彼は いつから私の彼氏?


 

1-1

「なんで 始まる前に言わないんだよー」と、翔琉君が・・・

 私は、この日 算数の教科書を忘れてきてしまったのだ。だから、クラスの決まりで忘れ物をした人は授業が始まる前に教室の後ろに立って、そのことを皆の前で報告して何とか許してもらうのだ。今なら教育委員会の懲罰ギリギリなんだろうか。そして、先生から「となりの人に見せてもらいなさい」の冷たい声で、机を寄せて教科書を見せてもらって授業を受けるのだ。

「だって そんなこと ゆわれへんヤン 恥ずかしい!」

「あほっ それっくらい 俺には言えよー 女の子が後ろに立つ方が恥ずかしいやろー 先に俺に言えば 代わりに立ってやるのにー」

「・・・ そんなん・・・」だけど、見せてもらっている教科書は、余白のところがヘタクソなマンガがあちこちに書かれていて落書きだらけで、翔琉君は授業を真面目に聞いていないんじゃぁないのかと思っていたのだ。それでも 彼の言葉にキュンとしていたのだ。

 欅原翔琉《けやきばらかける》 幼稚園から一緒なんだけど、彼は幼稚園の時のことは覚えていないと言うか 私のことなんか 気に掛けもしてなかったみたい。そして、小学校に入学した時も、同じクラスで席も隣同士だったのに・・・1年生の時は、まだ、机は2人掛けでくっついていた。2年生になってからは1人ずつの机になったのだ。でも、2年・3年生の時は違うクラスで離れてしまったのだ。

 4年生になって、再び同じクラスに・・・4年から6年生までは ず~っと クラス替えがないから 一緒のクラスで。そして、席替えが行われても 私の隣りには なぜか 彼が居ることが多かったのだ。担任の先生も どうして いつも 私達を並ばせるんだろかと考えたこともあった。クラスの皆は気付いて無いだろうけど、私は意識していたのだ。彼は・・・どうなのか わからない。だけど 席に座っている時だけは、いつも 彼と一緒っていう感覚が・・・私には・・・。

 6年生になった時も、隣りの席には翔琉君が居た。

「なんだ また お前かぁー」

「ぅぅー・・・ わたくしは嬉しくって 涙が出てきそうでございます チミはどうして こんなカワイ子ちゃんの隣りになって幸せだなーぁ とか言えないん?」 腹ん中はくそぉーって思っていたのだが

「はぁーぁ お前 熱あるんか? 保健室行けよー」

「もぉー そんなんちゃうわー」

 1学期が始まってしばらくした時、先生が「今から 隣りの人でも良いし クラスの中で気になっている人でも良いし その人の良い所を言葉にして書きなさい 他人の良い所を見つけて確認するって大切なことよ 相手が異性だって恥ずかしがらないでいいわよー はっきり 相手にも伝えるって素敵なことなのよ あとで 発表してもらいますからー」

 河道屋楓《かわみちやかえで》先生。30前で独身の女性で、4年生の時から持ち上がりで私達の担任なのだ。はっきりとした性格で学生時代はラクロスをやっていたと言うことで、体育が専門なのだ。だから、攻撃的でウジウジしていると直ぐにお説教が始まるのだ。

 先生はあんなことを強引に言っていたけど、私の隣りは翔琉君 その反対隣りは、水橋十蔵《みずばしじゅうぞう》。翔琉君とは気が合うみたいで仲がいいのだけど、私は この子はチャラチャラしていて あんまり好きなタイプじゃぁないのだ。彼以外に気になる人といえば・・・宮川奨《みやがわすすむ》君 クラスで成績がいつもトップの秀才。江州遼子《ごうしゅうりょうこ》さん クラスの女の子の中では美人ということで男の子には一番人気があって、成績も優秀なのだ。その二人以外でいうと小泉智子《こいずみともこ》ちゃん 私と仲が良くって学校の行き帰りなんかも一緒なのだ。私は、どっちかというと、あんまり目立たないようにしていようという方だから・・・そんな訳だから、気になっている人のことを・・・と、いうと翔琉君しか居ない。

 だから、わたしは翔琉君のことを書こうと・・・隣りをチラチラみるんだけど・・・彼は、反対隣りの白浜美蕾《しらはまみら》ちゃんと一言二言話し合っているんだ! 彼女は6年生になって転校してきて、おまけに翔琉君と気象記録の係をやることになったのだ。そのせいか 二人で話し合うことが多かったので、授業中でも、先生のしゃべったことを 「今 なんて言ったの?」と、彼女は翔琉君に聞いたりして・・・あのバカは落書きばっかーして先生の話なんか聞いて無いはずなのに、ちゃんとそれに答えるのだ。私の心の中は穏やかでなかった。というのも、彼女は愛くるしい可愛い笑顔で、またたく間に男の子の間でも人気を遼子ちゃんと二分してしまっているのだから・・・。

 私は、それとなく翔琉君のことを特定ということでなく、誰にでも当てはまるように「女の子に対しても優しくて、人の悪口を言わない子」と、いう風に書いていたのだ が 翔琉君が発表したのは 「転校してきて クラスの皆と進んで打ち解けるように 誰とでも、明るく接しようとしている 前向きな白浜さんのこと 素敵だなと思います」 ・・・・クラスの何人かから冷やかし半分の声があがっていた。(なによー それっ・・・私のこと言ってくれるんじゃぁないのぉー・・・プン)

 それに、白浜美蕾さんの時、彼女は「転校してきて、不安だった私を優しく助けてくれた欅原君 それにクラスの皆が私を受け入れてくれて感謝しています 素敵なクラスに入れて良かったと思っています 私は このクラスの皆さん大好きです」と、皆からやんやの喝采を浴びていた。又 彼女はポイントを稼いでいたのだ。

 私の番になった時、それまで書いてきたことを読み上げるんじゃぁ無くて「いつも 皆のことを考えて 気を使ったり 盛り上げてくれる水橋十蔵君は素晴らしいと思います」と、咄嗟に言ってしまった。

 翔琉君の方を見たけど、彼は私と眼を合わせようとしてこなかったのだ。 (ふ~ん その気 無いんだ やっぱり 私のことなんか興味無いんだ)
 

 

1-2

「帰ろうか? 水澄(みずみ)」と、あの後、気を使ってかあんまり話し掛けてこなかった智子ちゃんが ようやく声を掛けてきたのだが、十蔵君が

「あんがとうな! 香月水澄(こうづきみずみ)! あんな風に思ってくれてるなんて感激だよー でも 翔琉の手前 いいのかあんなこと言っちゃってー ますます離れて行くぞー」

「ちょっとー あんたぁー 気 使いぃなぁー 水澄の気持ち 今 どんなんか わからへんのんかぁー?」と、智子ちゃんが文句言ってくれていたら 「おぉー こわぁー」と、逃げて行った。

「智子 気ぃ使わんでええでー あいつなんか幼稚園の時から知っているってだけで 何とも思ってへんからー」

 失恋というほど大袈裟なもんではなかったけど・・・落ち込んでいたのは確かだった。そして、白浜美蕾ちゃんに負けたと感じていたのも・・・。私も 転校すれば あんな風に振舞えるかしら・・・と。

 そのまま二人は黙り込んだまま下駄箱のところまで来ると、翔琉君が待っていたのだろうか 私は 気まずかったのだが

「コレッ」と、彼は下を向いたまま 紙切れを私に渡して、走るように行ってしまった。

 開けてみると、そこには、ヘタクソな字で書かれていて

(膝を擦りむいたりしていると そっと 濡れたハンカチを差し出してくれたりて 気がつくと 小さい頃から いつも 側に居て そんな優しい水澄さんが僕は好きです)

 はっ これって・・・私のことを好きって言ってくれてるん?  ・・・しばらく 呆然としていたのだけど、顔が赤くなってきて・・・

「なんやねー あいつぅ なんなん 何が 書いてあるん?」智子ちゃんが覗き込むようにしてきたけど

「へっ へー 絶縁状やー」

「なんやてー あいつ そんなん ありかぁー ウチ 文句ゆうてきたるわー」

「うそっ! 待って 智子ちゃん! ほんまは 私のことが好きって書いてあるねん これは 大切しておきたいからー 智子ちゃんにも 見せられへんけどなー」 

「あっ そーやったん よかったヤン 水澄 やっぱり 君達はそーでなくてはなー 水澄 うれしそーヤン やったねー なんやねん 急にスキップしてるみたいやんかぁー」

 私 それまで 落ち込んでいたのが うそみたいだった。散ってしまった桜の若葉でさえ萌えているように見えていたのだ。家に帰ってからも浮かれていて、お母さんも何かおかしいと思っているみたいだった。

 これが恋するってことなのー 私は あの紙を見た瞬間に 彼に はっきりと 恋愛感情を抱いてしまったのだろう。私は 翔琉君のことが好き。どうしてって? 理由なんて要るの? 小さい頃から、私と翔琉君は、特に眼の辺りが似ていて、なんとなく他人には思えなかったし、私は彼のことを好きというに近い感情を持っているのは確かなのだ。幼稚園の頃から 彼を見ていると やすらぐのよ!

 次の日の朝 彼と顔を合わせて 何とか「おはよう」と、言ったものの その後は恥ずかしくて 見れなかった。彼が白浜美蕾ちゃんと笑いながら話していても もう 気にもならなかったのだ。「あんたは そーやっていても 彼と 私は 繋がっているのよ!」という自信があったのだ。

「なぁ ちゃんと 応えたん?」

「うっ 何の話?」

「決まってるヤン 翔琉君に・・・」

「べつに・・・ いまさら・・・」

「あほっ そんなんしてると あの子に取られるでー 男って いざとなると ふらふらしよるからなー」

「う~ん でも どーやったら ええんかー」

「そんなん 私も 好きです って ゆうたらええだけやんかー」

「・・・ いざとなると 恥ずかしい・・・」

「もぉーぅ 知らんでー 取られても 泣かんとってヤー」

 確かに、はっきりと 意思疎通っていうか お互い 言っておかねばとは 思ってはいたのたが・・・。面と向かって 言うのは 恐かったのだ。

「今朝から 翔琉と水澄って よそよそしいのぉー せっかく うまく いきそうなのに・・・」と、十蔵おちょっかいを出してきた。

「べつにー いつも通りやー」

「あっ あっ 意識してやんのー 紅くなってやんのー」

「あほっ」と、追い回していながらも、心に余裕があったのだ。
 

 

1-3

 そのまま夏休みになろうとしていたのだけど、私は まだ 翔琉君に応えていなかったのだ。だけど、毎日 そのことに 悶々として過ごしてしまっていた。だけど、決心して

「あのさー 夏休みになったらネ 嫌ちごぉーたら ウチに来て 一緒に宿題 せーへん?」

「あー だなー 会えんようになるもんなー それも 良いなー でも 水澄がウチに来いよー 水澄んチの家の人に挨拶するの 面倒ヤン」

 十蔵君は前からなんだけど、翔琉君が私の名前を 水澄って呼び捨てにするってあんまり聞いたことがなかったような気がする。だから、この時 私の名前を呼び捨てで・・・そんなことだけで、もっと ふたりの間が近くなったようでうれしかったのだ。

「ウン じゃぁ 私がお邪魔するね! 休みになっても 好きな人と 時々 会えるなんて 楽しみだネ」と、その時、翔琉君は笑っているだけだったけど、私は、素直に自分の気持ちを伝えられたのだ。
 
 そして、夏休みに入って3日後に行く約束をした。午前中は兄貴がクラブで居ないから9時で良いかと言われた。翔琉君のお兄さんと私の兄は同学年で同じサッカーの部活をやっていて、割と仲が良いのを聞いていた。午前中は部活動があるって私のお兄ちゃん 達樹(たつき)兄ちゃんも言っていた。

 お母さんに翔琉君のとこで一緒に夏休みの宿題をやることになったと話すと 「まぁ 大変」と、慌てて私の洋服を買いに連れられて、当日の前日には近くで人気の和菓子屋さんで、手土産にとプリンを買ってきて持たされていた。私は、お母さんがこんなに大騒ぎするなんて思ってもいなかったのだ。

 当日、私はお母さんに揃えてもらった桔梗の花模様のブラウスに水縹色という少しフレァーなスカートで、持たされたプリンを下げて、翔琉君の家を訪ねた。お兄ちゃんは、7時過ぎにクラブ活動で家を出たので、翔琉君のお兄ちゃんもそうだろう。おおよその場所は知っていたが、書いてもらった地図を頼りに探し当てて、門と母屋の間には、日本庭園が広がる立派なお家だった。

 9時丁度ぐらいに着いたと思う。チャイムを押すと、多分 お母さんだろう人が出てきてくれて

「まぁ 水澄ちゃん 幼稚園の時以来かしらー」

「こんにちは 今日はお邪魔します」

と、開けてくれて案内されると、玄関に翔琉君が待っててくれた。

「これっ お母さんが持って行けって」と、プリンを差し出すと

「あらっ そんなの いいのにー じゃぁー 後で いただきましょうかねー そのブラウス 可愛いわー 水澄ちゃんも すっかり お嬢さんになってー あのね 小さい頃から 優しくて落ち着いていて 小学校に入った時も 翔琉と一緒のクラスだったじゃぁない? そして 今も・・・ 仲良くやっているって 翔琉から聞いて 水澄ちゃんなら 間違いないって 安心しているのよー これからも よろしくね!」

 そして、案内されたのは、ダイニングで6人掛けの大きなテーブル。

「俺の部屋は扇風機しか無いしね 2階で日中は暑い ここは エァコン無しでもなんとかねー それに 部屋で二人っきりになるのはダメって おっかぁが言うし」

「あっ そうかー いいよ 私は どこでもー」

「そうかー よかった でも 今日の水澄さんは 特に 可愛いよ」と、彼は言ってしまった後、恥ずかしそうにしていたのだが

「うふっ そんな風に言ってくれて良かったぁー」

 そして、算数のドリルから・・・と 言うのも 私の 得意科目なのだ。問題に詰まったりしたらお互いに確認し合っていて、最初は向かい合って座った居たのだが、そのうち翔琉君が隣に移って来て、並んで座っていたのだ。

 時々、偶然 身体が触れ合ったりして、私は 段々と意識してしまっていたけど、彼は別に そんな風でも無いのかなー。

 途中、お母さんが 休憩と言って、私が持って行ったプリンを運んできてくれた。

「水澄ちゃんって お勉強も出来るんでしょう?」

「そんなこと無いですよー いつも 翔琉君に負けているみたい」

「この子ねー クラスの宮川君と江州さんには いつも 負けているって 勝てないみたいよー 算数が苦手というか 考えるのが面倒って 途中で止めてしまうの 今日は 水澄ちゃんが居るから ちゃんとやっているみたいだけどねー」

「あぁー あの二人は 特別ですからー でも 翔琉君が頭良いの 知っています 授業とか いい加減に聞いているのに・・・ あっ すみません いゃっ ちゃんと聞いているみたいで・・・」

「ふふっ 良いのよー 確かに 勉強なんてしている様子無いのに お兄ちゃんはちゃんとやっているのにね その脇で遊んでいるの 昔っからね でも 不思議なことに そんなに 成績悪くないのよー」 

「お母さん もう じゃまだよー あっち 行けよー」

「そうね そうだ 水澄ちゃん お昼ご飯も食べていってね オムライスだけどー」

 私 お昼ご飯も頂くことになって 食べ終わった頃にお兄さんが帰って来て

「おぅ 水澄ちゃん 来てくれた? 翔琉はちっとも机に向かわないから、ちっとは刺激を与えてやってくれると助かるよ ねぇ お母さん」

「そうねぇ 翔琉が勉強しているとこって 初めて見るかもねー」

「そんなことないよー 他人知れず やってるんだよ!」

「私も そう 思います で ないと あんなに出来るわけないものー」

「おっ おー 二人の間は 割と 良い感じだねぇー 顔が何となく似ているから兄妹カナ それともカップルカナ」と、お兄さんは私達を冷やかしていた。

 それを聞いて、私は赤くなっていたのだが、翔琉君は無視しているみたいだった。 
 

 

1-4

 2日後、又 私は翔琉君ンチに来ていた。

「今日は 算数のドリル 終えちゃおうネ」

「そんな 追い込まなくてもー 夏休みの宿題なんて 毎日1ベージずつやるのが普通だろう?」

「ダメ! 早く終えて あとは 自由研究に費やすの!」、私は、字を書くときは左利きなので、翔琉君と座る時は、右側に彼が来るように並ぶのだ。だから、右手で彼をこつくようにすると

「お前 意外と 努力家なんだなぁー」と、私をつっ突き返してきた。それで、私は、彼に甘えたくなって

「でも やっても 翔琉君に追いつかないんだものー やっぱり バカなんだね」と、少し頭を翔琉君に傾げるようにしていて

「そんなことないよー 努力は報われるさー 無駄な努力ってのもあるけどなー」

「その 無駄な努力ってのが 私ってこと?」

「いやー それは 自分で判断するってことかなー」

「??? 私ね 翔琉君が何を考えているのか わからなくなる時があるの」

「何にも考えて無いよー 単純なことしか 例えば 今 水澄のパンツは何かの絵なんかな? って」

「・・・ アホっ ・・・」 今日の私はショートパンツだったので中まで見える訳が無いと思ったが、急にそんなことを言われて、見られたようで恥ずかしくなって顔が紅くなっていたと思う。隠すために、さっさとドリルに向かっていた。

 ドリルも残り少しになった時、買い物に出掛けていたお母さんが帰って来て

「アイスクリーム買ってきたの ひと段落着いたら 食べてネ」

「お母さん 水澄が来てると 何で そんなに張り切るんだよー」

「あったり前じゃぁない 女の子って 可愛いんだものー それにね 水澄ちゃんって 何となく翔琉に顔立ちが似ているから、ウチの子みたいって思ったりするの」

 そして、アイスクリームはお昼のミートスパゲティの後に食べていると、

「ねぇ 水澄ちゃんのお母さんって 確か 前は 駅前通りの刺繍糸屋さんに居たんでしょ あのお店 無くなっちゃったのよねー」

「そーなんです でも 今は 信号のところを少し行ったケーキ屋さんに行っています あんまりおいしく無いケーキ屋さん」

「そーなの あの刺繍糸のお店には何回か行っていたのよ だから、水澄ちゃんのお母さんともお話したことはあるのよ ハッキリした人よねー 女の人には珍しい そのケーキ屋さんでは買ったこと無いけど・・・」

「あぁー 買わないほうが良いかもー ウチのお母さんも 一度も 持って帰ってきたこと無いものー お給料の為に行っているだけだってー」

「ふふっ そうなの ドライなのね」

「あぁー 何でも あっさりしているかもー 何か相談しようと話し掛けても 水澄が自分で決めたらいいのよってー 戸惑ってしまうことが多いんです」

「そう・・・ それは 水澄ちゃんのことを 信用してるのよー」

「そうなんですかねー 面倒臭いんじゃぁ無いのかなー って 思ってしまうんですよ」

「そーいうのって いいじゃん ウチのお母さんなんて あーしろ こーしろって いちいち うるさいんだよー」と、聞いていた翔琉君が横からー

「あらーぁ 水澄ちゃんみたいに ちゃんとした子なら 何にも言わないわよー」

「へっ こいつの 間が抜けたとこ 知らないんだよー」

「あらっ そう その間が抜けたとこ 埋めるのが あなたの努めじゃぁないのー お互いにネ!」

「うぅー・・・ 俺等 まだ そこまで・・・」

「うぅ じゃぁないの! 女の子を好きになるって 覚悟が要るのよ」

「おばさん 私達 そこまで・・・」

「いいの この子は覚悟がたりないのよー だから いつも 宮川君と江州さんに負けたって ウジウジしてるのよ 真剣にやりもしないくせにー」

「お母さんは 俺には いつも そーやって厳しいんだよー」

「何言ってんの! 弟だからって 甘えている翔琉のお尻を叩いているだけよ」

 その日、帰る前に翔琉君の部屋ン中見たいと お願いして

「ふ~ん こんなもんなんだ 割と整頓してるね」

「あぁ あんまり ものを置かないんだ 運動も興味無いからな」

「あっ そう 中学になったら なんか 部活やるんでしよ?」

「まだ 考えてない 団体競技は嫌だなー 自分のペースでやりたい」

「私は 卓球 やりたい 石川佳純さんみたいのん」

「アホかぁー あんなの 一握りだよ それに 3歳ぐらいからやっていて ようやくなんだよー みんな そう」

「わかんないよー 天才がここに居るかも ねぇ 翔琉君も一緒にやろうよー」

「へっ 乗り気しない」

「なんやねん 私を守ってくれるんちゃうん?」

「いつから そんなことになってるんやー 見返りも何にも無いのにー」

「・・・見返りって・・・ 要るん?」

「いゃ そーいうんちゃうけど・・・なんか 証(あかし)っていうかー・・・」

 私 衝動的に 横から抱き付いて、翔琉君のホッペにチュッと

「白浜さんからも もらったりしたら 嫌やでー」と、顔が紅くなっているのだろう 慌てて帰ってきた。本当は ちゃんとキスしたほうが良かったのかなぁー でも みずみ は まだ 小学生なんやからなぁー 

 

1-5

 二日後は理科のドリルに取り掛かっていて

「明日 市民プールに行こうよ 兄貴達も行くんだって」

「うっ プールかぁー 私 水着って 学校のんしか無いねん」

「かめへんやん 俺だって そうやー 兄貴達は学校のテニス部の女の子達も一緒って 言っていた 行こうよー」

「う~ん 智子ちゃんとか 十蔵君も誘わへん?」

「うん じゃー 十蔵は声 掛けるよ 智子ちゃんは 水澄が な!」

 当日は皆で市民プールの前で9時半に集まって、皆が自転車で来ていた。私も、お兄ちゃんと連れ添って自転車で。お兄ちゃん達のグループは女の子が3人居て、プールの中でもはしゃいでいて、私達は最初は何となくぎこちなかったけど、スライダーの時 私 翔琉君 智子 十蔵君の順に滑って、その後は身体が多少触れ合っても平気だった。2度目の時には、翔琉君が後ろから私にくっつくようにして滑ってた。私は、ちょっとーと思ったけど・・・まぁ いいかぁー。

 プールから出て、お兄ちゃん達はハンバーガーに行くと言っていたけど、私達はパン屋さんのイートインへ。

「いやーぁ お二人さんも順調に膨らんできているなー 学校の授業の時は気がつかんかった」と、十蔵君が

「なっ なんてことを こんなとこで・・・ 何見てんのよー あんたは ほんと 無神経!」

「へっ 見たまんまのことやんけー 智子なんて 以外に・・・やったー」

「んー まぁ あのなぁー あんた等も あそこ 順調に大きいーせんと 女の子から相手されんようになるでー」

「ギャーツ さすが 智子 刺激的なことを平気で・・・」

「アホッ そんなん ウチ等の近所の子なんか 普通やー」

「おぉー こわー 智子とこ辺りはなー」

「なんや その言い方 まぁ ええわー ウチもな あの辺りのこと 柄悪いん 前は気にしとったけど 今は 何とも思ってへんねん 気にしたってしゃーないもんなー ウチは恥ずかしいとも何とも思わへん 普通に 水澄やって 親友になってくれるしー それに 十蔵も翔琉君も」

 確かに、智子ちゃんの家がある辺りは、訳アリの地域なのだ。だけど、私はそんなことは関係無く智子ちゃんと仲が良くなったのだ。ウチのお母さんもそんなことは一切 気にしていなかったからー 一言も言われたことが無かった。

「まぁ 智子は 友達思いやしー 何にでも 前向きやもんなー 付き合いやすいよ」と、翔琉君も智子ちゃんには好意的なのだ。

「あっ そうだ 日曜日だったかなー 駅でな宮川と江州遼子を見たぞ 仲良く手を繋いで電車に乗って行った あいつ等 付き合っていたんだ」と、十蔵君が割と衝撃的な報告をしてきた。

「へぇー へぇー 秀才二人がぁー デートかなぁー 手 繋いでぇー?」

「なによー 水澄 羨ましいのー? 手 繋いだことないん?」

「えっ だって 私等 まだ・・・ デートなんて・・・」

「なに 垂いことゆうてんのん 翔琉ぅー しっかりせーよー」

「はっ はー 俺かぁー」

「そーだよ 俺かぁちゃうわー 翔琉が引っ張っていかんと 水澄には逃げれられるってゆうてるやろー 白浜美蕾なんかに惑わされとるんちゃうかー」

「あっ いや 彼女とは・・・」

「なんやの そのハッキリせん言い方は! あのさー 帰りに靴箱んとこで白浜美蕾に手を握られとったってウワサ ほんまなんか?」

「・・・あれは・・・たまたま・・・」

「なんやねん こいつ ふらふらしやがってー あの子に惑わされてやんの」

「いゃ あれは 違うってー 智子 もう 勘弁してくれよー 俺が好きなのは 水澄ひとりだよ 誓うよ」

「ほぉー ほぉー 誓ったな! だって 水澄」

「えっ うっ うん 私も・・・好き・・・」私 紅くなってきている顔を伏せていた。でも、複雑だったけど 嬉しかった。

「だってよー 二人は緊いよー 智子がヤキモキすること無いってー それより この後 俺に付き合ってくれよー 買い物」

「なんやねん その買い物って」

「そのー 妹に・・・ 誕生日やねん」

「ほッ (こう)ちゃんにかぁ?」

「うん 髪飾りとかチャームとか 智子の目線で・・・喜びそうなものを」

「そんなん 水澄のほうが・・・」

「いいんだよー 智子が・・・」

「あっ そう」

 と、二人が先に店を出て行った。

「十蔵 気 使ったんだな 俺等の為に」

「あっ そうかー 別に 気 使うほどのことちゃうのにねー」

 私達はお店の前で さよならを言う時

「なぁ さっき ゆうてくれたん ほんま?」

「うー なんのことやー?」

「私のこと・・・」

「あぁー 好きだよ まぁ ホッペへの印じゃぁ無くて 違うとこに欲しいけどなー」

「アホか!」 

 

1-6

 8月に入って、登校日の日。私と翔琉君はもう宿題ドリルは全て終えていた。残されたのは、自由研究だけになってた。

 皆が教室に集まった時、なんと 白浜美蕾ちゃんはノースリーブで肩の所がヒラヒラになった梨の絵柄のサマーワンピースだった。華やかで一部の女の子にもてはやされていた。

「翔琉君 おはよう 元気だったぁー 会えなくて 寂しかったわー」と、甘ったるい声を私は、隣で聞いていて、朝からイラッとしていたのだ。

 それから ネチネチと自分が遊びに行った話を翔琉君に話していて、「翔琉君も一緒だったら もっと 楽しかったのにー」とか・・・。私は、相槌を打ちながら聞いている翔琉君に耐えられなくて、トイレに立って居たのだ。すると、うしろから智子ちゃんが付いてきていて

「あのさー 昨日 おとんが551の豚まん 買ってきてくれてよー 旨いなぁー ヤッパー」

「あのさー ・・・ うん 食べたいなぁー そうだ 今度 翔琉君と買いに行くね」

「そーだよ それが良いよー」

「ありがとう 智子 私 あんなことで 動じないよ!」

「ふふっ 本丸の姫は辛いのぉー」

「なんやー その 言い方ぁーぁ」と、智子の頭を抱えてふざけ合っていた。

 だけど、帰る時、翔琉君に呼び止められて

「あのなー 違うんやでー 水澄が機嫌悪いのもわかるでー でも、無視するのも あんまりやろー だからぁー」

「なんやのー 言い訳かぁー」と、私が泣きそうになっていると

「ごめん 泣くなよー」

「ちゃうわー 勘違いせんとってー ちまちまと言い訳するよーな奴を好きになったんかと 自分が情けないんやー 私は! 翔琉が美蕾ちゃんと仲よーやってるぐらいで動じへんわー! 翔琉もそのつもりで居てやー」 

「あっ すまん あのな お盆にな おっかぁの実家に行くんだけど、一緒に行かないか おっかぁも 誘えばーって 福井の三国ってとこ 海水浴も出来るよ 2泊するんだ」

「えっ ぇー 翔琉君とことおぉー」 

「そーだよ! 海が近いから 魚も新鮮でうまいぞー」

「・・・そんなこと いきなり 言われてもなぁー お母さんがなんて言うかー・・・ 私は 行きたいよ!」

「まぁ 相談してみろよ」

 その日、晩ご飯の後、私はウジウジしながら お母さんに

「あのね お泊りの旅行行ってもいいかなぁー」

「えっ どこにー 誰と?」

「うん 翔琉君んチのお母さんの実家 お盆に・・・福井だって」

「はぁー 誘われたのぉー?」

「うん・・・ 今日 学校の帰りに・・・2泊」

「あのさー 翔琉君とこって 男の子兄弟でしょ そん中に水澄が入ってどうすんのよー 向こうだって 困るでしょ!」

「あー でも 翔琉君のお母さんが誘いなさいって・・・」

「そんなねー 他人ンチの娘をなんだって思っているのかしら 猫の子じゃぁあるまいしー そりゃー 夏休みの間はお世話になっているわよー でも それとは 別よー お泊りなんてー 女の子なのよ」

「・・・でも 嬉しかったの・・・誘ってもらった時 行きたいモン・・・」

「水澄・・・ でもね・・・」お母さんも どう 言って良いのか考えていたのだろう。こういう時、無理やりなことは言わないお母さんなのだ。

 私が、やっぱりダメかぁー と 下を向いて溢れてくる涙をこらえている時

「あっ 俺も硝磨(しょうま)に誘われてるんだよ 俺も一緒だから良いんじゃぁない?」と、お兄ちゃんが 突然 言い出した。

「えっ 達樹も・・・」

「そうだよー 兄妹 揃ってなぁー まぁ 良いんじゃないのー 魚が新鮮だっていうしー うまそー ウチは夏休みの旅行の計画もないんだろう?」

「・・・ じゃぁ 達樹 ちゃんと水澄の面倒 責任持って見てよ!」

「はい! 兄の努め ちゃんと果たします!」

 その夜、お風呂上りにお兄ちゃんの部屋に

「お風呂 出たよ!」って部屋のドァを開けると

「あわっ お前なぁー いきなり 入ってくんなよー」と、お兄ちゃんは その時 自分の股間を眺めていた。

「なに してるん?」

「あっ そのー ・・・毛がなー」

「ふ~ん 毛が?」

「まぁ そろそろ 男のな 水澄はまだか?」

「私は まだ 生理もこんのやー 遅いんかなー」

「まぁ 身体も小さいほうやからなー」

「なぁ 〇〇〇〇 見せてーなー 最近 一緒にお風呂にも入ってへんからー」

「あほかぁー お前 変態か?」

「そんなん ちゃうけど 興味あるやん 兄妹やし ええヤン」

「やめてくれ! 兄妹やから 余計 恥ずかしい」

「なんや 根性無し! 私は お兄ちゃんやったら 裸 見られても平気やでー」

「それって 根性の問題か?」

「ふふっ どうやろねー あのね さっき 口添えしてくれて ありがとうね ほんまに 誘われてたん?」

「いいやー 水澄が行きたそうやったから・・・ 明日 硝磨に言うよ」

「・・・そーやったん お兄ちゃん ありがとう・・・いつも 見守ってくれて」

「まぁ 不細工な妹でも翔琉が好きって言ってくれてるんやろー あいつに感謝せなー それに 水澄の初恋やから・・・」

「・・・こんな可愛い妹に対して そんな言い方無いんちゃう? お兄ちゃん 私って ブス? なん?」

「うー でもないけどー まぁ 美人ではないなー でも 成長するにつれて段々と可愛くなってきたよ ほらっ 美人って 小さい頃は可愛くないって言うヤン  まぁ 水澄はまだ原石ってとこかなー」

「あんなー さっき ありがとうってゆうたん とりあえず 取り消すわー」 

 

1-7

 そして、出発の当日。私は、お母さんが買ってくれた大きな向日葵の絵柄のサマーワンピースにリボンの付いたカンカン帽に革紐の白い厚底サンダル。とりあえず小さめのキャリーケースをお父さんから借りてきていた。昨日は、お母さんが翔琉君ンチに今回のことのお礼に伺ったみたいだった。

「水澄 可愛いよ 孫にも衣装とは よく言ったものだ」

「なによー ワンピースが可愛いのぉー? 美蕾ちゃんとはどっちがー?」

「あほっ やっぱり こだわってるんやないかー いや 水澄のほうが・・・ずっと」と、翔琉君は横を向いて小声で応えていたのだ。

「やっぱり 女の子は可愛いわよねー 水澄ちゃん お花が咲いているみたいよ 似合ってる 男どもは可愛げもない恰好で・・・」と、翔琉君ンチのおばさんがフォローしてくれていた。翔琉君のおばさんと子供達4人組。翔琉君のお父さんはひとりでゆっくりしたいからと来なかったのだ。

 大阪駅まで出て、サンダーバードで福井まで行って、お昼ご飯に名物だというソースカツ丼のお店に。

「う~んん おいしいぃー このサクっとした感じ このタレの微妙な甘さ加減 もしも こんなおいしいものが御昼に控えているかと思うと 君達も練習頑張れるよなー」

「なっ なんだよー その上から目線は・・・」

「だってさー 毎度 バーガーばっかーじゃー メタボになるよ この良質なたんぱく質をとらなきやー」

「水澄 えらいお気に入りだなー」

「うん おいしい お母さんにも食べさせてあげたい お土産に買って帰ろうかなー」

「あぁー あー 帰りにな」

 それから、電車で終点の三国港へ。駅が近くなるにつれて、私は潮の香りを感じていた。

「あー 海が近いよねー いい感じ 海に来たんだ!」と、私は手を広げて はしゃいで走り出していた。

「おぉーい 転ぶぞー」

「あたっ」と、私がしゃがみ込むと

「ほらっ だからぁー どうした?」と、翔琉君が駆け寄ってくれて、背中に手を

「うん 石がサンダルに挟まったみたい でも ダイジョウビ!」

「バーカ はしゃぎすぎ」

「だって 海が近いんだものー うーみよー 私の海よー」

「バカ」

 ビーチを横目に15分程歩いて、おばさんの実家というとこに着いた。おばさんの実家は以前は漁師だったいうが、今はもう廃業したということだった。そのお父さんは今は漁協の関係者らしいが、そんなに仕事もしていないということだった。

「お世話になります」と、私はお母さんから持たされた三笠焼とカステラの菓子折を出して

「はぁーなぁー そんなに気ィ使わんでもなー 可愛らしいお嬢ちゃんだのーぉ 硝磨のガールフレンドかぃ?」

「あっ あっ ちゃうよー 翔琉の・・・」と、硝磨君も慌てていた。

「ほっ 翔琉のー ほぉー・・・ でも 翔琉に顔が似ているとこあるのーかな 兄妹みたいだの!」

 おばさんに連れられて2階の部屋に案内されて

「今日は 水澄ちゃんは おばさんとここで寝るのよ 夜になると風が通って寒いくらいなるからね」

 その部屋で私は水着に着替えて、お母さんがスクール水着じゃぁねーと、上が長袖の赤いラインの入ったスイムスーツを買ってくれたのだ。ウチのお母さんは、いざという時には必ず私の体裁を整えてくれるので、私は申し訳ないと思いながら感謝していた。

 おばさんが私の中途半端に長い髪の毛を後ろで留めてくれて、日焼け止めのクリームも顔とかに塗ってくれた。ピンクのラッシュガードを着て出て行くと

「おぉ スイムスーツか なんか 学校の水着のほうが 色っぽく感じるけどなー」

「翔琉君 そーゆうことって 女の子に嫌われる言い方だよー」

「そーかー いちおう 褒めたつもりだけど・・・」

「もっと 女の子のこと 勉強しなさい!」

「あぁ でも 水澄だけがわかってくれてれば いいんだろー」

「・・・」

 ビーチまでは歩いて10分位のところで、おばさんも陽傘をさしながら付き添いで来てくれていた。でも、ショートパンツ姿なんだから、一応 海に浸かるつもりしてるのだろうか

 お兄ちゃん達は勝手に海に向かって行った。けど・・・

「翔琉 水澄ちゃんの手を引いていってあげてよー 深いとこには 行かないようにネ! 大切な子を預かってるんだから あなたが責任持って 面倒みてあげてよ!」

  私がラッシュガードを脱いでトートーバッグにしまい込んでいても、ぐずぐずしている翔琉君だったので、私のほうから手を出して繋いでいった。渋る翔琉君を引っ張って、並んで海に向かった。

 なによー 海で一緒に遊ぶために私をさそったんじゃぁないの! 男って いざとなると、だらしないんだからー と 思いもしていたのだ。 

 

1-8

「水澄は泳げるんだよなー? 浮き輪なくても平気か?」

「うん でも 海はあんまり泳いだこと無いからなぁー 波が・・・」

「ここは 波高くないからー 波に合わせて、浮き上がるようにな 深いとこまで行かないようにするよ」

 と、最初はバシャバシャやっていたけど、そのうち つまんなくて、私のほうから翔琉君に背中から乗っかるようにしていって

「なぁ おんぶして泳いでよー」

「あほっ そんなの出来るかよー 亀じゃぁあるまいし」

「できるかもよ 頑張ってー」と、又 背中めがけて乗っかるようにしたけど、ちょっと泳ぐと段々と沈んでしまって

「無理 むりっ」

「なんやー じゃー 今度は私に乗ってみて」

「そんなん 絶対無理やろー」

 と、言いながらも私に・・・頑張ったけど・・・直ぐに 沈んでいった。二人とも、潜ってしまってー

「ぶぁー あかん」

「だいじょうぶか? 水 飲まんかったか?」

「うん 息 止めとったからー それより どさくさに紛れて 私の胸のとこ 触っとったやろー」

「そんなん・・・たまたまやー おんぶになったら つかまるとこないやんかー」

「ふ~ん たまたまなぁー まぁ 私も翔琉君のあそこ・・・お尻に感じとったんよ」

「へっ お互いさまか?」

 でも、その後は お互いの身体が触れ合っても海の中でじゃれあっていたのだ。おしりに触れられても平気だった。なんだかんだで時間が過ぎていたのだと思う。お兄ちゃん達が戻って来ていて、彼等は水中メガネをしていたので、潜ったりして遊んでいたのだろう。おばさんが海の中に膝まで浸かりながら

「おぉーい 君達 もう そろそろ 引き上げようか?」と、声を掛けてきた。

「腹減ってきたなぁー 明日もあるし 今日は 引き上げるか? なぁ ご飯食べたら 夜の散歩に来るか あそこの突堤に 夜は魚が集まるかも」

「うん 行く 楽しそう」

 みんなで家に戻ると、私だけに先にお風呂に入れと言われて、男の子達は外の水のシャワーを浴びようとしていた。だから、私は

「お兄ちゃん 一緒に入ろうよ!」

「ぶっ お前 何 言ってんだ! そんなー」

「ふふっ あらっ そう 何よー いつも 一緒じゃぁない」と、言い放って、私はお風呂に向かった。

「達樹 お前 一緒に 入っているのかぁ?」

「いゃっ あいつ からかってんだよ 何年か前までは一緒だったけど 今は そんな訳ないじゃぁないかー」と、お兄ちゃんが焦っている声が後ろで聞こえているのを楽しみながら・・・

 お風呂で、少し膝あたりがヒリヒリする。日焼けしたのかなー。バスタオルを被って髪の毛を拭きながらお風呂から出て行くと、みんなが私を見て、唖然としていた。ソフトカップ付きとは言えタンクトップに短めの短パンだったからかしら・・・。それに、肩から腕は真っ白で脚は膝の少し上から下までは日焼けのせいで赤くなっていたから、自分でもおかしかったのだ。

「おぉー なんだか お風呂あがりのせいか 子供だって思っていたのに 妙に色っぽいのー 水澄ちゃんて なぁ 翔琉?」と、硝磨君が言ってきた。

「うっ うん」

「翔琉 水澄ちゃんて 可愛いよなー 学校でも人気あるだろう?」

「知らねぇよー そんなこと」と、ぶっきらぼうに言って、翔琉君はお風呂に向かったみたい。

「なんだ あいつ あれで 照れてんだぜー 水澄ちやんのこと好きだから 触れて欲しく無いんだよ なっ 達樹」

「ふふっ いいんじゃぁないか 彼が真面目に水澄のこと思ってくれているんだからー」

「ほぉー 兄貴として心配ちゃうの! こんなに可愛い妹なんだからー なんかさー 俺は どことなく ウチの兄弟に似ているし 本当の妹みたいなんだよなー」

「あぁー 一応 人並になー 可愛い」

「お兄ちゃん! 人並ってー 人並以上よ!」

「時たま見せる 小悪魔的なとこ 除いてはな」

「なんてことをー 硝磨君 こんなこと言ってるけど お兄ちゃんって すごーく妹思いなんだよ 優しくて 私 お兄ちゃんのこと大ぁ~い好きなんだぁー」

「・・・硝磨 ほっとけ 騙されるな 真に受けるじゃぁないぞー 風呂行こう 水澄 夕飯の用意 手伝って来いよー」

 夕食には、甘えびにさより、ふくらぎ、アジ、イカ、あわびなんかも並んでいた。私には、見たことの無いような豪華な海鮮なのだ。それに、生のラッキョ。アジのような癖のある刺身に味噌をつけて食べるとおいしいとからと教わったのだ。私があんまり食べるのでみんなは驚いていたのだ。

「水澄ちゃん おいしいかぇ いっぱい食べなー もう子供じゃぁ無いんでどうかなーって思ったけど 花火も買ってあるから後で みんなでやりな」と、おばあちゃんが言ってくれて、お庭でみんなしてやろうとして、手持ち花火ばっかりだったのだけど

「水澄 危ないよったら! 振り回すなよー」

「だって このほうが きれいじゃん 普通に持っているだけだったら 火の粉が落ちるだけだよ」

「まっ まぁ そーだけど 人に向けるなよ!」
 

 

1-9

 花火が終わった後、私は翔琉君に

「なぁ・・・」と、散歩に行こうよーとねだったつもり・・・

「あっ そうかー 突堤までな なんか着て来いよー そのままじゃぁー」

 かと言って、私 長袖はラッシュガードしか持ってきていなかって、さっき洗濯してしまっていた。お兄ちゃんに

「なぁ なんか パーカーかなんか貸してー 翔琉君と散歩行くの」

「はっ 今からか? 暗いぞー」

「うん 夜の突堤がきれいなんだってー」

「そうかー でも 二人でか?」

「そうだ 達樹 俺等も付いて行ってやろうぜ 夜の海もきれいぜ」

 と、私はぶかぶかのパーカーを着て、翔琉君と並んで歩いて、その後ろからお兄ちゃん達が付いてきていた。ビーチに出てもところどころ灯が点いていて、思ったより暗くないのだ。ビーチに出ると翔琉君は私の手を取って繋ぎだして歩いてくれた。突堤近くになると、お兄ちゃん達は離れ出して

「あいつ等にはあいつ等の世界があるんだよ せっかくの機会なんだから ほっといてやろうぜ ここから見守ろうっとー」と、硝磨君の声が後ろから聞こえてきていた。私達にわざと聞こえるように・・・なのかなーぁ

「なんだよー 妹だから気になるのか?」

「いや 硝磨がそー 言うなら・・・」

 そんなことは構わずに、翔琉君は私の手を握りしめてどんどん突堤の先に向かっていくのだ。先端に着いて海の中を見たら魚の影みたいなものが

「あっ お魚だ おっきいの」

「うん 薄灯りに寄って来るのかなー なぁ 座ろうか」

 と、私達はかがんでいたけど、そのうちに足を海に向かって投げ出して、ペタンと座っていた。

「翔琉君 ありがとうネ 旅行に誘ってくれて・・・とっても楽しいわー」

「そうか よかった なツ 良い所だろう?」

「だね でも 翔琉君と一緒だから すご~く 楽しい」

「水澄・・・ もっと 寄れよー」と、私の腰に手を廻してきた。この頃から私は自然と彼の左側になっているのだ。だから、彼は左の腕で・・・私は ビクンとなったけどされるままに、少し位置をずらせて・・・彼の手を握って 眼をつむって顔をあげるように・・・テレビとかでその瞬間は知っていたけど、やっぱりこういう感じにするのが自然なのだと思っていた。好きなの 翔琉君・・・。

 少し間があって、腰の手に力がこもった瞬間 彼の唇の感触が・・・その時 頭の中で銀色の光が走ったような気がした。どれぐらいの時間だったかはわからない。短かったような 長かったような・・・。

「水澄 好きだよ」と、彼の右手を胸に感じていた。遠慮がちに触れてきている。

「いいよー 触っても 翔琉だものー」と、私はパーカーで被うようにして 彼の手を上から押さえていた。タンクトップのソフトカップ越しだったけど、彼のぬくもりを感じていたのだ。

「まだ 小さいでしょ? 翔琉 好き! 私の彼氏?」

「だよ 俺は水澄の彼氏だ ずっと 前からだけどな」

「ふ~ん これからも ず~ぅっと?」

「あぁ これからもな」

「白浜美蕾ちゃんとは?」

「あほっ なんでも無いっていってるだろう 水澄だけよー」

「ウン 今 私 すんごく うれしい! 幸せ!」と、私から もう一度 唇を寄せていっていた。

 戻って来る途中には、もう、お兄ちゃん達は居なくて、家まで戻ると

「なんやー 帰ってたん?」

「なんや や ないわー お前等のイチャイチャしてるの遠くからでも感じて来るからなー おられるかぁー」

「・・・見えてた?」

「遠くて 見えんけど 雰囲気でわかるわー 寄り添ってよー 水澄 お前は まだ・・・俺は、お母さんにも言われてー・・・」

「ストップ お兄ちゃん お魚が泳いでいるのいっぱい見えたよ あっ おしっこ我慢しててん」と、私はトイレに駆け込んで行った。

 次の日は、朝からみんなでビーチボールで遊んで、翔琉君とも普通に触れ合っていた。午後から東尋坊へ見物に・・・歩くと少しあると言うのでバスで出掛けた。崖を見降ろすところに行く時も、翔琉君は自然と手を繋いでくれていて、私の彼っていう感じに満足していて、改めて、彼と彼女という関係になったのだと実感していた。さざえのつぼ焼きというものも初めて食べた。うんこみたいなのは無理だったけれど・・・。

 その夜も散歩に出掛けるのは、いかにもと言う感じなので皆でトランプゲームをして遊んで、翌日の朝だけ海に入って、午後から帰るという予定だった。

 私が仰向けに浮かんで 気持ち良く空を見ながら泳いでいると

「水澄 オッパイがぷっくりと出ていて 掴みたくなるよー」

「なっ なんやのー すけべー! いゃーらしいこと考えてるやろー」

「あほっ 普通やろー それに 水澄のやからー 可愛い」

「うぅー これは まだ 翔琉のんちゃうねんからなー この前の夜の時は特別やー」

 お昼からは福井に出て、今度は天丼を食べて帰ろうと途中下車して、だけど、私は、お母さんにソースカツ丼をと思っていたので、お土産用にテークアウトしたのだ。家族4人分を買っていたので、重いからとお兄ちゃんが持っていてくれた。

 家の最寄りの駅まで来て、おばさんにも丁寧にお礼を言って、我が家に向かった時、私はお兄ちゃんと手を繋いで歩き出した。

「お兄ちゃん ありがとうネ 一緒に行くって お母さんの前で言ってくれたから・・・とっても 楽しかったよ」

「そうか 俺も 楽しかったよ 水澄もはしゃいでいたものなー」

「ウン あのね 私 翔琉君とキスしちゃったー お母さんには内緒ネ! 好きなんだものー」

「やっぱりーかぁー 突堤で まぁ お互いが好きだという表現だものなー いいんじゃぁないか でも エスカレートすんなよ まだ・・・小学生・・・」

「うん・・・お兄ちゃんにも彼女が出来たら 私が 品定めしてあげるネ」

「いらん!」
 

 

2-1

 夏休みも残り少なくなってきたけど、私は宿題は全部終わっていた。だけど、翔琉君は自由研究がまだなんだと言っていたけど、時々、彼ンチに遊びに行っていた。実は、福井から帰って来て直ぐに、私 女のものが始まっていたのだ。家に居た時なのだけど、お母さんも居なくて、私一人だったのだけど、保健の時間でも教えられていた通りに済ませていた。

 うっとおしいなぁー こんなこと これから月に一度はやんなきゃーなんないのかぁー。女って 損。胸の大きさだって気にしなきゃーなんないしさー・・・。あれから、翔琉君とは触れ合うことも無かったけど・・・そのことも、気にしなきゃぁなんないしさー・・・。翔琉なんか気楽に考えているんだろうけど、女の子にとっては 一大決心なんだからぁー。それに、これから胸ももっと大きくなってくるし、下のほうも毛が生えだすだろうし・・・あんなものは要らないよねー 女の人のブロンズ像だって ミロのビーナスだって、ギリギリ見えないけど あれは表現して無いじゃぁない だから、きっと 作者も ビジュアルからすると邪魔なものなのよー きっと 私 今のままの身体のほうがきれいに決まっている。

 仕事から帰ってきたお母さんに報告すると

「あっ そう ちゃんと始末出来たの?」

「うん 備えていたし 学校でも教わっていたからー」

「良かったわ これで 水澄も ガールからレディね これからは自覚しておきなさいね」

「うー う 自覚って?」

「だからー もうあなたは 赤ちゃんも生める身体なの 無防備に・・・その・・・男の子と性行為なんかしちゃぁ駄目なのよ 女の子は心配よー」

「うっ そんなー わかった」

 生理が終わって、翔琉君ンチに遊びに行って、幾らか涼しくなってきたので、彼の部屋に上がり込んだ。彼は机に向かって、細い棒を幾つも並べて接着剤でくっつけていた。

「何してるん? あっ これっ 爪楊枝」

「あぁ これで 大阪城を組み立てようと思ってな」

「ふ~ん 何年かかるん? そんなんより 自由研究したん?」

 彼は私に1枚の用紙を渡してきた。

「女の子の胸の柔らかさは何と似ているか・・・あんぱん 柔らかさはあるが弾力が無い ゴムマリ 弾力があるが優しさに欠ける ゴム風船・・・翔琉! あん時 こんなこと考えとったん? 私のはあんぱん かぁ!」

「いゃ ちがう・・・それは・・・あとからー」

「どっちでもなぁー こんなん 河道屋先生見たら ビンタされるか 相手にされんよーなるでー」

「やっぱり そーかー じゃぁ こっち」と、もう1枚出してきて

「お母さんは何と言った時に一番 喜ぶか」見ると、グラフなんかも書いてあった。

「このおかずおいしいよ 80点 お風呂掃除するよ 70点 お皿洗うよ 75点 庭に水撒いたよ 50点 勉強するね 60点 お母さん好きだよ 70点 お母さんきれいだよね 90点 買い物行ってこようか 40点 腹減った 30点・・・考察 ウチのお母さんは自分のこととか料理を褒められたりするととても歓びます。それとか家事を手伝うとポイントが高い。同じ家事でも大した労働でないものはそんなに高く無い。勉強しようと言っているのにポイントがそんなに高くないのはショックだった。・・・ん まぁ 視点がおもしろいんじゃぁない? 点数化してグラフを付けているのもいいわー でも、研究と言えるかどうかー」

「そうか じゃぁ 項目をもっと増やして これにすっかー 水澄のお墨付きだもんなー」

「なんも べつにー 好きにすれば ええやんかー」

 でも、彼は新学期が始まった時 築城中の大阪城という名前で 爪楊枝をくっつけたのを張り合わせてお城の途中まで作ったものを提出していたのだ。それに、いかにも築城中らしく、画用紙を切り取って人夫らしき人も置いていた。私は からかわれていたのか あんなもん見せられてー。くそぉー あいつぅー・・・。

 当然 白浜美蕾がそれを見て、キャーキャーと翔琉君に歯の浮くような言葉で褒めていたのだ。私に対抗しているに決まっている。(もう ダメよ! 翔琉は みずみ のもんなのだからー) 

 

2-2

「水澄 顔がず~ぅっと 引きつっとるでー おもろーないんやろー?」 帰る時、智子ちゃんが

「うん あの子 どうしても 気にいらん!」

「でも 別に 翔琉も聞き流しているみたいやから ええヤン」

「ほんでもなー あの 甘ったるい言い方聞いているだけで むしゃくしゃするねん」

「水澄 いまから そんなんやったら 中学入ったら 気ぃ狂うでー みんな アタック激しいからなー」

「そうなん?」

「ほらっ 他の小学校からも集まるやんかー あの中学 そーいうことに関しては フリーなんやってー 小学生でもセックスしてた子も普通におるからなー 翔琉も誘惑されるでー」

「えぇー そんなんなん?」

「まぁ 近所の子に聞いた話やけどなー ウチ そいつに させろって迫られたことあったんやー 蹴とばして逃げたけどなー うふっ ここらの子ってそんなんやー 翔琉とか十蔵なんて ちょっと住んでるとこちゃうから 割と真面目なほうなんやでー」

「あっ あっ 智子・・・強いねんなぁー」

「そうや 自分の身は自分で守らなー 水澄やって ちょっと可愛いから 直ぐに、狙われるでー」

「なんか 私 中学行くの 怖ぁーなった」

「だいじょうぶや ウチがおるヤン それに卓球部入るんやろ? 運動部の連中とヤサグレの連中とは 一線引かれてるから・・って話やー」

「うん まぁ 今から私立に行って 親に負担掛けるのもなー」

「そうやー 私立も変わらへんってー それよりな! オカンが智子もそろそろ ちゃんとしたブラを身につけんとなーって 今までスポーツブラみたいなんばっかーやろー 形悪うなるんやって だから ちゃんとしたん買っといでって なぁ 水澄も一緒に買いにいこー」

「えっ そーなん? ほんでもなー・・・」

「なぁ 一緒に買おうよー お揃いの柄でも 楽しいヤン 可愛いのんにしょー」

「・・・お母さんに聞いてみる」

 という訳で、その夜 お母さんに言うと

「まぁ 良いんじゃぁ無い そろそろ必要かなって思っていたからー 智子ちゃんとねー お母さんと一緒にって思ってたけど・・・まぁ いいっかー」

 次の土曜日 学校がお休みの日に、智子ちゃんと自転車で近くのプラザに出掛けて、これはダサイとか派手過ぎるとか色々と物色していたのだ。

 結局 同じサクランボ柄ので、智子は紺地のもの私はパステルグリーンのものを選んでいた。アイスクリーム屋さんに入って

「水澄 意外! 可愛い色なんだけどねー」

「ふふっ 魔がさしたかなー 可愛く見えたんだものー」

「まぁ 良いんじゃない 可愛いよー」

 その時、私は これを身に着けて 翔琉君の前に・・・彼はどんな風になるだろうかと少しエッチな妄想していたのだ。突然

「それで 翔琉に見せるの?」

「えっ そんなー」

「だって 可愛いの 見て欲しいんじゃぁないの?」

「そんなー 私等・・・」

「うそヤン 前 プール行ったやろー 十蔵がゆうとったでー 翔琉が水澄の胸に触れとったけど水澄は平気な顔しとったってー あんた等 そーなんやろー?」

「そっ そんなことないよぉーぅ まだ そこまで・・・」

「ふ~ん 怪しい なぁ 夏の間に進展あったんやろぅ? まぁ いいっかー 二人だけの秘密やもんね でも 話す気になったらね! 親友やねんからー」

「うん ・・・ 打ち明ける・・・あのな キスした」と、白状せざるを得なかった。親友って言われたし・・・

「あっ ついにか でも 好きなんやったら 普通やでー」

「でも 一度っきりやでー あれから なんもあらへん なっ 智子はおらへんの?」

「ウチかぁ? 選別中やー 中学行ったら カッコええのん居るかも知れんし 高校、大学とあるヤン 焦ってへん まぁ 適当に遊ぶ男は必要やけどなー 今んとこ十蔵と翔琉で十分やー あはぁー 今からこんなんゆうのもなんやけどなー 水澄も 翔琉1本で 判断間違ごぉーたらあかんでー 軽はずみはアカン 先は長いんやからー」 

 

2-3

 中間考査も終わって、実力テストとかでバタバタしていたけど、私は翔琉君を誘って

「ねぇ ハイキング行こうよー ふたりで」

「うー ハイキングなぁ まぁ 行くかーぁ 十蔵と智子も誘おうかー」

「私がネ! ふたりでって言っているのにー ちゃうでー あの二人が嫌なんちゃうでー でも・・・」

「わかった ふたりでな そんなに口をとんがらすなよー キスしたいんか?」

「あほっ!」

 行先は任すと言われていて、電車に乗って行って降りた駅から登山口までが近い二上山に決めていて、もう10月も終わる頃で、多分、紅葉も落ち葉になっているのだろう。たらこに肉みそのおにぎりにウインナーを炒めてお弁当にしていて、私は白の長袖のポロシャツ、ジーンズと紺のキャップで、リユックにはとりあえず薄手のジャンパーを収めていた。駅で待ち合わせた翔琉君もジーンズに紺でBのマークのキャップを被っていた。

 降りた駅前で案内図を確かめている時、翔琉君は私の手を取っていてくれて

「とりあえず、ここの神社を目指せばいいんだな」と、手を繋いだまま歩き始めた。

「あ あー お茶 持ってきてないから あそこで買っておこうよ」と、2本のお茶を買って、翔琉君は自分のリュックに入れてくれて、又 歩き出した時

「手を繋いでいると歩きにくくない?」

「ううん こうやって 翔琉と同じ目的に向かって歩いているんだと思うとうれしい!」

「ふ~ん そんなもんかねー なんか ずぅーっと こんな感じなんかなーって思ってしまうなー」

「なんやー 嫌 なんかい!」

「さぁ ここから 登山道 山頂めざすかー」

「うん その先に広場があるみたいだから そこで お弁当ネ」

 小一時間程で山頂というところに着き、そこから長い階段で展望台に上って行った。奈良盆地が見渡せるのだけど、私達には山の名前がわからなくって

「なぁ あれっ 若草山ちゃうやろーか?」

「うーん かなー 明るくてポツンと手前にあるからなー」

「結局 てっぺんに立っても 下のこと知らなきゃー何にもわかんないんだねー」

「・・・ 水澄 珍しく 深刻なことゆうやんけー」

「そんなんちゃうけどなっ」

 それから広場に行くと2組の家族連れが居て、中には幼稚園ぐらいの子供も・・・平気で上ってきたのだろうか。1組が丁度片付けて出発するとこだったので、私達は空いたベンチに陣取ったのだ。お弁当を広げて

「うん うまい お母さんとは違う水澄の味がする」

「よかったー 2個ずつのつもりだったけど、翔琉3つたべていいよ」

「いや 2個ずつだよ ウィンナーもらう」

「あのさー 今度はあのふたりに追いついた?」

「いや宮川は無理だ 江州遼子には何とか届いたかもな それより 水澄のほうこそ追いついているん違うのか?」

「そんなん・・・私は 翔琉を追い(カケル)るんでいっぱいやー」

「ふっ 十蔵の情報によると あの二人は教育大の付属中を狙っているって話だ」

「あっ そう 揃ってかー 仲良さそうだもんねー 秀才同士」

「俺等は二番手同士の負け犬かー」

「負け犬ちゃうでー あのな あっちは受験対策に追われるやんかー 今度の期末テスト チャンスや 私達は授業に出たとこに集中出来る」

「あっ そうかー 水澄 やってみるかー」

「うん やる! 翔琉と一緒やから 心強い」

 私達は片付けて、広場から降りて行く途中、家族連れから見えないようにどちらからともなく、木陰に入って、翔琉君が私の肩を抱き寄せてきた。私は抵抗することもなくされるがままに・・・唇を合わせていると、翔琉君は私の上唇を挟むようにしてベロの先で私の歯をツンツンと突いてくる。アッ あっ と思って、私は彼の背中に廻した手に力を込めると、その時、彼のベロが私の歯の隙間から潜り込んできて、私のベロをすくうように絡めてくるのだ。それに、片方の手が私の胸を包んでくる。私 頭が 真っ白になって・・・でも 自然と彼のベロを夢中で吸うようにしていたみたい。ぼぉーっとして身体に力が入らなくてへたり込んでしまいそうだった。だから、余計に彼にしがみついていたのだ。もっと 強く 抱きしめて欲しかった。

 帰り道は途中から別の道へ。だけど、殆ど言葉を交わさなかった。私は、少し、途惑っていたのだ。あんなこと・・・翔琉君って・・・キスに慣れているのかしら・・・。まさか白浜美蕾と、それとも他の女の子と・・・考え込んでしまっていた。だけど、私も 必死に応えようとして・・・エッチな女の子になってしまった。

 最寄りの駅に着いて、別れる時

「じゃぁ 明日から 猛勉強ネ 今日は楽しかったわ 想い出が出来た」

「あぁー 柔らかかった 水澄の・・・」

「あのねー 目標達成まで お預けにする でないと 私 くずれそう」

「へぇー どう くずれるんだい?」

「あほっ 翔琉のこと 好きやからー ぐずれるんやー」と、言い捨てて別れてきた。
 

 

2-4

 12月の期末テストまで私達は、図書館の自習室とか翔琉君ンチで勉強した。翔琉君のお母さんも我が息子の変わり様に驚いている様子だった。

 私は、刺繍糸で手首に着けるミサンガみたいなものを作っていた。急 こしらえだったので簡単なものだけど、翔琉君とお揃いなのだ。同士という証なのだ。翔琉君も文句も言わず着けてくれている。

 テスト用紙が配られる度にそれを上から握り締めて翔琉君のほうを見たのだけど、彼もそれに応えてくれているようだった。合間の休憩時間に、白浜美蕾が翔琉君に話し掛けるんだけど、彼は心落ち着かせたいから話し掛けないでくれって、ビシッと突き放していたのだ。それで、心地良かったけど私には別の目標があった。

 すべてのテストが終わった時、私達は眼を合わせていて、出来たよね ウン 大丈夫と 言っているのがわかった。

「水澄 なんか すごいね どんどん書いていてさー 今までと ぜんぜんちごーぉたやんかー」と、智子ちゃんも帰り道で

「うん 最後やしー トップ 狙ろうてたんやー」

「はぁー トップ・・・宮川君の上かぁー?」

「そうやー トップってゆうたらトップや 翔琉には負けるかもしれんけどなー」

「そーゆうたら ふたりで頑張ってたみたいやもんなー 水澄がこんなに頑張るって知らなんだ 美蕾ちゃんが現れてからだよね 対抗心 むきだし」

「そっ そんなことないよー 別に 意識してないモン」

「ウチに 見え見えのウソはやめなー 声が上ずっている」

 そして、冬休みも近づいた時、私と翔琉君はふたりで河道屋先生に呼ばれて

「あなた達の仲の良いのは好ましいと思っているのよ 励まし合っているみたいネ 香月さん 石田三成って知っているよねぇー」

「はい! 生まれたのは滋賀の長浜のほうとか」

「そうねぇー どこのお城のお殿様になったの?」

「もちろん 生まれ育った長浜です いいお殿様で 城下の人達にも慕われたとか」

「あっそう 欅原君 合ってる?」

「ええ 最後は悲運の人でしたが 豊臣のために尽くしたとか」

「そう どこで あなた達 間違った知識を覚えてしまったのかしらー それも 二人揃ってー・・・ テストで同じとこ間違えているの 長浜は羽柴秀吉よ 三成は佐和山城 こんなことで同じように間違うなんてー 算数でもあったの 同じところの間違い 席が隣同士だから・・・疑いたくなるでしょう?」

「先生 私達 そんなー・・・」

「そーです 疑われるようなことしてないです」

「ふふっ 信じてるわー 二人を・・・ 一緒に勉強したのね 期末テストの結果がね 香月さんが1番 2番は欅原君 3番は宮川君だったわ 彼は今までず~っと1番だったのよね でも入試を控えて、いつも通りでも1番になれると思ってたのかしらね」

「えっ やったー 翔琉」と、私は思わず彼の手を取って跳ねていた。

「うっ あじゃぁー 水澄に負けたのかぁー」

「あじゃぁー じゃぁないわよ 欅原君 君は漢字の書き取り 3ツも間違ったのよ それで -9点 それが無ければ香月さんの上だったのよ ハネル部分をハネテないとか つまんない間違い それに 私も許せないのは 水澄ちゃんの 澄の字 1本足んないのよ! なんなのよー 大切な女の子の漢字くらい・・・」

「えー 水澄って呼ぶだけで 書いたこと無かったからー」

「そ~いう風に どこかで いい加減なとこ 直しなさい! でも 二人で頑張って勉強したのわかるわー テストの時もお揃いのミサンガしてたわねー」

「あぁー 水澄ったら 強引なんでなー」

「あのー 先生 どうして 私と翔琉は 席が隣りなの多いんですか?」

「あらっ そーだったかしら なんとなくかなぁー 不思議と欅原君の隣りには香月さんになっちゃうのよね 迷惑だったかしら?」

「いえ 別に・・・ なんか訳があるのかなって 聞いてみたかったからー」

「まぁ 自然とね でも 仲良くなってくれて良かったわー」

「あのさー 俺等のことより 先生 自分のこと心配しなよー 誰も居ないんだろう」 

「なっ なんてことを・・・ 余計なお世話よ! そのうち何とかなるわよー 今は君達のことが手一杯で・・・」

「はぁ そのうちねぇー」

「・・・ 欅原君 通信簿 これからつけるのよ わかってる?」

「それって 完全なパワハラじゃぁないですかぁー」 

 冬休みになる前に父兄に直接、通信簿を渡すと言うことがあって、お母さんが学校から帰ってくるなり

「水澄 水澄ちゃぁ~ん お母さん とっても嬉しいわぁー 期末テスト クラスで1番なんだってぇー いつも1番だった子 追い抜いちゃったんだってね!」

「だからぁー それはー この前 言ったじゃない」

「でもさー 先生から聞いて初めて・・・河道屋先生って 水澄ちゃんのことベタ褒めよー もともと、おとなしくて素直な子だったけど、特に6年生になってからは誰とでも明るく優しく接して、勉強も前向きに頑張っているってー お母さんの育て方いいんでしょうねって お母さんも褒められちゃったー」 

「へっ へぇー お母さんがねー」

「誰に似たのかしらー・・・ お父さんじゃぁないよねー ・・・」

「そんなのー 私はお父さんとお母さんの子供ですよ!」

「・・・そうね・・・お母さんの娘よねー あのね さっき お父さんに電話しといたの 今日は早く帰ってきてーって お寿司ネ 回転寿司だけど」 

 

2-5

 冬休みになって直ぐに十蔵君がみんなで遊ぼうぜーって、連絡してきて、中央公園に集まることになった。みんなが自転車で来て

「厚めの紙 持ってきたんだ 紙飛行機みんなで飛ばそうよー」と、十蔵君が

「なんだ その紙飛行機ってー」

「まぁ まぁ 折り方なんかも工夫すると 割と 面白いもんだぜー」と、十蔵君は私達に簡単に折り方を教えてくれて、遠くまで飛ばしっこしたのだけど、十蔵君は折り方を心得ているのか、一番遠くまで・・・。

「おい! 折り方のコツがあるんやろー 教えろやー」

「あかん 翔琉 自分で工夫するからおもろいんやー ヒントはな 重心をどこにするとか 翼の大きさとかな 全体を重くするっていうこともやってみなー」

「ふ~ん 割と けち臭いんだなー」

「あっ けちとかいう問題じゃぁなくてー 君達の頭の訓練だよー」

「まぁ まぁ わかったわよー 十蔵より遠くに飛ばせればいいんでしょ! 水澄 考えよー」智子は負けん気が強いのだ。

 と、私達は折っては飛ばしてみて、最初に比べると段々と遠くまで飛ぶようにはなってきたのだが、十蔵君には敵わなかった。彼も、自分なりに工夫していたからだ。

 私と智子は真直ぐな槍型のを折っていて、飛ばすと意外に遠くまで飛んだけど、直ぐに失速するのだ。智子はそのうち滑り台の上に乗って飛ばしていた。

「智子 それはルール違反だよー」

「そんなルール誰が決めたんやー 十蔵が勝手に決めるな!」

 だけど、降りてきてなんか細工をして、又、上って行って飛ばすと、最初は勢いで跳んで、直ぐに、少し低くなったかと思うとそのまま すーっと滑空したのだ。私が見ている限り砂を少しを入れているようだった。

「智子 すごいヤン」と、私が飛び跳ねていると

「うん 工夫だよ!」

 何だかんだと言っている十蔵君を横目に、結局、滑り台の上から競争することになって、智子のが低くすーっと滑るように飛んで行って遠くまで・・・。十蔵君はイカ型のを作っていたのだが、それなりに飛んだのだが、智子のには負けたので

「うぅー まぁ そーいうことってあるよなー 世の中ってそんなもんだよな! 智子の唐突な考え方に負けた」 

 

3-1

 大晦日、年が明けるかという時、お兄ちゃんに硝磨君から連絡があって、お正月に家族で来ないかということだった。硝磨君のお父さんの仕事の関係から、マグロとか鯛に貝なんかも沢山もらったから、一緒にどうかということなのだ。どうも、お父さんは昔、寿司職人を何年かやっていたみたい。だから、寿司にして振舞うらしい。

 ウチのお父さんは、1~3日まで休みなのだけど、お母さんは元旦は仕事で2.3日がお休みなのだ。だから、お兄ちゃんがお母さんにその話をして、結局2日の夕方にお伺いするということになった。

ウチの元旦は、お母さんが普段より遅めとはいえ、お仕事なので朝は比較的簡単にお雑煮とお煮〆程度で済ませていて、その後は、お父さんとお兄ちゃんはTVを見てだらだらとしていた。

 次の日はお母さんが朝早くから動いていて、鰤とか海老を焼いて、数の子なんかの和え物を作ったみたい。揃って、ようやく我が家も年が明けたみたいに食卓が賑やかだった。食べ終えたのはお昼に近かって、片付けを終えた後、お母さんは着物に着替えていたのだ。

「お正月によそのお宅にお呼ばれするんですからねー あなたもせめてブレザーぐらいでね! ポロシャツは駄目ですよ カッターシャツぐらい・・・水澄はワンピース買ってあるでしょ」

「お母さん 俺は?」

「達樹は何でも良いわよー 男の子だからー ジャージはダメ! 適当にね」

「チエッ 差別」

「男の子はつまんないからね 着飾っても・・・」

「フン まぁな」 

 私のは、ベルベット生地のダークブルーで衿元がレースのワンピースを、友生地の細いリボンで髪の毛を両脇に結んで、左側だけ耳の前に降ろしてきてリボンで結んでいた。私はうっとぉしいんだけど、お母さんの好みなのだ。でも、自分でも着飾った私を見ると、割と可愛かったんだけど。

 そして、約束の時間は4時なんだけど、早い目に出て、近くの神社に初詣に・・・前は元旦に家族揃ってだったんだけど、去年からお母さんが元旦はお仕事なので2日にすることになったのだ。

 お母さんは手土産にと前の日、苺パックを用意していた。向こうに着くと、着物姿のおばさんとチェックのカッターシャツを腕まくりをしたおじさんだろう人が出迎えてくれた。私がコートを脱ぐと、おばさんが

「まぁー 可愛らしい 女の子は良いわねー お洋服も選び甲斐があるでしょ」と、お母さんに同意を求めるように言っていた。

  通されたのはダイニングで、私と翔琉君がいつも勉強するところだ。テーブルの上には小鉢と細巻が用意されていた。子供達は続きの部屋になっているリビングのほうでねと言われた。

「お酒 召し上がるでしょ? 何が良いかしらー」

「あぁー じゃぁ 日本酒を冷やでー」 

「今日はね 滋賀の湖西の 不老泉 という酒でね 天然酵母仕込みらしい 昔ながらの仕込みで 最近すごく人気らしい 貰ったものだからー」と、おじさんも好きなのだろう 自慢げに勧めていた。

「奥様 良かったら ワインもありますのよ」

「あっ 私も 少し そのお酒をいただきます そのー 奥様って言い方・・・」

「そう じゃー 香月さん 以前のお店で何度かお話しているから、まるっきり他人とは思えないわねー」

「はい 覚えています それに、幼稚園でも小学校入った時も 翔琉君と水澄がご一緒だったから・・・」

「そうでしたね 水澄ちゃんが 少し翔琉に似ている子って 印象深いですわー」

 私達は眼の前のきゅうりととびっこの細巻と厚焼き玉子、椎茸の甘く煮たものの細巻をつまんでいたのだけど、そのうち、おじさんが

「さぁ 握るかー 本まぐろ、氷見の鰤、明石の鯛、広島の穴子の照り焼きだ」と、立って前掛けを締めだした。

「この人ね 若い頃 寿司職人目指したんだけど 手がごっついから 繊細なことできないってあきらめたんだってー」と、おばさんが言っていたけど、その握ってくれるお寿司は、とっても美味しかったのだ。

「いゃー おいしいですねー 高級すし屋 そのものですよー」と、お父さんもお酒も進んで、浮かれてきているみたいだった。

「この人ね こーいうの楽しいみたいなんです お酒も大好きなんですよー かかせないみたい」と、おばさんが

「なんだよー ひとのことを アル中みたいにー」

「あらぁー 最近はお歳のせいか 控えているみたいだけど 家ん中では遠慮してるのか 翔琉が生まれる前後なんか 私が構ってあげなかったから、ストレスもあったんだろうけど 毎晩のように、散歩の振りしてふらふらと公園なんかで飲んでいたんでしょうよ」

「おぉ それは 男の醍醐味ですなー でも 不審者扱いされたのではー」

「そーなんですよー 度々ね でも ドキドキする楽しいこともこともあったんですよ」 

 その時、私達へのお寿司のお皿を運ぼうと思ったのか、お母さんが立ち上がったて椅子の脚につまづいたのか、よろけてしまってー お母さんの手をおじさんが咄嗟に支えていた。少しの間があって

「いゃぁー」と、お母さんの悲鳴がして、その場でしゃがみこんでいた。みんなが、その時固まっていたみたい。

「どうした 民子 大丈夫か?」と、お父さんがお母さんの肩を抱いて、声を掛けていた。

「あっ ええー すみません 私ったらー 久々なので酔ったのかしら・・・ 主人以外の人と手を握ったことが無いのでー 動揺しちゃってー」

「いゃ いゃ 僕のほうこそ 失礼しました 咄嗟だったので・・・」

「まぁ 香月さんって 純情なのねー ご主人とはどこで出会ったのかしらー」

「いゃぁ 取引先の事務員だったんですよー 僕が一方的に惚れてしまって テキパキと仕事をこなして、頭もキレそうでねー でも アタックしてから 最初のデートまで2年かかりました それから結婚まで3年です」

「そーなの 前の刺繍の糸屋さんで何度かお話したんだけど 確かにハッキリとした印象だったわ 水澄ちゃんも そーいうとこ そっくりよねー」

「そーなんですよー 水澄は・・・今でも 思い出すんですよー 普段は控え目なのに あの時 珍しく 民子が積極的にせがんできて乱れていたんです 多分 その時の子が 水澄なんですよー お陰で僕には似ないで可愛い子を授かった」

「・・・あなた そんなこと 子供達に聞こえますよ! 飲み過ぎなんでしょ もう そろそろ お暇しなきゃー」 と、言うお母さんは心なしか顔から血の気がひいているよに見えていたのだ。だから、おじさんが「まだ いいじゃぁないですか 魚もまだあるしー」と、言っていたんだけど、私はお母さんを心配して帰る素振りをしていたのだ。

 結局、お母さんが体調が悪くなった様子で、おじさんが 後でお腹すいたら食べなさいと、何貫か握ったものを持たせてくれたのだ。帰り道で私がお母さんと手を繋いでいて

「お母さん 気分悪いの? 大丈夫?」と、聞いても、お母さんは黙りこくったままで、家に着いても、直ぐに「お先に 失礼して お風呂に入って休ませてもらいます」と、帯紐を緩めていたのだ。
 

 

3-2

 翌朝、お母さんは何事も無かったように朝ご飯の用意をしていた。私が隣にいって

「おはよう お母さん 何かお手伝いすることある?」

「そうね お餅焼いてちょうだいな」

「うん ねぇー もう体調 大丈夫?」

「だいじょうぶヨ 昨日は飲み過ぎたのかしらネ」と、言っていたけど、お母さんは、お酒に強くって、あれっ位で酔っぱらう人じゃぁ無いのだ。私は、きっと、他の事に・・・気を掛けながら、お餅を焼いていた。

 朝ご飯を済ますと、お母さんが「今日は みんなで太子様にお詣りに行くわよ」と、突然言い出した。

「えぇー 何でぇー た い し さ ま ?」

「そうよ 今年は水澄がお世話になるかも知れないでしょ!」

「…? ? ?  何で私が?」

「あなた 太子女学園の中学に行くのよ」

「はぁー? 何で 何で そんなー急に・・・それに、あそこは程度高くって私なんか受からないわよー」

「そんなことないわ だって、お母さんの娘だものー 頑張れば大丈夫」

「そんなこと言ったてぇー 私 みんなと公立の中学へ」

「お願いよー お母さんの憧れなの あの学校」

「・・・お父さん ん・・・」

「まぁ いいんじゃぁないか あそこは文武両道だ 有名人もいっぱい出てる それに、制服も可愛いんじゃぁ無いか」

「そんなー 私 有名人になんかになりっこないもん・・・お兄ちゃん???」

「あっ あぁー いいんじゃぁないの お嬢さん学校だし この辺りの中学は品が良くないしー」

 家族のみんなが私の側に着いてくれなくて、結局、言われるままに渋々と出掛けてきたのだ。お母さんは、私には 昨日のワンピースにリボンとで着飾らされていたのだ。

 境内は広くて、露店とかバザーなんかもやっていて、お正月の賑わいもあったのだ。境内の中にはその太子女学園があって

「ここよ 水澄ちやんはここに通うのよ」と、お母さんはもう決めてかかっていた。

「私・・・翔琉君と・・・」と、小さい声で言っていたが

「とりあえず、明日 塾に相談に行って、学校が始まったら、直ぐに先生に言って、受験の申し込みに行きますからネ」

「だって 学校説明会なんかにも 行ってないしー 受からないよー 第一 直ぐに入学試験じゃぁないのかなー」

「そんなの 受けてみなければわからないじゃぁない! とにかく クラスで一番なんだからー」

「あれは・・・たまたま ねぇ それにお金もかかるしー」

「そんなこと 水澄が心配しなくていいわよ お母さんも一生懸命働くし、それに高校はそのうち私立も無償になるし」

「・・・」

「今まで 水澄ちゃんの言うことは何でも叶えてきたつもりよ 今度はお母さんの希望を叶えてちようだいな」

「・・・」

「まぁ お母さんの言うことも一理ある いいんじゃぁないか 水澄もここに行けば きっと 違った人生になるよ」と、お兄ちゃんも、無責任なことを言っていた。

「私 違って無くて良い 今のままで」と、思っていて「親のパワハラよー」と、言うと

「じゃぁないわよー 愛情よ! 親として良い学校を選ぶのは義務であり、努めよ 水澄なら絶対大丈夫よ 受かる! 明日から、翔琉君とこに行くのはよしなさい 学校の帰りには塾に行くのよ 入試まで、時間ないんだからー」と、お母さんは追い打ちをかけてきた。

「えぇー そんなぁー・・・」と、私は翔琉君のことを思い浮かべていて、彼はどういう反応するかしら・・・。お母さんは、どうして急にそんなこと言い出したのかしら? ? ? 。

 こうして、お母さんに逆らえなくて無理やり押し切られ、地獄ともいえる日々が始まって 私の人生も お兄ちゃんの言う違った?方向に進んで行くような気がしていたのだ。 

 

3-3

 3学期が始まって、翔琉君に

「私 お母さんに 私立の女子中学に行けって言われてー とりあえず 塾にも行っているの」

「あぁ 聞いたよ 水澄のお母さんから電話があって 太子女学園を受けさせることにしたから、しばらくはウチには来れないって言っていたらしい」

「えっ お母さん 翔琉ンチに わざわざ電話したの!」

「らしい まぁ いいんじゃぁないか 名門だよ 頑張れよ!」

「・・・翔琉・・・一緒に中学 行けなくなる・・・」

「しょーがないよ 会えなくなる訳じゃぁないしー 俺も あの学校の彼女なんて かっこいいかもな」

「もぉー 何 気楽なこと言ってんのよー 私 受かりっこないものー だって 受験勉強なんて この前からだよー 今日 慌てて お母さんが願書出しに行ってるわ」

「急に無茶苦茶な話だよな つもりもしてなかったんだろう? いゃ 案外 水澄は秘めたるパワーがあるから きっと 受かるよ」

 私の期待していた答えと違った。そんなこと言わずに・・・一緒の中学に・・とか、期待していたのに・・・。

 次の日から、私は学校を休んで塾に朝から通い詰めていた。お母さんに連れられて、初めて、その塾を訪れた時、塾長という人がお母さんの話を聞いて驚いて、とりあえず私に簡単なテストをしたのだ。

「算数と国語の基礎はしっかりしているみたいですね 難易度は高くないですが、算数は満点でした。これなら・・・あそこの入試でも、算数と国語で200点は狙えるでしょう。理科・社会で半分取れれば合格圏内ですよ うまくいけば 英数Sコースも可能かと・・・どうですか これから集中して入試試験の傾向を学んでいけば・・・可能性はあると思います 絶対に合格するんだという覚悟あればネ」

 という訳で、学校にも事情を話して、塾で入試対策に集中することになったのだ。そして、試験日の前日は6時頃 「いいか 自信を持ってヤレ! なんてことは言わない 逆に堅くなるからな 普段通りにやりなさい それで良いんだよ ダメ元なんだからー 急に受験しようなんて」と、塾長に送り出されたのだ。

 表に出ると智子が居て 「あのさー ウチ等 いつも 一緒やんかー」と、黄色い紙テープの巻いたのを渡してきた。

 伸ばしてみると (コツコツとやるのが水澄だろ だけど 明日は爆発させろ 翔琉 意外性の女でも俺等はいつも一緒だ 頑張れ! 十蔵 いつだって一緒だよ いつものようにネ 智子) 

「智子 ありがとう わざわざ 待っててくれたんだ」

「ウン しばらく 顔見て無いからさー あいつ等も誘ったんだけどー 照れちゃってさー」

「ウン あいつ等に涙 見られたくないからー 智子 ありがとうネ 私 悔いが残らないように頑張るよ」と、言いながら、涙声になっていた。

 お母さんも迎えに来てくれていて、帰り道で

「いいお友達達ね 水澄が離れたくないのはわかるけど、まさか あなた 変な気おこさないでね」

「変な気って? ・・・ 私 お母さんの娘だよ! お母さんが喜んでくれるんだから、全力でぶつかっていくわ! 絶対 お母さんと笑顔で抱き合うんだぁー」

「水澄・・・あなたは お母さんの娘だっていうことだけは 確かよねー」と、ポツンと思いつめたように言っていたのを、私は覚えている。

 そして、次の朝。お母さんが付き添って行こうかというのを断って、私は、智子から渡されたテープの巻いたのと翔琉とのミサンガを握り締めて、会場に向かったのだ。余計なことは考えない。ここまできたら、絶対に合格するんだと。

 

 

3-4

 卒業式の最後に教室にクラス全員が集まって、河道屋先生からお別れの言葉があって、終わる時

「宮川君 江州さん 香月さん 立って ーーーー この3人は、皆とは違う中学に進みます。この河道屋クラスで一緒に勉強したということだけは確かなのだから、それぞれの道は違う過程だけど、いつまでも連絡を取り合って仲間で居てネ」と、赤い瞳で話し終わっていた。

 私は、確かに合格していたのだ。自分でも、信じられなかったのだけど、算数も国語もスラスラと書けて、理科社会も塾でやったことが問題にも出て、終わった時も割と出来たと思っていた。私は、自分でも怖いぐらい運が良いのだ。神様が私に違う道を歩まそうとしているのだと思った。発表のあの日 合格したことがわかるとお母さんは大騒ぎで、塾にもお礼に行って、塾長からも奇跡に近いと驚かれていて、その帰りには、お母さんは、お祝いだと お寿司だのメロンだのを買って帰ってきたのだ。そして、私の姿を見るや抱き付いてきて

「水澄 やっぱり 私の娘だよねー 頑張ったね ありがとう」と、私は、その時、これで良かったんだと実感していた。

 宮川君 江州さんは教育大付属に揃って合格していて、おそらく 二人の仲は続くのだろうけど、私と翔琉の仲はどうなって行くのだろうという一抹の不安はあったのだ。

 その日、翔琉君と別れる時 「ねぇ 明日 ウチに来ない? しばらく 会えんよーになるかも知れんしー 私 スパゲティ程度なら作れるから お昼に・・・」

「そーだな 水澄の手料理かー 行くよ」

 彼は10時頃、訪ねてきた。お母さんとお父さんは仕事だし、お兄ちゃんは春の新人戦が近いからと練習に出て行って、私以外は誰も居ないのだ。だから・・・私は決心していたのだ。

 初めて、私の部屋に彼を招き入れた。机の前には、あの時もらったテープをファイルに挟んで貼ってあって、その他には、夏に福井に行った時の翔琉との海での水着姿のツーショトの写真と石川佳純さんの卓球の写真が飾ってあった。

「ふ~ん 女の子の部屋かー 花柄のカーテンに なんだ この ドラ猫のぬいぐるみは」と、ベッドの上の猫の抱き枕に興味があったみたい。

「やーだぁー いつも 一緒に寝てるんだからー」

「ふ~ん 一緒にねー ・・・ あっ 俺との写真」

「そーよ 大切な想い出なんだからー 水着だけどね」

「そーなんだ やっぱり 水澄のおっぱい プルンと可愛いね」

「やーだぁー すけべー そこに興味あるのかよー」と、私は彼の肩を叩いていたが・・・

「翔琉・・・私のこと忘れちゃぁ嫌よー」と、カーテンを閉めた後、私は 着ていたピンクのTシャツとスカートをベッドの横で脱ぎ去って、前に買ったサクランボ柄でパステルグリーンのブラとショーツのままに・・・なっていた。

「水澄・・・可愛い このパンツも」と、彼は私を抱き寄せて唇を合わせてきていた。しばらく、きつく抱き締められて、彼の舌が歯の隙間から入り込んで、私も決心していたので、それに舌で応えていた。もう 私は ぼーっと 何にも考えられなかったけど、直ぐに、彼の手が私の胸を包んできて、違う方の手で私のお尻を撫でるようにしてきたのだ。そのまま、手がショーツのゴムをくぐって中に潜り込もうとして、胸の手は背中にまわってきてブラのホックを手繰っている。私は ハッ として・・・

「ダメ! ・・・自分で脱ぐから・・・翔琉も・・」と、私はとんでもないことを言ってしまった。

 私達はベッドの横でお互いを見つめ合っていたが、彼は私を抱き寄せてきて、唇を・・・そして、私の胸とお尻を直接触れていたのだ。

 私は、そろそろ産毛のようなものが生えそろってきているし、彼はうっすらと陰りも見えるし、あれも棒のようになっていた。抱き寄せられている時にも、それは私のあそこに感じていたのだ。私、こんなこと これからようやく中学生なのに、こんなこと・・・。でも、私は、翔琉に私の身体も全てを覚えていて欲しかっただけ。

だけど、彼は私をベッドに押し倒すようにしてきて、唇を吸われたまま、まだ小さい胸に手を当てられて、もう片方の手が私の股の間に伸びてきた時  「あぁー もう・・・ これ 以上・・・ そこ だめぇー」と、私は彼を突き放すようにしていた。

「私 こわれちゃうぅー うぅー・・・ 翔琉にね 私の生まれたまんまの姿を 忘れないで覚えてて欲しかったからー 私達 まだ 中学になったばっかーでしょ だからー これ以上は・・・我慢出来なくなるし 今は ダメ!」

「そうかー でも これが水澄のあそこに入るんだろう?」

「・・・ だから ダメ それ以上 言わないの! もう おしまい 私の裸見たでしょ! 忘れないでね! このことは ふたりだけの秘密よ」でも、その時、二人のミサンガは切れていたのだ。そして、初めて、自然と自分のあの部分が湿っているのを感じていた。

 それから、私達はキッチンに降りて行って、私のたらこスバゲッティを食べていて

「うん うまい 水澄が作ったから 特別だよ」と、褒めてくれていた。そのうち、お兄ちゃんが帰って来て、お兄ちゃんにも作ってあげたのだが

「うん うまい なかなかのもんだ」と、褒めてくれて、そして、翔琉君が帰る時、手を握りながら

「また 時々は逢おうな 駅前ぐらいなら出て行くからー」と、言ってくれた。

「お兄ちゃん 翔琉が来たこと お母さんに内緒ね」翔琉君が帰った後

「あっそう? 何となく わかる 最近なー お母さんは、翔琉君とのこと好ましく思ってないみたいだな」

「お兄ちゃんも そう感じる? 逢わないようにさせているみたいなんだー」

「まぁ お嬢様学校だから 変なウワサになるのを避けようとしてるんじゃぁないか」と、さらっと流されてしまったけど・・・。

 

 

4-1

 私は新しい学校に通い始めて、早速 同じ電車で私の駅の一つ先から乗って来る伝教寺香(でんきょうじこう)ちゃんとお友達なった。それに、同じクラスなのだ。私と雰囲気も似ているし、背丈も同じくらい。同じ電車に乗っていたみたいで、帰りも同じだったから、向こうから声を掛けてきたのだ。

 そして、2日目には同じ学園の高校生に・・・駅で電車を待っている時

「あなたね 電撃的に合格したってー お父さんが言っていた 私 石積あかり」

「えっ あー 塾長のー」

「そう 娘なの 太子女学園高校の3年 あなた 英数のSでも行けたのに 断ったんだってね お父さんが言っていたわ もったいないって」

「あっ 私 精一杯で合格したのに もう 息切れするようでー」

「そうなの でも 背伸びしていると そこが普通になってくるのよ 下に居るとそれが普通に慣れっこになっちゃうからー 上を目指すのだったら、努力するのは当たり前なのよ」

「はぁー・・・ そーゆうもんですか・・・」

「まぁ 学校でわからないこととか 困ったことあったら 言ってきてー なんせ お父さんの塾始まって以来の 逸材で原石みたいな子だって言っていたからー 私も興味あるわー」
 
 電車に乗り込むと、先輩は別の車両に移って行った。おそらく、友達が居るのだろう。そして、私は、ホームの端のほうに、宮川君 江州さんの姿を見ていたのだ。たぶん、向こうも気付いていたはずなのだけど、話し掛けもしなかった。

「香ちゃん おはよう」

「うん 水澄ちゃん おはよう ねぇ さっきの 先輩 知り合い?」

「うーっとおーぉ 知り合いってかぁー 私がお世話になった塾の娘さんなんだってー」

「あっ そーなんだ でも 知り合いに先輩が居ると心強いよねー ウチな みんな 知らん人ばっかーやろー 不安やってんけど でも 水澄ちゃんと 直ぐに お友達になれて良かったぁーって思ってるんよー」

「そんなん 私もよー」

 その間、私は窓からの景色が新鮮なものに見えて 新しい未知の環境に飛び込んだんだと実感していたのだ。あの3人は自転車で通っているんだろうか・・・つくづく 私は違ったところに飛び込んだんだ・・・でも、これで良かったんだ・・・お母さんがあんなに喜んでくれたんだから・・・。

 駅を降りると「水澄ちゃん」と、江州さんだ。

「同じ電車なのね 卒業式の時 びっくりしちゃったー 太子女学園だってー 水澄ちゃんて目立たないおとなしい子だって思っていたのに・・・驚きよー 知らない間に成績も私達を追い抜いてたなんてねー  同じ電車だから これからもよろしくネ」と、宮川君と並んで消えて行った。おそらく、中学校の偏差値でいうと、向こうと大差無いはずだから、一目置いたのだろう。だから、今まで私なんて相手にしてなかったはずなのに・・・。

「なぁ 香ちやん 明日から 1本早い電車でも ええかなー」

「うん ええよー ウチな 同じクラスの男が近くの男子校に入ったんやー 同じ電車やねー でも あいつのこと気色悪いんやー だから 違う電車のほうがええねん」

「ウン 私も 会いとーない奴がおるねん」

 駅を出て、学校に向かっていると「おはよう」と声を掛けて来る子が居たりして

「なぁ 同じクラスの子やろかぁ?」

「どうだか ウチ 恐いから クラスの子でも 顔 覚えてないねん」

「うふっ 私も・・・ なぁ 伝教寺って 変った苗字やねー お寺さん?」

「違うよ でも ひいおじいちゃんまで お寺の住職やってん 本堂が古いんで建て直しの話があって 檀家さんが反対して、明治の初めやったからどさくさしてつぶれてしもうたそうな そのまま苗字だけ残ったんやってー」

「そーなん 私ンチも お父さんは奈良の山奥の人でなー ご先祖様は野武士で、筒井順慶の家来やったそうなんよ ホンマかウソか」

「あっ そう ウチのお寺さんも 筒井順慶に味方したんやってー 聞いたことあるわー おもろいなー ウチ等 先祖は味方同士やったんやー」

「うふっ そーやねー 時を経て こーやって 知り合えるなんてね」 

 

4-2

 香ちゃんと卓球部の見学に行くと、もう入部した新入生が10人位居て、隅の方で並んで 1・ 2 と素振りをしていた。その中でも何人かは先輩が打ち合っている台のまわりで球拾いをしている様子だった。でも、部員の数はすごく居るように思えた。卓球台も3台が2列に並んで全部で6台でそれぞれが打ち合っていた。

「すごい迫力っていうか 熱気だったね あんなの ついていけるかなぁー 水澄ちゃんはどう?」

「そうね でも 何でも 最初はそんなもんじゃぁない? 飛び込んでいかなきゃー 始まんないよ」

「そーだよねー あのね ウチのお母さん この学校の出身で卓球部のOBなんだ だから、卓球部に入れってー」

「あっ そーなんだ じゃぁ やろうよー」

「だよね 水澄ちゃんも 一緒だしね」

 次の日、二人で入部希望ですって言いに行ったら、部長って人が

「そう 小学校で経験あったの?」

 二人とも 「ありません 初めてです」と、言ったら

「そう 最初は球拾いを1か月ほど その後は 素振りを1か月ほど練習してから、ようやく球に触れるってのが・・・ 新人は練習の前後に体育館の掃除もあるしね ウチのやり方なの その間にやめて行く人が半分位居るのよー どう 我慢出来る?」

 「ハイ! やります」と、言ったものの やってみなければ、続ける自信もなかったのだ。

「うん あかり先輩から聞いているわ たぶん 入部申し込みに行くわって ちょっと変わった子なの パワーを秘めているかもって あの人 この春までウチのクラブだったの 高校のね」

「えー 同じ駅から乗るんですけど・・・ 私 何にも・・・普通・・・です」

 夜、お母さんにクラブに入ることにしたと報告すると

「あつ そう いいんじゃぁない オリンピック行けるといいね!」と、気楽に返事をしていたが、お兄ちゃんには

「水澄ちゃんが卓球部に入るんだって 帰り 遅くなるから 達樹 駅まで迎えに行ってあげてね!」

「えっ エッ なんでー」

「何でって 女の子を暗い道を一人で帰らすわけに行かないでしょ!」

「そーなんだけど 自転車だろう? 大丈夫だよ」

「その自転車が危ないのよー 絶対に女の子 ひとりなんてー ダメ!」と、厳しい口調だった。

「だけど、朝は良いわよー 帰りはお母さんがその自転車 乗って帰って来るわー」 

「ふ~ん 毎日かよー」

「そうよー あなたも可愛い妹がトラブルに巻き込まれたりすると嫌でしょ! お母さんも 交代するわよー お父さんもね」 飲み始めようとしていたお父さんは、口まで持っていっていたグラスを止めていたのだ。だけど、口ん中でモコモゴ言った切りで・・・。

 次の日。同じ卓球部ってことで白川若葉ちゃんが放課後、面倒見てくれて、体育館の更衣室に・・・新入生は部室には狭いので入れなくって、体育館の更衣室でハンガーに制服とかを吊り下げるだけ。その下にカバンとかを並べて置いて、貴重品は顧問の椅子の横に籠があるから、そこに入れておくのよって教えてくれた。

 もう、練習を始めている人も居るんだけど、1年生は、その邪魔をしないように最初にモップがけからするんだと言われて、時間が来て、部長の号令でみんなが集まった。どうやら、昨日見たのは高校生も居たみたいで、他のところに集まっていた。

 皆に紹介されて、部長から

「しばらく、台の周りの球拾いからね 1か月位かしらー その後、素振りを教えるからー だから、まだ、ラケットなんか用意しなくても良いわよー クラブのもあるし、そのうち自分に合ったものを選んでいけば良いのよ まぁ 続いていればね あっ いけない 私 辞めないように見守るっていう立場なんだ 二人とも頑張るのよ 辛いことがあったら遠慮しないで私に言ってきて」 と、部長の六角響(ろっかくひびき)先輩は優しそうだった。

 若菜ちゃんは小学校からやっていたので、素振りのグループに入っていた。私達は練習台の斜め後ろに配置されて飛んでくるボールを拾いにいく役目なのだ。でも、先輩からは練習している人の動きもちゃんと見ていなさいよって指示されていた。

 練習が終わって、帰る時、先輩に香ちゃんが呼び止められて

「あなた 伝教寺先輩の娘さんなんだってね コーチから聞いたわ コーチの大先輩なんだって! 全中の決勝まで行って、負けてしまったけど最後はすごいラリー戦だったんだって あなたも頑張ってよねー」と、後で、若葉ちゃんに聞くと、次の部長さんで加賀野燕(かがのつばめ)先輩 卓球部のエースらしい。

「香ちゃん お母さんがOBって言ってたけど すごい人だったんだね」

「そーなんかなー ウチも初めて 聞いたのよ そんなんやったって ウチにはちっとも卓球のこと教えてくれへんねんでー」 

 

4-3

 夕食の後、お母さんが

「水澄 土曜日 お洗濯と廊下とかにワックスかけてね」

「あっ 土曜日は練習がー 新入生だけ特訓なの」

「あっ そう じゃぁ 日曜日にね」

「はい ・・・でも・・・」

「お母さん 水澄は日曜は 俺の応援に来ることになっているんだ」

「そうなの 応援って何よー」

「うん 地域の交流試合 ほらっ 新メンバーになったろー? その手合わせみたいなもん」

「ふ~ん どうして それに水澄が?」

「そりゃー 俺の妹だからー 俺は今年 バイスキャプテンなんだぜー あのー だから 帰ってきたら 二人でワックスはやるよー」

「お母さん お洗濯は学校に行く前にやります 夕方には帰れるはずだから、取り込みも間に合うと思うわ」

「そう お願いね」

 お風呂から出て、お兄ちゃんの部屋に出たよって言いに行った時

「なぁ この頃 お母さん 私に厳しない? 用事ばっかー言いつけて」

「・・・まぁ 水澄も中学生なんやから 女の子ってそんなもんよって思ってるんかなー 女の子やから家事のこと何でもできるようにーとか」

「だって 私やって お母さんの言う通りに 太子女学園に入って あそこ 勉強やって みんなに負けたらあかんし クラブやって・・・大変なんやー」

「うん そーやろなー 進学校やしなー ぼーぉーとしてる奴なんて居らへんねんやろうなー」

「そーやねん 毎日が戦争みたいや 隣は頭のええ子ばっかーに見えてーしもぉーてー 私はたまたま・・・」

「水澄 俺に比べると、お前はすごく頭が良いんだと思うよ 普通にしててもな 自信持てよー そうだ 日曜日 試合の応援に来いよな 翔琉も居るし」

「えぇー 何で 翔琉が ぁー?」

「水澄 知らなかったんか? あいつ サッカー部に入ったんやでー」

「えっ えぇー・・・ 最近 話 してへんねん・・・」

「だろうな 試合の後 少し デートでもしろよー あいつは まだ試合には出られへんやろけどー」

「お兄ちゃん それで さっき 応援にって・・・」

「まぁ 可愛い妹の初恋だもの 手助けになれば」

「お兄ちゃん いつも ありがとう 大好きだよ! 御兄様ぁー」と、抱き着いていたら

「よせっ ・・・ まだ 汗臭いんだからー」と、照れてお風呂に行ったのだ。

 お兄ちゃんはああ言っていたけど、私は引っかかっていたのだ。お母さんは、私から時間を奪ってー・・・そう もしかして 翔琉君と会わせないようにしているんじゃないかと。理由はわからないけど・・・太子女学園を急に受けさせたりして・・・彼と引き離そうとしている・・・の だろうか

 日曜日に隣町の運動公園に出掛けて行って、サッカークラウンドに。私が遅れてしまったのか、もう、お兄ちゃん達のチームは試合が始まっていた。グラウンドの隅っこの方では、翔琉も黄色いベストを付けてジョギングをしているのが見えた。グラウンドの中ではお兄ちゃんも硝磨君も走り回っていた。試合は、どうもお兄ちゃんのチームが0-1で負けているみたいで、私が応援の声を出すと、グラウンド反対側に居た翔琉が気づいたみたいで、手を挙げていたのだけど、私は、この時 お兄ちゃんに声を掛けたので、どうでも良かったのだ。でも、そのお陰かどうか 前半終了間際に、硝磨とお兄ちゃんの連携でシュートが決まっていた。終了時には、もう1点取って2-1で勝っていたのだ。

 試合が終わって、次の試合が始まっても、私はグラウンドの縁に座り込んでいると、お兄ちゃんと硝磨君が寄ってきて

「水澄ちゃんの応援のお陰で勝てたよー お礼にハンバーグでも食べに行くか?」

「硝磨 いいんだよー ほっとけ」と、お兄ちゃんは硝磨君の腕を取って「水澄 門限4時な ワックス掛けあるからー」と言い捨てて、連れて行ったのだ。私には、もったいないぐらいのお兄様なのだ。

 しばらくして、ポツンと座っている私のもとに翔琉君がやってきて

「しばらく振りやのー ちょっと やつれたんかぁー」十蔵も一緒だったんだけど、気を利かせたのか、別れて帰って行ったみたい。

「そんなんちゃうけどなー ちょっと 精神的になー」

「兄貴から聞いた 卓球部に入ったんやてー?」

「うん やってみようと思ってなー」

「やってみようってー 辛いのか? あそこ 大変やろー トップクラスやん」

「そーみたい でも 頑張ってみる」

「水澄はなんで そんな きついとこにばっかー 飛び込んでいくネン?」

「ふふっ 何でやろねー そーいう 運命になってしもーたんやろか」

「何 他人事みたいにゆうとんネン 何か食べにいこーか?」

「ステーキ  お好み焼きのん」

「そーかー 女の子って 好きやもんなー」

 駅の近くでお好み焼きのお店を探して、食べながら

「なぁ やっぱり 別の中学に行くと会うの難しいんなぁー」

「まぁ 生活リズムも違うしなー」

「私 間違ったんやろか 翔琉と会えんよーなるし 卓球部にも入ったから帰りも遅くて・・・誰かが駅まで迎えに来るから・・・会う訳にもいかんしー」

「そんなことないやろー 有名女子校に行ってるんやしー 卓球やって自分を伸ばす為やろーぅ がんばれやー」

「だってさー・・・ 翔琉と・・・最近ね 日曜日だってね お母さんがね 翔琉と会うのを避けさせてるみたいでー 辛いネン」私は、泣きそうになっていた。

「ふ~ん 裸の水澄を抱いたのばれたのかなー」

「それは無いと思う 誰にも言って無いし 二人だけの秘密やからー」

「水澄のとこは名門やろー 男のことで変なウワサになるのを避けてるだけちゃうかー? あのさー 朝は? 毎日はちょっと辛いけどー そう 金曜だけなら 俺 早い目に家を出て駅に行くよー 少しだけでも会えるだろう?」

「・・・ほんま? ・・・悪いよー」

「そんなのー 好きな女の子の涙 見るくらいならー 平気だよ! 何時の電車だ?」

「うん 7時3分の準急」

「わかった じゃー 15分前で良いか? 金曜日」

「うん ・・・ ありがとう・・・何か TVドラマみたい (金曜日の15分だけのデート)」

「ちゃかしてる?」

「そんなことないよー 翔琉 だ~ぃ 好き」と、私 ルンルン気分でお兄ちゃんとの約束の4時に間に合うように急いで帰って行ったのだ。
 

 

4-4

 その日から私は、ガツガツと勉強も そして 夜もお風呂に入る前には外に出て玄関の前で反復横跳び、ジャンプと体力づくりをしていた。勉強でもクラスのトップを そして、クラブでも早く正式メンバーになろうと目指していたのだ。

 そして、5月連休前に石切コーチに私と香ちゃんが呼ばれて

「素振りを教えるからやってみなさい」と、ラケットを渡された。

 私がそのラケットを受取って、右手で持ったり左手に変えたりしていると

「どうしたの?」

「あのー 私 どっちで持てばいいんだろうって 悩んで・・・」

「利き手のほうよ!」

「私 字を書くのとかナイフは左だけど、ボールを投げたりするのは右だったんです」

「ふ~ん バドミントンとか やったこと無い?」

「う~ん どっちも使ってたみたい」

「ソフトボールで打つのは?」

「それも どっちでも その時の気分でー」

「ややこしいのねー まぁ 最初は好きなほうでー そのうち やりやすい方を決めなさい」と、コーチは面倒になってきたみたいだった。

 そして、コーチはお手本を見せながら「いい? 額のところまで持ってきて、その時に必ずラケットは水平にするの 最初はこれが基本だから しっかり型を身体で覚えなさい」

 「ちょっと 水澄 横っ飛びして腰を落としてスマッシュ 反対に跳んでスマッシュをくりかえしてみて」

「えー こうですか?」と、私は言われたことやって見せて、何回か繰り返した後

「わかった 水澄 もっと 下の方から大きくね それとラケットは面が真直ぐになるようにして、額の前で手首を返して水平になるように心掛けなさい 後は二人で、あそこにみんなと並んでやっていなさい」と、言いつけて行ってしまった。

 練習が終わって、モップ掛けをしていると、コーチがやって来て

「水澄 やってみなさい」と、言ってきた。私は、何のことかと思って・・・ポンカとしていると「ほらっ ラケット持ちなさい」

 私は はっ として、ラケットを取りにいって、右手に持って、素振りを始めたら「左に持ち換えて、横ッ飛びしてみせてー」と、しばらく続けて

「どう? 左と右と どっちがやりやすいの?」

「う~ん 右脚のほうが踏んばり効くから、左のほうが振り切れるみたいな感じです」 

「そうね 左のほうがスマッシュに勢いがあるわ あなた 今日初めてラケット握ったんでしょ? 他の新入生の中ではスピードがあるわよ 腰まわりが大きくない割には足腰もしっかりしているみたい 頑張って練習してね!」

「ハイ! 私 いつも 加賀野先輩を見させてもらってますからー 勉強になります 左利きみたいでー」

「そう ふふっ でも 真似だけじゃぁ 越えられないわよ」

 連休になる前の金曜日。朝、先に翔琉君は来てくれていたのだ。

「おはよう 今日も暑くなりそーだね」

「おぉー 元気良いな 良いことあったのか?」

「ウン 昨日ね コーチに褒められたっていうか 励まされてね 特別にね きっと 私って 見込みあるんよ」

「単じゅぅーん そんなの せっかく入ってきた新入生だから あまぁーい言葉で引き留めようとしてるだけさー」

「もぉーぉ そんなんちゃうって! ラケットも持って帰ってええって言うから 夜も素振りしてんねんでー」

「水澄って やり出すと まっしぐらやからなー あのさー 連休の間でバーベキューをやろうって お母さんが水澄も誘えって」

「うっ 私 行きたいけどなー お母さんが・・・」

「まぁ ちゃんと決まったら 兄貴が達樹さんに連絡するからー」

「・・・うん・・・」私は、おそらく なんだかんだと用事を作るなりして反対されるだろうと思っていた。

 その夜、お兄ちゃんに

「多分 硝磨さんが バーベキュー誘ってくるよ あそこンチでやるんだって 翔琉が言っていた」

「ふ~ん 水澄 会っているのか?」

「うん 金曜日の朝だけ ちょこっとね お母さんには内緒ね」

「そうかー お前 なんか 可哀そーだな」

「そんなことないけどー でも そのバーベキューも きっと 行かせてもらえないかも・・・」

「う~ん そこまで反対しないと思うけどなー」

「そんなことないよ! 考えてみると お正月に翔琉ンチに行ったじゃぁない あれから お母さん変わったのよ 急に 私に太子女学園に行けって言い出したり 私が翔琉が逢うのを邪魔したり・・・」

「水澄 それは 考えすぎじゃぁないか?」

「だって 日曜の度に用事言いつけられるんだよー 学校帰りにも必ずお迎えでー」

「うん まぁ 多少は 水澄ももう中学生なんだし 男女交際には敏感になっているんかもなー 特に、翔琉とは仲が良いしー」

「だってさー 幼稚園からの・・・だよ」

「でも キスしたんだろう」

「お母さんにバラしたの?」

「いいや 秘密なんだろう?」

「それにしても 他に 何かあるわ きっと・・・ お母さんの娘の勘よ」
 

 

4-5

 夕食の後、お兄ちゃんが

「硝磨に誘われてさー バーベキューやるからおいでよって 3日の日 水澄も一緒」

「あっ ・・・だめ! 3日の日はお母さんのお友達と会うの 水澄ちゃんも・・・」

「へっ」と、私 声が出無かった。

「何でよー 何で 水澄が一緒なんだよー」

「あのね 水澄の入学式の時の写真 見せたの そーしたら 可愛いから会いたいってー その人 息子さんが居てね ひとり息子なの 陽光学院高校の3年生 阪大の医学部目指しているの 優秀なのよ」

「ふ~ん それが何か?」

「水澄に引き合わせたいんだって だから 一緒にお食事に行くの 最近オープンしたイタリアンのお店 おいしいらしいわー」

「それは良いけど 何で水澄がそいつと会わなきゃあなんないんだよ!」

「だって その息子さんも 水澄のこと気に入ったみたいで 太子女学園なら学校も近いし会いたいって言っているって!」

「あのさー お見合いでもあるまいし そんなのあるかよー どうして そんな話 急に・・・ 聞いて無いぜ」

「今日の お昼に電話あったのよー それで決めたの だって そのバーベキューの話も 今 初めて聞くのよ」

「うぅー だけど 水澄も意思はどうなんだよー 水澄が翔琉のこと好きなん知っているだろー 会いたいに決まってるやんかー 最近 ろくたら会えてないみたいだしー」

「だってさー 水澄ちゃんも 色んな男の子とお友達になったほうがいいじゃぁない 選んでも好いと思うのよー 水澄ちゃんは頭も良いし可愛いし それに、向こうは将来 お医者さんか医学博士よ」

「それでもよー・・・強引だよー だいたいやなー 歳も離れているし 向こうからしたら子供だろう? 」

「母親が娘の幸せを願うのは当然でしょ! 水澄はお母さんの娘なんですからね!」

「お兄ちゃん もう いいよーぅ 私 お母さんと 行く・・・」と、だけど 涙をこらえていた。

「水澄・・・ お母さん! それが・・・本当に・・・水澄の幸せなんかぁ」

「なぁにー」お母さんは満足そうな顔をしていたが

「お母さん 変ったよー お正月以来 水澄と翔琉の仲を裂こうとしているとしか 俺には思えないんだけどー 何なんだよー」

「なにって なんにも無いわよー でも お母さんはあそこのおうち あんまり好きじゃぁないの いかにもお金持ちですって感じで たまたまお仕事がうまく行き出しただけじゃぁない! それに 水澄のこと 翔琉君に似ているからウチの子みたいってー 失礼よ! 水澄は間違いなく私の娘なんですからね! 水澄はちゃんとした学校に通っているし、もう生活環境も違うんですからね」

「俺等が行っている学校とは違うんですよってか そんなことで 色分けするような お母さんじゃぁ無かったよ 水澄のことだって可愛がってくれているから・・・」

「お兄ちゃん もう やめてー いいの 私は・・・お母さんと・・・」

「そう 明日 水澄ちゃんのお洋服買いに行こうね 可愛らしいの おめかししなきゃーね」

 その後、お風呂に入る前に私は外で素振りをしていて、お兄ちゃんがやって来て

「水澄 出たぞ 早く 風呂入れ」

「うっ うん あと100回」気を紛らしていたのだ。

 と、お風呂から出て、お兄ちゃんの部屋に行って

「お兄ちゃん ありがとう」

「なんでもないよ 普通のこと言っただけだよー・・・何だ 水澄 風呂で泣いていたのか? 眼が赤いじゃぁないか」

「あっ あー お湯が入ったのかなー」

「水澄 お前 本当にお母さんにとっては良い子なんだなー 言いなりじゃぁないか」

「だって お母さんは小さいころがら私の言うこと何でも聞いてくれたの だから お母さんには逆らえない 感謝してるの」

「ふ~ん 場合によりけりだと思うけどな 翔琉とのことはどうすんだ? このままじゃぁ 疎遠になっていくのも覚悟してるんだろうな」

「お兄ちゃん・・・ 私 ・・・どうーーーー もう、寝るね おやすみなさい」

 あくる日は、お母さんに連れられて、お洋服を選びに行って、半袖の赤とグリーンのチェックの裾が短めでタックプリーツのワンピースで胸元は大きなリボンになっているもの。ライムグリーンのベルトパンプスも買ってくれた。

「うーん なんて 可愛いの 水澄ちゃん」

「ありがとう お母さん こんなに使わせてしまってー」

「いいのよ 水澄ちゃんが可愛くなるんだっらー」と、赤いリボンの髪止めも選んでくれたのだ。

 帰る時、パーラーでお茶休みをしている時

「ごめんね 水澄 強引なこと言ってしまって 中学の時も・・・ でもね お母さんは 本当に水澄には幸せを掴んで欲しいのよー 翔琉君が悪いんじゃぁなくて もっと 色んな男の子とお付き合いしてもいいんじゃぁないのって思ってー まだ 中学生なんだからー」

「わかってるよー 私 お母さんのこと大好きだから 信じてる 間違いないよねー」

「水澄 どうして そんなに良い子なのかしらー」

「それは お母さんの娘ですからー」

「お母さんは 胸が苦しいわ」 
 

 

4-6

 3日の日は、お昼前に駅でお母さんと待ち合わせをしていた。午前中はお店に出て早退するらしい。私が着替えて、お母さんに教わったように洗面所で軽くお化粧して出て来ると

「おぉ いつもながら 可愛いのぉー お母さんも張り切ったのか?」と、お兄ちゃんが・・・もう、翔琉君ンチに行く時間のはずだが

「まだ 行かへんのー?」

「あぁ 断った 悪いけど 水澄の体調が悪いからってな 一緒に家に居てやりたいからって」

「はぁー? そんなん ・・・ 駅でバッタリしたらー」

「まぁ そん時はそん時でー 俺だけって行くってのも おかしいやろー?」

「そーかなー おかしい カナ? すまんのぉー 気使わせて 兄貴ぃー」

「うふっ そんなんより 楽しんでこいよ おいしいもの喰って 駅まで送って行ってやろうか」

「いいよー ひとりで ダイジョービ!」

「うん 上手にお化粧できたみたいね 可愛らしいわ」と、お母さんに会った時、感激していた。

 電車に乗って準急で一駅、歩いて15分程のところに、そのお店はあった。店の周りは樹々で囲まれていて、奥まったところにある。木の階段を3段ほど上がって玄関があって、静かなお店なのだ。

 向こうの人は先に来ていて、私達が席に着くと、息子さんという男の子が

竹通一真(たけみちいっしん)です 陽光学院高校の3年です」と、先に挨拶をしてきた。真っ白なポロシャツに白い綿パンで何かの宗教の人みたいなんだけど、続いて、お母さんに催促されて、私も

「香月水澄です 太子女学園中学の1年生です」

「まぁ お写真拝見したけど 実際にお会いすると ずっと 可愛いわー ねっ 一真?」

「あっ あー そーだね」と、とりあえず腰掛けた後、予めお料理が頼まれていたのか前菜が運ばれてきて、

「たみちゃん ワイン飲むでしょ」と、ワインが来て、私達にはぶどうジュースで、ワインを口にして、お母さんが

「一真さんは とても 勉強がお出来になってー 陽光学院は大阪でもトップなんでしょ 阪大医学部目指しているなんて ご立派ですよねー」

「いゃーぁ 周りはみんな そんなもんですよー」と、さらっと言っていて、細くて涼し気な眼からは物事を冷静に判断する人なんだという印象を受けたのだ。そして、最初に会ったときも、筋肉質でなくて細身で背が高くて、私と頭ひとつ違ったのだ。

「たみちゃん 久し振りね こうやって会うの 何年ぶりかしら」

「達樹が生まれたときに フーちゃんがお祝いに来てくれて以来 15年位かしら」

「たみちゃんから連絡もらってね びっくりしたのよ」

「えぇ 水澄が今年中学生になったでしょ だから 区切りかなって 今までバタバタして 連絡しなきゃーって思ってたんだけど ついついね」

「水澄ちゃん 卓球部に入ったんだって? 強豪チームだから 大変なんでしよ?」

「はい でも 先輩が親切だから なんとかー」

「この子 のめり込むほうでね 夜も自主トレとかで頑張るのよー 土曜日なんかも練習だって出て行くのよー」

「そーなの 一真も運動はしてないんだけど 補習授業とかで 土曜日も出て行くのよ 午前中だけなんだけど」

「あらっ そーなんですかー 水澄も午前中だけなんですの じゃぁー 終わったら 今度 学校も近いんですし 水澄を公園とか美術館とかに誘っていただけないかしらー」

「えっ お母さん そんなの・・・」 私 突然のことで、どう言ったら良いのか・・・

「それは良いかもねー 一真もガールフレンドも居ないんだから こんなに可愛らしい娘と歩いたら 自慢出来るでしょ せっかく こーやって お知り合いになれたんだから もっと お互いのこと知り合えば?」

「そーなのよ こちらからも是非おねがいするわー この子ね 小さいころは目立たない地味な子だったんだけど 最近 顔立ちも可愛らしくなってきたのよねー」

「あらっ たみちゃん それ! 親の贔屓目じゃぁない?」

「ふふっ かもね」

「じょーだんよ! 確かに 人目を引くような可愛らしさヨ! お洋服のカタログに載っているモデルさんみたい ねっ 一真?」

「はっ? ・・・まぁ・・・可愛い人だけど・・・でも まだ 中1・・・」

「いいじゃぁないの こんなに可愛い子 早く お友達になっとかなきゃ 取られちゃいますよ ・・・ちょっと 言い方 下品だったかしらー」

「いいのよー 水澄だって 年上の人とお付き合いして巾を広げなきゃって思ってるの 特に 女子校だからね でも、まだ子供なので、一真さんには物足りないかもしれないけど、優しくてとっても良い子なのよー」

「お母さん 私・・・」と、どうしたらいいのか戸惑っていた。その場は、断りの言葉も言えなかったのだ。

 お料理も食べ終えて、お茶を飲んでいる時

「そうだ お写真をね」と、お店の窓際にみんなを呼び寄せて、お店の人にお願いをしていたのだけど

「今度は ふたりで並んで」と、私と一真さんを並べてきて・・・私は、仕方なしに手を前で揃えていて 撮られてしまった。こんなことぐらいなんだけど・・・この時は、私はまだ 心の中で (翔琉ごめんなさい) と・・・。

 そして、お店を出て別れる時

「そうだ 一真 水澄ちゃんの連絡先 交換した?」

「あっ 水澄には まだ 携帯持たして無いのよー そろそろクラブのこともあるし、これから契約に行くわー 又 番号連絡するね」と、急にお母さんが言い出した。

 それから、家の近くのお店に飛び込んで、お母さんは私にって急いで契約したのだ。

「あとで 一真さんに番号 連絡しておきなさいね これ!あの人の番号」と、番号が書かれたメモを渡された。

「でも・・・ 私 あの人とそんなに話して無いしー 何を言えばいいのかー」

「だからよー 水澄のほうから連絡したほうが 効き目あるのよ これからお付き合いするのにネ!」

「お母さん・・・ そんなぁー お付き合いってー」

「まぁ そんなに 固く考えないで ただの お知り合いとしてね 普通よ!」と、強引に押し切られた。こんな時って 私 お母さんには何にも言えないのだ。 

 

4-7

 結局、そのメモを見詰めたまま、次の日の朝になって、お母さんから

「連絡しておいた?」

「・・・まだ・・・」

「なにしてんのよー きっと 待って居るわよ ちゃんとしておきなさいよ!」と、言い捨てて仕事に行ってしまった。

 だけど、私は決心がつかないまま、机に座ってそのメモとにらめっこをしていたら、ジョギングから帰ってきたお兄ちゃんがシャワーしたのか上は裸のままタオルを被って顔を出して、私 風を入れるのでドァを閉めるの忘れていた。

「どうした? 電話したのか?」

「ううん まだ・・・」

「そうだ 俺のを登録しとけよー 最愛の兄貴が第1号だろー」

「そーだね えーと どうやるん?」

「そーかぁー ちょっと待て 今 ワン切すっからー」と、お兄ちゃんは携帯をとりに行って・・・。

「水澄の番号は?」と聞きながら・・・私のがチャリンと1回鳴って

「今 ワン切したろー? その番号を電話帳ってとこに登録ってするんだよ」と、教えてくれたけど

「あっ 昨日 お母さんが自分を入れてくれたんだ 第1号」

「なんだよー まぁ いいやー 翔琉のも教えようか?」

「う~ん いい そんなことしたら電話ばっかーしちゃうもん」

「そうかー でも 一応 入れておけよー 何かの時のために 向こうには教えなきゃーいいんだからー じゃあ その何とかさんに連絡しなよー ここまで来たら 腹くくるんだなー その前にお前 何か着ろよなー 下もパンツだけじゃぁ無いの?」

「あっ あー さっき パジャマ脱いで そのまま 忘れてた! お兄ちゃんも早く何か着なよー 裸のまんまじゃぁない!」

 私は、意を決して番号を押した。呼び出し音が2回程してドキドキしていると、向こうから「もしもし」となんだか機嫌が悪そうな声が

「あのー 香月水澄です あの あのー 連絡しろってーお母さんが・・・」

「あっ 待っていましたよ よかったーぁ 電話くれてー もう 連絡ないんじゃぁないかと思ってたんですよ」

「あっ あー ごめんなさい なんかー 初めてだしー どう言えば良いのかって」

「そーだよね それは すまない やっぱり 考えちゃうよねー」と、意外と私のことを気づかってくれた。

「丁度 良かった ちょっと 息抜きをしたいなって思ってたんですよー 今お家ですか? お昼から出てきて どこかでお会いできないですか?」

「あっ えーと 少し 今朝から熱っぽくてー」

「そーなんですか それは お大事に じゃぁ 今度の土曜日 ダメですか?」

「私 何時に自由になるのかわからないのでー」

「いいですよ 僕は12時には終えるので 待ってますよ 終わったら連絡下さい とりあえず 天王寺駅の中央改札のところで 良いですか?」

「えっ えぇー まあ・・・」

「じゃー 連絡まってます お大事に」と、電話は切られた。そっけないような 冷たいのか でも、丁寧なような人 わからなかった。

 ダイニングに降りて行くと、お兄ちゃんが

「水澄 なんか 喰うもんないかなー この頃 お母さん お昼ご飯 用意しててくれないよなー」

「あぁー 私に 作れって言ってんのかなーぁ ご飯はあるから 炒飯でいい?」

「うん 肉入れてくれよなー」

「あのねー そんなのあるわけ・・・あっ チャーシューある」

「おぉー いいねぇー 水澄 お前 それで何か穿いたのかよー 変んないじゃないか」

「そう 穿いたよ これ!」私、割とピチピチのショートパンツで上は面倒なのでブラトップのままだった。

「あのさー もう 中学だろー・・・」と、お兄ちゃんはぶつぶつ言っていたが

 私は、何で用意してかのよーにチャーシューがあるのよと思いながら作ったのだけど

「うまいよー 水澄もなかなかのもんだなぁー 良い嫁さんになるかもなー」

「なによー かも って 良いお嫁さんになるに決まってるじゃんかー お兄ちゃんみたいな 優しい旦那さんだったらね」

「おっ そうかー すごい 褒め言葉だなぁー 俺も 水澄みたいな 可愛い人 みつかると良いなぁー ・・・ それでー 電話 したのか?」

「ウン した・・・ そんなに 悪い人じゃあないよーな」

「そう 良かったじゃないか 付き合ってみなければ 人って わからないよ」

「今度 土曜日に会うことになりそう」

「ふ~ん まぁ いいんじゃないの」

「お兄ちゃん 男の人とお付き合いするって どうすれば良いの・・・?」

「どうって 俺も 経験ないから そんなの 知らないよ まぁ 普段通りの水澄でいいんじゃぁない あんまり見栄張ると後で苦労するからー」

「その 普段通りって わからない だいたい 何 お話すれば良いのよー」

「そーだな 手っ取り早いのは 先に 相手の趣味とか興味あること聞くとか 好きな食べ物聞くとか 将来の夢とか・・・」

「あっ そうかぁー そうしよっとー やっぱーぁ 私のお兄ちゃんは 頼りになるねぇー」

「それと 翔琉とのことは 自分で考えろ 相手に打ち明けるかどうか 彼氏なんだろう?」 

「う~ん 一応 そのつもりなんだけど・・・最近 自身なくなってきた」

「まぁ 会えてないもんなぁー でも、今度の相手と付き合うんだったら、一言 言っておいた方が良いかもー」

「付き合うって・・・そんなー」
 

 

4-8

 昨日の朝 翔琉と駅で会った時、私は後ろめたくてろくな話も出来なかったのだ。土曜日の練習は1年生の強化が目的で、2年、3年生も出てきているけど、主に自分の調整目的で、コーチ達は主に1年生の面倒を見ているのだ。

 そして、練習終わる頃になって、私は石切コーチに呼ばれて

「水澄 スマッシュの練習ね 打ち込んできなさい」と、私相手にサーブを繰り出してきた。

「ダメ! もっと 上体を捻って思いきり振り切るのよー」「自分の打点まで身体持って行かなきゃー 打てないでしょ!」とか、いきなり厳しい声が飛んできて、嫌というほど球を繰り出してくるのだ。私がスマッシュを打ち込んでも、平気でコーチは打ち返してきていて、私の後ろには何人か1年生が球を拾ってくれるのだけど、私が空振りする度だから申し訳なかったのだ。しばらく、続いたのだけど

「お前はバカかぁー もっと 跳んでも良いから身体ごとをボールに持っていかなきやー返せないでしょ! 腕だけで返そうとしてもダメに決まってるじゃぁない! 打つ時はスキップしてもいいんだからね! モタモタしないでちょーだい!」

 ボロカスに言われながらも何度目かにスマシュが決まり出すと、コーチの返球が強くなりだして、それでも喰らいついていった。30分ぐらいやっただろうか

「まぁ まぁ 見れるぐらいにはなってきたわね もっと 自分で 武器を考えなさいよ 次は、相手の球を返す練習ね あなた ドンくさいから頑張んなきゃーね」と、ようやく解放されたのだ。

「なんなの 水澄 眼つけられてるのかしら いじめカナー 鍛えてるといえば そーだし あなた ドンくさいだってー うふっ」と、香ちゃんが寄ってきて言ってくれたけど・・・私はヘトヘトでどうでも良かったのだ。今は、そんなこと考えられないぐらいバテていた。

 もっと、気が重かったのはシャワーを浴びた後、香ちゃんに

「ごめんね 今日 知り合いと待ち合わせするんだ」と、別れて、震える手で電話帳の竹通一真さんを押した。

「もしもし 終わった?」

「はい 今 まだ 学校出るとこですけど」

「あっ そう じゃぁ 中央改札出たとこのマルシェの前で待ってます」と、直ぐに切られた。なんか、事務的な人と思いながら、指定されたところに向かった。

 そこは、直ぐにわかって、頭が出ているあの人もわかったけど、この前と違ってメガネをかけている。むこうも私のことわかったみたいだけど、手を挙げるとかも無く近づいてきて

「すぐに わかりましたよね 芝生公園に行きましょうか」と、手をつなぐでも無く、さっさと歩き出した。私も仕方なく後ろから付いて歩き出した。信号を渡って公園に入っても、すたすたと歩いていて、後ろから歩いている私は これじゃー 補導されているみたいだなって思いながら歩いていたのだ。しばらく歩くと

「あそこに座りましょうか サンドイッチ買ってきたんだ」と、芝生の中に座ろうと

「あっ 私 バスタオルあるからー シャワーしたから 少し 湿っているけど」と、バッグから取り出して芝の上に敷いて、とりあえず並んで座ることになった。

「おなかすいているかなと思ってー」と、ミックスサンドとオレンジジュースのパックを渡してきた。

「ありがとうございます 本当はおなかすいてたんです えへっ いただきます」と、この人 意外と気が利くのかもと、パクッとしたんだけど (何かしゃべらなきやー えーと 何だっだけなぁー)

「あのーぅ 背が高いですよねー 何センチですか?」想定していたことと違うことを聞いてしまった。

「183cm 運動は何にもしていないので 木偶の棒って言われてます ははっ」と、少し笑い気味のとこは優しい表情だった。

「水澄さんは 卓球 大変でしょう?」

「えっ えぇー まぁ 今日もコーチからイジメみたいにしごかれてきました。 でも、鍛えられてんだって思って」

「イジメかぁー 水澄さんは可愛いからなー リスかうさぎのイメージだよ 僕だって 抱きしめたくなるよー」

「・・・あのー それ なんか 言い方 やーらしくないですか」

「あぁー ごめん 僕は中学から男子校だろう 付き合ったこと無いから 女の子とどう接して良いのかわからなくって 水澄さんは女子校どう?」

「どう ってー 私 別の中学校になってしまったけど 小学校から仲の良いグループで 男の子も居るからー」と、言いながら、当然 翔琉の顔が浮かんでいた。こんな風に芝生に並んで座って他の男の人と話してるなんて・・・気分悪いだろうなーと思いながら・・・。

「そうかー 彼氏か なんか?」

「えー そんなんと 違います」と、否定してしまった。

 その後も、私の好きな食べ物とか好きなアイドルとか居るのとか聞かればなしで、私が尋ねる間もなかった。だけど 私 最初の緊張もほぐれて、笑ったりもしていたのだ。2時間以上も座り込んでいたろうか。

「あっ 気づかなかった こんなに居たら 日焼けしちゃうね ごめん」

「私 そんなの気にしませんからー」

「これからは ダメだよー シミになるっていうからー そんなきれいな肌なのにー」

「うふっ そーですねー」

「そろそろ帰ろうか? ねぇ 明日も会ってくれない? 長居公園 植物園もあるしアスレチックも・・・自然史博物館ってのがあって面白いんだよ 恐竜の骨組みなんかもある レプリカだけどね」

「わぁー 面白そう だけど・・・お母さんに聞いてみないと」この時、私は 一緒に行ってもいいかなって思っていた。

「うん 夜にでも 連絡ちょーだいな そうだ ライン交換しょっ」

 と、帰りはようやく私は彼と並んで歩いていたのだ。まるで 付き合っているみたいになってしまった。同じ電車で・・・私が先に降りて、さよならしてきた。

 その夜、お母さんに

「明日 長居公園に行こうって 誘われたんだけど・・・」

「一真さんに? 今日 どうだったの?」

「うん 天芝で座って お話しただけ」

「そう どぉーだったの? 彼の印象は?」

「この前 会った感じと違った まぁ 話しやすかったの 前とは違うのよ! そこの博物館に行ってみたいの」

「ふ~ん それで 明日もなのね いいんじゃぁない 行ってらっしゃいよ」

「えっ いいの? 家の用事は?」

「そんなの なんとかなるわよー 日焼け止め塗って行きなさいよ あとは、クリァマスカラとリップ薄いもの程度ね」

 横でお兄ちゃんが聞いていたんだけど、別段 何にも 言って来なかった。翔琉君とのこと・・・は。
 

 

4-9

 彼が、一つ向こうの駅から乗って来て、この駅で各駅停車の普通に乗り換える予定。電車が着いて、一番前の車両に乗るって言っていた。

 少し微笑んでいるような顔で彼が降りてきた。別に何かを言う訳でも無く、私のことを見ているので

「おはようございます」と、私から言うと

「そう おはようだね 来てくれたんだ」

「そりゃー 昨日の夜 約束したじゃぁないですかー」

「そうなんだけど 現実かなーぁって それに こんな可愛いらしい娘とデートだなんてー」

 今日は、小さなお花の刺繍が襟から胸元にまでしてある白いブラウスにベージュのインナー付きのラップのミニスカートそして、赤いリボンの髪止めで来ていた。彼は、白いポロシャツにベージュの綿パンと今日もシンプルなのだ。

「あのー 眩しいですね 服装が・・・」

「子供ぽいですか? もっと 大人っぽいのん ほうがいいのかなー」

「いや そんなことないですよ 僕は 見慣れて無いからー それに水澄さんは脚もすぅーっとしていて ミニが似合う 水澄さんは可愛いほうがいいです」

「そーですかー 良かったぁー うれしい 褒めてくれて」

 そして、電車に乗ったんだけど、何にも話も無く、降りてからもスタスタ歩く彼と並ぶのも大変で、遅れて後ろに付いていくという場面も・・・。公園に入ってからもそんな調子で、ちっともリードするとか手を繋ぐとかの素振りも無かったのだ。また、こんなの補導されているみたいだからー いやーぁ と思っていた。

「ここだよ 自然史博物館 中学生以下は無料らしいから 学生証出して」

「へぇー へぇー ただなんやー」

「まぁ らしいな」

 入口を入ると、いきなり ナウマンゾウの標本が

「うわぁー おっきい ふ~ん でも 動物園の象くらいっかなー こんなのが生きていたんだー この辺にも普通に居たの?」

「まぁ 化石があちこちで発掘されてるからな 居たらしい 野尻湖は有名だろう?」

「野尻湖? あぁー 冬になると氷ついたのが盛り上がって 神の御渡りってとこだ」

「・・・それは 諏訪湖! 野尻湖は長野の北で新潟に抜ける途中」と、言い方が冷たかった。

「そうかー じゃー いわさきちひろ だっけかな 絵本の・・・活動してたとこ・・・ あっ 今 私のこと アホやって思った!?」

「そんなことないよ ぼくだって その いわさき何とかって 知らないものー」

「あっ 人間って こんなのと戦って 食料にもしてたんだってー」

「らしいね 加古川の方は日本海にまで通じて低い土地だったみたいでね そこは季節的に移動するナウマンゾウ達がいて、そこを人間が沼地なんかに誘い込んで襲ったんだって」

「ふ~ン 一真さん 詳しいんだね もしかして 原始人?」

「うん 地底から蘇ってきたのかも 水澄ちゃんに 逢う為」

「そうかー いいや 次行こぉー」と、私は見え見えの冗談に身震いしながらも、思わず彼の手を引っ張っていた。その後、恐竜とかの骨格標本を見て廻っていると

「水澄ちゃん もう少し おとなしく見ようね」と、諭すように・・・。私は、初めて見るようなものばっかりで、その度に大きな声で騒いでいたみたい。

「あっ だって びっくりしちゃってー 初めてだから・・・」

「まっ まぁ いいんだけど 周りの人がこっち 見るからー ただでさえ 目立つのにー」

「・・・私達 目立つの?」

「達じゃぁなくってー 水澄ちゃんが そのー 無邪気で可愛いからー」

「はっ それは・・・子供ってこと?」

「いや それは・・・えーとぉー 植物園を見て 何か食べよーか」

 私達は、博物館、植物園を出て公園内の喫茶店で食べようかと向かって、私はカツサンドとレモネードを注文すると、彼も同じもので。

「たべたら アスレチックのほうに 行こうか?」

「うん 行く!」

「あー でも そんな短いスカートでだいじょーぶカナー」

「平気だよ インパン付きだからー」

「インパン?」

「インパンだよー インナーパンツ 知らないの?」

「ウッ インナーパンツだろー」

「あー 見たこと無いんだぁー」と、私は立ってスカート部分をめくって

「おい! わかったよー もう いいよー まぁ 短パンみたいなのが下についているんだな」

 と、私達はその野外アスレチックに向かって、やっているうちに自然と手を繋いだり、私が一真さんに抱き着いたりして楽しんでいたのだ。不思議なもので、こうやっていると親密になってきているようだった。

 そして、帰り道 歩いている時に

「僕は 来週から 土曜も日曜も塾に通うことになったんだ。だから、こーやって会えるのも難しいかもしれません ようやく仲良くなったのにねー」

「あーぁ 塾ねぇー そーだよね 大学のことがあるものねー でも いいんですよ 私のことは気にしないでください」

「でも せっかく こーやってるんだから 時々 会ってもらえますか そのー お付き合いってかー」

「いいですよー でも お付き合いっていうんじゃーぁなければ お知り合いってーか おこがましいんだけど よろしければ お友達として」

「うん そーですね まだ 付き合うってねぇー 時々 ラインしますね」

「はい そーですね でも それとは別に 今日は とても楽しかったです 知らなかったことばっかーで 勉強にもなりました それに、一真さんって 冷たいとこあるんか思ってたけど とっても純真でいい人なんだって わかった」

「ウン いい人かぁー 違う様になるよう頑張る 水澄ちゃんも 優しくて明るい無邪気な女の子だってこともわかった 何か 受験勉強にも身が入るみたい」

 別れて、ひとりで家に向かっている時、私は あの人は、最初はとっつき難いなって思っていたけど、一日一緒に居ると、優しくしてくれて良い人と感じていたのだ。翔琉も私のことを見守ってくれるけど、一真さんは、もっと 大きく私を包み込んでくれるような優しさ・・・こういうのを、もっと 男の人を知りなさいよ とお母さんは言っているのかなぁーって
 

 

4-10

 その夜 お母さんから「どうだったの?」と、聞かれて

「面白かったよ! ねぇ お母さん この辺りにもナウマンゾウが居たかも知れないって知ってた? 人間がね 捕らえて食料にしてたんだって お肉はきっと 固いんだろうなぁー ナウマンゾウってねアジアに居る象の祖先でね、だからアジアにしかいなかったみたい。でも、マンモスはね 正確には象の祖先じゃぁ無くてねシベリアとか北アメリカにしか居なかったみたいよ それにね ゴキブリって大昔から人間と戦ってきたんだってー」

「あのねー 水澄ちゃん  面白かったのはいいけどね お母さんが聞きたいのは 一真さんと どうだったのってこと」

「一真さんのことかぁー 良い人よ 最初の印象と違ってね でも 年が離れているせいか 一歩下がってしまってー 隙間があるのよー なんか 違和感あるかもー」

「水澄 お母さんだってね お父さんとは8つ離れているわー でも、一緒になると そんなの関係ないわ むしろ それっ位のほうが良いのよ」

「お母さん 結婚する訳じゃぁー そんなのーぉ」

「何言ってんの 水澄は もう 将来のお相手を意識する歳なのよー 年齢を重ねるって 直ぐよ」

「だって 私まだ 中学・・・」

「そう もう中学生 そして、高校、大学とあっという間よ それから結婚相手を探してー だから、そのことを頭に置いておかなきゃーなんないの! 今まではいいわよー 遊び相手だからー だけど、もう同い年の子なんて相手しちゃーダメよ あなたは 太子女学園の生徒なのよ! 品格が違うわ この辺の子と違うの! 自覚しなさいね!」

「・・・自覚・・・」

 私は、お風呂から出て、いつものようにお兄ちゃんに

「お風呂出たよー」

「おっ 水澄 さっきお母さんと話込んでいたみたいだけど・・・おっ お前 又 風呂で泣いていたのか 眼が赤い」

「ちゃうよー シャワーが・・・あのね お兄ちゃん お母さんがね (もう同い年の子なんて相手しちゃーダメよ あなたは 太子女学園の生徒なのよ! 品格が違うわ この辺の子と違うの! 自覚しなさいね!) って それって 翔琉と逢っちゃー駄目ってことだよねー?」

「ふ~ン そう言われたのかーぁ 今日のデートはどうだったんだ?」

「良い人よ 私のこと大切にしてくれる だけど 親近感というか なんか 違うの 翔琉とは それに、あの人 塾に行くからしばらく会えないんだってー」

「なるほどなー」

「お母さん 変ったよねー 前は そんなこと言わなかった 翔琉のことも・・・」

「まぁ でも、そー言われたんなら 今は、そーするしかないんじゃあないか あの人なりの訳とか良い分があるんだろうから 俺も、お母さんは変わったとは思うが・・・水澄もお母さんのこと 大好きなんだろう? とにかく、水澄はお母さんの娘には違いないんだからー 今は 揉めるな! 今は、お母さんも敏感になっているみたいだから」

「お兄ちゃん 何かあるの? お母さんの娘 てぇー? 私と・・・当たり前ヤン」

「いや 最近の お母さんの口癖だ だから 水澄もお母さんを大切にしろよ」

「まぁ そーなんだけど・・・お母さんの言っているもわかるの 色んな男の人を見なさいって・・・ でも 翔琉と・・・」

「まぁ それは 何とか 俺が繋ぐよ でも しばらくは 水澄も卓球に集中しろ! せっかく 始めたんだからー 水澄の集中力はすごいから 直ぐに上達するよ」

「お兄ちゃん 簡単に言うけどー 練習辛いんよー 最近 教えたようにどうして出来ないの とか トロイんだよー ってボロカスに言われるんよー」 

「それはー 水澄が見込みあるからだよ でなきやー 入って間もないのに 普通は そんな風に言われないだろう?」

「うん 確かに 私にだけ 特に 風当たり強いように思う」

「そーだよ それに負けるな!  水澄には その力がある」

「お兄ちゃん と話していると 元気が湧いて来るよ いつも 私を見守っていてくれて励ましてくれて・・・ 大好きだよ あのね つい 翔琉と比べてしまう時もあるのね お兄ちゃんが私の彼氏だったらー って」

「水澄 そんなのって 今 だけだよ ちゃんと 見つめて 自分を見失うなよ」

「でも お兄ちゃんの彼女になる人 出てきたら 私 取られたくないからって きっと嫉妬してしまうかもね」

「恐ろしいこと 言うなよー 水澄より好い女の子 探すに決まってるだろ!」
 

 

5-1

 お母さんの言いつけを守るって訳じゃあないけど、一真さんのこともあって、朝 翔琉と会った時、私は、朝練でもっと早い電車になると思うから 少しの間 会えないのって 言ってしまった。言って 後悔したけど しばらくは、翔琉とのこと見つめ直して、お兄ちゃんが言うように卓球に集中してみようと思ったのだ。

 土曜日は練習を終えて、もう1時になっていたけど、私と香ちゃんはお昼ご飯で駅裏のお好み焼き屋さんに来ていた。

「まいったね コーチ 私等に恨みでもあるのかしらー 最近 特に、厳しいね」

「でも 少し前は私 ひとりだったけど 最近は香ちゃんもだから 私は 気が楽」

「なによー 道連れかよー」

「ふふっ でも コーチがしごいてくれてるっ 見込みあるってことでしょ」

「そーなんかなー 確かに、もう 白川若葉ちゃんと岩場花梨《いわばかりん》ちゃんの二人は先輩達にまぎれて練習しているし、他の1年生はまだ素振りさせられているのに、ウチと水澄のふたりだけはコーチとか六角先輩にしごかれているもんなぁー」

「そうよ! お兄ちゃんが言ってたけど この前 入ったばっかりの1年生に そんなに厳しい練習 普通 しない 見込みあるからだよー って」

「そーなんかなー じゃー 頑張って 喰らいついていくかぁー」

「そーだよ 六角先輩も 練習の最後には 辛抱よって 優しく声掛けてくれるヤン」

 それから、私は家の近くで髪の毛を思い切って刈り上げとショートヘァにしてもらっていた。前の日、お母さんには切ることを伝えていたのだ。卓球に打ち込んでみると言うのが理由だった。お母さんは、あんまり賛成してないみたいだったけど・・・

 日曜日の朝はお兄ちゃんとジョギングに付き合って、帰ってきたら汗だくだったので

「水澄 先に シャワーしろよ」

「ウン あとから お兄ちゃんも来るの?」

「来る? ・・・水澄が出たらな」

「なぁーんだ つまんないなぁー 前は一緒に入ってたんやんかぁー」

「何年前や思ってんねん 今は もう そんなんしてたら ポルノみたいやんかー」

「へぇー へぇー ポルノねぇー 見てるんやー」

「あほっ いや そんなん・・・」

「わぁー 隠さんでもええヤン 健全な男の証拠やー お兄ちゃんでも 女の子の裸見たいんやー 私ではあかんのー?」

「あのなー 妹やないかー」

「そんなん 妹でも他の人でも同んなじやろー 私は お兄ちゃんやったら見せても平気やゆうてるやろーぅ? もう 子供の身体ちゃうでー 私も、お兄ちゃんのん見たら 男の人の勉強になるかもー」

「俺は・・・教科書と同じか!」

「だってさー お母さんも言ってたよ もう 男の人を意識して頭に置いておかなきゃーだめよって」

「それは なんか 意味が違うんちゃうかー そーいう意味じゃぁー無いと思う いいから 早く 風呂 行けよー 頭 冷やして来いよー おかしいぞー 水澄」

 私は、シャワーをして出てきて

「お兄ちゃん お昼 中華丼でいい?」私は、タンクトップブラにレモンイェーロのフレァーなミニスカートだったけど、しばらく眺めていて・・・

「うっ ・・・ あぁー そんなの作れるんか? いいねぇー」

「ウン と言うより 朝 お母さんが お昼は中華丼にしなさいって 作り方も聞いているの」

「なぁーるほどな・・・」

 お兄ちゃんがシャワーしている間、私は佳純さんと美誠さんの試合のビデオをひっくり返って、見ていると、出てきたお兄ちゃんが

「あっ あー 水澄だよなー いゃ 後ろから見ると・・・か・・・いゃ なんだよー パンツ丸出しでー」

「見 た なぁー」

「見たなぁーちゃうわー! 見せとんねんヤン そんなの不審者が入ってきたら 一発やでー」

「お兄ちゃん 呼ぶもん」

「俺は シャワーで聞こえへん」

「そん時は ゾンビに変身するねん それより 私 イメージ違う?」

「うっ うん まぁー・・・だよな 水澄だ なんかさー 男の子みたいでー その頭が・・・ 後ろは刈り上げたんだ なんか違和感で それに その女の子の恰好だろう 戸惑う」

「ふふっ だって 楽なんだものー 家ん中だけだよー こんなの」

 そして、二人で食べていると

「おぉー うまいなぁー 水澄 美味しいよー」

「そう よかったぁー 作ったの初めてなんだー」

「あのさー 智子 この前から サッカー部に入ったんだー」

「えぇー サッカー? ・・・女子部できたの?」

「いや 彼女 ひとり」

「はっ じゃー 男の子の中でやってるの?」

「そーなんだよ 彼女はそれで良いって言うからさー ひとりでもやってれば、他の女の子も増えるかも知れないし、高校に行ったらサッカーをやるんだって だから、何へだてなく・・・でも、彼女 足も速いんだよなー」

「そーなんだ 何で もっと 早く 言ってくれなかったんよー」

「いや 水澄が ごたごたしてたみたいだからー」

「うーん ごたごたねー 確かに・・・」

「それでな あの3人 仲良いんだなー 多分 昨日なんも 午後からは中央公園で練習してるみたいだ もしかすると 今日なんかも・・・」

「そーなんだ 3人で・・・」

「水澄が それを聞くと 動揺すると思ってな 言えなかった。でも 卓球に打ち込むって決心したみたいだから もう 大丈夫カナって」

「動揺ねー 確かに・・・ でも 私は私で頑張るから大丈夫だよー 智子にガンバレって言っておいて あっ その他 男達にも」 私の中では、翔琉もその他 男の子になってしまったのかも 

 

5-2

 月曜日の朝 学校にいく時 駅で翔琉が・・・

「何でぇー」

「まぁ しばらく会えてないから 待ってれば来るかなーって」

「だってさー 朝 早いのにー」

「言ったろぅ 好きな子に会うのに そんなの関係ないってー」

「翔琉・・・」

「髪の毛 切ったんだなー ちょっと 見間違ったかなーって」

「うん この方が 身軽になるかなーって」

「それも 似合うんじゃぁない 水澄だから可愛い 俺も そんな風にするかなー 双子みたいに・・・」

「翔琉 私等 似てる? 時たま 言われるよねー」

「だなー まぁ いいんじゃぁ無い 二人の子供も似たのできるよー」

「あほかぁー 朝から 何 言うんやー でも うれしい! 会いにきてくれたなんてー」

「うん 智子も 気にしててな 元気かなーって」

「あっ 聞いたよ 智子 サッカーやってるんやってぇー?」

「そー あいつ 男 顔負けだなー 俺等と対等だよー」

「そーかぁー 智子なら そーだよなー リーダーシップもありそー」

「来週 練習試合だけど 智子 途中出場すると思うよ 土曜日」

「土曜かぁー 私 午前中 練習やねん」

「そうかぁー でも 午後は俺等 中央公園で3人でやると思うよ 来いよー」

「う~ん 行こうかなー でも 何時になるかー」

「待ってるよー 何時でも 皆も会いたがってる」

「わかったぁー あっ 電車来るから 行くねー 翔琉 やっぱり 好きだょ」

 と、ホームに駆け込んで行った。電車からドァの外を見ると、小さく手を振っていてくれた。彼にしては上出来なのだ。私も小さく応えていた。私は、その日、幸せだったのだ。やっぱり 私の翔琉なのかなぁー

「水澄 切ったんだー 思いっ切りがいいねぇー 刈り上げてるヤン」香ちゃんにいきなり言われた。

「そう 私は 前に突き進むんだ!」

「はぁー じゃー ウチも切るかなぁー 刈り上げねぇー なぁ さっき ドァから手 振ってたヤン 男の子に 彼氏か?」

「あっ 見てた? 彼氏よ!」

「そうなんやー 水澄 今日は すごく 輝いているみたい でも 雰囲気がいつもと違うからかなー」と、香ちゃんは考え込んでいたみたいだった。

「ねぇ 響 今日の あの子 見てた?」全体練習終わった後の私への特訓の小休止の間、 コーチが六角先輩を呼び寄せて耳打ちするように・・・

「はい 見てました すごいですねー 全部返してる」

「そうなの ミドルもロングも カットボールでも強引に叩き返してね それも 全て 逆サイドのコーナーに正確に返ってくるのよー いい加減に返しても もっと 叩きつけてくるの さっきね 短いカットサービス出したら ネット際にポトンと返すのよ どうしゃったの? あの子 何かに憑りつかれたみたいにー」 

「もともと フットワーク良い子だから この間の練習で、いきなり伸びたんじゃぁないですか センスありますよねー でも (私は上を目指すんだ)って唱えながら打ち込んでるんですよー 執念ですね!」

「響 相手するの 代わってー 私 疲れた」

 そうなのだ。今日の私は、不思議なことに、相手の繰り出すサーブが見えていて、身体が自然と動いて打点がわかっていたのだ。コーチの相手をしていても先輩達が手を止めて、驚いているのか私のことを注目して見ているのがわかっていた。

 その後、廻りでは1年生の部員がモップ掛けが行われいていたが、私は六角先輩の相手で特訓を受けて居た。終わった後

「水澄 あなた 逆サイドが極端に弱いわ フットワークじゃぁカバーし切れてないじゃぁないの もっと バックハンドを練習しなさい それと、サーブね あんなんじゃぁー 簡単に逆サイドを狙われるわー そこを強化しないと 上を目指すなんて、まだまだ遠いわよー いくら スマッシュがすごいて言ってもねー お念仏だけじゃぁダメね」と、六角先輩に冷たく言われたのだ。

「六角先輩の時は 散々 やられたわー」と、帰りの電車の中で

「うん 水澄は逆サイド 攻められると ぜんぜん あかんねんもん」

「そーよねー だって バックレシーブなんてでけへんわ」

「しゃーないよ いくら水澄がミラクルなんて無理よ 卓球初めて まだ 2か月なんよー よく やっているほうよー ウチは水澄について行くので アップアップよー」

 でも 私の中では 我慢出来なかったのだ。どういう練習をすればいいのかを考えていた。その夜、佳純様のビデオを繰り返し見て研究していた。
 

 

5-3

 次の日から、六角先輩が私の特訓相手になってくれていて、先輩は夏の大会で最後なので、自分の練習もあるのだろうけど

「先輩 すみません いつも 私の相手で・・・」

「いいの! 水澄の相手でも 練習になるのよ 水澄が上手くなっていくのも楽しみだし」

「先輩 私 上達してます?」

「うん 水澄はもともと 反応が早いのよねー 今の調子でね 今度の土曜日は私も来るから みっちり しごくわよー」

 その週は翔琉とは会えなかったのだ。やっぱり、朝は辛いのかなーと、金曜日も期待していたけど、彼の姿は無かった。練習試合があるって言ってたものなー 明日は、遅くなるかも知れないけど、中央公園に行ってみようと思っていた。

 その土曜日は朝から、コーチと六角先輩にみっちりと・・・ 怒鳴られ、励まされながらも必死で喰らいついていたのだ。帰る時には、食欲も無くてコンビニのロールケーキがやっとだった。香ちゃんは先に帰って居た。

 駅に着いた時には、もう3時近くて・・・私 学校を出るのにぐずぐずしてしまって、遅くなってしまった。でも、翔琉と約束したからと、重い身体を引きづりながら、公園に急いだ。グラウンドが見えると3人がパスをしながら走っている。

 私の姿を見つけると、智子が駆け寄ってきて、私に抱きついてきたのだ。

「頭 短くしたんだぁー 男の子みたい 卓球 厳しいの?」

「うん まぁ 智子だって 何よー その頭 男の子じゃぁない」

「えへっ 女だって バカにされるからな ウチは男になったんよ」

「へっ 女 捨てたんかぁ?」

「そうやー 更衣室も男と一緒やでー」

「えっ えぇー 一緒に着替えてるの?」

「そうやー なんてことないやん スポーツブラにトランクスやからー 色気も何もないもん なぁ 君達」と、男の子ふたりに聞いていた。

「そっ まぁ 別に花柄のんでもないしー 慣れると 普通やなー 男と変わらん」と、十蔵君も普通に言っていた。

「ごめんね 待っててくれたんちゃうん?」

「いや どっちみちなー 今日の反省やー」

「そーやー 智子 出たん? どーやった?」

「あぁー すごい活躍でな 相手のボールを競争で奪って せっかくセンタリングで上げたのに シュートチャンスに 翔琉のバカが簡単にボール奪われてやんのー」

「しゃーないやん 囲まれたんやからー」

「ふふっ そーなん 智子 すごいなぁー 男の子の中でー」

「たまたまやー でも 何人かの女の子が練習見るようになってきたやんでー そのうち 誘おうと思ってるんやー」

「へぇー 智子は積極的やもんなー」

「まぁ 水澄が一緒やったら もっと 暴れとるんやけどなー」

「そんなん 私なんて お荷物なだけやー」

「そんなこと無いでー 電光石火みたいに あの名門に行ったんやからー」

「あれは お母さんが 急に・・・お母さんの憧れとか言い出してー」

「まぁ ええやん 水澄はウチ等の星やー 頑張ってな 太子女学園でも 卓球も名門やもんなー 当然 オリンピック目指すんやろー?」

 そして、みんなで近くのパン屋さんのイートインに入って、私もやっとお腹がすいてきていたのだ。

「このごろ ふたりは デートもしてへんのやってなー?」と、智子がいきなり聞いてきて

「私等のことかぁ? まぁ クラブのこともあるし 何となく忙しかってなー」

「そんなんで 段々と恋人同士って別れていくんやでー まぁ 二人は大丈夫やろーけど」

「私は 翔琉のこと 好きなんは 変わらへんでー」

「おーぉー 熱いのぉー」と、十蔵が言っていたけど

「十蔵はどうなの? 好きな子 できた?」

「いいやー 最近 智子にモーション掛けてるんやけどー 相手にしよらへん」

「何 ゆうてんねん いっつも ウチの下着姿 見せてやってるヤン 仲間やからかめへん思てーナ!」

「あぁ 色気無いのな」

「そんなん ウチの休みの日にしてるのん見たら 鼻血出して ぶっ倒れるでー」

「おぉー おー 倒れてみたいわー」

「・・・ そのうち 機会 あったらな」

「ええなぁー 3人揃ってー 私も 同じとこ行きたかったなぁー」

「水澄 なに言うてんのん! あのなー ウチも水澄と同じとこ行きたかったわー 名門やものなー 行きたいけど行かれへん子 他にもおったやろー 受けても落こった子もおるんやでー 今は ウチも水澄には代わられへんネン 日本中でも 世界中でも 水澄の代わりはおらへんネン 水澄にしか 今のことはでけへんネンでー 頑張ってもらわなー そんなんで挫折するようなヘタレやったら水澄とちゃうでー 学校は違うけどウチ等はいつも水澄と仲間やー 気持ちは水澄の側に居る」

「智子 ありがとー 元気出た! 頑張れるわー」私は、涙が出て来るほど嬉しかったのだ。やっぱり、今日 逢えて良かった。 

「そーいえば 白浜美蕾 ちゃんは どう なん おとなしぃーしてるん?」

「水澄 気になるん?」

「ちゃうけどー ちょっと どうなんかなーってー」

「あの子 相変わらず チャラチャラしてるわー 翔琉に相手してもらわれへんってわかったんか 相手の男の子 なりふり構わず愛嬌振りまいてナ でも 最近 良くない連中と遊んでいるみたい 上級生もおるねん」

「良くない連中って?」

「ウン ウチの近所の奴も居るねんけどな 昔から素行悪いんやー 女の子もおもちゃにしてるって聞くしなー」

「おもちゃ ってぇー?」

「おもちゃ や! わかるやろー 弄ぶんやー ほんまー 水澄はぁー」

「あっ あっ そーいうことか! そんなん あかんヤン」

「まぁ 美蕾も 自分が悪いんやー へらへら 付いてったりするからなー 普通におとなしいしとったら 悪い子ちゃうんやけどなー」

 

 

5-4

 金曜日の朝。駅に行くと、翔琉が待っててくれた。

「おはよう 日曜な 試合も無いねん 逢われへんかぁー?」

「日曜・・・」

「なんや あかんのか?」

「・・・お洗濯、掃除・・・草むしり 言われてんねん」

「なんやねん それっ! 家政婦か?」

「う~ん・・・ お母さん 働いているからー」

「ほんでも 水澄も学校に行ってるし、クラブも・・・」

「お母さんは、私の為に働いてくれてるし・・・いつも、私の為に・・・お母さんの言いつけには逆らえへん」

「じゃあー こんな風にしか 逢われへんってことか?」

「あのなー 本当は・・・お母さん 翔琉の家にも行ったらあかん 翔琉とも 会うなってー」

「なんやねん それ!」

「あんなぁー 太子女学園に行ってるんやから 男女交際は考えなさいって 特に この辺りの子とは 付き合うなってっ ちゃうねんでー 私は、皆とは仲間やから ず~っと大切にしたいねんでー」

「へっ ここらの奴等はガラ悪いからってかー お嬢様学校やからなー 水澄は」

「そんなんちゃうと思うけどー お母さん 変わってしもーたんよ でも 私 お母さんには 逆らえないんやー 理由を聞いても はっきり答えてくれへんねん きっと 訳があるんやー そんでも 私は 翔琉のことが好きなんは変わらへんでー いつでも逢おーて居たいモン 皆とも・・・」と、涙が出そうになって

「わかった 泣くなよー まぁ しばらくは こうやって 逢いにくるよー しょーがないよ 俺も水澄に惚れてるからな」

「ありがとう 翔琉 逢える時 なんとか 時間作るようにするから」

 別れて、電車が来て乗り込むと、香ちゃんが

「水澄 どーしたん? 眼が赤いよー 彼と喧嘩した?」

「うぅん ちゃうけどなー 私は 悲劇のヒロインやねー」

「何ゆうてんのん そこそこ可愛いし、卓球部の次期エースやって言われてるし・・・素敵な彼氏もおるんやろー ウチからしたら 贅沢やー」

「あのなー 今 香がゆうたん 全部 中途半端なんやー それとぉー そこそこ可愛いってなんやねん!」

「まぁまぁー 可愛いよっ! あとは これからの水澄の努力次第やー なぁ 竹通一真さんって知ってる?」

「えっ ええ まぁ」

「ウチとお母さんが行ってる歯医者さんの息子なんやってな お母さん同士が仲良かってな 彼のお誕生日祝いに、集まってくれないかって 水澄も・・・ どうも、彼は友達居なくって、勿論 彼女も・・・ だから 女の子を集めたいんだって! だから 水澄の話出たらしい 一度 デートしたことあったんだって? じゃぁ 水澄だけでいいんじゃあないって思うんだけどー 我儘な話よねー しょうもない男?」

「あぁー でも 塾が忙しいとかで・・・ あれから 会っていない でも、背が高くて、感じ良い人よ」

「へぇー じゃぁー 何で 途切れちゃったの?」

「だからぁー 塾が忙しいとかで・・・」

「ふ~ん でも 息抜きも必要よねー ねぇ 水澄の好みじゃぁなかったの? だって陽光学院で医学部志望よー 条件はバッチリじゃぁない 顔が悪いとかー 意外とスケベーやったとか」

「そんなことないよ スッキリとした端麗な顔立ちで 優しいのー きっと 香も気に入ると思うわ」

「へぇー じゃぁー ウチがアタックしてもええん?」

「どうぞー お好きなのならー」私には、やっぱり 翔琉が居る。

「そんな突き放したような言い方せんとー 一緒に行ってよー」

「そんなー 私は 誘われもしてへんのに・・・」

 と、言っていたのだけど、一真さんからラインが入って来て(今度の日曜日 僕の誕生日祝い 来てもらえませんか? ぜひとも 久々にお会いしたいです)

 私 少しウキウキしていた。自分でも いい加減な女の子なのだと思った。お母さんに言うと、勿論、行きなさいと賛成だった。その時、私は、可愛らしい女の子のお洋服に期待もしていたのだ。

 お母さんは、紺色一色で襟が白いレースでえんじ色の細いリボンのワンピースを買ってくれた。だけど、当日、待ち合わせた香ちゃんも似たようなワンピースで白地に紺のラインが入ったものだった。

 だけど、ふたりとも可愛い女子のワンピース姿なのだけど、頭は男の子みたいに刈り上げていて、我ながら私は変なのって思ってしまっていた。それでも、こんなに可愛いのん着たの翔琉に見せたいと、チラっと考えていた。
 

 

5-5

 駅から歩いて10分程のところ。この前はイタリアンのお店で会ったから、私は初めて訪問するのだ。クリーム色の4階建ての小さなビルで、1.2階は歯医者さんで使っているみたいなのだ。窓には (たけみち歯科医院)の看板がかかっていた。

 ビルの横にある階段のところの竹通の表札があるインターホーンを香ちゃんが押すと

「は~ぃ すみません 階段を3階まで来てもらえますか」と、一真さんの声だ。

 階段の途中で一真さんが現れて

「ようこそ ごめんね 今日は わざわざ 呼びたてするようなことになってしまってー」

「あっ いえ 私達も楽しみにしてましたんですよーぅ」香ちゃんは、それまで、何となく、彼のことを悪く言っていたのに、会った途端に声が可愛らしくなっていた。

 玄関から部屋ん中に通されると、広いリビングがあって奥の方から一真さんのお母さんが出てきて

「いらっしやい 今日はありがとうね 一真のために・・・」と、私達の短くなった髪の毛をしばらく見ていた。

「あっ 今日は お招きしていただいてありがとうございます」と、私は、お母さんから教えられていた口上とおりに・・・。

「水澄ちゃん 髪の毛切ったのね 香ちゃんも短いのねー 二人とも卓球やっているからなのね 今の人は 女の子でもスポーツやっていると すごく 短いのね」

「はぁ この方が すごく 動けるみたいでー」

「でも 男の子と変わらないぐらいに・・・刈り上げまでしてー 私等の頃は 短いと言っても 荻野目ちゃんとか内田有紀ちゃんのショートカットとかザンギリ頭ぐらいだったけどね」

「お母さん 時代が違うんだよ もう 男も女も区別無いんだよ」

「あっ そうだ゛ これっ! お誕生日おめでとう」と、差し出したハンドタオル。香ちゃんもハンカチを選んでいた。

「あぁ 二人とも ありがとう 女の子からこんなの貰うのって 初めてだしー 有難く使わしてもらいます」と、一真さんは変わらずに丁寧だった。

 私達はダイニングテーブルを勧められて、おばさんが良い匂いが漂うものを出してくれて

「ラザニャよ 時々作るの 遠慮なく食べて下さいな」と、取り分けながら

「今日はありがとうね この子ね 中学から陽光学院でしょ お友達も少なくて 女の子にもまるで慣れなくて・・・ この前 水澄ちゃんにお願いしたのよね お話相手になってーって だけど、塾に通う様になって 途絶えちゃってー だから 今日 香ちゃんと水澄ちゃんに来てもらったのよ」 

「だってよー ラインも聞いたけど 何 話していいのかわからんものー つい そのまんまになってしまった」

「そんなの 恰好つけんでも 普通に起こったことなんか送ればいいんやー」と、香ちゃんも早速 ラインを交換していた。

 そして、おばさんが「パエリア仕上がったわー」と、テーブルに運んできた時

「ちょっと 待ってね 一真さん これっ 写真撮って・・・それで、私と水澄に送るの 今日はこれっ 食べました おいしそうでしょう? 僕の大好物です とかコメントつけて やってみてー」と、一真さんにレクチャーしていた。二人の携帯が鳴ってちゃんと送られて来たら

「うん その調子」と、香ちゃんがいじっていたら

「あっ おいしそー 食べたいぃー だって 早速 返ってきた あっ 水澄ちゃんは 作り方教えてほしい だって」

「そー そんな調子よ 例えば ウチなんか 陽光の学食なんかもどんなものなのか 興味あるモン 定食とか時々食べるんでしょ?」

「うん まぁー」

「そんな時 ラインするのよー 普通の生活の様子で良いの」

「そうかぁー それなら 出来るかなー」

「香ちゃん ありがとうね 自然に話し掛けてくれてー 一真も楽しそー あっ どうぞ 自慢のパエリァよ」

 と、一真さんが取り分けてくれて

「これは 本当に僕の大好物なんだ」

「わぁー おいしいぃー」と、私も香ちゃんも感激していた。

「ねぇ 一真さんって お母さんから今日の話 聞いた時 わぁー 恐そーって思ってたけど お会いすると 背も高くて、清潔そうで いい感じですよー」と、香ちゃんは一真さんのことが好みに合ったみたいだった。

 彼は、夕方から塾に行くと言っていたので、その帰り道、香ちゃんが

「ねぇ 水澄 ウチ 一真さんの彼女にしてもらっても良いかなぁー 恰好ええやんかー あっ でもラインは3人でね 水澄はさー 彼氏おるやんかー だから・・・」

「どうぞー 私に気つかわんとってー 私は何となく成り行きで知り合っただけやからー 頑張ってネ 香」と、言うと香ちゃんは ルンルンで歩いていたが、私はお母さんが、逢うのを好ましくないと思っている翔琉のことを考えていたのだ。
 

 

5-6

 金曜日の朝。翔琉が駅で待っていて

「おはよう 水澄」

「おはよう 何だか 久し振りなような気がする」私は、嬉しかったのだけど、そんな言葉しか出てこなかった。

「どうだ? 練習きついか?」

「きつい・・・慣れたけど・・夏の大会 出たいけど、まだ 無理みたい うまい子いるからー」

「そうかー しょうがないよー まだ 3か月だろう?」

「やねんけどー 頑張ってるんやでー 時々 私は素質ないんやって思うこともある」

「そんなことないやろー 水澄は すごいバネがあるヤン」

「バネなぁー バネだけでやれたらええねんけどなー」

「まだ ある 目標に立ち向かっていく力が水澄にはある」

「そーよなー 翔琉と話していると元気出るわー」

「そうか 良かった! あのなー 又 お盆に福井に行かへんかー 今度は、十蔵も智子も誘ってるねん」

「あっ あっ なぁー なんやサッカー部の合宿みたいやなー お兄ちゃんも硝磨君も行くんやろー?」

「まぁな でも 海水浴やー」

「私・・・聞いてみる・・・お母さんに」

「そうかぁー まぁ 考えとって! 皆は喜ぶと思うよ」

 そして、私がホームに向かう時

「水澄・・・無理して怪我するなよ!」

 私は、振り返って、キスをするしぐさをして入って来る電車に向かった。彼と居ると小さい頃から、安心できるんだものー

 その夜、私はお母さんに切り出そうとしていたのだけど・・・

「なんなの? 水澄 何か言いたいの? 何か言いたい時って わかるのよねー あなた 正直だから 態度に出るの」

「うっ うん あのねー あのー そうだ お弁当のおにぎり 1個増やしていいかなー?」

「何言ってんのよー そんなの 練習もきついから お腹減るんでしょ 当たり前じゃーない 中味はどうしょーか」

「あっ お醤油と海苔だけで良いの」

「あっ そうなの じゃーぁ 明日からでも 大丈夫よ」

 私がお風呂から出て、お兄ちゃんに声を掛けにいくと

「水澄 ちょっとー」と、呼び止められて

「お前 お母さんに言うこと 違ったんちゃうのか?」

「あっ あー 私 ダメって言われるの怖くってー」

「そうか やっぱり 三国に行くことかー?」

「そう 今日 翔琉に聞かれた」

「行きたいんだろう?」

「そらぁー 行きたいに決まってるヤン」

「どうして我慢することあるねん? 水澄の大好きなお母さんだろう お母さんだって水澄のことが可愛いんだよ その頼みだったら・・・ 反対するんだったら、それなりの理由があるはずだ はっきりと聞いたらいいんじゃぁないか このままだと水澄と翔琉の間は駄目になる気がする 俺は、翔琉も好きなんだよ だから、その翔琉がお前のことを思ってくれてるんならー」

「そーだよね お兄ちゃん 私がちゃんとお母さんと向き合えば・・・」

 と、次の日の夜。私は、お母さんに切り出そうと もじもじしてたのか

「なによー 水澄 言いたいことがあるなら言いなさい!」

「ウン あのねー お盆に福井に誘われたの 今年は、智子も行くんだってー 女の子ひとりになるヤン だから、私も 行きたいの」

「あっ 今年のお盆休みは竹通さんとこと 白浜に誘われてるのよー 水澄と仲の良い香ちゃん?とこも誘うんだってー 行くでしょ?」

「うっ まぁー・・・でも・・・皆とは 久し振りでー 仲間だからー」

「水澄! いつまで仲間とか言ってるのよー お付き合いよしなさい! もう あなたはあの人達とは生活ベースが違うのよ! あなたは太子女学園という一流の学校に行っているのよ」

「えぇー そんなぁー 皆とは励まし合ってきたの・・・」

「お母さん それは言い過ぎじゃぁないの? 翔琉とだって 水澄がお互い好きなのは、お母さんも知っているだろう? 何で 引き離そうとするんだよー」と、お兄ちゃんが口添えしてくれたけど

「何にも 離そうなんて思ってないわよ ただ もう 生活の世界が違うのよ それにね 今度福井に行くっていうメンバー みんな 同じサッカー部でしょ! 水澄だけ違うのよ! 一時でも 水澄が疎外感 感じたら可哀そうじゃぁない そーいうこと 達樹 考えたことある? そんなの 達樹でもどうしようも無いでしょ!」

「・・・そんなこと 無いよー でも 水澄達は小学校からグループで・・・翔琉も・・・」

「その 翔琉君もね 水澄には 合わないわ もう あそこのお家とは関わりませんからね」

「なんでぇー どうしてなの? お母さん?」と、私は食い下がったが

「どうしてもなの! お母さんは嫌なの! そんなことより 水澄 夏休みになったら、直ぐに合宿でしょ! 試合の代表選考もあるんでしょ 頑張んなきゃーね」

「うん なんだけどね まだ 代表は無理」

「でも 目標に向かっていくのが 水澄じゃぁない 当たって砕けろよ!」

 と、話を逸らされてしまった。部屋に帰ってお兄ちゃんと

「よっぽど 何かあったんだろうなー 正月からだ 何が気に入らなかったんだろうか 急に水澄に太子女学園に行けって言い出したり とにかく、水澄と翔琉が逢うのを避けさそうとしている」

「お兄ちゃん・・・ 私 ・・・卒業して、春休みにね 翔琉と お互い裸になって抱き合ったの それがお母さんにバレて・・・いけなかったのかしら まだ私等 早すぎたのかなー・・・それで、もう 付き合っちゃぁダメってー」

「はっ お前等・・・ したのか?」

「したってぇ? あっ 抱き合っただけだよ 私達 まだ・・・ 私はあそこの毛 揃ってなかったから、それで その前に 翔琉に私の全部を覚えていて欲しかったからー」

「そうかー ちくしょう 翔琉の奴 俺の可愛い妹を・・・裸の水澄を抱きしめて・・・」 

「だって お兄ちゃん お風呂に誘っても、一緒に入ってくれなかったヤン」

「それはなー もう・・・お前の・・・眩しいと思うからー」

「私は 平気ってゆうてたヤン 今でも 平気やでー 今から 入ろーか?」

「あほっ 出来るかー そんなことより 翔琉とのことや お前と裸のことなんか お母さんは知る訳が無いと思う もっと 別の理由があるんだ きっと 生活の世界が・・・なんて こじつけだよ」 
 

 

5-7

 7月になって、私は期末考査は終えていて、夜になって 智子が訪ねてきた。お母さんが出たのだけど

「あらっ 智子ちやん 珍しいー どうしたの? 水澄ぃー 智子ちゃんよー」と、まだ、洗い物をしていた私に声を掛けてきているのがわかった。

「あのー おばさんにお願いがあって来ました! 水澄はいつも頑張るから ウチはいつも元気をもらっていたんです」

「あっ そうなの? でも この子もいつも智子ちゃんから勇気をもらってたみたいよ お互い 良いお友達よねー」

「ウチ等 中学は別々になってしまって、あんまり会えないけど、ウチは今でも 水澄が頑張っているから、すごいなぁーって思っています。だから、夏の旅行 久々にはしゃげると思って、楽しみにしてたんです。ウチだけじゃぁ無くて、男の子ふたりも・・・。だから、お願いします。水澄をウチ等と一緒に・・・行かせて下さい」と、智子ちゃんは頭を下げていた。

「でも 水澄はねー・・・予定が・・・」

「お願いします もしかして 翔琉と水澄の間のことが・・・でも、ウチが責任持ってウチ等仲間4人で行動するようにします」

「お母さん お願い 私も 智子等と一緒に行きたい! だって 智子は私の親友よ!」

「わかりました 智子ちゃん 水澄のこと あなたを信じて預けます 素敵な想い出 作ってあげてね 良いお友達の仲間として よろしくね」

「やったー」と、私は智子に抱き着いていた。智子ちゃんが帰った後、お母さんが

「水澄 智子ちゃんに頼んだの?」

「うぅん 知らなかった」

「そう 良いお友達ね 水澄の入学試験の時も そうだったわね あの子に頭下げられたら 断れないじゃぁーない」

「うん 一番の親友だものー」

 ダイニングで聞いていたお兄ちゃんも

「水澄 良かったなぁー」

「うん やっぱり お母さんは、最後は私のこと 聞いてくれるんだぁー 大好きなんだよー」と、私はお風呂に行こうとしていたのだけど、お兄ちゃんとお母さんは、まだ、何かを話し込んでいたみたいだった。

 お風呂から出て、お兄ちゃんの部屋に行った時、

「水澄 良かったな 皆と一緒に 三国に行けるようになって」

「うん 楽しみだなぁー 又 あの美味しいもの食べれる」

「あのさー 水澄の初キッスの場所 だろーぅ?」

「なによー 恥ずかしい! そんなこと・・・」

「そのー 本当に翔琉とは してないのか?」

「うっ してるってぇー? セックスかぁ? してへんってゆうたやんかー 抱き合っただけやー なんやの お兄ちゃん 根に持ってるんか? 翔琉に・・・」

「いや そーやったら ええんやー・・・」と、何かを考えている様子だった。

「お兄ちゃん 私の裸 ほんまは 見たいんちゃう? 今 脱ごかー?」

「あほっ そんなん ちゃうわー」

 お兄ちゃんは何か言いたげだったのだけど、お風呂に向かっていた。私は、その時、お兄ちゃんも、私と翔琉とのことにこだわり始めていると、直感で感じ始めていたのだ。

 私は、夏休みを迎えて直ぐに、4泊5日の夏合宿で、琵琶湖のほとりにある旅館に来ていた。そこは、卓球台を何台も備えていて、私達は6台を使って、それぞれに分散して練習した。だけど、琵琶湖の砂浜が眼の前で、朝な夕なに走らされていた。

 そして、合宿の最終日。大会の代表選考の試合が行われて、私は初戦 六角先輩とあたって、途中リードしたのだが、最後はバックサイドを攻められて負けてしまっていた。その後も、同学年の岩場花梨ちゃんにも負けてしまって、いいところを見せられなかったのだ。結果、六角先輩と他に3年生が1人、2年生が3人、そして、1年生で岩場花梨ちゃんが代表に選ばれていた。だけど、石切コーチが私に

「水澄はバックサイドが弱いの自分でもわかっているでしょ 結局 そこを攻め込まれて負けてしまうんだからー もっと 考えないさい! でないと ず~っと上には上がれないわよ! 水澄はリザーブにするからそのつもりでね 監督もあの子はきっと伸びるから、育てて行こうって言ってたのよ」と、言ってきた。若葉ちゃんも個人戦では上のほうに喰い込んでいたので、次は若葉ちゃんだと思っていたのに・・・。

 リザーブって何? つもりって どうすればいいの? でも 私の頭の中は三国の海に行くことに跳んでいたのだ。また ふたりで夜の海を見れるのかなー 見つめ合ったりしてぇー・・・それで うふっ 

 

あの日の夜

 あの日は、4月も終わろうかとしていた日。私はお店の商品を総入れ替えするからとオーナーに言われていて、帰りが遅くなるからと、もう直ぐ1歳になる達樹の保育園へのお迎えと子守を主人に頼んでいたのだ。

 遅くとも9時には帰りますからと言っていたのだが、手間取ってしまって10時近くになってしまっていた。私は、急いで帰らねばと、普段は通らない近道になる公園の中を横切ろうと思ってしまった。公園内は電灯が2つばかりあるだけで、道路の街灯に比べると薄暗く (こんなに暗かったのね)と思いながら、公園の中程に差し掛かった時、遊具の反対側にあるベンチに人影を見たのだ。一瞬 ドキッとしたけど、どうやら、お酒を飲んで休んでいるみたい。カップを口元に持っていっていたが、その下には、もう飲み終えたものなのか、お酒のカップらしいものが転がっている。私は、関わらないでおこうと、小走りになって、公園を出ようとした時・・・

 後ろから口を塞がれ、もう片方の腕の強い力で抱え込まれて、無理やり公園の隣りの墓地に連れ込まれたのだ。私は、突然の恐怖で声も出せなかった。強引に墓石の横に押し倒されて、私の身体に被さってきたのだが、男は目出し帽で顔を覆っていた。

 背中にジャリ石があたって痛みを感じていて、スカートを潜って男の手を感じて、しばらくは、まさぐられていたのだが、突然、冷気を感じたとき、ペチコートパンツと一緒にショーツも引きずり降ろされた。私は「いゃーぁ」と、やっと声が出たときには、脚から抜き去られていて・・・男は、私の口を塞いで、もう片方の手を私の首に当ててきた。殺されるという恐怖が襲ってきて、声を出そうとしても、声にならなかったのだ。

瞬間の痛みを感じた後、「ウー ウー」という唸り声しか出せない私の上で、両方の手をバンザイさせられて押さえながら、時々私の脚を抱えて、男は腰を動かして激しく突き上げてきていた。私は、涙も滲んでいたが、主人の時とは違った快感に近いようなものが襲ってきているのを感じてきていて、背中のジャリ石の痛さに意識を集中するようにして、こらえて時が過ぎ去るのを願っていた。終わった後、男は覆面をずらして唇を合わせてきて・・・お酒の臭いがした時、異様なだ液を口の中に感じた。男は去って行ったが、私は悔しくて涙が出てきていて、しきりにツバを吐き出していた。最後に唇を吸われたことの方が悔しかったのだ。

 ペチコートとショーツは穿く気にもなれず、バッグにしまい込んで、スカートを仕方なく叩いて、よろよろと家に向かった。リビングでは主人がワインを飲んでいて

「達樹は?」

「あぁ 人参のペーストを食べて 今は おとなしく寝ているよ」

「そう 私 御風呂に入っていいかしら? 汗臭くて」

 と、私は、身体中を丁寧に洗い去って、股間のぬめりとかあの奥の方まで、さっきの忌まわしいことを流し去ろうとしていた。それに、あの時に一瞬でも快感を感じたのかもと、私自身を恥じていたのだ。今日は、確か危険な日だとわかっているので、妊娠の不安を抱えながらも、お風呂から出てバスローブのまま、グラスを持っていって

「私も 一杯 いただいてもいいかしらー」と、まだ、飲んでいる主人の横に座った。

「あぁ 民子 ご飯は?」

「食べたくないの あなたは?」

「帰りに 焼鳥を買ってきたから それでな でも そろそろ シャワーでもしてくるよ これ 残り食べても良いからな!」

 だけど、私は食欲も無く、寝室に向かって、ローズピンクのナイトスリップに着替えて、ベッドで主人を待った。彼がトランクスだけで入ってきた時、私は彼にキスをせがんで・・・

「おぉー どうした 今日は・・・ なまめかしいなぁー」と、抱きしめてくれたのだ。その後は、私は彼のものを求めて、自分から今までになく積極的に悶えていたのだ。主人にさっきの出来事を消し去って欲しかった。

 それからは、主人との営みだけを思い出すようにして、あの忌まわしい出来事は忘れるようにしてきて、しばらくして、妊娠していることがわかった。生まれて来る子はあなたとの間の赤ちゃんじゃぁないとダメなのよ。私は、主人との間の子供だと信じることにしていたのだ。翌3月に女の子が生まれて、水澄と名付けられた。

 達樹は顔立ちが主人に似ていたのだが、水澄は眼元なんかが私に似ていて、数ヶ月して血液型がA型で、私は多分AO型で主人はOO型なのだろう。達樹はO型だけど、でも、A型の水澄が生まれても不思議では無いのだ。水澄はおとなしいのだけど、何かあると集中する子で、顔立ちも今は目立たなく普通なのだけど、きっと、大人になるにつれて美人になると思っていて、好い子に育ってくれた。私は可愛がって、あの日のことも忘れ去っていた。
 
 お正月、達樹と水澄のお友達の家に誘われて、一家してお邪魔することになった時。しばらくは向こうのご主人が用意したというお刺身とかに舌鼓をうっていて、お酒も少し飲んでいたのだが、何かの拍子に私が転びそうになって、向こうのご主人が支えてくれて・・・その時、握られた手に・・・感触が蘇ってきた。あの時と同じ・・・あの感触だ。ごっつい手の平。

(私が構ってあげなかったから、ストレスもあったんだろうけど 毎晩のように、散歩の振りしてふらふらと公園なんかで飲んでいたんでしょよ)(男の醍醐味ですなー でも 不審者扱いされたのではー)(ドキドキする楽しいこともこともあったんですよ) という会話。

 私は、この人・・・あの時の男。あの時の記憶が・・・思わず 叫んでしまったのだ。この男にとっては、あの時のことは ただの 気晴らしだったのかー。向こうは気付いていないのか?。あれから10年以上過ぎ去っているし、私は髪型も変わったし歳もとった。気付いていないのか、気付かない振りをしていたのか?。でも、出迎えてくれた時に、あの いゃーらしい表情 あいつは私の顔を覚えていたに違いない。 

 水澄が小さい頃から、幼稚園でも一緒だった翔琉君。誰となく、二人は顔立ちが似ているねって言われて来た。だけど、その時、私は聞き流していたのだけど・・・二人は・・・父親が同じ???・・・。水澄はあの男との子供?・・・。

 水澄と翔琉君は幼稚園の時からの幼馴染で、今では男女として、お互いに好意を持って付き合っているのだ。ダメ! ダメ! このままじゃぁー。あなた達は、母親は違うのだろうけど、兄妹なのよー。このまま、お付き合いするのを何とか避けさせなきゃー・・・。二人を引き離すのよー

 ごめんなさい 水澄 あなたはとっても良い娘に育ってくれているのー お母さんが あの日 取返しのつかないことをしてしまったから・・・でも、お母さんは、あなたには鬼のような母親になるのよー。あなたは、何にも知らないで、幸せになってほしいのよー。だけど、翔琉君とは駄目なのよー。でも、私の娘には違いないわ 

 

息子 達樹との会話

 私は、このままじゃぁ 水澄と翔琉君との間を抑えきれないと思って 達樹にだけ告白することにした。それに、今回の旅行のこともあるのだし、智子ちゃんだけでなく、身近な所でもガードする必要もあると思っていたのだ。丁度、水澄がお風呂に行っている間に

「達樹 話があるの あのね 今から話すことは お父さんにも水澄にも 内緒ね あなたを一人前の人間だと思うから・・・話すんだけど・・・秘密は絶対に守ってね」

「へっ 何の話・・・わかった! お母さん 深刻なんだ」

「そう 絶対 秘密の話 達樹がやっと1歳になった頃ね お父さんにあなたの子守をお願いしてたものだから お母さんはパートの帰りが遅くなってしまって 急いでいて近道の薄暗い公園を通ってしまったの その時、暗がりから出てきた男に・・・襲われたの・・・そう 女としてね でもね それは一時のことだと思って、忘れるようにした。お父さんを愛していたから・・・つぎの年になって、水澄が生まれた。お母さんはお父さんとの間の子だと信じるようにして・・・水澄は良い子に育ってくれたわー それから、女の子だったこともあるけど・・・水澄が可愛くって あの子の言うことは出来るだけ叶えてきたつもり あの子も期待に応えてくれたわー 幸せだったの だけど、お正月に欅原さんとこに行って・・・あの家のお父さんと手が触れたのよねー その時に・・・蘇ってきたのよ・・・あの時の男って・・・水澄はあの時の子かもって・・・」

「ウッ うー それ確かかよー 顔 知ってるの?」

「いいえー あの時の男は 覆面していたしー でも、あの手の感触 忘れないわー それに・・・水澄と翔琉君 顔が似ているって言われてたでしょぅ?」

「だけどー そんなのってよー 水澄は・・・」

「そうよ 翔琉君とは 母親は違うけど 兄妹かもね だから、男と女になっちゃー駄目なのよ わかるでしょ 達樹 だから・・・お母さんが・・・」

「・・・ あんまりだよー 水澄は翔琉のことが好きになってるんだよー そんなのってー もっと 確かめようがあるじゃん DNAとかー」

「確かめてどうするの? 父親がお父さんと違ったらー 水澄は すごく、ショック受けるわー お母さんとお父さんの間の子だとしても、私はあの男の息子なんだと思うと、水澄が翔琉君とお付き合いしていくのは絶対に嫌なのー でも 確かに達樹と水澄はお母さんの子供達なの 達樹 ふしだらなお母さんでごめんなさいね」

「そんなー お母さんは 何にも 悪くないよー ちゃんと俺達を育ててくれた」

「ありがとう 達樹 だからね お願いしたいのは 水澄と翔琉君を近づけたくないの あの子には何にも知らないまま 他の子を好きになって、結婚して、幸せになってほしいのよー わかってぇー」

「・・・わかった でも そんなことってあるのかよー 今の水澄には すごく 酷なことだろう? 訳もわからないまま・・・翔琉と別れろってかー」

「あの子は まだ幼いのよ これから、色んな男の人に出会って 変わっていくわよー」

「そーかなー 俺は あいつはそんな女じゃぁーないと思うけどなー」

 福井からの旅行から帰ってきた時も

「なんとか 翔琉と触れ合うのは避けるようにしてきたけどさー さっきも 駅であいつ等と別れる時にな 水澄は翔琉を前に涙目なんだぜー 又、しばらく逢えないからってー そんなの 兄貴として何にもしてやれないのは 辛くってなぁー」

「ごめんなさいね こんなお母さんだから 達樹にもそんな思いさせてしまってー」

「そんなー なんも お母さんを責めてるんじゃぁないよー なぁ その男って 本当に硝磨のお父さんだったのかなー」

「そうよ きっと だって お正月の時も 言っていたじゃぁない ふらふらと夜に出て行ってお酒飲んで・・・楽しいこともあったってー 気晴らしだったのよー あんなことってー それに、あの手の感触 忘れてないわー」

「だってよー それって 状況証拠に近いんじゃー 俺には、あのおじさんがそんな人って思えないんだけどー」

「それは・・・昔の話だから 変わったのよー 確かめるんだったら 12年前の5月15日の夜 あなたは何をしていましたかって 覚えている訳ないでしょ! あの男にとってはただのストレス発散だったのよ! 許せないわ」    

 

6-1

 駅で集合したのだけど、私はチェックのジャンパーワンピースにカンカン帽だけど、智子はピタッとした短パンに赤いTシャツとツバの長いキャップ姿だった。

「なんやの 智子 バツバツに頭 短こーして その恰好 男の子ヤン でも 智子はスタイルええなぁー 脚長ぁー 羨ましー」

「そーやでー うちは男やねん 知らんかったぁ?」

「もぉーぅ やめてぇーなー」

「うふっ 水澄が来てくれて うれしいわー 楽しもうな!」

 勿論、私も楽しみなんだけど、お母さんから1泊だけと言われていて、帰って来て、次の日には白浜に行くという予定なのだ。

 去年と同じように、福井でソースカツ丼を食べて、三国港にー 降りると久々の海の匂いに釣られて、私は走り回っていた。

「ほらぁー 水澄 また 転ぶぞー」と、翔琉は去年のことを覚えていたみたい。そして、ビーチを横眼に歩いて、去年のお家に着いて

「おぉー 水澄ちゃんだったよね 元気そうだなー 今年は、もう一人お嬢さんも一緒 なんだわなー」と、おばぁさんが迎えてくれた。私と智子は持たされた菓子箱を出して

「おばぁちゃん 今年も 美味しいお魚 楽しみにしてきました」

「うん うん ちゃんと用意しちょるがなー ラッキョーもな」

 私達は早速 着替えて海に向かったのだが

「水澄 ウチ 海は初めてなんやー 恐い?」

「そんなことないよー 私も 去年 初めてやったんけどー 波も静かで 普通に泳げたよ」

 と、私と智子は浮き輪を使って泳いでいたけど、お兄ちゃん達が翔琉と十蔵を連れて、岩場のほうに行ってしまったのだ。

「水澄 卒業の時から成長してへんなぁー 逆にへこんだんちゃうかー?」

「うぅ 何の話やぁー?」

「その 胸 小学生のままやんかー」

「ほっといてー 私の胸やんかー 誰に見せるわけでもないから ええねん」と、言いつつ 確かに智子はプルンとはっきりわかるようになってきていた。

「翔琉にもかぁー?」

「あのなぁー 私等・・・」

「あっ あっ 怪しい! 水澄 正直やからー バレバレやー」

「・・・あのなー 卒業の後・・・ほんでも それだけやでー なんも あれっ してへんでー 見せただけ 二人だけの秘密やねんー 智子やから ゆうけど・・・」

「やっぱり そーかぁー おばさんも、それで心配してたんやー 母親の直感なんやろなー でも 今回はそれ以上はあかんでー ウチも約束したんやからー 4人で行動しますって 今回はあかん! ごめんな 水澄 ウチも翔琉とのこと応援してるでー そやけど、今回は我慢してなっ 帰ったら、水澄達がどうしようが勝手やけど  お互い好き同士なんやもんなー」

「うん わかってる 智子が迷ってるのってー でも、智子のほうが大切やー 私も・・・」

 お兄ちゃん達が戻って来て、みんなでビーチボールで遊んだのだけど、智子はわざとか知れないけど、私と翔琉が触れ合うのを邪魔しているような気がしていた。

 泳いで帰ってきた後は、私と智子が先にお風呂に入ったのだけど

「なんやのー 智子 私のおっぱい そんなに 見つめやんとってーなー」

「ふっ 可愛いなーって思って ウチの手の平でも丁度包めそーや」

「やめてよー そんな趣味ございません!」

「あっ そうかぁー 翔琉のもんやったなあー」

「だからぁー ちゃうってぇー 智子みたいに大きぃー無いモン」

 夕食には、やっぱりお魚と貝にイカのお刺身に加えて、私の知らない魚の煮つけとかが並んでいた。珍しいので私と智子は生のラッキョに味噌をつけて、競って食べていた。

「お前等 女がそんなに 精つけてどうすんねん」と、十蔵が

「なんやの? その精つけるって?」

「そやから ニンニクとかラッキヨは精がつくねん 押さえられんよーなったら 俺が面倒みたろか?」

「あほっ 十蔵にウチを満足させられるんかぁー?」と、智子も威勢が良かった。

「うぅー 智子は 激しいのぉー」

「そしたら 俺が面倒みよーか?」

「硝磨先輩 そんなこと言い出すなんてー 思わなかった! それっ セクハラちやいます?」

「あっ 智子 女やったんか?」

「わぁー もっと セクハラやん」

 夕食の後は、みんなで一緒に突堤まで散歩に出掛けたのだけど、今回は翔琉とは皆に見えないところで手を繋ぐのがやっとで、他に何にもなかったのだ。

 だけど、お兄ちゃんも、しきりに二人の間に入って来るような気がしていた。気のせいなんだろうかー・・・。次の日の朝も海に入ったのだけど、やっぱり、私と翔琉が触れ合うのを避けさせようとしているみたいだった。意識的にそんな風にしているのかと、私はイラついていたのだ。

「なぁ 何か わざと 私と翔琉の間に、入って 触れさせんよーしてへんだぁ?」さっき、駅で翔琉とは さよならをしたのだけど、私は また しばらく会えないのかと、なんか 涙目になっていたみたい。だから、帰り道に聞いてみたのだ。それでも、お兄ちゃんと手を繋いで歩いていたのだけど…

「えーぇっ そんなことないよ 普通やー」

「ふ~ん わかった! あのなー お兄ちゃんの洗濯物 ちゃんとたたまんかったり、お弁当の卵焼き減らしたりしたからー 意地悪してるんやろー」

「あほかー 俺はそんな 細かいこと気にするかー 水澄のお兄ちゃんやでー そんなこと考えてたのか?」

「だって 私のお兄ちゃんやから 余計やー 心配するヤン 何かあったんかなって」

「アホッ 何もないよー 水澄は何があっても 俺の妹には違い無いんだからな」

「へっ 何を急に・・・ お兄ちゃん 変! おかしい」 


 

 

6-2

 次の日 朝 私とお母さんは電車内で待ち合わせている道通さんと伝教寺さんとこと落ち合っていた。お母さんは、私の為に白い綿レースのワンピースに衿元にキラキラするブローチを揃えてくれていた。香ちゃんも半袖がふっくらとしていて衿元には細いリボンのブルーのワンピースで、どっちもお嬢さん風だった。

「香 可愛いね」

「水澄も可愛いよー ウチ等 アイドルのスカウト来るかもね」

「うふっ この 刈り上げじゃぁ 無理よー 男女(おとこおんな)なんだものー」

 一真さんは相変わらずの白のポロシャツにベージュ色の綿のスラックス姿でシンプルなのだ。

「君達はいつも可愛い服で着飾って良いよなー お母さんが羨ましがっている 男の子はつまんないって」

「ふ~ん ウチ等は着せ替え人形じゃーぁないよですよー」

「いや それは お母さんが・・・」

「一真さんは いつも 白ですね 白が好きなんですか?」

「うん まぁ 無難かなって思ってー 白は好きなんだ 今日の水澄ちやんの白も眩しいよ」

「なんだー ウチも白の方が良かったのかなー」

「そーゆーぅ 意味じゃぁー 似合っているよ 香ちゃんも 可愛い」

「そーですかぁー 良かったぁー」と、香ちゃんはすぐに上機嫌になるのだ。

 その後も、香ちゃんと一真さんは色んな話をしていたので

「香 ずいぶん 親密そうね」

「ウン ウチ 時々 一真さんのとこに行ってるネン ご飯の用意なんかもお手伝いしてる」

「へぇー そーなん? 彼女みたいやんかー」

「えへぇー まぁ 押しかけ彼女や」

 と、言っているのに、一真さんは黙って聞いているだけで、否定もしていなかった。私も、どうでも良かったのだけど

「水澄ちゃんは 彼氏は?」と、突然の問いかけに

「えっ はぁ まぁ 特定の じゃーぁないですけどー」と、応えると

「ウソッ」と、香ちゃんが小さく言うのが聞こえた。まだ、知り合って間もないのだけど、やっぱり智子とは違うんだと思っていた。

「水澄ちゃん 日焼けしてるね」

「うん 福井の海に行ってたからー」

「福井かー 北之庄だね 現在の福井城は柴田勝家の時のとは違う場所なのだろうって知ってた?」

「あっ 柴田勝家ってお市の方と三姉妹を引き取った人でしょ!」

「そーだよ 水澄ちゃん 詳しいね お市の方は最初 嫌がっていたのだけど、浅井長政に嫁いで、仲睦まじくなって、三姉妹を生んだのだけど、長政が信長に滅ぼされて、その後は信長のもとで暮らしていてね。今度は、信長が明智光秀の謀反にあって、その後の信長配下の武将の会議で勝家に嫁ぐことになったんだよー」

「へぇー 一真さんの方が詳しい 受験勉強にそこまで必要ですかぁー?」

「いや たまたま 興味あったから、息抜きに・・・ こんな話もあるんだよ 勝家とお市さんは歳が離れていたからか 勝家はお市さんとは夫婦の間のことが無かったらしい そーいうこともあるからか、勝家の武将としての男らしさに お市さんは次第に情がわいて、最後は秀吉に攻められた時も、三姉妹は秀吉に託して、勝家とともに自害したとか」

「ふ~ん 夫婦になったのに してなかったんだー」

「ふふっ そう してなかったらしい もともと、信長の下についた時から、勝家はお市さんに憧れみたいものを感じていて、崇拝してたみたいだからー 手も触れられなかったんだろう」

「へぇー そこまでになると 男の人って 手を出しにくくなるんだー」と、香ちゃんも話に乗ってきた。

「・・・それは・・・どうだか・・・。信長が死んだ後の会議で、お市さんを勝家のもとにって、押したのは秀吉らしいんだ。当時、勝家が信長の筆頭家老みたいなもんだったから、秀吉は恩を売るつもりだったんだろう。勝家がお市さんのことを慕っているのを以前から知っていただろうからー それに、秀吉もねらっていたと思うけど、当時はまだ ねねさんも まだ若かったし、怖かったのだろう」

「そうかぁー 秀吉って女ったらしだもんねー」

「かもな 結局三姉妹のうち二人もものにしたもんなー それ以外にも、戦で留守にしている武将の妻を呼び寄せて、言い寄ったらしい 天下人だからやりたい放題なんだろう」

「男って 権力とお金を手に入れると 結局 女を弄ぶんだよねー 一真さんも そう?」

「えっ なんだよー 水澄ちゃん 厳しいこと聞いて来るなぁー そんなの そーなってみないと わかんないよー どんな気持ちなのか」

 お昼すぎにホテルに着いて、すぐに私達3人は海に向かって、お母さん達は海辺のカフェでお茶をしていた。最初、私等女の子を前にぎこちなかった彼も、次第に浮き輪の取りっこをしているうちに、身体が触れ合っても自然と振舞っていたのだ。

 そして、次の日はアドベンチャーワールドに行ったのだけど、香ちゃんは時々 彼と手を繋いだりして恋人気取りなのだ。私は、ふたりのデートに付き添いで来ているようなものだった。
 

 

6-3

 お盆休みが明けて、クラブの練習が始まって、7月に大阪大会では優勝していたから、1週間後の新潟で行われる全中の大会に備えていたのだ。

 練習が始まると、六角先輩が私を呼び寄せて相手をするように言ってきたのだ。私はチャンスを見て、相手のバックサイドのギリギリのところにスマッシュを打ち込んでいて、何本かに1本は決まっていたのだ。そして、私のバツクに攻められた時にも、やっているうちに何とか返せるようになっていた。

 ず~っと、そんな調子だったのだけど、練習が終える頃、加賀美キャプテンが

「水澄 少し 私に付き合って 相手してくんない?」

「えっ はぁー 私で良ければー」と、1時間ほど付き合わされて

「ごめんね 練習中は響先輩があなたのこと離さないからー 水澄のスマッシュは強力で厳しいところに来るから、練習相手に丁度いいのよ 明日もお願いね」

 何なのよー 私は都合が良くてお手軽な定食みたいなもんなのかよー でも、お陰で私自身も上達しているかもー と、思ってシャワーを浴びて帰ろうとした時、岩場花梨ちゃんが待っていたみたいで

「水澄ぃー あのねー ウチの相手もして欲しいんやけどー 先輩達に独占されてるからー あのさー 1時間前に・・・練習始まる前 あかんやろーか?」

「ええー なんでー 私」

「ウチ 1年やんかー 練習中 あんまり 先輩からは相手してもらえへんのやー 勝手にやりなさいって・・・感じるのよー」

「わかった! 花梨 1年生のエースやもんなー 強よーぉ なって欲しいしなー」

「ありがとー 響先輩も燕先輩も 個人でもトップ狙ってるんやー だから水澄のスピードと球すじに慣れようとしてるんやと思う 水澄は時々すごい打ち込みするんやものー」

「そう それは たまたまやー」

「その たまたまが いつもにななった時はすごいと思うでー」

 そして、次の日から8時に花梨ちやんと二人で30分間の打ち合いを・・・8時半からは体育館のモップがけをやらなければいけないのだ。その後、響先輩の相手で45分間の打ち合いで、5分休憩、又、45分間の打ち合いの繰り返しで、12時に練習終了なのだが、燕先輩が眼で合図をしてきた。二人が台に着こうとしたとき時

「燕 昨日も 水澄を引きずってたじゃぁない 水澄だって バテちゃうよー」

「でも・・・ この子 ず~っと 響先輩の相手してたから・・・」二人の間には、沈黙の不穏な雰囲気が・・・

「響先輩 私 平気です 練習にもなるからー」と、強がっていたけど、本当は、朝からの花梨ちゃんとの相手もあって、休みたかったのだ。

「水澄 あんまり 無理すると怪我するからー 燕 明日から 1時間半 水澄を相手するの貸して 残りの時間はあなたが使ってー」と、何よー わたしゃー 物じゃぁ無いんだよー コーチも何とか言ってくれればいいのにー と、燕先輩との練習が始まったが、イライラしているのか、激しくって・・・だけど、ムラがあってミスも多かったのだ。

 クタクタで帰る時に駅まで来ると、偶然 クラブの2年生で美雪先輩に会ってしまって

「あらっ 水澄 燕のお相手終わったの? ご苦労様 ねぇ お腹すいたでしよう? おごるから そこのパーラーでパンケーキ食べない?」と、気軽に誘って来てくれて、連れられて行った。美雪先輩は代表メンバーからは外れてしまっていたのだ。

「疲れるでしょ あの二人が相手じゃーね! でも 水澄でなきゃー駄目みたいなんだよねー 水澄は粗削りだけど 球すじが変わっていてね あの二人は今度の大会で優勝を狙っているの 団体は勿論だけどシングルでもね」

「はぁー でも なんで 私なんですか?  私 どうしてか、わからないんです」

「そう 気付いてないのね 水澄は左利きだから強いスマッシュが正確に台のバックサイドのコーナーめがけて飛んでくるの だから、台の手前で構えていると間に合わないのね いい加減に返すと、次には もっと 強烈なのが飛んでくるし 水澄のバツクサイドを狙っても あなた 知らないうちにバックサイドも対応出来てきてるしねー だから、大会の強い相手を想定して、練習相手にしてるんでしょーよ」

「はぁー 私 ダミーってことですか?」

「そーいうんじゃぁ無いけど 少なくともウチなんかじゃぁダメってことよー あのねー 響先輩と燕 あんまり仲良くないのよ 表向きは良い振りしてるけど・・・燕が1年で入ってきてから・・・張り合ってるの 燕 向こう意気が強いでしょ? だから、響先輩のこと 自分の方が強いのよーってとこあるの それに、次のキャプテンを決める時も響先輩は燕のことを反対したらしいの ほらっ 燕って うまいこといかないとイラつくことあるでしょ だから・・・響先輩はキャプテンとしての資質を心配したのね これっ ここだけの話よっ」

「あっ はい!」

「それとーぉ 水澄のこと見抜いたのは、最初 響先輩なの コーチにも進言したらしいよー だからーそれから燕も注視しちゃってっさー」

「はっ そーだったんですかぁー」

「そうよー だから 響先輩には 相手する義務があるんだからー 今度もリザーブに抜擢でしょ?」 

「はぁ 私は 何をすれば・・・」

「試合前の練習相手と 球拾い 試合中の水とタオルの供給と応援の声出し かなっ でも 来年は正選手 確実よ」 

 

6-4

 新潟に出発する前の日。花梨が

「水澄 相手してくれてありがとな 疲れてるのにー」

「ううん それより 花梨 勝ってなぁー」

「ウン 出してもらえたら 全部勝つつもりでやる 水澄の分もなー」

 と、言っていたけれど、花梨は団体戦の1回戦で勝ったきりで、後の出番は無かったのだ。チームの方は個人戦で燕先輩は準決勝で響先輩は決勝で、神奈川の山手丘学園の2年生秋元蓮花に負けてしまって、団体戦のほうも決勝までは快進撃を続けていたのだが、相手の秋元蓮花と1年生の見沼川七菜香にやられてしまって3-0で敗退していた。

 新潟から帰る時、花梨ちゃんが私を呼び寄せて

「水澄 ウチとダブルス組んでくれへんやろーか?」

「えっ 私なんかとぉー」

「ウン 水澄は左利きやろー ベストマッチやー それに すごいスマッシュ持ってるしー なぁ やろーなーぁ 嫌やろーか? ウチからコーチに頼み込むわー」

「嫌なことないでー やってみたいでー でも・・・」

「あのなー このままやったら 多分 燕先輩と組まされるんやー 多分な 今 3年生と組んでるやろー もう 卒業やんかー それで 次のペァを思案してるんやー ウチ 嫌やねん 先輩と組んだら 思いっ切りでけんよーなると思うネン 水澄とやったら 二人で思うこと話あえるやんかー 来年は トップ狙えると思うネン」

「えっ えーぇ トップ?」

「そーやー 頂点に立つネン」

 と、夢を語られて帰ってきたけど、私にも夢の又夢だった。帰って来てから、9月始業式まで練習は自主練習だけで、一応 休みなのだ。

「お兄ちゃん 遊びに連れてってなー 京都にでも」お兄ちゃんも、今は練習も無いのでので毎日ブラブラしているのだ。

「はぁー まぁ 構わんけどー デートするんなら 翔琉と・・・まぁ それも 止めた方が良いかな」

「そーなの 翔琉は お母さんが ぐだぐだ言うから 面倒臭い! それに、お兄ちゃんとデートしたこと無いやんかー いこぉーなー どっちみち 彼女もおらへんねんからー したこと無いやろー」

「一言 余計やー」

「ふふっ 私ね みたらし団子とちらし寿司食べたいネン もちろん 清水寺からの道も歩いてみたいよー」

「水澄 何で そんなもん知ってるネン」

「そう 香ちゃんから聞かされたんやー おいしいって」

「ふ~ん じゃぁー 軍資金要るなぁー 水澄の役目な!」

「なんでぇー」

「そらぁー 水澄の頼みだったら お母さん ダメって言わんもん」

 と、私は その夜 お母さんにお兄ちゃんと京都に行くからと、お小遣いをおねだりして 「水澄の遠征費とか あー それに、福井にも行ったでしょ! 今月は出費が大変なんですからね!」と、言いながらも、奥の部屋から封筒を出してきて、お兄ちゃんにお金を渡していた。

 翌日、私は薄いブルーのポロシャツにベージュ色のボックスプリーツのスカートだったのだけど、お兄ちゃんは紺のTシャツに汚れているのかわからないカーゴパンツで・・・

「なんやのー その 汚い色のズボンはー」

「いっつも こんなもんやー 水澄と違って そんなに 持ってへんからな」

「・・・わかった」と、私は、せめて上だけでもお揃いにしようと紺のポロシャツに着替えていたのだ。

「これで 一応 お揃いやろー」と、お兄ちゃんと手を繋いでいって、京阪の清水五条に向かったのだ。

 駅を出てからは、混雑していたので、清水坂をお兄ちゃんは私の手を引っ張るように繋いでいてくれた。清水寺に入ってからも、私は

「おぉー おー 高い 街並みも見えるんだねー」と、小走りになっていると

「水澄 走るなよー 初めてじゃぁないんだろう?」

「うー 初めてだと思う」

「遠足とかで来てるはずだけどー」

「へぇー 覚えないなぁー」

「寝てたんちゃうかー」

 産寧坂から八坂神社に向かって歩いて、その間 私は お兄ちゃんと腕を組んだり、絡ませるように手を繋いでいた。途中、お目当てのみたらし団子のお店を見つけて、何組かが並んでいて、私達も待っていたのだけど、私達の前に並んでいた4人組のお姉さんが声を掛けてきて

「仲 良いのねぇー 恋人?」と、聞いてきたので

「はい! 恋人以上 お兄ちゃんです」

「えっ 羨ましいぃー お兄さん? はぁーぁ」 さっきから、お兄ちゃんが帽子を脱いで顔を扇いでいたので、額の汗をハンドタオルで拭いてあげていたから、そんな風に見えたのかもー 

「お姉さん達は旅行ですか?」

「ええ 神奈川からー 大学の卒業旅行なのよ でも 京都は暑いわねぇー」

「ふふっ 神奈川も熱い学校 いっぱいありますよー」と、その時、私もツバの長い目の紺のキャップを脱いで顔を扇ぐ仕草をしていると、私の刈り上げた髪の毛をながめながら

「・・・」 声を失っていたみたい。私が衝撃を受けた山手丘学園 そんなことは、お姉さん達にわかる訳がないと思っていたけど・・・

 ようやく、席に案内されて、お団子を・・・私がお兄ちゃんの口元についているタレを拭いていると

「よせよー みんなが 見てる」

「へっ 恰好 つけてやんの! 赤ちゃんみたいに汚してるくせにー 食べさせてあげようか」と、口元に串を持って行くと

「いいったらー 水澄 時々 兄貴を からかうようなことをやるよなぁー」

「ふふっ 本当に仲良いのねぇー こんな 可愛らしい妹さんが居ると楽しいよねー」と、さっきのお姉さんが横の席から言ってきたら

「いや うれしい苦労があるんですよー」と、お兄ちゃんが返事していたのだ。

 その後、八坂神社までお店を覗きながら歩いて、途中 アクセサリーのお店でお兄ちゃんは自分のお小遣いでと、私に 周りがイェローで中心が紅くなっている七宝焼きの小さなトップで飾られたペンダントをプレゼントしてくれたのだ。

 河原町沿いのお寿司やさんに着いて、お昼の時間が終わっているのにしばらく並んで待って、思っていたより高かったけど、ようやく念願のちらし寿司を食べた。

「おいしいぃー ねぇ お母さんにも買って帰ろうよー」

「いいけど 水澄には いつも お母さんが居るんだなぁー」

「だって おいしいから母さんにもってー・・・今日も 働いてくれているんだもの 

 

6-5

 9月2学期が始まって、最初の練習の日。私はコーチに呼ばれて

「花梨から どうしても水澄と組みたいと言ってきた。水澄はどうなの?」

「あっ はい 私も・・・」と、どうやら昼間の間に花梨ちゃんはコーチに直談判したらしい。

「そう ちょっと 心配な面もあるけど・・・やってみるかー うまく行けば 最強のペァになるかもね」

 その日の練習は何となくギスギスしていて、もう3年生も出て来ていないのだ。燕先輩に私も相手してと呼ばれたのだけど、私のフォァサイドの攻撃に対応できてない。イラついている様子で調子を崩しているみたいだった。

 その日の帰り道、香ちゃんと

「なんか クラブの中 暗いよねー 3年生も居なくなったしー」

「花梨ちゃんがね 張り切っているんはわかるんだけど トップ目指すんだって・・・個人でも ダブルスでも水澄と組むから 最強よって 言ってるん聞いたわー 先輩達にはおもしろく無いんじゃぁーないのかなー」

「ええー だって 夢の話よー」

「それが 今の実力と 特に 水澄の伸びを考えると 夢でも無いかもねー だからー 先輩達は怖いのよー 練習も空回りしているみたい 燕先輩は本当は花梨と組みたかったんちゃうんやろかー ほらっ あの人の相手は3年生やったやろー そやから 今度は花梨と・・・」

「そんなのー お互いに切磋していくのが練習ちゃうのー?」

「まぅ そのうち コーチが何とか調整していくよー」

「そーだよね コーチとか監督さんがいるもんね」

「あのね 夏休みの最後に ウチ 一真さんとデートしたんだぁー 神戸に連れてってもらった」

「はっ そーなん・・・」

「それもねー ウチ 夜景見たこと無いからー 見たいって・・・」

「えっ 夜まで?」

「そーだよ 8時頃まで 腕組んで寄りかかってたんだぁー」

「なによーぉー それっ 恋人同士みたいじゃん」

「ウン まぁ みたいだよー お昼に異人館とか廻って、それから中華街で食べて、ハーバーランドで時間つぶして、ロープウェイで展望台に行ったんだぁー 夢ごこちだったよ 彼もいい想い出になったってぇー」

「ふぅ~ん 香 又 短いのん 穿いていったんでしょっ!」

「ふふっ だって 男の子はミニの方が喜ぶでしょっ! 一真さんもおんなじヨ! ウチ インパンもスパッツも穿いていかへんかってんでー ピンクのショーツだけでな 時々 彼には見えていたかもー」

「わぁー 誘惑してんのかよー 色仕掛けヤン」

「水澄 そんな 下品な言い方ないやろー ウチ等 お嬢さんなんだからー」

「香 ちょっと 立ち止まって 考えたほうがええんちゃう? ほんまに彼のことが好きなんか なんか 彼の将来に魅かれてるだけちゃうかぁー?」

「そんなことないと思う・・・彼 優しいしー・・・それより 水澄もちょっと立ち止まって考えたほうがええんちゃう?」

「うーぅ 何を・・・」

「花梨とダブルス組むんやろぅ? あの子 負けん気強いし、向かっていくタイプやんかー サーブでもな ミドルでどんどん押して行くやろー?」

「うん そんな感じよねー」

「ふつう あかんかったら考えるやんかー でも あの子はこれでもかって押してって、返って来るボールを待ってて叩きつけるんやー 水澄もそんな風なとこあるでー 突き進むタイプやからなー」

「私は そんなことないと思うけどな」

「自分で気が付いて無いだけ! 今まで練習の相手が多いから、相手にあわせてただけヤン」 

「そーかなー でも 花梨と 話し合って うまいことやるって!」

「なら ええけどぉー ウチは水澄には 若葉のほうが相性ええと思うけどなー あの子 落ち着いているし、練習も色々と工夫してるみたいやからー 水澄にはブレーキになって丁度ええねん」

「だって もぉ 花梨にウンって 言ってしもーたモン まぁ 何とかなるんちゃう 花梨も トップ目指すって燃えてるんやー 私やって 同じならトップになりたい その為やったら・・・何かを犠牲にしてもええねんって考えるよーになってきた」

「犠牲って?」

「ううん なんでも ない」
 

 

6-6

 それから、練習が終わった後に私と花梨のダブルスの練習に香ちゃんと若葉ちゃんが相手になってくれていた。2年生達は近畿大会が近いのもあるけど、なんとなく1年生同士のペァを煙たがっているようなのだ。コーチは遠くから眺めているだけでアドバイスも何にも無い。

「意外と二人は息がおぉてきてるみたいやねー」

「香 なんやねん その 意外とってぇー」

「だって 二人とも 突き進むタイプやんかーぁ 食い違ったら大変やって 心配し
てタン」

「ほんまはな! コーチからも 釘刺されてるねん ウチはダブルスを組むようなタイプ違うしー 水澄と衝突するようなことがあったら 響先輩に相談しなさいよって」

「そーやったん・・・でも 二人が組むと最強かもね 内緒やけど2年生のペァより上行くわー」

「そやろー? だから 頑張るネン 来年は大阪でトップ獲るネン」

 そんな調子で練習を続けていたのだけど、いつも守衛さんから「もう 少し 早く切り上げるようね」と、注意されて門をくぐっていたのだ。

 9月も終わりに近づいて、練習を終えて駅を降りると辺りは暗くなっていたのだが、お兄ちゃんの姿があって、その横に日焼け顔の智子が居た。

「智子 どうしてぇー」

「どうしてってね 先輩に帰って来る時間を聞いて・・・」

「そう どうしたの? なんかあった?」

「あのなぁー 翔琉と逢ってないんやってぇー? 何かあったんか? 先輩に聞いてもはっきりとしたこと ゆわへんしぃー」

「・・・別に 何も無いよー なんで そんなん 智子が心配するねん?」

「なんでって ・・・ ウチ等 仲間やんかぁー 付き合ってるって思ってた二人がそんなんて 心配するやんかー 彼と彼女のはずやろぅ?」

「智子 私はなぁ 今 クラブのことで精いっぱいなんやー 中間考査も近いし、頑張らなトップから落ちるし、学園祭のこともあるしー 必死やねん だから、翔琉のことに構っている間が無いねん 彼のことは忘れているんちゃうでー 今でも好きやー でも・・・逢うたりすると 気を張り詰めているんが切れてしまうんちゃうかー と」

「そんでも 逢うたら やすらぐんちゃう?」

「あかん 今は・・・ 自分で切り開いて行く そんなんやから・・・ 翔琉が・・・もし 他の女の子と・・・それでも かまへん しょーがない 今の私には、あっちもこっちもって 余裕ないネン」

「水澄 それっ! 本心かぁ? 翔琉とは結ばれる運命にあったんちゃうんかぁー?」

「そーやぁー でも こんな私のことは 忘れてくれてもええと・・・思ってる」私は、また、何ていうことを言ってしまったのだろうと思ったけど

「ふ~ん わかったぁー 翔琉に伝えとく あいつ 最近 練習でも元気ないからー 水澄のことがあるんやと思っていたけど それっ 伝えたら ふっ切れるやろー 水澄は翔琉と別れも仕方ないと思ってるんやな!」

「あぁー そんなんちゃうけどー・・・今の私には 無理やねん・・・ 智子 私は、智子のことは・・・」

「わかってるって ウチも水澄とは親友のままやでー 卓球も頑張りやー オリンピックやでー また 時々は逢おうなー」

 自分で乗ってきた自転車を押しながら、私と並んで歩いていたお兄ちゃんが

「水澄 泣いているんちゃうかー? 人前では強がり言うのにー すぐ 泣くのぉー」

「お兄ちゃん 私 大変なこと ゆうてしもぉーたんやろか?」

「翔琉とのことか?」

「・・・今でも 好きなんは変わらへんねんけど・・・」

「そらぁー 水澄の 今の状況考えると仕方ないんちゃうかー」

「私 今でも 翔琉の胸で甘えて、支えて欲しいって思うこともあるんよ でも そんなことしても・・・何にも 生まれへんやんかー 結局 自分で向かって行かなきゃーって・・・だから 翔琉のことは考えへんよーに言い聞かせてるんやー」

「水澄 お前は 本当に男が惚れて追いかけるような 好い女になりかけてるよなー お母さんが仕掛けたまんまのな 翔琉のことはしばらく忘れろ」

「何? お母さんが仕掛けたって? お兄ちゃんだって 翔琉とのことは応援してくれてたやんかぁー なんやのん?」

「いゃっ ただ お母さんは 水澄に太子女学園のスターになって欲しいってことさ」

「そんなん なれるわけなんヤン お兄ちゃんの妹やでぇー」

「だけど お母さんの娘なんだろう・・・」

「そう お母さんの・・・」
 

 

6-7

「水澄 東大阪で市民大会あるんやー 大阪府の住民やったら自由参加なんやってー ウチ等 申し込むでー」と、突然 花梨が言ってきた。

「えぇー 試合なんか?」

「そーやー ウチ等の初めてのな 監督にも了解もらうつもりやー」

「えー そんなん いつなん?」

「11月の第2日曜日」

「あのね 私達は まだ 組んで間もないしー」

「だいじょーぶや 中学生以下のクラスで、そんなにレベル高こぉーないはずやしー ウチ等 最強やんかー」と、躊躇している私だったけど、ほぼ強引に決められてしまった。

 そのことを聞きつけたのか、響先輩が時々練習に出て来て、私達にサーブとかレシーブの仕方を教え込んでくれたのだ。その成果もあって、私は花梨と1対1でも対等に打ち合えるようになっていた。そして、ダブルスを組んでも香、若葉ちゃん相手に完全に抑え込むまでになっていた。

 試験期間が終わって、練習も再開されて・・・花梨を相手に打ち合いをしていたのだけど、私の打ち込んだのがコーナーを外れることが多かったのだ。

「どうしたの? 水澄 久し振りで感覚ずれている?」

「う~ん かなぁー いつもどおりやと思うけど・・・入らんなぁー」

 と、話し合っていたけど、翌日も変わらなかった。

「なんやろー 踏んばりが足らんのかなー」と、花梨と話合っていると、監督が

「ちょっと 水澄」と、殆ど私には声を掛けてこなかったのだけど

「水澄 字を書くのは右って言ってたよね お箸は?」

「右手です」

「ナイフとフォークは?」

「えーと ナイフ右 フォーク左かな でも そんなの あんまり使ったことありません」

「そう 歯ブラシは?」

「どっちも 使っているかなー」

「ふ~んー ヘァブラシ」

「左手かなー 右でも握るしー でも 最近は手でバサバサしてクリームなじませるだけ」

「そう このところ 左を使うことってあんまりないのね 試験期間中 素振りはしてた?」

「あっ すみません 5日間 6日間かな サボッてっ ました」

「そう それは いいんだけどねー 振りが少し 鈍くなっているみたいね それでタイミングがずれているのよー あなたは左と右のバランスが微妙みたいよ 慣れれば両方使えるんだけど・・・ しばらく、右手で素振りして見なさい 左手の振りの感覚が戻ってくると思うわ」

「あっ あー わかりました ありがとうございます」と、私は、監督からそんな風に声を掛けてもらったのは初めてだったから恐縮していたのだ。

 その夜は右手で素振りを繰り返していて、次の日も、花梨に事情を話して、花梨の球を右手で受け流すだけで練習していた。

 その翌日、私は左手に戻して、花梨ちゃんと打ち合っていて

「水澄 すごぉーい 前より 振りもコンパクトになっている感じで、いきなり飛んでくる」

「うん なんか 調子いいの」

「あんた等 雰囲気いいわー 神がかってるねー」と、練習も終わって、香ちゃんが言ってきた時、コーチが二人を呼び寄せて

「花梨 もっと 前に出て行きなさい 水澄はフォアで打つのかバックで返すのか見極めが遅い! 二人とも、相棒を信じて、思いっ切ってね 駄目でも相棒が何とかするんだからー お互い まだ 信頼しきってないのね」

 確かに、いい雰囲気にはなってきているけど、信頼しきれてなのかも・・・

「ごめんな 私 花梨に遅れまいと必死で 自分のことしか考えてへんかったわー」

「ううん ウチやって ウチが ウチがーって どこかで思っとったんやろーな 水澄がここまで伸びてくるって思ってへんかったからー」

「そんなことないでー 響先輩とか花梨が練習相手にしてくれてきたから、うもぉーなってきたんやー」

「そーやなー 夏前は子供子供しとったもんなぁー 今でもペチャパイやけどー」

「なんやのー 花梨かって・・・貧乳やでー」

「そんなこと無いワー ウチのほうが あるワー」と、お互いの胸を掴みあっていたら

「あんた等 何 してるん? チチ揉み合ってー お互い 慰めあってるんかぁー?」と、見ていた若葉ちゃんが呆れていた。私達は喧嘩していたわけじゃぁないのだ。一緒に居ることが多くなって、お互いに、遠慮しない仲になってきてるのはわかっていたのだ。 

 

6-8

 11月になって、試合当日の朝、花梨ちゃんと待ち合わせて近鉄に乗り換えて試合会場に向かった。前の日には、石切コーチから「いい? お互いを信じるのよ 自分勝手なことしないで 相棒を信じなさいよ!」と、念押しされてたのだ。花梨ちゃんは、ダブルスの他にもシングルでもエントリーをしていて試合の順番も詰まっていて、特に上に勝ち上がっていく程 ハードなのだ。

 中学生以下のダブルスは8組しかエントリーが無くて、3回勝てば優勝なのだ。1回戦2回戦は難なく勝ち上がって、決勝は、全中の大阪府予選で太子女学園が決勝で争った二色が浜中学の2年生ペァだった。観覧席には、ガンバレ水澄の声が・・・あの3人組なのだ。私が、翔琉に漏らしたのを、聞いて駆けつけてくれているのだろうか・・・。その他にも香ちゃんと若葉ちゃんの姿もあった。

 第1ゲームの途中まで順調に勝っていたのだが、そのうち打ち込んでも返されて、焦ってしまって、結局、第1ゲームを取られてしまっていた。

「水澄 ウチ等のコース 読まれてしまってるねー 次はふたりとも 逆のとこに打ち込んでいこー」

「だね うまく行くといいけどー」

「水澄 全中制覇の第一歩だよ うまく行かすんだよー」

 次のゲームからは相手の意に反したのかペースが乱れ始めて、すんなり第2、3ゲームを連取して、最終ゲームも私達は自分の得意のコースに打ち込んでいって、お互いがその後もフォローして圧勝だった。観客席からも大きな声援が聞こえてきていたのだ。

 二人で、喜ぶ間もなく花梨ちゃんはシングルの準決勝に向かって行った。そして、決勝の相手は二色が浜の進藤かがりさんなのだ。すると、観客席から (かりん ガンバレ)の大きな声が・・・あの3人組だ。

「お疲れ様ぁー 花梨 すごいね 2冠よー」

「う~ん 最後ちょっと 負けるかなーぁーって・・・ でも 応援聞こえたからー 水澄の応援団? ウチにも応援してくれていた・・・」

「あっ あー 私の小学校からの仲間やーぁ」

「仲間・・・」

「あの子等なぁー ダブルスの試合終わった後 帰ろうかと話していたんやけどー あの中の女の子がな アカン まだ 水澄の連れが頑張ってるヤン 応援しやなーぁって 皆を引き留めていたんやでー」と、若葉ちゃんが・・・。若葉ちゃんも香ちゃんも、終わった後、駆け付けてくれていたのだ。

「そうなん・・・だからー 応援の声が・・・」

「そーなんやんでー 私の仲間 苦しい時とか励ましてくれたり助け合うんやー」

「そう 水澄 仲間ってのが 居るんやー そやけど・・・何で ウチの応援までー」

「そらぁー 私の相棒ってわかってるしー 同じ仲間や思ってるんちゃうかー」

「水澄 羨ましいなぁー ウチは ず~っと 卓球ばっかーやったから そんなん 居らへん」

「そんなことないでー ここに4人 居るヤン 私等の練習の相手してくれてー 私等 仲間やー そらぁー クラブの皆も そーやけど この4人は特別やー 来年は この4人でクラブを引っ張って行って 全中のトップに行くんやろー 花梨がゆうてたヤン」

「そーやなー 水澄 ウチなぁー 初めて 打ち解ける友達が出来たよーな気がする 全中の前でもなー ウチ 練習相手って 水澄に恐る恐る声 掛けてみたんやー そーしたら 気軽にOKしてくれてー 感謝してるんやー」

「なに ゆーてんねん 気がするや無くてぇー 仲間 出来てるんやー あの時は花梨は1年生の代表やー 頑張ってもらわなーって思ってたんやー それに、若葉も香も 私等の練習に付き合ってくれてるヤン この4人は仲間なんやでー」

「そーやー ウチも 仲間なんて初めてやー」と、香ちゃんも若葉ちゃんも言っていて、手の平を皆で合わせていたのだ。

 次の日、学校で石切コーチに報告したら

「あっ そう 当たり前じゃぁない 花梨 ちょっと もたもたしてたみたいね」

「あっ なんか 研究されてたみたいで・・・」

「そう 君達のデーターなんか あるわけないじゃぁ無い 1年なのよ 大会中で分析されたのよ でも 君達はなんとか対応したわ」

「そーなんですか? そんなこと・・・ コーチ 見に来てくださったんですか?」

「試合結果 聞けば どんな風だったのか だいたい予想つくの でも 花梨が何とか 対応するって思ってた 夏にウチのペァが苦戦した相手でしょ? 君達なら撃破できると思ったの でもね これからは、あなた達は大阪中の標的になるのよ 地方の大会だといっても No1なんだからね 特に 花梨はね 全中の時はノーマークだったけど、これからは違うわよ」」

「がんばります 水澄も居るしー」

「そーね あなた達が思ってたよりもうまく行ってるみたいで ホッとしているのよー ウチの学校にはすごい 後に続く選手達が居るのよって 一言 余計なことだけど・・・花梨も角が取れてきたみたいネ 水澄も頑張ったわネ 多分 向こうも水澄のスマシッユを初めて見た時は、面喰ったと思うワ 低い位置からコーナーに伸びてきて、それに、最近の水澄のスマッシユはバウンドした後、微妙に逃げて行くの 合わせるのが難しいわよー やっぱり 監督が言っていたように水澄は何かを持ってるわよー」 

 

6-9

 それからは、私はクラブに集中していた。特に、花梨ちゃんとのコンビネーションは最高だった。時折、燕先輩の2年生のペァとも練習するのだが、押し気味に進めて、最後には勝っていた。

 毎日が卓球の練習に明け暮れていて、時々は翔琉のことが頭をかすめるのだけど、学校の勉強のこともあるし、花梨ちゃんとの間もうまく行っていて、どんどん実力もついていっているのがわかるのだ。そのうち、翔琉のことを思わない日も増えて行って、冬休みを迎えていたのだ。

 2学期の成績は、クラスのトップで学年でも3番目だった。1番と2番は英数Sクラスの子だったのだけど、私は担任の先生から「頑張ったな クラブでも頑張っているし、えらいぞ」と、褒められたのだ。

「水澄ちゃん えらいわぁー さすがお母さんの子よねー 誇らしいわぁー」と、成績表を手にして、言ってきた。

「う~ん たまたまよー 毎日が必死なの」

「でも 本当によくやってるわー 家のこともお手伝いしてくれるし 晩御飯の支度だって、クラブで疲れているんだろうけど、文句ひとつ言わないで、やってくれているし お母さんは助かってるのよー」

「そんなことない お母さんは私の為に、一生懸命に働いてくれてるんだものー 当たり前よー」ゴメンナサイ 私は本当は悪い子なのよ お母さんを裏切って 裸で翔琉と・・・

「今の言葉 聞いた? 達樹 水澄は本当に良い子よね!」

「あぁー わかったよー 俺とは出来が違うんだよー 頭が良いのは、水澄が半分持って行ったんだよ」

「なに 言ってんのよー あなたの方が先に生まれてるのよー お兄ちゃんでしょ!・・・ 水澄は人一倍 努力してるのよ 他には 何にも違わないわー・・・ 二人ともお母さんの子なのよ・・・」

「そーだよな 俺の妹なんだものなー・・・」と、その後はお兄ちゃんも黙ってしまった。

 夜になって、智子が突然、訪ねて来て

「ごめんな 夜でないと 水澄に会えないんじゃぁないかなって」

「そーでも 無いんだけどー 電話くれれば ええやんかー」

「そんなん 水澄 携帯持ってへんやんかー」

「あっ あー ごめん 智子 あるねん ゆーうてへんかった 本当に ごめん だって 持ってるだけで つこぉーてへんからー」

「なんやのぉー 真っ先にゆうべきやろぅ」

「ほんとうに ごめんなさい」と、番号を交換した後

「翔琉は知ってるん?」

 私は、首を振って何にも言わなかった。

「水澄 ・・・ 大丈夫か? 変わって行くんか? 翔琉と・・・」

 その時、お母さんが「智子ちゃんに上がってもらいなさいよー 玄関じゃぁ 寒いでしょ お母さん お隣に 町内会のことでお話があるので 出掛けるからー」

 リビングに通すと、ダウンを脱いだ智子ちゃんはピタリとしたれんが色のセーターにフワァファしたレモンイエローのタイトスカートでスラリとした脚が褐色に陽かっていた。テレビを見ていたお兄ちゃんが

「智子 眩しいなぁー その脚 そんな短いの穿いて 寒く無いんかー」

「なんですかぁー 先輩は、いつもクラブの時 見てたじゃぁないですかぁー」

「いや いつもと違って ミニスカートだと ドキドキするよ」

「それは スカートの奥を見たいから? 可愛いんだよ 見せよーか? フリフリだよ」

「あほっ からかうな! でも 普通だよ 男なら きょーみある」

「智子 ココァでいい?」と、私がキッチンに用意しようとして 智子のバカ お兄ちゃんを誘惑するな! と思っていると

「ねぇ 先輩 聞いて! 9月になって 女の子2人入ったやんかー それでね 男の子が居るのに一緒に着替えるの嫌や ゆうからー テニスの部室を使わせてってゆうたんやけど・・・男と一緒にやってるのって 臭いんちゃうって、断られたんよ そんでな ウチ等が着替える間 外に出ててって、男どもにゆうたんやけど・・・ええやんか べつに 智子の時は 一緒やったやんかーって 文句ゆうんよー しゃーないから 今はトイレとかで・・・ ひどいと思わへん? 顧問の先生に訴えても、黙ったきりで 何にも 変わらへんのやー」

「そーかー この頃 クラブに顔を出して無いから、知らんかった テニスの連中も、冷たいのぉー まぁ どっちみち 色気のないスポーツブラとかやろー 今までやってー」

「先輩! ウチやから かまへんかってんけど 普通の女の子は、そんなんでも恥ずかしいんやでー 女の子の気持ち わからへん奴っちゃなー スポーツパンツも白よりも黒のほうが、刺激少ないんちゃうやろかーとか しょうもない気使わなあかんしー 女の子はその下のショーツなんかでも 色んな色のん穿きたいんやでー でも、まんがいち 見られたら嫌やん」

「それはわからんでもないけどー 偶然見られたんやったらー しょーがないヤン そんなこと 俺に言われてもなぁー 俺は 受験生やでー もう 部屋に行く! 勉強」

「待ってぇなぁー 先輩ぃー そんな風に突き放さんとってーぇ ウチの先輩なんやから」

「なんや その ウチの・・・って」

「ふっ ねぇ また 水澄が居らんでも 相談に乗ってくれます?」

「・・・ えっ ・・・頼り無くて、構わんのやったら・・・勝手にせーやー」 と、お兄ちゃんは2階に逃げて行ったみたい。

「智子 何しに来たん?」

「あっ そーやー 暮れかお正月に、皆で集まろーぅよー」

「う~ん 皆でかーぁ」

「なんやのん 翔琉に あいとぉーないんか?」

「あのな 私 今 勉強のこともそーやし クラブのほうもトップ目指してるんやー そやから・・・翔琉のことも・・・ ちゃうねんでー 逢いたいよ! でも 逢って のめり込んでしまうん 怖いねん」

「・・・水澄は まっしぐらやもんなぁー 水澄の気持ち 何となくわかるけど、今は 翔琉のこと捨てたんや ほんでも このままやったら自然消滅やんかー」

「前にも ゆうたけど・・・翔琉が他の女の子と付きおーても しょーぅがないって ・・・でも 私は 今でも翔琉が好き! 翔琉も私のことをって 思うけど・・・ 勝手な言い方やねー」

「うん まぁ 水澄は今 ウチ等と違う階段登ってるんやものなー わかった 頑張れ! 水澄」

「智子 いつまでも 親友で居てな! あっ そうだ 携帯のこと 翔琉には内緒な」

「わかった 翔琉には それとなく水澄のことフォローしとく」

「ありがとう 智子 ・・・ さっき 少し 引っかかったんやけど・・・お兄ちゃんのこと ウチの先輩? もしかしてぇー」

「うふっ そやねん 夏頃からかなー 好きなん 特に、クラブに出て来んよーなったやんかー 余計にな 好きなんだって・・・達樹先輩のこと えへっ」

「はぁー 智子は色んな男の子を品定めするゆうてたやん そらぁー すごく優しいでー 私には・・・ でも ぼぉーっとしていてなぁー」

「そんなことないでー いざって時には頼りになるんやー 何回か助けてもろたんやでー さらっとな 先輩はウチの気持ち まだ 知らんやろけどなー」

「そう まぁ 親友の智子のことやから 応援せんならんけどな でも ええ加減なこと やったら あかんでー 私の大好きなお兄ちゃんやねんからな!」 
 

 

7-1

 年が明けて元旦の日。お昼頃、智子からラインで連絡があって (何してる? 暇だったら 遊びに行って良い?) 私は (別に何にもしてない 晩ご飯のちらし寿司の下ごしらえをお母さんから頼まれているから そろそろと思ってた) それでも (これから行くネ) と、強引に

 しばらくして智子がやって来て、ダウンを脱ぐと今日はチャコールグレーのミニのワンピースで前ボタンになっていて、ウェストのところがリボンベルトで少し横にずらして結んでいた。お父さんがソファーで寝そべってTVを見ながらお酒を飲んでいるリビングに招き入れると、慌てて起き上がって

「あっ あ えーと・・・」名前が出てこなかったみたい。

「こんにちわ 小泉智子です」

「あっ そうそう 小学校から仲よくしてもらってね 智子ちゃんだったね」

「そうです ず~と 仲良く」

「まぁ どうぞ」と、言いながらお父さんは隣の椅子に移っていて、ふぐの味醂干しを智子に勧めていた。

「お父さん! お酒飲むんじゃぁ無いからー」

「いや さっき 水澄に炙ってもらって うまいから・・・」

 私は、アンリのお菓子の詰め合わせ缶を出して「待ってね 今 紅茶入れるから」

「今 女の子間では、流行ってるのかー? その髪の毛」

「あっ ちゃいますよー お父様 ウチはサッカーで達樹先輩と一緒のー だから、男の子にバカにされんよーにー」

「・・・お父様? ? ? 達樹先輩なぁ・・・」

「お父さん! そやねん 智子は男の子に混じって頑張ってるんやー」

「そうかー なでしこジャパンかー それで 日焼けしていて健康的なんやなー でも、脚もすっとしていて、スタイルも良くって モデルさんみたいやなー」

「お父さん 酔っぱらって来てるのぉー 言い方 やーらしいない?」

「そんなことないよ 見たまんまのこと言うのが 何が悪い? 好いもんは好いんじゃー」

「お父様 嬉しいです 褒めてもらえてるみたいでー」

「・・・その お父様って なんじゃ・・・」

「あっ ウチ お父さん居ないから・・・」

 その後、お父さんは昔 ハイジャンプをしていたとかで、自慢げに その話を智子相手にしていた。私は、お父さんの相手を智子に任せて、夕ご飯のちらし寿司の下ごしらえに取り掛かっていたのだ。戻した椎茸と焼き穴子に人参、油揚げを刻んで、味付けをしてコトコトと煮るんだけど、お母さんに教わったレシピ通りに。

 一通り、仕込みも終えるとお父さんは

「いゃ こーやって水澄と顔を合わせるのも1ト月ぶりぐらいなんだよー いつも、すれ違いでな でも 本当のところは 我が娘ながら、水澄を見るのが眩しくてなー」

「そんなー ウチ お邪魔だったかしらー」

 でも、お父さんは、少し昼寝すると言って、こもってしまったのだけど、入れ替わりにお兄ちゃんが降りて来て

「おぉ 智子 来てたのか ・・・水澄 なんか 食べるもんないか?」

「うーん 冷凍の豚まん」

「それでいいやー 温めてくれ」

「お兄ちゃん! この頃 私に何でも言いつけない? 自分でやればぁー」

「まぁ そ~いうなよー せっかく 俺の可愛い後輩が来てるんだからー お相手しなきゃーな」

「先輩! 可愛いですかぁ? ウチ」

「あぁ その服も 似合っているよ」

「勝手にせぇー 智子 お兄ちゃんの相手しててネ!」と、私は まぁ しょーがない 智子も嬉しそーなんだからー 智子の声がさっきまでと違って、はずんでいるのも気になりながら、豚まんを冷凍庫から取り出していた。

 お兄ちゃんは食べ終わると「智子 ゆっくりしていくんだろう? 晩飯も食べていけよ」と、2階に上っていった。

「水澄 食べてってもかめへんのかなー」

「うん 食べていきなよー ちらし寿司やでぇー その代わり これから卵焼いて、ご飯にこれ混ぜるから、手伝うんやで」

「わかったー 水澄 いつも こーやって 料理してるん?」

「お母さん 働いてるやろー 私の学費とか、クラブの費用 稼いでくれてるから たいがい晩御飯は私の役目なんやー」

「そうなんや 水澄はえらいネ 勉強にクラブに家事手伝い ウチも見習わなあかんなー」

「それはええけど さっき お兄ちゃんの横で脚を組み替えたりしてぇー 見せよーとしてたやろー?」

「えへっ ばれたか」

「わかったわー! ピンクに刺繍ついたのん チラチラさせてるんやものー」

「うふっ 可愛いやろー?」

「あのなー お兄ちゃんをそんなんで誘惑せんとってー 受験もあるんやからぁー」

「ちょっとくらい 気晴らししてもええヤン 水澄みたいに裸見せるんちゃうでー」

「智子 それは内緒やゆうたやろー それに、私のお兄ちゃんは、そんなことで気晴らししません! あんまり そんな風に迫ると嫌われるでー お兄ちゃんは清純派なんやからー」

「あっ そう 清純ねぇー 広瀬すずとか?」

「ちょっと違うと思う もっと 品がある」

「誰よー それ!」

「わかんない イメージだけ 内田有紀さんの若いころの溌剌として無垢なような感じかなー そーいえば智子も イメージ似ているのかなー」

「えぇー ウチ? 似てるの? うふっ 先輩の好みねぇー」

 智子も居るので、お母さんはまだ帰ってきてないけど、早い目に用意をして、お父さんとお兄ちゃんを呼んで、4人でちらし寿司を食べることにして、お皿に盛り付けて卵、海苔と鯛、イカ、いくらで飾って、私はジュンサイのお吸い物を作っていた。

「うまいなぁー 水澄 母さんのより うまい!」

「お父さん 言い過ぎよ! まだ 酔ってるの?」

「水澄 おいしいよ 本当に ウチ こんなの初めて このお吸い物も」

「そう ありがとう 智子の口に合って良かったぁー」

 食べ終わって、お茶を飲んでいる時に

「お兄ちゃん 智子を送って行ってね」

「へっ 何で 俺がー」

「当り前やんかー 君の可愛い後輩が 襲われたら 責任取れるん?」

「何で 俺が責任とるねん」と、ぶつぶつ言いながらも二人で出て行ったのだ。

 その間にお母さんも帰って来て、お寿司を食べて

「水澄 美味しいわー あなた 言ったとおりに作ってくれたのね おいしいぃー」

「お母さんが ちゃんと教えていてくれたから・・・」

「水澄 あなたは本当に良くできた良い子よねー ねぇ お父さん?」

 だけど、お父さんはお酒を又、飲んでいたのでソファーに横になって、もう寝てしまっていたのだ。

 

 

7-2

 次の日はお母さんもお休みで朝からお正月の料理の準備をしていて、私もお手伝いしていたのだ。このところ我が家のお正月は2日の日から始まるみたい。

 お祝いの料理を食べた後、皆で近所の神社にお詣りに行って、今年は、お兄ちゃんの受験があるので、沿線にある八幡宮まで足を延ばしていた。

 帰りには、お母さんが「何か 食べて帰りましょうか」と、言っていたけど、お兄ちゃんが家で串揚げを食べたいと言い出したので、帰り道にスーパーで適当に買い揃えることにしたのだが、お父さんとお兄ちゃんは先に家に帰って行った。お父さんは、明日、会社の人とゴルフに行くので、打ちっぱなしで調整すると言ってウズウズしていたのだ。

 外が暗くなりかけて、お父さんも帰って来て、食卓にオイルコンロを置いて、皆で囲んでドロウとパン粉を付けて揚げたてを食べて行くのだ。

「水澄がね お兄ちゃんはイカとニンニクが好きなんだよって言うから 買ってきたの 達樹 沢山食べて 体力つけなきゃーね」

「へっ 水澄がニンニクって言ってたの・・・ まぁ 嫌いじゃぁないけど・・・」と、お兄ちゃんは、黙って私を睨んでいた。

「うん うまいなぁー 揚げたてはー これは、鯛の切り身か? うまい そ~いえば去年の正月は達樹たちの友達の家で寿司だったなぁー あん時の鯛とかまぐろもうまかったまぁー」

「いや 今日の 揚げたてのほうがおいしいよ こーやって家族で食べるのもネ お父さん ほらっ 車海老だってよ 奮発して買ったらしいよ」と、お兄ちゃんは話題を遮るようにしていた。私は (あれぇー やっぱり お兄ちゃんも何かおかしい 翔琉のとこには)と、感じたのだ。

 「うまいなぁー この車海老 さすがだよ 民子も飲まないか?」と、今はビールを飲んでいるお父さんは、さっきから黙っているお母さんに勧めていて、ご機嫌になってきたのか

「水澄 翔琉君とは学校違うけど、うまく行っているのか? 彼は真面目で清潔そうな好い子だよなー」

「あっ あぁー 私 卓球も学校のほうも 今は 必死だから・・・あんまり 逢ってないの」

「そーなのか 確かに 水澄は頑張っているみたいだものなー」

「みたいじゃーないよ! すごく頑張ってるんだ 我が妹ながら頭が下がるよー お父さん 水澄は学年3番なんだってよー 知っている? 明日だって、ゴルフの後、飲みに行かないで、早く帰って来て 少しは、水澄と触れ合ってやれよー 逢う機会ってないんだろう? 水澄のこと ほぉたらかしじゃぁないか お父さんの娘だろう? 可哀そうだよ 昨日だって さっさと寝てしまうしよー」

「達樹 そーいうなよー 昨日 友達が来てるから 気を利かせたつもりでー いゃ 水澄は可愛いよー でも あんまり・・・ほらっ 親父って 女の子にとったら うっとおしいんじゃぁないかと・・・」 

「水澄はそんな女の子じゃぁないよ! 素直で 俺の妹としても素晴らしいんだよ 今は、小学校からの仲間ともあんまり逢えないけど、独りで歯を喰いしばってー そりゃー お母さんだって俺だって、側にいてやってるよー だけど、父親とは違う やっぱり頼りになるものー 水澄だって お父さんのこと大好きなんだよ なぁ 水澄」

「えっ えぇー そのー・・・ お父さんは、忙しいから・・・」

「ほらぁー 優しいんだよー お父さんの娘は・・・反省しろよな! 親父」

「ぅー わかった 達樹は厳しいのぉー 知らない間に大人になったな 息子に説教されるなんて・・・ 明日は 早く 帰って来る じゃぁ 一緒に風呂でも入るかー」

「うぅー 俺でも もう 入れないんだよー」と、はしゃぐお父さんにお兄ちゃんは呆れていたけど

「うっ なんじゃぁー これはー 辛れぇーぇ」と、お父さんは うぇー と なっていた。

「あらっ 辛かった? 美味しいと思ったんだけど 飲み過ぎの人には・・・」と、私は しし唐に山葵を詰めて揚げたのをお父さんに出したのだ。

「水澄ぃー ・・・ なんか そーいうとこ お母さんに似ているなー」

「うふふっ 調子にのって バカなこと言ってるからよー」と、やっとお母さんも表情が明るくなっていた。

「明日は水澄ちゃんとお買い物に行くの 難波まで お洋服を買ってあげるのよ それで、天ぷらのお店に行くの」

「えぇー お母さん 私 洋服なんて 着ていくとこもないしー」

「いいの! そのうち 達樹の高校入学のお祝いに お父さんが美味しいフランス料理のお店に連れて行って下さるからー」

「はぁー 俺のお祝いなんだろー なんで水澄が・・・」

「あらっ 達樹だって 妹が可愛らしいほうが嬉しいでしょ! お土産は何が良い?」

「・・・だなー 難波だったらー 551の豚まん」 

 

7-3

 4日の日は初練習があって、この日は新年の意気込みと顔逢わせと軽く手合わせ程度でお昼前に解散した。帰る時、4人組で何か食べて帰ろうかってなったけど、私は、お兄ちゃんが気になっていたので、明日ネと香ちゃんと二人で別れてきたのだ。

 というのも、朝 お母さんがお兄ちゃんのお昼にとおにぎりとかを用意してるのだけど、多分、足らなくてお腹を空かしているに決まっているのだ。

 駅を降りて、キャベツが無かったなぁーとスーパーに寄って、餃子の6ケ入りもついでに買って帰った。今日は、練習の後シャワーも浴びて無かったので、お風呂場に行こうとすると、お兄ちゃんが顔を出して

「水澄 ちょっと 小腹が空いてきたんだー なんか 無いかなー」案の定、お母さんが用意してたものじゃーぁ足らないんだ。

「なによー 私は お兄ちゃんの家政婦じゃぁござんせんからね! 待って 今 シャワーしたら、焼きそば作ろうと思ってるからー」

 部屋は寒いので私は シャワーの後 ピンクとグリーンのもこもこのパジャマ姿で、作っている途中なのにお兄ちゃんが降りて来て、もう テーブルに座っているのだ。

「なんでー 呼ぶまで待ってよー 焦るやんかー そんなにお腹 空いてるん?」

「あぁ 10時頃 おにぎり 食べてしまったから」

「だよねー お兄ちゃんは1日5食だもんねー あのね 昨日 お父さんといっぱい クラブのこととか お話したんだぁー 嬉しかった! お兄ちゃん ありがとうネ いつも 私のこと 味方してくれて」

「そうか 良かったな! 俺は、時たま、夜中にでもお父さんと話しているけど、水澄はすれ違いだものなー お父さんも家族だし、水澄は我が家の宝物なんだよ 最近は可愛くなってきてるし・・・もっとも、頭が悪くてブスだったら俺も知らんぷりしてるけどなー」

「なんやのー それっ! 差別やんかー」

「ふふっ まぁ 間違いなく水澄はお父さんの可愛い娘なんだよってことさー」

「うん 私は 今 幸せなんだぁー 家族と学校のみんなにも見守られて・・・ひとつ 除いては・・・」

「・・・翔琉のことか? 忘れられないのか?」

「・・・うん・・・ どうしてるだろうとか 元気かなーって考えることもある」

「まぁ 元気だよ サッカーも頑張ってるって聞く」

「だよねー 私のことなんか どーでも いいんだよねー まわりに女の子なんていっぱいいるしー それに、私 今 幸せなんだ これ以上 望むとバチがあたるネ 神様に怒られちゃう」

「・・・あのさー 水澄は 今の目標は全中でトップになることだろう? 成績も学年トップをめざしているんじゃぁないか? それに、集中しろよ」

「だよね 私 いくつも 追いかけられないものネ」

「水澄 それと 手を止めるなよー さっきから 焼きそば 途中じゃぁないの?」

「なんやのぉー 自分で作ろーとも せーへんくせに 指図せんとって!」

 ぶつくさ言いながらも、焼きそばを仕上げて、お兄ちゃんには横に餃子を4ケ添えてあげた。

「うん うまい 最近さー なんでも お母さんのより 水澄のほうがうまいって感じるんだよねー」

(ふふっ そーだよ 私もお兄ちゃんのこと 素敵な彼氏って思うようにしてるんだから 当たり前じゃぁない)

 その日はお父さんも珍しく帰りが早かったのだ。

「あらぁー 今日は新年会とかで遅くなるんじゃぁなかったのですか?」

「あー 可愛い娘が待っているからって 途中で切り上げてきた」

「まぁー ご飯 つもりしてませんよー」

「いいんだ 飲んでた途中で切り上げてきたから・・・飲みなおす 水澄 すまんが フグの味醂干し 焼いてくれ」

「えー ハイ! お父さんの可愛い娘さんが焼くんですからー 高くつきますよーだ」お母さんが、その意味は解らないけど、私のお尻をポンとしていた。

「おぉー それでも 新地のクラブで飲むより 贅沢なんだろうよ」

 お父さんがお風呂から出て来るのを見計らって、私はフグの味醂干しとお酒を用意していて、リビングのソファーに座った時に、持って行って、最初の一口にお酌をしていて

「おぉー すまんのぉー」

「お父様 こんなパジャマじゃぁなくて ヒラヒラのドレスに着替えてきたほうが良いかしらー」

「水澄ちゃん なんてことを・・・ 悪ノリしすぎよ! あなたも 娘にお酌させるなんて」

「うっ まぁ 一杯だけ・・・ 父親の夢なんじゃ」

「あなたの夢って そんなもんなんですか!」

「・・・すまん・・・」

「お父さんって お母さんに弱いんだね 普段はそーでも無さげなのにー」

「そーいうなよ 民子に惚れているからな」

「ワァー ワァー」と私とお兄ちゃんが騒いでいると

「そんな言葉 何年ぶりかしらネ 聞くのー」

 その後、私達もご飯を食べながら、賑やかな食卓が戻ってきたように感じていたのだ。お母さんも時々、お父さんにお酌をするのでソファーで寄り添っていた。もしかすると、さっき お母さんは私に嫉妬していたのかしら・・・ 

 

7-4

 次の日の朝、学校に行く時、駅で翔琉が・・・

「何で居るの?」

「何でって お前に逢いに来たに決まってるヤン」

「・・・あー もう 電車来るの あのね 帰り3時に・・・いい  かしら・・・」

「わかった」

 その日の練習中で石切コーチが私達ペァが香と若葉を相手にしているのを見ていたかと思うと

「花梨と若葉 ちょっと 入れ替わってみて」

「えっ ・・・ はい・・・」と、花梨は不思議そうな顔だったんだけど、入れ替わってしばらく練習を続けたのだ。若葉はバックハンドが得意で、私の放ったスマッシュを花梨が返してきても、もう一度同じコースに若葉は正確に返していくのだ。当然、香には対応することができないのだ。しばらく、そのまま練習していたのだけど

「わかった もう もとに戻って、続けなさい あなた達 シングルの練習もしときなさいよネ 今年は 主力になるんだからね」

 帰り道に4人でお好み焼き屋さんに寄って、今日のことを話合っていたんだけど

「なんやったんやろー 今日のペァのこと 気になるなー」と、花梨が切り出した。

「まぁ 試してみたかったんちゃう 若葉と水澄の相性」と、香が言うと

「なんで 試さなあかんのん? ウチと水澄は最強やでー」

「コーチは全中制覇を狙ってるんやでー 去年のリベンヂ 多分 先を見てるんや 去年の決勝 山手丘学園にこてんぱやったやんかー とくに秋元蓮花に 団体戦も個人戦もやられたやんかー」と、私が言うと

「そーやったな ウチも見てて悔しかった」

「秋元蓮花は今年3年 出て来るよ それに、去年1年の見沼川七菜香 ことしは、どんだけ強おーなってるかわからへんやんかー」

「そう ウチもビデオ見たんやけど あの二人は強かったわー あん時の3年はもう居らへんやろけど、今年もどんな1年生が出て来るかわからへんでー」

「若菜 ビビらさんとってーなー ウチ等も強ぉーなってるって!」

「あのね ウチの考えてたこと ゆうてええかぁ?」

「なんやの? 若葉は 冷静で理論で分析するからなー でも 聞きたい」私達3人は、その時、真剣に若葉の言うことに耳を傾けていた。

「いい? 今のウチのチームの個人の実力では、燕先輩、美麗先輩、花梨の3人が抜きんでているの それは、皆も認めるでしょ?」

「うん」

「だけど その中で花梨は伸びしろがまだまだあるのよ それは、コーチも考えてると思うのよー もちろん 花梨次第だけど」

「うん ウチはもっと上を目指している」

「そう 花梨はね 小学校の時からすごかったの ウチも知ってた。どんどん打ち込んでネ 突き刺さるようなスマッシュ 敵わないと思ってた。だから、ウチは本当は今の監督から、太子女学園でやってみないかと声を掛けられていたの。ウチももっと強くなりたいし、花梨をそのうち追い抜きたいと思ってたから・・・だけど、入学したら花梨が居るじゃぁない あん時、ガックリしたわ 多分、花梨も声を掛けられていたのね?」

「うん ・・・ 頂点に立ちたいのならウチに来ないかと・・・」 

「だからね ウチは花梨とはタイプの違うとこで対抗しようとしたのよ それでも、花梨はすごいよー コーチも花梨をエースにって思っているんじゃぁないのかなー それで、シングルに専念しなさいって」

「えぇー だって ウチは水澄と・・・最強の・・・」

「だけど、山手丘の秋元蓮花を打ち負かすのは花梨しか居ないと・・・燕先輩は去年 太刀打ち出来なかったわ」

「だけど・・・あの人は・・・ウチなんかとは・・・」

「花梨! トップに立つってのは嘘なの! 花梨なら頑張れるじゃぁない!」

「うん まぁー でも ダブルスは?」

「それで コーチは 迷ってるのだろうけど ウチと水澄なのよ だけど、ウチ等も最強になれる自信はあるワ 今日 組んでみてわかった 相性も良いのよー」

「悔しいけど なのかなぁー 水澄はどうだった?」

「えぇー 私は わからない でも 若葉となら 違うパターンなのかなって」

「ウチも思ってた 花梨は無理してるなーって 水澄と組んで・・・ だけど、シングルなら、もっと 思い切っていけるはずよ 水澄だって 違う面が出るのになぁーって」と、香も言っていた。

「あのね コーチは個人のことはあんまり考えてないのよ 太子女学園の名前を売るのは団体なの 秋元蓮花に花梨をぶつけて1勝でしょ 燕先輩に見沼川七菜香をぶつけて2勝目 ウチらダブルスも頑張るから3勝目 去年のリベンヂが監督とコーチのストーリーよ 誰かが取りこぼしても、美麗先輩、香で取れるわよー」

「若葉 すごいね コーチの考え わかってるの?」

「まぁ 何となくネ だけど、ウチと水澄も頑張るワ 香もネ! 今は、5・6番目は朝咲先輩、美雪先輩、香なのよ 今年、入って来る後輩も居るかも知れない その中で香が頑張って、代表になるのよ!」

「えぇー ウチ?」

「そうヨ! ウチ等4人が太子女学園を引っ張って行くの! だって 仲間じゃぁない!」

「わかった!」と、皆の声が揃って

「花梨 わかってくれた? だから、仮りにコーチからペァから外れるようにって、話があっても すねないでネ 花梨は個人でも団体でもトップを目指して欲しい 花梨なら山手丘を倒せるわ」

「わかった こころしておく」

「まぁ その前に当面の敵 7月の大阪予選の二色が浜よ」

「ウン それまで しっかり練習して 圧倒するわよ!」と、若葉の言葉で4人の結束は強まったようだった。

 帰りを急いだんだけど、駅についた時には、約束より30分も過ぎていたのだけど、翔琉の顔が見えて、怒っている風でも無かったのだ。

「ごめぇ~ん 待ったよネ」

「いいんだよ 水澄が頑張ってるの 智子から聞いているから」

「ごめん 仲間と話してて 遅れたの」

「仲間・・・クラブの連中か?」

「うん 1年生の仲の良い 4人」

「あぁー いつかの大会の時の4人?」

「そう あの時 応援に来てくれてありがとう あのね 花梨っていう子が応援の声で元気出たって言ってたよ」

「そうか それは良かった 智子が水澄の相棒だから応援しようよってな でも 良かったよ 水澄に新しい仲間が出来て、元気そうだから 水澄は誰にでも好かれるんだものなー」

 私の帰り道を送ってくれて、途中 マンションの前の公園で二人で並んでブランコに乗りながら

「水澄 違う学校になったけど、お前は頑張って 今 輝いているよな やっぱり 俺にはすごく好い女なんだよ 目標もあるんだろう? 智子に聞いた。だから 逢えなくても 応援しているよ 俺も頑張る 水澄に負けないようにな 他の2人もそうだ 学校は違っても 仲間には違いない」

「ありがとう 翔琉達が居ると思うと心強い」

「それと 俺の中では 水澄が一番なんだよ! 他の女の子なんて比べ者にならない    俺のことは忘れてくれても良い 今は卓球に打ち込め 逢えなくても 水澄が好きだ」 

「・・・ 翔琉 有難う 私も・・・大好き」

 そして、家の前まで送ってきてくれて、私は辺りに人が居ないのを確かめて

「ねぇ 誰も居ないよ」と・・・私が、バッグを下に置くと。翔琉もわかってくれたのか、お互いにしっかりと抱き合って唇を合わせていたのだ。  


 

 

7-5

2月に入って直ぐに、響先輩も太子女学園の高校進学が確定して、クラブの練習では高校のほうに合流していた。だけど、新人なので部員の周りの球拾いとかをしていたのだ。

 そして、お兄ちゃんも入試試験があって、合格発表の日、硝磨さんと一緒に同じ高校に受かっていた。サッカー部はそんなに強く無いのだけど、二人で盛り上げていくんだと張り切っていたのだ。

 それで、お母さんは早い目に帰って来て、お兄ちゃんの大好きなトンカツを用意していた。

「おめでとう 達樹 頑張ったネ」

「いや それほどでも・・・ 普通だよ」

「そんなことないよ 正直 言うと 達樹が公立に行くのと私立じゃぁ ウチの家計では大違いなのよー 授業料無料になるといっても他に係るものが違うものー」

「お母さん ごめんなさい 私・・・負担かけてしまって・・・」

「あっ ごめん 水澄は お母さんの我儘だからー」

「そーだよ 水澄は太子女学園のスターなんだから ちゃんと期待に応えているじゃん」

「そんなー スターだなんて・・・」

「このトンカツ うまい! 普段より厚いしー」

「そう 特別に厚めに切ってもらったの」

「そうかー 格別にうまいなぁー」

「ねぇ お母さん お父さんのもあるの?」

「水澄は心配しないでも 良いわよ あの人はあんまり食べないから お母さんのを2切れ程 とっとくからー」

「そーだよな 親父 帰りも遅いし いつも お酒とつまみだけだもんなー」

「ねぇ お父さん いつも そんなで身体大丈夫なの?」

「大丈夫みたいよ お昼は何だかんだで、しっかり食べているみたい」

「ふ~ん でも まだ メタボな雰囲気ないみたいだしネ」

「そうなのよー 健康よ お母さんはしっかり観察管理しているつもりよ 朝もちゃんと食べてくれているし」

「いまだに お父さんとお母さんは雰囲気いいものなー なぁ 夜もそんななのー?」

「なっ なに言い出すのよー 達樹! 水澄も居るのに・・・」

「水澄だって もう 一人前だよー なぁー」

「・・・」

「お父さんにはちゃんと愛してもらってます! だから、あなた達も普通の生活が送れてるんでしよ 夫婦ってそーいうもんなんです! お母さんだって、まだ、ぎりぎり40前よ! もう いい? これ以上は恥ずかしいワ」

 その夜、私はのどが渇いて、下に降りて行くと、お父さんがリビングでお酒を飲んでい、その隣に寄り添ってお母さんも飲んでいるみたい。

「おっ 水澄 どうした 珍しい」

「うん なんか 喉が渇いて 飲みたくなってー」

「そうか 達樹は? 褒めてやろうかと・・・」

「寝ちゃったみたい ほっと したんじゃんない?」

「ほぉー あいつでも さすがに 緊張してたんかなぁー」

「あのさー お酒もほどほどにしてよね! 私もお母さんも大好きなお父さんなんだからー いつまでも元気で居てくれないとー」と、言うなり私は2階に上ってきたのだ。

 ベッドに入って、寝ようとしたのだけど、さっき見たのだ お父さんが、お母さんのスカートの上からなんだけど太腿に手を置いているのを・・・初めて見る光景だった 私は、想像してしまって、自分でも、うずいてきているとこに自然と手を添えてしまっていたのだ。翔琉と抱き合ったあの時 家に帰ってきて あそこが湿っているのに気がついていたから・・・

 そして、香ちゃんが、嬉しそうに「一真さん合格したよ」って言ってきたけど、私はラインで報告をもらっていたから、もう知っていた。彼は、学校推薦入試だから、もう合格発表があったのだ。香ちゃんに知らされたのは、しばらくしてからなんだろうけど、そのことを私は黙っていた。

「ねぇ ねぇ お祝いしなきゃーね 又 一真さんのおうちかなぁー お召かししていかなきゃーね」と、はしゃいでいたけど、私は聞かないふりをしていた。

 3月になって、お兄ちゃんの卒業式の夕方。私が帰ると、お母さんが

「ねぇ 聞いてよ 卒業式の時にね あの欅原さんとこのお母さんが 寄って来るのよー 私 嫌でね 避けてたんだけど、しきりに話掛けてきて、仕方ないから隣に座ることになってしまったのよー」

「ふ~ん 別にいいんじゃぁない」

「でもね 水澄ちゃんはすごいみたいネ 学年でトップらしいじゃぁない 卓球も頑張ってるみたいで優勝したんでしょう? すごいわぁー 近所の奥さんも言ってたわ きれいな娘さんになってるって 翔琉なんてくすんじゃてー だって そんなこと知らないわよーネ 翔琉君のことなんて 聞いてもいないのにー 勝手にベラベラとぉー」

「・・・」私が黙っていると続けてきて

「でもね でも 真面目で良い子ですよねって言ってしまったもんだから そうなのあの子はそれだけが取り柄なのよー とか、言っちゃってー それから、達樹と硝磨君の話になって 二人でサッカー頑張るんだって・・・これからも よろしくねっだってー うんざりよー 適当に流してたけどね」

「そうだったの ・・・ でも、あっさりとしたお母さんよね?」

「まぁ かも知れないけど・・・ あの家 私は好かない お付き合いするのは達樹だけよ!」

「私は?」という言葉が出せなかった。

 

 

7-6

 次の日曜日、お兄ちゃんの高校進学祝いにお父さんが天王寺のレストランのお昼を予約してくれていた。お正月に買ってくれた首元までフリルで立ち上がっている白いブラウスに赤系チェックのベストワンピースの上に臙脂色のボレロ風のブレザー。それに、フレァーになっているレースのピンクのアンダースリップも。その上からお兄ちゃんに買ってもらった七宝のペンダントも下げた。お母さんも、うっすらとオレンヂに輝くシルクのワンピースに短めのブレザーと真珠のネックレスをして、私にもお化粧を施して、うすく赤い口紅も引いてくれていた。少し、気になっていた短い髪の毛にも赤い花型のピンを用意してくれていたが、主役のお兄ちゃんは、白のポロシャツに紺のカーディガンとグレーのスラックス。

「なんだよー 二人とも着飾って 男ってつまんないのー」

「お兄ちゃん 交換してあげようか?」

「あほっ まぁ 水澄も見違えるように可愛いからいいけどー ふ~ん スカートが少しふんわりしてるんだー」

「そーなんだよ ほらっ アンダーも着てるからね!」と、私がスカートをめくって廻ってピンクのを見せると

「わかった よせよー 可愛いってばぁー お嬢様だよ!」

 レストランの入り口でお父さんが「身内だけの席なんだから、上着は脱いだらどうだ?」と、言っていたので、私とお母さんは上だけ脱いで、案内されて毛足の短いカーペットを歩いて、天芝公園を下に見渡せる窓際の席に着いた。

 促されて、お母さんはビール、お兄ちゃんはコーラを頼んでいたけど、私はお水をお願いしていた。

「水澄ちゃんって 少しのことで質素よねー」

「そう? だって せっかく これから美味しい物を食べるのに 何か飲むのもったいなくない?」

「まぁ 水澄の言うことも一理あるが お酒も昔から料理の友なんだってこともな・・・じゃぁ 達樹の高校進学を祝って 乾杯! おめでとう」

そして、お料理が運ばれて来て前菜に舌鼓を打っていると

「達樹 高校でもサッカーやるんだろう?」

「うん 硝磨も居るしネ」

「そうか 今年は国立なんか?」

「そんなー まだまだだよー でも来年には大阪代表になりたいと思ってる」

「だなー そんな簡単なものじゃぁ無いよなー 水澄は全国制覇なんだろう?」

「お父さん そんなー でも 団体なら可能性あると思う」

「そうかぁー 二人とも頼もしいのぉー お父さんなんてな 中央の大会までいったことが無いんじゃー 唯一 メダルじゃぁ無くて、お母さんを娶ったのが自慢だ 美人だろう? 水澄もなかなかのものだろうと思うが?」

「へっ 親父も言うのぉー 今日は 俺のお祝いだろう? なのに 二人とも着飾ってー」

「達樹 男っていうのはなー こんなに美しい女性が二人も側に居るのって 最高に自慢していいんだぞー」

「あなた 言い過ぎじゃぁないですの」

「どうして 僕は本当にそう思っている 幸せなんじゃ」

「私も、あなたが一生懸命遅くまでお仕事してくれて、こうやって素敵なお店に連れてきていただいて、家族みんなで・・・幸せですわ」

「ふたりとも、相変わらず仲が良いね。俺が夜食で下に降りて行っても、時間も遅いのにお母さんは何かを用意して親父を待っているものなぁー。自分だって朝、仕事に行くのに普通なら寝ているよー 親父も感謝しなきゃーな」

「なにを言うんじゃー いつも感謝してるさー 僕が仕事に打ち込めるのもお母さんのお陰なんじゃ」

「最近は土曜日には早い目に帰って来て、晩ご飯一緒して、私にいろいろと話し掛けてくれてるよねー お父さん ありがとうネ」

「うむー 達樹に言われて 反省したんじゃ あぁー 僕には、素晴らしい妻と可愛い息子と娘が居るんだ 大切にしなきゃってな!」

「そーいうとこって 私 お父さん 大好き!」

「なんだ 水澄 点数稼いでいるのぉー」

「そんなことないよ! 本当なんだものぉーぉ」

「ふふっ 水澄は可愛いのぉー そうだ 達樹 進学祝い 何が良い?」

「そうだなー かかとのところが崩れてきてるのでスパイクがいいな でも 高校に入ったら色々とお金かかるしー」

「それは、お母さんもつもりしていると思うよ なるほど わかった 水澄もすぐ誕生日だろう 何かプレゼントは? なんかアクセサリーにしようか?」

「お父さん 私はいいよー 普段から、遠征費とか出してもらってるし、今度も合宿があるし アクセサリーなんかは飾ることも無いし」

「水澄 遠慮しないで言えよー シューズ 今の フイットして無いんじゃぁないか  中敷を色々変えたり、紐を変えたりしてるじゃぁ無いか! 水澄は他の奴より動き激しいから、側も伸びてきてるんちゃう? 俺なんかとレベルが違う 水澄は全国の頂点に行くんだからー 俺なんかより大事だろう?」

「お兄ちゃん そんなん 大丈夫だよ 今のままで・・・」

「そうか 水澄は全国の頂点かー そーするとゆくゆくはオリンピックだなぁー すごいぞ」

「だからぁー お父さん そんなの夢の夢だよ」

「でも その夢を見れる位置に居るってことだろう? すごいことじゃぁないか よし! 水澄にもシューズ買おう」

 そして、スポーツ店に行って、お兄ちゃんはすぐに決めたけど、私はいろいろと穿いてみて、アタックエクスカウンター2というのを穿いた時、今 穿いているのと違って、すごく動きやすくって、グリップもしっかりしているし気に入ってしまったんだけど高いのだ。何故かお母さんの顔色を伺ったのだけど、お母さんも頷いていたので、それをおねだりしてしまった。

 それから、お父さんは無理やりアクセサリーのお店に連れて行って、私にアクアマリンのトップがついたプラチナチェーンのネックレスを買ってくれたのだ。

「水澄は我が家の宝物なんだからな」と、お父さんは上機嫌だったみたい。 

 

 

8-1

 春休み4月の初め、3泊4日の合宿がいつもの琵琶湖沿いの旅館で。旅館に着くと、持ってきた各自のお弁当を琵琶湖を眺めながら食べて、しばらくしたらその砂浜を25分間往復して走らされた。それから、15分の休憩の後、体育館に集合して、柔軟の後、その壁沿いにうさぎ跳びで2周。すでに、脚もガクガクしていたのだ。

 この前卒業したクラブのOBで響先輩と美玖先輩も参加していて、私達中学の後、高校の連中が合宿に来るので、そのまま合流するんだと言っていた。

 練習には、主に私が燕キャプテンと朝咲先輩の相手をしていて、響先輩は主に花梨と香を相手にしていた。コーチはしきりに若葉を指導していたのだ。

 その日の練習の終わりの砂浜でのジョギングと全力疾走の後、私と花梨、若葉が監督に呼ばれて

「若葉 水澄とダブルスを組め 花梨はシングルに専念しろ お前はエースになるんだ」

 私達は若葉が言っていたように予想していたことだったので、素直に

「わかりました」と、3人が応えると、監督は反応が意外だったのか言葉に詰まっていたが

「コーチと響の意見も聞いたが 考えが一致した。 いいか? 今年は去年のリベンジだ 全国制覇だぞ お前等3人は主力なんだ 香も仲良いみたいだから ハッパ掛けろ!  お前等が引っ張って行くんだぞ そのつもりで合宿を迎えろ」

 若葉が予想していた通りだった。花梨も覚悟していたみたいなのだ。「ヨシッ」と気を引き締めているのがわかった。次の日から花梨は砂浜を走るのも先頭を切ってるし、練習中でも声がひときわ大きかったのだ。私は、別の意味で砂浜を走る時でも自分でステップを切るようにして鍛えていた。私は、身体も大きくないから、スマッシュの時にステップしながら勢いで打ち込んで、回転を掛けて、確実にイレギュラーバウンドさせようと思っていた。そして、次の日から私と若葉のダブルスの練習も始まったのだ。

 3日目、午後から個人の対抗試合をすることになって、私は朝咲先輩に勝って、燕先輩とは最終までもつれたけど、負けてしまっていた。新しいシューズも調子が良くって、飛ぶように跳ねていたんだけどなぁー。その後、花梨と燕先輩が当たって、やっぱり最終ゲームが取りあいになって16-15の時に燕先輩のミスで花梨が勝ち上がった。相手は、美麗先輩、香に勝って上がってきた若葉と決勝なのだ。だけど、花梨も疲れてしまっていたのか3-1で若葉が勝っていた。

 合宿も明日の午前中で終わりになっていて、その対抗試合の後、石切コーチから
「明日、打ち上げ後の帰りに京都で都女学院と練習試合をするのはみんなわかっているな 団体戦だ そのメンバーを発表する」

「トップ 燕 2番 美麗 3番ダブルス 水澄、若葉 4番 朝咲 5番 美雪 いいか? 先に3勝しても5戦やるんだ 全部取りに行くぞ」

 花梨の名前が呼ばれなかった。花梨のほうを見ると口を噛み締めるようにして、下を向いていたのだ。どうしてぇーとコーチを見ても涼しい顔をしているのだ。監督は花梨にエースになれって言ってたじゃぁない!  解散しても、私は花梨にどう声を掛けて良いのかわからなかった。だけど、響先輩が花梨を連れ出していたみたい。

「なぁ 若葉 どう思う?」

「う~ん ウチもわからんのやー でも、さっきの試合 迫力無かったなー いつもと違った 香 一緒に練習してたやんかー なんか・・・」

「そーやね いつものキレが無かったかなー 球が浮いたことが多かった 昨日の若葉との試合から・・・調子 悪いんやろな アレが来たんかな」と、呑気なことを言っていた。

 私達3人で入浴して、夕食の時に花梨が揃った。以外とすっきりとした顔をしていたのだ。最終日なので、食卓にはワンプレートでなくて、近江鶏という甘辛のとんちゃん焼きにサラダ、ビワマスのお造りと鮎の南蛮漬け、きのこと春キャベツのお味噌汁と合宿にしては、割と豪華なのだ。

「う~ん このとんちゃん焼き 柔らかくて、歯ごたえもあって美味しい!」と、普段の花梨に戻っていた。落ち込んでいるんじゃぁないかと心配するほどでも無かったのだ。私も香と「この ビワマス? 脂も乗っていて美味しいネ 初めて」と、話し合っていて花梨のことも忘れていたのだ。

 そして、次の日、合宿所を離れる時、響先輩が私と若葉を呼び寄せて

「あなた達は、実力的に言っても相手を上回ってるのよ いい? 水澄はアホやから、若葉がコントロールするのよ でないと、この子 調子に乗ってどんどん打ち込んでいくからー 今 あなた達の本当の実力を見せたら、全中までに競争相手から研究されるからネ」

「わかりました」と、若葉は言ってたけど

「先輩ぃー 私はアホですか?」

「ふふっ 言葉のアヤよっ! 花梨は成長したけど、あなたはまだ無鉄砲に相手に向かっていくのよ 少しは成長してるけど 水澄は卓球バカよ まぁ、試合 頑張ってネ」

 対校試合は我がチームは調子が良くって、5-0で圧倒的勝利を収めていた。その帰りの電車の中で花梨が

「みんな 心配させたと思うけど・・・ウチは落ち込んでへんでーぇ 響先輩が気付いていたんやー ウチ 無理し過ぎたんか、右の足首が痛かってん たいしたこと無いと思ってたんやけど 響先輩が 今 無理して、引きずったらどうするのよーって あなたは全中に向けてエースになるんでしょって それより、メンバーの試合を離れてじっくり観察しなさいっても だから、監督にも忠告したって そらぁー メンバーの発表を聞いた時はショックやったでー でも、響先輩に諭されてな スッキリしたんや」

「そーやったんやー でも 今は? 痛いんかぁー?」

「あぁ 大したことないと思うでー 疲労なだけやと思う 一応 病院で診てもらうけどー」 

 

8-2

 入学式も終えて、新入部員も10人程が顔を揃えて、その中でも小学校からの経験者が3人居て、京都から1時間以上かけて通ってくると言う杉下ひなたちゃん。小学生以下の大会で何度か優勝したという。でも、去年、初めて見た花梨が繰り出す鋭いスマッシュとは大違いなのだ。去年のレギュラーを脅かす花梨みたいな子はいないと感じていたのだ。

「なぁ 若葉 響先輩に言われた 私のこと 卓球バカってなんやろー 気になってるんやー」

「そーやなー 花梨も水澄もどんどん打ち込んでいくタイプやろー けど、うまい相手にぶつかると、球すじ読まれて通用せんと思うんやー 花梨は天才やから、直ぐにそのことに気がついて、自分を押さえて、逆のほうに打ったりして無理してたんやと思う。水澄は自分のスマッシュで決めることにこだわって恰好ええと思ってるんちゃうかー? 正直すぎるんやー 卓球なんてだまし合いやでー 相手の思ってるウラをどう攻めるかや! 水澄みたいに真向から向かっても、いつかは挫折するって 自分も疲れるしな」

「・・・」

「この前の試合 どうやった? ウチが水澄の打ち込んだスマッシュ返って来て、もう一度ウチが同じとこに打ち込んでも、返ってきたら水澄は逆を突いたり、短いので返して色々してたヤン 疲れたかぁ?」

「ううーん 自然と・・・」

「それで ええねん それが水澄の本来の持ち味やー ウチも すごぉー やりやすかったでー このままで行くと頂点に立てるって思った」

「若葉 ありがとう スッキリしたわー 私 花梨にも 無理させとったんやねー」

「あの子は そんな風に思ってへんでー きっと 水澄が居ったからー ペァを組んだから 気がついたんやー」

「若葉 いつも 冷静に見てるんやねー 頭ええんやー 成績もええんやろー?」

「ふふっ 水澄 学年3番やったんやろー ウチも3番やー 次はトップ 狙ってるんやろー ウチもな」

「ええー ・・・若葉・・・ 何者じゃー こわいぃー」

「何者って 水澄のほうが脅威やー でも、水澄と全中でも成績も 一緒にトップに立つんやー」

「やっぱり 怖いわー 若葉」

 そして、5月の前に新しいキャプテンが監督から発表されて、若葉になった。バイスキャプテンは花梨だった。やっぱり、若葉はいつも冷静だから、私も安心していたのだ。

「若葉 頑張ってなー 若葉にはピッタリやー」

「ウチも キャプテンやったら 負担が大きいから 嫌やなーって思ってたんよ 若葉を補助するくらいがウチにはええんやー」と、花梨も本当に ほっとしていたみたい。

「そうやー 監督も言ってたけど 香にハッパかけて 夏までには代表に選ばれるよーになってもらわんとなー」

「なんやのー 若葉 キャプテンになったらからって・・・急に・・・」

「そんなこと無いでー 仲間4人揃って行かんと意味ないんやー 朝咲、美雪先輩の上に行くのって あと 少しやー もう、二人とも向上心が少のぉーなってるからな」と、私も後押しをしていたのだ。

「わぁーあー イジメるの嫌やでー 花梨なんて 言い方 きついんやものー」

「ウチはそーいう風に教えられて来たんやからー しよーぅがないやろー でも 悪気ないんやでー」

「香 しばらく お嬢様 捨てやー なりふり構わずやでー」

「誰がお嬢様やのー 水澄のほうこそ お嬢様やんかー」

「そんなことないでー 私は 彼氏を捨てた トップになるためにな」

「なんやのー それは・・・ 一真さんのことか? ウチもそーせーってことか? クラブとは関係無いやん!」

「そう 関係無いよねー でも デートする時間があるんやったらー」

「水澄 そんなん かわいそーや無いの! 水澄とは考え方 ちゃうんやからー」と、若葉はかばっていた。

 私達は5月の連休の後半に4人だけで合宿をすることに決めた。急に決めたことなので・・・いつも、合宿に使わせてもらっている旅館に若葉が連絡を取ってみて、連休中ということもあって満室で断られたんだけど、体育館に布団を敷いても良いからと無理やり頼み込んだのだ。

 当日は朝早く出て、向こうには9時過ぎに着いていて、すぐに着替えて砂浜をランニングして、その後は打ち合いをやっていた。1泊なので強行スケジュールなのだけど、皆で決めたことなのだ。寝るところは、体育館の隅にでもと言っていたのだけど、ご好意で従業員の宿舎というところを使わせてくれたのだ。お昼にも塩こんぶのおにぎりと卵焼きを用意してくれていた。

 香もこれまでと違って右に左に動きが違ってきていたのだ。夕食は一般のお客さんの邪魔にならないようにと言っていたので、6時からで、私達には、そのほうが良かったのだ。ご飯の後も練習するつもりだったから。食事の時は旅館の女将さんが御世話をしてくれていて

「あなた達 熱いわねー 今年は 優勝しなさいよ! 応援してるんだからー 夏も来るんでしょ 待ってるからー」

「ハイ! この花梨はシングルも団体も 2冠とります」

「ちょっとぉー そんなの わかんないじゃぁない」

 食事の後も、試合形式で打ち合って、10時過ぎに、ようやくお風呂に入ったのだ。湯舟に浸かりながら

「香 いつも あんな可愛らしいのん 穿いてるんか?」

「うーぅ? 可愛らしいのって ショーツのことかー?」

「うん  あんなんやったらー 踏み込んだ時 気にならへん?」

「でも アンダーパンツも穿いてるし・・・ だいたいやなー 去年の夏 白浜行ったやんかー あん時 水澄もレースの可愛いのん穿いとったんやんかー ウチはまだ おぼこいのんやったんやー はぁーぁと思ってな それからー」

「あー あの時は、智子に吊られてな 併せて、そのまま・・・でも、今は ピタっとしたお腹までのんやでー あんなん クラブの時は頼んないやんかー 力入れたら、ずりそーでー」 

「ふ~ん そんなもんなんかなー ウチも白雪姫やめるかな!」

「誰が白雪姫なんや! 香はこれから ドロ雪団子になるんやでー 白雪姫なんて まだ 先の話やー しばらく おあずけ!」

「うぅー わかった 水澄 見捨てんとってなー ウチがドロ雪団子やったら 水澄は ドロ饅頭やろー」

 でも、最近の香は頑張って、実力もついてきているのが私にも感じられていたのだ。

 次の日も辺りが薄明るくなってきた時間から砂浜をランニングして、終わり頃にはみんなが私がしているようにステップを切りながらのランニングもしていた。そして、お昼時間を挟んで3時頃まで、びっちりとお互いを磨いたのだ。確かに、4人が1ステップ上達したように思えていた。 

 

8-3

 連休が明けて、キャプテン若葉で練習が始まった。と言っても、若葉の掛け声だけが響いて、これまでとたいして変わらない。しいて言えば1年生が混じって、練習するようになっただけで・・・私なら、練習前のランニングはジャンプしながらするとか、メンバーを1軍2軍3軍に別けて、各自の胸に青黄赤の印をするとか・・・勝手なことを想像していた。だけど若葉の場合には、きっと 思っても胸に収めて慎重にことを進めるのだろう。

 数日後、石切コーチに呼び止められて

「香の動きが良くなって 腕の振りも違ってきたのよー スマッシュも水澄に似てるみたい 何か ハッパ掛けたの?」

「みたいですね 香も目覚めたんじゃぁないですかー」と、とぼけていたんだけど、香は私達の言ったことを忠実にやりだしたのだ。

「コーチが 香は動きが良くなったって褒めてたわよー」と、帰りの電車で香に言うと

「うん 自分でもわかる この前 4人で合宿したお陰やー でも 3人について行くのって しんどいけどなー」

 でも、これで何とか4人揃って、大阪大会、全中といけるようになってきたと実感していたのだ。

「ねぇ これっ 見て!」と、香は携帯を見せてきて (練習大変だろうけど がんばれ! 応援してるよ! 香が試合で跳ねているのを見るの楽しみだよ それと、今度の日曜 クリームコロッケだろう? これも楽しみにしている) 一真さんからのラインなのだ。それもこの前の合宿の帰りなのだ。

「何よー これっ あの時の帰り? 送ってたの?」

「うん 一応 報告したんだぁー 応援してるよ だってー だから ♡ 返事したんだぁー」

「ああ そーですか! このクリームコロッケって 何?」

「今度の日曜日 作りに行くの 一真さんのために・・・」

「ふ~ん そんなの作れるんだぁー」

「お母さんに教えてもらいながらーネ」

「・・・お母さん? ・・・」

 結局、香には 私等の言葉より 一真さんの一言のほうが効き目あったみたいなのだ。

 日曜日、練習試合から帰ってきたお兄ちゃんの声で起された。朝、ジョギングをしてきた後、シャワーして全日本選手権のビデオを見ていて、そのまま寝入ってしまったのだ。

「水澄 なんて恰好で寝てるんやー 股 開いてよー 口はだらしなく開けてー 玄関の鍵だって開けっ放しやんかよー」

 私、ビデオ見ながら、片足をソファーの背もたれに乗せて見ていたものだからー。それに・・・ルームウェアの短パンなのだ。

「それと 短パンの奥に見えてるぞー レインボーカラーのパンツ」

 それでも、お兄ちゃんは私の脚をじぃ~っと見つめていたから

「なんなん お兄ちゃん そんな いゃーらしそうに見んとってーなー 私のパンツ 興味あるんかぁー?」

「ちゃう! 水澄 最近 太腿・・・逞しくなってきたなぁーって ちょっと前まで、折れてしまいそうなー」

「そーやろかー?」

「あぁ 完全に筋肉の塊がついているでー そらぁー 毎日 ステップ踏んで鍛えてるんやものなー 肩と腕も太くなった」

「えー どーしょう 美少女コンテストに出られへんやろかー」

「それは 水澄の目指しているもんとちゃうやろーぅ? その肉が少しでも胸のほうに付いたら良かったけどなー まぁ 美少女ボディビルダーには出れるかもなー」

「なんやねん! 私が一番気にしてることを・・・ うぅーぅ 晩ご飯 お兄ちゃんは みそ汁だけなー この前 お父さんがなー 自分はハイジャンプやってたって言ってたやろー お母さんも高校の時 ハンドボールやってたんやってー そやから 私がステップして脚強いのって お父さんとお母さんの遺伝やろーってさ!」

「うー 親父の遺伝なぁー・・・」

「あっ もう3時やんかー 仕込み しやなー お母さんからミートローフにしなさいって言われてるのー もう、こんな時間なんやー」

「水澄 ず~っと 寝てへんねんやろー? 昨日も 何時に寝た?」

「・・・3時か4時かなー」

「勉強してたんやろけどー お前 身体壊すでー 朝も 休みでも6時前に起きてるんやろー」

「平気やー 若いんやからー 4時間も寝れば」

「睡眠は大切なんやでー 大谷さんもゆうとるやないかー それに、若いうちの睡眠は脳にもお肌にも良い刺激を与えるんだってよー 4時間睡眠なんて 昔の話だよ」

「そんなことゆうけどなー 学校から帰って来て7時~7時半やろー それから、晩ご飯の支度して、食べ終わって、後片付けしたら10時やろー それから素振りとステップ横跳びトレーニングして、お風呂洗ってから、入って、ようやく11時頃から勉強やねん・・・3時頃になるヤン 朝は、朝ご飯に私等のお弁当やろー お母さんも居るけど手伝わなあかんヤン 5時半に起きやなー間に合わへんねんでー」

「水澄 そんなんやったんやー 2.3時間しか寝てへんねんやー いゃ すまん 知らなかった」

「う~ん でも 日曜日は時々 お昼寝 してるからー」

「わかった! 風呂洗いは俺がやる それと、朝はバタートーストとハム、ウインナーで良い 自分でやる 弁当も前の日におにぎりを3つあればいいよー おかずは要らん 空いた時間もっと寝るようにしろ!」

「う~ん 本当かなー」

「やるよ! 水澄の為だ それより 小腹 空いてるんだ 何か ないか?」

「お兄ちゃん! その一言が、私の時間を奪ってるのよーぉー」
 

 

8-4

7月の初めの日曜日、私はお母さんからおかずになるものをと買い物を頼まれていて、渋るお兄ちゃんを強引に誘って自転車で少し離れたショッピンクセンターに来ていた。

 私達がカートを押して食料品売り場に入ろうとすると、離れたフードコートの所で翔琉の姿が目に入って・・・真直ぐで長い髪の毛で、赤いノースリーブのTシャツに白いミニスカートから褐色の脚をのぞかせた女の子が翔琉の手を取って、ダダを捏ねるように横に振り動かしているのだ。その度に黒い髪の毛がツヤツヤと揺れている。私には、長いこと縁が無くなってしまったものだ。

 私は、その様子に目が留まって立ち留まってしまったのだが、お兄ちゃんも気がついたようで

「なんだ 翔琉じゃぁないか あんなとこで何してるんだろうなー あの女の子 どっかで見たような・・・ 水澄 いつから翔琉と逢ってないんだ?」

「えーとぉー 1月からかな もう ええやん 行こぉー」と、私は何でも無かったよーにカートを押して野菜売り場に向かった。でも、頭の中はぐちゃぐちゃだったのだ。

「あっ 思い出した 今年のサッカー部の新入生の女の子 前見た時はポニーテールにしてたから わからんかった ふたりで何してるんだろうな?」

「もう いいの! お兄ちゃん 何 食べたいの! さっさとお買い物 済ますんだからー」

「あっ あー おっきい海老フライ」

「あのねーぇ おっきい海老なんて売ってませんし、あったとしても高いんだからー うちの家計 考えてよー」と、実際 お母さんから預かったお金には限りがあるのだ。

「なんか 主婦の言い方だねー まぁ こんなに可愛らしい美人主婦も居らんやけどーぉ」

「お兄ちゃん 今 なんてぇー 可愛らしい? 美人? 私」

「うっ うん まぁー ・・・健康そうな脚がすぅっと伸びて そのミニスカートも似合うよ」

「なによーぉ スカートかぁー まぁ いいやー」

「水澄 そのネックレスとペンダントしてきたんか?」

「うん おかしい? だって していくとこ無いんだものー どっちも大切だしー」

 なんだかんだで、気分を良くした私は 結局 小さめだけど10尾\900のブラックタイガーをカゴに入れていた。お母さんに言わすと、バナメイとか赤エビのほうが安いんだけど、海老の味がしないと聞かされていたのだ。

 その日の夕食は海老フライでお母さんと私は2尾ずつで、お兄ちゃんのお皿には4尾乗せて、他にじゃがいもとナスビのフライで誤魔化していたのだ。

「うん まぁ 小振りだけど これはこれでうまいなぁー」と、お兄ちゃんはノー天気なことを言っていたけど、私は、その夜 翔琉と女の子の姿のことが気になって、あれこれ考え込んでしまっていた。

 そのまま期末考査があって、夏休みまでの数日間、2年生の今年から成績が張り出されるようになっているのだ。

 学年トップはSクラスの大路輝葉《おおじきらは》さん。おそらく、1年の時も彼女だったのだろう。2番目は若葉で、私は3番だった。

「若葉 すごいね 2番だって」

「そうねー トップ狙ってたんだけど 3点差だった 水澄もすごいわー ウチと2点差よ ほとんど 変わらないわよー」

 だけど、改めて若葉は何者なのって思っていた。私は、寝る時間もあんなに削って頑張ってきたのにー・・・普通の顔をして・・・。いけない このままじゃぁ 若葉は、きっと2学期にはトップになるだろう。そして、全中でも私とトップに立って・・・成績でもクラブでも 学園のスターじゃぁないの。大路輝葉さんは、学校の成績では、トップなのだろうけど、クラブは吹奏楽部でクラリネットを吹いていて、目立たない存在なのだ。それに、申し訳ないけど、とうてい可愛いとは言えないのだ。だけど、私とお母さんが描いているスターへの道はどうなるのー でも、可愛らしさからいうと、若葉より、我がことながら私のほうが可愛いわよー と つまらない幻想にも惑わされていたのだ。

 お母さんに成績のことを報告すると

「そう がんばったわね 今度は卓球ね 全中トップでしょ」と、普通の顔をして言ってきた。この人はどんだけ私をけしかけるのだろうか。あなたの娘はもともと凡人なのに・・・

 だけど、私は香が8番目に名前を連ねているのを見逃していたのだ。そして、夏休みに入ると、直ぐに 合宿が待ち受けていた。今年は、日程の関係で3泊4日なのだけど、最終日には高校生との合同試合も予定されているのだ。相手が高校生でも絶対に負けられないわと、誓っていた。そして、翔琉に逢ったあの日の言葉を無理やり信じることにしていたのだ。きっと、あの女の子とはたまたま出会ったとか、何かの事情で一緒だっただけなのだわ・・・。翔琉は私にぞっこんのはず。私、それどころじゃぁ無い。目標は全中の頂点に立つことなのだ 

 

8-5

 今年は、福井に行くっていう話は無かったみたい。そして、いつもの琵琶湖畔で3泊4日の合宿へ。

「香 また 切ったのぉ? スポーツ刈りやんかー 高校野球か?」

「うん 気分転換やー 変身するの」

駅に着いて、迎えのバスに乗るのだけど、乗り切れないので2班に分かれて向かった。そして、予定していたお弁当の後のランニングも灼熱の砂浜を見て、コーチは中止していた。

 体育館の中は、私達が柔軟体操を始めると直ぐに、汗がにじみ出てくるのだ。おそらく27.8度なのだろう。

「去年より中は暑いみたいだ。30分に一回は水休憩をするからな! 調子悪くなったら、遠慮せずに直ぐに言えよ」というコーチの注意事項で始まったのだ。そんな中では香は元気に飛び跳ねていた。

 合宿の最終日。午前中の最後に、午後からの高校との合同試合のメンバーを決める試合が行われて、燕先輩、美麗、朝咲、美雪先輩、そして、花梨、若葉、香と私が選ばれた。まぁ、今の実力からすると妥当なのだろう。

「香 がんばったヤン 今日の香は神がかってるでー」花梨も感心していた。

「うん 3人のお陰でなー 調子ええねん それに ウチは絶対に代表メンバーにならなあかんねんやー」

「それは・・・ 一真さんが見に来るからやろー 恐ろしいワー 恋って」

「うふっ ウチは水澄みたいに彼氏を捨てへんでー 彼氏も (ちから)なりや!」

 そして、午後からの試合。中学生で1回戦を勝ちあがったのは、燕先輩、花梨、香と私だった。美麗先輩は響先輩と当たってしまって左右に振られていた。香は相変わらず絶好調で、サーブを繰り出す時、ニャッと微笑んでたものだから、相手も調子狂わされたみたいだった。でも、香の次の試合は高校生のエースの室生翠《むろおみどり》さんで、最初はポイントを連取していたけど、そのあとは立て続けに取られて0-3で相手にならなかった。私も、第2エースの高月美奈《こうげつみな》さんに1-3で負けて、燕先輩も響先輩とで1-3で負けてしまって、花梨だけが勝ち上がったのだけど、次の室生翠さんに、食い下がっていたのだけど、最後のポイントが取り切れなくて0-3に終わっていた。

「やっぱり 高校生相手では通用せんなー ウチ等」

「そんなことなかったでー 花梨 全部のゲームの途中までリードしてたやんかー 3ゲーム目もデュースまでもつれ込ませたやんかー さすが ウチ等のエースやでー」私は、花梨が少し気落ちしているようなので、盛り上げようとしていた。でも

「いろいろ工夫したつもりやったんやけどなー 相手が強すぎるわー」

「でも コーチは それが狙いやったんやないかなー 試合中でも工夫しろって! 相手の弱点を考えろって 実際 皆は工夫しながら試合してたやんかー」と、若葉がいつもの調子で解説してくれて

「そーかなーぁー でも 負けたらなんもならへんやないのー」

「それでも きっと 身についてるって!」と、若葉も皆を元気づけようとしていた。我らがキャプテンなのだから。

「だけど、来年は追い抜いてやる 全中も連覇する そて、高校に入ったら 全日本や」

「ちょっとー 花梨 頭おかしいんやないのー まず高校総体は?」

「はぁー そんなん 練習試合やー 全日本、オリンピック目指さなどうすんのん 水澄も一緒やでー」

(えぇー ・・・ この子 若葉と一緒で 何者なのー 加えて、香も変身してるしぃー こんなんが仲間なのー 私)

 大阪大会まで日にちも無くって、コーチから代表メンバーの発表が有って 

「初戦 トップ 燕 2番手 香 ダブルス 水澄と若葉 4番 美雪 5番 朝咲 2戦目 トップ 美麗 2番 花梨 ダブルス 水澄と若葉 4番 ひなた 5番 朝咲 以上 初戦も2戦目も 3勝先行だぞ! 落とさないつもりでやれ!」

 帰りに皆で集まって、パンケーキを食べに寄って

「香 良かったね 選ばれたヤン」

「ウン 一応ネ ウチ 大丈夫やろうかー 公式戦なんて、初めてやしー それも 初戦やろー 負けてしもぉーたら 皆に迷惑かかるなぁー」

「アホッ 何のために練習してきたんやー ウチは試合無いし ベンチサイドに居るから、いざって時にはアドバイスもするから安心してー」と、花梨が言っていると

「花梨は2戦目の試合で、大阪大会は最後になるかもねー」と、若葉が言うと

「えぇー なんでー ウチはエースやって コーチもゆうてたんやでー」

「だからよー 考えてみて 順当なら 花梨 燕先輩 ウチ等 ダブルスやろぅ? 4番5番はわからんけどー ウチやったら 4番 香 5番 美麗先輩やなー これが太子女学園のベストメンバーやー そやけど 何で 初戦も2戦目もメンバーが違うと思う?」

「それは いろいろと試したいんちゃう?」

「それも あるけどなー 花梨を隠したいんやー いい? 花梨は去年は幸い 全中では団体一回戦にしか出てへんねん おそらくデーターがないんやー 特に、山手丘にもなー コーチ、監督の思いは 今年は 山手丘の秋元蓮花に花梨をぶつけるんつもりやー 花梨にしか勝てへんからな そやから、対戦まで秘密にしておきたいんやー だから、春の時の対校試合でも花梨を使わへんやったやんかー」

「う~ん 響先輩からも あん時 そんな風なこと言われた 足が調子悪かったのもあるけどなー」 

「監督とコーチは今年の全中制覇を狙ってるの 去年は思いかけず1年の見沼川七菜香も居てやられたからね 今年はリベンジって思ってるわ」

「なるほどねー 若葉の解説は説得力あるねー なんで そんなのわかるん?」

「まぁ 普段のコーチが練習の時に 何を見てるのかとか 誰と誰を練習相手にさせているかとかー 繋ぎ合わせるとそうなるのよー」

「へぇー 繋ぎ合わせるねぇー」と、私には、わかったような、わからないような

「水澄 ウチ等ペァも 今年デビューやんかー だから 本当は隠しときたいんよー でも 大阪大会と言っても そんなに甘くないんやー だから、確実にウチ等で1勝取りたいんだと思う 責任重大なんやでー それに、香も・・・おそらく、初戦で香が勝ったら、決勝まで使うと思う 申し訳ないけど 花梨のダミーとしてな」

「なんやの そのダミーって」

「2年生の新人って ああ あいつのことかーって 敵に思わせるんやー」

「ふ~ん でも 頑張るよっ! 彼も見に来るって言ってるから」

 へ~ん 香の場合 本当 神ががったままで行くのかもって思っていた。
 

 

8-6

 大阪大会の初戦の日。個人戦から始まって、ベスト8に残ったのは、燕、美麗先輩、花梨、若葉と私の5人だった。だけど、準々決勝で私と当たる予定の花梨は棄権してしまっていた。そして、美麗先輩と若葉が当たっていて、美麗先輩が勝ち上がって、次は二色が浜の進藤かがりさんなのだ。私は、燕先輩と当たってしまって、最終ゲームまでもつれ込んで、デユースを繰りかえしたけど、結果、準決勝敗退。結局、決勝では勝ち上がってきた美麗先輩と燕先輩の戦いになって、燕先輩が優勝していた。

 そして、団体戦の試合前の準備練習で、香の動きが硬かった。

「香 どうしたん? 緊張か?」と、若葉が心配して

「うん・・・ なんか お腹重い」

「早い目にトイレ いっといでーな」

「うー そんなんとちゃうねんけどなー」

「あのなー 普段の香やったら そんなに難しい相手ちゃうでー 気楽にいこーぜ」

 会場は4試合が同時に行われるので、試合前の調整をする場所が無くて、廊下で身体を動かす程度しか出来なくて 「花梨 香のフォローお願いね」と、言い残して、私と若葉は会場を離れた。

 我がチームの試合が始まったようだけど、20分ほどでトップの燕先輩は圧倒的に勝ったみたいなので、私達が会場に戻ると、もう第2試合が始まっていて、香は第1ゲームを5-11で落としていて、花梨が香に向かって

「香がビビッて負けるのは勝手やけどなー 後のメンバーがカバーしてくれるやろう でもな でも 全体の流れってものがあるんやー 雰囲気が悪うなるんやでー ウチ等、学校の代表メンバーやでー 忘れてるんちゃうかー! 自覚しいやー! 香が普通にいつもの調子でやったら勝てる相手やないの! 変身したんちゃうのー」と、強い口調でハッパを掛けていた。

 それからは、香も気を引き締めて、連続で3ゲームを奪って勝っていたのだ。次の試合の私達も3-0で危なげ無く勝利していたのだ。

 1日空いての2戦目。美麗先輩、花梨と私達ペァも難なく皆が3-0で勝っていて順々決勝に進んでいた。

「明日の準々決勝のメンバー トップ 燕 2番 香 3番水澄と若葉 4番 美麗 5番 朝咲 でいく」と、試合の後 コーチから発表があった。若葉が言って居た通りに香が選ばれてたのだ。

 試合が終わった時、会場には一真さんの姿も見えていた。だけど、香は向かって手を振るだけで私達の元に戻ってきていた。

「ええの? 香 一緒に帰るんちゃうのー?」

「ううん 今日はええの それより 花梨 ありがとうネ ウチ 血がのぼってぼぉーとなってしもてたんやなー あの時 叱ってくれて 眼が覚めたわー やっぱり仲間やなー」

「仲間やねんけどなー 香 戦っている時は自分 ひとり なんやでー 自分でなんとかしやなーあかんねんって・・・覚えときやー」

「香 花梨はきついこと言うてるみたいやけどなー 花梨やって 試合に出たくってウズウズしてるんやでー 暴れたいはずやー 香には何とか勝って欲しいんやー けど・・・おそらく、監督から諭されたはずやー なぁ? 花梨? 秘密兵器やって言われたんちゃうの? 全中に向けての もしかしたら、大阪大会の決勝も隠されるんか? そーなんやろー?」

「・・・若葉はお見通しやねんなー コーチから試合メンバーの発表があるまでは 皆には黙っておけって言われたんやけどー 監督に呼ばれて・・・どうしても 今年は全中制覇したいんだってー その為にウチには犠牲になってくれって 個人戦も、大阪大会では全中個人戦のに出る資格を取れる準々決勝までで、あとは棄権するんだってっ ウチは もう 全中決勝で秋元蓮花に勝つことに専念してくれって ウチならきっと勝てるから それまでは、ウチのことを隠しときたいんやって 研究されんよーにな その為に必ず太子女学園を全中決勝まで連れて行くことを約束するから・・・勿論、全中では個人でも優勝するんだぞって言われた」

「えぇー そんなん むちゃくちゃヤン 花梨やったら そんなんせんでも勝てるわー」

「水澄 でもなー 水澄やって ウチのこと いろいろと見て、弱いとことか考えて・・・ 今では、ウチとやっても対等になったやんかー 全中の頂点に立つんはウチの夢やー シングルは難しいかも知れんけど、団体は頂点に近いと思う そやから 承知したんやー 監督も言ってたけど、来年は連覇やーって 来年は思うように暴れてくれても良いから・・・今年は・・・ってよ!」

「う~ん なんやー 納得出来ひんけどなー なんか  真正面からとちゃうよーなー 花梨が納得したんやったらー ええけどー」

「それとなー 本当やったら それは水澄の役目やったんやけどー あいつのスマッシュなら 相手も戸惑うと思う でも あいつはアホやから、言っておいても自分からどんどん行くやろー 経験不足やから、加減して、相手見て対応できないんやー まだまだな で 花梨に託すことにしたって ゆうてたでー」

「なっ なんやー 私はアホなんかぁー 前も響先輩に言われたわー なぁ 若葉ぁー?」

「そうねぇー 燕先輩との試合 最後までもつれて、でも 水澄はスマッシュ繰り返していて アホみたいに・・・ 同じとこにこれでもかと繰り返してー ちょっと、フォア側とか短いスマッシュもあるでしょ あの魔球みたいなやつ 先に先手打ってれば決着ついていたのに・・・」

「・・・だって・・・あんまり手の内みせたらあかんと思って・・・」

「ふふっ 水澄はまっしぐらやからなー バカ正直で・・・ でも ウチは 真正面から秋元蓮花にぶつかっていくでー それまで あんた等 絶対にウチを全中決勝まで連れて行くんやでー」と、花梨は・・・

 その後、4人で手を合わせて「頂点に立つぞー オー」と、体育館の前で叫んでいた。 

 

8-7

 準々決勝では、燕先輩、香、私達のダブルス共に3-0で勝ち進んだ。この日は香も最初から快調にポイントを重ねていた。試合が終わって、コーチから

「明日は、午前中 準決勝 午後から決勝だ どっちも 今日と同じメンバーで行く 気を緩めるなよ 我々の目標は全中制覇なんだからな!」と、発表されると、クラブのメンバーの何人から、小さく「えぇー」という驚きに似た声も聞こえていた。当然なのだろう 花梨の名前が無いのだからー。花梨は下を向いた切りなのだ。彼女は今 何を考えているのだろう。悔しいのには違い無い。それとも、全中で頂点に立った時のことを思い描いているのだろうか。私には、まだ 彼女との付き合いも長く無いので 今 どんな心境なのかは察することが出来なかったのだ。

 次の日。会場には学園の連中とか高校卓球部の何人かと、あの3人の仲間にお兄ちゃんと硝磨さんも応援に来てくれていた。もちろん、手を振りはしなかったけど、翔琉の顔を私は真直ぐに見ていたのだ。絶対に優勝するから見ててねという思いで・・・。そして、香も一真さんの顔をしっかりと見ていた。

 午前中の準決勝は、私達は快調に勝っていて3-0で決勝に進んでいた。そて、決勝の試合で、トップに進藤かがりさんが出て来ていた。去年はダブルスでウチを苦しめ、秋に私と花梨が挑んだ試合でも苦戦した相手だ。今年は、二色が浜中学のエースとして君臨しているのだろう。

 第1試合は、燕先輩が1ゲーム、2ゲーム目も連取していたが、3ゲーム4ゲーム目を巻き返されてしまっていた。最終ゲームの前、花梨が

「キャプテン 相手にはセンターへのロングサーブ効くみたいですよ」と、一言言っていた。すると、そのゲームをあっさりと11-4で勝ったのだ。

「花梨 なによー もう キャプテンちゃうよー でも、アドバイス効いたみたい ありがとう」

「ふふっ ウチのキャプテンやから・・・」

 2試合目も香が1ゲームは取ったけど、2ゲーム目はやられてしまって

「香 ええでー 負けても 安心しー ウチも試合出たいからなー」と、美麗先輩が励まし? ていると

「香 あかんでー コーチもゆうとったやろー 気を緩めるなって ウチとみんなの夢を背負ってるんやからな! いつものステップが弱い 脚が折れてもやるんやでー」 と、花梨がハッパをかけて

「うん わかったー」と、繰り出して行った香は3ゲーム4ゲーム目も連取していた。あの子 私の得意としている跳ねてのスマッシュを繰り出していて、相手も対応出来なかったのだ。

 そして、私達ペァは難なく相手を翻弄させて3-0で勝利していた。結局3-0で優勝していたのだ。

「なんやのー 水澄 得意のスマッシュ 出んやったヤン バックハンドとかフォアサイドばっかーやったなー」

「ふふっ ばれたかぁー 私は 研究されたらアカンから 全中対策やー」 

「もぉーぉ 君達は最強やねー 水澄もウチとの時より 進化してるわー ちょっと アホで無くなったカナ」

「うふっ 懐かしいね 花梨と・・・私は 花梨が居ったから どんどん うもぉーなった」

「ウチもなー 水澄が居ったから 助けられたんやー これからもなー 全日本、オリンピックまで」

「また そんな・・・夢・・・かぁー 数年後には・・・」

 あの時、お母さんが太子女学園に行けって言ってくれてなかったら、こんな夢もとんでも無かった。そして、もし、智子と一緒だったら、一緒にダブルスを組んで暴れていたのかも・・・。それとも、私があの仲間と一緒の中学に行っていたら、4人でサッカーをやって走り回っていたのかも・・・。そして、翔琉とも毎日が一緒に過ごしていたのかしら・・・そーしたら 二人の仲は・・・もう していたのだろうか。と、すごい 妄想に走っていた。気持ちが ふっ と、緩んでいたのだ。

 そして、皆で難波の駅まで向かおうととしていたら、翔琉の姿が見えた。私を待っていてくれたのだろう。皆には「ごめん」と、駆け寄って行くと

「お疲れ すごいね 優勝だねー」

「うん まだ夢への第一歩だけどね」

「でも 確かな一歩なんだろう?」

「そーだね 去年は出れなかったからね 進歩よ」

「着実に登ってるから 水澄は偉いよー 努力してるもんなぁー」

 と、一緒に帰ってきたんだけど・・・他の皆は、もう それぞれ帰ったのだろう。香も、きっと 一真さんと一緒に違いない。

「なぁ 明日 練習 休みなんやー デートしてぇー 私 落ち着いた公園知ってるシー 学生証持っといでよー」

「あぁ 良いよー」

「でも ミーティングがあるからと言って家出るから ちょっと朝 早い 8時な!」 

 

8-8

 駅では、私は翔琉と偶然出会った振りをしていた。そこまでする必要も無いのだが、だんだんと翔琉と逢うのも内緒みたいになってしまっていたから。

 紺と白の縦ストライブのサロペットスカートにスニーカーで、お母さんは仕事で出て行った後に、お兄ちゃんが部屋に居る間に家を出てきた。別に、隠れる必要も無いのだが、いろいろと聞かれるのが嫌だったし、不必要なウソをつくかも知れないからだ。

「水澄のそーいう恰好見るの 久し振りやなー」

「そーやったかなーぁ 可愛いんで惚れ直した?」

「うん 可愛い ドキドキするよ」

「うそヤン いつやったかなー 女の子とフードコートのとこで イチャイチャしとったやん?」

「えぇー ・・・ あぁー サッカー部の後輩で、たまたま会ったんだよ しつこくセブンパークに行こうって誘われとった でも 行ってへんでー 断ってた」

「ふ~ん でも にやにやしとったヤン 可愛い子やろーぉ?」

「そんなことないよ! 水澄に比べたら 階段の上と下やー」

「あっ そう あんまりしつこぉー聞くと 翔琉に嫌われるから やめとこぉーっと」

 公園に着いたけど、まだ 開園時間には早すぎたので、木陰のベンチに腰掛けると

「なぁ 達樹さんと智子って 何か 知ってる? 付き合ぉてるんか?」

「うー それは無いと思うけど・・・ちょいちょい 智子 ウチに来てるみたい 何か お兄ちゃんに勉強 教えてもらうんやってー」

「ふ~ん それだけ?」

「私 帰りも遅いやろー よー知らんねん 気になるんか?」

「いや 練習の時でもな 達樹さんはこんな具合に走ってたんやでー とか 最近 時々、口に出すからなー 俺とちごぉーて十蔵が・・・ あいつ はっきりとは言わへんねんけど 智子のこと好きなんやろーな 時々 遊びに行くの誘ってるみたいなんやけど・・・気してるんやと思う」 

「はぁ はぁはー 十蔵なぁー 智子は諦めって ゆうときー 智子の理想は高いでー」

 と、私は誤魔化していたけど、本当に私は、あの後 智子がお兄ちゃんに対してどう 動いているのか知らないのだ。お兄ちゃんからも智子という言葉が出て来るのも聞いたことが無かった。

 まもなく開園して、学生証を見せて入ると

「へぇー 中学生までは無料なんか すっげぇー」

「そんなんに驚いとったらあかんでー 中はもっと すごいからー」

「わぁおー なんやー このでっかいのん  マンモスって こんなやったんかー」

「マンモスちゃうでー ナウマンゾウやー」

 その後、私はこの前覚えたこととか、一真さんに教わったことを説明してて

「いい? ナウマンゾウは日本とか中国大陸辺りに居たの マンモスは北米、ヨーロッパの北のほうに居て、氷河期で毛も長いし何百年も昔 ナウマンゾウはもっと後なのよ 間違えて覚えることの無いようにしようネ 今度は・・・」

「こんどは・・・ あぁー 石田三成か?」

「そう あん時 4年生の遠足で長浜城に行ったでしょ 天守閣の下の広場でお弁当食べていたら 世話好きのオッサンが、長浜の話をし出して、その近くの村の出身の佐吉というのが居て、賢くて優秀だったから出世したのだ それが石田三成なんじゃ なんてね だから、私達 長浜城主は石田三成なんだと覚えてしまったのよねー ふたりで間違ったから、河道屋先生に勘ぐられてしまってー」

「そーだったね・・・でも・・・水澄 遠足に行ったのは 彦根城だよ」 

「へっ そーだった? わぁーあ 恥ずかしいぃーー」

 その後も、博物館内を見てまわって、翔琉も感動していて、お昼はカフェテラスで、私はパンケーキ、翔琉はカツサンドを頼んでシェアして食べていたのだ。

「水澄 明日から 練習か?」

「うん お盆は3日間お休みだけど、その前の3日間は強化練習でね 朝から4時まで そして、お盆明けも練習で、22日から長野で大会」

「さすがに 全国大会に行く学校は、厳しいのぉー」

「あのね これは部員以外は極秘なんだけどね 春合宿の時は 練習でミスしたり、気合が入って無かったりすると 体育館の端から端まで うさぎ跳びなの それも(私は ドシでノロマなうさぎです)って、飛ぶ度に言わされるのよー 今の2年以上は皆 一度は、やらされたことあるのよ」 

「えぇー それって イジメっていうか パワハラとか・・・」

「そう 恥ずかしくってね 脚もガクガクで辛いしー 途中で泣き出す子も居るわー でもね それで、精神的にも強くなるの やらされた人は皆が言っているわ 自分の殻から抜けた気がするって でも これは、極秘なのよ! 私も、最初 恥ずかしいし自分がボロボロになったわ でも、それからヤケクソみたいになって頑張ろうと思ったの」

「へぇー 恐ろしいなぁー どこかの宗教みたいだな でも それなりの努力があるんだー 全国制覇の栄光が待ってるんだー 俺は、練習あるから応援に行けないけど 水澄 頑張れよなー 6年の2学期 水澄は頑張ってトップになったやんかー 太子女学園にもあっという間に合格してた お前には底知れない力があるんやー 俺も 逢うの我慢してたんだからー その分な」

「わかってる こんな私でも 想っててくれて ありがとう やっぱり 翔琉やなー」

 その後、植物園も見て周っていて、大きな植物の陰になった時、辺りに他人が居ないのを二人ともわかっていたので、どちらからともなく抱き合って、唇を求めていたのだ。そして

「水澄が欲しい 全てを欲しい」

「・・・うん・・・ あのね 長野の帰り 試合終わったら、もう 1泊するってお母さんには言うから・・・どこかで・・・でも、帰ってきたら夜だよ 多分」この時、翔琉の言葉で私は覚悟したのだ。

「わかった つもりしておく」

「ねぇ だけど 頂点に立てたらだよ ダメだったら 来年までお預けね」

 私は、携帯のことを翔琉に打ち明けて番号を交換して別れてきたのだ。少し、頭の中で 翔琉のものになることがよぎっていた。だから、もし言われたら、素直に翔琉に応えるつもりだったのだ。

 その夜、お父さんがお祝いだとステーキのヒレ肉を買ってきてくれた。昨日はお父さんも帰りが遅かったのだけど、今日はお母さんも少し早い目に帰ってきてくれて、皆で食卓を囲んだのだ。私達が舌鼓を打つや否や

「水澄 よく やった おめでとう さすが僕と民子の娘だ」

「ありがとう お父さん 春に買ってくれたシューズ 効いているかもね」

「何言ってるんだ 水澄の努力の結果だろう あのシューズのお陰だったら 皆が優勝だよ 長野の決勝に是非とも応援に行くからな!」

「えぇーぇ いいよー 決勝まで残れるかどうかわからんしー」

「そんなことないだろう 会社の連中も応援部隊で行くと言ってくれたんだ 3人だけど 若手の新入社員と女子2人な」

「そんなー」

 私は、来るのは別に良いのだけど・・・帰りが一緒だと まずいと瞬間 心配していた。

「達樹達は来れないらしいから、スマホで実況配信してやるからな」と、お父さんはお酒も進んで浮かれていたのだ。

 

 

9-1

「気を引き締めていくぞ 全国制覇だぞ」と言うコーチの言葉で第2ステップの練習が始まった。そして、見たことのない男の人が側に立って居た。

「卓球留学で台湾の大学生だ 練習相手にな 強烈で速い球に慣れるためにな」

 どこから連れてきたんだろうと思っていると、花梨の相手に付けていた。どこまで、この人達は花梨をイジるんだろうと感じていた。だけど、花梨は黙々と相手をしていたのだ。

 相手は男子で大学生なのだ。撃ち抜かれるようなフォアハンドにカウンターにも花梨は黙々と向かっていて、喰らいつこうとしていた。おそらく、彼女の負けん気の強さがそうさせているのだろう。

 練習では、香がコーチから集中的にしごかれていた。いくらか普段より動きが悪いようにも見えていて

「香 動くの一瞬遅れているぞー 何 考えているんだ! 身体で反応しろ!」と、滅茶苦茶なことを浴びせられていた。香は必死にやろうとしてるのだけど、やっぱり、瞬間遅れているみたい。

「ダメだ 香 何迷ってるんだ! また ドジノロうさぎ やるかぁー? ・・・しばらく、花梨の動き見てろ」と、コーチは香に言い残して、今度は私達ペァの練習を見に来ていた。私は、幾らか緊張していたのか、若葉が

「水澄 気にしたらダメ! 集中して!」と、引き戻してくれていたのだ。

 そんな調子で強化練習も最終日を迎えていたのだけど、花梨はその台湾の人とも対等に渡り合える程度にはなっていたのだ。

 今年のお盆は福井の海の話も無く、お兄ちゃんも家でだらだらしていて、私と涼しくなった夕方にジョギングに付き合う程度だった。15日には、無理やり智子がやって来て、一緒にジョギングに付き合ってきて、おまけにシャワーまで浴びて、晩ご飯まで居座っていたのだ。なんだかんだと、ジョギングの時からお兄ちゃんの側に寄り添っていて既成事実をつくろうとしているみたいなのだ。だけど、私は無視するようにしていて、午前中にも自分なりにトレーニングを続けていて全中のことに集中するようにしていた。それに、去年の全中の時の秋元蓮花の試合の録画を繰り返し見ていて、イメージトレーニングをしていた。私だって、勝つつもりなんだからー。

 翔琉からはラインが入っていた。(25日の夜 大津でホテル取った 琵琶湖も窓から見えると思うよ ダブルな) 私は、見た時、しばらくスマホを見たまま、動けなかった。ダブル・・・寝る時 横に翔琉が居るの・・・当たり前のことなんだけど、実感できなくて、ぼぉーッとしていた。私は・・・どういう姿 ? ? ? どんな顔をしてるんだろうか・・・ だからさー 今の私は、こういうこと考えたくないのよー 翔琉に 携帯のこと、話したのは失敗だったと 後悔していた。あの時、久しぶりに唇を合わせて、甘~い感覚に流されてしまった・・・。それでも、その夜は、自然と疼いてきているあの部分に手を添えて押さえたまま寝てしまったのだ。

 16日はお父さんもお母さんもお休みで、今晩は寿司でも喰いに行こうかとお父さんが言い出して

「くら寿司か」

「お父さん 飲むでしょ 車で無いのならね ちよっと遠いよー」と、私が言うと

「まぁ 長次郎にしとこうよー ちょっと高めだけどなー ネタがいい あそこなら何とか歩いていけるだろう?」と、お兄ちゃんが

「お盆で きっと 混んでるよー 早い目に行ってさー そこそこでティクアウトにしようよー 私 先に行って 順番取っておく ねぇ お兄ちゃん?」

「何でぇー 俺まで巻き込むなよー」

「ふ~ん・・・ あなたの可愛い妹を独りで行かせるの? どんな人が居るかわからないとこに独りでポツンと並ばせるの?」

「わかったよー 親父 あなたの娘は最近 脅迫することを覚えたよーですよ」

 結局、私とお兄ちゃんは自転車で先に行くことになって、お父さん達は後から歩いて来ることになった。でも4時頃だったせいか、案外空いていて、私達の順番がきた時には、お父さん達はお店に着いて無くて、先に私達は席に着いて、しょうがなくて注文を始めていたのだ。お兄ちゃんは真っ先に串揚げを、私はつぶ貝とイカを注文して

「あのな 水澄 揚げ物っていうのは 手間かかるだろう? 時間稼ぎにはいいだろう?」

 はぁー お兄ちゃんはしようもないとこでも考えてるんだぁー。でも、私が2皿目を食べ終わった時に、お父さん達がやって来て、まず ビールを注文していたのだ。

「うぅー うまい! 久し振りに汗をかいたからなー ビールがうまい さぁ 食べようか」と、言いつつ アジの造りを頼んでいた。

「水澄 調子はどうだ?」

「うん 順調 頑張るよー 皆 そーなんだろうけど・・・ 私は 違うの お父さんとお母さんの娘だから 特別なの 絶対に取る 頂点」

「うっ また 点数 稼ごうとしてんのかー」と、お兄ちゃんはメニューを見つめながら他人事みたいな言い方だった。

「いゃ いい その言葉だけでもな なぁ 民子 こんな良い娘を生んで、育ててくれて ありがとうな」と、お父さんは心底言っているみたいだった。

「あなたが水澄のこと とっても可愛がっていて下さるからよ」と、いつも私のことになると表情が硬くなるお母さんのことが最近 気になっていた。

 そして、食べるのはそこそこにして、ティクアウトにして、又、家に帰って食べることにしていた。お兄ちゃんと私は自転車で帰って、お父さん達は仲良く、もしかしたら、手を繋ぎながら、散歩がてらで帰ってきていた。

 でも、私は誓っていた。両親に喜んでもらう為にも、絶対に勝つ!。生んで育ててくれた恩返しなんだ。
 

 

9-2

 お昼過ぎに宿舎のホテルに着いて、直ぐ、お昼ご飯となって、ホテルでカレーライスにコロッケが1つ乗ったものだった。兵庫代表の摩耶女子学園と同宿なのだけど、第1ステージの予選ではグループは違っていた。準備練習は4時から1時間あてがわれていて、少し時間的には余裕があった。ホテルのマイクロバスで会場の体育館まで送ってくれることになっている。みんなが調子良くって、仕上がり順調で

「明日のメンバー トップ 美麗 2番 香 ダブルスは水澄と若葉 4番朝咲 5番 燕 で行く 全部勝て! 一つも落とすなよ」と、コーチから檄があった。私達も予選なので 勿論 全部勝つつもりだった。監督もコーチもやっぱり花梨は見せないつもりなのだ。だから、花梨も準備練習を軽く流す程度だった。その日の夜はゲンかつぎなのか、当たり前にトンカツとだし巻き卵が出ていた。

 翌日は団体戦の第1ステージだけだったので、花梨も出番がなく、アシストに徹していたのだ。1グループが4チームが総当たりで、勝敗に関係なく5試合全部やるのだけど、私達は順調に難なく3試合とも5-0で勝ち上がっていた。

「香 どうだ? 明日はトップでいけるか?」と、試合の後、監督が聞いていた。

「いきます! 勝ちます!」

「うん 今の 香だったら 大丈夫だろう じゃー 決まりだな」

「明日の団体戦のメンバーを発表する トップ 香 2番手は 燕 ダブルス 水澄、若葉 4番 美麗 5番 朝咲 以上。 香 思い切っていけ! ダメでも 後が取り返してくれるからな 今度は、先に3勝だ それと、個人戦もある みんな 普段どおりな! 花梨 いよいよ 初戦だぞー 暴れろよなー」

「わかってます 思いっ切りやります」

 2日目は、団体戦の第2ステージ(決勝トーナメント)1・2回戦と個人戦の1~4回戦なのだ。団体戦のほうは準決勝の4チームが、個人戦のほうは準々決勝の8人が決まるのだ。

「いよいよだね この日ために頑張ってきたんだものネ 4人揃って 迎えるなんて夢みたい」

「若葉 夢じゃないよ まだまだ これからだよー それより、あんた等 団体と個人戦も ハードだよ 頑張ってネ」と、花梨は次第に闘志を燃やしているみたいだった。晩ご飯はひとりでお代わりをしていた。

 翌日の団体戦。香は躍動していた。1戦目も2戦目も香がトップを切って勝利していて、後に続いた燕先輩も私達ペァも相手を圧倒して、2試合とも3-0で準決勝へと進んだのだ。明日の準決勝は 神奈川代表山手丘学園対大阪代表二色が浜中学 そして、私達の相手は埼玉代表日進中央中学なのだ。それぞれが順当な勝ち上がりだった。おそらく、山手丘が勝ち進んでくるのだろう。私達にとって待ち望んでいた相手。

「香 ドロ雪姫やったなー すごい」

「なんやー ドロ団子 あんた等 まだ 1ゲームも落としてへんのんやろー やっぱり 最強やー」

 個人戦でも我がチームのメンバーは4回戦までは残っていたのだが、次に勝ち上がったのは、燕先輩、花梨、若葉と私の4人だった。美麗先輩は山手丘の秋元蓮花と当たっていて敗退していた。その後、抽選があって、明日の準々決勝の相手は、燕先輩は山手丘の秋元蓮花 私は二色が浜中学の進藤かがり 勝つと 次は秋元蓮花か燕先輩か・・・ 花梨の相手は山手丘の見沼川七菜香で若葉の相手は東京代表の久遠美玖 多分 次は花梨と若葉のつぶし合いになるのだろう。

 晩ご飯の時、同宿の摩耶女子学園の姿はもう無かった。先に進めないで、宿舎を去るのって悔しいだろうなと、私は心を痛めていた。だけど、食事の後、監督から

「みんな よくここまで頑張ってきてくれた ありがとう 明日はいよいよ 悲願ともいえる 山手丘との決戦になるだろう 花梨 今日は暴れ過ぎた 全てストレート勝だったな 僕がブレーキを掛ければ良かったんだけど 花梨の気持ちもわかるのでなー 今頃 山手丘の連中も慌ててるだろう やっぱり 居たんだってー 秘密兵器がなー でも こうなったら、花梨も思い切っていけぇー お前なら きっと勝てる秋元蓮花になー 花梨はプレッシャー感じるような柔じゃぁないから 言うけどな この一戦でうちが優勝できるかどうが決まるからな!  思い切っていけ! 明日のメンバー コーチから発表する」 と、現実に戻っていた。

「団体準決勝 トップ 花梨 2番 燕 3番ダブルス いつも通り 水澄、若葉 4番 美麗 そして、5番 香 良いかぁー 去年のリベンジだぞ! このメンバーで決勝もな 個人戦でも、それぞれの活躍を期待する 出来れば2冠をネ 以上」 

「花梨 明日頑張らなきゃーネ 監督もコーチも すごぉー期待してるヤン プレッシヤー感じてる?」

「いいやー 燃えている ウチで優勝決めるんや! 響先輩の想いも背負ってるしなー」

「さすが花梨やねー ウチなんか 今日 ビビってたんやー」

「そんなことないヤン 香 伸び伸びやってるみたいやったでー 個人戦は残念やったけどなー でも、東京代表の久遠美玖を最後まで追い詰めたんやからー でも、明日 若葉が仇取ってくれるわー」

「なんやのん 水澄ぃー 他人事みたいにー 水澄やって 油断出来ひんでー」

 私達は全く緊張してなくて、試合を楽しんでいたのだ。この日の為に、お互いを磨いてきたから、自信もあった。

 そして、お父さんからラインが入って来て(今 近くの温泉宿に居る 夕方 会場に行ったんだけど、もう、終わっとってな ちゃんと勝ち進んでるみたいだな 明日は 朝から応援に行く) 何か 気楽に観光に来ているみたい。それに、事務員の女の子も居るって言っていたから・・・はしゃいでいるんかしら・・・。
 

 

9-3

 いよいよ決戦の日。まだまだ晴れ渡っていて朝からの暑い陽差しだった。ホテルの人が全員で必勝と見送ってくれた。

 私達は団体戦2試合目なので、準備練習をして、会場に入ると、お父さん達の応援横断幕が眼に入って、学校の校長以下数人の先生とかクラブのOBの姿も。

 日進中央中学との試合が始まって、トップの花梨は圧倒的に勝っていたのだが、燕先輩は2-2からの最終ゲームまでもつれたが最後に落としてしまったのだ。

「ごめん 迷ってしまってー」と、謝っていて、私達 団体チームにとっては、初めて相手にポイントを取られていたのだ。だけど、私達ペァと美麗先輩が取り返して、決勝に進んでいた。その前の試合も山手丘が二色が浜中学に3-0で勝っていた。いよいよ 決戦なのだ。

「先輩 どう? ウチ 可愛いですか?」と、試合前 花梨が燕先輩を掴まえて

「えっ 何 ゆうてんねん こんな時に・・・」

「だって 優勝したら カメラとかあるじゃーぁないですかー 可愛くないとー」

「ふっ 花梨 勝ったら 可愛くなるんじゃぁない」

 花梨は、さっきの試合で燕先輩が考え込んでしまっているのを解きほぐそうとして・・・そんなことを・・・ もう 花梨はエースの風格も備わってきてて余裕さえ感じるのだ。

 昨日の時点で予想はしていたのだろうけど、相手のベンチサイドはワサワサしていたが、決勝の試合が始まると、花梨の低く鋭く伸びるフォアハンドに、かと思うと逆サイドへのバックハンドがさく裂していて、中学女王の秋元蓮花は花梨の速さと鋭さに慌ててしまっていて、花梨は2ゲームを連取していて、だけど、3ゲーム目は取り返されたが、花梨は落ち着いていて、結局 花梨が3-1で勝ったのだ。花梨は澄ました顔をしていたが、相手ベンチは騒然としていて、しきりに見沼川七菜香に何かを言っているのだ。そして、2試合目も燕先輩は落ち着いて見沼川七菜香を上回る強打を繰り出して3-1で勝っていたのだ。あと、もう 1試合 私達が勝つと 悲願の頂点なのだ。もう、相手ベンチも声が出ていなくて静かだった。私達が強いのはわかっているから、もう覚悟しているのだろう。

 私達は落ち着いていた。私達は最強なのだ。二人とも負けるわけが無いと自分達に言い聞かせていた。私がフォアハンドを繰り出すと微妙に変化していて、打ち返せない。返ってきても、若葉が同じコースへ、そして浮いて返ってきた球を私はバックハンドで逆サイドへ。最高のコンビネーションなのだ。1ゲーム目は立ち上がり連続8ポイントで圧倒していた。その後も優位に試合を運んで3-0で勝った。

 優勝なのだ。去年のリベンジ 3-0で、太子女学園の悲願を勝ち取ったのだ。監督もコーチも大騒ぎだった。勿論、応援に来てくれている人達も。私達6人も抱き合って喜んでいたのだが、冷静さを失って居たわけでは無く

「まだよ 個人戦が控えているわ 太子女学園で2冠よ 頑張っていこうね 今度は秋元蓮花も考えて仕掛けて来るわよ 花梨」と、若葉は引き締めていたが、まるで花梨と秋元蓮花が決勝で闘うみたいなのだが・・・私だって・・・

 お昼休みにホテルからお弁当を届けてくれていて、時間を見計らい、こしらえてきてくれたのだろうハムカツと厚焼き卵のサンド。まだぬくもりがあった。それと、ポテトサラダに卵サラダのサンドとバナナが添えられていた。そして (突進だ 太子女学園)のメッセージカードも。ホテルの心遣いに皆がジーンと来ていて、食べていると、お父さんが現れて

「水澄 よく やったな スマホ配信しておいたから お母さんも喜んでいるはずだ  個人戦も期待してるぞ 帰りは一緒なんだろう?」

「だからー 前にも言ったじゃない! 交流会があるから もう 1泊だって! 気が散るからあっち行ってよー」 ちょっと 言葉がきつかったかなーと思っていると、横で聞いていた香が

「水澄 交流会って何? そんなのあるの?」 

「うーぅ あのね 小学校の仲良かった子が名古屋に居るから 会って行くの」と、誤魔化していたのだが 「ふ~ん」と、香は怪しげな眼で見ていた。

 個人戦の準々決勝が始まって、1試合目は花梨と山手丘の見沼川七菜香で2試合目は若葉と東京代表の久遠美玖。3試合目に私と二色が浜中学の進藤かがり、4試合目は燕先輩と秋元蓮花。

 花梨は1ゲーム目を7-11で落としていた。私は準備の為、見ていなかったのだけど、後で若葉から聞かされたのだけど、1ゲーム目終わった後も花梨は落ち着いていて、ニャッとしていたよと。そして、2ゲームからは3ゲーム連続で立て続けに取って、相手を圧倒していた。きっと、最初のゲームは相手の動きを見ていたのだろう。つぎの試合の若葉も落ち着いていて3-1で勝ち上がっていた。

 そして、私の番で、相手も私のスマッシュに戸惑っていて対応できないままに、最後のスマッシュは「私達はあなた達とは 目指しているものが違うのよ!」と打ち込んだのだ。3-0で圧倒していた。燕先輩の試合。秋元蓮花に苦手意識もあるのか3ゲームとも喰い下がっていたが、最後は取られてしまっていた。

「あなた達はこの1年間本当に頑張って来てくれたわ 監督なんか団体優勝の時から感激しちゃって、今は、自慢顔で校長の横に座ってるの 準決勝の4人のうち3人がウチの学校なんだものねー ここまででも、充分よ 水澄なんて1年前はラケットは右ですか左ですかなんて言ってたんだものねー 呆れるわよー でも これから 同士打ちよね お互いのことは良く知ってるから・・・思い切ってね ただ秋元蓮花も立ち直ってくると思うけど、今は あなた達のほうが勢いあるからね」と、コーチから

 花梨と若葉の試合が始まって、最初のゲームは花梨が取って、その後は若葉が取り返して、2-2のまま最終ゲームも6-6になった時、花梨がギァを上げたのか、思いっ切り鋭いフォァハンドで若葉を左右に振って、連続5ポイントを奪って勝利していた。

 そして、私は若葉と花梨から気合を入れられて秋元蓮花に向かっていったのだ。最初のゲーム。私はそれまであまり使って来なかったステップしてのスマッシュを打ち続けた。相手も花梨とは違う球すじに戸惑っていて、試合中になんども首をかしげていた。コーナーぎりぎりにバウンドしてその後の回転で逃げて行くのだから、初めてだと対応出来ないはずなのだ。1ゲーム目は11-6で勝っていた。だけど、その後は、私の自慢のスマッシュも返されて、私のバックサイドを執拗に攻められていた。2ゲーム、3ゲーム目も取り返されてしまった。後が無い・・・これが、女王なのか・・・この時のために、必死に練習してきたのだけど・・・
 

 

9-4

「水澄 攻撃が単調になって読まれてるぞ お前の悪いくせだ これでもかこれでもかってな 意地になってー 花梨がさっき 戦ってた場面を浮かべろ! 相手の動きをしっかりと見ていてウラを突いていたんだぞ」

「そうよー 響先輩にもアホって言われたんでしょ! どうしてだったのか思い出しなさいよ! なっ 水澄は意外なことやってくれるよねぇー」と、若葉にも忠告された。言われて、私は気持ちを切り替えていた。そう この時のために必死に練習してきたのだ。神様 お願い 私を勝たせてー・・・智子、十蔵そして翔琉 私に力を頂戴 と バカなことを願っていた。

 3ゲーム目は私、相手のバックサイドを突いたり、センターに打ち込んだりして11-9で取り返していた。そして、最終ゲームは10-10のままデュースまでもつれ込んで、いつも向こうがリードしていて、マッチポイントを握られながらも、私はしのいで13-13まで来て、秋元蓮花が放ったのがネットにひっかかって越えなかったのだ。私がマッチポイントを握って、その次に、私の打ったサーブから少し浮き気味でバックサイドに返って来て、無理があったけど、私は最後のチャンスと思って、ステップして球の頂点を思いっ切りこすって最後は捻っていた。イメージはしていたけど、初めて打つスマッシュ ボールはコーナーよりも半分ほど手前で弾んで横に小さく逃げていくようだった。秋元蓮花は追いつけず、私 勝った。あの女王とも言われていた人に。

「水澄 やっぱり あんたは何かを持っているわねー ウチが密かに狙っていたものを先に取るんだものー 最後のスマッシュ 何よー 魔球? でも、負けないわよー ウチの夢 2冠なんだからー」

「ふふっ 私の必殺技 水澄の舞よ! 花梨 ここまで来たら 私も 負けないわよー」

 花梨と私の試合が始まって、お互いに譲らず、壮絶な打ち合いだった。1ポイントが終わるたびに会場の歓声が湧きあがっていた。どっちを応援するでもなく、私と花梨の必死の姿に声を出してくれているのだ。シーソーで2-2になったまま、最終ゲームになっても、決着が着かないままデュースで15-16で花梨のマッチポイント。花梨が仕掛けてきたかと思ったら、返してきたボールが浮いた。私は、ここぞと あのスマッシュを・・・決まったはず・・・だけど、花梨はそれを拾って、私からは一番遠いところフォアサイドのネット際にポトンと返したのだ。ボールは力なくコロコロと・・・。

「ふふ ふっ さっき見させてもらったからネ 水澄の必殺技」

「花梨・・・わざとボール浮かせたの? だから、私に打たせて・・・仕掛けて、予定通りに・・それで、追いつけたのかー ずるぅーい あんたは やっぱり 天才よねー」

「そんなことないよー あんなスマッシュ できるのって 水澄も天才よ」と、この大会で初めて花梨の笑った顔を見た。

 表彰式の後、あの秋元蓮花が私と花梨のもとにやって来て

「おめでとう 岩場さんは2冠よねー 二人には、私の中学最後の栄光を砕かれてしまったわー 完敗だったわ 高速よねー 二人に・・・ 香月さんとの試合の最後 すごいわー あのスマッシュ この子になら負けても不思議無いと感じたの 去年は二人とも大会に出て無かったよねー あなた達を知らなかったの 1年の間にすごい努力したんだぁー 岩場さんが団体戦でいきなり出てきた時 びっくりしたわ すごい子って あれは作戦だったのね やられたー 来年も頑張ってね 二人の内どっちかが女王よね でも 待ってるわよー インターハイでね その時は負けないわよー」と、言って去って行った。私が何度も頭を下げているのに、花梨は平然と見送っていて

「なによー 今はウチが女王よ 何がインターハイで待ってるわよーって よっ! えらそーにー ウチ等が目指してるのは 全日本、オリンピックよっ あんたなんか相手にしてないわっ!」

「ちょっとぉー 花梨 顔が怖いぃー」実際、花梨はすごく険しい顔付だったのだ。

 観客席では応援団が盛り上がっていた。お父さんも校長先生のとこに行って、おそらく、水澄は娘です とか言って、自慢しているのだろう。監督は涙を拭いているようにも見えた。

 ホテルの人が私達の荷物を駅まで運んでくれて、私達はその前にホテルの従業員の人達と厨房の人達に向けて色紙に感謝の寄せ書きを書いていて、お礼にと渡したのだ。こころのこもったお料理、お弁当とで私達が元気で試合出来たのには違いないのだから。

 皆は、その日のうち金沢に行って、1泊して観光をして帰ると言っていたが、私だけ名古屋の友達に会うと言う名目で在来線の特急に乗ったのだ。それから、薄暗くなっている名古屋駅で新幹線に乗り換えて、翔琉と待ち合わせをしている京都駅へ。新幹線のトイレで私は、制服からピンクのチェックのブラウスとチャコールグレーのラップスカート、靴はローファーのままなのでグレーの少し長めのソックスに着替えていた。

 外の灯が走り去る窓に、時折、映る自分の顔を見詰めながら (色気の無い 髪の毛やなー 夏前にも切ったからな この私も今日で処女とお別れなのかー あれ 最初は痛いんだろうかー ネットで調べると 痛さの感じ方は人によって違うって書いてあったしなー すごく 痛くて 出来なかったらーどうしょう 私 ステップしたりして無理してるからー あそこ 腫れ気味で翔琉のん 入らなかったりしてネ」とか呑気な妄想で気持ちを紛らしていた。もう、さっきまで闘っていた私は居なくて、翔琉のことしか頭に無かったのだ。列車は山科のトンネル・・・社内放送があって・・・もう直ぐ 翔琉に逢える! 大きい荷物を抱えて、ドァに急いでいた。
 

 

9-5

 新幹線から在来線への乗り換え口。翔琉の顔が見えると、思わず手を振ってしまった。

「お帰り お父さんの配信見てたよ すごい すごい 水澄 最後まで打ち合いでさー ドキドキして見てたよー」

「ふふっ 最後は負けてしまったけどネ」

「何言ってんだよー あそこまでやったら 二人とも優勝だよー 相手は水澄の元相棒だろう? 悔いないんじゃぁないか?」

「そーだね スッキリしてる また 競いあえるってね」

 それから、大津まで行くと、もう食べるとこも閉まっているだろうからと、改札口の外に出て、食事を済ませてから大津まで行って、歩いて大津港まで。ホテルのチェックインを済ませた時は、もう11時近かったのだけど、もう一度、二人で琵琶湖のほうに散歩に出て行った。湖水の中にライトアップされた噴水も印象的で、私はしっかりと翔琉の腕につかまりながら歩いていたのだ。

「ねぇ 家には なんて言って出てきたの?」

「あぁ 友達と夜釣りに行くって」

「そんなの お魚持って帰んなかったらー?」

「なんとでも 言えるさー 持って帰ってもしょーがない魚だから 放したとかね」

 芝生に座った時、翔琉は私を抱き寄せて来て、唇を合わせてきて、舌が私の中をなぞって来て、私も応えていて甘~い感覚が・・・。翔琉の手が胸からスカートの裾の中に入ろうとしてきて、無理やりショーツの縁に届いていたのだけど

「むりよー インパンなんだからー ここじゃーぁ 嫌!」と、私は遮っていた。

 ホテルに戻った時には、12時近かった。翔琉が先にお風呂に入ってバスローブで出てきた。私は、バスタブに浸かりながら、最初に浮かんだのが、私が放ったスマッシュ 決まった後、頭を振りながら呆れた顔をしていた秋元蓮花の顔 そして、私の必殺を返した後 ニャっとして あなたのことなんて全部わかるわよーと言っているような花梨の顔 が蘇っていた。それからー 翔琉のこと・・・お正月にお母さんに揃えてもらったピンクのフリルで飾られた上下の下着を用意してきたものの 覚悟していたつもりなんだけど、迷っていた。秋元蓮花はあの時、インターハイで待って居るわよって・・・高校に入ったら、あの人との闘いは続くのだろう。そして、全日本、オリンピックまで。私 翔琉のものになりたいんだけど、その後 身体が・・・我慢出来なくなって翔琉を求めるようになってしまったら、どうなるんだろうか 今までのように卓球に打ち込めるんだろか とか・・・思案してしまっていた。

 バスローブを着て、出て来ると、翔琉は窓の外を眺めていて

「残念ながら噴水のライトはさっき消えてしまったよー 灯が寂しいもんだよー」と、翔琉は言ったけど、私も窓際に・・・

「暗いもんなんだねー 琵琶湖って あの遠くに見えるのって琵琶湖大橋よ きっと」それでも窓の外を見ている私の顔を振り向かせて、翔琉はキスしてきて、バスローブの紐を解いて脱がそうとするのだ。

「いゃぁーん 外から見られちゃうよー」

「遠くて見えないさー」と、言いながらカーテンを閉めて、私のバスローブを肩から剥がすようにしてベッドに押し倒してきた。

「水澄 可愛いのん・・・そんなのって興奮するなぁー」

「やぁーだぁー そんなにじっくり見ないでよー」翔琉はベッドの上に私を寝かせおいてピンクの下着姿を上から下まで見ている。そして、自分のバスローブを脱ぎ去って、覆いかぶさってきた。彼は何にも身につけて無かったのだ。しばらく、私の唇を奪ったり、差し入れてきた舌で私の舌とか歯を突いたりしていたけど、そのうち、首筋とか耳の後ろに這わせるようにして、手は胸とかお尻を撫でていた。その間、私は小さな喘ぎ声しか出せなかったのだ。

 そのうち、ブラを・・・そして、ショーツも脱がそうとしてきて・・・

「ねぇ 明るいまんまなのー 恥ずかしいー」

「うん しっかりと 水澄の全てを見たい 可愛いよ」

 全て脱がされてしまった私の頭からつま先までを上から眺めるようにしていて・・・「いやだよーぅ 恥ずかしい」と、私は翔琉に抱き着いていった。

 今度は私の身体の隅々にまで唇を這わすようにしていて、私も時々「あっ」「あぁ~ん」とジーンと感じることもあった。(翔琉 そんなのー どうしてー こんなことするの初めてじゃぁないのー だめよ だめー 感じるぅー 声が出てしまうぅー 恥ずかしいんだらぁー)と、だんだん頭ん中が白くなって、自制がきかなくなってきていた。時々、乳房のまわりを吸われたり、翔琉のが私のあそこに触れたりすると、気持ち良くって、ビクンとして思わず 恥ずかしい声を押さえられなかったのだ。

 私の身体から離れて、翔琉は何かを取りにいったようで、私は、6年生の時とか今も学校の授業で教え込まれていたから、その時 避妊具なのだろうことを察していた。

「翔琉 私は翔琉とひとつになりたいよ だけど、全中の頂点には来年も立ちたい。高校に行ってもインターハイでも・・・成績も学年でトップになりたいの 今年も、必死でやってきたわ でも いつもアップアップなのよ 翔琉のことはほぉたらかしよねー だから、翔琉と して・・・流されてしまって、いつも翔琉を求めるようなるのが怖いの だから、するの今日だけね しばらくは我慢するのって良い? こんな私でも・・・」

「わかった それでも水澄のこと 好きだ お前は輝いているんだものなー まぁ 思い出しながらマスでも掻いて我慢するよー」

「・・・マス掻く? ・・・ やだぁー もぉー 我慢出来なくて 他の女の子となんか やーぁよー どうしてもってなったら ちゃんと私に言ってよねー」

「そん時は?」

「だからー そん時はそん時よ!」

 その後、二人は抱き合ってお互いの身体を貪ったあと、私は一瞬 痛みが走って、翔琉のを自分の中に感じていたのだ。だけど、翔琉にしがみついて、幸せを感じていたのかも知れない。そのまま、二人は寝てしまったのだろう。朝になって、翔琉はシャワーを浴びてきたのか、ベッドに寄り添ってきた時、私は、抱き着いていて、もう一度とおねだりしていた。こうして、ある意味 私は翔琉のものになったのだ。

「ねぇ 私 翔琉の彼女? それとも翔琉の女になった?」

「う~ん 俺の女」

「へぇー 女かぁー ねぇ 全国の女子中学生2年 なのに 彼の女って 何パーセントなんかなー そんなに居ないよねー」

「はあー 水澄は全国頂点だよ そんなのを俺の女だって言えるのは 俺だけだよ」

「そうかー やっぱり 私は翔琉の女になったんだよね! でも 幸せなんだぁー 夢がもう ひとつ 叶った」 

 

兄 達樹の話

 お父さんが水澄の決勝の試合を配信すると言うので、サッカーの練習を終えて硝磨の家に行った。硝磨はパソコンで見られるようにしておくと言っていた。お母さんが仕事で見られないからとメモリーにも保存するように頼んでおいたのだ。だけど、お母さんにしてみれば、生でなんて、とても見ていられないのだろう。

 練習が終わった後、お父さんから電話があって、団体戦は優勝したことを聞いていた。お父さんも興奮している様子だった。硝磨の家には1時過ぎに着いて、早速、団体戦の準決勝の水澄の試合だけ見て、そろそろ水澄の準々決勝だろう 3試合目って言ってたからー やっぱり 生で見ようよと、切り替えて 2試合目の途中だったけど、水澄と同じ学校の若葉って言う子が勝ち進んでいた。確か、水澄の相棒のはず。

 その時、翔琉は自分の部屋でスマホで見ると言って、こもってしまっていた。水澄の試合が始まって、圧倒的に優位のまま試合を終えていた。

「すごわねー 水澄ちゃん 危なげも無く 相手を寄せ付けなかったわよ」おばさんも感激していた。

「だよなー 相手も大阪代表で3年生なんだろう すごいなー スマッシュ スパンと決めてなー スカッとするなー」硝磨も興奮していた。

 水澄の普段の努力を知っているから、それぐらいは当然だろうと俺は思っていた。

「どうする? 団体の決勝見るか?」と、硝磨が聞いてきたけど

「いいや 圧倒的強さで勝ったらしいから、最初から見たい 次の準決勝 待とうよー 4人のうち 3人が太子女学園なんだから、全部見たい それに、水澄の相手は去年優勝の奴なんだよー 水澄がどこまで喰い下がるのかも見たい」

 準決勝が始まって、太子女学園の2年生同士の戦いだった。片方の子は、ダブルスで水澄の相棒なのだ。最初は拮抗しているみたいだったが、最後は一方的に決まっていた。だけど、勝ったほうの子はにこりともしないで、何を考えているのか、水澄を黙って見詰めていた。確か、去年の秋 水澄の相棒だったはず。

 水澄の試合が始まった。 (がんばれ 水澄 俺は、お前にジョギングもたまにはトレーニングも付き合ってやったんだぞ どんな時も頑張る水澄は負けない)と心の中で応援していた。

 1ゲーム目を取った時 「いけるぞー いけ 行けっ! 水澄ぃー」と、皆で声を出していたが、2ゲーム、3ゲームと立て続けに取られてしまって

「さすがに 去年のチャンピオンだな 強い」と、硝磨は諦め半分だったが

「いいやー 水澄はそんな奴じゃぁない これからだよー 俺には伝わって来る」

 そして、3ゲーム目は水澄が取り返して、最終ゲームも最後までもつれ込んだ。もう、3人で「がんばれ がんばれ」の合唱だった。水澄が何とかくらいついていて、マッチポイントを掴んだ時は、シ~ンとして見ていて、最後 水澄が飛び跳ねて打ったように見えた。瞬間 相手は拾えなくって・・・

「やったぁー やったぁー 水澄 すごぉ~い」の大騒ぎだった。俺は飛び跳ねていたかも知れない。

 決勝戦も、水澄の同級生 前の相棒 岩場花梨との戦いで、白熱した高速ラリーの応酬で、最後までもつれていた。自分で手の平をギュッと握り締めているのがわかった。そして、相手はマッチポイントを迎えていたが、水澄がさっきと同じように飛んでスマッシュを・・・「やったー」決まったと思ったが、ボールがポトンとネット際に返ってきていた。

「えっ えー そんなのありかよー」

「はぁーあ う~ん でも 水澄ちゃんも すごかったよ あのラリーなんて そうそう見られないぞー 中学入ってから始めて、2年生で全国準優勝だぞー 普通じゃぁない」と、硝磨も盛り上がっていて、そのまま、団体戦の決勝を見て、太子女学園の快進撃に拍手を送っていた。特に、水澄達のダブルスにはすごぉーいの連発だった。

 落ち着いた時、おばさんが「達樹君 夕食 食べて行きなさいよー 翔琉もね 夜釣りに行くってー そろそろ出かけるのよー」

「ふ~ん 夜釣りかぁー おじさんは?」

「あの人 お盆明けから インドネシァ 会社で雇う人の面接だって」

「インドネシァ人・・・」

「そうなの 前はベトナムだったんだけど この頃 文句ばっかーで評判悪いのよ」

「あぁ 日本に慣れっこになってきてるって聞いたことがある」

「そうなのよー 一番 最初はね あの人ったら 翔琉が生まれて、直ぐにベトナムに 人を雇う為 行ったのよー 3か月間もね 私はこの子も小さかったでしょ 翔琉はビィビィ泣いてうるさいしー 苦労したわー」

「翔琉が生まれて すぐ・・・」

「そうよ あの子 4月28日生まれでしょ その後直ぐに あの人 30日には飛行機よ 連休前なのに 男って 勝手なのよねー」

 その瞬間 側にミサイルが落ちて爆発音とともに閃光が走ったような気がした。

「おばさん おじさんは4月の末から3か月間 日本には居なかったんですか?」

「そうよー 一度も 帰ってくること無くね 向こうで若い女の子と…×〇×〇・・適当に羽根伸ばしてね」

 もう おばさんの話は聞こえてこなかった。(水澄 お前は やっぱり お父さんとお母さんの娘なんだよ! そして、間違いなく俺の妹だ)

 おばさんの用意してくれたご飯もそこそこに、俺は家に帰ってきたけれど、お母さんは帰って無くて、7時過ぎに帰ってきた。水澄が居ないので自転車を使ってたのだろう。

「達樹 達樹ぃー あの子 優勝したんだってねー さすが 私の娘よねー」

「お母さん 落ち着いて聞いてくれ 話し あるんだ」

「なによー 早く 水澄のん 見せてよー」

「あのさー それは後でゆっくりと・・・ 今日、俺は硝磨んちに行ってたろう?」

「うん それがぁ?・・・」

「向こうのおばさんが話してたんだ 翔琉が生まれた後、おじさんは直ぐにベトナムに行ったんだって 仕事のことで」

「だから それがどうしたの?」

「だからー 翔琉の生まれた4月の末から3か月間 ベトナムなんだよ! 日本には居ないんだよ!」

「えー・・・」「達樹 今 光が走った?」と、お母さんは動揺していたみたいだった。

「達樹 それっ 確かなの?」

「ウン 翔琉は4月28日生まれなんだよ 30日におじさんはベトナムに飛んだらしい だから おばさんの記憶違いじゃぁないと思う 5月には日本には居るはず無いんだ」

「・・・私の思い違いだったの・・・」

「そーだよ 水澄はお父さんとお母さんの娘なんだよ! 俺のすばらしい妹なんだよ これからも ず~っと そして 翔琉と水澄は兄妹じゃぁ無い! さっき お母さん 光が走ったのって聞いたよね 俺も 最初 聞いた時 同じようだった おかしいよねー へっへーへー」

「そーなの だけど あの時 お母さんは間違いを・・・」

「何の話だよー 知らなぁ~い 今 お父さんとお母さんに囲まれて、俺と水澄は幸せになっているじゃぁないか これからもな! それで 良いんだよー お母さん」

「達樹」と、俺を抱きしめてきた

「よせよー 暑苦しいー 水澄の試合見ようかー あいつ 恰好いいんだぜー」

 その後、お母さんは水澄の試合の模様を見ながら、「水澄 私達の娘よねー がんばれ」と、涙を流して見ていたのだ。途中でお父さんが帰って来て、飲んできたみたいで、二人で録画を見ているそばに来て、あーじゃ こーじゃと注釈をしていて うるさかった。

「あなた! 少し、黙ってください! 私達の娘の水澄が頑張っているんですからね!」と、叱られていたのだ。

 

 

9-6

 夕方 私が帰ると、お母さんが出て来て、いきなり抱き締められた。

「水澄ちゃん お疲れ 頑張ったよねー」

「お母さん 暑苦しいよー 汗びちょなのにー」

「あ そうかー 先にお風呂入りなさいよ 疲れてるんでしょ 今ね 達樹にお寿司取りに行かせたの お父さんも6時頃帰って来るから お祝いネ」

 私 そーいえば 朝 翔琉に愛してもらった後 シャワーもしてなかったんだと気がついて、お風呂に・・・まだ 翔琉の匂いがするのかなーって 湯舟に浸かりながら (まだ 翔琉が入ってるようなー 変な感じ 私 こんなで練習 踏んばり効くかなー)

 この夏に買ってもらった葵の花のじんべぇさんの上下を着て、汗を拭きながら出て行くと

「水澄 こっち クーラーかけたからー ・・・水澄 その下 何か着てる?」

「ううん 暑いんだものー」

「まぁー・・・ 少し 落ち着いたら、つけてらっしゃいヨ」

 お兄ちゃんが帰ってきたみたいで

「おぉー 帰ってたかー 外は 暑い暑い まだ 日差しが強いんだよー」と、クーラーの前でパタパタしていた。

「お風呂 いってくればー 私 今 出たとこ」

「だなー シャワーしてくっかー」

 お兄ちゃんはトランクス1枚で上は裸のままバスタオルを首にかけて頭を拭きながらリビングに現れた。

「達樹 ・・・ もう 年頃の女の子が居るんだからー 家族って いってもー」

「へっ 水澄のことかぁー 平気だよ 俺の肉体美を見て喜んでるんだからー」

「だっ 誰が喜んでるんよーぉ しょうがないなぁーって思ってるんやー 妹のことを色キチみたいに言うな! この変態がー」と、私は持っていたタオル投げつけると

「おっ みごとなスマッシュか・・・水澄 今 右手で投げたよなー お前 卓球はサースポーだよな でも 右利きなんだろう 箸なんかも右だったよなー」

「そーなんやー 私 よーわからんまま 左になってしもーたんやー 左で振るほうが鋭いってー」

「へぇー ややこしい奴ちゃなー サッカーのボール蹴るんは?」

「たぶん 右足やと思うけどなー でも 右足を前に出して踏んばるやろー そしたら 身体開いて左足が後ろに来るやんかー だからー 左手がラケットになったん もしかしたら、サッカーも左で蹴るんかもー」

「うん なるほどなー そうかー お前 右足で踏んばってステップしてたもんなー お母さん 水澄の運動神経 右と左とぐちゃぐちやになってるんかもよー」

「なにをごちゃごちゃ騒いでるのよー 両方使えるほうが良いに決まってるわー 達樹 知らないでしょうけど 水澄はご飯よそう時 おしゃもじとかお玉 左で持つのよ 昔からー それに、小さい時は 日本語の文章 縦に書く時は左で鉛筆持って書いてたわー 横書きの時は右手なのに・・・器用っていうかー そーいう子なの!」

 お父さんが、早い目に帰って来て、私を見るなり、抱きしめようとしてきたので

「ストップ ハグはダメ」と、私が拒否すると

「なんだよー 父親の特権だろー」

「うぅー 少しだけね」と、我慢することにしたけど

「お父さん なんか 臭いぃー」

「そうかー デオロラントスプレーしたんだけどなー」

「だからよー 私 そんな 不自然な匂い 合わないの 臭くても普段お父さんの匂いが好き」

「そうかー すまなかった 待ってくれ 先に風呂 入って来る」

 私のお祝いが始まって、食卓には5人前の寿司桶にべっこに、つぶ貝とえんがわの握りも乗っていた。私の好物なのだ。そして、お母さんの作った浅利のお吸い物も。

「まずは 乾杯だ 水澄 お疲れさん 優勝おめでとう」

 お父さんとお母さんはビールでお兄ちゃんはコーラ、私はお茶だった。

「いやー 本当にすごかったよー 個人戦の準決勝 去年のチャンピオンに勝ったんだからなー 壮絶な試合だった 闘っているのが水澄なんだものなー 水澄が勝って 夢かと思ったよー それに 最後の試合 これもすごかったなー どっちも譲らずでなー みんながどっちも応援してたよー でも 最後な コロコロと・・・ みんなが その瞬間 それまで応援していた声を失っていた。そして 大声援だろう 僕もジーンときてしまった。あれほどの名勝負なんて そうそう見られないよー」

「う~ん あと 一歩だったんだけど しょーがないよね 相手は天才 花梨なんだからー」

「いやいや 水澄も天才だぞー よく わからんがー 準決勝の時の最後・・・スマッシュのボールが 不自然に変化してたよーな 相手も首を傾げていたじゃーないか」

「うん たまたまねー でも 花梨には すぐに破られた」

「あぁー 優勝した子か? あの子はクールなんだな 表彰式の時も笑わなかった」

「そうそう 去年の秋 水澄がダブルス組んで優勝した時の 相棒なんだ あいつ すげーよなー 淡々としてて 団体戦の時も 先陣切って あの去年のチャンピオンって奴を切りくずしたんだろう 相手は3年なのに かっけ良いよなー ああいうのって 俺の好みかも」

「ちょっとぉー お兄ちゃん! 花梨は智子より男には固いかもよー あのさー お寿司って この頃 こーやって 寝かせる盛り付けなんかなー」と、私は横になっている鯛の握りをお箸で挟んでいた。何個かが横に寝ているのだ。

「あっ あー 新鮮だから動いたんかなー」

「ウソよ 達樹が乱暴に扱ったのよー」と、お母さんは割と冷たい感じで言っていたけど、その後の微笑むような顔が優しかったのだ。

「そうそう オーナーがね 水澄にって ホールケーキ作ってくれたのよー 特別らしいわー 後で食べてみようね でも 期待しないでよー あのお店のだからー」

 お父さんが割と言いたいことを言って、酔っぱらったのが先に寝てしまって、私達は、お母さんの言う期待もしていないケーキに取り掛かっていた。20㎝もない小さなものだったけど、ブルーベリーのショートケーキで真ん中のホワイトチョコのプレートに(あっぱれ みずすみ)の文字が書いてあった。早速切り分けて食べてみて

「おいしぃじゃん お母さんも食べてみてよー」

「ふ~ん おいしいんだー」と、お母さんもお兄ちゃんも食べたけど、「うん なかなか いけるねー スポンジもしっとりとしておいしいし クリームも」と、言っていて

「お母さん 私 いつから みずすみ になったのかしら?」

「あっ ほんとうだねー オーナーったら とぼけてー でも おいしかったって 明日 お礼言っとくね いつも こんなの作ってたら、もっと お客さん増えるのにねー」

「まぁ 原価とか売値とか いろいろと難しいことあるんじゃぁない? 経営者は大変なんだよー」

「お母さん 私 明日から練習も無いしお休みだから、ジョギングのついでにお店寄って 直接 お礼言おうか?」

「そうね オーナーも一度 水澄ちゃんに会ってみたいって言ってたからネ」

「着替えて行った方がいいかなー」

「そこまでしなくていいわよー アスリートの端くれなんだから ぽくて良いんじゃぁない お母さんの自慢の娘よ」

(お母さん 私 本当は悪い子なの お母さんを裏切って 昨日の夜も今朝も・・・ でも、翔琉と・・・私 全て翔琉のものになって 今 幸せなの)
 

 

9-7

 次の日、お兄ちゃんは練習で出て行ったので、ひとりでジョギングに出て、お母さんのお店に向かった。お店に入るとクーラーの冷気が汗の滲み出て来る肌に心地良かった。店先にはお母さんが居て、奥からオーナーらしき人が、白いマッシュルームみたいな帽子を被って出て来て

「オーナー 娘です 昨日のお礼をってー」

「おっ おー わざわざ・・・」

「香月水澄です 昨日 美味しかったです ありがとうございました」と、キャップを取って頭を下げるとー

「はっ ・・・ふむー よく見ると お母さんに似て きれいな顔立ちをしているね でも さすが、チャンピオンだ 休みでもジョギングか 今、丁度ね プリンの試作品作ったんだけど うまいと思う じゃまかな お母さんに持って帰ってもらうよ 食べてみてー 新作なんだよー 地元の中学チャンピオンも食べて元気になる美味しさですとかいってなー」と、最初は私の刈り上げた頭に戸惑っていたみたいだが、心やすく言ってくれた。

「・・・ 母がいつもお世話になりましてありがとうございます」 と、もう一度お礼を言って出てきた。オーナーの言うことなんかは無視していた。中央公園に行って、ステップとか素振りをしながらのジョギングを続けようと思っていた。

 なによー 最後の言い方ぁー 私は広告塔なんかぁー と、ぶつぶつ文句を言いながら、走っていたのだ。暑いせいか、辺りには誰も居なかったのだけども。

 家に帰って、シャワーをしてタンクトップにショーツのままで、キッチンで股を広げてバスタオルを被りながら扇風機で扇いでいると

「おい! 金を出せ!」と、後ろから声がして、私は 一瞬 ビクンとなったけど・・・直ぐに、お兄ちゃんだと気がついた。

「お金 無いけど 私の身体じゃぁ だめ?」

「バカ! なんてこと言うんじゃー だからぁー 鍵も閉めないでー 不用心だろ!」

「う~ん 閉めたつもりなんだけどなー」

「実際 俺が帰ったの気がつかなかったじゃぁないか! それになー なんて 恰好なんだ 強盗が入ったら 一発だぞー」

「だって 暑かったんだものー」

「それにしても・・・ 俺が帰ってくるの わかってんだろー? もう少し・・・ 最近は 水澄も大人になってきてるんだからー」

「うーうん? お兄ちゃん 私を見て 女感じるのぉー?」

「・・・そのー なんだ そのー この夏から 水澄 肩あたりが逞しくなって ウェストも絞れて来てさー だから、気のせいか胸が目立つようになってきてなー だからー いくら 妹でもなー あんまり刺激しないでくれ」

「ふ~ん お兄ちゃんでも そんなこと考えるんだー ねぇ 智子と比べて どっちが刺激的?」

「あっ あほかぁー あいつとは・・・ 早く 何か着て来いよー」

「わかったよー 言っときますけれどねー 露出狂じゃぁないからね! シャワーして直ぐに たまたま お兄ちゃんが帰ってきたの!」

「わかったわかったからぁー・・・早くいけ!」

「ほらっ! これ ピーチピンク レースが3段になってるの 可愛いでしょ 普段 つまんないのばっかぁーだから お休みのときはネ」と、私はタンクトップを上まで捲って見せていた。

「お前なぁー・・・ からかうんじゃぁない! 腹減った なんか作ってくれよー」

「ダメ! 私 宿題 仕上げなきゃー そうだ 今日の夕御飯 ポテトコロッケ 後で手伝ってネ」と、カップラーメンを出して、自分の部屋に上って行った。

 その日の夕食の時、私は恐る恐るお母さんに

「あのね 智子から連絡来て 明日 仲間で 私の祝勝会しようよって・・・ 昼間 ちょこっとね」

「・・・ いいんじゃぁない 小学校のお友達でしょ? 行ってらっしゃいよー みんなも喜ぶわぁー」 

 その時、お兄ちゃんが持ち上げていたコロッケを落としてしまって、お兄ちゃんは「はっ えぇー そんなー」とか言っていた。私だって 意外な答えにびっくりしていた。

「お兄ちゃん 何してんのよー 私のコロッケ柔らかいんだからー あーぁ ぐちゃぐちゃ」

「へっ いゃ 急に チカラが抜けてしまった 腕立て やりすぎたかなー」

「あっ そうそう プリンあるのよ オーナーから 《みずすみちゃん》にだって!」ご飯を食べ終わって、お母さんが思い出したよーに

「うー おいしい! 見てぇー お母さん 中からレーズンが出てきたのよー」

「ふふっ お母さんのは 桃の切ったの入ってるのよ」

「俺のは・・・なんだろ うっ チーズだよ このプリン サクっとした触感 そのへんのとは全然違う うまい 俺 これっ! 好きになりそう」

「お母さん 試作って言ってたじゃぁ無い これ!きっと売れるよー」

「そうね 美味しいわー オーナーも水澄に刺激されたのかしら やる気 出てきたみたい」

 次の日、中央公園のいつものパン屋さんで集まることになっていたのだ。私は、ライトブルーのショートパンツに赤いTシヤツ。お父さんがいつものようにゴルフの景品を持って帰って来て、胸には It's Demo To be の訳のわからない文字が・・・私には大きいのだけど、お兄ちゃんも赤いから嫌だと言ったので、仕方なく私が・・・

「おぉー 我等がホープの登場か こうやって 面と会うのも久しぶりぃ~」と、十蔵が言っていたけど、翔琉とは2日前に逢ってたのだ。・・・あれ してから、改めて顔を合わせると恥ずかしかった。

「みんな ありがとう 私 個人戦の準決勝で追い込まれていたやんかー あの時、みんなのこと浮かんできて みんなが (落ち着け 普段の練習どおりにやったら 勝てるよ) って声が聞こえてきたんやー それでなー」

「そら そーやー 翔琉なんて必死に声出してたもんなぁー やっぱり 届くんやー 愛は強いなー」と、十蔵も言っていて

「水澄 ウチ 朝から ず~っと見てたんよー 水澄のお父さんの配信 興奮しちゃったよー 水澄 恰好良いんだものー 去年のチャンピオンという人に勝った時も、バシッとね 最後の決勝戦なんて もう もぉー ドキドキして・・・もう 良いから どっちも優勝にしてぇーと思っていたら、水澄が決めた! って思ったの そしたらさー 唖然としたわー あの子 去年の秋の時 水澄の相棒でしょ? あの時の二人が全国大会の決勝で闘ってるってすごいよねー ねえ あの子って クールよね 勝っても、にこりともしないで そういう子なの?」

「そーいえば ニカッとはするけど コロコロ笑ってるのは見たこと無いかなー
 でも 自分勝手じゃあなくて、優しい子だよ」

「まぁ 水澄が相棒として付き合ってるんだからー 水澄って 昔から、嫌って思った子とは相手にもしないもんねー」

「そんなことないよー 私は 誰とでも・・・」

「うそ! 小学校の時も 宮川君と江州さん 水澄に話し掛けてきても、そっけなくてさー 特に白浜美蕾には 敵意持ってたやんかー 嫌いやったんやろー」

「そんなことないけどーお」

「おーぉー 甘えた声でよー 私の大好きな翔琉を誘惑するのやめでぇーって思ってたんちゃうのかー」

「十蔵! あんたのそのチャラチャラしたとこも 前は 水澄 嫌ってたんやでー」

「あー 智子 そんなん・・・ でも 十蔵は皆のこと思って 気使ってるんやって 思ってるよー 大切な仲間やー」

「ふっ 十蔵 救われたなー」

 その日、翔琉とはあんまり話が出来なかった。でも、私は、その方が良かったのだ。あんな風になって、ベタベタされるのを一番嫌っていたからー。それに、私自身も翔琉に崩れていくのを恐れていたのだからー
  

 

10-1

 2学期が始まって、全校集会で夏休みの間に活躍したクラブの面々が壇上に上らされていた。当然、私達 全中に出たメンバーも。中でも2冠を達成して花梨は特別に褒め讃えられていたのだ。

 その日は、お昼休み、休憩時間、挙句は練習中の体育館にまで、違うクラスの子とか下級生が花梨のもとに押し寄せて、一緒に写真を撮ってくれとかサインを求めてきていた。中には上級生の姿もあったのだ。

「なぁ 花梨 スターやなー」

「うん・・・ ウチも、どーしたら ええんかわからんから 勝手にしぃーなーって思ってる ほんでもサインはさすがに断ってるでー」

「ふ~ん でも 写真撮る時 ちっとは 笑顔しぃなー 無表情のままやんかー」

「そうかぁー? 普通の顔してるでー」と、少しニコリとしていた。

 本来なら、私か若葉がスターになるはずだったんだけど・・・甘かったのだ。私等だってダブルスは1ゲームも落とさず優勝に貢献してるし、私はあの女王に勝っているのに、花梨は団体戦初戦で衝撃的に女王を打ち砕いて、最後は私の必殺スマッシュを簡単に破ったのだ。やっぱり、この子は天才なのかなーと思いしらされていた。

 帰り道で香が「一真さんとね 彼はまだ夏休みなんだけど、ウチが学校始まるからって・・・ドライブに誘ってくれたの」

「ふ~ん 免許取ったんだー」

「うん 大学受かって 直ぐに行ったんだってー」

「へえー あの人のことだからー 外車とかスポーツカー?」

「ううん でも スバルの何とかで・・・雪道に強いとかー 冬はスキーに行くから お正月に一緒に行こよって言ってたの」

「はぁー お泊り?」

「かもね 先の話だから・・・でもね この前は生駒山に行ったの」

 なんか香の話し方が訳アリみたいなので、駅のベンチに座って聞くことにしたら

「あのね 遊園地で遊んだ後、ドライブウェイを走って、途中 車停めるとこがあったのね そこで キスされて・・・ウチ それくらいは 覚悟してたから・・・少しは期待もあったかなー」

「へぇー ついにかぁー 初めてなんでしょ?」

「うん ・・・ でも そのうち 彼の手がスカートの裾から、あそこを触るようにしてきて・・・ウチ サマーワンピース着ていったから」

「はぁー 香 スパッツとか穿いていたんでしょ?」

「ううん 彼に見られてもいいやー って思って レースのフリルのやつ」

「そんなん 香から刺激してるんやないのー 当たり前ヤン  彼からしたら誘ってる OKなんやって・・・」

「そーなんやけどー・・・ そこまでーぇって思ってへんかったからー 可愛いって言って欲しかっただけやー」

「アホか 無防備すぎるわー 幼稚!」

「でもなー 唇吸われてぼぉーとしてるのに 彼に ツゥっと あそこ 撫で上げられた時 ビクッとジーンとして 初めての感覚・・・感じるってことなんやーって ウチ 恥ずかしくなって 嫌や こんなとこでー ってゆうてしもたんやろなー」

「う~ん ・・・ なんとなく・・・アホ」

「そしたら 彼は やめてくれてな また 車を走らせたんやー 黙ったまま ウチ 怒らせてしもーたんやろかって ウチも 思い返して、どうしたらよかったんやろかーとか 1時間ほど そのままやったんやけど 西名阪のとこ来てなー そしたら 上にあがらんと 脇道にそれて 怪しげな建物だらけのとこやんかー ラブホテルやん ハートマークの看板だらけやねん」

「へぇー そんなとこあるん?」

「そーやねん そやから ウチ こんなとこ 絶対に嫌やー って言ってダダこねてたら 又 彼はキスしながら、ウチのあそこに手を入れて来てなー ウチは絶対に嫌やーって泣き出したんよー そんでもあそこは変な感じやったんよー そしたら さっきは濡れてたくせに、付き合ってるんやから、それくらいは覚悟してるんやろーって 君のその可愛い下着をもっと見たいとか君の全部が欲しいってー 言ってたけどー そんでも ウチは 嫌やー こんなこと 一真さんのことは好きよー でも まだ、中学生なんやしー そんなんしたらあかん って 言って泣いていたら、彼も諦めたんかー 車を走り出させてー 帰ってきたんやけどー その間 ずぅうっと黙った切りでー 辛かったわー ウチ 本当に怒らせてしまったんやろかー とか もう これっきりになるやろかーとか やっぱり あの時 彼の言うとおりにしてたら良かったんやろかーとか 別れ際に なんとか さよならだけはゆうたんやけどー なぁー どーぅしょうか?」

「知らんわー そんなん なぁ 香って 初恋?」

「うん だと思う 小学校の時も女の子とばっかーで 男の子とはあんまり話したことも無かったし、好きな子もおらんかった」

「でも 一真さんには ぐいぐい行ってたんやんかー そやから 香って男の子に慣れてるんやって思ってた」

「うん ウチも自分でもビックリしたんやけどー 一真さんの雰囲気が良かったからー 手を繋いだのも彼が初めて それでどんどん好きになっちゃったー」

「あのね 一真さんって すごく真面目な人って 私も思うんよー 感じも良いしー だから 香のことも大切に思ってくれてるんだとー だけど、彼も女の子慣れはしてないはずよー 香は可愛いから 抱き締めたくなって、衝動的になったんだよー だって 香がそうしたんだよー 刺激しちゃってさー 彼だって その気になっちゃうよ」

「そうなんかなー 男の人って 初めてでも そこまでするんかなー 彼と、キスしたんも初めてなんだよー」

「香は中学生でも 相手は大学生だよー そのー 一番 女の子に興味ある年やんかー でも それだけ 香のこと 子供って思って無いってことだよー 一人前の女って思ってるんちゃう?」

「あっ そーかー 対等に思ってくれてるんやー」

「そーよー だからー 普通に 好き♡~ とか ライン送っとけば なんとかなるんちゃうかなー 多分向こうも嫌われたかなーとか 後悔してるってー」

「だよねー やっぱり 水澄に打ち明けて良かったぁー ねぇ 水澄も そーいう経験あるのー?」

「えぇー 私? 無いよ!」

「だって 彼とは? キスした?」

「してへんよー そんなん・・・」

「ふ~ん まだ 中学生やもんねー」

 香の言葉が 私には ズキッと刺さっていた。後ろめたさもあるけれど、私には 今 翔琉と繋がっているから、頑張れるんだと思っていた。彼に私の全てを投げうったことに後悔はしない。 
 

 

10-2

 練習の2日目。私は以前と変わらず、ステップしても踏んばりも効くので安心していた。翔琉とのことがあったので、つまらない心配をしていたのだ。

 練習が終わった後、若葉が私達3人を集めて

「コーチから 5番手6番手はどう考えるって聞かれたの ウチ 誰が上手いとか伸びるとかわかりませんって答えたんだけど・・・みんなの意見も聞こうと思ってー」

「ふ~ん 珍しいネ 若葉だったら 考えてるはずなんだけど・・・なぁ」と、花梨は、若葉の意見を探り出そうとしていた。

「ウチは技術的なこととか詳しないんやー 花梨のほうが、人をよく見てると思うんやけどー どう? 花梨は?」

「そーやなー ウチ等以外の他の2年は惰性でやってるよーなもんやなー まだ 1年の中では杉下ひなた ガッツあってヤル気もあるんちゃうかー あの子 夏休みもはよーぉ出て来て、練習終わってもひとりでジョギングしてたでー それも水澄を見習ってか、ステップしてスイング、ウサギ飛びから、又 ステップしててな けっこう きついと思うけど モクモクとやってたよ」

「そうよねー 最近 スマッシュの振りも鋭くなってきたみたい」と、私も一応 1年の中では気に掛けてはいたのだ。

「そうね 香はどう? 練習中もよく話してるじゃぁない」

「ウ~ン ウチは自分のことがいっぱいで・・・なんか 聞かれてもわからんから 見とってーって言うだけ でも 一生懸命なのは伝わってくるよ」

「若葉 ひなたとは別に もう3年も居らへんねんから どんどん1年生を鍛えて行かなあかんやろー?」

「そーなんよー コーチからも 去年はウチ等4人が伸びてきたので良かったけど、今年は1年生達を引っ張りあげなきゃーなんないから、厳しいぞーって言われてるのよ」

「そやなー 去年の響先輩みたいに ちょこちょこ3年生にも顔を出してもらわななぁー」と、私が言うと

「あかん よーわからんけどー 内緒やでー これはー あのな 燕先輩と朝咲先輩は他の学校に行くみたいよ」 花梨が声を小さくして言ってきた。

「えぇー うちの高校に進むんちゃうのーぉ」

「水澄 そんな大きい声出さんとってー 内緒や ゆうたやろー」

「うっ ごめん ほんでもー」

「あのなー 忍埜山女学園 今 運動部にチカラ入れ出してな 優秀な選手に声掛けてるみたい 卓球は中学もな たぶん 学費とか、その他の遠征費とかもあるやん 援助するみたいよ ほらー 響先輩と燕先輩って あんまり うまく行ってへんやったやんかー それでなー 違う学校でと思ってるんちゃうかー 監督、コーチなんかも有名な人呼んでるみたいよ」

「はぁー そーなんやー でも うちの学校は名門やでー」

「そんなん関係無い 自分が優勝したらええんやー」

「そやけどなー なんで 花梨はそんなん知ってるん?」

「・・・ウチも・・・声掛けられた 全中が終わった後になー 来年からでも ぜひ来てくださいって」

「はっ はぁー 花梨・・・」

「大丈夫や そんな気無い! ウチは この4人の仲間やからー 来年は連覇する そやから ひなたの指導係は水澄なっ!」 

「えっ なんでそーなるの!」

「ええヤン 同じサウスポーやし あの子 前にチラッっと聞いたんやけどー お兄さんは、少し年が離れてるんやけど京大でアメフトやってるんやってー きっと 逞しくていい男やでー」

「それが なんの関係があるん?」

「だってさー 頭良くってスポーツ出来るんやったら、就職もええとこ行くでー 一流の だからー ひなたの家に遊びに行ってーぇ おちかづきすればぁー」

「あほかぁー そんなんやったら 花梨がすればええヤン だいたいやなー 発想が不純やねー」

「あかんでー 水澄には 彼氏おるんやからー 大会の時 皆も見たやろー」

「香 いらんこと言わんとってー 普通の友達やーぁ」

「へっ 普通の友達なんやのにー あんな風に嬉しそうに駆け寄って行くかしらー」と、若葉も見ていたのかぁー

 そして、帰り道には香が私にスマホを見せて来て

「水澄 見てぇー 水澄に言われた通りにライン送ったの」と、 (この前はごめんなさい でも 一真さんのことは好きです ♡) (僕の方こそ すまなかった 嫌な思いさせて 今度また遊びに行こうね ♡) (ううん ちょっと びっくりしただけ また 遊びに連れてってね 楽しみ ♡)

「香 良かったけどね 仲が切れなくてー でも、これじゃーぁ 今度 ホテルに誘ってねとも受け取れるよ! あんなのは嫌って はっきりさせとかなきゃー」

「そーかなー」

「そーだよ! 香がええんやったら それでも ええんやけどー 好きにしぃーなー」

 10月には私達の修学旅行があって、行先は台湾なのだ。私には全く興味が無くて行きたくも無かったのだけど、あんまり、そんなことを言い出すと、お金を工面してくれているお母さんにも申し訳ないので、おとなしく行くことにしていた。

 現地では、台湾の舞踊とか、中学生の交流会とか、観光地にも行ったけど感動無くて、食事も油っぽくて味も濃くて美味しいとは思わなかった。私には、無駄な修学旅行で、これなら現地の中学生との卓球交流のほうがず~ぅっと意義があるのになぁーと思っていた。だから、家族への御土産も無くって、お兄ちゃんからは「へっ」って言われていた。

 私の最近の興味は卓球のことしか無くて、響先輩の言っていた卓球バカになっていたのだ。ただ・・・翔琉のことは・・・彼と居ると昔から気がやすらぐのだ。あの夏の終わりの時のことから・・・翔琉の腕の中で眠りたい、そして、彼と繋がっていたいと・・・あの時、朝起きて した時には、痛みもそんなに感じなかった。幸せが勝っていたのだ。次はもっと気持ち良いんかもと、私の中にエッチな水澄が住みつき始めていたのだ。だけど、その機会も無かった。

  

 

10-3

 修学旅行が帰って来て、しばらくするとお母さんが

「水澄がお世話になったとこの塾長さんがお店に来てね あのね 入試直前の冬季講習で生徒さんを募集するんだってー」

「ふ~ん いいんじゃぁない 私の後輩なんかも来るんかしらー」

「それでね その説明会を11月にやるんだって その時に水澄ちゃんに 塾の卒業生として 経験談を話してくれないかって」

「はぁー ? ? ? 私 卒業生なの? だって 経験だなんてー 夢中だったからー なんにも覚えてないー 人前で話せるわけ無いやんかー」

「そんなこと言わないでさー あの時 水澄ちゃんを引き受けてくれた義理もあるしー 短期集中で名門に合格して、スポーツでも全国のトップになって、素晴らしい生徒さんなんですよー うちの塾の誇りなんですって 頭下げられてね お母さん 娘に話してみますって言っちゃったのよー 水澄ちゃんのこと褒められて嬉しくってね・・・ そしたら もう 引き受けたみたいになっちゃってー じゃー チラシ作成しますねって帰って行ったの 11月第3日曜日だって」

「お母さん・・・そんなの どうすんのーぉー」

「お願い 水澄ちゃん お母さんの我儘だと思って ネッ お願い」

「もぉぉー お母さん 誰にでも頭下げられると弱いんだからぁーあ」

 クラブでは、1年の杉下ひなたと榮莉子(さかえりこ)をダブルスのペァに仕上げていた。莉子ちゃんは堺から来ていて、小学校の時は、地元の少年少女の卓球クラブでやっていたらしい。だから、仲良しが二色が浜中学校に行ったんだけど、自分は親の勧めもあって太子女学園を選んだと言うことだ。まぁまぁ練習は熱心で、ひなたとも仲が良いので、私もペァを組むことについては賛成していたのだ。

 そして、莉子の指導については主に花梨がしていて

「ひなたと莉子は 11月にある東大阪の市民大会に出なさいネ ウチ等も水澄と出て優勝したんだよ」と、強引に決めつけていた。

「ねぇ 水澄先輩 ウチ等 どうしょう 大会なんてー」

「どうしょうって? 普段の練習って思ってればいいんじゃぁない」ひなたは、普段から私を慕って来てくれて、素直で練習も文句も言わずに私の後を追ってきてくれているのだ。私も上手くなってきていると実感していた。私は妹が居ないので、可愛がっていたのだ。

「そーですよ 花梨先輩なんて 命令口調で・・・拒めないじゃぁ無いですかー ウチは・・・ いつも あの人 怖いんですよー たまに、話したかと思うと 言い方きついしー 怒られているみたい」と、莉子も私に言ってきていたが、だけど、普段の練習を見ていると、花梨の無言の圧力にも負けないで、やっているみたいなのだ。この子も確実に動きが良くなってきていて、鋭いスマッシュを放つようになってきている。

 花梨はコーチにも相談していたみたいで、彼女達が出るにあたっては、コーチも経験になるんだし いいんじゃぁない と言って反対してなかった。

「花梨 1年の子に 口調きつない?」

「う~ん ウチは もともと こんなんやでー あー 莉子やろー 水澄に告げ口したんか?」

「そーちゃうけど・・・何人かから・・・」

「水澄にゆうとくけどなー 莉子は根性あって負けん気も強いネン あの子は 今はひなたに負けとるけどなー 直ぐに抜かしよる 今の1年の中ではエースになるやろー そやから きつう言うこともある でも ちゃんと向かってくるんやー ひなたやったら泣いてるでー ひなたは水澄で丁度良かったんやー」

「そーなんかなー 莉子も辛いんちゃうかなーって・・・」

「辛いのは 当たり前やー それでも負けへんかったら つよーぉなるネン」

 彼女達の大会の日。私は翔琉を誘って見に行こうと思っていたのだけど、若葉も見に来ると言っていたので、仕方なく若葉と・・・。

 中学生以下のダブルスは10チーム程で、ひなた・莉子のペァは何とか勝ち進んで、決勝の相手。二色が浜中学の2年生ペァが出て来ていたのだ。私達が全中の大会で圧倒的に打ち負かしたペァなのだ。試合は向こうのペースで進んで、0-3の完敗だった。

 まだ、彼女達は個人戦にもエントリーしていて、準決勝まで残っているのだが、私が励ましに行くと、ひなたが

「水澄せんぱぁーい 負けちゃったぁー」と、眼に涙を貯めながらすり寄ってきた。

「そーいう経験も兼て出てるんだからー まぁ 決勝まで来たんだから よく やったわよー でも 切り替えなさい これから、個人戦なんだからネ」

 と、励ましたものの、相手は全中まで行っているのだ。レベルが違い過ぎるし、当然の結果だと、私は思っていた。だけど、その準決勝も二色が浜の二人も出ていて、うちの二人は圧倒的に打ち負かされていた。

「まぁ しょうがないわ 相手は2年生だし あなた達はこれからなんよ!」と、しょげている二人に声を掛けていたのだけで、私はあの相手のことを「どうして この大会に出て来る必要があるのよ! 今度 対戦することがあったら あなた達には1点も許さないわよー」と、後輩達可愛さのあまり、道がそれてしまっていた。

 月曜日になって、花梨に報告すると

「そーやったかー 甘もう無いなー」

「だけどね 二色が浜のあのペァが出ててね ダブルスは決勝で、個人戦はふたりとも準決勝で・・・歯が立たなかったの ずるいよねー あんな大会に出て来てー」

「そんなことないよー 市民大会で誰でも自由参加やー」

「でも 懐かしいよねー 私等の初めての・・・ あの時は私 何にもわからんかったけど 花梨にリードしてもらって 優勝だったわ」

「そーでもないよ あの時は水澄がおったから優勝出来たんや」

「あのな ウチ等と 今の1年のペァ 何が違うと思う?」

「それは・・・花梨も実力あったしー なんか 私もつられて・・・」

「もっと 違うもんあるねー 二人の連帯感やー ウチ等 チチ揉み合った仲やからちゃうけどなー 気がおうたっていうか コンビネーション抜群やったやんかー ペァ組んで 直ぐやでー」

「あぁー そーやったね あの二色が浜とのダブルスでも途中から めっちゃ うまいこと行った」

「やろー 1年の子等は まだ それが無いねん うもぉーなろうって気があっても お互いがあっち向いてるんやー」

「そーかーぁ さすがやなー 花梨 懐かしいなー 私 あの時の優勝も嬉しかったわー なによりも 花梨と勝ったことが・・・」

「うふっ ウチもやー 初めて、仲間となー オリンピックに行っても 今の状況 ふたりで 懐かしいって言おうな!」

「あんたぁー まだ 夢みたいなこと ゆうてんのん!」 

 

10-4

 次の日曜日。私は言われていた塾に10時半頃着いた。懐かしい気がする (V塾) の看板が掲げられた入り口を入ると事務室に学園の先輩の石積あかりさんが座っていた。

「水澄ちゃん 久し振りネ 今日は ごめんね お父さんが無理言っちゃってー」

「あっ あー 良いんです お世話になりましたからー 先輩 今日は?」

「うん 時々 お手伝い 私ね 阪大の工学部に受かったのよー だから 
手の空いた時には・・・」

「そーなんですかー さすがですねー」

「ううん それより 水澄ちゃんも 活躍してるんで びっくりしてるのよー 響にはよろしくネって言ったものの・・・ 中学に行ってからなんでしょ 卓球」

「はぁー みんなに助けられて・・・なんとかー」

「うん やっぱり 持ってたのネ パワー 今日はよろしくネ あっ そう 今年の春 入塾生 増えたの 父がね うちの塾生が短期講習で太子女学園に合格なんて 宣伝したものだからー もちろん あなたの名前は出して無いよー でも 今回は もっと増やそうとしてるみたいネ」

「・・・」

 あかりさんに案内されて、2階の会場に。私はいつも1階の仕切られた部屋だったので、2階には初めてなのだ。大きな部屋には30人位の小学生が座っていて、壁際にはお母さん達が立って居て、中にはお父さんの姿もあって、その光景に私は少し押され気味だった。塾長が、前に立って説明をしていて、しきりに生徒ひとりひとりの学力にあわせて個別に指導していって伸ばしていくということを強調していた。少し前から私の姿を認めていたのだろう。そして

「今日は、とうV塾の卒業生の香月水澄さんに来てもらいました。彼女は短期間ではあったのですが、ここで学んでくれて見事 名門の太子女学園中学に合格したのです。そして、ここで培った集中力は素晴らしくて、今2年生なのですが、中学に入ってから始めた卓球では今年の夏 全国優勝という輝かしい成績を収めました。学校の成績では入学試験は英数Sクラスでも合格していたのですが、あえて一般クラスにいって、それでも学年では上位に入ってるというがんばり屋さんなのです。だから、今日は体験談をお話ししてもらって皆さんの参考になればと、無理にお願いしてきたもらいました。じやーお願いします。香月さん」と、紹介されて、前に招かれた。

「初めまして 香月水澄です 太子女学園中学校2年生です」と、頭を下げていると

「みずみちゃん 優勝おめでとう」と、拍手とともに誰かの声が・・・名前で呼ぶなんて、お母さんの知り合いなのか、近所の人なのかわからないけど、それにつられて皆が拍手してくれていた。

「私がお母さんに連れられて、恐る恐るここに初めて来た時、応対して下さったのが塾長さんだったのです。その時、絶対に合格するんだいう強い意志があれば受かるとおしゃってくださって、我々が手助けするから大丈夫とも。だから、私はここに通おうと決心したんです。塾長さんは、いつも集中するんだよ 目の前の問題のことだけを考えて、後は何にも考えないで、とにかく集中しろって・・・いつも、私のこと 個別に熱心に対応してくださって、私は心強かったんです。だから、不安も無かった そのうち、絶対に合格するんだと自信もついてきたんです。そして、みごと 合格させていただきました。今 勉強にも卓球のことにも 集中して対応できるのは・・・ここで、このV塾で学ばさせてもらったお陰だと感謝しているんです。もちろん 生徒さん それぞれに学力の違いもあると思いますが、それに丁寧に付き添って対応してくださる塾長さん初め先生方もおられます。安心してお子さんをお預けになられる塾だと思います」私 こんなの初めてなので、最初 声が震えていたと思うけど そのうちに落ち着いて話せていた。

 終わると全員から拍手をもらった。塾長さんも握手を求めて来て、お礼を言っていた。帰りにあかりさんが送ってくれて

「みずみちゃん 素晴らしかったわー 名スピーチよ! お父さんも大満足だったと思うわ ありがとうネ」

「そんなー 私 震えてしまって 思ってた通りにしゃべれたかどうか」

「ううん 堂々としてたわよ さすが学園のスターだよね」

「そんなー」

 その夜、お母さんが帰って来て

「水澄ちゃん ありがとう 塾長さんがお店に来てね 喜んでいたわよ さすがに優秀な娘さんですねって 水澄ちゃんの後ね その場で申し込む人が10人以上居たそうよ おそらく、定員の25人は 直ぐにいっぱいになるでしょうって 感謝してたわよ」

「そう 良かったわー 私 申し込む人が誰も居なかったら どうしょうって考えていたの」

「そんなこと無いわよー 塾長さんが言うのには すごい 心を打たれるスピーチだったてっ お母さんも聞いてみたかったわー  それにね あなた達がおいしいって褒めてたプリン10個も買ってくれたの あれ 評判も良くって、売れ出してるわ
 水澄ちゃんも、すごく塾のことも褒めてたそーじゃぁない あなたも 抜け目ないのねぇー」

「そんなこと無いよぅー 必死だったんだから 何しゃべったかあんまり覚えて無いの」

「水澄ちゃん 下書きとか無かったの?」

「うん その場で・・・思い出しながら話したの」

「・・・あなたって人は・・・」

 夕食の時、お母さんが

「水澄ちゃんは いつもお母さんの我儘聞いてくれるのよねー 今日も、お母さんが褒められているみたいで嬉しかったわぁー」

「だってさー お母さんは私達の為に一生懸命働いてくれてるんだものー 私に出来ることをしてるんだよ」

「その言葉聞くだけで すごく 嬉しいのよー 水澄ちゃん なんか欲しいもんとか無い?」

「・・・お母さん 来週の日曜 翔琉のサッカーの試合があるの 応援に行きたいの 良い?」と、私は食べながら、普通のように・・・思い切って聞いてみた。

「いいんじゃぁない 翔琉君も水澄の応援にも来てくれてたんでしょ 水澄ちゃんも行ってあげなさいよー」

 その瞬間 私は、聞き間違いじゃぁないかと思ってたが、箸を落としてしまって、お兄ちゃんは飲み込んだものでむせてしまっていた。

「水澄ちゃんの お仲間も居るんでしょ? 皆に元気づけられたんだから、ちゃんとお礼言ってくるのよ」

 私は、お兄ちゃんと目を合わせていて、二人で唖然としていたのだ。 

 

10-5

 地元の中学校のグラウンドだったので、私は胸にウサギピョンが描かれている黄色いトレーナーとベージュ色のショートパンツに紺のハイソックスで自転車に乗って出掛けた。

 グラウンドに着くと、智子達女子の姿が見えたけど、今日は彼女達が出るとは聞いていない。丁度、試合が始まったところで、お互い点が入らなくって、でも前半終了前に翔琉からパスが繋がって十蔵がシュートしたら相手にあたって、そのままゴールに入った。だけど、そのすぐ後に、反撃されてゴールを許してしまっていた。

 ハーフタイムの時、数人の女の子がタオルを持って、選手達に渡していたが、翔琉には、あの時見た女の子。翔琉の横でポニーテールの後ろ髪を振りながら、しきりにタオルで扇いでいるのだ。私には見たくない光景なのだ。

 後半にも、翔琉から十蔵にパスが渡って、今度は見事なシュートがゴールネットを揺らしていた。そのまま、終了かと思って観ていたら、終了間際に立て続けに2本決められて、結果2-3で負けていた。

 智子からは、帰りにマクドに行くから、先に行って待っててよと言われて、私はつばの長いキャップの下にタオルを被った恰好で自転車をこぎ出した。朝はジョギングとトレーニングを済ませてシャワーして、この前お母さんが あー言ってくれたので家を出る時には、ルンルン気分だったのに、今は、翔琉のバカと 気分的に面白く無かった。

 とりあえずコーヒーだけで時間をつぶしていた。日曜日のお昼時でテイクアウトやドライブスルーは混雑していたけれど、意外と客席は空いているところがあった。ここは、少し住宅街が離れているし、わざわざお昼ご飯として家族で来るなんてしないのかも知れない。

 最初に智子が一人で来て「あの子等 脚 洗ろーぉたりしてるからな先にきてん」

「ふ~ん そやけど・・・弱いんやなー」

「そー はっきりゆわんとってー それでも 2本決めたヤン」

「うん ゆーたら悪いけどな そのうちの1本はラッキーやったんやんかー」

「・・・水澄とはちゃうんやからー あの子等の前でゆわんよーにな! あれでも、一生懸命 強くなりたいと頑張ってるんやでー ウチの学校 ちゃんとした指導者おらへんやろー なかなかなー」

 そのうち二人がやって来て「お疲れ様 惜しかったネ」と、私は気を使ったんだけど

「ああ 最後 立て続けになー 俺が ボール 奪えんかったからー」

「翔琉 それはしゃーないでー ウチは ディフェンダーが弱すぎるんやー」

「まぁな 2人が1年でキーパーも1年やからなー」

「うん 3年が居らんよーになって 今はしゃーないで」

「二人とも 何 傷をなめ合ってるのよー 何か 食べよーよー」と、智子は少しイラ立っているみたいだった。プレートを前に十蔵が

「なぁ 水澄とこも もう 3年 居らへんねんやろー 1年生はうまいこといってるのか?」

「うん ウチは 春に入部してから、コーチも居るし ほらっ 主力で無い新3年とか2年が居るやろー 皆で指導していくやー 今の時期は 主力が1年の子のめぼしい子を重点的に指導するんやー それに、時々 ウチの高校に進学する3年生も受験勉強無いから教えに来てくれるしなー」

「そうかー やっぱり 伝統ある強豪校はちゃうのー 俺等 メンバーもギリギリやもんなー」

「そんでもなー 春休みに合宿があるんやけど 今の1年の子等も初めての合宿やんかー 地獄の合宿やねー 徹底的に足腰鍛えられるんやー 泣き出す子も居るでー そやけど そこで 皆 一段と うもぉーなるの 私等もそこで伸びたんやー」

「はぁー やっぱり ちゃうなー 俺等とは」

「そーやでー 水澄の脚 見てみぃなー 筋肉隆隆やー 又 ふとぉーなったんか?」

「智子・・・そんな 言い方・・・」

「あのな 水澄は毎日 トレーニングして脚力つけてるんやー そやから あんなステップ出来るんやで 必死の努力してるの! あんた等みたいに ちょっと走ったらヒィヒィーゆうとんのんとちゃうでー コーチとかの問題 ちゃう 目標に向かう姿勢や!」

「智子 厳しいのー」

「でも 智子のゆうてるのおーてるでー 試合中に女の子にタオルで扇がすんやったら もっと 走れって思う ボール取られる位やったら 何で 相手より早よー走って行かへんの? 体力も無いんちゃう?」

「うっ 水澄様のおしゃることは ごもっともでございます」と、十蔵は少しおどけ気味だった。

「なぁ その タオルで扇がしてるって 俺のことか? あれは、ちゃうで あいつが勝手に・・・」

「そしたら 何で その勝手させるんよー! 調子に乗ってるんちゃうの!」と、強い口調だったかも

「水澄 イライラするんはわかるけど あの子は翔琉のことが好きやねん けど 翔琉はいつも相手にしてへんでー ウチも見張ってるしな わかってあげてー そんでも あんた等 仲ええねんなー 水澄 自分のポテトをさりげなく翔琉のとこに置いたりしてなー」

「えへっ 見てたかー 私 あんなん 別に何とも思ってへんでー ちょっと 翔琉にイジワル言って見ただけ 私は翔琉のこと信じてるもん」

「おーぉーおー」と、言っていたのは十蔵だった。でも 翔琉は 何の反応もなかったのだけど、私は彼の手を取って、十蔵達にはわからないようにテーブルの下で繋いでいた。私達は、もう・・・と言う気持ちだったのだ。 

 

10-6

 次の木曜日、お母さんがお休みなので私のお迎えに来てくれていて

「昼間 塾の石積さんが来てくれてね この前のお礼だって 水澄にメロンを持ってきてくれたわ あれから1週間程で申し込みが定員になってしまって、それでも申し込みが遅れた人が粘り強いんで2人オーバーで受け付けたんだって 水澄に感謝してたわよ」

「へぇー すごい すごい メロンねぇー」

「まだ 箱から出さないでそのまんまよー」

 家に帰るとお兄ちゃんがメロンの箱とにらめっこしていて

「おう 帰ってきたかー さすがにな どんなかなーって 眺めていた 早く 開けてみようぜ」

「どうしたの? 達樹 果物なんかに興味あったの?」

「さすがになー メロンだぜー それも高級そうなのじゃんかー いい匂いがする」

 私が開けて中から取り出してみると、大きなマスクメロンが・・・

「まぁー 立派なメロン 静岡産だって 紙箱だけど桐の箱に入っていたら1万円は超えるかしらー ふふっ はしたないけどねー」と、お母さんも嬉しそうな声をあげていた。

「ご飯 食べたら さっそく いただこうぜー いい香りがしてる」

「だめよ まだ 完全に熟れてないみたいよ おしりからも 匂いするくらいじゃぁーないと しおりにも書いてあるわ もう後4~5日が食べごろですってー 残念でしたー しばらくは 楽しみに眺めていてー」

「お母さん こんなの 高いだろうしー 貰っちゃって良いのかなー」と、私 心配になっていたら

「だってさー せっかく持っていらっしゃったのに 返すわけにもいかないじゃぁない? いいわよー 水澄ちゃんが協力したから 生徒さんも増えたんでしょー あそこも繁盛するんだしー それとね! 申し込みに来た中で 水澄ちゃんのこと すごく褒めていた人が居て 堂々と体験談を話していて、勉強も出来て運動も出来て自信に溢れているしオーラーが出ていたって 道で時たま会って、ジョギングの途中でも丁寧に明るく挨拶をしてくるし、夜でも家の前でトレーニングしてるって すごく努力家なんですよねぇー 最初はあんなに髪の毛短くしちゃって なんかおかしくなっちゃたんかと思ってたんですよ ところが、全国優勝なんてね でも、自分のとこの子にも水澄ちゃんにあやかりなさいって言っているですってー言っていたらしいわ 多分 ほらっ メイン通りの角の大きなお家 オレンヂの屋根の・・・東方《ひがしかた》さんよー お年寄り夫婦と同居してる あそこの上の子が確か女の子で6年生のはずよ 水澄ちゃん 知らない? えーとー みずきちゃん」

「う~ん 見たことある程度かなー 髪の毛長いよねー」

「そう でも 最近 いくらか切ったのかも・・・ 一度ね そのお母さんとお話したのよ お宅のお嬢さんは、太子女学園ですってね 素敵な制服で お嬢さんもおきれいでお上品そう 羨ましいわぁーって言ってたの 丁度 水澄ちゃんが中学に入って直ぐの頃 いきなり話し掛けられて 気持ち悪かったけどネ でも 一応 ご近所さんといえばご近所さんだしー でも 水澄ちゃんのこと ず~っと 見てるみたいなの 一応 気をつけてね そーいう人って 一度 なんかで根に持つと怖いわよー」

「うん でも お母さん 気にし過ぎよー 変にバリァー張っちゃうんだものー」

「そう? でもね 世間って 怖い人のほうが多いのよ 水澄ちゃんだって ジョギングの時は気をつけてね 昼間だからって安心できないわー 達樹 あんた 出来るだけ水澄ちゃんに付き合ってよー」

「へっ 俺かよー 俺 チャンピオンじゃぁないしー いつも 辛いんだよー 水澄 段々 距離伸ばしてるんだぜー そのうち 大阪マラソン出るんじゃぁ無いかと」

「何 情けないこと言ってんの! あなたの可愛い妹でしょ! 頼りないけどボディガード メロン 食べないの? お母さんだって あの時 達樹のような子が居てくれてたら・・・」

「お母さん 早く ご飯! 腹減ったー」と、お兄ちゃんは妙に・・・話を・・・

 ご飯の後、私が洗い物をしていると、お父さんが帰って来て

「おぃ! 水澄のあん時の決勝の試合 ユーチューブですごくバズてんだってよー 事務所の女の子に教えてもらった」

「はっ なんだよー 親父は・・・バズってるって 知ってるん?」と、お兄ちゃんがお風呂を洗って戻って来ると

「あぁー 事務所の女の子がなー まぁ 見てみろよー これっ」と、スマホを差し出して・・・確かに、私と花梨の決勝の時の試合だった。私、ビデオで見返すのは初めてだったのだけど・・・最後のほうは、壮絶な打ち合いが続いていて、1球毎に会場からの拍手もすごいみたいだった。最後はやっぱり ボールが力無くコロコロと大写しに・・・私が負けていた。

「でも このフォローの言葉がすごいんだよー ほらっ (すごい! まるで全日本の決勝みたいだ あんなラリー見たこと無い どっちも優勝させてあげたい 感動しました) (最後のスマッシュ なんだぁー あれは 魔球か? それでも それを返した岩場花梨もすごぉーいよー この二人は超人か) (負けてしまったけど、私は香月水澄さんを応援します 準決勝で去年のチャンピオンを破って出てきたんだものー 疲れてたんだよねー あのコーナーギリギリのところにスパンと決まるとスカーッとします あこがれです) (ふたりとも すごい 早く 日本代表になってぇー このふたりで 卓球界も繋がるねぇー 中国を倒せ!)  なっ すごいだろう これは、我が娘のことなんだよなぁー」と、お父さんは興奮していた。

「うん 確かに すごいなぁー あっ こんなのもあるぞ (ふたりとも可愛いから すぐにアイドルだよ)ってさ ちょっと オタク気味なのかなー」と、お兄ちゃんも楽しんでいるみたいだった。

「お兄ちゃんもやめてよー 気持ち悪い! お父さん それに女の子女の子って その人達 幾つなの?」

「そーだな 響子ちゃんは30過ぎで 菫ちゃんは28で まだ独身なんだ」

「あのねぇー 今は事務所の女性を女の子って言うのもセクハラよ! それに、何々ちゃんって 今はセクハラっていう時代よ! 苗字で何々さんって呼ばなきゃあダメなの 明日から 直してよねー お父さんの品格の問題よ!」

「えっ あー 気をつける」

「水澄 なに カリカリしてるんだ?」と、お兄ちゃんが言ってきたけど

「だいたいねー こんなの勝手にユーチューブにあげても良いの❔」

「う~ん どうなんかなー でも これを見て 卓球やっている人が参考にするんなら いいんじゃぁないのー」

「そんなこと言っても、ビデオ見て 私等 研究されるんだからネ! 来年は あの見沼七菜香だって・・・他にも どんな強い子が出て来るかわかんないんだからぁー」

「そーだよなー 目標になったんだものなー 追われる立場か?」

「・・・私 トレーニング」と、外に行こうとすると

「水澄 無理するなよ! 神経質になりすぎて 身体痛めたりしたら 無駄になるんだぞ 焦るなよ」

「うん そーだよね お兄ちゃん ありがとう でも 冷蔵庫のプリン 残り一つは私のだからねー」
 

 

10-7

 11月も最後の土曜日。練習の後、私達4人は莉子とひなたにも声を掛けて、お好み焼き屋さんに来ていた。

「ここはね 私達4人が、練習の後に集まって良く来るのよ そして、結束を誓っていたの」と、若葉が言うと

「どうりで ウチ等ふたりを呼んだんですか ひなたとは仲良いですよ」と、莉子が言っていたけど

「そりゃー そうよね 同じクラブなんだものねー 表向きはね」と、花梨が切り出してしまった。

「先輩 ウチ等・・・そんなぁ・・・」

「そっ そーよねー 花梨 そんな角の立つ言い方しなくってもー ねぇ 二人は、小学校の時 お互いのこと 知ってたの?」と、私が、方向を変えていた。

「ウチ 名前だけは聞いたことあった ひなたは 小学生以下の京都の大会で何度か優勝してたからー でも、確か もうひとりすごい子が居たかなー」

「ウチは 知らんかったの 京都の大会のことしか考えてなかったからー」

「そう じゃぁー 中学に入って 初めて お互いのことを知ったわけだー 私等4人もそーなんよー でも どんどん間が縮まって仲間意識が出来ていったのよ 4人とも 前向きに練習に取り組んでいったからー」

「水澄先輩 ウチ等も いつも 前向きに練習してます・・・つもりです」と、ひなたが少しすねたのか

「うん そーよねー 懸命にやってるわー だからー 今日は ここに 呼んだのよ 食べながら、ここでは、不満とかあったら言って良いのよ」と、若葉も柔んわりと言っていた。

「なんにも 不満なんて無いですよー 練習が厳しいのは当たり前だし 入部当初は不安だっけど、水澄先輩も優しく教えてくれるし いい先輩方で良かったです」

「ウチも 小学校で仲良かった子がふたり 二色が浜に行ったんやけど 太子女学園は全国優勝校やから羨ましがっとんねん 花梨先輩も言葉きついけど慣れたしなっ ウチのこと考えてゆうてくれてるんやって お陰でうもぉーなってきたしな」

「何ゆうてるん! 莉子は十ゆうても 半分も出来てへんねんでー この のろま!」花梨の言葉は相変わらずきつい

「そーですよー 脇で聞いていても ウチやったら めげてるわー でも 莉子はそれでも向かっていくし、どんどん うまくなって実力もついてるし えらいと思ってるんやー 時々 莉子のスマッシュは、花梨先輩の真正面をぶち当てるもんなー すごぉーいと思う」

「ひなた いまの言葉 莉子に真直ぐ もういっぺん ゆうたりーぃ」

「ええー ・・・莉子は先輩から罵声を浴びても向かっていくし、喰らいついていって、うまくなって実力もついてるし 時々 莉子のスマッシュは、花梨先輩の真正面をぶち当てるもん やっぱり 莉子はすごぉーいと思う」

「ひなた あんたやって 右に左に動きが早いし、うまいことボール 散らすヤン ウチには出来ひん でも 頑張って追いつこうと思ってる」

「そやねん 今のあんた等 見てたら ペァの時 お互いに好き勝手に打ち合いしてるだけやー 相棒への信頼が無いねん ダブルスはな 今 二人がゆうてたように、相手への信頼関係が大切やねん ウチも自分から言い出したんやけど 水澄と組むようになった時 なんやねん こいつ 勝手にスマッシュばっかーしてぇー ウチも負けたらあかん って思ってた。だけど そのうち 水澄のスマッシュはウチとは球すじとか違うんやって気がつかされてなー 水澄が打ち込んでもボールが返ってきたら、逆のコースとか緩急つけるとか 水澄が決めやすいコースに打ち込むとか 考えるようになってな そのうち 水澄もウチの決めやすいコースとかに打ち込んでいくようになって それからは、ツーカーの呼吸になったんよ」

「あー 燕先輩から聞いたことがあります 自分は花梨とペァ組みたかったんやけど・・・でも、花梨と水澄が決めてしまってー 結果 それで良かったんよ あの子等 直ぐに 最強になったわ 上級生のペァより上にいってしもーて 今も 水澄、若葉も最強やけどねーって」と、莉子が言っていたけど

「ちょっとー 花梨 なんやのん あの時 私のこと この野郎とか思っとたんかぁー なんやのん 自分から お願いしますとか頭下げとったくせにー」

「あっ 頭なんか下げてへんわー ペチャパイでもええかーって 思とったけど・・・」

「なんやのー 貧乳花梨のくせにー 私は ちょっとは成長したわ!」

「そんなこと ないでー 比べよーか」

「ちょっとぉー こんなとこで 又 乳揉み合わんとってな! ちゃうんやでー 莉子もひなたも 喧嘩してるんちゃうでー この二人はお互いに信頼しきってるからー でも おっぱいのことは別にして」と、香が止めに入っていたけど

「ふふっ わかりました ウチ等 上辺だけだったかも でも ウチの方が胸は大きいかもね」

「ひなた 何 言い出すネン ウチ やって・・・」

「ウチ Bやでー 莉子は?」

「・・・A でも たいして 変わらへんヤン 見栄やろー さわったろーかー」

「ちょっとぉー よしなさいよ! 太子女学園の品格が落ちるわー 胸の大きさなんか以外で、お互い 競い合うのは良いの でも お互いに相手への信頼は忘れないでちょうだいよ!」と、若葉はちゃんと私達が言いたいことを押さえていた。

「ウチ 全中の時のん ユーチューブ゛で繰り返し見てるんです。団体戦の決勝戦 感動しました。最初の花梨先輩の試合。先輩が繰り出すスマッシュに面喰ってるあの前チャンピオン 痛快でした。それにダブルスの戦いも、圧倒的に勝ってしまって、水澄先輩と若葉先輩 コンビネーションがすごくって ウチ 繰り返して見てるんです」

「そう ウチもやー 個人戦の水澄先輩の準決勝の試合も あの追い詰められた時からの巻き返しと最後 決めた時のスマッシュ 画像がズレたのかと思った。でも、相手の呆れた顔 私も信じられなかったの。そして、花梨先輩と水澄先輩の決勝戦。すごい高速ラリーで・・・なんか 二人が打ったボールの後ろから煙が出てるように 見えたの まるでアニメよねー なんか二人ともやりながら微笑んでいるみたいだった 勘違いなのかなー 試合を楽しんでいたみたい 最後も衝撃だったの こんな二人の先輩にウチは指導してもらってるんだ 頑張らなきゃーって思った。だって こんなの日本でも ひと握り・・・ひと掴みの人間だけなんだものー ウチは絶対に後に続くようになります」

「ふふっ そうよ あの時はウチ すごく楽しかったの 水澄もそうだったと思うわ 全中の決勝戦で二人でこんな風に打ち合えるなんて これは描いていた現実の世界だわとネ まぁー 二人とも 頑張るんだよ! お互い 声を掛け合ってナ! 年が明けたら もっと 練習も厳しくなるからー それと 春休みの合宿も 泣かないでよー 香なんて しよっちゆう泣いていたんだからー 夏まで・・・ でも 歯を喰いしばって、頑張ってきたんだよ」 

「なによー 花梨 あれは泣いてたんちゃうわー 勝手に涙が・・・辛かったからちゃうでー 出来ひん自分が悔しくってー」

「どっちでも ええヤン 誰よりも 頑張ってるんやからー」

「花梨・・・」     

 

10-8

 翌週からの練習では、莉子とひなたの声が響いていて、張り切っているのがわかった。しばらくすると、1年生全員に伝わっていて、彼女達のヤル気が2年生をも圧倒していたのだ。あの二人が完全に1年生を引っ張っているのだ。

 美麗先輩も、合間に練習に参加してくれていて、その代わり様に驚いていたのだ。

「若葉 どうしたの? 雰囲気が全然ちがうね」

「はぁ どうしちゃたんでしょうねー 先輩 来年の太子女学園は もっと 強くなりますよ」

 そして、期末考査を迎えて、その成績発表があって、学年トップは若葉だったのだ。2番の大路輝葉に5点差をつけてのトップ。私は 又 3番。

「若葉 やったわねー」

「うん 頑張ったと思う」

「でもさー 学年トップで全国優勝のクラブを率いてのキャプテンやろー 文武両道の鏡やなー 学園のスターヤン」

「やめてよー スターは花梨やろー」

 その花梨のスター騒動も落ち着いてきてるんだけど、花梨は成績ランクで8位に顔を出していた。香も6位なのだ。練習の後、コーチに4人が呼び寄せられて

「今日 校長に呼ばれたのよ あなた達 成績優秀らしいわね 10位までの内に4人が名前連ねてるって 4人以外は みんなSクラスなんだって 運動も学業も一生懸命取り組んでくれて素晴らしいってネ 文武両道そのものだって 私 褒められちゃったの 指導が良いからだって」

「へぇー コーチ 褒められたんですかー じゃぁー 給料もアップしますかぁー?」

「こらっ そんな話じゃぁないの! でも あなた達には感謝してるわー 私が見てきた中では最高よ! 校長先生はね あなた達のこと 太子女学園の四天王だって言ってたわよ」

「ワォー ウチ等 神様になったんかー」

「花梨 四天王って 神様ちゃうんちゃう?」と、香が冷たく言っていたけど

「ちゃうで 四天王は守護神で守り神なんよ」と、若葉が訂正していたのだ。

「あー でも 守りってあかんやんかー 攻撃しやなー 来年も攻撃あるのみやー」と、私が言うと

「ふふっ そーやー 来年も 突き進もーなー」と、若葉は締めくくるのだ。

帰ってきたお母さんが 「水澄ちゃん すごいわね 今度もクラストップよ」

「あかん 又 3番目や 若葉に勝たれへんかった」

「3番って 学年ででしょ 頑張ってるじゃぁない ねぇ 達樹?」

「う うん すごいことだ あの太子女学園だからなー」

「ダメなのよー トップじゃぁ無いと 私 必死に頑張ってきたつもりよ でも 成績も・・・全中でも負けてしまった 後一歩が届かない お母さん 私 これ以上どうすれば・・・」と、涙が出て来てしまったのだ。

「水澄ちゃん もう じゅうぶんよ 泣かないでー 成績だって何点か差だけでしょ あの時の決勝だって1ポイント差じゃぁない 少しよ! 同じじゃぁ無い? 頑張ったわよー お母さんは 水澄ちゃんはえらいと思ってるわー」

「その少しの差が抜かせないの! 若葉なんてキャプテンもやりながら成績ではトップよ! 私は努力が足りないんだわー 卓球でも こうやっている間に後輩とか全国の人が追い上げてきてるんだわー ・・・私 トレーニングしてくる」と、着替えて降りてくると

「そんなこと知るかよー お母さんの娘なんだろー」と、言うお兄ちゃんの声が聞こえていた。

 そして、私が素振りをしていると、お兄ちゃんが外に出て来てしばらく見ていた。多分 お母さんと何か話し合っていて、言われて出て来ているんだろう。

「そんなとこで ぼぉーとしてると風邪ひくよ!」

「うん まぁ お母さんが心配して・・・見守りなさいって 水澄は何かに憑りつかれてるんじゃぁないかって」

「そんなわけないじゃない! 私は トップになりたいだけなの」

「水澄 俺が風呂洗いとか、弁当も自分でやるようになったのに その空いた時間 俺はお前に寝る時間にあてろって言ったのに 勉強時間を増やしただけじゃぁないか」

「うん だってぇー 寝てられへんねんモン」

「あのさー 今の お前に足りないとすると 心の余裕じゃぁないのかなー いつも、目いっぱい走ってー あと一歩だとしても 実力的には充分だよ なぁ 翔琉とはうまくいってるのか?」

「フン! じゃあー 私は 後2歩 努力するだけだよ! ・・・それに、翔琉と逢ってると流されそーで・・・私が逢いたいと思う時だけでいいの 女の我儘よ! お兄ちゃん もう 少しで終わりにするから お願いあるんだけど お風呂の用意してきて 一緒に入って、筋肉ほぐしてくれる?」

「・・・あほっ ・・・お母さんに頼んどく」

「フン 根性無し!」

「それは・・・根性の問題ちゃうやろー 水澄が可愛過ぎるからやー」

 私がお風呂に浸かっているとお母さんが入って来て、私の腕とか脚を揉みほぐしながら

「水澄 もう 充分よ お母さんね 無理やり あの学校に行けって言ったけど、水澄がこんなに頑張る子だとは思ってなかったの 水澄が頑張ってるのって嬉しいわよー だけど 身体壊しでもしたら 悲しいのよー」

「大丈夫だよ 平気! 夏でも 大会の後 お父さんとお母さんが喜んでいるの 私も嬉しかったんだからー でも 次は もっと頑張って トップになるわ!」

「水澄」と、お母さんは私を抱きしめてきてくれて

「お正月にね 水澄ちゃんのお仲間 呼びなさいよ お母さんも2日からお休みだからー 翔琉君もね」

「・・・」

「お兄ちゃん お母さんがねー」と、お風呂から出て、お兄ちゃんの部屋のドァーを・・・

「あわわっ だからぁー いきなり開けるなよー」と、お兄ちゃんはベッドに寝そべっていたのだが

「なんで? 変なことしてたの?」

「いや ぼぉーっとしてただけだけどなー それより お前 パンツだけやんかー そんなで 現れるな!」

「へっ お兄ちゃん 妹なのに 変なこと考えてるのー?」

「あほっ 妹でも・・・ 無茶言うな! いつもいつもよー で なんの用だよー」

「お風呂 空いたよ あのね お母さんがお正月に私の仲間を呼べばーって 翔琉も ねぇ 夏が過ぎたあたりから お母さん 変わったと思わない? なんか 変 前はあんなに会うことでさえ反対してたのにー」

「そうかー いろいろあるんだろうな 良かったじゃないか」

「なによ そのいろいろって?」

「だから まぁ そのーなんだ 水澄が優勝まで行って 仲間の支えって大切なんだと思い直したんじゃぁないか それに、水澄には息抜きも必要なんじゃぁないかって」

「ふ~ん」
 

 

10-9

 今年最後の練習日に2年生以下の個人対抗戦が行われた。一応、来年に向けてのランク付けがされるのだ。

 1、2回戦を勝ちあがってきた8人の中に、1年生の莉子が居た。香は花梨と当たっていて早々と敗退していたのだが、次の準々決勝で私も若葉と当たっていて、負けてしまっていたのだ。丁度、私はアレが来ていて、あんまりステップも出来なかったのだ。

 そして、準決勝の時、花梨と莉子が当たって、皆が驚いたことに・・・莉子が最初の2ゲームを連取していたのだ。次の3ゲーム目も8-4とリードしていて、それから花梨も連続でポイントを奪って、そのゲームを取ってからは、完全に花梨は優位に進めて、結局 勝っていた。

 結局、決勝は花梨と若葉で、花梨が勝ってしまったのだけど

「どうしたん? 花梨 莉子相手に・・・」

「うん ちょっと 遊んでしまったかなー でも あの子 すごい 録画みて研究したんだろうな ウチの弱点 ちゃんと突いてきていた ほらっ ウチ 秋元蓮花にポイント取られたんは センターを攻められた時なんやー あの子 それを見て研究してたんや そやからなー でも 最後は そんなに甘もぉーないぞって」

「もぉー 知らんわー」

「ふふっ でもな 水澄 あの子は きっと 伸びるよ 水澄みたいにね! 次のエースや」

 31日大晦日。家の掃除も一通り終わったので、私は表に出てトレーニングをしていたら、智子がやってきて

「水澄 さすがに精が出るねー 年末ギリギリまで」

「そうよー 後ろから追いかけられてるかと思うと じーっとしてられないの!」

「水澄・・・ 神経質になってない? 休めば?」

「休んでなんかいられないわよー 私 卓球バカだからー」

「ふ~ん 先輩は部屋に 居るの?」

「うん エロ動画でも 見てるんちゃう?」

「えっ そんなん ウチがなんぼでも見せてあげるのにー ほらっ 今日は 年末特別サービス 赤いんだよ」と、スカートを捲っていて

「バカっ お兄ちゃんはそんなん見て無いよー ジョーダンだよ サッカー見てるんちゃう? 智子 お兄ちゃんを誘惑せんとってなー」

「わかってるって 勉強 教えてもらうだけ じゃぁネ!」と、遠慮なしに家に入って行った。と言っていたけど、あのローズレッドのんをスカートからチラチラ見せるんに決まっていると、気が気じゃぁ無かったのだ。お兄ちゃんも惑わされんかったらええけどー。智子自体は別にええねんけど、色仕掛けやったら嫌やー・・・。

 夕方になって、お父さんがゴルフの打ちっぱなしから帰って来て

「お父さん 智子が来てるの」

「ほぉー いつものようにな 水澄の友達なんだから良いんじゃぁ無いか」

「でもね お兄ちゃんの部屋にこもってるんよー」

「ああ 勉強教えてもらってるとかー」

「だってさー いつも 短いスカートで・・・」

「だなー あの子 脚がすぅーとして きれいだもんなー」

「お父さん! なんか いゃぁーらしい!」

「おー こわぁー シャワーを浴びるよ 晩はどうするんだ?」

「お母さんが 帰ってきたら お蕎麦でしょ 海老天揚げるからー それまでは、牡蠣フライねっ」 

「そうか いいねぇー 早い目に揚げてくれ」

「良いけどー お父さんの後 私もシャワーするからね その前にね お父さん ちょっとシャワーの前にお兄ちゃんの部屋 のぞいてきてよー」

「そんなこと出来るかよー うっとおーしがられる 気になるんだったら、水澄が行けばいいじゃぁ無いか」

「ダメよー それこそ 嫌がらせみたいじゃない!」

 私がシャワーをして出て来ても、まだ智子は降りてこなかった。私はピンクのもこもこのルームウェアーで、お父さんに言われてお燗の用意をして、たたみいわしを焼いてるとようやく智子が降りて来て

「水澄 帰るからね」

「あっ そう ご飯食べて行くんじゃぁないんだー」と、とりあえず声を掛けると

「うん これから おっかぁーと買い物 間際のほうが 色んなもの値引きしていて安いからね」

「あっ そうかぁー ウチは 何となく お買い物済ませてるからなー」

 牛乳に浸しておいた牡蠣の粒に軽く小麦粉を振って、解き卵にくぐらせて、細かく砕いたパン粉を付けて、揚げ始めていた。お父さんはパン粉が細かいほうが好みでお兄ちゃんはどっちかというと粗目が好みで・・・。その時、お兄ちゃんが降りて来て

「おっ いい匂い うまそー」

「まって お父さんのを 先に揚げているからー どうだった? 赤いのは?」

「えっ なんの話だ? 赤いのってー」

「うぅーん ほらっ あの子 唇 紅いの塗ってたでしょ」

「だなー 年頃だからなーぁ いいんじゃあないの! 冬休み中なんだし」

「リップだけ?」

「・・・だけって?」

「うん いいの 私も お正月は赤いのつけよーかなー そうだ 今日は お蕎麦の後ネ 柚子風呂 そこのおばぁちゃんに柚子をもらったから そうそう 海老の天ぷらを持って行ってあげるの お礼に」

「へっ 海老天がお礼?」

「そうよ お年寄りだし、独りだから 揚げ物しないでしょっ だから、温かいの持って行くからって・・・朝 お話したの その時に柚子をもらったのよ」

「水澄は 誰とでも 親しく 仲良くなるんだなー」

「そんなことないよー でも ジョギングの時は 出会う人には挨拶するようにしてる」

「みたいだなー この秋から 俺も付き合ってて 何人かから チャンピオン頑張ってねって 声かけられて 有名人だものなー 横の俺が恥ずかしいよ」

「そーだね でも 私 もっと 頑張ろうって 力 貰うんだぁー 次は 本当のチャンピオンって」

 お父さんから「うまいぞー フライ 熱々で 若女将 もう1本」と、リビングから声がしてきて「その1本はお高いですよー ピチピチの女将なんですからー もぉー お母さんが帰って来るまでは寝ないでよー お蕎麦 食べるんだからー」

「なぁ 次 俺のん」

「わかってます! お父さんにお燗して持って行ってよー 私はお兄ちゃんの家政婦さんでも何でもないんですからネ!」

「俺の可愛い 妹だよ」

「・・・ まっ いいかー こういう宿命なんだよなー 私は・・・ 歳の瀬に 飲んべえーの親父 一生懸命働くお母さん 家事を押し付けられて動く可哀そうな少女 ぼぉーとした兄」

「お前 熱あるみたいだなぁー」

「あのねぇー このお漬物 お父さんに持って行って!」

「水澄って 何にでも完璧だよなー 素晴らしい女でもあり 良い嫁さんになるよー でもな だけど 俺はお前の唯一 弱点を知ってるんだ 恥ずかしいのをな」

「なによー それっ!」

「いいから 俺のを揚げてくれ 早く食べたいんだよー 手が止まってる」

「ハイ はい わかりましたよー それで 恥ずかしいのんって何?」

「あー 水澄がな 寝ている時 だらしなく口を開けてな たまに よだれも流しながら・・・ソファーの背もたれに股もバカァ~ンと開いてパンツも見えているし、時々 腹を搔いている姿 動画にも撮ってあるよ」

「・・・えぇー そんなん 盗撮やんかー」

「そんなことないよ ここのソファーで いつもやー」

「お兄様 それだけは・・・漏らさないでー おねげーぇしますだぁー お母さんにもお父さんにも」

「あぁ いいぞ そのかわり 水澄は俺の 可愛い家政婦な」

「うっ 脅迫かぁー」

 暗くなってきてから、私はおばぁちゃんの家に揚げたての海老天を2本持って行って、

「おばぁちゃん 持ってきたよ お蕎麦はあるの?」

「あぁ おつゆもあるよ 買ってきておいたからー」

「ふ~ん 出来あいなんだー」

「そーだよ もう ひとりだから わざわざ作らないよ」

「そう お雑煮も?」

「そーだね お味噌汁に小さいお餅を入れる程度かねー 独りだからネ 適当に済ますんだよ」

「おばぁちゃん 明日 私 来て良い? お雑煮の具材は持ってくるからさー おつゆの作り方 教えてぇー 一緒に食べようよ! お願い」

「へっ それは いいけどネ おうちの方が・・・」

「ウチは 朝 早いし・・ 8時にくるよ じゃぁ お願いネ」

 その夜 柚子湯に浸かりながら、私は この1年を思い返していた 一番の出来事は 翔琉とのこと 欲しい 今 愛して欲しい 自然と手をあそこに添えていて、いい感じになってきたら、全中の試合のことが思い浮かんできて、花梨、若葉、香の顔が・・・なんで、あんた等が出て来るのよー

 

 

11-1

 年が明けて、起きたのは久々に6時半だったけど、降りて行くとお母さんがキッチンで何かをしていた。

「おはよう お母さん 寝坊しちゃった」

「いいのよ ゆっくり休んでればいいのにー」

「ううん 何か 手伝うことある?」

「そうねー 後は お餅と海老を焼くだけだからー 7時になったら 焼きはじめよーか」

 ウチの元旦の朝は簡単なもので、お雑煮と焼き海老だけなのだ。お母さんが仕事で出掛けるから、2日にお正月が始まって、おせち料理らしきものが並ぶのだ。

 皆が揃って、新年のお祝いをして、お母さんが出掛けて行った後、私は、お雑煮の具材をポリケースに詰めて・・・京人参、里芋、筍、椎茸と鶏のササミ、三つ葉。「お昼はお餅でも焼いてたべてネ」と、男ども二人に言っておばぁちゃんチに向かった。

 私は朝から、白いブラウスに紺のカーディガンにプリーツスカートだったので、そのまま、お父さんに買ってもらったネックレスをつけて、近くなのでコートも着ないで走っていた。

「おばぁちゃん おはよう あけましておめでとうございます」

「あら まぁー 本当に来てくれたんだねー」

「そうよー 楽しみにしてたんだからー」

 と、お餅を電気コンロで焼いて、具材を少し温めて、おばぁちゃんは木をくり抜いた木地のまんまのようなお椀を用意していて、その蓋には五つの丸ぁるいものが彫り込まれていた。中に具材と焼いたお餅を入れると、予め用意していたのだろうか、鍋のお水から昆布を取り出して、沸騰したら火を止めて鰹節をほおり込んで、もう一度 火をつけて沸騰寸前で止めて、一 二 三と数を数えて十になったら鰹節を濾して、もう一度火をつけて、お塩で味を調えて少しだけ味醂とお醤油とお味噌を足していた。

 お椀に注いで、上から三つ葉を乗せて、又 蓋をしてテーブルに置いたのだ。

「このお椀 古いでしょう 私がお嫁入りした時に持たされたものなの さあ いただきましょう あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

「こんなの 何年ぶりかしら もう 何十年もないわ うれしい・・・」

「そーなんですか あっ 美味しい この味自然なかんじ」

「そう 私は 田舎者だから 味付けは塩だけなのよー この里芋とか おいしいわー お母さんが煮〆たの?」

「ううん お母さんに教えてもらって私が・・・」

「あらっ そう いい具合よ おいしいー 上手よ」

「ねぇ おばぁちゃんは ずーっと ここ? さっき 田舎者って言ってたけど」

「生まれたのは信貴山の奈良側のほう それから柏原のぶどう農家にお嫁にいってね お爺さんがぶどう栽培を始めて、だんだんと広げていったの だけど、ウチの主人は公務員になるからって、後を妹夫婦に任せて、家を出てここにきたのよ 当時はこの周りもあんまり家が建って無くってね 寂しいとこだったわ その主人も20年以上前に逝っちまってね 定年を1週間後に控えていたのに、脳梗塞でね 年末で無理して仕事をしていたからー」

「大変だったんですねー 辛いお正月だったんだー ・・・ あのね ウチのお父さんも奈良の方の出身で、ご先祖様は筒井順慶の家来だったて言ってたわ」

「そうなんかい・・・ 筒井順慶ねぇ・・・」

「ねぇ 聞いて良い?」

「なぁに?」

「お子さんは? ご家族とか・・・」

「主人の実家とは、私等が出た後 連絡も取り合っていなかったし、私も妹が居たんだけど嫁ぎ先もわからないんだよー 実家ももう無くなってしまってね ・・・ 一人息子が居てね 報道していてシリァに潜り込んだらしいんだけど・・・主人が亡くなって、しばらくしたら 死んだって連絡が来て・・・」

「そうだったんですか 哀しいですね 私 そんなだって知らなくって・・・ごめんなさい 思い出させてしまって・・・」

「ううん いいのよ もう昔の話だし こうやって水澄ちゃんが来てくれて 楽しいわー ねぇ ゆっくりしていけるんでしょ 火鉢に炭入れるわ 久々にね お餅でも焼きながら 学校のお話 聞かせてよー 太子女学園でしょ? 朝 制服姿見かけるのよ 上品よねー 水澄ちゃん 運動もやってるんでしょ そのお話なんかも聞かせてちょうだいな」

「えぇー 炭 火鉢? 見たこと無い 楽しそー」

「ふふっ そう? 初めて? 水澄ちゃんって 私にもこんなに可愛らしい孫がいたらなって思えるわー これからも 時々 遊びにきてね 私は いつも時間を持て余してるんだからー」

 その後、座敷に移って、おばぁちゃんは座敷用の低い椅子に座りながら、磯辺焼きにして海苔を巻いてくれた。奥の座敷には大きなお仏壇と床の間には木彫りの大きな布袋さん、50cmくらいの花鳥が描かれた絵皿が飾られていた。私は、学校での話とかクラブの話をしていたんだけど、おばぁちゃんは私が卓球をやっていることを知らなかったみたい。

「あっ 私 トレーニングと夕食の準備しなきゃー そろそろ お暇します」もう、3時を回っていたのだ。

「水澄ちゃん お夕食のお手伝いしてるの?」

「ええ 毎日 晩ご飯は私の担当なんです お母さん 働いているから」

「そうなの えらいわねー 毎日・・・ あなたは、外出会っても明るく ご挨拶してくれるし、家でも ちゃんとやってるのねー とっても 良い娘さんだわー」

 そして、帰る時 「ちょっと 待って」と、奥から飾りを持ちだしてきて

「これね もう私 する機会もないから 水澄ちゃん 持ってて」と、真珠のネックレスとイァリングのセット。

「おばぁちやん こんなの 私 困ります おばぁちゃん 大切に持っててください」

「いいのよー あなたみたいに きれいな人に使ってもらった方が これも 値打ちがでるわ しまいこんで置くよりもね」

 と、無理やり持たされて帰ってきた。急いでトレーニングして、シャワーを浴びて、今日はお刺身なので、お皿に盛りつけて、ジュンサイのお汁を作っていると、今日は元旦で早いお帰りなのだろう お母さんが

「今日は 5時でお店閉めたの」

「お母さん 今日 おばぁちゃんチに行ってきたの お雑煮のね」

「ええ 知ってるわよー 水澄ちゃんも おせっかいよねー まぁ いいんじゃぁない」

「それでね これっ 私に使ってって」と、さっき 持たされたネックレスを見せると

「まっ まぁー」と、それを手に取ってじっくりと眺めて

「水澄ちゃん こんな 高級なもの 真っ白に輝いてー そうとう お高いものよー こんなの いただくわけに行かないわ お母さん すぐに、お返しに行ってきます」と、少し考えて 木箱に入った琵琶湖のごりの甘露煮と小鮎の醤油煮を抱えて出て行った。

 お母さんがなかなか帰ってこないので、仕方なくご飯を食べ始めて、しばらくして帰って来て

「水澄ちゃん 仕方ないから、使わせてもらいなさい いただくんじゃぁなくて 使わせてもらうだけね すごく 水澄ちゃんのこと褒められてね 教育とか躾がしっかりしているからって、お母さんも褒められちゃったー それに 時々は遊びに来てねとか 水澄ちゃんのこと 孫って思ってもいいかしらーって そんなの駄目ですって言えないじゃぁ無い?」と、ポリ容器に入ったシジミの炊いたのを見せながらー。私が朝 持って行った入れ物 忘れていたのだ。

「宍道湖のシジミと有馬山椒だって 美味しそうなの 自分で炊いたんだって 食べてみてーって」

「ふ~ん お母さん 褒められると弱いよねー 言いくるめられたんだぁー」

「ちがうわよー! 水澄ちゃんのこと 素敵なお嬢さんって 言うから・・・嬉しくなっちゃうじゃぁない 品がよさそうな人だしー」 

 

11-2

 2日の日は、朝早くからお手伝いをして、食卓にお雑煮の他、鰤の照り焼き、煮鮑とか厚焼き玉子に黒豆なんかが並んでいて、食べた後は皆で近くの神社にお詣りに行ってきた。お昼からは、私はジョギングとトレーニングに励んでいて、ジョギングだけお兄ちゃんに無理やり付き合ってもらってたのだ。夜は、お母さんが小鯛とか穴子の押しずしに少しお肉の網焼きでお母さんもお父さんにお酒のお付き合いをしていた。

 3日はお昼頃に私の仲間達を呼んでいるので、朝は簡単にお雑煮だけで、お兄ちゃんだけおにぎりも食べて、それから、ちらし寿司の準備に取り掛かって唐揚げとか昨日残ったお肉の網焼きなんかも用意したのだ。

 準備が整うと、お母さんは着物に着替えてお父さんと連れ立って出掛けて、お兄ちゃんも硝磨君とレジャーセンターに行くと出て行った。智子も来るのにと言ったのだけど、別にー と出て行ったのだ。おそらく、同級生の女の子も一緒なのだろう。

 お昼前に智子はやって来て、赤いセーターに首元には金色のネックレス、サーモンピンクのフレァーなミニスカートで、ピタッとしたセーターからは妙にバストが強調されているような・・・。智子は脚も長くてスタイルの良いのだ。

「達樹先輩は?」第一声がこれだった。

「お兄ちゃんは出掛けたよー お友達と レジャーセンターに行くって」

「えっ そーなん・・・友達って誰よー」

「知らないわよー 硝磨さんと違う? 同級生とか・・・」

「そーなんだ いつ 帰るの?」

「だからぁー 知らないの! 気になるんだったら 智子 そっちに行けばいいじゃぁ無い!」

「そんなんちゃうけどなー」と、言う智子はマスカラにアイシャドーとか唇も紅い。かなり、お化粧してきたみたいだった。

「智子 手伝うつもりで 早い目に来たんちゃうの?」

「そーだよ 水澄だけだったら 大変かなーって」

「えーとぉー そこのコンロで肉焼いて、もう味付いているからね 私 唐揚げ揚げるから」

 準備万端になった時、翔琉と十蔵もやって来て、後はちらし寿司にトッピングするだけだった。

「おっ なんか 智子 妖艶だなー すご~く 可愛い ピチピッチ 元気溌剌って感じだなー」と、十蔵も翔琉もびっくりしていて

「そう ありがとうね これが ウチの実力よ!」

「もぉー 智子 お寿司 盛り付けるの 手伝ってーぇ そのお皿に、適当に盛って  私 トッピングしていくからー」と、薄焼き卵にキザミ海苔、とびっこを乗せて、さっき解凍しておいたまぐろとかイカ、かまぼこにかいわれ大根を・・・。

「うまそー」と、男の子達が食べ始めて

「なぁ 水澄の試合 もう 一度見ようぜ 本人の解説でー」と、十蔵が言い出したのだけど

「そんなー 解説だなんて 私 必死だったから 覚えてないよー」と、言いながら、その時のメモリーを探したのだけど見つからなくて、結局 ゲームをして遊んですごしたのだ。男の子達は夕方近くなって帰って行ったけど、智子は居座ったままだった。後かたずけを手伝うからという理由だったけど、多分 お兄ちゃんの帰りを待っているんだろう。

「智子 なんやのー チラチラ見せてぇー」

「ああー 今日は これっ 可愛いよー ピンクでさー ゴムのとこにフリルついていて 穿いているんかわかんないんだよー」と、スカートを捲って見せてきた。

「もぉー いいよー 刺激強いんじゃあない? 今日は そのー 胸だってー 普段より大きいんちゃう?」

「そんなことないよー あの子等 おー ラッキー ぐらいに思ってるよ お正月だし これっくらいサービスしてあげなきゃー ブラも大きめのカップなんやー 水澄なんてインパンのラップスカートやろー なんも 面白ないやん」

「あのねー 私は 露出ぐせ 無いねん ほっといてー」

「ふふっ 翔琉にしか見せへん かぁー」

「あほっ そんなん・・・ お兄ちゃん 誘惑せんとってやー そんなんでー 今日はお化粧も濃いしー でも 口紅 直しときなよー」と、思っていることと反対のことを言ってしまった。

 そして、お兄ちゃんが帰ってきた時、「おぉー 智子 まだ いたのかー なんか すげぇー美人だなー 化粧 似合うよ」

「えー そーですかぁー 見てもらおうと張り切りました ねっ 水澄」と、智子の声が弾んでいた。私は そんなもんかねーと呆れていたのだ。

「水澄 俺 ちょっと昼寝するわー 親父らが帰ってきたら起こしてくれ」と、お兄ちゃんが2階に行こうとすると、智子も付いて行こうとするので

「ちょっと 何で 智子も後ろついて行くのよー 昼寝するって言ってるじゃぁない!」

「だってさー 側に居たいモン 寝付くまで子守歌 歌ってあげる」

「もぉー 勝手にせぇー」

 だけど、その後 私は穏やかでなかった。あんな下着を見せながら、お兄ちゃんのとなりに潜り込んで迫ってるんちゃうやろかーとか いくら、お兄ちゃんでも・・・それに、智子はどっちかというとお兄ちゃんの好みなのを 知っていたから・・・。確かに、今日の智子は私から見ても魅力的なのだ。男なら そんなの側に居たら ふらっとしないわけないもんなー。やきもきしている間に、智子は帰って行った。

 夕方、起きてきたお兄ちゃんに

「唇 紅いのん 付いてるよ」と、言ってみたら、口を拭っていた。やっぱりなんかー 誘惑に負けたなー 思っていたのだ。 

 

11-3

 4日の日は、お母さんは珍しくお父さんと新年の挨拶に同行すると、着物姿で出掛けて行った。お兄ちゃんは初練習とかで出て行って、私は今年の場合、明日からなのだ。朝は、ジョギングをして、お兄ちゃんのお昼におにぎりを3個用意して、苺とヨーグルトに蟹缶とレタスを刻んだサラダを作って、おばぁちゃんとこに行ってるねとメモを残して出た。

「おばぁちゃん 来ちゃったー お邪魔しても良い?」

「ウン うん おがりなさいなー」

「あのね 苺と蟹のサラダ作ったの どうかなー また お餅焼いたの 食べたいの」

「へぇー そんなの食べたこと無いよ 水澄ちゃんが作ったのならー どれどれ う~ん おいしいー 初めてだよー こんなの」

 と、又 火鉢に炭を入れて焼き始めてくれていた。

「今朝も走って行ったね 毎日 続けてるの?」

「うん 追われているような気がするからね おばぁちゃんは 今日は 散歩は?」

「今朝は寒かったからね お休み 水澄ちゃんは 追われてるの?」

「そー 私 闘ってるの いつも」

「そう 大変ネ 運動やるって でも あなたならきっとやり切るんでしょうね」

「私 卓球バカだからネ あー おばぁちゃん 七味ない? 私 ひぃーひぃー言いながら食べたいの」

「ふふっ あるよ」 

 その後は、おばあちゃんの子供の頃の話を聞いて、おぱぁちゃんは小さい頃はそうでも無かったらしいけど、大きくなるにつれて家が貧乏になって来て、結納金目当てでお嫁に出されたと言っていた。だから、お嫁入りするまで、ご主人とは一度切りしか会ったことがなかったと言っていた。私には、だから、今は辛いこともあるだろうけど、好きなことをさせてもらってるんだから、ご両親に感謝しなさいよって諭されていたのだ。

 次の日からは私も初練習なのだ。顔合わせ程度で軽く打ち合いをして終わったのだけど、香が私に話を聞いて欲しい様子なので、パンケーキでもと言ったのだが、そこじゃーぁダメって言うので、ハンバーグをテイクアウトして駅のベンチで

「あのね 30日から夜行バスで白馬にスキーに行ったの。一真のお友達という人の彼女も居るからっていうから、ウチ その人と同じ部屋だからって安心してたのよ! お母さんにもそう言っていたし・・・ だけどね ホテルに着くと、男女のペァで同じ部屋になっていたの」

「ふ~ん 誤魔化されたんだー でも ありうるよねー 大学生だものー」

「そーよねー ウチも そんなことになるんかなーって 少しは思っていたんだけどー  夏のこともあったしー」

「で 覚悟してたから 一緒にお泊りしたんでしょ?」

「うん だけど 彼 いきなりすぎてー 昼間は優しくボードを教えてくれていたのに 夜 ご飯が済んで部屋に入るなり、私を抱きしめて服を脱がせてきて・・・ウチの身体を舐めるようにして、そのまま・・・いきなりなんだよー ウチ 怖くて、固まっていたの 終わっても お風呂に連れられて、一緒に入って そこでも・・・ ねえ そんななのかなー 普通?」

「・・・そぉー どうなのか 私にはわかんない」

「ウチ ず~っと 痛くってー こんなの嫌やーって ず~と思ってたの でもね お風呂出てからもでしょ 朝起きてからもなの 君が好きなんだよー 少し我慢すれば慣れて来るよーとか言われてー」

「へぇー 激しいんだぁー」

「それにね 行く時もバスで隣同士で座るヤン 最初は手を握ってる程度やってんけどー そのうち、キスして来て、彼の手が私のジーンのチャックを降ろしてきて、インナーとショーツの上からお股を撫でて来て・・・ほらーっ 二人とも膝に毛布を掛けてるから、他から見えないので好き勝手なんなの」

「へぇー 夜行バスって そんなんやのぉー カップルってみんな そーなんかなー」

「う~ん みんなかわからんけど・・・トイレ休憩で止まるやんかー そしたら 彼が 下着脱いで来いって 命令するんやー ウチ 嫌やったけど 逆らえんからー その後は・・・でも ウチも その時は 少しは気持ち良かってん」

「あほかぁー エロ女!」

「だってねー やさしく あそこ 撫でられると、そーなるヤン 水澄 そんなことないん?」

「・・・」

「白状 せぇー ウチも ここまで話したんやからー」

「うー ある・・・ 二人だけの 秘密やでー でも 最後まではしてへんでー」私 したことだけは 翔琉との間のことだけにしておきたかったのだ。

「そう まだ やってへんのかぁー あの 彼とやろー?」

「うん そーやぁー」

「ウチな 2日目も抱かれてな その時は・・・言えっていわれたんやー 恥ずかしい言葉 ウチが固まってるから つまらんかったんやろーな 恥ずかしい姿勢もさせられた でもな 彼も 愛してるとか可愛いとか耳元で言ってくれるから ウチもその気になってたの」

「えっ 恥ずかい言葉って?」

「そんなん よー言わんわー あの時だけやー でも 彼も喜んでくれるから ええねん」

「そう そんなもんなんやー 燃え上がるってことなんかなー」

「うん みたいよ 最初は変態って思ったけど そのうち ウチもその気になってたの そしたら 彼のを感じるようになって 痛みもましになったの 昨日も誘い出されてね したの・・・ まだ 少し ヒリヒリする感じあるんやけど・・・」

「香 大丈夫か? あそこ壊れたりせーへん?」

「ふっ ほんまは 今日もって言われたんやけど アレが近いからって断ってん そんなに 毎日ってなー」

「うん そーよねー 狂ってしまうよねー」

「昨日はな 彼が、お前のは狭くって固いから、いやらしい言葉 言うとほぐれてくるから気持ち良いって ウチもな そのうち 少し気持ち良かって声が出てしまってたら 香はもともと こういうこと好きなんだよって 彼も いやらしいこと言うんだものー」

「香 今 すごく エロいことゆうてるんやでー 私 刺激的 香がそんな風になっちゃうのもねっ」 

 

11-4

3学期が始まって、練習も本格的になってきた時、私と花梨がコーチに呼ばれて

「あなた達 今日から あっちのグループとしばらく一緒に練習しなさい」と、言われた。あっちのグループっていうのは高校生の1.2年生の5人。その中には、去年まで一緒にやっていた響先輩、紅花先輩の姿もあった。

「どうしてなんですか?」と、私は不思議だった。

「あの子達は全日本のジュニァに出るのよ 今月の20日過ぎにあるの その練習相手」

「はぁー 全日本・・・」と、聞いただけで、私は頭が真っ白に・・・

「ジュニァよ 高校の2年生以下のクラスよ わかったの?」と、コーチに追いやられた。

 とりあえず、代わる代わる5人の相手をさせられていて

「ごめんね 二人とも 全日本クラスって あなた達しか居ないからー 練習相手って」と、響先輩に声を掛けられて

「はぁー 私達で務まるんならー・・・」

 そのうち、私達二人は、グループのリーダー格の巨椋野(おぐらの)美ひろさんに付かされて「最初 水澄からね、好きに打ち込んできていいから」と、言われた。

 最初は私のスマッシュとかバックハンドが打ち抜くことがあったのだけど、直ぐに、私が必死に左右に振るのだけど、先輩は正確に速いボールを打ち返してくるのだ。私は、バウンドする際を早い目めに打ち返すようにしていくと、向こうもどんどん速くなってくるのだ。「水澄 もっと 速い球 もう 目いっぱいなの?」と、言われるのだが、私はさっきから必死に打ち返しているのだけど・・・

 そして、私が疲れたとみたのか、花梨と交代させられたが、さすがの花梨も同じように先輩の速い球に苦労しているみたいだった。何回か私と花梨を交代させながら、その日の練習は終えたのだ。

「なぁ 高校生って あんななの? 私 全然 太刀打ちでけへんかったわー」と、花梨に言うと

「まぁ そーなんやろーな でも 巨椋野先輩は次のエースやでー まぁ・・・あれでも スマッシュしてけーへんかったなー」

「そうよ 美ひろ先輩は 今度でも優勝狙ってるのよ でも あなた達は一応 打ちあっていたんだもの さすがよ!」と、響先輩が寄ってきてくれた。

「私なんて まだまだ足元にも及ばないわー 今度も2回勝てれば良いかなー そうそう 大会には 秋元蓮花とか東京の久遠美玖も出てるのよ 大阪では進藤かがり  中学生は全部で6人ぐらいかなー 地区の協会の推薦」

「えぇー なんでー 私等 全中でも優勝、準優勝ですよ! みんなに勝ってきたのにー そんなのありぃ?」

「水澄 ・・・ ウチはなんとなくわかる ウチ等はそーいう宿命なのよ」

「そう あのね 多分 あなた達は当然協会も出場の打診をしてきたと思うの でも、あの監督が辞退したらしいのよー あの人はそーいう考えなのよ」と、響先輩は衝撃的なことを教えてくれた。

「そんなの納得できません! 私等は必死にやってるのにー 私 監督に談判します」

「待ちなよー 水澄 監督の考えがあるのよー 太子女学園中学校卓球部の部員だよ ウチ等は従うだけなの」

「そうヨ! 水澄 ・・・ あなた達の思いもわかるけど・・・ここからは、私の推測よっ 今のあなた達は、大会に出ても優勝なんて出来ないの それどころか組み合わせが悪ければ 一回も勝てないで終わるわよ あなた達はあんまり負けたことないじゃぁない? だから 監督は、負けてくじけるのを心配したのよ きっと」

「そんなこと言って 出て経験して 強くなるんじゃぁ無いですかー」

「だからー こーやって すごいメンバーと練習してるんじゃぁない 大会に出て、勝てる相手に勝つよりも もっと 経験できると思うのよねー だから、くじけないで この機会に、強い相手に立ち向かうこをと身体で覚えるのよ! それに、あなた達は選ばれたはずよ 美ひろ先輩もあなた達に対して文句言ってないモン あなた達の実力は、当然 大会に出てきてもおかしく無いんだのー」

「先輩 わかりました 先輩の言葉 信じて、頑張ります なぁ 水澄?」

「うっ うん わかった」

 それから、明日が大会の初日と言う日、最後の練習の後、美ひろ先輩からふたりに

「今まで ありがとうね 相手してくれて 最後のほうはなかなか手強かったわ 私 思い切って 優勝目指せる あなた達 もっと 上半身も強化してね 脚力はあるんだけどー 球の速さは、やっぱり 腕の振りかなーぁ 腰から上にかけてのー 二人とも そのままで伸びていけば 2連覇も固いと思うし 来年 高校に進んだ時が楽しみよっ! 私は卒業してるけどネ」と、言ってくれた。

「水澄 どう? ウチ すごく成長できたと思う 球も今まで以上に速くなったかも」

「そうなんや 私も 思い切って振って 低いコースで打てるよーになったかも」

「どうする? もっと上半身も鍛えろって 筋肉ついてきたら、水澄なんて ますます 貧乳やでー」

「なにが 貧乳やー 花梨より あるわい!」

「うそぉー」と、いきなり花梨は私の胸を掴んできた。

「痛いやんかー なんやの いきなり 花梨やってぇー」と、私も花梨の胸を掴もうとしていると

「先輩・・・こんなとこで乳くりあわんとって下さい 明日からやっと ウチ等と一緒なんでしょ 先輩のきつい言葉でも 聞かんと 気が抜けたようでー」と、莉子がいつの間にか横に立って居た。

「あぁー 居らんって言っても 同じ体育館やし 見えるとこにおったヤン」

「ええー 先輩が ヒィヒィ ゆうてるのって 初めて見させてもらいました」

「こらっ 莉子 明日から 覚悟しときやー 泣かしたるからな!」

 そして、全日本ジュニァの結果は、響先輩は準々決勝敗退で、他の連中もそんなもんで、美ひろ先輩は準決勝まで行ったのだけど、優勝候補とあたって、惜しくも敗退していたのだ。 

 

11-5

 2月になると、美麗先輩、美雪先輩とかがうちの高校への進学の知らせが入ってきた。やっぱり、燕先輩、朝咲先輩の名前は無かったから忍埜山女学園に進むのだろう。

 日曜日、私がジョギングから帰ってくると、お兄ちゃんが

「さっき 東方さんという人が女の子と一緒に 訪ねてきたぞ お母さんと水澄にって お母さんは居ないけど、水澄は1時間程で帰って来るって言ったら しばらく考えていて 後で 又 来るってさ」

「ふ~ん 東方・・・あそこの家かなー」

 その後、しばらくして東方親子が訪ねて来て「あのー お母さん まだ 帰って無いんですけどー」と、言ったのだけど

「ええ でも 報告だけと思ってー この子 太子女学園に受かったんです 水澄さんのお陰 あの時、V塾の説明会で水澄さんの講演を聞いてから その気になって 私の理想に近い人 私はあの人を目指すんだってー それからなのよ 頑張り出してー 水澄さんのこと崇拝してるみたい だから お礼にお伺いしなきゃーてー」

「あっ そーなんですか おめでとうござます 私の後輩になるんだー でも、そんなー 理想に近いだなんてー 私 そんな人間じゃぁー無いですよー」

「でも 運動も学校の成績も素晴らしいってー 塾にもお礼に行ったんですけど、あそこの塾長さんも、すごく褒めてましたよ」

「そんなー 私 運が良かっただけですからー」

「そんなこと無いですわよー 全国チャンピオンなんて すごく努力しないとなれないですよー この子も中学に行ったら卓球したいんですって」

 改めて見ると、ほっそりしているのだが、背も高くって短いスカートからの手足が長くって・・・雰囲気が智子の小学校の時に似ている。髪の毛は長くてストレートで前髪はおでこのところでスパンと揃えていて、胸まで髪の毛の束を持ってきていて両方の耳を出して残りの毛は後ろに流しているのだ。私がその 羨ましいほどのつやつやした髪の毛に見とれていたのか

「あのー やっぱり 長い髪の毛はじゃまですかねー?」というお母さんは明るい栗色のバツバツのショートヘァーで七三分けにピタッとしているくらいだった。

「あっ きれいな髪の毛なんでー 別に邪魔って訳じゃぁないとー・・・思います。私の場合は・・・前の自分と決別しようと思って 魔が刺したんですねー あのね 正直言いますと あそこのクラブは名門っていうだけあって 予想以上に厳しいです! 脅すんじゃぁ無いですけどー それに、バカ アホ ノロマとか毎日 罵声を浴びせられて、叱られて それまでの自分が否定されているみたいで 私も、恥ずかしくって 悔しくって 何度も練習中でも泣かされてきたんです 自分でバカになんなきゃーやってられないですよー でも パワハラって言うんじゃぁ無くて、その中で頑張れる自分をみつけた者だけが、選ばれて試合にも出してもらえるんですよー   一握りの人間だけです もちろん、資質とか体力もありますけど、中には小学校の頃から卓球に親しんできた人もいますからねー だから、途中で挫折する人も居ます 相当の覚悟なんですよー」

「まぁ・・・でしょうね・・・ だって みずき?」 

「けど お母さん やってみなければ わからないじゃぁない? 香月先輩だって 中学から始めたんでしょ 私は 跡を追いかけるだけですからー」

 (この ガキィー 私の努力はそんな簡単なものじゃぁ無かったのよー 体育館の隅で何度も泣いた 合宿の時だって、夜中に独りで泣きながら走っていたのよ 翔琉にだって 逢わないようにして頑張ったのよー)

「そっ そう ・・・ 一緒に頑張ろうネ 嬉しいわ」と、その時は、社交辞令のつもりだった。

 お母さんが帰って来て、その旨を報告すると

「そう 良かったじゃぁない あのね 塾長さんが、時々 お店に来てくれてね あそこの塾から2人 太子女学園に受かったそうよ その他にも教育大付属とか有名中学とかに受かったそうよ 4月からの生徒さんの申し込みも順調で浮かれていたよ この前もプリン10個買って行ったわ 今は苺が入っていて それ好きなんだってー」

「はぁー その苺 食べたいーぃ お母さん」

「そうね だって 東方さん 苺 置いて行ったんでしょ これっ 大きくて おいしそーじゃーない」

「そーなんだよー 早く食べよーぜー だけど なんだな あの子 水澄を見習って、卓球やるって言っていたけど そんな 簡単じゃぁ無いよなー 水澄は天才だったこと忘れてるんじゃぁなかろーか まぁ 見た目は良いけどなー モデルのほうが良いんじゃぁない?」

「お兄ちゃん! ほんとーにぃー ああいうタイプに弱いよねー 智子でしょ 花梨でしょ あの子 それに、私 雰囲気 みんな 一緒」

「おい! どさくさに紛れてー 何で、そこに 私が入るんじゃぁ?」

「ふっ だって お兄ちゃんの一番の 恋人だから・・・」

 そして、2月も終わる頃、若葉から知らされたのは「監督が2月いっぱいで辞めるんだってー」と、衝撃の言葉だった。若葉が言うには、校長と意見が衝突していたらしい。監督は近畿大会にも、勝って当たり前の大会に出ても、選手が消耗するだけだからと出場申し込みをしなかったのだ。そのことを発端に、全日本ジュニァにも協会からの打診を辞退していて、校長は我が校の宣伝になるんだからと言うのを強引に拒絶したかららしい。

 私達は監督の言うことにも理解していたのだが、確かに、校長の言うように大会に出て勝って優勝すれば学校も盛り上がるのにーって、不満も持っていたのはあったのだ。

「花梨 どーすんのよー 監督の言うことだからって あんたが 一番 理解してたんちゃうのー」

「なんだけどー どーせーゆうん? 水澄やって 監督と響先輩が、あんたの才能を引き上げてくれたんやんかー」

「うん そーやけど・・・二人でな 校長に直談判にいこー 辞めさせないでって」

「あほっ 単純! ウチ等が知るってことは もう 決まったことやー そんなん 通用するわけないやんかー」

「そーかなー 花梨は 何で そんなに いつも 冷めてるんやー」

「冷めてるんちゃう 自分達の心配してるんや 次の監督はどんなんやー ウチ等にとっては2連覇かかってるんやでー ヘタに動かされたら、影響するやんかー それに、1年も育ってきてるんやでー」

「うっ まあ おっしゃるとおりでごぜーますだ」

「それに ウチがもっと 心配してるんは 若葉もゆうとったけどな あの監督の次の行先やー もしかしたら、あの学校ちゃうやろーか」 

 

11-6

「本堂監督は2月いっぱいで退職されました。後は、私が監督兼コーチでやって行きます。今までの監督の方針を引き継いでいくつもりですので、みんなも動揺すること無く、練習に集中するように!」と、3月に入ると石切コーチがみんなを集めて言ったのだ。みんなが驚きの声をあげていたが

「ウチ 監督にいつもアドバイスいただいてー・・・何でなんですか? そんな急に・・・」と、莉子が問うように言うと

「それはね・・・色々と事情があるのよ 大人のね まぁ みんなも驚いたでしょうけど、あなた達は眼の前のボールを打ち返すことに集中してちょうだい 練習は少し早いけど、今週いっぱいで休みにするわ 期末考査の準備してちょうだい それと、今年の春合宿は少し早い目で3月28日から4泊5日 1日長くなるのよ でも、学校からの補助金 増やしてもらうから 個人の負担は少なくなるの」

 もっと、前に知っていれば、送別会とかやったのに、知らないうちに居なくなってしまった。私達に何の説明も無く。そんな 関わりでしかなかったのかと、私にはショックだったのだ。

 それから、1週間程して、私が夕方学校から帰ると、玄関にお客様の靴が男物2足。お母さんから、リビングに呼ばれて

「水澄ちゃん こちら 忍埜山女学園の人 水澄ちゃんにお話があるんだって ここに 座ってちょうだい」

 私は、頭を下げて・・・名刺を見ると、事務長という人と運動部部長という人なのだ。

「今日 お邪魔させていただきましたのは 水澄さんに ぜひウチの学園でプレーをしていただけないかと 突然で 誠に申し訳ないんですが うちも 今 運動部にチカラを入れてまして 選手達にとっては いい環境でプレーしていただけると思っているのです 理事長も前向きに、良い選手を招いてと取り組んでいるんです お母様には さき程 転校の環境とか条件をご説明させていただきました」と、その運動部部長という人が私に向かって話をしてきた。

「あのー 卓球ですか?」

「はい! 卓球部には特にチカラを入れてまして、今年の高校の進学時には、各地から有力選手に入園していただくことが決まっております。寮のほうも清潔な部屋を完備しておりまして、全室個室です。中学生の方も、今年の全中制覇を目指してまして、来年の高校総体優勝に繋げたいと思っております」

「はあ・・・ でも・・・私は 今年 全中2連覇するんです」

「その 去年の全中優勝のメンバーの方にもお声がけしております お名前は出せませんがー 準優勝の学校の方にも 前向きに考えると言っていただいております 水澄さんにも ぜひ 来ていただいて、中心になっていただいて、みんなを引っ張っていただければと思います 我が学園は全国でも圧倒的に強いチームを結成することが目標なんです できれば、今年の全中優勝をと」

「・・・あのねぇー 私達は結束の強い仲間なの そんな話にフラつくような子は居りません それに、監督とかコーチに 何にも知らない私を指導してくれて みんなが、ここまで来たの! 辛いことがあったけど・・・だから、勝った 喜びがあるのよ そんな 強い人を集めて、勝ったって 嬉しくもなんにもないわ! 勝って当たり前の試合をして 何が嬉しいのよ! 選手の気持ち わかってないわ!」

「はぁ さすが 太子女学園だ 素晴らしい意思を持ってらっしゃる だけど、名前は 今 言えませんが さる有名中学の監督をされてた方にも お声掛けしてましてね その方が来られたら、選手の方々も今よりもず~っと成長できると思いますよ 考えてみてもらえないですかねー お母様には、ご説明させていただきました。 失礼とは思いましたが ご両親への経済的なものも、ご負担が楽になると思いますよ これから、大学進学まで、ずいぶん 教育費も掛かりますからね」

 私は、お母さんの顔を見たが、顔を傾げていて、どういう風に思っているのかわからなかった。それよりも、本堂監督のことが・・・あの人 ここに行くのかしら・・・それで、私達を裏切って・・・だから、突然と消えてしまったのかしら。

「とにかく! 私は 私を育ててくれた 今の太子女学園が好きですし、うちのクラブの部員達も誰ひとりとして、お宅の学校に行く人はいないと思います! 私達はお金では買えない物を教えてもらってるんです そして、絶対に全中では2連覇するんですから・・・ 失礼ですが もう 私には 声を掛けないでください! 私は本堂監督に一から指導して育てていただきました 感謝していますし、そんな外来種みたいな人には絶対に負けませんと その監督さんにも、言っておいてください 失礼します」と、私は2階に駆け上がって行った。

 あの人達が帰って行ったのを見計らって、着替えて降りて行くと、お兄ちゃんが

「水澄 すごい啖呵切っていたなー お母さんとも 話し合っていたんだが お母さんの娘は何者なんだよーってな」

「お母さん ごめんなさい 待遇面で学費とかいろんなとこが助かるんだろうけど・・・」

「いいのよ もともと 覚悟してることだからー それよりも 水澄ちゃんが 自分の考え方をしっかり持っていてくれて 堂々と意見を言えるって すごく成長したんだって 嬉しいわ!」

「ありがとう お母さん それにしてもさー あいつ等 お母さんのお休みの日を調べて、私も早く帰ってくるの調べて来たんだよー いくら 仕事だって言っても 上から命令されたんだろうけど・・・私達の気持ちも考えないようにして・・・悲しいね 大人の事情って」

「水澄ちゃん 何かあったの? 感傷的になって」

「うん お世話になってきた監督さんが2月いっぱいで 急に辞めちゃったんだよね 大人の事情だって さっき 話に出てた監督さんって 本堂監督のことじゃぁないかなってー あんな人でも待遇面で考えちゃったのかしら」

「水澄 監督とか全国から優秀選手を招いているって言ってたけど 大丈夫なのか? 今年」と、あの人達が持ってきたカステラ饅頭を無神経にもほおばっていた。

「お兄ちゃん 私等は太子女学園の四天王だよ 最強に決まってるヤン 結束も固いんだよ!」 

 

11-7

 3学期の期末考査が終わって、成績順位が1日だけ発表されて、Sクラスの大路輝葉がトップになっていた。若葉は2番で私は3番のままだった。

「若葉 抜かれたね」

「うん まぁ 何点かの差やし その時の運もあるしなー しゃーないヤン それより 花梨が5番やでー あの子 頑張ってるよなー 香も6番やでー 四天王は頑張ってるよね! 普通クラスで10番以内はウチ等だけやでー」

「うん 石切監督も胸張ってるやろな クラブの補助金も堂々と貰うんやろなぁー」

 そんなことを話合っているうちに春の合宿を迎えていた。今年も、お誕生日のお祝いと言って、私のシューズをお父さんが買ってくれて、新しいシューズで迎えていた。いつもの琵琶湖沿いの旅館に着いて、お弁当を食べたら早速 砂浜を走らされて、体育館に戻って、うさぎ跳びからジャンプしての体育館の往復。途中でへたばったら、もう1往復なのだ。1年生の中にはへたばる者も続出で監督は「途中で止まるのは良いけど、崩れ落ちるのだけはよしなさい」と、励ましながら続けさせていた。合宿には、響先輩も合流してくれていて、後の高校の合宿にそのまま参加すると言っていた。

「花梨と水澄と打ち合おうと思ってな うちの今度の1・2年生より あんた等のほうが 上にいってると思うでー」

「うん 私等も 響先輩とやり合ったら うもぉーなるから いろいろと教えてください」と、私も歓迎していた。

「あのね 合宿の後 今年も都女学院と練習試合することは聞いているよねー 今年から あそこに本堂監督が就任したのよ」

「へっ 監督は 忍埜山女学園じゃぁー」私はびっくりした。

「うん 私もカナって思っていたんだけど・・・都女学院に今度2年生で鐘ヶ淵翠って子居るの知ってる? 去年の京都大会の個人で優勝した子 でも 全中には身体壊していて出て無かったわ」

「えっ 去年は1年生でしょ?」

「そう でもね スマッシュも強烈でバックもチキータで・・・攻めが早いの 相手のサーブを直ぐに攻めて返すし、自分のサーブでも返ってきたら3球目攻撃よ 小学校の時からも注目されてたみたいだけどね それでね その子も忍埜山に声掛けられていたみたい どういう訳か 堂本監督が都女学院に行くことになって 二人で 全国を目指そうってなったらしいのよ だから、鐘ヶ淵翠も思いとどまったってわけ 今度の練習試合で 対決ね」

「はっ そんなにすごいんですか?」

「らしいわよ 私は 見たことないけど あー ひなた 京都だから 知ってるんじゃぁない?」 

 次の日からは、去年を知っている私達にとっても地獄だった。朝一番と午後からの一番 柔軟の後の25分間の砂浜でのジョギングに最後の5分間は全力疾走なのだ。そして、体育館に移動してのうさぎ飛びジャンプ そして、15分間の素振り 監督と響先輩からは「腕を振ってるだけになってるわよー もっと ボールを打ち込むつもりでやんなさい 楽しようとするな! このー バカ」とか罵声が飛んでいた。

 早速、2年生の何人かが、素振りが鈍いとかで、体育館の端でうさぎジャンプを・・・さすがに、今年は 「私はドジでノロマなうさぎです」っていうのは言わされなかったのだけど。けど、もう 辛くって涙を拭いている子もいたのだ。

 そして、午後からは3年生の釘本遥香に莉子もうさぎジャンプのとこに居たのだ。その脇では響先輩の罵声が飛んでいた。「あんた等は何で こんなことやらされてるかわかってる? 自分に甘えてたからだよ! このバカすけがー 泣くくらいなら反省しろ! 己を捨てて違う自分になれ!」と、無茶苦茶なことを叫んでいる。おそらく、響先輩はそーいう役目で参加したのだろう。その途端に莉子も涙を流しながらも跳んでいたのだ。だけど、遥香は 「私はドジでノロマなうさぎです」と、言いながら続けていた。

 合宿中、響先輩は私達4人に遥香、ひなた、莉子に代わる代わる打ち合いの相手をしてくれていて、都度 アドバイスをしてくれていたのだ。だけど、私と花梨を呼び寄せて

「あんた等 1月に美ひろ先輩と練習してもらって 何を学んだのよー 確かに球は早くなっているわ でも それだけじゃぁーない それから 何 練習してきたの のんべんだらりと・・・ もっと 相手の動きを考えなさい! 香なんて ず~と進化しているわ」と、厳しい声で叱られていたのだ。

「何 なに? 花梨 私等 叱られたの? なんか 悪い?」

「・・・ 水澄 辛いよねー ウチ等一生懸命のつもりなんやけど・・・ 香のことは褒めてたよねー なんとなく 響先輩の言っていることもわかるんやけど・・・ 確かに響先輩は 中学の時とは 圧倒的に違うんやー けど・・・」

 最終の日の午前中はトーナメント方式で個人戦が組まれているのだ。準々決勝には遥香が残っていて、花梨と対戦して、試合では2-2で最終ゲームで何とか花梨が勝利していた。どうしたの花梨と、思っている私もひなたに2ゲーム連取の後2ゲームを続けて取られていたのだ。最終ゲームでは結果的に勝ってはいたのだけど。こんな調子ではないはずと思いつつ準決勝は私達4人の戦いになって、結果 香が優勝していた。

 午前中の練習で打ち上げなのだけど、私と花梨は響先輩に命じられて、二人残ってのうさぎ飛びジャンプを体育館3往復させられていた。

「あんた等 もっと 去年に戻って考えなさい! 何が足りないのか そのままじゃぁー 全中の大会にも行けないよ! このノロマ!」と、響先輩の言葉は厳しかったのだ。

 途中から、花梨は「私はドジでノロマなうさぎです」と、念仏のように言い出したので、私も続いていた。だけど、だんだんと涙が滲んでいたのだ。悔しかった。3往復 終わった時、花梨も眼が赤かった。

「水澄 悔しいけどなー いまさら こんなん・・・でも ウチはやりながら 去年を思い出していたんや あの時は 恥ずかしくって、悔しくて、もっともっと 上に行くにはどーしたらええやろーって 思いながら飛んでたんやー なぁ ウチ等 今 それに欠けてるんちゃうやろかー」

「そやねー 甘えてしまってるんかも 香なんか もっと 必死やもんね それに、遥香も」

「そやねぇー 響先輩はウチ等に 今までと同じパターンやったら 相手に研究されて終わりやって言ってるんや 特に ウチ等は全国からターゲットになってるんやもねー」

「うん やってやろーやー 響先輩に私等の実力を見せたるわー」

 と、私と花梨は決意を新たにしていた。でも、なぜか お互いにおっぱいを掴み合って笑っていたのだ。ふたりの絆・・・ 

 

11-8

「都女学院との対校試合 メンバー トップ水澄 2番若葉 ダブルスひなた、莉子 4番香 5番遥香 練習試合とは言え 負ける訳には行かないわ 格が違うとは言え、今年は手強いわよ あの本堂監督なの 花梨 とくに トップで出て来る子 よく観察しておきなさいよ 2年生だけど、要注意なの」と、石切監督からの言葉だった。

 高校生達も宿舎にやって来て、一緒にお昼ご飯を済ませて、私達が離れる時、美ひろ先輩が私と花梨に

「あなた達 又 戻ってくるんでしょ 私達と もう一度合宿よねー」

「えぇー 聞いて無いですよー 勘弁してくださいよー ウチ等 響先輩にしごかれて くたくたですよー」

「ふふっ じよーだんよ! 花梨 でも 帰ったら 時々 練習相手してよね」

 と、合宿所を出て、京都に向かう途中にひなたに都女学院の鐘ヶ淵翠について聞き込みをして

「ねぇ ひなた 鐘ヶ淵翠って子 知ってる?」

「うん ・・・ 都女学院でしょ めっちゃ強いの あの子 ウチ 勝ったことないの あの子が出て来る大会はいつも優勝で・・・ウチはあの子が出てない時しか優勝出来なかったの 去年は京都大会の個人では優勝してたはず」

「そう 強いの・・・ 今日も出て来るでしょうね」

「たぶん エース格だと思います 水澄先輩 あたるんでしょー とにかく 攻撃が早いんで・・・ボールがバウンドしたところを直ぐに返してきます。 こころしてください」

 向こうに着くと、確かに本堂監督が選手達に指示を飛ばしていたのだ。そして、鐘ヶ淵翠らしき子が居た。背が高くて手足も長いのだ。他の子とは風格が違うのだ。私は、もう 押されていたのかも知れない。

 私の試合が始まって、第1ゲームは11-6ですんなりいったのだけど、それから相手の早い攻撃に押されっぱなしで、とにかく私のスマッシュでもバウンドして変化する前に打ち返してくるのだ。2・3ゲームも続けて取られてしまっていた。

「なんやー 水澄 緊張してるんかー 乳揉んだろーか?」

「あほっ 花梨・・・ こんな時に・・・私 脚が動かないんやー 朝のが効いて もー ガクガクやねん つりそー」

「あのなー あの子 多分 短いのに対応できひんと思う 長いのん 攻めれば攻めるほど対応 早いんやー そやから、緩急つけて攻めていきぃなー」

「うん わかった」

 と、花梨のアドバイスをもとに攻めていって、4ゲーム目には10-6でゲームポイントを迎えたのだけど、私は脚がつっていて、そのまま逆転されて、その試合を落としていたのだ。負けてしまった。

 その後は、若葉が取り返して、ダブルスの2年生ペァは負けてしまったのだが、香と遥香が取り返して、なんとか3-2でチームとしては勝っていた。

「どうした 石切監督 まともにぶつけてこなかったなー 花梨は温存か?」

「あの子は調子崩しているからー・・・ でも、勝てる子を出したつもりですよー 水澄は誤算でしたけど」

「ふっ 水澄も本調子じゃぁなかったじゃぁないか」

「それは たまたまです ウチは 今年も3年生の四天王中心に戦いますから」

「うん 強いだろうな でも ウチも今年は 全中に出て行くぞ もしかすると決勝で会うかもな」と、言う会話の後、本堂監督は私に

「水澄 どこかの学校関係者に (私は本堂監督に一から指導して育てていただきました 感謝していますし、そんな外来種みたいな人には絶対に負けません) と言ってくれたそーだな でも お前の思っている監督はもう居ないぞ! ワシもあそこには身をまかせる訳にはいかない でも ここには宝が居るんだ お前等の時とは違って 雛を育てるより、飛び立とうとしている子供達が居る お前等の時より楽だよ それにお前等4人のことは充分知っているんだぞ 対応策もな! 水澄、花梨 よく 聞けよ! 去年までのことは、お前等のくせとか弱点は知っているんだ それで お前等がどうするかだ! どうしろとか言えないが、本物かどうか 見させてもらうからな!」

「ありがとうございます 監督 私・・・そのお言葉 受け留めます」

「ふふっ ウチの翠は もっと 跳ぶぞ!  これから夏までにな 最後に 水澄 お前のスマッシュ 今の反対のとこに打ち込むとどうなるんだろう 誰にも返せないんじゃぁないか そんなことが出来ればの話だが・・・」

「監督ぅー」と、私は涙が溢れ出てきていて

「ばかやろうー 泣くのは 全中の頂点に立ってからにしろ」と、後ろ姿を見せていた。私は、しばらくお辞儀をして見送っていたのだ。そして、トイレに駆け込んで、監督の言葉を噛み締めていて、そして、だんだんと負けた悔しさもあって涙が止まらなかったのだ。

「本堂監督は、学園の方針と衝突したのよね だから どっちからともなく・・・ おそらく、あの人の方から身を引いたんだと思うの で あそこも待遇は悪くなかったはずよ でも 同じ大阪だから 一応 義理を感じる人だから 京都にね 自分の思うようにやらせてもらえるんだったらって・・・でも、あなた達のこと 最後にアドバイスしてくれていたわねー」と、石切監督もしみじみと言ってくれていた。横で聞いていた花梨も若葉も香も眼を赤くしていたのだ。

 私は、お母さんにもう1日合宿が長いように言って、嘘をついて悪い子になっていたのだ。翔琉とお泊りの約束をしていた。クラブの連中と別れて、待ち合わせ場所の京阪三条の駅に急いだ。その時は、もう卓球のことなど頭になかった。翔琉のことだけしか考えていなかった。改札口辺りで何とか逢えて

「ごめんね 待たせたよね」

「まぁ ぶらぶらとな」

「私 どっかで 着替えるね」

 チャコールグレーのラップスカートとオレンジの薄手のセーターに着替えて、京阪の浜大津駅に向かって、去年の夏に泊まったホテルにチェックインしていた。部屋に入ると直ぐに翔琉は私を抱きしめて、唇を合わせてきてくれた。私は、次第にあそこが湿ってきているのが自分でもわかっていたのだ。

「私 シャワーもしてへんから 汗臭いやろーぅ?」

「べつにー 水澄の匂いやからー」

 その後、琵琶湖が一応見えるレストランで食事をして、湖畔を散歩しながら戻って来て、私が先にお風呂に入って、今日は、ピンクとブルーのお花の刺繍のしてあるショーツでブラは着けないでバスローブを羽織ったままだったのだ。その後、翔琉がお風呂に入った後、翔琉は

「水澄 俺 医学部目指そうと思う 大阪公立大学」

「はっ お医者さん? ふ~ん なんとも・・・」

「高校では サッカーやめる 勉強だけ」

「うん いいんじゃぁない 目標定めるんは」

「水澄は ちゃんと 目標もってるやんかー オリンピック 俺も負けないよーに 頑張る」

「ちょっ ちょっと待ってぇー 誰が オリンピックなんやー そんなん 私は一言も・・・」

「でも ここまで来たら 目指せよー」と、私を抱きしめて来て、バスローブの腰紐をほどいて、私をベッドに押し倒すように寝かせてきた。

 ショーツだけの私の全身を愛撫して、喘ぎ声の私からショーツを脱がせておいて、また 全身に唇を這わせてきていた。私は、喘ぎ声しか出なくて、その唇が私の中心にきた時、ず~んときて「あっ かけるぅー そんなとこ だめっ あーぁ」と、もう声も出なくなって・・・そして、翔琉が入ってきた瞬間も 身体全体がしびれるような感覚で、悦びの恥ずかしい声をあげて翔琉にしがみついていたのだ。 

 

12-1

 春休みはまだ数日あるのだが、午前中だけの練習が始まった。9時からなので、私は8時過ぎに体育館に出て行くと、もう ひなたと莉子が打ち合っていた。

「花梨 あの子等 ヤル気満々やね 多分7時頃からやでー」

「みたいね 莉子なんか 合宿で泣きながらうさぎジャンプしてたけどね よっぽど、悔しかったんだろうね 練習試合でも負けたからね 中学の時 あんまり負けたこと無かったんやろーな」

「うん 私等も飛ばされたけどねー 花梨 泣いてた」

「なにゆうてんねん 水澄なんて 涙流してやんかー なんで 今更ってー」

「うん・・・ 花梨 私等も早出 特訓やろーかー」

「う~ん あの子等に張り合ってるみたいやしなー ふたりだけにしといたろーなー これから、あの二人はどんどん強ぉーなっていくんやー 二人で考えながら そやから、ウチ等は居残り特訓にしょーよー」

「そーだね じゃぁ 全体練習終わって 1時間ね!」

「水澄 ウチな 合宿で遥香に攻め込まれたんやんかー 遥香はいつもウチのこと見てるから パターン読んでるんやー それにな あの子 ウチにセンター中心に攻撃して来て、強弱つけてな 短いとこも攻めて来てた ウチのフォアサイドにも返して来んと・・・ウチにフォアを打たせんよーにしてたんやー 徹底的に封じ込まれたワー」

「みたいやったね 遥香 何か 合宿で変わったみたいやねー」

「うん 雰囲気が違うネン 水澄もそーやったヤン ひなたに あの子も完全に水澄のスマッシュのくるとこ予測してて ちゃんと対応して、水澄のバック狙わんと、バックハンドで水澄の一番遠いとこに返してたやんかー あの子も成長しとるでー」

「そーやねん 私 いつも ひなたの相手してるやんかー いつの間にか、私の弱点見つけたんやろね 花梨 私等 やっぱり、響先輩に言われたように 安穏としとったんやー 夏までに、もっと 進化せんとあかんなー」

「うん そーやー ふたりでな がんばろーぉ」

 その日から、私達はふたりで話し合いをしながら、居残り練習をしていたのだけど、次の日からは、若葉、香、遥香も加わっていたのだ。

 新学期が始まって、1週間して新入部員が体育館に並んでいた。その中には東方みずきちゃんの姿もあった。中でも、ひょろ長くて、一番背が高い方なのだ。体形からすると卓球に向いているのかも知れない。今年は、増えて15人前後が並んでいた。小学校からスクールに通っていたと言う子が5人居た。

「やっぱり 去年の優勝が効いたのかなー 志望者が増えたの それにね 忍埜山に誘われたけど 花梨と水澄に憧れて入ってきたって子も居たわよ」と、石切監督も明るかったのだ。忍埜山を断って京都から通うという押切美実(おしきりみみ)。経験者だと言う中に、白川輝葉(しらかわてるは)という子がいた。

「若葉 あの子 妹なんやろー? 何で内緒にしてたん?」

「べつに 内緒にしてたんちゃう あの子が好きなようにやっているだけやー ウチは忍埜山にいったらーってゆうたんやでー」

「なんで? ええやん 姉妹で・・・」

「でも あの子はお姉ちゃんの妹って眼で見られるのが嫌みたいやでー 昔から・・・ だから ウチも知らんぷりすることにしてるんよ」

「ふ~ん そんなもんかねー」
 
 今年の場合、新入部員は素振りのグループと球拾いのグループは交代でやり、1週間後には、打ち合いを監督と高校生の何人かが教えていたのだ。すると。中には突出した子も2人居たのだ。ひとりは押切美実で、もうひとりは白川輝葉なのだ。

 新学期が始まって、最初の土曜日の練習の日。9時からなのだが、私は、普段と同じ7時過ぎの電車で・・・駅には、東方みずきちゃんともうひとり蓮宮瑠利(はすみやるり)ちゃんも。二人とも、新入部員なのだけど、私は、蓮宮瑠利ちゃんが同じ駅からとは知らなかったのだ。昨日、みずきちゃんから何時の電車ですかと聞かれていたので、みずきちゃんが来るとは思っていたのだが

「水澄先輩 瑠利ちゃんも 同じ塾の先輩の後輩なんですよー」

「あっ あーそーなんだー 二人合格したってー あなた達のことなのー それで、揃って 入部してくれたの?」

「そーです! ウチ等は水澄先輩を尊敬してますからー」と、瑠利ちゃんもハキハキした元気のいい子なのだ。

「あのー 水澄先輩は 普段も 電車 早いんですかー?」

「うん 大体 この電車」

「そんなに 早いんですかー 学校に早く行って 何するんですか?」

「う~ん 練習の時もあるけど 大概は授業の予習してるかなー」

「はぁー クラブやりながら成績もって そーいうことなんだ」

「うっ だけじゃぁないよ! あなた達も頑張ってね 覚悟要るわよー」

「頑張りますけど 出来るとこまでしか 出来ないですよー」と、みずきちゃんが言っていたけど

「みずきちゃん あなた達はがんばりやみたいだから言っておくけど 限界ってね 結果に満足できない時は まだ 限界まで行って無いってことよ まだまだ努力できるのよ」

「はっ ・・・ 先輩・・・名言ですね 肝に命じておきます」

「なんか それっ 古い言い方ね」受け止め方が 何か、調子良くって不安も感じるのだ。少ししか離れて無いのだけど、世代の違いなのかなーと感じていた。

 私と花梨は抱えている課題も順調に克服しようとしていたが、私の場合はミドルのスマッシュを打ち込むとスピードが落ちて威力も半減するのだ。それと、本堂監督が言っていた言葉。逆サイドへのスマッシュ それも スピードがあって短いスマッシュ バウンドの後はイレギュラーに跳ねていく 私にとっては、第2の魔球だけど・・・まだ スピードにのって打つことが出来ていなかった。

「若葉 連休中のミニ合宿 今年もやりたいネン どう 思う?」

「だね やろうか あそこに連絡してみるわー」

 と、若葉が言うのには「女将さんの返事はね 来るだろうからと、思っていたのだけど 4日の日にしか確保出来なかったんだって でも、8畳1部屋は確保してあるからって だから お願いしますって言っておいたわ」

「うん じゃぁ 4日の1泊ね 決まり!」

「あっ あー 4日かぁー」と、香は困った顔をしてて

「なんや 香 都合 悪いんかぁ? デートとか」と、花梨が突っ込むと

「あー ええんやー そんなんちゃうけどー・・・」

「花梨 ほっときぃーなー 香も 色々とあるんやろからー」

「あっ そう 水澄はデートの予定は?」

「私は ・・・ 卓球一筋です! 花梨こそ 好きな子とかおらへんのぉー?」

「・・・おるでー ウチの好きな子は ここに・・・」と、私を見つめて来て

「なんやのー その眼は・・・ 私のこと?」

「うん 抱きしめとぉーなるぐらい」

「やめてよー そらぁー 私も花梨のこと抱きしめとぉーなるぐらい好きやでー でも へんな意味ちゃうでー」

「ウチは変な意味でも 水澄とやったら かめへんと思ってるんやー」

「あほっ 私は そんな趣味ございません! もう やめてよねー おかしぃーなるのって」 

 

12-2

 誰から聞いたのか、みずきちゃんが

「水澄 先輩ぃー ウチも合宿連れてってください 瑠利と」

「えっ でも・・・ それは 私等4人の仲間だけで 去年からやってるんや 四天王の始まり」

「でも ウチ等 ふたり 出遅れてるんです 小学校からやってた子等と違う はよぉー 追いつきたいんです だからー」

「でも・・・ それは 普段の練習で・・・ それに きついのよ でも 私等は結束があるから・・・」

「しがみついてでも付いていきます 覚悟してます お願しますよー 水澄先輩は ウチ等後輩を見捨てるんですか? 水澄先輩に憧れて入ったのにー」

「ちょっとぉー 待ってよー そんなー 見捨てるってー ・・・皆に聞いてみないことにはネ」

 と、私は3人に聞いて「ボール拾いにでも 役に立つかもよ」と、納得させていた。塾のこともあって、二人には特別な後輩という思いもあったのだ。

 それから数日後、今度は遥香が若葉に一緒に加えて欲しいと言ってきたと言うことだった。(今年は3年で 最後だし 大阪大会、全中の代表メンバーにどうしても選ばれたい)って言うのよーと 若葉が・・・どうする?  って 皆が黙って 考えている時、花梨が

「いいんじゃぁないの 皆は4人の結束が乱れるの心配なんだろうけど そんな柔い結束じゃぁないし 四天王が5人になってもいいじゃぁ無い? あの子 春の合宿の時 うさぎジャンプさせられてた時 自分から (私はドジでノロマなうさぎです)
 って言って飛んでたのよ 覚悟してるのよ 同んなじ3年生じゃぁない 一緒に・・・」

 と言う訳で、今年は7人で琵琶湖の畔に向かうことになったのだ。10時頃駅に着いて、料理長さんがマイクロバスで迎えに来てくれて、旅館に着くと、女将さんも出迎えてくれて

「お疲れ様 待ってたのよ でも、部屋が狭くってごめんなさいね」

「いいんです 私達のほうが無理言ってるんですからー」と、若葉が応えると

「あっ そうだ ねぇ 4人の写真も飾ったのよ 春の時は 他の人も居られるでしょ だからねー これっ サインしてもらっても いいかしらー」と、手の先には、去年のミニ合宿の時の4人の写真が・・・料理長と並んで写っていた。去年の優勝の時の団体戦の時の写真は春合宿のときに飾られているのは気がついていたのだが。

「ねぇ 今年も絶対に優勝よ! となりに飾らせてよねー」

 私達は、早速 砂浜にジョギングに出て行った。ジヨギングといってもうさぎジャンプとかステップしながら走るのだから、1年生のふたりは、ヒィヒィ言いながらこなしていた。たっぷり1時間以上走り込んで、用意してくれていたお昼ご飯で、ふわふわの厚い卵焼きの下は中華丼でタマネギのスープと。料理長が私等のためだけに作ってくれたのだ。

 午後からは、柔軟の後、うさぎジャンプを体育館2往復なんだけど、1往復過ぎたあたりあたりから、1年の二人が送れ出して、遥香が「自分に負けちゃー駄目よ 頑張れ!」と、声を掛けていたのだけど、途中でふたりとも崩れていた。それでも、何とかたどり終えた時、若葉が

「あなた達 私達の足を引っ張りに来たの! 自分を伸ばす為でしょ! あのね 途中で崩れるって諦めるってことよ こんなことは初めてやったんだから仕方ないよとか 言い訳してるんちゃう? 辛いのは当たり前なの 他人を超えるんだからー 止まってもいいのよ! 又 進めば良いんだからー そこで、泣いても良いのよ 誰も見てないしー そやけど崩れたら、そこでおしまいやな! あなた達は水澄の推しでここに居るんや 水澄に恥をかかせても良いの! ヤル気無いんだったら 今 帰ってもいいのよ!」と、強い言葉をふたりに浴びせていた。そして、その後はふたりに素振りをさせながらの反復横跳びをやらせていて、そのうち、涙を拭いている姿があった。

 私は、横で聞きながら・・・私も同じようなことを何回も聞いてきた言葉だ。がんばれ 二人とも。だけど、若葉には、もう、リーダーとしての風格も備わっていたのだ。

 その後は、私と花梨、香と遥香が打ち合って練習していて、若葉は1年の二人を相手に教えていた。そして、3時の休憩の後は、私と若葉のダブルスの相手に花梨と遥香が、香は1年生の相手をしていた。香は若葉と違って、やさしい言葉で教えていたのだ。

 5時半からの夕食の後は、柔軟の後、うさぎジャンプを繰り返してやっていて、今度は1年の二人も付いてきていて 「ウチはうさぎじゃぁないんだ」と、念仏のように言いながらやり遂げていたのだ。

 私は、花梨相手に第2の魔球に取り組んでいて、なんとか恰好はついてきたのだが、花梨にポトンと私の一番遠いところに跳ね返されていた。

「水澄 ウチはわかっているから返せるけど、まぁまぁ ちゃうかー な?」

「あかん そんなん 慣れたら簡単に返せるってことやー もっと 威力のあるボールやないとー」

「あんたなぁー ウチが簡単に返してると思ってるん? 必死やねでー」

「う~ん わかってるけどー ・・・ 私のイメージとちゃうねん もっと バシッと・・・ 早い球でやろーとしたら 遠くにいってしまうし、回転もなー」

 と、話し合いながらも、もう9時半になっていて練習終了で、お風呂に行った。湯舟に浸かりながら、急に花梨が

「水澄 立ってみー」

「なんやの いきなり」

「ええからー 真直ぐ直立不動 手は降ろしてな!」

「もぉー なんやのー」と、私は言われた通りにすると、花梨は私のおっぱいを手の平で擦るようにしてきて

「痛い! 何すんのー」

「うん ちょっとなー もう 一度」

「もぉー やめてーなー 痛いヤン」

「ええから もういっぺんな!」と、今度は下のほうから擦り上げて、最後は捻るようにしてきた。私のおっぱいはひしゃげるようになっていた。

「いたぁー いぃー」と、私は両腕を抱えてしゃがみこんでいたのだが・・・

「ふふっ ごめんなー でも わかったぁ? 違い」

「・・・あっ 花梨 ありがとう 明日 やってみるね!」

 お風呂から上がると、部屋には夜食のおにぎりが置いてあった。いつも。私達のためにと、心遣いに感謝しながら

「なぁ 香 いっつもあんなフリフリのん穿いてるん?」と、私が聞くと

「うん フリフリなんやけど穿いてるんかわからへんくらい締め付けも無いねん。自由に動けるし、そんで 色んな色も可愛いしなー」

「あっそー 可愛いねぇー 確かに・・・」

「そやでー 水澄もこんなん穿いてみー やめられんよーになるでー 彼も喜ぶしなー」

「・・・うん」と、私も皆にはわからないように小さく頷いていたのだ。

 そして、寝ようとしていると横に寝ている花梨が私の背中にすり寄って来て、手を私の胸に廻そうとしてくるのだ

「花梨 その手はどこにいこうとしてるの? もっと 離れてよー」

「んー さっき いじめたから、やさしく撫でてあげようかと・・・」

「もぉー けっこうです そんな趣味無いってー ゆうたヤン」
 

 

12-3

 次の日は、6時から体育館でうさぎジャンプをしてから、砂浜に出ての同じメニューをこなす予定だったのだけど、私が体育館に行くと、1年の二人が反復横跳びをやりながらの素振りを繰り返していた。確かに、朝 起きた時には、二人の姿は無かったのだ。

 朝食後の練習の初めのうさぎジャンプでもふたりは、私達から遅れていたが、(ウチはうさぎじゃぁ無い)と唱えながら、止まることはあっても崩れ落ちることは無かったのだ。

「いい? これをして 脚を痛めつけて、練習するから 素早い動きが出来るようになるのよ 辛いけど、乗り越えてね」と、若葉は二人に諭していたのだ。

 そして、私は昨日 花梨から言われたように、今までよりもラケットを下から振り上げて、最後は捏ねるようにしてみた。最初は、うまくコントロール出来なかったが、何回か重ねて行くうちに、ドライブがかかって台の中程で鋭くバウンドが変化していったのだ。

「水澄 何よー 今の ウチ 対応出来ひんかった わかっていてもー すごぉーいスマッシュ やん」

「うん 出来たみたい 練習して もっと 確実にするわー ありがとう 花梨のお陰や」

「そんなことない ステップしながらスマッシュ打ち込むなんて 水澄にしか出来ひんことやー」

 その日は、午前中と午後からも3時まで練習して、女将さんに「今年も 絶対に頂点に立ちます 隣りに、もう1枚写真を飾ってもらえるよーに」と、約束して帰ってきたのだ。

 最寄りの駅に着くと、もう暗くなっていて、私はお兄ちゃんに迎えを頼んでいた。瑠利ちゃんもお母さんが車で迎えに来ていて、みずきちゃんも一緒に乗って行くと言うのだ。

「あっ あー 東方みずきちゃんだよね 一緒だったんだ」

「はい ウチ 水澄先輩に憧れているんです」

「あっ そうかー 君みたいな 可愛い子がねー」と、お兄ちゃんはみずきちゃんの全身を眺めるようにしていて

「ふたりとも 明日 元気でね 学校で」と、見送ったのだが、その後

「お兄ちゃん! みずきを見る眼がやーらしいの! この前まで小学生やでー」

「えっ いや すぅーとしていて 可愛いしー」

「なぁ 智子はどーしたの!」

「はぁー それとは別やないか 親父の言いぐさちゃうけど 可愛いのを可愛いと言って 何が悪いんじゃー 見たことを普通に言っただけだよ」

「・・・ 男って・・・勝手よねー・・・」

 次の朝、学校に行くので駅に着いたら、驚いたのだ。1年の二人が居たのは良いのだけど・・・二人とも髪の毛を切って、それも刈り上げでザンギリ頭になっていたのだ。

「水澄先輩 おはようございます」と、揃ってお辞儀をされて

「あっ あー おはよう」と、ホームに急ぐ人々に見られて・・・恥ずかしい。

「あのね そんな 並んでお辞儀なんて良いからー それに、大きな声で水澄先輩って言うの止めてくれる 恥ずかしいの 小さく おはよう でいいからー」

「ハイ! わかりました!」その時、側を通る人もビクっとしていた。

「だからー 声が大きいんだってー どーしたの その頭」

「はい! ウチ等 決意新たに 孫穎莎みたいに あやかってー 昨日までの合宿 辛かったんですけど 教えてもらったことが多くって 為になりました ありがとうございました」

「あ そう 良かったわ きついんで もう 辞めるかもって思ったんだけどー 若葉も言っていたわよ あの二人は根性あるし それに、教えたこともちゃんとやっているって きっと伸びるでしょうねって」

「わぁー 褒められたんですか? ボロカスに言われていのにー」と、二人で無邪気に喜んでいたのだ。電車に乗り込むと香が居て、二人とも、揃って大きな声で「香先輩 おはようございます」と、言ったものだから、廻りの他人も驚いていた。香も圧倒されたのか「あっ あー おひゃよう」と、言ったきり声も出てこなかったのか、眼を剥いたまま唖然として外を見ていたみたい。それとも、自分の1年生の時のことを思い返していたのか。あの時も、香は私に合わせて髪の毛を短くしたのだ。
 
 その日の練習では、皆が二人の頭を見て騒然としていた。

「水澄 二人に何か言ったの?」

「ううん 昨日 駅で別れて それから 美容院に行ったんちゃう?  私 知らなぁ~い」

「あの子等 スイッチ入っちゃったみたいね 昨日から練習中でもよく声を出していたし 動きも良かったわ みずきなんて手足長いから、鍛えると伸びると思うんだけどなー でも 成長期でしょ あんまり筋肉付けると、止まっちゃうかもね 難しいわ」と、若葉は私を見ていて

「えっ 私? 成長してるよ」

「だってさー 1年の時は、皆あんまり変わらへんやったやんかー 今は、3年の中で一番 チビなんちゃう? 脚は筋肉ガチガチなんやけどなー 1年から何cm伸びた?」

「う~ん 5cmくらい」

「あのな 遥香は15cmやってー ウチもそれっくらいかなー」

「私は これから まだ 伸びるの! ほっといてー 私はジャンプで勝負します!」
 

 

12-4

 6月に入ると、私と花梨が高校生との練習に呼ばれることが多くなってきて、特に私は美ひろ先輩の相手が多かったのだ。今度は、私も球の速さが鋭くなっていて、ときたま放つバックバンドも威力を増していた。だから、打ち合っていても、何回となく美ひろ先輩に打ち負けることは無かったのだ。

「水澄 すごく進化してるわね 今の調子だったらインターハイでも充分 通用するレベルよ あのね 練習相手としては すごく良いのよ でも 水澄の本気がみたいわ」

「あっ そーなんですか 私 必死で・・・」

「水澄は 前はパターン同じだったけど 今は球のスピード速くなったし、コースもセンターを突いたり、ミドルで来たり、緩急もつけてきてー 対応が慌てしまうわ 花梨もそう あなた達 ふたり 又 全中決勝では 伝説の闘いになるのかもね」

 美ひろ先輩には、二人とも何となく褒められていたが、花梨は

「なぁ 水澄 ウチ等このままでええんやろぅかー? 美ひろ先輩は 水澄との練習で 水澄が本気ちゃうと思ってるでー それにな! 都女学院の鐘ヶ淵翠 どんだけ 進化してるやろー 春も水澄負けたやんかー 去年は京都で優勝して、全中には出てへんやんかー 本堂監督のもとやでー 怖いなぁー それに、忍埜山の見沼川七菜香も不気味やー」

「あの時は脚が動かへんかってんってゆうてるやろー あんなん何とかなるわー」

「そんなんゆうてもなー あん時 水澄のサーブもスマッシュも直ぐに・・・相手のサーブを返しても、直ぐ 仕掛けてきてたやん 水澄は苦労しとったやんかー あの時より もっともっと 動き速よーなってるでー」 

「うん 多分なー」

「ウチ 考えてるんやー あの子 パターン 今までとちゃうんやー あの速い攻撃にどう対応したらええやろかって 前に出て、ぶつけ合うか 後ろに下がって、かわしたほうがええんやろかーって」

「そんなん もっと回転掛けるように打ち込んで 簡単に返されへんよーにしたらええんちゃう?」

「う~ん なんともなー・・・」花梨は天才だから、何とか考えるやろー

「水澄 美ひろ先輩がな 明日 試合形式でやりたいって言ってきたわよ 今のままやと水澄も本気出さへんから、お互いに伸びひんからって・・・だから本気で向かってきなさいって・・・」と、若葉が告げに来た。

「へぇー そんなん 何で若葉に言ってくるん? 直接 私に、ゆうたらええやん」

「まぁ 監督には了解をもらったって言ってたけど、キャプテンやからウチに話通したんちゃう?」

「ほらっ みぃー 美ひろ先輩 口では褒めてたけど、ほんまは 怒ってるんちゃうやろかー ウチが見とっても 水澄・・・本気のスマッシュちゃうヤン」と、花梨が

「あぁー でも それは・・・そんなん仕掛ける余裕も無いし・・・先輩に対して失礼かなって・・・」

「そんなん気使うことないヤン 怒らせてしもーてー 明日 ボコボコにされて泣いても知らんでー」

「花梨・・・どーしよぉー」

 翌日、試合前に美ひろ先輩から

「良い? 全力よ! いい加減だったら、立ち直れないくらいにするからね!」と、威圧的に言われていた。

「水澄 普段どうりで良いんだからね 緊張しないでね」と、響先輩も心配してくれる程だった。

 試合が始まって、最初 私のフォアーハンドが相手の逆サイドの隅に決まっていて5-1でリードしていたのだけど、それから、美ひろ先輩は私からは遠いところに返してくるようになって、あっという間にリードされて、それでも私は、ミドルとかフォアサイドの短い所に振るように対応するようにしていたのだが、美ひろ先輩の球の速さについていけずに7-11で1ゲーム目を落としていた。

 そして、2ゲーム目も、私が得意のスマッシュを放っても放っても返されて、3-11と圧倒的に負かされていた。

「水澄 意地になっとるでー なんぼ水澄のスマッシュが強烈でも眼が慣れてしまうからー・・・でもな 美ひろ先輩は同じとこに返してるやろ? 水澄から遠いとこ 逆に考えたら、そこにしか よー返さんねんやーと思うでー」と、ゲームの間の時間に花梨が言ってくれた。

 次のゲームからは、花梨に言われたように、相手の返球を待ち受けるようにして、フォァサイドにバックハンドで短く返したり、センターを突いたり、もう一度強烈なフォァハンドに捻りを加えたりして、9-9になった時、浮いて返ってきたボールを私は、飛び跳ねながら相手の逆サイドの台の真ん中あたりを目掛けて捻りながら思いっ切り打ち込んでいった。美ひろ先輩のラケットも届かずで、私のゲームポイントになって、次も私のスマッシュは魔球になって美ひろ先輩のラケットの先を横にかすめていたのだ。

「水澄 調子良いよー 先輩は水澄のスマッシュがストレートにくるのか変化するのか迷ってるみたいよ それに、速い仕掛けに戸惑ってるわよ この 調子ネ 勝てるかもネ」と、花梨は勇気をくれていた。

 次のゲームも拮抗していたが、私が常にリードしていて、大事なところでは、必殺のスマッシュで相手を崩していたのだ。そして、私はゲームポイントを迎えていて、勝つつもりのあのスマッシュを・・・だけど、美ひろ先輩は予測していかのようにラケットを伸ばして、ポトンと私の遠いネット際に・・・あの時の花梨と同じ・・・私も 予測していたのだ。だから、ラケットを差し出して、相手のネット際にポトンと返していた。やったー これでゲームポイント2-2のタイに持ち込んだのだ。

(どうですか これが あなたの後輩の本気の実力ですよ)と、私には、自信が湧いていた。相手の球の速さにも慣れてきていたし、確実に相手を翻弄していると・・・。

 最終ゲームは7-7で拮抗していて、その後、私はセンターに打ち込んで連続ポイントで9-7とリードしたのだ。それまでは、見ていた部員達も声をあげていたのだが、それからは試合の行方を見守ってか声も出なくなっていた。

 私のサーブの時、帰ってきたボールを思いっ切り叩きつけて相手のバックサイドに・・・ボールはバウンドの後、イレギュラーに変化したが、美ひろ先輩は追いついて返してきた。そのボールを私はラケットの位置を下げて擦りながらその後は、フォァサイド手前に低い弾道で打ち返していった。それは、バウンドした後、内側に低く跳ねていて、美ひろ先輩も戻ってきていたがラケットで捕らえたボールは力無くネットを越えなかった。私の第2の魔球だ。そして、次のサーブでは帰ってきたボールを直接、私はボールの下を擦りながらステップして叩きつけるようにしたのだが、バウンドした後は真横に跳ねるように・・・美ひろ先輩は最後はラケットを突き放すようにしてボールに当てようとしていたが、そのままボールはラケットを超えて、台の上を転がっていったのだ。その瞬間、美ひろ先輩は台にしばらく突っ伏していて、中学の部員は歓声をあげていたけど、高校の部員は唖然としていた。その後

「本気でやれって言ったけどー・・・先輩のメンツはどうしてくれるんやー 一応エースなんやからなーっ」と、その時、皆に一瞬の緊張が流れ、沈黙の時があった。そして、先輩は私を抱きしめてきて、叱られると思ったら

「水澄 すごい こんな すごい後輩が゛居るなんて ワクワクするわー」

「あっ はい 夢中で・・・」

「ふふっ 最後の あんなスマッシュ 返せるわけないじゃぁない?」

「あれは たまたまなんです・・・」 

 

12-5

 1学期の期末考査、学年トップは若葉で、3点差で大路輝葉と私は2位だった。また、若葉の上にはなれなかった。(神様 どうして その3点を私に授けてくれないの? 私 悪い子だから? 翔琉と・・・しちゃったから?) だけど、私は絶対に全中個人決勝で頂点に立つと決意していた。(神様 お願い 今度は 私を・・・ 私の 脚・・・手・・・困るけど、二つあるおっぱいなら 片方あげてもいいわ ひとつあれば 赤ちゃんにあげれるし・・・翔琉には・・・兼用してもらうから・・・)

 夏休みに入って、直ぐの高校総体大阪予選では美ひろ先輩は個人戦で優勝していて、団体戦でも我が校は圧倒的強さで優勝していたのだ。その後は、私達の全中の大阪大会なのだ。

 石切監督は、団体戦の初戦に、トップ 香、2番手に白川輝葉、そしてダブルスには莉子とひなた、4番遥香、5番若葉を指名していた。2戦目はトップ 遥香、2番押切美実、ダブルスには莉子とひなた、4番香、5番若葉だった。

 個人戦では、準決勝に勝ち上がったのは、花梨、香、若葉、私達太子学園の四天王だった、花梨は準々決勝で忍埜山の見沼川七菜香をフルセットの末 勝ち抜いてきたのだ。私の次の相手は花梨とだったのだけど、私は監督にお願いして棄権にしてもらったのだ。時々、左の膝がビクッとすることがあるし、本当は、今 花梨と闘いたくなかったのだ。花梨とは、全中の本戦で決着を付けると決めていたのだ。結局、花梨と香との決勝になって、花梨が優勝していた。

 団体戦のほうも、私は大事をとって休んでいなさいという監督の言葉で、棄権していて、ダブルスは、莉子とひなたの組み合わせに若葉とひなたの組み合わせで戦っていて、二色が浜中学を破ってきた忍埜山女学園中学との決勝だったが、圧倒的に3-0で優勝していた。だけど、向こうは2年生と1年生主体のチームなので来年は強敵になるのだろう。

 翌日は休みで、その後はお盆前に3日間は強化練習なのだ。私は、膝の調子が良く無くって、かばいながら練習していたのだけど、花梨は私の異変に気付いていたのだろう、若葉に

「なぁ 今 疲れもピークや 強化練習も大切やけど ここで、身体痛めたりしたら どうもならんでー 皆には、無理せんよーに言いなぁ」と、私に聞こえるように言っていた。花梨は私のことは何でもわかっているのだろう。私の脚の調子も・・・

 練習が休みになっての初日の12日。朝 お母さんが仕事に出掛けようと玄関を開けた時

「あらっ みずきちゃん どうしたの?」と、大きな声で・・・

「水澄 水澄 みずきちゃんが門のところで待ってるのー」と、洗い物をしていた私に声を掛けてきた。

「みずき 9時からやゆうたやろー まだ8時半やでー」確かに、昨日 みずきから一緒にジョギング゛したいと言われていて、まぁ と了承していたのだけど

「いいんです 待ってます」

「待ってますって そんな暑いとこで・・・ まぁ 玄関の中ででも 待ってて」

「いいんです 動いて待ってます」

「・・・じゃぁ 早く済ませるね」と、言っていたら、お兄ちゃんが珍しく早い目に降りて来て、みずきちゃんに声を掛けていた。お兄ちゃんのお気に入りの子なんだからなのだろう。昨日までは、この暑いのに走るのかよー とか、文句言っていたくせに・・・。

 私 せかせられるように急いで着替えて、出て行って、3人で中央公園までジョギングして、少し休んで帰ってきた。往復1時間程なのだ。だけど、みずきちゃんは

「午後からも 来ますね」と

「えぇー ・・・あのね」

「お願いしますよー 私 他の子に負けとぉーない! 水澄先輩なんて 1年の時 全中の本戦にリザーブとして行ってるやないですかー 私は それから比べたら・・・ まだまだなんです どんどん厳しくして欲しい 5月に合宿に連れて行ってもらって 為になったし、勉強にもなりました あれからも 頑張ってるつもりなんですけど・・・」

「うん 確かに 頑張っているし、すごく伸びたと思うわ・・・ わかったわ 今日と明日だけね 明後日から 私のとこ留守にするからー」

「わぁ~い 有難うございます お昼 食べたら また 来ますネ」

「うっ うん 1時半よ! 早いのは ダメよ!」

 私は、お昼に誘われていたのでおばあちゃんチに行って、おにぎりを用意していてくれてたので

「ねぇ おばあちゃん? これ2つ お兄ちゃんに持って行っていい?」

「ええ いいわよー 2つで足りるのかい?」 

「うん カップ麺もあるからー」

「カップ麺ねぇ・・・こっちの海苔を巻いたのが梅干しで こっちが甘いめのちりめん山椒よっ」

 私は、急いで家に行って、お兄ちゃんに「テーブルにおにぎり置いておくからね」と伝えて、戻ってきて「感激してたよー」と、お兄ちゃんの顔は見て無いのだけど、適当なことを言っていた。

「お兄ちゃんって 達樹君のことだろう? あの子ね 少し前 庭の枝を切ってくれたのよ 私が切っていたら、通りがかって、代わりに・・・って 水澄ちゃんと同じで優しいよねー」

「へぇー そんなことがあったんだー 普段 ぶっきらぼうなんだけどね まぁ 私には優しいカナ! いつも それとなく 援護してくれるの」

「そうかい 男はね それっくらいが良いんだよ 優しくてね あと 真面目に働いてくれたらネ」

「ふ~ん ねぇ ご主人もそんな人だったの?」

「そーだね 口数も少なくて 仕事も真面目にやってたみたいよ」

「おばあちゃん 幸せだった?」

「だなー 平穏無事だったし 亡くなった後も、生活に困らないように残すもんはちゃんと残していてくれてたからねー 見送った後は、寂しくて泣いていたけどー もう 独りに慣れちゃったからね でも 今は 思いかけず 水澄ちゃんという可愛い孫も居るからね 幸せだよ」

「うん 私も ウチの両親は親戚も居ないから おばあちゃんが居てくれて楽しいよ!」

 昼からみずきが来た時に、ウチは狭いからと、おばあちゃんチのお庭を借りてトレーニングをしていた。私は、ステップするのは控えていて、もっぱら、みずきの素振りとかを見ていたのだ。次の日もそんな調子だったのだ。

 私は、少し不安になっていたのだけど、旅行の間の2日間は休むつもりだったので、その間に痛みは和らぐだろうと安易に考えていたのだが・・・ 

 

12-6

 お泊り旅行の日。近鉄電車の特急に乗って、伊勢鳥羽の駅に、お昼頃着いて、駅の近くで伊勢うどんを食べて、ホテルの送迎バスで着いて、直ぐに、歩いて海水浴場に向かった。

 私は、水着は持っていないので、上下トレーニングウェァに着替えていた。お父さんとお母さんは缶ビールを持参で木陰で見ていただけなのだけど。海の中では、私とお兄ちゃんは何をするわけでも無く、競争したり、お兄ちゃんの背中から乗ったりしてふざけたりしていたのだけど、私は、時たま膝にビクッと痛みを感じていて気にはなっていた。

 夕方が近づいた時、ホテルに帰って、大浴場にお母さんと入った時、私がしきりに膝を摩っていたので

「水澄 なんか 気になるの その膝」

「ううん 揉みほぐしているだけ」

「そう あんまり無理しないでね 痛めたりしたら取返しつかないからね もう 十分じゃぁないの? 後輩達も決勝で頑張ってくれたらしいじゃぁない」

「だけど 本戦になると強い人達が出て来るのよー お母さんとお父さんにお兄ちゃん、それにおばあちゃんも クラブの皆も小学校からの仲間も応援してくれているから 私 頑張れるの」

「だけどね 神様は時々 そっぽ向くからね」

「お母さん 私は 神頼りなんかしてないわ 自分で頑張るの それに、中学最後の試合になるわ 絶対に 頂点に立ちたいの!」だけど、お母さんは心配そうに、私の膝を摩ってくれていた。

 夕食には、海鮮料理がいっぱい並んでいて、私には、食べきれなくて、横からお兄ちゃんが私のをつまんでいたけど

「お父さん 聞いてーぇ お兄ちゃんたらね 泳いでいる時、私が後ろから乗っかって行くと、嫌がって振り払おうとするんだよー」

「うっ おまえぇー 何 言い出すんだよー」

「まぁ 普通 水澄の歳になってくるとそんなもんだろうよ」と、お父さんは言っていたけど

「どうしてぇー」

「どうしてってー まぁ 物理的なもんじゃろー 兄妹っていっても 男と女だからー」

「でも 私は お兄ちゃんとなら お風呂 一緒でも平気だよ お父さんとはダメだけどー お兄ちゃんとは ず~と 一緒だったからー」

「やめろよー 水澄 俺が 恥ずかしいんだよーぉ」

「へっ 根性無し!」

「だからーぁ 根性の問題ちゃうってー」

「ふっ 達樹も可愛い妹が居て 良かったのぉー そーいえば 水澄 今度の大会は和歌山で近いし、車 2台で駆けつけるからな 和歌の浦に前泊する」

「えぇー だって 決勝までいけるかどうか」

「そんなもん 行けるに決まっとる 水澄も中学 最後だろう?」

「そーなんだけど お父さん 観光? 応援?」

「そりゃー 応援だよ 社内でも 盛りあがってるぞ 皆 去年の個人決勝を見て 興奮しとったからな 今年はどうなるんだろうとな」

「ふ~ん どうだろうね 私にもわかんない でも 絶対に勝つって決めてるんだけどね」

 旅行から帰って来て、次の日もう1日休みがあったので、お母さんには、ジョギングするからと言って、中央公園で翔琉と待ち合わせをしていた。

「お昼には帰ってくるんでしょ バーベキューするからね 昨日 いろいろと買ってきたから・・・」

「うん 昼前には帰るよー」と、おばあちゃんにお土産と言って、あじの干物とあなごの蒲焼のパックを届けて、

 公園に着くと、翔琉は待っていてくれた。

「ごめん ゆっくり走ってきたからー」

「いや 良いんだけど ゆっくりって?」

「ううん なんとなくね」

「あしたから また 練習始まるんだろう 今度は、和歌山だから、日帰りできるし皆で応援に行くよー」

「そう がんばるよ! 絶対に頂点に立つ 個人でも」

「水澄 まぁ あんまり無理するなよ」

「無理なんかじゃぁないの 手を伸ばせば そこにあるんだからー」

「水澄はえらいなぁー 中学から始めたのに、全国制覇なんだものなー」

「あのね 私 小学校の時 智子から 運動で どんくさいよって言われたことがあったの 仲の良かった智子からでしよ 悔しかったの だからー 智子を見返してやろうと思って頑張ったの」

「へぇー そんなことあったんだー 確かに 小学校の時 水澄はチビなのもあって 運動はあんまり 得意じゃぁ無かったかもーな」

「うるさい! チビって言うな! 出るとこはちゃんと出てきたでしょ そんなに立派なもんじゃぁないけどー ね?」

「うん ゴムまりみたいで プルンとして可愛くて丁度いいよ」

「ふふっ よぉーし あのね 今度は 大会終わった後、お泊り出来ないんだぁー 近すぎてー」

「だなー しょーがないよ」

「でも・・・がまんできる? だから・・・あれも・・・」

「はぁ まーぁな 水澄はしたいのか?」

「・・・・だって・・・」そんなこと女の子に聞かないでよーと、思いながら 恥ずかしくて返事はできなかったけど うつむいて 頷いていたのだ。

「そうかぁー」

「ちゃうよー こんな女の子にしたの 翔琉だからね! やーらしいこと考えるよーになったの だって 春から・・・してないヤン」

「そんなの お互い様だよ 共同作業だからー」

「わぁー なによー 共同作業って! 作業!? 私は 翔琉のことが好きだからー 一緒に夢の中へって 思ってるのにぃー」

「あっ ごめん デリカシーなかったよね」と、翔琉は私の手を取って、大きな樹の陰に連れて行って、抱きしめて唇を・・・。そのうち、お尻も引き寄せられて摩られきたものだから

「あぁー そんなの・・・私 がまんできなくなるぅー」

「じゃぁ ここで するかい?」

「バカ アホッ」と、私は翔琉のほっぺにもう一度チュッとして別れてきたのだ。

 家に帰ると、智子が居て・・・黄色のタンクトップに割とピチピチのジーンの短パンなのだ。胸なんかも形よく尖っているし、相変わらず、褐色の脚が長い。

「なんで 智子が居るのよー」

「智子ちゃん 昨日がお誕生日なんだって だから 達樹が呼んだみたいよ」と、お母さんが言っていたけど

「お兄ちゃんが・・・でも なんで・・・」

「いいじゃぁないのよー おいしいものいっぱいあるし さっきからお手伝いもしてくれてるのよ」

「お母さんは 智子に甘いからなぁー」

「あらっ 水澄の親友なんでしょ」

「うっ まぁ そーなんだけどー 智子 そのー 露出が・・・」

「そう? 夏 ナツ ココナッツよー でも 今日は残念ながらパンティ見せないよ!」

「あたりまえじゃぁー 今日はお父さんも居るんだからね!」

 私も、Tシャツに短パンに着替えたのだけど、私のはそんなにピッタリとしてないものなのだ。脚だって、なまチロっくって智子みたいに長くない。スタイルでは、完全に負けているのだ。

 お兄ちゃんが庭先で サザエとか大アサリを焼き始めていてくれて、私はどっちかというと貝類が好物なので、早速いただいていて、そのうち赤車海老とか松坂牛の味噌漬けなんかも・・・。お父さんもピチピチした智子も居てご機嫌なのだ。我が父ながらー (このエロじぃ がぁー)と思いながら、その後も喰らいついていたのだ。


 

 

13-1

 次の日からの練習では、私は、控え目に動いていた。時々、膝がビクッとするのが治っていないのだ。

「水澄 まだ 調子悪いんやろー? ごまかさんと答えやー ウチには・・・」

「うん 時々 膝がビクッとなー でも 大丈夫やー 中学 最後の大会やんかー 頑張るよー」

 試合の前日 監督から、団体戦の第1ステージは トップ香 2番遥香 ダブルス 莉子とひなた 4番花梨 5番輝葉 で行く。1戦も落とすなよ! と発表があった。
 
 そして、個人戦で私と花梨、香、若葉と莉子が準々決勝で進んで、団体戦も勝ち進んでいた。個人戦の相手は、私は山手丘の寒川千草 花梨は忍埜山女学園の見沼川七菜香 若葉は都女学院の鐘ヶ淵翠 香は莉子とつぶし合いだった。団体戦の方も、準決勝の相手は日進中央中学で、山手丘対都女学院なのだ。

 その日の夜、お風呂で花梨が

「ほんまに大丈夫なんか?」

「うん 平気 明日は何も考えんと思いっ切りやる」

「そんなん ゆうても 今日の試合 水澄 ステップせんとやってたやんかー 足 かばっとるんやろー?」

「ちゃう! 手の内 見せへんかっただけやー」

「あかん 水澄 ウソついとるぅー 若葉 お風呂から出たら 足 摩ったりぃ~ ウチはオッパイ 揉んだるからぁー」

「こらぁー 花梨は 何が目的じゃー この変態がぁー」

 だけど、部屋のベッドに寝かされて、花梨が「いい? これは やーらしいことちゃうでー ほんまに水澄の為なんやでー」と、部屋着の上からなんだけど、本当に胸を揉んできて、若葉は膝を摩ってくれていた。私 そのうち 気持ちが良くって、夢心ちの中 眠りに落ちていっていた。

 決戦の日、会場には、お父さんの会社のグループに翔琉達仲間の3人に学校関係者の人達が横断幕を掲げて陣取っていたのだ。勿論 卓球部の部員のメンバーに、その中には、美ひろ先輩と響先輩の姿もあった。

 個人戦が始まって、第一試合の花梨と見沼川七菜香は、花梨が圧倒して3-0で勝利していたが、もう一つの試合 若葉と鐘ヶ淵翠は1-2の4ゲーム目 若葉が9-7でリードした時、若葉に異変が起きて・・・足首を捻挫したみたいだったのだ。その後も続行しようとしたのだけど、そのまま棄権してしまった。

 私も山手丘の寒川千草に苦戦していて、2-2のまま最終ゲームを迎えていたのだけど、仕方なくステップしてからのスマッシュを決めようと、その時、膝がビクッっとなっていたけど、ボールは相手のラケットの横をすり抜けていて、何とか勝ち進んだ。

 次の準決勝の時、花梨は相手の鐘ヶ淵翠に第1ゲームを取られたのだけど、落ち着いていて、第2、3ゲームを取り返して、第4ゲームも短いスマッシュとかチキータを決めていって勝利していた。隣の台の私と香の試合も、香は私の弱点も知っているで、苦戦していて第1ゲームも第2ゲームもディユースになっていたが、右に左に長いの短いスマッシュで対応していて、最後は短くて横に逃げて行くスマッシュを連発して、3-0で何とか勝っていた。だけど、私の膝は痛さを益々感じたままだった。

 花梨との決勝戦が始まって、最初から取ったり取られたりで、私は伸びるスマッシュで花梨のバックサイドを突いたり、フォアサイドに散らしていたのだけど、花梨も同じように返してきて、激しい打ち合いになっていて、第1ゲームから15-15になっていた。会場からも、大声援と拍手の嵐だった。その次、打ち合いの後 花梨はボールを幾分浮かして返してきた。あの時と同じだ。誘っていると瞬間感じて、私はステップして花梨のバックを狙うふりをしてフォアサイドに低い弾道で返して行ったのだ。だけど、ステップを降りた時、膝に激痛を感じていた。ボールは花梨のラケットの先をすり抜けていった。花梨は、その時 一瞬 微笑んだような気がした。そして、私のゲームポイントを迎えて、夢中でサーブを花梨の胸を目掛けて・・・花梨の返したボールはネットに引っ掛かってそのままだった。

 第2ゲーム以降も激しい打ち合いで譲り合わず2-2のまま、最終ゲームまでもつれ込んで、ディユースになっていて、お互いマッチポイントまでいったのだけど、決着がつかずで18-18になっていた。私の膝も限界に近かったのだけど、私の放ったスマッシュは花梨のバックサイドの台の手前のほうで弾んで逃げて行く第1の魔球 花梨は予想していたのだろう 前とは違って、私のバックサイドに返してきた。花梨は私がフォアサイドに返すと考えていたのだろうけど、私は もう一度 花梨のバックサイドの台の縁ギリギリにバウンドの後イレギュラーバウンドするスマッシュを花梨の胸を目掛けて放った。もう左足でステップ出来ないので、右足だけで踏んばったのだ。花梨も身体が右のほうに動きかけていたので、逆を突かれた形になって対応出来なかった。私は、6度目のマッチポイントを迎えていた。もう、私は気力も体力もこれが最後のチャンスと思っていた。

 打ち合いが続いた後、球が浮いた これが最後のチャンス 私は、気力を振り絞って、跳んで花梨のバックサイドの手前に叩きつけるように最後は渾身で捻って落としていったが、花梨も必死でカバーしてきて返してきた。私からは遠いフォアサイド側 だけど、私は全身で跳んで身体を伸ばして、下から思いっ切りラケットを振り上げてボールを擦って捻って、その後は台に突っ伏していた。もう ダメと思っていたが・・・ボールはバウンドした後 花梨が伸ばしたラケットの上をかすめて、ころころと転がっていたのだ。去年も同じような光景を見た・・・が 今年は私の放ったボールなのだ。

 会場からは、わめくような歓声と拍手を聞きながら、台に突っ伏したままの私を花梨は抱きかかえて起こしてくれていた。やっと 勝てた 花梨に・・・

「水澄 歩ける? 大丈夫? あんな すごい スマッシュ ウチに返せるわけないじゃぁない 負けたわ」

「花梨・・・」私は、涙を流しながら、花梨に支えられて歩くのがやっとでベンチに戻ったのだ。

 お昼休憩の間に美ひろ先輩と響先輩も駆けつけてくれて

「あんた等ふたり すごいネ 私は、あんな試合見たの初めてよー 最後は水澄の執念が勝ったみたいね でも 水澄 もう 団体戦は無理よー 見てても わかるもん 痛々しいわー これ以上無理すると 取返しつかなくなるわよ! ねえ? 花梨もわかってるんでしょ」

「・・・」花梨は黙ったままで・・・

「少し 休めば 大丈夫です 私は 太子学園の個人も団体戦も 2冠連覇が夢ですからー」

「水澄 あんたは やっぱり アホで 卓球バカよねー」と、響先輩も呆れていたみたいだけど

「響先輩 アホでもバカでも 私は、最後までやり切りたい」

 そして、監督から団体戦準決勝のメンバーが発表されて トップは花梨 そして2番は香 ダブルスは若葉に代わっての莉子と私が、4番遥香 5番ひなた だった。

「水澄 ごめんね 休ませてあげたいけど、日進中央中学は強敵なの 何とか先手3勝しないと難しいのよー」

「監督 大丈夫ですよ あと2試合 私 頑張りますからー 最後までやり切りたい」
 

 

13-2

 団体戦が始まって、トップの花梨は3-1で余裕で勝っていて、2戦目の香も苦しみながらも3-2で勝ったのだ。そして、私達の即席ダブルスは、莉子とのコンビネーションもうまくいかず、試合は最終ゲームになっていて、相手のマッチポイントの時、莉子が打ち込んだスマッシュがオーバーしてしまって、負けた2-3。莉子は泣いて私に謝っていたが、私も莉子をカバーしきれなくって押され続けていたからー。監督が言っていたように先手3勝もできなくなっていたけど、次の遥香は、相手を攻めて攻めて3-1で勝ってくれたのだ。だけど・・・花梨が

「監督 次の決勝 相手の山手丘のダブルスも手強いです ウチと水澄を組ませてー 莉子が悪いんじゃぁないけど さっきのショックも大きいみたいやしー 今 水澄も本調子じゃぁないし でも ウチとなら最強のペァやしー」

「えっ でも・・・トップは?」

「監督も2連覇狙っているように ウチ等も・・・ 太子学園四天王+ワンは そんな やわじゃぁ無いです 若葉の分まで頑張ります 香と遥香で先手2勝 そして、ウチと水澄で 頂点もぎ取ります 必ず なぁ 香も遥香も」

「ウン 頑張るよ 2連覇や」

「わかったわ あなた達 最後の大会だものね 悔いの無いように思う存分やりなさい!」

 そして、都女学院の本堂監督が顔を出しくれて

「いゃー 決勝で闘いたかったけどな まだ ウチはダブルスのペァも含めて3番手以降が育って無くてやられてしまったわー まぁ 来年はな! 花梨 水澄 君達の決勝 すごかったなぁー ウチの翠にも 言っておいたんじゃ あれが女王の戦いかただぞ、よく、頭に叩き込んで置け 来年の為になってな 水澄 ワシが言っておいたのをものにしたんだな お前はすごいよ 女王にふさわしいなー だけど、もう 脚 限界じゃぁないのか? 頂点に立ちたい気持ちがわかるけど 石切監督も複雑だろうなー そうだ 香 トップだろう 相手には早い仕掛けで徹底してバックを攻めろ、そしてスキを見てフォアサイドにな お前なら出来るだろう」と、アドバイスをくれて去って行った。私達はずぅっと頭を下げて見送っていたのだ。

 試合が始まって、香は本堂監督のアドバイス通りに、早い仕掛けで徹底的に相手のバックサイドを攻めていって、フォアサイドでポイントを稼いで3-1で勝っていた。次の遥香も若葉とか香のアドバイスをもらいながら、3-2で勝って、我がチームは2勝先行していた。山手丘のエース寒川千草と2番手のエースはダブルスに備えていたのだ。

「今度はウチ等の番だね 水澄 無理せんときー ウチが打って打って打ちまくるから」と、花梨はそう言っていたけど、相手は山手丘のエース寒川千草と2番手のエースを揃えてきているのだ。準決勝の時のペァとは違うのだ。おそらく、うちの準決勝で若葉が欠場していると思って、ダブルスで1勝を確保しようとしてきたのだろう。だけど まさか、うちが花梨と私を揃えて来るとは思ってもみなかったと思う。でも、私の左足が調子の悪いことも見抜いているだろう。

 案の定 向こうは私のフォア側を集中して攻めて来て、私の左足が踏んばれないのを見越しているかのようだった。試合は常に、向こうが2ポイントをリードしていて、そのまま8-11で1ゲーム目を落としてしまっていた。そして、2ゲーム目も。

「あかんわ 花梨 あんたやって 午前中の試合から、バテとるやろー カバーしてくれているんは ええやけどー コンビネーションがうまいこといかへん 私のことは気にせんでええからー 前みたいにやろー 私も足が砕けてもええつもりやー 必死にやる! これが中学最後やねんもん」

「わかった 水澄 一緒に頂点に立つでー やったろやないかー ウチ等は最強やー 実力みせたる! バテてるのは向こうも一緒やー がんばろーぜペチャパイ」

「痛いヤン なんやねん 貧乳がぁー」と、お互いに胸を押さえあっていた。私達の絆。

「あなた達には 呆れるわー でも がんばってねとしか 言いようがないのよ」と、監督に送り出された。

 その後のゲームは11-8 11-7と、連続で取り返していたが、相変わらず私のフォァサイドの遠いところを攻められて、私もスマッシュでステップする度にビクッと激痛が走っていた。

「水澄 本当に大丈夫? 打つ度に顔が歪んでるじゃぁないの?」と、監督も心配していたが

「ううん 大丈夫です 向こうへのポーズですからー」

「水澄 あと1ゲームや こらえてくれっ 最後 突っ走るでー ここで決める!」

 次のゲームでは、花梨が言っていたように突っ走って9-4でリードしていたが、私も踏んばりが完全に効かなくなって、花梨の体力も限界近かったのだ。そこから、連続で相手にポイントを奪われて9-9のタイになってしまっていた。

 その後、私はチャンスと思って、ステップして跳んで、相手は私と同じサースポーだったけど構わずに台の中程にボールを捻りながら叩きつけていった。相手は身体を差し出しながら返してきたのだけど、その後 花梨はバックハンドで私と同じところに打ち込んでいて、向こうも対応できないで居たのだ。

 マッチポイントを迎えて、花梨のサーブなのだ。

「いい? 水澄 3球目勝負だよ」と、花梨はサインを送ってきた。そして、向こうから返ってきた時、花梨が「跳べぇー 水澄ぃー」と、私もチャンスと思った・・・「アイヨ!」と、最後のチカラを振り絞って 跳ねた時 ビギッと音が聞こえて激痛が・・・ でもラケットを下から振り上げてボールを下から擦り上げて最後は捻って、渾身チカラで打ち込んでいったはず・・・降りた時、頭の中は真っ白になって、眼の前は真っ暗になってきて、意識も無く、台の下にゆっくりと倒れ込んでいったのだ。

 遠くで花梨が「ごめん ウチが跳べぇーってゆうたからー」とか聞こえて・・・救急車の音も聞こえていたようなー

 私が、意識を取り戻したのは、車の中だった。状況がわからなかったのだ。頭は誰かの膝の上なのだろう。そして、私の手は握られている。左足は・・・感覚がないのだ。眼で辺りを探るようなしぐさに

「気がついたようね 水澄」 監督の声だ。私が起き上がろうとすると

「そのまま 寝ていなさい 今 水澄のお父様の運転で・・・途中で救急車に乗り継ぐのよ」

「えっ 私 どうしたんですか?」

「あのね さっき 試合の時 水澄は倒れて 救急車で運ばれて、病院で診てもらったら、前十字靭帯 断裂してるって だから、これから大阪の病院で手術してもらうことになってるのよ 今 そこに行く 途中なの」

「靭帯断裂・・・ 監督 私 今 左足の感覚無いんですけど・・・ 歩けなくなるの?」

「今は痛み止めが効いているんだと思う それに、手術すれば歩けなくなるなんてことないわよ 安心しなさい」

 その後、途中で救急車に乗り換えて、病院に着いて、早速、MRIでの検査が行われて、1時間後には手術室に運ばれた。その前には「どうする? 左足だけか?」「いや それは酷だろう 女の子だからな 全身麻酔でいこう」「じゃぁ それで保護者の同意書をもらおう」とか聞こえていたのだ。

 その後、私が目覚めると病室で寝ていて、お母さんが私を覗き込んでいるのがわかった。

「水澄ちゃん 目覚めた ちゃんと 手術終わったわよ 元気でよかったぁー」と、抱きしめてくれた。

「お母さん 私 左足 ちゃんと付いてるの? 感覚が・・・」

「付いてるわよー まだ 麻酔がね・・・」

「なぁ 歩けるようになるんだよね」

「ええ 2週間後位からリハビリをしなきゃいけないらしいけど・・・ちゃんと歩けますって あぁー さっき 監督さん 帰ったわよ 指導不足で申し訳ありませんって しきりに謝っていたけどー あの人のせいじゃぁないもんねー なんとも 返せなかったわ」

「そーなんだ 監督 付き添いしてくれてたんだー そうかー 練習中だったんだものねー」

「えっ 水澄ちゃん・・・ まさかー ねえ 自分の名前言える?」

「香月水澄」

「お母さんは?」

「う~ん 石田ゆりこ」

「・・・ふざけないでよ! ちゃんと」

「ふふっ 香月民子 変なのぉー」

「ばか! 心配させないでよー!」

「ねぇ 私 パンツ ちゃんと穿いている? なんか ごわごわでスカスカする」

「ああ さっきね 切り取って ランニングパンツに着替えさせたの だから ブカブカかしらー」

「ブカブカって? 私 そんなの持って無かったようなー」

「うーん いいのよ 明日は 上もちゃんと着替えようね」 
 

 

13-3

 翌朝は、早くからお母さんとお兄ちゃんが来てくれて

「おはよう 眠れた?」

「ううん 私ね どうしてこんなことになっちゃたんだろうとか 全中の大会も近いのに クラブのみんなに申し訳ないなー とか 後悔ばっかりでー でもまた 頂点に立ちたかったなぁー」

「・・・水澄ちゃん・・・あなた 太子女学園の3年生よね」と、慌てたように聞いて来た。

「そーだよ なに いまさらぁー」

「うん いいの 朝ご飯 食べて無いの?」

「う~ん 食べたくないの それよりさー お母さん おトイレ連れてってー 我慢してるの」

「あっ そーなの 2.3日はあんまり動かさないほうが良いって 先生がー だから おしめしてるのよね」

「う~ん みたいね こんなの 駄目に決まってるじゃぁない だからぁー お願い」

 と、お兄ちゃんとお母さんとで車椅子で連れて行ってもらって、何とか済ませて

「あのさー 今 穿いてるの もしかして お兄ちゃんのじゃないの」

「うん だってさー 今はギブスとかで固定してるから ゆったりとしたのじゃぁないとねー」

「ギャァー お母さん なんてことするのよー 私に恨み あるのぉー」

「何を大袈裟なー ちゃんと洗ってあるから 大丈夫だよ」と、お兄ちゃんは普通に言っていたけど

「当り前やんかー 赤ちゃんできたら どーすんのよー!」

「アホかぁー お前 そんなこと言っても 俺と一緒にお風呂入るん 平気やってゆうとったやないかー」

「それと これとは 別やー お母さん 何とかしてぇなー 着替えは?」

「わかってるわよー 着替えましょうね 達樹 ちょっと 出てて」と、着替えながら、上は試合着のままだったのだ。何で試合着だったのかしら? と思う私に、お母さんは

「後で、先生とお話しましょうね 今後のこととかあるでしょ」と、言っていたが

 そうだ 私は その時は 今後も卓球も続けられるんだろうか とか 色んなことが頭に浮かんできていた。

「なぁ お母さん また おしめ しなきゃぁダメなの?」おしめ以外はひまわりの絵柄の甚兵衛さんだったのだけど

「そうね 今日1日ぐらいわね 我慢しなさい お漏らしするほうが 恥ずかしいでしょ」

「うぅー 這ってでも トイレに行く!」

「何 言ってんの1日だけよ」

「あのさー お母さん ・・・両脇紐になってるパンツあるヤン あれっ いい? だって 脱がないでええヤン」

「・・・わかったわ 明日ね」

「ウン レースのついた可愛いのね! 色が濃い方が良い」

「でも看護師さん達を刺激しないようにしないとね! 水澄 どうして そんなの知ってるの?」

「えっ まぁ 売り場にあるから・・・香とか智子も穿いているの見せてもらったわ」

 お昼ご飯が出てきたのを見て、お兄ちゃんが

「へぇー こんなに貧祖なんだー かわいそうにな」 白身魚煮つけに野菜の煮たもの・・・確かに・・・

「じゃぁ 俺 帰るわ 宿題も残っているしー」

「お兄ちゃん お願いあるの みずきのこと あの子 お盆の間 一緒にトレーニングするって言ってたけど 出来なくなったからって謝っておいてー まぁ お兄ちゃんが一緒にやるって言うんならかめへんけどー お気に入りでしょ!」

「水澄・・・お盆の間ってー」まだ 続けようとするのを、お母さんが

「達樹 あのね あのおばあちゃんにも 一応 入院していること伝えておいてちょうだい お見舞いは まだ バタバタしているから、落ち着いてからでいいって」と、お兄ちゃんを連れ出していた。

 お昼過ぎから、先生の回診があって

「うん 傷口も化膿もしている様子ないし 順調だよ」

「先生って お盆休みも無いんでしょ? 大変だね」

「うー まぁ お盆なぁ・・・ そんな感じなんだ・・・君は中学のチャンピオンらしいね」

「まぁ 去年のね 今年も頑張るつもりだったんだけど・・・大会直前にこんなことになってしまって 夢が飛んでしまったの 練習中 みんなから 無理するなって言われていたのに 私 バカだから、調子に乗ってステップ続けていてー ねぇ 先生 私 前みたいに 治るんでしょうか?」

「ああ 焦らずにリハビリを続けて行けばね」

 診察を終えて、先生はお母さんに話があるからと、病室を出て行った。その後、検査があるからと、又、MRIの検査を受けて、診察室に連れられて、手術をしてくれた先生とは別の人に、手足のしびれはないかとか、普通に生活の話とかを聞かれたのだ。

 終わって、お母さんが先生と話があると言うので、しばらく待たされて、その後、車椅子を押してくれたのだけど「お母さん 違うよ あっち」「いいの 今日から 個室に変わるのよ」と、途中 待合のベンチでクラブの仲間達と監督がお見舞いに来てくれていた。私の姿を見て駆け寄ってきてくれて、真っ先に花梨が

「水澄 ごめんなー あの時 ウチが飛べぇーってゆうたもんやからー」

「なんの話 花梨 いっつも そーゆうてるヤン」

「あっ あー ごめんなさいね この子 先に病室に連れて行くから、もう しばらく ここで 待っててくださる」と、お母さんは慌てた様子で私の椅子を押して、看護師さんと病室に向かったのだ。

「わぁー 広い 窓も大きいわぁー」

「そうね ここなら お母さんも泊まって お世話できるからー」

「お母さん いいよ! だって お父さんもお兄ちゃんも居るんだしー」

「いいの あの人達は子供じゃぁないですから 自分達でなんとかするわよー それより、しばらくは水澄ちゃんだって おトイレ苦労するでしょ お友達 呼んでくるわね」

「みんなごめんね これから大切な大会が控えているのに こんなことになっちゃってー 監督 ごめんなさい」

「えっ ええ いいのよ 2年生も頑張っているし 優勝できるわ きっと・・・」

「そーだね 若葉ごめんね 組めなくて でも ひなたも莉子も居るから大丈夫よね」

「・・・うん でも水澄・・・ 試合のことは 気にしないで 治療に専念してね」

「うん でも 私 スマッシュで飛んだのは覚えているんだけど・・・気がついたらベッドの上だったの ごめんね でも 2連覇はしてよね 私も頂点に立ちたかったなぁー でも、山手丘も来るし、都学院も不気味だわ 頑張ってよ! 花梨も2冠は絶対よ」その時、花梨が泣き出して

「水澄がねー 水澄がいるからーぁー」

「なによー 花梨が泣いたの初めてよねー バッカじゃあないの 私のことを気にするんだったら 練習しなさいよ! 次に来る時は、金メダル見せにきてよね」

「水澄 頑張ってね 私達も水澄が戻ってくるのを待ってるからー」と、監督が言い残して帰ろうとしている時

「若葉 びっこみたいだけど・・・大丈夫?」私 若葉の様子が変だから

「えっ あぁー 大丈夫だよ ちよっと 捻っただけ 何でもないよ」

「そう なら 良いんだけど ここまでこれたのは、若葉がまとめていてくれたからだよ 感謝してる 絶対に2連覇だよ!」

「水澄 ・・・早く 良くなってね」

 監督たちが出て行く時、お母さんに何か紙包みを渡そうとしていたみたいだけど、お母さんは「まだ 混乱すると思いますし、もう少し預かっていてください」と言っているのが聞こえていた。何か、変なのと思っていたのだ。

 入れ替わりに、智子、十蔵、翔琉が来てくれたのだけど、あの子達は進学する高校の話をしていて、智子は、女子のクラブがあるらしいので学芸大学の付属高校に行って、サッカーを続けると言っていた。

「先輩は大丈夫だよ ウチが 食事作りに行くから・・・」

「そんなこと言って また タンクトップとピチピチのんで誘惑したらあかんでー あっ あれは・・・春休みの時やったんやろーかー えっ バーベキュー? だったかなぁー」

「水澄・・・」

 あんまり、翔琉とは話が出来なかったのだけど、帰り際に翔琉は「明日も来るよ」と、そっと言ってくれたのだ。

 

 

13-4

 翌朝、おトイレに連れて行ってくれた後、お母さんは私がお願いしたものを買いに行くと、出て行って、その後、翔琉が顔を出してくれて、私が好きだというレーズンのプリンを持ってきていてくれた。

「わぁー お盆なのにお店やっていたの?」

「うっ うん まぁー 好きなんだろう? これ」

「うん だぁ~い好き」

 と、そのプリンを食べた後、私は 「ねぇー」と、翔琉の手を握ったので、わかったのだろう。ベッドの上の私を抱きしめてきて、キスしてくれて、舌も絡ませあって濃厚なのだった。

「ねぇ この前もキスしたの プリン食べた後だったような気がする 大きな樹の下 どこだったかなー でも、あの時、あの店お休みだったので、私 ファミマで買って行ったんだよねー あの時、なんでお休みだったんだろう・・・」

「水澄 そう・・・いや ゆっくりと思い出せばいいよ」

「思い出すって? ・・・」私には、そうだ 暑い夏の公園で、翔琉と抱き合ったシーンが・・・何となく 頭をかすめてきていた。

「あのさー 俺は ず~っと 水澄の側に居るよ 別に俺のことさえ忘れなかったらいいんだよ あのさー 俺 高校 教育大付属に行くよ 水澄は、そのまま高校部に行くんだろう 同じ駅だから 時々 逢えるよねー」

「うん そーだね がんばれ! 翔琉 なぁ 翔琉は私の彼氏やんなー いつからなんだろう」

「うん 勿論だよ 彼と彼女だよ あのな、これから塾の手続きあるから帰るよ 明日から学校も始まって、塾もあるから土日しかこれないかわからないけど ラインするよ」

 と、彼が帰った後、直ぐに花梨がやってきた。

「ねぇ ねぇ 廊下ですれ違ったの彼なんでしょ 来てたの?」

「うん 今 帰ったとこ」

「やっぱー 直接 話したことないからー でも そーなんだろうなって 会釈だけしたけどー やさしそーだよね」

「そう? ウフッ 花梨 練習は?」

「えっ えーと 今 お盆休み・・・」

「あっ そーかー 身体休ませなきゃーね 普段 痛めつけてるんだものねー」

「そうねぇー あのさー 1年の時 ウチが初めて全中に行くんで、水澄が練習相手になってくれたの 覚えている?」

「覚えてるよー あの時 花梨 心細そーな顔してさー でも 1年生の代表だからーっと思った」

「そう その後 ダブルス組んでさー 初めて大会に出て 優勝したやんかー」

「そーだよ あの時 私 不安だったけど 花梨に助けられてさー」

「でも あの時から ウチ等 相棒になったんだよね 最強の」

「そーかなー お互い 助け合って 息もピッタリだったよね 懐かしいなぁー」

「その後 水澄は若葉と組むようになったけど 水澄はウチ等は仲間だと・・・ウチ 嬉しかったんやー あの時」

「だって 仲間やもん でも 花梨のことはペァで無くっても 相棒やって思ってたよ」

「今年になって 高校生 特に 美ひろ先輩に 練習付き合わされる羽目になってさー 二人とも 相手の球の速さに付いて行けなくてー 悩んだよねー ふたりで・・・」

「そう なんか バカにされたよーでさー こっちは中学生なんやからー 当たり前やんかなぁー」と、二人で笑い合っていた。私は、花梨がこんな風に笑っているのを、初めて見た。と言うより、花梨がこんなに感情を激しく見せてきたのは、私が入院するようになってからなのだ。

「・・・ 春休みの合宿も覚えてる? 響先輩に叱られて 3年にもなって (私はドジでノロマなうさぎです) って 二人で泣いたよねー」 

「だったよねー 私等 でも もっと 強くなった」

 その時、お母さんが帰って来て

「あー 花梨ちゃん 来てくれていたの ありがとうね 水澄の言っていたのって そこらに売っているわけないじゃぁない 天王寺まで行ってしまったのよ 買うのも恥ずかしかったわよー」

「水澄 何か 欲しい物あったの?」と、花梨も不思議そうな顔で

「うん あのね」私は、お母さんから紙包みを受取って、中のものを見せると

「えっ えぇー こんなのぉー」と、花梨は驚いていて、それは 濃いローズ色のものと紺色のもの 二つとも、縁がレースで飾られている腰紐のものだったのだ。私もさすがに手に取るとドキドキしていたのだ。

「ふふっ トイレの時 便利ヤン 汚れると嫌やから 濃い色のもんって お母さんの頼んだの セクシーやろー」

「うっ う~ん だけどさー」

「ほんでも 香もこんなん穿いとったでー 花梨もどう?」

「あの子は 別やー ウチはそんなん・・・無理! 当たり前やろー でもさー 二人でこんなん被って試合しようかぁー」

「ふふっ みんな びっくりするよねー 監督なんかも慌てるよなー」と、二人で笑い転げていたのだ。

「あなた達・・・呆れるわー バカなこと言い合ってぇー でも 花梨ちゃん 水澄を元気づけてくれてありがとうね」

「うん だって ウチと水澄は 一心同体やねんからー」 

「そーよねー・・・花梨とはね あっ お母さん これっ ありがとう お母さんのも買ってきたん?」

「えっ ・・・ そんなわけないじゃぁない!」

「ふ~ん お父さんのために・・・」

「ばかね 何言い出すのーぉ お友達の前で」

「いいの 花梨には何でも話し合うんだからー あーそうだ さっき 翔琉が来てね レーズンのプリン 持ってきてくれたの ねぇ お母さん? お店 お盆休みじゃぁないの?」

「えっ そう? お休み貰ってるから知らないわ」

「ふ~ん 花梨 これ 美味しいんだよー 私のお奨め 食べてー まだあるからー」と、花梨にも差し出していた。

「う~ん プルンじゃぁなくて とろける感じ 美味しいわー」

「でしょっ 好評で 売り切れるんだって 去年からなんだけど これの発売には私も絡んでいるのよ」

「へぇー 中学チャンピォンお奨めとか?」

「ピンポーン 近いわ さすが 花梨 鋭いね なぁ 私 こんなんになってしもーぉたけど 花梨は絶対に2冠取ってなー 団体も若葉と組むんは ひなたかなー サースポーやし・・・」

「水澄ぃー」と、花梨は私を抱きしめて また 泣き出して、涙を拭きながら帰って行った。なんだろう? あの子 急に涙もろくなってぇー

 その後、本堂監督が顔を出してくれて、お母さんに「前の監督さん」と説明すると

「申し訳ございません 今回のことは 私が指導も出来ないのに、余計なことを言ったばっかりに 私の責任です 水澄さんには無理をさせてしまいました」と、頭を下げていたのだ。

「監督 そんなことないですよー お陰様で高校生のトップクラスの先輩にも勝つことが出来ましたし 私 成長出来たんです 感謝していますよ」

「そうですよー この子が厳しいことわかっていて 自分で選んだ道ですからー 先生には責任はございませんわ それよりも 水澄が近所でも有名になってー 私も自慢の娘にしてくださって感謝しています」 

「水澄 まぁ 治して、リハビリになるんだろうけどー 来年の高校総体には元気な姿を見せてくれ」

「監督・・・私・・・ もう 前みたいには飛ぶと言うこと できないかも・・・自信ないの それに、花梨には一度も勝てないままで・・・」

「そんなこと無かったじゃぁないか・・・いや・・・そのー お互い切磋琢磨して、成長しとる」

「あの子 天才だから 私なんてー」

「なに 弱気になっとるんじゃー 水澄なら きっと 復活すると信じとる・・・その・・・ 花梨にも勝てるさー きっとな 君はそーいう奴なんだ」

 

 

13-5

 次の日は香が一真さんと連れ立ってきてくれて、帰った後に花梨がやってきた。

「花梨 来てくれるのは、有難いけど・・・大会も近いし・・・練習・・・」

「うん 水澄の会いに来るのも 練習やー」

「そんなこと ゆうても・・・ ありがとう」

「ウチも責任あるし・・・あの時・・・」

「あの時って?」

「うん まぁなー」

「変なの!」

「あのさー 美ひろ先輩達の大阪大会前 覚えてる? 水澄が美ひろ先輩と練習試合したん」

「うん なんとなくかなぁー」

「あの時 水澄は 必死で試合して 勝ったんやー 美ひろ先輩に」

「ウン やったかなー 花梨に色々と 世話になった魔球でな 終わった後 美ひろ先輩に あんなスマッシュ 返せるわけないじゃぁないって」

「そうや! ウチも ゆうた 水澄とぶつかりあった試合の後 あんな すごい スマッシュ ウチに返せるわけないじゃぁない 負けたわって・・・」

「・・・ 花梨と・・・」

 私は、その言葉で・・・そうだ 花梨と 激しい試合の後 花梨が抱きかかえてくれて 確かに その言葉聞いた。そう 初めて 花梨に勝ったのだ。あれは・・・確か・・・思い出した。全中の個人戦の決勝!。その後、団体戦・・・。若葉が足をくじいて・・・私の隣には花梨が居た。ペァを組んだのだ。2ゲーム連取されて、

「ふふっ・・・水澄 ウチの隣には水澄が居たんやー 一緒に頂点に立つでー やったろやないかー ウチ等は最強やー 実力みせたる! がんばろーぜペチャパイ」

 と、いきなり 花梨は私の胸を掴んできて・・・

「痛いヤン なんやねん 貧乳がぁー」と、私は思わず 花梨の胸を押さえていた。蘇ってきたのだ ふたりの絆が・・・

「ちょっとー 花梨ちゃん 水澄も・・・なんてことを・・・」と、お母さんはびっくりしていたけど・・・私は・・・

「・・・そうだ! あの時 若葉が出れなくなって 花梨と久々にペァを組んだのよね ふたりともバテバテだったけど・・・マッチポイントで ここやと思って、跳んだ時 ビキッと音が聞こえたよな気がー そのまま・・・真っ暗になって・・・」

「うん 二人とも限界だっと思ったから ウチ 思わず水澄に 跳べぇーってゆうてしもぉーて 水澄は だから、無理やり・・・ゴメンナサイ」

「そんなん あの日 午前中は二人で闘って くたくたやったやんかー 2試合やったようなもんやったやんかー で、若葉が捻挫しちゃって 午後の団体戦でも、私 足が・・・決勝戦では、花梨がカバーしてくれたけど・・・もう、ふたりとも、限界やったヤン 花梨が「跳べぇー」ってだから、この一球が最後やって・・・「アイヨ」と、私も 渾身のチカラを振り絞って・・・跳んだ・・・でも その後・・・」

「ウン ウチもヤッタァーって思った」

「・・・ 花梨 あのスマッシュ 入ったん?」

「・・・すごかった 山手丘の寒川千草の差し出したラケットもかすりもせんとボールは台の上を転がって行った その時 ウチ等は 頂点に立ったんやー 水澄は2冠なんやでー あの後、すごい拍手に歓声と・・・悲鳴がして・・・」

「わぁー やったぁー」と、私は花梨と抱き合って泣いていた。

「水澄! 水澄ちゃん 記憶 戻ったのねー 今 先生呼んでくるね」と、お母さんは慌てて出て行った。そして、先生を連れて戻って来て、私の眼の動きを確認して、手足のしびれとか無いのかを聞いた後

「香月さんは どうして ここに入院しているのかわかるかい?」

「ええ 全中の決勝戦で ここに居る相棒と一緒に闘っていて スマッシュを決めようと跳んだ時 激痛がして眼の前が真っ暗になって そのまま・・・」

「そうか 優勝したこと 理解出来たのかなー?」

「うん 花梨と・・・中学の頂点だよ」

「ふふっ 二人の絆が蘇らせてくれたのかなー 一過性全健忘、TGAだったのでしょう お母さん もう そっちの方は大丈夫ですよ 後は 膝のリハビリに専念していただければ」

「よかったわー 花梨ちゃん ありがとう」

「いえ ウチは 水澄は相棒ですからー 早く 元気になって・・・一緒に・・・」

 そして、夕方になって、監督と仲間達がそろってやってきた。花梨も一度帰って、また 来てくれていたのだ。

「水澄 良かったわね お母様から連絡いただいてー 私 涙が出たわ」

「へぇー 監督でも 泣くことあるんだー」

「そりゃーそうよ 私だって 人の子なんですからね!」

「水澄 ウチ 足捻ってしまって、水澄に余計に負担掛けてしまって 責任感じてたんよー ごめんなー」

「そんなことないよ 私 自分で無理してしまったんや 若葉はキャプテンとしてプレッシャーもあっただろうし 若葉のお陰でみんながまとまったし 感謝してるよ」

 しばらくして、校長先生も顔を出してくれて

「いゃー 回復に向かっているって聞いてナ ちょっと、顔だけ見さしてもらうつもりでー 香月さん 君の活躍は素晴らしかったよ! ここに居るみんなもだが 特に、去年に続いての 岩場さんとの試合 興奮したよー 岩場さんと香月さんが2年続けての女王なんて素晴らしい 我が校の誇りだよ ありがとう ゆっくり休んで 学校に出て来て下さい 待ってます ただ 無理のない範囲でな」と、女の子のとこに長居は無用だからと言って帰って行った。

「勝手なこと言ってるわー 私には、部員の体調も考えないで無理させすぎたんじゃぁなのか とか チクチクと嫌味みたいなこと言ってたくせにー」と、監督はぶつぶつ言っていたが

「そんなことないですよねー 監督はいろいろと考えて 優勝に導いてくれたんですのにねー」と、香もプンプンしていた。
 
 その後、監督は私に金メダルを二つ首に掛けてくれていた。

「落ち着くまで 預かっていてくださいって、お母様から 言われていたからネ 改めてよ よく 頑張ったネ えらいわー」

 夜になって、お父さんとお兄ちゃんが来てくれて

「水澄 良かったなぁー 記憶 戻って来て 1週間程の間とはいえ 水澄の3年間の努力の集大成の大切な1週間だものなー それが抜けてしまうなんてな いや あの日の水澄は素晴らしかったよ 試合中も感動がとまらなかったよー ドキドキ ワクワクもしてな」と、私の手を握るだけで、さすがに遠慮してか、抱きしめてはこなかったのだ。

 お父さん達が帰る時、お母さんは「もう2.3日は居るわ」と、言っていて、私が寝る前におトイレに連れて行ってくれて、ようやくおしめから解放されたのだ。新しいピンクのシルク調のハーフパンツのパジャマに・・・あの深いローズ色でレースの縁取りされたもの。私は穿いてみて 自分でも わぁーと さすがに ドキドキしていたのだ。 

 

 2週間後、退院の許可が降りたのだけど、私は もう 1週間 リハビリのことがあるので、退院を伸ばしていた。その間に、おばあちゃんが シジミの炊いたのを病院食はもの足りないだろうからと持ってきてくれたり、土日には翔琉、十蔵、智子が来てくれたり、みずき、瑠利も、香も一真さんと一緒に見舞ってくれたりしていた。

 私は、リハビリの先生が若い男の人で好感が持てるし、同じリハビリをやっている人で、大腿骨骨折をしたというおばぁさんとか、同じ靭帯断絶をしたという大学でラグビーをやっているという男の人とかとお友達になって、お互い励まし合って楽しく過ごしていたのだ。だけど、神様には 片方のオッパイならって言ったのにー 足は嫌やって言ったやんかー と 文句を言っていた。

 退院した夜は、うちで祝ってくれて、お父さんがスマホを見せてきて

「水澄すごいぞ (太子女学園のふたり 決勝戦すごい  神だ)(香月水澄さん 早く治して 又 元気な姿見せてください 私は あなたから 勇気貰ってます)  とか 水澄を応援する言葉がなー みんな応援してくれてるぞー」

「そう だけど・・・私 もう・・・」

「まぁ 今は ゆっくり 休んで リハビリをなー」 

 退院した後、膝は堅牢なサポーターをして、心元無いので松葉杖をしたまま 登校することにしていた。駅までは、お母さんが付き添ってくれて、それからは、みずきと瑠利に香も学校まで付き添ってくれていた。私には、校長先生に言いたいことがあったので、無理してでも学校に行きたかったのだ。

 途中、私の姿を見た学校の生徒から「がんばってください」「応援してます」とかの声を掛けられながら、ゆっくりと校門をくぐったのだ。とうぜん、クラスの皆からも拍手で迎えられて、私はお昼休みにクラブの仲間達と一緒に、職員室を通って先生方からの拍手で送られて校長室に入った。

「やぁ 出てきたか 良かった 良かった」と、迎えられて

「校長先生 ご心配お掛けいたしました。何とか 登校できるまでに・・・ 私達 校長先生にお聞きしてもらいたいことがあって来ました。私達の石切監督は、いつも みんなの体調に気を掛けながら指導してくださってます。私があんなことになったのは、私が強引に無理をお願いしたからなんです。監督が居られなければ、私達は優勝出来ていません。精神的にも強くしてくれました。日本一の監督さんです。それを証明しろっておしゃるんでしたら、私達5人 成績でも みんな5番以内目指します」

「いやー なんだ と思ったらー そんな無茶苦茶なこと言うなよー Sクラスも居るんやからー 君達が優秀なのはわかるけどなー いや 君達なら 本当にやるかも知れないなー けど 色々と聞いてみるとな 石切監督も予選の時から、苦心して戦ったみたいだなー 君達の体調も考えてー 君達の言いたいことはわかった 石切監督にはワシのほうから敬意を伝えるよ 同時に素晴らしい生徒を育ててくれてありがとう これからもよろしく頼む ともな そうだ 君宛ての手紙を預かっている 封は開けてないぞ おそらく励ましの手紙だろう」

 と、手紙の束を渡された。全国の人からの封書だった。中にはハガキも・・・応援と励ましのメーッセージが描かれていた。小学生らしき子からも・・・

 休憩時間には、同級生とか下級生とかから、サインとか写メを頼まれていて、サインまでは出来ないけど、撮影には応じていたのだ。

 そして、放課後の練習に顔を出して、みんなに心配掛けたことの挨拶をして、しばらく練習を見ていたのだけど・・・莉子の新キャプテンのもと、元気な声が聞こえていて、3年生の中でも花梨だけは参加していた。私は、そのうち 一緒に動けない自分に耐えきれなくなってきて、花梨に帰ると伝えていた。

「そう みずきに一緒に帰るように言おうか?」

「ううん 大丈夫 ゆっくり 帰るから ひとりで」と、言って帰ってきたのだ。家に帰って、励ましの手紙を眺めて、独りで泣いていた。私 応援してもらっても もう 前みたいに動けないかもーと・・・不安だった。

 数日後の放課後、私が帰ろうとすると花梨がやって来て

「水澄 帰るん?」

「うん リハビリに行かなきゃあーね」

「そう クラブにも顔出してよー 2年生を見て欲しい」

「だね でも・・・」

「ウチな 全日本ジュニァに出ようと思う 校長の意向もあるし 監督の立場もあるからな 大人の事情ってやつやー」

「そう 良いんじゃーぁ無い 頑張ってね」

「水澄 その後は ウチは待ってるでー 復帰するの また ペァでー」

「・・・花梨 私は もう 前みたいにステップ出来ひんかもしれん・・・ 以前と同じ状態まで戻すのは難しいって先生もゆうとるんやー 神様にそっぽ向かれたんやー」

「そんなこと無いやろー 水澄は今は 弱気になってるだけやって! 頑張れば・・・」

「もう あかん 神様に見放された気がする」

「なに アホなことゆうとるんやー 仮に左がアカンでも右足があるやろー それでもアカンかったら ウチがおるヤン カバーしたる! それが相棒やろぅ!」

「・・・花梨・・・オリンピック行くんやろー 私は、負担になりとー無い 頑張ってー ペァの相手は高校に行ったら見つかるってー 花梨にふさわしい子が」

「なに言い出すネン ウチの相棒は水澄しかおらへん ず~っとやってきたヤン 絆忘れたんかぁー 乳揉んだろうか?」

「もう ええねん やめてー ・・・ 花梨 あの決勝の前の晩 若葉は足を摩ってくれて、花梨は・・・私の胸を撫でててくれたやんかー あれは、私に 胸に向かって攻めてこいって 意味やったんやろー 私に優勝させようと・・・そやから、花梨との決勝で・・・今までもありがとう 夢の中に連れてきてもらってー 楽しかったよ」

「・・・ 水澄 そんなに根性無しやったんかぁー あんないっぱい 全国から水澄を応援してくれてるんやんかー 応えなあかんやろー ウチ等の絆って そんなにペラペラのもんやったんかぁー? 情けないワー ウチって・・・相棒やって・・・勝手に・・・ウチはなぁー 水澄が居るからオリンピックめざそうと思ったんやでー!  水澄と一緒にって・・・ ウチ アホやってんなぁー もう 知らんわー 勝手にいじけときぃーな! サ イ ナ ラ!」と、涙を拭きながら教室を出て行った。

 私だって、ず~と花梨とやって行きたいわよー でも・・・。独り 駅への道をよたよたと歩いて・・・涙が止まらなかった。花梨 絶対にオリンピックの夢 叶えてよね 花梨なら出れるわよー 私達 別々でも いつまでも相棒だよ 私は忘れないわ と 松葉杖を外して ゆっくりとでも、よろよろしながら駅に向かって自分の足で歩いていたのだ。涙が溢れていた。

 駅までは遠かったけど、このまま学校の体育館に続いてればいいのにと 花梨の居る体育館に戻れ・・・だけど、私の思いとは違って・・・涙に滲んで、駅が見えて来ていた・・・

  Did a great play! Mizumi !
 

 

 4月 私は膝にサポーターをして体育館で高校の新入部員の紹介の列に並んでいた。リハビリの先生からは、激しいことはするなと止められていたけど・・・隣には花梨が居る。若葉に香、遥香も居る。

 そして、夏 高校総体予選の試合を迎えようとしていた 相棒は私とのダブルスの試合だけに絞っている花梨
「いくぜー ペチャパイ」
「わかってるよ 貧乳」
「目指すは 総体優勝を踏切板にして 全日本 オリンピックやからな! ウチ等は最強のペァやからな!」
「また 夢のようなことを言う・・・でも 頑張るよ!」

 You will be chosen to be God's children.