イタリアの忍法でぱっちり治す!ミウダウモンの眼精疲労(WEBスペシャル!)【完結】


 

イタリアは治安が悪い

イタリアは治安が悪い。特にローマは犯罪検挙率が低くすりやひったくりが横行している。日本人旅行者はカモにされているので鞄を肌身離さずしっかり持っておくことだ。ところでローマには七つの丘があるが八番目の存在はあまり知られていない。それはコロッセオだ。古代ローマ帝国時代の円形闘技場だ。現在は博物館として使われている。その内部に潜入すると観客席の下に地下通路があった。そこにはかつて奴隷たちが収容されていたらしい。今もそこに囚われたままの奴隷がいるという噂がある。だが、噂にすぎないだろう。なぜなら、彼らはすでにこの世にいないのだから……。その代りにコソ泥やチンピラがいる。これら小悪党にもヒエラルキーがあって階層の底辺になるとすりになり損なって階段の手すりでリスを獲ったりやすりで手垢をこすり取って食べている。そんな悲惨な食生活に耐えかねた彼らはいつか復讐することを夢見ている。そして今日もスリをする。
そんな彼らに忍び寄る影があった。その正体は謎の怪人Kである。Kは音もなく近づいて彼らの背後に立ったかと思うと突然襲いかかってきた。Kは彼らが持っている財布を奪い取るとすぐにその場を離れていった。Kはローマ警察の交通巡査だ。昼間は公務員、夜は生活保護者の不正を取り締まる正義の味方なのだ。
Kはその後も犯罪者を見つけては襲って金品を強奪していった。そしてある時は列車強盗団を襲撃して彼らを皆殺しにしたこともある。Kは自分が何をしているのかよくわかっていなかった。とにかく悪いことをしている連中を見ると居ても立ってもいられなくなるのだ。
「おい、貴様何をしている?」
突如現れた男に声をかけられた男は驚いて振り返った。見るとそこには黒いマントに身を包んだ男が佇んでいた。年齢は二十代前半といったところだろうか。顔立ちは非常に整っており、まるでモデルのようだと思った。
(誰だこいつ?)
そう思ったものの、すぐに思い出した。そうだ、確かこの男は自分が連れてきた患者ではないか?ということはこいつが例の精神科医なのだろうと思い至った男は彼に声をかけた。
「ああ先生でしたか。ちょうど良かった実は今先生の話をしていたんですよ」
「ほう私の話ですか」
「ええそうですとも実は先生が連れて来たという患者さんのことなのですがね……」
そこまで言いかけたところで男の動きがピタリと止まった。
瀬戸内海の奥地に豪血せとものピアという謎のプラントが存在する。そこでは会員制のフリーズドライささみ工場があって興味がそそられる。ただし入会は十五年待ちで特殊な招待状が無いと申し込めないという。SNSに漏れ伝わる話ではささみは得も言われぬほど極上の味でしかも安価だというから一口噛って見たいものだ。しかし私はこの奇怪な植物を眺める代りにある人の話を記憶の底から引き出した。その人は私の友人であった時分に「私の郷里では毎年七月一日の晩になると夜店の屋台が出る」と言ったことがある。その時彼は「もっともそれは私の知っている限りで、まだ一度も出たことがない。今度出たら君にも知らせようと思う」と言った。
あれから何年経っただろう? 彼の消息はまだわからない。私は彼が故郷に帰ったものと信じている。
そして今日、私が見たあのささみの山! 夢か幻かそれとも本当にあったことなのか。とにかくあのささみの群れだけは事実だ。それが証拠には私自身いまこうしてささみのことを考えているではないか。
私はあの奇妙なささみの山について考えた。もしあそこに人がいるとすれば彼らはどこから来たのか。また何をしているのか。どうしてあんな所に住みついたのか。そして彼らが毎日食べているのはどんなささみなのか。そんなことを想像しながら眠りについた。すると不思議なことに私は夢を見た。いやこれはむしろ回想と呼ぶべきかもしれない。
ある晴れた朝のことだった。私はいつものように仕事場に出て机に向かった。窓の外は一面の海である。青い空の下に水平線が見える。風はなく海鳥の声だけが聞える。静かな朝の情景だった。
その時突然ドアが開いた。一人の男が部屋に入って来た。背の高い痩せぎすの男だった。年齢は二十歳前後であろう。髪を短く刈り込み浅黒い顔色をしていた。灰色の眼が大きく輝いている。男は手に紙包みを持っていた。
「おはようございます」とその青年は言った。よく通る声だった。「失礼ですがあなたが陸人・手塚堂さんですか?」
私はうなずいた。
「ああよかった!」と相手は大きな声で言いながら部屋の中を見まわした。「ここでいいんだね。さっき地図を調べたらここが一番近いみたいだから……でもちょっと遠いかな」 

 

布製のカバー

それから彼は私の前に立ったまま包みを開いた。中には何か大きなものが入っていて、それを床の上に広げた。布製のカバーのようなものがついた機械装置だった。その機械装置はいくつかの部品に分かれていてそれぞれが複雑な形状をした金属の箱に入っていた。それらのパーツはどれも小型だが精密なものばかりである。私はしばらくのあいだそれらに見入ったあとで訊ねてみた。
「これは何だい?」
「ラジオ受信器だよ」と青年は答えた。しかしどう見てもそれらは金属製というより肉片である。少なくとも私にはそう見えた。しかもそれらがアンテナのような突起物もなく空中に浮かんでいる様は何とも不気味だった。
「ラジオ受信器だって? これがかい?」
「そうだよ。これを使えば世界じゅうどこでも聞けるんだぜ」
「どこへ行けば買えるのかね?」
「どこにでもあるさ。ただ売っている場所は限られてるけど」
「君はこれをいくつ持っている?」
「売るほどさ。何なら在庫を見ていくかい?」
嫌だというのに彼は無理やり倉庫に案内した。馬蹄形のトンネルで人がちょうどかがんで通れる高さだ。彼は先頭に立って手招きする。私は恐る恐る首を突っ込んで1秒で逃げ出した。ラックに頭がい骨が並んでいた。そこで目が覚めた。
時計を見ると午前三時だった。
夢の中の出来事にしてはあまりによくできていた。第一こんなものをどうやって手に入れたらよいのかわからないし、それに何よりもあれだけの大きさのものが空を飛ぶはずがない。しかし現に目の前にあったのだ。
もちろん夢の話など誰にも信じてもらえない。私は一人で考え続けた。もしかするとあの青年は現実に存在するのではないか? 何らかの方法であのささみの山まで行ったのだろう。私は仕事もそっちのけで検索した。
まず、夢判断だ。普段はオカルトを信じないたちだが見た夢の内容が内容だけにアクロバティックな手段も視野に入れている。それに夢判断は深層心理学の裏付けがある。それでさっき見た悪夢を整理してキーワードを列挙する。・馬蹄形トンネル・頭蓋骨・肉片・ささみ・海・夜店・白身・夜店、以上だ。一つ目はトンネルだ。心理学によると未来の展望を暗喩しているというが、さっきのトンネルは行き止まりだった。倉庫に使われている。そして頭がい骨を地面に置く行為は反道徳を意味するという。当たり前だ。丁重に葬られるべきだろう。それが積み重ねてある。したがって夢を総合的に解釈すると、こうだ。不道徳の貯蔵庫が私の前途を塞いでいるのだ。次にラジオ部品だ。解釈によればラジオは無意識からのメッセージを象徴するという。そして最も問題なのが部品というキーワードだ。部品は組み立てられるのを待っている。つまり計画性の象徴。そして、部品を買うという行為は準備の着手。最後に私は嫌だというのに無理やり手招きされた。ということはまとめるとこういうことだ。
どこかで何かとんでもない組織犯罪が計画され、すでに着手済み。それも広範囲にわたる大規模なもので(部品は多くの人出がかかる。そしてパーツはユニット単位でラジオの部分部分を構成する)
「こ、これは…悪夢というにはあまりにも写実的だ。そして、正夢だとしたら私も否応なく巻き込まれるということか」
私は身震いした。この児童文学者こと陸人・手塚堂が犯罪組織にとってどんな利用価値があるというのだ。私は東北の小さな漁村に生まれた。幼少から病弱だったため、漁師の跡目を継ぐ候補からは外されていた。実家は弟が継いだ。私は親戚をたらい回しされ最後に両親の離婚調停が成立した時点で孤児院に入れられた。親は二人とも私の親権を放棄した。そして私は苦学を重ねて地元の大学を卒業してようやく小さな出版社に就職できた。観光客向けのガイドブックを作りながら仕事の合間に執筆している。受賞歴も出版経歴も未だにゼロ。さっさと都会に出て言ったあいつとは雲泥だ。そういえば思い出した。豪血セモノピアの記事を依頼されたことがある。気持ち悪いので編集長が没にしてくれたがもし企画が通っていたらまた人生も違っていたのだろうか。「とにかく、情報を集めなくては」
私は、図書館や書店に駆け込んだ。そこで豪血セモノピアの関連書籍を探したが見当たらない。インターネットで検索しても出てこない。それどころか、関連する情報が見つからない。まるで、誰かに消されてしまったように。
「そんな馬鹿な」
私は唖然とした。無いわけがない。それならば出版社勤務の強みを活かす。取次店や出版流通会社を当たって発注書や販売履歴を調べればいい。絶版本まで調査範囲を広げてみれば一冊ぐらい引っかかるだろう。私は、それらの本の出版元に電話したり、直接出向いたりしたが収穫はなかった。
「おかしい。絶対に何かあるはずだ」
私は必死になって探し回った。
「この辺でいいのかな」
青年は、立ち止まった。 

 

本は読んだ覚えがないのに?

「ここでいいんだよな」
彼はあたりを見回しながら言った。
「そうだよ。ここでいいんだ」
私はうなずいた。
ここは滋賀県の琵琶湖の湖岸である。
周囲には人影もない。
「ここが君の言う場所なのか?」
「ああ、間違いない」
「しかし、ここには何も無いぞ」
「いや、あるさ」
「どこに?」
「それは言えない」
「何故だ?」
「理由がいろいろあるんだ。まあ、気にしないでくれ」
「わかった」
私は、納得はしなかったがそれ以上追及はしなかった。
「それより、これが見えるかい?」「何がだい?」
私は、彼の指差す方向を見た。
そこには、何か大きなものが浮いていた。
「これは?」
「何に見える?」
「何というか……肉塊?」
「そうだね」
「君はこれをどうしたい?」
「食べる」
「君はこれを食べられるのか?」
「ああ、食べれる。しかし、まだ調理はしていない。これから調理する。その前にあなたにも手伝って欲しい」
「どういうことだい?」
「私は、これを食べる。しかし、あなたは、これを食べてはいけない」
「どうして?」
「理由は、たくさんある。たとえば私が全部食べてから、その権利はあなたに移動する。そういう風にするべきだと思うんだ」「なんだかよくわからんな」
「そのうちに、理解できるようになる。今はそれだけ知っていてほしい」「ふーん」
「ところで、君はここに来てどれくらいだい?」
「今日が初めてだが、どうしたらいいのかな」
「さっきも言ったけど、この肉片を持って、家に帰ってくれ。そして冷蔵庫に入れれば大丈夫だから」
「本当に?」
「約束しよう」
「どうやって?」
「それを説明する前に一つ頼みたいことがある」
「なんだい?」「このことは秘密にしておいてくれないかな」
「誰に?」
「家族でも友人でも誰でもいいんだが……」
青年は口ごもった。
「よくわかんないが……とりあえず、分かった」
その時である!青年の顔色が変わった。
「まずいな。時間がない」と青年は不吉な言葉を言い出した。「あなたを巻き込みたくないのだが、どうしたものだろう。あなたはこの肉を持ち帰り、そしてそれを誰にも見せないように、そしてあなたの部屋の隅にでも置いてほしい」
「ちょっと待て、俺だけ逃げるのか」
「そうじゃない。あなたには生きていて欲しい」
「何を言っているんだ!」
私は叫んだ。
「説明が難しいが、あなたに危害を加えるようなことはないから」
「何を言っている!」私は再度叫んだ。「それに私はここで死ぬのは嫌だ」と言った時、私に異変が起きた。
身体中の力が抜けた。
全身の血液が急速に冷たくなった気がした。
「な、何を!」と私が叫ぶと彼は、微笑んだ。
私の意識が遠のく中彼は言った。
「すまなかったな。私はもうすぐ行かなければならない。それともう一つ言っておくことがある。この世界の真実についてだが、私はこの世界で起きること全てを体験して来た。だが、あなたは何も知らないほうがいい。知るべきではないからだ。私はもうそろそろ行かないとならないようだ。さあ行きなさい」
私はその声を聞きながら、自分の身体が、氷のように固まっていくのを感じた。私の視界が暗くなっていく中彼は言った。
「私は、また、会うことになる」
その声が消える頃私の意識は完全に途切れた。
私は目が覚めた。私はベッドの上で寝ていた。夢を見ていたのか。
しかし妙に生々しい感覚が残っていて私は気分が悪かった。しかし何を見たのか思い出せなかった。夢の記憶などそんなものである。
しかし不思議なことが二つあった。あの巨大な白いものを持った男の人は誰なのだろう。
それに私は何故図書館にいたのだろう?それも図書館の机に座って本を読んでいた。本は読んだ覚えがないのに?あれは何だったのだろうか?そしてもう一つの奇妙な出来事として私は見知らぬ男と話していたことを覚えている。彼は私のことを陸人と言っていたようだったが、私は彼に名前すら告げていなかったはずである。しかも私が最後に見た風景、それが何と、あの瀬戸内海だったのだ。
一体私はどこであの青年と会ったのだろうか?それが不思議だった。
しかしそれよりも私は自分が生きていることに安堵した。あの男は私に何を伝えようとしていたのだろう?だが今はそれを考えていてもしょうがないことである。とにかく命があってよかったと思った。時計を見ると午後五時頃であった。今日は、夕方までアルバイトをして、その後家に帰り食事や風呂を済ませてから小説を書いていたところだった。
私の部屋の本棚にある『白身魚』とタイトルが書かれた本が妙に目についた。私はそれを手に取り、中を開いてみた。 

 

何か重要なことだとは思ったが結局私は何も思い出せはしなかった。

それはどうみてもこの世界に存在するはずのないものだった。表紙に魚の絵があり、中に魚の図鑑と思しき絵が書かれているだけだった。そのはずなのに、その本を見ていると何故か懐かしさがこみ上げてきた。その瞬間に頭の中に記憶が甦ってきた。
それは夢の中での出来事だった。しかし私はその時確かにその記憶を垣間見たのである。私は夢の中でこの本を見て何かを想っていた。何か重要なことだとは思ったが結局私は何も思い出せはしなかった。しかし夢というのは妙なものだ。特に私の見る夢はかなり変なものが多い。だから気にしないことにした。
その日はそれで終りにした。明日もまたいつもと同じ日常が待っているはずであった。だが次の日の早朝のこと、私が目覚めて、カーテンを開けると外には信じられないものが広がっていた。まるであの時と同じだった。
「海が……空が!」窓の外に広々とした青が広がっている。水平線が朝日を受けてきらめいている。私はそのあまりのまぶしさに耐えきれず顔を伏せた。だが再び視線を上げて窓の外を見る。
そこにあるのはかつて見慣れた光景だった。その景色はあまりにも以前のままで私の胸を打った。その美しさに見とれてしまった私はしばらくの間立ち尽くしていたのかも知れない。気がつくと空は明るくなってきていたが私はいつまでも外の光景を見つめていたようだった……. ------「……さん…….」と呼ぶ声に気づいた私は声の方向を見やった。そこには女性が立っていた。
彼女の名前は「ミチル」である。年齢は二十六歳で身長は百五十センチほどしかない小柄の人だった。彼女はその背の低さにコンプレックスを抱いているらしくそれを気にしている様子でもあった。
だが、彼女を知る人々は彼女を"チビッ子さん"と呼んでいた。その呼び方は彼女にもぴったりと合っていたのかもしれない。しかし私にとってその呼び名はあまりしっくりと来るものではなかったが。彼女は私が働いている「スーパーマーケット」で働いていた。私が働いていた職場にはよく出入りしていたが、他の同僚に比べると彼女との付き合いは比較的深かったと思う。
彼女が仕事場に来るのは週に四回程度であったが、その時によく話しかけてくれたから私としては親しく付き合うようになったのだ。彼女はその性格もあって、職場の同僚たちから可愛がられていた。よく一緒に遊んでいた同僚の男性もいた。だが私はその人とそれほど親密な間柄ではなかった。どちらかというと私と話すよりも女性の友人同士で話をしているのをよく見かけたものである。
ある日、私はいつも通り仕事場で働いていふとその日、彼女は少し様子がおかしいことに気づいた。彼女は普段仕事をする時は、いつも元気に動き回っているのだがその日の彼女の動作はどう見ても鈍重だった。私はそのことにすぐに気がついて声をかけた。
「大丈夫ですか?」と私が言うと、その声を聞いた彼女はハッとしたような表情になり、「うん」と答えた後でこう言った。
「昨日の夜遅くに急に具合が悪くなったのよ。だから休んだら楽になったんだけど……」
その口調はどうも歯切れの悪い感じだった。顔色はまだ悪いように見え、どこかぐったりとしていた。私はそれ以上は何も訊かなかったが、心配そうな気持ちになって彼女をしばらく見ていた。だがその状態は午前中だけで昼になると回復していった。
だがその夜、夜九時ごろの事である。私の勤務時間は大体七時から十二時までであるがそのあと片付けと翌日の仕込みなどのために六時半ごろに家に戻ることになる。その前に私はその日売るための食品の準備をしていた。するとそこへ、誰かの呼ぶ声に私は振り返った。
「ちょっと!」その声は私に呼びかけたようだがその姿は見えない。
私は、周りを見渡したがその時にはその人の姿は消え去ってしまった。その時は別に気にもしないまま仕事を続けることにした。それから三十分ほど経った時のことだった。
私のいるスーパーの裏手に駐車場があり、その端のところにトラックが何台か駐車してあった。そのそばに人が立っているのが見える。だがどうも私の方を向いていないようである。その人物に近づきその姿を見て驚いた。なんと先ほどの彼女がそこに佇んでいるのである。どうしたのだろう? しかし、さっきとは明らかに様子が違う。私は思わず声を上げた。
「どうかしましたか?」と聞くと彼女はその質問に対して意外な反応を示した。突然彼女は私の顔を見ると「あっ」と言ってその場にへたり込んだのである。私が驚いて駆けつけると、どうも腰を抜かしてしまったようで立てなくなっていた。一体何があったのか。どうすればいいのか、どうすることもできないで私は途方に暮れたがとにかく私は彼女を立たせようとした。
「しっかりしてください!」
「助けて! 痛いわ!」 

 

その声を聞くとただ事ではないと感じた私は彼女の体をそっと抱きしめた。

その声を聞くとただ事ではないと感じた私は彼女の体をそっと抱きしめた。その体は熱を帯びていて震えているようだった。私は、何とかその場に立ち上がらせることに成功したがその時には彼女は気を失って倒れ込んでしまった。私は急いで店内に戻ると、店の責任者を呼んだ。責任者はすぐに来てくれて状況の説明を受けた。
どうやら、その女性は朝早くに体調が悪化したため休みを取り自宅で安静にして居たのだという。しかし夜になって急に体がおかしくなり起き上がることができなくなったというのである。救急車を呼ぶべきではないかとの提案に私は同意しなかった。なぜならこの店の近くには消防署がないからである。だからこの店の人間の中で救急病院まで運ばなくてはならなかった。
だが問題は誰を送るかということである。この店の従業員は五名しかいない。だからその中で一番近い所にいるのは私のところということになる。しかし私は車を持っていない。だから運ぶためには車の運転が出来る人を探さなくてはならない。私はまず店の責任者に相談した。彼はその相談を受けると、私は車を運転できるからあなたの代わりに彼女を運びたいといったが、それを断ることにした。私は店の関係者でありこの店の秘密を守らなければならない。
それに私のことをよく知らない人間が運転することは危険なことであると説得をした。
だが、事態はそれだけでは済まなかった。どうしたことか店の外ではパトカーが停まっているではないか!しかもサイレンは鳴っていないので近づいて来た気配は全くない。それなのに何故か止まっている!私はそのことを尋ねると彼は答えたのである。
どうやらこの辺り一帯に警察官が大勢待機をしているらしいということであった!その数は少なくとも十人は超えていると彼は言っていた。どうしてそのようなことになったのか全くわからない!しかし、警察が動いているというならば私に止める術はないではないか!そこで店の代表者は決断をした どうせ彼女はこのまま放っておけば死んでしまうだろうだから私に彼女の命を奪う権利などあるのかという疑問が浮かぶのであるがその疑問を消すことができないのであるしかしここで私の意見を聞いて欲しい!私は彼女のためならば命をかけても良いと思っている!だから彼女に死なれると私は非常に悲しいのだ つまりこれは、彼女のために自分が死ぬということを意味しているのだが私は決してそんな考えをするつもりはないがしかし彼女が死ぬとなればやはり悲しいという気持ちになるであろうだからこのような行動に出るのである。もし、ここで私が死んでしまえばこの店や私の家族に対して迷惑がかかるかもしれないがしかし私自身は後悔はしないと断言できる そして私もついに覚悟を決めた その覚悟とは、彼女を車に乗せて私が代わりに救急車に乗ってどこか遠くへ行くというものである だがこれは簡単な選択ではない! この店の関係者で、なおかつこの店の近くにある警察署の近くに住んでいる人間はおそらく存在しないからである そこで我々は考えた。
まず、店の代表者は警察に事情を説明しに行った どうやら、彼らはこの近辺の不審者を捜査するために出動したらしい。そのため我々の存在には気がついていない様子であったが、彼らが店から離れて我々が通報された時にどのような対応を行うべきかわからないからだ。それに、店の近くにいても誰も気づいてくれないという状況になることが予想されるためである また、代表者の彼が、この店の関係者が近くにいることを伝えることも重要であると判断したのは確かである。もしも仮に我々の存在がバレてしまうとその時点で我々が店から離れる理由がなくなってしまうかもしれないという恐れがあったからである。店の責任者は店の関係者全員に指示を出して、店内に潜むことにしたのである だがこれはかなりリスクのある方法だ! 何しろ店の従業員全員が店の中に閉じ込められるので脱出の方法が全くないからという理由もある。だが、一番の問題は店の出入り口を封鎖されてしまう可能性があるという事だった。
店の中の全ての人間を外に出さなければ店の入り口に鍵をかけられてしまう可能性が高いというのだ。店の中では閉じ込められた人間がパニックを起こし、収拾できなくなる可能性すらあった。そうなると警察への通報が遅れるという事もあり得るし、下手すれば警察の介入で混乱が起きるという事態にもなりかねなかった しかし、その問題はすぐに解決されることになった
「店長!」と一人の男性店員がやってきたのである。どうやら彼の部下のようである
「一体どういう状況なんだ?」
「わかりません」と彼は言った しかし、彼の説明を聞くと事態がすぐに理解できた
「ああ、そういうことか。つまり店の前の通りに不審者が現れたんだな?」
「はい」 

 

その答えは少し時間が経過してわかった

「しかも俺たちは中からは絶対に出られない」
「ええ」
「しかし、外の方は俺たちに用がない……というより中に用があるんだ」その男性は、私の質問に対してこう答えるだけだった
「だから俺達が捕まって中に入った瞬間に入り口に錠をかけてしまえばいいのさ」と。
そして彼は店の扉の方に手を向けながら「早くしないと」と言った。私は彼の言葉を最後まで聞くことはなかった。なぜならば、彼が私の言葉を待たずに、突然行動に移ったからだ。
私は彼がいきなり動き出したのを見て驚いてしまう。そして慌ててしまったために何も言うことができないまま店の外へ出て、そのまま店から離れてしまうことになった。
彼は一体なんのつもりなのか? その答えは少し時間が経過してわかった 店の周りに集まっている人々が、次々と警察に助けを求め、それに応えて警察官が駆けつけてきたからである。どうやら、店の外はもう大騒ぎになっていたようだ。それを知って私は急いで店から離れることにした。
そのようにしてしばらくすると私はようやく落ち着いて、これからのことを考えられるようになっていた。もちろん先ほどの男のことについても考えていたが、私はそれよりも、この辺りの状況がどのようなものなのかを考えることにする。
まず私は周囲を見回してみたのだが、そこには私以外に誰もおらず私は一人ぼっちであった。そのため周りにある景色をよく観察することが出来た。
しかし残念なことに、その景色からは何もわからないようだった。
私の立っている場所は、小さな路地裏であるらしいが、その周囲には大きな道路があるようではなかった。ただし、その建物の裏側に別の建物が存在しているようなことはないようだったので少なくとも私は、大きな道路の近くにあるわけではないのだとわかった。
その建物の形は三角形をしており、その三角の中心に入り口があって、そこから中に入ることが出来るのだということはすぐにわかった。しかし私は、自分がどこでどうやってこのような状況になってしまったのかを知ることが出来ないでいた。私はその時、自分自身に起こったことに対してどのように対処すればいいのかが分からず困っていた。しかしその一方で私としてはどうしたらいいのかわからない状況であるにもかかわらず焦っているというわけではなかったのだ。
なぜならば、その場所にいる私の目の前の景色を見ていても慌てる必要がないと感じているからである。この場所には確かに人はいないようであるが別に不安になる必要は無い。なぜかと言うとここはどこかの街の裏手にあって私はそこにいるわけではなく誰かに連れてこられてこの街に来たというようなことがあったわけではないからだ。それにもしもここが街中であったとしたら何かの物音が聞こえるはずであろうし私自身も気づいていたであろう。またこのような場所には明かりが無く真っ暗であったが、不思議と暗闇で何かにぶつかったりするということもなく移動することは出来た。なのでこのような場所が街灯で照らされているとか人が多く行きかっているということもないはずであるから騒いだりしてみたりする必要はないのである。
「私は誰なんだ?」と私は思った。
私がなぜこのような場所で目を覚ますまで意識が無かったのかという理由はわからないがとにかくここにラジオが転がっている。そして私が持っていたのはこの機械装置だけである。
「もしかすると」と思いながらもラジオのアンテナを伸ばしてみるとやはりその装置は電波受信機であることが確認できた。つまり私が目覚めたこの機械装置だけが唯一私がこの世界で頼りにできるものだったということである この機械装置を使って私はラジオの放送を聴いてみることにした。
すると不思議なことに、私の耳に放送が入ってきた。
「これは、どういうことだ?」
その放送局では何と言っているのかということについて私は知らない言語であるがなぜか言っている意味はおぼろげに分かった。それは理解するというより名曲に感銘するといった感じだ。というかトレンドキーワードやタグクラウドの音声版を俯瞰するような感じだ。やがて声の断片が頭の中でパズルのように組み立てられていく。どういった情報なのか分からないけれどもこれは重要な情報ではないのだろうかと思った
「これは」
とそこで、私はある考えを持った 私の手元にあるこの装置が何であるのか、そもそも私は何をすべきなのだろうかということを改めて私は考えなければならない。
犯罪組織の一味になし崩し的に参加する悪夢を見たのだった。馬蹄形の廃坑を利用した倉庫、壁に積み上がった頭がい骨、大量のラジオ部品、そしてよくみると部品のようなささみ肉。豪血せとものピアという奇っ怪極まる施設名…。これらの意味するものはなんだろう?そしてその目的はどこから来たのか? 

 

するとさっきの料理人が包丁を抜いた。

「さて……」と私は言った。そのあとで「さて」ともう一度言った。それから私は考えた。しかしここでいくら頭を悩ませようと仕方がないということに気づいた。何しろ今の私にできることと言えば何かの機械を動かしながら何かを聴くことくらいである。そして、私はラジオの受信回路に耳を傾けてみた。
「……さて、ここで、一つ皆様にお知らせです。豪血せとものピアから素敵なプレゼントがあります」
それを伝えると人々はどよめいた。とにかくこんなみょうちきりんな場所から一刻も早く出たい。それが総意だ。
「抽選で一名様を豪血せとものピアへご招待」
おおっ、と歓声があがる。「おい、待ってくれ。一名ってどういうこった?落選した奴はどうなるんだ?」一人の男が叫んだ。彼は姿格好から料理人であると分かる。エプロンのポケットから包丁の鞘がはみ出ている。「そいつが、俺たちをここに連れて来たんだろ?」男はそう言うと、「俺らはどうすればいい?」
「もちろん、参加される方がいれば全員、ということですが」私はにっこりと笑っていった。
その男はしばらく黙っていたが「よし。じゃあ俺が参加する」と言った。そのあとに何人もの男達が続く。「まあ、待ちなさい」私は言った。「そんな、大勢が行ってどうしようというんだ。わからないか? 君らはデスゲームという言葉を聞いたことがあるか。私は抽選という事はそういう事だと思う。だって、外れた奴はどうする?座して死を待つのか?」
するとさっきの料理人が包丁を抜いた。「おれもそう思ったよ。陸人・手塚堂さん。あんたの記事、読んだことがあるよ。アニメ『みちのくデスゲーム』と東北漁協連のコラボキャンペーン紹介記事だったかな」
するとサラリーマン風の中年男が言いすてた。「馬鹿馬鹿しい。俺は帰るぜ」
ポケットからスマホを取り出してタクシーを呼んだ。次の瞬間、彼の眼前にふわっと無人のタクシーが現れたではないか。
車体に「豪血せとものピア」と書かれている。「もう、ゲームは始まっているのよ!」
主婦がサラリーマンを突き飛ばしてドアをあげる。「キャーっ!」
彼女は背中から血しぶきをあげてのけぞった。深々と包丁が刺さっている。「あんたが呼んだんだろ。乗りな」
料理人がサラリーマンに乗車を促す。
「お、おう」
「あんたが当選者だ。たっしゃでな」
料理人が微笑むとサラリーマンは「あ、あんがとよ…」と言った。
しかし、これが遺言となった。ドアが閉まるスキをついて包丁が飛んできたのだ。パシャっとフロントガラスに内側から血しぶきがへばりつく。サラリーマンは頸動脈を切られていた。
「あんたねえ!よくも佐々塚さんを!」
釣り目の女が殺された主婦を抱きかかえている。
「待ってくれ!」料理人は女性陣に取り囲まれた。「なんだ?なんでこんなことになったんだ?」サラリーマンの太めな男は困惑した顔で言う。
「おい!みんな落ち着けよ!」サラリーマンがいうと全員動きを止める「俺の話を聞いてくれ!頼む!俺は、その佐々木って人を知らん。俺は関係ない!」すると一人の男が立ち上がって叫ぶ「おおおお前らが殺したんだろ!!」彼はそのまま倒れた「くそっ……ちくしょう……ちくしょぉおおお」彼は床を拳で叩いた。その声を聞き全員が彼に注目した。
彼は続ける。「お前らが殺して、死体をバラバラにしたんだ!」彼は再び倒れ、意識を失った。彼は佐々木が持っていたナイフを持っていた。それを目にしていた者は多いはずだ。
しかし、誰も否定しなかった………………..。
その後、彼が言ったとおり、佐々塚がバラバラ殺人をしたということになり、「デスゲーム事件」と呼ばれるようになった。
「お客さん着きました」運転手の声で目が覚めた。「ありがとうございます」と礼を言うと「はい、こちらこそ」と返事をして走り去って行った。
私は車から降りて歩き始めた。
タクシーに乗ったのは正解だったようだ。
運転手はこう言った。
「報道によると、豪血セモノピアは廃鶏のキューティクル(皮)を冷凍保存し、それを米国に輸送し、キューティクルクリームとして販売しているとのことです」
「知っている。みちのくデスゲームのコラボキャンペーン商品の一つだった。パウダー状のものもあれば、既製品のものもある。」
「そんな会社がどうしてデスゲーム事件なんかと関りが…」
私は言った。「記者会見では知らぬ存ぜぬの一点張りだったな。ネットのまとめサイトによればグレーゾーンのビジネスをやっているそうだが、そこのまとめ主は逆に名誉棄損罪で刑事告訴されて有罪判決が出ちまった。だから本当にウラがないか、警察とグルなのか」記者は答えた。
そして走行中にも関わらず運転手の首がくるッと後ろを向いた。「ねぇ、お客さんもグルなんじゃないですか」
「知りませんよ! 俺だってそんな記事書いた覚えはない!」 

 

私は全力で否定した

「じゃあなんでお前は逮捕されてねえんだよ。あのデスゲームの現場にいたのはあんただろ。そしてデスゲーム話をあの場で言い出したのもあんただ。最初から計画的犯行だったんじゃねえのか?!」
私は全力で否定したが、運転手は「このまま行き先変更して最寄りの警察に行きますわ」と言った。
Qここで問題です。真犯人を当ててください。A 答え はい、ここでクイズです。
「じゃあなんでお前は逮捕されてねえんだ。あのデスゲームの現場にいたのはあんただし、デスゲーム話をあの場で言い出したのはあんただった。最初から計画的犯行だったんだろ?」
「違います。私はやっていません」
「ふざけんなよ。あのとき俺は見たんだ。確かにあんたがやったんだ」
「だから違うんです」
「だったらなんだ? 証拠はあるのか?」
「証拠なんてありません。そもそも証拠があるならこんな風にあなたに詰め寄られてはいません」
「ああ言えばこう言う」
「あなたこそ」
「なに?」
「あなたこそ証拠でもあるのですか?」
「証拠だと?」
「あなたが見たという証拠です」
「ああ、あるさ」
「なんですか?」
「あのタクシーにはドラレコがついていたんだよ。これ、映ってるのあんただろ」
運転手は動画を再生して見せた。「じゃあ、運転手さんも…」
「じゃかましい!俺は被害者だ。俺の車だ。盗まれたんだよ。今、こうして!、お前が乗ってる、この車だよ!」
「どういうことなんですか」
「どううもこうもあるか!俺の商売道具が丸ッと盗まれて犯行現場に置かれたんだ。豪血せとものピアとかだせえロゴまで描きやがってよ。治すのに幾らかかったと思うんだ」
「知りませんよ。私はデスゲームの主催者じゃないし」
「じゃあ、誰がこんな真似を」
「記者会見では会社は関与を否定していました。名誉棄損訴訟でも会社側の言い分が通りました。潔白は明らかです。おそらく誰かが嵌めようとしたんでしょう。例えば解雇された逆恨みとか」「会社側は社員のSNSを監視してたんですか?」
「いえ、そこまではしていないはずですが」
「監視されていたなら、こちらも何か対策するべきだったのでは?」
「そうですね。そこは反省しています」
「もういいじゃないですか」「はい?」
「あなたたちは、ここで何をしているんですか?」
「ここで?」
「そうです。ここでです。あなたたちのせいで、多くの人が迷惑しているんですよ。あなたたちの行動で、多くの人が不幸になっています」
「あなたたちが、勝手に言っていることでしょ?」
「違います。警察が動いて、逮捕状を出しています。あなたたちを」
「そんなの、嘘です」
「信じなくても結構ですよ。私は事実だけを述べさせていただきました」
すると男は私の首を締め上げた。そして叫んだ。私は死んだ…… はずだったのだが、気がつけばさっきの喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいた。
ここはどこだ?と一瞬考えた。
ああそうだ。私の名前は佐々塚だ。
豪血せとものピアとみちのくデスゲームと豪血寺道場というアニメが大好きなどこにでもいる男である。私は仕事を終えて帰宅しテレビを見ていたのだ。私は最近疲れやすくなっていたがそれでも趣味をやめられなかった。特にアニメを見ないと寝つきが悪くなった。豪血寺道場と豪血セモノピアは特に面白く私は夢中で見続けた。そして私は気を失ったのだ。私は自分の身体がどうなっているのか確かめるために立ち上がった。どうも違和感を感じる。視界が低いし腕を見ると筋肉が異常についている。私は洗面台に行って顔を確認した。そこには30歳くらいの男の顔があった。髪が少し長めの黒っぽい茶髪である。これは佐々塚の髪ではなかった。佐々塚はもともと茶色くないのだ。それにもっと太っているはずだ。佐々塚はこのアニメを見てからは肉を食べる量が増えていたからだ。ではこれは誰だろうか? その時、インターホンが鳴った。ピンポーン。
玄関に出ると警察官が立っていた。
私が言う前にその警察官は名刺を差し出してきた。
公安局第四課。刑事課特殊勤務員 狩谷 警部補(かりや こうちょう)
狩谷が口を開く前に私はその刑事の名刺を奪って投げ捨ててやった。刑事が顔をしかめるのがわかった。
だがしかし、そんなのは無視だ。俺はここに来るべき人間ではない。
私は家を出た。後ろで呼び止める声が聞こえたが無視だ。そして私は全力で走った。走るのは好きではないが仕方がない。体力がないのでかなり苦しいがこれ以外に逃げ道はないのだ。
なぜ俺が走らないといけないんだ?と私は自分に問いかけたが、その問いに対する答えは浮かんでこなかった。 

 

俺と佐々木はその声を聞いて振り向いた。

ただわかることは一つあった。あの男が追ってきているということだ。私は捕まりたくないのだ。だからひたすらに逃げるしかなかった。走って走って、しかし息が上がり、喉の奥から鉄の味がした。足はもつれたし頭はガンガンと痛む。そして私は倒れてしまった。目の前にあるものは空っぽの公園の遊具だけだった。そこに座り込むと後ろから気配を感じ振り返ると刑事がいた。「やっと、追いついたぞ」
俺は死ぬのだと思った。しかし、痛みはない。不思議に思って前を見たらそこには俺がいるのだ。俺はもう一人の俺のほうに向かって言った。「俺、俺、死んじまうのかよ」俺の口から俺のしゃべり方が飛び出すと変な気分だった。
「お前、だれだよ」俺が聞くともう一人の俺はこう言った。「佐々塚。佐々木だ」
俺は俺の名前を名乗ったつもりだった。
すると後ろで狩谷が叫ぶ「動くな!」
俺と佐々木はその声を聞いて振り向いた。
佐々木は言う。「何ですか?! この人、急に飛び掛かってきたので」俺は佐々木にいった。
「おまえも抵抗しようとしただろう!」佐々木も言う「なんなんですか!この人は! 僕、悪くない!」佐々木が叫ぶ。
狩谷は俺を見ながら言った「お前を逮捕に来たんだよ!」「どうして!」佐々木も同じことを叫んだ。俺達はお互いに目を合わせると、佐々木が俺を押し倒してきた。そして彼は言った。「僕の身代わりになってください!」
「はあ?」
狩谷が銃を構えながら言う「おとなしく手を上げろ!」
俺は言われた通りに両手を上げた。もう一人の俺はまだ地面に倒れたままだったが気にしている場合ではなかった。俺が逮捕されればどうなるかわかったもんじゃないのだ。とにかく時間稼ぎをして隙を伺うことを考えた。しかし相手もプロである。簡単にいくとは思えなかった。
俺は言う、「○○の×ページに載っている、○○の件なんですけど」刑事は銃をしまいながら答える、「○○についてはまだ捜査中だから何も話せない」刑事は俺に近づき言った、「ところで、佐々塚君」
俺は答えた。それは、本名であった。
俺のフルネームは、佐々塚洋治(さざづかようじ)
そして、その言葉に俺は絶望した。
何故なら刑事は知っている。俺の名前を。
そして、佐々塚が偽名だとわかっている。
「どうして、名前を知っているんですか?」俺は恐る恐る聞いた。すると、刑事は俺に言った「お前の家にあったパソコンを押収させてもらった」
俺は思いっきり叫んだ「あのPC!俺のなんだが?! どうしてくれるんだよ! 返せよ!」
刑事は俺を落ち着かせるためにか、優しく諭すように答えた。「残念だがあのパソ、は壊れてる。データも消去してある」そういえばそんな話を聞いたことがあるような気がしたが俺にはもう関係のないことだった。なぜなら逮捕された瞬間に全て終わってしまうのだから。「あれ、高かったんだぞ」俺は泣きたくなった。「ああ。すまない」刑事が素直に応じたことで怒りはすぐに収まったが、同時に虚しさと悲しさに襲われた。「あのパソコン、買って一か月なんだぞ。俺だって新しいゲームとかやりたかったのに」俺は呟く様に言うとまた涙が出てきた。それを見ていたのか今度は刑事の方が狼になっていたが関係ないことであった。「悪かったよ。それで、あのパソだが修理に出せばなんとかなると思うのだが」
正直、直っても遅いんじゃないかと思い始めていた。なにしろハードディスクがダメらしいからだ。それを聞いた途端、もう完全に心は折れていた。
俺は何もかもどうでも良くなっていた。どうせ、俺の人生なんてこんなものだ。もう、いいじゃないか。俺は諦めてそう思った。俺はこうやっていつも人生を諦めてきた。それが俺の生き方だった。
俺はこう言ってやった。
俺は佐々塚だ。
俺の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと俺はベッドの上に寝かされていた。俺はどうやら助かってしまったようだ。俺は起き上がりあたりを見渡した。どうも病院のようである。俺は病室らしき部屋にいた。俺は窓の外を眺めていた。
俺が入院しているこの部屋の外には廊下があるらしく、その先にはたくさんのドアが並んでいるのが見える。
そして、俺の横にもドアがあった。どうやら、隣の部屋に繋がっているようで、そこから誰かが入ってきた。
「佐々塚さん」と看護師が呼んだ。
「はい」俺は返事をした。
「目が覚めたみたいですね。よかったです」
「ここはどこでしょうか?」俺は尋ねた。
「ここは警察病院ですが、ご存知ですか?」
俺は答えた「はい」
「では、あなたは昨日の出来事を覚えていますか?」
「いいえ」
「そうですか」
「何かあったんですか?」
「実はですね」そういって彼女は説明し始めた。 

 

「正直に答えろ」

私は、先ほど起きた出来事を思い出すことにした。確か……そう、私はある男を追っていたのだ。そしてそいつは私の部下によって拘束されようとしていたところだった。男は必死で抵抗して、私に向かって発砲し、そのまま逃走したのだ。その時だった。
突然男が消えた。
正確には何か透明な物に覆われたというべきだろうか?とにかく私は男を取り逃してしまったのだ。その後、私は部下の何人かを引き連れて公園に向かい捜索に当たったが見つからなかった。男は忽然と消えてしまったのだ。そして私は、男の身柄を確保しようとしたが逃げられたため、仕方なく本部に戻ってきたのだ。
そのあとは、取り調べを行ったのだが男は黙秘権を行使しつづけたのだそうだ。そして私は今日になって逮捕状の発行手続きを行うために警視庁に向かった。するとそこには佐々塚がいたのである。私の姿を見ると、奴はいきなり殴りかかってきたのだ。私は間一髪でかわし、佐々塚の両手を掴んで拘束しようとしたが、その時、私の足元から、黒い影のような物が吹き出してくる。それは佐々塚の周りを覆うように広がったがすぐに消える。
何事もなかったかのように再び佐々塚を捕まえようとすると奴も暴れ出した。そのせいで私の顔と腕は怪我を負い、服は汚れ、佐々塚の身体には切り傷やアザができてしまったのだそうだ。しかし私は気にしていなかった。むしろこれはチャンスかもしれないと思っていた。
私は言った。「あいつは何者だ?」
その問いかけに私は少し考えこんだ。確かに気になる点が多いのだ。そもそも何故私が襲われなければならないのか理解できない。もちろん仕事は完璧にやってきたし問題など起こさなかったつもりである。
では、どこで恨みを買ったのか、と考えていくとどうしてもわからないのが、佐々塚の存在である。
彼は最近までアルバイトをしていたはずだ。
私が、彼のことについて調べたところ、大学四年生の彼が就活もせずに毎日パチンコ三昧だというのがわかった。親が仕送りをしているのなら別に構わないのだがそういうわけでもないらしい。
私がそのことを聞いても、本人は一切口を割らなかった。だが、彼と同じサークルに所属している先輩によると、なんでも佐々塚は就職活動をするふりだけしていただけで実際は就職する気はなかったのではないかということだった。しかし佐々塚がどうして急にやる気をなくしてしまったのかについてはわからずじまいで終わってしまったのだった。そしてそれからしばらくして私は彼に小説を書いていることを話したのだっけ?まあ、私はどうでも良かったから詳しくは聞かなかったが佐々塚はそれ以来毎日家に押しかけてきてしつこく小説のことを聞いていたのだな?思い出したよ。
私は改めて質問を返した「どういう意味ですか?」
「君は何を隠そう、あの事件の当事者なのだからな」私は驚いた「え?」「つまりだ、あの事件は君を狙っていた可能性があるということだ」
「ちょっと待ってください!」
私は思わず大声を出していた。
そして考えた、一体何が起きたのだろう?なぜ、佐々塚は俺を襲ったのだろう? それにあの男が言っていた、○○という謎の言葉、俺はそれが誰のことを示しているのか考えていたが、もしかすると俺の名前なのではないか、という疑問がわいてきたのだった。○○とは俺の本名のことではないのか? もし俺が佐々塚の狙いであるのなら? その考えに至った俺は戦慄したのだった。
---
俺は病院を出て狩谷刑事と二人で警察署に向かっていた。
「それで、佐々塚さんの具合はどうですか?」と俺は聞いた。彼は俺の肩を借りながら歩いた。
俺は答える、「はい。命に別状はないみたいです。」その答えに狩谷刑事もほっとしたようだったが、「ところでお前、何を隠しているんだ?」と言ったのである。俺は、一瞬ドキッとしたが動揺を表に出さないようにして「はい? なんの話ですか?」と聞いた。すると刑事が続けた「お前が襲った男のことだ」「さぁ……」と答えておいた。すると刑事が急に立ち止まり俺を壁の方に追いやる形になって言う、「正直に答えろ」と言ってきた「刑事さんこそ正直に教えてくださいよ!なんですか!あの人は!?」俺の言葉を聞いて、狩谷は冷静に言う「あの人が誰か、お前は知っているはずじゃないか」刑事は俺に詰め寄るように言った「いいか。俺には嘘をついても無駄だからな」そう言って刑事は俺に近づいてくる。俺の背中に汗が流れるのが感じられた。「な、なんのことでしょう?」俺は言った。
「佐々塚洋治、それが彼の名前だ」
俺は、その名前を聞くと驚きを隠せなかった。「どうしてそれを」
「お前の家にあったパソコンを調べたら、履歴に残っていたんだよ」
「それだけですか?」
「いいや、他にもいろいろとな」
俺は頭の中で整理した。 

 

黙秘権

あの時、俺は佐々木に襲われ、そしてそれを見ていた刑事が佐々塚だとわかった。そして、佐々塚は俺に銃を突きつけながら俺に聞いた。俺は佐々塚の問いに答える。
俺の名前は佐々塚洋治だと。
すると佐々塚は笑いながら言ったのだった。
佐々塚が笑うなんて珍しいこともあるものだと思ったが、そんなことよりも俺は混乱した。
なぜなら佐々塚は俺の名前を知っていたのだから。
俺は言った。
俺は佐々塚だ。
その瞬間、佐々塚は俺を睨みつけた。
俺は、恐怖を感じた。
俺は、殺されるかも知れないと。
俺は、何もかもどうでも良くなっていた。どうせ、俺の人生なんてこんなものだ。もう、いいじゃないか。俺は諦めてそう思った。俺はこうやっていつも人生を諦めてきた。それが俺の生き方だった。
俺はこう言ってやった。
俺は佐々塚だ。
その瞬間、佐々塚の表情が変わった。
そして、俺に言う。
俺のことは忘れるんだ。
そう言うと、佐々塚は俺に背を向けて立ち去ろうとしたので俺は呼び止めた。しかし、振り向くことなく去って行った。
あの後、病院に戻り狩谷刑事に報告したところ、どうやらあの男は逮捕されないらしいということを聞いた俺は安心したが同時に落胆した。どうやらあの男はまだどこかで生きているらしいのだ。しかもそれが誰かはわからないらしいが。しかし、俺はそれについて考えるのをやめた。
俺はこれからどうなるのだろうか? 俺は、どうすればいいのだろうか? 俺は、もう疲れた。
俺は何もかどうでもいいと思っていた。
俺が目を覚ますとそこは病室だった。俺はベッドの上に寝かされていた。俺は起き上がりあたりを見渡した。どうやら病院のようである。俺は病室らしき部屋にいた。俺は窓の外を眺めていた。
俺が入院しているこの部屋の外には廊下があるらしく、その先にはたくさんのドアが並んでいるのが見える。そして、俺の横にもドアがあった。どうやら、隣の部屋に繋がっているようで、そこから誰かが入ってきた。
「佐々塚さん」と看護師が呼んだ。
「はい」俺は返事をした。
「目が覚めたみたいですね。よかったです」
「ここはどこでしょうか?」と俺は尋ねた。
「ここは警察病院ですが、ご存知ですか?」と看護師が尋ねた。
「はい」と俺は答えた「では、あなたは昨日の出来事を覚えていますか?」と看護師は尋ねた。
「いいえ」と俺は答えた。
「そうですか」と看護師は答えた。
「何かあったんですか?」
「実はですね」そういって彼女は説明し始めた。
私は、先ほど起きた出来事を思い出すことにした。確か……そう、私はある男を追っていたのだ。そしてそいつは私の部下によって拘束されようとしていたところだった。男は必死で抵抗して、私に向かって発砲し、そのまま逃走したのだ。その時だった。
突然男が消えた。正確には何か透明な物に覆われたというべきだろうか?とにかく私は男を取り逃してしまったのだ。その後、私は部下の何人かを引き連れて公園に向かい捜索に当たったが見つからなかった。男は忽然と消えてしまったのだ。そして私は、男の身柄を確保しようとしたが逃げられたため、仕方なく本部に戻ってきたのだ。
そのあとは、取り調べを行ったのだが男は黙秘権を行使しつづけたのだそうだ。そして私は今日になって逮捕状の発行手続きを行うために警視庁に向かった。するとそこには佐々塚がいたのである。私の姿を見ると、奴はいきなり殴りかかってきたのだ。私は間一髪でかわし、佐々塚の両手を掴んで拘束しようとしたが、その時、私の足元から黒い影のような物が吹き出してくる。それは佐々塚の周りを覆うように広がったがすぐに消える。何事もなかったかのように再び佐々塚を捕まえようとすると奴も暴れ出した。そのせいで私の顔と腕は怪我を負い、服は汚れ、佐々塚の身体には切り傷やアザができてしまったのだそうだ。しかし私は気にしていなかった。むしろこれはチャンスかもしれないと思っていた。
私は言った。「あいつは何者だ?」
その問いかけに私は少し考えこんだ。確かに気になる点が多いのだ。そもそも何故私が襲われなければならないのか理解できない。もちろん仕事は完璧にやってきたし問題など起こさなかったつもりである。では、どこで恨みを買ったのか、と考えていくとどうしてもわからないのが、佐々塚の存在である。
彼はアルバイトをしていたはずだ。
私が彼のことについて調べたところ、大学四年生の彼が就活もせずに毎日パチンコ三昧だというのがわかった。親が仕送りをしているのなら別に構わないのだがそういうわけでもないらしい。 

 

本人は一切口を割らなかった

私がそのことを聞いても、本人は一切口を割らなかったが、彼と同じサークルに所属している先輩によると、なんでも佐々塚は就職活動をするふりだけしていただけで実際は就職する気はなかったのではないかということだった。しかし佐々塚がどうして急にやる気をなくしてしまったのかについてはわからずじまいで終わってしまったのだった。そしてそれからしばらくして私は彼に小説を書いていることを話したのだっけ?まあ、私はどうでも良かったから詳しくは聞かなかったが佐々塚はそれ以来毎日家に押しかけてきてしつこく小説のことを聞いていたのだな?思い出したよ。
私は改めて質問を返した「どういう意味ですか?」「君は何を隠そう、あの事件の当事者なのだからな」そう言うと刑事は彼の目の前に立って見下ろして言った。「正直に答えろ」すると佐々木は「あの人が誰なのか、君は知っているはずじゃないか」と言うと私は言った。「あの人が誰のことを指しているのかはわからんが」すると佐々木は「あの事件は君を狙っていた可能性があるということだ」と言ってきたのだった。「ちょっと待ってください!」私は言った。「どういう意味ですか?」
私は思わず大声を出していた。
俺は何が何だかわからない状況になったのだった。
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狩谷刑事と二人で警察署に向かっていた。俺達は並んで歩きながら俺は狩谷刑事を横目で見た、どうやら刑事さんはかなりお怒りのようだったので話しかけても怒られるような気がしたため俺の方からは喋ろうとしなかった。するとしばらく歩いて俺が沈黙に居心地の悪さを感じ始めた時のことだった、「お前、何を隠しているんだ?」と言われてしまいましたとさ。
はてさて困ったもんだ。一体どうしたものかと考えていると「なぁ、お前がさっき病院に運ばれる時何が起こったのかはわかんねぇが、お前の口から聞くまで俺は絶対お前を疑ったままだっただろうと思うぜ」「えーっと、じゃあ、全部正直に言うとですか? 正直言っても信じられませんよ」「いいよ。信じるさ」と言ってきた「はぁ」と答えるしかなかった俺は素直に答えることにしました。すると「へぇ、つまりあの男、佐々塚洋治とお前は顔が似ていると」「だから、兄弟とかですかね」「いや、俺もいろいろと考えたけど、どう考えても似ていない」「ですよね」と答えました。「それであの佐々塚っていう人だけど」と言った時です。俺はふと疑問を感じたので尋ねてみた「あの、狩谷刑事」すると刑事さんは振り向いて言う「ん?」俺は言った。「あの人が本当にあの佐々塚だとしてどうやってわかったんですか?」俺がそう言うと刑事は俺に背を向けたままで言いだした「実は、昨日の夜に俺は佐々塚の自宅に行ったんだ。お前の家にも行ったんだけどいなかったんでな。そうしたらあの人がちょうど帰ってきたんで挨拶したんだよ。そして聞いたんだ。あんたが佐々木の弟かと。そう聞いたんだが答えてくれなかった」と刑事は続ける。そして俺が口を開いたところで言った。
そして俺の病室に着いたようだ。ドアの前には看護婦と一人の中年男性が立っていた。
どうやら病室にいるはずの患者の姿が見えないため捜しているらしかった。俺は二人とすれ違うように病室に入りカーテンを閉め切って外の風景が見えないようにしてベッドに戻った。
そして俺はベッドに座ってから窓の外を見つめていた。窓には鍵がかかっていたので俺は外に出ることはできないだろうと思った俺は窓から離れて、床に寝転がることにした。
天井を見ながらこれから自分はどうなっていくのだろうかと考える。しかしそんなことを考えてみたものの結局何も浮かぶことはなくただ無力感と脱力が俺を襲ってくるのであった。 

 

私は、夢を見てたのだと思う。

そうやってしばらくの間ベッドの上で仰向けになりつつ窓の外を見続けていた俺は疲れたので目を閉じようとした時にふと思ったのだった、俺はこのまま一生病院にいることになってしまうのではないかと。もしそうなったら嫌だと思い俺は考えたのだった。病院から出たらどこに行けばいいのだろうか?俺はこれから先どう生きていけばいいのだろうか? とりあえずは、どこかに就職するかそれとも小説家になるかの二択であると。そして俺はどちらにもなりたくないと思っているのだ。だって、俺はもうどうしようもないほど人生に対してうんざりしていて生きる希望なんてものはとうの昔に失くしてしまっているのだ。そう思うとまた悲しくなってきたので考えるのをやめた。どうせ俺の人生なんてこういうものなのだと思い込んでみるもののなぜかそれが悔しく感じるのはなんでなのだろうか? そしてそのままの状態で寝てしまったようで俺は目を覚ます。いつの間に寝ていたのか俺は病院にいた。どうやら外は明るいらしい。俺は時計を見た、どうやら午前11時過ぎのようである。俺は体を起こした。俺の横に誰かが寝ていたらしく布団がめくられていたのだ。
どうやら、誰かが俺が寝た後に入ってきたようでそいつは今も寝息を立てて寝ていた。どう見ても女だった。年齢は多分20歳ぐらいに見える。俺は彼女が起きる前にナースコールで看護師を呼んだのである。
そして俺は彼女の寝顔をじっと見続けた。すると、彼女は目を覚ましてこちらを見てきた。「あれ、起きてたの?」「ずっといたよ」と俺は彼女に言った。
彼女は言った「私の名前は佐々木未来、あなたは?」と。俺は答えた「俺は」すると彼女が言った「私はあなたの名前を知っています」と言われたのである。「何?」俺は聞き返す。彼女は言った。
私は、夢を見てたのだと思う。
私は目が覚めた、いつものように私は目覚ましの音で目覚めたのだが、その日は何かが違うと私は直感的に感じたのだ。なぜなら私は、見知らぬ部屋の中を漂っているかのような感覚に襲われたからだ。
私は、ゆっくりとまぶたを開き、その目を開く。私の部屋ではないことだけは確かだったのだがここはどこだろうか?それになぜ私はこんなところにいるのだろうか?昨日は何があったのかを思い出そうとするが思い出せない、頭がずきずきして痛かった。そしてその頭痛は徐々に増していき私の脳に激しい痛みをもたらすのだ、しかし私は我慢しながら辺りをきょろきょろと見るのだったが誰もいないようだった、その時だった。
私の耳に何かが聴こえてくる。人の話し声のようだった、しかし私は周りを見渡すがそこには私以外誰もいなかったのだ。私は自分の頭を軽く押さえると再び耳を傾けた、どうやら私の方に向かっているようだった、しかしそれは私がいる部屋の前で止まったのだ、一体誰が来ているのだろうか、そう思ったその時である、突然私は身体中に電気が流れたかのように全身の筋肉が激しく震える、あまりの激しさに私も身体を大きく震わせるほどだった。
何が起きたというのだ、何なのだこの音は、しかしこれは確かに聞こえる音であり言葉だ、これは、人間の、いや人間の言葉なのかこれは一体何なのだろう私は恐ろしくなった。
その恐ろしいまでの音の渦は一瞬だけ聞こえなくなったと思うと再び始まったのだった、それは一定の間隔で続いている。何が起きているというのか、私は頭を押さえながら私はその音がする方向へと顔を向けた、しかしその瞬間私は意識を失ってしまう。どうしたというのだろう。
「おい、大丈夫か!」と大きな声と共に私は肩を強く揺らされてようやく正気に戻る、私が目を開けたのを確認すると彼は言う。「しっかりしろ!俺の顔が見えるか?」どうやら、彼は私に話しかけているようだった、しかしまだぼんやりとしているせいなのかはっきりとした返事をすることはできなかった。
彼は言った「君が目を開けてから10秒以内にしっかりと目で見ろ。俺が分かるな?」と言われ私は小さく「はい」と答える。すると彼は言った「お前に頼みがある」私はうなずく「わかりました」すると彼も満足そうにうなずく「お前にこれを預けておく」そう言うと一枚の名刺を差し出してきた。名刺には『佐々塚洋治』と書かれているのだった。
すると彼が言った「あいつはお前を狙ってるんだ、早くここから出て行った方がいい」と言い出すと私は言った。「どうして、それをあなたが知っているんですか?」すると彼は答えた「お前は奴の兄貴に顔が似ているんだよ、だから狙われてる可能性がある」そう言われてもいまいちピンとこない私は言った。「えっと? あの、兄ですか?でも、あの人は」と口ごもる。 

 

一体どうしたと言うのだろう

すると佐々塚は言った「とにかくだ、俺はお前に助けてもらったことがあるんだ、俺が言うことを信用できないのか?」そう言われるが、やはり信用などできるわけがなかった、何しろ彼の言っている意味すらよくわからない状態なのに、どうしてその話を信用することができるというのか理解できなかった。だからといってここで彼を突き放すことは、得策とは言えないと思った。理由はどうであれ恩人であるのは確かなことであるからである。そう思いながら私は佐々塚から渡された名刺を受け取ったのであった。すると佐々塚が言ってきた「じゃあな、くれぐれもこのことは誰にも言うんじゃねぇぞ」そう言うと、佐々塚は立ち上がり出口の方へと歩いていった、どうも急いでいる様子だ、だからか、立ち去る間際に一言こう付け加えた。
「俺は、お前のこと信じているからな」
どうも、佐々塚の言動が怪しいので私は後を追うことにした。だがドアを抜け廊下に出ようと思ったところで後ろを振り返る、すると佐々木さんの姿がない、どうやらもう行ってしまったようだ、一体どうしたと言うのだろう、そして私は佐々木の行方を探そうと思いまずはこの建物の外に出てみようと決心をした。
外に出ると目の前には一面海が広がる、空は雲ひとつなく澄み切っておりとてもきれいであった、まるで私の心を映し出しているかのようである。そう言えばここって島なんだっけとふと思う。
建物から出て道路沿いに進んでいく、すると佐々塚の車を見つけ私は慌てて駆け寄った、しかし佐々塚は乗っていなかった、運転席側の窓ガラスを叩いて佐々塚を呼んでみたが反応はなかった、どうしたものかと私は首を傾げた。すると私はあることに気がついたのである。佐々塚が持っている携帯電話の番号が表示されている画面を見た時にである、そういえば佐々木は今時携帯を持っていないと言っていたなということを思い出す。
そして私はふと考えた。どうせ佐々塚とはもう二度と会うこともないだろうし連絡をとるつもりはないのだが、どうしたらよいのだろうかと、どうやら佐々塚の持っていた電話番号と住所が記載された紙はもうなくなってしまったらしいのでもうあの佐々塚に会えないと考えると少し寂しい気がする。そう思うと急に心細さを感じた、そんなことを思いながら歩くとすぐに私のアパートに着いてしまったのである。どうやら思っていたよりも時間が過ぎていたようだ。
階段の前まで行くと私の部屋の前を見てみると何やら男が数人集まっていたのだ、彼らは何かを話し込んでいるように見える。
何をしているのだろうか? とりあえずは様子を見ることにした。
しばらく見ていると男たちの中に一人だけ女性らしき人が混じっていたのだ、その女性は白いシャツにジーンズを履いていた。しかしどこかで見たような姿だ。誰だろうか?と私は不思議に思うのであった。
そしてその女性の容姿を見て私は驚きを隠すことができなかった、だってそこには美紀がいたのだ。私は驚いてその場で腰を抜かしそうになる、どうしたことだというのだ?どうして彼女がここに?そう思うものの、まさかと思いつつ私は恐る恐る彼女の方に近づくと聞いてみたのである。
「あなたは一体、何者なんですか?」彼女は言った。
「わたしは、呉越の国の王に仕えるもの、呉です、私はあなたのお手伝いをしにきたんですよ、これからずっと一緒ですね、よろしくね、愛理奈」そう言われた瞬間に私の背筋に何か寒気が走った、これは恐怖だった、どうやら私は何かの術中にはまっているらしいことは分かった、しかしそれが何なのかが分からず私は何も言い返せなかった。私は言った。
「それどういうことですか?」
するとその女が私の方に歩み寄り私に顔を近づけてくる、どうやら匂いを嗅いでいるようだ、気持ち悪いと感じつつも私は彼女から離れた。
すると女が笑った。そして彼女は言う。
「うん、ちゃんと血の臭いがする、これなら問題なさそうだわ、じゃあさっそく行こうかな、ついてきて、それとあなたの名前を教えてくれる?」と聞かれ私は言う「名前は橘愛梨奈よ」
彼女は「わかった、アリナっていうの覚えたよ、それじゃあいこうか、アリナ!」と私を呼ぶ。すると私は彼女に引っ張られるような形で強引に連れて行かれるのである。そして彼女は私の手を引くと「私と一緒に行きましょうよ」と言ったのである。私は「ちょっと」と言って抵抗しようとするのだが、力が強く振りほどくことができないため結局私は連れていかれる羽目になったのだった。
私は手を握られながら彼女の後ろ姿をじっと見つめている。そしてふと思ったのだ。どうやらこの女も私の味方ではないようだった、だとすればこの男も敵ということになる。私は警戒する。しかし、この女の力は異常だった。 

 

感謝の言葉

どうやらこの女は、私を逃がす気は毛頭ないらしく、私の手首を握り締めたまま離さないのだった。
私は言った「痛いから、放してくれない?」と聞くが返事は帰ってこなかった。私は思った。
このまま私をどこに連れていこうというのか、この女の目的が分からない以上は下手に逆らわない方が良いのかもしれない。
そう思っていると私は突然走り出した、それは私の方に向かってくる車が見えたからだ。「危ない!」と私は言うと私は女の手を振り払い彼女の腕を掴むとそのまま彼女を引き寄せる。車は私たちの横を通り過ぎていく。しかし安心はできない。
私は振り返り再び歩き出そうとするが、突然背後に気配を感じ私はゆっくりと後ろを振り返るとそこには先ほどの女性が立っていた。そいつはナイフで自分の頸動脈を切って死んだ。「また会ったな」そう言うと男は去っていった。
私はその場に座り込む、一体何が起きているというのだろうか。
私は自分の部屋に戻ろうとするが、再びあの男に捕まってしまう。
「何やってるんだよ、ほら早く来い」
私は「嫌だ!」と叫びながら必死に抵抗するが男の力は強くて振り解けない、私はその男に無理やり引きづられて何処かに連れ去られてしまうのだった。
私はその男に無理矢理車に乗せられると、私を乗せたまま車を発進させる。どうやら私は逃げられないようだ。
「おい、お前の名前はなんていうんだ」
「私は、橘愛梨奈」
「そうか、俺は、田中裕二だ」
「知ってる」
「何?」
「あなたの顔は、昨日見ましたから」
「そうか、俺の顔を知ってたか、じゃあ話は早いな」
「えぇ、それであなたの目的は何なのでしょうか」
「目的?そんなものは簡単だ。金だよ。お前は金になる」「私を売るんですか?」
「あぁ」
「いくらで?」
「一億だ」
「……」
「嘘だ」
「は?」
「本当は五千万だ」
「ふざけるな!じゃあどうして私を誘拐したんですか?」「残りの五千万はお前の親だからだ。おびき出せと命令された。成功したら残りを貰う約束だ。これで合計一億。クライアントの名前は言えない」「私は、お金に困ってません、帰らせてください」
そう言うと、運転手の彼が答えた。「お前の帰りたい場所はここなんだよ、ここは呉越国、そして俺の国は呉なんだ」彼はそう言って不気味に笑うのだった。「どうも話がおかしい、そもそもここが日本であることに私は疑問を感じるのですが」
「ははっ何を言い出すんだ、おかしな奴だなお前は」と彼が笑い出す、そして「それにお前の帰る家はもうここしか無いんだぞ、諦めろ」
私は車から降りようとするが、やはり扉を開けることはできない。
どうやら窓すらも開かないらしい、つまり閉じ込められていることになる。私は観念するしかなかった、そしてしばらくすると私は気を失ってしまったのである。目が覚めると私はベットの上に寝かされていた、しかしどうにも様子が変だった、部屋が狭いし妙なのだ、そしてその部屋の隅には佐々木さんの姿があった。彼は私が目を覚ますとその事に気づいたようで近寄ってきたのである。
私は彼に言う。「あなたが助けてくれたんですか?ありがとうございます」と感謝の言葉を述べるが佐々木は言う。
「あぁ無事で良かった」と微笑むのであった。しかしどう考えても彼の言葉は不自然であった、何故ならばあの佐々木がこのような優しい声をかけるわけがなかったからである。そこで私には考えつく結論としては夢なのではないかということだ。そういえば佐々塚と海に行って以来私は悪夢ばかり見るようになっている。それもあの佐々塚の奇妙な行動が原因である事は明白であり私はそれをどうにかするために今日、佐々塚に会うことを計画したのである。しかし、今私はその佐々塚の罠にかかってしまい、こうして佐々木に軟禁されてしまっている。そうに違いない。そう考えたところでふと思う、もしこれが佐々塚の仕業ではなく、誰か第三者の手によって行われているものだとしたらどうだろう、その場合考えられるケースは佐々塚の協力者による犯行ということだ。そう考えると私は身震いをした、まさかこんなことが起こるとは思ってもなかったのだ。一体誰が私の監禁を企んでいるのか。しかし私はあることに気がついたのである。
佐々塚の持っていた住所が書かれていた電話番号は携帯用のものだ。
それを考えると、佐々木と私は電話を通じてやり取りをしていたということになる、つまり私の居場所を知っているのは佐々塚だけとは限らないということだ。そうなってくると考えられるのは、佐々塚以外の人間、そう、私を監視している存在がいるということである。そのことに思い当たったとき背筋に寒気が走るのである。私は急いで携帯を探すことにした。しかし、見つからない。そういえば、この部屋の中を見回してみたのだが携帯らしきものが見つからなかったのだ。 

 

そして私はその部屋の隅にいる佐々塚を見た。

そして私はその部屋の隅にいる佐々塚を見た。すると佐々塚はその視線に気がついてこちらを見て「ん?どうしました?」と言うのである。しかし私の目は、その佐々塚の姿をとらえてはいないのである。
つまり私の視界の外にある。これはどういう事だろうか?どうやら私の予想通り、この部屋の外から私を観察しているのは間違いないらしいと私は確信したのである。だとすると、私はこれから何をすれば良いだろうか。まずは脱出することだ。しかしどうやって?ドアの鍵穴を見てみるとそこには鍵らしき物は存在しない、だとしたら壁を破壊?それは不可能だと思った。なぜならコンクリートの壁だからだ。するとどうなるだろうか、当然だが出られないことになるだろう、これは袋小路に追い込まれてしまったということだ。
しかし、私は考えた。「そうか、そういうことか」
「どうした?」佐々木は私の方に近づいてきた。私は佐々木を無視して、床に落ちていた石を拾う、そう、これはきっと脱出するためのヒントだ、そしてこの石の重さを考えてみることにする。
石が重いことは容易に想像できる。ということは私の力では持ち上げることすらできないはずだ、でも、もしかしたらという可能性がある以上試す必要があった。私は石を持ち上げてみて少しずらすようにして壁に隙間を作ることを考えたのだ。私はその方法でやってみることにする。
するとどうだろうか。その石は、すっと動くではないか、まるで吸い込まれるように壁に沿って動いたのだ。これではいけない。
今度はその石を少しずつずらすことを試みる。そしてその作戦は功を成して何とかほんの僅かだが空間ができあがった、そこから私は手をねじ込むことに成功するとようやくの事で指を外に伸ばすことに成功したのだった。そして私は息を大きく吐く、しかし私はまだ安心することが出来なかった、なんといってもここから脱出する手段を考えなければならなかったのである。
この狭い部屋では、私を拘束しているロープを引きちぎることは困難に思えた。
となると他に方法はないだろうかと考える。私は再び部屋の中にある物を探し始めた。すると本棚がある。その中に本がぎっしりと詰まっているのである。それを確認すると同時に、先ほどの違和感の正体にも気づくのだった。この狭い部屋のどこを見ても窓が見当たらないのだ。この部屋は完全に密閉されているのである。
その事からもわかる。おそらくあの窓は全て作り物だったのだ、私はそのことに気づいた時、怒りがこみ上げてきたのだった。どうやら犯人は最初からそのつもりでこの部屋に窓を作り出さなかったというわけだ。つまりその窓から出ることは出来ないのだろう。
だとすると、私のやるべき事は一つしかない。そう私は決意した。
そしてその時だった。
「何やってるんだ、橘」
「きゃっ!」突然の声に驚いた。
「何してるんだ?」そう言って佐々木はゆっくりと私の方に向かってくる。
私は言った「あなたこそ何やってるんですか」と聞く。
すると彼は答えた。「何って仕事に決まってるだろ」と佐々木は言ったのである。私は「それは嘘だ、あなたの仕事じゃない。それは佐々塚の仕事です。私を解放してください」と言った。
しかし佐々木は言った。「何言ってるんだ、お前の解放はクライアントからの命令だ」
私は再び聞く「誰ですか?それは」
「それはCIAだ」私は聞いた「どうして私を?」
「金になるからだ」
「お金の為ならお前は平気で国を売るのか」私は怒鳴る。
「何怒ってるんだ」佐々木は不機嫌になる。
私は続ける「私は自分の国の人間を売ってまでお金を稼ぎたくない」
佐々木は不気味に笑い始める「面白い冗談だ」と言って私に近づいてくる。
「近づくな!」私は叫んだ。
佐々木は立ち止まる。「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「えぇ」
「そうか、じゃあ仕方がないな」そう言うと佐々木は再び歩き出す。
「何するつもり?」
「お前は俺のものになるんだ」「は?」
「お前は俺のペットになるんだよ」
「ふざけるな!」
「お前に拒否権は無い」
「嫌だ」
「大人しくしろ」そう言うと彼は私の腕を掴む。
私は抵抗するが、佐々木の手を振り解くことができない。「離せ!」そう叫ぶと、彼は私の腕を掴んだまま走り出す。
私は必死に抵抗するが無駄だった。
私はそのまま部屋の外に出される。そして私は佐々木に引き摺られるようにして連れていかれるのであった。
私は佐々木に連れていかれた先はどうやら倉庫のようだった。彼は私をそこに放り投げると、扉を閉めて鍵をかけた。
私は閉じ込められたのである。
私は辺りを見渡すとそこは薄暗くてよく見えなかった。
「おい!開けろ!早く開けないと警察を呼ぶぞ!いいのか」私は扉をドンドンと叩くが反応はなかった。
「クソッ」私は悪態をつく。 

 

なぜそのような行動を取ろうと思ったのかは自分でもよくわからない。

そして私は仕方なくその場から移動することにした。
しばらく歩いていると、どうやらここは二階のようだ。
そして階段を見つけると、私はそれを降りていく。すると目の前に扉が現れる。私はその扉を開けるとそこにはまた別の部屋があった。どうやらここはマンションの一室らしい。私はその部屋に入るとそこには机と椅子が置いてあった。そしてその先には扉が見える。私はその扉を開けると、そこには大きなモニターとたくさんのパソコンが並んでいた。
そしてその前に一人の男が座っている。
その男は言う「おぉ、やっと来たか」
「あんたが俺をここに閉じ込めたんですね」
「そうだ」
「目的は何だ」「君の協力が欲しい」
「はぁ?俺はそんな事しない」
「まぁそう言わずに」
「それにしても随分と汚い場所に住んでますね」
「そうか?結構気に入ってるんだけど」
「そうか?汚いですよ」「そうかなぁ?まぁ確かに君の住んでいる所に比べたらそうかもしれないけど、僕はこの生活スタイルが気に入っているんだよなぁ、だってほら、なんかさ、楽しそうじゃん?」
「そうかも知れませんねぇ、でもやっぱりこの部屋は汚いと思うんですよね、もっと綺麗な所で暮らしましょうよ」
「そう?僕には分からないな、君はどう思う?」
「そうですね、この部屋はゴミだらけだし、ホコリもすごいし、ゴキブリとかもいるかも知れない、最悪です、こんな部屋で暮らすのは絶対に無理です」
「そうかい、ところで僕の話を聞いてくれる?」
「聞いてあげなくもないです」
「実はお願いがあるんだけどいい?」
「内容によりけりです」
「いやいや、簡単なことだよ、今、僕は困っていてね、君に協力して欲しい事があるんだ」
「どんなことでしょうか?」「あー、その、あれだ、そう、この前の件でちょっと問題が出てきてしまったんだ」
「なんのことでしょう?」
「あー、その、なんだ、えっと、あれだ、その、だからその、そう、この前、一緒に海に行っただろ、その時に撮った写真が流出してしまったらしくて、それをなんとかしたいと思っていてだな」
「はぁ?」
「それで、その、つまり、どうしたら良いのかわからなくて、とりあえず、この場は、その、そういう事にしておいてくれないか?」
「はぁ?」私は呆れてしまった。すると男は私に近づいてきて私の手を握った。
「頼む」
私は思った。こいつは何を考えているのだろうか?しかし、ここで断れば何をしてくるかわからない、私はそう判断すると男の要求を飲むことにした。
「わかりました、その、そういう事にしておきます」
すると男は笑顔になった。
「ありがとう、助かるよ、本当に良かった、これでどうにかなりそうだ、うん、これはもう解決したようなものだよね、よかった、ほんとうに」
私はその言葉に引っかかった。
「どういうことですか」
しかし、私の質問に対して、男は少し困っているようだ。しばらく黙り込む。何か考えている様子なのだが答えてはくれなかった。そして男は言った。
それは奇妙な話だった。私は最初その話を疑ったが目の前にいる男の真剣な顔を見て本当ではないかと思えてきたのだ。しかしそれでも信じられない話だったし、仮に真実であったとしてもそんなことが実際に起こりうるものなのかと思うと、ますます信じがたい思いになる。
私も自分の身に起こっていることでなければ絶対に信じることができないだろうとさえ思うほどだったのだ。だが私は目の前の男から感じ取ったものが、この話を信じさせるだけの力を持っているということを感じていた。だからこそ、
「そうですね」と言った。
「そうかい、いやーよかったよかった」男は心底ほっとしたようで、表情を和らげた。そして、そのまま私を残して立ち去ろうとしたので、思わず声をかけてしまう。なぜそのような行動を取ろうと思ったのかは自分でもよくわからない。
「あの、どちらへ行かれるんですか?」
男は振り返ると私に向かって笑顔を見せた後こう言った。
「ああちょっとそこまでだよ」とそれだけ言って歩いて行く男の姿を見ながら私は何も言わずに男が消えた方へと歩き出す。
「おや?どうされましたかな?」

「すみません。私にも同行させてもらえますか?」と私がいうと店主は少しだけ困ったような顔をしてこちらを見てきたので、私は言葉を付け足す。
「えっと、さっきの人が心配なので……もし何かあるなら放って置けないですし、だから一緒に行きたいなって思いまして……」
「あぁそういう事でしたらわかりましたよ、ただ危険かもしれませんので私の側を離れないようにして下さいね」と言ってくれて、それから私は店主と一緒に彼の後についていった。
「どうしてこのタイミングだったんだろうな」と私が疑問に思って聞くと、 

 

我々の敵が現れたからであると答えた。

「あぁ、それはですね。あなた方が通報された直後だったのです。その瞬間、私のスマホに着信がありました。その電話の内容は私の雇い主が何者かによって襲撃されているという内容でした。その時、私には二つの選択肢があったのです。このまま通報を続けてこの店を閉店させて身を隠すか、それともあなた方を連れて行って共に逃げるか、私は後者を選んだ。何故ならこの店を失うわけにはいかないからなんです。しかし、私はその選択を間違っているのではないかとずっと考えていました。しかし、あなた方のおかげでその迷いが晴れた気がします。感謝しています」と彼は私に言った。
私は彼に言った。「私達は何もしていないと思いますが」
すると彼は私に向かって微笑むと、
「いえ、あなた方は私にとってとても大切な存在です。私達は同じ目的のために協力している仲間ではありませんか」
私は言った。「そうですか」
すると彼は私に向かって言った。「これからは、お互いに協力し合っていきましょう」
私は答えた。「はい」
そして私は考えた。「これは何だ?」と。
私は目を覚ますと辺りを見渡した。
そこはどうやら地下室のような場所で私は拘束されていた。私は手足を動かそうとしたが動かない。そこで、自分の腕を見ると鎖がついている事に気がついた。
私は何とか抜け出そうとするがうまくできなかった。すると突然声が聞こえた。聞き覚えのある声だと思ったら佐々塚であった。
彼が言うには今回のことはすべて自分の意志ではないと言うのだ。自分はあくまでも雇われただけであって依頼の内容については一切知らされていなかったという事である。それを聞いて私はホッとしたのだが次の一言で安心することが出来なくなった。佐々塚は私を殺せば開放してやると言ったのである。そしてそれを実行する為に部下の男達が部屋の中に入ってくるのだった。その中には佐々木の姿があった。
佐々木が言うにはこれから我々は戦闘を行う必要があるとのことだったが意味がわからない、何故戦うのかという問いに対しては我々の敵が現れたからであると答えた。しかも相手は武器を所持しているという事で彼らは防弾ベストを着用して武装していたのである。また彼らが所持する武器も本物であるということであった。またそれらを使って私達を殺そうとしていると言ってきたのである。また、我々を殺した後には死体処理を行って何事もなかったかのように日常に戻る予定であるとも言っていた。またその際に目撃者が出ないようにしなければならないことも重要視しているらしい。そのためにこの場所を選んだのだと説明されたが、どう考えても理解不能な理由であるとしか思えなかったし、何より意味が分からなかった。しかしそんなことを言っても無駄なのだろうとも思ったし、どうせ抵抗したところで意味がないであろう事も予想がついたため、ここは素直に彼らの言うことに従うことにしてその場に留まる事にしたのだ。そしてしばらくすると扉が開き二人の人物が部屋に入って来た。一人目は初老の女性であった。彼女はスーツ姿でサングラスをかけており片手に鞄を持ち、もう片方の手にはアタッシュケースを持っていた。二人目は若い男性であり身長は高い方だろうと思う。黒いスーツに白いシャツを着込んでおり右手には拳銃を握っているようだったがそれを隠そうともしないのは少し問題があるのではないだろうかと思う反面こういう状況に慣れているのかもしれないと思い直すことにしたのであった。女性は部屋の中央まで歩いてくるとこちらの方を向いて話し始めた。どうやら彼女が今回起こった事件に関して説明するためにやって来たのだということがわかったのだが、その話し方はかなり機械的というか感情を感じさせない冷たい口調のように感じたが特に不快だとは思わなかったので気にしなかった。それよりも気になることがあったからだ。というのもこの部屋の中で椅子に座っているのは私と彼だけなのだ。他の者達は床に座って壁にもたれかかっているだけだったのだから、私だけ椅子に座るというのは何だか居心地が悪いような気がしていた。 

 

反応せずにはいられなかったのだ。

それに何よりも目の前の女性が持っている銃に対して恐怖を感じずにいられなかったというのが正直な感想だったが今は黙って話を聞くしかなさそうであったしその方が安全だという事がわかっている以上そうするしかないだろうと思っていると予想通りと言うべきか何というのかとにかく話が始まろうとしていた。まずは自己紹介が始まったが名前は教えてくれず偽名を使っているらしかったのだがその理由も不明だったのでそれ以上は何も聞かなかったことにした方が良いような気がした為あえて聞くような事はしないようにしていたのだが、とりあえず話を聞いている内にわかったことがあるとすれば彼女達の目的は何なのかということだったがそれについてはまだわからないままであった。なぜなら彼女達が求めているものは情報ではなく物なのだと言っていたことがどうしても理解できなかったからである。そもそも情報が欲しいのならそれなりの報酬を支払わなければならないはずなのであるからそれが目的でやってきたと考えるのが普通であるはずなのに違うらしいのである。
つまり彼女たちは情報を対価として渡すつもりはないと言っているも同然なのだが一体何を要求してくるつもりなのだろうと考えながら相手の様子を窺っていると意外な事に向こうから先に話を切り出した。それも予想外の言葉を口にしたことから驚かされることになるとは思ってもいなかったので動揺してしまった。何故ならその要求とは、私を殺害する事だと言われた時は全く理解出来なかったのだがその後の話の内容を聞いているうちに段々と理解できてきた気がしたのは良いとしても本当にそんな事ができるのかと疑いたくなったのは当然の事だと思う。何故なら目の前にいる人物は見るからに華奢な体をしていてどこからどう見てもただの人にしか見えなかったからである。だからこそ、そのようなことができるとは思えなかったし信じたくないという思いがあったのは間違いないだろうがそれを否定できないのも事実だと言えただろうと思えるほどの現実感がある光景を見せつけられてしまったわけであるがそれでもなお信じられない気持ちで一杯になっていたわけだがやはり無理がありすぎると言わざるを得なかったのだが私はここで初めて相手が本気であるという事を理解する事になったのだ。それはまるでスイッチを切り替えるかのような仕草を見せた瞬間彼女の顔つきが変わったように見えたので驚きながらもその様子を眺めていると明らかに雰囲気が違うように思えたのでもしかしたら見た目通りの年齢ではないと思えてきたがだからと言って驚くことではないのかもしれないと思ってしまいそうになるくらい落ち着いていたのだからある意味感心してしまったのだが、それ以上に恐ろしかったのであまり見ないようにしていたが不意に声をかけられてしまうと反応せずにはいられなかったのだ。 

 

そして私はそのまま二度と目を覚ますことなくこの世を去っていく

すると突然私の体が震え始めたのである。もちろん寒いわけではなかったしむしろ熱いくらいで額に汗が出てくるほどだった。だがそれは次第に強くなっていき遂に耐えられなくなってしまった私は意識を失ってしまったのだった。最後に見えた景色は私の目の前に立って私を見下ろしていた彼女の顔だったように思うのだがその顔は笑っているように見えるのだった。しかし私にはもう考える余裕など残ってはいなかったのではあるが私は気を失う前にこう思うことになるとは思っていなかったのである。何故なら私はすでに殺されていたのだということに気がつけないまま死んでいったからなのである。そして私はそのまま二度と目を覚ますことなくこの世を去っていくことになったのだが死ぬ間際に聞いた言葉が誰の声だったのかはわからないが確かに聞こえた言葉は覚えているから忘れることは無いであろうと確信していたからこそこの記憶は大切にしようと思えたのだということも付け加えておくとしようではないかと考えていた矢先に目が覚めるという経験をすることになるとは思わなかったのだが、それにしてもどうして生きているのか疑問でしかないと思ったと同時に私は自分の胸に手を当てて確かめてみたところ傷ひとつ無い事を確認して安堵することができたので安心したところで状況を把握するために周囲を見回してみるとどうやら病室にいるようであった。どうやらあの後私は助けられて治療を受けたということなのかと思ったが状況がよく飲み込めなかったので混乱していると急に声をかけられたことで私はびっくりしてしまったのだが声の主を確認するとそこに立っていた人物の顔を見てすぐに誰だか理解できたのはいいがなぜこんなところにいるのだろうかと考えてしまっていたのだがその人物こそがこの事件を起こした張本人だったのだから驚いたどころの騒ぎではなかったのである。しかしそこでようやく冷静になって考えてみると今自分が置かれているこの状況を考えれば答えは簡単だったのである。つまりそういう事なのだろうと思ったのだった。なのでこれ以上余計な詮索はしない方がいいだろうと思ったのだがそれと同時にこのまま何も知らない振りを続けるわけにはいかないという考えも浮かんできてしまったのもまた事実だった事からどうしたものかと思いながら考えているとその答えはすぐに出ることになったのである。それは簡単な話であった。というよりもそれしかないという言い方の方が正しいと言えるかもしれないと考えた時に突然ドアが開いて誰かが入ってくるのが見えたのでそちらの方に視線を向けていると現れたのは彼女であった事に気がついた瞬間に全てを理解したような気になっただけでなく今まで考えていたことが馬鹿らしく思えてきたのだ。しかしそこで彼女が私に声をかけてきたのである。しかもその声は優しかったこともあり余計に戸惑いを覚えることになってしまったのだった。そして彼女は私に話しかけてくると、「おはようございます」
と言ってきたので私は慌てて挨拶をすることになったのだがそれに対して微笑みながら応えてくれる姿を見ているうちに緊張してしまい上手く話すことができなくなっていたので何とかして気持ちを落ち着かせる必要があったので深呼吸をすることにした。そして改めて話をする準備が整ったと判断してから彼女に質問をしてみるとどうやら私が眠っていた期間は一日にも満たない短い時間だったらしいことが判明した事で少しだけ安心することができたのであった。ただそれでもかなり心配をかけてしまったようではあったため謝罪することしかできなかったわけだが、その後に彼女は笑いながら許してくれたのでホッと胸をなでおろすことが出来たので安心することができたがその一方で不安もあるのでそれを聞いてみることにしたら案の定と言うよりも予想できていた通りの言葉が返ってくる事になったのだがそれを言われるまでもなく理解することができていたのでそこまで悲観する必要は無いのではないかと思えていたのも確かだったが、それよりも今は気になる事があったのでそれを聞くことにする事にしたのである。 

 

話しておかなければならないこと

何故ならばあの時助けてくれたはずの人達の姿が見えないからだと伝えたが返ってきた言葉は予想していた通りのものであった為にがっかりしている自分がいることに気づいたが、それでも仕方がないと思い割り切るしかなかったがその代わりに一つ確認しておきたい事があったため質問をぶつけてみたところ彼女は不思議そうな顔をしながら首を傾げていたのであるが、しばらくして何かを思い出したような顔をしていた。それを見て、もしかして覚えていないのではないかと思っていたらその通りだったらしく申し訳なさそうな顔をしていたので気にしないで欲しいと伝えながら感謝の気持ちを伝えると彼女も納得してくれたようだった。それからお互いに落ち着くのを待っていたがいつまでも待たせてしまうわけにもいかなかった為こちらから話しかけることにしたのは良いが何から聞いた方が良いのかわからなかった為とりあえず当たり障りのない話題を振ることにしたのだったがそれがいけなかったのか、それとも元々そういう人間だったのかはわからないが、いきなり彼女のペースに巻き込まれてしまい気が付けば主導権を握られてしまっているという事に気づいた時には手遅れになってしまっていたのかもしれないが、とにかく今は話をしなければと必死になっていたのもあって、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた時のことだった。突然彼女が笑いだしたので、最初は困惑してしまったが、よくよく考えてみると、これがいつもの感じだったのかもしれないと思うようになっていた。そう考えると妙に納得した気持ちになったがそれと同時に少し複雑な気持ちになっていたことは内緒である。だが、それよりも気になることがあるとすればこれからの事について話しておかなければならないことがあったのでそれについて切り出そうと思ったその時、ノックの音が聞こえてくると、同時に声が聞こえてきたが、その声があまりにも大きかったせいか、驚いてしまうが、それには構わず入って来るように言われて部屋に入って来た人を見て再び驚きを隠すことができなかったがそれを気にする様子もなく近づいて来ると私に向かって話しかけてきたのでそれに応えると何故か笑われてしまってさらに戸惑うことになりそうだったが、
「いや~ごめんごめん!驚かせるつもりじゃなかったんだけどね!」と言うとまた笑うだけで会話にならないまま話が進んでしまいそうになった為もう一度話しかけてみた所今度はちゃんと聞いてくれるようになったみたいでホッとしたものの、その後聞かされた内容を聞いて更に困惑することになるとは思ってもいなかったのだ。
それもそうだろう。何故ならそれは、私達の命を狙う存在がいるという事だったからである。一体どうしてそんな事態に陥ってしまったのだろうかと考えているうちに、ふと気づいたことがあり恐る恐るその事を訪ねてみると意外な答えを聞くことができた。何でも、私の知り合いと名乗る人がやってきて色々と説明してくれていたというのだ。それを聞いて驚いていると続けてこんなことを言われたのだ。その人は私を助けるだけではなく、
「君が助かったのは偶然ではないんだ。それはね、神様のおかげなんだよ?」と笑顔で言われてしまったのだ。
それを聞いた時は思わず唖然としてしまった。だが無理もないだろう。なぜならそんな事を唐突に言われても信じられないのは当然だと思うし何よりも冗談としか思えなかったのだから無理もなかった。しかし私の表情を見たその人は悲しそうな顔をしながらこう言ったのだ。
「……ごめんね。こんな事を言うつもりは無かったんだけど……。どうしても信じて欲しかったからつい嘘を言ってしまったんだよ……」
その言葉を聞き我に返った私は、とんでもないことをしてしまったのだと理解した途端に血の気が引いて行くのがわかったがそれでも謝ることしかできずにいた。だがその人の方は、特に気にしてない様子だった。
「謝らなくてもいいよ?むしろ僕は嬉しかったんだから」と言われた時は意味がわからなかったが詳しく話を聞いてみてようやくわかった気がしたのだ。何故ならそれは、この人にとって私が無事でいてくれた事が何より嬉しい事だったからだということがわかったからだ。そして私も同じ思いになった事でお互い様だと言う結論に至りそれ以上は何も言うことはなかったのだが一つだけ気になっていた事があった事を思い出しそのことを聞くと、どうやらそれは、他の人達も無事だという事だと知った私は心底ほっとしたのだが、ここで新たな疑問が生まれたので思い切って聞いてみようと思ったのだがその前に自己紹介をしていなかった事を今更思い出したので慌てて名前を名乗ろうとしたのだが遮られてしまった上に止められたのだ。それはなぜかというと、 

 

「どうして名前がないのか

「僕の名前は『黒月』だよ。よろしくね!」と言われてしまったので思わず頷いてしまったのだが、それと同時に私はある事に気がついてしまったのだ。それは、この人物が誰なのか全くわからないということだったのだがそれを察したかのように教えてくれたのである。曰く、「僕の名前は、君と同じで、漢字一文字の名前なんだ」と教えてくれて初めて気がついたのだが確かに言われてみればその通りだった。なので、私は改めて自分の名前を名乗ることにした。すると相手も同じように名乗ってくれたのだがその名前を聞いた瞬間私は驚愕したと同時に背筋が凍り付くような感覚に襲われたのだがその理由についてはすぐに理解できた。というのも、相手の名前には、苗字にあたる部分がなかったのだ。それ故に、
「どうして名前がないのか」と聞いたところ、どうやら彼は孤児らしく親の顔も知らないし名前もつけてもらえなかったのだということを知った私は申し訳ない気持ちで一杯になってしまったのだが当の本人は全く気にしていない様子で明るく振る舞っていたのでとても心強かったのだが、その直後に衝撃的な事実を知る事になるとは夢にも思わなかったのである。それは、なんと彼の年齢が二十五歳だということだったのだ。見た目から判断するなら二十歳くらいだと思っていたので驚いたのだがそれ以上に驚くべき事は、彼がまだ未成年だという事実だった。それを知らされた私は、開いた口が塞がらない状態になってしまったのだがすぐに気を取り直して詳しい話を聞くことにしたのだが、その内容というのが実に興味深いものだったので、最後まで聞くことにしたのだが、それによると、実は彼こそが今回の事件の黒幕であり首謀者でもあるらしいのだが私にはよくわからなかったので聞いてみることにしたのだが、簡単に言えば、私を誘拐したのは、彼を陥れるための罠だったらしいのだが、実際は違ったようで本当の狙いは別にあったようでその目的というのが、私に恨みを持っている人物を殺すことだったようなのである。その為に利用されたというわけだ。つまり最初から殺すつもりだったということなのだがそこで一つの疑問が浮かんだのでそれを聞いてみることにした。果たして本当にそうなのだろうかと疑ったからである。何せ、わざわざ私を殺さずに助けたのだとしたら目的は一体何なのかと考えていたら不意に頭の中に浮かんだのは、もしかしたら私の命を狙っているのではと考えた結果だった。だがそれならば何故私を殺さなかったのだろうかと考えたらやはり答えは出なかったが、そこで思いついたのが、殺さない代わりに、奴隷として死ぬまで働かせるつもりなのだという事だった。
つまり、自分の意思に関係なく死ぬまでこき使われるということだと考え付いた所で、身震いしていると、いつの間にか、近づいてきていた彼に声をかけられたため顔を向けるといきなりキスをされて驚きと戸惑いの声を上げることしかできなかった。しかも舌まで入れられてパニックになっていたせいでまともに思考が働かなくなってきていたこともあり抵抗することすらできなくなってしまっていた。それから数分後、やっと解放された時には既に手遅れになっていたことに気がつくのだった。何しろ、頭がクラクラしていて何も考えられない状態になってしまっていたのだ。その上、体が火照ってしまっているような感じがした。これはどう考えても普通じゃないと思った時には既に遅かったらしく体の力がどんどん抜けていくのを感じていく内に意識を失いかけていたその時、誰かが部屋に入ってきたのが見えたがそれが誰かはわからなかった。何故なら次の瞬間には気を失ってしまったからである。
そして次に目を覚ました時には、ベッドに寝かされていた上に手錠がかけられていたので驚いて起き上がろうとしたが上手く動かせなかったので諦めるしかなかった。すると部屋の中に誰かが入ってきたのでそちらの方に視線を向けるとそこには黒月さんの姿があったので安堵していたのも束の間、彼は、笑みを浮かべながらこう言ってきた。それを聞いて、何を言っているのかわからずにいたがその意味はすぐにわかることになった。なぜなら彼はこう言ったからである。 

 

君が助かることができたのは奇跡が起きたわけではなく必然であったんだよ

君が助かることができたのは奇跡が起きたわけではなく必然であったんだよ、と笑いながら言うのを見て呆然としていたが、それでも何とかして誤魔化さなければと思い考えようとしたのだが、そんな暇を与えてくれるわけもなく再び迫ってきた黒月さんの唇が重なる感触を感じた途端に何も考えられなくなった。何故ならそのキスはこれまでに感じたことのない程の快感をもたらすものだったからだ。それだけではなく舌が絡み合い唾液を流し込まれて飲み込むたびに頭が真っ白になっていき何も考えることができなかったが不思議と嫌悪感はなかった。それどころかもっと欲しいと思ってしまうほど夢中になっていたようだ。だがそれは私だけではなく黒月さんも同じことのようだった。その証拠に彼も夢中になっているように見えたがそれも当然の事だろう。何故なら私達は既に恋人同士の関係になっているからだ。だからこのままずっとこうしていたいと思っていた。だが、そろそろ時間だと告げられてしまい名残惜しい気持ちになったが仕方がないことなので諦めたのだが、その代わりと言っては何だがまた会えると約束してくれたことで嬉しくなって素直に喜んだ後、笑顔で手を振って見送った後に、ふと我に返り恥ずかしくなったもののそれよりも幸福感の方が勝っている為幸せな気持ちになっていた。
テーマ:復讐。
そして数日後のこと、ついにこの時が来た。私はこの日の為に今まで生きてきたと言っても過言では無いだろう。なぜなら、今日こそあの男を殺せるチャンスなのだから……そう思いながら私はナイフを片手に持って部屋の中へと入って行ったのだが、そこには予想外の出来事が起こっていたようだった。何故ならそこにいたのはあの女性だったからだ。それを見た瞬間に全てを察してしまったがもう遅いと判断した私はそのまま近づいて行くと彼女にこう言ったのだ。それはどういう意味かと聞きたかっただけだったのだが何故か彼女は怯えた表情をしていたので困惑してしまったが、それと同時にある違和感に気づいた。それは彼女のお腹が大きく膨らんでいるのを見た時だった。それを見て確信した私は彼女が妊婦なのだと理解したがそれと同時に恐怖を感じていた。というのも、もしこの場で騒ぎを起こされたら面倒なことになるのは間違いないのでどうにかして黙らせなければならないと思っていると、意外にも彼女の方から話しかけてきたのだ。
それを聞いて私は驚きを隠せなかったが同時に納得したので納得する事にしたのだがそれでもまだ気になる事があったので質問をしてみた所、予想以上の答えを聞くことが出来た。何と彼女も転生者だということが判明したからだ。その事実を知った瞬間嬉しさで舞い上がってしまったが何とか気持ちを落ち着かせて冷静に対処することに成功した。それから彼女と色々話をしてみるとどうやら私と同じように、この世界にやって来たのだと言う事がわかったので仲間ができたみたいで安心したのだがそれと同時に不安にもなったのでそのことを聞いてみたところ彼女は私の質問に対して頷いて答えた後、自分も同じ経験をしたので気持ちはよくわかるし私も貴方と友達になりたいと思うからこれから仲良くして欲しいと言われた時はとても嬉しかったのだがその反面申し訳ない気持ちにもなってしまった。何故なら私は人殺しなので普通に生きていくことはできないしましてや誰かと仲良くすることなど許されるはずがないと思ったからである。だからこそ、これ以上迷惑をかける前に消えようと思ったのだがそれを彼女に止められたので戸惑ってしまいどう返事をしたら良いのかわからなくなったのだが結局何も言わずに黙り込んでいると突然抱きしめられたので動揺していると耳元で話しかけられたのだ。
その内容を聞いた私は耳を疑ったと同時に、まさか自分以外にもいたのかという喜びにも似た感情を抱きながら感謝の言葉を述べた後お互いに握手を交わした後で改めて挨拶を交わすことにした。
その後お互いの自己紹介を終えたところで気になっていた事を聞いてみることにした。というのも彼女には恋人がいた筈でその人とはどうなったのかということが気になって仕方なかったのだがそれを察したかのように話してくれた。 

 

信じられなかった

それを聞いた私は衝撃を受けた。というのもなんと彼女はその男によって殺されてしまったというのだ。信じられなかったが話を聞いているうちに嘘ではないとわかってきた為信じるしかなくなったので、今後どうするかについて相談に乗って貰うことにしたのだが、それについては心配しなくても大丈夫だと言われてしまいどうして大丈夫なのか気になったが理由は教えてくれなかったので仕方なく諦めた。すると、その事に気づかれたのか、謝罪された上に慰められてしまった。正直恥ずかしかったのですぐに止めて欲しかったがその思いとは裏腹にどんどん恥ずかしくなっていく一方だったので一刻も早く話題を変えることにした。そこでまず最初に浮かんだことは黒月さんのことだったがそれを口に出すのは少し憚られたが他に話題になりそうなものがなかったので話すことにしたのだが、それを聞いて彼女は驚いていた様子だったので思わず笑ってしまった。その理由というのは、何故そのような名前をつけたのかと聞かれてしまったからだった。確かに言われてみればその通りだと思い、何も言えなくなってしまった。しかし、いつまでも黙っているわけにはいかないと思い何か良い名前を考えようと思ったのだがなかなかいい案が出ず悩んでいると彼女がアドバイスをくれたのでそれを実践してみることにしたのだった。
早速実行に移そうとしたのだがこれが意外と難しくて思うようにいかなかったが何とか完成させることができた。
「よしっ!これで完璧だ!」
そう叫びながらガッツポーズをしていたところ、どうやら彼女も完成したらしく嬉しそうにしている姿が見えた。
「それじゃあ見せ合おうよ」と言われて頷いた後、それぞれ作ったものをお披露目することになったのだが、まずは私から見せることになったので少し緊張しながらも自信作を見せることにした。その作品を見た彼女は驚いた様子で目を見開いていた。
その様子を見て満足した私が喜んでいると今度は彼女が見せてきたので見てみるとこちらも中々良くできていたので感心していると、褒められたことが嬉しいらしく照れている様子がとても可愛かったので見惚れていると、不意に目が合ってしまい慌てて視線を逸らすと、何故か笑われてしまった。そこで大阪宗右衛門町の謝罪屋から謝罪の達人を千両で呼び寄せた。紀州藩御用達の笹薮という店である。謝罪屋名前は六五郎。
「おい、このお人は誰だい?」と聞くと番頭はニヤリと笑って、
「ご老中・田沼意次様の弟君でございますよ」と教えてくれた。
なるほど、それで大層な偉丈夫だと思ったのである。
土下座して詫びを入れたが、許してくれぬ。
それどころか、かえって怒り出して、「江戸の武士たる者が頭を下げるとは何事だ」と怒鳴りつけてきた。
これには困った。
謝るしかないと覚悟を決めて、床に額を擦りつけたまま言った。
「手前のような者でござれば、恐れ多くも将軍家のお血筋の方様にお詫び申し上げるなど、恐ろしゅうございます」
だが、相手はますます激昂した。
「おのれは、わしが将軍の血を引いておらぬと言うつもりかッ」
と怒鳴ったかと思うと、いきなり刀を抜いて斬りかかってきた。
間一髪のところを、店の主人が止めに入ってくれて、事なきを得た。
命拾いをしたわけだが、さすがにもうここにはいられないと思い、店を出ようとしたところ、呼び止められ、謝礼として金一封を手渡された。
だが、こんな大金を手にしても嬉しくはない。
そもそも悪いのは自分のほうなのだ。
そう思って立ち去ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
振り返ると、さっきの客が追いかけてきて、こう言った。
「さっきはすまなかったのう。わしが悪かった。どうか許してほしい」
と言って頭を下げてくるではないか。
驚いて、こちらこそ申し訳なかったと言うと、相手は笑いながら首を振った。
そして、
「いや、おぬしは何も悪くない。ただ、わしは自分の思い通りにならぬことがあると頭に血がのぼってしまうのじゃ。昔から短気だとよく叱られておる」
そう言って、照れくさそうに笑った顔がなんとも爽やかで、好感が持てた。
それにしても、この若武者にはどこか見覚えがある気がする。
どこで会ったのだろうかと記憶を辿り、思い出した。
そうだ、たしか江戸城中で見かけた顔だ。
確か名は蘭学者の助田罰座衛門
「あ……ああ……」
俺は震える声で呻いた。
目の前に立っている男の正体に気が付いたからだ。
その男は――。
徳川吉宗公の御落胤にして、当代きっての天才絵師であり、また同時に奇才として知られる狩野派の祖でもあるこの男の名は――。
「……ま、松栄……?」
俺の呟きを耳にした男は一瞬驚いたように目を見開いたあと、ニコリと微笑んだ。
「いかにも。拙者が狩野永徳でござる」
そう言うと、軽く会釈をしてみせた。
俺も釣られて頭を下げた。 

 

少女は俺の方を見ると、深々と頭を下げた。

だが、頭は混乱していた。
なぜ、あの天下の大画家がこんなところにいるのだろう? いや、
「それよりも、どうしてあなたがここにいるんですか!?」
俺が尋ねると、彼は困ったような表情を浮かべた。
「実は、ある人物を追ってここまで来たのですが、道に迷ってしまって……」
それを聞いて納得した。
たしかに、ここは迷路のように入り組んでいて複雑だ。
初めて訪れた者なら、すぐに迷子になってしまうだろう。
しかも、今は夜だし視界も悪くなっているはずだから尚更である。
まあ、それはいいのだが……。
「……その人物というのは誰ですか?」
気になって尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた。
「それが、まだわからないのです」
「えっ!?どういうことですか??」
驚いて聞き返すと、ガラッと障子があいた。そして「控えおろう。えーい図が高い。」
「え?ちょっと待ってください。なんで時代劇風なんですか?」
思わずツッコんでしまった俺を無視して、彼女は話を続けた。
「妾は将軍ぞ!!」
「だからどうしたってんだよ!つーか、自分で『さま』とかつけちゃってるし!」
あまりのくだらなさに脱力していると、再び襖が開かれた。そこには先程の少女が正座をして座っていた。少女は俺の方を見ると、深々と頭を下げた。
「先ほどは私の命を救っていただきありがとうございました」
そう言って微笑む姿は可憐で美しかった。
その姿を見ていると何だか照れ臭くなってきてしまい、顔を背けてしまった。すると今度は背後から声が聞こえてきた。
「そなたのおかげで助かったわぃ」
その声に振り向くと、
「礼を言うぞ小僧」
と、満面の笑みを浮かべている爺さんがいた。
その姿を見てギョッとしてしまった。何故なら、爺さんの頭には大きなたんこぶがあったからだ。
よく見ると全身傷だらけでボロボロだった。
(一体どんな目にあったらこうなるんだ……?)
疑問に思ったが、とりあえず気にしないことにして少女の方に向き直ると、彼女は微笑みながら俺に尋ねてきた。
「あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
そう言われて戸惑ったものの、答えないわけにもいかなかったので素直に答えることにした。
「俺は……悠斗です」
「そうですか。では改めまして、助けていただいて本当にありがとうございます」
「いいえ滅相もない」
「そんなことをおっしゃらず。どうか謝礼をお受け取りください。この魔界の半分を差し上げます。どうかお引き取りを」
こうして江戸の異世界を魔王と俺で折半することになった。
「しかし、どうやって半分に分けようか?」
頭を悩ませていると、どこからか声が聞こえたような気がした。
「……ん……さん……」
最初は気のせいかとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
辺りを見回すと、声の主はすぐに見つかった。
そこにいたのは、先程助けたばかりの少女だった。
どうやら怪我のせいでうまく動けないようだ。
仕方なく近づいてみると、彼女は弱々しい声で言った。
「お願いします……私を殺してください……」
その言葉に思わず耳を疑った。しかし、少女の表情を見る限り冗談ではないようだった。
なので理由を聞いてみることにした。
「どうして死にたいんだい?」
すると彼女はゆっくりと語り始めた。
「私は元々この世界の人間ではありません。私は別の世界からやってきたんです」
「別世界の人間だと……?」
予想外の返答に戸惑いながらも先を促すことにした。
「はい。私は元の世界で死んでしまいました。そして気がつくとこの世界にいたのです」
なるほどそういうことだったのか……。ようやく納得がいった。
すると今度は彼女が質問してきた。
「あなたはどうしてここに来たのですか?」
その問いにどう答えたものか迷ったが正直に話すことにした。
「信じてもらえないかもしれないが聞いてくれるか?」
「ええ、もちろんです」
彼女の返事を聞いて安心した俺は、これまでの経緯を全て話したのだった。
話し終える頃にはすっかり日が昇り始めていた。その強烈な太陽光は魔族を清め焼き払い始めた。
「ギャッ」
少女は一瞬にして灰になった。田沼意次や他の侍たちも次々に燃え上がり白骨化していく。
やがて屋敷に火がついた。
「そうか。そういうことだったのか! 図ったな明智光秀ぇー。フゥーハハハ」
俺は狂ったように笑い続けた。そして焼け崩れる本能寺から逃げようともせず敦盛を舞ったのだった。
人間五十年、魔族は千年、化天のうちに比ぶれば無限の如くなり。
「ふははは、これで信長様の夢も叶うというものだぁーーー」
だが、次の瞬間、何者かによって背中を切りつけられたのである。振り返るとそこには一人の男が立っていた。その男は鋭い眼光を放ちながらこちらを睨みつけていた。 

 

その男こそが織田信長だったのだが、この時の俺には知る由もなかったのである。

その男こそが織田信長だったのだが、この時の俺には知る由もなかったのである。
なぜならその時既に意識を失っていたからである。薄れゆく意識の中で最後に聞いたのは男の叫び声であった。
「うおおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
目を覚ますとそこは病院の一室のようだった。起き上がろうとすると全身に激痛が走ったので、そのまま横になっていることにした。しばらくすると看護師がやってきて簡単な検査を受けた後、どうやら脊柱管狭窄症の痛み止めにもらったロキソニン錠の副作用で幻覚がでたらしい。
「それにしても恐ろしい夢を見たものだ」
そう呟いていると医者がやってきたので症状について尋ねたところ、幸いにも軽度のものであったので一週間ほど入院すれば完治する見込みがあるということだったのでほっとしたのだが、そこでふと気になることがあったので聞いてみたところ驚くべき事実が発覚したのである。なんと昨日俺が受けた手術には麻酔が施されていなかったというのだ。つまりあの悪夢のような出来事は全て現実だったのである。それを知った瞬間、俺は愕然としたと同時に激しい怒りを覚えた。何故ならばあの忌まわしき事件がなければ今頃俺は大手を振って天下統一に向けて邁進していたはずなのだから当然である。そのため俺はすぐさま復讐を決意するに至ったわけなのだが、ここで問題が一つあった。俺は脳だけになって水槽に浮かんでいる状態なのだ。
「くそっどうすれば良いのだ!?」
そんなことを考えているうちに時間だけが過ぎていき、とうとう日が暮れてしまったため今日は諦めて寝ることにしたのだが、なかなか眠れないまま朝を迎えてしまった。そして翌朝になっても状況は変わらなかったため仕方なく他の方法を模索することにしたわけだが、いくら考えても答えは見つからなかった。そんな時である突然目の前に神々しい光を放つ球体が現れたかと思うとそこから声が発せられたのである。
「勇者よ、よくぞ参られた」
その声は明らかに目の前の物体から発せられていたのであるが、あまりにも非現実的な光景であったため思わず自分の目を疑ってしまったほどだった。そしてしばらく呆然としていたが我に帰ると慌てて問いかけた。
「お前は何者だ?」
「医者です。さぁあっちの食堂で入所者のみなさんと一緒にレクレーションをしましょう」

「いや違うだろ!!絶対お前医者じゃないよね?ていうかそもそもここ精神科病棟じゃねーし!」
「何を言っているんですか?ここは紛れもなく精神病患者のいる隔離病棟ですよ」
そう言って彼はにっこりと微笑んだ。それを見て俺は確信した。間違いないこいつは狂っているのだと……。だがそれでも一応念のため確認してみることにした。
「ちなみに聞くけどここは何処なんだ?」
すると彼は少し考える素振りを見せた後こう答えた。
「ここは東京都墨田区にある総合病院ですが何かご不満でも?」
それを聞いて俺は絶望した。何故なら俺の記憶では確かに千葉県船橋市の病院で手術を受けたはずなのである。いや栃木県宇都宮市の内科か?うわーっ。もうおしまいだあ。

おわり。