X ーthe another storyー
第一話 開幕その一
X ーthe another storyー
第一話 開幕
今だ東京は静かだった、しかし。
高野山においてだった、長方形の顔に明るい顔立ちの引き締まった体格の僧衣の青年に白い髭の老僧が語っていた。
「ではな」
「ああ、今から行ってくんで」
青年は老僧に笑顔で応えた。
「そうしてくるわ」
「そうしてな」
「女の人の為にやな」
「命を落とすことになる」
「それがわいの運命やな」
「うむ、しかしだ」
ここでだ、老僧は。
自分達の上、今いる堂の渡り廊下から見える夜空を見上げて話した。
「若しやするとだ」
「若しや?どないしたんや」
「空汰、お主は死なずだ」
その青年有洙川空汰に話した。
「ここにその人と戻って来るやもな」
「何や、わしは死なんのか」
「運命は一つではない」
老僧は空汰にそれ故にと答えた。
「だからな」
「死なんとか」
「ここに戻って来る未来もだ」
「あるんやな」
「どれがよい」
老僧は空汰にさらに問うた。
「一体」
「生きるか死ぬかか」
「いや、地の龍に敗れるかだ」
まずはこの未来を話した。
「天の龍として女を守って死ぬか」
「その人と一緒にここに戻って来るか」
「どれがよい」
「そら決まってるやろ」
空汰は老僧の言葉に笑って応えた。
「やっぱりや」
「生きてだな」
「その人とな」
「ここに戻って来たいな」
「それでその人と一緒になってな」
さらに話した。
「暖かい家庭築くわ」
「ほっほっほ、そこまで言うか」
「あかんか?」
「そうせよ」
老僧も笑った、そのうえで空汰に答えた。
「そなたがそうしたいならな」
「ほなな」
「では今からじゃな」
「東京に行って来るわ」
「うむ、達者でな」
「ああ、戻ってきたらその人と三人で美味いもん食とうな」
この時も笑顔でだった、空汰は老僧に話した。そうしてだった。
自分が今いる高野山から東京に向かった、一人の青年がそうした。
伊勢神宮では今切れ長の目と黒い極めて長い髪を持つ少女が一人の初老の女性と話していた。見れば巫女の服を着ている。
「それでは」
「時が来ましたね」
「ですから」
それ故にというのだ。
「旅立ちます」
「それでは」
「もう私のお墓はありますね」
「いえ」
女性は少女に首を横に振って答えた。
「申し上げましたね、運命はです」
「一つではない」
「ですから」
それ故にというのだ。
第一話 開幕その二
「嵐様が戻られることをです」
「待っていてくれますか」
「はい、ご検討を。そして」
「生きてですか」
「お帰り下さい」
「出来る限り」
その少女鬼咒嵐も応えた。
「その様にします」
「約束してくれますか」
「はい」
静かだが確かな声での返答だった。
「そうさせて頂きます」
「それでは」
「行って参ります」
正座した姿勢で深々と頭を下げてだった。
嵐も旅立った、そうして。
黒く短い髪の毛の青年、白を基調とした陰陽師の服を着た青年が京都で年老いた老婆に対して話していた。
「ではこれより」
「戻られますか」
「そうします」
青年は着物の老婆に穏やかな声で答えた。
「今度は天の龍として」
「そうですか、そして」
「はい、おそらくですが」
「ご当主と過去共におられた」
「あの人ともです」
「会われますか」
「あの人もおそらく運命の中におられます」
青年は老婆に答えた。
「それもです」
「地の龍ですね」
「そのお一人なので」
だからだというのだ。
「僕もです」
「東京に行かれ」
「あの人にお会いします」
「そうされますか」
「はい、そして」
青年はさらに話した。
「この世界も」
「護られますか」
「そうしてきます」
こう和した。
「必ず」
「ほな。ご当主いえ昴流さん」
老婆は自身の孫でもある皇昴流に話した。
「ご達者で」
「帰ることはないでしょう」
「いえ、帰る未来もです」
「ありますか」
「はい」
そうだというのだ。
「運命は決まっているのやなくて」
「多くですか」
「ありますので」
それでというのだ。
「その中にはです」
「僕が生き残る未来もですか」
「あります」
こう話すのだった。
「そうですさかい」
「ここにですか」
「戻って来る未来もです」
それもまたというのだ。
「あります」
「そうだといいですが」
「くれぐれもご自重を」
老婆は昴流に話した。
「何があろうとも」
「ですが世界を救うには」
「それでもです」
「自分を大事にですか」
「されて下さい」
こう言うのだった。
第一話 開幕その三
「是非」
「ですが」
「いえ、それは私の願いだけでなく」
「姉さん、ですか」
昴流は老婆の言いたいことを察して応えた。
「お祖母様だけでなく」
「そうですさかい」
「戦いを生き残り」
「そうしてです」
そのうえでというのだ。
「帰ってきて下さい」
「そうしないといけないですか」
「あの娘の為にも」
「わかりました」
昴流は遂にという感じで祖母の言葉に頷いた。
「それでは」
「はい、待ってます」
「約束は出来ませんがそうなる様にします」
こう言ってだった。
昴流は東京に赴いた、彼もまた運命に向かうのだった。
赤く波がかった耳を完全に隠す位の長さで切り揃えた整った目に小さな頭の見事なスタイルの妙齢の女がだった。
今教会で神父に厳かな声で告げていた、赤い竹の長いワンピースの服を着ている。
「これで」
「行かれますか」
「はい」
そうするというのだ。
「これより」
「そうですか。ですが」
「命を賭けてもですか」
「必ずです」
初老で白髪をオールバックにしている神父は優しい声で言った。
「またここにです」
「神に祈りをですか」
「捧げに来てくれますか」
「そうなる様にします」
女は神父にやや俯いて答えた。
「出来るだけ」
「そうですか」
「はい、私はこの教会で救われたので」
だからだというのだった。
「ですから」
「それ故にですね」
「神父様がそう言われるなら」
「戻って下さいますか」
「はい、その様に」
「夏澄火煉さん」
神父は彼女の名前を優しい声で呼んだ。
「貴女は神の僕です」
「紛れもなくですね」
「はい」
まさにというのだ。
「迷える子羊であり」
「悪魔でなくですね」
「そうです、ですから」
「戦いが終わればですね」
「お祈りをして下さい」
「そうなる様にします」
火煉は神父に答えた、そうして礼拝堂で神に祈りを捧げてから境界を後にしその足で行くべき場所に赴いた。
茶色の整えた髪に眼鏡をかけた長身でスーツを着た知的な顔立ちの青年は今詰襟の制服を着た薄茶色の髪の毛にまだ幼さが残るが端整な顔立ちの高校生程の少年と向かい合って喫茶店の席に座ってケーキを食べつつ話していた。
「遂に、ですね」
「時が来たんですね」
「はい、それで玳透君はですね」
「姫様をお護りします」
少年は強い声で答えた。
第一話 開幕その四
「ですから」
「丁様のことはですね」
「心配しないで下さい」
少年はアイスクリームを食べつつ言った。
「征一狼さんは」
「そうさせてもらいますね、ではこの蒼軌征一狼必ずです」
青年は優しく微笑んで応えた。
「七つの封印の一人として」
「戦いですね」
「この世界を護ります」
「お願いします、では僕もです」
「砕軌玳透君もですね」
「その責務を果たします」
「宜しくお願いします」
二人で今は甘いものを食べながら笑顔でいた、だがそこには確かな決意がありそれは揺るがないものだった。
埼玉県秩父の三峯神社でだった。
小柄で黒くかなり短い髪の毛ではっきりした顔立ちの足がかなり奇麗な緑のブレザーと白い極めて短いスカートの少女が黒と白の大きな狼を思わせる姿の犬と共に淡い色の着物を着た老婆に笑顔で言っていた。
「じゃあ今からね」
「行くんだね」
「うん、東京にね」
老婆に明るく笑って話した。
「そうしてくるね」
「それはいいけれど」
老婆は明るく笑っている少女を心配そうに見て話した。
「戦いに行くんだから」
「そうよね」
「そのことはね」
「わかってるけれどね」
「ずっとここにいたからかい?」
「東京なんて行ったことないから」
だからだというのだ。
「凄くね」
「楽しみなんだね」
「うん、楽しんでもいいよね」
「そんなこと止められないよ」
老婆は自分と向かい合って正座をして座っている少女に話した、和風の部屋でそうしている。見れば老婆の周りには四匹の犬達がいる。
「遊ぶことはね」
「そうなの」
「時にはそうしたらいいよ」
こう言うのだった。
「世界を救う戦いだからね」
「そうよね」
少女は少し真面目な顔になって応えた。
「私の戦いは」
「そうだよ、大変な戦いになるから」
「うん、戦う時はね」
「頑張るんだよ、ただね」
「ただ?」
「またここに戻って来る時は」
少女にこうも言うのだった。
「誰かをね」
「連れて来るの?」
「そうするんだよ」
「そんなこと出来るかな」
「出来るよ、そうしないと帰ったら駄目だよ」
「そこまで言う?お祖母ちゃん」
「言うよ、じゃあね」
老婆は少女に微笑んで話した。
「言っておいで」
「うん、猫依譲刃犬輝と一緒に行って来るね」
「ワン」
犬も鳴いて応えた、そうして譲刃は立ち上がり東京に向かった。
黒く極めて長い髪の毛の妖艶な雰囲気に満ちた二十代後半と思われる切れ長の妖しい光を放つ目の女は今眠っていた、その夢の中で。
水面の上に紅の服を着て寝ていたがその彼女のところにだ。
白く長い髪の毛を持つ流麗で穏やかな顔立ちの白い着物を着た忠誠的な青年が来てそのうえで言ってきた。
「いよいよです」
「そう、はじまるのね」
「七つの封印全員がです」
まさにというのだ。
第一話 開幕その五
「東京に集まろうとしています」
「わかったわ、ではね」
「我々もですね」
「御使いを集めるわ」
「七人全員を」
「貴方、玖月牙暁と」
女は起き上がり青年の名を呼んで話した。
「そうしてね」
「麒飼遊人とですね」
「そして八頭司颯姫が来てくれたから」
「あと四人ですね」
「そのうち三人はもう誰かわかったから」
だからだというのだ。
「来てもらうわ」
「そうですか」
「そして」
女は上体を起こした、そうしてだった。
牙暁にだ、こう言った。
「全員揃えば」
「その時こそですね」
「本格的にはじめるわ」
こう言うのだった。
「この世界を滅ぼすことをね」
「そうですか」
「地球を救う為に」
「わかりました」
「いつも言っている通りにね」
「人類を滅ぼしますね」
「ええ、人間がいなくなれば」
そうなればともだ、女は話した。
「それでよ」
「地球を穢し壊す存在がいなくなり」
「必ずよ」
「地球は蘇りますね」
「そうなるわ」
「庚」
牙暁はやや俯き悲しそうな顔で言ってきた。
「宜しいでしょうか」
「何かしら」
「人間を滅ぼすとなると」
そうすればとだ、その美女庚に話した。
「地球の他の生きもの達もです」
「死ぬわね」
「その殆どが」
「人間を滅ぼすにしても」
「他の多くの命もです」
「滅ぼすわね」
「そうなります」
「そうね、わかっているわ」
庚は表情を消して答えた。
「そのことは」
「左様ですか」
「わかったうえでね」
「ことを進められますか」
「人間を滅ぼすわ」
「そうされますね」
「そして」
庚はここでだった。
その顔に今度は憎しみを出してだ、牙暁に話した。
「姉さんをね」
「あの方をですか」
「絶望のどん底に落としてあげるわ」
「あの方はこの世界のことを真剣に憂いて」
「全てを犠牲にしてね」
そうしてというのだ。
「いつも夢を見ているわね」
「そして人々にお話しています」
「目は見えず耳も聞こえないのに」
ほんの一瞬、まさにその一瞬だった。殆どの者が気付かないだけのその一瞬だけ悲しみの表情を出してだった。
即座にだ、庚は表情を戻してまた言った。
「そして碌に動けないのに」
「それでもですね」
「その身体に鞭打って」
そうしてというのだ。
第一話 開幕その六
「働いているわね」
「今も尚」
「そうすることがよ」
まさにというのだ。
「私は憎くて仕方ないから」
「あの方もですね」
「そう、だからね」
「人間を滅ぼして」
「姉さんをね」
そう呼ぶ相手をというのだ。
「絶望に落としてあげるわ」
「そうお考えですか」
「いつも言ってる通りにね」
「それは本心でしょうか」
牙暁は語る庚に問うた。
「果たして」
「ええ、本心よ」
やはりほんの一瞬だった。
目を左にやってだ、それから牙暁にまた話した。
「私はその為によ」
「動かれますね」
「同じ姉妹なのに姉さんばかりよ」
「持て囃されていますか」
「ええ、そうしてね」
それでというのだ。
「私はずっとよ」
「ないがしろだったと」
「そうだったから」
顔を歪めさせて話した。
「幼い頃からの恨みを晴らす為にも」
「人類をですか」
「滅ぼすわ、そして地球はね」
「再生しますね」
「そうなるわ、地球は泣いているわ」
自分達が今いるこの星はというのだ。
「人間達に散々傷付けられて」
「その地球を救う為に」
「私は動いていて」
「全ての地の龍を集めますね」
「そうするわ、ではね」
「いよいよですね」
「本格的に動くわ」
こう言うのだった。
「天の龍も動きはじめたから」
「そうですか、ただ人間の力をどう思われますか」
牙暁はここで庚に問うた。
「大きいか小さいか」
「決まっていわ、小さいわ」
庚は嘲笑を以て答えた。
「人間はね」
「そうですね」
「何十億いても」
そうであってもというのだ。
「所詮はね」
「そこに答えがあります」
「答え?」
「はい、小さな人間が何十億いてもです」
それでもというのだ。
「小さな力なら」
「どういうことかしら」
「やがておわかりになります」
庚もというのだ。
「必ず」
「今はわからなくてもなのね」
「はい、そして僕はです」
悲しい顔で俯いて述べた。
「貴女は嘘吐きだと思っています」
「私が?」
「はい」
そうだというのだ。
「その様に」
「嘘を言う必要があるのかしら」
「あるからこそです」
それ故にというのだ。
第一話 開幕その七
「そうされていますし」
「それでなのね」
「今もです」
「嘘を吐いているの」
「そうです」
こう言うのだった。
「そのことを申し上げておきます」
「そうなのね」
「ただ僕はその貴女を嫌いではありません」
牙暁はこうも述べた。
「最後の最後まで地の龍の一人として」
「働いてくれるのね」
「そうさせて頂きます」
こう言うのだった。
「必ず」
「それではお願いするわね」
「夢見として」
「貴方は優れた夢見よ」
庚は牙暁に顔を向けて微笑んで話した。
「姉さんに負けない位のね」
「そう言って頂けますか」
「今は嘘を言っているかしら」
「そうは感じません」
「そうよ、私は正直よ」
その笑顔のまま話した。
「誰よりもね」
「そのお言葉も嘘と言ったら」
「否定するわ」
「そうですか」
「ええ、私はあくまでね」
「お姉さんが憎く」
「人間が滅ぶことを望んでいるわ」
こう言うのだった。
「あくまでね」
「そのお言葉は最後まで」
「変わらないわ」
また言ったのだった。
「何があってもね」
「では」
「ええ、今これ以上お話することはないわ」
こう牙暁に話した。
「だからね」
「また」
「ええ、またお話しましょう」
静かに微笑んでだった。
庚は牙暁に告げた、彼はその前から姿を消した。これで終わりだった。
牙暁は大柄で色黒の黒髪を短く刈った男の夢にも入った、見れば切れ長の目の光は極めて優しいものだ。
その彼にだ、牙暁は声をかけた。
「あの」
「ああ、あんたか」
男は牙暁に微笑んで応えた。
「暫く振りだな」
「覚えてくれていますか」
「衝撃的だったからな」
牙暁に微笑んだまま答えた。
「だからな」
「それ故に」
「覚えてるさ、俺が地球を蘇らせる地の龍の一人なんてな」
「思いも寄りませんでしたか」
「高校出て自衛隊に入ってな」
そうしてというのだ。
「自分に合った仕事だって思っていたしな」
「そこに僕が来て」
「そうだなんてな」
地の龍の一人だと、というのだ。
「想像もしなかったさ」
「それで、ですか」
「驚いてな」
それでというのだ。
「あんたのこともな」
「覚えていてくれましたか」
「ああ、玖月牙暁さんだな」
「はい」
牙暁はその通りだと答えた。
第一話 開幕その八
「地の龍の一人であり」
「夢見の人だな」
「そうです」
「名前聞いたし俺も名乗るな」
男は自分から話した。
「俺は志勇草薙だ」
「陸上自衛隊の方で」
「一等陸曹さ」
「空挺部隊におられますね」
「趣味は格闘技だよ」
「そうでしたね」
「好きなものは甘いものと生きものだよ」
草薙は牙暁に笑って話した。
「宜しくな」
「こちらこそ」
「それでだ」
一呼吸置いてだ、草薙はさらに言った、夢の中で空間にしか見えないがそこに確かにある座に座り前に立つ牙暁に話している。
「そろそろか」
「時が来ます」
「そうなんだな」
草薙はその言葉に悲しそうに返した。
「仕方ないか」
「乗り気ではないですね」
「ああ」
否定しない返事だった。
「正直言ってな」
「貴方は人は傷付けたくはないですね」
「絶対にな」
それこそという返事だった。
「自衛隊にいても暴力はな」
「多いですか」
「けれど俺はな」
草薙自身はというのだ。
「そういうのはな」
「お嫌いですか」
「だからな」
そうした性格だからだというのだ。
「俺としてはな」
「乗り気でないですか」
「まして人間を滅ぼすなんてことをしたら」
そうすればというのだ。
「人間だけじゃないだろ」
「地球上の他の生きもの達もです」
「滅びるよな」
「どうしても」
「それもな」
「どうかってないりますか」
「ああ」
その通りだというのだ。
「俺としてはな」
「そうですか」
「ああ、しかしな」
草薙はさらに言った。
「やらないと駄目だな」
「地の龍なので」
そのうちの一人だからだというのだ。
「やはり」
「そうだよな」
「ですからここは」
「運命か」
草薙は嘆息して言った。
「結局は」
「申し訳ありません」
「あんたが謝るじゃないだろ」
草薙は笑ってそれはいいとした。
「だからな」
「謝罪はいいですか」
「ああ、運命か」
「貴方が戦うことも」
「人間を滅ぼしてだな」
「多くの命を消すことも」
このこともというのだ。
「それもまた」
「運命か」
「そうです」
まさにというのだ。
「左様です」
「仕方ねえな」
草薙はまた嘆息して言った。
第一話 開幕その九
「それじゃあな」
「時が来れば」
「その時はな」
「動かれますね」
「ああ、そうさせてもらうな」
「その時は都庁に来て下さい」
「あそこか」
都庁と聞いてだ、草薙は言った。
「わかったぜ」
「では」
「ああ、けれど運命って一つじゃねえってな」
草薙はこうも言った。
「俺は聞いたがな」
「決まっているものではないと」
「それは一つじゃなくてな」
そうしてというのだ。
「変えられもするってな」
「いえ、運命は変わりません」
牙暁は悲しい顔で答えた。
「それは」
「そうなのかね」
「決して」
「そうか、そこは意見の相違だな」
「そうなりますね」
「まあ兎に角な」
草薙は微笑んで言った。
「これから宜しくな」
「同じ地の龍として」
「それでな、仲間だろ」
「はい」
牙暁もその通りだと答えた。
「私達は」
「だったらな」
「これからですか」
「仲間としてか」
「やっていこうな、他の奴はまだ知らないがあんたは嫌いじゃない」
笑ってこうも告げた。
「そのこともあるしな」
「仲良くですか」
「やっていこうな」
「それでは。実は他の地の龍の方も」
「悪い奴じゃねえか」
「迷い吹っ切れ悲しみを持っていたりしますが」
それでもというのだ。
「心根はです」
「悪い奴はいないか」
「はい」
草薙に目を閉じて答えた。
「ですからご安心を」
「わかったぜ、しかし悪人でもないのに人間を滅ぼすなんてな」
草薙はやや上を見た、そうして悲しい目になって述べた。
「因果なことだな」
「やはりそれもです」
「運命か」
「そうです」
こう言うのだった。
牙暁は黒いショートヘアに隻眼の穏やかな微笑みをたたえた青年の夢にも出た、黒いコートとスーツそれにネクタイが似合っている。
その彼にだ、こう言った。
「桜塚星史郎さん」
「桜塚護でもいいですが」
「いえ、今の貴方はです」
穏やかな声の青年に告げた。
「そう呼ばせて頂きます」
「それは何故でしょうか」
「桜塚護はその集団の名前ですね」
「ええ、とはいっても今は僕一人ですが」
「地の龍として貴方が来られるので」
「だからですか」
「そう呼ばせて頂きます」
その青年桜塚星史郎に答えた。
「その様に」
「わかりました。しかし僕が地の龍で」
星史郎と牙暁は夜桜の前にいる、桜の花びらが舞う中で背中合わせに立ってそのうえで話をしている。
第一話 開幕その十
「昴流君が天の龍ですか」
「そうです」
「因果ですね」
星史郎は微笑んで話した、目までそうなっている。
「それもまた」
「貴方は討たれたいですね」
牙暁は目を閉じて問うた。
「彼に」
「違うと言えば」
「そうは思えないですが」
「ははは、そう言われますか」
「人は夢では嘘を吐けません」
庚に告げたことを彼にも告げた。
「ですから」
「僕はこれまでの人生で嘘を吐き続けていますよ」
「だから夢の中でもですか」
「どうでしょうか」
また微笑んで話した。
「それは」
「そう言われますか」
「ですが僕が地の龍の一人なら」
煙草を出した、それに火を点け吸ってからまた言った。
「やれることをです」
「行われますか」
「そのうえで」
今度はやや上を見上げて話した。
「まあそこから先は言わないでおきましょう」
「そうですか」
「時が来ればお伺いします」
牙暁に告げた。
「あちらの方にはその様にお伝え下さい」
「それでは」
「ではまた」
「お待ちしています、ですが」
「ですが?」
「貴方は生きるおつもりはないですね」
牙暁はまた問うた。
「そうですね」
「ですから僕は嘘吐きですよ」
「だからですか」
「はい、そして意地悪なので」
そうした人間だからだというのだ。
「ここはです」
「そうですか」
「あえて言いません」
そうするというのだ。
「そのうえで」
「来られますか」
「他の地の龍の方々とお会いする時を楽しみにしていますよ」
こう言うのだった、そうして北暁が去るのを心で見送った。
牙暁はまだ幼さの残る顔で中華風の服とズボンを身に着けた白い細い髪質の痩せているが引き締まった身体つきと忠誠的な顔立ちの少年の夢にも出た。
そのうえでだ、こう言った。
「貴方の名前は哪吒、そして」
「塔城霧月」
少年は自ら言った。
「それが僕の名前」
「そう。時が来れば」
「僕は動く」
「そうなる。けれどその時から」
牙暁はさらに言った。
「君は多くのものを知ることになる」
「その時から」
「君は人間だから」
それ故にというのだ。
「そうなる」
「僕は人間」
「そう、人間だから」
こう哪吒に言うのだった。
「多くのことを学んで欲しい」
「それじゃあ」
「また会おう」
哪吒に優しい声で告げた。
第一話 開幕その十一
「そしてその時にあらためて」
「こうしてお話をする」
「そうしよう」
最後まで優しい声で告げてだった。
牙暁は彼の心の中からも去った、全ては夢の中のことだった。
白いコートと赤系統のスーツにネクタイを着た金髪を真ん中で分けた長身の青年だった、優し気な顔は微笑んでいる。
その青年の夢に出てだ、牙暁は話した。
「もう話しましたが」
「僕が地の龍の一人ということでしたね」
青年は笑って応えた。
「教えて頂き有り難うございます」
「辛いことになるけれど」
「いえ、そうは思っていませんよ」
青年は俯いた牙暁に優しく笑って言葉を返した。
「それも運命です」
「そう言ってくれますか」
「運命に身を任せるのもです」
「いいですか」
「それも一興です」
「麒飼遊人さん、貴方はいつも結ばれるお二人を祝福されますね」
牙暁は青年の名前を出して問うた。
「そうですね」
「婚姻届ですか?」
「そして別れる時は残念そうに」
「それが本心からのものだと」
「違いますか」
「本心ですよ」
遊人はここでも笑った、そのうえで答えた。
「どちらも」
「人が幸せになると喜び別れを悲しむ」
「そうなっています」
「それが本心ですね」
「ええ、やっぱり幸せになって欲しいです」
遊人はこうも言った。
「どなたも」
「しかし地の龍は」
「ですから運命の流れに身を任せることもです」
「いいですか」
「一興です」
そうだというのだ。
「そう考えていますので、僕は」
「これよりですね」
「地の龍として動きます」
その一人としてというのだ。
「明日でしたね」
「庚さんに会います」
「ではそれから」
「その様にですか」
「動きます」
牙暁に微笑んで答えた。
「その時から」
「では。ただ貴方は人間を殺すことは」
「趣味ではありません、いじめや暴力を受けた経験もです」
遊人はやや真面目な顔になって答えた。
「ありません」
「そうですね」
「そうしたこととは無縁です。戦いの経験はありますが」
「それでもですか」
「無益な殺生はしません」
「それでもですね」
「運命に身を任せますよ」
こう言うのだった。
「それも面白いでしょうし」
「だからですか」
「そうします、では仲間として」
「これからですね」
「宜しくお願いしますね」
水面の上で向かい合って話した、そうして去る牙暁を笑顔で送ったのだった。
牙暁は眼鏡をかけたクールな少女の夢にも出た、黒いショートヘアでシャツと半ズボンに覆われている身体はすらりとしている。
その彼女にだ、牙暁は話した。
第一話 開幕その十二
「以前お話した通りに」
「私は地の龍なのね」
「地球を再生する」
「人間を滅ぼしたうえで」
「うん」
牙暁は答えた。
「そうだよ」
「そうなのね」
「貴女、八頭司颯姫さんは」
少女の名前も呼んで話した。
「明日の朝自転車で登校するね」
「いつもそうしているわ」
颯姫は落ち着いた声で答えた。
「自宅からね」
「帰りに横に車が停まり」
「そうしてなの」
「庚さんが出られるので」
「共に行けばいいのね」
「ご家族tのお話は庚様が都合よく説明してくれるから」
「わかったわ。両親に思うことは何もないし」
颯姫は無表情で答えた。
「これでお別れでもね」
「いいんだね」
「お父さんもお母さんも私を天才と言うけれど」
「それだけだね」
「道具みたいに扱うだけだから」
それでというのだ。
「もうね」
「どうでもいいんだね」
「私はその庚さんのところにいても」
「構わないね」
「ええ、ではね」
「これからだね」
「地の龍の一人として生きるわ」
牙暁に対して約束した。
「そうするわ」
「それではね、またね」
「ええ、また会いましょう」
颯姫は夢の中の空間に座っていた、その上で前に座っている牙暁に応えて話した。そうしてであった。
彼が去るのを目で見送った、それからは夢の中で過ごした。
牙暁は彼の夢の中にいた、すると。
そこに白い極めて短いひらひらしたスカートと黄色いセーターを着た明るい顔立ちの黒いショートヘアの少女が着て陽気に言ってきた。
「はじめましてね」
「貴女は」
「北都。皇北都よ」
「皇・・・・・・」
「わかるわよね」
「天の龍の一人の」
「そう、昴流ちゃんの双子の姉よ」
北都は自らこのことを話した。
「宜しくね」
「死んでも」
「そう、魂はまだね」
「この世にあるんだ」
「そしてね、実はね」
「あの二人のことを」
「ずっと気になっているから」
夢の中、海岸で一人立ってたたずんでいる牙暁のところに空を飛ぶ様に来てそのうえで笑顔で話した。
「それでよ」
「この世に残って」
「貴女の夢の中に出て来たのよ」
「それは何故」
「貴方運命は一つだって思ってるでしょ」
「正確に言えば二つ」
牙暁は悲しい顔で俯いて答えた。
「あるよ」
「人間が救われるか世界が滅びるか」
「彼女達のそれぞれの」
「丁さんと庚さんのね」
「二つに一つ。その中で誰が死ぬことも」
「いずれかの未来でね」
「わかっているよ」
こう北都に答えた。
第一話 開幕その十三
「僕は」
「そうだね、けれどね」
「けれど?」
「未来、運命は一つじゃないんだよ」
「二つのうちどちらかだけじゃない」
「そう、それに貴方ええと」
「牙暁。玖月牙暁だよ」
目を閉じてだ、牙暁は北都に答えた。
「僕の名前は」
「うん、それで牙暁ちゃん」
北都は名前を教えてくれた牙暁ににこりと笑ってからまた言った。
「未来は一つじゃないんだよ、それにもうわかっているよね」
「庚さんの本心が」
「うん、それがね」
「あの人は素直でない方だよ」
牙暁は俯いて答えた。
「とてもね」
「星ちゃんと一緒だよね」
「そうだね、二人はそうしたところは似ているね」
「星ちゃんは本当はね」
「わかっているよ」
牙暁は北都に悲しい目で答えた。
「僕もね」
「そうだよね」
「本当はね」
「あたしそうはなって欲しくないの」
北都は牙暁に笑顔で話した。
「だからね」
「今もだね」
「この世界にいてね」
そうしてというのだ。
「今牙暁ちゃんの夢に出ているんだ」
「そうだね」
「それでまた言うけれど」
「未来は一つじゃない」
「それは無限にあるんだよ」
こう言うのだった。
「だから絶望しかないってね」
「僕はもう諦めているよ」
「諦める必要はないんだよ」
にこりと笑って告げた。
「全くね」
「そうかな」
「そうだよ」
はっきりとした言葉だった。
「牙暁ちゃんは動けないけれど」
「これからの未来に」
「絶望しないで」
そうしてというのだ。
「明るくね」
「見ていいんだ」
「そうだよ」
また牙暁に話した。
「本当にね」
「君は嘘を言っていないね」
「こうした時は言わないよ」
決して、そうした返事だった。
「あたしもね」
「そうなんだね」
「うん、だから言うけれど」
「君の望みをだね」
「あたし昴流ちゃんも星ちゃんもね」
二人共というのだ。
「この戦いで死なないでね」
「そうしてだね」
「幸せに過ごせたらッてね」
その様にというのだ。
「願ってるのよ」
「それは」
「無理かな」
「運命は二つだよ」
牙暁は目を閉じて答えた。
「僕が言う通りにね」
「だからなんだ」
「どちらかが死んで」
そうしてというのだ。
第一話 開幕その十四
「終わるよ」
「やっぱりそうなるかな」
「うん、ただ不思議なことに」
「何かな」
「世界は滅びると思うけれど」
「地の龍の未来だね」
「七人の御使いのね」
彼等のというのだ。
「未来になる筈なのに」
「貴方はそう見るんだ」
「その筈なのに彼は」
目を開き悲しい顔で述べた。
「君の弟さんでなくてね」
「星ちゃんだね」
「あの人が死にそうだよ」
「あたしもそう思うよ」
北都も悲しい顔になった、そのうえで答えた。
「やっぱりね」
「そう思うね」
「けれど世界はだね」
「滅びる、けれど」
「それは未来は一つじゃないから」
「僕は二つの未来を見ているのかな」
「そうだよ、星ちゃんって実はね」
彼のことをさらに話した。
「自分の心がない様に言ってるね」
「人の気持ちがだね」
「特に痛みがね」
「そうだね」
牙暁もそれはと頷いた。
「あの人は」
「けれどそれは嘘だから」
「嘘吐きだね」
「星ちゃん凄い嘘吐きなんだよ」
北都はにこりと笑って話した。
「自分で言ってるけれどね」
「本心は言わないね」
「そう、だからね」
「僕にも君にもだね」
「特にあたしと最後に会った時からね」
「本心を言わないね」
「そう、それをね」
「嘘で隠して」
「そしてね」
そうしてというのだ。
「言うからね」
「そうだね、僕にも嘘を言っているよ」
「そんな人だから」
それ故にというのだ。
「その言葉はよく考えてね」
「聞くとだね」
「そうしてね」
「そうするよ。僕は地の龍だけれど」
その立場がだとだ、牙暁は北都にこうも話した。遠い場所を悲しい顔と目になってそのうえで話した。
「世界が滅んで欲しいか」
「考えてないね」
「人間が滅んでも」
そうなってもというのだ。
「地球は再生してもまたね」
「危なくなるよね」
「地球の長い歴史ではね」
「何度もあったね」
「そうだったしね、そして人間がいても」
それでもというのだ。
「地球が滅ぶか」
「地球ってそこまで脆いかな」
「人間は地球の表面にしかいないんだ」
「そうよね、ほんのね」
「空にも地下にも進出でも」
そうしてもというのだ。
「それでもね」
「やっぱりね」
「表面でしかないから」
「地球は深いよね」
「人間は小さな存在だよ」
そうだというのだ。
第一話 開幕その十五
「その人間がいてもね」
「地球はだね」
「大して変わらないし」
それにというのだ。
「人間を滅ぼす時に多くの生きものが死ぬから」
「そうだね」
「そして人間は悪か」
「地球を滅ぼすのなら悪だね」
「地球から見れば、いや」
「いや?」
「それも本当に地球の声か」
このことも言うのだった。
「僕は確信は持てていないよ」
「そうなのね」
「そう、そして多くの命を巻き添えにしていいのか」
「それはよくないよね」
「何の関係もないね」
それこそというのだ。
「そうも考えるから」
「だからだね」
「僕はそうしたことも考えてね」
「人間が滅んで欲しくない」
「そう考えているんだ」
こう北都に話した。
「地の龍だけれどね」
「人間には滅んで欲しくないんだ」
「そう、色々考えて」
そうしてというのだ。
「そのうえでね」
「そう思ってるんだ」
「そうだよ、ただね」
「ただ?」
「地の龍の夢見として」
この立場でというのだ。
「これからはね」
「動いていくのね」
「そうするよ」
こう北都に話した。
「君との話はこれからも続けていきたいけれど」
「お願いね」
笑顔でだ、北都は牙暁に応えた。
「あたしからもね、お友達としてね」
「僕達は友達なんだ」
「嫌?」
「嬉しいね」
牙暁は北都に顔を向けて微笑んで応えた。
「それは」
「そうなのね」
「うん、ずっと起きれなくて」
「こうしてだね」
「夢の世界で過ごしていて」
そしてというのだ。
「友達はね」
「いなかったんだ」
「だからね」
それ故にというのだ。
「お友達になってくれるなら」
「嬉しいのね」
「うん、じゃあこれから」
「うん、お友達としてね」
「お話していこう」
牙暁にここでもにこりとして声をかけた。
「そうしていこうね」
「是非ね」
「うん、それとね」
「それと?」
「貴方のこと何て呼べばいいかな」
北都は牙暁にこのことを問うた。
「一体」
「何でもいいけれど」
牙暁は考える顔で答えた。
「名前でもね」
「牙暁ともだね」
「君の望む様にね」
「じゃあ牙ちゃんでいいかな」
「渾名だね」
「あたし親しい人はそれで呼ぶからね」
だからだというのだ。
第一話 開幕その十六
「貴方もね」
「渾名で呼んでくれるんだ」
「それで牙ちゃんだけれど」
「いいね」
また微笑んでだ、牙暁は北都に応えた。
「ではそう呼んでくれるかな」
「そうするね、牙ちゃん」
「うん、では僕も渾名で呼んでいいかな」
「勿論だよ」
北都はここでもにこりと笑って答えた。
「僕もそう呼んでね」
「では北都さんとね」
その様にと言うのだった。
「ちゃん付けになるかも知れないけれど」
「それでいいよ」
北都はそれをよしとした。
「それじゃあね」
「うん、お互いにね」
「仲良くしていこう」
「是非ね。では僕は地の龍として」
「夢の中にいて」
「僕のやるべきことを果たしていくよ」
「頑張ってね、牙ちゃん」
ここでもにこりと笑ってだ、北都は牙暁に応えた。
「僕はどっちでもない立場だけれど」
「応援してくれるんだね」
「そうさせてもらうね、ただ本当にね」
「未来は一つではない」
「そのことはわかってくれるかな」
「今は」
悲しい顔に戻ってだ、牙暁は答えた。
「わからない、いやわかることがね」
「出来ないね」
「これまで多くの未来を見てきたから」
運命、それをというのだ。
「だからね」
「そうなんだね、けれどね」
「それでもだね」
「あたしはそう考えているから」
「未来は一つじゃない」
「償えない罪もないしね」
こうも言った。
「そして天の龍も地の龍も周りの人達も人間だよ」
「人間・・・・・・」
「そう、人間だよ」
「そのことが大事なんだ」
「そうだよ、星ちゃんだってね」
自分を殺した彼もというのだ、北都はそこに一切の恨みや憎しみがないそうした笑顔で牙暁に話した。
「人間だよ」
「言われてみると」
「そうだよね」
「うん、彼は嘘吐きだけれどね」
それでもと言うのだった。
「心はね」
「人間だね」
「そうだね」
その通りだとだ、牙暁は北都に答えた。
「彼もね」
「この戦いではそのことが大事だよ」
「皆が人間であることが」
「そうだよ、人間は色々問題があるけれど」
それでもと言うのだった。
「とんでもなく素晴らしいものでもあるからね」
「だからなんだ」
「そう、それでね」
その為にというのだ。
「この戦いきっと皆素晴らしい結論にね」
「至るんだ」
「そうなるよ」
こう牙暁に話した。
第一話 開幕その十七
「必ずね」
「人間が滅びるか地球が滅びるか」
「その問題と一緒にね」
「素晴らしい結論にだね」
「辿り着くよ」
こう言うのだった。
「あたしはそう思うよ」
「そうなるのかな」
「誰にとっても辛くて悲しくて長い戦いなるけれど」
それでもというのだ。
「そうしたものを乗り越えてね」
「素晴らしい結論にだね」
「辿り着くよ」
「どうなのかな、それは」
「牙ちゃんが今そう思っていてもね」
北都は笑顔のままさらに話した。
「あたしはね」
「そう思ってるんだね」
「そうだよ」
まさにという返事だった。
「だからね」
「これからだね」
「一緒にね」
「そうなるかもだね」
「見ていこう」
こう言うのだった。
「そうしていこう」
「そう言うのなら」
友達がとだ、牙暁は考える顔で応えた。
「僕も信じられないけれど」
「それでもだね」
「見ていくよ」
「そうしてくれるね」
「うん」
そうだと言うのだった。
「本当にね」
「二人でね」
「僕は一人じゃない」
北都の今の言葉を聞いてだった。
牙暁は自然と笑顔になった、そうして彼女に顔を向けて話した。
「そうもなったんだね」
「そうだよ、あたし達はお友達になったからね」
「ずっと一人だったからね、僕は」
「夢の世界でそうだったよね」
「うん、他の人の夢に入っても」
それでもというのだ。
「お友達はね」
「いなかったね」
「これまでね、けれど」
「これからはね」
「お友達でね」
その間柄でというのだ。
「ずっとだよ」
「一緒だね」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「寂しくないよ」
「そうだね、そういえば」
まただった、牙暁は北都の言葉に反応して言った。
「悪いことをする人は寂しい人だって」
「昴流ちゃんが言われたね」
「そうみたいだね」
「あたしそう言われた時を見ていたの」
北都はやや悲しい顔になって述べた。
「昴流ちゃんがね」
「そうだったんだね」
「うん、だからね」
それでというのだ。
「言えるよ」
「彼が言われたので」
「そうね」
「そうですね」
牙暁は考える顔になって述べた。
「悪事を行う人はです」
「寂しい人だよね」
「寂しいからこそ」
それ故にというのだ。
第一話 開幕その十八
「何かをしたくて」
「寂しいってマイナスだからね」
「そちらに向かってしまい」
「それでだよ」
「悪事を犯しますね」
「私達と会う前の星ちゃんもそうだったのかなってね」
彼もというのだ。
「思ったりもするよ」
「あの人もですか」
「うん、ただあの人獣医さんよね」
「表のお仕事は」
「死ぬ生きものは寿命のものばかりだったんだよ」
北都はこのことも話した。
「もう長くない生きものにだけね」
「呪いが向かう様にですか」
「していたからね」
「痛みがわからないというのは」
「どうだろうね、けれど今の星ちゃん悪いことするかな」
「どうでしょうか、やがてです」
「他の地の龍の人達とだよね」
彼等と、というのだ。
「一緒になるよね」
「合流します」
「そうなったらね」
その時はというのだ。
「星ちゃん寂しくなくなるかな」
「そうなるかな」
「なったらいいね、じゃあ今日はこれでね」
「うん、またね」
「お話しようね」
北都は両手を後ろにやってだった。
牙暁に笑顔で応えてそうして姿を消した、牙暁はその彼女を微笑んで見送った。彼は寂しさを感じていなかった。
白い着物と白く長い髪の毛、白い肌を持つ小柄な少女を思わせる姿の女がだった。
陰陽道の陣の中にいてだ、茶色の短い髪の毛の幼さが残るが精悍で生真面目な感じの黒い詰襟の少年に話した。
「間もなくです」
「はい、天の龍がです」
「ここに集いますか」
「そうなります」
神社の中を思わせるその中で話した。
「これより、ただ」
「それは六人までで」
「最後の一人はです」
「彼はですね」
「わかりません」
こう言うのだった。
「残念ですが」
「征一狼さん達は決まっていて」
「そうです、最後の一人だけは」
どうしてもというのだ。
「わかりません、ですが」
「それでもですか」
「その最後の一人となるかも知れない」
「その人はですか」
「近くです」
「来るのですね」
「この東京に」
まさにというのだ。
「そうなります」
「そうですか、それでは」
「砕軌玳透さん」
少年の名を呼んで話した。
「まずは貴方がです」
「天の龍の最後の一人となる」
「彼のところにです」
「行ってですね」
「迎えに行って下さい」
「わかりました」
玳透は女に畏まって応えた。
第一話 開幕その十九
「丁様の言われる通りに」
「宜しくお願いします」
「そうしてきます」
「まだ天の龍は二人です」
「二人ですか」
「それだけしかこの東京にいませんが」
「これからですね」
「七人がです」
即ち全員がというのだ。
「揃います」
「そして揃えば」
「遂にです」
「人間を守る戦いがはじまりますね」
「はい」
丁はその通りだと答えた。
「そうなります」
「そうですね、それでは」
玳透は確かな顔と声で応えた。
「まずはです」
「宜しくお願いします」
「それでは」
丁に約束してだった。
玳透は彼女に深々と一礼をしてその場を去った、だからこそわからなかった。
丁の後ろに何か邪なものがあったことを、それは気付かなかった。
長身で知性だけでなく人生の確かな経験を感じさせる皺も目立つ端整な顔に白いものが混じった短くした髪の毛を持つ神主の服の男がだった。
神社の境内にいてだ、そうして優しい目をした長身で短い黒髪で面長の黒い詰襟の制服の少年と奇麗な目をした楚々としていて儚げな雰囲気で顎の先が尖った顔で薄茶色の波がかった長い髪の毛と膝までの丈の制服を着た少女に話していた。
「近いうちに神威君が戻って来るそうだ」
「えっ、神威が」
「神威ちゃんがですか」
「そうだ」
その男桃生鏡護は息子の桃生封真と桃生小鳥に話した。
「今日連絡が来た」
「そうか、神威が戻って来るんだな」
封真は感慨を含んだ声で述べた。
「そうなんだな」
「どうなってるかしら」
小鳥は微笑んで述べた。
「一体」
「会うのが楽しみだな」
「そうよね」
「うむ、しかしな」
それでもとだ、桃生は二人に話した。
「彼はどうもだ」
「どうも?」
「沖縄にいたというが」
「そういえばそうした話を聞いたな」
封真は父の言葉に思い出した様に述べた。
「あいつはこの東京からな」
「沖縄になのね」
「引っ越してな」
そうしてとだ、妹に応えて話した。
「そうしてだ」
「そのうえでなのね」
「暫く暮らしていたらしい」
「そうだったのね」
「だがどうしていたか」
その沖縄でというのだ。
「俺は知らないんだ」
「そうなのね」
「わしもだ」
桃生も言ってきた。
「彼がどうしていたかな」
「知らないのね」
「そうだ、だがな」
「神威ちゃんが戻って来るなら」
「それならな」
「ええ、お迎えしてね」
小鳥はさらに話した。
第一話 開幕その二十
「そうしてね」
「何かとな」
「昔みたいに」
かつての様にというのだ。
「仲良くしていかないとね」
「そうだな」
封真は妹のその言葉に応えた。
「絶対にな」
「お兄ちゃんもそう思うよね」
「勿論だ」
妹に微笑んで答えた。
「俺もな」
「そうよね」
「ああ、戻ってきたらな」
「昔みたいにね」
「三人でな」
「仲良くね」
「何でもやっていこうな」
兄妹で話した。
「その時が楽しみだな」
「もうすぐね」
「そう言ってくれて何よりだ」
鏡護は自分の子供達の言葉に微笑んで応えた。
「ではだ」
「ああ、神威が戻ってきたら」
「仲良くするわね」
「そうしてくれ、しかしな」
「しかし?」
「しかしっていうと」
「神威がどうであってもだ」
こうもだ、二人に話した。
「受け入れてくれ」
「どうであっても?」
「どういうことなのお父さん」
「会えばわかる、人は変わりだ」
そうしてというのだ。
「時には運命の中にある」
「運命?」
小鳥は父の今の言葉に怪訝な顔になって応えた。
「どうしたの、それが」
「父さん、運命って何だ」
封真は父に問うた。
「一体」
「お前達もわかる」
鏡護は息子に対して答えた。
「その時が来ればな」
「その時が来れば」
「そうだ」
まさにというのだ。
「そしてお前達も運命と向き合うだろう」
「またそこで運命か」
「どういうことかしら」
二人共わからなくなって言った。
「さっきからずっと運命って言ってるけれど」
「何かあるのか?」
「やがてわかる、だが何があってもだ」
鏡護はいぶかしむ我が子達に告げた。
「生きろ、そして最後はだ」
「今度は最後か」
「何なのかしら」
「神威と共にいられる様にするんだ」
「俺達がか」
「三人共なの」
「そうだ、何があってもな」
二人に確かな声で告げた。
「いいな」
「何か話が全然読めないんだけれどな」
「兎に角神威ちゃんと仲良くすればいいのに」
「何があっても」
「最後は」
「どれだけそれが難しく運命にあがらうことであっても」
それでもというのだ。
第一話 開幕その二十一
「いいな」
「最後はか」
「三人でなのね」
「もっと言えば共にいる人達ともだ」
こうも言うのだった。
「いいな」
「本当にわからないけれどな」
「お父さんがそう言うなら」
二人はそれならと答えた。
「私達そうするわ」
「神威や他の人達ともな」
「わしは信じる、心から死にたいと思っていないとだ」
そうでないと、とだ。鏡護は話した。
「人は運命にあがらえる、そして運命を変えられる」
「運命は絶対じゃないのか」
「わしはそう考える、確かに運命の力は強いが」
封真に対して話した。
「それでもだ」
「変えられるものなんだな」
「そうだ」
まさにというのだ。
「運命はな」
「そうしたものなんだな」
「どれだけ辛く苦しくてもだ」
「運命は変えられるんだな」
「その中には最悪のものもあれば」
そうした運命もあればというのだ。
「最善のものもだ」
「最善の運命か」
「それもある、そしてだ」
「そして?」
「全てには正と逆がある」
その両方がというのだ。
「そのことも知ることだ」
「正と逆か」
「表と裏とも言うが」
それと共にというのだ。
「そうもだ」
「言うんだな」
「誠実でももう一人いてだ」
「その人は誠実でないか」
「邪悪であったりだ」
封真にさらに話した。
「憎んでいると言っても」
「違ったりか」
「そうでもある、人程複雑な存在はない」
鏡護は封真にさらに話した。
「善と悪が共にありだ」
「憎んでいると言ってもなの」
「実は違うこともだ」
今度は小鳥に話した。
「あるのだ」
「それが人間なのね」
「そういうものだ、純粋な善人も悪人もだ」
「いないのね」
「わしの知る限りではな」
そうだというのだ。
「いない」
「そうなの」
「そして世界は大きい」
今度はこう話した。
「人間は小さい」
「世界は大きくて」
「人間はどれだけいてもな」
「小さいのね」
「神の前には全てが小さいというが」
「人間もなのね」
「小さい、そのことも知るのだ」
小鳥に告げた。
「今はわからなくても覚えていればな」
「それでなのね」
「わかる筈だ」
こう言うのだった。
第一話 開幕その二十二
「やがてな」
「だから今はなのね」
「わしの言葉を覚えておいてくれ」
「聞くんじゃなくて」
「そうしてくれ」
覚えておけというのだ。
「いいな」
「そうするわね」
「俺もだ」
封真も答えた。
「そうするよ」
「私もね」
「そうしてくれ。わしも出来るだけ生きる」
鏡護はここで微笑んだ、そうして自分の話をした。これまでと雰囲気はそのままだが表情には綻びが出た。
「そして三人と他の人達を見たい」
「お父さんとしては」
「そうだ」
こう言うのだった。
「何があってもな」
「そうなんだな」
「私達が神威ちゃんと仲良くしていて」
「他の人達ともか」
「そうしている姿がなのね」
「見たい、運命はだ」
これはというと。
「一つではなく変わり」
「最悪のものもあれば」
「最善のものもあるのね」
「それを選ぶのは人だ」
「つまり俺達か」
「私達自身なのね」
「そうだ」
まさにというのだ。
「神ではない」
「人間か」
「あくまでそうなのね」
「人間は確かに小さい」
そうした存在だというのだ。
「それは事実だ、しかしな」
「それと共にか」
「そうしたことも出来るのね」
「強くもある」
小さいがというのだ。
「そのこともだ」
「覚えておくんだな」
「そうすることね」
「そうだ、よくな」
こう話した、そしてだった。
鏡護は話を終えた、それからは二人を下がらせてそのうえで自分も休んだ。だがそれでもであった。
次の夜星を見てだ、夢の中で言った。
「間もなくか」
「はい」
丁が出て来て言ってきた。
「はじまります」
「そうなのですね」
「そして貴方は」
丁は頭を垂れ悲しい顔で述べた。
「私の夢見は外れません」
「それで、ですね」
「先にです」
「そうですか、ですが」
「貴方のお考えはですか」
「変わりません」
そうだというのだった。
「変えられるとです」
「お考えですか」
「ですから」
それ故にというのだ。
第一話 開幕その二十三
「子供達にもです」
「お話されたのですね」
「そうしました、自分の考えを」
「そうですか」
「運命に絶望しておられますね」
鏡護は自分の前にいる丁に問うた。
「左様ですね」
「はい」
丁はその通りだと答えた。
「まさに」
「左様ですか」
「わらわの夢見は外れたことがないので」
それ故にというのだ。
「ですから」
「しかしそれはです」
「違うのですね」
「わしは信じます」
目を閉じて話した。
「運命はです」
「変えられるのですね」
「最後の最後までわかりません」
そうしたものだというのだ。
「どうなるかはです」
「それはですか」
「最後の最後までです」
まさにその時までというのだ。
「わからず」
「そしてですか」
「はい」
そうしてというのだ。
「変わるので」
「だからですか」
「わしは信じます、三人そして」
「天の龍も地の龍も」
「誰もがです」
まさにというのだ。
「心から死を望んでいないのなら」
「生き残り」
「そして人間も地球もです」
その両方がというのだ。
「これからもです」
「存在出来るのですね」
「はい」
まさにという返事だった。
「この世に」
「わらわは人間がです」
「滅びるとですか」
「見ましたが」
「それも運命です」
鏡護は達観した顔で答えた。
「ですが」
「その未来だけでなく」
「他の未来もです」
運命もというのだ。
「必ずです」
「存在するので」
「はい」
だからだというのだ。
「わしは信じています」
「誰もがですか」
「これからもです」
まさにというのだ。
「幸せに過ごせると」
「戦いを経て」
「そのうえで」
「そうなればいいのですが」
「信じて下さい、人は小さくとも」
「強いですね」
「そうした存在なのです」
こう話すのだった。
「それ故に」
「滅びず」
「地球もです」
「生きていけますか」
「そうです、ただ」
「ただ?」
「泣いているのは地球でしょうか」
鏡護は深い目になり丁に問うた。
「果たして」
「といいますと」
「わしはどうも気になるのです」
丁をその目で見つつ言った。
「果たしてです」
「地球がですか」
「滅びそうであり」
そうしてというのだ。
「それを言っているのか」
「言っていますが」
「ですが地球はです」
この星はというのだ。
「とてもです」
「人間ではですか」
「どうしても滅ぼせる様な」
そうしたというのだ。
第一話 開幕その二十四
「小さな存在とは思えません」
「そうなのですか」
「わしとしては」
こう言うのだった。
「とてもです」
「ですが」
「丁様としてはですね」
「はい」
鏡護に答えた。
「聞いています」
「地球の声を」
「そしてです」
「人間の声も」
「わらわは人間の側にいてです」
「人間を愛していますね」
「はい」
鏡護に畏まって答えた。
「そうです、だからこそ」
「地球の声を聞いて」
「そのうえで、です」
「人間を護りたいのですね」
「多くの命を。若し人間が滅べば」
「地球は復活しようとも」
「人間以外の生きものの命もです」
それ等もというのだ。
「動物も植物も」
「全てですね」
「滅んでしまいます」
そうなってしいまうというのだ。
「そうなりますので」
「だからこそですね」
「人間を滅ぼしてはならない、人間はです」
丁はさらに話した。
「愚かでありますが」
「それと共にですね」
「聡明でもあります」
この要素も持っているというのだ。
「ですから必ずです」
「自分達の過ちに気付き」
「そのうえで、です」
「地球も救いますね」
「そうなります、ですから」
それ故にというのだ。
「わらわはです」
「七つの封印を集め」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「人間を救う様にします」
「そうなのですね」
「わらわを含めてどれだけの犠牲が出るかわかりませんが」
それでもというのだ。
「必ず」
「お覚悟はわかりました、わしもです」
「運命の中におられます」
「天の龍でも地の龍でもありませんが」
「戦われますね」
「そうします、しかしわしはです」
鏡護は丁を確かな目で見つつ話した。
「絶望していません」
「運命は一つではなく」
「最悪のものもあれば」
それと共にというのだ。
「最善のものもです」
「ありますか」
「はい、そして一人では無理でも」
丁にさらに話した。
「誰もが手を尽くせば」
「最善の運命にもですか」
「辿り着けます、最善は無理でも」
それでもというのだ。
「次善でもです」
「辿り着くことが出来ますが」
「その筈です、この戦い心から死を望んでいないなら」
「生きられますか」
「そして未来を変えて」
それが出来てというのだ。
第一話 開幕その二十五
「きっとです」
「人間も地球もですか」
「残りこれからも栄えていきます」
「そうなりますか」
「必ず」
「そうであればいいですが」
「希望は常にあります、そして希望はです」
鏡護はさらに話した、目には見えないものであるがそれをその目で見てそのうえで丁に対して話していた。
「消えることはないです」
「その希望もですか」
「見て」
そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「誰もが戦えば」
「きっと救われます、あと天の龍と地の龍の中に悪人はいますか」
鏡護はこのことも問うた。
「誰か」
「いえ」
丁は首を横に振って答えた。
「自分自身ではそう言っていても」
「それでもですね」
「わらわにはわかります」
「夢見だからこそ」
「はい、一人としてです」
「いませんね」
「ここで言う悪人とは邪悪な者ですね」
鏡護に問うた。
「人でないまでに」
「そうです、冥府魔道にまで堕ちた」
「いません、誰もが人間であり」
そしてというのだ。
「何を言ってもです」
「本人がですね」
「その心に悪があれば」
それと共にというのだ。
「善があり己の悪もです」
「自覚していますね」
「これを善人と言うのなら」
「悪人はいませんね」
「はい」
鏡護に答えた。
「左様です」
「ならです」
「いいですか」
「きっとです」
「最善ではなくともですね」
「次善のです」
それのというのだ。
「必ずです」
「運命に辿り着けますか」
「そうなります、わしはそれを見たいです」
「人間も地球も助かり」
「戦いの果てに誰もが笑っている」
そうしたというのだ。
「未来を」
「そうですか、ではわらわはそれを見ることをです」
「願われますか」
「来るとは思えません」
丁は自分の考えも話した。
「しかしです」
「それでもですか」
「来ればいいとはです」
その様にはというのだ。
「思います」
「そうして下さい」
「はい、では」
「またですね」
「お会いしましょう」
最後にこう言ってだった。
丁は深々と頭を下げてだった。
そのうえで鏡護の前から姿を消した、そうしてだった。
目が覚めるとだ、鏡護は子供達と共に朝食を食べた、その場で話した。
「では今日もな」
「うん、学校に行って」
「お勉強をしてくるわ」
「そうするんだ、きっとだ」
「きっと?」
「きっとっていうと」
「一時どうなってもな」
それでもというのだ。
「また学校に行ってだ」
「それで勉強したりか」
「普段の生活が送れるのね」
「そうなる」
こう話した。
「だからどんな辛い時でも諦めないことだ」
「きっとなのね」
小鳥が言ってきた。
「また戻れるのね」
「そうなる、だからな」
「諦めないことね」
「いいな、最後の最後までな」
「わかったよ、父さん」
「私達そうしていくわ」
二人で父に応えた、そうしてだった。
二人は知らなかったが共に運命の中に入った。運命の輪は今大きく動きだしはじめていた。
第一話 完
2022・10・23
第二話 来訪その一
第二話 来訪
小鳥はこの時通っている高校で授業を受けていた、清楚な薄いブラウンを基調とした膝までのスカートの制服である。男子は詰襟だがボタンではなくフックで止めている。
授業を受けつつ教室の窓から校庭を見ていた、そこをだった。
黒いショートヘヤで鋭利な大きいが切れ長の目で引き締まった口元に形のいい顎を持つやや小柄な少年が通った、着ているのはその制服である。
その彼を見て小鳥はまさかと思った、そして昼休みにだった。
クラスメイト達にだ、昼食を食堂で終えた後教室に戻ったところで言われた。
「ねえ、三組に転校生来たらしいわよ」
「何でも凄い美形らしいわよ」
「ちょっと小柄だけれどね」
「凄いみたいよ」
「そうなの?」
小鳥はクラスメイト達の言葉に顔を向けた。
「そういえば午前中に校庭を歩いてる子いたけれど」
「そうなの」
「じゃあその子かもね」
「兎に角凄く奇麗な子らしいわよ」
「名前何ていうの?」
小鳥はクラスメイト達に問うた。
「それで」
「ええと、確か司狼君?」
「司狼神威君?」
「何でも沖縄から来たらしいわ」
「ご家族に何かあって」
「間違いないわ」
その名前と沖縄から聞いたと聞いてだった。
小鳥は確信した、それでだった。
すぐに三組に向かった、するとだった。
その三組にはおらず本能的にだった。
校舎の屋上かと思いそこに行くとだった。
そこに彼がいた、屋上のベンチに腕と足を組んで座っていたが。
その彼にだ、小鳥は声をかけた。
「神威ちゃん!?司狼神威ちゃんよね」
「小鳥か」
神威は彼に顔を向けて応えてきた。
「久し振りだな」
「東京に戻って来るって聞いてたけれど」
「確かに戻った」
神威もその通りだと答えた。
「この通りな」
「これからまた仲良くしようね」
小鳥は神威のところに来て話した。
「子供の頃みたいにね」
「俺に関わるな」
神威は憮然として言葉を返した。
「一切な」
「えっ、それって」
「言った通りだ」
不愛想な返事であった、今度は。
「俺には関わるな」
「けれど」
「言った、二度は言わない」
席を立った、そのうえで歩き小鳥と擦れ違って話した。
「いいな」
「そんな・・・・・・」
神威とはそれまでだった、その午後だった。
封真は体育で白い体操服と赤い膝までの半ズボン姿でサッカーの授業を受けた、その神威が歩いていた校庭のグラウンドである。それでだった。
ゴールを決めれとだった。
「おい桃生またか?」
「ゴール突き破ったのか」
「そうしたか」
「済まない、またやった」
封真も申し訳なさそうに応えた。
「手加減を忘れた」
「仕方ないな」
「気を付けてくれよ」
「身体能力が凄いのはいいことでもな」
「それでもな」
「気を付けないとな」
反省して述べた。
第二話 来訪その二
「本当に」
「まあ過ぎたことだしな」
「仕方ないさ」
「桃生もわざとじゃないし」
「それじゃあな」
「そう言ってくれるんだな」
封真は周囲の優しさに感謝した、そしてだった。
校庭の一年生の授業がふと目に入った、そこでだ。
自分に負けない身体能力を発揮して野球の授業でピッチャーをしている神威が目に入り驚いて言った。
「あいつ、うちの学校に来たのか」
「ああ、一年の転校生か」
「今日転校してきたばかりだったな」
「凄いボール投げるな」
「あれだと阪神にも入られるな」
「一五〇出てるな」
「カーブもシュートもキレがいいしな」
周りは神威についても話した。
「野球部にスカウトされるかもな」
「そうだとすると甲子園も夢じゃないな」
「フォームも奇麗だし」
「素直に期待出来るな」
「ああ、そうだな」
封真は周りに合わせて応えた。
「凄い奴だな」
「そうだよな」
「本当に阪神に入って欲しいぜ」
「これでヤクルトにも勝てるな」
「ノムさんなんてメじゃないぜ」
こんな話も出た、それでだった。
二人は家に帰るとだ、それぞれ話した。
「神威ちゃん来たわね」
「俺達の学校にな」
「まさかと思ったけれど」
「俺達の学校に来るなんてな」
「お父さんは運命って言ったけれど」
「これがか」
「いや、まだだ」
二人で夕食の用意をしているがちゃぶ台を拭きつつだ、鏡護は話した。
「運命はまだはじまったばかりだ」
「そうなの?」
「まだなんだな」
「そうだ、ほんのだ」
こう子供達に話した。
「入口に来たばかりだ」
「じゃあこれからか」
封真は父に顔を向けて言った。
「俺達の運命は」
「動くのはな」
「そうなんだな」
「だがお前達なら大丈夫だ」
鏡護は微笑んで話した。
「必ずな」
「俺達ならか」
「そうだ」
確かな声での返事だった。
「封真、お前も小鳥もそしてだ」
「神威ちゃんもなのね、けれど」
小鳥はエプロン姿で言った、膝までのクリーム色のスカートに赤いセーターでその上にエプロンを着けている。
「神威ちゃん何か」
「寄せ付けないか」
「そんな感じだったわ」
「そうだろうな」
鏡護はそれはと応えた。
「やはり」
「やはりって」
「そうなることがだ」
それがというのだ。
「当然だ」
「そうなの」
「今の神威はな」
彼はというのだ。
第二話 来訪その三
「そうなってだ」
「人を寄せ付けなくて」
「まさにな」
「そうなの」
「今はな、しかしだ」
「しかし?」
「お前達はその神威を受け入れてだ」
そうしてというのだ。
「一緒にいることだ」
「一緒にか」
「そうすることなの」
「そうだ、特にだ」
小鳥を見て話した。
「お前はな」
「私は?」
「若しかするとお前はずっと神威の傍にいてだ」
小鳥にさらに話した。
「神威を支える力になるかも知れない」
「私が神威ちゃんの」
「生きてな」
そうしてというのだ。
「そうなるかも知れない」
「生きてって」
「その時が来ればわかる」
またこう言った。
「やがてな」
「そうなの」
「そうだ、そしてだ」
今度は封真を見て話した。
「お前は神威と向かい合うことになろうとも」
「それでもなんだ」
「やがてはな」
「神威の傍にいる」
「それに戻るかも知れない」
「俺はそうなるんだ」
「そうだ、そしてお前達は人間だ」
鏡護はこうも言った。
「このことは覚えてくことだ」
「人間であることは」
「そうだ」
こうも言うのだった。
「何があってもな」
「けれどそれは」
「当然じゃないかしら」
封真も小鳥も自分達の父の人間という言葉にはこう返した、表情はいぶかしむものになっている。そのうえでの言葉だった。
「もうね」
「言うまでもないんじゃ」
「いや、言っておく」
それでもと言うのだった。
「人間は心が人間ならだ」
「人間なんだ」
「そうなの」
「そうだ、そしてだ」
そうしてと言うのだった。
「お前達は人間であるなら地球も救える」
「地球も?」
「そうだ、人間は地球を穢しもするが」
それと共にというのだ。
「救える、誰もな」
「そうしたものなの」
「このことも覚えておいてくれ」
「父さん、もうさっきから言ってることがわからないんだが」
封真は父に顔を曇らせて答えた。
「本当に」
「そうだろうな」
それはわかっているという返事だった。
「わしも今はお前達がわかるとは思っていない」
「それでも言うんだ」
「やがてわかることだ」
そうだというのだ。
第二話 来訪その四
「だからだ」
「今言うんだ」
「そうだ、いいな」
「神威の傍にて」
「人間のままでいることだ」
「そうして地球もなんだ」
「救うことだ、いいな」
子供達に告げた。
「時が来ればな」
「そうするよ」
「私も」
二人共わかっていないことは事実だが頷いた。
「そうするわね」
「約束するよ」
「宜しく頼む、そしてだ」
父はさらに言った。
「神威とは根気よく接していてくれ」
「人を寄せ付けない感じでも」
「それでもだ、いいな」
「ええ」
小鳥はまた頷いて応えた。
「そうしていくわ」
「俺もだ」
「このことも頼む」
こうした話もだった。
一家で行った、その頃神威は。
謎の黒服の一団にだ、こう告げた。
「いるのはわかっている」
「気付いていたか」
「そうか」
「殺気を感じた」
夜の街の中で姿を現した彼等に告げた。
「嫌になる位のな」
「それも隠してたが」
「察しているとはな」
「流石と言うべきか」
「やはりな」
「お前等何者だ」
神威は黒服の男達に問うた。
「沖縄のことを関係あるのか」
「答えるつもりはない」
「一切な」
「そうか、ならいい」
神威は表情を変えずに応えた。
「来い、相手をしてやる」
「ではな」
「望むところだ」
男達は神威を囲んでだった。
一斉に襲い掛かった、だが。
神威は素早く動いた、そうして。
その拳と脚で男達を次々に倒していった、空手に我流のものを加えた独特の格闘術を以てであった。
戦っていき瞬く間にだった。
男達を全て倒した、だが。
倒された男達は消えていた、それでだった。
神威はいぶかしんだがもう何もおらずだった。
その場を去るしかなかった、だが。
それを見てだ、丁はある場所で話した。
「最後の一人を見付けました」
「それはまさか」
「はい、神威です」
前に控える玳透に話した。
「この東京に来ました」
「そうなのですね」
「やがて他の六人の龍はここに集いますが」
それでもと言うのだった。
「彼、神威だけは違います」
「ここに自分から来ないですか」
「そう見ました」
「夢で、ですか」
「はい」
まさにというのだ。
「ですから玳透さん」
「はい、僕にですね」
「彼を迎えに行って欲しいのですが」
「わかりました」
玳透は一も二もなく答えた。
第二話 来訪その五
「それじゃあ」
「行ってくれますか」
「そうさせて頂きます」
「宜しくお願いします」
「すぐに行ってきます」
「それでは」
こう話してだった。
彼はすぐに出た、そしてだった。
周りにだ、こうも話した。
「ではです」
「はい、これよりですね」
「天の龍の方々がですね」
「来てくれるので」
それでというのだ。
「迎える準備もです」
「それもですね」
「整えますね」
「そうします」
こう話した。
「宜しいですね」
「わかりました」
「それでは」
周りも応えた、そうしてだった。
丁はそちらの準備も進めさせた、だが。
玳透も周りも気付かなかった、彼女の後ろに何かがいたことを。それは誰も気付かずその何かが動いたことも。
神威は学校から自分のアパートの部屋に帰ろうとしたが。
玳透はその彼の前に現れて言ってきた。
「いいだろうか」
「前の連中と同じか」
「前の?」
玳透は神威のその言葉に眉を動かした。
「君は何を言ってるんだ」
「知らないか」
「知らないも何も」
神威にさらに言った。
「司狼神威君だね」
「それがどうかしたか」
「君を迎えに来て欲しいと言われたんだ」
「誰にだ」
「丁様に」
「昨日の連中の黒幕か」
「いや、黒幕なんかじゃない」
玳透はとてもと返した。
「あの方は素晴らしい方だよ」
「お前はそう思っているのか」
「それは君が知らないだけだよ」
「その丁とかいう奴のことをか」
「うん、それでだが」
玳透は神威にあらためて話した。
「僕の名前は砕軌玳透」
「そうか」
「君を迎えに来たんだ」
「何にだ」
「知っているかな、天の龍の一人としてね」
「七つの封印か」
「そう、そこまで知っているなら話が早い」
玳透は神威の言葉に目を輝かせて応えた。
「では一緒に」
「断わる」
神威はぶしつけな調子で答えた。
「興味がない」
「いや、それは困る」
「何故だ」
「君は運命から逃れられない」
神威に間島な顔で話した。
「やるべきことがあるんだ」
「だからか」
「僕と共に来てくれないか」
去ろうとする神威にあらためて話した。
第二話 来訪その六
「これから」
「嫌だと言えばどうする」
「絶対に来て欲しいのだけれど」
「興味がないと言った」
「どうしてもなんだ」
「何度でも言う」
「それでは」
神威にそこまで言われてだった。
玳透は身構えた、そうしてだった。
両手を前に出してそこから前に向けて竜巻を出した、それで神威を攻撃してきたが神威はそれを上に跳んでかわしてだった。
上から玳透に蹴りを浴びせる、その蹴りをだった。
玳透は紙一重で後ろに跳んでかわした、だが。
着地した神威は両手を空手の要領で使ってきた、それで玳透を激しく攻め。
防戦一方となった彼に右の蹴りを前から浴びせた、玳透はそれを両手を交差させて凌いだが衝撃を受け。
吹き飛ばされた、それでも立っていたが。
神威はその正面に来ていて彼に右の拳を出して言った。
「勝負あったな」
「くっ・・・・・」
「まだやるならいいが」
それでもと言うのだった。
「決着がついてまだやる趣味は俺にはない」
「僕はまだ」
「それならまた来い」
玳透を見据えて告げた。
「それ以上戦ってもだ」
「僕の負けだから」
「無駄に怪我をするつもりだ、それにだ」
神威はさらに言った。
「蹴りは防いだが」
「わかっているんだ」
「その衝撃で両手の骨にヒビが入っているな」
「くっ・・・・・・」
「それなら無理だな」
これ以上の闘いはというのだ。
「だからだ」
「下がれというんだ」
「そうだ、傷を癒してだ」
そうしてというのだ。
「また来い、ではな」
「しかし君は」
「だから言った興味はない」
玳透に目を鋭くさせて告げた。
「俺はな」
「そう言うんだ」
「俺は俺だ」
こう言ってだった。
神威は自分の部屋に入った、玳透はその彼を見送ってだった。
丁のところに戻った、そして彼の話をすると丁は悲しい顔で話した。
「そうですか」
「残念ですが」
「わかりました、しかし」
「それでもですか」
「まずは傷を癒して下さい」
神威との闘いで受けたそれをというのだ。
「ですが」
「それでもですか」
「他の天の龍は来ますので」
それでというのだ。
「その準備はしています、最初はです」
「どなたが来られるのでしょうか」
「はい、それは」
「ここかいな」
ここでだった。
空汰の声がした、そしてだった。
キャップ帽を前後逆に被りラフな服装で入ってきた、ここでだった。
空汰はその帽子を脱いで丁に一礼して話した。
「はじめまして」
「はい、有洙川空汰さんですね」
「そうですわ」
空汰は丁に笑顔で応えた。
第二話 来訪その七
「夢見の姫さんですね」
「そう呼ばれています」
丁は目を閉じて答えた。
「丁といいます」
「天の龍の一人として来ました」
「高野山からですね」
「そうしました」
笑顔で答えた、ここでも。
「今しがた」
「そうですか、では」
「これから働かせてもらいますわ」
丁に陽気に話した。
「存分に」
「宜しくお願いします」
丁は畏まって応えた。
「是非」
「それじゃあ、ほな早速」
空汰は自分から言ってきた。
「神威をですね」
「お話を聞いていましたか」
「聞くつもりやなかったんですが」
このことは少し苦笑いで述べた。
「すいません」
「構いません、では」
「はい、行ってきますわ」
「そうしてくれますか」
「早いうちに揃った方がええですね」
「確かに」
丁はその通りだと答えた。
「早いならです」
「早いだけですわ」
「それでは」
「行って来ますわ」
早速と言うのだった。
「ほなよろしゅう」
「はい、しかしです」
「しかし?」
「無理はされないで下さい」
こう空汰に告げた。
「決して」
「最後の天の龍とはでっか」
「司狼神威とは」
その彼の名前も話した。
「龍と龍が戦えばです」
「お互い強いだけあって」
「双方傷付き」
そうなりというのだ。
「命すらもです」
「そのやり取りの戦ですさかい」
「わかりません、まして彼は天の龍です」
「仲間同士で争ったらあきませんわ」
「その通りです、ですから」
「神威とはでっか」
「出来るだけです」
「そうでんな、そこの兄さんと一緒で」
「面目ありません」
玳透は空汰に苦い顔で答えた。
「暫くは戦えなくなりました」
「いや、充分戦ったさかいな」
空汰は玳透に優しい笑顔で話した。
「そうやさかいな」
「だからですか」
「名誉の負傷や」
それになるというのだ。
「そうやさかいな」
「それで、ですか」
「今は養生するんや」
怪我を治すことに専念すべきだというのだ。
「ええな」
「それでは」
「ああ、ほなな」
「今はですね」
「ゆっくり休むんや」
「そうします、あと僕はです」
「ああ、わいより年下やな」
空汰は自分から話した。
第二話 来訪その八
「何でも」
「ですからこうしてです」
「敬語使ってるんやな」
「そうしています」
実際にというのだ。
「これからも」
「わいは堅苦しいのは趣味やないが」
「それでもですか」
「自分がそうしたいんならな」
玳透がというのだ。
「ええで」
「そうですか」
「ほなこれからな」
「お互いですね」
「やっていこな」
まさにというのだった。
「仲良く」
「はい、ただ僕は天の龍ではないので」
「それは関係ないわ」
「そうなのですか」
「丁さん、おひいさんでええか」
「構いません」
丁はそれはよしとした。
「呼び名は」
「それぞれでか」
「わらわはどう呼ばれてもです」
空汰達に直接語り掛けた。
「いいのです」
「そやねんな、しかし」
「何でしょうか」
「おひいさんはほんまに夢見の人やねんな」
「おわかりですか」
「言葉が直接頭に来るさかいな」
「わらわは喋ることが出来ません」
丁はまずはこのことから話した。
「そして目は見えず耳は聞こえず」
「そうなんやな」
「匂いを嗅げず身体の感覚もです」
こうしたものもというのだ。
「ありません、ですがそれでもです」
「頭の中でやな」
「全て見え聞こえ嗅げ感じられ」
そうしてというのだ。
「わかります」
「そやねんな」
「そうです」
まさにというのだ。
「全ては」
「成程な」
「ですから問題はありません」
全くと言うのだった。
「お気遣いなく」
「おひいさんがそう言うんならな」
「よいですか」
「ああ、それでな」
「神威をですね」
「連れて来るな」
「宜しくお願いします」
「ほなな」
笑顔で応えてだった。
空汰はその場を去ろうとしたがふとだった。
玳透はその彼にふと気付いた顔になって言ってきた。
「あの、今のお住まいは」
「実はないねん」
空汰はこの時も明るく応えた。
「ずっと高野山に住んでたけどな」
「今はですか」
「そういうこっちゃ」
「それは困りますね」
「天の龍の住まいは用意しています」
また丁が言ってきた。
「安心して下さい」
「そうなんか」
「ある人の協力があり」
それでというのだ。
第二話 来訪その九
「クランプ学園の敷地内にです」
「住めるんやな」
「はい、そちらで」
「わい等は戦いの間住むんやな」
「生活費等も用意してありますので」
「生きる心配はないか」
「一切」
まさにというのだ。
「ご心配なく」
「何か悪いな」
「戦って頂くのです」
それ故にというのだ。
「それならばです」
「衣食住のことはか」
「ご心配なく」
「そら有り難いな、ほなな」
「これよりですね」
「そこに住ませてもらってな」
そうしてとだ、丁に応えた。見れば今の表情もとても明るくかつ口調も非常に気さくな感じである。
「頑張るで」
「それでは」
「ほなあらためてな」
「神威の元にですね」
「行って来るわ」
あらためて告げてだった。
空汰は出て行った、そして玳透もだった。
今は丁の前を去った、一人になった丁は今は何も言わなかった。
丁が空汰を送り出した丁度その時だった。
庚は自身の場所で今しがた自分の前に来たばかりの遊人に告げた。
「早速で悪いけれど」
「お仕事ですか」
「ええ」
遊人に微笑んで話した。
「その時が来たわ」
「では行って来ますね」
「そうしてね、ただね」
「ただといいますと」
「私も別の場所にね」
「行かれますか」
「そしてね」
遊人にさらに話した。
「迎えて来るわ」
「そうですか」
「お互い忙しいわね」
「表のお仕事もありますしね」
「貴方は区役所勤務でね」
「貴方は都知事さんの秘書さんですね」
「幸いね」
庚は笑って話した。
「有能な人で助かるわ」
「それは何よりですね」
「若しもね」
ここでだ、庚は遊人にこうも話した。
「あの人が無能なら」
「それだけで、ですからね」
「都政は大変なことになるわ」
「そうですよね」
「選挙は難しいわね」
「有能な人が選ばれる場合もあれば」
「そうでない場合もあるわね」
こう言うのだった。
「そうでしょ」
「ええ、だからね」
それでというのだ。
「今はね」
「庚さんもですね」
「有り難く思っているわ」
「それは何よりですね、ではね」
「これからですね」
「私は迎えに行って」
「僕もですね」
「お互いそうしましょう」
遊人に微笑んで話した。
第二話 来訪その十
「これからね」
「それでは」
二人で話してそうしてだった。
それぞれの向かうべき場所に向かった、遊人はビルからビルに飛んで行ってそちらに向かっていった。
そしてその時だ、封真は。
小鳥にだ、笑顔で話していた。
「神威の住所がわかった」
「そうなの」
「ああ、だからな」
それでと言うのだった。
「今から行って来る」
「神威ちゃんのところに」
「そうしてだ」
「会ってなのね」
「話をする」
こう言うのだった。
「是非共な」
「私は今家事があるから」
「行けないな」
「御免なさい」
「謝ることはない」
封真は謝る小鳥に笑顔で応えた。
「お前はお前のやることをだ」
「すればいいのね」
「だからな」
それでというのだ。
「お前は待っていてくれ」
「家事をしながら」
「そうしてくれ」
優しい声で話した。
「いいな」
「それじゃあね」
「きっとだ」
封真は優しい顔でこうも言った。
「神威は今は緊張しているんだ」
「そうなの」
「東京に久し振りに戻ってきてな」
それでというのだ。
「それだけだ」
「そうなのね」
「だからな」
「打ち解けたらなら」
「きっと昔の様にな」
「仲良く出来るのね」
「そうだ」
こう言うのだった。
「必ずな」
「そうよね、神威ちゃんは神威ちゃんよね」
兄の言葉を受けてだった、小鳥は気を取り直して微笑んで頷いた。
「だからきっとね」
「昔に戻れるな」
「そうよね」
「その為にもだ」
「これからなのね」
「神威のところに行って来る」
是非にという言葉だった。
「そうしてくる」
「ええ、それじゃあね」
「晩ご飯は取っておいてくれ」
「そうするわね」
「小鳥、安心するんだ」
封真は妹に微笑んで答えた。
「俺は何があってもお前を護るしな」
「神威ちゃんもよね」
「お前を護ってくれていたな」
「ええ、私が木から落ちそうになった時も」
その時もとだ、小鳥は子供の頃のことを話した。
「ずっとね」
「俺がお前達を見付けて助けを呼ぶまでだったな」
「私を持っていてくれたわ」
「そうだったな、俺も覚えている」
「そうよね」
「神威は神威だ、あいつの目を見ればわかった」
「昔の神威ちゃんね」
兄に話した。
第二話 来訪その十一
「そうよね」
「人は目を見ればわかるというな」
「そうよね」
「今のあいつの目は昔より鋭くなって人を寄せ付けないものになっているが」
「それでもよね」
「いい輝きを放っている」
「そうよね、私も思ったわ」
小鳥はまた答えた。
「その目の光はね」
「悪いものじゃなかったな」
「全くね」
「悪い奴は目が濁っている」
封真はその場合の話もした。
「そして荒んでいる」
「神威ちゃんの目じゃないわね」
「そうだな」
「ええ、お兄ちゃんの言う通りにね」
「悪い光は放っていないな」
「むしろ純粋で強い」
「そうした光だな」
小鳥に問う様に言った。
「そうだな」
「そうね、それじゃあ」
「大丈夫だ」
封真はさらに話した。
「また言うがな」
「神威ちゃんは神威ちゃんのままで」
「俺達はまただ」
「昔通りに仲良くなれるわね」
「父さんの言う通りにな」
父の言葉も思い出して述べた。
「きっとな」
「そうなるわね」
「そうだ、じゃあな」
「行ってらっしゃい」
小鳥は笑顔で送った、封真は自宅から自転車で軽く出発した。その頃空汰もビルからビルまで跳びながらだった。
神威のアパートに向かっていた、そして。
その傍の建物の屋上まで来たがあるマンションの貯水タンクの上にだった。
スーツにコート姿の遊人を見てだ、こう言った。
「悪い印象は受けへんが」
「僕もですよ」
遊人も空汰に気付いて彼に顔を向けて笑顔で応えた。
「君はいい人ですね」
「そやな、お互いに善人と言うてええな」
「僕は仮面を被っているかも知れませんよ」
「それでも目を見ればわかるわ」
空汰は笑って応えた。
「あんさんの目は優しく明るいわ」
「そうした目ですか」
「悪人の目やない」
空汰は断言した。
「それがわかるわ」
「そう言われると照れ臭いですね」
遊人はくすりと笑って述べた。
「本当に」
「そうなんやな」
「確かに僕は無闇な殺生はしません」
自分で話した。
「そして人が幸せになりますと」
「嬉しいな」
「不幸になりますと」
「悲しいか」
「はい」
「それが自然やな」
まさにとだ、空汰は話した。
「けどその自然にや」
「思うことがですね」
「それ自体がや」
まさにというのだ。
「兄ちゃんが善人である証拠や」
「そうですか」
「けどな」
それでもとだ、空汰はここで一呼吸置いた。そのうえで帽子の上から右手で頭の後ろを掻きつつ述べた。
第二話 来訪その十二
「お互い難儀なもんやな」
「僕は地の龍の一人でして」
「わいは天の龍の一人やからな」
「戦うしかないですね」
「そやけど出来るだけや」
遊人に少し上目遣いになって笑って言った。
「無難に済ませたいな」
「僕も同じ考えですよ」
「それは何よりや、今から天の龍になるモンを迎えたいんやけど」
「僕も地の龍になる方をお一人」
「目的は同じか」
「そうですね」
「ほなしゃあないか」
「そうですね、はじめましょう」
遊人から言ってだった。
二人はそれぞれの場で構えを取った、そして。
宙を跳びまずは遊人が右手から水柱を放った、それに対して。
空汰は印を結び詠唱してだった。
念動波を出した、それで水柱を相殺し。
念動波をさらに放った、それを連射してだった。
遊人を攻める、遊人はその念動波をかわしつつだった。
水柱を放ち続ける¥、両者が戦うとだった。
周りがどんどん破壊されていく、空汰はそれを見て言った。
「難儀なことになったな」
「結界は貼られていますが」
遊人はそれでもと話した。
「ですから実際はです」
「壊れてへんけどな」
「それは今のことで」
「後々な」
「壊れるかです」
「変わるな、出来たらな」
空汰は自分の望みも話した。
「破壊されへんで災害もなくてな」
「建て替えで。ですね」
「変わることを望むわ」
「そこは僕と違いますね」
「壊れてもかいな」
「それも運命ですから」
空汰と宙を跳び合い力を出し合いつつ話した。
「それに身を委ねることもです」
「ええか」
「そう考えていますので」
だからだというのだ。
「構いませんよ」
「そこは地の龍ってことかいな」
「いえ、僕の考えです」
遊人はこう答えた。
「あくまで」
「そうやねんな」
「はい、では決着をつけますか」
「そやな」
二人で話してそうしてだった。
お互いに渾身の術を出そうとあらためて身構えた、だが。
ここで二人は道を自転車に乗って通る封真を見た、それで共に目を瞠った。
「えっ、嘘やろ」
「馬鹿な、結界を普通の人が入られるなんて」
「どういうことや」
「あの少年は一体」
封真が誰かわからないまま呆然となった。
それで共に闘う気を失ってだった。遊人がまず言った。
「空汰君、もうです」
「ああ、お互いにな」
「闘う気が削がれましたね」
「そうなったわ、あの兄ちゃんを見て」
「では決着はです」
「後日ってことでな」
「そうしましょう」
こう空汰に言うのだった。
「ここは」
「ほなな」
二人でこう話してだった。
戦闘を終えた、そしてだった。
第二話 来訪その十三
空汰は遊人にだ、こう言った。
「ほな兄さん」
「遊人でいいですよ」
「ほな遊人さん」
「はい、何でしょうか」
「またな、そしてな」
「次はですね」
「決着つけよな」
こう言うのだった。
「次に会ったら」
「そうしましょう、お互い手加減なしで」
「そうしよな、遊人さん強いな」
「そう言う空汰君こそ」
「やっぱりわい遊人さん嫌いやないわ」
「僕もですよ」
「お互いこうした立場で合ってな」
それでというのだった。
「残念やな」
「全くですね、ですがこれもです」
「運命やな」
「そうですから」
だからだというのだ。
「それを受け入れて」
「戦うか」
「そうしましょう、では」
「またな」
「お会いしましょう」
遊人はこの時も微笑んでいた、そうしてだった。
跳んでその場を後にした、そしてだった。
空汰は封真の動きを見た、すると。
神威力の部屋に向かっていた、それを見届けてだった。
結界を解いて自分もそこに向かってだった。
封真のところに来て尋ねた。
「あんた何者や」
「俺か?桃生封真だ」
封真は尾高やな声で名乗った。
「今から幼馴染みの部屋に行くんだ」
「その幼馴染みってのは司狼神威っていうか?」
「知っているのか」
「ああ、これから知り合いになるからな」
「これから?」
「あっ、こっちの話や」
今の言葉は笑って打ち消した。
「まあ仲間って言うたらな」
「そうなるんだな」
「そや、有洙川空汰っていうんや」
「有洙川さんか」
「空汰でええで」
ここは気さくに話した。
「名前でな」
「そうなのか」
「そや、それでな」
「これからだな」
「ああ、あんた神威のとこに行くか」
「そして話をするつもりだ」
「ほな一緒におってええか?」
こう封真に申し出た。
「今は」
「神威の知り合いか」
「そうなるわ」
「初対面だが」
封真は空汰をいぶかしげな目で見つつ述べた。
「悪い人じゃなさそうだな」
「胡散臭そうに見えるか?」
「いや」
空汰に顔を横に振って答えた。
「そうは見えないしすぐに名乗ってくれたしな」
「それでかいな」
「ここで名乗る様な人はな」
それこそというのだ。
第二話 来訪その十四
「怪しいことはない」
「まあ元高野山におったと言うとくわ」
「高野山、お坊さんか」
「高校もそっちや、今は休学中やけどな」
「そうなのか」
「まあそれでやな」
「ああ、神威のところにだな」
空汰にあらためて言った。
「これからだな」
「行こな」
「二人でな」
こう話してだった。
封真と空汰は一緒に神威の部屋の前まで来た、そうして部屋のチャイムを鳴らしたが応答はなかった。
それでだ、空汰は言った。
「おらんみたいやな」
「そうだな」
「それならしゃあないな」
「機会をあらためてな」
「また来ような」
「そうするか」
封真は空汰の言葉に頷いた。
「ここは」
「ああ、しかしな」
「しかし。どうしたんだ」
「いや封真さんな」
空汰は彼を横から見てあらためて話した。
「随分と気配がちゃうな」
「気配が?」
「只者ちゃう感じがするわ」
「いや、俺は別に」
封真は眉をわずかに曇らせて空汰に答えた。
「確かに力や運動神経はいい方みたいだが」
「それでもかいな」
「別にだ」
これといってというのだ。
「おかしなところはだ」
「ないんかいな」
「そのつもりだ」
こう空汰に話した。
「別にな」
「そうなんかいな」
「そうだ、別にだ」
これといってというのだ。
「俺はな」
「そやねんな」
「普通に高校生としてな」
「過ごしてるんやな」
「そうだ」
「そうなんやな、けどな」
空汰は笑ってこんなことも言った。
「力強くて運動神経ええんやったら」
「それならか」
「阪神に入ってな」
この愛すべきチームにというのだ。
「四番サードになってくれへんか」
「阪神にか」
「そうしてくれるか」
「いや、俺はヤクルトファンなんだ」
封真は空汰に申し訳なさそうに答えた、二人で神威の部屋の前を後にしてアパートの階段を共に降りつつ話した。
「東京生まれの東京育ちでな」
「それでかいな」
「東京のチームということもあって」
ヤクルトがというのだ。
「野球はそっちなんだ、ただ妹は阪神ファンだ」
「そうなんか」
「父さんもな」
「自分だけヤクルトファンか」
「家じゃな、それに俺は野球はしていないだ」
封真はこのことも話した。
第二話 来訪その十五
「バスケなんだ」
「してるスポーツはか」
「ああ、悪いな」
「謝ることはないで、ほなバスケ頑張ってや」
「また試合があるしな」
封真はそれでと応えた。
「そうしてくるな」
「ほなな」
「ああ、しかしあんたとはまた会う気がする」
「わいもや、それやとな」
空汰は笑って話した。
「仲良くな」
「していきたいな」
「お互いな、ほなな」
「またな」
封真が乗って来た自転車の前でだった。
二人は笑顔で別れた、そうしてだった。
封真は家に帰って小鳥に神威と会えなかったことを話した、そのうえで一家で夕食を食べはじめたが。
ここでだ、小鳥は兄に話した。
「それでその人となの」
「ああ、空汰っていうな」
「その人もなのね」
「神威に用があった様だ」
「そうなのね。神威ちゃんに用があるって」
小鳥はカレイの煮付けを食べつつ述べた。
「一体ね」
「何かな」
「気になるわね」
「そうだな」
封真は何種類もの茸が入った味噌汁をすすりつつ応えた。
「言われてみるとな」
「悪い人じゃなかったのよね」
「そんな気配はなかった」
全く、とだ。封真は答えた。
「別にな」
「そうだといいけれど」
「何でも高野山から来たらしい」
「高野山ってあの」
「和歌山県だったな」
「あちらから来たの」
「そのせいか喋り方はあちらのものだった」
空汰が関西弁を喋っていたことも話した。
「そうだった」
「そうなのね」
「高校もあちらとのことだが」
「それでもなの」
「休学中らしい」
「休学って」
小鳥はそう聞いて顔を曇らせた。
「悪い人じゃなくても」
「謎が多いな」
「そうした人と神威ちゃんに関係があるのかしら」
「これからとも言ってたがな」
「余計にわからないわね」
野菜の酢のものを食べつつ応えた。
「どうも」
「全くだな」
「物凄く気になるわね」
「俺自身にも言ってきたしな」
「お兄ちゃんにも」
「そうだった」
まさにと答えた。
「力とか運動神経のことを話したが」
「それね。お兄ちゃん昔からね」
「身体は頑丈でな」
そしてと言うのだった。
「そうしてな」
「運動神経もあるわね」
「どうしてかわからないが」
それでもというのだ。
「子供の頃からな」
「そうだったわね」
「そして神威も」
彼もというのだ。
第二話 来訪その十六
「そうだったな」
「そうよね」
「そう思うとな」
それこそというのだ。
「俺と神威は似ているか」
「そうかも知れないわね」
小鳥は微笑んで応えた。
「だから仲がいいのかもね」
「そうかもな」
「二人で私のことをいつも守ってくれたし」
笑顔でだ、小鳥はこうも言った。
「そうもしてくれたし」
「お前がいじめられているとな」
「お兄ちゃんかね」
「神威が来てくれたな」
「それで二人共いじめはね」
「ああ、そういうことは嫌いなんだ」
封真は澄んだ顔と声で答えた。
「昔からな」
「そうだったわね」
「だからな」
それでというのだ。
「俺はしなかったし」
「神威ちゃんもね」
「自分から喧嘩をすることはなくてな」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「いじめもね」
「絶対にしなかったな」
「そうだったわね」
「そう考えるとな」
「二人は似ているわね」
「そうだな」
「似ているのは当然だ」
この場でこれまで沈黙を守っていた鏡護が言ってきた。
「それはな」
「それは?」
「どういうことなの、お父さん」
「このこともやがてわかる」
ここでもだった、鏡護は言わなかった。表情を消してそのうえで自分の子供達に対して言わなかった。
「だから今はな」
「言わないの」
小鳥は自分から見て右手封真から見て左手にいる父に応えた。
「そうなの」
「それでいいか」
「それじゃあね」
「父さんがそう言うならな」
小鳥だけでなく封真もそれならと応えた。
「俺達はいい」
「それでね」
「それならな、だが似ているからこそだ」
鏡護は子供達にあらためて話した。
「二人ともお互いを大事にして小鳥もだ」
「大事にか」
「するんだ、若し小鳥に何かあれば」
封真を見て話した。
「それだけでだ」
「駄目なんだな」
「だからな」
それ故にというのだ。
「どうしてもな」
「小鳥はか」
「守ることだ、どういった立場であれな」
「俺は小鳥を守る」
「そうするんだ」
「そんなこと当然じゃないか」
箸と碗を手にしてだ、封真は鏡護に答えた。
「俺は小鳥の兄貴なんだからな」
「そうだな、だったらな」
「小鳥を守らないとな」
「これまでそうだった様にな」
「これからもか」
「そうだ」
まさにというのだ。
第二話 来訪その十七
「守ることだ」
「それが当然じゃないかって思うけれど」
「今はな。だがお前がどうなってもな」
「小鳥はか」
「守れ。約束してくれるな」
封真を見て言った。
「お前は約束は守るが」
「約束するよ」
笑顔でだ、封真は父に答えた。
「ちゃんと今」
「そうか、その約束忘れないな」
「忘れないよ」
「何があってもだな」
「そのことも約束するよ」
やはり笑顔で言うのだった。
「俺は」
「それではな」
「ああ、それじゃあな」
「宜しく頼むぞ」
「俺は小鳥を何があっても絶対に守る」
封真は確かな声で約束した。
「そうするよ」
「それではな、そしてだ」
「そして?」
「神威もそうしてくれたらな」
彼もというのだ。
「わしは満足だ、二人がそうしてくれるなら」
「父さんがいいんだな」
「そうだ、三人もそして世界もな」
「世界も?」
「そうだ、大丈夫だ」
「どういうことなんだ」
封真はまた顔を曇らせて言った。
「一体」
「またわからないこと言うけれど」
小鳥も怪訝な顔で言う。
「お父さんそれは一体」
「本当にどういうことなんだ」
「だから今はな」
「言えないの」
「いずれわかるんだ」
「そうだ」
まさにというのだ。
「そう言っておく」
「そうなの」
「そうなんだな」
「そうだ、悪いがな」
こう言ってだった。
父はこの後また沈黙した、それでこの日はもう子供達に話すことはしなかったが。
夜に眠り夢の中でまた丁にあった、そうして向かい合って座った姿勢で話した。
「わしとしてはです」
「運命は変えられるとですね」
「思っていますので」
だからだというのだ。
「二人、特に息子である」
「彼にですね」
「今からです」
「言っていますか」
「そうしています、そしてです」
丁にさらに話した。
「三人の運命もです」
「幸せなものになる様にですか」
「今から導いています」
「そうなのですね」
「いけませぬか」
「いえ」
丁は首を横に振って答えた。
「その筈がありません」
「そうですか」
「貴方の努力はです」
これはというのだ。
第二話 来訪その十八
「非常にです」
「どうなのでしょうか」
「素晴らしいものです」
鏡護に答えた。
「まさに」
「それは何よりです」
「ですがわらわが見るに」
「夢で、ですね」
「それは適わぬ努力です」
目を閉じ悲しそうな目で述べた。
「まことに残念ですが」
「わしはそうは思いません」
鏡護は自分に話す丁に答えた。
「やはりです」
「運命は一つではないですか」
「はい、ですから」
それ故にというのだ。
「あの三人は必ずです」
「幸せになれますか」
「例えどうなろうとも」
「最後はですね」
「そうなります、封真も小鳥も」
「そして神威も」
「三人も。そして」
鏡護はさらに話した。
「他の天の龍と地の龍の者達も」
「誰もがですか」
「そうなり人間も地球もです」
「滅びませんか」
「そうなる筈です」
「あまりにも幸せ過ぎるのでは」
小鳥は鏡護の言葉に悲しそうな顔で述べた、目を閉じ雪の様に白い顔でそう言う姿は絵になっているがそれは悲しい絵であった。
「やはり」
「人間か世界か」
「そしてです」
「天の龍か地の龍か」
「それしかないのでは」
こう言うのだった。
「未来は」
「そして地の龍の未来をですか」
「わらわは案じ」
その為にというのだ。
「そうならない様に動いていますが」
「それは必要です」
「ですが庚は」
彼女の名前も出した。
「そのわらわに対して」
「地の龍の未来になる様に動いていますね」
「はい、そうしています」
「ですが」
丁に話した。
「わしの考えはです」
「違っていて」
「はい、わしはです」
「どちらの未来でもなくですが」
「最善はなくとも」
それでもというのだ。
「次善にはです」
「出来る様にですか」
「しています」
「だから彼等にですね」
「言っています、そして約束してくれました」
封真それに小鳥の顔を思い出しつつ話した。
「二人共」
「だからですね」
「きっとです」
「次善の未来がですか」
「来る筈です」
「そうなればいいですが。若しそうなれば」
丁は言った。
「わらわも嬉しいです」
「左様ですね」
「誰であってもです」
「命は失われるべきではありません」
「はい、命は最後は必ず消えますが」
それでもというのだ。
「むざむざ失われるものではありません」
「左様ですね」
「はい」
まさにというのだ。
第二話 来訪その十九
「貴方の思われる通りです」
「左様ですね。そして地球もです」
「あるべきですね」
「ですから共にです」
「あるべきですか」
「そう思います、そして」
鏡護はさらに話した。
「丁様には観ていて欲しいです」
「これからのことを」
「きっとです」
「残るか滅びるでなく」
「笑顔でいられる」
そうしたというのだ。
「その様になります」
「そうですか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「観ていて下さい、運命は決まっていないのですから」
「一つか二つではなく」
「無限にあり人は務めるとです」
「最善は無理でもですね」
「次善のです」
そちらのというのだ。
「運命に至れます」
「そうですか」
「ですから」
鏡護は言葉を続けた。
「ご安心を」
「わらわの憂いはですか」
「晴れるでしょう」
「最後はそうなりますか」
「必ず」
「そうなればいいですが。では」
「はい、またですね」
丁の言葉に応えた。
「夢の中に出て来てくれますね」
「そうさせて頂きます、夢はです」
これはというと。
「わらわにとってです」
「世界ですね」
「目は見えず耳は聞こえず」
そうしてというのだ。
「嗅ぐことも喋ることも出来ませんが」
「夢の中ならばですね」
「それが全て出来ます」
そうであるというのだ。
「まさにわらわの世界です」
「だからですか」
「再びです」
鏡護の言う通りにというのだ。
「必ずです」
「来てくれますか」
「その様にさせて頂きます」
「それでは」
「そしてです」
鏡護にさらに話した。
「またお話しましょう」
「宜しくお願いします」
「はい、それと神威ですが」
「何かありましたか」
「彼の運命を知りました」
こう言うのだった。
「そうしてです」
「東京に来たのですね」
「はい、ですが」
それでもというのだ。
「あの様な態度であることは」
「その運命の為ですか」
「そうです」
まさにというのだ。
第二話 来訪その二十
「その為です」
「そうなのですね」
「ですから」
それでというのだ。
「あの様です、ですが」
「本質はですね」
「変わってはいません」
そうだというのだ。
「全く」
「そうですね」
「心優しく人の道を踏み外してはいない」
「まさに子供の頃のです」
「神威ですね」
「そのままです」
まさにというのだ。
「わしもそう見ています」
「左様です、だからですか」
「封真も小鳥もそのままなので」
「子供の頃から」
「必ずです」
丁に微笑んで話した。
「あの三人はです」
「共にですか」
「生きていけます」
「そうなればいいですが」
「必ずなります」
また丁に話した。
「安心して下さい」
「そのお言葉信じたいです」
丁は頭を垂れて述べた。
「わらわも」
「そう言ってくれますか」
「信じられませんが」
「信じてくれとは言いません」
鏡護はそれは否定した。
「運命は無数にあり」
「そのどれに行き着くかですね」
「はっきりとは言えないのですから」
それ故にというのだ。
「やはりです」
「わらわが信じられずとも」
「当然です、ですから」
「これからの運命の流れをですね」
「ご覧になって下さい」
「わらわの為すべきことを為しながら」
「そうしてくれますか」
こう丁に話した。
「ここは」
「はい、では」
「またですね」
「お伺いします」
またしても目を閉じてそうしてだった。
丁は鏡護の前から姿を消した、鏡護もそれを見届けてそのうえで深い眠りの世界に入った。その顔は澄んだものだった。
第二話 完
2022・11・1
第三話 巫女その一
第三話 巫女
八頭司颯姫はその場に案内されそうしてくれた庚に言った。
「これからはなのね」
「ええ、ここで貴女の好きなことをしていいわ」
「好きなだけ」
「そうよ、そうしたらね」
庚は颯姫に微笑んで話した。
「貴女の仕事になるから」
「そうなのね」
「パートナーも用意してるわ」
目の前も無数の機械の管を持つ座乗し頭にも装置を備え身体全体で用いる形のコンピューターを指差して話した。
「ビーストというわ」
「ビースト、獣ね」
「貴女に従う獣よ」
「獣、いえ違うわ」
颯姫は庚にクールは声で答えた。
「彼は」
「じゃあ何かしら」
「友達よ」
それだというのだ。
「言うならね」
「貴女の友達はコンピューターだったわね」
「ずっとそうだったから」
「あの子もなのね」
「ええ、ビーストは友達になるわ」
こう庚に話した。
「今から。そしてね」
「これからも」
「私の友達よ。ただ」
颯姫は庚に顔を向けて話した。
「ここで暮らしていいことはわかったけれど」
「何かしら」
「学校は暫く休学ね」
「世界が滅ぶのだから」
庚は笑って応えた。
「今は休学でもよ」
「もう行かなくていいのね」
「ええ、貴女には必要なものかしら」
学校はというのだ。
「果たして」
「只の時間潰しの場所だったわ」
颯姫は庚に答えた。
「面白くも楽しくもない」
「何もない」
「ただ大勢の人がいるだけの」
「貴女から見ればね」
「家と同じだったわ」
こちらもというのだ。
「家でもね」
「ご両親は健在ね」
「ええ、ただ私を天才と言って」
「褒めるだけね」
「それで私の好きな様にさせてくれるけれど」
「それだけね」
「只の人達よ」
両親達もというのだ。
「何も感じないわ」
「そうね、けれどね」
「それがなのね」
「そうしたこととはね」
学校や家からというのだ、彼女が何も感じない。
「もう永遠によ」
「離れられるのね」
「そうなるわ」
「わかったわ。ではね」
「これよりお願いするわね」
「地の龍の一人として働くわ」
「有り難いわ。これで二人目ね」
庚は腕を組んで楽し気に笑って述べた。
「仲間は」
「私が最初ではないのね」
「やあ、はじめまして」
機械の多い部屋にだ、遊人は入ってきて右手を上げて挨拶をしてきた。
第三話 巫女その二
「二人目の方ですね」
「八頭司颯姫よ」
庚は遊人に紹介した。
「女子高生よ」
「そうですか、はじめまして」
遊人は颯姫に笑顔で応えた。
「麒飼遊人です」
「・・・・・・はじめまして」
颯姫は無表情で応えた。
「さっき庚さんに言われた通りです」
「颯姫さんですね」
「はい」
そうだと言うのだった。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ。ではこれからは」
「同じ地の龍として」
「戦っていきましょう」
「そうします」
「仲良く」
こうもだ、遊人は言った。
「そうしていきましょう」
「それでは」
「では僕はこれで」
「ええ、お仕事によね」
「公務員ですからね」
表の仕事はというのだ。
「そちらにです」
「行くのね」
「はい、庚さんもですね」
「ええ、そろそろね」
庚も笑って応えた。
「表のね」
「お仕事がありますね」
「だからね」
それでというのだ。
「これでよ」
「夜まではですね」
「散開よ」
「左様ですね」
「学校は休めても」
「お仕事はです」
それはと言うのだった。
「そうはいきませんね」
「そう、だからね」
「それでは」
「そうよ、行きましょう」
「そうしましょう」
「定時には終わらせてね」
庚は微笑んでこうも言った。
「ここに戻ってよ」
「お仕事ですね」
「そうしましょう」
「では私はビーストと一緒にいるわ」
颯姫は仕事に行こうとする二人に話した。
「そうするわ」
「いえ、ビーストはあくまで七人の御使いの為のものよ」
庚はビーストに向かおうとする颯姫に話した。
「だからね」
「それでなの」
「そう、今は普通のね」
「コンピューターを使うことね」
「そうしてくれるかしら」
「わかったわ、そうするわ」
「それでご両親には留学中とでもね」
颯姫の家庭のことも話した。
「お話しておくから」
「それでいいのね」
「ええ、心配することはないわ」
全くと言うのだった。
「そちらもね」
「別にそうしたことは」
「ご両親からご近所にも話が出るものよ」
庚は世の中のことも話した。
第三話 巫女その三
「そこで変な噂になってもことだから」
「そういうことにしてなの」
「最初から変な噂が立たない様にね」
その様にというのだ。
「しておくのよ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「お話しておくわね」
「有り難う」
颯姫は表情を変えないまま礼を述べた。
「そう言わせてもらうわ」
「どういたしまして。貴女は機械じゃないわね」
「私は」
「お礼を言う、それはね」
礼を言われてだ、庚は面白そうに微笑んで述べた。
「感謝の気持ちがあるということでね」
「機械ではない証なの」
「そうした感情があるなら」
それならと言うのだった。
「貴女もよ」
「人間なのね」
「紛れもなくね。あと外出してもいいけれど」
颯姫にこのことも許した。
「けれど変装をしておいてね」
「私は留学しているから」
「日本にいるということがわかるとね」
「私を知っている人が私を見て」
「それも厄介だから」
そうなってもというのだ、庚は世の中の常識のことを考えてそのうえで彼女にそうしたことも話すのだった。
「お願いね」
「そうするわ」
「あと食べものや飲みものもあるから」
そちらの用意も出来ているというのだ。
「食材や調味料もね」
「あるのね」
「だからね」
それ故にというのだ。
「お料理も作れたらね」
「作って食べればいいのね」
「そうしていいわ」
「ではそちらも」
「するのね」
「気が向いたら。お料理も出来るから」
こう庚に話した。
「させてもらうわ」
「そうなのね」
「ええ、健康を考えて」
そうしてというのだ。
「作っていくわ」
「それは何よりです。それでなのですが」
遊人は颯姫に優しい笑みで問うた。
「得意料理は何でしょうか」
「ハンバーグ」
颯姫は一言で答えた。
「それと八宝菜、それにアクアパッツァ」
「そうしたものが得意ですか」
「そして好き」
「そうなのですね」
「それじゃあ」
「はい、行ってきます」
遊人は今も笑顔でだった。
出勤し遊人もそうした、そして残った颯姫は今は普通のコンピューターと親しみ時間を過ごしたのだった。
空汰は学校帰りの神威を待っていた、そのうえで。
道を歩く彼の前に出てだ、笑顔で声をかけた。
「よお、はじめましてやな」
「また出て来たか」
神威は空汰を見て目を少しだが鋭くさせて言葉を出した。
「それならだ」
「おいおい、待つんや」
空汰はその神威に少し戸惑った声で言った。
第三話 巫女その四
「わいは別に戦うつもりやない」
「そうなのか」
「わいはお前に話をしに来たんや」
「話だと」
「そや、おひいさんに言われてな」
「おひいさん?」
「お前前に詰襟の兄ちゃんとやり合ったやろ」
空汰はこのことも話した。
「そやったろ」
「あいつか」
玳透のことを思い出して応えた。
「覚えているが」
「あのぼんと一緒でや」
「仲間か」
「仲間って言ったらそやな」
空汰も否定しなかった。
「とはいってもわいは天の龍の一人やが」
「天の龍だと」
「そや、詳しい話は聞いてるか?」
「知らないと言えばどうする」
「それを話すわ」
こう神威に話した。
「その為にもや」
「今からか」
「時間欲しいけどな、そや名乗っておくわ」
空汰はここで自分がまだ名乗っていないことを思い出して言った。
「わいは有洙川空汰、高野山におった」
「和歌山のか」
「そや、それでや」
「今はか」
「ここにおるんや」
「その天の龍としてか」
「そや、それでや」
空汰は話そうとした、だが。
神威は無視して彼の横を通り過ぎた、空汰はその彼に戸惑い顔を向けて声をかけた。
「おい、話すんやが」
「聞くつもりはない」
顔も向けず言葉を返した。
「全くな」
「そう言うけどな」
「俺に関わるな」
こう言うばかりだった。
「いいな」
「しかし運命はな」
「知ったことか」
空汰の方を見ずに言った。
「そんなこともな」
「しかしこの話はな」
空汰はその神威にさらに言った。
「自分にとって大事やぞ」
「関係ない」
自分にはとだ、神威はまたこう言った。
「俺に関わるな」
「おい、そう言うけれどな」
「何度も言わせるな」
激しい拒絶を出してだった。
神威はその場を後にした、空汰も流石にこれ以上は言えず丁の前に帰るしかなかった。そうして丁に報告するが。
丁は目を閉じてだ、こう言った。
「仕方ないです」
「ええんですか」
「はい、そう簡単に来る様なことはです」
「ないですか」
「そうした人ということはです」
まさにと言うのだった。
「わかっていますので」
「それで、ですか」
「またです」
申し訳なさそうにいる空汰に述べた。
第三話 巫女その五
「機会があります」
「ほなまた行ってきます」
「いえ、貴方には別のことをお願いしたいのですが」
「っていいますと」
「不穏な気配を感じます」
だからだというのだ。
「暫くこの場に止まり」
「守りをですか」
「お願いしたいのですが」
「わかりました、地の龍がいますか」
「はい、一人見ています」
丁は空汰に話した。
「間違いなく」
「この前会った兄さんでっか」
「いえ、彼ではないです」
丁は遊人ではないと答えた。
「また別のです」
「地の龍でっか」
「ですから今はです」
「こっちにおってですね」
「守りをお願いします」
「ほなそうしますわ」
「それで先程新たに天の龍が一人来てくれました」
丁はこのことも話した。
「それで、です」
「その人がですか」
「貴方と代わる様に出て行きましたが」
「神威の説得にですか」
「赴いてくれます」
「そうでっか」
「彼のことは安心して下さい」
こう言うのだった。
「是非共」
「ほなそういうことで」
「宜しくお願いします」
こうしてだった。
空汰は今は丁の傍にいて彼女とこの場を守ることになった、とはいっても建物から出ることもあってだ。
その建物の傍にあるお好み焼き屋で食べているとだった、声がかかった。
「混んでいるので相席をお願いしたいですが」
「ええですけど・・・・・・あっ」
「おや」
遊人だった、二人は思わずだった。
顔を見合わせて笑った、そうして相席になってだ。
遊人はお好み焼き、いか玉を食べつつ海老玉を食べている空汰に話した。
「今日はお仕事でここまで来たので」
「戦いはなしやな」
「はい、お互い仲良く食べましょう」
「そうしよな、しかしお仕事って」
「区役所に務めているのですが」
空汰に食べつつ話した。
「今日はこちらまでです」
「用事があってかいな」
「来ました」
「そうなんやな、しかし公務員かいな」
「そうなんですよ」
「いけてるからホストかいなって思ったけど」
「ははは、よく言われますよ」
遊人は屈託なく笑って応えた。
「しかも若いと」
「ってことは」
「これが意外とおじさんです」
そうだというのだ。
「それで花の独身です」
「もてそうやけどな」
「では誰か紹介してくれますか」
「それはわいの台詞や」
空汰は遊人に笑って返した。
「彼女募集中やねん」
「おや、そう言う空汰君こそです」
「もてそうかいな」
「そう思いますが」
「お寺におるとちょっとな」
空汰は笑ったまま事情を話した。
「周りはお坊さんばかりで」
「それで、ですか」
「そういうつてはないねん」
「そうなのですね」
「しかし遊人さんもてへんのか」
「ですから独身です」
「意外やな」
彼のその整った顔を見て話した。
第三話 巫女その六
「性格も悪くないと思うし」
「縁ですね」
それだとだ、遊人は答えた。
「それがありませんと」
「相手も出来んか」
「そうです、ですから」
それでというのだ。
「今もです」
「そのうち出来たらええな」
「応援してくれますか」
「そうさせてもらうわ」
こう本人に言うのだった。
「わいとしては」
「有り難うございます、君とはこれからもです」
「わいも思うで」
「仲良く出来ますね」
「きっとな」
「そうですね、若しですよ」
遊人はこんなことも言った。
「戦いが終わってお互い生きていたら」
「仲良うしよな」
「はい、そして」
空汰にさらに言った。
「お互いに相手の人がいましたら」
「四人でな」
「楽しく過ごしましょう」
「そうしたいな」
「そうですね」
「それで遊人さんやないって言われたけど」
ここで丁から言われたことを話した。
「実際にちゃうな」
「何が違うのですか?」
「おひいさん、丁さん狙ってる地の龍がおるって言うけれど」
「そうなのですか」
遊人はそう聞いて意外という顔で述べた。
「僕は聞いてませんが」
「ああ、ほなちゃうな」
「はい、今そうしたことをしようとです」
その様にというのだ。
「話してはいません」
「そうなんか」
「集まっている地の龍の中では」
「そうなんやな」
「まあ大体誰かわかりました」
今度は気付いた顔になって述べた。
「その方は」
「知ってる人かいな」
「お名前は」
「そうなんかいな」
「やがてです」
微笑みだ、遊人はさらに話した。
「空汰君達もです」
「その人のこと知るか」
「はい、ですが」
遊人はこうも言った。
「おそらくお名前だけは既にです」
「知ってるか」
「そうかと」
「こうした世界の人か」
「そうです、僕も実は元々こちらの世界にいますが」
「その人もやな」
「そうなります」
こう語った。
「ヒントはここまでです」
「後は自分で考えろか」
「そうなります」
「こっちの世界の人で」
空汰は考える顔になって述べた。
「地の龍でありそうでか」
「もう既に空汰君も知っている人です」
「名前だけでもやな」
「そうです」
「となるとや」
考える顔のままだ、空汰は述べた。
第三話 巫女その七
「あいつか」
「察せられましたね」
「一人思ったけど」
「さて、どうでしょうか」
「まあそのうちわかるな」
「そうですね、ただ僕もです」
遊人はお好み焼きを食べつつさらに言った。
「その人とはです」
「会ったことないか」
「基本表の世界ですからね」
自分が暮らしている世界はというのだ。
「公務員ですから」
「それでやな」
「はい、その人ともです」
「これまでか」
「お会いしたことはありません」
「そやねんな」
「お会い出来ることを楽しみにしています」
このことは微笑んで話した。
「是非」
「そうなんやな」
「他の地の龍の皆さんと」
「仲間やからやな」
「左様です、そしてです」
遊人はさらに話した。
「天の龍の方々ともです」
「会いたいんやな」
「空汰君も嫌いではないですし」
「それでか」
「是非」
「そやねんな、どうもな」
空汰は語る遊人の顔を見て思った。
「こうして一緒に飯食って前以上に話をしてな」
「そうしてですか」
「そしてや」
そうしてというのだ。
「やっぱり嫌いやないわ」
「そうですか」
「ああ、悪い印象は受けんわ」
「だからですか」
「ほんま出来たらな」
一呼吸置いてまた話した。
「仲良うしたいわ」
「そう言ってくれますか」
「そやからお互いな」
「戦いで生き残れば」
「遊びたいな」
「いいですね」
「まあわいはあかんやろな」
空汰は笑って述べた。
「そうした運命や」
「おや、何か言われていますか」
「ちょっとな、残念やけどな」
「ははは、それを言うなら僕もでしょうね」
遊人は優しく笑って応えた。
「そんな気がします」
「この戦いでか」
「いなくなるでしょうね、ですが」
「それでもかいな」
「それもまた運命なので」
だからだというのだ。
「いいですよ」
「運命に身を委ねるか」
「それが僕の考えです」
「そやからか」
「はい、ですから」
そうした考えだからだというのだ。
「この戦いでどうなろうともです」
「受け入れるか」
「そうします」
こう空汰に話した。
第三話 巫女その八
「喜んで」
「そうか、まあそれでもやな」
「若しですね」
「お互い生き残ったらな」
「一緒に遊びますか」
「他の生き残ってるモンと一緒にな」
「いいですね、そうしましょう」
二人で笑顔で話した、そうして共にお好み焼きを食べつつ他の話もしていった。二人は決して嫌い合い憎み合ってはいなかった。
神威は今は図書館にいた、そこでだ。
本を探していたがふとだった。
後ろの席にいる嵐に気付いてだ、こう言った。
「今度は別の奴か」
「気付いたのね」
「最初からな」
嵐に強い声で返した。
「お前がここに入った時からな」
「そうなのね」
「また天の龍か」
「ええ、鬼咒嵐」
嵐は自ら名乗った。
「貴方の察し通り天の龍の一人よ」
「やはりそうか」
「それでだけれど」
「俺の考えは変わらない」
座っている嵐に背を向けて本棚の本をチェックしつつ述べた。
「関わるな」
「そう言うのね」
「何度も言う、そしてだ」
「どうしてもと言うのなら」
「相手になる」
こう言うのだった。
「俺は女でもだ」
「容赦はしないというのね」
「来るのならな」
「そうなのね」
「それでどうする」
「姫様から戦うなとは言われてないわ」
嵐は落ち着いた声で述べた。
「だからね」
「やるか」
「いえ」
今度は一瞬目を閉じて答えた。
「今は止めましょう」
「そうするか」
「何か不穏な気配を感じたわ」
「そうだな、またか」
神威は顔を顰めさせて言った。
「最近よく来る」
「この気配の持ち主が」
「そうだ、俺はもう出る」
図書館をというのだ。
「来る奴とはだ」
「戦うのね」
「さっきお前に言った通りだ」
「それでなのね」
「出る」
「私も行くわ」
嵐は席を立って言った。
「どちらにしろここでの用はよ」
「俺と会うことか」
「本を読んでいたけれど」
見れば一冊開いている。
「もう読み終わったから」
「そうなのか」
「ええ、伊勢物語をね」
この作品をというのだ。
「現代語訳だけれどね」
「読んでいたか」
「そうしていたけれど」
「読み終わったか」
「そう、だからね」
「俺と共にか」
「戦うわ」
そうするというのだ。
「いいかしら」
「勝手にしろ」
これが神威の返事だった。
第三話 巫女その九
「俺は協力しない」
「ただ戦うだけね」
「同じ敵とな」
「それでいいわ、ではね」
「行って来る」
「ご一緒するわ」
二人はこう話してだった。
図書館を出た、するとそこに黒いスーツとネクタイそれにサングラスの者達がいた。神威はその彼等を見てだった。
即座に身構えた、そして嵐は。
日本刀を出した、神威はその彼女を見て言った。
「それがお前の武器か」
「そうよ、私はこれを用いてよ」
嵐は神威に答えて述べた。
「戦うわ」
「そして巫女の術だな」
「気付いていたのね」
「気配でわかる」
嵐を横目で見つつ述べた。
「それはな」
「そうなのね」
「ではだ」
「戦いましょう」
「これからな」
こう話してだった。
神威は宙を駆り空手の技で敵を倒していく、嵐もまた。
宙を舞い刀を振るって戦う、敵も攻撃をしてくるが二人の敵ではなく次々と倒されていった、そうしてだった。
最後の一体を倒した時だ、神威は言った。
「まただ、倒せばだ」
「姿を消したけれど」
「こいつ等は人間ではないな」
「式神ね、ただ」
「ただ。何だ」
「私が感じることだけれど」
嵐はこう前置きして神威に話した。
「この気配は地の龍ではないわ」
「違うのか」
「そう感じたわ。それに」
嵐は戦いを終えて刀を収めつつ神威に話した。
「今彼等も貴方を必要としているわ」
「俺をか」
「それならよ」
「俺を狙うことはか」
「するとは思えないわ」
「俺を必要としているからか」
「ええ、そうよ」
「何故かは聞かない、だがだ」
神威は嵐に言った。
「俺を狙う奴はいるか」
「ええ、誰かがね」
「そうだ、そしてだ」
それでと言うのだった。
「それは関りのある奴だな」
「そのことは間違いないわ」
嵐は神威の今の言葉にも答えた。
「だからこそよ」
「俺を狙ってきたな」
「その通りよ」
「だがお前の仲間ではないか」
「地の龍でもね」
「では誰だ」
神威は表情を変えずに問うた。
「一体」
「わからないわ、けれど戦いは終わって」
嵐はあらためて述べた。
「貴方が来ないというし」
「だからか」
「今日はこれで」
「帰るか」
「そうするわ、また会いましょう」
「何度会っても同じだ」
神威はこの時も表情を変えずに述べた。
第三話 巫女その十
「俺の考えは変わらない」
「あくまでなのね」
「そうだ、何度も言うがな」
「人の考えは変わるわ」
嵐は静かな声で答えた。
「特に運命が関われば」
「また運命か」
「知っていて、運命は貴方もよ」
神威もというのだ。
「包んでいるわ、そしてよ」
「俺はその運命にか」
「従うことよ」
「そんなこと知るか、運命があったとしてもだ」
神威は今度は強い声で言った。
「俺は自分の手でだ」
「運命を切り開くの」
「そうしてやる、全てが決められているなんてことはだ」
「ないというのね」
「あるものか、運命は自分自身でだ」
「作るものだというのね」
「そうだ」
まさにというのだ。
「何が決められている、まだ何もだ」
「決まっていないのね」
「そうだ、だからだ」
それ故にというのだ。
「俺は俺の力でだ」
「進んでいくのね」
「そうする、天の龍も地の龍もな」
全く、そうした言葉だった。
「関係ない、だからだ」
「来ないのね」
「そういうことだ、ではだ」
「これでなのね」
「去る、ついて来るな」
こう嵐に告げてだった。
神威はその場を後にした、その彼を見送ってだ。
嵐はその場を後にした、そして丁の前でだった。
彼に神威のことを話した、すると丁はこう言った。
「やはりですか」
「こうなることはですか」
「はい」
まさにという返事だった。
「夢で」
「そうでしたか」
「彼が来ることを望みます」
丁は自分の望みも述べた。
「ですが」
「それはですか」
「やばりです」
どうしてもというのだ。
「まだです」
「先のことになりますか」
「若しくは」
「地の龍になるか」
「どちらかです」
こう言うのだった。
「まさに」
「そうですか」
「若しです」
丁はさらに話した。
「彼が天の龍になればです」
「世界は救われますか」
「はい、しかしです」
「逆に地の龍になれば」
「世界は滅びます」
「どちらかですか」
「そしてどちらの運命でもです」
天の龍になろうとも地の龍になろうともというのだ、丁は嵐に対して悲しい顔をしたまま話していった。
「神威は過酷な道を歩みます」
「そうなるのですか」
「そうです、それは避けられません」
「ではどちらでも」
「彼には辛い未来が待っています」
そうなるというのだ。
第三話 巫女その十一
「大切なものを失う」
「若しかして」
「おそらく彼もです」
神威自身もというのだ。
「そのことを知っていてです」
「どちらになろうともですか」
「しないのです」
全くというのだ。
「天の龍にも地の龍にも」
「そうした考えがあるのですか」
「ですが運命は避けられず」
神威がどうしようがというのだ。
「そして選択の時は間もなくです」
「それでは」
「はい、貴女達のすべきことはです」
「地の龍と戦い世界を護る」
「その前にです」
「七人目の天の龍である彼をですね」
「迎えて下さい」
是非にと言うのだった。
「宜しくお願いします」
「わかりました、では」
「また機があれば」
「彼の前に行かせて頂きます」
「宜しくお願いします、そしてです」
丁はここで話題を変えた、その話題はというと。
「今貴女の他に天の龍はここに来ていますので」
「私の前にですね」
「来てくれた方がおられます」
「そうなのですか」
「その方とも会って頂けますか」
「それは」
今の丁の話にはだ、嵐は。
戸惑いを見せてだ、こう言ったのだった。
「どうも」
「お嫌ですか」
「共に戦う人であることはわかっていますが」
それでもと言うのだった。
「私は人と接することが少なかったので」
「だからですか」
「神威と会った時もです」
「勇気がいりましたか」
「そうでした」
実際にというのだ。
「ですから」
「いえ、心配は無用です」
丁は躊躇を見せる嵐に諭し安心させる様に話した。
「貴女にとって悪い方ではありません」
「そうなのですか」
「ですから」
「安心してですか」
「会われて下さい」
こう言うのだった。
「是非」
「丁様がそう言われるのなら」
「わらわの言うことを信じてくれますか」
「そのお言葉に嘘偽りは感じません」
だからだというのだ。
「決してです」
「そうですか、では」
「その方とです」
「会って頂けますね」
「はい」
嵐は確かな声で約束した。
「そうさせて頂きます」
「ではお願いします」
「その様に」
「今天の龍はこの東京に集おうとしています」
「私達だけでなく」
「わらわの前には二人が来てくれまして」
そうしてというのだ。
「二人は最初から東京にいてです」
「二人ですか」
「彼等もやがて来てくれます」
そうなるというのだ。
第三話 巫女その十二
「そしてです」
「さらにですか」
「一人がすぐに来てくれてまた一人もやがて」
「来てくれますか」
「いえ、その方は中々来ないでしょう」
「そうですか」
「そしてです」
丁は一呼吸置いてから嵐に話した。
「最後の一人としてです」
「神威、彼がですか」
「います」
「そうなっているのですね」
「そうです、では」
「またですね」
「お願いします、そして今は」
丁は嵐に今取って欲しい行動の話もした。
「こちらに留まってくれますか」
「この場所にですか」
「はい、あとお部屋もです」
「ここで暮らせるですね」
「そうした場所も用意していますので」
「それはどちらでしょうか」
「クランプ学園です」
そこだというのだ。
「そこに他の天の龍の方もです」
「入ってですか」
「暮らして頂きます」
「そうですか」
「はい、そして」
さらにと言うのだった。
「戦って頂きます」
「ではその様に」
「それでは。そしてもう夜なので」
だからだと言うのだった。
「そちらに入られて」
「クランプ学園ですか」
「理事長さん達はもうご承知で」
「私達の戦いのことを」
「そのうえで全面的にです」
「協力してくれていますか」
「そうです、クランプ学園の場所ですが」
「こちらです」
玳透が来てだった。
嵐に一枚の地図を渡した、嵐はその地図を見て話した。
「ここから近いですね」
「そうですね」
「はい、それでは」
「今はですね」
「こちらに入らせて頂き」
そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「休んで頂けますか」
「お食事もあるでしょうか」
「勿論です」
こちらもだ、丁は答えた。
「好きなものをお召し上がり下さい」
「有り難いです、それでは」
「生活には困らないので」
だからだと言うのだった。
「ですから」
「それで、ですか」
「お食事もです」
こちらもというのだ。
「安心して下さい」
「何から何まで有り難うございます」
「世界の為に戦って頂くのですから」
それ故にというのだ。
「ですから」
「生活のことはですか」
「一切です」
まさにというのだ。
第三話 巫女その十三
「ご心配なく」
「そうしていいのですね」
「はい、その様に」
「それでは」
「この世界をお願いします」
丁は嵐にあらためて言った。
「くれぐれも」
「救います」
嵐も答えた。
「その様にします」
「それでは」
「また参上します」
丁に深々と頭を下げてだった。
嵐は彼女の前を後にした、そうして彼女の場を出て建物を後にしようとするが扉を出るとそこはだった。
赤絨毯の世界だった、それで議員バッジを付けたスーツ姿の者達が彼女を見て目を瞬かせて話をした。
「高校生!?」
「女の子だな」
「議事堂の見学かな」
「いや、もう夜だしな」
「そんな時間じゃないだろ」
「じゃあどうして議事堂なんかにいるんだ」
「迷ったのか?」
こうした話をしてだった。
すぐに警備員が呼ばれたが警備員もこう答えるばかりだった。
「不審者の発見も報告もです」
「ないのかい?」
「はい、全く」
「じゃああの娘は」
「ああ、何でもないよ」
ここで与党の大物議員が言ってきた。
「君達もやがてわかるよ」
「やがて、ですか」
「そうなのですか」
「うん、あの娘はあの方の下にいる娘だよ」
若い議員と警備員に話した。
「間違いなくね、どんな仕事かは知らないけれど」
「あの方といいますと」
若い議員は怪訝な顔で言った。
「まさか」
「ああ、君も聞いたんだ」
「噂ですが」
「噂じゃないよ、現実にだよ」
「この国会議事堂にですね」
「そうした方がおられてね」
そうしてというのだ。
「そのうえでだよ」
「働いておられますか」
「日本そして世界の為にね」
「そうなんですね」
「他言は無用だが」
そうした件であるがというのだ。
「知っているならそれでいいよ」
「わかりました」
「君もだよ」
大物議員は若い警備員にも話した。
「守秘義務ということでね」
「仕事のうえのですね」
「そこはね」
「はい、承知しています」
大物議員に確かな声で答えた。
「働いているからには」
「特にこうした場所ではね」
「守秘義務となれば」
「他言は無用だよ」
「そうします」
「この国のだよ」
まさにというのだ。
「根幹に関わる話だからね」
「やがて知って」
「詳しいことをね、しかしね」
「話す必要はない」
「穏やかに言えばね」
大物議員は笑って述べた。
第三話 巫女その十四
「そうなるよ」
「そうですか、それじゃあ」
「我々はお昼に彼女を見た」
大物議員はわざと時間をずらして発言した。
「そうだったね」
「はい、そうでした」
「お昼でした」
二人共こう答えた。
「極めて真面目な娘でした」
「しかも礼儀正しい」
「そうだよ、夜に高校生がいる筈がないんだ」
この国会議事堂にはというのだ。
「そうだね」
「その通りです」
「まさに」
「そういうことでね、では仕事に戻ろう」
大物議員は他のいぶかしむ議員や警備員達にも口裏を合わせる様に話した、そうして嵐のことは隠した。
そして庚はというと。
遊人それに颯姫と紅茶を飲みつつ話した。
「三人目を呼びましょう」
「どなたでしょうか」
「ええ、塔城家といえばわかるかしら」
「あの薬物の大手を経営している」
「他にも科学的な分野で大きな力を持つね」
「あのグループの経営家ですね」
「あの家の人よ」
こう遊人に話した。
「三人目の地の龍はね」
「そうですか、ではです」
遊人は笑顔で述べた。
「僕が迎えに行きます」
「いえ、今回も私が行くわ」
庚はその遊人に紅茶を飲みつつ笑顔で述べた。
「そうさせてもらうわ」
「そうなのですか」
「貴方は最近忙しいわね」
遊人に顔を向けて述べた。
「表の方の」
「おや、ご存知でしたか」
「知っているわ、最近来る時間が遅いから」
「それはどうも。ですがもうすぐ終わりますので」
「それでもいいわ。どちらにしてもあちらには用事があるから」
それでと言うのだった。
「私がね」
「行かれますか」
「そうしてくるわ、それで留守はね」
「任せて」
颯姫が答えた。
「そちらは」
「ええ、若しもね」
「天の龍が来ても」
「貴女がいてくれたら」
「守りは大丈夫ね」
「貴女がビーストを使ってくれたら」
それならというのだ。
「もうね」
「充分ね」
「ええ、だからね」
「三人目については」
「私が行くわ、そしてね」
そのうえでと言うのだった。
「迎えて」
「働いてもらうのね」
「そろそろ欲しいものもあるし」
庚はこうも言った。
第三話 巫女その十五
「だからね」
「今回もなのね」
「私が行くわ」
はっきりとした声での判事だった。
「任せてね」
「それじゃあ」
「あと四人ですね」
遊人は笑って話した。
「地の龍は」
「そうね、そして四人共もうね」
「居場所はですか」
「ここだから」
「東京ですね」
「集まるのは近いわ」
七人全員がというのだ。
「そして皆でよ」
「地球を救いますね」
「ええ、そして」
ここでだ、庚は。
やや険しい顔になってだ、こうも言った。
「あの人も」
「あの人?」
「誰かしら」
「あっ、何でもないわ」
二人に問われ即座に打ち消した。
「気にしないで」
「そうですか」
「何でもないのね」
「ええ、兎に角ね」
庚は二人にあらためて話した。
「私達はね」
「地の龍を七人揃える」
「まずはなのね」
「そうすることよ、そして三人目はね」
二人にあらためて話した。
「私がよ」
「行ってくれるのですね」
「そうさせてもらうわ、ではね」
「宜しくお願いします」
「それではね。平和的にお話が進めば」
庚は遊人に目を細めさせて述べた。
「いいわね」
「そうですね、やはりです」
「地球を救うにしても」
「無駄な争いごとは避けるべきです」
「そうね、だからね」
「争いはですね」
「避けられれば」
それが出来ればというのだ。
「それでね」
「越したことはないですね」
「ええ、では二人はね」
「それぞれでですね」
「やるべきことを果たしてね」
庚は穏やかな声で述べた、そうしてだった。
紅茶を飲んでから再びこれからのことを話した、地の龍達も彼等の為すべきことを為さんとしていた。
第三話 完
2022・11・8
第四話 神犬その一
第四話 神犬
護刃は東京に着いた、そうしてだった。
道を聞いていたがここで逆に軽そうな青年にこう言われた。
「君可愛いからさ」
「そうですか?有り難うございます」
護刃はまずは笑顔で応えた。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
「そうなんだ」
「はい、小さいとか言われたことはありますが」
「いや、小さくてもさ」
青年は護刃に笑って返した。
「そういうの関係ないよ」
「可愛いってことにはですか」
「そうだよ、それで可愛いから」
青年は護刃にあらためて話した。
「これからどう?いいお店知ってるよ」
「お店ですか」
「アイスが美味しいね」
「アイスですか、私アイス大好きなんですよ」
護刃はアイスと聞いて別の耳を出さんばかりに喜びを出して言った。
「それじゃあ」
「うん、それでね」
青年はそこから住所と電話番号を聞き出そうと思いつつさらに言った。
「これからね」
「はい、じゃあ犬鬼も一緒ですね」
「えっ、犬?」
「はい、犬輝も」
「犬って何処に」
青年は護刃に言われて戸惑いつつ周りを見回して言った、そしてだった。
たまたま傍にいた中年女性が連れている茶色の毛のトイプードルに気付いた、それでこの犬かと思いつつ言った。
「あの子かな」
「違います、狼に似た感じの」
「狼?」
「はい、そうです」
「それってハスキーかな」
青年はシベリアンハスキーが狼に似ていることから言った。
「それじゃあ」
「違います、色は同じ感じですが」
「それでなんだ」
「もっと小さいですね」
護刃は自分の傍にいる彼を見つつ話した。
「ハスキーよりも」
「いるんだ」
「はい、ここに」
指差して話した。
「いますと」
「ええと、見えないけれど」
「そうなんですか、犬鬼が見えないとです」
護刃は青年に申し訳なさそうに述べた。
「残念ですが」
「そうなんだ、じゃあね」
青年は護刃にペースを乱されもういいと思って応えた。
「俺はね」
「これで、ですか」
「うん、それじゃあね」
こう言って彼女の前から姿を消した、そして後日友人にどうも見える女の子と会ったと話をしたがそれは護刃の知ることではなかった。
護刃は犬鬼を連れて道を聞きつつ国会議事堂に向かった、その時に。
たまたまだ、交通事故に遭いそうな小さな男の子をだった。
犬鬼が助けた、それで彼女は笑顔で褒めた。
「犬鬼よくやったね」
「ワンッ」
「あれっ、さっきのは」
「ママ、僕誰かに助けられたよ」
助けられた子供は護刃達の傍で心配する母親に話した。
「今ね」
「そうね、けれど」
「見えないよね」
「何に助けられたのかしら」
「神様かな」
少年はこう母親に言った。
「ひょっとして」
「そうかしら、そうだったらね」
「うん、神様に感謝しないとね」
「そうだよね」
親子でそうした話をした、すると。
第四話 神犬その二
そこにだ、草薙が来て犬鬼のところに来て膝をついて彼の頭を撫でて優しい笑顔でこんなことを言った。
「いい子だ、よくやったな」
「ワンッ」
「あっ、犬鬼が見えるんですか」
護刃は草薙を見て彼に嬉しそうに尋ねた。
「そうなんですか」
「見える?ここに普通にいるじゃないか」
草薙はその護刃に顔を向けて答えた。
「狼に似た黒と白のな」
「そうですか、ちゃんと見えるんですね」
「見えるって意味がわからないが」
草薙はそれでもと述べた。
「お嬢ちゃんの犬なんだな」
「はい、そうです」
護刃は明るい笑顔で答えた。
「犬鬼は」
「そうなんだな、いい子だからな」
「だからですか」
「これからも大事にしてやりなよ」
ここでもだ、草薙は優しい顔で話した。
「どの命にでもそうだけれどな」
「命あるものならですね」
「ああ、誰でもな」
「そうですよね、ところで軍隊みたいな服ですが」
「ああ、俺は自衛官なんだ」
草薙はここで立って話した。
「陸上自衛隊のな」
「そうなんですね」
「そこで働いていてな」
それでと言うのだ。
「そうなったのも命を護りたいからだよ」
「それが自衛隊のお仕事ですからね」
「ああ、そう思って高校を卒業してな」
そうしてというのだ。
「入隊したんだ、それで今もな」
「自衛隊におられるんですね」
「陸自にな」
所属先のことも話した。
「いるさ、だから何かあったらな」
「陸上自衛隊にですね」
「志勇草薙、今は一等陸曹だ」
階級のことも話した。
「歳は三十だ」
「あっ、私よりずっと年上ですね」
「おいおい、これでもまだ若いつもりなんだがな」
草薙は咎めても口調も表情も優しいままだった。
「おじさんとは言わないでくれよ」
「そんなこといいません」
護刃はそれは否定した、それも真面目に。
「絶対に」
「そうか、嬢ちゃんいい娘だな」
「猫依護刃といいます」
ここで護刃も名乗った。
「中学生で群馬から来ました」
「そこからか」
「東京って賑やかですね」
「そうだろ、こんな面白い街はそうそうないな」
草薙は優しい顔で微笑んだまま応えた。
「ずっといても飽きないよな」
「そんな街なんですね」
「ああ、ただな」
ここでだ、草薙は。
自分の使命を思ってだ、一瞬だが悲しい目になって言った。
「出来たらずっとこのままでいて欲しいがな」
「きっとそうなりますよ」
護刃は草薙のその言葉ににこりと笑って応えた。
「東京も私も草薙さんも」
「ずっとか」
「このままですよ、そして世界も」
護刃は無意識のうちに自分の使命を思ってこう言った。
第四話 神犬その三
「ずっとです」
「このままか」
「はい、きっとそうなりますよ」
「そうだといいんだがな、まあ兎に角な」
「兎に角?」
「また機会があったら会おうな」
草薙はここでも優しい声で述べた。
「その時はまたな」
「宜しくお願いします」
「ああ、こっちこそな」
草薙は護刃に手を振って別れを告げた、護刃も手を振った。そうして別れたその後で再びであった。
道を聞いて国会議事堂に向かった、丁はその彼女を察して言った。
「いよいよ三人目の天の龍がです」
「こちらに来ますか」
「はい」
玳透に答えた。
「そうです」
「では迎える用意を」
「お願いします、そして空汰さん嵐さん」
傍にいる二人に声をかけた。
「再びです」
「神威のところにですね」
「行ってくれますか」
嵐に答えた。
「そうしてくれますか」
「わかりました、では私が」
「いえ、今度は二人でお願いします」
こう返したのだった。
「そうして欲しいのですが」
「二人ですか」
「はい、地の龍も何人かで」
「来るかも知れないですか」
「ですから」
その危険があるからだというのだ。
「ここはです」
「二人で、ですか」
「行ってくれますか」
こう言うのだった。
「この度は」
「わかりました」
嵐は丁の言葉に素直に応えた。
「私はそれで」
「わいもですわ」
空汰は笑顔で応えた。
「ほな二人で」
「お願いします」
「今から行ってきますわ」
こうしてだった。
二人で神威を迎えに行った、二人は空汰が言う神威の通学路に向かった。ビルからビルへ跳んで進むが。
その途中でだ、空汰は嵐を見て言った。
「姉ちゃん別嬪さんやな」
「そうかしら」
嵐は前を向いたまま無表情で応えた。
「私は別に」
「あんた伊勢の巫女さんやったな」
空汰は嵐にこうも言った。
「確か」
「それがどうかしたのかしら」
「それも隠し巫女やな」
「知ってるのね」
「ああ、伊勢神宮の秘伝中の秘伝を授かってる」
嵐をにやりと笑って見つつこのことを話した。
「まさにな」
「伊勢神宮の柱ね」
「そうした人やろ」
「そこまで知っているのね」
「一応な、わいも高野山におってな」
空汰は自分のことも話した。
「色々教わって来たさかいな」
「星見の僧正様かしら」
「何や、じっちゃんのこと知ってんのかいな」
「お会いしたことはないけれど」
それでもとだ、嵐は答えた。
第四話 神犬その四
「お聞きしたことはあるわ」
「そうなんやな」
「あの方が貴方のお師匠様ね」
「そや、怒るとめっちゃ怖いけどな」
空汰は今度は純粋に笑って答えた、二人でビルとビルの間を跳びつつそのうえで話をしていくのだった。
「優しい時はめっちゃ優しいねん」
「出来た方なのね」
「要するにな」
まさにと言うのだった。
「そうした人やで」
「そうなのね」
「それでな」
空汰はさらに話した。
「そのじっちゃんに色々教わってや」
「私のことも知ってるのね」
「それが嬢ちゃんとは知らんかったけどな」
今度はやや真面目な顔で話した。
「それも天の龍の一人やとはな」
「伊勢神宮は天照大神の社よ」
嵐は前を向いたままこのことを話した。
「それならよ」
「この世を照らす女神様やしな」
「皇室の祖神でもあられるし」
このこともあってというのだ。
「まさによ」
「この世を護る為にやな」
「立つのも当然よ」
「それでかいな」
「私もよ」
その伊勢の隠し巫女である彼女もというのだ。
「天の龍の一人であっても」
「当然か」
「そうよ」
空汰に告げた。
「それもね」
「そういうことか」
「ええ、そして貴方が天の龍なら」
空汰自身のことを彼に話しもした。
「これからね」
「一緒にやな」
「戦いましょう」
「ああ、あんたに決めたしな」
空汰はまた笑って今度はこう言った。
「今な」
「決めた?」
「わいは神威を助ける為に天の龍におってや」
そうしてとだ、嵐に話した。
「おなごを助けてな」
「女の人を」
「そして死ぬってな」
その様にというのだ。
「じっちゃんに言われたんや」
「女の人をなのね」
「そや、それでや」
嵐にさらに言った。
「あんさんに決めたわ」
「まさかと思うけれど」
「そのまさかや、あんたを助けてな」
そうしてというのだ。
「そのうえでや」
「死ぬというの」
「そうするわ、じっちゃんの星見は外れん」
空汰は前に向き直って言った。
「それだけの腕があるねん」
「高野山の高僧の方だけあって」
「弘法大師様の次位にや」
「星見が出来るのね」
「そやからな」
それだけにというのだ。
「絶対にや」
「その占いは外れないのね」
「大師様の占いは外れたことはないが」
弘法大師即ち空海上人のそれはというのだ。
第四話 神犬その五
「それに次ぐじっちゃんもな」
「そうなのね」
「わいが思うにな」
「僧正ご自身はどう言っておられるのかしら」
嵐は語る空汰に無表情のまま問うた。
「一体」
「自分の星見のことをか」
「ええ、外れないと言っておられるのかしら」
「いや、じっちゃんが言うにはな」
本人はとだ、空汰は答えた。
「自分も人間やさかい」
「人は間違えることもあるわね」
「絶対の存在やない」
人間はというのだ。
「絶対のものがあるとすればな」
「神仏ね」
嵐は伊勢の巫女の立場から答えた。
「そうね」
「そう言われた、そやからな」
「僧正様の占いも」
「じっちゃん本人が言うにはな」
「外れるのね」
「そう言ってるわ」
「そうなのね、では貴方も」
「いや、わいは死ぬわ」
嵐に笑って顔を向けて答えた。
「じっちゃんの言うことはこれまで間違いはなかったさかいな」
「僧正様を信じておられるのね」
「その話された時その女の人が別嬪さんである様に願ってとも言うたけど」
僧正にというのだ。
「まあな」
「貴方はこの戦いで死ぬ」
「そのつもりや、この世界と姉ちゃん守って死ねるなら」
空汰は何でもないといった調子で述べた。
「わいはええわ」
「そう考えてるのね」
「そや、ほな今からな」
「神威のところにね」
「行こか」
「そうしましょう、ただ」
嵐は空汰に話した。
「貴方は死ぬと言われてもよ」
「それでもかいな」
「死に急ぐことはないわ」
こう言うのだった。
「決してね」
「運命は決まってへんか」
「私は運命は一つと思うけれど」
それでもというのだ。
「変に死に急ぐことはね」
「あかんか」
「ええ、人は必ず死ぬけれど」
「命あるものは絶対にな」
「死ぬその時までは」
「何でも必死にやらんとあかんな」
「そうしたものだから」
それ故にというのだ。
「貴方もよ」
「わかってるわ、この戦いの最後の最後までや」
空汰は嵐にまた笑顔を向けて笑って話した。
「わいもや」
「戦うのね」
「姉ちゃん守るにしても」
そのうえで死ぬにしてもというのだ。
「最後の最後までや」
「戦うのね」
「天の龍としてな、ほなな」
「ええ、今からね」
「神威のところに行こうな」
こう話してだった。
二人で神威の下宿先そしてそこに至る通学路に向かった。だがその通学路の途中に来たその時にであった。
第四話 神犬その六
二人の前、ビルの上に遊人がいて言ってきた。
「またお会いしましたね、それに」
「ああ、ニューフェイスやで」
空汰は嵐を見つつ答えた。
「宜しくな」
「こちらこそ、それで今回もですか」
「ああ、神威に用があってな」
空汰は遊人に嵐と共にマンションの屋上に来てから話した。
「それでや」
「ここまで来られましたね」
「そや、それで遊人さんもやな」
「はい、神威君に用がありまして」
にこりと笑って話した。
「そしてです」
「そのうえでやな」
「ここまで来ました」
「そやな、ほな前は中断したし」
「あの時の続きをしますか」
「そうしよか」
「お二人おられますし」
遊人は嵐も見て言った。
「何でしたら」
「いえ、それはしないわ」
嵐は遊人の言葉に即座にこう返した。
「私は今は」
「そうですか」
「一対一というのがね」
それで闘うことがというのだ。
「この場合は筋でしょう」
「中断したものの再開だからですか」
「ええ、そしてそれが終わるまでは」
嵐はさらに言った。
「神威のところにも行かないわ」
「それも卑怯だからですか」
「ええ、闘いが終わってから」
空汰と遊人のというのだ。
「それからよ」
「行かれますか」
「そうするわ、ではね」
「そちらで、ですね」
「待っているわ」
「ほなやろか」
空汰はあらためて言った。
「これからな」
「そうしましょうか」
「お互い全力でな」
「闘いましょう」
こうしてだった。
二人で闘いを再開しようとした、だが。
封真が来た。自転車に乗ってそのうえで二人は結界を出していたがそこに入って来た。それを見てだった。
三人共だ、驚きの顔で言った。
「何やあの兄ちゃん」
「またですか」
「結界に気付かなくて入られるなんて」
「何モンや」
「龍、まさか」
「まさかと思うけれど」
三人共思わず身構えた、だが。
封真は気付かないまま通っていった、それでだった。
三人共拍子抜けした、そして空汰がこんなことを言った。
「あの兄ちゃん確か」
「お知り合いかしら」
「まあな、神威の友達らしくてな」
こう嵐に話した。
「前に会って話もや」
「したのね」
「確か封真さんやったな」
名前も話した。
「桃生さんやったか名字は」
「そうなのね」
「ああ、悪い印象は受けんな」
「そうですね」
遊人もそれはと応えた。
第四話 神犬その七
「僕もそう思います」
「そやな、それで戦いやが」
「水が入りましたね」
空汰に微笑んで述べた。
「僕は水使いですが」
「ははは、水使いだけにか」
「お水のことには敏感でして」
それでというのだ。
「この度はです」
「水が入ったさかいか」
「はい、再びですが」
「また今度やな」
「そうしましょう、では空汰君も嵐さんも」
彼女にも声をかけた。
「この度はこれでということで」
「これでやな」
「またお会いしましょう」
「ほなな」
「はい、また一緒に食べましょう」
「今度はきつねうどんどないや」
「いいですね、関東のおうどんはお口に合いますか?」
遊人は空汰に気さくに尋ねた。
「あちらの方にはと思いますが」
「何かつゆが黒いんやったな」
「真っ黒ですが」
「それで味もやな」
「辛いと思いますが」
「まあ美味しいとこあったら紹介してくれるか?」
「調べておきますね」
これが遊人の返事だった。
「そちらも」
「ほな頼むわ」
「では今度はこちらも連れてきますので」
「合わせて四人でやな」
「食べましょう」
「そうしよな」
「ではまた」
「会おうな」
二人で手を振って別れた、それが終わってだった。
空汰と嵐は道の上に降り立ったがここでだった、嵐は空汰に顔を向けて彼にこんなことを言ったのだった。
「親しいのかしら」
「仲は悪くないな」
空汰も否定しなかった。
「一緒に食ったんはたまたま相席になってな」
「それでなの」
「そやけどな、お互い悪い印象はないわ」
「そうなのね」
「敵同士でもな」
それでもとだ、空汰は話した。
「嫌いかっていうと」
「そうではないのね」
「嬢ちゃんも悪い印象受けんかったやろ」
「ええ。特にね」
嵐もこう答えた。
「そうだったわ」
「敵同士でもな」
「天の龍でも地の龍でも」
「悪い人やないことはな」
「わかるのね」
「結局あれや」
空汰はこうも言った、二人で神威の下宿まで歩きつつ。
「人にはそれぞれの考え立場があってな」
「正義もなのね」
「それぞれや、それでや」
「あの人は地の龍として戦っているのね」
「わい等は天の龍でな」
「それぞれの立場で」
「それで敵同士やけどな」
それでもというのだ。
第四話 神犬その八
「嫌い合ってるかっていうとな」
「決してなのね」
「違ってな」
「戦いを離れたら」
「もうな」
そうなればというのだ。
「特にや」
「戦う理由はないのね」
「ああ、出来たらな」
空汰は顔を斜め上にやって述べた。
「お互い話したけど戦いが終わったらな」
「その時は」
「仲良うしたいわ」
「あの人とは」
「そうしたいわ、難しいけどな」
「敵同士だから」
「わいはこの戦いで死ぬしな」
運命のことも話した。
「そやからな」
「そうなのね」
「ああ、けどな」
「そうしたいのね」
「出来たらな」
こうしたことも話してだ。
二人で神威の下宿先まで行ってそうして部屋のチャイムを鳴らしたが反応はなかった。それでこの時もだった。
帰るしかなかった、だが。
帰路でだ、空汰は嵐にこんなことを言った。
「あいつも忙しいみたいやな」
「学校からまだ帰っていないのかしら」
「それか寄り道してるか」
「それでいないのね」
「そやろか、しかしな」
「しかし?」
「あいつもあいつでな」
神威のことを考えて話した。
「何かと思うとこあるんやろな」
「私達の戦いについて」
「そや、あいつは世界の運命の鍵を担ってる」
嵐に真面目な顔で話した。
「そやからな」
「それだけに」
「ああ、思うことはな」
これはというのだ。
「わい等より遥かにや」
「重いわね」
「そして大きいわ」
そうだというのだ。
「それでや」
「色々と考えて」
「あちこち行ったりな」
「しているのね」
「そやろ、そしてその神威とな」
「私達は共に戦っていくわね」
「そや、それやとな」
嵐にさらに話した。
「神威が仲間になったら」
「その時は」
「わいはあいつ支えんとな」
「同じ天の龍として」
「それが役目やしな」
彼を支えることがというのだ。
「そうしていかんとな」
「そう考えているのね」
「そや」
「なら私も」
ここで嵐は空汰にこう言った。
「彼を支えるわ」
「嬢ちゃんもかいな」
「支えるのはね」
「そうしてくれるんやな」
「ええ、そうしてね」
そのうえでというのだ。
第四話 神犬その九
「戦いに勝って」
「そうしてやな」
「世界を救いましょう」
こう言うのだった。
「必ずね」
「人間をな」
「ええ、ただあの人は」
「遊人さんやな」
「悪い人と感じないし」
それにというのだ。
「人間的にね」
「思うやろ」
「ええ、それでもなのね」
「地の龍になる運命でな」
それでというのだ。
「それにな」
「従っているのね」
「そうみたいやで、本人さんが言うなら」
「そうなのね」
「地の龍世界を滅ぼすわい等の敵でもな」
空汰は考える顔で話した。
「別にや」
「悪人でなくて」
「人間やっちゅうことやな」
「そうなのね」
「そやけどな」
「戦うしかないわね」
「ああ、わい等が天の龍でな」
そしてというのだ。
「あの人が地の龍なら」
「そうするしかないのね」
「例え馬が合ってええ人でも」
「戦うことが運命なら」
「戦うしかないんや」
「世界を賭けて」
「そや、あの人以外の地の龍は知らんけどな」
誰が誰かというのだ。
「そういうことや」
「そうなのね」
「ああ、他の地の龍もな」
「人間なのね」
「そやろな、しかしな」
ここで空汰は顔を険しくさせてこうも言った。
「桜塚護はどうやろな」
「あの暗殺集団の」
「知ってるか」
「ええ、陰陽道を用いたね」
「どうもあいつもな」
「地の龍なのね」
「そうみたいや」
こう言うのだった。
「ここ数年表に出てへんらしいが」
「伊勢でも悪名を聞いてるけれど」
「高野山にも届いてるわ、東京におってな」
そうしてというのだ。
「自分の母親を殺して」
「そして跡を継いで」
「そしてや」
そのうえでというのだ。
「陰ながら仕事をしてた」
「その様ね」
「そしてその桜塚護もや」
その彼もというのだ。
「どうもな」
「地の龍の一人なのね」
「そうみたいやな」
「それは確かな話かしら」
「いや、そうかも知れんってな」
その様にというのだ。
「わいが感じてるだけや」
「そうなのね」
「けど可能性があるやろ」
嵐に顔を向けて彼女に問うた、どうかという顔で。
第四話 神犬その十
「あいつはな」
「そうね、私も言われるとね」
「そう思うな」
「地の龍の有力な候補としてはね」
「妥当やな」
「そう思うわ、若しあの人が出て来たら」
「戦うしかないな、しかしその強さはな」
桜塚護、彼のそれはというのだ。
「相当なもんでな」
「それでよね」
「わい等が束になってかからんとな」
「敵わないかも知れないわね」
「噂に聞く力は相当や」
こう言うのだった。
「そやからな」
「若し私達の前に出て来たら」
「その時はな」
まさにというのだ。
「何人がかりでもな」
「全力でかかることね」
「ああ、そうせんとな」
「勝てないかも知れないわね」
「そうかもな、遊人さんも相当なもんや」
彼にしてもというのだ。
「地の龍は間違いなくや」
「一人一人が相当なものね」
「最低でもわい等と互角や」
「七人いて」
「七人全員が」
「そや、わい等も強いことはな」
自分達の能力の話もした。
「間違いないが」
「それでもね」
「相手もな」
地の龍である彼等もというのだ。
「相当にや」
「強くて」
「それでや」
「戦うなら油断は出来ないわね」
「そして桜塚護はな」
「その地の龍の中で特に力が強いわね」
「そうかもな、しかし何があってもや」
空汰は強い声で言った。
「わい等は勝たんとな」
「世界は滅びるわ」
「こうなる、そしてな」
それにと言うのだった。
「勝つ為に天の龍は全員や」
「集まらないといけないわ」
「そしてその軸は」
その人物はというと。
「神威や」
「彼ね」
「そやから何としてもな」
「ええ、神威をね」
「迎え入れような」
「世界を救う為に」
嵐は言葉で頷いた、そうしてだった。
二人で丁の前に戻った、そのうえで報告をすると丁はわかりましたと答えただけであった。そしてこの時。
庚は塔城製薬会長室に赴いていた、そこでスーツ姿に白髪と髪の毛と同じ色の立派な顔を覆う髭の老人と会っていた。
そうしてだ、老人に確かな声で話した。
「彼はです」
「やはりそうでしたか」
「運命のことはご存知でしたね」
「はい」
老人は庚に確かな声で答えた。
「私も」
「やはりそうでしたか」
「はい、では」
「彼をです」
「庚様方がですね」
「お預かりしまして」
そうしてというのだ。
第四話 神犬その十一
「地の龍七人の御使いの一人として」
「働くのですね」
「そうなります」
「そうですか、実はです」
老人は庚自分と部屋のソファーに向かい合って礼儀正しく座っている膝までの赤いタイトスカートとそれと同じ色のスーツ姿の彼女に話した。
「霞月もです」
「彼もですね」
「夢で、です」
その中でといのだ。
「玖月牙暁という人物に言われたそうです」
「地の龍の一人だと」
「はい、そしてその為すべきことも」
「そうだったのですね、その彼はです」
庚は牙暁の名を聞いて答えた。
「実は地の龍の一人です」
「その人もですか」
「まだ迎えていませんが地の龍の一人であり」
そうしてというのだ。
「地の龍の夢見です」
「そうなのですか」
「夢を見てそこから未来もです」
「見ることが出来るのですか」
「はい、ですからお孫さんになりますか」
「実は亡くなった娘の卵子にです」
老人は沈痛な顔で話した。
「やはり亡くなった婿の精子をです」
「受精させて」
「そのうえで誕生させ」
そうしてというのだ。
「育てて来た子でして」
「そうでしたか」
「亡くなった娘夫婦の忘れ形見としてです」
その形でというのだ。
「これまで育ててきましたが感情が」
「乏しいのですか」
「頭は非常によく身体能力も高いですが」
それでもというのだ。
「何かこう人の感情やそうしたものがです」
「理解出来ませんか」
「はい、学校にも通わせてきたのですが」
それでもというのだ。
「素性を知られたくなく特殊な学校にです」
「通わせておられますか」
「クランプ学園の」
「あの学園ですか」
「特殊な学科に通わせていてほぼ一対一で教育を受けていますが」
それでもというのだ。
「感情の類はです」
「見られないですか」
「そうでしたが」
「感情のことはどうも言えないですが」
庚は表情を変えず答えた。
「私の専門外なので」
「だからですか」
「はい、しかしです」
「地の龍としてはですか」
「戦ってもらいたいのですが」
「わしい断わる権利はありません」
老人は庚に達観した様に答えた。
「それが運命ならば」
「それならですか」
「はい、あの子をこの世に出したことも」
このこともというのだ。
「思えばです」
「運命ですか」
「わしは娘とその婿を愛していました」
心から、そうだという言葉だった。
「まさに。ですが二人を事故で失い」
「せめてですね」
「二人の子だけでもと思い」
「生み出されたのですね」
「試験管の中で赤子とし」
そうしてというのだ。
第四話 神犬その十二
「十ヶ月経ちです」
「そこから出して」
「そのうえで育てました、名前は霞月といいますが」
それでもとだ、老人は庚に話した。
「哪吒とも呼んでいます」
「中国の神話に出て来る造られた神ですね」
「はい、ですがわしはです」
「お孫さんとしてですか」
「そう考えてです」
「名前を付けられたのですね」
「そうです、ですが地の龍として運命に入るのなら」
それならばとだ、庚に話した。
「もうです」
「それならですね」
「哪吒とお呼び下さい」
「そうですか」
「そして運命の担い手とされて下さい」
「わかりました、では」
庚は老人の言葉を受け確かな声で応えた。
「その様にです」
「されていかれますか」
「これよりお孫さんをお預かりします」
「宜しくお願いします」
「では」
「はい、これが永遠の別れになりますね」
老人は悲しい顔で言った。
「霞月とは」
「否定しません。ですがお孫さんを粗末にすることはしません」
庚は真剣な顔で約束した。
「断じて。ですからご安心を」
「そうしてくれますか」
「誓って。それでは」
「はい、孫を呼びます」
老人はこう言ってだった、手元にあった電話で連絡をした。すると程なくして数人の者に連れられてだった。
哪吒が来た、哪吒は庚を見て言った。
「僕はこれから」
「夢で言われていたわね」
庚は席を立った、そのうえで哪吒と対して微笑んで話した。
「そうね」
「地の龍として戦う」
「ええ、これからはね」
「それじゃあ」
「ではまずはね」
庚はさらに言った。
「私と来てくれるかしら」
「地の龍が集まる場所に」
「一旦ね。そこでまずやってもらうことを話すから」
「それをすればいい」
「そうよ。ではね」
「今からそちらに行く」
「私とね」
こう哪吒に話した。
「いいわね」
「わかった。行く」
「霞月、行って来るのだ」
老人は哪吒に座ったまま沈痛な面持ちで告げた。
「いいな」
「うん」
哪吒は老人を見ず無表情で答えた。
「そうしてくる」
「ではな」
「そして戦う」
「お前を愛していたし今もだが」
老人はさらに言った。
「感情を備えられなかった」
「僕は生きているけれど」
「そうだな、それだけでいいのか」
「僕は」
「ならいい、ではな」
「これからは」
「地の龍として戦って来るのだ、そして」
哪吒を見て告げた。
第四話 神犬その十三
「さようならだ、達者でな」
「貴方も」
「祖父と呼んで欲しかったが」
老人は自分の願いも言った、そうしてだった。
「もういい、行くのだ」
「うん、それじゃあ」
「ではね」
また庚が言った。
「行きましょう」
「わかりました」
哪吒も応えてだった。
そのうえで庚と共に地の龍の場所に行った、そうして遊人それに颯姫にも会った。遊人は哪吒に笑顔で話した。
「一緒に戦っていきましょう」
「地の龍としてですね」
「そうです、地球を救う為に」
「貴方はかなり強いわね」
颯姫は表情を変えず述べた。
「見たところ」
「わかるのですか」
「ええ、身体つきや筋肉の使い方を見れば」
そういうことからというのだ。
「わかるわ」
「そうですか」
「貴方が加わって」
そうなりというのだ。
「私達はまた強くなったわ」
「こうした時何と言えば」
「思うことを言えばいいですよ」
遊人はにこりとして話した。
「哪吒君が」
「そうですか」
「はい、どう思われますか」
「仲間に迎えられて嬉しい」
これが哪吒が思うことだった。
「とても」
「ではそれがです」
「僕の思うことで」
「言われたことです」
「そうですか」
「はい、ではですね」
「これから一緒に戦っていきます」
「宜しくお願いします」
こう話して二人に握手を求められたので応えた、そしてだった。
握手の後でだ、庚は哪吒に話した。
「早速だけれどいいかしら」
「何でしょうか」
「貴方にやってもらうことがあるの」
こう言うのだった。
「地の龍としてね」
「それは何でしょうか」
「剣を取りに行って欲しいの」
「剣を」
「ある神社まで行ってね」
「その神社は何処にあるのでしょうか」
「東京よ」
即ちこの街にというのだ。
「桃生神社というけれど」
「その神社に行ってですか」
「剣をここに持って来て欲しいの」
「その剣も戦いに必要ですか」
「そうよ、その剣は地の龍の最後の一人の為のものなの」
こう哪吒に話した。
「その一人が使ってね」
「戦うのですね」
「そうして地球を救ってくれるのよ」
「だからですか」
「貴方にね」
「その剣をですね」
「今から取りに行って欲しいの。いいかしら」
「神社の場所を教えて下さい」
これが哪吒の返事だった。
第四話 神犬その十四
「すぐにです」
「行って来てくれるのね」
「そうします」
「ではお願いね、おそらく神社の主の人が邪魔をするけれど」
「その人は天の龍でしょうか」
「違うわ、けれど近いわね」
天の龍にというのだ。
「どちらかというと」
「では殺す」
「いえ、殺す必要はないわ」
庚はやや真面目な顔になって答えた。
「傷を負わせて動けなくする位でいいわ」
「そうして剣を手に入れるのですね」
「そう、人間は滅びるけれど」
自分達が勝てばというのだ。
「けれどね」
「今はですか」
「殺すことはないわ、どのみち滅びるのならね」
それならと言うのだった。
「その時まで幸せに過ごさせてあげるべきよ」
「だからですか」
「その人もよ」
「殺すことはないですか」
「地の龍の貴方の相手ではないけれど」
それでもというのである。
「殺すことはないわ」
「傷を負わせて動けなくさせて」
「剣をここまで持って来てね」
「わかりました」
哪吒は庚の言葉に頷いた、そうしてだった。
場を後にした、後に残ったのは庚と遊人それに颯姫となったが颯姫は哪吒が去った先を見てその上で話した。
「必ず持って来てくれるわ」
「剣をね」
「彼ならね」
哪吒ならというのだ。
「天の龍が来ない限りは」
「ええ、そして天の龍はね」
「私達の動きに気付いていないわね」
「まだねけれどね」
「若し気付いたら」
「間違いなく邪魔をしに来るから」
だからだというのだ。
「何時でもビーストを動ける様にしてくれるかしら」
「わかったわ」
颯姫は確かな声で応えた。
「それではね」
「ええ、そうしてよ」
「哪吒に剣を手に入れてもらうのね」
「絶対に」
「若し剣を手に入れたら」
「私達はかなり有利に立てるわ」
そうなると言うのだった。
「天の龍に対して7」
「そうですね、ではです」
遊人も言ってきた。
第四話 神犬その十五
「僕もいざとなれば」
「出てくれるのね」
「待機しておきますね」
この場でというのだ。
「そうさせてもらいますね」
「わかったわ、ではね」
「はい、ここはですね」
「剣を何としてもよ」
庚はその眉をきっとさせて話した。
「手に入れるわ」
「剣を手に入れまして」
「そして七人の地の龍が揃えば」
そうなればとも話した。
「哪吒にも話したけれど」
「戦いでかなり有利に立てますね」
「そうなるからよ」
「ここで剣を手に入れておきますね」
「そうするわ、取れる時に取る」
庚はこうも話した。
「機は逃さないものよ」
「それが庚さんのお考えですね」
「そうよ、若し機を逃せば」
その時はというと。
「私達がよ」
「負けますね」
「そうなるわ、そして姉さんも」
丁のことも話した。
「ずっとね」
「ずっとといいますと」
「いえ、何もないわ」
自分の言葉を打ち消した。
「気にしないで」
「そうですか、では」
「兎に角ね」
「ここで、ですね」
「ええ、剣をね」
これをというのだ。
「持って来てね」
「神主の人が邪魔しても」
「怪我をさせる位ならいいわ」
それで構わないというのだ。
「殺さないならね」
「それならですか」
「ええ、ではいいわね」
「わかりました」
哪吒は頷いた、そうしてだった。
その場を後にした、そうしてその神社に向かった。
第四話 完
2022・11・15
第五話 神剣その一
第五話 神剣
鏡護は気配を感じ社の中に入った、そしてだった。
祀ってある剣の前に立った、そのうえで。
扉が開かれそこから人が入ったのを見て言った。
「天の龍か地の龍か」
「地の龍です」
哪吒は灯りのないその中に入って答えた。
「僕は」
「なら帰ることだ」
鏡護は険しい顔になって答えた。
「この剣は天の龍が持つものだ」
「いえ、僕は言われました」
哪吒は彼の前に来て答えた。
「剣はです」
「地の龍が持つべきとか」
「はい、そしてです」
哪吒は無表情機械の様なそれで以て述べた。
「地球を救うことだと」
「そう言われたか」
「そうです、地の龍は地球を救う運命にあると」
「人間を滅ぼしてだな」
鏡護は哪吒に言った。
「そうしてだな」
「そうなろうともです」
哪吒はまた答えた。
「地球を救うべきだと」
「そうか、だからか」
「どいてくれますか」
哪吒は鏡護に言った。
「この度は」
「剣を手に入れるからか」
「はい、ここはどうか」
「嫌だと言えばどうする」
「殺してはならないと言われています」
哪吒は庚から言われたことを話した。
「ですが」
「それでもか」
「そうしなければいいと」
「そうか、しかしだ」
「どいてくれないですか」
「わしはこの社の主でありだ」
哪吒に意を決している顔で告げた。
「そしてだ」
「剣を護られますか」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「決してだ」
「渡してくれないですか」
「どうしてもというならだ」
それならというのだ。
「わしを倒してからにするのだ」
「わかりました、ですが」
哪吒は表情のないまま言ってきた。
「僕は地の龍ですから」
「並の者では相手にならぬか」
「貴方もお強いと思いますが」
それでもというのだ。
「地の龍である僕にはです」
「敵わないか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「ここはどいて欲しいですが」
「そのつもりはない、断じて渡さぬ」
護鏡は手にしている刀を抜いて応えた。
「これがわしの務めだからな」
「そうですか。では」
「来い」
「仕方ないです」
哪吒は前に出た、そうしてだった。
剣を持って前に出た、そのうえで庚のところに向かうが。
偶然彼を見て草薙は顔を顰めさせて惨いと思った、だが気配を探し鏡護のそれが消えていないことにはほっとした。
庚は哪吒が戻りその剣を見て微笑んだ。
第五話 神剣その二
「よくやってくれたわ」
「そうですか」
「ええ、ではね」
「この剣はですね」
「私が預かっておくわ」
目を細めさせたまま述べた。
「そうするわ」
「では」
「そしてこの剣を持つべき地の龍が来て」
そうしてというのだ。
「時が来ればね」
「その人にですね」
「渡してね」
「使ってもらいますか」
「ええ、二人もご苦労様」
共にいる遊人と颯姫にも声をかけた。
「いざという時に備えてくれていて」
「いえ、当然のことですから」
「私達のすべきことだから」
二人はそれぞれ庚に答えた。
「気にすることはないわ」
「それよりも哪吒君はお手柄ですよ」
「僕はよくやったの」
「ええ、お疲れ様です」
遊人は哪吒に優しい笑顔で答えた。
「後はゆっくり休んで下さい」
「それで殺さなかったわね」
庚は哪吒にこのことを確認した。
「そうね」
「はい、刀を抜いたので攻撃はしましたが」
「それでもなのね」
「急所は外しました」
そうしたというのだ。
「ですから血は多く流れて暫くは動けないですが」
「死にはしないのね」
「間違いないです」
「ならいいわ、殺すことはね」
庚はこうも言った。
「最後の最後よ」
「どうしようもない時ですか」
「それでいいわ、どうせね」
「人間は滅ぶのだから」
「その時まで楽しむことよ」
そうすべきだというのだ。
「だからよ」
「殺すことはですね」
「避けるべきよ。それに地の龍の力はね」
これの話もするのだった。
「地球を救う為のものでよ」
「殺す為のものではないですか」
「ええ、その為に多くの命が失われても」
地球を救う中でというのだ。
「特に人間を滅ぼしてもね」
「殺す為のものではですか」
「ないから」
だからだというのだ。
「無闇によ」
「殺してはならないですか」
「ええ、だからね」
「この度もですね」
「そう言ったのよ、それに私は悲しませるつもりはないから」
庚は眉を少し曇らせてこうも述べた。
「別にね」
「悲しませる」
哪吒は庚のその言葉を聞いて言った。
「誰をですか」
「別にね」
「何でもないですか」
「このこともね。気にしないで」
こう返した。
「そうしてくれるかしら」
「それでは」
「ではゆっくり休んで」
庚は優しい笑顔になって話した。
「今はね」
「わかりました」
「あと貴方も学校に通っているわね」
「クランプ学園に」
「ならそちらに行ってもいいわ」
こうも言うのだった。
第五話 神剣その三
「休学していないならね」
「学校に行ってもいいんですか」
「ええ、戦いがない間はね」
「それじゃあ。学校は嫌いじゃないですし」
「嫌いじゃないの」
「何か面白いものを一杯感じて」
そうした場所だからだとだ、哪吒は庚に答えた。
「嫌いじゃないです」
「じゃあね」
「通ってもいいですね」
「そうもしてね」
「じゃあ行ってきます」
「そうして学生生活を楽しんでね」
庚の声は優しいもののままだった。
「いいわね」
「そうしてきます」
「そういえば私も」
颯姫も言ってきた、今も表情はない。
「休学中だったけれど」
「よかったらすぐにでもよ」
「学校に通えるのね」
「クランプ学園ならね」
哪吒も通っているその学園ならというのだ。
「何時でもよ」
「転校して」
「行けるわ。どうかしら」
「その方がいいわね」
颯姫はほんの一瞬考えてから庚に答えた。
「地の龍でも平日のお昼から普通に外を歩いていたら」
「怪しまれるわね」
「何かと。私の年齢だと」
「だからよ」
「普段は」
「私や遊人もお仕事をしているし」
昼の間はというのだ。
「ここにもいないし」
「ビーストはいても」
「ええ、一人でここに残るよりもね」
「外に出て」
「普通に暮らした方がいいわ」
「そうね、天の龍もそうしているし」
普段は日常の中で暮らしているというのだ、彼等も。
「それなら」
「彼等の動きと合わせるとよ」
「相手の動きもわかるわね」
「だからよ」
「わかったわ、私は転校するわ」
クランプ学園にとだ、庚に話した。
「すぐに手続きをしてくれるかしら」
「お安い御用よ」
「いい学校ですよ」
ここで遊人が颯姫に言って来た。
「クランプ学園は」
「そういえば」
「はい、僕の母校なんです」
「だからですか」
「よく知っていますが」
「いい学園ですか」
「そこに行かれますと」
そうすると、というのだ。
「悪い思いはしませんよ」
「それでは」
「はい、通われて下さい」
「そうします」
「まあ天の龍も来るかも知れないわね」
クランプ学園にとだ、庚はこうも思った。
「けれどね」
「そこでは争わないことですね」
「無闇に争うものでもないわ」
また哪吒に話した。
「決してね」
「僕達は」
「必要な時だけよ」
「地の龍として戦う」
「そうしてね」
「そうします」
哪吒は素直に答えた。
第五話 神剣その四
「普段は」
「是非ね、さてあと四人だけれど」
庚は今度は地の龍の人数の話をした。
「次は誰が来てくれるかしら」
「楽しみではありますね」
「ええ、今度はこれはという人がね」
遊人に微笑んで話した。
「来るかも知れないわね」
「そうですか」
「それを夢見のね」
「彼にもですね」
「そろそろ来て欲しいけれど」
「彼、牙暁さんの居場所はご存知でしょうか」
「一応ね、けれどね」
それでもと言うのだった。
「そうは動けないから」
「ここまではですか」
「来られないわ、けれど早いうちにね」
「来てもらいますか」
「そう考えるわ、また私から行こうかしら」
ここでも微笑んで話した。
「彼とお話して」
「そうしてですか」
「それもいいかしら」
こうした話をしてだった。
庚は哪吒を学校に行かせ颯姫の転入手続きもした、そのうえで自分の仕事もして夜は眠りに入ったが。
そこでだ、牙暁と話したのだった。
「そろそろ貴方にもね」
「こちらにですか」
「来てもらうかも知れないわ」
「僕の身体がある場所はですね」
「もうわかっているわ」
「だからですね」
「私がそこまで行って」
そうしてというのだ。
「そのうえでね」
「迎えに来てくれますか」
「そうさせてもらおうかしら」
「貴方がそうされたいなら」
これが庚の返事だった。
「そうされて下さい」
「それではね」
「はい、ただ僕は夢見であり」
「戦えないわね」
「そして地球を救うという考えにも」
「わかっているわ、貴方はね」
「どうしてもです」
庚に目を閉じ悲しい顔で話した。
「命を犠牲にすることはです」
「出来ないわね」
「若し身体が動けても」
それでもというのだ。
「出来ません」
「そうね、貴方は」
「ただ夢を見るだけです」
「それでもいいわ。貴方が出来ることをして」
こう牙暁に話した。
「いいわね」
「そうさせてもらいます」
「夢見という能力だけで充分よ」
これが庚の牙暁への考えだった。
「もうね」
「そうですか」
「動くのは私達だから」
あくまでというのだ。
「任せて。地球のことは」
「地球でしょうか」
牙暁は庚に問うた。
「それは」
「何が言いたいのかしら」
「僕は夢見なので」
「夢には人の本心が出る」
「はい、ですから」
その為にというのだ。
第五話 神剣その五
「見るつもりはなくとも」
「見てしまうのね」
「ですから」
「言わないわ」
真面目な顔になってだ、庚は牙暁に返した。
「言わないとね」
「その夢の中でもですね」
「それは本当のことにならないのだから」
「言霊ですね」
牙暁はそれだと返した。
「そちらですね」
「ええ、言葉はね」
これはというと。
「言えばよ」
「そうして出してしまえば」
「夢でもね」
この中でもというのだ。
「それがよ」
「事実となります」
「だからよ」
「今はですね」
「言わないわ」
夢の中でもというのだ。
「決して」
「左様ですね」
「貴方は地の龍の一人よ」
牙暁にこうも言った。
「私にとってかけがえのない仲間だけれど」
「それでもですね」
「言えることがあって」
「言えないこともですね」
「あるわ」
「夢の中でも」
本心が露わになるその中でもとだ、牙暁も言った。そして彼はそのうえでこうしたことも言ったのだった。
「それはです」
「姉さんもかしら」
「同じです、まだです」
「何とかなのね」
「分かれていますが」
それでもというのだ。
「それが何時です」
「より出て来て」
「あの人の表のお心をです」
「支配するかも知れないわね」
「はい」
そうだというのだ。
「そうなってもです」
「不思議じゃないわね」
「そうです」
「わかったわ」
これが庚の返答だった。
「そのことは」
「そうですか」
「言ったわね、言えないこともね」
「僕にもですね」
「あるから」
だからだというのだ。
「今はね」
「言われないですか」
「ええ」
そうするというのだ。
「そうするわ」
「わかりました」
「それでだけれど」
「僕をですか」
「そろそろ迎えたいけれど」
地の龍が集まる場所にというのだ。
「いいかしら」
「僕は眠ったままです」
これが牙暁の返答だった。
第五話 神剣その六
「ですから」
「望む様にしていいのね」
「貴女が思われる様に」
「ではそうさせてもらうわ」
「はい、それでは」
「貴方が来てくれれば四人」
地の龍で集まっている者はというのだ。
「後一人はね」
「彼かですね」
「添え星となるけれど」
「後の二人は」
「わかっているわ、少しわからないわね」
彼等のことはというのだ。
「どう動くか」
「お一人はです」
「地の龍の仕事に乗り気ではないわね」
「僕と同じ様な考えです」
「それでよね」
「どうしても」
「そうね、けれどね」
それでもとだ、庚は話した。
「そうであってもよ」
「地の龍のお一人なので」
「働いてもらうわ」
そうするというのだ。
「その時はね」
「そうですか」
「ええ、そして最後の一人は」
「ここには来られてないですが」
「それでもなのね」
「動きをです」
地の龍としてのそれをというのだ。
「はじめようとされています」
「彼は因縁に近付いているのかしら」
「ご自身の」
「そうなのね」
「はい、そして」
牙暁はさらに話した。
「おそらくですが」
「因縁を終わらせるつもりなのね」
「本心を語られないですが」
「そこは私と同じかしら」
庚は彼のその話を聞いてだった、少し自嘲を込めて笑った。
「彼は」
「それは」
「また違うのかしら」
「因縁なので」
「私とはまたなのね」
「違うかと、そしてその因縁からです」
それからというのだ。
「彼をです」
「そう考えているのね」
「どうやら」
「そうなのね」
「どうされますか」
「三人はやがて。運命の時になれば来るわね」
庚は考える顔になって述べた。
「ではね」
「僕をですか」
「ええ、招かせてもらうかもね」
「わかりました」
「その時はお邪魔するわ」
「ホテルの方とお話をして」
「そのうえでね」
こう牙暁に話した。
「そうするわ」
「それでは」
牙暁も応えた、そうしてだった。
一旦夢見は終わった、庚は深い眠りに入った。
封真はこの時バスケ部の部活に出ていた、そこで他の部員達に言われていた。
第五話 神剣その七
「また頼むな」
「試合の時はな」
「お前がどんどん攻めてくれよ」
「頼りにしてるからな」
「ああ、やらせてもらうな」
封真は汗を拭きながら爽やかな顔で応えた。
「今度の試合もな」
「宜しくな」
「じゃあ今日も頑張ろうな」
「練習もな」
こうした話をしつつ部活に励んでだった。
家に帰ろうとしたがそこでだった。
神威に会ってだ、自分から声をかけた。
「一緒に帰るか、そしてだ」
「何だ」
「今日はうちに寄らないか」
暖かい声で言った。
「そうしないか」
「何故だ」
「晩ご飯どうだ」
こう言うのだった。
「今日は」
「晩飯か」
「今日は天麩羅なんだ」
「天麩羅か」
「小鳥が作ってくれるんだ」
彼女がというのだ。
「それでな」
「一緒にか」
「どうだ?」
「いいのか」
「ああ、構わない」
封真は優しい笑顔で答えた。
「一緒に食ってくれ、父さんも一緒や」
「おじさんもか」
「父さんも神威に会いたがっている」
封真はこのことも話した。
「口には出してないけれどな」
「そう思ってくれているんだな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「今からな」
「お前達の家に行ってか」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「一緒にな」
「晩飯を食ってか」
「積もる話をしないか」
「いや、俺は」
ここでもだ、神威は。
距離を置こうとした、だが。
ふと桃生神社の方を見てだ、血相を変えて言った。
「これは!」
「どうしたんだ、神威」
「封真、すぐに行くぞ」
こう封真に告げた。
「神社までな」
「俺の家のか」
「そうだ、何かあった」
「何か?そういえば」
封真もここで気付いてはっとなった。
「感じた」
「そうか、お前もか」
「神社の方だ」
「行くぞ、すぐに」
「ああ、そうしよう」
二人で話してそうしてだった。
神社の方に駆けて行った、その時だった。
丁の前に護刃が来た、護刃は空汰と嵐もいるその場で犬鬼と一緒に参上してにこりと笑って話した。
「はじめまして、猫依護刃です」
「お待ちしていました」
丁は静かな物腰で応えた。
第五話 神剣その八
「貴女が来られることを」
「そうなんですか?」
「はい、天の龍の一人」
こう護刃に答えた。
「その方なので」
「それでなんですね」
「これから人間を救う為に」
「頑張りますね」
「宜しくお願いします」
「それじゃあ」
「では暫くの間は」
ここで待機してもらう、そう言おうとしたが。
丁も感じた、それですぐに言った。
「ここは玳透さんにお願いしますので」
「どうしたんですか!?」
「天の龍の皆さんは桃生神社に向かって下さい」
「その神社は確か」
空汰はそう聞いて血相を変えた。
「神威の」
「はい、彼に縁のあるです」
「神社でしたね」
嵐も言った。
「そうでしたね」
「三人で、です」
今この場にいる天の龍全員でというのだ。
「お願いします」
「わい等全員って」
空汰は丁の言葉にただならぬものを感じて述べた。
「これはほんまに」
「大変なことなんですね」
護刃も言った。
「そうなんですね」
「来られて早々ですが」
護刃に申し訳なさそうに話した。
「この度はです」
「はい、行ってきます」
「その様にお願いします」
「ほな行こか」
空汰はすっと前に出て護刃に話した。
「自己紹介は向かいながらな」
「してくれますか」
「ああ、そういうことでな」
「今からですね」
「桃生神社にな」
そこにというのだ。
「行こうな」
「わかりました」
「行きましょう」
嵐も言ってだった。
三人で神社に向かった、そして神威と封真は。
神社の境内に入ってだった、即座に。
「社だな」
「そこだな」
二人でそこに異変を感じて顔を見合わせた。
「間違いない」
「そうだ、ではだ」
「行くぞ」
「今からな」
こう話して社の中に入るとだった。
地の海の中に倒れ伏している護鏡を見てだった。封真は血相を変えてそのうえで父に駆け寄って叫んだ。
「父さん!」
「封真か」
「俺だよ、どうしたんだ」
「話は後だ」
「後だって」
「すぐに医者を呼ぶぞ」
神威も言ってきた。
「さもないとだ」
「そうだな、かなりの血が流れている」
「だからだ」
それでというのだ。
第五話 神剣その九
「すぐに病院に連絡だ」
「そうだな、急ごう」
「おい神威!」
ここで空汰も社の中に来た。
「どないしたんや!」
「!?これは」
「嘘っ、酷い!」
嵐と護刃は護鏡を見て言った。
「すぐに救急車を呼びましょう!」
「さもないと取り返しがつかないことになるわ」
「これは間に合う」
空汰は護鏡を見て言った。
「そやからな」
「間に合うのか」
「ああ、今のうちに連絡したらな」
病院にとだ、空汰は神威に答えた。
「間に合うわ、そやからな」
「今すぐにだな」
「救急車呼ぶんや」
「わかった、そうする」
「父さん安心してくれ」
封真は空汰の言葉を受けて言った。
「助かるそうだ」
「そうなのか」
「今すぐ連絡をする」
病院にというのだ。
「救急車を呼ぶからな」
「そうか」
「ああ、少し我慢してくれ」
「小鳥は何処だ」
神威は彼女のことを思い出した。
「一体」
「もうそろそろだ」
「帰って来るか」
「その頃だ」
こう神威に話した。
「だからな」
「そうか、ならな」
「小鳥が戻って来たらか」
「その時にだ」
まさにというのだ。
「話そう」
「そうしてだな」
「一緒に病院に行く」
こう封真に話した。
「それでいいな」
「わかった」
封真もそれならと応えた。
「そうしよう」
「よし、じゃあな」
「もう連絡したで」
空汰が言ってきた。
「すぐに救急車が来てくれるわ」
「そうか」
「命に問題があらへんのやったら」
空汰はさらに話した。
「出血が多なかったらや」
「心配無用だな」
「ああ、充分間に合う」
神威に微笑んで述べた。
「安心するんや」
「わかった、すまない」
「礼には及ばんわ、当然のことや」
「当然か」
「人を助けることはな」
「そうですよね」
護刃は空汰のその言葉に頷いた。
「人が困っているなら」
「やっぱりな」
「助けないといけないですね」
「そや、ほなな」
「救急車を呼んだことも」
「当然や」
「当然か、そうか」
神威は二人のやり取りから二人の人間性を感じて言った。
第五話 神剣その十
「俺は頑なになり過ぎていたか」
「そやから言うやたろ」
空汰はやれやれといった顔で神威に応えた。
「わいは悪い奴やないってな」
「そうだったか」
「そや、人の話は聞かんとな」
「そうだな、これからそうする」
「そうしてくれたら助かるわ、ほな救急車が来たらな」
「おじさんをだな」
「連れて行ってもらおうな」
病院にというのだ。
「そっちにな」
「そして俺達もだな」
「ああ、病院に行くで」
「救急車が来てくれたわ」
嵐は外を見てそこにいる一同に話した。
「今境内に」
「ああ、もうか」
「ではね」
「ああ、これで一安心やな」
「後はお医者さん達にね」
「任せたらええな」
「そうよ、ではね」
「一緒に病院行こな」
こうも話してだった。
護鏡を救急車に乗せてもらい一同もその救急車に乗せてもらって病院に向かったが封真だけは小鳥を待ってだった。
彼女に事情を話して後で病院まで急行した、そしてだった。
兄と一緒に病院に着くとだ、小鳥は手術室の前にいる神威の方に駆け寄ってそのうえで状況を問うた。
「お父さんは」
「今手術は終わった」
神威は小鳥に正直に答えた。
「そして無事だ」
「そう、よかった」
「元々傷は深く出血も多かったが」
それでもとだ、神威は小鳥に話した。
「命に別状はなかった」
「不幸中の幸いね」
「ああ、だが傷は深いからな」
このことは事実でというのだ。
「暫く入院が必要だ」
「そうなのね」
小鳥はほっとしてから暗い顔になった。
「それじゃあ」
「その間はな」
「私達二人でね」
兄に顔を向けて話した。
「何でもしていかないと」
「そうだな、母さんもいないしな」
「一緒にね」
「おばさんか、懐かしいな」
神威は二人の母のことを聞いて述べた。
「もうな」
「ああ、亡くなった」
封真が答えた。
「残念だがな」
「そうだな」
「お母さんが亡くなったのは」
小鳥は不思議そうに話した。
「どうしてだったかしら」
「ああ、それはだ」
封真は一瞬視線を右にやってから答えた。
「事故だった」
「そうだったのね」
「交通事故でな」
「それでだったのね」
「そうだ、残念だった」
「そうよね」
「小鳥はもう家に帰った方がいい」
封真は妹に優しい声でこうも話した。
第五話 神剣その十一
「父さんも無事だったし家は今誰もいないな」
「ええ、それはね」
「だったらな」
表情も優しい、そのうえで話すのだった。
「今はな」
「お家に戻って」
「ゆっくりとするんだ」
「そうしていいのね」
「父さんは大丈夫だからな」
命に別状はなからだというのだ。
「いいな、後で俺も戻る」
「それじゃあ」
小鳥は素直に頷いてだった。
そのうえで家に帰った、それを見届けてだった。
封真は神威そして彼と共にいる空汰達に話した。
「実は祀ってある神剣がないんだ」
「境内に剣を置く場所があったわね」
嵐が応えた。
「そうだったけれど」
「そこにある筈の剣がなんだ」
「今はないのね」
「どうも奪われたらしい」
暗い顔で話した。
「神剣は」
「まさか」
「他にないやろな」
空汰は眉を顰めさせて嵐に顔を向けて話した。
「地の龍や」
「彼等の行いね」
「あの剣は天の龍の為のや」
「剣ね」
「若しくは地の龍の為のな」
「そうだから」
「どういうことだ」
神威は二人の話に顔を顰めさせて問うた。
「それは」
「そやからな、天の龍として人間を護るか」
「地の龍として地球を救うかか」
「どっちかをな」
「俺は選ぶべきでか」
「それでや」
空汰はさらに話した。
「お前はどっちを選ぶか」
「天の龍か地の龍か」
「それでわい等は天の龍としてや」
その立場からというのだ。
「お前にや」
「声をかけてきているか」
「そういうことや」
「俺は運命は関係ないとだ」
「思ってたか」
「そうだったが」
それがと言うのだった。
「そうも言っていられないな」
「神威、運命は時として残酷なもんや」
空汰は深刻な顔で話した。
「詳しい話はや」
「封真がいるからか」
「あの兄さん何か普通とちゃうみたいやが」
今度はその彼を見つつ話した。
「しかしな」
「俺達の戦いとは関係ないか」
「そうやと思うからな」
だからだというのだ。
「別の場所でな」
「これからのことはか」
「話そか」
「わかった」
神威は真剣な顔で答えた。
「ではな」
「場所変えるで」
「そうしような」
「封真、悪いが席を外す」
神威は封真に告げた。
第五話 神剣その十二
「いいか」
「ああ、構わない」
封真はすぐに答えた。
「それではな」
「悪いな」
「いいさ、俺はここにいる」
こう話してだった。
神威は病院の屋上に出た、空汰と嵐それに護刃も一緒だった。四人でそこに出てそのうえでだった。
空汰がだ、神威に話した。
「あの剣はお前がや」
「持つべきだったか」
「桃生さんはもう夢でおひいさんとお話してたらしいからな」
だからだというのだ。
「もうお前のこともや」
「わかっていたか」
「そしてや」
そのうえでというのだ。
「お前が来たらな」
「あの剣を渡してくれていたか」
「天の龍として来たらな」
「そうしたらおじさんもか」
「そや」
真剣な顔で話した。
「ああはならんかった」
「俺は運命とは関係ないとな」
「思ってか」
「避けていたが」
「運命は避けられないわ」
嵐はクールな顔で神威に言った。
「避けても逃げてもね」
「そうしてもか」
「ええ、どうしようとしてもね」
「ついて来るものか」
「そうよ」
まさにというのだ。
「そして向かわないとよ」
「ならないものか」
「そうしたものよ、だから私達もよ」
「天の龍の運命に従ってか」
「この街に来たわ」
東京にというのだ。
「戦う為にね」
「死のうともか」
「いいわ」
構わないという返事だった。
「私は」
「それが運命ならか」
「受け入れるわ」
「そうか、俺は俺が死ぬのは怖くないが」
「周りの人がお亡くなりになることはですね」
護刃は悲しい顔になって言った。
「お嫌なんですね」
「そうだった」
「だからですか」
「運命を避けたらな」
自分がそうしたならとだ、神威は話した。
「おじさんもだ」
「何もないとですか」
「思っていたが」
「それが運命や、若しや」
空汰はまた言ってきた、三人で屋上のフェンスのところにもたれる様にして立っている神威を囲む様にして立っている。
「お前が運命を受け入れてな」
「剣を受け取っていたならか」
「神主さんは襲われんかった」
「怪我を負わなかったか」
「そやったやろ」
「運命を避けるとかえってか」
神威は顔を俯けさせて述べた。
「こうしたことになるか」
「そうやろな」
空汰は右手を少し開いて胸の高さで下から上に掌上にして振って話した。
第五話 神剣その十三
「お前がそうするなら」
「そうか」
「ああ、神主さんは命に別状はないけどな」
「今度はわからないか」
「全くな」
「封真も小鳥もか」
二人のことを思いつつ言った。
「そうか」
「ああ、そやからな」
「俺は運命を受け入れるべきか」
「そや、そしてわい等としてはや」
「俺は天の龍としてか」
「来て欲しい、それでや」
空汰はさらに言った。
「少し頼めるか」
「頼み?」
「ああ、あの兄さんと別れた後はな」
封真と、というのだ。
「ちょっと来てくれるか」
「私達が集まっている場所よ」
嵐も言ってきた。
「そこに来てくれるかしら」
「天の龍の拠点か」
「簡単に言うとね」
それならというのだ。
「そうなるわ」
「そうか」
「どうかしら」
「とりあえず案内してくれ」
嵐に俯きつつ話した。
「まだ決めていないが避けられないことはわかった」
「運命から」
「だからな」
それ故にというのだ。
「そうしてくれるか」
「わかったわ」
「では今からですか?」
護刃は嵐に問うた。
「あちらに皆で行きますか?」
「そうしたいけれど」
ここでだった、神威は。
周りを見た、見ればもう真夜中だった。
「夜も遅いから」
「それじゃあ」
「明日でどうかしら」
神威に対して問うた。
「私達のところに行くのは」
「わかった、それでいい」
神威は一言で答えた。
「明日でな」
「それではね」
「少なくとも三人が悪人でないことはわかったしな」
神威はこうも言った。
「そして俺はあまりにも拒み過ぎた」
「心に壁を作っても避けられないものもあるわ」
嵐は神威の今の言葉にも応えた。
「残念だけれどね」
「運命もそうだな」
「ええ、だから運命にはね」
「向かうしかないか」
「そうしたものよ、そして」
それにと言うのだった。
「貴方は今からね」
「運命に向かうべきか」
「そうするしかないのよ」
「そうだな、そして俺はか」
神威はさらに言った。
「天の龍にか」
「なるべきよ」
「そうか」
「ええ、多分二つの夢を見ているわね」
「ああ」
神威は嵐にその通りだと答えた。
「天の龍となってだ」
「人間を救うか」
「地の龍になってだ」
そのうえでというのだ。
第五話 神剣その十四
「世界を滅ぼす」
「どちらかね」
「そして地の龍になった時はだ」
その時の夢ではというのだ。
「俺は小鳥を殺している」
「さっきのとても奇麗な人ですよね」
護刃は小鳥と聞いて病院で見たその姿を思い出した、実際に護刃から見て彼女はそうした外見だった。
「お人形さんみたいな」
「そうだな、小鳥はそうした感じだな」
神威も否定しなかった。
「この世のものではない様な」
「お人形さんといいますか」
護刃はさらに話した。
「天使みたいな」
「そうも言えるな」
「お名前に相応しいともです」
小鳥というそれのというのだ。
「言えますね」
「俺もそう思う」
「それであの人をですか」
「殺しているんだ」
地の龍となる夢の中ではというのだ。
「だからだ」
「運命に向かうことが怖かったんですか」
「俺は誰も殺したくない」
神威は俯き両手を強く握って言った。
「特に小鳥と封真はな」
「だからなんですね」
「運命から背を背けてだ」
そうしてというのだ。
「誰ともだ」
「壁を作られて」
「交わらなかった」
「そうだったんですか」
「それで小鳥を護ろうと思っていたが」
「これでわかったやろ、運命は避けられへん」
また空汰が言って来た。
「お前がどう思って何をしてもな」
「それでもだな」
「そやからな」
「俺は運命に向かうべきか」
「それでお前が二人を本気で護りたいんやったら」
それならというのだ。
「そうなる選択をや」
「すべきか」
「ああ、そしてや」
「お前達としてはだな」
「同じ天の龍になってな」
そのうえでというのだ。
「人間を救って欲しい」
「地球ではなくか」
「そういうことや」
「しかしです」
ここで護刃は腕を組み首を傾げさせて話した。
「一つ不思議に思うんです」
「何だ」
「あの、地球を救うんですよね」
「地の龍はか」
「人間を滅ぼして」
「その様だな」
「若しです」
神威に応えつつ言うのだった。
「人間を滅ぼしたら人間は地球の何処にもいますね」
「そうだな、何十億も」
「若しそうしたら」
そうなっている人間達を滅ぼせばというのだ。
「地球にいるあらゆる命も一緒にですね」
「滅びるな」
「そうなりますよね」
「犬や猫も鳥もだ」
神威も応えて述べた。
「全ての生きもの達がだ」
「滅びますよね、そうなったら」
小鳥はさらに話した。
第五話 神剣その十五
「地球が誰もいなくなって」
「死の星になるか」
「恐竜が滅亡した時みたいに」
護刃は伝え聞くその時のことも話した。
「もう誰もいなくなって」
「地球にだな」
「確かに僅かに残った命はあって」
恐竜が滅亡した時の様にというのだ。
「かなり長い間地球は本当にです」
「死の星になるな」
「そんなこと地球は望んでるんでしょうか」
首を傾げさせつつ言うのだった。
「果たして」
「どうだろうな」
神威も言われても答えを言えなかった。
「それは」
「しかも人間の力って弱いですよ」
護刃は今度は人間そのものの話をした。
「もう地球から見ればです」
「何でもないか」
「何十億いましても」
それでもというのだ。
「その表面だけで動いている」
「そんな存在か」
「その人間に地球を滅ぼせるでしょうか」
「地の龍の考えはおかしいか」
「いえ、環境破壊は確かに問題ですし」
護刃はこの問題も話した。
「地球が汚れていることも事実ですが」
「人間がそうしているな」
「果たして弱い人間がとんでもなく大きな地球を壊せるか」
「無理か」
「そうじゃないですか?」
「ほな何や」
空汰も護刃のその考えを聞いて真剣な顔になって彼女に問うた。
「連中の目的は」
「地の龍の人達のですね」
「ああ、人間を滅ぼして大事な地球を長い間死の星にするか」
「弱い人間に巨大な地球を滅ぼせるか」
「それが無理でな」
「地球を大切に思ってるならです」
「長い間死の星にするか」
空汰も首を傾げさせた、ただ彼は顎に自分の左手を当てている。
「それはな」
「ちょっと考えられないですよね」
「ああ、おかしいな」
「どうにもですね」
「どうもな」
「私達は人間はです」
「ああ、ちゃんとな」
護刃に応えて話した。
「正しい選択をしてな」
「地球も守ってくれるとです」
「思ってるけどな」
「そうですが」
「何やろな」
また言うのだった。
「地の龍の連中の考えは」
「まさかただ殺したい壊したいだけではないわね」
嵐はその可能性を話した。
「世界を」
「そうだと地球がどうとか言わないですよね」
「最初から」
「はい、もう」
「若しそうしたいだけなら」
破壊と殺戮を楽しみたいのならとだ、嵐は考える顔で護刃に述べた。
「私達に構わずね」
「暴れ回っていますよね」
「今集まっている数によるけれど」
地の龍達のというのだ。
「一度に何人もそうしたら」
「簡単に出来ますね」
「そうね、世の中色々な人がいて」
それでというのだ。
第五話 神剣その十六
「中にはただ殺したい壊したい」
「そう思うだけで、ですか」
「動く人もいるわ」
「そんな人もおられるんですね」
「快楽殺人者とかやな」
空汰が嵐の話に実感を感じない護刃に話した。
「ほんまそんなんもおるで」
「人を殺すことが楽しいんですか」
「趣味とか生きがいになっててな」
「殺人が趣味なんですね」
「そんな奴もおってな」
それでというのだ。
「殺したい暴れたいな」
「それだけで動く人もですか」
「おるんや、もう人間を滅ぼしたいならな」
地の龍の者達がそう考えているならというのだ、空汰はそれが彼等の目的であることを知りつつ言うのだった。
「一番手っ取り速いのはな」
「その力を私達に用いずにね」
「戦わんでな」
嵐に応えて述べた。
「もうわい等なんか無視してや」
「暴れ回ればいいわね」
「結界なんて張らんでな」
「それでいいわね」
「天の龍も地の龍も力の強さは核兵器レベルや」
そこまでの力があるというのだ。
「核兵器があちこちで炸裂したらな」
「人間は簡単に滅びますね」
「そや、しかしそんな動きはせん」
空汰は護刃に話した。
「わい等を全員倒そうとしてるわ」
「そうね、あの人にしてもそんな風だったわ」
嵐は空汰と共に会った遊人のことを思い出して述べた。
「殺したり壊したり」
「そんな気配はなかったやろ」
「悪い印象は受けなかったわ」
「この前たまたまお好み焼き屋で相席になったけどな」
空汰はこのことも話した。
「ええ人やったで」
「そうなのね」
「敵味方に分かれてるのが残念位にな」
「そうした人で」
「ほんま悪いもんはな」
遊人にはというのだ。
「ないで」
「そうなのね」
「あの、ですが地の龍の人達の目的は」
護刃はそれでもと話した。
「地球を救うことで」
「その為に人間を滅ぼすことね」
「そうですよね」
嵐に応えて述べた。
「やっぱり」
「そのことは間違いないわ」
「だとすると」
「色々と矛盾を感じるわね」
「そうですよね」
「若しかしたら」
嵐はその目を鋭くさせて考える顔になって述べた。
「地の龍にも丁様の様に束ねる人がいるそうだし」
「ああ、何でもおひいさんの妹さんらしいな」
「その人の考えがね」
「強く出てるか」
「そうかも知れないわね」
空汰に応えつつ話した。
第五話 神剣その十七
「若しかしたらだけれど」
「あの辺りはわからんな」
「ええ、どうしてその人が丁様と敵対しているかもわからないけれど」
「色々と謎があるな」
「そうね、よかったら丁様にね」
他ならぬ彼女にというのだ。
「お話を聞きたいわね」
「ああ、妹さんと何があってな」
「敵対しているか」
「そのこともな」
「何かわからなくなってきました」
護刃は今の自分の頭の中を率直に述べた。
「地の龍の人達のことが」
「そうね、けれど少しでも理解する為にも」
嵐はその護刃に話した。
「一旦ね」
「はい、丁様のところにですね」
「戻りましょう」
「神威さんを丁様に紹介する為にも」
「そうしましょう」
「案内してくれ」
神威も切実な声で言ってきた。
「もう俺もだ」
「運命を避けないのね」
「まだ天の龍になるとは決められないが」
嵐に応えて話した。
「しかしだ」
「それでもなのね」
「俺はもう運命から逃げない」
今度は強い声で言った。
「おじさんみたいな人を二度と出したくないからな」
「だからなのね」
「そうする、だからな」
「今から」
「封真には用事が出来たと言っておく」
その『用事』の具体的なことは言わないがというのだ。
「そのうえでだ」
「私達と一緒になのね」
「あんた達の言う姫様とやらと会わせてくれ」
「わかったわ、ではね」
「ああ、今からな」
「案内するわ」
嵐は神威に答えた。
「それでは」
「ではな」
「神威、安心するんや」
空汰は決意した神威に真剣な顔と声で言った。
「お前はわいが守る」
「そうしてくれるんだな」
「背中は任せるんや」
こうも言うのだった。
「例えどんな奴が来てもや」
「守ってくれるか」
「そうするさかいな」
だからだというのだ。
「安心するんや」
「わかった、信じさせてもらう」
「私も神威さんと一緒にいますね」
護刃も言ってきた。
「神威さんとはお友達になりましたから」
「友達か」
「はい」
神威に笑顔で答えた。
「ですから」
「そう言ってくれるか」
「犬鬼と一緒に」
今も傍にいる彼も見て話した。
「そうしますね」
「犬鬼か。いい犬だな」
神威も彼を見て言った。
「最初から思っていたが」
「やっぱり犬鬼が見えるんですね」
「見える?見えなくなるのか」
「いえ、犬鬼が見える人はです」
彼の頭を撫でつつ話した。
「力のある人なんですよ」
「そうなのか」
「霊的なものが」
「なら俺にはか」
「確かにありますね」
こう神威に話した。
「そしてそれがあるということは」
「俺が天の龍か地の龍か、か」
「どちらになるかということですね」
「そしてお前達としてはか」
「天の龍を選んで欲しいです」
「そういうことか」
「はい、じゃあ」
護刃は神威にここでも微笑んで話した。
「一緒に行きましょう」
「そこまでだな」
「今から」
護刃が言ってだった。
四人でその場に向かった、神威は今運命と向かいはじめたがそのことを覚悟と共に自覚しつつ足を進めた。
第五話 完
2022・11・23
第六話 封印その一
第六話 封印
神威は護刃達三人に国会議事堂の前に案内された、神威はその誰もが知っている建物を見て思ったことを言った。
「まさかと思うが」
「そのまさかや」
空汰の返事の嘘の色はなかった。
「ここにおひいさんがおられてな」
「天の龍の本拠地か」
「そうなってるんや」
「そうなのか」
「わい等の暮らしてるとこは今は地球にクランプ学園にあるが」
「名前は聞いているが」
「拠点と言える場所はな」
それはというのだ。
「ここや」
「そういうことか」
「ああ、それでな」
「今からだな」
「この中に入ってな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「その姫様にか」
「会おうな」
「わかった」
「こっちよ」
嵐は中に入る道の案内をはじめた、見れば議事堂の入り口は夜なので閉じられていて警護の人もいる。
「表からは入られないけれど」
「それでもか」
「私達だけが知っている入り口があるから」
「そこからだな」
「中に入られるわ」
「何でもその入り口は限られた人達しか知らないそうです」
護刃も言ってきた。
「総理大臣さんとか」
「ということはだ」
「はい、丁様のこともです」
「殆ど知られていないか」
「そうらしいですよ」
「おひいさんは夢見でな」
空汰はまた神威に話した、四人で嵐が先頭に立って神威を案内しつつ秘密の入り口に向かって進みはじめている。
「しかも代々のことでな」
「代々の夢見か」
「そしてやんごとない方々の身代わりにもなってこられてるんや」
「身代わり?」
「あれや、国の柱の方に呪術的な意味で何かあったらな」
「その身代わりにか」
「なられるんや」
こう神威に話した。
「そうしたお立場をな」
「代々務めてきたか」
「そうした方や」
「随分と大変そうだな」
「ええ、日本の歴史は長いけれど」
嵐も言って来た。
「呪術的なこともね」
「何かとあるな」
「それでやんごとない方々をね」
「護る必要があってか」
「お護りされてきたのよ」
身代わりになることでというのだ。
「夢見を務められると共に」
「そうか」
「ええ、それで今からね」
「会いに行くか」
「そうしてもらうわ」
こうした話をしつつだった。
神威は三人に議事堂の中に案内されそこにある秘密の扉からある場所に入った、そこは日本の社の中を思わせる場所であり。
玳透が入り口にいた、神威は彼を見て眉を動かした。
「お前はあの時の」
「やっと来てくれたか」
「やっと、そうだったか」
「そうだよ、僕は君を迎えに来たんだ」
玳透は神威に述べた。
第六話 封印その二
「姫様に言われて」
「そうだったか、あの時は済まない」
神威は玳透に素直に謝罪の言葉を述べた。
「手が出てしまった」
「もういいよ、ここに来てくれたなら」
「それならか」
「僕の役目はそうだったからね」
「その役目が果たされたか」
「君が来てくれたのならね」
それならというのだ。
「僕はそれでいいよ」
「そう言ってくれるか、あんたいい奴だな」
神威は玳透の返事に微笑んで述べた。
「俺はあの時かなり手荒かったが」
「傷も治ったしね」
「だからいいか」
「うん、もうね」
「そう言ってくれるか」
「そうだよ、それでだけれど」
「ああ、今からな」
神威は玳透にあらためて述べた。
「姫様に会いたいが」
「こちらだよ」
玳透はここで案内をはじめた、そうしてだった。
神威達を丁の前に案内した、そのうえでだった。
神威は空汰達と共に丁の前に出たが彼女を見て言った。
「何処かで会ったか」
「直接ははじめてでしたね」
「!?声が」
「わらわは喋れません」
丁は目を閉じていた、そのうえで神威の頭に直接語り掛けてきていた。
「見ることも聞くことも」
「それでか」
「この様にしてです」
「力を使ってか」
「頭に直接語り掛けています」
そうしているというのだ。
「そして見ることも聞くことも」
「力によるものか」
「左様です、お待ちしていました」
丁はあらためてだ、神威に話した。
「司狼神威、貴方が来ることを」
「天の龍としてか」
「左様です、今からお話して宜しいでしょうか」
「天の龍のことをだな」
「そして地の龍のことを」
「宜しく頼む」
「では。天の龍は七つの封印とも呼ばれています」
丁は早速話しはじめた。
「人間を護る立場です」
「地の龍と戦ってか」
「はい、そして」
丁はさらに話した。
「地の龍はでう」
「地球を護る為にか」
「人間を滅ぼすことが目的です、七人の御使いとも呼ばれています」
彼等はというのだ。
「その様に」
「封印と御使いか」
「そうです」
そうなっているというのだ。
「呼び名は」
「そうか」
「そしてです」
「その連中は人間を滅ぼすのか」
「お見せして宜しいでしょうか」
丁は神威にここで確認を取った。
「今より」
「何をだ」
「二つの未来を」
「天の龍の未来とか」
「そして地の龍の未来を」
その両方をというのだ。
「宜しいでしょうか」
「頼む」
神威は一言で答えた。
第六話 封印その三
「俺の二つの選択肢だな」
「そうです、どちらを選ぶかで」
「その未来が決まるか」
「そうなります」
「ではな」
「今からお見せします」
丁は神威に応えてだった。
まずは天の龍の未来を見せた、すると。
人類の文明はそのままだった、多くの生きものもそこにいる。神威はその世界を見せられてから言った。
「そのままだな」
「人間の世界は続き」
「多くの生きものもだな」
「生きていきます」
「そうだな、ではだ」
「次はです」
「地の龍の未来だな」
神威は目を鋭くさせて問うた。
「そうだな」
「はい、ではお見せします」
「そちらも頼む」
「それでは」
今度はだった、世界は。
崩壊し屍で覆われていた、文明は何もかもが破壊され東京タワーだけが崩れつつも存在していた。その世界を見てだった。
神威は頷いてだ、丁に述べた。
「わかった」
「二つの未来が」
「ああ、しかしこれだけか」
丁に鋭い視線を向けて問うた。
「未来を選んだ結果は」
「それぞれのですね」
「そうだ、どうだ」
「あります」
丁は畏まって答えた。
「まだ」
「やはりそうだな」
「ではです」
「まだ見せてくれるか」
「ですが」
「何だ」
神威は丁が戸惑ったのを確認して彼女に聞いた。
「何かあるのか」
「貴方にとって辛いと思いますが」
「その未来はか」
「世界のことよりも」
「それは何だ」
「貴方が大切に思う人のことです」
神威に目を閉じて述べた。
「おわかりですね」
「封真、いや違う」
神威は本能的に察して述べた。
「小鳥か」
「あの人のことです」
「小鳥がどうなるんだ」
神威は丁に顔を険しくさせて問うた。
「天の龍を選んだ時と地の龍を選んだ時でそれぞれ」
「お見せしていいのですね」
「未来は全て見せろ」
これが神威の返答だった。
「さもないと選ぶ材料にならない」
「どちらも全て知らないとですね」
「そうだ、だからだ」
それ故にというのだ。
「そうしてくれ」
「では」
「どんなものでも見てやる」
覚悟を決めた返事だった、動きにもそれが出ていて手は拳になって身体の前で握られている。その上での返事だった。
「俺はな」
「では」
「ああ、見せてくれ」
「これが天の龍の貴方です」
見れば神威は。
無数の赤い糸でがんじがらめにされて動けない、そして。
第六話 封印その四
目の前でだ、十字架にかけられた目を閉じ悲しい顔で俯いている小鳥がいた。見れば。
十字架の上に立つ神威がいて。
悪意と残虐に満ちた笑みを讃えた彼が両手に逆さに持つ巨大な剣に胸を貫かれそれと同時に身体が無惨に無数に切り裂かれ地面に落ち。
首だけが神威の前に転がった、涙を流したその目を見てだった。
神威は項垂れてだ、丁に問うた。
「小鳥を殺したのは血の龍を選んだ俺か」
「はい」
丁は俯いて答えた。
「貴方が地の龍になればです」
「小鳥を殺すか」
「そして天の龍になれば」
「小鳥が殺されるのを見るか」
「そうなりますか」
「そうか」
「どちらかです」
そうなるというのだ。
「貴方は」
「・・・・・・運命は変わりません」
丁は悲しい顔で述べた。
「選べば」
「それでか」
「そうなります」
「どちらかか」
「左様です」
「そしてどちらでも小鳥は死ぬか、いや」
ここで神威は気付いて言った。
「俺は認めない」
「ですが運命は」
「逃れないがどうして俺が小鳥を殺すんだ」
地の龍を選んでというのだ。
「それがわからない、俺は絶対にだ」
「その方をですか」
「守るんだ、だからだ」
「ですがその時は」
地の龍の未来を選べばというのだ。
「貴方は」
「どういうことなんだ、一体」
神威はわからなくなった、だが。
丁にだ、必死の顔で問うた。
「未来はまだあるか」
「二つのですか」
「ああ、見せられるそれは」
「まだこれだけしかわかりません」
丁は悲しい顔で答えた。
「申し訳ありませんが」
「そうなのか」
「はい、わらわの夢見では」
「・・・・・・わかった」
神威は苦い顔になって応えた。
「そのこともな」
「そうですか」
「少し考えさせてくれるか」
神威は項垂れたまま丁に言った。
「絶対に選ぶからな」
「未来を」
「それまでの間だ」
是非にというのだ。
「考えさせてくれ」
「わかりました」
丁も頷いて応えた。
「それでは」
「待ってくれ」
「ではこれで」
「終わりか」
「貴方に今お見せすることは」
「そうか」
「もっと言えばお見せ出来ることは」
それはというのだ。
「わらわが見た限りは」
「わかった、じゃあな」
「お考えになって」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
第六話 封印その五
「そうする」
「では」
「またな」
「お待ちしています」
丁は心で背を向けた神威に礼儀正しく述べた。
「そしてどうかです」
「世界をだな」
「お救い下さい」
「ああ、封真のところに戻る」
「封真。桃生家の」
「知っているのか」
「はい」
神威のその問いにも答えた。
「彼のお父上のことも」
「おじさんもか」
「ですが」
ここで丁はこうも言った。
「おかしいのです」
「おかしい?何がだ」
「あの方は死ぬ筈でした」
「今回のことでか」
「そうなる運命でしたが」
「運命か」
「ここでそうなる筈ですが」
それがというのだ。
「重傷でも命に別条がないとは」
「おかしいか」
「はい、どういうことでしょうか」
「運命が変わったか」
「その様です。面妖な」
「待て、そうだとするとだ」
神威は護鏡の運命が変わったと聞いてだ、再びその目を鋭くさせた。そのうえで丁に対して言った。
「小鳥もか」
「助かるかも知れないと」
「違うか、それは」
「わかりません、運命は二つです」
「天の龍か地の龍か」
「どちらかの筈ですが」
「そしておじさんはか」
また彼のことを言った。
「ここでか」
「お亡くなりになる筈だったのに」
「運命が変わったか」
「どういうことなのか」
「詳しいことはわからないが運命は変わるか」
神威は詳しいことはわからなかった、だが。
運命についてこう認識ンしてだ、そのうえで小鳥に話した。
「わかった、そのことも含めてだ」
「お考えになりますか」
「そうしていく、そしてだ」
「結論を出されますか」
「そうする、また機会があればな」
「夢の中に出てもいいでしょうか」
「勝手にしろ、ではな」
「はい、また」
これで話を終えた、そしてだった。
神威は空汰達に向き直ってだ、こう言った。
「少し待ってくれるか」
「その間にやな」
「考えてだ」
空汰にもこう答えた。
「結論を出す」
「わかった、ほな待っとくわ」
「済まない」
「ただ困った時は何時でも来るんや」
笑ってだ、空汰は神威に暖かい声で告げた。
「力になるからな」
「そう言ってくれるか」
「わい等は仲間やからな」
「俺はまだ決めていないが」
「それでもや、心の友ちゅうやつや」
暖かい笑顔のまま神威に告げた。
第六話 封印その六
「それでや」
「そうか、ならな」
「ああ、またな」
「ここに来た時はな」
「何時でも来たらええわ」
「そして何時でもか」
「頼りにするんや」
神威に告げた。
「ええな」
「その言葉覚えておく」
「ほなな」
「神威さん、連絡先は桃生神社でいいですか?」
護刃はそちらの話をしてきた。
「そこで」
「いや、今はアパートに住んでいるからな」
「そちらにですか」
「連絡してくれ、連絡先は」
神威はそれを天の龍達に教えた、それで去ろうとしたが。
「!?」
「これは!」
突如として場に何か来た、それは衝撃波の様だった。
一瞬であったが確かに来てだった。
桜の花びら達が待った、その花びら達を見て嵐は言った。
「これはまさか」
「桜の花びらっちゅうことはな」
「桜塚護ね」
「裏の陰陽師やな」
「その組織の棟梁かしら」
「これはな」
空汰は一枚の花びらを手に述べた。
「そうかもな、おそらくと思ってたが」
「桜塚護もなのね」
「関係者でな」
「しかも」
「ああ、わい等にこうして挨拶してくれたってことはな」
このことから察せられることはというのだ。
「地の龍の一人や」
「そうでしょうね」
嵐も否定せずに頷いた。
「これは」
「そうやろうな」
「けれどです」
護刃は怪訝な顔で言ってきた。
「この場所の結界もです」
「ああ、かなりのもんでな」
「そう簡単には力を及ぼせない筈ですが」
「地の龍でもな、実際に遊人さんもな」
彼もというのだ。
「何も出来てへんしな」
「そうですよね」
「何か出来てたらな」
その遊人がというのだ。
「もうや」
「とっくにですね」
「それが出来てた筈や」
「おかしいわ」
嵐が険しい顔で言ってきた。
「ほんの一瞬、彼が仕掛けて来る時によ」
「その時にかいな」
「議事堂の結界の力が消えていたわ」
「そんなことあったんか」
「こんなことがあるのかしら」
「まさか」
玳透は嵐の指摘に驚いた顔で応えた。
「僕達がいてです」
「それはないわね」
「しかも二重三重に張っていますから」
その結界をというのだ。
「それはです」
「ええ、わかっているわ」
「でしたらいいですが」
「だからこそよ」
玳透に対して言った。
第六話 封印その七
「今の様なことはですね」
「有り得なくて」
「貴方達に不備があったともよ」
「言えないですか」
「ええ、例え桜塚護の力が強くても」
そうであってもというのだ。
「ここの結界を破ることはね」
「出来ないですか」
「流石にね、しかも一時消えて」
その結界がというのだ。
「今はね」
「戻ってますね」
護刃が言って来た。
「そうなってますね」
「すぐにね」
「あの、何か」
「どうしたのかしら」
「どなたかがです」
首を傾げさせながら言った。
「結界を消した様な」
「そう思うのね」
「はい」
こう嵐に答えた。
「私としては」
「あの、そんなことはです」
玳透は戸惑った声で述べた。
「とてもです」
「出来ないですか」
「誰にも」
「そうなんですね」
「例え天の龍の皆さんでも」
強い力を持つ彼等でもというのだ。
「流石に」
「そうですか」
「幾ら何でも」
「いや、聞きたい」
神威は玳透に顔を向けて彼に問うた。
「俺達より力が強い者がいるならな」
「それが誰か」
「そうだ、聞きたいが」
「もうそれは丁様しかおられないです」
玳透は強い声で答えた。
「最早」
「そして妹の庚です」
丁も言って来た。
「他にはです」
「妹さんがいるのか」
「わらわと対して地の龍を率いています」
「妹さんも夢見か」
「いえ、そこは違います」
自分とはというのだ。
「ですがその力は」
「姫様に匹敵するか」
「左様です」
「ではその女がしたのか」
神威は丁の話を聞いてこう考えた。
「そうなのか」
「いや、内から消した感じみたいですから」
護刃が話した。
「この場合はです」
「地の龍の女ではないか」
「そうだと思います」
「何かわからんな、怪我人は出んかったからええが」
空汰も眉を顰めさせている、見回すと桜の花びらはあるが怪我人はなく壊れた場所もない。無事そのものだった。
「しかしな」
「それでもですね」
「結滞なことや」
こう護刃に述べた。
「ほんまにな」
「そうですよね」
「ああ、そやけど結界は戻ったし」
「今は安心出来ますね」
「これでな」
「ではまたな」
神威はここで他の面々に告げた。
第六話 封印その八
「会おう」
「はい、またお会いしましょう」
「暫く考える、だが俺はだ」
護刃に応えつつ言った。
「小鳥は何があっても殺さない」
「それが貴方の考えね」
「そうだ、俺は小鳥を護る」
殺すのではなくとだ、嵐に答えた。
「そうする」
「わかったわ、では結論が出たらね」
「まただな」
「お会いしましょう」
「それではな」
最後にこう告げてだった。
神威は議事堂を後にした、そうして彼の下宿先に戻った。
神威と別れた封真は父の枕元にいたが。
鏡護は目を開いた、そのうえで彼を見て言った。
「わしは助かったな」
「ああ、傷は深いが命に別状はないそうだ」
封真は父に優しい声で答えた。
「だから傷が癒えれば」
「退院出来るか」
「そうらしい」
「そうか、変わったな」
「変わった?」
「運命が変わった」
封真に天井を見上げつつ話した。
「一つな」
「運命?どういうことなんだ父さん」
「お前にも話さなくてはいけないな」
封真に応えず述べた。
「これは」
「どういうことなんだ、父さん」
「封真、お前は添え星だ」
「添え星?」
「神威のな」
こう言うのだった。
「夢で言われた」
「夢でって」
「お前は神威が道を選ぶとだ」
その時にというのだ。
「もう一つの道に入る」
「神威が選べば」
「そうだ、やがてお前も知る」
封真を見つつ話した。
「きっとな」
「俺も知る」
「おそらく間もなくだ」
「俺が添え星で」
「神威が選ばな」
「もう一つの道に入る」
「そうなる、だが」
息子にさらに言うのだった。
「運命は変えられる」
「俺がその道に入っても」
「そうだ、小鳥を護りたいか」
「勿論だ」
封真の返事は一言だった。
「それは」
「そうだな、神威もだな」
「当然じゃないか」
また答えた。
「あいつは俺の大事な幼馴染みだ」
「三人の絆を護りたいな」
「永遠にな」
「その気持ちを忘れるな」
こう言うのだった。
「いいな」
「そうすればいいんだな」
「どんな道を選んでもな」
「一体何を言ってるんだ父さん」
封真は話が全くわからず父に問うた。
第六話 封印その九
「本当に」
「だからそれはだ」
「夢でわかるんだ」
「そうなる」
こう言うのだった。
「間もなくな」
「添え星か、俺は」
「そうだ、しかしな」
鏡護は息子にさらに話した。
「お前はお前だ、お前が小鳥それに神威を護りたいならな」
「そう思うとか」
「どんな立場でもだ」
「出来るか」
「そうだ、お前ということが変わらないなら」
そうであるならというのだ。
「必ずな」
「俺は父さんが何を言ってるかわからない」
残念そうに述べた。
「どうも、しかし」
「それでもか」
「小鳥と神威は護る」
「何があってもだな」
「そして俺がどんなことになってもな」
それでもというのだ。
「そうする」
「そう想い続けているなら問題はない」
「俺がどうなってもか」
「そうだ、護れ」
何としてもというのだ。
「二人をな」
「そうする」
「その言葉確かに聞いた。ではわしはな」
鏡護は封真とここまで話して微笑んで言った。
「傷の回復に努める」
「うん、そうしてくれ」
封真も是非にと答えた。
「父さんも」
「命に別状はなくとも受けた傷は大きいからな」
だからだというのだ。
「わしはな」
「これからはか」
「もう話すことはないしな」
このこともありというのだ。
「休む、今は少し寝る」
「わかった、じゃあまた来る」
「そうしてくれ」
息子に優しい声で告げてだった。
鏡護は目を閉じた、封真は父が眠りに入ったことを確認してそのうえで家に戻った。そうして小鳥と今後のことを話した。
鏡護は夢の中にいた、最初は一人だったが。
前に丁が出た、すると丁の方から言ってきた。
「助かって何よりですが」
「運命が変わったことにですか」
「驚いています」
畏まっての返事だった。
「わらわも」
「そうでしょうな、ですがわしはです」
「嬉しいですね」
「はい」
前にいる彼女に微笑んで答えた。
「運命が変わったのですから」
「貴方が助かったことでなく」
「運命が変わる、つまりは」
「わらわが見た絶望もですか」
「変わります。ですから丁様も」
こう彼女に言うのだった。
「これからのことをです」
「見ていっていいですか」
「はい」
まさにというのだ。
「希望を胸に抱いて」
「希望なぞ忘れていました」
目を閉じて述べた。
第六話 封印その十
「わらわは」
「ですがこれからはです」
「その希望を思い出してもいいのですか」
「左様です」
こう言うのだった。
「そうして下さい」
「ですがまだ」
「いえ、きっとです」
護鏡の返事は強いものになっていた。
「未来、運命はです」
「変わるのですね」
「これからも」
まさにというのだ。
「そうなります」
「では人間と地球は」
「間違いなく、そして娘も」
小鳥もというのだ。
「安心して下さい」
「彼女もですか」
「生きられます」
「そうなればいいですが」
「なります、わしは暫くこの場にいてです」
「傷を癒されますか」
「そうします、ですがもう心配はしていません」
全く、そうした言葉だった。
「きっと未来、運命はよいものになります」
「人間にとっても地球にとっても」
「そうなります、ですから」
「安心してですか」
「見守っていて下さい」
「それが出来る様になれば嬉しく思います」
これが今の丁の返事だった。
「わらわも」
「それでは」
「そうします、しかし」
「それでもですね」
「今は思うだけで」
「信じられないですか」
「残念なことに」
こう護鏡に答えた。
「そうです、ですが」
「わしの言われる通りにですか」
「なれれば」
「そうなられることを願っています」
護鏡は冷静に述べてだった。
深い眠りに入った、そうしてだった。
丁は一人なった、するとここで。
顔に憎しみが宿ってだ、こう言ったのだった。
「運命、それは決まっているというのに」
「あ、貴女は」
二人の丁が今ここで対して話した。
「わらわの」
「それは許せませぬ、備えはしておきます」
「貴女はまさか」
「それは貴方が一番よく知っていること」
「言うつもりはありません」
それ故にというのだ。
「わらわは」
「どうして望まれるのですか」
丁は相手に問うた。
「貴女はいつも」
「全ては貴女つまりわらわの為ではないですか」
「わらわの」
「そうです、ですから」
だからだというのだ。
「わらわはです」
「動かれますか」
「貴女の想いを適える為に」
「いえ、わららは」
丁はその言葉を否定した。
「決してです」
「そう言われますか」
「人間の世界を護りたいです」
「それが貴女の本心か」
相手は笑いつつ返した。
第六話 封印その十一
「わらわは最もよく知っています」
「それは」
「隠してもわかることです」
相手はこうも言うのだった。
「わらわにだけは」
「ですがそれでも」
「運命は変わりません、いえ変えさせません」
相手はまた言った。
「わらわが」
「どうしてもですか」
「はい、必ず」
あくまで言うのだった、丁はその相手と夢の中で話しつつ一人苦しんでいた。
神威は次の日の朝だった、自分から桃生家に行って玄関のチャイムを鳴らした、小鳥はチャイムの声を聞いてだった。
玄関に出た、そして神威を見て驚いた。
「神威ちゃん・・・・・・」
「一緒に学校に行かないか」
神威は微笑んで小鳥に申し出た。
「今から」
「ええ、朝ご飯は」
「もう食った」
「自分のお家で?」
「そうしてきた」
「そうなのね」
「ああ、それでだが」
神威は小鳥にあらためて申し出た。
「今からどうだ」
「一緒になのね」
「学校に行かないか」
また小鳥に言った。
「そうするか」
「ええ、わかったわ」
小鳥はもう制服姿だ、今から登校するつもりなのだ。
「それじゃあね」
「行くか。封真はいるか」
「お兄ちゃんは部活の朝練があるから」
それでというのだ。
「もうね」
「行ったか」
「そうなの、それじゃあ戸締りして」
「今はおじさんがおられないからな」
「それをして」
そうしてというのだ。
「それからね」
「行くか」
「そうしましょう」
こう話してだった。
小鳥は戸締りをしてから家を出た、だが。
ここでだ、こうも言った。
「お父さんがお家にいないと」
「駄目か」
「神社だからね」
「そうだな、神社やお寺はな」
「宗教関係の場所はね」
神威と共に歩きはじめつつ述べた。
「何時どなたが来られるかわからないから」
「だからだな」
「誰かがお家にいないと。修行中の人がおられるから」
「その人にか」
「来てもらおうかしら」
「それがいいな」
「じゃあ連絡しておくわね」
一旦家に入ってそうした、それから戻って神威に話した。
「連絡してきたわ、すぐに来てくれるそうよ」
「それは何よりだな」
「神主さんと巫女さんがね」
「女の人もか」
「ええ、それでお父さんがいない間は」
「ずっとか」
「神社にいてくれるそうだから」
それでというのだ。
第六話 封印その十二
「もうね」
「これでだな」
「安心よ、じゃあね」
「行くか、学校に」
「そうしましょう」
小鳥は神威に明るい笑顔で応えた、そのうえで一緒に登校するがそうしはじめてすぐに左手にだった。
大きな枝が広く傘の様に拡がっている木を見てだった、神威は言った。
「この木だったな」
「二人でよく遊んだわね」
「そうだったな」
「私が木に登って降りられない猫ちゃんを助けて」
「登ってな」
「今度は私が降りられなくなって」
「俺が行ったな」
小鳥に顔を向けて話した。
「助けに」
「けれど私が落ちそうになって」
「俺が掴んだな」
「私の手をね、そしてね」
「俺も落ちそうになったがな」
「神威ちゃんずっと持っていてくれたわね」
「俺が手を離すか落ちるとな」
そうした時はとだ、神威は小鳥に話した。
「小鳥が危なかったからな」
「それでだったわね」
「ああ、絶対にだ」
神威は強い声で答えた。
「離すものかって思ってな」
「それでだったわね」
「持っていた」
ずっと、というのだ。
「封真やおじさんが来るまでな」
「私達の帰りが遅かったから」
「心配して探しに来てな」
「見付けて助けてくれるまで持っていてくれたわね」
「当然のことをしただけだ」
これが神威の返事だった。
「あの時はな」
「そう言ってくれるの」
「しかも小鳥は子猫も持っていた」
助けたその猫もというのだ。
「だから尚更だった」
「神威ちゃんらしいね」
「俺らしいか」
「優しくてね」
神威に笑顔を向けて話した。
「いざという時頼りになって」
「それが俺か」
「うん、本当にね」
「そうなのか、ところでだ」
神威は小鳥の言葉を聞きながら言った。
「あの時助けた猫はどうしているんだ」
「能登さんのお家の猫ちゃんだったの」
「神社のご近所のか」
「それで今も元気よ」
「そうか、元気なんだな」
「もうお婆ちゃんになってるけど」
それでもというのだ。
「元気よ」
「それは何よりだな」
「猫ちゃんのことも気遣ってくれてるのね」
「助かった命だしな、それに」
「それに?」
「無駄に死んでいい命なんてない」
小鳥を見て言った。
「だからな」
「猫ちゃんのこと言ったのね」
「あの時はそこまで考えていなかったが」
「無駄に死んでいい命はないって」
「今はそう考えている、小鳥もだ」
今も彼女を見ている、そのうえでの言葉だ。
「同じだ」
「私もなの」
「そうだ、無駄に死ぬことなんてない、いや」
ここで自分の言葉を訂正した。
第六話 封印その十三
「死なせない、何があっても」
「?神威ちゃん何を言ってるの?」
神威の言葉がわからず問い返した。
「一体」
「いや、何でもない」
自分がつい運命のことを考えて言っていることに気付いて打ち消した。
「気にしないでくれ」
「それならいいけれど」
「兎に角だ、神社のことも何とかなるしな」
「それでよね」
「今からな」
「学校に行くのね」
「そうしよう」
小鳥にあらためて言ってだった。
その上で二人で登校した、すると。
誰もがその二人を見た、それで小鳥は友人達に言われた。
「小鳥あんた司狼君と幼馴染みっていうけれど」
「若しかして?」
「今付き合ってるの?」
「そうしてるの?」
「あっ、そういうのじゃないと思うけれど」
それでもというのだった。
「神威ちゃんは幼馴染みなの」
「ふうん、そうだったの」
「あんた達そうだったの」
「子供の頃からだったの」
「そうなの、だからね」
それでと友人達に話した。
「付き合ってるとかね」
「そういうのはないの」
「あんた達は」
「言うならお友達なのね」
「お兄ちゃんも入れてね」
封真もというのだ。
「そうなの」
「ああ、お兄さんね」
「あの人もなのね」
「そこに入ってるのね」
「三人でね」
それでというのだ。
「もうね」
「一緒に名のね」
「いるのね」
「いつも」
「子供の頃はそうで」
小鳥はあくまでその時のことから言っていた。
「今戻ったの」
「成程ね」
「よくわかったわ」
「じゃあ司狼君はね」
「もういるってことでね」
「いるって。そういうのじゃないから」
小鳥は周りが何が言いたいのか察して応えた。
「私達は」
「そう言うけれどね」
「幼馴染みっていうとね」
「余計にそう思えるから」
「絆が深いだけに」
「そうなの。けれどね」
それでもと言うのだった。
「あくまでよ」
「まあそう言うならいいけれどね」
「私達は」
「何もしないから」
「応援だけさせてもらうわね」
「そういうのじゃないのに」
小鳥は憮然として応えた、それで下校中にやはり一緒に帰ると言ってきた神威にこのことを話すとだった。
神威は優しく微笑んでだ、こう答えた。
「そう思いたい奴はな」
「思えばいいの?」
「好きにさせればいい」
こう言うのだった。
「思うことは勝手だ」
「だからなの」
「ああ、俺達に疚しいことはない」
神威はこうも言った。
第六話 封印その十四
「全くな、俺はただだ」
「ただ?」
「小鳥を護りたいだけだ」
「えっ、私をなの」
「この世界がどうなってもな」
自分の運命を思いつつ話した。
「俺は小鳥を護る」
「そうしてくれるの」
「封真もな」
二人共というのだ。
「二人共俺にとって掛け替えのない人だからな」
「だからなの」
「ああ、人間と地球がどうなっても」
このことは真剣な顔になって述べた。
「俺はだ」
「私とお兄ちゃんをなの」
「護る、俺は誓ったんだ」
正面を向いての言葉だった。
「俺にも他の誰にもな」
「私とお兄ちゃんを護るって」
「何があってもな」
「何がって」
小鳥は神威の言葉に尋常でないものを感じた、それでだった。
彼の横顔を見てだ、心配そうな顔で言った。
「世界が滅んでも?」
「そうなってもだ」
その小鳥に顔を向けて答えた。
「俺はだ」
「私とお兄ちゃんをなの」
「護る」
またこう言うのだった。
「絶対にな」
「そうなの」
「だからだ」
そう考えるからだというのだ。
「今も一緒にいる」
「そうだったの」
「何時どうなるかわからないしな」
小鳥を見たまま答えた。
「そうする」
「それだけ私もお兄ちゃんもなのね」
「大事に思っている」
「そうだからこそ」
「そうする、だから安心してくれ」
小鳥にさらに言った。
「小鳥には俺がいるからな」
「お兄ちゃんにもなのね」
「何かあったら頼ってくれ」
「神威ちゃんを」
「そうしてくれたならな」
それならというのだ。
「俺がだ」
「護ってくれるのね」
「例え俺自身が来てもな」
丁が見せた夢を思い出しつつ語った。
「それでもだ」
「私もお兄ちゃんもなの」
「絶対にな」
「神威ちゃん自身もって」
小鳥はそれがどういうことかわからず首を傾げさせた。
「一体」
「こちらの話だ」
「そうなの」
「しかしだ」
「私達をなのね」
「そうするからな」
護るからだというのだ。
「安心してくれ」
「ええ、それじゃあね」
小鳥は笑顔で応えた、そうして神威に家まで送ってもらった。そしてだった。
家に来てくれた見習の神主さんや巫女さんそれに封真と食事を摂りその後でだ、封真に対して神威のことを話した。
するとだ、兄は笑って言った。
第六話 封印その十五
「そうか、元に戻れたな」
「元?」
「元の俺達にな」
こう言うのだった。
「戻ったな」
「あの時みたいに」
「ああ、俺達三人はな」
「幼馴染みで」
「何があってもな」
「一緒ね」
「あの時はそうだったしな」
幼い頃はというのだ。
「そしてな」
「今なのね」
「戻ったな」
「そうなったのね」
「ああ、よかった」
封真は微笑んでこうも言った。
「本当にな」
「神威ちゃん何か最初はね」
「東京に戻ってきた時はな」
「近寄りにくかったけれど」
「それがな」
「戻ったのね」
「ああ、そうだからな」
それ故にというのだ」
「今俺は言ったんだ」
「元の私達に戻ったって」
「そしてな」
「そして?」
「ずっとな」
これからはというのだ。
「もう何があってもな」
「私達は変わらないのね」
「そうなる、俺達はずっと一緒だ」
こうも言うのだった。
「本当にな」
「何があっても」
「そうだ」
「そうよね、私達はね」
「人類や地球の最後の日が来てもな」
「それでもね」
「一緒だ、最後の最後までな」
テーブルに座って小鳥と向かい合いつつ話した。
「そうなっていく」
「うん、私も神威ちゃん支えるしお兄ちゃんもね」
「支えてくれるか」
「何があっても」
「俺も神威もか」
「二人共ね」
「そうなんだな、だったらな俺もだ」
封真は自分のこともと話した。
「お前も神威もだ」
「護ってくれるのね」
「どうなってもな」
こう小鳥に話した、二人はこの話は二人だけでして誰も聞いていないと思っていた。事実その場には誰もいなかったが。
丁はその話を聞いていた、そのうえで夢の中で鏡護に話した。
「その様にです」
「二人の育て方は間違っていませんでした」
鏡護は向かい合っている丁に微笑んで述べた。
「嬉しく思います」
「そうですか、ですが」
「あの三人はですか」
「彼が運命を選べば」
そうすればとだ、丁は今も悲しい顔で話した。
「その時にです」
「封真は小鳥を殺すか」
「彼女が殺されるのを見るか」
「どちらかで」
「彼と戦うことになるでしょう」
「それが運命ですね」
「はい」
俯いた顔での返事だった。
第六話 封印その十六
「彼等の」
「そうなるでしょうか」
「確かに貴方は生きています」
「運命は変わりました」
「しかしです」
それでもとだ、丁はさらに述べた。
「彼等の運命は世界を左右するものであり」
「わしの運命よりはですか」
「遥かにです」
まさにというのだ。
「過酷であり絶対のものであるので」
「変わらないと」
「そうです、変わることなぞ」
「ないというのですね」
「そうです、ですから今そう思っていても」
「いえ、わしは信じています」
鏡護は今もこう言った。
「あの三人はです」
「運命を変えますか」
「左様です」
「貴方はそう言われますか」
「信じていますので」
それ故にというのだ。
「左様です」
「そうですか」
「わしは。ですが」
ここであ、鏡護は。
丁を見てだ、彼女に考える顔で問うた。
「こうなることは嬉しいことでは」
「わらわにとってですか」
「はい、運命が変わり」
そうしてというのだ。
「ひいては人間もです」
「救われるというのですね」
「そうなるのですから」
「それはです」
丁は表情を変えずに鏡護に答えた。
「貴方にはわからぬことかと」
「わしにはですか」
「はい、わらわもそう思いたいのですが」
嬉しくというのだ。
「その様に。ですが」
「運命の重さでしょうか」
「そう思われて下さい」
はっきりとしない返事であった。
「貴方は」
「ふむ。何かありますな」
丁の返事を受けてだった、鏡護はこのことを察して述べた。
「丁様には」
「前もその様なことを言われた様な」
「そうですな、ですが」
「それでもですか」
「きっとです」
「三人の運命が変わることは」
「そうです、よいことです」
まさにというのだ。
「必ず」
「それが人間を救うことにもなるので」
「しかも地球もです」
こちらもというのだ。
「救われるので」
「そう思いたいとです」
「また言われますか」
「はい、その様に」
「そうですか」
「はい、そして彼が決める時はです」
丁はあらためてこの話をした。
「近付いていて必ずです」
「その時が来ますか」
「左様です」
「そうですか、その時にわかりますか」
「運命が絶対ということを」
まさにこのことをというのだ。
「わかります、貴方も」
「わしの考えは変わりません」
鏡護はそう言われても微笑んで答えた。
「やはりです」
「運命は、ですか」
「変わるものであり」
そうしてというのだ。
第六話 封印その十七
「三人もです」
「救われ」
「人間も地球も」
その両方がというのだ。
「救われます」
「最高の結末ですか」
「そうなるでしょう」
「ですか、ですがわらわは見たのですから」
丁は丁で言った。
「二つの未来を」
「そのどちらかになると」
「その二つしかです」
運命即ち未来はというのだ。
「ないと」
「その様にですか」
「見たので」
それ故にというのだ。
「変わりません」
「そうですか」
「左様です、ではお話は」
「今回はですな」
「これまでとしましょう、貴方の眠りがです」
それがというのだ。
「深くなってきましたので」
「これ以上のお話はですか」
「貴方にとって辛いので」
「深い眠りも必要ですな」
「人には」
まさにというのだ。
「そうですので」
「だからですな」
「はい、また機会があれば」
「お話しましょう」
「そうして下さい。ではお身体は」
「よくなってきています、僅かずつですが」
「それはよいことです」
「退院した時には全て終わっていますな」
「そうなるかと」
丁もこのことは否定しなかった。
「全てはです」
「終わっていて」
「貴方は運命をご覧になります」
「その結果を」
「そうです、では」
「これよりですな」
「お身体を養って下さい」
こう鏡護に告げた。
「お怪我は深いですから」
「命に問題はなくとも」
「そうされて下さい」
「そうします」
鏡護も答えた、そうしてだった。
彼は深い眠りに入った、そのうえで怪我を癒すことに専念した。だが彼は自分の子供達の未来も世界の運命も心配していなかった。
第六話 完
2022・12・1
第七話 沖縄その一
第七話 沖縄
神威は東京から沖縄に引っ越した、母と共に。
するとだ、すぐにだった。
「あいつ違うな」
「ああ、ヤマトンチューはああなんだな」
「俺達と雰囲気が違うぞ」
「どうもな」
「しかもな」
神威を見てひそひそとだ、小学校の誰もが話した。
「やたら頭いいしな」
「特に勉強していないのに」
「塾にも通ってないのに」
「足だって速いし」
「力だって強いしな」
「司狼いいか?」
ある者が彼に声をかけた。
「今度の野球の試合出てくれないか?」
「野球か」
「ああ、今うちのエースが足捻挫してな」
それでというのだ。
「試合出られなくて」
「代わりにか」
「そうしてくれるか?」
「わかった」
神威は無表情で応えた、そして試合に出るが。
マウンドのピッチングを見て誰もが唖然となった。
「高校生並だな」
「小学生の投げるボールじゃないぞ」
「身体小さめなのに化けものか?」
「あんなボール投げるなんてな」
そのボールは相手チームの誰もかすりもしなかった、そしてバッターボックスに立てばこの時はというと。
「またホームランか」
「四打席連続だな」
「しかも何で大きなホームランだ」
「物凄いスピードで百二十メートルは飛ばしたぞ」
「打つ方も小学生じゃないぞ」
「本当に化けものか」
これまた誰もが唖然となった、そして。
神威はスポーツでも有名になってだった、あらゆる試合で引っ張りだこになった。そして誰かに絡まれても。
「お前七人のチンピラのしたて?」
「喧嘩も強いのかよ」
「身体専門的にやってるのか?」
「そっちの助っ人にも行ったけれどな」
「いや、何も習ってない」
神威はこの時も無表情で答えた。
「何もな」
「それで七人ものしたのよ」
「元々強いのかよ」
「どんなスポーツでも凄くて」
「喧嘩もかよ」
誰もがこのことにも驚いた、それでだった。
多くの者が神威を凄いと言ったが中には。
「凄過ぎるな」
「ああ、何に対してもな」
「化けものみたいだな」
「ヤマトンチューってあんなのばかりか?」
「いや、あいつは特別だろ」
「あいつだけのことだろ」
こう話してだ。
彼を怖れる者も出た、それは中学に入ってもであり。
神威は野球部に入ったがそこでも活躍し。
「一年からレギュラーだな」
「ああ、ピッチャーだ」
「打順は四番だ」
「あいつじゃなくて誰がそうなるんだ」
「あいつがいてよかったぜ」
部員達は誰もがその能力を認めた、だがここでもだった。
第七話 沖縄その二
「あいつ幾ら何でも凄過ぎるな」
「成績も抜群だしな」
「特に何もしてないのに」
「隠れて努力してるのか?」
「そんな筈ないだろ」
「東京から来たっていうが」
「何者なんだ」
こう話した、そしてだった。
ここでも怖れる者がいた、そのうえでだった。
「おい、嘘だろ」
「ゴールドエンペラー一人で壊滅させた?」
「あの沖縄一のゾクのチームをか」
「嘘じゃないよな」
「幾ら何でもないだろ」
喧嘩の強さも有名になっていた、しかし。
自分からは決して喧嘩をしなかった、悪事もせず近寄り難い雰囲気だった。それで余計に噂になった。
「何考えてるんだ」
「普段何してるんだ」
「わからない奴だな」
「不気味だな」
「近寄りにくいな」
「どうしてもな」
避ける者が増えた、兎角だ。
神威はその力を見られかつ怖れられた、そして自分からは決して誰にも近寄ろうとしなかった。それでだ。
中三の頃クラスメイトの誰にも声をかける者に聞かれた。
「司狼お前人嫌いか?」
「いや」
神威は率直に答えた。
「別にな」
「けれどいつも不愛想だな」
「そうか」
「表情なくてな」
そしてというのだ。
「人に近寄らないだろ」
「だからか」
「何かあるんじゃないかってな」
その様にというのだ。
「思ったけれどな」
「別にない」
神威はこう返した。
「俺は」
「別にか」
「ただな」
「ただ?」
「東京のことを思うとな」
「ああ、お前昔東京にいたな」
クラスメイトはこのことを思い出して言った。
「そうだったな」
「今はこっちにいてもな」
「東京のことを思い出してか」
「そしてな」
それでというのだ。
「考える時が多い」
「そうなんだな」
「それだけだ」
「そうか、東京に帰りたいか」
「実はな、だが帰っては駄目な様な」
そうしたというのだ。
「思うこともな」
「あるんだな」
「ああ、どうもな」
それはというのだ。
「俺は」
「複雑だな」
「これが複雑か」
「そう言うのかもな」
こうしたことを話したりもした、そして。
高校に進学したが不意にだった。
家に帰る時に家に火事があった、それで慌てて戻ったが。
これが運命のはじまりだった、そして今彼は夢の中で丁と会っていた。丁はその中で彼に挨拶を告げた。
第七話 沖縄その三
「こんばんは」
「言った通り来たか」
「はい」
神威に丁重な声で答えた。
「お邪魔でしょうか」
「いや」
神威は言葉でそうではないと答えた。
「来ると思っていたからな」
「だからですか」
「待っていた、邪魔とはだ」
「思われていませんでしたか」
「そうだ、それでだが」
「わらわが来た理由ですね」
「大体察しはつくが」
「貴方に決断をお願いしたくです」
「来たか」
「左様です」
まさにというのだ。
「この度は」
「そうか、天の龍のか」
「その運命を選ぶことがです」
まさにというのだ。
「貴方が為すべきことです」
「俺が天の龍を選べばだな」
「人間は救われます」
そうなるというのだ。
「必ず」
「そうなるのか」
「はい、ですから」
それ故にというのだ。
「どうかです」
「俺は天の龍になってか」
「人間を救って下さい」
是非にというのだった。
「どうか」
「そして俺が天の龍になれば」
神威は丁に顔を暗くさせて問うた。
「小鳥は」
「そのことは」
「俺は小鳥が殺される時を見るのか」
丁に問うた。
「そうなるのか」
「それは」
「どうなんだ」
「そうよ」
ここでだった、誰かの声がした。
神威がその声がした方を見ると庚がいた、だが彼は彼女のことを知らず目を鋭くさせて彼女に問うた。
「誰だお前は」
「庚。その人の妹よ」
「姫様のか」
「ええ、そして地の龍を率いる者よ」
「姫様と同じ立場か」
「私は地の龍でなくて夢見も出来ないけれど」
それでもというのだ。
「夢の中に入ることは出来るの」
「それでここに来たのか」
「ええ、貴方を迎えに来たのよ」
「俺をか」
「姉さんは自分の都合のいいことしか言ってないわ」
こう話すのだった。
「そのことを言っておくわ」
「どういうことだ」
「言ったままよ、貴方が天の龍を選べばね」
「人間は救われるな」
「けれど地球は滅ぶわ」
そうなるというのだ。
「人間が地球を穢しているのだから」
「だからか」
「今の地球のことは知っているわね」
「環境破壊のことか」
神威は庚にこのことを話に出して応えた。
「それか」
「そうよ、環境破壊でね」
まさにそれによってというのだ。
第七話 沖縄その四
「地球は今悲鳴を挙げているわ」
「人間によってか」
「だから人間がいれば」
その時はというのだ。
「もうね」
「地球は滅びるわ」
「そうなるわ、地球を救う為には」
「人間を滅ぼすことか」
「そうよ、貴方が地の龍になれば」
その時はというと。
「まさにね」
「地球は救われてか」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「保たれるわ」
「そうか、しかしな」
神威は庚の話を聞いてから答えた。
「俺が地の龍を選べなどうなる」
「どうなる?」
「小鳥はだ」
「小鳥?誰かしら」
「知らないか」
「ええ、貴方の知り合いかしら」
「俺の幼馴染みだ」
こう庚に話した。
「あいつはどうなる」
「貴方が殺すことになります」
丁がここでまた言った。
「貴方が地の龍を選べば」
「人間を滅ぼしてか」
「その手はじめに」
それによってというのだ。
「あの人を殺します」
「あの時見た様にか」
「まさに」
「そうか、しかしだな」
「地球は救われます」
丁は庚の言葉をそのまま述べた。
「そうなります」
「まさにだな」
「はい」
こう言うのだった。
「人間を滅ぼして」
「そうなるか」
「人間が地球か」
「どちらかだな、議事堂で聞いたが」
「その通りにです」
まさにというのだ。
「なります」
「そうよ、姉さん正直に話したわね」
「話さずにどうするのです」
庚を見てだ、丁は彼女に告げた。
「一体」
「彼が選ぶからなのね」
「はい、ですから」
それ故にというのだ。
「申し上げました」
「ありのままに。まさかね」
「私が隠すとですか」
「地の龍のことをそうすると思っていたけれど」
それがというのだ。
「しなかったわね」
「それは貴女がさせませんでしたわね」
「ええ、姉さんが困ることならね」
庚は思わせぶりに笑って答えた。
「私は何でもするわ」
「貴女はどうして」
「姉さんが憎いからよ」
妖しい笑みになって述べた。
「だからよ」
「それでなのですか」
「そうよ」
まさにというのだ。
第七話 沖縄その五
「からね」
「今もこうしてですか」
「姉さんの夢に出てね」
そうしてというのだ。
「今もよ」
「私の前に立つのですか」
「困らせる為にね」
「憎い、困らせるだと」
神威はそう聞いて言った。
「あんたは姫さんをそうしているのか」
「そうよ」
庚はその通りだとだ、神威に平然として答えた。
「私はその為に動いているのよ」
「だから世界を滅ぼすのか」
「それは地球を考えてよ」
こうもだ、神威に話した。
「人間はね」
「滅びるべきとか」
「考えているからよ」
「人間を護ろうという姫さんに対しているか」
「その通りよ」
「それは本当か」
神威はいぶかしむ目で庚にさらに言った。
「あんたは」
「何度でも答えるわ、そうよ」
「庚の言う通りです」
丁も言ってきた。
「この娘はわらわが憎く」
「あんたの敵に回ってか」
「考えもです」
「あんたと正反対でか」
「こうして今もです」
「姉さんを苦しめる為なら何でもするわ」
庚は微笑んでまた言った。
「私はね」
「その言葉俺には信じられない」
神威は庚に顔を向けて彼女に告げた。
「あんたの言葉には嘘がある」
「嘘?」
「そんな気がする、あんたの言葉には憎しみが感じられない」
こう言うのだった。
「目の光にもな」
「何を言っているのかしら、私は」
「俺にはそう感じる」
「貴方がなのね」
「ああ、あくまでな」
「誤解だと言っておくわ」
庚は即座に神威の言葉を打ち消しにかかった。
「それは」
「あんたはか」
「姉さんを憎んでいてね」
そうしてというのだ。
「人間もよ」
「滅ぼすつもりか」
「その通りよ」
「そうか、だがまだ思うところがある」
庚を見たままの言葉だった。
「あんたはおじさんを殺さなかったな」
「あの神社でのことね」
「ああ、殺そうと思えば殺せたが」
「どのみち人間は滅ぶのよ」
庚はほんの一瞬、神威はおろか丁でさえも気付かないだけのほんの一瞬目を右にやってから答えた。
「それならよ」
「今生きていてもか」
「同じでしょ、だからよ」
「おじさんを殺さなかったか」
「ええ、どのみち滅びるのなら」
人類自体がというのだ。
「どうして今殺す必要があるのかしら」
「後でまとめてか」
「だからあの子にも殺させなかったのよ」
「地の龍の一人にもか」
「そうよ、では吉報を待っているわ」
ここで庚は話を打ち切った。
第七話 沖縄その六
「もう今お話することはなくなったから」
「だからか」
「ええ、また会いましょう」
神威を見て彼に告げた。
「それではね」
「またか」
「決断したら迎えに来るわ」
最後にこの言葉を残してだった。
庚は姿を消した、後には丁が残ったがその丁も言ってきた。
「ではわらわも」
「これでか」
「去ります」
こう神威に告げた。
「そしてです」
「待っていてくれるか」
「決断の時は近付いています」
神威のそれのというのだ。
「ではわらわはです」
「その時を待つか」
「そうします」
「そうか、俺も決める」
神威は確かな声で答えた。
「その時まで待っていてくれ」
「そうさせて頂きます」
「それではな」
神威の夢はここで終わった、目覚めるとその日は休日で。
彼は誰にも言わず封真の試合を観に行った、試合は彼の活躍もあり自分達の高校が勝ち優勝を果たしたが。
試合の後だ、封真はチームメイト達に笑顔で話した。
「神威が観に来てくれていた」
「司狼がか?」
「確かあいつお前の幼馴染みだったな」
「あいつ会場に来てたのか」
「そうだったのか」
「ああ、そしてだ」
そのうえでというのだ。
「観に来てくれていた」
「そうだったんだな」
「あいつ最近少し笑う様になったらしいな」
「今まで本当に不愛想でな」
「何考えてるかわからない奴だったけれどな」
「いや、あいつは元々そんなに不愛想じゃなかったんだ」
封真は微笑んで話した。
「昔のあいつに戻ったんだな」
「へえ、あいつそうだったのか」
「昔はもっと笑う奴だったか」
「そうだったんだな」
「ああ、観に来てくれてよかった」
神威がいた場所を観つつ話した。
「本当にな」
「そのお陰で勝ったのかもな」
「桃生途中からさらによくなったしな」
「あいつの姿観てからか?」
「そう思うと今日はあいつのお陰だな」
「桃生の動きがよくなって勝てたからな」
「そうかもな」
こんなことを話してだった。
封真は仲間達と共に勝利を喜んだ、そのうえで会場を出て学園の方に向かうと暫くしてだった。
前をあるく神威と出会った、それですぐに声をかけた。
「おい神威」
「封真か」
「試合を観に来てくれていたな」
「ああ」
微笑んでの返事だった、身体を向けたうえでの。
「時間があったからな」
「悪いな」
「気にするな、それよりもだ」
「どうしたんだ?」
「俺は今まで頑なだった」
自分から言った。
「少し思うところがあってな」
「今は違うな」
「この通りだ」
微笑みはそのままだった。
第七話 沖縄その七
「もうな」
「俺ともか」
「そして小鳥ともだ」
二人と、というのだ。
「もう離れない」
「そうか、それならだな」
「また三人一緒にいていいか」
「勿論だ、小鳥にも言ったがな」
封真は優しい笑顔で述べた。
「元の俺達に戻ったな」
「そうなったか」
「これでな、後は父さんが戻れば」
入院している彼がというのだ。
「それでな」
「完全にか」
「元通りだな」
「そうか」
「ああ、それでだが」
封真は神威に優しい目を向けて彼に話した。
「この前お前と一緒に来てくれた人達だが」
「空汰達か」
「よかったらな」
神威を見つつ話した。
「今度俺達の家に来てだ」
「そうしてか」
「一緒にな」
そのうえでというのだ。
「お話をしたいが」
「そうか」
「飲んで食べてな」
そのうえでというのだ。
「どうだ」
「今度話してみる」
神威もこう返した。
「あいつ等にな」
「そうしてくれるか」
「それでだな」
「俺だけじゃなくて小鳥もな」
彼等もというのだ。
「呼んでな」
「わかった、そうするか」
「あの人達は神威の友達だな」
笑顔で問うた。
「そうだな」
「ああ、言うならな」
「お前の友達がどんな人達か知りたい」
「それでお前もか」
「あの人達がいいと言うのならな」
空汰達がというのだ。
「俺も小鳥もな」
「友達になりたいか」
「いいか」
「空汰達に話しておく」
神威は約束した、封真に対して。
「必ずな」
「決まったら返事をしてくれ」
「ではな」
神威も自然と笑顔になっていた、その顔で応えてだった。
アパートに帰ってからすぐに議事堂に向かいそこで空汰達に話した、すると護刃が満面の笑顔で応えた。
「あの恰好いい人ですね、いいですね」
「封真のことを覚えているか」
「覚えてますよ、背が高くて美形で」
護刃は神威に笑顔のまま言葉を返した。
「神威さんに似ていて」
「俺に似ているか」
「似ていません?」
こう神威に返した。
「あの人は」
「そうかしら、いえ」
「そやな、何でかな」
嵐は否定しようとしたが言葉を訂正した、そして空汰もだった。
「似てるな」
「ええ、神威にね」
「そやな」
「不思議とね」
「そうですよね、それでです」
護刃はさらに話した。
第七話 沖縄その八
「あの人ともですね」
「会える、小鳥にもな」
「神威さんの幼馴染みの人ですね」
「あの人ともな」
「では今度ですね」
「あの神社に来てくれ」
「それじゃあ」
「あの」
ここでだ、この場ではこれまで沈黙を守っていた丁が口を開いた。
「実は四人目の天の龍がです」
「来ているのか」
「今しがた」
「はじめまして」
征一狼が出て来てだ、一同にお辞儀をしてから話した。
「蒼軌征一狼です、風使いです」
「実は僕の親戚の方でして」
玳透も出て来て言ってきた。
「従兄にあたります」
「玳透に声をかけてもらいまして」
征一狼は優しい笑顔で述べた。
「時が来たと知り」
「来てくれたんですね」
「左様ですね」
「そしてです」
艇は俯き目を閉じてさらに話した。
「五人目の方もです」
「間もなくですか」
「来てくれます」
「そうなのですね」
「天の龍は集まっています」
丁はこうも述べた。
「それは即ちです」
「戦いがはじまるということか」
「本格的に」
今度は神威に答えた。
「まさに、ですが」
「それでもか」
「皆さんが団欒の時を迎えることはいいことです」
このことについては否定しなかった。
「親睦を深め」
「そうしてか」
「絆もです」
これもというのだ。
「そうして下さい」
「ではな」
「その時に五人目の方も来られれば」
そうであるならというのだ。
「いいかと」
「わかった、ではな」
「わらわによいお話を聞かせて下さい」
「封真達の家でのか」
「是非共」
「そうさせてもらう、ではな」
ここまで話してだ、神威は自分のアパートに戻った。その頃都内のあるホテルの最上階においてだった。
庚はホテルの者達にだ、笑顔で話した。
「それではね」
「あの部屋の方をですか」
「そちらの施設にですね」
「移動させてもらうわ」
ホテルの者達に理知的な笑みで話していた。
「是非ね」
「わかりました、それでは」
「これより」
ホテルの者達も頷いてだった。
その部屋を開けた、そしてその中で装置に囲まれて眠っている牙暁に声をかけた。
「時が来たわ、一緒に行きましょう」
「・・・・・・・・・」
眠っている牙暁は答えない、だが。
庚の頭の中にだ、こう言った。
第七話 沖縄その九
「では今から」
「ええ、地の龍の集まるね」
「あの場所にですね」
「貴方も来てもらうわ」
「そうですか、ですが」
「貴方は地の龍でもね」
「決してです」
まさにというのだ。
「人間の滅亡は望んでいません」
「わかっているわ、けれどね」
「それでもですね」
「貴方も地の龍で」
その一人であってというのだ。
「仲間で力もね」
「必要だからですか」
「来てもらうわ」
こう言うのだった。
「いいわね」
「はい」
牙暁は拒むことなく答えた。
「それでは」
「もう人は沢山来てもらっているから」
「地の龍のことは隠して」
「そのうえでね」
「その場所まで、ですね」
「貴方を運んでもらうわ」
「わかりました」
牙暁は頷いて応えた。
「それでは」
「これからね」
「お願いします」
こうしてだった。
庚は牙暁を地の龍の場所にまで連れて行った、だが。
庚が呼んだ者達は彼をある場所の前まで運んでだ、そのうえで庚に対していぶかしみながら尋ねた。
「あの、ここ都庁ですが」
「俺達間違えました?」
「ここでいいんですよね」
「ええ、いいわよ」
庚は作業員たちに笑顔で応えた。
「それでここまででね」
「いいんですか」
「俺達が運ぶのは」
「ここまでなんですか」
「お疲れ様、お金はもう会社にお話してるから」
既にというのだ。
「また何かあったらお願いするわ」
「わかりました」
「じゃあ俺達はこれで」
「帰らせてもらいます」
「後は私達がやらせてもらうわ」
こう応えてだった。
庚は牙暁を運んでくれた者達には帰ってもらいそこからは遊人達を呼んでそのうえで牙暁を中に運び入れた。
そうしてだ、彼等に笑って話した。
「これで四人ね」
「地の龍は」
「ええ、そうなったわ」
颯姫に答えた。
「残りは三人、けれど一人はね」
「わかっているのね」
「添え星の彼はね」
「添え星?」
「もうすぐ会うかも知れないわ、いえ」
ここでだ、庚は。
遊人を見てだ、こう言ったのだった。
「もう会っているかもね」
「あっ、彼ですか」
遊人は庚の言葉に気付いた笑みで応えた。
第七話 沖縄その十
「そういうことですか」
「わかったみたいね」
「はい、道理で結界に何もなく入られた筈です」
「私もこの前わかったのよ」
「そうでしたか」
「彼の夢からね」
牙暁が迎えられた寝室の方を見て話した。
「わかったわ」
「そうでしたか」
「よかったら今からね」
庚はさらに話した。
「彼と接触をしてもね」
「いいですか」
「彼か」
若しくはというのだ。
「例のね」
「神威君ですね」
「二人のうちどちらかがよ」
「来ますか」
「ええ、そうなるわ」
「そうですか」
「姉さんの夢に行ってよかったら」
庚は笑ってこうも話した。
「このことがわかるヒントを得られたから」
「じゃあ今度はその添え星の人か神威と戦うのかな」
哪吒は庚に問うた。
「そうなのかな」
「いえ、今はね」
庚は哪吒に余裕のある声で応えた。
「戦わなくていいわ」
「そうなんだ」
「四人目が来た、そしてね」
「その人もわかった」
「それでいいわ、それに残る二人もね」
地の龍のというのだ。
「あと少しでね」
「来てくれるんだ」
「そうなるわ、もうすぐよ」
「七人全員揃うのね」
颯姫は述べた。
「地の龍、七人の御使いが」
「そうなるわ、そしてその頃にはね」
「天の龍、七つの封印も」
「揃ってね」
互いにそうなりというのだ。
「遂にね」
「戦いとなるのね」
「そうなるわ」
「わかったわ、ではね」
颯姫は庚の返答を聞いて言った。
「その時には私も」
「戦ってくれるわね」
「ええ」
静かだが確かな声で答えた。
「そうさせてもらうわ、ビーストと共にね」
「お願いするわ、では今から新たな仲間の参加をお祝いして」
庚は今度はこう言った。
「飲みましょう、年代ものの赤があるわ」
「お酒ね」
「ワインよ。どうかしら」
「わかったわ、ではね」
「彼は飲めないから残念だけれど」
寝たままの牙暁はというのだ。
「けれど夢の中で飲んでもらうわ」
「そして私達は」
「今ね」
「飲むのね」
「そうしましょう、おつまみにサラミやチーズもあるわ」
「では頂きましょう」
遊人は一番乗り気な感じで言ってきた。
第七話 沖縄その十一
「これより」
「それではね」
「僕も飲んでいいのかな」
哪吒は仲間達の話を聞いてどうかと尋ねた。
「お酒を」
「勿論よ、貴方も地の龍だからね」
「皆と同じ」
「だからよ」
庚は哪吒に優しく微笑んで話した。
「楽しんでね」
「それじゃあ」
「若し飲み過ぎて酔ったら」
庚はその場合についても話した。
「送ってあげるわ」
「お祖父様のところまで」
「貴方は今もあちらがお家ね」
「うん」
その通りだとだ、庚に答えた。
「最近帰るのが遅いけれど」
「あちらまで送るわ」
「そうしてくれるんだ」
「だからね」
それでというのだ。
「これからね」
「ワイン飲んでいいんだ」
「好きなだけね、いいわね」
「それじゃあ」
哪吒も頷いた、そしてだった。
彼も飲んだ、それもかなり。それで庚が言った通りに酔ったが庚は車を用意させてそうしてだった。
彼を塔城家の屋敷に送った、すると。
彼を出迎えた祖父は驚いて言った。
「霞月、酔っているのか」
「皆と一緒に飲んで」
「そうか、お前も飲む様になったか」
「駄目かな」
「いや、いい」
孫である彼に微笑んで応えた。
「お前も人と交わったか」
「一緒に飲んで楽しかった」
「なら尚更いい」
祖父は哪吒の言葉を聞いて顔を綻ばせて述べた。
「これからもだ」
「こうしてなんだ」
「人と交わってだ」
その様にしてというのだ。
「絆を築き人を知ることだ」
「僕は」
哪吒は祖父の話を聞いてこう返した。
「地の龍の一人で」
「人間を滅ぼすか」
「だから」
「人と交わってもだな」
「そうしても」
「それでもだ」
祖父は顔を綻ばせたままさらに話した。
「これからもだ」
「人と交わるべきなんだ」
「確かにお前は地の龍の一人だ」
祖父もこのことは否定しなかった。
「人間を滅ぼすことが役目だ」
「そうだね」
「しかしだ」
それでもというのだ。
「それ以前にお前は人間だ」
「僕は」
「だからな、これからもな」
「皆と交わって」
「人を知ることだ」
そうすべきだというのだ。
「そして絆もな」
「築いていくことなんだ」
「そうだ、そしてな」
そのうえでというのだ。
第七話 沖縄その十二
「絆を築いてな」
「そうしてなんだ」
「親しくしていくんだ」
是非にというのだ。
「いいな」
「それじゃあ」
「それでもう晩ご飯は食べたか」
祖父は孫、哪吒にこのことも問うた。
「かなり飲んだことはわかるが」
「いただいてきたよ」
「それもよかった、だがお茶漬け位どうだ」
「お茶漬けを」
「これから二人でな」
「お祖父様と」
「酔い覚ましにもな」
それも兼ねてというのだ。
「どうだ」
「それじゃあ」
「思えばはじめてになるな」
笑みをさらに深めて述べた。
「お前と一緒に食べるのは」
「そうだね」
「お前が地の龍であるということを知った時は驚いたが」
それでもと言うのだった。
「しかしな」
「それでもなんだ」
「お前があの人達と知り合ってよかった」
「地の龍の皆と」
「そうなってな」
まさにというのだ。
「よかった、ではこれからもな」
「あの人達となんだ」
「一緒にいてだ」
「こうして飲んで」
「遊びもしてな」
そうもしてというのだ。
「人間というものをな」
「知っていくことがいいんだ」
「そうだ、これからもな」
是非にと言うのだった。
「そうしていくことだ」
「それじゃあ」
哪吒も頷いた、そうしてだった。
哪吒は祖父とお茶漬けも食べた、二人でプライベートな空間で向かい合って食べたが一口食べてだった。
哪吒は無表情だがそれでもこの言葉を出した。
「美味しい」
「そうか、美味いか」
「皆と飲んで食べたワインとお料理も美味しかったけれど」
「何を食べたんだ?」
「サラミとかチーズとか」
哪吒は問われるまま食べたものも話した。
「あとクラッカーも」
「そうしたものも食べたか」
「ケーキとかも」
「全体的に軽いものだな」
「けれど量が多かったから」
それでというのだ。
「満足出来た」
「それも何よりだな」
「うん、それで美味しかった」
「ワインもだな」
「どちらも、それで今のお茶漬けも」
再び今二人で食べているものの話をした。
「凄く」
「美味いか」
「また食べたい、お祖父様と二人で」
「何時でもいい、私達は家族だからな」
「だからなんだ」
「何時でもこうしてな」
「一緒に食べていいんだ」
祖父に問う様にして言った。
「二人でお茶漬けを」
「お茶漬け以外のな」
「何でもなんだ」
「好きな食べものを言うんだ」
それこそというのだ。
第七話 沖縄その十三
「何でもな」
「それで一緒になんだ」
「食べるぞ、いいな」
「じゃあまた」
「お前は人間だ」
祖父は頬笑みまた哪吒に話した。
「何度も言うがな」
「生まれたのは確か」
「そうだ、他の人とは違う」
隠さずに話した、実は既に話していた。哪吒は自然に生まれたものではなく両親の精子と卵子から人口的に造られた命であると本人に。
だがそれでもとだ、祖父は哪吒に話した。
「しかし人間の心を持っているならな」
「それならなんだ」
「紛れもなくな」
それこそというのだ。
「人間だ、そしてお前もだ」
「人間なんだ」
「人間の心があるからな、だからだ」
「地の龍でも」
「人間としてな」
この立場でというのだ。
「生きるんだ、いいな」
「そうして遊んでもいいんだ」
「存分にな」
「じゃあそうしていくから」
「それでいい、それでおかわりはどうだ」
哪吒が一杯食べ終えたのを見てどうかと声をかけた。
「もう一杯な」
「いいかな」
「好きなだけ食べることだ」
ここでも優しい声をかけた。
「食べられる時はな」
「それじゃあ」
「そして学校でもあちらでもな」
「人とだね」
「話をしてな」
そうしてというのだ。
「親しくしていくことだ」
「そうしていくよ」
「是非な」
「こうしていると気分がいいし」
「そうか、いいか」
「凄く」
実際にとだ、哪吒は答えた。
「本当に」
「それは何よりだ、ではな」
「これからも」
「交流していくことだ、友達もな」
「持てばいいんだ」
「今まで持っていなかったがこれからはな」
哪吒の目を見て話した、見ればこれまで感情が見られなかったが今は少しだが嬉しさがあるのがわかる。
「持てばいい」
「地の龍の皆を」
「そして他にもな」
「そうしていけばいいんだ」
「学校でもな」
「わかったよ、お祖父様」
哪吒は口元をほんの僅かだが綻ばせて応えた、そして学校に行くとだった。
クラスメイトに挨拶をした、するとクラスの誰もが驚いた。
「えっ、塔城が挨拶した?」
「嘘だろ」
「当てられた時以外喋らなかったのに」
「それがなんだ」
「喋ったんだ」
「嘘みたい」
「僕も喋るよ」
哪吒は驚く彼等に答えた。
「こうしてね。これからあらためて宜しく」
「あ、、ああこちらこそ」
「こちらこそ宜しく」
「これまでずっとやり取りなかったけれど」
「それでも」
クラスメイト達は戸惑いつつもだった。
第七話 沖縄その十四
哪吒が自分達のところに入って来たのでやり取りをはじめた、すると哪吒は無色な感じだが意地悪等はせず。
付き合いやすくだ、それでだった。
「結構いい奴だな」
「そうよね」
「これまで何考えてるかわからなかったけれど」
「そんな人だったけれど」
「お話してみたら悪い人じゃなくて」
「悪くないな」
皆こう話して哪吒と付き合っていった、こうして哪吒は学校でも交流が出来る様になっていった。それを見てだった。
祖父は喜び牙暁もだった。
夢の中でだ、哪吒に対して言った。
「いいよ、学校でもね」
「皆と付き合っていけばいいんだ」
「そうだよ」
こう話すのだった。
「このままね」
「楽しいよ」
哪吒は祖父に見せた綻びを彼にも診せて話した。
「人とお話をしてね」
「交流をしていったらだね」
「凄くね。学校でも家でも」
「人とお話をして」
「一緒にいたら」
そうすればというのだ。
「楽しいよ、この前ね」
「この前?」
「赤い服で奇麗なお姉さんと擦れ違ったけれど」
その女性のことを思い出しながら話した。
「子犬がお友達を見付けた様な顔をしているってね」
「言われたんだね」
「そうなんだ」
「それはいいことだよ、今の君は孤独じゃないから」
牙暁も微笑んで応えた。
「だからね」
「そう言われてなんだ」
「いいよ」
そうだというのだ。
「凄くね」
「そうなんだね」
「うん、今の君は」
まさにというのだ。
「もうね」
「孤独じゃなくて」
「皆がいるよ」
「地の龍の皆、つまり」
「そう、僕も」
「君は僕の友達なんだ」
「そうだよ、地の龍としてだけでなくて」
そうでなくともというのだ。
「人間同士としてもね」
「僕も人間だから」
「そう、それでだよ」
「僕達は人間同士としてもなんだ」
「友達だよ」
そうなっているというのだ。
「心からのね」
「そうなんだ」
「僕は夢の中でしか語り合えないけれど」
それでもというのだ。
「君といつもだよ」
「夢の中でこうして」
「お話をさせてもらうよ、何かあったら」
その時はというのだ。
「助言もね」
「してくれるんだ」
「そうさせてもらうよ、地の龍の他の人達も」
「友達だから」
「話すよ」
この様にしてというのだ。
「夢の中でね」
「そうなんだ」
「そして」
そのうえでというのだ。
「戦いが終わっても」
「僕達は友達なんだ」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「だから君に何かあったりありそうなら」
「こうして話して」
「君の力になるよ」
「そうなんだね」
「必ずね、君は命があるから夢を見て」
「君という友達とお話が出来て」
「人間だからね」
こうも言うのだった。
第七話 沖縄その十五
「嬉しいと感じたりするんだ」
「僕は人間だから」
「そう、君は紛れもなく人間だから」
哪吒を見て告げた。
「感情があって色々感じるんだ」
「そうなんだ、じゃあこれからも」
「僕ともお話をして」
「学校やお家でもそうしていって」
「地の龍のね」
「他の皆とも」
「お話をしていけばいいよ。一緒に遊ぶことも」
こちらもというのだ。
「いいよ」
「そうなんだ」
「うん。あと今夜だけれど」
「今夜どうしたのかな」
「君はお祖父さんと一緒にご飯を食べたね」
夕食の話もするのだった。
「そうだったね」
「それがどうかしたのかな」
「美味しかったかな」
哪吒にこのことを尋ねたのだった。
「どうだったかな」
「美味しかったよ」
これが哪吒の返事だった。
「凄く」
「そう思うこともいいことだよ」
「それはお祖父様にも言われたけれど」
「そう感じることもだよ」
食べて美味いと、というのだ。
「いいことだからね」
「それでなんだ」
「食べたり飲むことも」
「楽しめばいいんだ」
「そうだよ」
こうも言うのだった。
「お話や遊びもでね」
「食事も」
「そうしていけばいいよ」
「それじゃあ」
哪吒は頷いて応えた。
「そうしていくから」
「是非ね」
「そして貴方とも」
「牙暁でいいよ」
「牙暁ともこうして」
「お話してくれるんだね」
「友達だから」
口元をほんの少し綻ばせて答えた。
「それじゃあ」
「これからは」
「またこうして」
「夢で会って」
「お話をしていこう」
「そうしていこう、ではね」
牙暁も微笑んで応えた。
「またね」
「お話をしよう」
「そうしていこう」
二人でこう話してだった。
牙暁は姿を消し哪吒は深い眠りに入った。
朝起きると心地よかった、それは祖父と共の朝食の時もであり。
学校でも快適であった、それで哪吒はこの日楽しく過ごせた、それは次の日もそうであり彼は暖かいものも感じていた。
第七話 完
2022・12・8
第八話 記憶その一
第八話 記憶
空汰は夢の中で思い出していた、幼い日々を。
高野山で修行していたが常にだった。
「こら空汰!」
「今は滝に打たれろ!」
「その修行の時だぞ!」
「川魚を獲るな!」
「そやけど腹減ってるさかい」
白い滝の修行の時の着物姿でだ、空汰は先輩の僧侶達に話した。
「しゃあないやん」
「空腹に耐えるのも修行だ」
「そのうちだ」
「まして自分から命あるものを獲るな」
「頂いたお布施ならいいが」
それでもというのだ。
「自分から殺生に関わることはするな」
「それだけは止めろ」
「何があってもな」
「あっ、そうや」
言われてだ、空汰も頷いた。
そしてだ、手にしていた魚を離して言った。
「殺生になるな」
「そうだ、空腹でもだ」
「僧籍にあるなら自分から魚を獲って調理するな」
「それは絶対に守れ」
「いいな」
「そうします、ほな修行に戻ります」
こう答えてこの時はだった。
修行に励んだ、だが。
夜になるとだ、饅頭を盗み食いし。
「待て空汰!」
「饅頭を置いていけ!」
「何処に行ったかと思えば!」
「お前はまた!」
「そやかて今日の食事少なかったさかいな」
懐に入れた饅頭を駆けつつ食べながら話した。
「これ位はええやん」
「いい筈があるか!」
「それは皆で食べるものだぞ!」
「明日のおやつだ!」
「置いていけ!」
「まあそう言わんとな」
空汰は逃げつつ食べた、そして追いかけてくる僧侶達から逃れてだった。
白く顔の舌全体を覆う長い髭を生やした立派な僧服と袈裟を着た老僧のところに行くとだ、笑って声をかけた。
「じっちゃん、こんばんは」
「空汰、またか」
僧侶はやれやれといった顔で空汰に応えた。
「盗み食いか」
「まあほんのお茶目で」
「仕方のない奴じゃ、皆にはわしから言っておく」
「いや、捕まったらな」
「その時はか」
「大人しく罰受けるわ」
こう言うのだった。
「そうするわ、それに皆の分は置いてるし」
しっかりと、というのだ。
「わいは五つ貰っただけやで」
「余っていた分をか」
「そうしただけやしな、一個あるさかい」
見れば手にその一個があった。
「これじっちゃんの分な」
「くれるのか」
「ほいこれ」
笑ってそれで僧侶の手に渡してまた言った。
「あげるわ」
「仕方ないのう」
「それでじっちゃん何してたんや」
「星を見ておった」
僧侶は隣に来た空汰に答えた。
「実はな」
「じっちゃん星見やからか」
「うむ、天の龍のな」
「というとわいのもかいな」
「空汰、お主は死ぬ」
星達の動きを見つつ話した。
第八話 記憶その二
「運命の戦いの時にな」
「わい死ぬんかいな」
「おなごを守ってな」
「そうなんか、まあ戦いになったらな」
空汰は両手を自分の頭の後ろにやって述べた。
「生き死には当然な」
「あることだな」
「そやからな」
「死んでもか」
「しゃあないわ、わいも死ぬかもって思ってたし」
「だからか」
「その戦いで全力を尽くしてな」
そうしてというのだ。
「その女の人を守ってな」
「死ぬか」
「人間守ってな」
そのうえでというのだ。
「そうしてくるわ」
「運命を受け入れてか」
「運命からは逃げられんやろ」
「うむ」
僧侶は空汰に確かな声で答えた。
「やはりな」
「それが運命やねんな」
「逃れようとしてもな」
例えそうしてもというのだ。
「運命は何処までも追いかけてきてな」
「捕まえてやな」
「そこに巻き込む」
「前にも話してくれたな」
「そうしたものだ」
「そやからな」
僧侶に笑って話した。
「わいは逃げんでな」
「そうしてか」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
「その女の人守って」
「そうしてか」
「死ぬわ、そして人間もな」
「守るか」
「そうするわ、ただな」
僧侶を見てこうも言った。
「その女の人が出来るだけ別嬪さんである様にな」
「そのことをか」
「じっちゃん願ってくれるか」
頼み込む声と仕草で話した。
「そうしてくれるかいな」
「よいぞ」
僧侶は空汰の願に笑って応えた。
「ではな」
「願ってくれるか」
「うむ」
是非にという言葉だった。
「そうしておくな」
「有り難いわ、ほなな」
「これからか」
「ちょっと今日はこのままな」
「逃げ切るか」
「そうするわ」
やはり笑って話した。
「このままな」
「また明日怒られるぞ」
「朝飯前の修行の時にやな」
「うむ、ここはしっかりとな」
「出て誤った方がええか」
「そうじゃ、皆の分は残しておろう」
「独り占めはあかんしな」
空汰もそれはと答えた。
「あくまで余った分だけ貰ったわ」
「なら許してもらえる、多少のつまみ食いではじゃ」
「皆怒らへんか」
「うむ、それでじゃ」
「じっちゃんが言うにはな」
「ちょっと叱られるだけじゃ」
「ほなちょっと行って来るわ」
空汰も頷いてだ、自分の分の饅頭を食べてからだった。
第八話 記憶その三
追いかけて来た僧侶たちのところに行って謝った、そして僧侶の言った通り少し叱られて終わったのだった。
成長し寺を後にする時にだ、僧侶は私服になって向かう空汰に声をかけた。
「達者でな」
「ああ、戦ってくるわ」
空汰は僧侶に明るく笑って応えた。
「そうしてくるわ」
「是非な」
「ああ、ただな」
「ただ?どうしたのじゃ」
「いや、じっちゃんとはこれが今生の別れやな」
明るく笑ったまま言うのだった。
「そやな」
「わしの星見だとな」
「そやから悲しい別れやな」
「わしの星見が外れたことはないからな」
「それでな」
「わからんぞ」
僧侶は空汰に微笑んでこう告げた。
「御仏が見られた訳ではない」
「そやからか」
「わしが見てもじゃ」
星見でというのだ。
「違うやも知れぬ」
「何や、わい生き残るんかいな」
「そうなるやも知れぬ、その時はな」
優しい笑顔での言葉だった。
「その人と共にな」
「ここにやな」
「戻って来るのじゃ」
「そうしてええか」
「待っておるぞ、人間の世界を護ってな」
七つの封印としてというのだ。
「そのうえでな」
「その人とか」
「山に戻って来るのじゃ」
「高野山にやな」
「そなたの力は大師様にも匹敵する」
弘法大師即ち空海上人にもというのだ。
「きっと七つの封印でも大きな力になりな」
「そうしてか」
「人間の世界を護り」
「ここに戻って来られるか」
「わしはお主のことを見たことは信じておらぬ」
星見のそれをというのだ。
「だからな」
「ここにか」
「戻って来ることを待っておる」
「そうか、ほなその時はな」
「うむ、その人と共にな」
「楽しくお祝いしよか」
「待っておるぞ」
「じっちゃん怒るとめっちゃ怖いけど」
空汰は笑ってこうも言った。
「普段はめっちゃ優しいし」
「だからか」
「いつも有り難いと思ってたわ」
「そう思ってくれておったか」
「ああ、ほなな」
「うむ、行って来るのじゃ」
「出来る限り戻る様にするわ」
別れる時も明るくだった。
空汰は告げて山を下りて東京に来た、そのことをクランプ学園の敷地内にある彼等の今の場所で嵐に話すと。
嵐は神妙な顔になってだ、彼に話した。
「そうして生きて来たのね」
「ああ、高野山でな」
空汰は嵐に答えて話した。
「そやった、物心つく前からな」
「その頃からなの」
「実の両親に山の人達が事情を話してな」
「貴方を預けたのね」
「物心つく前やけど覚えてるわ」
空汰はこのことは遠い目で話した。
第八話 記憶その四
「おとんもおかんもわいを山の人達に預ける時めっちゃ悲しそうやった」
「そうだったのね」
「ああ、ほんまにな」
実際にというのだ。
「そやったわ、まあ会えたらな」
「お会いしたいわね」
「この戦いが終わって若し生きていたら」
その時にというのだ。
「じっちゃん達に家何処か聞いて」
「会いに行くのね」
「そうしたいな」
「そうなのね、私はね」
嵐は無表情のまま空汰に話した。
「親が誰か知らないわ」
「そうなんか」
「父親も母親もね」
そのどちらもというのだ。
「知らないわ、覚えているのは」
「何や?」
「あまりにもお腹が空いていて」
そうしてというのだ。
「ゴミ箱を漁る烏や鼠達を見てどうして自分は生きているのか人間なのかをね」
「考えたんか」
「そうしたら後ろに社の人がいて」
「ああ、それでか」
「社に迎え入れられたの」
伊勢神宮、そこにというのだ。
「それからは奇麗な服を着せてもらって食べるものも」
「不自由せん様になったか」
「他のことも何一つね」
それこそといのだ。
「そして色々なことを教えてもらったわ」
「それで巫女さんになったか」
「そうなったわ、けれど」
それでもとだ、嵐はさらに話した。
「自分の生まれも。聞くには」
「伊勢の人達からか」
「何でもヤクザ者の父親とその筋の家の母親で」
「それでかいな」
「私が幼い頃に二人共事故で亡くなって」
「それでか」
「親が亡くなって私は親戚もいなくて施設に預けられることになっていて」
それでというのだ。
「その施設が伊勢神宮と縁があって」
「それでか」
「私のことを聞いた社の人達がすぐに察して」
そうなってというのだ。
「迎え入れてくれたの」
「そやったか」
「どうも私がひもじいと思って」
「ゴミ箱の前におったのはか」
「両親が亡くなって」
事故でというのだ。
「暫く経ってからで」
「それまではか」
「特に困っていなかったみたいよ」
「そやねんな」
「確かにヤクザ者の夫婦だったけれど」
「嬢ちゃんを育ててくれたか」
「そうだったみたいよ、だから顔も覚えていないけれど」
嵐はさらに言った。
「感謝はしているわ」
「親御さん達をか」
「今でも時々お墓参りをしているし」
「ええことや、そうしてたらな」
空汰は微笑んで話した。
「ご両親もな」
「喜んでくれるのね」
「絶対にな、まあわいもな」
「ご両親になのね」
「若し戦が終わって生き残ってたら」
その時はというのだ。
「ちょっとな」
「会いに行くのね」
「嬢ちゃん連れてな」
嵐を見て笑顔で話した。
第八話 記憶その五
「そうしてな」
「私もなの」
「どないや」
「私も貴方も生きているなら」
嵐は空汰よりも自分が死ぬと思っていた、そう考えていたのでそれで彼に対してこう答えたのだった。
「いいわ」
「ほなそうしよな」
「ええ、けれど皆何かあるわね」
嵐はこうも言った。
「天の龍の人達は」
「そやな、多分譲刃ちゃんもな」
彼女もというのだ。
「いつも明るく笑ってるけど」
「過去にはなのね」
「何かとね」
それこそというのだ。
「あった筈や」
「そうね」
「まあそこは聞かんけどな」
空汰は遠い目になって述べた。
「聞くことやないからな」
「あの娘に心の傷があるかも知れないから」
「それでや」
まさにというのだ。
「わいからはな」
「聞かないのね」
「そうしてくわ」
「いいことよ、では今から」
嵐は冷静な声で述べた。
「宿題をするわ」
「ああ、学校のか」
「予習と復習もね」
「そうしたこともかいな」
「学業は怠らないから」
だからだというのだ。
「しておくわ」
「クランプ学園に通ってるさかいな」
「貴方もそうね」
「護刃ちゃんは中等部でな」
「そうしているから」
だからだというのだ。
「今からね」
「宿題してか」
「予習と復習もね」
その両方をというのだ。
「するわ」
「そうか、ほなわいも宿題位はな」
「しておくのね」
「基本授業だけでわかるさかいな」
そこで聞いてというのだ。
「特に勉強はしてへんけどな」
「予習と復習はしないのね」
「それでそれなりにやっていけたし」
「高野山でもなの」
「あっちの学校に通ってたんや」
東京に来るまではというのだ。
「それで今はな」
「クランプ学園に転校して」
「それでな」
そのうえでというのだ。
「今はそっちに通ってるから」
「それでなの」
「それでや」
まさにというのだ。
「そっちの宿題もな」
「するのね」
「そうするわ、けど予習復習はな」
「授業でわかるから」
「ええわ」
「そうなのね」
「ほな晩飯の用意するか」
空汰はこうも言った。
第八話 記憶その六
「今日は中華や」
「何を作るのかしら」
「麻婆豆腐や」
「そちらを作ってくれるの」
「ああ、それ皆で食べてな」
「護刃さんと一緒に」
「楽しもうな」
こう嵐に言った、嵐はわかったわと答えて夕食の時まで勉学に励んだ。そして譲刃と三人で夕食を食べてだ。
封真の家である神社に神威と共に行く話もしたが空汰はこうも話した。
「それで蒼軌さんもな」
「あの人もですか」
「その日は絶対に空けてな」
スケジュールをとだ、空汰は譲刃に麻婆豆腐を食べつつ話した。
「来てくれるそうや」
「それは何よりですね」
「あの人奥さんと娘さんがおって」
空汰は征一狼のこのことも話した。
「お仕事もあるけどな」
「確か漫画雑誌の編集さんですね」
「その仕事めっちゃ忙しいやろ」
「だからですか」
「休日も忙しい時があるけど」
それでもというのだ。
「しっかりとな」
「その日はですか」
「封真さんのお家で、ですか」
「わい等と一緒に楽しんでくれるそうや」
「それは何よりですね」
「そやからな」
空汰はさらに話した。
「封真の家ではな」
「皆で、ですね」
「楽しくな」
そのうえでというのだ。
「神威とも話をしよな」
「わかりました」
「あいつは絶対に天の龍になる」
空汰は確信を以て述べた。
「そやから今はな」
「今以上になのね」
「ああ、親睦を深めてや」
嵐にも答えた。
「絆もや」
「作っていくのね」
「そうするんや」
是非にというのだ。
「ここはな」
「そうしていくのね」
「それで封真と妹さんともな」
この二人ともというのだ。
「知り合ったのも縁やし」
「仲良くしていくのね」
「そうする為にな」
是非にというのだ。
「一緒にな」
「私達全員で行って」
「お菓子やらジュースも持って行って」
そしてと言うのだった。
「お酒もな」
「持って行くの」
「こっちもないとな」
酒もというのだ。
「あかんさかいな」
「それでなのね」
「そっちも持って行こうな」
そうしようというのだ。
「そや、色々持って行こうな」
「わかったわ」
嵐は無表情で答えた。
「そうしましょう」
「ほなそういうことで」
「蒼軌さんにもなのね」
「連絡しよな」
「そのうえで」
「今の天の龍のメンバー全員が集まってな」
そうしてというのだ。
第八話 記憶その七
「親睦深めような」
「それではね」
「ああ、ただな」
「ただ?どうしたのかしら」
「何かな」
空汰は嵐に微妙な顔になって話した。
「他にも来そうやな」
「他にも?」
「何かそんな気がするわ」
「私達以外といいますと」
護刃は空汰のその言葉を聞いて言った。
「もうです」
「あれやな」
「はい、封真さんとですね」
「妹さんだけや、小鳥ちゃんって言うたな」
「お二人はお邪魔しますから」
「もうな」
それこそというのだ。
「最初からやな」
「来られますね」
「その時は是非な」
「入ってもらいますね」
「そうなるわ、ただな」
それでもとだ、空汰は述べた。
「誰が来ても戦いやないから」
「仲良くですか」
「しよな、戦う時以外はな」
空汰は護刃に麻婆豆腐をおかずとしてご飯を食べつつ話した、見ればおかずは他にはピータンがある。
「平和でええねん」
「そうですよね、戦うこともなく」
「わいなんか実は地の龍の兄さんとや」
「遊人さんですね」
「その人と一緒にお好み焼き食うたことあるさかい」
「地の龍の人達ともですか」
「別に戦う必要のない時はな」
そうした時はというのだ。
「仲良くしたらええやろ」
「世界を賭けて戦っても」
「ああ、お互い人間やしな」
それ故にというのだ。
「特にな」
「そうですか」
「ああ、まあそういうことでな」
「これからですね」
「神威と一緒にな」
「桃生神社で、ですね」
「親睦深める準備していこな」
「わかりました」
護刃は空汰の話にいつも通りの明るい笑顔で応えた、そうしてだった。
この日彼女は空汰それに嵐と共に麻婆豆腐もピータンも楽しんで食べた、そのうえで入浴の後で気持ちよく寝てだった。
朝はクランプ学園に登校してだった。
夕方街に出て遊ぼうとするとだった。
スパッツにシャツで競技用の自転車に乗って軽快に歩道橋を進んでいる颯姫と出会った、するとだった。
颯姫は護刃の傍にいる犬鬼を見て自転車を停めて言った。
「その子は」
「犬鬼が見えるんですか?」
「ええ、貴女まさか」
「まさか?」
「悪い印象は受けないわね」
護刃を冷徹なまでに落ち着いた目で見つつ述べた。
「別に。けれど」
「けれど?」
「いいわ、また会いましょう」
護刃にあらためて告げた。
「そうしましょう」
「そう、ですか」
「私はトレーニング中だし」
「自転車のですか」
「ええ、今日は自転車を使ってね」
そうしてというのだ。
「トレーニングをしているの」
「そうですか」
「体力も必要だから」
ビーストを動かすことを考えつつ答えた。
第八話 記憶その八
「だからね」
「それでなんですか」
「ええ」
まさにというのだ。
「毎日走ったりこうしてね」
「自転車に乗られて」
「学園のジムを使うことも多いわ」
「学園?」
「クランプ学園のね」
「あっ、私今中等部に所属しています」
護刃は自分を自分の右手の人差し指で指差しつつ笑顔で話した。
「貴女は高等部ですか」
「わかるのね」
「私より年上に思いましたから」
「そうよ、私は高等部に所属しているわ」
その通りだとだ、颯姫は護刃に答えた。
「八頭司颯姫、宜しくね」
「猫依護刃です」
護刃も名乗った、颯姫とは対照的に明るく元気がいい。
「それでこの子は犬鬼です」
「犬鬼ね、わかったわ」
護刃の傍に礼儀正しく座っている彼も見て応えた。
「賢くて優しい子ね」
「はい、凄く」
「大事にしなさい」
犬鬼を見つつ護刃に話した。
「貴女の貴重な護り手だから」
「そうなんです、いつも助けてもらってます」
「そうしなさい、ではまたね」
「はい、クランプ学園でお会いしましたら」
「宜しくね。そして」
颯姫はさらに言った。
「今日はこれでトレーニングを再開するから」
「それで、ですね」
「また何かあれば」
「会いましょう」
「わかりました」
「学校で会えば挨拶をしてね」
そうしてというのだ。
「お話が出来るけれど。それでも」
「それでも?」
「何でもないわ」
そこから先は言わなかった。
「気にしないで」
「そうですか」
「ええ、けれどね」
それでもと言うのだった。
「今日はこれでね」
「お別れですね」
「そうなるわ」
「はい、それでは」
「また会いましょう」
こう話してそうしてだった。
颯姫は再び自転車を動かす護刃の前から消えた、そうして護刃は犬鬼と共に東京の街を楽しんだ。その頃だった。
とある出版社の月刊漫画雑誌の編集部はいつも通り蜂の巣を突いた様な大騒ぎだった、その中において。
征一狼は編集長に笑顔で話した。
「秋山先生今月もです」
「締め切り間に合ったのね」
「はい」
編集長に明るい笑顔で話した。
「そうなりました」
「それは何よりね、やっぱりね」
「締め切りが間に合いますと」
「それだけでほっとするわ」
「そうですよね」
「ではね」
「はい、後はですね」
征一狼は編集長に笑顔で応えた。
「原稿を頂いてきます」
「宜しくね」
「今から先生のところに行ってきます」
「そうしてね」
こう話してだった。
第八話 記憶その九
征一狼は漫画家の職場に行って原稿を貰って編集部に戻った、その時にだ。
ふとだ、遊人と擦れ違ってだ、お互いに振りむき合って話した。
「まさか」
「貴方もですか」
「そうですか、まさかです」
「ここでお会いするとは思いませんでしたね」
「公務員の方でしょうか」
征一狼は遊人に尋ねた。
「そうでしょうか」
「そうです、よくわかりましたね」
「そうした雰囲気でしたので」
遊人に微笑んで話した。
「どうも」
「よくホストみたいだと言われますよ」
「ははは、そうですか」
「ええ、一目でおわかりとは」
「思いませんでしたか」
「貴方がはじめてです、ただ」
遊人は征一狼にまた言った。
「貴方は天の龍の方ですね」
「そして貴方は地の龍の方ですね」
「悪い印象は受けないですが」
「僕もです、ですが」
「お互いの立場なので」
「その時が来れば」
まさにというのだ。
「戦わねばならないですね」
「そうですね、因果なものですね」
「全くです、ですが」
「それでもですね」
「その時が来れば」
「戦いますか」
「そうしましょう」
こうした話もした、そしてだった。
仕事が終わり議事堂に行くとだ、空汰に封真達の家に神威との親睦を深める為に行くという話を聞いた。
するとだ、彼は笑顔で言った。
「いいですね、ではです」
「蒼軌さんも来てくれますか」
「征一狼でいいですよ、そうさせて頂きます」
空汰に優しい笑顔で答えた。
「家族には断わって」
「征一狼さんご家族おられるんですか」
「はい、妻と娘が」
今度は護刃に答えた。
「そうなのです」
「そうだったんですね」
「僕にとってかけがえのないものです」
「ご家族は」
「大切にしているつもりです」
「それは何よりですね」
「征一狼さんはとても優しい人なんだ」
玳透が護刃に話した。
「僕の従兄にあたるけれど」
「あっ、そうでしたね」
「いつも優しくしてもらってるよ」
「そうなんですね」
「修行の時もね、怒ったところを見たところがないよ」
「いえ、玳透君はとても優秀なので」
征一狼も話した。
「僕から言うことがないだけです」
「はい、玳透さんはとても優秀な方です」
丁もここで言ってきた。
「ですからわらわもです」
「護衛にされていますね」
「頼りにして」
そうしてというのだ。
「そのうえで」
「そうですね」
「ですが若し神威と親睦を深めるなら」
丁はあらためて話した。
第八話 記憶その十
「玳透さんもです」
「僕もですか」
「行かれて下さい」
こう本人に話した。
「是非」
「そうしていいですか」
「はい」
まさにという返事だった。
「わらわのことはお気遣いなく」
「私達がいますので」
「ご安心を」
赤と青のそれぞれの服を着た双子の様にそっくりな姿をした美女達が出て来てそのうえで玳透に対して話した。
「ですから玳透さんはです」
「安心して行かれて下さい」
「はじめて見る人達ね」
嵐は二人を見て話した。
「誰かしら」
「緋炎です」
まずは赤い服の女が名乗った。
「火の術を得意とします」
「蒼氷です」
続いて青い服の女が名乗った。
「氷の術が得意です」
「二人がいてくれますので」
丁はあらためて話した。
「ですから」
「僕が不在でもですか」
「結界を張りなおしましたし」
桜塚護の攻撃を受けてであるのは言うまでもない。
「ですから」
「では」
「はい、わらわのことは安心してです」
そのうえでというのだ。
「行って下さい」
「それでは」
「それとです」
丁はさらに話した。
「今ここに天の龍は四人いますね」
「征一狼さんも来てくれて」
玳透が応えた。
「それで、ですね」
「神威を入れて五人、残るはです」
「二人ですね」
「そのうちの一人は間もなくです」
「ここにですか」
「来てくれることになるでしょう」
「そうですか、ではですね」
玳透はさらに言った。
「残りはですね」
「一人です、その最後の一人は」
「誰でしょうか」
「それが問題ですが」
丁は静かに話した。
「夢で因縁を感じました」
「因縁?」
「はい、それにも導かれ」
そうしてというのだ。
「最後の天の龍はです」
「ここに来てくれますか」
「おそらく」
こう話すのだった。
「そうなるかと」
「そうですか」
「ではです」
「はい、天の龍はですね」
「残る二人もです」
神威を入れて五人としてというのだ。
「来てくれます、そして」
「七人集まるとですか」
「地の龍もそうなれば」
「その時はですね」
「戦いが本格的にです」
「はじまりますか」
「そうなります」
こう話した。
「その時こそ」
「さて、その二人がどなたかわかりませんが」
征一狼が微笑んで話した。
「素敵な方々であることを願います」
「性格も顔もええですね」
「そうした方であることをです」
こう空汰に応えた。
第八話 記憶その十一
「僕としてはです」
「その人達ともでっか」
「仲良く出来れば」
にこりと笑って話した。
「嬉しいですね」
「そう言われますか」
「はい、それではですね」
「神威と一緒にですか」
「封真さんという人のお家にお伺いして」
「一緒に飲んで食べて」
そうしてというのだ。
「楽しくやって」
「親睦を深めるのですね」
「そうしましょう」
「わかりました、では」
「その時は楽しく」
「過ごしましょう」
こうした話をしてだった。
空汰は彼が中心となってこの話を進めていった、それで神威のアパートにも行って彼にも話をするのだが。
神威はほんの少し笑ってだ、空汰に言った。
「お前に任せる」
「お前の意見はか」
「特にない、ただな」
「ただ?」
「俺も反省した」
こうも言うのだった。
「自分で心を閉ざしてもな」
「何もならんってか」
「そうして運命を避けようとしてもな」
「避けられんってか」
「わかった」
このことがというのだ。
「よくな」
「それでか」
「もう小鳥とは距離を置かない」
決してというのだ。
「封真ともな」
「二人と一緒にか」
「生きてな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「護りたいんやな」
「そう考えている」
今はというのだ。
「そのうえでどうするかもな」
「天の龍になることもか」
「決めたい」
「そうなんか」
「貴方の選択は二つあるけれど」
空汰と一緒に来ている嵐が言ってきた。
「地の龍になる選択もあるわ」
「そうだな」
神威も否定しなかった。
「わかっている」
「だから」
「どちらもだな」
「貴方が選ぶことになるわ」
「俺はまだ地の龍を知らない」
彼等のことはというのだ。
「知っているのはな」
「私達だけね」
「そうだ、両方知ってだ」
そうしてというのだ。
「小鳥も封真も護れるのならな」
「地の龍もなの」
「選ぶかも知れない」
「そうなのね」
「あくまでだ」
神威は確かな声で言った。
「俺はだ」
「お二人を護りたいのね」
「人間や地球のことを考えているが」
龍として、というのだ。
第八話 記憶その十二
「しかし俺にとって第一はな」
「お二人なのね」
「小さい時から一緒にいてだ」
そうしてというのだ。
「絆もあるからな」
「それ故になのね」
「俺はだ」
嵐にさらに話した。
「まずはな」
「お二人を護る」
「そうしたい、駄目か」
「身近な人等護りたいって思わんで何を護れるか」
空汰が答えた。
「そうも言うな」
「だからか」
「ああ、お前の今の言葉そして考えはな」
温厚な笑顔で真面目に話した。
「間違いやない」
「そうか」
「むしろ正しいとだ」
その様にというのだ。
「言えるわ」
「そうか」
「そやからな」
「俺はだな」
「お二人をな」
小鳥そして封真をというのだ。
「護るんや」
「そしてその為にだな」
「選択をするとな」
「いいか」
「ああ、ただわい等としてはな」
「そうなる為の選択はだな」
「やっぱりな」
何と言ってもというのだ。
「天の龍になることがな」
「そうなるか」
「そや」
神威に微笑んで話した。
「そうやと思うで」
「私もよ。貴方は見たのよね」
嵐は神威を見据えて彼に問うた。
「地の龍の貴方が彼女を殺す」
「小鳥をな」
「その場面を見たわね」
「夢だったが」
それでもとだ、神威は嵐のその言葉に答えた。
「俺は確かに小鳥を殺した」
「そうね」
「地の龍の俺だな」
小鳥を殺した自分はというのだ。
「そうだな」
「嘘は言わないわ」
嵐はこう前置きしてから答えた。
「私が思うにはね」
「その通りか」
「そうよ」
まさにというのだ。
「貴方が地の龍を選ぶと」
「小鳥を殺すか」
「そうなるわ」
「そしてやな」
空汰は腕を組んで言った。
「お前が天の龍を選ぶとな」
「小鳥が殺される場面をか」
「その目でな」
まさにというのだ。
「見るのかもな」
「そうなるのか」
「ああ、どっちにしてもな」
今は深刻な顔で話した。
「お前はな」
「小鳥を護れないのか」
「夢の通りやとな」
「そして夢はか」
「運命を映し出してるとな」
その様にというのだ。
第八話 記憶その十三
「考えてええやろな」
「やはりそうか」
「そやからな」
それ故にというのだ。
「お前はな」
「どちらにしてもか」
「あの娘を護れんのかもな」
「そうなのか」
「そうかもな、けどな」
「それでもか」
「どうも運命はな」
空汰は腕を組み深く考える顔になって話した。
「変わるみたいやな」
「絶対ではないんだな」
「それで桃生さんも生きてるんやろ」
彼もというのだ。
「大怪我したけどな」
「そのおじさんを見るとか」
「ああ、お前が大事にしてる」
「小鳥がか」
「その人もな」
「生きるかも知れないか」
「そうかもな、これはわいの考えやが」
神威にこう前置きして話した。
「若しお前が何があってもや」
「封真に小鳥を護りたいならか」
「そう思ったらな」
それならというのだ。
「護れるのかもな」
「小鳥も死なないか」
「そうかもな、運命は絶対やないか」
空汰は今度は自分に言い聞かせる様にして話した。
「わいも覚えとくわ」
「そうですね、選択次第で変わるなら」
護刃も言ってきた。
「いい選択をですね」
「していくべきね」
嵐も言った。
「やはり」
「そうですよね」
「そうしてね」
そのうえでというのだ。
「出来る限りいいね」
「運命にすべきですね」
「未来にね、私たちが一人でも多く生き残れる」
「そうした未来にですか」
「すべきね」
天の龍である自分達がというのだ。
「やはり」
「その通りですね、未来が一つかといいますと」
征伐一狼も言う。
「そうとはです」
「限らないですね」
「その筈です、ですから」
それでというのだ。
「僕達はよりよい選択を行い」
「そしてですか」
「その選択の中で最善を尽くし」
そうしてというのだ。
「さらによい未来にしていきましょう」
「それが大事ですね」
「そう思います、ですから神威君も」
神威にも言うのだった。
「その方を必ずです」
「護れるか」
「そう考え」
そしてというのだ。
「決断、選択をです」
「すればいいか」
「僕はそう思います」
「わかった、征一狼さんだったな」
神威は彼に微かに笑って顔を向けて応えた。
「俺は何があっても二人を護る」
「そのことは絶対ですね」
「変わらない、そうなる未来をな」
「選ばれますね」
「そうする、そして戦いが終われば」
その時はというのだ。
第八話 記憶その十四
「三人そして皆とな」
「僕達とですか」
「笑いたい、天の龍が七人いるなら」
「そうであるならですか」
「七人共だ」
まさにというのだ。
「生きてな」
「そうしてですか」
「生きよう、笑顔でな」
「そうなる様にしていきますね」
「絶対にな」
「ほなわいも生きる様にせんとな」
空汰は神威の決意を聞いて微笑んで述べた。
「やっぱりな」
「貴方は死ぬ運命だったわね」
「そうじっちゃんに言われたけどな」
嵐に応えて話した。
「じっちゃんも実際は絶対やないって言ってたし」
「それでなのね」
「これからもな」
まさにというのだ。
「最善を尽くしてな」
「そのうえで」
「そや」
そしてというのだ。
「嬢ちゃんとも他の皆ともな」
「生き残って」
「まだ親睦深めるパーティーしてへんけど」
それでもと言うのだった。
「戦いが終わったらな」
「もう一度なのね」
「しよな」
そのパーティーをというのだ。
「是非な」
「では私も」
嵐も微笑んで述べた。
「生きる様にするわ、そして貴方を死なせることもね」
「せんか」
「何があってもね」
「そう言ってくれたら嬉しいわ、ほなな」
「ええ、桃生きるさんのお家をお借りして」
「一緒にな」
天の龍の仲間内でというのだ。
「パーティーしよな」
「そうしましょう」
こうした話もしてだった。
空汰が中心となってパーティーの準備を進めていった、空汰は封真にも連絡をして許可を申し出たが。
封真は笑顔でだ、電話の向こうの空汰に答えた。
「何時でもいい」
「そう言ってくれるか」
「うちは時期によってはお祭りの場所も提供するからな」
「それでか」
「お花見の様なものだな」
「大体な」
空汰はその通りだと答えた。
「そんなところや」
「それなら別に構わない」
「ほなな」
「神社の境内ならな、お勧めは木の傍か」
「木の?」
「神威がよく知っている木だ」
封真は微笑んで話した。
「その下で楽しめばいい」
「お花見やなくて木見やな」
「ははは、そうなるな」
封真は空汰の今の話に笑って応えた。
「言われてみれば」
「そやな」
「ならそのだ」
「木見をか」
「楽しんでな」
そうしてというのだ。
第八話 記憶その十五
「そのうえでな」
「親睦を深めたらええか」
「若しかしたら俺達はいないかも知れないが」
自分か小鳥はというのだ。
「神威がいるならいい」
「そうなんか」
「神威は俺達にとって家族と同じだからな」
「そこまで大事に思ってるんやな」
「ああ、俺は何があってもだ」
空汰に微笑んで話した。
「神威と小鳥を護りたい」
「神威と同じこと言うな」
「あいつもか」
「あんたと妹さんをな」
封真にこのことも話した。
「何があってもな」
「護りたいと言っているか」
「そや、それは変わらんってな」
「俺も同じだ、それだけ大事に思っているからな」
だからだというのだ。
「もうな」
「それでか」
「護る」
一言で言い切った。
「俺はな」
「そうか、ほなな」
「俺も俺でだ」
「やってくな」
「二人を護る」
封真は空汰に話した。
「必ずな」
「あんたもその心意気やとな」
「出来るか」
「そうな、ほなな」
「その時にだな」
「また会おうな」
「ではな」
電話でこう話した、そしてだった。
空汰はそれが終わってからだ、その場にいた神威達に封真とのやり取りのことを笑顔で話したが神威はそれを聞いて微笑んで話した。
「封真ならな」
「そう言うってか」
「思っていた」
こう空汰に話した。
「あいつならな」
「気分のええ兄さんやな」
「昔からな」
「それでそのこともやな」
「俺はあらためてな」
まさにというのだ。
「受け入れた、だからな」
「神社の木の下でか」
「皆でな」
ここにいる、というのだ。
「楽しみたい」
「皆でやな」
「そうしたい」
「そうか、ほなな」
「実際にだな」
「そうした選択してな」
そのうえでというのだ。
「さらにな」
「護る様にだな」
「していくんや、ええな」
「そうしていく」
「それでや」
空汰はさらに話した。
「お前一人やないんや」
「天の龍はだな」
「そや、七人おってな」
神威に微笑んで話した。
「さらにや」
「玳透君もいますよ」
征一狼が従弟のことを話した。
「彼もです」
「頼りになるな」
「天の龍ではありませんが」
優しい笑顔で話すのだった。
「真面目で努力家で」
「そうしたことがだな」
「実力に表れていまして」
それでというのだ。
「ですから」
「あの強さだな」
「そうです、彼がいて」
そしてというのだ。
「緋炎さんに蒼氷さんもです」
「いるか」
「僕達は一人ではありません」
決してというのだ。
「ですから何かあれば」
「頼っていいか」
「何でも言って下さい、そして」
「何かあればか」
「貴方が今言われた様にです」
実際にというのだ。
「頼って下さい」
「そうしていいか」
「はい」
まさにというのだ。
「そうして下さい」
「ではな」
「一人で無理な時は」
「七人そしてか」
「皆で」
天の龍以外の面々も含めてというのだ。
「やっていきましょう」
「小鳥を護ることもだな、封真も」
「左様です、では親睦も」
「深めてだな」
「そうなる様にしていきましょう」
こう話してだった。
天の龍達は色々な話をした、そのうえでパーティーに向かうのだった。
第八話 完
2022・12・15
第九話 風使その一
第九話 風使
征一狼はこの時職場にいた、そうしてだ。
自分の机にかけてある写真を観てだ、自然と微笑んだ。職場の女性社員がその様子を見てこう言った。
「奥さんとですね」
「はい、娘です」
征一狼は社員にも微笑んで答えた。
「僕にとってかけがえのない」
「ご家族ですね」
「奥さんに出会えて」
そうしてというのだ。
「娘も生まれて」
「幸せですね」
「ですから」
そう思うからだというのだ。
「この幸せをです」
「ずっとですね」
「永遠に」
まさにというのだ。
「続く様にです」
「されたいですか」
「そう思っています」
こう言うのだった。
「僕としては」
「やっぱりご家族はですね」
「大切なものです」
「蒼軌さんはそう思われますね」
「そうとは」
「いえ、中にはです」
社員は征一狼に彼の傍に立ったうえで話した。
「家庭を大事にせず」
「顧みない人もですね」
「おられますね」
「そうですね」
征一狼は暗い顔になって応えた。
「中には」
「そうですよね」
「お仕事もいいですが」
「そればかりで」
「他には何も興味がなくて」
「お仕事以外には」
「お仕事でなくとも」
その他にもというのだ。
「溺れるものがあって」
「それで、ですね」
「大切なものを忘れてしまっている」
「そんな人もいますね」
「僕はそうした人になりたくないです」
絶対にとだ、征一狼は話した。
「何があっても」
「では蒼軌さんにとって大切なことは」
「家族と」
その二人の写真を観つつ答えた。
「そしてです」
「それにですか」
「人間と皆との絆も」
「大切なものとですか」
「思っています」
そうだというのだ。
「僕は。その全部をです」
「大切にされていますか」
「そして護りたいです」
「全部をですね」
「はい、実は最近お友達が何人か出来まして」
天の龍の彼等の話もした。
「彼等もです」
「大切にされたいですか」
「ずっと」
家族と同じ様にというのだ。
「そうしていきたいです」
「お護りして」
「僕なんかの力は微々たるものですがね」
少し自嘲めいた笑顔を浮かべて話した。
「出来る限りです」
「いやいや、そのお気持ちがです」
女子社員はその征一狼に話した。
第九話 風使その二
「大事でとても強いですよ」
「護ろうという気持ちが」
「はい、蒼軌さんならです」
「護れますか」
「絶対に。優しいですから」
「優しさは力ですか」
「よく言われますよね」
こう言うのだった。
「確かに優しさだけでは駄目ですが」
「優しさがないとですね」
「どうにもならないですよね」
「そうですか、では」
「はい、蒼軌さんならです」
まさにというのだ。
「絶対に護れます」
「では護れる様にします」
「そうして下さい」
こうした話をだ、征一狼は編集部で話した。その話を天の龍のことは隠して自宅で妻に話すとだった。
綺麗な優しい顔立ちの妻は笑顔で応えた。
「私もそう思うわ」
「そうですか」
「ええ、貴方はとても優しい人だから」
それ故にというのだ。
「きっとね」
「護れますか」
「ええ、この娘もね」
一緒にいる娘も見て話した。
「私もで」
「お友達もですか」
「ええ、そう思うわ」
「奥さんもそう言ってくれるなら」
征一狼はそれならと応えた。
「そうなる様にです」
「頑張るのね」
「編集部でもそうお話しましたが」
「あらためてなのね」
「今もです」
自宅でもというのだ。
「約束します」
「ええ、お願いね」
「必ず」
こう言うのだった、また玳透と修行中にも話したが彼も言った。
「はい、征一狼さんの優しさなら」
「玳透君もそう言いますか」
「僕にもいつも優しくて修行中でも」
今の時もというのだ。
「絶対に怒ったり怒鳴ったりされないですね」
「僕はそんな柄ではないですから」
「世の中いるじゃないですか、部活でも」
「暴力を振るう先生がですか」
「もうその暴力は」
それこそというのだ。
「あまりにも酷くて」
「それで、ですか」
「犯罪の域にまで達していますから」
「それは絶対に駄目です」
征一狼は悲しい顔になって話した。
「暴力は否定すべきものです」
「そうですよね」
「どんな状況でもです」
「暴力を振るっては駄目ですね」
「はい、僕は誰にもです」
「暴力は振るわれないですね」
「風の力を使っても」
自身が操るそれをというのだ。
「それでもです」
「暴力は、ですね」
「振るいません」
「ですから」
そうした考えだからだというのだ。
「修行中でもです」
「僕にいつも優しくお話してくれて教えてくれますね」
「だからですか」
「その征一狼さんなら」
「優しさで、ですか」
「護れます、安心して下さい」
「家族も皆さんもですね」
まさにというのだ。
第九話 風使その三
「護れますか」
「きっと、征一狼さんなら出来ます」
本人に笑って話した。
「きっと」
「そうですか、では」
「そうなる様にですね」
「僕も頑張ります」
このことを約束しつつだ、征一狼は玳透と共に修行に励み汗を流すこともした。彼にも誓うものがあった。
颯姫は朝起きてすぐに自宅のリビングに出て朝食を摂った、その朝食はフレークに牛乳をかけたものだった。
そのフレークを食べる彼女にだ、立派なスーツを着た如何にも地位がありそうな中年男性である彼の父が声をかけた。
「今朝もフレークと牛乳か」
「ええ、これが一番栄養バランスがいいから」
颯姫は食べつつ答えた。
「そうしているの」
「そうか」
「ええ、それでお母さんにもね」
「話しているか」
「いつも通りね、お母さんはもっと食べたらって言うけれど」
「それで充分か」
「栄養バランスだけでなく量も」
こちらもというのだ。
「充分よ」
「ならいいがな、それで学校はどうだ」
「変わらないわ」
素っ気ない返事だった。
「そちらは」
「そうか、では庚さんとのことはどうだ」
「お仕事ね」
「都庁の特別なお仕事だな」
両親はこう聞いていた。
「そうらしいが」
「そちらは順調とは言えないわ」
「そうなのか」
「まだ人が少ないから」
七人揃っていないことをこう話した。
「だから」
「そうか、しかしな」
「このままなのね」
「頑張ることだ、お前は昔から抜群に頭がいいからな」
それでというのだ。
「何をしても出来る、安心しろ」
「お父さんはそう思うのね」
「違うか?子供の頃からだったな」
非常に優れた頭脳を持っているというのだ。
「成績だっていつも一番だしスポーツもな」
「出来るの」
「だからな」
それでというのだ。
「安心している、お前なら大丈夫だ」
「颯姫で困ったことはないわ」
穏やかな雰囲気の母も言ってきた。
「そして心配したこともよ」
「ないの」
「だからね」
それでというのだ。
「都庁のお仕事もね」
「安心していいのね」
「失敗する筈がないわ」
「そうだ、お前が失敗することはなかったな」
父は何も疑わない顔で話した。
「それならな」
「このままなのね」
「やっていくことだ」
是非にというのだ。
「いいな」
「ええ、それじゃあ」
「そちらも頑張れ」
両親はこう言うだけだった、そして。
登校して部活の朝練に出るとだ、同級生の部員に話した。
第九話 風使その四
「貴女は少し右肩の筋肉を鍛えることよ」
「そうすればいいの」
「ええ、足腰の筋肉は出来ているから」
そちらは安定しているからだというのだ。
「後はね」
「右肩なの」
「もっと言えば上半身ね」
こうも言うのだった。
「そちらを鍛えるとね」
「もっとよくなるのね」
「スマッシュの威力とスピードがさらについて」
そうなってというのだ。
「よくなるわ」
「わかったわ、それじゃあ」
「ウェイトトレーニングと腕立て伏せを増やしたら」
颯姫はトレーニングの話もした。
「そうしたらいいわ」
「じゃあそうするわね」
「ええ」
無表情で話す、だが。
その話を聞いてだ、部員達は話した。
「流石よね」
「よくわかってるわね」
「いつも的確にアドバイスしてくれるからね」
「助かるわ」
「トレーニングの方法までお話してくれるし」
「八頭司さんがいてくれて」
「うちの部は助かってるわ」
こう言うのだった、だが。
颯姫本人は気にしなかった、それで地の龍の集まりでも言うのだった。
「当たり前のことを言っているだけだから」
「それでなんですか」
「ええ、気にすることはね」
共にお茶を楽しむ哪吒に応えた。
「私はないわ」
「そうですか」
「感謝されてるけれど」
それでもというのだ。
「感謝もね」
「別にいいですか」
「全くね」
こう言うのだった。
「私は」
「そうですか、感謝ですか」
哪吒はその言葉に反応して言った。
「僕は最近です」
「感謝しているのかしら」
「誰かに何かしてもらったら」
「その時はなの」
「心が明るくなる様な」
そうしたというのだ。
「気持ちになります」
「そうなの」
「どうも」
「それが感謝ですよ」
遊人は微笑んで応えた、庚も交えてテーブルを囲み紅茶を飲み三段のティーセットを楽しんでいる。
「まさに」
「そうなんですか」
「はい、何かをしてもらって」
そうしてというの。
「明るくなる、それ嬉しいということで」
「嬉しいですか」
「そう思うことはです」
まさにというのだ。
「感謝しているということです」
「そうなんですね」
「そして感謝すれば」
遊人はさらに話した。
「お礼を言うことです」
「有り難うとですね」
「はい」
まさにというのだ。
第九話 風使その五
「そうすればいいです」
「そうですか」
「そうね。私もね」
颯姫も言って来た。
「何とも思わないけれど何かしてもらったら」
「その時はですか」
「礼儀だから」
それでとだ、哪吒に話した。
「お礼を言うわ」
「そうですか」
「礼儀は守るものだから」
それ故にというのだ。
「そうしているわ」
「礼儀のことはお祖父様に言われています」
「ならね」
「感謝したらですね」
「言うことよ」
お礼、それをというのだ。
「そうすることよ」
「わかりました、そうしていきます」
「ええ、それとね」
「それと?」
「何かね」
颯姫はこうも言った。
「私も少しずつだけれど」
「少しずつですか」
「こうして皆といれば」
遊人も見て話した。
「嬉しく思うことがね」
「ありますか」
「そうなってきたわ」
「そうですか」
「私達は仲間よ」
庚が言ってきた。
「地の龍のね」
「仲間と一緒にいたら」
「お友達とね」
それならというのだ。
「普通によ」
「嬉しいとですか」
「思うことよ、絆はね」
庚はこうも話した。
「大事にするものだから」
「それがあって」
「一緒にいたらね」
仲間と、というのだ。
「それでよ」
「嬉しいとですか」
「自然に思うことよ」
「そうですか」
「そしてね」
それでと言うのだった。
「美味しいでしょ」
「ええ、お茶もお菓子も」
「そちらを一緒に楽しむこともね」
「嬉しいことなの」
「そうよ、だから私もよ」
「皆が集まれば」
「こうしてお茶を出しているのよ」
こう言うのだった。
「ずっと楽しめなかったし」
「ずっと」
「知ってるわね、私は一人だったのよ」
暗い顔になってだ、庚は話した。
「本当にね」
「ずっと」
「ええ、姉さんがいたけれど」
丁のことを想いつつ話した。
「姉さんはああでね」
「何も見えず何も聞こえなくて」
「そして夢見だったから」
それでというのだ。
「私は引き離されて姉さんだけ大事にされて」
「貴女はなの」
「いない位にね」
そこまでというのだ。
「ぞんざいによ」
「扱われていたの」
「ええ、だからね」
それでというのだ。
第九話 風使その六
「こうしてよ」
「一緒に飲めて」
「会えてお話出来てね」
それでというのだ。
「嬉しいわ」
「そうなの」
「だからよ」
庚はさらに言った。
「私はここに早く七人揃って欲しいし」
「地の龍全員が」
「そして一人もよ」
七人全員が揃ってもというのだ。
「死なないで欲しいわ」
「それで皆でなの」
「ずっとお友達でいたいわ」
「僕もそう思います、ですが」
遊人はここでこう言ってきた、右手にはしっかりとカップがある。
「僕達は地の龍ですから」
「ええ、人間を滅ぼすわね」
庚もこう返した。
「それが地の龍の役目よ」
「ですから」
「私達が残る時はね」
「この世界には僕達しかいなくなっていますね」
「わかっているわ」
このことはとだ、庚は答えた。見ればその顔は俯き真剣なものになっている。
「それはね」
「そうですね、ですが」
「わかっているわ、けれどね」
「それでもですか」
「言ったわね、私は一人だったのよ」
またこのことを話した。
「だからね」
「こうしてですか」
「皆でいたいの」
「そうですか」
「世界を、いえ姉さんを」
「お姉さん?丁さんが何か」
「何でもないわ」
遊人に問われすぐにその言葉を打ち消した。
「気にしないで」
「そうですか」
「兎に角ね、これからもね」
「さらに三人を含めた」
「地の龍を揃えてね」
七人全員でというのだ。
「合わせて八人でよ」
「そうなのですね」
「庚は友達思いなのかしら」
ふとだ、颯姫はこのことを察して述べた。
「若しかして」
「そう思ったのかしら」
「ええ、少し」
「そうなの、そうかも知れないわね」
自嘲気味に微笑んでだ、庚は答えた。
「私はずっと一人だったから」
「だからなの」
「今お話した通りね」
「お姉さんばかり見られて」
「そうだったから」
それでというのだ。
「私は友達が欲しいとね」
「思っていたの」
「しかも近寄り難い雰囲気ってずっと言われてきたから」
このことも話すのだった。
「子供の頃から。大学を出て表のお仕事をはじめて」
「今こうして」
「地の龍を束ねる立場になるまでね」
「私達と会うまでは」
「一人だったから」
それでというのだ。
「こうして皆がいてくれて」
「寂しくないから」
「嬉しいわ」
「そうなのね」
「ええ、だから」
「私達は友達で」
「一緒にいたいわ、だから一人でもいなくなれば」
内心その時のことを心から怖れた、そのうえで今ここにいる友人達に対して心から語るのであった。
第九話 風使その七
「私は嫌よ」
「そうですか、では」
「ええ、死なないで」
哪吒にも切実に告げた。
「そうしてね」
「わかりました」
哪吒は確かな声で答えた。
「戦いがあろうとも」
「死なないでいてくれるわね」
「はい」
庚に答えた。
「そうします」
「お願いするわね」
庚は哪吒にも話した。
「是非共」
「僕達は一人もですね」
「欠けないで欲しいわ」
「では絶対に生きる様にしますね」
遊人は笑顔で応えた。
「戦いがあろうとも」
「そしてずっとよ」
「皆で、ですね」
「こうしてお茶も飲んで」
そうもしてというのだ。
「そして他のこともしていって」
「一緒にですね」
「楽しんでいきましょう」
こうしたことも話してだった。
庚は今は友人達と共にお茶とお菓子を楽しんだ、だが仕事の時はだった。
真剣な顔でだ、都知事に話した。
「本日の予定ですが」
「どうなのかね」
「はい、この様になっています」
「そうか、今日も多忙だな」
知事は庚に差し出されたそのスケジュールを見て少し苦笑いになって述べた。
「朝から夕食まで」
「はい、ですが」
「これが私の仕事だからね」
「やはりです」
「知事になるとね」
都知事になると、というのだ。
「これだけの忙しさだね」
「そうですね、では」
「うん、都民の人達の為にね」
「今日も宜しくお願いします」
「この東京をよくする為にね」
「立候補されて」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「当選させてもらったからには」
「それならですね」
「今日も頑張るよ」
「それでなのですが」
庚は自分の席で話す知事の正面に立ち笑顔で話した。
「今日のお昼ですが」
「食事かね」
「議員の方々とご一緒でしたね」
「都議会のね」
「お料理はカレーで宜しかったですね」
「いいよ、では君もだね」
「ご一緒させて頂きますので」
こう言うのだった。
「何かあれば」
「頼らせてもらうよ」
「それでは」
こうしたことも話してだった、そのうえで。
庚は食事も含めて仕事に励んだ、そして。
夜は地の龍を束ねる者として働いた、眠るとだった。
夢に出て来た丁にだ、こう言うのだった。
第九話 風使その八
「私達もよ」
「地の龍が揃ってきているのですね」
「そうよ、そしてお互いが揃ったなら」
「戦うのですね、どうしても」
「そしてね」
丁に微笑んで話した。
「その時こそよ」
「どうしてもですか」
「そうよ、そして必ずね」
「天の龍を全て倒して」
「そのうえでよ」
「人間もですか」
「そうね」
一瞬、ほんの一瞬だった。
庚は視線を右にやった、そのうえで姉に話した。
「そうしたいわ」
「そうですか」
「姉さんが苦しむなら」
また笑って話した。
「私は何でもするわ」
「庚、貴女はどうして」
「ずっと姉さんだけが大事にされて」
「貴女はですか」
「除け者だったからよ、姉さんにはわからないわ」
こうも言うのだった。
「除け者にされた者の気持ちは」
「庚、貴女は決して」
「姉さんは夢見よ、我が家の嫡流で」
そうした立場でというのだ。
「歴代の総理大臣の身代わりでもあってしかもその五感は動いていない」
「私は望んでは」
「姉さんが望んでなくてもよ」
感情なく淡々と言うのだった。
「姉さんはそうでもあってよ」
「私だけがですか」
「大事にされて私は」
自分はというのだ。
「除け者だったからよ」
「その様にですか」
「するし言うわ」
「私を苦しめる為なら」
「何でもね、だからこそ姉さんの元を離れて」
「地の龍を束ねる立場となって」
「我が家の傍流のね、傍流だから」
この立場だからだというのだ。
「私が家を継がせてもらうまでは大人しくしていたけれど」
「地の龍はこれまでです」
「静かにしていたわね」
「代々。本来ならです」
「一九九九年七月になろうともね」
「静かにしていてです」
そうしてというのだ。
「人間も地球も滅ばない様にしていましたが」
「わかるでしょ、地球はもうよ」
「もたないというのですね」
「だからよ、私はそのことを感じてよ」
「私から離れて」
「傍流の家を継がせてもらってね」
「すぐに動いたのですね」
「そうよ、姉さんを苦しめて」
それと共にというのだ。
「人間もよ」
「滅ぼして地球をですか」
「救うわ」
「そうですか」
「きっとね、だからこそよ」
姉と正対してさらに言うのだった。
「あと三人。来てもらって」
「その時は天の龍と戦って」
「私達が勝ってよ」
そのうえでというのだ。
「姉さんの苦しむ姿とね」
「人間の滅亡をですか」
「見させてもらうわ」
「どうしてもなのですね」
「ええ、楽しみにしておいてね」
是非にという言葉だった。
第九話 風使その九
「自分が絶望に浸る時を」
「貴女がそう言ってもです」
丁はあくまで自分への憎悪を語る妹に目を閉じて俯き加減に述べた。
「私は貴女の姉であり」
「私を愛しているというの」
「はい、たった二人の姉妹ですから」
それ故にというのだ。
「ずっと傍にいて欲しいと思っていましたし今も」
「こうしてなの」
「夢の中でお話出来て」
それでというのだ。
「嬉しいです」
「そうなのね、けれど私は違うわ」
「私をですか」
「憎んでね」
そうしてというのだ、だがその目にも言葉にも憎しみの色は一切出さずそのうえで丁に対して話していら。
「苦しめてあげるわ」
「そうですか」
「そうしたら姉さんも終わるわね」
「終わる?何が」
「夢見でいる必要もなくなるわね」
こうも言うのだった。
「人間が滅べば、いえ天の龍が皆戦えなくなれば」
「死ねば」
「そう思うならいいわ」
戦えなく即ち死ぬと捉えた丁にこう返した。
「姉さんが。兎に角私が戦いに勝てば」
「わらわはですか」
「もうね」
その時はというのだ。
「夢見でいることはなくなるわね」
「天の龍が全て死ねば人間の滅亡は決まります」
これが丁の返答だった。
「そうなれば人間を護るわらわは」
「そうね、だからよ」
「天の龍達をですか」
「七人全員ね」
それこそというのだ。
「戦えなくしてあげるわ」
「そうですか」
「その時を楽しみにしていて、ではね」
「今夜はですか」
「これでお別れよ」
「わかりました」
「覚えておいてね、姉さん」
去ろうとするその時にも言うのだった。
「夢見の務めもよ」
「あと少しですか」
「ええ、きっとね」
「そうならない様にします」
去る妹に告げた、だが。
「・・・・・・・・・」
「そうなる筈がないわ」
何かが呟いた、丁の唇を歪めさせて。だがその声は庚にも聞こえはしなかった。だがそれでもであった。
牙暁は庚に夢の中で話した。
「お姉さんは」
「わかっているわ、貴方はね」
「わかっているつもりです」
夢の中で座る庚の右後ろに立って言うのだった。
「貴女の本心は」
「ええ、ではね」
「何としてもですか」
「夢見でなくして」
「そのうえで」
「もう一人のね」
「あの人をですね」
「何とかするわ、何時からかしら」
庚はその流麗な眉を曇らせて話した。
「姉さんはね」
「お一人ではですね」
「なくなったわ、何故かね」
「そうですね」
「ああなって」
「そしてですね」
「このままではね」
まさにというのだ。
第九話 風使その十
「姉さんは」
「取り返しのつかないことになります」
「そうなるから」
だからだというのだ。
「何とかね」
「この戦いで、ですね」
「動くわ、姉さんも知らないけれど」
「言ってなくですし」
「夢の中でも心に鍵をかけて」
その様にしてというのだ。
「いつも話しているから」
「本心はですね」
「隠せないわ、夢は無意識が出るから」
それ故にというのだ。
「姉さんに隠すこともね」
「苦労していますね」
「まして仲間でいつも会っている貴方には」
「無理だとですね」
「わかっているから」
だからだというのだ。
「本心を話すわ」
「そうですね」
「他の地の龍には話していないけれど」
「それでもですね」
「貴方は別よ。私は本当は」
「人間や地球よりも」
「姉さんよ」
彼女のことを考えているというのだ。
「姉さんにも話していないけれど」
「そうですね、あくまでですね」
「そうよ、けれど皆には悪いことをしているわ」
目を顰めさせて思った。
「人間を滅ぼして地球を護ると言っていて」
「その実はですか」
「姉さんのことを考えていて」
そうしてというのだ。
「その為に戦ってもらうのだから」
「いえ、それは」
「それは?」
「地の龍のどの人も」
「貴方を含めて七人全員がなの」
「貴女の強いお心を知れば」
そうなればというのだ。
「必ずです」
「受け入れてくれるかしら」
「今いる人達もそうで」
「これから来る三人もなのね」
「そうです、むしろ人間を滅ぼすことよりも」
「いいというのね」
「人間が滅べば」
その時はとだ、牙暁は話した。
「それと共に他の多くの命もです」
「滅ぶわね」
「恐竜が滅んだ時もでしたね」
「ええ、恐竜だけでなくてね」
「他の多くの命もでしたね」
「滅んだわ」
庚は自分が知っている恐竜の歴史から話した、繁栄から突如として滅んだ彼等のそれを。
「隕石が落ちてきてだったわね」
「そう言われていますね」
「人間が滅んでも同じね」
「はい、関係のない」
人間とは、というのだ。
「そうなります、破壊からの創造つまりです」
「地球の復活ね」
「それにはです」
「そうなるわね」
「人間だけでもです」
「辛いわね」
「多くの方に絆があるので」
それ故にというのだ。
第九話 風使その十一
「やはり。そう考えますと」
「地の龍の皆にとってもね」
「特にあの人は」
牙暁はまだ地の龍の集まりに来ていない草薙のことを話した、かれの誰よりも優しく温かい光を放つ目を思い出しながら。
「そうかと」
「まだ来ていない」
「はい、あの人は」
「そうでしょうね、とても優しい人らしいわね」
「そうです、そしてそれは」
「他の地の龍もね」
「本来のお心は」
心根はというのだ。
「そうです」
「ええ、今いる三人そして貴方もね」
「僕もですか」
「優しいわね、颯姫と哪吒は自分では気付いていないけれど」
「根にあるものは温かく」
「そして優しいわ」
「それ故に」
そうした心根だからだというのだ。
「どの方も多くの命を滅ぼすよりは」
「私がそう思っているのなら」
「いいとなる筈です、少なくとも僕は」
牙暁は自分はと話した。
「間違いなくです」
「そう思ってくれているのね」
「はい」
そうだというのだ。
「僕は決してです」
「人間が滅ぶことは望んでいないわね」
「地の龍ですが」
「それでもよね」
「そう考えています、ですから」
「私の考えはいいのね」
「僕に出来る限りです」
庚にこうも言った。
「協力させて頂きます」
「そうしてくれるのね」
「そして是非です」
「姉さんを」
「お救いしましょう」
「感謝するわ、殆ど誰も気付いていないけれど」
それでもどだ、庚は自分に協力を約束してくれた牙暁に話した。
「姉さんはね」
「お一人ではないですね」
「本来の姉さんは水の様で」
「穏やかで優しく」
「澄んでいるけれど」
丁、彼女はというのだ。
「けれどね」
「もう一人の方は」
「全く逆よ」
「言うなら火ですね」
「ええ、その姉さんをね」
「どうにかして」
「そして夢見の苦しみからも」
それからもというのだ。
「必ずね」
「解き放ちますね」
「そうするわ、それがね」
まさにというのだ。
「私の願いだから」
「はい、そうしていきましょう」
「ただ人間は」
「僕達が勝てばです」
「滅ぶわね」
「はい」
そうなるとだ、牙暁は答えた。
「やはり」
「東京の結界を全て壊して」
「世界を護るそれを」
「そうなるとね」
まさにというのだ。
第九話 風使その十二
「天の龍を全て倒したうえで」
「人間は滅びますね」
「そうね、けれどね」
「それでもですね」
「私は決めているから」
「お姉さんをですね」
「救うと。そして貴方が地の龍でよかったわ」
牙暁にこうも言うのだった。
「私達の一族でもあって」
「地の龍の一人であり」
「夢見でもあって」
「これも運命ですね」
「その運命に感謝するわ」
微笑んでの言葉だった。
「だからね」
「それで、ですね」
「貴方の力も借りて」
そうしてというのだ。
「戦っていくわ」
「わかりました、では」
「ええ、これからもね」
「ことを進めていきましょう」
「そうしましょう、そして姉さんには」
強い決意を込めた顔で話した。
「何があってもよ」
「知られないですね」
「私は姉さんを憎んでいる」
「その様にですね」
「姉さんにはね」
「あくまで通しますね」
「そうよ、地の龍の皆には本心を見せても」
そうしてもというのだ。
「姉さんにだけは」
「お見せする訳にはですね」
「いかないから、若し見せれば」
「丁様も動かれます」
「すぐに気付いてね」
「そうされるので」
「私は決してよ」
姉である丁だけにはというのだ。
「本心は見せないわ」
「即ち本来の目的も」
「そうするわ」
「そのことについても」
「協力してくれるのね」
「そうさせて頂きます」
牙暁は畏まって応えた。
「僕は地の龍であり貴女の友達ですので」
「友達ね」
「違いますか」
「いえ、そうね」
今度はだ、庚は微笑んで話した。
「そうなるわね」
「そうですね」
「こうして普通にお話してね」
「共に行動してですね」
「絆があるから」
「そして他の地の龍の人達もです」
「友達ね」
まさにとだ、庚は微笑んで頷いて応えた。
「そうね」
「左様ですね、ですから」
「ええ、ではね」
「僕達はです」
まさにと言うのだった。
「共に生きていきましょう」
「友達もずっといなかったけれど」
庚はこれまでの過去のことを思い出した、生まれてからのことを。思えば長い間夢に出て来る姉以外はだった。
見向きされなかった、そのことを思い出し今を振り返って話した。
第九話 風使その十三
「今は違うわ」
「いいと思われていますね」
「凄くね、ではまた明日ね」
「皆さんで」
「お茶を飲んでね」
そうしてと言うのだった。
「楽しい時間を過ごすわ」
「ではその時のお話を」
「聞いてくれるわね」
「そうさせて頂きます」
牙暁は目を閉じて応えた、そうして二人はそれぞれ深い眠りに入った。
その次の日も庚は仲間達と茶を飲んだが。
静かに微笑んでだ、彼等に話した。
「私達はずっと一緒にいられる様にしましょう」
「誰も死なないで」
「ええ、そのうえでね」
颯姫にも応えた。
「ずっとよ、楽しい時間を過ごしましょう」
「そうですね、僕達は少なくともお互いは嫌いではないですし」
遊人も言ってきた。
「お友達ですから」
「そう、だからね」
「これからもですね」
「仲良くしていきましょう、あと三人来るけれど」
「その方々ともですね」
「こうしてよ」
今行っている様にというのだ。
「楽しい時間を過ごしましょう」
「是非共」
「いいですね、何かです」
哪吒もほんの少しだが微笑んで話した。
「こうして皆さんと一緒にいますと」
「暖かいのかしら」
「そして心が弾みます」
「それが楽しいという感情よ」
「そうですね」
「その感情をね。これからはね」
「大切にすることですね」
紅茶を飲んだ後お茶菓子のクッキーを食べつつ応えた。
「そうすることですね」
「そうよ、そうしたらね」
「僕は人間としてですね」
「生きられる様になるわ」
「感情があるとですね」
「人間のそれがあればね」
そうであるならというのだ。
「それでなのよ」
「人間になりますね」
「だからね」
それ故にというのだ。
「貴方もよ」
「人間になる為に」
「色々な感情を備えていくのよ、けれど」
「僕達はですね」
「その人間を滅ぼすから」
地の龍故にとだ、庚は自嘲気味に笑って話した。
「考えてみると皮肉ね」
「これは皮肉ですか」
「そうよ」
「そのことも覚えます」
「そうしてね」
「はい」
庚に素直に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それではね」
「はい、それじゃあ」
「人間の心を備えていって」
「人間となりながら」
「地球を救いましょう」
「その人間を滅ぼして」
「そうしましょう」
「人間は命を奪うわ」
颯姫は無表情で述べた。
「他の生きものの命を」
「そうですね、確かに」
遊人もそれはと応えた。
第九話 風使その十四
「色々な理由で」
「人間がいるとね」
「そうである限り地球の命はですね」
「失われていくわ」
「それもまた事実ですね」
「そうなるから」
それ故にというのだ。
「人間を滅ぼして」
「地球を救いますね」
「人間を滅ぼした時多くの命が失われても」
その時の破壊によってというのだ。
「やがて地球は蘇って」
「残った命は増えていって」
「そうなって」
そしてというのだ。
「地球は命に満ちた星になるわ」
「だからですね」
「私は人間は滅ぶべきと思うわ」
「そうですか」
「ええ、両親にも愛情はないし学校に行っても」
それでもというのだ。
「面白いとね」
「思ったことはありませんか」
「遊人さんの通っていたクランプ学園に通っているけれど」
「面白いとはですか」
「何も感じたことはないし人間の世界自体にも」
こちらにもというのだ。
「何もね」
「感じませんか」
「だから尚更ね」
「人間は滅んでもよく」
「むしろ滅ぶべきとね、命を奪うから」
「命をですか」
「ええ、他の生きものだけでなく」
颯姫はさらに話した。
「人間同士でもね」
「殺し合ってですね」
「戦争もそうね」
「そうですね、戦争こそはです」
遊人もそれはと応えた。
「人間同士が殺し合う最たるものです」
「だからね」
「人間は、ですか」
「そんなことばかりするから」
それ故にというのだ。
「滅んでね」
「いなくなるべきですか」
「そうも思うわ。そんな人間がいなくなったら」
怒りも憎しみも蔑みもない、颯姫はただ無表情なまま話していく。それはまるで機械の様であった。
「地球はね」
「よくなりますか」
「きっとね」
「だからですか」
「私は地の龍になったことを悪く思っていないわ」
「ではいいと思いますか」
遊人は颯姫に問うた。
「僕達が滅んだら」
「そう言われたら」
不意にだ、颯姫は。
遊人の言葉に自分の言葉を一瞬だが止めた、だがすぐにこう言った。
「皆は違うわ」
「僕達はですか」
「ええ、地の龍である皆はね」
表情を変えずに言うのだった。
「仲間でお友達だから」
「だからですか」
「皆は例え人間が滅んでも」
そうなろうともというのだ。
「それからもね」
「生きるべきですか」
「そう思うわ」
「人間でもですか」
「ええ、そうね」
「そうですか」
「ええ、地の龍は違うわ」
こう言うのだった。
第九話 風使その十五
「私達はね」
「そう思うならそれでいいわ」
庚は微笑んでだった、颯姫の考えをよしとした。そのうえで彼女に対してこうも言ったのであった。
「ただ一つ聞いて欲しいことがあるの」
「何かしら」
「天の龍でもね」
即ち自分達の敵であろうともというのだ。
「私が殺してという時以外はね」
「殺さないの」
「それに及ばないと思ったら」
「哪吒の時の様に」
「殺さないわ」
「どちらにしろ人間を滅ぼすから」
「え、ええ」
そう言われると庚はほんの少し戸惑いを見せた、そうして述べた。
「そうよ」
「そうよね、ではね」
「ええ、殺すことは」
「私がそうしなさいと言わないとね」
「しない」
「それはお願いね」
「わかったわ」
颯姫もそれならと応えた。
「ではね」
「ええ、私はまだ誰も殺したことはないけれど」
「殺すべき時はね」
「貴女が決めてくれるのね」
「そうさせてもらうわ」
「ではね」
「人を殺すことは即ち命を奪うことですね」
哪吒は庚に問うた。
「まさにそうですね」
「その通りよ、私達は人間を滅ぼすけれど」
「その時に人間達を殺しても」
「それまではね」
まさにというのだ。
「私がそうすべきと言わない限りね」
「殺すことはないですね」
「そういうことだからね」
「わかりました、これからもそうします」
「それでいいですね、僕も無闇に人を殺す趣味はありません」
遊人もそれはと応えた。
「庚さんの言われることは有り難いです」
「そうなのね」
「はい、それでは」
「これからもね」
「そうさせて頂きます」
こう言うのだった、そしてだった。
ここでだ、庚は仲間達に微笑んで提案した。
「お茶もいいけれど夜はね」
「お酒ですね」
「ええ、今日は和食でね」
遊人に応えた。
「懐石料理を作ってもらうから」
「日本酒になりますね」
「それでいいかしら」
「はい、日本酒もいいですね」
遊人は最初に賛成した。
「それでは」
「貴方は日本酒でいいわね」
「是非共」
「私もよ」
颯姫もいいと答えた。
第九話 風使その十六
「日本酒も飲めるわ、むしろ」
「むしろ。何かしら」
「和食に最も合うお酒となると」
それならばというのだ。
「もうね」
「日本酒ね」
「日本酒は和食に合う様に造られていって」
「和食もね」
「日本酒に合う様に創られていっているから」
それ故にというのだ。
「和食にはよ」
「日本酒ね」
「他にはないわ」
「そうね、ではね」
「ええ、私も日本酒にするわ」
「それではね」
「僕も日本酒をお願いします」
哪吒は興味を持った風に申し出た。
「日本酒は前にも頂いて懐石料理もです」
「食べたわね」
「ですが両方の組み合わせははじめてなので」
哪吒としてはというのだ。
「ですから」
「ええ、それでは貴方もね」
「宜しくお願いします」
懐石料理と日本酒をというのだ。
「どうか」
「ではね」
「お願いします」
「それではね」
「はい、それとですね」
哪吒はさらに言った。
「デザートもありますね」
「勿論よ、桃があるわ」
「桃ですか」
「とびきり上等のね」
哪吒に笑顔で話した。
「食後、最後はね」
「桃ですか」
「それを食べるから」
だからだというのだ。
「楽しみにしておいてね」
「わかりました」
「戦うことになるけれど」
地の龍としてだ、庚はそれでもと仲間達に話した。
「皆死なない、そして無駄にね」
「命を奪わないことですね」
「人間を滅ぼすにしても」
「僕達は」
「そうしてね、そのうえで最後まで戦っていきましょう」
こう言って今度は懐石料理と酒を楽しんだ、地の龍の者達もまたお互いの絆を深めていっているのだった。
第九話 完
2022・12・23
第十話 固絆その一
第十話 固絆
征一狼は連絡を受ける前から議事堂に来た、そのうえでそこに集まっている空汰達に微笑んで話した。
「では今からですね」
「はい、行きましょか」
空汰が明るく応えた。
「桃生神社に」
「そうします」
「神威はもう自分であっちに向かうそうなんで」
彼はそうするというのだ。
「そうですさかい」
「現地集合ですね」
「あいつはそうなります」
そうだというのだ。
「それであそこには他にもです」
「封真さんと小鳥さんがおられますね」
護刃が微笑んで応えた。
「そうですね」
「そやからな」
それでとだ、空汰は応えた。
「わい等はな」
「これからですね」
「ここにおる顔触れで行こうな」
「わかりました」
「では行きましょう」
嵐も言ってきた。
「これから」
「そうしましょう、ではです」
征一狼は玳透にも顔を向けて話した。
「玳透君もです」
「一緒にですね」
「はい、桃生神社に行って」
「皆で楽しむんですね」
「そうしましょう、玳透君も僕達の仲間ですから」
それ故にというのだ。
「一緒に楽しみましょう」
「それでや」
ここでだ、空汰は。
緋炎と蒼氷、丁の傍に控えている二人を見て話した。
「お姉さん達もよかったらやけど」
「いえ、私達はこちらにいます」
「姫様をお護りする為に」
「ですからお気兼ねなく」
「皆さん行って来て下さい」
「そうして下さい」
他ならぬ丁も言ってきた。
「この度は」
「お二人がおられるならですか」
普段彼女の護衛をしている玳透が言って来た。
「僕もですか」
「そうです、玳透はいざとなればです」
「天の龍と共にですね」
「戦うこともあり」
そうしてというのだ。
「わらわの傍を離れることもあります」
「神威を迎えに行こうとした時もでしたね」
「ですからわらわの傍を離れることはです」
「お考えですか」
「ですから」
「今はですか」
「そうしてもいいです」
「そうですか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「皆さんと共にです」
「行って来ていいですか」
「結界も張りなおしましたし」
こちらも行ったからだというのだ。
「お気遣いは無用です」
「そこまで言われるなら」
玳透もそれならと応えた。
「お言葉に甘えまして」
「行かれて下さい」
「そうさせてもらいます」
「前もこう話したけどいざ行く時にも言うさかいな」
空汰はその玳透を見て笑って話した。
「ほんま真面目やな」
「そうですよね、その玳透さんもおられて」
護刃はにこりとして話した。
第十話 固絆その二
「頼りになりますね」
「そやな、天の龍もあと二人やし」
神威を入れてのことだ。
「わい等はかなりな」
「戦力が整ってきていますね」
「ほんまにな」
「そうね、ただその残る二人が誰と誰か」
嵐はこのことを言った。
「やっぱり気になるわね」
「そうですね、どうしても」
征一狼もそれは応えた。
「果たしてどなたとどなたか」
「そうですね」
「はい、本当に」
「そのうちの一人とは間もなく会うことになります」
ここで丁が言ってきた。
「そうなります」
「あと少しですか」
「はい、夢で出ました」
こう嵐に答えた。
「ですから間もなくです」
「その一人とですか」
「皆さんはお会いして」
そうしてというのだ。
「共にです」
「戦うことになりますか」
「はい」
そうだというのだ。
「左様です」
「ほなその人と会うこともですね」
空汰は笑って応えた。
「楽しみにしておくことですね」
「そうして下さい」
「そういうことで」
「地の龍も四人集まっていて」
丁は彼等の話もした。
「それにです」
「それに、でっか」
「残る三人のうち一人も」
その彼もというのだ。
「実は決まっていまして」
「ほな相手もでっか」
「残る二人です」
そうなっているというのだ。
「そうなっています」
「状況はこっちと同じですか」
「そうです」
「そうなんでっか」
「そしてお互いに七人揃えば」
その時はと言うのだった。
「遂にです」
「戦いになりますね」
「そしてその戦いがはじまる時は」
「あと少しでっか」
「大きな出来事があり」
そしてというのだ。
「それからです」
「七人が揃って」
「そのうえで」
そうしてというのだ。
「遂にです」
「戦いになるので」
「その時こそ」
「はい、本格的な戦いに入ります」
「そのことをお願いします」
こうも話してだった。
玳透も同行した、そして。
一行が桃生家の入口神社のそこに来た時にだった、そこに神威が立っていて彼の方から言ってきた。
「来たな」
「待ったか?」
「嘘は言わない」
空汰に微笑んで答えた。
第十話 固絆その三
「少しな、五分程な」
「そやったか」
「時間通りに来てくれたが」
それでもというのだ。
「俺の方が気が逸ってな」
「それでか」
「少し早く来てしまった」
「そやったか」
「どうもな」
神威は少し照れ臭い感じで述べた。
「俺も楽しみにしていた様な」
「今日のことをか」
「ずっと人と距離を置いていたが」
それでもというのだ。
「もうな」
「それもやな」
「するつもりはなくなってな」
「わい等とやな」
「そして封真に小鳥ともな」
彼等とも、というのだ。
「こうしてな」
「一緒にやな」
「いたくなった」
「そやねんな」
「だからな」
それ故にというのだ。
「今もな」
「こうしてやな」
「少し早く来た、だがこうして来てくれてな」
「一緒になったな」
「ではな」
「ああ、今からな」
「中に入りましょう」
護刃は首を少し右に傾げさせてにこりと笑って応えた。
「そうしましょう」
「そしてな」
「皆で楽しみましょう」
「そうしよう」
こう話してそうしてだった。
一行は神威も入れて境内に入った、するとそこには封真と小鳥がいた、封真は天の龍達に微笑んで話した。
「待っていた、じゃあ今からな」
「一緒に飲んで食ってな」
「話をしてな」
封真は神威にも笑って応えた。
「楽しもう」
「そうしよう」
神威も笑顔で応えた、そうしてだった。
一行は神社の中の人が集まって話せる公民館の中の様な場所に入った、もうそこにはお菓子やオードブル、ジュースや酒があり。
全員車座になって座ってだった。そのうえで話をしたが。
小鳥は笑顔でだ、神威に言った。
「そう、神威ちゃん今もなの」
「野球は阪神だ」
「あのチームが好きなのね」
「ずっとな」
「私もよ」
「俺もだ、やはり阪神だな」
封真も言うことだった。
「野球は」
「奇遇ですね、僕も阪神ファンですよ」
征一狼はワインが入ったカップを片手に言った。
「野球は」
「ええと」
「はい、蒼軌征一狼です」
小鳥に微笑んで名乗った。
「宜しくお願いします」
「わかりました、蒼軌さんもですね」
「征一狼でいいです」
「では征一狼さんもですね」
「阪神ファンです」
「私もです、阪神いいですよね」
護刃はクッキーを食べつつ応えた。
第十話 固絆その四
「華があって」
「はい、勝っても負けても」
「もう何があってもですよね」
「華がありまして」
「素敵なチームですよね」
「東京に住んでいても」
それでもというのだ。
「感じますね」
「阪神の素晴らしさは」
「観ていますと」
「本当にそうね、野球となると」
嵐は日本酒を飲みつつ応えた。
「私もね」
「阪神ですね」
「ええ」
まさにというのだ。
「本当にね」
「巨人以外のチームやとええけどな」
空汰はそれでもと言った。
「やっぱりな」
「好きはチームはだな」
「阪神一択や」
神威に答えた。
「あのチームが勝つだけでな」
「嬉しくなるな」
「わいもな」
「僕も野球は阪神で」
玳透もだった。
「勝って欲しいですね」
「全くだ、しかしだ」
神威はここでは困った顔になって述べた。
「どうもな」
「阪神は最近な」
「弱い」
神威は一言で言った。
「やはりな」
「そうだね」
「何とかするにはな」
「それにはだね」
「かなりの人が必要だが」
「誰が必要かな」
「二人いる」
神威は言った。
「俺が思うにな」
「その二人は誰かな」
「今必死に頑張っている野村さんが後事を託せるとなると」
それこそというのだ。
「俺もな」
「二人しかだね」
「いない」
そうだというのだ。
「思えるのは」
「それは誰と誰かな」
「西本幸雄さんか」
神威は日本酒を飲みつつも真顔で話した。
「星野仙一さんだ」
「待って」
嵐は二人の名を聞いてすぐに言った。
「お二人は」
「阪神とは縁がないな」
「ええ、全くね」
そうだというのだ。
「そうよね」
「俺もそう思う、しかしな」
「阪神を救えるのなら」
「お二人しかいない」
神威は嵐にも言った。
「俺にはな」
「そうなのね」
「どうしてもな」
ビールの缶を飲みつつ話した、五〇〇のそれを。
「そう思える」
「そう言われると」
「どうだ」
「もうね」
嵐は真面目な顔で答えた。
第十話 固絆その五
「西本さんか星野さんだけね」
「そうだな」
「そして西本さんはもうご高齢だから」
「監督は出来ないな」
「そうなるとね」
「星野さんだな」
「あの人しかいないわ」
神威に対して答えた。
「もうね」
「そうだな、中日の監督だが」
「阪神の監督になってもらえたら」
「今の阪神をな」
「救ってくれるわね」
「今の阪神は相当なことをしないとだ」
さもないと、というのだ。
「復活出来ない」
「それな、暗黒時代が長引いてな」
それでとだ、空汰も暗い顔になって応えた。酒を飲んでから柿の種とピーナッツを口の中に入れて嚙みながら話した。
「チームに覇気がのうなってるわ」
「そうなんですよね」
征一狼も残念そうに応えた。
「今の阪神は」
「もう負け過ぎて」
「それが板についてしまっていますね」
「しかも地獄のロードは健在やし」
阪神を毎年夏以降苦しめるそれはというのだ。
「高校野球があって」
「そうしてですね」
「その間甲子園は使えんで」
本拠地であるこの球場がというのだ。
「その結果ですわ」
「遠征ばかりで疲れが溜まり」
「そこから秋にかけて成績が落ちます」
「それは健在ですしね」
「何かダメ虎って言われて」
そしてとだ、護刃も悲しそうに話した。
「それがです」
「板についていますよね」
「特に打線に」
玳透に対して答えた。
「そうですよね」
「はい、あまりにも打たないです」
「投手陣は頑張ってくれても」
「幸い揃ってますからね」
投手陣はとだ、玳透も答えた。
「阪神は」
「いつもそうですよね」
「先発だけでなくて」
「中継ぎや抑えの人達も」
「だから防御率はいいんです」
チーム全体のそれはというのだ。
「本当に、ですが」
「打たなくて」
「それで負けていますからね」
「それをだ」
神威はここでまた言った。
「変えられる人はな」
「星野さんだけですね」
「阪神に来てくれたなら」
その時はというのだ。
「完全にな」
「阪神は変わって」
「猛虎復活だ」
そうなるというのだ。
「必ずな、だがそれは今じゃない」
「これからですね」
「未来のことだ、そしてその未来をだ」
「私達は護る必要がありますね」
「そういうことだ」
「天の龍か、お前はだ」
封真はビールを飲みながら神威の言葉を聞いて言った。
「そちらに進むか」
「どうなるかわからないが」
それでもとだ、神威は封真に答えた。
第十話 固絆その六
「少なくとも今はだ」
「天の龍の人達とだな」
「こうしている」
「そうか、では俺はおそらくな」
「おそらく?」
「いや、こちらの話だ」
残念そうに言いつつそれでも言葉を打ち消した。
「気にしないでくれ」
「そうか」
「だが約束する」
封真はこうも言った。
「俺は決してお前も小鳥も護る」
「そうしてくれるか」
「お前がそうすると誓った様にな」
同じ様にというのだ。
「そうする」
「そうか」
「そしてだ」
そのうえでと言うのだった。
「やっていく、己を保ってな」
「自分をか」
「だからお前も何があってもな」
「俺自身をか」
「保ってくれ、お前であってくれ」
「俺は俺だ」
神威はそのままの目で封真に答えた。
「それ以外のだ」
「誰でもないか」
「そうだ」
こう答えた。
「何があってもな」
「変わらないか」
「そのことを約束する」
こうも言った。
「何度でもな」
「俺も同じだ、例えどうなろうともな」
「小鳥を護ってか」
「お前もだ、俺達はお互いにそうしていこう」
「そうだな、俺達は何があっても変わらない」
二人でお互いを見つつ話した。
「そのことを誓い合おう」
「この場でな」
「二人なら大丈夫よ」
小鳥も言って来た。
「私わかってるから」
「俺達を見てきたからだな」
「ずっとね、お兄ちゃんも神威ちゃんもね」
まさに二人共をとだ、笑顔で言うのだった。
「だからね、二人ならね」
「大丈夫か」
「絶対にね」
神威に話した、封真も見ながら。
「そう思うわ」
「そやな、三人は大丈夫や」
空汰は日本酒を飲みつつ笑顔で言った。
「例え何があってもな」
「そうね、それでだけれど」
嵐はここでその空汰に尋ねた。
「貴方は地の龍の一人と出会ってるわね」
「遊人さんやな」
「悪い印象は受けなかったのね」
「全くな、むしろな」
「いい人だったのね」
「そやった」
こう話した。
「それでどうもな」
「他の地の龍もなのね」
「桜塚護はちゃうかも知れんが」
それでもというのだ。
「他のや」
「地の龍は、なのね」
「悪人やないかもな」
「そうなのね」
「それで人間や」
空汰はこうも言った。
「間違いなくな」
「心がなのね」
「そや」
まさにというのだ。
第十話 固絆その七
「人間や」
「そうなのね」
「そのことが話して一緒にお好み焼き食うてわかった」
遊人、彼とというのだ。
「ほんまな」
「人間同士の戦いね」
「まさにな」
「そうなのね、相手は人間ね」
「そう思うわ、しかしな」
「しかし?」
「戦うからにはな」
それならともだ、空汰は日本酒を真面目な顔で飲みつつ話した。
「命のやり取りをする」
「生きるか死ぬかの」
「最悪な」
「そうなるわね」
嵐も否定しなかった。
「私達の戦いは」
「そやさかいな」
「人間同士でなのね」
「生きるか死ぬか、難儀やけどな」
「そうか、地の龍も人間か」
封真はそう聞いて述べた。
「ならいいな」
「ええけど残念や」
空汰は封真に苦い顔で答えた。
「相手がバケモンやとな」
「気兼ねなく戦えるか」
「腐りきった外道とかな」
「そうした連中ならだな」
「もう躊躇なくだ」
そうしたものは一切なくというのだ。
「戦ってな」
「倒せるな」
「ああ、そやのにな」
「相手が人間だとか」
「当然戦うが」
天の龍としてというのだ。
「しかしな」
「それでもだな」
「やっぱり後味が悪いわ」
そうなるというのだ。
「それを受け入れるのも戦いやろけどな」
「仕方ありませんね」
征一狼はワインを飲みつつやや俯いて述べた。
「それは」
「やっぱりそうでっか」
「僕達はそうしたものを受け入れてもです」
「人間を護らなあかんな」
「そうです、何があろうとも」
戦いで苦いものを背負ってもというのだ。
「それでもです」
「それが天の龍の宿命やな」
「戦うなら傷付くことは避けられません」
どうしてもというのだ。
「身体だけでなく」
「心もまた」
「そうなることはです」
「避けられへんでっか」
「ですから」
戦いはそうしたものだからだというのだ。
「受け入れてです」
「やってくしかないですか」
「そうなるかと」
「そうですね、わいもわかってるんですが」
空汰は左手を自分の頭の後ろにやってやや俯き左目を残念そうに瞑ってからそのうえで征一狼に話した。
「言葉に出してしまいます」
「どうしてもですね」
「はい、わいのあかん癖性分ですわ」
「駄目とは思いません、それが現実なので」
「戦いのでっか」
「どんな戦いも、ですがその傷を乗り越え」
そうしてというのだ。
「前に進まなくてはです」
「あきませんか」
「戦うのならば」
「そうでっか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
第十話 固絆その八
「このままです」
「戦っていきますか」
「そうしていきましょう」
こう話してだった。
征一狼はテリーヌも食べた、そしてまた言った。
「僕も出来れば天の龍も地の龍もです」
「死ぬ人は少なくですか」
「そうであって欲しいです、敵でもです」
「死なないに越したことはないですね」
「それは僕達が殺すということでもありますし」
護刃に暗い顔になって話した。
「ですから」
「勝ってもですか」
「お互いにです」
「犠牲になる人は少ない方がですね」
「いいとです」
その様にというのだ。
「思っています」
「そうなんですね」
「はい」
まさにというのだ。
「僕としましては」
「やっぱり誰も死なないとですね」
「それに越したことはないかと」
「そうですね、私も人間の世界を護りたいですが」
それでもとだ、護刃も言った。
「命を奪うことは」
「避けたいですね」
「戦っても」
「そうですね、護る為の戦いならです」
「尚更ですね」
「出来る限りです」
まさにというのだ。
「命はです」
「奪わない方がいいですね」
「例え敵であっても」
地の龍であろうともというのだ。
「やはり」
「そうだな、俺もだ」
神威も言ってきた。
「敵であっても殺す趣味はない」
「誰もですね」
「出来る限りな」
まさにというのだ。
「戦いには勝ってもな」
「命までは奪わないで」
「やっていきたい、相手にも心があってだ」
人間のそれがというのだ。
「そして人生もあるからな」
「誰にもそうね」
嵐は神威のその言葉に応えた。
「生きているのなら」
「心がありな」
「人生もあるわ」
「そうだな」
「私達もそうでね」
「地の龍の連中もだな」
「そうよ」
まさにというのだ。
「同じよ、間違いなくね」
「そうだな」
「未来を賭けて戦うにしても」
そうであってもというのだ。
「けれどね」
「それでもだな」
「相手も同じということはね」
「わかっておくことだな」
「私もそう思うわ」
まさにというのだ。
「本当にね」
「そうだな、人間同士が殺し合うか」
「それが戦いよ」
「因果なものだ」
「そうね、そのうえで人間を護るのよ」
人間同士が殺し合ったうえでというのだ。
第十話 固絆その九
「本当に因果と言えばね」
「因果だな」
「そうよ、けれどね」
「それでもだな」
「人間の世界を護る為なら」
それならというのだ。
「そうするしかないわ」
「そういうことか」
「ええ、本当にね」
「わかった、そのこともな」
神威は嵐の言葉に頷いて応えた。
「戦いのこともまた」
「そうなのね」
「よくな、そしてか」
「そのうえで決めることになるわ」
「俺はどちらを選ぶか」
「人間か地球か」
「どちらだな」
「ただ。人間が地球を滅ぼすんでしょうか」
護刃は日本酒が入ったコップを両手に入れて飲んでいる、正座してそのうえで飲んでこう言うのだった。
「そうなんでしょうか」
「地の龍はそう言っているわね」
嵐は護刃にも答えた。
「だからこそよ」
「あの人達は人間を滅ぼすんですね」
「地球を救い護る為にね」
「そうですね、ただ」
「それでもなのね」
「あの、人間は確かに環境を破壊もして」
このことを話すのだった。
「ゴミも捨てたりしますけれど」
「それでもというのね」
「何十億人いましても」
今度は数のことを話した。
「果たしてです」
「人間が地球を滅ぼせるかというのね」
「人間って小さな存在ですよね」
「そう言われるとね」
まさにとだ、嵐は答えた。
「本当にね」
「そうですよね、地球から見たら」
それこそとだ、護刃はこうも言った。
「もう何でもない様な」
「小さな存在ね」
「それも地上にいるだけの」
「そや、地球って地上だけやないわ」
空汰もここで言った。
「ほんまな」
「そうですよね」
「その下にな」
「マントルとかありますね」
「核まであってな」
「物凄く大きいですよね」
「地球という星全体はな」
まさにとだ、護刃に答えた。
「大きなもんや」
「その地球にです」
「人間はおるけどな」
「何十億も。ですが」
「おるのは地上だけでな」
「地球のほんの殻のところにしかいないですね」
「そしてその殻の全部にはおらんな」
こうも言った。
「そう考えたらな」
「地球って卵みたいですが」
「核が黄身やな」
「卵黄か、ですね」
「それでその殻の部分しかな」
「私達いないですよ」
考える顔と目で話した。
「殻は突き破れてます?」
「全然やな」
「卵って殻を割って」
そうしてというのだ。
第十話 固絆その十
「その中に入らないとです」
「食べることは出来んわ」
「そうですね、じゃあ」
「地球をか」
「人間は壊せるか」
それが可能かというのだ。
「果たして」
「そう言われるとな」
「ちょっとどうかってなりますね」
「そやな」
「ですがその表面のことが大事ですね」
征一狼は話した。
「結局は」
「殻の部分だけでもですか」
「そこにいる環境、地球のそれをです」
「地の龍の人達は大事に思っていて」
「それで、です」
「そこを汚して滅びる原因になる人間をですか」
「滅ぼすつもりなので」
護刃に枝豆を食べつつ話した。
「要するに」
「そうなんですか」
「はい、そこは見解の相違でしょう」
「私達と地の龍の人達の」
「そうでありますから」
見解の相違、それがある故にというのだ。
「僕達は戦うのです」
「そうですか」
「はい、地球の表面のことで」
「人間か環境か」
「そうしたお話なのでしょう、ですが僕は信じています」
護刃に微笑んで話した。
「人間は必ずです」
「必ず、ですか」
「地球を護ります」
そうするというのだ。
「環境もです」
「ちゃんとしますか」
「人間は愚かであると共に聡明であり」
その双方の面を持っていてというのだ。
「そしてです」
「そのうえで、ですか」
「悪と善を両方持っています」
「それが人間ですか」
「そして僕は人間の聡明さと善を信じています」
こちらをというのだ。
「地球がそしてそこにいる多くの命が苦しんでいるのを見れば」
「それで、ですか」
「その二つに向かいます」
「そうした心を思い出して」
「そうなりますので」
だからだというのだ。
「僕は天の龍として戦い」
「人間を護るんですね」
「そうです」
白ワインを飲んで話した。
「それが僕の考えです」
「そうですか、人間はそうしたものですか」
「はい、そしてこの地球の中で」
「生きていかれますか」
「最後の時まで」
微笑んでの言葉だった。
「そうしていきます」
「じゃあ私も」
是非にとだ、護刃も頷いて応えた。
「戦います、ただ私は」
「何でしょうか」
「皆、人間も他の生きものも地球も大好きですから」
それ故にというのだ。
「皆を護る為に」
「戦いますか」
「皆が笑顔でいられる様に」
征一狼に話した。
「そうしていきます」
「そうしたお考えですね」
「駄目でしょうか」
「いえ、いいお考えです」
征一狼は護刃の考えを彼女の口から聞いて微笑んで答えた。
第十話 固絆その十一
「そのお考えで戦われるならお強いですよ」
「私は強いんですか」
「はい、誰かの為に戦うのならです」
「そうならですか」
「強いです」
そうだというのだ。
「何か、誰かを護ろうと思えば」
「強いんですか」
「そうなります、ですから」
「私もですか」
「間違いなくです」
「そうですか」
「護刃さんなら大丈夫です」
彼女に微笑んだまま話した。
「きっと素晴らしい活躍をされて」
「人間の世界もですか」
「護れます、では皆で」
「はい、人間の世界をですね」
「護る為にです」
まさにというのだ。
「共に戦いましょう」
「そうしますね」
「そうだな、護刃は強い」
神威も微笑んでそのことを認めた。
「俺もそう思う」
「神威さんから見てもですか」
「ああ、俺も強くなりたい」
「そうですか」
「もっとな、そして選びたい」
是非にと言うのだった。
「天の龍になるか地の龍になるか」
「どちらにするかはですか」
「決めていないが今はこうしてな」
「私達と一緒にいますね」
「そうだな、どうなるか」
「ゆっくり考えればいいわ」
小鳥が言ってきた。
「神威ちゃんが絶対にそうしたい」
「そちらをか」
「選べばいいわ、絶対にそうしたいと思うなら」
「それならか」
「それが間違っているとは思えないから」
だからだというのだ。
「そう見極めたらね」
「そちらを選べばいいか」
「どちらにしても私もお兄ちゃんもよね」
「護る」
神威はまた約束した。
「そうする、このことは決めた」
「それなら後は」
「どちらを選べばそれが出来るか」
「そのことがわかったら」
「俺はそちらを選ぶ」
「そういうことね」
「ああ、その時は近いと思う」
決断、その時はというのだ。
「必ずはっきりさせる、それまで待っていてくれ」
「そうするわね」
小鳥はオレンジジュースを飲みながらにこりと笑って応えた。
「神威ちゃんなら大丈夫だから」
「そう言ってくれるんだな」
「何があってもね」
「俺も待つ、だが俺も同じだ」
封真も言ってきた。
「そのことは忘れないでくれ」
「俺と小鳥をか」
「そうする、俺は俺でいる」
酒を飲みつつ話した。
「誓ってな」
「その言葉信じる」
「そうしてくれるか」
「何があってもな」
飲みつつこうした話をした、こうして神威と封真と小鳥そして天の龍の四人は親睦を深めた、その後でだ。
社の木を見たが封真はここで神威に問うた。
「ここでよく一緒に遊んだな」
「ああ、三人でな」
神威も応えた、二人共笑顔になっている。
第十話 固絆その十二
「そうしたな」
「そして一度小鳥をな」
「助けようとしてな」
「ずっと手を離さなかったな」
「手を離すと小鳥が落ちたからな」
そうなったからだというのだ。
「絶対にだ」
「離さまいとしてだったな」
「持っていた」
「あの時は助かった、お陰で小鳥が無事だった」
封真は心から笑って礼を述べた。
「お前がいてくれてよかった」
「そう言ってくれるか」
「ああ、父さんも喜んでくれた」
「そうか、そういえばおじさんは」
「今は眠っているが」
それでもと言うのだった。
「大丈夫だ、順調に回復に向かっている」
「そうか、命にもだな」
「最初から問題はなかったしな」
そうした傷ではなかったことも話した。
「安心していい」
「なら暫くしたらか」
「退院してくれる」
「その時はお祝いをするか」
「退院祝いだな」
「そうするか」
「いいな、じゃあその時はまた皆に集まってもらうか」
封真は神威の言葉を受けて言った。
「そうしてもらうか」
「いいな、ではな」
「その時にな」
「今度はこの木を見ながらな」
「飲んで食べるか」
「そうしよう」
「ええな、きっと世界は救われるわ」
空汰は木を明るい笑顔で見つつ二人の会話に応えた。
「この木見て神威達の話を聞いたらそう思えてきたわ」
「そうね、希望はあるわ」
嵐も言った。
「それも強くね」
「そうですね、この木は希望の木ですね」
護刃は嵐に続いた。
「私達いえ世界にとって」
「そうですね、ではまた楽しみましょう」
征一狼も言ってきた。
「皆で」
「そうだな、またな」
封真は笑顔のまま応えた、そうしてだった。
彼と小鳥は神威達を見送った、神威達はそのまま神社の先にある森の中を歩いて帰路についていたが。
ここでだ、森の中の一本の木の枝にだった。
火煉が座っていた、そこから天の龍達に声をかけてきた。
「はじめまして」
「あれっ、えらい別嬪さんやな」
「おや、貴方は」
空汰が火煉を見て言った直後にだった。
征一狼は彼女を見てだ、これはと言う顔になって述べた。
「確か」
「ええ、暫く振りね」
「教会におられた」
「今もあの教会にいるわ」
「それでシスターをですね」
「させてもらっているわ」
赤い左横にスリットが入った丈の長いドレス姿で答えた。
「今もね」
「そうですか」
「何かとあったけれど」
それでもと言うのだった。
「今は神父様のご厚意もあって」
「教会でおられますね」
「本当に有り難いわ、では今からそちらに行くわね」
笑顔でこう言ってだった。
火煉は下に降り立った、そして両膝を折って屈んだ姿勢で着地しその際の衝撃を殺してから立ち上がってまた言った。
「夏澄火煉、私も天の龍の一人よ」
「へえ、そうでっか」
「カトリックの教会にいるわ」
「シスターさんってお話ですね」
空汰は彼女と征一狼の話からこのことを話した。
第十話 固絆その十三
「今聞いた話やと」
「そうよ、風俗店にいた時もあったけれど」
笑って言うのだった。
「今はね」
「教会の人でっか」
「そうなの、それで時が来たと思ったから」
それでというのだ。
「今ここにね」
「来てくれましたか」
「そうよ」
こう空汰に話した。
「遅くなって御免なさいね」
「いや、まだあっちも全員揃ってへんですし」
空汰は謝罪した火煉にこう答えた。
「別に遅くはです」
「ないのね」
「はい、安心して下さい」
「それならよかったわ、それでね」
「これからはでっか」
「天の龍の一人として」
それでというのだ。
「戦わせてもらうわ」
「そうしてくれますか」
「だからね」
火煉はさらに言った。
「これから貴方達の場所に案内して欲しいけれど」
「普段の拠点ですね」
征一狼はすぐに応えた。
「そちらにですね」
「ええ、そうよ」
その通りだと言うのだった。
「いいかしら」
「ええ、勿論ですよ」
征一狼はすぐに答えた。
「それでは今から」
「案内してくれるのね」
「そうさせてもらいます」
笑顔での返事だった。
「僕達が」
「ではお願いね」
「それではだ」
神威も言った。
「今から行こう」
「そうだな」
玳透も応えた。
「そうしよう、しかしまさか」
「ここでか」
「天の龍が来てくれるなんて」
神威に驚きを隠せない顔で話した。
「おも話なったよ」
「俺もだ、しかしな」
「それでもか」
「折角来てくれたんだ」
だからだというのだ。
「ここはな」
「是非共」
「案内させてらおう」
「そうだな、しかしこれで天の龍は六人か」
玳透は微笑んで述べた。
「君を入れて」
「俺はまた決めていないが」
「ああ、そうだったね」
神威に笑って謝った。
「すまない、つい」
「いや、いい。しかしこれで確かにな」
神威はあらためて述べた。
「また一人だ」
「天の龍の人がだね」
「来てくれた、いいことだ」
「そうだね、これではっきりしていない人は」
「一人だ」
それだけになったというのだ。
第十話 固絆その十四
「このことは間違いない」
「そうなったね」
「その最後の一人が誰か」
このことはというと。
「気になるが」
「調べていこうか」
「それか姫様にだ」
丁、彼女にというのだ。
「見てもらうか」
「夢でだね」
「そうしてもらおうか」
「そうね、やはり姫様の夢見の力は大きいわ」
嵐は神威のその言葉に頷いて応えた。
「それではね」
「頼らせてもらうか」
「頼りにしなくても」
「それでもか」
「姫様が夢を見られて」
神威にこう話した。
「そこでわかれば」
「教えてくれるか」
「何処の誰なのか」
「ではそれを待ってもいいか」
「そうも思えるわ、ただね」
ここで嵐はこうも言った。
「天の龍は若し貴方がなるのならあと一人」
「だからか」
「ええ、玳透さんも言ったけれど」
「そうなるからか」
「これまで順調に集まっているのは運命よ」
「戦いがはじまるのが近いからだな」
「そう、だからね」
それ故にというのだ。
「最後の人が誰かわかるのも」
「近いか」
「そう思うわ」
「そやろな、ほんま戦いがはじまる時は近いわ」
空汰はやや上を見て述べた。
「そやからな」
「最後の人が誰かわかって」
「来てくれるのもな」
このこともというのだ、空汰はまた言った。肌で感じる空気には明らかに戦いを告げる気配が含まれていた。
「近いわ」
「そうね」
「だからな」
それでというのだ。
「ほんまにな」
「誰かわかれば」
「迎えに行こうな」
「ほなな」
こうした話をしてからだった。
一行は火煉を議事堂の丁のところに連れて行った、そうして彼女を丁に紹介すると丁は静かに言った。
「お待ちしていました」
「私が来ることは」
「わかっていました」
こう丁に答えた。
「夢で」
「そうなのね」
「はい、ではこれからは」
「ええ、天の龍の一人としてね」
「戦って頂けますね」
「最後までね、そしてね」
そのうえでとだ、火煉は答えた。
「人間を護るわ」
「そうしてくれますか」
「私も人間でね」
微笑んでの言葉だった。
「だからこそね」
「人間をですね」
「愛しているから」
だからだというのだ。
「必ずね」
「そうしてくれますか」
「誓うわ」
まさにと言うのだった。
第十話 固絆その十五
「私もね」
「それでは」
「ええ、では何かあれば」
「ここに来て下さい」
「そうさせてもらうわ」
「しかし。キリスト教の人もおられるなんてな」
空汰は彼女の宗教のことを思った。
「ほんまな」
「色々な人達がいますね」
「そやな」
護刃に応えて述べた。
「わいもそのことをな」
「実感しますね」
「教会もです」
丁がここで答えた。
「やはりです」
「東京の結界の一つになっているんですか」
「はい」
そうだというのだ。
「寺社や他のもとと同じく」
「そうなんですね」
「ですから」
それでというのだ。
「キリスト教、天理教もですね」
「教会もですか」
「存在しているだけで」
「結界になってますか」
「勿論他のです」
「東京にあるものもですね」
「結界です」
そうであるというのだ。
「それは」
「そういえばだ」
神威は結界の話を聞いていて言った。
「東京の結界は多いというが」
「どれが結界か、ですか」
「そうだ、具体的に知りたいが」
「それでは、まず新宿の高層ビル群がです」
「あれがか」
「墓石の様にです」
「結界になっているか」
「そして山手線も」
これもというのだ。
「皇居を中心にしていますが」
「天皇陛下のおられる場所か」
「はい、陛下をお護りもしています」
「山手線にはそういう意味があったか」
「あれは仏手の形に敷かれていますが」
山手線、それはというのだ。
「絃状結界なのです」
「そうだったのか」
「そしてサンシャイン六十や中野サンプラザも」
こういったビルもというのだ。
「結界です」
「そうだったか」
「銀座の時計台、井の頭公園も」
「結界か」
「レインボーブリッジ、靖国神社も」
「あの神社もか」
「そうです、そして五つの不動明王を祀ったお寺も」
「五つ共か」
「結界でして」
東京を護るそれであってというのだ。
「そもそもが東京は四神相応の地です」
「確か風水の」
「そうです、四霊獣達がです」
「護る土地か」
「外からそうなってもいます」
「考えに考えられているか」
「北東の日光東照宮も然りです」
徳川家康を神としているこの宮もというのだ、丁は神威に東京の中だけでなく外の結界の話もするのだった。
第十話 固絆その十六
「結界です、ただ貴方達はです」
「東京で戦うからか」
「外のことはです」
「気にしなくていいか」
「はい」
神威にそうだと話した。
「そして都庁も結界の一つで」
「あれもか」
「不思議な建物ですね」
「形といい建てられた経緯といいな」
「あれは結界の一つなので」
東京を護るそれだというのだ。
「あの様な形であり」
「建てるにあたってか」
「その真実を隠す為にです」
「揉めた話をか」
「あえて出したのです」
「演技だったか」
「全ては」
「妙なものを感じていたが」
眉を曇らせてだ、神威は述べた。
「そうだったか」
「そして最も重要な結界は」
丁はさらに話した。
「東京タワーです」
「あれか」
「はい、東京タワーこそがです」
まさにというのだ。
「この東京を護る」
「最も重要な結界か」
「東京タワーが崩れますと」
その時はというと。
「他の結界もです」
「崩れるか」
「他の結界は東京タワーさえあれば」
「保たれるか」
「壊されてもです」
他の結界達がというのだ。
「保たれます、ですが」
「それでも東京タワーが崩されるとか」
「全ての結界は完全に壊され」
「東京の全ての結界が失われてか」
「東京は滅び」
「世界もだな」
「そうなります」
神威に静かな声で話した。
「完全に」
「だから東京タワーはか」
「何としてもです」
「護らねばならないか」
「そうです、何とかです」
東京タワーはというのだ。
「護らねばなりません、ですが他の結界が全て破壊され」
「その後でか」
「ようやく東京タワーにです」
「辿り着けるか」
「そうなのです」
「そうか、東京タワーまで至るにもか」
「長いです、ですが」
それでもと言うのだった。
「今お話した通りです」
「東京タワーはだな」
「最後のそして最大の結界であるので」
「護らないといけないな」
「そうです、そのことをお願いします」
「俺が天の龍になればか」
「是非、それとなのですが」
丁は神威にあらためて言ってきた。
「貴方は間もなく剣を授かります」
「剣か」
そう聞いてだ、神威はその目を険しくさせた。
そのうえでだ、こう丁に言った。
第十話 固絆その十七
「やはり来るか」
「左様です、お母上のことは」
「ああ、忘れられない」
神威は丁に答えた。
「どうしてもな」
「御気の毒にとしか言えませんが」
「それでもか」
「あの方のこともです」
「運命か」
「そうなのです」
まさにというのだ。
「悲しいことですが」
「それでもか」
「運命だとです」
その様にというのだ。
「受け入れて下さい」
「そうするしかないな」
「そしてです」
「剣をだな」
「貴方は間もなくです」
「目にするか」
「そしてやがては」
時、それが来ればというのだ。
「その剣を手にしてです」
「戦うことになるか」
「剣は二振りあります」
「二つか」
「そのうちの一つをです」
それをというのだ。
「持ってです」
「そうしてか」
「戦われます、そしてその時は」
神威が剣を持って戦う時はというのだ。
「最後の最後のです」
「その時か」
「戦いの」
そうだというのだ。
「その時になります」
「そうなのか」
「もう一人の貴方と」
丁は言った。
「まさにです」
「戦う時か」
「貴方がです」
神威にさらに言った。
「一つの道を選ばれると」
「もう一つの道にか」
「もう一人の貴方が進まれ」
そうしてというのだ。
「向かい合うことになり」
「その俺とか」
「戦うことになり」
「その時にか」
「剣をです」
まさにそれをというのだ。
「使われることになります」
「だからか」
神威はその目を鋭くさせて言った。
「夢で俺は二人いたのか」
「はい、一人は天の龍の貴方で」
「もう一人はだな」
「地の龍の貴方です」
そうなるというのだ。
「まさに」
「そうなのか」
「はい」
まさにというのだ。
「小鳥さんを殺すのはです」
「地の龍の俺でか」
「それを見るのはです」
「天の龍の俺か」
「そうなのです」
「そういうことだったか」
「ですから」
丁はさらに話した。
第十話 固絆その十八
「貴方はその最後の最後の戦いの時には」
「剣をか」
「お持ち下さい」
「そしてその剣がか」
「間もなくです」
まさにというのだ。
「貴方のところに表れます」
「そしてその剣をか」
「手に入れて下さい」
「そうなのか、ただ」
「何でしょうか」
「俺はもう一人いるな」
神威は丁との話からこのことについて考えた、そうしてそのうえで丁に対して眉を顰めさせつつ考える顔で言った。
「俺が一つの道を選べば」
「もう一つの道をですね」
「選ぶ俺がいるな」
「そのもう一人の貴方もです」
「剣を持っているか」
「はい」
その通りという返事だった。
「まさに」
「やはりそうか」
「ですから」
それでと言うのだった。
「剣はです」
「二振りあるのだな」
「そうなのです」
「そういうことか」
「私としてはです」
丁は神威自身にも話した。
「是非です」
「天の龍にだな」
「なって頂きたいです」
「やはりそうだな」
「そして人間を護って欲しいです」
「天の龍を動かす者としてだな」
「そして人間を憂いる者として」
この考えからもというのだ。
「そうして欲しいです」
「そうなのか」
「ですが」
それでもと言うのだった。
「選ぶのは貴方です」
「地の龍になってもだな」
「貴方の選択です」
「そしてその時はか」
「貴方は彼女を殺し」
小鳥をというのだ。
「そしてです」
「人間もだな」
「滅ぼします」
そうするというのだ。
「そうなります」
「そうなるか」
「はい」
「俺は小鳥を護りたい、封真もな」
この考えは変わらなかった。
「だが」
「地の龍になればです」
「小鳥を殺すか、だが」
ここでだ、神威は夢のことをまた思い出して言った。
「天の龍になれば」
「あの人が殺されるのをですね」
「見るのか、どちらにしても小鳥は死ぬのか」
「それが運命です」
「どちらも嫌だ」
神威は歯噛みして言った。
「小鳥は俺が護る、それなのに」
「ですがそれがです」
「運命か」
「そうなのです」
「・・・・・・運命は変えられる筈だ」
やや俯きつつもだ、神威は希望を何としても見ようとして言った。
第十話 固絆その十九
「ならばな」
「それならですか」
「小鳥も護れる筈だ」
こう言うのだった。
「だからな」
「そうなる運命をですか」
「俺は選ぶ」
丁に告げた。
「そちらをな」
「それが貴方の考えですか」
「避けたかった」
これまでの自分の考えも話した。
「俺は、だからだ」
「避けておられましたね」
「そうだった、しかしな」
「避けられないとですね」
「おじさんのことでわかった」
彼が襲撃を受け深い傷を受けてというのだ。
「助かったからよかったが」
「運命では死ぬ筈が」
「それでもか」
「助かりました、ですが」
「運命はか」
「変わらない筈です」
「いや、おじさんを見てわかった」
神威は今度は強い確信と共に言った。
「俺は運命を避けられない、そしてだ」
「運命は変えられる」
「この二つのことをな、それならだ」
「彼女もですか」
「護れる筈だ」
絶対にというのだ。
「だからな」
「そうなる運命をですか」
「俺は選ぶ、それが地の龍ならな」
「貴方は地の龍になられますか」
「そうなる」
こう言うのだった。
「そうだとわかったならな」
「その時は」
「そうする」
「そうですか」
「それが俺の考えだ」
「わかりました、では」
丁は神威の言葉を受けてこう返した。
「わらわは貴方のご決断を待ちます」
「待ってくれるか」
「わらわにはそうするしかないので」
「待つしかか」
「夢、そして運命は見られますが」
それでもというのだ。
「動くことはです」
「出来ないか」
「ですから」
「待つ、いや」
神威は丁に己の言葉を訂正して言った。
「待っていてくれるか」
「そうさせて頂きます」
「わかった、ではそうしてくれ」
神威は丁を見据えて述べた。
「必ずだ」
「運命を選択されますね」
「そうする、必ずな」
「では」
「もう暫く考えさせてくれ」
「その様に。では」
「小鳥は絶対に護る、封真もな」
今もこう言ってだった。
神威は丁に目で別れの挨拶をしてから背を向けた、その後で天の龍の五人に静かな声でこう言った。
第十話 固絆その二十
「また来る、だが何時でもだ」
「お前のとこに来てええか」
「もう俺は拒まない」
横に来た空汰に答えた。
「お前達の誰もな」
「そうしてくれるか」
「まだ決めていないが」
それでもと言うのだった。
「皆それぞれわかってきた、そして嫌いでもなくな」
「信頼してくれるのかしら」
「そうなってきた」
今度は嵐に答えた。
「だからな」
「また私達が来てもなのね」
「拒まない、何なら遊ぶこともな」
共にというのだ。
「喜んでな」
「一緒になのね」
「しよう」
「いいですね、じゃあ今度神宮球場行きましょう」
護刃は明るく笑って応えた。
「それでヤクルト対阪神観ましょう」
「いいな、皆三塁側でな」
「はい、阪神応援しましょう」
「勝ってくれたら嬉しいな」
神威は護刃に微笑んで応えた。
「阪神が」
「本当にそうですね」
「そうそう勝てるチームじゃないんですよね」
征一狼は残念そうに笑って話した。
「阪神は」
「本当にそうだな」
「またダイナマイト打線復活して欲しいですが」
「そして日本一になってくれたらな」
「いいんですが」
「難しいな」
「はい、あのチームは」
「私も阪神好きだけれどね」
火煉も言ってきた。
「中々ね」
「勝てないな」
「それがね」
どうにもと言うのだった。
「残念ね」
「全くだな」
「けれどずっと弱いままじゃないわ」
火煉は確信を以て断言した。
「だからね」
「やがてはな」
「ええ、きっとね」
「また強い阪神になるな」
「その時を待ちましょう」
「そうだな、きっとまただ」
「阪神は強くなるから」
それでというのだ。
「その時を待って今度ね」
「神宮球場でな」
「皆で阪神の試合を観ましょう」
「きっとな」
神威は微笑んで約束した、そのうえで今は議事堂の中の丁の間を後にした。彼はまだ決めてはいなかったが絆は確かに得ていた。
第十話 完
2023・1・1
第十一話 地夢その一
第十一話 地夢
牙暁はこの時草薙の夢に来ていた、そのうえで彼と話していた。
「まだですか」
「ああ、どうしても行く気になれない」
草薙は自分の前に立っている牙暁に右膝を立たせて透明な椅子に腰かけた姿勢で座ってやや俯いて答えた。
「俺はな」
「地の龍として戦うことを」
「俺は元々戦いは嫌いなんだ」
「はい、それは」
「あんたも知ってるな」
「そのつもりです」
「自衛隊って戦う仕事だと思うだろ」
牙暁に問う様に言った。
「それでもな」
「それがですね」
「ああ、その実はな」
「戦うのではなくですね」
「護るのがな」
「人、そして日本をですね」
「それが仕事で災害が起こったらな」
その時はというのだ。
「もう真っ先にだよ」
「被災した人達を救助しに行きますね」
「それが自衛隊の仕事でな」
それでというのだ。
「入隊したのもな」
「その為で」
「地の龍として戦ってな」
そうしてというのだ。
「人間を滅ぼすなんてこともな」
「お嫌ですね」
「人間って悪い部分もあるけれどな」
「いい部分もですね」
「一杯あるって思うしな」
それでというのだ。
「それに人間を滅ぼすと他の生きものもだろ」
「世界を滅ぼしますので」
「そうだろ、一緒に沢山死ぬよな」
「地球上の殆どの命が」
「そりゃな、地球が困っていることはわかるさ」
草薙にしてもだ。
「人間が汚して傷付けてな」
「悲鳴さえあげていますね」
「ああ、けれどな」
それでもというのだ。
「人間が行いを少しでもあらためたらな」
「それで済みますか」
「そうじゃないかとも思うんだ」
牙暁に深く考える声で話した。
「だからな」
「それ故に」
「俺はあまり気が進まないんだ」
「この戦いに」
「行かなくちゃいけないのはわかってるけれどな」
それでもというのだ。
「けれどそれでもな」
「人間そして他の命を滅ぼすことは」
「どうもな」
「そうですか」
「行く時になったら行くさ」
地の龍としてというのだ。
「絶対にな、けれどな」
「それでもですか」
「戦いたくないってな」
「その様にですね」
「思ってるさ」
今もというのだ。
「ずっとな」
「そうですか」
「ああ、俺は嘘は吐きたくないし夢ではな」
「嘘は言えません」
「だから言うな、俺はな」
どうしてもというのだ。
第十一話 地夢その二
「全く気が進まないんだ」
「地の龍としての戦いに」
「控えめに言ってもな」
それでもと言うのだった。
「あまり、だな」
「そうですか」
「ああ、戦い自体が好きじゃなくてな」
そうしてというのだ。
「人間そして多くの命を滅ぼす様だと尚更だよ」
「では天の龍になられますか」
牙暁は草薙の言葉を聞いて彼に問うた。
「それなら」
「あっちに寝返ってか」
「そうされますか」
「あんたとはずっと話しているよな」
草薙は牙暁に悲しむ様な顔になって言葉を返した。
「それであんたには悪い印象はないんだ」
「そうですか」
「俺のことを心から気遣ってくれてるな」
このことを感じて言うのだった。
「そうだよな」
「そう言われますと」
「そうだろ、俺達は友達だからな」
「それで、ですか」
「そのあんたを裏切ることはな」
天の龍となってというのだ。
「したくない」
「そうですか」
「それに他の奴等のことも知らない」
「地の龍の」
「どんな奴かな、若し碌でもない奴ばかりならな」
「お友達にはですか」
「なりたくないな、自衛隊は縦社会って言うだろ」
自分が所属しているその組織のことも話した。
「よくな」
「階級が存在していて」
「ああ、しかし横社会でもあるんだ」
こちらもあるというのだ。
「同期ってあってな」
「同じ時に入隊した」
「同じ課程でな、俺だと曹候補学生だな」
この課程だというのだ。
「これで入ったな」
「同期の方々とはですか」
「入隊して教育隊で同じ場所で寝て飯食って何よりも訓練をしてきた」
「絆ですね」
「それがあってな」
それでというのだ。
「その絆はな」
「強いですか」
「ああ、だからな」
それでと言うのだった。
「まずあんた以外の地の龍の奴等を見てな」
「そうしてですか」
「屑しかいないなら俺は降りるさ」
この戦いをというのだ。
「そうするさ、けれどな」
「それでもですか」
「仲間達が人間として嫌いな奴等じゃなかったらな」
「共にですか」
「やっていくな」
こう言うのだった。
「俺達は」
「そうですか」
「そしてな」
それでと言うのだった。
「決めるさ、けれどあんたはな」
「裏切らないですか」
「友達だからな」
「では天の龍には」
「なるつもりはないさ」
「そうなのですね」
「しかし。本当にな」
草薙はあらためて話した。
第十一話 地夢その三
「俺は気が進まない、この力は何かを誰かを助ける為に使いたいって思ってな」
「そうされてきましたね」
「学生時代からだった、俺は暴力は嫌いでな」
「力を悪用したことも」
「ないさ、誰かを殴ったり罵ったりもな」
そうしたこともというのだ。
「ガキの頃からしなかった」
「貴方は本当に優しい人ですね」
「幸い親も親戚も周りもな」
誰もがというのだ。
「いい人達ばかりでな」
「そうした人になる様に教えてもらって」
「育ってきたしな」
「それで、ですか」
「ああ、生きてきたしな」
「自衛隊に入られても」
「そうだ、それに自衛隊自体も」
自分が所属しているこの組織もというのだ。
「警察と同じでな」
「護る組織ですね」
「力でな、そうした組織にもいるしな」
「地の龍であってもですね」
「そうしたことはしたくないな」
あくまでというのだ。
「人間や多くの命を滅ぼすことは」
「そのお考えは変わらないですね」
「どうしてもな、それは言っておくな」
「わかりました、ですが」
「それでもだな」
「はい、この戦いはです」
「人間か地球かだな」
二つのうちどれかとだ、牙暁に言った。
「それでだな」
「そうです、そして地の龍は」
「地球の為に戦う運命だな」
「そうなっています」
「難儀だな、だが運命からは逃げられないな」
「どうしても」
「なら受けるさ、しかし戦いはしてもな」
それでもと言うのだった。
「俺は無駄な命は奪わないからな」
「これからもですね」
「ああ、それは言っておくな」
こう言うのだった、そしてだった。
草薙と牙暁は別れた、牙暁は深い眠りに入った彼から離れそのうえで今度は桜塚護の夢の中に出た。
そしてだ、今度は彼に声をかけたが。
「待っていましたよ」
「そうでしたか」
「貴方が来ると思っていましたので」
彼は立っていた、そのうえで言うのだった。
「ですから」
「それで、ですか」
「待っていました、そしてです」
「この度ですか」
「お話するつもりでした」
「そうでしたか」
「僕は時が来れば自分からです」
牙暁に優しい笑顔で話した。
「お伺いします」
「地の龍の場所に」
「都庁にですね」
「参りますので」
そうするからだというのだ。
「お待ちして下さい」
「わかりました」
「そしてです」
さらに言うのだった。
「僕のことは星史郎と呼んで下さい」
「桜塚護ではなく」
「あれは組織としての名前であり」
「貴方はですか」
「桜塚星史郎です、そして」
牙暁に言うのだった。
「僕はこの立場で昴流君と会います」
「皇昴流、彼とですね」
「彼は天の龍の一人ですね」
「はい」
牙暁は確かな声で答えた。
第十一話 地夢その四
「紛れもなく」
「そうですね、では」
「彼とですか」
「決着をつけます」
こう言うのだった。
「その時が来ていますので」
「そうされますか」
「終わりますね」
星史郎は優しく微笑んで話した。
「全てが」
「貴方はまさか」
「夢の中では嘘は吐けないですね」
「はい」
「ですが言わないことは出来ますね」
「それはそうですが」
「心の中は隠せないですね」
牙暁にこうも言った。
「そうですね」
「はい、そうでもあります」
「しかし僕は捻くれていますから」
「隠せずとも」
「心をその部屋の中に閉じ込めますので」
それでというのだ。
「出しません」
「そうですか」
「僕は恥ずかしがり屋でもあるので」
「お心については」
「そうしています、ですが最後の時がです」
「近付いていますか」
「そうです、そしてです」
星史郎はさらに言った。
「僕はまだです」
「地の龍のところにはですか」
「行かないで好きにです」
「動かれますか」
「そして桜塚護の方も」
こちらもというのだ。
「閉店としますので」
「そのこともですか」
「行います、もっとも桜塚護と言っても」
陰陽道を使う暗殺者集団となっている、実際に暗殺を行う者と情報提供等の協力者達から構成されているという。
「その実はです」
「貴方一人ですね」
「はい、前もです」
「お母上だけでしたか」
「そうでした。もっともその母をです」
「貴方はですね」
「殺していますがね」
仮面を被って述べた。
「僕は最初に人を殺しました」
「その時に」
「父もいますが父は陰陽道とは関係なく」
それでというのだ。
「実は母が陰陽師になってからです」
「桜塚護、先代のですね」
「母が事故死に見せかけたので」
「お父上はですか」
「母がその時に死んだとばかり思い」
「ずっとですか」
「今もいます、僕は表向きは父と暮らしていました」
「そうして獣医になられたのですね」
「ええ、ですが密かに母から陰陽道を習い」
生きていた彼女からというのだ。
「そして全て教わった時に」
「そうでしたか」
「何とも思いませんでした」
師でもある母を殺した時にというのだ。
「その時は」
「そうですか」
「そこから聞かれないですか」
「そうします」
「そうですか、しかしです」
「それでもですね」
「僕はそれから桜塚護としても生きて」
そうしてというのだ。
第十一話 地夢その五
「今に至ります」
「そうですか」
「母はどういう訳かです」
星史郎はさらに話した。
「自分以外の桜塚護の人間は作りませんでした」
「お一人だけでしたか」
「何でも僕に出来るだけ人を殺めない様に」
「その配慮ですね」
「そうだったとか」
「愛する貴方に」
「息子だからですか。母は僕を愛してくれていました」
そうだったことも話した。
「ですが僕は」
「お母上に愛情はですか」
「抱いていませんでした」
言葉は過去形であった。
「だから母を殺す時も。母は何もしませんでしたが」
「何もですか」
「思いませんでした」
やはり過去形であった、その言葉は。
「そうでした、そしてです」
「最後の時がですか」
「近いです、また地の龍が揃うべき時に」
「来て頂けますね」
「それまではです」
まさにというのだ。
「準備もして」
「桜塚護を終わらせる」
「それもしまして」
そしてというのだ。
「自分で、です」
「動かれますか」
「そうします」
こう言うのだった。
「暫しお待ち下さい」
「はい、では庚さんにもです」
「お話してくれますか」
「そうさせて頂きます」
星史郎に約束した、星史郎は彼のその言葉を受けてこれまでと同じく優しい笑みを浮かべた。その笑みを見てだった。
牙暁は悲しい顔になりこう言った。
「運命を全うされますか」
「僕の運命は。ですが」
「彼の運命はですね」
「彼は彼です、そして」
「もうですね」
「悪い因縁は切るべきですので」
そう考えるからだというのだ。
「もうです」
「最後にするのですね」
「そうです、もう充分でしょうし」
そうも考えるからだというのだ。
「終わらせる為に動きます」
「地の龍として」
「そうです、それで地の龍の方々は」
「悪い人はいないです」
牙暁はこう答えた。
「どなたも」
「そうですか」
「貴方と同じく」
「ははは、僕は違いますよ」
牙暁の今の言葉には笑って返した。
「これ以上はないまでにです」
「悪人ですか」
「そうです、でば僕以外はですね」
「そう言われますか」
「そうです、では皆さんは戦いの後もです」
優しい笑顔での言葉だった。
「是非」
「生きるべきですか」
「そうして欲しいですね、では」
「時が来れば」
「参上しますので」
「席は用意してもらいます」
牙暁はまた答えた。
第十一話 地夢その六
「庚さんに」
「そうしてくれますか」
「そしてお茶もです」
「出してくれますか」
「お菓子も」
「ケーキでしたらまずはです」
星史郎は話した。
「僕はモンブランです」
「そのケーキがお好きですか」
「昔から。他のケーキも好きですが」
それでもというのだ。
「やはり一番はです」
「モンブランですか」
「はい、それを頂きたいですね」
「わかりました、ではそれを頂いて下さい」
「皆さんとご一緒させてもらいましたら」
「その様に」
「あとです」
星史郎は牙暁にさらに声をかけた。
「お聞きしたいことがありますが」
「彼女のことですか」
「僕が殺してしまいましたがお元気でしょうか」
「今も貴方のことを気遣っています」
「彼のこともですね」
「お二人のことを」
「そうですか、僕のことを気遣う人もいるのですね」
星史郎は笑って述べた。
「それはどうもです」
「いえ、誰でもです」
「気遣ってくれる人はいますか」
「そうしたものです」
「そうなのですね、ですが」
「貴方はご自身では」
「はい、全くです」
否定、それそのものの返事だった。
「ないとです」
「思われていますか」
「そうですが」
「それは違います、誰でもです」
「気遣ってくれる人はいますか」
「そして誰かを好きになって」
牙暁はさらに話した。
「誰かからです」
「好きになってもらうこともですか」
「あります」
「僕が誰かを好きになって」
「誰かからです」
「僕に限っては違うと思いますが」
星史郎は牙暁の言葉を否定した、だが。
牙暁はそれでもとだ、彼に言うのだった。
「違います、貴方もまたです」
「では彼女もですか」
「同じです。そして」
「・・・・・・彼もですね」
「そうです」
一瞬言葉を止めた彼に話した。
「同じです」
「そうですか」
「ですから」
それでとだ、牙暁は星史郎にさらに言った。
「貴方も安心して下さい」
「いえ、では若し彼と会った時は」
「その時はですか」
「せねばならないことがわかりました」
微笑み牙暁に話した。
「この戦いにおいて」
「そうですか、やはり貴方は」
「おや、本音は箱に入れていましたが」
「それでもわかりました、それも運命ですか」
「そうでしょうね、ですがそれまではです」
「地の龍としてですか」
「集まりましたらその時も」
彼等と、というのだ。
「楽しませてもらいます、きっと一生の思い出になるでしょうね」
こうも言うのだった。
第十一話 地夢その七
「きっと。ですから」
「それで、ですか」
「はい、皆さんともです」
「共にですね」
「楽しみにしていまして」
そしてと言うのだった。
「おそらくです」
「楽しめますね」
「そうでしょう、では時が来れば」
「それは間もなくですね」
「その時にまたお会いしましょう」
「それでは」
「深く眠らせてもらいます」
こう言ってだった。
星史郎は深い眠りに入り牙暁と別れた、牙暁はそれから夢の世界の中を歩いていったが桜の木の傍まで来るとだった。
黒髪をショートにした明るい表情の少女が来た、少女は彼のところに来ると楽し気に笑って声をかけてきた。
「星ちゃんどうだった?」
「いつも通りでした」
「そうだったんだ」
「やはり本心はです」
「言わないよね、星ちゃんは」
「そうでした」
「そうなのよね、星ちゃんって」
その少女皇北斗は夢を中の牙暁の周りを螺旋状に飛んでだった。
彼の傍に着地してだ、笑顔で話した。
「本音はね」
「言わないですね」
「うん、けれど考えはわかるよ」
彼のそれはというのだ。
「よくね」
「そうですか」
「だって長い間ね」
「三人でおられたので」
「わかるよ」
「そうですか」
「それでね」
さらに言うのだった。
「星ちゃんは天の龍の他の人とはですね」
「戦わないですね」
「絶対にね、他の人は目に入ってもね」
「戦われることはしないで」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「昴流ちゃんとね」
「戦われますね」
「そうするよ」
まさにと言うのだった。
「絶対にね」
「そしてですか」
「うん、けれどね」
「それでもですか」
「私は安心してるから」
「悪いことにはならないですか」
「私が思っている通りのね」
その様なというのだ。
「結末になるよ」
「お二人のことは」
「残念な結果ではあるけれどね」
北斗は俯き悲しい顔になって話した。
「けれどそこから先のことはね」
「心配されていないですか」
「全くね」
そうだというのだ。
「きっとね」
「悪いことにはですか」
「ならなくてね」
それでと言うのあった。
第十一話 地夢その八
「昴流ちゃんは新しい道を踏み出せるよ」
「そうなりますか」
「うん、あと牙暁ちゃんは世界の結末はいいことにならないと思ってるよね」
「僕は見ましたので」
目を閉じやや俯いて悲しい表情になって答えた。
「ですから」
「そうだよね、けれどね」
「貴方はですか」
「だって決まってることなんて何もないんだよ」
にこりと笑って話した。
「だからね」
「それで、ですか」
「絶望の未来になるかはこれから次第だよ」
「人の努力次第で、ですか」
「そう、行い次第でね」
それでというのだ。
「変わるんだよ」
「だからですか」
「私きっといい未来になると思うわ」
「人間の未来は」
「地球のね」
どちらもというのだ。
「いいものになるわ」
「そうでしょうか」
「だって人間そんなに悪くないから」
「人間は悪でもない」
「大なり小なり悪でもね」
そうであってもというのだ。
「やっぱり大なり小なりね」
「善でもある」
「そうした存在で地球も気遣っているから」
「だからですか」
「大丈夫よ、それに地球もね」
地の龍が護ろうとしている方もというのだ。
「悲鳴上げてるよね」
「残念ながら」
「けれど地球は凄いから」
「凄いですか」
「表面、卵の殻だけがね」
そう言っていい部分だけがというのだ。
「傷付いているだけで」
「中まではですか」
「全くね」
それこそというのだ。
「傷付いていないから」
「殻だけがそうなっていますか」
「そうよ、地球って凄いのよ」
北斗は牙暁に微笑んで話した、両手を自分の腰の後ろで指と指を絡め合わせて組んで顔を突き出して言った。
「人間が思っているよりずっとね」
「遥かにですか」
「そうなのよ、もう人間なんてね」
「ほんのちっぽけな」
「そうした存在でしかないんだよ」
地球から見ればというのだ。
「恐竜だってそうだったしね」
「人間以前に栄えていた彼等も」
「何十億いても」
それでもというのだ。
「殻だけをね」
「傷付ける存在ですか」
「そうでしかないから、安心していいよ」
「そうですか」
「それにね」
北斗はさらに言った。
「天の龍の人達も地の龍の人達も悪い人いないから」
「それは」
「星ちゃんもだよ」
にこりと笑って答えた。
「星ちゃんも悪い人じゃないよ」
「貴女を殺していますが」
「それでもだよ、あれは運命がね」
それがというのだ。
第十一話 地夢その九
「私達は選び損ねてね」
「なったことですか」
「牙暁ちゃんも後悔してるよね」
「僕は貴女を助けたかった」
北斗に目を閉じて答えた。
「どうしても。ですが」
「出来なかったって言うんだ」
「申し訳ありません」
謝罪もした。
「あの時は」
「だから皆がね」
「運命を選び損ねたからですか」
「私も昴流ちゃんも星ちゃんもね」
北斗は自分達の名前を挙げていった。
「勿論ね」
「僕も」
「それだけだよ、けれど今度はね」
「その運命をですか」
「選び損ねない様にしたし、どうなっても」
北斗は牙暁ににこりと笑って話した。
「だから安心して」
「僕達はですか」
「うん、絶対にね」
それこそというのだ。
「間違えないよ、星ちゃんもね。それでね」
「人間も地球も」
「悪い様にはならないよ、世の中って白と黒だけじゃないよね」
「灰色もありますね」
「他の色もね、そしてね」
それにと言うのだった。
「他の色だってあるね」
「世の中には」
「未来も同じだから」
「白か黒か」
「人間か地休かだけじゃないよ」
「そのどれもが幸せになる」
「そんな運命もあるから」
だからだというのだ。
「牙暁ちゃんは希望を見てね」
「夢見をしていっていいんですね」
「うん、よく言うわよね」
北斗はあらためて話した。
「世の中色々悪いことがあるけれど最後は」
「希望ですね」
「そうだよ、悪いことは一杯あっても」
「希望はですね」
「あるんだよ、そしてね」
それにと言うのだった。
「希望はどんなものよりも強いよ」
「よく言われますが」
「その希望があるから」
「僕達には」
「諦めなくていいよ、希望はずっと私達と一緒にあるから」
「諦めないで」
「見ていってね、とはいってもね」
北斗は牙暁にこうも言った。
「難しいよね」
「僕はとても希望は」
「私が星ちゃんに殺されたことも見たし」
「様々な絶望も」
「そうだね、昴流ちゃんの絶望もね」
「そうしてきましたから」
かつてのことをだ、牙暁は北斗に話した。
「ですから」
「そうだよね、けれどあれはね」
「先程お話された通りに」
「皆が運命を選び損ねてのことだから」
「今度はですね」
「むしろあの時失敗したからね」
それ故にというのだ。
「今度は違うよ。それに桃生さんはね」
「あの人は生きていますね」
「牙暁ちゃんは死ぬと思ってたよね」
「夢見ではそう見えました」
彼のそれではというのだ。
「そしてです」
「丁さんもだよね」
「そう見ていました」
彼女もというのだ。
第十一話 地夢その十
「そうでした」
「そうだね、けれどね」
「それでもですね」
「変わったね」
「はい、庚さんがです」
地の龍達を束ねる彼女がというのだ。
「哪吒君にです」
「殺さない様に言ったね」
「そうしてです」
「彼も手加減したからね」
「深い傷を負いましたが」
鏡護、彼はというのだ。
「ですがそれでもです」
「生きてるよね」
「そちらに別条はありません」
「運命って変わるのよ」
「あの人を見ても言えますか」
「むしろ運命に立ち向かって」
そうしてというのだ。
「変えることがね」
「大事ですか」
「悪い運命ならね、このまま勉強しないと落第なら」
「勉強してですね」
「落第しない様にするね」
「それもまた、ですか」
「運命を変えることだよ」
こう牙暁に話した。
「個人的なことだけれどね」
「そうなのですね」
「実際私もね」
北斗は自分自身のことも話した。
「お勉強してね」
「そうしてですか」
「落第しなくて済んでいたし」
「確かクランプ学園ですね」
「そう、あの学校に通っていたんだ」
出身校の話もした。
「それでね」
「そのうえで、ですか」
「沢山遊んだけれど」
それと共にというのだ。
「お勉強もね」
「されていて」
「落第しなくて済んでいたから」
「今こうしてですか」
「言えるのよ、本当にね」
実際にと言うのだった。
「だからね」
「運命は変えられる」
「そう言うわ、だからこの戦いも」
「運命を変えられる」
「そうね」
「それが北斗さんのお考えですね」
「そうだよ、だから牙暁君もね」
その彼にも言った。
「絶望しないでね」
「そのうえで」
「見ていこう、きっとこの戦いは悪い結果にならないよ」
「人間にとっても地球にとっても」
「両方ね」
「そうですか」
「牙暁君私のことも悪い結果に終わったと思ってるわよね」
「はい」
目を閉じて悲しい顔と声になって答えた。
「まことに」
「今私ここにいるしね」
「魂だけとなり」
「普通はそう思うね、けれどまだ終わってないから」
「彼と星史郎さんのことは」
「そう、私のこともね」
自分が死んでもというのだ、北斗は迷いなぞ一切見せずそのうえで牙暁の前に立って笑顔で語るのだった。
第十一話 地夢その十一
「同じだよ」
「そうですか」
「確かに私は死んだけれどね」
それでもというのだ。
「まだだよ」
「終わっていませんか」
「そうだよ、これからだからね」
それでというのだ。
「見ていってね、多分ね」
「彼はですね」
「死んじゃうけれど凄く素直じゃないから」
それ故にというのだ。
「本当のことを言わないでね」
「それで、ですか」
「悪いことにはならないよ」
「運命では」
「うん、別の方にね」
「行きますが」
「そうはならないから、あと皆悲しむことはね」
北斗も悲しい顔になって述べた。
「なるよ」
「そのことはですね」
「やっぱりね」
どうしてもというのだ。
「避けられないよ、牙暁君もだよね」
「友達と言ってくれたので」
それでとだ、牙暁は答えた。
「嫌うどころか」
「好きだよね」
「そうだよね、私だってね」
「その時はですか」
「悲しいって思うよ、けれどね」
それでもと言うのだった。
「それでもね」
「もうそのことはですか」
「彼割けないと思うからね」
「その運命を」
「避けて欲しいけれど」
「避けないですね」
「ああした人だからね」
北斗は悲しい顔で未来を見つつ話した。
「運命は決まってなくて色々なものがあっても」
「彼の性格では」
「そうなるよ、三人ずっと一緒にいたかったけれど」
「それは適わず」
「一人にね」
最後はというのだ。
「なっちゃうけれど私と彼がいなくなっただけで」
「それで、ですね」
「もう一人のね」
「彼にもですね」
「皆がいてくれているから」
「その時は」
「大丈夫だよ、私はそう思うよ」
こう話したのだった。
「だからね」
「それで、だね」
「安心してね」
そうしてというのだ。
「見ていてね、絶望なんかね」
「することはない」
「そうだよ、じゃあね」
「はい、また」
「会おうね」
「そうしましょう」
二人は別れの挨拶を交えさせた、そしてだった。
北斗も姿を消した、その後で。
牙暁は庚の夢に来た、すると彼女から言ってきた。
「どうだったかしら」
「お二人はまだ」
「そうなのね、待つわ」
これが庚の返事だった。
「その時になったら絶対に来てくれるから」
「それが運命だから」
「待つわ、ただ最後の一人は」
「彼はですね」
「わかっているわね」
「ご本人が」
「それでもなのね」
牙暁を見て問うた。
第十一話 地夢その十二
「動かないのね」
「その様です」
「彼は妹さんを殺して」
「地の龍になりますね」
「人の痛みを感じる心が消えてね」
そうなってというのだ。
「そのうえでね」
「妹さんを殺し」
「こちらに来るわ」
「そうなりますね」
「ええ、神威が天の龍になれば」
「その時は」
「けれど今は」
庚はさらに言った。
「見ているだけね」
「何も語らず」
「そうなのね」
「はい、誰にも」
「わかったわ、では神威が来てもね」
「いいですか」
「彼が地の龍を選ぶなら」
そうであるならというのだ。
「迎え入れるわ」
「そうですか」
「どちらでもね」
「わかりました、それでは」
「彼も待つわ、しかしね」
庚はここでだった。
眉を曇らせてだ、こうも言った。
「運命でしかも自分の心を失ってのこととはいえ」
「自分の妹さんを殺す」
「惨いことね」
こうも言うのだった。
「思えば」
「そうですね」
「あのね、私はね」
庚は難しい顔で述べた。
「確かに姉さんと袂を分かってね」
「地の龍を束ねる立場になられましたね」
「そうなっているけれど」
「残酷なことはですね」
「望んでいないわ」
決してと言うのだ。
「惨いことはね」
「左様ですね」
「人をいたぶる趣味もないし」
そもそもというのだ。
「それを見る趣味もね」
「ないですね」
「だからね、地球の為いえ」
「丁様の為にも」
「それでも誰かが犠牲になって」
「ましてやですね」
「自分の大事な人を殺すことはね」
そうしたことはというのだ。
「例え我を失っていても」
「見たくはないですね」
「ええ、思うことがあるわ」
庚はさらに話した。
「私は誰かを犠牲にしてね」
「丁様をお救いすべきか」
「そうもね、もう一人の姉さんは危険よ」
「あの方については」
「私は表で言っているだけだけれど」
人間を滅ぼすとだ。
「それでもね」
「あの人はですね」
「もう一人の姉さんはね」
「違いますね」
「人間の滅亡ではなく」
「ご自身の為に利用する」
「存在し続ける為に」
その為にというのだ。
第十一話 地夢その十三
「どんなことでもね」
「されますね」
「そのもう一人の姉さんからね」
「本来の丁様をですね」
「助けたいけれど」
「しかし」
「その為に誰かを犠牲にする」
このことはというのだ。
「間違っているとね」
「お考えですか」
「そうもね」
こう牙暁に話した。
「どうかしら」
「それは」
「誰かを助ける為に誰かを犠牲にする」
このことはというのだ。
「間違っていないかしら」
「難しいですね、もう一人のあの方は」
「危険ね」
「あまりにも」
その通りだとだ、牙暁も答えた。
「僕から見ても」
「そうね」
「ですから」
それ故にというのだ。
「何とかです」
「もう一人の姉さんは消してね」
「本来のあの方をです」
丁をというのだ。
「お助けすべきです」
「そうね」
「ですが」
「だからといってね」
「誰かを犠牲にする」
「それは間違っていて惨いこともね」
「されたくないですね、本音では」
牙暁はここで庚を見た、そのうえで彼女を見ると悩み吹っ切れないそうした顔でいてその場にいた。
「そうですね」
「もう一人の姉さんは放っておくとね」
「世界にとってもよくないです」
「ええ、人はね」
「利用してですね」
「自分が存在する為の糧としかね」
その様にというのだ。
「思っていないから」
「何をしてもですね」
「おかしくないわ、しかも力は」
それはというと。
「誰よりも。それこそ姉さんとね」
「同じですね」
「姉さんの力は強いわ」
庚のそれはというのだ。
「非常にね」
「まさに世界を揺るがすまでに」
「確かに五感は持っていないけれど」
「五感よりもです」
「あらゆることが見えて聞こえていてね」
「感じられて」
「知っているわ」
そうだというのだ。
「そうよ」
「そしてお力も」
「夢見であり」
「それだけでなく」
「持っている力そのものがね」
まさにというのだ。
「この世を揺るがす様な」
「恐ろしいものですね」
「そうよ、けれど姉さんはね」
「そのお力を自重されていて」
「自分の為にはよ」
「使われません」
「ただ夢見、身代わりとしてね」
その立場でというのだ。
第十一話 地夢その十四
「働いてね」
「生きておられますね」
「姉さんの力があレバ歴代首相を襲う危険も」
「凌いできました」
「そうでなかったこともあったけれど」
「あの方ですね」
「ええ、優れた人だったけれどね」
その首相の話もだ、庚は話した。
「原さんは」
「それでもでしたね」
「用心が足りなくて」
「襲われて」
「刺されたわ、夢で見たことを伝えても」
「そうだったので」
「残念なことになったわ、けれど」
それでもとだ、庚は丁に話した。
「あの人はね」
「大抵のことはです」
「身代わりになっても」
「ご自身も傷付かない」
「そうよ。それだけの力がね」
「丁様にはおありですね」
「ええ、けれどね」
それでもと言うのだった。
「何があってもよ」
「ご自身の為には使われず」
「邪なことにもね」
「使われないですね」
「それでもね」
それがというのだ。
「もう一人の姉さんはね」
「火の様であられ」
「姉さんが水ならね」
「しかもその火は」
「魔火よ」
それだというのだ。
「言うならね」
「そうですね」
「だからね」
「何としてもですね」
「消さないとね」
さもないと、というのだ。
「誰も彼も。地球にとってもね」
「悪いことになりますね」
「そうなるから」
だからだというのだ。
「本当にね」
「もう一人の姉さんはね」
「消しますね」
「姉さんの為にもで」
そしてというのだ。
「地球そしてね」
「他の人達の為にも」
「何とかしないといけないけれど」
「その為に誰かを犠牲にすることは」
「どうかと思うわ、そしてね」
それでと言うのだった。
「何とか妹さんを犠牲にせずに済むなら」
「それに越したことはないですか」
「そう思うわ、けれどよね」
「それが運命なので」
「避けられないのね」
「はい」
牙暁は庚に目を閉じて一礼する様に答えた。
「どうしても」
「運命はそうなのね」
「避けられないので」
「残念だわ、けれどね」
「丁様はですね」
「ええ、何としても救い出すわ」
決意を見せて言うのだった、そしてだった。
庚は今は深い眠りに入った、牙暁もそれを受けて遂に彼も深い眠りに入った。運命について悲しいものを感じながら。
第十一話 完
2023・1・8
第十二話 風使その一
第十二話 風使
征一狼はこの時編集部にいた、そうして仕事をしていたが。
その中でだ、同僚にこんなことを言われていた。
「この前取材に行ったシスターの」
「あの教会のですね」
「夏澄火煉さんですが」
「あの人ですか」
その名を聞いてだった、征一狼は眉を動かして応えた。
「どうしたんですか?」
「いえ、本誌で紹介しましたら」
「ああ、大人気だそうですね」
「こんな奇麗なシスターさんおられるのかって」
同僚は征一狼に笑って話した。
「読者さんの間でもです」
「評判になっていますか」
「そうなんですよ」
「そうでしょうね」
征一狼は彼女そして自分も天の龍でありこの世界の運命を巡って戦う者達であることを隠しながら応えた。
「あの人でしたら」
「そうですよね、ただ」
「ただ?」
「あの人の昔のことは」
「ああ、風俗のことですか」
「そのことは伏せておいて正解でしたね」
「あの人は笑って書いていいと言われましたが」
それでもとだ、征一狼は同僚に話した。
「やっぱりですね」
「そうしたプライベートのことは」
「伏せておくべきですね」
「そうですよね」
「僕もそう思います」
穏和だが確かな声で話した。
「そうしたことは」
「本人が許可を出しても」
「そうした雑誌はないですし」
「伏せておいて」
「そうしてですね」
「紹介すべきですね」
「そう思います、ただ」
ここでだ、征一狼はこうも言った。
「あの人でしたら素敵なお相手も」
「ああ、出来ますね」
「そうですね」
「ええ、ただ」
同僚は火煉について考える顔になって述べた。
「あの人カトリックでしたね」
「ええ、そうでしたね」
征一狼もそれはと応えた。
「あの人は」
「カトリックの聖職者は結婚出来ないですよね」
「そうですが」
それでもと言うのだった。
「実は結構です」
「公でなくですか」
「表立ってではないですが」
「そうしたことはありますね」
「昔から」
「じゃああの人も」
同僚は征一狼の話を受けて言った。
「きっとですね」
「そうした方とです」
「巡り合えて」
「幸せになれます」
「そうですね、蒼軌さんみたいに」
こうも言ったのだった。
「そうなれますね」
「僕みたいですか」
「だって蒼軌さんご自身の机にいつも奥さんと娘さんの写真飾ってあって」
見れば今もある、笑顔で一家が写真の中にいる。
「何かあるとご覧になられてますね」
「そう言われますと」
征一狼も否定しなかった。
「そうですね」
「ですから」
それでというのだ。
第十二話 風使その二
「僕も思いました」
「あの人について」
「そうです、幸せになって欲しいですよ」
「奇麗でしかも」
「物凄く礼儀正しくて優しくて」
「お人柄もいいですね」
「ですから」
それでというのだ。
「是非共」
「全くですね」
「はい、幸せになって欲しいです」
こうした話を編集部でしつつ仕事に励んだ、編集部員の仕事は多忙であり時間はあまりない。だがそれでもだった。
征一狼は家族との時間を大事にししかもだった。
修行の時間も持っていた、それは今もであり。
着物と袴に着替えて玳透と修行をしてその中で彼に言った、勿論彼も今は着物と袴に着替えている。
「また一段と腕を上げましたね」
「そうですか、僕は自分ではです」
「まだまだとですね」
「思っていまして」
玳透は修行をしつつさらに言った。
「征一狼さんの様にです」
「強くですか」
「なりたいと思っていて」
それでというのだ。
「修行が足りないとです」
「思われていますか」
「はい」
そうだというのだ。
「本当に」
「玳透君はそう言いますが」
それでもとだ、征一狼は謙遜する彼に笑顔で話した。
「日に日にです」
「強くなっていっていますか」
「これだけの腕なら」
共に風を操りつつ話した。
「丁様もです」
「お護り出来ますか」
「必ず。若し僕達に何かあり」
そうしてというのだ。
「丁様の身に危険が迫れば」
「その時はですか」
「玳透君がです」
まさに彼がというのだ。
「丁様をお願いします」
「わかりました」
玳透は征一狼に確かな声で応えた。
「丁様にはです」
「指一本ですね」
「触れさせません」
「お願いします、ただです」
征一狼は約束した玳透に微笑んで話した。
「それまでは僕達が戦います」
「天の龍の七人が」
「そうします、間違ってもそれまではです」
丁に敵が近付くまではというのだ。
「くれぐれもです」
「敵とはですか」
「戦わないで下さい」
「僕が天の龍ではないからですか」
玳透は征一狼に尋ねた。
「それは」
「惨いことを言う様ですか」
「いえ、わかっています」
玳透は微笑んで応えた。
「そのことは」
「そうですか」
「はい、天の龍の力はですね」
「違います、地の龍に対することが出来るのは」
まさにというのだ。
「天の龍だけです、ですから」
「地の龍の七人にはですか」
「僕達が向かいそして」
征一狼はさらに話した。
第十二話 風使その三
「必ず倒します」
「では僕は」
「地の龍だけではありません」
征一狼は確かな声で答えた。
「僕達の敵は」
「そうなのですか」
「地の龍を束ねる庚さんは姫様の妹です」
彼女のことを話した。
「そうだとしますと」
「かなりの力をですか」
「お持ちです、戦えるかどうか僕は知りませんが」
「用心にですね」
「玳透君にはです」
「姫様の護衛をですね」
「お願いします、僕達全員が戦いに出れば」
その時はというと。
「誰が姫様の傍にいるか」
「後は緋炎さんと蒼氷さんですね」
「お二人は戦う方々ではないですね」
「となると」
「玳透君しかいません」
まさにというのだ。
「ですから」
「僕がですね」
「姫様を護って下さい」
「地の龍以外の誰かが来たら」
「お願いします」
「ではその為に」
「修行を頑張って」
そうしてというのだ。
「強くなって下さい」
「わかりました」
玳透は征一狼の言葉に応えてだった。
この日も修行に励んだ、そうして学校にも通うが。
通っている学校はクランプ学園だった、その高等部に通っていてこの日は護刃と共に登校していたのだが。
護刃に隣からこう言われた。
「そうなんですか、空汰さんと嵐さんは三年生にですね」
「転入してね」
隣にいる彼女に顔を向けて話した。
「それでなんだ」
「通っておられるんですね」
「そうなんだ、ただね」
「ただ?」
「いや、嵐さんはね」
特に彼女のことを話すのだった。
「あの制服に愛着があるらしくて」
「セーラー服にですか」
「通っている間は」
クランプ学園にというのだ。
「あの制服でね」
「通っておられますか」
「そうなんだ、ただ体操服はね」
玳透はこちらの話もした。
「他の人達と同じよ」
「上は体操服で下は半ズボンですね」
「黒のね」
「それ中等部でも同じです」
護刃は笑って話した。
「体操服は上は白で」
「下は黒の半ズボンだね」
「前はブルマだったらしいですが」
それがというのだ。
「変わりまして」
「半ズボンだね」
「そうなっています」
「そうなんだね」
「いや、動きやすいですよね」
護刃は笑って話した。
「クランプ学園の体操服も」
「うん、生地がいいよね」
「私が地元で通っていた学校でもでしたけれど」
「クランプ学園の体操服もだね」
「はい」
本当にというのだ。
第十二話 風使その四
「動きやすいです」
「僕もそう思うよ、ただね」
「ただ?」
「僕達はちょっと油断するとね」
玳透は護刃に警戒する顔で話した。
「力を出してね」
「あっ、天の龍であることがばれますか」
「天の龍のことは限られた人しか知らないよ」
「じゃあそのことは安心していいですか」
「うん、けれどね」
それでもとだ、護刃に話すのだった。
「変に思われるよね」
「力があり過ぎると」
「何者かってね」
その様にというのだ。
「思われるし」
「あっ、エスパーとか」
「人は自分と違うを警戒するよね」
「能力もですね」
「そう、その力をね」
「迂闊に出したら」
「偏見を持たれる原因になるから」
それ故にというのだ。
「あまりね」
「そうしたものはですね」
「見せないことだよ」
決してと言うのだった。
「出来るだけね」
「お空とか飛んだりですね」
「やっぱりそんな力はね」
「普通の人は持っていませんね」
「絶対にね」
強い言葉で言い切った。
「だからだよ」
「そのことは気をつけて」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「学園生活を過ごしてね」
「犬鬼と同じですね」
護刃はここで今も自分の隣にいる彼を見て言った。
「そうですね」
「そう、僕も見えるけれど」
「普通の人にはですよね」
「犬鬼は見えないよね」
「子供の頃それがわからなくて」
護刃は俯いて悲しい顔になって話した。
「ずっとです」
「辛い思いをしたね」
「そうでした」
こう玳透に話した。
「本当に」
「そうなるからね」
「気をつけることですね」
「そうだよ」
護刃に優しい声で話した。
「それは僕もだけれど」
「お互いにですね」
「特に天の龍なら」
それならというのだ。
「特に力が強いからね」
「尚更ですね」
「気を付けて」
そうしてというのだ。
「過ごしていってね」
「わかりました」
護刃は玳透に応えた。
「これからもそうしていきます」
「うん、学校でも普段でもね」
「戦いの時以外はですね」
「そうていきましょう」
「それと」
さらにとだ、玳透はさらに話した。
第十二話 風使その五
「絶対に注意しないといけないことはね」
「何ですか?」
「いや、護刃ちゃん甘いもの好きだけれど」
「太る、ですか」
「いやいや、沢山運動してるしそれはないし」
玳透はそれは否定した。
「僕はそうしたことは言わないよ」
「そうですか」
「栄養バランスはね」
彼が話すのはこのことについてだった。
「気をつけてね」
「好き嫌いなく何でも食べるですね」
「そうだよ、甘いものを食べてもいいけれど」
「栄養バランスは、ですね」
「考えてね」
そうしてというのだ。
「食べてね、お野菜も果物も」
「お肉もお魚も」
「何でもね」
「別に好き嫌いはないです」
すぐにだ、護刃は玳透に微笑んで答えた。
「私も」
「それならいいよ、本当に何でもね」
「食べるべきですよね」
「甘いもの以外にもね」
「そうしていきます」
「そうしていったら」
玳透は微笑んで話した。
「健康にもいいし戦う時もね」
「健康ならですね」
「万全に戦えるからね」
「食べるものも大事ですね」
「そうだよ、そういうことでね」
「はい、何でも食べていきます」
護刃は笑顔で応えた、そうしてだった。
二人で並んで登校した、するとクラスでだった。
玳透はクラスメイト達に笑って言われた。
「お前随分可愛い娘と一緒に登校してたな」
「あれ中等部の娘だよな」
「そうそう、転校生のな」
「猫依さんだったか?」
「ああ、友達なんだ」
何でもなくだ、玳透はクラスメイト達に笑って話した。クラスでの彼は屈託がなく明るく気さくな人物だった。
「彼女じゃないよ」
「おいおい、自分で否定するかよ」
「面白くねえな」
「只の友達か」
「それだけか」
「だからね」
笑ったまま話した。
「皆が思う様なものじゃないよ」
「じゃあそういうことでな」
「俺達も納得したよ」
「お前がそう言うならそうだな」
「嘘も言わないしな」
このことで信頼もあるのだ、そしてだった。
護刃のことは何でもなく済んだ、そのうえで。
昼は同じ高等部に転入していた空汰それに嵐と一緒に食堂で食べたが空汰は食堂でこんなことを言った。
「ここはええな」
「それはどうしてですか?」
「いや、料理が美味いさかいな」
玳透にラーメンとカツ丼と野菜炒めを食べつつ応えた。
「しかも食費貰ってるさかいな」
「気兼ねなく食べられるので」
「それでな」
「そういうことですか」
「ああ、ずっとここにいたいわ」
「クランプ学園に」
「ほんまそう思うわ」
こう言いつつ食べている。
第十二話 風使その六
「後でデザートも頼もうか」
「私は善哉がいいわ」
嵐は伊勢うどんと天丼を食べつつ述べた。
「デザートは」
「嬢ちゃんはそっちかいな」
「ええ、お汁粉も好きだけれど」
それでもというのだ。
「善哉もね」
「好きなんやな」
「日本の甘いものがね」
「それならです」
玳透は鯖味噌定食を食べつつ話した。
「議事堂の丁様のところでもです」
「出してくれるのね」
「お話をすれば」
食べたいと、というのだ。
「蒼氷さんと緋炎さんがです」
「あの人達がなのね」
「出してくれまして」
そうしてというのだ。
「いただけます」
「ではね」
嵐はそう聞いて述べた。
「その時はね」
「召し上がられますか」
「そうさせてもらうわ」
「それじゃあ」
「ええ、では羊羹やお団子やういろうも」
こうしたものもというのだ。
「食べたいわ」
「それでは」
「ええな、饅頭あったらな」
空汰も言ってきた。
「貰いたいわ」
「空汰さんお饅頭お好きですか」
「何でも好きやけどな」
それでもとだ、空汰は三人の中で一番元気よく食べつつ話した。見れば彼は玳透と同じ詰襟で嵐はセーラー服である。
「甘いもんやとな」
「お饅頭がですか」
「一番好きでな」
それでというのだ。
「高野山でもよおな」
「召し上がられていましたか」
「そやったわ」
こう話しつつカツ丼を食べる。
「つまみ食いもさせてもらって」
「それはよくないですよ」
「よおなくても育ちざかりでな」
それでというのだ。
「この体格やさいな」
「食べないと、ですか」
「やっていけんさかい」
だからだというのだ。
「ちょっとな、お茶目で」
「そうでしたか」
「今はしてへんで」
空汰はそこは断った。
「つまみ食いはせんで」
「そうしてですか」
「学校と宿舎でな」
その両方でというのだ。
「しっかり食べてるで」
「そうですか」
「ただ。二時間目の後はお弁当を食べて」
嵐が言ってきた
「今も食べるのね」
「育ち盛りやさかいな」
「身体も大きいし」
「よお動くしな」
「そういうことね」
「朝も夜もちゃんと食ってな」
そうしてというのだ。
「そのうえでや」
「お弁当を食べて」
「こうしてお昼もな」
「実は僕もなんですよ」
玳透も笑って話した。
第十二話 風使その七
「お昼の前にです」
「お弁当をなのね」
「空汰さんと同じで」
それでというのだ。
「二時間目が終わりますと」
「食べているのね」
「はい、宿舎で作ってもらったものを持って行って」
そのうえでというのだ。
「二時間目が終わるとお腹が空くので」
「食べて」
「そして今もです」
昼もというのだ。
「いただいています」
「そうなのね、私は朝しっかり食べて」
嵐は自分の話もした。
「お昼もね」
「召し上がって」
「おやつを食べて」
そしてというのだ。
「夜をね」
「食べますか」
「そうしているわ」
「わいもおやつ食べるで」
空汰は笑って話した。
「しっかりな」
「僕もです、何か僕達よく食べますね」
玳透は思わず苦笑いになって述べた。
「どうも」
「そやな、確かに」
空汰も笑って応えた。
「言われたらな」
「そうですよね」
「十代はどうしてもや」
「よく食べますね」
「そういうこっちゃ、それに食べんとな」
空汰は不敵な笑みになってこうも言った。
「やるべきこともや」
「出来ないですね」
「そやさかいな」
「しっかりと食べることですね」
「ああ、食っていこうな」
「わかりました」
玳透も頷いた、そうしてだった。
三人で昼はしっかり食べた、午後の授業を終えると三人も護刃も宿舎に戻った。だが玳透は宿舎に戻るとだ。
すぐに袴と着物に着替えて修行に励むが。
その後で丁の前に来るとだ、その丁に言われた。
「今日もですね」
「修行をしていました」
丁の前に来て畏まって答えた。
「朝も夕方も」
「わらわを護る為に」
「はい、そして」
それにと言うのだった。
「その為にです」
「修行に励まれて」
「強くなっています」
「わかりました、ですが」
「ですが?」
「くれぐれもです」
丁はいつもの目を閉じ深く思慮する様な顔で述べた。
「ご自身のことはです」
「僕のですか」
「お気をつけて下さい」
「そうしないといけないですか」
「はい、わらわを護ってくれることは嬉しいですが」
それでもというのだ。
「ご自重を」
「それよりもです」
玳透は丁に一本気な調子で答えた、傍に蒼氷と緋炎を控えさせた丁の前に畏まったままそうしていた。
「僕は丁様の為に。征一狼さんと共に」
「戦われますか」
「その時は」
「そうなのですね、ですがくれぐれも地の龍とはです」
「戦わないことですか」
「龍と戦えるのは龍だけです」
あくまでというのだ。
第十二話 風使その八
「ですから」
「その為にですか」
「何があってもです」
それこそというのだ。
「地の龍とはです」
「戦わないことですか」
「そのことを守って下さい」
「そうですか」
「そのことを約束して下さい」
「わかりました」
玳透は誠実な声で答えた。
「必ず」
「はい、くれぐれもお願いします」
丁は頼む様に言った、そしてだった。
その夜だ、眠りに入ったがここで庚に言われた。
「姉さんはあの子の未来を知っている筈よ」
「わらわを護ってくれている」
「あの風使いのね」
玳透のことに他ならなかった。
「そうよね」
「命を落とします」
丁は自分の妹に悲しい顔で答えた。
「地の龍によって」
「それでもそう言うのね」
「どうしてもです」
目を閉じての言葉だった。
「わらわを想ってくれている気持ちを見ていますと」
「どうしてもなのね」
「言わずにいられません」
「姉さんは変わらないわね」
庚は姉の言葉を受けて腕を組んで立った姿勢で述べた。
「優しいわ、姉さんはね」
「庚、何を言いたいのですか」
「何もないわ」
本音を心の箱の中に入れて答えた。
「別にね」
「そうですか」
「ええ、けれど運命はね」
「変わらないものです」
今もこう言うのだった。
「ですから」
「彼は死ぬわね」
「そうなります、ですが」
「言わずにはいられないのね」
「そうです、わらわとしては」
「わかったわ、けれど戦いでは人は死ぬものよ」
庚はこの現実を話した。
「だからよ」
「彼もですか」
「死ぬわ、彼は責任感も使命感も強いから」
それ故にというのだ。
「必ずよ」
「地の龍と戦うことになり」
「命を落とすわ」
こう丁に言うのだった。
「姉さんの夢見通りにね」
「わらわもわかっていますが」
「そしてその死を見て嘆くのよ」
姉に嘲笑する様に話した。
「運命、夢見の通りになったと」
「ですがそれでも」
「あの神主の人は生きているけれど」
自分がそうさせたことも箱に入れて見せなかった。
「けれどね」
「彼はですね」
「そうはいかないわ、あの娘もね」
「殺されて」
「そうなってよ」
そしてというのだ。
「天の龍の神威は絶望に打ちひしがれるわ」
「地の龍の神威、もう一人の自分にそうされて」
「そうよ、運命はね」
「避けられない」
「ええ、そしてその運命はね」
「人間の世界が滅ぶとですね」
「そうなるとね」
まさにというのだ。
「姉さんに言っておくわ」
「庚、貴女はどうしても」
「それが運命だとね」
その様にというのだ。
第十二話 風使その九
「姉さんが見た通りにね」
「貴女はあくまでそう言いますか」
「ええ、そしてね」
それにと言うのだった。
「姉さんは崩壊した世界を見て絶望するのよ」
「だからこそ貴女は」
「姉さんと対しているのよ」
「わらわの前から離れて」
「そうよ」
それでというのだ。
「人間の世界を滅ぼして姉さんを絶望させる為に」
「何があろうともですか」
「姉さんの前にいるわ、それに地球はね」
自分達がいる星はというのだ。
「間違いなくよ」
「危機に瀕している」
「だからよ」
それ故にというのだ。
「地球を救わなくてはならないのよ」
「そう思うからこそ」
「私は地の龍を束ねているのよ」
その見解からもというのだ。
「そうなのよ」
「そうですか、では」
「ええ、私達はこうなる運命だったのよ」
やはり心を箱に入れつつ話した。
「姉妹としてね」
「対する」
「そうよ、それなら」
「対する運命なら」
「私達はどちらが勝って」
そうしてというのだ。
「決着をつけるしかないのよ」
「人間か地球か」
「そうよ、ではまたね」
「わらわの夢に来ますか」
「ええ、そうさせてもらうわ」
丁そして彼女の後ろを見てだった、そのうえで。
庚は丁の前から去った、そうしてだった。牙暁の夢の世界に来ると彼に対して深刻な顔で話したのだった。
「また一段とね」
「強まっていますか」
「そうなっているわ」
こう話すのだった。
「もう一人の姉さんの力が」
「そうでしたか」
「だからね」
それでというのだ。
「何とかしないといけないわ」
「あの方の為に」
「そしてね」
「世界の為に」
「もう一人の姉さんは裏返しよ」
まさにというのだ。
「姉さんのね」
「穏やかで心優しく」
「自分のことを厭わないでね」
そうしてというのだ。
「世界の幸せを願っている」
「もう一人のあの方は」
「自分自身の為なら」
「何でもしますね」
「人間の世界を残そうとしても」
そう考えていてもというのだ。
「けれどね」
「それでもですね」
「それは自分の為であって」
「その夢見の力も」
「自分の為に用いてね」
そうしてというのだ。
「人間も地球もよ」
「ご自身が思われる様に」
「動かすわ、そうなれば」
そうした事態に陥ればというのだ。
第十二話 風使その十
「世界はね」
「人間も地球も」
「恐ろしいことになるわ」
「言うなら暴君ですね」
牙暁は庚と正対して共に立ちつつこの言葉を出した。
「そうですね」
「そうよ、もう一人の姉さんはね」
「世界を意のままに動かし」
「夢見の力、他の力も」
「そうしていかれる」
「まさによ」
文字通りのというのだ。
「だからこそ」
「世に出してはいけないし」
決してというのだ。
「そして姉さんもよ」
「お救いしなければならないですね」
「そうよ、姉さんにはああ言っているけれど」
本人にはというのだ。
「私はね」
「その様にお考えですね」
「この世で二人だけの姉妹で」
そうした間柄でというのだ。
「姉さんが一番よ」
「貴女を愛してくれましたね」
「それでどうして大事に思わないでいられるか」
牙暁には言うのだった。
「私にしても」
「だからこそ」
「そうよ、何としても助けるわ」
「もう一人のあの方を除いて」
「その為にね」
「はい、夢を見させてもらいます」
牙暁は即答で応じた。
「僕は」
「お願いするわ、そうしてね」
「世界だけでなく」
「姉さんもよ」
その両方をというのだ。
「救うわ、その為には」
「彼女の犠牲については」
「仕方ないとね」
その様にというのだ。
「割り切るしかないわね」
「そうですね、では」
「ええ、あと三人よ」
「地の龍に来てもらえば」
「動くわ、もう剣は手に入ったから」
「揃うだけです」
「そうよ、来てくれるのならいいわ」
今おらずともというのだ。
「それならね」
「そうですか」
「そしてね」
「七人全員揃えば」
「それからよ」
「動きますね」
「戦いをはじめるわ」
そうするというのだ。
「いよいよね」
「はい、それでは」
「今は眠りに入るけれど」
深いそれにというのだ。
「またね」
「はい、お会いしましょう」
「そうしましょう」
こう話してだった。
庚は寝た、そして。
翌朝共に朝食を食べている颯姫と哪吒に微笑んで言った。
「今日も頑張ってね」
「学校に行ってなのね」
「日常を過ごせと言うんですね」
「そうよ、私達が滅ぼす世界でも」
それでもというのだ。
第十二話 風使その十一
「楽しんできてね」
「意味がわからないわ」
颯姫は無表情で答えた。
「滅ぼす世界を楽しむなんて」
「そうですよね」
哪吒もそれはと言った。
「僕達が滅ぼす世界なら」
「楽しむ意味がないわ、それに」
颯姫はトーストを食べつつ言った。
「私は楽しいと思ったことは」
「ないのね」
「ええ」
庚にこう答えた。
「これまで生きてきて」
「じゃあ今食べているものはどう思うかしら」
「トーストね」
「レーズン入りのマーガリンを塗ったね」
颯姫が食べているトーストはそちらを塗っていた、庚は苺のジャムを塗っていて哪吒はマーマレードである。
「どうかしら」
「美味しいわ」
庚に無表情で答えた。
「とてもね」
「そう、よかったわ」
「かなり上等のパンね」
焼かれたそれはというのだ。
「マーガリンも」
「そうよ、私が選んだね」
そうしたというのだ。
「ものよ」
「では目玉焼きもソーセージも」
そういったものもあった。
「それにトマトも」
「全部よ」
「それで貴女が作ってくれた」
「ええ、目玉焼きやソーセージもね」
「トマトは切って」
「そうしたものよ」
颯姫に牛乳を飲みつつ話した。
「いつも通りね」
「お料理の腕も上手だわ」
庚、彼女はというのだ。
「和食の時も美味しいし」
「美味しいと思えれば」
「それがなの」
「楽しいということよ」
「そうなのね」
「誰かとお話をして」
庚はさらに言った。
「そう思ってもね」
「いいのね」
「ええ、それでこうしてね」
「美味しいものを食べられても」
「楽しいのよ」
「そうなのね」
「そういえばです」
哪吒はソーセージをフォークに刺して口に入れつつ言った。
「学校の食堂のお料理は」
「美味しいわね」
「はい、凄く」
「私がいた頃からね」
「庚さんもですか」
「ええ、あの学園に通っていたのよ」
クランプ学園にというのだ。
「幼稚園から大学までね」
「そうだったんですね」
「貴方達の先輩になるわね」
哪吒に笑ってこうも言った。
「そういえば」
「そうですね」
「それで私が通っていた頃からね」
「クランプ学園の食堂のお料理はですか」
「美味しいのよ」
「そうなんですね、この前ハヤシライスを食べましたが」
「美味しかったのね」
ここでも笑って応えた、優しいそれで。
第十二話 風使その十二
「ハヤシライスも」
「実はお弁当を頂いていて」
「お昼にはなのね」
「実は剣道部に入部しまして」
「だから最近帰りが遅いのね」
「誘われて入りましたが」
それでもというのだ。
「やればやる程上達して」
「周りの子達もいいと言ってくれるわね」
「筋がいいと、それで」
「毎日ね」
「朝練も出て」
そうしてというのだ。
「励ませてもらってます」
「いいわ、それもね」
「楽しいということですか」
「楽しく思うからね」
それ故にというのだ。
「人はやるのよ」
「そうですか」
「そして楽しいと思うことも」
このこと自体もというのだ。
「とてもね」
「いいことですか」
「だから人間としてね」
「僕もですか」
「部活に励んで」
そうしてというのだ。
「食べてね」
「楽しめばいいんですね」
「お友達とお話してもよ」
このこともというのだ。
「楽しいならね」
「はい、何かです」
哪吒は少し上気した様な顔になって庚に答えた。
「それもです」
「いいのね」
「はい」
こう答えたのだった。
「こちらも」
「それならよ」
「お話もですね」
「していくといいわ」
「楽しむことですね」
「そして喜んで」
この感情のことも言うのだった。
「悲しんだり怒ることもね」
「いいですか」
「感情を知って」
そしてというのだ。
「経験することはね」
「そうですか」
「まあ悲しんだり怒ることは避けたいところですね」
遊人は笑って述べた。
「やはり笑顔でいられる方がいいです」
「そうですか」
「はい、僕としては」
哪吒にトーストを食べつつ応えた、彼はチョコレートを塗っている。
「そう思います」
「笑顔でいられたら」
「それで、です」
まさにというのだ。
「一番です」
「そうですか」
「ですから」
それでと言うのだった。
「哪吒君も颯姫さんも」
「笑顔でいられれば」
「いいんですね」
「はい」
二人に話した。
「まさに」
「私は笑うことは」
「ないですか」
「これまで」
颯姫は無表情のまま目玉焼きを食べつつ応えた。
第十二話 風使その十三
「なかったから」
「ではこれからはです」
「笑えばいいのね」
「そうです、これまではそうであっても」
「今は」
「そしてこれからは」
まさにというのだ。
「そうしていけばいいです」
「そうなのね」
「辛くとも笑えば」
遊人はその笑顔で話した。
「それだけで違いますよ」
「楽しくなるの」
「その時すぐは無理でも」
それでもというのだ。
「やがてはです」
「そうなのね」
「ですから」
「私達も」
「笑って下さい」
「滅ぼす世界にいてもね」
また庚が言ってきた。
「笑えばいいのよ」
「楽しんで」
「ええ、喜怒哀楽はね」
この四つの感情はというと。
「人が人であるね」
「条件なのね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「地の龍、七人の御使いでもね」
「人間であることなの」
「七人と言うわね」
庚はこの言葉に重点を置いてきた。
「天の龍は七つの封印で」
「私達は七人ね」
「何故七人か」
「人間が七つ」
「そう、つまりね」
「私達は人間なのね」
「むしろ天の龍よりもよ」
七つの封印と言われる彼等よりもというのだ。
「人間とね」
「言えるのね」
「彼等があれだけ人間的なら」
七つの封印と呼ばれる彼等がというのだ。
「私達はよりよ」
「人間的であっていいの」
「そうよ、七人だから」
「七つに対して」
「それでいいのよ」
「そうなのね」
「だから貴方達はね」
颯姫だけでなく哪吒にも話した。
「喜怒哀楽を学んで」
「身に着けて」
「人間であることよ」
「そうなのね」
「そして貴方達はどんな力を持っていても」
それでもというのだった。
「人間よ、化けものではないわ」
「力の問題ではないのですね」
「そうよ、心が人間ならね」
遊人に応えて話した。
「それならよ」
「僕達は人間ですか」
「そうなのよ、だからね」
それでというのだ。
「貴方達の力はね」
「人間の力ですね」
「そうなのよ、だから何も思うことはないわ」
「化けものの様に」
「そして神様でもないのよ」
「化けものでないと共にですか」
「ええ、人間は人間よ」
あくまで、そうした言葉だった。
第十二話 風使その十四
「貴方達はね、神様でもないのよ」
「僕達地の龍はですね」
「天の龍の七人もそうであってね」
「人間と人間ですか」
「そういうことよ、人間だから」
他ならぬというのだ。
「自分を蔑むことはないし」
「思い上がってもいけないですね」
「思い上がれば」
姉のもう一人のことを思い出した、そして言うのだった。
「人ではなくなるわ」
「神様ですか」
「傲慢な神様は何か」
「自分の力に対して」
「こんな恐ろしいものはないわね」
「はい、まさに最悪の存在です」
遊人もそれはと答えた。
「言うなら暴君です」
「暴君は権力を持ってね」
「それを思いのままに操って」
「自分のしたい様にするわね」
「歴史を見るとその恐ろしさがわかりますが」
「傲慢な神様もね」
「同じですね」
庚にこう答えた。
「暴君と」
「それも一国ではなくて」
「世界に及ぼすのならね」
「より恐ろしい存在ですね」
「そうなったら終わりよ」
庚は眉を顰めさせて述べた、そうしつつ自分と牙暁そしておそらく本人だけが気付いている存在を脳裏に思い浮かべつつ話した。
「もうね」
「それが今の人間ね」
ここで颯姫が牛乳を飲んでから言ってきた。
「科学という力に驕り」
「地球を汚しているというのね」
「ええ、そうした神ね」
「貴女はそう考えるのね」
「違うかしら」
「否定はしないわ」
これが庚の返事だった。
「貴女のその考えは、けれどね」
「私達もまた人間なのね」
「そのことは忘れないで」
「不思議な言葉ね」
颯姫は今の庚の言葉にこう返した。
「とても」
「そう思うのね」
「ええ」
実際にとだ、庚は答えた。
「傲慢な神の様な人間を滅ぼすのに」
「人間だということはなのね」
「そう思うわ、けれど貴女の言葉は受け入れられるわ」
「そうなのね」
「理由はわからないけれど」
それでもというのだ。
「それが出来るわ」
「そうなのね」
「ええ、では人間になるわ」
「そうしてね」
「是非ね、では朝ご飯を食べたら」
「学校に行くわ」
颯姫は静かに答えた。
第十二話 風使その十五
「そうしてくるわ」
「僕もです」
哪吒も言ってきた。
「そうしてきます」
「僕もお仕事に行きます」
遊人も言ってきた。
「今日も頑張ってきます」
「私もよ、今日も忙しくなるわね」
「都知事さんの秘書さんとして」
「頼りにされているから」
牛乳を飲みながら笑顔で話した。
「だからね」
「頑張ってこられますね」
「ええ、ただ私のお仕事は定時よ」
こうも言うのだった。
「間違ってもね」
「時間外労働はですか」
「しないわ、定時にはじめて」
そしてというのだ。
「定時にね」
「終わりますか」
「それが私のやり方よ」
仕事のそれだとだ、遊人に話した。
「ずっとそうしてきたわ」
「定時ですか」
「そうよ、決まった時間の中でね」
その勤務時間のというのだ。
「全部やるのよ」
「秘書のお仕事を」
「そうしているのよ」
「そうですか」
「ええ、そしてこちらに帰って」
「後はプライベートですね」
「その時間を楽しむわ」
そうするというのだ。
「いつも通りね」
「庚さんのポリシーですね」
「そうよ、しかし最近知事さんもね」
自分の上司の話もした。
「お忙しくてね」
「あのお仕事はどうしてもそうなりますね」
「お疲れだから」
それでというのだ。
「疲れが癒えるお食事をね」
「お考えですか」
「そうなのよ」
「では何を用意されますか」
「チーズや牛乳それにお野菜と」
そうしたものにというのだ。
「牛肉ね、知事さんハンバーグがお好きだから」
「ではチーズを乗せて」
ハンバーグにとだ、遊人は笑って応えた。
「そうされますね」
「ええ、それでサラダの量を増やしてシチューもお好きだから」
「シチューにもお野菜を沢山ですね」
「そして牛乳をお出しして」
飲みものはというのだ。
「暫くそうした風にして」
「疲れを癒してもらいますか」
「そうしてもらうわ」
こう話してだった。
地の龍の者達は朝を過ごした、そして食事の後でそれぞれの日常に赴くのだった。
第十二話 完
2023・1・15
第十三話 母親その一
第十三話 母親
神威にだ、小鳥は学校で声をかけた。
「神威ちゃんお昼どう?」
「一緒に食べるかどうかか」
「うん、屋上でね」
神威に微笑んで話した。
「どうかな」
「わかった」
神威は笑顔で応えた。
「それならな」
「うん、それじゃあまたね」
「昼にだな」
「あたらめて声かけるから」
それでというのだ。
「一緒にね」
「食べような」
「そうしようね」
二時間目の授業が終わった後にだ、こうしたやり取りがあった。そして二人共普通に日常を過ごしたのだった。
神威はクラスメイト達にだ、こう言われていた。
「司狼実はいい奴なんだな」
「いつも教えてくれたり庇ったりしてくれてな」
「基本無口だけれどな」
「お前本当は親切だな」
「用事そっと手伝ってくれて」
「そうか、俺は別にな」
神威はクラスメイト達にほんの少し微笑んで応えた。
「そんなつもりはないが」
「いやいや、それでもな」
「皆お前には結構助けてもらってるよ」
「授業で当てられて答えられないとそっと答え言ってくれるしな」
「最初とっつきにくいと思っていたら」
「いい奴だったんだな」
「俺達誤解していたよ」
こう言うのだった、そして。
ここでだ、こんな言葉も出た。
「桃生さんとはどうなんだ?」
「小鳥ちゃんとな」
「最近結構一緒にいるけれどな」
「付き合ってるのかよ」
「それは、何と言うかな」
この問いには困った顔で述べた。
「どうもな」
「言えないか?」
「付き合ってないのか?」
「そうなのかよ」
「俺はそうしたことはよくわからない」
その困った顔で述べた。
「だからこう言うしかない」
「わからないのかよ」
「お前ひょっとして女の子と付き合ったことないのかよ」
「その顔でか」
「運動も勉強も出来るのにな」
「小鳥は幼馴染みだが」
それでもというのだ。
「付き合ってると言えるか」
「いや、幼馴染みからってあるだろ」
「よく聞くぜ」
「そうだからな」
「お前だってな」
「そうなのか」
要領を得ない返事だった、だが神威はクラスメイト達とも打ち解けていった。そして四時間目が終わるとだった。
小鳥が来てだった、彼に声をかけてきた。
「言った通りにね」
「ああ、屋上でな」
神威は自分の席を立って応えた。
「一緒に食おうか」
「お弁当持って来たから」
神威の分を差し出して言ってきた。
「今からね」
「一緒にな」
「食べようね」
「それじゃあな」
神威はその弁当箱を受け取った、そうしてだった。
二人で屋上に出てそこのベンチに並んで座って弁当箱を包んでいた布を解いてそうしてからだった。
第十三話 母親その二
弁当箱を開いた、するとその中は。
「お握りと豚カツか」
「ほうれん草のおひたしとプチトマトよ」
「それに苺か」
「昨日の晩ご飯の残りをね」
小鳥は神威に微笑んで話した。
「いつもお弁当にしているの」
「それで俺にも作ってくれたか」
「お兄ちゃんにもね」
神威に微笑んで話した。
「そうしてるの」
「そうなのか」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「三人でね」
「同じものを食うか」
「お兄ちゃんはいつもクラスのお友達と食べてるけれど」
それでもというのだ。
「食べるものはね」
「三人共同じか」
「そうだよ、だからね」
「一緒にだな」
「食べようね」
「そうさせてもらう」
神威は隣に座る小鳥の言葉に頷いた、そうしてだった。
箸を手に食べはじめてだ、今度はこう言った。
「美味い」
「そう、よかったわ」
小鳥は神威の今の言葉に微笑んだ。
「じゃあどんどん食べてね」
「そうさせてもらう」
「これから毎日作るから」
「いつも食堂で食ってたが」
「これからはね」
「三人でか」
「一緒のものを食べよう」
小鳥も食べつつ話した。
「そうしようね」
「悪いな」
「悪くないよ、だってずっとこうだったでしょ」
「子供の頃はな」
「それが戻っただけだから」
それでというのだ。
「悪くないよ」
「そうなのか」
「それでお握りの中にね」
小鳥はこちらの話もした。
「梅干し入れたけれど」
「どのお握りにもか」
「それはどうかな」
「そちらもいいな」
神威はそのお握りを食べて答えた。
「美味い」
「そう、お握りにはね」
「梅干しだな」
「おかかや鱈子もいいけれど」
「一番はか」
「それじゃないかって思うし」
それでというのだ。
「今日はね」
「梅干しにしたか」
「どのお握りもね」
「いいと思う」
こう話したのだった。
「特に小鳥が握ってくれたら」
「美味しい?」
「塩も程々で」
そしてというのだ。
「海苔の巻き方もな」
「いいの」
「最高だ」
まさにというのだ。
「だから幾らでも食べられる」
「じゃあ沢山食べてね」
小鳥は神威の言葉を受けてにこりと笑って応えた。
第十三話 母親その三
「とはいっても数には限りがあるけれど」
「あるだけ食っていいか」
「私の分もあげるから」
「いや、それはいい」
神威は笑ってそれはいいとした。
「小鳥は小鳥の分をだ」
「食べていいの」
「食べてくれ」
真面目な顔になって告げた。
「是非な、さもないとだ」
「さもないと?」
「心臓はもう大丈夫か」
小鳥に真面目な顔のまま問うた。
「今は」
「あっ、覚えててくれたの」
「忘れるものか、子供の頃心臓が弱かったな」
「うん、けれど神威ちゃんが沖縄に行ってからね」
「よくなったか」
「今は大丈夫よ、運動だってね」
こちらもというのだ。
「出来るよ」
「そうか、よかった」
「運動は苦手だけれど」
それでもというのだ。
「出来ることはね」
「出来るか」
「うん、だからね」
小鳥は自分の返事に笑顔になった神威にさらに話した。
「神威ちゃんも安心してね」
「ならいい、それならな」
「これからもね」
「しっかりとな」
まさにというのだ。
「食べてな」
「元気でいろって言うのね」
「そうだ、やっぱり食べないとな」
神威は笑顔に戻ったうえで小鳥に話した、彼女の返事にほっとして自然にそうした顔になって言っているのだ。
「身体によくないからな」
「そうよね」
「それならな」
「うん、明日もね」
「作ってくれるか」
「お家でもね、今度お鍋作るから」
「何の鍋だ?」
小鳥に問うた。
「それで」
「軍鶏鍋よ」
小鳥は神威に微笑んで答えた。
「それを作るから」
「俺もか」
「来てね、このお鍋って歴史があるのよ」
「どういった歴史だ」
「坂本龍馬さんがお好きだったらしいの」
「幕末の志士のか」
「海援隊のね」
このことで有名なというのだ。
「あの人がお好きだったの」
「そうだったのか」
「それで食べようと食材を買いに行ってもらったら」
その時にというのだ。
「襲撃を受けてね」
「そういえばあの人は暗殺されているな」
「そうでしょ、暗殺した人は色々言われているけれど」
「誰かな」
「中岡慎太郎さんと一緒に暗殺された時にね」
小鳥は神威と一緒にお握りとおかずを食べつつ話した、食べながら自分が話に乗って来たことを自覚している。
第十三話 母親その四
「食べようとしてその前からね」
「好きだったか」
「そうだったの」
「それが軍鶏鍋か」
「ええ、それで龍馬さんも東京にいたことあったし」
「土佐、高知の人だったな」
「それで京都によくおられて」
そうしてというのだ。
「京都で暗殺されたけれど」
「海援隊であちこち行っていたな」
「その前に江戸でね」
東京がそう呼ばれていた頃にというのだ。
「剣道の修行でね」
「この街に来ていたか」
「それで北辰一刀流を学んでいたの」
神威の顔をじっと見ながら笑顔で話した。
「免許皆伝だったのよ」
「強かったんだな」
「そうみたいよ、龍馬さんと親しかった桂小五郎さんや勝海舟さんもね」
彼等もというのだ。
「それぞれの流派でお強かったのよ」
「免許皆伝だったか」
「確かね。特に勝海舟さんがお強くて」
「それは知らなかったな」
「とんでもなかったらしいわ」
そう言っていいまでの強さだったというのだ。
「あの人はね」
「俺も勝海舟さんのことは知っていたが」
それでもとだ、神威は考える顔になって述べた。
「まさかな」
「免許皆伝とは知らなかったの」
「剣道のな」
「実はそうだったのよ」
「成程な、強かったのは新選組だけじゃないか」
「あの人達も強かったけれど」
幕末名を馳せた剣客集団である彼等もというのだ。
「龍馬さんもそうだったの」
「桂小五郎さんや勝海舟さんもか」
「それもかなりね」
「それはいい勉強になった」
「それでどの人も東京で修行してたのよ」
「近藤勇さん達も元々こちらだったな」
東京の方の人だったとだ、神威は言った。
「そうだったな」
「そうだったわね」
「東京は龍馬さんにも縁があるか」
「それで他の人達ともね」
「縁があるな」
「剣道を通じたりしてね」
そのうえでというのだ。
「あるのよ」
「そう思うと面白いな、そして」
微笑みから真剣な顔になって述べた。
「護りたいな」
「そう思うのね」
「実際にな」
こう答えたのだった。
「そう思った」
「そうなのね」
「まだ決めていないが」
天の龍になるか地の龍になるかはというのだ。
「しかしな」
「それでもなのね」
「幾分かでもな」
「考える要素になった?」
「確かにな」
小鳥に顔を向けて答えた。
「小鳥と封真のこと以外にもな」
「考える要素になったのね」
「天の龍の連中も見てな」
そうもしてというのだ。
「そしてな」
「考えていくのね」
「そのうえで決める」
そうするというのだ。
第十三話 母親その五
「俺はな」
「そうしてくれるのね」
「ああ、だがどうなっても」
「天の龍でも地の龍でも」
「俺は小鳥を護る、そしてだ」
「お兄ちゃんもなのね」
「そのことは絶対だ、人間か地球か」
このことはとだ、神威は小鳥に考える顔で話した。
「そのことはな」
「どうでもいいの?」
「そこまでは考えられない」
神威としてはというのだ。
「実はな」
「そうなの」
「この世界のことまでは」
考える顔のまま述べた。
「とてもな」
「考えられないのね」
「俺にはな、小鳥と封真にな」
「天の龍の人達ね」
「世界のことまでは」
どうにもという口調で話すのだった。
「まだ、いや若しかするとこれからも」
「考えられないの」
「馬鹿なのか、俺は」
こうもだ、神威は言った。
「天の龍か地の龍になるのに」
「それでもだっていうの」
「人間のことも地球のこともな」
そのどちらもというのだ。
「考えられない、これでは駄目なのか」
「それはわからないわ、私には」
小鳥は返答に窮した顔になって神威に答えた。
「多分天の龍の人達に聞けば」
「わかるか」
「そうかも知れないわ」
「わかった、聞いてみる」
それならとだ、神威は答えた。
「今日にでもな」
「そうするのね」
「そうしてみる、そして今はな」
まさにとだ、神威はまたお握りを食べた。そしておかずも食べてそのうえで小鳥に対してあらためて話した。
「小鳥とこうしていいんだな」
「いいよ、一緒に食べよう」
小鳥は神威の今の言葉に笑顔で頷いて応えた。
「よかったら今夜もね」
「軍鶏鍋か」
「それ食べよう、それでね」
「明日もだな」
「うん、一緒にね」
「こうして食べるか」
「そうしよう」
神威に自分から言った。
「さっきも言ったけれど」
「小鳥がそうしたいならな」
「そうしてくれるのね、神威ちゃんも」
「ああ、頼む」
「私の方こそね」
笑顔で話してだった。
二人はベンチに座ったまま小鳥が食べた弁当を食べていった、神威はその後は午後の授業を受けてだった。
議事堂に向かった、そして空汰達に小鳥に話した世界についての自分の考えを話したが。
空汰が笑ってだ、神威に言ってきた。
「それでもええんちゃうか?」
「いいのか」
「ああ、人間か地球かまで考えんでもな」
それでもというのだ。
「やがて持っていくやろしな」
「そうなのか」
「そういうのはな」
まさにというのだ。
「後で追い付いてくるというかな」
「備わるものでしょうね」
嵐も言ってきた。
第十三話 母親その六
「選んでから」
「そやろな、わいかて天の龍って言われてな」
空汰は嵐にも言われて話した。
「それで自覚してきたしな」
「人間の世界を護らなければいけないとね」
「嬢ちゃんもやな」
「それまでは巫女としてしか」
まさにというのだ。
「思うことはなかったわ」
「お伊勢さんのやな」
「その前は何もなかったし」
伊勢神宮に迎えられるまではとだ、嵐は言いながら自分の物心ついた時の家族も家もなく餓えと渇きに苛まれていたことを思い出しつつ言った。
「巫女になってからも」
「そのお勤めだけをやな」
「考えて行って来たから」
だからだというのだ。
「人間の世界を救うという考えはなかったわ」
「そやったな」
「全くね」
「私もでした」
護刃も言ってきた。
「そうした考えはです」
「なかったか」
「はい、ただ犬鬼と一緒にいて」
神威に彼を見つつ話した。
「皆どうしてこの子が見えないのか」
「そのことか」
「いつも考えていて嘘吐きとも言われて」
犬鬼が見えない者達からというのだ。
「辛かったですが」
「人間の世界を救うとはか」
「この前なんですよ」
少し目を見開かせて神威に話した、右手の人差し指を顔の高さでその横にやって立たせて話している。
「天の龍だって言われて」
「それからか」
「最初お役目を言われて」
天の龍のそれをというのだ。
「私なんかがそんな大役務まるのかって思いまして」
「驚いたか」
「はい、困りましたが」
それでもというのだ。
「私でもやれるだけやろうと決意しまして」
「そうしてか」
「今こうしてです」
「天の龍としているか」
「はい」
神威にそうだと答えた。
「そうしています」
「そうなんだな」
「僕は風使いの血筋に生まれ修行に励んでいまして」
征一狼は今も優しくかつ包容力のある笑顔で話した。
「皆さんより少し前にです」
「天の龍だと言われたか」
「そしてそれが僕の使命ならと受け入れまして」
そうしてというのだ。
「さらに修行に励みまして」
「ここにいるか」
「そうなんですよ」
神威にその笑顔で話した。
「僕の場合は」
「そうなのか」
「そうなんですよ」
「私は少し前に姫様の使者が来て告げられたのよ」
火煉も神威に話してきた、大人の笑顔で。
「天の龍だって。私なんかでいいかしらと聞いても」
「それが運命とです」
「お答えしました」
蒼氷と緋炎が言ってきた、今も丁の傍に控えていてそこには玳透もいる。
第十三話 母親その七
「そしてです」
「今こうしてここにおられます」
「そうだったの、それでこの前皆と合流したのよ」
今ここにいる面々と、というのだ。
「そうしたのよ、私も自分が人間の世界を護るなんて信じられなかったけれど」
「それでもか」
「運命を受け入れて」
そうしてというのだ。
「そのうえでね」
「やっていっているか」
「ええ」
そうだというのだ。
「今はね」
「そうなのか」
「後でよ」
まさにというのだ。
「そうしたものはついてくるのよ」
「天の龍や地の龍の自覚はな」
「あちらも同じだと思うわ」
火煉は神威に真面目な顔で述べた。
「地の龍の方もね」
「そうだと告げられてか」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「次第にね」
「自覚していっているか」
「皆ね、最初そうだと告げられて」
「それからか」
「今すぐに受け入れていなくて」
「徐々にか」
「その筈よ、だから貴方もね」
神威に顔を向けて話した。
「次第によ」
「自覚していくか」
「そうなるわ」
「それでいいか」
「そうよ、ただ貴方は」
神威を見たままこうも言った。
「やっぱり」
「ああ、小鳥とな」
「彼女のお兄さんのことね」
「まず二人だ」
絶対に、そうした口調の返事だった。
「俺にとってはな」
「そうね」
「あの二人は何があってもだ」
「護るわね」
「そうしたい」
「それが世界を護ることになればいいのではないでしょうか」
征一狼は語る神威に手振りを交えて話した。
「僕も根幹にあるものはそうですし」
「あんたもか」
「はい、家族がいまして」
それでというのだ。
「奥さんと娘がです」
「大事か」
「何といいましても」
それこそという返事だった。
「何があっても護りたいです」
「そう考えるからか」
「神威君と呼んでいいでしょうか」
「構わない」
呼び名はいいとした。
「別にな」
「そうですか、では神威君がです」
彼の言葉を受けてあらためて話した。
「お二人を護りたく」
「その為に戦われるなら」
「それならです」
「いいか」
「はい」
まさにというのだ。
第十三話 母親その八
「僕はそう思います」
「そうしたものか」
「まあ変に難しい考え持ってもな」
それでもとだ、空汰も言った。
「しゃあないな」
「そんなものか」
「難しく考え物事が解決するならええやろ」
それならとだ、空汰は神威にいつもの明るい調子で話した。
「それならな」
「それで解決するならか」
「けどそれで解決するやろか」
「この戦いはか」
「そや、どないや」
「そんなことはない、戦ってだ」
そうしてとだ、神威も答えた。
「勝たないとな」
「そやろ、この戦いかてそうでな」
空汰はさらに話した。
「何でもな、世の中はな」
「難しく考えてもか」
「解決せんもんや、考えるよりもや」
それよりもというのだ。
「動く方がええやろしな」
「そういえば真理は単純明快というわね」
嵐は空汰の言葉を受けて話した。
「そうね」
「そやろ、実際に」
「難しい文章や言葉はね」
「実は中身なくてな」
そうしたものでというのだ。
「真実ちゅうのは」
「わかりやすいものね」
「そや、全くな」
それこそというのだ。
「そうしたもんや、御仏の教えもな」
「お寺の方も」
「大師様の言われることもな」
「わかりやすいのね」
「その実はな」
「そうなのね」
「それはどんな教えでもやろ、真理はな」
まさにというのだ。
「わかりやすいんや」
「そうしたものね」
「そやから神威もな」
彼もというのだ。
「難しく考えんで」
「小鳥と封真を護りたいならか」
「それでええやろ」
「人間か地球かではなく」
「そこから考えてもな」
「いいか」
「別にな、考えてもあれこれ難しく考えることはないんや」
特にというのだ。
「別にな」
「そうか、では今はな」
「二人のことからやな」
「考えていこう」
「そういうことでな、ではこれでだ」
天の龍達と話を聞いてだ、神威は今はそれでいいと頷いた。そのうえで彼等に対してこう言ったのだった。
「帰らせてもらう、邪魔をしたな」
「お家に帰られますか?」
「その前に二人の家に行く」
護刃に微笑んで答えた。
「そうする」
「そうされますか」
「晩飯を誘われていてな」
それでというのだ。
「ご馳走になる」
「それはいいですね」
「何でも軍鶏鍋を作ってくれるらしい」
微笑んでメニューも話した。
第十三話 母親その九
「今から楽しみだ」
「軍鶏鍋ですか」
「知っているか」
「はい、鶏は鶏でもです」
護刃は笑顔で話した。
「闘鶏に使う鶏で」
「それでか」
「はい、肉が引き締まっていてです」
それでというのだ。
「美味しいんですよね」
「そうなのか」
「それで坂本龍馬さんがお好きだったんですね」
護刃もこう言った。
「美味しいですよね」
「食ったことがあるのか」
「はい」
まさにというのだ。
「本当に美味しいですよ」
「そうなのか」
「ですから」
それでと言うのだった。
「是非です」
「食うべきか」
「はい」
神威ににこりと笑って答えた。
「お勧めです」
「そうなのか」
「実は私龍馬さん好きで」
護刃はこうも話した。
「本もよく読んでます」
「あの人について書かれたか」
「はい、恰好いいですよね」
「確かにな」
神威も否定しなかった。
「あの人は」
「何でも今もです」
世を去って久しいがだ。
「日本を護ってくれているそうですよ」
「そうなのか」
「他の偉人の人達と一緒に」
そうしているというのだ。
「どうやら」
「この東京もか」
「そうみたいですよ、上野に西郷さんの像がありますね」
「あれか」
「はい、靖国神社の前にはです」
護刃はさらに話した。
「楠木正成さんの像もありますね」
「そういえばそうか」
「他にもです」
護刃は右の人差し指を立てつつ話していった。
「大村益次郎さんもですね」
「像があるな」
「この方々もです」
「東京にあるか」
「その魂は今も」
「そして東京をか」
「ひいては日本もです」
国家もというのだ。
「お護りしているみたいですよ」
「そして龍馬さんもか」
「議事堂には板垣退助さん達の像もありますね」
「あの人達も同じか」
「龍馬さんの像は高知県にありますが」
「魂はか」
「日露戦争の時にです」
日本の命運を決したこの戦争においてというのだ、日本はこの戦争で敗れたなら滅亡は免れなかったと言われている。
「明治皇后の枕元に出たそうです」
「あの方のか」
「それで日本海海戦は勝つと」
その様にというのだ。
「言ったそうですよ」
「そうなのか」
「そうしたお話もありまして」
それでというのだ。
第十三話 母親その十
「龍馬さんは今もです」
「魂は日本にあるか」
「そして東京にです」
「そうか、天の龍と結界だけではないか」
神威はその話を聞いて考えて言った。
「東京を護っているのは」
「そうですね」
「その人達の魂もあるか」
「そして結界を助けているかと」
「そうなんだな」
「私は思います」
「この街は結界の街よ」
火煉はこう話した。
「様々なお寺や神社にね」
「ビルに公園に線路にな」
「橋もタワーもね」
「東京タワーだな」
「ええ、そうしたもの全てがね」
「結界だな」
「そうなっているのよ」
神威に微笑んで話した。
「そしてそこにね」
「偉人達の魂もか」
「あってね」
それでというのだ。
「この街も護っているのよ」
「そのことも覚えておくことだな」
「そうよ、そうしておいてね」
「わかった、では今夜はな」
「軍鶏鍋をなのね」
「食ってくる、あんた達はどうする」
「ああ、今日は焼肉やねん」
空汰が笑って言って来た。
「ここにおる全員でな」
「肉を焼いてか」
「サラダもあるし冷麺も食ってな」
神威に笑って話した。
「そしてや」
「楽しむか」
「そうするわ」
「それもいいな、ではお互いにな」
「美味いもんをな」
「楽しもう」
「そうしてこよな」
こうした話をしてだった。
神威は国会議事堂を後にして桃生神社に赴いた、そうして封真と小鳥に笑顔で迎え入れられてだった。
共に軍鶏鍋を食べた、神威は煮られた軍鶏の肉を食べて言った。
「これはな」
「美味いか」
「ああ」
共に食べる封真に微笑んで答えた。
「普通の鶏肉とはまたな」
「違ってだな」
「肉の弾力がよくてな」
それでというのだ。
「実にだ」
「それが軍鶏鍋のいいところなの」
笑顔でだ、小鳥も言ってきた。
「弾力があってね」
「美味いな」
「普通の鶏肉もいいけれど」
それでもというのだ。
「今回いい軍鶏肉を貰ったから」
「それでか」
「作ったみたの」
「そうだったか」
「ええ、本当によかったわ」
「龍馬さんの好物でか」
「余計に嬉しいわ」
こうもだ、小鳥は話した。
「本当にね」
「美味いからか」
「それに神威ちゃんも一緒だから」
このこともあってというのだ。
第十三話 母親その十一
「本当によ」
「嬉しいか」
「三人一緒で食べることもね」
「昼は二人でだな」
「どっちも嬉しいわ」
鍋の中の野菜を取りつつ話した。
「私もね」
「だからな」
封真は豆腐を食べつつ言って来た。
「これからもな」
「こうしてか」
「三人でだ」
夜はというのだ。
「食べないか」
「そうしていいか」
「遠慮はいい」
これはというのだ。
「もうな」
「そうか」
「だからな」
「明日もか」
「それからもな」
ずっと、そうした言葉だった。
「一緒にだ」
「食っていいか」
「そうして欲しい」
「そう言ってくれるか」
「心からな」
まさにというのだ。
「そうしたい」
「そうか、ならな」
「色々作るから」
小鳥がまた言ってきた。
「美味しくて身体にいいものをね」
「そうしてくれるか」
「小鳥の料理の腕は知っているな」
封真も続いてきた。
「昔からな」
「料理上手だったな」
「母さんの血を引いてな」
そうしてというのだ。
「そうだからな」
「そうだな、そういえばだ」
ここで神威は思い出した様に言った。
「叔母さんは確か」
「ああ、死んだ」
封真は悲しそうに答えた。
「お前も知っているな」
「そうだったな」
「そのお母さんの代わりにね」
小鳥も悲しい顔で言ってきた。
「私がね」
「家事をしていてか」
「お料理もね」
こちらもというのだ。
「毎日作っていてね」
「味だけでなくか」
「健康のことも考えてね」
そうしてというのだ。
「作っているから」
「そうなのか」
「だからね」
それでというのだ。
「神威ちゃんはお昼もで」
「夜もか」
「一緒に食べよう、その方がね」
「美味いしか」
「健康にもいいよ」
「俺は料理はな」
神威は少し苦笑いになって答えた。
「実はな」
「得意じゃないの」
「だからな」
それでというのだ。
「二人がそう言ってくれるなら」
「お昼は私がお弁当持って来て」
「夜はこうしてだな」
「三人で食べよう」
「それじゃあな」
「そうしたら俺も嬉しい」
封真も言ってきた。
第十三話 母親その十二
「やっぱり二人よりもな」
「三人でな」
「それで食べた方が寂しくない」
「二人だとか」
「父さんはまだ退院出来ないしな」
このこともあってというのだ。
「寂しいからな」
「だからか」
「お前が毎晩来て一緒に食べてくれるならか」
「嬉しいか」
「俺達にしてもな」
「それならな」
「明日は中華にするわね」
小鳥は料理の話をしてきた、神威の言葉を了承と受け取ってそのうえで彼に対して言うのであった。
「麻婆豆腐作るわね」
「その料理か」
「ええ、あと焼売も買って」
そうしてというのだ。
「そちらもね」
「出してくれるか」
「そうするね、中華もね」
このジャンルの料理もというのだ。
「いいわよね」
「そうだな、じゃあ明日もな」
「三人で食べよう」
「ならな」
「それで今はね」
「この軍鶏鍋をだな」
「食べようね、最後はね」
小鳥は鍋を食べつつ話した。
「雑炊がいい?」
「最後はか」
「そう、それにする?」
「頼む」
神威は微笑んで答えた。
「それならな」
「じゃあ雑炊にするわね」
「雑炊か、いいな」
封真も雑炊と聞いて言った。
「温まるからな」
「そうよね」
「それならな」
「最後はね」
〆はというのだ。
「雑炊にするわね」
「宜しく頼む」
「それで温まって」
最後の雑炊でもというのだ。
「お風呂に入って」
「寝るか」
「そうしましょう、ただ予習と復習もね」
小鳥はそちらの話もした。
「しないとね」
「そうだな、そちらも忘れたらいけないな」
封真は勉学のことにも応えた。
「俺達は学生だからな」
「そうよね」
「それじゃあな」
「ええ、夜はね」
「食べた後はね」
「それぞれお風呂に入ってな」
そしてというのだ。
「勉強もしてな」
「それから寝ましょう」
「そうしような」
「そういえば二人共成績はよかったな」
神威は勉学の話を聞いて言った。
「そうだな」
「まあ上位というとね」
「俺達はそうだな」
二人共言われて確かにという顔で応えた。
第十三話 母親その十三
「悪くはないな」
「そうよね」
「進学も考えているからな」
「二人共ね」
「大学もか」
神威はそう聞いて応えた。
「そうなのか」
「クランプ学園にな」
「そう考えているの」
二人は神威に微笑んで答えた。
「私もで」
「俺もだ、俺は推薦もな」
こちらもというのだ。
「充分にな」
「狙えるか」
「そうだしな」
「大学か」
「お前はどうするんだ?」
封真は軍鶏を食べつつ神威に尋ねた。
「お前も成績は悪くないな」
「一応な」
こう封真に答えた。
「そう言っていいな」
「それならな」
「進学もか」
「考えるといい」
それならというのだ。
「お前もな」
「そうか」
「世界を護るつもりだな」
「ああ」
やや俯いて答えた。
「どちらにしてもな」
「それならだ」
「戦いの後でか」
「大学に進学することもな」
「考えることか」
「一緒に行かない?」
小鳥はこう言ってきた。
「どうせならね」
「クランプ学園にか」
「それで大学でも三人でね」
「一緒にか」
「過ごそう」
こう言うのだった。
「そうしよう」
「悪くないな」
小鳥の言葉を受けてだった。
神威は自然とこの言葉を出した、そのことに気付かないまま彼女に対してさらに言葉を続けたのだった。
「それも」
「そう言ってくれるのね」
「ああ、三人でか」
「昔そうだったし」
「今もそうだしか」
「これからもね」
未来もというのだ。
「そうしていこう」
「それがいいか」
「若し神威ちゃんが地の龍になっても」
小鳥はそれでもと言った。
「人間を滅ぼしたい?」
「考えたこともない」
これが神威の返事だった。
「全くな」
「そうよね」
「そしてだ」
それにと言うのだった。
「小鳥もだ」
「護ってくれるのね」
「どちらにしてもな」
天の龍を選んでも地の龍を選んでもというのだ。
「そうする」
「人間を滅ぼすつもりもなくて」
「お前と封真はな」
「護ってくれるのね」
「そうするつもりだ」
「だったらね」
それならとだ、小鳥は神威の言葉を受けて述べた。
第十三話 母親その十四
「尚更よ」
「戦いの後はか」
「同じ大学に進んで」
「そちらでもか」
「一緒に過ごそう」
「それがいいな、ならな」
「うん、考えてね」
まさにと言うのだった。
「これからも」
「三人で暮らしていくことをか」
「そのことをね」
「そうしていく」
「俺も同じだ」
封真は優しい微笑みで言ってきた。
「お前と。そして小鳥とだ」
「三人でか」
「ずっと生きていきたい」
「そう考えているか」
「ああ、どうなってもな」
「そうか」
「そうしたい、何があってもな」
こう神威に話した。
「こうして一緒にだ」
「食事もか」
「していきたい」
鍋の中の豆腐を取って食べてから話した。
「何があってもな」
「そうか、なら俺はだ」
神威は意を決した顔になって話した。
「お前と小鳥を護る」
「そうしたいか」
「その選択をする」
こう言うのだった。
「何があってもな」
「そう出来る選択をか」
「したい」
こう言うのだった。
「是非な」
「ならその選択をすることだ」
「俺はだな」
「ああ、お前なら小鳥を護れる」
絶対にと言うのだった。
「それが出来る」
「俺ならか」
「俺がいない時もな」
その時もというのだ。
「出来る」
「そうなのか」
「間違いなくな、だからな」
それでというのだ。
「お前の選択なら俺は納得する」
「どちらでもか」
「小鳥を頼むぞ」
「お前はいいのか」
「俺か。俺は逆にだ」
神威に微笑みを見せて話した。
「小鳥そしてお前をだ」
「護るか」
「お互いを護っていいと思わないか」
「一方が護るだけでなくてか」
「ああ、お互いにな」
相手をというのだ。
「そうしてもな」
「いいか」
「そうじゃないか」
「言われてみればな」
確かにとだ、神威も頷いた。
「それでもいいな」
「そうだな」
「ならな」
「ああ、お互いを護ってな」
「小鳥もな」
「そうしていこう、小鳥は心臓が弱かったからな」
それでというのだ。
「俺達がだ」
「護ることだな」
「大丈夫よ、私はもう心臓がよくなったから」
だが、だった。
第十三話 母親その十五
小鳥もだ、こう言ってきたのだった。
「二人をね」
「護れるのか」
「そうなのか」
「別に戦うだけじゃないよね」
護るということはとだ、二人に言うのだった。
「そうよね」
「それはな」
「そうだな」
二人も言われて頷いた。
「確かにな」
「そうなるな」
「だからね」
それでというのだ。
「私は戦うこと以外でね」
「俺も封真もか」
「護ってくれるか」
「そうしたいわ」
是非にというのだ。
「これからね」
「そうか」
封真はその言葉を受けて笑顔で述べた。
「なら俺も同じだ」
「私を護ってくれるのね」
「そして神威もな」
こう言うのだった。
「そうする」
「お兄ちゃんもなのね」
「何があってもな」
例え、そうした言葉だった。
「そうする、この世界のことも大事だが」
「まずはなのね」
「そうだ、お前と神威をな」
「護ってくれるのね」
「そこからだ。大切な人を護れないとな」
それこそというのだ。
「誰かを護れるか」
「無理っていうのね」
「そうも思うからな」
だからだというのだ。
「俺はまずはそうしたい」
「私と神威ちゃんをなのね」
「ああ、そう考えている」
「そうだな、身近な大切な人を護れてこそだ」
神威も頷いた。
「世界を護れる」
「そうなるな」
「大切な人を護れないとな」
さもないと、というのだ。
「何もだ」
「そして世界もな」
「そう思う、なら俺の選択は一つだ」
「小鳥を俺を護る方をだな」
「選ぶ、そのうえでだ」
「世界を救うか」
「そうする」
「それならそうすることだ、ではな」
「もう中のもの全部食べたしね」
そうしたからとだ、小鳥は話した。
「後はね」
「雑炊か」
「それにするわね」
神威に笑顔で話した。
「これからね」
「わかった、それならな」
「皆で食べよう」
「雑炊もな」
二人で笑顔で話した、小鳥は具が全てなくなった鍋の中にご飯を入れてそのうえでとき卵を入れて混ぜた、そうしてだった。
第十三話 母親その十六
それぞれの器に入れて食べはじめた、神威は雑炊を食べて言った。
「美味いな」
「軍鶏や野菜、茸の味がよく出ていてな」
「豆腐の風味もするな」
「だからな」
封真も食べつつ応えた。
「この通りだ」
「美味いな」
「軍鶏鍋って雑炊も美味しいから」
小鳥も言ってきた。
「だからね」
「こうしてか」
「私も軍鶏のお肉が手に入ったらね」
「鍋にしてか」
「食べてるの」
神威に話した。
「そしてね」
「そして?」
「カレーにもいいのよ」
軍鶏の肉はというのだ。
「お肉に弾力があるからね」
「だからか」
「普通の鶏肉もいいけれど」
「軍鶏もか」
「またいいのよ」
「龍馬さんもこうして食べていたんだな」
封真も彼の名前を出した。
「そうだな」
「そうよね、やっぱり」
「暗殺された時は残念だったがな」
「その時まではね」
「機会があればな」
「食べていたわね」
「そういえばだ」
ここでだ、封真は小鳥に応えて話した。
「あの人実は板垣退助さんとは会っていないな」
「あの人の銅像があったな」
神威は板垣退助と聞いて言った。
「議事堂に」
「そうだ、あそこにはあの人の像もあるな」
「他の人の像もでな」
「そうだったな」
「あの人は龍馬さんと同じ土佐藩だったな」
「それでもだ」
同じ藩に生まれ育ってもというのだ。
「龍馬さんは武士でも元々商人でだ」
「大金持ちだったな」
「だが身分は低かった」
郷士という武士としてはそうした立場だったのだ。
「対する板垣さんは上士でだ」
「身分が高かったか」
「その為暮らしている場所も違っていた」
同じ高知城下でもだ。
「それで会ったことはな」
「なかったか」
「お互いのことは知っていたが」
このことは間違いなかった。
「板垣さんは龍馬さんの脱藩の罪を取り消す様に動いていたしな」
「そうしたことをしていたのか」
「龍馬さんも同志の志士の人達に板垣さんを紹介している」
「会ったことはなくてもか」
「お互い凄い人物がいると聞いていてな」
そうしてであったのだ、よく創作で二人は幼い頃に出会っていて板垣が龍馬を身分をかさにいじめていたというものがあるがそうしたことはなかったのだ。
「認め合っていたらしい」
「そうだったのか」
「同じ土佐藩の人でもな」
「東京を護る様に像があったりしてもか」
「直接関係はなかった」
「会ったことすらなかった程か」
「だがお互い嫌ってはいなかったことはな」
むしろ認め合っていたことはというのだ。
第十三話 母親その十七
「事実だ」
「そうなのだな」
「何か漫画とかだとね」
小鳥はその話をした。
「板垣さん酷い人だったりして」
「龍馬さんをいじめているな」
「子供の頃からね」
「上士の身分を嵩に来てな」
「龍馬さんのお友達にも酷いことするけれど」
「あれは嘘だ、板垣さんも立派な人だった」
封真は妹に雑炊を食べつつ答えた。
「まっすぐでな」
「そうだったのね」
「龍馬さんは器が大きくてな」
「あの人はそうした人だったの」
「やんちゃだったそうだが」
幼い頃は結構な暴れ者だったらしい。
「だがそれでもな」
「悪い人じゃなかったのね」
「むしろ立派とな」
「言っていい人で」
「卑怯なことや残忍なことはしなかった」
「漫画と実際は違うのね」
「あくまでな」
創作は創作、事実は事実だというのだ。
「そうだ」
「そのこと覚えておくことね」
「ああ、学校の授業には出ないがな」
「面白いからね」
「そして二人共今は東京を護っていてくれているか」
神威は自身の戦いのことから述べた、運命のそれを。
「そういうことか」
「そうなるな」
「そうか、会ったことはない人同士でもか」
「想いは同じだな」
まさにというのだ。
「今は」
「東京そして世界を護る」
「その想いはな」
こうした話をしながら雑炊も食べてだった。
その後でだ、神威は帰ることにしたが二人は彼を玄関まで見送った、そのうえで二人に対して微笑んで話した。
「また明日な」
「うん、お弁当持って来るわね」
「頼む」
小鳥に笑顔のまま応えた。
「そしてだな」
「また一緒に食べようね」
「そうしよう」
「そして夜はだ」
封真はこちらの話をした。
「こうしてだ」
「三人でんだな」
「食べよう、いいな」
「わかった、ならな」
「また明日だ」
「一緒に食おう」
「そして話をしよう」
「そうしていこう」
こうした話をしてそうしてだった。
神威は二人と別れ家を後にした、今は満ち足りた気持ちで家に帰ることが出来た。
第十三話 完
2023・1・23
第十四話 添星その一
第十四話 添星
封真は部活を終えて家に帰る時にだった。
草薙と擦れ違った、すると。
その瞬間にお互いを振り返った、そのうえでそれぞれ言った。
「貴方は」
「あんたは」
二人共驚いた様にお互いを見た、そして向かい合って話をはじめた。
「何か違うな」
「そうですね、その服装は自衛隊の方でしょうか」
「ああ、志勇草薙っていうんだ」
草薙は微笑んで名乗った。
「陸上自衛隊に所属している」
「やはりそうですか」
「仕事が終わってな」
そしてというのだ。
「今家に帰る途中だ」
「そうですか」
「独身だから本当は隊舎住まいだけれどな」
草薙は手振りを入れて話した。
「部屋を借りてな」
「そちらにですか」
「住んでるんだよ」
「そうですか」
「気楽なものさ」
草薙は明るく笑ってこうも話した。
「一人暮らしで食事もな」
「自衛隊の方で、ですか」
「三食ちゃんと出るからな」
だからだというのだ。
「量も栄養管理もしっかりしていてな」
「心配なくですか」
「食えるからな」
「そうですか」
「部屋に帰ったらな」
そうすればというのだ。
「後はくつろぐだけだよ」
「お部屋で、ですね」
「そうさ、しかしあんたは」
「何でしょうか」
「いや、俺に似てるな」
こう言うのだった。
「顔じゃなくて持っているものがな」
「それがですか」
「そう思った、若しかしてな」
「?まさか」
「ああ、俺はな」
まさにと言うのだった。
「地の龍の一人なんだよ」
「そうですか」
「地球を護るな」
「そして人間を滅ぼす」
「ああ、そうさ」
人間を滅ぼすという言葉にはだ。
草薙は目を左にやってやや俯き苦い顔になってだった、そのうえで封真に対して苦い声で話したのだった。
「俺もな」
「そうですか」
「そしてあんたは」
「まだ誰にも話していませんが」
「それでもか」
「実はです」
「天の龍か、それとも」
封真を見て話した。
「俺と同じか」
「まだ決まっていません」
「そうなのか、あんたは」
「はい、ご存知ですね」
「添え星か」
「そちらです」
「もう知ってるんだな」
「父に教えられました」
封真はこのことも話した。
「そう」
「そうか、なら俺とも今後はか」
「敵になるかも知れませんし」
「味方にもか」
「なるかも知れません」
「そうなんだな、正直悪い印象は受けないな」
封真から感じたことをそのまま述べた。
第十四話 添星その二
「あんたからは」
「そうですか」
「ああ、ただ俺達と一緒になるとな」
「地の龍にですね」
「そうなったらな」
その時はというのだ。
「いいな」
「はい、人間をですね」
「滅ぼす」
「そして俺の場合は」
封真は真剣な顔になって述べた。
「妹を」
「まさか妹さんを」
「いえ、それはしません」
強い声での返事だった。
「そう誓いましたから」
「だからか」
「それはです」
断じてというのだ。
「誓って」
「ならそうしてくれ、例え人間を滅ぼすことになってもな」
「そのうえで地球を救おうとも」
「惨いことはしないことだ」
草薙は切実な顔で述べた。
「人間を滅ぼすことが罪でもな」
「それでもですね」
「罪にも色々あるだろ」
こう封真に言うのだった。
「それでな」
「惨い罪はですか」
「しない方がいいだろ」
「だからですね」
「ああ、あんたもな」
「妹を殺すつもりがないなら」
「その気持ちを貫いてくれ」
封真に強い声で話した。
「いいな」
「そうなる様にします」
「頼むな」
「はい、本当に」
「そういうことでな、じゃあまたな」
「お会いしますね」
「そうなるな、けれどな」
それでもとだ、草薙は封真にこうも話した。
「俺は出来ることならな」
「わかります、貴方は人間は嫌いでないですね」
「ああ、他の生きもの達もな」
その全てをというのだ。
「だから自衛官になったしな」
「護る為に」
「自衛官も軍人でな」
この仕事にあってというのだ。
「それでな」
「そのうえで、ですね」
「戦いだってな」
これもというのだ。
「護る為なんだよ」
「祖国とですね」
「そこにある命をな」
「そうですね」
「だから災害になったらな」
その時はというのだ。
「まさにだよ」
「真っ先にですね」
「出動するんだよ」
「そうですね」
「だから自衛官になったんだ」
草薙は悲しい目になって話した。
「誰かを護りたくてな」
「それで、ですか」
「俺はこの通り身体が大きくてな」
そしてというのだ。
第十四話 添星その三
「パワーもあって力もな」
「地の龍としてですね」
「それがあったからな、ガキの頃からいじめとか観るとな」
その時はというのだ。
「いじめられている子を助けて困っている相手もな」
「見捨てなかったですか」
「そうした性分でな」
それでというのだ。
「ずっとだよ」
「そうされていましたか」
「ああ、それでな」
そのうえでというのだ。
「成長してきて自衛隊に入って」
「護る為にですか」
「訓練も受けてきて災害が起こってもな」
その時もというのだ。
「出ていたよ」
「そうでしたか」
「俺の力は人間そして他の命もな」
「護る為とですね」
「思っていたさ、けれどな」
「地の龍と知って」
「今複雑な気分だよ」
封真に今度は難しい顔で話した。
「どうもな」
「そうですか」
「ああ、地球の声は聞こえるさ」
「悲鳴を挙げていますか」
「痛いってな、けれどな」
「地球を救う為にですね」
「そこにいる多くの命まで犠牲にしてもいいのか」
こう言うのだった。
「人間が傷付けていても人間だってな」
「悪人ばかりか」
「心底の悪人だっているさ」
草薙も否定しなかった。
「そうした奴もな、けれどな」
「僅かですね」
「人間ってのは大抵はおおむね善と悪を両方持っていてな」
そうしてというのだ。
「その時で善人になったりな」
「悪人にもなりますね」
「そして心底の悪人よりもな」
「生粋の善人の方が多いですね」
「ああ、地球のことを真剣に考えている人間だってな」
そうした人物もというのだ。
「かなりいるしな」
「そうした命まで犠牲にしていいか」
「何十億もな、人間と暮らしている犬や猫だってな」
彼等もというのだ、草薙は実際にそうした命のことも考えてそのうえで今封真に対して語るのだった。
「いるんだ、空を飛ぶ鳥だってな」
「犠牲になりますね」
「海の魚もな、そんな命までな」
「犠牲にしていいのか」
「そう思ってな」
それでというのだ。
「俺はな」
「地の龍としてですか」
「働くことにな」
どうにもというのだ。
「気が進まないんだよ」
「そうですか」
「ああ、どうしたものか」
今度は困った顔で話した。
「俺も考えてるさ」
「地の龍として地球を護り」
「多くの命を犠牲にすべきかってな」
「そうした考えもありますか」
「ああ、けれど時が来れば」
「その時はですか」
「仲間達のところに行ってな」
そうしてというのだ。
第十四話 添星その四
「行くな」
「そして俺も」
「あんたも片方が選ぶとだよな」
「もう片方にとなります」
「そうだよな、若しな」
「あいつが天の龍を選べば」
その時はというのだ。
「俺はです」
「あんたはな」
「地の龍になりますので」
「その時は宜しくな、しかしな」
「無駄に命を奪うことはですね」
「お互いにしないでいような」
こう言うのだった。
「くれぐれも」
「はい、何があっても」
「俺も気をつけるしあんたもな」
「そうします」
「お互い気をつけような」
無駄な命を奪わない様にというのだ。
「相手だって生きていて心があるんだ」
「その通りです」
「死んだら悲しむ相手だっているんだ」
「誰でも」
「ああ、それならな」
「無駄に命を奪わないことですね」
「そうだよ、じゃあまたな」
草薙はここまで話してあらためて言った。
「会おうな」
「そうしてですね」
「話そうな、機会があれば酒か俺としては」
草薙は微笑んで話した。
「甘いものをな」
「一緒にですか」
「実はそっちの方が好きなんだよ」
封真に照れ臭そうに話した。
「酒も嫌いじゃないがな」
「むしろですか」
「ああ、そっちの方がな」
甘いものの方がというのだ。
「好きでな、だからな」
「機会があればですね」
「その時はな」
「一緒に甘いものを」
「パフェでもプリンでもアイスクリームでもな」
草薙は洋菓子を出していった。
「食おうな」
「いいですね、では」
「またな」
「はい、お会いしましょう」
こう話してそうしてだった。
二人は別れた、そしてその夜だった。
封真は夢で牙暁の訪問を受けた、彼もまたまずは名乗り。
そのうえでだ、封真に話した。
「僕は戦えないですが」
「こうしてですか」
「人の夢に出てです」
そうしてというのだ。
「お話が出来て未来もです」
「観られるのですね」
「はい」
そうだとだ、牙暁は答えた。
「左様です」
「そうですか」
「ですから」
「こうしてですね」
「今貴方の夢にお邪魔して」
そうしてというのだ。
「お話をしに来ました」
「そうですか」
「貴方は添え星であり」
そしてというのだ。
第十四話 添星その五
「彼が選んだ道とです」
「もう一つの道にですね」
「進む運命です」
「わかっています」
「若し彼が天の龍を選べば」
「俺は小鳥を殺しますね」
「彼の目の前で」
「十字架にかけられた妹を」
「その手で」
まさにというのだ。
「そうします」
「そうなるのが運命ですね」
「彼が天の龍を選べば」
「そしてあいつが地の龍を選べば」
「今度は彼がです」
「小鳥を殺しますね」
「貴方の目の前で」
牙暁は目を閉じて述べた。
「まさにです」
「逆にそうなりますね」
「そうなります、これもです」
「俺達の運命ですね」
「そして戦い合い」
「殺し合いますね」
「それが貴方達の運命です」
こう言うのだった。
「二人の神威の」
「俺もまた神威なので」
「だからです」
まさにという返事だった。
「貴方達の思惑をです」
「外れて」
「そのうえで」
「そうはならないです、いえ」
「いえ?」
「しません、俺も神威も」
封真は夢の中で俯いていた、だがその中で強い声で述べた。
「それはです」
「ないというのですか」
「はい」
こう牙暁に言うのだった。
「あいつは言いました、決してです」
「彼女を殺さないと」
「護るとです」
その様にというのだ。
「約束しました、そして俺もです」
「約束しましたか」
「あいつにもそうで」
そしてというのだ。
「小鳥にもそしてです」
「貴方自身にもですか」
「そうしました、ですから」
「それで、ですか」
「俺もあいつも地の龍になっても」
その時もというのだ。
「絶対にです」
「彼女を殺しませんか」
「そうします、護ります」
「そうですか」
「例え地の龍になっても」
またこう言うのだった。
「小鳥は殺さずあいつにです」
「彼女を委ねますか」
「そうします」
こう言うのだった。
「誓いましたから」
「運命を変えるのですか」
「運命は変えられないものですか」
封真は北暁の顔を見て彼に問う様にして言った。
「果たして」
「僕は絶対とです」
「思っていますか」
「今は違うかもとです」
その様にとだ、牙暁は目を閉じて答えた。そのうえで封真に対して深く考える顔になりこうも言った。
第十四話 添星その六
「思っています」
「かも、ですか」
「貴方のお父上を見て」
「父さんを」
「死ぬ筈だったのが」
それがというのだ。
「生きておられますね」
「入院していますが」
それでもというのだ。
「確かにです」
「生きていますね」
「命に別状はありません」
「そうですね、実はです」
「父は、ですか」
「死ぬ筈だったのです」
彼の運命はというのだ。
「そうだったのです」
「そうでしたか」
「それがです」
その筈がというのだ。
「生きているのですか」
「運命は変わると」
「これは剣を手に入れる様に言った人の指示によるものでしたが」
「地の龍の関係者ですね」
「おわかりですか」
「証拠はなかったですが」
それでもというのだ。
「察していました」
「そうでしたか」
「やはりそうでしたか」
「その人が殺さない様にとです」
庚の名前は伏せて話した。
「その様に言われたので」
「父さんは殺されなかったのですね」
「はい、ですが運命では」
「殺される筈でしたか」
「どうもその人が無駄な殺生を好きでなく」
「人間を滅ぼすのにですか」
「そこは」
庚の真意はだ、夢の中なので嘘は言えないが心の中の箱に入れてそのうえで話した。嘘は吐けないがそれは出来るからだ。
「おいおい」
「わかることですか」
「はい、それでなのですが」
「父さんは助かった」
「運命は絶対の筈で」
「死んでいた筈なのに」
「変わったのですから」
そのことを見たからだというのだ。
「ですから」
「今はですか」
「絶対とはです」
その様にはというのだ。
「違うのではないかとです」
「思われていますか」
「絶望してきました」
牙暁は目を閉じてこうも言った。
「これまで」
「運命を見てきて」
「そうしてきたので」
だからだというのだ。
「変わらず無惨に死ぬ人を」
「見てきましたか」
「その時からです」
北斗のことを思いつつ言うのだった。
「僕は運命は変わらないと思い」
「そしてですか」
「そのうえで、です」
「絶望してきましたか」
「そうでした」
封真に目を閉じたまま答えた。
「これまで、ですが」
「父さんのことで」
「若しやとです」
「思われていますか」
「そうなっています」
まさにというのだ。
第十四話 添星その七
「世の中には偶然はありません」
「そうなのですか」
「全ては必然であり」
起こるべくして起こってというのだ。
「そうですが」
「それで運命もですか」
「全てです」
まさにというのだ。
「必然で起こるべきしてです」
「全て起こっていますか」
「お父上が死ななかったことも」
「必然ですね」
「そうですが」
それがというのだ。
「貴方もですか」
「若し地の龍になっても」
「妹さんを殺しませんか」
「そしてあいつにです」
神威にというのだ。
「護ってもらいます」
「そうされますか」
「あいつが天の龍になれば」
「では貴方が天の龍になれば」
「あいつは小鳥を殺しませんから」
「護ると誓ったので」
「その意志は絶対です」
まさにというのだ。
「ですから何があってもです」
「彼もですか」
「小鳥は殺しません、そしてその時は」
「貴方が彼女を護る」
「そうします、何もです」
それこそというのだ。
「心配はです」
「不要ですか」
「貴方は」
「そうだといいですが。実は僕はです」
牙暁はまた目を閉じて話した。
「地の龍のお一人、そして天の龍のお一人に」
「二人にですか」
「まつわる人のことですが」
こう話すのだった。
「その人は弟さんを護る為にある人にです」
「殺されたのですね」
「わかりますか」
「今のお話から」
そこからというのだ。
「わかります、ですから」
「それで、ですか」
「貴方達のこともです」
「心配なのですね」
「そうです、残念なことに」
牙暁は封真にさらに話した、目を閉じたうえで語るその声はこれ以上はないまでに悲し気なものだった。
「その人とは今もお友達ですが」
「その人が死んでも」
「そうです、その人を助けたかったですが」
「助けられませんでしたか」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「その人は殺され」
「今はですね」
「僕と夢の中でお話しています」
「そうなっていますか」
「出来れば」
牙暁はその声のまま話した。
「その人とは生きてです」
「夢の中で、ですね」
「今もです」
「お話したかったですか」
「三人共助かり」
「そのうえで」
「そう考えていましたが」
それがというのだ。
第十四話 添星その八
「その人は殺され実は」
「地の龍と天の龍の二人は」
「三人で固く親しい絆を築いていましたが」
「その絆もですか」
「今はです」
「なくなったのですね」
「三人の絆がです」
まさにというのだ。
「なくなりました、そして地の龍と天の龍なので」
「戦うことになりますか」
「そうなります、それもです」
「運命ですか」
「そしてその運命では」
さらに言うのだった。
「地の龍は天の龍にです」
「倒されるのですね」
「そうなります、そして」
「そして、ですか」
「天の龍はそこから地の龍にです」
「なりますか」
「そうなります、出来れば」
今度は辛い声になってだ、牙暁は話した。
「僕はそうなる運命をです」
「変えたかったですか」
「それが出来なかった、そして」
その時にというのだ。
「運命の強さをです」
「感じたのですか」
「ですがそれが」
「父さんのことで」
「変わるかもとです」
その様にというのだ。
「今はです」
「考えておられますか」
「そうなっています」
こう話すのだった。
「幸い」
「そうですか」
「出来れば」
ここでだ、また言う牙暁だった。
「彼等の運命もです」
「その二人のそれもですね」
「はい、変わることをです」
「願っておられますか」
「運命が変わるなら」
それならというのだ。
「希望も持てます」
「変わらないのならですか」
「全てがそうなるのなら」
決まっていてというのだ、あらかじめ。
「それででどうしてです」
「希望が持てるかですか」
「持てないですね」
「確かに」
封真も否定しなかった。
「そうであるなら」
「僕はその時にそうなったことを見て」
「それからもですか」
「多くの運命を見てきたので」
変わらないそれをというのだ。
「この様にです」
「考えているのですね」
「僕は人間も他の命も好きです」
「草薙さんと同じく」
「はい、地の龍ですが」
それでもというのだ。
「今のこの世界がです」
「好きですか」
「ですから出来ればです」
己の気持ちを隠さず話した。
「残って欲しいとです」
「お考えですか」
「左様です」
まさにというのだ。
第十四話 添星その九
「その様に。ですから」
「運命もですね」
「変わることをです」
「望まれていますか」
「ですから是非」
「俺達はですね」
「そのお心を忘れないで下さい」
絶対にというのだ。
「お互いを護り合う気持ちを」
「その気持ちを」
「そうすれば」
「運命はですか」
「変わります」
こう封真に言った。
「僕はそれをです」
「望まれていますか」
「無理だとです」
その様にというのだ。
「思いつつも期待もです」
「していますか」
「希望は持っていいですね」
封真に問う様にして言った。
「そうですね」
「希望は誰でもです」
「持っていいですね」
「俺はそう思いますが」
「そうですね。では」
「貴方もです」
牙暁に微笑んで話した。
「希望は持たれていいとです」
「思われていますか」
「ですから」
それ故にというのだ。
「貴方もです」
「そうですね、では」
牙暁は微笑みになった、そのうえで封真に応えた。
「貴方達にです」
「希望を持たれて」
「見守らせてもらいます」
「そうしてくれますか」
「はい」
まさにというのだ。
「そして希望がです」
「適い」
「貴方達が敵味方に別れても」
そうなってもというのだ。
「再びです」
「三人で、ですね」
「幸せになれることをです」
「願ってくれますか」
「そうさせて頂きます」
「そうですか、では」
「はい、それでは」
封真に微笑んで話した。
「貴方が地の龍になりましても」
「その時もですね」
「希望を持って」
そのうえでというのだ。
「共にいさせてもらいます」
「そうですか、では」
「はい、今から貴方は深い眠りに入り」
「夢もですか」
「見なくなりますが」
そうなるがというのだ。
「また」
「こうしてですね」
「お会いしましょう」
「それでは」
こう話してそしてだった。
牙暁は今は封真の前から姿を消し封真は深い眠りに入った、その次の日は休日で試合があったがその試合をだ。
小鳥は観戦しに行ったか会場の入り口でだ。
「神威ちゃん来てくれたのね」
「ああ」
神威は小鳥に微笑んで答えた。
「そうさせてもらう」
「そうなのね、それじゃあ一緒にね」
「試合を観るか」
「そうしよう」
神威に微笑んで提案した。
第十四話 添星その十
「今日はね」
「そうだな、こうして会ったしな」
「じゃあ一緒にね」
「観戦しよう」
「そうしよう」
「それじゃあね」
こうした話をしてだった。
二人で会場に入った、すると封真はというと。
抜群の運動神経を見せて活躍していた、二人でそれを観ていて封真もそれに気付いて微笑んでいたが。
同じ会場の観客席でだ、庚が遊人と颯姫それに哪吒を連れてだった。
封真を観ていた、そのうえで三人に話していた。
「彼がね」
「はい、添星ですね」
「そう、もう一人の神威よ」
こう遊人に話した。
「彼がね」
「そうですね」
「神威がね」
既に彼が会場にいることは知っている、それで彼の方に顔を向けて話した。
「一つの道を選べば」
「彼はもう一つの道に入りますね」
「そうなるわ、どちらにしてもね」
「七人ずつとなりますね」
「天の龍と地の龍はね」
「そうですね」
遊人は微笑んで答えた。
「まさに」
「だからね」
「僕達は神威君か彼か」
「どちらかを迎えることになるわ」
「左様ですね」
「だから」
庚はさらに言った。
「私達はよ」
「はい、どちらの人が来ても」
「暖かく迎えましょう」
「それでは」
「ただ」
今度は哪吒が眉を曇らせて話した。
「あの人は」
「ええ、私が貴方を行かせたね」
「あの神社の人ですね」
「貴方が斬った人の息子よ」
「そうですね」
「そのことを知っているから」
それでとだ、庚は哪吒に真面目な顔で答えた。
「私もよ」
「僕にですか」
「あの人を殺させなかったのよ」
「そうだったんですね」
「後で仲間になるかも知れない人の肉親を殺すこともね」
「よくないですか」
「どうも後味が悪いわ」
そうだというのだ。
「そしてやっぱりね」
「無駄な殺生はですか」
「しないに越したことはないから」
この考えもあってというのだ。
「そうしたのよ」
「そうですか」
「ええ、あの人は戦いが終わる頃にはね」
庚は哪吒を落ち着かせる様に話した。
「傷は癒えて退院出来るわ」
「そうですか」
「だからね」
それでというのだ。
「安心してね」
「わかりました」
「本当に無駄な殺生はね」
それはとだ、庚はまた話した。
「しないことよ」
「人間を滅ぼしても」
「殺すことは楽しむものではないわ」
「じゃあ何の為に殺すんですか?」
「必要だからよ」
それが為にとだ、庚は答えた。
第十四話 添星その十一
「だからよ」
「必要だから」
「そうよ、だからね」
「そうですか」
「必要だから。おかしいわね」
颯姫は庚の今の話に目を向けて言った。
「人間だけはね」
「自分の為にというのね」
「命を奪う、殺すんじゃないかしら」
「人間だけかしら」
これが庚の返答だった。
「果たして」
「どういうこと?」
「それがわかることもね」
このこともというのだ。
「大切よ」
「そうなの」
「地の龍としてね」
颯姫に目を向けたまま笑わず話した。
「そうよ」
「人間だけじゃない」
「ええ、それがわかることもね」
「わかっているわ」
颯姫は今は何も思わず答えた。
「人間は地球を汚して壊して」
「他の命を奪う存在ね」
「だからね」
そうした存在だからだというのだ。
「地球にはよ」
「いらないっていうのね」
「ええ」
そうだというのだ。
「全くね」
「それがどうかわかることも」
「大切なの」
「そう言っておくわ」
「地の龍として」
「そうよ、今私が話したことを覚えてくれるなら」
それならともだ、庚は話した。
「貴女にとってとても大きなことになるわ」
「そうなの」
「きっとね、私は人間が嫌いではないわ」
庚は颯姫に自分が思っているこのことも話した。
「決してね」
「人間を滅ぼしても」
「そうする立場にいてもね」
姉への本心を今は隠しつつ述べた。
「そうなのよ」
「嫌いでも軽蔑もしていないのね」
「憎くも思っていないわ、だから貴方達とも一緒にいるのよ」
そうだというのだ。
「そして知事さんも助けているのよ」
「秘書として」
「そうもしているのよ、今の知事さんは確かで人柄も真面目だから」
そうした人物だからだというのだ。
「秘書としてお仕事をしていても」
「いいのね」
「どうも東京はおかしな知事さんも出ているから」
庚はこうも話した。
「前の知事さんと前の前の前の知事さんとね」
「前の知事さんはタレント出身で」
遊人が思い出す様に言ってきた。
「前の前の前、三代前になりますね」
「あの人もね」
「人気はありましたが」
「政治家としてはね」
即ち都知事としてはというのだ。
「マスコミ人気はあったけれど」
「政治家としてはゼロでしたね」
「その失政が今でも残っている位だから」
「よくはなかったですね」
「今の人は元々作家さんね」
「そうですね、あの人は」
「だから有り難いわ」
遊人に現在の知事のことを微笑んで話した。
第十四話 添星その十二
「凄くね」
「それは何よりですね」
「部下としてもね。厳しい一面もあるけれど」
「庚さんにとってはですね」
「いつも感謝してもらってるわ」
「そのお仕事ぶりに」
「逆にね。求められるものにはよ」
仕事のそれにはというのだ。
「それ以上で応えるのが私のやり方だから」
「それで、ですね」
「いつも感謝してもらって」
「楽しくですね」
「お仕事をさせてもらっているわ」
「それは何よりですね、働く喜びですね」
「ええ、働いていると」
それならというのだ。
「それ自体がね」
「喜びですね」
「何かを出来ているという実感もあって」
このこともあってというのだ。
「充実しているわ」
「僕もです、周りにもです」
職場のとだ、遊人は自分のことも笑顔で話した。
「有り難く思ってもらっていますし」
「だからよね」
「お仕事もです」
「充実していてね」
「楽しくやらせてもらっています」
「それは何よりね」
「はい、本当に」
こう答えるのだった。
「まことに」
「ええ、ではお仕事もね」
「頑張っていきましょう」
「お仕僕達のお仕事は」
哪吒が言ってきた。
「やっぱり」
「ええ、勉強がよ」
「それがですね」
「貴方達のお仕事よ」
庚は哪吒の言葉に答えた。
「それを充実させられるとね」
「楽しんで、ですね」
「それに越したことはないわ」
「僕も最近です」
哪吒は学生としての自分のことを話した。
「成績は前からですが」
「よかったのね」
「それにお友達も出来てきて」
「楽しいのね」
「お話してみますと」
学校の友人達と、というのだ。
「とてもです」
「いいでしょ」
「はい、このままです」
「学校にいたいわね」
「最後まで」
「いいことよ、そうした学園生活をね」
「送ることもですね」
庚に自分から話した。
「いいですね」
「楽しみなさい、楽しめば」
そうすればというのだ、庚は封真の活躍を見つつ哪吒にも顔を向けつつそのうえで彼にも話すのだった。
「人間としてそこからも学べるから」
「人間としてですか」
「ええ、そうなるから」
だからだというのだ。
「いいからね」
「それじゃあ明日もです」
「行ってきなさい」
その学校にというのだ。
「いいわね」
「そうしてきます」
「ええ、本当にね」
「それではね」
「学校はいいのかしら」
考える顔になってだ、颯姫は言った。
第十四話 添星その十三
「本当に」
「僕はいいと思う様になったけれど」
「そうなの、私は特に」
「思わないんだ」
「特に」
こう哪吒に答えた。
「楽しくとも何ともないわ」
「そうなんだ」
「勉強もスポーツも退屈で」
それでというのだ。
「思うところはね」
「何もないんだ」
「そうなの」
これといってというのだ。
「本当にね」
「そうなんだ」
「だから貴方のお話を聞いても」
それでもというのだ。
「わからないわ」
「僕と違って」
「そうなのよ」
「そうなんだね」
「喜びとか悲しみとか苦しみとか」
そうした感情もというのだ。
「これといってね」
「感じないんだ」
「これまでの貴方と同じかしら」
無表情、能面の様なそれで話した。
「私は」
「僕は今は違うのかな」
「ええ、明らかにね」
「感情が出ているんだ」
「そうなっているわ」
「だとしたら嬉しいかな」
「そう思うこと自体がよ」
嬉しいと、というのだ。
「私にはないわ、そして身に着けようともね」
「思わないんだ」
「一切ね、感情は必要かしら」
人間にはというのだ。
「果たして。そして人間も」
「必要か」
「世界に。人間だけが他の命を奪うから」
こうも言うのだった。
「地球を汚して壊すから」
「いらないんだ」
「そうも思うわ」
「そうしたこともわかるわ、人間を知ってこそね」
庚がまた言ってきた。
「地の龍として動けるということもね」
「そうなるのね」
「ええ、知っていって」
これからというのだ。
「そうしてね」
「そうはならないと思うわ」
「今はそう言っていいわ」
庚は笑顔で話した、そしてだった。
封真の試合を観ていった、試合は彼の活躍で勝った。それが終わってからだった。
封真は仲間達と共にロッカーに終わって着替えようとするがその前にトイレに行った。それで一人になりあらためてロッカーに向かうと。
そこで庚達が前にいた、彼はロッカーに向かう途中で彼等と会ったが。
即座にだ、理解した顔になって言った。
「貴方達が」
「ええ、わかるわね」
「地の龍の」
「そうよ」
庚は封真に妖しく微笑んで答えた。
「私達こそがね、私は地の龍ではないけれど」
「束ねる立場ですか」
「庚よ。覚えておいて」
「麒飼遊人です」
次に遊人が名乗った、彼も微笑んでいる。
「宜しくお願いします」
「八頭司颯姫」
颯姫は無表情だった。
第十四話 添星その十四
「初対面ね」
「哪吒です」
哪吒も無表情だが目の光は動いているのが颯姫と違う。
「塔城霞月とも呼んでいいです」
「そうか、前に地の龍の人とも会ったが」
「彼ね」
草薙だとだ、庚はすぐに察した。
「元気だったかしら」
「ええ、とても」
「それならいいわ、だったらね」
「いいですか」
「やがて私達のところに来てくれるから」
だからだというのだ。
「元気ならね」
「そうですか」
「待っているわ、そして私達は今は挨拶に来たのよ」
「添星である俺に」
「やがて彼にも挨拶をするわ」
神威にもというのだ。
「今は同じ場所にいてもまずはね」
「俺とですか」
「会って別の機会にね」
「あいつとも会って」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「挨拶をさせてもらうわ」
「そうですか」
「どちらにしろ私達は顔を見合わせていくわ」
「天の龍でも地の龍でも」
「貴方達がそれぞれどちらになってもね」
それでもというのだ。
「会うことになるわ」
「そうですか」
「だからね」
それでというのだ。
「今はこれでね」
「帰られますか」
「そうさせてもらうわ」
「ではまた」
「貴方が敵になっても」
封真が天の龍になりというのだ。
「地の龍になってもね」
「どちらでもですか」
「私達は貴方と会うわ」
「敵でも味方でも」
「ええ、只一緒になれば」
封真が地の龍となりというのだ。
「宜しくね」
「楽しくやっていきましょう」
遊人は笑顔で述べた。
「仲間として」
「人間を滅ぼすにしても」
「それでも仲間ですね」
「確かに」
封真もそれはと答えた。
「そうなりますね」
「ですから」
「あいつの選択次第で」
「君が僕達の仲間になれば」
その時はというのだ。
「一緒にです」
「戦っていきますか」
「お茶も飲んで」
そうしてというのだ。
「お酒もありますし食べものも」
「ありますか」
「はい、一緒にです」
まさにというのだ。
「過ごしていきましょう」
「そうですか、しかし」
封真は遊人の笑顔を受けて冷静な顔で述べた。
「貴方達から悪い印象は受けないです」
「僕達が人間を滅ぼす存在でもですか」
「あの人と同じで」
草薙と、というのだ。
第十四話 添星その十五
「いい印象を受けます」
「そうですか」
「どの人からも」
「私からもかしら」
颯姫は封真の言葉を受けて彼に問うた。
「いい印象を受けるかしら」
「悪い印象は全く受けない」
これが封真の返事だった。
「君からも。どちらかというとな」
「いいの」
「邪悪さは全く感じないからな」
それ故にというのだ。
「やはりな」
「いいというのね」
「そうなる」
「では僕も」
「同じだ」
哪吒にも答えた。
「無色でな」
「悪い印象は、ですか」
「感じない、だが色が少しでも」
無色な中にというのだ。
「付いてきているか、しかし悪い色かというと」
「違いますか」
「そうは感じない」
全くというのだ。
「君からも」
「そうなんですね」
「誰からも感じない」
目の前にいる地の龍の誰からもというのだ、そこには地の龍ではないが庚もいる。
「悪いものはな」
「僕からもで」
「ああ、それでも人間をか」
「そうよ」
庚は封真に本来の目的を隠して答えた。
「私達はね」
「滅ぼす為にですね」
「戦うわ、地球を救う為にね」
「まあ流れに身を任せてですね」
遊人は両手の手振りを交えて笑顔で話した。
「戦いに赴きますね」
「流れに任せて」
「僕はそうです、水使いですから」
それ故にというのだ。
「水の様にです」
「流れにですか」
「ええ、そのまま乗って」
「戦いますか」
「地の龍となったので」
「その運命にですか」
「流されて」
そうしてというのだ。
「天の龍の人達と戦い」
「勝てばですか」
「人間の世界が滅びます」
そうなるというのだ。
「この東京の結界が全て破壊されて」
「そのうえで」
「この東京は世界を護る結界なのよ」
庚は封真にこのことを話した。
「だから東京の結界が全て破壊されるとね」
「東京は崩壊して」
「そして世界もね」
「崩壊するんですね」
「そうよ、だからね」
そうなっているからだというのだ。
「私達はね」
「天の龍を全て倒して」
「それと共にね」
「東京の結界もですね」
「全て壊してね」
その様にしてというのだ。
「人間の世界を滅ぼすのよ」
「それが目的なんですね」
「ええ、そして貴方が地の龍になれば」
再びこのことを話すのだった。
第十四話 添星その十六
「笑顔で迎えさせてもらうわ」
「仲間として」
「彼でもそうでね」
神威の場合も同じだというのだ。
「貴方もよ」
「わかりました、それでは」
「ええ、待っているわね」
ここまで話してだった。
庚達は封真の前から去った、封真は一人に戻るとロッカーに入りそこで着替えて会場を後にした。すると。
目の前に神威と小鳥がいた、二人は微笑んで彼に声をかけた。
「では今からな」
「帰りましょう」
「ああ、待ったか?」
封真も微笑んで応えた。
「二人共」
「いや、待っていない」
神威が笑顔で答えた。
「安心してくれ」
「そうか、ならいいがな」
「それでだ」
神威はさらに言った。
「これからだ」
「帰ってだな」
「晩ご飯食べましょう」
小鳥はこちらの話をした。
「今日はお魚よ」
「そちらか」
「鮪のお刺身とね」
それにというのだ。
「菊菜のおひたしとお豆腐のお味噌汁だから」
「お豆腐か」
「そう、菊菜とね」
「いいな、豆腐はな」
「お兄ちゃん好きだしね」
「それは楽しみだ」
妹に笑顔で応えた。
「じゃあ今すぐ帰ってな」
「一緒に食べようね」
「今夜も三人でな」
「そうしよう」
「実は昼も小鳥にご馳走になった」
神威はこちらの話もした。
「弁当をな」
「俺と同じだな」
「そうだな、美味かった」
その弁当はというのだ。
「今日もな」
「それは何よりだな」
「小鳥は本当に料理上手だ」
神威は笑顔のままこうも言った。
「お陰で昼が楽しみになってきた」
「食べるなら美味いに越したことはないな」
「全くだな」
「俺もお前も小鳥の作った料理を食べる」
「小鳥も含めて三人でな」
「それでいいんだ」
こうもだ、封真は言った。
「俺達は」
「そうだな、ずっとな」
「三人でな」
「同じものを食って」
「同じ時を過ごしてな」
「生きていくか」
「そうしていこうな」
三人で話してだった。
桃生神社に戻ってそこで夕食を食べた、三人共一緒にいる時間を心から楽しんだ。そうしていたが。
庚は自分達の場所で仲間達に話した。
「どちらにしてもね」
「地の龍は揃うわね」
「ええ、皆ね」
颯姫に食事の場で答えた。
「そうなるわ」
「彼か司狼神威が来て」
「そのうえでね」
「あとの二人の人達は」
哪吒は彼等のことを問うた。
「まだですが」
「間違いなく来るから」
庚は哪吒にはこう答えた。
第十四話 添星その十七
「だからね」
「安心していいですか」
「そこで誰かもね」
その二人がというのだ。
「貴方もわかるわ」
「その時を待てばいいんですね」
「今はね」
「そうですか、じゃあそうします」
「そうしてね」
「僕としてはです」
遊人も言ってきた、四人で一緒に食べつつ話をしている。
「彼が来てくれる方がです」
「いいのね」
「はい」
麻婆豆腐を食べつつ答える、四人の食事は四川料理で辛い八宝菜に炒飯もある。
「面白そうです」
「二人のうちどちらかね」
「確実に来てくれますね」
「それで貴方としては」
「はい、彼の方がです」
「来て欲しいのね」
「そう思います」
こう答えた。
「今日会ってです」
「そう思ったのね」
「そうです、もの静かですが」
それでもというのだ。
「その中にです」
「熱いものがあるわね」
「礼儀正しく温厚そうですし」
このこともあってというのだ。
「僕としてはです」
「好感を持ったのね」
「はい、ですから」
「彼になのね」
「来て欲しいですね」
「そうなのね、ただね」
「ただといいますと」
「貴方達は違うけれど」
それでもとだ、庚は炒飯を食べつつ遊人に話した。
「地の龍になるとね」
「そうなるとですか」
「神威は本来の心をなくすわ」
「そうなのですか」
「命を奪うことを何とも思わない」
そうしたというのだ。
「冷酷そのもののね」
「そうした人になりますか」
「そうなるとね」
「お聞きですか」
「ええ、牙暁君から聞いたわ」
「彼からですか」
「夢の中でね」
こう話すのだった。
「若しくは戦いになれば誰彼なく攻撃する」
「戦闘狂ですか」
「そうなるとね」
「どちらにしても恐ろしいですね」
「そうなるとね」
「牙暁君が言っているのですね」
「そうよ」
こう話したのだった。
「彼はね」
「その方が地の龍らしいかしら」
颯姫はその話を聞いて述べた。
「私達には」
「地の龍としてはなのね」
「そう思うわ」
庚に八宝菜を食べつつ話す、かなり辛い料理であるが颯姫は全く何でもない様にその八宝菜を食べていっている。
「何も思わずね」
「人間を滅ぼす」
「ええ、人間について考えれば」
そうだとすると、というのだ。
第十四話 添星その十八
「そうね」
「彼がそうなれば」
「そうだと思うわ、それに」
庚はさらに言った。
「それは彼の場合もそうで」
「司狼神威もよ」
「同じね」
「地の龍になれば」
その時はというと。
「そうしたね」
「冷酷な心になるのね」
「そしてね」
そのうえでとだ、庚はさらに話した。
「まずは一番大切な人を」
「その命を奪うの」
「そうなるわ」
まさにというのだ。
「真っ先にね」
「そうなの」
「ええ、地の龍になれば」
「本来の心を失うの」
「そうなるのよ」
「そのうえで私達のところに来てくれるわ」
庚は顔は笑っていた、だが。
心の中では色々思い、そのうえで仲間達に話した。
「あの彼ではないわ」
「それだと」
哪吒はその話を聞いて言った。
「残念ですね」
「今日の彼が好きなのね」
「僕も遊人さんと同じで」
それでというのだ。
「今日あの人とお会いして」
「それでなのね」
「いい印象を持ちました」
「だからなのね」
「今日のあの人とです」
「一緒に戦いたいのね」
「そう思っています」
麻婆豆腐を食べながら答えた、辛さに刺激それに美味を感じつつ話す。
「僕も」
「そうなのね」
「はい、出来ればです」
「それが運命だからね」
「変えられないですか」
「その筈よ」
哪吒に本音を隠して答えた。
「運命は」
「そうなんですね」
「運命は絶対の筈だから」
鏡護のことを思いつつ言うのだった。
「だからね」
「あの人はですか」
「司狼神威もよ」
二人のうちどちらが地の龍となってもというのだ。
「その心はね」
「変わりますか」
「冷酷な」
そうしたというのだ。
「若しくは戦闘狂にね」
「どちらかにですか」
「なってね」
そうしてというのだ。
「私達のところに来てよ」
「戦いますか」
「そうなるわ」
「それでも僕は」
「今の彼のままで」
「来て欲しいです」
「運命なら仕方ないですかね」
遊人は残念そうに述べた。
「運命はです」
「変えられない」
「そう言われていますからね」
「そうよ、けれどね」
「けれどといいますと」
「私としてもよ」
庚は今度は本心を述べた。
第十四話 添星その十九
「今日会った彼の方がね」
「お好きですか」
「会って」
実際にそうしてというのだ。
「悪い印象はね」
「受けませんでしたね」
「ええ」
そうだったというのだ。
「全くね」
「それでは」
「運命はどうしようもなくても」
今度は本心を隠した、実は違うのではないかとも思っているがそれを隠してそのうえで語るのだった。
「出来ればね」
「今日の彼とですね」
「一緒にいたいわ」
「左様ですね」
「そしてね」
庚はさらに言った。
「戦いになっても皆出来るだけね」
「出来るだけ?」
「生き残って欲しいわ」
こうも言うのだった。
「一人でも多くね」
「戦えば死ぬわ」
颯姫が言ってきた。
「そして死ねば」
「二度と生き返らないわ」
「そうね」
「貴方達でもね」
「地の龍でも」
「死ねばね」
その時はというのだ。
「それで終わりよ」
「生き返ることはないわね」
「絶対にね」
それこそというのだ。
「そうなるわよ」
「だからなのね」
「皆勝つことは目指しても」
「死んでは駄目ね」
「ええ、一人でも多くね」
こう仲間達に言うのだった。
「生き残ってね」
「そうすることね」
「そしてね」
それでというのだ。
「最後に皆で楽しみましょう」
「こうして食べて」
「ええ、生き残ったことを喜んで」
「勝ってじゃないんですか」
哪吒は庚の今の言葉に意外といった顔で問うた。
「そうなるんじゃ」
「あっ、そうね」
言われてだ、庚は本心を三人に気付かれずともそれでも出してしまったことに気付いてそれでこう返した。
「この場合は」
「そうですね」
「そうよ、ただ勝つとね」
「生き残る、ですか」
「あちらが戦えなくなって」
七人全員がというのだ。
「私達が生き残っていればね」
「僕達の勝ちとなりますね」
「そうなるから」
内心動揺を隠しながら言い繕った。
「言ったのよ」
「そうですか」
「だからいいわね」
庚はあらためてだった、仲間達に告げた。
「今牙暁を入れて四人そしてね」
「残る三人の人達も」
「皆よ」
それこそと哪吒に話した。
「出来る限り多くね」
「生き残って」
「そのことを喜ぶ為に」
「パーティーですね」
「それを楽しみましょう」
「わかりました」
哪吒は頷いた、そうしてだった。
地の龍の者達は封真のことを考えつつ夕食を食べていった、その後はそれぞれの家に戻って時間を過ごしたのだった。
第十四話 完
2023・2・1
第十五話 仮住その一
第十五話 仮住
空汰と嵐それに譲刃は今はクランプ学園に通いつつそこにある建物の中に共に住んでいる、そこは洋館であったが。
学校から帰ってだ、護刃は既に帰ってきている嵐に話した。
「クランプ学園って寮もありますね」
「ええ、学生の人達の為のね」
嵐もそれはと答えた。
「あるわよ」
「そうですよね、でしたら」
護刃はその話を聞いてこう言った。
「私達もです」
「寮に入って」
「それで学校に行き来すればいいんじゃないでしょうか」
「それは無理よ」
嵐は首を傾げさせながら話した護刃に真顔で返した。
「私達の場合は」
「あっ、私達が天の龍で」
「そして何時戦うかわからないでしょ」
「そうですね」
「だから他の人達とはね」
「学校の中では兎も角として」
「学校を出たらね」
即ちプライベートの時間になればというのだ。
「秘密も知られたいけないし」
「私達が天の龍だっていう」
「それでよ」
その為にというのだ。
「私達はね」
「こうして寮ではなくて」
「寮から離れた」
そうしたというのだ。
「この洋館でね」
「一緒にですね」
「暮らして」
そしてというのだ。
「そのうえでね」
「学校に通うことですね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「私達はね」
「そうですか」
「そう、天の龍であるなら」
嵐はまたこう言った。
「そのことは隠すことよ」
「それも天の龍の務めですね」
「そうよ、そして戦いが終われば」
嵐はそれからのことも話した。
「私達は解散してね」
「それぞれのお家に戻りますね」
「そうなるから」
だからだというのだ。
「ここにいるのは一時のことだし」
「尚更ですね」
「ここでね」
この洋館でというのだ。
「一緒によ」
「暮らしていくことですね」
「今はね。いいわね」
「わかりました、じゃあこれからもですね」
「ここで食わしていきましょう」
「わかりました」
確かな声でだ、護刃は嵐の言葉に頷いてだった。
洋館の中の自室に犬鬼と共に入ってだった、まずは学校の予習と復習をしてだった。
修行の後で夕食を食べたがその夕食である肉じゃがと秋刀魚の開きを作った空汰にこんなことを言われた。
「何や、学校の予習復習もかいな」
「しています、毎日」
「護刃ちゃん真面目やな、わい勉強嫌いやからな」
「されてないですか」
「重要な箇所だけ覚えてな」
そうしてというのだ。
「後はテスト前にや」
「勉強されるだけですか」
「わいはな」
白いご飯を食べつつ話した。
「そやねん」
「そうなんですね」
「もう要領やな」
右手に箸を持ち明るく笑って言った。
第十五話 仮住その二
「わいは」
「お勉強は」
「他のことかてそやけどな」
「そちらもですか」
「ああ、ただな」
「ただな?」
「修行はな」
これはというのだった。
「そうはいかんかった、じっちゃんによお怒られたわ」
「星見のですね」
「そや、修行さぼったらな」
その時はというのだ。
「ほんまよお怒られたわ」
「そうだったんですか」
「そやから修行はな」
こちらはというのだ。
「結果としてな」
「手はですね」
「抜かんかったわ」
そうだったというのだ。
「正確に言うと抜かれんかったわ」
「そうでしたか」
「勉強は兎も角な」
「ただ真面目にして悪いことはないわ」
嵐は無表情に述べた。
「学業もね」
「そうしてもですか」
「ええ、糧になるから」
「糧ですか」
「人間としてのね」
こう護刃に言うのだった。
「それになるから」
「真面目に努力して」
「勉強することもね」
「いいんですね」
「努力は裏切らないわ」
決して、そうした言葉だった。
「だからいいのよ」
「そうなんですね」
「それでね」
嵐は護刃にさらに言った。
「これからもね」
「勉強していっていいですね」
「そうしてもね」
「わかりました、じゃあよく遊んで」
「よく学ぶね」
「しうしていきます」
護刃も笑顔で応えた。
「是非」
「それで戦いが終わっても」
「その努力を糧にして」
「生きていくことですね」
「そうしてね」
「まあそれもええことやな」
空汰も笑って言ってきた。
「要領を考えんで生きてもな」
「いいんですか」
「結局あれや」
ご飯を食べつつの言葉だった。
「人間それぞれで人生もな」
「それぞれですか」
「そや、それでや」
護刃に肉じゃがを食べながらさらに話した。
「護刃ちゃんが真面目に生きてもな」
「いいんですね」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「悪い男には気をつけるんやで」
笑ってこうも言うのだった。
「そうしたモンにはな」
「悪い男ですか」
「世の中一杯な」
それこそというのだ。
「悪い奴がおってな」
「悪い男の人もですか」
「ゴマンとおる、もうヤクザ屋さんとかゴロツキとか」
そうしたというのだ。
第十五話 仮住その三
「連中もおってどうにもならん様な」
「酷い人もですか」
「おるさかいな」
だからだというのだ。
「護刃ちゃんもな」
「そうした人には気をつけて」
「それでな」
そのうえでというのだ。
「生きてくんやで」
「悪い人ですか」
「そや、もう荒んだ嫌な目をしていたら」
そうした輩はというのだ。
「要注意や」
「そうした人は」
「よくある詐欺とかクスリとか殺人とか」
「そうした犯罪はそうした人達がですか」
「起こすからな」
「それで、ですか」
「多分な」
空汰はこう前置きしてこんなことも言った。
「桜塚護な」
「地の龍の一人だという」
「何でも闇の陰陽道のモンでな」
それでというのだ。
「随分とな」
「悪いことをしていますか」
「陰陽道を悪用してや」
そうしてというのだ。
「人を殺めてる」
「そんな人ですか」
「そやからな」
そうした行いをしているからだとだ、空汰は桜塚護に会ったことがなくよく知らないがそれでも察して言うのだった。
「かなりな」
「悪い人ですか」
「もう目なんかな」
このことも憶測で話した。
「これ以上はないまでにな」
「荒んでいて」
「それでや」
「一目見たらですか」
「わかる位のな」
それ程までのというのだ。
「悪者や」
「だからですね」
「こいつに会ったら即座にな」
「戦って」
「倒すことや」
そうしなければならないというのだ。
「他の地の龍も同じやが」
「その人もまた」
「そや、まあ地の龍と言ってもそれぞれで」
それでというのだ。
「悪い人もおらんが」
「そうなんですか」
「わいがこの前会った遊人さんは穏やかやった」
彼のことを話した。
「話していて悪い印象は受けんかった」
「貴方がそう言うならそうね」
嵐は空汰の話を聞いて述べた。
「その人は」
「ああ、別にな」
「悪い人ではないのね」
「そや、けどな」
「桜塚護のことは私も聞いているわ」
嵐にしてもだった。
「闇の陰陽道の総帥ね」
「何人おるかわからん桜塚護のな」
「その名自体を冠した」
「お金を貰って術を用い」
「人を殺めることさえ平然とするな」
「悪と言うならね」
その行いをというのだ。
「まさにね」
「それになるな」
「そうした人ね」
「ある意味地の龍としてもや」
「異質ね」
「相応しい様でな」
その実はというのだ。
第十五話 仮住その四
「これがな」
「違うわね」
「遊人さん以外の地の龍はわいも知らんが」
「人間として暗い」
「闇に満ちたな」
そうしたとちうのだ。
「そうしたモンやとな」
「貴方は感じているのね」
「どうもな」
「そうなのね」
「そやから護刃ちゃんにも言うんや」
彼女を見つつ嵐に話した。
「こいつは絶対に悪モンでな」
「気を付けることね」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
「素でも近寄ったらあかんし」
「地の龍であるなら戦うわね」
「その時はな」
「必ず倒すべきね」
「そう思うわ」
こう言うのだった。
「ほんまな」
「他に地の龍がいても」
「桜塚護をや」
「優先して倒すべきね」
「そや、どう見てもな」
「正真正銘のね」
「闇のモンでな」
それでというのだ。
「悪人や」
「彼だけはね」
「まだどんな外見かもな」
「わかっていないわね」
「そやけどな」
それでもというのだ。
「会った時は」
「最初にね」
「倒さんとあかん」
「地の龍の中でも」
「そや、しかし地の龍のことをな」
「私達はあまり知らないわね」
「今のとこな」
空汰は秋刀魚を食べつつ話した、その秋刀魚にはしっかりとすだちを絞ってかけていて大根おろしも用意している。
「向こうもみたいやけどな」
「自分を知って」
「敵を知ることもね」
「大事やけどな」
それがというのだ。
「どうもな」
「出来ていないわね」
「天の龍にしても」
自分達のこともというのだ。
「これまで神威入れて六人のことはな」
「わかっているわね」
「まだ神威がどっちに行くかはっきりしてへんが」
彼が天の龍になるか地の龍になるか、というのだ。
「しかしな」
「それでも六人ね」
「わかってる、しかしな」
「最後の一人ね」
「七人目のことがな」
「そのことですが」
護刃が言って来た。
「姫様にお聞きしますか?」
「丁様に」
「はい、そうしませんか?」
こう嵐に話した。
「これから」
「そうね」
その提案を聞いてだ、嵐は目で頷いて応えた。
「あの方ならね」
「おわかりになられますね」
「では議事堂に行って」
「姫様にお聞きしましょう」
「そうするといいわね」
「そやな、それとな」
空汰も護刃の言葉に頷いて言った。
第十五話 仮住その五
「地の龍のこともな」
「お聞きしますね」
「そうしよか、少なくともな」
「七人目の人のことをですね」
「聞こうな、わいの勘が正しかったら」
空汰はその目を鋭くさせて述べた。
「今度は陰陽師は」
「そちらの人なの」
「そう思うわ、それもな」
嵐に応えさらに言った。
「皇家位のね」
「皇家!?あの」
「陰陽道でもトップクラスのお家じゃないですか」
嵐の眉がぴくりと動き護刃はまさかという声をあげた。
「そんなお家からですか」
「天の龍が出て来たの」
「そうちゃうか?何でもな」
空汰は感情を見せた二人にさらに話した。
「あの家の今のご当主桜塚護と因縁があるそうやし」
「彼が地の龍なら」
「皇家のご当主がですか」
「そうかもな」
天の龍だというのだ。
「ひょっとしたらやが」
「そうなのね、現当主は歴代当主の中でも最高の術師とね」
「言われてるな」
「その人が天の龍だと」
「有り難いな」
「正直言ってね」
嵐は空汰に真顔で答えた。
「そう思うわ」
「そやな」
「ええ、けれど私達は敵のことをね」
「まだよお知らんな」
「そうとしか言えないわ」
今の状況ではというのだ。
「もうね」
「その通りやな」
「そのことも知りたいわね」
心からだ、嵐は言った。
「本当に敵のことを知らないと」
「どうにもならんからな」
「そこは知りたいわ」
「ほんまにな」
彼等の今の住まいでこんなことを話した、その頃。
哪吒は塔城家の屋敷にいた、それで広い食堂の中で祖父と向かい合ってそのうえで豪奢な夕食を口にしていたが。
祖父は大きなテーブルの向かい側に座る彼にこう言った。
「戻って来るとはだ」
「思っていなかったか」
「そうだったが」
自分も食べつつ言うのだった。
「お前は必ずだ」
「はい、こちらでです」
「寝泊りしているな」
「ここが僕の家ですから」
「この塔城家がか」
「そうですから」
「庚様のところは違うのか」
祖父は哪吒に問うた。
「あちらではないのか」
「あちらに僕のお部屋は用意してもらっています」
哪吒は食べつつ答えた。
「確かに」
「しかしか」
「はい、僕の家はです」
「この屋敷か」
「そう思っていますから」
それ故にというのだ。
「こちらに帰っています」
「毎晩か」
「そして」
祖父を見てさらに言った。
「家族はです」
「私か」
「お祖父様が」
まさにというのだ。
「僕の家族です」
「そう思っているか」
「違いますか」
「いや、その通りだ」
まさにとだ、祖父は孫に答えた。
「お前はお前の父親と母親の遺伝子からな」
「生まれていますね」
「そうだからこそな」
「お祖父様の孫ですね」
「たった一人のな」
優しい声でこうも言った。
「そうだ」
「ですから」
「こうしてか」
「戻って来て」
そのうえでというのだ。
第十五話 仮住その六
「休ませてもらって」
「過ごしているか」
「そうさせてもらっています」
「そうか、何かだ」
祖父は自分に語る孫を見てだった。
微かに笑ってだ、こうも言った。
「少しずつだが表情が出て来たな」
「そうですか」
「そうなっている、感情もな」
こちらもというのだ。
「芽生えてきているか」
「自分でもそんな気がします」
「庚様の下に行き」
「地の龍と教えられてから」
「そうなっているか、それならだ」
哪吒に考える顔で話した。
「いい」
「いいのですか」
「私はお前を人間として生み出したのだ」
娘夫婦の遺伝子を用いてというのだ。
「そして育ててきたからな」
「人間として」
「これまでどうしてもだ」
努力してもというのだ。
「お前に感情が生まれず残念に思っていたが」
「その感情が生まれてきているので」
「それでだ」
その為にというのだ。
「まことにな」
「いいのですか」
「そうだ」
それでというのだ。
「嬉しい、ではこのままな」
「僕はですか」
「そうだ、地の龍の人達と共にいてな」
「感情を作っていくことですか」
「そうしていってくれ」
「それでは。ただ」
哪吒はサラダの中のアスパラガスを食べつつ祖父に問うた、ほんの少しだが考える顔にもなっている。
「僕に何故これまで感情が生まれなかったか」
「そのことか」
「どう思いますか」
「わからない、どうしてもだ」
祖父は孫に苦い顔で答えた。
「お前に様々なことを教え身に着けてもらったが」
「それでもですか」
「喜怒哀楽等な」
そうしたというのだ。
「感情は備えられなかった、私の教育が悪かったのか」
「それは」
「娘達がああなったこともな」
哪吒の両親がというのだ。
「悪かったか、私は親として祖父としては」
「お祖父様は」
「失格だったか」
苦い顔での言葉だった。
「そうだったか」
「それは」
「私が思っていることだ」
あくまでという返事だった。
「だからな」
「それで、ですか」
「気にすることではない」
哪吒がというのだ。
「学校に通わせても特別にさせていたし」
「そうしたクラスに」
「それも変えてな」
そしてというのだ。
「地の龍の方々と交わっていき」
「それで、ですか」
「感情が芽生えたか、ならな」
「このままですね」
「人間としてな」
そのうえでというのだ。
「感情を備えていき」
「地の龍として戦う」
「そうしていってくれ」
「わかりました、ただ」
哪吒は食べつつこうも言った。
「地の龍が勝ちますと」
「人間が滅ぶな」
「そうなります」
「わかっている」
これが祖父の返事だった。
第十五話 仮住その七
「私もな」
「そのことは」
「地の龍が勝つならそれが運命だ」
祖父の今の言葉は達観したものだった。
「私もな」
「滅んでいいのですか」
「滅ぼすといい」
地の龍である孫に告げた。
「是非な」
「そうですか」
「そしてだ」
そのうえでと言うのだった。
「地球を救うのだ」
「お祖父様よりもですか」
「地球だ」
あくまでというのだ。
「いいな」
「そうしていいですか」
「是非な、そしてな」
哪吒にさらに告げた。
「地球を、世界を救ってくれ」
「では若しです」
哪吒は祖父の考え自分が滅んでもいいという返事を受けてこう返した。
「天の龍が勝ち」
「お前が倒されてか」
「人間の世界が続けば」
「その時もまただ」
祖父は哪吒の今の言葉にも答えた。
「同じだ」
「そうですか」
「運命をな」
これをというのだ。
「受け入れる」
「そうされますか」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「私はお前が亡くなってもな」
「その時も」
「お前の亡骸を引き取れたらそうして」
「どうするのですか」
「葬って弔う」
そうするというのだ。
「必ずな」
「そうですか」
「安心しろ」
「僕が死んでも」
「私はお前をそうするからな」
「有り難うございます」
自然にだ、哪吒はこの言葉を出した。
「それでは」
「そうしていいか」
「是非」
また自然に言葉を出した。
「そうして下さい」
「それではな」
「僕にはお祖父様がいますね」
「家族がか」
「そのことがです」
まさにというのだ。
「今強くです」
「わかったか」
「そうなりました、では今日も」
「この屋敷でか」
「過ごさせてもらいます」
「遠慮はいい、ここはお前の家だからな」
それ故にというのだ。
「そうして過ごしてくれ、遠慮なくな」
「これからも」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「くつろいでくれ、そして私を祖父と思ってくれるなら」
「いいですか」
「そうしてくれるとな」
それならというのだ。
「嬉しいしな」
「それでは」
「これから共にいられる限りな」
「このお屋敷で家族として」
「共に暮らそう」
「わかりました」
哪吒は自然に微笑んでだった。
第十五話 仮住その八
祖父の言葉に頷いた、そうしてだった。
彼はこの日も屋敷で夜を過ごし翌朝学校にも行った、学校でもクラスメイト達と楽しく過ごしたのだった。
そして都庁に行き仲間達とも話した、だが。
庚がだ、こんなことを言った。
「今晩はお店に行きましょう」
「お店ですか」
「そこに行って」
そのうえでというのだ。
「一緒にね」
「食べますか」
「ええ、焼肉よ」
庚は食べるものの話もした。
「実は美味しいお店を紹介してもらったのよ」
「僕からです」
遊人が右手を挙げて笑って言ってきた。
「実は食べ放題飲み放題で」
「そうしたお店ですか」
「職場で紹介してもらいまして」
それでというのだ。
「忘年会で入りますと美味しくて」
「今夜はですか」
「皆さんでそちらに行って」
哪吒にも笑顔で話した。
「食べましょう」
「それでは」
「まあ牙暁には悪いけれどね」
庚はこのことは少し申し訳なさそうに述べた。
「私達だけで行くから」
「そうですね、そのことは」
哪吒もそれはと応えた。
「一人だけというのは」
「けれど彼もいいって言ってくれたし」
夢の中でというのだ。
「ここはね」
「今いる人達で」
「行くわよ」
「わかりました」
こうした話をしてだった。
地の龍の面々は焼き肉屋に行ったがそれはだった。
天の龍達も同じで彼等は夜の街に征一狼の紹介でだった。
店に向かっていた、征一狼は仲間達に笑顔で話していた。
「そこがもうです」
「安うて美味くてですか」
「はい、先生ともです」
空汰ににこにことして話した。
「よく一緒に行きます」
「そうなんでっか」
「食べ放題飲み放題なので」
それでというのだ。
「いいですよ」
「それはいいわね」
食べ放題飲み放題と聞いてだ、火煉も微笑んで言った。
「安くて美味しいならね」
「やはりそうですね」
「私もね」
火煉もというのだ。
「それなら最高よ」
「全くですね」
「それも六人でなのね」
「はい、残念ですが神威君はです」
彼のことも話した。
「今はです」
「三人でなのね」
「夜はそうすることに決まったそうで」
封真、小鳥と三人で食べることにというのだ。実際に神威はこのことを話して征一狼からの申し出を断っている。
「申し訳ないですがとです」
「言われたのね」
「そうです」
「彼は仕方ないです」
嵐が言ってきた。
「今は三人の絆を固めて」
「確かにする時ね」
「ずっと離れ離れでしたから」
こう火煉に話した。
第十五話 仮住その九
「あらためてです」
「絆を固める時ね」
「そしてこれからも」
「ずっとね」
「絆を維持するべきなので」
「仕方ないわね、では今はね」
火煉は嵐からも聞いて言った。
「私達でね」
「行きますね」
「そうしましょう」
「焼肉いいですよね」
護刃は無意識のうちの猫の耳を出して話していた。
「私も好きです」
「そうなのね」
「はい、何でも好きですが」
食べものはというのだ。
「焼肉もです」
「それはいいことね、ではね」
「今夜はですね」
「好きなだけ食べてね」
「そうさせてもらっていいんですね」
「ええ、お金はあるわ」
これはというのだ。
「実は私もお金に困ってないの」
「そうなんですか」
「以前ホステスとかをしていると言ったわね」
「今はシスターさんですね」
「元々神父様にお世話になっていて」
それでというのだ。
「学校を卒業してね」
「そうしたお仕事をされていたんですね」
「その時に随分働きを認められて」
そうしてというのだ。
「結構なお金があるから」
「それで、ですか」
「お金はね」
今夜のそれはというのだ。
「心配しないで」
「そうなんですか」
「ええ、そうよ」
「それはええんですけど」
空汰は火煉の話を聞いて彼女にどうかという顔で問うた。
「あの、ホステスって」
「ええ、お客様にね」
「貢がせることも」
「そんなことはしないわ」
火煉は微笑んで答えた。
「私はね」
「じゃあ普通にですか」
「それで無理している人からのお金やものもね」
「受け取らへんかったんですか」
「人から巻き上げることは好きじゃないから」
だからだというのだ。
「絶対にね」
「そうしたことはでっか」
「しなかったわ、困っていない人が見返りなしにくれるなら」
それならというのだ。
「受け取っていたけれど」
「そうしたお金で、ですか」
「実はお家も建てたし貯金もね」
こちらもというのだ。
「一生困らないだけあるのよ」
「そうなんでっか」
「だからね」
それでというのだ。
「心配しないでね」
「お金のことは」
「全くね」
「あっ、実はです」
征一狼が笑顔で言ってきた。
「今回のお金も丁様からです」
「あの方からなの」
「出ていまして」
それでというのだ。
「安心して下さい」
「そうなのね」
「はい、それに食べ放題飲み放題ですと」
それで楽しむと、というのだ。
第十五話 仮住その十
「安いんですよ」
「それは知っているけれど」
「ですから尚更です」
丁が出してくれるうえに安いからだというのだ。
「ご安心下さい」
「それならね」
「はい、では今から」
「あちらに行って」
「皆さんで楽しみましょう」
「それじゃあ」
笑顔で話してだった。
天の龍達もこの夜は外に食べに出た、そのうえで店に入ったがその入り口でだった。
空汰は遊人を見て驚いた顔で言った。
「ああ、遊人さんもでっか」
「空汰君もですね」
遊人も驚いた顔で応えた。
「今日はですか」
「ここで食います」
「ということは」
遊人は空汰と一緒にいる面子を見て言った。
「皆さんは」
「はい、天の龍です」
征一狼が微笑んで答えた。
「僕は蒼軌征一狼といいます」
「鬼咒嵐よ」
次に嵐が名乗った。
「私も同じよ」
「猫依護刃です」
護刃は微笑んで名乗った。
「宜しくお願いします」
「夏澄火煉よ」
火煉は余裕のある笑みを見せて名乗った。
「覚えておいたら嬉しいわ」
「そうですか、僕は麒飼遊人です」
遊人はいつもの穏和な笑顔で名乗った。
「地の龍の一人です」
「八頭司颯姫よ」
颯姫の表情はいつも通りなかった、声の色もだった。
「私も同じよ」
「哪吒です」
哪吒は真面目な調子だった。
「塔城霞月といいます」
「あれっ、貴方」
護刃は哪吒を見て気付いた、そして颯姫も見て言った。
「クランプ学園で」
「はい、そちらに通っています」
「そういえば道で会ったわね」
颯姫も言ってきた。
「自転車に乗っている時に」
「犬鬼にも気付いてくれましたね」
「ええ、その子ね」
今も護刃の傍にいる彼も見て応えた。
「覚えているわ」
「そうですか」
「そして私は庚というの」
庚は微笑んで名乗った。
「ここまでくればわかるわね」
「おひいさんの妹さんでっか」
「そうよ」
まさにと言うのだった。
「私はね」
「そうでっか」
空汰はその話を聞いて頷いた。
「ここまで来て察しがつきましたけど」
「ええ、そして地の龍を率いるね」
「そうした人でんな」
「私自身は地の龍でないけれど」
それでもというのだ。
「そうした立場よ」
「それで今はですか」
「ここで皆で食べるのよ」
こう話したのだった。
第十五話 仮住その十一
「私達はね」
「わい等と同じでんな」
「そうなるわね、ただね」
「今は止めましょう」
どちらにしてもとだ、嵐は言った。
「お互いにね」
「そのつもりはないわ」
全くとだ、庚も答えた。
「こちらもね」
「それならいいけれど」
「焼肉を楽しみましょう」
今はと言うのだった。
「それぞれね」
「ええ、ではね」
「それではね」
「また会いましょう」
「ではね」
「それで今言っておくわ」
ここでだった。
庚は一瞬だが真剣な顔になってだ、天の龍達に言った。
「姉さんは元気かしら」
「はい、ご安心下さい」
征一狼が応えた、ここにいる誰も庚の心には気付かなかった。彼もそれは同じで彼女に裏なく答えた。
「そう、元気なのね」
「はい」
そうだと答えるのだった。
「今も」
「ならいいわ、元気ならね」
丁、姉である彼女がというのだ。
「それならね」
「そうですか」
「ええ、ではまた」
「はい、お会いしましょう」
こうやり取りをしてだった。
双方別れそれぞれの席に着いてだった。
焼き肉を食べはじめた、護刃はその中で言った。
「あの、どの人も」
「悪い印象は受けなかったわね」
「そうですね」
火煉に応えた。
「これといって」
「私もよ」
「むしろいい印象を受けましたね」
「そうね、邪な気配がなくて」
全くというのだ。
「むしろ奇麗な」
「皆さんそうした気配でしたね」
「それでもね」
「私達は敵味方なんですね」
「そうよ、敵が絶対に悪人か」
「そんなことはないですね」
「ええ、ないわ」
全くと言うのだった。
「世の中はね」
「私達も同じですね」
「だから世の中は難しいのよ」
火煉も焼肉を食べている、囲んでいる網の上で自分達で肉を焼いてそれを箸に取ってタレに付けてから食べている。
「敵は決してよ」
「悪人じゃないですね」
「むしろいい人達であることの方がね」
「多いですか」
「皮肉なことにね」
火煉は悲しい笑顔になってこうも言った。
「世の中はね」
「そうしたものですか」
「だからね」
それでというのだ。
「そうしたことも受け入れてよ」
「私達は戦うんですね」
「そうよ」
こう言うのだった。
「そのこともいいわね」
「覚悟することですね」
「そうよ、覚悟して」
そしてというのだ。
第十五話 仮住その十二
「戦っていくわよ」
「わかりました、人間の為に」
「そうしていきましょう」
「因果なものね」
嵐も食べつつ言った。
「本当に」
「世の中っていうのはな、わいもな」
「あの人達のことを言っていたけれど」
「その通りやろ」
空汰は一番勢いよく食べつつ話した。
「ほんまに」
「ええ、無表情でもね」
颯姫のことを思い出して話した。
「そうした印象はなくて」
「むしろ同じ天の龍やとな」
「こうしてね」
「一緒に楽しんでるわ」
「そうでしょうね」
「実際わい遊人さんと一緒にお好み焼き食うたわ」
空汰は嵐にこの時のことを話した。
「たまたま相席になってな」
「それでなの」
「最初小競り合いしてな」
最初の出会いの時のことも話した。
「その後でな」
「一緒に食べたの」
「そやったら」
「それで仲良くだったのね」
「ああ、最初会った時も悪い印象受けんで」
それでというのだ。
「お好み焼き食うた時もな」
「そうだったのね」
「ああ、結局な」
空汰は真面目な顔でレバーを焼いて食べつつ話した。
「同じ人間やっちゅうことやろな」
「天の龍も地の龍も」
「その力を持っててもな」
「身体は人間で」
「何よりも心がな」
これがというのだ。
「人間やってことや」
「そういうことね」
「その人間同士が戦ってな」
「どちらが勝つか」
「そうなってる、因果って言うたらな」
遠い目にもなった、そのうえでさらに話すのだった。
「ほんまな」
「因果ね」
「ああ、そう思うわ」
焼肉を食べつつ話した、それは地の龍達も一緒で。
彼等とは離れた、別室で食べつつ話していた。遊人はハツを食べながらそのうえで仲間達に話していた。
「本当に空汰君とはです」
「仲良くですか」
「ええ、お好み焼きを楽しみました」
哪吒に対して話した。
「気のいい少年ですよ」
「そうなんですね」
「決して悪意を持つ様なです」
そうしたというのだ。
「人ではありません」
「そうですか」
「若し同じ地の龍なら」
「仲良く出来ましたか」
「そう思います」
哪吒に率直に答えた。
「彼とは。そして」
「他の天の龍の人達ともね」
庚も食べつつ言った、彼女も自分で焼いて食べている。
「同じね」
「皆さん悪い印象は受けないですね」
「ええ、そうだろうと思っていたけれど」
「実際にお会いして」
「あらためてね」
つい先程そうしてというのだ。
第十五話 仮住その十三
「わかったわ」
「庚さんもですね」
「そうなったわ」
遊人に微笑んで話した。
「皆いい人達よ」
「全くですね」
「そうね、悪いものは感じなかったわ」
颯姫は淡々と食べつつ述べた、飲む方もそうしている。
「あの人達の誰からもね」
「そうよね」
「全くね、ただ」
庚に無表情のまま述べた。
「敵だから」
「戦うというのね」
「ええ、この地球の為に」
「貴女はそうした考えね」
「そうよ、あの中の誰が死んでも」
天の龍達のというのだ。
「私は何もよ」
「思わないのね」
「悪い人達でなくてもね」
「そうですか、僕はこれが運命だとしても」
遊人は少し悲しそうに微笑んで話した。
「やはり残念にはです」
「思うの」
「どうにも。なる様になるものでも」
それが運命だと考えていてもというのだ。
「しかしです」
「それでもなのね」
「人を。特に嫌いでもない人をそうすることは」
「心が痛むの」
「それは否定出来ません」
「あの、本当にです」
哪吒はカルピスを飲んでまた食べてから言った。
「天の龍の人達とはまだ」
「お話したいのかしら」
「そう思いまして」
こう庚に話した。
「戦うにしても」
「あの人達のことを知りたいのね」
「僕としては」
「そうしたいならいいわ」
庚は止めずに優しい微笑みで答えた。
「貴女がそう思うなら」
「いいんですか」
「ええ、そしてね」
そのうえでというのだ。
「人を知ることよ」
「その為に」
「あの人達とまた会う機会があって」
そうしてというのだ。
「戦いにならないならね」
「そうしてもいいですか」
「ええ、そしてね」
それでというのだ。
「人を知っていくことよ」
「そうですか」
「貴方は紛れもなく人間よ」
哪吒にこのことを保証する様に話した。
「そしてね」
「そのうえで」
「ええ、人間の心を持ってきているから」
「これからもですか」
「人間の心を備える為にね」
「あの人達ともですか」
「会ってね」
そうしてというのだ。
「お話をしていってね」
「敵であっても」
「それでもよ。私は人間は嫌いではないわ」
今度は確かな微笑みで話した。
「そしてあの人達は皆いい人達だから」
「お会いしてお話をしても」
「いいわよ」
「そうなんですか」
「きっと貴方にとって大きな糧になるから」
天の龍達と会って話すことはというのだ。
「戦わない時はね」
「そうしていくことですね」
「ええ、人間の心をもっと備える為にね」
「ならそうしていきます」
「それではね」
「おかしいわね」
颯姫は庚と哪吒の話が一段落ついたところで言ってきた。
第十五話 仮住その十四
「庚の今の言葉は」
「私は人間は嫌いではないということね」
「ええ、地の龍だから」
「人間を滅ぼすわね」
「その私達を束ねる貴女がそう言うなんて」
「そのままよ、人間を滅ぼしてもね」
今も本心を隠して話した。
「人間自体はね」
「嫌いじゃないの」
「そうよ」
今度は本心を話した。
「私はね」
「そうなの」
「だからね」
それでと言うのだった。
「哪吒にも言うのよ」
「天の龍とも会って話をする様に」
「そうね、貴女も遊人もね」
二人もというのだ。
「そうしてもよ」
「いいのね」
「そうよ」
「そうなのね」
「戦わない時は」
「そうしてもいいのね」
「しなくてもいいけれど」
それでもというのだ。
「いいわね」
「そうしたいのなら」
「そう、会って話をして」
そしてというのだ。
「遊ぶこともね」
「していいの」
「そうしてね」
そのうえでというのだ。
「人を知っていくことよ」
「おかしなこと言うわね」
颯姫にはそう思えることだった、それで率直に言った。
「人間を滅ぼすのに人間を知れと言うなんて」
「だからそのことね」
「やがてわかるのね」
「貴女もね」
「そうかしら。知るべきことは全て一度にわかる」
颯姫は素気なく応えた。
「そうしたものよ」
「そうしたこともよ」
「わかるの」
「ええ、やがてね」
「ではね」
「ええ、そのことを覚えておいてね」
「貴女が言うなら」
それならともだ、颯姫は話した。
「わかったわ」
「信じてくれるのね」
「信じる信じないではなくて」
そうではなくとだ、庚に返した。
「貴女の言うことは正しい」
「だからなの」
「そのことがわかるから」
だからだというのだ。
「わかったわ」
「それではね」
「人と会って話をしていって」
「天の龍達とも」
「そうしていってね」
こう言うのだった、そしてだった。
庚達はそれぞれの場所に戻った、そのうえで日常に戻ってそうしてそれぞれの暮らしの中に戻ったのだった。
第十五話 完
2023・2・8
第十六話 交流その一
第十六話 交流
護刃は体育の授業の後でだった。
高等部で体育の授業を受けた後の颯姫と会った、二人共上は白い体操服で下は黒い半ズボンである。
護刃は颯姫に会うと頭を下げて挨拶をした。
「こんにちは」
「ええ、こんにちは」
颯姫も挨拶を返した。
「貴女達は陸上競技をしていたわね」
「高跳びでした」
「いいジャンプだったわ」
颯姫はいつもの無表情で護刃に話した。
「タイミングもね」
「そうですか」
「ただ落下の時に」
颯姫は護刃にこうも話した。
「もっと顎を引けばね」
「いいですか」
「そうすれば落下の衝撃が頭部に及ばなくなって」
そうしてというのだ。
「身体への負担が少ないわ」
「下はクッションでもですか」
「衝撃は抑えた方がいいから」
身体へのそれはというのだ。
「だからね」
「それでなの」
「そう、落ちる時にね」
「わかりました、顎を引くんですね」
「そうすることよ」
「今度からそうします」
「ではね、しかし」
颯姫は護刃に話してからこんなことを言った。
「庚に言われたけれど悪い気はしないわ」
「私颯姫さんとお話出来て嬉しいです」
「嬉しいというか」
若しくはというのだ。
「何処かいいとね」
「思っていますか」
「貴女を嫌いではないわ」
無表情だが護刃に告げた。
「そのことが今わかったわ」
「私もです」
護刃は微笑んで応えた。
「颯姫さんとお話をしても」
「悪いとはなのね」
「若し天の地の龍でなかったら」
「もっとなのね」
「仲良くなりたいですね」
残念そうに述べたのだった。
「本当に」
「私はそうは思わないけれど」
それでもとだ、颯姫は言葉を返した。
「わかったわ、ただまたお会いしたら」
「その時はですね」
「お話をしましょう」
「はい、それじゃあ」
「そうしましょう、その子もね」
犬鬼も見て話した。
「元気そうね」
「この通りです」
護刃は犬鬼のことも明るい笑顔で応えた。
「元気です」
「それは何よりよ、ではね」
「またお会いしましょう」
「そうしましょう」
二人は言葉を交えさせて別れた、護刃は昼には中等部の食堂で食べたがそこには哪吒がいてだった。
二人で向かい合った、そして食べるが。
「美味しいかな」
「ええ、ここのカレーライスいいわよね」
哪吒にも笑顔で応えた、見れば二人共食べているのはカレーだ。
「程よい辛さでね」
「うん、だから僕も最近ね」
「カレーよく食べてるの」
「そうなんだ」
護刃に微かに微笑んで答えた。
第十六話 交流その二
「お弁当もあるけれど」
「あっ、二時間目終わるとね」
「もうね、お腹が空いて」
「食べちゃうわよね」
「そうなんだよね、最近」
「わかるわ、私もだから」
護刃は笑って応えた。
「最近ね」
「お弁当をいただいても」
「お昼にはね」
「もうお腹空くよね」
「朝の鍛錬もあるからね」
「そうそう、そこで身体を動かすから」
それでとだ、護刃に返した。
「どうしてもね」
「お昼にはお腹が空いて」
「こうして食堂でね」
「食べるよ」
「そうよね、空汰さん達もね」
護刃は彼等の話もした。
「よく一緒に食べる時があるけれど」
「お昼はだね」
「お弁当もいただいて」
そしてというのだ。
「お昼にもね」
「いただいてるんだね」
「そうなのよ」
「皆よく食べるね」
「そうよね」
「これがかな」
哪吒は少し考える顔になって言った。
「成長期かな」
「今の私達ね」
「そうだから」
「よく食べるのよね」
「そうなるんだね」
「ええ、それでだけれど」
護刃は哪吒が今着ている白の詰襟の制服を見て言った。
「白いと汚れない?」
「それクラスでも言われるよ」
「やっぱりそうよね」
「特にこうして」
「そうそう、カレー食べるとね」
「汚れないかってね」
このことをというのだ。
「言われるよ」
「そうよね」
「けれどね」
それでもとだ、哪吒は護刃に話した。
「僕は汚したことはないよ」
「カレーを食べてもなの」
「そうなんだ」
こう話した。
「一度もね」
「それは凄いわね」
「動きのせいかな」
「そうよ。哪吒君凄いじゃない」
護刃は明るい表情で率直に賞賛した。
「カレー食べても白い制服汚さないなんて」
「褒めてくれるんだ」
「実際に凄いから」
「ワン」
護刃だけでなく犬鬼も彼女の傍らで尻尾を振った、哪吒はその犬鬼も見て少しだけ微笑んで言った。
「君もそう思ってくれるんだ」
「ワンワン」
「余計に嬉しいよ」
「そうなのね」
「うん、よかったらこうして機会があったら」
「一緒に食べようね」
「そうしていこう、食べる以外にも」
さらにというのだ。
「お話もね」
「そうね、していきましょう」
「足した蟹僕達は戦うけれど」
そうした間柄だがというのだ。
第十六話 交流その三
「けれどね」
「それでもね」
「戦う時以外は」
「こうしてね」
「一緒にいてね」
「お話をしてもね」
「いいから」
庚がそうしろと言っているからだというのだ。
「そうしていこう」
「そうしましょう」
こうした話をしたのだった、そしてだった。
同じ頃空汰と嵐は颯姫と高等部の食堂で共に食べていたが。
八宝菜とカツ丼、焼きそばを食べる空汰にだ、颯姫は言った。
「美味しいかしら」
「ああ、めっちゃな」
空汰は勢いよく食べつつ笑顔で答えた。
「美味いで」
「そうなのね」
「それはそうとしてな」
空汰は颯姫に言葉を返した。
「あんたもよお食うな」
「そうかしら」
「ああ、見たらな」
主食がトーストのハンバーグ定食で天丼も食べている颯姫に言うのだった。
「そやな」
「今日の分のカロリーと必要な栄養を摂取しているの」
「それだけかいな」
「ええ、そうよ」
無表情での返答だった。
「私はね」
「そうなんか」
「だからね」
颯姫はさらに言った。
「味はね」
「どうでもええか」
「三食で足りなかったら」
「栄養がかいな」
「サプリメントでね」
それを口にしてというのだ。
「補っているわ」
「サプリメントなあ」
「貴方もどうかしら」
空汰を見つつ言ってきた。
「その日足りない栄養はね」
「サプリメントを食ってか」
「飲んでね」
そこは訂正した。
「そうしてよ」
「補うんやな」
「そうしたらどうかしら」
「いいことね」
嵐は颯姫の話を聞いて無表情で頷いて述べた。
「そのことも」
「貴女は同意してくれるね」
「栄養を摂ることも大事よ」
だからだというのだ。
「食べることとね。ただね」
「ただ。何かしら」
「美味しいものをお腹一杯食べられることは」
嵐は自分の幼い日を思い出しつつ颯姫に話した。
「有り難いことよ」
「そうなの」
「とてもね。そしてね」
嵐は自分の言葉を続けた、食べているのはナポリタンにチキングリルそしてサラダといったものだ。
「誰かが傍にいてくれることも」
「有り難いことなの」
「そうよ」
「私はそうは思わないけれど」
「貴女はそうなの」
「コンピューターがあって」
そうしてというのだ。
第十六話 交流その四
「そのうえでそこから何か出来たら」
「貴女はそれでいいのね」
「人間はいらないわ」
こうもだ、颯姫は言った。
「全くね」
「だから地の龍としても」
「何も思わず戦えるわ」
「そうなのね」
「庚は学校の人達そして貴方達天の龍とも会って」
そうもしてというのだ。
「お話もする様に言ったけれど」
「何も思わないのね」
「嬉しくも悲しくもいいとも嫌とも」
一切とだ、淡々と食べつつ述べた。
「思わないわ」
「一切なの」
「そうよ」
「ほなこうして一緒に食べて話すのも止めるか?」
空汰は焼きそばをおかずにカツ丼を食べつつ颯姫に問うた。
「それやったら」
「いえ、また機会があったら」
颯姫は空汰のその言葉に答えた。
「お願いするわ」
「ええんかいな」
「何も思わないけれど」
それでもと言うのだった。
「続けた方がいいという気がするから」
「それでかいな」
「おかしいわ」
颯姫はほんの少し、彼女自身が気付かない位微かに自分の言葉と表情に感情を入れてそのうえで言った。
「時間の無駄、何も意味はない筈なのに」
「いや、無駄とか意味ないとかな」
空汰はそうした言葉自体に言った。
「人でわかるんか」
「わからないものなの」
「自分でその時そう思っててもな」
それでもというのだ。
「後でや」
「わかるものかしら」
「そういうものでもあるしな」
それでというのだ。
「また人って完全に一人で生きられるか」
「無理なの」
「そんなんめっちゃ寂しいわ」
こう言うのだった。
「そやからな」
「私もなの」
「クラスメイトと話して」
そうしてというのだ。
「わい等ともな」
「会ってお話をして」
「それを続けていこうってな」
「思うのかしら」
「そうちゃうか?」
「そして人を知る」
嵐も言って来た。
「そうしていっていることをね」
「自分でも何処かで悪ないって思ってるからな」
「しようと思っているのよ」
「そうなのかしら」
「多分ね」
「そやで」
二人で颯姫に話した。
「わい等はそう思うで」
「だから今こうしていてよ」
「またって思うんや」
「そういうことよ」
「わからないわ。けれどわからないことは突き止める」
颯姫はクールに言った。
「そうするものだから」
「そうしていくんやな」
「人と会って」
「そうしていくわ」
こう言ってだった。
颯姫は天の龍の二人と昼食を共にした後クラスに戻るとクラスメイト達と話もした、するとこんなことを言われた。
第十六話 交流その五
「八頭司さん変わったわね」
「よくお話する様になったわね」
「お話すると面白いわね」
「色々なこと知っていて」
「教えてくれることも的確で」
「頼りになるわ」
「そうなの」
颯姫はクラスメイト達の言葉に無表情で返した。
「私は」
「あれっ、字画なかったの?」
「前まで本当に無口でね」
「何も言わなかったから」
「無口だった自覚はあるから」
このことはと返した。
「けれど私のお話は面白いのね」
「そう、教えてくれるし」
「最近が学校の問題とかも」
「あと困っていることも」
「何でも聞いたら答えてくれて」
「それも的確だから」
「そうなのね」
自分への評価を聞いて言った。
「私は」
「そう、本当にね」
「頼りにしてるわ」
「これからも何でもお話してね」
「助けてくれるなら助けさせてもらうし」
「私達もね」
「そうさせてもらうわ」
こうお話した、そしてだった。
クラスメイト達とさらに話した、すると家では。
両親と食事を摂ったがそこでも話したが。
「いや、颯姫変わったな」
「そうよね」
「前までコンピューターばかりでな」
「私達もそれならってなったけれど」
「それがな」
「最近では私達ともお話をするし」
二人で娘に話した。
「表情は変わらなくても」
「口調もな」
「けれど親しみも感じる様になったわ」
「そうだな」
「人間味が出て来た」
「そう言うのかもな」
「お父さんとお母さんもそう言うのね」
二人で話すのだった。
「私が変わったって」
「私達もな」
父はここで申し訳なさそうに話した。
「お前をこれまで親としてどうだったか」
「貴女が頭がいいならそれでいいと思って」
「企業に力を貸してもらったり」
「そんなことでお金を稼いでもらう様なことばかりで」
「お前を娘と思わなかった」
「そうだったかも知れないわ」
「済まない」
娘に頭を下げて謝った、食事の途中だがそうした。
「これまでそうしてきて」
「私達も反省したわ」
母も頭を下げて行ってきた。
「これからは貴女と向き合うわ」
「親としてな」
「それでこれからもね」
「こうして一緒に食べてだ」
そうしてというのだ。
「会話もしていこう」
「家族として一緒にやっていきましょう」
「家族。私達が」
颯姫は両親の今の言葉に目を向けた、自然とそうなった。
「前からじゃなくて」
「これからは本当の意味でな」
「そうなりましょう」
「今更だが」
「三人でね」
「わかったわ」
颯姫は頷いて応えた。
第十六話 交流その六
「これからは」
「そうしていこう」
「今からでもね」
「それではね」
両親の言葉に頷いてだった。
颯希は両親と共に夕食を摂りその後で三人で語り合った。そして地の龍の仲間達とも共にいる時間を過ごした。
遊人はそのことを笑顔で話した。
「いや、二人共です」
「変わってきていますか」
「そうなのね」
「颯姫ちゃんはまだ感情が出ていませんが」
それでもとだ、海鮮麺を食べつつ話した。
「哪吒君は生じてきていますよ」
「それは何よりですね」
「本当にね」
「お二人にそう言って何よりです」
共に食べる二人に笑顔のまま話した。
「僕にしても」
「はい、それでですね」
共に食べる者の一人である征一狼が応えた、食べているのは炒飯だ。
「僕達もですね」
「こうして一緒に食べたりしてね」
もう一人の火煉も応えた、彼女は八宝菜を食べている。今は三人で中華料理店で飲茶を楽しんでいるのだ。
「お話をしているわね」
「そうですね、お二人共です」
遊人は紹興酒を飲んでから話した。
「こうしてお話をしていますと」
「どうなのかしら」
「いい人達に巡り会えたとです」
こう火煉に答えた。
「思えます」
「そうなの」
「はい、心から」
「それは私もよ」
火煉は海老蒸し餃子を食べつつ応えた。
「貴方といるとね」
「どうでしょうか」
「楽しい時間を過ごせるわ」
こう言うのだった。
「とてもね」
「そうですね、礼儀正しく温厚で」
征一狼は桂花陳酒を飲んでから言った。
「いい人です」
「まさかです」
征一狼に連れられて来ている玳透も言った。
「地の龍がこんな人なんて」
「思いませんでしたか」
「もっとです」
蟹焼売を食べながら本人に答えた。
「邪悪な」
「そして卑劣なことも辞さないですね」
「とても近寄れない様な」
「人間だと思っていましたか」
「そうでした」
玳透は正直に答えた。
「全く違いますね」
「いや、そんなことしないですよ」
即座にだ、遊人は答えた。
「勝利は目指して煽ることもあるでしょうが」
「それでもですか」
「流石に邪悪と言われますと」
それはというのだ。
「僕も否定したいですね」
「そうした人ではないと」
「そうです、少なくとも君ともです」
玳透自身にも言うのだった。
「こうして普段はです」
「普通にですか」
「接していきたいですから」
「そうお考えですか」
「はい、そして」
それにというのだ。
第十六話 交流その七
「今はこうして一緒にです」
「食べればいいですか」
「何もしませんから」
「そうですか」
「間違っても毒も入れませんよ」
口にしているものにというのだ。
「一緒に楽しみましょう」
「そうしていいですか」
「はい、そして」
それにというのだ。
「何でしたらここのお勧めメニューも教えさせてもらいますが」
「何でしょうか」
「ここはスープがよくて」
「スープですか」
「フカヒレのスープはどうでしょうか」
「ではそちらを」
「はい、それでは」
遊人は玳透の言葉を受けてだった。
実際にそちらを注文した、程なくして持って来られたそれを食べてだった。玳透はこれはという顔になって言った。
「確かに」
「美味しいですね」
「はい、凄く」
「この通りです」
「このお店ではですか」
「スープが美味しいんですよ」
「スープが美味しいならね」
それならとだ、火煉もフカヒレスープを飲みつつ話した。
「そのお店は確かよ」
「そう言っていいですね」
「このお店は炒飯も美味しいし」
「この二つが美味しいなら」
「腕は確かでね」
「味もです」
「いいのよ」
「そうなんですよね、炒飯とスープは基本です」
遊人はにこりとして話した。
「中華料理の」
「特に炒飯が言われているわね」
「ですからそういったものが美味しいとなると」
「そのお店の味は期待出来るわ」
「左様ですね」
「それでよ」
「このお店は全体的に美味しいです」
出る料理の全てがというのだ。
「まことに」
「お酒も美味しいですし」
征一狼は桂花陳酒を飲みながらこちらの話をした。
「いいですね」
「本当にそうね」
「ではです」
征一狼は遊人に応えて話した。
「今日はこのまま四人で」
「楽しく食べていきましょう」
「そうですね、それでは」
「今日は心ゆくまで楽しみましょう」
「この顔触れで」
穏やかな笑顔を交えさせてだった。
四人で笑顔で飲んで食べて楽しい時間を過ごした、そうして別れる時も笑顔だった。その別れの後でだった。
玳透は共に夜道を歩く征一狼に真剣な顔で話した。
「僕も悪い印象はです」
「受けなかったですね」
「温和で親切で」
「いい人ですね」
「そうですよね」
「僕も思います」
その様にとだ、征一狼も答えた。
「確かに」
「そうですよね」
「ですから」
それでというのだ。
第十六話 交流その八
「戦いがなければ」
「親睦を深めていけますね」
「はい、敵味方であっても」
「悪人とは限らないですね」
「例えその人が人間を滅ぼす存在でも」
そうであってもというのだ。
「そうなのです」
「いい人であったりしますね」
「はい、それも運命です」
「それによってですか」
「それによってです」
まさにその為にというのだ。
「麒飼さんも僕達もです」
「戦うんですね」
「それだけのことです、ですが主に戦うのは僕達であり」
天の龍の七人であるとだ、征一狼は玳透に話した。
「玳透君はです」
「丁様をですね」
「お護り下さい」
「僕の務めをですね」
「果たして下さい、今もそうですが」
征一狼はさらに話した。
「本格的な戦いになりますと」
「その時はですね」
「地の龍との戦いは僕達に任せて」
「僕はですね」
「丁様をお願いします」
「若し地の龍が出て来ても」
「すぐに退いて下さい」
そうせよというのだ。
「あくまで、です」
「地の龍との戦いはですね」
「天の龍しか出来ないので」
それ故にというのだ。
「如何なる時もです」
「僕が地の龍の誰かと会えば」
「それが麒飼さんでも他の人でも」
「退いて」
「丁様を頼みます」
「わかりました」
玳透は確かな声で頷いて答えた。
「それではです」
「そうしてくれますね」
「征一狼さんが言われるなら」
「お願いします」
「その時は」
「若し丁様に何かがあれば」
征一狼はそうなった場合を深刻な顔で話した。
「取り返しがつきません」
「その通りですね」
「ですから」
それ故にというのだ。
「玳透にはお願いします」
「何があろうとも丁様をお護りする」
「そのお役目を」
「あの方は天の龍を束ねられ」
「人間を導いて下さるからです」
「夢見のお力で」
「そうした方ですから」
こう話すのだった。
「何かあってはいけません」
「そうですね」
「だから玳透君もです」
「この戦いに参加していますね」
「僕達天の龍がいますが」
このことは確かだがというのだ。
「あの方のことを考えまして」
「僕はですね」
「動いて下さい」
「そうします、あとです」
征一狼は玳透に顔を向けたまま笑顔で話した。
「神威君は僕達のところに来てくれると思いますか?」
「彼ですか」
「玳透も彼と度々お会いしていますね」
「はい、学校は違いますが」
玳透はクランプ学園に通っている、神威とは通っている学校は違う。だから着ている制服も違うのだ。
第十六話 交流その九
「時々です」
「そうしていますね」
「最初はお互い警戒もして」
その時のことも話した。
「尖っていましたが」
「今はですね」
「落ち着いてです」
お互いそうなってというのだ。
「穏やかにです」
「お話出来ていますね」
「はい」
そうだというのだ。
「有り難いことに」
「それは本当にいいことですね」
「僕もそう思います」
「穏やかならです」
征一狼も笑顔で述べた。
「それに越したことはありません」
「そうですよね」
「先程の麒飼さんと同じで」
「穏やかならですね」
「いいです、それで神威君は」
「僕は来て欲しいと思います」
こう征一狼に述べた。
「彼には」
「来るかどうかではないですか」
「そのことはわからないので」
「だからですか」
「こう言いました」
征一狼に笑顔で話した。
「僕としては」
「そうですか」
「駄目でしょうか」
「いえ、構いません」
征一狼はいつもの優しい笑顔で答えた。
「運命は人にはわかりにくいものですから」
「だからですか」
「それが夢見でおわかりになられるからです」
それ故にというのだ。
「丁様は素晴らしいのですから」
「運命がわかるからこそ」
「僕達ではです」
到底という口調での言葉だった。
「わからないのもです」
「当然ですか」
「考えてみますと、ただ予想は出来るので」
「僕の予想をですか」
「お聞きしようと思いまして」
「僕は予想もです」
運命を見ることだけでなくというのだ。
「出来ないので」
「それで、ですか」
「はい」
それでというのだ。
「こうです」
「言われますか」
「はい、来て欲しいです」
「僕達の方に」
「そうすれば非常に頼りになる」
「そうした人になってくれますね」
「ただ天の龍としてだけでなく」
征一狼に澄んだ目で話した。
「人としても」
「そうですね、彼が来てくれたら」
「有り難いですね」
「そう思います」
「本当に。ただ」
ここでだ、玳透は。
ふと考える顔になってだ、征一狼に言った。
第十六話 交流その十
「天の龍も地の龍も七人ですね」
「それぞれが」
「そうですね、今地の龍は四人とです」
「庚さん達が仰っていました」
「それで先程麒飼さんも」
彼もとだ、玳透は話した。
「言われていました」
「残り三人共」
「彼が天の龍になるか地の龍になるか」
「彼の選択です」
「彼が天の龍を選んだら」
「他の誰かがです」
征一狼が話した。
「地の龍になります」
「それは誰でしょうか」
「そのことが問題ですね」
「そうですね」
「はい、ですが」
それでもとだ、征一狼は話した。
「どちらも七人となることは定まっていますので」
「だからですね」
「このことを頭に入れまして」
そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「考えていくことですね」
「そうしていきましょう、七人と七人になるとです」
「考えることですね、そして僕はです」
玳透は自分のことを話した。
「天の龍ではない、それだけの力がない」
「それならわかりますね」
「地の龍でもないです」
「そのことは確かです」
「力がないことを残念に思っていました」
これまではというのだ。
「ですが地の龍にならないなら」
「そのことはですね」
「よかったです、征一狼さん達と敵にならないのなら」
「僕もですよ、玳透君とはです」
征一狼も言うのだった。
「絶対に戦いたくないです」
「そうですよね」
「ずっと一緒にいましたから」
親戚同士として共に修行してきてというのだ。
「そうでしたから」
「だからですよね」
「はい」
まさにというのだ。
「そう思っています」
「本当によかったです」
「お互いに、では」
「そうですね、では僕は僕の持っている力全てを使って」
「丁様をですね」
「お護りしていきます」
征一狼に約束した。
「これまでお話している通りに」
「お願いします」
「その様に」
「はい、それでは」
「戦いが終わるまで」
「丁様のお傍にいて下さい」
こうした話をしてだった。
玳透は自分の家に帰り征一狼もだった。
彼の家に帰った、すると。
綺麗な妻と可愛い娘が彼を迎えて笑顔で言ってきた。
「おかえりなさい、あなた」
「おかえり、パパ」
「はい、只今です」
征一狼は家庭でも優しい笑顔で応えた。
「遅くなってすいません」
「いえ、それで晩ご飯は」
「いただいてきました」
笑顔での返事だった。
「玳透君とお友達と一緒に」
「そうなのね」
「お風呂だけをです」
こう妻に言うのだった。
第十六話 交流その十一
「いただきます」
「そうされますね」
「はい、そして」
入浴を楽しんでというのだ。
「そのうえで、です」
「後はなのね」
「はい、お話もしましょう」
「テレビも観て」
「家族三人で」
こう話してそうしてだった。
征一狼は実際にだった、娘と一緒に入浴してだった。
一家団欒の時を過ごした、彼にとってはそれがだった。
何よりも代え難くだ、リビングに妻に話した。
「今日も楽しいです」
「そうなのね」
「こうしてです」
妻にここでも優しい笑顔で話した。
「一緒に過ごせて」
「そう言ってくれるのね」
「はい、何度でも申し上げます」
妻に笑顔で言葉を返した。
「このことは」
「私もよ。ではこれからも」
「ずっと一緒にいましょう」
こう言うのだった、征一狼は家族との団欒に最高の幸せを見ていた。そしてその中で生きようと誓うのだった。
火煉は焼肉を食べた後で教会に入った、そこで神父に言った。
「戻りました」
「はい、ではですね」
「今日お仕事はまだありますか」
「いえ、終わりました」
神父は優しい声で答えた。
「ですから」
「ではお家に戻ります」
「そうされて下さい、ただ」
「はい、今はまだです」
火煉は神父に答えた。
「戦いはなく」
「穏やかにですか」
「過ごせています」
「それは何よりです、ですが」
「ですが、とは」
「戦いがはじまろうとも」
それでもとだ、神父は火煉に話した。
「貴女は死んではいけません」
「何があってもですか」
「はい」
そうだというのだ。
「生きて帰って戦いの後で」
「幸せにですか」
「暮らして下さい」
「そうしていいのですね」
「ここは貴女の居場所です」
やはりだ、神父の声は優しかった。ここでもそうだった。
「ですからここでそうして下さい」
「そうですか。私は神父様に出会えてよかったです」
神父の心そこにある心に優しい笑顔で応えてだ、火煉は述べた。
「まことに」
「そう言ってくれますか」
「はい」
まさにというのだ。
「あの時。母が亡くなり」
「貴女はこの教会に来られましたね」
「私の力を見ても悪魔と言われませんでした」
「貴女は悪魔ではありません」
決してとだ、神父は火煉の今の言葉を否定した。
「あの時も申し上げましたね」
「目がですか」
「悪魔はあの時の貴女の様に悲しい目はしておらず」
神父は火煉にさらに話した。
「今の様に澄んだ目はしていません」
「そうですか」
「ですから」
それでというのだ。
第十六話 交流その十二
「貴女は悪魔ではなく」
「天の龍、七つの封印ですか」
「人間の為に戦ってくれる。言うなら天使です」
「私が天使ですか」
「紛れもなく。心優しい天使です」
こう言うのだった。
「だからこそです」
「私は生きるべきですか」
「そして幸せになって下さい」
「そう言って頂き何よりです」
火煉はまた心から応えた。
「それではです」
「その様にですね」
「します、命を無駄にはしません」
「そうされて下さい。生きてこそです」
「人は幸せになりますね」
「誰もが幸せになる資格があり」
そうしてとだ、神父は火煉にステンドガラスがあり十字架にかけられた主がいる礼拝堂の中で彼女と向かい合って話した。
「それはです」
「生きてこそですね」
「なれるものですから」
「私もですね」
「生きて下さい」
「そうします」
火煉は神父に確かな声で答えた。
「必ず」
「それでは。あとお酒ですが」
「飲み過ぎにはですね」
「注意されて下さい」
神父はこの時も優しい声で述べた。
「そちらも」
「私はついついですね」
「飲み過ぎますね」
「字画しています、好きなので」
「ですから」
「お酒はですね」
「くれぐれもです。帰られても」
「今日は飲まない様にして」
そしてとだ、神父に話した。
「寝ます」
「そうされて下さい」
「時には飲まないことも大事ですね」
「自分の身を慎むことも」
これもというのだ。
「大事です」
「そうですね、お酒もまた」
「程々にしないと」
さもないと、というのだ。
「お身体にです」
「悪いですね」
「そうです」
まさにというのだ。
「だからです」
「そうします、牛乳がいいですね」
「そうですね、そちらを飲まれて」
「寝ます」
「そうされて下さい」
そうした話もしてだった。
火煉は一人暮らしには広い家に帰り古いぬいぐるみに挨拶をして牛乳を飲んでからベッドに入った。そして。
朝早くに家の隣にある教会に出勤してシスターの服を着ると神父に言った。
「では今日も」
「宜しくお願いします」
「そうさせてもらいます」
「今日も傷付き迷う人達がです」
「来られますね」
「そうなりますので」
だからだというのだ。
「私達もです」
「励むことですね」
「神にお仕えし」
そうしてというのだ。
第十六話 交流その十三
「そのうえで、です」
「迷える人達を救っていきましょう」
「今日もまた」
「神は迷える人を救って下さる」
「そうですね」
「私がそうであった様に」
「ですから」
「私の様な人達を」
「救わせてもらいましょう」
「では」
「これからお掃除をして」
神父は具体的な仕事の話をした。
「朝ご飯を食べて」
「そうしてですね」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「人々をお迎えしましょう」
「それでは」
火煉も頷いてだった。
神父と共に教会の仕事に入った、その教会の前を草薙は通ったがそこで火煉を見てそのうえで言った。
「まさか」
「?まさか」
火煉も言った。
「さっきの人は」
「まさかな」
「同じなのね」
「また会うことになるか」
「そうだとしたら」
こう話すのだった。
「戦うかも知れないわね」
「そうなるな」
「出来ればそうしたくないけれど」
「気は進まないがな」
「その時はね」
「仕方ないな」
それぞれこう言ってだった。
二人は今はそれで終わった、草薙はそれからだった。
勤務先の基地に入りそこで部隊の朝食を摂ってだった。
勤務に入った、その時部下や後輩達を何かと助けたが。
「いつも有り難うございます」
「助けてもらってます」
「何かあった時はお話して下さい」
「志勇さんの為に頑張ります」
「いや、別にいいさ」
草薙は彼等に苦笑いで答えた。
「いつも言ってるだろ、困った時はな」
「お互い様ですね」
「だからお礼はいい」
「そうですね」
「ああ、だからな」
そう考えているからだというのだ。
「俺はお礼や感謝はな」
「いいですか」
「それよりもですね」
「人を助けろ」
「他の人達を」
「それが俺達の仕事だろう」
今度は優しい微笑みで話した。
「俺達は」
「自衛官は」
「何かあったら国民の人達を守る」
「そして助ける」
「それが俺達の仕事ですね」
「そうだろ、よく戦争が言われるけれどな」
自衛隊はというのだ。
「けれどな」
「実際は災害ですね」
「地震も台風も火事もありますし」
「大雪や大雨も」
「津波もありますし」
「そういったものが起こったらな」
その時はというのだ。
「もうな」
「そうですよね」
「俺達が真っ先に動いて」
「そうしてです」
「助けないといけないですね」
「災害にしても」
「ああ、要請があったらな」
その時はというのだ。
第十六話 交流その十四
「そうしないといけないからな」
「まさにですよね」
「何かあったら国民の人達の命を守る」
「一人でも多く救い出す」
「それこそがですね」
「俺達の仕事だからな」
自衛官のというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「困った時はお互い様」
「志勇さんへのお礼はいい」
「それよりも人を助けろ」
「そう言われるんですね」
「そうだよ、いざって時はな」
国民に危機が来ればというのだ。
「助けていこうな」
「わかりました」
「そうしていきます」
「国民の人達を助けます」
「守って」
「PKOだってそうだろ」
自衛隊の海外での活動の一つであるこちらの話もした。
「困っている人達の為の仕事だろ」
「そうですね」
「言われてみれば」
「そちらになりますね」
「だからな」
微笑んでさらに話した。
「俺達の仕事はな」
「人を助ける」
「自分達の全力を使って」
「そうしてですね」
「時には命もな」
これもというのだ。
「賭けるものだろ」
「そうですよね」
「本当にいざという時は」
「そうもしますね」
「そうした仕事ですね」
「そのことも忘れないでくれよ」
ここでも草薙は優しかった、そうした目と声で語っていた。周りもそんな彼の言葉を聞いて頷いている。
「頼むな」
「はい、そうしていきます」
「これからも」
「何があっても」
「俺もな」
草薙はここでだった。
一瞬だが辛い顔になった、自分のことを考え。そうして言うのだった。
「出来る限りそうしていくしな」
「出来る限りですか?」
「志勇さんは絶対に大丈夫ですよ」
「誰よりも」
「俺達なんかよりもですよ」
「ずっとですよ」
「そう言ってくれるか、やっぱり人間もな」
やはり自分のことを考え言うのだった。
「大事だよな」
「そうですよ」
「誰かを守るのが力ですよね」
「その為にあるものですよね」
「志勇さんの言われる通りですよ」
「そうだよな」
周りのその言葉に頷いた。
「やっぱりそうでないとな」
「ええ、そうですよ」
「じゃあ何かあったら」
「その時はですね」
「力を使わないとな」
こう言うのだった、そしてこの日も軍務に励み。
部隊の隊長にだ、こんなことを言われた。
第十六話 交流その十五
「君もそろそろな」
「部内の幹部の試験をですね」
「そうだ、受けてみないな」
「そうしてですね」
「幹部にならないか」
こう言うのだった。
「君の様な人物こそな」
「幹部に相応しいですか」
「そうだ、だからな」
それでというのだ。
「今度受けてみないか」
「何年かそう言われていますが」
草薙は隊長に微妙な顔になって述べた。
「俺もそろそろです」
「いい頃だとだな」
「はい、一等陸曹にもなりまして」
それでというのだ。
「歳もです」
「三十になったな」
「そろそろかと思いまして」
「今度受けてくれるか」
「そうさせてもらいます」
「君は曹候補学生出身だしな」
二年で下士官になるコースである、自衛隊にはこうしたコースで入隊する課程も存在しているのだ。
「元々だ」
「幹部にですね」
「なることが前提で入隊しているからな」
「だからですね」
「君もだ」
是非にというのだ。
「なって欲しい」
「そうさせてもらいます」
隊長に素直に答えた。
「今度の試験を」
「宜しく頼む、そうなるとな」
「それからはですね」
「久留米に言ってな」
福岡県のその街にというのだ。
「そこの幹部候補生学校でだ」
「教育を受けて」
「そしてだ」
「俺も幹部ですか」
「そうだ、幹部になったらな」
隊長は草薙に優しい笑顔で話した。
「君はこれまで以上に国民の人達をな」
「守る様になりますね」
「そうなる、その時はな」
「はい、より一層頑張ります」
ここでもだった、草薙は本音を隠して答えた。
「そうなれば」
「そうしてくれ」
「俺は人間が好きですから」
本音、この時はこれを出して答えた。
「そうします」
「まずは我々がな」
「いざという時は頑張らないといけないですから」
「宜しく頼むぞ、君みたいな人間が幹部になってくれれば」
「一層ですか」
「多くの人達を助けられる」
有事にはというのだ。
「だからな」
「はい、試験受けさせてもらいます」
「君の実力なら絶対に合格する」
それだけの学力が備わっているというのだ。
「だからな」
「受けてですね」
「これからも国民の為に頑張ってくれ」
「出来る限りそうします」
地の龍である、だがそれでもだった。
草薙はこう答えた、隊の中での彼はあくまで心優しい自衛官として生き彼自身そうでありたいと思っていたのだった。
第十六話 完
2023・2・15
第十七話 禁句その一
第十七話 禁句
庚の後ろにある剣を見てだ、哪吒は彼女に問うた。
「僕が持って来た剣ですが」
「ええ、私達に必要なものの一つよ」
庚は哪吒に微笑んで答えた。
「私達が勝利を収める為にね」
「だから僕に取って来る様に言われて」
「そして持って来てもらったのよ」
「あの神社からですね」
「そうよ、ただね」
庚はさらに話した。
「この剣は普段はね」
「使わないんですか」
「ええ、地の龍の最後の一人の」
「その人にですね」
「神威に渡してね」
この時庚は二人を思いつつ話した。
「そうしてよ」
「そのうえで、ですか」
「最後の戦いで使ってもらうから」
そうしたものだからだというのだ。
「今はね」
「使わないんですね」
「そう、貴方達他の六人もね」
地の龍であるというのだ。
「使えないわ、あくまでこの剣は神威のものよ」
「地の龍の神威の」
「貴方に持って来てもらったけれど」
それでもというのだ。
「貴方にはね」
「使えないですね」
「持てて振ることは出来るわ」
他の地の龍の者達、六人もというのだ。
「それはでね、けれどね」
「それでもですか」
「力を万全に引き出すことは出来ないわ」
「剣にあるですか」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「そのことは覚えておいてね」
「わかりました、その剣はですね」
「神威のものよ」
あくまでというのだ。
「そうしたものであって」
「僕達の戦いの最後で」
「神威同士が戦って」
「その勝敗を決する」
「世界の未来をね」
まさにそれをというのだ。
「決めるものよ」
「それがその剣なんですね」
「ええ、その時まで私が守るから」
「だからですか」
「安心してね、私は何があっても守るから」
剣をとだ、庚は哪吒に話した。
「貴方達は貴方達の務めを果たしてね」
「そうさせてもらいます」
「そしてね」
「そして?」
「私は地の龍の誰にも死んで欲しくないから」
ここでもだ、庚は地の龍の者達の命のことを話した。
「戦ってもよ」
「僕達は死なない」
「そのことを心に留めておいてね」
「そうして戦うことですね」
「ええ、それで救われた世界を見ましょう」
庚は本心を隠しはしたが嘘は言わなかった、密かに姉のことを思いそのうえで哪吒に対して語ったのだった。
庚と哪吒がそうした話をしていた頃だった、丁は空汰達に話していた。
「近いうちに剣と最後の天の龍がわかります」
「両方でっか」
「はい、まずは剣がです」
こちらのことがというのだ。
「動きます」
「そうなりまっか」
「そしてです」
そのうえでとだ、庚は空汰に答えた。彼の隣には嵐がいて自分の傍には玳透が控えて静かに立っている。
第十七話 禁句その二
「私達にです」
「剣が手に入りますか」
「天の龍の神威が持つ剣が」
まさにそれがというのだ。
「そうなります」
「そういえばです」
嵐が言ってきた。
「あの剣は桃生神社に」
「ありましたね」
「それで地の龍に奪われましたね」
「あの剣は元々です」
「地の龍の神威のものでしたか」
「はい」
そうだったとだ、丁は嵐に答えた。
「実は」
「そうでしたか」
「どちらの神威も使えましたが」
それでもというのだ。
「運命ではです」
「地の龍の神威が持つものとですか」
「出ていました、そしてです」
「今度はですか」
「天の龍の神威が持つ剣がです」
「出て来るのですね」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「その剣が出て来て」
「最後の天の龍もですね」
「出て来ます」
「最後の天の龍でっか」
空汰はそう聞いて考える顔になって延べた。
「今までは神威が入る前提として六人で」
「まさにですね」
「天の龍はあと一人です」
こう丁に答えた。
「わい等は」
「その最後の一人がです」
「わかりまっか」
「そうなります、その時貴方達の何人かにです」
丁は空汰に静かな声で答えた。
「迎えに行ってもらいます」
「最後の天の龍に」
「その時はお願いします」
空汰に頼みもした。
「是非」
「ほなです」
空汰はいつもの明るい調子で応えた。
「その時は」
「若し貴方達にお願いすることになれば」
「迎えに行ってきますわ」
「お願いします」
「ほなそういうことで」
「若しや」
嵐がここで言ってきた。
「最後の天の龍は」
「彼ですか」
「はい、皇家の主である」
「陰陽道のですね」
「皇昴流さんでは」
こう丁に言うのだった。
「そうではないでしょうか」
「そやな、わいも思ってたわ」
空汰も言ってきた。
「ここまでな」
「ええ、かなりの力の持ち主が揃って」
「しかもや」
空汰はさらに言った。
「どうもや」
「地の龍の一人が桜塚護なら」
「あいつと因縁があるっていうな」
「あの人だとね」
「思うのがな」
「自然ね」
「あの二人に何があったか知らんが」
それでもというのだ。
第十七話 禁句その三
「そう思うがな」
「やっぱりね」
「自然やろ」
「そうね」
「まあそれでもな」
空汰はこうも言った。
「地の龍の残るな」
「二人が誰かということはね」
「まだわからんが」
「彼が地の龍だとしても」
「それでもな」
「私達の最後の一人はね」
「力の強さとな」
それと、というのだ。
「因縁を考えたらな」
「あの人ね」
「皇昴流さんや」
「そうなるわね」
「まだ会うたことはないが」
それでもとだ、空汰は真剣な顔になって延べた。その目は無意識のうちに右を見てそのうえで言葉を出していた。
「あの人やとや」
「天の龍であることはね」
「間違いない、しかもや」
空汰はさらに言った。
「皇家は本来京都の家やが」
「現当主の昴流さんはね」
「ずっとな」
「東京にいるそうね」
「それもクランプ学園にね」
「私が今通っている」
「あそこに通ってたらしいな」
空汰はこのことも話した。
「高等部を中退してるそうやが」
「そうらしいわね」
「そやけどな」
それでもと言うのだった。
「あの人は今のわい等から見れば」
「先輩ね」
「それになるな」
「そうね」
「征一狼さんや火煉さんから見れば後輩で」
「私達から見れば先輩ね」
嵐も応えた。
「そうなるわね」
「そうなるな、護刃ちゃんに颯姫ちゃんや哪吒達から見てもな」
「先輩で」
「あと遊人さんから見ても」
空汰は彼のことも話した。
「後輩か」
「そうなるかしら」
「ああ、何かな」
空汰はここでふとこうも言った。
「志勇さんって人がな」
「私も聞いたわ、何でも凄い運動神経で」
「体力もあってな」
「そうした方もね」
「クランプ学園におったらしいな」
「そうね」
「その人から見ても後輩か」
空汰はまた言った。
「昴流さんは」
「そうね」
「その昴流さんが天の龍やと」
最後の一人ならというのだ。
「相応しいな」
「ええ、まさにね」
「そうなるな」
「夢見で、です」
丁がまた二人に言ってきた。
「そのこともです」
「わかりますか」
「そうですね」
「間もなくな」
まさにというのだ。
第十七話 禁句その四
「そうなります」
「ほなですね」
「その時にですね」
「貴方達のうち何人かにです」
「その最後の天の龍をですね」
「迎えに行きますね」
「そうしてもらいます、そして」
それにというのだった。
「剣もです」
「手に入りますか」
「そうなりますか」
「そしてです」
丁はさらに話した。
「剣が手に入りますと時が来ます」
「時、ですか」
「では」
「彼が選ぶ時がです」
二人に話した。
「来ます」
「天の龍になるか地の龍になるか」
「その選択の時がですね」
「そうです」
「そうですか」
「いよいよですね」
「その時が」
まさにという言葉だった。
「そうなります」
「そしてそこからでんな」
空汰は言った。
「本格的な戦いがはじまりますね」
「そうなります」
丁はその通りだと答えた。
「まさに」
「やっぱりそうなりますか」
「時は止まりません」
「必ずですね」
「戦いの時が来て」
そしてというのだ。
「そのうえで、です」
「決着をつけることになりますね」
「そうなります」
嵐にも話した。
「そしてその時は」
「私達はですね」
「命を賭けて戦い」
そうなりというのだ。
「世界を、人間をです」
「護りますね」
「そうして頂きます」
こう述べた。
「その時こそ」
「ほなです」
「そうさせてもらいます」
こうした話もだ、天の龍達はしていた。それぞれの剣のことが注目されていた。そしてその中でだった。
神威もだ、学校帰りに自分のところに来た空汰達に剣の話をされた、そのうえで天の龍の最後の一人のことも話されたが。
神威は微妙な顔になってだ、こう言った。
「剣か、桃生神社にもあったが」
「あれは地の龍の方にいってもうたやろ」
空汰は神威に喫茶店の中で話した。
「そやろ」
「それでだな」
「ああ、もうな」
「俺達の手には渡らないな」
「そやけどな」
「もう一本か」
「剣はあってな」
それでというのだ。
「その剣はや」
「俺が天の龍になればか」
「持つことになるわ」
空汰はミックスジュースを飲みつつ話した。
第十七話 禁句その五
「これがな」
「そうか」
「ああ、そやからな」
空汰は神威に神妙な顔で答えた。
「心構えはな」
「しておくことか」
「そのことも頼むで」
「わかった」
「しかしです」
ここで護刃が言ってきた、アイスミルクティーを飲んでいる。
「どうして桃生神社にあの剣があったのか」
「そういえば」
嵐は抹茶を飲みつつ応えた。
「どうしてかしら」
「そのことが気になりますね」
「そうよね」
「あの神社の御神体とのことでしたが」
「どうしてあったのかしら」
「不思議と言えば不思議ですね」
これはと言うのだった。
「本当に」
「ええ、少し聞いてみようかしら」
「封真さん達に」
「どうかしら」
「いいと思います」
護刃は嵐の考えに賛成して答えた。
「私も」
「それではね」
「はい、また桃生神社にお邪魔して」
「聞いてみましょう」
「そうしましょう」
「そやな、何かとや」
考える顔になってだ、空汰も言ってきた。
「あの神社はわい等と関わりがあるな」
「不思議な位ですよね」
「剣のことといいな」
「神威さんと縁が深いことといい」
「封真さんも何か雰囲気がタダモンやないし」
空汰は彼のことも話した。
「小鳥さんもな」
「何かですね」
「ある感じやしな」
「不思議と」
「言われてみればそうか」
神威もそれはと応えた、そしてだった。
自分のココアを一口飲んでだ、それから言った。
「桃生家は俺だけでなくな」
「私達ともですよね」
「何かと縁がある」
こう護刃に応えた。
「剣のことといいな」
「何かあるんでしょうか」
「あると思う、では剣のことをな」
「封真さん達にですね」
「聞いてみるか」
「そうしますね」
「ならだ」
早速だ、神威は護刃達に話した。
「この店を出たらな」
「すぐにですね」
「皆で桃生神社まで行ってな」
「そうしてですね」
「そのうえでな」
まさにというのだ。
「剣のことを聞こう」
「はい、そうしましょう」
「話は決まりや、ほな飲み終わってからな」
空汰は今もミックスジュースを飲みつつ話した。
「それからな」
「神社に行くか」
「それで封真さん達に聞こうな」
「ではな」
神威も応えてだった。
神威は天の龍の三人と一緒にだった。
喫茶店のそれぞれの飲みものを飲み終えてから桃生神社に向かった、そして家に帰ってきていた封真に聞くと。
彼は瞬時に強張った顔になってだ、顔を右下に背けさせて言った。
第十七話 禁句その六
「悪いがその話は聞かないでくれ」
「言えないか」
「ああ、小鳥にもな」
彼女にもというのだ。
「聞かないでくれ」
「そうか」
「悪いがな」
神威に顔を戻して話した。
「あの剣のことはな」
「ではそうする」
「言えん事情があるならええですわ」
空汰もそれならと答えた。
「そこを無理しては」
「聞かないか」
「人の心を傷付けたりすることは本意やないですさかい」
だからだというのだ。
「わい等も聞きませんわ」
「悪いか」
「いえ、構いません」
嵐は申し訳なさそうな顔になった封真に答えた。
「では剣のことは」
「そうしてくれ」
「はい、ですが間もなくです」
「もう一本の剣が手に入るんです」
護刃も言ってきた。
「私達に」
「そうなのか」
「はい、丁様が言われるには」
「ではまた」
「また?」
「いや、何でもない」
封真はまた顔を右下にやって言った。
「気にしないでくれ」
「そうですか」
「ただその時は」
封真は顔を戻して話した。
「皆覚悟しておいてくれ」
「覚悟?」
「ああ、どんな惨たらしいことが起こっても」
例えそうなってもというのだ。
「いいとな」
「その様にですか」
「覚悟してだ」
そしてというのだ。
「剣をだ」
「受け取ることですか」
「そうしてくれ、そしてだ」
そのうえでというのだ。
「運命に向かってくれ」
「運命か」
神威は封真のその言葉に眉を動かした。
「剣もか」
「そうだとな」
その様にというのだ。
「言うだけだ、俺は」
「そうか」
「そしてだ」
神威はさらに言った。
「その剣で戦う」
「あくまでだな」
「まだどちらか決めていないが」
天の龍を選ぶか地の龍を選ぶかはというのだ。
「しかしな」
「その剣でだな」
「俺は戦う」
そうするというのだ。
「そうする」
「ならそうしろ、だがな」
「運命はか」
「その時何を見てもな」
封真は厳しいがそこに悲しさもある目で話した。
「進むことだ」
「心を折らずにか」
「そうしてくれ、そして小鳥にはだな」
「このことをだな」
「くれぐれもな」
決してと言うのだった。
第十七話 禁句その七
「話さないでくれ」
「聞くこともだな」
「そうしてくれ」
「小鳥が傷付くことは絶対にしない」
これが神威の返事だった。
「それならな」
「それならな」
「そうする」
「お前がそう言うなら心配しない」
封真は微笑んで答えた。
「俺もな」
「そう言ってくれるか」
「ああ、それならな」
「小鳥にはな」
「そうする」
「私達も約束するわ」
嵐も言ってきた、ここでは天の龍を代表して。
「何があってもね」
「小鳥にはだな」
「剣のことを聞かないし」
「言うこともだな」
「しないわ」
「悪いな、正直ほっとしている」
封真はまた微笑んで話した。
「天の龍がどの人も信頼出来る人でな」
「そう言ってくれるのね」
「そう感じているからな」
実際にというのだ。
「よかった」
「そうね、ただね」
「ただ?どうしたんだ」
「地の龍も」
「貴方達から見て敵のか」
「あの人達も悪い人達ではないわ」
嵐は自らこのことを話した。
「決して」
「そうなんやな、これが」
空汰は嵐に顔を向けて応えた。
「どんなんかと思ったら」
「そうなのよね」
「会って話したらな」
「悪い人達ではないわ」
「どの人もな」
「実は俺も会ったが」
封真も話した。
「確かにな」
「ああ、あの人等と会ったんか」
「部活の試合の後でな」
「そやったんか」
「全くだ」
「悪い印象はなかったな」
「そうだった、嘘も言わない様な」
そうしたというのだ。
「悪いものはな」
「感じんかったんやな」
「そうだった」
「そやねんな、悪人かっていうとな」
「地の龍の人達もな」
「ちゃうんや」
これがというのだ。
「決してな」
「その通りだな」
「そこがややこしいわ」
空汰はどうにもという顔で述べた。
「相手が決してな」
「悪人ではない」
「そのことがな」
どうにもと言うのだった。
「難しいところや」
「世の中、人間とはそういうものか」
「やろな、悪人でなくてもな」
「立場が違いな」
「それによってな」
「互いに戦うことになる」
「そういうことやな、ひょっとしたら」
神威を見てだ、空汰は心配そうに言った。
第十七話 禁句その八
「神威ともな」
「俺が地の龍になるとな」
「その時は戦うことになるさかい」
「俺は皆嫌いじゃないか」
「そやけどな」
「その時はか」
「戦う運命になるさかいな」
だからだというのだ。
「その時はや」
「そうか」
「ああ、しゃあないわ」
こう言うのだった。
「お互い悪い人間やないとわかってて」
「嫌いでなくともか」
「互いの立場によってな」
「戦うことになるか」
「そや、そうなってもな」
「仕方ないか」
「それが運命ってことでな」
それでというのだ。
「しゃあないわ」
「そうか」
「お前の選択次第でな」
「そして俺が天の龍になっても」
「地の龍の人達とや」
「戦うしかないか」
「いや、わいかてな」
空汰は神威にこうも言った、眉を顰めさせてそのうえでどうかという表情をそのままにして語るのだった。
「最初は地の龍が何人来てもな」
「倒すつもりだったか」
「けちょんけちょんにな」
その様にというのだ。
「したるつもりやった」
「それがか」
「遊人さんに会って」
最初に彼にというのだ。
「それからもな」
「地の龍に会ってか」
「悪い人等やないとわかってな」
それでというのだ。
「今はそれでも戦わんとあかん」
「そう考えているか」
「そや、立場によってな」
それ次第によってというのだ。
「戦うもんでな」
「戦うならか」
「人間の世界を為にな」
それを守る為にというのだ。
「倒さなあかん」
「一人でも多くか」
「そや、それがや」
まさにというのだ。
「わいの運命でな」
「戦うしかないか」
「出来たら一人でも多く命を奪わん」
「そう考えているか」
「ああ、倒してもな」
そうしてもというのだ。
「決してや」
「命まではか」
「奪いたくないしな」
「覚悟ね。私は命を奪うこともね」
嵐は冷静な顔で言った。
「厭わないつもりだったわ」
「だった、か」
「今は出来るなら」
「そこまではか」
「しないに越したことはないとね」
神威に対して話した。
「考えているわ」
「そうか」
「ええ、戦いだから倒すけれど」
それでもというのだ。
第十七話 禁句その九
「無闇にはね」
「そう考えているか」
「私はね」
「それも考えだな」
「そう言ってくれるのね」
「そうですね、諦めてくれたら」
地の龍達がとだ、護刃も言ってきた。
「それで、ですね」
「いいわね」
「はい」
嵐に対して答えた。
「私も無益な殺生はしたくないです」
「命を奪うことはね」
「命って大事ですから」
嵐に心から言った。
「ですから」
「出来る限りはね」
「したくないです」
「そしてするものでもないわ」
「そうですよね」
「無闇に命を奪えるなら」
そうであるならとだ、嵐は言い切った。
「もうそれはね」
「間違ってますね」
「人間じゃないわ」
嵐は言い切った。
「もうね」
「そう言っていいですね」
「ええ、そうなったら」
それこそというのだ。
「魔物よ」
「人間でなくて」
「姿形はそうであっても」
人間であってもというのだ。
「けれどね」
「それでもですね」
「心がね」
「人間でないので」
「だからね」
それでというのだ。
「そうした人はね」
「人間じゃないですか」
「最早ね」
「それな、何でもな」
空汰はどうかという顔になって嵐達に話した。
「わい等が地の龍の一人と睨んでるな」
「桜塚護ね」
「ああ、あの人はどうもな」
「そうした人ね」
「何でも人を傷付けて殺して何とも思わんな」
「魔物ね」
「それでな」
空汰は嵐にさらに話した。
「皇家のご当主さんともな」
「そうしたことでなの」
「因縁があったかってな」
その様にというのだ。
「思ってるわ」
「そうなのね」
「そうしたことでな」
「そういえば」
ここでだ、嵐は。
自分の顎に右手を当ててだ、ふと気付いた顔になってそのうえで言った。
「皇家のご当主にはお姉さんがおられたそうよ」
「ああ、そうらしいな」
空汰もそれはと応えた。
「何でも」
「そうらしいわね」
「双子でな」
「お二人共クランプ学園に通っておられて」
「そのお姉さんがお亡くなりになってな」
そうしてというのだ。
第十七話 禁句その十
「ご当主さんは学園を去って」
「高等部を中退されたそうね」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
「陰陽道のお仕事にな」
「本格的に入られたそうね」
「そのお姉さんのことにな」
「桜塚護と縁があるのかしら」
「そうかもな」
「あの、地の龍の人達は悪い人達じゃないですが」
護刃は心配そうに言ってきた。
「ですがどの人も悪い人じゃないということは」
「ないみたいやな」
空汰はどうかという顔で護刃の心配に答えた。
「遊人さん達は兎も角な」
「桜塚護さんはですね」
「伝え聞く限りではな」
「悪い人ですか」
「それもな」
しかもというのだ。
「今嵐嬢ちゃんが言うた通りな」
「人間ではない」
「魔物や」
「そうした人ですか」
「そやからな」
だからだというのだ。
「この人と戦うとしたら」
「その時はですね」
「もう覚悟を決めてな」
そのうえでというのだ。
「やらなあかん」
「そうなりますね」
「世の中そんな奴もおらんや」
「魔物と言うしかない」
「確かにええ人と戦うこともあるが」
それでもというのだ。
「そうしたな」
「魔物とですか」
「戦うこともな」
その場合もというのだ。
「あるんや」
「そうなんですね」
「そやからな」
だからだというのだ。
「そうした奴と戦う場合は」
「もう殺す、命を奪うこともな」
空汰も覚悟を決めていた、そうした顔だった。その顔を自分でもそうなっていることを自覚しつつそれで言うのだった。
「もうな」
「ありますね」
「むしろな」
「そうした人はですか」
「命を奪う、殺さんとな」
さもないと、というのだ。
「犠牲になる人がや」
「増えますか」
「そうなるわ」
こう言うのだった。
「ほんまにな」
「そうなんですね」
「そやからな」
だからだというのだ。
「もうな」
「目の前に現れて」
「戦いになったらな」
その時はというのだ。
「やるしかないわ」
「そうですか」
「もうな」
それこそというのだ。
「とことんまでな」
「そうね、他の人は兎も角」
嵐も言ってきた。
「桜塚護だけはね」
「命を奪うしかないやろな」
「おそらくね」
「そんな人もいるのか」
封真は桜塚護の話をここまで聞いて神妙な顔で言った。
第十七話 禁句その十一
「地の龍には」
「あくまで憶測ですけど」
空汰は右手を自分の頭の後ろにやって答えた。
「どうもです」
「いるか」
「そうみたいです」
「そして会った時はか」
「わい等の事情ですけど」
「戦ってか」
「命を奪うこともです」
このこともというのだ。
「覚悟します」
「そうなのか、だが実際に悪人かどうかな」
腕を組んでだ、封真は考える顔になって話した。
「見極めないとな」
「駄目ですね」
嵐も応えた。
「そうですね」
「さもないとな」
「対応を間違えますね」
「そうなる」
嵐にその通りだとだ、封真は答えた。
「まさにな」
「そやな、わい等の誰も会ったことないしな」
空汰も封真のその言葉に頷いた。
「桜塚護には」
「それならだな」
「はい、実際に会ってです」
「話をしないとな」
「わかりませんわ」
こう封真に答えた。
「ほんまに」
「そういうことだな」
「まあ会ったらです」
桜塚護と、とだ。空汰はそうなった時のことも話した。
「戦いになる可能性がめっちゃ高いですが」
「そうですね、何しろ地の龍の人ですし」
護刃が応えて述べた。
「前にもです」
「わい等に仕掛けてきたしな」
「議事堂で」
「他の龍はまだ何もしてへんのにな」
「あの人だけはそうしてきましたし」
「そのことも考えるとな」
「あの人に会えば」
その時はとだ、護刃は眉を曇らせて話した。
「他の地の龍の人達とよりもです」
「戦いになるわ」
「その可能性が高いですね」
「その筈や」
「戦いになればその時のことね」
嵐は今も冷静だった、彼と会ってそうなった時のことを想定していても。
「あくまで戦うまでよ」
「それだけですか」
「そして戦いの中でね」
「あの人のことをですか」
「知るわ」
「そうされますか」
「そのうえでね」
それでというのだ。
「私はそう考えているわ」
「そうですか」
「本当にね」
嵐はさらに言った。
「戦いになってもね」
「それだけですか」
「ええ、ただ私も最初からね」
「あの人を悪人とはですか」
「決め付けていないわ」
「やっぱりあの時ですね」
「焼肉屋さんでお会いしてね」
地の龍の者達と、というのだ。
第十七話 禁句その十二
「わかったわ」
「例え私達の敵であっても」
「悪人とは限らないわ」
「そのことがですね」
「わかったから」
それ故にというのだ。
「あの人についても」
「そうですか」
「そしてね」
さらにだ、嵐は話した。
「何といっても私達のことで」
「はい、剣とですね」
「最後の一人のことをね」
「これからどうなるか」
「どういった事態になってもね」
封真の先程の言葉を思い出してであった、嵐は無意識のうちにその彼に目をやってそのうえで護刃に話した。
「落ち着いてよ」
「ことを進めていきますね」
「そうであるべきよ」
「そうだな、だがだ」
神威は腕を組んで述べた。
「封真に言われた通りにな」
「小鳥さんにはですね」
「決してだ」
何があってもとだ、護刃に述べた。
「言わないことだ」
「そうですね」
「何があったか俺も知らないが」
「言わないことにして」
「聞くこともな」
「しないことですね」
「そうしていこう」
「はい、封真さんも言われていますし」
小鳥も封真を見て応えた。
「そうしましょう」
「絶対にな」
「はい、本当に」
「そうしてくれると有り難い」
封真も言ってきた。
「くれぐれも頼む」
「そうする」
「実は小鳥は心臓が悪かったしな」
「あれっ、そうだったんですか」
そう聞いてだ、空汰は少し驚いて応えた。
「あの娘心臓悪かったんですか」
「今は何ともないがな」
「そうだったんでっか」
「だから昔は激しい運動もだ」
これもというのだ。
「出来なかった」
「そうだったんでっか」
「それがだ」
今ではというのだ。
「普通にだ」
「運動も出来ますか」
「そうなった、嬉しいことにな」
「何か儚い感じのする娘やけど」
「そういえばそうね」
嵐は空汰の儚いという小鳥に対する表現に応えた。
「彼女はね」
「そうした人やな」
「私生活はしっかりしているけれど」
「何処か護りたくなるな」
「抱き締めたら粉々に壊れそうな」
「ガラスみたいにな」
「そうした人ね」
こう言うのだった。
「確かにね」
「ほんまにそやな」
「だから何か」
「護りたくなるわ」
「そうだな、小鳥は抱き締めると壊れそうsだ」
神威もこう言った。
「そして離してもな」
「その手を」
「今思うとどうなるかわからない」
「そんな気がするのね」
「ああ、俺は壊したくなくてだ」
嵐にやや俯いて話した。
「離れたが」
「今はなのね」
「どうなるかわからないと思ってな」
実際にというのだ。
「それでだ」
「傍にいるのね」
「そうしている」
実際にというのだ。
第十七話 禁句その十三
「そしてそうしていた方がな」
「いいとなのね」
「今は思っている」
「そうなのね」
「だからな」
神威はさらに話した。
「これからもだ」
「護っていくのね」
「その為にも剣のことはな」
「言わないわね」
「そして聞かない」
封真が頼むままにというのだ。
「そうする」
「そういうことね」
「だが剣はな」
それはというのだ。
「やはりな」
「手に入れるわね」
「そうしないとだ」
さもないと、とだ。神威は真剣に考える顔で話した。
「ことは進まない様だしな」
「それな、おひいさんのお話やとな」
空汰は腕を組みどうかという顔になって応えた。
「やっぱりな」
「剣は必要だな」
「二人の神威の決着を着ける」
「その戦いの為にだな」
「それが天の龍と地の龍の最後の戦いになるらしいが」
「その時の為にだな」
「必要みたいでもうすぐ天の龍の方に手に入ってな」
そうなりというのだ。
「あらためてな」
「ことは進むな」
「そうみたいやな」
こう神威に話した。
「やっぱりな」
「そうだな、だからな」
それでというのだ。
「ここで剣はな」
「手に入れるべきやな」
「そう思う、そしてだ」
神威はさらに言った。
「最後の天の龍もな」
「誰かやな」
「見付けそしてだ」
「こちらに迎えることや」
「そうすることもな」
「必要や」
「そうだ、そして俺もな」
神威は自分のことも話した。
「間もなくだな」
「そうですね、天の龍になられるか地の龍になられるか」
護刃は俯いて神威に話した。
「近いうちに決められることになります」
「そうなるな」
「私達としてはです」
「天の龍だな」
「こちらを選んで欲しいです、一緒にいまして」
出会ってからそうしてきてというのだ。
「神威さんに親しみを持っていますし」
「一見不愛想やがあったかい」
空汰は神威の本質を指摘した。
「そうした奴やからな」
「だからか」
「ああ、一緒にな」
笑顔での言葉だった。
「いたいわ、そして戦ってな」
「人間の世界を救ってか」
「最後は七人でパーティーや」
無意識のうちにだ、空汰はそうなると確信して言った。高野山で星見の僧正に言われたことはこの時は忘れていた。
だがすぐに思い出してだ、不思議そうな顔で言った。
第十七話 禁句その十四
「いや、七人全員はどうやろな」
「なるわ」
嵐が答えた。
「そうなると思ったら」
「そやろか」
「今そんな気がしたわ」
空汰にいつもの表情で述べた。
「私もね」
「そうなんか」
「ええ、だからね」
それでというのだった。
「戦いが終わったら」
「七人でか」
「天の龍のね」
「征一狼さんに火煉さんも」
「そして最後の人もね」
神威を見ながら話した。
「きっとよ」
「戦いが終わったらか」
「一緒にいられるわ」
「そうなるか」
「そう思うだけだけれど」
根拠はない、しかしというのだった。
「きっとね」
「嬢ちゃんがそう言うたらな」
「信じられるかしら」
「何かな、ほなそうなる様にな」
「戦っていくわね」
「そうしよな」
嵐に笑顔に戻って答えた。
「これからは」
「ええ、そうしましょう」
「それで神威はな」
「私はどちらの選択も受け入れるわ」
神威のそれをというのだ。
「神威が天の龍になっても」
「そして地の龍になっても」
「どちらでもね」
「受け入れるんやな」
「ええ」
そうだというのだ。
「彼の選んだことならね」
「敵になってもか」
「そうするわ」
受け入れるというのだ。
「私はね」
「だがそれはだ」
神威自身が嵐に言った。
「俺はお前達を」
「手にかけることも有り得るわね」
「俺が地の龍になれば」
その選択をすればというのだ。
「そうなるが」
「貴方の選択だから」
だからだとだ、嵐は神威に顔を向けて答えた。
「私達の誰も何も言えないし貴方という人もわかったから」
「だからか」
「貴方は思いやりがあって真面目な人よ」
神威の本質をだ、嵐もわかっていた。そのうえでの言葉だった。
「その貴方の選択、決断ならよ」
「いいのか」
「考えた末で」
それでというのだ。
「貴方が正しいと思う選択なら」
「いいのか」
「ええ、是非ね」
こうもだ、嵐は言った。
「選んだらその後は迷わずに」
「その道を進めばいいか」
「選択の時私達のことは考えなくていいわ」
「世界とか」
「そしてね」
「封真、それに」
神威は封真を見てだった、嵐に答えた。
「小鳥を護ることだな」
「大切なお二人をね」
「そのことからだな」
「選べばいいわ」
「お前達だけでなくか」
「私達は確かに貴方達とよく一緒にいるわ」
嵐はこのことは事実とした。
第十七話 禁句その十五
「けれどまだ同じ天の龍でないから」
「選択、決断の時にか」
「考えに入れなくていいわ」
「あくまで俺はか」
「世界とね」
「封真それに小鳥のことをか」
「考えればいいわ」
選択の時はというのだ。
「そうすればね」
「俺はもう決めてある」
そのうちの一人である封真も言ってきた。
「お前の決定に頷くだけだ、だが俺もだ」
「小鳥とか」
「お前を護る」
こう言うのだった、神威を見て。
「そう考えている」
「そうか」
「俺も何があってもな」
「俺と小鳥を護るか」
「そうする、だから安心しろ」
「その考えは変わらないか」
「絶対にな」
強い声での返答だった。
「そうする」
「そうか、そう言うなら大丈夫だな」
「俺を信じてくれるんだな」
「当然だ、お前を知っているからな」
神威は封真に微笑んで答えた。
「だからな」
「信じてくれるか」
「むしろ俺自身よりも信じられる」
封真、彼をというのだ。
「だからな」
「俺はお前とか」
「小鳥を護ってくれる、何があってもな」
「俺がどうなってもか」
「ああ、お前もまた小鳥を護る」
自分と同じ様にというのだ。
「そしてだ」
「お前もだな」
「正直俺のことはいい」
「小鳥だな」
「ああ、俺よりもな」
「いや、俺にとっては二人共大切な存在だ」
「だからか」
「二人共護る」
こう言うのだった。
「そして俺を信じてくれるならな」
「それに応えてくれるか」
「そうする、安心してくれ」
「ならな、お互いに護っていこう」
「そうしていこう」
剣の話はしなかった、だが。
神威と封真は共に約束した、その後小鳥が帰ってきて天の龍は自分達は自分達で議事堂で食べると言ってこの日は桃生家を後にした、その後で。
神威は封真それに小鳥と小鳥が作った大根と豆腐の味噌汁と肉じゃがとカレイのムニエルを食べた、その中で。
小鳥にだ、神威は言った。
「小鳥、明日もこれからもな」
「うん、こうして一緒にね」
小鳥も笑顔で応えた。
「食べようね」
「そうしていこう」
「明日のお昼も夜もね」
「ああ、明日もな」
「そうしていこうね」
こうした話をしてだった。
三人で食べた、彼と封真は向かい合いながらも想いは同じだった。そう思う中で封真も言ったのだった。
「俺もだ、明日もな」
「お兄ちゃんもそう言うのね」
「ああ、そうしていこうな」
「うん、三人でね」
小鳥もこう言った、そしてだった。
三人は共に食べた、絆はそこにあった。
第十七話 完
2022・2・22
第十八話 秘密その一
第十八話 秘密
この夜封真の夢にだった。
牙暁が出て来た、封真は彼を見てすぐにわかった。
「地の龍の」
「はい、僕は地の龍の一人でして」
「夢見か」
「そうです、貴方はです」
「わかっている、添え星だな」
封真は澄んだ顔をやや俯けさせて応えた。
「神威の」
「もう一人の神威であり」
「そしてだな」
「神威は一つの道を選べば」
「俺はもう一つの道に進む」
「そうなります」
こう言うのだった。
「ですから普通にです」
「天の龍とも地の龍ともだな」
「巡り合い」
そうしてというのだ。
「そしてです」
「そのうえでだな」
「彼女の犬も見えていましたね」
「犬鬼だったな」
封真は護刃に教えられたその名前を自ら出した。
「そうだな」
「はい、言えるからには」
「ああ、見えている」
はっきりとした返事だった。
「最初からな」
「そうですね、そして貴方のお力も」
「生まれた時からのこれもな」
「その常人離れしたものも」
それもというのだ。
「まさにです」
「俺が添え星だからだな」
「はい、そしてです」
牙暁は封真の前に立ってさらに言った。
「彼が天の龍の道を選べば」
「俺は地の龍になりな」
「彼が地の龍を選ばば」
「俺が天の龍になる」
「そして地の龍はです」
そちらの道ではというのだ。
「彼女を殺します」
「その最初にだな」
「彼女は運命の犠牲者になるので」
「それがあいつの運命か」
「ですから両方の龍が揃えば」
その時にというのだ。
「地の龍の神威は人の心を失い」
「人を滅ぼす存在となりか」
「その手はじめ、地の龍になった儀式として」
「それでだな」
「彼女を自らの手で殺します」
「俺か神威がか」
「はい」
こう封真に答えた。
「そうなります」
「神威はそんなことはしない」
確信を以てだ、封真は牙暁に顔を上げて答えた。
「何があってもだ」
「彼女を護ると言ったので」
「俺とな、だからな」
それ故にというのだ。
「あいつは大丈夫だ」
「地の龍となってもですか」
「俺と約束したしな」
「だからですか」
「それにあいつは常に自分を失わない」
こうもだ、封真は話した。
「それこそな」
「何があっても」
「そうした奴だ、あいつは大丈夫だ」
「何があってもですか」
「小鳥を護る、殺すことはだ」
「決してない」
「そうだ、そして俺もだ」
封真は自分のことも話した。
「同じだ」
「ご自身をですか」
「保つ、俺が地の龍になればか」
「その時は貴方がです」
「そうだな、だが神威に誓った」
封真は言い切った。
第十八話 秘密その二
「しかしな」
「それでもですか」
「俺はあくまで俺だ」
「人の心をですね」
「何があっても保ってだ」
そうしてというのだ。
「神威を護るしな」
「彼女もですね」
「護る」
「そうしますか」
「地の龍になってもな」
例えなろうとも、というのだ。
「あいつを護る、殺すなぞだ」
「断じてもですか」
「しない、何があってもだ」
「人の心はですか」
「護る、神威と約束したからな」
「そうですか、ではです」
牙暁はここまで聞いてだった、まずは目を閉じた。
そのうえでだ、前に右膝を立て黒い所々に白い水滴が滴り落ちている空間の中に座っている封真に話した。
「そうされて下さい」
「いいのか」
「僕は地の龍です、ですが」
「それでもか」
「出来れば誰もです」
「死んで欲しくないか」
「僕なりに世界を愛しています」
だからだというのだ。
「そしてです」
「人間もか」
「はい」
そうだというのだ。
「僕の様な考えは地の龍では少ないですが」
「あんただけじゃないんだな」
「もう一人おられます」
「そうか、もう一人いてくれているんだな」
封真は牙暁の今の返答に微笑んで応えた。
「それはよかった」
「ですが」
「貴方とその人だけか」
「他の人は特にです」
「何も思っていないか」
「人間を憎んでいませんが」
それでもというのだ。
「そうした運命だとです」
「考えているか」
「はい、そして僕は」
牙暁は封真にさらに話した。
「運命はです」
「変わらないか」
「そう考えていました」
「過去形だが」
「今は揺らいでいます」
その考えがというのだ。
「貴方のお父上のことから」
「父さんか」
「今入院しておられますね」
「命に別状はない、けれど」
それでもとだ、封真は牙暁に答えた。
「まだな」
「入院中ですね」
「退院まで暫くかかる」
「実はあの時にお父上はお亡くなりになる筈でした」
鏡護、彼女はというのだ。
「その筈でした」
「そうだったのか」
「運命では。ですが」
「運命が変わったんだな」
「これまで運命は絶対と思っていました」
目を閉じてだ、牙暁は話した。
第十八話 秘密その三
「しかしです」
「それがか」
「お父上は命を落とさなかったので」
「運命は絶対とはか」
「疑問を持つ様になっています」
「あんたもそうか」
「はい、そして」
牙暁は再び目をうっすらとだが開いてそのうえで封真に話した。
「貴方もそう思われるのなら」
「小鳥をか」
「何があっても己を失わず」
そうしてというのだ。
「護ってあげて下さい」
「そうする、そして神威もな」
「彼もですね」
「必ずそうする、俺達はお互いにだ」
「護り合い」
「小鳥もな」
彼女もというのだ。
「そうする」
「そうですね、期待しています」
「俺達のことをか」
「僕は絶望していました」
また目を閉じてだ、牙暁は話した。
「かつて友人の死を見まして」
「その時にか」
「はい、運命は変わらず」
そしてというのだ。
「死ぬべき人は死ぬと」
「そして殺される命はか」
「殺されると」
「それが運命だとか」
「絶対のものとです」
まさにというのだ。
「思っていました、ですがそれがです」
「揺らいでいるんだな」
「そうなっています、ではその揺らぎをです」
「俺達にか」
「お願いします、そして運命を変え」
「人間もか」
「そして地球もです」
その両方をというのだ、そして。
ここで、だ。牙暁は。
自分の心のある部分を閉じ込め隠した、夢の中では嘘を言うことが出来ないどうしても真実を言ってしまうのでこうしてから封真に話した。
「あの人もお救い下さい」
「あの人?誰だ」
「やがてわかります」
これが今の牙暁の返答だった。
「そのことは」
「そうなのか」
「そのこともお願いします、そして」
「そのうえでか」
「戦われて下さい、僕の見た運命をです」
「変える為にだな」
「お願いします」
「わかった、その時は近い」
封真は俯き気味だが確かな声で約束した。
「ではな」
「期待していいですね」
「それに応える」
封真は再び約束した。
「必ずな」
「ではその時にまた」
「ああ、またな」
「お会いしましょう」
夢の中での会話は終わった、そしてだった。
封真は起きると日常の生活に入った、それは誰が見ても何の変哲もないものであった。
封真が夢で牙暁と話をしたその夜天の龍の者達は集まって話をしていた。場所は議事堂の別室である。
空汰達の話を聞いてだ、征一狼は言った。
「そうですか、あの剣のことは」
「はい、何もです」
空汰は申し訳なさそうに話した。
第十八話 秘密その四
「封真さんがどうしてもです」
「言えないとですね」
「言ってまして」
「そして小鳥さんですね」
「あの娘には絶対にです」
「言わない様にですね」
「言われました」
このこともだ、空汰は話した。
「そうでした」
「ではですね」
「はい、あの剣のことはです」
「わからないですね」
「残念ですが」
「それなら仕方ないです、ですが」
征一狼は穏やかだが真剣な顔で述べた。
「剣のことは必ずです」
「知らないといけないわね」
火煉が言ってきた。
「私達は」
「そうです、僕達もです」
「剣は必要でね」
「持っているべきなので」
征一狼は火煉にも話した。
「ですから」
「そうね、そのことはね」
「絶対ですから」
それ故にというのだ。
「知る様にです」
「すべきね」
「絶対に」
「剣は二本あるので」
護刃はこのことから話した。
「ですからもう一本はですね」
「僕達のところにです」
「来ますね」
「最後の天の龍が持つべき剣は」
「そうですね」
「しかしです」
それでもとだ、征一狼は護刃にも話した。
「それはです」
「まだですね」
「一切です」
残念そうな口調での言葉だった。
「わかりません、剣は誰が持っているのか」
「そのことすらも」
「果たして」
「そうですね、手がかりはです」
「本当になくて」
「僕達は待つしかないですね」
「待つことは性分に合わないわ」
火煉は腕を組んで言った。
「だからね」
「僕達の方から探して」
「見付けたいけれど」
「手がかりがです」
「全くないから」
「そもそもです」
嵐はここでこう言った。
「桃生神社に何故剣があったか」
「地の龍に渡ったあれね」
「それすらもです」
「彼が言わないならね」
「何もです」
「手がかりがないわね」
「それすらもわからないのでは」
そうした状況ではというのだ。
「どうにもならないです」
「そうね、困ったことにね」
「言いたくないことを無理強いするにも」
「私達はおかしな警察じゃないのよ」
火煉は嵐に言った。
「言いたくないことを無理して聞き出すことはね」
「出来ないですね」
「ええ、だから彼にも無理強いしていないわね」
火煉は今度はこう言った。
「天の龍になれとね」
「神威にですね」
「それは彼の選択だから」
それで決められるものだからだというのだ。
第十八話 秘密その五
「私達はね」
「無理強い出来ないですね」
「そうよ、だからね」
それでというのだ。
「私達はね」
「封真、彼にもですね」
「彼が言いたくないと言うなら」
そして聞かないでくれとまで言うならというのだ。
「本当にね」
「私達はですね」
「何もよ」
それこそというのだ。
「出来ないわ」
「そうですね」
「今の日本にはそうしたおかしな警察もないしね」
「特高警察も正直そこまでしませんでしたね」
征一狼は戦前の話もした。
「案外穏やかでした」
「ナチスやソ連の秘密警察と比べるとね」
「遥かにです」
「そうだったわね、特高警察も」
「彼等も法律の下で動いていましたし」
「それじゃあね」
「警察でもない僕達がです」
それこそというのだ。
「する権限も資格もなく」
「性格的にもね」
「誰も出来ないです、そうなりますと」
「ええ、もうね」
「僕達は待つしか出来ません」
「また言うけれど性分じゃないわ」
待つことはとだ、火煉はまたこう言った。
「けれどね」
「今はです」
「私達は待つしか出来ないわね」
「はい、まことに」
「ではね」
「ええ、待ちましょう」
征一狼は達観した声で述べた。
「そうしましょう」
「そうでんな、ほな今は待ちましょう」
空汰も真顔で述べた。
「それも戦いのうちですし」
「そうですね、動かざること山の如しといいますが」
「動いたらあかん時は動かへん」
「それも戦いです」
「そうでんな」
「では待ちましょう」
こうしてだった、天の龍の五人は。
今は剣が出て来るのを待った、そのうえで彼等のすべきことをしていった。具体的には最後の天の龍を探した。
小鳥は学校で神威に尋ねていた、昼でこの日も屋上で一緒に小鳥の作った弁当をベンチに並んで座って食べている。
ここでだ、小鳥は神威に尋ねた。
「沖縄ではどうだったの?」
「どうして暮らしていたか、か」
「ええ、おばさんとね」
「母さんはいたが一人だった」
神威は遠い目で語った。
「あちらにいた時もな」
「そうだったの」
「お前と封真と別れて」
そうしてというのだ。
「それからはずっとな」
「沖縄じゃ一人だったの」
「そして家が突然だ」
神威は小鳥が作ったサンドイッチを食べつつ話した。
「隣の失火が来た火事に巻き込まれてな」
「それでだったの」
「隣の家に空き巣が入ってその空き巣がだ」
「火を点けたの」
「何でも間違って出したらしくてな」
そうだったというのだ。
第十八話 秘密その六
「そしてその火がだ」
「沖縄での神威ちゃんのお家になのね」
「及んでな」
「それでお家が燃えたのね」
「そこで母さんが寝ていてな」
「おばさんが、それじゃあ」
「その時に母さんは死んだがその時にだ」
まさにというのだ。
「母さんは俺に教えてくれた」
「天の龍と地の龍のことを」
「それで俺は東京に戻ってきた」
「そうだったのね」
「ああ。しかし母さんはこうも言っていた」
神威は深刻な顔でこうも話した。
「今死んだことは偶然でなくな」
「まさか」
「運命だとな」
小鳥に強い声で答えた。
「そう言っていた」
「そうだったの」
「そしてだ」
そのうえでというのだった。
「本来なら生み出す筈だったという」
「生み出す?」
「それが何か俺が聞こうとしたらな」
その時にというのだ。
「母さんはこと切れた」
「火事の時の怪我で」
「そうなった、だから何を生み出すのか」
それはというと。
「俺もだ」
「わからないのね」
「ああ、本来ならそれを生み出してな」
そうしてというのだ。
「死ぬ筈だったとな」
「言っているか」
「そうだったが」
「何を生み出すのか」
「それがな」
「わからないのね」
「今もな、そもそもだ」
神威は真剣な顔のまま言った。
「母さんは何故知っていたんだ」
「天の龍と地の龍のことを」
「それをな」
まさにこのことをというのだ。
「どうしてなんだ」
「叔母さんご存知だったの」
「ああ、だからだ」
「神威ちゃん東京に戻ってきたのね」
「それまでこのことは考えてなかったか」
「どうしてかしらって思ったけれど」
それでもとだ、小鳥は神威に顔を向けて答えた。
「それよりも嬉しい、それでどうして距離を置くのか」
「そのことをか」
「考えてばかりで」
その為にというのだ。
「あまりそこまではね」
「そうだったか」
「そういえば神威ちゃんもね」
「少しでもな」
「何か知ってたわね」
「ああ、東京に戻ってな」
そうしてと、とだ。神威は小鳥に答えて話した。
「そしてな」
「天の龍と地の龍の」
「はっきりとは言われなかったが」
「叔母さんに言われたの」
「亡くなる間際に」
母、彼女からというのだ。
「運命に向かえとな」
「言われて」
「そして戻って来た」
「そうだったのね」
「そしてどういうことかわかった」
東京に戻ってというのだ。
「はっきりとな」
「そうだったのね」
「完全に教えてくれたのは姫様だったがな」
「確か丁さんっていう」
「天の龍を束ねるな」
「その方からなのね」
「教わってな」
そうしてというのだ。
第十八話 秘密その七
「そのうえでだ」
「今はなのね」
「はっきりわかっている、だが」
「どうして叔母さんがご存知だったのか」
「そのことはな」
どうしてもというのだった。
「わからない」
「そうなのね」
「若しかしたら」
神威はここで考えた、そうしてだった。
そのうえでだ、彼は小鳥に話した。
「母さんもこの戦いに深くだ」
「関わっている人なの」
「そうなのかもな」
「それじゃあ丁さんか」
「妹さん、庚さんと言ったか」
神威はその目を鋭くさせて彼女の名前も出した。
「あの人達とな」
「関わりある人なの」
「そうなのかもな」
「この戦いの」
「ああ、七つの封印と七人の御使い」
神威はこうも言った。
「この戦いにな」
「関わりある人なの」
「そうかもな、だが具体的にどう関りがあるか」
「それはなの」
「わからない、だが知っているならだ」
自分の母とこの世界の戦いについてとだ、神威はさらに考えた。そのうえで小鳥に対して言うのだった。
「その人は大体わかる」
「丁さんって人?」
「若しくはな」
庚、彼女だというのだ。
「あの人か」
「そうなのね」
「なら話は早い、俺はだ」
「丁さんか」
「庚さんにな」
二人のうちのどちらかにというのだ。
「聞く、それでわかればいい」
「わかるかしら」
「俺の予想では多分な」
「お二人のうちどちらかに聞けば」
「それでだ」
その様にすればというのだ。
「わかる、ではな」
「これからなの」
「空汰達に話してだ」
天の龍である彼等にというのだ。
「そのうえでな」
「丁さんになのね」
「まずは会う、そして聞く」
こう言ってだった。
神威は母のことを聞く為に丁に会うことにした、そうしてそのことを空汰達に話す為に連絡を取ってだった。
喫茶店で空汰達に会った、すると。
空汰は彼の話を聞いてだ、はっとした顔になって言った。
「そういえばお前知ってたな」
「ある程度でもな」
「ああ、わい等の戦いのことをな」
「それはな」
「お母さんに言われてたか」
「おおよそだがな、だからだ」
神威は紅茶を飲みつつ空汰に話した。
「俺は東京にも戻って来た」
「そやったな」
「だが戻って来てもな」
「ああ、お前暫くは避けてたな」
「それでも小鳥達を撒き込みたくなかった、東京に戻ってからだ」
その時からというのだ。
第十八話 秘密その八
「俺は小鳥が殺される夢を見る様になったしな」
「その夢もやな」
「その時からだ」
まさにというのだ。
「見る様になった」
「そうやったんやな」
「そしてだ」
神威はさらに話した。
「俺はどちらもだ」
「選ぶこともやな」
「するつもりもな」
これもというのだ。
「しなければ小鳥は助かる」
「その様にかいな」
「封真もな」
彼女もというのだ。
「その様にもな」
「考えたんかいな」
「そしてだ」
そのうえでと言うのだった。
「今の様にすることはなかった」
「そうやったか」
「しかしだ」
神威はあらためて言った。
「何故母さんが知っていたか」
「そのことをやな」
「今不思議に思っている」
「そやねんな」
「だから姫様に聞きたい」
「そうか、ほなな」
空汰は神威の話をここまで聞いてミックスジュースをストローで少し飲んでからそのうえで彼に言った。
「行こか、これから」
「議事堂にか」
「それでや」
神威に笑って話した。
「おひいさんにな」
「聞いてみるか」
「おひいさんやったらな」
丁、彼女ならというのだ。
「きっとな」
「母さんのこともか」
「わかる筈や」
神威に笑ったまま答えた。
「そやからな」
「これからだな」
「聞きに行こうな」
「わかった、それじゃあな」
「議事堂行こうな」
「そうしよう」
こうして話が決まってだった。
神威は天の龍の五人と共に議事堂に向かった、この時一行は徒歩であったが火煉は自分達の右手を行き来する車達を見て言った。
「ちょっと寄って行かない?」
「どうしたんですか?」
「ええ、実はこのすぐ近くに私が勤めている教会があるの」
護刃、犬鬼と一緒にいる彼女に答えた。
「そこに今日お邪魔したいって人がいるの」
「そうなんですか」
「何かね」
火煉は大人の余裕が感じられる笑みで答えた。
「縁を感じるから」
「縁ですか」
「教会は人が救いを求めて来る場所でもあるから」
「神様の教えを学んでですね」
「それと共にね」
「そうした場所なので」
「よく人が来るの」
訪問して来るというのだ。
第十八話 秘密その九
「神社やお寺と同じでね」
「やっぱり宗教関係なそうなりますね」
「ええ、それでね」
「火煉さんが働いておられる教会でも」
「毎日人が来てくれてね」
「その数は多いですね」
「ええ、けれど」
それでもと言うのだった。
「今回はね」
「縁を感じるんですね」
「私だけじゃなくて」
ここでだ、火煉は。
その目を鋭くさせ笑みを消してだ、護刃に話した。
「私達全員にね」
「天の龍にですね」
「皆に縁を感じるから」
だからだというのだ。
「そろそろ来られる時間だし」
「それじゃあ」
「神父様もおられるけれど」
教会にはというのだ。
「寄りましょう」
「それじゃあ」
「まさか」
嵐は直感的に感じて言った。
「その人は」
「剣と関係があるかも知れないですね」
征一狼も真剣な顔で応えた。
「そうですね」
「はい、そうかも知れないです」
「ではですね」
「教会に行きましょう」
火煉が勤めているそこにというのだ。
「今から」
「僕達全員で」
「そうしましょう」
「丁様にお聞きするのもいいですが」
喫茶店で話して決めた通りにというのだ。
「ですがすぐ傍といいますし」
「それならですね」
「ここはです」
「一度教会に寄って」
「そこからです」
「議事堂にですね」
「行きましょう」
「それでは」
「はい、これより」
こうした話をしてだった。
神威と天の龍の者達は火煉が普段勤めている教会に寄った、そこに入ると礼拝堂の前に赤い服を着た色白で顎の形がいい黒く長い髪の毛の妙齢の美女がいた、見れば眼鏡が非常に知的でよく似合っている。
美女は一行を見てだ、笑みを浮かべて言った。
「嬉しいわ、皆揃って来てくれるなんて」
「皆?」
「ええ、天の龍のね。それにね」
美女は神威も見て言った。
「神威、貴方もいるなんて」
「俺を知っているのか」
神威は女が自分の名前を言ったのを受けて身構えて声を出した。
「あんた何者だ」
「警戒することはないわ、私は貴方の身内よ」
「身内?」
「そうよ、貴方のお母さん、司狼斗織の妹よ」
「何や、それやと神威の叔母さんか」
空汰は恩あの言葉を聞いて少し驚いた顔になって言った。
「そうなんか」
「そうなるわね」
女も否定しなかった。
「この場合は」
「神威にそんな人がおったなんてな」
「俺もはじめて知った」
神威もこう言った。
「母さんに姉妹がいたなんて」
「そうやったんか」
「今まで天涯孤独だと思っていた」
自分の母はというのだ。
第十八話 秘密その十
「実は父さんのこともな」
「知らんかったんか」
「全くな」
「姉さんは言わなかったのよ」
女は神威にあらためて言ってきた。
「貴方にね。最後に少しお話したと思うけれど」
「天の龍と地の龍の戦いのことをだな」
「この世界を賭けたね」
「詳しくは言ってくれなかったが聞いたから戻った」
これが神威の返事だった。
「俺もな」
「この東京にね」
「そうしたが」
「それでは剣のことも聴いていないわね」
「二本あるそうだな」
「ええ、そうよ」
女はその通りだと答えた。
「そして貴方もね」
「二本のうちの一本をだな」
「持つことになるわ」
「それが俺の運命か」
「そしてその運命の中に私もいるのよ」
女は神威に微笑んで話した。
「私、真神時鼓もね」
「それが貴女のお名前ですね」
嵐が問うた。
「本名ですね」
「ええ、姉さんの本来の姓もね」
「真神ですか」
「そうだったのよ」
「それでは結婚されて」
「司狼になったのよ」
この姓にというのだ。
「そうなったのよ」
「そうでしたか」
「神威、時が来れば貴方は私が剣を授けるわ」
時鼓はまた神威に告げた。
「その時を待っていてね」
「あんたがか」
「その時にまた貴方の前に姿を現すわ」
「それは何処だ」
「桃生神社がいいわね」
時鼓は自分から言ってきた。
「その場所はね」
「あの神社を言うとなると」
「勿論あの神社のことも知っているわ」
「そうなのか」
「あの神社にあった剣のこともね」
こちらのこともというのだ。
「知っているわ」
「そうなのか」
「だからね」
それでと言うのだった。
「時が来れば全てお話するし」
「俺に剣をか」
「授けるわ、何時あの神社で会うかも」
このこともというのだ。
「今お話するわね」
「そうしてくれるか」
「ええ、その時は」
時鼓は神威にその話をした、そして。
それが終わってだ、あらためて微笑んで言った。
「またお会いしましょう」
「その時にだな」
「それまで私は時間があるけれど」
「時間?」
「大事な時だから」
それ故にと言うのだった。
「その時まで身を清め慎むわ」
「そうするのか」
「ええ、ではね」
「今はか」
「穏やかにするわ」
こう言ってだった。
時鼓は教会を後にした、火煉は彼女を見送ってから仲間達に話した。
第十八話 秘密その十一
「まさかね」
「いや、神威君の関係者とは思いませんでした」
征一狼が応えた。
「そうですよね」
「ええ、運命なのかしらね」
火煉は考える顔になって応えた。
「これもまたね」
「そうかも知れないですね」
征一狼も否定しなかった。
「僕達が先程この教会であの人にお会いしたことは」
「そうね、かなりのことを知っているわね」
「間違いなく」
「時間は聞いたわ」
確かな声でだ、火煉は述べた。
「だからね」
「あの時間にですね」
「私達が桃生神社に行けば」
その時はと言うのだった。
「多くのことがわかるわ」
「そうなりますね」
「それで今から丁様の前に行くけれど」
「もうその時にですね」
「聞くことになるかも知れないわね」
「あの人から」
「ええ、けれど時鼓さんのことはね」
彼女のことも話すのだった。
「丁様にはね」
「お話しますね」
「そしてね」
「そのうえで、ですね」
「ええ、丁様にも聞きましょう」
彼女にもと言うのだった。
「剣のことはね」
「そうしますね」
「それでわかるかも知れないし」
「では今から」
「行きましょう」
丁がいる議事堂にとだ、こう話してだった。
天の龍の者達は議事堂に向かった、そのうえで丁に時鼓のことを話してそうしてだった。
彼女に剣のことを聞いた、だが丁は悲しそうな顔で目を閉じてそのうえで天の龍の者達に対して告げた。
「今わらわからはです」
「言えないですか」
「まだその時ではありません」
それ故にと護刃に答えた。
「そしてその女性からです」
「聞けるんですか」
「はい、わらわも後で話すつもりでしたが」
「このお話は」
「彼女から聞いて下さい、ただ」
「ただ?」
「惨いことになります」
目を閉じたままの言葉だった。
「そのことは覚悟しておいて下さい」
「惨いことですか」
「そうなります」
こう言うのだった。
「その時は、そして」
「そして?」
「七人目、最後の天の龍のことですが」
丁はこのことは自分から話した。
「わかりました」
「誰でしょうか」
嵐が尋ねた。
「その人は」
「皇昴流」
丁はこの名を出した。
「皇家の主である」
「あの陰陽師の」
「彼です」
「やはりそうでしたか」
嵐は丁のその話を聞いて確かな顔で応えた。
「あの人もまた天の龍でしたか」
「彼は今東京を離れ」
昴流のことをだ、丁はさらに話した。
第十八話 秘密その十二
「人を救っています」
「陰陽道で以て」
「そうしています、それでなのですが」
丁はさらに話した。
「彼を迎えに行ってくれるでしょうか」
「私達がですね」
「お二人程で行かれて」
「では私が行きます」
まずは嵐が名乗り出た。
「そうさせて頂きます」
「わいもですわ」
空汰も名乗り出た。
「そうさせて頂きます」
「ではお二人で」
「はい、行って来ます」
即座にだ、空汰は笑顔で応えた。
「皇さん迎えに」
「宜しくお願いします、では他の方はです」
丁は空汰の言葉を受けつつさらに話した。
「これまで通り東京の結界をです」
「護るんですね」
「お願いします、まだ地の龍は積極的に動いていませんが」
それでもというのだ。
「何時動き出すかわからないので」
「それで、ですね」
「今はです」
こう護刃に話した。
「他の人はです」
「これまで通りですね」
「お願いします。七人の天の龍が揃えば」
丁はさらに言った。
「地の龍もです」
「揃いますか」
「そうなります」
実際にというのだ。
「剣も手に入れば」
「いよいよ戦いがですか」
「はじまります」
「そうなるんですね」
「そして二人の神威がです」
その彼等がというのだ。
「戦うことにもなります」
「二人の神威さんが」
「剣を持ち」
そしてというのだ。
「そうなります」
「そうですか」
「ですから」
それでというのだった。
「その時はです」
「私達もですね」
「戦って下さい」
「そうします」
護刃も意を決している顔で応えた、他の者達も同じだった。
天の龍の者達はそれぞれ動きだした、その中で。
空汰は嵐と共に神威の家まで来て彼に話した。
「ほな今からな」
「最後の天の龍のだな」
「皇さんとこ行って来るわ」
空汰は真面目な顔で答えた。
「そうしてくるわ」
「わかった、じゃあな」
「すぐに戻って来るさかいな」
「それまではだな」
「護刃ちゃん達と一緒にな」
そのうえでというのだ。
「頼むで」
「わかった、何かあればな」
「宜しゅうな、ってこれってな」
空汰は少し苦笑いになって神威に返した。
「もう天の龍同士のな」
「話だな」
「ああ、自分まだそうなってへんのにな」
「そうだな、しかしずっとな」
「一緒におるさかいな」
「こうした話にもなるな」
「ああ、まあどっちかをな」
天の龍と地の龍をというのだ。
第十八話 秘密その十三
「選ぶ時はな」
「お前としてはだな」
「やっぱり自分と一緒にいたいわ」
こう神威に話した。
「自分と一緒におって自分がわかってきたしな」
「こっちもだ、小鳥と封真にな」
二人に加えてというのだ。
「天の龍の五人もな」
「わい等もやな」
「わかってきた、いい人達だ」
「そう言ってくれるか」
「ああ、だからな」
「選ぶとしたらか」
「考えたい、だが俺が第一に考えるとは」
選択の際にというのだ。
「やっぱりな」
「小鳥さんとやな」
「封真のことだ。二人を護れるのなら」
それならばというのだ。
「そちらを選ぶ」
「そうするんやな」
「そうしたい、ではな」
「ああ、その時はな」
「また頼む」
「よお考えてくれ」
「では行って来るわ」
嵐も神威に言ってきた。
「東京から少し離れるわ」
「最後の天の龍は今はか」
「そちらにおられるから」
「皇昴流か」
神威はその最後の天の龍の名を口にした。
「その人か」
「おそらくこの人だろうと考えていたけれど」
「やはりか」
「そうだったわ」
予想は当たったというのだ。
「本当にね」
「そうだったか」
「そしてね」
嵐は神威に話した。
「その皇昴流さんと戻って来るから」
「そうしてか」
「これで天の龍は六人、そしてね」
「最後はだな」
「貴方次第よ」
神威を見据えて告げた。
「よく考えてね」
「そうする。そしてあと少しでな」
「桃生神社でね」
「俺はあの人と会う」
桃生神社でというのだ。
「そうする」
「その時には戻って来るから」
昴流を連れてというのだ。
「一緒にね」
「桃生神社にか」
「行きましょう」
「わい等にとってもあの剣は重要な」
空汰も言って来た。
「そやからな」
「一緒にか」
「神社に行かせてもらうわ」
そうするというのだ。
「それで一緒にな」
「あの人と会ってだな」
「お話聞こうな」
「剣のことをな」
「おそらくその時に剣は手に入るわ」
嵐は冷静に述べた。
「あの人が持って来てくれてね」
「剣はあの人が持っているか」
「私が思うにね」
「そうなのか」
「どうも教会でのお話からそう感じたわ」
それ故にというのだ。
「だからね」
「その時にか」
「剣のことを聞けて」
「剣自体も手に入るか」
「そうなるわ」
まさにというのだ。
「そして後はね」
「俺の選択だけだな」
「そうなるわ」
「何ていうかな」
空汰がまた言ってきた、今度の話は少し苦笑いになってからはじまった。見ればその苦笑いには達観もあった。
第十八話 秘密その十四
「運命の一つの区切りがな」
「迫っているか」
「そんな感じやな」
「そうだな、天の龍もな」
「自分の選択以外でな」
「皆揃ってな」
そうなってというのだ。
「それでや」
「剣のことを知り」
「手に入る、そしてや」
「俺の選択もだな」
「いよいよや、そう考えたらな」
それこそというのだった。
「ほんまな」
「運命の一つの区切りがだな」
「迫ってるわ、それでや」
ここでだ、空汰は。
真剣な顔になってだ、神威を見て告げた。
「ええか、何があってもな」
「その運命の一つの区切りの中でだな」
「そや、負けるな」
こう言うのだった。
「どんなことがあってもな」
「それでもだな」
「前を向くんや、それでや」
空汰は神威にその顔でさらに言った。
「わい等もおる」
「そうだな、皆いてくれるな」
「お前は一人やないんや」
「小鳥、封真がいてだな」
「そしてや」
そのうえでというのだ。
「わい等がおる、そやからな」
「頼ればいいか」
「そういうことや、何でも言うてくれ」
今度は気さくな笑顔で告げた。
「背中も横もな」
「護ってくれるか」
「そして支えたる、わい等はな」
「俺の仲間だからだな」
「友達と言うてもええやろ」
「そうした間柄だからか」
「何があっても一緒におるからな」
神威が地の龍を選ぶかも知れない、空汰は今はそうしたことは全く考えていなかった。そのうえでの言葉だった。
「それでや」
「運命の一つの区切りの中で」
「こうした時は相当なことが起こることも有り得るが」
それでもというのだ。
「わい等もおるからな」
「頼ればいいか」
「ああ、全力で支えるで」
「だから安心して」
嵐も同じだった、空汰の考えと。
「貴方がどんな困難、絶望や悲しみや苦しみを受けても」
「それでもか」
「私達がいるわ、一人で立てなくても」
「支えてくえるか」
「必ずね」
まさにというのだ。
「そうしていくわ」
「そうか、皆がそう言ってくれるならな」
「信じてくれるかしら」
「勿論だ」
笑顔と共の返事だった。
「皆のことはわかっているからな」
「そう、それではね」
「ああ、頼らせてもらう」
「これからもね。では少しの間ね」
「お別れだな」
「暫く東京をお願いね」
「わかった、任せてくれ」
「何かあったら残っている人達にお話して」
護刃達にというのだ。
「対応して」
「ああ、じゃあな」
「またすぐにね」
「会おう」
神威は笑顔で応えた、そうしてだった。
二人は一時とはいえ東京を後にした、そのうえで皇昴流のいる場所に向かった。いよいよ最後の天の龍が東京に来ようとしていた。
第十八話 完
2023・3・1
第十九話 友情その一
第十九話 友情
牙暁は彼自身の夢の中で北都と会っていた、そのうえで彼女と話していた。彼は北都に自分から言った。
「間もなくだよ」
「昴流ちゃんもね」
「この戦いに参加するよ」
「そう、それでね」
「彼とも戦うよ」
「決着がつくっていうのかしら」
「運命は決まっているから」
牙暁はここでも悲しい顔で話した。
「だからね」
「昴流ちゃんは星ちゃんを倒しちゃうんだね」
「そう、そして」
「星ちゃんの因縁をね」
「今度は彼が引き継ぐよ」
「それが牙ちゃんの見た運命ね」
「うん、けれど」
それでもとだ、牙暁は北都に言った。
「君はそうは思わないね」
「そう、何もね」
北都は牙暁に笑って答えた。
「決まっていないよ」
「運命は」
「あのね、運命なんてね」
笑ったままの言葉だった。
「本当にね」
「何もだね」
「決まってなくてね」
それでというのだ。
「これからね」
「どうなるか」
「色々な人の考えや動きでね」
「なっていくものだね」
「そうだよ、だからね」
「僕が夢で見たことも」
「だからあの人、桃生さんは助かって」
そうなってというのだ。
「それでね」
「そのうえでだね」
「今は入院しているけれど」
「命に別状はないんだね」
「そうだよ」
「実は庚さんはあの人を殺すと」
その様にとだ、牙暁は彼に話した。
「僕は運命を見たけれど」
「それでもよね」
「それが変わって」
そうなってというのだ。
「あの人も助かっているよ」
「庚さんも悪人かっていうと」
「違っていて」
「それでよ、多分直前まで殺す様に言うつもりだったのよ」
庚にしてもというのだ。
「それがね」
「気が変わって」
「ああしてね」
「哪吒に命じたんだね」
「そうだよ」
こう牙暁に話した。
「あの人もね」
「そうなんだね」
「だからね」
北都はさらに話した。
「昴流ちゃんと星ちゃんもね」
「運命は変わる」
「そうなるよ、私星ちゃんにもね」
「生きていて欲しいんだね」
「そうなの。星ちゃんはあまり生きたくないみたいだけれど」
それでもというのだ。
「私としてはね」
「生きていて欲しいんだ」
「うん、この戦いでもね」
「けれど彼は」
「そう、私を殺したわ」
北都は自分からこのことを言ってみせた。
第十九話 友情その二
「昴流ちゃんの代わりに来た私をね」
「そうだったね、僕はどうしてもね」
「私に助けて欲しかったね」
「友達になったから」
だからだというのだ。
「それでね」
「そうだね、けれど」
「それでもね」
牙暁は顔にある悲しさをさらに深めて牙暁に話した。
「君は」
「うん、殺されたね」
「彼に。あれ以来僕は絶望したんだ」
「運命についてね」
「決まっている、変えられないと」
「そうだったね」
「けれどそれが」
運命は変わらないと絶望していたがというのだ。
「もうね」
「それがね」
「考えが変わってきているよ」
「桃生さんのことからね」
「だから」
それ故にというのだ。
「今は若しかしたらと」
「そうよね」
「そして彼女のことも」
「小鳥ちゃんね。大丈夫だよ」
北都はにこりと笑って答えた。
「二人共あの娘を護るって誓っているから」
「けれど地の龍になれば」
「人間を滅ぼす核になるからだね」
「人を殺すことを何とも思わない」
「人間から見て冷酷な人になるね」
「そうなるというけれど」
それでもと言うのだった。
「君はだね」
「そうなるとはね」
決してと言うのだった。
「思ってないよ、心を強く持っていれば」
「心は変わらないんだね」
「そうよ、二人共あれだけ強くなっていたら」
それならと言うのだった。
「きっとね」
「変わらないんだね」
「そうだよ、だからね」
それでというのだ。
「あの娘もね」
「命を奪われることはない」
「絶対にね」
牙暁に安心している声で話した。
「大丈夫だよ」
「その未来も決まっていない」
「それで昴流ちゃんと星ちゃんもね」
彼等もというのだ。
「きっとね」
「そうはならないんだね」
「そうだよ、だからね」
「僕は見ていけばいいんだね」
「うん、見ていこう」
このままというのだ。
「そうしていこう」
「北都さんがそう言うなら」
牙暁は気を取り直した様な顔になって応えた。
「僕も」
「それじゃあね」
「希望はある」
「そうだよ、運命はね」
「何も決まっていなくて」
「希望がね」
これがというのだ。
「あるからね」
「それでだね」
「諦めないでね」
「見ていけばいいんだね」
「牙ちゃんは動けないよね」
北都は牙暁のこのことも話した。
第十九話 友情その三
「身体はね」
「僕はね」
牙暁も否定しなかった。
「ずっとね」
「夢の世界にいてね」
「動けないよ」
「そうよね」
「けれど」
それでもと言うのだった。
「僕は夢で未来を見てね」
「人に教えられるね」
「そうだよ、けれどね」
「それでもよね」
「そこからね」
「絶望したよね」
「君を助けられなくて、未来は変えられないって」
北都の死を見てというのだ。
「そうだったから、けれど」
「それがよね」
「桃生さんを見て」
「変わってきてるよね」
「うん、それならだね」
「見ていってね」
北都はにこりと笑ってだった、牙暁に話した。
「そうしてね」
「それじゃあ」
「きっとね、小鳥ちゃんのことはね」
「悪くならないで」
「昴流ちゃんと星ちゃんもね」
「僕が見たみたいにはね」
「ならないよ、けれどね」
それでもとだ、北都は。
寂しい笑顔になって俯いてだ、こうも言ったのだった。
「全部私の願い通りにはね」
「ならないっていうんだね」
「そう思うわ。私昴流ちゃんも星ちゃんもね」
「二人共だね」
「ずっとね」
まさにと言うのだった。
「生きていて欲しいけれど」
「この戦いの中で」
「やっぱりそれは無理よね」
「それが北都さんの願いだね」
「うん、二人共大事な人だから」
北都にとってというのだ。
「だからね」
「そうだね、けれど」
「やっぱり難しいよね」
「桜塚さんはもうね」
「命が終わってもってね」
「いいと思っているから」
「星ちゃんって命の価値、人の痛みがわからないっていうけれど」
「それは何よりも」
「自分自身についてなのよ」
「自分の命の価値がわからないね」
「そして自分の心の痛みもね」
こちらもというのだ。
「わからないのよ」
「まずは」
「だからね」
それでというのだ。
「そのことがね」
「問題だから」
「星ちゃんにも生きて欲しいけれど」
「彼については」
「無理かもね」
こう言うのだった。
「残念だけれどね、けれどね」
「希望は持っているね」
「そうだよ」
そのことは変わらないというのだ。
「絶対にね」
「そうなんだね」
「だから」
それでと言うのだった。
第十九話 友情その四
「私は二人のことを見ていくよ、そしてね」
「この戦い自体も」
「最後までね、それが終わったら」
牙暁に微笑んで話した。
「それからね」
「行くんだね」
「そうするよ、死んでからずっとここにいるけれど」
「それもだね」
「もうね」
それこそというのだ。
「終えてね」
「行って」
「そこで過ごして」
そしてと言うのだった。
「またね」
「生まれ変わるね」
「今度は何に生まれるのかな」
牙暁に問う様にして言った、そのうえで彼を見て言葉を続けた。今も顔も目も口元も微笑んでいる。
「私は」
「それは人間ではね」
「わからないよね」
「未来は見えても」
「そこまではね」
「僕は君がどの世界に行くかは見えるよ」
それはというのだ。
「そこまではね」
「けれどその先はだね」
「わからないよ、君はいいことをしたから」
それでというのだ。
「天国、極楽にね」
「行けるんだ」
「けれどその先は」
「そう、そこからはわかってないよね」
「僕には、そうか」
ここでだ、牙暁は。
目を開いてだ、そのうえで北都に話した。
「わかっていない、僕が見えることも」
「そうだよ、幾ら夢見でもね」
「人間が見えるものには限りがある」
「数多くの未来があってね」
「その一つしか見えない」
「人間だとね」
それならというのだ。
「そうだよ、人間は幾ら力があっても」
「神様じゃない」
「だから何でもね」
「限りがある」
「それでだよ」
「僕が見えるものにも限りがある」
北都に顔を向けて言った。
「そういうことだね」
「私が思うにね」
「じゃあ未来は」
「また言うけれど」
「まだ何も決まっていない」
「そうだよ、だから最後まで見ていってそして」
牙暁にこうも言った。
「牙ちゃんはその力で皆を助ければいいんだよ」
「僕の夢見の力で」
「そう、悪い夢を見たら」
その時はというと。
「そうなりかねないからね」
「注意をだね」
「促せばいいし」
「いい夢なら」
「そうなる様にね」
「言えばいいね」
「そうだよ」
こう話すのだった。
「道標になればいいんだよ」
「成程、そうなんだ」
「だからね」
北都はさらに言った。
第十九話 友情その五
「牙ちゃんはね」
「夢見で悪いものを見たら」
「そうならない様にね」
「人に言えばいいんだね」
「そうよ、少なくとも信じてもらえるわよね」
「信じてもらえるっていうと」
それはとだ、牙暁は応えた。
「それは」
「ほら、ギリシア神話であるよね」
「あの神話。確か」
そう聞いてだ、牙暁は言った。
「カサンドラだったね」
「あの人は予言をしても信じてもらえなかったね」
「そうだったね」
「それで可哀想なことになったよね」
「あの人は」
確かにとだ、牙暁も頷いた。
「ギリシア神話にはそうしたお話が多いけれど」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「あの人みたいにならないから」
「いいんだ」
「誰からも信じてもらわないって辛いよ」
非常にとだ、北都は話した。
「それでもね」
「僕は信じてもらえるから」
「夢見をね、悪い夢であっても」
「皆僕のお話を聞いてね」
「信じてくれるよね」
「だからだね」
「そのことをいいと思ってね」
そのうえでというのだ。
「これからはね」
「夢見で見る運命を道標と思って」
「それでね」
「人がいい運命を辿る様にしていく」
「そうすればいいんだよ」
「そうなんだね」
「そう、未来は本当にまだ何も決まってないから」
両手を後ろに組んでにこりと笑って首をやや右に傾けさせてだ、北都は言った。まるで牙暁を励ます様にして。
「だからね」
「そうしていけばいいんだね」
「そうだよ、少なくとも彼がね」
「添え星となる」
「聞いてくれるよ」
「彼ならだね」
「私は彼は今の時点で大丈夫だと思うけれど」
それでもというのだ。
「牙ちゃんが心配ならね」
「彼の夢に出て」
「それで言えばいいよ」
「注意する様に」
「そうすればね」
「そうなんだね、そう言われてもまだね」
「牙ちゃんもそうだって言えないよね」
「果たしてどうか」
目をやや開いてやや俯いてだ、牙暁は答えた。
「それは」
「うん、まだ確信は持てないよね」
「北都さんのことがずっとね」
「そうだよね、けれど徐々にでもね」
「北都さんの言うことに頷けたら」
「そうしてくれて」
そしてというのだ。
「そのうえでね」
「そう出来たらだね」
「いいから。徐々にね」
「そうした考えになればいい」
「そうよ、それでね」
そのうえでと言うのだった。
第十九話 友情その六
「皆をね」
「導いていけばいいね」
「牙ちゃんは地の龍だから」
「地の龍の他の人達の道標になる」
「そうなればね」
それでというのだ。
「いいのよ」
「そして地の龍の一人である」
「星ちゃんもね」
「そうしてみるね」
「お願いね。ただ星ちゃんはね」
今度は少し寂しそうに笑ってだ、北都は述べた。
「ああした人だから」
「聞いてくれないね」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「この戦いで死んじゃうと思うわ」
「そうなるとだね」
「私も思うわ」
「そうなんだね」
「うん、けれどね」
「出来ることをして」
「そうして何とかね」
彼のことをわかっていてもというのだ。
「最後の最後までね」
「北都さんは信じたいんだね」
「何とかなるってね。そして実際にね」
「何とかしたいね」
「だから星ちゃんのことも」
「わかったよ。僕も言ってみるよ」
牙暁は北都に約束した。
「そうするよ」
「お願いね」
「うん、そしてだね」
「そう、それでね」
そのうえでと言うのだった。
「まずはね」
「彼のことをだね」
「牙ちゃんがどうしても心配なら」
「心配だよ」
牙暁は北都にその通りだと返した。
「僕としては」
「それじゃあね」
「うん、お話するよ」
「そうしてね。自分達が努力すれば」
「そして選択によって」
「未来は変わるから」
未来即ち運命はというのだ。
「だからね」
「僕もだね」
「絶望なんかしないでね」
「希望を持って」
「そう、それでね」
そのうえでというのだ。
「夢見をしていってね」
「まだ信じられなくても」
「少しずつね」
それでというのだ。
「そうしていってね」
「そのはじまりとして」
「それでね」
まさにそれでというのだ。
「彼にね」
「言ってみるよ」
「そこでわかってくれたらね」
それでとだ、北都はまたにこりと笑って話した。
「私も嬉しいから」
「それでだね」
「牙ちゃん、一緒に見ていこう」
「この戦いを」
「そして運命がどんなものかもね」
このこともというのだ。
第十九話 友情その七
「知っていこうね」
「それじゃあ」
「これからも宜しくね」
「こちらこそね」
二人は最後は笑顔で別れた、それでだった。
牙暁はすぐに封真の夢の中を訪れた、そのうえで彼に言った。
「今日は貴方にお願いがあって来ました」
「俺にか」
「はい、若しもです」
畏まった態度での言葉だった。
「貴方が地の龍になっても」
「神威そして小鳥をか」
「殺さない様に」
「殺す筈がない」
こう答えたのだった。
「俺も神威もな」
「地の龍になっても」
「ああ、貴方はそれが心配で来たな」
「はい、彼も心配ですが」
「俺もか」
「そうです、僕は貴方が地の龍になるとです」
その様にというのだ。
「見ましたが」
「そうなると俺が小鳥を殺す」
「彼の目の前で」
「心を失ってだな」
「地の龍に相応しいものになり」
その心がというのだ。
「見ましたので」
「そうだな、しかしな」
「それはですね」
「俺は絶対にだ」
強く否定して言うのだった。
「その心もな」
「変えないですか」
「そうなるとわかっていたなら」
それならというのだ。
「心をな」
「抑えて」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「本来の心を保ったままな」
「地の龍になり」
「小鳥を殺さない」
「では彼女は」
「神威に預ける、そしてな」
「彼もですね」
「殺さない」
神威もというのだ。
「絶対にな」
「それが運命でも」
「運命は変わるんじゃないか」
牙暁を見てだ、封真は問うた。
「俺も最近はな」
「そう思っていますか」
「そうだ、だからな」
「小鳥も神威もな」
「殺さずに」
「戦いを終わらせたい」
「ですが」
「地の龍と天の龍はか」
また牙暁に応えた。
「互いにな」
「戦いそのうえで」
「地の龍が勝ったならな」
「人間を滅ぼして地球を救い」
「世界を護るな」
「そうしますので」
そう定められているからだとだ、牙暁は封真に述べた。
第十九話 友情その八
「ですから」
「そうだな、しかしな」
「それでもですか」
「俺は絶対にだ」
「妹さんも彼も殺さない」
「俺の心を保ってな」
「そうですか、ですが心は」
それはとだ、牙暁は封真に話した。今も運命は変わらないものだと強く考えているからだと言うのだった。
「彼が選べば」
「その時はだな」
「彼が天の龍になればです」
「俺が地の龍になりな」
「心を失います」
神威がその選択をした時にはというのだ。
「そしてです」
「その逆ならな」
「彼が地の龍になれば」
その選択を行えばというのだ。
「彼が心を失う」
「そうなるな」
「はい、そうなります」
「己が心を保てばだ」
牙暁の考えにだ、封真は確かな声で答えた。
「大丈夫だ」
「そうですか」
「俺はそう思う、だからな」
「心を保たれ」
「小鳥も神威も殺さない」
「そうされるのですね」
「絶対にな、貴方にも約束する」
また牙暁に話した。
「俺は」
「そう言われて安心しました、では信じてもいいですね」
「ああ、そうして欲しい」
優しいが確かな目になっての返事だった。
「俺もそうするしな」
「それでは」
「人間は弱い、けれど強くもある」
「相反するものを持っている」
「だからな」
それ故にというのだ。
「俺は今は心をな」
「強くしてですか」
「そしてだ」
「自分自身を保たれますか」
「そもそも他の地の龍は心はそのままだな」
「はい、何故かです」
牙暁は封真に話した。
「七人目の地の龍はです」
「添え星も含めてだな」
「地の龍になれば」
その時はというのだ。
「心を失います」
「そうだな」
「どういう訳かはです」
「確かなことはわからないか」
「僕もそうですし」
「他の誰もか」
「庚さんも」
地の龍を束ねている彼女もというのだ。
「その様です、ただ考えますに」
「貴方と庚さんがか」
「人を滅ぼすので」
「それにあたって心が痛まない」
「その様になるのではとです」
その様にというのだ。
「僕は考えます」
「そうか、それならな」
牙暁の考えを聞いてだった、封真は腕を組んで述べた。
「有り得るな」
「そうですね」
「それもな」
「しかしですね」
「俺はそうならないことをだ」
「今ですね」
「約束したしな」
牙暁にというのだ。
第十九話 友情その九
「そして俺自身にもな」
「誓いますね」
「そうした、それに何が起こるとわかっていれば」
「対処も出来る」
「突然だと無理だが」
それでもというのだ。
「しかしな」
「それでもですね」
「わかっていれば出来る」
対することもというのだ。
「そのこともあるしな」
「必ずですね」
「俺は心を保つ」
「そのうえで地の龍となり」
「小鳥は殺さずな」
そうしてというのだ。
「神威に任せる、そして神威もな」
「殺さないですね」
「絶対にな、安心してくれ」
「そのことを庚さんにお話してもいいですね」
「構わない、隠すつもりもない」
封真ははっきりと答えた。
「だからな」
「それでは」
「ああ、もうすぐだな」
「はい、彼の選択の時は」
「なら俺が地の龍になったならだ」
その時はと言うのだった。
「宜しく頼む」
「こちらこそ」
「天の龍になればそれで縁は切れるか」
「天の龍の夢にも僕は行けますが」
「やはり地の龍だとな」
「行くのは憚れます」
「敵同士だとな」
封真もそのことは察して述べた。
「そうだな」
「どうしても」
「ならな」
「それでいいですか」
「ああ、その時はあちらのお姫様に頼む、そして」
「彼をですね」
「殺さない、そのうえで戦いを終わらせたい」
こう言うのだった。
「ただ、人間も地球もな」
「そのどちらもですね」
「俺は今は護りたいがな」
「どちらかとなりますと」
「わからない、だが今はな」
「どちらもですね」
「護りたい、地の龍になってもな」
その時もというのだ。
「その考えだろうか」
「それでもいいかと」
これが牙暁の返事だった。
「僕もそうした考えなので」
「だからか」
「はい、それでもです」
一向に、そうした返事だった。
「人の考えは変わっても」
「変わる様に無理強いはだな」
「その心根までは無理なので」
「自分がどうかだな」
「貴方が心を保ったままなら」
「そうした考えでもか」
「いいかと」
こう封真に話した。
「それでも」
「そうか、ならな」
「その様にですね」
「心を保っていく」
こう言ってだった。
封真は深い眠りに入った、牙暁はそれを見届けるとすぐに庚の夢の中に入った。そのうえで彼女に封真の考えを話したが。
第十九話 友情その十
庚は考える顔になってだ、牙暁に答えた。
「彼がそう思うならね」
「いいですか」
「ええ」
こう答えたのだった。
「それでもね」
「そうですか」
「私の本音はね」
「あくまで、ですね」
「姉さんにあるから」
それでというのだ。
「どうにしかしてね」
「お救いしたいですね」
「実は地球はね」
庚は牙暁に話した。
「人間が何をしてもね」
「その表面だけのことですね」
「卵で言うと殻のね」
「そこだけのことで」
「そこから下はよ」
「卵なら割れると終わりですが」
「地球はそこからも何層もあるから」
「核までに」
「人間は核には辿り着けないわ」
到底、そうした言葉だった。
「だからね」
「それで、ですね」
「もうね」
それこそと言うのだった。
「人間が地球を死なせることはね」
「出来ないですね」
「地中の少ししか辿り着けていないのよ」
「深い地球の」
「本当に表面だけで何かをしている」
「そうでしかないですね」
「かつて恐竜が栄えて」
今度は太古の話をした。
「そうして隕石で滅んだというけれど」
「恐竜が滅びる様な隕石でも」
「そしてそれ以前のカンブリア紀だったかしら」
恐竜の時代よりも遥かに以前の話もした。
「あの頃にしてもよ」
「多くの生きものが絶滅した様ですね」
「どちらもそれだけのことがあったけれど」
「地球に今も命はあります」
「人間の力は知れたものよ」
極めて率直な言葉だった。
「それでどうしてもね」
「特にですね」
「何もないわ」
「地球から見れば」
「そして人間を滅ぼすなら」
そうするならというのだ。
「他の命もよ」
「滅ぼしますね」
「人間を滅ぼして何故地球を護るか」
その根本を話した。
「それはね」
「人間が諸悪の根源であり」
「地球とそこにいる他の命を護る為ね」
「その人間から」
「けれどそこで他の多くの命まで滅ぼすなら」
「本末転倒ですね」
「颯姫はこのことをわかっていないけれど」
地の龍の一人である彼女はというのだ。
「結局はね」
「そうした考えになりますね」
「地球の悲鳴もね」
人間により傷付けられて出すそれもというのだ。
「結局はね」
「表面だけのことですね」
「ええ、それで人間を滅ぼしても」
「実は護るべき多くの命を奪い」
「また新たな命が生まれるから」
「違いますね」
「ええ、結局人間はそんなものなのよ」
庚は今度は達観した様に言った。
第十九話 友情その十一
「地球をどうにかする位の力はないわ」
「どうしても」
「だから私は人間を滅ぼす考えはね」
「実はないですね」
「それよりもね」
むしろと言うのだった。
「姉さんをね」
「お救いしたいですね」
「姉さんは危ういわ」
心から心配しての言葉だった。
「本当にね」
「徐々にです」
「もう一人の姉さんが出て来ているわね」
「はい」
まさにとだ、牙暁は目を閉じて答えた。
「そうなっています」
「そうね、あと少しで」
「あの方はもう一人のご自身に囚われ」
「支配されるわね」
「お身体はあの方のままでも」
「心はね」
それはというのだ。
「もう一人の姉さんになって」
「あの方でなくなります」
「もう一人の姉さんは違うわ」
庚はその整った眉を曇らせて話した。
「全く以てね」
「はい、若しあの方が出られたなら」
「本当の意味でね」
「恐ろしいことになりますね」
「そうなるわ、何もかもを害する」
そうしたというのだ。
「恐ろしいことにね」
「あの方のお力を悪用した」
「姉さんは確かに五感はないわ」
庚は丁のこのことも話した。
「それでもね」
「普通の人より遥かにです」
「ええ、見ることも聞くことも感じることも」
「出来ていて」
「術もよ」
こちらもというのだ。
「実は天の龍、地の龍の誰よりもよ」
「お持ちです」
「その力を悪用すれば」
それこそというのだ。
「何もかもがよ」
「崩壊します」
「人間も地球も」
その全てがというのだ。
「終わってしまうわ」
「地球は表面だけですが」
「そこにいる命もね」
「全てが終わり」
「何もかもがよ」
それこそというのだ。
「終わってしまうわ」
「例え地球は再生しても」
「地の龍が勝った場合なると私が言う未来とはね」
庚は彼女達に言っているそれとはというのだ。
「また違った」
「最悪の未来にですね」
「なるわ、私は実は人間の世界は終わって欲しくないし」
庚はその本音も話した。
「そしてね」
「それで、ですね」
「ええ、さらにね」
言葉を続けていった。
「地の龍だけでなく天の龍も」
「出来るだけ殺したくないです」
「そうよ、けれどもう一人の姉さんは違うわ」
「あの方が真逆になった様な」
「恐ろしい、魔物よ」
庚は言い切った。
第十九話 友情その十二
「あの姉さんは」
「何もかもを破壊する」
「地の龍の勝利は多くの命を犠牲にしてでも」
「地球を救う」
「それが表面だけにしても」
それでもというのだ。
「そうしたもので暫くすれば」
「地球の命は戻っていきます」
「そうなるわ、けれどね」
それでもというのだ。
「もう一人の姉さんはまさに永遠によ」
「地球の表面に何もいなくなる」
「そうした風にしてしまうわ」
「破壊による再生ではなく無に帰す」
「そうするわ、そして姉さんだけになって」
もう一人の彼女だけになりというのだ。
「何もかもがなくなった世界を見て笑うのがね」
「あの方の望みですね」
「その筈よ、そして姉さんは」
「戦っておられます」
「もう一人の姉さんと。けれど」
「刻一刻とです」
「姉さんは追い詰められていっているわ」
庚は深刻な顔で述べた。
「間違いなくね」
「左様ですね」
「そして私は自分ではね」
今度は歯噛みして言った。
「その姉さんを助けられない」
「それが出来るとすれば」
「貴方達かね」
「天の龍の人達ですね」
「そうなるわ、それと」
庚はさらに言った。
「神威が地の龍になって性格が変わる」
「人の心を失う」
「それはね」
「もう一人のですね」
「姉さんの仕業ないかしら」
「他には考えられないですね」
牙暁もその話を聞いて言った、見れば彼も考える顔になっていた。そのうえで庚に対して応えたのだった。
「そういえば」
「そうね、だからね」
「彼にですね」
「おそらく彼が地の龍になるから」
「そのことをですね」
「何処となくね」
それでというのだ。
「伝えてくれるかしら」
「わかりました」
牙暁は庚に確かな声で答えた。
「その様に」
「お願いするわね」
「はい、ただ」
「ええ、もう一人の姉さんにはね」
「気付かれないことですね」
「今も聞かれない様にね」
その彼女にというのだ。
「気を付けているから」
「そうですね」
「彼に対してもね」
「何処となくですね」
「お話してくれるかしら」
「そうします」
牙暁の返事は一も二もないものだった。
「それでは」
「お願いするわね」
「打つ手は全て打つことですね」
「そうよ、そして姉さんも出来れば」
「今のお務めからですね」
「もう長い間行っているから」
それでというのだ。
「終わりにね」
「したいですね」
「ええ、ずっと一人でね」
「あのお務めをされています」
「だからね」
「そのお務めから」
「解放したいわ」
この望みも言うのだった。
第十九話 友情その十三
「出来れば」
「そのこともですね」
「私の望みよ」
「そうですね、ですが夢見は」
この務めはとだ、牙暁は答えた。
「やはり」
「この世界には必要ね」
「はい」
どうしても、そうした返事だった。
「まさに」
「そうね、わかっておるわ」
「では」
「貴方がなのね」
「あの方の後は」
「血もつながりがあるし」
「はい、僕は貴女達の一族です」
その中にいるからだというのだ。
「ですから」
「それ故に夢見も出来ているし」
「逆に言えばあの方の他のお力はなく」
それでというのだ。
「出来ることはです」
「夢見だけね」
「そうですから」
「姉さんの様なことはね」
「出来ないです」
とてもというのだ。
「申し訳ないですが」
「いえ、それは姉さんが特別なだけよ」
庚は牙暁の謝罪に冷静に返した。
「姉さんのあの力は歴代の夢見の中でも特別よ」
「桁外れの強さですね」
「ええ、神様と言ってまでね」
そこまでというのだ。
「差支えないまでによ」
「お強い」
「そこまでのものだから」
それ故にというのだ。
「もうね」
「もう一人のあの方が完全に出られ」
「姉さんにとって代わって」
そうなりというのだ。
「そしてね」
「あの力を自分のものとすれば」
「まさにね」
それこそというのだ。
「完全にね」
「僕達の願は潰えて」
「天の龍の運命も地の龍の運命もね」
そのどちらもというのだ。
「潰えるわ」
「そうなりますね」
「だからね」
「何としても」
「もう一人の姉さんからよ」
「丁様をお救いする」
「そうするわ、さもないと世界は何もなくなって」
そうなってというのだ。
「地球は命の再生もよ」
「出来ないまでになりますね」
「人間もいなくなってね」
「まさに永遠に死の星になりますね」
「もう一人の姉さんの中にあるのは破壊よ」
それだというのだ。
「他にはね」
「何もないですね」
「ええ、破壊し尽くせば」
そうすればというのだ。
「後はね」
「もうどうでもいい」
「姉さん自身が滅んでも」
「構わない」
「破壊への願いとただ殺したい」
そうしたというのだ。
「狂気がね」
「あるだけですね」
「姉さんのまさに裏返しで」
「そうしたものしかない」
「恐ろしい魔物よ、その魔物から」
庚は強い決意、今は牙暁にだけ見せるそれを出して彼に話した。
第十九話 友情その十四
「私は姉さんを助け出すわ、そして」
「もう一人のあの方を」
「倒したいわ」
「そうですね、僕達は人間であり」
「魔物ではないでしょ」
「はい」
その通りだとだ、牙暁も答えた。そのうえで庚に対して澄んだものを見せたうえで己の覚悟を述べていった。
「僕は諦めています、ですが」
「それでもよね」
「これまでの僕ならです」
「私に応えてくれるわね」
「貴女が桃生さんを殺せと言う筈が」
「それが運命だったわね」
「そう言われず」
哪吒にというのだ。
「あの方の運命が変わり」
「今も生きていて」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「他の人達と夢でお話もして」
「変わってきているわね」
「考えが、諦めていても」
「若しかしたらとよね」
「考えています」
今はというのだ。
「彼女にも言われましたし」
「皇北都さんね」
庚もこの名前を知っていた、それで今言うのだった。
「彼女ね、桜塚星史郎に殺された」
「あの娘にもです」
牙暁は今は微笑んで話した、内心そのことを喜びつつの言葉だった。
「言われまして」
「それでなのね」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「僕もです」
「協力してくれるわね」
「そうさせて頂きます」
是非にという言葉だった。
「僕も」
「それではね」
「そして」
牙暁はさらに話した。
「必ずです」
「ええ、姉さんをね」
「お救いしましょう」
「させないわ」
きっとなってだ、庚はその整った顔をやや歪ませてまで言った。
「何があってもね」
「好きにはですね」
「もう一人の姉さんにはね」
こう言うのだった。
「だからもう一度ね」
「彼の夢にですね」
「出てね」
そしてというのだ。
「お話してね」
「地の龍になる前に」
「念には念を入れてよ」
「彼にもう一人の丁様からの介入がある」
「そのことをね」
まさにというのだ。
「お話してね」
「そうしてですね」
「何があっても」
それでもというのだ。
「彼は己を保つ」
「そうなる様にしますね」
「ええ、彼が己を保てれば」
本来の自分をというのだ。
「運命はね」
「大きく変わりますね」
「そうなるわ、今の司狼神威は大きく天の龍に傾いている」
「僕達とは交わることなく」
「彼等とばかり交わっているわね」
「そうなっています」
牙暁もその通りと答えた。
「東京に来てから」
「最初からね、それではね」
「ほぼ間違いなくですね」
「彼は天の龍になるわ、そうなれば」
「彼が地の龍になります」
「添え星の彼がね」
「そうであるならば」
庚を見て言った。
第十九話 友情その十五
「僕達は」
「彼によ」
「動くべきですね」
「どうしても司狼神威が地の龍になることはでしょ」
「僕も見えなくなりました」
「そうね」
「最初は違いましたが」
「地の龍になる運命も見えていたわね」
「そして彼女を殺す」
その手でというのだ。
「その未来もです」
「そうだったわね」
「それがです」
「見えなくなってきたわね」
「僕も」
「ならほぼね」
庚は腕を組んで述べた、姿勢がすらりとしておりその姿も絵になっている。
「彼がよ」
「地の龍になります」
「その彼に働きかければ」
「心を失わず」
「そしてね」
そうなってというのだ。
「運命はね」
「また変わります」
「そうなるわね」
「では」
「ええ、貴方には苦労をかけるけど」
「いえ、僕も動きたくてです」
牙暁は庚の謝罪にこう返した。
「動いていますので」
「だからなのね」
「いいです」
「そうなのね」
「自分で動いて」
そしてというのだ。
「そのうえで、です」
「必ずです」
「運命を変えてくれるのね」
「そうします、まだ信じられないですが」
「若し彼が心を保てたら」
「幾分でもです」
完全ではないがというのだ。
「信じられる様になります、そして運命が変わり続けば」
「そうなればね」
「完全にです」
まさにというのだ。
「信じられる様になります」
「ではね」
「そうなる為にもですね」
「貴方もね、彼を助けてね」
「僕もですか」
「助かるのよ。姉さんが私が子供の頃に話してくれたのよ」
庚は牙暁にここでは遠い目になって話した。
「人を助けたら自分もよ」
「助かりますか」
「その徳が自分にも巡ってね」
そうしてというのだ。
「助かるのよ、助けてもらった人も恩を忘れないしそれを見た人もね」
「人を助けたことを」
「それも見てよ」
それでというのだ。
「助けてくれるから」
「人を助けるとですか」
「貴方も助かるわ、そしてその助かるということはこの場合は」
「信じられる様になることですね」
「そうよ、だからね」
それでというのだった。
「その為にもね」
「今は彼にですね」
「何処となくでもですね」
「もう一人の姉さんに気付かれない様にしてね」
そうしてというのだ。
「忠告してね」
「わかりました、では次の眠りの時に」
「宜しくね」
「そうさせて頂きます」
庚に約束し共に深い眠りに入った、だが眠っていてもだった。
牙暁は動いていた、そうして命を助けまた自分が運命が変わるということについて信じられることを願っていくのであった。
第十九話 完
2023・3・8
第二十話 外力その一
第二十話 外力
牙暁は次の日の夜早速封真の夢の中に来た、そのうえで彼に話した。
「実はあらためてお話したいことがありまして」
「来てくれたか」
「はい」
今は向かい合って立った姿勢で話した。
「貴方の心が変わることについて」
「それは俺はもうだ」
封真は微笑んで言葉を返した。
「話させてもらったな」
「変わらないとですね」
「心を保つとな」
その様にしてというのだ。
「絶対にな」
「お心を変えないと」
「貴方にも誓ったが」
「それがです」
あらためてだ、牙暁は封真は話した。
「貴方はどうして地の龍になればお心が変わるか」
「そのことについてか」
「お考えになったことはありますか」
「いや、ない」
封真は気付いた顔になって答えた。
「そういえばだ」
「どうしてなるかですね」
「これまで考えなかった」
「若しかすればです」
もう一人の丁のことを今は心の中に収めて話した。
「外から誰かからの」
「力が及んでか」
「変わるかも知れないので」
「だからか」
「ご自身の中から変わる場合はです」
「それを抑えてか」
「外から来たならな」
その時はというのだ、実は彼も庚もその可能性が今は高いと考えているがやはりそれも心に収めて話した。
「その時はです」
「防ぐことか」
「内の場合も外の場合も」
「心が変わる要因はか」
「考えられるので」
だからだというのだ。
「充分以上にです」
「気をつけることか」
「その両方に」
「そうだな、確かに何故地の龍になれば心が変わるか考えたことがなかった」
封真はこの現実を冷静に話した。
「だが心が変わるにもな」
「原因が存在します」
「何かがどうなるかにはな」
「そうです、必ずです」
「貴方が今言った通りな」
まさにというのだ。
「原因が存在している」
「そうです、そしてその原因は」
「俺の中にあるかも知れないしな」
「破壊願望や破滅願望がです」
「人間を滅ぼすとなるとな」
「それが肥大化するか」
地の龍になればというのだ。
「そうなるかです」
「誰かが外側からだな」
「そうなる様に仕掛ける場合もです」
このケースもというのだ。
「有り得るとです」
「今俺に忠告してくれるか」
「はい、ではくれぐれもです」
「わかった、内だけでなく外からのことにもな」
「その時が来れば」
「注意する、己の心を保つ」
封真は確かな表情と声で約束した。
第二十話 外力その二
「必ずな」
「そうされて下さい」
「そしてだな」
「ご自身のままです」
「地の龍になりな」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「戦われて下さい」
「神威とそうなってもか」
「決してです」
「護ってだな」
「殺さないで下さい、彼もです」
その一方のというのだ。
「決してです」
「俺を殺さないな」
「その意志はありません」
決して、そう言うのだった。
「ですから」
「それでだな」
「貴方もです」
「そうする、それと地の龍の誰もな」
封真はここで彼等の話もした。
「別にな」
「悪い人達とは思われないですね」
「全くだ、そうしたものは感じない」
「事実誰もです」
「悪人じゃないか」
「自分でそう思っている人も」
ここで黒いサングラスの男を思い出して話した。
「その実はです」
「違うか」
「そう思います」
牙暁としてはというのだ。
「決して」
「人間を滅ぼす立場でもか」
「その心はです」
決してというのだ。
「邪悪ではです」
「なかったか」
「はい、そして」
それでというのだ。
「若し僕達と合流しましても」
「安心もしていいか」
「惨い人もいませんから」
「俺もそうしたことは嫌いだ」
惨いと聞いてだ、封真は眉を曇らせて話した。事実彼はそうしたことについては生理的に嫌悪感を抱いている。
「確かに人間は生きているとだ」
「罪を犯しますね」
「そして命を奪わないとな」
「生きていけないですね」
「何かを食べるについてもな」
生きる為に必要なこの行為を行うにしてもというのだ。
「それが何であってもな」
「命を奪うことになります」
「菜食主義と言ってもな」
「同じです」
それもというのだ。
「同じです」
「そうだな、植物も生きている」
このことは紛れもない事実だとだ、封真も述べた。
「やはりな」
「そうです、ですから」
「菜食主義でもだ」
例えそうであってもというのだ。
「やはりだ」
「命を奪うことになる」
「そうだ」
まさにというのだ。
「だからどうしてもだが」
「惨いことはですね」
「命を奪ってもな」
「その命を大事に頂き」
「そしてな」
「惨いことはですね」
「してはならない」
絶対に、そうした言葉だった。
第二十話 外力その三
「やはりな」
「左様ですね」
「だからそうしたことをする人がいないなら」
それならというのだ。
「俺は嬉しい」
「では」
「その時はあらためて頼む」
「こちらこそ」
「ああ、それで内からでなくな」
「外からもです」
牙暁はあらためて答えた。
「来るかも知れないので」
「用心しておく」
「そうして下さい、急に出る」
「来る場合もあるか」
「はい、ですから」
その時はというのだ。
「ご用心を」
「それではな」
「あと少しですので」
「神威が選ぶ時はな」
「何時でもその時が来てもいい様に」
「心構えはだな」
「しておいて下さい」
こう封真に言ってだった。
牙暁は彼の夢から去り庚の夢に入った、そこで彼女に彼と話したことをありのまま話した。すると。
その話を聞いてだ、庚はこう言った。
「よかったわ」
「そうですか」
「ええ、用心に用心はね」
「しておくことですね」
「打てる手は全て打つ」
庚は確かな声で話した。
「そうしてね」
「ことに挑むことですね」
「そうすべきだから」
それ故にというのだ。
「ここでね」
「彼に話しておいたことは」
「まだ確証は得られてないけれど」
「動いておいてよかったですね」
「その筈よ、もう一人の姉さんに対するには」
「こちらもです」
「用心に用心を重ねてね」
そうしてというのだ。
「打てる手もね」
「全て打つことですね」
「悪手は駄目で焦ってもならないけれど」
それでもというのだ。
「いい手はよ」
「全て打って」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「急いでもね」
「いいです」
「だから今回はね」
「僕も動きました」
「そうしてくれたわね、ではね」
「はい、後は彼を信じることです」
「きっと自分を保ってくれるわ」
庚は微笑んで話した。
「その時が来てもね」
「そうですね」
「ではね」
庚はさらに言った。
「次はね」
「七人の御使い全員をですね」
「七つの封印が揃うなら」
それならというのだ。
「いよいよね」
「集めますね」
「今は貴方を含めて四人」
牙暁自身を見て言った。
「それならね」
「彼で五人」
「そして残る二人にもね」
「来てもらいますね」
「彼が来たなら」
その時にというのだ。
第二十話 外力その四
「もう連絡はついているから」
「僕の夢で」
「是非ね」
「呼ぶことですね」
「そうしてくれるわね」
「はい」
牙暁はまた庚に答えた。
「そうさせて頂きます」
「それではね」
「そして揃えば」
「いよいよ本格的によ」
「戦いをはじめますね」
「地の龍と天の龍のね」
「そうですね、そして」
牙暁はさらに言った。
「その戦いで」
「ええ、姉さんをよ」
ここでも彼女のことを話すのだった。
「きっとね」
「お救いする」
「そうするわ、それで出来るだけ」
「地の龍の誰も」
「死なない様にね」
「しますね」
「折角巡り合った仲間はね」
そうした間柄の者同士はというのだ。
「死んで欲しくないわ」
「そうですね」
「だからよ」
そう思う故にというのだ。
「七人共ね」
「出来るだけ生きてもらう様にですね」
「していくわ」
こう言うのだった。
「いいわね」
「その為にもですね」
「打つ手はね」
それはというのだ。
「まさによ」
「全てですね」
「打ってね」
そうしてというのだ。
「ことを進めていくわ」
「それでは」
「ではまずは」
「彼のことは済んだし」
手を打ったからだというのだ。
「後は彼が来てくれて」
「そこからですね」
「残る二人にね」
「声をかけます」
「宜しくね」
「それでは」
牙暁も応えた、そうして今はまた動く時を待つのだった。
封真は家でこの日も神威それに小鳥と共に夕食を摂った、そしてその後で神威がこんなことを言ったのを受けた。
「小鳥は本当に料理上手だな」
「ああ、そうだな」
封真は彼の言葉に目を向けて微笑んで応えた。
「俺もそう思う」
「子供の頃からな」
「料理をしていてな」
「今もだな」
「毎日している」
「だからだな、昼の弁当も美味いが」
神威も微笑んで言った。
「夕食もな」
「美味いな」
「かなりな」
こう封真に答えた。
「今日はハンバーグだったが」
「そちらも美味かったな」
「こうしたものを食ってな」
そうしてというのだ。
「生きていきたいな」
「ならそうしてくれ」
これが封真の返事だった。
第二十話 外力その五
「是非な」
「そうさせてもらう」
「お父さんが帰ってきたら」
一緒にいる小鳥も言って来た。
「今度は四人でね」
「食うか」
「そうしましょう」
「そういえばおじさんとは帰ってきてからあまり合っていないな」
神威はこのことに気付いた。
「東京にそうしてから」
「そうね、けれどそれは今のことでね」
小鳥は神威の言葉を受けてこう返した。
「これからはね」
「違うか」
「だって神威ちゃんは私達の家族みたいなものだから」
それ故にというのだ。
「お父さんもね」
「子供の頃よく可愛がってもらった」
「それならね」
「今もか」
「うん、だからね」
それでというのだ。
「きっとね」
「退院されてか」
「うちに帰ってきてくれたら」
その時はというのだ。
「今度は四人でね」
「一緒にだな」
「楽しく食べられるわ」
「そうなるか」
「きっとね」
「ならその時を楽しみに待たせてもらう」
神威は小鳥に応えた。
「俺もな」
「それじゃあね」
「それで最近どうなんだ」
封真は神威にあらためて尋ねた、三人で座っているテーブルにおいて。
「学校では人と話す様になったな」
「ああ、話してみるとな」
神威はここでも微笑んで応えた。
「悪い奴等じゃない」
「クラスメイトはか」
「皆な。友達になれそうだ」
「それは何よりだな」
「俺は勝手に心に壁を作っていたな」
このことは俯いて反省する顔で述べた。
「小鳥も封真も運命に巻き込みたくないと思って」
「それで他の誰にもだな」
「そうしていた」
俯いたまま言った。
「今思うとな」
「反省しているか」
「ああ、変に心を閉ざしていた」
心に壁を作っていたことをこうも言った。
「どうもな、しかしな」
「もうだな」
「そんなことはしない」
決してという返事だった。
「もうな」
「それならいい、ならこれからはな」
「学校でもだな」
「親しくしていくことだ」
「そうしていく」
「ああ、天の龍の人達ともな」
「そういえば空汰さんと嵐さん東京から出たって言ってたわね」
小鳥は天の龍と聞いて二人のことを思い出した。
「そうなのね」
「今はな。けれどすぐにな」
「戻って来てくれるのね」
「そうなる、だからな」
「心配はいらないのね」
「全くな」
「ならいいわ、それがお仕事でも旅行になったら」
小鳥は微笑んで話した。
「いい息抜きにもね」
「なるな」
「そうもなるから」
実際にというのだ。
第二十話 外力その六
「いいと思うわ」
「そうだな、東京もいいがな」
「旅行に行くこともね」
こちらもというのだ。
「いいから」
「そうだな、じゃあ落ち着いたらな」
神威はここでこう返した。
「何処か行くこともな」
「旅行ね」
「ああ、日帰りでもな」
例えそうでもというのだ。
「行こうか」
「そうしよう」
「東京を出てな」
「それなら色々とあるな」
封真は二人の話を聞いて言った。
「東京を出ても」
「そうか」
「横浜や横須賀もあるしな」
そうした場所もというのだ。
「埼玉だって行ける」
「あちらにもか」
「千葉も山梨もな」
「案外多いな」
「東京からはな」
封真はさらに話した。
「色々な場所にな」
「行けるか」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「好きな場所にだ」
「行くといいか」
「落ち着いたらな」
戦いが終わればというのだ。
「そうすればいい」
「それじゃあな」
「二人だけでな」
封真はさらに言った。
「色々な場所に行くこともな」
「いいな」
「俺もそう思う」
封真にしてもというのだ。
「だからな」
「それならな」
「行ってきてくれ、お前なら安心出来る」
「小鳥を護るとか」
「そうな、だからな」
それ故にというのだ。
「好きなところにな」
「行ってきていいか、だがそれならな」
神威は封真の話を聞いて言った。
「お前もどうだ」
「俺もか」
「旅行に行くにしてもな」
「三人でか」
「行こうと思ったが」
「いや、二人で行けばいい」
封真は笑って返した。
「どうせならな」
「いや、そうした時もな」
神威はその封真に言葉を返した。
「やっぱりな」
「三人でいるべきか」
「そう思うからな」
「それがお前の考えか」
「何か今思ったけれど」
小鳥は二人の言葉を聞いて微笑んで自分の考えを話した。
「それなら三人でピクニックにでもね」
「行くか」
「それかお弁当を作って」
そうしてというのだ。
第二十話 外力その七
「東京でもね」
「何処かに行ってか」
「三人で食べる?」
「そうするか」
「良好でなくてもね」
「それもいいか」
「うん、そう思ったけれどどうかな」
こうもだ、小鳥は言うのだった。
「戦いが終わったら」
「それもいいか」
神威は小鳥の提案を否定せずに応えた。
「言われてみれば」
「旅行を言ったのは私だけれどね」
「それでもだな」
「神威君とお兄ちゃんのお話を聞いてね」
「思ったな」
「うん、だからね」
それでというのだ。
「そちらもね」
「考えるか」
「そうしよう」
「あの木の下で一緒に食べるか」
封真も小鳥の話を聞いて言った。
「そうするか」
「そうね、それじゃあね」
「その時はな」
「私お弁当沢山作るから」
「三人でだな」
「一緒に食べようね」
戦いが終わればというのだ。
「是非ね」
「あと来たい奴はな」
その時の三人のところにとだ、神威は言った。
「誰でもな」
「来てなのね」
「そしてな」
「その人達も一緒にね」
「楽しんでもな」
「いいよね」
「そうだな」
神威は小鳥の言葉に頷いた、そうしてだった。
あらためて笑顔になってだった、小鳥に対して語った。
「その時を楽しみにしよう」
「うん、それでね」
「戦ってな」
「生き残ってくれるよね」
「そうする、俺はまだどちらか決めていないがな」
天の龍になるか地の龍になるかをだ、まだ考えていてそのうえでどちらが小鳥も封真も護れるか見極めんとしているのだ。
「しかしな」
「きっとよね」
「俺は生きる」
小鳥に答えた。
「戦ってな」
「生きてくれるのね」
「絶対にな、そしてな」
「戦いの後でね」
「三人で、そして」
「皆とね」
小鳥も天の龍達のことを思い出してこう返した。
「来てくれる人皆で」
「旅行に行くかな」
「あの木の下でね」
「皆で楽しもう」
「そうしようね」
「それがいい、俺もだ」
封真も言ってきた。
「そのつもりだ」
「お前もか」
「ああ、生きるからな」
それでというのだ。
「その後でな」
「ああ、一緒にな」
「楽しもう」
「そうしよう」
こう話した、そしてだった。
第二十話 外力その八
三人は今はくつろいだ、そうして平和な時間を楽しんだ。
その時遊人は仕事を終えてだった。同僚達と居酒屋でアフターファイブを楽しんでいたが彼はビールを飲みながら笑顔で話した。
「最近婚姻届けが多いですね」
「結婚ラッシュですね」
「僕達の区は」
「そうなっていますね」
「いいですよね」
にこやかな笑顔での言葉だった。
「幸せになる人達を見ることは」
「そうですよね」
「僕達も仕事のしがいがあります」
「幸せな人達を見ていると」
「それなら」
「はい、ですから最近仕事にやりがいを感じて」
そうしてというのだ。
「頑張れます」
「確かにそうですね」
「最近麒飼さん楽しそうですね」
「お仕事の時も」
「そうですね」
「幸せな人達を見ていると」
そうすると、というのだ。
「本当にです」
「僕達も頑張れます」
「お仕事に励めて」
「こうした時も楽しいですよね」
「快く飲めますよ」
「しかも美味しくです」
遊人は焼き鳥も楽しんで言った。
「食べられますしね」
「そうそう」
「このお店美味しいですが」
「幸せな人達を見ていると尚更です」
「尚更美味しくなります」
「全くです、幸せは最高の調味料です」
遊人はこうも言った。
「お酒も美味しくしてくれて」
「食べものもですからね」
「いいですよね」
「皆もっともっと幸せになって欲しいですね」
「これからも」
「全くですよ、それでなんですが」
同僚達にさらに言った。
「焼き鳥以外に何を楽しみましょうか」
「冷奴どうです?」
「唐揚げもいいですよ」
「ほっけなんかも」
「ここ焼きそばもいいですよ」
「焼きそばですか、そういえば」
その料理を聞いて彼のことを思い出して言った。
「焼きそばって関西が本場ですよね」
「そう言われていますね」
「お好み焼きもたこ焼きも」
「こっちはもんじゃ焼きで」
「それでなんです」
同僚達にさらに話した。
「最近焼きそばやお好み焼きがです」
「お気に入りですか」
「そうなんですね」
「麒飼さんとしては」
「ですから」
それでというのだ。
「今からです」
「焼きそばですね」
「それを注文されて」
「召し上がられますね」
「そうします」
こう言って実際にだった。
彼は焼きそばを注文した、ソース焼きそばだがそれを口にすると彼はすぐににこやかに笑って言った。
第二十話 外力その九
「いやあ、本当にです」
「美味しいですか」
「その焼きそばは」
「そうなんですね」
「はい、ビールにもよく合います」
飲んでみるとそうだった。
「これはいいです」
「そうですか」
「では僕達も頼みましょうか」
「そうしましょうか」
「お勧めです、ただ」
遊人はジョッキを片手にこうも言った。
「一度大阪に行くのもいいかも知れないですね」
「ははは、そうですね」
「あちらに行くこともいいですね」
「お好み焼きやたこ焼きも食べて」
「楽しまれますね」
「串カツもありますしね」
こちらのメニューも思い出して話した。
「あちらは」
「そうですよね」
「何かとありますよね、大阪は」
「美味しいものが一杯あって」
「いい街みたいですね」
「そう聞いていますので」
ここでも彼のことを思い出しながら話した。
「是非です」
「行ってみたいですね」
「一度でも」
「新幹線で直通ですからね」
「数時間で行けますしね」
「そうですよね、ただ野球は」
遊人はビールのおかわりをしてからこちらの話もした。
「僕はヤクルトですからね」
「僕は横浜です」
「僕はロッテです」
「僕は西武です」
「それぞれ違いますね、阪神ではないですから」
それでというのだ。
「そちらはどうでしょうね」
「まあ巨人じゃないといいですね」
「あちらは」
「何か随分アンチが多いそうですし」
「そのことを考えますと」
「ならいいですが。大阪からです」
この街からというのだ。
「西宮まで行けば」
「はい、甲子園ですね」
「阪神の本拠地ですね」
「あちらになりますね」
「あの球場にも行ってみたいですね」
こうも言うのだった。
「大阪に行った時は」
「ええ、いい球場らしいですね」
「日本一の球場と言われるのは伊達でなくて」
「やっぱり違うらしいですね」
「他の球場とは」
まさにというのだ。
「僕がよく行くのは神宮球場ですが」
「あの球場ですね」
「ヤクルトの本拠地の」
「麒飼さんが応援されているチームの」
「そちらのですね」
「はい」
まさにというのだ。
「それでよく行きます」
「ヤクルトもいいですよね」
「必死に頑張ってる感じで」
「しかも明るくて」
「お高く止まっていないですし」
「それがいいんですよね、観ていると応援したくなります」
ビールを手にして同僚達に話した。
「あのチームは」
「全くですね」
「それではですね」
「麒飼さんはこれからもヤクルトですね」
「野球は」
「そうです」
まさにと言ってだった。
第二十話 外力その十
遊人は焼きそばを食べてビールも楽しんだ、そうして同僚達と楽しい時間を過ごしてから自分のマンションに帰ってだった。
そこでシャワーも浴びてくつろいでいると。
電話がかかってきた、それに出ると。
「あの、哪吒ですが」
「おや、どうしましたか?」
遊人はパジャマ姿で応えた。
「一体」
「はい、実はです」
哪吒は電話の向こうから答えた。
「今ゲームをしていまして」
「どんなゲームですか?」
「RPGです」
このゲームだというのだ。
「今流行りの勇者が出て来るシリーズの」
「確かドラゴンの」
「はい、タイトルにそれがある」
まさにとだ、哪吒は答えた。
「そのゲームです」
「やっぱりそうですか。何作目ですか?」
「四作目です」
「おや、ファミコンですか」
四作目と聞いてだ、遊人は気付いた。
「これまた懐かしい」
「スーパーファミコンでもプレイステーションでもなくて」
「ファミコンですか」
「そちらをしていまして」
「そうですか」
「今第五章に入ったばかりですが」
そこでというのだ。
「仲間を探していますが」
「ではカジノと宿屋に行かれて下さい」
「街のですか」
「はい、そちらに行かれますと」
そうすると、というのだ。
「いいですよ」
「じゃあそちらに行きます」
「はい、ただです」
遊人は電話の向こうの哪吒にこうも言った。
「もう夜も遅いので」
「早く寝ることですね」
「ゲームもいいですが」
それでもというのだ。
「夜更かしはよくありません」
「そうですね、じゃあカジノと宿屋に行って」
「そしてですね」
「仲間が入ったら」
それならというのだ。
「もうです」
「そこで教会で、ですね」
「セーブをして寝ます」
そうするというのだ。
「そうします」
「それでは」
「実は学校から帰ってです」
哪吒はさらに話した。
「ご飯まで勉強をしてその後お風呂に入りまして」
「ゲームもですか」
「していました」
「そうでしたか」
「それで今です」
「第五章に入ったばかりですね」
「実は攻略本を持っていなくて」
哪吒はこのことも話した。
「遊人さんならご存知かと思って」
「はい、この通りです」
「ご存知ですか」
「そうです、ですが」
「ですが?」
「攻略本は読んでみると面白いですよ」
「面白いんですか」
「そうです、ゲームのそれは」
遊人はこうも言った。
「ただそれだけを読んでもです」
「面白いんですね」
「ですから買って損はしません」
「じゃあ僕も」
「買われて下さい、ただ僕でよかったら」
哪吒にあらためて話した。
第二十話 外力その十一
「何でもです」
「聞いていいですか」
「夜の十二時までは」
「夜のですか」
「そこから先は寝ますので」
「お聞き出来ないですか」
「はい、ですが」
それでもと言うのだった。
「それ以外の時はです」
「何でもですか」
「こうしてゲームをしている時も」
「お聞きしていいですか」
「どうぞ。いかし哪吒君がファミコンとは」
「思わなかったですか」
「年代的に合わないと思いまして」
だからだというのだ。
「意外でした」
「確かに僕もプレイステーション等でよく遊びます」
哪吒もこう答えた。
「ですが今はです」
「ファミコンですね」
「こちらです」
「そうですね、それじゃあ」
「はい、今から宿屋とですね」
「カジノに行きます」
「宿屋の地下がカジノですから」
「あっ、そうですね」
哪吒も言われて電話の向こうで頷いた。
「第二章でも第三章でも」
「そうでしたね」
「じゃあすぐですね」
「行き来出来ますね」
「そうですね」
「ではです」
まさにというのだった。
「まずは二人です」
「仲間を加えて」
「それから旅を本格的にはじめて下さい」
「わかりました、あと攻略本はです」
哪吒はこちらの話もした。
「買います」
「それでは」
こうした話をだ、二人は夜に話した。そして哪吒は次の日学校の授業が終わるとその傍にある本屋に入ってだ。
ゲームの攻略本を探したがその本屋にはなく首を傾げさせているところにクラスメイトの男子学生が店に入って来たので尋ねた。
「ゲームの攻略本を探しているけれど」
「どのゲームだよ」
「それはね」
哪吒はそのゲームのタイトルを話した、するとクラスメイトはすぐに答えた。
「そのゲームの攻略本は古本屋にあったぜ」
「古本屋ってこの商店街の」
「ああ、あそこにあるよ」
こう話した。
「だからな」
「あの古本屋に行ったらいいんだ」
「ああ、しかしな」
「しかし?どうしたのかな」
「いや、塔城もゲームするんだな」
クラスメイトは哪吒に彼の名字を出して意外そうに言った。
「そうなんだな」
「最近ね」
「それもファミコンか」
「普段はプレイステーションとかスーパーファミコンだけれど」
そちらをプレイしているがというのだ。
「今はね」
「ファミコンでか」
「そのゲームをしているんだ」
「そうなんだな」
「面白いね、ファミコンのゲームも」
哪吒は微笑んでこうも言った。
第二十話 外力その十二
「今から見ると何でもない様なゲーム多くて」
「ああ、画面も音楽もな」
「かなり古いっていうかね」
「技術的にな」
「そんなゲームだけれど」
それでもとだ、哪吒はクラスメイトに微笑んで話した。
「それでもね」
「ファミコンのゲームもな」
同級生も同意して応えた。
「面白いよな」
「そうだね、やってみたら」
「ああ、それでそのゲームをか」
「今やっていて」
「クリアーするんだな」
「そうするよ」
クラスメイトに微笑んで話した。
「遂に第五章まできたし」
「ここから本番だしな」
「うん、これからもね」
「頑張れよ」
「有り難う、それじゃあね」
「これからだな」
「古本屋に行って来るよ」
こう言ってだった。
哪吒はクラスメイトと別れてそのうえで古本屋に行ってそのゲームの攻略本を見付けて買ってそのうえでだった。
読んでみてそれを参考にゲームをして夜に遊人に電話で話した。
「買って読んでみました」
「面白いですね」
「はい」
遊人にも微笑んで話せた。
「それだけでも」
「攻略本はそこもいいんです」
「ゲームの攻略に役立ってくれて」
「そして読んでもです」
ただそうしてもというのだ。
「面白いです」
「だからいいんですね」
「はい、ですから」
遊人はさらに話した。
「これからもです」
「ゲームの攻略本もですね」
「読まれて下さい」
是非にというのだ。
「どうぞ」
「そうしていきます」
「実は僕もゲームをしていまして」
「攻略本を買われていますか」
「はい」
実際にというのだ。
「そうしています」
「そうですか」
「これからもです」
「買われますか」
「まあ世界が滅んだら買えないですがね」
遊人はこのことは笑って話した。
「僕達は」
「そうですね、人間の世界がそうなったら」
「もうです」
その時はというのだ。
「残念ですが」
「そうなりますね」
「ですが」
それでもというのだった。
「それまでも間は」
「楽しめばいいですね」
「人間が滅ぶのも流れです」
哪吒に笑ってこうも言った。
「その流れに身を任せることもです」
「いいですか」
「はい、滅びるなら滅びるで」
そしてというのだ。
「残るならです」
「残りますか」
「そうしたものということで」
こう考えてというのだ。
第二十話 外力その十三
「僕は今はそうしたこともです」
「楽しまれていますか」
「はい、では僕も」
「ゲームをされるんですね」
「僕は今六作目をしていまして」
「そちらですか」
「こちらも面白いんですよね」
哪吒に笑顔で話した。
「哪吒君がしている四作目もいいですが」
「六作目もですね」
「好きでして」
それでというのだ。
「キャラクターを徹底的に育てて」
「楽しまれていますか」
「はい」
まさにというのだ。
「時間もかけて」
「では僕も」
哪吒は遊人の話を受けて言った。
「今やっている四作目が終わりましたら」
「六作目をですね」
「楽しみます」
「そうするといいです」
「そうですね、一作目も二作目もしましたし」
それでというのだ。
「三作目も楽しみましたし」
「どの作品もクリアしていますね」
「しました」
はっきりとした返事だった。
「そうでした」
「ではです」
「四作目もクリアして」
「そしてです」
そのうえでとだ、哪吒に告げた。
「六作目もです」
「五作目もですね」
「そうそう、忘れてはいけないですね」
遊人は明るく笑って応えた。
「そちらもです」
「楽しみます」
「そうして下さい」
「それでは」
こうした話もしてだった。
二人はそれぞれゲームを楽しんだ、だが颯姫は夢の中で牙暁からその話を聞いて表情を買えなかったがそれでも言った。
「私もそのゲームしてみようかしら」
「そうするんだね」
「ええ、そしてね」
自分の前にいる牙暁に話した。
「遊人さんとお話をするわ」
「そのゲームのことで」
「そうするわ。これまでゲームは」
ファミコンやスーパーファミコンはというのだ。
「下らないと思って」
「してこなかったんだね」
「小さな子供のおもちゃにしか見えなかったから」
颯姫としてはだ。
「だからね」
「そうだったんだね」
「ええ、けれどね」
それがというのだ。
「今はね」
「考えが違うね」
「遊人さんがするのなら」
それならというのだ。
「私もね」
「してみて」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「ゲームのことでお話をね」
「して」
「楽しみたいわ」
「いいことだよ思うよ」
牙暁は颯姫に微笑んで答えた。
第二十話 外力その十四
「それもまたね」
「それじゃあ」
「こうしたことも人間のすることで」
「いいのね」
「人間味を備えていくことは素晴らしいことだから」
それ故にというのだ。
「君もね」
「ゲームをするといいのね」
「君がそうしたいならね」
「ならそうするわ」
「そう、そしてね」
牙暁はさらに話した。
「楽しんでね」
「ゲームは楽しいのね」
「この世の中には楽しいことも一杯あるよ」
「これまで顧みたことはなかったわ」
楽しみと呼ばれるものにはとだ、颯姫は述べた。
「ずっとね」
「君は頭がいい、そしてクールで」
「その二つが過ぎたのかしら」
「時には愚かになることも」
このこともというのだ。
「人間だし悪いことでもね」
「ないのね」
「そうだよ」
こう颯姫に話した。
「これがね」
「愚かは悪ではないのね」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「実はね」
「そうなのね」
「君は愚かさについては軽蔑していたね」
「心から」
そうだという返事だった。
「無駄も。何もかもがね」
「合理性と計算だね」
「そうしたものを考えて」
そしてというのだ。
「考えてきたわ」
「そうだね、けれどね」
「そうしたものもなのね」
「実はね」
「悪いものじゃないのね」
「無駄や計算外のこともね」
「悪いことじゃなくて」
「時に愚かになることもだよ」
このこともというのだ。
「悪いことじゃなくて遊びもね」
「悪いことじゃなくて」
「君もね」
「してみればいいのね」
「そうだよ、是非ね」
まさにというのだ。
「楽しんでね」
「そうするわ、しかし」
颯姫は牙暁の言葉に頷いてからこうも言った。
「地の龍になってから変わってきたわ」
「君もだね」
「そのことを感じているわ」
「変わらない人はいないよ」
牙暁は微笑んで答えた。
「この世にはね」
「私もなのね」
「そう、次第にね」
「変わっていくのね」
「色々な影響を受けて」
そうしてというのだ。
第二十話 外力その十五
「そのうえでね」
「それじゃあ」
「変わっていこう、悪く変わる場合もあれば」
「よく変わる場合もあるわね」
「そして変わるなら」
「よく変わることね」
「うん、それが一番いいから」
だからだというのだ。
「そうなる様にしていこう、そして僕でよかったら」
「その協力をしてくれるのね」
「どうかな」
「お願いするわ」
颯姫は無表情で答えた、だが。
言った瞬間に自分で気付きこう言った。
「今目がほんの少しでも」
「笑ったね」
牙暁は微笑んで応えた。
「僕も見たよ」
「そうよね」
「うん、確かにね」
「私も笑うのね」
「笑うことも大事だよ」
「これまで笑った記憶がないわ」
颯姫は正直に答えた。
「思えばね」
「そうなんだね」
「ええ、けれど」
それでもというのだった。
「決してね」
「悪くないね」
「今そう感じたわ」
実際にというのだ。
「本当にね」
「それじゃあ笑うこともね」
「していけばいいわね」
「それも変わるうちだから」
「笑っていけばいいわね」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「笑っていこう」
「そうしていくわ」
牙暁に頷いてだった。
颯姫は変わっていこうとも思った、そして次の日からテレビゲームもしていった。そうして遊びを知っていったのだった。
第二十話 完
2023・3・15
第二十一話 哀愛その一
第二十一話 哀愛
空汰と嵐はディーゼルの列車に乗って東京から遠く離れた駅に来た、駅は無人駅で線路は駅の左右うに一列ずつで周りは閑散としていた。
その駅に降り立ってだ、空汰は言った。
「東京におるとな」
「こ¥うした場所はないわね」
「ああ、ほんまにな」
「思えば私達がかつていた場所も」
「高野山もお伊勢さんもな」
「大きなお寺に神社だから」
「自然は豊かでもな」
「人も建物も多くて」
「寂しいことなかったな」
「静かであっても」
それでもとだ、嵐は周りを見て話した。
「思えばね」
「決して寂しくなかったな」
「そうね、それでだけれど」
嵐はさらに言った。
「ここに来てね」
「思うな」
「ええ、ここは寂しい場所ね」
「東京にも高野山にもお伊勢さんにもないな」
「そうしたものがあるわ。ただ」
嵐は幼い頃を思い出してこうも言った。
「私は物心ついた頃はもっと寂しくて」
「そやったんかいな」
「餓えていたわ」
そうだったというのだ。
「本当にね」
「ああ、嬢ちゃんお伊勢さんに迎えられるまでは」
「殆ど一人でいて食べるものもね」
「なかったな」
「ゴミ箱を漁る烏を羨ましくも思ったわ」
そうして食べる彼等をというのだ。
「そう思ったこともね」
「あったんやな」
「そうだったわ」
「嬢ちゃん相当辛い子供時代送ったとは聞いてたけどな」
「ほんの少しの間よ。ゴミ箱を見ていた時に」
烏が漁っていたというのだ。
「その時に後ろから声をかけられて」
「その人がか」
「高野山の方で」
それでというのだ。
「巫女に迎えられてそれからは」
「餓えることもなかったか」
「衣食住全てが保証されて」
そうした生活になりというのだ。
「修行とそれで得た力を使う」
「そうした日々になったんやな」
「学校にも通ってね。よかったわ」
嵐は今も表情がない、空汰に閑散の先にいるものを見つつ話した。
「迎えられて」
「さもないとか」
「私は死んでいたわ」
「餓えでやな」
「まさにね」
「そんな風やってんな」
「それでだけれど」
嵐はさらに言った。
「これからだけれど」
「ああ、ここに皇昴流さんが来てる」
「最後の天の龍が」
「そやからな」
「これからお会いして」
「東京に戻るで」
「皇さんを連れて」
「そうしよな」
「わかったわ、それではね」
「ここは今は駅前はこうでもな」
空汰は今も閑散を見ている、そのうえでの言葉だった。
第二十一話 哀愛その二
「ちょっと行ったら昔の宿場町があってな」
「そこになのね」
「大きな旧家もあるんや」
「それじゃあその旧家に」
「そうかもな、そこの大地主さんでな」
「資産もあるのえん」
「そうみたいや、ほなその宿場町の方にな」
今からというのだ。
「行こな」
「わかったわ」
嵐は空汰の言葉に頷いた、そしてだった。
二人で駅から宿場町の方に向かった、すると。
その途中でだ、空汰は今度はこんなことを言った。
「思えばな」
「どうしたの?」
「いや、皇家の当主さんやけどな」
その彼のことを山道を歩きつつ話した、宿場町までの道である。
「その人えらい美形らしいんや」
「そうなのね」
「クランプ学園におられたってのは知ってるな」
「私達が今いる」
「征一狼さんと火煉さんもおったな」
「地の龍の人達もね」
「遊人さんは卒業生でな」
「今は八頭司颯姫がいて塔城霞月ね」
「その二人もおるな」
「クランプ学園にいたわね」
「中退やけど」
それでもというのだ。
「おったのは事実でな」
「聞いているのね」
「在籍した時からえらい美少年でな」
それでというのだ。
「評判やったらしい、それで今もな」
「奇麗な人なのね」
「そう聞いてるわ」
こう嵐に話した。
「思えば天の龍はおひいさんも別嬪さんやし」
「あの方は確かにそうね」
「皆美形でな」
それでというのだ。
「わい天の龍でよかったわ」
「そう思ってるのね」
「顔だけやなくてな」
笑ってさらに言った。
「心もな」
「奇麗だというの」
「そや、天の龍はな」
「そしてそれは」
「おひいさんもでな」
「そのお心は奇麗ね」
「ほんまな」
まさにというのだった。
「裏表なんて全くないな」
「いつも真剣に世界のことを考えて」
「わい等に話してくれるな」
「素晴らしい方ね」
「ああ、あんな人もおられるし」
それにというのだった。
「天の龍の他の人等もな」
「いい人達だから」
「よかったわ」
こう言うのだった。
「ほんまにな」
「そう思っているのね」
「天の龍でよかったってな」
「地の龍でいるより」
「地の龍も美形揃いでな」
それでというのだ。
「悪い人等やないと思うで」
「そうね、あの人達も」
嵐も否定しなかった。
「特に」
「そやけどな」
「天の龍の人達がなのね」
「好きでな」
丁達も含めてというのだ。
第二十一話 哀愛その三
「その心までええと思って」
「そこにいてよかったのね」
「それで特にな」
隣にいる嵐を見て笑って話した。
「嬢ちゃんがいてな」
「そこで返事があると思うかしら」
「ないやろな」
「そうする気はないわ」
無表情での返事だった。
「私はね」
「そやな」
「言う義務がないから」
「つれないなあ」
「けれど嫌いではないわ」
嵐は無表情のままだがこうも言った。
「そのことは言っておくわ」
「そうなんか」
「ええ、嫌いな人とこうして一緒にいることは」
それはというと。
「私は出来ないから」
「嫌いやとか」
「一緒にいることは」
それはというと。
「無理よ」
「そやねんな」
「だからね」
それでというのだった。
「今言っておくわ」
「嫌いやないって」
「ええ、ではこれからね」
「宿場町に行ってな」
「昴流さんに会いましょう」
二人で山道を進みながら話した、そしてだった。
空汰と嵐は宿場町に向かっていった、二人がそうしていた頃。
征一狼は護刃に火煉それに神威を呼んでだった。
あるドーナツ屋において一緒にドーナツを食べながらだった、同席している彼等に微笑んで話した。
「美味しいですよね」
「はい、凄く」
護刃は頭から猫耳を出さんばかりに喜んで答えた。
「どのドーナツも美味しいです」
「実は担当の先生がです」
漫画家のというのだ。
「無類の甘党で」
「それでなんですか」
「先生に紹介してもらって」
そしてというのだ。
「知ったお店で」
「それを私達にもですか」
「紹介させてもらいました」
「そうなんですね」
「東京にいますと」
征一狼はさらに話した。
「こうしたです」
「お店もあるんですね」
「それも多く」
「そうなのよね」
火煉もドーナツを食べつつ微笑んで話した。
「この街にいるとね」
「いいお店が沢山ありますね」
「ええ」
その通りだと答えた。
「本当にね」
「ですから」
「そうしたお店に行って楽しんで」
「そして何度でもです」
「楽しみたいわね」
「そうですよね」
「私も甘いものが好きだから」
火煉は微笑んでこうも言った。
「だからね」
「このお店もですね」
「気に入ったわ、またね」
「お邪魔して」
「楽しみたいわ」
「そうだな、今度だ」
神威も言ってきた。
第二十一話 哀愛その四
「小鳥と封真にもな」
「お二人にもですか」
「紹介してだ」
そうしてというのだ。
「次来る時はな」
「三人で、ですか」
「そうしたい」
「それはいいことです、では早速です」
笑顔でだ、征一狼は神威に応えて話した。
「時間があれば」
「その時にか」
「そうされて下さい」
「わかった、そうする」
「思い立ったが吉日です」
「すぐにすべきだな」
「そうです、ご自身がいいと思われ」
そしてというのだ。
「周りの人達もいいという様なことは」
「是非だな」
「進んで、です」
「すべきだな」
「私もいいと思います」
「私もよ」
護刃に火煉も言って来た、それも優しい笑顔で。
「今度は三人でね」
「来られるといいです」
「わかった、では次の日曜にでもな」
神威は微笑んで答えた。
「またここに来る、三人でな」
「そうされて下さい、甘いものとお酒は人を幸せにしてくれます」
「どちらもか」
「はい、ですから健康のことも考えつつ」
「楽しむことだな」
「そうです、僕もそうしていますし」
神威に笑顔のまま話した。
「神威君もです」
「わかった、ではそうするな」
「はい、是非」
「それじゃあな」
「私もお酒は好きよ」
火煉も言ってきた。
「特にワインがね」
「そちらのお酒ですか」
「ワインは主の血でしょ」
こう護刃に話した。
「そうでしょ」
「キリスト教の教えですね」
「パンは主の身体でね」
そしてというのだ。
「ワインは血なのよ」
「そうでしたね」
「それでなのよ」
「火煉さんはワインが一番お好きなんですね」
「白ワインもロゼも好きだけれど」
「赤ワインですか」
「一番ね」
護刃ににこりとして話す。
「好きよ」
「そうなんですね」
「だからね」
それでというのだ。
「飲めるならね」
「赤ワインですね」
「それが一番よ。甘いものにも合うし」
「それもワインのいいところですよね」
征一狼も笑顔で頷いた。
「ワインは」
「特に赤ワインはね」
「はい、非常にです」
「ケーキとかにも合って」
「いいお酒です
「そうなのよね」
「ワインに甘いものか」
神威もその話を聞いて言った。
第二十一話 哀愛その五
「それはな」
「いい組み合わせと思うかしら」
「今まで考えたことがなかったが」
こう火煉に答えた。
「しかしいいというのならな」
「飲んでみたいわね」
「食ってな」
そしてというのだ。
「そのうえでな」
「してみていいわよ、ただ飲み過ぎにはね」
「注意だな」
「お酒だからね」
「そうだな、そこはな」
神威もそれはと応えた。
「わかっているつもりだ、俺も」
「そうしてね」
「是非な、ドーナツにも合うか」
「そう、合うのよ」
赤ワインはとだ、火煉は即座に答えた。
「これがね」
「ならな」
「一緒に楽しんでね。買って帰って」
「そこでだな」
「食べてもいいし」
そうしてもというのだ。
「一度ね」
「そうしてみる」
こう答えてだった。
神威はこの時はドーナツと紅茶を楽しんだ、そして。
この頃皇昴流は空汰と嵐が目指す宿場町だった古い町並みが並ぶそこにいた。そうしてその中を歩き。
地蔵が並ぶ中を過ぎ古い日本の町中を進み。
風車が売られている寂れた店を横切ったその時にだった。
また地蔵達を横に見てだ、気付いた顔になり。
陰陽道の札を出しそれを白い小鳥の式神に変えて飛ばし。
空にやると小鳥は何かに当たって消えた。すると昴流は風車の店の傍にいた。それでそこからであった。
咲に進みある家に入りだ、そこで初老の着物の女に挨拶をした。
「遅くなりました」
「いえ、丁度ですが」
「約束の時間のですか」
「はい、まさに」
「それならよかったのですが」
「そうですので。では」
「はい、これよりです」
昴流は女にあらためて言った。
「娘さんにお会いさせてもらいます」
「宜しくお願いします」
「それで、ですね」
「娘を救って下さい」
「そうさせて頂きます」
女に応えてだった。
昴流は家に上げてもらった、そこからだった。
ある部屋に案内されてだ、そのうえで。
見事な様々な花が描かれた色彩豊かな長い黒髪の美しい少女が恍惚とした表情で座っている和室に案内されてだった。
そこで少女を診させてもらってだ、女に答えた。
「明らかにです」
「憑かれていますか」
「お話は聞かせてもらいましたが」
昴流は少女と正対して正座しつつ女に行った。
「この方の恋人は」
「三ヶ月前に事故で」
「そうしてですね」
「残された娘は心を壊し」
「その方をあまりにも愛されていたので」
「生涯を添い遂げようと」
その様にというのだ。
「常に言っていた位に」
「そうだったのですね」
「そうですが」
それがというのだ。
第二十一話 哀愛その六
「事故で」
「そしてですね」
「娘は心を壊し」
「それからですね」
「ずっとこの部屋にこうしていてです」
「この表情で、ですか」
「座ったままなのです」
こう昴流に話した。
「そうした状況が三ヶ月」
「その方がお亡くなりになってから」
「続いていて」
「僕を呼んでくれたので」
「そうなのです」
「そうですね、全てお話通りです」
昴流は女が最初に東京に来て自分に話してくれたことを思い出しながらそのうえで女に対して応えた。
「最初にお話を聞いてわかりました」
「娘はですね」
「お心の中でその方の魂とです」
「まだこの世にいる」
「ご一緒でして」
「その中にいて」
「出て来ないのです」
そうした状況だというのだ。
「まさに。ですから」
「今もですか」
「この状況です」
「そうですか」
「はい、しかし」
それでもとだ、昴流は女に話した。
「それは決してです」
「いい状況ではないですね」
「娘さんのお心は今はこの世にはありません」
女にこのことも話した。
「この世ではない幻の世にです」
「あって」
「そこから出ようとしていません」
「心はこの世になくてはならないですね」
「この世に生きている限り」
まさにというのだ。
「そうです」
「それでは」
「今から娘さんを戻します」
こちらの世界にというのだ。
「そうさせて頂きます」
「わかりました、それでは」
「今からやらせて頂きます」
こう言ってだ、昴流は。
陰陽道の印を結んだ、そして。
その場に陣も敷いてそのうえで詠唱も行っていった、少女はその中で今も恍惚の顔で座っていてだった。
心は幻の世で既に世を去った筈の恋人を共にいた、そこで着物姿の美少年である彼に対して言っていた。
「私このまま」
「僕もだよ」
「一緒にいましょう」
「この世が終わる限り」
「二人だけで」
お互いに寄り添い合いながら話していた、だが。
これまで桃源郷の様であった世界がだ。
急に暗転し少年は消え去った、そして声だけが聴こえた。
「御免、僕はもう」
「いなくなるの?」
「時が来たんだ、誰かの力だけれど」
それでもというのだ。
「だから今の人生ではね」
「お別れなの」
「だからきみも」
優しいが哀しい声での言葉だった。
「現世に戻って」
「そうしてなの」
「生きて。そして幸せになって欲しい」
「けれど私は貴方がいないと」
少女は消えゆく少年に右手を出して言った。
第二十一話 哀愛その七
「もう」
「大丈夫だよ、きっと新しい出会いがあるよ」
「私にはもう」
「あるよ、きっとね」
「出会いが」
「そう、そしてね」
そのうえでというのだ。
「幸せになれるから。だからもうね」
「現世に戻って」
「そこで生きて」
「では貴方とは」
「また生まれ変わったら」
「その時に」
「うん、その時にね」
まさにというのだ。
「ずっと永遠にね」
「一緒になるのね」
「そうなろう」
「そして今の生では」
「新しい人と幸せになるんだよ」
こう言ってだった。
少年は姿を消した、それと共にだった。
少女の心は現世に戻った、そのうえで。
俯き両手を畳についてはらはらと泣いた、目を開いたまま口を半ば開けてただひたすら泣いていた。
その少女を見てだ、昴流は女、母である彼女に言った。
「これで、です」
「娘は救われたのですね」
「この世界に戻れました」
「有り難うございます」
「はい、ですが」
昴流は沈痛な面持ちで彼女に話した。
「救われたかどうかは」
「違いますか」
「人は時として現世にいる方が辛い場合がです」
その方がというのだ。
「ありますので」
「だからですか」
「娘さんは戻れましたが」
現世にというのだ。
「しかし救われたかは」
「わからないですか」
「きっと新しい出会いはあります」
昴流はこれはあると言った、少年と少女のやり取りは知らないが。
「ですがそれまでの間」
「娘は」
「別れを悲しみます」
「そうですか」
「はい、そのことはどうしようもありません」
「仕方ありません。人は必ず死ぬのですから」
女は俯いて述べた。
「そうであるからこそ別れもです」
「ありますね」
「愛する人との別れも」
これもというのだ。
「あるもので。ですから」
「だからですか」
「はい」
まさにというのだ。
「娘もです」
「そう言われますか。確かに別れはありますね」
昴流は今度は自分のことを話した。
「愛する人達との」
「ですから」
「では娘さんは」
「暫くは私と主人が常に傍にいますので」
「慈しんでくれますか」
「親なので」
それ故にというのだ。
「必ず」
「それはいいことです、では」
「そうしていきます」
「宜しくお願いします、では僕は」
「これで、ですね」
「また何かあれば」
深々と頭を下げてだった。
第二十一話 哀愛その八
昴流は別れを告げてそのうえでだった。
謝礼を受け取るってから女そして彼女が慈しんで抱き締めている少女と別れた、少女はまだ泣いていたが昴流は今は彼女の前を後にした。
そうして帰路に着いたが。
目の前に空汰と嵐が出て来たのを見て一言出した。
「いよいよか」
「あっ、ご存知でしたか」
「夢の中で告げられたからね」
少し笑って言う空汰に無表情で答えた。
「丁様から」
「わい等と同じですか」
「出来るなら避けたかったよ」
昴流は悲しい目で話した。
「それでいて早く行きたかったけどね」
「それはやっぱり」
「地の龍にはあの人もいるね」
こう言うのだった。
「そうだね」
「桜塚護ですか」
空汰は自分からこの名前を出した。
「あの人が」
「あの人が地の龍ということも知ってるよ」
昴流は答えた。
「そうなるとね」
「それで、ですか」
「避けたくてね」
戦いに加わることはというのだ。
「そしてね」
「来たくもやったんですね」
「相反する気持ちの中にあったよ」
「あの、それはつまり」
「あの人とは一緒にいたことがあるからね」
こう空汰に話した。
「個人的なことなので多くは語りたくないけれど」
「それでそう思ってて」
「今までいたけれど」
それでもというのだった。
「君達も天の龍だね」
「はい」
嵐は頷いて答えた。
「その通りです」
「そうだね、僕を迎えに来たんだね」
「そしてです」
「わかっているよ、一緒に戦おう」
「それでは」
「今から東京に戻ろう」
昴流の口調は淡々としていた、もう運命を受け入れている顔と声だった。
「そうしよう」
「そしてですね」
「戦おう」
「わかりました、それでは」
嵐も応えた、そしてだった。
三人で東京への帰路に着いたが。
ふとだ、三人で通ったトンネルを出たところで振り返って思い出した。
「昴流ちゃん帰ったらケーキを食べようね」
「三人で、ですね」
「そうよ、美味しいお店見付けたから」
かつてこうした場所で話したことを思い出していた。
「このお仕事が終わったらね」
「いいですね、では」
「そこでチョコ食べよう」
「僕はモンブランがいいですね」
二人は笑顔で話していた、そのやり取りを二人の姿そして影と共に思い出した。だがそれもほんの一瞬のことで。
昴流は前に向き直って歩きはじめた、そして駅から列車に乗ってだ。
出発したがここでまただった。
昴流は共にいる空汰と嵐に落ち着いた声で話した。
「東京に帰ればまずは議事堂に行くのかな」
「はい」
嵐が答えた。
「そうしてです」
「丁様にお会いするんだね」
「そうなります」
「知っていたよ」
この言葉はやや俯いて出した。
第二十一話 哀愛その九
「あの方のことは」
「そうだったのですか」
「皇家の当主となって」
そしてというのだ。
「その時に聞いたよ」
「そうだったのですか」
「あの方のこともね」
「そうでしたか」
「ただね」
「ただとは」
「大変なお役目だとね」
その様にというのだ。
「お話を聞いて思ったよ」
「姫様のお役目は」
「うん、政治家位ならね」
この立場の者達ならというのだ。
「まだいいよ、ただ日本は」
「政治家の方だけではないですね」
「やんごとない方々もおられるから」
「伊勢神宮にしましても」
嵐は自分が本来いるその社の話をした。
「実は」
「皇室の社だしね」
「そうですし」
「高野山もですわ」
空汰も言ってきた。
「元は皇室の方々がおられる都を護ってました」
「裏鬼門をね」
「鬼門は比叡山が護ってね」
「それで裏鬼門は高野山でした」
「そうだったね」
「それで陰陽道も」
「元々は朝廷にお仕えしていたね」
即ち皇室にというのだ。
「そうした縁でね」
「おひいさんのこともですか」
「知ってね」
そうしてというのだ。
「恐ろしいまでの重圧をだよ」
「あの方は背負われれている」
「そのことを知ったんですね」
「うん、お一人でずっとだから」
多くの人やんごとない方々のお命それに世界の運命まで背負っているからだとだ。昴流は言うのだった。
「どれだけ大変なのか」
「そのことを思って」
「そうしてでっか」
「思うよ。僕にはとても出来ない」
昴流は悲しい目になって述べた。
「誰も救えない人間だからね」
「いや、昴流さんってあれでっしゃろ」
空汰は昴流の今の言葉にまさかという顔になって言った。
「歴代の皇家のご当主の中で」
「一番力が強いというんだね」
「そうでっしゃろ」
こう言うのだった。
「そうですさかい」
「それにです」
嵐も言ってきた。
「昴流さんのお力は私達の中でも」
「天の龍としても」
「かなりのものと見受けますが」
「いや、そう言ってもらっても」
それでもとだ、昴流はあくまで否定して言うのだった。
「僕はね」
「そのお力は」
「誰も救えない」
「そうしたものですか」
「そうだからね」
哀しいそして遠くを見る目での言葉だった。
「その僕があの方の力になれるか」
「なろうと思えばなれるんちゃいます?」
空汰は昴流に微笑んで話した。
第二十一話 哀愛その十
「そう思えば」
「思えばかな」
「はい、誰かを助けるのなら」
昴流の助けられなかったという言葉からこう言った。
「まず助けようと」
「思うことだね」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「動くもんでっしゃろ」
「そうだね」
昴流は空汰のその言葉に頷いた。
「言われてみれば」
「そうですさかい」
「あの方の力にもだね」
「なろうと思えば」
そうすればというのだ。
「それで、です」
「なれるんだね」
「そして助けることも」
こちらのこともというのだ。
「昴流さんが助けたいと思えば」
「助けられるかな」
「はい、本気でそう思って」
そしてというのだ。
「いざとなれば自分が盾となる」
「身代わりかな」
「そう思えば」
「助けられるんだね」
「昴流さんも」
「そうなんだね、いや」
空汰の話をここまで聞いてだ、昴流は言った。それまで自然と俯かせていた顔をやや上げて言った。
「その通りだね、僕もそこまで本気だったら」
「助けられます、ただ命はです」
「僕のだね」
「それは粗末にしたらあきませんで」
昴流に笑って話した。
「それは」
「盾になっても」
「そうですわ、自分が盾になっても」
「生きる様にだね」
「することですわ」
こう言うのだった。
「それで自分も幸せになる」
「そうすることだね」
「わいもそのつもりですし」
空汰は自分のことも話した。
「そうですさかい」
「盾になっても生きる」
「それでハッピーエンドになる」
「そうだね、それがいいね」
昴流は空汰の話をここまで聞いて笑顔で応えた。
「やっぱり」
「ほな」
「うん、僕は助ける為にね」
「戦いますか」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「最後はハッピーエンドだね」
「皆で笑顔で」
「そうなる様にするよ」
「その為にわい等も全力を尽くします」
「昴流さんの為にもです」
嵐も言ってきた。
「私達は戦いますので」
「そして助けてくれるんだね」
「そうさせてもらいます」
「それじゃあね」
「七人いれば」
天の龍がというのだ。
「きっとです」
「力を合わせれば」
「きっとです」
まさにというのだ。
第二十一話 哀愛その十一
「大きな力になります」
「そうだね、それじゃあその為にも」
「東京に戻って」
「議事堂でね」
「姫様にお会い下さい」
「まずはそれからだね」
「やはり」
こう昴流に答えた。
「そうなります」
「それではね」
「議事堂に行かれるのははじめてでしょうか」
「そうだよ」
昴流は一言で答えた。
「僕はね」
「そうなのですね」
「ではね」
「案内させてもらいます」
「それはいいよ、行ったことはないけれど」
それでもとだ、昴流は嵐に答えた。
「知っているからね」
「議事堂への道は」
「東京にずっといるからね」
その為にとだ、昴流は微笑んで述べた。
「だからね」
「それで、ですか」
「うん、議事堂への道は知っていますか」
「そしてね」
そのうえでというのだった。
「議事堂に入っても」
「それからもですね」
「気の流れを読めば」
その様にすればというのだ。
「丁様の場所はわかるからね」
「扉も」
「隠されているね」
「はい」
嵐はその通りだと答えた。
「そうなっています」
「そうだね、けれどね」
「気の流れを読めば」
「それでわかるから」
だからだというのだ。
「案内はね」
「不要ですか」
「そうだよ」
「ほなそこまで一緒にえてええですか?」
空汰は笑って言った。
「そうしても」
「議事堂までだね」
「はい、そうしても」
「それが君達の行く道だしね」
「そうですさかい」
「僕が来たと報告する為に」
「おひいさんに」
他ならぬ彼女にというのだ。
「そうですさかい」
「そうだね、僕がいなくても」
「それは絶対ですさかい」
「ではね」
昴流はここでも微笑んで答えた。
「宜しくね」
「ほな一緒に行きましょう」
「そうしようね」
昴流はこう言ってだった。
空汰そして嵐と共に東京に戻った、一つの哀しい愛の結末を見届けてからそのうえで帰路についた。そして。
東京に着くとだ、彼は二人に東京駅で話した。
「この駅もね」
「結界ですか」
「そうなのですね」
「そのうちの一つだよ」
こう話したのだった。
第二十一話 哀愛その十二
「東京のね」
「言うならここは東京の玄関ですね」
空汰は昴流の話を受けて言った。
「正門と」
「そう、門はね」
「それ自体が結界になることもあります」
「特に正門はね」
「平安時代の羅生門とか」
「あの門にも色々と逸話があるね」
「あの門の上にはよおさんの死体があるとか」
空汰はある小説のことを思い出して話した。
「鬼が出るとか」
「そうだね、言うならね」
「東京駅は羅生門ですね」
「今の東京のね」
「そやから結界ですね」
「他には井の頭公園に」
そこにというのだ。
「中野サンプラザやサンシャイン六十もで」
「そうしたところもですね」
「レインボーブリッジも銀座の時計台も」
こうした場所もというのだ。
「僕達がこれから行く議事堂そして都庁もね」
「天の龍と地の龍のそれぞれの拠点もですね」
「結界でね」
この東京のというのだ。靖国神社、高層ビル群に山の手線も」
「そうした場所もで」
「皇居もそうだし」
山の手線の中にあるこの場所もというのだ。
「何と言っても東京タワーだよ」
「あそこですか」
「あの塔はこの東京最大のだよ」
「結界ですか」
「東京タワーが崩れれば」
その時はというと。
「もうこの世界はね」
「終わりですか」
「人間は」
「最後の最後まで壊れないけれど」
東京タワー、この結界はというのだ。
「それでもね」
「あの塔が崩れれば」
「その時は」
「人間は終わるよ」
そうなるというのだ。
「その時にね」
「ではです」
その東京タワーの方を見てだ、嵐は昴流に話した。
「私達は」
「そう、最後の最後はね」
「東京タワーをですね」
「守る必要があるよ」
「そうですね」
「最後の一人になっても」
天の龍がというのだ。
「それでもね」
「他の結界が壊れても」
「あの塔を壊させてはならないよ」
「最後の最後の結界だからこそ」
「そうだよ、では今はね」
昴流はあらためて言った。
「議事堂にね」
「行きましょか」
「これから」
「そうしようね、迎えに来てもらってこう言うのは図々しいと思うけれど」
自分が先導する様に言うことはというのだ。
「そうしよう」
「あっ、それはええです」
空汰は昴流の今の話には笑って返した。
「やっぱりです」
「昴流さんは年長の方で私達より長く東京におられるので」
嵐も言ってきた。
「ですから」
「いいんだね」
「はい、そのことはです」
「お気遣いなくです」
「そう言ってくれるんだね、それじゃあ」
二人にも応えてだった、昴流は。
笑顔になりそのうえで今は二人と共に東京駅から議事堂に向かった。その頃哪吒は颯姫と共にだった。
第二十一話 哀愛その十三
地下鉄に乗っていたが哪吒はその中でこんなことを言った。
「お使いで乗るにしてもです」
「どうしたのかしら」
「最初は複雑で」
「地下鉄の路線のことね」
「はい、それで中々覚えられませんでした」
「東京の地下鉄は独特ね」
颯姫も否定しなかった。
「確かにね」
「多くの駅と路線があって」
「複雑ね」
「そうですよね」
「私は一瞬で覚えられたけれど」
それでもというのだ。
「複雑であることはね」
「事実ですね」
「言うなら血管よ」
颯姫はこうも言った。
「地下鉄は」
「そうですか」
「東京のね」
「じゃあ地上の鉄道は」
「同じよ、ただ山の手線はね」
「結界ですね」
「そうでもあるわ」
「地下鉄と違って」
「東京の血管であってね」
それと共にというのだ。
「結界であるのよ」
「そうした場所ですね」
「私達も移動に使っているけれど」
山の手線をというのだ。
「それと共にやがてはね」
「壊すものですね」
「そうでもあるわ」
こう哪吒に話した。
「あちらはね」
「そうですか、何かです」
哪吒は少し俯いて颯姫に言った。
「山の手線を使っていて最近は」
「どうしたのかしら」
「親しみが持ててきました」
「そうなの」
「はい、便利ですし」
このこともあってというのだ。
「僕としては」
「親しみを持ってきているのね」
「そうなっています」
「貴方鉄道が好きなの」
「そうですね」
哪吒は否定せず答えた。
「僕としてもそう言われたら」
「そうなのね」
「そうだと思います」
こう答えるのだった。
「実際に」
「そうなのね」
「はい、しかし」
「ええ、私達はね」
「その山の手線もですね」
「いずれはね」
「壊さないといけないですね」
颯姫に顔を向けて話した。
「やっぱり」
「今言った通りね」
「そうですね」
「貴方がしないというなら」
「他の人がですか」
「私も含めてね」
颯姫は自分から話した。
「そうするわ」
「そうですか」
「ただ。この世界に親しみを持っても」
それでもとだ、颯姫はさらに話した。
「私達はね」
「この世界、人間をですね」
「人間自体を滅ぼすから」
それ故にというのだ。
第二十一話 哀愛その十四
「人間が築いたものもね」
「全て壊すんですね」
「そうするわ」
こう話した。
「全てね」
「そうなりますね」
「山の手線もそうで」
そしてというのだ。
「私達が今乗っているね」
「地下鉄もですね」
「壊すわ」
まさにというのだ。
「そうするわ」
「そうなりますね」
「ええ、ただ貴方は親しみを持っているけれど」
「颯姫さんは違いますか」
「何も思わないわ」
そうだというのだ。
「好きでも嫌いでもない、何も思うことはね」
「ないですか」
「この街の全て、人間も」
「何もかもに」
「思うことはね」
それこそというのだ。
「ないわ。だから滅ぼすことも」
「何とも思わないで」
「進めていくわ」
「そうですか」
「感情はいらないわ」
無表情での言葉だった、哪吒は颯姫のそうした表情を見て何処かガラスを連想したがそれは言わなかった。そのまま彼女の話を聞いた。
「私にはね」
「僕は最近出て来たと言われますが」
「それが嬉しいわね」
「どうも」
「そうなのね。けれど私はね」
颯姫はそれでもと話した。
「感情はね」
「いらないですか」
「ええ」
哪吒にその表情のまま答えた。
「そうよ、不要だとね」
「思われていますか」
「この世にあるものは全て」
「どうなのでしょうか」
「ただそこにあって生きている」
「それだけですか」
「そうしたものであってね」
それでというのだ。
「何でもないわ」
「そんなものですか」
「だからね」
颯姫はさらに話した。
「貴方が感情を持つのは構わないけれど」
「颯姫さんは」
「それを私が影響を受けることはね」
「ないですか」
「それについて何も思わないから」
それ故にというのだ。
「ないわ」
「そうなんですね」
「ええ、それでだけれど」
颯姫はさらに言った。
「これから秋葉原に行くけれど」
「そちらにですね」
「色々な建物があって」
そしてというのだ。
「人も多くて雰囲気もね」
「独特ですね」
「だから迷うこともあるから」
「実は僕はじめてです」
秋葉原に行くことはとだ、哪吒は答えた。
「お話は聞いていましたが」
「行くのはなのね」
「はじめてで」
それでというのだ。
「心がざわざわしています」
「期待そして不安ね」
颯姫は哪吒のその心を聞いて言った。
第二十一話 哀愛その十五
「その二つの感情ね」
「