その小さな女の子のことが気になってしまったんだが、どう接していけばいいんだろう


 

1-1

 その女の子に気が付いたのは、大学を出て、勤め始めて1か月ほど経った時。5時過ぎ仕事を終えて、いつものように自転車でその公園の横を通って、坂を下りて行くのだが、独りぼっちで、芝生の小高い丘に座り込んで、眼下に見渡せる街並みを眺めているのだ。

 僕は、隣の県の大学を卒業して、4月からこの町のスポーツセンターに勤めていた。就職活動も真面目にやってなかったので、年が明けてから、適当なところが無いかと探し当てたところだった。大学の時はサッカー部に所属していたので、スポーツインストラクターということでちょうど良かったのだったが、実際の仕事といったら、グラウンドの整備に雑草刈り、そして、借りる人の受付とかをするという具合だった。最初はこんな調子じゃぁ無かったはずと思ったが、今では、まぁ気楽でいいかーという気になっていた。支給された名刺にもスポーツインストラクターと並んでグラウンドキーパーの文字が書かれていた。土日は勤務日になっていたのだが、僕は気ままな独り暮らしだし、やることも無いので、別に良かったのだ。

 それから気に掛けていると、毎日、その子の姿を見るようになっていた。そして、いつも独りっきりだった。その横には、赤いランドセルが友達のように置かれている。その日は、しばらくその様子を見ていたのだが、女の子は下に広がる景色を眺めて、ランドセルを膝に乗せて台にして絵を描いているようだった。鉛筆だけで、眼の先の景色と手元の紙だけを見て描いているようなのだ。小学校からここに来るのには、登坂になっていて、子供の足では30分近くかかるだろう。だから、その子の家はここの近所なのかなって考えながら、帰って行った。僕は、駅の近くのアパートを借りていて、キッチンのエリアと一応別れている部屋がある1DKということだったが、2階なので日当たりも良かったし、ベランダもあって洗濯機もそこに置けるようになっていたので、ここに決めていた。それに、就職前には知らなかったけど、住宅手当という形で家賃の半分近くが補助されていたので助かっていた。

 僕は、雨模様の日は歩いて来るようにしていたけど、その日の帰りは雨が降り出していて、帰る時、その公園のほうを見ると、やっぱり女の子は居た。傘をさして、ランドセルを背負って立ったままで、景色を見ていた。ショートパンツに運動靴なのだが、その足元は濡れてぐずぐずになっているようだった。どうしてなんだと気になったのだが、変に声を掛けたりするのもなぁーと躊躇して、そのまま坂道を降りて帰ることにしたのだが、その女の子のことが気になってしょうがなかったのだ。やっぱり、普通じゃあないな、なんか特別な事情があるんだと思っていた。 

 

1-2

 4月も終わりかけで世間はゴールデンウィークになろうかという日。その日は祝日だったけど、僕は出勤日でグラウンドでサッカーをやっている少年たちを見守っていたのだが、お昼休憩の時に、隣の公園のほうに行ってみると、あの女の子が芝生に座って絵を描いているようだったのだ。

 改めてみると、長い髪の毛を左右に分けてゴムで留めている様だった。今日は、ランドセルは無くて、本当に独りぼっちという感じで座っていた。僕は、お昼ご飯には自分で作ったおにぎりを持ってくるようにしていた。以前はお弁当屋の配達のものを食べていたが、だんだんと飽きてきていたので、自分で作るようになっていた。何となく、近づいていくと、女の子は水筒をさげているようだったけど、お昼ご飯らしきものは無かったので

「ここ座って いいかなー」と、言ったけど、女の子はビクッとしてチラッと僕のほうを見ただけで、黙って、又、景色を見て絵を描いていた。長いまつ毛でその瞳も黒く大きく見えて、一瞬、僕はドキっとしたのだ。僕は、構わず、近くに座っておにぎりを取り出した。だけど、女の子は又、ビクっとして、警戒しているみたいだった。

「良かったら これ 食べてくれない? 僕は、ひとつで十分なんだ」と、差し出してみた。女の子はやっぱりチラッとみただけで、鉛筆を置いて、その細い腕で自分の足とズックを隠すようにして、真直ぐ前を見たまま

「いらない」と、ポツンと言ったきりだった。だけど、気のせいかその腕が震えているような・・。

「まぁ そう言うなよ あやしい者じゃぁないよ これ、鰹節を甘く煮ただけだけど うまいぞ」と、女の子の眼の前に差し出した。すると、黙って手に取って食べだしたのだ。

「ありがとう おいしい」と、又、ポツンと言ったきりで・・前を向いたまま景色を見ていた。5年か6年生ぐらいなんだろうか、色あせたようなポロシャツに赤いショートパンツなんだが、汚れて黒ずんでいるような感じだった。そして、日焼していて褐色の細い脚が見えていた。

「ねぇ よく ここに来るの? きれいだよね この景色」

「・・・」

「僕は、そこのスポーツセンターに勤めているんだよ 今年からネ 初めて ここに越してきたんだー だから 知り合いもまだ少ないんだよ」

「・・・」彼女は、左手で足元の小石を拾って、前に投げていた。まるで、早くあっちへ行けって言って抗議しているようだった。

「お嬢ちゃんは 運動は? 好き?」構わず、僕が話し掛けると

「・・・ あのね お母さんから知らない人に話しかけられても、無視しなさいよって言われてるからー 話さないの!」

「そうなんだ 警戒するよね ごめん ごめん じゃぁ 仕事だから、もう、行くネ  退散だ 邪魔しちゃってごめんネ」と、僕は立ち上がって

「そうだ 今度は 知らない人じゃぁないだろう」と、立ち去ろうとしていたら、初めて、その子は僕と眼を合わせてきていた。長いまつ毛の澄んだ可愛い眼差しだった。だけど、相変わらず黙ったままで、又、景色を見つめて絵を描いている女の子に戻っていた。

 

 

1-3

 その日は、少年サッカーの試合なんかも行われていたため、帰りがいつもより遅くなってしまって、もう辺りも暗くなり始めていた。そして、公園のほうを見ると、まだ、あの子が居るのだ。僕は、気になったものだから、驚かさないようにと大きな足音を立てて近づいて行って

「まだ 見ていたの? もう暗くなるから・・」

「・・・」

「あのさー お家の人も心配するんじゃぁない? 家 この近く?」

「・・・」

「僕の名前は 北番 秀《きたばんしゅう》 お嬢ちゃんの名前は?」

「・・・」

「もう 知らない人じゃぁないだろう 一人っきりじゃぁ危険だから送ろうか?」

 相変わらず、前を向いたままだったけど、ポツンと

「もう 帰るから・・ いいの 独りで」

「そうか 大丈夫かい?」と言うと、その子は走って坂道を下って行った。真直ぐに前を見て、振り返るつもりも無かったみたい。その様子を僕は坂の上から見守っていたのだ。束ねた二つの髪の毛も揺れている感じもなかったので、そうとう早く走っているのだろう。

 僕は、その子が見えなくなるまで、そこに居て、ようやく自転車をこぎ出して坂道を降りて行った。何だか、その子に追いつくのも悪いような気がしていたからなのだ。

 帰りにスーパーに寄って、おかずとかを買っていたのだが、ふと、おにぎりに入れる具材にあの子は何が好きなんだろうとか、頭をかすめていた。買い物カートを押しながら、あの子と同じくらいの女の子がお母さんに食べたいものをねだっている様な後継が眼に入った。その様子を見て、僕が、余計な事をする必要ないよナァーあんまり、変なことをすると警戒されるナと、思い直していたのだ。 

 

1-4

 それから、世間の休日の間には、あの子は公園に来てなかったみたいだった。僕は、その間、おにぎりを用意して持っていくようにしていたのだが。

 そして、小学校が始まる日。仕事の帰りに公園を見てみると、あの子が座っていた。僕は、傍に寄っていって

「やぁ 来てたんだ 隣に座っていいかい?」

「・・・」 僕は、構わず座っていた。だけど、その子は自分の座っているところをずらすようにしていて、少し避けているような感じだった。

 見ると、今日も何かの紙に鉛筆で街の絵を描いていた。それも、かなり細かく丁寧に描いていた。おそらく、上手というのだろう。だけど、よく見ると何かのプリントの裏みたいだった。ランドセルを膝の上に乗せて、それを下敷きがわりにして、街並みと手元の紙を交互に見て、僕のことなんか無視しているようだった。確か、この前までは髪の毛を両方に二つに分けていたと思ったが、今日は後ろにひとつにしてゴムで束ねていた。半袖のチェックのブラウスを着ていて、細い首がのぞいていたのだが、その襟元は擦り切れてきているようだった。申し訳ないけど、僕はこの時、この子はあんまり家の人から構ってもらえてないんだなって考えていた。

 連休中に遊びに行ってきたという職場のパートさんからもらったどら焼き饅頭があったのを思い出して、

「もらったんだけど これ食べるかい? 僕はあんこ苦手なんだ」と、彼女の横に包みのまま置いた。彼女はそれをチラッと見たけど、又、無視したように絵を描き続けていた。

「じゃぁー じゃますると悪いから」と、僕が立ち去ろうと歩いている時

「ありがとう おじさんって怪しい人じゃぁないよネ」という声が背中から聞こえた。振り返ってみると、彼女はそのどら焼きを喰らいついているようだったけど、僕には彼女の小さな背中しか見えなかったのだ。

 だけど、帰り道、ようやく打ち解けてきてくれたような気がして、僕は晴れやかな気分だった。だけど、おじさんは無いだろー 

 

1-5

 次の日は朝から雨が降っていて、夕方になるにつれて強くなってきた。僕は、今日は雨模様なので歩いて来ていたのだが、帰るとき公園に眼をやると、あの女の子が傘をさして立ったまま下の景色を見詰めていた。

 僕は、気になってしまったので、近寄って行って

「どうしたの? こんな雨が降ってるのに・・ 何 見てるの?」

「・・・」

「相変わらず だんまりかい? もう 足元がずぶ濡れじゃぁないか」と、僕は着ていたナイロンジャンパーを脱いで、その子の腰から下に巻いていった。その時、腰を引くようにして

「あっ いいんです 構わないでください こんなの困るぅー」

「だって 冷えるだろう そんなに濡れて 風邪ひくよ」と、僕は構わず、女の子の腰の前のところで袖の部分を結んでいって留めていた。

「・・・すみません」

「いいんだよ ねぇ ここで 何してるのー いつも 景色見て」

「・・・」

「あぁ ごめん 余計な お世話だよね じゃぁ お嬢ちゃん 名前ぐらい教えてよー」 

「ゆきむら ななの」

「ななのちゃんかぁー きれいな名前だね どんな字なの?」

「なっぱ なっぱ 野原の野」

「へぇー かわいいね 何年生?」

「6年」

「そうか でも、今日は雨だし 暗くなるの早いから、もう帰りなさいよ おうちの人も心配するだろう?」

「・・・ ダメなの 6時過ぎるまで・・・」

「・・・ダメなのか ふ~ん じゃぁ もう少し 僕も付き合うよ」

「あっ いいんです これ お返しします 帰ってください 私 ひとりで大丈夫です」

「ああ まぁ いいじゃぁないか 今日は 絵 描けないね 絵 描くの 好きなの?」

「・・・そーいうわけじゃぁないけど・・ でも 絵 描いていると 色んなこと忘れられるから・・」

「そうかぁー でも 上手だよ 絵 この前のも 丁寧だし」

「あのね ななはね 絵を描くのにね あのお家は幸せなのかなー不幸なのかなー とか 多分、赤ちゃんが居て、笑っているんかな泣いているんかな とか お金持ちなんだろうか、それとも貧乏 会社だったら 社長さんは怖いんだろうか優しいんだろうかなんて 想像しながら描いているんだぁ」

「そうかぁ 楽しそうだね 君の夢はなんだい?」

「・・・私は・・・夢なんて 持たないようにしてる…持っちゃぁダメなんだよ!」

「そんなー これからだろう まだ ・・・ そのー 子供なんだから」

「そりゃー いろんな人いるよ もう 帰るね おじさん ありがとう ジャンパー 温かかったヨ」と、言うとジャンパーを僕に返して、傘をさしたまま走って坂を下りて行った。

 やっぱり、あの子は複雑な事情を抱えてるんだと僕は考え込んでいた。そして、決して幸せな環境では無いのだろうと。その日は、買い物に行って、若干のお菓子とスケッチブックを買っていたのだ。 

 

1-6

 次の日は朝から素晴らしく晴れていて、僕は朝からグラウンドの伸び始めた雑草を除去していて、午後からもその作業をしていた。4時すぎになって、女の子がやってきて、何故か僕のほうをしばらく見ていたが、公園に向かって行った。

 仕事の終了時間になって、僕は公園を目指していた。少し、ドキドキしているのが自分でもわかっていた。近寄って行って

「やぁ こんにちわ 晴れてよかったネ これ クッキー食べなよー」

 女の子はチラッと見たけど、何にも言わないで、何かのプリントの裏なんだろう、その紙に絵を描き続けていた。僕は、予想していたことなのでポリ袋に入ったお菓子を彼女の横に置いて

「あのさー 事務所に誰も使わないスケッチブックがあったんだよ これっ 使ってくれないか? 誰も使わないから、もったいないからね」と、スケッチブックとビニールの袋に2HとHB.2Bがセットになったものを、彼女の前に置いた。

 彼女はしばらく、それを見詰めていたけど、邪魔なようにそれを振り落として、絵を描き続けていた。

「じゃますると悪いから退散するね」と、僕が帰ろうとして数歩歩いたところで、彼女が追いかけてきて

「あのー こんなの貰う わけに いきません 返します」と、スケッチブックと鉛筆を持って差し出してきた。

「どうして? それで、素敵な絵を描いてよー 僕に ねっ ななのちゃん」と、笑ったつもりだったのだが・・

「・・・」ななのちゃんは、しばらく立ちすくんでいたが

「あっ 私 お尻 濡れている やだー おしっこもらしたみたいになってる」と、お尻の部分を押さえていた。彼女は多分、ハンカチを敷いていたのだろうけど、昨日の雨が浸み出していたみたいだった。

「うふっ だね ななの赤ちゃん」

「ちゃうわー 私・・ あのさー なんで おじさんは ななのこと そんなに構うの?」

「なんでって・・・ななのちゃんは友達だからかなー それに、おじさんは可哀そうだろう? せめてお兄さん」

「友達? ななは 暗いし、笑わないから みんなから除け者なんだよ」

「そんなー 人間はみんな 誰とでも友達になれるように生まれてきてるんだよ ななのちゃんだって」すると、ななのちゃんはしばらく考えている様子だったが

「・・・」黙ったまま、スケッチブックを抱えて、振り向いて戻ってった。だけど、長いまつ毛が濡れていたように思えていた。そして、シヨートパンツの赤が湿って濃くなったところが、くっきりとその可愛いお尻の部分に見えていた。

 そして、次の日も快晴で、公園にはあの子の姿が見えた。僕が近寄っていくと、顔をあげて、僕の顔を見るなり

「シュウ君 この鉛筆書きやすいの」と、初めて見るような可愛い笑顔をしてきた。そして、描いている絵を見せながら

「ここのおうちは 女の子が学校から帰ってきて、お母さんにおやつをおねだりしているところにお兄ちゃんも帰って来たの ここのおうちは泣いている赤ちゃんをお母さんが抱っこしてあやしているの ここのおうちはね お父さんがお仕事お休みで子供とお庭でボール遊びしてるの ・・・それからね・・・ここのアパートの部屋では・・・学校から帰ってきた女の子が・・・誰も居なくてね・・・」

 それ以上は、言葉が続かなかったけど、僕は、その時、ななのちゃんの家庭環境を一瞬見えたような気がしていた。

「そうか いろんなことを考えながら描いているんだね だから、絵の中の街が生きているんだ 上手だよ」

「そう シュウ君のために 一生懸命 描いているんだよ」と、照れくさそうに絵に向かっていた。

「ななのちゃん 僕のこと 友達って認めてくれたんだ」

 彼女はしばらく考えている素振りだったけど、黙ったまま頭を下げて大きく頷いていた。その時から、僕とななのの触れ合いが始まったのだ。

それからは、気軽に挨拶程度は交わしてくれるようになり、僕は、時々お菓子を持って、その場所に訪れていた。 

 

2-1

 梅雨の合間の暑い日、僕は、グラウンドの除草作業で端っこのところで、強い日差しを浴びて、草をむしっていると

「シュウ君 暑いのにご苦労様」と、明るい声で・・・ななのちゃんだ。膝をさすりながら、側に寄ってきてくれた。

「おっ 帰ってきたのかー あれぇー その膝 どうしたの? 血が滲んでるよ」

「うん そこで 溝を飛び越える時、すべっちゃったー でも 平気だよ」

「平気だよじゃぁないだろー バイ菌が入ったら大変だよ 洗おう」と、ななのちゃんの手を握ろうとして、ホールの横にある水道のところに連れて行こうとしていた。だけど、ななのちゃんは咄嗟に手を引っ込めていた。でも、初めて触れるんだけど、ちっちゃくてキャシャな手で鶏のチューリップなんかの骨よりも細いなと感じた。

 側溝を乗り越える時、繋いでいた手を放してしまった時

「いやだぁー 離したら・・」と、小さな声が聞こえた。

「エッ」と、振り向いたけど

「何でもない もう ええねん」と、下を向いて答えていた。

 水道のところで待たせて、事務所からガーゼを持ち出して、擦り傷に付いている砂を洗おうと水に浸して触ると、ビクッとして細い腕で膝を隠すようにしていた。

「痛いよー もう ええってー」

「これっくらい我慢しろよ ちゃんと砂くらい落としておかないとなー」と、ななのちゃんの膝を支えながら、その時、彼女は震えて怯えている感じだったのだけど、僕は、その時、気に留めずに、汚れをふき取って傷テープを貼っておいた。

「よーし これで いいよ そうだ 今日は日差しも強いから、帽子貸してあげるから 被っておけよ」と、僕の被っていた麦藁帽を渡そうとすると

「いらん! 今日から あそこの建物の中で描こうと思ってんねん あそこやったら、雨でもあんまり濡れへんやろー」と、公園の端のほうにある屋根付きのベンチを指さしていた。

 そこは、見晴らしとしては少し悪くって、僕の居るグラウンドからは見通しも良くないので、ななのちゃんの姿があんまり見ることが出来ないので、少し気になったが日差しを避けるためには仕方がないかと思っていた。

 仕事の時間が空いた時に、僕は缶ジュースとパイ菓子をもって、ななのちゃんの様子を見に行った。相変わらず、景色を描いているようだった。

「暑くないかい? これ 差し入れ 休憩しなよ」

「ありがとう ちょっと 喉が渇いていたの」

「これからは 水分取らなきゃー 熱中症になるよ」

「そうだね 水筒持ってくる」

「もう直ぐ 梅雨があけて 夏休みだね ななのちゃんは家族でどっか出掛けるの?」

「・・・」ななのちゃんは黙ったまま、自分の足もとを見たまま下を向いていた。その時、長いまつ毛が濡れているような気がした。一瞬、しまった 悪いことを聞いてしまった と僕は、後悔していた。その場を立ち去ろうとすると

「あのなー シュウ君 ななは お父さん おらへんねん お母さんと 二人っきりなんや だから お金も余裕ないねんて」

「そうか さっき 悪いこと聞いてしまって ごめんな」

「うぅん かまへんでー- シュウ君 友達やから 話しておいたほうが 気が楽やしなー それに、この前 なな 久しぶりに笑ったみたいやった」まつ毛の奥の黒い瞳が光っていた。

「そう ありがとう でも ななのちゃんは明るくていい子なんだからな」

「そんなことないねんで 学校ではなな、暗いから 友達も近寄らへんねん シュウ君だけや 気楽に話せる気がする」

「おぉ 何でも話してくれていいんだよ 相談にも乗るからー」  

 

2-2

それから、雨の日でも公園のベンチにななのちゃんは来ていた。毎日、僕は、近寄っていて何かしら声を掛けていたのだけど、黙ったまま絵を描いている時もあった。

 夏休みになって、朝から来ている様だった。僕は、気になって、お昼休みに寄って行ってみて

「ななのちゃん お昼ご飯は?」

「ウン おにぎりと水筒持ってきてるよ 梅干しとかキュウリの塩もみなんだ でも、大根の葉っぱ炒めたのは、あんまり好きじゃぁないの」

「そうか 食べてんならいいんだけど なんにもないんかなって思ってな」

「大丈夫だよ シュウ君 心配してくれてんだぁー」

「まぁな 一応 不思議ちゃんだからー」

「なによー ななちゃんには シュウ君のほうが不思議ちゃんだよ 私みたいな子に声掛けてきてー 彼女とかに叱られないの?」

「あぁー 彼女なんか居ないよ そういう縁は無いなぁー」

「そう とりたてて女の子にもてる雰囲気ないもんなぁー」

「悪かったなー こっちに その気が無いだけやー」

「うふっ でも シュウ君 なかなかいけてるよ」

「からかうんじゃぁないよ 子供のくせして」

「・・・そんなのー 直ぐに ななは大人になるよー」

「そうか そうか いつかみたいに おしっこ漏らしたみたいになんなきゃぁーな」

「・・・あー だからっ ちゃうってー あん時はぁー もうぅー やだぁー」と、ななのちゃんは、僕の肩を叩いてきていた。

「へへぇー あのさ あさって 僕は休みなんだ  こどもの森に行ってみないか? 1時間ほど歩くけど スライダーとかあるみたいだから いつも ここじゃぁ つまんないだろー」

「・・・なんでー なんで、ななを誘うの?」

「なんでって ななのちゃんが楽しんでくれればいいかなーって」

「・・・行く 本当に連れてってくれるの?」

「ああ もちろん 君が良けりゃー」

「ななちゃんは 楽しみに してる」と、小さな声で下を向いて答えていた。  

 

2-3

次の日、ななのちゃんに会った時

「昨日、ななネ お母さんに 遊びに行くこと話したの スポーツセンターの人とって それと友達3人位ってウソついちゃった そしたら、変な関わり方しないでねって、言われちゃった」

「心配なんだろうね まして、女の子なんだから余計だよ」

「シュウ君 変な人?」

「お母さんからしたら変な人だろうな 一緒に遊びに行くなんてとんでもないって言うだろうね」

「でも 変なことってしないよね? シュウ君は」

「もちろんだよ ななのちゃんは友達のつもりだし・・ 誘ったんは、君がいつもひとりぼっちだから・・ お互い 楽しめればいいかなって思ったんだ 迷惑だったカナ?」

「ううん お母さんには ウソついちゃったけど ななは行きたい」

「ウン あのさー これ 暑いから 余計なお世話なんだけど 買ってきた 明日、被っておいでよ」と、昨日、買ってきたつばがそんなに大きくなくてリボンとか花飾りが取り換えられる麦藁帽を渡しながら

「・・・ こんなの 困るぅ 帽子なんて要らないから・・」

「そう言うなよ 熱射病になっちゃうよ これ 折りたためるらしいから、しまっとけるだろう」

 ななのちゃんは黙ったまま受け取っていた。たぶん、戸惑って考え込んでいるみたいだった。その日、別れる時も、黙ったままだったのだ。
 

 

2-4

 当日の朝、僕たちは銀行の駐車場で待ち合わせをしていた。僕は、お昼ご飯におにぎりと考えたが、暑さでいたむ恐れもあるからと、どっか食べ物屋さんぐらいあるだろうと、タオルと傷テープだけを念のためと思ってリュックに詰め込んでいた。ななのちゃんがやってきた時、小さなリュックと麦藁帽を被っていて

「おはよう シュウ君 これっ 可愛い?」花飾りのほうを付けていたのだ。

「ウン 可愛いよ それはひまわりなのカナ」

「そう なな こんなの初めて ありがとうネ」

「気に入っってもらえてよかったよ さぁ 行こうか 誰かに見られると 具合 悪いんだろー?」

「だね しばらく 離れて歩くね」

 と言いながらも、半分ほど歩いて坂道になってきた時、ななのちゃんは後ろから僕の手を手繰り寄せるようにして繋いできた。

「知ってる人に会ったら 親戚のお兄さんって言っていい?」

「あぁ いいよ 大丈夫? 疲れてない?」

「ウン シュウ君より ななのほうが毎日 歩いているよ 平気!」

 公園に着くと、直ぐに ななのちゃんはロープスライダーに走って行って、数人が並んでいたけど、順番がくると、僕に手を振りながら下っていった。その後、駆け寄ってきて

「すんごく 気持ち良かったよ ねぇ もう一回 行ってきていい?」と、可愛い笑顔して聞いてきていた。

「ウン 帽子 持ってるよ 飛びそうだろー?」ななのちゃんは帽子とリュックを僕に渡すと駆けて行って、又、並んで、自分の番になると、大きく僕に手を振って、今度は足を広げて下っていたのだ。

 その後、長いローラーのスライダーに向かって行って

「シュウ君 前 ななは後ろに付いて滑る」と、僕を前に座らせて、ななのちゃんは僕の背中にくっついて手を廻してきて滑り始めた。真ん中ぐらいにくると

「なぁ お尻 熱いよ 焼けてるんだ」

「そうだね じゃぁ 足つけてしゃがんで滑ろー」と、言われるままにして滑り降りて

「うふっ おもしろい 今度は ななが 前ね」と、又、僕を引っ張っるように連れて行った。僕は、躊躇したが、とりあえず、ななのちゃんの腰のあたりを支えるようにして滑ったのだ。何回かそんな風にして滑った後

「ねぇ なな おにぎりしてきたんだ 食べよっ」と、木陰のベンチを指さしていた。

「おかか 甘くしたの シュウ君が 初めてくれた時 おいしかったから」

「そうかー ななのちゃんが作ってきてくれたんだ じゃー うまいだろう」と、僕は、ちょっと感激して食らいついたていた。

「おいしいよ ななのちゃん じょうずだね」

「よかった おいしいって言ってくれて うれしい」

「ななのちゃんはサー 自分のこと 時々 ななって言うよねー」

「ん なな だから おかしい?」

「いいや いいんじゃないか べつに」

 その後、森のコースを歩いていると、ななのちゃんは僕と腕を組むように手を繋いできて

「シュウ君 恋人同士ってこんな感じなんでしょ?」

「まぁ そうだね 残念ながら ななのちゃんは親戚の女の子だね」

「・・・ななはネ 今日 楽しかったヨ 友達とも こんな風に遊んだこと無かったし 小さい頃、お父さんと遊んでもらったことあった」

「そうか そりゃー 良かったヨ」

「ねぇ 今日だけ? ななは・・ 又、遊びに連れていって欲しい」

「あぁー 機会あったらネ」 

 

2-5

 次の日、ななのちゃんは僕のあげた帽子を被って来ていた。僕は、とりあえず安心したのだ。

「こんにちわ ななのちゃん」

「うん シュウ君 昨日は楽しかったよ ななネ お風呂に入ってる時、気が付いたんだけど、手首のとこ 赤くなってた ロープでカナー」

「そう 必死にしがみついていたもんなー 大丈夫?」

「うん たいしたことないんやー 平気」と、被っていた帽子を脱いで

「夕立になりそうやねー あっちの方 空が黒くなってる」

「そうだね 降られないうちに帰ろうよ」

「ううん まだ帰らない 6時頃まであかんねん」

「そうか じゃぁ 僕も 付き合うよ」

「あのなー シュウ君 なな お父さんおらへんねんって話したやろー 私が小学校に入った頃 突然 おらんようになってん お母さんはおらんようになるのって、うすうす知っていたみたいやったけど」

「そう・・・」僕は、何と言っていいのかわからなかったけど、ななのちゃんは続けて

「今から考えたら お母さんもそのほうが良かったみたい 私が2年になった時やった 学校から帰ったら、お母さんが男の人と下着のまま抱きあってるの見てしもてん 私だって 何してるんかわかったわー それからな 学校が終わっても、夕方まで家に帰らんようにしたんや そのうち 自然とお母さんも、ななに6時ぐらいまでは帰ってこないようにって言うようになったの」

「そうかー そんなことがあったから・・可哀そうに・・」

「ううん そんなことないよ シュウ君と友達になれたしー」と、それまで下を向いていたけど、まとめた髪の毛のおくれ毛を耳元に掻き揚げるしぐさをして、僕のほうに笑顔を見せてきた。その時、一瞬、女としての顔を見たような気がしていた。

「なぁ シュウ君 独りなんやろー マンション なな 泊めてくれへんやろかー?」

「えぇー なんてことを・・ そんなことできる訳ないよー お母さんにも叱られるよ 子供監禁になるわ」

「そんな大げさなもんやなくて コソッとね」

「だめ ダメ! 一応 男と女やないか まして、ななのちゃんは子供なんやから 叱られるに決まってるよ 警察にも捕まるわー なに言い出すねん」

「あのなー 海水浴に行こうって言われてんねん お母さんから だけど、よその男の人も一緒なんやー 去年も行ったんやけどなー その人、海の中で泳いでいる時、ななのお尻とか胸とかも時々触ってくるんや それにな、ななとお母さんがお風呂に入っている時にも、その人も後から入ってきてなー お母さんが頭洗ってる時、私の身体を洗うふりして、身体中撫でまわすんやでー それに、ななの手を取って無理矢理あそこを触らせようとしてくるねん ぃやらしーねん 考えすぎかわからへんけど  私 声も出せなくって お母さんには、そんなこと言われへんかってんけど・・ 今年も、一緒や言うから・・・嫌や ななは 行きとーないねん そやから その時 シュウ君 泊めてーな シュウ君やったら 変なことしーひんやろー」

「そりゃー ななのちゃんは 子供やし そんなことしないけどなー」

「なぁ お願い 私 独りで留守番するって言うし そやけどなー ななは独りだけやと怖いやんかーぁ お母さんも、男の人とふたりだけのほうがええねんでー 去年も私が寝たと思ってるんか、隣で変な声聞こえてくるやでー 多分・・抱き合ってネ・・ 私やって 男と女が何してるんか、もう、わかってるわー」

「うーん ななのちゃんの気持ちはわかるけどなぁー でも それは もう ちょっと なんとか 考えようよー」

「あのなー うちに来てるのって その人だけちゃうみたいやね ななに、6時前に、急に帰ってきたらあかんって言うねん そやから、ずーと ここに来てたのー お母さん 男の人にいろいろと助けてもらってるって言ってたけど・・・ウチ お金ないやろー でも ななは そんなお母さん嫌いやー 軽蔑してんねん そやから ななは お母さんを裏切るようなことしてもええって思ってる」

「だけどさー まだ 日があるんやろー」

「ウン 1週間後」

「まぁ 考えようよー 僕のとこに泊って、二人っきりって 絶対 ダメ」 

 

2-6

「シュウ君 ななナァー 旅行行かへん お留守番してるって言ったんや そしたら お母さん そうって言って なんか ほっとして 喜んでるみたいやったでー じゃまもんおらへんからなー」

「えぇー そーなんかぁー ななのちゃん それでいいんか? お母さんと・・一緒でなくて」

「うん 今のお母さん嫌いやぁー ええんやー シュウ君と一緒のほうが・・」

「あのさー 僕の実家に一緒に行こうか? 木之本という所 なんにも楽しめるとこ無いけどなー」

「ウン 行く! ええのぉー?」

「あぁ しかたないやろー ななのちゃんと 二人っきりってわけにいかんからなー」

「なんでー あかんのかーぁ」

「あかん お嫁入前やし」

 僕は、電車の切符をななのちゃんに渡しておいたので、次の駅から乗ると言ってあった。電車に乗り込むと、彼女は珍しくタイトなスカートで来ていた。だけど、乗り換えの駅まで話し掛けないという約束だったから、眼で合図しただけで、お互い知らんぷりをしていたのだ。

 乗り換えて、隣同士で座っていたけど、緊張しているような感じで、ななのちゃんは窓の外を見ていて言葉少なげだった。

「ななのちゃん めずらしく、今日はスカートなんだ」

「うん お出掛けだからネ 気分変えた」

 駅を降りて20分ほど歩くのだけど、例の帽子をリュックから取り出して、被った
と思ったら、僕の手を握ってきて歩き出していた。

「なな あんなに 長いこと 電車に乗っていたのって 初めてかも でも、畑や田んぼばっかーなんだね」

「そーだなー 田舎だからな この辺りはもっと田舎だよ」

「そーだね シュウ君もこんなとこで育ったんだ」

 僕の実家に着くと、倉庫で二つ上の兄貴とそのお嫁さんが作業していた。実家は椎茸農家で、おそらく乾燥椎茸の作業をしていたのだろう。最初に、僕達の姿を兄貴が見つけて

「おう 秀 あっ お嬢ちゃん こんにちわ 暑かったろー」と、後ろから、嫁さんの かがみさんも出てきていた。

「こんにちわ お世話になります ゆきむらななのです」と、帽子を取って挨拶をしていた。

「こんにちわ まぁ 秀君 可愛らしいガールフレンドね」と、

 かがみさんは僕の高校の時の同級生で、去年、兄貴と結婚して、同じ敷地内に新居を建てて、実家の椎茸農家を手伝っているのだ。だから、僕は、高校の時のことがあるので、ちょっと苦手なのだ。

 そして、母屋に行って、僕の父母に紹介して・・・僕は、予め事情を説明しておいたから、それなりに受け入れてくれていた。

「ななのちゃん なんにもないところで面白くないでしょうけどね 夕方になったら、お風呂に入って 浴衣着せてあげる 近所で借りてきたの ウチは男の子ばっかーだったから」と、扇風機の風をななのちゃんに向けながら、母は苺の洗ったのを勧めてきていた。

「えー そんなのー」と、ななのちゃんは僕のほうを向いて「いいの?」と、問いかけているようで、僕は、うなずいて見せていた。

 それからは、ななのちゃんは庭に向かって、絵を描いていたのだ。

「想い出だからネ 残しておきたいの」
  

 

2-7

 夕方になって、母はななのちゃんをお風呂に入れて、浴衣を着せていた。ピンクに花火の絵柄で、髪の毛もかがみさんが来てくれて、長い髪の毛を上に盛るようにして、花飾りもつけて、大人っぽく仕上げていてくれた。

「シュウ君 こんなの 私 似合う?」と、僕の近くに飛ぶように走ってやってきた。

「わぁー 可愛いネ 大人っぽいなぁー」

「そう? ななは、こんなの初めて うれしい」

 辺りが薄暗くなった頃、かがみさんも浴衣に着替えてきてくれて、ななのちゃんを誘って庭で花火をしてくれていた。僕は、縁側で父と兄貴とでビールを飲んでいたのだが

「やっぱり 女の子は可愛いのー あの子は特別 可愛い 無邪気で 秀が言っていたような 暗いとこ感じさせないようだ」と、見ていた父が言うと

「秀 どうするんだ あの子 あんまり 深入りしてもなぁー」と、兄貴が立ち入ってきた。

「どうって 小さいガールフレンドかなー ほっておけない 気になるんだよ」

「だから 深入りするなって ややこしいことになるぞ 小学生だろー」

「わかってるって だから 今日は 家に連れてきたんじゃぁないか」

 そして、夜になって、かがみさんが

「秀君 どうするの? 寝るの 一緒の部屋に布団敷いていいの?」と、意地悪そうに僕の顔を覗き込んで聞いてきた。

「そんなわけないじゃぁないか 別だよ」

「だって 小さい女の子 独りで寝かすわけにいかないんじゃぁない ぶっそうよ 預かってるんだし」と、意地悪な眼をしていた。

「うーん そうかなー どうしよう」

「うふっ 私が 泊りに来てあげる 一緒に寝るわよ 安心して」

「そうか 頼むよ 助かる かがみさん やっぱー 同級生だな」

「ちがうよー 君のお姉さんだからネ 今や それに 君の大切なガールフレンドだから  あの子 秀君が良いんだったら、お嫁さんになるって言ってたよー どうする?」

「かがみ まばたきが多いなぁー そんな時はからかってるんだろー わかるよー 高校の時からだからな」

「うふっ 自分で確かめればー でも 良い子よ」

 次の日、ななのちゃんは朝早く起きて、又、庭の絵を描いていた。そして、帰る時、母にそれを渡して

「一生懸命 描きました きれいなお庭 私の想い出だから 貰ってください」

「まぁ ななのちゃん 上手ね 飾っておくわ また 遊びに来てネ 何にもない所だけど」

「いいえ なな 楽しかった 浴衣も着せてもらえて 初めてだったし うれしかったの」

 早々に帰ることにして、駅まで、兄貴が車で送ってくれて、電車に乗ると、ななのちゃんは腕を組むようにしてきて

「楽しかったよ よかったぁー 親切にしてくれて かがみさん おいでって一緒のお布団で抱いて寝てくれたんだよ 胸が柔らかくて・・・ でも、ななは 本当は シュウ君と二人っきりでも良かったんだよ」と、僕の手を小さな手で握り締めてきていた。 

 

3-1

 そのまま夏も終わって、秋にななのちゃんが修学旅行に行くって言っていた。帰ってくるという日、僕は、仕事を終えて、何となく、小学校に向かっていた。

 学校に着くと、バスが子供たちを降ろして帰っていくところだった。そして、校庭では、先生の挨拶が終わったのか、父兄がそれぞれの子供たちを連れて帰る様子だった。僕は、それを遠巻きに眺めていたのだが・・・みんながそれぞれに帰って行って、人も少なくなった時、ポツンと一人でななのちゃんが立っていた。

 そして、しばしばらくほうを見ていたが、急に走り出して向かってきた。

「遅いゾー シュウ」と、僕に飛びついて、胸に顔をうずめるようにして腰に手を廻して、しがみつくように、そう言った声は泣いて震えている様だった。

「えぇー 迎えに来るなんて約束したっけぇー」

「だって 帰りのバスの中で きっと シュウ君が来てくれていると ななはネ 感じたんだもんー よかったー 信じていて」

 その様子を見ていた女性の先生が近づいてきて

「ななのちゃん 大丈夫?」と、不審がって聞いてきた。

「うん ここみ先生 ななの大好きな親戚のお兄ちゃん 迎えにきてくれたんだぁー」

「そう 良かったね ななのちゃん」

「うん 一緒に帰るネ」

 一緒に歩きながら、僕は自転車を押して

「さっきの人 会ったことがあるよ 保健の先生だろーぅ? 一度センターに来られた時、挨拶したことがある」

「そうなの? いつも ななのこと 気に掛けてくれる 優しい先生」

「そうなのか うん 優しそうな人だネ」

「ねぇ このまま シュウ君ち 行っても良い?」

「うっ いいけどー まだ 時間 早いのかー」

「そう まだ 帰るの怖い」

「わかった いいよ」

 僕の部屋に上がり込むと、キッチンの隣の部屋とかバスルームを見て回って

「よし! 女の臭いはしないネ 掃除もちゃんとしているみたい」

「なにを チェックしてるんだよ おとなしく座ってろよ」

 ななのちゃんはリュックから手帳みたいなものを取り出して

「これっ お土産 お金も無かったし これっ きれいだったから あげる」と、手帳の間に挟んでいた紅葉を取り出していた。

「そうかー 真っ赤できれいだね 大切にするよ」

「うん なな こんなことしかシュウ君にしてあげられないから・・」

「いいんだよ 気使わなくって そんなこと・・ 僕は君が元気でいてくれれば、それでいいんだよ」

「ありがとう ななネ シュウ君に出会ってから 毎日が楽しい 生きているって感じがする」

「そんな 大げさなもんでもないだろー ななのちゃんは笑ってれば可愛いんだから」

 そして、しばらく僕の本棚を物色して、取り出しては読んでいた。僕がお米を研ぎだすと

「ねぇ 晩御飯? なに食べるん?」

「あぁ 牛丼の素カナ」

「ふぅーん 野菜は?」

「そんなものは無いなぁー」

「野菜もとらなきゃーぁ 身体に悪いよ」

「わかってるよ 今日はたまたま無いの! あのさー そろそろ帰らなきゃーナ 暗くなる前に 送って行こうか?」

「いいの! まだ 帰りたくないなぁー もっと 居ちゃーだめ?」

「ダメ! お母さん 待ってるよ」

「そんなこと ないと思うけどなー ねぇ なな 明日 学校お休みなの 来てちゃぁダメ?」

「何言ってんのーぉ そんなー」

「ねぇ お願い なな 行くとこないの お掃除しといてあげる ねぇ 鍵! でないと 帰んないよ」

 僕は、戸惑いながらも、どうでもいいやーと、スペァの鍵を渡して、途中まで送って行った。でも、小悪魔的な女の子に引き込まれていたのかも知れなかった。  

 

3-2

 次の日、僕は仕事を終えて、急いで帰って行った。部屋に入ると、やっぱり彼女は居て、キッチンのテーブルにうっぷして、うたた寝していた。今日は、髪の毛を留めていないようで、サラサラの長い髪の毛が乱れていた。絵を描いていたのか、途中のままで、どうやら、修学旅行でいった厳島神社の光景を思い出しながら描いているみたいだった。

 僕が傍に立っても気が付かない様子で、衝動的にその髪の毛に触れると、ビクッとして

「あっ ぁー 私 寝てしまった お帰りなさい」

「お帰りなさいじゃぁないよ 不用心だろー 独りで居る時は鍵ぐらい掛けときなさいネ」

「あっ そうか なんか 安心してしもたー でも ちゃんとね お風呂とお便所 掃除しておきましたよ 旦那様」

「あんなー ・・・ ななのちゃんは・・ まぁ いいやー」

「冷蔵庫に白菜のお漬物入れておいたの 家から持ってきたんだけど おいしいよ」

「おっ それは ありがたいけど ななのちゃん そんなこと気使うなよー」

「いいの いいの こんなものしか無かったんだけど シュウ君に食べて欲しいから なぁ ななが 来てたら迷惑やろかぁー?」

「いゃ そんなことはないよー 君が居ると楽しいよ ただ まわりからしたら 変に思われる」

「そんなもんなんだー ななは シュウ君に迷惑がかからないように 目立たないようにするから ここに、置いてよー」と、訴えるように・・

 彼女は長いまつ毛の奥が潤んでくるような眼で見つめてきた。その時、僕は、衝動的な気持ちを抑えながら

「そんな悲しそうな眼をするなよー 追い出すようなことはしないよ 君は笑顔でいるほうが可愛いよ」と、言うと、途端に僕にとっては天使のような笑顔を見せてきた。だから、やっぱり突き放すようなことは出来ないし、彼女が来るのを心のどこかには期待している部分もあるなと思っていたのだ。

 その後も、描いていた絵の説明をするななのちゃんの、時々、髪の毛を耳の後ろにかきあげるしぐさに、僕はどきどきしながら聞いていたのだ。辺りも暗くなってきたので

「もう 暗くなるから帰りなさいよ 送って行くよ」

「いいの 目立たないように帰ります ありがとうネ 明日は、公園にいくね」と、帰って行ったのだ。 
 

 

3-3

 冬に向かって、ななのちゃんは僕のマンションにちょこちょこと来ていた。寒い日だったり、雨の日もあったので仕方ないかなと僕も思っていたのだ。

 そして、彼女が冬休みになって、僕が年末から正月の間は実家に帰るからと伝えると、例のように悲しそうな眼をしていたのだ。だから、僕は彼女を楽しませようと思い、クリスマスの日にご飯を食べに行こうかと誘ってみた。彼女は一瞬、困った様子だったが

「うん 楽しみ 連れて行ってくれるん? 行きたい」

「そうか 帰り遅くなるけど お母さん 大丈夫かな」

「そうだね ここみ先生に誘われてるからって 誤魔化すよ」

「うーん あんまり良くないけど 僕となんて言えないよねー」

「ウン だけど ななもお母さんに誤魔化されているから ええねん」

 当日、僕は半日休みをもらっていて、ななのちゃんは途中の乗換駅まで先に行っているはずだ。降りたホームで探すと、直ぐにななのちゃんは駆け寄ってきた。

「シュウ君 ななは心細かってんヨ 会えるんか不安やったから」

「あっ すまん 同じ駅から、乗るわけにいかないからー」

 僕たちは、まだ少し離れたまま京都駅に向かった。ななのちゃんはダウンコートにすり減ったような運動靴にいつもの短パンで来ていたのだが、僕は予想していたので

「ななのちゃん 僕からのクリスマスのプレゼントするよ 洋服選びに行こう」

「えぇー うれしいけどー そんなのシュウ君に悪いよー クリスマスのご飯だけで十分」

「いいんだよ ボーナスも入ったし ななのちゃんの可愛い洋服も見たいんだから」
 

 

3-4

 遠慮して、しぶしぶ付いてきているななのちゃんを連れて、子供服売り場を見て、黒っぽいけど厚手の生地で花柄が可愛いワンピースとベルト付きの黒靴にソックスを選んで揃えた。そして、髪の毛を留めるリボン飾りも・・。その場の着替えルームを出てくると

「シュウ君 なな こんなの初めて 変じゃぁない? 可愛いのー?」

「あぁ 可愛いよ とっても 似合うじゃあないか」と、僕が応えると、とたんに笑顔になって、その場でスカートを広げて回って見せていた。僕は、その可愛い笑顔にホッとしていたのだ。

 駅ビルの上にあるレストランに向かっている時、彼女は僕の腕にまるですがりつくようにして歩いていた。京都タワーが窓越しに見えるレストランに入って席についたのだが、彼女は

「うー 嫌 こっち」と、僕の隣の椅子に移ってきて肩を寄せてきていた。

 僕は、ビールを飲んでいたのだが、ななのちゃんはジュース類も要らないと言って、お水を飲んでいたが、いろんな料理を頼めるので感激しながら食べていたのだ。

「おいしいよー こんなの初めて ななは シュウ君にこんなの作れるようになりたいなぁー」

「うふっ そうかい 大きくなったらな 期待してるよ」

「だいじょうぶぅー 来年は中学生だよ」

 食事の後は、辺りが暗くなってスカイウォークを歩いた。ななのちゃんは僕の腕を抱き抱えるように歩いていて

「すごい きれい すごいねー ねぇ ここって恋人同士で来るみたいやねー 私達もそう見られてるのかなー」

「それはないと思うけどー ななのちゃんが可愛いんで 振り返る人もいるかなー」

「そう? ななね こんなに幸せなことって良いんだろかーぁ サンタさんも羨ましがってるよネ きっと」

 それから、大階段のネオン飾りを見て、帰りの電車に乗った。

「シュウ君 ありがとう なな 本当に幸せ! 生まれて初めて こんなにうれしかったことなかったんだ」

「そうか 喜んでくれて 良かったヨ」

「私のサンタさんはシュウ君なんだネ」

「そうかい? 恋人じゃぁないんだ」

「そんなことないよ シュウ君が子供扱いするんやんかぁー ななは・・」

「まぁ 可愛い妹みたいなもんだよ 僕にとっては」

「すぐ はぐらかすぅー そうだ 私 こんな恰好で帰るわけにいかんやんかー シュウ君チで着替えさせてーなー」

「そうかー 疑われちゃうなー でも せっかく可愛いのにネ また 帰り遅くなるけどいいの?」

「うん 嫌味言われるだけやー」

 部屋に入るとベッドのほうで来ていたワンピースを脱ぎ出して、ついでに買った起毛のオーバーパンツも脱いで、僕に向かって

「シュウ君 明日 これ お洗濯に来るから置いて帰るネ お母さんに見つかるとヤバイから」と、キャミソールは着ていたものの下は前のところに赤いリボンのついた白いパンツのままだった。

「あぁー うん まぁ 隅のほうに置いときなよ 早く、着ろよ 寒いだろう」と、言ったけど、子供とはいえ、こっちがドキドキしていた。

 あまりにも、遅くなったので、断ってる ななのちゃんを言い聞かせて、近くまで送っていったのだった。 

 

3-5

 正月休みになったのだが、実家に帰るのは明日にして、今日はななのちゃんと過ごすという約束をしていた。僕は、初めての賞与をもらっていたので、父母に何かプレゼントをと思っていたので、正月の間に実家に帰ると言ったら、ななのちゃんは悲しそうな顔をしていたので、帰るのを1日伸ばしていたのだ。

 朝9時頃、ななのちゃんは顔を出したのだけど、僕はやっと起きたとこで、ベッドに座って、ボーっとして、今日1日、彼女とどう過ごそうかと考えてるところだった。

「おはよう シュウ君 サブいよ今日も」と、自分の腕を抱えるようにしていた。

「あっ まだ エアコンもつけて無いんだ」と、立とうとすると

「顔 シュウ君が温めてー」と、僕のお腹に顔をうずめて抱きついてきたのだ。

 僕の眼の下には、今日は留めていない長い黒髪がかかった小さな肩があった。確かに、冷たいものを感じていて、しばらくは、その頭を抱くようにしていたのだが、僕は股間に変化を感じ始めて、ようやく顔を持ち上げて、彼女のほっぺを両手ではさんで

「もう 温まったかナ お嬢ちゃん エアコンつけるよ」

「うぅー-ん 気持ちよくて寝ちゃいそうだった シュウ君の手も温かいー」

 その後、お昼ご飯の話をして、ななのちゃんが作ると言ってきた。それで、一緒には行けないので、僕が買い物に行くことになって

「ナスのそぼろ和えとお豆腐のステーキ この前、京都で食べたやつ なな 作ってみる」

「そうか ナスにミンチと豆腐だな わかった」

「うん お味噌はあるの?」

「ああ あるよ」

「じゃぁ なな ご米 炊いておくから」と、僕が出て行こうとすると、背中をはたくようにしてホコリを落としてくれていたのだ。

 僕が、戻ってきた時、彼女は髪の毛を後ろに留めていて、掃除機をかけていてくれた。そして、以外と手際よく料理をして、食器のお皿が2枚しか無くて、それぞれのおかずを乗せて、ご飯は丼茶碗に入れた。

「ウン うまいよ ななのちゃん やるネ」と、彼女と同じお皿を突っつき合って食べていたのだが

「うふっ 上手でしょ 私 才能あるのかも こうやっていると 新婚さんみたいだネ」

「・・・かもナ 奇妙な間柄」

「うー もぉー 奇妙じゃあないよ 普通だよ 今は 友達 ねぇ 食べたら 買ってもらったワンピースに着替えて良い? だって着る機会ないんだものー」

「あぁ 良いよぉ」

 彼女が食器を洗っている間に僕はクローゼットからワンピースを取り出してベッドの上に置いておいたら、洗い物を終えた彼女は、ベッドのほうに行って、いきなり服を脱いでいて・・・まるで、僕がいることを意識してない様子だった。今日は、半袖のアンダーシャツに白にピンクの水玉のパンツで、丸っこいお尻を向けていた。

「どう やっぱり 可愛い?」

「うん 天使だよ」と、僕が応えると、彼女は笑顔を向けたまま、何にも言わなかった。

 それからは、トランプをして遊んで夕方になっていた。そろそろ、ななのちゃんが帰る時間になってきて、僕は、用意していたので

「ななのちゃん これ 正月は会えないので お年玉」

「えぇー いいよー そんなのー そんなこと してほしくない!」

「いいから 買いたいものだってあるだろー なんか」

「だって シュウ君にそんなことしてもらうわけには・・・」

「いいから 貰ってくれ なんかに 必要になることがあるかもしれないから いうこと聞いてくれ」

「・・・ありがとう シュウ君・・」と、又、長いまつ毛の奥が濡れてきているようだった。そして、ベッドのほうにいって、ワンピースを脱いで、そのままの恰好でハンガーに掛けてシワを伸ばすようにしていた。

「ななのちゃん 先に服を着ろよー いくらなんでもー」

「なんでー ワンピース ななの大切なものなんだもの」

「だからー パンツのままでー」その時、僕は、初めて彼女の胸が小さく膨らんでいることに気がついていた。

「あっ そうかー ななは べつにシュウ君の前やったら、こんなん平気やー」

「あのなー ななのちゃんは平気でも 一応 女の子なんやから」

「そう そうなんや」と、不満げに服を着ていた。

 そして、帰る時、やっぱり送って行くというのを断っていて、玄関のドァのところで、僕は、初めて彼女の眼に光るものを見た。だけど、彼女は黙ったまま振り返ることもなく飛び出して行ったのだ。

 僕は、気になって、実家に帰る前にテーブルの上に (2日の夜には帰ってくるから、3日 又 お昼ご飯作ってくれ ゲームしよう) とメモを残していたのだ。 

 

3-6

 駅に着いて、実家にはぶらぶらと歩いて帰った。家に入るとかがみさんがお正月の用意で手伝いに来ていて

「秀君 いらっしゃい 小さな彼女は置いてきたの?」

「あのなー 彼女じゃぁないよー」

「ふーん ほったらかしにすると誰かに奪われちゃうから」

「なんだよー その言い方 けしかけるようなことばっかー」

「ふふっ ねぇ 私 何か変わったと思わない?」

「うっ オバン臭くなった?」

「秀君のお餅には唐辛子いれようか? うふっ あのね お腹 ちょっと膨らんでるでしょ」

「あっ あー 出来たのかーぁ へぇー かがみにもなぁー 一応 女だったんだなー」

「秀 かがみさんは あんたのお義姉さんなんだからね 気をつけなさい」と、母が・・

「そうよー 秀君のお姉様よ おめでとうの一言ぐらい」

「そーだな おめでとう あっ それと ななのちゃんのことありがとう 喜んでいたよ 一緒に寝てくれたって」

「そう 可愛い子よねぇー 又 連れておいでよー ねぇ お義母さん?」

「そーだね いい子よねー だけど まだ 小学生なんだよねー」と、母も意味ありげにため息をついていた。と、玄関に飾っている ななのの絵を見ていた。

 その晩は兄貴夫婦も来て、一緒に晩ご飯を食べていた。近くのスーパーで寿司盛りを買ってきたみたいだった。

「兄貴 ベィビー おめでとう」

「あぁ 6月くらいカナ 男の子らしい」

「おぉー 跡継ぎかぁー お父さん 良かったなぁー」

「あぁ でもな 椎茸だけだと先が見えないからな 今 行者茸とか自然薯もやっとる なんとか ものになるといいけどー」

「そうかー 大変なんだなぁー 兄貴も」

「そうだよ なんとか 続けていかないとなー」

「でも かがみさんが来てくれて、助かってんだよ よく気がついて、働いてくれるし ほんと いいお嫁さんよ」と、ようやく片付けの終わった母が言ってきた。

「お義母さん そんなー 私こそ よくしていただいて 幸せです」

 僕は、高校時代のがさつな かがみと違って、あぜんとしていた。女って環境によってこんなに変わるんかと思っていた。

 元旦になって、お雑煮を食べて、椎茸を焼いて食べていると、兄貴夫婦が挨拶にやってきた。僕は、父ともう酒を酌み交わして、かなり飲んでいたのだが、かがりさんが横に来て

「秀君 ななのちゃんのこと あの子 真面目に秀君のこと好きみたいだから いい加減につきあっちゃぁだめよ」

「かがみさん 酔っているんかよー いきなり なんだよー」

「バカ 私 赤ちゃん居るのよ お酒 飲むわけないじゃぁない 君のことを思ってー」

「そうか わかってるよ だけど 難しいことがいろいろとあるんだよー ヘタなことは出来ないしー」

「まぁ 迷ったことあったら 相談に乗るよ お姉さんなんだから」

 僕は、その後、酔いがまわってきて、なんなんだあいつは・・・確か、高校の時は僕のほうが勉強は出来たはずだがと思いながら、寝てしまったようだった。 

 

4-1

 米、野菜、そして椎茸を持たされて、それに幾らかの食器を持って、僕の寝床に帰ってきたのは2日の夜だった。そして、テーブルの上に眼をやって・・・絵が置かれていた。あの日の京都駅の大階段の絵。そして隅のほうに

(あの人は幸せをくれる 私もあの人に幸せを返せるようになりたい たった3日なのに寂しい) と・・・

 僕は、涙が滲んできていたが、絵を眺めていると、階段の真ん中には ななのちゃんと僕が腕を組んで笑っているような二人が描かれていた。そして、涙が滲みだしてきていた。

 その時、僕は、そばにななのちゃんが居たなら、きっと抱きしめていたんだろう。頭の中では、女なのも子供なのも関係ないと思っていた。いつの間にか、彼女は僕の心の中に住み着いていたのだ。

 その夜 僕は、変態と思われても構わないと あのワンピースを抱きしめて寝ていたのだ。

 

 

4-2

 次の日、僕は、まだ、うとうととしていたのだが、急にベッドの僕の上に飛び込んできて

「シュウ君 元気?」と、ななのちゃんの声だった。鍵を開けて入ってきたのだろう。

「なんだよー びっくりするじゃぁないか」

「うん だって 寂しかったんだものー」

「だけどさー こんなの 恋人同士なんかがすることじゃあないかー」

「ふぅーん 恋人同士じゃぁないと しちゃーいけないの?」

「いや そんなわけじゃぁないけど ななのちゃんは・・その・・」

「ななのちゃんは なんなの?」

「まぁ ・・・ 妹みたいな女の子?」

「なんなの それっ 変なの」と、離れていってくれた。

 その時、僕は彼女も迷っているんだと思っていた。僕への気持ち。そして、僕がしっかりしないといけないんだとも問い詰めていたのだ。

「今日のお昼はネギ塩豚とほうれん草の卵とじ 材料買ってきてるから・・ ねぇ なんで私のワンピース ベッドにあるの?」

「えっ なんでカナー 整理した時 紛れ込んだカナ」

「ふーん 変なの ねぇ 今日も 着てていい?」

「あっ あぁー 良いよー」

 早速、来ていたトレーナーを脱ぎ出して、平気で着替え出したけど、僕はそっちを見ないようにしていた。そして、今日は髪の毛を花の髪飾りで留めていた。

 ななのちゃんの作ったものは、不思議とおいしかったのだ。この子は料理に関しては才能あるのかも知れないと食べていたら

「お母さんのお料理って おいしいんでしょ?」

「うーん だけど ななのちゃんのもおいしいよ」

「そう? やりがいあるなー そー言ってもらえると お嫁さんになれるカナー」

 僕は、この子が時々言う小悪魔的な言葉に惑わされているんだ。

 

 

4-3

休み明けの初出勤の日だったが、グラウンドもじめじめしていて、借りる人も居ないので、暇な一日だった。部屋に帰るとななのちゃんが待っていた。

「お帰り シチュー煮込んでいたんだぁー シュウ君の晩ご飯にと思って」

「それはありがたい けど ななのちゃん 昨日も買い物してくれてるし 使わせてるネ 払うよ」

「いいの お年玉くれたじゃない」

「それはそれ! お年玉は君が欲しいものに使いなさい」

「だからー 私の欲しいものは シュウ君のためになるものにー」

「だけどー ちょっと 違うんだよなー 例えば ゲームとか洋服とか」

「いいの ななは 洋服も着て行くとこないもん あっ スケッチブック 新しいの買ったの」

「そうか それはそれでいいけど 今後のこともあるし ななのちゃんに 幾らか預けておくよ 僕のために使う用 無くなったら、又、言うことネ でも、あんまり高いものは買わないこと」と、戸惑っているななのちゃんに5千円を渡していた。

「じゃぁ わかった 私 お嫁さんになる勉強だね」と、大切そうに何かの袋にしまっていた。

「ななのちゃん 財布無いのか?」

「うん 持ってない お金持つこと無かったもん」

 僕は、しばらく考えていたけど、適当なものが無かったので、自分の財布を空にして

「とりあえず これを使いなさい 明日 ななのちゃんの使いやすそうなの 買ってきなさい この範囲内で」と、又、2千円を渡していた。

「うん なんか ななは シュウ君に迷惑ばっかー掛けてんネ」と、又、悲しそうに下を向いていたから

「そんなことは無いよ 僕は こうやって ななのちゃんが来てくれているのって うれしいんだよ」

「ほんとー ななも シュウ君と一緒に居られるのって しあわせ 明日も、なんか作って待ってるネ」と、笑顔が戻っていた。

「そうか もう 公園に行かないの?」

「うーん 寒いし ここのほうが安心できる だめ?」

「いや べつに 構わないけど ここが良いのなら それで良いよ」

 僕は、心の底では、罪悪感を覚えていた。なんか、ななのちゃんと一緒に居ると、いつか 自分が悪魔になってしまうんじゃぁないかと恐れていたのだ。 

 

4-4

 そんな調子のまま、ななのちゃんは小学校の卒業式を迎えていた。その日、僕は仕事に来ていたのだが、昼過ぎになって、ななのちゃんが訪ねてきてくれた。

 紺のワンピースに胸に桜の花飾りを付けていた。そして、髪の毛はいつものようにまとめてなくて、左の耳の上にキラキラ光った髪留めをつけていた。

「どう シュウ君 可愛いでしょー お母さんに買ってもらったの 卒業したよ」

「へぇー 可愛いねぇー 少し 大人になったんだ」

「うふっ 少しネ もう 帰るね シュウ君に見せたかっただけだからー 明日 行っとくね お祝い しょうね」と、スカートを翻して行ってしまった。

 だけど、僕は、良かった 彼女が嫌っていたお母さんも出席してたみたいだから・・と。

 次の日、仕事から帰ると ななのちゃんが居て

「おかえり ご主人様 お疲れさまでした」と、正座して迎えてくれたのだ。

「やめろよー ななのちゃん そういうのって 悪ふざけだよ」

「そうかぁー こういうのって シュウ君 嫌いなんだ」

「うん なんだかなー ななのちゃんだから そんなことさせたくない」

「ふぅーん 今日は ちらし寿司 作っておいたのよ 冷蔵庫に肉そぼろと卵そぼろ入れてあるから、乗せてね ショウガもあるし 明日のお弁当の分もあると思う」

「んぅー ななのちゃんは?」

「ななは さっき ちょっと 食べたよ お先で ごめんなさい」

「いや それはいいんだけど せっかくなのに食べて無いのはなーって思っただけ」

 そして、僕は用意していた卒業祝いのものを取り出して

「ななのちゃん 卒業おめでとう 僕からのお祝い」中はボールペンとシャープペンシルだ。

「わぁー ありがとう なにー 開けていい?」と、ななのちゃんは箱を開けていって

「シュウ君 ありがとう 大切に使うネ 私 勉強するね 中学いったら シュウ君のためにも」

「あぁ それはいいけど 僕のためじゃぁなくて 自分ためだろー?」

「どっちでもいいやんかー シュウ君のためってことはー 私のためよー」

「昨日 お母さんも来てくれて、お祝いしてもらったの?」と、聞いてみたが・・ななのちゃんは、下を向いたまま何も言わなかった。僕は、しまった また、余計なことを聞いてしまったと、後悔していた。

 

 

4-5

 学校が休みになった ななのちゃんが公園に絵を描きに来ていた。そろそろ温かくなってきたので外に出てきたのだろう。

 お昼頃には確かに居たはずだったけど、僕が仕事を終えたときには姿が見えなかった。帰ったのかなと部屋に着くと、ななのちゃんが居たのだ。

「おかえりなさい」と、元気な声で迎えてくれた。

「あぁ 少し、びっくり 家に帰ったのかと思ったから」

「うぅん だって 晩ご飯の用意してたから・・今日は 肉じゃが 食べる前に少し温めてね それと卵サラダ 冷蔵庫ね お米研いであるから」

「うん ありがとう でも ななのちゃん そんなに毎日はいいよー ずーと 絵を描いていても・・」

「いいのー こうやってる方が しあわせ 迷惑?」

「いいやー ありがたいけどなぁ 今度 僕が休みの日 どっか 遊びにいこうか?」

「わぁーい いこう いこう どこ?」

「うん 京都 動物園と水族館 どっちがいい?」

「そうだなぁー 水族館がいい 楽しみだなぁー」

「よし 水族館な 今度は夕方には帰ってこようネ」

「うん でも水曜日でしょ? 木曜と金曜はダメだけど それ以外はお母さん帰ってくるの 9時すぎなの だから、少しくらい遅くなっても大丈夫だよ」

「そうなのか じゃぁ ななのちゃんはひとりでご飯食べてんの?」

「うぅん シュウ君ちから帰るでしょ それから ウチのご飯の用意して お母さん 待ってるよ それまで、洗濯して、お風呂は先に済ませちゃうけどね」

「感心だね ななのちゃんはー」

「そんなことー 平気だよ シュウ君 あのねー」

「うん どうした?」ななのちゃんが暗い顔して、下を向いていたから・・

「なんか 話があるのか? いいよ 言ってごらん」

「あのね 私 卒業式の時ね お母さん来てくれなかったんだよ でも、働いてくれてるからしょうがないよねと私 晩ご飯作って、待ってたんだ 夜ね 遅く お母さんが帰ってきた時 、お酒飲んでいるみたいだった 私 悲しくなって 言ってしまったんだ 知らない男の人 家に入れるのも、もう、やめてー 嫌なのって そしたら お母さんが怒ってしまって 子供にはわかんないのよ、何も知らないのに親に意見するなって・・ 私 そんなつもりじゃぁ無かったのにー 意見だなんて」と、長いまつ毛から涙が落ちてきていた。

 その時、僕はその小さな肩を初めて抱きしめたのだろう

「ななのちゃん お母さんは、君を育てて守ろうと必死なんだよ 卒業式のワンピースも用意してくれたんだろう? 君が考えているようなことじゃぁないかも知れないよ 苦労して、色んな事情があるんだと思う 君は言ってくれたよね ここに居る時がしあわせだって 僕が力になれることがあったら協力するから そのまま 君は明るく真直ぐに生きていくんだよ」

 とたんに、ななのちゃんは、もっと激しく声をあげて泣いていた。ようやく、収まったのか、顔をあげて僕を見つめてきた。まつ毛も濡れていて、僕は完全に女として意識してしまっていた。その可愛い唇に吸い付きたいと衝動的に・・・あっ だめだ この雰囲気はーと

「あっ 肉じゃがは レンヂでいいのかなー」と、ななのちゃんの肩を離して紛らわせていた。 

 

4-6

 当日は、やっぱり、乗り換えの駅で待ち合わせをして、ななのちゃんは卒業式に着ていたワンピースで来ていた。だけど、僕がクリスマスの時にプレゼントした靴を履いていた。

 京都駅から歩くのだけど、彼女は僕に腕を絡ませるようにして手を繋いできていた。そして、時々、僕の顔を下から見上げてくる顔がすごく可愛らしかったのだ。

 ななのちゃんはオットセイと京都の海という水槽のマイワシに興味を示していて、ずいぶんとそこに立ち止まっていた。だけど、ずーと僕の手を離さないで、ワァーと声を上げながら見とれていたのだ。

 出てきた後は、お昼を回っていたのだが、清水の坂を歩いてみたいというので、地下鉄に乗って、しばらく歩くのだが四条通を歩いて、途中の洋食屋さんでお昼ご飯にした。

「なかなかフライものはシュウ君に作ってあげれないからね」と言っていたのだ。

 僕は、サラッと僕のことを思ってくれている彼女のことが嬉しかった。だから、ふたりともクリームコロッケと海老フライの定食にしたのだ。

「おいしいー やっぱり レストランはちがうネ」と、ななのちゃんは、ほんとうにおいしそうにほおばっていた。

「あのさー 私 清水寺は入らなくてええねん 行くまでの道をシュウ君と歩きたいだけなんや」

「そうなんか 歩くだけ?」

「うん 歩くだけ 腕 組んで 仲のいい カップルみたいやろー」

「カップルに見えるかなー」

「なんでも ええねん カップルでも お兄ちゃんと妹でも 新婚さんはちょっと無理カナ」

 そして、食べ終えて、八坂さんを抜けて、ぶらぶらと歩き出していた。途中、いろいろな店を覗きながら、彼女も「可愛いね きれいね」とか言っていたももの、それを欲しがる様子も無かったので、僕は、組紐でできた髪留めの飾りを選んで、彼女に買っていた。

「シュウ ありがとう 可愛い」と、その場で髪留めを付け替えていた。その後は、跳ねるように歩いていて

「ねぇ シュウ この辺りを歩いている人の中で、誰が一番 しあわせな気持ちだと思う? それは ななよね」

「そうか それはわかったからー そんなに大きな声で言うと 逃げてしまうよ」

「そうか しあわせは自分だけで感じるものだね だけど、私は シュウにも伝えたい」

「僕は ななのちゃんが しあわせそうな顔をしていると わかるよ」

 そして、帰りに駅に着くときは離れていたのだけど、急に傍に寄ってきて、別れる時に

「・・・いやだ ちゃんってー だからね 私のことを・・ななのって」と、ポツンと言って走って行ったのだ。 

 

4-7

 次の日も晴れていて、ななのちゃんは公園の芝生で絵を描いていて、昨日、買った髪飾りをしていた。僕は、仕事の合間に近寄って行って

「やぁ 良い天気になったね」

「うん 気持ち良いよ 昨日 ありがとう 楽しかった」

「そうだね ななの それ 可愛いよ」僕は、抵抗なく ちゃん付けをやめていた。

「えっ うん 可愛い? シュウ ななは もう直ぐ ご飯を用意して、お帰りをお待ちしています」と、笑顔を向けてきていた。

 家に帰ると、飛び出してきてくれて

「今日はネ イワシ団子 作ってみたんだー」

「へぇー そんなの よく 作れたなー」

「ウン お魚 買う時にね 骨とか取ってもらってネ 包丁で細かくして、卵と小麦粉を混ぜて、焼いたの 後は、大根と油げを煮たやつ」

「そうかー 色々と考えてくれるんだなー ななのちゃんは」

「うーん うぅーっ ちゃん?」

「いや ななの だね」

「よーしっ 私ね 家にお料理の本 あるから 見てるんだぁー」

「そうか でも それで作れるんだから ななのは たいしたもんだよ」

「なんといっても シュウのためだからネ でも、本当はネ シュウに作りたてを食べてもらいたいんやー いつも 温めさせてゴメンネ」

「そんなことないよ いつも おいしいよ」

 ななのちゃんが帰った後、本棚の隅に置いてあるノートを見ると、びっしりと細かく丁寧に書き込まれていた。彼女が家計簿代わりに使っているものだ。その日、買ってきたもの、金額と残金。その横のほうには、その日の料理と余ったであろう食材の量。ポリ袋にはレシートの束。冷蔵庫を覗くと、ラップとポリ袋に包んで入れてあり、冷凍のほうのものには日付と食材名を書いて整理されて並べられていた。

 確かに、僕もななのちゃんが来てくれるようになって、だいぶ食費が減って助かっていたのだ。

 僕は、改めて 彼女が描く絵と同じように、丁寧な性格に感心していて、もしかすると貴重な原石なのかもと考えさせられていた。 

 

4-8

 ななのちゃんの入学式の前の日。僕のマンションのほうに来ていて、僕が帰るとお風呂の壁とかを掃除していてくれた。

「あっ 靴下 汚れてない? そこ さっき磨いたところだから、気を付けてね」

「えっ うん 汚れてないよー ななの なんか こうるさい嫁さんみたいだなー」

「だって 明日から中学やんかー なな あんまり 来れんようになるかもしれへんしなー きれいに掃除しとかないと」髪の毛をまとめて上にあげていたから、初めて、彼女のうなじを見て、大人っぽくなったように思えていた。

「そうかぁー いよいよ中学生かぁー」

「あんなぁー 明日 お母さんも一緒に行ってくれるって」と、ニコニコしながら言ってきた。

「そう よかったなぁー ななの すごく、嬉しそうだよ」

「うん 私ね この前 お母さんに言い過ぎたと思ってたの お母さんも言い過ぎたと思ってたみたい 卒業式の時 さみしい思いさせてごめんねと謝ってきてくれたの それでね ななのがもう中学生になるから、嫌がるようなことはしないようにするって、約束してくれたの」

「そうかー それは良かったネ」

「あのね 明日 式が終わったら お母さんがお祝いにご飯食べに行こーって だから、シュウに 制服着たとこ見せれないの だから、あさってネ」

「ああ あぁー そんなの気にするなって 楽しんでおいでよ」

「うん でもね これから もっと お金に不自由させるかも知れないからごめんねって だけど 私はそんなの構わないんだー これから・・・お母さんと一緒だから」と、言っている彼女には暗い影もなかった。

「だけどね 中学生なんだからって 少し、大人っぽい下着も揃えてくれたの 見たい?」

「バカ そんなのー 見せる奴がいるかー」

「でも シュウだったら平気なんだけどなー」

「ななの からかってるんだろー」

「うふっ ちょっとネ からかってみたかったのー だって いつも 子供扱いなんだものー」

「このー」と、僕が彼女の頭をコツンとすると、彼女は舌を出して「べぇー」と可愛いらしい顔をしていた。彼女が心からはしゃいでいるように見えて、僕は安心していたのだ。 

 

4-9 中学入学式

 僕が事務所に居るとななのちゃんが訪ねてきて、玄関ホールから手を振ってきた。

「学校 終わったの?」グレーのブレザーに襟元は赤の細いリボンにスカート姿だった

「うん シュウに見て欲しかってん 似合う?」と、僕の眼の前でくるりと回って見せてきた。僕は、事務所の女の人もこっちを見ていて、視線を感じていたのだが

「あぁ 立派な中学生だよ」と、言ったものの今までと違って、スカートもまだ大きめなのか、ずいぶんと長いもんだなと思っていた。

「あっ やっぱりかー」と、ななのちゃんは急に言い出して、しばらく下を向いて、じぃーっとしていたが

「ねぇ シュウ あんなー あそこの女の人に話していい?」

「あぁー べつにいいけどー 何?」

「うん」と、言いながら事務所の中に入って行って、30代後半の事務員の高沢さんの横に行って、小さい声で何かを話している様子だった。そして、奥のロッカーから小さなものを受け取って、ななのちゃんは高沢さんに頭を下げていた。

「一緒に行かなくて大丈夫?」と、高沢さんは声を掛けていたけど

「大丈夫だと思います」と、ななのちゃんは急いでトイレのほうに走っていた。

 僕が高沢さんの顔を見て、何か聞きたそうにしているから、高沢さんは

「急に来ちゃったみたいなのよ! 北番君には関係ないから・・ あんまり、聞かないでやってネ あの子 知り合いなんでしょ よく、一緒に居るよねー」

「えっ えぇー 親戚の子」

「ふーん 可愛いわね」と、ふふふっと言いながら、席に戻って行った。

 ななのちゃんが出てきて、高沢さんに頭を下げて、僕を外に引っ張るようにして

「あのね アレ 急に来ちゃったの 油断してたの 私 持ってなかったから あの人にお願いしちゃった」

「ふぅーん アレ?」

「うん もういいの! あのね 今日は帰るね あした シュウのとこに行ってるから」と、新しい通学用のリュック背負ったかと思うと、手を振りながら長いスカートを翻して帰って行った。 

 

5-1

 それから、ななのちゃんは、しばらくは学校帰りに僕のマンションに来ていて、晩ご飯の用意をしていてくれた。

「ななの もう ご飯の用意はいいよ 来るのはいいんだけど、ウチに帰っても、ご飯の用意してるんだろー? 来てもいいんだけど、勉強に時間あてろよ」

「えぇーっ やだぁー 私 それっくらい出来る それに、今は通学の途中にあるもん 寄り道じゃぁないよー シュウのために なんかしたいの」

「それは ありがたいんだけど ななのが勉強に打ち込んでくれたほうが嬉しい 中学になると いっぱい新しいことやんなきゃなんないだろー だから」

「・・・来ちゃぁ だめなの?」

「うーん だって もう 気にしないで 家に帰れるんだろーぅ 言っちゃいけないことだと思うけど・・だったら、来る理由ないだろー」

「・・・来る 理由あるよー ななは シュウと同じ空気吸いたいし、シュウの匂いを感じていたい だって、帰ってもお母さん仕事に出てるし、ひとりぼっちなんだよ」

「・・・ななの・・・でも ここでは、勉強の時間にあてろ」

「わかった じゃぁ ご飯作るのは 土曜と日曜だけにする だったらいいでしょー? じゃぁないと シュウ 私の愛情こもったの食べれなくなるんだよ!」

「・・・ななの 又 からかい始めてるだろー?」

「そんなことないよ 私 ちゃんと 思ってるから それにね 自分のこと ななって やめた 子供っぽいし もう 中学生なんだから」

「そうか 無理すんなよ これから部活なんかもあるんだろー?」

「うん だけど クラブって お金かかるじゃん 私 なんにも入らないつもり 私の部活はシュウとの時間」

「あのさー あそこのセンターで地元の少年サッカーがあるんだよ 土曜日に集まってる ななの 入らないか 女の子だけのグループもあるんだよ 小学生と中学生」

「あぁー ダメ 私 運動なんて出来ない それに サッカー? そんなのやったことないから」

「だけど みんな 何でも初めてってあるじゃぁないか ちょうど 今 中学から始めるって子も居るみたいだよ やってみようよ ななの 走るのは速そうだよ」

「だってさー 怪我 したくないもん ボール追っかけてって 犬みたい」

「一度 やってみればー 補助金もあるから、そんなにお金負担ないよ それに、そんなの僕がななのの為だったら出すよ 僕は、ななのがグラウンド走り回ってるの見てみたい ダメかい?」

「・・・ほんと? 見たい?」

「ああ きっと 君は 全日本になる素質ある」

「シュウ アホちゃう? でも 考えとく ななが犬みたいにボールを追っかけてるとこシュウが見たいんならネ でも 私 他人と話すのとか集まりって苦手なんやなー」 

 

5-2

 次の日、帰ってみるとななのちゃんがテーブルに座って勉強しているみたいだった。

「お帰りなさい 今ネ 今日の学校のこと 復習しててん」と、彼女はジャンパーの上着に下は運動用のハーフパンツのジャージ姿で玄関ドァまで迎えに出てきた。

「あぁ この恰好? だって制服シワになるやろー だからー 着替えてん 学校行くときもね スカートの下は これ 穿いていくネン」

「そう 今は そんな色気ないのん 下に穿いてるのが普通なんやのー」

「なんなん? シュウでも見たいんかぁ?」

「そんなこと言ってないよ 見たいとかじゃぁ無くて 見えるカナって ドキドキするのがええんやー」

「やっぱり 見たいんやー」

「違う! って 時代が変わるんやなーって 僕らの頃は 女の子は競ってスカート短くしてたし 別に 見えったて普通やったからな」

「ふーん それを懐かしがって おっさんが 盗撮とかするんや」

「うーん それは別の問題カナ まぁ いいや どうだい? 慣れた?」

「うん まぁネ 隣の席の ナナコちゃんと仲良くなっちゃった 名前似てるやんかー 話し掛けてきてくれて 直ぐにネ」

「そうか 良かったなー どんどん 友達増やすといいよ ななのは明るいんだから」

「そんなことなかったんだけどネ シュウに会ってから・・ 神様がきっと シュウと結び付けてくれたんだー ななのこと 憐れんで」

「また そんな風に言う 君が引き寄せたんだよ 良い子だったから」

「なぁ 私 シュウの言っていたクラブやってみる あのなー クラスのリョウって子 始めるって言ってたし 一緒にやろうって 誘われたの」

「そうか じゃあ クラブの監督に話しとくよ 僕の知り合いの子だって」

「うーん それもなー でも しょーがないかー 僕の彼女ですってわけにいかんもんなー」

「こらー ななの また からかい出したなー」と、僕は、可愛くなって彼女の頭を押さえてしまっていた。
 

 

5-3

 僕はクラブの監督をやっている朝宮さんに相談していた。地元の建設会社をやっている社長さんで、大学までサッカーをやっていて、膝を痛めて中途で辞めたと聞いていた。

「僕の知り合いの子なんですけど・・今年、中学生になりまして、サッカーをすすめてるんですけどね。もちろん、初めてなんです。運動も・・ただ走るのは速そうなんですけど・・学校では、何のクラブにも入らないって言ってまして」

「おぉ それは大歓迎だよ 今 女子のほうは小学生中学生併せて15人程なんだけど、今年中学1年の子が2人入ってな、これで3人になるわー 女子はまだ、練習ばっかりで試合出来てないんだ。今年は、出来ると思う」

 その後、僕は朝宮さんに知ってもらっていた方が好いと思って、ななのちゃんと出会った時のこととか、お父さんが居ないことを話したのだ。

「その子 僕 知ってるわー 前はグラウンドの端のほうで絵を描いていたんや ボールがな その子の傍まで転がって行った時に・・・僕に向かって蹴り返してくれたんや 正確なパスでな びっくりしてもうてな それで、サッカーやらないかと声掛けたんや そーしたら 出来ません と答えたきり、黙ってしまって その次の日から あの公園の芝生に移動してしまったみたいやー 悪いことしたなー」

「そうなんですか それでね さっきお話したような事情がありまして もちろん 会費とかは僕が面倒みますが、スパイクとかユニフォームは誰かのお下がりって無いですかねー 新しいのを僕が揃えると、彼女は気を使うと思うんですよ そんなんだったら、やらないとか・・」

「ユニフォームは、そんなわけで、まだ、無い 体操服みたいなんで、みんな練習してるよ 靴は誰かにあたってみるよ 育ち盛りだから 小さくなったのを持って居るかもしれんからー 北番君はその子の保護者替わりカナ?」

「えっ まぁ 近いですけど・・」

「なるほどなぁー 北番君 大学でサッカー やってたんだってな うちのコーチやってくれると助かるんだがー」

「はぁ でも 僕は土日と基本的に出勤になってるんですよ」

「らしいな 仕方ないかぁー でも 夢を捨てていた女の子を一歩踏み出すようにしたのも事実なんだよ 他の子供たちにも・・・」 

 

5-4

 土曜日の朝、グラウンドにはクラブの少年たちが揃っていて、少し離れて、女の子達が。その中にななのちゃんの姿もあった。メンバーに紹介されている様子だった。並んでいるところを見ると、ななのちゃんはそんなに背が大きい方では無いなと思っていた。まだ、小学生みたいなのだ。

 朝宮さんにお願いしていたシューズは、今年、高校になって学校のクラブに入った子が小さくなって残していたものだと、手に入れていてくれた。それを、ななのちゃんに用意したものを穿いていた。

 その後は何人かに別れてキックの練習をしていたみたいだけど、お昼前に朝宮さんのもとに行って

「どうですか ななのちゃん 緊張しているみたいだけど」

「あぁ 初めてなのに もう 周りに合わせてるよ もともと勘がいいんだろうな あの子は伸びるよ」

「そうですか 良かった 見てると 楽しそうにやっているし」

 その時、ななのちゃんは僕を見つけたのか、手を振ってきていた。それで、僕も振り返していたのだ。

「北番君 君達は 仲が良くていい関係みたいだな」

「はぁ あの子が明るくなって 良かったなって思っています これから、もっと、活発になってくれればと 今までのぶんも」

「そうか 実は、僕も 彼女に期待している部分もあるんだよ ななのの横に居る背の高い子 リョウ やっぱり、初めてだというんだけどね あの子もセンスある この二人は良いよー 楽しみなんだよ」

「そうですか よろしくお願いします」と、僕は、とりあえず安心していたのだ。

 その日、帰るとななのちゃんが部屋に居て、僕の晩ご飯の用意をしていてくれていた。

「お帰り シュウ 今日 楽しかったよー あのね シャワー 借りちゃった」

「あぁ 良いよー 走り回っていたみたいだものなー」確かに、Tシャツと短パンに着替えていた。

「うふっ 汗かいちゃった 今日はハンバーグね シュウが食べる前に焼いてから帰るから」

「えー 遅くなるやんか」

「いいの お母さんも帰り遅いしー」

「うーん じゃぁ 送って行くよ 暗いし」

「いいの! 私 走って帰る それに、焼き立て食べてもらわないと意味ないよー」

 と言っていたけど、自分で焼けると言って明るいうちに帰らせたのだけど、焼きあがったのは、表面が黒焦げになってしまったのだ。 

 

5-5

 夏も近くなってきて、ななのちゃんはシャワーした後は、袖なしのワンピースを着るようなっていて、学校帰りの日でも袖なしのTシャツと短いスカートに着替えていた。

 僕が帰ると部屋の中はムーッとする日も多く

「ななの エァコンつけていいんだよ 暑いんだろう?」

「うーん 部屋に入ると もぁーっとするけどね 窓開けてれば、少し風が入るからー 電気もったいなんやんかー 学校から帰ってくると汗だくになるねん 制服のスカート 長いやろー 暑いねん それに汗臭いと シュウに嫌われるからな」

「べつに嫌わないよ どうだい? サッカーのほう 見てると楽しそうじゃあないか」

「うん 楽しい あのね 仲のいい ナナコも入ったんだぁー それとねリョウは背も高いからってキーパーの練習もやってるんだぁー」

「そうか 人数増えたみたいだね 女子も」

「そうだね 全部で20人くらい 中学生は9人」

「ふーん そろそろ 他のところと試合するんかなー」

「どうだろう 試合ってなると 怖いかなー ぶつかったり、蹴られたりするんでしょ?」

「それはないと思うけどなぁー どうだか」

「でも、朝宮監督って 優しいよね 男の子には厳しいけどね」

「まあな 男って 女の子には優しくしてしまうんだよ 怖がらせるとどうにもなんないから」

「ふーん シュウもそう?」

「うっ うぅん カナ」

「じゃぁ 私に声掛けてきたのも?」

「うっ ウン カナ」

「・・・そうなんだぁー ななが可愛かったからじゃぁないんだぁー でも シュウで良かったー 私」
 

 

5-6

 ななのちゃんは夏休みに入ると、お母さんの仕事が休みだという木曜日以外は殆ど僕の部屋で過ごすようになっていた。だけど、キャミソールにショートパンツのことが多くって、彼女はそんなこと意識してないんだろうけど、僕は戸惑うようになっていた。春から比べると背も伸びて、胸の膨らみも大きくなってきていたからだ。行き帰りにはその上にサマーワンピースを着てるんだけど、部屋に居る時は暑いからと脱いで勉強している様子だったのだ。

 だけど、僕はあえて、そのことを言うと、余計に意識しているように思われるからと気にならない素振りをしていたのだけど。さすがに、僕が休みの時は、朝から彼女の姿と暑さに耐えきれなくて、少し歩くんだけど、こどもの森は涼しいので、ふたりで出掛けようにしていた。それも、二人でお弁当を用意してピクニックのつもりで気晴らしだった。そして、ボールを持って行って、広場でパスの練習とかもしていた。

「シュウと初めてデートしたとこ あの時は楽しかったよー」

「そうか ななの あの時 はしゃいでいたなぁー」

「だって 嬉しかったんだものー」と、僕の腕を取って絡ませてきていた。

 彼女は、もう女としてのしぐさを自然と身に付けてきているんだと、僕は感じていた。だけど、僕にとっては、まだ子供なんだからと自分に言い聞かせていたのだ。

「なぁ 暑っ苦しいから 離れろよー」

「なんだァー 冷たい言い方! 最近 シュウって 私に 妙に冷たいよね」

「そんなこと 無いよ ななのは 可愛いと思ってるよ」

「そう カナーぁ 部屋ん中でも なんか 私に近寄んないよーにしてるみたい」

「それは ななのの勉強のじゃましちゃぁー いけないと思って」

「それだけ?」

「うん まぁ」

「ふ~ん 複雑 私は・・・」

「バカ 僕だって・・ あのさー 実家から また ななのちゃんを連れておいでよって かがみさんも」

「わぁー うれしい! いきたいなぁー」

「お盆の後なんだけどね 近くの祭りがある 花火なんかもやるんだよ」

「うん いいねぇー 行く! 連れてってぇー」

「かがみさんはな 10月に赤ちゃん 生まれるんだって だから、今度はあんまり面倒みれないかもって言っていた」

「そーなの じゃぁー おじゃまかなー」

「でも いいんじゃぁないか 連れておいでよって言ってんだから ウチの母も楽しみにしてるってんだから」   

 

5-7

「お母さんにね シュウのこと話したんだ クラブでお世話してくれているお兄さんだって 私 すごく、その人に親しみを感じるって」

「そうかい お母さんは何て?」

「何にもー それでね お泊りの話 私 行きたいんだぁーって お祭りの時」

「あっ そうかー 反対されたのかい?」

「うぅん 何にも言わなかった だけど、一度会ってご挨拶したいって」

「そうか 僕も 一度 会ってご挨拶しておいた方がいいのかなって思ってた」

 ある日、僕がグラウンドの木陰でお昼を食べて休んでいると、ななのちゃんが女の人と共にやってきて

「北番さん お母さん」と、紹介されたのは、Tシャツにスリムなジーンを穿いていて、サラサラした髪の毛が長い人。お母さんというよりお姉さんといっても通用するかというくらい若く見えた。

「ななのの母です。この子がお世話になっているというので、一度 ご挨拶をと思って」

「あっ」僕はその場で立ち上がって「いえ お世話だなんて」と、なんて言っていいのか、慌てていた。ななのちゃんは公園のほうに走って行ってしまった。

「あの子 去年あたりから明るくなって・・きっと、北番さんにお逢いしてからですわ あの子の感受性が強い時に、私 事情があって、構ってやれなかったの そんな時に、北番さんに出会って、きっと救われた気がしたんだと思います ありがとうございました」

「いゃ そんなー 僕は いつも一人で 絵を描いているし、丁寧な絵だったから 気になってしまって 最初は、お母さんに言われてるからと、知らない人とは話しちゃぁダメだって言われてしまって でも 素直な子で、徐々に打ち解けてくれて」

「あの子 お父さん居なくって・・ 寂しいんですよね 私 そんなこともわからなくって でも、私も 女一人で育てるのって辛くて 軽蔑されるようなこともやってしまっていて ごめんねって思ってるんです」

「そうですか でも 最近はお母さんとのこと 楽しそうに話してくれますよ」

「そうですか 私 仕事で帰り遅いんですけど、あの子、待っててくれて、ご飯とかお風呂も一緒なんです でも、北番さんのことも、すごく慕ってて・・ 今度は、北番さんのご実家に行くの誘われてて、すごく行きたいと言ってきたんです だけど、女の子ですし・・心配で」

「はい 誘ったんですけど・・サッカークラブに入ればって言ったのも僕なんです。でも、クラブではいきいきと走り回っているんですよ 楽しそうに・・だから、僕の地元の夏祭りなんですけど、僕の父母とか兄夫婦もいますし・・ななのちゃんが楽しんでくれればなぁって思っています 女の子だから、僕も、そのへんはわきまえているつもりですし、どうか、許してもらえないでしょうか へんな意味じゃぁなくて 僕はななのちゃんのことが大好きです のびのびと真直ぐに育っているのを見ていると嬉しくなります」

「私 北番さんには感謝しているんです 今日 お話できて、安心しました。私 お仕事お休みできなくって、夏休みでも、あの子をどこにも連れて行ってやれなくってー 母親としてはおかしいかもしれませんけど あの子、すごく、楽しみにしてるんです ご実家のほうに連れて行ってもらえるのなら、よろしくお願いします」と、お母さんは僕に向かって頭を下げてきた。

 その後、ななのちゃんを呼んで、一緒に坂道を下りていくのを見ていると、ななのちゃんはお母さんに飛びつくように抱きついていて、振り返って僕に手を大きく振っていたのだ。 

 

6-1 ななの 中1の夏 祭り

 お盆を過ぎたあたり、僕とななのちゃんは木之本駅に降り立っていた。ななのちゃんはショートパンツにTシャツにリュックを背負って、お母さんからというお土産袋を提げていた。

 暑い日差しの中、歩いて実家に向かって、庭先には母がキュウリと小さなスイカを庭先の水道のところで洗っていた。

「あーぁ ななのちゃん いらっしゃい 暑かったろー」

「こんにちわ おばさん これっ お母さんから、召し上がってもらいなさいって」と、被っていた麦藁帽をとって、ぴょこんと挨拶をして、持ってきた菓子箱を差し出していた。

「まぁ まぁ そんの気使わなくていいのにー ななのちゃん、大きくなったカナ 可愛らしくて・・ 今な ななのちゃんに食べてもらおうと、スイカ採ってきた 小さいけど、甘いよ」

 父も交えて、冷や麦とスイカでお昼を済ませた後

「秀 どうする? 今、縁日で露店なんかも出てるよ 一度 ななのちゃんと行っといでよ 帰ってきたら、ななのちゃん 浴衣用意してあるから、それ着て、花火見に行けばいいやね こっからでも、見えるけど もっと よく見えるとこ行けばいいやね」

「そうだなー そうしょっかー」

 陽が少し傾いてきたのを見て、僕達は地蔵院の縁日を目指した。おそらく、彼女は初めてなのだろう、こういうのは。眼を輝かせて、いろんな露店に興味を示していてはしゃいでいる風だった。まだまだ子供なのだ。院内で願い事を書いて納めるというカエルを買ってあげると、ななのちゃんは内緒と言いながら何かを書き込んで納めていた。そして、家に帰ると、かがみさんが出てきて

「まぁ ななのちゃん どう縁日 楽しかった?」

「ウン 楽しい あのね 草団子食べたんだぁー おいしいの」

「そう 良かったネ お義母さん 待ってるわよ お風呂入って、浴衣 用意してるって」

 ななのちゃんが着替えて現れた時、僕はびっくりした。少し、お化粧もしているのか、眼のあたりも明るくて唇もくっきりしていて紅いような・・。そして、帯も後ろの部分が花のようにふわっとしていたのだ。

「どう 秀君 上出来でしょ 私 帯の結び方 練習していたのよ ななのちゃんのためにネ」と、かがみさんが自慢げに言ってきた。

「そうか すまんのー ほんと 可愛いよ」

「でしょー 髪の毛もね」

 かがみさんに言われて、見てみると三つ編みして途中で大きなコサージュみたいなので髪の毛を留めていたのだ。ななのちゃんも両手を伸ばして気に入っている様子だ。それも、僕には可愛く見えていて、その時、ななののお母さんには 申し訳ないけど抱きしめたいと思ってしまっていた。

 そして、僕も浴衣に着替えて、早い目に寿司桶のものをつまんで、時間を見てぶらぶらと、花火がよく見えるほうに歩いて行った。ななのちゃんは、やっぱり、僕にぶら下がるように腕を絡めてきていた。僕も、ビールを飲んでいたので、いい気分になって歩いていた。

「シュウ 私 幸せやー こんな風にしてもらってー みんな優しいし 来れて良かったワァー」 

 

6-2

 実家から戻って数日後、夜、電話が鳴って、ななのちゃんのお母さんだ。

「もしもし 北番さん? この前はななのがお世話になりまして、ありがとうございました」声がななのちゃんにそっくりなのだ。

「あー いえ 僕も楽しかったです」

「ななのはなんかご迷惑なことしませんでした?」

「いいえ みんなから可愛がられてましたよ 父母もウチは男二人だったから、女の子が欲しかったみたいで、楽しんでました。良い子だって、また、連れといでよって言ってました」

「そう! うれしい いくぅー」

「・・・ななの だろう なんかおかしいなって思った からかうなよー」

「えへっ ばれたか お母さんのん借りちゃった あのね お礼に ウチでご飯招待したいんだー たいしたもん用意できないけど お母さんも、誘ってみなさいって言ってるしー」

 木曜日、お母さんが休みだというし、僕が仕事を終えて向かうと、途中までななのちゃんが出迎えてきてくれていた。

「あのね 私が、シュウのとこに行ってるのは内緒ね」

「もちろんだよ 叱られちゃうよ」

「ウン 今んところシュウはポイント高いから」

 案内されたのは、3階建ての古いマンションで2階の端っこの部屋だった。

「いらっしやい 狭いとこですけど、どうぞ この子ったら、朝から、張り切っていて 北番さんに食べてもらうんだって」

 そんなに広くないキッチンに連なっている部屋に座卓が置かれていた。それ以外にもう1部屋あるみたいで2Kのつくりで、確かにそんなには広いと思えなかった。そして、机のうえには、ちらし寿司が・・・一度、ななのちゃんが作ってくれたものだ。ななのちゃんが冷蔵庫からお刺身の皿を出してきてくれた。

「おビールしかないんですけど」と、お母さんがコップと出してきてくれて、継いでいる時、ななのちゃんが、お母さんにもコップを渡して

「お母さんも飲めばいいじゃぁない ずーと 飲むのやめていたんでしょ」

「そっ そう じゃぁ飲もうかなー お実家のほうから、いっぱい椎茸とかきゅうりをいただいてありがとうございます それに、この子に浴衣までご用意いただいて 帰って来て、とってもうれしそうに話ししてくれました ずーと、しゃべりっぱなしでー 楽しかったみたい おみやげのサラダパンもおいしかったわー 私、迷ったけど、この子を連れて行ってくださって、本当にありがとうございました ご両親にもお礼を言っておいてくださいね」

「いえ いえ ウチの両親も女の子だからって とても楽しませてもらっているみたいですよ ウチは男兄弟ですから、女の子が欲しかったってね それに、ななのちゃんは素直で良い子ですから ご飯の用意なんかも手伝ってました」

「そう 私のご飯の用意も 家のことも掃除、洗濯 全部やってくれてるの お料理も私なんかより、ずーと上手なんですよ」

 その時、ななのちゃんがキッチンでなんかやっていたかと思ったら

「これっ 椎茸の肉詰め お肉好きだよね シュウ」と、焼き立てを持ってきた。

「・・・ななの・・・あっ この椎茸 いただいたの 肉厚でおいしいですよね 確か、ちらしにも入れていたみたい」と、お母さんが言っていたけど、ななのちゃん ダメだよ シュウってと、僕とななのちゃんは顔を見合わせていた。その時、ななのちゃんはお母さんにわからないようにちょこっと舌を出していた。可愛いと思って、その肉詰めに喰らいついていた。

「うまい! ななの・・ちゃん」僕は、お母さんのほうを思わず見ていた。

 その後、お腹がいっぱいになって、帰る時、お母さんが

「また 時々来てくださいね ななのも 喜んでいるみたい これからも よろしくね ななののこと」と、なんとも意図が不明なことを言われて、ほろ酔いで帰ってきた。 

 

6-3

 次の日、僕が帰るとななのちゃんが来ていて、勉強をしていた。実家に行って以来、ななのちゃんは髪の毛を留めたのをまた上に持ち上げるようにしていて、うなじが見えていた。僕は、この子もだんだんと大人に近づいているんだ感じていた。

「昨日はありがとう おいしかったよ」

「うん あのね お母さんから聞かれちゃった まさか、お付き合いとかしてるのって 名前呼び捨てで呼んでしまったから」

「ふーん どうした?」

「そんなわけないじゃぁないって言っておいた ただ 私はあの人のことが好きなんだと思うって言ったけど」

「・・・」

「お母さんはネ まだ、あこがれているだけよ 年も離れているし・・ 確かに、いい人だけど これから、多くの出会いがあって色んな人と知り合うわって」

「ななの やっぱり こうやって ここに来るのは良くないよ お母さんを欺くことになるよ」

「嫌! 毎日でも、シュウに会いたいモン」

「しかし、ななのちゃんは女の子だよ 娘が男のとこに、毎日行っていると知ったら反対するに決まっているだろう?」

「・・・だったら、シュウのお休みの水曜と、それに、土・日だけ 私、お母さんに打ちあける 勉強教えてもらうからって言うワ ねっ? いいでしょう?」

「わかった ななのがそれでいいのなら」 

 

6-4

 ななのちゃんも学校が始まったのか、しばらく来てなかったが、水曜日、僕が部屋にいると

「こんにちわー まだ 外は暑いやんかー」と、言いながらベッドのところに行って、スカートを脱ぎ出した。そして、スカートをベッドに丁寧に置いたら、ベッドにくしゃくしゃになっているタオルケットを敷き直しながら

「シュウ くしゃくしゃのまんまやんかー 広げとかんと湿気たまんまになるでー シーツもくしゃくしゃやしー」

「わかったよー 洗濯して、さっき 取り込んだとこなんや」

「そしたら よけいやー 熱いままやったら 又 湿気こもるやんかー 広げて冷まさなー」

「うん そーだな ななのは本当に家事のこと万能やのー それより 早く何か穿かないのか?」

「これ オーバーパンツやんかー この下にも穿いてるでー」と、ずり下げて見せようとしてきた。

「わかったよ もう いいよ」

「なんやねん シュウかって 短パンやんか」と、カバンからプリントを取り出していた。

 結局、上は学校のブラウスのままで下は紺色のパンツ姿で勉強を始めたのだ。しばらくすると

「これっ 宿題やってん 次は、数学の予習 わからへんかったら、聞いて良い?」と、後ろに馬の尻尾みたいに留めていた髪の毛を上にもちあげるようにして留め直して、おくれ毛を耳のうしろに描き上げるしぐさで僕のほうを見つめてきた。

 そのしぐさにドキッしている僕のことを気に留めることも無く、ななのちゃんは数学の本を開いていたのだ。だけど、傍で本を読んでいる僕に何かを聞いてくるようなことは無かった。

「よし! 完了 数学は方程式になるんだぁー まぁ ちゃんとやってれば理解できるんだけどネ わかんなくなったら、シュウ お願いネ 今日は、もう帰るネ 暗くなる前に」と、スカートを又、穿きだしたけど、めくりあげるようにして

「このスカート 暑いから嫌いやー 長いし うっとおーしい」とブツブツ言いながら帰って行った。

 でも、確か今のは夏物になってるはずなんだけどなぁー。ずーと、あの子は短パンのことが多かったからなんだろうな。僕は、そうだ問題集を買っておいてあげようと思っていた。

 

 

6-5

 次の土曜日。グラウンドをななのちゃんが後ろに束ねた髪の毛を振り回すように元気に走っていた。

 僕がグラウンドの脇で見ていると、朝宮監督が寄ってきて

「北番君 女子のほうも試合をやってみようと思ってるんだ。とりあえず、隣のチームでね そこは、社会人も入っているんだが・・・年齢はウチにあわせてくれらしい 練習だから」

「そーなんですか いや いいんじゃぁないですか 彼女たちも張り合い出るだろーし」

「うん みんなもやりたいと言っていた。それでな 相談なんだけど ユニフォーム揃えようと思うんだけど・・・それぞれの負担じゃぁ どうだろーうな」

「あぁ ななのの分は 僕はべつに構わないですけど・・ 事情があって、負担となると重荷になる子もいるかもしれませんねぇー」

「だよなー やっぱり 協賛金という形で父兄から集めたほうが いいかぁー 送迎のバスは僕の知り合いの自動車屋から借りて、僕が運転するんだがな それは男子の時もなんだ」

「あのー 僕も 偉そうなことは言えませんけど、協力させてもらいますんで 足らなかったら言ってください 監督もかなり負担してるんでしょ」

「まぁ それは 僕の楽しみでもあるからな」

 結局、目標には届かなくて、僕もボーナスから不足分を協賛していたのだ。併せて、ななのちゃんのシューズも新調することにしていた。

 その日、僕が部屋に帰ると、ななのちゃんが、駆け寄ってきて

「あかんよー こんなんにお金使わんとって」

 僕は、数学と英語の問題集をテーブルの上に置いておいたのだ。

「どうして? 問題やっていったほうが実力つくよ」

「そーなんやろけどー 私は、予習復習もちゃんとやってるでー 平気やー」

「それは わかってる だけどな・・ こういうのやってると 授業では触れないこともわかるようになってくるんや 僕は、ななのが頑張ってるの知ってるからこそ こういうことも必要だと思う 珠には 言うこと聞け!」

「うぅー わかった でも ありがとう シュウ」

「それとな 明日 僕が帰ったら、スポーツ店に一緒に行く 朝宮監督の紹介 ななののシューズ買いに」

「えぇー 要らん 要らん そんなん」

「要らんことないやろー もう、小さいはずだよ この半年で、だいぶ背が伸びているよ それに、横の方が破れ掛けている 貰ったもんだからな」

「シュウ 私・・・ そんなんしてもうてー・・どうしたら ええのん?」

「だからー 前に言ったろー ななのは 勉強もサッカーも伸び伸びとやって 明るく真直ぐに成長していってくれれば 僕も楽しいんだよ 今は、余計な事考えるなよー」

「・・・ウン ええのかなー シュウに甘えてて」と、下を向いていたかと思ったら、長いまつ毛を濡らして上目遣いで僕を見てきていた。僕は、動揺していたが

「いいよ 僕は、ななのの笑顔が好きだよ さぁー 今日のご飯は?」

「えへっ 私の愛情たっぷりの 豚肉のオムレツあんかけとマカロニサラダ」と、可愛い笑顔を見せてきたのだ。 

 

6-6 ななの初めての練習試合

 10月になっての土曜日、ななのちゃん達は試合でバスに乗って出て行った。僕は、仕事があるし、残った男子の連中が年上の子を中心にグラウンドで練習していたから、何かあった時の為に、離れる訳に行かなかったのだ。

 お昼前、彼女達は帰って来たのだが、暗~い雰囲気だった。予想された結果だったのだけど、それ以上にショックが大きかったみたいだった。声も元気なく解散していった。

 部屋に帰ると、ななのちゃんも気のせいか元気無かった。

「どうした? まだ 初めての試合だろー そんなに甘くないよ」と、言ったけど、彼女は膝をすりむいていたみたいで傷テープが

「怪我したの?」

「大丈夫 ちょっとね パスを受ける時、こかされた 5対0」

「そうかー しょーがないよな 向こうも遠慮はしないってことだから ちゃんと手当したのか?」

「ウン 試合終わってから 向こうのお姉さんが親切にしてくれて 私 悔しくて泣いていたら あなた達はもっと声を出し合わなければ駄目って キーパーの子が声出してるのに 他の子は知らんぷりじゃぁないって それは監督も言ってた」

「そうかぁー それは練習中も感じるなぁー 監督がもっと声を出し合ってヤレってんのに 声が小さいよ」

「だってさー そんな大きい声 しんどいやん」

「だからよー みんなを励ます意味でも 私はここに居るよって 合図しながら相手に知らせてパスもらうんやー」

「そうかー そんなことも私 わかってへんかってんなー リョウの声 聞き流してたわー」

「まぁ いい経験だよ 又 1か月後 試合やろー 皆で、今回のことを考えて練習すれば 強くなっていくよ」

「ウン 頑張る シュウ 今のシューズ すごく 走りやすい ありがとう」

「そうか それは良かった 将来のなでしこジャパン」

「だからー アホかぁー 私はシュウの飯炊き女にしてもらえればええねんやー」     

 

6-7

 11月になって、レディース達はバスに乗って出て行った。あれから、声もかなり掛け合うようになっていたので、僕は今回は成長しているだろうと期待していた。

そして、帰ってきた時、賑やかな雰囲気は無かったが、彼女達は男の子達が練習しているグラウンドの隅で、パス回しをしていた。声を出し合って確認している様子だった。朝宮監督が僕の元に来て

「3対1で負けたけど、なかなか良かったよ チームとしても成長しているよ 彼女達から、もう一度、忘れないうちに確認しておこうよ言い出した 手応えを感じているんだろう 初得点もしたしな」

「そうですか いい雰囲気だ 楽しみですね」

「ああ 3年のアミがリーダーとしてしっかりしてきたけど、もう卒業なんだよなぁー」

 その日、帰るとテーブルに英語の教科書を広げて

「今 火点けたとこ ロールキャベツ」

「そう いつも 手の込んだもの作ってくれるネ ありがとう」

「ううん そんなに 手かからないよ 今も 勝手に煮込んでくれるし」

「ななのは料理の天才だよ 今日の試合 まずまずだったらしいな」

「うーん リョウが結構 止めてくれたからね だけど 私等 まだまだパスがつながらなくてゴール前まで遠いんだぁー」

「でも 監督は チームとして成長していってるって言ってたよ これからだよ」

「そうだね シュウもコーチしてくれればいいのにー」

「僕なんて たいしたことないよ まぁ 機会あったらネ」

「でもね しばらく 試合もないから 走り込み中心だって 練習 でもね 走るの嫌いって子 多いんだ 走んないとパス 通らないよネ」

「ななのって 何にでも センスあるような気がするよ」

「そんなことないよー 私 必死なんだからー シュウの為に・・・」 

 

6-8

 12月になって、ななのちゃんが

「シュウ 冬休みになったら、又、ウチに来てーなぁー 私のお誕生日とクリスマス」

「えぇー ななの 12月生まれやったんかー」

「ウン 12月23日 13歳」

「そうかー それは お祝いしないとな」

「シュウは いつ 誕生日?」

「あぁ 3月7日」

「ふーん じゃぁ そん時 また お祝いだネ」

「いいよー これっくらいの歳になると、そんなにめでたくもないから」

 そして、クリスマスも過ぎて居たけど、お母さんの休みだという日にななのちゃんの家に行った。僕も、定休以外の日の休みを取っていたので、お昼過ぎに伺っていた。

「ななのちゃん これっ 誕生日祝い」と、部屋に入って直ぐに渡したら

「わぁー ありがとう シュウ・・さん」と、ななのちゃんも慌てていた。

「開けて いい?」

「ウン 何がいいのか 迷ったけど」
 
 僕は、ピンクのキラキラしたラインが入ったスニーカーを選んでいたのだ。ななのちゃんは開けると直ぐに、僕にお礼を言ってお母さんに見せに行って、履いて見せていた。

「大きさ どうかなー 合わなかったら、代えてくれるって言ってたけど 少し、大き目にした」

「ウン 大丈夫 中敷で調整する ありがとうネ これ 可愛い」

 その日は、僕の為に焼肉を用意してくれていたけど、逆に散財させてしまってと僕は、恐縮しながら食べていた。

「北番さん 遠慮しないで食べて飲んでネ」と、お母さんは僕にビールを継いできてくれていた。

「あのね ななの 通信簿 音楽を除いてオール5だったの 1学期もそうだったんだけど、たまたまなんだと思っていたら、今度もでしょ びっくりしちゃった 北番さんにも教えてもらってるから この子 頑張ってるんよネ」

「そーなんですか ななのちゃん すごいネ サッカーも頑張ってるし」

「うふふっ だからー 私 いつも必死なんやって ゆうてるヤン」

 そして、帰る時、ななのちゃんが表まで見送ってくれて

「なぁ お正月 実家 帰るんやろー 私もー」

「えぇー お母さんは?」

「うん 仕事やと思う 勉強のご褒美にって ゆうたら 許してくれるとおもうネン」

「まぁ ウチは歓迎すると思うけど・・ お母さんの許しがないとな それにお母さんだって寂しがるだろー いくら 仕事といってもー」

「ウン 元旦の朝 お祝いしてから、今度は一人で行くよ 木之本まで もう、子供やないねんから・・それっくらい 平気 たぶん」 

 

7-1 ななのの着物姿

 元旦、僕は、木之元の駅までななのちゃんを迎えに来ていた。お正月はお母さんと迎えてからと言って、僕の実家に来ることを許してもらったらしかったのだ。

 ななのちゃんは去年も来ていたダウンのコートに僕がプレゼントしたワンピースで来ていた。僕を見つけるなり、飛びつくようにしてきて

「心細かったよー こんなに一人で乗るのって初めてヤン シュウに会えなかったら、どうしょうと思ってた」と、留めていない髪の毛が風で舞ってしまって

「うん ごめんな そんなだと思ってなかった 僕だって、心配で後悔していた」と、僕は思わず彼女の髪の毛と肩を抱きしめていた。

「シュウ 温かいけど、苦しいよー」と、僕の胸の中から・・ななのちゃんの頭を胸に押し付けていたのだった。

 それから、歩いて実家に向かって、母とかがみさんが迎えてくれた。かがみさんも着物姿で、僕は初めてみるんじゃぁないだろうか。かっての同級生なんだけども。
 座敷にあがると座卓の上にはお節料理とかカニの足が並んでいるのだ。僕の居ない間に兄貴と父はもうそれなりに飲んでいた。

 そして、年末に母が知り合いに聞きまわって、ななのちゃんの着物を借りてきて、隣の座敷に吊り下げていたのだ。その部屋では、昨年生まれた琳太郎が寝ていた。

「ななのちゃん 明日 これ 着せてあげるからネ 地蔵院にでもいってらっしゃい 秀が急に ななのちゃんが来るって言うものだから 慌てて・・・借り物で申し訳ないんだけど」

「ウワー 私 こんなの着れるんですか おばさん ありがとう うれしいぃー」

 その夜は、ななのちゃんは生まれてからひとりぼっちの部屋で寝たことが無いからと、僕の隣で寝るとぐずっていたが、僕は2階の隣の部屋で寝たのだった。
 
次の日、お雑煮で朝ご飯を済ませた後、父がななのちゃんにお年玉と言ってポチ袋を、僕も用意していたので渡すと、ななのちゃんは

「私 こんなー 貰う訳に・・」と、下を向いてもじもじして僕の顔を見ていたけど、母が

「ななのちゃん 遠慮しないで あなたは私達の娘なんだから 欲しいものでも買ってちょうだいナ」

 ななのちゃんは下を向いて、いつものように涙をこらえているようだった。そして、小さな声で「ありがとうございます」と、言っていた。

 その後、ななのちゃんは母に着物を着せてもらって、髪の毛をセットするのでかがみさんが来ていた。

 現れたななのちゃんは、唇にほんのり紅いリップクリームをつけて、眼のあたりと頬もアイシャトーとチークで幾分紅くしているような、夏にも見ていたけど、もっと、大人の顔つきになっていた。髪飾りも大きな花を頭の横に付けてもらっていた。

「シュウ君 どう? アイドルで通用するでしょう?」と、かがみさんが自慢げに話してきた。ななのちゃんは、恥ずかしそうに僕のほうを見たきりだった。

「ウン 可愛い いや 美人だ こんな娘連れて歩いていて、スカウトされたらどうしょうか」

「バカ言うんじゃぁないの それより、痴漢から守ってあげなさいよ お詣りの人多いんだからネ」

「わかってるよー 兄貴達は行かないの?」

「えぇ 琳太郎が風邪ひかれたら大変でしょ あなた達も気をつけなさいネ」

 途中まで兄貴が車で送ってくれて、歩き出すと、ようやく僕の腕に絡みついてきたのだ。

「ねぇ ねぇ 私って きれい?」

「そうだね 予想以上にきれいだし、少し、大人びて・・・」

「うん シュウにそーゆうてもらえるのが、一番 うれしい それにこんなの着せてもらって・・」

 歩いていると、ななのちゃんを振り返って見る人が何人か居たのを僕は感じていたのだ。その時、僕は、小さな優越感を感じていたのだ。

 

 

7-2

 お詣りをして、今回もななのちゃんは陶器のカエルに何かを書いて納めていた。何を書いたのかは、今度も僕には秘密と言っていたのだ。

 僕達が家に帰ると、母が待っていたかのように、自分で車を運転してななのちゃんを連れ出していた。近くのショッピングセンターに行くのだと言っていた。夕方近くになって、ようやく帰って来て

「ななのちゃんとネ 夕食のお刺身とか買ってネ それと、可愛らしいお洋服とか選んでいたのよ」

「シュウ 私 いっぱい お義母さんに、買ってもらっちゃった 下着なんかも こんなことしてもろて ええのかなー」

「まぁ あっちも それが楽しみなんだから いいんじゃぁないか」

「それとネ おばさんって おかしいから・・ お母さんって呼びなさいって ウチの娘なんだからって」

 お母さん? でも、おばあさんじゃぁ 可哀そうなのカナ ななのちゃんって 僕の家族には中途半端な歳なんだと僕は感じていた。

「そうかー・・・良いんじゃぁないの そう言うんだったら ななのには複雑だろうけど・・」

「私は うれしい そんな風にゆうてもらえるって シュウのお母さんやから」

「・・・」

 夕食の時には、ななのちゃんは着替えていて、買ってもらったのと言って、大きな薔薇の花の絵柄のトレーナーにベルト付きのラップスカート姿だった。もう、お化粧も落としていたので、父も

「ほう そうやって見ると まだまだ中学生の女の子だなー 朝はびっくりしたけどな」

「お父さん どっちも ななのちゃんよ 変な言い方!」と、たしなめるように言っていた。だけど、僕も、朝は化粧したななのちゃんには驚いて戸惑っていたのだ。

 夕食の時は、兄貴夫婦はかがみさんの実家に行っているはずなので、4人だけだった。

「琳太郎君が生まれてからね 向こうが気を使っているのか ご飯はお父さんと二人っきりなのよ だから、こうやって賑やかなの久しぶりよ」と、母がしみじみと言っていた。

「あっ お義母さん 私も いつも、二人っきりなんですよー だから、こんな大勢ってうれしい」

「そう ななのちゃんもお母さんと二人なんだものねー ごめんなさいネ ななのちゃんを奪ったみたいで」

「ううん お母さんも 楽しんでらっしゃいって送り出してくれたから」

「そう じゃぁ 明日 お土産に鯖寿司 持って帰ってネ 朝 注文するワ」

 その夜もななのちゃんは僕の部屋に来て、一緒の部屋で寝ると言って、ずーとぐずっていたけど、僕がお尻を叩いて追い出そうとすると

「やだぁー そんなとこ 触ったらぁー」と、すごく、反応してしまって・・・隣の部屋に戻って行った。僕は、何だよいまさら・・・触りたかったんじゃぁないよー と、思いながら寝てしまった。

 次の日、昼すぎに僕達は帰る電車に乗って、座っている間、ななのちゃんは僕の腕を抱きかかえて肩に寄りかかっていて

「こうやってくっついてると シュウ あったかい 夢ん中みたい ずーと駅に着かないでと思うんだぁー もう直ぐ 終わるんやネ 離れたくないなぁー あのね・・・ 昨日の晩 ごめんね びっくりしてしもてん あんな言い方してもーぅて・・・本当はシュウならええんやと思ってるんだよ でも、知らんかったやろー 夜中にシュウの布団に潜り込んだんやでー」

 なんだよー やりづらいなぁー 中半端な年頃で・・でも、まだまだ子供なんだ 早く大きくなれと思っていた。 

 

7-3

 その年の4月になって、ななのちゃんの春休みの時、僕の休みに一緒に遊びに行く連れて行く約束をしていたので、僕達は、琵琶湖の観光船に乗ることにしていた。

 やっぱり、途中の駅で待ち合わせをしていて、ななのちゃんはジーンのジャンパースカートに小さなショルダーバッグを下げていた。乗り換えは面倒なのでJRの大津駅から歩いて大津港に向かった。途中は、さすがに手を繋ぐ程度にして歩いていたのだったけど、ななのちゃんは時たまスキップするようになっていた。

「私 船に乗るのって初めてなんだよ 琵琶湖ってやっぱり すごいね こんな大きなお船 ねぇ ねぇ あれっ カモメでしょ? 」

「そうだなぁー 寄ってくるんだね」

「私達の住んでるとこ あっちのほうだね ぜんぜん 見えへんヤン なぁ あのお山 比叡山やなー 高いねぇー あの上からやったら琵琶湖全部見えるんカナー」

「うーん 全部は見えないと思うよ」と、僕は自信無かったのだが、いい加減な返事をしていた。と、言うより、あんまりななのちゃんが大きな声を出していたので、周りに恥ずかしかったのだ。

 降りてきて、芝生の広い所があったので、ななのちゃんが「あそこ 座ろー」と言ってきて、少し小高いところに並んで座ると、ななのちゃんが横にぴったりとくっついて腕を絡ませてきた。

「なぁ 男の子と付き合うって どういうことになるん?」

「えー 誰かに付き合おうって言われたのか?」

「ううん 私なんかー ちょっかいしてくる子おるけど 相手せへんから・・あのなー リョウのこと」

「そうかー まぁ 君達の場合はー 一緒に遊びに行くとか、勉強するとか仲良くすることかなー 中には、好きって気持ちもあるんだろうなぁー」

「キスとか抱き合ったりもするんでしょ?」

「まぁ お互いが信頼するようになるとなー」

「じゃぁー 私達も付き合ってるんやろかー?」

「・・・チョット 違うなぁー 僕は、ななのちゃんのこと好きだよ でも、それとは・・・違うんだ 年も離れているし・・」

「ふーん じゃぁ エンコウ?」

「ジョーダンじゃあないよ そんな気持ちも無い! あのさー ななののことは妹みたいなー」

「へぇー 私って まだ そんなもんなんだぁー つまんないの!」

「あのさー ななのが二十歳過ぎのオッサンと付き合ってますって おかしいだろう?」

「そうかなー 好きな人だったら いいんじゃあないのー」

「それは・・もっと 大人になってからの話だよ いまは、強いて言うなら・・友達だな さぁ お昼ご飯 食べに行こう」

 僕達は路面電車に乗って、小さな峠の途中の駅に降り立って、少し、坂を上って林に囲まれたお店を目指した。お昼をまわっていたので、おそらく席は空いているだろう。庭園の小路を案内されて、窓の外には樹々があって、その向こうには、さっき乗ってきた電車が走るのだろう線路が見える。

 店に入ってから、案内されている時からななのちゃんは僕の腕に掴まるようにしていて、時折、小路の踏み石をはずすように歩いていたけど

「ねぇ すごいネ このお店 なんか高そうやし・・ こんなの初めて」

「そんなに高くないよ でも 雰囲気はいいよね」

 僕は、最初にビールを頼んだけど、ななのちゃんは特別に飲み物は頼まなくて・・ビールが持ってこられたときに、コップが二つだった。

「ねぇ 私も飲むみたいに思われたのかなー コップ二つある」

「まさか それは、失礼が無いようにと気使っただけだよ」

 その後、鰻蒲焼と厚焼き玉子が乗ったお重が運ばれてきて、お店の人が出て行くと、ななのちゃんが僕の隣に移ってきた。

「やっぱりこうしたほうが、仲ええみたいやんかー ウワー おいしそー 私 鰻って 初めてやー あのな 私 シュウのお誕生日 忘れてたんやー ごめんね」と、僕のホッペにいきなりチュッとしてきた。

「お誕生日のお祝いと鰻のお礼」と、言いながら、照れてしまったのか、ななのちゃんは感動してほおばり始めていた。
 

 

7-4

 ななのちゃんも新学期が始まって、2年生になっていた。サッカークラブのほうも、小学校からやっていた子が3人と、新しく4人入っていた。
 グラウンドでは、ななのちゃんも元気に走り回っていて、みんなの声が聞こえてきていた。5月には去年対戦したところと練習試合が組まれていた。

 そして、僕の職場も若い事務員の女の人が寿退社になっていたので、高校の体育学科を卒業したという若槻つばきさんがやってきていた。高校では陸上トラックで長距離を走っていたらしい。スリムで手足も長い娘だ。そして、すぐに、僕にも事務員の高沢さんにも打ち解けて、彼女は事務員兼グラウンド整備員という触れ込みだったので、事務作業が無い時には、僕と雑草むしりをしていた。

 その日は土曜日で、僕とつばきちゃんとで、グラウンドと道路の境目の植え替え作業をしていたのだが、僕がマンションに帰るとななのちゃんは居なくて、テーブルの上には、 (今日はむしゃくしゃして、シュウと言い合いになりそうなので帰ります) とメモが置いてあって、その横には、お皿に1個のコロッケとキャベツの刻んだものがラップにくるまれて置いてあるだけだった。

 僕は、もしかするとと予想はついていたが、気にしないでいた。そして、翌日もつばきちゃんと植え替え作業を続けていて、グラウンドには、ななのちゃんの姿も見えたが、こっちを見ようともしなかった。

 部屋に帰ると、今日はななのちゃんが、まだ居たのだが、テーブルに向かって勉強していて、いつもと雰囲気が違っていた。何となく僕を無視していて僕のほうを見ようともしていないように思えた。しばらくすると、教科書をかたずけて

「帰るネ シチュー作ってお鍋に入ってるから」と、玄関ドァに向かったけど、足をとめてうつむいていたのだが、振り向いて僕の側に寄って

「ねぇ 私を見て! 私 もう大人だよ 胸も大きくなってるでしょ」と、その眼は赤くなっていて濡れたまつ毛だった。

「わかったよー なに言い出すんだよ いつも見てるよ なんか 今日、おかしいよ」

「そんなことないやん シュウは・・あの女の人と楽しそうに・・」

「やっぱり そうかー 気にしてるんか? 彼女は仕事の仲間だからね そりゃー 笑い合うこともあるよ」 

「だって・・・あの人 スタイルも良いし・・いつも、シュウのそばに居る」

「それは、入ったばっかりだから、彼女も不安だろうからと、いろいろと話して教えておくこともあるよ それだけだよ そんなこと気になってるんか? 安心しろよ 僕はななののことはいつも見ているし、君が元気に走り回っているのを見ていると、楽しくなる」

「ほんと?」

「あぁ ほんと ななののことは忘れたことはないよ だから、笑顔でな」と、手を取って諭すように言ったら、ななのちゃんは僕を見あげて訴えるようにして見つめてきた。そして、少し目を閉じるようにしてきた。その長いまつ毛がまだ濡れている。僕は、その可愛い唇にと・・・衝動に駆られていたが、自分を抑えるように

「帰り 気を付けてな 部屋に入る前には、辺りに誰も居ないことを確かめるんだよ 変質者が・・」

「わかってるよ だから、いつも走って帰ってる 部屋が近づいてきたら、ちゃんと確かめてから鍵開けてるから」

 ななのちゃんが帰って行った後、あの時、僕は・・・彼女はキスされることを期待していたのだろうか。だめだ! そんなことしたら・・・僕は、きっと抑えられなくなるだろうからと、自分に言い聞かせていた。やっぱり、時々、彼女のことを半分は女として意識し出している自分が居たのだ。でも、あきらかに、彼女は僕のことを想って嫉妬してきていたのだ。そして、あの子は自分が懸命な分、案外、独占欲が強いのかもとも・・。


 

 

7-5

 次の週、ななのちゃんはテンションが高かった。僕が帰ると、玄関ドァまで出てきて

「お帰り お疲れさまでしたぁー」

「うっ うん 元気良いね」

「そう いつも通りだよ ねぇ 見てー なんか気付かない?」

「あぁ 珍しくスカートだね」と、ななのちゃんは薄いニットの黒いセーターに白のジーンのミニスカート姿だった。だけど、僕はあえて胸のことは触れなかった。いつもより、ぷっくりとしていて、目立っていて、眼をとめていたけど。

「違うよー 胸! お母さんのブラジャーとセーター借りてきたの 胸 大きいでしょ! カップ付きやからな」

「そうだね まぁ いいけど・・だけど、あんまり・・ 無理するなよ 僕は、まんまの ななのが好きなんだから」

「うーん せっかく シュウに見てもらおうと思ったのにぃー ぜんぜん 私に興味無いんだからぁー」

「そんなことはないよ 大人に近づいているから・・少し、戸惑ってるよ どんどん 可愛くなっていくし・・」

「そう うれしいなぁー でも まだ ダメなんでしょ?」

「ななの よく聞いてくれよ 君は、まだ中学生なんだよ 今は、勉強とか運動をやるのが先決だろー? そりゃー 同年代の子と付き合うのなら、それなりのお付き合いがあると思う だけど、僕みたいに歳が離れていると、そうもいかないんだよー 君は十分 魅力的だよ 僕だって いつ君に襲い掛かるかも知れないし・・ だけど、今、君が勉強とかサッカーを一生懸命やって成長していくのを見ているのが楽しみなんだよ 友達としてね そんなななのが好きなんだよ」

「わかったよー 私 勉強もサッカーも一生懸命だよ シュウに見て欲しいから お母さんがいうように、あこがれなんかじゃぁ無い! シュウのことが大好き 覚えている? 最初に出会った時のこと もう2年になるね あの時、本当は 最初から私はこの人が好きなんだって感じたの やさしい人って思ったんだぁー だけど、最初から素直になれなかった でも、話し掛けてきてくれて、嬉しかったんだよ 神様が結び付けてくれたの」

「そうかー でもな ななのはこれから、僕よりも、もっと、ななのにふさわしい人と出会いがあるかも知れないよ 僕だって、これからどんな出会いがあるのかわからない だから、今、軽率なことはできないよー」

「嫌! そんなん 私 シュウ以外 眼に入んないものー シュウにだったら襲われてもかめへんでー 同級生の男の子なんかぜんぜん頼んないものー」

「とにかく 今は 勉強のことに集中してくれな」

 ななのちゃんは、少し、不満そうだったが、うなづいてくれて、夕ご飯の準備をしてくれていた。  

 

7-6

 ななの達の試合の日、帰ってきた様子で見ていたら、割と賑やかだった。その日はお昼も近かったので、直ぐに解散したみたいだったけど、朝宮監督に結果を聞いてみると

「あぁ 0対0 よくやってたよ ボール支配はうちのほうが多かったよ シュートの数もな だけど、決定力がないんだよな まぁ これからだよ ドリブルで持っていける奴が居ないんだよ」

「そうですか でも 新メンバーで、そこまでやれたんなら、いいんじゃぁないですか」

「そうだよ リョウなんて 3本のシュートを完全に止めた だから、みんなも頑張ったんだ 褒めてやりたいけどナ」

「そうなんですか 僕もななのちゃん 褒めとかないとね」

「そうだよ あの子はな 競り合っても、一歩早くボールに追いついて、パスを出してくるんだよ 頑張ってくれている だけど、そこで直ぐに攻撃に移れると強いんだがな」

 部屋に帰った時、ななのちゃんはまだ髪の毛が濡れているみたいで、肩にバスタオルを掛けていた。

「ごめんね 今日、砂被っちゃって頭も洗ったんだー」

「いいよ べつに・・・僕は、ドライヤー持ってないもんなー それより、今日も頑張ったんだってなー ななのがよく走っているって、朝宮さんが褒めていたぞ」

「うーん 点 入らなかった リョウが頑張ってくれてるから、何とか1点をって思ったんだけどネ」

「うん うん リョウのことも褒めていた まぁ 今度は勝てるよ」

「そうかなー あんなー シュウ 私 足蹴られて痛いネン」と、右足を見せてきたけど、膝なんかに比べると、肌が白いので、くるぶしの少し上が青くなっているのが余計に目立っていた。

「あっ 青くなってきてるネ 冷やしておかなきゃー 待ってよー」と、僕は、冷蔵庫に確か湿布薬があったはずと

「あぁー あった 少し 古いけどなぁー」と、ななのちゃんの足首に貼って

「ななのの足首って こんなに細かったっけー 僕の手で回っちゃうよ」と、その時、彼女は咄嗟に足を引くようして・・本能的に、警戒していたみたいだった。

「あったり前ヤン か弱い女の子やでー ゴリラみたいなんやったら シュウも嫌やろー?」

「そうかもな それじゃー 無理して走ったら、だめだよ 今日は、送って行くから・・ ゆっくり 歩いてナ」

「ウン おんぶしてくれるの?」

「バカ 甘えるナ!」

「うふっ 残念」
 

 

7-7 ななの 初ゴール

 それから3週間後、又、ななの達の試合があって、1対1の引き分けだったそうだ。だけど、待望の初めての得点が入ったというので、帰ってきた彼女達は明るかった。

「良かったなー ななの 点が入ったんだってな」

「ウン ゴール前でね 私 ボールに足伸ばすようにしたら、あたって入っちゃったー」

「ななのが入れたのか? すごいじゃん」

「ふふっ たまたま だよ」

「でも たまたまが重なって そのうち 狙って入るようになるよ」

「なんか 私等 すごく うまくなった気がするよ でも 向こうは主力メンバーじゃぁないんだけどネ」

「そうか でも 徐々にな」

「なぁ シュウは初恋っていつ?」

「なんだよ いきなり ・・・よく わからないけど 小学校の時かな」

「ふーん どんな子?」

「そうだなぁー 雰囲気はななのに似ているかもしれない 隣の席でな 転校生 だけど1年ほどで また 転校して行ってしまった 最後の時、手紙書くからネって言っていたけど 結局 こなかった」

「そうかー 私に似てるのかぁー その子 どうしたんだろうネ 転校してったとこで、好きな子ができたのカナ」

「ななの そ~いう風に 他人の夢を壊すようなことを言うのって 性格悪いぞー」

「そーじゃぁないよ! ひがんでるの! その子のこと」

「なんも ひがむこと無いじゃぁないか ななのは 今 僕とここに居るじゃあないか」

「そーだね 恋人になれない私がね」  

 

7-8

 その年の梅雨も明けて、夏になっていた。そして、しばらく暑い日が続いていた。そして、ななのちゃんは学期末テストが近いからと、サッカーの練習もなくて、土日は僕のところに朝から来て勉強していた。

 エアコンを点けなさいと言うのだが、彼女は大丈夫 これっ位 それに水シャワー浴びるからと 言うことをきかなかったのだ。でも、僕が帰って部屋に入ると むーっとしていたのだが・・。彼女は、カップキャミソールにジョギング用のピンクのショートパンツ姿でテーブルに向かっているのだ。髪の毛もまとめて、上にあげるようにしていた。その姿が、僕にとっては刺激的なのだ。それに、何のために僕のところに来ているのか、僕には理解出来なくなっていたのだ。

「なぁ ななの そんな恰好じゃあ かえって身体 冷やすだろー」

「そんなことないよ ちょうど良いんだぁ」と、僕の眼なんかおかまいなしだった。

「なぁ シュウ 今日は 冷やしうどんで良い? 豚の薄切り肉の天ぷら あんまり油 使うともったいないからネ」

「あぁ いいよ 早めに食べるから ななのも食って行けよ」

「うーん だめ シュウの分しか買ってないものー 一緒に、食べて行きたいけどなぁー 明日は、そのつもりするネ」

 そんなことがあって、ななのちゃんは夏休みに入っていた。すると、毎日のように僕のところに来ていた。時々はあの公園で絵を描いているようだが・・

「ななの なんで、僕のところに来るんだい?  いゃ ダメって言ってるんじゃあ無いけど・・」

「・・・理由は2つ 一つ目は、私んところは、女のふたり暮らしでしょ それを知っている人からしたら、私がひとりで居るってわかると・・襲われるかも知れへんし、不用心でしょ シュウのとこだと、独身の男って周りも思ってるから 安心でしょ 二つ目 シュウのところに、他の女の形跡がないか調べるため 以上 わかったぁー」

「あっ あぁー わかったよ ただ 二つ目の女の形跡ってなんだよー そんなのなー ななののんしかないよ」

「そんなのわかんない 職場の女の人も居るしー ここの隣ッて 若い女の人なんだよ 美人 知らないのー」

「えっ 知らなかった 美人なのか? いや つばきちゃんとは、仕事先だけの付き合いで・・」

「ふーん つばき・・ちゃん ねぇー いつの間に・・」

「あのさー 親しくなれば ちゃんって呼ぶだろー」

「へぇー 親しくねぇー」

「もう 勘弁してくれよー 僕は 今のところ、ななのしか眼に入んないよッ」

「ふふっ よーし だけど、今のところだけじゃぁないようにネ 私 頑張るからネ」と、まとめた髪の毛を両手でもっと持ち上げるようにして、胸を突き出すようにしてきて

「どう? 色気感じる?」

「バカ あぁ感じるよ! もう やめろって! わかったからー」と、僕は、ななのちゃんの頭をコツンとしていた。   

 

7-9

 僕の仕事休みの日には、困ったものだった。朝からななのちゃんが来て、おちおち寝ていられなかった。突然、自分で鍵を開けて、元気良く部屋に入って来て、僕がまだベッドでウダウダしているのに、平気で僕に被さって乗っかってきて

「シュウ まだ 寝ているのー きのこ 生えてきちゃうよー」と、タオルケットをはがしてくるのだ。

 ななのちゃんが勉強している間は、僕も仕方なくて、本とかを読んで過ごしているのだ。その日は、お昼近くなると、ななのちゃんは、家からおにぎりを作ってきたからと、それとは別にお昼に焼きそばとかを作ってくれた。おにぎりの中は大根の葉を炒めて、すこし、ピリ辛いのもの。この子はいつも、安上がりでおいしいものを作ってくれる。

「うまいなぁー ななの の作るものは、何でも おいしい」

「そう 良かった 私 小さい頃からお料理してるから 自信はあるんだぁー だから、良いお嫁さんになれるよネ」

 僕は、聞こえなかったふりをしていると、ななのちゃんは風呂に入っていく様子で着替えを持っていた。水シャワーを浴びるのが日課みたいなのだ。

「シャワーするね シュウも一緒にする?」

「バッ バカ言うんじゃぁないよ ななの そんなつもり無いのにー からかってんのかー」

「うふっ つもり無いことないけどねー やっぱりネ」と、言いながら、風呂に向かって行った。 

出てくると、やっぱり、カップキャミソールにジョギングのパンツ姿で

「あー すっきり した シュウもシャワーすれば良いのにー」

「あぁ そーすっかな ななのの匂いが残ってるかなー」

「バッカぁー 変態!」

 なんなんだよー と、思いながら、僕が出てくると

「シュウ 明日の仕事終わったら、ウチに来てよー お母さんがタコもらったんでー  
たこ焼きパーティーすっから お母さんも来てもらいなさいって 明石のタコだよ」

「ほぉー たこ焼きかぁー ビールうまそー」

「ウン 私 タコの煮つけも作っとくからネ」

「へぇー ななのはそんなのも作れるんだー」

「初めてよー あとは 食べてみてからのお楽しみネ」 

 

7-10

 次の日、ななのちゃんチに行くと、最初にドァを開けてくれたのは、お母さんで、タンクトップにハーフパンツだった。いきなりなので、僕は少し戸惑ったというか、あんまり見ないようにしていた。今日は長い髪の毛をまとめてなくって、奥に居たななのちゃんと見間違うほど若いのだ。それに、ななのちゃんより、白い足も長く見えて胸だって・・・。

「シュウ・・・さん ・・タコ 柔らかくできたよ」と、座るとななのちゃんが小鉢に入れたのを出してくれた。

「あっ ありがとう おいしそうだね」

「おいしそうじゃぁなくって おいしいの!」

「この子 昨日 ずぅーと お鍋の蓋をみつめて作ってたのよ でもね 北番さんが来るまで食べちゃーダメって 私も 今 初めてなの」

「そーなんですか ふーん じゃぁ 有難くいただきます」と、食べてみると、甘辛さが丁度良く、なんといっても柔らかかった。

「ウン おいしいよ ななのちゃん」

「でしょー スーパーの魚屋さんに教えてもらったの 炭酸使って、じっくりと火を入れて行くんだ 味付けは後からネって」

「そーなんだ おいしいよ だからといって ななのちゃんは やっぱり天才カナ」

「うふふっ 今日は ビール飲んでネ 大切りタコ焼き」

 と、僕とお母さんはビールを飲み出したけど、お母さんのブラジャーのピンクの肩紐がずれて見えてしまっていて・・・それに、ななのちゃんもフレンチ袖のTシャツなんだろうけど、多分、下には何にも着ていないようだった。僕には、刺激的すぎて、一生懸命にタコ焼きをひっくり返しているななのちゃんの手元を見ていた。

「北番さん この子 本当にあなたのこと慕っててね いつも勉強見てもらってて 私も感謝してるのー 1学期の成績表も 音楽を除いてはやっぱり、全部5だったの だけど・・・英語はリョウちゃんは100点だったけど この子96点だって 悔しがっていたのよ」

「お母さん そんなこと言わないでよー 次は、きっと 私も100点取るわ」

「ななのちゃん すごいじゃぁないか 1年の時からずーとだろう 頑張ってるよ」

「ダメ!  だって リョウは学校で卓球部にも入ってるんだよー なのに・・私 追いつかない だから もっと 努力しなきゃー」

「だけど 君は 料理も上手だし 家事のこともやってるんだろー 絵も上手だ 充分 努力していると思うよ このタコがはみ出しているタコ焼きもうまい」

「うー もぉー ショウガとねぎを入れたからはみだしたのよーぉ」

「これは これで おいしいよ」

 お母さんはしきりにビールを勧めてきてくれて、自分でもそれなりに飲んでいた。

「ちょっとー お母さん! シュウ・・・さんにビール継ぐのは・・私」

「だめよ ななのは まだ 子供なんだから そんなことは出来ないわよ」

「うー だってー なんか お母さんと距離が近すぎるんだものー」 

 

8-1

 今年も、実家の地域の夏祭りの季節がやってくるので、僕はななのちゃんに聞いてみた。それに、実家からも連れておいでと言われていたのだ。

「今年は どうする? ななのを連れておいでよって言ってるけど」

「うん 行きたい 花火も見たいしネ」

「そうか じゃー 今年は、敦賀の海に泳ぎに行くかー」

「・・・私ネ 水着も持ってへんしー 海水浴はええわ」

「そうか 水着ぐらい買えばいいじゃない? 中学のんもあるんだろう? 海は気持ちいいぞー」

「うん あるけどなー あんなー 私 前に話したことあるやろー 小学校の時、お母さんと海に行った時、一緒に行った男の人に身体触られたってー 思い出すと嫌やねん シュウだったら、かめへんわーって思うよー でも、ふと 思い出したりしたら・・」

「そうか 悪い 思い出させてしまったな ごめん じゃあ 祭りだけにしよう その代わり、車借りて、置く琵琶湖の展望台に連れて行ってあげるよ」

「うん それ た・の・し・み 私 上から琵琶湖見たこと無いからー」

「よし そーしよう」

「でも シュウと二人っきりでお泊りしたいなぁー 温泉の露天風呂で・・それでなー 私はシュウに後ろから抱えられて、二人で入るネン」

「あのさー あのー そっそんなこと 中学生の女の子が言うことちゃうやろー」

「ふふっ シュウ 慌ててるぅー ジョーダンよっ 前 ウチに来た時 シュウがお母さんとあんまり仲が良いんだものー 私 本当は、嫉妬してたんよー 取られたりしたら・・ ウチのお母さん 若くて、美人でしょ?」

「そっ そーだね 若い スタイルも良いね」

「ほらぁー どこ見てんのよーって お母さんもシュウのこと きっと 好きなんだよ」

「まぁ それは・・ ななのの友達だからって・・ なぁ お母さんって 幾つ?」

「ウン 私を二十歳の時 生んだって言ってたから・・33かな」

「ふーん やっぱり若いんだー 僕と10歳しか離れてない それに、僕とななのも 10歳なんだ」

「そーだね ねぇ シュウはお母さんのこと 女性の対象って見てる?」

「何を聞くんだよー そんなこと無いよー ななののお母さんってだけ 確かに魅力的だけど・・」

「ふーん 怪しいなぁー 私 お母さんが大好きなんだけどー シュウは私のほうが優先権があるんだからネ」

 と、髪の毛を耳の後ろに掻き上げる女のしぐさをして、窓の外を見ながら、独り言のように呟いていた。 

 

8-2 ななの中2 夏まつり

 当日は、やっぱり乗り換え駅で待ち合わせをして、ななのちゃんはジャンパースカートに麦藁帽だった。今回はお母さんも安心して送り出してくれたみたいだった。今日は、奥琵琶湖の展望台に行くからと、少し早い目に出てきていた。

「シュウ お弁当作ってきたよ 上で食べようと思ってなー」

「そうか リュツク重いだろう 持とうか?」

「平気 電車 多分 座れるでしょ?」

 途中、ななのちゃんは窓からの風景を懸命に見ていて

「なぁ いつも思うねんけど なんで、もっと琵琶湖が見えるとこ走ってないねんやろーネ 田んぼとか工場ばっか」

「うーん 琵琶湖の側は水害もあるし、地盤もあるだろうし、昔の街道が山寄りだったせいもあるのカナ あっちは、住んでる人も少ないし」

「そうかー じゃーぁ 新幹線はもっと際にすれば良かったのにネ」

「あぁ そうだね でも、風景だけの為に新幹線を作ったのじゃぁ無いからなぁー」

 実家に着いた後、挨拶もそこそこにして、早速出て行った。と、言っても借りたのは軽トラックでエアコンも付いていなくて、窓を全開で走っていて、ななのちゃんの髪の毛も後ろになびいていたりして、彼女なりに両手で抑えていた。

「すごいね ここが琵琶湖の北の端なんだ 波も静か 鏡みたいなんだね」

「そうだよ 周りを山で囲まれているからな 昔はな、この大浦から、丸子船というので坂本とか大津に荷物を運んでいたんだよ」

「へぇー 何運ぶん? 椎茸?」

「いや それは無かったと思う 敦賀の港に着いた北海道からの主に昆布とか海産物だった」

「そーなんやー そやから関西の人は昆布だしを大事にするんやなー 昔は北廻りの船やから、江戸には持って行かへんやったんやろー? 家康さん 味音痴やから 醤油ばっかーで 濃いぃー 味になったんやな」

「まぁ それはどうだかな ななのちゃんは、想像がすぐに脹らむなぁー いや 悪いことじゃぁないと思うけど」

 そして、展望台に着いた時も、いきなり走り出して、琵琶湖を眺めていた。

「わぁー すんごく広いんだねー 大津のほう見えない 私等住んでるとこも見えない 島もあるんだね 水面が鏡みたいに光ってる」

 そして、適当な場所をみつけて、ななのちゃんが作ってきたというお弁当を広げて

「あのね おにぎり 私のとお母さんが作ったのがあるからね どっちが私のんか 当ててみてー」

 ひとつは海苔が巻いてあって中身は糸こんにゃくと かにかまを和えたもの もうひとつは鰹節、にんじん、えのき茸を細かくしてご飯と混ぜて握ったもの。微妙に甘辛いのだ。ほかには、定番の玉子巻きと豚肉でピーマンを巻いて味付けしたもの。

「ななの どっちもおいしいしー わからない」

「うーん 嫌だ よーく考えてー どっちが私の味? いつも食べてるからわかるでしょ?」

「そーだなぁー こっちカナ 御飯に混ぜてあるやつ いつもの ななのの味カナ」

「ピンポーン 正解 やっぱり シュウ 私への愛情の証だね」 

 

8-3

 家に戻って、ななのちゃんは風呂に入って浴衣に着替えて出てきた。

「少し 背が伸びたのよね どんどんときれいになって もう、立派な娘さんよねー」と、母が父と僕の前に連れてきて言っていた。

「お義母さん いつも、ありがとうございます うちのお母さんもお正月の写真を見て、きれいネって こんなことまで、してもらってって 感謝してました」

「お礼なんて言わないの! 私達の楽しみなんだから・・ ななのちゃん あっちの家でかがみさんが待っているから お化粧してもらってらっしゃいな」

 と、僕はお化粧と髪の毛をセットしてもらったななのちゃんと、ぶらぶらと花火がよく見えるほうに歩いて行った。僕も、浴衣に着替えていたのだけど、家から遠ざかると、ななのちゃんは僕の腕に絡むようにしてきていた。

 上がった花火を見て、相変わらず、ななのちゃんは声を出しては僕の手を取って、はしゃいでいた。そして、帰る時

「おい シュウ だろう?」と、後ろを振り返ると、何人かのグループだった。よく見ると、高校の時の同級生で男2人女2人のグループだった。

「やっぱり シュウか? なんだ、帰って来てるんだったら連絡しろよー」

「あぁ 急だったから お前も帰ってたのか?」

「おお 久しぶりでな タカシに声掛けたら、集まってくれた なんだよー 久しぶりだよな」と、テルマサは名古屋で勤めていて、タカシは地元の仕出し屋を継いでいる。女の子はやっぱり、それぞれ地元の事務員と販売員になったと聞いていた。

「ねぇ かがみ 元気? 赤ちゃん生まれたんでしょ?」

「あぁ 男の子だ 可愛いよー」

「もう お母さんだものねー 早いねー」と、言っていたサナエは、結婚もまだみたいで、どうも彼氏も居ない様子なのだ。浴衣姿なんだけども、太っているし、似合わないと思った。高校の時はそんなに太っていなかったのに・・。

「シュウ 彼女か? こんな可愛い娘 この辺りには居ないよなー どこで、引っかけたんだぁー?」と、僕の後ろで隠れるようにしているななのちゃんを見て、タカシが見つけたように言ってきた。

「彼女じゃあないよ 知り合いの娘なんだ 祭りだから・・」

「へぇー まだ 高校か中学生でしょ? シュウってロリコン趣味だったのー? シュウも悪だね 私って女が居ながらさー こんな若い娘を」と、サナエがからかうように言ってきた。お前はそんな風に人をからかうような言い方をするから、余計もてないんだよって思って

「あぁ サナエとは そういう機会が無かったからな 生憎だったな!」

「まぁまぁ シュウ 久しぶりだし、この後、飲みに行こうぜ こいよー」

「そうだな 高校出てから初めてだもんなー 行くかー でも、ななのちゃんを家に送ってから、行くよ」と、僕は、その途端に不機嫌そうな ななのちゃんの顔を見ながら返事をしていた。

「シュウ やっぱり 行くんだー」と、帰り道に、明らかに面白く無いと思っているななのちゃんだった。

「ウン ななのは連れて行く訳にいかないだろう? お母さんの相手して待っててくれ」

「・・・仕方無いね お酒 飲むんじゃー 私 子供だもんネ」

 ななのがきっとまつ毛を濡らしているだろうなと思いながら、僕は、送り届けた後、出掛けて行った。そして、酔って、部屋に帰ってきた後、眠り込んでしまっていると、多分、ななのだろう、ベッドに上がって、何にも掛けていない僕の背中からタオルケットを掛けてきて、そのまま腕を廻してくっついてきた。僕は、ななのの未熟な胸の柔らかさを背中に感じていたのだが、酔っていて面倒なのでそのまま寝てしまっていたのだ。

 朝になると、ななのは居なくて、起きて行くと、彼女は母と一緒に朝ご飯の用意を手伝っていたのだ。
 

 

8-4

 ななのちゃんも学校が始まって、最初の土曜日に僕のマンションに来ていた。

「お帰り シュウ 今日は暑かったワー」と、相変わらずのフレンチ袖のTシャツとショートパンツ姿で出迎えてくれた。

「あのなー ナナコが付き合い出したんだってー 同じサッカーの1つ上の子 欣也先輩」

「あぁ あの子かー エースじゃんか」

「ウン 女の子に人気あるの だから、ナナコには内緒にしとってって言われてるけど リョウと私には話してくれたの 夏休みに公園とかお買い物に行ったんだって 楽しそうなんだよー 羨ましい」

「どうして? ななのだって 僕といろんなとこ行くじゃぁないか」

「うーん だけど・・ 私等 付き合ってるって言えないんでしょ? 私 シュウのお荷物にばっかーなってるしー」

「そんなことないよ 僕はななのと居ると楽しいし・・ まぁ ななのも 同年代の男の子と付き合ってみるのも必要じゃぁないの?」

「やだよー ちょっと シュウに甘えてみたかっただけ! 私はシュウ以外は眼に入んないものー それに あの時 シュウが声掛けてくれなかったら・・・私 居ないかも」

「そうかー あの時は・・ なんか 寂しそうな雰囲気だったものなー でも 今は明るくていい子だよ」

「シュウが救ってくれたお陰 だからー 私 その時、シュウのものになろうって決めたの 夏の時も シュウを取られたようで悲しかったの バカだよね 私って あんなことって当たり前なのに・・ 頭ではわかっているつもりなんだけど・・ シュウの彼女じゃぁないんだから・・ シュウの生活には入っていけないのよネ 私って やっぱー 子供なんだーって ネ」

「いや そんなことは無いけどーなぁー 僕も 複雑 だよ」

「なぁ 私 シュウを縛り付ける気はないからネ もし シュウが他に好きな女の人が出来ても・・ でも 私のことはいつまでも忘れちゃぁ嫌だよ シュウの飯炊き女でいいからね」  

 

8-5

 9月の末に僕がグラウンドの練習を見ていると、朝宮監督が寄ってきて

「やぁ 北番君 すごく活気のあるチームになったろー?」

「そーですね 声が事務所に居ても聞こえてきますよ」

「あのな 中学校の体育の教師なんだが、クラブの1期生でな そいつが、僕に ななののことで相談してきた。学校の体育会の100mでななのが抜群に速かったらしい それで、中学校の秋季大会に100mとリレーに学校代表で出てくれって言ったらしいんだ。だけど、彼女はサッカーしかやりたくないからって、断ってきたそうだ。たぶん、彼女なら上位に入れるらしい それで、僕になんとか説得してくれないかと どう思う?」

「へぇー ななのって そんなに速いんですか?」

「ああー 100m走は知らんけど 確かに、瞬発力は抜群だよ 誰よりも、早くボールに追いつく」

「うーん 嫌だって、言ってたんですかー ななのらしいなぁー 彼女 生活のリズムが崩れるのが嫌なんでしょうね 彼女がやりたくないんなら仕方無いでしょうね 周りが騒いでも・・ 今は、サッカーも楽しくやっているし」

「そーだよなー やるとなると陸上の練習もしなくっちゃーいかんしなー ほっておいて、彼女の好きにするかー」

 その日、僕が帰ると ななのが迎えてくれて

「お帰りなさい お疲れ様でした お風呂にする? ご飯にする? それとも私?」

「ななの! バカ言ってんじゃぁないよ」

「うふふっ 一度 言ってみたかったんだーぁ」

「ななの 走るの速いんだってな 学校の先生から体育大会に選手として誘われてるそうじゃぁないか」

「へぇー そんなことあったかなーぁ でも、そんなん 練習もせんならんし・・スパイクだって用意せんならんやろー」

「ななの スパイクとか お金のこと心配してるんか?」

「そんなんちゃうけど 私が有名になって、オリンピック選手とかになったら・・シュウと一緒に居られへんやろー 離れたくない 私 今の生活乱したく無いネン 幸せだから」

「ななの まぁ オリンピックは無理やろーけど・・」

 僕は、シャンプーの香りのする ななのの頭を胸に抱き寄せていった。今度は、ななのも抵抗なく顔を寄せてきていた。

「シュウ 汗臭いけど、シュウの匂いがする」と、僕の背中に手を廻してきた。

 僕は、しばらくの間、そのままでいたのだ。そして

「シュウ 私 なんでか よだれ出てきてしまったんよ」と、ななのが言ってくるまで・・。 
 

 

8-6

 秋も過ぎて、冬に向かう時、ななのちゃんのチームが初勝利を挙げたと聞いていた。今度は、同じ中学生のメンバーと試合をしたみたいだった。

 そして、12月になると、ななのちゃんから、又、誕生日とクリスマスとでウチに来てとねだられていたのだ。

 当日、僕は今度は肉を買っていくからと、予め言っておいたので、焼肉用を持っていくと、ななのちゃんが出迎えてくれて、ふわふわの赤レンガ色のセーターと同じ色のベレー帽に、やっぱり、ふわふわの白いミニスカートで現れたのだ。

「いらっしゃい これ お母さんがお誕生日だからって買ってくれたの 可愛い? シュウに見てもらいたかったの」

「うん 妖精みたいだよ じゃー これ 僕からのプレゼント」と、ファー付きのショートブーツだった。

「わぁー うれしい 開けて良い?」と、その場で箱を開いて

「わぁー 可愛いぃー」と、履いて見せて、奥のお母さんにも見せに行っていた。

「北番さん いつも すみませんネ ななのにこんなことまでしてもらってー ななの もう 良いでしょ それで、焼肉じゃぁ せっかくなのに、汚すとネ 着替えなさい」

と、僕達は肉を焼き始めて、僕とお母さんはビールを飲み出した。

「この子 2学期の成績も良かったのよ それに、絵が市の展覧会で優秀賞もらったんだって 街の絵」

「そうか それはすごいなぁー ななのちゃんの絵は それぞれの家からも温かさが聞こえてくるようだものなー」

「彼女 いらっしゃるの?」と、お母さんが突然、聞いてきた。

「いえ 居ないですよ」

「うそっ 居るじゃないの! つばきさん 皆言ってるよ あのふたりは、良い雰囲気だって」と、ななのちゃんはからかってるつもりなのか、僕の顔を伺うようにしていた。

「なに 勝手なこと言ってんだよー つばきちゃんは、仕事仲間なだけだよ」

「うふふっ 北番さんは 良い人だから、皆 嫉妬してるんだよネ ねぇ 結婚とかは 考えていないの?」

「はぁ まだ 先 カナと・・」

「そうよ そんなに早いと 私 困るぅー」

「ななの なに言ってんのよ あんまり 北番さんを困らせないのよ あなた まだ 子供じゃぁない」

 その後、僕とお母さんは何故か、石田三成と賤ケ岳の話で盛り上がってしまって、余計にななのちゃんは、ずーと、機嫌が悪かったのだ。

 帰る時、見送ってきたななのちゃんに、表で、今年も実家に来るかい?と聞いた時、ようやく、笑顔になって機嫌を直していたみたいだった。 
 

 

9-1 ななの14歳の正月

 年が明けて、元旦の日にななのちゃんと待ち合わせをしていた。お正月もお母さんは仕事だけど、朝は一緒にと迎えたいと言うので、その後に、僕の実家にいくことにしていた。去年は心細いという思いをさせてしまったので、今年は一緒に行くことにしていたのだ。

 待ち合わせの駅で現れたななのちゃんはダッフルコートに赤レンガ色のベレー帽と僕がプレゼントしたショートブーツだった。コートに隠れていたけど、おそらくその下はふわふわのセーターを着ているんだろうなと思った。

「おはよう シュウ 朝 食べたの?」

「ううん 起きて コーヒー飲んだだけ」

「まぁ だから ウチに来ればって言ったのに・・大したもん無いけど お雑煮ぐらい・・」

「いや 親子水いらずのほうが・・」

 木之本の駅に近づくと、僕はお腹がすいてきていたが、我慢して実家を目指していった。家に着くと、かがみさんが迎えてくれて、その後ろから琳太郎がよちよちと歩いて来ていた。

「おぉ 琳太郎 歩き出したのか 僕は、君の叔父さんだよ シュウだよ」と、手を差し伸べたのだが、かがみさんの後ろに隠れるようにしていた。

 茶の間の炬燵の部屋に行くと、父と兄貴が飲んでいて、母は僕達の食べるものを用意していた。ななのちゃんが挨拶をして、僕達も座って、ななのちゃんが

「琳太郎ちゃん こんにちわ おいで」と、両手を伸ばすと、ななのちゃんの膝の上で抱っこされるように乗っかっていった。

「なんだよー なんで ななのに・・ もう 女の子のほうが良いのかな?」

「秀君 琳太郎はそんな女ったらしじゃぁないわよ ななのちゃんが優しそうだからよ」と、かがみさんが少し、怒るように言ってきていた。

「秀 どうすんの? 初詣行く? 行くのなら ななのちゃん 着物」と、母が聞いてきたら

「お義母さんね ななのちゃんの為にって 去年は借り物で申し訳なかったからってー 着物 買ったのよ 楽しみにしてたみたい」と、かがみさんも口をはさんできた。

「あっ そうか 明日 行こうかと思う 今日は家でゆっくりするよ」

「そうなの じゃぁ 着るのは明日にして・・ ななのちゃん ちょっと羽織って見せてー」と、隣の部屋に連れて行った。

 チラッと見せてくれたけど、赤い自模様に菊花とか星が散りばめてあって、かなり目立つようなものだった。

「良かったわ ななのちゃん 全然 着物に負けてないものー 可愛いわよ ねぇ かがみさん」と、母がかがみさんに同意を求めていたけど、僕は、きっと彼女は心の中ではあんまり良い気分じゃぁないだろうなと思っていた。

「賢 琳太郎を少し寝かせるから、帰るよ 賢も一緒に少し寝たら? ななのちゃん 明日 朝ご飯食べたら、直ぐにウチにおいでネ 着替える前にお化粧してあげるから」

「ありがとうございます」と、ななのちゃんが言っているのに、琳太郎を抱き上げて帰って行った。

 その後、僕はななのちゃんを誘って、庭で羽子板で遊んでいた。もちろん、ななのちゃんは、初めてで珍しがっていた。

「昔から ウチにあるんだよ 羽根を落とすとネ 顔に墨で×とか書いたりしたんだよ」

「へぇー 罰ゲームなんだー」

 と、言いながらも、彼女はやっぱり勘が良くって、僕が打ち返せない方が多かったのだ。そして、夕食には、鯖寿司とか鰻の押し寿司が並んでいて、僕は父と一緒に遅くまで飲んでいた。その間に、母とななのちゃんは、先にお風呂に入って、隣の部屋で母がななのちゃんの髪の毛を柘植櫛ですいていた。

「きれいな髪の毛ねぇー 真っ黒でくせが無くて・・ 羨ましいわぁー お手入れ大変なんでしょ?」と、言う声が聞こえてきている。

「いいえ 別に でも 大切にしているという猪毛のブラシで、お母さんがとかしてくれています 最近ですけどネ」

 ななのちゃんが返事していた 最近 という言葉に僕は、感じるものがあったのだ。

 その晩、僕が2階のベッドにたどり着いて、しばらくすると、やっぱり ななのちゃんなのだろう。先に隣の部屋で寝ていたはずだけど、僕に毛布と布団を掛け直しにきて、そのまま、横に潜り込んできたのを背中に感じていたのだ。 

 

9-2

 次の日、目が覚めると、やっぱり ななのちゃんはもう居なくて、降りて行くと、台所で母の手伝いをしていたのだ。そして、揃って食べる前に、ななのちゃんにお年玉を・・父母と僕からと、そして、兄夫婦からと・・母がななのちゃんを諭して無理やり渡していた。お雑煮と鮎の塩焼き、だし巻き玉子でかんたんに済ますと、ななのちゃんは兄貴夫婦の家に向かった。

 戻って来てから、母に着付けをしてもらって、現れたときには、僕も父も感嘆の声が出てしまっていたのだ。とても、少女とは言えなかった。大人びた姿に、でも、はじけるような若々しさもある。そして、唇も着物に負けないように真っ紅に光っていたのだ。

 僕達が出掛ける時、丁度、兄貴家族もかがみさんの実家に向かうので車に乗り込む用意をしているところだった。かがみさんは、着物姿だったので

「かがみさん きれいなぁー 若々しいし、色気もあって とても子供いるように見えないよ」と、僕は、昨日のことが気になっていたので、機嫌をとるので言ったつもりだった。

「まぁ 秀君も お世辞が言えるようになったのね 今 二人目がお腹に居るの」と、言いながらも嬉しそうな顔をしていて

「まぁ ななのちゃん きれいネ 秀君 目立つわよー こんな美人 連れているとー あっ そうだ 二人の写真 撮ってあげるね 並んで!」と、玄関前で並ばせると

「ウン お似合いよ 今度は、ななのちゃん 秀君と腕組んでー もっと寄り添ってー ショールもたたんでネ」と、言われて、ななのちゃんも腕を絡ませてきていた。

「かがみさんって 赤ちゃん居たんだね だから、ゆっくりとしか動かなかったんだー でも 幸せそう 私も、結婚できるまで あと・・1年 でも、早ようせんと、18に引き上げられるんやネ」と、地蔵院に向かって歩いている時に独り言のように言ってきた。

「ななの 君は頭も良いんだから、進学もして、その中で自分のやりたいことを見つけて行くんだよ 結婚なんて、まだまだ先の話だろー?」

「・・・まだ 先なのかー でも・・」と、黙ってしまった。

 地蔵院について、ななのちゃんは今年もカエルの絵馬に願い事を書いていた。

「去年の願い事 叶ったからネ 今年は別のお願いごと 秘密だけど」と、言っていた。

 古い喫茶店に入ってサンドイッチとかを食べて、家に帰ると、やっぱり母が待っていたように、ななのちゃんを連れ出して、買い物に出掛けて行った。

「シュウ また、お義母さんにお洋服とか、いっぱい買ってもらっちゃった。それとね 余呉湖というところにも連れて行ってもらったの」

「ふぅ~ん 余呉に・・寂しい感じのとこだろー」

「そうよ ワカサギをお願いしといたの 今夜の天ぷらにと思って・・。ななのちゃん 可愛いから、お洋服も買い甲斐があるのよー こんなの着ると可愛いわ と思ってね」

「そうか それはすまないネ」

「どうして 秀がお礼言うのよ・・ 変なのー」

 その晩は、ワカサキとか野菜と茸の天ぷらが並んだ。そして、自然薯のおろしそば。ななのちゃんも、台所で手伝っていたみたいだった。ようやく、二人も料理が落ち着いて、座った時、母が

「ななのちゃんとお台所に立っていると楽しいわー かがみさんには何となく、遠慮しちゃうからー これ 内緒よ」

「なんにも 遠慮することなんか 要らないじゃあないか」

「そうも いかないわよ 向こうは 主婦なんだよ だけど、ななのちゃんは娘なんだから・・ ・・・もう、明日 帰っちゃうのよね まだ 冬休みなんだから・・もっと 居てもいいのよ」

「お義母さん ありがとうございます でも・・」

「お母さん ななのが困るじゃぁないか ななののお母さんも待っているし」

 父と僕は早々にお風呂に入っていたので、母とななのちゃんが一緒に入って、もこもこのルームウェアのななのちゃんの髪の毛をとかして乾かしていた。それから、しばらくして、寝るので、ふたりで2階に上って行ったのだけど、ななのちゃんは後ろから僕の手を握り締めていた。そして、僕の部屋にまで付いてきて

「ななの もう寝るんだから、あっちの部屋にいけよー」

「う~ん 一緒じゃあ だめ? ひとりじゃぁ寂しい」

「ダメ! そんなわけにいかないよー」

「フン じゃー あとで・・」と、言いながら去って行ったのだけど、僕は、夜中に隣に潜り込んでくるななのを感じていたのだ。だけど、気づかない振りをしていた。
 

 

9-3

 実家から帰って来て、次の日、もうななのちゃんは僕の部屋に来ていた。ベージュのニットのワンピースで襟元がフリルで紅いリボン結びになっている。

「どう? 木之本のお義母さんに買ってもらったの 着て行くところも無いからさー シュウに見て欲しくってー」

「そう うん 可愛いね」

「そう うれしい! 今日ネ 炊き込みご飯にしたの いっぱい茸 もらってきたんだものー」と、彼女は教科書に向かっていたのだ。

 それから、しばらくして、突然ななのちゃんのお母さんが仕事先に僕を訪ねてきた。

「ごめんなさいね 突然 北番さんに お礼を言いたくて・・ ななのが色々とお世話になって 向こうのお母様にも、いつも可愛がってもらってー お洋服なんかも、いっぱい買ってもらったとか」

「いえ いつものことで・・母も喜んでいますからー」

「あの子も帰って来て 楽しそうに いろいろと話してくれるんですよ あぁー これ 皆さんで召し上がってください」と、ケーキの箱を差し出してきた。

「あっ すみません こんなー ありがとうございます」

「あのー 北番さん 今度 飲みに行くのお誘いしていいかしら? ふたりで・・ななのも居酒屋さんぐらいなら良いよって・・」

「はぁ まぁ 機会ありましたら・・」

 そして、お母さんが帰った後、事務所から見ていた つばきちゃんに ケーキの箱を渡すと

「へぇー きれいな人ね あの人 ななのちゃんのお母さんでしょ 若いしスタイルも抜群ですね シュウ君には ななのちゃんより お似合い」

 確かに、ダウンコートにスリムなジーンで、まだ、20代と言っても通用するようなお母さんなのだ。

「バカ 余計なこと言うんじゃぁないよ それに 僕は、ななのちゃんとも別に、なんでも無いよ つばきちゃんには関係ないだろう?」

「あっ やっぱり怪しい! ななのちゃんのこと 意識してんだぁー 関係ないことはないですよ 大切な先輩ですから・・女性関係はクリーンにしてもらわないと センター長からも言われてますからー」

「ウソつけぇー! つばきちゃん 眼が泳いでいるよ そういうのは、逆セクハラなんだよ 早く ケーキ食べようよー」

 

 

9-4

 2月になって、ななのちゃんのお母さんからの電話が鳴って、飲みに行こうという誘いだった。ななのちゃんのことで相談もあるというので、了承したのだ。

 待ち合わせをした居酒屋に行くと、辺りは暗いが、店の前でお母さんが待っていたので

「すみません 寒いのに 待っていてくださったんですか?」

「ううん 今 来たとこよ」と、言っていたが顔も冷たくなっているようだった。

 串揚げとおでんの店で、一緒に中に入ると、ダウンコートを脱いだお母さんはスリムジーンズとニットの白のセーターで、下にタンクトップが透けて見えていて、胸の形もくっきりとしているので、僕はドキドキしていた。

「ななのがね 高校に行かないつもりなんです 私、旦那が突然居なくなってしまって、まだ、離婚が成立してないので、母子手当も申請できなくて・・生活が苦しいからって、あの子 私に負担掛けまいと、中学出たら働くつもりみたいなんです」と、ビールを飲み出した時に言ってきたのだ。

「それはー・・・ 成績も優秀なのに・・ なんとも・・」

「私 あの子にみじめな思いをさせたくないからと・・・ だから、必死にやってきたつもり 贅沢はできないけれど・・ だけど、負担だなんて思ったこと無いのよ せめて、高校にも、行ってほしいんだけど・・ 北番さんからも、それとなく説得してくれないかしら」

「それはー ・・・難しいですね ななのちゃんの考え方もあるだろうし・・」

「あのね ・・・私 ・・・ 前に男の人と・・何人かに援助してもらってたことがあるの 向こうは、奥さんも居る人達だから、不倫よね だけど、女ひとりで働いても稼ぐのって大変だったの 精一杯だった だけど、ななのも、薄々気づいてたみたいだから・・やっぱり、良くないと思って 今は、自分で必死に働いているわ ななのの為に だから、もっと勉強して自分の好きな道をみつけてほしいのよ 北番さんのお陰で、すごく勉強しているし」と、もう、少し酔い気味になってきていた。

「わかりました なんとなく言ってみます」

「ねぇ 北番さんは 女性の経験ぐらいwwwの? ななのには女として 感じてる?」

「そりゃー あんなに可愛いし、素直な子ですから・・でも・・まだ女の子としか・・」

「そう お願いネ」と、言われたが、その意味はよくわからなかった。おそらく、間違いはしないようにという母親の願いだったのかも。それからも、しばらく飲んだりして、お母さんがだいぶ酔ってきているみたいなので、ななのちゃんも一人っきりだし、帰りましょうと外に出た。

 送って行きますと言ったら、僕につかまって歩き出して

「ねぇ 北番さん 私の名前知ってる?」

「えーとー 知らないですネ」

「ふふっ ゆきむら るり ルリって呼んでよー」

「えっ じゃあ るりさん 可愛い名前ですね」

「だめぇー ルリって お願い」

「あーぁー ルリ だいぶ 酔ってますね」

「よーしー まだ、酔ってないわよ 私ね 今 してないでしょ あれっ 私も 女だから・・ねっ 寂しいって男に甘えたいって思うこともあるのよ わかってる? シュウ 年上の女じゃぁ だめ? 魅力感じない?」と、両手で僕に抱きついてきた。

「ちょっと 飲みすぎじゃぁないですか? ルリさんは 充分、まだ若いですし、魅力的ですよ」と、怪しい雰囲気の中、何とか送り届けて、玄関のドアを開けると、僕がお母さんを抱きかかえていたせいか、ななのちゃんが不機嫌そうに立っていた。僕は、早々にななのちゃんに引き渡して帰ってきたのだ。 

 

9-5

 次の土曜日、ななのちゃんが来ていて、僕が帰ると直ぐに駆け寄って来て

「ずいぶん お母さんと仲良くしてたみたいね! 寄り添っちゃってサー」

「あぁ この前か お母さんもだいぶ飲んだみたいだったからなぁー」やっぱり、あの時、不機嫌だったんだと・・。

「あの後 シュウ シュウ とか言っちゃってー 大変だったんだからぁー なんで シュウって呼び捨てなのよー」

「それはー 成り行き上な」

「成り行きで 抱き合ったりするのぉー? 不潔なことしてない?」

「なんも 抱き合ったりなんかしてないよ ただ ルリさん・・・お母さんが崩れそうだったから、支えていただけだよ」

「ルリ?・・・ふ~ん 私はね・・・ シュウが他の女の人と飲みに行くんだったら お母さんとなら良いかぁーって 思って・・ 私は行けないしー なのにサー お母さんもふしだらよね 嫌よー」と、又、いつものようにまつ毛が濡れ出していた。

「なぁ ななの なんにも ふしだらなこともしてないよ ただ ちょっと飲みすぎたけど・・ ななのが思ってるようなことはなんにも無いよ 安心して 僕とお母さんとなんて そんな訳ないじゃぁないか」

「だって さっき ルリって・・」

「それは まぁ だって 僕が、お母さんって呼ぶのもおかしいだろう?」

「うーん だけどー 本当に なんにも無いのー?」

「うん 誓う ななのが嫉妬深いのって 知ってるから そんな風にはならないよ」

「私って 嫉妬深い?」

「あぁ 時たま むきになって 涙で訴えてくる」

「わずらわしい?」

「いいや 可愛いよ」

「わぁーい じゃぁ 張り切ってご飯作るネ 今日はオムレツとマカロニサラダ」と、直ぐに笑顔になって髪の毛を掻きあげるようにして、流しに向かっていた。

 どうも、僕は、このしぐさと笑顔に弱いようなのだ。 

 

9-6

 ななのちゃんの3学期も終わろうとしていた時、突然、僕の職場に来て僕を呼び出して

「見て シュウ」と、成績票みたいなものを見せてきた。そこには、学年の順位と各科目の成績が載っていた。生徒数の上に1の数字があった。

「ななの これって 学年でトップってことだろう? すごいなー 頑張ったなぁー」

「うふふっ 頑張ったでしょう リョウにも勝ったの 今日ね お母さんと学校に行って渡されたの だから、お母さんがシュウに見せといでって もう、お仕事に行ったけど」

「そう ななの この調子で良い高校を目指せよな」

「うーん その話は今度 ゆっくりネ」

「そうかー でも、なんか ご褒美しなきゃーな」

「いいの そんなの シュウの愛があれば」と、制服のスカートを翻して帰って行った。

 事務所の中から、その様子を見ていたのだろう つばきちゃんが

「先輩 やっぱり ななのちゃんって・・先輩の・・なんですか? ふたり楽しそう」

「何言ってんだよー 知り合いの娘さんなだけ」

「知り合いって あのきれいな人でしょう? キリタニミレイに似ている人 どっちも 怪しいなぁー」

「バカ」と、僕はグラウドの見回りに向かった。

 サッカークラブの方は、今の2年生が最上級生になるので、新しく リョウと言う子がキャプテンに、そして、ななのちゃんが副ということになっていた。ずーと、成績でリョウという子に勝てないと言っていたけど、ななのちゃんもはしゃいでいたのだろうと、だけど、やっぱり高校のことははぐらかしていたなと思案しながらグラウンドの植え込みを点検していたのだ。  

 

9-7

 ななのちゃんは春休みになると、殆ど毎日、お母さんが休みだという日以外は僕の部屋に来ていた。そして、僕の出勤前に来て、お弁当を渡してくれていたのだ。サッカークラブのある日は、自分の分も作ってきているんだろう。練習が終わると、リョウちゃんと公園で並んで食べているようだった。

「ななの 毎日 大変だろう お弁当 無理すんなよ」

「いいの! 私 楽しいから シュウが食べてくれるんだものー お母さんも了解してるからネ」

「そうかぁー 助かるけどなぁ」

「いいんだよ 私 こんなことしかシュウにしてあげれること無いモン」

 僕が、休みの時でも、ベッドに飛び乗って来て、まだ寝ている僕の布団の上で「起きろー」とドンドンと飛び跳ねてくるのだ。そして、僕にかまわず、空気の入れ換えと言って窓を開けてくるのだ。そして、僕が朝食を済ますと、テーブルの上に問題集を広げて勉強し出すといった具合だった。

 僕が仕事を終えて帰った時、ななのちゃんが元気が無くていつもと雰囲気が違っていた。

「どうした? 元気ないなー どっか悪いのか?」

「う~ん 昨日 お母さんと言い合いになってー」

「めずらしいネ 仲良いのにー」

「あのね 私 高校に行かないって言ったから・・ 泣いて 怒ってたの」

「そうかー ななのは 高校行かないで やりたいことがあるの?」

「うぅん 無いけど お母さんに負担掛けまいと・・ お母さん あんなに、働いて・・身体壊しちゃうよー お仕事掛け持ちしてるんだよー」

「だけど お母さんは負担じゃぁ無いって言ってるんだろー それよりも、ななのの成長が楽しみだって」

「そうやって ルリちゃんと 話したわけネ」

「・・・ななの すねてることじゃぁ無いだろう? 僕は、ななのにはもっと色んなことを勉強して、自分の可能性を見つけて欲しい。そのためには、高校にも行って大学も行けばいいんじゃぁないかと思う。君はそれだけの能力があるんだよ。そうしてれば、ななののやりたいこともみつけられるんじゃぁないかなー。それが、お母さんの望みでもあると思う。ななのがお母さんのことを思う気持ちはわかるけど、親孝行はななのがやりたい仕事に就いて、それからでいいんじゃぁないか? 今は、進学することが、一番のお母さんへの親孝行になるんじゃぁないのかなぁー お母さんはななののことを想って言っているんだよ ななのが可愛い娘だから ななのは頭が良いんだから、わかるだろう?」

「う~ん わかるけどなぁー・・・」

「お母さんは ななのが成績も良くって元気に過ごしているのが一番の楽しみだから頑張れるって言ってるんだよ お母さんもまだ若いんだよ 今は、甘えてて 大丈夫だよ」

「なぁ じゃあ シュウも時々は ウチに来て・・お母さんの様子も見ててネ でも あんまり近寄っちゃぁダメだよ」

「あぁ わかった 約束するよ」 

 

9-8

「シュウ 今度の水曜日 ウチに来てぇー すき焼きするからって お母さんが 今度は、何にも持ってこないでって」

「今度の わかった 行くよ じゃぁ せめてビールぐらいは・・」

「あのさー あんまり お母さんに飲ませないでネ 普段は飲んでないから 直ぐに、酔っぱらっちゃうんだからさー それにシュウのこと大好きなんだからぁー 調子に乗っちゃうからネ」

「わかった 気を付けるよ」

「シュウの背後霊でななのが付いているからネ ルリちゃんが近寄らないように・・」

 そして、仕事が終わって、ななのちゃんのウチを訪れると、トレーナーショートパンツでななのちゃんが出てきた。お母さんは、スエットスーツを着ていた。二人とも、髪の毛を束ねて頭の上に持ってきていて、ななのちゃんは赤いリボンで結んでいて頭のうえで花火が弾けたようになっていたて、割と可愛かったのだ。

「どうぞー あがって お母さんが待ちわびてるみたいよ」と、ななのちゃんはいたずらっぽくベロをちょこっと出していた。

 僕は、6本入りのものを2つ下げてきたのだけれども、お母さんと乾杯をして飲み始めると、ななのちゃんが1つを戸棚にしまって

「お母さんは2本までね シュウは4本まで 私は、酔っぱらいの見張り役なんだからー」

「この前、次の日に ななのにさんざん叱られたの ごめんなさいネ 私も、久しぶりだったから、はめはずしちゃってー それでね ななのったら 私のシュウだから、私より先にくっつかないで! って いつの間にか シュウって 呼んでいるのね」

「あっ いや それはぁ・・・」

「いいじゃあないの 北番さんがそれでよければー 仲良いんだからぁー」

 ななのちゃんは気にする様子もなく、お母さんと僕に鍋のグツグツいいだしたものを取ってくれていた。

「今日ね お母さんとスーパーのお肉屋さんの前で、選んでしばらく居たのよネ そしたら、そこのおじさんが声かけてくれたの 迷ってるのかってー だから、私 特別な日だから、すき焼きにするので、良いお肉が欲しいんだけど 高くって買えないからどうしょうかっと迷ってるのーって すがる眼ような眼で言ったら 待ってろって、奥でお肉を切ってきてくれたのよ ねぇ 500g位よね お母さん? それで、安い値段のラベル貼ってくれて・・ あんた達、可愛いから特別サービスだ 他人には言うなよってさ 得しちゃった だから、シュウもいっぱいたべてネ」

「へぇー そんなのアリかよー 美人って 得なんだネ」

「別に 美人だなんて言ってないよ ただ 私は可愛く見せただけ それに、いつも買い物に行くと、話し掛けて仲良くしておくんだぁー あの人にも」

「そうかー 魚屋さんにも そんな人居るんだろう?」

「ウン 居るよ」と、又、ベロを出して見せていた。

「もうぅー この子ったら 愛想振りまいているんだからー 信じられないぃー 変わったワー 以前とぜんぜん違う」と、お母さんは、もう1本空けてしまっていた。

「そんなー 私は ただ 一生懸命なだけ! 特別な人にだけよ!  お母さん もっと ゆっくり飲んでよー」

「もぉうー 小姑みたいにー」

「えぇ 私は お母さんの保護者でもあるんだからネ 身体 元気で居てもらわなきゃー 困るんだから」

「はい はい あんたが成長したら 私を面倒見るんだよ」

「わかってるよー そのためにも 元気でネ いつまでも・・」

 その日は、僕の出る幕も無かった。でも、あの母娘が仲よくやっててくれて、安心して帰ってきたのだ。ななのちゃんも出会った頃とは違っていて、成長しているのが嬉しかった。

 

 

10-1

 その年も梅雨が明けて、夏が近づいてきていた。なののちゃん達のチームは、練習試合だけども、2連勝していたが、朝宮監督は女子はメンバーもそんなに居ないし、試合することが目的じゃぁないし、ただ、みんなのモチベーションを保つためにやっていることだからと、リーグには入らなかったのだ。僕もクラブ員がみんな楽しそうにやっているのだから、それでいいのかなと思っていた。

 試験期間中だと思うけど、ななのちゃんが僕に神妙な顔をして

「なぁ シュウ 夏休みになったら、グループで集まって受験勉強してええかなぁー 男の子も居るんやけど・・」

「ああ いいよー そんなの僕に聞くなよー 良いんじゃぁないかー」

「あのね リョウが同級生の男の子と付き合っているよーなー 感じ その男の子の友達と4人なんや 図書館とか地域センターで集まって」

「そりゃーいいことだよ」

「シュウ 気にならへんのぉー 男の子 一緒やでー」

「別に・・・ ななのだって そんなことあるやろー それに 1対1でもないし 同級生同士 勉強するのって 普通やん」

「そう その子に付き合ってくれとかなっても 知らんからな もぉう・・」

「ふふっ それは それで そん時のことやー」

「もぉう・・・ 金曜の午前中と土曜の午後や そやから、もう、土曜は来れへんからな! ほんまに・・知らんでー ちゃんと 掴まえておいてくれへんとー」

 僕は衝動的に・・・ななのちゃんの両ホッペをつまんで

「じゃぁ こうやって その可愛いのを へちゃげた顔にしておいてやるよ」

「痛いやんかぁー なにすんねん もう・・」と、僕の胸に顔をうずめるようにして

「なんで・・もっと ちゃんと・・・私のことを・・」と、つぶやいてきた。

 僕は、軽く彼女の肩を抱いていた。しばらくすると、落ち着いたのか

「ご飯 作るネ」と、彼女は離れていったのだ。

 僕は、年が離れすぎているというのは、複雑なもんだなぁーと感じていた。大学の時に、僕は、愛し合った彼女も居て、その時は、ストレートに結ばれたていた。でも、簡単に別れてしまったのだけれども。 

 

10-2

 ななのちゃんは夏休みに入っていたが、水曜日はお母さんが休みの日なので一緒に過ごすからと、土曜日は午前中がサッカーで、終わって僕のところでシャワーをして、学校の仲間と勉強しているみたいだった。でも、自分のところは物騒だからと、それ以外は僕のところで過ごしているのだった。

 僕が、気になったのは、洗面所のコップに僕と一緒にななのちゃんの歯ブラシがさしてあり、その横にはヘァブラシが置いてある。明らかに、彼女は自分の痕跡を残しておこうとしているみたいだった。そして、最近は、お揃いの箸とか茶碗とかだんだんと増えていってたのだ。

「ななの 志望校 決めたか?」

「うん あのね 私 近くの高校にする」

「えっ ななのだったら 膳所の推薦でも 大丈夫だろう?」

「そうなんだろうけどー 先生もそう言ってくれてる だけどネ 1 もしかすると、バイト許可してくれるかも知れないから、近くのほうが良い それに、通学の電車賃もかかるヤン 2 リョウも希望しているみたいだから、争うことになるかも知れないし、リョウのほうが私なんかより似合ってるよ 以上です 何か?」

「うー もったいないなぁー あそこだったら、大学推薦もあるだろうしー」

「だからよ リョウは当然 大学まで行くから 私は・・・」

「ななのはいつも自分なりに整理して考えているみたいだから、お母さんも承知すればいいんじゃぁないか まぁ その気があれば どこの高校でも、いいんだろうけど・・ナァー」

「そうだよ 高校に行かせてもらえるんだから、せめて、バイトぐらいはしなっきゃー」

「そうかー 今年は、どうする? 花火」

「・・・やめとく・・・行きたいけど」

「そうか 母たちもがっかりするだろうけど やめとこうか」

「うん あのね 受験があるからってだけじゃぁないんだよ」

「そう じゃあ なんで?」

「あのさー 寝る時ね・・・ シュウはとなりの部屋で寝てるやんかぁー 私 時々、横に潜り込んでたんわかってたぁ? 今度は、私 抱いて一緒に寝て欲しいって我慢できなくなるカモ・・・ 変な意味ちゃうねんでー ただ、シュウの腕の中で抱かれて寝たいだけなんやけど・・」

「うーん ・・・ ななの 正直なこと言うと そんな風なの 僕が我慢出来なくなるよ だから、そんなこと出来ない」

「そうなんやー 私 それでも、かめへんと思ってるけど・・ シュウにやったら」

「もう その話はよそーおー やっぱり まだ 君は 高校めざす受験生なんやんか」 

 

10-3

 お盆の最終日に近くで夏祭りの花火大会があり、今までは僕と出かける訳にいかなかったのだけど、今年は勉強グループの4人で見に行くと言っていた。

 僕が、浴衣を着るのかと聞くと、ななのは黙っていたが・・・実家に訳を言って一式送ってもらうようにしていた。だけど、着付けが、お母さんも仕事で居ないのでどうしょうかと思っていて、仕方ないので朝宮監督の家の人に頼もうかと、そのことをななのに話したら

「ありがとう シュウ 私 洋服で行こうかと思ってたの だけど、リョウは浴衣だっていうし・・・あのね リョウのお母さんに着させてもらうようにお願いしてみるネ」

 当日、僕はひとりでぶらぶらと見学に行ってみた。花火が終わって、露店が並ぶ会場付近をウロウロしていると、女の子の5・6人の集団の中のひとりが、僕を見つけたように声を掛けてきて、見るとサッカークラブの女の子達だった。もう卒業して高校生になっている子も居て、その中にななのとかリョウの姿も。その周りには男の子達が居た。

「北番さんって ひとりなの? 彼女とか居ないの? さみしいね 私等が相手してあげるよー」とか、勝手なことを言ってきた。

「あぁ ひとりだよ 君達も浴衣着てると、それなりに可愛いネ」見ると、皆が浴衣着ていて、僕はななのも・・って 良かったと思っていた。ななのを見るとナナコちゃんと手を繋いでいて、楽しそうに笑っていた。その隣には、リョウちゃんが居て、背も高いせいか浴衣もよく似合っていて、顔立ちもはっきりしていて美人なほうなんだろう。ななのも可愛いけど、まだ幼さを感じるが、彼女の場合は、サッカーで見ているのとは違って、もう、立派に女を感じさせていた。

 だけど、今までななのは、友達との付き合いは引っ込み思案なところがあったのだが、最近は、仲の良いリョウとかナナコに引っ張られるように、明るくなって友達付き合いも上手くいっているようなので安心していたのだ。

 数日後、ななのちゃんが来ていた時

「シュウ 浴衣 ありがとうね どうしょう 返した方がいいのかなー」

「いゆ 持っておけよ それより 楽しそうだったネ」

「うん そーねー でも 私は シュウと一緒のほうがいいなぁー あのね きのう 男の子に告られた 一緒に勉強してる子」

「そうか ななの 可愛いからなぁー そーいうこともあるだろーな」

「なんだぁー 心配じゃぁないのぉー?」

「心配さー 一応」

「一応なの? でも、私 ちゃんと 言えたよ 好きな人が居るって 年上だけどって だから お友達で居てって」

「ふーん」

「ふーん なの シュウ 真面目に聞いている? 私 必死だったんだからー」

「あぁ ごめん ちゃんと聞いているよ だけど、まぁ そのー 高校に受かるまでは そんなこと無しに 受験がんばれよ!」

「わかってるよー だけど 12月で15歳だよ シュウも考えておいてよ! 私 リョウとナナコに 本当のこと言っちゃった シュウのこと 好きだって ちゃんと お付き合いしたいんだけど、あんまり相手してくれないんだって だから、リョウも応援するって言ってくれたんだぁー」

「うー ちゃんと 相手してるつもりなんだけどなぁー 女の子として」

 その後、ななのちゃんは僕の胸を何にも言わないで、叩いてきていたのだ。 

 

10-4

 そんな感じで冬を迎えていたが、今年は、ななのの受験も控えていたので、特別に誕生日だからといって集まることもしなかった。そして、年も越して、2月にななのちゃんの受験があった。推薦入学で特進クラスを目指していた。そして、発表があった時、公衆電話からだったけど、多分、ななのからだろうと

「シュウ 受かったよ 合格だって」

「そうか やったなぁー 偉いよ ななの」

 そして、部屋に帰るとななのが来ていて

「シュウ ごめんね」と、涙ぐんでいた。

「どうしたんだよー 受かったんだろー? なんで、泣いている?」

「あのね 久々にシュウにご飯作ろうと思って、買い物したんだけど・・買ったもののレシート 探しても見つかんないんだよね 落っことしたみたい 私 浮かれてたみたい」

「なんだよ そんなことで泣いているの? そんなの落としても、どうってことないじゃぁないか」

「だってさー 家計簿 ちゃんとつけれないじゃぁない お嫁さん 失格だよ」

「・・・ななのがいつも几帳面につけてくれてるのって知ってるよ だけど、レシート失くしたからって・・ いいよー 泣くことじゃぁないと思うけどな そんなこと気にするって・・真面目すぎるぅ」

「・・・ 私って おかしい?」

 あんまり、しょげているので、僕は、ななのちゃんの顔をあげさせて

「わかったよー じゃぁ 又、明日から ちゃんと始めてくれ わかったか それより、合格おめでとう なんか お祝いしなきゃぁーな」

「うん 明日からは、ちゃんとやるね でも、お祝いなんて・・・シュウが喜んでくれれば良いの」と、長いまつ毛を濡らしていたようで、見上げてきて眼を閉じるようにしてきた。誘っているようなしぐさだけど だけど

「もちろん うれしいよ お母さんには報告したの?」と、僕はそらすように言っていた。

「ううん まだ 多分 お仕事中だから・・ 帰ってきてから・・ あっ そうだ 少し遅いけど これっ バレンタインのチョコ だけど・・・なんで、あそこにチョコがあるんよー」

「あぁ ・・・つばきちゃんから・・」

「うぅー つばきちゃん? 貰うのはええんやけど なんで あんな眼につくとこに・・ 私っていう者が居ながらぁー」

「あっ すまん 食べきれてないねん」つばきちゃんのは、明らかに義理チョコみたいなのだったけど、ななのちゃんのは手作り風だった。

「まぁ ええワー もらうのって 断れへんもんなぁー ただの 儀式や! でも、私のはちゃうでー ちゃんと手造りしたからなっ 私は負けへんでー ねえ 私 ご飯作るね 今日は チンジャオロースよ」

 そして、肉を切ったりしながら

「私って シュウにとっては 魅力ないのかなー 色気足りないのカナー」と、僕に向かって言っているのか、独り言なのかわからないような言い方をしていた。なので、僕は聞こえない振りをして無視することにしていたのだ。 

 

10-5

 ななの達の卒業式の前の日曜日、クラブの追い出し練習があった。僕は、ロビーの玄関を出たところで見ていたのだが、練習が終わったと思ったら、卒業生がゴールのところに並ばされて、在校生が代わる代わるにお礼と言ってフリーキックをしていたのだ。女子が終わると、男子で、その時は、在校生が一斉にキックするといった激しいものだった。

 そして、終わった後、ななのちゃんを連れて、リョウちゃんとナナコちゃんが僕のところに来て

「シュウさん ななののこと、ずーと見守ってやってくださいね ななのは何にでも一生懸命で頭も良いし、とってもいい子なんです これからも、よろしくお願いします」と、頭を下げて戻って行った。

 僕が、唖然としていると、中からつばきちゃんが出てきて

「ななののこと、ずーと見守ってやってくださいねだってー 私のことも見守ってくださいネ」と、冷やかしにきた。

「バカやろう つばき グラウンド10週だ」

「うっ それってパワハラぁー でも、ななのちゃんて走るの速いんだってネ 中学の先生が言ってましたよ 彼女が入ってくれてたら、上位に喰い込めてたんだがなぁーって  それに、成績も学年トップだってウワサだし 頭良くって、運動も出来て、可愛いし・・ この上無いんだけど・・ただ まだ 実が青い 食べようかどうしょうか って とこカナ それとも、まだ渋いのに食べてしまったのカナ? あの若くて美人なお母さんとのこともあるしなぁー」

「つばきぃー 変なウワサ立てるなよ! そういうのって ゲスの勘ぐりって言うんだよー バカ ななのは妹みたいなもんなんだよ と そのお母さんってだけだよ」

「みたいな? うふっ だって あんまりにも私には興味無いみたいなんだものー 私だったら 食べ頃なんだよ」

「あぁ 君だって 明るくていい子だよ だけど、君の場合は、お腹 壊すだろうけどな!」

 ななのちゃんの卒業式の日、家に呼ばれていた。僕は、仕事終わりにケーキだけ持って向かった。迎えてくれたのはななのちゃんで、めずらしく二人ともスカート姿だった。奥の部屋には、おそらく卒業式に着て行ったのであろうお母さんの黒いワンピースが下げてあった。

「シュウ 私ね 今日 代表して答辞 読んだんだよ」

「そうか 優秀なんだものな」

「そんなでも 無いんだけどなぁー 恥ずかしかったワー」

「そうなの あんなに閉じこもっていたななのがこんなことするようになるってー 私 涙出てきたわ 北番さんのお陰」

 その日は、手巻き寿司で、ななのちゃんが僕の分を、いろんな具を換えながら、しきりと巻いて渡してきてくれていた。

「この子ったら 高校はクラブ活動はやらないで、今のサッカークラブを続けるんだって 北番さん これからもよろしくネ」

「あっ そうなんですか いや 僕は なんにも・・」

「そうなのよ リョウは高校のサッカー部に入るんだって 女の子は少ないらしいけど 男の子と一緒にネ だけど、時間があれば こっちにも来るってー 受かったんだよ あの子も」

「そうだったんだ あの子も優秀らしいからな ななのの良い友達だよ」

「うん 親友 ナナコも 一緒の高校 推薦じゃぁないから、発表まだだけど 多分 受かると思うよ」

「そうか 受かると良いネ」

「そう ナナコは続けて今のクラブやるって言ってくれてるし」

「北番さん この子の入学式 お願い出来ないかしら 私 お休みできそうもないのよ 高校だからって ひとりなのも可哀そうで」と、どうも、この人にもすがるような目付きで見てこられると、僕はドキドキしてしまうのだ。

「お母さん だから 私 誰も居なくても 大丈夫だって!」と、さえぎるようにななのちゃんが・・

「うーん まぁ 別に良いですよ 僕も ななのちゃんの成長したの見たいですから」

「シュウ ほんと 本当に来てくれるの? わぁー うれしいぃー だけど、保護者なんかなぁー」

「そうなんかな でも、保護者父兄っていうから・・」

「父兄??? なの? 彼氏とか・・・」

 その後、僕は言葉が続かなかったので、お母さんも黙ったままだったのだ。  

 

10-6 ななの高校入学式

 そんな訳で、入学式の日、僕は待ち合わせて、ななのちゃんと駅にスーツ姿で立っていた。ななのちゃんは可愛らしい襟元が紺のリボンでチェツクのスカートの新しい制服だった。

 そこに、ナナコちゃんがお母さんとやって来て、手を振りながら

「ななの おはよう わぁー シュウさんと一緒? 一緒なの?」

「うん お母さん 来れないから 代理」

「へぇー そーなんだぁー へぇー いいなぁー ななの」

「ふふっ いいでしょーぅ」

 そして、駅に着いてから高校に向かって歩いている時は、ななのちゃんとナナコちゃんは並んで先に歩いていたが、僕はナナコちゃんのお母さんと並んで歩くはめになってしまって・・。

「あのー ななのちゃんのお兄さんなんですか?」

「いえ そのー 親しくさせてもらってるー いや お母さんが仕事で来れなくて 代理です そのー スポーツセンターの職員なんです サッカーの関係で・・」僕は、説明にしどろもどろで・・。

「あっ そうなんですか サッカーの 大変ですねぇー でも ななのちゃんは勉強も出来て、サッカーも頑張っていて あの子 お父様 いらっしゃらないのでしょ ナナコに聞いています でも、何にでも、頑張って 卒業式の時も 代表して答辞も読んだりしてましたワ うちの子にもななのちゃんを見習いなさいって言ってるんですの いつも、のんべんだらりとしていて」

「そうですかぁー でも、ナナコちゃんは、地道に努力してますよ サッカーも初めてだったんだろうけど、他人よりも練習して、今はななのちゃんとチームを引っ張っていくようになりましたし それに、他人の価値なんて、成果出すのに遅い早いがありますから・・ナナコちゃんはゆっくりでも頑張ってますよ いつも ななのちゃんは閉じこもり気味だったのに、ナナコちゃんのお陰で明るくなったし」

「そうですか うちの子をそういう風に褒めてくれたのって 初めてですワ うれしい 失礼ですけど あなた お名前は?」

「はぁ 北番秀って言います スポーツセンターの」

「そうなんですか そーいえば シュウさんってって 最近 よく うちの子が言ってるの聞きましたワ あなたが・・ 優しくて・・良い人ネ」

 そして、体育館で、新入生が入場してくるところしか見れなかったけど、ななのちゃんは、髪の毛を後ろに束ねて、ひときわ長くて目立っていたのだ。

 一通り高校の手続きを済ませて、帰る時もナナコちゃんのお母さんと一緒なので、僕は、内心、余計な事を聞かれないかとビクビクしていたのだけど・・。幸い、僕とななのちゃんの関係については触れてこなかったのだ。  

 

11-1

 ななのちゃんは学校が始まって、しばらくは来なかったが、土曜日にグラウンドで走り回って大きな声を出している元気な姿があった。ナナコちゃんも一緒だった。

 その日、帰ると久しぶりにななのちゃんが居た。でも、何気なく

「お帰り ご飯にする?  お風呂? それとも私?」

「バカ どうなんだ? 学校は?」

「ウン なんかさー みんな勉強できそうな子ばっかー ちょっと気遅れしちゃってる」

「そうか 特進だものなー 当たり前カナ でも ななのも優秀なんだから 他からもそう見られてるよ あいつは可愛い顔して、出来るってナ」

「うふっ なんなの その持ち上げかた あのさー お友達できたよ 隣の駅から乗るんだって 鈴音ちゃん 陸上やってるんだって」

「そうかー 良かったじゃぁないか あのさー ななの パソコン 要るだろう? 進学祝いするよ」

「えぇー そりゃー あると助かるよー だけど、ここに来ればあるし・・」

「でも 家でも 必要だろう いいんだ ななのが必要なら プレゼント」

「・・・シュウ なんで そんなに私のことを・・」

「なんでって 僕の楽しみなんだよ ななのの 成長」

「また そんな風に言うぅー 私がシュウにお返しできることって 一つしかないやんか・・ シュウには欲望ってないの?」

「無い そんな風に考えないようにしている」

「うそ! 前に 私が横で寝ていたら我慢できなくなるってゆうてたやんかー」

「それは 成り行きじょう・・ ななの 君はとっても魅力的な女の子に成長してきた 抱きしめたいと思うこともあるよ だけど、今から、そんな風になったら、この先、続かないと思うんだよ 君が独り立ちできるようになってから、考えようよ もう、僕を迷わせないでくれ」

「ごめんね シュウ 私 まわりの人から キスしたとかいろいろと聞いちゃうから・・ でも シュウから大切にされていると思うと 私 余計に・・」

「いいんだよ 今は 学校のことだけを考えてくれれば ななのは」

「ありがとう シュウ 神様も シュウに引きあわせてくれて」と、僕の胸に顔をうずめてきて、「こうやっていると 幸せ感じる」と、しばらく、そのままでいた。  

 

11-2

  土曜日に、ななのちゃんは朝、僕が出る前にお弁当を届けに来てくれて、その後、午前中はサッカーの練習をして、僕のところに戻って勉強していたのだ。僕が帰ると

「おかえり 今日のお弁当はどうでしたか?」

「あぁ いつものようにおいしかったよ ありがとう」

「うん シュウ あのさー ナナコが先輩にサッカー部にって 誘われてるんだよね クラブの卒業した男の子が、今、男子のサッカー部に入ってるんだよねー そいつが余計なことしゃべったみたい 私等がサッカーやってるってこと・・」

「そう しょうがないよね でも 君達は両エースだったんだから」

「ナナコに 一緒に 見学に行こうよって、誘われてるんやけど・・ 私 部活なんてやってる余裕ないやん」

「そうかぁ? 部活も高校生活には大事だよ」

「ううん 私 バイトせんならんヤン そのためには成績 よーないと 許可もらえへんらしいネン そやから 1学期は必死で頑張らなーあかんし 勉強せんとー 奨学金も 今 申請してるネン」

「・・・そう どーしても バイトなのかぁー」

「そーやでー お母さん 助けなきゃ 高校になって いろいろとお金 必要になるやん 修学旅行の積立金やって もう しとかなあかんねやでー 私が、バイトしたら、お母さん 掛け持ちまでして、働かなくて済むヤン そやけど、バイト始めたら、シュウと会えるの 少なくなるかもなぁー それがなー」

「まぁ そーなったら 僕が 時間を合わせるようにするけどな」

「ほんと? そーなると うれしいなぁー」 

 

11-3

 夏も近づいてきて、仕事が終わって、近くのスーパーに食べ物を仕入れに行った時、偶然、ななのちゃんに鉢合わせをして、彼女は制服のまま買い物に来ていたみたいだった。僕の買い物カゴをのぞいて

「なんやの カップ麺とか、肉ばっかーやんか 野菜は?」

「あぁ 面倒やからな ななの おかず買いにきたんか?」

「そーやー シュウ まともなん食べてるん?」

「まぁな 一応は・・」

「私が あんまり 行かれへんからなー 心配 あっ そうや 魚屋さんに 私 お願いするわー いっしょに来て!」と、魚屋コーナーに連れて行かれて

「お兄さん この小アジ ごめん 半分だけ 骨取ってぇー お願い」と、可愛い顔をして、そこの担当の人に言っていた。

「なんだよ ななのちゃん いつも 自分でやってるン違うのか?」

「うん 今日は 私の大切な人と半分こにするネン ウチの分は私がやるけどな 面倒やろけど おねがぁーい」と、又、甘えた声を出していた。

 出来上がった骨を抜いたほうを僕に渡して

「さーっと お湯に通して、たまねぎの水さらしと併せて お酢と醤油とショウガね 七味かけて食べるんよ 生のたまねぎ 精つくからね ちゃんと食べてネ」

「あぁ わかった ななの なんか・・離れている 嫁さんみたい」

「そうよー 君の可愛い お嫁さんよ! うふっ 今度 おいしいもの作りにいくネッ」

「ななのちゃん 素通りなんかよー おっ 今日はお兄さんと一緒なんかぁ?」と、肉屋の前を歩いていると、中から声が

「あっ おじさん 今日はお肉買われへんねん」と、ななのちゃんも応えると

「ほんでも 声ぐらい掛けてくれよ こっちも元気出るからな」

「んじゃぁー ちょこっとだけ 網焼き用 4枚だけ ごめんなー」

「よーし! 任せとけ 待ってろよ」と、奥から包んだものを渡してきて

「赤身だからな 漬け焼きで冷凍しとけば、1週間ぐらいは大丈夫だよ もっと、栄養付けなあかんでー そんなにやせっぽっちでー おっぱいも大きぃならんどー」と、セクハラやないかと、だけど、それなりに肉が入っていたのだけども、ラベルの値段はおそらく安いものなんだ。

「おじさん 私 少しずつだけど、大きくなってるよー 心配せんとって! でも、いつも ありがとうネ また 買いに来るね おじさんもお肉ばっかーやから お腹どんどん出てくるんやでー」と、ななのも負けてなくて、遠慮してなかった。

「いいんだよ いつでも声掛けてくれよ 買わなくてもいいんだぞ 可愛い声聞ければな 又、美人のお姉さんと一緒にな」

 なんだか、知らない間にななのは人気者の愛想のいい女の子になっていたのだ。

「みんな 良い人でしょ? 親切にしてくれて、いつもおまけとか安くしてくれるんだぁー お肉屋さんのおじさんにはバレンタインのチョコあげたの お店の裏からネ だからネ だから、よけいに親しくしてくれる あの人、お母さんのこと姉ちゃんって思ってるんよ」

「うふっ みんな ななのの笑顔が可愛いからカナ」

「そーだね 最初のうちはビクビクしながら買い物してたんだけどね ぁっ そう あんなぁー シュウ 私 スカート 長い?」

「うー なんで? そんなもんやろー」

「ナナコはな 最近 短かーしてんねん 鈴音も 折り返してるんやって 私 ダサい?」

「うー まだ 1年やからな 大きいのか?」

「だって 短いほうが 可愛いやろ?」

「まぁ 男は 短いほうが 好きやからー 可愛くみえるのカナー」

「そうか シュウも そう?」

「ななのはさー もともと 可愛いから・・ そんなことで無理しなくても・・」

「そう? ダサくない?」

「あぁ 可愛い 折り返すのって 校則違反やろう? そんなことで、指導されるんも つまらんやんか べつに そのまんまでも可愛いよ」

「うん そだねっ シュウが嫌じゃぁなかったら それでええネンや」と、途中まで一緒に帰ってきた。ただ、腕も組まないで歩いていたのだけれど、僕は、ななのが愛おしくてたまらなかった。  

 

11-4

 ななのちゃんは夏休みになると、僕の出勤前にお弁当を持ってきてくれるという毎日になっていた。そして、そのまま僕の部屋で勉強しているみたいだった。

 僕が帰るとテーブルに座って、教科書を広げていた。タンクトップにジョギングパンツで髪の毛をまとめて頭の上にもってきているという姿なのだ。行き帰りには、その上からサマーワンピースを着ているのだけれども・・。

「なぁ その恰好 何とかならんのか? そのー 露出が多いというかー  それっ 下着ちゃうんか?」

「下着とはちょっとちゃう なんでー 暑いねんモン あぁ シュウ こんな恰好見たら ムラムラするんやろー?」

「バカいえー いまさらー だからぁー エァコンつけろやー」

「もったいないヤン 学校もエァコン無いでー 身体 冷えすぎるの嫌や」

「だけど 熱中症になったらー 一人っきりやしー」

「水飲んでるしー それに、あんまり暑かったら シャワー浴びてるし 大丈夫ってゆうてるヤン」

「わかったよー それとー いつも 弁当作ってくれてるけど あの おかずとか 僕が渡しているお金 使ってないやろー」

「まぁ でも ウチのおかずの余ったやつとかやからー あんまり 細かいことできひんヤン シュウのやから ええねんて」

「そんな訳にいかないよー ちゃんと 使ってくれ いつも、やりくりしてくれてるけどー 足らなかったら、もっと、出すしー」

「うーん わかった 考えてやるよー なぁ シュウも一緒に住んでくれたら、そんな面倒なことにならへんねんけどなぁー 晩ご飯なんかも節約できるしー 家賃も安く済むんちゃう?  そしたら、もっと 一緒に居られる」

「あのなぁー そんなこと 出来る訳ないやないかー なにを言い出すネン ななのって からかってる時 ホッペがへこむんやな その癖 最近 わかった」

「ふふっ そーなんかなー ばれたか でも ほんまに そんなことになったら 私 毎日が夢のよう」

「それでも 毎日 楽しそうやんか」

「ううん ほんまは 私 学校の勉強 嫌いやね 仕方なくやってるだけ でないと シュウと同じ階段 歩かれへんやんかー」

 意外な言葉だったけれど、案外 本当のことなのかも知れない ホッペがへこんでいる様子はなかったのだ。 

 

11-5

 8月の暑い日、仕事先に僕を訪ねて 倉本静香がやってきた。僕は、植木の水やりをしていたのだが、事務所で聞いてきたのだろう、背中から声を掛けてきた。

「秀 元気そうね」直ぐに、わかった。忘れもしない憂いのある声だ。

 大学の時、愛し合った彼女だ。理由もないまま別れてしまったのだけど・・。

「静香・・・どうして・・」と、振り返った僕だったが・・どうして、彼女が

「うん 会いたくなってね サッカー部のOBに聞いたの ここに居るって」

「そうか 静香は福井の中学校の先生なんだろう? 夏休み?」

「ううん この春 辞めて、地元の大垣で 今は、塾の講師やってるわー」

「ふーん 先生になるって 張り切ってたのになぁー」

「そうよ 希望にふくらんでいたのだけどネ でも 担任任せられて・・男子生徒なんかが・・私 若いからって 身体触ってくるのよ 質問あるからって理由つけたりして、わざとぶつかって来て、胸とかお尻なんかも・・ 主任に相談したんだけど 先生は人気あるから、気を引こうとして、ふざけてるだけじゃぁないですか まだ子供なんですからって 取り合ってくれなかったの それで、だんだんとエスカレートしてくるみたいで・・女子生徒からもきっと誘惑してるのよって言われるようになって・・耐えられなくなってネ」

「そうか 辛いことあるんだなぁー やっぱり 女って」

「そうなのよ 私に スキがあったからなんだと思うようにした ねぇ 今日 お仕事 終わったら 会ってよー 私 待ってるから・・」

「あっ あぁー 良いけどー 5時な」

 今日は、幸い 水曜日でななのちゃんはお母さんと一緒に過ごしてるから来ないはずなのだ。事務所の眼もあったので、近くの料理屋さんを教えて、そこで待ち合わせをした。でも、つばきちゃんの厳しい眼は僕達の動きを見張っていたのだ。

「静香も 元気そうじゃぁないか 肩の荷が下りたのか? 塾はどう?」

「ええ 勉強のことだけ教えてればいいからね 気は楽 でも 成績 あがらないとねー 私等のお給料に響くわ」

「だろうな 何してても 大変だな」

「秀はどうなの? 面白い?」

「まぁな 一応 公務員だから・・ それに、僕の場合は子供たちに事故さえ起らなきゃー 楽しいよ 給料安いけどな でも 贅沢しなきゃー何とか」

「彼女 居るの?」

「いいや でも なりつつあるような娘は居るってのカナ」

 そして、食事をしながら大学時代の話をして、食べ終わった時

「秀 私 結婚するの 秋に 半分 お見合いみたいな感じ 親の勧めもあって」

「そうか おめでとう 静香は清楚な感じだから 向こうは直ぐに乗り気になるだろうな」

「だけ? 昔 愛し合った彼女が来てるのに・・」

「だけって? もう 昔のことは 忘れるようにするから 安心してくれ」

「違うのよ! 秀は私の 初めての・・なの ねぇ 秀との最後の想い出を・・もう、一度だけ だって あの時も何となく別れてしまって・・」

「静香 ・・・そんな 後悔するよ 旦那さんを裏切るような・・」

「私 その人に愛情感じてるわけじゃぁないの 両親がうるさくって でも、良い人みたいだから あり カナって ねぇ 秀との想い出を大切にして、お嫁に行きたいの もう一度っきり 私 決心してきたのよ お願い あなたの彼女には悪いんだけど・・」 

 

11-6

 結局、僕は、優柔不断なのだ。彼女が乗ってきた赤い車体を運転して、国道を走って山沿いにある派手な建物に乗り入れて行った。

 罪悪感のようなものもあったが、何にも悪いことをしている訳じゃあない、昔の彼女が望んでいることなんだと自己弁護をしながら・・。それに、このところ、ななのちゃんの姿を見せつけられていた僕は・・・正直なところ欲望を押さえきれない部分もあったのだ。

 先に、風呂に入るかいと言う僕に、首を振って服を脱ぎだして、僕も脱いでいったのだ。そして、ショーツだけになって僕に抱きついてきた。昔と違って、派手なレースで縁取りされたものだった。お互いの唇をむさぼるようにして・・・まだ、張りのある彼女の白い体躯からは、好い香りがしてきた。懐かしい彼女の柔らかさに僕も夢中になって、昔を思い出したのか、忘れられない想い出にしようとしているのか、彼女も狂ったように僕にしがみついてきていたのだ。お互い空いた時間を埋めるように求めあっていった。

「どうして 私達 別れてしまったのかしら 嫌いになったわけじゃぁ無かったのに・・」と、ベッドの僕の腕の中で彼女はつぶやいていた。

「・・・あの時 僕は・・ まだ 就職も決まってなかったし 将来に不安を感じていたんだ だから 静香に はっきりと言えなかった 一緒に居ようと すまなかった 決心が足りなかったんだ」

「それでも・・ 私は 良かったのに・・ 言ってくれていれば・・何にも言ってくれなかったから・・ 私 後悔してたのよ どうして・・って」

「もう 遅いよ ふたりとも・・ あの時は、若すぎたのかなー それとも もともと 結ばれる運命に無かったのカナ」

「そうなのかなー ねぇ 時々 こうやって・・・会ってほしい」

「それは 出来ないよ 静香は人妻になるんだし・・」

「そうよ・・・ ・・・秀は危険なことはしないよね 変わらないわ 昔から・・ でも、そんなとこ好きだったわ でも ありがとう 最後に抱いてくれて・・ 今日のこと 秀との想い出を・・ずーと 大切にするね」と、静香は涙が・・・僕は、思わず、抱きしめていた。

 そして、お風呂でお互いの身体を丁寧に洗って、僕達は近くの駅で別れたのだ。

 翌日の朝、ななのちゃんが飛び込んできて、寝ている僕の上に覆いかぶさってきて

「起きろー 朝だ 朝だぁー うっ 待ってっ いつもと 違う石鹸の香りがする 変えたの?」

「えー センターのかな 昨日 センターでシャワーしたきりだからー」

「ふーん なんか 怪しいネ 私の眼を見れる? つばきちゃんと入ったりしたの?」

「バカ ななの ホッペ やっぱり へこんできてるよ」

「うふふっ ねぇ 一緒に お風呂入るのって 私とだよー このピチピチとした肉体を最初に見れる男は君だ! 予約しとかなくて良い?」

「あのなー・・・ななの 熱あるのか? あぁ いつになるのカナ・・ もう、わかったからー 暑いからヨ もう 降りてくれよー」と、ななのちゃんのおでこを指ではじいていた。

 この可愛い娘を、僕はどうしたらいいのかと戸惑うばかりなのだ。 

 

11-7

 お盆が近づいてきた日、ななのちゃんが

「私ね あそこのお肉屋さんにバイトに行くの 今度の土曜日とお盆の3日間 そのあとも土曜日」

「そう バイト出来るんか?」

「うん 学校の許可 まだ、貰ってないんやけど・・ おじさんに訳 話してね お金 貰わない 知り合いの子ってことにしてもらって お金じゃぁ無くて 商品券みたいなものにしてもらうの」

「ふーん 大丈夫なのか だまされないか?」

「あのさー おじさんって 良い人なんよ いつも おまけしてくれてるし 騙されてもいいって思ってる」

「そうか 良い人なんだよな じゃぁ 頑張れよ 初めてなんだろう? 働くの」

「うん 頑張る 笑顔でね」

 そして、その初めての土曜日、仕事帰りにのぞいてみると、ななのちゃんが声を張り上げていた。パンプキンみたいな帽子に髪の毛を包んで、マスク越しに長いまつ毛が見えていて、(今夜は 焼肉がうまい)と書かれた赤いエプロンにTツャシ、ショートパンツ姿。完全に店員さんになっていたのだ。

「お兄さん 今夜は焼肉ってどう? ビールと一緒に たまんないよ  今日 この特選焼肉がお買い得なのーよー」って、僕の顔を見ると普通に声を掛けてきていた。

「あぁ うまいかなー じゃぁ 200g」

「はいよ!  特選 200g おねがいしまぁーす」と、奥のおじさんという人に大声を出していた。すると、奥から「あいよー 特選200g」と、掛け合いがぴったりと・・。そして、「はい ありがとうございました また おねがいしまぁーす」と、可愛い声で返してきていた。見ると、僕には、べつに、おまけも安くもなんにもなかったのだ。だけど、ななのちゃんの特別の笑顔と別の顔を見た気がしていたのだ。

 部屋に帰って、早速、肉を焼いてビールを飲みながら、僕は気持ちを固めていった。あの子は気持ちが優しいし、頭も良いし、何にでも努力する。そして何と言っても・・・誰からも好かれるあの可愛いしぐさ。いうことないじゃあないか・・・。あの子を手放すなんて考えられない。もう、僕の中にも深く住み着いているんだ。別に、あのピチピチとした身体が欲しいわけじゃぁない。予約しておくわけじゃぁないけど・・絶対に手放したくないと・・・年は離れているけど、きっと僕を助けてくれるだろうし、癒してくれるだろう。 

 

11-8

 お盆の間もななのちゃんはお肉屋さんに行っていて、元気にやっているようだった。

「シュウ 昨日 お肉くれたから、持ってきたよ ステーキ肉だよ 後で、焼いて食べてね」と、僕が帰るとななのちゃんが・・・

「そうか それは いいなぁー でも ななのの給料替わりなんだろー お金 払うよ」

「嫌! そんなのー 私とシュウの間で・・そんな他人みたいなの・・」と、すねたような顔をしていた。

「あー ごめん じゃぁ 有難くいただくとするかー」

「うん あのね 売上がいつもより増えたんだってー おじさんが私のお陰だって言ってくれたんだよー」

「そうかぁー ななの 頑張ってたもんなぁー あんな ななの見たの 初めてだったよ」

「そう 私 あんなの 才能あるんカナー」

「いや ななのは 何にでも 一生懸命だから・・ あのさ 今年は 木之本行く?


「ウン 行きたい もう ずーと行ってないモン お義母さんとおじさんに会いたい」

「ふーん お義母さんとおじさんなんか? 変なの」

「だってー お義母さんはお義母さんって感じなんだものー」

「でも きっと 喜ぶよ かがみさんも2人目が生まれて 女の子な なんて名前だったかなー 忘れた」

「まぁ 感心ないのー?」

「そ~いう訳じゃぁないけど・・ なんか あいつは 僕の同級生だよ 不思議な感じでなー」

「ふ~ん そんなもんなんカナー かってバカ言ってた彼女がお母さんなんてネ」

「いつ かがみさんが彼女だなんて言ったよー どっちかと言うと 苦手な部類だったから」

「わかってるってー シャウの好みは 私みたいなんだからネ ねっ」

「ななの・・・ ホッペがへこんできてるぞー」と、ななのちゃんのお尻をポンとしたのだが・・

「いやぁーぁ」と、腕を抱え込むようにして座り込んでしまっていた。

「あっ すまん ななの ふざけたつもりだったんだけど ごめんな」

「・・・ごめんなさい 私・・ いきなり だったから・・ そんなつもりじゃぁないのよ だけど急に 怖くなって・・思い出してしまったみたい 本当にごめんなさい」

「あっ あぁー ななの ぼくは・・ 君のことが・・いや これから、気をつける」

「ううん 私が変なのよね シュウのことは 大好きよ・・ シュウだったら平気と思ってたの・・ わかってるんだけど・・昔のことが・・ 私 どうしよう」と、ななのは顔を手でふさいで泣き出しているようだった。僕は、しばらくななのの肩を抱きしめていた。  

 

11-9 ななの 高1の夏祭り

 その日は、もう、二人の近い駅で待ち合わせをして、木之本に向かった。ななのちゃんは、いつもの麦藁帽に黄色のTシャツとピチっとしたジーンの短パンに編み上げのサンダル姿にリュックを背負っていた。

「うふっ こんな恰好も最後かもしれんしね 子供っぽい?」

「いいや いいんじゃぁないか ななのは脚も細いし、似合うと思うよ」

「そう うれしいなー その言葉」

 駅に着いて、最初に地蔵院に向かった。ななのちゃんが行きたいと言い出したのだ。そして、お参りをして、又、カエルに何かを書いて納めていた。

「お願いごと いつも 叶えてくれるんだぁー だから、今度も・・ ねぇ あそこに座って おにぎり持ってきたから」と、ななのちゃんが作ってきてくれたものを食べていたのだ。

「最初 シュウがここに連れてきてくれた時 楽しかったの 嬉しかったなぁー」

「そうだね 君はまだ子供ではしゃいでいたっけー」

「シュウ もう 私・・子供じゃぁ無い・・んでしょ?」

「ん まぁ 成長したと思う・・」

「ふふっ 良かったぁー やっとかぁー」

 その後、実家に着いて、母が迎えてくれた。

「まぁ まぁ ななのちゃん すっかり 大人びてぇーぇ きれいになったねぇー」

 玄関には、何時だかのななのちゃんの絵がまだ飾ってあった。それをななのちゃんも懐かしくみつめていたのだ。

 その後、早速、母はななのちゃんをお風呂に入れていると、かがみさんが子供を連れて現れて

「秀君 真糸 可愛いでしょー」と、抱いている子供を見せてきた。僕が、愛想でこんにちわと言うと、笑ってくれた。確かに、可愛いと思ったのだ。

「ななのちゃんのお化粧をしようと思ってね まだ 続いていたんだネ あの子と」

「あぁ なんとなくね」

「何となくじゃぁ無いでしょっ! ちゃんと掴まえておかなきゃだめよ 悔しいけど、あんなにいい娘 この辺りじゃぁ居ないわよ!」

 そして、浴衣に着替えて現れたななのちゃんに・・・相変わらず、きれいなのだ。もう、大人の顔立ちだった。今年も、母は新しい浴衣をななのちゃんの為に用意していたみたいだった。

「なんか ウチの人には会わせたくないわね 奪われちゃいそう シュウ君にも もったいないわー」と、捨て台詞を残して、かがみさんは戻って行った。 

 

11-10 ななのと初めての

 その日は、もう、二人の近い駅で待ち合わせをして、木之本に向かった。ななのちゃんは、いつもの麦藁帽に黄色のTシャツとピチっとしたジーンの短パンに編み上げのサンダル姿にリュックを背負っていた。

「うふっ こんな恰好も最後かもしれんしね 子供っぽい?」

「いいや いいんじゃぁないか ななのは脚も細いし、似合うと思うよ」

「そう うれしいなー その言葉」

 駅に着いて、最初に地蔵院に向かった。ななのちゃんが行きたいと言い出したのだ。そして、お参りをして、又、カエルに何かを書いて納めていた。

「お願いごと いつも 叶えてくれるんだぁー だから、今度も・・ ねぇ あそこに座って おにぎり持ってきたから」と、ななのちゃんが作ってきてくれたものを食べていたのだ。

「最初 シュウがここに連れてきてくれた時 楽しかったの 嬉しかったなぁー」

「そうだね 君はまだ子供ではしゃいでいたっけー」

「シュウ もう 私・・子供じゃぁ無い・・んでしょ?」

「ん まぁ 成長したと思う・・」

「ふふっ 良かったぁー やっとかぁー」

 その後、実家に着いて、母が迎えてくれた。

「まぁ まぁ ななのちゃん すっかり 大人びてぇーぇ きれいになったねぇー」

 玄関には、何時だかのななのちゃんの絵がまだ飾ってあった。それをななのちゃんも懐かしくみつめていたのだ。

 その後、早速、母はななのちゃんをお風呂に入れていると、かがみさんが子供を連れて現れて

「秀君 真糸 可愛いでしょー」と、抱いている子供を見せてきた。僕が、愛想でこんにちわと言うと、笑ってくれた。確かに、可愛いと思ったのだ。

「ななのちゃんのお化粧をしようと思ってね まだ 続いていたんだネ あの子と」

「あぁ なんとなくね」

「何となくじゃぁ無いでしょっ! ちゃんと掴まえておかなきゃだめよ 悔しいけど、あんなにいい娘 この辺りじゃぁ居ないわよ!」

 そして、浴衣に着替えて現れたななのちゃんに・・・相変わらず、きれいなのだ。もう、大人の顔立ちだった。今年も、母は新しい浴衣をななのちゃんの為に用意していたみたいだった。

「なんか ウチの人には会わせたくないわね 奪われちゃいそう シュウ君にも もったいないわー」と、捨て台詞を残して、かがみさんは戻って行った。 

 

12-1

 もう9月になっていたのだけど、あの時、実家から帰る途中、歩いている時こそ腕を組んでいたのだが、電車の中では、今まではななのは僕の肩に寄りかかるようにしていたのだが、そんな風でもなかった。それに、毎朝、僕が寝ているとベッドの上に飛び乗って覆いかぶさるようにしていたのだが、そんなこともしてこなくなっていた。

 それどころか、何となくぎこちなかったのだ。僕がテーブルで勉強しているとこの教科書をのぞいても、ななのはなんとなく身構えているようなのだ。そして、学校が始まって忙しいのか、しばらく顔を出さなかったのだが、土曜日の朝、僕が出る前に弁当を届けに来て

「シュウ バイトの許可が降りてん そやから・・日曜から水曜まで牛丼屋にいくことになってん 土曜はお肉屋さんに来てって言われてるし 木曜はお母さんもバイト休みやから、一緒に居るし・・金曜はお勉強に充てる ほんでな 土曜のこの時間しか会われへんようになった でも、土曜はお弁当は届けるしな」

「そうか 大変だね 土曜も無理すんなよ 弁当は自分で作るよ」

「うーん そんなんしたら、ずーと シュウと会われへんやんかぁー 週1回やでー 他の女の人によろめかんとってな」と、言ったと思ったら、背伸びをして僕のホッペにチュッとして

「うふっ おまじない」と、言い放って走るように帰っていったのだ。

 それから、ななのの顔を見ない生活が続いていた。僕は、物足りないような毎日を感じていた。せっかく、意を決して、彼女になってくれと告白したのに、途端にコレかよーと・・。もっと、チュッチュッと甘えたようにしてくることを考えていたのだが、週に一度の15分ほどのデートなのかと。それでも、僕はななのへの欲望を抑えることに悩むより、これで良かったのかと思うようにしていたのだ。

 そんな調子で1ト月程経った時、僕は、我慢出来なくなって、牛丼を食べに行ってみた。可愛らしい声で応対している元気な ななのの姿があった。

 だけど、僕に応対する時も、何気ない顔で他の人と変わらない応対だった。何となく、ななのが遠くに行ってしまったような感覚で店を出てきていたのだ。 

 

12-2

 そして、次の土曜日にななのが来た時

「なんやのん? いきなり来てさー 気になったん? 私がシュウのこと 忘れてるって思ったんやろー 忘れてへんよッ 寝る前にだって いつも 私とシュウの写真に チュッ としてるんやでー アッ わかった 私の顔見とおなったんやろー」

「まぁな あぁ ごめん ついな」

「ただね 私 恥ずかしいネン 前は何でも無かったんやけど シュウの彼女って・・ 私でええんやろかー とか いざ シュウに抱きしめられて・・キスを・・ 思い出してたら・・意識してしまって・・恥ずかしい」と、ななのは下を向いていた。

「ななのは 僕の彼女としては 上出来すぎる女性だよ 僕も いつも ななののことを想ってる」

「ウン うれしい」と、笑顔を返してきていた。僕にとってはとびっきりの笑顔なのだった。

「あっ そうや 今日のおかず 牛丼風な 小間肉やけど ななの特製やー」

「そうかー 楽しみだよ いつも すまん」

「なんで そんなん? 当たり前やんか 君の可愛い彼女だよ 彼氏の為やったら・・」

「なんか ななの 知らん間に成長してるなぁー 僕より大人かも知れないな」

「何ゆうてるん? 必死で 階段のぼってるって・・ゆうたやん シュウと一緒に・・」

 そして、帰って行こうとした時、少し戻って

「なぁ ちょっと 膝まげて」と・・・僕のホッペに

「おまじないが薄れてきたやろー」と、帰って行った。

 ななのは、男に対してはトラウマがまだ消えてないのだろう。思い返せば、出会った時から、僕から触ろうとすると、少し怯えたような感じがあったのだ。でも、自分から彼女なりに必死に表現してるんだろうなぁー と僕は思っていた。  

 

12-3

 もう、冬を迎えて、ななのも冬休みになって、僕はななのと金曜日に休みを合わせて、少し遅れたけどクリスマスで食事でもと、誘っていたのだ。ななのは京都の高台寺辺りを歩きたいと言っていたので、京都まで出ることにしていた。

 もう、誰かに会っても構わないと思って、近くの駅で待ち合わせをしたのだが、案外誰とも出くわすこともなく、京都駅からバスで五条坂辺りまで来て、歩き出した。

 割と、冬の暖かな日で、僕達はふたりともダウンのジャケットを着ていたので、歩き出すと

「なんか 暑くなってきたネ それに、ダウンが邪魔でシュウにあんまーくっかれへんネン」

「そーだな こうなると じゃまなもんやなー 脱いでも、手に持つのって大変やしなー」

「あかん 私は脱ぐ!」と、手に持って、その下はハイネックのベージュのセーターに割とタイトなグレーのミニスカートだった。

「じゃぁ 僕も」と、なんとなく歩きづらかったのだが、ななのは僕と腕を絡ませてきていた。そして、途中の庭のきれいなカフェで、僕はコーヒー、ななのはケーキを食べていると

「なぁ 私等 まわりからどう見えるやろー 恋人カップルに見えるかなー」

「さぁ どうだろ どうでも良いけどー」

 歩き始めて途中で、アクセサリーの店が眼にとまって、ななのに誕生日のプレゼントと言って、選ばせた。そんなに高級なもので無かったけど、七宝焼なのだという小さなハートが付いたネックレスでプリセスサイズのものが良いと、その場で襟元に付けていたのだ。よっぽど、嬉しかったのか、その後は飛び跳ねるように歩いていた。

 八坂神社からは、四条通から川沿いを歩いて、予約しておいた窓から鴨川を見ることが出来る肉割烹のお店に入った。お昼ごろは満席だったので、少し、時間をずらしておいて、ステーキのコースを頼んでおいたのだが、僕にしては奮発したほうだった。ななのとの想い出になるからと思って・・。

「すごいわぁー シュウ 豪華! こんな高いのぉー シュウに初めてこんなのに連れてきてもらったの・・私が、6年の時 お洋服も買ってくれて あんなの 初めてだった うれしかったわー 今日も 大切な思い出になるよねー」と、肩が触れ合うようにしてきた。ななのはお店の人に言って僕と並ぶように座っていたのだ。それに、飲み物を聞かれた時に僕はビールを頼んだのだが、ななのは「ノンアルコールのお水」と、お店の人におどけて見せていた。いわゆる、テンションが高い状態になっていたみたい。

「シュウ 私ね 2月期の成績2番だった 1学期は4番だったから、少し上がったの でも1番の子は女の子なんだけど、とっても、頭良くってね 赤羽麗花 私 抜かせそうもないわ」

「そうか ななのがそんな風に言うんじゃあ よっぽどなんだね」

「そう 全部 ほとんど100点よ 叶わない それにさー テストでもスラスラと書いて、早いの 時間余してるのよ 見返しもしてないわ 自信あるから どんな勉強してるのかしら・・ こっちは、毎日 必死なのに・・」

「どうだろう 案外 覚えが良いだけかも知れないよ ななの その子にペース乱されちゃーいけないよ ななのはななの 自分のペースでな ななのだって 立派な成績なんだから」

「そう 思うんだけどねー テストの時なんか その子の様子見ていると 焦ってしまって」

「それが 乱されているってことだよ テストの時なんか 絶対に自分を信じて向かわなきゃー」

「そだね 私にはシュウが付いているんだものね」と、又、肩を寄せてきていた。

 帰りは、夕方近くなっていたが、京都駅まで行って、スカイウォークまで・・まだ、大階段も飾り付けの灯もそのままだった。

「ここって シュウとの想い出の場所 素敵 だね 今は16になったのよ 大人に近づいている」と、あの時と同じように、その場で回ったりして楽しそうにはしゃいでいたのだ。

 僕も、感慨深いものがあった。あの時は可愛くて無邪気な女の子だったし、僕の心の底には、哀れみに近いものもあったが、あれから・・真直ぐに成長してくれて、今は・・僕にとってかけがいのない女性として、そこに居るのだ。
 

 

12-4 ななの との 正月

 その年の正月は、僕も面倒で実家には帰らなかった。ななのは、年末の3日間は肉屋に行くって言っていたし、正月も牛丼屋に行くと言っていた。だけど、夕方からなので、元旦から、僕の部屋に来るからと、段取りしているみたいだった。

 お母さんは、正月の間はバイトに行くけれど、その後は、ななのがどうしてもと頼み込んで、土曜日曜だけにしてもらったみたいだった。

 そんな訳で、元旦も9時頃、ななのがやってきた。僕は、昨夜は遅くまで飲んでいて寝不足気味だったけど、起きて、コーヒーを飲んでいたのだ。それに、やっぱり、形だけとお年玉も用意していた。

「おはよう シュウ ご飯食べてないんでしょ どっちみち」と、ななのが元気に入ってきた。あのネックレスも付けていた。

「あのね 昨日は終わるの早かったから・・それからね ローストビーフでしょ 日の出海老 厚焼き玉子、お煮〆、タコの酢の物 作ったの 朝からブリの照り焼き 焼いてね お肉屋さんの社長にもらった箱に詰めてきたよ 私のお正月のお料理 初めてでしょ 食べてー」と、木を模した赤い箱を広げてきた。おそらく、正月用の高級な肉を詰めるものだろうか。

「すごいなー これっ ななのが作ったのか?」

「うん 途中から、お母さんとね これっくらい 普通だよ シュウ お雑煮も食べてないんでしょ 後で、作るからね 私も、一緒に食べる 先に、これ つまんでてー ビール? あるの?」

「あぁ」と、僕が冷蔵庫からビールを出してきて、コップに継ごうとしていると

「うぅーん ダメ! 私が継いであげるから」と、缶を取ろうとしてきて

「だめだよ 未成年にそんなことさせられないよ お母さんに叱られる」

「なんでー 私はシュウの何? 彼女だよー これっくらい」

「でも まだ ダメ! そのうちなー」

「つまんないのー せっかくの 彼女なのになぁー」

 ななのの作ってくれたお雑煮を前にふたりで食べ始める時、僕はななのにお年玉を

「なによー 子供じゃぁあるまいし シュウからなんて おかしいでしょ 彼女のつもりなんですけどー」

「でも まだ 学生だし 形だよ」

「シュウも大変だね プレゼントはしなきゃぁなんないし・・お年玉まで・・私が まだ 子供だから・・」

「そんなことないよ 僕の彼女には違いないよ さぁ 食べるとするかー」 

 ななのはお雑煮に西京味噌を使ったのか、実家で食べるものよりは少し甘かった。それに、お餅も・・

「ごめんね シュウのとこでは コンロでお餅焼くから おこげがあるんよね 香ばしくって・・」

「だなー でも いいよ トローっとしておいしいよ」

「よかったぁー でも 甘すぎる? シュウの好み わかんないから」

「うーん 仕込み味噌と半々が良いかなー」

「わかった でも、明日は お澄ましなんだぁー」

「でも、このお煮〆も玉子もおいしい 僕の好みだ ローストビーフもうまいし」

「うふふっ 作った甲斐あったわー 私の愛情 入っているからネ!」

 夕方が近くなってくると、ななのはそわそわし出して

「そろそろ 私 行かなきゃー うーっと どうすっかなー」

「なにが どうするって?」

「うーん あのねー ・・・ 今日のお料理のご褒美・・・」と、僕を見つめてきて・・「ね えぇー」と、身体を揺らすようにしていたので、僕はななのの顔を両手で挟むようにして、髪の毛を掻き上げて額にチュッとしたら

「うぅん そこだけ?」と、僕の首に手を廻してきて、唇をチュッと合わせてきていた。

「うふっ 新年のおまじない また 明日ね あんまり 飲みすぎないようにネ」と、言って帰って行った。 

 

12-5

 2日の日も、ななのは元気良く入って来て、まだ寝ていた僕の上に乗って来て

「起きろー」と、前みたいな調子に戻っていた。そして、僕の顔を覗き込むようにしみじみと見てきた。

「どうした? なんか・・珍しいか?」

「うぅんー おはようの チュッは?」

 僕がななのを抱きしめて、唇を合わせて・・・しばらくすると ななのは僕を両手でばたばたと叩くようにして、離れようとしてきて、必死になってベッドの横に座り込んでいた。

「すまん ついな ごめんな」

「ううん 違うの ごめんなさい シュウだってわかっているんだけど・・・ なんだかわかんないけど・・怖くなってきてしまって」と、両手で顔をふさぐように・・・

「いいんだ ななのことを僕は まだ よくわかってなかったから・・」と、ななのの背中を包み込むようにすると、振り返って来て僕に抱きついてきて、顔をうずめて

「ごめんね シュウ また、小さい時のこと 思い出してしまって・・ 私 まだ、大人になれてないんだね」と、濡れたまつ毛で見上げてきた。

 僕は、ななのの唇に軽くチュッとして

「ななの ゆっくりと 僕を愛してくれればいいんだよ 君が昔のことは すべて忘れるように 僕も ななのを愛していくから」

「うん でも 今でも シュウのことは すんごーく 好き! 愛してるよ」

 その後は、お澄ましのお雑煮を作ってくれて

「うん このおつゆもうまい ななのは天才カナ」

「そーだよ 天才 うふっ 愛してる人につくったんだものネ」

 その日は、ちらし寿司も作ってきていてくれて、それも上手かった。

「少し、残ったの 晩に食べてネ あと、おつゆ作っとくから、うどん茹でてー 冷蔵庫にお揚げさん炊いたんとネギ入れてあるから」

「ななの いつも すまんなー」

「どうして これっくらい シュウの彼女でしょ! それより、シュウ ちゃんと食べてよー 私の居ない時、心配よー」

「わかってる まぁ 出来るだけバランスだろー? まぁ 野菜も食べるようにしてるよ コンビニでサラダも買うようにしてるから」

「そんな もったいないことしないで 野菜買ってきて、自分でカットぐらいしてよー」

「うん まぁ ドレッシングも付いているから ついな」

「ドレッシングぐらい 好み言ってもらったら 私が作っておきます!」

「うわぁー 恐い顔するなよー 可愛いのが台無しだよ」

「うんもおぉー」と、ななのはじゃれあってきていた。そして、バイトに行く前にチュッとしてご機嫌で出て行った。 

 

12-6

 3日の日は、昼前にななのがやってきた。僕が、トンカツを食べたいと言っていたので、厚めのロース肉を買ってくるので、少し遅くなるからと・・。

「社長に言ってね 厚めに切ってもらってきたの 油 もったいないから、カツレツみたいなものね あと、夜用には肉じゃが作っとくね」

「うん 頼む」

「明日は お母さんも休みだから 来れないんだぁー」

「そう 僕は、明日は 初出勤なんだよ」

「あっ そうかー じゃぁ 朝 お弁当だけ持ってくるネ」

「そんなー いいよ ゆっくり寝ればいいじゃぁないか」

「いいの! 冬休みの間しか 持ってこれないんだものー 明日は、お母さんとお買い物に行くから 楽しみにしてるんだぁー」

「そうなんだー それは、いいね  仲良くって」

「私ね お母さんに頼んで、バイトは土日だけにしてもらったの 私もバイトするからって、休んでって だって 昼間は他の会社で働いてるやんかー それで、夜もって・・身体壊すやんかー 小さい頃は お母さんを軽蔑してた あんないやらしい男に身体をもてあそばせて、ベタベタしてさー だけど、私を育てるために 自分を犠牲にしてたんやねー だから、今は、少し 楽して欲しいんやー」

「うん まぁな でも ななのだって身体 大切にな 僕のご飯作ったり 無理するなよ」

「私は 若いんだものー 大丈夫 それに、シュウの為だったら、楽しいよ こんなことしか出来ること無いもん 神様がね せっかく、あの時、シュウに引き会わせてくれたんだものー」

「そんな 大げさな・・ でも ななのが幸せそうなので 良かった」

「シュウが幸せにしてくれたんよ」

「それは・・ ななのが自分から幸せを掴んでいったんだよ 僕が、ななのを幸せにするのは もっと 後だ」

「シュウ ごめんね 私・・・ 私のすべてを愛してもらわなきゃぁなんないのにネ」

「ななの 前も言ったけど 君はまだ 高校生だし、勉強第一だよ そんな風に考えるのは・・やめた方がいいよ 気にするなって! 僕は、君が笑顔見せてくれるだけで 満足だよ それに ななのは僕にとって 大切な女性だよ」

「わかった でも キスして欲しい時もあるんだからネ もう16歳なのよ えへぇー シュウのこと 好き!」

 僕とななのの間はそんな関係のまま、春を迎えて、ななのは2年生になろうとしていた。  

 

13-1

 ななのが春休みに入って、僕の部屋に通うようになって

「私ね 又 2番だったの 麗花に負けてるの」

「はぁ そのダントツの子かぁー ななのもかなわないって言ってたじゃぁないか」

「そーなんだけどー 私なりに頑張ってるんだけどなぁー あの子 頭良いんだから もっと 上の高校 選べば良かったのにー」

「仲悪いのか?」

「ううん 仲良しだよ お昼も一緒に食べてるしー 鈴音も一緒」

「じゃぁ 良かったじゃないか 良いライバルが居てー」

「そーだよね あのね シュウ 温泉連れてって欲しいなぁー お泊りで」

「えぇー なんだよ いきなり」

「だって 前からゆうてるやん 温泉でゆっくりしてさー 一晩中、シュウの腕ン中で眠りたいって」

「そんなこと言ってたかぁー? ななの 温泉って ふたりで 露天風呂なんかでゆっくりするのか?」

「ふたりっきりでぇー? ・・・」

「それに、泊りに行ったら となりにななのが寝ていたら 裸にして、襲い掛かるかもしれないぞ 覚悟あるのか?」

「嫌だ そんな言い方! ・・・そんなのぉー・・・」

「ほら 見ろ そんなの 怖いんだろう?」

「・・・うぅー 私 シュウのものになるって 決めてるんだものー だから・・すべて・・いいよ 覚悟する でも 乱暴なのは嫌」

「ななの 簡単にそんなこと言うんじゃぁないよ ななのは僕にとっては大切な人だよ だけど、ななのには、これから、もっと大切に思える人が現れるかもしれないだろう? その時までは、自分をもっと大切にしとかなきゃぁだめだろう?」

「また そんな風に言う! 私 いつまで経っても 子供のままやんかぁー シュウのものになれへんのぉー?」

「いや そのー したからと言ってもー そのー ななのは今のままでも、僕のものになっている カナ」

「だったらさー 一緒に寝ているからって なんで そんな怖いことするって言うのよー 私だって そん時になって その気で受け入れられたら・・・かめへんと思ってるのにー どっちみち いつかはするんやろー? シュウとだったら・・」もう、自分で何を言っているのかわかってるんだろうか むきになって僕に訴えてきていた。

 僕には、ななのが言っていることが半分くらいしか理解出来なかったのだろう。まだ、完全にはわからないのだ、ななのの気持ちが・・・揺れているのだろうけど・・。自分の気持ちだって・・・ななのと一つになってすべてがほしいと思うこともある反面、まだ、高校生なんだし、せめてその間は・・と。それに、彼女は若いんだし、まだ、色んな人と出会うかも知れないし、僕なんかよりもっとななのにふさわしい男と・・ということも・・。  

 

13-2 初めての 二人だけでお泊り旅行

 4月に僕は、本庁のスポーツ振興課に転属になっていた。そして、自分の優柔不断さにあきれる僕は、ななのの押されるままに、4月に入って宿を予約していたのだ。ななのは、覚悟をして出てきているのかは、わからなかったけど、お母さんには僕の実家に行くからと言ってきたみたいだったのだ。

 駅に現れたななのはタータンチェックのワンピースにブラウン系のカーディガンと少し厚底のスニーカーを履いて、トートーバッグを肩から下げていた。僕の気のせいか、大人びた恰好をしてきたようだ。

 まずは、神戸異人館街を目指していた。ななのも神戸は初めてだと言っていたので、楽しみにしていたようなのだ。三宮から坂道を上っていく途中でも、いろんな店を飲食店なんかも覗いていて、風見鶏の館に着いたのは、もうお昼に近かったのだ。

 僕は、駅で買ってきたサンドイッチをベンチに座って食べ出したのだが、ななのは早く見て回りたいのか、落ち着かない様子でキョロキョロしていた。カーディガンも脱いで腰に巻いたり、肩から巻いたりして、どっちカナーと悩んだりもしていた。

「ななの そんなに 時間も無いからね 異人館はどれか一つ 見晴台にもいきたいだろう? 旅館にも4時ごろには着いた方がいいだろうからー」と、言うとななのは少し、不服そうだったが、旅館にも早く行きたい素振りで納得していた。それでも、見晴らし台に着いた時は

「すごいねー ビルばっかー 私がいつも見ている風景と全然違う」

「そうだねー たんぼなんか無いものなー」

「ねぇ あのビルからは色んな声が聞こえてくる なんか 複雑な声」と、ななのはしばらくの間、声も出さないで街の全体を眺めていた。

 坂を下って来る時、途中の店で僕は、ななのにイァリングを選んでいたのだ。冬に僕がプレゼントしたネックレスをしてきていたので、それと違和感のないものをと思っていたのだが、小さなハートのリングに小さな赤い花をあしらったもの。ななのは左側の髪の毛を留めて耳が出るように、お店の人に手伝ってもらって早速付けていた。

「とっても 可愛らしいですよ」と、店員さんに言われてご機嫌だった。

「なぁ 片側だけでいいのか?」

「うん 慣れないしね 落っことしても、片方残ってるからね なぁ シュウも可愛いって言ってよぉー」

 僕達は、三宮から高速バスで淡路島に渡り、バス停に旅館の車に迎えに来てもらって、チェックインした。もう、陽が傾いてきており、宿の人が貸し切り露天風呂は如何ですか?  今なら空いていますし、丁度、夕陽がきれいですよ と・・。僕は、その時、どうする?というつもりで、ななのを見たのだが、彼女は下を向いたまま黙っていたので、お願いしますと言ってしまった。その時、彼女は下げていたバッグを抱きしめるようなしぐさをしていたのだ。

 部屋に案内されると、和室なのだが窓からは明石大橋と海が大きく眺められるのだ。僕は、直ぐに浴衣に着替えながら

「ななの 直ぐに 風呂に行こう 浴衣に着替えたら?」と、誘ったのだが

「・・・私 このままで・・ 浴衣 持っていく」と、小さく返事してきていた。その後、バッグをごそごそしていて、ようやく浴衣とかタオルそして、多分着替えのものを抱きかかえるようにして、僕の後ろから付いてきていた。おそらく、緊張して歩いているのだろうが、後悔しているのかも知れないと思っていた。

 少し、高台にあって、明石海峡と見渡せるようになっていて、夕陽に橋が照らされ始めていた。僕は、先にさっさと入っていって、湯舟に浸かっていると、しばらくして、ななのが入ってきた。

「シュウ このままで良い? ダメだったら、シュウが取ってくれても・・ネ」と、髪の毛もタオルで巻いて・・・バスタオルを胸から身体に巻き付けていて、震えているような感じで、両方の腕で胸を抱えるようにしていたのだ。

「いいから 早く 入れよ 身体冷えるよ」と、手招きをして彼女を迎え入れると、タオルを抑えるようにして、僕の隣にゆっくりと身体を沈めてきたのだ。

「きれいだよねー 夕陽に照らされて タイミングも良かったよね」と、感嘆するように言うと、ななのも安心してきたのか

「うん 素敵 きれいわぁー」と、僕に寄りかかってきていた。

「ななのだって きれいだよ ななの 僕に乗っかっておいで 横抱きにするから・・」と、ななのの肩を抱き込むようにすると、ビクッとした後、怖がるのかと思ったら、覚悟したように

「こんなの 恥ずかしい」と、いいながらも彼女は眼を閉じて、肩をすぼめるようにして、素直にされるままにしてきていた。彼女の素肌の肩に触れたのは初めてだったけど柔らかくて、なんと か細いんだろう。しばらく、そのままでいた時

「私 しあわせ シュウに抱かれているんだもの」と、ポツンとつぶやいていた。僕は、ななのが可愛くてたまらず唇を寄せていくと、ななのも僕の首に腕を絡ませてきて、応えてくれた。その時、僕は戸惑うななのに構わず、初めて歯のすきまから舌を滑り込ませていたのだ。

 そして、僕が身体を洗っていると、湯舟の中から

「あのね シュウ 私 大浴場に行って洗う 髪の毛もあるし・・ だから、先に出ていってネ 後で、出るから・・・シュウの前で着替えるの 恥ずかしいやんかー」

「そうかぁー うー せっかく ななのの裸 見れるんかと思ったけどな わかったよ」と、言っていたら、ななのは僕の背中にお湯をぶっかけるようにしてきた。もう、普段のななのに戻ったようだったが、僕が振り返った瞬間

「アッ いゃぁーん」っと、ななのは湯舟にかがみ込んでいた。巻いていたバスタオルが外れてしまったようだったのだ。

 僕が、洗い終わって、湯舟に浸かりに行った時も、タオルを抱きかかえたまま湯舟の中でかがんでしまって動かなかったので

「まぁ ななのの可愛い背中を見れただけでもいいかぁー じゃぁ 先に 出てるよ」 

 

 

13-3

 ななのが、戻ってきた時には、髪の毛をタオルでくるんで浴衣姿だった。夏の浴衣とは違って旅館のものなので、僕は、妙に色っぽさを感じていたのだ。

 時間になって、食事所に向かう時に、ななのは僕の後ろから腕を組むようにしてきて、もう、完全に緊張は無くなっていたようだった。それでも、髪の毛の片側をリボンで結んで、さっきのイァリングを付けていた。だけど、まだ髪の毛は乾いてないようで、黒く光っていた。

 小さな舟盛りとかガシラの唐揚げ、僕は宝楽焼を断っていたので、淡路牛の陶板とかメバルの煮つけとかその他にも色々と並んでいて、豪華なもので

「わぁー すごい 豪華なんだね」と、ななのが大きな声を出していたので、案内してくれた人も笑っていたのだ。それでも、ななのの容姿には僕も少し誇らしく思っていたけど、あんまり目立って欲しくは無かったのだ。

 僕は生ビールのジョッキを頼んだのだが

「なんだぁー 残念だなぁー 継いであげられると思ったのにー」

「あっ そうか それは、残念だったな」

「ねぇ こうやってると、新婚旅行みたいかなー そう 見えてるかなー」

「又 そーやってー でも 今日のななのは色っぽいから そんな風に見てる人も居るかもな」

「そう 色っぽい? 旦那様ぁーあ」

「バカ 言ってみただけだよ おっ ガシラ唐揚げ うまいよ」

 部屋に戻ると、もう布団が並べられていて、ななのは又、ぎこちなくなっていて、わざとらしく窓際に行って

「わぁへ シュウ見てぇー 大橋がきれい 大きいんだねぇー」

「そーだね 立派なもんなんだなぁー あんなの作るんだから」

「そーだよね あんなに大きいのって 私等のあたりじゃぁ 見たことないもんね」

 時間を持て余すようなので、僕が風呂に行くと言って、ななのも誘ったのだが、彼女はようやく髪の毛も乾いてきたところだからと断っていて、僕 独りで大浴場に向かった。出てくるとななのは窓際で絵を描いていて

「窓からの絵 せっかく きれいだからね」

「そう お母さんには 見つからないようにしないとネ」

「そーだネ でも 記念だから」

 僕が向かいに座って、ビールを飲んでいると、そのうち、ななのは急にバタンとスケッチブックを閉じて、「ダッコ」と僕の上に横向けに乗っかって来ていた。

「シュウ 私ね シュウにだったら触れられても 平気になったみたい」

「なんだよー やっぱり さっきはビクビクしてたんかー」

「そーゆうわけじゃぁないけど・・ なんかネ」

「ななの 下着けていないのか? 谷間 少し」と、小さな谷間が襟元にのぞいていたので

「いやだぁー 見てるの?」

「いや 見えてしまってる」

「あのね ブラは寝る時は つけないの!」と、もう1本取りに行ってくれて

「ねぇ 飲んでばかりで 私じゃぁ おつまみになんないの?」と、首に手をまわしてきて、唇を突き出すようにしてきた。

 それから、僕は、寝る時に余計なことを考えないように飲み過ぎるぐらいに飲んでいて

「さぁ 寝るよ」と、言って布団に入ると、ななのは電気を消して、隣に入ってきていた。

「シュウ 腕枕!」と、自分で僕の腕の中に潜り込んでのだが、身体を縮こめるようにしていた。僕は、ななのの背中を抱くようにして、そのまま寝てしまっていたのだ。それでも、夜中に眼が覚めたのだが、ななののあどけない寝顔にチュッとして、又、身体を引き寄せて、ななのの少し大きくなってきた胸の膨らみを感じながら寝てしまっていた。
 

 

13-4

 ななのの学校が始まると、あんまり会うことが無くなって、土曜日に彼女もサッカークラブに行く前に、お弁当を届けてくれる時だけになっていた。

「おはよう 又 あんまー 会えへんネ」

「そーだな ななのは忙しいから・・ 仕方ないよ」

「うーん 私 土日もバイト入れてしもたからなぁー」

「まぁ 身体だけはこわさんよーにな」

「うん それよりな・・ おまじない しとかんとー」

「なんや おまじないって?」

「んもぉー わかってるヤン」と、ななのは僕の首に抱きついてきてチュッとしてきた。

「これから いっつもするんやでー 会われへんから・・ 女除けのおまじない」

「そうかー ななのって 嫉妬ぶかいからなぁー」

「あたりまえヤン シュウは 私と ひとつの布団で一夜を過ごした男やでー えへっ」

「なんだよー 縮こまってたくせに」

「そんなこと無いねんでー シュウが寝たら、夜中に抱きついていってたんやでー」

 その日は、スポーツセンターに行ってみると、リョウちゃんも来ていて、ナナコちゃんとななのの3人の声がグラウンドに響いていた。3人は先輩なので、みんなにハッパを掛けている様だった。

 練習が終わった後、リョウちゃんとナナコちゃんが僕のところに来て、いきなり

「シュウさん ななの 大切にしてくれてる?」

「えっ まぁ ちゃんと付き合っていると思うよ なんで、君達から責められるようなこと言われるのだぁー?」

「だって ななのは私等の親友だし 気になるヤン」

「あのなー・・・ ななのが何か言ってたのか?」

「いいえー べつにぃー 何にも言わないからさー シュウさんとのこと」

「大丈夫だよ 心配するようなことは無いよ 僕にとっては大切な女の子だよ」

「ワァー」と、言いながら戻って行ったのだ。

 僕は、女子高生から茶化されているような気がしきて、正直、面白く無かった。僕とななのの関係には、興味を持って欲しくなかったのだ。それに、ようやく、ななのは子供から大人の女性に変わりつつあるのだから・・。

 その様子を見ていたつばきちゃんが寄って来て「大切にしてくれてる? だってっ いいなぁー」と、からかってきていたのだ。 

 

13-5

 梅雨が明けて、夏が近づいてきた日、僕が休みで部屋に居たら、夕方になって突然、ななのが顔を出してきた。

「よかったぁー シュウ 居たんだ」

「なんだよー 突然 学校は?」

「うん 今日、体育大会でね 早く終わったんだぁー 明日から2日間 学校祭なの シュウに会いたくなってさー」

「そうか 暑かったろー?」

「そー もう 汗だくだよー 今日ね クラブとかクラス代表のリレーがあったんだぁ 私ね バトン受け取った時 5番目だったんだけど、抜いてトップで最後の子に渡したんだよ そしたらさー その子コーナー曲がったとこで転んじゃって ビリッカスだったんよ バカみたい その子責任感じちゃってさ でも、みんなに慰められてたよ たかが、かけっこなのにネ」

「あのさー そういうとこ 妙に ななのは冷たいなぁ」

「そうじゃぁなくってー 慰めたりするから余計に責任感じちゃうんだよ 私みたいに ただのかけっこだから・・て、気にするなってほうが いいと思わない?」

「そーいう 考え方もあるのカナ」

「そうよ 私ネ 陸上部の人から 入らない?って声掛けられてネ でも、走るのって嫌いなんですって言って 断っちゃった」

「うふっ ななの 中学の時も そんなことあったなぁー 速いんだ ななの」

「えへー そうみたいよ ねぇ シャワーして良い?」と、「こっち見ないでよ」と言いながら、リボンをほどいて白いブラウスとスカートを扉の前で脱いで浴室に入っていった。

 そして、出てきた時は、頭にタオルを被って胸からバスタオルを巻いて、制服を抱えていて、ブラジャーの肩紐が見えているといった奇妙な恰好だった。

「暑いから しばらく このままでネ」

「ななの Tシャツでも出そうか? それじゃーぁ あんまりだろう?」

「そーね 刺激 強いか? シュウに襲われるかもね」

「バカ いまさら なんだよー」

 僕の出した白いTシャツを着たななのはもっとセクシーな感じがしていた。シャツだけで下は何にも穿いていなかったからだ。それに、着替える時、白にピンクのドット柄のショーツを僕は見てしまっていたのだ。

「うふっ 中が見えるギリギリだね 超ミニスカートみたい」と、ななのはそんな恰好を気にしていないようで、逆に僕をドキドキさせて楽しんでいるみたいだった。

「シュウ 晩ご飯 なんか用意してんのぅ?」

「ああ カツを買ってきたし、焼きうどんにしようと思ってる」

「うんなら良いんだけどさー 野菜もいっぱい入れてよー 私 切っておこうか?」

「いいよ 自分でやるよ ななのにやってもらうと 焼きうどんが野菜炒めになるからな」

「んもぉー なんで 男の人って 野菜食べないんだろうネ!」

 と、そんなことを言いあっていて、ななのが帰ると言ってきた時

「ねぇ もうすぐ試験期間だから しばしの別れの儀式してぇー」と、せがんでいるようだった。

 僕は、ななのを抱きしめて唇を合わせていって、ななのに舌を絡ませていくと、ななのも少しずつ舌を伸ばしてきているようだった。僕の手がななののお尻に下がっていった時には、ビクッとして、避けるような素振りをしてきたのだけど・・・僕は構わず、ななのを抱いている腕に力を込めて離さなかったのだ。

 ななのは観念したのか、僕の背中にまわしている手を強くしてきて、絡めている舌で僕のを強く吸うようにしてきていた。

「今日はシュウの愛をいっぱい確かめたからね 明日からもななのちゃんは頑張るね」と、言って帰って行った。

 

 

13-6

 試験期間が終わったのか、ななのが久しぶりにやって来て

「もうすぐ 夏休みなんだよ なんか ずーとバイトになりそう」

「そうか 無理すんなよ」

「そりだけ? 私 シュウの休みに合わせて バイト休みとろうかと思ってるんよ」

「まぁ いいんじゃぁないの」

「なんか 違うなぁー 迷惑?」

「そんなことないよ うれしいよ ななのの手料理も楽しみだし」

「じゃぁさー ななのは可愛いから一緒に居られると幸せだよー とか 言ってよー」

「そんな 照れ臭いこと男から言えないよー」と、代わりにななのを引き寄せてチュッとしたら

「よしっ まぁ いいか それで、許してあげる」と、ちょこっと舌を出していた。

「ねぇ 昼間はここに来てていいでしょ?」

「まぁな ななのがその方が落ち着くんなら でも 本当に暑い日はエァコンつけろよな 熱中症になっちゃうよ」

「わかってるって 気をつける」

「ななの シャワー浴びた後 好きな恰好しててもいいけど 僕が帰ってきた時は ほどほどにな 刺激が強いのはなぁー」

「ふーん 一緒にお風呂に入った仲やんかー 気になるんや」

「なに 言ってんだよー タオルでしっかりガードしてたくせに・・」

「まぁ あれは・・ 女の子のたしなみや」

 そして、夏休みに入ると早速、僕の部屋に来ていた。僕が帰った時、タオル地でタンクトップの長いようなもので下は穿いている様子が無かった。

「ななの それは、パジャマかなんかなのか?」

「お風呂上りに着るもの ズボンは暑いから穿いて無いけどね 心配しないでもパンツ 穿いているよ」

「なんも 心配なんかしてないけどさー 結婚前の女の子が、男の前でする恰好か?」

「ウン シュウとの時やったら 平気 だって、私の彼氏なんやろー」と、完全にリラックスしていた。

「あのなー 私 又、2番やった 麗花に勝たれへん」

「ななのは一生懸命頑張ったじゃぁないか それで、いいよ 僕は、ななのがマイペースで頑張っている姿が好きだよ」

「ほんでもなぁー 気になるヤン」  

 

13-7

 お盆の休みの時、僕は、1日だけ休みで後は留守番を兼ねて出勤だった。その休みの日、朝からななのちゃんがやって来て

「シュウ 昨日さー 社長さんにステーキ肉もらったの 私は、昨日、お母さんと食べたんだけどね これ 食べてね」と、ピチピチのジーンの短パンにTシャツ姿だった。彼女はお盆の期間はいつもの肉屋に行くと言ってたのだが

「あぁ それは豪華だね だけど いつも、そんな恰好?」

「そうだよ 元気良さそうに見えるでしょ これに、エプロンするんだ 社長さんもいいねぇーって言ってくれるよ」

「それは・・ 若い女の子のそんな姿を見れるからな」

「シュウ 妬いてるんだぁー こんなのって 嫌?」

「いゃ まぁ なんていうかー 他人にはあんまー 見せて欲しくないカナ ピチピッチやんかー」

「そうかぁー シュウもドキドキする?」

「うん まぁ ななのは脚も細くて長いから・・」

「そう 私の全部も見たいの?」

「あぁ そりゃー ななのだからね きっと きれいなんだろうなって思う」

「ふぅ~ん 見たら どうすんの? エッチする?」

「いゃ それは・・ ななのは まだ 高校生だし・・」

「でも、学校でも何人かは済ませたって子 聞くよ あのね ナナコも夏休みになって、彼の家に行ったんだって、その時、しちゃったんだってー 嫌だって言ったんだけど、無理やりだったって パンツ脱がされて、しばらくは苦労してたみたいだけど、突然、痛いって思ったら、入ってきたらしかったって それでね ゴムつけてって言ったら 無いって だから、泣き叫んで抵抗してたら、途中で止めてくれたって・・ シュウは そんな無理やりなんてしないよね?」

「ウッ あぁ ななのが嫌がることなんて・・」

「うふっ だから シュウって安心できるんだぁー ねぇ シュウって経験あるんでしょ? 女の子と」

「そんなことを面と向かって聞くなよー 答えずらい」

「じゃぁさー ななのにはするとき優しくしてれる? 痛くないように・・」

「あぁ ななのとそんなことになった時にはな 痛いかどうかはわからんが、夢の中に連れて行くようにはする」

「わぁー うれしいなぁー ねぇ どうして? 私 高校生だと 駄目? 私にエッチしょうって言ってこないよね? そんなに魅力無い?」

「そんなこと無いってば! でも、なんていうか 小さいころから知っているし・・ ななのは そういうこと経験するより 今のままの方が伸び伸びと成長してるみたいだし・・ ななのは魅力的だよ だから、僕も我慢してることは確かだ」

「ふぅ~ん 無理に、我慢しないでも いいのに・・」

「そんな風に言っていて いざとなると 縮こまってるんじゃぁないのかな 無理してるんじゃぁなくて、やっぱり、ななのには無理やりじゃぁないと 駄目カナ」

「やだぁー そんなの 怖いョ 無理になんて・・」 

 

13-8

 僕とななのは木之本の駅に降り立って、直ぐに、地蔵院に行った。ななのがやっぱり、今年もカエルにお願い事を書くんだと言っていたから。

「今年は、何をお願いしたんだ?」

「うー まだ 秘密 でも 毎年 何となく お願い事 叶ってるからね 今年も・・」

 その後、近くの古くからある喫茶店で軽く食事して、僕の実家に行くと、庭で幼い男の子と女の子が仲良くボール遊びをしていて、男の子がななのの姿を見ると

「わぁー なーなーちゃんだぁ」と、駆け寄って来て、ななのの手を握ってきた。

「琳太郎ちゃん 大きくなったね 元気だった?」

「ウン 元気 なーなーちゃん 待ってたんだよ 楽しみにしてたんだぁー うれしいな!」

 僕達が家の中に向かおうとすると、琳太郎がななのと手を繋いできて一緒についてこようとしたとき、作業場のほうからかがみさんが現れて

「琳太郎 だめよ 真糸を見ててくれなきゃー ななのちゃん いらっしゃい」

「かがみさん こんにちわ 今年もお世話になります」と、お辞儀をして

「琳太郎ちゃん また 後でね」なんとなく、不満げな琳太郎を残して家の中に入って行った。相変わらず大袈裟に嬉しそうな母が迎えてくれて、いつものように夕方近くになって、ななのを浴衣に着替えさせてくれていた。

 そして、兄貴夫婦が子供連れでやって来て、早めの夕食になった。琳太郎はななのの横にちょこんと座って、妙に懐いてしまったようだった。

「なーなーちゃん ご飯 食べたら 一緒に花火してね」と、琳太郎がななのにねだっていたら

「だめよ ななのちゃんは 大きい花火見に行くんだからー」と、かがみさんが諭していたが

「やだ! ボクと花火・・・ねぇ なーなーちゃん」と、ななのの腕をすがりついていたが

「りんたろう!」と、かがみさんが強い調子で言うと、ななのは

「いいんです 琳太郎ちゃん じゃぁ 一緒に花火しようね」と、僕の顔を伺うように言ってきたので、僕も頷いていた。

 結局、その日は庭で琳太郎が持ち出してきた花火を真糸ちゃんを交えてやりだしたのだが、15分もかからないで終わってしまって、その後、お風呂に入れと、かがみさんは子供達行った無理矢理に連れていった。地元の花火はまだ続いていたみたいなので

「ななの 近くの川の土手に行けば遠いけど最後の花火が見えると思うから行こう」と、ななのの手を取って連れ出していった。

「うわぁー 遠いけどきれいに見えるんだね もう最後みたい ねぇ ここって 暗いけど 桜?」

「そうだよ 春には桜並木 きれいだよ」

「へぇー 見てみたいなぁー いいとこだね」と、暗がりの中だけど、ななのが僕を見上げて眼を閉じてきているのがわかった。ななのを抱き寄せて、唇を合わせていったら、ななのは僕の背中に手を廻してきて、しっかりと応えてくれていたのだ。

 家に戻って、しばらくすると琳太郎がパジャマ姿で飛び込んできて

「なーなーちゃん と 一緒に寝る いいよね」と、ななのにすがりついてきた。

「えっ ひとりで来たの?」と、言っていると、すぐにかがりさんが来て

「琳太郎 やっぱり こっちに来てたんだー 急に居なくなるんだからー ダメよ! 帰るよ」

「やだ なーなーちゃんと寝る だって ママはいつも真糸と一緒なんだものー」と、ぐずりだして

「だって 琳太郎は、もう お兄ちゃんなんだからー ななのちゃんだって迷惑よ」

「かがりさん 私は構いませんよ 昔 私もかがりさんが一緒に寝てくれて 嬉しかったから・・」と、ななのは、やっぱり僕に同意を求めるように顔を見てきていた。

「あぁ いいんじゃぁないの 琳太郎はななののことが好きみたいなんだからー」

 という訳で、ななのがお風呂から上がってくるのを待って、琳太郎はななのに手と手を繋いで寝にいった。だけど、遅い時間に僕が寝に行った時、ななのが僕の部屋に入って来て

「おやすみの儀式」と、僕に抱きついてきてキスをせがんできて・・・その後、再び戻って行ったのだ。
 

 

14-1

 翌年の春。ななのは3年生になろうとしていた。春休みになったのだろう、僕が帰ると来ていて

「お帰りなさい また しばらく、お邪魔して、シュウのお嫁さんになるネ」

「あぁ 休みに入ったのか?」

「ウン 明日からネ あのね 今日 告られちゃったぁー」

「ふぅーん ななのって 可愛いからなぁー 今までも そんなことってあったんだろーぅ?」

「うーん なんかねぇー でも、今日の子は隣のクラスなんだけど・・・誤魔化していたんだけど、しつこくってネ 私 付き合っている人居ます それに大好きなんですって言っちゃった そしたら、ようやくね」

「それは それは 光栄ですネ」

「光栄ですじゃぁないわよー ナナコなんてね 時々 彼としてるんだって・・・ 最初はなんてことは無いなって思ったんだけど 最近は気持ち良くなってきたんだって・・・」

「ふぅーん だから? ななのも羨ましいのか?」

「そんなことないけど・・・だって 私・・・シュウに・・」

「いざとなると 身体固くして、怖がってるのって 誰だっけ?」

「そんなつもり無いねんけどなー なんとなくぅー だから、無理にでも・・」

「ななの 無理すんなってー ・・・ まだ、これから ななのは・・・」

「これからって? なに?」

「いゃ いいんだ それより 又 旅行するかー 有給取るから・・」

「ほんとー 行きたい うれしいぃー」

 僕は、本当にこのままで良いんだろうかと、迷っていたのだ。ななのには、もっと素晴らしい人と出会うかも知れないし、この子はそれだけの魅力があるはずだから・・・   

 

14-2

 僕達は三宮駅に降り立って、先に南京町でお昼を済ませた後、北野坂から、前に行けなかった布引のハーブ園を目指してぶらぶらと歩いていった。ななのは明るいブラウンの長袖でやや短めのワンピースにハイソックス、ローファーで来ていた。今日は、リュックじやぁ無くてトートーバックを肩から下げていた。それに、僕がプレゼントしたイァリングにネックレスを着けて、お化粧もほんのりとしているようだった。まだ幼さが残るものの輝くようなレディになっていたのだ。

 ロープウェイで上に着くと、色とりどりの花も咲いていて、ななのははしゃぐように歩いていた。

「まるで 外国に来たみたい きれいだね」と、時々戻ってきては僕の腕にすがりつくようにして甘えてきていた。

 ずいぶん歩いたので、早い目に今晩のホテルに向かって、部屋からは明石大橋が見えるところだが、近くの海岸の公園を少し散策してからチェックインしていた。

「うわぁー 見てー シュウ 去年の時よりも大橋が真正面に見えるネ おっきいー」

「そうだね さっきも大きいなぁって思ったけど ここからみても大きいね」と、僕がななのを背中から包んでいって「今日の ななのは 特別 可愛いよ」

「ありがとう シュウ ネェ」と、顔を振り返らせて唇をせがんできていた。

 夕食はフランス料理を予約していて、席に案内されて、僕は生ビールを注文したのだが、ななのはお水でいいと言っていた。

「シュウ 私 こんなの初めて フォークとかいっぱいあるね」

「まぁ それぞれの料理に使うんだよ だいぶ歩いたからお腹すいたよね」

 部屋に戻って来て、今度は大橋のライトアップに二人で感激していたのだけど

「お風呂 どうする? 二人で入るかい?」

「やだー やっぱり そんなの恥ずかしい シュウ 先に入って 私 髪の毛も洗うから・・」

 僕が風呂からナイトローブで出てきて、窓際でビールを飲み出すと、ななのが向かった。やっぱり、髪の毛を洗っているのだろうけど、長い間をかけて出てこなかった。ようやく、出てきた様子だったけど、今度は時間をかけて髪の毛を乾かし始めていた。

 僕が2本目を飲み出したころ、ナイトローブ姿で、ようやく僕の膝に横座りで乗ってきて、唇を寄せてきた。

「こういうのって とっても しあわせ ずーとこのままで居たい」

 そのまま、ななのが起きているのか寝てしまったのかわからなくなった時

「さぁ 寝ようか」と、ななのを立たせて、僕はナイトローブを脱いで、ななのの前で結んでいる紐を解いていったら

「あっ そんなー ・・・ するの?」

「ななのの すべてを見たい」と、ななのの着ているものを脱がして肩からずらしていったのだが

「いゃぁーん こんな明るいの・・ はずかしい」と、両手で胸を隠すようにしていた。

 だけど、僕はななのをベッドに横たえて、ななのの両手を掴んで無理やり伸ばしていって、初めて男の眼にさらしたのであろう まだ幼さが残るななののプルンとしたような白い乳房を見ていたのだ。ななのは観念したのか眼を閉じて長いまつ毛と小さな肩が震えていた。ななのは小花柄の刺繍のある薄いピンクのショーツを穿いていたのだが、僕は、そのまま抱きしめて、ふわふわの布団を掛けて眠りについたのだ。

 朝、目覚めるとななの顔がすぐ横にあって僕の顔をみつめていたのだ。

「おはよう シュウ」と、ホッペにチュッとしてきた。

「あっ おはよう 気持ちよく眠れたよ ななのは?」

「あのねー そんな訳ないじゃぁない いつ シュウが来るのかって思ってたら、眠れないわよ だって 抱きしめられて・・・ 時々、お尻に手が触ってきてたし・・・ あのね シュウのがあたるのわかるから 変な感じだったの いやらしいんだけど・・ 時々大きくなったりしてね」

「ふふっ そうか 触ったりしてたのか?」

「そんなことするわけないわよ なんてことを・・ 私にあたってただけ!」 

「そうか それは辛かったかな? まぁ 一つの経験だよ さぁ シャワーしてくるな」

 僕が、シャワーから出てきても、ななのは頭から布団を被ったままベッドに座っていた。

「ねぇ しないの? 私 シュウのものにしてほしい」

「ななの 本当に僕なんかでいいのか? ななのは賢いし、気立ても良い 素晴らしい女性だよ これからも、もっと理想的な女性になる きっと僕なんかより、ふさわしい人と出会って、君を求めると思うよ 僕なんか 平凡な公務員だよ」

「なんで 時々 そんな風に言うのョ? 私は、シュウと出会って 救われたワ シュウと一緒に居られることが私の幸せなの 普通にシュウにお弁当を作って送り出して、お帰りなさいと迎えて・・ 可愛い赤ちゃんを育てて それだけが私の贅沢なのよ 余分なお金なんて要らない 普通に生活できれば・・ 温かい家庭で・・」

 ななのの涙を久々に見た気がした。そして、泣きながら僕の胸を叩いてきて・・・訳がわからなかった。それも、ぼとぼとと細い膝に涙を落としていたのだ。

「すまん ななの わかったよー もう 泣くな」

「やっぱり・・・ 私じゃぁー」と、ポツンと言っていたのだ。

 僕達はなんとなく気まずいまま、明石大橋の展望台とか水族館とかを見て帰ってきたのだ。
 

 

14-3 そして 別離

 2日後、部屋に帰るとテーブルの上には、ちらし寿司とメモが (冷蔵庫にカルパッチョ入っています おつゆはあたためてください) と そして、1枚の手紙が置いてあった。

(シュウへ 私 今までシュウに寄りかかっているばっかりで きっと今のままだと、シュウのものにしてと無理やり我儘言いだすと・・ 自分で自立する女にならなきゃなんないと気づいたの このままじゃぁ いつまでも シュウにとって、私は子供のままだもの それに、食事作ることしか、能が無いの 理想のお嫁さんにしてもらうのに・・ 私 もっと、勉強するために大学に進みます お母さんとも相談したんだけど、奨学金とか特待生の制度があるから、頑張ります だから・・もう 会わないと決心したの このままだとシュウに寄りかかるだけになってしまうから 大好きだよ シュウのことは・・ だけど・・ さよなら だから・・シュウにふさわしい女の人が現れるといいネ その時は、私は文句言わないで祝福する)

 おそらく、泣きながら書いていたのかも知れない。最後のほうには涙の跡があった。突然だった。僕は・・・僕は、迷っていた。追いかけようか・・今は、仕方ないのだろうか・・これで、良かったのだろうかとも、ななののためにも・・・と。優柔不断な僕に愛想がつきたのか・・・。昔のように別れって、突然だなとも・・。

 だけど、そのまま月日が経っていた。僕は、内臓のどこかが抜き取られたような虚しい日々を過ごしていたのだ。ななのと出会ってからの、想い出を女々しく想い出していた。
 

 

14-4

 その年の夏、盆休みに僕はタカシに酒でも飲もうと連絡を取って帰省した。昼ごろ実家に着いたのだが、庭でかがみさんが子供達をビニールプールで遊ばせていて

「秀君 どうしたのよ 彼女は?」

 僕は聞かれることは覚悟していたのだが、あんまり話す気も無かったので

「彼女? 誰のことだよ?」と、無愛想だったのだろう。

「ななのちゃんに決まってるじゃぁ無いの! 置いてきたの?」

「知らん! もう ずーと 会ってない」

「えー 喧嘩したの? 秀君からちゃんと謝りなさいよ 昔っから 優柔不断で変にプライド高いんだからぁー 本当にー」

「そんなんちゃうよー ほっといてくれよ!」

「ほっとけないわよ あんな良い子 頭下げてでも、手放しちゃぁダメよ! あんたがあの子を幸せにしてあげるんちゃうん?」

「かがみさんには わかんないことってあるんだよ!」と、僕は構わず家の中に入って行った。表の会話は聞こえていたんだろうか、母は僕にはななののことは触れてこなかった。

 夜、待ち合わせの居酒屋に行くと、タカシの向かいにサナエが座っていた。

「なんで サナエが居るんだよー」

「タカシに聞いたのよー シュウが来るからって 私も会いたいからネ 嫌なの?」

「いや そーじゃぁないけど びっくりしただけ」

「びっくりしたのは こっちだよ いきなり連絡くれるなんてな」

「うーん タカシと久々に飲みたいなって思いついたから・・」

「シュウ 何かあったの? あの可愛らしい彼女とうまくいってないの?」と、サナエはさすがに鋭く察したようだった。

「彼女じゃないよ もう ずーと会ってない」

「へぇー もったいないネ まぁ ちょっと年が離れすぎてるモンネ もう やっちゃてたの?」

「サナエ あんまり詮索するな シュウ 飲もうぜ 久々だもんなー」

 そして、2時間近くウダウダと飲んでいたら、タカシの電話が鳴って

「すまん バイトが急に明日休むって言ってきたから、これから明日の仕込みの段取りしなきゃぁなんないんだ 帰るから すまんな」

「そうか これからじゃぁ 大変だなぁー じゃぁ 僕達もお開きにするか」

「いや お前達は、もう少しやってろよ サナエも居るしー シュウ 楽しかったよ 又 声かけてくれよな じゃぁ」
 
と、言って帰ってしまったら、サナエが僕の隣に移って来て

「シュウ 私が相手するから楽しもー ダメ?」

「いや そんなことないけどナ サナエ だいぶ飲んでるけど いいのかぁ?」

「ウン 平気 私 今 独り暮らしなんやー」

「そうか 家 出たの?」

「ウン なにかと うっとおしいしー 春からネ なぁ ウチにこない?」と、肩を寄せてきた。

「いや それはなぁー 若い女の子やし・・」

「へぇー シュウにも、私のこと 女の子って意識あるんやー でも 最近 又 やせたんやでー 努力してナ」

「そうだなー 前に会った時より スリムになったな 高校の時みたいに」

「そうよ! 私 高校の時 本当はシュウのこと好きやったんやでー なんとなくシュウはシュッとしてて、他の子みたいにベタベタした感じ無かったもんな」

「そうか 知らなんだなぁー」

「なぁ 私 フリーなんやー どう? 実は まだ あそこもまだ新品なんやでー 意外でしょう? でも、シュウとやったら・・」

「バカ言うなよ 酔っぱらっとんかー そんなの安売りするなよ もっと 大切にナ」

「酔ってなんかないよー 安売りちゃうねん 本当にシュウとやったら、一度っきりでもかまへんと思ってる 私のをあげても・・あんなネンネみたいなの相手じゃぁなくて、もう熟してきてるでー」

「もう やめろやー そんな気になれないから・・ やっぱり もう 帰ろ 送るよ」と、僕は無理やり彼女を店から連れ出して、彼女のマンションの道を聞いていた。

 歩いている時も、サナエは僕の腕を取って組むようにしてきて、大きめの胸を押し付けてきていた。マンションの前に着いた時も、しつこく部屋に入れようとしていたけど、断ると

「ねぇ じゃぁさ 一度だけ 抱きしめてキスしてー」と、せがんできた。だから、建物の陰に行って、僕はサナエを抱きしめて、ぷんぷんと酒の匂いがする唇を合わせていった。その時、僕はななのの柔らかい唇とは違うと感じながらも、ななのを想いだしながら、お互いに舌を絡ませてむしゃぶりついてしまっていた。

 サナエにはすまないと思いながら、僕はただ寂しさを紛らわすだけと思ったのだ。別れ際にも「私と付き合って」と、言われたが「その気になれない しばらくは」と、優柔不断な返事をしてしまった自分に、最低な男だなと責めていた。

 次の日もかがりさんと顔を合わせないようにして、早々に家を出てきたのだった。 

 

14-5

 その冬の年末は実家には帰らずに、のんびりと過ごすことに決めていた。なんとなくサナエと顔を合わすはめになるのを避けていたのだ。

 だけど、大晦日の日に、マーケットの肉屋に足が向いていた。ななのがきっとバイトしてるだろうからと、未練たらしく、その姿を見てみたかったのだ。

 ドキドキしながら遠目に店の様子を伺うと 居た 元気に声を出して動き回っている懐かしい姿があった。相変わらず、短パンにエプロン姿なのだ。声を掛ける勇気もなく、コンビニでビールとつまらないおつまみを買って帰ってきたのだ。ななのが去ってからは、自分で食事を作っても旨くなくて、だんだんと出来合いのものとか外食ですますことが多くなっていたのだ。

 明けて2日の日。前の同僚のつばきちゃんと初詣に行くという約束をしていた。職場の忘年会で一緒になった時に、着物を着てもどこも行く所ないから連れてってと、約束してしまっていたのだ。

 待ち合わせに現れたつばきちゃんは、襟元は白いのだけど裾に向かって紺地で全体に大きな椿が散りばめられているもので、彼女は比較的背も高く、首も長いので、着物姿が似合っていて、普段とは違うお化粧もしていて、僕は意外と美人じゃあないかと思ってしまった。

「待った? お母さんに送ってきてもらっちゃった」

「いや まぁ 似合うね 着物 いい感じだよ」

「そう ありがとう うれしいー」

 最初は八坂神社に行こうと言っていたのだが、混雑してそうなので、途中で変更して東山の駅で降りて、平安神宮に向かった。それでも、参道は混んでて、つばきちゃんは歩き始めて、腕を組んできていたのだが、そのうち手だけを繋いで僕の後ろから歩いていた。お詣りを済ませて、三条通をぶらぶら歩いていたのだが、今度は、ゆっくりと腕を組んできていた。

「あんまり くっつくなよー 胸に触ってるじゃぁないか」

「いいじゃぁない でも ななのちゃんに叱られるカナ?」

「・・・」

 京都駅の近くのお店に入って、ようやく落ち着いて

「ねぇ お正月はななのちゃんと会わないの?」

「・・・ もう ずーと 会ってない」

「えー どうして? 別れたの?」

「あのなー 別れるもなにも なんでも無かったんだからー」

「だってさー ななののこと、ずーと見守ってくださいねって言われてたやん そーいえば あの子 もう、1年ぐらいサッカーにも来てないみたいやね ねっ なんか あったんでしょ?」

「ななのは まだ これから色んな経験をしなきゃぁなんないし・・・ 僕にとらわれていても・・」

「そうね いろいろと気持ちが揺れることもあるよねー 高校生なんて、まだ 子供だもんね じゃぁ 先輩 私とじゃぁ だめ?」

「うーん つばきちゃんのことは 女性としては見てるよ 明るいし、可愛いよ だけど、女として意識してない 後輩だ」

「もぉー なんなの それってー 結局 魅力感じてないってことじゃぁない」

「まぁ いいじゃぁないか 珠には、こうやって飲みに行くぐらいで・・」

「じゃぁ とことこ飲んで 先輩に寄りかかっちぉーカナ」

「まぁ ほどほどにしてくれよー でも 聞いたことあるよ 中学校の白石先生と良い感じなんだって?」

「あぁ ダメ あの人は 忙しそうで デートも出来ないんだものー ちょっとお付き合いしたけど・・自然消滅 それに、真面目すぎて、合わない 真面目なのは良いんだよ だけど あの人の場合、生真面目すぎて、こっちが息詰まりそうなの 一緒に歩いていても、手もつないでくれなかったわ つまんないウワサ流れちゃったんで困ってます 先輩なんて、自然に手を取って歩いてくれていたわ 嬉しくなっちゃったー」

 その後、つばきちゃんは結構飲んだと思うけど、最初の店を出た後も、まだ、時間も早いからとぐずぐず言い出したので、居酒屋風の店に連れて行って、帯が苦しいと言いながら、又、飲んでいて

「先輩は わたすのことも しっかり 見守るんすからね 子供なんかには負けないっす」と、かなり酔ってきていた。

 帰りの電車の中では、ふらふらしていて、僕はずーと支えていたのだ。 

 

14-6

 久々に僕は、クラブの女の子のサッカーの練習に参加していた。朝宮監督は歓迎していてくれるけど、指導というより、一緒にやって、時々教えるといった具合だった。心のどこかには、ななの達が来ていないかと期待していたのだが、彼女達の姿は無かったのだ。

 練習を終えて帰ろうとすると つばきちゃんが寄ってきて

「先輩 私 スポーツインストラクターとトレーナーの資格受かったよ 民間の資格だけどね」

「そうか へぇー 頑張ってるんだネ お祝いしなきゃぁなー」

「そうだよ お祝いして! 飲みに連れてってー」

「わかった だけど あんまり 飲み過ぎるなよ!」

 僕達は仕事を終えた後、隣の町の居酒屋で待ち合わせをしていた。僕は、女の子を待たすのは悪いからと、急いで行っていたのだ。

「わぁー 良かったぁ 先輩 まだだったらどうしょうかと思ってたの」

「まぁな 待たすのは悪いからな」

「先輩の そういうとこ好き!」

 牛スジこんが好きだと言う彼女は口に運びながら

「おいしいー うちではお母さんが、臭いって作らせてくれないのよね 両親が二人ともお酒飲まないから これの おいしいのって知らないんだ」

「そうか ご両親はふたりとも・・」

「あー 今 じゃあ なんで私が飲むんだと思ったでしょ 成人式の時 悪友に誘われてからネ そうだ あんとき 私 ふわふわしちゃって 奪われそうになったんだ」

「そう つばきちゃんは飲み過ぎるけらいがあるからな」

「そんなことないよ あれから気つけてる でも、大丈夫だったのよ 友達が守ってくれたから 心配しなくても純潔は守られてるよ この前は先輩だから、調子に乗っちゃったカモネ」

「心配なんて・・それはそれは・・ 今日はほどほどにな」

「でも 前 話したことは覚えているよ 付き合ってほしいって言ったことも 交わされちゃったけどね」

「まぁ そーいうんじゃぁないけど・・」

「いつも 先輩って ごまかすんだからぁー ねぇ 今年 大卒の男の子 新人 入ってくるのって知ってる?」

「ああ 聞いてるよ 体育系の大学だってっな」

「そーなのよ 私 いい加減 年でしょ 早くお嫁に行かせて、追い出そうとしてるんカナーって」

「そんなこと無いだろうー 手が足りないからー・・」

「草むしりの? 手は足りてるわよー 焦ってるんじゃぁないけど、私、ずーと 走ってるばっかーだったでしょ だから ねぇ 先輩 私じゃぁ 本当に駄目? だって彼女にするんだったら、経験して無いほうが良いでしょ!」

「そっそれはー・・ どうでも・・ だけど・・」

「だけどー なに? ななのちゃんのことがが忘れられない?」

「いや もう 済んだことだ」

「だったら 私 先輩がその気になるように・・ 頑張るから・・ ねぇ お正月の時も お母さん 迎えに来てくれたヤン 誰?って聞かれたから 彼氏って言ったの」

「えぇー それは・・」

「うそ! 先輩ですって、ちゃんと言っておいたわよ そんなに・・私が、彼女じゃぁ困る?」

「そんなんじゃぁ 無いって! ただ、僕は 彼女なんていう気にならないんだ」

「だからー 私が その気にさせるって いいでしょ とりあえずでも・・

「うー ・・・ まぁな」

 と、僕は、また、押し切られて中途半端な返事をしてしまっていた。なんと、優柔不断なことなんだろう。だけど、ななのの顔が頭に浮かんできていたのは確かなんだ。初めて、見たときから僕の心に住み着いて、ななのが溌剌となんかしている時とか、一緒に過ごしている時とは、違うんだ。僕には、ななのが必要なんだと。 

 

14-7

 その年の春、僕は異例ということだったが、主任に昇格していた。そして、つばきちゃんは別のスポーツ施設に転属になっていた。どうも、国民スポーツ大会に備えてということらしい。

 つばきちゃんの後釜に入ってきたのは、後藤伸介という青年で大学の時はやはりサッカーをやっていたということだった。それに、市立病院の医局長の息子という触れ込みだった。だけど、僕には、はきはきとした返事をするし、とても好青年で好感を持っていたのだ。

 僕は、前にも増してやることが多くなってきていて、仕事に追われる毎日になっていた。それにつれて、今までのマンションは本庁には少し遠かったので、引っ越しをした。家賃補助は少し減らされたけど、行き帰りに時間を費やすよりは良いかなと考えたのだ。

 そんな中、夏になってタカシから秋に結婚するから出席してくれと連絡があったのだ。相手はと聞くとサナエの名前が出てきた。僕は、しばらく唖然としたと思うが、とりあえず祝福の言葉を言ったと思う。

 式は地元の小さなホテルで行われた。そして、かがみさんも同級生なんだからと、出席していたのだ。子供も預けてきていて、独身みたいに紺色のワンピースドレスで着飾っていたのだ。披露宴の終わりのほうは流れで立食パーティみたいになっていて、僕達高校のグループが集まっているテーブルにタカシとサナエが挨拶に来て

「みんな 今日は ありがとうな やっぱり サナエと居るのが一番 落ち着くからアタックしたんだよ」と、タカシが打ち明けていた。

「シュウも早く いい人みつけてネ」と、サナエは僕とのことも何にも無かったかのようにしらぁーとして言ってきたが、かがりさんが

「あー ダメ ダメ 秀君は宝物でも簡単に逃しちゃうんだからぁー 優柔不断のまんまなのよ」

「かがり・・さん ・・・ 僕は・・」

「なぁに 君のお義姉さんとして 心配してるんじゃない」と、ワイン片手に平然と言ってのけていて、僕は女は強いと感じさせられていたのだ。

 そして、翌春には、つばきちゃんから結婚式の案内状が届いていた。あれから、時々飲みに行くといった間柄だったけど、その時には、そんなこと一言も言っていなかったのに・・。しきりと僕に売り込みを掛けてきていたくせに・・。

 内内で周囲に聞いてみると、お見合いをして、一気に話が進んだと言うことだった。お相手は私立病院に勤務する薬剤師で、両親も薬局を開業しているから、ゆくゆくは継ぐことになるらしい。女って 変わり身が早いなと思っていた。

 僕は、ななのが居なくなってから3年経っていて、消息もつかめずに居て、その間は気が抜けたようだったが、仕事が忙しくて、そっちに没頭していったのだ。 

 

最終章-1 再会

 スポーツセンターの後藤君に会いに行って、仕事の打ち合わせを済ませた後、帰り際に

「北番さん このところ時々あの公園のところで下を眺めている女の人が居るんですよねー 多分 市立病院に今年入った栄養士さんだと思うんですけどね うちの親父にチラッと履歴書見せてもらったんですけど・・ ちょっと変わった人でね 熱心に採用してくれって訴えてきて、親父も仕方なくて、院長とかと面接したらしいんですけど・・なかなか大学の成績も優秀で、絶対においしい病院食にするって・・その熱意を買って、採用したらしいです。変なんですよね 今日も、来てるんですよ あそこに・・変人ですよねー 危険で話し掛けられないっす」

「えー ほんと?」僕は、すぐに ななのだと思った。そして、公園めざして駆け寄って行ったのだが・・

 確かに女の人が芝生に座って・・グレーのパーカーを着て・・・髪の毛が襟足が見えるほど短くて・・・ ななのじゃあない。

 それでも、驚かしちゃぁ悪いと・・足音を大きくするようにして近づいて行ったのたが・・・ やっぱり ななの だ。忘れもしない あの襟足や肩の感じ・・・ななのに違いない!

「ここ 座っていいかなー」

「そこは 私の彼氏のとこだよ」

「じゃぁ 僕にも権利あるカナ」

「遅いゾー シュウ」と、いきなり僕の胸に顔を埋めてきて両手で僕の肩を叩いてきていた。

「そんなー 約束もなんもしてないじゃぁないか ななのがここに居るなんてことも・・」

「だって 神様が今日は会えるよって言ってたもん だから・・」

「そうかー 神様が また 引き合わせてくれたんだな」僕は、ななのを抱きしめて

「もう 離れるな 僕にはななのが必要なんだよ すまなかった もう僕の前から消えないでくれ」と、頭下げてでもと言った かがみさんの言葉がよぎって・・・抱きしめて、引き寄せる力を強めていった。ななのも僕に手を廻してきて

「本当? ずーと 一緒でいいの? まだ 彼女でいてもいいの? うれしいぃー  今度は しっかり掴まっていくからネ 離さないでネ 私 成人式済ませたから」と、顔をあげて濡れた長いまつ毛で僕を見つめてきていた。僕は、思わずその唇に・・・合わせていった。

「ななの 市立病院か?」

「うん 栄養士さん 募集してなくてさー そんでもシュウの近くに居たいから、強引に交渉したの そしたら、医局長さんが良い人で とにかく、院長さんとかに掛け合ってくれて、面接だけでも・・って その面接の前に髪の毛 短くしちゃた ごめんね シュウ 長い方が好きなんだよネ」

「いや まぁ 似合うよ 短いのも」

「良かったぁー でも 嫌なら また 伸ばすよ シュウ 転属になったんだね マンションも越したんだぁー 電話しようかと迷ったんだけど・・私の番号 知らないだろうし 出なかったらやだもん ここに来てたら、きっと会えるって思っててん シュウとの運命を信じててん 神様がきっと 結び付けてくれるって」

「そうかー 神様かぁー そうだ、今度は 城跡の近くのマンション でも 会えるネ」

「ウン 会えるネ シュウ 私ね 管理栄養士めざすネ 面接の時も 今まで違って、おいしいーって進んで食べていただけるような栄養も考えた食事にしたいって言ったんだぁー 本当は4年制に行ったら良かってんけど・・経済的にネ だから、経験積めば受験できるしー ななのちゃんは頑張るよぉー それが、今の目標 もうひとつ 別っこにあるんやけどネ」

「ななの 成長したなぁー 立派だよ」

「私 シュウに寄っかかるだけの女じゃぁないように がんばる シュウにふさわしいようにネ」 

 

ななの 番外編

 私が勤めだして、1ト月程経った時、病院食の調理長に献立表とレシピを書いたものを提出してみたのだ。50過ぎの男性で、この病院にきて10年以上になるらしい。

 それをしばらく見ていたのだが

「だめだ こんなの こんなに手間暇かけて作れるかー」

「だって やってみてください きっと おいしいと皆さん 言ってくれるはずです」

「あのなー 今でも ちゃんと 栄養は考えているし 予算も限られてるからな その中でちゃんと作ってるんだぞー 別に手抜きしているわけじゃぁない それを食べようが食べなかろうが 患者の勝手だよ お嬢ちゃん わかるかー?」

「でも、残されてるのが多すぎます きっと 好みに合わないのかと・・」

「君は 今のが まずいと言っているのかね」

「いえ そんなことは・・ ただ おいしい食事をと思って・・ せめて、1週間だけでも このレシピでお願い出来ないでしょうか」

「だめだ 手間がかかる」

「でも 要領も書いてありますから、時間はそんなに変わらないと思います ちょっと手間ですけど お願いします じゃぁ 1週間だけでもやってみて 結果を見てください きっと残す人を半分以下にします それと、完食する人も今の2割から倍に増やします お願いします」私は、この人が私のことをバカにして取り合わないってわかっていたから必死に訴えていた。

「おぉー 言ったなー じゃぁ 出来なかったら どうする?」

「どうするって・・・」

「責任取って パンツ一丁で 洗い物してもらおうか? そんな可愛いい顔して・・その覚悟はあるのか?」

「・・・やります 覚悟あります」

 そして、次の1週間は私の作ったレシピで食事は提供されていたのだ。結果が出たとき、残す人は減ったものの半分には至らなくて、完食した人も3割程度に終わった。

「すみません 私の思い上がりでした 申し訳ございませんでした お約束どおり 明日 私 パンツ一丁で洗い物します」と、調理長に頭を下げに行ったら

「いゃ ワシの負けだ 雪村さんの言っていたように調理時間もそんなに変わらなかったし 確かに完食する人も増えた それに、配膳のおばちゃんが言ってきたんだが、食事がおいしくなって毎回楽しみにしてるんで、元気なるよって人が何人か居たそうだ そんなこと聞いたの初めてだ ワシも嬉しくって涙が出てしまったよ これからも、雪村さんの献立でゆくよ よろしく頼む ちょっと手間はかかるがな パンツ一丁はワシのほうだな」

「そんなー ありがとうございます 私の我儘を聞いてくださって それと、雪村さんって そんな風にあまり呼ばれたことないから、こそばくってー ななのでお願いします」と、私も涙が出てきていた。

 そして、私は食事に個々に献立と簡単な料理説明を調理場からという形でお便りのカードを付けたらと提案したんだけれど、皆が反対する中で調理長の「やってみて、意味がなければやめればいい」との一言で、実際にやってみると、残す人も減って、調理場宛てにおいしかったとか、食べての感想とかこんなの食べたいとかの手紙もくるようになったのだ。

 私は、ようやく、一歩踏み出せたのだ。私 シュウにおんぶ゛されなくても 一緒に歩いて行けるもの見つけたよ 

 

最終章-2

 地元の花火大会の日、見に行こうとなったが、ななのが二人でじっくりみたいと言うので、僕達は高台の公園から見ることにした。

「初めてやねー シュウと二人でここの花火見るのって」

「そうだった かもな」

 辺りには、他にも何組かが見に来ていた。すこし、離れるが全体を見られるし、混雑していないので落ち着いて見れるのだ。

 花火が終わった時、僕はななのをグラウンドのほうに連れて行って

「ななの 結婚してくれ 悲しむようなことはしない」

「えっ 前に言ってくれたのって、違ったん? 離れるな 僕にはななのが必要だって・・・私 そのつもりになってたヨ はっきりと 言ってくれたのはうれしいけど」

「いや 改めてナ」と、僕はななのを抱き寄せて、唇を合わせていった。

 そして、お盆休みの時、ななのんチに報告に行ったのだ。

「良かったわ この子 ずーと 北番さんのこと慕ってたから・・・ 3年生の時 もう会わないからって言って・・・夜になるといつも泣いていたのよー 辛かったのネ しばらく続いたわ  それからは大学行って、もっと頑張るって・・」

「お母さん そのことは・・話しちゃぁいゃだぁー もおぅ・・」

 秋になって、ななのを実家に連れて行った。結婚相手を連れて行くとだけしか、言って無かったのだけども、ななのとは、もう会ってないって言っていたし、かがみさんにはそのことでボロカスに言われていたから・・・。別に隠す気も無かったのだが、何となく言いそびれてしまっていたのだ。

 玄関を入ると、かがみさんが迎えてくれて

「えっ ななのちゃん! ななのちゃんでしょ? 髪の毛短いから・・ えっ 結婚相手ってぇー」と、僕の顔を見て奥に向かって「お義母さん」と叫びながら駆けて行った。玄関を上がったところで母が慌てた様子で出てきて、ななのの姿を見て、抱きしめながら

「ななのちゃん 元気だった? この子ったら・・なんにもしゃべらないもんだから・・ しばらく会ってないって・・・ やっぱり ななのちゃんだったのネ 良かったぁー」と、一気にしゃべっていた。

 落ち着いた後、改めて父と兄貴夫婦にも挨拶をしてたら、母が

「ななのちやん この子はネ はっきりしないところがあるから、ななのちゃんが傍に居てくれたら、安心よ お願いネ」と

「お義母さん 私 会わない間に、自分自身がやりがいのあるものみつけなきゃーと・・ シュウの負担になると思って・・ でも、今は、しっかりと付いていきます  出会って無ければ、今の私は居ないですから きっと 幸せにしてもらいますワ」と、言い切っていたのだ。

「ななのちゃんって・・ 秀君 宝物以上よ 大切にしなさいよネ」と、かがみさんが

「わかってるって」

「そーだよなぁー 若いし、可愛いし、気立ても良いし 最高だよなぁー」と、兄貴が口を挟んだら、かがみさんは兄貴の太腿をペシッとしていた。

 そして、来年の秋にと日取りを伝えて、帰ってきたのだ。 

 

 

最終章-3 完

 その年の冬 ななのはお正月も出勤だというので、少し、遅れて休みを取っていたので、それに合わせて、二人で旅行することにしていた。

 ななのの希望で初めて二人で行った淡路島の旅館。今回は明石から船で行くことにしていたので、明石の天文台を見学してから、早い目に旅館に着いていた。そして、夕方前にこの前と同じように貸し切りの露天風呂に入ることにしたのだ。

 僕が先に入っていると、少し後からななのは小さなタオルで胸を押さえていたが、静かに隣に身を沈めてきたのだ。そして、いきなり抱きついてきて

「今夜は ななのの すべて シュウのものにしてほしい」と、唇をせがんできていた。

 夕食の後、二人で大浴場に行って部屋に戻ってきて、しばらくは、ななのは浴衣姿のまま去年より伸びた髪の毛を乾かしていたが、窓際でビールを飲んでいる僕の膝の上に横座りして抱きついて甘えてきていた。

 そして、寝ようとなった時、ななのは着ていた浴衣を脱ぎ捨てて・・・白い花柄のキャミソールの下にレースのフリルで縁取りされたショーツだった。

「私 怖がっても構わないからね  あの時 私は ひとりぼっちで、生きている意味ないなと思ってたの だけど、シュウに出会って 生きてるんだと感じたの だから シュウと一つになりたいの」と、決心しているんだろう、布団に横たわるようにしていった

 僕も、浴衣を脱ぎ捨ててななのを抱きしめて、首筋に唇を這わせていくと、ななのは喘ぎ始めていた。初めて聞く喘ぎ声なのだ。小さく震えているが、前よりも成熟してきているななのの身体を長い時間をかけて愛撫した後、僕はななのの湿り気を帯びた部分に入っていったのだ。ななのはこらえている様子だったが

「ウゥーン 今 ななのはシュウと一つになっているんだね うれしいー ななのは幸せやー あっあぁー  もぅぅー」と、力を込めてしがみついてきていたのだ。

 そして、その年の秋、僕達は式を挙げた。バージンロードを一緒に歩く人が居ないし、僕の母のたっての願いで白無垢姿だったのだ。お色直しの後は、パールピンクのドレスで。ななのの親族の席には、朝宮監督、お肉屋さんの社長、そして小学校の時のここみ先生が座っていた。ななのがこだわっていたという病院食がおいしかったので、入院患者のお礼という人が何人も居たのか、多くの祝電とかお祝いの花なんかを送られ並んでいた。勿論、病院関係とか、ななのの人柄なのか、納品業者なんかも、お祝いしたいと多くの人が駆けつけてくれていた。当然、病院長の祝辞も「回診の時にでも患者さんから食事がおいしいと感謝されることがある」と、献立内容を変えてくれたななののことをベタ褒めで病院の宝だとも言っていた。ななのは自分の仕事を見つけて、やり切っている。あの時、最初に見かけて、独りぼっちで孤独だった女の子は、僕の知らない間に、仕事が出来て、誰からも好かれる明るい女性になっていたのだった。

「お母さん 今まで 育ててくれてありがとう」式の前の夜、私はお母さんに・・

「ななの 辛い思いばっかりさせて ごめんネ これからは、秀さんと幸せ掴んで暖かい家庭をつくるのよ」

「お母さんは 私のこと見守ってきてくれたわ 自分を犠牲にしてまで・・ 感謝してます」

「ななの お母さん ほっとしてるのよ 余計なコブが居なくなるから、せいせいするわ お母さんも 誰か 良い人見つけるわワ まだ 若いのよー」と、強がりを言っていたのだ。その夜、私はお母さんと寄り添って寝たのだ。

 式の間は母のルリさんは、ずーと涙を拭いていたのだ。母の想いはもっと違ったものだったのだろう。自分の身を犠牲にしてまでななのを育ててきたのだろうから。そのせいか、ななのちゃんは終始 笑顔で幸せ一杯という顔をして、恩返しの意味でも応えていたのだろうか。だけど、僕達、二人だけになった時、僕の胸に顔を埋めたまま、ななのの涙は止まらなかったのだ。

  Be happy forever