豊臣秀吉が異世界で無双系姫騎士やるってよ


 

第1話:不足尽くしの強国

 
前書き
前回のあらすじ

太閤豊臣秀吉は跡取り息子である秀頼の誕生を大いに喜んだ。
しかし!
この時秀吉は既に58歳。
秀頼が立派に元服する姿を見届けるにはあまりにも遅過ぎた……
そこで、秀吉は優秀な家臣の中から五大老や五奉行を選抜し、秀頼と豊臣家の今後を託して息を引き取った……
享年62歳……

へべく…… 

 
ん?……
ワシの目が開く?
何故開く?
ワシは死んだ筈では……
それに……ここはどこじゃ?
天井も……何じゃこの柵は?
牢の割には上ががら空き―――
……
何じゃこれは!?
これがワシの手!?
まるで赤子ではないか!?
ワシは何時の間にこんなに手が縮んだんだ!?
それに……足が上手く動かせん!
何かの束縛を受けていないのに足が動かんとは……
まさか……足も縮んだのか!?
そうじゃ!起き上がる事ぐらいは出来る筈じゃ!
……あれ?……
頭が異様に重いぞ?……
まるで横になって寝る事しか出来ない赤子になったみた……
……はっ!
無い無い!それは無い!
その様な妖術が在るなら既に他の誰かが使っておるわ!
あーははははははははは!
……
そんな冗談を言ってる場合じゃないぞ。
この様な手足でどうやって動けと言うのじゃ?
む?
誰か来た?
「産まれたか?」
「はい。もうお抱きなっても大丈夫です」
う……
産まれたぁー!?
ちょっと待て!
ワシは本当に赤子に戻ってしまったと言うのか!?
そんな馬鹿な!何かの間違いじゃ!その様な異様な妖術がこの世に在る筈が!
それに、ワシを持ち上げようとしている者の姿、どう視ても南蛮人か紅毛人だぞ!
「して、我が子の性別は?」
「姫君にございます」
「娘か」
姫君ぃー!?娘ぇー!?
ワシは男だぞ!
こやつら何処に目を付けておるのじゃ!
「で、陛下、お名前は?」
「名か……」
ワシは秀吉じゃ!関白・大政大臣の!
信長様の許で働き、必死に戦果を稼いで、必死に登り詰め、太閤として死んだ!
つまり、このワシがこんな所で赤子となって女子となって……何を言っておるのじゃワシはぁーーーーー!?
「……オラウ・タ……今日からこの者をオラウ・タ・ムソーウと呼ぼうぞ」
何で……
どうしてこうなったあぁーーーーー!

どう言う原理なのか……
かつて豊臣秀吉だった私は、ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に産まれ変わった……様です……
……本当に……どう言う原理……
ま、私をあのままにしていたら、間違いなく病に殺されていたので、まぁ儲けもんと考えてオラウとして生きていこう……
……と思ったのですが……
このムソーウ王国の軍隊……何か変です。
私が聴いた話だと、このムソーウ王国は常勝無敗の無敵の強国……だ、そうですが……
豊臣秀吉(わたし)が視た限りだと、祖国(このくに)は常勝軍団が常備するべきモノが1つも無いとしか言えません!
なのに祖国(このくに)が常勝軍団を維持し続ける事が出来るのは、階級が部将以上の将校全員が……まるで作り話に出てくる一騎当千の様に強過ぎるからだ!
どうやら、祖国(このくに)の軍隊の階級は対象者に鬼の様な強さを求めておる様で、例え貴族や大臣、王族関係者であろうと定められた強さを下回った時点で例外無く部将未満に降格させられる決まりです。
それが……祖国(このくに)の戦略や戦術を真っ直ぐで幼稚な御粗末な体たらくに変えてしまった……様です。
ま、1人で数十人の敵を何度も木の葉の様に吹き飛ばせる化物が大勢いると、かなり油断したらそうなりますわな……
が、これがヤバい!
こんな獣の様な大昔な戦い方を続けていたら、豊臣秀吉(わたし)祖国(このくに)に来るまでに見たり聞いたりした戦上手の思う壺だ!
間違い無く!
幸い、私にはまだ前世である豊臣秀吉の記憶や知識が有る!
これを活かせば、いずれは祖国(このくに)の戦略や戦術は徐々に改善する!……筈……多分……きっと……
と言うか……豊臣秀吉の記憶を祖国(このくに)の戦術に吸収させる為には、この私が部将以上の将校になって部隊を率いないと!
……私はまた覚える事が増えてしまった……
礼儀作法、語学、音楽、乗馬、ダンス、歴史、文学、芸術……
ただでさえ覚える事が星の数程あるのに……

私は14歳になった。
そして……私の太刀筋を弓矢や鉄砲の弾の様に飛ばせる様になりました。
祖国(このくに)にとっては一般的な戦技の1つに過ぎない様ですが、豊臣秀吉(わたし)がかつて居た世界では、これが出来た時点で奇跡です。
「姫様、大分お強く成られましたな?ご立派です」
教官がお世辞を言い、訓練生が拍手で私を迎えた。
と言っても、これで漸くスタートライン……祖国(このくに)で部将以上の地位を確保するのに10年近く掛かってしまった……
不幸中の幸いなのが、この間に祖国(このくに)を襲う敵がいなかった事。
いや……恐らくはいたと思うが、そいつらの戦術が祖国(このくに)と大して変わらないので、祖国(このくに)のお得意である直接戦闘に持ち込まれてあっさり撃破された可能性が高い。
豊臣秀吉(わたし)にとってはそれが致命的にヤバい!
つまり……どいつもこいつも戦術のイロハを知らぬ馬鹿ばかりと言う事だ!?
もしこの状態で戦上手な敵に襲われたら、祖国(このくに)はひとたまりもないぞ!
そして……
……その危惧が現実になりつつあった。
「亡命!?マッホーウ法国の王家が我が国にだと!?」
どうやら、弱小小国にすぎなかったエイジオブ帝国が何故か急に無謀な大規模侵略を開始したと言うのだ。
このエイジオブ帝国、勝率はそんなに高くない筈なのだけど、何故か最後はエイジオブ帝国に有能な戦士を皆殺しにされ領土を奪い尽くされて終わってしまうそうです。
……知りたい!
エイジオブ帝国がどうやってマッホーウ法国に勝利したのか!
「御父様!その亡命して来た者達とお話したいのですが―――」
「聞いてどうする?」
え?
「どうするって、それはエイジオブ帝国の必勝の秘密を―――」
「聞いてどうする?」
え……質問の意味が解りかねますが……
「確かにマッホーウ法国は我が国が誇る戦技に勝るとも劣らない魔法を多く修得している。それが戦技や魔法に乏しい弱小のエイジオブ帝国如きにと言いうのが不思議に思うのは解る」
「解るのならなおの事―――」
「だが!我々にはこのムソーウ王国を支えた数々の戦技が有る!あんな弱小小国如きに敗けはせんわぁー!」
「おーーーーー!」
私の父親が強気な勝利宣言に一同が強気な怒号を叫ぶが……この状況のヤバさに気付いている人……何人いるの!?
敗北者の所業の逆を行うは戦術の基本中の基本……それが出来ないのって相当ヤバいんですけど!
本当に祖国(このくに)は戦術のイロハを知らな過ぎる!
急がねば……早く豊臣秀吉の記憶や知識を祖国(このくに)の戦術に吸収させなきゃ……間違いなく祖国(このくに)はエイジオブ帝国に敗けるぞ! 
 

 
後書き
オラウ・タ・ムソーウ

年齢:14歳
性別:女性
身長:147cm
体重:42.2㎏
体型:B84/W55/H81
胸囲:E65
職業:王女
武器:後期型パルチザン風ショートソード
戦技:光刃、一閃、剣の舞
趣味:日記、女遊び、ティータイム
好物:美女、美少女
嫌物:幼稚過ぎる戦術、醜男
特技:戦略、戦術、豪遊、人たらし
前世:豊臣秀吉

ムソーウ王国第三王女として異世界転生した豊臣秀吉。
ムソーウ王国の王女としての教養を身につける一方、ムソーウ王国の将校必須である驚異的で一騎当千な戦闘力も身につけており、剣から衝撃波を飛ばすなどの戦技を習得している。
直接戦闘の方は文字通りの一騎当千だが戦略や戦術は幼稚過ぎるムソーウ王国の真っ直ぐ過ぎる戦い方に悪戦苦闘しながら、豊臣秀吉の記憶と知識を頼りに謎の弱小小国エイジオブ帝国の野望を打ち砕くべく戦い続ける。
イメージモデルはミルヒオーレ・F・ビスコッティ【DOG DAYS】とミーア・ルーナ・ティアムーン【ティアムーン帝国物語】。 

 

第2話:忍者が足りない……

 
前書き
前回のあらすじ

ムソーウ王国第三王女『オラウ・タ・ムソーウ』に転生した『豊臣秀吉』は、敗戦し壊滅したマッホーウ法国の救援要請を受けて謎の元弱小国エイジオブ帝国と合戦する事になった。
だが、肝心のムソーウ王国とマッホーウ法国がファイアーエムブレム無双やDOGDAYSシリーズの様な戦い方をし、階級が部将以上の将校全員(例外無し)に戦国無双2のプレイアブルキャラクターに匹敵する戦闘力とファイアーエムブレム無双風花雪月やDOGDAYSシリーズの様な戦技か魔法の修得が必須な為、、戦略と戦術が致命的に幼稚化していた……
そこでオラウはムソーウ王国やマッホーウ法国に足りない物を1つ1つ整理しようとするが、その度にこの戦いが前途多難である事を思い知らされて愕然。
こうしてオラウは、ムソーウ王国の完敗を予感しながらもムソーウ王国の部将としてエイジオブ帝国と戦う事にしたのでした。

へべく! 

 
いやぁ……
ムソーウ王国の戦術の立て直しを本格的に始めて初めて気付いたのだが……
(笑)(くさ)生えるくらい……
忍者(くさ)が足りない!
じゃあなんだ!?
祖国(このくに)は今までどうやって諜報を行ってきたと言うのだ!?
情報収集(それ)だけじゃない!
噂流布、破壊工作、罠設置、暗殺……
忍者(くさ)の仕事や重要性は多岐にわたる。
それが居ないとなると……
ん?
情報収集がままならない状態で部将としての初仕事をしなきゃいけないと言うのだが、何だこの木材の数は?防御拠点を増やすの?
本陣内に櫓を用意する事はよくある事だが、本当にそれだけなのかが気になる……
「私達は敵の斥候を討伐するのですよね?野営地建設と櫓建設にしては木材が多い気がするのですが?」
すると、私は何故か笑われた。
「姫様は初陣がまだ済まされておられないだけあって、敵が何処にいるのかを知る方法をご存知無いとお見受けする」
それを聴いて……私は愕然としてクラッとした。
ひょっとして……未だに高井楼と望遠鏡に頼った警戒以外の諜報を一切しておらんと言うのか!?
頼む!この嫌な予感が私の見当違いな勘違いであってくれ!
……
……
……
……本当に草原のど真ん中に高井楼を建ておった……
「……これで敵の何が解ると言うのですか?」
「敵がどの方向にいるのかが解ります!」
そう自信満々に言われんでも解るよ。
私が訊きたいのはその先!
つまり、高井楼から見下ろしただけでは解らない敵の中身じゃ!
「……で……敵がどの方向にいるのかを知った後はどうするのですか?」
「勿論、我々はその方向に向かって進軍するのです」
弓兵!仕事しろ!
こんなどデカい高井楼をわざわざ作って、やる事は進軍方向決定だけか?
「おーい、敵が何処にいるか解るかぁー」
なんだこの暢気な会話は?
斥候部隊とは言え、いやしくも敵だぞ!
せめて敵の伏兵の場所を発見せなんだら、こんな諜報のイロハを知らぬふざけた高井楼などぶっ壊して―――
「えー、敵は東の」
その高井楼が敵の攻撃を受けてあっさり転倒・倒壊した。
「砲撃か!?」
はい。あっさりこちらの高井楼の負け。
この様子だと、敵はかなり優秀な大筒をお持ちの様で……
こっちは戦術どころか諜報のイロハすら解らぬ馬鹿揃いだと言うのに……
「何が遭った!?」
「……決まってるでしょ……敵の攻撃です……」
「何を言っているのです姫様!エイジオブ帝国は戦技や魔法に乏しい弱小国!この様な器用な事は不可能です」
あー……
馬鹿だこいつら……
祖国(このくに)は鉄砲や大筒の事をまったくご存知無い様で……
しかも、敵を過小評価するは愚策の中の愚策。それを平気で行うとは……
「何をしている!早く櫓を直せ!敵の―――」
駄目だ!こんな状態で敵鉄砲隊と戦えば、こちらは間違いなく全滅して皆殺しにされる!
「後退だ……」
「……姫様?何を馬鹿な事を仰っているのです?」
何?その馬鹿を見下すかの様な顔は?
この様な状態で敵鉄砲隊と戦えと?
死にたいのかお前は!
「後退だ!これは命令だ!」
「馬鹿な事を言わんでください!そんな事をしたら敵に逃げる背中を見せてしまいますぞ!今直ぐお考え直しを!」
何で自分達の全滅を避ける為に逃げろと言った私が説得されにゃいかんのだ?
勇猛果敢もこれでは無知無謀よな……
「いいから後退だ!これは勝敗どころか生死すら左右する事だぞ!早く!」

なんとか敵大筒の次の攻撃から逃げ切ったが……
……どいつもこいつも私の後退命令への愚痴しか言わぬ。中には他の将校と私を比べて「そっちの方が良かった」とか言う輩までいる……
とは言われましても、あんな敵の鉄砲や大筒の数がまったく解らずな状態で突撃命令を出せと?
アホか!
そんな事をしたら、私達は全滅だ!信長様が長篠で武田家をコテンパンにした時の様に!
くっ!
豊臣秀吉(わたし)は信長様の許で多くの戦を経験したと思い込んでいたが、それはただの慢心だったか?
この期に及んで、漸く勇猛果敢で無知蒙昧な部隊を率いながら未知の敵と戦う事の困難さを思い知るとは……
……あーーーーー!
神よ!勝利の女神よ!
この迷えるオラウ・タ・ムソーウに忍者(くさ)を与えたまええぇーーーーー!
「こんな所で何をやっている!」
「ひゃ!?す、すいません!」
なんだ?
「また貴方でしたか?戦場(ここ)は貴方が来る場所ではありません」
「でも!僕もマッホーウ法国の―――」
「ですが!」
「どうかしましたか?」
「チッ!」
こいつ!
全力舌打ちじゃなかったか今の……
「ごめんなさい!」
それに引き換え、何でこの子供は謝っておるのじゃ?
「でも……でも、僕もマッホーウ法国の王子だ。だから、マッホーウ法国の役に立ちたいんだ」
そうでしたの―――
「何言ってんだ。大した魔法も使えない癖に」
このバカ!
私が出した後退命令に対する不満もあってか、このガキ……もとい!覚悟を決めたいくさ人に対して客将相手とは思えぬ雑で乱暴な扱いしおって。
でも、今はこの王子様の事に集中だ。
でないと……この馬鹿共への怒りと忍者(くさ)不足による不安で気が狂いそうじゃ。
「で、実際にどのような魔法を?」
が、この質問が悪かったのか、さっきまでいくさ人の様な顔をしておった王子様の表情が曇った。
「……小動物を操る魔法と……動物と会話する魔法……」
「他には?」
「……以上……です」
あー、なるほどね。
つまり、1発で数十人の敵を吹き飛ばせるほどの魔法が撃てないから……
ん?……小動物を操る……
これだぁーーーーー!
「何でそれをもっと早く言ってくれなかったんだ!?」
「え?……何の事?」
「小動物を操る話じゃ!」
その途端、馬鹿共は「この馬鹿女の頭が遂に狂ったか」だの「こいつは救い難い馬鹿だ」だのと、この豊臣秀吉(わたし)を馬鹿にしよる。
つまり……私にこの子が小動物を操る魔法が使える事実が伝わるのがこんなに遅くなったのは、この馬鹿共が小動物を操る魔法の戦術的重要性と危険性に全く気付いていないからって訳ね。
祖国(このくに)の戦術を立て直す取り組み……これでますます困難になったな……こんな致命的な『宝の持ち腐れ』をしでかすとは……
あぁー!もう無視!
「して、どのくらいの大きさの動物を操れる」
「ポメラニアンくらいの大きさの動物が限界です」
かえって好都合!
熊や虎だと偵察じゃなくて強襲になってしまうが、その程度の大きさなら諜報として十分使える!
このオラウ・タ・ムソーウ!漸く優秀な忍者(くさ)を得たぞ!
「なら!……その前に名前じゃ。何と言う?」
「え?……『アニマ・マッホーウ』」
「ではアニマよ!早速その小動物を操る魔法を私の言う通りに使用して貰おう!」
その途端……救い難い馬鹿共が「やっぱこの馬鹿女に軍を指揮する資格が無い」と抜かしおる。それがアニマの自信を奪ってしまう。
「……やっぱり……みんなの言う通り、僕には姉さんの様な強さは―――」
「違う!」
「……え?……」
この点は早い段階ではっきりさせて修正しないと、このアニマもこの馬鹿共が行う間違った戦術に完全に染まって致命的な間違いを犯す!
せっかくの貴重な忍者(くさ)に、その様な致命的な間違いはさせん!
「武器を振り回して敵を薙倒すだけが戦争ではない!敵を知り敵に嫌われる、それもまた戦争じゃ!」
「敵を……知る?」
「そうじゃ!お前には敵の全てを知り尽くす才能が眠っている!それをこの豊臣秀吉(わたし)が見事に開花させ、お望み通りのこの戦争に欠かせない逸材にしてやろう!約束じゃ!」
……その途端……馬鹿共の中からこの豊臣秀吉(わたし)を見下げ果てて私の許を去る者が出始めおった。
「……駄目だな……この女はもう駄目だ……」
「戦争を何だと思っているんだこの馬鹿女は?ま、あの時の後退を命じた時点で、この女は完全に馬鹿だと気付いていたがな」
無視だ無視!
今はアニマが使える魔法をどう有効活用しようかを必死に考える方が先じゃ!
……と言いたいところだが……私がアニマの魔法に夢中になり過ぎた事が、後でとんでもない形で私の首を絞めようとは……
この時の私は夢にも思わんかった……

一方、エイジオブ帝国側は上官の進軍再開命令に副官が困惑していた。
「ですが中隊長、我々の今回の任務は斥候射撃の筈では?」
「だからこその進軍再開だ」
「と、申しますと?」
「あの敵将が何か変だったからだ」
「変?」
「俺が聞いたムソーウ王国の将校は、その全てが勇猛果敢な一騎当千だそうだ」
「それは私も聞いております」
「だが、実際に戦ってみてどうだ。俺達がちょっと前哨を破壊したくらいであの逃げ足だぞ?」
「確かにあの逃げ足は勇猛果敢とは程遠いですが……あの敵将が唯の臆病なだけでは?」
そんな副官の予想に対し、上官は困った顔をしながら首を横に振った。
「俺にはどうもそれだけには視えない。あの逃げ足……わざとの様な気がしてならんのだ」
副官はそこで漸く上官の言いたい事を理解した。
「つまり、あの敵将が魅せた逃げ足が罠か臆病かを確かめる為に、と言う事ですな?」
副官の言葉に上官がニヤッと笑うが、
「しっしっ!あっち行け!」
「ん?何の騒ぎだ?」
部下が必死に手を振っているので、何が遭ったのかを確かめるべく上官が其処に向かう。
「何が遭った?」
だが、部下は気楽に答えた。
「すいません。この蜂が意外としつこくて……あー、もう!いい加減にしろ!」
その途端、上官が激怒した。
「馬鹿もん!」
「え!?」
「蜂を素手で追い払うな!毒針に当たって体調が崩れてしまうだろうが!」
「え!?ですが―――」
「体調の悪化は部隊の乱れ!体調管理を怠ったら、勝てる戦いに敗けてしまうだろうが!」
「……すいません」
どうやらこの上官は、オラウが慎重に部隊の後退を選んだだけで『救い難い無能』のレッテルを張った戦術知らずのムソーウ王国軍一般兵達とは違ってそこそこ賢い様だ。
が、その賢さ故に蜂を素手で払う行為を止めさせた事が、この上官が率いる部隊の後々の敗因になろうとは……

翌朝……
敵は進軍を再開した様だ。
アニマが操った蜂の話によると、今回の敵将は豊臣秀吉(わたし)が出した後退命令に罠の気配を感じているそうだ。
実際はただの準備不足なだけだったのだがな。
あの敵将、結果的にではあるがその慎重さに自分の首を絞められたな。
とは言え……もしエイジオブ帝国の将校全員が今回の敵将と同じくらい賢かったら、戦下手過ぎるムソーウ王国の勝ち目はますます減るぞ!
早く何とかしないと!
「む?停まれぇー!」
敵将が立ち塞がる私を発見して部隊を停止させる。
くぅー!ますますあの馬鹿共にこいつの慎重さを見習わせたい!
とは言え、ここで開戦となっては今回の作戦が根底から崩れる。
……攻めて視るか。
「光刃!」
私が思いっきり裏一文字を放つやいなや、光の斬撃が銃弾に様に敵に向かってすっ飛んで往く。そして、それだけで数十人の敵を木の葉の様に吹き飛ばす。
これがムソーウ王国が誇る戦技の1つ。
ムソーウ王国軍にはこの様な1人で数十人の敵を一瞬で討ち取れる戦技が沢山有る。
が、それに頼り過ぎたかどいつもこいつも本物の猪が名誉棄損で訴えてきそうなくらいの猪武者に成り下がりおった。
そうやって過剰な戦力に物を言わせて不要な突撃を行い、気付けば死地に堕ちる馬鹿はごまんといる。
私はそんな馬鹿げた死に方は御免だ。
寧ろ……
「あー!逃げたぞぉー!追え!追えぇー!」
そうだ!
豊臣秀吉(わたし)は逃げたぞ!さっさと追って来い!
しばらくして、私がとある洞窟に逃げ込むと、敵達も一同に追って来る……だったら良かったんだけどなぁ!
私の後ろの足音が減ったと言う事は、敵全員がこの洞窟に入った訳ではなさそうね……本当にムソーウ王国とエイジオブ帝国の戦術の差がマジで凄い……
とは言え、これだけの敵鉄砲隊をここまで誘き出せば上等か!
敵は、私が反転して攻撃を再開する素振りを魅せた途端、私に向かって鉄砲を構えるが、
「あれ?……なんだ!?炭酸粉がパチパチ言わない!」
「これでは鉄の球を遠くに飛ばせない!」
「何がどうなっているんだ!?」
ここで自慢げに豊臣秀吉(わたし)が華麗にネタバラシをする。
「フフフ、まんまと引っ掛かったな?」
「な!?……我々の小型投石器に何をした?」
「なぁーに、この洞窟の湿気を利用しただけよ。この洞窟の湿気がお前達の火薬と火縄をお釈迦にしてくれたのよ」
因みに、この洞窟もアニマが近くにいた蝙蝠から訊き出してくれたモノ。アニマには本当に感謝だ!
すると、鉄砲隊を率いていたリーダーが必死に叫ぶ。
「誰か火を持って来い!炭酸粉を温めて湿気を飛ばすのだ!」
おーおー、大慌てですなぁ。
だが、お前達の火縄が正気に戻るのを待つ心算は無い!
ムソーウ王国の自慢の戦技でこいつらを蹴散らしてみるか!
先ずは先程もだした『光刃』!
光の魔力を宿した剣撃を銃弾の様に飛ばす技じゃ!
続いては『一閃』。
高速ダッシュしながらすれ違い様に敵に渾身の裏一文字を浴びせる移動を兼ねた技!
そして『剣の舞い』。
ジグザグに前進しながら裏一文字を3連発する回避にも使える技じゃ!
しかも、そのどれもが一騎当千の破壊力!
あっという間に敵鉄砲隊は全滅だ。
我ながら凄いと思いつつ……これに溺れない様に最新の注意を払わねばな。
……さて、外にいる敵将に遭いに往くか。
敵将は、私の顔を視た途端、中に入った手下の全滅を悟ったのか、勇猛果敢で無知蒙昧な馬鹿共とは真逆な命令を下しおった。
「誰でも良い!早く帝都に逃げ込め!そして、この女がどれだけ危険かを上の連中に正しく伝えるのだ!往けぇー!」
それはつまり……こいつらが私を過剰に危険視している事の表れ。
普通に考えれば誉と思える事なのだろうが、ムソーウ王国の戦略と戦術が完全に死に体の現地点ではかえって困る。
せめて他の馬鹿共と同列扱いして貰わねば!
つまり、私がやる事はただ1つ……
ムソーウ王国自慢の戦技を使ってこいつらを全滅させた。1人も残さずだ。
とは言え……この敵将は本当は欲しかったなぁ……私の周りは全員馬鹿ばっかだから!
さて……そんな馬鹿共を1人も死なせずに完勝したまでは良かったが……
「姫様!今回の愚行の数々に関する出頭命令が出ておりますので、至急国王の許にお向かい下さい!」
何故か私の支持率は大幅に減衰していた……
私達は勝ったんだよ!?こっちは1人も死んでいないんだよ!なのに何で!?
もう嫌だ祖国(このくに)いぃー! 
 

 
後書き
アニマ・マッホーウ

年齢:10歳
性別:男性
身長:139cm
体重:35.1㎏
職業:元王子
魔法:小動物を操る(ポメラニアン程の大きさが上限)、動物と会話出来る
趣味:動物飼育、魔法の勉強
好物:平和、活躍の場、仲間達の役に立つ事
嫌物:不正、侮辱的発言、無力な自分
特技:動物と会話する
苦手:強力な攻撃魔法会得

姉と共にムソーウ王国に亡命したマッホーウ法国の王子。
祖国を滅ぼした怨敵エイジオブ帝国との戦いで自分も役に立ちたいと考えてはいるが、優しくてお人好しな性格が災いしたのか動物操作系魔法しか習得出来ず、戦力とみなされない日々が続いていたが、そんな彼に諜報員としての才能を見出したオラウに拾われた事で事態は一変、周囲から戦力外と侮辱されつつもオラウに叱咤激励され続けた結果、オラウが率いる部隊に必要不可欠な敏腕諜報員へと成長した。 

 

第3話:ズルの意味を知る人が足りない……

 
前書き
前回のあらすじ

ムソーウ王国の戦術の立て直しに着手したいオラウだったが、早速スパイ不足と言う難題にぶつかり頭を抱えていた。
そこで目を付けたのが、ムソーウ王国に亡命したマッホーウ法国王家の生き残り『アニマ・マッホーウ』。
彼は小動物を操る魔法と動物と会話する魔法しか使用できない為、大規模な攻撃魔法が使える姉と違って戦力外通告を受けていました。
それに対し、オラウはアニマが使用する魔法に戦術的重要性と危険性を感じ取って強引に自分の配下にしてしまいます。
姉の様な強さが無いアニマは自信喪失していましたが、「武器を振り回すだけが戦いじゃない」とオラウに説得され小動物を操って敵の先鋒隊に関する重大情報をゲット!
更に予想合戦地点近くに敵鉄砲隊を弱体化させるのに適した洞窟がある事実もついでにゲット!
こうして、ほぼ無傷で敵先鋒隊に完勝したオラウでした。

へべく! 

 
父上であるムソーウ王国国王に謁見するやいなや、私はいきなり大声て怒鳴られてしまった。
「この大馬鹿者!」
何で私が怒られているの?
私、部下を1人も殺さずに敵に勝ったんだよ!
「櫓を1つ破壊されただけで逃走とは、貴様は我が国の信頼を潰す気か!?」
いやいや!
部下の命を惜しんで撤退を命じるより、部下を無駄に犬死させ続ける方がヤバいでしょ普通!
それが解らぬ様では、長篠で信長様に敗けた武田勝頼の方がまーだ戦上手だぞ。
「それと、戦場での使い道が一切無いアニマを無理矢理戦場に連れて往くとは、貴様の目は節穴か!」
そこまで言うのであれば、高井楼や望遠鏡より優秀な諜報方法を沢山用意して下さいまし。そうすれば、アニマの動物を操る魔法に頼らずとも勝利して魅せますわ!
と言うか……私の父上ながら……アニマの動物を操る魔法の恐ろしさをまるで解っておらぬなこの馬鹿は!
「その上、不要な移動をして労力の無駄使いを犯すとは、お前は本当に部隊を指揮する資格が有るのか!?」
それは全て敵鉄砲隊を無力化する為の策……つまり『逃げるふり』と言う物ではないですかぁ。
そう言えば、九州の島津も『逃げるふり』が大好きだったなぁ……
「まったく、褒める点が1つも無いとは……貴様は我を『無能な愛娘を部将に仕立て上げた親バカ』と罵る心算か!」
馬鹿はアンタだよ。
と言うか、『逃げるふり』が救い難いズルと言ってる時点で、本当に戦争に勝つ心算なのかを疑う。
かつての豊臣秀吉(わたし)なんか、『逃げるふり』とは比べ物にならない程のズルを沢山してきたんだよ!
墨俣一夜城!
三木城干殺し!
高松城水攻め!
大宴会in小田原城前!
それに比べたら、『逃げるふり』なんて可愛い初歩ではございませぬか!
「と言う訳で」
どう言う訳?意味が解りませぇーん。
「オラウ・タ・ムソーウは降格!以後、トッシン将軍の許で正しい戦い方をちゃんと学ぶ様に!」
しまったぁー!
ツッコミどころが多過ぎて、言い訳や屁理屈を言う暇が無かったぁー!
それより、豊臣秀吉(わたし)が現地点でもっと気にする事をせめて訊かねば。
「この私が降格した事で、私の部下となったアニマ・マッホーウの配属先に変化はあるのですか?」
だが、その答えが……
「馬鹿者!」
何でじゃ!?
「そんな事だから貴様の目は節穴だと言うのだ!」
いや、だからアニマの動物を操る魔法は使い方によっては物凄く危険な―――
「兵士達がお前の事をなんて呼んでいるか知ってるか?」
そのタイミングでそれを言うとは……嫌な予感しかしないなぁ……
「無能愚行姫だ馬鹿者め!トッシンにはお前に正しい戦い方をちゃんと伝授させるから、ちゃんと正しく学ぶのだぞ!」
正しい戦い方?
そんなものはございませーん。
強いて言えば、『適才適所』と『臨機応変』がそれに該当するのだろうな。

で、トッシンの許に向かう前にアニマを他の部隊に盗られない様に色々と言いくるめようとしたのだが……
「何でだよ!」
ななな何だ!?
「何でオラウさんと一緒に行っちゃいけないんだよ!」
何ぃ!?
そんな事をされたら、豊臣秀吉(わたし)の諜報手段があの馬鹿共と一緒になってしまうではないか!
そこで私は私からアニマを奪おうとしているあの女を言いくるめようとするが、私の肩を誰かが引っ張った。
ハッキリ言って邪魔です!急いでるんですけど!
「まさかと思いますが、ヌードン様が行っておられるアニマへの説教を妨害する御心算ですか?」
その言い回し……嫌な予感しかいないんですけど……
「説教とは?」
「オラウ様は先程の王の言葉をもうお忘れか?」
まあ……あんな馬鹿げた台詞を覚える理由が1つも無いしな……
ちょっと待て……と言う事は……
「あの様な戦う術が無い者に戦場に立つ資格はありません!その事をアニマにきつく言っておられるのです!」
……頭が痛い……
合戦をなめているのか!
忍者(くさ)が徹底的かつ致命的に不足している状況でアニマまで失ったら……
まさかと思うが、この馬鹿もアニマの動物を操る魔法の恐ろしさを知らぬと言うのか?
「もし、それでもまだアニマを戦場に連行すると言うのであれば、残念ながらオラウ様に部隊を指揮する資格が無いと判断せざるおえませんぞ」
ムソーウ王国もマッホーウ法国も、強大な攻撃力と防御力に物を言わせて突撃するだけの単純馬鹿なのか?
本当にそうなら、豊臣秀吉(わたし)はエイジオブ帝国に寝返りたくなるぞ……
結局、ヌードンと言う馬鹿女に無力なのに戦場に立ちたがるアニマへの説教を……
任せとうないのに!傍目から視たら任せる形で出陣した様にか見えない大恥を掻きながら出陣させられた!いや!戦場に連行された!
……
……
……
……また……高井楼……
「では復習といきましょうか」
どうやら、こいつがトッシンと言う男の様だが、まさかと思うが豊臣秀吉(わたし)に高井楼の必要性を説く心算か?
「先ずは適度な場所に櫓を建て―――」
「そこを本陣とし、敵勢力に備える」
「違います!」
はあぁー!?
「建てた櫓の上に弓兵を登らせ、そこから矢や焙烙玉を投げつける」
「まったく違います!」
はああぁぁーー!?
防御拠点でもなければ攻撃手段でもないだとおぉー!?
じゃあ、この高井楼に何をさせる気じゃ!?
「そこから敵の居場所を見て突撃方向を知る。それすら解らぬ様では、一般兵に笑われて当然ですぞ!」
……また……高井楼に諜報作業を押し付けてる……
大陸に伝わる三国志にて凡将と揶揄されている袁紹の方がまーだ高井楼を正しく使いこなしておったぞ?
「と……ところで敵の中身や正体はどうやって調べるんですの?」
「何を馬鹿な事を言っているのです!どうせ叩きのめすのですから、その様な事を知っても意味がありませんぞ!」
敵を徹底的に完膚なきまで叩きのめす為に正体を知るんだろうが!
あーーーーー!
この馬鹿共の口を縫い合わせたいぃーーーーー!

一方、エイジオブ帝国側は自分達がたった今破壊した櫓を急ぎ修復するトッシン隊に呆れていた。
「おいおい!暢気な者だなぁ」
「今の内にこの投鉄器で穴だらけにしちまうかぁ?」
エイジオブ帝国の鉄砲隊が敵将トッシンを馬鹿にし侮る(実際本当に致命的戦下手だが)中、この第二次斥候部隊を率いる部隊長は困惑していた。
(これは、いつも通りのムソーウ王国の常套戦法!私が読んだ手紙と違う!)
そう、オラウに滅ぼされた第一次斥候部隊は、オラウのムソーウ王国の常套戦法から逸脱した行動を危惧して本国に手紙を送っていたのだ。
が、肝心のオラウがムソーウ国王の理不尽過ぎる怒りを買い、部将からトッシン将軍の部下に降格させられたので、オラウは図らずも第一次斥候部隊に魅せた慎重さを発揮できないのだ。
それが第二次斥候部隊の隊長を混乱させたのだ。
「何故あの者はこんな手紙を帝都に送ったのだ?我々が事前に調べた通りの単純思考ではないか……」
「中隊長、目の前の暢気な敵部隊を如何いたしますか?」
隊長は迷いつつも決断する。
「……1回、当たって視るか。準備を」
「は!」
「だがその前に、例の物を置ける場所を教えて貰おう」
それを聴いた副官は邪な笑みを浮かべながら答えた。
「既に調査済みでございます♪」
「よろしい。では直ぐに手配しろ」
「は♪」
こうして……
ムソーウ王国とエイジオブ帝国の諜報力の圧倒的過ぎる差が、トッシン将軍の首を絞める事になるが、それをエイジオブ帝国以外に予想出来たのは……オラウのみであった……

トッシンとか言う馬鹿が指揮する部隊が、無謀にも勇猛果敢に敵部隊に突撃しおったが、トッシンが強過ぎて誰もトッシンの無謀さに気付いておらなんだ。
トッシンがパンチを連発すれば数十人の敵が宙に浮かび、トッシンが渾身のパンチを撃てば数十人の敵が木の葉の様に吹き飛び、トッシンがパンチを繰り出しながら突進すれば数十人の敵を舞い散らしながら敵部隊内に道を作る……
正に鎧袖一触の一騎当千。
それを観た配下の兵士達はそんなトッシンの強さを疑う事無く付いて行く……
敵が何を企んでいるのかを疑う事無く!
「ちゃんとトッシン様の正しい戦い方を学べよ、馬鹿女」
私の配下だった兵士の1人がすれ違い様に言った嫌味な言葉に、豊臣秀吉(わたし)のムソーウ王国の戦術に対する不安は更に高まった。
つまりこいつら、自分の強大過ぎる力に振り回される様に自分の失敗に対する恐怖心を完全に失ったのだ。
ズルい卑怯者ほど失敗を恐れ敗北を嫌う。
犯した失敗が自分の首を絞める事を知り勝者に全てを奪われると知ってるからだ。
故に力を欲し、策を弄し、罠を仕掛け、嘘を吐き、甘言を用意する。
失敗しない為。敗北しない為。
失敗を恐れる卑怯者ほどズルに対する罪悪感が薄い!
特に今回の戦の様な敗北が死に直結する場面では特にズルくなる!
だが……
一騎当千と鎧袖一触に慣れ過ぎたムソーウ王国は失敗と敗北の恐ろしさを完全に忘れ、ズルをする余裕を完全に失った。
だから……ムソーウ王国の戦術はどんどん幼稚化して単純化した。
高井楼と望遠鏡に諜報作業を丸投げしたのも、敵部隊との直接対決も突撃一辺倒のみなのも、ズルしなくても必ず完全勝利できると過信し過ぎたからだ!
そして、そんなヤバ過ぎる勘違いを助長しているのが同調圧力。つまり、豊臣秀吉(わたし)の様なムソーウ王国の強さを過小評価してズルに頼る卑怯者は救い難い馬鹿でしかないのだ。
正に危険過ぎる致命的な悪循環だ!
あまりに盲目!
闘将ではなく愚将!野望ではなく無謀!
「オラウさん!右です!」
ん?右?
何でアニマの声が聞こえるのか解らぬまま、何も考えずに右を向いてしまった私は、漸く敵伏兵の気配に気付いた。
しまったあぁーーーーー!
考え事をし過ぎて周囲への警戒を完全に忘れておったあぁーーーーー!
だが、肝心のトッシンの馬鹿垂れは背後からアニマの声が聞こえた事に不満を感じ、顔を左に向けながら(・・・・・・・)後ろを見おった……
「右?こんな所にいてはいけない筈のアニマ殿が、何故その様な見当違い―――」
その直後、私達の右脇にいた敵伏兵の銃弾がトッシンの後頭部に命中して眉間を貫通した……
つまり、トッシンは自分の無謀さの代償を支払うかの様にあっけなく死んだのだ。
と、豊臣秀吉(わたし)が考えていると、更に前にいるトッシンに吹き飛ばされた歩兵隊の後ろに隠れていた鉄砲隊も隠していた牙をむき出しにしおった!
右から前から絶え間なく放たれる銃弾が、何の疑いも無くトッシンの無謀な突撃に同行した兵士達が次々と物言わぬ屍となった……
これは不味い!
どう視てもこちら側の全滅は免れないが、私もそれに巻き込まれて討死するのか?
せめて敵伏兵の居場所が解っておれば―――
「敵は前と右だけだよ!」
背後から聞こえる声が誰なのかを確認すると、そこには、軍を追い出された筈のアニマがおった!
「アニマ!お前は確か!?」
「ごめんなさい!でも、オラウさん以外に馬鹿にされて悔しかったんだ!だから!」
許可無く勝手に私について来てしまった事を誤るアニマだが、今は寧ろありがたい!
「謝る理由は無いぞアニマ!寧ろ愛してるわ!」
「あ!?愛してる!?」
アニマの奴、顔を赤くしおってかわゆい奴よ。
って!そんな場合じゃないな!
「で、敵大将はどっちにおるか解るか?」
「1番偉そうなのは、あそこの方眼鏡の御爺さんだよ!」
上等!
やはりアニマの動物を操る魔法は、忍者(くさ)不足に悩む豊臣秀吉(わたし)にとっては救世主よ!
で、私が光刃を放って前方にいる敵鉄砲隊ごとアニマが言ったおっさんを吹き飛ばす。
そうなれば現金なもので、指揮官を失った混乱が早々と敵にも浸透する。
エイジオブ帝国は戦技や魔法に乏し過ぎると言うが、それを数と武器と策で誤魔化そうとした。
が、故にその策を支える指揮官が突然死亡すれば、簡単に敵は混乱する。何をしたら良いのか解らなくなるからのう!
「アニマ!今の内に逃げるぞ!」
その時、豊臣秀吉(わたし)は自分の部隊に無謀な突撃を強要した報いを受ける様に討死したトッシンの遺体が目に入ったので、こいつの首を持ち帰ってトッシンの間違いを堂々と訴えようと思ったが、
「何故だ……」
先程ズルに走りかけた豊臣秀吉(わたし)を徹底的に馬鹿にした一般兵の最期の言葉が、豊臣秀吉(わたし)の目と耳に入った。
「トッシン様の戦い方には全て正しい筈なのに……何故……何故……」
……これは……トッシンが何で死んだのかを必死に訴え、何故戦争にズルが必要かを伝えても、聞く側が理解出来なければ意味が無いと悟り、それなら、まだ使い道があるアニマを生きてこの戦場から助け出す方が得策だな!
こうして、私はアニマを連れてこの敗戦濃厚な戦場を脱出してトッシンの遺体をその戦場に置き去りにした。
そんな事をしたら、敵軍は大将首を得たと喜び士気が上がってしまうだろう……
だが、生きておれば……生還さえ出来れば逆転の可能性がある。
豊臣秀吉(わたし)はそっちに賭ける事にしたのだ!
幸い、アニマもトッシンを殺した戦場から無事生還した様だしな!それが1番大きい!

私は、自身がムソーウ王国の将校としての実力を有している事を証明する為の決闘に勝利し、アニマを私が率いる部隊に置く事を許可された。
アニマはこの事に首を傾げた様で、
「何でこんな事をしてるんですか?将校に成りたいのであれば素直にそう言えば―――」
アニマの言う事も尤もだが、それは聞く側がそこそこ賢くてそこそこ部下想いな者であればの話じゃ。
「それが1番の近道であればそうするし、それが1番正しい事なのだろうが、馬鹿な頑固者の説得にはかなぁーりの時間が掛かるし、トッシンとか言う突撃馬鹿が戦死したくらいで戦術が180度変わると言うのであれば、とっくの昔に戦術を変えとるわ」
「それじゃあ、トッシンさんの死は何だったの?」
アニマのこの質問に豊臣秀吉(わたし)は冷徹に答えた。
「無駄死にどころか祖国(このくに)にとってはいい迷惑じゃ。犬死ですらない」
「じゃあ、トッシンさんの戦い方が間違ってる事をちゃんと言えば良いんじゃないの?」
アニマの言葉は正しい。
強大な力を振り回しながら突撃するだけで戦争に勝利出来るのであれば誰のも苦労しない。
だが、正しい台詞と人を動かす台詞は別物。
言い分がどんなに正しくたって、聞く側が不快となればそこに喧嘩が生まれ不和となる。
「言えるものならもう言ってるよ。だが、私達の国は突撃だけで完全勝利する事に慣れ過ぎてる。突撃以外の方法でも勝てる事を学ばせる為にもじっくり時間をかける必要が有る」
それを聴いたアニマが豊臣秀吉(わたし)を悩ませる質問をしおった。
「オラウさんて、本当は戦争が嫌いなの?」
……この質問、単純に「嫌い」と言えば済む問題ではない。
置かれている立場によって「嫌い」の理由が変わるからだ。しかも、立場によっては「嫌い」ではなく「好き」になってしまう事も有る訳で……
「連勝し続けられる内は好きでいられるが、それは失うの恐ろしさを知らぬ者の戯言でしかない。豊臣秀吉(わたし)は既に失う事がどれだけ恐ろしいか知ってるからこそ突撃以外の戦い方に拘る事が出来る。だが、そうではない上に敗北を経験した事が無い馬鹿は、何故下々が失うを過剰に恐れるのかが解らん。それが戦争の罪。戦争など最凶ズル決定戦でしかない」
多くの戦を経験して数多のズルを犯して来たこの豊臣秀吉(わたし)が言うのだ。間違いない!
「なら、戦争はズルばっかだって事をハッキリ言えば良いじゃん」
そう!その通り!
その通り……何じゃが……
「言っても信じて貰えずに真意が伝わらないのであれば、言った意味は全く無い。だから、かなぁーり時間が掛かっても態度と結果で示すしかない。不器用な事この上ないがな」
そう。悲しかな、どんなに努力や細工を行おうと、結果が届かなければ誰もその努力や策謀は理解されない。
全員ではないと信じたいが、良い結果と悪い結果とでは鍛錬や策謀についての伝わり方が完全に真逆となる。
「アニマ、お前だって何もしていないのに役立たずの汚名を着るのは辛かろう?」
「うっ」
ここでアニマが言葉に詰まるとは……マッホーウ法国もムソーウ王国と同じ穴の狢か?
強大な攻撃魔法をふんだんに使った突撃以外の戦術が一切無く、故にアニマが使用する動物を操る魔法の真の恐ろしさを解らぬ訳か……
この先にある数々の困難が透けて見えて辛いのう……
「だから、私達で思い知らせてやろうではないか!私達の戦い方も間違いではないと!」
これは、優秀な忍者(くさ)になり得た筈のアニマがマッホーウ法国の間違った常識と戦術への復讐であり、この豊臣秀吉(わたし)に救い難い馬鹿共を預けて丸投げしたこの世界への豊臣秀吉(わたし)の逆襲でもある!
「さあ!戦いの始まりだ!」 
 

 
後書き
【戦い方をゲームやアニメなどに例えると】

オラウ・タ・ムソーウ:横山光輝版三国志、ギレンの野望シリーズ、信長の野望・新生、太閤立志伝V DX

エイジオブ帝国:Age of Empires II(トルコ)

ムソーウ王国、マッホーウ法国:DOGDAYSシリーズ、ファイナルファイト、タイムクライシス 

 

第4話:遺族への配慮が足りない……

 
前書き
前回のあらすじ

せっかく勝利したオラウ隊でしたが、褒められるどころか敗走するふりをしながら敵を死地に追いやる戦法が卑怯過ぎると叱責されてオラウは降格。
そんな真っ直ぐで幼稚過ぎて現実離れしたムソーウ王国の戦術に改めて頭を抱えるオラウ。
更に、せっかく配下にしたアニマとも離れ離れとなり、それがアニマと姉との仲違いを更に悪化させる結果になってしまいました。切ない……
その後、ムソーウ王国屈指の闘将の副将として正しい戦い方を学べと命じられたオラウは、ムソーウ王国の今後にますます不安を感じます。
で、今回の戦闘のターゲットはこのおじいちゃん(エイジオブ帝国現場監督官)。
このおじいちゃん、見た目に反して本隊を囮に別動隊を敵軍の右脇に配置して挟み撃ちにするちょっと小狡いお方。
結局、この程度の伏兵攻撃すら予想出来なかった真っ直ぐ過ぎる闘将はあっけなく死亡。
一般兵をかなぁーり失いながらターゲットを辛くも撃破して帰還したオラウは、言葉選びを注意しながら自分の復権を懇願。無事に部将に返り咲く事が出来たのでした。

へべく! 

 
オラウに中隊長を2人も殺されたエイジオブ帝国であったが、エイジオブ帝国には微々たるダメージであり、寧ろ、2度の斥候射撃だけでムソーウ王国が誇る名将である豪腕将のトッシンを討ち斃した事もあってか士気が高かった。
「ほほう……これは幸先が良いですな……」
部下の報告を聴いて邪な笑みを浮かべるマスカレードアイマスクを着た少年は『イナオリ・ネッジー』。エイジオブ帝国王室側近軍師を務める重要人物である。
「それと、例の砦を予定通りの数建築しておきました」
「順調だな」
イナオリにそう言われた斥候兵はニヤリと笑った。
「はっ」
「して……」
「既にその命令は各部隊長にお伝えしております」
イオナリが満足気に頷いた。
「上出来だな?」
「ありがたき御言葉です」

さて……
やって来ましたエイジオブ帝国が領土内に建築した砦前に。
砦を囲む石壁の四隅に大筒を備えた櫓を備え、石壁の内にも複数の櫓が点在。兵舎と倉庫を備えて鉄砲隊が常に砦内を警備している。
この前のトッシンの様な無謀な突撃の様な無策な力押しでは落ちはせん。
幸い、豊臣秀吉(わたし)の隣に動物を操る魔法を使えるアニマがいるから、この敵砦の本当の目的が解るのだ。
それは、敵地に眠る資源の横取り。
あの敵砦から出てきた者達は明らかに兵士ではなかったので、気になってアニマが操る動物に尾行させてその意味を調べさせた。
その効果は絶大だった。
あの敵砦から出て来た連中は、祖国(このくに)にある森を無許可で切り倒して木を敵砦に持ち帰ろうとしていたのだ。
ならば簡単だ!
祖国(このくに)から木材を強奪しようとしている木こりを皆殺しにし、その上であの敵砦を干殺す!
そうすれば、こちら側の一般兵の被害は最小限に抑えられる……筈だったんだけどなぁー……
「オラウ様!貴女様はこの近くにいる木こりの皆殺しを厳命するばかりで、本来行うべき敵城への突撃を怠るとは!本当にこの様な怠惰のままで良いと思っておられるのですか!?」
私の馬鹿親父が、豊臣秀吉(わたし)の許に馬鹿なお目付け役を送り付けおった……
恐らく……豊臣秀吉(わたし)を野放しにすればトッシンの様な無謀な突撃をサボると読んでの対策なのだろうが……
寧ろ迷惑だ!
あんなのに突撃すれば、例え落とせてもこちら側の被害も大きいし、寧ろこちら側が敗ける可能性の方が大きい。
城攻めする時は、敵の3倍の数をもって挑むべし!
それくらい解って欲しいモノだが、そんな戦術の常識を祖国(このくに)に浸透させるのを阻んでいるのは、やはりあの豊富な一騎当千の戦技だ。
恐らくだが、私の光刃を使えばあの大筒を備えた櫓を一撃で破壊出来るだろう。
しかし、本当にそんな事をしたら私達の戦術は遠大な干殺しから短絡的な突撃に移行してしまう。それは避けたい!
「確かに、私の戦技を使えばあの様な小砦を落とすのは容易い!」
我ながら随分見当違いな事を言っておるなぁ私。
「なら―――」
「だが、今はその時期ではない。しばし待て」
「何を言っておられるのです!我々は既に大分待ちました!寧ろ、我々の攻撃が遅過ぎて敵に……嗤われておりますぞ!」
……こいつは確かドウカァーとか言ったか?
この程度待たされるくらいで敵が私達の動きの遅さを嘲笑うって、この豊臣秀吉(わたし)に徳川殿が三方原で犯した失策をやらせて味方を全滅させる心算なのか?
でも、ドウカァーは悪い人間じゃないし悪人に向いている性格とは言い難い。
そんな彼を間違った方向に向かわせたのは、ムソーウ王国が誇る一騎当千の戦技が蔓延させてしまった突撃至上主義と言う名の悪しき同調圧力。
こればかりはドウカァーだけが悪い訳ではない。寧ろ、致命的な間違いが蔓延している惨状に対して何の対策もしてこなかった王族に責任がある!だからこそ、そんな無責任な王族の1人である豊臣秀吉(わたし)が蔓延した悪習を払拭する戦術を率先して行わなければならんのだ!
……なのになぁ……
ちょっと突撃を躊躇したくらいで直ぐ無能扱いするのを辞めて欲しいんだけどなぁ……

一方、オラウ大隊に包囲されているエイジオブ帝国の大隊長の『ヨツメ』は困っていた。
エイジオブ帝国の思惑とは程遠いオラウの動きに。
「あいつらぁ……何時になったらこの砦を攻めてくれるんだよ!?」
そう。
エイジオブ帝国の今回の作戦は、ムソーウ王国の無知蒙昧な突撃至上主義を想定しての事だからだ。
だが、肝心のオラウ大隊は突撃至上とは程遠い慎重路線。
しかも、
「それどころか、木を切る人がいっこうにこの砦に戻って来ません」
「戻ってこないだと!?1人もか!?」
「……はい」
部下の報告を聞いて愕然とするヨツメ。
「俺達はムソーウ王国をなめてたと言うのか?」
「と……申しますと?」
「あいつら、俺達の空腹を待っていると言うのか?」
そんなヨツメの嫌な予感を部下は否定する。
「ですが、あのムソーウ王国がその様な時間が掛かる作戦を行うとは思えません」
だが、ヨツメはそんな事前報告に惑わされている部下を叱りつける。
「じゃあ何でこの砦を出発した木を切る人が何時まで経っても帰ってこねぇ?あいつらが木を切る人のみを狙って攻撃してるとしか思えねぇだろ!?」
今回オラウが行っているのは、正にヨツメの予想通りである。

……だが。
オラウの様な慎重な戦いを行うムソーウ王国将校は、オラウだけであった。
その証拠に、戦況報告を受けたイナオリはムソーウ王国のエイジオブ帝国側の砦の落城数に驚愕しつつしてやったりな邪な笑みを浮かべていた。
(想定内ぃ……だが問題は無い!ムソーウ王国侵略計画に必要なのはムソーウ王国一般兵達の疲労とそれに伴う不安だ。ムソーウ王国軍が無茶すれば無茶するほど僕達が用意した毒は力を増す。浴びれば終わり……)
そう!ムソーウ王国は自信過剰な慢心による突撃一辺倒が祟ってイナオリの手の平で踊らされているのだ!
しかも、マッホーウ法国と同じ轍を踏んでいるのだ!マッホーウ法国の亡命を許可しておきながら。
やはり、オラウの言う通りにマッホーウ法国から敗因を訊き出すべきだったのだ。だが、ムソーウ王国もマッホーウ法国も自分達の一騎当千ぶりを過信してそれを怠ってしまったのだ。
故に……
「伝令!」
伝令兵が慌てて駆け込んで、片膝をつくのもめんどくさげに慌てていた。
「ん?どうした?」
「ヨツメ隊、未だに敵部隊と交戦せず!」
さっきまで機嫌が良かったイオナリの顔がみるみる青くなる。
「交戦せずだと!?それは本当か!?」
イオナリは必死に祈りつつ伝令兵の報告を聴くが、伝令兵の報告はイオナリの都合の悪い物ばかりであった。
「はい!1度も……しかも!それ以来、木を切る人がヨツメ隊が警備する(フリをしている)砦に戻って来なくなりました!」
「戻ってこないだと!?1人もか!」
伝令兵は沈黙した。これは、消極的な肯定でもあった。
それがイオナリにある嫌な予感を抱かせた。
「まさか……その敵部隊はヨツメ隊の空腹を待っているのか?」
奇しくも、ヨツメとイオナリの見解は一致したのだが、イオナリと一緒に伝令兵の報告を聴いた者はそれを否定した。
「それは無いと思いますよ」
そんな楽観的な意見に対してイオナリは激怒した。
「根拠は!?」
「いや……ですが、それだとムソーウ王国らしさとは明らかに違います」
「それくらい解っとるわ!だが現実を視よ」
楽観的な意見を言った部下を一喝すると、伝令兵に質問した。
「で、そのヨツメ隊と戦う気が無い部隊の名は?」
「オラウ・タ・ムソーウ……ムソーウ王国第三王女との事です」
そう、オラウはムソーウ王国恒例の単純過ぎる戦い方とは真逆過ぎる慎重でズルい戦術に拘り過ぎて、エイジオブ帝国最強の駒の警戒心を買ってしまったのだ。
「オラウ……」

さて……
あの砦と対峙してからまだ1週間。この程度ではあいつらはまだ参らんだろうな。
それに、今まで戦ってきたエイジオブ帝国の将校のあの賢さから考えて、そろそろ自分達が兵糧攻めを受けている事に気付いておるだろう。
……ん?
ドウカァー達が並んで私の前に立っている?
まさかと思うが……嫌な予感しかせんのう……
「オラウ様!」
うん……嫌な予感が更に増したのう……
「兄君であるカミカゼ様やマッホーウ法国から亡命なされたヌードン様は、既にエイジオブ帝国の砦を8つ以上も落としております!」
1週間で砦8個おぉーーーーー!?
これって、エイジオブ帝国が弱過ぎるだのって感じじゃないぞ!
まさか無人の砦……いや、流石に無いか。
無人の砦とは言え、砦は砦。落とせればそれだけこちら側の士気が上がる。
なら、やはりエイジオブ帝国が弱過ぎるからか……いや、前回の戦いから考えてそれも考えにくい。
では、ムソーウ王国やマッホーウ法国が強過ぎるからか……それではエイジオブ帝国に敗れたマッホーウ法国の生き残りがムソーウ王国に亡命した話と矛盾する。
ドウカァー共が今からやろうとしている馬鹿げた事とは、別の意味で嫌な予感がする。
「それに引き換え!我々は未だに砦を1つも落としておりません!」
おいおい。敵の砦を落とす速度と落とした数しか観ておらんのか?
たった1週間で砦を8つは流石に敵が弱過ぎると不思議に思わんのか?
数々の城を落として来たこの豊臣秀吉(わたし)の勘が、ムソーウ王国が死地に足を踏み入れかけていると必死に訴えていると言うのに!
「ですので!我々にも敵砦への突撃命令を、お願いします!」
ドウカァーがそう言うと……私の配下の一般兵全員が深々と立礼しおった。
これが非常に困った。
かつての豊臣秀吉(わたし)なら速攻で却下するのだが、私のオラウとしての初陣が却下してはいけないと訴えておる……
そう!
こやつらはこうやって私の将校としての技量を試しておるのだ!
これはつまり、こやつらに突撃を下知する程の度量が有るかを計っておるのじゃ!
だが!豊臣秀吉(わたし)の様なズルを主体とする卑怯な智将にとっては愚の骨頂!迷惑の極み!
かと言って、こやつらの説得に失敗すればムソーウ王国は豊臣秀吉(わたし)に司令官不向きの烙印を再び容赦無く押すだろう。
さて……
どうしたものか―――
その時、豊臣秀吉(わたし)は何故か菊子(淀君)と拾(秀頼)の事を思い出してしまった。
何故このタイミングで?……
そうか!豊臣秀吉(わたし)が突撃至上主義のムソーウ王国第三王女として再び生を受けたにも拘らず、未だにズルい戦術を繰り返したがるのはそう言う事か!?
拾(秀頼)よ!私は初めてお前に命を救われたぞ!

「君達、家族いる?」
私の予想外の言葉にこやつらがキョトンとしておる。それだけ私の第一声は予想外過ぎたのだろう。
「何故です?なぜこのタイミングで家族の話を?」
「この私がお前達の家族の恨みを買いたくないからだ」
……こやつら……私が言ってる意味が理解出来ずに首を傾げておる……
「何故です?オラウ様が我々に突撃命令を出したくらいで我々の息子達がオラウ様を恨むのです?寧ろ、オラウ様が突撃命令を出すのを躊躇して我々の名誉を傷つけた事の方が、我々の息子達の恨みを買う可能性が非常に高いのでは?」
……こやつら……本当に馬鹿過ぎる!
こんな簡単な事すら豊臣秀吉(わたし)が丁寧に教えないと解らぬとは!
こやつらの家族は堪ったもんじゃないのおぉ!
「違うな!愛する者を失った遺族の恨みの前では、その様な戦い一辺倒の綺麗事は効かぬ!」
その途端、突撃命令を得るべく私に頭を下げた連中の中から不満の声が次々と叫ばれる。
「では何か!?俺の妻はこの戦いの重要性を理解出来ないくらい馬鹿だと罵るか!?」
「俺の親父が聞いたら!必ず怒り狂うぞ!」
「我が娘が何の戦果も揚げず逃げ帰った我を見て喜ぶと本気で思っておるのか!」
「やはり貴様は、私や私の息子に恥を掻かせるだけの汚物じゃ!」
本当にこやつらの家族は堪ったもんじゃないのおぉ!待たされる側の身にもなれ!
「そんなの!お前達の勝手な想像だろ!いや、綺麗事だろ!」
この舌戦、絶対に負けられぬな!この馬鹿共の帰りを待つ家族の為にも!
「突撃大好きなお前達の言う『戦死』と愛する者の帰りを待つ者の言う『戦死』とでは、重さが違い過ぎるんだよおぉーーーーー!」
「何を言っておる!?名誉の討死を愚弄するか!?」
「愛する者を失った遺族にその様な言い訳が効くか!遺族共は愛する者を失ったんだぞ!」
ここで、豊臣秀吉(わたし)は一気に畳み掛ける!
「遺族にとって、無知蒙昧で無謀愚策に突撃命令を出して愛する者であるお前達を無駄死にさせた私は、愛する者を殺した敵なのだ!そして、遺族達はお前達を犬死させた愚かで馬鹿な私に向かってこう言うだろう……『こいつさえいなければ私の夫は死なずに済んだのに!』、『俺の父が死んだのに何で貴様がのうのうと生きている!?』、『俺の恋人を返せ!この馬鹿女が!』、『貴様を殺してわしも死ぬぅー!』などとな!」
豊臣秀吉(わたし)の熱弁にキョトンとするドウカァー達。
まあそうだろう。
お前達の家族がお前達の言う名誉の戦死を完全否定したと言っておるのだからな。
「……では……オラウ様は我々に……どうしろと言うのです……」
豊臣秀吉(わたし)はハッキリと言ってやった。
「そんなの決まっている。お前らが死なずに敵に勝利すれば良いだけの事じゃ」
ま、豊臣秀吉(わたし)は本当にその様な事が出来るとは思っておらんがな。
戦場に進んで立つ事は死に急ぐと同義じゃ。
だが!だからと言って味方の損害を最小限に抑える努力を怠って良い理由とも思っておらん!
味方の損害を最小限に抑えながら敵に最大限の損害を与える!豊臣秀吉(わたし)のズルはその為にあるのだ!
「だからお前達に今この場で誓おう」
そう言いながら私の首に豊臣秀吉(わたし)の刃を突き付ける。
「私のこの命に賭けて!お前達の家族に愛する者を失う苦痛を絶対に与えないと!」
そんな豊臣秀吉(わたし)のズルいワガママにとっては、『兵を損なわずに敵を皆殺しにする方法など、決して存在しない』と言う残酷な現実など知った事か!
私は豊臣秀吉(わたし)の戦い方で戦う!ムソーウ王国やマッホーウ法国の戦いの流儀と言う名の無謀に素直に付き従う義理は無い!
味方の損害を最小限に抑える為に! 
 

 
後書き
ドウカァー

年齢:50歳
性別:男性
身長:181cm
体重:70.5㎏
職業:オラウ大隊中隊長
武器:ロングソード、ショートスピアー
趣味:演武、模擬戦
好物:突撃、勝利、勇猛
嫌物:臆病、卑怯、遅延
特技:突撃
苦手:高等戦術、慎重、腹芸、深読み

ムソーウ王国百人隊長。ムソーウ王国らしさが不足しているオラウのお目付け役としてオラウ隊に配置された。
最初の内は一騎当千と鎧袖一触に慣れ過ぎたムソーウ王国に所属する兵士特有の突撃至上主義に完全に染まっており、オラウの慎重で遠回りな戦術に不満を抱く事も多かったが、オラウの真意を知って以降は少しずつだがオラウに心酔する様になっていく。
イメージモデルはドゥーガ【王様戦隊キングオージャー】。