彼は いつから私の彼氏?


 

1-1

「なんで 始まる前に言わないんだよー」と、翔琉君が・・・

 私は、この日 算数の教科書を忘れてきてしまったのだ。だから、クラスの決まりで忘れ物をした人は授業が始まる前に教室の後ろに立って、そのことを皆の前で報告して何とか許してもらうのだ。今なら教育委員会の懲罰ギリギリなんだろうか。そして、先生から「となりの人に見せてもらいなさい」の冷たい声で、机を寄せて教科書を見せてもらって授業を受けるのだ。

「だって そんなこと ゆわれへんヤン 恥ずかしい!」

「あほっ それっくらい 俺には言えよー 女の子が後ろに立つ方が恥ずかしいやろー 先に俺に言えば 代わりに立ってやるのにー」

「・・・ そんなん・・・」だけど、見せてもらっている教科書は、余白のところがヘタクソなマンガがあちこちに書かれていて落書きだらけで、翔琉君は授業を真面目に聞いていないんじゃぁないのかと思っていたのだ。それでも 彼の言葉にキュンとしていたのだ。

 欅原翔琉《けやきばらかける》 幼稚園から一緒なんだけど、彼は幼稚園の時のことは覚えていないと言うか 私のことなんか 気に掛けもしてなかったみたい。そして、小学校に入学した時も、同じクラスで席も隣同士だったのに・・・1年生の時は、まだ、机は2人掛けでくっついていた。2年生になってからは1人ずつの机になったのだ。でも、2年・3年生の時は違うクラスで離れてしまったのだ。

 4年生になって、再び同じクラスに・・・4年から6年生までは ず~っと クラス替えがないから 一緒のクラスで。そして、席替えが行われても 私の隣りには なぜか 彼が居ることが多かったのだ。担任の先生も どうして いつも 私達を並ばせるんだろかと考えたこともあった。クラスの皆は気付いて無いだろうけど、私は意識していたのだ。彼は・・・どうなのか わからない。だけど 席に座っている時だけは、いつも 彼と一緒っていう感覚が・・・私には・・・。

 6年生になった時も、隣りの席には翔琉君が居た。

「なんだ また お前かぁー」

「ぅぅー・・・ わたくしは嬉しくって 涙が出てきそうでございます チミはどうして こんなカワイ子ちゃんの隣りになって幸せだなーぁ とか言えないん?」 腹ん中はくそぉーって思っていたのだが

「はぁーぁ お前 熱あるんか? 保健室行けよー」

「もぉー そんなんちゃうわー」

 1学期が始まってしばらくした時、先生が「今から 隣りの人でも良いし クラスの中で気になっている人でも良いし その人の良い所を言葉にして書きなさい 他人の良い所を見つけて確認するって大切なことよ 相手が異性だって恥ずかしがらないでいいわよー はっきり 相手にも伝えるって素敵なことなのよ あとで 発表してもらいますからー」

 河道屋楓《かわみちやかえで》先生。30前で独身の女性で、4年生の時から持ち上がりで私達の担任なのだ。はっきりとした性格で学生時代はラクロスをやっていたと言うことで、体育が専門なのだ。だから、攻撃的でウジウジしていると直ぐにお説教が始まるのだ。

 先生はあんなことを強引に言っていたけど、私の隣りは翔琉君 その反対隣りは、水橋十蔵《みずばしじゅうぞう》。翔琉君とは気が合うみたいで仲がいいのだけど、私は この子はチャラチャラしていて あんまり好きなタイプじゃぁないのだ。彼以外に気になる人といえば・・・宮川奨《みやがわすすむ》君 クラスで成績がいつもトップの秀才。江州遼子《ごうしゅうりょうこ》さん クラスの女の子の中では美人ということで男の子には一番人気があって、成績も優秀なのだ。その二人以外でいうと小泉智子《こいずみともこ》ちゃん 私と仲が良くって学校の行き帰りなんかも一緒なのだ。私は、どっちかというと、あんまり目立たないようにしていようという方だから・・・そんな訳だから、気になっている人のことを・・・と、いうと翔琉君しか居ない。

 だから、わたしは翔琉君のことを書こうと・・・隣りをチラチラみるんだけど・・・彼は、反対隣りの白浜美蕾《しらはまみら》ちゃんと一言二言話し合っているんだ! 彼女は6年生になって転校してきて、おまけに翔琉君と気象記録の係をやることになったのだ。そのせいか 二人で話し合うことが多かったので、授業中でも、先生のしゃべったことを 「今 なんて言ったの?」と、彼女は翔琉君に聞いたりして・・・あのバカは落書きばっかーして先生の話なんか聞いて無いはずなのに、ちゃんとそれに答えるのだ。私の心の中は穏やかでなかった。というのも、彼女は愛くるしい可愛い笑顔で、またたく間に男の子の間でも人気を遼子ちゃんと二分してしまっているのだから・・・。

 私は、それとなく翔琉君のことを特定ということでなく、誰にでも当てはまるように「女の子に対しても優しくて、人の悪口を言わない子」と、いう風に書いていたのだ が 翔琉君が発表したのは 「転校してきて クラスの皆と進んで打ち解けるように 誰とでも、明るく接しようとしている 前向きな白浜さんのこと 素敵だなと思います」 ・・・・クラスの何人かから冷やかし半分の声があがっていた。(なによー それっ・・・私のこと言ってくれるんじゃぁないのぉー・・・プン)

 それに、白浜美蕾さんの時、彼女は「転校してきて、不安だった私を優しく助けてくれた欅原君 それにクラスの皆が私を受け入れてくれて感謝しています 素敵なクラスに入れて良かったと思っています 私は このクラスの皆さん大好きです」と、皆からやんやの喝采を浴びていた。又 彼女はポイントを稼いでいたのだ。

 私の番になった時、それまで書いてきたことを読み上げるんじゃぁ無くて「いつも 皆のことを考えて 気を使ったり 盛り上げてくれる水橋十蔵君は素晴らしいと思います」と、咄嗟に言ってしまった。

 翔琉君の方を見たけど、彼は私と眼を合わせようとしてこなかったのだ。 (ふ~ん その気 無いんだ やっぱり 私のことなんか興味無いんだ)
 

 

1-2

「帰ろうか? 水澄(みずみ)」と、あの後、気を使ってかあんまり話し掛けてこなかった智子ちゃんが ようやく声を掛けてきたのだが、十蔵君が

「あんがとうな! 香月水澄(こうづきみずみ)! あんな風に思ってくれてるなんて感激だよー でも 翔琉の手前 いいのかあんなこと言っちゃってー ますます離れて行くぞー」

「ちょっとー あんたぁー 気 使いぃなぁー 水澄の気持ち 今 どんなんか わからへんのんかぁー?」と、智子ちゃんが文句言ってくれていたら 「おぉー こわぁー」と、逃げて行った。

「智子 気ぃ使わんでええでー あいつなんか幼稚園の時から知っているってだけで 何とも思ってへんからー」

 失恋というほど大袈裟なもんではなかったけど・・・落ち込んでいたのは確かだった。そして、白浜美蕾ちゃんに負けたと感じていたのも・・・。私も 転校すれば あんな風に振舞えるかしら・・・と。

 そのまま二人は黙り込んだまま下駄箱のところまで来ると、翔琉君が待っていたのだろうか 私は 気まずかったのだが

「コレッ」と、彼は下を向いたまま 紙切れを私に渡して、走るように行ってしまった。

 開けてみると、そこには、ヘタクソな字で書かれていて

(膝を擦りむいたりしていると そっと 濡れたハンカチを差し出してくれたりて 気がつくと 小さい頃から いつも 側に居て そんな優しい水澄さんが僕は好きです)

 はっ これって・・・私のことを好きって言ってくれてるん?  ・・・しばらく 呆然としていたのだけど、顔が赤くなってきて・・・

「なんやねー あいつぅ なんなん 何が 書いてあるん?」智子ちゃんが覗き込むようにしてきたけど

「へっ へー 絶縁状やー」

「なんやてー あいつ そんなん ありかぁー ウチ 文句ゆうてきたるわー」

「うそっ! 待って 智子ちゃん! ほんまは 私のことが好きって書いてあるねん これは 大切しておきたいからー 智子ちゃんにも 見せられへんけどなー」 

「あっ そーやったん よかったヤン 水澄 やっぱり 君達はそーでなくてはなー 水澄 うれしそーヤン やったねー なんやねん 急にスキップしてるみたいやんかぁー」

 私 それまで 落ち込んでいたのが うそみたいだった。散ってしまった桜の若葉でさえ萌えているように見えていたのだ。家に帰ってからも浮かれていて、お母さんも何かおかしいと思っているみたいだった。

 これが恋するってことなのー 私は あの紙を見た瞬間に 彼に はっきりと 恋愛感情を抱いてしまったのだろう。私は 翔琉君のことが好き。どうしてって? 理由なんて要るの? 小さい頃から、私と翔琉君は、特に眼の辺りが似ていて、なんとなく他人には思えなかったし、私は彼のことを好きというに近い感情を持っているのは確かなのだ。幼稚園の頃から 彼を見ていると やすらぐのよ!

 次の日の朝 彼と顔を合わせて 何とか「おはよう」と、言ったものの その後は恥ずかしくて 見れなかった。彼が白浜美蕾ちゃんと笑いながら話していても もう 気にもならなかったのだ。「あんたは そーやっていても 彼と 私は 繋がっているのよ!」という自信があったのだ。

「なぁ ちゃんと 応えたん?」

「うっ 何の話?」

「決まってるヤン 翔琉君に・・・」

「べつに・・・ いまさら・・・」

「あほっ そんなんしてると あの子に取られるでー 男って いざとなると ふらふらしよるからなー」

「う~ん でも どーやったら ええんかー」

「そんなん 私も 好きです って ゆうたらええだけやんかー」

「・・・ いざとなると 恥ずかしい・・・」

「もぉーぅ 知らんでー 取られても 泣かんとってヤー」

 確かに、はっきりと 意思疎通っていうか お互い 言っておかねばとは 思ってはいたのたが・・・。面と向かって 言うのは 恐かったのだ。

「今朝から 翔琉と水澄って よそよそしいのぉー せっかく うまく いきそうなのに・・・」と、十蔵おちょっかいを出してきた。

「べつにー いつも通りやー」

「あっ あっ 意識してやんのー 紅くなってやんのー」

「あほっ」と、追い回していながらも、心に余裕があったのだ。
 

 

1-3

 そのまま夏休みになろうとしていたのだけど、私は まだ 翔琉君に応えていなかったのだ。だけど、毎日 そのことに 悶々として過ごしてしまっていた。だけど、決心して

「あのさー 夏休みになったらネ 嫌ちごぉーたら ウチに来て 一緒に宿題 せーへん?」

「あー だなー 会えんようになるもんなー それも 良いなー でも 水澄がウチに来いよー 水澄んチの家の人に挨拶するの 面倒ヤン」

 十蔵君は前からなんだけど、翔琉君が私の名前を 水澄って呼び捨てにするってあんまり聞いたことがなかったような気がする。だから、この時 私の名前を呼び捨てで・・・そんなことだけで、もっと ふたりの間が近くなったようでうれしかったのだ。

「ウン じゃぁ 私がお邪魔するね! 休みになっても 好きな人と 時々 会えるなんて 楽しみだネ」と、その時、翔琉君は笑っているだけだったけど、私は、素直に自分の気持ちを伝えられたのだ。
 
 そして、夏休みに入って3日後に行く約束をした。午前中は兄貴がクラブで居ないから9時で良いかと言われた。翔琉君のお兄さんと私の兄は同学年で同じサッカーの部活をやっていて、割と仲が良いのを聞いていた。午前中は部活動があるって私のお兄ちゃん 達樹(たつき)兄ちゃんも言っていた。

 お母さんに翔琉君のとこで一緒に夏休みの宿題をやることになったと話すと 「まぁ 大変」と、慌てて私の洋服を買いに連れられて、当日の前日には近くで人気の和菓子屋さんで、手土産にとプリンを買ってきて持たされていた。私は、お母さんがこんなに大騒ぎするなんて思ってもいなかったのだ。

 当日、私はお母さんに揃えてもらった桔梗の花模様のブラウスに水縹色という少しフレァーなスカートで、持たされたプリンを下げて、翔琉君の家を訪ねた。お兄ちゃんは、7時過ぎにクラブ活動で家を出たので、翔琉君のお兄ちゃんもそうだろう。おおよその場所は知っていたが、書いてもらった地図を頼りに探し当てて、門と母屋の間には、日本庭園が広がる立派なお家だった。

 9時丁度ぐらいに着いたと思う。チャイムを押すと、多分 お母さんだろう人が出てきてくれて

「まぁ 水澄ちゃん 幼稚園の時以来かしらー」

「こんにちは 今日はお邪魔します」

と、開けてくれて案内されると、玄関に翔琉君が待っててくれた。

「これっ お母さんが持って行けって」と、プリンを差し出すと

「あらっ そんなの いいのにー じゃぁー 後で いただきましょうかねー そのブラウス 可愛いわー 水澄ちゃんも すっかり お嬢さんになってー あのね 小さい頃から 優しくて落ち着いていて 小学校に入った時も 翔琉と一緒のクラスだったじゃぁない? そして 今も・・・ 仲良くやっているって 翔琉から聞いて 水澄ちゃんなら 間違いないって 安心しているのよー これからも よろしくね!」

 そして、案内されたのは、ダイニングで6人掛けの大きなテーブル。

「俺の部屋は扇風機しか無いしね 2階で日中は暑い ここは エァコン無しでもなんとかねー それに 部屋で二人っきりになるのはダメって おっかぁが言うし」

「あっ そうかー いいよ 私は どこでもー」

「そうかー よかった でも 今日の水澄さんは 特に 可愛いよ」と、彼は言ってしまった後、恥ずかしそうにしていたのだが

「うふっ そんな風に言ってくれて良かったぁー」

 そして、算数のドリルから・・・と 言うのも 私の 得意科目なのだ。問題に詰まったりしたらお互いに確認し合っていて、最初は向かい合って座った居たのだが、そのうち翔琉君が隣に移って来て、並んで座っていたのだ。

 時々、偶然 身体が触れ合ったりして、私は 段々と意識してしまっていたけど、彼は別に そんな風でも無いのかなー。

 途中、お母さんが 休憩と言って、私が持って行ったプリンを運んできてくれた。

「水澄ちゃんって お勉強も出来るんでしょう?」

「そんなこと無いですよー いつも 翔琉君に負けているみたい」

「この子ねー クラスの宮川君と江州さんには いつも 負けているって 勝てないみたいよー 算数が苦手というか 考えるのが面倒って 途中で止めてしまうの 今日は 水澄ちゃんが居るから ちゃんとやっているみたいだけどねー」

「あぁー あの二人は 特別ですからー でも 翔琉君が頭良いの 知っています 授業とか いい加減に聞いているのに・・・ あっ すみません いゃっ ちゃんと聞いているみたいで・・・」

「ふふっ 良いのよー 確かに 勉強なんてしている様子無いのに お兄ちゃんはちゃんとやっているのにね その脇で遊んでいるの 昔っからね でも 不思議なことに そんなに 成績悪くないのよー」 

「お母さん もう じゃまだよー あっち 行けよー」

「そうね そうだ 水澄ちゃん お昼ご飯も食べていってね オムライスだけどー」

 私 お昼ご飯も頂くことになって 食べ終わった頃にお兄さんが帰って来て

「おぅ 水澄ちゃん 来てくれた? 翔琉はちっとも机に向かわないから、ちっとは刺激を与えてやってくれると助かるよ ねぇ お母さん」

「そうねぇ 翔琉が勉強しているとこって 初めて見るかもねー」

「そんなことないよー 他人知れず やってるんだよ!」

「私も そう 思います で ないと あんなに出来るわけないものー」

「おっ おー 二人の間は 割と 良い感じだねぇー 顔が何となく似ているから兄妹カナ それともカップルカナ」と、お兄さんは私達を冷やかしていた。

 それを聞いて、私は赤くなっていたのだが、翔琉君は無視しているみたいだった。 
 

 

1-4

 2日後、又 私は翔琉君ンチに来ていた。

「今日は 算数のドリル 終えちゃおうネ」

「そんな 追い込まなくてもー 夏休みの宿題なんて 毎日1ベージずつやるのが普通だろう?」

「ダメ! 早く終えて あとは 自由研究に費やすの!」、私は、字を書くときは左利きなので、翔琉君と座る時は、右側に彼が来るように並ぶのだ。だから、右手で彼をこつくようにすると

「お前 意外と 努力家なんだなぁー」と、私をつっ突き返してきた。それで、私は、彼に甘えたくなって

「でも やっても 翔琉君に追いつかないんだものー やっぱり バカなんだね」と、少し頭を翔琉君に傾げるようにしていて

「そんなことないよー 努力は報われるさー 無駄な努力ってのもあるけどなー」

「その 無駄な努力ってのが 私ってこと?」

「いやー それは 自分で判断するってことかなー」

「??? 私ね 翔琉君が何を考えているのか わからなくなる時があるの」

「何にも考えて無いよー 単純なことしか 例えば 今 水澄のパンツは何かの絵なんかな? って」

「・・・ アホっ ・・・」 今日の私はショートパンツだったので中まで見える訳が無いと思ったが、急にそんなことを言われて、見られたようで恥ずかしくなって顔が紅くなっていたと思う。隠すために、さっさとドリルに向かっていた。

 ドリルも残り少しになった時、買い物に出掛けていたお母さんが帰って来て

「アイスクリーム買ってきたの ひと段落着いたら 食べてネ」

「お母さん 水澄が来てると 何で そんなに張り切るんだよー」

「あったり前じゃぁない 女の子って 可愛いんだものー それにね 水澄ちゃんって 何となく翔琉に顔立ちが似ているから、ウチの子みたいって思ったりするの」

 そして、アイスクリームはお昼のミートスパゲティの後に食べていると、

「ねぇ 水澄ちゃんのお母さんって 確か 前は 駅前通りの刺繍糸屋さんに居たんでしょ あのお店 無くなっちゃったのよねー」

「そーなんです でも 今は 信号のところを少し行ったケーキ屋さんに行っています あんまりおいしく無いケーキ屋さん」

「そーなの あの刺繍糸のお店には何回か行っていたのよ だから、水澄ちゃんのお母さんともお話したことはあるのよ ハッキリした人よねー 女の人には珍しい そのケーキ屋さんでは買ったこと無いけど・・・」

「あぁー 買わないほうが良いかもー ウチのお母さんも 一度も 持って帰ってきたこと無いものー お給料の為に行っているだけだってー」

「ふふっ そうなの ドライなのね」

「あぁー 何でも あっさりしているかもー 何か相談しようと話し掛けても 水澄が自分で決めたらいいのよってー 戸惑ってしまうことが多いんです」

「そう・・・ それは 水澄ちゃんのことを 信用してるのよー」

「そうなんですかねー 面倒臭いんじゃぁ無いのかなー って 思ってしまうんですよ」

「そーいうのって いいじゃん ウチのお母さんなんて あーしろ こーしろって いちいち うるさいんだよー」と、聞いていた翔琉君が横からー

「あらーぁ 水澄ちゃんみたいに ちゃんとした子なら 何にも言わないわよー」

「へっ こいつの 間が抜けたとこ 知らないんだよー」

「あらっ そう その間が抜けたとこ 埋めるのが あなたの努めじゃぁないのー お互いにネ!」

「うぅー・・・ 俺等 まだ そこまで・・・」

「うぅ じゃぁないの! 女の子を好きになるって 覚悟が要るのよ」

「おばさん 私達 そこまで・・・」

「いいの この子は覚悟がたりないのよー だから いつも 宮川君と江州さんに負けたって ウジウジしてるのよ 真剣にやりもしないくせにー」

「お母さんは 俺には いつも そーやって厳しいんだよー」

「何言ってんの! 弟だからって 甘えている翔琉のお尻を叩いているだけよ」

 その日、帰る前に翔琉君の部屋ン中見たいと お願いして

「ふ~ん こんなもんなんだ 割と整頓してるね」

「あぁ あんまり ものを置かないんだ 運動も興味無いからな」

「あっ そう 中学になったら なんか 部活やるんでしよ?」

「まだ 考えてない 団体競技は嫌だなー 自分のペースでやりたい」

「私は 卓球 やりたい 石川佳純さんみたいのん」

「アホかぁー あんなの 一握りだよ それに 3歳ぐらいからやっていて ようやくなんだよー みんな そう」

「わかんないよー 天才がここに居るかも ねぇ 翔琉君も一緒にやろうよー」

「へっ 乗り気しない」

「なんやねん 私を守ってくれるんちゃうん?」

「いつから そんなことになってるんやー 見返りも何にも無いのにー」

「・・・見返りって・・・ 要るん?」

「いゃ そーいうんちゃうけど・・・なんか 証(あかし)っていうかー・・・」

 私 衝動的に 横から抱き付いて、翔琉君のホッペにチュッと

「白浜さんからも もらったりしたら 嫌やでー」と、顔が紅くなっているのだろう 慌てて帰ってきた。本当は ちゃんとキスしたほうが良かったのかなぁー でも みずみ は まだ 小学生なんやからなぁー 

 

1-5

 二日後は理科のドリルに取り掛かっていて

「明日 市民プールに行こうよ 兄貴達も行くんだって」

「うっ プールかぁー 私 水着って 学校のんしか無いねん」

「かめへんやん 俺だって そうやー 兄貴達は学校のテニス部の女の子達も一緒って 言っていた 行こうよー」

「う~ん 智子ちゃんとか 十蔵君も誘わへん?」

「うん じゃー 十蔵は声 掛けるよ 智子ちゃんは 水澄が な!」

 当日は皆で市民プールの前で9時半に集まって、皆が自転車で来ていた。私も、お兄ちゃんと連れ添って自転車で。お兄ちゃん達のグループは女の子が3人居て、プールの中でもはしゃいでいて、私達は最初は何となくぎこちなかったけど、スライダーの時 私 翔琉君 智子 十蔵君の順に滑って、その後は身体が多少触れ合っても平気だった。2度目の時には、翔琉君が後ろから私にくっつくようにして滑ってた。私は、ちょっとーと思ったけど・・・まぁ いいかぁー。

 プールから出て、お兄ちゃん達はハンバーガーに行くと言っていたけど、私達はパン屋さんのイートインへ。

「いやーぁ お二人さんも順調に膨らんできているなー 学校の授業の時は気がつかんかった」と、十蔵君が

「なっ なんてことを こんなとこで・・・ 何見てんのよー あんたは ほんと 無神経!」

「へっ 見たまんまのことやんけー 智子なんて 以外に・・・やったー」

「んー まぁ あのなぁー あんた等も あそこ 順調に大きいーせんと 女の子から相手されんようになるでー」

「ギャーツ さすが 智子 刺激的なことを平気で・・・」

「アホッ そんなん ウチ等の近所の子なんか 普通やー」

「おぉー こわー 智子とこ辺りはなー」

「なんや その言い方 まぁ ええわー ウチもな あの辺りのこと 柄悪いん 前は気にしとったけど 今は 何とも思ってへんねん 気にしたってしゃーないもんなー ウチは恥ずかしいとも何とも思わへん 普通に 水澄やって 親友になってくれるしー それに 十蔵も翔琉君も」

 確かに、智子ちゃんの家がある辺りは、訳アリの地域なのだ。だけど、私はそんなことは関係無く智子ちゃんと仲が良くなったのだ。ウチのお母さんもそんなことは一切 気にしていなかったからー 一言も言われたことが無かった。

「まぁ 智子は 友達思いやしー 何にでも 前向きやもんなー 付き合いやすいよ」と、翔琉君も智子ちゃんには好意的なのだ。

「あっ そうだ 日曜日だったかなー 駅でな宮川と江州遼子を見たぞ 仲良く手を繋いで電車に乗って行った あいつ等 付き合っていたんだ」と、十蔵君が割と衝撃的な報告をしてきた。

「へぇー へぇー 秀才二人がぁー デートかなぁー 手 繋いでぇー?」

「なによー 水澄 羨ましいのー? 手 繋いだことないん?」

「えっ だって 私等 まだ・・・ デートなんて・・・」

「なに 垂いことゆうてんのん 翔琉ぅー しっかりせーよー」

「はっ はー 俺かぁー」

「そーだよ 俺かぁちゃうわー 翔琉が引っ張っていかんと 水澄には逃げれられるってゆうてるやろー 白浜美蕾なんかに惑わされとるんちゃうかー」

「あっ いや 彼女とは・・・」

「なんやの そのハッキリせん言い方は! あのさー 帰りに靴箱んとこで白浜美蕾に手を握られとったってウワサ ほんまなんか?」

「・・・あれは・・・たまたま・・・」

「なんやねん こいつ ふらふらしやがってー あの子に惑わされてやんの」

「いゃ あれは 違うってー 智子 もう 勘弁してくれよー 俺が好きなのは 水澄ひとりだよ 誓うよ」

「ほぉー ほぉー 誓ったな! だって 水澄」

「えっ うっ うん 私も・・・好き・・・」私 紅くなってきている顔を伏せていた。でも、複雑だったけど 嬉しかった。

「だってよー 二人は緊いよー 智子がヤキモキすること無いってー それより この後 俺に付き合ってくれよー 買い物」

「なんやねん その買い物って」

「そのー 妹に・・・ 誕生日やねん」

「ほッ (こう)ちゃんにかぁ?」

「うん 髪飾りとかチャームとか 智子の目線で・・・喜びそうなものを」

「そんなん 水澄のほうが・・・」

「いいんだよー 智子が・・・」

「あっ そう」

 と、二人が先に店を出て行った。

「十蔵 気 使ったんだな 俺等の為に」

「あっ そうかー 別に 気 使うほどのことちゃうのにねー」

 私達はお店の前で さよならを言う時

「なぁ さっき ゆうてくれたん ほんま?」

「うー なんのことやー?」

「私のこと・・・」

「あぁー 好きだよ まぁ ホッペへの印じゃぁ無くて 違うとこに欲しいけどなー」

「アホか!」 

 

1-6

 8月に入って、登校日の日。私と翔琉君はもう宿題ドリルは全て終えていた。残されたのは、自由研究だけになってた。

 皆が教室に集まった時、なんと 白浜美蕾ちゃんはノースリーブで肩の所がヒラヒラになった梨の絵柄のサマーワンピースだった。華やかで一部の女の子にもてはやされていた。

「翔琉君 おはよう 元気だったぁー 会えなくて 寂しかったわー」と、甘ったるい声を私は、隣で聞いていて、朝からイラッとしていたのだ。

 それから ネチネチと自分が遊びに行った話を翔琉君に話していて、「翔琉君も一緒だったら もっと 楽しかったのにー」とか・・・。私は、相槌を打ちながら聞いている翔琉君に耐えられなくて、トイレに立って居たのだ。すると、うしろから智子ちゃんが付いてきていて

「あのさー 昨日 おとんが551の豚まん 買ってきてくれてよー 旨いなぁー ヤッパー」

「あのさー ・・・ うん 食べたいなぁー そうだ 今度 翔琉君と買いに行くね」

「そーだよ それが良いよー」

「ありがとう 智子 私 あんなことで 動じないよ!」

「ふふっ 本丸の姫は辛いのぉー」

「なんやー その 言い方ぁーぁ」と、智子の頭を抱えてふざけ合っていた。

 だけど、帰る時、翔琉君に呼び止められて

「あのなー 違うんやでー 水澄が機嫌悪いのもわかるでー でも、無視するのも あんまりやろー だからぁー」

「なんやのー 言い訳かぁー」と、私が泣きそうになっていると

「ごめん 泣くなよー」

「ちゃうわー 勘違いせんとってー ちまちまと言い訳するよーな奴を好きになったんかと 自分が情けないんやー 私は! 翔琉が美蕾ちゃんと仲よーやってるぐらいで動じへんわー! 翔琉もそのつもりで居てやー」 

「あっ すまん あのな お盆にな おっかぁの実家に行くんだけど、一緒に行かないか おっかぁも 誘えばーって 福井の三国ってとこ 海水浴も出来るよ 2泊するんだ」

「えっ ぇー 翔琉君とことおぉー」 

「そーだよ! 海が近いから 魚も新鮮でうまいぞー」

「・・・そんなこと いきなり 言われてもなぁー お母さんがなんて言うかー・・・ 私は 行きたいよ!」

「まぁ 相談してみろよ」

 その日、晩ご飯の後、私はウジウジしながら お母さんに

「あのね お泊りの旅行行ってもいいかなぁー」

「えっ どこにー 誰と?」

「うん 翔琉君んチのお母さんの実家 お盆に・・・福井だって」

「はぁー 誘われたのぉー?」

「うん・・・ 今日 学校の帰りに・・・2泊」

「あのさー 翔琉君とこって 男の子兄弟でしょ そん中に水澄が入ってどうすんのよー 向こうだって 困るでしょ!」

「あー でも 翔琉君のお母さんが誘いなさいって・・・」

「そんなねー 他人ンチの娘をなんだって思っているのかしら 猫の子じゃぁあるまいしー そりゃー 夏休みの間はお世話になっているわよー でも それとは 別よー お泊りなんてー 女の子なのよ」

「・・・でも 嬉しかったの・・・誘ってもらった時 行きたいモン・・・」

「水澄・・・ でもね・・・」お母さんも どう 言って良いのか考えていたのだろう。こういう時、無理やりなことは言わないお母さんなのだ。

 私が、やっぱりダメかぁー と 下を向いて溢れてくる涙をこらえている時

「あっ 俺も硝磨(しょうま)に誘われてるんだよ 俺も一緒だから良いんじゃぁない?」と、お兄ちゃんが 突然 言い出した。

「えっ 達樹も・・・」

「そうだよー 兄妹 揃ってなぁー まぁ 良いんじゃないのー 魚が新鮮だっていうしー うまそー ウチは夏休みの旅行の計画もないんだろう?」

「・・・ じゃぁ 達樹 ちゃんと水澄の面倒 責任持って見てよ!」

「はい! 兄の努め ちゃんと果たします!」

 その夜、お風呂上りにお兄ちゃんの部屋に

「お風呂 出たよ!」って部屋のドァを開けると

「あわっ お前なぁー いきなり 入ってくんなよー」と、お兄ちゃんは その時 自分の股間を眺めていた。

「なに してるん?」

「あっ そのー ・・・毛がなー」

「ふ~ん 毛が?」

「まぁ そろそろ 男のな 水澄はまだか?」

「私は まだ 生理もこんのやー 遅いんかなー」

「まぁ 身体も小さいほうやからなー」

「なぁ 〇〇〇〇 見せてーなー 最近 一緒にお風呂にも入ってへんからー」

「あほかぁー お前 変態か?」

「そんなん ちゃうけど 興味あるやん 兄妹やし ええヤン」

「やめてくれ! 兄妹やから 余計 恥ずかしい」

「なんや 根性無し! 私は お兄ちゃんやったら 裸 見られても平気やでー」

「それって 根性の問題か?」

「ふふっ どうやろねー あのね さっき 口添えしてくれて ありがとうね ほんまに 誘われてたん?」

「いいやー 水澄が行きたそうやったから・・・ 明日 硝磨に言うよ」

「・・・そーやったん お兄ちゃん ありがとう・・・いつも 見守ってくれて」

「まぁ 不細工な妹でも翔琉が好きって言ってくれてるんやろー あいつに感謝せなー それに 水澄の初恋やから・・・」

「・・・こんな可愛い妹に対して そんな言い方無いんちゃう? お兄ちゃん 私って ブス? なん?」

「うー でもないけどー まぁ 美人ではないなー でも 成長するにつれて段々と可愛くなってきたよ ほらっ 美人って 小さい頃は可愛くないって言うヤン  まぁ 水澄はまだ原石ってとこかなー」

「あんなー さっき ありがとうってゆうたん とりあえず 取り消すわー」 

 

1-7

 そして、出発の当日。私は、お母さんが買ってくれた大きな向日葵の絵柄のサマーワンピースにリボンの付いたカンカン帽に革紐の白い厚底サンダル。とりあえず小さめのキャリーケースをお父さんから借りてきていた。昨日は、お母さんが翔琉君ンチに今回のことのお礼に伺ったみたいだった。

「水澄 可愛いよ 孫にも衣装とは よく言ったものだ」

「なによー ワンピースが可愛いのぉー? 美蕾ちゃんとはどっちがー?」

「あほっ やっぱり こだわってるんやないかー いや 水澄のほうが・・・ずっと」と、翔琉君は横を向いて小声で応えていたのだ。

「やっぱり 女の子は可愛いわよねー 水澄ちゃん お花が咲いているみたいよ 似合ってる 男どもは可愛げもない恰好で・・・」と、翔琉君ンチのおばさんがフォローしてくれていた。翔琉君のおばさんと子供達4人組。翔琉君のお父さんはひとりでゆっくりしたいからと来なかったのだ。

 大阪駅まで出て、サンダーバードで福井まで行って、お昼ご飯に名物だというソースカツ丼のお店に。

「う~んん おいしいぃー このサクっとした感じ このタレの微妙な甘さ加減 もしも こんなおいしいものが御昼に控えているかと思うと 君達も練習頑張れるよなー」

「なっ なんだよー その上から目線は・・・」

「だってさー 毎度 バーガーばっかーじゃー メタボになるよ この良質なたんぱく質をとらなきやー」

「水澄 えらいお気に入りだなー」

「うん おいしい お母さんにも食べさせてあげたい お土産に買って帰ろうかなー」

「あぁー あー 帰りにな」

 それから、電車で終点の三国港へ。駅が近くなるにつれて、私は潮の香りを感じていた。

「あー 海が近いよねー いい感じ 海に来たんだ!」と、私は手を広げて はしゃいで走り出していた。

「おぉーい 転ぶぞー」

「あたっ」と、私がしゃがみ込むと

「ほらっ だからぁー どうした?」と、翔琉君が駆け寄ってくれて、背中に手を

「うん 石がサンダルに挟まったみたい でも ダイジョウビ!」

「バーカ はしゃぎすぎ」

「だって 海が近いんだものー うーみよー 私の海よー」

「バカ」

 ビーチを横目に15分程歩いて、おばさんの実家というとこに着いた。おばさんの実家は以前は漁師だったいうが、今はもう廃業したということだった。そのお父さんは今は漁協の関係者らしいが、そんなに仕事もしていないということだった。

「お世話になります」と、私はお母さんから持たされた三笠焼とカステラの菓子折を出して

「はぁーなぁー そんなに気ィ使わんでもなー 可愛らしいお嬢ちゃんだのーぉ 硝磨のガールフレンドかぃ?」

「あっ あっ ちゃうよー 翔琉の・・・」と、硝磨君も慌てていた。

「ほっ 翔琉のー ほぉー・・・ でも 翔琉に顔が似ているとこあるのーかな 兄妹みたいだの!」

 おばさんに連れられて2階の部屋に案内されて

「今日は 水澄ちゃんは おばさんとここで寝るのよ 夜になると風が通って寒いくらいなるからね」

 その部屋で私は水着に着替えて、お母さんがスクール水着じゃぁねーと、上が長袖の赤いラインの入ったスイムスーツを買ってくれたのだ。ウチのお母さんは、いざという時には必ず私の体裁を整えてくれるので、私は申し訳ないと思いながら感謝していた。

 おばさんが私の中途半端に長い髪の毛を後ろで留めてくれて、日焼け止めのクリームも顔とかに塗ってくれた。ピンクのラッシュガードを着て出て行くと

「おぉ スイムスーツか なんか 学校の水着のほうが 色っぽく感じるけどなー」

「翔琉君 そーゆうことって 女の子に嫌われる言い方だよー」

「そーかー いちおう 褒めたつもりだけど・・・」

「もっと 女の子のこと 勉強しなさい!」

「あぁ でも 水澄だけがわかってくれてれば いいんだろー」

「・・・」

 ビーチまでは歩いて10分位のところで、おばさんも陽傘をさしながら付き添いで来てくれていた。でも、ショートパンツ姿なんだから、一応 海に浸かるつもりしてるのだろうか

 お兄ちゃん達は勝手に海に向かって行った。けど・・・

「翔琉 水澄ちゃんの手を引いていってあげてよー 深いとこには 行かないようにネ! 大切な子を預かってるんだから あなたが責任持って 面倒みてあげてよ!」

  私がラッシュガードを脱いでトートーバッグにしまい込んでいても、ぐずぐずしている翔琉君だったので、私のほうから手を出して繋いでいった。渋る翔琉君を引っ張って、並んで海に向かった。

 なによー 海で一緒に遊ぶために私をさそったんじゃぁないの! 男って いざとなると、だらしないんだからー と 思いもしていたのだ。 

 

1-8

「水澄は泳げるんだよなー? 浮き輪なくても平気か?」

「うん でも 海はあんまり泳いだこと無いからなぁー 波が・・・」

「ここは 波高くないからー 波に合わせて、浮き上がるようにな 深いとこまで行かないようにするよ」

 と、最初はバシャバシャやっていたけど、そのうち つまんなくて、私のほうから翔琉君に背中から乗っかるようにしていって

「なぁ おんぶして泳いでよー」

「あほっ そんなの出来るかよー 亀じゃぁあるまいし」

「できるかもよ 頑張ってー」と、又 背中めがけて乗っかるようにしたけど、ちょっと泳ぐと段々と沈んでしまって

「無理 むりっ」

「なんやー じゃー 今度は私に乗ってみて」

「そんなん 絶対無理やろー」

 と、言いながらも私に・・・頑張ったけど・・・直ぐに 沈んでいった。二人とも、潜ってしまってー

「ぶぁー あかん」

「だいじょうぶか? 水 飲まんかったか?」

「うん 息 止めとったからー それより どさくさに紛れて 私の胸のとこ 触っとったやろー」

「そんなん・・・たまたまやー おんぶになったら つかまるとこないやんかー」

「ふ~ん たまたまなぁー まぁ 私も翔琉君のあそこ・・・お尻に感じとったんよ」

「へっ お互いさまか?」

 でも、その後は お互いの身体が触れ合っても海の中でじゃれあっていたのだ。おしりに触れられても平気だった。なんだかんだで時間が過ぎていたのだと思う。お兄ちゃん達が戻って来ていて、彼等は水中メガネをしていたので、潜ったりして遊んでいたのだろう。おばさんが海の中に膝まで浸かりながら

「おぉーい 君達 もう そろそろ 引き上げようか?」と、声を掛けてきた。

「腹減ってきたなぁー 明日もあるし 今日は 引き上げるか? なぁ ご飯食べたら 夜の散歩に来るか あそこの突堤に 夜は魚が集まるかも」

「うん 行く 楽しそう」

 みんなで家に戻ると、私だけに先にお風呂に入れと言われて、男の子達は外の水のシャワーを浴びようとしていた。だから、私は

「お兄ちゃん 一緒に入ろうよ!」

「ぶっ お前 何 言ってんだ! そんなー」

「ふふっ あらっ そう 何よー いつも 一緒じゃぁない」と、言い放って、私はお風呂に向かった。

「達樹 お前 一緒に 入っているのかぁ?」

「いゃっ あいつ からかってんだよ 何年か前までは一緒だったけど 今は そんな訳ないじゃぁないかー」と、お兄ちゃんが焦っている声が後ろで聞こえているのを楽しみながら・・・

 お風呂で、少し膝あたりがヒリヒリする。日焼けしたのかなー。バスタオルを被って髪の毛を拭きながらお風呂から出て行くと、みんなが私を見て、唖然としていた。ソフトカップ付きとは言えタンクトップに短めの短パンだったからかしら・・・。それに、肩から腕は真っ白で脚は膝の少し上から下までは日焼けのせいで赤くなっていたから、自分でもおかしかったのだ。

「おぉー なんだか お風呂あがりのせいか 子供だって思っていたのに 妙に色っぽいのー 水澄ちゃんて なぁ 翔琉?」と、硝磨君が言ってきた。

「うっ うん」

「翔琉 水澄ちゃんて 可愛いよなー 学校でも人気あるだろう?」

「知らねぇよー そんなこと」と、ぶっきらぼうに言って、翔琉君はお風呂に向かったみたい。

「なんだ あいつ あれで 照れてんだぜー 水澄ちやんのこと好きだから 触れて欲しく無いんだよ なっ 達樹」

「ふふっ いいんじゃぁないか 彼が真面目に水澄のこと思ってくれているんだからー」

「ほぉー 兄貴として心配ちゃうの! こんなに可愛い妹なんだからー なんかさー 俺は どことなく ウチの兄弟に似ているし 本当の妹みたいなんだよなー」

「あぁー 一応 人並になー 可愛い」

「お兄ちゃん! 人並ってー 人並以上よ!」

「時たま見せる 小悪魔的なとこ 除いてはな」

「なんてことをー 硝磨君 こんなこと言ってるけど お兄ちゃんって すごーく妹思いなんだよ 優しくて 私 お兄ちゃんのこと大ぁ~い好きなんだぁー」

「・・・硝磨 ほっとけ 騙されるな 真に受けるじゃぁないぞー 風呂行こう 水澄 夕飯の用意 手伝って来いよー」

 夕食には、甘えびにさより、ふくらぎ、アジ、イカ、あわびなんかも並んでいた。私には、見たことの無いような豪華な海鮮なのだ。それに、生のラッキョ。アジのような癖のある刺身に味噌をつけて食べるとおいしいとからと教わったのだ。私があんまり食べるのでみんなは驚いていたのだ。

「水澄ちゃん おいしいかぇ いっぱい食べなー もう子供じゃぁ無いんでどうかなーって思ったけど 花火も買ってあるから後で みんなでやりな」と、おばあちゃんが言ってくれて、お庭でみんなしてやろうとして、手持ち花火ばっかりだったのだけど

「水澄 危ないよったら! 振り回すなよー」

「だって このほうが きれいじゃん 普通に持っているだけだったら 火の粉が落ちるだけだよ」

「まっ まぁ そーだけど 人に向けるなよ!」
 

 

1-9

 花火が終わった後、私は翔琉君に

「なぁ・・・」と、散歩に行こうよーとねだったつもり・・・

「あっ そうかー 突堤までな なんか着て来いよー そのままじゃぁー」

 かと言って、私 長袖はラッシュガードしか持ってきていなかって、さっき洗濯してしまっていた。お兄ちゃんに

「なぁ なんか パーカーかなんか貸してー 翔琉君と散歩行くの」

「はっ 今からか? 暗いぞー」

「うん 夜の突堤がきれいなんだってー」

「そうかー でも 二人でか?」

「そうだ 達樹 俺等も付いて行ってやろうぜ 夜の海もきれいぜ」

 と、私はぶかぶかのパーカーを着て、翔琉君と並んで歩いて、その後ろからお兄ちゃん達が付いてきていた。ビーチに出てもところどころ灯が点いていて、思ったより暗くないのだ。ビーチに出ると翔琉君は私の手を取って繋ぎだして歩いてくれた。突堤近くになると、お兄ちゃん達は離れ出して

「あいつ等にはあいつ等の世界があるんだよ せっかくの機会なんだから ほっといてやろうぜ ここから見守ろうっとー」と、硝磨君の声が後ろから聞こえてきていた。私達にわざと聞こえるように・・・なのかなーぁ

「なんだよー 妹だから気になるのか?」

「いや 硝磨がそー 言うなら・・・」

 そんなことは構わずに、翔琉君は私の手を握りしめてどんどん突堤の先に向かっていくのだ。先端に着いて海の中を見たら魚の影みたいなものが

「あっ お魚だ おっきいの」

「うん 薄灯りに寄って来るのかなー なぁ 座ろうか」

 と、私達はかがんでいたけど、そのうちに足を海に向かって投げ出して、ペタンと座っていた。

「翔琉君 ありがとうネ 旅行に誘ってくれて・・・とっても楽しいわー」

「そうか よかった なツ 良い所だろう?」

「だね でも 翔琉君と一緒だから すご~く 楽しい」

「水澄・・・ もっと 寄れよー」と、私の腰に手を廻してきた。この頃から私は自然と彼の左側になっているのだ。だから、彼は左の腕で・・・私は ビクンとなったけどされるままに、少し位置をずらせて・・・彼の手を握って 眼をつむって顔をあげるように・・・テレビとかでその瞬間は知っていたけど、やっぱりこういう感じにするのが自然なのだと思っていた。好きなの 翔琉君・・・。

 少し間があって、腰の手に力がこもった瞬間 彼の唇の感触が・・・その時 頭の中で銀色の光が走ったような気がした。どれぐらいの時間だったかはわからない。短かったような 長かったような・・・。

「水澄 好きだよ」と、彼の右手を胸に感じていた。遠慮がちに触れてきている。

「いいよー 触っても 翔琉だものー」と、私はパーカーで被うようにして 彼の手を上から押さえていた。タンクトップのソフトカップ越しだったけど、彼のぬくもりを感じていたのだ。

「まだ 小さいでしょ? 翔琉 好き! 私の彼氏?」

「だよ 俺は水澄の彼氏だ ずっと 前からだけどな」

「ふ~ん これからも ず~ぅっと?」

「あぁ これからもな」

「白浜美蕾ちゃんとは?」

「あほっ なんでも無いっていってるだろう 水澄だけよー」

「ウン 今 私 すんごく うれしい! 幸せ!」と、私から もう一度 唇を寄せていっていた。

 戻って来る途中には、もう、お兄ちゃん達は居なくて、家まで戻ると

「なんやー 帰ってたん?」

「なんや や ないわー お前等のイチャイチャしてるの遠くからでも感じて来るからなー おられるかぁー」

「・・・見えてた?」

「遠くて 見えんけど 雰囲気でわかるわー 寄り添ってよー 水澄 お前は まだ・・・俺は、お母さんにも言われてー・・・」

「ストップ お兄ちゃん お魚が泳いでいるのいっぱい見えたよ あっ おしっこ我慢しててん」と、私はトイレに駆け込んで行った。

 次の日は、朝からみんなでビーチボールで遊んで、翔琉君とも普通に触れ合っていた。午後から東尋坊へ見物に・・・歩くと少しあると言うのでバスで出掛けた。崖を見降ろすところに行く時も、翔琉君は自然と手を繋いでくれていて、私の彼っていう感じに満足していて、改めて、彼と彼女という関係になったのだと実感していた。さざえのつぼ焼きというものも初めて食べた。うんこみたいなのは無理だったけれど・・・。

 その夜も散歩に出掛けるのは、いかにもと言う感じなので皆でトランプゲームをして遊んで、翌日の朝だけ海に入って、午後から帰るという予定だった。

 私が仰向けに浮かんで 気持ち良く空を見ながら泳いでいると

「水澄 オッパイがぷっくりと出ていて 掴みたくなるよー」

「なっ なんやのー すけべー! いゃーらしいこと考えてるやろー」

「あほっ 普通やろー それに 水澄のやからー 可愛い」

「うぅー これは まだ 翔琉のんちゃうねんからなー この前の夜の時は特別やー」

 お昼からは福井に出て、今度は天丼を食べて帰ろうと途中下車して、だけど、私は、お母さんにソースカツ丼をと思っていたので、お土産用にテークアウトしたのだ。家族4人分を買っていたので、重いからとお兄ちゃんが持っていてくれた。

 家の最寄りの駅まで来て、おばさんにも丁寧にお礼を言って、我が家に向かった時、私はお兄ちゃんと手を繋いで歩き出した。

「お兄ちゃん ありがとうネ 一緒に行くって お母さんの前で言ってくれたから・・・とっても 楽しかったよ」

「そうか 俺も 楽しかったよ 水澄もはしゃいでいたものなー」

「ウン あのね 私 翔琉君とキスしちゃったー お母さんには内緒ネ! 好きなんだものー」

「やっぱりーかぁー 突堤で まぁ お互いが好きだという表現だものなー いいんじゃぁないか でも エスカレートすんなよ まだ・・・小学生・・・」

「うん・・・お兄ちゃんにも彼女が出来たら 私が 品定めしてあげるネ」

「いらん!」
 

 

2-1

 夏休みも残り少なくなってきたけど、私は宿題は全部終わっていた。だけど、翔琉君は自由研究がまだなんだと言っていたけど、時々、彼ンチに遊びに行っていた。実は、福井から帰って来て直ぐに、私 女のものが始まっていたのだ。家に居た時なのだけど、お母さんも居なくて、私一人だったのだけど、保健の時間でも教えられていた通りに済ませていた。

 うっとおしいなぁー こんなこと これから月に一度はやんなきゃーなんないのかぁー。女って 損。胸の大きさだって気にしなきゃーなんないしさー・・・。あれから、翔琉君とは触れ合うことも無かったけど・・・そのことも、気にしなきゃぁなんないしさー・・・。翔琉なんか気楽に考えているんだろうけど、女の子にとっては 一大決心なんだからぁー。それに、これから胸ももっと大きくなってくるし、下のほうも毛が生えだすだろうし・・・あんなものは要らないよねー 女の人のブロンズ像だって ミロのビーナスだって、ギリギリ見えないけど あれは表現して無いじゃぁない だから、きっと 作者も ビジュアルからすると邪魔なものなのよー きっと 私 今のままの身体のほうがきれいに決まっている。

 仕事から帰ってきたお母さんに報告すると

「あっ そう ちゃんと始末出来たの?」

「うん 備えていたし 学校でも教わっていたからー」

「良かったわ これで 水澄も ガールからレディね これからは自覚しておきなさいね」

「うー う 自覚って?」

「だからー もうあなたは 赤ちゃんも生める身体なの 無防備に・・・その・・・男の子と性行為なんかしちゃぁ駄目なのよ 女の子は心配よー」

「うっ そんなー わかった」

 生理が終わって、翔琉君ンチに遊びに行って、幾らか涼しくなってきたので、彼の部屋に上がり込んだ。彼は机に向かって、細い棒を幾つも並べて接着剤でくっつけていた。

「何してるん? あっ これっ 爪楊枝」

「あぁ これで 大阪城を組み立てようと思ってな」

「ふ~ん 何年かかるん? そんなんより 自由研究したん?」

 彼は私に1枚の用紙を渡してきた。

「女の子の胸の柔らかさは何と似ているか・・・あんぱん 柔らかさはあるが弾力が無い ゴムマリ 弾力があるが優しさに欠ける ゴム風船・・・翔琉! あん時 こんなこと考えとったん? 私のはあんぱん かぁ!」

「いゃ ちがう・・・それは・・・あとからー」

「どっちでもなぁー こんなん 河道屋先生見たら ビンタされるか 相手にされんよーなるでー」

「やっぱり そーかー じゃぁ こっち」と、もう1枚出してきて

「お母さんは何と言った時に一番 喜ぶか」見ると、グラフなんかも書いてあった。

「このおかずおいしいよ 80点 お風呂掃除するよ 70点 お皿洗うよ 75点 庭に水撒いたよ 50点 勉強するね 60点 お母さん好きだよ 70点 お母さんきれいだよね 90点 買い物行ってこようか 40点 腹減った 30点・・・考察 ウチのお母さんは自分のこととか料理を褒められたりするととても歓びます。それとか家事を手伝うとポイントが高い。同じ家事でも大した労働でないものはそんなに高く無い。勉強しようと言っているのにポイントがそんなに高くないのはショックだった。・・・ん まぁ 視点がおもしろいんじゃぁない? 点数化してグラフを付けているのもいいわー でも、研究と言えるかどうかー」

「そうか じゃぁ 項目をもっと増やして これにすっかー 水澄のお墨付きだもんなー」

「なんも べつにー 好きにすれば ええやんかー」

 でも、彼は新学期が始まった時 築城中の大阪城という名前で 爪楊枝をくっつけたのを張り合わせてお城の途中まで作ったものを提出していたのだ。それに、いかにも築城中らしく、画用紙を切り取って人夫らしき人も置いていた。私は からかわれていたのか あんなもん見せられてー。くそぉー あいつぅー・・・。

 当然 白浜美蕾がそれを見て、キャーキャーと翔琉君に歯の浮くような言葉で褒めていたのだ。私に対抗しているに決まっている。(もう ダメよ! 翔琉は みずみ のもんなのだからー) 

 

2-2

「水澄 顔がず~ぅっと 引きつっとるでー おもろーないんやろー?」 帰る時、智子ちゃんが

「うん あの子 どうしても 気にいらん!」

「でも 別に 翔琉も聞き流しているみたいやから ええヤン」

「ほんでもなー あの 甘ったるい言い方聞いているだけで むしゃくしゃするねん」

「水澄 いまから そんなんやったら 中学入ったら 気ぃ狂うでー みんな アタック激しいからなー」

「そうなん?」

「ほらっ 他の小学校からも集まるやんかー あの中学 そーいうことに関しては フリーなんやってー 小学生でもセックスしてた子も普通におるからなー 翔琉も誘惑されるでー」

「えぇー そんなんなん?」

「まぁ 近所の子に聞いた話やけどなー ウチ そいつに させろって迫られたことあったんやー 蹴とばして逃げたけどなー うふっ ここらの子ってそんなんやー 翔琉とか十蔵なんて ちょっと住んでるとこちゃうから 割と真面目なほうなんやでー」

「あっ あっ 智子・・・強いねんなぁー」

「そうや 自分の身は自分で守らなー 水澄やって ちょっと可愛いから 直ぐに、狙われるでー」

「なんか 私 中学行くの 怖ぁーなった」

「だいじょうぶや ウチがおるヤン それに卓球部入るんやろ? 運動部の連中とヤサグレの連中とは 一線引かれてるから・・って話やー」

「うん まぁ 今から私立に行って 親に負担掛けるのもなー」

「そうやー 私立も変わらへんってー それよりな! オカンが智子もそろそろ ちゃんとしたブラを身につけんとなーって 今までスポーツブラみたいなんばっかーやろー 形悪うなるんやって だから ちゃんとしたん買っといでって なぁ 水澄も一緒に買いにいこー」

「えっ そーなん? ほんでもなー・・・」

「なぁ 一緒に買おうよー お揃いの柄でも 楽しいヤン 可愛いのんにしょー」

「・・・お母さんに聞いてみる」

 という訳で、その夜 お母さんに言うと

「まぁ 良いんじゃぁ無い そろそろ必要かなって思っていたからー 智子ちゃんとねー お母さんと一緒にって思ってたけど・・・まぁ いいっかー」

 次の土曜日 学校がお休みの日に、智子ちゃんと自転車で近くのプラザに出掛けて、これはダサイとか派手過ぎるとか色々と物色していたのだ。

 結局 同じサクランボ柄ので、智子は紺地のもの私はパステルグリーンのものを選んでいた。アイスクリーム屋さんに入って

「水澄 意外! 可愛い色なんだけどねー」

「ふふっ 魔がさしたかなー 可愛く見えたんだものー」

「まぁ 良いんじゃない 可愛いよー」

 その時、私は これを身に着けて 翔琉君の前に・・・彼はどんな風になるだろうかと少しエッチな妄想していたのだ。突然

「それで 翔琉に見せるの?」

「えっ そんなー」

「だって 可愛いの 見て欲しいんじゃぁないの?」

「そんなー 私等・・・」

「うそヤン 前 プール行ったやろー 十蔵がゆうとったでー 翔琉が水澄の胸に触れとったけど水澄は平気な顔しとったってー あんた等 そーなんやろー?」

「そっ そんなことないよぉーぅ まだ そこまで・・・」

「ふ~ん 怪しい なぁ 夏の間に進展あったんやろぅ? まぁ いいっかー 二人だけの秘密やもんね でも 話す気になったらね! 親友やねんからー」

「うん ・・・ 打ち明ける・・・あのな キスした」と、白状せざるを得なかった。親友って言われたし・・・

「あっ ついにか でも 好きなんやったら 普通やでー」

「でも 一度っきりやでー あれから なんもあらへん なっ 智子はおらへんの?」

「ウチかぁ? 選別中やー 中学行ったら カッコええのん居るかも知れんし 高校、大学とあるヤン 焦ってへん まぁ 適当に遊ぶ男は必要やけどなー 今んとこ十蔵と翔琉で十分やー あはぁー 今からこんなんゆうのもなんやけどなー 水澄も 翔琉1本で 判断間違ごぉーたらあかんでー 軽はずみはアカン 先は長いんやからー」 

 

2-3

 中間考査も終わって、実力テストとかでバタバタしていたけど、私は翔琉君を誘って

「ねぇ ハイキング行こうよー ふたりで」

「うー ハイキングなぁ まぁ 行くかーぁ 十蔵と智子も誘おうかー」

「私がネ! ふたりでって言っているのにー ちゃうでー あの二人が嫌なんちゃうでー でも・・・」

「わかった ふたりでな そんなに口をとんがらすなよー キスしたいんか?」

「あほっ!」

 行先は任すと言われていて、電車に乗って行って降りた駅から登山口までが近い二上山に決めていて、もう10月も終わる頃で、多分、紅葉も落ち葉になっているのだろう。たらこに肉みそのおにぎりにウインナーを炒めてお弁当にしていて、私は白の長袖のポロシャツ、ジーンズと紺のキャップで、リユックにはとりあえず薄手のジャンパーを収めていた。駅で待ち合わせた翔琉君もジーンズに紺でBのマークのキャップを被っていた。

 降りた駅前で案内図を確かめている時、翔琉君は私の手を取っていてくれて

「とりあえず、ここの神社を目指せばいいんだな」と、手を繋いだまま歩き始めた。

「あ あー お茶 持ってきてないから あそこで買っておこうよ」と、2本のお茶を買って、翔琉君は自分のリュックに入れてくれて、又 歩き出した時

「手を繋いでいると歩きにくくない?」

「ううん こうやって 翔琉と同じ目的に向かって歩いているんだと思うとうれしい!」

「ふ~ん そんなもんかねー なんか ずぅーっと こんな感じなんかなーって思ってしまうなー」

「なんやー 嫌 なんかい!」

「さぁ ここから 登山道 山頂めざすかー」

「うん その先に広場があるみたいだから そこで お弁当ネ」

 小一時間程で山頂というところに着き、そこから長い階段で展望台に上って行った。奈良盆地が見渡せるのだけど、私達には山の名前がわからなくって

「なぁ あれっ 若草山ちゃうやろーか?」

「うーん かなー 明るくてポツンと手前にあるからなー」

「結局 てっぺんに立っても 下のこと知らなきゃー何にもわかんないんだねー」

「・・・ 水澄 珍しく 深刻なことゆうやんけー」

「そんなんちゃうけどなっ」

 それから広場に行くと2組の家族連れが居て、中には幼稚園ぐらいの子供も・・・平気で上ってきたのだろうか。1組が丁度片付けて出発するとこだったので、私達は空いたベンチに陣取ったのだ。お弁当を広げて

「うん うまい お母さんとは違う水澄の味がする」

「よかったー 2個ずつのつもりだったけど、翔琉3つたべていいよ」

「いや 2個ずつだよ ウィンナーもらう」

「あのさー 今度はあのふたりに追いついた?」

「いや宮川は無理だ 江州遼子には何とか届いたかもな それより 水澄のほうこそ追いついているん違うのか?」

「そんなん・・・私は 翔琉を追い(カケル)るんでいっぱいやー」

「ふっ 十蔵の情報によると あの二人は教育大の付属中を狙っているって話だ」

「あっ そう 揃ってかー 仲良さそうだもんねー 秀才同士」

「俺等は二番手同士の負け犬かー」

「負け犬ちゃうでー あのな あっちは受験対策に追われるやんかー 今度の期末テスト チャンスや 私達は授業に出たとこに集中出来る」

「あっ そうかー 水澄 やってみるかー」

「うん やる! 翔琉と一緒やから 心強い」

 私達は片付けて、広場から降りて行く途中、家族連れから見えないようにどちらからともなく、木陰に入って、翔琉君が私の肩を抱き寄せてきた。私は抵抗することもなくされるがままに・・・唇を合わせていると、翔琉君は私の上唇を挟むようにしてベロの先で私の歯をツンツンと突いてくる。アッ あっ と思って、私は彼の背中に廻した手に力を込めると、その時、彼のベロが私の歯の隙間から潜り込んできて、私のベロをすくうように絡めてくるのだ。それに、片方の手が私の胸を包んでくる。私 頭が 真っ白になって・・・でも 自然と彼のベロを夢中で吸うようにしていたみたい。ぼぉーっとして身体に力が入らなくてへたり込んでしまいそうだった。だから、余計に彼にしがみついていたのだ。もっと 強く 抱きしめて欲しかった。

 帰り道は途中から別の道へ。だけど、殆ど言葉を交わさなかった。私は、少し、途惑っていたのだ。あんなこと・・・翔琉君って・・・キスに慣れているのかしら・・・。まさか白浜美蕾と、それとも他の女の子と・・・考え込んでしまっていた。だけど、私も 必死に応えようとして・・・エッチな女の子になってしまった。

 最寄りの駅に着いて、別れる時

「じゃぁ 明日から 猛勉強ネ 今日は楽しかったわ 想い出が出来た」

「あぁー 柔らかかった 水澄の・・・」

「あのねー 目標達成まで お預けにする でないと 私 くずれそう」

「へぇー どう くずれるんだい?」

「あほっ 翔琉のこと 好きやからー ぐずれるんやー」と、言い捨てて別れてきた。
 

 

2-4

 12月の期末テストまで私達は、図書館の自習室とか翔琉君ンチで勉強した。翔琉君のお母さんも我が息子の変わり様に驚いている様子だった。

 私は、刺繍糸で手首に着けるミサンガみたいなものを作っていた。急 こしらえだったので簡単なものだけど、翔琉君とお揃いなのだ。同士という証なのだ。翔琉君も文句も言わず着けてくれている。

 テスト用紙が配られる度にそれを上から握り締めて翔琉君のほうを見たのだけど、彼もそれに応えてくれているようだった。合間の休憩時間に、白浜美蕾が翔琉君に話し掛けるんだけど、彼は心落ち着かせたいから話し掛けないでくれって、ビシッと突き放していたのだ。それで、心地良かったけど私には別の目標があった。

 すべてのテストが終わった時、私達は眼を合わせていて、出来たよね ウン 大丈夫と 言っているのがわかった。

「水澄 なんか すごいね どんどん書いていてさー 今までと ぜんぜんちごーぉたやんかー」と、智子ちゃんも帰り道で

「うん 最後やしー トップ 狙ろうてたんやー」

「はぁー トップ・・・宮川君の上かぁー?」

「そうやー トップってゆうたらトップや 翔琉には負けるかもしれんけどなー」

「そーゆうたら ふたりで頑張ってたみたいやもんなー 水澄がこんなに頑張るって知らなんだ 美蕾ちゃんが現れてからだよね 対抗心 むきだし」

「そっ そんなことないよー 別に 意識してないモン」

「ウチに 見え見えのウソはやめなー 声が上ずっている」

 そして、冬休みも近づいた時、私と翔琉君はふたりで河道屋先生に呼ばれて

「あなた達の仲の良いのは好ましいと思っているのよ 励まし合っているみたいネ 香月さん 石田三成って知っているよねぇー」

「はい! 生まれたのは滋賀の長浜のほうとか」

「そうねぇー どこのお城のお殿様になったの?」

「もちろん 生まれ育った長浜です いいお殿様で 城下の人達にも慕われたとか」

「あっそう 欅原君 合ってる?」

「ええ 最後は悲運の人でしたが 豊臣のために尽くしたとか」

「そう どこで あなた達 間違った知識を覚えてしまったのかしらー それも 二人揃ってー・・・ テストで同じとこ間違えているの 長浜は羽柴秀吉よ 三成は佐和山城 こんなことで同じように間違うなんてー 算数でもあったの 同じところの間違い 席が隣同士だから・・・疑いたくなるでしょう?」

「先生 私達 そんなー・・・」

「そーです 疑われるようなことしてないです」

「ふふっ 信じてるわー 二人を・・・ 一緒に勉強したのね 期末テストの結果がね 香月さんが1番 2番は欅原君 3番は宮川君だったわ 彼は今までず~っと1番だったのよね でも入試を控えて、いつも通りでも1番になれると思ってたのかしらね」

「えっ やったー 翔琉」と、私は思わず彼の手を取って跳ねていた。

「うっ あじゃぁー 水澄に負けたのかぁー」

「あじゃぁー じゃぁないわよ 欅原君 君は漢字の書き取り 3ツも間違ったのよ それで -9点 それが無ければ香月さんの上だったのよ ハネル部分をハネテないとか つまんない間違い それに 私も許せないのは 水澄ちゃんの 澄の字 1本足んないのよ! なんなのよー 大切な女の子の漢字くらい・・・」

「えー 水澄って呼ぶだけで 書いたこと無かったからー」

「そ~いう風に どこかで いい加減なとこ 直しなさい! でも 二人で頑張って勉強したのわかるわー テストの時もお揃いのミサンガしてたわねー」

「あぁー 水澄ったら 強引なんでなー」

「あのー 先生 どうして 私と翔琉は 席が隣りなの多いんですか?」

「あらっ そーだったかしら なんとなくかなぁー 不思議と欅原君の隣りには香月さんになっちゃうのよね 迷惑だったかしら?」

「いえ 別に・・・ なんか訳があるのかなって 聞いてみたかったからー」

「まぁ 自然とね でも 仲良くなってくれて良かったわー」

「あのさー 俺等のことより 先生 自分のこと心配しなよー 誰も居ないんだろう」 

「なっ なんてことを・・・ 余計なお世話よ! そのうち何とかなるわよー 今は君達のことが手一杯で・・・」

「はぁ そのうちねぇー」

「・・・ 欅原君 通信簿 これからつけるのよ わかってる?」

「それって 完全なパワハラじゃぁないですかぁー」 

 冬休みになる前に父兄に直接、通信簿を渡すと言うことがあって、お母さんが学校から帰ってくるなり

「水澄 水澄ちゃぁ~ん お母さん とっても嬉しいわぁー 期末テスト クラスで1番なんだってぇー いつも1番だった子 追い抜いちゃったんだってね!」

「だからぁー それはー この前 言ったじゃない」

「でもさー 先生から聞いて初めて・・・河道屋先生って 水澄ちゃんのことベタ褒めよー もともと、おとなしくて素直な子だったけど、特に6年生になってからは誰とでも明るく優しく接して、勉強も前向きに頑張っているってー お母さんの育て方いいんでしょうねって お母さんも褒められちゃったー」 

「へっ へぇー お母さんがねー」

「誰に似たのかしらー・・・ お父さんじゃぁないよねー ・・・」

「そんなのー 私はお父さんとお母さんの子供ですよ!」

「・・・そうね・・・お母さんの娘よねー あのね さっき お父さんに電話しといたの 今日は早く帰ってきてーって お寿司ネ 回転寿司だけど」 

 

2-5

 冬休みになって直ぐに十蔵君がみんなで遊ぼうぜーって、連絡してきて、中央公園に集まることになった。みんなが自転車で来て

「厚めの紙 持ってきたんだ 紙飛行機みんなで飛ばそうよー」と、十蔵君が

「なんだ その紙飛行機ってー」

「まぁ まぁ 折り方なんかも工夫すると 割と 面白いもんだぜー」と、十蔵君は私達に簡単に折り方を教えてくれて、遠くまで飛ばしっこしたのだけど、十蔵君は折り方を心得ているのか、一番遠くまで・・・。

「おい! 折り方のコツがあるんやろー 教えろやー」

「あかん 翔琉 自分で工夫するからおもろいんやー ヒントはな 重心をどこにするとか 翼の大きさとかな 全体を重くするっていうこともやってみなー」

「ふ~ん 割と けち臭いんだなー」

「あっ けちとかいう問題じゃぁなくてー 君達の頭の訓練だよー」

「まぁ まぁ わかったわよー 十蔵より遠くに飛ばせればいいんでしょ! 水澄 考えよー」智子は負けん気が強いのだ。

 と、私達は折っては飛ばしてみて、最初に比べると段々と遠くまで飛ぶようにはなってきたのだが、十蔵君には敵わなかった。彼も、自分なりに工夫していたからだ。

 私と智子は真直ぐな槍型のを折っていて、飛ばすと意外に遠くまで飛んだけど、直ぐに失速するのだ。智子はそのうち滑り台の上に乗って飛ばしていた。

「智子 それはルール違反だよー」

「そんなルール誰が決めたんやー 十蔵が勝手に決めるな!」

 だけど、降りてきてなんか細工をして、又、上って行って飛ばすと、最初は勢いで跳んで、直ぐに、少し低くなったかと思うとそのまま すーっと滑空したのだ。私が見ている限り砂を少しを入れているようだった。

「智子 すごいヤン」と、私が飛び跳ねていると

「うん 工夫だよ!」

 何だかんだと言っている十蔵君を横目に、結局、滑り台の上から競争することになって、智子のが低くすーっと滑るように飛んで行って遠くまで・・・。十蔵君はイカ型のを作っていたのだが、それなりに飛んだのだが、智子のには負けたので

「うぅー まぁ そーいうことってあるよなー 世の中ってそんなもんだよな! 智子の唐突な考え方に負けた」 

 

3-1

 大晦日、年が明けるかという時、お兄ちゃんに硝磨君から連絡があって、お正月に家族で来ないかということだった。硝磨君のお父さんの仕事の関係から、マグロとか鯛に貝なんかも沢山もらったから、一緒にどうかということなのだ。どうも、お父さんは昔、寿司職人を何年かやっていたみたい。だから、寿司にして振舞うらしい。

 ウチのお父さんは、1~3日まで休みなのだけど、お母さんは元旦は仕事で2.3日がお休みなのだ。だから、お兄ちゃんがお母さんにその話をして、結局2日の夕方にお伺いするということになった。

ウチの元旦は、お母さんが普段より遅めとはいえ、お仕事なので朝は比較的簡単にお雑煮とお煮〆程度で済ませていて、その後は、お父さんとお兄ちゃんはTVを見てだらだらとしていた。

 次の日はお母さんが朝早くから動いていて、鰤とか海老を焼いて、数の子なんかの和え物を作ったみたい。揃って、ようやく我が家も年が明けたみたいに食卓が賑やかだった。食べ終えたのはお昼に近かって、片付けを終えた後、お母さんは着物に着替えていたのだ。

「お正月によそのお宅にお呼ばれするんですからねー あなたもせめてブレザーぐらいでね! ポロシャツは駄目ですよ カッターシャツぐらい・・・水澄はワンピース買ってあるでしょ」

「お母さん 俺は?」

「達樹は何でも良いわよー 男の子だからー ジャージはダメ! 適当にね」

「チエッ 差別」

「男の子はつまんないからね 着飾っても・・・」

「フン まぁな」 

 私のは、ベルベット生地のダークブルーで衿元がレースのワンピースを、友生地の細いリボンで髪の毛を両脇に結んで、左側だけ耳の前に降ろしてきてリボンで結んでいた。私はうっとぉしいんだけど、お母さんの好みなのだ。でも、自分でも着飾った私を見ると、割と可愛かったんだけど。

 そして、約束の時間は4時なんだけど、早い目に出て、近くの神社に初詣に・・・前は元旦に家族揃ってだったんだけど、去年からお母さんが元旦はお仕事なので2日にすることになったのだ。

 お母さんは手土産にと前の日、苺パックを用意していた。向こうに着くと、着物姿のおばさんとチェックのカッターシャツを腕まくりをしたおじさんだろう人が出迎えてくれた。私がコートを脱ぐと、おばさんが

「まぁー 可愛らしい 女の子は良いわねー お洋服も選び甲斐があるでしょ」と、お母さんに同意を求めるように言っていた。

  通されたのはダイニングで、私と翔琉君がいつも勉強するところだ。テーブルの上には小鉢と細巻が用意されていた。子供達は続きの部屋になっているリビングのほうでねと言われた。

「お酒 召し上がるでしょ? 何が良いかしらー」

「あぁー じゃぁ 日本酒を冷やでー」 

「今日はね 滋賀の湖西の 不老泉 という酒でね 天然酵母仕込みらしい 昔ながらの仕込みで 最近すごく人気らしい 貰ったものだからー」と、おじさんも好きなのだろう 自慢げに勧めていた。

「奥様 良かったら ワインもありますのよ」

「あっ 私も 少し そのお酒をいただきます そのー 奥様って言い方・・・」

「そう じゃー 香月さん 以前のお店で何度かお話しているから、まるっきり他人とは思えないわねー」

「はい 覚えています それに、幼稚園でも小学校入った時も 翔琉君と水澄がご一緒だったから・・・」

「そうでしたね 水澄ちゃんが 少し翔琉に似ている子って 印象深いですわー」

 私達は眼の前のきゅうりととびっこの細巻と厚焼き玉子、椎茸の甘く煮たものの細巻をつまんでいたのだけど、そのうち、おじさんが

「さぁ 握るかー 本まぐろ、氷見の鰤、明石の鯛、広島の穴子の照り焼きだ」と、立って前掛けを締めだした。

「この人ね 若い頃 寿司職人目指したんだけど 手がごっついから 繊細なことできないってあきらめたんだってー」と、おばさんが言っていたけど、その握ってくれるお寿司は、とっても美味しかったのだ。

「いゃー おいしいですねー 高級すし屋 そのものですよー」と、お父さんもお酒も進んで、浮かれてきているみたいだった。

「この人ね こーいうの楽しいみたいなんです お酒も大好きなんですよー かかせないみたい」と、おばさんが

「なんだよー ひとのことを アル中みたいにー」

「あらぁー 最近はお歳のせいか 控えているみたいだけど 家ん中では遠慮してるのか 翔琉が生まれる前後なんか 私が構ってあげなかったから、ストレスもあったんだろうけど 毎晩のように、散歩の振りしてふらふらと公園なんかで飲んでいたんでしょうよ」

「おぉ それは 男の醍醐味ですなー でも 不審者扱いされたのではー」

「そーなんですよー 度々ね でも ドキドキする楽しいこともこともあったんですよ」 

 その時、私達へのお寿司のお皿を運ぼうと思ったのか、お母さんが立ち上がったて椅子の脚につまづいたのか、よろけてしまってー お母さんの手をおじさんが咄嗟に支えていた。少しの間があって

「いゃぁー」と、お母さんの悲鳴がして、その場でしゃがみこんでいた。みんなが、その時固まっていたみたい。

「どうした 民子 大丈夫か?」と、お父さんがお母さんの肩を抱いて、声を掛けていた。

「あっ ええー すみません 私ったらー 久々なので酔ったのかしら・・・ 主人以外の人と手を握ったことが無いのでー 動揺しちゃってー」

「いゃ いゃ 僕のほうこそ 失礼しました 咄嗟だったので・・・」

「まぁ 香月さんって 純情なのねー ご主人とはどこで出会ったのかしらー」

「いゃぁ 取引先の事務員だったんですよー 僕が一方的に惚れてしまって テキパキと仕事をこなして、頭もキレそうでねー でも アタックしてから 最初のデートまで2年かかりました それから結婚まで3年です」

「そーなの 前の刺繍の糸屋さんで何度かお話したんだけど 確かにハッキリとした印象だったわ 水澄ちゃんも そーいうとこ そっくりよねー」

「そーなんですよー 水澄は・・・今でも 思い出すんですよー 普段は控え目なのに あの時 珍しく 民子が積極的にせがんできて乱れていたんです 多分 その時の子が 水澄なんですよー お陰で僕には似ないで可愛い子を授かった」

「・・・あなた そんなこと 子供達に聞こえますよ! 飲み過ぎなんでしょ もう そろそろ お暇しなきゃー」 と、言うお母さんは心なしか顔から血の気がひいているよに見えていたのだ。だから、おじさんが「まだ いいじゃぁないですか 魚もまだあるしー」と、言っていたんだけど、私はお母さんを心配して帰る素振りをしていたのだ。

 結局、お母さんが体調が悪くなった様子で、おじさんが 後でお腹すいたら食べなさいと、何貫か握ったものを持たせてくれたのだ。帰り道で私がお母さんと手を繋いでいて

「お母さん 気分悪いの? 大丈夫?」と、聞いても、お母さんは黙りこくったままで、家に着いても、直ぐに「お先に 失礼して お風呂に入って休ませてもらいます」と、帯紐を緩めていたのだ。
 

 

3-2

 翌朝、お母さんは何事も無かったように朝ご飯の用意をしていた。私が隣にいって

「おはよう お母さん 何かお手伝いすることある?」

「そうね お餅焼いてちょうだいな」

「うん ねぇー もう体調 大丈夫?」

「だいじょうぶヨ 昨日は飲み過ぎたのかしらネ」と、言っていたけど、お母さんは、お酒に強くって、あれっ位で酔っぱらう人じゃぁ無いのだ。私は、きっと、他の事に・・・気を掛けながら、お餅を焼いていた。

 朝ご飯を済ますと、お母さんが「今日は みんなで太子様にお詣りに行くわよ」と、突然言い出した。

「えぇー 何でぇー た い し さ ま ?」

「そうよ 今年は水澄がお世話になるかも知れないでしょ!」

「…? ? ?  何で私が?」

「あなた 太子女学園の中学に行くのよ」

「はぁー? 何で 何で そんなー急に・・・それに、あそこは程度高くって私なんか受からないわよー」

「そんなことないわ だって、お母さんの娘だものー 頑張れば大丈夫」

「そんなこと言ったてぇー 私 みんなと公立の中学へ」

「お願いよー お母さんの憧れなの あの学校」

「・・・お父さん ん・・・」

「まぁ いいんじゃぁないか あそこは文武両道だ 有名人もいっぱい出てる それに、制服も可愛いんじゃぁ無いか」

「そんなー 私 有名人になんかになりっこないもん・・・お兄ちゃん???」

「あっ あぁー いいんじゃぁないの お嬢さん学校だし この辺りの中学は品が良くないしー」

 家族のみんなが私の側に着いてくれなくて、結局、言われるままに渋々と出掛けてきたのだ。お母さんは、私には 昨日のワンピースにリボンとで着飾らされていたのだ。

 境内は広くて、露店とかバザーなんかもやっていて、お正月の賑わいもあったのだ。境内の中にはその太子女学園があって

「ここよ 水澄ちやんはここに通うのよ」と、お母さんはもう決めてかかっていた。

「私・・・翔琉君と・・・」と、小さい声で言っていたが

「とりあえず、明日 塾に相談に行って、学校が始まったら、直ぐに先生に言って、受験の申し込みに行きますからネ」

「だって 学校説明会なんかにも 行ってないしー 受からないよー 第一 直ぐに入学試験じゃぁないのかなー」

「そんなの 受けてみなければわからないじゃぁない! とにかく クラスで一番なんだからー」

「あれは・・・たまたま ねぇ それにお金もかかるしー」

「そんなこと 水澄が心配しなくていいわよ お母さんも一生懸命働くし、それに高校はそのうち私立も無償になるし」

「・・・」

「今まで 水澄ちゃんの言うことは何でも叶えてきたつもりよ 今度はお母さんの希望を叶えてちようだいな」

「・・・」

「まぁ お母さんの言うことも一理ある いいんじゃぁないか 水澄もここに行けば きっと 違った人生になるよ」と、お兄ちゃんも、無責任なことを言っていた。

「私 違って無くて良い 今のままで」と、思っていて「親のパワハラよー」と、言うと

「じゃぁないわよー 愛情よ! 親として良い学校を選ぶのは義務であり、努めよ 水澄なら絶対大丈夫よ 受かる! 明日から、翔琉君とこに行くのはよしなさい 学校の帰りには塾に行くのよ 入試まで、時間ないんだからー」と、お母さんは追い打ちをかけてきた。

「えぇー そんなぁー・・・」と、私は翔琉君のことを思い浮かべていて、彼はどういう反応するかしら・・・。お母さんは、どうして急にそんなこと言い出したのかしら? ? ? 。

 こうして、お母さんに逆らえなくて無理やり押し切られ、地獄ともいえる日々が始まって 私の人生も お兄ちゃんの言う違った?方向に進んで行くような気がしていたのだ。 

 

3-3

 3学期が始まって、翔琉君に

「私 お母さんに 私立の女子中学に行けって言われてー とりあえず 塾にも行っているの」

「あぁ 聞いたよ 水澄のお母さんから電話があって 太子女学園を受けさせることにしたから、しばらくはウチには来れないって言っていたらしい」

「えっ お母さん 翔琉ンチに わざわざ電話したの!」

「らしい まぁ いいんじゃぁないか 名門だよ 頑張れよ!」

「・・・翔琉・・・一緒に中学 行けなくなる・・・」

「しょーがないよ 会えなくなる訳じゃぁないしー 俺も あの学校の彼女なんて かっこいいかもな」

「もぉー 何 気楽なこと言ってんのよー 私 受かりっこないものー だって 受験勉強なんて この前からだよー 今日 慌てて お母さんが願書出しに行ってるわ」

「急に無茶苦茶な話だよな つもりもしてなかったんだろう? いゃ 案外 水澄は秘めたるパワーがあるから きっと 受かるよ」

 私の期待していた答えと違った。そんなこと言わずに・・・一緒の中学に・・とか、期待していたのに・・・。

 次の日から、私は学校を休んで塾に朝から通い詰めていた。お母さんに連れられて、初めて、その塾を訪れた時、塾長という人がお母さんの話を聞いて驚いて、とりあえず私に簡単なテストをしたのだ。

「算数と国語の基礎はしっかりしているみたいですね 難易度は高くないですが、算数は満点でした。これなら・・・あそこの入試でも、算数と国語で200点は狙えるでしょう。理科・社会で半分取れれば合格圏内ですよ うまくいけば 英数Sコースも可能かと・・・どうですか これから集中して入試試験の傾向を学んでいけば・・・可能性はあると思います 絶対に合格するんだという覚悟あればネ」

 という訳で、学校にも事情を話して、塾で入試対策に集中することになったのだ。そして、試験日の前日は6時頃 「いいか 自信を持ってヤレ! なんてことは言わない 逆に堅くなるからな 普段通りにやりなさい それで良いんだよ ダメ元なんだからー 急に受験しようなんて」と、塾長に送り出されたのだ。

 表に出ると智子が居て 「あのさー ウチ等 いつも 一緒やんかー」と、黄色い紙テープの巻いたのを渡してきた。

 伸ばしてみると (コツコツとやるのが水澄だろ だけど 明日は爆発させろ 翔琉 意外性の女でも俺等はいつも一緒だ 頑張れ! 十蔵 いつだって一緒だよ いつものようにネ 智子) 

「智子 ありがとう わざわざ 待っててくれたんだ」

「ウン しばらく 顔見て無いからさー あいつ等も誘ったんだけどー 照れちゃってさー」

「ウン あいつ等に涙 見られたくないからー 智子 ありがとうネ 私 悔いが残らないように頑張るよ」と、言いながら、涙声になっていた。

 お母さんも迎えに来てくれていて、帰り道で

「いいお友達達ね 水澄が離れたくないのはわかるけど、まさか あなた 変な気おこさないでね」

「変な気って? ・・・ 私 お母さんの娘だよ! お母さんが喜んでくれるんだから、全力でぶつかっていくわ! 絶対 お母さんと笑顔で抱き合うんだぁー」

「水澄・・・あなたは お母さんの娘だっていうことだけは 確かよねー」と、ポツンと思いつめたように言っていたのを、私は覚えている。

 そして、次の朝。お母さんが付き添って行こうかというのを断って、私は、智子から渡されたテープの巻いたのと翔琉とのミサンガを握り締めて、会場に向かったのだ。余計なことは考えない。ここまできたら、絶対に合格するんだと。

 

 

3-4

 卒業式の最後に教室にクラス全員が集まって、河道屋先生からお別れの言葉があって、終わる時

「宮川君 江州さん 香月さん 立って ーーーー この3人は、皆とは違う中学に進みます。この河道屋クラスで一緒に勉強したということだけは確かなのだから、それぞれの道は違う過程だけど、いつまでも連絡を取り合って仲間で居てネ」と、赤い瞳で話し終わっていた。

 私は、確かに合格していたのだ。自分でも、信じられなかったのだけど、算数も国語もスラスラと書けて、理科社会も塾でやったことが問題にも出て、終わった時も割と出来たと思っていた。私は、自分でも怖いぐらい運が良いのだ。神様が私に違う道を歩まそうとしているのだと思った。発表のあの日 合格したことがわかるとお母さんは大騒ぎで、塾にもお礼に行って、塾長からも奇跡に近いと驚かれていて、その帰りには、お母さんは、お祝いだと お寿司だのメロンだのを買って帰ってきたのだ。そして、私の姿を見るや抱き付いてきて

「水澄 やっぱり 私の娘だよねー 頑張ったね ありがとう」と、私は、その時、これで良かったんだと実感していた。

 宮川君 江州さんは教育大付属に揃って合格していて、おそらく 二人の仲は続くのだろうけど、私と翔琉の仲はどうなって行くのだろうという一抹の不安はあったのだ。

 その日、翔琉君と別れる時 「ねぇ 明日 ウチに来ない? しばらく 会えんよーになるかも知れんしー 私 スパゲティ程度なら作れるから お昼に・・・」

「そーだな 水澄の手料理かー 行くよ」

 彼は10時頃、訪ねてきた。お母さんとお父さんは仕事だし、お兄ちゃんは春の新人戦が近いからと練習に出て行って、私以外は誰も居ないのだ。だから・・・私は決心していたのだ。

 初めて、私の部屋に彼を招き入れた。机の前には、あの時もらったテープをファイルに挟んで貼ってあって、その他には、夏に福井に行った時の翔琉との海での水着姿のツーショトの写真と石川佳純さんの卓球の写真が飾ってあった。

「ふ~ん 女の子の部屋かー 花柄のカーテンに なんだ この ドラ猫のぬいぐるみは」と、ベッドの上の猫の抱き枕に興味があったみたい。

「やーだぁー いつも 一緒に寝てるんだからー」

「ふ~ん 一緒にねー ・・・ あっ 俺との写真」

「そーよ 大切な想い出なんだからー 水着だけどね」

「そーなんだ やっぱり 水澄のおっぱい プルンと可愛いね」

「やーだぁー すけべー そこに興味あるのかよー」と、私は彼の肩を叩いていたが・・・

「翔琉・・・私のこと忘れちゃぁ嫌よー」と、カーテンを閉めた後、私は 着ていたピンクのTシャツとスカートをベッドの横で脱ぎ去って、前に買ったサクランボ柄でパステルグリーンのブラとショーツのままに・・・なっていた。

「水澄・・・可愛い このパンツも」と、彼は私を抱き寄せて唇を合わせてきていた。しばらく、きつく抱き締められて、彼の舌が歯の隙間から入り込んで、私も決心していたので、それに舌で応えていた。もう 私は ぼーっと 何にも考えられなかったけど、直ぐに、彼の手が私の胸を包んできて、違う方の手で私のお尻を撫でるようにしてきたのだ。そのまま、手がショーツのゴムをくぐって中に潜り込もうとして、胸の手は背中にまわってきてブラのホックを手繰っている。私は ハッ として・・・

「ダメ! ・・・自分で脱ぐから・・・翔琉も・・」と、私はとんでもないことを言ってしまった。

 私達はベッドの横でお互いを見つめ合っていたが、彼は私を抱き寄せてきて、唇を・・・そして、私の胸とお尻を直接触れていたのだ。

 私は、そろそろ産毛のようなものが生えそろってきているし、彼はうっすらと陰りも見えるし、あれも棒のようになっていた。抱き寄せられている時にも、それは私のあそこに感じていたのだ。私、こんなこと これからようやく中学生なのに、こんなこと・・・。でも、私は、翔琉に私の身体も全てを覚えていて欲しかっただけ。

だけど、彼は私をベッドに押し倒すようにしてきて、唇を吸われたまま、まだ小さい胸に手を当てられて、もう片方の手が私の股の間に伸びてきた時  「あぁー もう・・・ これ 以上・・・ そこ だめぇー」と、私は彼を突き放すようにしていた。

「私 こわれちゃうぅー うぅー・・・ 翔琉にね 私の生まれたまんまの姿を 忘れないで覚えてて欲しかったからー 私達 まだ 中学になったばっかーでしょ だからー これ以上は・・・我慢出来なくなるし 今は ダメ!」

「そうかー でも これが水澄のあそこに入るんだろう?」

「・・・ だから ダメ それ以上 言わないの! もう おしまい 私の裸見たでしょ! 忘れないでね! このことは ふたりだけの秘密よ」でも、その時、二人のミサンガは切れていたのだ。そして、初めて、自然と自分のあの部分が湿っているのを感じていた。

 それから、私達はキッチンに降りて行って、私のたらこスバゲッティを食べていて

「うん うまい 水澄が作ったから 特別だよ」と、褒めてくれていた。そのうち、お兄ちゃんが帰って来て、お兄ちゃんにも作ってあげたのだが

「うん うまい なかなかのもんだ」と、褒めてくれて、そして、翔琉君が帰る時、手を握りながら

「また 時々は逢おうな 駅前ぐらいなら出て行くからー」と、言ってくれた。

「お兄ちゃん 翔琉が来たこと お母さんに内緒ね」翔琉君が帰った後

「あっそう? 何となく わかる 最近なー お母さんは、翔琉君とのこと好ましく思ってないみたいだな」

「お兄ちゃんも そう感じる? 逢わないようにさせているみたいなんだー」

「まぁ お嬢様学校だから 変なウワサになるのを避けようとしてるんじゃぁないか」と、さらっと流されてしまったけど・・・。

 

 

4-1

 私は新しい学校に通い始めて、早速 同じ電車で私の駅の一つ先から乗って来る伝教寺香(でんきょうじこう)ちゃんとお友達なった。それに、同じクラスなのだ。私と雰囲気も似ているし、背丈も同じくらい。同じ電車に乗っていたみたいで、帰りも同じだったから、向こうから声を掛けてきたのだ。

 そして、2日目には同じ学園の高校生に・・・駅で電車を待っている時

「あなたね 電撃的に合格したってー お父さんが言っていた 私 石積あかり」

「えっ あー 塾長のー」

「そう 娘なの 太子女学園高校の3年 あなた 英数のSでも行けたのに 断ったんだってね お父さんが言っていたわ もったいないって」

「あっ 私 精一杯で合格したのに もう 息切れするようでー」

「そうなの でも 背伸びしていると そこが普通になってくるのよ 下に居るとそれが普通に慣れっこになっちゃうからー 上を目指すのだったら、努力するのは当たり前なのよ」

「はぁー・・・ そーゆうもんですか・・・」

「まぁ 学校でわからないこととか 困ったことあったら 言ってきてー なんせ お父さんの塾始まって以来の 逸材で原石みたいな子だって言っていたからー 私も興味あるわー」
 
 電車に乗り込むと、先輩は別の車両に移って行った。おそらく、友達が居るのだろう。そして、私は、ホームの端のほうに、宮川君 江州さんの姿を見ていたのだ。たぶん、向こうも気付いていたはずなのだけど、話し掛けもしなかった。

「香ちゃん おはよう」

「うん 水澄ちゃん おはよう ねぇ さっきの 先輩 知り合い?」

「うーっとおーぉ 知り合いってかぁー 私がお世話になった塾の娘さんなんだってー」

「あっ そーなんだ でも 知り合いに先輩が居ると心強いよねー ウチな みんな 知らん人ばっかーやろー 不安やってんけど でも 水澄ちゃんと 直ぐに お友達になれて良かったぁーって思ってるんよー」

「そんなん 私もよー」

 その間、私は窓からの景色が新鮮なものに見えて 新しい未知の環境に飛び込んだんだと実感していたのだ。あの3人は自転車で通っているんだろうか・・・つくづく 私は違ったところに飛び込んだんだ・・・でも、これで良かったんだ・・・お母さんがあんなに喜んでくれたんだから・・・。

 駅を降りると「水澄ちゃん」と、江州さんだ。

「同じ電車なのね 卒業式の時 びっくりしちゃったー 太子女学園だってー 水澄ちゃんて目立たないおとなしい子だって思っていたのに・・・驚きよー 知らない間に成績も私達を追い抜いてたなんてねー  同じ電車だから これからもよろしくネ」と、宮川君と並んで消えて行った。おそらく、中学校の偏差値でいうと、向こうと大差無いはずだから、一目置いたのだろう。だから、今まで私なんて相手にしてなかったはずなのに・・・。

「なぁ 香ちやん 明日から 1本早い電車でも ええかなー」

「うん ええよー ウチな 同じクラスの男が近くの男子校に入ったんやー 同じ電車やねー でも あいつのこと気色悪いんやー だから 違う電車のほうがええねん」

「ウン 私も 会いとーない奴がおるねん」

 駅を出て、学校に向かっていると「おはよう」と声を掛けて来る子が居たりして

「なぁ 同じクラスの子やろかぁ?」

「どうだか ウチ 恐いから クラスの子でも 顔 覚えてないねん」

「うふっ 私も・・・ なぁ 伝教寺って 変った苗字やねー お寺さん?」

「違うよ でも ひいおじいちゃんまで お寺の住職やってん 本堂が古いんで建て直しの話があって 檀家さんが反対して、明治の初めやったからどさくさしてつぶれてしもうたそうな そのまま苗字だけ残ったんやってー」

「そーなん 私ンチも お父さんは奈良の山奥の人でなー ご先祖様は野武士で、筒井順慶の家来やったそうなんよ ホンマかウソか」

「あっ そう ウチのお寺さんも 筒井順慶に味方したんやってー 聞いたことあるわー おもろいなー ウチ等 先祖は味方同士やったんやー」

「うふっ そーやねー 時を経て こーやって 知り合えるなんてね」 

 

4-2

 香ちゃんと卓球部の見学に行くと、もう入部した新入生が10人位居て、隅の方で並んで 1・ 2 と素振りをしていた。その中でも何人かは先輩が打ち合っている台のまわりで球拾いをしている様子だった。でも、部員の数はすごく居るように思えた。卓球台も3台が2列に並んで全部で6台でそれぞれが打ち合っていた。

「すごい迫力っていうか 熱気だったね あんなの ついていけるかなぁー 水澄ちゃんはどう?」

「そうね でも 何でも 最初はそんなもんじゃぁない? 飛び込んでいかなきゃー 始まんないよ」

「そーだよねー あのね ウチのお母さん この学校の出身で卓球部のOBなんだ だから、卓球部に入れってー」

「あっ そーなんだ じゃぁ やろうよー」

「だよね 水澄ちゃんも 一緒だしね」

 次の日、二人で入部希望ですって言いに行ったら、部長って人が

「そう 小学校で経験あったの?」

 二人とも 「ありません 初めてです」と、言ったら

「そう 最初は球拾いを1か月ほど その後は 素振りを1か月ほど練習してから、ようやく球に触れるってのが・・・ 新人は練習の前後に体育館の掃除もあるしね ウチのやり方なの その間にやめて行く人が半分位居るのよー どう 我慢出来る?」

 「ハイ! やります」と、言ったものの やってみなければ、続ける自信もなかったのだ。

「うん あかり先輩から聞いているわ たぶん 入部申し込みに行くわって ちょっと変わった子なの パワーを秘めているかもって あの人 この春までウチのクラブだったの 高校のね」

「えー 同じ駅から乗るんですけど・・・ 私 何にも・・・普通・・・です」

 夜、お母さんにクラブに入ることにしたと報告すると

「あつ そう いいんじゃぁない オリンピック行けるといいね!」と、気楽に返事をしていたが、お兄ちゃんには

「水澄ちゃんが卓球部に入るんだって 帰り 遅くなるから 達樹 駅まで迎えに行ってあげてね!」

「えっ エッ なんでー」

「何でって 女の子を暗い道を一人で帰らすわけに行かないでしょ!」

「そーなんだけど 自転車だろう? 大丈夫だよ」

「その自転車が危ないのよー 絶対に女の子 ひとりなんてー ダメ!」と、厳しい口調だった。

「だけど、朝は良いわよー 帰りはお母さんがその自転車 乗って帰って来るわー」 

「ふ~ん 毎日かよー」

「そうよー あなたも可愛い妹がトラブルに巻き込まれたりすると嫌でしょ! お母さんも 交代するわよー お父さんもね」 飲み始めようとしていたお父さんは、口まで持っていっていたグラスを止めていたのだ。だけど、口ん中でモコモゴ言った切りで・・・。

 次の日。同じ卓球部ってことで白川若葉ちゃんが放課後、面倒見てくれて、体育館の更衣室に・・・新入生は部室には狭いので入れなくって、体育館の更衣室でハンガーに制服とかを吊り下げるだけ。その下にカバンとかを並べて置いて、貴重品は顧問の椅子の横に籠があるから、そこに入れておくのよって教えてくれた。

 もう、練習を始めている人も居るんだけど、1年生は、その邪魔をしないように最初にモップがけからするんだと言われて、時間が来て、部長の号令でみんなが集まった。どうやら、昨日見たのは高校生も居たみたいで、他のところに集まっていた。

 皆に紹介されて、部長から

「しばらく、台の周りの球拾いからね 1か月位かしらー その後、素振りを教えるからー だから、まだ、ラケットなんか用意しなくても良いわよー クラブのもあるし、そのうち自分に合ったものを選んでいけば良いのよ まぁ 続いていればね あっ いけない 私 辞めないように見守るっていう立場なんだ 二人とも頑張るのよ 辛いことがあったら遠慮しないで私に言ってきて」 と、部長の六角響(ろっかくひびき)先輩は優しそうだった。

 若菜ちゃんは小学校からやっていたので、素振りのグループに入っていた。私達は練習台の斜め後ろに配置されて飛んでくるボールを拾いにいく役目なのだ。でも、先輩からは練習している人の動きもちゃんと見ていなさいよって指示されていた。

 練習が終わって、帰る時、先輩に香ちゃんが呼び止められて

「あなた 伝教寺先輩の娘さんなんだってね コーチから聞いたわ コーチの大先輩なんだって! 全中の決勝まで行って、負けてしまったけど最後はすごいラリー戦だったんだって あなたも頑張ってよねー」と、後で、若葉ちゃんに聞くと、次の部長さんで加賀野燕(かがのつばめ)先輩 卓球部のエースらしい。

「香ちゃん お母さんがOBって言ってたけど すごい人だったんだね」

「そーなんかなー ウチも初めて 聞いたのよ そんなんやったって ウチにはちっとも卓球のこと教えてくれへんねんでー」 

 

4-3

 夕食の後、お母さんが

「水澄 土曜日 お洗濯と廊下とかにワックスかけてね」

「あっ 土曜日は練習がー 新入生だけ特訓なの」

「あっ そう じゃぁ 日曜日にね」

「はい ・・・でも・・・」

「お母さん 水澄は日曜は 俺の応援に来ることになっているんだ」

「そうなの 応援って何よー」

「うん 地域の交流試合 ほらっ 新メンバーになったろー? その手合わせみたいなもん」

「ふ~ん どうして それに水澄が?」

「そりゃー 俺の妹だからー 俺は今年 バイスキャプテンなんだぜー あのー だから 帰ってきたら 二人でワックスはやるよー」

「お母さん お洗濯は学校に行く前にやります 夕方には帰れるはずだから、取り込みも間に合うと思うわ」

「そう お願いね」

 お風呂から出て、お兄ちゃんの部屋に出たよって言いに行った時

「なぁ この頃 お母さん 私に厳しない? 用事ばっかー言いつけて」

「・・・まぁ 水澄も中学生なんやから 女の子ってそんなもんよって思ってるんかなー 女の子やから家事のこと何でもできるようにーとか」

「だって 私やって お母さんの言う通りに 太子女学園に入って あそこ 勉強やって みんなに負けたらあかんし クラブやって・・・大変なんやー」

「うん そーやろなー 進学校やしなー ぼーぉーとしてる奴なんて居らへんねんやろうなー」

「そーやねん 毎日が戦争みたいや 隣は頭のええ子ばっかーに見えてーしもぉーてー 私はたまたま・・・」

「水澄 俺に比べると、お前はすごく頭が良いんだと思うよ 普通にしててもな 自信持てよー そうだ 日曜日 試合の応援に来いよな 翔琉も居るし」

「えぇー 何で 翔琉が ぁー?」

「水澄 知らなかったんか? あいつ サッカー部に入ったんやでー」

「えっ えぇー・・・ 最近 話 してへんねん・・・」

「だろうな 試合の後 少し デートでもしろよー あいつは まだ試合には出られへんやろけどー」

「お兄ちゃん それで さっき 応援にって・・・」

「まぁ 可愛い妹の初恋だもの 手助けになれば」

「お兄ちゃん いつも ありがとう 大好きだよ! 御兄様ぁー」と、抱き着いていたら

「よせっ ・・・ まだ 汗臭いんだからー」と、照れてお風呂に行ったのだ。

 お兄ちゃんはああ言っていたけど、私は引っかかっていたのだ。お母さんは、私から時間を奪ってー・・・そう もしかして 翔琉君と会わせないようにしているんじゃないかと。理由はわからないけど・・・太子女学園を急に受けさせたりして・・・彼と引き離そうとしている・・・の だろうか

 日曜日に隣町の運動公園に出掛けて行って、サッカークラウンドに。私が遅れてしまったのか、もう、お兄ちゃん達のチームは試合が始まっていた。グラウンドの隅っこの方では、翔琉も黄色いベストを付けてジョギングをしているのが見えた。グラウンドの中ではお兄ちゃんも硝磨君も走り回っていた。試合は、どうもお兄ちゃんのチームが0-1で負けているみたいで、私が応援の声を出すと、グラウンド反対側に居た翔琉が気づいたみたいで、手を挙げていたのだけど、私は、この時 お兄ちゃんに声を掛けたので、どうでも良かったのだ。でも、そのお陰かどうか 前半終了間際に、硝磨とお兄ちゃんの連携でシュートが決まっていた。終了時には、もう1点取って2-1で勝っていたのだ。

 試合が終わって、次の試合が始まっても、私はグラウンドの縁に座り込んでいると、お兄ちゃんと硝磨君が寄ってきて

「水澄ちゃんの応援のお陰で勝てたよー お礼にハンバーグでも食べに行くか?」

「硝磨 いいんだよー ほっとけ」と、お兄ちゃんは硝磨君の腕を取って「水澄 門限4時な ワックス掛けあるからー」と言い捨てて、連れて行ったのだ。私には、もったいないぐらいのお兄様なのだ。

 しばらくして、ポツンと座っている私のもとに翔琉君がやってきて

「しばらく振りやのー ちょっと やつれたんかぁー」十蔵も一緒だったんだけど、気を利かせたのか、別れて帰って行ったみたい。

「そんなんちゃうけどなー ちょっと 精神的になー」

「兄貴から聞いた 卓球部に入ったんやてー?」

「うん やってみようと思ってなー」

「やってみようってー 辛いのか? あそこ 大変やろー トップクラスやん」

「そーみたい でも 頑張ってみる」

「水澄はなんで そんな きついとこにばっかー 飛び込んでいくネン?」

「ふふっ 何でやろねー そーいう 運命になってしもーたんやろか」

「何 他人事みたいにゆうとんネン 何か食べにいこーか?」

「ステーキ  お好み焼きのん」

「そーかー 女の子って 好きやもんなー」

 駅の近くでお好み焼きのお店を探して、食べながら

「なぁ やっぱり 別の中学に行くと会うの難しいんなぁー」

「まぁ 生活リズムも違うしなー」

「私 間違ったんやろか 翔琉と会えんよーなるし 卓球部にも入ったから帰りも遅くて・・・誰かが駅まで迎えに来るから・・・会う訳にもいかんしー」

「そんなことないやろー 有名女子校に行ってるんやしー 卓球やって自分を伸ばす為やろーぅ がんばれやー」

「だってさー・・・ 翔琉と・・・最近ね 日曜日だってね お母さんがね 翔琉と会うのを避けさせてるみたいでー 辛いネン」私は、泣きそうになっていた。

「ふ~ん 裸の水澄を抱いたのばれたのかなー」

「それは無いと思う 誰にも言って無いし 二人だけの秘密やからー」

「水澄のとこは名門やろー 男のことで変なウワサになるのを避けてるだけちゃうかー? あのさー 朝は? 毎日はちょっと辛いけどー そう 金曜だけなら 俺 早い目に家を出て駅に行くよー 少しだけでも会えるだろう?」

「・・・ほんま? ・・・悪いよー」

「そんなのー 好きな女の子の涙 見るくらいならー 平気だよ! 何時の電車だ?」

「うん 7時3分の準急」

「わかった じゃー 15分前で良いか? 金曜日」

「うん ・・・ ありがとう・・・何か TVドラマみたい (金曜日の15分だけのデート)」

「ちゃかしてる?」

「そんなことないよー 翔琉 だ~ぃ 好き」と、私 ルンルン気分でお兄ちゃんとの約束の4時に間に合うように急いで帰って行ったのだ。
 

 

4-4

 その日から私は、ガツガツと勉強も そして 夜もお風呂に入る前には外に出て玄関の前で反復横跳び、ジャンプと体力づくりをしていた。勉強でもクラスのトップを そして、クラブでも早く正式メンバーになろうと目指していたのだ。

 そして、5月連休前に石切コーチに私と香ちゃんが呼ばれて

「素振りを教えるからやってみなさい」と、ラケットを渡された。

 私がそのラケットを受取って、右手で持ったり左手に変えたりしていると

「どうしたの?」

「あのー 私 どっちで持てばいいんだろうって 悩んで・・・」

「利き手のほうよ!」

「私 字を書くのとかナイフは左だけど、ボールを投げたりするのは右だったんです」

「ふ~ん バドミントンとか やったこと無い?」

「う~ん どっちも使ってたみたい」

「ソフトボールで打つのは?」

「それも どっちでも その時の気分でー」

「ややこしいのねー まぁ 最初は好きなほうでー そのうち やりやすい方を決めなさい」と、コーチは面倒になってきたみたいだった。

 そして、コーチはお手本を見せながら「いい? 額のところまで持ってきて、その時に必ずラケットは水平にするの 最初はこれが基本だから しっかり型を身体で覚えなさい」

 「ちょっと 水澄 横っ飛びして腰を落としてスマッシュ 反対に跳んでスマッシュをくりかえしてみて」

「えー こうですか?」と、私は言われたことやって見せて、何回か繰り返した後

「わかった 水澄 もっと 下の方から大きくね それとラケットは面が真直ぐになるようにして、額の前で手首を返して水平になるように心掛けなさい 後は二人で、あそこにみんなと並んでやっていなさい」と、言いつけて行ってしまった。

 練習が終わって、モップ掛けをしていると、コーチがやって来て

「水澄 やってみなさい」と、言ってきた。私は、何のことかと思って・・・ポンカとしていると「ほらっ ラケット持ちなさい」

 私は はっ として、ラケットを取りにいって、右手に持って、素振りを始めたら「左に持ち換えて、横ッ飛びしてみせてー」と、しばらく続けて

「どう? 左と右と どっちがやりやすいの?」

「う~ん 右脚のほうが踏んばり効くから、左のほうが振り切れるみたいな感じです」 

「そうね 左のほうがスマッシュに勢いがあるわ あなた 今日初めてラケット握ったんでしょ? 他の新入生の中ではスピードがあるわよ 腰まわりが大きくない割には足腰もしっかりしているみたい 頑張って練習してね!」

「ハイ! 私 いつも 加賀野先輩を見させてもらってますからー 勉強になります 左利きみたいでー」

「そう ふふっ でも 真似だけじゃぁ 越えられないわよ」

 連休になる前の金曜日。朝、先に翔琉君は来てくれていたのだ。

「おはよう 今日も暑くなりそーだね」

「おぉー 元気良いな 良いことあったのか?」

「ウン 昨日ね コーチに褒められたっていうか 励まされてね 特別にね きっと 私って 見込みあるんよ」

「単じゅぅーん そんなの せっかく入ってきた新入生だから あまぁーい言葉で引き留めようとしてるだけさー」

「もぉーぉ そんなんちゃうって! ラケットも持って帰ってええって言うから 夜も素振りしてんねんでー」

「水澄って やり出すと まっしぐらやからなー あのさー 連休の間でバーベキューをやろうって お母さんが水澄も誘えって」

「うっ 私 行きたいけどなー お母さんが・・・」

「まぁ ちゃんと決まったら 兄貴が達樹さんに連絡するからー」

「・・・うん・・・」私は、おそらく なんだかんだと用事を作るなりして反対されるだろうと思っていた。

 その夜、お兄ちゃんに

「多分 硝磨さんが バーベキュー誘ってくるよ あそこンチでやるんだって 翔琉が言っていた」

「ふ~ん 水澄 会っているのか?」

「うん 金曜日の朝だけ ちょこっとね お母さんには内緒ね」

「そうかー お前 なんか 可哀そーだな」

「そんなことないけどー でも そのバーベキューも きっと 行かせてもらえないかも・・・」

「う~ん そこまで反対しないと思うけどなー」

「そんなことないよ! 考えてみると お正月に翔琉ンチに行ったじゃぁない あれから お母さん変わったのよ 急に 私に太子女学園に行けって言い出したり 私が翔琉が逢うのを邪魔したり・・・」

「水澄 それは 考えすぎじゃぁないか?」

「だって 日曜の度に用事言いつけられるんだよー 学校帰りにも必ずお迎えでー」

「うん まぁ 多少は 水澄ももう中学生なんだし 男女交際には敏感になっているんかもなー 特に、翔琉とは仲が良いしー」

「だってさー 幼稚園からの・・・だよ」

「でも キスしたんだろう」

「お母さんにバラしたの?」

「いいや 秘密なんだろう?」

「それにしても 他に 何かあるわ きっと・・・ お母さんの娘の勘よ」