「この土地でしていることには眼を瞑ろう。
 だがこれ以上一般人の平穏を脅かしたり、秘匿が出来ない場合、貴様を外敵と認識する。
 よく覚えておけ」

 彼はそう言い残し、一歩下がりビルの屋上から身を投げた。
 それと同時に威圧感も消えた。
 なのはも緊張してたのか座り込んでしまった。
 と同時に周りに刺さっていた剣も消えてしまった。

「……ユーノ君、今の子って」
「多分この世界の魔導師。少なくとも僕達と同じ魔導師じゃないのは間違いない」

 今回はどうやら見逃してくれたみたいだけど、今度会ったときはどうなるかわからない。
 彼の事を少し調べないとまずい。
 じゃないとこっちが常に後手にまわってしまう。

「なのは、レイジングハートを使って彼を追って」
「う、うん。お願いレイジングハート」
「Yes」

 レイジングハートがデバイスモードになり、周りをサーチする。
 だけど

「Sorry, target lost」
「だめ。全然見つからない」

 相手の方が何枚も上手らしい。
 彼の事をどうするべきか考えると頭が痛い。




side 士郎

 ビルから飛び降りると同時に路地裏に入り、隠れながら遠回りをして家に戻る。
 仮に探されたとしても魔力殺しのアミュレットを身につけているのだ。
 魔術を使いでもしなければ魔力からは後は追えないはずだ。
 黒鍵の方もビルから飛び降りると同時に破棄したので問題はない。

「だが魔術師じゃなくて、魔導師とはな」

 しゃべるイタチ、ユーノ・スクライアの言葉に嘘がなければこの世界に魔術師の代わりに存在するモノと見て間違いないだろう。
 それにしても術式がかなり違う。
 なのはが持っている杖も魔術師が持つ礼装と違い、かなり機械的であった。
 さらにユーノはロストロギアの説明の時に魔術ではなく魔法と言った。
 根本的な概念そのものが違うとみていいだろう。

「それにロストロギア、ジュエルシード」

 ユーノいわく、過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称。
 ジュエルシード、あの青い宝石にどのような機能があるかは実物を手にしなければ理解も出来ないが、危険なモノとみて間違いはないだろう。
 なにより

「シリアルナンバー10となのはが言っていたな」

 あれが一体何個あるのかは知らないが、ナンバー10があるのだから最低でも10個は存在する。
 あれはこの街の人々の平穏を壊すことになる。
 俺はそれが見逃せない。

 なのはにはそのうち俺の事もばれるかもしれないが、教える必要はない。
 それにユーノはなのはを協力者と呼んだ。
 ユーノが現れるまで表の世界で暮らしていたのなら、なのはは今、表と裏の境界線にいる。
 なのはのような子供に裏に関わってほしくはないが、現状詳しいことが分からないので何もできない。

「巡回ぐらいはした方がいいか。あとは情報収集だな」

 遠坂が宝石の鳥を使い魔として使っていたことがあるが、俺も鋼で鳥を作って使い魔にすることができる。
 まとめて使えるのは三つが限界だが、ないよりはマシだろう。
 それ以上は情報が多すぎて俺では処理できないしな。

 とりあえずは食料の買い出しと夕食を摂ってからだな。

 慌ただしい休日はまだ終わらない。


 翌朝、通常通り学校に行くがなのはにはばれていないようだった。
 そのことに安堵しつつ、その日の夜から俺は三羽の鋼の鳥と共に町を巡回していく。

 だが残念ながらジュエルシードの発見や進展もなく再び週末がやってきた。

 それはいつものようになのは達三人と食事を摂っている時の事だった。

「それにしても士郎のお母さんって料理好きなの?」
「ずいぶんといきなりだな」

 お互いのお弁当の話からいきなりアリサからそんな事を尋ねられた。

「だってねえ」
「うん」

 アリサとなのはの視線が俺のお弁当箱の中にいく。
 ちなみに本日のお弁当はパニーニと魔法瓶に入った紅茶である。

 種類は三種類。
 片方はハムにレタス、トマト、チーズとシンプルの物
 もう片方はエビとレタス、オニオンにオリーブソースをかけた物
 さらに和風にレタスを少し多めにして、チキンを揚げてケチャップとマヨネーズに胡椒、レモン果汁を混ぜたソースをからめ挟んだ物だ。
 ちなみにレタスが多いのは昨日のスーパーの特売が関係してたりする。
 和洋どちらにでもレタスはよくあうのだ。
 それに大きめのパニーニを挟んだ後にカットしているので食べにくいこともない。
 まあ、多少多い気もするが男子ならこれくらい問題ない。

「あと言ってなかったが両親いないから作ったのは俺だ」
「あ、ごめん」

 出来るだけ軽く言ったのだがアリサも申し訳なさそうに謝るし、なのはも俯いてしまった。
 やっぱりこのぐらいの歳の子供が独り暮らしとなるとこうなるものか。
 だがせっかくの昼食を暗くしても仕方がない。

「ん、よかったら一つどうだ?」

 俺の言葉にアリサとなのはが顔を見合わせお互いに一つとる。
 そして二人とも口をつける。
 と固まった。
 ん? どこか失敗しただろうか?

「……おいしい」
「うん。こっちもおいしい」

 二人とも顔がほころぶ。
 二人とも可愛いんだから笑顔が一番だ。
 すずかが二人をうらやましそうに見ていたので、黙って差し出すと

「ありがとう」

 笑顔で一つ受け取って食べてくれた。
 その後、三人とも違う種類を取っているので互いに交換しつつ全ての種類を食べていた。
 減った俺のお弁当に三人のおかずやおにぎりを分けてもらいながらのんびりと食事を続ける。

「それにしてもおいしいハムよね」
「うん。チキンのソースもおいしかったし」
「オリーブソースもちょうどよかったよね」

 三人とも俺のお弁当に満足してくれたようだ。

「どこでこのハムとかソースとか買ってんの?」

 アリサがそんな事を尋ねると同感と言わんばかりになのはが何度も頷いてる。
 ちなみにすずかはその答えをわかっているためか苦笑している。

「ソースとハムは自家製だ。さすがに野菜は買っているが」
「は?」
「え?」

 アリサとなのはが固まった。
 ソースは手作り、ハムは生肉を買ってきて自宅で燻製。
 かのはっちゃけ爺さんや黒の姫君の舌を満足させた衛宮印の逸品なのだ。
 そこいらの製品に劣る気はない。
 そんな事を思っているとまた三人が集まってコソコソ話をしていた。

「すずか、あんた知ってたの?」
「まあ、一応」
「士郎君、すごすぎだよ」
「というか女のプライドが……」

 相変わらず聞こえないが何を話している事やら
 としばらくして満足したのがコソコソ話も終わった。
 そして

「士郎、明日空いてる?」

 とアリサにいきなり尋ねられた。
 どうやらお弁当ネタはここまでにして話を変えたいらしい。

 で明日の予定だが学校は休みだが、また用が入っている。

「すまない。明日はまた用がある」
「そっか、残念ね。すずかの家でお茶会するから一緒にと思ったんだけど。
 まあ、忙しいなら仕方がないわね」
「……多分会うと思うぞ」
「何か言った?」

 俺の小さなつぶやきに反応したアリサに首を振る。
 会ったら驚くだろうから、その時まで秘密にしておこう。
 すずかも俺の意思を感じ取ったのか苦笑しながらも何も言わなかった。
 さて、お姫様方がおいでになるのだ、明日は存分に腕を振るうとしよう。
 アリサとなのはは驚くだろうなと思いつつ何を作るか考え始めた。 
 

 
後書き
いつもの週一の日曜の夜中の更新です。

今夜は第十話と第十一話の二話です。

ではでは 

 

第十一話 もう一人の魔法少女   ★

 本日、すずかの家でお茶会なのでそのケーキを作成中である。
 作成中といっても現在デコレーション中でもうすぐ完成する。
 つい先ほど、なのはと恭也さんもやってきたしタイミング的にもばっちりだ。

「士郎様、忍お嬢様と恭也様の分は忍お嬢様のお部屋の方に」
「わかりました。ノエルさんにお任せします。
 ファリンさん、カップとソーサー、ケーキのお皿をお願いします」
「はい。かしこまりました」

 月村家の執事のバイトをし始めて、少ししてファリンさんも俺に慣れたのか明るく話してくれるようになった。
 だがそれより疑問なのが

「ノエルさん、一応俺の方がバイトですし立場が低いので様をつけなくても」
「でも士郎様は士郎様ですから」

 ノエルさんが俺の事を様付けで呼ぶことだ。
 仕事場の立場としては俺が一番低いのだからと言っても、相変わらず様付けなのだ。
 なぜなのか未だにわからないが、これも慣れるしかないのかもしれない。
 とそんな事を話している間にデコレーションも完成した。
 ちなみにケーキはお茶会用とは別にアリサとなのはのお土産用にも用意している。
 ケーキをカットし、お皿にのせる。

「ではファリンさん、行きましょうか」
「はい」

 ファリンさんに紅茶のポットとカップ一式をお願いして
 俺はケーキのお皿とクッキーがのった大皿をお盆に乗せて、すずか達が待つ部屋に歩き始める。




side ノエル

 士郎様とファリンの後姿を見送る。
 士郎様は自分達より立場は下というけど、紅茶の入れ方一つから私やファリンでは敵わない。
 さらに執事服を完璧に着こなし、紅茶を運ぶ姿、その姿はどこをどう見ても一流の執事にしか見えないのです。
 それに的確に指示をしてファリンが士郎様の指示に従ってるのだから、これじゃどっちが年上なのかわからないですね。
 そんな事を思いつつ忍お嬢様と恭也様の紅茶とケーキをと思ったら

「……いつの間に」

 すでにポットの中には紅茶が用意され、ケーキもお皿にのって、一式全て揃っていた。
 これならお盆に乗せて運ぶだけです。
 やっぱり士郎様には敵わないですね。




side 士郎

 俺がすずか達の待つ部屋に着いた時、三人とものんびりしていた。
 すずかは早くも俺の存在に気がついたようだが、なのはは俺に背を向けているし、アリサは紅茶に口をつけており、気付いていない。
 すずかにはケーキが完成したらこっち来ることを伝えているので、アリサ達を驚かす気のようだ。
 無論のことだが、俺は驚かす気満々である。
 と猫に追いかけられてイタチのユーノがこっち向かって駆けてくる。

「ユーノ君!」
「アイ、駄目だよ!」

 はあ、仕方がない
 お盆を片手で支え、ユーノの後を追う猫を抱き上げる。
 ユーノはというとファリンの足元で確保された猫を見てため息をついていた。
 しゃべるイタチとはいえずいぶん人間くさいイタチだな。
 そしてユーノはなのはの所に戻って行った。

「お騒がせ致しました」

 俺が軽く礼をすると立ちあがっていたすずかも腰を下ろす。
 なのはもユーノを抱き上げ、腰を下ろした。

「ありがとう、士郎君」
「相変わらず運動神経いいわね」
「まあな。すずかお嬢様この子をお願いします」
「うん。ありがとう」

 なのはとアリサの言葉に軽く返事をしながら、抱きかかえていた猫をすずかに渡し、ケーキを並べ始める。
 その横でファリンさんがカップを交換して紅茶を注いでくれる。
 ケーキと紅茶の準備ができた時

「ん?」
「あれ?」

 アリサとなのはが首を傾げ始めた。
 なにかあったか?

「どうかなされましたか?」
「っ! どうかも何もなんなのよその格好は!」

 アリサの叫びになのはも何度も頷いている。
 俺がいることに今更気がついたらしい。
 猫とユーノの追いかけっこがあったからといってもあまりにも遅くないか?
 そんなことはさておき

「何か、といわれれば執事服だな」
「じゃなくて!!
 なんですずかの家で執事服なんか着てんのよ!!」
「なんでも何も執事だから執事服を着ているに決まっているだろう」

 俺のはぐらかした様な受け答えにアリサが頭を抱え始めた。
 まあ、あえてそういう答え方をしているのだけど。

「まあまあ、士郎君もその辺で。
 アリサちゃんもね。士郎君にも色々あるから」
「了解」
「うう~、わかったわよ」

 すずかの言葉にアリサもなんとか冷静になったらしい。
 まあ、納得はしきれていないようだが、この前の学校での話があるから踏み込んではいけないと思っているのだろう。

「まあ、とりあえずは一息入れてからだな」
「そうね」
「うん」
「は~い」

 俺の言葉にアリサ、すずか、なのはがケーキを食べる。
 そして……固まった。
 どうかしただろうか?
 そして、何やらため息を吐きつつ、紅茶に手を伸ばし、また固まる。
 さっきからどうしたのだろう?

「ねえ、すずかちゃん。一応聞くんだけど、これって」
「うん。士郎君の手作り」
「なんでこう女のプライドを壊すかな、こいつは」

 なのはとすずかがそんな事を話しつつ大きなため息を吐き、アリサはなぜか俺の方を睨んでいる。
 俺にどうしろというのだ? このお姫様方は

「まあ、紅茶やケーキを置いておくにしても全然違和感がないわよね」
「うん。なんか着慣れてるって感じだよね」

 アリサとなのはが改めて俺の方を見て、しみじみとそんな事をおっしゃる。
 まあ、執事経験豊富なのでそれは無理もないと思うけど。

「お姉ちゃんが士郎君は貴族の執事の経験もあるから大丈夫とか言ってたけど」
「……貴族って、お伽噺みたい」
「まあ、海外にはまだ残ってるけど……」
「まあ、士郎君ですし」

 すずか、なのは、アリサに加えて、ファリンさんまでありえないって顔でこっち見てる。
 確かに九歳の子供が貴族の執事してましたなんて言って普通はありえないだろう。
 それが普通の反応だ。

「じゃあ、士郎君も座って。
 せっかくのお茶会なんだから」
「だね。さすがにずっと立っていられるのもね」
「そうね。気になるものね」
「了解。どうせなら外に行くか。天気もいいし」

 俺の意見が了承され、庭に移動する。
 そして、俺も椅子に腰かけ、のんびりと談笑する。
 本来ならこんなことしないのだが、全員が顔見知りだし、お姫様方が堅苦しく感じるのは不本意なので特別だ。

 そんなとき魔力を感じた。
 この魔力……ジュエルシードか?
 なのはとユーノも気がついたのだろう。
 キョロキョロし始める。

 さてどうするか。
 下手に動けばアリサやすずかも巻き込みかねない。
 そんなとき、急にユーノが走りだしたのだ。

「ユーノ君!」

 なのはも立ち上がる。
 なるほどそういうことか。

「あらら、ユーノどうかしたの?」
「うん。何か見つけたのかも。ちょっと探してくるね」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫、すぐ戻るから待っててね」

 アリサとすずかの心配をよそに奥に駆けていく。
 下手に止めると俺も抜けにくくなるからな。
 今回はなのはを利用させてもらうとしよう。

「では俺も行くか」
「追いかけるの?」

 立ちあがった俺を不思議そうにアリサが見るけど

「なのはは運動音痴だしな。気になるから念のためだよ」
「確かにね。
 なのはとユーノを連れてさっさと戻ってきなさいよ」
「いってらっしゃい」

 すずかとアリサの言葉に軽く手を振りながら奥に向かう。
 しかしこうも樹が多いと裏庭というよりは小規模の森だな。

 さて、これからどうするか。
 さすがにいつもの戦闘用の服は持ってきていない。
 それ以前にわざわざ着替える時間もないだろう。
 となると

「仮面と全身を覆える外套だな」

 大きめな赤竜布を投影し、それを体に纏い、アサシン(ハサン・サッバーハ)の仮面をつける。
 執事服が見えないように外套を纏っている分多少身体を動かしにくいが正体がばれるよりはマシだ。
 樹から樹に飛び移りながらなのは達に追いついた。

 とそれと同時にユーノが結界のようなものを張った。
 やはりこうして見るとしみじみと実感する。
 魔法を使うと魔方陣が出たり違いが結構ある。
 それに魔力も似ているが若干ではあるが質が違うように思える。
 そんな事を考えいると魔力が膨れ上がり、光が溢れる。
 あそこか。
 警戒を強め、光を睨む。
 そして光が収まりそこに現れたのは……巨大な猫。

「……なんでさ?」

 あまりの光景に呆然としてしまう。
 たしかあの猫、ユーノを追いかけてた子猫だ。
 一体何がどうなればあんなにでかくなる?
 先日の樹もでかくなっていたがあれか、ジュエルシードは物質を巨大化させる魔具の類か?

「……とりあえずは様子を見るとしよう」

 さすがにこの状況では手を出そうとも思わない。
 なのはとユーノもこれには予想外だったのか呆けた顔をしている。
 それでも一応、ジュエルシードを封印するつもりらしい。
 とその時

「ん?」

 気配と視線を感じた。
 なのはでもユーノでも無論でかくなった猫でもない。
 もう一人、いや二人だ。



 電柱の上に金の長い髪と黒い外套を纏った女の子が立っている。
 もう一人、いや一頭は木が邪魔で全身は見えないが、赤い毛並の狼。
 この狼、恐らくはユーノと同じ使い魔。
 一人と一頭を観察していると、なのはが服の中から赤い宝石を取り出す。

 そんななのはを阻むように金の髪の子から黄色い閃光が猫に放たれ直撃した。
 戦斧の形をしているが、なのはの杖とどこか似ている感じがあるし、魔術もなのはと似ている。

 いきなりの事になのはが少し呆けていたが、すぐに魔法少女のような格好になり、空を飛んだ。

「……は?」

 飛んだ。
 そんな長距離ではないが飛んだ。

 飛行の魔術なんていったら俺が知る限り、キャスターとはっちゃけ爺さんぐらいしかしているの見たことないぞ。
 それも宙に浮くというものでなのはのように自由に飛ぶといった感じではない。
 もしかしたらこの世界の魔術師にとっては普通の事なのかもしれないが、元の世界の魔術師が見れば卒倒しかねない。
 そんな事を考えている間になのはともう一人の少女は互いに杖を向けあう。

 そして、黒の少女の杖が鎌の形状に変化して一気に踏み込み戦いが始まった。

「……ある意味幻想的な風景ではあるか」

 白と黒の美少女二人が空を舞う。
 だが黒の女の子の方は何らかの訓練を受けているとみていいだろう。
 動きが慣れている。
 対してなのはは人と戦う事に迷いがあるのか反撃できていない。
 そして、なのはは大地に降り立ち、黒の少女は木の枝に降り立ち、互いに杖を向ける。
 さてと、そろそろ介入させてもらうとしよう。
 使い魔の方も気になるしな。
 魔力殺しのアミュレットを外して

「―――投影、開始(トレース・オン)

 魔術回路を二十本起動させてながら黒鍵を片手に一本づつ、計二本投影する。
 故意に魔力を放出させて俺の存在に気付かせる。
 そして、なのはと黒の少女に向かって投擲する。
 もっとも仮に防御しなくてもギリギリ当たらないように投擲している。
 なのはも黒の少女も突然の魔力に反応出来ていない。
 そんな中でも二人を守るものが存在する。

「なのはっ!」
「フェイト!」

 なのはを守ったのはユーノ。
 黒の少女を守ったのは赤い狼。
 赤い狼はしゃべった上にフェイトと呼んでいたことからそれが彼女の名前だろう。
 それにしても使い魔がしゃべるのもこの世界では当たり前なのか?
 そんな事を思いつつ、二人と二匹の前に姿を現す。

「一対一の戦いの中で申し訳ないが邪魔をさせてもらうぞ」

 俺の姿を見るやフェイトと赤い狼はこちらを警戒する。
 なのはは俺の登場に戸惑っているようだ。

「貴方、誰ですか?」
「尋ねる前に自分で名乗るのが礼儀だろう?
 それにあのジュエルシードといったか、あれに少し興味があってな、もらい受けに来た」

 俺の言葉にフェイトが腰を落とし踏み込めるように構え、狼は唸り声をあげる。
 本音を言えば興味はほとんどないのだが、猫や樹が巨大化したことといい気にはなるのは事実。
 剣の類にではないのでどこまで解析できるかわからないが、調べる必要はあると判断したためだ。

 あとわざわざ出てきて戦闘を行う状況にしたのは、この世界の魔術師に俺がいた元いた世界の武器が通じるか試すためでもある。

 先日の恭也さんとの手合わせで接近戦での間合いの修正などは出来ているが、投影した武器の概念が通用するのかがわかっていない。
 本当なら無駄な戦闘は避けたいのが本音だが、通用するかわからない状態では戦術もたてられない。

「そうはいきません。バルディッシュ」
「Yes sir. Scythe form. Set up.」

 フェイトの言葉と共に杖が応え、杖が再び鎌に変化する。
 喋る杖とはますますあの忌まわしいマジカルステッキを思い出すが、性格はかなりまともだ。
 もっともあんな奴だったら躊躇なく破壊するが。

 フェイトが一気に踏み込んでくる。
 直接相手にするとかなりの速さだ。
 だが

「遅い」

 瞬時に左手に干将を投影し、鎌を逸らし、本気でないにしろ腹部に蹴りを放つ。

「くっ!」

 咄嗟に腕で防御するもフェイトは地面を滑っていく。
 妙な手応えだ。
 あのマントなどは防護服の類かと思ったが、服を纏っていない腕にも何らかの守りを纏っているようだ。

「このっ!!」

 赤い狼が俺に飛び掛かるが、モーションが大きすぎる。
 右手を突き出し

獣束の足枷(グレイプニル)
「なっ!」

 投影した光輝く紐が赤い狼に絡みつき、動きを封じる。
 拘束宝具、獣束の足枷(グレイプニル)
 北欧神話に登場するフェンリルを捕縛した足枷、または魔法の紐といわれ、幻想種なども拘束できる最高クラスの拘束宝具。

 もっともこれは本来ならばという条件がつく。
 何せ俺の属性は剣。
 鎖や武器ならばまだしもグレイプニルは神々が造った紐である。
 いくら俺の投影が特殊とはいえ投影しきれるものではなく、かなりランクが落ちてしまう。
 もっとも投影してランクが落ちたとはいえ魔獣クラスなら十分拘束できる。
 だが、幻想種になるとさすがに拘束するのも不可能である。

 こうして見る限りグレイプニルの効果は十分に発揮されている。
 もう一つ、彼女達に俺を警戒させるためにも宝具を使わせて貰おう。

「アルフっ! アークセイバー!!」

 飛んでくる金色の刃。
 グレイプニルは完全に赤い狼の動きを封じているので手を離し、赤い槍を投影し薙ぐ。
 赤き刃に触れると金色の刃は霧散した。

「そんな……」

 フェイトが驚くのも無理はない。
 俺が握っている赤い槍は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)
 魔力をかき消す魔槍である。

 どうやらこちらの魔術というか宝具の概念もちゃんと通用するようである。
 いや、それどころか投影品にもかかわらず劣化がないと言っても過言ではない。
 それにいつもより宝具の投影の負荷が少ない。
 これはどういうことだ?
 いや、考えるのは後にしよう。

「死にたくなければ邪魔をするな」

 警戒するフェイトに背を向けて、倒れている巨大な猫の方に歩み寄る。
 その途中でなのはと目があった。
 だが今ここで語ることはないもない。
 ゲイ・ジャルグで猫に触れるが宝石は取り出せない。

 なるほど。
 どうやら猫と契約した状態のようだ。
 これではゲイ・ジャルグでは手に負えない。
 仕方がないが、もう一つ宝具を使うとしよう。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 左手の干将を投げ捨て、代わりに手に握るのは紫に鈍く光る歪な短刀。
 それを

破戒すべき全ての苻(ルールブレイカー)

 猫を可能な限り傷つけないように皮一枚で突き立てる。
 すると光を放ち、猫は元の大きさにもどり、宝石が浮かぶ。

「そんな……」

 ユーノの驚いた声が聞こえるが無視する。
 ゲイ・ジャルグを地面に突き立て、マルティーンの聖骸布を投影し、包み込む。
 完全とは言い難いかもしれないが、マルティーンの聖骸布ならば十分な効果を発揮するだろう。
 だがさすがに死徒の俺とは相性が悪い。
 触るだけで手に若干の痛みがある。

 この戦いだけで複数の宝具を使ったが、これなら元いた世界と同じように使えそうだな。

「では私はこれで失礼する。
 その狼の拘束もじき消えるから安心したまえ」

 その言葉と共に地面に突き立てたゲイ・ジャルグと先ほど投げ捨てた干将、手にルールブレイカーを外套にしまうように破棄する。
 そして、立ち去ろうとした時

「待って!」

 となのはに声をかけられた。
 無視してもよかったがなのはの方に視線を向ける。

「あなたは誰なんですか?」
「私は……アーチャーだ」

 あまり好きな名ではないが下手な偽名を使うよりこっちの方がいいだろう。
 俺は一気に跳躍し、今度こそその場を立ち去った。

 跳躍の着地と同時にグレイプニルを破棄し、魔術殺しを身につけて、外套と仮面も破棄する。
 それとほぼ同時に結界が消えてかなりのスピードでその場から離れる二つの魔力。
 どうやらフェイト達も撤退したようだ。
 さて、お姫様をお迎えに行くとしよう。

 あのあとだが、呆然とするなのはの所に何事もなかったように現れ、ユーノと共にすずか達の所に戻った。
 そのあとは特に問題もなく、なのはと恭也さん、アリサがすずかの家から帰る時にお土産用に用意していたケーキを渡しておいた。
 もちろんの事だが、すずか達の分も別に作っている。
 その日のアルバイトを終えて、忍さんから前に注文していた色々なモノを受け取り、家に帰る。

 さて、新たな戦力は出てきたし、しばらくはまた忙しくなりそうだ。 
 

 
後書き
続きはまた来週~。

時間があったらまた平日に更新するかも。
期待せず待っててください。

ではでは 

 

第十二話 それぞれの思いと平和な日常

 家に戻り、工房でもある鍛冶場に子供が持つには大きいアタッシュケースを開けて中身を取り出し確認する。

「ちゃんと揃っているな」

 次に聖骸布に包まれたジュエルシードを取り出す。
 武器ではないモノの解析でどこまで理解できるかわからないが、やってみなければ始まらない。
 意気込んでジュエルシードの解析を試みるものの

「……ほとんどわからないか」

 わかったことといえば力が多少不安定だが凄まじい魔力を秘めているという程度だ。
 やはり剣や剣の類ではないので俺では解析をしきれない。
 だがこれは直感、いや本能的といっていいだろう。

「聖杯に似ている感じがするな」

 どこが似ているかといわれれば、自分でも首を傾げるだろう。
 だがジェルシードを見ていると聖杯を思い出すのだ。

 無論聖杯に比べれば秘めた魔力は少ない。
 しかしジュエルシードは複数存在するのだ。
 いくつあるかは知らないが、複数集まれば聖杯以上の魔力が解き放たれることだってあり得る。
 そうなればどれだけの被害が出るかわかったものではない。
 今の俺ではこれぐらいしかわからない。

 わからないことだらけだが、危険なのは確かな事だ。

 忍さんに早急に銃を用意してもらったのは正解だったな。

 最初は銃の依頼に不審そうな顔をしたが
 「海鳴の地で魔力を感知した。何者かが動いている可能性がある」
 と伝えたらすぐに手をまわしてくれた。

「明日休んでも準備をしておくべきか」

 先ほどアタッシュケースから取り出したモノに手を伸ばす。
 そこにあるのは銀の銃。
 それを手に握る。
 『タウルス レイジングブル』
 忍さんに依頼して用意してもらった拳銃の一つ。
 それと使用する454カスール弾が50発。

 グリップが大きいという事で一回り小さい木製の物に変えてもらっているが、それでも大きい。
 だが俺なら十分扱えるだろう。
 銀の銃を置き、もう一つ。

 小さな子供の手にも手頃なサイズの黒の銃を握り構える。
 『Glock 26』
 その弾の9mmパラベラム弾が100発
 普段から隠し持つ事も十分に可能なサイズに満足する。

 他に念入りに密封された火薬に弾頭の型。
 そして、弾頭を薬莢に装着するための手動の小型プレス機などなどがずらりと並ぶ。
 
「さて、始めるか」

 弾頭を外し、火薬を取り出す。
 その後、弾頭は炉で宝石と共に加熱して溶かし液体にする。
 そして、弾頭の型に流し込み弾頭を精製する。
 火薬は粉末にした宝石と追加で火薬を加えよく混ぜ合わせる。
 完成した火薬を薬莢に戻し、小型プレス機で弾頭を装着していく。
 これで魔弾の完成。
 普通に引き金を引いても魔力が込めれた弾丸であるが、引き金を引く前に魔力を銃に流せばさらに魔力量が上がるモノだ。
 元の世界でも魔術の秘匿目的でこの魔弾を使用した銃を使ったことがあるので威力は保証できる。

 ちなみにこの魔弾を撃つ際はかなり強度を増した銃でないと銃の方が持たないのだ。
 なにせ火薬量を増やした強装弾に魔力でさらに威力を上げているだから仕方がない。
 もっとも今回の二丁は忍さんに頼んで強度強化などの特注品なのでそれの心配もない。

 俺はもくもくと魔弾を作り続ける。

 自分が目指す先はまだ見えない。

 それでも後悔はしたくないから。

 俺は武器を取るのを躊躇わない。




side なのは

 部屋に戻ってベットに腰かける。
 思い出されるのは今日の事。

「ユーノ君、なんであの子はジュエルシードをほしがったのかな?」
「あの子って、アーチャーの事? それともフェイトって呼ばれてたあの子?」
「う~ん、両方かな」

 私の言葉にユーノ君は少し瞳を閉じて唸っている。
 たぶん私にわかりやすいように説明を考えているんだと思う。

「う~ん、現状じゃわかってることも少ないからなんでほしがったのかは分からない。
 でもあの女の子は使い魔も連れていたし、かなりの魔導師のはずだよ。
 さすがに理由までは……」
「そっか」

 ユーノ君ならって思ったんだけど、さすがにわかんないか。

「だけどアーチャーに関しては……僕の予想だと現状の可能性は二つかな。
 一つは単純に自分の領域に入った邪魔なモノを排除するため。
 もう一つは自分の欲望や目的のためにジュエルシードを使うため」

 ユーノ君の二つ目の意見はないんじゃないかと思う。
 初めてビルの屋上で会った時もそんな仕草は見せなかった。
 それに明確な理由は出せないけど、アーチャーさんが自分のためにジュエルシードを使うという事が想像できなかった。

 アーチャーさんの目的が海鳴市にあるジュエルシードの回収がなら協力できたりは出来ないのかな?

「ユーノ君、アーチャーさんに手伝ってもらう事って出来ないかな?」

 私としてはかなりいい案だと思ったんだけどユーノ君はなんか不安そうな顔をしてる。

「正直難しい気がする。
 なのははともかく僕はアーチャーにとっては異物を持ち込んだ侵入者と同じだし」
「……そっか」

 アーチャーさんの事も、フェイトちゃんの事も何も知らないんだよね。
 二人とも不思議と怖いとかは感じなくて
 でも……なんだか寂しそうで、悲しそうで

 ぶつかっちゃうのは嫌だけど

 また会って、少しでも話をしてみたい

 ただそんな気持ちだった。




side フェイト

 今日はジュエルシードを手に入れることが出来なかった。
 立ちはだかったのは二人。
 白い子と赤い外套に髑髏の仮面をつけた子。
 白い子はまだ戦えば勝てると思う。
 だけどあの赤い子に勝つのは難しい。

「……そんなレベルじゃない」

 首を振って自分の分析を否定する。
 戦いなれた動き。
 アルフを完全に拘束してみせた光る紐。
 それにアークセイバーを掻き消した赤い槍。
 ジュエルシードを簡単に取り出した歪な短剣。
 ありえないとしか言えない武器。
 まさかロストロギア?
 残念ながらそれを否定できない。

「でも負けられない」

 今日の戦いではあの人に殺意がなかった。
 だけどもしはじめからあの赤い槍を構えられて殺す気でいたら殺されている。
 それでも

「……フェイト」
「大丈夫。だけどあの人、アーチャーには気をつけないと」

 大丈夫。
 止まるわけにはいかない。
 ちゃんとジュエルシードを集めて帰るんだ。

 だから待ってて母さん。

 すぐに帰るから。




 それぞれの思いを胸に夜は更けていく。




side 士郎

 黙々と魔弾を作り続けた。
 そして、魔弾はなんとか完成した。
 だが

「さすがに寝る暇はないか」

 太陽はすでに昇っており、いつも起きている時間より遅い。
 まあ、少し雲が多いので洗濯物が乾きにくそうではある。
 朝食をとって準備したら出ないとまずいな。
 まずは眠気覚ましにシャワーを浴びるとしよう。

 さすがに徹夜明けなので眠たかったが、いつも通り学校に行く。
 一応、吸血鬼なので夜の活動は得意というか本分なのだが、夜寝ていないとただでさえ苦手な昼間の行動がさらにきつくなる。
 夜に寝て、昼間に出歩く吸血鬼というのも変な話だ。

 そんな中、なのは達と食事をしていたら突然

「士郎君、今日空いてる?」

 と聞かれた。
 とりあえず今日の予定を思い出してみる。
 月村家のバイトも今日はないし、魔弾も完成しているので特に思い当たることもない。

「ああ、特に予定は入ってないけど、どうかしたのか?」
「えっとね。士郎君のことお母さんが紹介してほしいって」

 なのはの言葉に全てが停止した。
 はあ、なんで今日に限って空が曇っているという理由で教室で昼食にしたのだろう。
 空を睨むがこの状況が変わるはずもない。
 とりあえずは食べ終わった弁当をしまい、足音も立てずにドアに向かう。
 そして、ドアを握った瞬間

「「「「「「「「「「「え~み~や~!!!!!!」」」」」」」」」」」

 時は動き出す。
 ドアを一気に開け、駆ける。
 ふむ、過去最大の怨念の叫びだ。
 さすがに捕まったら本当に殺されそうだ。
 それにしてもなのはのお母さんに紹介されるだけでここまで過剰に反応したのだろうか?

 まあ、本能的に嫌な予感がしたからとりあえず逃げたけど。
 それにどんどん人数が増えている。
 そんなとき男子達の叫び声が聞こえた。

「お母さんに紹介ってそんな関係なのか!!」
「転校してきたこのわずかな期間に高町さんとそんな関係になっているなんて!!」

 なんか話がおかしな方に進んでないか?
 そんな関係って……どういうことだ?

 ……少し大人の視線で考えてみよう。
 一組の男女がいてその女性の母親に男の方を紹介する。
 つまりは…………交際の挨拶?

「なるほどそういうことか」

 って呑気に納得してる場合じゃない。
 いや、それ以前になんで紹介されるだけで、なのはと俺が付き合っているという事まで話が飛躍してるんだ?
 正直、誤解を解きたいがこの状況ではそれも不可能。
 それに学校内を走り回っているせいで情報が歪んでだんだんと酷くなってきている。

「衛宮と高町さんが結婚を前提に付き合っているだと!!」
「今日高町さんのご両親に挨拶にいくらしいぞ。何としても阻止しろ!!」
「この歳で婚約など許すまじ!!」

 一体何がどうなれば小学生が結婚や婚約といった話まで飛躍するのだ?
 今の小学生の思考とは摩訶不思議なものだ。
 それにどう考えても他クラス、他学年の男子まで混じってるぞ。
 とりあえずは昼休み中は逃げ切ることに専念するとしよう。

 ちなみにこの鬼ごっこ、本当に昼休みの終わりまで続いた。

 昼休みを無事に逃げ切り、放課後はなのは、アリサ、すずかがかばってくれたので無事に学校を後にできた。
 で、四人でなのはの両親が経営している喫茶・翠屋に来ていた。

「ただいま」
「おかえりさい。この子が衛宮士郎君?」
「うん、そうだよ」

 なのはが店の中に声をかけると奥から一人の女性が現れた。
 かなり若い。
 髪の色といいなのはとよく似ている。
 なのはのもう一人のお姉さんか?
 それにしてもお姉さんがものすごく俺を見てるのだがどうかしただろうか?
 とりあえず軽く会釈しておく。

「士郎君、紹介するね。翠屋のお菓子職人さんで私のお母さんの」
「高町桃子といいます。よろしくね」
「はじめまして、衛宮士郎です」

 正直、驚いた。
 お母さんってかなり若く見えるぞ。
 おそらく美由希さんと並んでも姉妹にしか見えないだろう。
 と奥から男性が出てくる。
 恭也さんと似た顔立ち、恐らくなのはのお父さん。

「はじめまして、なのはの父の高町士郎だ」
「お邪魔してます。衛宮士郎といいます」

 なのはのお父さんの士郎さんとも軽く挨拶を交わす。
 それにしても同じ名前なのか。
 あとで字を聞いてみよう。
 案外同じかもしれないけど。

「さあさあ、着替えて厨房にいらっしゃい」
「え? あの」

 士郎さんとも挨拶が終わるや否や桃子さんに厨房に引きずられていく。
 えっと……これってどういう事ですか?
 理解が追いつかず、士郎さんに視線を向けると苦笑いしながら

「士郎君のケーキがおいしかったから、腕前に興味津々なんだ。
 まあ、付きあってやってくれ」
「そうそう。あのケーキを作ったのがなのはと同い年の子だなんて信じられなかったんだから。
 だから早くいきましょ、シロ君」

 なるほど、そういうことか。
 それは納得したのだが

「あの、シロ君って」
「士郎さんと同じ名前だと間違えるといけないでしょ。だからシロ君」

 左様ですか。
 しかし油断していた。
 高町家と月村家に繋がりがあるんだから、忍さんと桃子さんにも繋がりがあっても何ら不思議ではないことを 
 

 
後書き
第十二話更新です。
使用拳銃は大口径銃として『タウルス レイジングブル』、そして隠し持ちやすい『グロック26』にしました。

銃案では沢山のご意見ありがとうございました。
改めてお礼申し上げます。

ではでは 

 

第十三話 執事からは逃げられない

「いらっしゃいませ。お嬢様。
 お二人様ですか? ではどうぞこちらへ」

 恭しく礼をして、高校生と思しき制服を着た女性を席に案内していく。

「こちらがメニューになります。お決まりになりましたらお呼びください」

 礼をして席から離れ、他の席の注文の品を運んでいく。
 現在、俺は喫茶翠屋でウェイターをしているのだ。

 ……なぜこんなことになったのだろう?


 桃子さんに厨房に引きずられて

「シロ君のケーキを作るところを見せてほしいのよ」

 と頼まれたのが、学校の制服のままだし、これはまずいだろうと思い

「いえ、さすがに制服ですし」

 と断ろうとしたら、にっこりと笑って

「さっき言ったでしょ、着替えて厨房にいらっしゃいって」

 差し出されたのは月村家で着ている執事服にエプロン。
 なんでここにある。

 まあ、ちょうどいい作業服ができたと自分を納得させて、ケーキを作ったまではよかった。
 桃子さんには褒められたし、作ったケーキをなのは達に振舞ったら喜んでくれたから
 問題はこの後だ。

 夕方の時間帯でお客さんがだんだんと増えて来たのだ。
 さらに本日は従業員の方が体調を崩して人手が足りてなかった。
 その中、店員を呼ぶお客様。
 だが手が足りず、他の従業員もすぐに対応できない。
 お客様が呼んでいて待たせる執事がいるだろうか?
 否!
 待たせるなど言語道断。
 呼ぶ前に視線を向けられただけで反応してこそ一流。

 そうというわけでレジの横のオーダー表を取り、注文を受けた。
 そう。受けてしまったのだ。
 そこからはもはや止めようがなかった。
 桃子さんと士郎さんが驚きつつも、俺の執事能力を褒めてくれて、そのまま手伝いをお願いされたのだ。
 しかもその際に

「もしよかったらこれからも翠屋でアルバイトしない?」

 と誘われてもいる。
 さすがに返事は待ってもらったけど。
 しかし特に断る理由がなかったとはいえどうなのだろう、といまさらながら感じている。
 それにしても女性を中心としてるがお客さんがかなり多い。
 先ほどいただいたシュークリームも大変おいしかった。
 この値段で、このクオリティーならば納得もいく。

 だがさっきからやけに視線を感じる。
 まあ、小学生が執事服を着て、ウェイターをしていたら仕方がないのかもしれないが。
 そんな事を思っていると

「ねえ、執事さん」
「はい、なんでしょう?」

 OLらしき女性に話しかけられた。

「君っていつもここでウェイターしてるの?」
「今日は特別です。ですがこれから定期的にすることになるかもしれませんが」
「そう。ありがとう。ごめんなさいね、仕事中に」
「いえ、お気になさらないで下さい。それでは失礼いたします」

 礼をして女性の席から離れる。
 いきなり尋ねられたのでありのままを答えたけど一体どうしたんだろう?
 まあ、細かいことは気にしないでおこう。
 さて、客足が落ち着くまでもうひと頑張りしますか。




side なのは

 周りからの熱い視線を受けても平然とウェイターをこなす士郎君。
 特に中学、高校生ぐらいの女の人たちの視線がすごい。
 ものすごく見てる。

 でも女のひと達の気持ちもわからないでもない。

 白銀の髪に赤い瞳で執事服を着こなして、無駄がなく、洗練された動き。
 それだけでも目を引くのに、眼を見たらドキリとする。

 私達と同い年なのに真っ直ぐな強い瞳
 士郎君が転校してきた時に教科書を見せた時にすごくドキリとしたのを覚えている。

 でも士郎君本人はさっき話しかけられた時だって、なんで話しかけられたのか不思議そうにしてた。

「……あいつ天然よね?」
「「うん」」

 アリサちゃんの言葉に私とすずかちゃんは即座に頷いた。
 士郎君は天然の女誑しだ。
 言葉にせずともすずかちゃんとアリサちゃんも同じことを考えてたみたいで

「「「はあ~」」」

 大きなため息が出た。




side 士郎

 とりあえず客足も落ち着いたので今日の手伝いはここまでとなった。
 閉店時間云々の前にケーキが完売状態なので営業はここまでなのだけど。
 執事服から着替える前に桃子さんと士郎さんと話しあって、不定期ながらアルバイトをすることが決まった。

 でそのまま帰れれば問題はなかったのだが、なのはと美由希さんが

「士郎君は料理も上手なんだよ」
「そういえばシロ君一人暮らしだったよね」

 と話してしまった。
 さらに翠屋のアルバイトで夕飯の買い物もしていない。

 というわけで本日の夕飯は高町家で桃子さんと共に作ることになったのだ。
 その結果、高町家の女性がショックを受けはしたがこれは置いておこう。
 そして、問題はまだ残っていた。
 夕飯の片付けも終え、帰ろうとしたのだが

「そういえばシロ君ってどこに住んでるの?」
「街の外れの洋館ですが」
「あらら、それってだいぶ遠いじゃない」

 桃子さんと美由希さんの言葉に何か嫌な予感がした。

「今夜は泊って行きなさい」
「その方がいいよ。なのはもそう思うでしょ?」
「もちろん」

 ああ、逃げ場がなくなっていく。
 士郎さんに視線を向けるが

「そうだな。いいじゃないか?」

 駄目だ。
 なら最後の頼み、恭也さんなら

「母さんが言ったら変更できないからあきらめてくれ」

 眼を逸らされた。
 ……もはやあきらめるしか道がないようです。

「じゃあ、シロ君、一緒にお風呂入ろうか」
「……はい?」

 その言葉と共に美由希さんに抱きかかえられた。
 …………今、何とおっしゃいました?

「あらあら、いってらっしゃい」
「ほどほどにな」
「は~い。なのはも一緒に入る?」
「さすがに私は恥ずかしいから」
「そう? じゃあ、行こうか」

 って固まってる場合じゃない。
 それに恭也さんも程々にな、って士郎さんは何も言わずに見送ってるし。
 腕を解こうにもあまり強くしたら美由希さんの身体に傷をつける事になりかねないので却下。
 しかし手加減をしては武術をしてるから美由希さんから逃れられない。
 このままでは大変まずいことに!

「そんなに恥ずかしがらないの。ちゃんと綺麗にしてあげるから」
「そういう問題では!!」

 助けはなく、逃げ場もない。
 そして無情にも扉は閉められた。

 結果として、一言でいえば綺麗にされた。
 それにしても美由希さん、結構着痩せするタイプのようだ。
 全体的には引き締まっているのに胸がかなり……
 これは封印しておこう。
 美由希さんに対して失礼だ。

 これで終わればよかったのだが、そうはいかなかった。

 お風呂から出てのんびりさせてもらう。
 ちなみに服は恭也さんの古着を貸してもらった。
 そして、俺やなのはが寝る時間になった時、再び問題は起きる。

「おやすみ~」
「それではおやすみなさい。今日は本当にお世話になりました」

 なのはと共にリビングを後にしようとする。
 ちなみに寝るのは客間を用意してくれているらしい。

「いいのよ。私も楽しかったし」
「そうだぞ。そんなに堅苦しくならないでいいぞ」

 桃子さんと士郎さん言葉に感謝する。
 で美由希さんも立ち上がった。

「じゃあ、シロ君行こうか」
「はい?」

 再び美由希さんに抱きかかえられる俺。
 あの……とてつもなく嫌な予感がするんですが。

「えっと美由希さん。どこに行くのでしょうか?」
「どこって寝るんだから私の部屋に決まってるじゃない」
「それってつまり……」
「うん。一緒に寝よ」

 嫌な予感的中。
 これは逃げないと悪い。
 いやそれ以前になぜ高町家の方々は反対しないのでしょうか?
 その時

「え~、お姉ちゃん、士郎君と一緒に寝るの」

 天の助けか、なのはが異議を唱えてくれた。
 これで助かる可能性がわずかでも出来たと喜んだのだが

「ん? なのはも一緒に寝る?」
「いいの?」
「もちろん。じゃあ、ちょっと狭いかもしれないけど三人で寝よう」

 俺の意思は聞いてくれないのですね。
 ていうかさすがになのはも一緒というのは問題だろ。
 恭也さんは眉を顰めて、腰が僅かに浮く。
 だが

「あらあら、明日も学校なのだからほどほどにね」

 という桃子さんの言葉に黙って腰をおろしてしまった。
 この高町家の最高発言者に異を唱えれるはずもない。

 というわけで結局

「じゃあ、電気消すね」
「は~い」

 美由希さんのベットでなのはと美由希さんと三人で寝ていたりする。
 それもなぜか俺が真ん中なのだからよくわかんらん。
 シングルのベットに美由希さん以外に小学生とはいえ二人入っているのだから狭い。
 まあ、つまりは

「……眠れん」

 狭いので必然的に……必然なのかは別にして美由希さんとなのはと密着してしまっている。
 右腕になのはが抱きつき、俺の頭を胸に抱きかかえるように美由希さんがいる。
 耳元になのはの息遣いと美由希さんの特定部位の柔らかさが気になって眠れるはずもない。

 とはいえ前日徹夜なのでこれ以上寝ないのはまずい。
 だが普通に眠ろうとしても眠れないので奥の手を使うとしよう。

 眼を閉じて、自己の意識に埋没する。
 俺が行っているのは精神の解体清掃(フィールドストリッピング)のマネごとのようなものだ。
 勿論精神の解体清掃(フィールドストリッピング)を行う事も出来るのだが一日程度の徹夜でわざわざする必要もない。
 それに行えば最後、魔力感知したとしても起きることはない。

 この状況で抜け出す事が出来るのかどうかは別だが。

 ともかくさすがに完全に無防備になるのはまずいので行うのは単純に自己催眠による睡眠行為。
 普段の眠りより若干深い眠り程度なので何かあれば起きることも可能だ。
 そして、俺はゆっくり意識を手放した。


 自分のすぐそばで動く人の気配と朝日で身体を起こす。
 ここは?

「おはよう、シロ君。起こしちゃった?」

 美由希さんの声がしてすぐに思い出した。
 そういえば昨日、なのはの家に泊ったんだったな。

「いえ、いつもこれぐらいには起きてえええ!!」

 美由希さんの声の方を向いた瞬間、目に入ったのは下着姿で、着替えをしている美由希さん。
 慌てて後ろを向く。

「そんなに慌てなくてもいいのに」

 美由希さんはそんなこと言うけど、無理です。
 慌てます。
 しばらくゴソゴソと音がしていたが

「はい。着替え終わったからこっち向いても大丈夫だよ」
「すみません」

 とりあえず見てしまったので謝っておく。

「そんな気にしなくてもいいのに」

 美由希さんは笑って許してくれるが、こちらとしては精神年齢と肉体年齢にズレがあるので多少罪悪感がある。
 それにしても朝からジャージとは何かトレーニングでもするのだろうか?

「今からトレーニングか何かですか?」
「ん? うん。道場でね。士郎君も来る?」
「はい。出来れば俺も身体を動かしたいんですが」
「う~ん。ちょっと待ってね」

 美由希さんが俺の言葉に頷いて、クローゼットを漁り始める。

「あった。じゃあ、これ使って。シャツはそれでいいと思うから」
「ありがとうございます」

 差し出されたのはサイズが小さいジャージのズボン。
 今の俺にとっては十分大きいが、裾をおれば十分着ることも可能だ。
 それに着替えて、美由希さんと道場に向かう。

「おはよう。恭ちゃん」
「おはようございます」
「おはよう。シロ君も一緒か」
「ええ、少し身体を動かしたいので」
「ああ、好きに使ってくれ。なら美由希、昨日の続きだ」
「うん」

 美由希さんが恭也さんの指示の下、鍛錬を始めたので俺も好きにやらせてもらうとしよう。
 それにしても道場はやっぱりいいな。
 冬木の家を思い出すし、落ち着く。
 大きく深呼吸して、身体の柔軟から始める。

 いくら死徒の肉体を持っているからといってもまだ成長途中の子供である。
 俺が自分の戦い方を理解したのは聖杯戦争の時。
 それから身体を作ってきたが、この世界に来て、身体が子供に戻ったのだ。
 目指す場所が分かっているのなら今の段階からしっかり鍛えていけば、元いた世界の肉体年齢に辿りついた時、格段にレベルが上がる。
 このチャンスを無駄にせずしっかりとやっていくとしよう。

 柔軟が終わり、小太刀の木刀を二本借りて構える。
 死徒の肉体能力を可能な限り抑えこみ、素振りを行い身体の調子を確かめる。
 大丈夫。違和感も何もない。
 
 そして、仮想の敵をイメージする。
 相手はランサー。
 ちなみに休日の仮想の敵はセイバーだったりする。
 元いた世界にあらゆる一流の使い手達がいるのだ。
 それらを仮想の敵として訓練していく。

 しかしやはり子供の身体になり、色々無茶がしにくくなった。
 間合いが狭くなり、体重は軽くなり、武器の重さに身体が振り回されやすくなる。

 死徒の肉体能力は抑えたまま、仮想のランサーとの戦いを続けるが英霊クラス相手に子供の身体は無謀すぎるな。

 一気に間合いを詰めてきての心臓への突きを逸らし、一歩踏み込む。
 と同時にランサーは槍を横に薙ぐ。
 受け止めてはいけない。
 体勢が崩れ終わりだ。
 槍の間合いから一気に離脱する。
 再度踏み込もうとするが、首、心臓、鳩尾への三連突きに歩は止められる。
 さらに放たれる突き。
 逸らして間合いに入ろうとしても横薙ぎがそれを阻む。
 何もかもが足りない。
 わざと隙を作り、攻撃箇所を限定させ、ランサーの腕の動き、視線、足の運び、全てを見極めて次の攻撃を予測し、剣を振るう。




side 士郎(父)

 何故か道場が無性に気になって、道場に足を向ける。
 そこには気になった原因がいた。

「……これは」

 シロ君の素振り。
 恭也と美由希も興味心身に見ているので横に並ぶ。
 だがそれを見ただけでわかった。
 彼には才能はない。
 どれだけ行っても二流止まり。
 しかし気になったのはそれではない。
 美由希も恭也も士郎君の素振りを見ているのにシロ君はそれに気が付いてない。
 完全に自己のみに意識を向けている。
 ここまでの集中力を出すのもすごい。
 そして、素振りが終わり、腕を下げて、瞳を閉じた。

「え?」
「「っ!」」

 瞳を開いた瞬間、シロ君の纏う雰囲気が変わった。
 その変わりように美由希は完全に呆けてしまっている。
 シロ君はただ道場の壁を見つめる。
 しかしその瞳には確かに誰かが写っている。
 次の瞬間、シロ君の剣が奔り、何かを逸らし、踏み込む。
 だが何かに阻まれて後ろに回避する。

「お父さん、これって」
「ああ……槍だな」

 剣の動きをみる限り、シロ君の瞳に映っているのは槍の使い手。
 それもただの空想した相手ではなく、過去に戦った事がある相手なのだろう。
 
 仮想の敵が放つ突きを確実に逸らし、受け流していくシロ君。
 だがそんな中、隙ができてきた。

「これが恭也がいっていた」
「ああ」

 俺の言葉に恭也が静かに頷く。

 恭也と美由希からシロ君が魔術師であり、恭也と正面から戦える実力を持つという事は聞いていた。
 だが実際に見るととんでもない。

 一体どれだけの戦いを、死地をくぐり抜けてきたのか。

 なのはと同い年の子がこれだけの技術を持っている事に驚きと同時に悲しくもなる。

 そんな中、仮想の槍兵に敗れ、士郎君が動きを止め、大きく息を吐いた。




side 士郎

 今ではこれが限界か。
 仮想のランサーに心臓を突かれ、大きく息を吐く。

 仮想戦闘で干将・莫耶が砕かれる事、八。
 弾かれる事、十七。
 今の肉体ならこれが限界だろう。
 死徒の能力などで多少は向上できるが、やはり身体が成長途中でまだ出来あがっていない子供ではなかなか難しいところだ。

 といつの間に来ていた士郎さんを含めた高町家の三人がじっとこちらを見ていた。
 少しやり過ぎたか。

「今の相手は槍かな?」
「はい。自分の知る限りでは最速の槍兵です」

 美由希さんは単純な驚きのようだけど、恭也さんはどこか探るような視線だ。
 士郎さんは俺の動きを初めて見た割に驚いていない。
 恭也さん達から話を聞いていたのかもしれないな。

 しかし鍛錬に集中しすぎたな。
 平穏な生活で気が抜けているのかもしれない。

 なにより見せても実際の戦闘には支障のないレベルとはいえ、周囲に人がいるところでするものではなかった。
 剣道でも剣術でもなく、生き残るための殺すための戦場の剣。
 それが俺の剣なのだから。

 道場の空気が重くなるが

「おはよう。もうすぐ朝御飯だよ~」

 なのはが現れたことでその空気も一気に霧散した。
 それに若干安堵しつつ、何か忘れているような違和感を感じた。

「……あ」

 違和感の原因が分かった。
 本日は平日である。
 当然の事だが今日も学校である。
 そして、俺は前日なのはの家に泊っている。

 さて、本日の授業の教科書などはどこにある?
 答えは我が家。
 少なくとも高町家でのんびりとご飯を食べている余裕はなさそうだ。

「すいません。今すぐ帰ります」

 服に関しては後日洗ってお返しするという事にして、今は家に帰るのが先決。
 俺がいきなり帰ると言ったことに他の方々は理解が追いついていないようだ。

「いきなりどうしたんだい?」
「今日の授業の教科書を取りに一度戻らないといけないので」

 俺のその言葉になるほどという顔で頷く士郎さん。

「本当にお世話になりました。
 なのは、悪いけど桃子さんにありがとうと伝えといてくれ。
 それでは失礼します」
「気をつけて帰るんだぞ」

 士郎さんの言葉に手を振って、死徒の能力を使わないように駆ける。
 家に戻るなり、軽く汗を流し、制服に着替え、学校に向かう。

「ギリギリだな」

 そして、予想通りギリギリに教室に滑り込んだのである。




side なのは

「士郎君、大丈夫かな?」

 私は外を見ながらそんな心配をしていた。
 昨日、私の家に泊まったせいで教科書がないので家に一度戻ったけど間に合うかな?
 それにお母さんは少し残念そうだった。
 今度はこんなことにならないようにちゃんと計画を立てよう。
 それに私は気になったことがあった。
 道場に行って木刀を持つ士郎君の後ろ姿を見た時、なぜかアーチャーさんに見えた。

(ねえ、ユーノ君)
(なに、なのは)
(士郎君がアーチャーさんっていう可能性はないのかな?)
(……どうしてそう思ったんだい?)

 どう説明したらいいのかな?
 私の勘違いといってしまえばそれまでだし。
 だけど話してみないと始まらないよね。

(道場にお父さん達を呼びに行ったとき、士郎君も道場に居たんだけど
 一瞬アーチャーさんに見えたの)
(う~ん、さすがに僕は直接見てないから何とも言えない。
 だけどなのはがそう言うんだったら可能性はあるかもしれない)
(そうかな? でも士郎君からは魔力は感じないんだよね?)
(いや、それは関係ないと思う。あのアーチャーも魔力を感じなかった。
 恐らく何らかの魔力を隠蔽する道具を持ってる可能性が高い)

 そっか。
 初めて会った時もレイジングハートで追いかけられなかったし、魔力を感じなくても不思議じゃないよね。

(魔力を隠蔽する道具ってどんなのかな?)
(う~ん。たぶん常に身に付けられて、付けててもそこまで派手じゃないモノかな)
(アクセサリーみたいなってこと?)
(うん、そう)
(わかった。ありがとう)

 うん。
 やっぱり話してみて大正解。
 それにしてもアクセサリーか。
 ペンダントとか指輪とかかな?
 よし。士郎君が来たらこそっと見てみよう。




side 士郎

 さすがに疲れた。
 しかも疲れた原因が走ったことではなくて、死徒の肉体能力を隠すことに疲れたのだから笑い話にもならない。

「今日はどうしたの? やけにギリギリだったけど」

 珍しそうにアリサが尋ねてきた。
 後ろにすずかもいる。
 今まで常に余裕を持って登校してたから疑問に思ってもおかしくはない。
 だが

「まあ、ちょっとな」

 絶対に言うわけにはいかない。
 言えば、昨日の再来。
 いや、あれすらも凌駕するだろう。
 というか絶対する。
 だが俺のそんな願いも虚しく散ることとなる。

「士郎君。お母さんが朝ごはんにって」

 なのはがおにぎりを三つほど差し出してくれた。

「ありがとう。助かるよ」

 わざわざ用意してくれた桃子さんに感謝しつつ食べる。
 うむ、うまい。
 お菓子作りといい、料理といい本当に素晴らしい腕前だ。

「なのはちゃん、士郎君が遅れるの知ってたの?」
「うん。士郎君、私の家から一回帰ってから来たから」
「「……」」

 アリサとすずかも固まり、クラスメイトも固まった。
 静かだ。
 とっても静かだ。
 もっとも嵐の前の静けさだが。

「……それって士郎がなのはの家から朝帰りしたってこと?」
「え? 朝帰り……」

 なのはの顔が一気に赤くなった。
 アリサの奴め、余計な言い回しを。
 また無駄に話が歪んで伝わっていく。
 アリサとすずかがこちらを向く。

「……悪いが完全に誤解しているぞ」
「ふうん、どう誤解してるっていうのよ?」
「うん。詳しく教えてほしいな」

 そんなふうに威圧されても困る。
 それとアリサにすずか、お願いだからその笑顔で威圧するのはやめてくれ。
 アリサは遠坂やルヴィアの悪魔の笑みにそっくりだし、すずかは桜の冷たい笑みにそっくりだ。
 とそんな事を気にしている場合じゃないらしい。
 どこか壊れた表情で立ち上がる男子諸君。
 朝っぱらから鬼ごっこはこの世界に来てからは初めてだな。
 だが残念ながら、少しばかり動き出すのが遅い。
 そんな俺の思いを現すようにチャイムが鳴った。

「は~い。席についてホームルームを始めるわよ」

 先生が入ってきたので男子諸君も渋々ながらも席に着く。
 もっとも授業の合間の休みなどは即座に逃げないとまずいことになるな。
 授業を聞きながらため息を吐いた。 
 

 
後書き
第十三話でした。

寝ぼけていたのか後書きのコメントが変だったので少し修正。
今週は次の十四話までです。

ではでは 

 

第十四話 出会いとは突然やってくる   ★

 その日は学校が終わると同時に外に駆ける。
 さすがに今日はすずかとアリサから間違いなく色々と聞かれる。
 かといって、なのはと二人で帰ろうものなら鬼ごっこが始まるだろう。
 ちなみにお昼は桃子さんがお弁当を用意してくれたので大変助かった。
 今日は執事のバイトもないので夕飯の買い物をして夜に備えるとしよう。

 そういうわけで一度、家に帰り、着替えを済ませ、買い物に出かける。
 ついでなので軽く海辺の方まで足を伸ばして、異常がないか眼で確認していく。
 その途中である匂いを感じ取った。

「……血か」

 死徒の身体になってから血臭にはかなり敏感になっているから気がつけたが普通では気がつかないだろう。
 風上だから俺が初めて夜を過ごした海鳴臨海公園のあたりか。
 そちらに歩みを向ける。

 公園の中に入ってすぐにフェイトと見覚えのある赤い狼、確かアルフと呼ばれていたか。
 その二人組が共に歩いているのが見えた。

 そして次の瞬間、アルフがこちらを向いて、警戒する。
 そのせいでフェイトもこちらを向いてしまって視線が交わる。
 フェイトはアルフの方に一度視線を向けて、驚いたようにこちらに視線を戻す。
 明らかに警戒している。

「……どういう事だ?」

 前回会った時にはフードも仮面もしていたからばれるはずはないと思ったのだが。
 何か見落としてる。
 ……狼?
 俺と同じということか。
 つまりは俺の匂いに狼であるアルフが反応したのだ。
 俺にも遠坂のうっかりがうつったのかもしれない。
 ため息を吐きつつ、フェイトとアルフに話しかけた。




side フェイト

 ジュエルシードの反応を探して、海辺の公園を歩いていると
 急にアルフが警戒する。
 その方向を見ると白い髪に赤い瞳の同じ年頃の男の子がいた。
 なんでアルフがあの子を警戒しているのかわからずアルフに視線を向ける。

(アルフ、あの子がどうかしたの?)
(あいつ、アーチャーと同じ匂いがする)

 アルフの言葉に身体が強張る。
 いつでも動けるように足を軽く開く。
 私の行動を見て、その男の子はため息を吐きながらこっちに向かってくる。
 先手を取らないと
 一気に踏み込もうとするけど

「こんな一般人のいる場所で戦うつもりか?
 そのような力を持っているのだ、多少自重することぐらい知っているだろう?」

 その言葉に踏みとどまった。
 確かに周りには一般人が多少ながらいる。
 その人たちを巻き込むわけにはいかない。

「とはいえ話をするにもここは人が多すぎる。
 どうだ? 君の家か私の家、どちらかで話をしないか?
 無論選択は君がすればいい」

 その子はそんな事を言うけど話す必要なんてない。
 だけど

「ちなみに話をしないというなら余計な危険を避けるためにこの場で排除させてもらう」
「っ! ずるいですね。初めから選択肢を狭めるなんて」
「私としても無駄な争いは好まんが色々思う事があってね」
「……なら私の家に案内します」

 相手の実力がわからないのだから少しでも自分の陣地の中を選ぶことにした。




side 士郎

 フェイトの案内され、海鳴市の隣の市までやってきた。
 なるほど、どおりでフェイトの魔力を全然感知しなかったわけだ。
 海鳴市から出てしまえば俺の感知結界外だ。

 ちなみにフェイトの家に平然とついて行っているのにも理由がある。
 なのはの家を見ても結界も何も張っていなかった。
 となるとフェイトの家にも結界の類を張っていない可能性が高い。
 仮に張っていても家に入る前に解析をかければ結界の有無はわかる。

 で辿りついたのは高層マンション。
 案の定というか認識阻害の結界も張られていない。
 部屋に入り、ソファーに腰掛ける。
 それと同時に狼が人になった。
 いや、耳や尻尾など名残は残っている。

「驚いたな。まさかこれほどの使い魔を使役しているとは」
「ふふん。フェイトは優秀なんだよ」

 俺の驚きに気を良くした元狼の女性がにやりと笑う。
 まあ、その話は後にするとして

「さて、自己紹介しておこうか、前回はアーチャーと名乗ったが、本名は衛宮士郎。
 士郎と呼んでくれ。で名前ぐらいは教えてくれるのかな?」
「フェイト、フェイト・テスタロッサです。こっちは」
「フェイトの使い魔のアルフだよ」

 フェイトとアルフか。
 二人とも戦いの中での会話で名前は一応知っていたが、やはりこう名乗ってもらえるといいものだ。

「さてフェイトとアルフ、さっそく本題に入る前にだ」

 俺はフェイトに静かに視線を向ける。
 それにアルフも警戒してか腰を上げて、一歩前に出る。

「フェイト、まずは服を脱げ」
「…………は?」
「…………え?」

 ん? なぜか二人が固まった。
 そして、フェイトは一瞬で真っ赤になる。

「え、え、えと……」

 真っ赤になった状態で視線を彷徨わせ、挙動不審になってしまった。
 どっちかというとこれがフェイトの素のようだ。
 恐らくは前回会ったときは感情を抑えていたのだろう。
 こちらの方がかわいらしい。

「いきなり何を言ってるかこのエロガキ!!」

 跳びかかってきたアルフを軽くあしらい。

「傷があるだろう。血のにおいがする」
「「っ!!」」

 俺の言葉にフェイトとアルフも固まった。
 どうやら覚えはあるようだ。
 もっともだからといって素直に従う気はないようだが。

「力づくで脱がされるのと、自分で脱ぐのどっちがいい?」

 しばらくフェイトは真っ赤になったまま落ち着かずキョロキョロして

「……自分で脱ぎます」

 微かに聞こえるぐらいの声で返事をした。
 それにしてもいまさらだが結構まずかったな。
 異性に裸を見られれば恥ずかしいのは当たり前なのだが、傷の方を優先して、完全に失念していた。
 もっともフェイトが恥ずかしがっているのが……何とも言い難いが悪くないと思ったり…………俺の思考も歪んできたか?
 今は気にしまい。

 そして、フェイトは上を脱いでその脱いだ服で前を隠して顔を真っ赤にしている。
 とりあえず謝るのは後だ。

「では背中を見せてくれ」



 静かに頷いて、背中を向けてくれるが酷い。
 見覚えのある傷だ。
 恐らく鞭だろう。
 裂傷がいくつもある。
 下手をすれば傷が残りかねんぞ。

「アルフ、薬の類はあるのか?」
「こっちの世界のなら多少はあるけど」

 アルフが差し出したのは市販の傷薬や消毒薬。
 多少の傷ならこれでもいいがこの裂傷では治りきれん。
 宝具なら完全に治癒させることもできる。
 だがその場合膨大な魔力がなのは達に察知される可能性もある。
 いや、躊躇う必要もない。
 魔力が察知されるのなら洩らさなければいい。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 手に握るのはアゾット剣。
 いきなり武器を握った俺にフェイトが身体を固くし、アルフが今にも跳びかかろうとするが関係ない。
 アゾット剣を床に置き

「―――Anfang(セット)

 アゾット剣を中心に結界を展開する。

「これって……」
「簡易の結界だ。短い時間だが魔力が外部に漏れること防ぐだけの単純なものだがな。
 そのまま楽にしろ。傷の治療をする」

 眼を閉じて、自分の内面に潜る。
 投影できぬはずがない。
 なにせこれは授けられた俺の体の一部となったモノなのだから

「―――投影、開始(トレース・オン)

 そして、俺の手には光輝く鞘が握られた。




side アルフ

 訳がわかんない奴。
 それが士郎の感想。
 公園で敵意を見せたかと思ったら、部屋に来てフェイトの傷を見てる。
 もっともいきなり服を脱げはないけどね。

 士郎がフェイトの傷を見ながら何かつぶやく。
 そして、次の瞬間には宝石がついた短剣が握られていた。
 フェイトと士郎の位置が近すぎる。
 私は下手に動く事も出来ずに士郎を睨むだけ。
 だけど、私の心配も無意味だった。
 士郎は短剣を床に置き

「―――Anfang(セット)

 一言言葉を紡ぐ。
 それだけで世界が変わった。
 結界。
 だけど術式も魔法とは全然違う。

「これって……」
「簡易の結界だ。短い時間だが魔力が外部に漏れること防ぐだけの単純なものだがな。
 そのまま楽にしろ。傷の治療をする」

 結界の効果がわからず、士郎に視線を向けたら当たり前のように答えた。
 確かに簡易結界だろう。
 だけど術式が魔法と比べるもなく細かい。
 ただ結界の外と中を遮るだけのモノ。
 私が結界の呆けている間に士郎が目を閉じて

「―――投影、開始(トレース・オン)

 今度ははっきりと言葉を紡ぐ。
 それと同時に凄まじい魔力を放つ、光輝く物体がそこにはあった。
 武器……ではないみたい。
 盾でもない。

 士郎はその物体を静かにフェイトに押し当てる。

「うくっ!」

 フェイトが呻いたので痛いのかと思ったら違う。
 フェイトの傷がどんどん消えていってる。
 それもあと一つ残さず、まるで最初からなかったように
 そして、その光るモノはフェイトを纏うようにフェイトの中に吸い込まれた。
 あまりにも幻想的な光景に私もフェイトも呆然としてしまう。

「これでいい。向こうを向いてるから服を着てくれ」
「は、はい」

 そういい、士郎は背中を向ける。
 フェイトは未だ驚きながら服を着始めた。

 フェイトの傷を治してくれたのは心から感謝している。
 だけどますます理解できなかった。
 士郎が一体になんのために動いているのかが。




side 士郎

 フェイトも服を着直したので、改めて話を始めることにしよう。

「まずはじめに恥ずかしい思いをさせてすまなかった」
「いえ、傷を治してもらいましたし」

 まだ若干顔が赤いが、感謝された。
 さてここからはまじめな話だ。

「さて、私から君たちに二つ質問がある」

 俺の言葉にフェイト達が体を硬くする。
 それと同時にフェイトの表情も一気に引き締まった。

「仮に質問に答えたとして、なにか私達に利点があるとは思えませんが?」

 フェイトの拒絶の言葉。
 まあ、当然の言葉だろう。
 しかしこれも想定内。

「気付いていないのか? あの街、海鳴市の結界を」
「ふん。それがなんだってんだい。誰が張ったか知らないけどあんなもの私達の邪魔には」
「それはそうだろう。あれは単なる感知結界だ。別に入るモノを阻むものではない。
 あとあれを張ったのは私だ。私の領域で不穏な動きを察するためにな。
 これだけ言えば私が言いたいことはわかるな」

 フェイトも俺の言葉に難しい顔をしている。
 アルフは理解しきれなかったのか、不思議そうな顔をしている。
 俺が言いたいことは簡単なことだ。
 俺の領域、といっても自分でそう言っているだけなのだけど。
 そこであからさまな魔術、フェイト達にとっては魔法の行使をしたことを特別咎める気はない。
 俺が知りたいことは事の一つが

「貴方の領域に勝手に侵入してまでジュエルシードを確保する理由と私達が貴方の敵か、という事ですか?」
「そうだ」
「あの白い子は黙認しているのにですか?」

 白い子?
 ああ、なのはのことか

「あの娘とも一度話したことがある。その中で敵ではないと判断したため黙認しているだけだ。
 もっとも一般人に対する秘匿行動が欠如していたのでな。
 これ以上秘匿出来ない場合は外敵と判断すると警告はさせてもらったがね」

 フェイトはどう答えるべきか悩んでいるようだ。
 無理もない。
 素直に話せば黙認されるかもしれないが、一歩間違えばこの場で戦いになりかねないのだ。
 どう答えるかは悩むだろう。
 そして、答えを出したのかゆっくりと口を開いた。

「まず私達は貴方がジュエルシードの回収を黙認するなら敵対する意思はありません。
 あと理由は答えられません」

 ……妙だな。 
 この子は頭がいい。
 この状況で理由を答えない方が危険という事はわかっているはずだ。
 答えずに俺が納得しなければ海鳴市に入ることすら危険が及ぶぐらいの事は理解しているはずだ。
 それでも答えないという事は

「誰か大切な者の願いか」
「っ! なんで」

 集めること自体は自分の意志だが、その目的は第三者のためという事。
 それにあの鞭の傷跡。
 フェイトがなんの抵抗をせずにあれだけの傷を受けるという事は考えにくい。
 恐らくあの傷跡をつけたの者がフェイトにジュエルシードを集めさせている者。
 さらにフェイトぐらいの年齢の子供があれだけ傷つけられても言う事を聞いているとなると恐らくは

「君を動かしているのは父親…………いや、母親か」

 母親といわれた瞬間、フェイトの表情が微妙に動いた。
 なるほど、予想通りだな。
 もっとも母親がこの場にいない今、理由を聞くことすらできない。

「ならば理由はこれ以上聞かないし、ジュエルシードの回収も黙認する。
 だが君もあの街で行動するなら一般人に対する秘匿はしてもらう」

 俺の言葉にフェイトが安堵し、表情が少し緩む。
 フェイトの母親に対するコンタクトに関してもこれから考える必要はあるか。
 とその時

「士郎っていったね。あんたの質問には答えたんだ。
 私達からの質問にも答えてくれるんだろうね」

 急に口を出したのはアルフ。
 恐らくは前回会った時の魔術行使についてだろう。

「構わない。もっとも答えられる範囲だがね」
「なら答えてもらうよ。あんたの魔法。あれはなんだい?」

 フェイトもアルフと同じように俺の魔術に興味がるのだろう。
 眼がじっとこっちを見つめている。

「そもそもの前提が間違っているのだがね。あれは魔法ではなく魔術だ」
「え?」
「は?」

 俺の言葉に二人は意味がわからないとばかりに固まっている。
 まあ、無理もないだろう。
 あまりにも違いがある。

「フェイトは魔導師だな?」
「え? は、はい。ミッドの魔導師です」

 いきなりの俺の質問に戸惑いながらも頷く。

「俺は魔術師。昔から裏の世界に存在する魔術技術を行使するものだ」

 俺の言葉にアルフが立ち上がり睨みつける。

「バカなこと言うんじゃないよ。この世界に魔法技術なんて」
「アルフ。それは決めつけだ。
 現に私というのが存在する。もっとも他に魔術師がいるのかといわれれば知らないがね」

 俺の言葉にアルフは納得できないが反論できないようで渋々と腰を下ろした。
 それにしても妙だな。
 なのはと一緒にいたイタチもそうだったが、フェイトもミッドの魔導師と言った。
 そしてアルフはこの世界と言った。
 まるで自分達が別の世界の人間のようにこのことも確認する必要はあるな。

「では貴方はジュエルシードをどうするつもりですか?」
「回収する意思のある者がいるのだからその者達が回収するというのなら止めない。
 だが一般人対する秘匿が不可能になる場合や危険が及ぶ場合は破壊する」

 俺の発言にフェイト達は眼を見開いて固まっている。
 それほど驚くようなものか?

「あれを破壊できるのかい?」
「多少不安定ではあるが、あれぐらいならまだ何とかなるレベルだ」

 当たり前のように答える俺を本当に人間かというような眼で見ているアルフ。
 まあ、当然の反応かもしれないが、聖杯に比べれば魔力は少ない。
 一つぐらいなんとか出来る。

「あとはこちらからの個人的な要望だが、君が言っていた白い子。
 あの子の前ではアーチャーと呼んでほしい。
 いずればれるだろうが、わざわざ教える必要はない」
「わかりました」
「あいよ」

 俺の個人的な要望にはあっさりと頷いてくれた二人。
 さてここからだ。

「それとフェイト、先ほどミッドと言ったが、君は別の世界の人間か?」
「え? は、はい。正式にはミッドチルダという次元世界の出身です」

 なんだかおかしな話になってきた。

「フェイト、次元世界とはなんだ?」
「えっと……様々な世界が並行世界として存在、歴史を重ねているものかな」

 並行世界?
 いや、フェイトの話だと第二魔法の並行世界とは根本的に考え方が違う。
 俺の世界でそんな話は聞いたことない。
 機会があればそちらの世界の事を調べる必要もあるかもしれないな。
 今はこの世界以外に別の世界が存在しているという事を理解していればいい。

 さて、結局夕飯の買い物もしていないがいい時間だ。
 そういえば

「二人とも食事はどうしてるんだ?」
「え、インスタントの食事とか……簡単な…………えっと」
「どうしたんだ? 続けてくれ」
「あう……」

 なんでだろう?
 急にフェイトとアルフが怯え始めた。




side アルフ

 士郎の個人的な要望に頷いてお互いに一息ついた。
 そんなとき士郎の視線が窓の外に向いた。
 結構いい時間だね。
 そんな事を思っていたら

「二人とも食事はどうしてるんだ?」

 と急にそんな質問をした。
 士郎の質問にフェイトが普通に答える。いや答えようとした。

「え、インスタントの食事とか……簡単な…………えっと」
「どうしたんだ? 続けてくれ」

 にこやかに続けてくれって言うけどその視線は明らかに笑ってない。
 下手にこれ以上発言したらマジで殺されそうだ。

(あ、アルフ、代わりに答えて)
(む、無理だよ。下手に答えたらマジでヤバイって)

 前回の戦闘がまるでお遊びのような威圧感。
 まずい。
 何が士郎の怒りの原因か知らないけどまずい。
 その中、急に士郎が立ち上がる。
 びくっ! と怯えるフェイトと私。
 そんな私達を置いて士郎は台所にいって、冷蔵庫の中身とゴミ箱の中を確認。
 確か冷蔵庫の中にはフェイトの菓子パンと飲み物。
 ゴミ箱にはインスタント食品だっけか。
 この世界の簡単な食料の食べ残しなんかが捨ててある。
 それを確認した士郎はなぜか大きくため息を吐いて、何かメモをしだす。
 そして

「フェイト、字は読めるか?」
「え? 簡単のなら」
「なら、これを近くのスーパーで買ってきなさい」

 そう言いながらメモとこの世界のお金を差し出す。
 フェイトも思考が追いつかないのか、お金と士郎の顔を何度も見ている。
 だけど

「フェイト」
「はいっ! 行ってきます!」

 名前を呼ばれただけでフェイトは全速力で外に駆けて行った。
 なんだかよく知らないけど、これでフェイトは大丈夫なはずだ。
 だけど私の目の前には

「さて、いくつか聞きたいことがある。もちろん答えるよな」

 有無を言わさない威圧感を放つ士郎が立っていた。




side 士郎

 まったくなんだこの食生活は。
 インスタントのスープや簡単な食事ばかり。
 明らかに育ち盛りの子供にとって栄養が足りていない。
 とりあえずフェイトは買い出しに行かせたからアルフに吐かせる。

「フェイトはほとんど食事をとってないな」
「う、うん。私が言っても食べてくれないんだ」

 やはりか、ゴミ箱の中に明らかに手をつけてないのがあったからもしやと思ったが、結構深刻ではある。

「あの鞭の傷も母親からのものだな」
「ああ、そうだよ。あのババア」

 明らかに苛立ちの表情で吐き捨てるアルフ。
 しかしアルフがフェイトの虐待をただ見ているとも思えない。

「アルフは止めれないのか?」
「フェイトも大丈夫って言って聞かないし、あのババアの扉は私じゃ突破できない」

 つまり手段さえあれば止めれる可能性はあるか。
 まあ、今回は特別だな。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 聖騎士ローランが持ちし、決して折れず、切れ味の落ちないといわれた宝具、デュランダル
 それが鞘に入った状態で俺の手に握られる。
 それを聖骸布で包み、アルフに差し出す。

「これを使え、これなら大抵のものは叩き斬れる。
 だが使う時まで布を外すな。そうすれば魔力も漏れることはない」
「……いいのかい? これをあんたに向けるのかもしれないんだよ」
「それを使う時を間違えば俺は躊躇しない。そう言えばわかるだろう」

 これをフェイトを助けること以外、例えばなのは達に向けたりすれば殺すと言っているのだ。
 だがアルフは俺の言葉に満足したように頷いた。

 さて、俺も準備を始めるとしよう。
 立ち上がり台所に向かう。

「何をするつもりだい?」
「フェイトに食材を頼んだからな。夕飯ができる様に道具を揃えておくよ」

 アルフに答えながら包丁や鍋、フライパンをどんどん投影していく。

「あんた、この剣もそうだけど一体どこから出してんだい?」
「俺が使えるのは転送系の魔術のみでね。この世界のどこかにある蔵から出してるだけだよ」
「へ~、なるほどね。
 しかしそこには鍋なんかも入ってるのかい?」
「外でも調理器具がいつでも出せるから入れておくと意外と便利だぞ」
「なんか使い方を間違ってる気もするけど」

 そんな会話をしている時、なにやらアルフが首を傾げ始めた。
 なにか不思議なことがあったか?
 術式が違う魔術と魔法だから十分ごまかせると思ったのだが

「いや、それ以前にあんた平然と準備してるけど、料理できんの?」
「ふ、その認識、すぐに改めることになる」

 アルフに不敵に笑ってやる。
 玄関から音が聞こえた。
 フェイトが帰ってきたようだ。
 さてお姫様を満足させる料理を作るとしようか。

 で完成したのは炊き込みご飯。、味噌汁、焼き魚に肉じゃが。
 さらにデザートには白玉粉に餡子をのせ、完全に和食である。
 そして三人で

「「「いただきます」」」

 手を合わせる。
 フェイトは恐る恐るといった感じで炊き込みご飯を口に運ぶ。

「ん、おいしい」

 フェイトの顔がほころび、アルフも待ちきれないばかりに食べ始める。
 それを見届けて俺も手をつける。
 うん、いい出来だ。

 結局、フェイトもアルフもきれいに食べきった。
 で食器を片付けているとフェイトが

「て、手伝います」

 と言ってくれたので頷き、一緒に片付ける。
 そんな中

「その、ありがとうございました」
「気にいってくれたならよかった」

 俺の言葉にフェイトははにかんだ様に笑顔を見せてくれた。
 しかしフェイトは良い子だ。
 対しアルフは満腹になったのか椅子に座ってだらけてる。
 少しは主人を見習えというのに

「うい~、満腹。士郎、今度は肉をお願い」

 しかも注文付きだ。
 まったく。

「アルフ、テーブルぐらい拭いとけ」

 台拭きを投げつける。

「しょうがないね」

 アルフもしぶしぶながらきれいにテーブルを拭いていく。
 なんだかんだでアルフも素直だよな。
 片付け終わった後、俺は新たに料理を始める。
 ちなみにシチューだ。

「今度は何を作ってんだい?」

 アルフが後ろから鍋を覗き込んでいる。
 その横にちゃっかりフェイトもいた。

「何って朝食の準備。さすがに朝は来れないからな」

 朝ごはんは一日の基本なのだ。しっかり取らないと

「よし、あとこれをしばらく煮込んでと。
 フェイト、サラダの準備もしているからシチューを温めて、パンと一緒に食べてくれ。
 アルフ、お前の要望に応えて鶏肉のソテーを準備しておくから朝温めて食べろ」

 幸いにも電子レンジなどはあるからなんとかなるだろう。

「あいよ」
「あなたにそんなことまで」

 アルフと特に気にしていないようだがフェイトは口調が固いな。

「敬語はなし。同い年なんだから」
「で、でも」
「…………」
「そ、その」
「…………」
「わかりま……わかった。士郎」
「よろしい」

 よし。押し勝った。

「夜は可能な限り夕飯の準備に来るからいる様に」
「でもジュエルシードとか」
「何か反論があるのかな? フェイト・テスタロッサ君」
「いえ、ありません」
「よろしい」

 フェイトが頷いたことに満足し、フェイトの朝食などの準備を続ける。

 さて、やることがなんか増えてきているが、まあ何とかなるだろう 
 

 
後書き
保存し忘れたのか、後書きが入っていなかったので追加~

続きはまた来週

ではでは。
 

 

第十五話 湯のまち、海鳴温泉   ★

 しばらくは平穏な日が続いていた。
 翠屋と月村家のバイトと学校生活をこなしつつ、フェイトの家に食事を作りに行く。
 自分でもそんな生活を楽しんでいた。

 そんな中の連休、山の中を二台の車が走っていた。
 そして、俺もその車に乗っていたりする。

 なんでも翠屋自体は年中無休らしいが連休の時は従業員にお任せして、家族旅行に出かけるらしい。
 家族旅行といってはいるが、高町家と月村家とそのメイドさん達とアリサも一緒だ。
 はじめは俺も断っていたのだが、月村家の執事にしてなのはの友達なんだからという事で一緒に行かせてもらうことにした。
 ちなみにフェイトにはおにぎりやサンドウィッチをはじめとする連休中の食事をちゃんと用意している。
 さすがに下拵えだけで調理をフェイトにしてもらわないと悪いのもあるのだけど、簡単な調理は出来るようだしなんとかなるだろう。
 ちなみに俺の気のせいかもしれないがフェイトがどこか寂しそうだった。

 それはとりあえず置いておくとして、最近対応に困ることがある。
 今現在、俺は高町士郎さんが運転する三列シートの車の二列目、美由希さんの隣でのんびりと外を眺めている。
 そんな俺へ斜め後ろから視線を向けている相手がいる。
 その視線の主がなのはである。
 しかも今日だけではない。
 ここ最近、首元にやけに視線を感じる。
 俺の首元といえば魔力殺しのアミュレットがある場所である。
 だが、特に尋ねることもなくただじっとこちらの首元を見ているのだからどうにも落ち着かない。

 そんな事を思いつつものどかな時間は過ぎていき、無事に辿りついた。
 古風ないい感じの旅館だ。
 車に乗って固まった体をほぐし、恭也さんと共に荷物を車から降ろす。
 で各自、夕食まで自由行動となった。
 なのは達女性陣は温泉に向かったので俺は浴衣に着替えのんびりさせてもらう。
 温泉はもう少し日が暮れてからだ。
 俺の体には死徒になる前に刻まれた傷跡がいくつもあるので一般人の他の客に見せるのは気がひける。

 それにこの宿には露天風呂があるらしいのだが混浴だ。
 この時間に下手に露天風呂に行けばろくでもないことになるのは可能性が高い。
 というか絶対ろくでもないことになる。
 夜にでもこっそり行かせてもらうとしよう。

 さて、そろそろなのは達もお風呂から出る頃だろう。
 旅館の中を見て回ると言っていたから合流するとしよう。
 そんな事を考えているとちょうどなのは達を見つけた。

 そんな俺の視線の先で、そこになのは達に近づく、一人の女性。

「……一体何を考えている事やら」

 ため息を吐きながらなのは達の方に近づいていった。




side なのは

 温泉から出て、士郎君と合流するために一旦部屋に向かう途中で

「はあ~い、オチビちゃん達」

 急に赤い髪の女の人に話しかけられた。

「ふむふむ。君かね、うちの子をアレしてくれちゃってるのは」

 歩み寄られて、近い距離で見つめられる。
 その眼には明らかに好意的ではない視線が混じっている。

「あんま賢うそうでも強そうでもないし、ただのガキンチョに見えるんだけどな」
「え? え?」

 いきなりの話に混乱してしまって反応できない。
 そんなとき

「人違いではないですか? お姉さん」
「え?」
「士郎君」

 女の人の後ろから現れた士郎君が黙って私の前に立って庇ってくれる。
 ただそれがうれしかった。
 でも……女の人に向ける視線がどこか怖かった。

「あははは、ごめんね。知ってる子によく似てたからさ」
「そうですか。ですが次からは気をつけたほうがいいですよ。
 一般の他の方々がいるんですから、下手な誤解は余計な揉め事を起こしかねませんしね」
「そう……だね。そうするよ。
 ごめんね。にしても可愛いフェレットだね。撫で撫で」

 さっきのようなお姉さんの怖い視線がなくなりほっと胸を撫で下ろす。
 その瞬間

(今のところは挨拶だけね。忠告しとくよ。
 子供はいい子にしておうちで遊んでなさいね。お痛が過ぎるとガブッといくわよ)

 これって念話。
 しっかりと女の人の言葉を受け止める。

「さあって、もうひとっぷろ行ってこようっと」

 女の人はそんな言葉を残して、お風呂の方に行ってしまった。
 もしかしてこの前の子、フェイトちゃんの味方?
 それとも新たな敵さん?
 色々な考えが浮かんでは消えていく。

 だめだめ。
 今はアリサちゃん達と一緒なんだから考えるのは後にしよう。
 士郎君、アリサちゃん、すずかちゃんの方を向く。
 その瞬間固まってしまった。

「……士郎……君?」

 どこか感情のない眼で女の人の後ろ姿を追う士郎君がそこにいたから
 アリサちゃんもすずかちゃんもさっきの女の人より士郎君の方が気になってるみたい。
 そして、女の人が完全に見えなくなって

「ん? どうかしたか?」

 いつもの士郎君がいた。

「ううん。なんでもないよ。行こう」
「そうね」
「うん」

 私の言葉にアリサちゃんもすずかちゃんも頷いて、士郎君も頷いて歩きだす。
 今の士郎君はなんだったんだろう。
 私は士郎君の横顔をじっと見つめていた。




side アルフ

 フェイトのために様子を見に行ったけどまずかった。

「あんま賢うそうでも強そうでもないし、ただのガキンチョに見えるんだけどな」

 そんな事を言いながら半ば挑発するように顔を近づけていった瞬間

「人違いではないですか? お姉さん」
「え?」
「士郎君」

 気配もなく背後に現れて、例の子を守るように前に立った。
 最近よく家に来ているせいで匂いに慣れていた。
 完全に油断してた。
 さすがの私も呆けてしまったけどすぐに意識を切り替える。

「あははは、ごめんね。知ってる子によく似てたからさ」

 笑って自分の間違いと誤魔化す。

「そうですか。ですが次からは気をつけたほうがいいですよ。
 一般の他の方々がいるんですから、下手な誤解は余計な揉め事を起こしかねませんしね」

 うっ!
 目が怖い。
 それに他の方々じゃなくて一般の他の方々って一般人の前で妙な事をしたらただじゃおかないっていう脅しじゃんか。
 士郎の視線から顔を逸らすように例の子の肩に乗っていたフェレットに手を伸ばす。

「そうだね。そうするよ。ごめんね。にしても可愛いフェレットだね。撫で撫で」

 その瞬間殺されるかと思った。
 気がついたら浴衣の中に右手が入っていて何かを握ったように見えた。
 眼には感情がなく、一歩間違えば間違いなく私の命にかかわる。
 でもなんでこんなに急に反応を……そういう事ね

 士郎の反応の原因はすぐに分かった。
 この子の首だ。
 フェレットが肩に乗っていて、その子の首のすぐ横に私の手がある。
 だからか。
 下手にこれ以上動かないほうがいいね。
 マジで殺されそうだし。

「さあって、もうひとっぷろ行ってこようっと」

 フェレットから手を離して、士郎の前から姿を消すけど内心冷や汗ダラダラだった。
 一応、例の子には念話で警告はしておいたけど
 それにしてもなんだろうね、士郎は。
 普段は温和なくせに戦いになればフェイトや私じゃ手に負える相手じゃない。
 フェイトと同い年だったはずなんだけどね。
 一体どんな人生送ればあんな風になるのかね。

 でも……だからこそフェイトの痛みもわかってやれるのかもしれない。




side 士郎

 まったくアルフの奴。
 なのはに詰め寄るような形で顔を寄せたから声をかけることにしたが正解だった。

「あははは、ごめんね。知ってる子によく似てたからさ」

 笑って自分の間違いだと誤魔化していたようだがそれぐらいじゃ誤魔化せない。

「そうですか。ですが次からは気をつけたほうがいいですよ。
 一般の他の方々がいるんですから、下手な誤解は余計な揉め事を起こしかねませんしね」

 一般人の前で妙な事をしたらただじゃおかないと遠まわしに警告をしたが理解してくれたようだ。
 だがそのあと俺がイタチだと思っていたフェレットに手を伸ばす。
 フェレットの横にはなのはの首がある。
 なのはを殺せる位置。
 その瞬間、反射的に懐に手を入れ投影の準備をしてた。

 おかげで無駄にアルフがいなくなった後もなのは達から妙に視線を感じてる。
 まあ、すずかは俺が裏に関わる人間と知っているからいいとしても、なのはとアリサから言わせればある意味異常ともとれる行動だ。
 油断できない生活を送っていたとはいえ反射的に警戒する癖はどうにかした方がいいかもしれない。

 それからは特にトラブルもなく、のんびりと楽しみました。
 めでたし、めでたし。
 と続けばよかったのだが、のんびりとはいかなかった。
 なぜなら

「いい湯だね~」
「う、うん」

 なぜかアルフとフェイトと共に風呂に入っている。

 なぜこんなことになったかというと夕飯が終わり、布団に入るまで少し自由な時間があった。
 というわけで露天風呂にやってきたのだ。
 勿論だが、他の方々に気付かれないように細心の注意も払った。
 特に美由希さん。

 で俺が入浴して一分もしないうちに

「え? きゃっ!」



「あれ? なんで士郎が居んのさ?」

 フェイトとアルフ登場。
 しかもフェイトもアルフもタオルを巻いていなかった。
 驚きお風呂に跳びこむフェイトと平然としているアルフ。
 アルフ、せめて恥じらいはもってくれ。

「……なんでさ」

 油断した。
 なのは達ではなくてフェイト達の方だったか。

「見ました?」
「いや、すぐに目をそらしたから見てはいない」

 ごめんなさい。
 嘘です。
 歳の割に発育がよく……って違う!
 確かにわくわくざーぶんの時はイリヤの水着に一番どきどきしたけど俺は決してロリではない……はず。
 いや、そもそも肉体年齢は9歳でフェイトと同い年だから問題ないのか?
 ……まずい本格的に頭が混乱してきた。

「と、とりあえず向こう向いててください。出ますから」
「いいじゃんフェイト。
 士郎なら見たりしないだろうし、せっかくこんなとこまで来たんだから少しは楽しまないと」
「だけど…………じゃあ、少しだけ」

 というわけで現在の状況である。
 なんとか混乱からも復活したのだが、も特に会話があるわけでもなく。
 ただのんびりと並んで温泉を楽しむ。

「そろそろ出ますね」
「ああ、そっちにも色々あるだろうが気をつけて」
「はい」
「ほんじゃあね~」

 さてと俺も十分に堪能したし湯からあがる。
 まあ、予想外のトラブルがあったが良しとしよう。
 そろそろいい時間だし、間違えて美由希さんでも来ようものなら高町家に泊まった時のお風呂の再現になりかねない。
 そう、あの美由希さんの意外にも豊満な……カット!
 妙な思考はやめよう。

 ちなみに、部屋に戻って露天風呂に行っていたと言ったら美由希さんやファリンさんからずいぶんと文句を言われた。
 ファリンさん、貴方も俺と一緒にお風呂に入ろうと思ってたんですか?
 まったく俺にどうしろというのだ。


 そんなこんなで夜も更け、士郎さん達はお酒でワイワイと楽しんでいるようだ。
 で俺の現状はというとなのは、すずか、アリサの四人で川の字で寝ているのだ。
 いくら小学生といえども男女が同じ部屋というのはどうなのだろう?
 ちなみについ先ほどまでファリンさんが本を読み聞かせてくれていたが、まずはじめにアリサが、続いてすずかが、そして俺となのはが眠りについた。
 
 眠りについたといってもなのはも俺も寝たふりであって実際は起きている。
 なにやらユーノと何かを話しているようだが、念話なのか会話は聞こえない。
 それからしばらく眼をつぶったまま身体を休めていると

「あっ」

 なのはが急に身体を起こした。
 なのはも気がついたらしい。
 端の方とはいえ一応、海鳴市。
 俺の結界にも一応反応し、位置は把握している。
 なのはは音をたてないように着替え、ユーノと共に外に駆けていく。
 なのはを見届けて

「さて、俺も行くか」

 全身黒の戦闘用の服を着て、外套とフードを纏い、仮面をつけて俺も森を駆ける。
 あそこか。
 橋の上にフェイトとアルフの姿を認めた。
 そして周りに妙な感覚があった。
 恐らく一般人が入らないように認識阻害の結界の類を張っているらしい。
 そして、俺より少し遅れて、なのは達も到着した。
 もっとも俺はフェイト達から五百メートルほど離れているのでなのはもフェイトも気が付いていないようだが。

 そして始まる戦闘。
 アルフが人型から狼の姿になり、襲いかかるがユーノの防御に阻まれる。

「イタチじゃなくてフェレットか、動物が空間転移ができるなんて知ったら遠坂達驚くだろうな」

 アルフとユーノの戦いを見てそんな感想をつぶやく。
 最近、なのは達の会話から気がついたのだが、ユーノはイタチではなくフェレットらしい。
 まあイタチにしろ、フェレットにしろ、どちらでもそう変わらないが、小動物が俺達の世界の魔法に近い魔術の一つである空間転移をあっさりと使ったことに驚いている。
 ずいぶんと芸達者な奴だ。

 そして、なのはとフェイトは相変わらず平然と空を飛び戦っている。
 それにしてもあんまり相性自体良くないな。
 砲撃の一撃はなのはの方が強いかもしれないが、後が続かない。
 対してフェイトは高機動を活かして翻弄しながらの近距離から遠距離までこなす。
 なによりなのはの反応がフェイトのスピードに反応しきれていない。
 今回はなのはの負けか。
 そんな事を考えていると案の定というか砲撃の撃ち合いで勝ったなのはが次への行動が遅れ、フェイトの鎌が首元へ寸止めされた。
 そしてなのはの杖からジュエルシードが排出され、フェイトの手に収まる。

「ジュエルシードを賭けていたか」

 しかしなのはもすこし考えないと悪いな。
 フェイトはある意味戦いになるとちゃんと切り替えができているし覚悟がある。
 だけどなのははそれができていない。
 まだ迷っているのだろう。
 はあ、少しはアドバイスぐらいはしてやったほうがいいのかもしれない。
 呆然とするなのはを残し、俺も先に宿に戻って着替える。

 そして、しばらくして
 どこか暗い表情でなのはが戻ってきた。

「おかえり」
「ふえ?」

 宿の前で出迎えた俺に眼を見開いて驚いている。

「えっと、こ、これはね」

 どうやって誤魔化そうか必死になってキョロキョロしだす。
 だけど俺は何か聞き出す気もない。

「ほら」
「わっ!」

 俺が放り投げた物をなのはがなんとかキャッチする。
 ちなみに俺が投げたのは

「浴衣とタオル?」
「露天風呂、行かないか?
 まあ、混浴だから多少気がひけるかもしれないけど
 どうだ?」

 俺の言葉になのはが静かに頷く。
 俺は黙って歩きだすと
 なのはは静かについて来る。
 ユーノはなにか思うところがあるのか、宿の方に戻って行った。

「先に入ってるから入るときは声をかけてくれ。違う方を向いてるから」
「うん。わかった」

 先に浴衣を脱ぎ、腰にタオルを巻いて、露天風呂に浸かる。
 少しして

「士郎君、入るね」
「ああ」

 なのはの言葉に男性側の入り口を向く。
 すると足音が聞こえる。
 なのはが入ってきたようだ。
 そして、何度かかけ湯をして風呂に浸かる。

「もうこっち向いても大丈夫だよ」
「了解」

 二人で肩を並べて

「「ふう~」」

 大きく息を吐く。
 勿論、なのはもタオルを巻いている。
 それから五分ほど静かに夜空を並んで眺める。

「士郎君、私、その」
「なのは、髪を洗ってやるよ。
 森にいたんだろ? 少し汚れているぞ」
「え、あ、うん」

 なのはの言葉を遮って、風呂からあがり、なのはの髪の毛を洗ってやる。
 もともと綺麗ななのはの髪だ。
 それが傷んだりしないように丁寧に洗っていく。

「いいぞ」
「うん。ありがとう」

 再び二人でお風呂に浸かる。
 俺となのはの距離はさっきよりはるかに近い。



 肩と肩が触れるか触れないかぐらいの距離。
 そして、俺から口を開いた。

「なのは、無理に言う必要もない。
 何を悩んでいるのか、迷っているのかも聞かない」
「うん。でも……」
「俺にもなのはに言えないことがあるんだ。だから気にしなくていい」
「……うん」

 なのはは俯いて、温泉の水面を見つめる。

「だけどこれだけは言える。
 迷ったら止まってもいい。だけどいつまでも止まっているな。
 止まっていたら何も始まらない。
 答えが出なくても突き進んでもいいんだ」
「突き進む?」
「ああ、迷っていても答えを得るために前に進むこともある」

 そう。
 今の俺がそうだ。
 俺は元の世界では全てを敵にまわした。
 この世界ではどう生きていくのか?
 遠坂やアルトが言っていた俺の幸せは掴めるのか?
 俺は正義の味方を目指すのか?
 目指したとして俺は正義の味方になれるのか?
 すべて答えなんてまだ見えていない。
 だけど立ち止まることはしない。
 不様でもいい。
 這ってでもただ前を目指して進み続ける。

「うん。進んでみる。
 なんで私があの子の事が気になるのかまだわかんないけど、突き進んでみる。
 でも今は」

 なのはがさらに肩を寄せて、頭を俺の肩に預けてくる。

「いいよ。今は立ち止まってもいい
 少し休んでいいから」

 なのはの膝の上にある手を握り、今はあまえてもいいと優しく声をかける。
 なのははそれに答えず、ただしっかりと手を握り返してくる。
 それで十分。
 俺の道はわからない。
 でも歩んでみよう。

 なのはとフェイトから恨まれてもいい。
 少なくとも後悔しないように。
 なのはやフェイト、一人でも多くの人たちが笑顔でいられるように剣を執ろう。
 例えこの身が血で汚れても

 新たな誓いを胸に俺は未だ出ない答えを探す。




side なのは

 ようやくちゃんと教えてくれたあの子の名前。
 フェイト・テスタロッサ。
 だけど私の名前をいう事は出来なかった。
 私はあの子とどうなりたいのか?
 答えなんて見つからなかった。
 それでも泊っている宿に歩きながらただ考える。
 そして、ようやく宿にたどり着いた時

「おかえり」
「ふえ?」

 宿の入り口で士郎君が立っていた。

「えっと、こ、これはね」

 誤魔化さないと。
 だけどパニックになった頭はうまく働かない。
 そんな私に士郎君は苦笑して

「ほら」
「わっ!」

 士郎君が放り投げた物をなんとかキャッチする。

「浴衣とタオル?」

 私が部屋に置いてきた浴衣とタオル。
 士郎君の行動の意味がわからず士郎君を見つめる。

「露天風呂、行かないか? まあ、混浴だから多少気がひけるかもしれないけど
 どうだ?」

 士郎君と一緒にお風呂?
 士郎君がこの前私の家に泊まったときだって恥ずかしかったからムリだよ。
 でも気がついたら何かに縋るように頷いていた。

(なのは、僕は先に戻ってるから)
(あ、うん。おやすみ、ユーノ君)
(おやすみ。なのは)

 ユーノ君は肩から飛び降りて宿の中に入って行った。

 緊張しながら士郎君の横に浸かる。
 さっきまですごく緊張してたのに温泉のぬくもりに緊張がほぐれていく。

「「ふう~」」

 二人で一緒に大きく息を吐く。
 それから静かに夜空を並んで眺める。
 でも士郎君は何も言わない。
 なんで夜に宿の外に行っていたのかも聞こうとはしない。
 そんな沈黙に耐えられなくなって

「士郎君、私、その」

 必死に言葉を紡ごうとすると

「なのは、髪を洗ってやるよ。
 森にいたんだろ? 少し汚れているぞ」
「え、あ、うん」

 言葉を遮られて髪を洗われた。
 丁寧でとても気持ちいい。
 私の髪を洗ってもらって、再び二人でお風呂に浸かる。
 今度はさっきよりはるかに近くに士郎君がいた。
 違う。
 一人じゃないって実感したくて、士郎君と肩がわずかに触れそうな位置に私が移動しただけ。
 そんな中、士郎君が静か言葉を発した。

「なのは、無理に言う必要もない。
 何を悩んでいるのか、迷っているのかも聞かない」
「うん。でも……」
「俺にもなのはに言えないことがあるんだ。だから気にしなくていい」
「……うん」

 士郎君の言えないこと?
 家族の事とか?
 それともそれ以外にも私のように黙っていることがあるのかな?
 わからない。
 なんにもわからないよ。
 私がフェイトちゃんとどうなりたいのか。
 私が何をしたいのか。
 全然答えが見えない。
 俯いて、温泉をただ見つめる。

「だけどこれだけは言える。
 迷ったら止まってもいい。だけどいつまでも止まっているな。
 止まっていたら何も始まらない。
 答えが出なくても突き進んでもいいんだ」
「突き進む?」

 答えが出ないのに前に行く?

「ああ、迷っていても答えを得るために前に進むこともある」

 ……そうだよね。
 ただ足を止めて考えても始まらないよね。
 答えがいつ出るかなんてわかんない。
 でも、それでも少しだけ勇気を出して前に進んでみよう。
 そしたら、少し答えが見えるかもしれない。

「うん。進んでみる。
 なんで私があの子の事が気になるのかまだわかんないけど、突き進んでみる。
 でも今は」

 少しだけ休ませてください。
 士郎君の肩に頭をのせる。

「いいよ。今は立ち止まってもいい
 少し休んでいいから」

 私の思いに頷くように静かに私の手を握ってくれる。
 一人なんかじゃない。
 あまえさせてくれる人がいる。
 今だけはこうさせてください。

 そしたら、また歩き始めるから

 例え答えが出なくても

 例え悩みながらでも

 前に進むことは諦めないから 
 

 
後書き
第十五話でした。

今回の更新はあともう一話です。
もう少しやりたかったけど、先週少し忙しくて時間がありませんでしたので

ではでは 

 

第十六話 迷える思い

 相変わらずなのはの様子がおかしい。
 温泉から帰ってきても案の定というかはまだ悩んでいるようだ。
 最近は特にひどく、授業中でも完全に上の空だ。

 だがそれも仕方がないのかもしれない。
 ジュエルシードの反応があればフェイトとまだ向かい合う事が、ぶつかり合う事が出来る機会がある。
 しかし最近はジュエルシードの反応自体がない。

 迷いながらでも前に進みたくても、進むために向かい合わないといけない相手がいないのだ。
 進みたくても進めない状況では思考する時間が増えてさらに迷いを生む悪循環だ。
 
 さらにこの状態が続くと

「いい加減にしなさいよ! この間から何話しても上の空でぼうっとして!」
「あ、ご、ごめんね。アリサちゃん」
「ごめんじゃない! 
 私達と話してるのがそんなに退屈なら一人でいくらでもぼうっとしてなさいよ!
 行くよ。すずか」

 やはりアリサが爆発したか。

 教室を出ていくアリサに困惑するすずかに歩みより静かに頷いて見せる。
 すずかも俺に頷き返して、アリサの後を追う。

「大丈夫か?」
「うん。今のはなのはが悪かったから」
「完全には否定は出来ないが、多少アリサも言い過ぎだな」

 それにしても厄介だな。

 ジュエルシードが発動すれば一歩間違えば一般の人たちの平穏を壊しかねない。
 だがアレが発動しなければ、フェイトとなのはが出会い、向かい合う事も叶わない。
 つまりは、なのはが迷いながらでも前に進みたくてもその機会すら得る事が出来ない。

 勿論手段が全くないわけではない。
 今、俺の手元にあるジュエルシード。
 アレを囮にすれば、なのはとフェイトが向かい合う機会も出来るだろう。
 だが周りにどれだけ影響を与えるかわからない、そんな不安定なモノを使う気にはなれない。

「なのは、前に進めないからといって悩みすぎるな。顔色も良くないぞ」
「うん。ありがとう。
 でも大丈夫だから」

 なのはが無理に笑って見せる。
 ずいぶんと頑固だな。
 もう少し頼ってくれてもいいんだけど

「困ったことがあったらいつでも言ってくれ。出来る限り力にはなるから」
「うん、ありがとう」

 俺がアーチャーという事をばらさずに言えるのはここまでだ。
 さて、アリサの様子も見に行かないとな。




side なのは

 温泉から帰ってからも悩み続けていた。
 最初はユーノ君の力になりたかった。
 こんな私でも何かに役に立てればと思った。
 でも今はわからない。

 ジュエルシードは見つからないからフェイトちゃんとも会えない。
 勿論アーチャーさんにも会えない。
 士郎君が応援してくれたから前に進みたいけど前に進めない焦り。

 最近はずっと考えてしまって、あんまり眠れていないし食欲も微妙にない。
 そんな私なんかに気がついてくれたのか、士郎君が心配してくれたけど大丈夫。
 大丈夫だから。
 私は前に進んで見せるから

「レイジングハート、お願い……」

 私はレイジングハートを握りしめて、気がつかないうちに涙を流していた。




side 士郎

 アリサとすずかが消えたほうに歩みを向けると階段のところで話をしていた。
 アリサは確かに怒っていた。
 でも

「少なくとも一緒に悩んであげられるか」

 まったくいい友達を持ったものだな。
 大切な友達だからこそ、悩んで苦しんでいることを打ち明けてくれないのがつらいか。

「まったく、なのはの唯一ともいえる悪いところだな。
 人にあまえるのが、頼るのが下手というのは」

 アリサには俺がフォローするまでもない。
 さてと、俺は戻るとするか。
 踵を返そうとした時

「士郎君、盗み聞きは良くないと思うよ」
「……気がついてたのか?」

 誤魔化すのもなんなので二人の前に姿を見せる。

「ほら、私って音にも匂いにも敏感だから」

 匂いって、まあ夜の一族、吸血鬼の血を引く者としてはそうなのだろう。
 とはいえアルフにしろ、すずかにしろ、匂いでばれるとは平穏な生活で少し鈍ったかもな。

 にこやかなすずかとは対照的に、アリサは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。
 まあそうだろうな。

 なのはの事が大好き等々結構恥ずかしいことは言っていたのを聞かれていたとわかれば当然だろう。

「ゴホン。
 で士郎、あんたは何か知ってんの?」
「……多少はな」
「ならっ!」

 俺の言葉にアリサが睨むが

「悪いが教える気はないぞ。
 なのはがそれを選んだなら俺が教えるわけにはいかない」
「むう」

 アリサもその辺りはよくわかるのか、黙ってしまった。
 アリサもかなり頭の回転が速いからなそこら辺は察することができるのだろう。

「俺から言えるのはただ一つだ。
 待ってやってほしい。彼女が自分で言える時まで。
 そして、その時優しく迎えてやってほしい」

 ジュエルシード。
 アレが本当に危険なモノと判断した時にどの道を選ぶのか決まってもいない自分がいう言葉ではないと苦笑してしまう。

 俺はどうするのだろう。
 なのはとフェイトを守るために、助けるために剣を執る?
 いや、そもそも既になのはやフェイトに殺意を込めなかったとはいえ刃を向けた。

 ならば、もし二人が自分の障害になると判断したら、二人に剣を躊躇わずに突き立てるのだろうか?
 一を切り捨て九を救う正義の味方になるために……

 思考を止めろ。
 今はそれを考える時ではない。
 心を覆え、剣で、剣で、剣で、硬い剣で覆い隠せ。

「彼女が一体どれほど悩んでるかはわからんがな……」

 そう言い残して、俺は踵を返す。




side アリサ

「……言われるまでもないわよ」

 士郎がいなくなった方に向かって静かにつぶやく。

「士郎君」

 すずかも士郎のいなくなった方を見つめてる。
 なんなのよあいつ。

「俺から言えるのはただ一つだ。
 待ってやってほしい。彼女が自分で言える時まで。
 そして、その時優しく迎えてやってほしい」

 そう私達に向けた言葉は何であんなに悲しそうで、寂しそうで、まるで懇願するかのように。
 そして、私やすずかでも、勿論なのはにもでなく、自分自身に向けた苦笑。

 たぶん士郎は一番今のなのはや私達の事を理解しているのだろう。
 それと同時に、一番苦しんでるのかもしれない。

 温泉のときだってそうだ。
 あのなのはに絡んできた女の人。
 あの女の人の背中を追っていた時の士郎の眼。
 忘れるはずがない。
 すぐそばにいるあいつがはるか遠くに見えた。
 感情を感じさせない眼。

 そう、それからだ。
 あいつと帰り道で別れる度に、このまま消えて二度と会えなくなるような錯覚を感じるのは。
 だけどあんたが言うまで私も聞かない。
 でも黙っていなくなるような事だけは絶対には許さないんだから。




side アルフ

 私は扉の前でじっと立っていた。
 ほんとならばもう少し後に一回戻ってくる予定だったのだけど、士郎とあの白い子の三つ巴という想定外の状況の報告も兼ねて、一旦戻ることにしたのだ。
 今回のジュエルシードは二つ。

 今の状況から見れば十分すぎる戦果だとは思うけど、あのババアがどう判断するかはわからない。
 でも今度は助け出せる。
 そのために士郎も武器を貸してくれた。
 赤い布に包まれた剣を握りしめる。
 フェイトには怪しまれたけど誤魔化したから気が付いていないはずだし、私と直接会ってないババアが気がつくはずもない。

 次の瞬間、鞭を打つ音とフェイトの悲鳴が響いた。

「やっぱり!!」

 フェイトに手を出した。
 赤い布を剥ぎ取り、剣を鞘から抜き、鞘を投げ捨てる。
 黒くて見惚れるような刀身。
 それを振り上げて

「うりゃあっ!」

 力任せに剣を扉に叩きつける。
 と

「あれ?」

 異様に手応えが軽い。
 それに剣の腕もない私が振った所為か扉には傷一つ入ってない。
 士郎の奴、鈍らでも渡しやがったのか?
 それとも私が使いなれない武器に間合いを間違ったか?

 そんな事を思ったら
 ズルリと扉がずれて倒れた。
 ……なんて斬れ味。
 私が振ってこれなんだから士郎なんかが振ったらバリアごと斬られそうだ。
 って固まっている場合じゃない。

「フェイト!」

 フェイトを拘束するバインドに剣を叩きつけて、バインドを破壊する。
 崩れ落ちるフェイトを剣を投げ捨てて、抱きとめる。

「大丈夫かい?」
「……アルフ? なんで」
「心配だからに決まってんだろ」

 フェイトを抱きしめて、ババアを睨みつける。
 だけどババアは私なんて興味を持たず、さっき私が投げ捨てた剣を拾って見つめている。
 そして、フェイトに視線を向けて

「フェイト、傷の治癒といい、この剣といい、一体何をしたの?」

 え?
 傷の治癒?
 フェイトの身体を見てみると傷がない。
 服は破けているから確かに鞭で打たれたはずだ。
 でも傷跡も残さず完全に治ってる。

 これって士郎の治療と同じ現象?
 確か士郎が治療に使った光るアレはフェイトに吸収された。
 まさかアレがまだ働いてる?

「……私は何もしていません」
「そう。アルフ、この剣はどこで手に入れたの?」

 初めてババア、プレシアが私に視線を向けた。
 私はプレシアをにらみ返し

「ふん。あの世界の魔導師から少し拝借しただけだよ」
「バカげたことを言うのね。あの世界に魔法技術は」
「現実にあったんだよ」
「……そう」

 剣を私に放り投げて、踵を返す。

「次は母さんを喜ばせて頂戴」

 そう言い残して、プレシアは奥に消えた。
 なんだったんだろう?
 あの剣を見て、あの世界に魔法技術があるとわかった途端これだ。
 フェイトがこれ以上傷つくことがないので一安心だけどあの女が考えてることはわからない。

「フェイト、戻ろう」
「……うん」

 フェイトを抱きかかえて、剣を拾って部屋を後にする。
 あの女が何を考えてるかは知らない。
 でも何をしたってフェイトだけは必ず守ってみせる。




side 士郎

 日は沈み、街には闇が満ちる。
 今日は執事のバイトだったのでフェイトの家にも行ってはいない。
 ちゃんとご飯を食べただろうか?

「ん? フェイトとアルフ」

 海鳴市を巡回させていた鋼の使い魔三体のうちの一体がフェイトとアルフの姿を捉えた。
 こんな街中で防護服を纏って杖を持っているとなると

「ジュエルシードがあるのか?」

 ジュエルシードが発動するまではさすがに結界を張っているとはいえ感知は出来ない。
 俺も出るか。
 黒の戦闘服を纏って外套とフードを纏い、仮面を付ける。
 さて、あんな街中で何もなければいいんだが。
 庭に出て、一気に跳躍して闇の中を駆ける。




side フェイト

 建物の上から街を見下ろす。
 反応はこの辺りのはずなんだけど

「フェイト、この辺かい?」
「うん。この辺りだと思うんだけど大まかな位置しかわからないんだ」
「確かにこれだけゴミゴミしていると探すのも一苦労だね」

 ゴミゴミしてるは言い過ぎな気もするけど、アルフの言う通り。
 この前の森みたいに周りに人とかがいないと結構細かい位置まで絞り込めるんだけど、これだけ多くの人と光が溢れていると見つけにくい。
 だけど方法がないわけじゃない。

「ちょっと乱暴だけど周辺に魔力流を撃ちこんで強制発動させるよ」

 乱暴な方法だけど一番簡単な方法。
 結構魔力を使うから疲れるのが難点だけど

「待った。それは私がやる」

 アルフがそう言ってくれるのはうれしいけど

「それはだめ。アルフには他にしてほしいことがあるから」
「他に?」
「うん。広域の結界を張ってほしいんだ」

 士郎との約束。
 一般人を巻き込まない。
 もしそれを破ったら間違いなく士郎は私達の敵になる。
 そうなったらジュエルシードどころじゃなくなる。
 それに……もう士郎と話せなくなるなんていやだ。

「はあ、仕方がないね。でも私も手伝うからね。
 私が広域結界を張った後一緒に魔力流を撃ち込むよ」
「うん」

 アルフも結構頑固だよね。
 でもそれがうれしい。

「ほんじゃ、行くよ!」

 頑張らないと母さんのためにも




side 士郎

 まあ、ずいぶんと街中で派手にやっている。
 一応、ユーノが前にすずかの家の裏で張ったような結界を張っているのが唯一の助けではある。
 それにしたって

「……天候を操作するほどの魔術、いや魔法か」

 まあ、とんでもないとしかいいようのない魔法だ。
 それになのはの魔力も感知した。
 かなり近くにいるな。
 その時、青い光が溢れる。
 ジュエルシードが発動したようだ。
 俺とジュエルシードの距離は結構近い。
 俺が立っているビルのすぐそばだ。
 そして、なのはとフェイトのジュエルシードまでの距離はほぼ同じ。
 ある意味、なのはにとっては待ちわびた時だろう。
 フェイトに真正面からぶつかり合える、前に進めるチャンスなのだから。

 ならば俺はギリギリまで手を出さないことにするとしよう。
 いい加減になのはにも前に進んでほしい。
 なのはとフェイト、お互いがジュエルシードに向かって杖を構える。
 二人の杖から放たれた桃色の光と金色の光がジュエルシードに突き刺さる。

「リリカル、マジカル」
「ジュエルシード、シリアル19」
「「封印!」」

 二人の詠唱と共にさらに一回り大きな魔力砲撃がジュエルシードに突き刺さり、ジュエルシードの溢れる光は治まった。
 そこには静かに佇むジュエルシードだけ。

 さあ、なのは

 お前の思いをフェイトにぶつけろ。

 前に進むときだ。 
 

 
後書き
第十六話でした。

次回更新は来週です。
来週の更新の時には三話ぐらい一気に更新したいなと思いつつ。

それではまた来週

ではでは 

 

第十七話 破壊の咆哮   ★

side なのは

 大切な友達、すずかちゃんやアリサちゃんとも昔はわかりあえなかった。
 話を出来なかったから。
 本当の思いをぶつけられなかったから

「なのは、早く確保を」
「そうはさせるかい!!」

 赤い狼が襲いかかってくるけど、ユーノ君が守ってくれた。
 ユーノ君のシールドが破れてフェイトちゃんと私の視線が絡み合う。

(ユーノ君、ごめん。その子をお願い。私は)
(うん。任せて)

 ユーノ君は静かに頷いてくれる。
 私はフェイトちゃんに一歩踏み出す。
 私の思いをぶつけるために。
 目的がある同士だからぶつかり合うのはしょうがないのかもしれない。
 でも

「この前は自己紹介できなかったけど、わたしはなのは。高町なのは」

 綺麗な赤い瞳。
 でもなんでそんなに寂しそうなのか。
 私は知りたいんだ。
 だから

 私は前に進む

 例え今はぶつかり合ってでも

 諦めずに前を目指して進み続ける




side 士郎

 止まっていた歩みは進みだす。

「この前は自己紹介できなかったけど、わたしはなのは。高町なのは」

 なのはの声に答えることなくフェイトは空に舞い上がる。
 返事もなくジュエルシードを少しでも早く確保したいとなのはをほとんど見ていない。

 なのは、どうする?
 お前はフェイトと話がしたい。
 だがフェイトは話をするほど精神的な余裕もなく、焦っている。
 向かってくるフェイト相手に今までみたいに守るだけの戦いをするのか?
 それとも一歩踏み出してくるか?

 そんな事を考えた自分に苦笑する。
 なのはがどうするか?
 答えなんてわかっている。

 なのははフェイトから眼を逸らさない。
 例えぶつかり合ってでも思いをぶつけるために、なのはは前に進んでみせた。

「芯のある、覚悟がある者の顔だな」

 まあ、多少真っすぐ過ぎるところもあるがそれもなのはの持ち味だろう。
 白と黒の少女は杖を持って空を駆ける。
 俺はそれを見つめる。

 そんな時

「っ! なんだ?」

 悪寒がした。

 今のはなんだ?
 なのは達が空に上がり、戦う中で一瞬全身を嫌な感覚が包んだ。
 敵?
 違う。
 殺気や敵意の類じゃない。
 もっと禍々しいなにか。

 ビルの屋上から死角になっている場所の視界を確保するための鋼の使い魔達の視線にも何も映らない。
 勿論、俺自身の眼にも映らない。
 悪寒の原因がわからない。
 アルフやユーノに視線を向けるが気がついていない。

 俺が周囲に視線を奔らせている間にも、なのは達は空を縦横無尽に飛び、戦い続ける。
 なのは達が戦えば戦うほど、二人の魔力がぶつかり合う度に、それに応える様に反応が強くなる。
 そう、それはまるで鼓動のように。

 ……焦るな。情報を整理しろ。
 今ここにいるのはなのはとフェイト、アルフ、ユーノ。
 そして、俺と俺の使い魔三体。
 それ以外は視認できない。

 違う。何かを見落としている。

「……鼓動? まるで……聖杯のような」

 そう、なんで今まで思い出さなかった。
 聖杯は魔力が満ちた時、まるで生き物のように鼓動し、産声をあげようとしていたはずだ。
 つまりこの大元は

「ジュエルシード」

 なのはとフェイトの手によって封印された状態だと安心しきっていた。
 だが気がつくのが遅すぎた。
 なのはとフェイトの視線はジュエルシードに向き、一直線に空を駆ける。

「よせっ!!」

 声を荒げ、地を蹴るが何もかもが遅すぎる。

 ジュエルシードがなのはの杖とフェイトの杖の間でぶつかり合う。

 そして、世界から音が消え全てが静止した。

 静止した世界に響く何かが割れる音。

 なのはとフェイトの杖に亀裂が入り、世界は動き出す。

 今までと比べ物にならないレベルの膨大な魔力が放たれる。
 白い閃光。
 その中に飛び出したままの速度で飛び込み、コントロールを失い吹き飛ばされそうになっていた、なのはとフェイトを抱きかかえる。

「ぐっ!」

 だけどそれが精一杯。
 まるで暴風。
 それに弄ばれながらなんとか大地に足を着け、さらに滑っていく。

「フェイトっ!」
「なのはっ!」

 俺のところにアルフとユーノが駆けてくる。
 二人を離し、ジュエルシードに一歩進みながら意識を自分の身体に向け解析をかける。

 ―――魔力、問題なし
 ―――肉体、損傷なし

 あれだけの魔力を溢れさせておいて身体に傷一つつけないとはずいぶんふざけたモノだ。
 だが安心できるものではない。
 魔力を溢れ、青い光の柱が生れるが、それも治まる。
 だがそれは始まりに過ぎない。
 放たれた魔力は再びジュエルシードに集束していく。
 あまりの魔力に世界が軋みをあげる。
 アレはまずい。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」
「アーチャーさん!」

 後ろからなのはの声が聞こえるが反応している余裕はない。
 なのはとフェイトの杖の能力がどれくらいか知らないが、見るからにボロボロだ。
 あれだけのダメージを負っていたらまともに動作するかも怪しい。

 光の中央にあるジュエルシードを睨むが、間に合うか。

 ―――264本の動作可能魔術回路の撃鉄を起こす。

 ジュエルシードから膨大な魔力が放たれた。
 それはまさしく咆哮。
 それを

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」



 七つの花弁で防ぐ。
 だがアイアスは本来投擲武器に対する盾だ。

 今回のような単純な魔力の塊のようなモノを防ぐ盾ではない。
 勿論、俺が投影できる盾は他にも存在する。
 そして、その中にはアイアスよりも魔術的な防御力に優れているものもある。

 だが根本的に盾とは持ち手を守るものであり、後ろにいるなのは達を守れる大きい規模のモノは少ない。
 だからこそ規模の大きいアイアスをあえて選んだのだ。
 しかし問題は他にもあった。

「ちっ! 骨子の想定があまいか」

 投影を急いだためか脆い。
 ジュエルシードの魔力の咆哮に耐えきれず、盾の一枚一枚が城壁に相当するアイアスの七枚の花弁のうち四枚にはすでに亀裂が入っている。
 これでは長くもたない。

 なら諦めるか?
 それこそ、否だ。
 この程度で諦めるはずがない。
 アイアスに魔力を流し込む。

「っ!!!! がぁっ!!」

 アイアスに流し込んだ俺の魔力とジュエルシードの魔力がぶつかり合い盾を支える左腕がぶれる!
 それを必死に抑えこむ。
 
 だが花弁が一枚舞い散ると同時に左腕が耐えきれず、皮膚が裂け、筋肉が断裂し、血が舞う。
 まったくこういう時でも自分の肉体が引き裂かれる音だけはしっかり聞えるのだから嫌なものだ。

「このままでは先に腕がもたんか」

 左腕の傷はアイアスが傷つくにつれて広がり、さらに出血が増えていく。
 だがそんなものは関係ない。
 俺が倒れるという事は後ろにいるなのはやフェイトが傷つくという事。
 今の俺の役目はこの子達を守ることだ。
 それならば腕一本ぐらいくれてやろう。

 この身はすでに人ではなく死徒。
 後で修復させることぐらい出来る。
 それにジュエルシードの魔力の波が徐々に治まってきてる。
 つまりこの波を耐えきれば反撃のチャンスはあるのだ。




side フェイト

 ジュエルシードに私のバルディッシュと白い子、なのはのデバイスが共にぶつかり合った。
 次の瞬間、視界が白く染まる。
 その中で

「え?」

 赤い外套に髑髏の仮面。
 その姿を忘れるはずがない。
 白い閃光の中で士郎に抱きかかえられる。
 私が抱きかかえられた反対の腕にはなのはがいた。
 士郎に抱きかかえられて白い閃光を抜けると同時にアルフと……ユーノだっけ?
 二人がこっちに駆けてくる。

 士郎は私達を離し、ジュエルシードに踏み出す。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」
「アーチャーさん!」

 士郎はジュエルシードを睨み、なのはは士郎の事を呼ぶ。
 だけど士郎はなのはの言葉に応えない。
 でも次の瞬間

「え? そんな……」

 膨大な魔力が吹きあがる。
 魔力の量も多いけどなにより眼を見張るのはその密度。
 赤い魔力が士郎を纏い、周囲が揺らいでる。

「フェイト、下がって!」

 呆然とする私をアルフが抱き寄せ、バリアを張る。
 それと同時にジュエルシードが咆哮した。

 アレはだめだ。
 規模が、レベルが違う。
 防御系の魔法が得意とかそんなレベルの話じゃない。
 間違いなく、耐えられない。
 だけど士郎もレベルが違った。

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 士郎が突き出した左手に展開されるのは巨大な花。
 その巨大な花はジュエルシードの咆哮をしっかりと受け止めていた。

 でもそんな巨大な花も徐々に傷つき、壊れていく。
 そんな中、巨大な花の花弁が一枚散った。

「え?」

 そんなとき、顔に生温かくて鉄臭い液体がかかった。
 知っている匂い。
 それを拭ってみれば、赤い液体。
 士郎の血。
 士郎は左腕を抑えてるけど、ここからでも酷い怪我をしているのがわかる。
 外套も左腕のあたりはズタズタだし、仮面は砕け、フードも左側を中心に裂けてしまっている。

「士郎、もうやめて!! これ以上はもたない!!」

 私が必死になって叫ぶけど士郎は巨大な花を展開し続ける。
 視界が歪んで士郎の事がちゃんと見えない。

「……フェイト」

 アルフがさらに力を込めて抱きしめてくれる。
 私、泣いてるんだ。
 お母さんのお仕置きからアルフが助けてくれた時、握っていた剣も士郎のだった。
 食事だってそうだ。
 いつも私の事を支えてくれていた。
 私は失いたくないよ。
 士郎の事がこんなにも大切なんだから、いなくなるのなんて嫌だ。

 でも私は無力で士郎が傷つくのを見ていることしかできない。
 それが一番悲しかった。




side なのは

 レイジングハートとフェイトちゃんのバルディッシュがジュエルシードを挟んでぶつかり合う。
 次の瞬間、視界が白く染まる。
 一瞬で上も下のわからなくなった。
 そんな中誰かに抱きかかえられる。
 それだけで抱きかかえた相手の顔も見えないのになぜか安心した。
 
 その人はフェイトちゃんも抱きかかえて、白い光の中から跳び出す。
 着地して初めて私とフェイトちゃんを抱きかかえていた人がわかった。
 赤い外套に髑髏の仮面をつけた魔術師、アーチャーさん。
 私達の方にアルフさんやユーノ君も駆けてくる。
 アーチャーさんは私とフェイトちゃんを下ろす。
 そして、一歩ジュエルシードに踏み出した。

「アルフ、ユーノ、全力で二人を守れ」

 アーチャーさんの言葉。
 アーチャーさんが手の届かないどこかに行ってしまいそうで怖くて

「アーチャーさん!」

 アーチャーさんを呼ぶけど答えてくれなかった。
 それが少し悲しかった。

 その時、アーチャーさんからものすごい量の魔力が噴き出す。
 それとほぼ同時にジュエルシードから魔力が解き放たれた。

「……あ」

 視界を覆い、世界を染める青い光。
 それに、その存在にただ恐怖した。

「―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 そんな中でも聞えた声。
 アーチャーさんが左手を突き出し、青い光を遮るように鮮やかな花が咲いた。

「あれだけの魔力の奔流を止めるなんて」

 ユーノ君は驚いていた。
 でもこのままじゃアーチャーさんが危ない。
 だけどレイジングハートもボロボロで、私には何もできない。
 そして花は徐々に傷ついていく。

 そんな中で花の花弁が一枚散るとともに顔に何かかかった。

「え?」

 でもそんなの気にならなかった。
 だって花弁が散るとともにアーチャーさんの外套の左腕のところが引き裂かれる。
 それと一緒にフードが引き裂かれて、仮面も砕かれていた。

 そこには見覚えのある白い髪。
 そう、私がよく知っている料理が上手で優しい男の子。

「士郎君!!」

 叫ぶ!!
 私にはそれしかできなかった。
 だけど私の声は届かない。
 左腕に酷い傷を負っているというのはここからでもよくわかる。
 なんで気がつかなかったんだろう。
 前を見据えた強くて、でもたまにどこか悲しそうな赤い瞳。
 そして、温泉の時には私をあまえさせてくれた。
 アドバイスをしてくれた。
 全部知ってたんだ。
 少し考えれば、わかったと思う。
 でも

「……怖かったんだ」

 温泉の時の士郎君の瞳。
 どこか感情がなくて怖い瞳。
 知ってしまったら士郎君がいなくなるような気がして踏み出せなかった。

 フェイトちゃんにもちゃんと伝えた私の思い。
 自分の暮らしている街や自分の周りの人たちに危険が振りかかったら嫌だから、守りたいから
 だけど今の私は無力だ。
 士郎君に守ってもらって、士郎君は傷ついていく。
 そんなのは嫌だ。
 私はもっと強くなりたい。




side 士郎

 ジュエルシードの魔力とぶつかり合い、アイアスは一枚、また一枚と霧散していった。
 そして、今手に残るのは一枚のみ。
 これが破られれば最後、なのはやフェイトが傷つくことになる。
 そんなことが認められるはずがない。

「おおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 咆哮する。
 264の魔術回路の魔力をアイアスの最後の一枚に注ぎ込む。
 すでに左腕はズタズタで、まともに機能しないだろう。
 それを無視してさらに魔力を流し込むという無謀。

 左腕がさらにぶれ、引き千切れそうになるのを抑え込む。

 脳に負荷がかかり毛細血管が破れ、左目から血涙が流れ、視界が赤く染まる。
 だがこの程度で魔力を流す事をやめるなどという考えはない。

 そして、アイアスの最後の一枚が霧散するとともにジュエルシードの魔力の奔流が一度治まる。
 それを確認した瞬間、行動を開始する!

「巻き込まれないように下がれ!!」
「し、士郎!」
「フェイト、駄目だよ!」
「なのは、離れないと」
「だ、だけどっ!」

 俺の言葉にアルフとユーノはすぐに行動を開始したようだ。
 アルフがフェイトと、一瞬迷いながらもなのはを抱きかかえて飛び上がり、ユーノはなのは達を包み込むようにバリアを展開し続ける。
 アルフがいて助かったな。
 これならば任せて大丈夫だろう。

 俺がすることは一つ。
 もはやアレを封印するなどという選択肢はない。
 あるのはアレは破壊するということのみ!

「―――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 自身の詩を詠い投影するのはある意味馴染み深い深紅の槍。

 一度自分の心臓に刺さったモノを馴染み深いと表現する自分もどうかとこんな状況にもかかわらず苦笑してしまう。
 ジュエルシードまでは約八十メートル。
 いささか助走距離が短くなるが助走距離を稼ぐほど余裕はない。
 深紅の槍を右手に握り、左手を地につける。

 そして、深紅の槍に魔力を叩き込む。
 連続した膨大な魔力の行使に脳が危険信号を送ってくるがそんなものは無視する。
 魔槍は俺が叩き込んだ魔力ではまだ足りないと周囲の魔力すら貪り食っていく。
 なのは達の方に視線を向けるが十分に離れている。これならば巻き込まれることはあるまい。

「往くぞ」

 クラウチングスタートのように腰を上げる。
 吸血鬼の脚力、さらに魔力を流し込んだ左手の力を使い、初速から最高速で踏み出す。

 スタートと同時に ただでさえボロボロだった左手が限界を超えて異様な音をたてたが無視する。
 そのまま最高速を維持して一瞬で三十メートルを走り抜ける。
 そして、一気に跳躍する。
 全身のバネを使い、槍を振りかぶる。

「―――突き穿つ(ゲイ)

 放たれようとする魔槍の魔力に世界が軋む。

「―――死翔の槍(ボルク)!!!」

 渾身の力を使い、投擲する!
 一瞬で魔槍は音速を超え、ジュエルシードに集まり始めていた魔力を薙ぎ払い突き進む。
 そして、ジュエルシードに突き刺さり炸裂弾のように凄まじい爆音と共に完全に吹き飛ばした。

 そこにあるのは地に突き刺さりし、赤き魔槍のみ。

「終わったか……」

 結構酷いものだ。
 宝具二つの真名解放。
 ジュエルシードの魔力とぶつかり合った負荷の代償か魔術回路に鈍い痛みがある。
 消費した魔力量もかなりの量だ。
 外傷としては左腕が一番酷い。
 アイアスを展開していた時のダメージに加えて、ゲイ・ボルクの投擲のスタートダッシュのため無理やり魔力を流して使用したのだ。
 骨は砕け、筋肉も断裂している。
 神経系はなんとか無事なのが唯一の救いではあるとはいえ、いくら死徒の肉体とはいえ簡単には治らないだろう。

「士郎!!」
「士郎君!!」

 フェイトとなのはが俺の方に飛んで来る。
 その後ろにアルフとユーノもいる。

「士郎君。大丈夫!!」
「士郎。腕は大丈夫なの!」

 どうやら二人にはなんの怪我もないようだ。
 そのことに安堵の息を吐く。

「ああ、大丈夫だよ」

 と軽く返したんだが

「大丈夫なわけないでしょ!!」
「そうだよ! こんなに血が出て!!」

 息がぴったりに俺を攻めるなのはとフェイト。
 ……二人ってさっきまで戦ってたよな?
 二人ともそれに気がついたのか顔を見合わせる。

「なんでフェイトちゃんが士郎君の事知ってるの!!」
「あ、あなただっていつも一緒なんだから別にいいじゃないですか!」
「あなたじゃなくて、なのは! 高町なのはって言ったでしょ!
 それに士郎君と同じクラスで一緒にお弁当食べてるんだよ。
 おかずを分けてもらうけどおいしんだから!」
「うっ、いいよ! 貴方と違って私は何度も士郎が夕飯作りに来てくれてるんだから!!」
「ええっ!!」

 なんというか……先ほどまで戦っていた者同士の会話とはとても思えん。
 そもそも俺の事を知っているとか一緒にいるとかでここまでヒートアップできるのだろう?
 まあ、なのはも踏み出せて覚悟が決まったようだ。
 ふっきれた顔をしている。

「ま、まあ二人は置いておいて、体は大丈夫なのかい?」
「そうだよ。あれだけのことをしたんだから」

 未だ言い争っている二人を放置して、アルフとユーノが心配してくれてる。

「ああ、なんとかな。それと改めてよろしく。衛宮士郎だ」

 ユーノに手を差し出す。

「あ、うん。ユーノ・スクライアです」

 ユーノとちゃんと自己紹介をした記憶がないので軽く挨拶をしておく。
 傍から見ればフェレットと握手をしているのだから妙な光景だろう。
 そんな事をしていると落ち着いたのかなのはとフェイトが改めて迫ってきた。

「ほんとに大丈夫?」
「そうだよ。あれだけのことしたんだよ」
「ああ、大じょっ! !!」

 いきなり視界が歪んだ。
 膝に力が入らず崩れ落ちる。

「   っ! し   っ! ど   た !!」
「し   ん!  か  て!」

 歪んだ視界の中、誰かが叫んでいるようだがノイズが酷くて聞こえない。
 体の感覚が死んだのか?
 違う。
 これは体内のアヴァロンへの魔力供給が止まったのか。
 魔力はまだ余力があったはずだ。

 考えられる原因はジュエルシードの魔力とぶつかり合ったのが影響だろう。
 魔力がうまく循環せず、アヴァロンへの魔力供給がうまくできていない。
 そして、アヴァロンの機能が停止したという事により傷の修復はとまり、吸血衝動が出て来る。

 鼓動が跳ね上がる。
 元の世界なら例えアヴァロンに魔力供給が止まって吸血衝動が出てきてもある程度抑える事は出来ていた。
 
 だがこれは違う。
 今までのモノとは違う。

(  ッ!!  ヲ エッ!!)

 うるさい!

( エッ!! ス ッ!! チ  エッ!!)

 だまれ!! 俺はなのは達の■を■■なんて御免だ!!!

(スエッ!! チヲッ!!)

 だまれ!!! 彼女たちに手を出すな!!

(キサマはハ吸血鬼ダ。何ヲ躊躇ウ?
 首ニ牙ヲツキタテ、自ラノ欲望ノママ血ヲゾンブンニ飲ミホセ!!!)

「だまれっ!!!!」
「「「「っ!!」」」」

 四人が、いや三人と一匹が怯えた表情を見せる。
 仕方がないか。これほど感情を高ぶらせたのはこっちに来てからは初めてだ。
 視覚も聴覚も正常に戻った。

「はあ、はあ、はあ」

 くっ、のどが熱い。全身が目の前の獲物を襲えと命令してくる。

(吸血鬼ノ力ナラタヤスイ。犯シ、嬲リ、存分ニ血ヲ飲ミ干セバイイ)

 吸血鬼の欲望が甘い誘惑で誘ってくる。
 だけどそれだけは避けなければならない。
 怯えるように、逃げるように彼女たちから距離をとる。

「し、士郎?」
「士郎君?」

 俺の行動が不思議なのか、心配そうに寄ろうとする。

「来るな!」

 俺の拒絶の言葉になのはもフェイトもビクリと固まる。
 今は家の地下室に行かないとまずい。
 地下室には俺の家の敷地の防音や認識阻害結界の魔力供給源の魔法陣がある。
 鍛冶場兼工房とはまた別モノだ。
 あそこに行けば霊地から魔力供給を行える。
 一気にビルを壁を蹴り、駆け上り、跳躍し、家に帰る。

 家に戻るなり、地下室に降りて外套を脱ぎ捨てる。
 だが損傷が限界を超えたのか床に落ちる前に霧散した。
 大切な二つの宝石を握り、魔法陣の中央で倒れる様に身体を横たえる。
 過負荷がかかった魔術回路に、外傷が酷い左腕。
 そして俺自身の体内の淀みの改善。

 さらに今まで感じた事のない強い吸血衝動。
 どれだけの日数がかかるかはわからない。

(……いつでも怖いな)

 手に握る赤と黒の宝石を見つめる。
 自分が自分でなくなるような恐怖。
 自分が守りたいと思った存在を傷つけてしまうのではないかという恐怖。
 この世界に来て初めてだった。
 これほど不安定になって自分自身に恐怖を感じるのは

(……一人か)

 孤独というのも多少は関係してるのかもしれない。
 元の世界では誰かがずっとそばにいてくれた。
 特にイリヤは死徒になり日光ですら克服しながらも、吸血衝動がなかなか安定しない俺にすぐに気がついてくれた。

 あの時の俺は夜になり闇に囲まれた時、大切な人の血を求めて、怯えていたのだ。
 だがイリヤは何も言わずただ抱きしめ、歌を歌っていてくれた。
 皆と離れていても温もりを思い出すことは出来た。

 だがこの世界は違う。

 この世界は俺のいた世界ではないのだ。

 誰もいない。

 そう、誰もいないのだ。

 たった一人。

 俺は自分自身の闇を恐れながらゆっくりと意識を手放した。 
 

 
後書き
まずは一日遅れてしまいすみません。

メンテナンスの事をすっかり忘れてました。

今回も同じく二話の掲載になります。

ではでは 

 

第十八話 隣りにいる人   ★

side なのは

 今、私の机の上には傷ついたレイジングハートがいる。
 ユーノ君の話だと明日には元に戻るらしいけど、それでも傷つけたのは変わらない。
 それに気になるのがもう一つ

「士郎君、大丈夫かな」

 ベットの横にたてかけている槍を眺め、そう呟いていた。

 士郎君はあの時いきなり膝をついて、苦しそうにしていて、咄嗟に駆けよろうとしたけど

「だまれっ!!!!」

 初めてみた士郎君の顔。

 とても怖い顔。
 虚空を睨むその表情と声に固まってしまった。
 そして、私達に向けられる何かに怯えたような瞳。
 いつもの落ち着いた感じじゃない。
 不安定で何かの拍子に崩れてしまいそうで、傍にいたくて足が自然と前に出た。
 だけど

「来るな!」

 士郎君の明確な拒絶な言葉。
 その言葉に足を止めてしまっていた。

「なのは?」
「え? なに、ユーノ君」

 ユーノ君の言葉に現実に戻ってくる。

「士郎のこと考えてたの?」

 ユーノ君の言葉に静かに頷く。

「うん。士郎君あんな怪我をしてたし、士郎君の事全然私知らないんだよね」
「……なのは」
「もっと知りたいな。士郎君の事」

 私達に向けられた士郎君の怯えたような眼が頭から離れない。
 なんであんな眼をしていたのか
 それがとても気になった。




side フェイト

「士郎、大丈夫かな」
「そうだね」

 なんだかんだでもアルフも士郎の事が心配なんだね。
 助けてもらったお礼も言えてない。
 怪我も気になるし。

 でも一番気になるのは立ち去る時の士郎の眼。
 何かに怯えているような、恐れているような眼。
 視線は私やなのはを向いていたけど、私達に対するモノじゃない。
 なら何に対してのモノなのだろう。

「士郎が心配かい?」
「うん」

 アルフの言葉にうなずく。
 大切な人だもの心配しないわけない。

「バルディッシュのリカバリーが終わったら、行ってみたらどうだい?」
「だ、だけど」
「迷っててもどうにもなんないよ」

 そうだよね。
 うん。
 アルフの言うとおり迷っててもはじまらないよね。
 バルディッシュの修復は一日あればなんとかできるし、行ってみよう。




side なのは

 次の日、学校に行って一番最初にアリサちゃんとすずかちゃんに謝った。
 心配掛けたこと、迷っていたこと。
 そして、ちゃんと覚悟が出来たこと。
 魔法の事は話せないけど話せる事は全部話した。
 でもその中に大切な人が足りない。

 なぜなら士郎君が学校を休んだから。
 怪我が酷くて来れないのかな?
 それともアーチャーという事がばれたから?
 正体がばれて何も言わず姿をくらませる士郎君がイメージ出来て、頭を振ってそのイメージを振り払う。

「あいつが休むなんてどうしたのかしら?」
「うん。何の連絡もないしね。ノエルも家に行けなかったみたいだし」
「……家にいけないってどういうことよ?」

 アリサちゃんとすずかちゃんも心配そう。

 朝に先生が士郎君からなんの連絡がないって言ってたから、休み時間にすずかちゃんがノエルさんに連絡して、ノエルさんが士郎君の家に向かったらしい。
 だけど一体どういう仕組みなのか士郎君の家に辿りつけなかった。
 士郎君の家はすずかちゃんに教わって大まかにはわかったけど、私はどうすればいいのかな。

 迷ったまま学校が終わってバスから降りるとユーノ君が待っていてくれた。
 そしてユーノ君の首にはレイジングハートがあった。

「レイジングハート、直ったんだね? よかったぁ……」
「Condition green.」
「……また、一緒にがんばってくれる?」
「All right, my master」

 うん。一緒に頑張ろう。
 大切なレイジングハート。
 直ってうれしいのにどこか足りない感じがする。
 士郎君の事がやっぱり気になってるんだ。
 士郎君に会いたい。
 でも士郎君のあの眼が忘れられない。

「Master」
「……レイジングハート」

 ただしっかりと名前を呼んでくれる。
 そうだよね。
 立ち止まってもはじまらないよね。
 突き進んでいいって士郎君も教えてくれた。
 そして、レイジングハートが背中を押してくれた。

「レイジングハート、ユーノ君、行こう」
「All right」
「うん」

 私は士郎君の家に向かって走り出した。




side ユーノ

 なのはの肩に乗り、一緒に士郎のところに向かう。
 なのはには言っていないが、本音を言えばあまりかかわりたいとは思わない。

 花のような盾、ジュエルシードを取り出した歪な短剣、魔力を掻き消す槍。
 そして、極めつけはジュエルシードを破壊した槍。
 士郎が所有する規格外の武器の存在が一番の要因。
 あの武器の事は詳しくはわからないけど、ジュエルシードを破壊した槍などはロストロギアクラスだろう。

 でも僕もなのはも助けてもらったのも事実。
 だけど正直な話、僕は彼を恐れている。
 彼が本気になれば僕だけじゃなくて、なのはでも簡単に殺されてしまうだろうから。
 それが一番彼に関わりたくない理由

「どうしたの? ユーノ君」
「え? ううん。なんでもない」

 なのはの言葉に慌てて首を振る。
 今はとりあえず会って話をしてみないと始まらない。
 僕は彼の事を何も知らないのだから。

 どういうわけか今までは追えなかった士郎の魔力を今は追えるらしくレイジングハートの道案内のもと士郎の家に向かう。
 なのは自身、士郎の家は大まかな位置しか知らなかったみたいだから、魔力が追えるのは幸いだった。
 そして、角を曲がろうとした時

「「え?」」

 道の角で鉢合わせになったのはフェイトとその使い魔のアルフ。
 フェイトの手にはバルディッシュが待機状態で握られている。
 まずい。
 こんなところで戦いになると……と思ったら

「フェイトちゃんのバルディッシュもちゃんと直ったんだね」
「う、うん。あなたのレイジングハートも大丈夫だった?」
「うん。ちゃんと直ったよ。あと、あなたじゃなくてなのは」
「え……と」
「なのは」
「……」
「な・の・は」
「……なのは」
「うん」

 お互いの相棒の無事に一安心している。
 それにしてもなのはって結構押しが強いところがあるよね。

「フェイトちゃんももしかして士郎君のところに行こうとしたの?」
「うん。
 もっていう事はあなたじゃなくて、なのはも」
「うん。その……一緒に行こう」
「……うん」

 二人並んで歩き始める。
 アルフと顔を見合わせる。
 まあ、戦いにならなかったことはいいことだと思う事にしよう。
 なのはもフェイトも特に会話はないけどピリピリした雰囲気もない。
 で士郎の家に向かって歩き続けたんだけどどういうわけか

「道が見つからない」
「この辺の曲がり角を曲がれば一直線のはずなんだけど」

 レイジングハートとバルディッシュの案内、さらになのはの携帯の地図を使って探しているんだけどどういうわけか道が見つからない。
 なのはの携帯の地図では確かにこの辺りに曲がり道があってそこに入れば一直線のはず。
 地図で見る限り、そんなに小さい道というわけじゃないはずなんだけど
 そんな時

「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」

 レイジングハートとバルディッシュが浮かび上がりゆっくりと飛んでいく。
 それを慌てて追う僕達。
 そして、レイジングハートとバルディッシュがあるところで止まる。
 なのはとフェイトは自分の愛機を掴むために、アルフと僕もなのは達にわずかに遅れてその場所に辿りついた瞬間。

「ふえ?」
「え?」

 なのはとフェイトが固まった。僕とアルフも声を上げずに固まっていた。
 なぜなら、そこに道はあったのだ。
 僕達が気がつかなかっただけで。

「これって……偽装、いや認識を阻害してる?」

 道の曲がり角には見たことのない魔法陣が刻まれている。
 一度気がつけば問題はないけど、普通に行こうとしても道が認識できないから辿りつけないわけだ。
 僕達はレイジングハート達を追って知らないうちに道に踏み込んだからこうして認識できたけど、レイジングハート達がなければずっと気がつかなかった。
 なのはとフェイトはお互いに頷きあって再び歩き出す。

 ようやく辿りついたのは、どこかの物語に出てきそうな大きな洋館。
 その洋館よりも気になるのが

「ねえ、アルフ」
「うん。結界があるね。
 ユーノ、あんたこの結界どんなものかわかるかい?」
「術式が違い過ぎる。それにどこからか魔力供給しているみたいだし」

 常にどこからか魔力供給されている謎の結界が屋敷を覆っている。
 そもそも常に魔力を供給するなんてどうやって維持しているのかもわからない。

 これは下手に入るのはまずそう。
 どうすればいいか迷っているとなのはが恐る恐るといった感じで一歩前に踏み出した。

「なのは!?」
「……あれ?」

 最悪な結果を予測した僕だったけど、なのは何ともないように平然と結界内に入っている。
 僕達も恐る恐る一歩踏み出してみるけど何も起きない。
 一体どうなってるんだこの結界。
 とりあえず内心ビクビクしながら屋敷の扉に辿りついた。

 そして、なのはとフェイトが一緒に扉に手を伸ばして

 扉は軋む音を上げながらあっさりと開いた。

「結界は素通りだし、扉にも鍵はかかってない」
「不用心だね~」

 アルフの言葉にすごく同感だ。

 それにしてもこの玄関ホール。
 夕方という時間帯で薄暗くなんか出てきそうな雰囲気だ。

「アルフ、士郎の場所わかる?」
「う~ん。下みたいだね。そこが一番匂いが強い」

 下?
 地下室か何かだろうか。
 といっても地下の入り口がわからないと思ったら

「ねえ、これって」

 なのはの言葉で初めて気がついた。
 薄暗くて気付かなかったけど玄関から点々と赤い跡が続いている。
 血の跡だ。
 それは階段裏の扉に続いていた。
 その扉をゆっくりと開ける。

 そこには暗い階段が続いていた。
 明かりもなく奥が見えない階段。

「Master」
「Sir」

 その階段を照らすように光を放つレイジングハートとバルディッシュ
 そして、なのはとフェイトを先頭に階段を降りはじめた。
 意外と階段は長くなくて、すぐに底まで辿りつく。
 そして、そこにはまた扉。
 その扉は半分ほど開いていた。
 空きかけの扉を完全にあけ放つ。

 そこにあったのは複雑な模様を描く魔法陣と横たわる士郎。
 だけどこの狭い中だというのに士郎の寝息一つ聞こえない。
 そして、なにより士郎の周りに真っ赤な

「士郎君!!」
「士郎!!」

 なのはとフェイトが駆け寄る。
 二人の声に僕とアルフも意識を取り戻す。

「アルフ、二人を」
「あいよ!」

 士郎の体をゆする二人をアルフに任せて、士郎の身体に乗って呼吸や心音を確かめる。
 呼吸が浅い。
 脈もギリギリのレベルだ。
 だけど左腕をはじめとする身体の傷は一切ない。
 どういうことだろう?
 アレだけの傷がたった一日で完治するものだろうか。
 とりあえずなのはとフェイトを安心させないと

「二人とも落ち着いて、傷も塞がってるし多分大丈夫。
 だけどかなり深く眠ってるみたい」

 僕の言葉に二人とも大きく息を吐いて安堵してる。
 そんなとき

「……う」

 先ほどまであれほど深い眠りにいた士郎が大きく息を吐き、ゆっくりと瞼を開いた。




side 士郎

 聞き覚えのある声がする。
 俺が守ろうと思った、守ろうとした二人の少女の声。
 だけどその声は今にも泣きそうで

 ―――起きないと

 泣きそうな女の子を放っておけない。
 全身に重しをつけたみたいに重い。
 それがなんだ。
 起きないと本当に泣いてしまう。

「……う」

 大きく息を吐き、周りに視線を向けると耳のある女性に抱きかかえられた二人の少女がいた。
 重い身体を起こし、二人の少女に手を伸ばそうとする。
 その瞬間、二人の少女に抱きつかれる。

 受け止めようとするが想像以上に身体がいう事をきかない。
 支えきれず少女に押し倒される。

「士郎君、よかった」
「士郎、士郎」

 軋む身体には二人の少女の重みは堪えるが、涙交じりの声に泣かせてしまったという後悔だけがあった。
 泣きやんでほしくて二人の頭を静かに撫でる。

 胸で受け止める少女の顔は見えず、俺の視線の先には家の地下室の天井があるのみ。

 なんで二人がここにいるかはわからない。
 でも俺なんかのために泣いてくれているのはわかる。
 だから今は静かに頭を撫ぜ続けた。

 どれくらいそうしていたか落ち着いた二人がゆっくりと離れる。
 と二人の背後に見覚えのある一人と一匹がいた。

「アルフにユーノ、なんでここに」

 俺の言葉にアルフがあきれながら経緯を話してくれた。

 つまりジュエルシードを破壊した夜の次の日か。
 眠っていたのはおよそ二十時間少々といったところだろう。
 しかし、これは予想外だ。

 ジュエルシードとぶつかり合って循環が乱れた魔力。
 損傷の酷い左腕。
 数日は眠り続けると思ったが霊地が優秀なのか、子供故の回復力なのか予想以上に回復は早い。
 しかし損傷のひどかった左腕は外見だけだ。
 中身はまだ不完全。
 戦闘に使うのはまだ無理だろう。
 魔力は安定しているが十全とはいえない。
 念のため、高ランク宝具の使用はしばらくやめておいた方がいいだろう。

 それにしても今までに感じた事のない吸血衝動はなんだったのだろうか。
 真祖は最も優れた時期に活動するために幼年期は眠って過ごすというが、それだけではないとしたら……
 これは考えても答えは出ないか。

 自身の状況を把握していると

「士郎君はもう大丈夫なの?」
「ああ、十全とはいかないけど、大丈夫だ」
「でも昨日みたいに急に倒れたりしたら」
「昨日のアレはジュエルシードの魔力とぶつかり合ったせいで身体を巡っている魔力が少し乱れただけだから」
「それって大丈夫なの?」
「まだ無理は出来ないが、落ち着いてる」

 と酷く心配されたが、俺の言葉に安堵のため息を吐く。

 その時、フェイトが何か思いついたように

「士郎が早く良くなるように出来ることってない?」

 と俺を見つめる。
 フェイトの言葉になのはも

「そうだよ。私たちなんでも協力するよ」

 顔を近づけ、俺を見つめる。

 フェイトとなのはの言葉に半ば無意識に考えを巡らせる。
 一番手っ取り早い回復とすれば何らかの形で魔力を得ることだろう。

 前回の戦闘の時にアイアスにゲイ・ボルクとかなりの魔力を消費している。
 特にアイアスは投影後に無理やり魔力を流し込むという無茶をしている。
 現状、魔力も完全には回復できていない。

 俺が魔力を得るにはいくつか方法がある。

 まず第一案は吸血行為。

 しかしこれはあまり気が進まない。
 勿論血を飲んだことがないわけじゃないが、可能な限り避けるべきだ。
 アルトに何度も注意されたことだが血を飲めば飲むほど血に溺れ、最終的には堕ちてしまう。
 特に昨晩の今までと違う吸血衝動の事もある。

 それにしても死徒と真祖の混血であるアルトが死徒としての俺の親という事もあってか、他の死徒と違うところが多い。
 まず普通の死徒のように遺伝情報の崩壊はほとんど起きることはない。
 さらに吸血衝動は『全て遠き理想郷(アヴァロン)』によって抑えられるのでアルトに比べればはるかに抑えやすい。

 「死徒っていうより、真祖もどきみたいね」
 とは死神と共にいた白い真祖の姫君に言われたことだ。
 聖堂教会からも希少物扱いだった。

 ……なんかまったく関係ないことだな。
 
 ともかく吸血はなしだ。

 第二案は魔力をこもった宝石を飲む。
 これは現状の問題がある。
 宝石が今までの結界や銃弾、生活費などなどでかなり減っている。
 特に魔力が込められた宝石は現在俺が握りしめている赤と黒の宝石を除けば、あとわずかなので念のためとっておきたい。

 「宝石魔術はお金がかかる」
 と遠坂がいつも言っていたがその通りだ。
 それに宝石を補充して魔力を込めないと悪いから今すぐは難しい。

 第三案、なのは達とパスをつなぐことによる魔力供給。
 九歳だから出来……………………………………………………………考えるな!!!
 この案は論外。

「……なのは達の言葉はうれしいけど無理だ。」
「うそだよね」
「うそだね」

 俺の言葉に即答のなのはとフェイト。

「士郎君、手がないんじゃ、すぐ否定するはずだもん」
「そうだね。考えてたからなにか手段があるけど黙ってる」

 なのはもフェイトも鋭い。

「そうそう、いいから対策案をいいな」

 アルフにも睨まれた。

「はあ~」

 仕方がないか。大まかに説明するとしよう。
 もっとも吸血鬼という事を説明する必要があるので、吸血行為の事も話さない。
 話したのは魔力を込めた宝石を飲む方法とパスを繋ぐことで魔力供給ができるが、パスは繋げないという二点。
 とわざわざ簡単にオブラートに包んで説明したのだが

「そのパスってなんで繋げないんだい?」

 そんな事を一瞬で無駄にしてくれた。
 この駄フェレットめ。
 君はなぜ俺が説明しないで済むように簡単にしたというのにそんな質問をしてくれるのかな?

「それは……その……あれだ。互いに気を高めあうというか……」

 ああ、なのはとフェイトの視線が痛い。

「士郎君」
「士郎」
「「もっと簡潔に」」

 これ以上はごまかせないようだ。

「簡潔に言うと………性行為」

 俺の言葉に一人を除き固まった。
 そして次の瞬間、真っ赤になった。
 無理もない。

「……そ、そんなの……にゃにゃ……で、でも」

 混乱するなのはと固まるアルフと駄フェレット。
 そんな状況で

「えっと……よくわからないけど、士郎のためならいいよ」

 固まっていなかった一人であるフェイトがさらなる爆弾を投下してくれた。

「フェイト駄目だよ!」
「あ、アルフ?」
「いい? フェイトはもっと自分を大事にしないと」
「だけど士郎のためだし」
「いいの!
 これは士郎の事よりもフェイトの方が大切なんだから」
「でも」

 フェイトが俺を見つめるがアルフに賛成だ。
 というかアルフに賛成しなかったら俺の身が危ないだろうが。

「あくまでこういう方法あるという説明だからする気はないから」

 俺とアルフでフェイトの説得し、なのはが混乱から戻って来るまでしばらくかかった。

 結局、このまま霊地からの魔力供給で治癒させることで話はまとまった。
 外傷もとりあえずは塞がっているので地下室ではなく二階の自室で休むことになった。

 そのあと、なのはとフェイトと三人で料理をしてお腹を満たした後にまた問題が起きた。

 俺の事が心配というなのはとフェイトが泊まると言いだしたのだ。
 さらに驚く事になのはの方はあっさりと桃子さんから許しが出た。
 出来るならば出さないでほしかったが。

 そして、フェイトも問題がない。
 問題はなにかというと

「私がベットだよ」
「だめ、ここは私に譲って」

 なのはとフェイトがベットを取り合っていた。
 もっとも家に規模の割に俺しかいないのでベットはここに一つしかない。
 布団はベットにあるのと予備が一枚。
 そして、無論のことだが俺の部屋にあるベットはシングルだ。

 ちなみにアルフも狼形態になってもらえば、ユーノと同じく床でも問題はないとのことなので床で我慢してもらう。

 根本的にこの家の家具自体、元々置かれていた家具と忍さんが部屋にあいそうと持ち込んでくれた物である。
 さらに普段の生活では自室以外では地下室、工房の小屋、リビング、キッチンぐらいしか使っていないので客間はあるが、家具なども置いていない完全に空き部屋になっている。
 そのうち他の部屋にも家具をそろえる事も考えないといけないかもしれない。
 誰かが泊まる当日に考えても遅いのだけど

 さて話を戻そう。
 俺のベットはシングル。
 女の子を間違ってもリビングのソファーで眠らせるわけにはいかないので俺がリビングに行こうと思ったら

「同じ部屋じゃないとだめ」
「うん。意味がないよ」

 フェイトとなのはから却下された。
 なので俺が床で寝ようと提案したのだがこれも

「まだ調子が悪いんだからダメ」
「そうだよ」

 再びなのはとフェイトに却下された。
 ちなみに俺と一緒に寝るということ関してはユーノとアルフが黙っているはずがないのだが

「ユーノ君は黙ってて」
「アルフは黙ってて」

 ふたりのお言葉でアルフとユーノは真っ白くなっている。
 このままではお互いに譲らず朝になりかねない。

「ああもう、わかった! こうしよう!」
「ふぇ!」
「きゃ!」

 右腕になのはを、左腕にフェイトを抱きしめ、ベットにダイブした。
 シングルのベットに子供とはいえ三人では狭いし、密着した状態になるので避けたかったが仕方がない。

「少し狭いけどこれでいいだろう?」
「う、うん」
「えへへ」
「アルフ悪いけど電気消してくれ」
「うう、あいよ~」

 ということで落ちつき(?)就寝となった。
 両腕の二人は顔を赤くしながらうれしそうに腕に抱きついてた。
 眠れないかなと思ったがまだ本調子ではないようだ。
 すぐに睡魔が襲ってきた。

「おやすみ、士郎君」
「おやすみなさい、士郎」
「ああ、おやすみ」

 二人のぬくもりを感じながら意識を手放す。
 この世界で誰か抱かれ眠る。
 一人ではないという安心感。
 二人に支えられていることを実感しながら深く、深く、眠りにつく。




side out

 士郎が寝息をたてはじめたとき、士郎の腕に抱きつている二人は

「眠ったね」
「うん。眠った」

 とてもうれしそうに笑った。



 怯えでも恐れでもなく、安心した表情。
 この表情を自分たちがさせていると実感し喜んでいるのだ。

「おやすみ。フェイトちゃん」
「おやすみ。なのは」

 二人も眠りにつく。
 腕に大切な人のぬくもりを感じながら。
 少しでも彼の支えになろうと覚悟を新たにしながら。 
 

 
後書き
今週の第二話目です。

ちなみに少し夏バテ気味なセリカです。
周りにも体調を崩している人が多いので皆様もお気を付け下さい。

ではでは

さらに加筆・修正しました 

 

第十九話 三人目の魔法使い

 窓から入ってくる朝日を感じ、ゆっくりと意識が覚醒する。

「ん?」

 起き上がろうとして両腕に重さを感じ、左右に視線を向けると俺の腕に抱きつく形でなのはとフェイトが寝息をたてていた。
 そういえば一緒に寝たんだったな。

「―――解析、開始」

 とりあえず寝ているなのはとフェイトを起こさないように自身の身体に解析をかける。

 ―――左腕、戦闘運用難
 ―――左腕以外の身体、正常
 ―――『全て遠き理想郷(アヴァロン)』正常稼働中
 ―――魔力量、約九割

 左腕の損傷が酷かったためか、魔力の回復が若干遅いな。
 それに左腕に関しても戦闘運用に難があるとはいえ、無理をしなければある程度は戦える。
 これなら日常生活などでは問題はなさそうだ。
 それにしても

「温かいな」

 なのはとフェイトの温もりを感じる。
 一人ではない、誰かがそばにいてくれる懐かしい感覚。
 まったく二人には感謝してもしきれないな。

 だけど俺の手は血で汚れている。
 こんな俺が二人の傍にいることはふさわしくないだろう。
 それでいい。
 共に歩むことが出来なくても二人を支え、守る事は出来るのだから。


 それにしてもどうしたものか。
 腕に抱きつかれたこの状況では起きることもできない。

「まあ、のんびりと待つとしようか」

 学校の時間までまだ時間はあるし、二人が起きるまで寝顔を見つめながらのんびりと時間を過ごす。

 二人を起こす事もせず俺が寝顔を見始めてから三十分ほどでなのはとフェイトは眼を覚ました。
 眼があった瞬間真っ赤になったけど。

 そして今は朝食を三人と二匹で食べている。
 ちなみに俺は念のためというかちょっと用意があるので本日も学校は休む。
 なのはは学校に行くので本日の授業の教科書は俺のを貸すことにした。

 食事の片付けも終わり、なのはは学校に行き、フェイトも一度家に戻るらしい。
 そして、フェイトはなのはが学校に行くより先に家を後にする。
 玄関まで見送る俺となのは。

 そのとき、なのはとフェイトはお互いに一歩前に踏み出し、見つめ合う。

「なのは」
「なに、フェイトちゃん」
「私は譲れないし、あきらめないから」
「うん。私も譲れない」

 二人はお互いを認め合うように頷きあう。

「またね。士郎、なのは、ユーノ」
「またね。士郎は完治するまで無理するんじゃないよ」

 フェイトとアルフはそんな言葉を残して、家を後にした。
 そして、フェイトから遅れること数分後、なのはも学校に向かった。

「さてと俺も出かけるか」

 身体を休めていたほうがいいかもしれないが、その前に最低限準備しておくモノもある。
 服を着替え、先日の戦闘でボロボロになった服と同じ服を数着づつ購入する。
 ついでに食料を買い足して、家に戻る。

 そして、購入した服を戦闘用に細工を加え、新たな赤竜布を投影しておく。
 これで、何かあってもすぐに戦闘態勢は整えることができる。

 それに満足して、ちょうどいい時間なので昼食をとり、部屋で眠る。

 眠りに入ってどれぐらい時間がたったか

「っ!!」

 膨大な魔力を感じ、一気に意識が覚醒する。
 ……ジュエルシード
 身体を起こし、新たに用意した全身黒の戦闘服と赤竜布を纏い、フードと仮面を身につける。
 なのはとフェイトには正体がばれているのでつけなくてもいいのかもしれないが、俺が知らない第三者が現れる可能性を否定できないので念のためだ。
 あと左腕が使えない分アレを持っていくとしよう。

 そして、魔力反応があった場所に辿りつくと
 空中で向かい合う二人がいた。




side フェイト

 またジュエルシードが覚醒した。
 今回は樹が取り込んでいる。

「バルディッシュ、フォトンランサー!」
「Yes sir. Photon Lancer set up……Fire」

 フォトンランサーを樹に向け放つ。
 だけどそれはバリアによって防がれる。

「生意気に、バリアまで張るのかい」
「うん。今までのよりも強いね。それに……」

 なのはも来ている。
 樹の根が地面から突きだしてきて、なのはは空に上がる。

「アークセイバー」
「Arc saber.」

 刃を飛ばし、根を切り裂くけど中心には届かない。
 強固なバリアを持つ相手を叩く方法は二つ。
 一つはバリアを張る暇も与えない攻撃。
 もう一つはバリアを突き破る強力な攻撃。
 そして、樹はアークセイバーを止めるために、なのはへの注意がいっていない。
 なのはがその隙を逃すはずもない。

「撃ち抜いて―――ディバイン!」
「Buster!」

 なのはから砲撃が放たれ、上からの攻撃に樹の動きは妨げられる。
 これなら

「貫け轟雷!」
「Thunder smasher!」

 私となのはからの砲撃。
 それに耐えきれずバリアは破壊され、ジュエルシードが浮かび上がる。

「Sealing mode. Set up!」
「Sealing form. Set up!」
「ジュエルシード、シリアル7!」
「封印!」

 封印状態のジュエルシードをそのままに私も空に上がり、なのはと向かい合う。

「ジュエルシードには衝撃を与えたらいけないみたいだから」
「うん。この前みたいになったらレイジングハートも、フェイトちゃんのバルディッシュもかわいそうだもんね」

 敵であるはずの私のバルディッシュまで気にかけてくれる優しい子。
 だけど

「……譲れないから」
「Device form.」

 バルディッシュをなのはに向ける。

「私はフェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど」
「Device mode.」

 なのはは真っすぐ私を見る。
 私も戦いたくないのかもしれない。
 だけど母さんの願いを叶えると決めたんだ。
 だから

 私は迷っちゃいけないんだ。




side 士郎

 封印したジュエルシードのそばで向かい合う二人を近くの木々の合間から見つめる。
 まさかあそこで戦う気か?

 ジュエルシードのそばで魔法を使うの自体が問題だ。
 これはのんびりみている場合じゃない。
 二人が一気に距離を詰めて、杖を振り上げる。
 さっさと止めるか。
 と思ったら

「なに?」

 海鳴市に何かが入り込んだ。
 と同時に青い魔法陣が現れ

「ストップだ!! ここでの戦闘は危険すぎる。
 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」

 となのはとフェイトの杖を受け止めた少年がいた。
 歳の頃はなのはやフェイトより少し上ぐらい。
 黒の服を纏って杖を持っている。

「あれは……魔法少年とでもいえばいいのか?」

 新たに登場した魔法少年(?)の登場に少し呆然としつつ少年、クロノを見つめる。

「まずは二人とも武器を引くんだ」

 クロノの言葉になのはとフェイトも地に降り立つ。
 しかし、時空管理局といったかどちらにしろいきなり現れてこの場を取り仕切るのはいささか気に食わない。
 管理局というぐらいだから何かの組織か?
 魔術協会などの経験上あまり組織にいいイメージを持っていないのもあるが、好き勝手させるわけにはいかない。

「このまま戦闘行為を続けるなら……」
「どうする気かね?」

 クロノが言葉をつづけようとした時、三人の前に木の枝から跳躍し降り立つ。
 俺を見たクロノが杖を向けて警戒する。

「お前、何者だ!」
「それはこちらのセリフだよ侵入者。この海鳴の地は我が領地。
 いきなり侵入してきた者が杖を向けたのだ。
 この場で殺されても文句は言えんぞ」
「領地? 一体何を言っているんだ?」

 俺の言葉にクロノは困惑し理解が追いついていない。

 フェイトとなのはといえば俺とクロノのやり取りに驚いて俺とクロノの方を見ている。
 丁度いいか。
 クロノから視線をずらしフェイトと視線を合わせる。

「え?」

 眼があったことに驚いたフェイトだが俺が頷いて見せるとすぐに理解したようだ。
 一気に飛び上がり、撤退を……と思ったら撤退するついでにジュエルシードまで掴むつもりのようだ。
 まったく。

「なっ! させるか!」

 クロノがフェイトに杖を向け、杖の先端に五つの青い魔力弾が生成される。
 俺がそれを見逃すと思っているのか、執務官。
 太腿のホルスターからアレを抜き、引き金を引く。

「何っ!?」

 鳴り響く五発の銃声と共にクロノの杖の先端から放たれようとしていた魔力弾が掻き消える。
 予想外の攻撃と音で固まるクロノ。
 対して俺はクロノを見据えながら、撃ち尽くした弾を再装填すべく、空薬莢を取り出す。
 空薬莢がアスファルトとぶつかり響く金属音を聞きながらスピードローダーで弾を込め直す。
 俺の再装填が済むまで約三秒。

 それとほぼ同時に停止した思考から復活したクロノが杖をこちらに向ける。
 対して俺は再装填した銃を握ったまま構える事もせず、だらりと腕を下げている。

 対拳銃になれていないのか、それとも拳銃で魔力弾を掻き消されるとは思わなかったのかはわからないが、クロノの意識をこちらに向ける事は出来た。

 それにしてもこれで魔弾が魔導師にも効果がある証明が出来たな。

 さて、そろそろ固まっている二人に動いてもらうとしよう。

「退け。君のこの地での行動は黙認していると言ったはずだ」
「は、はい! アルフ!」
「あいよ!」

 俺の言葉に今まで固まっていたフェイトとアルフが飛び去る。

「よく動かなかったな。ああ、それとも足がすくんで動けなかったかね?」

 俺の言葉にクロノが睨みつける。

「ふざけるな。お前なんで質量兵器なんて持っている。その外套からも魔力を感じる。
 お前は魔導師だろ!」
「何か勘違いしているようだから説明しておいてやろう。
 私は魔導師ではない。
 私は魔術師。この海鳴を領地とする者だ」
「魔術師だと? そもそもこの世界に魔法技術はないはずだ」
「それはそちらの情報収集の力の問題だろう。
 理解したなら我が領地から出ていってもらえるかな」

 俺の言葉に敵意を向けながら僅かに腰が沈む。

「君の言葉を、はいそうですかと聞くと思っているのか?
 君こそ、武装を解除しろ。
 時空管理局局員に対する攻撃行為で逮捕する」

 クロノの言葉に内心ため息を吐く。

 どうしてこう、組織の人間と相性が悪いのだろうか。

 先ほどより腰が沈みいつでも戦闘準備になっているクロノに俺も動けるように僅かに腰を下ろす。

「奇遇だな。私も君の言う時空管理局など知らんし、なにより君が信用できん」

 クロノと言葉を交しながらレイジングブルの撃鉄を起こす。

「侵入者、一応聞いておく。
 武器を捨て投降する意思はあるか?」
「あるはずないだろう! それよりお前が武器を捨てて投降しろ!」
「そうか、ならば俺に殺される覚悟もできているな」

 瞬間、クロノに銃口を向け、一秒に満たない時間で照準を合わせる。
 それとほぼ同時に

「待ってください」

 俺の横にモニターが現れた。
 映っているのは若い女性。
 この女性が声をかけたのか?

「何者だ?」

 クロノに銃口を向けたまま、尋ねる。

「私は時空管理局巡行艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウン提督です。
 どうか武器を下ろしてください。
 クロノ、貴方もよ」
「ですが」
「命令です」
「……わかりました」

 この女性、リンディ提督の命令に従い杖を下ろすクロノ。
 クロノが杖を下ろした後に俺も撃鉄を下ろし、銃口を下げる。

「リンディ提督でよろしいか?」
「はい」
「貴方やそこのクロノ執務官、貴方達が先ほどから言っている時空管理局とはなんだ?
 というかこれは何だ?」

 時空管理局という単語も気になるが、この空中に出てきたモニターも気になる。

「これはモニターとしてそちらにこちらの映像をだしているの」

 ……魔法の立体映像の類か。
 なのは達の杖といい、科学技術と魔法技術が混在した魔法体系なのだな。
 元の世界では考えられないことではあるが。
 それにしてもハラオウンと言ったか。
 クロノと同じ姓だな……身内か?

「我々、時空管理局は貴方と平和的な話し合いを望みます」
「それは構わんがどこで話し合うつもりだ?」
「私達としてはこちらの船に来ていただきたいのですが」
「クロノ執務官にも言ったが、私に時空管理局などという組織の知識はない。
 そんな相手の船にわざわざ乗り込むのは遠慮したいところだな」

 科学と魔法の混在技術でこんなモニターを出すような技術があれば、こちらが感知できていない機械的な監視もされている可能性が高い。
 相手の素性も知れないのに敵地に乗り込むような事は避けたいし、下手に乗り込んでホルマリン漬けになりましたじゃ、笑い話にもなりはしない。
 だがこれからの事を考えれば時空管理局に関する知識は絶対的に必要だ。

「ではどちらならお話を聞かせていただきます?」
「互いに中立である場において、互いの安全が確保された場所が理想だと思うがね。
 もっともこちらが勝手に決めるわけもいくまい?」
「私たちとしては貴方の家でも構いませんが?」

 リンディ提督の言葉に、この地の監視自体は前からされていた可能性が浮上した。
 そうなると俺の家や正体はばれているか。
 もしばれていなくても話しあいに髑髏の仮面をつけて望むわけにもいかないのでばれるのか。

 そして、リンディ提督が戦いを望んでいないのも事実だろう。
 ならばわざわざ話し合いの場を設ける必要はない。
 だが自分の家に入れるのは最終手段として残しておくべきだな。

 そうなるとお互いに戦闘に踏み込めず、話し合える状況が一番好ましい。

「明日の夕方四時にここで。ここならば多少人目はあるし互いに戦闘は出来ないだろう。
 そこにいる少女とその使い魔もその時に同席する。それで構わないな」
「ええ、構いません。では明日の四時にここでお会いしましょう」

 リンディ提督の言葉と共にクロノの足元に魔法陣が現れ消えた。
 ……空間転移か。

「では失礼します」
「最後に一つ」

 通信を閉じようとするリンディ提督を呼びとめる。

「なんでしょう?」

 なぜ呼びとめられたのか不思議そうにしている。
 俺は一度瞼を閉じ、殺気を含んだ眼をリンディ提督に向ける。

「妙な行動はするな。
 敵対するというのならば容赦なく反撃に出る。
 俺は引き金を引く事を躊躇わない」
「っ! わかりました」

 リンディ提督が通信を切ったのを確認し殺気を納める。
 そして、仮面とフードを脱いでなのはに歩み寄る。

「士郎君、いいの?
 仮面取っちゃって」
「ああ。どうせ明日話す時に顔を合わせるしな。
 それよりすまない。
 なのはとユーノも話しあいに参加する様な形になってしまって」
「ううん。全然。
 私も色々聞きたい事もあるし」

 なのははそう言ってくれるが、正直心配だ。
 最悪、俺と時空管理局の戦いがおこり、なのはが俺側として狙われる可能性があるのだから。
 だがもしそうなったら命に代えても守って見せる。

「ユーノ、あのクロノというやつは知っているか?」

 俺の言葉にユーノが頷く。

「うん。結構有名な執務官だよ」
「そうか。
 悪いが俺には管理局について知識が一切ない。それを教えてほしい」
「わかった」

 そしてユーノから時空管理局の説明を簡単に受ける。
 ユーノによると管理局は監視している世界の魔法的な事件の解決。
 そのほかロストロギアの回収、解析などか。
 クロノのような子供がいるというのは根本的にミッドチルダがこの世界より働き始める年齢が早いということが関係しているらしい。
 この点は今の世界とかなり違う。
 ほかにもレアスキルと呼ばれるものがあるらしい。
 もし俺の魔術がばれたらレアスキルに認定される可能性もあるわけか。

「ユーノ、もしもの話だが、レアスキルに認定された場合生きたままホルマリン漬けにされることはあるか?」
「あるわけないよ!! 管理局をなんだと思ってんのさ」

 なんだろう。
 こう改めて真実を聞くと元いた俺の世界の魔術師がどれだけ人でなし行為をしていたのか改めて認識させられる。
 この事は今は気にしないでおこう。

「とりあえず明日は管理局と話をするから、学校が終わったら各自一旦着替えて公園で待ち合わせにしよう」

 さすがに小学校の制服のままじゃ締まらない。

「はーい。じゃあまた明日ね」
「わかった」

 手を振ってなのはとユーノと別れた。
 さて、新たな勢力が現れたがこれからどう流れていくか。
 空に浮かぶ透明なナニカを一瞥し、家に向かって歩き始めた。




side リンディ

 正直頭が痛い。
 今もデバイスを持っていた少女、高町なのはさんは監視している。
 そして、赤い外套の少年、衛宮士郎君の事も勿論監視はしている。
 私達が監視していることがわかったのかあっさりと仮面とフードを取ったので顔はわかったし、サーチャーで二人をつけ、家が判明したので住所からエイミィに調べてもらって名前も判明している。

 高町なのはさんはいい。
 傍にいた士郎君に使い魔と呼ばれた子もなのはさんと共に行動しているので問題はない。

 だが衛宮士郎君は問題だ。
 今住んでいる洋館の持ち主や保護者には『藤村雷画』という方がなっている。
 なっているのだけどいくら調べても肝心の『藤村雷画』という人物の情報は一切出てこない。
 それに士郎君の戸籍自体が偽造したようで最近以前の経歴が出てこない。
 まるであの年齢でいきなり生まれてきたような記録である。
 それになにより最後の言葉

「妙な行動はするな。
 敵対するというのならば容赦なく反撃に出る。
 俺は引き金を引く事を躊躇わない」

 殺気の込められた視線。
 間違いなく彼は私たちを敵とみなせば武器を取るだろう。
 さらに彼の武器は質量兵器。
 しかも厄介な事にその質量兵器は魔力弾を撃ち抜き霧散させるという質量兵器でありながら魔力が込められているような異質なモノ。

 いくら魔導師がバリアジャケットを纏っているとはいえあの銃弾が防げるのかわからないし、だらりと下げた状態から一瞬で照準を合わせる非常識さ。
 いくらクロノが執務官といっても危険すぎるし、戦うことは避けたい。

「何にしても情報が少なすぎるわね」

 士郎君の武器にしろ何にしろ情報が少なく、実力もあの銃の仕組みもわからない。
 正体がわからない相手ほど怖い相手はいない。
 そんな事を思いつつ明日の話し合いの事に頭を悩ませていた。 
 

 
後書き
By 没ネタ
 クロノと言葉を交しながらレイジングブルの撃鉄を起こす。

「侵入者、一応聞いておく。
 武器を捨て投降する意思はあるか?」
「あるはずないだろう! それよりお前が武器を捨てて投降しろ!」
「そうか、ならば俺に殺される覚悟もできているな」

 瞬間、クロノに銃口を向け、一秒に満たない時間で照準を合わせる。
 それとほぼ同時にクロノが動く。

 やはり先ほどの反応から魔法を撃ち抜くこの拳銃の事は警戒しているのだろう。

 直線に飛んでくる弾丸を避けながら戦うのであれば、正面から距離を詰めるのも、後ろに下がり距離をあけるのも間違いだ。
 死徒やサーヴァントクラスになれば銃弾をギリギリに避けながらそれも可能だろうが、クロノの先ほどの対応から見てそれはない。
 つまりクロノが動くのは左右のどちらかまたは空だ。

 クロノが動く方向は方向は左。

 だが思いどおり動かせたりはしない。
 左足の傍を撃ち抜く。

「くっ!」

 反射的にクロノが右に逃れる。
 それと同時にクロノ頭の上に向かってさらに一発撃ち、空に飛ばせないように牽制する。
 その時クロノは頭の上を狙った銃弾から逃れようとさらに体勢が崩れ、視線が俺から外れる。

 瞬間、クロノの真正面に踏み込む。
 クロノが俺に気がつき、杖で打ち払おうとするが遅い。
 クロノの杖をレイジングブルで逸らし、銃口をクロノに合わせる。
 銃口とクロノの顔の距離は十センチとあいていない。

「最終警告だ。侵入者」

 その時

「待ってください」

 俺の傍にモニターが現れた。

 という没ネタでした。
 さすがにやり過ぎで協力関係が築けそうではないので没にしました。 

 

第二十話 交渉

 翌日、学校が終わり、一度家に戻り着替える。
 さすがに黒の戦闘用の服と赤竜布を纏っていくのもどうかと思うので、ジーンズに、シャツに、上着を羽織る。
 要するに普通の私服だ。
 それでも

「念のためもっていっておくか」

 ジーンズの腰にホルスターを身に付けて、グロックを納める。
 さすがにレイジングブルは大き過ぎるし、身につければコートサイズの上着を着なければ隠すのも難しい。
 鞄に入れてはいざという時に取り出す手間もかかる。
 グロックでは元の銃の口径上威力は落ちるが牽制には十分だろう。

 そして、首元に手をやるがいつもの感触はない。

「時間を見つけて新たに作った方がいいかな」

 いつも身に付けていた魔力殺しのアミュレットだが、ジュエルシードを破壊する際に外す暇もなく付けたまま膨大な魔力を使用したため、耐えきれずに破損してしまったのだ。
 魔術師という事がばれているので不要かもしれないが、俺の魔力量を知られないためにも持つのは悪くない。

 家の戸締りをして、家を出る。
 この時間なら約束の時間の十分前には余裕を持って着けるだろう

 そして、俺の予想通り約束の時間の十分前に到着したが、なのはとユーノはもう来ていた。

「少し待たせたか?」
「ううん。私達もさっき来たところだよ」
「なら、よかった」

 なのはの横に座る。
 海からの風が心地よい。
 今日は天気も良かったからのんびり過ごすにはぴったしの場所だろうな。
 ジュエルシードの件に片がついたらフェイト達も誘ってのんびり過ごすのもいいかもしれない。
 その時

「……来たか」

 恐らくクロノが使っていた空間転移と同じものだろう。
 感知結界にいきなり魔力反応を感知した。
 すぐ近くだ。
 俺の予想通り、魔力を感知した方から二人こちらに向かって歩いて来る。
 一人はクロノ。
 そしてもう一人は映像で見た女性、リンディ・ハラオウン。
 俺が立ち上がるとなのはも俺の視線を追って慌てて立ち上がる。
 そして、俺たちと向かい合う。

「昨日は名乗っていなかったな。衛宮士郎。この世界の魔術師だ」
「ご丁寧にありがとうございます。改めて自己紹介させていただきます。
 時空管理局巡察艦艦長のリンディ・ハラオウンです」
「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」
「高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」

 軽く自己紹介をしてベンチに腰掛けて向かい合う。
 リンディ・ハラオウン提督。
 恐らく今この世界に来ている管理局の最高責任者。
 ここでの話し合いがジュエルシードの事に関わるのは当然だが、俺と管理局の関係にも影響するので少し、気合いを入れておく。

「では早速だが本題に入ろう。
 あの宝石については私も知識として足りないことが多い」
「ロストロギア、ジュエルシードね」
「ならその説明は僕が」

 俺とリンディ提督の言葉にユーノが手を挙げた。
 ユーノの言葉が俺には意外だったが

「……あれを発掘したのは僕達ですから」

 その言葉に納得した。
 ユーノの説明を要約すると

 ・ジュエルシードを発掘したのはユーノの一族、スクライア
 ・ジュエルシードは全21個存在している
 ・輸送中の原因不明の事故により海鳴市に落ちた
 ・ジュエルシード回収を単独で行おうとするも力不足によりなのはに協力をしてもらう

 との事らしい。

「だが無謀すぎる」

 クロノの言葉にユーノが落ち込んでいる。
 ユーノには申し訳ないが、仲間の協力も得ず、単独で行動した事についてはクロノに同感だ。
 だがそれと同時にクロノの言葉もどうかと思う。

 一つは時空管理局の行動が遅すぎる。
 もしユーノが来なければ、なのはは関わることもなくフェイトの独壇場だ。
 そうなればほぼすべてのジュエルシードをフェイトに回収されることになる。
 そういう意味では管理局は感謝しても責める筋合いはない。

 それにしても、あんな厄介な物が21個も存在してるというのもとんでもない。
 さらに気になるのが輸送中の事故。
 フェイト達がいなければただの事故と判断してもいいが、フェイト達、特にフェイトのバックが存在する状況、この事故も故意的に起こされた可能性も考えたほうがいいだろう。
 それに管理局の説明の時にも出てきた言葉

「ロストロギア、確か過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称でしたか」
「え? ええ、その解釈で間違ってないわ」

 初めて会った時にユーノから聞いた知識が役に立ったな。
 それにしてもジュエルシードは余りにも不安定だ。
 何の目的で造られたのかは解らないがあれほど不安定であれば不良品とも思える。

「それにジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体、いくつか集めて特定の方法で起動させれば、次元空間内に次元震を引き起こし、最悪次元断層さえ引き起こす危険物。
 それに四日前には小規模ながら次元震も観測しました」

 四日前?
 つまりはジュエルシードを破壊した日。
 あの魔力の咆哮が次元震というわけか。

「仮に次元断層が起きたらどうなる?」
「この世界は消えてしまいます」

 リンディ提督の言葉になのはが呆然となっている。
 無理もない。
 いきなり世界が滅ぶかもしれないという話だ。
 理解が追いつかないのだろう。

「私達からも質問はよろしいかしら?」

 リンディ提督の言葉に、俺もなのはもユーノも頷く。

「先日の次元震ですが、何らかの高魔力の影響を受けて消滅したのを観測しました。
 その時、何があったか教えてほしいの」

 リンディ提督の言葉になのはもユーノも俺の方を見る。

 その行動は口に出さなくても俺が何かしたと言っているのと同じだぞ。
 もう少し隠し事がうまくできるようになろうな。

 まあ、これが交渉の材料にはなるか、それとも俺を実験材料としてみるのかでリンディさんの性格も少しはわかるか。

「次元震を消滅させたのは私だ」
「ふざけたこと言うな! アレは一個人でどうにかなるようなものじゃない!」
「そうかもしれないな。というわけで嘘という事で勝手に想像してくれて構わない」

 クロノが否定したので俺は特に反論せずに嘘という事にしておく。

 自身の常識や知識からかけ離れたモノを否定したいという気持ちはわかる。
 だが魔術という自分達が全く知らない未知の技術と直面しているのだ。
 それを詳しく聞こうともせず否定するのは問題だぞ。

「クロノ。ごめんなさいね。頭が固い息子で」
「構わないさ。
 クロノの気持ちはわからなくもない。
 だが自身にとって未知のモノを自身の物差しだけで測り、考察もせず否定する事は致命的な状況判断の誤りを生むぞ」

 当たり前だがリンディ提督が黙っていない。
 そして俺の言葉にムッとはしているが、俺の言葉を聞いて考えようとしている。
 執務官という肩書はお飾りではないようだな。

「さて、話に戻るとしよう。
 といってもやり方はとてもシンプルな方法だ。
 ジュエルシードが次元震を引き起こすというのなら」
「というのなら」

 リンディ提督とクロノがどのような対処を執ったのかと息をのむ。

「原因を潰せばいい」
「え?」
「は?」

 俺の言葉にリンディ提督もクロノも固まった。
 ここまでシンプルだとさすがに俺が何をしたか予測がついたらしい。

「ね、念のために確認するが、まさか」
「恐らくクロノの予測は間違っていない。現存するジュエルシードは21個ではない。
 20個だ」

 クロノは口をぽかんと開いて呆然として、リンディ提督は頭が痛そうに指で眉間あたりを揉んでいる。
 さすがに破壊したとは思っていなかったらしい。

「……その、どうやってジュエルシードを破壊したのか聞いても?」
「どうやってと聞かれても、やった事といえば槍を投げてジュエルシードに当てたとしか言いようがないのだが」

 故意的にはぐらかした様な返事をしているのだが、さすがにこのような返答は予想外だったのかどう反応するべきか困惑している。
 そんな時

「し、士郎君。あんまり誤魔化した言い方もどうかと思うよ」
「うん。確かに槍を投げたのは事実だけど、その槍が音速を超えるような速さで魔力が最低でもSランクぐらいはあるってことを伝えないと」

 さすがに見かねたのか、なのはとユーノが俺を嗜める。
 む、予想外のところからのリンディ提督とクロノへの援護だ。

「そ、その槍というのは君の魔法、いや魔術なのか?」
「半分正解だ。正確には槍を私の手元に転送させたのと、槍を投げるための身体強化は魔術。
 ジュエルシードを破壊した威力は槍の能力的なものだ」

 俺の言葉にリンディ提督もようやく思考がまとまったらしい。
 眉間を揉んでいた手を離して

「それが士郎君の魔術?」
「他にも多少使えますが、魔術師としては三流ですので転送と肉体の強化ぐらいしかできません」

 当たり前だが魔術に関しては嘘だ。
 ちなみに肉体に大きなダメージもなければ、この死徒の身体能力だけでゲイ・ボルクの投擲は可能である。
 先日の時は助走距離の問題で左手を使って一気に最高速度を出すために損傷した左腕に強化の魔術を使用したのだ。

 それと投影に関しては絶対的に隠し通さないとまずいことになる。
 俺の魔力があればジュエルシードを破壊した槍をいくらでも創り出せる、などと知られた時には下手をすれば俺自身がロストロギアになりかねない。
 余計な面倒は避けるに限る。

「士郎君、その槍を渡していただくことは」
「断る」

 即答する。
 余りの即答にリンディ提督が悲しそうにするがこれは許可できない。
 誰が好き好んで自分の魔術がばれかねない代物を渡さなければならないのだ。

「わかりました。
 ですがジュエルシードの件につきましてはこれより時空管理局が全権を持ちます」
「君達はそれぞれの日常に戻るんだ」
「そんな!」

 リンディ提督とクロノの言葉になのはが抗議しようとする。
 だが

「反論は認めない」

 その一言で押し黙らせてしまった。
 だがそれは無理だぞ。
 時空管理局。

「別にそれで構わんよ。
 私は私の日常である魔術師として海鳴にあるジュエルシードの回収または破壊を行う。
 ああ、念のために言っておくが間違っても海鳴に入るな。
 外敵として排除されたくなければな」
「なっ! お前、自分の言っていることをわかっているのか!?」
「十二分に理解しているさ。君達時空管理局と関わることなく魔術師として行動する。
 君達が望んだとおりだろう」
「ぐっ!」

 クロノは唸り、なのははぽかんとしている。
 時空管理局が本当になのは達を関わらせるつもりがなかったのかは知らないが、そちらに主導権を握らせるようなまねはさせない。
 さてどうする?
 今、海鳴を管理していると自称する魔導師ではない魔術師。
 君達の行動、発言一つで俺は味方にも敵にもなりかねない場所いる。

「海鳴市に管理局員の派遣は許可していただけませんか?」
「断る。魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん。
 勿論、この会話を監視している監視機械の侵入も禁ずる」

 それに先ほどからこちらを監視している機械。
 何らかの形で監視していると思って周囲に意識を向けていて正解だった。
 迷彩で見えにくくなっているが目視出来たし、解析もおおよそできた。
 これならば結界を少し弄ればこの監視機械の侵入も感知できる。




side リンディ

 厄介なことになってきたわね。
 その中の極め付きが

「海鳴市に管理局員の派遣は許可していただけませんか?」
「断る。魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん。
 勿論、この会話を監視している監視機械の侵入も禁ずる」

 これだ。
 サーチャーの存在もばれている。
 つまりここで手を引けばこのジュエルシードがある海鳴市には入ることができない。

 かといって士郎君をここで捕縛しようとすれば間違いなく戦闘になる。
 エイミィが私達が転送する前に確認して、腰のところに金属反応があることは分かっている。
 形状と大きさから昨日使っていたモノとは違うみたいだけど、隠し持つ事が出来るサイズだから威力が弱いなんて断言できない。

 それに戦闘になった場合、クロノがバリアジャケットを纏い、デバイスを構える前に彼が腰の武器を抜き引き金を引く事は難しくないだろう。
 そして、士郎君は宣言通り躊躇わない。
 この話し合い、私達の負けね。




side 士郎

 しばらく何か考え事をしていたリンディ提督だが

「士郎君の条件は何ですか?」

 そう言葉を紡いだ。
 つまりは

「その言葉、私とジュエルシードの件に関して協力関係を結ぶと判断してよろしいですね」

 俺と手を組むことを意味する。

「はい」

 俺の問いにリンディ提督がしっかりと返事をする。
 これで海鳴市において管理局と対等の立場を得ることができた。
 第一段階は終了。
 ここからは第二段階だ。
 といってもこちらはリンディ提督たちではない。

「なのは、ユーノ、二人はどうする?
 ここで手を引いて全てを忘れるか?
 それとも命が危うくなるかもしれない非日常に居続けるか?」

 俺が確かめねばならないのはなのはとユーノの意思。
 俺の問いかけに

「私は忘れることなんてできない。
 私は……一緒に戦いたい。
 フェイトちゃんとちゃんと話をしたい」
「僕も忘れたくなんてありません。
 ほんの少しでも手伝いたいです」

 二人は迷うことなく、俺の眼を見つめ、答える。
 覚悟ができた二人にわざわざ確認することでもなかったのかもしれない。
 ならば第二段階も完了。
 で後残るは第三段階のみ。

「では私からの条件ですが、
 一つ、私となのはとユーノと管理局は協力してジュエルシードの捜査すること
 二つ、私となのはとユーノの緊急時の現場判断及び行動を認めること
 三つ、魔術の知識、技術提供の強制の禁止
 四つ、ジュエルシードの件が終わった後の私たち三人の身柄と自由の保障
 この四点になります」

 俺からの条件を提示する。
 一つ目は今回の件があくまで協力体制であり、対等だとするもの。

 二つ目は俺達という個人の力と管理局という組織の力では人数、機材共に管理局が圧倒する事が根本にある。
 ならばジュエルシードの捜索では管理局に従った方が見つけやすいだろう。
 だが管理局は組織であるがゆえにフェイト達よりもジュエルシードの封印、確保を優先する事が考えられる。
 その時、俺やなのは、ユーノが優先するモノが管理局と違う場合に自由に動けるようにするためだ。

 三つ目は協力するが俺の魔術の知識や技術提供を強制させないためのもの。
 戦闘などを見られれば能力的な事はどうしても隠しきれない部分は存在する。
 それらの情報から推測するのも質問するのも勝手だが、答えるのも答えないのも俺の自由というわけだ。

 四つ目は今回の協力はあくまで期間的なものであり、今回の件以降の協力関係などについては別途話しあいという意味合いも含めている。

「二つ目の緊急時の現場判断及び行動を認めることということは」
「ああ、 基本的には我々は管理局の指示に従って行動するつもりだ。
 人員も機材もそちらの方が豊富だ。
 それなら管理局の指示に従った方が効率がいいだろう。
 それにリンディ提督にとっても管理局員で今回動ける腕利きはいざという時に備えておきたいでしょうから」

 恐らくは昨日のなのはとフェイトの戦闘に介入したことといい、今回リンディ提督の護衛をしていることといい、恐らくは今回のジュエルシードの件で動ける一番の腕利きはクロノだろう。
 そうとなればクロノを表に出さず、いざという時の切り札としてとっておきたいはずだ。

「なら緊急時にも私達と行動した方が」
「私やなのはにとってジュエルシードと並行して、いや下手をすればそれ以上に優先する存在がいる」

 俺の言葉になのはが眼を丸くする。
 それに応えるように、なのはにしっかりと頷いて見せる。
 それだけでなのはも俺の意思を感じ取ったのかしっかりと頷いてくれた。

「万が一の時に、管理局という組織として最優先のジュエルシードと私達にとっての最優先対象が共にある時、私達は私達のやり方をする必要があるという事だよ」
「ずいぶんと勝手ですね」
「我が儘を言っているのはわかっている。
 だが、俺が優先すべき事はジュエルシードではないという事だ」
「それは私達と敵対する事はないのですか?」

 俺の言葉に意見が変わる事はないと察したのかため息をつきながら、言葉を紡いだ。
 確かに別行動が管理局への敵対行動になれば、内部に敵を抱えるのと同じ事でありリスクが高い。
 だが

「最優先対象が若干違うが、目指す方向は同じだ。
 ぶつかることはないと断言していいだろう。
 もっとも敵対する様な事になったら今回の話し合いが自体が意味をなさないが」

 ジュエルシードを確保するのが目的の管理局とジュエルシードとフェイトが目的の俺達。
 ぶつかる必要性は感じられない。
 もっとも管理局がフェイトにジュエルシードの隠し場所を吐かせるために拷問の類を行った場合は敵対しないとは言えないが、ここまで話す限りその心配もないだろう。

「わかりました。その条件で協力関係を結ばせていただきます。
 魔術師、衛宮士郎君」
「条件を呑んでいただき感謝いたします。
 時空管理局、リンディ・ハラオウン提督」

 うまく条件を呑んでもらえた事に内心安堵する。

「なのさんとユーノ君もよろしいですか?」
「は、はい! 勿論です」
「はい!」

 リンディ提督の言葉に今までずっと話を聞いていた二人も慌てて返事をする。

「あとなのはさんとユーノ君は士郎君の管理下という形でよろしいですか?」

 俺の管理下か。
 いざとなった時の管理局側の責任を軽くするためというのもあるのかもしれないが、俺と共に行動する事になるだろうからそれでいいだろう。

「私は構いません。なのは達が良ければですが」
「私はいいよ」
「僕も」

 これでとりあえずは話がまとまった。

「あとこちらから一つ要望なのだけど、私達の船、アースラに来てもらえないかしら。
 情報共有やジュエルシードに対処する際、こちらから転送させた方が早く対処もできますし、こちらに滞在してもらえると助かるのだけど、どうかしら?」

 管理局の船か。
 海鳴を出たら街に張っている感知結界が何かを捉えた時、わからないが今回は仕方がないか。
 あんまり距離をおきすぎると相手から信用されなくなる。
 管理局全体はともかくリンディ提督個人は信用における人のようだしな。
 どちらかというと問題は俺というよりなのはだろう。

「私は構いませんが、なのははどうだ?」

 俺は一人暮らしだし、家族の事などは気にする必要はない。
 だがなのはは家族がいる。
 それも小学三年生がどれぐらいかは具体的にはわからないが、親元を離れて、学校も休むとなると親の同意が必ずいるだろう。

「お母さんとちゃんと話してみる。
 私の思いや覚悟を」

 俺を見つめる強い瞳。
 覚悟は出来ているなら俺は何も言わない。

「そちらへの連絡はどのように行えばよろしいですか?」
「それはレイジングハートを通して僕が」

 ユーノが行えるなら問題はないか。

「今晩になのはの両親の返事が出次第、ユーノよりそちらに連絡をします。
 その後、そちらに転送していただく。
 それでよろしいですか?」
「わかりました。それでは今晩連絡をお待ちしますね」
「よろしくお願いします」

 話しあいはここで一旦おしまいとなり、リンディ提督とクロノは自らの船に戻って行った。
 二人が海鳴からいなくなってから少し肩の力を抜く。

「なのは、管理局の船に行けるにしろ、行けないにしろ答えが出たら連絡がほしいんだが、どうやって連絡を取ればいい?」

 俺は携帯など資金的な問題で持っていないし、固定電話もない。
 ちなみに月村家とのやり取りは直接会ってやるか、学校ですずかを通して行っていた。
 翠屋についても似たような感じだ。

「士郎は念話とかは?」
「そんな便利なものは使えないな」

 ユーノの言葉に苦笑しながら答える。
 こういうときは自身の魔術の才能のなさが悲しくなるな。

「じゃあ、これ。
 私の携帯を貸してあげる。
 答えが出たらうちから電話するから」
「了解。ありがたくお借りするよ」

 なのはの携帯を借りて、なのはとも別れる。
 そして、なのはの後ろ姿を見送る。
 さて、近くの公衆電話から月村と高町家に連絡を入れないとな。
 しばらくアルバイトに行けなくなるって。

 そして、勘だが、なのはは来る。
 なのはの覚悟がわかれば高町家の両親はおそらく背中を押してやるだろう。
 俺はそれを信じて、荷物の準備をするだけだ。




side リンディ

 ある意味私達にとっても悪くない話でまとまった。
 切り札であるクロノを手札に残したまま、高い能力を持つなのはさんやユーノ君を使う事が出来る。
 だけど一番の不確定要素は衛宮士郎君

「エイミィ、どうかしら?」

 クロノとアースラに戻り、その足でエイミィの下に向かった。
 エイミィには私達が地上に降りている間になのはさんや士郎君の、そしてもう一人の女の子の事を調べてもらっていた。

「あ、艦長、クロノ君、おかえりなさい。
 白い服の子と黒い服の子の事はこの前の戦闘データから魔力値などはわかりました」

 エイミィが操作をして、この前の戦闘映像とデータを表示する。

「二人ともAAAクラスの魔導師で、魔力だけならクロノ君を上回っちゃてますね」
「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。
 状況に合わせた応用力と的確に使用できる判断力だろ」

 ムキになる辺り、まだまだ子供という事なのかしらね。
 私の息子も。

「エイミィ、士郎君のデータは?」
「えっと、赤い外套の子ですよね。この子はこれだけですね」

 表示されたのはなのはさん達よりも遙かに少ない情報。

「魔法を使ってないので魔力値も不明ですし、わかったのは手に持っている質量兵器についてぐらいですかね。
 この世界の拳銃、タウルス レイジングブル。
 構造はリボルバー型で装弾数は五発から使用弾は454カスール弾か、500S&Wマグナム。
 どちらにしてもこの世界の拳銃の中でも大口径かつ高威力のモノですね」

 ずいぶんと物騒な武器ね。
 そしてそれを使う事を想定している士郎君自身も。

「おそらく何らかの改造をしているのか弾が発射された時、魔力も測定してます」
「魔力を持った質量兵器……というわけね」

 一般人でも魔導師と対等に戦う事が出来る武器。
 それを持っているだけでも厄介といえるでしょうね。
 それに武器を転送をさせただけと言っていたけど転送可能な武器にどんなモノがあるか見当もつかない。

「それだけじゃない。昨日と今日直接会って改めて思うけど、なのはととても同い年には思えない。
 交渉だってかなり場馴れしてた」
「そうね。クロノと向かい合ってこんな拳銃を使っても平然としていたし、体もかなり鍛えて経験もあるんでしょうね」

 それに大人でさえまともに扱えるか怪しいレベルの質量兵器を片手で平然と扱う技量に身体能力。
 正体もわからない、得体の知れない謎の人物。
 衛宮士郎という名前でさえ偽名の可能性はある。
 少しでも情報がほしいところね。
 そうとなると

「アースラに来てもらったら試験という事で模擬戦をしてみるのもいいかもね」

 少しでも手の内を知るという意味でもこれは必要になるでしょうしね。

 もっとも小声でつぶやいたためか、クロノとエイミィには聞こえなかったみたい。
 それに士郎君と敵対する事が絶対にないと断言できない。
 ならばクロノが士郎君と戦った場合に勝つことが可能なのか、勝てなくても応援を呼ぶ時間を稼げるのか判断基準は絶対必要となる。
 だけど叶うのならば、あの子達と敵対することなくこの事件を終えたい。




side なのは

 お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんが裏山に出かけて、食器の洗い物も片付け終わった。

「大事なお話ってなに?」
「うん」

 お母さんにしっかりと私の思いを伝えるために私は話し始めた。
 ユーノ君に出会ってから今日までの事。
 魔法の事など話せないことはあるけど話せることは全部話した。

「もしかしたら危ないかもしれないことなんだけど、大切な友達と始めたこと最後までやり通したいの。
 心配かけちゃうかもしれないけど」
「それはもういつだって心配よ。お母さんはなのはのお母さんなんだから」

 お母さんの顔を見ればわかる。
 私の事を心配していることも全部。
 だけど

「なのはがまだ迷ってるなら止めるのだけど、もう決めちゃってるんでしょ」
「うん」
「なら……いってらっしゃい。後悔しないように。
 お父さんとお兄ちゃんはちゃんと説得しておいてあげる」

 頭を撫でて、背中を押してくれた。
 私の事を信じてくれた。
 それが何よりもうれしかった。

 それから私は着替えとシーツに包まれた赤い槍を持って外に出る。

 私が決めた道を突き進むために。




side 士郎(父)

 家を出て、走るなのはの後ろ姿を見送る。

「強くなったな」
「ええ」

 なのはが桃子に大切な話があるらしいので隠れていたが話しは全て聞かせてもらった。
 それにしても本当に強くなった。
 覚悟を決めて、道を見据えたまっすぐの瞳。
 どうも血は争えないらしい。

「ちょっと出てくるよ」
「はい。気をつけて」

 そう言い、俺も家をあとにする。
 だけど向かう先は恭也と美由希が待つ裏山と逆の方向に向かって歩く。
 なぜなら先ほどからこちらを見ている視線があるからだ。
 だがその視線には敵意はない。
 ただ自分の居場所を教えようとしているだけ。
 ちょうど街灯がないところに差し掛かった時、何かが降りてきた。

 いや、何かとは正しくない。
 先ほどからこちらを見ていた相手、赤い外套を纏った白髪の少年。
 魔術師、衛宮士郎。
 そして、外套を纏うその姿は戦う者の姿。

「こんなところまで呼び出して申し訳ありません」
「いや、かまわないよ。
 あのタイミングだ。シロ君も関わってるんだろう?」

 俺の言葉にシロ君は静かにうなずく。

「俺に関してもすべてをお教えすることはできません。
 でもなのはを信じて待っていてください。彼女は必ず無事に戻ってきます」

 その言葉は親になのはを信じてほしいという願い。
 そして、遠回しになのはを守るという誓い。

「ああ、わかった。だけどシロ君も必ず戻ってきてくれよ。
 もしいなくなったらなのはも美由紀も悲しむ」

 なのはもそうだが、美由紀もかなりシロ君を気に入っている。
 おそらくなのはがいなかったらアプローチしているかもしれない。
 いや、さすがに小学生に手を出すのはどうかと葛藤しているだけだ。
 もう数年もすれば間違いなくアプローチしてくるだろう。

「はい。またお会いしましょう」

 シロ君はそう言い残し、外套をなびかせ、闇に消えていった。
 恭也から話は聞いていたが初めて目にする魔術師としてのシロ君の姿。
 シロ君の知っている裏の世界は俺などが知っている闇などよりさらに深い最も暗い場所なのだろう。
 だけど彼は折れない。
 ただまっすぐ走り続けるのだろう。

「シロ君なら美由紀でもなのはでもどちらの婿になってもいいんだけどな」

 あの子なら安心して任せていられる。
 シロ君が帰ってきたらなのはと美由希をからかってみるか。
 そんなことを思いながら恭也と美由希が待つ裏山に向かう。

 それにしてもどうやってあの恭也を説得したものか。
 俺はそんな事を考えていた。 
 

 
後書き
今週の二話目でした。

次回更新も来週の日曜の夜です。

ではでは 

 

第二十一話 情報共有

 日は沈み、闇に染まる海鳴公園でなのは達と合流する。

「まだ大丈夫だよね」
「ああ、約束の時間まではまだすこしある」
「よかった。
 ならこれ、ずっと預かったままだったから」

 なのはが差し出したシーツに包まれたモノを受け取り、シーツを取り払う。
 そこのあったのは赤い魔槍ゲイ・ボルク。
 そういえばジュエルシードを破壊した時は壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を使用しなかったし、破棄した記憶もない。

「すっかり忘れてたよ。ありがとう、なのは」

 なのはに礼を言いつつ、外套にしまう様に槍を霧散させる。

「これで士郎君の武器庫になるのかな?
 そこに戻ったの?」
「ああ、ちゃんと戻ったよ」
「よかった」

 外套にしまう様に霧散させなければ、転送しているようには見えないだろうな。
 今後も外套から取り出すような形で誤魔化すか、最初から投影して武器を用意しておく方がいいかもしれない。
 まあ、それは後で考えるとしよう。

「ところで士郎君」
「ん? どうかしたか?」

 じっとこっちを見ているがどうかしたのだろうか?

「士郎君ってモノを転送できるのにいつも赤い外套姿なんだね」

 ああ、そういう疑問か。

「手の中とかある程度なら転送の位置は調整できるんだけど、なのはの服みたいに着替えるように転送させることは出来ないんだよ」

 まあ、投影であるが故に仕方がないが、レイジングハートのように一瞬で戦闘用の服を纏う事が出来れば便利だとは思う。
 そういえばあのイカれた杖(カレイドルビー)は可能だったな。
 仮にアレがあっても使う気はさらさらないが。
 そんな時俺達の前にモニターが現れる。

「お待たせしました。時空管理局です。
 これから我々の船、次元空間航行艦船『アースラ』に転送しますが、準備はよろしいですか?」
「は、はい。大丈夫です」

 美由希さんと同じ年頃の女性の言葉になのはが返事をして、俺も頷く。

「ではいきます」

 その言葉と共に足元に魔法陣が浮かび輝きが増し、輝きが収まった時には見たこともないところにいた。

「……ここは」

 いきなりの事に少し呆けてしまうが、背後の気配に振り返る。
 そこには

「いらっしゃ~い。
 時空管理局、次元空間航行艦船『アースラ』にようこそ。
 歓迎するわ」

 笑顔で俺達を出迎えるリンディ提督がいた。

 ……まあ、ここが時空管理局の船という事も納得しよう。
 いきますという言葉と共にいきなり転送されるのは驚いたし、元いた世界や今住んでいる世界よりも遙かに進んでいる科学技術にも驚いている。
 そんなことよりだ。

「協力者の出迎えがわざわざ提督自らというのはよいのですか?」

 今回の件の最高責任者が出向くなど普通はありえないだろう。

「僕もそう言ったんだが、聞き入れてはもらえなかったよ」
「……苦労するな」

 俺の言葉にリンディ提督の後ろにいたクロノのまったくだと言う様にため息を吐く。
 クロノに内心同情しながら笑顔で俺達を迎えてくれた最高責任者であるリンディ提督と改めて向かい合う。

「わざわざお出迎えありがとうございます。
 そして、この件が片付くまでよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそお願いね」

 リンディ提督と握手を交わす。
 ここにこの件の片がつくまでの期限付きではあるが契約が交わされた。

「それにしても、その格好で来るのはどうなんだ?」
「クロノの言いたいこともわかるが、私はなのはのように一瞬で出し入れと着替えが出来るような便利なモノは持ってないんだよ」

 つい先ほどなのはにも同じようなこと言われたな。
 時間と資金に余裕が出来たら服を一瞬で着替えることができる魔具の開発研究でも取り組んでみるか?
 ずいぶんと先の事だろうが。

「ああ、デバイスを持っていないから仕方がないと言えば仕方がないのか。
 ……ってちょっと待て、じゃあアースラでの普段の行動も」
「ああ、いつ発動するかわからないジュエルシードが相手だからな。
 基本、この格好になる。
 さすがに眠るときは着替えるが」
「はあ、まあ仕方がないか。
 ところでユーノ、君もいい加減元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

 は?
 ちょっと待て。
 ユーノの元の姿?
 初耳の話に事実を確かめるように、なのはに視線を向けてもブンブンと首を勢いよく横に振っている。
 なのはも知らないらしい。

「ああ、そう言えばそうだね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」

 で、さも当然のように返事をして光に包まれるフェレット。
 そして、光の中から現れたのは俺達と同じ年の頃の少年。

「ふう、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」

 なのはが当然知っているかのように言うユーノ。
 それとは対照的にユーノを見て固まっているなのは。
 その様子に手で耳を塞ぐ。

「ふええええええええええ!!!!!!!!」

 アースラ中に響き渡る勢いで叫び声をあげた。
 ……耳を塞いでいても少し耳がキーンとした。
 まあ、衛宮家の虎の咆哮に比べれば可愛い声なのだけど。

「えと、えっとユーノ君って、そ、その、ふえええ!!!」

 大混乱のなのは。
 これはまともな質問にならないだろう。

「ユーノ、少なくとも俺もなのはもお前のその姿は初めてみたんだが」
「え!? なのはと初めて会ったときは……」
「違うよ! 最初からフェレットだったよ」

 これは問題だろ。
 人間という事を隠してフェレットの姿で高町家をはじめとする色々な方々と交流をしていたのだから。
 しかも、温泉の時にはフェレットの姿で女風呂にまで行っている。

 恭也さんや士郎さんが知ったらどうなることやら。
 最低でも腕の一本。
 最悪なら首だな。

「クロノ、とりあえずジュエルシード云々の前にユーノ・スクライアの犯罪の取り締まりをしないか?」
「は? こいつ犯罪なんてしてるのか!」
「し、してないよ! いきなり何言うのさ!」

 俺の言葉にクロノがユーノに詰め寄り、必死に首を横に振るユーノ。
 しかし、犯罪をしてないだと?
 アレを犯罪という自覚がないのはまずいだろう。

「忘れているなら言ってやろう。
 連休の温泉の時、自身が男という真実を隠し、なのは達と共に女風呂に入ったではないか。
 ユーノ・エロクライア」
「スクライアだ! って違う。
 アレはそんなつもりじゃ」

 じりじりと追い詰められる淫獣ユーノ
 その時、ユーノが何かを閃いたかのような表情をした。
 この状況をどうこう出来るモノがあるとは思えないが

「君だってなのはと一緒にお風呂に入ったじゃないか!」
「あれはお互い同意していたから問題はない」

 まあ、同意していたとはいえ一緒に風呂に入ったなど恭也さんが知ったら襲いかかってくる可能性が、いや絶対に襲いかかって来る。
 これは別の問題として対応を考えておこう。

「さあ、恭也さん達に捧げられるのか。
 ここで罪を認め、償うのかを。
 選ぶがいい、ユーノ・エロクライア
 まあ、前者は腕の一本、いや首を差し出すぐらいの覚悟しておいた方がいいだろうが」
「だからスクライアだ!
 それに士郎さんと恭也さんがそんなことをするはずが」
「ないと言えるか?」

 俺の一言にユーノが固まる。

「高町家で生活していたなら、士郎さんと恭也さんのなのはへの溺愛っぷりは知っているだろう。
 ましてあの時、恭也さんの恋人である忍さんを始め、美由希さんやアリサ達までいたのだ。
 恋人と妹の裸を見た相手を恭也さんがどうするかなど考えたくもないし、私は全力で遠慮したいがな」

 俺の言葉にユーノは冷や汗をダラダラとかいて、顔色は真っ青を通り越して蒼白になっている。

「ごめんなさい。
 僕が悪かったです。
 許して下さい」

 物凄い勢いでなのはに謝るユーノ。

「にゃはは、いいよ。
 恥ずかしいけど、許してあげるから。
 士郎君も脅かし過ぎだよ。
 お兄ちゃんがそんなことするわけないよ」
「む、少し誇張していい過ぎたか」
「そうだよ」
「それはすまない」

 なのはは笑っているが、恭也さんは誇張でも何でもなくやるぞ。
 絶対。
 ユーノも俺と同じ意見なのか顔が引き攣っていた。

「まあ、ユーノの取り調べは後にするとして」

 クロノ、取り調べはする気なんだな。

「そうね。ひとまず私の部屋に行きましょうか。
 今までの事とか詳しくお話を聞きたいですし」
「はい」
「わかりました」

 リンディさんの後ろをついていく俺達。
 そして、辿りついたリンディ提督の部屋。

「まあ……なんというかすごいな」

 これがリンディ提督の部屋に対する正直な感想である。
 盆栽が並び、鹿威しまである。
 一つの部屋に茶室と日本庭園をまとめて押しこんだらこんな感じになるのだろう。

「いま、お茶を淹れるわね」

 用意されたのは抹茶に羊羹。

「ありがとうございます」
「「あ、ありがとうございます」」

 なのは達とリンディ提督に礼を言いつつお茶に口をつける。
 さすがの部屋になのはとユーノも困惑気味のようだが、俺にはそれよりも気になることがある。

 リンディ提督のお茶のすぐそばにある角砂糖が入った器はなんだ?
 コーヒーや紅茶ならまだしも抹茶が出ているこの場に砂糖がいるとは思えないのだが

「では早速で悪いのだけど、士郎君達が持っているジュエルシードの数を教えてほしいのですが」
「そうですね。あともう一人の魔導師の少女に関する情報もですね」
「そうね。それも貰えればありがたいわ。
 なら、ちょっと待ってね」

 俺の言葉にリンディ提督はモニターを開いて会話をする。
 モニターに映っている見覚えのある人も調査をしている人のようだ。

 リンディ提督が誰を呼ぶかはそれほど重要ではない。
 それに俺が管理局に提出できる情報というのはそんなに多くない。
 一つはフェイトの事。
 もう一つはフェイトが現在所有しているジュエルシードの数。
 これは海鳴市での魔力反応を感知出来ていたし、なのはとフェイトの戦いは見ていたので把握している。

 この二つの情報の内重要なのはフェイトの事に関する情報である。
 正確にはフェイト自身のことではなくて、フェイトの後ろにいる存在。
 フェイトに指示を出しているフェイトの母親の事である。
 この事ばかりは俺達の世界ではないのでいくら月村家の力を借りても調べることは出来ない。
 つまりフェイトの母親の情報は管理局の捜査能力にかかっているのだ。

「失礼します」

 扉が開き、リンディ提督と話をしていた見覚えのある女性が入ってきた。
 やはり間違いない。
 俺達がここに転送される際にモニター越しに見た女性だ。

「私はエイミィ・リミエッタ、アースラの通信主任兼執務官補佐をしてます。
 アースラの中でわからない事があったら何でも聞いてね。
 これからよろしく」
「衛宮士郎です。よろしくお願いします」
「高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」
「了解。士郎君になのはちゃん、ユーノ君ね」

 エイミィさんが自己紹介をしたので改めて俺となのはも自己紹介をしておく。
 執務官補佐ってことはクロノのパートナーか。
 それにしても通信主任も兼任とはクロノといい、エイミィさんといい若いのに大した役職だ。
 とりあえずプライベートの事は時間が空いた時に話すとして

「ではまず俺達が知る限りの情報を改めてお話しいたします。
 ジュエルシード21個内、1個は破壊し、現在私が所有しているのは1個。
 そして」

 なのはに視線を向ける。
 その視線になのはが答え、レイジングハートを掌に乗せる。
 それとともに5つのジュエルシードが浮かび上がる。

「私が持っているジュエルシードは5個です」
「さらにもう一人のジュエルシードの探索者、黒の服の魔導師、フェイト・テスタロッサ。
 彼女が所有するジュエルシードが3個です」
「つまり残りのジュエルシードは11個という事ね」
「はい」

 既に半分は回収され、どちらかの手にある。
 余りのんびりしていると遅れをとる事になる。

「士郎君が言っていた黒い魔導師の子、フェイトさんの情報はそれだけではないでしょ?」

 リンディ提督が俺を見据える。
 よくわかっている。

「はい。フェイトに海鳴市に侵入した直後接触し、ジュエルシードを集める理由を問うた事があります」

 もっともフェイトとの直接の出合いは故意的に接触しというよりは偶然出会ってしまったの方が正しいのだが。

「彼女自身はジュエルシードを集めて何かするつもりはないようですが、集める様に命じた彼女の親の事が気になります」
「フェイトさんの親が裏でフェイトさんに命令をしているということですか?」
「恐らくはですが。
 そして、気になるのがユーノが言っていたジュエルシードの輸送中の事故」

 俺の言葉にリンディ提督達も気がついたようだ。

「あの事故も故意的に起こされたモノだと?」
「可能性は高いでしょう。
 ジュエルシードを狙っている者がいて、偶然にも事故が起きて、散らばったジュエルシードを管理局よりも先に回収して利用する。
 そんな話はあまりに出来過ぎでしょう」

 可能性が高いと言ったがほぼ間違いなくジュエルシード輸送中の事故は間違いなく故意的に起こされたものだろう。
 あれだけの高魔力を秘めたジュエルシードを利用するのだ。
 偶然目の前にあったから使用するなどというのは危険すぎる。
 前もって目的のためにうまく利用できるモノとして調査しているはずだ。

「わかりました。エイミィ」
「はい。輸送中の事故の再調査依頼とフェイト・テスタロッサちゃんの身元確認とその血縁に関して調べてみますね」

 リンディ提督の言葉に、しっかりと頷いたエイミィさんが部屋を後にする。
 俺が知る情報は少ないが、こうしてフェイトの背後に誰かいる事を話すことで、俺では調べることができない情報を管理局に調べさせ、そこから情報を手に入れればいい。
 全てはそこからだ。

 あと俺が知る情報としては話していないフェイトのマンションの情報があるが、恐らくもうあそこにはいないだろう。
 俺と時空管理局がどのような関係かはフェイトは知らない。
 確かに最後にフェイトと別れた時の状況では俺と時空管理局が敵対していると判断されてもおかしくはない。
 しかし今でも俺と管理局が敵対していると判断するにはフェイト達には情報が足りない。
 もし俺ならば自分の自宅を知っている者が敵対者と接触した場合、自宅の情報が間違いなく敵対者に知られていない事が証明できるまでは自宅には近付かない。
 そんな事を考えていると

「あと士郎君に要望があるのだけどいいかしら?」
「要望の内容にもよりますが」

 リンディさんが口を開いた。
 要望って何だ?
 魔術の知識・技術に関することか?
 いや、それは俺が断ることはわかっているだろう。

「なのはさんの事はこの前の戦闘データで魔力値などはわかってるのだけど、士郎君のデータがほとんどないのよ」

 それはそうだろう。
 魔法とは全く違う魔術だ。
 だからこそ余計な情報は与えないように注意してきたのだから。

「協力関係を結んでいまさらで悪いんだけど、クロノと模擬戦をして実力を見せてくれないかしら。
 じゃないと一般協力者の実力も把握してないのに管理局管理の下で戦闘に出した、なんて話しになったらこちらの責任問題に発展しかねないのよ」

 そう言うことか。
 確かに戦闘能力がない者を戦闘に使ったりすれば責任問題に発展するだろう。
 組織においてそれは間違いないだろう。
 それに実力がわからなければ協力して戦闘を行った際に戦略が立てることが難しい。

 だが俺の情報がほしいというのはそれだけではないだろう。
 俺のデータがほとんどない現状では、万が一敵対した場合、強硬な手段に訴えることが出来るのか。
 それとも下手に戦闘する事自体が間違いないのかの判断基準がない。
 要するに

「少しでも情報がほしいといったところですか」
「そう取っても構わないわ。
 こちらとしても士郎君に出撃の要請をしていいのかすら曖昧ですもの」

 リンディ提督の言葉に内心でため息を吐く。
 契約の際にこちらの要望は全て受けてもらっているのだ。
 ここまで来て一方的に管理局側の要望無視するわけにもいかないだろう。

「はあ、わかりました。
 今からしますか?」
「来たばっかりですし、模擬戦は明日にしましょうか。
 それともう一つ」

 リンディ提督の視線が俺の腰のあたりに向けられる。

「転送前に少しスキャンさせていただきました。
 腰と鞄の中に銃を所持しているはずです。
 管理局は原則質量兵器の使用を禁じています。
 それを預けてはいただけませんか」

 なんとも予想外の依頼だな。

「ちなみに質量兵器とは?」
「一言でいえば魔法を使用しない物理兵器。
 この世界の銃器類もこれにあたります」

 銃を調べさせてほしいと言う依頼はあると思ったが、まさか銃を預けてほしいとはな。
 それに基本的には管理局に従うとした以上、質量兵器を使わないというのは従う必要はあるだろう。
 もっとも

「この件について質量兵器を使わないという確約では問題ですか?
 わざわざ預ける必要があるとは思えませんが」

 質量兵器を使用しないという約束だけではなく、銃を調べられる可能性が高い以上預ける事は出来ない。

「仮に士郎君の部屋に質量兵器を置いておいてそれが紛失した場合の責任はこちら側にも出てきてしまいます。
 本来なら押収、または証拠品の質量兵器は保管室に厳重に保管されますので、同じように処置するのが妥当だと考えます」

 なるほど何かあった時の過失責任か。
 管理局の質量兵器に対する事を知らなかったとはいえ、決めていなかったこちらの落ち度だな。
 仕方がない。

「こちらとしては一部とはいえ魔術技術を使用したものを預けて好きに調べられるのはいい気がしません。
 そこで代替案を提示します」

 預けて調べられるというなら調べられないようにすればいい。

「私の方で無許可で調べられる事のないように、悪用されぬように封印を施します。
 その封印された状態で管理局の保管室で管理してください」
「封印ですか?」
「はい」
「それはどういった封印なのですか?」
「簡単なものです、ちゃんとした手順を踏まずあけようとした場合に相手を眠らせる細工を仕掛けます。
 もっとも魔術の眠りなので私が起こさなければ半永久的に眠りますが」
「……わかりました。
 それでいきましょう」

 お互い完全に信頼関係を築けたわけではないのだからこれぐらいでちょうどいいだろう。

「なら厳重なケースを用意してください。
 それに銃と弾を全て入れて、封印します」
「わかりました。
 明日用意しますのでそれまで管理はお任せします。
 それと銃と弾をケースに入れる際は私も立ち会わせていただきます」
「はい」

 これでリンディ提督からの要望の話も終わったので

「それでは少し遅くなりましたけど、今日はここまでにしましょう。
 部屋に案内するわね」

 リンディ提督に部屋に案内される。
 ……提督に案内させていいものなのだろうか?
 そんな疑問が頭をよぎる。
 クロノのため息は増えるだろうが、細かいところは気にしないでおこう。

 用意された部屋は三部屋。
 真ん中が俺の部屋で、左右になのはとユーノの部屋となっている。

「とりあえず、着替えとかの荷物を片付けるか」
「は~い」

 なのはと別れ、自分の部屋で着替えや荷物をしまう。
 片付けるといっても俺の主な荷物は予備の戦闘服と弾丸と銃の点検道具なのだ。
 すぐに片付け終わるし、銃関連の道具は明日全部預けるので取り出す事もしない。
 というわけでなのは達と少し言葉をかわし、その後はシャワーを浴びて休むことになった。



 ゆっくりと眠っていた意識が覚醒する。
 アースラの中というのは地上と違い朝日が入らないので変な感じだ。
 起きているのだが朝が来たという実感がないというか何とも言えない違和感がある。
 部屋に置かれた時計では一応、朝のようだけど。

「着替えるか」

 何があってもいいように戦闘用の服と外套を纏い、部屋を出る。
 そして、向かうは隣りのなのはの部屋だ。
 なんで向かっているかというと昨日寝るとき、なのはに

「実は朝弱いから起こしてほしんだけど」

 とお願いされたことが関係してる。
 だから断じて夜這いではない!
 ……ん? 朝だから夜這いにならないのか?
 いや、余計な事は考えるのはやめよう。

 部屋へのアラームを鳴らすが反応はない。
 であっさりと空く扉。
 いくらなんでも警戒心が無さ過ぎな気もする。
 そんな事を思いつつベットに近づくと未だ夢の中のなのは。
 温泉の時と同じようにいつも結ばれた髪は解かれている。

 ともかく起こすとするか。
 ベットに座り

「なのは、朝だぞ」

 声をかけるが

「んにゅ~」

 起きる気配ゼロ。
 本当に朝が弱いらしい。
 まあ、昨日はアースラに来てから話をしたりと結構寝るのが遅かったから仕方がないのかもしれない。
 そして、なぜか

「にゅ~」

 頭の近くにあった俺の手にすり寄ってきた。
 なんだか起こすのがかわいそうに思えてきた。

 手をそのままなのはの頭にやり、手櫛で髪を整える様に優しく丁寧に撫でる。
 気持ちいいのか表情がトロンとしてきた。

「……なんだか起こすのがもったいないな」

 起きれば魔法という非日常の中であまえることもほとんど出来なくなる。
 ならば

「……少しだけこのままで」

 この先、なのはが一人で進める時まで俺が守ろう。
 いや、なのはだけじゃない。
 フェイトのことだってある。
 これが終わった時、二人が笑えるように俺は戦う。
 俺が目指す先はまだ見えないが、今はこれでいい。
 二人のために剣を執る。
 それだけで俺には十分だ。




side リンディ

 昨日別れる時に

「朝食をよかったら一緒にしない」

 と士郎君達を誘って、了承も貰ったのだけど起きてこない。
 銃関係の封印やアースラの他のスタッフへの顔合わせなどもあるからそろそろ起きてきてほしいところでもある。
 でも昨日、遅かったしもしかしたらまだ眠っているのかもしれない。

 そして士郎君の部屋の前に立つ。
 私が士郎君達を起こしに行ったなんて知ったらクロノがまたため息をつくのだろう。
 だけど

「個人的に士郎君の寝顔はどんなのか興味あるのだから仕方ないじゃない」

 普段、アレだけ大人びているのだ。
 眠っている時の年相応の姿を見たくもある。
 だから

「失礼します」

 小声で一応断って士郎君の部屋に入ると

「あら?」

 意外な事に部屋には誰もいなかった。
 それにベットはきちんと片付けられて、まるで使用されていない部屋みたいにきれいだ。
 だけど士郎君のカバンがあるからこの部屋で間違いない。

「なのはさんなら知ってるかしら?」

 士郎君の部屋を後にして、なのはさんの部屋に入る。
 とそこには安らかに眠るなのはさんとなのはさんの頭を丁寧に撫でる士郎君の姿があった。
 本当なら声をかけるところだけどかけれなかった。

 なのはさんを見つめる士郎君の表情が余りにも大人びて見えたから
 その姿が余りにも儚かったから

「おはようございます。
 リンディ提督、朝食の時間ですか?」

 士郎君の言葉に意識を取り戻す。

「おはようございます。
 そのつもりだったのだけど出直してきた方がよさそうね」
「すみません。今、なのはを起こすのはちょっと」

 そう言いながらなのはさんに視線を戻す士郎君。
 その眼を見てわかってしまった。
 彼は

「……失ったことがあるのね」
「……はい」

 私が無意識に零した言葉に静かに穏やかに返事をして、私を向く。

「全てを敵にまわして、大切な者の手を振り払って、剣を執った」

 私を見つめる血のように赤い瞳。
 その赤い瞳が初めて恐ろしく感じた。

「多くを救うために命を奪ってきた」

 彼は一体どんな地獄を見てきたのだろうか

「だからいざとなったら切り捨ててください」

 彼はどんな絶望を味わってきたのだろうか

「なのは達を守るために一番最初に俺を切り捨ててください」

 管理局という組織の中にいて絶望したことも何度もある。
 だけどそんなものは

「そのために俺はあなた方に剣を貸したのだから」

 彼の闇とは比ぶべくもない。
 彼の赤い瞳に映る闇はとても深く、暗く
 正常な人間では耐えることも出来ないモノ

「っ! な、なのはさんが眼を覚ましたら一緒に朝食にしましょう」

 なのはさんの部屋を慌てて後にする。
 部屋から少し離れて、壁に背を預ける。
 全身は嫌な汗に濡れ、手が、膝が、震えている。
 私は何を考えたの?

 正常な人間じゃ耐えられないモノに耐えるモノは異常者か、化け物か

「そんな……」

 頭を振り、意識をしっかりと保つ。

 だけど……あの赤い瞳が頭から離れない。

 大丈夫、いつも通り彼と接することができる。
 彼が何者かはわからない。
 過去もわからない。
 でも信じる事は出来る。
 私達が裏切らなければ、決して彼は裏切ることはない。
 だから私は彼の信用に応える様に動くだけ。
 それが私に出来ること




side 士郎

 少し話し過ぎたかも知れない。
 リンディ提督の表情は見慣れている。
 俺の本質を見た人間はだいたい遠坂みたいにあきれるか、他の人たちのように拒絶する。
 もっとも拒絶するほうが圧倒的に多く、あきれたりする方が珍しい。
 アルトは

「ずいぶんと壊れてるのね。でも、だからこそ面白いのかもね」

 なんて言っていたが。

 これでも遠坂達と一緒にいた時はまだよかった。
 だが大切な人たちの手を振り払ってからは誰かと共にいることを選ばなかった。
 命が狙われている俺と共にいれば共にいる誰かを危険に晒すことになる。
 だか、隠れて生活しながらも見捨てることができなかった。
 だからいきなり現れて剣を振るい、命を奪うというやり方で多くを救おうとした。
 その行為は化け物と変わらなかった。
 いや、戦場から戦場へ命を奪い続けるために移動を続ける正しく化け物だった。 

「にゅ? 士郎……君?」

 と起こしてしまったかな?

「おはよう、なのは」
「うん、おはよう」

 さてと、なのはも眼を覚ましたし

「さて、部屋に戻るから顔を洗って着替えて、朝食にしようか」
「は~い!」

 なのはの返事を聞き、部屋を後にする。
 なのはは俺の事を知った時、どういう反応をするのだろうか?
 拒絶するのだろうか?
 それとも……

「考えても答えは出ないか」

 この答えはそう遠くない内に出ることになるだろう。
 俺はそう確信していた。 
 

 
後書き
第二十一話でした。

にじファン時代のユーノお仕置きは今回はなしの方向になりました。

それにしても3日連休っていいですよね。
日曜日の夜もゆっくり出来ますし。

と休日の夜をダラダラしてるセリカでした。

ではでは 

 

第二十二話 模擬戦

 なのはが着替えて、髪をセットし終わり、俺の部屋にやってきたので、ユーノの部屋に声をかけると起きていたので共にリンディ提督の部屋に向かう。

 レイジングブルとグロックは鞄にしまって部屋に置いているが、鞄には少々細工を施しているので無許可で開けようものなら少々痛い思いをするだろう。

「「「失礼します」」」

 なのは達と共にリンディ提督の部屋を訪ねる。

「おはよう。ゆっくり眠れたかしら?」
「おはようございます。はい、ぐっすりと」
「はい。おかげ様で」

 なのはとユーノ、そして俺と眼を合わせる。

「士郎君もゆっくり眠れた?」
「はい」

 意外だ。
 なのはの部屋でのやり取りで極力関わらないようにするだろうと踏んだのだが。
 普通に俺に接してくる。

「じゃあ、朝食に行きましょうか」

 リンディ提督と共に食堂に向かう。
 そしてエイミィさんとクロノの二人と合流した。

「おはようございます。クロノ君、エイミィさん」
「「おはようございます」」
「おはよう」
「おはよう。なのはちゃん。
 艦長、もう人数分用意できてますよ」

 クロノとエイミィさんと挨拶をかわす俺達。
 どうやら二人が俺達の分まで用意してくれていたようで、パンにコーンスープ、サラダ、ベーコンエッグ、オレンジジュースと洋食の朝食が並んでいた。

「ありがとう。クロノ、エイミィ
 さ、座って座って」

 リンディ提督に背中を押され、言われるがままに席につく。
 そして俺の正面に座るリンディ提督。

 その様子になのは達だけではなくクロノ達まで不思議そうな顔をしながら席につく。

 本当に意外だ。
 なのはの部屋での様子からこんなふうに近づいて来るとは思ってもいなかったが、何を考えているのだろうか?
 
「「「「「「いただきます」」」」」」

 内心首を傾げながら、リンディ提督達とと共に手を合わせ、食べ始める。

 リンディ提督が何を考えているかは置いておくとして、昨日はリンディ提督の部屋でお茶をいただいたし、食後に紅茶でも入れるとしよう。
 勿論、紅茶の茶葉も持参している。
 淹れるときはお湯を沸かしたり食堂の機材を多少使う事になるだろうからリンディさんに許可をもらわないといけないが

「そうそう、士郎君
 昨日のクロノとの模擬戦の件だけど、朝食が終わってからでいいかしら?」
「ええ、俺は構いませんよ。
 クロノがよければですが」
「僕も問題ないよ」

 俺の言葉に反応したクロノの言葉にリンディ提督が頷く。

「じゃあ、朝食後少し食休みをしてからね」

 リンディ提督の言葉に頷き、のんびりと雑談をしながら食事を済ませ、今は食後の紅茶を皆で飲んでいる。
 食堂の使用に関してはあっさりと許可が出た。

「ん~、おいしい。普段は紅茶とか滅多に飲まないけど、これは格別だね」
「私のお母さんも士郎君の紅茶はとても褒めてましたから」
「ああ、なのはの家は喫茶店をやってるんだったな」

 などなどエイミィさんを初めなかなか好評のようだ。

 ちなみに紅茶に淹れる腕前に関しては桃子さんと同じぐらいのレベルだと思う。
 だがコーヒーに関してはまだまだ敵わない。
 これから色々学ばせてもらわねばと内心意気込んでいる。
 とそれぞれにカップが空になったので

「では食後のお茶も楽しんだ事ですし、そろそろ始めましょうか」

 リンディ提督の言葉に席を立ち、皆でアースラ内の訓練所に移動する。

 そして訓練所の中には俺とクロノが入り、その他のメンバーは訓練所を見ることのできるモニタールームに入った。

「準備はいいかしら」
「はい。いつでも」
「私も構わない」

 リンディ提督の言葉に返事をしながら意識を切り替える。
 フィールドは一対一の模擬戦をするレベルなら十分な広さはある。
 だが所詮は船内。
 天井が高いとはいえ、十メートル程。
 これなら空を飛べる相手でもやりようはある。

「ではクロノはもちろん非殺傷設定で、士郎君は」
「承知している。非殺傷設定などという便利なモノはないがお互い命にかかわるような戦いをするつもりはない」

 だが俺にとってのハンデとなるとやはりこれだ。
 デバイスには非殺傷設定という肉体的なダメージを与えないシステムがあるらしい。
 これによりクロノは思いっきりやれるが、殺さないようにやるとなると俺の戦術はかなり狭まる。

「一応、壁とかにはシールドは張っているけど手加減はして頂戴ね。
 それでは、始め!」

 リンディ提督の言葉とともにクロノが俺に杖を向ける。
 だが俺は無手のまま動かない。

「来ないのか? それとも私から行こうか?」
「ふん。来い!」

 この程度の挑発には乗らない程度の戦闘経験はあるか。
 ならば俺が先手を貰うとしよう。
 俺とクロノ距離は六メートル程。
 外套に手を入れてながら、鞘に入った刀を投影する。
 勿論刃は潰してある。
 さて、クロノの実力は如何程かな。

 予備動作なしで一息で踏み込む。

「くっ!」

 一瞬で間合いに入り、居合の要領で斬りかかる。
 だが

「なかなかいい反応だ」
「……舐めないで貰いたいな」

 俺の刀はクロノの杖に受け止められている。
 執務官という役職も伊達ではないらしい。
 さて、どこまで捌けるか?

「ふっ! はあっ!」

 刀を引きつつ、さらに一歩踏み込み、鞘を叩きつける。
 そこから袈裟斬り、鞘の横薙ぎ、横薙ぎの回転を殺さず、回し蹴りと叩き込んでいく。
 だが

「ほう、君の評価を改めるべきかな」

 全てを防ぎ、受け流していた。
 クロノの評価は改めるべきだな。
 クロノの持つデバイスはなのはのレイジングハートと形状こそ違うが、同じ杖である。
 そこからなのはと同じ中距離から遠距離型の魔導師と予想したのだが、違う。
 明らかに近距離戦闘の訓練と戦闘経験がある。

 だが近距離戦闘なら負ける気はしない。

 現にクロノは攻めに転じきれていない。
 いや、転じようとした瞬間の隙を俺が攻撃しているからすることができない。
 単純な近距離の攻撃の速さならこちらの方が上だ。
 このまま近距離戦闘に徹すれば押しきれる。
 だがそれはクロノも理解しているはず。

 一気に下がりながら刀を鞘に納め、地を蹴りクロノの背後を取り、抜刀する。

「ラウンドシールド!!」
「む」

 それは俺の目の前にいきなり魔法陣によって防がれる。

 俺の思考と仕掛け直す間に防御魔法を準備をしていたか。
 もちろん、今持っている刀ではこのシールドは破れない。

 そして俺の動きが止まった隙にクロノは空中に上がる。

 悪くない手だ。
 空を飛べない俺にとってはそこは足場がないフィールドだ。

「今度はこちらの番だ!」
「Stinger Ray」

 クロノが杖を向けると同時に四発の魔力弾が飛んでくる。
 威力はわからないが、弾速はかなり速い。
 手に持つ刀と鞘を投げ、ぶつける事で魔力弾を撃墜するとともに爆発させ、視界を遮る。

 クロノは残念ながら一つ勘違いをしている。
 空中は足場がないフィールドだが俺の間合いの外というわけではない。
 だが模擬戦闘という縛りの中では弓を使う事は不可。
 弓は手加減が出来ない。
 使えば試合が死合になる。
 だが、船内という狭いところでは弓を使わずとも手はある。

 体勢を一気に低くして、壁を蹴り、天井を駆ける。

「なっ!」

 俺の予想外の動きに一瞬固まるクロノ。
 そのような暇があるか?
 懐から再び抜くような動作をしながら、クロノに黒鍵を投げる。
 それをかわしながら魔力弾を放つクロノ。

 だがそれも予定調和。
 俺は魔力弾をかわし天井を蹴り、クロノに飛び掛かりながら体を捻じり

「じゃっ!!」
「っ!」

 蹴りを叩き込む。
 だがまたしてもシールドに阻まれる。

「ちっ」

 蹴りを阻んだシールドを足場にして天井に再び戻り、天井を駆ける。
 空を飛べない者にとっては天井や壁で足を止めることは落下を意味する。
 つまりは常に動き続けなければならない。

「スティンガースナイプ!」

 一条の光になって魔力弾が迫る。
 先ほどまでの魔力弾よりさらに速い。
 それを体を逸らしてかわす。
 そして、クロノに踏み込もうとした時
 嫌な感じがした。

 自分の本能を信じ踏み込んだ体を捻じり、無理やり軌道を変える。
 と背後から先ほど躱した魔力弾が再び迫っていた。
 誘導型、又は追尾型か。

 しかも魔力弾を撃墜しようと黒鍵を投擲するが

「爆発型ではなくて、貫通型か」

 黒鍵が弾かれ床を滑っていった。
 面倒な魔力弾だ。

 それにだ。
 壁を蹴り魔力弾をかわしながら考える。

 今のこの状況、誘導弾をかわし続け、勝ったとしても俺を敵にまわして厄介だと管理局側に思わせるのは難しい。
 いや、ゲイ・ボルクの存在があるから警戒はさせることができる。
 だがアレを使わなければ御せると判断されて強行な手段を取られると管理局と完全に対立する可能性すらある。
 少なくとも簡単に御せる相手ではないと管理局に認識される必要はある。
 そうとなると

「……正面突破か」

 このまま手を惜しみすぎるのも考えモノだ。
 宝具レベルではなく、かつ非常識な武器を使い、真正面から魔法ごと叩き潰すぐらいはして見せる必要はあるだろう。
 それをクロノ相手に平然と行えれば十分に実力を示すことは出来る。
 そうなると武器は何がいいか。
 あの貫通型の魔力弾ぐらいでは壊れないほど強固であり、普通の人間ではまず扱えない武器。
 そんな武器は……あるな。
 俺の姉であり妹であるイリヤの狂戦士のサーヴァントが持つ斧剣が

 決まれば行動あるのみ

 壁を強く蹴り、床に着地して、外套から取り出すように斧剣を投影する。

 あの狂戦士が持つ斧剣を子供が持つのだからアンバランスではあるが、死徒であるこの身で振ることは難しくない。
 俺の意図を理解したか

「スナイプショット!!」

 クロノが魔力弾がさらに加速させる。
 だがそれを

「はあっ!!」

 横に薙いだ斧剣で粉砕する。
 そのまま踏み込み、斧剣をクロノに叩き込む。
 もちろんクロノはシールドを張るが

「っ!!」

 ミシミシと嫌な音をたててシールドに罅が入り、シールドが砕け散った。

 シールドが砕けた衝撃でクロノの体が離れ、斧剣自体は空振りになる。
 だがそれでいい。
 振り抜いた斧剣の運動エネルギーを殺さず一回転し、斧剣をクロノの頭に向かって投げる。
 勿論、回転中に斧剣を捻じり、刃の方がクロノに向かないようにはしている。
 だが咄嗟に後ろに跳んでいたクロノはそのまま飛ぼうとしていた。
 その状態で顔面にあの巨大な斧剣が飛んでくるのだから上には逃げれない。
 もちろんあのサイズをかわすには左右にもかわせない。
 つまりは逃げるのは下のみ。
 体を低くして斧剣をかわしながら、踏み込み杖の柄で突いて来る。

 そして、その流れは俺の想定通り。
 俺の足元には弾かれた黒鍵が落ちており、それを右足で蹴りあげる。
 黒鍵の刃がクロノのデバイスとぶつかり、突きを阻み、隙をさらすクロノ。
 本来ならこのまま蹴りあげた足で黒鍵の柄を蹴り、刃を相手に叩き込むがそれでは殺しかねない。
 そこで蹴りあげた足を踏み込みに使い、大きく振りかぶった左の拳で柄を殴り、黒鍵を叩き込む。
 クロノの実力なら不完全ながらでも致命傷は避けることができる時間。

「がっ!!」

 しかし所詮は不完全。
 シールドを張る暇はなく、デバイスで黒鍵を受け止めるしかできず、吹き飛ばされ床を滑り、壁に叩きつけられるクロノ。
 そして、俺は黒鍵を殴ると同時に動き出している。

「くっ」

 壁に叩きつけられ顔を歪めながら顔を上げるが俺はいない。

「まだやるかね?」

 俺は殴った黒鍵をそのまま空中で拾い、クロノの横に立ち、首に突き付けている。

「……いや、僕の負けだ」

 クロノは杖から手を離して上げて見せた。




side リンディ

 底が見えない実力。
 この模擬戦を見て一言で士郎君の実力を評価する一番ふさわしい言葉だと思う。

 ミッド式の魔導師のためどうしても中距離が主力になるクロノだけど、近接戦闘が弱いわけじゃない。
 いや、執務官の中でもかなりの実力だと思っている。
 そのクロノでさえ防ぐのが精一杯の使い手。
 さらに空を飛べないのを壁や天井を駆けることで補う身体能力。
 極めつけはあの巨大な岩の塊から削り出した様な剣だ。
 それに

「エイミィ、士郎君の物質転送の魔法の術式は見えた?」
「だめですね。全部外套から取り出すみたいにしてますし、外套自体が何らかの阻害能力があるのか外部からは何も」

 模擬戦の中でも自分の手を明かさないように戦う徹底ぶり。
 恐らく士郎君の本当の実力の半分も見せてはいないでしょうね。
 それにあの巨大な剣

「魔力を帯びているからといってシールドを破るなんてどんな代物なのかしらね」
「そうですよね。
 しかも纏ってる魔力自体はそれほど高くないので力任せに突き破ったようなものですし。
 う~ん、アレ自体にシールド破壊の能力でもあるのかな?」

 エイミィもわからないことだらけで頭を抱えてしまっている。
 それにしてもシールドを力づくで破る一撃なんて考えたくもないし、受けるなんて論外。
 もちろんクロノも全力というわけではないのだけど、少なくとも一対一での白兵戦では勝つのは無理でしょうね。

 それに士郎君にはジュエルシードを破壊した槍などもある。
 今の実力を仮に半分としても執務官クラスの特別隊でも編成しないと相手にもならないかもしれない。
 色々と考えることはあるのだけれど、今は

「お疲れ様、二人とも。
 それから今回の件の会議があるから一緒に来て頂戴。
 正式にアースラのメンバーに紹介するわ」

 とりあえず士郎君の事よりもジュエルシードの事を優先しよう。
 今日から本格的に稼働ですものね。




side 士郎

 ふう、なんとか読みきれたな。
 しかし空を飛ばれるというのは厄介だな。
 今回は室内だからよかったものの野外戦になれば、今回のようには戦えない。
 勿論、弓を使えば殺すことは出来る。

 それに空を飛ぶ宝具がないわけではないが、やはり戦闘経験がほとんどない。
 もし管理局が敵になったことを想定するならば、空中戦を想定した訓練もいるか。
 そんな事より今は

「大丈夫か? クロノ」

 黒鍵を外套の中にしまうように霧散させ、クロノに手を差し出す。

「ああ、問題ない。しかし、君とは接近戦をしたくはないな」

 俺の手をしっかりと握って立ち上がるクロノ。
 この様子なら何ら問題はなさそうだ。

「それは仕方がないだろう。誰にも得意な間合いというのはあるからな。
 それに今回非殺傷設定のない私に合わせて、近接戦闘を正面から受けていたしな。
 まあ、模擬戦については後で話すとしよう。
 とりあえずリンディ提督がお呼びだ。会議室に行くとしようか」
「そうだな」

 投影した武器を外套にしまう様に回収してからクロノと共に訓練室を後にして、なのは達と合流し、会議室に向かう事になった。
 ちなみにその途中

「それにしてもいつも君とか、衛宮士郎とフルネームで呼んでいるようだが、士郎で構わないぞ」
「む、そうか。
 ならそうさせてもらうよ」

 という会話があり、クロノが俺の事を士郎と呼ぶようになった。

 リンディさん達と共に参加した会議の内容は意外と簡単なモノだった。

 ・ジュエルシードが危険性が高いという確認
 ・ジュエルシードが海鳴市に落ちているという事
 ・残りが11個であること

 そして

「というわけで本日0時をもって、本艦全クルーの任務はロストロギア、ジュエルシードの捜索と回収に変更されます。
 また本件においては特例として問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導師でもあるこちら」
「はい。ユーノ・スクライアです」
「それから彼の協力者でもある現地の魔導師さん」
「高町なのはです」
「そして、現地の魔術師にして海鳴市の管理者でもある」
「衛宮士郎だ」
「以上三名が臨時局員の扱いで事態にあたってくれます」

 俺達の紹介である。
 リンディ提督の紹介に緊張気味に立ち上がる二人と平然としている俺。
 こういった状況に慣れていないのだから緊張しているのは仕方がないともいえる。
 ちなみに臨時局員という形については今回の件に関わりアースラに滞在する上で一番手続きがやりやすいとのことで受けることにした。

「「「よろしくお願いします」」」

 と一応はなのは達に合わせ頭を下げておく。
 下手な軋轢はないに越したことはない。

 それに俺達が臨時局員としてアースラの中で自由にしながら出動になるのもジュエルシードの位置が特定されてからだ。
 位置特定の機材に関しては知識がないのでこちらとしては出る幕はない。
 要するに見つかったら出動して、ジュエルシードを確保する役目である。
 フェイトの親に関する情報も俺ではどうしようもないので待つしかない。

「……後手ばかりだな」

 こうして考えると基本的には俺から動く事はできない。
 なかなかうまくいかないモノだ。

 まあ、それとは別として

「はあ」

 恍惚の表情で緑茶を飲むリンディ提督。
 いや、これは緑茶と呼んでいいのか?
 砂糖をスプーン大盛り二杯にミルク入りの元緑茶。
 正直、見ていて胸焼けしそうである。
 もっともそれを当たり前のように見ているエイミィさんや他のクルー達の様子からしていつもこれを飲んでいるらしい。
 それにこの容姿でクロノの母親である。

「リンディ提督といい、桃子さんといい、とてもそうは見えんな」

 この世界の不思議の一つだな。

 内心でそんな関係のない事を考えながら、俺達のアースラでの生活が始まった。 
 

 
後書き
今週第二話目でした。

今回は三連休という事もあってもう一話更新します。

では 

 

第二十三話 考察

side クロノ

 士郎達がアースラに滞在することになったため、その関係データを本局に送るのをエイミィに頼むためにオペレータルームに入る。

「ありゃ、クロノ君、どしたの?」
「士郎達のアースラ滞在と協力者としての認定データを本局に送ってほしくてね」
「なるほど、了解。データは持ってきてる?」
「ああ」

 頷きつつ端末を渡す。
 エイミィは端末を操作パネルに差し込み、操作ししていく。
 その横の画面にはデータを集めてたのかフェイト・テスタロッサの姿があった。

「よし。送ったよ~って、フェイトちゃんが気になる?」
「ん? ああ。いまだに居場所は掴めてないんだろう?」
「そう、あのレベルの魔導師だからすぐに出てくるかと思ったんだけど全然尻尾が掴めなくてね。
 フェイトちゃんの戸籍情報もなかったから、当然母親の情報もなし。
 テスタロッサの姓で該当人物がないか管理局のデータベース検索してるけどさすがに数が多くてこっちはすぐには」

 なかなか難しいか。
 いや、情報が少ないという意味ではあいつもかなり少ない。
 模擬戦でも感じた事だが、どうにも得体が知れない。

「ところで私としてはアースラの切り札と管理外世界の魔術師の戦いにも興味があるんだけど、そこはどうなの?」
「……どうといわれてもな。
 アレは士郎は本気じゃなかった」
「でもクロノ君もそうでしょう?」
「まあ、そうなんだが」

 エイミィの言うとおり僕ももちろん本気じゃなかった。
 間違えてもアースラを壊すわけにはいかないし、非殺傷設定がなくてハンデを背負った士郎に本気でやるわけにいかなかった。
 だからこそお互い本気ではないとはいえ、士郎の得意そうな接近戦ではじめは勝負を受けた。

「接近戦では勝てないだろうな」
「やっぱり強いんだね、士郎君」
「強いという事もあるんだが、経験の違いだろう」

 魔導師として中距離を主体に訓練してきた自分。
 デバイスを持たないがゆえに魔力を秘めた武器を使う士郎。
 それぞれの技術の違いだ。

 そして士郎が持つ武器は自身の技量に大きく左右される。
 あの巨大な岩の剣などいい例だろう。
 使えばその威力から並の魔導師ならシールドごと分断されかねない。
 だがあの大きさである。
 普通は振り上げることさえ困難なモノ。
 それを使いこなす技能があって初めて意味がある。

 何かおかしい……
 そんな事を考えていると

「あら、二人ともどうしたの?」

 艦長が部屋に入ってきた。

「いえ……」
「クロノ君と士郎君の実力について少し論議を」
「ああ、模擬戦の事ね」
「はい」

 エイミィと僕の言葉に顎に手を当てて少し考え込む艦長。

「クロノ、模擬戦を思い返して何かおかしいところはない?」
「おかしいところですか?」
「そう、よく考えてみて」

 艦長の言葉に模擬戦を思い返す。

 杖を構えた僕に対し、無手で構えない士郎。

「来ないのか? それとも私から行こうか?」
「ふん。来い!」

 いやらしい笑みを浮かべ挑発してくる士郎の誘いには乗らず出方を待つと士郎は外套から鞘に入った剣をとりだして見せる。
 そして、予備動作もなしに一気に踏み込んできた。
 鞘から剣を抜いてからくると思った僕は反応が一歩遅れるが防ぎきる。
 そこからも僕の予想を裏切っていた。

 剣を引いた次に来た攻撃は鞘による打撃。
 そこから剣、鞘と来てしまいには蹴りだ。
 今のミッドではあまり見ない古典的な技術ではあるが、士郎の事を剣士かと聞かれれば正直首を傾げる。

 さらに飛んで魔力弾を放てばかわして突っ込んでくるかと思えば、剣を捨て壁や天井を走るという非常識ぶり。

 それに魔力弾を平然と掠めるようにかわし、放つ細身の剣。
 恐らく剣の投擲も手加減をしていたのだろう。
 軌道は直線ではなく曲線を描いていた。
 だが曲線の軌道を描いていても、本気ではないとはいえかなりの速度であるスティンガースナイプを捉えていた。
 さらに僕に放たれたものも確実に僕を捉えており、かわすなり防御するなりする必要があったのも事実。

 さらに死角からのスティンガースナイプにも反応していた。

 非常識な岩の剣を平然と振り、こちらへ投げ、それをかわし反撃しようとしてもまるで予定調和のように構えていた。

「予定調和?」

 そうだ。
 まるでそうするのがわかっていたかのように足元には弾いた剣があった。

 僕の行動を予測したかのような動き。
 それに僕の魔力弾などを冷静に捉えて当然のようにギリギリでかわすなど普通は出来ない。
 できるとすれば過去の経験を伴うという事だが。

「クロノ?」
「今気がつきましたが、ひとつ大きくおかしなところが」

 僕の言葉に興味深そうに耳を傾ける艦長とエイミィ

「九歳という年齢の割に経験が多く思えます。
 模擬戦の時も僕の動きを読んでいました」
「ん? それってクロノ君よりも経験が上ってこと?」
「可能性としてですが……」

 だがそうなると明らかにおかしい。
 魔導師としての訓練を開始した時から含めれば僕の経験は士郎やなのはの年齢と同じになる。
 仮に士郎が僕が訓練を開始した年と同じ年の時に修練を積んだとしても四年。
 その四年で士郎と同じ事が出来るかといえば絶対に出来ないと答える。

 なら修練ではないとすれば?
 九歳の子供が模擬戦で僕の動きを読めるぐらいの実戦経験がある?
 それこそまさかだろう。
 
 そういう事になると見た目と年齢が一致してない可能性も捨てきれない。

「はあ、士郎君については謎だらけね」
「う~ん、一体何なんだろう。ある意味フェイトちゃんよりも謎かもしれないですね~」

 エイミィの言うとおりだ。
 謎の過去。
 九歳という年齢に見合わない戦い慣れた様
 そして、術式もわからない魔術

 これだけわからないと、もはやどうしようもない。

「とりあえずは士郎君の事は保留としましょう。
 まずはフェイトさんとジュエルシードを最優先で」
「了解です」
「はい」

 艦長の言葉にうなずく。
 確かに今はフェイト・テスタロッサとジュエルシードが最優先だ。
 だがそう言ったはずの母さんの表情が気になった。




side リンディ

 部屋に戻り、お茶を入れて一息つく。

「年齢と見合わない戦闘技術……ね」

 ある意味クロノの見解は当たり前なのかもしれない。
 私が士郎君の内面をほんのわずかだが見てしまった。

 底の見えない暗い闇を秘めた赤い瞳

 確かに九歳とは思えなかった。
 だけど

「……疑いたくなかったのよね」

 もし本当は子供じゃなかったとしても
 私なんかじゃわからない何かを背負ってきた彼と戦う事だけはしたくなかった。
 だから

「そうね。信じるしかないわよね」

 彼の事を信じよう。

 さてもうひと頑張りしましょうか。

 体を大きく伸ばして部屋を後にした。




side 士郎

 俺達のアースラの生活も最初の二日は静かなものだったが、三日目

「見つけたのか?」
「ええ、それも二つ同時よ」

 昼過ぎにリンディ提督に呼び出され、ブリッジになのはとユーノ、俺の三人で行き、状況を確認する。
 なんでも二つ同時にジュエルシードを補足。
 一つはすでに鳥が取り込み動き出している。
 そして、もう一つは

「発動直前。だけどこのままにしてたらフェイトちゃんに奪われちゃうよ」

 エイミィさんの言うとおりだ。
 こちらの動きを警戒しながら動いているフェイトを未だに管理局は補足できていない。
 なのはが鳥の相手をしている間に奪われる可能性が高い。

「なのは、ユーノは鳥の相手をしてくれ。
 俺がもう一つの方に行く」

 正直万が一に備えて俺もなのはと共に行きたいが、ジュエルシードの確保が優先だ。
 それにどちらかにフェイトが来る可能性も高い。

「士郎、勝手に」
「わずかな遅れで取り逃すことすらある。
 俺は封印は出来んが、確保するだけなら問題はない。
 なのはがもう一つの封印を終えた後にこちらに来てくれればいい。
 クロノを出して緊急時の手札が減るのは問題だろう」
「……そうね。いいでしょう。
 なのはさんとユーノ君はジュエルシードを取り込んだ鳥の方を、士郎君はもう一つの方をお願いします」
「「はい」」
「心得た」

 リンディ提督の言葉に先に転送ポートからなのは達が出撃し、次に俺が転送される。

 俺が現場に転送されると同時に青い光の柱が現れた。
 どうやら何かを取り込むかして発動したようだ。

 野犬でも取り込んだのか虎を超える大きさの四足歩行の獣がいた。
 俺がここにいればフェイトが来ても何とかは出来る。
 それにアースラに滞在中は下手に実力を見せるわけにいかないので体を動かしていない。
 トレーニングルームはあるにはあるが、監視されている可能性があるのに下手な事も出来ない。
 というわけで

「運動不足の解消ぐらいには使えるといいのだが。来い、駄犬」

 俺の言葉を理解したわけではないだろうが、雄叫びをあげて飛びかかってくる獣。
 少し付き合ってもらうとしよう。




side リンディ

 なのはさんもユーノ君も優秀ね。

 鳥を自由に飛ばさせないように転送と同時に魔力弾を上から落とし、飛行高度を下げさせる。
 高度が下がったらユーノ君のバインドで動きを封じ、なのはさんが封印する。

「なかなか優秀だわ。このままうちにほしいくらいかも」

 そして、なのはさん達とは別格なのが士郎君。
 ジュエルシードを取り込んだ獣が飛び掛かってきても怯えることなく半身をずらしてかわす。
 まるで体の調子を確かめるような感じね。

 そういえばアースラに来て、模擬戦以降本格的に体を動かすのは初めてだったはず。
 多分準備運動を兼ねてなんでしょうね。
 飛び掛かってくる獣をかわすこと五回。
 そして再び咆哮し、飛び掛かってくる獣を今度も同じようにかわすのかとおもったら違った。
 今度は半身を引くのではなくて一歩踏み込んでって

「なっ!」
「ちょっ!」

 クロノとエイミィが声を上げるのも仕方がない。
 獣の突撃に無手のまま迎え撃った。

「いい加減、耳障りだ」

 振り上げた手が凄まじい勢いで振り下ろされ、ジュエルシードを取り込んだ獣の顔面に叩き込まれた。

 そして、凄まじい音と共に地面に叩きつけられる獣と陥没する地面。

「な、なんて馬鹿力」

 クロノの言葉に同感ね。
 なんとか必死になって起き上がろうとする相手。
 だけど

「あ、あれじゃ、まともに動けないよね」

 エイミィの言うとおり、先ほどの一撃で脳震盪でも起こしたのか体を起しても再び地面に崩れ落ちている。
 あれで平然と立ち上がれるとすればなのはさんでは手に負えないかもしれないけど

「しかしあんな一撃まともに受けたくもないな」
「ああ、そうだね。
 この前クロノ君もそうだったけど、士郎君も本当に手を抜いてたんだね」

 クロノとエイミィがそんな話をしている。

 やはりあれだけの力を持っているのだから真正面から戦うのは避けたいところね。
 今回もジュエルシードを取り込んだ動物だから生きてはいるけど、生身であんなのは受けたくもない。
 いや、先日の模擬戦の事も考えるなら、バリアジャケットなど役には立たない。
 士郎君が岩の剣を使って戦えば武装局員でも一瞬で間合いに踏み込まれて、一撃で肉塊に変えられるでしょうし。

 なによりもその力以前に魔法もなにも使わないでジュエルシードを取り込む獣を一撃で動けなくするなんて非常識としか言いようがない。
 しかも相手が動けないとわかっていても視線を外さず獣を見下ろし警戒をしている。
 とここで

「士郎君!」

 なのはさんとユーノ君が現れるとこれ以上警戒する必要はなくなったと視線をなのはさんに向ける。

「えっと……これって」

 起き上がろうにも起き上がれない獣を見て、なのはさんが困惑の表情を浮かべる。
 その気持ちはよくわかるわ。
 私もこうして映像を見ていないで獣を見たら何をしたのか理解できなかっただろう。

「とりあえず動けないようにした。封印を頼む」
「は、は~い」

 なのはさんに封印を任せている時、士郎君はどこか遠いところを見ていた。




side 士郎

 大した運動にはならなかったな。
 もっともこの陥没した地面を見れば単純な力は凄まじいという事が管理局にも伝わるだろう。
 これだけで今回は良しとしよう。

 なのはに封印を頼み、ふと懐かしい匂いがした方に視線を向ける。

 いた。
 フェイトとアルフだ。

 だがこちらに近づく事はない。
 管理局を警戒しているためだろう。

「士郎君、封印終わったよ」
「ん? ああ、帰ろうか」

 なのはに呼ばれ、フェイトから視線を外して、なのはと向かいあう。
 平然を装っているがどこか残念そうだ。
 おそらくフェイトと会える事を期待したのだろう。

 やはり出来る限り早い方がいいだろうな。

「お疲れ様、今ゲートを作るからそこで待ってて」
「は~い」

 オペレータとなのはの会話を聞きつつ、再びフェイトがいたほうに視線を戻すがもうそこにはもういなかった。

 なのはとフェイトがこのままというのは問題だ。
 どこかで決着なり、話しをするべきだろう。
 でなければ、お互い後悔することになるだろうからな。

 なによりフェイトが今どのような生活を送っているのか全く見えないという事もある。
 フェイトに虐待をした母親と共にいるのか、それともアルフと二人でどこかに潜伏しているのか。

 どちらにしろ、少しでも早くこの件が片付くように願うとしよう。

 これが終わり、少しでも早く二人が笑顔でいれる様に

 俺の誓いを守るために 
 

 
後書き
今週三話目でした。

それではまた来週。

ではでは 

 

第二十四話 海の上の激闘   ★

 アースラに滞在をし始めて十日目。

 俺となのは、ユーノは俺の部屋で待機している。

 この十日間の収穫としては悪くない。
 俺達が回収したジュエルシードは三つ。
 それ以外に管理局側が発見しながらもフェイトに先を越されて、回収されたのが二つ。
 残りは六つ。
 逆にフェイトの母親の事についてはまだ情報が見つかってないらしく、こちらは停滞している。

 だが気になるのがジュエルシードの回収である。
 俺達の三つ、フェイトの二つ、共に俺達がアースラに滞在して初めの六日間で発見されている。

「妙だな」
「妙?」

 俺のつぶやきにユーノが首を傾げ、なのはも不思議そうにしている。

「管理局の整った設備を使ってわずか六日で五つのジュエルシードが見つかった。
 だがそれ以降四日経つのにジュエルシードが一つも発見されていない。
 となると捜索の前提が間違ってる可能性があるかもな」
「捜索の前提って、海鳴市に落ちたジュエルシードっていう前提のこと?」

 俺の言葉にすぐに反応したユーノの言葉に頷く。

「まあ、可能性としては海沿いの街だから海の中だろうが、最悪海鳴より離れた場所にあることも考えられる」
「そうなっちゃうとすぐには難しいよね」

 なのはにとってはジュエルシードの回収はフェイトと向かい合う事が出来る可能性がある場でもある。
 だが実際には全然会う事が出来ていないのだから、なのはにとってもストレスだろう。

 さっさと見つけてもらいたいものだ。

 その時

「エマージェンシー!! 捜索域の海上にて大型の魔力反応を感知!!」

 警報と共に放送が流れる。
 フェイトが来たか? それともジュエルシードが動き出したか?

「いくぞ!」
「「うん!」」

 なのはとユーノと共にブリッジに入るとモニターにはとんでもない光景が映し出されていた。

 天に伸びる青き光。
 その光が纏うは水の竜巻。
 さらに凄まじい風が吹いているのか海は大荒れ、画像も多少乱れている。

 恐らくは街でのジュエルシードを発動させたのと同じやり方だろう。
 あの時も魔力を辺りに流して無理やり発動させていた。
 だが今回は一つではなく六つ。
 いくらフェイトが優秀といっても無理だ。

「あの、私急いで現場に」
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」

 なのはの言葉に冷静に言い放つクロノ。
 確かに下手に手を出すよりも自滅するのを待った方が今回の場合は確実だろう。
 仮に封印できたとしてもその時のフェイトは確実に疲弊している。
 そうなれば捕縛はたやすい。

「クロノ執務官に同意見ですか? リンディ・ハラオウン提督」
「……ええ、私達は手を出しません」

 悔しそうに、だがしっかりと答えるリンディ提督。
 提督である前に母親である彼女にとっては子供があのような死地にいることはつらいのだろう。
 もっとも俺達が従う義理はない。

「では我々はこれよりしばし別行動をとります」
「なっ!! それはどういう事だ!」
「契約時に伝えたはずだ。ジュエルシード以上に優先すべき相手がいると。
 それにアレだけの魔力が暴走していたら海鳴の霊脈に影響を与えかねない。
 魔術師として、管理者としてそれは見逃せないのでね」

 踵を返し、転送ポートに向かう。

「だがどうやって行く気だ? 転送ポートは使わせないぞ」
「ユーノ、転送ポートは操作できるか?」
「うん。大丈夫」

 クロノの言葉は聞きながし、ユーノはしっかりと俺の質問に頷いた。
 そして、呆然としているなのはと向かい合う。

「……いいのかな?」
「フェイトにとってもなのはの力が必要だ。
 それとも、なのはは行きたくないか?」
「ううん。行きたい!」

 なのはの言葉に頷き、共に転送ポートに乗り込む。

「待て!!」
「ユーノ!」
「うん!」

 光に包まれて、俺となのははあの黒雲のさらに上に転送された。




side リンディ

 案の定というかやっぱり動いたわね。
 士郎君は

「クロノ、準備だけはしておきなさい」

 クロノ、私の息子に向かって感情を抑えて命令する。
 ここでの準備は士郎君達が失敗した時のジュエルシードの封印とフェイトさんの捕縛の事を意味する。

「士郎達はいいのですか?」
「契約違反ではないし、ジュエルシードを封印しないと海鳴に被害が出るのは事実よ。
 なら海鳴を領地とする士郎君が動かないはずがないわ」

 まだブリッジにいたユーノ君が少し驚いた表情をしたけど静かに頭を下げた。
 そして、ユーノさん自身も転送の準備をして海上に向かった。

「ふう」

 士郎君達を咎めることなく、さらにユーノ君の転送まで止める事をしなかった。
 だけどこれでいい。

 契約違反ではないとの言葉もただの誤魔化しにすぎない。
 士郎君も口では海鳴の事を言っていたけど本音ではフェイトさんが心配なだけ。
 だけど私は動く事は出来ない。
 だからせめて彼の事を信じましょう。




side 士郎

 まったくユーノの奴、転送しろとは言ったがこんな上空とは聞いてないぞ。
 いや、ジュエルシードが発動し魔力が満ちたあそこには転位自体が難しいと考えるべきか。

 それにしたってなのはまだしも俺は空を飛べない事を忘れてないだろうな。
 まあ、手段はあるんだが

「なのは、行けるな?」
「うん。行くよ、レイジングハート!」

 この上空から地上に落ちていっているというのになのはには何の迷いも怯えもない。

「―――風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に」

 なのはが軽やかにでもしっかりとした声で詠う。

「―――不屈の心はこの胸に!」

 初めて聞く、なのはの詩。
 その詩はなのはの覚悟の証のように力強い。

「―――レイジングハート、セーット・アーップ!」
「Stand by……ready!」

 その詩声に応え、強く光輝く赤い宝石。

 なのはとレイジングハート、この二人なら大丈夫だ。

 ここはなのはとレイジングハートの舞台。

 そして、その舞台のパートナーは俺ではない。

 フェイトとバルディッシュ、彼女達が相応しい。

 ならば俺のすることは決まっている。
 二人の舞台を邪魔する相手を阻むだけ。

 レイジングハートを持ち、いつもの服に身を包んだなのはの落下スピードは格段に緩やかになる。
 それに合わせ、俺も足場を用意する。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 外套から取り出すように投影するのはプライウェン。
 セイバー、アーサー王が持っていた盾にして船だ。
 盾に乗り、なのはと並び、ゆっくりと降りる。

 雲を抜け、荒れた海上に出る。

 ジュエルシードを発動させた影響だろう。
 今にも消えてしまいそうな弱々しい光を放つ鎌を持ち、俺達の登場に困惑しているフェイト。
 それにジュエルシードの雷に体を拘束されているアルフ。
 それぞれの状況を確認し

「―――投影、開始(トレース・オン)

 左手には使い慣れた弓の子供バージョンを、右手には赤き猟犬を外套から取り出すように投影し握る。
 そして、いつもの動作で猟犬を弓に番える。

「アルフはこちらで助け出す。援護も俺が引き受ける」
「うん。行ってくるね」
「ああ、いってこい」

 しっかりと頷き、フェイトの方に一直線に空を翔けるなのは
 さて、俺もしっかりと役目を果たすとしよう。

 しかしこの欠点だけはどうにもならんな。
 身体の痛みに内心ため息を吐く。

 俺が足場として使っているプライウェンは空中での足場としては便利がいいし、対魔・対呪防御は高い。
 だがプライウェンは聖マリアが描かれた『聖盾』という事が問題なのだ。

 死徒である俺と聖楯であるプライウェン。
 つまりは乗っている間、常に痛みというよりダメージがあるという事。
 
 単純に飛ぶなら他の手がない事もないのだが、こうして空で静止して援護する足場という意味ではプライウェンの方が便利が良い。

 さて余分な思考もここまでだ。

 紅き猟犬の標的は三つ。
 アルフを縛る雷。
 俺達の登場で固まってしまっているフェイトを縛ろうと迫る雷。
 そして、竜巻の周囲に集まってきている雷の群。

 正直宝具を使うのは見せすぎなのかもしれない。
 だが、今回の行動を力ずくで止める事をしなかった時空管理局へ借りを返すという意味でも見せてやろう。

 魔力を溜めたのは十五秒ほど、舞台の幕を引くのには不十分だが、脇役にはこれで十分だ。

「―――往け、赤原猟犬(フルンティング)

 猟犬は放たれ、渾身の魔力を込めた時に比べれば遅いが、それでも音速を超え翔ける。

 音速で翔ける猟犬はアルフを縛る雷を薙ぎ払い、フェイトに迫る雷を撃ち抜き、集まっている雷の中央に突き刺さる。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 俺の言葉と共に猟犬は爆風で雷を霧散させた。

「士郎、なんで」

 俺のそばに来て不思議そうな顔をしているアルフ。
 だが、いまは時間が惜しい。
 それにもう一人も追いついたようだしな。

「士郎、お待たせ」
「丁度いいタイミングだ。
 アルフ、説明は後だ。今はアレを止めるぞ」

 俺の言葉にじっと俺を見つめるアルフ。
 俺はアルフから目を逸らさない。
 そして、静かに頷いた。

「ユーノ、アルフ、二人はあの竜巻をどうにかしてこれ以上好きに動かせるな」
「完全には無理だよ」
「問題ない。要は二人の邪魔をさせなければいい。
 俺はなのはとフェイトの邪魔をする雷を撃ち払う」

 俺の言葉にすぐに動きだす二人。
 その時

「士郎、あんたならあのジュエルシード一人でどうにか出来んじゃないの?」

 なんて事をアルフが聞いてきた。
 なかなかいい勘をしている。

「確かに出来るか、出来ないかという問いかけなら出来るだろうな。
 だが今回の舞台の主役は俺じゃない。
 脇役は脇役らしく、主役の二人の邪魔をするモノを阻めばいいさ。
 それにあの二人ならやれるだろうしな」

 これは俺の勘だが、ほぼ確信している。
 あの二人ならやり通せる。

 俺は二人を信じながら、新たな矢を持ち弓に番えた。




side なのは

 士郎君がアルフさんを助けてくれると言ってくれた。
 だから私はフェイトちゃんのところに向かって一直線に翔ける。
 だけどその時

「フェイトちゃん!!」

 フェイトちゃんに向かってアルフさんを拘束してるのと同じような雷が迫ってる。
 それに竜巻の周りにも雷がどんどん集まっていってる。
 このままじゃ。
 だけど次の瞬間、私の横を赤い閃光が駆け抜けていった。

「え?」

 赤い閃光はフェイトちゃんに迫る雷を砕いて、集まっている雷に向かって軌道を変える。
 そして、凄まじい爆発を起こして、雷を薙ぎ払っていた。

「……すごい」

 これをしたのが誰かなんてわかりきっている。
 そう、士郎君しかいない。
 圧倒的な威力。
 大丈夫。士郎君を信じて私は前に進むんだ。

「フェイトちゃん、手伝って!
 ジュエルシードを止めよう!」

 レイジングハートからフェイトちゃんのバルディッシュに向かって、光が伸びて、その光が吸い込まれる。

「Power charge」
「Supplying complete」

 バルディッシュの光の鎌が輝きを取り戻した。

「二人できっちり半分こ」

 驚いているフェイトちゃんにしっかりと頷いて見せる。
 ジュエルシードの方を向けば、ユーノ君とアルフさんが魔法で竜巻の動きを縛って、士郎君が私達に放たれる雷を弓矢で撃ち落としてくれてる。

「士郎君達とアルフさんが止めてくれてる。だから今のうち
 二人でせーの、で一気に封印!」
「Shooting mode.」

 士郎君達を信じて、なによりも来てくれるとフェイトちゃんを信じて、ジュエルシードに向かって真っすぐ飛ぶ。

 近づく私を阻もうとするいくつもの雷があるけどそれは次々と飛来する閃光によって薙ぎ払われる。
 すごい正確性。
 同じ事をしろと言われてもできる自信はない。

 それより正直色々気になる事があります。
 士郎君が握っているのはレイジングハートのようなデバイスじゃなくて弓。
 つまりは士郎君の腕前という事なんだけど弓ってあんな連射できるものだったかな?
 それに魔術師である士郎君の放つ矢が魔力を帯びているのはわかるけど……

「その矢が光にしか見えないってどうなんだろう」

 あまりの光景にそんな事を思ってしまいます。

 とにもかくにも、私は士郎君の矢に守られて十分に近づく事が出来た。

 魔法陣の上に降りて、フェイトちゃんの方を見る。
 するといつもの封印形態に変化するバルディッシュ。
 バルディッシュを見つめて、私を見つめてくるフェイトちゃんにウインクして見せる。

 私の事を信じてくれたのかは分からないけど高度を上げて、私のそばまで来るフェイトちゃん。

 うん。二人ならやれるよね。

「ディバインバスター、フルパワー……いけるね?」
「All right, my master.」

 私の声に力強く答えてくれるレイジングハート。
 私の渾身の魔力を込めていく。
 その隣でバルディッシュを振り上げるフェイトちゃん。

 その光景にこんな状況なのに笑みがこぼれてしまう。

「せーのっ!!」
「サンダー―――」
「ディバイン―――」

 ジュエルシードの竜巻に降り注ぐ、フェイトちゃんの雷
 レイジングハートに集束する魔力

「―――レイジ!!!」
「―――バスター!!!」

 さらに激しい雷と魔力砲がジュエルシードをしっかりと撃ち抜いた。

 そして、雲の切れ目から光が降り注いで、私とフェイトちゃんの間に浮かび上がる六つのジュエルシード。

 ジュエルシード越しにフェイトちゃんと向かい合う。

 その時ようやくわかった。

 なんでこんなにもフェイトちゃんのことが気になったのか。

 寂しそうな瞳が気になったのか。

 答えは簡単なことだった。

 そう、私は分け合いたいんだ。

 悲しい気持ちも、寂しい気持ちも一緒に分け合いたいんだ。

 私は

「友達になりたいんだ」



 この時、初めてフェイトちゃんに私の思いを伝えることができた。 
 

 
後書き
二週間お待たせしました。

なんとか更新出来た!

あともう一話いきます。 

 

第二十五話 困惑

 なのはとフェイト、二人ならできると思っていた。
 そう……やるとは思っていたけど

「二人ともふざけた魔力だな」

 魔力だけじゃなくて威力もだが、まさかここまでとは思わなかった。
 九歳でこれなんだから、これが大人になったらと思うと将来が恐ろしいな。

 そして、二人の間に浮かぶ六つのジュエルシード。

 ジュエルシード越しに見つめあう二人。

 その時、なのはの表情が変わった。

 まるで本当の気持ちに気がついたかのように、憑き物が落ちたように

「友達になりたいんだ」

 静かにだがしっかりと紡がれたなのはの言葉。

 なのはが本当に願った事。
 それをようやくフェイトに伝えることができた瞬間であった。

 だが次の瞬間には黒雲が広がりなのはとフェイトが向かい合う場は乱された。
 感知用の結界外である海でも十分に察することができる魔力。

「ちっ、いいところで邪魔をするか」

 プライウェンで空を翔る。
 凄まじいスピードで魔力が高まり、雷鳴が鳴り響く。
 しかも悪いことに魔力はなのはとフェイトの真上だ。
 間に合うか

 なのは達の上で急制動を掛ける。
 足場にしていたプライウェンを右手に持ち、上空に向ける。
 それと同時に空が激しく光る。

 来る!

空航る聖母の加護(プライウェン)!!」

 降り注ぐ巨大な雷が聖楯とぶつかり合う。

 聖楯プライウェン
 この盾には大きな特徴が二つある。
 一つは魔法の船として空を翔ること。
 そしてもう一つが使用者を守るためではなく、使用者が他者を守る時にその真の力が発揮されることにある。
 すなわち、他者を守る事により十全の能力が発揮される聖楯。
 それがプライウェンである。

 なのはとフェイトを守るために真名を解放された聖楯。
 本来なら雷を受け止めて霧散させるはずであった。

 だが実際には

「ちっ!」

 雷は聖楯に弾かれ周囲に小さな雷となり降り注いだのだ。

 なぜ雷が霧散しなかったのか?
 理由は単純にプライウェンの能力が関係している。

 盾にして船のプライウェンであるが、盾と機能すれば船の、船と機能すれば盾の機能が使えない。
 そして、今俺がいるのは海の上、空である。
 つまりは空で支えを失い、雷とぶつかり合えば、踏ん張ることができず、弾き威力を弱めることしかできなかったのだ。

 小さな雷に打たれバランスを崩し、海に落ちていくなのはとフェイト
 そして俺自身も雷と聖楯がぶつかり合った衝撃でかなりの速度で落ちていっている。

 まさかここまで大規模な事をしてくるとは思わなかった。
 今回は完全に俺のミスだ。

 空で身体をねじり、再びプライウェンに乗り、空に浮かぶ

「なのは! フェイト!」

 バランスをとると同時になのはとフェイトに視線を向ける。

「私は大丈夫!」

 高度こそ落としたがしっかりと手を振るなのは。

 フェイトの方はアルフに抱えられていた。
 ジュエルシードの開放と封印で体力が尽きたのだろう。

 アルフも俺達を一瞬見ると一気に高度を上げる。
 その先には

「ジュエルシード!」
「あっ!」

 俺となのはが声を上げるがすでに出遅れている。
 アルフがジュエルシードに手を伸ばす。
 だがそれを阻むものがいた。




side アルフ

「友達になりたいんだ」

 なのはの言葉は私にとっては予想外だった。
 なのはは知ろうとしてくれていた。

 フェイトの苦しみを、悲しみを

 だけどそれを邪魔したのはあのババアだった。

 フェイトに誰かの手が差し伸ばされるのが気に食わないとでも言っているかのようなタイミング。
 だけどフェイトに手を差し伸ばしてくれたのはなのはだけじゃない。

「ちっ、いいところで邪魔をするか」

 悪態を吐きながらもフェイトに落ちる雷を防がんがために空を翔る士郎。

 士郎が今まで空を飛ぶために使っていたモノが盾となり雷を弾き、小さく分かれ降り注ぐ。
 その小さな雷に打たれたフェイトが落ちていく。

「フェイト!!」

 普段ならこの程度の魔法を受けたとしても落ちたりはしない。
 やっぱりジュエルシードを覚醒させるために無茶をし過ぎてる。
 フェイトを抱きかかえ、士郎となのはを確認する。
 よかった。
 二人も無事みたい。

 本来ならここで逃げるのが最善なのだろう。
 けどこの状況でジュエルシードを手に入れることができなかったらあのババアがフェイトにどんな事をするかわからない。

 だからたとえ危険でもジュエルシードに手を伸ばす。
 だけど

「なっ!」

 それを阻むものがいた。
 黒いバリアジャケットにデバイスを持った管理局の執務官

「邪魔を―――」

 なんで

 なんで邪魔をする!

 私はフェイトを守りたいのに

 フェイトに幸せになってほしいのに

 その少しの可能性を掴むために伸ばした手を

「―――するなあ!!!」

 阻むな!!

 怒り任せに魔力弾を叩きつけて執務官を弾き飛ばす。
 でも

「っ! 三つしかない」

 そこにあるのは半分だけ。

 執務官の方に目を向ければ三つのジュエルシードを持っており、私の目の前でデバイスの中に消えた。

 力づくで奪い取りたい。
 だけど

「う……」

 私の腕の中のフェイトの力のない声が私の頭を冷えさせる。
 ここは逃げないと

 フェイトを抱えながら戦えないし、士郎やなのはもいる。
 一対三じゃ勝ち目がない。

「わああああっ!!!」

 行き場のない怒りを魔力弾に込めて海に叩きつける。
 そして、ジュエルシードを掴み離脱した。




side 士郎

 アルフは水飛沫を目隠しに離脱したか。

 ジュエルシードの回収は三つ。
 つまりはなのはとフェイトの初めの約束通り半分ではあるからまあ良しとしよう。

「リンディです。これからそちらを回収いたします」
「あ、はい」

 リンディ提督の言葉にどこか悲しげななのは

 無理もないだろう。

 これで封印されていないジュエルシードはなくなった。
 すべてがフェイトまたは俺達の手にある。
 最悪このままフェイトと言葉をかわすことなく二度と会えない可能性すらあるのだ。

「なのは、気を落とすな」
「士郎君」

 不安げに俺を見つめるなのは

 確かに最悪二度と会えないかもしれないが、この可能性は低いと俺は思っている。
 なぜなら

「おそらくフェイトが必要なジュエルシードの数が足りてない。
 今持つジュエルシードを囮に使えばまた会えるし、ちゃんと決着もつけれる」
「え? どういうこと?」

 俺の言葉にユーノが不思議そうにし、クロノとなのはも首をかしげている。

「今回のジュエルシードを除けばフェイトが持つのは五つ。
 あと一つや二つ程度足りないなら時間がかかるが管理局にばれないように探す手立てもあったはずだ。
 だが今回のフェイトの行動を見る限り、管理局に自分の居場所がばれる事も構わず行動を起こしている。
 恐らくは何らかの理由で回収を急いでいる。
 さらに無理やり全てのジュエルシードを発動させたことから最低でもあと六つは足りないと推測できる」

 推測できると言っているが、フェイトの今回の行動を見る限りほぼ確実だろう。

 まだジュエルシードが必要なら現在持っているジュエルシードを囮にすれば案外すぐに会えるかもしれない。

「だからそんなに心配するな」
「うん!」

 俺の言葉に力強く頷いてくれる。
 その時

「準備ができましたから転送します」
「了解した」
「はい」

 リンディ提督の言葉に俺とクロノが頷き俺たちは再びアースラに戻っていった。

 アースラに戻ると同時にプライウェンを外套にしまうように霧散させる。
 とその時

「士郎君!!」

 いきなり腕をなのはに掴まれた。
 なのはは何も言わず俺の外套の袖を捲り上げる。

 そして、俺の腕を見て顔が真っ青になっている。
 気がつかれたか。
 なのはの行動にクロノとユーノの視線も俺の腕に集まる。

「な、なんだこの怪我は! エイミィ、すぐに救護室に連絡。
 士郎が負傷した!」
「えっ! わかった。すぐに連絡する」

 いや、そこまでしなくてもいいんだが

「クロノ、俺の腕よりリンディ提督の」
「ダメっ!」
「そうだよ。すぐに治療しなきゃ」
「艦長には僕から伝えておくから治療が先だ」

 クロノを先頭に、なのはに引き摺られるように救護室に連れて行かれる。
 吸血鬼の身体ならそれほど時間もかからずに完治出来るのだが、吸血鬼という事を言うわけにもいかないのでなすがままになる。

「傷はそれほど深くはないみたいだが、表面はボロボロだな。
 しばらくは動かさない方がいいね」

 救護室の男性にそう言われ、包帯を巻かれる。

「それにしても一体どこでそんな傷を?
 モニターで見てたがいつ傷を受けたか思い当たらないんだが」

 クロノが包帯を巻かれる俺を見てそんな事を言うが、なのはとユーノも頷いている。
 これはさっきまでの方がまだひどかったとは言わない方がいいな。

 なのは達が俺を治療室に連れて行った原因は俺の右腕にある。
 俺の右腕の二の腕辺りから下がまるで火傷を負ったかのようにボロボロになっているのだ。
 プライフェンを持っているときは気がつかれなかったが、霧散させるときになのはに右手を見られたのだ。

 この原因は単純にプライウェンの真名開放にある。
 聖マリアが描かれた聖楯。
 持つだけで死徒であるこの身にはダメージを負うのだ。
 では真名開放すればどうなるか?
 真名開放により放たれた聖楯の加護の力。
 当然それが死徒である俺を受け入れるはずもない。
 結果として護りの力は俺の腕を焼いたというわけだ。

 だがこれを正直に説明するとなると当然のことだが俺が吸血鬼という話もかかわってくる。

「この怪我は自分でやったものだ」
「自分で?」

 俺の言葉にクロノが眉をひそめる。
 まあ、こんな言い方をすれば意味がわからないだろう。

「俺が空を飛ぶ道具として使用した盾だが、アレに欠点がある」
「欠点?」
「ああ、能力としては他者を守る時に本来の力を発揮する盾なのだが、所有者を完全には守ることができないんだ」

 目を見開くなのは達。
 まあ、無理もない。
 この説明を聞けば誰でも盾として致命的である事はわかる。
 盾とは本来所有者を守るもの。
 それが他者を守る時に本来の力を発揮し、その際に所有者を守りきる事は出来ない。
 紛れもない欠陥品である。

「なんでそんなものを」
「空を飛ぶ事を優先したためだ。
 本来なら使う気はなかった」

 首をすくめてみせる。

「はあ、事情は分かった。だが少なくとも二度と使わないでくれ。
 こちらの心臓に悪い」
「そうだよ。心配したんだよ」
「……すまない」

 クロノがため息を吐きながら文句を言ってくる。
 適当に受け流そうと思ったのだが、さすがになのはに睨まれては敵わないので素直に謝っておく。

「それじゃ、士郎の治療も終わったし会議室に行こうか」

 クロノに連れられて治療室を後にする。

 それにしてもアースラに戻ってきた時も感じたことだが、なにやら他のクルー達が騒がしい。

「クロノ、これは何の騒ぎだ?」
「ん? ああ、海上にいる君達に魔法攻撃があった時に同時にアースラにも攻撃があったんだ。
 そのせいでアースラが損傷を受けた。そのせいだ」

 アースラにも攻撃?
 こんな特定の位置を掴みにくいだろうアースラを正確に狙い、それと同時に俺達の世界にも攻撃をする。
 一体どんな魔法だそれは

「詳しい事は会議室で一緒に説明するよ」
「了解した」

 会議室につくとリンディ提督が俺達を待っていた。
 そして、まず俺達が海上に出てからのアースラに起こった事を教えてもらった。
 まあ、教えてもらったといっても

 ・アースラが俺達とほぼ同じタイミングで攻撃を受けた事
 ・その攻撃でアースラが損傷して、今動けない事
 の二点ぐらいである。

 俺達の収穫としてもジュエルシードが三つ。
 フェイトとアルフは逃走。
 で俺達が所有していない八つはフェイトがすべて回収しており、現存している二十個はもうどちらかの手の中にあるという事である。

 なのはにはジュエルシードを囮にすればと言ったが、この作戦に管理局が賛成するかといえば賛成はしないだろう。
 なぜなら現状ではこの作戦には穴がある。

「さて問題はこれからね。
 士郎君、先ほどなのはさんにジュエルシードを囮にすればフェイトさんと接触できると言っていましたけど」
「現在の情報から推測しただけだが、ほぼ間違いないと思う。
 もっとも接触して奪われて逃げ切られるとどうしようもないのでな。
 作戦と呼べるようなものではないが」

 これが大きな穴である。
 接触したのはいいがジュエルシードを奪われ、逃げられてしまえばおしまいなのだ。
 俺の言葉にリンディ提督は何か考えて

「クロノ、事件の大元について心当たりがあると言ってたけど」

 壁際で話を聞いていたクロノに視線を向けた。

「はい。エイミィ、モニターに」
「はいは~い」

 エイミィさんの言葉と共に会議室中央のモニターに現れたのは一人の女性の映像。

「あら」
「そう、僕らと同じミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ」

 プレシア・テスタロッサ。
 フェイトと同じファミリーネーム。
 この女性がフェイトの母親か……

「専門は次元航行エネルギーの開発。
 偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって放逐された人物です」

 次元航行エネルギー?
 そっちの方は俺には専門外だから特に気にすることではないか。
 違法研究というのが多少気にはなるが

「それにしても行き詰っていたが急に情報が出てきたな」
「プレシア・テスタロッサの名前だけは昨日ぐらいに出てきてはいた。
 だけどフェイト自身の戸籍がないことから今回の件の大元か判断ができなかったんだ。
 でもさっきの攻撃の魔力波動が登録データと一致したことからようやく確証を得られたというわけだ」

 なるほど。
 確かに余計な情報で混乱するよりも確証を持ってから情報を与えた方が効率はいいか。

「あの時、フェイトちゃんが母さんって
 それに驚いてるっていうより怖がってる感じでした」

 なのはが言うべきが迷いながらも発言したことによりこの女性、プレシアがフェイトの母親であるのは間違いないだろう。
 そして、怯えているというのは

「フェイトの情報についてまだ話してないことがある」

 アレの事が関係しているのだろう。

 俺の言葉にその場にいる全員が驚いた表情をする。

「士郎、まさか情報を隠蔽しようと」
「その意図はない。この情報は知らなくてもフェイトの捕縛や補足には何の影響もない」

 クロノが疑うのはもっともだ。
 だがこの情報があったからといってフェイトの補足自体には全く関係がない。
 あるとすればフェイトが管理局に捕縛された時の情状酌量を求める時である。

「フェイトと接触した時にジュエルシードを集める理由を問うたと言ったが、その時問う前にフェイトの治療を行った」
「治療?」

 リンディ提督が不思議に思うのも無理はないだろう。
 フェイト程の実力者で、アルフというサポートがいればジュエルシードが何かを取り込んだとしても怪我を負う事もまずないと言える。
 なのはとの闘いに関してもなのはの魔法は非殺傷設定なので直接傷を負う事はまずない。

「鞭によるものと思われる裂傷が多数あった。
 フェイトの使い魔、アルフによるとフェイトの母親にやられたと」
「そ、それって」
「……虐待という事ね」

 俺の言葉になのはは涙を浮かべ、リンディ提督は大きくため息をついている。
 クロノとユーノも言葉を発することが出来ないでいる。

 重い雰囲気ではあるがこちらもいくつか確認するべきところがある。

「リンディ提督、いくつか確認したい事があるのだが」
「ええ、構わないわ」
「まず先ほどのプレシアがアースラと海上に放った魔法は?」
「次元跳躍攻撃ね。言葉通り次元を超えて魔法攻撃を行うもの」

 そんな魔法まであるのか。

「その魔法は誰でも」
「いえ、体力的にも魔力的にもかなり消費するわ。
 並の魔導師では扱う事すらできない」

 なるほど。
 つまり仮に管理局と敵対しても海鳴にいきなり魔法を撃ちこまれる心配は低いか。

「この魔法の発射位置の特定は?」
「可能だけど、今回はアースラに受けた攻撃で一部機能不全を起こしたから特定は無理でした」

 なるほど今回は攻撃で無理だったが、位置を補足する方法自体はあるか。
 だが次も同じように攻撃してくるとも限らないし、フェイトを見失っては元も子もない。

「アースラの修理にはどれぐらいかかりますか?」
「修理と魔法攻撃に備えたシールド強化で二日ほどかしら」

 二日か。
 微妙な日数ではあるが

「フェイトとプレシアがすぐに動く可能性はどれぐらいだと思います?」
「すぐに動く可能性は低いと思うわ
 フェイトさんもプレシア女史も膨大な魔力を消費しているから、恐らく二日ぐらいは動けないはず」

 魔法に関してはリンディ提督の方がはるかに詳しい。
 さらにプレシアの情報を持っているのだからこの予想はほぼ確実だろう。

「二日でどうにかする必要があるという事か」
「そういう事ね。
 とりあえず士郎君になのはさん、ユーノ君は帰宅を許可します。
 アースラは修理で動けないし、特に士郎君となのはさんは学校をずっと休むのも問題でしょう」

 俺はどちらでも構わないのだが、確かになのはは問題だろうな。
 それにアースラの修理などに関しては役には立てない。

「了解した。一旦帰るとしよう」
「う、うん」

 なのはとユーノを連れて転送ポートに向かう。

 なのはも一回休息は必要だろう。
 フェイトが虐待を受けていたという事もショックだろうが、ようやく友達になりたいという思いに気付き、ぶつけることができたのだから。
 もっともその返事がまだもらえてないのが問題だが。

 それにしてもジュエルシードを囮にするという作戦はどうにかならないものか。

 フェイト一人ならばまだしもアルフというサポートがいれば逃げ切るのはそれほど難しくないだろう。

 確実にこちらが勝利するとなれば、俺が出ればいい。
 フェイトの命にかかわる可能性も高いが勝てる。

 だがフェイトの相手は俺ではない。
 あくまでフェイトの相手はなのはだ。

 そうなると手が足りない。

 フェイトに負けたとしても補足できる可能性をもっと上げる必要がある。

「……現状では手詰まりか」

 どこか重い空気を纏ったまま俺達は地上に戻った。 
 

 
後書き
続いて二話目でした。

次回更新予定は来週です。

ではでは 

 

第二十六話 束の間の平穏

side リンディ

 難しい状況ね。

 プレシア女史の行方は未だ知れず、私達が所有していないジュエルシードは全て相手の手にある。
 さらに、ここにきてプレシア女史によるフェイトちゃんへの虐待の可能性。

 フェイトさんについては逮捕というよりも保護という方が正しいのかもしれないと考えながらこれからの事を考える。

 士郎君が言っていた予想、プレシア女史がまだジュエルシードを求めているというのは恐らく間違っていない。
 間違ってはいないのでしょうけど

「ジュエルシードを賭けるとなるとね」

 賭けて戦うなら、負けたとしてもフェイトさんを確実に追跡できなければならない。

 もし仮にジュエルシードを賭けて、フェイトさんを誘き出したとしても問題はある。

 その戦いでフェイトさんが勝ち、ジュエルシードを手に入れるとアルフさんという使い魔もおり、追跡を振り切られる可能性がある。
 勿論、プレシア女史が次元跳躍攻撃などで横やりを入れてくれれば追跡も可能ではある。
 だけどフェイトさんが勝ってわざわざそんな事をしたりはするとは思えない。

 つまり現在の状況で賭け試合をするならフェイトさんに勝つことが前提になってしまう。

 クロノならこれまでの執務官としての戦闘経験も豊富だから、圧勝とはいかなくても勝てるとは我が子ながら思う。
 でもクロノの力はプレシア女史を逮捕するのに絶対必要になる。

 他の武装局員では勝ち目はない。

 フェイトさんに勝てる可能性があるのは、なのはさんだけど絶対勝てるかといわれるとわからない。

 そして、士郎君は

「勝てるでしょうけど、根本的に難しいわね」

 非殺傷設定を持ち、魔力ダメージのみでほとんど遠慮することなく試合が出来る魔導師。
 対称的に非殺傷設定を持たず、本気の戦いが命の奪い合いとなる魔術師。
 フェイトさん程の実力だと無事捕縛するというよりは、運が良ければ命があると言った方が正しいのでしょうね。

「どれも確実性に欠けるわね」

 ため息を吐きながら現状に頭を悩ませていた。




side アルフ

 時の庭園にフェイトを抱えてなんとか戻ってきた。
 管理局からの追跡もない。
 だけどボロボロのフェイトの姿に自然と涙がこぼれた。

 許せない。
 あのババア、フェイトを狙っていた。

 あれだけの仕打ちをされてきても一生懸命やってきたフェイトに攻撃をしようとした。

 フェイトを横たわらせてマントをかける。

「ごめん、士郎」

 フェイトを守るために預かった剣を持って、プレシアがいる奥に向かう。

 剣を叩きつけドアを斬り裂き、邪魔になったドアを蹴り飛ばす。

「はああっ!」

 そして一気にプレシアに飛びかかる。
 シールドが張られるがこの剣の前では関係ない。
 シールドを叩き斬り、プレシアの首に剣を突きつける。
 するとようやくゆっくりとプレシアがこちらを向いた。

「なんで、攻撃した!!
 あの子はあんたの娘で、あんたはあの子の母親だろ!
 なんであんな一生懸命になってる子に攻撃したんだ!!」

 怒りで手が震える。
 でもその時ようやく気がついた。
 プレシアの目に私が映ってないことに。

 そんなプレシアの目に本能が危険を知らせるが遅すぎた。

「がっ!!!」

 距離をとろうとした瞬間、衝撃が体を走り、吹き飛ばされる。
 まずいね。
 剣を落としちまった。

「あの子は使い魔を作るのが下手ね。
 余分な感情が多すぎるわ」

 私を物みたいに見下ろす眼。
 なんで気がつかなかったんだろう。
 私なんかがこいつに何を言っても無駄だったんだ。
 フェイトが嫌がっても逃げ出すべきだったんだ。

「消えなさい」

 杖が握られ、魔力が集束する。
 私は我武者羅に転位魔法を発動させた。

「ごめん、フェイト。少しだけ待ってて」

 私はゆっくりと意識を失った。




side 士郎

 アースラから転送され、地上に降り立った俺となのは、ユーノ。
 そして、リンディ提督
 なぜリンディ提督がいるかというとなのはの保護者である士郎さん達へのこの十日間の説明のためだ。

 それに今回の休日は二日間だが今からだと夕飯を食べて一泊、学校に行って帰ってきてもう一泊し、早朝には発つことになるので実質的には自由な日は一日だけだ。

「じゃあ、ここで」
「うん。明日は士郎君も学校に行くでしょ?」

 なのは達と別れようとした時、なのはがそんな事を聞いてきた。
 残念ながら

「いや、俺は明日も休む。
 今日の戦闘があまりに激しかったからな、霊脈の状況を少し見ておきたい。
 それに同じ日から休み始めた二人が同じように一日だけ学校に戻ってきて、また休んだりしたらな」
「あ、そうだよね」

 なのはやアリサ、すずかと仲が良くて学内鬼ごっこが起きているのだ。
 一緒になのはと戻って来ようものならまた一騒ぎ起きる。
 それはもう間違いなく起きる。
 捕まる気は毛頭ないが、あの人数に追われるのはさすがに勘弁してもらいたいのだ。

「なら、はい」

 なのはが差しだすのは携帯。

「何かあったら連絡するから」
「たびたび悪いな。ありがたくお借りするよ」

 少しお金をためて携帯を購入した方がいいな。
 なのはから携帯を受け取りながらそんな事を考えているとなのはとの分かれ道に近づいてきた。
 その時

「そういえば士郎君、あの武器は預けたままでいいの?」

 リンディさんがどこか心配そうに尋ねてきた。

「はい。たった二日ですし、使う事もないでしょうから」

 リンディさんが心配しているのは管理局に預けている俺の拳銃である。
 わずか二日のためにいちいち保管庫から取り出す手間をかけさせるのも申し訳ない。
 ということでアースラに置いてきたのだ。
 
「わかりました。
 しっかりとお預かりいたします。
 それではまた二日後に」
「はい。
 なのはとユーノもまた」
「うん」
「またね」

 三人と別れて帰路につき、軽く夕食を済ませて、久々の我が家での休息となった。


 そして、翌日
 朝はまず家の結界と鍛冶場の陣がちゃんと動作しているか調べてみるが、こちらは問題がなかった。

 それにしても、この件が終わったら結界は強化する必要はあるだろうな。
 リンディ提督達を信用していない訳ではないが、管理局を通して魔術師の情報が出る可能性がゼロではないのだ。

 続いて昼前から歩き霊脈を調べてみる。
 すると

「やはり多少なり弊害は起きてるか」

 感知用の結界で感知しにくい個所があったのでそこを中心に調べてみたのだが、多少霊脈に影響はあったようだ。
 場所は大きく分けて二か所。
 昨日の戦闘の舞台となった海辺付近の流れが少し乱れている。
 そして

「もっと早く調べておくべきだったか。
 まあ、バタバタしていたのは事実だが」

 ジュエルシードを破壊した街中である。
 これはジュエルシードというよりもゲイ・ボルクの方が原因かもな。
 元々街中という事もあり太い流れの個所がなかったからよかったものの流れが淀んでいる。

「どこかで霊脈が詰まっているのか?」

 地上でジュエルシードと宝具のぶつかり合いがあった弊害だな。
 この件にキリが付いたら細かく調べて、ちゃんと流れを整える必要があるな。
 どちらにしろ今回の一日では無理だ。

 そんなとき、ポケットの中の携帯が鳴った。
 なのはから? と思ったら表示されているのはアリサの名前。
 ……これはどうすべきだろう?

 この時間なら、なのはは学校だからアリサとすずかと一緒のはず。
 つまりは俺がなのはの携帯を持っていると知っているはずだ。

「……取るか」

 若干ためらいつつ、通話ボタンを押した。




side なのは

 昼休み、アリサちゃんとすずかちゃんとお昼を食べる。

「また行かないといけないんだ」
「うん」
「大変だね」

 ようやく戻ってきたけどまた明日には行かないといけないと話すと残念そうにするアリサちゃんとすずかちゃん。
 だけどちゃんと最後までやり通したいもんね。

「ところで士郎も一緒に行ってるんでしょ?
 あいつは戻ってきてないの?」

 そういえばまだ話してなかったっけ。

「ううん。戻ってきてるんだけどこっちでもやることがあるから、っておやすみみたい」
「こっちに戻ってきてもやることが有るって、どんだけ忙しいのよ」

 私の言葉にアリサちゃんは呆れているけど、すずかちゃんはどこか納得している。
 士郎君が家で執事さんしてるし、魔術師ってことを知ってるのかな?

「だけどこのまま顔を見せないでまた行くのは気に食わないわね」
「気に食わないって、でも会えないのは残念だよね」
「なら呼び出しましょう」

 なんだかアリサちゃんがノリノリだ。
 だけど

「でも士郎君、携帯持ってなかったよね」
「それなら大丈夫だよ。
 私の携帯貸してるから」
「ナイス! なのは」

 携帯を取り出して電話をかけるアリサちゃん。
 すずかちゃんもうれしそうだ。
 士郎君忙しくないといいんだけど……

 内心、そんな心配もしてた。




side 士郎

「もしもし」

 若干躊躇いながらも電話に出ると

「士郎、放課後に私の家に集まるから学校が終わる頃校門に来なさい。
 いいわね」
「……アリサ、俺に何か用があるとかは考えないのか?」

 いくらなんでもいきなりだろ。
 だが

「すずかも、なのはも来てほしいって言ってるのに来ないつもり?
 へえ~、士郎は女の子のお願いを無下にするの?」
「ぐっ! 了解した。行けばよいのだろう」
「行けばよい?」
「……行かせていただきます」

 アリサのやつ、初めて会った時も思ったことだがどことなく凛に似ている。
 将来、赤いじゃなくて金の悪魔になるのだろうか……

「そうそう、それでいいのよ。じゃあ放課後にね」
「心得た」

 項垂れながら電話を切る。
 まあ、霊脈の事が保留になると他に急ぎでする事はないからかまわないか。

 学校が終わるのは後二時間半。

「ふむ、二時間半あればできるか」

 財布は持っている。
 踵を返し、スーパーの果物コーナーに直行して確認する。
 これを使おう。
 材料を買い。
 家に戻る。

 さて始めよう!



 校門の近くでなのは達を待つ。

 ちなみに恰好は普段の私服で、右手には白い箱を持っている。
 学校を休んだのにアリサの呼び出しで来ている事に内心苦笑してしまう。

 待つこと数分
 なのは達はまだこちらに気が付いていないようだが、出てきた。
 まず、すずかがこちらに気がついたようなので軽く手を振ると振り返してきた。

「よろしい。ちゃんと待ってたわね」

 アリサ、その言葉はどうかと思うぞ。
 なのはとすずかも苦笑している。

「とりあえずお疲れ様」
「うん。士郎君は大丈夫だった?」
「だね。結構急に呼んじゃったし」

 なのはとすずかの優しさが染み渡る。

「大丈夫だよ。どちらにしろ時間をかけないと如何しようもない事だから一日じゃ無理だったし」

 俺の言葉にほっと一安心している二人。

「ほら、迎えの車が来たから乗りなさい」

 と俺達が話している間にアリサの迎えが来たらしい。
 車から降りてくる一人の男性がいる。

「ご無沙汰してます。鮫島さん」
「お元気そうでなによりです。衛宮さん」

 知り合いなので軽く挨拶をかわす。

 その様子に驚いている三人。

「士郎って鮫島に会ったことあったけ?」

 そんなに不思議な事か?

「あるに決まっているだろう。
 すずかの家の執事をしてんだぞ。
 アリサの迎えに来た鮫島さんと会わない方が不思議だろ」
「「「ああ~、なるほど」」」

 俺の言葉に納得している三人。
 まあ、それはともかく

「これ手作りで申し訳ないですが」
「ありがとうございます。お茶の時に出させていただきます」

 手に持つ箱を受け取りながら

「衛宮さんのお作りになられたものはお嬢様もお気に入りのようで」
「ちょっ! 鮫島!」

 鮫島さんの言葉に顔を真っ赤にするアリサ

「それは光栄です。ほらアリサ」
「う、わかったわよ」

 鮫島さんの代わりに車のドアを開ける。
 鮫島さんはその間にケーキを車に乗せ、運転席に戻っていく。
 信用されているというのはうれしいものだ。

 アリサの次にすずか、なのはと乗り込み、最後に俺自身も乗りドアを閉める。

 そして、ゆっくりと走りだす車。

 その車の中でなのは達には昼休みに話したという犬の話になったのだが

「なあ、その犬って」
「うん。たぶんアルフさんだと思う」

 こそっとなのはに耳打ちすると頷いた。

 なんでアルフがフェイトから離れてアリサの家にいるんだ?

 わからないことも多いが

「どうにも状況が複雑になってきたな」

 それだけは確信できた。 
 

 
後書き
本日は連休という事で少し遅くなりましたが、無事更新出来ました。

今回ももう一話更新いきます。

では 

 

第二十七話 方針、そして疑惑

 アリサの家に着いてから、まず庭にある檻の方に向かう。
 アリサの話ではそこに拾った犬がいるとのことだ。
 そして檻の中には

「やはりアルフだな」
「うん」

 なのはにアリサ達に聞こえないように耳打ちする。
 すずかの腕の中にいるユーノも頷いている。

 と俺達の姿を見て、急に元気をなくしたアルフ。
 どうかしたか?

「念話で怪我とフェイトちゃんの事を聞いてみたんだけど」

 アリサ達の前では話せないか

「アルフ」

 声をかけながら檻の隙間から手を伸ばすと喉を鳴らし頭を擦り付けてきた。

「士郎、あんたこの子知ってんの?」
「ああ、知り合いが飼っていたはずだが、なんでここにいるかがわからない」

 事情を聴きたいが念話が使えない俺では直接声に出してもらわないとどうにもならないので

「先に行っててくれ。すぐに行く」
「だけど……」

 困惑するアリサだが

「大丈夫、行こう」
「先行ってるね」

 すずかとなのはに手をひかれ渋々ながら

「サッサと来なさいよ」

 屋敷の方に向かう。
 それに合わせ、ユーノが俺の肩に跳び移る。
 だがすずかは何も言わない。
 恐らく魔術に関する事と察してくれているのだろう。

 そして、なのはに頷いて見せる。
 なのはも笑い頷いてアリサ達と屋敷の中に消えた。
 さて、監視機械が来ているという事は見ているはずだ。

「クロノ、いるんだろう?」
「ああ」

 俺の呼びかけにモニターを出して返事をするクロノ。
 どうやらエイミィさんも一緒のようだ。
 それにしても

「ずいぶん対応が早いな」
「僕がここに来る間に連絡しておいたから」

 さすがユーノ手際がいい。

「はあ、僕としてはサーチャーに平然と気が付いている士郎の方が信じられないが」
「まあな。
 さてアルフ、その怪我の事、フェイトの現在おかれている状況。全て話してほしい」
「ああ、だけど」

 アルフはどこか困惑しながら俺とユーノ、モニターを見る。

「信じていいんだね」

 それは懇願のような問いかけであった。

「無論だ。もしフェイト達に何かしようというなら俺が力を貸す」
「士郎、管理局をろくでなしみたいな言い方はよしてくれ。
 約束する。正直に話してくれれば悪いようになんかしない
 エイミィ、記録を」
「大丈夫、してるよ」

 俺達の言葉にユーノもアルフに頷いて見せる。
 アルフは項垂れながらゆっくりと話し始めた。

 アルフの話をまとめると
 ジュエルシードを欲してるのはフェイトの母親、プレシア・テスタロッサ
 そのジュエルシードを集めるようにフェイトに命じているとのこと
 さらに集めることが出来なかった時など事あるたびに虐待を繰り返しているという事

 で、この前の魔法攻撃である。
 フェイトを狙ったように放たれた魔法にアルフの我慢も限界を超え、プレシアに掴みかかったが返り討ちにあい、なんとか転位。
 そしてアリサに保護されたと

「クロノ、どう思う?」
「士郎やなのはの証言、状況等から見てもアルフの言葉に嘘や矛盾はない。
 プレシア自身はアースラへの攻撃という件もあるから逮捕の理由には十分だ。
 艦長の命があり次第、プレシア・テスタロッサの逮捕に動き出すだろう」

 確かに
 管理局を知らない俺などが管理局に刃を向けるとなれば、法や常識の違いからやむを得ないとも判断は出来る。
 だがプレシアは違う。
 管理局を知り、その法律の中で生きてきた人だ。
 知らないでは済まない。

「なのはにはどう伝えるつもりだ?」
「大丈夫。ちゃんと聞いたよ。全部」

 クロノに問いかけたつもりだった言葉に返ってきた返事はなのはの声。
 それと共になのはの姿が映ったもう一つのモニターが表示される。

「アースラを通してなのはにも伝えていたんだ。
 それに彼女には知る権利がある」
「はあ、それならそうと言ってくれ。
 で、なのははどうする?」

 モニターを通して、なのはに問いかける。

「私は……私はフェイトちゃんを助けたい。
 これはアルフさんの思いと私の意志」

 そこに映るのは強い瞳。
 迷いも、曇りもない、真っ直ぐ見据えた瞳

「フェイトちゃんの悲しい顔は私もなんだか悲しいの。だから助けたいの悲しいことから。
 それに友達になりたいって伝えた返事をまだ聞いてないしね」

 海上での戦いの後、揺らいでいた瞳はそこにはなかった。
 揺らぐ事のない強い思いを抱いた者の顔だ。

「士郎、君はどうするつもりだ?」
「今さらだ。
 もとより我が剣は、なのはとフェイトのために執ると決めた。
 ならばフェイトを助け出し、なのはの願いを叶えるのは当然だろう」

 俺はさも当然だとクロノに笑って見せる。

「こちらとしても君達の協力はありがたい。
 フェイトに関してはなのはに任せる。
 それでいいか?」

 クロノの言葉にアルフも頷く。

「なのはだったね。
 頼めた義理じゃないけどお願い、フェイトを助けて
 あの子、いま本当に一人ぼっちなんだよ」
「うん。大丈夫、任せて」

 これでなのはとフェイトの決着はつくだろう。
 そして、なによりもここにきてアルフというカードを得ることが出来た。

「クロノ、アルフがここにいるという事はプレシアの場所はわかるか?」
「ああ、移動さえしてなければわかる。
 もし移動していてもフェイト・テスタロッサが一人なら転位すれば補足は可能だろう。
 それにアルフの情報から移動の形跡もたどる事は出来る」
「なら、前に言った囮作戦を使おう。
 なのはとフェイトが持つジュエルシードを賭けて戦う。
 フェイトが勝てばアルフからの情報とフェイトの転位先から位置を補足しプレシアの逮捕に。
 なのはが勝てば恐らくプレシアが干渉してくる。その時に補足すればいい」

 俺の言葉にクロノは一瞬で納得し、エイミィさんはなるほどといった感じで頷く。

「なるほどね。なのはちゃんが勝ったらフェイトちゃんをを保護し、プレシアを捕縛。
 フェイトちゃんが勝っても、最終的にはプレシアのところに戻るんだから、プレシアの居場所でフェイトちゃんを保護できる。
 で私たちは二人が戦っている間に補足の準備さえしておけばいいと」
「はい」

 アルフがフェイトの補助をしない今、フェイトが下手に転位すればそこからも追うこともできる。
 そして、なによりもフェイトは絶対に保護する必要がある。

「士郎の考えは分かった。
 艦長にも伝えておくよ」
「頼んだ。
 アルフ、今日アルフを引き取れるように話はつけておく」
「ああ、士郎もフェイトの事頼んだよ」

 アルフの頭を撫で、アリサ達の待つ部屋に向かう。

 だが一つだけわからないことがある。
 プレシアの最終的な目的である。
 ジュエルシードを用いて一体何をしようというのだろうか。

「ジュエルシードを複数用いてやろうと言うんだから厄介な事には間違いないだろうが」

 その時、視線を感じて、歩みを止める。

「士郎?」

 急に歩みを止めた俺にユーノが声をかけてくるが、申し訳ないが今は無視する。

 管理局の監視機械?
 違う。
 機械的ではなく、もっと魔術的なモノ。

 空をゆっくりと見上げる。
 空間に僅かだが揺らぎがある。
 遠見の魔法か?

「プレシア、お前はなぜフェイトを受け入れ平穏に暮らすという選択が出来ないのだ」

 俺の言葉に空間の揺らぎが乱れて消えた。

「士郎、今のはどういう意味?」
「なに、プレシアに対する問いかけだよ。
 さ、なのは達が待ってるから行こう」

 会った時、答えを聞けるといいのだがと思いつつ、なのは達の待つ部屋に再び歩き始めた。




side プレシア

 気がつかれていた。

「さすがというべきかしらね」

 使い魔が残していった異質な剣が気になり、フェイトと対峙していた子の魔力を追ってきたらすぐに見つかった。
 あの使い魔が生きていたのは意外だったけどどうでもいい。

 あの者は確かに別の技術を持っている。
 街に張られている結界もミッド式の魔法とは明らかに異質のものだ。

 だけどその異質ゆえに私が目指す場所の知識を持っていれば

「辿りつく道は近付くわね」

 機会があれば聞いてみたいものね。
 機会があればね。

 今までフェイトが持ち帰ったジュエルシードを見つめる。
 もうすぐ、もうすぐ、私は

 「お前はなぜフェイトを受け入れ平穏に暮らすという選択が出来ないのだ」

 先ほど私に向かって放たれた言葉が頭をよぎった。

「フェイトを受け入れる?
 出来るはずが、許されるはずがないじゃない」

 バカらしい。
 こんな問いかけなど忘れてしまえばいい。
 背もたれに身体を委ねてジュエルシードを見つめる。

 だが、あの私に向けた問いかけが頭からなぜか離れなかった。




side リンディ

「なるほどね」

 クロノから士郎君に提案されたジュエルシードを囮に使った作戦を改めて伝えられたのだけど

「確かにアルフさんがいれば問題はほぼ解決するわね」

 なのはさんとフェイトさんの戦い。
 なのはさんが勝てばプレシア女史が動くでしょうし、そこから位置は補足出来る。
 フェイトさんが勝っても転位先を追えるように準備さえしていれば補足は出来る
 どちらが勝っても負けてもプレシア女史の居場所にはたどり着ける。
 もし補足しきれないとしてもアルフさんの情報から移動の形跡を辿ることもできるでしょう。

「ではプレシア女史の捕縛作戦はこれでいきましょう」
「はい」
「了解」

 私の言葉にしっかりと頷く、クロノとエイミィ。
 さてここからが本題

「エイミィ、データは?」
「はい。存在するものは全て」

 表示されるいくつもの映像や画像。
 その全ては士郎君と士郎君が使用した武器に関するもの

「士郎君が使用した高ランクの武器は?」
「えっと……ジュエルシードを破壊した赤い槍、先日の海上で使用した歪な矢と空飛ぶ盾。
 今のところはこの三つですね」

 なのはさんから渡されシーツをはぎ取った時の槍の画像。
 その他に弓に番えた矢の画像、そしてプレシア女史の次元跳躍攻撃を弾いた時の盾の画像。

「その他に模擬戦で使用してた剣が二種類に、巨大な岩の塊の剣」

 モニターに並ぶいくつもの画像
 私達が目にしたものはこれだけ。

「この中でランクやわかっている事は?」
「槍については使用時の情報がないので断言はできませんが、ユーノ君の言葉とジュエルシードを破壊したという事実からSランク以上。
 矢に関しても最低でもAAAランク。
 盾に関してはプレシア・テスタロッサの次元跳躍攻撃を弾いたことからS+ランク以上だと推測されます」

 確かにユーノ君が前に「その槍が音速を超えるような速さで魔力が最低でもSランクぐらいはある」って言ってたわね。
 それにしてもAAAにSランクってまあ、とんでもないものを平然と使ってるのね。

「それにしても魔術と魔法は魔力の質も違うんだな」
「うん。使うのは魔力らしいけど恐らくリンカーコアとは違う魔力だね。
 おかげで観測や計測がし難いし」

 クロノやエイミィも興味深そうに士郎君の持つ武器を見ている。

「それにしても味方にしたら頼もしいけど敵になれば間違いなく恐ろしい事になるわね」
「それは間違いないかと」
「ですね」

 私の言葉に二人が頷くのも無理はない。
 非殺傷設定がない魔術。
 勿論それも恐ろしいけど、AAA以上のモノを自由に使いこなしていること自体が驚異なのだ。
 それに魔法、いや魔術を使っても魔導師のように魔法陣が出ないので隠密性にも優れている。
 もしあの矢が放たれれば武装局員が多少集まったところでまとめて消し飛ぶでしょうし。
 ジュエルシードを破壊した槍なんて防ぐという事自体不可能よね。

「でも少し疑問なんですよね」
「? どういう事エイミィ」
「えっと……これです」

 エイミィが出した映像はクロノとの模擬戦の後投げた剣を回収し、外套にしまうようにそれを武器庫に転送する映像。
 そこには霧散するように消える剣の映像が映っていた。

「武器が霧散した?」
「クロノ君もそう見えるよね。
 それに術式が違うにしても転位系の魔術を使っている割にはどう調べても空間に何の影響もないんですよ」

 確かにそれはおかしいわね。
 いくら術式等が違っても転位するなら多少なりとも空間に影響は出る。
 それに士郎君の武器庫も気になる。

 武器庫には一体どれだけの武器があるのか?
 それに海上で使用した矢を平然と爆破させていたがアレと同等ランクの矢がいくつもあるのか?
 それとも同じ矢が複数存在するのか?
 それに士郎君は魔術師としては三流と言っていた。
 なら武器庫から自分のところに武器を転送する際の座標はどのようにして出しているのか?
 それに本当に武器庫にある武器を自由に転送できるのならなぜ拳銃を持ち運ぶのだろうか?
 士郎君が転位させた武器は全て剣や弓、盾などのミッドだけでなくこちらの世界でも原始的な武器だ。
 確かに拳銃などは動作不良などを起こす可能性がありナイフ等を持つ事は間違ってはいない。
 魔術が使えない事を想定して武器を持ち歩くのも間違っていない。

 だけど転送して使う武器全てがこの世界の現代の主流ともいえる拳銃ではなく剣などの前世代的な武器なのだろう?
 現に銃を使っているのだから武器庫に銃を入れておいて好きな時に手に転位させた方が都合がいい。

 こうして考えてみるといくつか妙な違和感がある。

「この件の片がついたら聞く必要があるのかもしれないわね」

 だけど答えることはないかもしれない。
 というかその可能性の方が高い。
 それでも知っておかないと悪い。

「……特にフェイトさんをこちらに抱えるようになったらね」

 二人に聞こえないようにつぶやく。
 私達としても現在の状況をみる限りフェイトさんが自発的に行動を起こしたとは判断してはいない。
 プレシア女史に虐待という強迫により動かされていると判断している。
 そうなるとフェイトさんを保護または逮捕すればややこしい事になる可能性もある。
 そう、なのはさんとフェイトさんの味方と宣言している士郎君が何らかの干渉をしてくる可能性だ。
 そうなった際には、まずないとは思うのだけど最悪の可能性として一戦交えることも考えておかないといけない。

 本当に問題が山積みね。
 願わくばフェイトさんの事も、士郎君の事も無事に終わる事を 
 

 
後書き
続いて二話目でした。

さてさて無印編も大詰め。

A's編の話も少しでも手がけていかないと。

次回更新も同じく来週予定です。

ではでは 

 

第二十八話 決戦前夜

 アルフの治療をユーノに任せ、なのは達が待っている部屋に入る。

「悪い、遅くなった」
「やっと来たわね。ほんと遅いわよ。でもいいタイミングね」
「だね。今からちょうど新しいダンジョンに入るところだよ」

 大型のテレビの前でゲームを楽しんでいるなのは達の様子に若干苦笑しつつ、アリサの横に腰掛ける。
 それにしてもこうしてアリサの家に入るのは初めてだが、すずかの家と変わらない位大きい。

 ちなみに当然のことながらこの世界の俺の家にはゲームはない。
 元の世界でもテレビゲームをやっていたのは学生時代の事だ。
 そこまで昔ではないはずなのだが、聖杯戦争からの生活が濃過ぎたのか、はるか昔のように感じる。

 そういうわけで俺はあまり直接プレイせず、三人との他愛のない平穏な時間を過ごす。

 だが平穏な楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気がつけば空は夕焼けに染まっていた。

 ダンジョンをクリアし、丁度いいのでゲームはここら辺にして、テーブルに移動する。
 するとそれに合わせ、鮫島さんがアイスティーと俺が作ったものを持ってきてくれる。

「きれい」
「おいしそう」
「ほんと。それにしても……これって私が電話してから作ったのよね?」

 なのはとすずかは俺が作ったものに目を輝かせ、アリサは驚きながらも呆れたように俺にそんな事を尋ねた。

「当然だろ。初めはアリサの家にお邪魔する気なんてなかったんだから」
「まあ、お菓子作りや料理、家事全般が得意とは知ってるけど」
「知ってるけど?」
「女としてのプライドというかなんというか……」

 アリサの言葉になのはもすずかも苦笑している。
 それは昔イギリスでも言われたな。
 ここまで完璧にされると女として自信をなくすとか

「まあ、それはともかく食べてみてくれ」
「それもそうね。それじゃ」
「「「いただきます」」」

 三人が口にしてから俺も口にする。
 うむ。良い出来だ。
 三人も満足そうに食べている。

「それにしてもさくらんぼのタルトなんてよく思いついたわね」
「そろそろさくらんぼは旬だしな。上質で値段もお手頃なのが出ていたんだよ」
「まるで主夫ね」

 アリサの言葉になのは達は苦笑い。
 俺としては大いに否定したいところなのだが、これまでの生活で否定できないところであるというか否定できない。
 だがこのまま引き下がるのも癪なので

「アリサお嬢様に気に入っていただけたのでしたら光栄です」
「なっ!!」

 あえてにこやかに返してみる。
 アリサは顔を赤くし黙ってしまい、なのはとすずかの視線が痛い。
 いや、アリサはまだしもなのはとすずかはなんでさ。

 それからお茶を飲んで落ち着いたのか
 顔から赤みが引いたアリサが大きく息を吐き、なのはに向き直った。

「で、なのはは少しは吹っ切れたの?」
「ふえ?」

 アリサのいきなりの言葉になのはは驚いた表情を浮かべる。

「何を悩んでたのかも、なのはが話してくれるまで聞かない。
 でも不安そうだったり、迷ってたりしてた時もう私達のところに帰ってこないんじゃないかって思うようなそんな目を時々してた。
 それがその……」

 アリサも言葉にはし難いのだろう。
 あの時のなのはは迷走し、そのままどこかに消えてしまいそうだったのだから。
 すずかもアリサと同じ気持ちだったのか、どこか寂しげになのはを見ている。

「大丈夫。行かないよ、どこにも、友達だもん」

 目に浮かんだ涙をぬぐって、アリサとすずかに語りかけるように答える。

 なのはの迷いのない言葉。
 それにアリサもすずかも笑みを浮かべて頷いている。

 明日は最後になるなのはとフェイトの戦いが待っている。

 だけど全てうまくいかせてみせる。

 それが俺の役割

 そこからは互いに言葉はない。

 だけど夕焼けに染まった三人の表情に影はなく、ただ共にいる事を楽しんでいるようであった。

 そのまま静かな平穏な時間を過ごす。

 このままこの平穏を過ごしていたい。
 だがもう時間だな。

「なのは、そろそろお暇しよう」
「うん。お母さん達も待ってるしね」
「そうだね。私もそろそろ」
「うん。外まで送るわ」

 三人共惜しみながらもまたこの時間を過ごせる事をわかっているように不安もなく椅子から立ち上がり、歩きはじめる

 と一つ伝え忘れていた。

「アリサ頼みがあるんだがアルフ、あの犬を引き取っていいか?
 今回の件に関係ある娘が飼い主だから」
「いいわよ。あんたも何も聞かないけどちゃんと帰って来なさいよ」
「心得ているよ」

 俺の言葉にアリサは満足そうに頷き、玄関までアリサに送ってもらい、鮫島さんがアルフを玄関まで連れてきてくれた。

「元気でね」

 アリサはアルフを撫で、別れをすませる。

 そして、俺となのは、ユーノ、アルフは共に帰路についた。




side アリサ

 手を振り、なのは達を見送る。
 なのはは大丈夫。
 ちゃんと帰ってくる。
 だけど

「アリサちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫」

 すずかも私と同じことを考えていたのか、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。

「士郎君……だよね」
「うん」

 あいつの事はまだ不安だった。
 笑い合う私達。
 その中にいて、どこか自分がまるで傍観者のように一歩引いて見ている時がある。

 まるで気が付いたら陽炎のように消えてしまいそうな、そんな不安。

「大丈夫だよ。きっと士郎君は私達が悲しむ事なんてしないもん
 だから……」
「そうね。信じて待ちましょうか。帰ってくるのを」

 大丈夫。
 ちゃんとあいつは「心得ている」って言ったんだし、私達を裏切ったりしない。

 だから信じて待とう。

 それしか私達には出来ないから




side 士郎

 なのはとユーノ、アルフの四人……この場合二人と二匹かな?
 ゆっくりと歩いて帰る。

 言葉はない。
 でもそれで十分。

 そして、辿りついた分かれ道。
 なのはともここまで
 とあれを返しとかないと

「ありがとう。助かったよ」

 差しだすのはなのはから借りていた携帯。

「どういたしまして、でもいいの?
 明日は」
「大丈夫だよ。明日は、俺もなのはも向かうところは一緒だから、連絡がなくても」
「うん」

 そう、明日はなのはとフェイトの決着の時。
 なのはが家を出る時間も聞いている。
 ならば俺となのは連絡を取らなくても間違いなく会える。

「また明日」
「うん。また明日ね」

 なのはと一言言葉をかわし、ユーノも俺と視線が合うと頷く。
 そして、家に向かったなのはの背中を見送った。

 なのはと別れた後、家に食材がないので買い物を済ませる。
 そしてアルフを連れて共に俺の家に帰ってきた。

「ただいま」
「えっと……お邪魔します」

 誰もいなくても習慣としてただいまをいい、アルフは少し戸惑いながらドアをくぐった。

「楽にしてくれ」
「ああ、なら」

 見慣れた人の姿になるアルフ。
 まずは

「座って待っててくれ。とりあえずは夕食にしよう」

 アルフの怪我はユーノの治療のおかげで、ほとんど完治している。
 なら後はしっかりと食事摂って、明日に備えるべきだろう。

 夕飯は、骨付き肉の香草焼きにコーンスープ、厚揚げを甘辛く煮たものである。

 夕食を済ませた後、俺が片づけをしている間にアルフにはお風呂に入ってもらう。

 アルフに続いて俺もお風呂に入り、着るのは寝巻ではなく、戦闘用の黒い服。

 外套を誰も座っていないソファーにかけ、俺はソファーに腰を下ろす。

 窓の外を見れば満月ではないが、奇麗に光る月があった。

「眠らないのかい?」
「ああ」

 俺のそばに来ながらそんな事を訊ねてきたので静かに頷く。
 アルフが不思議に思うのも無理はないのかもしれない、いや夜も更けたにもかかわらず寝巻ではなく、戦う姿でいるのだから当然と言える。
 しかし、その認識が多少間違っているともいえる。

「俺にとっては本来人々が眠りについた頃。
 夜こそが行動する時間だからな」

 魔術師にしろ、死徒にしろ、本来活発に動く時間帯は闇に染まる夜である。
 なのはやフェイトのように人々が動く時間である昼間に活発に動く魔術師というのはほとんど聞いたことがない。
 魔術師は昼間は世間に紛れ、夜は裏の人間として生活するのが一般的だ。
 さらに死徒に関しては太陽の光は天敵なのだから昼間に動くこと自体が稀だ。

「アルフは眠ってもいいんだぞ」
「いや、私もここにいるよ」

 狼の姿になり俺が座るソファーのそばに腰を下ろすアルフ。
 そんなアルフから視線を外し、再び空に浮かぶ月を眺める。
 そのまま眠るためではなくただ瞼を閉じる。

 死徒の身である俺。
 太陽の光を克服したとはいえ得意なものではないしやはりあまり好きにはなれない。
 そして人と同じように太陽の下で生活する事は夜に動くよりはるかに体力を使う。
 この世界に来て、学校に行き始めてからは特にそうだった。
 命にかかる事はないが身体は疲弊する。

 その疲れた体を癒すように月の光を浴びる。

 明日、恐らくこの戦いは終わりを迎える。

 それがどのような形にあるのかは俺には分からない。

 だが後悔しないように、なのはが、フェイトが笑っていられるように戦う。

 そして、なのは達を連れて戻ってくる。

 アリサやすずか、この地で知り合った人達を悲しませないために

 約束を破らないために

 俺は月の下、静かに太陽が昇るのを待つ 
 

 
後書き
第二十八話でした。

今週ももう一話いきます。

では 

 

第二十九話 決戦   ★

 部屋に光が差し込んでくる。
 瞳をゆっくりと開き、ソファから立ち上がる。

「時間かい?」
「ああ、そして今日で全て片がつく」

 立ち上がった俺を見上げるアルフに静かに告げる。

 このジュエルシードの戦い。
 その戦いも今日で幕を閉じる事になるだろう。

 そして、なのはとフェイトの戦いも今日が最後だ。
 どんな結果になろうと二人が共に笑顔でいれるように俺は進むだけだ。

 外套を手に持ち、玄関に歩きはじめる。
 その少し後ろをアルフが静かについて来る。

 鍵を閉めて、家の結界も張る。
 まだ人々が動き出すには早すぎる時間だ。
 だがこの時間ならなのはももう家を出ているころだろう。

 赤い外套をこの身に纏う。
 それだけで準備は出来ている。

「行くぞ」
「ああ」

 地を蹴り、家の屋根から屋根へ飛びながら駆ける。
 アルフも俺に並走するように駆けている。

 その途中、走るなのはを捉えた。
 アルフに視線を向け、頷き合い、なのはに合流し、なのはと並走する。

 なのはも俺達と並走しながら笑顔で頷く。
 この場にいる誰にも言葉はない。
 ただ視線を合わせるだけで十分だ。

 そして辿り着いたのは海鳴公園。

 この時間でここにいるのは俺達だけ。

 朝日が昇り切っていない水平線を見つめ、なのはが大きく息を吐く。

「ここならいいね。出てきてフェイトちゃん」

 凛としたなのはの声。
 それに応えるかのように風が吹き、木々が揺れる。

 そして、呼び人の到着を告げるかのように風が収まる。

 俺達が振り向くと

「Scythe form.」

 街灯の上に立ち、静かに鎌を持つフェイトがいた。

「フェイト、もうやめよう。
 あんな女の言う事もう聞いちゃだめだよ。
 このままじゃ不幸になるばっかりじゃないか。だからフェイト」

 アルフの懇願にもフェイトは静かに首を横に振る。

「だけど、それでも私はあの人の娘だから」

 明確な否定。
 退く事を拒否する明確な意思。

 ならばここからは俺達の出る幕はない。

「なのは、ここからは俺達は手を出さない」

 俺の言葉に応えるように一歩前に踏み出して、バリアジャケットを纏い、レイジングハートを握る。

「私とフェイトちゃんのきっかけはきっとジュエルシード、だから賭けよう。
 お互いが持ってる全てのジュエルシード」
「Put out.」

 なのはの言葉に、ジュエルシードがなのはの周りに浮かび

「Put out.」

 フェイトの周りにもジュエルシードが浮かぶ

「それからだよ。全部それから」

 なのはがレイジングハートを構え、フェイトも静かにバルディッシュを構える

「私達の全てはまだ始まってもいない。
 だから本当の自分を始めるために、始めよう。
 最初で最後の本気の勝負!」

 思いをぶつけるための本気の戦い。

 お互いの周りに浮かんだジュエルシードが輝き、お互いの相棒の中に収まる。

 それが戦いの始まりの合図となった。

 なのはとフェイト、共に地を蹴り、空に舞い上がる。
 そんな二人を見つめながら

「ユーノ、アルフ、協力して最大領域の結界を張れ」
「最大領域?」

 ユーノとアルフに指示を出すが、俺の指示の意味が分かりづらかったかユーノが首を傾げている。

「いくら時間が早いとはいえ一般人に見られんとも限らん。
 その中でフェイトとなのはの戦いを阻害する事のないように可能な限り広い領域を確保したい」
「わかった」
「あいよ」

 結界についてはこれでいいとして、なのはとフェイトはというと空を翔け、真正面からぶつかり合っている。

 策もなにもなく正面から戦いたい気持ちもわかるがお互い高い能力を有しているのだ。
 このままでは決着がつかない。
 そのうち魔法の撃ちあいに変わるだろう。

 そして、この戦いはなのはが勝っても負けてもこの事件自体に対して問題はない。
 だが、なのはの思いをフェイトにしっかりと伝えるためにも勝ってほしいのが俺の本音だ。

 フェイトがこのままでは決着に時間がかかると感じたのか距離をあけ

「Photon Lancer」

 四発の魔力弾を展開する。
 その光景になのはも杖を握り直し

「Divine Shooter」

 同数の魔力弾を展開する。

「ファイア!」
「シュート!」

 そしてお互いに放たれる魔力弾。

 フェイトの魔力弾は弾速重視
 なのはの魔力弾は追尾性重視といったところだろうな。

 なのははフェイトの魔力弾を掠めるようにかわし、フェイトはなのはの追尾してくる魔力弾を防ぐ。
 フェイトの防御している隙に、なのはは次弾を用意しており

「っ!」
「シュート!!」

 放つ。
 しかしフェイトも防御すれば次弾を用意されるのがわかっている。

「Scythe Form」

 即座にバルディッシュを鎌の形状に変え、向かってくる魔力弾を薙ぎ払い、かわし、間合いを詰めてくる。

「あっ!」
「Round Shield」

 フェイトの鎌をシールドで受け止めるなのは
 ぶつかり会う盾と刃。
 その最中フェイトの背後から一発の魔力弾が迫る。
 先ほどなのはが放ち、フェイトがかわした一発だ。

 これが当たればよいのだが、フェイトも感知能力が高い。
 すぐに魔力弾に反応し、シールドを張り、魔力弾を防ぐ。

 だが当然のことだが、なのはの誘導魔力弾四発でも破れなかったフェイトのシールドを魔力弾一発では破る事は出来ない。
 しかしその一瞬でフェイトはなのはを見失う。
 明らかな隙

「Flash Move」
「せええええええ!!!!」

 その隙にフェイトのさらに上に舞い上がったなのはが加速魔法と重力加速の恩恵を受け、凄まじい勢いでデバイスを叩きつける。

 魔力が激しくぶつかり合い、凄まじい光を放つ。

 その中から離脱しようとするなのはに

「Scythe Slash」
「はああっ!!」

 フェイトの鎌の一閃
 それをなのはは辛うじてかわし、リボンの一部が切れる。
 なのはもフェイトと近距離戦では勝つのが難しいとわかっているのか離れようとするが

「あっ!」

 なのはの目の前にはフェイトの魔力弾が浮かび

「Fire」

 バルディッシュの声と共に放たれる。

 だがそれを防ぐなのは。

 空という領域で一瞬にして切り替わる攻防。

 そして、再び間合いをあけ向かい合う二人。
 戦いが始まってこの短時間の激しい戦闘ですでに二人に息は荒い。

 再び向かい合うなのはとフェイトの二人だが、共に息が荒い。
 それにしてもこうして改めて眼にすると空の戦いとは厄介なものだ。
 自分の周り上下左右あらゆるところから攻撃が来る可能性があるのだ。
 しかも、なのはとフェイトの二人ぐらいのレベルになれば、高い飛行能力を有しているのでフィールドを広く使える。
 もっともこのような戦い方は室内戦のような限られたフィールドでは難しい。

 機会があったら室内での戦い方なども教えることにしよう。
 それは置いとくとしても

「なのはも戦い方がうまくなったな」

 なのはの戦闘能力の向上が凄まじい。
 なのはにしろ、フェイトにしろ、共に天才なのだろう。
 まったくもってうらやましい才能だ。

 さてここからどうでるかな?




side フェイト

 距離を一旦あけ、バルディッシュを構えたまま、目の前にいる相手を見つめる。

 初めて会ったときは魔力が強いだけの素人だったのにもう違う。
 速くて、強い。

 手加減なんてできる相手じゃない。
 違う。
 そもそも迷ってたら落とされる!

 やるしかない。
 覚悟を決めバルディッシュを掲げる。

 だけどアレには時間がかかる。

 その時間を稼ぐために準備をする。

 いくつもの魔法陣があの子、なのはの周りに現れては消えていく。

 これで大丈夫。

 動かなければこっちの準備ができるし、動かれても時間は稼げる。

「Phalanx Shift」

 フォトンスフィアを展開する。
 その光景になのはが動き出すけどもう遅い。

「え? え?」

 先ほど設置したライトニングバインドに拘束されている。

 これを受ければなのはもただでは済まないかもしれない。

 でも退けないから

 私は詠唱を紡ぎ始めた。




side 士郎

 フェイトの周りに魔力弾とは違ういくつもの魔力球が浮かぶ。

 展開された魔力球の数、魔力からいってもフェイトの最大の魔法だろう。
 さらに魔法の行使に時間がかかることもちゃんと理解しているようで魔力球を構成する前に拘束用のトラップも設置していた。

 つまりはこれを耐えきればなのはに分があることになる。

 それにしても先に決着をつけにきたのはフェイトの方か。
 まあ、これは仕方がないともいえる。
 なにせ管理局の存在があるのだ。
 下手に戦いに時間をかければ、もしなのはを倒せたとしても管理局につかまってジュエルシードを全て失う可能性すらあるのだ。

 多少無理を通してでも短期決戦でいきたいのは当然だろう。

「ライトニングバインド。
 まずい、フェイトは本気だ」
「援護しないと」

 その光景に動こうとする二人だが

「だめ!!」
「よせ。手を出すな」

 なのはと俺の言葉に動きを止める。

「だけど、フェイトのアレは本気でまずいんだよ」

 アルフが心配そうになのはを見つめる。
 確かに凄まじい魔力の猛り。
 どれほどの威力があるかは魔法が門外漢である俺では判断し難いところではある。
 しかしそれ以前に

「なのはとフェイト、二人が覚悟を決めた本気の勝負だ。
 下手な手出しをすれば心残りが出来るだろ。
 それに」

 改めてなのはを見つめる。

「なのはは諦めも絶望もしていない。
 なら俺達がするのは見届けることだ」

 なのはの瞳には絶望などない。
 拘束されてもフェイトをしっかりと見据える強い瞳。
 もし瞳が揺らいでいたら手を出したかもしれない。
 だが今のなのはに手を貸す事は侮辱でしかない。

「なのは、手を貸さなくても大丈夫だな」
「うん! 平気!!」

 俺の言葉にもフェイトから目を逸らさずしっかりと応えて見せる。

 さて、なのはは防ぎきれるかな。
 そしてフェイトは

「アルカス・クルタス・エイギアス。
 疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。
 バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 瞳を閉じ、力強く詠う。

 紡がれる詠唱
 そして、開かれるフェイトの赤い瞳
 魔力球の輝きが増し、雷を帯び、フェイトの右腕が静かに振りあげられた。

「フォトンランサー・ファランクスシフト―――」

 振りあげられた腕が振り下ろされる。

「―――撃ち砕け、ファイア!!」

 フェイトの周りに浮かぶ魔力球から放たれる無数の魔力弾。

 その無数の魔力弾はなのはに叩き込まれた。
 だがなのはに魔力弾を叩き込んでも、フェイトは手を緩めず次々に魔力弾を放つ。

 魔力弾を放つフェイトの顔が苦痛に歪む。
 無理もないアレだけの魔力行使。
 消費する魔力だけでなく、制御する精神力、どれもかなりの負荷だ。

 それにしてもだ
 アレだけの魔力弾を一人に叩き込むって結構オーバーキルのような気がする。
 どちらかというと一対多の状況で敵の殲滅の方が有効的に使えそうだ。

 と魔力弾を打ち終わったのか、フェイトが息を荒くしながら、周りに浮かぶ魔力球を自身の左手に集束させる。
 アレだけの攻撃をしてもなお油断はしないか

 なのはの方を見つめる。
 アレだけの攻撃だ。
 耐えきれるかどうかは正直微妙だと思う。

 ゆっくりと煙がはれる。
 そこには鮮やかに輝く桃色の魔法陣。
 なのはもレイジングハートも健在であった。

 さすが砲撃が得意な砲台だけあってか、なのはの防御力は高いな。
 アレだけの攻撃を受けてほぼノーダメージである。

「ったは~、撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね。
 今度はこっちの」
「Divine」

 レイジングハートを握り直し、構えるなのは
 なのはの声に応えるかのようにレイジングハートの先端に魔力が集まり

「番だよ!」
「Buster」

 放たれるなのはが得意とする砲撃魔法。

「はあああ!!」

 それを撃ち払わんとフェイトの左手に集束していた魔力球が放たれる。
 ぶつかり合う魔力と魔力。

 だが拮抗は一瞬。
 フェイトの魔力球はなのはの砲撃に呑み込まれる。
 フェイトが慌ててシールドを張り、なのはの砲撃を防ぐが

 これはフェイトの失策だ。

 なのはとフェイト、共に高い能力を有しているが戦い方はかなり違う。
 なのはは誘導型の魔力弾と威力の高い砲撃を駆使する遠距離型だがその中でもいわゆる砲台だ。
 対してフェイトは砲撃から近距離まで幅広くこなす全距離対応型だがスピードを活かした戦闘を得意としている。
 そして、フェイトのようにスピードを上げる機動性重視型になるとどうしても防御は脆くなる。

 魔力が万全の時ならばまだしも今のフェイトは先ほどの魔法で酷使しているのだ。
 しかし酷使されたその状況でフェイトはなのはの砲撃を耐えきった。

 もっとも外套やシールドを張っていた左手などはボロボロだし、かなり息が荒い。

 その時、フェイトの顔を照らすほどの桃色の光が輝く。
 その光は当然なのはのモノ

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション」

 紡がれる今までよりもさらに大きな魔法陣。

「Starlight Breaker」

 その魔法陣に集まる魔力……って

「自身だけじゃなくて周囲の魔力まで使う気か」

 ずいぶんと器用だな。
 器用である点は褒めてやりたいところではあるのだが……浮かぶ巨大な魔力の塊。
 アレはさっきのフェイトのよりまずくないか?

 フェイトもアレを撃たせてはまずいと思ったのか動こうとする。
 だがいつの間に準備したのか

「くっ、っ!! ば、バインド!」

 フェイトの手足を拘束するなのはの拘束魔法。
 フェイトがもがくが外れはしない。

「これが私の全力全開―――」

 振り下ろされるレイジングハート。

「―――スターライトブレイカー!!!」

 そして放たれたた巨大な魔力砲撃。
 それはフェイトを呑み込み、海面にぶつかり巨大な水柱を上げた。



 非殺傷設定とはいえ、フェイトが大丈夫なのか、若干不安だ。

 ゆっくりと収まる砲撃。
 そして、レイジングハートから自身を冷却するように蒸気が吐き出される。

 だがやはりこれだけの魔法は、なのはにとってもかなりの酷使だったようだ。
 なのはの足元の羽は輝きが安定せず、なのは自身の息もかなり荒い。

 対するフェイトはアレの直撃を受け、意識を失ったのか、海に落ちていく。

「フェイトちゃん!」

 慌ててフェイトを追い海に飛び込むなのは
 この勝負なのはの勝ちだな。
 俺もフェイトの事が心配なのですぐにでもそばに行きたい。
 だが俺にも役割がある。

「クロノ、準備は?」
「ああ、いつでも尻尾は掴める」

 虚空に向かってつぶやいた言葉にモニターを表示し、返事をするクロノ。
 フェイトの母親、プレシア・テスタロッサの事はクロノに任せれば大丈夫だな。

「ユーノ、足場を作る準備とアースラへの転送準備を頼む」
「え? う、うん。わかった」

 外套から取り出すように鞘に収められた一振りの刀を投影し、握る。
 ユーノは俺の意図までは理解できなかったようだが、何か目的があるとわかったのか、何も聞かず頷いてくれた。

 俺の役割はあくまでなのはとフェイトを守ること
 こうしてフェイトが負けた今、プレシアが先日のように何らかの攻撃をしてくる可能性が高い。
 ならば俺はそれに備えるだけだ。

 となのはがフェイトとバルディッシュを抱き、海から上がってきた。

 なのはの周りに八個のジュエルシードが浮かび、フェイトもなのはの腕から降り、自分で飛ぶ。

 それを見つめながら自分の魔術回路の撃鉄を叩き上げる。

「来た」

 ユーノとアルフが張った結界の上空に魔力が集まる。

 一歩踏み込み、なのは達に向かって弾丸のように飛び出す。

 魔力放出。
 死徒になり魔術回路が増えたことで瞬間的ではあるがセイバーのように魔力放出が可能となったのだ。
 もっとも魔力を消費するし、普段の戦いでは死徒の身体能力で十分なので今回のように長距離の跳躍時にしか使用することはない。

 ユーノとアルフが張った結界を突き破り降り注ぐ雷。それを

「はああ!!」

 手に持つ刀を抜刀し、雷を叩き斬る。

 刀の銘は『雷切』
 雷を斬ったとされる刀にして、対雷の概念武装である。
 前回の攻撃も雷だったから対雷武装をしていて正解だったな。

 空中で体勢を整えるとユーノが足場を用意してくれる。
 さすがだ。

 次弾があるかと思ったが八個のジュエルシードが空に向かって消えた。
 プレシアが転位させたか。
 この隙に

「ユーノ、なのは達を転位させろ!!」
「わかった!!」

 なのはとフェイトの足元に魔法陣が浮かび、二人の姿が消える。
 これで二人の安全は確保できた。

 空を見上げるが次弾はないようだ。

「なぜ、そこまでしてフェイトの手を払うのだ」

 空を睨みながら刀を鞘にしまい、外套にしまうように霧散させる。
 それと同じくしてユーノとアルフも俺のそばに飛んできた。

「ユーノ、頼む」
「うん」

 俺達の足元に魔法陣が浮かび、俺達もアースラに転位された。

 転位先はアースラの転送ポート。
 そこには先に転位したなのはとフェイトもいた。

 二人の無事に安堵していると

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
 フェイト・テスタロッサ、武装を解除してくれ」

 俺達のそばにやってきたクロノ。
 その手には手枷のようなものも握られている。
 クロノを見つめながら不安そうなフェイトに

「大丈夫だ。
 デバイスを待機状態にすれば取り上げたりはさせない」

 フェイトの頭を撫でながら、優しく伝える。

「……うん。バルディッシュ」

 フェイトの言葉にバリアジャケットは解除され、普段の私服になり、バルディッシュも宝石に戻る。
 フェイトに手枷をつけるクロノ。

「艦長に会わせたいから来てくれ」

 クロノ言葉に従い、皆でアースラのブリッジに移動する。

 移動しながらクロノに

「プレシアの補足は?」

 フェイトに聞こえないように小声でたずねる。

「ああ、成功した。
 もう武装局員が転送ポートから出撃してる」

 クロノの言葉に一安心する。
 プレシアを見失う様な事がなくて一安心だ。

「あと本来なら手錠だけじゃなくて服も着替えてもらって、デバイスもこちらが預かるんだが」
「そこら辺は目を瞑ってくれ。全てが終わるまではせめてな」

 そう、まだ全てが終わったわけじゃない。
 プレシアの位置を掴み、時空管理局員が出撃したが、素直に投降するかは内心微妙だと思っている。
 それにプレシアは有能な魔導師のはずだ。
 そのプレシアを武装局員がどれほどのレベルかは知らないが確保できるのか不安が残る。

 このまま終わってくれる事を願うが、事態はそう簡単には終わらなかった。 
 

 
後書き
第二十九話でした。

そしてつぶやきでも書いていますが、扉絵始めました。
今後挿絵もまた使い始めます。

ちなみに扉絵はにじファン時代からお世話になっている貫咲賢希様から頂いたものです。

それではまた来週に

ではでは 

 

第三十話 真実

 クロノに連れられ、アースラのブリッジに入る。

 出迎えてくれたのはリンディさん。

「お疲れ様。それからフェイトさん、はじめまして」

 フェイトを不安にさせまいと優しく微笑みかけるが、フェイトは俯いたままだ。

 無理もないのかもしれない。
 前回と今回、共に母親から攻撃されその身を危険にさらされているのだ。
 管理局につかまった事実以上にその事がフェイトの心を苦しめているのだろう。

 フェイトにかける言葉が見つからずブリッジのモニターに目をやる。

 プレシアの住処であろう場所に乗り込んでいる局員達。
 そして、プレシア本人は局員が乗り込んできたのにもかかわらず、椅子に座り肘をついて余裕の表情でそれを眺めている。

 単なる開き直りなのか、それともいつでも排除できる余裕なのかまでは判断がつかない。

「フェイトちゃん、よかったら私の部屋……」

 なのはがフェイトに声をかけるが、それに応えず一歩前に出る。

 リンディさんが横目でフェイトを一瞬見たから恐らく念話か何かで別の部屋に連れて行くよう指示したのだろう。
 子供の目の前で親が逮捕される瞬間を見せたくないというリンディさんなりの心遣い。
 だがフェイトは自分の目で見届けたいのだろう。

 その意思を察してか、リンディさんもなのはも何も言わない。

 その中、局員達がプレシアの背後の部屋に突入する。
 そこにはフェイトより若干小柄な瓜二つの少女が容器を満たす液体の中で長い金の髪を漂わせ、静かに眠っていた。
 いや眠っているという表現も正しくないのかもしれない。
 この少女が生きているのか判断できない。

 その時、余裕の表情を浮かべていたプレシアが豹変した。

「があっ!」
「うあっ!!」
「私のアリシアに近寄らないで!!」

 一瞬でアリシアと呼ばれた少女の前に移動し、そばにいた局員達を弾き飛ばす。

 プレシアの行動に杖を向ける局員達

「う、撃てッ!!」

 放たれる魔力弾。
 だがプレシアはそれを手を掲げる事すらせず、防ぐ。

「うるさいわ」

 ゆっくりと局員に向けられる手
 その手に魔力が集まる。

「危ない! 防いで!!」

 リンディさんが叫ぶが遅い。

「「「「「「がああああっ!!!」」」」」」

 雷が降り注ぎ、突入していた局員が一瞬にして全滅した。

 いやな予感ほどよく当たるというがどうやら本当らしい。

 慌てて局員の回収の指示を出すリンディさん。

 プレシアは局員が回収されることにも興味がないといわんばかりに少女に手を伸ばす。
 その表情は先ほどとはうって変わってどこか悲しげであった。

「もう時間がないわ。
 たった八個のロストロギアではアルハザードに辿りつけるかわからないけど
 でももういいわ。終わりにする。
 この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代りの人形を娘扱いするのも」

 プレシアの言葉にビクッと体を震わせるフェイト。

「聞いていて? あなたの事よ、フェイト
 せっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけの役立たずな私のお人形」

 プレシアの言葉に静かにエイミィさんが語り始めた。

「最初の事故の時にねプレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。
 彼女が最後に行っていた研究は使い魔とは異なる使い魔を超える人造生命の精製。
 そして、死者蘇生の秘術、フェイトって名前は当時彼女の研究につけられた開発コードなの」

 エイミィさんの言葉でようやく理解できた。
 プレシアがジュエルシードを使って何を目指すのかも。

「よく調べたわね。
 でも駄目ね。所詮造り物は造り物。
 喪ったものの代わりにはならないわ」

 プレシアの言葉にフェイトの目から涙が静かに零れ落ちる。
 戯言だな。
 これ以上プレシアの言葉を聞く必要もないし、こんなことでフェイトが泣く姿なんて見たくもない。

「リンディ提督、アルハザードとは?」

 プレシアを無視し、いまだに理解できない言葉をリンディさんに尋ねる。
 とリンディさんが応えるよりも早く

「ずいぶんと無知なのね。アルハザードも知らないなんて」

 その言葉にアリシアを見つめ続けたプレシアが初めて俺の方を向いた。

「生憎と俺は魔導師じゃなくて魔術師なんでね」
「そう、なら教えてあげるわ。
 次元の狭間にある、今は失われたあらゆる秘術の眠る地。それがアルハザード。
 その秘術を使って私は取り戻す。アリシアを! 過去も未来も!」

 プレシアが悲願が叶うとばかりに目を輝かせる。
 次元の狭間、なるほどそのためのジュエルシードか。
 複数使えばリンディさんが言っていた次元断層とやらも起こせるだろう。
 そこに至れば、死者蘇生に過去の改竄などのあらゆる秘術を知ることが出来る。

 それにしてもその地にはあらゆる秘術が眠るか。
 魔術を使う俺には似たような言葉が聞き覚えがある。

「なるほど……根源に到達する気か」

 俺の言葉にプレシアだけでなく、リンディさんやアースラの他のメンバーも目を丸くしている。

「そう、あなたは、魔術師は知っているのね。
 なら私に協力しなさい。
 そうすれば全てのジュエルシードが手に入る!」

 プレシアの言葉にリンディさん達が緊張する。
 確かにこの状況で俺が武器を持てば、アースラ内部に抱えた爆弾が爆発するのと同じ事だ。
 そう俺が武器をとれば
 だが

「断る。
 貴様と根源を目指そうとは思わない」

 俺の言葉にプレシアが俺を睨む。
 俺は魔術師ではなく、魔術使い。
 根本的に根源を目指していないのだ。
 そんなことよりもなにより俺は

「しかし愚かだな。プレシア・テスタロッサ」
「なん……ですって」

 プレシアが哀れに見えた。
 俺がプレシアに発した言葉にプレシアはすぐに反応し、俺を敵意を持って睨みつける。

「愚かだと言ったのだ。プレシア・テスタロッサ」
「何が愚かだというの?
 これで私はアリシアを、過去を、未来を取り戻すことが出来る!」

 まだ気が付いていないのか。
 いや、気がつく事を拒否しているのが正しいのだろう。
 そして、それこそが俺がプレシアに問いかけた答えでもある。

「アリシア・テスタロッサの器を作り、記憶を与え、アリシアを蘇らせるつもりだったのだろう。
 だがこのやり方ではいくら繰り返しても成功はしない。
 器がいくらアリシアを素体にしていようとそこに宿る魂はアリシアのものではない。
 ここにいるのはアリシアでも人形でもない。フェイト・テスタロッサという一人の少女だ」
「……ずいぶんと私達の知らない事を知っているのね」

 プレシアが驚いた表情で俺を見つめている。

 これがプレシアの間違い。
 根本的に魂というものを理解できてない。
 人がその人であるために必要な魂。
 もっともこれは魔術師と魔導師のあり方の違いから知られていないのだろう。
 遠坂曰く、「魔術師は過去に向かって疾走し、科学は未来に向かって疾走する」
 この世界の魔法を見る限り、魔術のように過去ではなく科学と共に未来に向かっている。
 未来を向かっている中で魂のようなオカルトじみた考えは不要ともいえる。
 しかし魂が理解できていなければアリシア・テスタロッサを生き返らせる事など不可能だ。
 もっとも理解出来ていても死者蘇生など無理だろうが

「それにフェイトが役立たずの人形?
 ふん。フェイトがいなければジュエルシードの回収すら出来なかったのにふざけた事を言う」

 プレシアの身体が何らかの病に侵されてるのは顔色から明白である。
 その身体ではジュエルシードの回収などまともにできるはずもない。
 フェイトがプレシアのために動かなければジュエルシード一つ手に入れる事すら出来なかっただろう。

「プレシア、俺の問いを覚えているか?
 『お前はなぜフェイトを受け入れ平穏に暮らすという選択が出来ないのだ』という問いだ」
「それがなんだというの」
「その答えを代わりに応えてやる。
 お前はただ認めたくないだけなのだろう」
「……なにを」

 俺の言葉にプレシアが理解できないとばかりに表情を歪める。

「フェイトの事を娘と認める事は、アリシアの死を受け入れる事だ。
 アリシアが死んだ事故。
 それに少しでも関わってしまった自分に対する罪悪感からアリシアの死を受け入れることが出来なかった」
「……るさい」

 プレシアが何かをつぶやくが無視する。

「その中でアリシアを生き返らせる事にすがり、フェイトの事を偽物と虐待することで、まだ間に合うと自分に言い聞かせた」
「うるさい!! 黙りなさい!!
 私は取り戻すの! アリシアを!!」

 俺の言葉にプレシアが激昂し、声を荒げる。
 その中、一つため息を吐き

「仮に根源に至りアリシアを蘇らせたとして、その時妹であるフェイトを虐待したお前を
 幾人もの命を生贄に捧げた貴様をアリシアは昔のように慕ってくれると思っているのか?」
「っ! それでもやってみせる!!」

 もはや子供も駄々と変わらないな。
 その時

「大変大変!! 屋敷内に魔力反応多数!!」

 エイミィさんの言葉と共にプレシアの住居の映像が映る。
 そこには幾多の甲冑を纏った兵士。
 恐らくは魔法的な自動人形といったところか。

「邪魔はさせないわ。
 私達は旅立つのよ。失われた都、アルハザードへ!!」

 プレシアが手を広げるとジュエルシードが輝きはじめる。

 その瞬間、激しい揺れがアースラを襲った。

「次元震です! 中規模以上! さらに増大中です!」
「このままだと次元断層発生まであと三十分足らずです!」

 自棄になったか。
 しかし放置すればこのままだと次元断層が起きる。

「リンディ提督、仮に次元断層が起きたとしたら俺達の住処は?」
「……恐らく消滅するわ」

 やはりか。
 ならば止めるために剣を執るのは道理。
 すずかやアリサ、海鳴に住む大切な人たちを守るために。
 だがその前に

「俺はプレシアを止めに行く、どうする?」

 なのはとフェイトに尋ねる。

「私も一緒に行きたい」

 なのはは明確に行くと頷く。
 だがフェイトは

「……母さんは私の事、人形って」

 悲しみの言葉をつぶやいた。
 無理もない。
 母親と慕ってきた人から娘と思っていないと言われたのだ。
 フェイトのショックは計り知れない。
 だが問いかける。

「フェイト、君はどうする?
 ここで全てを終わるのを待つか?
 それともフェイト・テスタロッサとして一歩踏み出すか?」
「……私は」
「どのような選択をしてもそれがフェイトの答えだ。
 俺もなのはも責めたりはしない」

 ただ願わくばフェイトには逃げずに進んでほしい。
 あとで後悔しないように




side フェイト

「フェイト、君はどうする?
 ここで全てを終わるのを待つか?
 それともフェイト・テスタロッサとして一歩踏み出すか?」
「……私は」
「どのような選択をしてもそれがフェイトの答えだ。
 俺もなのはも責めたりはしない」

 士郎からの問いかけ

 母さんにとって私はアリシアの代わりでしかなかった。
 私はただ母さんに認めてほしかった。
 そして、こうして拒絶された今でも母さんに縋っている私。

 このまま全てが終わるのを待つ?

 それで何か変わるんだろうか?

 いや、変わるはずがない。
 立ち止まったって変わるはずがないんだ。

 そもそも本当の自分が始まってもいない。
 母さんに私のフェイト・テスタロッサの思いも伝えていない。

 歩き出そう。

 本当の自分を始めるために

 それは辛くて大変なことかもしれない。

 それでも前に進もう。




side 士郎

 フェイトが涙をぬぐう。

「私は行きたい。まだ始まってもいない私を始めるために
 例えそれが辛くて大変でも」

 フェイトは真っ直ぐ俺となのはを見つめる。
 いい眼だ。
 だが一つだけ訂正だな。

「確かに辛くて大変な時もあるかもしれない。
 だけどフェイトは一人じゃないだろう。
 頼ればいい。なのはを、アルフを、ユーノを、勿論俺もな」

 俺の言葉にフェイトが目を丸くする。

「絶対に一人で乗り越える必要なんてないんだ。
 大変だったら手を貸す」
「うん。いつでも手伝うよ」
「私もずっとそばにいるんだからね」

 俺となのは、アルフの言葉に、ユーノも頷く。
 新たに溢れた涙をフェイトがぬぐう。
 その涙は先程のように悲しみによるものじゃない。

「うん。頼っていいんだよね。
 行こう。母さんの所に」

 フェイトの言葉に俺達が頷く。
 フェイトが行くとなればまずは

「フェイト、腕を手枷を壊す」

 フェイトの手枷を外さないと、と思ったら

「その必要はないよ」

 俺達を見ていたクロノがフェイトの手枷を外した。
 それを驚きの表情で見つめるフェイト

「この状況だ。僕もプレシア・テスタロッサのところに行かないといけない」
「なるほどお互い目的は若干違うが向かう場所は同じ。ならば」
「ああ、協力した方が効率もいいだろう」

 クロノと俺の言葉に全員が頷く。

「エイミィ、ゲート開いて」
「了解」

 転送ポートに向かおうとする俺達
 その時

「クロノ、なのはさん、フェイトさん、士郎君、アルフさん、ユーノ君、すぐに私も現地に出ます。
 それから皆さん、気をつけてね」

 しっかりとしたでもどこか心配そうな表情で見送ってくれるリンディ提督
 リンディ提督の言葉にしっかりと頷き、ブリッジを後にする俺達

 そして、俺達は転送ポートに乗り、プレシア・テスタロッサの住居に降り立ったのである。 
 

 
後書き
一日遅れの更新です。

そして今回は一話のみです。

少し風邪気味なのか、体調がいまいちです。

次回更新は来週の予定です。

ではでは 

 

第三十一話 庭園の戦い

 プレシアの住居に降り立った俺達

 そんな俺達を出迎えたのは幾多の甲冑。

「この子たちって」
「侵入者排除用の自動機械。
 小型はそうでもないけど大型になると装甲も固いから簡単にはいかない」

 なのはの言葉に甲冑に視線を向けたままフェイトが簡潔に応える。

 自動機械か。
 入口にいるのは戦斧を持った大型が一体。
 それ以外は剣と楯を持った小型が二十程。
 中にはさらにいるだろう。

 それに俺達の戦力も完全とはいかない。
 俺とクロノ、アルフ、ユーノはほぼ万全の状態だが、なのはとフェイトは先の戦いがある。
 体力的にも魔力的にも万全ではない。
 可能な限り無駄弾を使わせないように俺達がフォローする必要がある。

 どちらにしろあの甲冑と一度剣を交え、性能を把握する必要はあるか。

 小型のやつらが一歩前に踏み出す。
 それに合わせ、なのはとフェイトが相棒を構え、アルフも踏み込めるように、ユーノも魔法を発動できるように構える。
 だが

「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ」

 クロノがなのは達を止めた。
 そして、俺も

「確かにクロノの意見には賛成だな。
 一直線にあのデカブツを潰しにかかる。
 周りのを頼めるか?」
「ああ、勿論だ」

 クロノが頷き杖を構える。
 俺はクロノより一歩前に出て

「―――投影、開始(トレース・オン)

 外套から抜くように武器を握る。
 手に持つのはイリヤのメイドであるリズが使っていたハルバート。
 使用用途は単純だ。
 ただ力任せにあの甲冑をただの鉄屑に変えるための強度と威力を誇るもの。

 はっきりいってしまえば宝具を使えば一瞬で吹き飛ばすのはたやすいし、単純な切れ味ならハルバートよりも優れたものはある。
 しかし現状では管理局の目の前で使用した宝具の類はプライウェンに、フルンディング。
 存在を知られているものをいれるならゲイ・ボルク。
 それ以外は自分が最も使う干将・莫耶も見せてはいないのだ。
 ならば隠せる情報は可能な限り隠す。
 勿論必要なら躊躇わないが、恐らくこの世界の唯一の魔術師である俺だ。
 少し慎重になりすぎるぐらいで丁度いい。

「間違って後から俺を撃つなよ、クロノ」
「ふん。君こそしくじるなよ」

 軽口を叩きながらハルバートを振りあげ足に力を入れる。
 それに反応したのか小型の甲冑共がこちらに向かって走ってくる。
 模擬戦でクロノの実力はおおよそ把握している。
 そしてなにより背中を信じて任せる事が出来る。

「しっ!!」

 足に溜めた力を解放し、一気に疾走する。
 デカブツに向かうのに邪魔なのは真正面にいる一体とデカブツの前にいる一体。
 それ以外は無視できる。
 まずは真正面のやつ。
 疾走した勢いのまま跳躍し、ハルバートを横に薙ぐ。

 甲冑は異音を立てながら上半身と下半身に分かれ千切れ飛ぶ。
 予想よりも脆い。それに反応が遅すぎる。
 盾を持っていたがそれで防ぐ事すら出来ていない。
 性能としては一体一体はそれほど高くはない。
 十分に余裕を持って対応できるレベルだ。
 だが数とは単純な力でもある。
 万全ではないなのはやフェイトが囲まれると危険かもしれないな。

 しかし俺にとっては囲まれても大した問題ではない。
 人と比べるまでもない強靭な力を持つ死徒である俺。
 さらに尋常ではない重さと強度を誇るハルバートの前ではこの甲冑程度の装甲では耐えきれはしない。
 つまり俺はただ力任せに振るえばいい。

 着地した俺に襲いかかる甲冑共。

 それにこの入り口での戦いに関していえば囲まれようとハルバートを振るう必要さえない。
 なぜなら

「Stinger Snipe」
「はあっ!!」

 クロノが放った高速誘導弾が俺の横を抜け甲冑を次々に撃ち抜く。

 それにしても

「模擬戦の時よりもはるかにスピードも切れも威力も段違いだな」

 お互い手を抜いていたとはいえかなりのスピードとコントロールだ。
 この威力とスピードならば小型の甲冑では防ぎきる事はできない。

 俺もハルバートを握り直しながら速度を落とさずデカブツに向かって駆ける。

「スナイプショット!!」

 さらに加速した高速誘導弾が小型甲冑を次々に撃ち抜き、デカブツの前にいる奴も貫き、デカブツに叩き込まれる。
 しかし、さすがデカブツというところかクロノの高速誘導弾をくらっても平然としていた。
 だがそれも予想通り。
 俺は高速誘導弾のすぐ後ろを追うように疾走している。
 さらにデカブツは高速誘導弾を弾いた時の光で反応が遅れている。

 デカブツが俺に気がつき戦斧を振りあげるがもう遅い。
 飛びかかった速度を活かし空中で前転の要領で、ハルバートを脳天から叩きつける。

 ハルバートの刃がデカブツの戦斧の柄を砕き甲冑を砕き割るが、さすがに完全に分断できずに胸部の辺りで止まる。
 さすがに固いな。
 ハルバートの柄を握り直し、デカブツの腹を足場にし

「はあっ!」

 ハルバートを捩じり、胸部を抉りながら力任せに振り抜く。
 小型を叩き斬った時より凄まじい異音と共にデカブツの胸部が抉り飛ばされる。
 というよりも頭から入った刃が捩じりながら右脇腹の方に抜けているので上半身の右半分がなくなっている。

 そのままデカブツを蹴り、離れ爆風をかわす。

 着地し、なのは達の方を向くとクロノ達を含め茫然としていた。




side なのは

 士郎君とクロノ君。

 二人の息は初めてコンビを組んだとは思えないほどぴったしでした。
 それに

「クロノ君の魔法、速い」
「うん。それだけじゃない、コントロールも」

 クロノ君の魔法は士郎君との模擬戦の時よりも一段と速い。
 驚いたけど、同じ魔導師である私達でもまだ理解できるモノ。

 フェイトちゃんもクロノ君の魔法には感心してる。

 対してやっている事はわかるんだけどちゃんと理解できないモノ。

「ねえ、フェイトちゃん」
「な、なに?」
「あの子たちってその……あんなふうに力任せに壊せるものなの?」

 それが士郎君の戦い方

 空を飛ぶわけでもなく、レイジングハートのようなデバイスを持ってるわけでもない。
 ただ私達の身長よりもはるかに大きい斧と槍をくっつけたような武器を転送して、ただ振っているようにしか見えない。
 見えないのだけど

「私には……無理かな」

 フェイトちゃんもどこか困った風にアルフさんとユーノ君に視線を向けるけど

「いや、僕は無理だから」
「私も小型の奴なら力づくで押さえつけて動力コードを引き千切るぐらいなら出来るけど……あのでかいのは……ね」

 ユーノ君とアルフさんも苦笑いしてる。

 一体どうすればあんな戦い方が出来るのかがまったくわかりません。

 普通はあんな戦い方しないよね。
 私がおかしいんじゃないよね。

「だけど士郎と戦わなくてよかったって改めて思うよ」

 アルフさんのしみじみとしたつぶやきに少し考えてみる。

 敵として士郎君と向かい合う私。
 そして、士郎君が振りかぶった武器をシールドで防ごうとする私。
 士郎君の武器はシールドに食い込んで止まる。
 士郎君は武器を捩じって、力任せにシールドを突き破り、私の身体は…………

「や、やめよう」

 背筋に寒気がはしった。
 変な考えはするもんじゃないよね。
 うん、これは考えちゃいけない。

「どうしたんだ?」

 士郎君が武器を担いで不思議そうな顔をしてる。

「ううん! なんでもないよ!」

 私の表情に士郎君は首を傾げてるけど言えないと思っていると

「魔導師から見てあまりにも常識はずれな戦い方に茫然としてるだけだよ」

 呆れたようにクロノ君が士郎君にそんな事を言った。
 さすがに真正面からそんな事を言ったら士郎君でも怒りそうと思ったら
 士郎君にも自覚があるのか苦笑してる。

「まあ、言われるとは思ったけど
 俺の戦い方に関してはまた今度だ。
 まだ入り口なんだから急ぐぞ」

 士郎君の言葉に頷き慌ててついていく。

 それにしてもやっぱり士郎君の戦い方は非常識だと思います。
 だって

「はあっ!!」

 入口の大きなドアを手に持つモノで粉砕して開けたんだから




side 士郎

 入口をハルバートで粉砕して中に侵入すると至るところの床が抜け、そこには底が見えない空間が広がっている。

「なんだ、この空間は?」
「虚数空間。あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ」

 俺の疑問にユーノが応えてくれるが、厄介な空間だな。

「飛行魔法もデリートされる。もしも落ちたら重力の底まで落下する」
「でも虚数空間って士郎の魔術もデリートされるの?」

 ふと思いついたようにつぶやいたフェイトの言葉だがどうなのだろう?
 確か桜は虚数魔術を使っていたが、あの虚数とは別物のようだ。
 まあ、どちらにしろ

「俺にもわからないが、命をかけて試そうとは思わないな」

 失敗すれば重力の底まで落ちるとんでもない穴にお試しで入ろうとは思わない。
 それに俺なんかは元々飛行の魔術なんて使えない。
 そんな会話をしながら走っていると、また新たな扉である。
 とりあえず

「しっ!!」

 ドアを蹴り破る。
 とドアの向こうにいた小型の甲冑の一体に吹き飛んだドアが突き刺さり爆発した。

「「「「「…………」」」」」
「そんな呆れたような顔をしなくてもいいだろう。倒したんだから」

 無言の圧力というか視線に言い訳じみた言葉を言っておく。

「と、とりあえず奥の階段が分かれ道」

 フェイト言葉に甲冑達の向こうにある階段を見つめる。
 さてどうするか。

「クロノ、駆動炉とジュエルシードどちらを止めるべきだ?」
「エイミィによるとどちらもロストロギアらしい。
 最終的には両方封印する必要があるが、まずは駆動炉を止めないとジュエルシードの封印すらままならないと思う」

 ならば駆動炉を先に潰す事を考えるか。
 だが全員が駆動炉に向かえばプレシアに奥の手があった時に手が出せなくなる。
 つまりはプレシアの方にも戦力を投入する必要がある。
 となると

「クロノはプレシアのところだろう?」
「ああ」

 まあ、当然といえば当然か。
 管理局という組織として事件の首謀者と一番回収したいジュエルシードがあるのだから。
 なのはとユーノは駆動炉の方かな。
 魔力が万全でない事を考えれば、フェイトとアルフも一緒に行った方がいいか。
 あと補佐として俺か。
 プレシアの方の戦力がクロノだけだが恐らく大丈夫だろう。

「クロノ以外は駆動炉に向かうぞ」
「だけど私は……」

 俺の言葉に躊躇うフェイト。
 無理もない。
 元々の目的がプレシアに会う事なのだから当然ではある。
 だが

「なのはとフェイトは魔力が万全じゃないから二人は一緒に行動することになる。
 クロノになのは達を任せて俺が駆動炉に行ってもいいんだが封印が出来ないからな。
 封印できなければ破壊するしかない」

 俺の言葉になのはとフェイトはあっという顔をしている。
 あくまで俺の封印は魔力を抑え、聖骸布で包み込むという一時的なものである。
 当然のことだがデバイスのような複雑なモノの投影は出来ないので、もし俺の方法で抑えられなければ破壊するしか手がない。

「管理局としてはロストロギアをそう簡単に壊されてはたまったもんじゃないんだが」

 クロノがため息を吐きながらそんな事をつぶやくのも無理はないだろう。

「それとクロノ、プレシアの所に近づいたらこちらに連絡しろ。
 フェイトはクロノからの連絡が来次第、プレシアの所に向かえ」
「わかった」

 フェイトも頷いてくれたので互いに向かうところは決まった。

 さて、向かうところは決まったが、クロノを一人で行かせ、俺達が辿りつく前にプレシアとの戦いとなるといささか危険ではある。
 だがこの状況でなのはとフェイトから離れるというのは俺の選択肢にない。
 ならばクロノの防御面を向上させ、プレシアの攻撃に耐えれるようにするしかない。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 投影品を貸すと俺の魔術がばれる可能性もあるが、人の命と天秤にかける事は出来ない。
 仕方ないと諦めるとしよう。
 投影するは四つの黄金角と四つの黄金に覆われた盾。
 ケルト神話にてクルフーア王が持ちし盾『オハン』である。

「クロノ、持っていけ。
 持ち主ではないから本来の能力は引き出せないが、それでも防御力は相当なものだ」
「いいのか?
 君の持ちモノを僕に渡して」
「当然、これが片付いたら返品してもらう」

 俺の言葉にクロノは大きくため息を吐く。

「これだけの魔力を纏っているんだ危険物扱いでこのまま引き渡してもらう」

 クロノの言葉になのはとフェイト、ユーノは「え?」という顔をしてるし、アルフは眉をひそめる。
 まあ、好意で差し出した物を返さないといえばこれが普通の反応だろう。
 だが

「本来ならね。だが士郎の好意だ。
 この件が終わったら必ず返す事を約束する」

 とのクロノの発言にユーノは眼を丸くし、なのはとフェイト、アルフは笑っている。
 もっと頭が固いかと思ったが少々認識を誤っていたな。

「なら全員向かう場所は決まった。
 この目障りなのを消し飛ばしたら行くぞ!!」

 俺はハルバートを地につきたて、新たな武器を投影する。
 クロノのオハンを返却するという約束に感謝してもう一度見せてやろう。

 新たに投影し外套から取り出すのは使い慣れた弓と赤き猟犬

 猟犬を弓に番え、魔力を叩きこむ。
 その光景になのは達が警戒するように下がったのがわかった。

 五秒
 猟犬の魔力は高まり、赤き雷を纏い始める。

 十秒
 危険と判断した機械がこちらに向かってくる。

 十二秒
 だが遅い。
 込められた魔力は全力には程遠いがこいつらを消し飛ばすにはお釣りがくる。

「―――赤原猟犬(フルンディング)

 俺の目の前で剣を振り上げている甲冑に向かって猟犬が放たれる。

 猟犬は軌道を変え甲冑を次々と鉄屑に変え、最後に床を突き破る。

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 床の向こうにいた何かに当たった手応えと同時に『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』で爆発を起こす。

 下に甲冑がどれだけいるかは知らないが、少しは片付いただろう。

「いくぞ!!」

 弓を外套にしまうように消し、ハルバートを抜き、階段に向かって駆ける。

「クロノ君! 気をつけてね!」

 階段で分かれる俺達とクロノ。
 クロノはなのはの言葉に笑みを浮かべしっかりと頷いて見せた。

 俺達が向かうは駆動炉。
 そして、最後はプレシアのところを目指すことになる。

 フェイトが辿りつくまでにプレシアが自分の間違いに少しでも気がついてくれればいいのだが。

 プレシアが拒絶している事を突きつけはしたが、それを受け入れ向き合い考える事が出来るだろうか。
 この短い時間で。

 恐らく可能性としては出来ない方が高いが、この辺りはプレシア自身に賭けるしかない。
 本当に僅かな希望だがな。 
 

 
後書き
今週は遅れることなく更新出来ました。

そして、今週の更新は2話ですので続いて三十二話もいきます。

ではでは 

 

第三十二話 崩壊の始まり

side プレシア

 最下層にいる私のところまで振動が伝わった。
 ジュエルシードのモノじゃない。
 根本的に異質なもの。
 恐らくは

「……あの世界の魔導師ね」

 でもどうでもいい。

 私とアリシアはアルハザードに旅立って全てをやり直す。

 そうすれば眠り続けるアリシアはまた私に笑いかけて……
 「仮に根源に至りアリシアを蘇らせたとして、その時妹であるフェイトを虐待したお前を
 幾人もの命を生贄に捧げた貴様をアリシアは昔のように慕ってくれると思っているのか?」
 ……くれる。
 そう、取り戻せる。
 「アリシアの死を受け入れることが出来なかった」
 違う。
 確かにアリシアを失ってしまった。
 これはアリシアを取り戻すためだ。
 死を受けれていないはずなんてない。

 それにフェイトは所詮紛い物。
 アリシアの、あの子の偽物
 「ここにいるのはアリシアでも人形でもない。フェイト・テスタロッサという一人の少女だ」
 違う。
 フェイト・テスタロッサなどという娘は私にはいない。
 いらない。
 私はフェイトなんかいらな……
 「フェイトがいなければジュエルシードの回収すら出来なかったのにふざけた事を言う」
 違う!
 アリシアではないフェイトなど求めていない。
 それでもフェイトは私のそばにいた。
 どんなにひどい事をしても離れなかった。
 逃げる事は出来たはずなのになぜ?

「っ!!」

 いらない余分な思考だ。
 人形の事を考えても仕方がない。
 全ては……
 「フェイトの事を偽物と虐待することで、まだ間に合うと自分に言い聞かせた」
 ……違う。
 違う違う違う違う違う違う!!!

「フェイトの手は振り払ったのよ。今更私の事を母と思うはずもない。
 私にはアリシアだけ」

 そう、アリシアだけ。
 それにフェイトの手も振り払ったわけじゃない。
 もともとあの子は私の娘なんかじゃ……
 「妹であるフェイトを」
 違う。
 あの子はアリシアの妹でも、私の娘でもない。

「くっ、なんなのこれは」

 瞳から流れ出るこれはなんなの。
 いや、考える必要などない。
 こんなものを気にする必要もない。
 躾の出来ていない使い魔が残していった剣を握る。

「邪魔はさせないわ」

 この感情はわからない。
 振り払おうとしても、あの言葉が頭から離れない。
 でもアルハザードに行けば、このわけのわからない感情も言葉も消えるはず。

「そうよね、アリシア」

 縋るようにアリシアが入る容器を撫でた。
 だけど瞳から流れ出るものが止まる事はなかった。




side 士郎

 駆動炉に向かい上に昇る俺達

「シュートッ!!」
「ファイアッ!」

 なのはとフェイトが放った魔力弾が甲冑を撃ち抜く。
 それをかわした甲冑は俺がハルバートで叩き斬り、アルフが動力コードを食い千切り、ユーノが捕縛していく。
 だが

「……キリがないな」
「確かに数が多すぎるね」

 上へと続く吹き抜けのホール。
 そこからキリがなく降りてくる甲冑共。
 一体何体造ったんだか……
 あまりの数にアルフと並んでため息を吐く。

「二人とも無事か?」
「大丈夫!」
「平気!」

 俺とアルフよりも後ろにいるなのはとフェイトに声をかけるが元気のある返事が返ってくる。
 だがフェイトは少し息が荒くなってきている。
 無理もないのかもしれない。
 なのはとの戦いであれだけの魔法を使い、さらにはあの砲撃をまともに喰らったのだ。
 なのはもあまり余力はないだろう。

 ちなみに今の布陣は接近戦を得意とする俺とアルフを先頭に置き
 体力を可能な限り消耗させないように魔法の支援としてなのはとフェイト
 最後尾には防御と捕縛が得意なユーノをなのはとフェイトの支援、援護役として置いている。

 とため息をついていると、壁をぶち抜きなのはとフェイトの目の前に現れた一体の甲冑。

「大型だ。バリアが強い」
「うん。それにあの背中の」

 その姿にフェイトとなのはも杖を握り直す。
 無理もない。
 明らかに今までのと違う。
 斧を持った奴をデカブツと言っていたがアレの倍近いサイズに背中にはデカイ砲を二つ。
 なのはとフェイトを下げさせながら潰そうと思ったら

「士郎!!」
「ちっ! 目障りな!」

 上から四十以上もの小型の甲冑が向かってくる。
 小型はアルフに耐えてもらうしかないかと思ったら

「でも二人でなら」

 フェイトのそんな言葉になのはが一瞬目を丸くするがすぐに満面の笑みを浮かべ何度も頷く。
 その姿を見て、アレは二人に任せると決める。

「ユーノ、二人をサポートしろ!
 アルフ、足場を、一体も通すなよ!」
「わかった!!」
「あいよ!!」

 ユーノとアルフの返事を聞きながら、ハルバートを壁に突き立て、アルフの魔法陣の上に立つ。
 意識を向けるのは上から降ってくる烏合の衆。
 外套から取り出すように新たに投影するモノは黒鍵。
 半身を引き、自身の身体を弓として黒鍵を撃ちだしていく。
 俺の横でアルフは魔力弾を撃っていく。

 もっとも俺とアルフの二人がかりという事もあり、すぐに全て撃ち落とす。
 さらに降りてくる小型の甲冑がいない事を確認して、一息つく。
 そんな時

「それにしてもどんな魔法だい?
 あんな細い剣で小型とはいえアレを吹き飛ばすなんてさ」

 アルフが不思議そうに首を傾げるのも無理はない。
 明らかに投擲された黒鍵の質量と威力が矛盾している。

「鉄甲作用。魔法でも魔術でもない。純粋な投擲技法だよ」
「……あれがかい? 本当に常識外れだね」

 ほっとけ。
 まあ、そう思うのも無理はないのかもしれないが

 なのはとフェイトの二人も無事片付いたようだし、これ以上次が来ないうちにささっと昇るとしよう。




side ユーノ

 壁を突き破って出てきた大型。
 士郎ならなのは達を下げさせると思ったら

「ユーノ、二人をサポートしろ!
 アルフ、足場を、一体も通すなよ!」

 指示は意外にも大型をなのは達に任せるという選択。
 でも魔力もそんなに余力がないこの状況で笑顔の二人を見ると士郎があえて任せたのも頷ける。

「わかった!!」
「あいよ!!」

 アルフと共に士郎に返事をし、即座に行動を起こす。
 大型の背中の砲門がなのはとフェイトを捉える。
 素早く、そして正確に印を結ぶ。

「なのはとフェイトは攻撃を!」

 僕の言葉に二人は頷き動き出す。
 それを眺めながら士郎達の方にも視線を向けるけど、あちらはあちらで違う意味ですごいことになってる。

「行くよ、バルディッシュ!」
「Get set」
「こっちもだよ、レイジングハート」
「Stand by ready」

 フェイトのバルディッシュは近づかれた時に用意していた魔力刃を消し、サイズフォームからデバイスフォームへ
 なのはのレイジングハートも砲撃のためにデバイスモードからシューティングモードに形態を変える。

 砲門に魔力が集束し始めるが、撃たせたりしない。

「チェーンバインド!」

 バインドを砲門、手足にかけ全力で拘束する。
 バインドに引っ張られて大型がバランスを崩す。
 僕の力じゃ長くは持たない。でもこれだけ時間があれば十分

「サンダースマッシャー!」
「ディバインバスター!」

 大型のバリアに二人の砲撃がぶつかり阻まれる。
 だけどそれは

「「せーのっ!!!」」

 二人の魔力がさらに膨れ上がり、バリアを突き破り大型を包み、さらに直進していく。

「……外壁まで貫いたんじゃ」

 あまりの光景のそんなことを思うけど恐らく間違ってない気がする。
 士郎達の方も片付いたみたいだけど

「またこれは……すごい光景だね」

 上から降りてきた何十という自動機械の四分の一程はアルフの魔力弾により残骸になって転がってる。
 残りの全てはというと、なのはと僕が士郎に初めて出会ったときに見た細身の剣に磔にされている。
 数体程度ならあんな細い剣でという驚きだけなんだろうけど……

 何十もの機械とはいえ人型が磔にされている光景というのは正直あまりいい気分はしない。
 それに横目でちらりと見ただけだけど、士郎は魔法でもなく単純に投擲していたように見える。
 なのはとフェイトもあまりの光景に唖然としてる。

「ねえ、士郎の転送元ってどれくらい同じ剣があるんだろう?」
「そうだよね。
 あのフルンディングだっけ? あれもこんなにあるのかな?」

 フェイトとなのはが驚きのあまりそんな呑気な事を言ってるけどそれには同感。
 一体の甲冑にだいたい二~三本刺さっているので、ここにあるだけで細身の剣はざっと五十はある。
 あの赤い歪な矢、フルンディングが五十以上あるなんて正直想像もしたくない。
 そんな事を考えながら茫然としていると

「三人共、次が来ないうちに昇るぞ」

 士郎から呼ばれる。

「は~い」
「うん」

 士郎の呼び声に上を目指す二人。
 士郎はなのは達を確認すると自分の体格よりも大きい戦斧? を担ぎ直し、螺旋状の足場を跳躍しながら上を目指す。

 それにしても士郎を見ながら少し呆れてしまう。

 戦い方もそうだけど何もかもがとんでもない。
 だけど士郎はまだ本気を見せていない。
 これは確信だ。
 そして

「本気になったらどれだけ強いんだろう」

 最近これがとても気になっている。
 そんな関係のない事を思いつつなのは達を追う。




side 士郎

 小型の甲冑の頭を掴み

「はあっ!!」

 扉に向かって投げつける。
 扉と甲冑が残骸になって広間に出る入口が出来る。

「あそこのエレベータから駆動炉に向える」

 フェイトの言葉に頷くが、フェイトはここまでだろう。

「フェイト、ここまででいい。
 プレシアのところに行け」
「だけど……」
「すでに息が上がってる。魔力もそんなに余力がないだろう。
 それにそろそろクロノなら辿りつくだろうしな」
「……わかった」

 フェイトは少し考えたようだがしっかりと頷いた。
 しかしその表情はまだ暗い。
 迷いや恐れ。
 無理もない。一度は人形と拒絶されたのだ。
 そんなフェイトを見て、なのははレイジングハートを置き、フェイトの手を包みこむ。

「私、うまく言えないけど頑張って」

 フェイトが目を丸くし、すぐに安堵の表情に変わった。
 だな。
 フェイトは一人じゃないって、俺達がいるってちゃんと教えてやらないと

「ぶつけて来い。自分の気持ちを」

 二人の手に俺も手を重ねる。
 フェイトの表情が少しだが穏やかになった。
 そして

「ありがとう。なのは、士郎
 行ってきます」

 しっかりと頷いて見せた。

「クロノももうすぐプレシアのところまで辿り着くみたいだから急いだ方がいい」

 予想通りだな。

「わかった。アルフ」
「ああ」

 ユーノの言葉にフェイトとアルフが走りだす。
 さて、俺達も行くとしよう。

 エレベータに乗り、駆動炉に乗り込むとまた幾多の甲冑共

「……いい加減見飽きたな」
「士郎君……」

 俺の発言に苦笑いしているなのは
 まあ、冗談はこの辺で

「なのはは駆動炉の封印を、ユーノはなのはの援護をしろ。
 俺はこの烏合の衆を潰す」
「うん」
「わかった」

 ハルバートを突き立て、外套から取り出すように両手合わせ六本の黒鍵を握る。
 一歩前に踏み出し、黒鍵を投擲する。

 それが駆動炉の戦いの始まりとなった。




side プレシア

 先ほどからジュエルシードとは違う振動が庭園を揺らす。
 だけどもう少しで次元断層が起き、アルハザードの扉が開く。
 そうすれば……本当に取り戻せるのだろうか?

「なにを迷ってるというの?」

 目から溢れた何かを拭う。
 自分自身が出した答えだというのに何を迷う事がある。
 その時、次元震が弱くなる。

「プレシア・テスタロッサ、終わりですよ。
 次元震は私が抑えています。
 忘れられし都アルハザード、そこに眠る秘術は存在するかも曖昧なただの伝説です」
「違うわ。アルハザードの道は次元の狭間にある。
 時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落する輝き。道は確かにそこにある」

 そう、そこに道はある。
 そして、その道ももうすぐ開かれる。
 そうすれば……

「私とアリシアの全てを取り戻す。こんなはずじゃなかった世界の全てを」

 「貴様は認めたくないだけなのだろう」
 またあの魔導師の声が頭に響く。
 だけどそれもあと少し
 あと少しでこの戯言も消える。

 その時、瓦礫が吹き飛び現れたのは執務官。

「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ!
 ずっと昔からいつだって、誰だってそうなんだ!」

 耳障りだ。
 取り戻せるのよ
 あと少しでアルハザードに辿りつける。
 そうすれば世界の全てを変えられる。
 だから

「黙りなさい!!」

 ジュエルシードをコントロールしている今、詠唱などいらない。
 デバイスを振るだけで雷を放つ。
 だけどそれは

 黄金を纏った盾によって阻まれた。
 あっさりと防がれたことに思考が固まる。

「スナイプショット!」

 上空に待機させていた誘導弾が一直線に向かってくる。
 防御を展開……っ!

「ごぼっ!」

 咳と共に吐血する。
 その中、苦し紛れに手に持つ剣を盾にする。
 剣が触れた誘導弾は弾かれ消えた。

「なっ! その剣は士郎の物か」
「フェイトの使い魔が落していったものだけどなかなかに役に立つわ。
 そういうあなたの盾もあの魔導師の物じゃないの?」

 あの盾も、この剣と同じように異質なものだ。
 少なくとも魔導師が使うデバイスの類ではないのは間違いない。

 それにしても長くは持たないわね。
 魔力はともかく体力が続かない。
 一気に片をつけないと

 再び魔法を発動させようとした時

 私と執務官のほぼ中間位置にゆっくりと降りてきた者がいた。

 フェイト? なぜ?
 と疑問に思うも、戦闘の緊張が切れ、激しく咳き込み再び吐血する。

「母さん」

 こちらに走ってこようとするが私と目を合わせるとフェイトの足が止まってしまう。
 ……今まで虐待をしてきたのだから仕方がないのかもしれないわね。

「まだそう呼ぶのね。いえ、何をしに来たの」
「あなたに言いたい事があって来ました」

 虐待してきた私に向けられた瞳。
 意外にもその眼には怯えもなく、憎悪もない。
 ただ静かに私を見据えている。

「私はアリシア・テスタロッサじゃありません。あなたが作ったただの人形なのかもしれません」

 あなた。
 フェイトにそう呼ばれた時、胸が痛んだ。
 違う。病のせい。フェイトがあなたと呼んだ事は関係ない。

「だけど私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらったあなたの娘です」
「……だからなんだというの?
 あなたの事を娘と思えというの?」

 フェイトの姿がアリシアとかぶる。
 違う。
 吐血のせいだ。
 血が足りてなくて目が霞んでるだけ

「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からもどんな出来事からもあなたを守る。
 私があなたの娘だからじゃない。
 あなたが私の母さんだから」

 眼からまた何かが溢れた。
 その正体が涙という事に初めて気がついた。

 どうやらあの魔導師の言うとおりだったらしい。
 アリシアの死を受けれる事が出来ず、フェイトを拒絶し続けた。
 その結果がこれだ。

「……本当に愚かね」

 アリシアの妹、私のもう一人の娘、フェイト・テスタロッサ。
 アリシアのコピーでも偽物でもない。
 フェイトという名の私の娘。
 大切で手に届く幸せがすぐそばにずっとあったというのに私はその手を払い続けていたんだから

「いつもそうね。いつも私は気付くのが遅すぎる」
「母さん?」

 私の独白に困惑の表情を浮かべるフェイト
 出来る事ならフェイトがもっと大きくなる時まで一緒にいたかった。
 今まで辛くあたった分、優しく抱きしめてあげたかった。
 でも……その資格はもうない。

「執務官、名前は?」
「……クロノ、クロノ・ハラオウンだ」
「そう。クロノ執務官
 フェイトはあくまで私に命令されて動いていただけ、全ての責任は私にあるわ」
「か、母さん!?」
「プレシア・テスタロッサ、何を」

 私の言葉にフェイトだけでなく、次元震を抑えている女性も驚いた声を上げる。

「片をつけるわ。全てを終わらせる。
 フェイト、私にこんな事言う資格ないのかもしれない」

 そう、こんな資格ない。
 フェイトを一番傷つけてきたのは私なのだから
 それでも言わせてほしい。

「幸せになりなさい」

 体力もない。
 ジュエルシードのコントロールだけで限界。
 それでもやらないといけない。
 それが私のけじめ。

 手に持つ剣を投げ捨て、デバイスを両手で握り直す。

 そしてデバイスに魔力を流し、ジュエルシードを解き放つ。

 これでいい。

 アリシア、生き返すことが出来なくてごめんね。
 フェイト、愛してあげることが出来なくてごめんね。

 後悔はいくつもある。
 それでもこのケリは私がつける。


 そして、崩壊が始まった。 
 

 
後書き
今週の第二話目です。

ちなみに体調は若干向上中。
この調子でよくなればいいですが。

あとつぶやきでも書いていますが、貫咲賢希さんから頂いた挿絵を追加してます。
挿絵がある話はサブタイトルの横に★がついてますのでよろしければ見て下さい。

ではでは 

 

第三十三話 残る者たち

 なのはの手にゆっくりと降りてくる赤い宝石。

「これで駆動炉の封印も完了だな」
「うん。あとは」

 なのはと俺の視線が交わりお互いに頷き合う。

「「フェイト(ちゃん)の所に向かうだけ」」

 向かう先は最下層。
 フェイトが向かったプレシアのいるところ。
 だが次の瞬間

「きゃっ!」
「なのはっ!」

 凄まじい振動が襲った。
 バランスを崩したなのはをすぐに抱き寄せる。

 どういう事だ?
 次元震はリンディさんが抑えてるはずだ。
 だが振動は徐々に強くなり、下からは凄まじい魔力の猛りが感じられる。
 恐らくフェイトとプレシアがいる最下層。

「ユーノ、無事か?」
「僕は大丈夫。だけどこのままじゃここが崩れる!」

 ユーノの意見には同感だ。
 だがそれ以上ににフェイト達が心配だ。
 しかしこの状況だ。
 いざとなったら撤退できるように準備しておく必要もある。

「ユーノ、入口に戻ってアースラへの転送準備をしてくれ」
「士郎は?」
「最下層に行く」

 俺はなのはにユーノと共に行くように言おうとしてやめた。
 なのはの瞳には怯えも何もない。
 ただフェイトを助けに行くという強い意志がそこにはあった。

「わかった! なのはも気をつけて!」

 ユーノにもなのはの意思は伝わったのか、すぐに来た道を逆に走り始める。
 そして、俺達は最下層に向かうのだが、当然というかここ、時の庭園の構造を把握していない。
 解析を使えば把握できるかもしれないが時間が惜しい。
 なので手段は問わない。

「なのは、レイジングハート、今からする事は秘密で頼む」
「え? わ、わかった」
「All right」

 ちょっと……いや、かなり荒業で道を造るとしよう。
 ハルバートを外套にしまうように霧散させ、左手に握るは使い慣れた洋弓

「―――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 右手には捻じれた剣を持ち、跳躍する。
 空中で剣を番え、最下層に狙いを定める。

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 放たれた剣は一瞬で音速を超え、空間すら捻じ切る勢いで俺が立っていたところを突き進む。
 そして、最下層に続くトンネルが出来る。

 着地し、弓を外套にしまうように霧散させ、なのはを見ると唖然としていた。
 まあ、宝具だから驚くのは無理もないか。

「なのは、とばすから掴まれ」
「え、う、うん!」

 俺はなのはを抱きかかえ、最下層に伸びる道に飛び込んだ。




side クロノ

 戦いの場と化した時の庭園。

 そこは凄まじい勢いで崩壊していた。
 そして崩壊が進むのに合わせるかのようにジュエルシードの魔力がどんどん高まっていく。

 一つのジュエルシードだけでも厄介だというのにそれが八つもあるんだからもはや手の着けようがない。

「艦長、庭園が崩れます! 戻ってください。
 クロノ君達も脱出して崩壊までもう時間がないの」
「わかった! フェイっ!!」
「きゃっ!」
「フェイトっ!」

 エイミィからの通信にフェイトの事を呼ぼうとしたその時
 上からは瓦礫が落ち、フェイトが立っていた場所が隆起する。
 アルフが慌ててフェイトの事を掴もうと手を伸ばすが届かない。

「……最後までごめんね」

 そんな崩壊の中、プレシアの言葉だけはしっかりと聞き取れた。

 プレシアはアリシア・テスタロッサの入ったポットのそばに立ちながらフェイトの事を見つめていた。
 先ほどのつぶやきは誰に向けられたものなのだろうか?
 フェイトを最後まで危険目に合わせた事か
 それとも最後まで付き合わせてしまう事になったアリシアに向けられたものか
 もしくはその両方か

 その答えはわからないがゆっくりしていられる状況じゃない。
 現にプレシアが立つ場所も亀裂がどんどん広がっている。
 この下には虚数空間が広がっている。
 落ちれば生存は絶望的、いや不可能だろう。

 しかしその状況下でもプレシアは落ち着いていた。
 憑き物のが落ちたようなその表情は全てを受け入れる覚悟が出来ているように見えた。

 冗談じゃない。
 フェイトはプレシアを求めているというのに、その手を振り払ってあえて死を選ぶつもりか。
 そんなの認めない。

 危険なのは承知している。
 そんな中プレシアのところに行こうとした次の瞬間

「っ!!!」

 背筋に寒気が奔った。
 本能が危険と警告する。
 その発生源は上
 僕だけじゃない。

 ここにいる全ての者がこの状況の中上を見上げていた。
 ジュエルシードの魔力が満ちている庭園の中でも明らかにわかる異質な魔力と存在感。

 その存在感が膨れ上がる。
 それとほぼ同時にその異質なモノは天井を突き破る。
 だがそれでも勢いが衰える事はなく、さらに下を目指して一瞬で視界から消えた。
 その速さはもはや視認できるものではない。
 当然、今のが何だったのかわかるはずもない。

 しかし恐ろしい程の速度で天井を破ったモノはその余波だけで周囲にある瓦礫を薙ぎ払ったのだ。
 仮に直撃しなくてもただでは済まないのは間違いない。

 そして、異質でこれだけの事が出来る可能性があるのは

「まさか士郎か?
 エイミィ! 何だ今のは!」
「わ、わかんない。というか観測結果は後!
 早く逃げて!」

 あまりの異質さに呆然とする僕達に向かってエイミィが叫ぶ。
 フェイトやプレシア達もあまりの異質さに呆然としていたらしい。
 エイミィの声で動き出す僕達。

 その時、魔力を感じ再び見上げる。
 天井に空いた穴。
 そこから何かを削るような音と共に赤いナニカが飛び出してきた。

 飛び出してきたのはなのはを抱えた士郎。

 なのはと士郎が向かったのは駆動炉。
 つまり導き出される答えは。

「……駆動炉から最下層まで道を作ったのか?」

 そのあまりの答えに頭が痛くなってきた僕だった。




side 士郎

 カラドボルグより遅れ、駆動炉からのトンネルから飛び出る。

 俺がやった事は結構単純で魔力放出と重力の恩恵を受け、最高速でトンネルを駆け抜け、トンネルの終点が見えると同時に無銘の魔剣を突き立て、ブレーキにして降りてきたのだ。

 トンネルを抜けると同時に周囲に視線を向け、状況を把握する。
 全員確認。今のところはまだ無事のようだ。
 だが隆起した所に残されたフェイトと亀裂が広がる大地に残されたプレシアとアリシア。
 しかもプレシアの足場が崩れるのにももう猶予がないのも明白。

 迷いも躊躇いもなく判断を下す。

「フェイトを!」
「うん」

 なのはを離すと、なのははすぐさま減速しながらフェイトに向かう。
 たった一言だけで俺の思いは通じたようだ。

「フェイトちゃん! 飛んで!! こっちに!!」

 なのはの言葉にフェイトがプレシアに視線を向ける。
 そんなフェイトにプレシアはただ一つ頷いただけだった。

 フェイトとプレシアのそんなやり取りを、プレシアのフェイトに対する視線が先ほどまでとは違い穏やかなのを見て確信した。
 フェイトの思いは届いたのだ。

 それに従うように、何かに縋るようになのはに手を伸ばすフェイト。

 フェイトの手はなのはにしっかりと握りしめられる。

 その光景を満足そうに見つめるプレシア。
 そして足場は崩壊し、ゆっくりと虚数空間の中にプレシアとアリシアが落ちていく。
 ようやく届いたフェイトの思い。
 それが失われようとしている。
 それを黙って見届ける?

 それこそまさかだ。

 なのはとフェイトのために剣を執ると決めた。
 プレシアがここでいなくなればフェイトが苦しむのなんて考えなくてもわかる。

 ならばそのままプレシアとアリシアが虚数空間に落ちるのを見ているはずがない。

「あっさりと諦めるな!!」

 鎖と布が踊り、布がプレシアの腕とアリシアのポットに巻きつき、その上から鎖がさらに絡みつく。
 その先は俺の右手に握られる。
 そして、俺自身の身体を支えるのは辺りにある瓦礫と俺の身体に絡む幾多の鎖。

 鎖が軋みを上げながら俺の身体とプレシアとアリシアの身体を支える。
 だがそれとほぼ同時に俺の身体から異音がした。

「ぐっ!」

 当然といえば当然である。
 プレシアとポットの中を満たす液体に入ったアリシア。
 それを身体一つで支えるだけでかなりの負荷だ。
 さらに俺が駆動炉から魔力放出を使い降りてきた勢いも剣で多少減速させたといえ、身体に絡みついた鎖で止めたのだ。
 肋骨が折れるのは当然のこと、二人を支える腕の骨が折れ、筋肉が断裂するのもやむを得ない事であった。

「士郎君! プレシアさん!」
「母さん! 士郎!」

 なのはとなのはに支えられるフェイトが悲鳴を上げる。

「なのはとフェイトは脱出しろ!」
「だけど!」
「早くしろ!」

 折れた肋骨が内臓を傷つけたのか口から血が零れるが構わずに叫ぶ。
 俺の言葉になのはが悔しそうにゆっくりとだが確かに頷いたのが見えた。

「信じてるからね! ちゃんと戻ってきてね!」

 俺にそう声をかけ、フェイトをしっかりと抱きしめ、入口に向かって速度を上げる。
 その時アルフがこちらに来ようとするが

「二人を頼む」

 首を横に振り、静かに言葉を紡ぐ。
 アルフは一瞬迷うもしっかりと頷いて、なのはを追う。
 そんな中、フェイトはなのはの腕の中で見えなくなるまでプレシアを見つめ続けていた。

 それを見届け一安心する。
 少なくともこれでなのは達は大丈夫だ
 その事に安堵する俺に

「私を助けようとするなんてね」
「ふん。せっかく思いが通じたのにお別れというのはな」

 プレシアの言葉に苦笑しながら軽口を叩くが内心では焦っていた。
 ダメージを負った身体。
 通常ならば吸血鬼の修復力により修復されるところだが、修復出来ていない。

 なぜなら

 折れた腕にかかるプレシアとアリシアの重さに
 折れた肋骨に食い込む鎖
 損傷しているところに一番負荷がかかっているのだ。
 こんな状況ではいくら死徒といえども修復できるはずがない。

「士郎! 無事か?」
「何とかな!」

 クロノは俺達を心配してかまだ残っていた。
 もっとも降ってくる瓦礫のせいでまともに近づく事すら出来ないだろうが。

 そんな中隆起した足場によりこちらにすべり落ちてくる一振りの剣。
 その剣は見覚えのある西洋剣。

「……まだ運は尽きてないみたいだな」

 その光景に思わず笑みが零れる。

 まだ無事な左手でアリシアのポットに絡まる布と鎖を握る。

 剣はアリシアのポットの横を通り、虚数空間の底に落ちていく。
 そのタイミングで

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 俺の言葉と共に虚数空間に落ちていく剣、デュランダルが爆発を起こす。
 爆風でアリシアとプレシアが上に押し上げられる。
 だが現状の身体では二人を同時に引き上げる事は出来ない。
 そのため俺が執った手段は

「クロノ! しっかり受け取れよ!!」
「なっ!」

 爆風で浮かび上がるタイミングに合わせ、左腕の力で引き上げながらそのままクロノの方に放り投げる。
 宙を舞い俺の視界から消えるアリシア。

「ちゃんとキャッチしたか?」
「ああ、なんとかな! だが次からは先に言ってくれ!!」
「善処するよ。さっさとアリシアを連れて逃げろ」
「協力者である君を残して行けるか!」

 クロノの返答に苦笑しながらプレシアを見る。
 まったくクロノも大概に人がいいな。

「で、さっさと両手を使ったらどうだ?」
「フェイトを苦しめた私には母親の資格もないもの。
 フェイトの力にはなれないわ。それに病に侵されたこの身体じゃ長くはないわ。
 だから私を置いて行きなさい」

 俺の言葉に淡々と返すプレシア。
 プレシアの瞳には恐怖はない。
 ただ受け入れていた。

 それを表すかのようにプレシアの右腕に絡まる布と鎖は握られることなく、また左手もだらりと下げられたままであった。
 だがそれは

「また逃げる気か?」
「……なにを」
「フェイトを苦しめたから母親の資格がない? 病に侵されて長くない?
 ふざけるな。貴様が死ねば、フェイトは悲しむんだぞ。
 そんなこともわからないのか、プレシア・テスタロッサ!!」

 俺の言葉に目を見開くプレシア。

「フェイトを苦しめたと後悔があるなら償えばいい。病は俺がどうにかする。
 諦めるな! フェイトを娘と思うなら、後悔があるならば足掻いて見せろ!!」
「……そうね。また逃げようとしていたのね、私は。
 もう逃げない。長くは一緒にいられないのかもしれない。
 それでも、例え短い時間でも私が出来る精一杯の事をする!」

 プレシアの右手が、そして左手も上に伸ばされ布と鎖を掴む。
 生きようと足掻くプレシアに笑みが零れる。

 プレシアが生きようとしている。
 プレシアが戻ってくるのを待っているフェイトがいる。
 そして、俺が無事に戻る事をなのはが信じている。

 だから俺も絶対に諦めない。

 まずはプレシアを引き上げるのが最優先。

 周囲に視線を向けると
 近くにまだ崩れていない足場があった。
 そこにはまだ亀裂も入っていない。
 あそこならいける。

「プレシア、あそこに投げるからうまく着地しろ」
「わかったわ」

 俺の視線を追い、場所を確認したプレシアが頷く。

 両手で布と鎖を掴み直し、不安定で痛みを発する身体を捩じり、プレシアを足場と逆の方向に振る。
 振り子による勢いと腕の力でプレシアを投げると同時に布と鎖を霧散させる。

「っ!」

 足場に倒れるように着地するプレシア。
 その光景に安堵のため息を吐きつつ、身体に絡む鎖を順々に消していき、俺自身もプレシアのそばに降り立つ。

 一息つけると思ったらさらに振動が大きくなる。
 まずい!

「クロノ君、士郎君、急いで!! 天井が崩れるよ!!」

 エイミィさんの悲鳴のような声と共に映像が現れる。

 急ぎたいのだが、病魔に侵されたプレシアはもはや走る事も出来ない。
 プレシアを俺が抱きかかえればいいのだが、俺自身の身体の修復がまだである。
 それに確認しないといけない事がある。

「クロノ! 先に行け!」
「だがっ!」
「俺のスピードなら追いつける! 行けっ!」

 俺の言葉に歯噛みするクロノ。
 だがそれもわずかな時間。

「信じてるからなっ!」

 貸していたオハンを俺に投げ返し、アリシアの入ったポットにバインドだったか、拘束魔法を使って抱きかかえ飛んでいくクロノ。
 クロノの投げたオハンを左手で掴み取り、ジュエルシードを睨む。

 どうやらクロノには俺の身体の骨が折れたのは気がつかれなかったようだ。
 その事に一安心しながら、自分の右手を確認するように握る。

 問題ない。十全ではないがほぼ修復している。
 あと一分もあれば肉体は完全に修復できる。

「エイミィさん、リンディ提督に繋いでくれ」
「そんな場合じゃないよ!! もう」
「頼む。確認しなければならない事がある」
「もうっ!」

 頭を抱えるエイミィさんがため息をつき、ものすごい勢いでパネルを操作するのが映像越しでもわかる。

「士郎君? どうしたの、早く脱出を」
「確認します。このままジュエルシードを放置すればどうなりますか?」

 俺の問いかけにリンディさんの表情が固まる。
 それだけで答えがわかった。

「このままジュエルシードを放置すれば俺達の世界が消える。
 間違いないですね」
「……ええ、そのとおりよ」

 申し訳なさそうに言葉を紡ぐリンディさん。
 嫌な予感ほどあたるというがその通りだな。

 輝きを増し、魔力をどんどん増していくジュエルシードを見つめる。

「まったくケリをつけるとはいえやり過ぎだな。
 悪いが少々付き合ってもらう事になるぞ、プレシア」
「それは否定しないし付き合うのは構わないわ。けど本気?」
「ああ、アレを止める」

 これが完全に解き放たれれば地球は消える。
 そうなれば幾多の命が失われる。
 勿論その中にはなのはの帰りを待つ高町家の方々やすずかやアリサ達もいるのだ。
 それを目の前にして逃げるなんて選択肢は初めからない。

「あなたがいなければ私はフェイトのところまで行けないのだから信じてるわよ」
「ああ、ならばその期待に応えるとしよう」

 プレシアの意外な言葉に一瞬固まるが、笑みを浮かべて返事をする。

 その時、左手に持つオハンが金切り声を上げた。
 オハンが声を上げるという事は自身に危険がせまるという事、だがジュエルシードではない。
 これが反応したのは

「上か!!」

 カラドボルクを使ったせいか、それとも振動で限界を迎えたのか。
 破滅の咆哮を上げるように俺達に向かって天井が落ちてきた。




side リンディ

 アースラの中に戻った私はすぐにクロノやなのはさん達の状況を確認する。
 なのはさん、フェイトさん、アルフさんは脱出準備をするユーノさんの所にもうすぐ到着する。
 クロノもアリシアさんを抱えて、出口に向かってる。
 これなら間に合うわね。

 だけどもはや絶望的な位置にいるのが士郎君とプレシア女史。

 今すぐ脱出してもギリギリという時間。
 その時

「艦長、士郎君が確認したい事があると」
「この状況で!?」

 士郎君なら今の状況がまずいのはわかってるはずだ。
 この状況で確認したい事とは何なのか。
 まさか気がついたのだろうか?

 内心嫌な予感がしながらモニターを開く。

「士郎君? どうしたの、早く脱出を」
「確認します。このままジュエルシードを放置すればどうなりますか?」

 問いかけは素早く、簡潔だった。
 その問いかけに私は表情を崩してしまう事で応えてしまった。
 士郎君は

「このままジュエルシードを放置すれば俺達の世界が消える。
 間違いないですね」
「……ええ、そのとおりよ」

 もはや手の施しようのない状況に気が付いていた。
 そして、私の表情で確証を得てしまった。

 事実ディストーションシールドを展開して可能な限り次元震を抑えていた。
 だけどジュエルシードが暴走しようとしている今、その効果は抑えていた分次元断層が起きるのを先延ばしにしただけにすぎない。

 士郎君は輝きを増し、魔力をどんどん増していくジュエルシードを見つめる。
 そんな中で

「まったくケリをつけるとはいえやり過ぎだな。
 悪いが少々付き合ってもらう事になるぞ、プレシア」
「それは否定しないし付き合うのは構わないわ。けど本気?」
「ああ、アレを止める」

 世間話をするかのような軽い口調でそんな事をいう。
 これはそんなレベルの話じゃない。
 そうだというのに

「あなたがいなければ私はフェイトのところまで行けないのだから信じてるわよ」
「ああ、ならばその期待に応えるとしよう」

 士郎君は余裕の笑みすら浮かべている。
 その時士郎君が持つ黄金の盾が金切り声を上げる。

 その声に応えるように一気に亀裂が奔り崩れ落ちる天井。

「士郎君!!」

 咄嗟に叫ぶけど

 私の声はもはや遅すぎた。

 崩れ落ちた瓦礫にサーチャーが呑まれたのか士郎君とプレシア女史の映像が消えた。

 モニターには何の映像も映し出されず、ただ砂嵐と砂嵐のノイズだけがブリッジに響き渡っていた。 
 

 
後書き
今週も何とか無事に更新。

時間の関係で一話だけですが。

そしてオリジナル宝具
叫び伝える黄金警鐘(オハン)
 ケルト神話の盾で4本の黄金角と4つの黄金の覆いが特徴。
 持ち主に危機が迫ったときに金切り声を叫びその危機を知らせるといわれている。
 持ち主のクルフーア王がフェルグスと戦った際はカラドボルグの一撃を受けても盾は無傷であったいわれる。

 にじファン時代のオリジナル宝具の一覧も近いうちに公開します。

 それではまた来週

 ではでは 

 

第三十四話 黄金の輝きと代償   ★

side リンディ

 ただ砂嵐が映し出されるモニター
 砂嵐のノイズが響き渡るブリッジ

 その光景にそこにいる全員が固まっていた。

 まだ時の庭園が完全に崩壊したわけではない。
 だけど天井という大質量の物が降り注いだという事実は変わりようがない。

 士郎君が持っていたのは黄金の盾だけ
 プレシア女史も吐血し、まともに魔法を使う事すら敵わない

 そんな状況で助かる見込みなんてないに等しい。

 頭には『死』という絶望的な言葉しか思いつかない。

 士郎君だけなら逃げられたはずだ。

 そうプレシア女史を見殺しにすれば士郎君の身体能力なら逃げられたのだ。
 だけど士郎君は見殺しにしなかった。
 いえ、正しくは自分を見殺しに助けようとした。
 「一番最初に俺を切り捨ててください」
 私が彼に初めて恐怖を覚えた時の言葉の通り、彼は自分自身を切り捨てたのだ。
 誰かのために自分の命を簡単に切り捨てる事の出来る思考。

 物語や言葉にすれば素晴らしい英雄譚なのだろう。
 自分を省みず誰かを助ける正義の味方。

 でも現実に実行できる人間がいるとするなら、それは致命的に何かが壊れている。
 普通の人間は自分と他人の命を天秤にかけた時、普通は自分の命が重くなる。
 士郎君にはそれが欠落している。

 その最終的な結果がこれなのかもしれない。

 誰かのために命を投げ出し、死ぬという……違う!

 違う!

 私はまだ確かめていない。
 魔導師の常識なら絶望的な状況。
 だけど士郎君は魔術師。

 まだ可能性は『0』じゃない。
 確かめれば最後の希望も消えてしまうのかもしれない。
 それでも

「エイミィ! まだ使えるサーチャーを全て最下層に送って!」
「っ! はいっ!!」

 私は確かめないといけない。
 それが私の役目だ。

「使用可能サーチャー最下層に送りました。
 映像来ます!」

 映し出された最下層の映像。

 半ば崩壊しかけていた最下層は瓦礫の山となっていた。
 その中で輝くジュエルシード
 それともう一つの黄金の光

「ジュエルシードと魔力反応!
 士郎君とプレシア女史です!」

 エイミィの言葉が聞こえる。
 だけど返事をする事も忘れていた。

 『0』に近い可能性。
 だけど士郎君はそのわずかの可能性を掴み取っていた。

 そこにいたのはプレシア女史を右腕に抱え、左手に持つ盾の光で瓦礫を防ぎきった士郎君。
 黄金の輝きはゆっくりと収まる。

「エイミィ! 士郎君のところにモニターを」
「はい」
「士郎君、怪我は?」

 エイミィに士郎君のところにモニターを表示させ、安否を確かめる。

「ええ、大丈夫です。
 もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせます」

 プレシア女史を横たえ、ジュエルシードに向かって一歩前に踏み出した。
 終わらせる?
 この絶望的な状況をどうやって?
 頭に浮かぶ疑問、それを尋ねようとする。
 その時、ブリッジに飛び込んできたなのはさんとフェイトさん、アルフさん。

 ものすごい勢いで飛びこんで来た三人に多少呆然としつつ、士郎君への質問を呑み込み三人が無事な事を確かめようと声をかけようとした。
 だけどモニターの向こうの異常ともいえる光景に言葉を紡ぐ事も忘れ、私はモニターに見入ってしまう。

 なぜなら士郎君は眼に見えるほどの膨大な魔力を放ち、黄金の瞳をジュエルシードに向けていたのだから。




side 士郎

 オハンが金切り声を上げるとほぼ同時に天井が落ちてきた。

 すぐさまプレシアを腕に抱え込み、盾を天井に向ける。
 そして紡ぐ言葉。
 それが

叫び伝える黄金警鐘(オハン)!!」

 オハンの真名開放であった。
 盾から広がる守りの光。

 黄金の盾『叫び伝える黄金警鐘(オハン)
 ケルト神話にてクルフーア王が持っていたとされる四本の黄金角と四つの黄金の覆い、持ち主に危機が迫った時に金切り声を上げる盾である。
 さらにその強度はカラドボルクの一撃を受けてもへこむ事はなく無傷であったといわれる。

 ならば確かに膨大な質量ではあるがただの瓦礫の雨如き防げぬはずがない。

「……ずいぶんとふざけたモノね」

 腕の中のプレシアがそんな事をつぶやくが無理もないだろう。
 宝具という規格外の防具。
 さらに魔術師とは根本的に違う魔導師にとっては完全に異質なものだろう。

 黄金の守りが瓦礫の雨を防ぎ続ける。

 そして、崩壊が一段落つき、守りの光が収まる。

「士郎君、怪我は?」

 とそれと同じくしてモニターが現れリンディさんの心配そうな表情が映し出された。

「ええ、大丈夫です。
 もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせます」

 映像の向こうのリンディ提督にかすかに笑いかけ、プレシアを安定した場所に横たえオハンを握らせる。
 真名開放は出来ずとも何かあれば自身を守る手段にはなるはずだ。

「すぐに片をつける」
「ええ、待っているわ」

 プレシアの言葉に頷き、ジュエルシードへ一歩前に踏み出す。

 解放されたジュエルシードは八つ。
 海鳴で破壊したジュエルシードの時とは魔力の量、密度共に段違いだ。
 まあ、数が八倍なのだから当然といえば当然だ。

 そして俺にはこれを破壊する術がある。

 かつての相棒にして騎士王の彼女が持ちし聖剣。
 大聖杯すら破壊することが可能なアレならば八つのジュエルシードでも破壊できる。

 しかしあの聖剣の投影、真名開放には膨大な魔力がいる。
 甲冑共の相手にフルンディングに、カラドボルクに、オハンの真名開放をしたこの状況。
 死徒になり264本の魔術回路を宿すこの身体。
 まだ戦闘を行うなら十分な余力はある。
 だがあの聖剣は別格だ。

 この余力がある状態でも聖剣の投影が出来てたとしても真名開放は難しい。

 ならばどうするか?

 答えは簡単だ。
 264本の魔術回路で真名開放が難しいのであれば、528本の魔術回路で行えばいい。

 あまりにも膨大な魔力に肉体の負荷が大きすぎるために封印されている封印魔術回路264本。
 使えばどうなるかも理解している。

 確かに命は危険にさらされる。
 だが躊躇う事はない。
 考え方は単純だ。
 俺一人の命を危険にさらせば、六十億を超える命を救えるのだから迷う必要がない。

 だから俺は―――

封印(トレース)―――」

 ―――己を縛る鎖を解き放つ

「―――解除(オフ)

 自身を縛っていたモノが砕ける音が聞こた。

 それと同時に528本の魔術回路の撃鉄を一気に叩き上げる。
 全身を駆け巡る膨大な魔力。
 抑えられていた力が溢れ、この身を纏う。

 瞳を閉じて、虚空を掴む右手にイメージする剣はただ一つ。
 誇り高き彼女が持ちし聖剣。

 出来ないはずがない。

 この身には彼女の剣の鞘がある。

「―――投影、開始(トレース・オン)!」

 ―――創造された理念を鑑定し、
 ―――警告

 ―――基本とする骨子を想定し、
 ―――負荷増大中

 ―――構成された材質を複製し、
 ―――肉体不完全

 ―――製作に及ぶ技術を摸倣し、
 ―――肉体耐久性能低下

 ―――成長に至る経験に共感し、
 ―――肉体崩壊の危険あり

 ―――蓄積された年月を再現し、
 ―――魔術回路崩壊の危険あり

 ―――あらゆる工程を凌駕しつくし、
 ―――固有結界暴走の危険あり

 ―――ここに幻想を結び剣と成す!

「っ! ゴボッ!!」

 聖剣を握るとほぼ同時に膝をつき、大量に吐血する。

 まずかった。
 あのままだと肉体が崩壊していてもおかしくなかった。
 いや、聴覚や視覚など一部にノイズが混じっているように一時的なものだろうが、異常をきたしている。

 元いた世界でも彼女の剣を投影した時には魔術回路にかなりの負荷がかかるし、封印回路を使用すれば肉体にも負荷がかかる。
 だが今回の肉体への負荷は全く別物だ。
 恐らくは

「子供という成長途中の不完全な肉体のためか」

 この世界に来て若返った肉体のためだろう。
 元いた世界ではすでに成人男性として肉体が完成していたが、今の子供の肉体は不安定で不完全だ。
 封印回路の封印を解いた状態での膨大な魔力の運用はただでさえ肉体に負荷がかかる。
 そこに来て不完全な肉体だ。
 肉体への負荷が大きすぎて悲鳴をあげたか。

 ゆっくりと立ち上がり剣を両手で握り直す。

 不完全な肉体でのエクスカリバーの真名開放。
 ただでさえ封印回路の封印を解けば反動があるというのに、これでは予想より反動は大きいだろう。
 最悪しばらく身体が使い物にならなくなるかもしれない。

 もっともそんな事でやめようとは思わないのだが
 自分に苦笑しながら手に握る聖剣に全力で魔力を流し込む。

 魔力の高まりと共に剣は光り輝き、その輝きも増していく。
 輝きと共に全身がギチギチと軋みを上げているのがわかる。
 それを無視し魔力を流し込み続ける。

 聖剣の輝きは最高潮を迎え、周囲を世界を照らす光となる。

 聖剣をゆっくりと振りあげる。
 さあ

約束された(エクス)―――」

 全てを救うために

 俺の誓いを守るために

 ケリをつけるとしよう。

「―――勝利の剣(カリバー)!!!!」

 黄金の剣を、軋む身体で振り下ろした。

 放たれる光の斬激。
 その光は一瞬にして八つのジュエルシードを呑み込む。

 聖剣の光はジュエルシードだけではなくその後ろにある壁や残った天井なども薙ぎ払う。
 壁を貫いた衝撃か、一際大きな振動がこの場を襲うが、徐々に揺れが収まっていく。

 そしてジュエルシードがあったところには何も残らず、揺れも完全に収まった。

 そのことに安心すると同時に手からエクスカリバーが零れ落ち、地面に落ちる。
 と同時に砂のようにエクスカリバーが崩れ始め、霧散した。
 今の身体ではこれが限界のようだ。

 霧散したエクスカリバーを見届けながら、投影の事が管理局にばれるなと場違いな心配をしつつ、瞼を閉じる。

 封印回路を使用する時間と比例し代償も大きくなる。
 プレシアの病の治療がまだだがそれは少し待ってもらわないとならないか。

 さて、己を縛るために

「―――封印、開始(トレース・オン)

 再び264の魔術回路に封印を施し対価を払うとしよう。

 全身から聞こえていた異音が大きくなる。

 膨大な魔力を糧に肉体を浸食しようとする剣。
 その剣の浸食を抑え込んでいるのが封印回路。
 つまり封印回路は剣の浸食を防ぎながら、肉体を崩壊させようとするモノ
 俺の肉体を守りながら壊そうとする諸刃の剣の魔術回路。

 そして、封印回路が封印された今肉体の崩壊の心配はとりあえずはなくなる。
 だがあまりにも膨大な魔力は魔術回路を封印しても身体を纏っている。
 抑えている魔術回路がなくなった今、剣はその魔力を糧に肉体の浸食を始める。

 身体の至る所から嫌な音と共に食い破って出てくる剣
 身体を覆う無数の小さな剣
 まったく自分の身体ながらこの光景と音にはなれない。

 体は剣で出来ている。
 まさしくその通りだ。

 そんな事を思いつつ意識を失った。




side なのは

 フェイトちゃんを抱えて入口に向かって全速で飛ぶ。
 途中瓦礫が落ちてくるけど

「サポートするから速度は維持しな!」

 アルフさんがサポートしてくれるからほとんど気にする事はない。
 ようやく壊れかけた道を抜け、入口に辿りつくと

「なのは! フェイト! アルフ!」

 手を振って出迎えてくれるユーノ君。

「リンディさんもアースラに戻った。三人も」
「だめっ! まだ士郎君とプレシアさんが」
「だけど」
「ユーノ、私からもお願い。もう少し待って」

 私の言葉に難しい顔をするユーノ君だけど、私の手を握るフェイトちゃんと私を見つめて

「はあ、これ以上は無理だと思ったら転位させるからね」

 呆れたように息を吐きながらも頷いてくれた。

 フェイトちゃんと手を繋いで士郎君とプレシアさんを待つ。

 でもなかなか帰ってこない。

 と庭園が嫌な音を立てて揺れが大きくなる。
 まるで庭園が悲鳴を上げているように
 その悲鳴に不安が大きくなる。

 もしかしたら士郎君が帰ってこないんじゃないだろうかと
 その時

「きゃっ!」
「なにっ?!」

 青い光が瓦礫を吹き飛ばしながらクロノ君が飛び出してくる。
 その腕にはバインドで結ばれたアリシアさんの入ったポット。

「君達まだ居たのか!」
「まだ士郎君が」
「ユーノ、なのは達を転送しろ。これ以上はいつアースラに戻れなくなるかわからない」
「っ! わかった!」

 緑の魔法陣が一際輝きを増す。

「ユーノ君!」
「ゴメン。座標固定、転送!」

 光に包まれる。

 そして、光が収まった時にはそこは崩壊しかけた庭園ではなく、見覚えのあるアースラの転送ポート。
 転送されたのは私達にアリシアさんにクロノ君。

「クロノ君、士郎君は!?」

 私の言葉にクロノ君が静かに首を振るう。
 士郎君がどうなったかわからない。
 私はこんなにも無力で、涙がこぼれそうになった。

「なのは! ブリッジだ! あそこなら映像が見れる!
 アリシアは僕とクロノが」

 ユーノ君の言葉にハッとする。
 フェイトちゃんと頷き合い、ブリッジに駆けようとした時、身体が浮遊感に包まれた。

「とばすからしっかり捕まっときなよ!」

 私とフェイトちゃんを抱えたアルフさんがものすごい勢いでアースラを走り、ブリッジになだれ込んだ。

 そして、モニターを見た瞬間言葉も何もなくてただ茫然としてしまっていた。

 いつもの赤い瞳は金色に変わって、赤いナニカを纏っている。
 赤いナニカは魔力。
 駆動炉から最下層まで 降りるときなどに纏っていた魔力とは量も密度も全然違う。
 だけど

「……怖い」

 怖かった。
 でも恐怖じゃない。なんというかうまく表現できなかったけど嫌だった。
 士郎君が纏っている血のように赤い魔力が嫌だった。
 士郎君の魔力なのに士郎君を傷つけそうで

 士郎君が何かを紡ぐと現れた黄金の剣。
 とてもきれいですごい魔力を秘めた剣。

 だけど士郎君がその剣を握った。次の瞬間
 士郎君の顔が苦痛に歪み、血を吐いた。

「士郎君!!」
「士郎!!」

 その瞬間、あまりの光景に固まっていたのが嘘のように声が出た。

「エイミィ! いったい何が起きてるの?」
「わ、わかりません。士郎君も士郎君の剣も尋常じゃない魔力です!
 というかこれだけの魔力一個人で扱えるレベルじゃ……」

 リンディさんとエイミィさんもあまりの光景に今の状況を把握できてないみたい。

 そんな中士郎君の剣の輝きがどんどん増していってる。
 光はいくつもの星が集まったかのような黄金の輝き。
 その光が最高潮を迎えた時、士郎君は剣を振り上げて

約束された(エクス)―――」

 一閃した。

「―――勝利の剣(カリバー)!!!!」

 放たれたのは剣の一撃とはまるで思えない、一条の光の斬撃。
 その光はジュエルシードを一瞬で呑み込んで、揺れは収まっていた。

 さっきまでの悲鳴のような崩壊の音は消えて静寂だけがあった。

「じ、次元震、それどころかジュエルシードも消滅!?」

 どれだけの規模の魔術なのかまったく理解できない攻撃。
 エイミィさんも何が起きたのか把握できていないみたいで慌ててる。

 そんな中ゆっくりと士郎君の手から剣が零れ落ちる。
 その剣は地面に落ちて、砂のように崩れて消えてしまった。
 あれ?
 砂のように?
 転送じゃない?
 そんな疑問が頭をよぎるけど

 士郎君が何かをつぶやいた瞬間そんな疑問はなくなっていた。

 全身に寒気がした。
 なんでかはわからなかった。
 でも

「ダ、ダメ!」
「士郎、ダメ!」

 私とフェイトちゃんの叫びが重なる。
 私もフェイトちゃんも本能的に理解していたのかもしれない。
 そして、私達の声に応えたのは士郎君の優しい声ではなくて



 何かが砕けるような音と千切れるような音、そしてその音に応えるように士郎君を貫く何本もの剣。

 でもそこにいるのは士郎君だけ。
 ほかにまだ敵がいて攻撃されたわけじゃない。
 ただ士郎君の体内から剣が食い破るように出てきた。

 呆然としながらも頭の冷静などこかで正確に認識してしまう。

「「いやああああ!!!!」」

 私とフェイトちゃんの叫びが重なった。

「…………ッ!」

 リンディさんが何かを言ってたみたいだけど、聞こえない。
 体に力が入らない。

 私は崩れ落ちるように意識を失った。 
 

 
後書き
というわけでいつもより二時間ばかり遅れて更新。

挿絵は貫咲賢希さんから頂いたものです。

そして今週もリアルが忙しくて修正できたのは一話だけ。
なかなか思い通りに進まないものです。

それではまた来週

ではでは 

 

第三十五話 生還

side リンディ

 士郎君が持つ黄金の剣。
 それに士郎君の纏っている魔力。
 全てがケタ違い。
 もはや一個人が扱えるレベルの魔力ではない。

 それに士郎君が放った一撃。
 八個ものジュエルシードを一瞬で跡形もなく消滅させる?
 不可能としか思えない。
 それでも士郎君はそれを行って見せた。

 士郎君の手から落ちた剣が砂のように崩れて消えていく。
 やっぱりアレは転位じゃない。

「っ!」

 だけど今はそんな事を考えている場合じゃない。
 先ほどの一撃の事や魔術に関しても後回し。

 今私がしないといけないのは士郎君の調査ではない。
 無事に士郎君とプレシア女史をアースラに回収する事だ。
 士郎君もプレシア女史も吐血している。
 プレシア女史の病状の把握は勿論、あれだけの魔力行使を行った士郎君の状態も確認しないといけない。

 救護班を向かわせる。いや正確に言うなら向かわせようとした時
 士郎君の口がなにかをつぶやくように動いた。
 何をつぶやいたかは私には聞こえなかった。

「ダ、ダメ!」
「士郎、ダメ!」

 でもそれに反応するようになのはさんとフェイトさんが急に叫ぶ。
 二人が何をダメと言ったのかわからなかった。
 だけど次の瞬間に嫌でも理解することになる。

 ブリッジに響く、骨が砕け、肉を引き裂き、肌をナニカが突き破る音

 士郎君を貫く、いや食い破って出てきた幾多の剣。
 腹部から、太腿から、肩から、背中から、その数は二十を超える。

「「いやああああ!!!!」」

 二人の叫びに現実に引き戻される。

「すぐに救護班を出して! 急いで!」
「っ! は、はいっ!!」

 私に返事をしたエイミィは口元を押さえていた。

「……無理もないわね」

 あまりに悲惨な光景。
 わずか九歳の子供がいくつもの剣に貫かれる光景。
 現場が長い私でさえ寒気がして眼を逸らしたくなる。

 やっぱりこれが士郎君の選択なのね
 世界を救うために自分を切り捨てる。
 アレだけの膨大な魔力を隠していた。
 士郎君が使えばどうなるかを理解していないはずがない。
 わかっていたのに、それでも使った。
 少しでも多くの人を救うために自分を犠牲にするナニカが壊れた人。

 絶対に士郎君を一人にするわけにはいかない。
 彼を一人にしてしまったら、彼は一人のまま死んでいく。
 自分の命を一番最初に切り捨てて剣を執る。

 彼の過去なんて関係ない。
 このままではあまりにも彼が寂しすぎる。
 少しでも時空管理局として力になれなくてもリンディ・ハラオウンとして力になろう。

「なのは! フェイト!」

 崩れ落ちたなのはさんとフェイトさんを支えるアルフさん。
 そこに

「士郎は?」
「どうなった?」

 ブリッジに駆けこんでくるユーノ君とクロノ。
 二人もモニターに映し出された士郎君の姿を見て茫然としていた。
 ショックもわかる。
 でも

「クロノ、次元震は治まりましたが時の庭園自体がかなりダメージを負ってるわ。
 救護班の護衛に回ってちょうだい。
 ユーノさんとアルフさんは二人を部屋に、目が覚めるまでそばにいてあげてください」

 今一番優先しないといけないのは彼だ。

「わ、わかりました」
「うん」
「了解」

 なのはさんを背負ってフェイトさんを抱きかかえるアルフさんと共にユーノ君はブリッジから出ていく。
 そんな二人と共に転送ポートに再び走っていくクロノ。

(母さん、じゃなくて艦長、一体何が?)

 そんな私にクロノからの念話が入る。
 映像を見ていないクロノにとっては一体何が起きたか理解できないのは当たり前の事ね。

(士郎君によってジュエルシード八つは消滅。それと共に次元震も収まったわ)
(ジュエルシード八つを消滅って……なんて奴だ)
(だけどそれだけの魔法、いえ魔術を使うための膨大な魔力を使った代償なんでしょうね。
 結果、刃が士郎君の中から突き出てきたわ)

 私の念話に対してクロノは無言。
 クロノも士郎君が自分自身の事を切り捨てた事に気がついたのかもしれない。

(クロノ、何としても士郎君を、プレシア・テスタロッサを救いなさい。
 もしプレシアに何かあれば彼は間違いなく自分を責めるわ)
(了解。必ず)

 クロノとの念話をきり、私はモニター越しに士郎君を見つめ続けていた。




side クロノ

 転送ポートから時の庭園に再び降り立つ。
 最下層までの道は簡単だった。
 なにせ最下層から断層が出来ており、一直線に降り立つ事が出来る。
 これだけの魔術に恐怖を抱く。

 戦いに使われればもはや防御なんて関係ない。
 観測結果を聞いてないが、恐らくとんでもないものだろう。

 最下層に降り立つと

「だめだっ! 近づけない」
「バインドも切り裂かれる」
「剣のないところを」
「だめだ。まるで生きているみたいに剣が体内に消えたり、新たに生えたりしてる」
「バリアジャケットを切り裂かれるんだ。下手をすれば死ぬぞ」

 いまだ士郎は剣に貫かれて、身体を横たえる事も出来ずにそこにいた。

「どうした?」
「クロノ執務官、それが」

 僕の質問に帰ってきた答えはとんでもないモノ。

 剣があまりに鋭くて運ぶことが出来ない。
 バインドを使用してみるもバインドさえ切り裂き、刃がまるで生きているように体内に引っ込み新たに貫く。
 転送させようにも剣の魔力に阻まれているのか転送さえままならない。
 という手を出すことが出来ない状況。

 幸いプレシア・テスタロッサは吐血のせいで多少貧血気味らしいが、命に別状はないとのこと

 それにしてもこれだけの剣が身体を貫いているというのに流れる血が少なすぎる。
 そんな時

「クロノ……か」
「士郎、気がついたか」

 意識を取り戻したのかゆっくりと士郎が視線を向けた。




side 士郎

 聞き覚えのある声に意識が浮上する。

「クロノ……か」
「士郎、気がついたか」

 心配そうに俺を見つめるクロノ。
 突き破った剣が喉を貫いたのだろう。
 声を出すのが辛い。
 それでも状況を教える必要はあるがそれよりも先に

「クロノ、プレシアは?」

 かすれた声でたずねる。

「吐血で貧血気味だが命に別状はない。それより士郎、君の方が問題だ。
 これはどうすればいい?」

 クロノの答えにとりあえず安堵する。
 だがそれとは別に今の俺の状況をクロノが疑問に思うのも無理はないだろう。
 俺の身体を突き破るいくつもの剣。
 普通ではありえない光景のうえ、どのように治療するべきかわからないのだろう。
 もっとも残念ながら

「……どうしようもないな。
 封印回路を使用した反動だ。使用した時間と魔力量で多少変わるが自然と収まる」
「だが」
「過去にも経験があるし、今回ぐらいの展開規模なら死ぬ事はない」

 新たに身体を侵食する剣の数と浸食した剣が身体の中に収まるように戻っていく数がそんなに変わらない。
 既に浸食が抑えられ始めて修復が追いつき始めている証拠だ。
 そう時間もかからず収まるだろう。

 もっとも大きな問題としてはもう一つの方にある。
 エクスカリバーの真名開放、これに膨大な魔力を使用した上に、アヴァロンと死徒の能力による肉体修復。
 アヴァロンが肉体の修復を行っている間は吸血衝動を抑える力が落ちる。
 それが魔力量が減っている今ならなおさらだ。

「クロノ、剣が納まり次第バインドで俺を拘束して、俺が出ようとしたら探知できる部屋に入れろ」
「何を言っているんだ?
 これだけの傷を負っているんだ。治療と検査をしないと」
「最悪、アースラ全員の命にかかわる」

 俺の言葉にクロノが固まる。
 無理もない。
 だが正直意識を保つのが厳しい。
 元いた世界ならこのぐらいで暴走する可能性はまずない。
 しかし今の状況は違う。

 子供になり大きくなった反動、大人と子供の身体という元いた世界との大きな違い。
 今まで大丈夫だったレベルでも暴走する危険性がある。
 万が一にでも意識を失っている状態で吸血衝動を抑えることが出来なくなれば、死徒の本能のまま手当たり次第に人を襲うだろう。
 これは絶対に避けないとまずい。

 正直、暴走したら最後クロノやなのはでも止める事は出来ないだろう。
 ならば俺が暴走したら気付けるようにしてないとまずい。

「……わかった。約束する。
 だが落ち着いたら最低限説明はしてもらうぞ」
「心得ているよ。あともし俺が暴れだしたら止めようなんて思うな。
 全員をアースラから脱出させろ」
「それはどういう」
「説明する時間がない。頼む」
「……わかった」

 クロノの言葉に一安心しつつ、ゆっくりと再び眠りについた。




side アルフ

 私とユーノはなのはとフェイトを寝かせ、二人を見ている。
 この部屋はなのはが使っている部屋で、フェイトの部屋は別に用意してくれると言ってくれたが、今回は断らせてもらった。
 今はフェイトとなのはを引き離しちゃダメだと思っただけなんだけど。
 もっともユーノも私と同じ事を思ってたのか何も言わなかった。

「士郎の奴、大丈夫かね?」
「わからない。でも大丈夫だと思う。アースラには治療専門のスタッフも何人もいるし」

 確かにアースラには治療スタッフがいるけど、あの異常な光景。
 正直思いだしたくもないけど、アレを治療できるのか少し疑問も残る

 とその時、何やら通路が慌ただしくなる。

「ちょっと見てくるよ」

 ユーノが廊下を覗き、クルーと話をして戻ってくる。
 そして、ユーノが教えてくれた事に驚いた。
 だって

「士郎の希望でバインドで拘束した状態でアースラの護送室に隔離されるらしい」
「はっ?!」

 なんであいつが護送室で隔離されないと……士郎の希望で?
 もしかして……

「アルフ、恐らく僕と同じ事を考えてるんだと思うんだけど」
「ああ、だろうね」

 士郎の奴、あの赤い槍でジュエルシードを破壊した時と同じように魔力がうまく循環してないのだろう。
 あれ? なら

「なんでそれで隔離する必要があるんだ?」
「僕もそれには同感。
 仮にだけど魔力が巡回してないという事は魔力が足りてないとも言えるよね」
「……そうだね。で?」
「士郎が魔力を求めるとして魔力が不足しすぎているとなんらかの形でナニカが暴走するとしたら?」

 なるほどユーノの言う通りなら、暴走を恐れて隔離室に入るだろう。

「あのバ、プレシアは?」
「プレシア・テスタロッサは医務室だって」

 正直私はあの女の事は好きにはなれないがいなくなればフェイトが悲しむのは間違いない。
 少なくともこれ以上フェイトが悲しむことがない事に安堵する。

「アルフは二人をお願い、僕は負傷した局員の治療の手伝いに行くから」
「あいよ。この事はリンディ提督には?」
「う~ん、あくまでも可能性の話だからしない方がいいと思う。
 下手な情報を与えて混乱させてもなんだし」
「それもそうだね。あんたも疲れてんだからほどほどにね」
「ありがとう」

 部屋を出ていくユーノを見送る。

 だけど士郎は一体何を隠してるんだろうね。
 それが少し寂しく感じていた。




side 士郎

 ゆっくりと意識が覚醒する。
 身体を横たえたまま、自身の身体を解析する。

 ―――肉体損傷、全修復
 ―――魔術回路、正常
 ―――封印回路、正常
 ―――警告、魔力不足

 傷は全て治ってるようだし、封印回路の封印も問題ない。
 身体を巡る魔力の淀みもなく何の問題もない。
 ただ魔力がやはり足りていない。
 だがアヴァロンが正常に動作しているようだし、安静にしていれば大丈夫か。

 やはりエクスカリバーは俺には過ぎた武器だというのを実感する。

 しかしそれ以前に子供の身体というのはあまりにも不安定だ。
 完全に肉体が成長しきるまで封印回路は使わない方がよさそうだ。
 ただでさえ大きい反動がさらに大きくなってしまう。
 一歩間違えば本当に誰かを襲いかねない。

 とりあえずは

「鞄に残りわずかな宝石があったな。アレを飲みに行くか」

 念のために持ってきた残り僅かな魔力の込められた宝石を飲みに行くとしよう。
 内包された魔力も宝石の純度もあまり高くないがないよりはいいだろう。
 とその前に

「これはどうするんだ?」

 身体を拘束するバインドに牢屋のような扉。
 無理やりこじ開ければクロノに頼んだ事もあるので騒ぎになる。
 とりあえず

「ふう」

 伸ばした爪でバインドを切り裂き、身体を伸ばす。
 と簡易ベッドの枕元にパネルのようなものが置かれている。
 それに手を伸ばすが使い方はわからないので、とりあえず適当にボタンを押す。

「はい、リンディです」
「おはようございます」
「士郎君! 眼が覚めたのね」

 仮眠をとっていたのか少し髪が乱れている。
 仮眠を邪魔したのは申し訳ないが

「ここを開けてもらっていいですか?」
「そうね。今行くからちょっと待ってて」

 しばらくしてアラーム音がして、扉が開く。
 そこに立っていたはのリンディさんなのだが明らかに不機嫌そうだ。

「士郎君。まずは次元震を止めてくれてありがとうございます。
 ですが色々言いたい事も聞きたい事もあります」
「わかっています。
 ですが、今はやる事と確認したい事がありますのでそちらを優先させてください」

 俺の言葉にしばらくリンディさんと見つめ合うが大きくため息を吐き

「……わかりました。ですが必ず話してもらいますからね」
「はい。まずは俺が使わせてもらってる部屋に行きましょう。
 歩きながら確認しますので」
「はいはい」

 俺の言葉にリンディさんが諦めたような返事を聞きながら、並んで俺の部屋に向かう。
 ともかく歩きながら確認したい事が二つほどあるので

「まず、俺が意識を失ってからどれくらい経ちました?」
「十三時間ほどね。時間は午前六時を少し過ぎたところね。
 なのはさん達も意識を失ってしまったけどそろそろ起きてくるはずよ」

 意外と意識を失っていた時間が短い。
 それはともかくなのは達まで?

「子供があんな光景を見たらしょうがないでしょう?」

 リンディさんの言葉に納得する。
 恐らく浸食された剣に貫かれた俺を見たのだろう。
 それならば納得できる。

 意識を失っていた時間が短いのは恐らく封印回路自体はエクスカリバーの投影と真名開放のみの使用だったので、封印を解いていた時間が短かった事が関係しているのだろう。

「他の局員となのは達とプレシアの容態は?」
「負傷した局員はいるけど命には別状はないわ。
 なのはさんもフェイトさんも眠っているだけで平気よ。
 アルフさんやユーノ君もね。
 プレシア女史も弱ってはいるけど命に別状はないわ。ただ」

 リンディさんが言いにくそうに言葉をきる。

「あまりに病気が進行しているわ。
 初期の段階で治療をしていなかったからもう手の施しようがないわ。
 延命治療してもあと半年。どんなに長く見積もっても二年が限界」
「それは手がありますから大丈夫です。
 せっかく少し歩み寄れたんですからあと半年でお別れなんてさせませんよ」

 丁度辿り着いた俺の部屋に入り、持ってきた鞄に手をやり決められた手順で鞄を開ける。
 この手順を間違ったりすれば少々痛い目を見るのだ。

「それは宝石?」
「ええ、あまり純度は高くないですが」

 リンディさんが興味津々に見る眼の前で宝石を全て呑み込む。

「し、士郎君! 何をしてるの! 早く吐き出して」
「だ、大丈夫です! これも魔術の一種ですからもう身体に吸収されてます」

 ちょっと予想外だった。
 確かに傍から見たら宝石を呑み込むなどかなり危険な光景だ。
 俺はあまりにも見慣れてたから忘れていた。
 今度から気をつけよう。

 まあ、少しはマシになったかな。
 これならいけるな。

「話をする約束でしたから集まったらプレシアのところに行きましょうか」

 俺自身の魔術の事も話すことになるだろう。

 今までなのは達に嘘をついていたのも事実。

 この世界に来て結構経つがいまだ辿り着く答えはない。

 だが俺が誰かのために剣を執るのは変わらない。 
 

 
後書き
一週間ぶりのセリカです。

そして今週も一話だけの更新です。

ゆっくりと出来る、自由になる時間がもっとほしいよ。

それではまた来週に

ではでは 

 

第三十六話 治療と……

 なのは達が起きてくるまでどこで待とうかと思ったら
 最終的な報告も兼ねて眼を覚ましたら一旦リンディさんのところに集まる予定に
 なっているらしいのでのんびりとリンディさんの部屋でお茶をごちそうになる。

 ちなみに服は予備として持ってきていたモノに着替えた。
 反動のせいで服はズタズタだったのでそのまま廃棄処分となったためだ。

 で、お茶をすすりながら思ったことがある。

 ……腹がすいた。

 正直、肉体を酷使したためかかなり空腹ではある。
 単純に最後の食事から時間が経っているせいかもしれないが。

 何か食べておいた方がいいかもしれない。
 吸血衝動が空腹のために大きくなりましたじゃ笑う事すら出来ない。

「どうしたの?」

 考え込んでいた俺に不思議そうにリンディさんが首を傾げている。

「いえ、さすがに空腹だなと」
「そうよね。もう半日以上何も食べてないものね。
 プレシア女史とも合流したら朝食にしましょうか」
「ん? プレシアは歩いても?」

 リンディさんの言葉は嬉しいのだが、プレシアの身体の負荷にはならないのだろうか?

「食事はしっかり摂らないとプレシア女史の身体にもよくないわ。
 ただでさえ身体が弱ってるんだから。
 手があるんでしょ?」
「……ええ、必ず治して見せますよ」

 リンディさんの言葉に少しだけ驚いた。
 どうやらなのは達が集まったらプレシアのところに行って治療をしてから皆で朝食を摂るつもりらしい。
 その考えには俺も賛成なので頷き、のんびりとお茶をすする。

 それにしても少し疑問なのが、俺が手があると言ったとはいえ、本当の事だとあっさり信じているのもどうなのだろう?

「どうかした?」

 俺のそんな表情に首を傾げるリンディさん。

「いえ、あっさりと信じたなと思いまして」
「ああ、魔術は私達の常識で測れるものじゃないもの。
 それに士郎君はそんな嘘を言ったりしないわ」

 ずいぶんと信用されているものだ。
 だからこそその信用に応えたいとも思うのだが。

 それからは他愛のない話をお茶をすすりながらゆっくりとした時間を過ごす。
 そんなのんびりとした時間にも一段落ついた時、部屋のアラームが鳴った。

「どうぞ」

 リンディさんの返事と共に開いたドアの向こうにはなのは、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノ、エイミィさんと勢揃いしていた。

「おは……」

 そして、ドアの向こうにいたメンバーは皆固まった。
 続く静寂。
 その静寂を破るように鹿威しの音が部屋に響いた。
 瞬間

「士郎君っ!!」
「士郎っ!!」
「ちょっ!」

 ものすごい勢いでなのはとフェイトに抱きつかれ、押し倒される俺。
 「怪我は!?」「心配したんだよ!」などなど心配かけた事は謝るし、申し訳ないとは思う。
 だが!

 いくら傷を確かめたいからといって服をめくるな!
 手を這わせるな!

「はいはい。なのはさんもフェイトさんもその辺でね。
 恰好もすごい事になってるから」

 リンディさんの言葉になのは達が改めて己の姿を見る。
 抱きつかれた勢いで二人とも服が乱れている。
 特にフェイトはスカートが短いので色々とまずい。

 さすがにクロノとユーノは顔を赤くして眼を逸らしている。

 それ以前に女の子二人が男の子を押し倒し、服をめくり上げ、肌に手を這わせている状況自体が結構まずい光景だ。

「「っ!」」

 顔を真っ赤にし一気に距離をとる二人。
 俺は服を整え

「心配かけてすまなかった」

 二人の頭を丁寧に撫でる。
 二人はそれに笑顔で応えてくれた。

 ようやく落ち着いたのも束の間

「士郎、アレは」
「はい。ストップ」

 そのまま質問タイムになりかけたのだが、ありがたい事にリンディさんがすぐに待ったをかけてくれた。

「士郎君もちゃんと説明してくれるっていうしね。
 今は皆でいきましょう」

 リンディさんの言葉に俺を除く皆が首を傾げる。
 そして、リンディさん先導の下辿り着いたのはプレシアの部屋。
 といっても医務室だが

 少々多いが全員で部屋に入る。

 プレシアは身体はベットに横たえていたが

「おはよう。無事で一安心したよ」

 無事な姿を確認し、声をかける。

 もっとも顔色がいいとはお世辞にも言えないが、この場合無事であることを喜ぶべきだろう。
 なによりその表情は憑き物が落ちたように落ち着いていた。

「ええ、お互いね。
 私よりあなたの方が危なそうだった気もするけど」
「まあ、色々あってね」

 エクスカリバーの真名開放から会っていないかったので少し心配だったがこれだけ軽口が叩けるなら大丈夫だろう。

 そして、フェイトに向けられるプレシアの視線。

「お、おはようございます。母さん」
「え、ええ、おはよう。フェイト」

 お互い恥ずかしそうにしながら挨拶をかわすテスタロッサ親子。
 まあ、すぐに関係修復とはいかないかもしれないがすぐに落ち着くだろう。

「プレシア、今から貴女の治療を行う」
「私の? 残念ながらもう手遅れよ。
 私の身体だものそれぐらいなんとなくわかるわ」
「はあ、そういう事はフェイトを見てから言え」

 俺の言葉にハッとしたようにフェイトに視線を向けるプレシア。
 フェイトは懸命に手を握り締めていたがその表情は今にも泣き出しそうに歪んでいた。

「……私、嫌だよ」
「……フェイト」

 フェイトの表情と言葉にプレシアも自分の失言に気がついたようだ。
 それにプレシアは忘れているようだが

「プレシア、言ったはずだぞ。
 病は俺がどうにかする。とな」
「でも本当に大丈夫なの?」

 俺を心配するようにリンディさんが見ている。
 だが

「そのためにあの宝石を使ったんですよ。
 ―――投影、開始(トレース・オン)

 魔力の補充も兼ねて宝石を飲んだのはこのため
 プレシアの病を治すモノを投影する。

 そして、手に握られるのは一振りの片刃の剣。
 その剣の銘を『布都御魂』という。

 日本神話に登場する豊布都神が持ちし霊剣である。
 武器としての性能も高い切れ味を誇る内反りの剣である。
 ただの盾相手であれば、防いだ盾ごと切り捨てるもことも可能だ。

 そして、この剣にはある能力がある。

 剣に魔力を流しながら、暴走しないようにアヴァロンへの魔力供給が止まらないように意識する。
 刀身に纏う魔力。

 魔力を纏う剣を振り上げる。
 プレシアは慌てることなく瞳を閉じる。

「なっ! ちょっと待て!!」
「士郎君!!」
病切り祓う豊布都神の剣(布都御魂)!」

 クロノとエイミィさんの慌てたような声を無視をして剣を振り抜いた。

「い、いきなり何をするんだ! 衛宮士郎! 君は!」
「クロノ、落ち着いてプレシア女史を見なさい」
「え?」

 リンディさんの言葉に呆然とするクロノに、傷がないか確かめるエイミィさん

「あれ? 斬れてない?」
「なに? 確かに斬ったはずだぞ」

 クロノとエイミィさんは俺がプレシアを始末すると思ったらしい。
 不思議そうな顔でプレシアの身体を確認している。

 これが『布都御魂』である。
 布都御魂には味方の軍勢を毒気から覚醒させたという伝説がある。
 すなわち、この霊剣は通常使うときは武器として、真名開放すれば体内の毒や病など内面の治癒にも使える癒しの宝具なのだ。

 手に持つ剣を霧散させる。

「リンディさん、念のために確認を」

 リンディさんに頼むとすぐに通信で医師を呼んでくれる。
 プレシアは医師が来るまでの間、自分の身体に起きた事が信じられないように手を握ったり開いたりしてみていた。

 そして、プレシアの診断結果はというと

「完全に消えています。
 今まで生活で多少身体が弱ってはいますが、これなら持ち直します」

 医師の言葉になのはもユーノも皆、笑顔で安堵の表情を浮かべる。
 そんな中俯いて涙を流すフェイト。
 だけどその涙は悲しみの涙じゃない。

「……フェイト、いらっしゃい」

 そんなフェイトに手伸ばすプレシア。
 プレシアの手に涙を流しながらも戸惑うフェイト。

「ほら」

 そんなフェイトの背中を優しく少しだけ押してやる。
 ただそれだけで

「母さん!! 母さん、母さん」
「大丈夫よ。私はここにいるわ」

 プレシアに抱きつき、泣くフェイト。
 そんなフェイトを優しく包み込むように抱きしめ、撫でるプレシア。

 再会を喜びあう親子。
 二人が踏み出した最初の一歩であった。

 なのはやアルフは涙を浮かべながらもうれしそうに、勿論ユーノ達も満足そうにフェイトとプレシアを見つめていた。

 あれだけの事件。
 だけど誰ひとり欠けることはなく、そしてフェイトの思いはしっかりとプレシアに届いた。そんな光景がうれしくて俺はしばらく見つめ続ける。

 そして、俺の後ろにいるクロノに目配せし、なのはの手を握る。

 一瞬驚くなのはだが、俺の視線が扉に向いているとわかると頷く。

 俺達は二人の再会を邪魔しないように部屋を後にした。

 医務室の前でゆっくりと待つ俺達。

 フェイトとプレシアの幸せそうな光景。
 それを邪魔しないように言葉も交さない。
 だが全員が満足そうな表情をしていた。

 どれくらい時間がたったか扉が開き、フェイトが恥ずかしそうに出てきた。

「……えっと、お待たせしました」
「よかったね。フェイトちゃん」

 恥ずかしそうなフェイトを向かる満面の笑顔を浮かべたなのは。
 そんななのはに気恥ずかしげに、でもしっかりと笑顔で頷くフェイト。

「それじゃフェイトさん。プレシアさんも連れて朝食にしましょう。
 これ、お願いね」
「は、はい。ちょっと待ってください」

 リンディさんがフェイトさんに差し出した紙袋。
 その袋には服らしきものが入っていた。

 プレシアは患者用の服を着ていたから、おそらくプレシアの着替えだろう。
 紙袋を持ち、再び部屋に戻るフェイト。
 それにしてもさっきまで持ってなかったはずだが、いつの間に用意したのだろう?

 しばらくして私服に着替えたプレシアと一緒にフェイトが出てくる。

「それじゃ、行きましょうか」

 リンディさんの言葉に皆で食堂に向かう。
 で、アースラの食堂はバイキング方式なのでそれぞれが取りたいのを取るのだが

「プレシアは座っていていいぞ。フェイトもだ」
「だけど」
「いいから」
「悪いわね」
「うん」

 プレシアとフェイトを座らせて、俺は自分の分を含めた三人分の食事を取りに行く。

 なぜ俺がそんな行動に出たかというとプレシアの身体である。
 病を布都御魂で浄化し完治させたとはいえ、落ちた体力までは戻らない。
 つまりは広いアースラの移動だけでプレシアが少々疲れてしまったのだ。

 というわけで左腕にフェイトと俺の朝食のお盆を載せ、右手にプレシアの分を持つ。

「士郎君、器用だね」

 その光景に感心しているエイミィさんと頷く他の面々。
 慣れればそう難しい技術じゃないんだけどな。
 それぞれが準備が終わったので

「では」
「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」

 全員で手を合わせ、朝食を食べる。
 ちなみに席は左からプレシア、フェイト、俺、なのは、
 向かい側の席にアルフ、リンディさん、エイミィさん、クロノ、ユーノである
 なぜかフェイトとなのはの二人の間に座るように言われたのだ。

 食事中も他愛もない話をする。
 フェイトとプレシアはまだ言葉こそ少ないが時おり目が合ってはどこか恥ずかしそうに笑顔を浮かべている。

 心地よい雰囲気の食事だが全員の食事が終わるにつれて皆の口数は減ってくる。

 そして全員が食べ終わると俺は立ち上がり食後のお茶を用意する。
 人数分のカップとおかわりも含めてだ。
 おかわりがあるのは話をするから

 全員もそれをわかっていたのか、俺がお茶を用意している間静かに待っていた。

 全員にお茶を注ぎ、俺も席に着く。

「さてと約束通り話をします。
 なにから話しましょうか?」

 お茶を一口飲み、ゆっくり全員を見渡した。 
 

 
後書き
後書きを書き忘れて更新してしまった。

30分ばかり後書きがなかったと思います。

ちなみに今週も一話です。
・・・なかなか思い通りにいかないものですね。

今週のオリジナル宝具。
病切り祓う豊布都神の剣(布都御魂)
 日本神話に登場する豊布都神が持ちし内反りの片刃剣。
 武器としての性能は高く、並な防御や守りなど守りごと切り裂く程の切れ味を誇る。
 真名開放は武器としてではなく、治療もの。
 その剣の霊力は軍勢を毒気から覚醒させ、軍勢は活力を得てのちの戦争に勝利したという伝説の通り、体内の毒や病など内面の治癒などに関しては高い効果を持つ。
 ただし外傷の治療という意味ではあまり有効ではなくかすり傷の治療程度。

 それと貫咲賢希さんから貰った挿絵で「第十四話 出会いとは突然やってくる」の挿絵を入れ忘れてたので更新しました。

 それではまた来週。

 ではでは 

 

第三十七話 魔術

「さてと約束通り話をします。
 なにから話しましょうか?」

 俺の言葉に全員が何から切り出すべきか迷っているのか黙っていた。

 そんな中リンディさんがカップを置き

「では質問します。
 士郎君の魔術について、それから士郎君の身体から生えた剣について、
 ジュエルシード、次元震を消滅させたりと士郎君が使用したいくつもの武器について
 最後に士郎君が言っていた根源について」

 ゆっくりとだけどしっかりとした口調で言葉を紡いだ。
 質問の内容は予想通りだ。

「魔術については前に言った通り転送によるものとしておきたいんですが
 それじゃ納得しませんよね?」
「残念ながらね。
 転送なら術式や魔力の質も異なるとはいえ、空間に何らかの影響が出るのが普通よ。
 それなら魔導師でも観測できるもの。
 空間に一切の影響がなく、崩れるように消えたアレが転送とは到底思えないわ」

 一抹の願いを込めて見るがやっぱりそうですよね。
 魔力も何も感知できないモノなら誤魔化せるのだろう。
 だが完全に正確とはいかずとも感知出来ているのだから、魔導師の魔法と魔術師の魔術にも共通しているところはあると考えるのが普通か。

「なら改めて、俺の魔術と使用した武器については同じ答えになるのでまずそれから」

 俺の言葉に全員がしっかりと頷いたのを確認し、話し始める。
 話すと言っても俺はこういった説明は苦手なので簡潔にわかりやすくだ。

「まず俺が使う魔術ですが転送ではなく投影といいます。
 自己のイメージからそれに沿ったオリジナルの鏡像を魔力によって複製する魔術」
「それは便利ね」

 俺の言葉にリンディさんは感心したように驚く。
 他の面々も同じような反応だがプレシアは少し首を傾げていた。

「便利なようにも聞こえますが、実際これはものすごく効率が悪いんです」
「え? そうなの?」
「魔力でモノを複製する。
 言葉ですれば簡単ですが、自分のイメージがそのまま設計図になります。
 自己のイメージが完璧なら問題ありませんが、イメージに綻びができると存在強度を失い、霧散します。
 それに投影で何かを作るよりも元あるモノを強化した方が遥かに強い」

 なのは達は首を傾げているが、ユーノやプレシア、リンディさんあたりは何となく理解したようだ。

「えっと……よくイメージできないんだけど」

 なのはの言葉にフェイト、アルフ、クロノ、エイミィさんは頷いてる。
 そこにユーノが助け船を出す。

「たとえばなのはのレイジングハートを投影で作ろうとするよね。
 レイジングハートをイメージするとして、なのはは完璧にイメージできる?」
「えっと……出来ると思うけど」

 なのはも一瞬考えるも出来ると頷く。

「外見だけじゃなくて、内部の回路構造、モードの形態変更の構造なんかも?」
「うえ、出来ないです」

 しかし実際には完璧には無理だ。
 俺もレイジングハートのような機械は専門外だから完全な解析が出来ない。
 無論のこと完璧な投影も出来ない。

「だから投影しても不完全なデバイスになる。
 それなら同じ時間をかけてストレージデバイスを強化した方がスペック的にはそちらの方が上になる」
「それに魔力そのもので物体を複製するのだから時間と共に霧散するわ」

 さすが学者組のユーノとプレシアだ。
 よく理解している。
 魔力が霧散するだけでなく世界からの修正力もあるのだが、ここでわざわざ内容を複雑にする必要はないので口は出さない。

「だが士郎の話だとその投影は長時間の維持も難しいし、強度面などで実戦での使用など無理だと思うんだが」

 そう、クロノの言うとおりだ。
 魔術協会の中でも投影魔術は儀式において道具が揃えられなかったときに代用品としてしか使われなかった。
 無論、それを極めるなんていう魔術師もいなかった。
 完全に廃れた魔術だったのだ。

「そう、普通ならそうだが俺のは少し特殊なんだ。
 こんな風に」

 俺の手にあるのは食事に使われるフォークの投影品

「フォークだね」
「そう、これが投影」

 なのはなんかは不思議そうな顔をしてる。
 まあ、こうやっていきなりフォークなんて出しても手品にしか見えない。
 リンディさんやクロノ達が手にして見る。

「とても魔力で複製したようには見えないわね」
「ええ、それに魔力の霧散もないわ」
「これが俺の投影魔術の異端。
 半永久的に存在し、モノによっては中身すら完全に複製できる。
 ここまでいえばわかるんじゃないですか?」

 俺の言葉に皆が気がついたようだ。

「つまり士郎が使ったのは全て複製品の偽物?」

 フェイトの茫然とした言葉に無言でうなずく。
 もっとも正確にいえば投影も全て固有結界から漏れたモノなのだが、固有結界の説明が必要なうえ、俺の奥の手の説明にもなるので話さないでおく。

「ちょっと待って。モノによっては中身すら完全に複製できるってどういうこと?」

 プレシアもいい所に気がついた。

「それは俺の属性の関係です。
 俺の属性は剣」
「……つまり剣なら完全に複製できるという事?」
「はい。まあ槍とか剣に近いとイメージできるのも可能です」
「……じゃあジュエルシードを破壊した槍とかもする気があればいくらでも複製できるという事か」
「…………」

 俺の発言に唖然としているプレシアと呆れた顔でこっちを見ているクロノ。
 そして、リンディさんが頭を痛そうにしながら沈黙した。

「しかし無茶苦茶だな。
 あんな武器をいくらでも投影できるなんて」

 クロノの言葉は否定できないので黙っておく。

 ここから先、俺が使用した武器についての話になると宝具の話になるが、ここまでくれば構わないか。

「そして、俺が投影してジュエルシードを破壊に使用した剣やクロノに貸した盾なんかは宝具と呼ばれるモノだ」

 全員の頭に「?」が浮かんでいる。
 やはり宝具という概念自体がないのか。

「主に英霊、過去に偉業を残した英雄が持っていた象徴の事だ。
 王が持ちし聖剣とか」
「ちょ、ちょっと待って!」

 俺の言葉にものすごい勢いでパネルを操作し始めるエイミィさん。

「えっとエクスカリバー、5世紀から6世紀頃のブリテンの王、アーサーが持ちし剣。
 プライウェン、同じくアーサー王の持つ魔法の船としても使える盾。
 フルンディング、古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する剣で刀身は血をすするごとに堅固となる魔剣」
「……この世界の伝説の武器だな」

 唖然とした表情で読み上げるエイミィさんに、眉間を揉むクロノ。
 確か、この三つは管理局の前で真名開放してたな。
 宝具の難点だな。
 有名であるが故に調べればすぐにどんな武器か資料が出てくるというのは

「もしかしてジュエルシードを破壊した槍なんかも」
「名前は秘密だがそうだな」
「頭が痛くなってきたわね」

 管理局側からすればそうだろうな。
 そして、リンディさんの事だ。
 この情報をそのまま上層部に伝えるのはまずいぐらいは予想がついてるだろう。
 そして、俺が魔術の事を隠していた訳も。

 ただの剣なら管理局にとっても問題はないだろう。
 前にユーノが言っていたレアスキル扱いされる程度。
 だが宝具クラスのモノがいくつもあるとなると話は変わる。

 下手をすれば俺自身がロストロギア級の武器を精製出来るロストロギアになりかねないのだ。

 もしそうなれば間違いなく管理局とは敵対関係になる。
 もっとも俺としても管理局と戦争になるのは遠慮したい。
 そんな事を思いながらアルフが持っているフォークを霧散させる。

「消えた」
「俺の意思で消すも作るも自由だからな。
 俺の魔術はこんなものか。
 であの身体を食い破ってきた剣は俺が普段封印している魔術回路を使用した代償だな」
「魔術回路?」

 魔術回路という言葉にリンディさん達が首を傾げる

「魔術を使う上で必要なモノというのが一番簡単な説明かと」
「魔導師にとってのリンカーコアみたいなものね」

 プレシアの言葉に頷く。
 同じ魔力でも同じものではないと感じていたが、そう感じたのも納得がいく。
 魔術回路とリンカーコアという別に器官なのだから似ていても違うモノなのは当然だ。

「でも士郎、なんで代償で剣が生えてくるの?」

 フェイトがそんな質問をしてくる。

「俺の属性が剣ってさっき言ったよな。
 その関係としかいえないな」

 これ以外にいい説明が思いつかない。

 原因でいえば固有結界、俺の心象世界が溢れだしているという事になるのだろうが、これを話すと固有結界の説明になる。
 それに今回はエクスカリバーの投影と真名開放のみだったからアレぐらいで済んだ。
 だが固有結界の使用や長時間の戦闘になれば反動もそれに比例して大きくなる傾向にある。
 元いた世界だとパスから魔力の供給をしてもらって抑える事も出来ていたが、こっちで一人でとなるとそれも難しいだろう。

 しかし普段使っている魔術回路と封印回路。
 本数こそ同じだが魔力量、質ともに通常の魔術回路の比ではない。
 封印回路をしようすれば固有結界を自力で展開、維持もする事が出来るのだから封印回路こそが俺の真の魔術回路といってもいいのかもしれない。

 だが大きすぎる力は自分をも滅ぼす。
 こうして自分の身で体験するとよくわかる……わかりたくはなかったが。

「それって治せたりは出来ないの?」
「封印回路を使わなければ問題はない。
 仮に治療するとしても俺の属性の問題だから魔術を捨てることになる」

 俺の言葉に残念そうにするなのは。
 なのはの気持ちはありがたいがこればかりは治しようがない。

「最後に根源についてですが」

 その言葉に全員が身体を固くする。
 今回の事件の根底に関わる事でもあるので当然といえば当然だが

「世界の外側にあるとされる、あらゆる出来事の発端となる座標。
 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。
 魔術師が目指す最終到達点」
「……全てを記録し、全てを作る神の座
 そんなものがあるというのか?」

 クロノの茫然とした言葉。
 もっとも根源と根源の渦があり微妙に違うのだが、ややこしい話になるのでまとめておく。

「事実ある。そして到達した者もいる」
「いるのか! 一体いつ、いや今どこに」

 俺の言葉に興奮するクロノ。
 だが……どこにいるか?
 そんなの俺が知りたいぐらいだ。

「さあ、どこにいるやら。
 根源にいつ辿り着いたのすら知らん。
 あの爺さん自体は十二世紀頃には存在していたはずだが」
「…………………え?」

 俺の言葉に全員が固まった。
 まあ、無理もないか。
 普通に考えたら十二世紀から生きている人間……じゃなくて死徒なんて思いつかない。
 真祖の姫君の成人の儀の参列したっていう話だから最低それぐらいの年齢のはずだ。
 詳しい年齢は聞いた事もないが

「十二世紀ってことは」
「この世界の西暦にして1101年から1200年、年齢換算で最低800歳といったところか。
 まあ、出来るのなら会わない方がいいぞ。
 余計な面倒事を持ってくる事の方がはるかに多い」

 いや、面倒事しか持ってこないの方が正しいかもしれない。
 そのおかげでどれだけ俺が酷い目にあった事か……
 思い出したくもないな。

「えっとその人の事は置いておくとして、何のために根源を目指してるの?」
「一族の目的としてや魔法に至るためなど魔術師次第だと。
 どちらかというと根源に至る事自体が目的の様な気もしますが」
「え? 魔法はないんじゃ」
「いえ、あります。
 魔術は魔力を用いて人為的に神秘・奇跡を再現する術の総称。
 魔法はいかに資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能な『結果』をもたらすもの。
 ちゃんと区別してます」

 俺の言葉に又首を傾げる面々。
 少しわかりづらかったか。

「奇跡のように見える魔術ですが結果だけなら他のものでも代替えが利くんですよ。
 たとえば発火の魔術。これならライター一つで事足りますし」
「そういう事ね。過程ではなく結果論的な言い方だけど、正しいわね」

 俺の言葉に納得したように頷くプレシア達。
 もっとも金銭的な面で考えるなら魔術というのはかなり高価なものだ。
 100円で買えるライターのような発火のために魔術的なモノで同じ事をしようとしたら何十倍ものお金と時間がかかる。
 正直採算が合わないのだ。

「でここまで話したら何となくわかるんじゃありませんか?
 俺がアルハザードと根源を似ているといった意味が」
「そうね。次元の狭間と世界の外側。
 この世の全てを記録しているというならあらゆる秘術もあるでしょうし。
 表現こそ違えどアルハザードと同じモノ」
「でもまったく同じモノとも言い切れないわ。
 あらゆる魔法の技術が眠るとされるアルハザードだけど、この世を作るなんて事が出来るとは思えない。
 それどころか過去に次元の狭間に落ちた地と世界の理そのものである根源を同じモノとは」

 議論をかわすリンディさんとプレシア。
 二人の議論に周りが置いてきぼりになっている。

 だが二人の議論もわかる。
 遥か昔から魔術師が追い求めてきた根源。
 対しお伽噺のみの存在であるアルハザード。
 残された情報の量が根本的に違う。

 それに魔導師の中でアルハザードに辿り着いた者がいるのかすら分からない。
 対し根源に辿りついた魔法使いは現に存在しているのだ。

「とりあえず議論は後にしてくださいね」
「あ、ごめんなさいね」
「話の邪魔をして悪かったわね」

 とりあえず二人の議論を中断してもらって

「とりあえず根源の事で知っているのはその程度です」
「ねえ、士郎。
 その……士郎も根源を目指してるんだよね?」

 フェイトが不安そうな目でこちらを見る。
 魔術師が追い求めるのだから俺が追い求めると考えるのも無理はない。
 だけど

「いや、俺は目指していないんだ。
 俺は正確には魔術師じゃなくて魔術使いだから」
「魔術使い?」
「魔術師にとっては魔術とは根源に至るための足がかかりにして研究対象。
 対して魔術使いは魔術を道具としてただ使う者の事だ。
 俺が根源には興味はないし研究もしてない。
 だから魔術使い」

 俺の言葉に安心したように息を吐く管理局組。
 なにやら念話で何かを話していたようだ。
 恐らく俺が根源に辿り着くためにプレシアと同規模の事を起こすのではないかと心配したのだろう。

 そんな俺の視線に

「悪い言い方かもしれないが、士郎クラスの魔術師が今回のような事件を起こしたらどう止めたものかと不安に思ってね」
「そこら辺は心配ないさ」

 首をすくめてみせる俺に安心した表情のなのはとフェイト。

「士郎が知ってる魔法使いってどんな奴なんだい?」

 アルフの意外な質問に少し迷うが話しても大丈夫だろう。
 あの人達なら管理局と真正面から戦えるだろうし……というか管理局に勝てるよな。

「俺が知っているのは二人だな。
 一人がさっき言った800歳以上の爺さん。
 あともう一人は女性だ」
「あ、女なんだ」
「どんな魔法を使うの?」
「うん。気になる」

 俺の言葉に興味津々のアルフ、フェイト、なのは。
 言葉にこそ出さないが気になる様子のユーノにクロノ達

 だが正直申し訳ない事にどんな魔法かは知らないし、普段使っている魔術はそんな夢のあるものじゃない。
 俺が知っているのははっちゃけ爺さんの第二魔法とアインツベルンの第三魔法ぐらいだ。
 もっとも第三魔法に関しては名前だけ、第二魔法も遠坂からの説明で知っているが俺自身が使う事もないので教える必要はないだろう。

「残念ながら魔法の事は詳しく知らないんだ」
「そうなんだ」
「でも魔術も使えるんだろ?」

 残念がるなのはと意外と頭の回転が速いアルフ。

「使えるけど」
「なら教えてくれていいじゃん」
「そうだな。万が一にでも会う事があるかもしれない。少しでも情報があれば助かる」

 ……クロノ、今の発言はなんだ?
 まさかとは思うが………………あの人に喧嘩吹っ掛ける気か?

 教えておこう。
 あの人に喧嘩吹っ掛けたらどうなるかわかったもんじゃない。
 下手をすれば管理局が消滅するかもしれないから注意しておこう。

「そうだな。本人、周りいわく壊すことに特化し、破壊することに関しては稀代の魔女。
 通称、人間ミサイルランチャーとかマジックガンナーとかいわれてる」
「「「「「「「「……………」」」」」」」」

 あまりの表現に全員が固まっている。
 まあ、これでどんな人でどんな魔術を使うのか理解しろというのが無理だけど。

「えっとそれってどんな人と魔術をイメージすればいいの?」

 ユーノが引き攣った顔でそんな事を訪ねてくる。

「イメージとしては……そうだな。
 なのはのディバインバスタークラスの砲撃を連射で乱れ撃ちする髪の長い女性をイメージすればいいと思うぞ」
「何だそれは……」
「クロノ、悪い事は言わないから関わるな。
 下手に喧嘩吹っ掛けたりすれば最低でもアースラが落ちるぞ」
「……確かに関わらない方がいいだろうな。
 ならその人の身内の魔術師とかいないのか」

 ……どうしてクロノはこうも地獄の釜を開けようとするのだろう。
 あの人の身内といえばあの人だが、下手をしたら即座に命に関わるぞ。

 そして、可能な限りというか絶対会いたくないのがあの姉妹セットの時である。

「なあ、クロノ。悪い事言わないから関わるな」
「なんだい? その人の身内も壊す専門の魔術師とか?」

 アルフの言葉に首を横に振る。

「いや、壊す専門の人でもないしその魔法使いの女性のお姉さんなんだが……」
「だが?」
「仲が悪い。ただひたすらに壊滅的に仲が悪い。
 その人とお姉さんが二人が一緒にいるときは全速力で逃げろとしかいえない。
 もし巻き込まれたら命がいくつあっても足りない」

 ああ、本当に足りないところだ。
 この身が死徒ではなく、アヴァロンを持っていなければ俺は間違いなくあの時十回は三途の川を渡ってる。

 いや、そもそもこの原因もあのはっちゃけ爺さんだ。
 やはり根本的にあの爺さんと関わるのがよくないのか。

「……うん。僕たちは何も聞かなかった事にするよ」

 ついにクロノは話を聞いたという事実自体なかったことにした。

 うん。いい判断だ。

 クロノの言葉に頷きながら冷めた紅茶を飲みほした。
 そんな時

「ねえ、士郎君。
 魔術が学問的なら魔術を扱う学校的な物はないの?」

 とリンディさんが意外な質問をしてきた。
 あるかといわれればある。
 俺がいた時計塔などは魔術協会の本部にして、至高の学舎だ。
 だがこれを話すわけにはいかない。
 話せば探そうとするだろうし、だからといって他の魔術師の存在をまったく知らないでは今までの話と矛盾点が出かねないか。
 まあ、忍さん達には俺以外の魔術師は知らないって言ってしまっているが……

 その事を気にするのは後にするとして俺は苦笑して見せ、言葉を紡いだ。




side リンディ

 魔術の話といい、全てが魔導師と根本的に違う。
 なにより士郎君は魔術師にとって魔術は研究対象といった。
 それはつまるところ学問と同じ事。

 だけど学問というならミッドにある魔法学校のようなものだろうか?

「ねえ、士郎君。
 魔術が学問的なら魔術を扱う学校的な物はないの?」

 私の言葉に何やら苦笑する士郎君。
 なにかおかしなことを言ったかしら?

「すいません。絶対あり得ない光景に少し」
「絶対あり得ない?」

 士郎君の言葉に首を傾げる。

「魔術師にとって自分の魔術とは自己の研究成果です。
 ゆえに他人に公開する事はなく、死ぬ前に子孫に継承するときだけ開示します。
 自身の魔術についてもまず明かす事はありません。
 そして、魔術の研究は普通一人の人間の一生の中で根源に達する事は出来ません。
 ゆえに血と歴史を重ね知識と魔力を高め根源の足がかりにするんです」
「……血と歴史を重ねていく」
「そうです。ゆえに俺が知っている魔術師も十人にも満たないですし、
 今ではどこで何をしているのかも、もちろん知りません」

 その士郎君の言葉はなにを差すのだろう?
 今の士郎君の状況から察するならこの世にいない可能性もある。
 それともただ行動を共にしてないのか、正直なところ明確な判断は出来ない。

 それにしても魔術師という者の在り方もある意味信じられない。
 何代も何代も引き継ぎながら研究を重ねる。
 魔導師とは比べ物にならないほど壮絶なモノ。

 根本的に魔導師と魔術師、在り方が異なる。

 魔術師は非殺傷設定がないが、特殊な術式を使う魔導師の一種と考えていたけど違う。
 研究のために人生を賭けるといえば聞こえはいい。
 だけど士郎君の話からするに魔術師は自分を根源に至るための道具にしか見ていないように感じられる。

 そしてこれは確信。
 魔術を使う人の中でも士郎君のような存在は異端なのだ。

 恐らく他の魔術師なら手を取り合う事すら躊躇うのでしょうけど士郎君なら躊躇う必要なんてないわね。
 そんな事を思いつつ、冷めた紅茶で喉を潤した。

 士郎君の話が終わり、全員が紅茶を飲んで体をほぐしている。

 魔術が転送ではないと予想していたとはいえここまでとは完全に予想外。

 報告書の内容を少し、いやだいぶ考えないと危ないわね。
 報告書の内容を考えながらカップを傾けるとなにもない。
 気がつかないうちに飲みほしていたみたい。

「リンディさん、おかわりは?」
「いただくわ」

 その事にすぐ気がつく士郎君に紅茶のおかわりをもらいながら改めて思う事がある。

 大人っぽいのよね~。

 初めて会った時の口調や交渉術、戦闘技能の面からしても大人っぽいとは思っていた。
 だけどこうしてお茶を飲む姿、紅茶を注いでくれる姿。
 その仕草の一つ一つが子供ではなく、大人びている。
 勿論子供が大人ぶって真似をするような違和感はない。

 つまりはし慣れているという事……なんだけど仕草を見るとエイミィよりも大人っぽく落ちつている。
 本当に見た目通りの年なんだろうか?

 そういえば初めて士郎君に会った際に士郎君の事を調べたけど、確か一人暮らしだったはず。
 短い時間とはいえ色々と調べた。
 だけど身元引受人はいたけど戸籍に偽造の疑いがあり、存在しない可能性が高い。
 さらに口座も持っていなかった。
 つまりは

「ねえ、士郎君」
「はい?」
「士郎君って生活費とかはどうしてるの?」

 ここに行きつくのだ。
 保護者も書類上の架空の存在で口座も持たず、どのように生計を立てているのか?
 今更ながら不思議なのよね。

「知り合いの所で執事とウェイターのアルバイトで、あとは宝石を換金してですね」

 ……はい?
 ウェイターはわかる。
 なのはさんに視線で尋ねてたら頷いていたから、恐らくは喫茶店をやっているなのはさんのご両親のところだろう。
 ただ

「……執事?」
「はい、執事です」

 やっぱり聞き間違いじゃないわよね。
 執事って主とかに仕えるアレよね。

 確かに紅茶を入れてもらった時の動きなど洗練されていたから執事も出来るのかもしれない。
 だけど小学生の執事って
 うん。この事は触れないようにしましょう。

 そして、最後は宝石の換金。
 でも宝石は魔術の一種とも言っていた。
 宝石などはミッドでもこの世界でも高価な物よね。

 それを確か数個呑み込んでいた。
 勿論後から身体から取り出すなんてことが出来るはずないし
 つまりは

「もしかして士郎君の宝石の魔術ってすごくお金が掛かるの?」
「はい。ものすごく」

 即答だった。

 ……この件がまとまったら少し手当を出しましょう。

 保護者のいない少年のライフラインでもあるアルバイトを休ませて協力させたうえに手当すら出さないなんて申し訳ない。

 あとで経理の子を呼ばないと

 私は新たについでもらった紅茶に口をつけた。 
 

 
後書き
というわけで無事、第三十七話更新です。

固有結界とかは話しませんでしたが、投影などについては話す事にしました。

それとは別ににじファン時代のように更新したらつぶやきを書こうか少し、検討中。

それではまた来週。

ではでは 

 

第三十八話 別れ

 俺の魔術の話も終わり、一旦皆が喉を潤し、一息をつく。

「次はプレシア女史にお尋ねしたいのですけど」

 そして次にフェイトとプレシアの話になった。

「何かしら? あと女史はいらないわよ」
「ならプレシアさん、アルハザードがあるという確証は得たのかしら」

 リンディさんの質問だが、確かにこれは疑問である。
 これが魔術師なら根源、この世界でいうならアルハザードの存在を知っているのは当たり前だ。
 だが魔導師にとってはアルハザードという存在自体がお伽噺というのが常識なのだ。
 そのお伽噺に挑むというのだからそれなりの確証がないと無謀としかいえない。

「確証はあったわ。
 ただアルハザードの正確な座標などは観測出来なかった。
 あったのは次元の狭間の中にある魔力の集約された安定した個所が小さいながら存在しているという事だけ」

 次元の狭間の中で存在する安定した場所。

 確かにこの情報ならアルハザードまたはそれに近いものはありそうである。
 だが

「次元の狭間に飛びこんで一体どうやって其処に辿りつく気だったんだ?
 正確な座標もわからない。
 当然あの中でどれだけ自由に動けるかもわからなかったのだろう?」
「あなたの言う通りよ。次元の狭間の中なんて観測はまず不可能。
 次元の狭間を開くだけで途方もない力が必要よ。
 だからこの一回に賭けたというわけよ」

 ……つまりあれか?

「狭間の中にあるどこかに一か八かの賭けで辿りつこうとしたのか?」
「……まあ、端的にいえばね」

 さすがにこの返答はリンディさんもクロノも、その他の面々も予想外だったらしく固まってる。

 あまりにも無謀だろ。
 砂漠の中で一粒の塩を探すのに観測も準備もなく飛び込むようなものだ。
 だが

「それだけアリシアを愛していたという事でもあるのか」
「そうね。
 フェイトの事を気付かせられる前はアリシアしかいないとばかり思っていたから。
 今思えば本当に愚かね」

 自分の言葉に苦笑しながら優しくフェイトの頬に手を添え撫でるプレシア。
 くすぐったそうにでもうれしそうにプレシアの手を受け入れるフェイト。

 だいぶ遠回りしたようだがようやく辿り着いた二人。
 そして、二人を引き裂く事は絶対に許されない。
 もし二人を引き裂くというなら必要なら剣を執る事もあるだろう。

 そんな中

「とても申し訳ないんだが、プレシアとフェイトが一緒にいるのは難しいかもしれない」

 悔しそうに、でもはっきりとクロノがそんな言葉を紡いだ。

「どういうことだ?」
「フェイトとアルフはジュエルシードの使用用途を知らなかったのは証言が取れている。
 プレシア、彼女の命令というのも判明している。
 だがプレシア・テスタロッサの事になると話が変わるんだ」
「彼女、プレシアさんがアルハザードに至るためにジュエルシードを使い次元断層を起こそうとしたという事実。
 それにジュエルシードの危険性もわかっていた。
 その中で失敗したとはいえ中規模程度の次元震を起こした主犯なのは紛れもない事実よ」

 確かに結果的に管理局員にも死者もなかったし、次元断層は防がれた。
 だが管理局にとってのロストロギアを使用し次元震を起こした上、管理局員及び管理局艦船に対する攻撃も事実だ。

「プレシアさんぐらいの魔導師であれば技術協力すれば減刑には出来る。
 でも減刑されても数百年単位の幽閉はされるわ。
 もちろんフェイトさんと会う事なんて出来ない」
「そんなっ!」

 なのはが叫ぶがこの結果は仕方がないだろう。
 だがこの事は俺も予想していたから手もある。

 しかしこの手を使えば俺という存在を管理局に完全に明かすことを意味する。

 そして俺の予想は現実に変わった。
 なら俺がする事は手札をきる事だが、その前に一つ明確にしとかないと悪い事がある。

「リンディさん、俺達の世界は管理局にとってどういう扱いになるんですか?」
「ずいぶんといきなりね。
 士郎君やなのはさんの世界は管理局の中では正式には『第97管理外世界』
 ある一定以上の文化を持つけど、魔法技術がなく魔法の存在を表沙汰にすることは下手な混乱を招きかねないから基本的には不干渉世界よ。
 今回のようにロストロギアが発見、又は落ちたりしなければね。
 勿論この世界での魔法使用も基本的に禁止だし、使う場合は秘匿しないといけないわ」

 なるほど不干渉の世界か。
 これなら俺の手札をきる意味もあるし、無理押しは可能だ。
 息を吐き、意識を交渉用に切り替える。

「時空管理局艦船アースラ艦長、リンディ・ハラオウン提督に海鳴の管理者より要請があるのだが」
「……どのようなものでしょうか?」

 急に言葉を改めた俺に全員が目を丸くする中、リンディさんはゆっくりと口を開いた。

「我が管理地『海鳴』への魔法攻撃、およびジュエルシード捜索の上で海鳴の霊脈に被害が出ている。
 またフェイト・テスタロッサ、使い魔アルフは我が工房にて研究成果を見た可能性があり、その保護者プレシア・テスタロッサにもフェイト・テスタロッサより情報が漏れた可能性が高い。
 魔術師として管理地への攻撃および研究成果の漏洩を容認できない。
 よって両名と使い魔の引き渡しを求める」

 俺の言葉にアースラ中に俺とリンディさんを除く面々の叫び声が響き渡った。




side リンディ

 まさかの言葉だ。

 プレシアさんとフェイトさん、二人を引き離さないために何かしらの手を打ってくるとは思っていたけどこの要請は予想外。

「……霊脈というのが魔導師にとって理解できないのですが、説明を求めても?」
「極端な言い方を言えば大地を流れる自然の魔力の流れ。
 水脈のようなものと考えてもらえばいいだろう。
 もっとも魔術師が管理し、使用する土地は霊脈が豊富でなければ意味がないですが」

 自然に存在する魔力を利用するのは予想外ね。
 そして、士郎君は管理し使用すると言った。
 つまりは街を覆っている結界。
 アレを維持しているのも霊脈の魔力ということね。

「霊脈に被害が出たのなら他の地に移り住むというのは?」
「あの街に流れる霊脈はかなりのモノだ。他の地で同レベルの霊脈を探せるとは思えない。
 仮に移り住んだとしても我が研究を持ちだした可能性があるならば引き渡してもらうという要望は変わらない」

 これが魔法の事だったら管理局が手を貸す事も出来る。
 だけど霊脈を探すなんて完全にお門違い。
 探せるはずがない。
 それに魔術師にとって研究成果とは代々受け継いでいく貴重なモノだ。
 漏洩を容認するはずがない。

「霊脈の被害の修復のために局員を派遣するというのは?」
「断る。研究成果の漏洩の危険が広がるだけだ。
 そして、ジュエルシードの件が終わった今局員の立ち入りも認めない。
 前にも言ったはずだ。
 『魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん』と」

 そして、結果としてここに辿りつくのよね。
 他の組織と関わる事が研究成果の漏洩に繋がるとしてあまり良しとしない魔術師側。
 対して私達が知らない魔術という術式と技術の情報がほしい管理局側。

 今現在、魔術師と管理局の繋がりはここ海鳴だけだ。
 もしここで完全に繋がりを断たれれば魔術の技術を知る機会はほぼ完全に失われる事になる。

 かといって力づくで聞き出そうとすれば間違いなく戦闘になる。
 もし戦闘にでもなれば物量では管理局が優位だけど、士郎君がどんな奥の手を持っているか分からないこの状況ではどれだけ被害が出るか予想もつかない。
 さらに魔術には非殺傷設定などないのだから、魔術師との戦闘は被害が魔力ダメージなどではなく人命に関わる。

 さらに海鳴、地球自体が管理外世界。
 そんな強硬な手段はとれない。

「もし引き渡しに同意しない場合は?」
「秘密の漏洩の防止のため口を封じることになる」

 口封じ、つまりは命を奪うという事。
 当然口封じをさせるわけにはいかない。

 つまり今現在私達、管理局が取ることが出来るのは士郎君との妥協点を見出す事。

「最終的に引き渡すにしても裁判後にしていただきたいのですが。
 それと引き渡し後も三人の管理は魔術師側と管理局側で行い、最低限ミッドと海鳴の行き来を許可していただけないでしょうか?」

 ミッドと海鳴の行き来が出来ないと特にプレシアさんの管理局への協力という減刑が受けることが出来ない。

「承知した。
 たが三人に魔術や私の研究とそれにに関する質問は一切禁じる」
「はい。
 ですが、この場合裁判の証言台に立っていただく事があるかもしれませんが、それは同意していただけますか?」

 魔術の質問が禁止された今、私達が海鳴に到着するまでの間の報告と上層部が聞きたいであろう魔術に関する質問を受けてもらう必要がある。

「同意しよう」

 士郎君の言葉を最後に続く沈黙。

 そして

「……こんなものですかね?」
「そうね。この交渉なら十分だわ」
「「「「「「「……はい?」」」」」」」

 お互い頷き合う士郎君と私に目を丸くするクロノ達。
 あら? 気が付いてなかったみたいね。

「艦長、もしかして今のって?」
「簡単な演技だけど事実よ。
 エイミィ、徹夜明けで悪いんだけど眠る前に今の交渉内容と結果まとめておいてね」
「う、了解です」

 エイミィには申し訳ないけどもう少し頑張ってもらいましょう。
 形だけでも交渉をしたという事実とこちらが妥協点を探すしかないという現状をアピールするためにも、こういうやり取りは必要なのよね。

 クロノはこの流れは予想してなかったのか机に突っ伏している。
 この子もまだまだね。

「でも士郎、いいの?」
「なにがだ?」

 心配そうな表情で士郎君を見つめるフェイトさん。

「だって私と母さんが一緒にいるために士郎の魔術がばれちゃうかもしれないんだよ」
「どうせ、協力者として大なり小なり存在はばれるんだ。
 魔術に関してはクロノ達がうまくごまかしてくれるさ。
 なあ、クロノ」
「あ~、もう好きにしてくれ」

 完全にダウンしたわね。

「本当に感謝しきれないわね」
「二人が共にいられるように協力はするさ」
「私も出来る事なら何でもするよ」
「ありがとう。士郎、なのは」

 うれしそうに士郎君に頭を下げるプレシアさんに、笑い合う士郎君となのはさんとフェイトさん

 とりあえずのプレシアさんとフェイトさんの裁判に関する心配事はなくなったわね。
 あとは裁判本番で私達がうまく立ち回ればいい。
 それと士郎君の魔術についても多少情報を整理しとかないと。
 真実のまま報告すれば下手をすれば士郎君自身がロストロギアになりかねないもの。

 そのためにデータまとめとかいろいろ忙しいけど、私ももうひと頑張りね。




side 士郎

 午後に裁判に使うための証言資料をまとめるために個別に少し質問をしたいという事で一旦解散になった。
 そして、食堂を後にした時にプレシアに呼びとめられた。

 俺と二人だけと要望なのでなのは達と別れ、プレシアと二人で俺の部屋に戻る。

「貴方にお願いがあるの?」
「なんだ? 出来る事なら協力するが」
「リンディ提督にもこれから話すつもりなのだけどアリシアの葬儀を行いたいの。
 あの子の葬儀は行っていなかったから」

 だがそれが俺に対するお願いと関係あるとは思えない。
 プレシアもアリシアもミッドの出身のはずだ。
 普通に考えれば葬儀を行うのもミッドになる。
 俺が手伝えるとは思えない。

 そんな疑問を感じながら先を促す。

「葬儀をあの街、海鳴で行いたいのよ」
「それには異論はないが、理由を聞いても」
「私の人造魔導師研究に関する事よ。
 もしこの研究の内容が漏れた時、フェイト程の高い魔力資質を持つ魔導師を造れるアリシアが研究材料にされる可能性があるわ」

 なるほど管理局に属さない犯罪者にとっては確かに研究材料になる。
 俺としてはそれは構わないのだが

「海鳴で葬儀となると火葬になるがそれはいいのか?」

 ミッドがどうかは知らないが、文化によって埋葬の仕方が違う事はよくある。

「構わないわ。あとお墓もこちらに置いてほしいの。
 私達が戻ってくるという誓いのためにも」
「了解した。こちらの知り合いに連絡しておこう」
「ありがとう」

 椅子から立ち上がり部屋を後にするプレシア。
 その直前に

「私もフェイトもアリシアも貴方に救われたわ。
 何かあったら言ってちょうだい。
 例え管理局の敵になっても貴方の味方になるわ」

 そう言い残し部屋を後にした。

「ああ、もしものときにはお願いするよ」

 俺は聞こえるはずのない返事をした。



 そこからは早かった。
 プレシアから頼まれて二日後、アリシアの葬儀が執り行われることになった。

 そして葬儀当日までの二日の間に用意されたものは棺と花とテスタロッサ家と俺となのはの喪服。
 そして、墓を安置することになった俺の家の敷地の裏に墓石を置くスペースを確保し、墓石も用意された。
 ちなみこれらは月村家に要請し至急揃えてもらった。

 で最後にアリシアの服。

 アリシアの洋服の類は時の庭園の崩壊で回収は無理という事でアリシアとプレシアの写真に写っている水色のワンピースを俺が作る事になった。

 エイミィさん曰く
「士郎君ってもしかして本職の人?」
 らしいが断じて違う。



 そして執り行われたアリシアの葬儀

 プレシアの
「私なりのけじめよ。参列してくれるのはアリシアを本当に偲んでくれる人だけでいい」
 との言葉もあり、参列者はテスタロッサ家、ハラオウン家、なのは、エイミィさん、俺と前々日に話をした面々のみ。

 アリシアはフェイトの部屋にあった写真と同じように水色のワンピースとリボンを身につけ、棺の中に横たわっていた。

 それぞれが棺に花を手向け、俺は守り刀と宝石を花と共に棺に納める。

 宝石は魔力は籠っていないし、守り刀も大した概念もない。
 だが彼女が誰かの手によってその眠りを妨げられないように祈りを捧げる。

 そして、プレシアが花を手向け、アリシアの額に口づけをする。
 フェイトも同じように花を手向け、額に口づけをした。

 フェイトにとって言葉をかわすことがなかった姉妹。
 そして、俺達にとっては友達になれたかもしれない存在。

 それぞれが静かに涙を流す。

 何度経験しても誰かのとの別れというのだけは慣れることがない。

 棺の蓋は静かに閉められる。
 そして

「―――同調、開始(トレース・オン)

 棺の下に魔法陣が浮かび上がる。
 円の中に六角形の星がありその角にほそれぞれ円がある。
 そして俺の手に握られる六本の火葬式典の黒鍵

 火葬式典を使えばアリシアの灰すら残らない。
 だがそれがプレシアの願いだった。

 俺はその円に黒鍵を突き立てていく。
 黒鍵が最後の一本になった時

「待って。
 私が…………するわ」

 プレシアが静かに一歩踏み出した。
 俺は黙ってプレシアに黒鍵を渡す。

 黒鍵を持ち魔法陣の前に立つプレシア。
 だがその黒鍵を持つ手は震えている。

 そんなプレシアを支えるように

「母さん」

 フェイトがプレシアの傍に立ち手を重ねる。
 そしてフェイトと共に

「プレシア、あんたがフェイトにしてきた事は許せない。
 でもあんたの気持ち、少しはわかるから」

 アルフが手を重ねた。

「……ありがとう。フェイト、アルフ」

 プレシアは瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして

「……おやすみなさい、アリシア」

 黒鍵は突き立てられた。
 三人の手がゆっくりと黒鍵から離れ、一歩下がる。

 黒鍵の刀身が輝き炎が溢れ、魔法陣の中を埋め尽くす。

 魔法陣の中で燃え上がる赤い炎。

 ここにアリシアは本当の眠りについた。 
 

 
後書き
とりあえずは体調ある程度復活。

まだ本調子とはいかないですが、無事更新です。

何事もなければ次回も来週更新します。

ではでは 

 

第三十九話 新たな一歩   ★

 アリシアの葬儀が終わった次の日からフェイトとプレシア、アルフは護送室に隔離されることになった。

 今回の事件の首謀者として護送室に入れないというのは裁判にも影響しかねないというリンディさんの判断からだ。

 フェイト達もそれには何ら異論はなく静かに受け入れている。
 リンディさんの話ではそれなりに仲良くやっているらしい。

 さらに次の日には

「今回の事件解決について、大きな功績があった者としてここに略式ではありますが、その功績を称え表彰いたします。
 衛宮士郎君、高町なのはさん、ユーノ・スクライア君、ありがとう」

 管理局から感謝状をいただいたりした。
 なのはは緊張のあまりガチガチになっていたが……

 そういえばと改めて俺の人生を振り返るとこのような組織から感謝状のような類を貰うのは初めての経験である。
 封印指定としての出頭命令書や犯罪者としての指名手配なら何度か経験はあるのだが。

 ……自分の事ながらとんでもない経験だな。
 感謝状を貰った後にリンディさんに改めてお礼を言われた。
 というのも

「三人共、今日まで調書に協力してくれてありがとう。
 事件が終わってから今日まで付き合わせてごめんなさいね」

 本日までかかっていた質問と証言についてである。
 それも終わったという事は俺となのはが海鳴に帰れるという事でもある。

 この調書についてはプレシアの住居である庭園の戦いに関する事は当然のこと、管理局が来るまでの間の事件の流れに関する事まであったので本日までかかったのである。 
 これだけの事件なのだから仕方がないのだが、時間がかかった大きな理由として俺の存在もあった。
 いや、正しく言えば時間がかかった責任は俺にある。
 なにせ魔術に関してもそのまま報告するのはまずいという事でリンディさん達と話し合い、報告用に使用する魔術の話などをまとめていたのだ。

 さすがにあまり学校を休みすぎるのは問題なので、これで一安心だ。

「ただミッドチルダ方面はまだ次元震の余波で安全な航行には時間がかかるみたいなのよ」
「そうですか。
 まあうちの部族は遺跡を探して流浪しているので急いで帰る必要もないですが、その間ずっとここにお世話になるというのも」

 俺達とは違いユーノの方はまだ帰る事すら難しいらしい。

「じゃあ家にいればいいよ。今まで通りに」

 とここで予想外の援護。
 いや、なのはの性格なら予想通りか

「なのは、いいの?」
「うん。ユーノ君が良ければ」
「じゃあ、そのお世話になります」

 和やかな二人に顔を見合わせて笑う俺とリンディさん。

 しかし今まで通りという事はユーノはまたフェレットになるという事だよな……
 正体がわかっても小動物扱いされるというのも少し不憫な気がするが、まあそこら辺はユーノ次第か

 そんな事を話している俺達の方に歩いて来るクロノとエイミィさん。

「今大丈夫?」
「ええ、話は終わりましたし」
「話というと、君達が帰る件か?」

 さすがクロノ、なかなか察しがいいな。

「ああ、明日にでも帰る事になると思う」
「……そうか」

 少し残念そうなクロノ。
 そしてにやりと笑うエイミィさん。
 ああ、このパターンは

「もう、なのはちゃんが帰るのが寂しいなら寂しいって素直にそう言えばいいのに
クロノ君の照れ屋さん」
「なっ」
「なのはちゃん、アースラにはいつでも遊びに来ていいからね」
「はいっ!」

 エイミィさんに文句を言うクロノに「諦めろ」と内心つぶやく。
 アースラで二人を見ていてわかった事だが、エイミィさんはクロノの補佐で役職ではクロノの部下という事になるのだが、実際はエイミィさんの方が上だ。
 たぶん……いや、確実にクロノがエイミィさんに敵う事は一生ないだろう。

 クロノ、いい加減諦めて受け入れる事も大切だぞ。

 それにしても、なのはもそんなにはっきりと遊びに来る宣言をしなくてもと思うのだが。

「まあまあ、いいじゃない。
 どうせ巡航任務中は暇を持て余してるんだし」

 リンディさん、その発言はいいのですか?

 そんな呑気な事を話した後、エイミィさんとクロノと共に本局に報告する俺に関するデータの最終確認を行ったりと少々慌ただしいながらも帰る朝を迎えた。

 ちなみに本局報告用の俺のデータでは
 ・管理外世界の代々続く魔術師の家系の末裔
 ・武器庫からの転送、魔術術式の白兵戦武器の鍛冶を扱う魔術師
 ・武器庫の中にはジュエルシードを破壊するレベルの武器も少数ながら存在する
 
 というものだった。
 ジュエルシード8つと次元震が止まったのはジュエルシードの発動で計測器が使用不可能のため原因不明とする。
 だがゲイ・ボルクで破壊した1つのジュエルシードに関しては隠蔽が難しいという事があった。
 他にも管理局に俺と敵対することが不利益に繋がるとの認識をさせるために隠蔽しない方向で進める予定だそうだ。

「協力に感謝する。
 それと預かっていたモノを返すよ。
 ケースも持ち帰ってくれて構わない」

 クロノが差し出したのは管理局に預けた拳銃を入れた封印ケース。
 封印が外れている様子もないし、ここであけて確認する必要はないだろう。

「ああ、確かに」

 クロノからケースを受け取り、握手を交わす。

「私からも改めてお礼を言わせてもらうわ。
 本当にありがとう」
「また手伝えることがあれば、お手伝いしますよ」

 リンディさんとも握手を交わす。

「士郎とユーノには証言してもらう事があるからその時は頼む。
 フェイトとプレシアの処遇は決まり次第連絡するから」
「了解した」
「うん。ありがとう」

 リンディさんがユーノに近寄って少し小声で

「ユーノ君も帰りたくなったら連絡してね。ゲートを使わせてあげる」
「ありがとうございます」

 そんな会話をしていた。
 それにしても何度見ても人語を話すフェレットって結構違和感がある光景だな。

「それじゃ、そろそろいいかな」

 エイミィさんの言葉でクロノ達が一歩下がる。

「またね」
「またな」

 三人に見送られ、俺達は海鳴公園に戻ってきた。

「「「う~んっ!」」」

 アースラの中とは違う。
 大地を踏みしめ、風を感じ、あまり好きではないが懐かしい太陽に光を浴び、身体を伸ばす。

「帰ろっか」
「ああ、送るよ」

 三人、いや二人と一匹で高町家に向かう。
 なのはも久々の家が恋しいのかその足取りは早い。

 高町家の門のところで分かれ、なのはが高町家の中に入るまでしっかりと見届ける。

「ただいま~」
「なのはっ!」

 なのはの声と美由紀さんの驚きの声を聞きながら俺は踵を返し、我が家に帰る。

 我が家の敷地に足を踏み入れ最初に向かうのは、家の裏手にあるアリシアの墓。
 そしてアリシアの墓の前で帰りがけに買ってきた線香をたてる。

 アリシアの葬儀の後、アリシアは灰すら残すことなくその身体を失った。
 俺は魔法陣を描いてあった辺りの土を骨壷に入れ、月村に頼んで用意してもらった墓石に骨の代わりに納めたのだ。

「ただいま、アリシア」

 墓の前で手を合わせ、家の中に入った。

 この世界に来て住み始めたとはいえ懐かしの我が家の空気に肩の力が抜ける。

 だがあまりゆっくりも出来ない。
 やらないとならない事がいくつかある。
 一つはアリシアの墓の周りへ結界を敷く事である。
 もう一つが次元震やなのはとフェイトの戦いなどで何らかの影響を受けているであろう霊脈の状態を確認する必要もある。

 そして、なにをするよりも一番重要な問題なのが

「資金不足だな」

 この件の前にこの世界に来て日が浅かった事もあり鍛冶場も含めあらゆるものを用意し資金に余裕がない状態。
 さらに魔力の籠った宝石はアルトと遠坂から貰った二つを除いて純度の高いのは残っていない。
 一応、リンディさんから協力時における出費の宝石代としていくらか貰っているが正直宝石を補充するほどの余力はない。

 つまりはアレに手を出すしかないようだ。

 まあ、なにはともあれ明日から学校なのだからとりあえず家を掃除しよう。
 アースラにいる間に溜まったほこりを払うために俺は掃除道具を手に取った。




 それから平穏な生活に戻った俺達。

 まあ、俺個人は高町家と月村家に帰ってきたのでまたバイトのお願いをしに行き、忍さんにはさらに奥の手である金の延べ棒の換金を依頼したりと少々慌ただしいものだった。

 そんなこんなで数日たった早朝、俺は工房である鍛冶場から出てきて身体を伸ばす。

 いつフェイト達が裁判やら何やらでアースラから離れるかは分からないが、決まり次第クロノから連絡があるはずなのであるものを用意していたのだ。
 また必ず会えるようにという願いを込めて

 鍛冶仕事で汗だくなったのでシャワーでも浴びて学校の準備をしようと思ったら

「ん? 誰だ?」

 結界内に誰かが入ってきた。
 海鳴公園の辺りなのだが、正確な位置が分からない。
 あそこもなのはとフェイトの戦いのせいで霊脈が多少なりとも乱れているので細かい情報を得ることが出来ないのだ。
 なのはがスターライトブレイカーを叩きこんだのだから当然といえば当然だが
 そして、もう一つが家に敷地に入ってきた子供と小動物がそれぞれ一。

 子供と小動物という事は

「なのはとユーノか」

 玄関の方に向かうと案の定二人がいた。

「士郎君、グットタイミング!」
「結界があるんだから気がついただけだよ」
「あ、そっか」

 俺の言葉に納得顔のなのは

「で、こんな朝早くにどうした?」
「そうそう、フェイトちゃんが本局に移動になるんだって。
 で少しだけど会えるんだって」
「なら急ぐか、なのは悪いんだが俺の部屋に行って制服を脱衣所にもって来てくれ。
 少し用意する物がある」
「わかった」

 なのはと別れ、俺は先ほどまで作っていたモノを取りに鍛冶場に向かう。

 その後、汗を流し制服に着替える。

「じゃあ、行くから掴まれ」
「ふぇっ! にゃああああ!!」

 着替えなど急いだが少しでも時間が惜しいので、なのはを抱きかかえ、一気に跳躍する。

 なのはの叫び声で誰かに見られる可能性が若干あるが、今回は……無視することにした。




side フェイト

 母さんとアルフと一緒にのんびりと海を眺める。
 母さんと一緒に静かな時を過ごす、そんな願いが叶ったことがただうれしかった。

 でも我が儘を言うならアリシアも一緒がよかったな。

 言葉を直接交わす事もなかった私のお姉ちゃん。
 会う事はもう出来ない。
 でも願うぐらいはいいよね。

 そして、本局に行く前に話をしたかった。
 この海で正面から向かい合ってくれた子。
 私を支えてくれた強くて優しい男の子。

「母さん」
「なに?」
「その……戻ってくるんだよね」
「ええ、表向きは彼の秘術を漏らさないためだけどね。
 あの子も彼も大切なんでしょう」

 考える必要もないくらい大切な人。

「ならちゃんと戻ってこないとね。
 それに彼には特に色々お世話になったからそのお礼もね」
「はい」

 頬を優しく撫でる母さんの手のぬくもりを感じながらしっかりと頷いた。

 海を眺め、なのは達を待つ。
 そんな時

「………ゃ~…………」

 耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
 辺りを見渡すけどその声の主はいない。

「どうかしたのか?」
「えっと……なのはの声が聞こえたような」

 きょろきょろする私にクロノが不思議そうに尋ねてきたのでありのまま答える。
 クロノも耳を澄ますけど

「僕には聞こえないが」
「そう? アルフは?」
「う~ん。ちょっと待って」

 アルフなら私達よりも耳がいいし聞こえるかも

「……にゃ~~~~~…………」
「ほらっ!」
「確かになのはの声だね」
「ああ、今のは僕にも聞こえた。だが……」

 声がだんだんと大きくなる。
 それはつまり近づいてきているという事なんだけど
 わからない事が一つ。

「一体どこにいるんだ?」

 クロノの言うとおりで、それがわからない。
 少なくとも私の眼の届く範囲にはいないみたいだけど

「アレかしら?」

 そんな時母さんが指差した方から、跳んでくる白い物体。
 アレは空を飛んでいるんじゃなくて、文字通りピョンピョンと跳んでいる。

 ただ一回の飛距離がとんでもないけど

 私達の姿を見つけたのか白い物体はさらに大きく跳躍し

「うにゃ~~~~~~~~!!!!!」
「数日ぶりだな」

 なんて軽い口調で降り立った白い物体、もとい白い制服を着た士郎と士郎に抱きかかえられたなのは。

「し、士郎君、アレはないの。揺れすぎなの」
「悪かったな。だがアレが一番早かったんだ」

 そんなやり取りをしながら士郎から下ろされたなのはは少しフラフラしてる。
 勿論、なのはの肩に掴まっていたユーノもフラフラだ。
 だけど当の士郎は平然としてる。

 あんなふうに上下に揺られるのは嫌だけど、士郎に抱えられるのは羨ましいと内心思っていたり。

 ……士郎、お願いしたらしてくれるかな?

 そんな関係ない事を思いつつ、半ば呆然としながら士郎となのはを見ていた。

「うん。復活、フェイトちゃん」
「え、うん。久しぶり、なのは」

 なのはの言葉に正気を取り戻す。
 ほんの数日なのにすごく久しぶりな気がする。
 でもこうして改めて正面から向かい合うのは少し恥ずかしい。
 お互いにすこしはにかむ。

 だけどこうしてなのはと士郎が来てくれたのがうれしかった。

「時間はあまりないけど少し話をするといい」
「俺も外すよ。二人だけでな」

 ユーノはなのはの肩からアルフの肩に移り、私となのはを残して皆は少し離れたところに向かう。

「「ありがとう」」

 クロノや士郎の心遣いが嬉しい。

 そして、なにより大切な人がこうして傍にいてくれるそれだけでうれしい。
 でも一緒にいられるのは少しの時間だけ

「その……これからしばらくお別れなんだよね?」
「うん。少し長くなるかもしれない」

 私がやった事の責任もあるからすぐには難しいかもしれない。
 それでも

「必ず帰ってくるから、なのはと士郎がいるここに」

 私の言葉に一瞬目を丸くするけど

「うん。待ってる」

 なのはは満面の笑顔で頷いてくれた。
 あと……アレだけは絶対に返事をしないと

「あとなのはが言ってくれた事、友達になりたいって」
「うん」
「私なんかでよかったら……その、なのはの友達になりたい。
 でも私、どうしていいのかわからなくて」
「……友達だよ」

 なのはの言葉に一瞬キョトンとしてしまう。

「なのはの名前を呼んでくれて、なのはの友達になりたいって思ってくれるんなら友達。
 もう私達友達なんだよ」

 なのはが私の手を握ってくれる。
 その手はとても暖かくて、なのはがここにいる証。

「だから、待ってる。
 待ってるからフェイトちゃんが帰ってくるの」
「うん。約束する。
 大切な友達との約束だから、必ず戻ってくるから」
「うんうん」

 ああ、駄目だ。
 我慢できない。
 泣いたりしないで笑って行こうと思ったのに我慢できない。
 なのはも顔を歪ませて私の胸に飛び込んでくる。

 そんななのはを力一杯抱きしめて、その温もりを感じる。
 大切な友達。
 その温もりがうれしくて笑みがこぼれて、離れてしまうのが悲しくて涙が止まらないまま、なのはを抱きしめ続けていた。




side 士郎

 抱きしめ合うなのはとフェイト。
 そんなフェイトの姿を見てうれし泣きするアルフとアルフを慰めるユーノ。
 プレシアの眼にも涙が浮かんでいた。

 そんな中立ち上がるクロノ

「……時間か?」
「ああ、残念だけど」
「確かに残念だが一時の別れだ。テスタロッサ家はここに戻ってくるからな」
「ええ」
「もちろんだよ」

 俺の言葉に笑って頷くプレシアとアルフ。

「そろそろいいか?」
「うん」

 クロノの問いかけに頷くフェイト。

「士郎もありがとう」
「私からも改めてお礼を言うわ」
「何かあったら連絡しろ。時空管理局を相手にしても手を貸す」
「そんな事にならないようにするから安心してくれ」

 軽口を叩き合う俺とクロノに皆が笑う。

 そんな中おもむろになのはがリボンを解く

「思い出に出来るのこんなのしかないけど」
「じゃあ、私も」

 それに応えるようにフェイトもリボンを解く。

「きっとまた」
「うん。きっとまた」

 リボンを交換する二人。
 それは誓い。
 再び会うための誓いにして二人の絆。

「フェイト、俺からもな」
「え?」

 俺から差し出されたものにフェイトが目を丸くする。
 俺の手にあるのは白と黒の剣、干将・莫耶をモチーフにしたのペンダントだ。
 ただ干将・莫耶と違う所は鍔の所が太極図ではなく金色の宝石が輝いている。

「これって」
「なのはとフェイトがまた会えるようにって片方ずつ渡すつもりだったんだけどな、二人にはそのリボンがあるけどよかったら貰ってくれ」

 フェイトが手を伸ばし、白い剣を取る。
 そして

「片方は士郎にもっててほしい。
 なのはだけじゃない。士郎にもまた会えるように」

 俺の手にフェイトが手を重ねる。

「ああ、また会おう。約束だ」
「うん。約束」

 フェイトと誓いをかわす。

 アルフがユーノをなのはの肩に移す。

「色々ありがとね、なのは、ユーノ」
「ありがとう。なのはちゃん、ユーノ君」

 涙を浮かべながらも笑顔で礼を言うアルフと初めてなのはとユーノの名を呼び、握手を交わすプレシア。

「じゃあ、僕も」
「クロノ君もまたね」
「ああ」
「クロノ、最長で一年で片をつけろよ。じゃないと乗り込むからな」
「ふん、すぐに終わらせてみせるさ」

 クロノと握手を交わし、お互いが一時の別れの言葉をかわしあった。

 そして、フェイトとアルフ、プレシア、クロノの足元に浮かぶ魔法陣。
 そんな中

「フェイトちゃん。ちゃんと帰ってきてね!!
 じゃないと取っちゃうんだから!!」



 なのはの顔を赤くした言葉にフェイトが驚くが

「すぐ帰ってくるからね!
 私も負けないから!!」



 顔を赤くしながらもしっかりと返事をするフェイト。

 二人が何の事を言っているのかはいまいちわからないが二人には通じ合っているようなので良しとしよう。



 一時の別れ、涙はある。
 だが必ず会えると約束した。

 そして、魔法陣の光が収まった時そこにフェイト達の姿はない。

 それでも

「なのは、行こうか」
「うん」

 交わした約束を胸に笑顔で俺達は新たな一歩を踏み出した。








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 別れを済ませた後、涙を拭った。
 そして、学校に向かう途中で

「士郎君、私もその……ほしいな」

 なのはの視線は俺の首に掛けられた金色の宝石が輝く黒き剣に向けられていた。

「これか?」
「それじゃなくて、それとは別にその私と士郎君の絆というか……」

 顔を赤くして恥ずかしそうにそんなお願いを口にするなのは。
 なのはがこんなお願いをするのは珍しい。
 なので

「ああ、近いうちに必ず用意するよ」

 頭を撫でつつ、頷くとなのはは満面の笑顔が浮かべる。

 それを渡すのはもう少しあとになり、それが元でひと騒動あるのだがそれはまた別の話。 
 

 
後書き
年末の忘年会が入ったせいで一日遅れしましました。
ごめんなさい。

そして、無印は無事完結です!!

次回は幕間のアリサの話を一話。
それからA's編に入ります。

こうしてここ、暁でも無印編を完結出来、A's編にいけるのは応援して、読んでくださる皆様のおかげです。

来週は、アリサの幕間で今年最後の更新として締めくくりたいと思います。

では
 

 

幕間その一 士郎のアルバイト   ★

 歩きながら周囲に視線を奔らせる。

 その光景は経験がないわけじゃない。

 だがあまり得意とはいえない世界。

 光り輝くシャンデリアがあり、ドレスを纏った女性が、タキシードを着こなした男性が思いのまま時を過ごす。

 もっともその浮かべた笑顔が上辺だけではない者がどれだけいるのか。
 そんな関係ない事を考える自分に僅かに苦笑しながら、自分とパートナーの分の飲み物を持ち、自然と傍に立つ。
 苦笑したままではまた何か言われそうなので苦笑をやめ、右手に持つ飲み物を差し出す。

「ありがと」

 それを慣れた動きで受け取る少女。
 だがその表情と動きはいつもより若干硬い。

「どうかしたか? 少し表情が硬いが」

 彼女にとっては慣れるほどではないかもしれないが何度か経験があるはずだ。
 まあ、この年で完全にこの雰囲気に馴染んでいたらそれもどうかと思うが。

「仕方ないでしょ。
 パートナーを連れては慣れてないっていうか初めてなんだから」

 少し表情を赤らめながら小声でつぶやく少女。
 なるほど、言われてみれば確かにそうだな。
 この年齢ではパートナーを連れて来る経験はほとんどないだろう。
 それに彼女の事を見る視線は多い。
 だがこれは

「主催者の娘なのだから注目は浴びるのは諦めろとしかいえないな」

 このパーティの主催者の娘なのだがら仕方がない。

「確かに娘というのはあるかもしれないけど……それ以上にその娘がパートナーを連れている事の方が注目浴びてる原因だと思うんだけど」

 よく聞き取れなかったが、どこか不満そうなつぶやきが彼女の口から洩れた。
 彼女の立ち振舞いに問題はない。
 どちらかというと

「なにも気にする事はない。そのドレスもよく似合っている。
 君はいつも通りでいればそれで十分だ。
 もっとも私の方が役者不足かもしれないが」

 赤のパーティドレスはこの年の少女では派手過ぎるとか、大人びすぎているといわれるのだろうが、彼女にはよく似合っている。
 問題があるとすれば彼女よりも私の方だろう。
 得体の知れない人物が主催者の娘のパートナーとして横に立っているのだ。
 そう考えると彼女が注目を浴びている原因の一端に私の存在があるのかもしれない。
 しかし彼女は

「ふん、似合ってるのは当然よ。
 あと私がパートナーにしてもいいって思ったんだから役者不足なんて言わない。
 ほら、ちゃんとエスコートしてよ」

 顔を少し赤くする少女。
 そんな彼女に

「ああ、任せてくれ。アリサ」

 一歩より添い腕を差し出す。

「そうそう、それでいいのよ」

 その腕に満足そうに頷いて、腕を絡めてくるアリサ。



「ほら、挨拶に行きましょう」
「承知した」

 アリサと共に会場の方々に挨拶のために歩きだした。

 


 さて、なぜこんな場所で、こんな事をしているかというと俺の臨時のアルバイトが関係していたりする。

 一か月程前のジュエルシードの事件だけでなく、それ以前から資金不足だった事もあり金の延べ棒を換金したのだ。
 したのだがこれからの事を考え宝石などを買い揃えれば、金の延べ棒の代金の大半がなくなる出費であった。

 さすがにそれはまずいので使うのは半分だけであとは蓄えておき、あとは他で稼ぐ事にしたのだが、小学生がそんなに稼げるはずもない。
 裏に顔を知られるのはまずいのだがさすがに資金がなければ何もできない。
 そういうわけで忍さんに何かあればとお願いしていたのだ。

 そして転がり込んできたバイトがこれ。
 なんでもアリサの両親、バニングス夫妻からの相談を受けたらしい。
 事の発端は一通の脅迫状

 要約すれば『ある市場から手を退け』というものだった。
 もし従わなければ予定されているアリサのお父さんの会社主催のパーティでアリサを暗殺する。
 またアリサがパーティに出席しなかったり、パーティを中止にした場合は主要取引先の役員を殺す。
 という物騒な脅迫状であった。

 かなり大きな会社だから敵がいるのもわかる。
 そして、アリサのお父さんにとってもその市場から手を引けば雇っている部下達を路頭に迷わす事になるし、主要取引先の人々の命を犠牲にする事も出来ない。
 ましてやアリサの命など考えるまでもないということらしい。

 そこで俺の登場。
 パーティ当日のアリサの護衛とパーティ会場内で襲撃された場合の相手の捕縛が俺の役割だ。
 もっともパーティ会場の外には俺以外にも高町家の方々とノエルさん達がおり、忍さんは自作の大型銃器を用意しているらしい。

 俺個人としては忍さんが作ったという大型銃器というのが使う事が起きない事を祈っている。
 あの人はあの割烹着の悪魔とどこか似た匂いがするので、忍さんの自作がどんなものなのか知りたくないのだ。

 ちなみに今回の件について、アリサにはそろそろパートナーを連れてパーティに参加するのも経験していた方がいい、というアリサのお父さんの言葉に従っているだけで事の真相は知らされていない。

 そして俺はタキシードに着替えてアリサのパートナーとしてパーティに潜り込んだわけである。
 ちなみに護衛に魔術を使うのは問題なのでちゃんと魔術を使わないでいいように装備も用意してもらっている。
 武装としてどこからか用意してくれたFN社製、ポケット・モデルM1906がポケットに入っている。
 確かに必要だとは思うが……小学生に銃を持たせるのはどうかと思う。
 あとアリサを狙う奴を見つけた時に知らせるために袖口に送信用のマイクが取りつけられており、何かあれば外にいる面々に一方的ではあるが連絡できると仕組みとなっている。

「どうしたのよ? ボケっとして」
「いや、やはりなれないなと思ってな」

 色々と考え事をし過ぎたのかアリサから怒られたので意識をアリサに向ける。
 それにしてもこういうとき解析とはなかなか便利がいい。
 なにせ飲み物や食べ物の毒物の混入は勿論、暗器の類を持っているのもわかるのだ。
 
「ほら、まだ挨拶に行くところはあるんだから」
「はいはい、お嬢様」

 周りに視線を向けながらアリサをせかされエスコートしていく。




side ???

 こんな少女を暗殺しろとはね。

 正直、あまり気はのらないがこれも仕事だと割り切る。

 覗いたスコープ越しに金の髪の少女の姿を捉える。
 そのすぐ傍にいる白い髪の少年。

 しかし俺個人としてはこの少年の方が気になる。

 見た目は少女と年も変わらないだろう少年。
 だがこの少年の視線の動かし方、身体の動かし方に隙が見えない。
 見た目は子供なのにそのありようは歴戦の戦士の様……

「はっ、馬鹿馬鹿しい」

 なにをわけのわからん事を考えているんだ俺は?

 さて、そろそろ時間だ。
 この気の乗らない仕事を終わらせるとしよう。

 この仕事が終われば雇い主の待つ船で報告して金を受け取り、海外に飛ぶだけだ。
 しかも空港までの送迎付き。

 改めてスコープを覗く、其処には先ほど変わらない少女と少年の姿。
 ただ明らかな違いがただ一つある。
 こちらを見つめる少年。

「眼があった?
 バカな、この距離だぞ」

 あの少年から俺の位置まで直線距離約850メートル。
 さらに今日は曇りで月明かりもない。
 黒の服とフードを被っている俺をスコープも使わずに捉えた?

「ただの偶然……」

 その時。少年の口がゆっくりと動いた。


 み

 え

 て

 い

 る

 ぞ


 背筋に寒気がした。
 まずい、気が乗らないが楽な仕事だと思っていた。
 だが違う。
 アレは違う。
 俺なんかが仕留められる相手じゃない。
 それ以前に対峙してはならない相手だ。

 俺の驚いた表情が面白いといわんばかりにこちらを見ながら笑い、グラスを傾ける子供の皮をかぶった化け物。

「ッ!! こんなの割にあうか!」

 こんな相手がいるなんて聞いてない。
 すぐに逃げるべきだ。
 俺が逃げようと立ち上がろうとした時、一陣の風が吹く。
 
 それと共の奔る衝撃。

「ガッ!」

 薄れいく意識の中で
 「なんでこのご時世に刀を持った奴が居るんだ」
 そんなどうでもいい事を考えながら俺の意識は消えた。




side 士郎

 喉を潤しながらこちらを狙っていた狙撃主が消えた一部始終を見ていた。
 狙撃主を確保し手を振る恭也さん。

 さすが恭也さんといったところか。

 俺がグラスを口に持っていったのは狙撃主の存在を知らせるため。
 知らせてからそんなに経っていないというのに即座に現れた恭也さん。

「……あの人も存外とんでもないよな」

 そんな事を思いつつある警戒続けながらアリサとパーティを楽しんだ。



 そして、無事にパーティも終わり、両親の傍にいるアリサに

「ちょっと外すな。すぐ戻るから」

 と伝えて、外にいる恭也さん達と一旦合流する。
 わざわざアリサの傍を離れたのは外の恭也さんから手招きで呼ばれたからだ。

「状況は?」
「依頼人は逃げた。相手は船だ。
 頼めるか」

 先ほど確保した狙撃主が居たビルの屋上で恭也さんの言葉に内心ため息を吐きながら頷く。
 屋上から海を見下ろせば一隻の船を確認する事が出来る。
 距離約3キロ。
 この距離なら十分に俺の射程内だが、さすがに弓を使うわけにもいかない。 

 つまりは使いたくなかった忍印の銃器が登場してしまうということである。

「士郎君、なにか嫌そうな顔してない?」
「イイエ、ソンナコトアリマセンヨ」
「なんかすごく棒読みな気もするけどいいや」

 すごく楽しそうな忍さん。

 で其処にある二つのトランク。
 一つはそれほど大きくないが、もう一つはやけに長い。

「じゃ~ん。ちょっとあるモノを参考に作ってみました。
 30mm対物砲!! 弾は炸裂徹甲弾と爆裂徹甲焼夷弾。
 主力戦車を除く全ての地上・航空兵器を撃破可能よ」

 ……また予想の斜め上をいくモノが出てきた。
 まさか銃ではなく、砲が出てくるとは。
 こんなモノ、人間が撃てるのかと首を傾げてしまう。

「一応、使わせてもらいますけど、エンジン潰せば大丈夫ですよね?」
「ああ、知り合いの警察の人に頼んであるからね」

 士郎さんの言葉に頷くが、警察の人っていいのか?
 船に銃痕……砲の場合は何というのだろう?
 どちらにしろ攻撃跡があったら何かと問題な気もするが、大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。
 もう気にしないでおこう。

 銃を準備する俺に爆裂徹鋼焼夷弾を差し出す忍さん。
 …………これ撃ったらエンジンどころか船が吹き飛ぶだろ。
 なにも見てない事にして鞄から炸裂徹鋼弾を装填し、撃つ準備をする。

 そして、撃つ前にアゾット剣を懐から出すように投影して防音の簡易結界を張る。
 こんなもん防音結界も張らず撃った日には間違いなくこっちが警察に追われる事になる。

「む~、なんで使ってくれないのよ」

 何か聞こえるが無視だ。

 銃、もとい砲を構える。
 さすがに砲を撃つのは初めてだがイメージは問題ない。
 そして、引き金を引いた。


 結果を言うなら船のエンジンは吹き飛び、暗殺を企てた首謀者達は全員捕まった。
 もっともエンジンを吹き飛ばすついでに船に大穴が空いたのか逮捕された時は半ば船は沈没していた。
 それ以前の問題としては音が凄まじい。
 正直、鼓膜が破れるかと思った。

 そして、アリサの両親からお礼と物騒なバイトの料金を貰い、月村家と高町家の皆と共に海鳴に戻る。
 アリサのお母さんに部屋を用意するから泊まっていくよう言われたのだが、久々のバニングス家の団欒を邪魔したくなかったので遠慮した。

 そして家まで送ってもらった時

「今日貸した奴はあげるから、これもよかったら一緒に使ってみて」

 そういって渡された二つのトランク。
 まだ開けていないトランクには正直いえばどんなものが入ってるのか考えたくもなかったが

「恭也もノエルも銃器は使わないのよ。
 使ったら感想教えてね。
 説明書も入ってるから」

 ということで押し付けられた。

 ちなみに普通サイズのトランクを開けたら其処には黒い巨大な拳銃が鎮座していた。

 こうして衛宮家に新たな銃器が三丁加わった。




 後日

「あんた、パパ達になに言ったのよ!!」

 学校でアリサに詰め寄られる俺がいた。

「何の事だ! 俺には何の覚えもない!」
「じゃあ、これはなによ!!」

 そう言って突き出される写真。
 そこには

「士郎君だね」
「うん。士郎君だね」

 パーティの時にタキシードに身を包んだ俺の写真。
 アリサの突き出された写真の意味がわからず首を傾げるすずかとなのは。

「あの後パパ達にお婿さん候補としてどうだって言われたのよ!!!」
「「えええっ!!!!!」」
「「「「「「「「「「「「「「「「衛宮っ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」
「俺は知らんぞ!!」

 そうして始まる鬼ごっこ。

 しばらく平穏な学校生活は送るのが難しかったのは言うまでもない。 
 

 
後書き
皆さま、2012年最後の日をどうお過ごしでしょうか?

私は特に変わった事をするでもなく、のんびりと休暇を楽しんでいます。

この幕間とオリジナル宝具の設定話で今年の更新は最後になります。
貫咲賢希様から多数のイラストを追加で頂き、それも合わせてアップしております。

そして、この一年間、F/mgを読んで下さった皆様に改めてお礼申し上げます。
本当にありがとうござました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

それではよいお年を 

 

第四十話 目覚めの時

 太陽の光は沈み、街を染めるのは人工の光。

 その街の光をビルの上から見下ろす。

「やはり直接確認しないと細かいところまではわからないか」

 ため息を吐きつつ、踵を返す。
 先ほどもまで見ていたのはゲイ・ボルクを使いジュエルシードを破壊した場所。

 霊脈が少し淀んでいるので詳しく確認したいのだが、街のど真ん中。
 人払いの結界を張るにしてもこんな街中じゃ難しい。

「こういうときはユーノが使っていたような結界が便利でいいんだが」

 もっともこの個所の感知能力が若干悪くなっているだけで結界に直接何らかの影響があるわけではない。
 プレシア達が戻ってきたら協力してもらうとしよう。

 あの事件、ジュエルシードの事件も終わりフェイト達が本局に行くという事で別れてから半月程が過ぎた。

 もう事情聴取やら始まっているだろうし、裁判が始まれば俺自身も証言のために短期間ながら向こうにいく事になる。
 正確な日付はわかり次第リンディさんが連絡をしてくれる予定だが、それがいつになるか予想もつかない。
 
 そして、俺はアレから特に急ぎの用事があるわけでも厄介事が起きたわけでもないのでのんびりと霊脈の状態を調べているのだ。
 なにぶん小学生とはいえ学生である上、俺自身バイトやら何やらで色々あるうえに他にも優先事項があるので、なかなか時間が取りにくい。
 その事を考えると翌日、学校が休みである金曜の夜が一番作業がしやすいのだ。

 もっとも作業をするといっても三時ぐらいには家に戻り、バイトに備えて多少眠る。

 毎週金曜日の恒例となったジュエルシードを発見した個所を巡っていき、海鳴公園に辿りつく。
 海からの風が外套を靡かせる。

 その時

「魔力?」

 空気が変わった。
 濃密な魔力反応。
 その場所は

「あんな住宅街で?」

 なのはとユーノが出会って初めてジュエルシードと戦った場所も住宅街だった。
 俺とは出会わなかったがアスファルトなどが破壊されていた場所でニュースにもなっていたので知っている。
 だがそことは位置が異なる。
 ジュエルシードとは関係はなさそうだが、これだけの魔力反応。
 ともかく確認するのが先か。

 一気に跳躍し、魔力を感知した場所に急ぐ。


 そして、魔力の発生場所の付近で見つけた者達。

 まだ夜は少し肌寒く感じる時もあるこの時期に薄着の黒の衣服を纏った二人の女性と一人の少女と耳を生やした大柄な男。
 そして男の腕には意識がないのかぐったりしている少女。

 あの少女の事は知らない。
 そしてあの者達が何者かも知らない。
 だがあの四人は明らかに一般人じゃない。

 意識を周りに向ける仕草、露出した肌からもわかる鍛えられた体。

「む」

 その者達が進もうとする道に降り立つ。
 その距離二十メートル。
 遠距離戦の間合いにしては近すぎるし、近距離戦の間合いにしては一歩では踏み込みきれない位置。
 向こうもこちらを警戒して動かないのでゆっくりと口を開く。

「その子をどうするつもりだ?」
「……」
「答える気はない……か。
 なら質問を変えよう。貴様ら一般人ではないようだが何者だ?」
「……」

 その質問にも答えず、髪をポニーテールにした女性が半歩踏み出す。

「だんまりか。
 人形では無いのだから何とか言ったらどうだ?」
「……答える必要がないと思いますけど」

 さすがに人形という言葉が気に入らなかったのかショートヘアーの金髪の女性が初めて言葉を紡いだ。
 そして、ポニーテールにした女性は首にかかるペンダントを握るとペンダントは一振りの剣になる。

「なに?」

 月の光を反射する業物と思える剣。
 鍔の辺りに妙な機構が付いているようだが、俺が驚いたのはそんなことではない。
 俺はこれと同じような光景を見たことがある。
 彼女が使っていたのは戦斧だったが

「デバイス……貴様ら管理局の人間か。
 ここが魔術師の管理地だと知っての行動だろうな?」

 管理局が海鳴に入る際は必ず連絡をするようにはリンディさんを通して伝えている。
 だがその連絡はない上に意識のない少女を誘拐しているようにしか見えない行動。
 警戒するには十分だ。

 しかし彼女達の返答は意外なものだった。

「我らは管理局の者ではない。
 我らヴォルケンリッター、主を守る騎士だ」
「それに私達は魔術師なんてもんは知らねえ」

 ……また厄介な事になったかもしれん。
 なんかジュエルシードの事件の時も同じセリフを言った覚えがあるぞ。

 まあ、それはともかく管理局でなければ魔術師を知らないのも頷ける。
 それに彼女達の主というのも気になる。

「確認するが君たちはいつからこの街に?
 そして主は誰だ?」
「我らが主はこの方」
「私達が目覚めたのはつい先ほどの事よ」

 ………つまりはアレか。
 あの魔力は彼女達が目覚めた時に漏れた魔力であり、その主は男の腕に抱かれる少女で 誘拐というのは俺の勘違いだと

 ふと元いた世界で
「お主は妙なモノを引き寄せる能力でもあるのかもしれんな」
 とはっちゃけ爺さんが楽しそうに言っていたのを思い出した。
 もっともこれまでを振り返ると案外その通りかもしれないと思ったりしなくもない。

「とりあえず何が目的でどこを目指しているのか教えてくれ。
 少なくとも今現在の状況では俺は君らが戦いを挑んでこなければ戦う気はない」
「信用しろというのか?」

 疑うような視線で剣を構えた女性が睨んでくるがそれも仕方がない。
 正直この状況では俺も彼女達を信用できないし、彼女達も俺を信用できないだろう。
 だが

「信用できないのはわかる。
 そして魔術師について知らないのも無理はない。
 ああ、無論魔術師について説明しても構わない」
「我々が知らないという根拠は何だ?」

 少女を抱いた男が警戒しながら尋ねてくる。
 残念ながら根拠と問われれば明確な根拠はない。
 だが今までの状況から当てはめるなら

「管理局ですら魔術師の存在を知ったのが半月程前の話だからだ。
 そして、この土地は俺が管理しており、管理局も簡単には手が出せない。
 だが個人的な管理局の知り合いはいる。
 デバイスを使っていることから管理局の事も知らないわけじゃないだろう?
 これ以上面倒事を起こすというなら管理局に引き取ってもらうが」

 管理局の人間じゃないとしてもデバイスを持っているなら存在ぐらいは知っているだろう。
 わざわざ管理局に引き渡すなどという面倒はやりはしないが、脅しとしては有効だろう。
 少なくとも無理矢理でも話し合う状況を作る事は出来る。

「だが逆に君達の事を話してくれるなら、敵ではないというなら手を貸そう」

 俺の言葉に四人が何やら頷き合い、女性が剣を収める。
 どうやら念話かなにかで話し合ったらしい。
 俺も使えると便利なのだろうが、こればっかりは才能がないので仕方がないか。

「いいだろう。その言葉信用する。
 だが裏切ったら」
「ああ、斬るなり好きにすればいい。
 で、彼女を連れてなにをする気だ?」

 頷き合い一歩前に出るショートヘアーの女性。

「えっと私達の主なんですけど魔法も何も知らないみたいで気絶してしまって」
「単なる失神なら問題じゃねえけど、何かあったら悪いだろ」

 ショートヘアーの女性に続けるように話す少女。
 つまり話を総合すると

「主の状態を確認するために病院に行こうとしたのか?」
「ああ、主の部屋に薬もあったしな」

 薬があったというなら何らかの持病を持っている可能性もあるか。
 今日出会ったばかりの少女にずいぶんな忠誠心だ。
 だが彼らの恰好はかなり怪しい。
 全員黒のインナーのような服のみに男に限ってはアルフのような耳と尻尾付きだ。

 下手に病院に担ぎ込もうなら通報されかねない。
 いや、身元確認出来るモノを持ってなければ間違いなくされる。

「なら病院に案内する。
 だがその前に其処の男、耳と尻尾を隠せるなら隠せ。
 表向きは魔術、いや魔法の存在は知られていない。
 あまりに目立ち過ぎる」
「む、心得た」

 あと眠る少女の恰好も問題か……
 寝巻一枚の恰好では肌寒いだろう。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 投影したのは毛布を一枚と三つのサイズ違いの女性物の上着と男性物の上着が一枚。

「転移?」
「残念ながら違う。俺の専門の魔術だ。
 質問には後で答える。彼女に毛布を、それとそれぞれ上着を着てくれ。
 いくらなんでもこの時期にその格好は目立つ」

 まあ、俺の赤竜布も十分目立つのだが気にしないでおこう。

「彼女の飲んでいる薬はあるか?」
「あ、はい。これです」

 ショートヘアーの女性が薬の袋を渡してくれる。
 その袋には『八神はやて』という彼女の名前と海鳴大学病院の文字。
 海鳴大学病院か。
 あそこならこの時間でも救急病院だから対応できるだろう。
 それに彼女の飲んでる薬も単なる風邪薬ではないようだし、急いだ方がいいか。

 彼女達が服を着たのを確認し

「なら病院に案内する。君らは飛べるか?」
「ああ、問題ない」

 ポニーテールの女性が平然と答える。
 彼女と話しているとかつての相棒である彼女を思い出すな。
 そんな事を思いつつ

「それならついて来てくれ」

 一気に跳躍し近くの家の屋根にのる。
 俺は空こそ飛べないが速度は出せる。
 空を飛ぶのではなく跳ぶ事で案内しようとする俺に彼女達は少し驚いたようだが、彼女達も空にあがる。
 それを確認し、跳躍し横目でちゃんと付いてきているのを確認しながら最短距離で病院を目指す。
 
 そして、病院の近くで大地に降りて、病院の救急外来に駆け込んだ俺達であった。 
 

 
後書き
あけましておめでとうございます。

本話からA's編です。
といってもアニメA's1話に入る前に無印~A's編のような話になりますが。

2013年もどうぞよろしくお願いします。

来週にまたお会いしましょう。

ではでは 

 

第四十一話 信用で誤魔化せる事もある   ★

 翌朝、八神さんが眼を覚ましたのだが、其処からが大変だった。



「はやてちゃん、この人たち誰なの?
 いまいち言ってる事があやしいんだけど」
「えっと……その……」

 石田先生にそんな質問をされて返答に困っている八神さん。
 無理もないと思う。
 なにせ八神さんから見れば、名前も知らない女性二人と男性一人、自分と同い年ぐらいの男の子、さらに自分より年下に見える少女が一人がベットの傍で眼を覚ますのを待っていたのだ。
 そして石田先生が怪しむのも無理はない。

 その原因が俺達に対する質問の受け答えなのだが、このやり取りで怪しむなという方が無理だ。

 昨晩、俺達が八神さんを病院に運び込んだ後、質問されるのは当然の流れであった。
 特に八神さんの担当医である石田先生にとっては気になるところだろう。
 ちなみに俺の事は

「八神はやてさんを運んでいる彼らに病院の場所を聞かれたので案内しただけです」

 という事で偶然道で出会った子供という事にした。
 もっとも時間が夜中であり、そんな時間に小学生が出歩いている事自体を怪しまれたのは諦める。

 問題は彼女達、本人達曰く八神はやてを守る守護騎士たちである。

「で貴方達ははやてちゃんとどういう関係?」
「我らは守護騎」
「ごほんっ!! 八神さんの親戚で訪ねてきたらしいんですが」

 ポニーテールにした女性の言葉を遮るように咳払いをして話を捏造する。
 彼女が俺を軽く睨むが

「そうですよね?」

 それを無視して頷くように眼で合図する。
 それに一番最初に反応してくれたのはショートヘアーの女性。

「は、はい。実はそうなんですよ」
「はやてちゃんの親戚?
 聞いた事もないのだけど」

 そりゃ嘘だから聞いた事もないでしょう。
 とにもかくにも話ははやてが眼を覚ましてからということで

「と、ともかく詳しい事はね」
「は、はい。あるじゃなくてはやてちゃんが眼を覚ましたら説明しますので」

 と誤魔化せたかも怪しい会話でその場を凌いだのだ。

 当然医師の方々から見れば怪しい人物達と八神さんを放置するわけにもいかなかったのか交代で医師が部屋に同席していた。

 まあ、こんな受け答えで信用を得る事が出来るとは微塵も思ってもいないが

 そのあと八神さんが目覚めるまでの間に

「飲み物を買ってきますよ」

 という言葉と共に眼で合図し

「なら私も」
「ああ、付き合おう」

 病院の廊下をショートヘアーの女性とポニーテールの女性と共に歩きながら話しをする。

「はあ、いくつか注意しておく事があるから部屋にいる彼女と彼にも伝えておいてもらいたいんだが、念話の類は使えるよな?」
「はい。問題なく」
「なら頼む。
 えっと……」

 そしてこの時まだ名前も聞いてない事に気がついた。
 俺としても八神さんの事ばかり気にしていて完全に抜け落ちていた。

「ちゃんとした自己紹介が遅れたな。
 この地を管理している魔術師、衛宮士郎だ
 名前を教えてもらえるかな?」
「主はやての守護騎士、ヴォルケンリッターの将、シグナム」
「同じくヴォルケンリッターのシャマルです。
 部屋にいる女の子がヴィータ、男性がザフィーラです」

 四人の名前を確認し、最低限医師の方々に話すとまずい事は伝えておく事にした。
 間違えて彼女の守護騎士だの言おうものなら下手をすればそのまま警察を呼ばれて身元確認される。
 彼女達が身元書確認できる物を持っているとは思えないし、絶対に面倒な事になる。

 最悪、魔眼の暗示という手もないが、これは奥の手だな。
 それに暗示をかけるには対象人数が多い、夜勤をしていた医師に看護士の方々。
 対象全員が集まる機会などないし、暗示をかける相手に漏れがあれば、話の食い違いも出てくるのであまり使いたくはない。

「まずこの世界だが、魔術や魔法の存在が公になっていない。
 守護騎士や魔法に関することに関わる話は八神さんの家に帰ってからにしてくれ」
「心得た。
 あと私達としても色々聞きたい事があるのだが」
「魔術についてか?」
「ああ」

 シグナムさんの得体の知れないモノが気になる気持ちはわかる。
 だがそんな話をこんなところでするわけにもいかないし、八神さんが眼を覚ませば多少なりとも説明は必要になるだろう。

「魔術についてはあとでちゃんと説明する。
 今は八神さんが眼を覚ました後、誤魔化す事を考えてくれ。
 もし警察を呼ばれでもしたら厄介だからな」
「あ、はい。わかりました」

 全ては八神さんが眼を覚ましてからという事で保留にしたのだ。



 まあ、というシグナムさん達と秘密の会話をかわし、夜は明け冒頭に戻る。

 冒頭に戻るのだが、八神さん本人から言わせれば自分の知らない間に事態が進んでいるのだから理解が追いつくはずがない。
 その時

「え?」

 八神さんが何かに驚いたような声を上げる。

「はやてちゃん?」

 それに首を傾げる石田先生。
 シグナムさんに視線をやると頷いたので念話で話しかけたのだろう。

「えっとこの人達私の親戚で」
「親戚……ほんとだったのね」

 石田先生の気持ちもよくわかります。
 あの誤魔化し方では真実だという方が驚くのは当たり前だ。

「遠くの祖国から私の誕生日のお祝いに来てくれたんですよ。
 その来てくれるとは思っておらんで……その……驚きすぎたというか………その…………そんな感じで、なあ」

 八神さんの表情が引き攣ってるし、石田先生は信じられないようで首を捻っている。
 ……誤魔化すのは無理かもしれない。

「は、はい。そうなんですよ」
「その通りです」

 苦笑しながら同意するシャマルさんと表情も変えずにきっぱりと頷くシグナムさん。
 二人の性格がよくわかる。
 もはや誤魔化す事は無理だろう感じているのでそんな関係ない事を考えながら現実逃避する。
 八神さんも同じ心境なのか引き攣った笑顔を浮かべていた。

 そして、信じられない事が起きた。
 この誤魔化しでなんと、信じてくれたのだ。
 恐らく八神さんに信用があるおかげだろう。
 でなければ絶対に信じるはずがない。

 それから病院を後にする俺達はそのまま八神さんの家に向かい、ソファーに座り向かい合っている。

 もっともシグナムさん達は始め座る事を拒んだのだが八神さんのお願いで座る事になった。
 そして、改めてお互い自己紹介をする。

「じゃあ、士郎君はシグナム達の仲間やないんやね?」
「ああ、シグナムさん達とは昨日会ったばっかりだ」

 どうやら八神さんは自己紹介するまで俺もシグナムさん達の仲間と思っていたらしい。
 その辺はシグナムさん達と出会ってすぐに気を失ったのだから仕方がないのかもしれない。

 その後、そのままシグナムさん達の話になった。
 話の内容をまとめると

 ・シグナムさん達は『闇の書』と呼ばれる本の守護騎士
 ・主は『八神はやて』

 という二点。
 もっともこれは俺という完全に信用におけるかわからない人物がここにいるためだろう。
 しかし、この守護騎士プログラムといったかサーヴァントとどこか似ている気がするのは気のせいか?
 
 続いて俺の魔術の説明になったのだが、気になったのが八神さんだ。
 今までとは違う非日常。
 混乱しているのではないかと思い

「八神さん、大丈夫か?
 混乱しているなら後日説明するけど?」
「八神やなくて、はやてでええよ。
 それに細かいところはようわからんけど、混乱はしとらんから大丈夫や」
「了解した。なら説明するよ」

 意外にもしっかりと受け入れていた。
 そして俺も魔術に関して説明を行うが、俺が話せる事もたかが知れている。
 シグナムさん達が俺を完全に信用しきれていないと同じように俺も信用しきれいていない。
 当然話した内容も

 ・魔術というシグナムさん達が使う魔法とは違う神秘を使う
 ・この地の結界を張り管理している管理者という立場
 ・魔術は物を複製する投影が使える

 の三つだ。
 投影に関しても実際に見せてしまったので簡単に説明したが、どれくらいのレベルで出来るかなど詳しい事は一切話していないし、勿論宝具に関してはなどは触れてもいない。
 それに多少の信用のためならいいかと思ったのも事実だ。

 もっとも俺自身の魔術に関する事ははやてにはあまり関係ない。
 どちらかというとシグナムさん達に俺の事を説明する意味合いが高い。

 そして、シグナムさん達と俺の話を聞いたはやてはというと

「はあ、やっぱり全部は理解できへんけどいくつかわかった事がある。
 士郎君が魔術師やちゅうこと。
 そして、闇の書の主として守護騎士皆の衣食住、きっちり面倒見なあかんという事や」

 …………いや、そういう問題か? これって。
 まあ、確かにシグナムさん達は行くところがないし、はやての家に住むのは間違いないんだろうけど。

「幸い住むとこはあるし、料理は得意や。
 士郎君、悪いんやけどそこの棚からメジャーとってもらえるか」
「……あ、ああ」

 はやての言葉に首を傾げながらもいわれるまま台所の棚からメジャーを取り出し渡す。

「ありがとう。
 ほんじゃ、皆のお洋服買おうてくるからサイズ測らせてな。
 士郎君。今日って時間あるか?」
「ん? 十二時から予定があるが、それまでなら」

 十二時からは翠屋のバイトが入っている。

「なら悪いんやけどお買いものにつきあってくれん?」
「ああ、かまわないぞ」

 俺の返事にはやては満面の笑みを浮かべて

「ほなちゃちゃっと測ってしまおう」
「「「「…………」」」」

 はやての行動に呆然としながらメジャーで測られる四人とその光景を呆けた顔で眺めてている俺であった。 
 

 
後書き
すいません。

ちょっと遅くなりましたが、無事更新です。

夕方からあまりにも眠たくてひと眠りするつもりが起きたらとんでもない時間に。
これが更新が遅くなった理由です。

夕方からのひと眠りは駄目ですね。

アニメでは第六話ぐらいの話ですが、F/mgでは回想という形でなく進めていきます。
しかし、A'sのこれからの話も書いているのですが、登場人物と個人戦が多くて書きづらい!
どうしても原作にはあった戦闘内容はカットする必要は出てきそうです。

それではまた来週

ではでは 

 

第四十二話 買い物とこれから

 今、俺はデパートの婦人服売り場にいる。
 なんでこんなとこにいるかというと

「う~ん、士郎君。
 これ、シャマルにどうやろ?」

 はやてのシグナム達の生活用品の買い物に付き合っているためだ。

 とぼんやり考え事をしているわけにもいかないので、はやてが差し出したロングスカートとシャマルのイメージを合わせて返事をする。

「シャマルにか?
 うん。いいんじゃないか」
「そかそか、シグナムもおんなじ感じのスカートはどうやろ?」
「シグナムは……動きやすい服の方が好むように思えるが」
「そう言われるとそやな。
 それじゃ、向こうのパンツスタイルの方やね」

 楽しそうに買い物をするはやての後ろをついて行く。

 あの後、はやてがシグナム達のサイズを無事測り終わり、俺と共にデパートに繰り出したのだ。

 もっとも出かける時に俺と二人は危険だからとシグナムとヴィータに警戒されたのだが。

「シグナムさん達のいいたい事はわかるが」
「ならば」

 だがここで援護してくれたのが

「でも今の恰好やったら目立つやろ」
「それに今まで衛宮の行動を見るに主に手を出すとは思えん」
「私もザフィーラに賛成です」
「だけど主と二人っていうのは危なすぎんだろ」
「そうだ。万が一というのがある」

 はやてと意外にもザフィーラとシャマルであった。
 それでも納得できないヴィータとシグナム。
 まあ、いきなり現れた別の魔術という技術を持つ人間を完全には信用できないだろう。

「目立たない格好でついて来れるなら別にかまわないが」

 俺も外套を脱いでいくつもりだ。
 さすがにこの時期にコートのようにも見える外套を着て日中街を歩こうとは思わない。
 中に来ているのは黒のズボンと長袖のシャツで全身黒だが特別戦闘用というわけではないので其処まで目立つ事はないだろう。
 一応シグナム達も病院に向かう時に投影した上着があるが、さすがに日中歩くには目立つ。
 特にシグナム達女性陣は短いスカートに背中が出ていたりと露出度が高い。
 注目を集めるのは間違いない。
 
「ならば俺がついていこう」

 そう進言したのはザフィーラ。
 確かに男性なら女性ほど目は惹く事もないだろうと思っていた。
 光に包まれるザフィーラ。
 そしてそこにいたのは一匹の蒼き狼

「この姿なら問題はなかろう」

 どうやらアルフのように人間形態と狼形態をとれるらしい。
 だけどこれにも問題がある。
 なぜなら

「店内のペット同伴って大丈夫か?」
「ちょっと難しいやろな」

 だよな。
 はやての言葉にシグナム達も眉をひそめる。
 そんな心配も

「人が多い店の中では余計な心配はいるまい。
 衛宮が人目を惹くことを嫌っているならなおさらだ」

 というザフィーラの言葉に納得していた。

 ちなみに今は呼び捨てにしているのは家を出る前にシグナムに
「いちいちさん付をする必要はない」
 という言葉に他の三人も同意したためだ。


 あれからもデパートの中を回り、シグナム達の洋服や生活用品も一通り買い揃えた。
 ザフィーラの分も人間形態になれるのだからという事で一応買っている。

 そして、現在俺は椅子に腰かけてはやてを待っている。

 子供とはいえ婦人服の売り場にいるのは正直肩身が狭いので勘弁してほしいのだが、荷物持ちも兼ねているので黙って従っていた。

 だがここはいくら子供にだからと言って入りたくはない。

「はあ~」

 ため息を吐きながら視線を向けるのは女性の下着売り場。

 洋服を買い終えた俺ははやてに連れられここに辿りついた。
 否、辿りついてしまったというべきか。

「ほな、ここでおわりやから逝こうか」
「いや、俺は男だから! それ以前に字が違う!!」
「いいやんか。まだ子供なんやから」
「お願いです。勘弁してください」

 というやり取りがありなんとか下着売り場に入る事を拒む事が出来たのだ。

 確かにはやてのいうとおり今の俺の肉体は子供だ。
 精神も多少ながら肉体に引き摺られているのも認めよう。
 だがそれでも超えてはまずい事があると思うのだ。
 俺は間違っていない。
 
 そう、自分を納得させていると女性の店員に荷物を持たれ売場から出てくるはやて。
 すぐに荷物を持ち、はやてのとこに向かう。

「お待たせや」
「そんなに待ってないよ。これで全部か?」
「うん。これで完璧や」

 満足そうなはやての笑顔につい苦笑してしまう。
 子供でも女性。
 買い物は好きらしい。
 そして、店員の女性から購入した品の袋を受け取る。

「頑張ってね。男の子」
「……はは」

 なにやら勘違いされているようだが笑顔で受け取っておこう。
 もしかしたら引き攣ってるのかもしれないが。

 そしてデパートの外で待っているザフィーラと合流する。
 ちなみにザフィーラは犬好きの女子中学生達に揉みくちゃにされていた。

 なんでもザフィーラ曰く

「初めは警戒するように近づいてきたが、脅かすわけにもいかず大人しくしているとああなった」

 らしい。
 確かに子供が乗れるくらいの大型犬だ。
 正確には狼だが、犬好きにしてみれば興味があるだろう。
 さらに大人しいとわかれば仕方がないのかもしれない。

 そのあと、荷物をはやての家まで運んだのだが時間が結構迫ってきているので今日は失礼する事にした。
 その時

「あ、もうそんな時間なんか。
 見送るからちょっと待って」
「いいよ。また来るし、今度は俺の家に招待するから」
「でも」
「主はやて、衛宮の見送りは私とザフィーラが」
「う~ん、ならシグナム、ザフィーラお願いな」

 というやり取りがありシグナムとザフィーラに見送ってもらう。
 ちなみにはやての見送りを断ったのはシャマルと共に買ってきた服を出したり、ヴィータに服を着せたりと忙しそうだったためである。 

「衛宮、手助け感謝する」
「気にしないでくれ。もし困った事があったら連絡……といっても手段がないか。
 街に結界を張っているのは話をしたな。魔力を放出してくれればこちらからいく」
「わかった。
 あと近いうちに家を教えてもらいたい。
 何かあるたびに魔力を放出するわけにもいかん」
「それもそうだな。なら……」

 今日と明日の予定を考える。
 両方ともバイトだな。
 明後日からは平日のため学校。
 来週まで時間が取れないか。
 万が一に備えて可能な限り早い方がいいのも事実。
 夜に少し時間を作ってシグナム達だけにでも教えておいた方がいいか。

「夜遅くに使いをやる。
 遅いからはやてを招待するのは後日になるが」
「心得た。
 では待っている」

 シグナムとザフィーラに別れを告げ、八神家を後にする。




side シグナム

 衛宮士郎をザフィーラと共に玄関から見送り、扉が閉まってから

「どう思う?」

 ザフィーラに問いかける。

「主の事か?
 それとも衛宮の事か?」
「衛宮の方だ」

 ザフィーラの言葉に扉を見たまま答える。

 主はやてに対しても色々思う事もある。
 今までの主達に比べ幼い主はやて。
 それに衛宮が傍にいたため闇の書の蒐集についてはまだ話していない。

 しかしそれは今から話せばいい事でありそれほど問題ではない。

 困惑しているのは今までの主と違い、物としてではなく一人の人間として扱うかのような言動。
 話し方も高圧的ではなく、どこか遠慮したような話し方だ。
 今までの主達とは違う接し方に慣れていないというのもあるのだろう。

 そして衛宮に関してはなんとも表現し難いところがある。

 話を聞く限り我々とは全く別の魔法技術である魔術。
 それに初見の時の威圧感と纏ったモノ。
 主はやてと同じ年頃の子供とは思えない。
 だが主や我らに何らかの悪意を持っているのかと考えればそれは低い。
 それどころか病院では我々のフォローをしてくれたりと協力的だ。

「衛宮に関してはしばらくは様子を見る必要はあるかも知れんが、必要なら蒐集についても話した方が良いかもしれん」
「本気か?」

 予想外の言葉にザフィーラを見つめる。
 だがそれにしっかりと頷く。

「衛宮が言っていたであろう。
 管理局も簡単には手が出せないと」
「だが管理局に個人的な知り合いがいるとも言っていた」

 下手に闇の書の情報を与えればそこから管理局に伝わる可能性は高い。

「だからこそだ。
 個人的な知り合いという事は管理局という組織とは繋がりがない、またはあっても薄いと考えるのが妥当だろう。
 ならば初めから話して衛宮の個人的な知り合いに情報がいかなければ」
「なるほど管理局に情報がいく事はほぼないと」
「そうだ」

 確かにザフィーラの考えも一理あるか。
 下手に隠すより管理局に我らの事を漏らさないように頼めばいい。
 さらにうまくいけば協力すら得られるかもしれん。
 
 ……これはうまくいきすぎだろうが。

「シャマルとヴィータの意見も聞いてみるか」
「そうだな」

 とりあえず簡単にだが意見がまとまった時

「シグナムとザフィーラ、なにしとるん?」
「あ、申し訳ありません」
「そんなとこに立っとらんでこっちおいで、シグナムの服も買おうてきとるんやから。
 ザフィーラもおいで」
「はい」

 シャマル達と意見を纏める前にせっかく主が買ってきてくださった服に着替えるのが先のようだ。

 今までとは違う主。
 何かが変わるのかもしれない。

 もし変わるとしてもこの小さき主の笑顔を失う事だけは決してないように

「ほらシグナム」
「はい。ただいま」

 騎士として剣に誓おう。

 誓いを胸に新たな主の下に向かう。 
 

 
後書き
今週も無事更新。

このまま順調に更新出来るように頑張ります。

それではまた来週。

ではでは 

 

第四十三話 穏やかな翠屋

 はやて家を一旦後にし、急いで家に戻り汗を流す。

 これからバイト、特に飲食店のバイトだというのに夜出歩いた後に汗やほこりを落とさずに向かうわけにはいかない。
 一応、夕飯後入浴はしているが、至る所を動き回ったのだからしておいた方がいい。

 ジーンズに長袖のシャツを着て、家を出て翠屋に向かう。

 いつもより若干遅いが遅刻するレベルではないが、軽く早足でいくとしよう。

 バックヤードの入り口から入り、更衣室で執事服に着替え、厨房に入ると美由希さんが洗い物をしている。

「おはようございます」
「あ、シロ君。
 おはよう。今日は閉店までだっけ?」
「はい」
「今日はなのはも手伝いに出てるから、何かあったらフォローしてあげてね」

 今日はなのはも出ているのか。

「了解です」

 美由希さんの言葉に頷き厨房を後にする。

 その後、カウンターにいる士郎さんと桃子さんにも挨拶をして客席をざっと見回す。
 休みの日の昼。
 とはいえまだ十二時を回ってはいないので客席は八割程埋まっているが待っている人がいるほどではない。
 ピークはこれからだろう。
 そんな翠屋の中で

「テーブル三番さん。日替わりランチ二つ、飲み物はブレンドホットとアイスティです」
「は~い」

 お客さまからの注文を受け、エプロンを翻し桃子さんに伝えるなのは。
 なのはが桃子さんに注文を伝えてから

「おはよう。士郎君」
「おはよう。なのは」

 なのはと挨拶をかわす。

「そういえば朝来なかったけど何かあったの?」
「ああ、すまない。あっちの関係で少しな」

 なのはが朝に来なかったというのは裏山での朝の魔法の練習に関するものだ。

 なのははフェイトと別れてからももっと魔法をうまくなりたいという事で魔法の練習を続けている。
 俺もバイトやら魔術の関係がありいつもではないが付き合えるときは付き合っているのだ。
 ちなみにフェイトと別れてからの魔法の練習はあまりにもハードだったのでユーノと考え、トレーニングプランを立てている。

「でなのはの今朝の調子は?」
「う、まだまだです」
「まあ、こればかりは慌てても仕方がないから日々の努力だな」
「はい」

 俺の言葉になのはが若干項垂れている。
 
 というのも今のなのはの基礎訓練がいまいち伸び悩んでいるためなのだ。

 なのはは魔法と関わってからまだ日が浅い。
 特に魔法の使用など実戦が初めてだ。

 先の事件の際にも魔法の訓練はしたらしいのだが、あの時は今と事情が異なる。
 その最たるものが訓練がジュエルシードの回収と普段の生活の合間しか出来ないという時間的な問題である。
 要するに初めての実戦が魔法との出会いになり、そのまま実戦に参加したのだから時間が足りなかったのだ。
 特にフェイトと出会ってからはそれが顕著となる。
 フェイトと出会ってからは砲撃だけでは勝つのが難しい事もあり、新たな魔法の習得が主になっていたのだ。
 ユーノ曰く

「短期間でなのはの戦術幅の向上が最優先だったから」

 とのこと。
 基礎的な訓練がなくともレイジングハートという優秀な相棒となのは自身の膨大な魔力と才能により、魔法の使用自体には何の支障もないのだからある意味すごい事でもある。

 まあ、魔術で基礎的な訓練も何もせずいきなり複雑な魔術など実践しようものなら命がいくつあっても足りないだろうが

 そういうこともあり、なのはの魔法に関して基礎からやり直しているのだ。
 
 今現在は魔力の効率的な運用のためにデバイスを使用しない状態での魔力のコントロール技能向上。
 それと戦いにおいて有効である誘導弾のコントロール向上と飛行の訓練が主体になっている。

「じゃあ、今日はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」

 二人で挨拶をかわして注文票を持ち、動き始める。

 人が増えてくるなか、注文待ちの人を見逃さないように、誰かにフォローの必要がないか周囲に視線を配りながら注文を受け、配膳をして、会計をして、片づける。

「士郎君、ケーキ追加するからフルーツのカットと生クリームお願いしていい?」
「はい。かしこまりました」

 そうしているうちにケーキの追加のために桃子さんのフォローに入りつつ、片手間でカウンター席のお客さんのコーヒーや紅茶を淹れる。

 そんな事をしているとピークも過ぎ、徐々に客足が落ち着いて来る。
 まだお茶をしにくるお客さんやケーキを買いに来るお客さんはいるが、一息つく余裕は出てきている。

「シロ君、そろそろ休憩に入ったらどうだい?」
「そうですね。でもその前にお客さんです」
「こんにちは」
「お邪魔します」

 俺が店の扉に視線を向けると同時に入ってくる二人の少女。

「いらっしゃい。アリサちゃん、すずかちゃん」
「いらっしゃい」

 アリサとすずかを出迎える士郎さんと俺。

「今、席空いてますか?」
「カウンターでよければ、お嬢様」

 すずかの言葉に月村家の時のような言葉で答える俺。
 それに二人は微笑しながら

「ならカウンターで」
「そうね」

 カウンターに腰掛ける二人。
 ふむ。丁度いいか。

「なのは、休憩にはいっていいぞ」
「は~い。あ、アリサちゃん、すずかちゃん」

 俺の呼びかけにバックヤードから出てくるなのはは二人の姿を見つけてうれしそうにする。

「アリサちゃんとすずかちゃんと一緒にお茶にすればいいぞ」
「ありがとう、お父さん。
 士郎君は?」
「俺は」
「シロ君はカウンターを頼むな。
 テーブルは美由希にさせるから」
「ありがとうございます」

 というわけでなのはは翠屋のエプロンを外して、アリサとすずかと一緒にカウンターに座り、俺はカウンターのみの担当として少しのんびりする。

 二人の習い事の話を聞きながらのんびりと過ごしていると、どういうわけか俺の恰好の話になった。

 なんでも

「少年執事のいる店っていう事で口コミで話題になってるのよ」
「うん。お姉ちゃんも大学で話題になってるって言っていた」

 とのことらしい。
 だが話題になるというのも俺の執事服の恰好が翠屋で一人だけというの関係しているのだとおもう。
 翠屋の制服というのは白のワイシャツに男性がズボン、女性はロングスカートに翠屋印のエプロンという落ち着いたものである。
 その中で一人だけ執事服を着ているのだから当然目立つ。

 初めは驚くお客さんが多かったが常連さんにも顔を覚えてもらい、最近ではそんなに驚かれる事もなくなってきているのだが。

「すごいね」
「あまりうれしくない話題の広がり方ではあるが、どうせならなのはや美由希さん達もエプロンじゃなくてメイド服でも着れば、俺だけが目立つ事もないんだが」

 まあ、さすがにそうなると色々話題を呼んで騒がしくなるかもしれないが。
 だが

「それはいいわね」
「桃子さん」
「お母さん」

 追加のケーキを持ってきた桃子さんに話を聞かれていた。
 いや、それ以前にいいってどういう……

「あんまり派手なのはだめだけど、ファリンちゃん達が来ている服ぐらいならいいかもしれないわね」
「お母さん!?」

 急に現実味を帯びてきた話になのはが焦る。
 さすがにメイド服は着たくないのか俺達に視線を向けるが
 
「雇い主の方針に口を出すわけにもいかないだろ」
「私としてはなのはのメイド姿見てみたいし」
「うん。私も」
「そんな~」

 俺達の言葉に項垂れていた。

 ちなみになのはや美由希さんをはじめとする女性従業員のメイド服については試用してみて決めるとは桃子さんの言葉である。

 そして、俺は夕方まで翠屋でバイトして、そのまま夕飯をごちそうになり、なのはの夜の飛行訓練を見て帰宅する。

 しかし最近の翠屋の夕方までのバイトの際には毎度夕飯を御馳走になっているのはどうにかならないのだろうか。
 夕飯の準備の際に桃子さんの技術を見る事も出来るしありがたいのだが申し訳ない。
 もっとも桃子さんに勝てるはずがないので最近はあきらめ始めているのが現状だったりするのだが……俺が桃子さんに勝てる日は……来る気がしないな。

 そんな事に内心ため息を吐きつつ、シグナム達を俺の家に呼ぶための準備を始めた。 
 

 
後書き
というわけで一日遅れの更新です。

もう少ししたらなのはのメイド服登場ですよ。
そして昨日、魔法少女リリカルなのはThe MOVIE 2nd A's のBDを予約して来ました。

楽しみだ&A's編を進めるモチベーションが高まっていい感じです。

また来週お会いしましょう。

ではでは 

 

第四十四話 想い

side シグナム

 空は闇に染まり、リビングから空を見上げる。
 雲はなく、星空が見える空。
 静かな良い夜だ。

 そんな時足音を立てずにリビングに降りてくるシャマルとザフィーラ。

「シグナム、士郎君からの使いは?」
「いや、まだだ。
 主はやては」
「さっき見てきたけどもう眠っていたわ」

 普段は本を読んだりもう少し起きているとのことだが、我らの服の買い物にいったりと色々と疲れたのだろう。
 
 寝室に行く際にヴィータと一緒に寝るとおっしゃったときは驚いたが。

 そんな今日の出来事を思い返していると

「士郎君の使いが来たら誰が行くのがいいかしら?」

 シャマルがふと疑問に思ったのだろう。
 そんな事を口にした。

「……そうだな」

 主はやてに今夜衛宮にあう事は内密にしている事もあって話していなかった。

 我々としても衛宮の事を完全にとはいかぬともある程度は信用している。
 だが衛宮以外に害をなす者がいないとも限らない。
 
「少なくともヴィータはここに残していくが」
「そうね。はやてちゃんを起こしちゃ悪いし」
「ああ」

 同じベットで寝ているのだ。
 ヴィータが抜け出した時起こすのも申し訳ない。
 その意見にはシャマルもザフィーラも同意見の様だ。

 少なくとも私はこの目で衛宮の屋敷などを見てみたい。
 シャマルとザフィーラは

「シャマル、一緒に来てくれ。
 ザフィーラはここに」
「え? 私でいいの?
 ないとは思うけどもし何かあった時私よりザフィーラの方が適任だと思うけど」

 シャマルの言う事もわかる。
 我らの中ではシャマルはサポート役。
 戦えぬわけではないがその能力は劣る。

 だがなによりも気になるのが

「衛宮が街に結界を張っていると言っていただろう。
 となれば屋敷にも張っている可能性が高い。
 もし罠だった場合、私やザフィーラよりもシャマルの方が感知できるだろう」
「確かにそうだな」
「でも士郎君の魔法、魔術がどのようなものか詳しい事がわからないから」
「シャマルが理解できなければ私でも理解出来ないだろう」

 シャマルはサポートのエキスパートだ。
 結界の術式の把握などは私達の中では秀でている。

「わかったわ。
 いつでも行けるように準備はしておくわ」
「ああ。
 ザフィーラも主はやてを頼んだぞ」
「心得ている」

 そしてリビングを後にするザフィーラ。
 恐らく主はやての部屋に向かったのだろう。

 それにしても今までの主とは違い幼いとは思っていたが蒐集に関しては予想外だ。
 夕食を食べた後、闇の書の蒐集について主はやてに説明して返ってきた言葉は

「それはいろんな人にご迷惑をおかけするんやないん?」
「それは……その通りです」
「ならあかん。
 それに蒐集をせんでもシグナム達は大丈夫なんやろ」
「それはそうですが、私達は闇の書の守護騎士です。
 蒐集を行い、主を守るのが役目」
「それでもや。蒐集はあかん。
 シグナム達はここで私と一緒に暮らしてくれればそれでええから」

 というものだった。

 まさか蒐集を望まない主が現れるとは思ってもいなかったというのが本音。

 そしてまるで家族のように接してくださる主はやて。

「どうしたのシグナム? やけに難しい顔をしてるけど」
「いや、主はやての言葉を思い出していた」

 私の言葉に納得したように頷くシャマル。

「アレは驚いたわよね」
「ああ。シャマルはどう思う?」
「私は……はやてちゃんが望まないんだったらそれでいいと思うわ。
 はやてちゃんがただ平穏に暮らしたいというなら私たちはそれを守るだけでしょう」 
 
 今まで見た事もないうれしそうなシャマルの表情。

 シャマルの言う事はもっともだ。

 私がくよくよ考えても仕方がない。

 その時『コンコン』と窓がノックされた。
 だが其処には人影はない。

「シャマル」
「ええ」

 レヴァンティンを右手に握り、警戒しながら窓に近づく。
 その後ろでシャマルがいつでも動けるように構えている。

 そして窓の外を見ると鋼の鳥が窓の周りを飛んでいた。
 私が窓に近づくと下に降り、こちらをじっと見ていた。

 これが士郎の使いか?

 窓を開けて、鋼の鳥に近づく。
 すると

「使いを出すのが遅くなってすまない」

 鋼の鳥が声を発した。

 予想外の事に驚くが、声は多少かすれているが聞き覚えのあるモノ。

「衛宮か」
「ああ、これが家まで案内するからついて来てくれ」
「わかった。玄関に回るから待っていてくれ」

 鳥は頷き、玄関の方に向かう。
 それを見届けて、窓を閉める。

「シグナム?」
「安心しろ。衛宮からの伝書……だ」

 伝書鳩と伝えようと思ったがどう見ても鳩には見えない。
 いやそもそも鳥の形はしているが生きているようには見えない。
 鳥が人間の言葉を発するはずもない。
 これも衛宮の魔術の一種か。

「シャマル、出れるか?」
「ええ。大丈夫」

 シャマルが頷いたのを確認し

(ヴィータ、ザフィーラ、衛宮の使いが来た。
 これからシャマルと衛宮の所に行ってくる。
 主はやてを頼んだぞ)
(おうよ。任せとけ)
(心得ている)

 思念通話でヴィータとザフィーラにも家を出る事を伝える。

 そして、シャマルと共に玄関を開けると先ほどの鋼の鳥が塀に止まってこちらを待っていた。

 さて、衛宮の家でなにが起きるかわからない上に騎士甲冑もまだないが行くとしよう。

 我が主の平穏な生活を守るためにも衛宮が私達の敵でない事を確かめるために




side 士郎

 使い魔の鋼の鳥を操り、シグナムとシャマルを俺の家に案内しつつ二人のお茶の準備を始める。

 シグナムとシャマルの表情はどこか硬い。
 もしかしたら俺が敵になるのかもと心配しているのかもしれない。

 当然俺にはそんな気はないし、俺の立場からすればシグナム達が俺に攻撃を仕掛けるメリットがない。
 そのためそんなに緊張もしていないのだ。

 しかし闇の書か。

 アレは何なのだろう?

 なのは達のようなデバイスとは違うように思える。
 はやての血筋が魔法に携わる家系で、一族の秘術に関して記述された魔導書かとも思ったがその可能性は低いだろう。
 はやての家、八神家に魔術にしろ、魔法にしろその痕跡がなさすぎる。

 それにシグナム達、闇の書の守護騎士。

 恐らく闇の書には何らかの能力がある。

 ただの魔法に関する事が書かれた本ならば守護騎士などという防衛機能はいらない。
 つまりは何らかの自衛手段をもっていなければならないという事なんだが、こればかりはシグナム達から教えてもらわなければ俺の考えでしかない。

 とそんな事を考えているうちにシグナムとシャマルももうすぐ近くまで来ている。

 お茶菓子なども準備は出来たし、出迎えるとしようか。




side シグナム

 あの鋼の鳥はデバイスのような知能があるのか、こちらの様子を見ながら私達を導く。
 こちらの様子を気にしてくれるので見失う心配もないので走る必要ない。

 しばらく歩き見えてきた古めかしい洋館。

 そして、私とシャマルは洋館、衛宮の館に辿りついた。

「シグナム、気をつけて。
 術式がわからないけど結界があるみたい」
「ああ」

 これが魔術師の結界か。

 我々が使う結界であればその結界の狭間というのが明確に眼に見えるものだがそれもない。
 日常や風景の中に違和感なく紛れ込む結界というわけか。

 魔法に関する知識や知らぬ者では気がつかないだろう。 
 いや、知らぬ者でもこの館の纏う空気に近づくのは避けるだろう。
 
 鋼の鳥に従い、館の敷地に一歩踏み出す。

 それと共にわずかに空気がかわる。

 こうして結界の中に入ったというのにどのような結界なのか理解できない。

 ここまで未知のモノだと気が抜けないな。

 だが踏み込まなければ始まらない。

 館に向かって歩みを進める。
 それと共に私達を出迎えるかのように開く玄関の扉。

 扉の中に入っていく鋼の鳥。

 それに従い館の中に足を踏み入れる。
 
 そこには

「ようこそ。シグナム、シャマル。
 歓迎するよ」

 黒のズボンとシャツを着た衛宮が静かに待っていた。

「せっかく来たんだ。
 お茶でもしていってくれ」
「えっと、ならお言葉に甘えて」
「ああ、いただこう」

 衛宮の後ろについていくとソファとテーブルがある部屋に案内される。

 そしてそこには私とシャマルが来る事がわかっていたかのように準備されたカップとポット、それにお茶菓子。
 道案内をしてくれた鋼の鳥もテーブルにいた。
 
 恐らくあの鋼の鳥からの情報を得ていたのだろう。

「そんなに固くならないでくれ。
 こちらにはシグナム達と戦うメリットもないんだ」

 警戒する私達の様子を見てか苦笑しながらカップにお茶を注ぎ、目の前にカップが置かれる。

 さて、これを飲むべきか?
 毒が入っていないと断言できるか?

 そんな時衛宮がお茶に口をつけ、お茶菓子を一つ口に入れ咀嚼し飲み込んだ。




side 士郎

 まったく警戒されたものだ。

 相手の結界の中にいるのだから無理もないのかもしれないが。
 なので客であるシグナムとシャマルよりも先に紅茶とクッキーに手をつける。

 これで信用してくれればいいんだが。
 
 俺がクッキーと紅茶をのみ込んだ後シャマルが

「いただきます」

 紅茶とクッキーに手をつけ、そのあとにシグナムも手をつけた。

「さて、一応ここが俺の家だ。
 なにかあった時はここに来てくれ」
「わかりました。で士郎君は他にも何か聞きたい事があるんじゃないんですか?」

 シャマルがこちらを探るように見つめてくる。

 なるほど俺が何か聞きたいと思っているのはお見通しか

「闇の書の守護騎士、君たちの役割についてだ」
「我々の役割?
 そんなのは決まっている我が主八神はやてをお守りする事だ」

 シグナムがさも当然というふうに応えるが

「俺の中ではそれが引っ掛かってる。
 主を守る存在がいるという事は、主を守らなければならない事態が発生するという事か?」

 俺の言葉に眼を見開く二人。

「昔はそうよ」
「シャマル」
「シグナム、士郎君には少し話しておいた方がいいわ。
 さっき言った通り主をお守りするのが私達の役目。
 だけど」

 シャマルは一度瞳を閉じ、再び俺に向けられた瞳は迷いのない真っ直ぐな瞳。

「だけど今は違う。
 はやてちゃんが言ってくれたから私たちははやてちゃんと平穏に暮らしたい」
「……ああ、私もそして、ヴィータもザフィーラもこの思いは変わらん」
「そうか」

 シグナム達がこうもはっきり言い切るならいらぬ心配か。

「なら俺が聞きたい事はもうないよ。
 なにか困った事があったらいつでも来てくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「お茶、御馳走様でした」

 シグナムとシャマルが立ち上がる。
 そこには来た時のような警戒はなかった。

「じゃあ、また」
「よかったら士郎君も遊びに来てくださいね。
 はやてちゃん喜ぶと思うから」
「ぜひ行かせてもらうよ。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
「ではな。おやすみ」

 シャマルとシグナムを屋敷から見送る。

 確かに闇の書には何かあるのだろう。
 だがそれが何かは関係ない。

 平穏を望んでいるのは間違いないんだ。
 なら俺は手を貸そう。

 リンディさん達には隠し事が出来るがまあ、その辺はどうにでもなるだろうし。

 さて、明日もバイトは入っているし、昨日はほとんど寝ていないのだ。
 霊脈調査もお休みでやすむとしよう。

 カップを下げ、ベットに入り眠りについた。 
 

 
後書き
第四十四話でした。

今週は遅れることなく無事に更新。

A's編でのエンディングをどのように迎えさせるか、最近悩み偽のセリカです。

次回更新も来週に予定通り行える予定。
三日連休あるとだいぶ色々できるのでいいんですが・・・

さてちょっと愚痴が入ってしまいましたが、また来週にお会いしましょう。

ではでは 

 

第四十五話 管理局特別会議『魔術師 衛宮士郎について』

side リンディ

 裁判が始まって早一ヶ月。
 だけど裁判自体はそれほど進んでいない。
 今現在で言えば完全に止まってしまっている。

 原因は二つ。
 一つは事件の規模が規模だけに裁判での事件状況の確認や証拠物品の証明などが多いためという事件規模のに伴う資料の多さ。
 そしてもう一つはアリシアさんが亡くなった事件が関係しているため。

 今回の事件の発端、プレシアさんを行動を起こさせた原因ともいえるアリシアさんが亡くなった魔導実験の事故。

 それに関する証言が管理局に残されたものとプレシアさんの証言が大きく食い違っていた。
 そこで詳しく調べてみると、当時の上層部に関するデータの一部に改竄や消去された形跡が見つかったのだ。
 
 魔導実験の事故の原因がプレシアさんになく、上層部が何らかの圧力等をかけた可能性が高い。
 以上の事から裁判所に再調査を申請し、受理されたため現在再調査中で裁判も一時中断している。

「まあ、そのおかげでプレシアさんとフェイトさんもゆっくり出来るのだからいい事なんでしょうけど」

 先ほどアースラの食堂で親子二人でのんびりとお茶をしている二人をみるとそう思える。

 それに裁判が始まった直後からフェイトさんが管理局の嘱託魔導師に興味を持ってくれたのもうれしい事よね。

 プレシアさんもジュエルシードに関する情報は積極的に教えてくれている。
 これだけ協力的なら海鳴の管理者である士郎君との要請と合わせれば裁判後の自由に動く事が出来る可能性は高い。
 もっともプレシアさんは魔力の大幅封印ぐらいはあるかもしれないけど。

 だけどフェイトさんやプレシアさんの事と同じぐらい、いえそれ以上に難しい件がある。

「正しくは完全に別件というわけでもないけど」

 ため息を吐きながらアースラのブリッジで椅子に腰かけ、私を悩ませている会議を思い出す。



 先日秘密裏に開かれた会議。

 先のジュエルシード事件に関係のある事ではあるけど、内容がジュエルシード事件の裁判の中で話せるモノではない内容のためプレシアさん達はいない。
 この会議に参列している方々もそれなりに肩書や役職をもつ方々のみ。

 そしてこの会議が開かれた訳というのが

「以上が第97管理外世界の魔術師、衛宮士郎に関する情報です」

 管理外世界に存在する管理局の知らない魔法技術を持つ士郎君の存在が管理局に知られたためである。

「リンディ提督。
 彼、衛宮士郎の話では何人か同じ魔導師、いや魔術師の存在がいるように思えるが」
「はい。何人か知っているようですが魔術師の特性上、他の魔術師との関わりが薄いため、現状所在は確認出来ておりません。
 また衛宮士郎自身も所在は知らないと報告を受けております」

 何らかの魔術師組織があれば何らかの接触を考えるのだけど、士郎君の言葉を信じるならその存在はない。
 なにより管理局上層部からすれば少しでも多くの魔術師の存在を把握し、技術を知りたいというのが本音なのでしょうけど。

「だが彼は本当にその世界の出身者か?
 もしかすれば管理局の存在を知っており管理外世界に逃げただけかもしれんぞ」
「その可能性は低いと思われます。
 彼自身が次元世界や管理局、魔導師に関する知識を持っていなかったこと。
 そして、彼の魔術自体が今まで見つかった事のない魔法技術だからです」
「だがその世界の国の上層部はそれを把握していないのか?」
「第97管理外世界において歴史的な観点から見てももはや魔法等の存在はゲームや本、空想の存在でしか知られておりません。
 ですが過去にはその存在が公にあった可能性もあります」

 そう言ってモニターに表示する新たな資料。

「過去には何らかの形で存在したようですが科学技術の向上に伴い消えていった存在と考えるべきだと思います」

 今回の魔術に関する事の説明で役立ったのが、第97管理外世界の過去の資料である。

 第97管理外世界。
 文化レベルBの魔法技術もない世界なのだけどなぜか過去の資料等を調べれば魔法に関するモノが出てくる。

 魔術、錬金術を始めとする魔法技術にそれらを記した魔導書。
 そして魔術師の存在。
 さらに過去の歴史上の出来事には魔女狩りまで存在する。

 どういうわけか存在しないといわれる魔術に関する資料が多いのだ。

 だけど今回の事に関してはそれこそが重要になる。

 第97管理外世界は独自の魔法技術、又はそれに類する技術を持っていたが科学の進歩と共に衰退し歴史から消えた。
 つまり士郎君をはじめとする今現在残っている魔術師たちは、衰退した技術を代々受け継いできた最後の生き残りという推測が成り立ち説得が出来る。

 そう魔術師の存在に関する推測はたてる事が出来る。
 だけどそれが

「ふむ。魔術師の存在については資料不足の上推測するしかないのだ。
 我々の知らない魔法技術が管理外世界にあるという真実で十分だろう」
「そうですな。だがリンディ提督。
 魔術師、衛宮士郎が我々時空管理局に対し技術提供をする気がないというのは本当か?」
「はい。真実です」

 私の返事にざわめく会議室。
 
 そう私達の知らない技術を持つ衛宮士郎がその技術提供を拒む話とは関係がない。

 だけどこうしてざわめきに耳を傾ければ大きく意見は二つに分かれる。
 
 一つは管理外とはいえ魔法技術を有しているのだから管理局に従うべきだと声を荒げるいう者。

 もう一つは表向きには魔法が存在しない管理外世界であり、当の本人が拒否してるのだから仕方がないという者。

 ごく少数ではあるが意見を発さず黙っている者もいるが、意見を発している人数としてはお互いの数はほぼ同じ。
 この均衡を見るとあの情報を削除したのは正解だったみたいね。

 今回の資料で士郎君の魔術師としての確認済み情報として記載から除外したモノというのは、ジェエルシードを破壊したという情報と破壊した槍に関して。

 アースラでの士郎君のとの話し合いの時には、確認済みの資料として記載する予定だった。
 だけどこの会議よりも先に信頼できるレティとグレアム提督と相談して削除した。

 レティ曰く
 「ジュエルシードクラスのロストロギアを破壊する武装の情報など、他の方々がどのような反応するか予測が出来ない」
 との事だけどその通りよね。

 エクスカリバーという規格外を目にしたせいか、直接見ていないジュエルシードを破壊した槍に関する意識があまかったのかもしれない。

 そういった事もあり、ジュエルシードの破壊された事実に関しては管理局が到着前であり、映像等確認する術がない。
 それを利用し、資料から記載を抹消したのだ。

 ちなみにジュエルシードの一つが破壊された事は、なのはさんとフェイトさんの戦いにより発動、次元震を確認したが、その後ジュエルシード崩壊。
 士郎君の関与は不明として、ジュエルシード裁判の資料に後ろの方に少しだけ書いている。

 ちなみに士郎君の会議に使われた資料は

-----------------------------------------------------------------------------
 住所:第97管理外世界 惑星名称『地球』 日本国海鳴市在住
 所属:魔法組織の所属はなし。私立聖祥大学付属小学校 3年1組に在学中
 年齢:9歳
 使用魔術:武器庫からの自身への武装転送
      身体能力強化
  (補足)魔術術式を組み込んだ剣等の鍛冶技術有
 戦闘タイプ:転送武装、自身が鍛えた魔術武器による接近戦および、弓、投擲による遠距離のオールレンジ
 確認武装:盾『プライウェン』
      矢『フルンディング』
      剣『名称不明』
       ・
       ・
       ・
 事実未確認又は詳細不明資料
       ・
       ・
       ・
-----------------------------------------------------------------------------

 という構成になっている。

 その中で一番量が多いのが『事実未確認又は詳細不明資料』である。
 なにせ海鳴に張られている結界、士郎君の研究成果及び研究資料、魔術に関する術式等々、はっきり言えば術式が違いすぎる士郎君の魔術全般が其処にある。
 資料のページ数でいえば『確認武装』が多いのだけど、魔力値や士郎君がアースラ内で話していた内容以外の情報はほとんどが映像資料なため情報量としてはそこまでない。

 一応『確認武装』と『事実未確認又は詳細不明資料』で分けてはいるけど、実質的にはほとんどの資料が『事実未確認又は詳細不明資料』である。

 そして、これらの資料を作るために、記載する情報をまとめたり、資料作成を行っていたクロノやエイミィをはじめとするアースラオペレータスタッフ一同は数日間にわたる徹夜作業で現在はダウン中。
 
 さらにこれとは別に『管理局に関わる意思について』という一ページしかない資料には
 『研究成果の漏洩を防ぐために関わる気は基本的にない』
 という一文のみがある。

 これにもしジェエルシードを破壊した事や破壊した槍の事を確認済の情報に載せようものならどうなるか考えたくもない。
 一歩間違えば強硬な手段にでる可能性も捨てきれない。
 ただでさえジュエルシード事件の首謀者であるプレシアさんとフェイトさん、そして使い魔のアルフさんの三人を研究成果漏洩を防ぐために、引き渡せという要請。

 そのせいで管理局の中には反魔術師派のような派閥までとはいかないが集まりが出来つつある。
 
 ジュエルシードを壊した槍についても、これ以上悪くなりようがない状態になれば、その時に報告する予定だ。

 そして、これらの情報操作ともいえる行動

「レティよりもグレアム提督が予想以上に積極的だったわよね」

 意外というべきなのかレティ以上にグレアム提督が積極的だった。
 なにせ資料の整理や作成などにリーゼ達も協力させてくれたのだ。

 だけど積極的になる気持ちもわかる。

「下手に争いになる事を避けたいものね」

 資料自体に記載していないエクスカリバーの情報やジュエルシード8つと次元断層の消滅に関してもレティとグレアム提督には話しているのだから。

 とはいえ質疑の数は多く私がクタクタになったのは言うまでもない。

「いつもより少し多めでもいいわよね」

 最低限のスタッフを残して大半がダウンしているので、ブリッジから動かなくても用意できるように準備しているお茶とお茶請けに手を伸ばす。
 そして、砂糖をいつもより一杯多く入れて、喉を潤しながら定期報告の資料に目を通し始めた。




side グレアム

 どうにか誤魔化せたか。

「父さま、衛宮士郎の件はどうなりました?」
「ああ、管理外世界という事もあるしばらくは現状維持という事で落ち着きそうだ」

 私の言葉にほっと息を吐くリーゼとアリア。

 だがこれで安心は出来ない。

 とりあえずはテスタロッサ親子を通してだが、接点を潰せば魔術の技術は永遠にわからなくなる危険は冒せないという判断になっため、現状維持となってはいる。
 だが現状維持とはいえ現在管理局内でもっとも注目を集めている管理外世界なのは間違いない。

 その他の問題もある。

「海鳴市に張られている結界については?」
「海鳴に張られている結界自体はただの感知結界。
 といってもこの情報自体がフェイト・テスタロッサと使い魔アルフが衛宮士郎から聞いた情報だからどこまで信用できるか」
「術式は当然のようにミッド式でもないので解析は不能。
 結界の維持についても霊脈とかいう、その土地に宿る魔力を使用してるみたいで、クロノ曰く消すなら土地ごと吹き飛ばすしか現状思いつかないと」
「……厄介極まりないな」

 ジュエルシード事件の少し前からあの子の監視を警戒して中断していたが、海鳴に張られている結界の存在があるのでいまだに再開できていない。
 もしかすれば海鳴の結界は無視できるものかもしれないが衛宮士郎が表舞台に現れたのがあの子の監視を中断した時とほぼ重なるのだ。
 そのため何らかの方法で海鳴に入った場合衛宮士郎に感知されるのか判断できない。
 クロノ達なら知っているかもしれないが、そんな事を尋ねれば逆に怪しまれる。

 そして万が一にでも海鳴に侵入したのが衛宮士郎に知られて戦闘になればリーゼ達がただでは済まない。
 クロノとの模擬戦など記録されていた戦闘映像や次元震の影響ということで存在しないとされた映像など確認できるモノは全て確認した。
 だが正直得体が知れない上、まだ実力を隠している可能性が高いだろうというのが感想だ。
 とはいえ

「アリア、ロッテ、少々危険だが海鳴市に隣接する街から魔法を使わずに海鳴市に入ってみてくれるか。
 時期的に考えて闇の書が目覚めてもおかしくない。
 多少危険でも海鳴に入る必要がある」
「はい。父さま」
「うん。父さま」

 私はあきらめるわけにはいかない。

 なんとしてもこの計画を成功させねばならないのだ。 
 

 
後書き
三日連休なのでいつもより遅く更新です。

休みって素晴らしいですね。
睡眠欲を満たすべく爆睡してます。
寝過ぎて少し身体が痛いぐらいですが・・・

今回は管理局側の動きについての話でした。

それではまた来週
ではでは 

 

第四十六話 事件後の穏やかな日々

side フェイト

 アースラで母さんとアルフと三人で過ごすゆっくりとした日々。

 母さんに魔法のアドバイスをもらったり、クロノに模擬戦に付き合ってもらったりと充実した日々。

 裁判が始まってからも母さんと一緒にいられるし、何も不満はない。

 最近では裁判が一時止まっているので時間もたくさんとれる。

 でも母さんも色々忙しいのか常に一緒というわけにもいかない。
 母さんを待っている時間に士郎から貰った白い剣のペンダントを眺める。

「フェイト、それお気に入りだね」
「え? う、うん。士郎との大切な繋がりだから」
「そだね。あ、そうそうなのはからビデオメール来てたよ」
「ほんと」

 少し前から始めたなのはとのビデオメール。

 映像越しだけど士郎やなのはの近況を知る事は出来るし、私達の近況を話す事も出来る。

 前回来たビデオメールではなのはの友達のアリサとすずかを紹介してもらったり、ビデオ越しだけど少しずつ友達が増えているのがうれしい。

 裁判が終わって海鳴にいったらすずかやアリサとも会いたいし。

 そんな時部屋の鍵が開く音がして

「ただいま」
「おかえりなさい。母さん」
「あ、おかえり。今日ははやいんだね」
「ちょっとね。
 あとフェイト、横になってるのはいいけど髪に寝癖がついてるわよ」

 私の髪を撫でる母さんの手が気持ちいい。
 
 そんな母さんの後ろにいる誰か。
 それは

「お邪魔するわね。フェイトさん」
「リンディ提督」
「ちょっと話があってね」

 どこか少し疲れているような困った表情を浮かべたリンディ提督だった。

 リンディ提督の話というのは、アリシアが永遠の眠りについたあの事件の再調査報告を兼ねて裁判が再開する日程の連絡、そして嘱託魔導師試験について
 だけど

「あれ? 確か……嘱託魔導師試験ってフェイトに裁判終了までに受けてみるか考えてほしいって言っていたアレだよね?」

 アルフの言葉に私も首を傾げる。
 アルフの言うとおりこの話は裁判後っていう事だったはずだけど。

「そう。異世界での行動制限が減るから裁判後に海鳴に移住した時動きやすいようにっておもってたのだけど」
「状況が少し変わったという事ね。
 察するに士郎君に関わる事かしら?」

 母さんの言葉にリンディ提督が静かに頷き、資料がモニターに映し出された。
 そこには『特別会議資料−魔術師【衛宮士郎】について− ≪部外秘≫』と書かれていた。
 士郎についての資料?
 それに部外秘って

「いいのかしら?
 部外秘資料を私達に見せて」

 母さんの言葉ももっともだ。
 部外秘資料の漏洩となればリンディ提督の進退にかかわるもの。
 だけど

「プレシアさんとフェイトさん、アルフさんには関わりがある事ですから。
 この資料にある通り先日完全非公開で特定階級以上の方々が集まって士郎君の事についての会議が開かれました」

 管理局の特定階級以上の人たちが集まって開くってもしかして

「士郎の、魔術師の存在が公になったからですか?」
「ええ、今まで見つかった事のない新たな魔法技術が管理外世界で見つかったからどう対応するか意見が分かれているから」
「まさかとは思うけど、海鳴に攻め込むなんて事は」
「そんな事はしません」

 母さんの言葉に慌てて首を横に振るリンディ提督。
 それに安堵の息を吐くけど

「だけどあんまりいい話でもないんだろ?」
「ええ、アルフさんの言う通りよ。
 確かに管理外世界という事もあるし、魔術師との関わりを断ち切りたくないから現状は今まで通りよ」

 今まで通りということはつまり

「今回の事件と私達を通しての繋がりを維持して、魔術技術を教えてもらえないか依頼だけは出すといったところかしら?」
「そうです」

 リンディ提督が頷いた事に安堵しかけるけど気になった事があった。
 リンディ提督は今「現状は今まで通りよ」と言った。

「リンディ提督、現状って」
「その前にここを見てもらえるかしら」

 リンディ提督がパネルを操作して表示したのは資料の『確認武装』と『事実未確認又は詳細不明資料』の欄。

 エクスカリバーやジュエルシード八個消滅の件や次元断層消滅に関しては原因不明として記載していない事は知ってる。
 それ以外にない情報がある。

 それがジュエルシードを破壊した赤い槍の事。
 そして破壊されたジュエルシードに関しても

 あの資料は管理局が魔術師に強硬姿勢を取るのを牽制するために公開するって聞いていたけど

「会議前に作成した資料をレティとグレアム提督にみてもらったの。
 その中でジュエルシード破壊の件と破壊した槍についてはジュエルシード事件の資料に士郎君の関与不明情報として記載しておくことにしたの」
「なるほどね。
 その情報を受けて管理局が強硬な姿勢をとるのか、現状を維持するのか判断がつかなかったわけね」
「ええ、この情報がなくて強硬な姿勢を取るなら、新たに判明した情報として公開すればいいし、現状維持なら手札としてもっておけるわ」

 士郎、結構綱渡りな状態なんだ。

 今まで見つかった事のない魔法技術という事もあったから管理局との繋がりや情報の公開を気にしてたのは知ってる。
 だけどここまで切迫しているとは思わなかった。

「けどさ管理局が強硬な姿勢を取った場合って士郎もまずいと思うけど、管理局側も結構まずくないかい?」

 アルフがそんな事を言うけど、いまいち意味がわからなくて首を傾げてしまう。
 だけど母さんとリンディ提督はそれに頷く。

「アルフ、それってどういう事?」
「だってさ士郎の奴が使ってた武装の中でこの中にないやつがあるじゃん」
「エクスカリバーの事かしら?」

 リンディ提督がアルフの言葉に首を傾げるが

「いや、そうじゃなくて。
 管理局が来る前、士郎と初めて会った時に」
「あ、そういえばアレもあるんだよね」

 エクスカリバーやジュエルシードを破壊した槍の存在でリンディ提督やクロノの前で話した事はなかったけど、確かにある。
 目に見える威力としてはエクスカリバーには及ばないけど異質な武器が

「フェイトさん、それって」
「えっと私となのは、士郎が初めて会った時に私、士郎と戦ったんですけどその中に宝具のような武器がいくつかあって」
「まだあったのね。
 その事は今は置いておくとしてさっきアルフさんがいってた心配も当然あるわ。
 士郎君はまだ本当の実力を見せていないだろうし、士郎君の武装にどれだけのモノがあるか想像もつかないもの」
「一般の武装局員程度なら少々集めても意味はないでしょうしね」

 そうか。
 士郎の実力なら武装局員と戦闘しても武装局員の方が危ない。
 確かに数では勝るけど非殺傷設定がないSランククラスの攻撃を使う相手と戦いたいはずがない。
 仮に戦ったとしても勝つまでにどれだけ被害が出るかわかったもんじゃない。
 
「嘱託魔導師の件に話を戻すけど、嘱託魔導師試験を受ける気があるなら裁判終了前に受けてもらいたくて」
「フェイトとアルフにも嘱託魔導師、非常勤局員として管理局との繋がりを残しておけば引き渡しがスムーズに出来るというわけね」

 つまり私が嘱託魔導師になれば海鳴に行く際の士郎の負担を減らせる。

「勿論すぐにとはいわないわ」
「いえ」

 もう私の中で答えは出てる。
 私は少しでも士郎の役に立ちたい。
 それにリンディ提督やクロノの力になれる。

「嘱託魔導師試験受けさせてください」

 母さんが一瞬驚いたけど、私の眼を見てすぐに微笑んで頷いてくれた。

「わかったわ。
 なら嘱託魔導師試験の件進めさせてもらうわね。
 ありがとう。フェイトさん」

 それから再来週の裁判があった日に私の嘱託魔導師試験の受験の意思が再確認されて、試験の日取りが決まった。



 そして試験当日。

 受ける嘱託魔導師試験はAAAランク。
 勿論目指すは一発合格。

 本来なら緊張してしまう状況だけど意外なほど緊張していなかった。

 なぜなら再開された裁判で提出されたアリシアがいなくなってしまった事件の再調査報告書。
 それからさらに二週間ほど審議がされ、一昨日上層部の圧力などの関与が認められて今回の事件の発端となった原因が上層部にも責任がある、という事で母さんの減刑が決定的になった。
 その他にも事情を知った管理局の局員の中で子供を持つ方々から情状酌量を求める意見が多数上がったのだ。

 そのため私も安心しきってしまったというか試験だというのにそんなに緊張していない。

 それに試験官はレティ提督だし、試験官補佐としてエイミィがいるし、リンディ提督も推薦者として同席してる。
 勿論母さんもリンディ提督たちと共に試験の様子を見てる。

「では受験番号1番の方、氏名と出身世界をどうぞ」
「ミッドチルダ出身、フェイト・テスタロッサです。
 こちらが私の使い魔のアルフです」
「よろしく」

 それにしてもリンディ提督は推薦者だから当然として、試験官やその補佐官がなかば身内であるレティ提督やエイミィでいいんだろうかとも思ってしまう。

 なんだかあまり緊張していない試験なのに余計に気が抜けてしまいそう。

「じゃ、まずは儀式試験の実践から」
「はい」

 エイミィの言葉に右手にバルディッシュを握る。
 そして左手で首にかかる金色の宝石が埋まっている白い剣を握る。

 冷たい金属のはずなのに温もりを感じる。
 大丈夫。
 
 気を引き締め直して詠唱を始めた。




side リンディ

 フェイトさんの嘱託魔導師認定試験が始まった。

「使い魔持ちのAAAクラス魔導師か。
 筆記試験はほぼ満点。
 魔法知識も戦闘関連に関しては修士生クラス。
 リンディの推薦も納得いくわね」
「でしょう」

 フェイトさんの儀式魔法を見ながら筆記試験の結果にも目を通すレティ。
 プレシアさんも黙って試験を見つめているけど、やはり母親と言うべきかどこか心配そうにモニターを見ている。

「それに雷の魔力変換資質持ちとは珍しいわね」
「それは私似なんでしょうね」

 レティの言葉にどこか苦笑しながらそんな事を言うプレシアさん。
 
 確かにプレシアさんも魔力変換資質持ちだし、こういったところはやはり親子という事なのでしょうね。

「儀式魔法4種、無事確認と。
 じゃあ一時間休憩だからお弁当食べて一休みしてね」
「はい」
「じゃあ、私は行くわ」

 エイミィの言葉に頷くフェイトさん。
 それを確認して部屋を後にするプレシアさん。
 その手にはランチボックスが握られている。
 プレシアさんが部屋からいなくなって

「ここから一時間は団欒タイムですね」
「プレシアさんも忙しいし、フェイトさんの試験に立ちあうからって休みの申請をしていてよかったわ」

 プレシアさんは裁判中にもかかわらずアリシアさんが亡くなった事件の再調査結果、そして局員からの情状酌量を求める意見により既に技術提供という形で一研究者として協力してくれている。
 その分裁判の合間にフェイトさんとゆっくり出来る時間は減ってしまっていた。

 そんな時にフェイトさんの試験当日に休みが貰えるとわかるや否やアースラの厨房と食材に使用許可を求めてきた。

 勿論すぐに許可を出して、今日のフェイトさんとアルフさんのお弁当はプレシアさんの手作りとなっている。

 それに長期滞在のために最低限の調理機器がプレシアさん達の部屋には備え付けられており、時間がある時はプレシアさんが腕を振るっているという話。

「二人の関係も良好そうでなによりね」

 レティの言うとおりね。

 さて私達も食事にしましょうか。




side フェイト

 母さんの作ってくれたお弁当を食べて、午後からの最終の実戦訓練を迎え、試験も完了した。

 それから試験場から移動して今は試験の結果を聞いている。

「魔法技術も使い魔との連携もほぼ完璧。
 戦闘も攻撃に傾倒しすぎだけどまあ合格点」

 戦闘が攻撃に傾倒しすぎっていうのはやっぱり私の戦闘スタイルの問題だよね。
  
 私が得意としているスピード。
 足を止めて防御をして攻撃をするというのはどちらかというとなのはのようなスタイルだし。
 士郎のスタイルは……士郎のスタイルってなんだろ?

 魔力弾は使用しているのは見た事がないけど剣の投擲や弓で遠距離は出来る。
 剣を使った近距離もお手の物。
 それに足を止めてのスタイルかというと庭園での自動機械との戦いではそんなのではなかった。
 威力も弱いどころか私なんかじゃ防げないような攻撃もあるし、かといって防御が苦手かというとそういうわけでもないし……士郎って結構反則だよね。

 とまだ話の途中だから考えるのは中断、戦闘スタイルについては後で母さんにも相談してみようっと

「うっかりやさんは今後気をつけてしまうとして」

 はうっ!
 実戦訓練の時にクロノとの戦いで負けて不合格と勘違いするという大きな勘違いをしてしまったのだから恥ずかしい。

 だけど

「おめでとう、フェイトさん。
 これをもってAAAランク嘱託魔導師認定されました」
「認定証の交付の時に面接があるからあとはそれだけね」
「はい。ありがとうございます」

 無事に合格できたことがうれしい。
 うれしいけどまだ顔が赤い気がする。
 でも
 
「おめでとう。よく頑張ったわね」
「やったね。フェイト」

 何よりもうれしいのが、私が合格した事を本当にうれしそうに笑みを浮かべて頭を撫でてくれる母さんと私に抱きついて尻尾を勢いよく振っているアルフ。

 すれ違ってしまった時もあったけど、今こうして母さんとアルフと一緒にいられるのも士郎やなのは達のおかげ。

 今度のビデオメールでちゃんと報告しないと

「じゃあ、今日はフェイトさんの合格祝いにパーティでもやりましょうか」
「お、いいですね。艦長」
「なら張りきって御馳走を作らないとね」
「丁度いいお酒もあるのよ」
「いや、レティ提督。フェイトに飲酒はまだ早いんでは」
「私は肉がいい」

 でもビデオメールよりも先に母さん達とのお祝いが先みたい。
 少し前までは全然考えられなかった世界。
 それが今ここにある。

「ささっと認定証を交付してしまいましょうね」
「そうね。さ、いきましょう。フェイト」

 私に手を差し出してくれるリンディ提督と母さん。

 それはまるでもう一人母さんが増えたようで

「はい!」

 心が温かくて二人の手を掴んで歩きはじめていた。 
 

 
後書き
無事に四十六話更新。

しかし時間がない。
執筆に時間はとれない・・・

私に自由は時間をくれ!!

とまあぼやきながら、次回も来週更新です。

それではまた来週。

ではでは
 

 

第四十七話 八神家ののどかな一日

side はやて

 朝、お味噌汁の出汁を取りながら、魚を焼いて、卵焼きの準備に取り掛かる。

 こうして考えてみると結構違うもんやね。
 
 昔から料理は楽しいから夕飯なんかは結構凝った事はしていたんやけど、さすがに私一人やと朝からこんないくつもメニューを作る事はなかった。
 やっぱりシグナム達が来てくれてからやな。

 シグナム達が来てくれたあの日。
 そこから色々な事が変わった。

 家族が出来て、友達が出来た。

「おはようございます。主はやて」
「おはよう。はやてちゃん」
「おはよう。二人とも」

 二階から降りてきたシグナムとシャマル。
 それとほぼ同時に

「ただいま」

 散歩から帰ってきたヴィータとザフィーラ。

「みんなミルク飲むやろ」
「はい。いただきます」
「うん」

 朝一番のミルクを受け取るシグナム達を見つめる。

 シグナム達が来てから早いものでもう二ヶ月。
 もうというよりもまだ二ヶ月しかたってないというのが正しいやろうか?

 やけどずっと一緒に居ったみたいに今の光景が当たり前に感じる。

 最初は戸惑ってたシグナム達もすぐにこの生活にも馴染んだし。

 家族が出来ただけでもうれしいのやけど、ちょくちょく来てくれる士郎君の存在もうれしい。
 
 なんでも士郎君も一人暮らしらしく学校と家事とバイトをしとるって話しやけど、一週間に一度くらいは会っとる。
 それにしたって大変やな。
 
 学校と家事はまだしも保護者になっている人はほぼ形だけで資金のやりくりも自分でしとるらしい。
 士郎君が大人っぽいのはその辺も関係しとるんやろうか?
 いやそれ以前にあんな大きな家に一人で寂しくないんやろうか?
 む、思考がずれてしもうた。
 
 ちなみに我が家には士郎君と一番接点が多い二人がおる。

 事の発端はシグナム達が来てから一ヶ月ぐらいたった時

「衛宮、ここら辺に鍛錬が出来そうな場所はないか?」
「ずいぶんといきなりだな。
 何かあったのか?」

 士郎君の家に私たち全員でお邪魔した時に急にシグナムがそんな事を言ったんやけど。
 なんでも

「いや、平和なのは何よりなのだが腕が鈍ってしまいそうでな」

 とのこと。
 シグナムも戦う事なんかあるはずないんにそんな心配をしなくてええんやないかと思うけど

「いざという時に主はやてをお守り出来なくてはどうしようもありませんから」

 と言われたらこっちとしてもなにも言えんくなる。
 そして、士郎君の返事が

「なら庭で一緒にやるか?
 俺としても鍛錬の相手がほしいところだったから」
「ほう。それはいいな。
 ぜひ付き合わせてもらおう」
「我も構わないか?」
「ああ、勿論」

 なんで一緒に鍛錬するちゅう返事になるんやろ。
 しかも返事からして士郎君も普段からしとるみたいやし。
 ザフィーラまで乗り気やし。

 ということで現在、我が家で一番士郎君と接点が多いのがシグナムとザフィーラの二人。

 ちなみにヴィータとシャマルは

「いざとなったら動けるから問題ねえ」
「私は前線向きではないから」

 らしい。

 そして、本日は士郎君が家に来る日
 洗濯物干して、部屋の片付けしてちゃんとお出迎えの準備せんと
 でもその前に

「シャマル、盛り付けお願いできるか?」
「は~い」
「私も手伝います」
「おう」

 ザフィーラも無言で頷く。

 私の呼びかけにすぐに手伝いを申し出てくれる四人。
 私の家族。

 その光景がうれしくて顔がにやけてしまう。

 さて朝ご飯をしっかり食べて今日も暑くなりそうやけど一日元気に行かんとな。




side グレアム

「闇の書の方はどうだ?」
「守護騎士達の存在確認はできました。
 海鳴の結界に関しても海鳴内で魔力を行使しなければほとんど気がつかれる事はないと思います」

 闇の書が目覚めたか。

 それよりもありがたいのが海鳴の結界だ。
 魔力を持った者が街に入った時点で何らかの反応があるのも考えたが、アリアの話では海鳴の外で猫の姿になり、海鳴に入り、海鳴内で魔法を使用しなければ衛宮士郎がこちらに気がついた様子はないらしい。

 だがよく考えれば当然か。
 一つの街に結界を張り見張るといっても限界がある。
 あの世界は私や先のジュエルシード事件の協力者である高町なのはのように稀に生まれつき魔力資質が高い人がいる。

 魔法に出会ってこそいないが魔力資質高い人や魔法を使うほどではなくても魔力を持っている人がいてもおかしくない。
 過去の歴史の中で魔法技術が衰退したと推測される世界だ。
 もしかすれば僅かでも魔力を持っている人は比較的多いのかもしれない。
 そしてそんなものに一つ一つ反応していては管理局でも情報量が多すぎてデータベースがパンクする。

 恐らくは海鳴の結界は一定以上の魔力を感知するものなのだろう。
 あまり油断は出来ないが魔法を一切使用しなければ侵入はばれる心配は低いと考えても大丈夫だろう。
 もっとも感知するラインがどこなのかがわからないので念話すら使えないという問題はあるが

「あとあまりよくない情報が」
「よくない情報?」
「闇の書の主八神はやて、守護騎士達と魔術師衛宮士郎が接触してるようです」
「なに?」

 確かに想定外の事態だ。
 だがなぜ? いやこの場合は当然というべきか。
 闇の書が目覚めたときに発生した魔力に衛宮士郎が気がついただけだ。

「でも衛宮士郎は守護騎士達の存在を容認してるみたいで、遠目に見ただけだけど少なくとも険悪な関係には」
「そうか」

 守護騎士と衛宮士郎が敵対していないのはいい事だが、確かに厄介事だな。
 注意する事が増えるが、敵対していないのであれば幸運を喜ぶとしよう。

「衛宮士郎がいる場合は近づくな。
 あと海鳴内ではこれまで通り念話も含め、魔力を使用するモノは使わないで監視を行う」
「ですがそれだと闇の書の監視は」
「難しくなるだろうが、衛宮士郎にばれる事で戦闘に発展する方がまずい。
 今の状況ならば定期的な監視で問題はない」

 現在、管理局内に闇の書の蒐集によるものと思われる事件の報告はない。
 恐らくはまだほとんど蒐集行為はされていないのだろう。
 この状況なら常に監視をして衛宮士郎にばれる危険を冒す必要はない。
 定期的な状況観察で十分だ。

 しかし衛宮士郎と闇の書の接触。
 予想外で監視するには厄介ではあるが、ある意味良い事でもあるのかもしれない。

 今現在、管理局内で一番注目を浴びている管理外世界。
 その世界の海鳴の地は魔術師の管理地として海鳴に入る場合、衛宮士郎の許可を得る形を取っている。
 つまり闇の書の蒐集がどれぐらい行われているのかはいまだわからないが、もし第97管理外世界に潜伏しているとばれた場合でも海鳴内では管理局は簡単には手が出せない。

 闇の書の主の存在を隠すにはうってつけの場所といえる。

「ともかく衛宮士郎にばれる事だけは絶対に避けて定期的に監視を続けてくれ。
 いずればれるかもしれないが、今ばれるのはまずい」
「「はい」」

 衛宮士郎の協力を得られればいいのだが、これはほぼ不可能だろう。
 仮に協力を申し出て、拒否された場合そのままリンディやクロノ達に伝わる事になる。

 失敗するわけにはいかない。
 
 まだ誰かを失うような事だけは絶対に

 


side 士郎

 シグナム達が現れて早いものでもう2カ月。

 すでに夏休みだが、小学生とは思えないバイト三昧である。
 それにしてもなかなかタイミングが合わないな。

 はやては同年代の付き合いがほとんどないという事なので、なのは達三人と会わせたいのだが習い事をしている事と俺のバイトの日程とはやての病院の予定があり正直難しい。

 今日も俺は久々のバイトが休みの日だがアリサとすずかは習い事、なのはは翠屋に出ているはずだ。

 それにしても暑い。
 こうして歩いているだけで汗が出てくる。

 雲一つない強い日差し。
 吸血鬼という自身の身体も若干関係しているのかもしれないが、正直太陽が忌々しいと思ってしまう。
 まあ、洗濯物がよく乾くのでその辺りはありがたいのだが。

 と本日の目的の場所の到着した。
 その場所とは

「士郎君、いらっしゃい」
「おじゃまします」

 八神家である。
 そして出迎えてくれるシャマル。
 
「よく来たな。主はやてもお待ちかねだ」
「お待ちかねなのはシグナムもじゃないのか?」
「まあ、否定はしない」

 今回、八神家にお邪魔したのは目的がある。
 それはシグナムやザフィーラと始めた鍛錬に関係する。
 始めは鍛錬は俺とシグナムは木刀を持ち、ザフィーラは武器を持たない事もあり鍛錬の度に拳に魔力を纏っていた。
 そこでザフィーラの鍛練用に手から腕にかけて覆える金属製の籠手を鍛えることになった。
 その時にシグナムが

「木刀もよいかも知れんが、やはり鋼の剣の方が現実味が増す。
 鍛練用の剣はないか?」

 という事で追加で鍛練用の俺とシグナムの剣を鍛える事にあったのだ。

 そんなもの俺の家でお披露目すればいいのだが、はやての希望やら何やらで、気が付いたらお披露目場所が八神家になっていた。

「いらっしゃい、士郎君。
 今日は我がまま聞いてもろうてごめんな」
「気にしなくてもいいよ。
 後これお土産」
「ありがとう。
 ? 冷たいけど生もの?」
「いや、手造りのアイスだ」

 その瞬間

「アイス?」

 ものすごい反応示したヴィータ。
 いまだに八神家で唯一若干ではあるが俺の事を警戒しているヴィータだが、その警戒はなりを潜めはやてに渡されたドライアイス入りの小型クーラーボックスに眼が釘付けになっている。
 夏場になり作ったのだが良い出来だったので持ってきたのだがヴィータに受けが良い様である。
 この小型クーラーボックス、夏場早朝のなのはの鍛錬の時など色々と便利が良い。

「ヴィータ、アイスはあとやで
 まずは士郎君のお披露目会とお昼ご飯。
 アイスはデザートでな」
「……おう」

 はやての言葉に肩を落とすヴィータ。
 ヴィータはアイス好きと覚えておこう。

 さて、とにもかくにも鍛練用の武器のお披露目をするとしよう。
 ちなみにこの鍛練用の武器。
 当然の事だが魔力は籠っていない。

 そして、この鍛練用の剣に魔力を込めないようにするために新たな設備が我が家には増えた。
 というのも我が家にあった鍛冶場で鍛えた剣は通常魔力を宿す。
 魔剣を鍛える俺の工房であり、使用する炎や水、あらゆるものに魔力を宿しているのだから当然といえば当然なことである。

 しかし反面、魔力を宿さないモノを鍛えるのが難しい。
 というわけで急遽鍛冶場を一部増築した。
 ホームセンターで木材やらを買ってきて剣を鍛える事が出来るスペースを追加したのだ。
 増築は俺の手によるものなのでかかったのは増築のための材料費のみ。

 その後に増築した部分には霊脈からくみ上げた魔力が行かないように魔法陣を少し変えた。
 もっとも水に関しては水道管をあたるとお金がかかるので貯水用のポリタンクを買い、それを使用している。
 
 これだけ聞けばわざわざ鍛練用の剣を鍛えるためにそこまでするかと思われるだろうが、実は元々増築予定があったのだ。
 魔力の籠っていない刃物やアクセサリーを売る話が忍さんからあり、そのための準備が少し早まっただけだったりする。

「これがシグナムので、こっちがザフィーラのだ。
 特にザフィーラは着けて違和感や動かしにくかったら言ってくれ」

 というわけで話しは戻り、シグナム用の剣とザフィーラ用の籠手と試しに作ってみた足につける装甲である。

 シグナムの鍛練用の剣はレヴァンティンの形と大きさを参考に鍛えたものであり、鍔の所にある機械部分を除けばほとんど同じである。

 ザフィーラの籠手は手の指から手の甲、さらに腕まで覆う籠手というよりは籠手と手甲が一体になったようなものである。
 足の装甲は軍用のブーツに装甲を装着し脛の半ば辺りまで装甲があるようにしているものである。
 指の長さや関節の位置、足のサイズもちゃんと測っているので大丈夫だとは思うが

 それに頷き、鞘から剣を抜き構えるシグナムと狼の姿から人の姿になり籠手と足の装甲をつけ、拳を握ったり手首や足首の動きに支障がないか確認するザフィーラ。
 
「ほう。これは」
「ああ、大したものだな」

 二人が満足したように頷く。

「剣を鍛つとは聞いていたがこれほどとはな」
「それはなによりだ。
 ザフィーラも問題ないか?」
「ああ、このまま始められるぐらいだ」

 二人の評価に安堵する。
 特にザフィーラの評価。
 剣ならまだしも今回のように手足に装着する様な物はあまり作った経験がない。

 基本的に鍛えていたのは剣ばかりだし、依頼などで作った事はあるがやはり経験が剣に比べると不足しているのだから少し不安だったのだが、大丈夫そうで何よりだ。

「それにしたってな」
「ん、どうかしたか? ヴィータ」
「いやさ……士郎って器用だよな」
「まったくやな」
「ですね~」

 ヴィータのなんとも表現がし難い表情でつぶやいた言葉にはやてとシャマルがしみじみと頷く。
 まあ、三人の言いたい事はよくわかる。
 普通小学生が剣など鍛えたりはしないだろう。
 こちらも反論できないので肩をすくめる。

 でシグナムはというと

「ならさっそく鍛錬を」

 今にも斬りかかってきそうな勢いでこちらを見ている。
 だが