不遇水魔法使いの禁忌術式(暁バージョン)
1話
燦々と降り注ぐ日差し、どこまでも吹き抜けるような風に混ざる砂礫、地面には熱を帯びた砂。枯れた果てた植物のようなモノを見つけたがここはオアシスのあった場所だろう。
サラサラとする歩きにくい砂地を拾った棒のような物を頼りにし、大きいハンカチかスカーフ代わりに口元を覆い帽子を被り日差しを避け学生服姿の少年が決めた方向へ進んでいる。
「暑い…暑すぎる…まるで地獄だ…」
そこはまさしく砂漠であった。永遠に命の存在し得ない場所、不帰の土地と恐れられるような場所だと異世界から迷い込んできてしまったばかりの少年に突きつけてくる。
少年は荒野を歩く、一人で頼る物も人もない。いつも通りの日常、いつも通り朝起きて布団の中から出るのも面倒だと思いながらも出て、いつも通り母親が作った朝食を食べ、そしていつも通り家を出た。そうして異なる世界の死地へ迷い込んだのだから。いつも通り過ごしていただけの少年にこのような試練が襲いかかるなど許されていいのだろうか。
持っていた水筒のお茶も尽き、目印も何もない土地をあてもないが最初に決めた方角から逸れないようにと必死に一歩一歩進んでいく。
この砂漠に迷い込んだ当初は混乱して声を上げて助けを求めたが周囲に人の痕跡は愚か生き物を見つけることすら出来ず、空を飛ぶ鳥すらも見当たらない。そして乾いた暑い風が喉に張り付き、額から垂れた汗は目に入る前に乾き消え、靴越しにでも足を焼くような熱気を感じ一刻も速くこの命のない場所から抜け出すため前へ進むことを少年は選んだ。
しばらく慣れない砂地を時折転びそうになりながらも歩き、日が直上から少し傾いた頃に水が見え始めたと感じる頃にゆらゆらと揺らめくような水場が遠くに見えるようになる。ほんの少しだけでも冷静なら気がついたかもしれない、このような場所で突然現れた水を追ってはならないのだと。
「…オアシス…なのか…?」
それを見て日差しと熱で眩んだ頭で笑みを浮かべる。少し軽やかになった心で水場へ向かって急ぐように歩く。しかし日がまた傾いていく中進み続けても一向に近ずくことはできない。まるで逃げるように水は去っていく。そうしてようやく気がつく。
「…蜃気楼か…俺は…このまま死ぬのかな」
このままでは見知らぬ土地で死に誰にも見つかることなく供養されることもなく荼毘に付されることのないミイラのようになってしまうのかと不吉な想像が脳裏をよぎる。どうしようもなく泣きたくなるがこのような環境下で、今の状況で泣けるはずもない。
そしてしばらく地面にうずくまるようになってしまいながら少し休憩をすると日が沈みだしていた。太陽が沈みガラリと世界が変わる。自身を焼く日差しと熱は消え去ったが今度は目も痛むような眩しいくらいの星明かりと月明かりに照らされ凍えるような寒さに襲われる。澄んでいる冷えた空気を吸い、暑さの残った身体から熱が逃げマシになった体調で夜空をひとりぼっちで眺める。
「ああ…ほんとに異世界なのかもな」
全く見覚えのない星の配置を眺めて何か目印になりそうなものはないのか観察するが水分の足りてない状況で視界の端が歪んで見える。ここには自分に繋がるモノは何もないのだと突きつけられる。
「ちくしょう」
脱水症状で喉に固まりが詰まったように感じ声を出すのも苦しい。だが砂漠という絶対的な孤独から逃れるためには声を出すしかない。そうでもしないとおかしくなってしまいそうだった。自分じゃどうしようもない現実へ口汚く文句を言いながらも少しずつ進み始める。暑さによって苛まれた身体を癒すようにも一時は感じられた寒さに襲われ体の震えは止まらない。
そしてたった一人備えなく彷徨った結果のどこにでもいるような普通の少年の身体はそれだけで限界を迎え…身体は地面に倒れ伏す。
「あ…れ、手足が…」
砂地に倒れ込む形になったがあまり痛みはなかった。昼に焼くように熱かった砂は今度は体温を奪い去っていく。頭から倒れたからか砂が動くような風の音が近く聞こえる。地面に着いた手足を動かそうともがくが砂を多少動かす程度でそれ以上のことはもうできない。悔しくて悔しくて砂を握り込むように手が動くが指の間から溢れて何も掴めはしない。そしてそのまま目を閉じて…
「嫌だ」
このまま終わりたくないのだと足掻く這うようにでも動こうと無理に身体へ力を入れる。意識が遠のき始めた中で砂が動くようなどこか下の空間へ落ちていくような音の方へと這っていく。
「俺は…死にたく…一人で…まだ…何も残せて…」
そして自身が砂に沈むように動いていく感覚を最後に意識を失った。
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顔に水滴が落ちてくる感覚で目を覚ます。
「ここは…?」
あたりを見渡すと石造りの部屋のような場所だった。壁が崩れて砂が落ちてくることに巻き込まれて奇跡的に部屋の内側に転がり込んで助かったようだ。
何故か湿った空間が広がっていた地下の冷たく澱んだ空気のある場所のようだ。そんな中で落ちてくる水滴があるのなら何処かに飲み水になりうる物はないのかと水の匂いのようなものを頼りにし、幸いにもまだ使えたスマートフォンを片手に持ち懐中電灯のように使って進んでいく。砂を噛んだスニーカーと石の床が擦れる感覚に不快感を覚えながらも奥へ奥へと進んでいく。
淀んだ空気の中で周囲を見渡しても苔のようなモノもない。まるで石しかないような時の止まったようなここも上の砂漠のような命のない空間であると感じさせられる。壁に手をつきながら怠さのある体を支えながら前へ進む。所々に穴の開けられて如何にも矢が飛び出しそうなトラップや棘でも出てきそうな場所もあった。今のところは罠が起動するスイッチは踏まずに進めている。この砂漠の影響を受けているのに正常なのかはわからないが警戒するに越したことはない。
「…まるで…ゲームに出てくる墓所みたいだ」
こんな感想しか出てこない自分に対して苦笑する。ここは明らかに人の手が入っている場所であり、材質についてはよくわからないがしっかりとした石を削り出して規則正しく積み上げて作った建物であり装飾のような物は見当たらない。そして明らかに奥へと進んでほしくは無いという意思が組み込まれているのだろう。
「まさか完全に閉じ込められたってことは」
不安を思わず口にするが首を振って思考を振り払う。しばらく進むが未だ外へ繋がりそうな場所は見当たらない。進んでいる途中に他へ分岐する道もあったが何もない行き止まりか砂が入り込んでまともに進むことは出来なかった。
その苛立ちか不明瞭な視界によるものか未だに悪化し続ける体調によるものか一瞬だけ集中を切らしてしまう。そして不運にも現在も稼働しているトラップを稼働させてしまう。
ビュンと何か飛んで来たような音が聞こえたと感じた時には遅かった。
「うぁっ…ぐぅ…ぁぁ」
脇腹の皮と肉が抉られ切られたようだ。傷口が熱い。咄嗟にうずくまる。その上を何本かの矢が飛んでいる。少し反応が遅かった他の矢にも当たって即死だっただろう。
「な…なんだ…これはぁ…」
「腹から血が…変なのが見える…腸だ…腸が…ははは…」
自分の皮一枚下のグロテスクさに口元を抑え大きな傷に混乱しているのか可笑しなことを口走る。そして混乱する頭の中で呻き声を出しながらこれ以上自分の身体から何か出てこないように無理やり清潔だった制服とベルトで結ぶようにして壁を背に座りそしてはぁはぁと息を荒げながら必死に立ち上がる。
「諦めても…」
ほんの少し脳裏によぎるその考えを痛みの中で否定する。
「嫌だ…俺は」
血をポタポタと地面へ落としながらも壁を頼りに歩きそしてたどり着いた道は更に奥へと進むものだった。その道を進む時にまるでどこまでも深い穴を落ちていくのかと感じていた。
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「ここから脱出して…砂漠からも出て…それから俺は…」
怪我をした腹から何も出て行かないように抑えながら痛みに喘ぐ。
「何をしてでも帰るんだ」
追い込まれた声で言い、このまま死んでしまいそうな状況から目を逸らし続ける。
そうして壁に体を預けながらも進み続け、階段の底にたどり着く。
そこは不気味で怖気させられるような空間だった。
開けた空間に騎士を思わせる意匠の2、3メートルはある像が両隣に置いている大きな扉。壁に隙間なく描かれている魔法陣。そして地面には乾いた血のようなモノが広がっていて床の模様を隠しているがもしかしたら魔法陣のようなモノが床にもあるのかもしれない。よく観察できたのならその扉の中から出てきた血だとわかるだろう。
もはや複雑な思考も出来ないのもあるがあえて理解の出来ない模様の意味を考えずに前へ進む。
自分の血の匂いとこの場所の古い血の匂いに気分を悪くしながらも扉を開けようと触れて押す。少しは動くが中々進まない。血か砂が挟まっているのか長い時間開くことがなかったからなのか扉が重い。少年は荒い呼吸の中で体当たりするように押して行く。
そしてぎぃぎぃと音を立てて扉が開く。扉を開けると部屋の中は突然壁にある照明のような何かに灯りが点く。そこは直径10メートルはある円形の部屋で中心には石碑のようなモノがある。
そしてその中心部に光で構築された鎖で吊られた青髪の少女が剣を突き立てられて磔にされていた。
俺はその少女を見た瞬間に痛みや苦痛、全てを忘れて見ていた。長く伸ばされた青い髪、少女らしい華奢な体格、蝶の標本のようにそこにありながらも目を離すと消えてしまいそうな雰囲気。俺は目を離せずにいた。その永遠にも思えた一瞬が過ぎて俺はゆらゆらと歩いてソレへと近づく。人形のように可愛らしい少女へと、この状況で命があることが可笑しいのに未だ血を流し続けるナニかへと近づき手を伸ばす。
(俺は何をして…)
(ああ…でも…)
自分でも理解しきれない衝動で動く少年は彼女の頬へ血に汚れた震えるその手を伸ばす。
そしてその手は少女に届き、少女は目を覚ました。
不吉を覚える程に美しい金眼と血を流しすぎて霞む視界の中で合う。
次の瞬間に鎖のようなものは砕けて消える。まずはカランと刺さっていた剣が抜けて落ちる。そして血を流すのが止まった少女はゆっくりと落ちてくる。
「あなたは誰?」
鈴が鳴るような声が聞こえる。
「…っ…っ」
俺は答えようとして口を開けるもヒューヒューと息が抜けるような音しか出ない。
「ああ…あなたの命は消えてしまいそうなのね」
少女は肉体の傷を見ることはなく何かを見透かすように見てそう言ってほんの少し悲しそうに目を閉じる。
「そんな有様なのに私を解放した…馬鹿な人」
そして目を少女は目を開けて言う。
「私はあなたを助けることができるわ」
「……でもそれは今ここで命をなくすことより辛い道を歩むことになるかもしれない」
人形のような何もない空っぽだと感じさせられるような話し方で人間性のある思いやりのあるように『ここで死ぬべきだと』と告げる。
「それでも私を解放したあなたに問わなくてはならない」
「これは契約」
「新しい命をあなたにあげる。だから…私のために戦って…私のために血を流して」
少し躊躇いながら最後の言葉を口に出す。
「私のために死んで欲しい」
そして俺は朦朧とする意識の中にも入って来た契約を聞いて…自身の腕の中で目を合わせている少女の手を迷うことなく掴む。
「そっか」
その意思を確認した少女は悲しさと嬉しさの混ざった表情で微笑んだ。
「ありがとう…ごめんね」
穏やかに悲しそうに微笑んだまま―彼女の顔が自身の顔へ接近する。咄嗟に反応できない。彼女を警戒していたとしても瞬きする暇もなく、呼吸する暇もなく、視界の中で、その表情は悲しげなまま。
初めての口付けは血の味がした。
「これで契約は結ばれたわ」
「私はサーシャ、水の魔法使い、禁忌術式にて災厄を齎した者」
「起きたらあなたの名前を聞かせてね?」
身体が内側から組み替えられていくような感覚と今まで忘れてきた痛みが蘇りながら段々と遠ざかって行く中、不意に近づいた彼女から感じた血以外の甘い香りが頭によぎりながら今度は彼女の、サーシャの胸へと倒れ意識をなくしてたのだった。
2話
俺は夢を見ていた。無数に視点が切り替わり何が起こってるのかさえあやふやで支離滅裂な悪夢を。
そこは戦場。魔法が飛び交い剣や槍を手にぶつかり合う場所。鎧を纏った騎士のような存在や杖を構える魔法使い、ソレらに率いられる兵士のような存在が殺し合っていた。
そこで俺は奴隷のように扱われた雑兵の一人だった。粗末な剣を手に碌に魔法で身体能力を強化して敵へと突っ込む。『魔法使い』が魔法を使うそのための使い捨ての盾のように─そして敵方から飛んで来た炎に焼かれて死んだ。
視点は切り替わる。
多くの人が集まり死ぬ戦場で俺はただの兵士として戦っていた。戦いの狂気に呑まれる戦場にて仲間たちと一緒にただただ走り、飛んでくる矢に当たり倒れそのまま進み続ける味方へ踏みつけられ死んだ。
『…』
次は沢山の人が死に続ける戦場でを俯瞰するように眺める魔法使いであった。魔法陣を空中に描き前方へと照準を合わせて土で出来た無数の槍を放ち続ける。そして風に撃ち抜かれて死んだ。
『ねぇ』
次に俺は騎士のような鎧を着て戦場に立っていた。火を使い身体能力を人を超える程に昇華させ灼熱の剣を振り敵兵を溶断し前へ前へと進み続ける。そして『見窄らしい格好の青い髪の少女』が操る水と自身が触れ生じた爆発に呑まれ死んだ。
次に俺は、次に俺は、次に俺は、次に俺は…無数に生と死がフラッシュバックする。
そして『私』は青い髪の少女としてそこに立ち、仕込まれた術式を発動し全ては赤に染まっていく
『ねぇ』
夢が記憶の整理だと言うのならこの記憶はどこから来たのかソレはきっと─
『…起きて』
柔らかい声が聞こえた。
赤いモノが自分の心から遠ざかり、心と体の接触が噛み合う感覚がする。どうやら目覚めが近いらしい。少女の声と軽く揺さぶられ夢から目を覚ました。────────────────────────────────────────────
意識が覚醒すると情報量の多い悪夢を見たからか頭痛で目を開けるのも億劫に思っていると自分の頭が何か柔らかく温かさを感じる物の上にあることに気がついた。ゆっくりと目を開けると少女の、サーシャと名乗った少女の顔が視界にに入る。
「…知らない天井だ」
ほんとは気絶する前に見た部屋だとわかってはいるけど馴染みのない天井ではあるし人生で一度言ってみたかったセリフを言えたから満足だ。
「えっと…おはよう?」
サーシャは何やら満足気な様子の俺を見て困惑しつつ挨拶をしてくれた。
「ああ…おはよう」
ほぼ初対面の少女に膝枕されて寝起きの挨拶をすると言うシチュエーションで距離感が測れない。
(異世界で遭難して倒れたら美少女に膝枕されてる)
(この状況に一番戸惑っているのが俺なんだよね、この状況すごくない?)
サーシャに膝枕されていると言う状況を堪能しながらお互い沈黙を続けること数分。
「もう体を動かしても大丈夫よ?」
サーシャがほんの少し照れているような気がする。その様子を眺めて名残惜しいけどそう言われたならしょうがないと起き上がった。
「えっ、なにっ」
「ほんとに動けるようになってるよ…」
(この回復は…!?)
内心驚きつつ身体を軽く動かしてみながら異世界に迷い込んでからのことを振り返る。突然砂漠に迷い込み、当てもなく彷徨い、地下遺跡のような場所に落ちそこのトラップで死にかけ、それでも進んで─そしてサーシャと出会った。
(…そこで俺は助かりたいと、死にたくないと願ってサーシャと何か約束を…)
ようやく浮かれていた思考から離れサーシャを見る。そうするとサーシャは口
小さな口を開き契約についての話をする。
「ええ、そう」
「私はあなたの命を助けたわ」
「だから今度は私のために戦って貰う…それが私たちの契約」
真剣な表情になっている少女を見て
「わかった、俺に出来ることならなんでもする」
迷うことなく即答した。
「え…」
それを聞いて何故かサーシャが驚いている。どうしてだろうか?よくわからないがそのまま話を続けよう。
「俺は行く宛がなかったし、ちょうど良かった」
もしかしたらこれが俺がここに迷い込んだ意味なのかもしれないし、何よりこの少女と出会えたことを無価値なことにしたくはなかった。
「それに…どう足掻いても死ぬしかない道から俺を助けてくれた相手の頼みだ。だからむしろ手伝わせてくれ」
そう自分もあれだけ傷ついていた少女(どうやら今は治っているようだけど)に自分の命を助けられ、何もせずに逃げるなんて恩知らずな真似はできない。口には出さないけど女の子が真剣に泣きそうに頼み込んできたのを見てちゃんとした笑顔を見てみたいと思う気持ちがあったという気恥ずかしい理由もある。
それを聞いたサーシャは納得出来たのかさっきよりかは落ち着いた表情になり、
「…そっか、ありがとう」
「色々と聞きたいこともあるだろうけれど…そろそろこの場所は崩れてしまうわ」
「だから…その前にあなたの名前を教えてくれる?」
なんと名乗るか少し考える。そしてサーシャは俺にサーシャと名乗ったことを思い出して名前だけを言うことにした。……名前で呼んでくれたら嬉しいからってだけではない。
「……俺はカズキ。今後ともよろしく!」
そう言って手を差し出した。サーシャは差し伸べられた手を見て躊躇いながら手を伸ばす。何かを望むようなその手を俺は取った。
「ええ、どうか旅の終わるその時までどうか一緒に…」
それから俺たちはサーシャが封印されていたからバランスの取れていたらしい遺跡が徐々に崩れていく中、サーシャが発動した魔法である水に包まれて脱出。
その後砂漠の封印その番人である魔導鬼(ゴーレム)、この砂漠に住み着き変質したモンスターである蛇神(ナーガ)と言った怪物との戦いを経てようやく旅に出ることとなったのだった
3話
俺とサーシャは崩れる遺跡から脱出したのだった。脱出というより何か遺跡を維持するモノがなくなったから崩壊したように見えたけどそこあたりはもう無い場所を気にしても意味はあまりないだろう。そんなことを考えながら俺にはない土地勘のようなモノがあるサーシャの案内にしたがって一緒に夜の砂漠を歩いて進んでいく。
「…北の星があれで…川の流れは大きく変わってなければいいのだけど…」
サーシャはどう旅をすれば良いのか知っているようだ。俺は何か役に立つことはできるだろうか。
(あっ…スマホとか学生カバンとか置いてきちまったな)
(…こういう時にコンパスとかあったら…いや異世界だし使えないかなぁ)
そういうものが使えればとも思ったけどまあバッテリーも少なかったし自分の血で汚れた物だし問題はないだろう。
(それに…)
俺はベルトに引っ掛けるようにしている剣を撫でるように触る。俺はあの時にどうしてカバンではなくコレを咄嗟に掴んでしまったんだろうか。
それより気になるのは俺に何をさせたいのかだ。直接聞くと答えてくれるかどうかはまだ人柄を掴みきれていないし段階的に聞いていきたいが、そもそも俺に出来ることなのかとか俺もサーシャのように魔法を使って戦えるだろうかとか聞いてみたいことは多い。それにもしあまり役に立てなかったら正直かなり凹むから先に知っておきたい。
「よし…こっちで合ってるわね」
周囲の景色を眺めながら道を決めていくサーシャを見ながらタイミングを見計らい俺は尋ねてみることにした。
「…今聞くようなことじゃないかもしれないけど…サーシャみたいに俺も魔法って使えるようになれるか?」
サーシャが振り返って俺と目が合う。真剣な表情をしている。夜の砂漠の今の雰囲気に合ってるなとつい自分から聞いたことから外れたことをつい思いながら話を聞く。
「ええ、出来るわよ」
「今まで魔法を使ったこともないそれでもそれで戦えるようになれるか?」
「あなたは魔法がない此処ではない世界から来たんだったわね…だからあなたを助ける時に魔法を使えるようにした」
…異世界から迷い込んだことを話したっけ?怪我して朦朧とした時に話したのか魔法使いなら記憶でも覗かれたのか?まあそこあたりを話す手間が省けたと思えばいいのかな。
「使えるように…?」
「ええ…あなたの体を戦えるよう魔法を仕込んで弄ったの…実際今あなたは疲れてないでしょう?」
言われてみると体が軽い、手をグーとパーと動かしてみるが力も強くなっている気がする。
「…恨んでくれていいわよ」
説明するタイミングをサーシャも悩んでたらしい。こんな状況を経験していることはこの娘もなかったのかもしれない。
「…私は今はあまり戦いに力を入れる訳にはいかない理由がある」
些細な支援は出来るらしいが大きな魔法を使うことは出来ないということらしい。
「だからあなたが私の代わりに戦えるようにしているの」
サーシャはそう言って申し訳なさそうな表情で俺を見てくる。俺は命を助けられて異世界でも生きていくことが出来る力をくれたと思ったら感謝しかないのだけど。というか俺は命を助けられた
「ああ…安心した」
「あんなこと言っておいて俺は何も出来ないとかは…ダサいだろ?」
俺は笑ってそう言った。まあ女に貰った力を振りかざすとかもダサい気はするが、授けられた剣で少女を守ると言い換えると格好はつくだろうか。
「でも私なんかの…」
その時だった。サーシャの言葉を遮るように地面が揺れ、何かが起き上がるような音がする。風がないのに砂が舞い散る。
そして砂の中から巨人が、ゴーレムが出現した。
「魔導鬼(ゴーレム)!?そんなモノまで仕込んでいたの!?」
サーシャが怪物を見て驚いている。そしてその怪物は飛び散る砂で覆われた場所を裂くように大きな腕をサーシャに向けて振り下ろす。
「サーシャ!」
驚き動きが鈍っていたサーシャを庇い一緒に避ける。そしてゴーレムはもう片方の腕を振り上げ…
「ありがとう…うん、コレの狙いは私?…いや…」
サーシャは状況を考えているようだが…
「よし!逃げるわよ!」
「えっ…ああ!わかった!」
あんな話をしたばっかりだから戦うことになるのかと思っていたがサーシャがそう言うのならここは従おう。
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現在の大きさはヒトの背丈を優に超えて約5メートルほどはある魔導鬼(ゴーレム)がドオンと地面を踏み固めるように歩み、何かを探すように進んでいく。
「サーシャ!このまま走れそう!?」
サーシャと呼ばれた少女は首を横に振り答える。全力で走って数十分も経ったのだから魔法が使えたとしても体力は限界に近いのでだろう。
「……はぁっ…もう…むり…」
息をきらせて走る少女は必死に走る少女を少年は見て焦った表情をしながらも後ろから迫る幻獣(モンスター)の様子を見て少女へと駆け寄り…
次の瞬間パァンと何か質量のあるモノが地面へと着弾する音があたりに聞こえる。ゴーレムが砂漠を踏み固めた足跡から幾つもの岩石が形成されゴーレムがソレを従えているように宙に浮かせた。そして夜の砂漠に無数の砲弾が降り注ぎ着弾した地面からは砂が飛び散った。
「いきなり悪い!」
その砂煙の中から少女抱き抱えた少年が飛び出す。俗に言うならお姫様抱っこみたいに横抱きにして走る。
「はぅ…」
「怪我はない?」
少女は何が起こったのかわからないのかフリーズしつつも、首を縦にコクコクと振り意思を示している。
「さて…」
砂煙に映る巨大な影から距離を取るために動いているが…
「ゴアァァァア!」
ゴーレムは聞く者を不快にさせるような咆哮をあげる。
「それにしても…デカすぎんだろ…」
咆哮をあげるためにか立ち止まった怪物を観察すると少年はある事実へ気がつく。
「俺の見間違いであって欲しいだけど…アイツ大きくなっていってない…?」
ゴツゴツとした岩人形のような姿形が一回り大きくなり、尖った爪のような物も追加で構築されていく。
「どうしたもんかなぁ」
このまま追われて逃げ切れる訳もない。かと言って戦う術は持っているが、まともに戦った経験などありはしない、そして少女は戦える状態ではない。
そんな絶体絶命に近い状況で少年は考える。考える。
「ふぅ…ふぅ……こうなったら仕方がないわ」
「私が封印されていた場所の番人としてと思ってたのだけれど…ここまで追ってくるのなら…きっと私が抜け出た時に倒すためのモノなのでしょう」
「私から血と魔力を奪って動力に組み込んだゴーレム、封印が自然に解けた時には勝ち目はなかった筈のもの」
少女はゴーレムを観察し解析し理解する。
「だから…カズキ」
「私のために戦ってアレを倒してね」
そして少女が告げた言葉によって少年は現状に対する思索を打ち切る。そして不敵に笑った。
「そうだな、サーシャがくれた力だ」
「キミがそう望むのなら俺は戦うよ……でも初めてだから俺も助けてくれよ?」
「ええ、私があなたを導くわ」
そう言って首元へ抱きつくように腕を回した少女を片腕で抱え、もう片方の手で唯一持っていた武器である赤く染まっている剣を構え怪物と対峙し戦いが始まった。
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4話
「いい、普通は魔法は術式を意識して組み上げそれに魔力を通すことで発動するの」
俺はサーシャの言葉を聞きながらゴーレムの動きを見る。何が起こるか見逃さないように気をつけながら意識を目の前の敵へと集中させる。サーシャはどこか落ち着いている。サーシャにとって戦いの場は慣れた物なのか、それともこの状況を切り抜けられると確信できるような要素があるのだろうか。
「並の人間はそう、でもあなたは特別」
「特別って?」
ゴーレムと真正面から戦うために走りだす。出来るだけサーシャが揺れないように気をつけたいけど不安定な砂場じゃ難しい。時折飛んでくる造られた岩石が直撃しないようジクザグに曲がりながらも走る。
「あなたの体に術式が刻まれているの」
ヒトやモノに術式を仕込む方法がいくつかあるとサーシャは言う。条件はあるとのことだがオレの身体には思っていたより色々と仕込みがあるらしい。俺たちに当たるコースの岩を切り払う。
「だからあなたはその幾つかの術式は感覚的に発動出来るのだけど…今回は私が発動の手伝いをするわね」
「わかった!」
身体の中で炎が吹き荒れるような力が渦巻く。そして『身体強化』されている状態で一歩踏み出す。今までとは違う加速力だ。全体的に筋力が跳ね上がるような感覚へとなり事実今までのペースだとゴーレムの魔法によって飛んでくる石礫などこの力が保てる限り当たることはないと確信する。それはそうとこの力の出力に戸惑ってるのが俺なんだよね。
「っ!」
そんな力に自惚れそうに、酔ってしまいそうになるが腕の中の重さに引き戻された。万が一にも転ばないように、サーシャを抱える腕に力が入りすぎないように気をつける。
「ガァァ!」
そしてもはや石礫など意味がないと思われたのかゴーレムは飛ばしてくるのを止め、向かってくる俺たちへその不吉に尖る爪めいた物が着く巨人のような腕を振り上げ容赦などなく叩きつけてくる。
「そのまま剣を振りぬいて!」
「ふぅ…しゃあっ!」
そして俺は真正面から振り下ろされる巨大な腕へ向かい剣を力一杯振り上げた。ガキンとぶつかる音が響き一瞬火花が散る。爪のようなモノが掠らないように力を込めて抵抗し拳をおしあげていく。
「はぁぁ!」
気合いを入れて声を出して力を込めてじわじわと押し返す。緊張感が高まるがここまで来ると逆に心が落ち着いてくる。
「ゴァァ!」
ゴーレムは自損も恐れずに自分の腕ごと壊すように俺へと拳を振り下ろされる。そして俺は全力で相手の拳を逸らすように上へかち上げながらも地面を蹴り後ろへと飛び下がっていく。
「っと、舌噛んでない?」
「え、ええ大丈夫よ」
足だけでは止まりきれずに地面へ剣を突き立てて減速し不恰好ながら止まる。それにより砂が飛び散り砂煙が立つ。ゴーレムは自分の腕を壊すだけだったようだ。サーシャには止まった勢いがキツかったのかもしれない。耳元へサーシャの声が聞こえてくることにはまだ慣れない。だけどようやく戦いの雰囲気や今の体の動かし方には慣れてきた。
「ふぅ…すぅ…」
片腕を自ら潰したゴーレムを見て息を整える。ゴーレムが魔力を使い周囲の砂を集めて腕を再生させようとしていくのが感覚でわかった。
「サーシャ…突っ込むぞ!」」
「っ」
そうして俺は足へ力を込めて前へとゴーレムへ向かって踏み込む。サーシャは俺の体へしがみつくようにし腕へ力がこもっている。風が後ろへ流れていくのを感じ、そしてゴーレムは腕を再生するのを中止し俺を迎撃するように残った腕をもう一度振り下ろされる!
「ゴァァ!」
雄叫びを上げるゴーレム、振り下ろされ…俺はそれに合わせて跳びその巨人めいた腕を足場に勢いのまま空中へと浮かぶ。
「術式…魔法…こうだな」
今でもサーシャが俺を介して『身体強化』の効果のある術式を発動している。なら感覚的には俺が術式を、サーシャがくれた力を使えない筈がない。
そして俺の中にある術式を意識して引き出し起動し風に乗るように、足場にするようにし宙へ発生した魔力で出来た光る魔法陣を足場へしゴーレムへ向かって堕ちていき剣を振るう。
「いけーっ」
振り下ろされた刃はゴーレムの腕を肩から切り飛ばし、ドスンとゴーレムは倒れこみその衝撃で地面は少し揺れ砂が跳ねた。
「ゴ…ガ…」
そして巨体は仰向けに倒れ呻き声のような不快な音が鳴りながら動きを停止する。
「そのままゴーレムの魔力の集まっている場所を貫いて!」
俺はサーシャの言った言葉が聞こえてすぐに倒れたゴーレムの身体を駆け上がり胴体の人間に当てはめるのなら心臓の部位にあるコアのようなモノを感じ取り剣を突き立てたのだった。
しばらく押し込むとパキリと何かガラスにヒビが入るような音がしてゴーレムの末端から崩れ始めた。
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初めての戦いが終わった俺はお疲れ様と労いの言葉をかけられて魔法の解かれ重くなった身体で休息を取っている。サーシャがゴーレムに用事があったというのも理由の一つのようだが。
「…人が一つ持つ属性は大まかに4つに分けられそれぞれに出来る事や術式との相性があるの」
『火』『風』『水』『土』に分かれている属性。例えば『身体強化』で最も筋力を、パワーを発揮できるのは『火』であったりとか目の前のゴーレムのような魔法と最も相性が良いのは『土』、次点で『水』、『風』と『火』は物質へ直接干渉するのは不得手だというように相性が存在するらしい。
サーシャはゴーレムの残骸を漁りながら俺へと魔法を簡単に説明してくれている。
「…一つ持つ属性か…俺は何の属性の魔法を使っていたんだ?」
興味もあるがさっきの戦いで俺が使った魔法について思い返して聞いてみた。
「まずは『火』と『風』は使えていたわね」
「それと間違いなく『水』も使えるわ」
この調子だったら『土』も問題なく使えそうねとさっきの説明と思いっきり矛盾する発言が聞こえた。
「ううん…?…どういうことだ」
思わず疑問を口に出す。
「……私が治した時にはあなたは魔力は持っていなかったの」
「契約をして繋がったからかあなたの記憶を少し覗いてしまったのだけど」
「本当に異世界から来たってそれで信じれたのよね」
「えっとちょっと脱線したけれど…まず治す為に魔力を受け入れる器へと体を作り替えたの」
「そして今はまだ何色にも染まっていない器に………使えるだけの魔力を持ってきている状態なの」
何処か言い淀む箇所があったけれど途中ほんとに成功していたのね、なんて冗談めかしていってくすりと笑ったりと何処か楽しげに話している。きっとサーシャは魔法のことが好きなのかもしれない。
「だからあなたは全ての属性が使える…はずよ」
「そっか…ありがとう」
そうして力をくれたことに感謝を告げる。
「…何度も言うけど私のためよ?」
俺は助けられたというのに自分を悪人だとでも思っているのだろうかサーシャは。俺は変わったというよりまるで進化したと言われてもおかしくないぐらいになってしまった気もするけど。それがサーシャの為に戦うというのが”NEOカズキ”の生き方だとカッコつけて言いたいくらいだというのに。
サーシャはゴーレムの残骸から目当てのものを見つけたのかキラキラした宝石のようなモノを手にして残骸の一部に座った。
「これからも今回みたいに一歩間違えたら死んでしまうようなことが起こる旅で…」
「それなら俺が戦えるようにしてもらってよかったな」
まるで自分のせいで俺が戦っているとでも言いたいのだろうか。俺は俺が選んだから頑張ったのに。
「きっと色々トラブルに巻き込まれるわ」
「その時は抱えて逃げようとしてみるのもいいかもな」
むしろ俺も異世界人だし思わぬトラブルを起こすかもしれない。
「もしかしたら追われる身になるかもしれない」
「俺の帰る場所はここにはない…だから変わらない」
俺は元の世界に帰りたいと今でも思っているだけど…サーシャを放って置きたくないという思いが今は強い。
「それに俺は約束しただろ…キミのために戦うって」
サーシャは俺が引くことはないのだと理解したのか呆れたヒトを見るような目で見て。
「馬鹿な人ね」
サーシャはそう楽しげに言っていて…目が合った。
「でもそうね…約束通りに私を守ってくれてありがとう」
そして二人きりの月明かりのしたでサーシャは微笑んでいた。
何か思い詰めている、裏があるのだと誠意を持って示しているサーシャだけど俺はその笑顔を見てなんだかとても嬉しいような、助けられたように思ってしまった。
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5話
「よし!これをくれてやる」
「食料とか旅道具とかありがとう!」
「ははは、あのモンスターからの護衛がその対価よ!」
砂漠で遭遇したモンスターからサーシャを守るために馬車へ放り込んだのが発端とはいえなんとか仲良くなった商人に砂漠の淵まで送ってもらったのを込みで考えると貰いすぎだって感じるが親切は受け取っておこう。実際あの蛇のせいで死ぬかと思おったし。
異世界のウマの頑丈さやら商人がなんでこんな所を通っていたのか聞きはしないが向こうも訳ありならこっちも訳ありと考えて何も仕掛けてこないだろう。
まあ色々あったがそんなこんなで砂漠からの脱出は叶いたびは人里を巡るようになったのであった。
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「おい!あいつらが居たぞぉ!追え!」
「ギルドに所属しない水魔法使いはぶっ殺せー!」
辿り着いてそう時間の経っていない街で追跡者から逃れるために万が一に他人を巻き込まないよう路地裏へと駆け込む。
「……サーシャはなんか心当たりある?」
「ない」
「…だよね〜」
あまりの剣幕で追いかけてくる力こそ全てと信じてそうな野蛮人どもの様子を見て一応尋ねてみるが首を横に振っている。一応聞いてはみたがないようだ。それもそうだろう何年か、下手すれば何百年も砂漠に封印されていたのだから。サーシャもちょっと引いてる。ギルド…連合もしや魔法使いはそういうのに所属するのが普通なのかもしれないが…
「…水魔法使いってバレるだけでこんなに追われるってのはちょっと異常だよな」
「そうね、水魔法使いは水の安定した供給に必要なのに戦闘力は低いからトラブルの原因になることはあったけど…」
足を止めずに顔を見合わせる。どうやらサーシャにも心当たりはそうないらしい。
「おかしいよな、今まで寄った村やらではここまでではなかったし」
「ええ、流石に…」
路地裏の人気のない場所を目指して駆けていたが突然話しかけられる。
「へい!そこのお二人さん!こっちへ逃げなァ!」
「悪いがそういう気配には敏感なんだ!騙されない!」
そう言って袋小路へ誘い込もうとしていたのかもしれない相手の言葉を無視して進む。まだ完成してはいないが術式が組み立てられていく気配を言われたまま進んだ場合の先に感じ取る。
(これは火属性かな?)
相手らが仕掛ける術を大雑把な勘で想定し、手元で単純な構成で風の魔法を矢のようにして曲がっていくように放つ。
ボンッ!とクラッカーでも弾けたような音と野蛮人どもが驚き慌てる声が響く。術式の妨害には成功したらしい。
「ちぃ!見破られたかぁ!」
「サーシャ!跳ぶぞ!」
「ええ…わかったわ」
流石になれてきたとでも言いそうな少女を抱えて壁を走り屋根の上へと登り駆けていく。さてどうしてこうなったのだろうかと思い返していこう。
番外編1
前書き
魔法についての話とサーシャ視点での1話です
1.サーシャちゃんの魔法教室
目的の街へ行くまでに通りがかった村でなんやかんやあり泊めてもらえる宿の一室にてサーシャと過ごしているとちょうど良いとのことで魔法を教えてもらえることになった。
「わぁ〜」
小さく歓声を上げて手拍子でパチパチと出迎える。こう言うのは様式美ってやつだろう。サーシャが魔法について簡単に教えてくれるという話だし実際に魔法を使えるってなると楽しいしサーシャの違う側面とか見れそうな気もするから一石二鳥だ。
「なんでそんなにテンション高いのよ?……ま、まあいいわ」
サーシャは困惑と照れが入り混ざっているような反応だ。こういうやりとりに慣れていないのかもしれない。こんなことで照れている少女を見れるのはちょっと楽しい。機会があればちょくちょくこういう風に揶揄うようにするのもいいかも。
「前は属性の話だけしか言えなかったもの」
「他にも話したかったけど秘密にしたい話とかは場所を選びたいもの」
「なるほどな…俺も魔法については知りたかったし何時までも使えるだけじゃな…」
「ええ、そういうことよ」
砂漠から色々あったけど抜けてからも中々に忙しかった。だからゆっくり室内で休めるのも久しぶりだ。通りがかった先の村を襲う盗賊たちの対処やらそして慣れない旅の疲れ、こうして2人で息をつける時間を得れたのはかなり嬉しい。
「基本的なこと以外は先入観を与えたり…私は水魔法使いだから他の属性については疎いところもあるの」
「だから簡単にだけど説明していくわね」
メガネをかけていたらくいってしそうなぐらいテンションが上がっているように見える。前にも思ったがきっと魔法が好きなのだろう。なんかサーシャちゃんがメガネをかけてもそれはそれで似合いそうな気がする。ギャップ萌えって言うには元から知的なイメージはあるか。
「……なにか関係ないことを考えてるわね?」
サーシャは俺の様子を見て少しムッとした。最近は何を考えているか俺の表情で判断してくることもある。一蓮托生の関係で旅をしていくのだからもっと仲良くなれたら良いなぁ。
「いや…サーシャに教えてもらえるの嬉しいなって」
「…もう、ちゃんと聴くのよ?」
俺がそう笑って言ったらサーシャも少し嬉しそうにして解説を始めた。
・火属性
「まずカズキにとってもわかりやすい属性から説明するわ」
「そうね…やっぱり火属性よね」
「ああそうだな」
「やっぱりしょっちゅう使うことになる身体強化の属性だからな」
俺は今の所だが付け焼き刃以下の魔法を使うより武器を持って突っ込むことの方が多い。単純な魔力を矢のように放つ術式も俺の中にあるにはあるけど戦いで使えたことはない。色々な属性が使えるようになっているとはいえ動き回る中で慣れないモノを使うことで自爆してしまったり、自身だけでなく守りたいサーシャを自分で傷つけてしまう事態になったら本末転倒だからだ。まあ…とはいえサーシャの方が俺より強い気もするが俺が彼女のために戦える今の状況は役得と考えよう。
「ええ、そうね強化の効果が一番高い属性ね」
「カズキの場合だと術式の目的に沿う属性を扱うのが大事ね」
属性に沿う術式を組むのではなく目的を決めてそれに合わせられる。なるほど属性が複数ある利点だなこれは。他の属性の特色も聴いて理解して色々と試してみたいな。
「『火』が司るのは光と熱。象徴するは上昇、破壊」
「四つの属性の中で最も攻撃的な属性よ」
なるほどピカピカして熱いの全般が『火』属性で、前へ先へ進めるようなイメージのものなのか。何事も行き着く先は終わりだと考えると俺の中ではしっくりくる感じがする。
「…物騒な属性なんだな」
相槌を打ちながら忌憚のない感想が口から出る。実際もし暴発とかあったらどうなっていたのかちょっと思いもしたし。
「そうよ。単純な術式でも大きな破壊力の出せる属性で…最も戦いに向いていて重宝されてたもの」
サーシャは何か嫌なことを思い返したような表情をして答えた。…俺は踏み込んで聞くことは出来なかった。
「まあ回復力を上げることや物質へ成長を促すことの出来る属性でもあるし扱い方次第でもあるわ」
前に見かけた他の旅人の持つ切れ味の鋭い剣に『火』の気配を感じたが、そういう使い方以外にも魔法灯というらしい灯りが普及していたりと普段からお世話になっている。あんまり考えすぎない方がいいんだろうな。
・風属性
「次は『風』ね」
「風か…その属性の術式は俺は足場代わりに使ってるな」
実際どこでも踏み込むことが出来るのは便利だ。砂漠を歩いて回ったから不安定な足場の恐ろしさは結構わかってるつもりだしありがたい。攻撃的な面ではたまに『風』の矢を撃つのは使ったが個人的には結構やりやすい。
「『風』が司るのは大気。象徴するは増長と流動」
「最も他の属性と協力する際には相性が良い属性ね」
なるほどこの属性はサポート的なのが得意なのか。
「ちなみにカズキが使ってる術式は『風』の『流動』って側面を使っている術式よ」
「『風』と『水』では『流動』するという面では同じだから水魔法使いの私でも組みやすかったわ」
「そういう性質って被るモノなんだ」
つい気になってサーシャに質問する。
「ええ…持っている力を定義付けて使っているだけだし絶対にこれと言ったモノではないけれど…」
「『火』と『風』は見えず軽い、『土』と『水』は見えて重く」
「『火』は空へ上がり、『土』は動かず、『風』と『水』はその間を流れる」
「今はどういう説が主流か詳しくないけど私が封印される前は大体こんな感じだったわ」
「なるほど」
やっぱり魔法については結構詳しいんだろうな。嬉々とし説明してくれている。物質よりなのか熱いのか冷たいのかとか色々とありそうだな。なんというか数学かなんかの授業で出た円が重なり合ってるやつみたいに部分部分被ってるところがあると思っていた方がいいだろう。
(…とすると意外と属性間での相性とかはあまりないのかもしれない)
(まあ…俺がゲーム脳だっただけと言われればそうだけど)
・土属性
「『土』はカズキが見た中では…ゴーレムが印象的かしら」
今までの短い旅を思い返す。ちらほら土属性のようなことをしてくる輩はいたが一番印象に残ってるのは間違いなくあの最初の敵だろう。
「ああ…砂漠の番人みたいになってた…」
一番最初に出会った敵のゴーレム。今となってはちょっと懐かしい気もする。砂を集めて再生してきたりして頑張って追い込んで切ったけど硬くて核を壊さないと再生してくるのは怖かったな。というかマジで死ぬんじゃないかとビビってた。態度に出さないようにカッコつけれたかな…
「『土』が司るのは大地・物質。象徴することは持続と固定」
「最も物質に近く魔法における単純な影響力が最大の属性よ」
物質に近い属性か。確かに物質的なイメージだ、それ以外イメージできる感じはあんまない。というか『土』はそういう感じのに干渉する感じなのかとも思ってたけど…
「影響力…?」
そう聴くとサーシャは少し考えてわかりやすいように説明をしようとして
「ええ、『そうであろうとする力』が強いのよ」
「魔法で物を飛ばしたとしても物を上に投げたら落ちてこようとするような……そういう働きかける力が大きいの」
「…なるほど…それは…」
思っていたよりも強力そうな属性だ。ゴーレムのように岩を飛ばしてくるようなタイプばかりじゃないって意識して、初見殺しされないように気を付けなければ…
「砂漠のゴーレムは術式を持続し、私の魔力を固定されていたの」
「そういうことが得意な属性で直接的な破壊力は『火』の次に高くて…一番厄介な属性だと私は思うわ」
勝手な偏見だけど「四天王最弱」ポジションの属性な印象だったけどマジで怖いな。とりあえず高いステータスで状態異常もぶち込んでくると思っておこう。
「………それに私を封印していたのも土魔法使いだし」
・水属性
「…次は『水』ね」
「私の使っている魔法よ」
ついにサーシャの使っている魔法か。俺を癒した魔法だとか旅の間にも色々とお世話になった魔法だ。
「……『水』が司るのは水と生命。象徴することは流動と包摂」
「土に次いで物質的で風より重く流動する属性ね」
生命か…母なる海とか言うし人体の水分量とか考えるとそういう感じなのか。水は下へと流れるもので受け入れる…包摂するっていうのは水に溶かされるっていうことか?
「…そういう性質に関してはあまり気にしなくてもいいわよ」
ううん…どういうことだ?と俺は唸っていたのかそれを見たサーシャが止める。
「いや、折角サーシャの属性だし知っておきたいなって思ってな」
俺がそういうとサーシャはほんの少し嬉しそうな呆れたような表情になる。
「……まあ水の確保とかそういう面で見ると良い属性ではあるけど…戦いにおいては他の属性が使えるのであれば別に伸ばす必要はないわ」
『水』で他の属性と同じ結果は出せなくはないらしいが複雑で手間のかかる術式を組むより他の属性で簡単な術式を使った方がいいらしい。
「他の属性と比べて突出した利点が少ない属性なの」
「……ん、そっか」
俺はサーシャの魔法を覚えたいという気持ちもあるがサーシャが言うことも正しいし一緒に居るのだからサーシャじゃ出来ないことを俺は成さなきゃならない。残念ではあるけど水属性に関してはどういう魔法が存在するのかなどを抑えるぐらいにしておこう。
(俺はサーシャを守るために戦わなきゃならない…まあちょっとお揃いの魔法っていうのにちょっと惹かれてたけど)
(……私のために戦ってくれる契約は結ばれている…でももし私に出来るただ一つは水魔法なのに…それが全て出来るようになったら私は…)
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・禁忌術式
魔法の授業のようなモノを結構聴いて時間もだいぶ過ぎた。属性に対する理解、術式を組む時のテンプレートや方向性や特質の付与などの方法。色々とざっくりと聴いて頭に入れた。サーシャのくれた補助輪が俺の中にあるうちに即興で使えるようにして行けるように頭の中で思考錯誤を繰り返す。そんなことをしている中でお互いが話すことややることが途切れた瞬間ができた。
「……もしよければ…魔法の授業のついでに旅の目的の『禁忌術式』について聴いてもいいか?」
そこで俺は思わず質問をしてしまった。サーシャの旅の目的だし気にはなってはいた。魔法についての話からなら尋ねてもおかしくはないだろう。…顔色を伺いすぎだと自分でも思うが魔法に関しては何の話題が地雷か把握しきれていないからある程度は慎重であるべきだろう。
それでもここで踏み込まないと今後聴く機会もなくなるかもしれないし、自分の中で俺はサーシャの事情より、そのための行動よりただ自分の感情を優先して相手の心を蔑ろしてしまいかねないと頭に僅かによぎった瞬間には動いていた。
俺が尋ねてしまったからかサーシャはしばらく考え込んでいた。ソレを俺はじっと待つ。すでに選択した以上俺に出来ることは待つだけだ。
「………そうね…カズキは私に対してずっと誠実であろうとしているし…」
「……なら…私は説明をしなきゃいけない」
「禁忌術式……魔法使い自らの手で魔法使いをも滅ぼしうると証明してしまった術式のことよ」
そうしてサーシャはゆっくりと語り始める。とりあえず俺は口を挟まずに黙って聴くことにした。
「…私は奴隷として…とある戦いに送り込まれたの」
「うん…傷を癒して水を用意する道具のような物としてだったかな」
そこで私は戦いを見たのだと。
決して癒えぬ傷を見たのだと。
残された死体すらも焼き尽くす炎をみたのだと。
風に乗って疫病が戦場を飛ぶのをみたのだと。
生きたまま土へ呑み込まれる者を見たのだと。
そして─私の水は命を繋ぎ止めることなどありはせず、ただ無感情にソレを眺め続けていた。とサーシャは俺へ語る。その言葉の重さに俺は何も口を挟めない。
「………そこで私は罪を犯したの」
目を瞑り、後悔しているのだと粛々と己こそが罪人であるのだと告げる。
「私は……あの時の私は死んでいく命を勿体ないと…」
「『水』の魔力を使って命を溶かしてまとめて…魔力に変えてソレを使おうとして…」
なるほどやっぱりあの時に見た夢はそういうことなのだろう。謎だったあらゆる属性の魔力を俺という器へどう持って来ていたのかよくわかった。戦場においての判断に戦いを知らない俺は何も口を挟めるはずもなくある程度想像できる範疇で助かった。
「そして私は術式からのフィードバックを受けて…流れ込む感情のまま魔法を振るったの…」
「頭の中の冷静な私は…私の術式で多くの人々が“赤い水”のように変わって行って行くのを見て」
「……なんで人が死んでいるんだって思った」
「あの術式の術式維持のために必要な魔力の自己補完…魔力を持った生命に対する侵食し変換して…成長する」
「そしてどうしてと思っている間に“水”はあの戦場に居た人たち全てを呑み込んで溶かして“炉”へと変えてしまって…私の感情の受け皿からは零れ落ちてどうしようもなくなっていったの」
俺はその話を聞いて何も言えなかった。もしかしたら被害者から罵倒されたりするようなことがあったらこの少女は救いを感じることがあるのかもしれない。命を脅かされた訳でもなく…俺はサーシャに救われたのだ。だからこそこれに関しては俺は何も出来ない。
「そして私と一緒の時期に封印されて止められているうちに…責任を持って壊さなきゃならない」
だから俺のするべきことは彼女が救われるために彼女の行動を手伝って…彼女は幸せになってもいいのだと示していかなくてはいけない。
「もし暴走したら私じゃ止められない」
「もし…封印が破壊されて…赤い雨が降ることになったり…海へ流れて辿り着いたらもう止めれることは出来ないかもしれない」
「だけど…私は…」
悲壮な覚悟を決めて語る少女を見て俺はようやくやりたい事をどのように行うのかを定めた。
「……色々と教えてくれてありがとう」
「俺は…驚いたこともあるし納得したこともある…話してくれて嬉しいかったよ」
気合いを入れている俺を見て驚いているサーシャを見て思わずくすりと笑う。
「…っ…」
俺は自分を責めているサーシャを見て。
「この世界に居る俺にも関わりがあって、自分のためにも戦う必要があるって先に知れたってのは良いことだしな」
「だから…誰かの為に、自分のために俺たちでやれるだけやろう」
どうしようもなく詭弁だろう。一部本心は有る。サーシャに思い出したくもないモノを思い出させてしまった罪悪感もある。これでサーシャにかかる重荷を少しでも背負えるだろうか。
(誰かを救い続けないときっと彼女は救いを感じることなんてないのかも)
(だから俺はサーシャのために…他者を守り戦わないといけない)
「…ええ…そうね。私たちできっと成すべきことを成しましょう」
そう言ってサーシャは納得したのか雰囲気も落ち着いてきた。
そしてさっきの授業より内容が難しく一緒に頑張ろうと告げたからかスパルタ詰め込み教育になって行ったのはまた別の話。
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2.ガールミーツボーイ
私は暗闇の中で一人だ。剣で壁のような場所に縫い付けられて鎖によって術式を妨害されて封印されている。こんな場所に居るからか封印の中で時間の流れが歪んでいるからかもう私は何年ここにいるかすらわからない。
禁忌術式によって流れ込んでいた感情もあの『土魔法使い』によって封印されたからか小康状態だ。とはいえ流れ込む憎悪、恐怖、悲嘆それらの感情はまだ流れ込んでいる。その感情と身体を貫く冷たい剣によって血が流れ続ける痛みによって私の身も心も縫い付けられている。どこかへそのまま消えてしまいたいと思う私の意識はここに繋ぎ止められている。
禁忌術式より来たる魔力によって生きながらえている私はこのまま此処で消え果てるのも己の悪因悪果というものだ。もはや血が流れ続けても死することのないように成り果てた私はその日が来るまでにここで眠り続けなくてはならないのだろう。私が救われていい理由などあるはずがないのだから。
そんな不毛でどうしようもない自問自答の繰り返しは突然終わりを告げた。
これは幻聴だろうか扉の開く音がする。血の匂いがする。どんな怪物がやってきたのか、ついに私は殺されてしまうのだろうかと思い心の中で自嘲し安堵を覚える。そんな中でも私は眠りから覚めることは出来ないししない。
そして暖かい手が私に延ばされた触れた。
彼が私に触れただけで封印のための鎖は砕け、溢れんばかりの魔力によって肉体は修復されソレにより剣が抜け落ちた。
私はその手がどうしても優しいモノのように思えて気がついたら目を覚まし彼に問うていた。
「あなたは誰?」
私の声は擦れてはいないだろうか、きちんと話せているのだろうか。少しずつ熱が奪われていっていく身体に抱えられる。人肌に触れ安らぎを覚えてしまうが私はその温度が消えていくのを感じる。血を流しすぎて最早焦点が合っていないのかもしれないでも私と彼の目は合った。
私を何か綺麗なモノを見たような、哀れなモノを見るような慈しみが混ざった視線。
私はそんなものではない。
「ああ…あなたの命は消えてしまいそうなのね」
私は『水』の魔法使い。治癒を命を救う術を仕込まれてもいたからどのような有り様なのか見てわかる。きっとこの少年はすぐに死んでしまうのだろう。……私が助けなくてはの話だけど。
「そんな有様なのに私を解放した…馬鹿な人」
本当に馬鹿な人だ。こんな場所に入り込んで、私のような得体の知れない筈のモノを解放して挙句の果てに命を落とそうとしている。……そんな状態なのに、それを分かっているはずだろうに私をそんな目で見てくるなんて…どうしてなんだろうか?
「私はあなたを助けることができるわ」
「……でもそれは今ここで命をなくすことより辛い道を歩むことになるかもしれない」
…私には目の前で倒れている彼を助ける手段はある。道具も準備もない今救うために出来ることそれは…私を経由して禁忌術式を彼につなげてしまえば良い。
私が封印され緩やかに禁忌術式を消しさることを選ぶのなら目の前の命を見捨てなくてはならない。
もし彼を私が助けることを選ぶのなら…私が自らの手で禁忌術式への責任を取らなくてはならない。
「それでも私を解放したあなたに問わなくてはならない」
「これは契約」
「新しい命をあなたにあげる。だから…私のために戦って…私のために血を流して」
でも私が彼を救うことを選ぶのであれば私はしばらく魔力の大半を使えなくなるだろう。そんな中で旅をして目的を果たすことは出来やしまい。
だから私の目的を果たすのならきっと彼に戦って貰わなくてはならない。私が彼を助けるのであれば彼を死へ向かわせる必要がある。
「私のために死んで欲しい」
なんて矛盾だ。こんなことを言い放つ私なんて碌な女ではないのだろう。
そんなことを言った私の手を彼は躊躇いなく掴む。
「そっか」
私はこの力も碌に入っていない血に汚れた私と繋がれた手をじっと見る。
「ありがとう…ごめんね」
何だか私は仄暗い喜びを得てしまって…これで私は一人でないのだと。
「これで契約は結ばれたわ」
「私はサーシャ、水の魔法使い、禁忌術式にて災厄を齎した者」
そして私は契約を介して禁忌術式の影響を与えるために口付けをする。これが彼の初めてだったら色気のない状況と相手だから申し訳ない気もする。そうして私は魔法を掛けていく。こ
初めての口付けはどんなものかなんて分からなかった。
「起きたらあなたの名前を聞かせてね?」
今度は私の腕の中で眠りについた彼を抱える。
そして膝を枕のようにして私は体が作り替えられている痛みが少しでも癒やされるように魔法をかけ頭を撫でるように手を添える。そして私は彼を生かすと決め…旅の果てに為すことを己に定めたのだった。