宝がわからない者達
第一章
宝がわからない者達
丹後風土記に書かれている話である。
比治の里に真井という見事な泉がありそこに時折八人の見事な外見の天達が時折舞い降りてきてだった。
水浴びをしていた、このことは里の者なら誰もが知っていたが里で誰からも嫌われている米佐と雀澄の老夫婦が持ち前の欲を出して思いついた。
「八人のうちの一人でもいい」
「わし等の養子にしてだね」
「そうだ、何でもあの天女達は米の神の娘らしい」
老人は言った、細い小さな目でやや面長でいやらしい笑みがこびりついた実に癒しそうな顔だ。老婆は丸顔で小さな細い目で全体的に喜色悪い印象を周りに与えている。
「そして美味い酒を醸すらしい」
「酒だね」
「わし等は酒はあまり飲まんがな」
「酒は売れるよ」
老婆は言った。
「だからね」
「ああ、それでな」
「天女の一人をわし等の養子にして」
「酒を造らせてな」
そうしてというのだ。
「売るぞ」
「そうして儲けるんだね」
「たんまりとな、だから真井に行って」
そうしてというのだ。
「一人でもいいからな」
「捕まえてだね」
「養子にするんだ、ただな」
それでもというのだった。
「おいそれとはな」
「捕まえられないね」
「天女は空を飛ぶからな、だから空を飛ばせる服をだ」
「取るんだね」
「あの連中が水浴びをしている間にな」
その間にというのだ。
「そうするんだ」
「そしてだね」
「捕まえような」
「それじゃあね」
夫婦でそうした話をしてだった。
ずっと真井の泉で待ち構えていて天女達が舞い降りた時にだった。
二人は彼女達が水浴びをしている間に一人の服を取って隠した、すると七人は水浴びを終えると服を着て空に舞い上がって高天原に戻ったが。
一人の小柄で美しい娘が残った、老夫婦はその天女の方に来て言った。
第二章
「衣はわし等が預かった」
「返して欲しかったらわし等の娘になるんだよ」
「そしてわし等の為に働け」
「酒を醸すんだよ」
衣を隠したうえで天女に無理強いした、高天原に帰ることが出来ない天女は頷くしかなかった。そうしてだった。
老夫婦の養女となり酒を醸した、するとその酒は。
「美味いな」
「こんな美味い酒があるのか」
「これはいい」
「幾ら出してもいい」
「それでも飲みたいものだ」
こう言ってだった、日本中からこぞってだった。
天女が醸した酒を飲む為に買いに来た、中には荷車一台分の銭を持って来る者もいた。欲深な老夫婦は銭をこれ以上はないまでに釣り上げて売った。
そうして国が買えるだけの銭を蓄えた、すると夫婦でこう話した。
「これだけ貰ったらいいな」
「そうね、もう商いをしなくてもね」
「わし等は楽に暮らせるぞ」
「そうだね」
「だからな」
それでというのだった。
「もうあの娘はいらない」
「充分儲けたからね」
「もう価値はないからな」
「追い出すわね」
「そうしような」
「それじゃあね」
二人で頷き合ってだった。
そうして実際に天女を追い出した、その時衣を返さなかった。
「これも売ればいいな」
「高く売れるわ」
「捨てる娘の衣も売ってしまえ」
「売れるものは全部売って儲けるのよ」
こう話してだった。
そして実際に売った、追い出された天女は嘆き悲しんだがどうにもならず里を後にするしかなかった。それを見てだった。
里の者達は顔を顰めさせてだ、こう話した。
「前から底意地が悪くケチで欲が深くてな」
「図々しくて卑しい連中だったが」
「ああしたことをするか」
「本当に碌でもない夫婦だ」
「利用し尽くしたら捨てるか」
「儲けてな」
「天女殿があまりにも気の毒だ」
こう話した、そしてだった。
診かねた里の者達は追い出された天女に同情して話した。
「天女様はどうなるのだ」
「追い出されたが」
「高天原に戻られるにも衣を売られた」
「今着ておられるのは普通の衣だ」
「それでは戻れぬ」
「空も飛べずな」
「いや、高天原の方なら」
ここで一人の者が言ってきた。
「行かれるといい場所ある」
「そうなのか」
「いい場所があるのか」
「そうなのか」
「奈具だ」
その地だというのだ。
「そこに行けばな」
「何とかなるか」
「そうなのか」
「その場に行けば」
「だからな」
そうであるからだというのだ。
「天女様にはだ」
「奈具に行ってもらうか」
「そうして頂くか」
「これから」
「そうして頂こう」
こう話してだった。
第三章
実際に天女にそちらに行く様に勧めた、天女としては他にどうすればいいのかわからずそれでだった。
実際にその地に赴いた、すると。
その社の神々は彼女を見てすぐに言った。
「話は知っておる」
「既にな」
「そなたの姉妹達から聞いておる」
「全く以て酷い話だ」
「だがこの奈具に来たなら大丈夫だ」
「もう心配はいらぬ」
「丁度我等は外宮の神がおらなかった」
ここでこの話が為された。
「しかも酒の神がな」
「だからそなたは外宮に入るのだ」
「そしてこの地の酒の神となるのだ」
「そうなってくれるか」
「何と、私が神にですか。しかも」
天女は神々の申し出に驚いて言った。
「宮に入るのですか」
「そうだ、いいか」
「これよりな」
「そなた程の者なら相応しい」
「素晴らしい酒を醸してくれるからな」
「これからも酒を醸してくれ」
「極上の酒をな」
こう言って天女を外宮に置いた、そして素晴らしい女神として崇めた。老夫婦に粗末に扱われ邪険にされた彼女はこの上なく感激し奈具の社そして社に来た者達に極上の酒を振る舞っていった。
その話を聞いた比治の里の彼女を利用し尽くして悪どく儲け挙句追い出した老夫婦はその頃散々遊び散財し一文なしになったうえでその行いから里の者達に忌み嫌われ相手にされず困り果てていたがまた利用してやろうと奈具に向かったが。
途中でその浅ましさに怒った高天原の神々が落とした雷に撃たれて無様に死んだ、嫌われ者の彼等を弔う者はおらず神々はのざらしの骨になった彼等を見て話した。
「天女の素晴らしさがわからず利用し尽くして追い出すとは」
「実に浅ましく愚かな者達だ」
「そんな者達には神罰こそ相応しい」
「そこで骨になっていることだ」
「宝を宝と思わず粗末にする輩には相応しい」
「そのまま朽ちておけ」
冷たく言い捨てた、そして天女は社が徐々に立派になっていく中でさらに美酒を醸し続けていった。
すると誰もが彼女を深く崇める様になりやがて奈具の社が伊勢神宮になるとその外宮に座し続け豊受姫という名になり偉大な女神として讃えられる様になった。伊勢神宮の豊受姫の話にはこうしたものもある。一人でも多くの方が読んで頂ければ幸いである。
宝がわからない者達 完
2014・5・13