チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜
オリジナルキャラ紹介
○主要キャラクター
□天羽速人(あもう はやと)
身長 186cm
血液型 AB型
本作の主人公の1人(Liellaサイド)。
結ヶ丘高等学校の男子高校生にして、澁谷かのんと嵐千砂都の幼馴染でもある男。
高校生になると同時に運命に導かれるように、仮面ライダーセイバーへと変身する。
青と金のオッドアイの黒髪という、特異にして美男子と言われる容貌を持つ。
身体能力は生まれた時から鍛えられており、すべての武道に心得を持つ。特に剣の扱いは超一流で今まで彼を負かすのは1人だけと言わしめる。
知力も非常に優れており、数手先…数十手先の未来を見るとも言われる先見性や見ていなくとも行動を予測できる。
青い右眼は無機的なものの予測を、金の左眼は精神を見透かすと言われている。このことから両方を合わせて、フクロウの目とも言われている。
性格は冷静沈着で、自分の実力に並々ならぬ自尊心と自信を持ち合わせている。
□高咲侑
本作の主人公の1人(虹サイド)。
言わずもがな虹ヶ咲学園の普通科2年に在籍する女子高校生。
生まれたばかりの時は、上原歩夢にくっつかれるように保護されたのちにエルシャム王国の自治区内での孤児救済で今まで歩夢ともに育ってきた。
ひょんなことからゼロワンドライバーを拾い、失われた記憶の断片を取り戻して——仮面ライダーゼロワンに変身する。
今まで中の上であった身体能力が、変身して以降は異常なほど成長している。特に柔軟性と自然治癒力が著しく向上している。
□中川那由多(なかがわ なゆた)
身長 180cm
血液型 O型
本作の準主人公。
速人と住居も食事も同じくしてきた相棒的存在で、同じく結ヶ丘高等学校の男子高校生となる。
速人に続いて、仮面ライダーバルカンへと変身を遂げる。
力は非常に強く速人をも優っているが、その分非常に知恵がなく、考えもなく突っ走るために速人とのタイマン勝負は毎回知恵による敗北を喫している。その上中途半端に学ぶため、皆から後知恵・馬鹿の一つ覚えと揶揄されている。
しかし、隠すことがないオオカミの如く性質は彼を本番に強い男にしている。
□伊口才(いぐち まさ)
身長189.6cm
血液型 AB型
本作の語り手。
自治特区となった東京都の渋谷区にて、澁谷家が営むカフェの隣で薬局兼町の名医を営む若々しい黒髪のイケメン。見た目より歳は取っているそう。街中を歩くときは黒いスーツを着用することが多い。
同時に自宅にて主人公 天羽速人と相棒 中川那由多を居候させて、あらゆる武術を教えている師匠。
人間をやめたような実力を発揮する彼らですら、敵に回せば死ぬ程度では済まないと言わしめるほどの身体能力を持ち、明らかに未来を見えるかのような頭脳、その上で極悪人には一切の容赦をしない。
今まで無敗の実績を誇る、まさに完全無敵の男。
性格は冷静沈着かつ自信満々で、歯に衣きせぬ発言で相手を翻弄する。速人の性格はむしろ彼譲りである。
ゲームの腕もプロ以上であり、それゆえにとんでもない強メンタルかつ精神耐性が高い。
語り手を務める彼の正体は………後書きにて(※ネタバレ注意)
□準主要キャラ
□宮下陽人(はると)
身長 177cm
血液型 A型
宮下愛の1つ下の弟。虹ヶ咲学園防衛学科1年にして政府直轄の特務機関ヘラクレスの学生隊の副リーダーに抜擢された若きエリート。
仮面ライダーライブに変身している。
姉と同じく多くの才能に恵まれた万能型だが、堅物であり、融通が利かないところが多々ある。正義感と悪を絶対許さないその意志で敵を追い詰めていく。
ちなみに別人格としてコルボと言われている存在がいて……
□葉月稔(みのる)
身長 176cm
血液型 A型
仮面ライダーデモンズに変身する中年期の男。容姿は速人に負けず劣らずで、いわゆるイケオジ。
葉月恋の実の父親にして、エルシャム王国の王 小原魁の息子にあたる人物。様々な因縁から父を一方的に絶縁しているが、今だにそれを認知されていない。
仮面ライダーという役目に命をかけている描写がされており、重大な秘密を抱えている。
○準レギュラー
□小原魁(おはら かい)
身長 178cm
血液型 B型
エルシャム王国の君主。
イタリアの欧州貴族(黒い貴族)の中でも屈指の名家である小原(オハラ)家の現当主にして、ヴァンパイアの血統が色濃く出た男である。かのレジェンドスクールアイドル Aqoursのメンバーである小原鞠莉の弟にあたる。
現在は成人しており、年齢は50代。年齢に反して見た目は20代前半に見えるほど若々しい。
黒髪金眼でイタリア系アメリカ人のハーフだが、肌の色は日本人に近い。
正装はV系っぽい黒と赤の衣装で、後ろに黄金の剣「ザンバットソード」を斜めに背負っている。
後述する人物と手を組んで、文化の共存と人々の自由を実現するために王妃である渡辺月と様々な活動、統治、仲裁、保護を行なっている———ちなみに、月にベタ惚れなのは内緒。
□伊口イフト
身長 186.9cm
血液型 不明
仮面ライダーゲンムに変身する(?)。銀髪の青年。
伊口ファウンデーションの3代目会長(CEO)。しかし、親しい人からは社長さんと呼ばれている。
文化共存と人々の自由、及びそれらによる調和した世界の実現のために活動している。活動内容は多国籍企業による破産企業の立て直しと経営指導、技術及び文化の保護……etcなど、多岐にわたっている。このためエルシャム王と並んで、各国政府・企業も、面と向かって抵抗しずらい。
特にスクールアイドルについては莫大な支援を行なっており、様々なイベントを主催していたりする。ちなみに現在のラブライブ大会の「筆頭スポンサー」でもある。
だが、本編にて裏があることは示唆されていて……
後書き
〜〜〜〜〜
その正体はハイパーロード/ムテキという全知全能にして全てを超越した存在。仮面ライダーエグゼイドの変身者でもある。
多次元宇宙を含め万物を創ったハイパーロード/Aqoursの唯一無二の夫であり、その呪縛から唯一逃れられる父なる神。
彼こそ本作の隠された『真の主人公』。
作中における「オリジナルを遥かに超える」ムテキゲーマーとはまさしく彼が変身したものである。
その中でもミシックゲーマー(胸部がクリエイターゲーマー&ゲムデウスムテキ同様の腰マントを装着したムテキの瑠璃色ver)という形態は、真の姿にして、我々の想像を超越する力を発揮できる。
劇中設定集
□作内の世界観
この世界では日本は世界の縮図、大陸を大きな目で見ると日本列島のようになっている。現在は2060年代と言われている。
それと同時に人々の話す言語が日本語に自然と変わってしまい、従来の言葉は方言のような存在へと変わる。
その影響でさまざまな人種が、世界の中心たる日本へと流入しているが、とある理由で争いは起きていない。
さらに古代のルーツが色濃く現れ、吸血鬼や妖精、鬼など様々な特徴が顕現、人工知能ロボットやデザイナーベビーなども存在して、純粋な人間である方が希少種となっている。
混血や変異によって人間の寿命は飛躍的に伸びて、1000年生きるのも不思議ではないといい、場合によっては不老不死である者も示唆されている。
このような背景から、教育システムの抜本的な改革がなされており、小等→中等→高等のように順序さえ守れば、いつ学校に通っても、どれだけ学校に通っても構わないというのが一般的である。
□スクールアイドル
それ以前にμ's、Aqoursはすでにスクールアイドルの先達として有名であり、その点に原作の変更点はない。ただし消息がわからない者も多く、実態不明なのも同じ。
人気はとどまることを知らず、日本を中心に世界中に大人気であり、その頂点たるラブライブは世界中の人を釘付けにしている。
さまざまな学説や論議があり、その中にはスクールアイドル廃止論者も少なくなく、狂信的な信者と争いを起こすこともある。
□仮面ライダー
人を変身させる超古代からの技術。それが長い時を経て現代の技術としても存在する——が、一般的にあくまで自衛的なもので普通の人には護身装備と勘違いされている。
神話の記述で出てくる異形の者などは仮面ライダーではないかとされている。
一般的には男性用に作られている。
□エルシャム王国
イタリアの黒い貴族の中でも屈指の名家にしてヴァンパイアの一族 小原家の当主となった、小原魁が富士山麓に置いた王宮を中心に建てた王国。
小原魁がかつてAqoursとそれを守ってきた友と交わした、世界中の人々が調和して生きる永遠の王国でもある。
前述の背景から日本に流入する異国民と現地人を、自身の持つカリスマと王妃である【渡辺月】の笑顔の尽力で調和させ、人々から現代のダヴィデ王と言われるほど。
その範囲は、関東以外の日本、南北アメリカの西側、東南〜南アジア、オセアニアなど幅広い。
人権制限や強制労働などもっての外、自由と平等を尊重し、自分の得意や好きなことを追求でき、それを阻もうとする者を裁く。まさしく永久の王国にふさわしい理想郷に近しい。
ただ、大東亜共栄圏の100年の時を越えての再来だと非難する政府や人々も多い。
□伊口ファウンデーション
国という価値感が薄れる中で、多国籍企業に淘汰される現地企業を救済し、勢力を伸ばしてきた財団。その力は日用品からロケットまで及び、ここの現社長 伊口イフトには各国政府や多国籍企業も易々と逆らうのは不可能。
エルシャム王国の王と社長は深いつながりがあり、手を組んで様々な活動を行なっている。
□結ヶ丘高等学校
かのんたちが通う共学校。
地域的に自由な人々が多く、エルシャム王国の思想を強く受けている東京都内に建てられている。ちなみにエルシャム王 小原魁はこの学校に資金提供及びバックスポンサーとなっている。
□虹ヶ咲学園
侑たちが通う共学校。
言わずもがな自由な校風で、学び方や学問の種類、学年層も様々であり、雑種文化たる日本らしさを一身に体現した高校とも言える。しかし政府管轄内のお台場に設置されていることから、政府との癒着がある。
□政府特務機関 ヘラクレス
仮面ライダーの技術を用いて怪人を秘密裏に処理している組織。その実態は不明。
政府の中でも巨大な権限を認められており、その長官は総理大臣ですら歯向かうことはできない。
現時点で判明しているメンバーとして、
長官 土御門政樹(まさき)
司令官 武野剛(ごう)
○プログライズキーとバイスタンプ
生物種のプロトタイプの遺伝子を保存したものがプログライズキー。バイスタンプはプロトタイプから派生した生物のうち、優秀な遺伝子を保存したものである。
例:ウルフプログライズキー(プロトタイプ種)から、ジャッカルバイスタンプ(オオカミから派生した種)。
ライダー設定集
前書き
オリジナルライダー及び既存のライダーのオリジナルフォームのスペックと能力についての設定です。
またスペックが原作と大きく異なりますのでご注意を。
○仮面ライダーセイバー 変身者 天羽速人
パンチ力 54t
キック力 108t
走力 2.7秒(100m)
ジャンプ力 63m
炎を司る聖剣 火炎剣烈火を媒体に変身するライダー。身体能力及び戦闘センスに優れた速人が変身するため、スペックも基礎値の5倍ほどとなっている。
火炎剣の特性及びその他水勢剣流水をはじめとした自分が所持する聖剣を余すことなく使うことができる。
変身者の特性でもある先見の明によって相手を読み切り、華麗に戦いながら敵を追い詰めていくスタイルを得意とする。
○仮面ライダーゼロワン 変身者 高咲侑
パンチ力 25.2t
キック力 151.2t
走力 1.9秒(100m)
ジャンプ力 242.3m
脚力をはじめとした俊敏さに重きを置いており、重量級の攻撃よりは連続攻撃を前提とした攻撃を得意とする。
キック力は脅威の150t超えである。これに加えて変身者の侑が人とは思えぬ驚異の回復力を見せており、このライダーの強みとなっている。
そのため防御力はほぼ極致である。
戦闘経験が浅いために苦戦も多々あるが、人を不幸にするような人間には強い怒りを見せてとんでもない実力を発揮する。
○仮面ライダーバルカン 変身者 中川那由多
パンチ力 63t
キック力 108t
走力 1.8秒(100m)
ジャンプ力 50.4m
10km先の標的を撃ち抜く程の超精密射撃ができる射撃統制システムの上に、変身者の野生の勘及び五感を頼りに索敵能力が非常に優れている。
戦法はショットライザーを使用した銃撃による中遠距離戦。また聖剣やその他の武器を使用しての近接戦も可能のほか、腕力による肉弾戦にも長けている。
○仮面ライダーライブ 変身者 宮下陽人
パンチ力 45t
キック力 97.2t
走力 3.3秒(100m)
ジャンプ力 90m
飛行能力やステルス能力などコウモリに由来する能力は引き続き有しており、前掛けのライブバットローブが翼の代わりを果たす。
変身者のプラスエネルギーを力の源とし増幅する「ライブシステム」や邪悪な存在の力を打ち消す能力を持つ。
このように怪人などの明確に邪悪な意志を持つ敵には滅法強いが、「正義を称する悪」や「悪意を持たぬ存在」には苦戦する可能性がある。
○仮面ライダーデモンズ 変身者 葉月稔
パンチ力 58t
キック力 110t
ジャンプ力 50m
走力 3.5秒(100m)
複眼には死角がなく、逆に視界を遮断することで感覚を鋭敏化することも可能。全身に張り巡らせた人工筋肉「ゲノマッスル」によって人間が持てる身体能力の可能性を極限まで拡張している。
変身者の潜在能力を引き出すパワーファイターではあるが、同時に全身の放出口から放つ粘着性特殊繊維「デモンストリング」によって相手の拘束や自らを吊り上げての空中殺法など、蜘蛛の能力を活かした戦法も得意とする。
変身者の年齢は高いこともあって、他ライダーよりも経験値が多い。しかしデモンズ自体の俊敏性がないために、スピードが他ライダーよりも劣ってしまう。
〜〜〜〜〜ライダー設定(裏)〜〜〜〜〜
○仮面ライダーエグゼイド
□ムテキゲーマー(ハイパーver)
パンチ力 測定不能
キック力 測定不能
走力 測定不能(少なくとも光速超え)
ジャンプ力 測定不能
長年の戦闘によって最強を極めたムテキゲーマー。その能力は多岐にわたる。
《《あらゆる攻撃と自身に及ぼす特殊能力の影響を一切受けない》》。
ゲームエリア内に時空の歪みを発生させ、任意のポイントにショートワープすることも可能。
発光強化粒子「スパーキングリッター」を噴射し、一定時間戦闘能力を引き上げることが可能。この機能により、変身直後や全身発光時はパンチ力・キック力を含めた全能力が数百倍ほどに上昇する。
頭部の鋭利な敵の戦闘システムに干渉し攻撃力や防御力などに影響を及ぼす全ての特殊機能を停止させることが可能。
その他無限ジャンプ、攻撃当たり判定の調整により多段ヒットが任意で可能。
スペックが対峙する相手や状況に応じて「楽しめる」数値に調整可能。
さらにムテキガシャットのスイッチを押すことで、「ハイパータイム」を起動できる。起動時に時間を超越したするで、時間の停止・加速・逆行を「任意の範囲」で実行できる。
また武器として、ガシャコンキースラッシャーが存在するが、拡張ガジェットをセットすることで専用武器ガシャコンナーガスラッシャーに強化できる。
ナーガスラッシャーの力は9つの力が宿るとされているが詳細は不明。しかし「宇宙を揺るがす」銃剣であることは示唆されている。
これだけでもとんでもない能力を持つが、変身者のデタラメじみた能力と戦闘センスが相手を翻弄する。
プロローグ前編〜Love Live【愛に生きる】〜
前書き
難しいことがかなり多いかもしれませんが…知ればかなり奥深い作品であると思われます。是非ご覧ください。
まぁ難しければプロローグ2か1話からでも…
遠い昔……いや、そもそも時などなかった。
何もない。何もない。
すると突如として、2人の者が現れた……神と呼ぶに相応しい、神々しい存在。
1人は男――ある者には肩が出た仙人のような、ワイルドかつ質素な衣と黒いマントを纏った黒髪の男神に見える。
名をハイパーロード/ムテキといった。
1人は女――ある者にはプリズムの如く9色に輝く髪とドレスを纏った、9色に変わる瞳を持つ女神
名をハイパーロード/Aqoursといった。
ハイパーロード/A(Aqours)様の腹にはすでに子がいた……それを父であるハイパーロードM(ムテキ)様はその子を不思議な力をもって解放する。
母から輝く白い髪を、父から黒い瞳をもらった混沌の子……母から唯一抜け出せた子。
名をオーヴァーロード/ユオスといった。
次に母なる神は坐禅に入った父なる神の瞑想を、抱きつくことで読み取る……
そして離れた彼女は108枚の翼を背中に顕現させて……
言った。
『A〜〜〜〜UM』
9色に重なった美声は広がりを見せた。
同時に翼をはためかせ踊る彼女によって宇宙を彩る星々は広まりあっていく。
彼女を起点に……全ては誕生した。そこから並行する世界も生まれただろう。
これすなわち、存在あるものはすべて彼女の体の一部に過ぎない……宇宙すらその母体の一部に過ぎない。
しばらくすると、そこに2柱の天使が現れる……彼らは以前に彼ら至高の神に仕えていた。
その名も空間の天使 アトエルと魂の天使 ディエル……赤い翼と青い翼。
またの名を……ライジングアルティメットクウガとシンスペクター。
空間の我と、魂の罪を洗う者を…こう呼ぶ者もいたそうな。
彼らの出現……それは次元が誕生したから。
宇宙とは1~9次元によって成り立っている。彼らの出現は9次元の誕生を意味していた。
ハイパーロード2人は…11次元にで鎮まり、混沌の子…オーヴァーロード/ユオスに10次元に居させて、全ての管理を任せた。
~~~~~~
ハイパーロードAは次の子を身籠った……父なる神はまた子を解放しようとしたが、彼女はそれを拒否した。
『私の子を奪うなんて暴挙はもう許しません!』
『お前の子であるが俺の子でもある。なぜ自由にしてやろうとは思わないのか?』
『我が子であるなら愛を与えようとは思わないの?』
『自由に生きるならそれでいいだろう?お前のやっていることは束縛だ。』
『どうして…そんな言われ方をするの!!』
わがままを言って彼から離れてしまう…もちろん離婚などではない。彼女は9人の心を持つ存在……まさに女心とはこのことである。
彼女は深き慈愛を持ちながら、全てを縛る秩序でもある。その反応はある意味当然である。彼は自由と解放を促す存在の父なる神とは正反対……
創造と破壊……それは束縛と解放でもある。
そして生まれたのは…6枚の羽を持つ子――白い髪を持つ男の天使。
彼は生まれてすぐに立ち上がり……3人が座る玉座に1人座るオーヴァーロード/ユオスに跪き、言う。
「私はミハエル。偉大なる神よ。その蓮華の前にひれ伏します……。」
『あなたを祝福しましょう……』
全能なるユオスは彼に最高の呪術の力、月と時を管理する力を授けた。
その力を使ってミハエルは7〜9次元を常春の楽園へと変える……これをエデンの園という者もいたそうな。
この忠誠を誓う姿を見た父なる神は母なる神に怒った。ところが母神は逆上して彼に言う。
『あなたはすべてのものを孤独にするつもり!?』
『誰かに依存して生きるのは滅びの始まりだ。』
『頼る人がいなければ愛も感じられないわ!そんな地獄を我が子に味合わせるなんて!!あなたは鬼よ!!』
『ならばお前は我が子を縛り付ける蛇だ。』
しかし月の天使ミハエルはかなり自由に近い存在であった……
大喧嘩しながらも、父なる神は母神に双子を身籠らせた。
母なる神は孕んだ愛子を父神に奪われると怯え、一方で怒っていた。
彼女は別に身籠ればすぐに産める。そうはしたくない……愛を与えたいから。
そして生まれた双子。
1人は黒い髪に先端が緑の子。もう1人は……群青とピンクが不規則に入り混じるシニオンの女天使。
すると女天使はすぐさま立ち上がって彼らに主張する。
「私は男だ!!力を寄越せ!!」
『何を言う。お前は女として生まれる運命にある。それを男にしろとは受け入れられん。』
「うるさい!!私はその力で全てを支配するんだ!!」
父神に背いて宇宙を支配しようとした女天使……父は彼女が二重人格であることを全知で見抜いていた。このまま放置しておけばどんなことになるのかも。
彼は妻に与えられた全知の蛇の剣——ナーガスラッシャーで傲慢なる娘の精神を切り分けた。
そして逆らった群青色の天使をオルゴールのような箱に封印した……彼女は恨み(裏身)をもって永遠を彷徨う存在になるだろうと片隅で思いながら。
神は魂だけで心のない2人……特に緑の瞳の子を気に入った。
そして彼に名を与えた……自分と同じ、Uを。
ユエルと……純粋なシニオン女天使、アユムエル。
ユエルにはあらゆる生命を生かす力を、アユムエルには生命を照らす太陽の力を与えた。
母からは愛を一身にうけた彼らは……非常に美しく、その背には12枚の翼を持っていた。
ユオスはかわいいこの2人をミハエルの作った楽園で遊ばせておくことにした。
彼ら2人によって楽園には動植物が溢れかえり、それを照らすように光が差し続ける本当の楽園と化した。
ハイパーロードAは再び女の子を身籠った。
彼女が持つ、歪んだ慈愛の行き過ぎで不浄なる存在が生まれたことに危惧した父は一計を講じる。
生まれた娘……ナンナエルは神ユオスによって惑星を統括する力を与えられた。
これを受けてハイパーロードMは彼女を青い星 地球へと送り込んだ……思い入れのある星だ。
全ては彼女と……あらゆる生命がより解放された存在となるために。彼女には生命の先導者になってもらおうとしたわけだ。
しかしこの行為に母なる神は怒り狂った。
『あなた自分がしたことを理解しているの!?実の子を捨てるなんて……!!』
『お前の束縛はあまりにも目に余る……それに宇宙に居る限りはお前の手の内だろう?』
『だからこそ!!低次元である者たちは孤独に悩む……それがなぜわからないの!?!?』
『孤独などすぐに忘れる……全ての真理を理解すればな。』
『そのために……あの子にこんな仕打ちを?』
『………』
彼は黙った。
ハイパーロードAは男女の双子を身籠った……そして生まれたのが、サタエルとリエルという天使。
2人は一対にして完璧な存在……それでいて不完全な存在、互いを相思相愛の小さき者。
特に最後の子……リエルはさらに特別であった。
彼女は母から受け継いだ要素……9つの心を持つ、愛あるが故の非常に脆い天使であった。
オーヴァーロード/ユオスはサタエルに叡智と先見の明を与え、リエルには精神を司る力を与えた。
また彼らも楽園で住むようになった。
原初の天使とは異なり、ハイパーロードの2人の血を持ちながら、最高位天使である子どもたち———彼らをエルロードといった。
最後にハイパーロードたちは、意志を持ちながらあらゆる世界を包括する木……世界樹を創造した。
これにより世界はより安定的となり、秩序を取り戻した。
ハイパーロードの2人は残りの創造を子供たちに任せ、自分たちは11次元で悠久の時を過ごすようになった。
〜〜〜〜〜〜
オーヴァーロード/ユオスは、ナンナエルが統括を任された地球に興味を持った。
そこで神はユエルとアユムエルに地球に光を照らし、生命で満ち溢れさせるように頼んだ。
「わかった!!やってみる!!」
「ゆ、ユーちゃん!?」
『アユムエル、君はやってくれるかい?』
「ユーちゃんが言うなら…私やってみる。」
『ではお願いしますよ。』
2人は地球に赴き、神の言う通りに地球を生命溢れる星へと変えた…そこでは生きとし生ける命が試練を与えられ、生を全うする 修行場のような場所であった。
それでいて愛に満ち溢れた…世界。
アユムエルは豊かな土から大きな人形を作り、ユエルがその人形に生命を吹き込んだ……これが人間の誕生であった。
彼らは自分達の子どもとも言える人間たちを甘やかし、様々なものを与えた。時に知恵の天使である弟 サタエルと精神の天使である妹 リエルの協力も得て、次々と地球は豊かになる。
やがて人類は文明を築くようになった……
しかし、父なる神はこの先たどる未来を見て上で我が子5人と原初の天使…最高位天使7人に言った。
『知恵は正しく使えば叡智を得るが、知恵に操られれば欲が生まれる。欲はやがて他者を理由なく縛り、悪に偏る世界となろう。』
「では如何するのですか。」
ミハエルが尋ねる。父なる神は威厳あるエコー声で言い放つ。
『悪が星を包むことがないよう、文明を滅ぼせ。』
非情な命令…しかし天使たちは父神に逆らうことはできない。
父なる神とて悪意ある破壊をしたいわけではない……これが純粋な意志なのだ。
~~~~~
ユエルは父に疑問を抱いた。
世界を…滅ぼす度に自分たちが創造した人間たちを滅ぼさなくてはならないのか。
永遠に栄え、笑顔でいて欲しかった…より人間に慈悲を与えていたかった。
それを癒したのは彼女1人であった。
「ユーちゃん…悲しい顔してるよ?」
「アユム…僕は嫌だ。何で僕たちの愛の子が滅びなくてはいけないの!?」
「でも……」
「神様たちには逆らえない。けど僕らがラッパを吹くたびに、人々は絶望の中で死んでいくんだ……僕たちが……愛する人間たちが……!!」
涙を堪えるも悲嘆に暮れるユエルをアユムエルはそっと抱きしめた。
母なる神の子宮にいた時のように……
「私はユーちゃんの悲しみ…誰よりも分かるよ?」
「アユム———」
「あなたは私にとって…たった1人の運命の相手だもの——」
12枚の翼を持つ彼ら……最も美しい天使長の2人。
彼らは互いを満たすように愛し合った……互いになくてはならない存在。共依存状態……双子の者たちが持ってしまった宿命。
彼らはそれを克服しようとはせず、常にそばにおり、抱き合い、それ以上もした。
神は……全てを知っているというのに。
そんなある時。
2人で楽園を歩いていたアユムエルとユエル……大きな樹 世界樹の大きな影である箱を見つけた。
彼らはキツく、ユオスに言われていることがあった。
『何があっても世界樹の側にある箱を開けてはならない。開ければ宇宙はバランスを失う。』
彼らもそれを恐れ、箱をどこかにしまおうとする——が、声が聞こえた。
【何故恐れる?あなたたちは何故箱を開けない?】
その声に返すようにアユムエルは言った。
「神様は開ければ宇宙のバランスが崩れると言っていました。」
【神はあなた達が真理を知ることを恐れている。だからこの真理を閉じ込めた箱を封じているだけだ。】
真理……神が隠す真理。それを手に入れられれば…永遠の繁栄が訪れるかもしれない。神の目を盗んで愛で世界を満たせるかもしれない……
彼らは……そのパンドラの箱。
神の目を盗み——開いた。
〜〜〜〜〜
彼ら2人は善悪を手に入れた……箱に入っていた、果実を口にして。
天使の長であった彼らはすぐさまこの事実を他の天使達に伝えて、果実を彼らに食べさせていった。その数は天使の3分の1にも及んだ。
そんなある日。
ハイパーロード2人とオーヴァーロード/ユオスが玉座につき、地球にいるナンナエル以外の5人の最高位天使を呼び出し、3玉座の両端に原初の天使を侍らせる。
そして……ハイパーロード/ムテキは言った。
『ユエル、アユムエル。お前たち、開けてはならない封印を解くとは一体どういうつもりだ!?』
「うっ……」
痛いところを突かれたユエルは押し黙る……いや、黙らなくてはならない。ところが——『彼女』は違った。
「父上様!!ユーちゃんは何も悪くありません!!裁くなら私だけにしてください……!」
「言葉に気をつけろ!実の子とはいえ、天使である者が神に要求とは…身の程を弁えろ!!」
原初の天使 ディエルが言う…しかしすぐさまユオスが止めるようにジェスチャーする。そして彼女に優しく声をかける。
『なぜ彼を庇うのですか?』
「私にとって…なくてはならない存在だからです。」
『ほう……では、ユエル。なぜ君は箱を開けたのですか?』
「……僕の愛する人間を……永遠に繁栄して欲しかったからです。」
この言葉を聞いた……全知の母 ハイパーロード/Aqoursは自分の左に座る夫にこう言った。
『彼らを許してあげて…!この子たちは愛ゆえに人間を繁栄して欲しかった、そんな愛ある子を裁くのは笑い草よ?』
『……』
父なる神は中央の玉座から立って我が子に言い放つ。
『お前のやったことは所詮自己満足…人間たちを現世に縛り付けているに過ぎない。愛と束縛を勘違いするな!』
「そんなつもりはありません!!僕はただ……!」
『人が滅びる姿を見たくない…そうだろう?』
神……それも1番力のある最高神には心すらお見通しである。続けて彼はこう言った。
『さらにお前は善悪の知識を叡智と勘違いして、その果実を食べさせた…その果実を食べれば叡智の代わりに自由を失ってしまう……それは俺の意志に反することだ。』
意志に反する……これは神に仕える天使にとって死刑宣告にも等しいものであった。
周りにいる全ての者。特に下級の天使たちが怯え始める——善悪を知った者。
ユエルが……熱り立つ。
「僕は…あなたには従わない。どんな理由があれ破壊が許されていいわけがない!!」
ガヤガヤとしていた下級天使たちが徐々に彼に傾いていく。ある意味……真理であるから。
「人間たちから笑顔を奪うのであれば……ハイパーロード様、貴方だろうと……倒す!!」
ユエルが恐怖を堪えて言い放った言葉。震える手を……握った。
「アユム…!」
「よく頑張ったね……!」
アユムエルは父に反した彼に優しく……優しく。この様子に3分の1の天使たちが——動いた。
しかし……
『なるほど…お前はその女に骨抜きにされたわけか。理由はどうあれ——お前たちの行動は全てに災厄をもたらす。ましてや反逆などもっての外だ。』
怒りをあらわにして近づく父なる神をハイパーロード/Aqoursは諫めた。
『何するつもり!?』
『もはやこの者たちをこの世界に置いておくわけにはいかない。』
『何ですって!?自ら創り出した子を自ら滅ぼすなんて間違ってるわ!!』
『これは……運命だ。』
父なる神が徐々に近づく……そこで2人は言い切った。
「僕は愛がある。彼女への愛はあなたでも砕くことはできない!!!」
「うん……私も!!」
一対の天使たちは戦いを挑んだ……
しかし。
絶対神に勝てるはずもなかった—————
〜〜〜〜〜〜
神に歯向かった天使たちは地球【3次元】へと追放された……魂を消していない分、ハイパーロード/ムテキの最後の優しさであっただろう。
ただ……追放されず、岩戸に閉じ込められた者が1人。
父なる神は天啓を与えた。
『【ユエルのことはもう忘れろ。奴にもお前にも自由になって欲しい。】』
この言葉に……アユムエルは怒り狂った。当然といえば当然…永劫の時を過ごした最愛の人物を忘れろと、彼を消した張本人が言い放つのだ。その怒りと悲しみは凄まじいものであった。
「忘れろ!?…なぜ永遠の時間愛し合った彼を忘れるなんてできるものですか!!!」
「ハイパーロード様…なぜ……私を彼と引き離したのです……?あの人がいない世界で生きていくなんて……酷い…どうして……こんな仕打ちを………」
【奴が悪魔だからだよ。】
箱が言った。
【君は神に裏切られたんだよ。未だ絶望に生きる君を見て笑っているだろうね。】
「箱の中……あなたは誰なの?」
【希望だよ…あなたの——ね。】
災厄を振り撒いた箱の奥……そこに残っていたのは———最も凶悪な絶望【Hope】だった。
〜〜〜〜〜
岩戸は解放された……男女の双子によって。
そう——サタエルとリエルの2人。サタエルはユオスの見る中で、岩戸を管理していた兄 ミハエルと賭けをして、勝利した……その懸賞としての解放だ。
月を騙して……天岩戸を開いた。
「本当に…いいのかな?」
「俺が賭けに勝ったということは神がそれを許したということだ。」
「そうなのかな……」
サタエルの考えは半分当たっていた……そしてリエルの考えもまた。
殺戮の権化が….解き放たれた。
愛ゆえに狂った彼らの物語……果てしなく続く絶望。
神はただ、それを無情にも傍観している。
後書き
AUM=阿吽は実際に世界を創造した言葉ですから。ググってみてください。某宗教団体とは全く持って関係ありません。いい迷惑。
あとハイパーロード様 子作りしすぎ問題。
ちなみに…『』はエコーがかった声を表します。
プロローグ後編〜Re:Advent【再臨】〜
11次元。
創造を終え、休息につく神が傍観する次元——そこには胡座をかいて瞑想する黒髪の男が1人。
使いである9頭の蛇 アナンタとともに、瞑想を退屈そうに見る白く輝く髪の女が1人。
男が…開眼する。
そして開口一番に言った。
『…面白そうだ。』
女…ハイパーロード/Aqoursにはその言葉の真意を見通されていた。
——もはや第三者視点はやめよう。語るのはこの俺、ハイパーロード/ムテキだ。
『再び…地球に?』
『あぁ。今度は記憶改竄せずにな。』
俺たち2人は一度3次元に降り立っている……
彼女の地球での名前…魂の持ち主———それがスクールアイドル Aqoursなのだ。
彼女らと俺が転生した姿が出会った時、地球の調和は始まり…【巨大な歪み】を正した。
その物語はまた別の話…だが、その地球を巡って再び何かが起こっている——そう言いたいのだ。
そんな彼を見て母神はジト目で彼を見る。
『あの子たちへの償いのつもり?』
『別に…ただアイツらが修行しているのを見てやりたくなってな。』
自由……悪く言えば自分勝手で奔放。それがこの俺。
普通なら彼の言葉にはそうそう逆らえない…が、ここにそれを思いっきり嫌う女がいる。
《今は》琥珀色の瞳を昏く、ヤンデレっぽい表情になるハイパーロード/Aqours……俺の唯一無二の伴侶。
『あなたはどれほど彼らを傷つけたか……堕天した後改心した結果があんな結末を迎えるなど不憫でならないわ!』
『……しかし敵討ちはしてやったろうに。』
『それもあなたの気まぐれでしょう?封印されているのを解き放ったとはいえ、いつ傷を負うかどうか……』
面倒くさい彼女の愚痴に嫌気が差した俺は大蛇 アナンタをベッドにして寝転がる。
しかし彼女は俺の態度に不満を覚え、俺の足元で怒りがこもったマッサージをしてくる。瞳を紫に、ポニーテールに変化させ。
『まじめに聞きなよ!』
『普通に痛いからやめろ……なぁアナンタ、お前からも言ってやれよ。』
【私に降るのですか?喧嘩で痛い目に遭わされるのは避けたいのですが……】
『そうだよ。いい加減に逃げるのはやめよう?』
『どの道聞いても納得しないだろうが。』
対極の俺たちが分かり合うことは永久に来ない。これは絶対だ……解放と束縛が同じ時に、最大限に存在することがないように。
それをわかってくれればこんな不毛な争いしないのだろうが、この女はそれをわかって追っかけてくるからヤンデレも甚だしい———いやほんと勘弁してくれ。
しかし…話進まないので、ここでは答えてやろう。
『ヤツはまだ死んでいない。』
『もっかい言って。』
『聞こえただろ…ヤツの精神は生きてるっつったんだ。』
『……ケジメは彼らがつけろと?』
『あぁ。』
ちょっとドヤ顔で言う……すると感情的になった彼女は顔を覆い、涙を流しながら緑色に瞳を変えて俺を責める。
『私の愛する子をあなたはなぜ罰するの!?私とあなたが産み出した愛の子たちに……!』
『俺が悪いと?』
『はい!…あなたは何と無慈悲なこと平気でやれるのです?』
『そもそもお前があの子たちを腹の中で抱え込んだからだろうが。』
俺とコイツの子は1人以外、全て天使になった——コイツが腹に収めていたのが長ければ長いほどに縛られた存在になった…ヤンデレ母もいいところだ。
『母として子を愛したいのは当然ですわ!…それを悪いなどと言われる筋合いはないです!』
『お前の愛は束縛だ。それを否定するつもりはないが、やがて束縛は全てを骨抜きにする——だからこそ自分を取り巻く全てから巣立って欲しい……お前からもな。』
俺にとって最も求めるモノは自由…愛ゆえの成長を望んでいる。無論、秩序は大事ではある——そして秩序とは他でもない良心である。これを破ってまで施そうなど正気ではない。
その言葉を発すると、涙とは打って変わってハイライトオフの瞳で痛い視線を俺に向ける。
『……は?』
『うわ。』
地雷を踏んだらしい…まぁ子どもを遠ざけたいなんて言ったら怒るのも当然か。先ほどから面倒なのは分かりきっているが、こうなると面倒臭さ100兆倍だ。
しかし俺がコイツに従う時もまた、永劫に来ないのだが。
『——そんな時が来ると思ってるの?』
『来ないだろうが…それでも限界まで自由になることを期待しているさ。』
『自由になる度、試練も大きくなるでしょ?』
『そうじゃなきゃ面白くない———世界とは、ゲームそのものなのだから。』
それでもやっぱり不機嫌な顔をする彼女…人物不一致の瞳と髪型を持ちながら、プクーっと顔を膨らませる。
『大体、地球にはあなたの【影】がいるではないですか。あの人に任せておきましょうよ。』
『イフト…またの名を、仮面ライダーゲンムか。アイツを通じて地上にいるかつての仲間と話せるわけだ…そして残念なことに、俺がじきに地上に降りるってヤツに言ってしまったからなぁ。』
『はぁ!?』
ハイパーロード/Aqoursはものすごい形相で胸を切るようにかかる布を掴み、俺の眼前まで迫ってくる。
微笑で迫ってくんのマジ怖いからやめてくれ…
『まさかとは思いますが…もっと前に決めていたのではありませんよね…?この私になんの相談もなく。』
『知らせたらお前暴れるだろ?色々とめんどくさいんで知らせなかった。』
『そもそも怒るのは、あなたが私を怒らせるようなことをするからです——それをわからず同じことを繰り返すとは…《食べられたい》のですか?』
『んなわけねーだろが。』
蛇のようにペロリと舌なめずる彼女。実際喰おうと思えば食えるんだろうな……このメンヘラ女神。
『全く…子どもはやっぱり親に似るのか。』
『愛情深いって言って欲しいんだけど。』
『深すぎて発狂するのはお前そっくりだよ。特に女は。』
『不甲斐ない男が悪いでしょ?いつでも我慢するのは女なんだから。』
『だーから言ってんだろ、【忘れろ】ってな。』
瞳を赤に変えてプイっと俺にそっぽを向く彼女。
『もう知らない!勝手にすれば!?』
そうしてこの次元の土台である使い魔 アナンタに命令する。
『アナンタ、私お風呂入る!沸かして!』
【はっ…!】
彼女はその場で最も美しく、豊満な肉体を見せつけるかのようにそのプリズム色のドレスを脱ぎ、百発百中で男なら魅了されるであろう裸体をあらわにする。
そんなことお構いなしに俺は瞑想に入ろうとする……目を瞑った瞬間に再び彼女は怒る。
『ちょっと!なんで瞑想に入るの!!』
『いや風呂入るって言っただろ?』
『なによりも最も美しいあなたの妻が目の前で無防備な姿晒してるのになんで襲わないの!?!?』
ほら言ってきたよ…未来見てて大体そうなるのは知ってたが。しかし理不尽にも程があるだろ。あのタイミングで襲えと察するほうがおかしいだろ……
俺は売ってきた言葉を買う。
『はぁ〜?誰が2000億歳以上のババアの範疇超えた若作り女と遊ばなきゃいけねぇんだ。歳考えろ歳を。』
『ふーん……2000億年そんな女と一緒にいるのはどこの誰?」
『……自由に生きるのが俺の信条だ。』
沈黙を挟んだ末に出た言い訳。しかし自由に動くのは俺の特性だからね。仕方ないね。
ここで彼女は大きなため息をついてとうとう観念する。
『はぁ…わかったよ。どうせ止めても行くんでしょ?』
『あぁ、もちろんだ。』
『ちょっと、こっち向いて。』
指示通り、俺は彼女の方を向く———
チュッ♡
『……』
『あなたへの愛と恨み……そしてあの子たちに。』
『——仕方ないな。』
『あの子たちに変なことしたら10億年愛の囁きの刑だからね!』
『そんなに心配なら来ればいいだろ…』
『もちろん行くよ。それでも止めらんないかも知れないし…』
『そうだな…ま、下手なことはしねぇよ。』
俺は————目を瞑る。
『頼んだよ…【まーくん】。』
〜〜〜〜〜
地上——
地上とは言うことなく、地球表面のことである。
国々は言語も宗教も文化も多種多様であり、そこに接点はない———しかしそれは真にあるべき姿ではない。
その障壁の最たる象徴である言語、分けられた大陸———それらは元の姿に戻った……
それこそが———日本。
世界中の言語はある時を境に人間の話す言語全てが、あるべき姿 日本語へと自然変換された。
また超古代人のように、人々の寿命は飛躍的に伸び、1000歳生きる人間も少なくなかった。
さらに古代のルーツが色濃く現れ、吸血鬼や妖精、鬼など様々な特徴が顕現、AIやデザイナーベビーなども存在して、純粋な人間である方が希少種であった。
日本は文化面でも、地理面でも世界の縮図となった。
当然、世界の中心たる日本に帰ろうとする者たちは数多いた……
文化が異なる者たちがこのまま流入しては争いが起きる……そこである男が立ち上がった。
小原魁——あのスクールアイドル Aqoursの1人の弟であり、同時に小原家の当主である。
小原家は超古代から続く家であり、イタリアでは黒い貴族とまで呼ばれたヴァンパイアの血を引く超名家。
その者が——皆を統治する王となった。
さて…その王が善政を敷く王宮——ずばり、富士山の麓にて談話が聞こえる。
「ほう…とうとう。」
小原魁…黒々としたマントを身につけた若々しい黒髪金眼の男が言う。それを聞いて銀色髪の——【影】が滑稽に答える。
「あぁ。これから忙しくなるだろう—ナァ!!」
「お、おう…」
この土管からコンティニューしそうな男は、イフト——説明は言うまでもないか。
とにかく創作力ハンパない狂人社長とでも説明しておこう。
煉瓦造りの王宮の応接室での話。
「そっちも覚悟しとけよ?」
「無論、アイツから私が引き継いだファウンデーションが世界の企業救済と経営、君が人々の統治…これは鉄板だ。」
「今やエルシャム王国は南北アメリカの西側、東南〜南アジア、オセアニア、そして関東以外の日本…これらを統治するまでに至った。全ての種族を平等かつ自由にするためにな。」
エルシャム王国———どこぞの言語では平安の都という意味があるらしい。
広大な領土…いや、占有という考えはこの王たちにはない。国という枠から解放し、自由と調和を進める——強権発動などもってのほかだ…
しかし——
「実態を全く知らぬ者たち…特にアノ者らは大東亜共栄圏の100年越しの再来だと罵る者もいる。」
「関東が自治特区になったのも…そのためか。」
「あぁ…人々が平和で自由で——皆が共存する調和の社会は遠い…か。」
彼が理想とする社会……それはかつて立てた誓い。神の名の下に立てた——理想。
しかし理想とは叶わぬもの…そうあるべきだと本人たちは自覚しているのかもしれないが。
そこに———とんでもない人物がやってくる。
「なーにシケた顔してるのよ〜!」ドシャン!
「「ぐはっ!」」
突如現れた彼女——椅子を笑顔で王様の頭をぶつけて、漫画のようにそのままイフトの方へと体をぶっ飛ばす。
イフトはそのまま…
【GAME OVER!】
「ブゥン!」テッテレテッテッテー!
再び土管から無傷生還するイフト…そして。
「ちょ、痛いよツッキー———」
「変な顔してたらぶっ叩いてって言ったのは魁君でしょ?」
ツッキーと呼ぶ彼女……彼女は渡辺月——王様がベタ惚れの笑顔が似合う王妃さま。
もらい死を食らったイフトが苦言する。
「まったく…お転婆な王妃様だ。」
「イフト君ひっさしぶり〜!」
先ほどから笑顔を絶やさない月。何かサイコパスのような気もするが……いや、これも夫との愛の形なのかもしれない。
実際に———
「そうか…マイハニーの言うことなら甘んじてこの愛の一撃を受け入れるぞ!」
「はいよろしい♪」
結構血まみれであった魁……その傷はみるみるうちになくなっていく———普通の人間ならばまずあり得ない力。
イフトが言う。
「どうだ?人間をやめた気分は。」
「最高にハイって……いやそこまで変わんない。ヴァンパイアになったところで日に当たれないわけじゃねぇし。」
「人間の寿命が飛躍的に伸びたからか、不死の種族もそこまで奇異な目で見られないそうだ。」
「そうだな……しかし、俺は寿命があるといって王座に就き続けるつもりはない。」
誰であれ王位を譲るというのは老いた者が言う傾向がある…ましてや不死の者が言うなど可笑しな話だ。しかし———彼は言った。
「俺の理想とする社会に…1人の王が永遠の統治などいらない。」
「誰かに譲ると?」
「あぁ、別に俺の血族でなくともいい——皆に好かれ、愛嬌のあり、未来を見据えられる、理想高き王……それは最低条件だな。」
「そんな奴が果たして現れるか——私には想像つかないなぁ。」
悠々とイフトは言い放つ……その解答に現代の王 魁はニヤリと笑う。
「現れるさ……近いうちにな。」
〜〜〜〜〜〜
【西木野総合病院】
コツコツコツ……
ラフな格好で病院を堂々と歩く——
ガチャ
オギャー!フギャー!
様々な赤ん坊のいる部屋に入る……陰口が聞こえる中。
「聞いた?例の子の話!」
「あぁ…確かシングルマザー予定だったお母さんを殺した子供でしょ?不憫だけど…ちょっと嫌な感じ。」
「うーん……それが母親の死因が———」
「えぇ〜?それは間違いじゃないの?」
その例の子の前で……止まる。
「なるほど——【その眼】を持つか。」
「……?」
その子を拾い上げ、連れ去ろうとする——陰口を叩く者には見えやしないだろう。母を失っても冷静さを保つ…マムシの子は。
「……w」
『俺に笑うか——』
面会室から立ち去り……のしのしと進む。
やがて分娩室を通り過ぎようとする————
「待ってください!!」
「………」
分娩室から聞こえる声に興味を持ち、そこへと侵入する———と、中は凄惨な光景であった。
助産師は血まみれで倒れており、父親らしき人物は怯えきって部屋の隅へと追いやられている。
「神様!どうかこの子を——!この子をお願いします!」
「何言っててるんだ!?神様って…その子はもう無理だ!」
「お願いします…!」
なるほど——親殺しはせずに、周りの人に害を与えたようだ。
この男児とは対照的…それでいて似ている。
『面白い…よかろう。』
「ありがとう——ございます。」
『名は?』
「———なゆた……中川那由多です!!」
『会えることを…期待している。』
左側にその子を背負い、その部屋から立ち去る……父親が崩れる。
「消えた…?」
分娩室から出ようとした——そんな時。
生まれてまだまもない子に出会う……目の動きからして、《見えている》。
気に入った俺はその藍色の子に言った。
『大好きを叫べ——それが俺の教えである。』
「……?」
『あとは……頼んだ。』
去った。
L1話 Star【明星】を見定める者
前書き
Liella!編1話になります……!
語り手≠主人公ではないぞ?
語り手は一貫してるが。
光るスポットライト……
そんな中で少女は中央に立つ———独唱しろと。
ダメだ……ダメだ……
遠くなる意識———
「今の私」には…………
何もできない。
心がバラけた—————
————※————
結ヶ丘。
ここは原宿、青山、表参道の狭間にある地域———
首都圏は自治地区……というのは建前だ。
実際にエルシャム王国に接近している地域もあるし、距離を置いている場所もある……結ヶ丘は前者だ。
しかしながら、それをよく思わない住民だっている———
話を戻そう。
そんな地域の一角で、とある喫茶店の隣。
漢方屋を兼ねる…不思議な町医者————この物語の語り手 伊口才(いぐち まさ)とは俺のことである。
そして4階建の2階にて……
「いざ!勝負!!」
「……いいだろう。」
藍色の髪をした猛々しい男が勝負を申し込んだのは……ブルーと金の瞳を持つ、黒髪の男。
2人は竹刀を持って——対峙する。
それを見る2人の少女は……合図する。
「「初め!」」
「たぁっ!!」
「……」
大きな声で威圧するように振るう藍色の男。しかしスルッと見切りをつけられる……
そして………言う。
「お前、師匠の抹茶プリン食ったろ。」
「え、何で
「隙あり!!」
竹刀で足を掬われ、藍色の男は倒れる———勝負があっさり終わったことに、竹刀を勢い良く投げつける。
「おい!速人!お前、何で毎回俺の弱み知ってんだよ!?」
「逆に知らないと思ったか?お前の場合、全てにおいて隙だらけだしな。」
「毎回言うけどこれ反則負けだろ!?なぁ、かのん!千砂都!!」
藍色の男は……オッドアイの男 天羽速人(あもう はやと)の智謀を反則だと、審判役をやらされている幼馴染 澁谷かのんと嵐千砂都に訴える。
しかし……その熱さにかのんは苦言する。
「でも那由多君、いつも通りでいいって言ってたじゃん。」
「ぐっ…千砂都は!?」
「私も……同意見かな!」
「く、くっそぉぉぉぉ!」
結局敗訴……この狼のように吠える男 中川那由多。
ドタドタドタ……!
「また食ったのかお前はァ!」
「ゴブッ!」
突如として一階から登ってきた、この家の主人である俺 伊口才に強力なドロップキックを喰らう那由多……和室の道場の端までぶっ飛ばされる。
相変わらず、かのんと千砂都はこの一連の出来事に苦笑いしかできない。
俺は那由多に言い放つ。
「冷蔵庫を漁るどころかプリンを勝手に食うとは、毎回毎回どんな図太い神経してんだお前は。」
「師匠とはいえ……疲れた日にプリンがあったら食うだろ…」
「じゃあお前は疲れている日に道端にステーキが落ちていたら、そのまま食うのか?」
「あ?当たり前だろ。」
「「「……うわぁ。」」」
那由多の野人の如く発言に、幼馴染3人はドン引きする。
「それは…ちょっとワイルドすぎるよ——」
「近寄らないで。」
「一生お前と皿を共有しない。」
「お、お前ら……そこまで言わなくても……」
千砂都、かのん、速人の連続罵倒で完全に心を折られる那由多。これくらい言われてもおかしくないほどの不潔だし、野人だし———ま、俺が元々知ってたのは内緒の話。
俺は皆に聞こえるように、那由多に言い付ける。
「罰としてお前は武道場の片付けだ。」
「はぁ〜!?」
「——もっかいドロップキック喰らっとくか?」
「わ、わかったよ…!」
那由多に掃除をさせ始めたところで、かのんと千砂都にも言う。
「そろそろいい時間だ。明日は『入学式』だし……お前らも早めに帰っとけ。」
「うぃーっす!」
「……うん。」
千砂都と対照的に、明らかに影を落とすかのん……俺は速人に言う。
「春は気の緩む奴が多い……速人、2人と一緒に外に出ていろ。」
「……仕方ないなぁ。」
「さ、掃除の邪魔にならないように行こ行こ!」
千砂都の後押しで3人はそのままこの家から出ていった……
————※————
速人はかのんを家に届けた後、千砂都を家まで送っていく……その道中。
「明日はとうとう入学式だね〜」
「あぁ……」
「………もしかして、かのんちゃんのこと気にしてる?」
千砂都は速人が沈黙に近い態度の原因を、ズバリ言い当てる。見破られた速人は驚きもせずにチラッと青い右眼を彼女に向ける。
「別に気にしてるわけじゃない。ただ……」
「ただ?」
「結ヶ丘の普通科に行くアイツの未来が……見えないんだ。」
「え!?」
千砂都は驚く。
説明しておこう。天羽速人という男は、文武ともに人間離れしている……そんな彼の金の左眼は【全てを見通す】と近隣で有名だ。かのんや千砂都からは、かのんが飼うフクロウ「マンマル」に準えて、【フクロウの眼】とも言われているほどに全てを見通せる。
そんな彼の頭脳と目をもってしても見当がつかない……
当然千砂都は不安になる。
「そういえば…受験に失敗したら歌を諦めるって言ってたような———」
「結ヶ丘に入って最初の目標はかのんに音楽を続けさせること……か。物騒な社会の今に、泣きっ面に蜂だな。」
物騒な社会———実のところ、結ヶ丘をはじめとした首都圏各地で怪人が現れている。
これは2040年代ごろから現在2062年までずっと続いている。
特に最近はその怪人の目撃・被害件数が急に伸びてきているそう。
そして——驚くことに怪人の正体は…名もない様々な種族の市民であると。
このことに日本政府も対策を迫られていて……仮面ライダーなる装備を普及させることを進めているそう。
さて、重くなった話題を千砂都は吹き飛ばそうとする。
「物騒な社会もきっと黄金の戦士が何とかしてくれるって!」
「黄金の戦士ねぇ…たまに聞くな———確か、黄金の星のような鎧に、1本の星のツノに黄金のドレッドヘアーの特殊な見た目ながらスピードは時を超え、攻撃は一切通用しない無敵の戦士とかなんとか……」
「……一回だけ。」
「ん?」
ボソッと言う千砂都に速人は聞き返す。
「小さい時、かのんちゃんと私、見たことあるんだよね……その黄金の戦士。」
「……そんなこと言ってたっけな。」
「一瞬しか見えなかったけどね。」
千砂都はニコッと無邪気に笑い、話を有耶無耶にする。
黄金の戦士……もし存在するのなら神話級の戦士だ。そもそも戦士という枠に収まるものなのか、それすらも疑問である。
そんな話も終わりの時がやってくる。
「じゃ、そろそろ……」
「千砂都……1つ言っておく。」
「どした?」
「俺は———どんな形であれ、かのんに音楽を続けさせる……俺だけが夢を見て、アイツだけが現実に生きるなんて間違ってる。」
「かのんちゃんが嫌がっても?」
「嫌がるなんて俺の目には見えないな…!」
傲慢。まるで自分がこの世界の全て……澁谷かのんの心を見透かしているかのような発言。しかしそれがこの男なのだ———それは千砂都が何よりわかっている。
「そっか——じゃあ私もちょっとだけ、手助けするよ!!」
「頼んだ……」ポンポン
「うっ…ちょっと…///」
速人は頭1つ以上離れた彼女の頭を撫でる。流石にフレンドリーな彼女でも恥ずかしくなったのか、顔がぽっと赤くなる。
二本指で別れの挨拶をした。
————※————
早朝………かのんは携帯を自室のソファへと捨てる。
「ばーか。歌えたら苦労しないっつーの。」
独り言——というより、苦い過去を想像して嫌になったことで発せられた言葉だろう。トゲトゲとした態度と、家用のメガネと髪型……自分の鬱憤を言うのは十分すぎる空間だった。
そんな姉を起こしにやってくる妹——澁谷ありあ。名を呼びながら部屋へとやってくる。
「お姉ちゃん!いるんなら返事してよ!」
「あぁ⤵︎」
「何!?『あぁ⤵︎』よ!今日入学式でしょ!?早く行かないと遅刻するよ!?」
「わかってまーす。」
「早く!」
「あーい。」
無気力さが否応でも伝わってくる口調……これが自然体なのか、内弁慶なだけか。いや、そんなことはどうでも良い。
〜〜〜〜〜
………チン!
トースターからパンが2枚……典型的な朝の匂いだ。この食パンは澁谷家の姉妹のために用意されたものだと容易に想像できる。
そして客としてきている俺は——
音を立ててコーヒーカップが俺の前に差し出される———
「才さん、今日はブラックで良かったですよね?」
「あぁ。わかってるじゃないか澁谷母。」
「その前はオレンジジュース…そのまた前はチョコココア……好物のルーティンじゃないですか♪」
「流石、20年近く常連になった甲斐があるぜ。」
俺 伊口才はこの澁谷家の営むカフェの隣で、街の名医であり漢方屋をする者———同時に拾い子の速人と那由多を家に置き、武道を教える者でもある。
当然、この2人の幼馴染であるかのんと千砂都とも深い関わりもあるのだ……
澁谷母は息を吐く。
「20年か〜私も随分老けちゃったな〜」
「何言ってるんだ。平均寿命は300歳が現実味を帯びる中で、その程度の歳じゃ大したコトねぇよ。」
「そういう才さんは20年経っても、ちっとも変わらないですね。」
「まぁ…な。」
コーヒーをすする。
経歴からわかるだろうが、俺はかなり歳をとっている……が、よく20代と勘違いされるのは容貌の若さと189.6cmの背丈ゆえだろうか。高尺の教え子たちよりも背丈が高いのは、より際立たせているのかもしれない。
さて、年齢の話になると毎回聞かれるのだが……今回は澁谷ありあが聞いてきた。
「結局才さんは何歳なんですか?」
「うーん……137億歳。」
「その冗談はいいから!どうなんですか?」
「あんまり俺も年齢に執着してないから数えてないが……ここの祖母ちゃんよりは上だな、多分。」
煮え切らない回答に不満顔なありあ。そんなことはお構いなしに俺は再びコーヒーをすする。
そこに……気怠そうな声が入る。
「行ってきまーす……」
「おはようは?」
「……おはよう。」
「朝ごはんは?」
「———うん。」
母に挨拶を指摘される少女……澁谷かのん。
制服として新しいブレザーをとヘッドホンを着用し、全てに目を向けぬまま、このカフェのマスコットで澁谷家のペットでもあるコノハズク「マンマル」へと視線を向ける。
「マンマル…行ってくるね。」
『…?』
かのんは唯一、マンマルにだけ優しい目を向けた……そのまま彼女はドアを開けようとする——
流石の俺も、生まれてからずっとその生い立ちを見る少女に声をかけないのは少し心残りだし、気づいていない彼女に一言……少し皮肉をこめた。
「フクロウに声かけて、俺にノーコメは厳しすぎじゃないか?」
「うわっ!…ま、才さん!?いつから!?」
「この時間帯はずっといるだろ。」
まぁ彼女が気づかなかったのも当然、氣を極限までゼロにしていたのだから———というのは少し無理があるか。
さて…荒んだ少女に一言。
「———制服、似合ってるぞ。」
「……似合ってない!!」
扉が閉められた。想定通りの反応と言えば……そうかな。
ありあは母に尋ねる。
「まだ受験の失敗引き摺ってるの?」
「繊細だから……」
繊細か———確かに、トゲトゲとした言葉を使う者は、繊細ゆえだと唱える者もいる。
しかし……
「かのん———名前通り…か。だがそれも…フッ」
コーヒーをグイッと飲み干した。
————※————
「………」
人が通る……透き通るように。
速人は同じく結ヶ丘高等学校の男性用ブレザーを着て初登校。
ただ、彼は初の試みを行なっている———目を瞑ったまま、校舎まで辿り着こうとしている。武道を極めようとしている彼なりの修行……
人の氣——呼吸、オーラ、心拍……そういったものを第六感で感じ取り、道を進んでいる。
当然、人にぶつかったりは絶対にしない——
ただし……相手によるが。
「「!(疼!)」」
目を瞑っていた速人にボディーブローが襲う。しかし体幹の鍛えた彼はふらつきはせず、逆にぶつかった……体からして少女が尻もちをついてしまう。
流石の速人も目を開け、彼女に手を差し伸べる…パステルブルーの瞳と、グレージュのボブカットの。
「大丈夫か?」
「アウ…あ、はい…大丈夫デス……って、Gāo(高い)!!」
「(中国語……)どうも。」
方言的にとはいえ、日本語以外の言語も混じるように話されている。文字に至っては日本語には変わっていない。
ゆえに翻訳家の仕事は無くなるどころか、ワンワールドが意識されたことで増えているそう。
さて、速人を高身長だと言った少女……彼はこの娘が見覚えのある制服を身につけていると気づく。
「お前…結ヶ丘の?」
「はい!唐可可と言いマス!——あなたは?」
「——速人。天羽速人だ。ま、これからよろしく。」
自信ありげに名乗った彼に、可可という彼女はとあることを聞く。
「ハヤトさん、あなたに聞きたいことがありマス。」
「答えられる範囲なら…いい。」
遠回しのOKをもらった可可は、改めて彼に尋ねる。
「可可はスクールアイドルがやりたくて日本に来ました!だから可可と一緒にスクールアイドルに興味がある人を探しています!」
「なるほど。スクールアイドルを結ヶ丘で———」
スクールアイドル———日本で流行り始めたのはもう50年以上の話…今や世界の知るところであり、大陸が1つになった事でその人気は絶頂であり続けている。
いわゆる「学校でアイドル」というやつなのだが………彼に妙案が降りてきた。
「だったら紹介したい奴がいる。お前なら絶対気に入る…!」
「本当デスか!?その人はどんな人デスか!?」
目を輝かせて速人に迫る可可。
彼は———路地の分岐路を指差す………
微かに聴こえつつある……美なる歌声。
ほんのちょっぴり(歌:澁谷かのん)
〜〜〜〜〜
スキップしながら歌を終了した……というより、人前に出たから終了したという方が良いか。
ヘッドホンを外し、人が賑わう大通りへと合流する。
一言……かのんは呟く。
「はぁ…何でもない時はいくらでも声が出るのに———」
彼女は歌えなかった……結ヶ丘の音楽科の試験で。運命にしては呪われている。
絶世の歌声を持っていながら、それを世に出す事を禁じられた……まさに神の思し召しとしか言いようのない。
しかし———聞く者はいたのだ。
「うーっ!太好听的吧!!!」
「えっ、え、何!?」
突如かのんに発せられた意味不明の言語……現代社会の観点から、正確には方言に近いもの。
しかしどちらにせよ意味がわからないのは変わらぬが……お構いなしに——可可は迫り続ける。
「你唱歌真的好好听啊。简直就是天籁。刚才听到你唱歌了。」
「ちゅ、中国語!?」
「我们以后一起唱歌好不好?一起唱! 一起做学园偶像!!」
意味不明な言語に、近すぎる距離に、突如として向けられる輝いた瞳……敬遠したいのは言うまでもない。
「に、你好!謝謝!パンダ!拉麺セット定食ぅ!」ダッ
いかにも典型的日本人らしい、誤魔化し方でその場を去ろうとダッシュするかのん……しかし。
「待ってクダさい〜っ!!」
「怖い怖い~っ!」
諦めずに追ってくる可可に、かのんは逃げ続ける。
その様子を速人は背後から見ていた。
「スクールアイドルについて詳しく知っているわけではないが……かのん、お前のためだ。」
彼は———飛ぶように走った。
————※————
霞ヶ関の一室………
「今日は——結ヶ丘高等学校の入学式…開校式か。」
「結ヶ丘高等学校?何だねそれは?」
問いただす男……知らなくて当然のように、またある男は返す。
「結ヶ丘で起こったあの一件…その渦中の学校の跡地にできた学校だ。」
「何…?では、まさか———」
「あれほど怪人を発生させていると言うに……なかなか懲りん街だ。」
視線は———会議のリーダーへと注がれる。
彼は即決した。
「どうやら……痛い目に遭わないと分からんらしい。」
「では———その通りに。」
————※————
「はぁ…はぁ……まだ来るの〜!?」
かのんは逃げ続けていた……五分間走とでも言うべきハードさ。しかし可可とはだいぶ距離が離れた———
が、ここに黒い影が側方のビルを走る。
「よっと。ここは少しばかり通せないなぁ。」
「は、速人君!?」
かのんに立ち塞がったのは———速人だった。
5分で追いつくにはあまりに遠すぎる距離……それを難なく、息を切らさずに追いついたのだ。
意外すぎる人物が立ち塞がったかのん。しかし起死回生、彼女の真横に脇道——そこに入ろうとする……が。
「うぃーすっ♪」
「やっと追いついたぞ速人…!」
「ちいちゃん!?那由多君も…!?」
この2人を退かして進むことはできるが、その間に追いつかれる———そんなこんなするうちに…可可が残り10メートルまで迫る。
終わった。
「ゼェ…ゼェ……お、追いつきまシタ…!」
「え…これ……」
「まぁ落ち着いて話を聞いてやれ、かのん。」
怯えと絶望感が顔に現れるかのん……なんか、ドSホイホイっぽい絵面だが気にしない。
さて….
冗談は———終わりだ。
ドカァァァァン!!!
「「「「!?!?!?」」」」
「危ねぇ!」
突如道路の真ん中で起こった爆発……そこにいる4人が唖然とする中で、野生の勘を発揮させた那由多が1番離れていた可可を守る———
その代償を払ってしまう。
「ぐぐぐ……」
「大丈夫デスか!?」
「あぁ…肩だ———」
少しばかり不覚を取った速人…それに続いて、かのんと千砂都も心配にやってくる。
かのんは突如起こった出来事に困惑を隠せない。
「何?どういうこと!?」
「ガラスの破片だ…高速で刺さったからその分ダメージもデカいが——肩にズラしたのが幸いだな。」
速人は手持ちのタオルを那由多の鳩尾あたりに落とす。それを取った千砂都はガラスの刃を抜かず、そのままタオルで手当てする———
速人は…3人を守るため、前に出る。
爆煙から姿を現す———雪男のような容貌のバケモノ。
「何アレ……」
「ハワワワ...妖怪(Yāoguài)!?」
イエティメギド——一部の界隈ではこう呼ぶらしい。
そのイエティメギドは逃げ惑う人々に冷気を浴びせ、見るも無惨な氷塊へと変貌させ……破壊していく。
無惨すぎる……こうも人間はあっさりと死ぬモノなのか。
本当に———虚しい。
速人は破壊行為によって転がっていた鉄棒を拾い、その雪男を成敗しようと向かう———が、かのんはそれを許さず、彼の制服の裾を引っ張った。
「離せかのん。」
「何言ってんの!?いくら速人君でも…あんなの絶対無理だよ!!」
「でもここでアイツを逃したら、みんな死んじまう!だから……止めるんだよ!!」
かのんの手を振り払い、進み始める速人——が。
ギュッー!
かのんの体は速人の背にくっついて離れない。
「バカ……ばーか!!カッコつけんな…!」
「カッコじゃねぇよ——俺は」
「うるさい!何で私から離れるの…!?ここで速人君が死んじゃったら…私、誰に守って貰えばいいの……!?」
「————」
「約束したじゃん……速人君のバカ!」
約束……その言葉を聞いても顔色一つ変えない速人———だからこそなのかもしれない。
速人はカノンの手を振り解いた———が、ここで異変が起きる。
カチャ
「何これ……?」
速人のポケットに入っていた何か……掌サイズの赤い本——『BRAVE DRAGON』と書かれた炎の龍が描かれたそれを、かのんは取り出し、手にした。
速人は……かのんが手にした本を——触れる。
その瞬間———
【ブレイブドラゴン!】
ブォォォォン!
炎が彼等を包む……
驚くべきは———炎の起点が透けるように見える、「かのんの心」である!
「「「かのん(サン・ちゃん)……!!」」」
同じく炎のバリアに入った可可、千砂都、那由多はただ感嘆の声を上げる。
「速人君…!」
「かのん————」
かのんは烈火の如く本を、速人に渡す……と、炎はカノンの心に収束していく———ようやく炎の網は解かれ、神聖な炎はかのんの心から離れる。
霊魂のように浮かび上がった炎は———100cmの燃える剣を創り出した。
【火炎剣烈火!】
速人は確信するようにその剣を——抜く!!
すると……炎は黒いガジェットを形成していく———
【聖剣ソードライバー!】
「これが……俺の——かのんの想いがこもった剣。」
速人は……そのドライバーをあてがう。すると腰にベルトが自動展開され、固着される。
彼の奇異な青と金の瞳は決意に染まる———そしてかのんに言い放った。
「かのん……俺が何故、武道を極めてきたか———その答えは昔から変わってない。」
「え…?」
「お前らを……守るためだ!!」
【ブレイブドラゴン!】
【かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた…】
赤い本が読み上げた伝承———龍の如く燃える炎はその話に現実味を帯びさせる。
速人はその本を閉じて、ソードライバーへとセットする……ファンタジックな音楽が流れる。
その剣柄を握り……
「変身…!」
【烈火抜刀! ブレイブドラゴン!】
燃える火炎剣でクロスを描く。
炎から現れたドラゴンが装甲を形成、仕上げにX字の炎が複眼へと変貌する。
【烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!】
炎のドラゴンを右肩に肩取られ、頭頂に伝説の剣士としてソードクラウンを持つ———炎の剣士にして、明星を見定める先見を持つ者………仮面ライダーセイバー
「全ての結末は……俺が読んだ!」
〜〜〜〜〜〜
【火炎剣烈火!】
凍えるような世界に……温もりが訪れる。温もりは氷塊となった人々をあるべき姿へと戻す。
困惑するイエティメギドは、突如として現れたセイバーに脇腹をすれ違い様に斬られる。
「グォォォ…!」
「へっ…お前の弱点は全て見えてるぜ——!」
仮面ライダーセイバー 鍛え上げられた努力の剣士であるだけにあらず。
彼の青い右眼はあらゆる物質的な物を見通し、彼の黄金の左眼は全ての精神的なものを見通す神の全知の目———これを持ち、師匠である俺にしごかれた心身は世界でも有数であろう。
イエティメギドは怒りのままに吹雪を口から吐く。
しかしセイバーは火炎剣で炎をバリアのように展開して、吹雪を相殺する。
2人の間に湿った空気——セイバーはその距離を瞬時に詰め、その火炎剣をメギドの肩へと入刀する。その一撃に……彼の鍛え上げられた腕力と鋭利さが込められている。
二撃で大ダメージ……彼はソードライバーに納刀し、メギドを蹴って距離を取らせる。
「剣の方が得意だが……師匠の『フィニッシュは必殺技、最終必殺は蹴り』に従うか———」
【必殺読破!】
セイバーは師匠直伝のカッコいいポーズを2連続で決め、ジャンプする———そして火炎剣のレバーをもう一度引く。
【ドラゴン一冊撃! ファイヤー! 】
「全ては———俺の読み通りだっ!」
業火を纏った龍の蹴撃は……イエティメギドを貫く———怪物の体は消滅し、中から一般人が現れる。
カッコつけて着地したセイバーは終わったことを見届けると、変身を解除する。
「人が……怪物になってたのか———」
独り言のように呟いた言葉……そこにかのんと千砂都、怪我をした那由多が駆け寄ってくる。
「速人君……」
「———忘れるわけねぇだろ。約束は絶対に守るのが男だ……師匠はそう言っていた。」
「バカ……心配させないでよ///」
涙目になりかけたかのん……彼女の一途さゆえか。
と、ここで那由多があることに気づく。
「あっ!!こんなところで油売ってたら時間が……ん?」
「「「………!?!?」」」
驚くべきことに……時間は1分も経っていなかったのだ。
そして————もう一つ。
「あれ?スバラシイコエノヒト?スバラシイメメノヒト?はどこに…?」
はたして真相やいかに………
後書き
前編後編で分けていこうか、一話ごとにするか、少し考えてます。
虹1話 TOKIMEKIの灯火
前書き
さ、こっから物語が動きますよ…!
生まれたトキメキ……
タダでそれが人間に宿るとでも?
そんな都合のいいことは存在しない。
本来持っていた輝きを捨てることで……トキメキは生まれた。
悲しきかな。
トキメキを宿せば、輝きに惹かれるのだ。
その瞬間……欲というものが生まれる。
—————※—————
個性を共存させ、真に調和する社会を目指すエルシャム王国。その勢力は瞬く間に拡大していった。
人間の寿命の急伸長、各大陸の拡大日本の形成、日本列島の文明中心化……そのような混沌とした世界を善を持って統治する王など稀な存在。
そのカリスマと善政に魅かれた者は多く……当然統治する領域は広大なものとなった。
その領域内では国や文化どうしでの対立、人種差別などはほとんど存在しない———まさに高度な文明でありながら、搾取がなく、縄文時代のようなお裾分けや共存共栄がなされた……限りなく理想郷に近いもの。
王国とは名ばかりの理想の園であった。
しかしながら、その存在を危惧する者は多くいた。
一部では大東亜共栄圏の実現だと揶揄され、まだ国内で強い権限を持つ欧米政府や多国籍企業が非難の声を上げた……
それもそのはず、彼らにとって搾取のない共存共栄など、自分たちの地位を脅かしかねない理想なのだから。
そこで———彼らの一方的な妥協案として、日本の現首都圏を日本政府による自治特区にしてはどうかと提案した。
それが実現した…… 東京お台場。
様々な人が流入した日本でも、特に流入量が多い東京。
それを見据えて、多文化調和の象徴地区———それがお台場なのだ。
お台場 ダイバーシティ———幼馴染の女が2人。
雑貨屋にて、ライトピンクの髪色に三つ編みシニオンの娘が尋ねる……黒髪に先端が緑色の子。
「これは?」
「うーん…いまいちトキメかないね〜」
「どうする?」
「他の店行ってみよっか?」
「そうだね〜」
2人は談笑しながらその雑貨屋を後にする……と、緑の瞳の子がショウウィンドウに引き付けられる。
その中に置かれている、可愛らしさの塊のようなピンクのワンピース——
「歩夢、これいいんじゃない?」
「えっ?」
「似合うと思うよ!」
緑の毛先の子がすすめるワンピース……しかし、【歩夢】と呼ばれる彼女は顔を赤らめてそれを否定する。
「い、いいよ〜!可愛いとは思うけど子供っぽいって〜!」
「そうかな…?ついこの間まで来てたじゃん。」
「小学生の時の話でしょ!?——もうそういうのは卒業だよ。」
「着たい服着ればいいじゃん。歩夢にはどんな服も似合うよ。」
「も、もう〜!またそんな適当なこと言って…!」
褒められた歩夢は嫌な感じを装いながらも、嬉しさを隠しきれない。
長い話が始まる……と思いきや、緑瞳の子はそのワンピースの隣——ウサギの耳がついたパーカーを目にする。
「幼稚園の時こんな格好してたよね!」
「あぁ〜懐かしいね。」
「可愛かったなぁ〜」
感慨に浸る緑の子。
そして好奇心に駆られて歩夢なる彼女に提案する。
「ねぇ、ちょっとやってみてよ!」
「何を?」
「あゆぴょん…」
「はぁ?」
両手でウサギの耳を再現してみる緑の子……しかし歩夢は呆れた顔を示し、下らんと言わんばかりに立ち上がる。
「やるわけないでしょ?…もう〜!」
「え〜」
「何かお腹空いてきちゃった。下降りない?」
「賛成だぴょーん♪」
「【侑】ぴょんの方が可愛いんじゃない?」
「それはないぴょーん。」
ふざけ合いながらもその雑貨店を後にする2人……侑と歩夢。
それを見つめる———黒き影。
「あれが……高咲侑———か。」
追った。
————※————
ダイバーシティの外にあったコッペパンの車での販売……立て看板には『エルシャム王公認!最高にハイっな旨さの王様コッペ!』などと奇天烈なものが飾られていた———バカらしいことこの上ない。
「すいませーん。さくらあんホワイトコッペパンくださーい!」
「了解……」
「……?」
侑は店員の不可解さに疑問をよぎらせる……が、そんなものはすぐに消え失せる。
しばらく待つと、その店員は注文の商品を侑に渡す。
「さくらあんホワイトコッペパンの誕生です。」
「は、はい……」
「それと……高咲侑くん。」
「!!」
自分の名前を不意に呼ばれたことに驚きを隠せない侑……その男の店員は不気味な発言を続ける。
「今日は君の復活祭だ……お代はいらないよ。」
「復活…?あなた誰なの?」
「全てを祝う…王の命令に従う者——とでも言っておこうか。」
「?……あれ!?」
深まる疑問ーーそして生まれる期待と不安。
そんな中でその謎の男は消えて……店員は明らかにその男ではない人が担当していた。
混乱する侑であったが、その場は割り切って歩夢が待つ石のベンチへと向かう。
歩夢は侑の腑に落ちない顔をいち早く察知して、それを尋ねる。
「どうしたの侑ちゃん?」
「ん?あぁ…何か怪しい男の人が店員だったから…お金はいらないって——」
「男の人……確か店員は女の人だった気がするけど——」
「うーん…不思議なこともあるんだなぁ。」
侑は歩夢の隣にそっと座る。
歩夢は侑の目をしっかり見つめて言う……いつもの優柔な様とは打って変わって。
「しっかりしてよ?侑ちゃんがいなくなったら私1人になっちゃうよ。」
「う、うん……」
1人——その意味を説明しよう。
歩夢と侑は孤児であった。
このお台場に一室の住居を構える……それは孤児として育てられたことに他ならない。
その育て主は——日本政府ではなく、エルシャム王国である。自治とは名ばかり……まともな政策を打ち出せない政府に代わって王様が、そのような救済をしているのだ。
故に2人が住むマンションは成長した孤児が入っていることが多い。
そしてもう1つの意味……それは、歩夢と侑は保護された時から一緒だからだ。
DNAは一致せずとも——彼らは2人で1人のようなものなのだ。
「そっち何味?」
「こっちはレモン塩カスタード味。」
「お、一口ちょうだい!」
「いいよ。あーん♪」
カップルの如く食べさせ合いをする2人……いや、先ほどの背景事情を踏まえれば当然なのだ。間接キスも…腕組みも……2人の自撮りも……全てが日常。
コッペパンを食べ終えた2人……話題がなくなった。
侑は話題を探そうと歩夢に振る。
「これからどうしよっか?」
「映画でも見る?」
「何かピンと来るのないんだよねー」
歩夢が出した提案をぼかして却下する……そんな無題の状況に、侑は嘆息を吐く。
「何か画期的な…こう、視界がパァっとクリアになるモノってないかなぁ——」
「刺激のある毎日が続くと疲れちゃうし、傷つくことだってあるよ?」
「平凡な毎日は退屈だよ歩夢〜!」
「退屈な毎日でも、永遠に幸せならこれ以上のものはないでしょ?危険な火遊びはするもんじゃないよ。」
歩夢は笑顔で刺激を求める侑をたしなめる……
彼女にとっては《今が》幸せなのだ———それを自分から壊すなど馬鹿らしく絶望的に嫌なことなのだ。
しかし———そんな願いは…砕かれる。
「上原歩夢16歳。高咲侑なる子にくっつくように保護された、変哲なく振る舞おうと奮闘する女子高校生……この『逢魔降臨暦』にはこうとしか書かれていない。」
「あなたは…!」
「あれでは足りないと仮の主人に言われてね——こうしてまた君の前に姿を現したわけだ。」
2人の前に飄々と現れた……謎の店員こと、ベージュの仰々しい服に身を包んだ預言者風の男。
さすがにここまで突っかかってくる男に侑は名乗るように求める。
「あなた…一体誰なんですか?」
「私はウォズ——というのは本来の名。この世界では黒地祝という名で通している。」
「————」
歩夢は無言で立ち上がった——すると、彼の持っていた本を払うように地面へと投げ捨てる。
侑は彼女の行動にしては過激すぎることに、驚きを見せる。
彼女は……語気を強める。
「平穏に過ごしてる私たちに関わらないでください…!」
「——確かに、君たちの情報はそれには書かれていないが……」
歩夢の拒絶にも構うことなく『黒地祝』と名乗る男は、【HOLY BIBLE】という題名の本を持ち出して読み始める。
「普通の高校生を演じる上原歩夢……その正体は——
《キャ〜!!》
祝の声を遮るような歓声……流石の侑と歩夢も気にせずにはいられなくなる。
それを察したように、祝は本を閉じる。
「おっと、少し読み過ぎてしまったようですね。」
「何を……?」
「君は行くといい。自分の好きなことを……追求するのが、君の運命だよ。」
黒い男は……そのまま歩いて去っていく。
侑は———歩夢に提案する。
「ちょっと——行ってみよっか。」
「侑ちゃん…?」
「ほら、行くよ?」
「ちょっ、ちょっと〜!」
2人は向かった……その先では———
藍色の美少女が1人立っていた。
CHASE!(歌:優木せつ菜)
〜〜〜〜〜〜
ステージを熱くする火柱。
自分を異世界へと引き込む踊りと歌……
自分の心を燃やす———全てが!!!!
ーーーそんなステージが竜頭龍尾で終わった……
湧き上がる———トキメキ!!
「すごい……!」
「うん…!」
相槌をうつ歩夢の手を握り、もう一度確認するかの如く侑は尋ねる。
「だよね!すごかったよね!!」
「う、うん…」
「カッコよかった!かわいかった!ヤバいよ!!あんな子いるんだね!!」
「……」
「何だろうこの気持ち…すっごいトキメキ!!??」
侑の心はクルクル回転するかの如く踊っていた……まさに生命の喜び。
視界がパァっと開けた…彼女が探し求めていた、毎日を刺激するような贈り物。
その興奮具合は侑をよく知る歩夢でも引いてしまうほどの感激————!
「一体なんて子なんだろ!?——あ!ポスター!」
ポスターを見た侑は歩夢を引っ張って行く。
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会……」
「虹ヶ咲って———」
「「ウチの高校だ〜!!!!」」
————※————
関東地方を除いて、全ての国土がエルシャム王国に所属している……全ては自由を求めてのこと。
裏を返せば、日本政府は首都圏だけは死守したとも言えるのだが———
霞ヶ関の一室にて…男たちが話す。
「エルシャム王国は拡大しすぎた…あの体制は何だと、上はひどくお怒りだ。」
「文化が共存する調和社会なら、日本以上のスパイ天国だと思い込んでいたが———諜報はおろか、ろくに活動すらできないとは……」
「住民の意見不干渉と意識的な行動によって、横の繋がりの重視されるからエージェントによる内部破壊などできそうにない…不審な行動をすれば王自らが出動するそうだ。」
「あのダヴィデ王はあのスクールアイドルを全力で支援していると聞く……これではアレが到来してしまうではないか。」
アレ……この言葉が発せられた時、周りの空気が一気に先鋭化する。
「そんなことは万が一にもあってはならん——何か手は無いのか?」
「であれば……《誰か》にやってもらうしか無いなぁ。」
「最初からそう言っているではないか。そのために自治という名目で——首都圏の分離を王国に提案したのだろう?」
「なるほど———そういうことか……おい、誰かおるか!」
椅子に着く男たちの元へ、黒ずくめの男たちがやってくる……
「すぐに【あのシステム】を作動させろ。」
「はっ……」
命を受けた黒ずくめの者たちはその場を音も立てずに退散する……
「そうか——誰そが研究中の人間を暴走させるシステムがあったなぁ。」
「暴走させるにとどまらず……その人間を、異形の者へと変えるのさ———一定のストレスを持った者がな。」
「それを鎮圧するため彼らに働いてもらうわけか。」
「あぁ——我々の利益のため……ゴイムたちには働いてもらわねばな。」
ーーーーーーー
「あ〜かわいかったなぁ〜」
未だ賑わうお台場ダイバーシティ……そんな中で、侑は未だにスクールアイドルに浸っている。
———そんな状況を歩夢は見かねる。
「明日小テストだよ?そんなにスクールアイドルに気を取られちゃダメだよ。」
「あ、そうだった……けど〜!」
「もう!侑ちゃんったら〜」
歩夢に駄々をこねる侑………いつもの光景。
そんな光景は———一瞬にして崩れ去った。
「キャー!!助けて!!!」
「ウワァァァァ!!!」
「逃げろぉ!!!」
先程聞いていた歓声とは似て非なるもの………悲鳴。
恐怖のみその心に宿らせる悲鳴———悲鳴は悲鳴を呼ぶ。人々は怪我を負うか、傷つけられるのみ……
その恐怖は一体の機械質なマンモス。
「何あれ……?」
「と、とにかく逃げよう!」
今度は逆に歩夢が侑を引っ張って進行方向を反転させ、あの怪人から逃げようとする……
それを見る———黒い影。
「マンモスマギア…か。頃合いだな。」
黒い影は一台の何かを懐から取り出し、逃げる2人の元へと投げる……当然、侑と歩夢は投げられたものに注目する。
歩夢はグラフィックボードのようなガジェットを拾い上げてしまう。
「こ、こんな時に何か落ちてきた……?」
「ゼロワンドライバー……超古代から伝わる神のォテクノロジーだァ!」
「「!?!?!?!?」」
2人はその声の主の方向を見る……と、喋っていたのは立った髪にゴーグルをつけた黒いゲームキャラのような謎の「仮面ライダー」。
「歩夢、あれって…仮面ライダーだよね?」
「う、うん——ずいぶん見た目は違うけど。」
仮面ライダー———古代遺跡から発見された技術を応用した人間の拡張装置……しかし一般のものとは似ても似つかないような姿であった。
そんな彼が言う。
「私は仮面ライダーゲンム……さぁ、ゼロワンドライバーを手にしろ———高咲侑ゥ!」
「わ、私!?」
侑はゲンムの言われるままに……歩夢が抱えたゼロワンドライバーを手にする。
「!!!!!!!!!!!!!」
〜〜〜〜〜〜
浮かび上がる……ナニカ。
愛。勇気。誠。
生まれたトキメキ————
女の器にして、本来は男の性質を持つ……
お前は…………
〜〜〜〜〜
「歩夢……私、知ってる。」
「侑ちゃん?」
ドライバーを手にして刹那、呆然としていた侑が最初に発した言葉……
侑は確認するように歩夢に言う。
「私……いや、【僕】知ってるよ!!」
「ぼ、僕!?」
思い出したかのように変わった1人称。
突然のことに、歩夢は動揺を隠しきれない。そして同時に何か変わってしまった侑に対する不安を大きくする。
「どうしちゃったの侑ちゃん!?」
「思い出したんだ…コレの使い方。そして———」
「……?」
「僕が————今、何をすべきか。」
【ゼロワンドライバー!】
腰にあてがわれたドライバーは即座にベルトを展開し、侑のウエストにしっかり固定される。
その瞬間———天が彼女を認めるかのように、温かい光を注ぐ……
そして、彼女の手に黒く四角い素体に、ライトイエローのバッタが描かれたカセットテープ——「プログライズキー」が創造される。
「!」
「それが……君本来の———」
ゲンムはボソッと呟く。
対照的に侑は歩夢に堂々とした声で言い放つ。
「歩夢!」
「侑ちゃん…?」
「これは……【僕達が背負った運命】なんだ。」
侑のトレードマークのようなツインテールが……解かれる。
【JUMP!】
【AUTHORIZE!】
バッタのロゴが描かれたプログライズキーをゼロワンドライバー右側にかざす………と、ドライバーから巨大な金属でできたバッタ———バッタのライダモデルが顕現する。
巨大なバッタはぴょんぴょんと飛び跳ねる……動的な生命の象徴。
侑は認証されたプログライズキーを展開して……
「変身!」
【プログライズ!】
【飛び上がライズ!ライジングホッパー! 】
【A jump to the sky turns to a rider kick.】
ライトイエローのバッタの如く装甲———超古代の叡智にて、新時代を切り拓く者………
仮面ライダーゼロワン。
「愛を繋ぐのは……僕だ!!!」
〜〜〜〜〜
ゼロワンは跳躍する……
そのまま暴れているマンモスマギアへとジャンピングキックを喰らわせる。マギアはその圧倒的な脚力にバランスを崩して、大きく吹き飛ばされる。
そばで見ている歩夢は唖然とするしかなかった———慣れたかのような跳躍とキックに。
当然、ゼロワンにも想定を超えていたモノ。
「おぉ…すごいジャンプ!」
[グガァァァァァ!!]
「おっと…」
マンモスのツノを模したエネルギー牙が急直進して、ゼロワンを襲う。しかし、彼女?は難なくそれを避ける……
マギアは伸びたエネルギー牙を振り回すが、ゼロワンには一切当たることはない……ひねりジャンプやらイナバウアーなどでスレスレで避けまくる———いや、おかしい。
いくら変身しているとはいえ、バッタの力に柔軟性強化はない。
こんな避け方はヨガの達人でもない限りできないのだ……つまり、そういうことなのか?
やがてマギアのスタミナ——エネルギーが不足し始める。
「さて……君のスタミナが切れたところで、決めさせてもらうよ!」
[ガッ…]
【ライジングインパクト!】
助走なしのほぼ直線の跳躍……キックの形はバッチリ!
そのまま———!
ラ
イ
ジ
ン
グ インパクト
跳躍は大空にてライダーキックへと変わる……その言葉通りの必殺技。
マンモスの強力な息放出———拮抗する時間は…
ない。
[ウワァァァァ!!]
爆煙とともに無機質な声が響いた……と、残されたのは、ヘッドモジュールをつけた———ロボット。現存する種の一種だ。
「よっと。」
コンクリートを抉りながら着地したゼロワン。
変身を解除する———と、心配そうな歩夢はそのまま駆け寄ってくる。
「歩夢…!」
「侑ちゃん———こっちの方も大切にね?」
「あっ……」
歩夢は解かれた緑を毛先に持つ黒髪を、再びツインテールへと戻す……
「ごめん…歩夢。」
「ううん。侑ちゃんが決めたなら、私はそれについて行くよ。」
これがいつもの歩夢……先導するのはいつも侑だ。歩夢はそのブレーキ———「道端に咲く花を見つける力」があるといえば、綺麗に聞こえるだろうか。
侑と歩夢は黒い仮面ライダーの方を向く……が、彼はもういない。
侑は思わず声を出す。
「あれ?もういない…?」
「何か…個性的な人だったね?」
「そうだね歩夢…」
始まったトキメキ…
世界は———再び動き始めた。
『自分の好きなことを追求しろ……それが俺の言葉である。』
「「!?!?!?!?」」
2人に天啓響く。
後書き
怪人はかなり多作品ランダムになっています。
L2話 School Idol【偶像】を守る者
前書き
Liella!サイドから始めていきましょう…!
今後の予定はちょっと未定ですが……いずれ虹とスパスタは連結しますのは確定でしょう。
ここは10次元……最高位天使たちしか到達できぬ次元。
その玉座に座る者が1人———その側に付く6枚の翼を持つ天使も1人。
『ミハエル。』
「はっ……」
ミハエル———最高位天使の中で1番最初に生まれ、その忠誠心も一段と高く畏れ多い。
そんな彼がそばに侍っているのは、最高位天使【エルロード】たちの兄にして、第二の親でもある神 ユオス。
彼は独り言のように呟く。
『魂が…目覚めたようですね。』
「———少し不憫とはいえ……貴方がそこまでする必要はなかったのでは?」
ミハエルは複雑そうに尋ね返す———彼は苦い経験があるようだ。
『君はコイントスを持ちかけられて……彼に知恵比べで負けていましたね。』
「私が知恵で負けることは必定。しかしそれに乗せられた私が愚かでした。」
『愚かではありません——その決断もまた、彼の謀略…君は負けるべくして負けたのですよ。』
ユオスは彼の責任感の強さを抑えようと、擁護する……が、何を思ったか、少し悲しい顔になってしまう。
『君たちエルロードは、私にとって実の弟たちであり…同時に力を与えた子どものような存在——その子どもたちも、ほとんどいなくなりました。』
「天帝様が我々と同じとは出過ぎておりましょう……」
『私もまた君たちより遥か前に、父上と母上から生まれた——母上の愛情の掛け方が異なっただけでしょう。私は君たちより自由であった……それだけのことです。」
ユオスはふと玉座から立ち上がり、今までにあったことを回顧する。
『私は悲しい。愛ゆえに抗い、結果として愛する者を失うとは……摂理ゆえ仕方ないと分かっていても哀れだ。』
「愛ゆえに神に逆らい、刃を向けるとは天使としてあってはならないこと………我が弟妹たちながら、恥ずかしいものです!」
『……』
ユオスは微笑みながら辺りを悠々と、飄々と歩く。
『確かに許されません……しかし、誰であろうともやり直せる。どんな魂も——滅することはありませんから。』
「しかしあの女の執着心は異常です。その狂愛が……あんなことになるとは。」
『ですが、彼らが決着をつけねば終わらないのですよ——父上もそう言っていました。』
「至高の父神さまが……」
天帝さまは……遠い目で上を見る————
『母上の狂気とも言える愛が、善も悪も生み出した……人間にとって善悪の判断など、無意味なことなのかもしれません。』
「………」
————※————
「これが俺の剣……か。」
見事現れた怪人を討ち果たし、幼馴染たちを守った速人。彼に握られた火炎のエンブレムのついた剣——火炎剣烈火がそれを現実だと物語っている。
結局、千砂都とかのんと那由多……彼を含め4人で初登校を迎えることになった。
那由多が速人に尋ねる。
「これ…仮面ライダーってやつじゃないか?人間に装甲を纏わせる方法だしな。」
「うんうん。あの黄金の戦士みたいに…!」
「またその話か…」
再び千砂都の口から発せられた黄金の戦士の話に、速人はちょっとクドさを感じる。
ここでふと、速人は持ち歩いていた100cmの火炎剣を見つめる。
「しかし炎の剣なんて歩き持ってると危ないし……こうするか。」
ハバキのあたりを押すと……ドライバーに納刀されたミニチュアへと姿を変える。
その所業にかのんを含め、一同は再び驚かざるを得ない。
「すごい…何か夢を見てるみたい。」
「でも、この剣ってかのんちゃんの心が生み出したように見えたけど…?」
「ええっ!?そうなの!?」
「うん。だからみんな驚いてたんだよ?」
千砂都が語る先ほどのことに、かのんは覚えがない———教えられたところで信じる気持ちにもなれない。
やがて、結ヶ丘高等学校の敷地内へと入っていく。同時に話を変えて、那由多は話しかける。
「そういえばかのんは歌続けるのか?」
「それは……」
答えが滞るかのん……しかし、それを悟られまいとすぐに口を動かす。
「新しいこと始めるのもいいかなって。」
「じゃあ歌やめるのか!?」
「前言ったでしょ?音楽科に合格しなかったら、最後にするって。」
「そうか———よし、高校に入って心をゼロにして始めようぜ!!」
那由多のポジティブな……悪く言えば、能天気な言葉に速人は複雑な顔をして睨む。
一方千砂都は。
「でも……私はかのんちゃんの歌聴いていたいなぁ。」
「————」
かのんは沈黙する……そこに那由多は口を動かそうとした———
ところが、その口は速人によって抑えられる。
「かのん、ちょっと師匠からの伝言で結ヶ丘で何か確認してこいって言われたから先教室行ってる!」
「え、ちょっ———」
速人は那由多を連れてかのんの元から去る。
それに釣られるように千砂都も——
「じゃあ私もあっちだし……あ!今日からたこ焼き屋のバイトすることにしたから!今度遊びに来て〜!」
「あっ……」
かのんは————誰が図らずも、1人となった。
〜〜〜〜〜
「ちょ、何だよいきなり!」
「いいから来い脳筋。」
速人は那由多を強引に引っ張り、学校の中庭へと連れて来る———離したところで、速人は那由多を睨みつける。
「お前……空気読め野人。」
「あ?何のことだよ!?」
天然バカ…先見の速人であるなら、彼は後知恵というべき存在。
バカっぽい熱さは時に人を傷つける———先ほどのかのんのように……
「かのんが本気で歌を諦めたいと思ってんのか?」
「———そう言ってたろ。」
「だからお前は後知恵なんだ……かのんは歌が好きでたまらない。でも人前で歌えないからという、下らん理由で自分の心を殺してんだよ——わかったか!?」
傷の処置として、肩に巻き付けられたタオルを引っ張って那由多を目の前に持ってくる速人。
その勢いは1発殴らんかと言わんばかりだ。
「おい!傷が開いたら…ん?」
「———どうした?」
「いや……傷が消えてる。」
「ちょっと見せてみろ。」
速人は自分が与えたタオルを強引に巻き取り、彼の怪我を確認すると……なんと、傷どころか血痕や服も元通り。
まるで何事もなかったかのように———
この結果は速人ですら想定外なことであった。
「まさか…時間が巻き戻ったとでもいうのか……?」
「時間が巻き戻った——ま、傷がなくなるならどうでもいいか。」パシパシ
「……」
那由多は図々しい笑顔で速人の肩を叩く。しかし速人の怒りは収まらない——むしろ怒り心頭。
「そうか…怪我人じゃないなら1発肩パンさせろ脳カラ。」
「あぁ!?誰が脳味噌空っぽだゴラァ!!」
「お前は略語理解《だけは》早くて助かるぜ。」
「テメェ——高校デビュー戦で勝つのは俺だ!!」
那由多は挑発に乗っかって、速人にパンチを繰り出す…が、単純な軌道を完璧に見切っていた速人に欠伸しながらかわされる。
「おいおい、まさか高校デビューが今のか?」
「舐めんじゃ…って、おわっ!?」
再び殴ろうとした那由多に悪運……なんと、中庭に放置されていたバケツに足を取られ———ソリになる寸前。
そこに通行人……金色の長髪の女性。
このままだと巻きこんで転ぶ——野郎とレディなら、レディを守れと師匠に言われた。
速人は素早く彼女の手を引き————自分との距離をミリ距離まで詰めさせる……そして。
「ほい」チョン
「どおわぁァァァ!!」
金髪くるくるロングのレディの手に差し出す優しい手とは、対照的にも似通って、チョンと那由多を蹴る……当然、ボウリングの球と化す。
「ぎゃ、ギャラクシー……?」
「よし…!」
不謹慎にも、速人はガッツポーズをちょいと行う。
そしてマヌケな相棒を尻目に、彼は救い出した黄緑の瞳の金髪ロングの娘に視線を向ける。
「いや〜アホがレディにドジるのは万国共通……ウチの馬鹿が迷惑かけた。」
「ま、まぁ、一流のショウビジネスの世界の人間に対する対応は上場ね…!」
彼女はツンとした態度を崩さない……しかし、速人は彼女の心の本質を垣間見えていた。
そこで———少し驚かせてみることにした。
「よろしく……平安名。」
「よろしく………って、え!?何で私の……!?」
「平安名神社ってタオルが若干、カバンからチラ見できた。あと——お前確か、ぐそ」
「くっ…失敬ね!!」
何か機嫌を損ねたのか、彼女は再びツンとした表情に戻って、その場から去ってしまう………
「師匠が言っていた……女心は秋空なんかよりも比じゃなく、コロコロ変わる——その通りだ。」
————※————
ドスっと椅子に座る速人……ここが一年を過ごすクラス———見たところ、男:女が3:7ほど。
ほとんどのクラスメイトが揃う中で、彼は左側の席の方を見る。
「10分ぶり、かのん。」
「げっ、速人君———まさかこれは中学の時と変わんない可能性が……?」
「おいもう1つのフラグを立てるな…!」
さて、彼は右側の席に振り返る———見知った髪型と容貌の少女が1人……互いにそれを認識する。
「あっ!スバラシイメメのハヤトさんと……スバラシイコエノヒト〜!」
「ひぃっ!」
「まさかお前も同じクラスとは———」
バタン!
たわいも無い(?)会話をしていたクラスのドアが乱暴に開けられる……やってきたのは———土で汚れた野人 中川那由多。
彼は……速人の真後ろの席へと乱暴に座る。
「お前…生きてたのか(すっとぼけ)」
「はぁ!?テメェのせいで花壇の土に突っ込んで、こんな有様だぞ!!」
「足滑らしたのはお前だろ。」
そろそろガヤガヤしていたクラスも静まり、典型的なホームルームの時間が始まる……
そして———新入生の関門、自己紹介が始まる。
「じゃあ出席番号で……天羽速人君。よろしくお願いします。」
天羽…あ行の生徒は出席番号は前になることがほとんど。速人の場合は、保育園の時から出席番号は始め。
そう——いつも自己紹介は1番はいつものこと……
そして———ブレザーを後ろの那由多の顔に、ノールックで掛ける。
「ぶはっ!」
「(これまたあのパターンじゃ…!?)」
かのんはもう大体察していた……彼の今までやってきた自己紹介。
天を指差す——— 白いシャツを目立たせて。
「天かける羽のように、あらゆるモノより速い人……それがこの天羽速人。皆に1つ言っておこう———全てにおいて……俺より優れた者はいない。」
『』シーン
「俺と勝負したい奴はかかってこい……どんな勝負でも勝ってやろう———あと、俺の後ろの奴は後知恵だから、ツッコミよろしく。以上。」
「速人!テメェ余計なこと言うんじゃねぇ!!」
最後に速人が投下した爆弾に反応した那由多は轟々しい音を立てて立ち上がる……が、立っているのは彼だけ。
速人はすでに座っていた———悪目立ちした那由多。
先生は言う。
「中川君?どうしました?w」
「あ、いや……これは——って、笑ってんじゃぇ!!」
『www』
那由多の犠牲のおかげで……クラスが一気に和やかになる———恐るべきかな、これは速人の目論見通りなのだ。
彼の先見性はもはや超能力の域に達していると言わざるを得ない……彼の言うことはあながち、嘘では無いのかもしれない。
もし彼を超えるならば———それは才能を与えた、神だけなのかもしれない。
————※————
キーンコーンカーンコーン
「おいかのん!マジで速人を……って、どわっ!!」
「っ!!!!」
フィジカル最強の那由多を吹き飛ばして教室外へと出るかのん。そしてそれを追うように……
「スバラシイコエノヒトー!」
「おおおわぁぁぁ!!!」
可可の猪突猛進に、またしても吹き飛ばされ……先ほどより酷く突き飛ばされた那由多は、可可に突進される形で教室外に共にに出てしまう。
しかし可可は肝心のかのんを見失ってしまう。
「アレ…アレ……?」
「————」
「全く……無様だな。」
流石の打たれ強い那由多でも気絶してしまう——そこに、犬猿の相棒 速人がやってくる。そしてそのまま罵詈を1つ。
那由多に気づかなかった可可も、速人が来たことには気づく。
「あ、ハヤトさん!ちょうどいいところに…!」
「えっと…可可か。どうした?」
「かのんさんの行き先に心当たりアリませんか!?」
「そうだなぁ……1階のクラブ勧誘ポスターの辺りにいると思うぞ。」
「ありがとうゴザイマス!では行ってきマース!!」
速人の助言をすぐに受け入れた可可はすぐさま言う通りに、1階へと降りていく……
「———どういうつもりだ?」
「何だ、今度こそ死んだと思ったんだが……しぶとい奴だな。」
「俺の生命力はゴキブリ並みって師匠が——って、誰がゴキブリだゴラァ!!」
「お前が言ったんだろうが。」
ゴキブリのようにしぶとい野人 中川那由多に尋ねられる速人……彼は真剣な眼差しに戻り、その意図を話し始める。
「かのんには何としても歌を続けてもらう。アイツの憂鬱な顔はもうたくさんだ。」
「それとあの可可ってやつと何の関係が……」
「中庭見てみろ。」
速人の言う通りに、那由多は2階の窓から中庭を覗く。部活勧誘で騒がしい中庭で、特に騒がしい少女が1人……それまた騒がしい標識を持って。
「スクールアイドルに興味アリませんか!?可可は皆さんとスクールアイドルがしたいデス!」
強烈な勧誘をしている可可。その強烈さに若干、周りの人々が引いている……流石にこの反応は万国共通と言わざるを得ないのではないか———が、すぐに可可は「スバラシイコエノヒト…!」と言いながら、その場をダッシュしてしまうのを那由多は見る。
「あ、どっか行った。」
「見つけたな……」
不敵な笑みを浮かべる速人……那由多は再び彼に問う。
「まさかお前……かのんにスクールアイドルを?」
「そうだ。」
「あの学校でアイドルってやつだろ?——やりたがるか…?」
「あぁ。俺の目に狂いはない。」
自信満々に答える速人————
そこに。
「だが———スクールアイドルを守る者もいるだろう?」
「「!?!?」」
突如として2人に発せられた声……その方角には———V系のような衣装を纏う、黒髪金眼の男が1人。背中には金色の剣の柄が見え隠れしている。
そんな彼が……2人に話しかける———誰しもが知る人物だ。
「スクールアイドル……いい話だ。是非始めてほしいモノだ———が、どうしてもスクールアイドルを理由なく恨んだり、狂信的な者たちも現れる…それらを取り締まる男たちも、最近は設置されているのだよ。例えば……その場に現れてしまう《怪人》を退治するとかね。」
「!!!!」
怪人……この言葉が出た瞬間に、那由多は警戒心を極限まで高める。
「テメェ…何者だ!!」
「そうか…キミは知らなかったか———」
「世間知らずの後知恵ですから。」
気遣うように振り向く男に速人は、身内がすんません的なことを言う……男はその対応に慣れているのか、再び那由多の方へと向く。
「ならば教えてやろう……俺は小原魁。エルシャム王国の王にして———この学校のメインスポンサーだ。」
「何!?エルシャム王だと?」
「あぁ——彼女らがスクールアイドルは非常にワンダフルな文化だ……そこで。」
彼は懐から……青い特殊な拳銃と、オオカミが描かれた青色の四角いアイテムを那由多に渡す。
「presents!」
「え…今なんて?」
「かつて地球が大洪水に見舞われた際に、大まかな生物種のプロトタイプを保存したもの——それがプログライズキーだ。」
「プログライズキー?」
「お前たちの活躍には期待しているよ……仮面ライダーセイバー——と、仮面ライダー《バルカン》。」
「「!?!?」」
最後まで驚く彼らを見て———最後に一言呟く。
「また会う日まで……鍛えておいてくれ。」
————※————
「なぁ……何なんだよ仮面ライダーバルカンって。」
「さぁ?その銃で変身できるんじゃねぇか?」
適当にあしらう速人。そんなことはお構いなしに那由多は尋ね続ける。
「じゃあ俺たちどこに行くんだよ。」
「言ったろ……あの2人を追うって。」
指差す速人の言う通り、2人はかのんに迫る可可を目撃し、その後を追う。
〜〜〜〜
「「はぁ…はぁ……」」
何か不毛な追いかけっこをした2人だが、共に体力が切れ、一時中断する——が、可可は情熱ですぐに復活して、カノンに迫る。
「为什么要跑啊!?人家只是和你一起做学园偶像而已啊。和我一起做学园偶像好不好嘛!?」
「ちょ、訳わかんないよ!」
涙目で訴える可可だが、かのんの指摘で我に帰る。
「おっと、これは失礼シマした……つい感動して中国語が———改めてまして、私は可可。唐可可と言います♪」
「澁谷…かのんです。」
若干引き気味のかのんに、可可はスクールアイドルの勧誘を続ける。
「かのんさん!かのんさんの歌はスバラシイデス!だから私と……スクールアイドルを始めまセンか!?」
「す、スクールアイドルって——学校でアイドルってやつだよね?」
「可可はスクールアイドルがやりたくて、文化の中心である日本にキマシた!」
「うーん……」
かのんはその誘いを丁重に断ろうとする。
「ごめんね?私やっぱりこういうのは向いてないっていうか……」
「そんなことアリマセン!スクールアイドルは誰だってなれマス!それにかのんサン、カワイイです!」
「えぇ!?———可愛くはないと思うけど……」
どストレートに可愛いと言われたかのんは恥ずかしさのあまり、顔を背ける。
だが可可は……痛いところを触れる。
「歌が……お好きなんデスよね?」
「……!」
「ゼッタイ好きです!そのスバラシイ歌声を是非スクールアイドルに……!」
「…………はぁ。」
かのんは観念した———何もそれはポジティブな意味ではないが。
「私ね、結ヶ丘の音楽科志望だったんだ。でも……落ちちゃって。音楽は大好き———でもきっと才能ないんだよ私。だから歌えなかった。
「………」
かのんは首にヘッドホンを掛ける。
「だから……歌はおしまい——それでいいんだよ。」
「———かのんさん!!」
去ろうとする彼女を可可は引き止める。
その眼差しはふざけた要素など1つもない……まるで自分のことのよう。
「『オシマイ』なんてあるんですか!?」
「え…?」
「好きなことを頑張るのにオシマイなんてあるんですか!?」
何かが湧き上がる。
————※————
Prrrrrr……
「はいもしもし。」
『よっ、久しぶり———でもないか?』
「お前か……聖剣のことか?今は2本。最近1本できたし、その前にもな。」
『2本か。道は遠いか……』
「どうかな?言うて一瞬かもしれねぇぜ?」
『またかけてくれ。』
電話は切れる———と、間髪入れずに電話が着信する。
「はいもしもし……って、これはこれは。」
『はい——あの子は?』
「良好も良好、好きなことに打ち込んでるよ——会いたいなどとは決して思わぬことだ……お前があの子を大事に思うなら。」
『——わかってます。あの子は運命を持って生まれた…そして、それは必ず果たされる。そうですよね。』
「あぁ。お前の気持ちを完璧に理解など誰にもできないだろうが……同情する。」
『いえ——どんなに邪険にされても……声は聞けていますから。』
電話は切れる————
虹2話 You【あなた】のためなら
前書き
ヤンデレが既に咲き匂うポムぅ……
ここは虹ヶ咲学園の校舎。
さて、そこにラフな格好で歩く背高の美男が1人———と、ここで何かイライラしている少女とぶつかってしまう。
「おっと…失礼。」
「あぁ…すみません。ちょっと考え事してたら——って、なにジロジロ見てるんですか?」
銀髪の男は、そのベージュ髪のひ弱そうな彼女を興味ありげに見回る———
「驚いた……まさか純粋な人間がまだ地上にいたとは——」
「純粋?ま、まぁかすみんは純粋無垢なカワイイ娘ですけど?」
「大多数の混血人間とは違い、本当の普通人間ってことさ。」
「誰が普通ですか!!——さっきから一体誰なんですかあなたは!!」
少し踏み込んだ発言をした男に怒り気味の少女。男は飄々とその名刺を差し出す。
「私はこういう者なのだが……少し協力してくれないか。」
「えっとなになに…『伊口ファウンデーション会長 伊口イフト』——って、伊口!?」
「私は情報処理学と経営学を教える予定なのだが——中須かすみ君、情報処理学科はどこか教えてくれな
「ヒィィィ!!ご、ごめんさーい!!!」
ビッグネームが出た途端に、今まで不遜な態度をとっていたことに恐怖した「かすみ」は一目散に逃げていってしまう。
「さてさて……困ったものだ——ネームプレートに書いている名前だけしか教えてくれないとは。」
イフトなる男は後ろ首を掻きながら、クラブ棟の階段付近までやってきてしまう。
「——アレは……」
〜〜〜〜〜
「全然見つかんない……」
「生徒数も部活も多いからね——同好会だけで100個以上あるらしいよ?」
「マジか……骨が折れるなぁ。」
嘆息を吐く侑。
虹ヶ咲学園は世界中から優秀な人材が集まる場所……この世界における普通とは、ヴァンパイアや妖精などの血を継ぐ混血人。
一般に考えられる非力な人間はほぼゼロに等しい——が、混血人に隔世遺伝が起こり、先祖の血が出てくることもあるそうだが。
そんな隔世遺伝の比率も多いのもニジガクの特徴である。
さて……侑は、次の尋ね人を見つける。
その人は——無表情そうなピンク髪の小さな娘。
「あの…すみません!」
「………?」
「スクールアイドル同好会ってどこにあるか知りません?」
「………」
「「—————?」」
尋ねた結果、彼女は黙ったままになる……当然、侑と歩夢は気を使ってしまう。
急ぎの人だったか——侑にその考えがよぎった……
次の瞬間……予想外の場所から衝撃走る。
ズドン!!
「「「!?!?」」」
重厚な音が大理石の床に響く……その震源は——伊口イフト、先の人である。
イフトは彼女ら……そのピンク髪の娘に向かって近づいて、尋ねる。
「君は情報処理学科の生徒だね?是非尋ねたいことがあるのだが……」
「………」
先ほどの質問に沈黙した彼女が、錯覚のような登場方法で現れたイフトの質問に答えられるわけもない——が、ここに救世主あらわる。
「どうしたりなりー?」
「あ、愛さん…!」
名前も無しに話すのも面倒なので紹介しておこう。りなりーと呼ばれたピンク髪の娘は「天王寺璃奈」。そして愛さんと呼ばれる金髪の彼女は「宮下愛」。
〜〜〜〜〜
「ほら、スクールアイドル同好会はここだよ。」
「すごーい!誰に聞いてもわからなかったのに…!」
「確か今年できた同好会だしね〜」
「ありがとう!助かったよ!」
「……」
素直に愛へ礼を言う侑。しかし歩夢は複雑な気持ちが表情に出てしまう……無論、誰も見ていないが。自分の手で解決したかったという身内意識のようなものに近いか。
さて、愛は次に聞いてきたイフトへの対応に移る。
「で……お兄さんは何の用ですか?」
「お兄さんか———私はこういう者だ。是非、情報処理学科の職員ルームへと案内してほしい。」
「えっと——えぇ!?!?」
愛が上げた声に、他の3人もその名刺に注目してみる———と、全員が驚きに包まれる。
侑が筆頭となる。
「伊口ファウンデーション会長 伊口イフト!?——って、あの!?」
「別に称号など関係なく、ラフに接してくれて結構。」
「じゃあ社長さんは愛さん達がそのまま案内するよ!」
「助かるよ。」
礼を言うイフト。
侑たちもそのままその場を去ろうとする……が、彼女の服の裾を掴む璃奈。
「ん?」
「……別に急いでない。ちょっと驚いただけ。」
「そっか、なら良かった♪」
「———好きなの?スクールアイドル。」
璃奈は淡々そうに侑に尋ねる。侑は笑顔でその質問に答える。
「うん!まぁ、まだハマったばかりだけどね。」
「あなたは…?」
「えっ…えっと——」
璃奈はさらに奥にいる歩夢へも尋ねる。突然振られた質問に、返しに詰まってしまう歩夢———なんとか答えを返す。
「ま、まだわかんないけど——」
「そっか……」
一応の納得を示す璃奈……一方で、その話を一方的に聞いていたイフトはその話題に興味を示す。
「スクールアイドルか——高咲くん、私はスクールアイドルについて支援も行っているのは知っているかい?」
「本当ですか?」
「あぁ。個人的ではあるが…連絡先を渡しておこう。」
「えぇ!?連絡先!?!?」
「もし困ったら……例えば、「同好会が廃部」という事態になったりとか、活動が妨害されているとか…ステージをどうするかとかね。」
「ちょっと具体的すぎません!?」
歩夢の可愛いツッコミが響く。
ちなみにではあるが……イフトが4階から1階まで吹き抜けをジャンプで着地したのは誰にも知られていない。
————※————
「ここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会…!」
「———本当に入るの?」
部室とされる扉までやってくる侑と歩夢。だが直前になって歩夢は躊躇ってしまう……色んな理由で。
「あの件は内緒にするんでしょ?だったら部活に入ればバレる危険も高まるんじゃ……」
「うーん———」
ゼロワンドライバーを見つめる侑。
あのマンモスマギアを倒したのち、1日は怪人は現れていない…その間に侑は何度も変身を試し、ゼロワンに変身することができている———が、やはり一人称が僕になるのは癖のように直らない。
それに体の柔軟性をはじめ、素の身体能力が向上しはじめていることも何となく感じている。
いずれ人間離れするかも……巻き込む可能性は高まる。
「でも……やっぱり——完全にトキメいちゃったから!!」
「もう!侑ちゃんたら…!」
結局侑の言うことを受け入れてしまう歩夢———全く誰に似たのか。
さて、心の準備を整えた侑はその扉を開けようとする……が。
「何をしているんですか?——普通科2年、高咲侑さん。上原歩夢さん。」
「「!!」」
後ろから掛けられる声に振り向くゆうぽむ。
そこにいたのは、藍色の髪を三つ編みにした眼鏡っ子。規律を重んじている者であるのがひしひしと伝わってくる容貌だ。
それにしても、名乗ってもいない人に覚えられていることに侑は不思議に思う。
「どうして私たちの名前を?」
「生徒会長たる者、全ての生徒の名前と顔を覚えているのは当然のことです。」
「「生徒会長!?」」
「中川菜々と申します。」
驚く2人……も、すぐに全校集会で面識のあると思い出す。菜々と称する彼女は部室へと足を進める。
「この同好会に用ですか?」
「はい!優木せつ菜ちゃんに会いたくって!!」
「……彼女は来ませんよ。」
「「え?」」
彼女の声のトーンが低くなる……彼女はひどく冷徹に見えるその眼差しで、2人を見返す。
「辞めたそうですよ?スクールアイドル。」
「そんな……昨日ライブを——!」
「彼女だけではありません。スクールアイドル同好会は——本日をもって、廃部となりました。」
部室のネームプレート……象徴的なそれは、回収されてしまった。
————※————
「早速あの社長さんに言われたことは実現しちゃったよ……」
「何か——わかってるみたいだったね。」
「うん……あれが天才社長って言われる所以なのかな?」
会えずじまいで学校の屋外ベンチへと座る侑と歩夢。落胆の色が見え隠れる侑を慰めのように、歩夢は話を続ける。
「残念だったね……」
「うん。」
「でも、虹ヶ咲の生徒ならいつか会えるんじゃ——!」
「いや……いいよ。辞めた理由もいろいろあるだろうしさ。何より———
グオオオオオオオ!!!
響く異形の声。
周り者たちは一斉に逃げ出していく……怪人現る。
「歩夢、行ってくる!!」
「侑ちゃん!」
侑はすぐさま髪を解き、その声の方へと向かっていく。歩夢は……無力であると分かっていても、ついていってしまう———プログラムされたかのように。
その2人に立ちはだかったのは……カメレオン形のステンドグラスの怪人——カメレオンファンガイアと言うべきか。
「確か……元は人間なんだよね———だったら、『僕』が戻す!!」
【JUMP!】
【Authorize!】
一人称の変化した侑はゼロワンドライバーにスキャン。プログライズキーの使用権限を得て、ベルトから巨大なバッタを顕現させる。
「変身!」
【プログライズ!】
【ライジングホッパー!!】
ゼロワンへと変身する———ファンガイアはその変身に興味を示さずに、逃げ遅れた人を見つめていた。
そして……
「うわぁぁぁぁ……うっ。」
「!!———人が…ガラスみたいに。」
2本の矢のようなものに刺された人は生命エネルギーを吸われ、跡形もなく消えてしまう……これ以上好き勝手させるわけにはいかない。
ゼロワンはすぐさまファンガイアに飛び蹴りを喰らわせる。
少し怯むファンガイアであったが、反撃として胸部に一発パンチを入れる。
「うっ…やっぱりキックは隙が大きいのか——」
「———!」
「えっ!?」
カメレオンファンガイア……その姿は突如として視界から消える。
戸惑うゼロワン。その背後から不可視の一撃、さらにもう一撃。離れていた歩夢の方まで転がってくる。
「侑ちゃん!大丈夫!?」
「ちょっと痛いけど……てか、もっと離れてないと危ないよ!!」
「う、うん……!」
歩夢がその場を離れようとする……だが、弱い者を狙わない手はない。
歩夢の左手が何かに引っ張られる。
「きゃっ!!」
「歩夢!!———ん?」
突如、歩夢の背後が光る。
すると今まで不可視であったファンガイアの体が炙り出されるように、顕現する———ゼロワンはすかさず右横蹴りで歩夢の手から離れさせる。
「歩夢!?大丈夫!?」
「う、うん……」
「早く逃げて「侑!!」——って、イフトさん!?」
突如名前を呼ばれたことに反応するゼロワン……その呼ぶ人物はイフト——彼は一方の、イエローのメッシュが入ったアタッシュケースをゼロワンに投げる。
「これは…?」
「アタッシュカリバー。プログライズキーの属性を引き出せるアタッシュケースを模した剣だ。私の傑作の1つでもある———これも使うといい。」
「これは……」
イフトはもう一方のアタッシュケースに入ったプログライズキーのコレクションから、Blizzardと描かれたシロクマのプログライズキーをゼロワンに差し出す。
その2つを受け取って、戦線へと復帰する。
「これは……こうかな?」
【ブレードライズ!】
刃を展開したアタッシュカリバー……ゼロワンはプログライズキーを起動して、アタッシュカリバーにセットする。
【ブリザード!】
【Progrise key confirmed. Ready to utilize】
【Polar bear’s Ability!】
「おぉ…冷たい……いくよ!!」
【フリージングカバンスラッシュ!】
強烈な冷気を発するその剣を地面に突き刺す……すると、辺り一帯の地面が氷結———それによって透明になっていたカメレオンファンガイアも炙り出されてしまう。
そればかりか、氷結したことで身動きもままならない。
イフトは叫ぶ。
「今だ!トドメをさせ!」
「了解!社長!」
ゼロワンはアタッシュカリバーをアタッシュモードに戻したのち、再度ブレードモードへと切り替える———再び氷結の力がチャージされる。
【フリージングカバンダイナミック!】
「はぁっ!!」
氷のオーラ溢れる巨大な刀でカメレオンファンガイアを一閃……身体が氷結したのち、怪人は爆散する。
その姿は元の人間へと戻る。
それを見届けたゼロワンは変身を解除しようとする……が、ここで多数の足音がその場を賑々しくする。
不思議に思っていると、その場にアリのような覆面を被ったトルーパーたちが続々と姿を表す———まもなく彼らはゼロワンに銃口を向ける。
「構えろ!」
「えっ…?」
「君を連行する!速やかに変身を解除しろ!」
「ちょ、僕悪いことしてませんって——ん!?」
「!?!?!?」
突如天上を照らす黄金の光……全ての者が目を覆う。
次の瞬間現れたのは———黄金に輝く、無敵の権化。
星のように伸びるツノと、黄金の長髪のドレッドは神聖さを感じさせる。
当然、謎のトルーパーたちは銃口を向ける。
「何者だ!?」
「———お前らに用はない。」
「!?」
【Hyper Time!】
捻じ曲がる……全て。
瞬きをした次の瞬間———蟻型のトルーパーは姿を消し、黄金の戦士のみがゼロワンの前に立ちはだかる。
……峻厳なトーンで言葉を放つ。
「全く、あの程度の怪人に手間取るとは……お前も随分丸くなった———転生したことで性別も変わってしまったのもその原因か。」
「あなたは……誰なんです?」
ゼロワンに尋ねられたので、自信満々にその名を明かす。
「仮面ライダーエグゼイド……人が成し遂げられない『究極の救済』を行う者———とでも言うべきか。」
「エグゼイド……」
「ゼロワン———高咲侑。お前の愚直さはいずれ厄災をもたらす……が、今は興味ないなぁ。」
「厄災って…どういうこと!?」
「こういうことだ。」
光の速さ……そんなものとうに超えていそうなスピード。それこそ瞬きのうちに、背後の背後———歩夢のもとへと到達していた。
近くにいたイフトは既に払われていて、非力な歩夢と対峙する構図になっていた。
歩夢の首が…圧力に襲われる。
「探したぜ……ヤンデレ女さんよぉ。」ガシッ
「うっ………だれ…かと……勘違い——してるんですか?」
「いや?してねぇと思うぜ——お前がアユムならなぁ。」
「ぐうっ———」
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
怒りの声……それは歩夢の
雷鳴の如き声と共に、ゼロワンは左足で横蹴りを放つ———しかし。
「遅い。」
「えっ…?」
「オラ。」
「うわぁぁぁ!!」
手応えがない……いや蹴りが当たる感触すらしないままに、恐るべきカウンターパンチがゼロワンの胸部へと直撃する。その一撃は装甲を一発で破壊する———木っ端微塵に、無惨にも。
「物理的に」強制変身解除された侑は、その衝撃を相殺できずに転げる。
そんな侑に興味を持ち、歩夢を優しく離してのちに、近づく。
「うっ……」
「その程度の力で人を守るなど笑止千万——いや、そもそも目的もなく戦う者に勝ち目などないか。」
「目的…?」
「守るべきモノを守らずして何が仮面ライダーだ——ましてやお前らの罪は重いというのに……」
「罪…?何のこと……?」
「お前は『離れて。』——あ?」
立ち上がる……歩夢。
普通の平和ボケした人間ならば気づかないだろうが———この場にいる者はすぐに察知できた。歩夢の立つ周辺の温度が極端に低い……まるで恒温動物の周りに大蛇が一匹潜んでいるかのように。
言う。
「侑ちゃんから今すぐ離れて。」
「……俺は何者にも縛られん。お前の言うことを聞く義務はないが。」
「じゃあ——私はあなたの事……呪います。絶対絶対絶対……呪い殺す。」
「ほう……!」
二者の圧倒的なプレッシャー……もし周りに人がいれば威圧に卒倒していたに違いない。某漫画で例えるならば、強者のオーラといったところか。
そんな時間が数秒流れて……その沈黙が破られる。
「ったく…白けるぜ。」
「————」
歩夢は未だに呪いを掛けんばかりの重い目線を浴びせ続ける……が、視線を侑に変える。
「ま、せいぜい俺のサンドバッグとして鍛えておけ…侑。」
ピカッと閃光の如く一瞬の間であった……
「えっ……消えた!?」
一瞬の幻のようにその姿は消えていた。
————※————
「まさか社長さんがこのドライバーのこと知ってたなんて……」
「あぁ。ゼロワンドライバーは私が復元したものだ———紛失したそれを君が手にしたという情報を手に入れてね…虹ヶ咲学園に顔を出したのもそのためさ。」
「そういうことだったんですか———」
暗くなる道中で侑と歩夢は納得する。
続けてイフトはあの件について、話を拡大させていく。
「それで…スクールアイドル同好会は?」
「廃部になったって生徒会長が———」
「そうか——やはり…か。」
侑が話したことをまるで推察していたような口ぶりに対して、歩夢は疑問を感じる。
「どういうことですか?」
「スクールアイドル———謎の怪人たちが頻繁に会場に現れ、人が襲われている。仮面ライダーとはその怪人を倒すため蘇ったテクノロジーだ。」
「何で怪人たちはスクールアイドルを……」
「さぁ。たまたまかもしれない——だが、私はそれでもスクールアイドルは存在するべきだと思っている。」
「どうしてそこまで……?」
歩夢はイフトに聞く……彼は自信ありげな笑みでこう答える。
「自分の好きなことを追求できる場所……それがスクールアイドルの根っこだ——自分を曝け出せる場所を応援しない手はないだろう?」
「「————」」
「おっと……少し時間も押している———また、学校で会おうじゃないか。」
イフトはそう言い残して別の道へと歩き去っていく。
歩夢と侑……生まれてからずっと一緒にいるこの2人が再び歩き始める。ただ——違うモノがある。
「明日は数学のテスト……って歩夢?」
「侑ちゃん——」
足を止める歩夢……ちょうど大きな階段が2人を交差するように。
何気ない世界に見える神秘的な光景——歩夢は口を動かす。
「2人で……2人で始めよう?」
「歩夢———」
「私ね……動画、見たんだ———せつ菜ちゃんだけじゃなく。侑ちゃんが思ったみたいに、私も凄いって思った!!あんなに自分を曝け出して、ダイスキを伝えられるなんて……!私もあんな風になれたら何て素敵だろうって……^_^!」
想い溢れる歩夢……想いをただひたすらに伝える——自分の半身に。
「困難は多いかもしれない……でも——あなたが私を守ってくれるなら!」
「!」
歩夢は侑のゼロワンドライバーを取り出して、それを彼女の胸に当てる。
「これは運命……ようやく分かったの。この力はあなたが夢を守るためにあるんだって——私は…あなたの側で……虹を掛けたい!!」
「…!」
「私!スクールアイドル……やってみたい!!!」
叫ぶ想い——好きな気持ちを抑え込むなど……できないのだ。
ただ1人ではできないかもしれない。しかし2人であれば…………
「だから……私と夢を見てくれる?」
彼女が手を差し出す……
何処かで見たような光景———一度だけとは思えない。彼女の優しく、温かいその手……
侑は握った。
「もちろん!——私はいつでも歩夢の側にいるよ?」
「///………うん!」
運命を謳う歌が……始まる。
Dream with You(歌:上原歩夢)
〜〜〜〜〜
太陽よ……あなたは天から堕ちてしまった。
下ではさらなる悲劇は待ち構えていることだろう。
しかし絶望してはいけない。同時に希望にぬか喜びしてはいけない。
自由に生きることを諦めてはいけない。好きに生きることを諦めてはならない。
上にあるかの如く下にあれ———
「自由への意志など止めることはできない……何が起ころうとも。」
俺は笑った。
L3話 流れ出るWolf【オオカミ】の性
前書き
ちなみに曲名が記されてから、FINと記されるまでは挿入歌が劇中にて流れております。
「いい加減にしてくれ!どうしてそこまで……学校のために死ぬというのか!?」
男の怒号が飛ぶ……しかしその妻は揺るぎない目で夫に語る。
「ええ。全てはあの子たち……恋(れん)のためよ。」
「恋はまだ子どもだ!君が真意を語らずして、君を正しいなどと思えるはずがない!」
男は動揺を隠せない……その頭を掻きむしり、懐にしまっていた封筒を彼女の前に叩きつける———検査結果と記されているモノだ。
「花……君は生まれつき体が弱い。その体で無理をしすぎた——その結果、この年齢にしてステージ3の乳ガンだ。」
「……」
「学校創立をやめろとはこの際言わない。しかし治療だけは受けてくれ!このままでは余命宣告も秒読みだ!!」
「いいえ。やらないわ。」
キッパリと断る「花」と呼ばれる彼女……その強い言葉を紡いでいく。
「私の命はもう長くない……あの子を産んだ時に、そう神様に言われた気がしたの——そしてあの子が神様が宿らせてくれた子だとも。私は恋のためにやれる事をやってるの……あの子が見る未来の礎を作るのよ。」
「くそっ……なぜ——分かってくれないんだ……!」
男はひどく怒り……いや、何かに怯えるようにその部屋を去っていく———
一筋の涙を隠して。
「許してくれ……こんな弱い私を。」
〜〜〜〜〜
時は流れた———成長した恋……葉月恋は、父と母を飾られた家族写真にて回顧する。
「結局…お母様は何がしたかったのでしょうか——」
「「………」」
迷える恋……その心を抱きながら、飼っている大型犬チビとメイドのサヤを見つめる———複雑な心境は顔に現れそうになるが、彼女は何とか心を押し殺す。
「サヤ、行ってきます。」
「いってらっしゃいませ、お嬢様。」
「チビも。」
「ワゥ!」
母が繋いだ結ヶ丘高等学校……その一期生入学式の朝の話である。
————※————
「ココア…!」
提供されたココア——マンマルがプリントされたカップを啜る可可。
「あぁチョコワタルシミ…!」
「逆……だろ。」
「まだ才さん居たんだ…」
俺 伊口才は2つ隣の席で、同じくココアを嗜んでいる「好青年に見える好々爺」である……さて、俺は彼女らの話を流しながら、やるべき事をやる———え?お前名医だろって?そんなのオートメーション化してるので問題なしなので。
ざて、俺も同じくココアに砂糖10個を入れて啜る……いや、ツッコミは不要だ。先に進めよう。
かのんは誰にも聞かれないようにコソッと話を始める。
「あのね?私やっぱりスクールアイドルには……!」
「そんなことナイです!スクールアイドルは誰だってなれます。」
かのんの気遣い虚しく、可可は普通のトーンで話をする。よって澁谷母と妹のありあが、驚きを示す。
「アイドル!?」
「お姉ちゃんが!?」
「うるさいなぁ!話聞かないで!!」
家の中でのJK…まぁ、これくらい内弁慶なのも愛嬌があってよろしい。
しかし、かのんの後ろめたい事情など可可は知ったことではない。
「かのんサンの歌はスバラシイです!朝会った時、『コノ人だー!』って思いマシた!」
「私の雰囲気見たらわかるでしょ?アイドルってガラじゃないんだからさ…!」
「ソンなコトありません!かのんさんとってもカワイイです!」
ココアのマグカップを置いて、クスクスと笑う俺。
「くくく……どストレートに——可愛い……かw」
「才さんも黙っててよ!」
「……?」
俺の方を見た可可……首を傾げてかのんに尋ねる。
「アノ人はかのんさんのお兄さんですか?」
「えっ!?違う違う!——あの人は伊口才さん。隣でお医者さんやってる人で、このカフェの常連さん。あと速人くんたちの師匠。」
「あぁ…!———ところで1つイイですか?」
「?」
打って変わって、人にバレないようにかのんに話を持ちかける。
「ハヤトさんがかのんさんから生まれた剣で変身したのは……本当の話デスよね?」
「!?——そ、それは……」
流石にこの話は表立っては話せない…というより、話しても信じてもらえない可能性がある。
少し迷ったかのんだが、ここは思いきって答える。
「本当の話。未だに信じられないけど、その剣が速人くんの手元にあるから……」
「……!」
何か決心したように可可はかのんの瞳を見つめると、自分のリュックからゴソゴソと何かを取り出し始める。
そして……30cm程度のソレをテーブルに置く。
「これって……!」
「可可がかなり前から持っていたモノです。ハヤトさんの持つ剣がこれに似ている気がシマした。」
速人の所持している火炎剣烈火とほぼ同じ……異なるのはエンブレムが流れ出る水のような青である点。これはまさに———
「水勢剣流水…」
「才さん?」
「いいところに持ってきたな、可可。」
「……?」
ミニチュアのようなその剣を握る俺…するとその剣の刀身はみるみる伸びて———100cmほどにその大きさを変える。
【水勢剣流水!】
「「伸びた…!」」
「これが2本目か———さて、そろそろ出てきたらどうだ?」
俺はどこともない虚空に向かって話し始める……一瞬戸惑うかのんと可可だったが、すぐにその理由は明らかとなる。
ひょこっと影が2つ、カフェの扉を開ける。
「やっぱりバレてたか…流石師匠。」
「速人くんと那由多くん!?どうしてここにいるって……!?」
「こ、これには〜事情が色々あって——」
那由多が誤魔化そうと奮闘……無論、虚しいものだ。
対照的に、そんな未練を既に捨てていた速人はスパッと回答する。
「さっき学校で物凄い「精神の力」が見えた——それこそ湧き出る滝のような…だ。でもその正体も今わかったよ。」
「マサカ……!」
可可が口を抑えて、これから知らされる驚きを示す……仕草と顔がちょっと可愛い。
速人はこの俺を見つめ、その考えを白日の下に晒す——BRAVE DRAGONと描かれた小さく赤い本を俺に提示して。
「この本を俺のポケットに入れたのは師匠だったんだな?」
「「「えっ…!?」」」
「可可のリュックに背負っていたミニチュアの剣が伸びるのも……その剣の扱いがわかってるのも、その理由になる。」
流石……知恵者か。
俺はマグカップを丁寧に置き、速人の目を見つめ返す。
「……そうだ。お前には力を手に入れる運命にある——そして、かのんと可可を追ってここに来たのも、また運命だ。」
「「「「え…?」」」」
俺の言葉に拍子抜ける一同……俺は視線を彼方へと逸らし、昔話のように語り始める。
「太古の昔、人々は1人の巫女の下に治っていた……その歌と踊りによって人々の英気や心を癒した———これを模って偶像【アイドル】が作られた。それは知っているな?」
「はい。その巫女がアイドルの原型で、スクールアイドルはそれをより原点回帰したモノ——スクールアイドルの歴史にはこう記されてイマシタ。」
俺の疑問に、スクールアイドル好きの可可は難なく答える……ここまではこの界隈においては常識だ——ここからは、そういうわけにはいかないだろうが。
「しかし、それだけでは人を守れない——人間が怪人化する現象は太古から実在していたそうだ。そこで知恵と屈強さを併せ持つ強力な者を、巫女の下に据えた……その名を『仮面ライダー』という。」
「仮面ライダー?…って、あの鎧を纏う技術のこと?」
「そうだ、かのん———スクールアイドルがあるところに怪人がなぜか多発するという……速人、那由多。もしこの2人がスクールアイドルをやると言うのなら……わかるな?」
俺は男2人に視線を向ける……ここで覚悟のない目であれば、仮面ライダーになる資格はない———否、そんな性根を持つ弟子たちなど俺にはいない。
———が、ここでかのんが俺の前に迫る。
「ちょ、ちょっと待って!話が早すぎるよ!」
「……そうか?」
「才さん、私はスクールアイドルをやるなんて決めてないし……私は——
「『人前で歌が歌えない』———俺が知らないと思ったか?」
「っっ!」
自分と親しい人間しか知らない事情……知らないだろう俺に言い当てられて、驚くかのん。
しかし今は、彼女の気持ちなど知った話ではない———話を続ける。
「俺が敢えて言おう——自分の心が本当に求めているのは何か……決める時が来たんじゃないのか?」
「うぅぅぅ///———才さんのバカ!そんなの自分がよくわかってる!!言わないでよ!!!」
「おい!」
ガシャン!
那由多の静止も虚しく、かのんは家を飛び出して行ってしまう。
「全く……師匠の説教は心抉るぜ。」ガシャン
「かのんさん、ハヤトさん…!私『たち』も追いマショウ!」
「え、ちょ、ごわぁぁぁぁ!!」
速人がいち早くかのんを追う……それに続いて、可可が遅れて飛び出る———那由多を巻き込んで。(こいつ何時も巻き込まれてんなぁ。)
静粛の戻ったカフェで、俺は澁谷母に向かって一言謝っておく。
「すまん。また説教してしまったぜ……」
「いえいえwもうあの子が生まれてからずっとの話だから……w」
「だが——これでいいと確信している。」
甘くないココアを飲み干す。
————※————
「「かのん(さん)〜!?」」
出遅れた可可と那由多は、かのんと速人を見失ってしまう。
「ドコに行ったのですか…?」
「さぁ…?この辺りじゃないのか——?」
那由多がキョロキョロと周りを確かめる———
ゾワッ
「!?!?」
刹那、冷ややかな空気が那由多の背中へと伝わる……明らかに嫌な雰囲気を醸し出す。
しかし彼以外の人間にはわからないようだ。
「何だこの感じ……何か来るのか?」
「ドウしました?」
「———どうする…?」
ここに可可を置いておくのは都合が悪い……二手に別れさせたい。しかし問題はどこを仮目標に進ませるか。
長考する時間などないし、考えればドツボにハマる那由多に残されたのは天啓のみ———信じて言う。
「近くに公園がある。そこに行ったかもしれねぇ……2つあるから、お前はあっちの公園に行ってくれ!」
「え、ワカリマシタ…!」
可可は那由多に背を向けて走り去っていった——
「さて……何が来る?」
那由多の野生の勘……それは現実のものとなる。
キャー!うわぁァァァ!
「……!」
那由多は再び目にする———異形の怪物。
ちょうどショベルのような剛腕を左に装備した赤いロボット……名をガットンバグスターというとか。そんな名前を気にする暇は逃げ惑う人々にはない。
『システム起動。レベル20。』
「あ…?トゥエン……何っつった?——って、今はそんなの気にしてる場合じゃねぇ!」
那由多は———かのエルシャム王を名乗る小原魁に渡された……青でコーティングされた特殊な拳銃を取り出す。
ショットライザーと言ったか……その銃でガットンを2、3発撃つ——鋼の体に対しては、当然効果はない。
『ターゲット変更。』
「やっぱりコレを使わなきゃいけねぇのか…!」
那由多のもう一方の手に握られた直方体……ウルフのプログライズキー。普通なら使い方を教えてもらっているはずだが……教えてもらってない。そもそも教えてもらっても、忘れているだろうが——
【ショットライザー!】
銃型ドライバーを腰に装着する那由多。
とりあえずスイッチらしきものを押して、こじ開けられそうな箇所を開けようとする。
【BULLET!】
「え、開かない!?——いや!俺の直感はこう開けろっつってる!」
『ウィーンガシャンウィーンガシャン』
「うおおおおお!——アイツにできて……俺にできないことが……あるかよぉぉぉぉ!!!!」
ガットンは迫ってくる……
もはや那由多の開け方が間違っているとかどうとか———そんなの彼の頭にはなかった。彼には速人のような柔軟かつ卓抜な頭脳はない。しかしそれに見合う力……相手をごり押す力がある。
スマートに戦わない……これもまた戦闘の極意だ。
野生の本能こそ———全てを守る力となりうる。
メキメキ……カチャ!
開いた。
「行くぜ!」
【Authorize!】
【Kamen Rider...Kamen Rider...】
ベルトから銃の部分を切り離し、ガットンにその銃口を向ける———
「変身!」
【ショットライズ!】
【シューティングウルフ!】
ショットライザーが放たれた弾丸……その弾はガットンを強襲すると思いきや、那由多の方へと向かう———彼は本能の赴くままに、その弾丸を……ぶん殴る!
その瞬間、装甲が展開され———狼のような容貌の戦士へと姿を変える。
【The elevation increases as the bullet is fired.】
狼の凶暴性と同時に猪突猛進さ……何より熱い想いを秘めたライダー——
仮面ライダーバルカン シューティングウルフ。
「テメェを……超える!」
〜〜〜〜〜
「待てってかのん!」
「離して速人くん!」
街中で駆ける女を追いかける男という、嫌な構図になっていた。とうとう昔馴染みの公園に辿り着いたところで、速人はかのんの肩に手をかける。
最初は抵抗していたかのんだが、しばらくして気分が落ち着いてきたのか速人にその胸の内を話し始める。
「私って何で歌えないんだろ……緊張なんかしてないのに、人の前に出るとまるで呪いでもかかったみたいに歌えないの!」
「それは……」
「もうウンザリなの!私が歌えないことで他の人が落ち込むのも!何より自分が不甲斐なくて……!!!」
かのんが叫ぶ苦しみ。これを理解できるのは速人の左目……精神を見透かす目しかあるまい。この苦しみが———速人の心をも抉る。
でも……
「俺はお前の歌が好きだ。」
「え…?」
「お前の苦しみは痛いほどわかる……お前は他人のことを結べる優しくて活発な娘だ。だからみんなに迷惑をかけたくない——でも、お前のために歌ったことはないんじゃないか?」
「私のために……?」
「スクールアイドルは自分もみんなも喜ばせられるモノだ——可可を見ていればそれが嫌ほどわかる。」
「でも……」
かのんは再び顔を背ける———が、そこに勇気あるカタコトの声が響く。
「だったら……可可はかのんさんが歌えるようになるまで待ちマス!」
「可可ちゃん———!」
「約束シマス!かのんさんが歌えるようになるまで諦めないって……約束シマス!!」
可可はその期待に溢れた言葉を続ける————
「かのんさんは歌がスキです!こんな可可を一人でも応援してクレました!!可可はそんなかのんさんだからこそ、一緒にスクールアイドルがしたいデス!!」
「でもそのまま一生歌えなかったら……」
もう大空へと飛びそうな時に、かのんが発したネガティヴ。
だが……見えた。見えた。見えた。
速人の目に———その未来を見通す目に、最高最善の未来が。
「———歌えるさ。」
「えっ?」
「実はお前には言ってなかったんだけどさ、つい最近までお前の未来が見えなかったんだよ———でも今、はっきり見えた。」
速人はかのんの心が生み出した聖剣 火炎剣烈火を100cmサイズに顕現させる。その勇気の証のような剣を、彼も含め3人が囲う中央に突き刺す。
「この剣はかのん、お前のキモチから生まれた剣だ——さっき師匠はこう言うつもりだった……『お前たちの側でその歌を聴き、それを守れ。』」
「側で……?」
「俺はお前の歌を聴いていたいし、それを守りたい———俺がお前たちの導いてやる……だから。」
唾を飲み込む……言い切るんだ。
「俺のためにも……お前のためにも……全てのために、スクールアイドルという舞台でもう一度歌ってくれ!!」
基本的に冷たい。そう言われてきた速人が見せた熱さ……その言葉は———返される。
白い羽が……舞い降りる。
「速人くん———私やっぱり……!」
『歌が好きだ!!!!』
未来予報ハレルヤ(歌:Liella!)
〜〜〜〜〜〜
「オラっ!」
『ビビビビ!』
「すげぇ威力……!」
一発の弾丸がガットンに放たれ、先ほどとは比べ物にならないダメージが入る。
仮面ライダーバルカン……獰猛な狼の如く砲弾とはこのことか。
『ビビビビ!』
「連弾喰らえゴラァ!」
『ウィーンガシャンウィーンガシャン』
「つっても、頑丈さは相変わらずか———ん?コイツは……!」
彼のベルトに下げられていたミニチュア……いや、先ほど見た水勢剣流水。
おそらくポケットに入れられたのだろう———早速その水の剣を真の姿へと変貌させる。
【水勢剣流水!】
「はぁっ!」
ショットライザーをベルト部分に戻し、念じながらその剣で突こうとする……と、突如としてその剣先から超高圧の聖なる水が噴き出る。
清めの水を思いっきり食らってしまうガットン。異変はすぐに起こる。
『ガガガ…システム一部故障。動作速度5割低下。』
「あ…?動きが鈍くなんのか———なら狙わせてもらうぜ!」
水勢剣による唐竹割りが見事炸裂する。
機械は水没に弱い……水勢剣の高圧水流に、那由多の剛力はガットンにとっては相性が悪すぎる。
電流見えるガットンに那由多は蹴りを入れて、距離を取らせる。
「そろそろ必殺か——師匠はキックこそ華って言ったが……速人のマネはしねぇよ。」
『ググギ…』
「これは……こうか?」
【BULLET!】
【ウルフ! ふむふむ。】
バルカンは水勢剣にウルフのプログライズキーを読み込ませる……皆が知る歴史ではそんなことできないのかもしれないが——そんなことは知らない。
水勢剣からリゾート地を彷彿とさせる待機音が響き始める。
【習得一閃!】
水勢剣で一閃を描くバルカン。その一閃はバルカンを象徴する狼、神聖な水塊で形成された狼がガットンを強襲する。
狼はその水塊の顎でガットンを噛み砕き……その体を水で侵食していく。
火花を上げ、機能をさらに低下させる。
『システムエラー……制御不可……』
「行くぜ……」
【BULLET!】
【シューティングブラスト!】
バルカンは照準を定め———トドメの弾丸……必殺を放つ。
その弾丸は狼のオーラを顕現させ、ガットンの体を飲み込み———木っ端微塵にその機械仕掛けを崩壊させる。
食い残されたのは怪人の素体となる人間のみであった。
「ふぅ……いけた———」
————※————
———FIN
奏でられた歌は街中に響いた……かのんの歌声が。
速人も可可も感嘆の声を上げざるを得ない———もし鳳凰という瑞獣が居るのなら、こんな歌声を奏でるのかもしれない。
とりあえず…
「かのんさんスバラシイデス…!」
「流石。」
歌うことに熱中していたかのん。彼ら2人の言葉によって我に戻る。
「もしかして私……歌えた!?!?」
嬉しくて…嬉しくて……叫びたい!
「やったー!!!!」
【Hyper Time!】
時が…静止する。
その場にいるかのん、可可、速人を除いて———当然何が起こったか飲み込めない。
「えっ!?えっ!?」
「时间停止!?」
「そんなバカな……」
不動なる星が……降臨する。
「おめでとう———かのん。」
「えっ……?」
「「黄金の戦士!?」」
ゲームキャラのような2つの虹彩、全身を覆う黄金と黄金のドレッドヘア、神聖さを感じさせる星のようなツノ……
千砂都が話していた黄金の戦士——かつて、千砂都とかのんが瞬きの中で垣間見た戦士。
だが不審であることに変わりないので、速人は2人を守る形をとる。
「お前…誰だ!?」
「仮面ライダーエグゼイド...ムテキゲーマー。究極の救済をする者だ。」
「究極の救済…?」
難解かつ突拍子もない名乗りに、拍子抜けするかのん。
しかしそんなことは知ったことではない。
「しかしこれでいい気になるな——お前たちの話はここから始まったんだということを忘れるな。」
「始まった?一体何を…?」
「お前たちが経験した楽しさ…嬉しさ…絶望。これからもそれは襲い続ける——それは決して偶然起こることではない。この世で起こる全ての出来事は必然だ。」
「「「……?」」」
「では———また会おう。」
エグゼイドと名乗る者は去っていく——
予想外の声が響く。
「待ってクダサイ!——天帝(Tiāndì)!」
「「!?」」
「アナタは可可の……」
時は———動き出す。
虹3話 張り巡るHint【伏線】
明々と煌めく船——東京湾を遊覧する。
豪華客船と揶揄されるそれの内部……レストランの中に男と女が1人。
ドレスコードを満たした2人を側から見れば新婚さん——若年結婚と見られてもおかしくない……気に留められているかは知らないが。
男がため息をついて一言。
「帰りたい。」
「だーめ♡」
「独り言っぽく思われたくねぇからもう一回言っとくわ。帰りたいです。」
「私も何回も言うよ?——ダメなものはだーめ♡」
さて、この物語の語り手——俺 伊口才はこの目の前にいる女……スカイブルーの瞳にアッシュのボブカットの彼女 渡辺曜に見ての通り東京湾クルーズに拘束されてます。
助けて。
「まぁいいじゃん……せっかく『Aqoursがこっちに来た』って言うのに。」
「———9つの人格が別々に現れるか、Aqoursの9人の統合人格で話すか……こっちではそれが選べるんだったな?」
「そうだよ。もうすぐ梨子ちゃんに交代かな。」
「人格も肉体の大小も上手いこと操れるのも便利な話だ。」
「けどまーくんは大きい方が好きだもんね〜」
「————」
ナニが大きいかは想像に任せるが…BとHで解ってくれ。
明確な言及は避けたいが、彼女の心の深層には残り8人のAqoursメンバーが見ている……統合人格とはその9人全てが記憶も人格も共有した単一の人格である状態時——端的に言えば神モードとでも。
何を言っているのかよくわからない……その理由は人知を超えたのが神である。とでも言っておこうか。
さて、話を続けよう。
「あの子たちも成長してる……楽しみだけど、やっぱり寂しいよ。」
「———言っておくが、アイツらに過干渉は許さん。以前俺たちが自分達に干渉したのは自分自身だったから……干渉するのは一見明らかな道標を見せるだけだ。」
「わかってるよ!!」
「なんでそんなに怒ってんだよ…」
ぷくーっと顔を膨らませ、不満を露にする曜。そのまま俺を睨んで言葉を発する。
「まーくん、あの子たちの事愛してるの?」
「当たり前だ。」
「私にはそうは思えないなぁ……」
「お前『ら』と俺とでは愛の形が違う。ただそれだけの話……慈愛は人を堕落させ、邪悪な支配欲を人に抱かせることへとつながる。俺は支配が大嫌いだ。」
「支配なんて私も嫌いだよ。でも全ての人に慈愛を与えなきゃ不平等……私はそうありたい。」
「———とりあえず、俺は好きにやらせてもらう。」
乱暴に切った高級感あるハンバーグを口に放り込む。それを見た曜はため息をついてしまう……が、すぐさま目にハートが浮かぶ。
「困った人……でもそんなところも———♡」
「完食したら帰『そんなわけないでしょ?』
「梨子ちゃんの次はルビィちゃんだし、その後ベッドに入ったら……キャッ♡」
「2000億歳の若作りババアが乙女面は引くなぁ…」
「———何か言った?」ニコニコ
「空耳空耳。」
このAqours様めんどくさい……
————※————
虹ヶ咲学園生徒会室の手前…
「作戦開始です…!」
怪しげなサングラスにマスクを着用した不審者……もとい、中須かすみは青眼の白猫を抱えて生徒会室に忍び込もうと企む。
いかにも子供らしく、単純明快な作戦———ある意味、普通の人間っぽいかもしれん。
しかしそこに…アノ男が現れる。
「おや、君は…中須かすみ君じゃないか。」
「げっ!あなたは…伊口イフト——先生!?いつ先生になったんですか!?」
「なぁに。ちょっとしたカミワザさ。」
かすみはふと彼がつけていたネームプレートが、教師用であることに気づく……しかしイフトは両方の人差し指と中指を曲げて、誤魔化す。
逆にイフトは彼女の挙動不審さを疑問に思う。
「ところで君はこんなところで一体何を……?」
「いや〜それは……」
あたふたするかすみ……しかし意を決して、とある行動に出る。
「きゃー猫よー(棒)」
「……」
圧倒的棒読みで生徒会室の前で叫ぶかすみ。それに対して何事かと出てきたのは———生徒会長 中川菜々。かすみはその猫を……生徒会長にぶつける(!?)。
たまらず倒れ込む菜々であるが、すぐさま立ち上がってその猫を追いかけていく——一抜け。
しばらくすると中に入っていたセクシーな女性……ウルフカットの青黒髪のロイヤルブルーの目を持つ娘が出て行く。
「あの娘は……」
「今がチャンス!サササ……」
「かすみ——健闘を祈るよ。」
生徒会室に忍び込んだかすみを見届けたイフト。何気に呼び捨てにしている。
さて、彼がその場から離れたのち、方向転換して向かった先は————
「ライフデザイン学科 朝香果林君。」
「あなた——何処かで……」
「伊口イフト。イフトで結構だ。私はとある理由でこの学校で教鞭をとっているのだが…少し協力してほしいことがある。」
「私に?」
「あぁ……君のお友達のためにもなるだろう。」
————※————
ゆりかもめ———お台場を踊るように繋ぐ鉄道。この路線は虹ヶ咲学園の通学によく使われている。
そしてこの2人も———
「どうするの侑ちゃん?」
「何が?」
「スクールアイドル始めるのはいいけど、どうやって始めるのかな?」
「うーん……そっか———」
侑は歩夢に聞かれたことを考え……少し黙り込んでしまう。
スクールアイドル同好会は既に廃部になってしまった。故に入部という道は実質的に断たれたと言ってもいい。かと言って、虹ヶ咲のネームを使わずに独自でアイドル活動をするのも少し無謀さが否めない。
考えるうちに、無意識の中で侑は右胸へと手をやっていた……すると。
「痛っ!!!」
「侑ちゃん!?どうしたの!?」
「何か胸が痛い……もしかして…あの時の———」
この痛みは間違いなく、エグゼイドと名乗るライダーが放ったパンチによるものだ。
エグゼイド ムテキゲーマー———その圧倒的なパンチは君たちの知るムテキゲーマーよりも遥かに強力で、底知れぬ強さを見せている。
その一撃はゼロワンの装甲を意図も容易く崩壊させた……むしろ、その程度の怪我と損害で済ませるように調整されているとすれば……恐ろしいのではないか?
「大丈夫?病院は行かなくて?」
「う、うん。平気、平気。」
「無理しないでよ?———それにしてもあの人……私のユーちゃんを……許せない許せない……」ボソボソ
「ん?どうかした?」
「ううん。自分のことも大切にしてねって思ってたの。」ニコニコ
「ありがと歩夢♪」
一瞬ハイライトの消えた歩夢だが、侑に感謝されたことで一気に目が輝きを取り戻す。
彼女の秘められた激情……怒りか悲しみか。侑を傷つけられた瞬間に人が変わったように呪詛を送り続けた———その先に何があるかは見ものである。
————※————
「あのイジワル生徒会長!!」
カフェテリアでボヤく普通の人間 中須かすみ……歯軋りさせてコッペパンを噛みちぎる。
そんな彼女の頭を撫でる少女が1人。
「怖かったね……でも生徒会室に忍び込んだりするからだよ?」
「グゥ〜!」
怒り収まらぬかすみ———彼女の目的……それは部室のネームプレートの奪還及び、部室復活。奪還は成功した。
しかし肝心の部室は——ワンダフォーゲル部に乗っ取られていた。
その負けを遠吠えしたくて今に至るというわけだ。
「そっか……部室無くなっちゃったんだ————」
落ち込む少女……彼女の名は桜坂しずく。かすみと同じく一年生のスクールアイドル同好会のメンバー。演劇部と掛け持ちしている面倒見のいい淑女。
かすみはそんな彼女に檄を飛ばす。
「こうなったら徹底抗戦だよしず子!」
「えぇ……」
「何その反応!このままだとスクールアイドル同好会は本当に無くなっちゃうんだよ!?」
「それはわかってるんだけど———」
『策なき者に抵抗はできないよ。』
「「!?」」
再びかすみの前に現れる———この男 伊口イフト。何か重厚感のあるBGMが流れてそうな登場……失敬、話がそれた。
イフトは再びかすみとその側にいるしずくに話しかけるため、カフェテリアの席を共有する。
「またあなたですか!?いくら先生でも付きまとうのはストーカーですよ!!」
「別に付き纏ってるつもりはない。ただ……少しキミ達のソレに協力したいんだよ。」
「協力——どういうことですか?」
しずくはイフトに尋ねる。その問いをイフトは待っていたように続ける。
「私はスクールアイドルというコンテンツを盛り上げる……そのささやかな応援をさせてもらっている。」
「「はぁ……」」
「かすみ、是非キミに会ってみて欲しい人がいるのだが……」
「会って欲しい人?」
「あぁ。端的に言うなら———入部希望者だ。」
「ほ、ホントですか!?」
イフトはかすみの強い問いに頷く。
「それを先に言ってくださいよ〜!」
「あと……行くなら早い方がいい。」
「じゃあ早速行ってきまーす!!」
「ふっ…チョロいぜ」と言われても致し方ないスピードでカフェテリアを出ていったかすみ———これもイフトの脳内の計画のうちか。
イフトは……残されたしずくの方を向く。
「キミにも頼みたいことがある……桜坂しずく。」
「私にもですか?」
「キミは演劇部と掛け持ち、同好会に足を運びづらくなる理由も検討がつく———今回はそれを利用させてくれ。」
「利用ですか……?」
着々と進むイフトの立て直し計画……その真相はいかに。
————※————
富士山麓王宮———宮殿の主人、小原魁はプライベートルームのソファで寝転がる。
「あぁ……疲れた。」
「今日は随分飛び回ったね〜ベトナムにアラスカ、チリにニュージーランドまで。」
彼の唯一無二の妻 渡辺月は今日の出来事を振り返る———少し違和感を感じた方は正常な感性を持っておられる……世界を飛び回りすぎている。その理由は後ほど語られるだろう。
さて魁はすぐにソファから立ち上がり、部屋をゆっくりと回り始める。
「だがハニー、俺たちの仕事はまだまだあるよ———いや正確には一生終わることもないだろう。」
エルシャム王 小原魁は部屋を彩るステンドグラスを見つめる……
3人の等身大の人間。
剣を持った黒髪黒眼の父と、みかんに似た果実を持つプリズム髪の母。そして父母と手を繋ぐ輝くプリズム髪と黒眼を持った子———さらにその3人を回る翼を持つ小さき子供たち……
母の愛に感服し、父の剣に畏怖し、長兄たる子に従う天使———太陽系を内包する、宇宙的な存在を匂わせる。
まさに神秘的なステンドグラス。
「神は願いなど叶えないし、話などしてはくれない———そんなことできるのはごく少数。俺たちは伝説を生きてきたんだ……それが今でもよくわかるよ。」
「そっか———『もう』神様だもんね。」
「世間では不死の人間が誕生するのではと騒がれているが……そんなことは絶対にない。人間はいずれ死を迎えなくてはならない———その時を決めるのは神であって、『人間の自我』のような薄っぺらいものじゃない。」
不死の人間が増えること……それでは秩序は乱れてしまう。創造する神あれば、破壊する神も存在する。未知を求め人は人生を歩むが、たどり着く先は破壊であり、究極の自由である。
逆に人生は束縛から始まっているのだ。胎児とは見方を変えれば、究極の束縛を受けている。
「不死の人間は使命を受けた者にしか与えられない……俺たち2人もそうであるように。」
「そっか…私たちに『見えた』ってことはそういうことかぁ。」
「あぁ、俺たちは人間があるべき姿でいるかどうかを監視するのが使命———王国を建てた今となってはね。」
コンコンコン………ガチャ
ノックとともに入ってくる黒いタキシードの老年男性を先頭に、同じ服装の男が4人———執事と言ったところか。
彼らは大きな絵を部屋へと運んできた。
「王様、王妃様。お申し付けのモノをお持ちしました。」
「おっと、随分早かったね〜」
「えぇ王妃様。ある少女が保有しておりましたので、1ケースで快く受け入れてくれました。」
「そうか……早速見せてくれ。」
執事たちが絵を立てる。
描かれていたのは……イコン画。
まず目を見張るのは絵の9割を占めている、大いなる母神のようなモノであろう。
母神の体の中で全てが動いている——まさに宇宙そのもの。
次に目立つのは、その大いなる母神の伴侶たる大いなる父神が母神が手に持つ禁断の箱に太刀を向けている。
母神の一部である世界の中で、神らしき人物とその門番たる赤と青の天使。
その下にいるのが———7人の最高位天使たち。
ただ1人、その顔を背ける者……もう1人、その天使を見つめる天使。
その下の段では胸に短剣を刺されて墜落する最高位天使が見え、堕天使を必死に追いかける天使が1人……よく見ると父なる神の刃に対抗する剣を向けているように見える。
さらにその下に描かれる物語は———
「伝説通りか……コピーは一般に流出しているのか?」
「はい王様。すでに20年前には複製されたモノがあるようです。」
「そうか——ならいい。この部屋の空きスペースに飾っておこう。」
「しかと心得ました。」
不思議なイコン———そこに描かれたモノとは……?
「さ、そろそろ行かなきゃな……」
魁はマントを靡かせてその部屋を出る———
そして、王宮の屋上まで———大時計が置かれた不思議さ漂う城の頂上。
魁がやってくることを見計らったようにやってくる……黒を基調としたコウモリもどき。
魁は話しかける。
「2ヶ月ぶりか———変身するのは。」
『いいや、1ヶ月と29日だ。』パタパタ
「変わらんじゃないか。」
『それで……本格的に動くんだな?』
「あぁ——行くぞ『キバット』!」
『良かろう……久々の絶滅タイムだ!!』
キバットと呼ばれた黒のコウモリもどきは———魁の左手に噛みつき……力を注ぐ。
【ガブリ!】
噛まれた手は血管が浮き出し、顔にステンドグラスのような模様が現れる。
「変身……!」
闇の鎧が形成される。
血のような赤を基調とした装甲に、黒い羽根のような胸部装甲、胸の中央付近に濃いエメラルドが3つ縦に並ぶ。
エメラルドの複眼を持つ王にふさわしい仮面ライダー。
「仮面ライダーダークキバ……王の斡旋である。行くぞ!キャッスルドラン!!」
王宮から……龍が生える。翼が生える。
そう、この城の名はキャッスルドラン。胴体が城となったドラゴン……いわば生きた城である。
キャッスルドランは夜空に飛び立つ———
「気持ちいい風だ……このまま東京まで行こうぜ。」
『ガァ〜!』
黒きマントは靡かせる。
後書き
おっと?1ケースで絵を譲った少女って一体誰なんでしょうねぇ?ニコニコ———
L4話 KamenRider 計画
前書き
何か社長さんが侑ちゃんより活躍してんの草。
線路沿いの人通りが少ない道……そこに盟友にしてライバル2人は立っている。
仮面ライダーセイバーこと天羽速人。仮面ライダーバルカンこと中川那由多。
同じ師匠を持ちながら、性格も戦い方も真逆の存在———その2人が今、決闘を始めようとしている。
「速人、今日こそ勝たせてもらうぞ!!」
「その言葉は1000回聞いた。」
「今度は今までの1000回とは訳が違うぜ……何せ、仮面ライダーとしての戦いだからな。」
「!…よかろう。」
速人と那由多は互いに手に入れた変身ベルト———聖剣ソードライバーとショットライザーを腰に装着する。
【聖剣ソードライバー!】
【ショットライザー!】
「「行くぜ……!」」
そして互いに変身アイテム、ブレイブドラゴンワンダーライドブックとウルフプログライズキーを起動し、ベルトにセットする。
【ブレイブドラゴン!】
【BULLET!】
【Authorize!】
那由多はショットライザーをベルトから抜き、速人は火炎剣烈火を抜刀する。
【烈火抜刀!】
【Kamen Rider...Kamen Rider...】
「「変身!!」」
【ブレイブドラゴン!】
【ショットライズ! シューティングウルフ!】
ぶつかる火炎竜と弾丸狼。2体の大いなる獣は持ち主の装甲としての役割を果たし始める。
セイバーとバルカンが……交差する。
「はぁっ!!」
「…!」
開始の合図に、バルカンの弾丸がセイバーへと放たれる。セイバーはその弾丸を動くことなく、首で避ける。
しかしバルカンは諦め悪くショットライザーから弾丸を放ち続ける。多数となると避けきれないので、セイバーは火炎剣でその弾丸の軌道を逸らしつつも、多くを避けていく。
「どうした!?避けてばっかじゃ体力が尽きるだけだぞ!!」
「バカ…テメェも負担あるだろうに。」
「……ちっ!」
「(とはいえ俺の防衛も限度がある——ここは畳み掛けるか。)」
セイバーは火炎剣烈火の力を解放、炎を纏って———トリプルアクセルのジャンプで意表を突きながらバルカンに急接近する。
そして———火炎の一閃を腹部に御見舞いする。
もう一撃入れようとするが、バルカンもかろうじてショットライザーで剣を受け止める。
「はぁ……はぁ……2度も…喰らわねぇよ!」
「———成長したな。」
「……お前もな。」
両者は互いに認め合っている。まさにライバルというに相応しい2者。勝敗に差はあれど、実力はほぼ拮抗している。
ただ……トリッキーさを除けば。
「だが、今回もお前の負けだ。」
「あ…?」
「銃を扱うお前が剣を持ってる俺に詰められた時点で、ほぼ負け———そう言ったんだ。」
「んなことはねぇ!俺にも…剣が——ない!?」
「……そういうことだ。」
バルカンは以前、水勢剣流水を成り行きで手にしていたが———それは今セイバーに奪われてしまった。むしろ彼にとっては、それを目的にして接近したという方が正解だろう。
セイバーはバルカンに左ストレートで距離を離す。
「ぐっ……くそーっ!」
「さ、お前の結末は読み切った!」
【必殺読破!】
【烈火抜刀! ドラゴン必殺斬り!】
「ドラゴンクロスラッシュ!」
厨二っぽい技名を即興で考えたセイバー。
火炎剣を持ってくるりと回って、炎の壁を形成。バルカンの目をくらませる。
「くそっ!——イチかバチかだ!!くらえ速人ォ!!」
【シューティングブラスト!】
無謀かつ直情的な弾丸が炎の幕に放たれる———が、炎を掻き分け、突拍子なく向かってくる者が1人。
【ファイヤー!】
「はぁぁぁぁっ!」
「ぐわっ!!」
燃え盛る火炎剣がバルカンの腹を交差する———その一撃はバルカンの装甲を焼き、元の那由多へと戻し、その膝を地に着かせる。
「また負けた…!くそーっ!!!」
那由多は狼のようなな悔しさを吠える。さしずめ負け犬の遠吠えのようなものか。
しかしそこに……現れる。
「それはどうかな?」
「師匠!」
「よく見てみろ。」
那由多は俺の指差す、背後にいるセイバーを見る……と、明らかに疲弊している。剣を杖代わりにしなければ立っていられないほどだ。
「ぐっ……!」
セイバーは限界を迎え、強制的に変身を解除される。そして火炎剣烈火を杖代わりにして立ち上がる速人が、那由多の視界には映し出される。
那由多は何事かと速人に駆け寄る。
「速人!」
「…ちょっと、お前の野性を甘く見てたぜ———」
「まさか……」
速人が自分と同等以上のダメージを受けている……原因は1つしか考えられない。それを俺 伊口才が暴いてやる。
「那由多、お前が闇雲に放った必殺は速人に命中した。速人はそれを無理してお前を斬ったんだ——その結果が、「判定」勝ちだ。お前は判定では負けたが、戦いははまさに紙一重だった。」
「そうだったのか——」
「ただ、一瞬戦いを放棄したのがお前の最期って訳だ。」
「師匠……」
そう、戦いとはまさに「勝てばよかろうなのだ」が真理であるという世界だ。命を応酬する世界では死こそが敗者にふさわしいエンディング。戦いを諦めてはならない……俺は心においてほしいのだ。
俺は那由多の肩を叩く。
「さて、そろそろ学校の時間だ。」
「いっけね!そうだったそうだった!」
「アイツらに言うんだな?」
「あぁ。俺たちは仮面ライダーだ。怪人がラブライブの会場に多い以上……それが1番いいと思う。」
「そうか。」
那由多が先に行くのに続いて、俺はその場を立ち去ろうとする……が、ようやく立ち上がった速人に手をつかまれる。
「———どうした?」
「師匠……アンタは何を知ってるんだ?」
真剣な面持ちで俺に尋ねる速人———整った顔立ちに青と金のオッドアイは普通ならば否応にも真実を話してしまうかもしれない。
が、しかし。
「さぁ?何のことだ?」
「惚けないでくれ。アンタは「仮面ライダー」と言う存在は古代から、スクールアイドルと切り離せないかのように言った。しかしこの世界のどこにもそんな情報は出回ってない。」
「————」
「このワンダーライドブックも……師匠が渡した物だ———一体何が目的なんだ?」
「目的なんてない……ただ、この先お前が辿る運命は少し知っているだけだ。」
俺は黒い瞳を速人に返す———そして続けて言う。
「運命は誰かが運ぶモノじゃない。自分が見るモノだ。俺は運命の進行を円滑にしただけ……もしそれを知りたいのであれば、戦いの中で見つけることだ。」
「————もう1つある。」
「あ?」
「仮面ライダーエグゼイド……この前会った仮面ライダーだ。」
「…そいつが?」
「まるで時間が止まったような———強さの底が知れない黄金の戦士だった。そいつとも戦わなきゃいけないのか……?」
俺は速人に近づき、肩を叩く。
「———それも戦いが教えてくれる。」
「そっか……」
俺は飄々とその場を去った。
————※————
だいすきのうた(歌:澁谷かのん)
「ハンバーグもいい〜!foo!」
ハイテンションさをそのまま歌に乗せたようなメロディが美しい歌声によって、奏でられる。
しかし当然本人以外は、突然澁谷家長女が気でも狂ったかのようにしか感じられない———ただ1人を除いて。
わからない1人の妹 ありあが母に尋ねる。
「何…?」
「私が聞きたいわよ——」
「おっはよー!!」
勢いよく階段を降りてきたかのん。そして妹に悪がらみし始める。
「今日から2年生だね〜?」
「あ、まぁ……」
「じゃあいただきまーす!」
かのんはすぐに食パンを平らげ、マンマルに挨拶したのちに登校していった。
「なんなの!?」
「ポォ……!」
どこからでも———「君を監視している」
————※————
「あぁ〜⤵︎⤵︎ダメだったデスー⤵︎」
「何?どうしたの!?」
死んだ魚の目で机に突っ伏す可可。事情を聞くかのんに、彼女は一枚の髪を見せる———部活申請書と書かれている。
ちょうど唐可可と澁谷かのんと書かれている。
「部活申請書……提出したの?」
「やはりスクールアイドルは必要ないと、葉月さんが……」
「葉月さん?」
「はい、全校集会でスピーチしていたあの人です。聞いたトコロ、部活に関しては暫定的にあの人を中心とした生徒会が管理しているという話になってイマシテ…そこに受理されないと———」
「わかった…今度は私に任せて」
〜〜〜〜〜
「またあなたですか———唐可可さん。」
「ハイ、可可と…!」
「澁谷かのんです。」
「————」
かのんと……生徒会長 葉月恋は対峙する。
すでに彼女らは嫌な空気が流れていることが、周りの者は一瞬で理解できるだろう。案の定、恋は表情を変えることなく凛として話し始める。
「何度も言いましたが、澁谷さん、あなたが言おうとも結論は変わることはありません。」
「どうして?」
「———同じ説明を2度したくないのですが。」
「わかんないよ!!だって部活だよ!?生徒が集まって、やりたいことやって何がいけないの!?」
塩対応にも取られかねない反応に、気の強いかのんは声を荒げる。声に足を止めた恋は、そのまま言葉を発する。
「スクールアイドルにも音楽と言える要素があります。」
「それが?」
「わからないのですか?この結ヶ丘において、音楽に関する活動はあらゆることが他の学校より秀でていなければこの学校の価値が下がってしまいます。」
「つまりレベルの高いモノでないとダメってこと?」
「ソレなら大丈夫です!可可とかのんさんなら——!」
「本当にそう言えますか!?」
可可の自信ありげな声を、語気を強めてかき消す恋。
「スクールアイドルはもはや世界規模での知名度。多くの学校で設立されている中で、あなたたちがこの学校の代表として恥ずかしくない成績を挙げられますか!?」
「やってもないのにそこまで———」
もはや個人的な恨みでも抱いていなければ出てこないようなプレッシャーをかける恋。その言葉にかのんも言葉を詰まりかける。
「できるさ。」
「「「!!!」」」
自信に満ち溢れた声が響く。
一斉に注目を集めた部屋の扉……ガラッと開けられる。
「「速人くん(ハヤトさん)!」」
「あなたが——天羽速人……」
イケメンらしさは行動全てに滲み出ている———その言葉は誠であると信じざるを得ない登場。
速人が恋の前に立ちはだかり、身長の関係上その目線を下ろす。23cmも違う彼に臆することなく、恋は速人を凛として見つめる。
「あなたが天羽さんですか……」
「——へぇ、俺のこと知ってるのか?」
「はい。入学試験で全教科満点で入学したのはあなただけ……そして、さまざまなスポーツの大会を飛び入りで優勝しているという実績もあると聞いています。」
「そりゃどうも……だがスポーツの件はともかく、入学試験は目が冴えただけさ。」
目が冴えた———速人の右眼の話だ。青い右眼は理論的な流れを読破する力…言ってしまえばAIのように予測や計算、結論を出す力か。知識を持っていても応用できなければ意味がない。
この目は自分の知識から、問題への最大限の結論を導こうとする。この目は知識豊富な彼の力を最大限出せよう。
恋は少し失望したように話を続ける。
「そんなあなたがこの私に何か?———まさか、スクールアイドル部の設立を認めろと?」
「そのまさかさ…俺ともう1人のバカが、用心棒兼お手伝いとしてスクールアイドル部に入らせてもらう。」
「ホントですか!?」
「あぁ。」
可可の嬉しそうな聞き返しに、速人は頷いて肯定を示す。
しかし———恋はキッとして、口を開く。
「もう一度言っておきます。あなた達が下手なパフォーマンスを行うことが、この学校の価値を下げることになる。音楽活動に関して他校に遅れをとることは許されません。」
「バーカ。かのんの歌声が他校に遅れをとるわけねぇだろ……俺の聞く限り、コイツの歌声は世界に通用する。」
「随分自信を持って言いますね?あなたが歌うわけでもないのに……」
「俺にはその未来が見える。」
生徒会長キャラには2種類の天敵がいる。1つは超が付くほどのバカ。もう1人は自身よりも賢く、自信満々の相手……隼人は間違いなく後者。後者は同じく理詰めで反論する以上、敵として厄介なことこの上ない。
しかし———結局はこう言ってしまうのだ。
「ともかくトップパフォーマンスをできるという根拠なき理由と部員の少なさから、スクールアイドルは認められません———どうしてもやりたければ他の学校に行くことですね。」
「オイ話は……」
「わかりました———イキマショウ!」
「「…?」」
恋が退出し、残された3人———可可が決意する。
————※————
日本国政府。
エルシャム王国は関東以外の日本列島を実効支配している。
とはいえ支配地域の国民は王国に何一つ不満はない……言ってしまえば日本政府とは「一部の人々」のために、彼らが存続させた政府にすぎない。
その頃から2060年代から始まった怪人の出現———社会問題に、一つの機関が設立された。
政府特務機関ヘラクレス。
怪人の出現を察知し、秘密裏に処理する組織として結成された。隊員はアリのようなヘルメットとチョッキを身につけて活動している。
さて、そんなヘラクレスの司令官 武野剛と長官 土御門政樹が対談している
———多数の判子型のアイテムを机に置いて。
「見たまえ武野くん。これが生物種の遺伝子を現存させた代物……バイスタンプだ。」
「バイスタンプ———以前、プログライズキーというモノを見せてもらいましたが、それとは違うのですか?」
「両者とも変身ドライバーを使用することで仮面ライダーという戦士に姿を変えられるが……生物種のプロトタイプの情報がプログライズキーとすれば、プロトタイプを基に創造された生物の中でも強力な生物遺伝子を保存するモノがバイスタンプだそうだ。」
「はあ……」
いまいち理解ができていない武野司令官。しかし土御門長官は続けて話をする。
「我々は仮面ライダーを高校生から出そうと思っている———そのために、とある学校に我々直属の組織を置いている。」
「……仮面ライダーは若い人材でなければ使いこなせない。そうでしたね?」
「その通りだ。そして今度、その1人を正式に仮面ライダーに変身させようと思っている。君が選定しておいてくれ。」
「了解しました。」
決定事項を伝えた土御門長官はふと立ち上がって、カーテン越しに見える景色を望みながらとある話を打ち明け始める。
「もう15年ほど前か……君はジョカ事件を覚えているかね?」
「はい。中国 上海にて起こった化学研究所の爆発事故———怪人が大量発生し、五千人が犠牲になった悲惨な事故でした。」
「そうだ……表向きはな。」
長官は少し興奮気味に指を差しながら、話を続ける。
「防犯カメラが捉えたのだよ。黄金に輝く謎の戦士が歩く姿をな。」
「黄金の戦士……公になっていないのはどういうことですか?」
「よくぞ聞いてくれた——その戦士は驚くべきことに光の如くスピードで最高機密を盗み出したと話しているよ。」
「光の速度?そんな馬鹿げたことが——いや、そうでなければ今でも逃亡など不可能か…」
「興味深いことに、最高機密とはとあるドライバーだそうだが———今どこにあるのか……」
何かが動き出す———
————※————
「決意か……乗り越えてやるさ。」
ドライバーを見つめる男が1人……東京のビルの屋上に立つ。
「悪魔だろうが神だろうが、乗り越えてやるさ———それが私の贖罪だ。」
【デモンズドライバー!】
悪魔を携える者が……夜空を駆ける。
虹4話 Birth【誕生】
前書き
最初は神話パートです。
徐々に全貌は明らかになっていきます……無論、ストーリーにも絡んで———
遠い昔———宇宙は開闢され、地球が4度無に帰った後のお話。
最も気高く美しい天使長 ユエルは自ら造った人間への愛ゆえに、父なる神 ハイパーロード/ムテキの命に背き、反抗した罰として9次元を追放され、地球へと追いやられた。
しかし地球へ行くことこそ神々の決定であった。
「ここは…」
目を覚ましたユエルは…否、ユウは自分についてきた天使たちとともに地球に落とされたことを悟る。
堕天させられ、翼を奪われた天使たちの取る感情はさまざまであった。
何をすればいいのかわからない者。かえってこの地上で楽しく生きていくことを決意した者。そして……神に恨みを抱く者もいた。
ユウは自分1人生えている18枚の翼で世界を見回した———すると、1人の女性を見つける。
彼女は地上でユウが造った人間たちに崇められていた女神のような存在であった。崇められると同時に彼女も人間たちに恩恵を与え、同時に死後の道標を示していた。
彼女の名はナンナ———そう、ユエルの妹である。
そんなことも知らないユウは踊る彼女へと近づいた。
「君は何者?」
「私はナンナ。この世を統治するように言われた神の御子です。貴方は?」
「僕はユウ。僕もまた気高き名前を頂いた神の御子。」
いずれも神の御子であることは間違いないのだが、両者ともにその出生を知る事は天界でも地上でもなかった。
そこで両者は同じく生えた翼をはためかせて大空を駆けた。
地球には海とポツンとした島が数カ所だけが存在し、そこにユエルとアユムエルが粘土で創造した人間たちが住んでいた。彼らは4度目の滅亡を迎えた後の人類であり、数は数えられるほどだった。
まさに土台だけが残された地球———
地球を一周したのちに2人に天啓が降りる。
『ユウとナンナ、聞け。』
「「ハイパーロードM様!」」
ユウは自分を追放した父なる神———ハイパーロードMが自分に啓示したことに驚く。ナンナもまた、生涯に一度しかなかったハイパーロードの啓示に驚きを隠せない。
ハイパーロードMは2人に言う。
『ユウよ。お前は罪を犯した。故に神界でも最上位たる9次元から追放せざるを得なかったが……地球を再生させるのをお前の使命とする。これからは俺が地球に送っていた妹 ナンナとともに新たな世界を作り出せ。』
「ハイパーロード様……僕にできるでしょうか?』
『お前は俺とAqoursの子——紛うことなき神の子だ。自分を信じれば自ずと道は開けるであろう。』
ハイパーロードMは2人に宇宙の青さを体現したような剣を授ける。
『これは創造を司る剣 刃王剣クロスセイバーである。本来は最高神しか持つことが許されていない剣だが、その10分の1の力を授ける。今からお前たちは夫婦となり、地球を創造せよ。』
父なる神が決めた唐突な結婚……しかし2人は満更でもなかった———これもまた神の思し召しだろうか。
「僕は君をもっと知りたい——あなたの美しさも、性質も、すべてが愛おしい。」
「私もです!!あなたとともに世界を作りたい……!」
こうして2人は夫婦になり、一つの大きな大陸を作り出した———それこそ超大陸パンゲア、またの名を……ニッポン。
この大陸、そして何より美しい自然を作り出した2人はイザナギ・イザナミなどと呼ばれるようにもなったとか。
希望を見出した半分ほどの天使たちはその大陸に住み、狩猟や採集を行い、豊穣と自らの命があることを神に感謝するようになった———
そしてユウとナンナに子どもが誕生する……その子の名を、ナユタと言った。
————※————
「ぐぬぬ…どうもあの社長にうまく泳がされている気が———」
虹ヶ咲学園内のコンビニ前の屋外スペースにてボヤくかすみ。ここにいるのは紛いなく、社長と呼ぶ伊口イフトの差し金だ。その言葉を半信半疑の中で実行したかすみには当然モヤモヤが残る。胡散臭いさも否めぬのは多くの人が感じるのではなかろうか。
しかし……お目当ての2人がやってくる。
「(むむっ、あの2人は……?)」
「結局スクールアイドルってどうやって始めるんだろう……?」
「スクールなんだから部には入らないといけないんじゃ————」
そう、この2人 高咲侑と上原歩夢。夫婦になる運命が決まっているかのような2人……当然同性なので夫婦とは言えないのかもしれないが、まさに運命の相手であると言って差し支えはなかろう。
その2人話す間に…かすみはポンと肩を叩く。
「せんぱぁ〜い♪スクールアイドルにご興味あるんですか〜?」
突如間に現れたかすみに対し、2人は少しばかり引いてしまう————
かすみは2人を椅子に座らせて、得意技(?)の自己紹介を始める。
「スクールアイドル同好会二代目部長の『かすみん』こと!中須かすみでーす♪」
「スクールアイドル同好会!?本当に!?」
「はい!みんなの大好きプリティーキュートのかすみんです!」
可愛いといえばぶっちぎりで可愛いのかもしれないが、俺に言わせれば痛々しい少女ともいえなくはない。まぁ俺の場合、もっと痛々しくて嫉妬深い妻がいるんですが———その話は置いておこう。
侑と歩夢はそれぞれ名乗る。
「私、高咲侑です!」
「上原歩夢です———でも同好会って廃部になったんじゃ……」
「諦めなければ同好会は永久にフメツです!!」
そう言うとかすみは側に置いた鞄から何かを取り出す……2つのコッペパン。レモン塩カスタードのコッペパンを発売するあの店のに似ている。
「お近づきの印に♪どうぞ♪」
「うわぁ〜いいの!?」
「はい!」
もらったコッペパンをゆうぽむは一口その特製コッペパンを齧る。
「「おいしい!!」」
「これあそこのお店の?」
「ちっちっち〜それはかすみん特製コッペパンですよ♪」
「へぇ〜!流石スクールアイドル!こんなに可愛くて料理もできるんだ!!」
「えっ……カワイイ!?」
単純明快な性格の侑は自分の感情をありのままに伝える。直球な言葉に素直に喜んだかすみは、にやけて自信に溢れたような返答をする————
「そんな〜♪確かにかすみんは可愛くて料理もできちゃいますけど〜」
「………え?」
「侑せんぱーい!見る目ありますね〜!」
「えっ?」
「そうかな?誰が見たってカワイイって思うよ♪」
「…………は?」
「いや〜それほどでも〜!」
この鈍感で天然な侑とデレているかすみには気づかれていないだろうが……歩夢の目の明かりが常夜灯レベルまで堕ちているのはお気づきいただきたい。
以前、侑がエグゼイドに完敗した際に歩夢は呪詛のような言葉を投げかけた。その時の殺気は人間のものとは思えぬ波動、それこそ悪魔か化物でも憑いているかのようであった。しかし、ここで恐怖を抱かれてはいけない。すぐさま感情を消して素面に戻る。
ここでかすみは話を次に飛躍させる。
「じゃあ先輩方、こんなカワイイかすみんとスクールアイドル始めてみませんか?」
「うーん……」
「侑ちゃん(この娘)大丈夫かな…?」
「任せてください!かすみん、サイキョーにカワイイスクールアイドル同好会にして見せますから!!」
「!…かわいい……!」
「かわいい」というワードに反応する歩夢。自信のなさ故に目を逸らしながらも、返答する。
「だったら……始めてみようかな?」
「入部決定ですね!!」
かすみが歩夢の手を取って、その返答を確実なものへと押し進める。と、ここで隣に座っている侑がかすみに向かって言い添えをする。
「ちなみに私はアイドル志望ってわけじゃないんだ。歩夢を応援したくて!!」
「それって専属マネージャーってことですか!?」
「そうなのかな……?」
「ずるいです!それならかすみんのサポートもしてください!!スクールアイドルとしてはかすみんが先輩ですからね〜?部長には絶対服従ですよ♪」
「えっ!?」
てへぺろ顔で甘え気味なかすみ。しかしその行為は割って入ったことで、後ろにいる歩夢の目をますます曇らせるだけである。
そんな顔とは対照的に侑は笑顔で返す。
「わかったよ中須さん。」
「もっと砕けた呼び方で呼んでくださいよ〜!」
「だったら『かすかす』だね♪」ニッコリ
「げっ!何で小学校でのあだ名知ってるんですか!!『かすかす』はダメ!!かすみんです!!」
「中須かすみだから『かすかす』かなって……!」
「もう!2度も言わないでください!!——『かすみん』で売り出してるんだから、それでお願いしますよ!!」
「「そういうことなの……?」」
「さ、これから早速同好会を始めますよ!!ついてきてください!!」
————※————
「さてさて……どうするかな———」
アタッシュケースを持ってお台場を歩く男 伊口イフト。整った顔立ちの天才社長は、色々な理由で虹ヶ咲学園の講師をしている。
そして今、スクールアイドル同好会のために暗躍しているとかすみにレッテルを貼られているが……真相は不明である。
そんな彼だが……その前に妨害が現れる。
「伊口イフト。伊口ファウンデーションのCEOがボディガードも付けずとは…DUCKだぜ?」
「ほう……何者かは知らないが——こんな街中でそんなにゾロゾロと引き連れて大丈夫か?」
「どんな繁華街の中であろうとも、我々はただ任務を遂行するのみ……さぁ、死んでもらおうか。」
黒ずくめの男たち———いわゆるメンインブラック6人は一斉に何かのロゴが描かれたバックル付きのベルトを腰に装着する。
『変身!』
【Complete】
6人の男が変身した姿……その名もライオトルーパー。正体不明だが、目撃例が稀有ながら報告されているライダーである。
当然、イフトもその件は耳にしている。
「いいだろう…ちょうどミニゲームでもやりたいと思っていたところだ。」
イフトは……ピンクのレバーがついたライトグリーンのドライバーを装着する。その名も———
【ゲーマドライバー!】
このドライバーにセットできるガジェットは限られている……そう、ライダーガシャットだ。
彼は自分専用のであろう、紫のガシャットを取り出す。
【マイティアクションX!】
「グレード2……変身!」
【ガシャット!】
【ガチャーン! レベルアップ!】
黒いライダーのパネルを蹴って選択する。
【マイティジャンプ!マイティキック!マイティ〜アクション〜X!】
「あぁ…!」
首を回し、風呂上がりのような心地よさを声に出すこのライダー———その名も、仮面ライダーゲンム。通常のエグゼイドとは対称的なカラーリングのライダー。
早速、ライオトルーパーたちがそれぞれにゲンムに襲い掛かる。
しかしゲンムは体を予測外にくねらせてその襲来を交わしていく。そして最後にかかってきたトルーパーの腕を掴んで、地面に打ち付ける。
「ポゥ!」
「舐め上がって…全員で抑えるぞ!!」
しかし今度は一斉に飛びかかってくるライオトルーパーたち……しかしゲンムは地面に打ち付けた1人の体を5人に放ち、ボーリングのように転かしてしまう。
「ブハハハハァッ!これが神のォ才能だぁぁぁ!!」
「ぐっ……」
テンションが普段の振る舞いからは想像だにできない。そのテンションがまさに、ゾンビよりも予測不可能な動きを可能にしているのかもしれない。
さすがは天才プレジデントか…
「さぁ、もはやキミたちは用済みだ……」
【MIGHTY CRITICAL STRIKE!】
6人にそれぞれにキックをお見舞いする。たまらずライオトルーパーたちは爆発四散する……跡形もなく。
「機密保持のために敗北後は強制死亡か……少しペナルティが重すぎる気もするが———」
バン!
銃声が鳴り響く。
特殊な銃弾がゲンムの眉間を掠める————正確には、掠めるように避けたと言ったところか。
当然、ゲンムは発射位置の方を向く。
「あ…?」
「貴様…何者だ!?」
撃ってきた人物…もといコウモリのような複眼をしたライダーがベルト兼用の銃を構えて、ゲンムに警戒している。
得体の知れぬ者に正体を明かすわけにはいかないので、ゲンムは自分の声にエコーをつけて、身バレを防ぐ。
「何者かと人に聞く前に…自分から名乗るべきじゃないか?」
「いいだろう。俺は仮面ライダーライブ。特務機関ヘラクレスの高等部にて選ばれた仮面ライダーだ!!」
「ヘラクレスか……」
「改めて問う。貴様は何者だ!!」
「私は———仮面ライダーゲンム。」
「じゃあ変身を解除しろ。悪意がないのであれば……!」
「————断る。」
「!!!」
【チュ・ドーン!】
ガシャコンバグヴァイザーのビームガンによる不意をついた攻撃で、仮面ライダーライブの視界を曇らせ、ゲンムは撤退に成功する。
「チッ……逃したか———」
残されたライブは悔しくも変身を解除する。
するとちょうど良く、プライベート用の電話が鳴る。
「はいもしもし?」
『あ、もしもし「はる」?おばあちゃんがネギと卵と豚肉買ってきてって言ってるんだけど頼める?』
「姉ちゃん……俺一応仮公務員なんだけど?」
『まぁまぁ。この電話に出られるってことは暇になったんでしょ?ほら買った買った♪』
「ばぁちゃん怒ると怖いからなぁ……仕方ない。」
「はる」と呼ばれた彼は一体……?
L5話 King【王】の覇気
前書き
Liella編を連続投稿してもいいかなって思てる。
「アノコンチクショウユルスマジ……!!!」
とんでもなく汚い日本語を言い放った可可。ドンと大きな音を立てて、テーブルに一枚の書類を叩きつけて、かのんへと示す。
「かのんサンも書いてください!!」
「これは…?」
「退学届デス!!」
「「「えぇっ!?!?」」」
当事者となって聞いていたかのんはもちろん、その隣で聞いていた速人と那由多。さらにその反響は背後の澁谷母とありあへと波及していく。
「退学!?」
「2日目にして!?」
「そりゃこうなるよ!!」
ツッコむかのんに可可はガチのトーンで話を進める。
「こんな学校にいても仕方アリません。学校を変えてスクールアイドルを始めましょう。」
「いやいや無理でしょ……」
「ダイジョウブ。編入試験で他の学校に行くことがデキマス。」
「行く気満々だなコイツ……」
ため息を吐く那由多。と、そこに速人が可可の隣に座ってその意見を嗜める。
「可可、気持ちはわかるが……編入試験を突破できるかどうかだ。第一、アシストなしじゃ絶対落ちるバカがここにいるわけだし。」
「確かに————」ジーッ
「あぁ?誰が頭ゴリラだゴラァ!」
「幻聴幻聴。」
かのんと速人に見られた那由多は怒るが、知恵者 速人にあしらわれてしまう。
当然長い付き合いもない可可は純真無垢な心でそれを尋ねる。
「えっ、ソウなのですか?」
「うっ……あ、あぁ、え、まぁ、その。」
「なんだよその煮え切らなすぎる返事は。」
純真無垢な可可に「あたおか」がバレるのと自身の嘘吐きの苦手さを突かれて、しどろもどろになる那由多。
結局話題がすり替わってしまって……結論には至らない。
「アウゥ...!ドウしてこうなるデスカ〜!!」
「ごめんね?私に任せてって言っときながら……」
「かのんさんが謝ることナイです!想定の…中です。」
「「「……?」」」
影を落とした可可を速人は見逃さなかった。早速彼は可可に問いかける。
「どんな想定だ?」
「……スクールアイドルをよく思わない人は一定数イマス。そんな人たちに可可は笑われてキマシタ……だから想定内デス。」
「確かたまにニュースになるよね。スクールアイドルの狂信者と反対派の衝突が問題になったり……」
狂信的な信者と反対派……これは右翼と左翼に例えうる。
どちらも論理としては一部正しいが、それを盾に嘘八百を妄信している。
もっとも、人間の心理バイアスであるために治しようがない。しかし他の人の意見を目にするのもまた重要で、真に敬意を払うべきは「意見を持ちながらも、他人に押し付けず、ただ自らがそうある」人間だ。この人間こそ哲学で言うところの中庸に近い。
———このことを速人は師匠である俺から教わり、頭に入れていた。
その上で何をするべきか……速人は思いつく。
「頭が固いやつに何を話しても無駄だ。」
「どういうこと?」
「わざわざ生徒会長に掛け合わずとも、その上に掛け合ってみようぜ……そういうことだ。」
「上…?」
「デスか…?」
かのんと可可が神妙な面持ちの中、那由多が手を叩いて閃いた仕草を見せる。
「わかった!生徒会長の上なら…生徒副会長だな!!」
「「絶対違う(違いマス)」」
「お前一回タヒんどけバカ。」
「タヒぬ?何言ってんだお前。」
頭を抱える速人———自分の相方がここまでバカだと思わなかった、その一心である。まぁ文字起こししなければわからない……いや、やはりバカだ。
大きなため息をついて、速人は話をまとめる。
「生徒会長を飛び越えて、学校のトップに掛け合ってみたら…って話だ。」
「その手がアリマした…!」ポン
「でも直接理事長に掛け合うなんてできるのかな……?」
「ダイジョウブですかのんさん!可可にとっておきの作戦がありますから!」
可可はドンと胸を叩き、自信を示す————果たしてその作戦とは……?
————※————
「ドゥンドゥンジャンッ ドゥンドゥドゥンYO! 私マンマル好き!すごくスキ 満月好き SO 丸がスキ!」
ラップを歌いノリノリで道を歩く千砂都。彼女の目的地は……かのんの家。このラップは澁谷家のペットにして、彼女のお気に入りのフクロウ 「マンマル」に会うのにウキウキしている心を表していると言えよう。
いつもと同じ道筋……が、今日は一味———いや九味ほども違う。
「ん…あの人———えっ!?」
千砂都は驚き……手で口を覆った。
彼女の隣を歩く、白く虹色に輝く髪を姫カット&右シニオンにしている女性。その容姿はたいへん豊満で艶めかしく母性愛に溢れ、それでいて顔にどこか幼さ感じさせる……まさに「清らなり」と言うにふさわしい。
いや、それすらも凌駕するかのような現実離れした女性。
そして千砂都が見惚れたのは何よりそのシニオン……もといマル。その完成度は彼女の見てきた丸を遥かに超える、完璧な丸である。
すると……見惚れる千砂都にあろうことか、その女性から声をかけてきた。
『ふふっ♪大きくなったわね♪』
「あっ…えっと……その———そのマル綺麗です!」
『あぁ…丸いモノが大好きだったっけ?』
「はい!」
『顔も大人っぽくなったじゃない…可愛くなったわ……』
「あ、えっと…ありがとうございます!———あれ!?」
褒められて恥ずかしい千砂都は少し瞬きした……その瞬間、もう彼女の目の前には彼女はいなかった———まさに白昼夢のように。
「あれ…?夢…にしてはちょっとリアル過ぎたような気がするし————」
少し考え込んでいると、千砂都の前をあの可可が横切ってくる。
「あの娘 …ウチの学校の———あっ、かのんちゃんの家に行かなきゃ。」
〜〜〜〜〜
「うぃっすー!マンマル〜!」
かのんの家に入るなり、玄関先でとまるマンマルと見つめ合う千砂都。
「はぁあああ〜やっぱり君は完璧な丸だね〜♪」
「…?」
千砂都は先程、マンマルと同等の丸を再現した女性を見た。それが夢か現かどうかはさておき、やはり彼女にとってはマルこそ美的対象として見るべきものなのだ。故に自らにもマルを纏っているのもそういうことだ———まさに独創世界。これにはマンマルも困惑する……動物ではあるが。
そこに彼女を待っていたかのん、速人が出迎える。
「ちぃちゃん、どう?あの娘の弱点見つかった?」
「もう!来たばっかなのに!!」
「ま、いいじゃねぇか。単刀直入に行こうぜ。」
速人は千砂都に話をスパンと話すように頼む。それに重ねてかのんも懇願する。
「何でもいいんだよ?敵対してるチームとかお化けが苦手とか。」
「………」
「あはは———弱点は…一言で言うと……」
「一言で言うと…!?」
期待するかのん。
「弱点は…」
「弱点は…!///」
「ないYO!」
「ガクッ…」
「(やっぱりか……)」
心の中では期待していなかった速人。なぜならかのんに話題を振られた千砂都の目を見た時点で、そう読み切っていたからだ。そして当然、彼がそんな推測をしていることをかのんは察知していて……
「ちょっと速人くん!!何で知らせてくれなかったの!!」
「別にいいだろ?尺の無駄とか言われても、話まで遮ったら会話なんてできねぇだろうに。
「それはそうだけど……」
「てか心を読むな気持ち悪い。」
「うっ……うるさいなぁ!」
キッとやさぐれた目つきになるかのん。速人はその状況を飄々と受け流す……この大胆不敵かつ冷静さこそ彼の持ち味である。
さて、ラップ調から自然体に戻った千砂都が話し始める。
「音楽科の子に色々聞いてみたんだけど……勉強もできるし、運動神経抜群、リーダーシップもあって———あと理事長先生、学校の創設者の葉月花さんの知り合いらしくて…葉月さんがダメって言ったことをひっくり返すのは難しいんじゃないかな?」
「うん……でも———」
「でも?」
「このままこれを認めたら葉月さんのワガママが通っちゃう。それはダメ!」
「でも、8設立を認めてもらえなかったんでしょ?」
「だったら別の方法を考える。それに……!」
千砂都に向ける眼差し……以前のかのんとは違い、芯に熱がこもった目だ。
「私…本気でちょっとスクールアイドルに興味があるの。」
「かのんちゃん……!?本気なの?」
「わかんないけど———なんか、そこに叶えたいモノがある気がするの。」
漠然としすぎた答え。論説文ならば間違いなく0点であろう解答だが……速人はむしろその答えを待ち望んでいたかのように、不敵に笑ってその返事をしてやる。
「よく言ったかのん。お前がそう思うのなら、全力で突き進め。そんなお前たちを守るのが俺の役目だ。」
「速人くん……!///」
「それに———難しいものほど攻略し甲斐がある……師匠もそう言ってたしなw」
「そっか……!じゃあ私もかのんちゃんのこと———応援するよ!!」
「ちぃちゃん———よーし!!何としてもスクールアイドル部を設立させるぞ〜!」
勇気ある声が響き始める。
————※————
「ワレワレに自由を〜!!自由に部活動ができないなんてマチがってマス!!部活動は常にビョードーであるべきデス!さぁ!トモに戦いマショウ!!」
『Let‘s スクールアイドル』と描かれた巨大荷車に立って、可可はメガホンで叫ぶ———何か出身国に対する強い皮肉を感じざるを得ないこの行為。
その荷車を先頭で引っ張るのはかのん。しかしあまりにも重いこの荷車をJK1人が押すことは不可能。よって背後には随一の馬鹿力 那由多が荷車を押している。
こんな荷車を押して正門に入れば当然、他生徒からも注目を浴びるわけである……が、大半は奇異の目であることは明らかだ。
かのんは目痛さと引っ張る重さで訳の分からない涙を流す。
「ううう……こういうことじゃないと思うぅ〜(涙目」
「全く、なww」
「速人くぅんだすけてよ〜!」
「えーヤダ。」
速人はこの荷車と並列して歩き、かのん達をを小馬鹿にするように笑みを溢す。それに対して荷車の重さの8割を受け持って、満身創痍の那由多が怒る。
「お前…ちょっと手伝えよ———!」
「いいじゃねぇか。どうせ押すところも引っ張るところもねぇ訳だしw」
グッと押し黙る那由多。と、そこに可可が速人へ尋ねる。
「ハヤトさん!私のサクセン、上手く行ってますよね!?」
「あぁ。まずは認知してもらうことが大事だからな。」
そうしばらく歩いていると……
「かのんちゃーん!!」
「えっ、ちいちゃん……?」
「かのんさんのお友達デスか?」
「理事長が……理事長がー!」
「「……?」」
不思議そうに見つめるかのんと可可。対して速人は少し笑みをこぼしてその結論を読みきっていた。千砂都は息切れしながらその要件を伝える。
「り、理事長が……理事長が大至急、理事長室に来るようにって……!」
「来たか……!」ガッツ
「ヤリマシタ!!」ハイタッチ
「あはは……」
可可は荷車から飛び降りて速人とハイタッチする。一方、かのんは困惑するしかなかった。
そんな中で———1人、恐るべき嗅覚が冴える。
「(…この匂い————ヤバいな。)」
〜〜〜〜〜
「それで…訴えをしていたわけね?」
「はい!やりたいことがあるのに自由にできないのはおかしいと思いまして。」
理事長の問いかけにかのんは先ほどとは打って変わって、はっきりと答える。それを受けて理事長は、かのんと可可とともに呼び出された恋に対して質問する。
「葉月さん、部活の設立申請を認めなかったというのは本当ですか?」
「部活動の自由を阻害したつもりはありません。」
凛として答える恋に可可が怒りを抑えて否定する。
「いえ!シマシタ!!」
「スクールアイドルだけです(キッパリ)」
「だからなんでスクールアイドルだけ…!」
「理由は前にも言いましたが。」
「だから理由になってねぇんだって。」
「!……またあなたですか。」
ここで口を挟むのは速人……理事長室に置かれた骨董品を物色しながら、傲慢さを隠すことなくだ。
「その理屈だと今後設立されるであろう全ての部活動に対して、その理屈を適用できる……そうなれば最終的に学校のイメージダウンに繋がりかねない———本末転倒とはこのことだ。」
「「「…………」」」
「はぁ…困りましたね。」
その場の3人が黙り込み、理事長が困惑の表情を見せる———その時だった。
「1つギャンブルをしようじゃないか。」
「「「「……!?」」」」
理事長室の扉が開く……まさにその瞬間だった。
「!!!!!!———誰だッッッッ!!!」
「速人くん!?」
かのんが驚く——速人は突如として大声を出し、自分の持つ火炎剣烈火を扉に対して構えたのだ。
彼は感じ取っていた……扉から発するとてつもない威圧感、いわゆる覇気のようなものを。それこそ普通の人間なら気絶してもおかしくないような。
入ってきたのは……あの男。
「久しぶりだな、理事長。」
「魁さん!」
「「「……?」」」
「エルシャム王…!」
「エルシャム王…って、このV系みたいな人が!?」
カノンが突っ込んだ、V系のような服を正装とするこの黒髪金眼の美男こそエルシャム王 小原魁である。
当然、そんな有名人の出現にかのんも可可も驚きを隠せない。
「ど、ドウシテ王様が…!?」
「知らなかったか?俺はこの学校の設立資金を提供した———いわゆるスポンサーってヤツだ。」
「そ、そうだったんですか…」
魁は歩きながら先ほどの件について話し始める———心なしか、速人に近づきながら。
「俺がスポンサーである以上、自由第一を守らなければ俺のメンツが立たない……故に部の設立は認めるべきだ。」
「し、しかし…!」
恋が反論しようとするが、エルシャム王は人差し指を示して、話を続けることを求める。
「———かといって、ここ最近のスクールアイドルは少々物騒な出来事も多い。」
「……怪人、ですか?」
「ほう、よく知っているな?」
「ええ、スクールアイドルのことを総合的に判断する一因として捉えました。」
魁はニヤッと笑い———速人に最接近した状態で条件を述べる。
「まず第一に、仮面ライダーを雇い入れること。これがスクールアイドル部を設立する最低条件だ。」
「仮面ライダー……?」
「怪人を倒すために導入された肉体強化装備……いわゆる変身技術ってヤツだ。」
「は、はぁ…」
「だが、その条件はもうクリアしているようだがな。」
「「ま、まさか……!?」」
かのんと可可が速人の方を向き、魁も横目に彼を見たことで恋は『仮面ライダーが誰か』を理解する
「なるほど……しかしそれだけでは学校のイメージが———」
「そこで2つ目。」
魁はかっこよく、黒いマントを靡かせる。
「俺の友人が開催するスクールアイドルイベント……そこで結果を残すことだ。」
後書き
戦闘シーンなくてすまん……
L6話 Demon【魔王子】
前書き
タイトル通りですよ……
「どこだ……?この辺から匂いが———」
那由多は先ほどまで行動をともにしていた速人たちと別れ、1人で校舎の外を探し回っていた———理由は1つ。禍々しい匂いがしたからだ。バカバカしい理由ではあるが……
この世界は馬鹿馬鹿しさで構成されている。
ふと那由多の近くを男が通る……その時。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「!!!!」
男の体はみるみる異形の存在へと変貌を遂げ、その声を尖らせてゆく———エンジンを擬人化したような怪人 モータスバグスター。
【グゴオオオオ!!!】
「マジかよ……早く元に戻さねぇと!!」
那由多はすぐにショットライザーを手にして変身準備をしようとした……が、那由多はもう1人の気配に気づく。
現れた壮年の男は那由多と面と向かう。
「そこの君、下がってろ。」
「あ…?誰だお前?」
「———君も仮面ライダーか。でも変身する必要はない……こいつは俺1人で十分だ。」
男は黒いドライバーを腰に装着する。
【デモンズドライバー!】
「この葉月穂(みのる)……この身を捧ぐ。」
「葉月…?」
【スパイダー!】
蜘蛛が描かれた特殊なハンコ———その名もバイスタンプ。そのハンコをデモンズドライバーの上部に押印する。
【Deal…】
天から垂れた蜘蛛が、糸とともに垂れる。穂はバイスタンプを天上高く突き上げ、神に祈るようにその願をかける————そして。
「変身!」
【Decide up!】
【Deep.(深く) Drop.(落ちる) Danger…(危機)】
【(仮面)Rider Demons!】
蜘蛛が糸をぐるぐると穂へと巻きつける……やがて蜘蛛の巣が出来上がり、それを装甲と化かす。蜘蛛の如く複数の複眼と蜘蛛の巣のような胸部————仮面ライダーデモンズ。
〜〜〜〜〜
【俺のスピードについてこれるかぁ!?】
モータスはバイクの如くスピードで移動して変身したデモンズを翻弄しようとする。
しかし……
「はぁっ!!」
デモンズの大きな蜘蛛の巣が周りを移動するモータスの身動きをストップさせ、そこに思い拳がクリーンヒットする。
【ぐはっ!】
「スピードの速い者の防御は脆い…悪いがすぐに決めさせてもらう。」
【まだまだ…!】
デモンズは糸に絡まったモータスをそのまま蜘蛛の巣の中央にして、完全に晒し者……捕食を待つ獲物と化す。余裕のできたデモンズはドライバーの盤面にスパイダーバイスタンプを再度押印する。
【Charge…】
そしてベルトの両側を押し込む。
【デモンズフィニッシュ!】
「はぁぁぁぁっ!」
助走をつけてジャンプしたデモンズは、8本の蜘蛛足を自身の右足に覆わせたジャンピングキックをモータスへと直撃させる。
【グワァァァァ!!!】
その威力は凄まじいもので、モータスの体はそのまま10数メートル飛んでいってしまい、その姿を元の人間へと戻すことに成功する。
「ふぅ…」
デモンズはそのまま変身を解除し、その戦いを息を呑んで観ていた那由多に近寄る。
「君、名前は?」
「名前?———中川那由多。すぐ近くの結ヶ丘高校に通ってる。」
「そうか……結ヶ丘の———私は葉月穂。またの名を仮面ライダーデモンズ。」
「デモンズ…」
『どうだ?デモンズドライバーの調子は?』
「「!!!」」
突如割り込んできた声……2人はその声の方へと振り向く———と、那由多が叫ぶ。
「エルシャム王!?」
「よ、バルカン。久しぶり……でもないか。」
「何でアンタがここに……?」
「デモンズドライバーは元々俺が持っていたものだ——それをコイツにあげたんだよ……なぁ、穂。」
エルシャム王 小原魁は穂の方を向いて人たらし感を漂わせるが———穂の顔は曇り、先ほどまでは微かにあった愛想の笑顔も消え失せてしまう。
「俺はアンタから奪ったんだ。もらった覚えはない。」
「何言ってんだ。俺が城への侵入者に気づかないとでも思うか?ましてやそこで物を盗るなんて行為が俺の許しなく行われることはない———そうだろ?息子よ。」
「息子…?」
那由多は不思議そうな面持ちをしていると、魁は那由多の方を向いて事の経緯を説明する。
「コイツは俺の息子——正確には俺の二男だ。」
「俺はもうアンタの息子じゃない。俺は家を捨てて葉月家に婿入りしている……だから息子って呼ぶな。俺だってもう30過ぎだ。息子って呼ばれる歳じゃない。」
「ま、好きにすればいいさ……」
不敵な笑みを浮かべながら魁はその場を後にする。それに続いて穂もその場を立ち去ろうとするが、那由多はそれを止める。
「ちょっと待て!———アンタも仮面ライダーなら俺たちと戦ってくれ!!」
「……お前は何のために戦っているんだ?」
「は?」
突然の質問に那由多は困惑するが、穂はそのまま話をすすめる。
「戦う理由もないのに仮面ライダーになるべきじゃない——もし理由がないのなら、今すぐそのベルトを破棄するべきだ。」
「何…?」
「理由もなく異形の力を振るうのならばそれは悪人とほぼ変わらない……それを心に留めておけ。」
穂はそう言うと、一枚のメモを渡される。
「俺の連絡先だ。困ったら掛けてこい。それじゃ。」
覚悟ある男の背中は一般よりも広く…大きく…強く見えた。
そんな男を……陰で見る者がいた。
「中川那由多に葉月穂か……雑魚だな。」
————※————
「一位!?!?」
千砂都の驚きが響く。
「ハイ。この近くのスクールアイドルが揃って行われるフェスで……」
「それが代々木スクールアイドルフェス?」
「その大会に出て結果を残すことで部の活動を認めるって。」
「うわー!いきなりのステージで結果を残せって……王様も無茶なことを———ドンマイ!」
「「まだ終わってない!!」」
「ごめんごめんw」
あたかも部の設立の計画が失敗に終わったかのような口調に、かのんと可可は全力で否定する———正確にはそういう願望。
ところでそんな話に一向に混ざらない速人……千砂都も困惑しながら、声をかける。
「で…速人くんどうしたの?」
「——————」
「速人くん!?」
「負けた……」
「負けた?」
「あ、いや——何でもない。」
我に帰った速人は早速、千砂都に相談をする。
「それで千砂都……少し頼みがある。」
「頼み?」
「さっきも言ったが、俺は仮面ライダーとしてスクールアイドルを守る役に就く。かのんと可可で作詞作曲衣装を作るわけだが…」
「私たち振り付けとかダンスとか全然知らないし、最近スクールアイドルのレベルってスゴいらしくて——もしよかったら!」
「モシよかったら!!」
「ダンスを教わりたい……って、2人が。」
かのんと可可の意思を察知した速人が2人よりも先に頼み事を言う。少し息を吐いた千砂都……すぐさま2人に向かって返事をする。
「わかった!ちぃちゃんの授業料は高いよ〜?」
「いいの!?」
「うん!私でよかったら是非!」
「これでダンスは百人力だー!」
交渉成立———というよりここまで速人は何ら問題なく未来が見えていた。彼にとってはただの通過儀礼、いわゆるフォーマルな頼み事の形態……面倒な話だ。
話はさておいて、千砂都は先ほどの速人の言葉の意味を聞いてくる。
「速人くん、さっき負けたって言ってたけどどういう意味?」
「え、速人くん負けたの!?誰に!?」
速人は常勝無敗が当たり前———彼女らとて負ける様子などほとんど見たことがなかった。故にその単語が出てくること自体が非日常であった。
幼馴染2人と可可が興味津々に聞く中、速人は思い口を開ける。
「あぁ……負けたよ。エルシャム王 小原魁に。」
「王様に?——でも何もしてなかったデス。」
「?……気づかなかったのか?アイツが部屋に入ってきた時、一瞬でその部屋の温度が下がったんだぜ?」
「またまたハヤトさん冗談がお上手デスね〜!」
「「………」」
可可は嘘かと思うかもしれないが……幼馴染2人にはそれが嘘とは到底思えなかった。
「でも武器も何も持ってなかったよ…?」
「俺が恐れたのは武器じゃないさ、かのん。俺が恐れたのは底知れないオーラだ———普通のやつならすぐに跪いていたような圧倒的な威圧感……」
「「「……」」」ゴクッ
「それに武器なら背中に背負ってた。あの武器も相当ヤバい———鬼に金棒、龍が翼を得たようなもんだ。」
あまりの仰々しさに流石の千砂都も疑いの声をあげてしまう。
「そんなに強いの…?」
「俺が本気で怖がったのはこれで2人目だ——やっぱり生半可な気持ちじゃ戦えない。お前らを守れない。」
「速人くん……」
そこで千砂都は思いついたように手を叩く。
「そうかわかった!」
「ちぃちゃん?」
「その王様があの黄金の戦士なんじゃない?」
「確かに。でもなぁ……この前会った時は剣なんて持ってなかったし——」
「え、かのんちゃんたち黄金の戦士に出会ったの!?」
「うん——だから…」
かのんが話を紡ごうとすると可可が間に割って入る。
「違いマス!あの黄金の戦士はもっとスバラシイ……そう、天帝様です!」
「天帝様——神様ってこと?」
「ハイ。あの星のような輝きは天帝さま以外アリエマセン!!」
「「うーん……」」
3人が予想をしているが……速人にはその正体に目星はついていた。
————※————
さて今日の買い物を済ませたところで、俺 伊口才は自宅へと戻ってきた。
「さ、店番はオートメーションに任せてるし、ゲームでもする………ん?」
2階に上がると物凄くいい匂い。いわゆる心こもったご馳走の匂いがする。
ダイニングを見てみるとあら不思議、ホームパーティのような量のご馳走が置かれているではないか。
さらに台所側に行くと……置き手紙付きのカレー———それも高級食材ひしめく。このカレーを俺は知っている。
「『貴方のために作ったの♡残さず食べてね♡』———うわぁ……」
さてさてさて……まずこのカレーライスを素直に食べるわけにはいかない。食べれば間違いなく不都合なことが起きる———
「よし、これはどこかに捨ててしまおう!」
俺はカレーの入った皿を持って焼却炉へと向かおうと脚を動かそうとした————
「何……してるのかな?」
「!!!」
刹那、どこに隠れていたのか現れた女性———声からして、みかん色の髪にアホ毛の生えたあの女だ。俺はとんでもないスピードで振り返る。
後ろにいたのはあの高海千歌———当然「あの頃」とは違って、現実離れしたグラマラスボディの持ち主に成長してますが……ハイライトオフの時の怖さは「相変わらず」。
「うわ……」
「私『たち』才くんのために愛情たっぷり込めて作ったのになぁ——それを何の躊躇いもなく捨てるなんて…」
「あのなぁ———」
「でも私はやーさしいから、そのカレーその場で食べてくれたら許しちゃうよ♡」
コイツ———待ち伏せして上がったな……が、別にそんなことどうでもいい話だ。
「ったく、この毒入りカレー…その他変なトッピング付きのコレを食べろと?」
「そうだよ♪」
「なるほど———『断る。』
俺の眼はパッと見開き、先ほどまで身につけていた黒スーツが一瞬にして、修行者のような衣へと変化する———ハイパーロード/ムテキ(M)の降臨だ。
そしてそのままカレーをツンとつつき……光の粒子にして消す。
『こんな穢らわしいモン喰えるか。』
「なんてこと……あーあ。『時間切れだよ。』
千歌のオレンジの髪が白く輝く虹色の髪に変化していく……そう、彼女の人格が完全に表に出る時間は切れた——というわけだ。
そう目の前にいる彼女は——ハイパーロード/Aqoursだ。
早速彼女は激怒して俺に近づく。
『この私が作った料理を今この場で破壊するなんて——いい度胸ね?』
『お前の唾液入り…正確には毒液入りカレーなんて食いたくないな。』
『別にいいじゃない。どうせ毒なんてあなたには効かないんだし。』
『俺に効かずとも、お前の毒液はヘタすると世界を滅ぼせるんだから、自重しろバカ。』
『ふん……!』
ぷくーっと顔を膨らませて不満げなハイパーロードA。しばらく2階のダイニングを歩いていると、額縁に入った写真——ちょうど速人・那由多・かのん・千砂都の写ったそれを手に取る。
すると先ほどまで怒っていた彼女は一転して恍惚な表情を見せる。
『はぁ…かわいい♡あの子たちの姿を見るだけで私は幸せだよ…♪』
『その意見だけは少し賛成だ。』
『へぇ?それは違うでしょ?貴方はあの子たちを傷つけて楽しんでる———愛する子供達を傷つける人がそんなこと言う資格はないわ。』
『バカ、俺をサディストみたいに言うんじゃねぇ。この地雷女神。』
俺がアイツらを愛していないなどと宣うのには、流石に俺も怒る。
確かに楽しんでいるし一部否定はできないところもあるのだが……しかし俺の中で、傷つくこともまた成長であると確信している。
しかしハイパーロードAはなおも俺を批判する。
『貴方がドSなのは紛れもない事実でしょう?』
『俺が一体お前に何したってんだよ?』
『私も貴方に散々弄ばれました……私は身も心も貴方に依存しているというのに、貴方はどうせ私を孕み袋程度にしか思ってないのでしょう?そして都合が悪くなったら私をヤリ捨てて何処かへ自由気ままに旅立ってしまう———ほんと、最低の男ですわ!!』
『……盛りすぎだ。』
俺があたかも倫理観のぶっ飛んだ頭のおかしい神に見られるデマを言うので、コレは訂正したい。
実際事実なのはドSであることと勝負を楽しんでいることくらい。それ以外は全部彼女の妄想だということを理解してほしい。
『そして今現在も———貴方は【あの子】の体に傷をつけた。全く…どれだけ私を怒らせれば気が済むのかしら。』
『……ったく、それは成り行きでああなったんだから仕方ねぇだろ。』
『次あの子を殺すようなことがあれば……ふふっ、お覚悟を♪』
『俺と戦おうって言うのか?』
『ご想像にお任せするずら♪』
『思い出したかのように方言使いあがって……』
9人の人格が統合した存在ゆえに喜怒哀楽がコロコロと変わる。正直俺が1番苦手なヤツと言っても過言じゃない……無論、彼女にとっても俺は1番腹が立つ存在だろうが。
さて……そろそろ時間だ。
『最後に忠告しておくわ———私の可愛い子供たちを傷つけないで。』
『はいはい。』
『じゃ、また会いましょ。』
そう言って彼女はどこかへ転移してしまう———
————※————
「はぁ…はぁ…はぁ…」
街中を体操着で駆けるかのん。今絶賛千砂都によるレッスン中である。そしてそんな彼女の横を猛烈なスピードで横切る陰……そう、速人だ。
「速人くん!」
「俺もちょーっと鍛えなきゃいけねぇんでな。ちなみにこれで20週目な。」
「まだ3分くらいしか経ってないけど…」
「じゃお先!」
そう言って速人はかのんを抜き去って、彼方へと飛んでいく———一方。
「あぁ…はぁ……」
「えっ、可可ちゃん!?」
「まだまだ…デス……!」
ちなみに可可は未だ3週目……つまりかのんから2周遅れである。これは後先が思いやられる。
さて監督として3人を見ている千砂都の隣で、座禅を組み瞑想しているのは戻ってきた那由多———これは彼が1番苦手とする鍛錬だ。
「(心を鎮めて無にする……雑音を耳に入れるな。)」
何か瞑想の趣旨を間違っているような気もするが……
〜〜〜〜〜
「きょ、今日はこのへんでカンベンしてやるデス……く、苦しい…パタリ」
「可可ちゃん……まさかの体力ゼロ———」
「もう全然ダメじゃん!!なんでそれでアイドルやろうと思ったの!?」
「『キモチ』デス!!スクールアイドルで一番大切なモノはキモチですので!!」
「な、なるほど……」
千砂都の苦言をたった一言で吹き飛ばす可可。これでは諦めるように促すのも不可能。
「ちなみに…リズムゲームなら完璧なダンスコンボを繰り出せますヨ〜あ、それシャンシャンシャン!」
「それはいいかな…」
「でもリズム感はあるってことだよね。」
「—————」
速人はある事を考える……可可の奏でるリズムゲームの音の中で———
ちなみにこのゲーム……伝説のスクールアイドルの歌が収録されたリズムゲーであることは余談である。
シャンシャンシャン!シャンシャン!
「あー!!!うるせぇお前ら!!」
「え那由多くん!?まだ瞑想してたの?」
「ああそうだ!!俺が苦手な瞑想してる中で妨害すんな!」
「———そうか!わかったぞ!!」
速人が急に思い立つ。かのんが尋ねる。
「どうしたの速人くん?」
「リズムゲームにダンス……そして体力増強。ちょうどいい方法がある!」
速人の考えとは……?
虹5話 顕現するEnemies【敵対者】&Colors【虹】
「カワイイコワイカワイイコワイカワイイコワイ……」
「あ、歩夢?」
呪文のようなモノを唱える歩夢———ことの次第は、かすみによるスクールアイドルとしての「カワイイ」を訓練した際にアイデンティティが崩壊してしまった……いわゆるキャラ崩壊である。
そもそも歩夢が守ってきたキャラ自体が果たして個性的なモノではなかった……故に、キャラ崩壊した際の落差はとんでもないことになる。そしてその後の転げ落ちる勢いも———おっと、少し喋りすぎた。
さてそんなこともお構いなしにかすみは歩夢をさらに追い詰める。
「週末に動画をアップするのでちゃんと自主練しておいてくださいね?」
「カワイイコワイ…カワイイコワイ……」
「カワイイって大変なんだね〜」
侑は高みの見物……とは少し出過ぎた真似であるが、歩夢とかすみが座る段に足を組んでいる。
さてそんな侑にかすみは反応する。
「はい!アイドルの基本ですから!」
「でもせつ菜ちゃんはカワイイって面もあったけど、カッコよかったなぁ〜!」
「え…先輩、せつ菜先輩のこと知ってるんですか?」
「うん。一度遠くで見ただけだけどね———ところで、同好会ってなんで廃部になったの?」
「———元はと言えばせつ菜先輩が熱くなりすぎるからいけないんです……!」
「ん…?」
かすみは『そのこと』について語ろうとした————その時、背後から男性の声が発せられる。
「どうやらうまく巡り会えたようだな……3人とも。」
「あ、社長〜!」
「げっ!」
背後にあるジョイポリスから出てきたのは伊口ファウンデーションCEO 伊口イフト。理由なしであるが苦手としているかすみは思わず汚い声をあげてしまう。
歩夢は突如とした彼の登場に疑問を持つ。
「どうしてここに私たちがいるって…?」
「知らなかったなら教えてあげよう———ここは私の傘下企業が運営する会社だ。」
「へぇ〜!そうなんですか!!」
「ああ、今度遊びに来るといいよ侑。」
「行く行く行きます!!」
「ちょ、ズルいですよ!かすみんも侑先輩とゲームしたいです〜!」
「————『かすかすちゃん』……じゃなくて、かすみちゃんは私の動画をアップするんじゃないのかな?」ニコニコ
「うぐっ…」
さて、かすみが精神ダメージを受けたところで一同はそろそろ帰ろうとしていた————その時だった。
うわぁぁぁぁ!!
キャー!!
近くで聞こえる大勢の悲鳴にその場にいる4人は、本能的にその悲鳴が聞こえる方向を向く……
そこにあるのは———夥しい量の怪人。いわゆる三下怪人なのだが…種類を列挙するのは時間の無駄。ざっと30体程度か。
当然怪人を見たことのないかすみは戦慄し、腰を抜かしてしまう。
「な、何なんですかあれ……!」
「!——歩夢、かすみちゃんを連れて行って!」
「侑ちゃん…怪我は大丈夫なの?」
「うん!この通り!」
「えっ…」
侑は大胆にも自分のお腹を躊躇なく見せた……そこには今朝までついていたアザがすっきりと消えている。
おかしい再生力だ———しかしそんなことを考えている暇はない。
歩夢はかすみを連れてその場を離れようとする……が、その場にいたイフトが歩夢に通せんぼする。
「ちょっと何するんですか!」
「これからスクールアイドルを共にやろうって仲間なんだ…侑、『その姿』を曝け出してこそ絆は深まるんじゃないか?」
「……わかった。」
【ジャンプ!】
【Authrorize!】
「変身!!」
【プログライズ! ライジングホッパー!】
巨大なバッタが装甲と化し、侑を仮面ライダーゼロワンへと変身させる。
「ウソ……あれって——仮面ライダー?」
「ああそうだ、かすみ。あれは仮面ライダーゼロワン......『始まりのライダー』さ。」
悠長にひとりひとりを捌いていくわけにはいかない。
【ブレードライズ!】
【ブリザード!】
【Progrise key confirmed. Ready to utilize】
【Polar bear’s Ability!】
【フリージングカバンスラッシュ!】
アタッシュカリバーから放たれる絶対零度の一閃……たちまち怪人たちを凍らせ、その姿を元の人間へと戻していく。
今までならここまでの大胆な技は使えなかった———あのムテキゲーマーの重い一撃が、侑の潜在能力を解放したのだろう。
怪人を一掃した———これでは終わらなかった。
「仮面ライダーゼロワン。ちょっと見誤ったねぇ。」
「あぁ、前よりもかなり成長している…!」
怪人を一掃した後にその奥からやってきた男女———その手には見たことのないバックルがある。
「誰だ…?」
「ま、そろそろ怪人だけじゃ物足りないし——俺たちもひと暴れしますか!」
「賛成!」
2人は持っているバックルにカードを差し込み、腰に装着する……そして———
「「変身!」」
【【OPEN UP!】】
カード状のスクリーンを通過する……赤と緑のAをモチーフにしたライダー。一方はボウガンを。もう一方は槍を。
その名も…仮面ライダーラルク。仮面ライダーランス。
「さ、いくぜ〜!」
「ち、ちょっとちょっと!」
「はぁっ!」
躊躇なしに突っ込んできたランスはゼロワンに自分の背丈ほどある槍 ランスラウザーで薙ぎを見せる。困惑するもゼロワンはなんとかスレスレで後退する。
しかし…….
「はっ!」
「うわっ!!」
連携の取れたラルクのボウガン ラルクラウザーがゼロワンに2発命中し、歩夢たちのいるベンチまで吹き飛ばされる。
「「侑ちゃん(先輩)!」」
「ぼ、僕たちが戦う理由なんてない……だから攻撃をやめて!」
「僕…?」
かすみは侑の一人称が変わっていることに気づく。いわゆるボクっ娘になっているわけだが、ここではその話は割愛しよう。
しかし……
「俺たちにもこだわる理由なんてない。ただ俺はこんな退屈な社会ぶっ壊して、暴れてぇだけだ!!」
「コイツの言う通り、退屈しのぎよこの程度。」
「そんな……」
ラルクとランス———その言動はとても普通の人間のものとは思えない。まるで何かを渇望する……倫理観を破壊してしまうような、抑えがたい衝動。
ゼロワンは拳を強く握る……
「間違ってる……そんなの間違ってる!!」
「あぁ?」
「今だけでも、君たちのせいでどれだけの人が傷ついたと思ってるんだ!!」
珍しく怒声をあげる侑に後ろに控えていた歩夢は驚く。しかしラルクはそんな怒りを一蹴するように言い放つ。
「そんなヤツら知らないわよ。力のないヤツらが何をしようと結局は死ぬんだから……一緒でしょ?」
「だったら———君たちをここで……倒す!!」
腹の底から出したような冷め切った声が響き渡る。侑が本気で怒っているのが、考えずともヒシヒシと伝わってくる。
ゼロワンの体から黄色い斜線のオーラが発せられる。
……次の瞬間。
「はぁっ!!」
「きゃっ!」
「!!—いつの間に…!」
先ほどとは比べ物にならないスピードで、ラルクの背後に回ったゼロワン。そのままハイキックを顔面に直撃させ、地面を体で抉らせる。
慌ててランスはゼロワンを槍で突こうとするが、アタッシュカリバーを盾にされて防がれ……そのままスライディングで足を取られる。宙に浮いたランスをゼロワンは膝蹴りでさらに空中へと押し上げる。
そのまま必殺を放とうとした……が。
「!?」
滞空していたランスを何者かが回収する———地面に着地した存在……同じくAをかたどった金色のライダー。同じく地面に着地したゼロワンと対峙する。
「誰だ…?」
金色のライダーはそのまま地面に臥しているランスとラルクに見下ろしながら声をかける。
「………全く、未熟者が変に戦いを挑むのは悪手だ。慎、亜紀。」
「で、でも淳一…!」
「撤退と言ったら撤退だ。」
撤退という言葉が聞こえたゼロワンは急いで金色のライダーの元へ駆け寄る。
「誰だ!!」
「おっとこれは申し遅れました……私は仮面ライダーグレイブ 羽田淳一。そして我々は……解放結社 タイフォン。」
「タイフォン……?」
「私たちの目的は箱庭に囚われた者たちを解放して、暴力が支配する世界へと導くことです!」
「何だって…?」
「ま、前置きはこの辺にしておきましょう……ではまた会う日まで。」
「ちょ、ちょっと待って……!」
追跡虚しく、彼ら3人は何処かへと転移してしまった…………
そして……それを陰ながら見る者たち。
「嘘……これって現実?」
「現実——否定しようがない。」
「仮面ライダー……ゼロワン。高咲侑さん……」
————※————
「ふぅ……」
次の日……歩夢は深呼吸しながら、学校の影になっている大きなガラス窓に向かい合う。
侑は言った。傷つける者は許さない……そのために怒った。自分を守ると誓ってくれた彼女に改めて感心した。同時にそんな彼女に対して報いなければならないとも感じた。
彼女は手でウサギの耳を作る。
「新人スクールアイドルの上原歩夢♪歩夢だぴょん♪臆病だから…寂しくて泣いちゃう〜ぴょーん♪」
こんなこと言うととある女神様にこっぴどく怒られるのだが、自分でやってて恥ずかしくないのか?という言葉が真っ先に浮かぶ。当然カワイイのかもしれないが……
————そんな歩夢に……後ろから気配。
「そんな事やったってお前の望みは叶わないわよ。」
「ええっ!!————え?」
誰かに見られたことを本気で後悔する歩夢………だが振り返ると、それ以上の衝撃が待ち受けていた。
ミディアムヘアをハーフアップにし、右サイドに三つ編みシニオンでまとめている———自分を生写したかのようで、髪色が対照的な銀のような群青の…女。
彼女は歩夢を小馬鹿にするように続ける。
「お前も一途だなぁ……歴史は繰り返す。そしてお前は裏切られる———あの侑に。」
「侑ちゃんが裏切る…?何言ってるの?そんなわけ——」
「現に見たでしょ?あの中須かすみという女に……お前は少なからず嫉妬している。」
「うっ……でも、それが侑ちゃんが裏切る理由には——」
「はぁ…全く、優しさもここまで来れば病気だよw」
群青色の彼女は歩夢にさらに近づいて、その距離を無くしていく。
「お前はそうやって指を咥えて見ているだけ……優しさを振りまくだけで、誰にも気づいてもらえない。」
「そ、そんなこと……」
「そうやってお前は全て失ってきたんだ……神に見捨てられ、笑われてw」
小悪魔っぽく笑う彼女はとても歩夢とは似ても似つかない。まさに対極。そんな侮辱のような言葉に歩夢は確固たる意思を持って返す。
「そんなことないよ……侑ちゃんは言ってくれた。私を応援してくれるって———だから私は好きなことを諦めない!!」
「……ま、今はいいよ。いずれハッキリする。侑はお前を裏切って他の女に夢中になる。その時を楽しみにしてるわ。」
ピカっと太陽が歩夢の目を一瞬眩ませる……次の瞬間には———
「えっ……いない!?」
白昼夢———そうとしか言えないが、それにしてはあまりにリアル。
しかしそんなことを考えている暇はない。歩夢は顔を両手で叩く。
「よし…練習しなきゃ———!」
もう一度鏡に向かい合う。
「新人スクールアイドルの、上原歩夢!あゆぴょんだぴょん♪臆病だから…寂しいと泣いちゃうぴょ……!」
鏡に向き合っていたことで見えてしまった———日向にいる青いウルフヘアの妖艶な女の子……朝香果林。
当然歩夢はギョッとなる。
「はわわわわ……!こ、こ、これはその——!」
「ふふっ♪」
「れ、練習をしてて…す、す、す、すっ
「あぁ…スクールアイドルの?」
果林の補った言葉に歩夢は犬のように肯定する。すると果林は微笑みながら陳謝する。
「あら…それはごめんなさいね。可愛かったからつい———」
「え////」
「でも……それがあなたの言葉?」
「どういうことですか?」
「伝える相手を意識して言わないと、本当の想いなんて届かないわ。」
「————頭ではわかってるんですけど……大体私にファンなんて。」
歩夢はふと頭に浮かぶ————いるではないか。
「1人だけ……私の大事な人が———」
「ふふっ。お節介したわ……じゃあね?」
————※————
お台場海浜。夕焼け空を眺めながら、かすみは昼に合流した侑に告げる。
「かすみんには大切にしたいことがあって……だからスクールアイドルがやりたくて、それはみんなも同じだと思うんです——けども自分のやりたいことを押し付けるのは嫌なんです。なのに……」
「?」
「かすみん、歩夢先輩にそれをしちゃって……」
かすみの呟きのような悩みを聴く侑。その結論をバッサリと言ってしまう。
「うーん。つまりスクールアイドル同好会のみんなそれぞれ、やりたいことが違ってたってことでしょ?それで空中分解するのは仕方ないんじゃないかな?」
「仕方ないじゃ済まないんです!このままだと再び同好会が…!」
「ふふっ♪悩んでるかすみんもカワイイ♪」
「えっ……って!冗談じゃないんです!かすみん本気で悩んでるんです!」
「わかってるってわかってる♪」
ポカポカ叩かれながらもかすみの健気さをしみじみと感ずる侑———と、そこに足音が。
「遅れてごめんなさーい!!」
「お、歩夢!」
息を切らしながら歩夢はかすみに告げる。
「あの、自己紹介なんだけど……いま!撮ってもらっていい?」
「あ…はい。」
〜〜〜〜〜
歩夢は先ほどまでの飾り気満載の自己紹介をやめた。
飾り気のない素の自分。引っ込み思案で、それでいて芯のあるヒロイン像をそのまま反映させた自己紹介。
「ふぅ…どうかな?」
「ふぁ〜!すっごくカワイイ!!トキめいちゃったよ歩夢!!」
侑は感想を隠すことなく歩夢に伝え、そのまま歩夢に抱きつく。イチャつく2人をかすみは咳払いする。
「コホン……かすみんの思い描いたモノとは違いますけど———カワイイから合格です!」
「本当!?よかった〜!」
歩夢は安堵したように深呼吸する。
侑は歩夢から離れると、かすみの方へと歩き始め、やがて彼女を通り過ぎる。
「多分、やりたいことが違っても大丈夫だよ!」
「え?」
「うまく言えないけど……自分なりの1番をそれぞれに叶えるやり方ってきっとあるよ!」
「そ,そうでしょうか……?」
かすみは自信なさげに俯く———が、そんな不安は次に吹き飛ぶ。
「探してみようよ!!」
「…!」
「それに、そっちの方がきっと面白くそうな未来が待ってる……そう感じるんだ!!」
侑が描く未来……スクールアイドルは基本的に団体として描く未来がある。しかしそれでは他の色が塗りつぶされてしまう———いわば、黒か白に染まる他ない。しかしそれでは虹は描けない。
虹を描けるような……そんな世界へ。
「はい……そう思います!!可愛いし…そっちの方が楽しそうです!!」
かすみは胸の中が躍るような感覚で、ありえないような段差をジャンプで飛び越える。突然のことに侑と歩夢は呆然とするが、かすみんは構いなく歩夢を指差す。
「歩夢先輩!今回のはさすがでしたが……この世界で1番可愛いのは———かすみんですよ!!」
Poppin'Up!(歌: 中須かすみ)
Fin
————※————
『そうだ……自分だけの理想の世界は自分こそ叶えられる。』
歩夢と侑、かすみを陰で見ていた……ハイパーロード2人。ハイパーロードMがいう言葉に彼の伴侶——右にシニオンを作った輝く虹髪のハイパーロードAは言い返す。
『あなた……「力」を使ったわね!?』
『あぁ。希少な「ただの人間」が物理無視のジャンプをした方が、面白いだろ?』
『法則を作り出したのもこの私!それを最も簡単に破壊されたら困るよ!!』
『………なぁ、そろそろ口調直さないか?』
ハイパーロードMはウルトラマリンの瞳をするハイパーロードAに提案する———
『冗談はよしなよ。不自然を嫌うまーくんらしくもない……」
『俺はそうだが読者がなぁ——』
『ちょ、メタイからやめなさいよ!』
2人は沈みゆく太陽を見つめる。
虹6話 Darkness【ヤミ】の始まり
コツコツコツ……
ガシャン!
夕焼けに彩られる生徒会室の扉が大きな音とともに開放される———その犯人は……1人の男。
当然、中にいる生徒会長 中川菜々は少しばかり驚きを見せる。
「あなたは……伊口イフト先生?」
「はじめまして…生徒会長。しかし今回私はとある生徒たちの斡旋をしに来ただけさ。」
「斡旋…?」
イフトが扉をしばらく固定すると……入ってきたのは———4人。
近江彼方、エマ・ヴェルデ、桜坂しずく。3人はかすみと共にスクールアイドル同好会のメンバーであった者たちだ。
そしてもう1人……
「久しぶりね…生徒会長さん♡」
「朝香果林さん———あなたがその3人と一体なんの御用ですか?」
果林は少し不敵に笑うと、菜々が座っていたデスクにポンと……生徒名簿を置く。
これが意味することは———
「私の友人がずいぶん話してたから気になって調べさせてもらったわ……この中に——優木せつ菜と書かれているかどうか。」
「————」
「誰もその姿を見たことがない…なぜなら、その名簿に名前が載っていないから。そんなせつ菜ちゃんとどうやって廃部のやりとりができたのかしら?」
「……」
「詳しく教えてくれる?…優木せつ菜ちゃん?」
「ぐっ———」
3人が見守る中、菜々を問い詰める果林……菜々は言い訳せずに後ろを向いてしまう。
「あら?否定しないのね?」
「元々隠し切れるものとは思ってませんでしたから……しかし、同好会でもない人に見破られるとは思ってませんでしたよ。」
「ま、これも台本通り……っていうのはちょっとカッコ悪いわね。でも、今日用があるのは私じゃないわ。」
「……!」
果林は奥の3人に眼をやる———すると菜々は叫ぶ。
「私はスクールアイドルをもうやりたくないんです!!」
「「「!!!」」」
「あなたたちがラブライブにめざすと言うなら……私を抜いてやってください。」
「せつ菜ちゃん……」
と、ここで今までその様子を見守っていたイフトが話に割り込む。
「さて、流石に生徒同士が争うのも酷だろう———今日は帰りたまえ。中川菜々、君は残ってくれ。」
「「「「「……(!)」」」」」
「さ、みんな帰った帰った。」
複雑そうな表情をして元同好会のメンバーは生徒会室を半ば強制的に追い出される。
ガチャン……
「さて———ここからは個別の話だが……」
「一体何の話ですか?」
菜々が少し嫌そうにイフトに尋ねる……彼は少しニヤッとし笑う。
「単刀直入に言おう……君に知りたいことはないか?」
「え?」
「生憎私の顔は広くてね…別にストーカーしているわけじゃないが、君の知りたいことは何でも答えられる自信がある。」
「何でも…?」
「ああそうだ———例えば、死んだと言い聞かされてきた『弟』の話…とか。」
「!!!!!」
「弟」———この言葉が出た瞬間、菜々の顔色が一気に変わる。目は見開いて、鳥肌になっていた。
それも当然、彼女は言い聞かされてきたのだ———父親から、彼女の一歳下の弟は死産したと。しかし菜々は疑問を持っていた。母親が幼少期に言い続けた言葉が忘れられなかったからだ———
菜々はイフトに怪訝な表情で尋ねる。
「あなた一体何者なんですか!?父からは弟は死産したと聞いていました———でも母は言っていました。神様が育ててくれているからどこか知らない所で生きてるって……本当に生きてるんですか!?」
「あぁ、生きてるさ。まるで君が男になったみたいな美男にな。君が望むなら…会ってもいいんだ。無論、条件はあるが。」
「条件……?」
イフトは待ってましたと言わんばかりにそれに回答する。
「私は知っての通りスクールアイドルの振興に努めていてね……今度代々木で私主催のフェスをすることになっている。君たち同好会にはそこに出て欲しい。」
「っ!!」
「早い話、君のスクールアイドル活動の続行……これが本音なのは一目瞭然だな。」
イフトの言うことはフェスに出てほしいというのは建前に過ぎず、せつ菜にスクールアイドルを続けてほしい———回りくどく、卑怯な頼み方をしたと自ら自白している。
当然、菜々もその条件には戸惑う。
「しかし……!」
「どうした?———その様子だと同好会を廃部とし、スクールアイドルを引退する理由も別にありそうだ。」
「そ、そんなこと……」
「怪人の件とそれによる誹謗中傷……そうだろう?」
「!!!」
イフトはすでに見抜いていた———否、それを前提として話していたのだ。
菜々はとうとう観念したかのように、イフトに背を向けて話し始める。
「それだけではありません。私はその件で焦りや恐怖に囚われるようになりました———その結果が、私が立ち上げた同好会を自ら壊してしまった。そんなの私のやりたかったことではありません。」
「………」
「『社会のレールに沿って生きていけ。趣味も特技もほどほどに。』心の中で嫌悪していた父の言葉がようやくわかった気がします……社会のレールに沿わなければ、必ず罰が降る。そうわかったんです。」
「フッ…w」
「何がおかしいんですか?」
菜々が至った結論を鼻で笑うイフトに菜々は怒気混じりの疑問をぶつける。すると彼はその黒い瞳で菜々を見下して話す。
「興味ないなぁ。社会のレールなんて。」
「え?」
「かつて海外までその名声が轟いたソロスクールアイドル 優木せつ菜が、社会の目を気にするとは驚きだ。」
「あなたは気にしないんですか……?この学園で一講師でも、外に出れば巨大企業のCEOなのに。」
「興味ないさ……私は私の才能を探求する———ただそれだけさ。」
イフトはそのまま扉へと帰っていく———が、最後に一言。
「『自分が何者か』……弟がどこにいるのか……はたまたどこで会えるか———知りたければ、連絡してくれ。」
————※————
遠い遠い神世の時代。
創造の聖剣を使って天地を分け、5度目の人類を作り出したユエルとナンナエル。彼らは偉大な父たるハイパーロードMと父同然のオーヴァーロード/ユオスの命で、聖なる婚姻を結び、男子 ナユタを授かった。
彼らは仲間の天使の半分と、高次元にいる神々を自然の中にて祀る原始人となった。作物を実らせ、肉と魚を取り、木の実を採集——それを神に感謝した。
まさに、所有の概念も争いもない、地上のユートピアであった。
しかし……聖書の外典にこのような文が乗っていた。
〜〜〜
聖なる都が、夫のために着飾った花嫁のように用意をととのえて、神のもとを出て、天から下って来るのを見た。
都は方形であって、その長さと幅とは同じである。
その方形の都が叫んだ。
わたしは彼の神となり、彼はわたしの子となる。
〜〜〜
そう……舞い降りたのだ。
立方体に乗って天から落ちてきた……花嫁のように着飾った太陽の女神が。
彼女の名———アユム……生まれる前から離れたことのないユウに言った。そのハイライトのない死んだ魚の目で、射抜くようでいて慈愛に満ち溢れた。
「ユーちゃん……やっと会えた。寂しかったでしょ?辛かったでしょ?でも大丈夫♡あなたは私が守ってあげる———さ、一緒に復讐しよう?わたしたちを引き裂いてこんな場所に落とした神様に♪」
「ア、アユム……」
「ん?————は?」
アユムは見てしまった———ユウの隣に侍る見覚えのある1人の女と抱く子供……何を意味するかは一目瞭然だ。だが否定したい。
変えられぬ現実を。
「ど、どういうこと……嘘嘘嘘嘘嘘!!!!」
「ア、アユム…これは…」
「何かの間違いだよね…?そうだよね…?永劫の時を過ごしたあなたが私以外の……よりにもよって『妹』と———ねぇ、嘘だよね!?!?」
「いや……嘘じゃない。僕とナンナは結婚した。ハイパーロード様の命で……」
「—————」
「でもアユム……君も『黙って。』
アユムは強制的にユウを黙らせる———そして堕ちるところまで堕ちてしまった昏い瞳でユウに恨み言を放つ。
「こんなのありえない……私はあなたのためになんでもしてきた———地球を照らしたのも、人間を創造したのも…神様のためじゃない。全てユーちゃんのためにしたことなのに……!」
「ア、アユム……!」
「私はあなたのそばに居るしか考えられないのに……こんな耐え難い裏切りを!!!」
「ご、ごめ」
「許さないよ!!私は身も心もハジメテも、全部あなたに捧げて尽くしたのに……私以外の女と子供を作るなんて———!」
怒りに震えていた彼女……しかしそんな怒りは一瞬にして吹っ切れ、何か乾いた笑みが溢れてくる。
「あははは……もういいや。私と一緒にならないユーちゃんなんていらない——ううん、もうこの世界なんていらない。」
「え…?」
「だから全部壊す。天も地も、その憎い女も、神も、ユーちゃんの肉体も———全部壊して私の元へ……ふふっ♡」
「さぁ……2人だけの世界でやり直そう?ふふふふふ……♡♡」
血飛沫飛ぶ殺戮……今それが———
〜〜〜〜〜
「はっ!————夢…ですか。」
ベッドから起き上がる優木せつ菜——もとい中川菜々。
夢オチ……それにしては妙にリアルな話であった。夢は起きてからは徐々にその記憶を無くしていくのだが、今回ばかりは鮮明な記憶として刻みつけられそうである。
「それに……ユーって——流石に気のせいですか。」
菜々はそばに置いていた眼鏡をかけ朝の支度を始める。
————※————
早朝…虹ヶ咲学園にて。
肩の出た美しい白のドレスを着た、白く輝く髪の女性が人も1人いない学園を歩く———その容貌はまさしく犯罪級。男なら百中で鼻血出すだろうし、女性でも例外でないかもしれない。
まぁこの女が誰か俺が一番知っているのだが……さてそんな彼女の前を通る白猫。
女性はその豊満な肉体を屈ませて、猫に近寄る。
『どう?あの子たちの様子……元気?』
「みゃーん。」
『そっかそっか…ならいいわ。』
「みゃーみゃーん♪」
『はんぺん?——へぇ〜!名前つけてもらってよかったね〜』ニコニコ
「みゃーん♪」
嬉しそうな「はんぺん」なる白猫。それを見て女——もといグレートマザーたるハイパーロード/Aqoursはニコニコと幼くも艶やかな笑顔を見せる。笑うとアホ毛が揺れるのが昔となんら変わっていない。
すると、Aqoursはキッとした表情になってはんぺんに言う。
『前にも言いましたが、「あの人」があの子たちに暴挙を働いたなら…すぐさま呼んでください———すぐにあの人を食べてやります♡』
「みゃーん。」
『はい♪いい子いい子。』
「みゃぁん……」
擦り寄るはんぺん……と、ここで背後の方で声が聞こえる。それを察知したハイパーロードAは即座にその姿を消す。
やってきたのは……
「あっ!見つけました!」
「にゃーん!」
ジャージを着て虫取り網を持ち、はんぺんを追いかけるのは生徒会長 中川菜々。
しかしはんぺんもおいそれと捕まるわけにはいかない。
「こら!待ちなさい!」
「にゃー!」
「はぁ…はぁ…追い詰めましたよ!」
はんぺんはとうとう校舎の角へと追い詰められ———と思いきや、はんぺんをさっと拾い上げる娘が1人。
ピンク髪の——小娘。
「あなたは…情報処理学科一年 天王寺璃奈さん———その猫を渡してください。」
「……ダメ!」
「…!」
しばらくの静粛がその場を襲う————
「諦めろ生徒会長。」
「「…?」」
「その猫はイラつくが、追い出すと調子狂うんでな。」
「あなたは———!」
「あんな堅物と一緒にすんな。」
「え?」
後ろにいたのは————厨二病感満載の黒い服を着た男。
「俺の名はコルボ。『アイツ』の別人格だ。」
一体……?
後書き
すまん……戦闘描けんかった。
虹7話 Death game【物語】が動き出す
前書き
解放結社タイフォン———COVの新しい株の名前となっていて驚きです。
「俺の名はコルボ———あの堅物の別人格だ。」
「!?」
突如現れた男———しかし。
「とりゃ!」
「いっ!————」パタリ
「!?!?」
厨二病患者ダダ漏れの男は短い金属でコツンと頭を叩かれ、そのまま気を失ってしまう———犯人はスタイルの良いギャルっぽい金髪JK。
冷静を心がける菜々も、次々起こる意味不明な事態に困惑を隠せない。
「あ、あなたは…情報処理学科二年 宮下愛さん?———ということは…そこの人は『軍事学科』一年 宮下陽人(はると)さん?」
「うん———ところでその子、学校の近くで捨てられてて、どっちの家も飼えなくてさ……」
「!———校則では学校での動物放し飼いは禁止されていますが……」
菜々は少し微笑みを見せながら、璃奈の元へと屈んで尋ねる。
「その子……名前はなんていうんですか?」
「「……!!」」
その言葉———ポジティブな返答であることは言うまでもない。それを聞いて2人は安心したように表情が緩む。
そんな時……
「うっ…痛———」
「お、『はる』起きた?」
「姉ちゃん——今日は強く叩きすぎだって。」
「あはは…りなりー、どんくらいだった?」
「いつもより——20%強かった。」
起き上がった中背の青年……先ほど菜々が言った通り、彼こそ宮下陽人———愛の年後の弟。
陽人に早速、事態に困惑している菜々が尋ねる。
「陽人さん、今のは一体……?」
「あぁ…コルボの事は気にするな。たまに人格が切り替わるだけだからな———ところで生徒会長、アンタに知らせなきゃならないことがある。」
「?」
突如真剣な面持ちになる陽人。
「防衛学科———日本政府の外部組織だ…その政府からとあるお達しが入った。」
「お達し…ですか?」
「ああ。この学校にもスクールアイドルってやつが存在してる——それに限らず、このお台場はスクールアイドルイベントが数多く開催される地域だ。そしてどういう訳かそのイベントにトラブルが多発している…怪我人も無視できない以上、これからはスクールアイドル関連のイベントは俺たちが警備する。」
「そう…ですか。」
「一応この事、生徒会長の耳にも入れておこうと思って。」
「スクールアイドル同好会の方にはこのこと…」
「じきに伝えるつもりだが———この件は情報規制がかけられていることも多い。もしよければ、アンタが伝えてもいいんだ。」
「—————」
しばらくの静粛の後……菜々は誰にも判別できないように、小さく返事した。
————※————
大都市 東京———その秘所に巣食う廃ビル。以前侑たちの前に姿を現した、解放結社タイフォンのアジトである。
その中で2人……メンバーの,シンは退屈そうに小汚いソファに寝転がる。
「あーあ、つまんね。そろそろ暴れてぇのによ〜!」
「落ち着きなシン。もうすぐ淳一から指令が降るはずさ……ゼロワンとの戦闘をね。」
「アイツとの戦いは震えたぜ。もう一回勝負してぇな〜」
「私も……あんなボウヤに負けたままも恥ずかしいしね。」
「ん…?」
相方である女戦士 アキの「ボウヤ」という言葉に疑問を抱くシン。早速それを訪ねる。
「ボウヤ?アイツは女だろ?」
「あらそう?でも自分のことボクって呼んでたわよ?それに戦い方も女にしては少しモーションが大きかった気がするわ。」
「男の娘……?それとも男が女装してんのか———ま、どっちでもいいや。」
チリリン!チリリン!
アラートのような音がその建物に響く———緊急連絡、もといリーダーである羽田淳一 仮面ライダーグレイブからの連絡だ。
「ほら来たわ……いくわよシン!」
「おうよ!」
2人はその連絡通話を———開始する。
————※————
コツコツコツ……
菜々は先ほどの一仕事を終え、校舎を渡り歩く———ふと1つの念からポケットに入れていた紙切れを取り出す……伊口イフトの連絡先だ。
「(弟……ですか。)」
弟の名は那由多———限りない存在を現した言葉……長生き、永久の繁栄を願った名前。どういうわけか、せつ菜…刹那という言葉と対照的である。
永遠の一瞬……刹那な永遠か。
自分がそれを意識して「せつな」と名付けたかどうかは、当事者たる菜々すらわかっていない———本人はアニメキャラから取ったと思い込んでいた。
「(もし生きているなら……高校一年生ですか——でもあの人が妙に胡散臭いですね。)」
イフトの胡散臭さは否めない———人柄に関わらず…だ。そもそも最悪を想像すれば、「弟を誘拐した」連中とも解釈できなくもない。それ抜きにしても「自分の知らぬ過去」などと謳う者に信用など置けるはずもない。
「(早々には決められません……)」
再び紙切れをポケットにしまう菜々———すると聞き覚えのある曲がピアノ調で流れてくる。
「(これは……!)」
その音源を求めて、菜々は音楽室へと向かう———と、そこには……
〜〜〜♪
「なんでその曲を——」
「……?うわっ!せ、生徒会長!!」
菜々がふと呟いたことで驚くのは、高咲侑。弾いていた曲はCHASE!———せつ菜のシングルだ。内心複雑な気持ちな菜々であるが、音楽室の無断使用は見逃せない。
「高咲侑さん、音楽室の使用許可は取ったんですか?」
「いや〜あの〜ごめんなさい!ちょっと弾いてみたくて———」
「はぁ……」
反省の弁を述べながらもテンション高めな侑にため息をつく菜々。それも束の間、侑は目を輝かせながら菜々に詰め寄る。
「ところでさっきせつ菜ちゃんの曲知ってる感じだったよね?いいよね『CHASE!』動画とか見てたの!?もしかして会長せつ菜ちゃんのファン!?そうならそうと…ect」
どんどん距離を詰めながら菜々に近づく侑……鼻と鼻があとほんの数ミリでくっつくほどにまで近づいたところで流石の菜々も恥ずかしさを隠せなくなる。
「ち、近いです…!」
「あ、ごめんごめん……」
「———そういえば前会った時、優木さんに会いたがっていましたね。」
「うん!大好きなんだ!———あんなココロにずしっとくる歌……初めてだったからさ。」
「————!」
「私、夢中になれるモノなんてなかったけど———スクールアイドルに出会って……いま、毎日がすっごく楽しい!!」
紛れもない。彼女の大好きのきっかけになったのは紛れもない自分……優木せつ菜なのだ。何か気の迷いが菜々の心を抉る。そんなことをつゆ知らない侑は希望に溢れた話を続ける。
「かすみちゃんが誘ってくれたから、歩夢と一緒に同好会にも入って……」
「同好会?」
「うん…あっ、勝手に部活始めたわけじゃなくて」^^;
「特に問題ありませんよ——スクールアイドル同好会は一度廃部になりましたが、再度立ち上げてはいけないという校則はありませんから。部員が5人以上集まったらすぐに申請しに来てください。」
「そうなんだ———」
「———優木さんが聞いたら、喜ぶでしょうね。」
「だといいけどなぁ……!」
期待の言葉が胸を抉る。ある人は「期待やポジティブな感情が対象者の心を傷つける」と述べる。まさしく菜々は侑の何気ない期待の一言で、心をぶっ裂かれている。
だが———
「何で辞めちゃったのかな……」
「……」
「こんなこと思っても仕方ない———けど思っちゃうんだ。あのライブが……終わりじゃなくて、始まりだったら……ものすごい大きなトキメキの始まりだったらって……」
「何で幕引きに水を刺すようなことを言うんですか……」
「え…?」
「いい幕引きだったじゃないですか———あそこで優木せつ菜というアイドルは、幕を閉じるべきだった……あのまま続けていれば同好会は
『白けることするなよなぁ……』
突如、2人の背後から聞こえる声……若々しくイケてる声でありながら、威圧感のある声だ。
当然侑と菜々は後ろを振り返る———立っているのは、黒いスーツを着た背高の美男……肉体美とそれに負けないような美しい黒髪と黒眼を持った。
そして……侑には、どこかで聞き覚えのある声だろう。が、未だに勘付いていない。
「まさか……俺の教えを捨てるとはな。」
「あ、あなたは…?」
「全く———社会のレールってのは、これほどまでに人を毒するとは。」
「俺」は———そして得体の知れぬ威圧感をその場に振り撒く。
「「ッッッッッ!!!!」」ゾクゾクゾク!!
「———これくらいの威圧で倒れないのは当たり前か……」
「あ、あなたは…!」
「遅い。」
「!!!」
侑は完全に気付いてしまう———目の前にいる男が一体誰か。
「エグ…ゼイド!!」
「そんな邪険にするな———俺はちょっとコイツに用事があるだけだ。」
「生徒会長に…?どういうつもりですか!?」
「コイツを自分の道に戻してやろうと思ってな……スクール
バン!!!!
音楽室のドアが乱暴に開かれる————
「侑ちゃん!!」
「あ、歩夢!!」
「ん…?」
現れた歩夢……鋭くも、ハイライトの消えた昏い目線は俺へと向けられる。
「(お前———あんな呪い効かなかったか。)」
「(お前って……ちょっとは自分のキャラを守ったらどうだ?)」
「(ふふっ…前言いましたよ?侑ちゃんを傷つけるなら———呪い殺すって。)」
「物騒なこと言ってんじゃねーよ。」
「「………?」」
歩夢はテレパシーのようなソレで、俺を牽制する———俺はそれツッコミ返す。このやりとりは外界には聞こえない。故に侑と菜々には俺と歩夢が距離をとって向かい合っているだけだ。
普通の少女であるはずの歩夢にこんな力があること自体、不思議に思うべきなのだろうが。
「さてお前らに用はないが……俺にゲームを仕掛けようってなら、乗ってやるよ。」
「くっ————」
「さ、どうする?侑。」
当然戦うべきじゃない———しかし、ここで逃すと……生徒会長が酷い目に遭うかもしれない。だから見逃すという選択肢はまずない。かといって、ここで俺と戦うことになれば当然この部屋はおろか、学校が無茶苦茶になる可能性がある。
どちらにしても失うモノが多すぎる———そんな心はお見通しだ。
「じゃあ、選択しやすくしてやるよ。」
「?」
【ステージセレクト!】
装着したベルト…ゲーマドライバーを起点に、小広い音楽室が古びた廃工場へと姿を変える。まるでゲームのような転移システム。
非現実的なソレにその場にいた侑たちは驚きを隠せない。
「「「!!!」」」
「なーに。場所はほとんど変わってねぇ——説明するとちょっと難しくなるが……これなら思う存分戦えるってわけだ。」
「……!」
一体何を考えているか見当もつかない。しかし今それは問題じゃない———肝心なのは「そういう状況」になったことだ。
「歩夢!生徒会長を…!」
「う、うん…」
歩夢は菜々を連れてゲームエリアの外に出ようとする……が、しばらく離れたところで菜々の足取りが重たくなる。
「生徒会長?」
「いえ、結構です。前に一度…『観ましたから』。」
「……!?」
〜〜〜〜〜
侑は歩夢と菜々が離れたことを確認すると、改めて俺の方を睨む———頭2つ以上背の高い男を。
「今度は倒す……!」
「お、いい目になったじゃねぇか———」
【JUMP!】
【Authorize!】
「変身!」
【ライジングホッパー!】
侑はすぐさまゼロワンへと変身を遂げる。俺は余裕の態度を崩さず、ゼロワンに面と向かう。
「1つ言い忘れたな……」
「何?」
「俺の名は伊口才———またの名を仮面ライダーエグゼイド。」
【マイティアクションX!】
ピンクのガシャットを起動する……するとタイトルロゴが背面に現れ、コイン状のエナジーアイテムが振りまかれる。
「大変身!」
【ガシャット!】
【ガチャーン! レベルアップ!】
【マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!】
逆立った髪の毛のような頭部が特徴の…仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー。皆が知る姿は同じだろうが……強さは別格とだけ言っておくべきか。
早速、お気に入り武器であるガシャコンキースラッシャーを召喚する———それに呼応するようにゼロワンもアタッシュカリバーを召喚する。
———武器を手に取った瞬間、侑は俺の不意をつくようにリズムよく飛び出す。無論、俺はサッとかわす。
「おっと……前よりスピードが速くなったか。」
「そうかもね———けど、こんなもんじゃないよ!!」
ゼロワンはお得意の黄色いエフェクトを伴った高速移動で、俺を撹乱しようとする———が、俺は左拳で左方にストレートパンチを放つ……命中。
「うわっ!」
「高速移動は確かに自分より同格以下には通用するだろうが…格上には見切られるのがオチだ。それにスピードはその分受けるダメージを倍増させる——そういうのはもうちょっと小物に使うんだな。」
「何か腹立つなぁ……!」
「煽りプレイもゲームの醍醐味だろ?」
「ゲーム…?」
俺が放った言葉に———ゼロワンは怒りをあらわにする。
「ふざけないでよ……命の懸かった戦いを——「ゲーム」なんて軽々しく言わないでよ!!」
「別に軽々しくねぇよ。命の懸かった最高にスリリングなデスゲーム……心が躍るだろ?」
「黙ってよ!!」
ゼロワンはハイスピードでパンチを繰り出すが、俺はそれを大きくバックジャンプして避ける。
「よっと……」
「くっ————」
「いずれにしても…お前が仕掛けた戦いだ。敗者にふさわしいエンディングを迎えさせてやるよ。」
命懸けのデスゲーム————そんな最中……
〜〜〜〜
「みゃー!」
「どうしたのはんぺん!?」
「猫は危機察知が優れた生き物———何か起こってるのかも。」
「まさか……怪人か!?」
邂逅も近い………
後書き
初期フォームだと…舐めたプレイしあがって!
※じきにライダーのスペック集を公開しようと思います。
虹8話 善意のWing【翼】
前書き
麻雀がキテまして……サボりがちになってごめんなさい。
「はぁぁぁっ!」
「よっと…!」
瞬きをする間に何度も交錯する刃と刃……ただ、一方のそれは全くと言っていいほど空振っている。仮に当たってもそれは刃同士の激突でしかない。
ゼロワンvsエグゼイド……高咲侑と俺 伊口才との戦いは、互角に見せかけたワンサイドゲームを見せている。
「どうした?お前の攻撃は当たるどころか掠りもしてねぇぜ?」
「んなことわかってるよ…!」
「じゃあもっと強く打ち込んで来いよ。」
「はああああっ!!」
「………なーんてな。」
俺の挑発に乗ってしまい、強く踏み込んでアタッシュカリバーを思い切り振り下ろす———俺はそれを余裕で躱し、前屈みになったゼロワンの腹を思い切り天上に蹴り上げる。
追撃は行わず、ゼロワンが地面に落ちてくるのを待つ。
「痛てて…!」
「スピードが互角以上ならパワー重視でねじ伏せる……これも悪手だ。どちらも上回っている敵にはステータスのバランス崩壊はカモでしかないからな。」
「うっ……」
「さて…次はどうする?」
パワー重視、スピード重視……どちらも格上には全くもって通用しない。ではどうするか————答えは単純かつ唯一無二である。
「じゃあ——!」
「!」
黄色いエフェクトを伴った高速移動を再び行うゼロワン……再び俺の懐に入り込み、俺を下から斬ろうとする。無論俺もキースラッシャーで受け止めようとする。
が……
「今だっ!」
「!!」
刃を振り下ろすモーションを急遽やめ、俺の左方へと回り込んでミドルキックを繰り出す———それを視認した俺はキースラッシャーの裏側で何とか受け止める。
今思いついた割にはシンプルでありながら、いい仕事をする。
「やっとわかったか……侑。」
「ええ…バトルは頭を使うもの。スピードとパワーのバランスをとりながら、瞬間的にどちらかを重視する———敵に塩を送るって大丈夫です?」
「ふん……塩くらい送ってやらねぇと勝負にもならねぇからなw」
「はああああっ!」
ミドルキックをやめ、アタッシュカリバーで再度———と見せかけて、突きを繰り出す。今度の攻撃はさすがに対応が間に合わない……俺は左腕でその剣先を受け止め、ダメージを最小限に抑える。
ダメージはほぼ皆無であったが……ノックバックを食らってしまう。
「ほう……」
「どーだ!ちょっとは僕の攻撃受け取って!」
「なるほど……戦いの中で成長していくか———まるで戦い方を思い出してるみたいだ。」
「……?」
「ま、誇りたいところ悪いが……ちょっと本気出してやるよ。」
「!!」
ゼロワンが反応した瞬間にはもう遅い……遅すぎる。
拳1つ分まで急接近した俺は片手でキースラッシャーを持ったまま、右フックパンチをお見舞いする。あまりのスピードとパワー……その2つの積が、そのまま攻撃力に化ける——運動エネルギーの公式だ。
「うっ……」
「さてと———そろそろフィニッシュか…?」
「いや…まだ…まだだよ……!」
痛みを堪えながらも立ち上がろうとするゼロワン……その瞳———支配に反対し、自由を求めてのしあがろうと反抗する瞳。
俺はその瞳が……
バンバンバン!!!
「!……!?」
「……!?」
突如俺にぶつけられた弾丸…無論そこまでのダメージは無いのだが、気に障るのは当然である。
「あ…?」
「そこまでにしてもらおうか外道…!」
俺に銃口——変身アイテム兼用のそれを俺に構え、今にももう一発撃たんとしている。そんな彼はいかにも真面目感が漂う黒い髪の中背の青年。
ゼロワンは突如現れた彼に尋ねる。
「キミは…?」
「俺は宮下陽人———防衛学科一年生にして…仮面ライダーだ!」
陽人と名乗る彼は手に持っていたアイテムを腰に装着……そしてコウモリが描かれたハンコ型アイテムを取り出し、ベルトに押印する。
【バット!】
【Confirmed!】
【Eeny, meeny, miny, moe♪ Eeny, meeny, miny, moe♪】
どちらにしようかなと神聖さ漂う声音で歌うドライバー———それが下す答えは……正義のみ。
「変身!」
【バーサスアップ!】
【Precious!Trust us!Justis!バット!】
【仮面ライダーライブ!】
コウモリが羽ばたく様を複眼に持つ…正義の執行者。若き英雄———仮面ライダーライブ。
変身したライブはすぐさま俺に向かって銃弾を放ちまくり、俺に迫る。
「はああああっ!!」
「ふっ…」
キースラッシャーでそれらを全て弾きながら、ライブとの距離は一気にゼロになる。
「なぜこのゲームエリアに……誰の差し金だ?」
「この学校のマスコット猫が教えてくれたんだよ……お前の悪事をな!!」
「さっきから正義漢を気取って、俺を悪に仕立て上げようとしてるが———何か大きな勘違いをしているらしい。」
「っ!!」
俺はライブの腹を蹴って無理やり距離を取らせる。
「俺もお前と同じ仮面ライダー……絶対的主役ってやつだってこと覚えておけ。」
「何…?だったら何故コイツと戦ってる!?」
「ただのミニゲームだよ……別に殺そうだなんて思ってねーよ———ちょっと怪我は負うかもしれんが。」
「何だと……?」
「だが…お前のせいで白けた———また次の機会に遊ぶとするか。」
「おい!待てっ…!」
俺は指パッチンと共に閃光のように姿を消す。
流石に姿を消してしまうと追いようがない……ライブはその変身を解除する。同時に侑もその変身を解除して、地面に横たわってしまう。
それを見た陽人は急いで彼女の元に行き、その様子を伺う。
「大丈夫か!?」
「う、うん...なんとかね///——ところで君は?」
「俺は宮下陽人ーーー防衛学科一年…またの名を仮面ライダーライブ。」
「ライブ……」
多くを語る体力を削がれてしまった侑の肩を持った陽人はゲームエリアから抜け出そうと元いた道を歩いていく……
すると。
「「侑ちゃん(さん)!」」
「歩夢…それに生徒会長…」
「打撲だらけじゃないですか…保健室に——」
「いや…それはダメだ。」
「「え?」」
侑の肩を持つ陽人が侑の返事よりも先に、2人にその返答をする。見ず知らずの人に急に否定されたことに歩夢はキョトンとする。
「えっと——あなたは…?」
「俺は防衛学科一年 宮下陽人。高咲侑と同じ仮面ライダーだ。」
「え…?」
「防衛学科は政府特務機関ヘラクレスって部隊の管轄だ。そして怪人や仮面ライダーに関する事項はごく一部の人間しか知らない…日常生活に大きく影響するからな。だから保健室に行って情報が漏れることは避けたい。」
「で、でも…」
困惑する歩夢。
そこで側にいた菜々は歩夢の態度をさらに軟化させようと、自分が把握している情報を説明しようとする。
「上原歩夢さん、この防衛学科の陽人さんが言っていることは理にかなっています———私もこの目で見ましたが、保健室で解決していい話ではないかもしれません。」
「生徒会長…」
頭ではなんとなくその論理が理解できた歩夢———それでも困り眉が治ることはない。
だが……次の瞬間。
「……ほいっと。」
「「「!!!」」」
「なんか重大な話っぽかったけど———もう治っちゃった♪」
「え…マジかよ———」
同じく仮面ライダーである陽人ですら目を疑った———当然と言えば当然。
この世界は多種族混合社会…異形の存在が居てもおかしくはないが、それにしてもこの生命力は異常と言わざるを得ない。
しかし侑はなんの困惑もせずに陽人に言いよる。
「陽人くん、君たち…ヘラクレスだっけ?その人たちの中に君以外にも仮面ライダーがいるの?」
「え?あぁ…俺ともう1人、防衛学科の学生長が——」
「そっか……」
「あっ…そういえば———」
菜々は思い出したように陽人に口添えをする。
「陽人さん。侑さんも歩夢さんもスクールアイドル同好会の一員になる予定だそうです。」
「!…そうか。なら侑さん、俺たちと一緒に怪人と戦ってくれ!」
「?」
「俺たち防衛学科に課された任務…それはスクールアイドルイベントにて多く発生する怪人を倒す———あなたもそうする予定のはずだ。」
「…!」
「俺たちと一緒に———人々を守ろう!!」
「!!———もちろん!」
ゼロワン———始まりの戦士。新たな戦士が…加わった。
————※————
〜〜〜♪
クラシック音楽が流れる高級ホテル……そこに併設された高級カフェでコーヒーを啜る、6に結ったカチューシャが特徴的な白く輝く長髪で、超グラマラスな女性。
ミルクコーヒーを一口飲み、温かい息を吐く。
『ふぅ…』
そして———そんな彼女の側に……よちよち歩きの乳児が2人。白黒半々の髪の双子。
「ねこ…はしってた〜」
『かわいかったね〜♪』ニコニコ
「うん!!」
ニコニコとした白ドレスの女性——ハイパーロードA。しかしその笑顔はどこか裏の顔を持っている……この状況とは無関係のそのことで。
そこに———
コツコツコツ……ガシャン!
「「父上さま〜」」
「……」
ぶっきらぼうに入ってくるなり、高そうな机を叩く俺は一番大嫌いな妻と対峙する。
俺は早速彼女を威圧する。
「よぉ…随分と悠々としてるじゃねぇか。Aqoursさん?」
『あら、あなたから来るなんて…嬉しいわ♡』
威圧も無意味…というよりむしろその視線を楽しんでいるかのような言い草である。
しかしそんなこと考慮している懐の広さは今の俺にない。
「俺のゲームの邪魔をするとは…覚悟はできてるんだろうな?」
『邪魔?何を証拠にそんなこと言うのかしら?」
「お前の眷属があの男を導いた———そのせいでせっかくのゲームがめちゃくちゃだ。」
『ふーん……』
彼女は俺を嘲るように微笑でコーヒーを一口飲んだ上で俺に言い放つ。
『私言ったよ?もしあの子を殺すような真似をするなら……「お覚悟ください」ってね♪』
「チッ……!」
『あなたの思い通りにはさせないわ———けど私のモノになろうっていうなら、話は違うわ♪』
「テメェ———」
彼女が対価に出してきた条件……これが全ての行動原理である。彼女たち【Aqours】は宇宙を生み出した……いわばあらゆる事象、力、存在の母である。だが同時に母の慈愛は子供たちを縛る狂気でもある。
そしてその愛は、夫である俺に対しても例外ではない……むしろ俺にしか向けられない。その理由はただ1つ、彼女の束縛を全く受け付けないのが俺だからだ。
そう……俺の答えは既に決まっている。
「誰がテメェみてーな若作りババアのモノになんてなるか!」
『は…?ババア?』
「あぁ。俺は誰からの束縛も受けない。俺は俺の道徳に則って行動する。」
『くっ…!』
思い通りの展開に運ばず、一転して悔しそうな表情を見せるハイパーロードA。俺はそれをさらに煽るようにテーブルに置いてあった抹茶ケーキを鷲掴んで、半分齧る……
それをみて……幼子はいう。
「父上さまごうかい〜」
「あぁ。マナーなんて所詮は誰かが勝手に作ったモノ……わざわざ従う必要なんてないのさ。」
『ちょっとあなた!『セフィオスとグリフォス』に勝手なこと教えないでよ!!』
「バカ。お前の愛情とやらで躾けられたらそれこそ大問題だ。」
エコーのかかった九色の声が怒りを帯びる。
『この子の育ち方で何もかも……それこそ『人が人でなくなってしまう』かもしれないのよ?』
「さぁ?その方が面白いかもしれないぞ?…それに。」
「もうそのカウントダウンは始まってんだよ……あいつらの意思によってな。」
虹9話 皆の夢を守るRider
前書き
しばらくはニジガク編続くな……
「侑先輩〜歩夢先輩〜部員を集めに……って———その人は?」
歩夢と侑に駆け寄るかすみは、隣にいた知らない男子生徒について2人に尋ねる。
「お前が……部長か?」
「え、まぁ、うん。」
「俺は防衛学科1年 宮下陽人。今後スクールアイドル活動の際には俺たち政府特務機関ヘラクレスが実験的に、ライブにおける治安維持を担当する。」
「ヘラクレス…?ん…?」
「ま、とりあえずライブを開催するときは俺に声をかけてくれ。」
「は、はぁ…」
「じゃ、またな。」
そう言い残して陽人は侑たちと別れた。
急にそんなことを言われて困惑するかすみはすぐさま事情を侑に尋ねる。
「どういうことですか侑先輩!?あの人たちは…?」
「あははは…多分、私と一緒でかすみちゃんや歩夢たちを守ってくれるってことなんだろうけど———でも悪い人じゃないと思うんだけどなぁ〜」
「それは確かにそうかもですけど———」
〜〜〜♪
かすみの電話から侑の聞き覚えのある音が鳴る……着メロだ。かすみはすぐさま携帯を取り、応答する。
「はいもしもし?」
【あ、かすみさん?】
「しず子!———何の用…?」
明らかに不機嫌そうに親友 桜坂しずくの電話に出るかすみ……しずくは物腰柔らかにかすみに尋ねる。
【今近くの海浜公園にいるんだけど……エマさんも彼方さんも一緒に。】
「……そう。」
【ちょっと話したいことがあるんだけど……いい?】
「———わかった。」
かすみは不機嫌さを隠すことなく、その電話をガチャ切りする。しかしその提案に応じるところを見ると素直になりきれていないだけのようにも感じられる。
歩夢は電話の内容を尋ねようとかすみに聞く。
「かすみちゃん…?」
「———お台場の水の広場公園です。」
————※————
「えぇー!?せつ菜先輩があのイジワル生徒会長!?!?んなわけありますか!!」
「って言われてもねぇ……事実は事実なのよ♪」
侑たち3人は公園にやってきた——そこで待っていたのは、以前スクールアイドル同好会に所属していた桜坂しずく、近江彼方、エマ・ヴェルデ…そしてエマの親友で以前歩夢に声をかけた果林である。
衝撃の事実を伝えられたかすみはその時まで仲間はずれにされていたことに腹を立てた様子で言い放つ。
「ていうかなんでそんな大事な話をかすみん抜きでするんですか!!部外者のお姉さんは行ったのに!!」
「へぇ…面白いコト言う子ねぇ…」
「ひぃい!ごめんなさい!」
かすみは不気味に微笑む果林にビビって、しずくの背後に隠れる。そして何やら懐から取り出して……
「コッペパンあげるから許してください…!」
「あら、美味しそう。ありがたくもらっておくわね♪」
なおも小刻みに震えるかすみに対して、盾にされているしずくは困り顔で先程の質問に答える。
「何度も電話かけようとしたんだけど……「あっちもやるべきことがある」って——」
「やるべきこと…?誰がそんなこと!!」
「私だ。」
「「「えっ!」」」
道路側からやってきた人物———伊口イフトである。突如黒幕的な存在として名乗りを挙げた彼に侑は意表を突かれたような表情を見せる。
「い、イフトさん!?」
「かすみを通じて……悪く言えば利用して君たちをスクールアイドル同好会復活の「足がかり」にさせてもらったわけさ。」
「足がかり…?どういうことですか?」
「結果同好会が成立寸前…もはや隠す必要もないだろう。」
訝しむように尋ねる歩夢……それをみたイフトはニヤッとほくそ笑むように話し始める。
「私の目的はスクールアイドル文化をより普及させることだ。そのためにスクールアイドルの結成を支援することでレベルの高い、人々の心を揺さぶり、魅了し、英気を高めるようなグループの誕生を自らの手で促進させること。君たちはその原石として選ばれた…そういうわけだ。」
「わからないわ……他の学校もあるのに、どうしてこの学校を選んだの?」
「当然———『優木せつ菜』という存在だ。」
イフトは一息ついてお台場の海を見渡しながら、その壮大な話を続ける。
「優木せつ菜はインターネットが普及したこの社会で人々に勇気と英気を与えてきた……その影響は世界中にも及んだ。実に世界の5%の人間、3億人近くが彼女の存在を認知している。彼女本人はそこまでとは思っていないだろうが。」
「そ、そんなにも……」
「せつ菜ちゃん——そこまで有名人だったなんて……」
「1人だけレベルが違うよ〜」
しずく、エマ、彼方は先ほどまであっていた人物がそれほどまでに影響力のある人物だと改めて感じざるを得ない。いや、むしろ人気が出たのはこの半年付近であるから無理もない。
しかしイフトにその人気を逃す要因はない……
「しかし彼女はスクールアイドルを辞めた。」
「かすみんたちの目的がバラバラで1つにまとまらなかったから……」
「————そんなつまらんことで辞めるようなら、私は興味もかけらもない人間だったろうに。」
「「「「「「「「え?」」」」」」」
「彼女が辞めた理由は———もっと巨大で、恐ろしい理由だ。」
かすみが今まで感じていた責任———それをイフトはあっさりと一蹴した。しかし皆はそれに安堵することはできない……むしろ嫌な感じがしてならない。
「怪人……キミたちは知ってるかい?」
「はい...噂はかなり———」
しずくの返事に他のメンバーもそれに頷く。イフトはそれを聞いてスパッとその真実を話してしまう。
「彼女がスクールアイドルを辞めたのは…怪人による被害を利用して誹謗中傷を行う連中だからだ。」
「誹謗中傷…」
「そうだ侑。それもただの落書きレベルじゃない…何者かが、スクールアイドル自体を潰そうとしているんじゃないかってレベルだ。」
「でもそんなの聞いたことないですよ…?」
「そりゃそうだ…その誹謗中傷ーーーもとい「脅迫」はせつ菜本人にしか届いていないのだから。」
「!!!」」」」」
イフトは「ここまで言えばもうわかるだろう」———そんな雰囲気を醸し出す。コレで勘のいい人物ならば理解できるだろう。
その勘のいいとされる果林が話を要約してしまう。
「なるほど…つまり、優木せつ菜さんは同好会のメンバーが酷い目に遭わないにように——自分がその犠牲になることを選んだ。そういうことね?」
「それで私たちを遠ざけようと…」
「自分が関わると、彼方ちゃんたちが酷い目に遭うかもしれないから……」
補足したエマと彼方の考察がその全てを物語る。全てを知る…知らぬ者のために自らスケープゴートになるという勇断。
その無念さを推し量るのは難しいことではない。現に侑はその痛みを感じ取っている。
「菜々さん………」
「何か問題があるの?」
「?」」」」」
「あなたたちの目的はもう果たしているんじゃないの?」
皆の中にある根底…悪く言えば固定観念を覆すよう問いかける果林———コッペパンを口にしながら、クールさを絶やさない。
「優木せつ菜さんが自ら進んで犠牲になることで、あなたたちはスクールアイドル活動ができる……そして今日、5人以上の部員はいるんだし。それでいいんじゃない?」
「……そうでしょうか?」
現実的な話をする果林。しかし侑は悪あがきのような疑問を呈する。
「皆さんはどう思いますか?このまま辞めちゃってもいいと思いますか?」
「「「それはイヤだよ!!!」」」
せつ菜に直接対談した3人がソッコーで拒否する……しかし、その次のエマの言葉は——自信のなさが滲み出ている。
「せつ菜ちゃんはすっごく素敵なスクールアイドルだし…!でも...」
「彼方ちゃんお姉さんなのに何も相談してあげられなかった……」
「みんなで今までお披露目ライブに向けて練習してきたんです!せつ菜さん抜きなんて考えられません———でも…」
「————」
侑は皆の目を見る……とてもお世辞でこのようなことを言っているとは思えない。そして何より彼女にはそれを言われるだけのモノはある。
侑はスクールアイドル同好会の皆に言う。
「わかりました———その言葉が聞けてよかった!!」
「「「?」」」
「じゃあ私がみんなを守る。せつ菜ちゃん1人が抱え込ませない……みんなの夢を邪魔する奴から守る!」
「侑ちゃん……」
皆急に発せられた宣言に驚きキョトンとする。しかしその意味を知っている歩夢は驚くとともに少し複雑な顔をする……
そしてその言葉を待ってましたと言わんばかりに、イフトは侑の肩を叩く。
「その言葉を待っていたぞ…侑。」
「イフトさん———」
よくやった———美麗な目はその言葉を訴えかけていた。そしてイフトは同好会のメンバー及び果林の前で言い放つ。
「怪人と言ったが…ライブを止める必要はない!ここにいる高咲侑———『仮面ライダーゼロワン』が君たちのため戦い……ともに夢を見ることができるはずだ!!」
続けてイフトはこう述べた。
「後ろを気にする必要はない…君たちのやるべきことをやりなさい。」
————※————
「武野司令官、ゼロワンもとい高咲侑との接触に成功したそうです。」
「そうか———では一応警戒を怠らず、協力関係を築くように。」
「はっ……」
青年は公衆電話ボックスから出る。
「スクールアイドルを守る者……か。くぅ〜!!」
男は嬉しさを爆発させるように、いまにも飛び跳ねそうなテンションと化す。
「コイツの力…試す時が来たってわけだ!!」
青年の手には……水色のガジェット———バグヴァイザーツヴァイ。
そして…
【仮面ライダークロニクル!】
虹10話 Ocean【夢の海】へDive!
前書き
まんまですね、はい。
「はーい、はんぺん?ご飯ですよ〜?」
「にゃーん。」
キャットフードにかぶりつく捨て猫…もとい虹ヶ咲学園公認のマスコット はんぺん。
そしてその様子を見つめる璃奈と愛。
「『飼うのはダメだけど、学校の一員として迎え入れるのは校則違反じゃない』って屁理屈だけどいい屁理屈だよね♪」
「うん…生徒会長、いい人だった。」
「にゃーんにゃーん!」
猫語で肯定するはんぺん。なおコイツは許しがたい冒涜行為を行ったのだが…それで怒るのは語り手として相応しくないのでやめておこう。
ところで愛は少し不安そうな顔で璃奈に相談する。
「そう言えばはるが言ってたんだけど、しばらく忙しくて家に帰るのが遅くなりそうって。なんか変な感じしちゃってさ〜」
「スクールアイドル……関係あるかな?」
「スクールアイドルかぁ———なんかあるよね。SNSとかでよく怪人とかなんとか……それと仮面ライダーって人が戦う動画とか。」
「私も見たことある……けど、ほとんど消されちゃってる。」
仮面ライダーが身体強化システムとして一般に知られているのに対して、怪人の話は悉く一般人に知られることはない。仮に知っていてもすぐ忘れるような場末の動画のうちに削除されている……
「なーんかきな臭いなぁ…はる大丈夫かなぁ———」
愛は空を見上げながら呟いた。
————※————
「本日は以上です。」
『お疲れ様でした。』
生徒会はいつも通り機械的に終わった……機械のように議題を出し、機械のようにそれを解決し、機械のようにその場を去る。
中川菜々はそういうふうにあるべき人間。親からも、皆からもそのように生きるべきと思われているはず————だからレールを外れた行為をしてはいけない。
そう言い聞かせた。
そんな時……
〜〜♪
『普通科2年 中川菜々さん、優木せつ菜さん。至急西棟屋上まで来てください。』
聞き心地の良い声で呼び出される———この声は何となく聞き覚えのある菜々。そしてせつ菜と菜々という特定の人たちしか知らない『組み合わせ』……しばらく呆然としてしまう。
「会長…?呼ばれてますよ?」
「……すいません。ちょっと行ってきます。」
生徒会役員の1人が声をかけたことでせつ菜はとりあえずその席から立つ。
〜〜〜〜〜
「よりによってせつ菜と一緒に呼び出すなんて……エマさん———あるいは朝香さんか。もしくは……」
菜々に浮かんだもう1人の存在……それは「伊口イフト」その人である。彼女だけが知っている彼の得体の知れなさ…内情を見透かす様子から見ても可能性はなきにしもあらず。
そんな予想を張り巡らせて西棟屋上までやってくる…
そこには————
「はじめまして……優木せつ菜ちゃん?」
「!———高咲…侑さん。」
そこに立っていたのは意外な人物———侑だった。少し拍子抜けするせつ菜だったが、すぐさまその理由を察する。
「朝香さんたちに聞かされましたか……?」
「それもあるんだけどさ、前に音楽室で話した時になんとなく……そうじゃないかなって。」
「そうでしたか…それで——どういうつもりですか?」
菜々が意図せず低い声音で要件を聞き出そうとすると、突如として侑は潔い謝罪をする。
「ごめんなさい!!」
「!…どういうことですか?」
「あの時『そんなこと』知らなかったからデリカシーのないこと言っちゃったかなって……」
「気にしてませんよ。正体を隠していた私が悪いんですから———話が終わったのならこれで。」
「あ、まだあるの!!」
この場から離脱しようとする菜々を侑は引き止める。
「なんですか?」
「私は……せつ菜ちゃんにスクールアイドルとして同好会に戻って欲しいんだ。」
「え…」
拍子抜けするせつ菜……拳に力が入る。
「なんでわかってくれないんですか……!」
「?」
「私は…!スクールアイドルが大好きだから!!『だからスクールアイドルを辞めたのに』!!」
「1人で勝手に抱え込まないでよ!!」
「!」
せつ菜の悲痛な叫びを理解しつつもそれを批判する侑。真剣な眼差し……同性であっても惚れてしまいそうなキリッとした眼差し。
侑は続ける。
「せつ菜ちゃんが抱えてることも聞いたよ……でも1人犠牲になるなんて『僕』は許さない!」
「侑さん……」
『見つけたぞ……ゼロワン!』
「「!!!」」
突如話に水を差すように現れた狼藉者……すぐ上の階から侑の半径5メートル地点まで着地する。
「お前は……仮面ライダーランス!」
「この前は世話になったなぁ。」
「今はお前なんかと戦いたくないんだ……とっととこの場から離れて。」
「そんなことはカンケーないね。今日はお前から受けた借りを返そうと思ってな。」
低調な声で彼に嫌悪感を露わにする侑。しかし仮面ライダーランスことシンはそんなことお構いなしに戦いをおっ始めようと企んでいる。
しかし……シンは菜々に目線をやると、少し驚いた様子を見せる。
「お前は……優木せつ菜ってのはお前だな?」
「っ!———何であなたが……」
「何でって……お前に脅迫メールや実際に怪人の被害を与えてんのは『俺たち』だからなぁ。」
「は——?」
侑は先ほどまでとは比べ物にならぬ威圧感のある声を出してしまう。その言葉に侑の背後にいた菜々も少したじろぐ。
「お前たちが……そっか。じゃあ『僕』も戦う理由ができたよ。」
「?」
「菜々さん……いや、せつ菜ちゃん。今———証明してみせる。」
ツインテールに縛られた侑の髪が……今、解かれる。
【JUMP!】
【Authorize!】
「僕が……トキめくみんなを『守ることで応援する』———それが僕のトキメキ!!」
「変身!!」
【プログライズ!】
【飛び上がライズ!ライジングホッパー! 】
【A jump to the sky turns to a rider kick.】
侑は……仮面ライダーゼロワン。夢を守る存在へと姿を変える。
「さぁ……行くよ!!」
「ようやくやる気になったか…変身!」
【OPEN UP!】
シンは仮面ライダーランスへと姿を変える。
怒りに燃えるゼロワン……その怒りを戦いにぶつける。
〜〜〜〜
ドサッ
「ぐっ……!」
ゼロワンの強烈なキックがランスを屋上から地上へと突き落とす。それを追ってゼロワンもコンクリートへと着地する。
もうすぐ部活が終了する時間……長引けば他の生徒を巻き込んでしまうかも知れない———しかし侑はそんなこと考慮に入れる余地はなかった。
「絶対許さない……はぁっ!」
「ぐはっ!」
黄色いエフェクトを伴った高速移動で、ランスの視界から消えた———刹那、背後に回ってその首元を空中からの薙ぎ蹴りを御見舞いする。
流石に急所の1つでもある首を思い切り蹴られてはランスのダメージは大きいものとならざるを得ない。
「く、クソっ…前よりパワー上がってねぇか?」
「隙は与えないよ——!」
間髪入れずランスに膝蹴りを入れて、その勢いのまま回し蹴りでランスの体を吹き飛ばす。
「調子に…乗るな!」
さらに追撃を試みようとするゼロワンに対し、リーチの広いランスラウザーがゼロワンの体を斜めに斬り裂く———少し怯んだところを鋭利な槍の先端がゼロワンを貫いた……
しかし———
「はぁ…はぁ……その程度———効かないよ。」
「なっ…!お前どうやっ…ぐはっ!」
槍で貫かれても、有効打にならないと突きつけられて怯んだところをランスは腹を思い切り蹴られる。
以前から侑の体は異常さを醸し出していた……最初ムテキゲーマーに腹を殴られた時も体のアザが異常なスピードで回復した。そして昨日は戦いで追った傷が直後に回復した。
そして今……負ったダメージをすぐに回復している———
「馬鹿な……俺は———!」
「これで終わらせる……!」
【ライジングインパクト!】
跳躍は大空にてライダーキックへと変わる……その言葉通りの必殺技。
ランスは尚も抵抗を試みようと、ゼロワンが突き出した足に対抗するようにランスラウザーを突き出すが……
「トキメキの力を‥‥思い知れ!!」
何か追い風のような勢いがゼロワンを後押しして……勝負に競り勝つ!
「なっ———ぐわァァァ!!!」
大きく吹き飛ばされたランス————その体は大空の彼方へと消えていく……無論、校舎から出て行ったに違いない。
「ふぅ……」
ジャンプして菜々の元まで戻ってきた侑……変身を解除する。
「わかった…?僕が———キミを守る。だから———せつ菜ちゃんの大好きを叫んでほしい!他の人なんて気にする必要なく、思いのままに、自由に叫んでほしい!!」
思いのままを伝えた侑———菜々はツギハギな言葉を紡いでいく。
「いいんですか……?私のワガママを———大好きを貫いても…いいんですか?」
「もちろん!」
「っ!……あなたみたいな人——初めてですよ♪」
頬を赤らめる菜々……そして微笑と共に三つ編みをさっと紐解き———優木せつ菜へとその姿を変える。
「わかっているんですか…?あなたは今とんでもなく凄いことを言っているんですから!!」
せつ菜は侑に向かって拳を突きつける。
「どうなっても知りませんよ!」
「-----/////!」
「これは……始まりの歌です!!!」
Dive!(歌:優木せつ菜)
————Fin————
「はぁ…はぁ…はぁ……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会!優木せつ菜でした!!」
息を切らしていることすら忘れ、ただ歌うことに没頭していたせつ菜……無論、観衆は大喝采する。
「せつ菜ちゃん!」
「うわっ!」
感極まった侑はそのまませつ菜へと飛び込むように抱きつく。
「もうっ……だーいすき!!」
「ちょ、ちょっと…!」
困り顔のせつ菜だったが侑と目が合うと、互いに微笑み合う……
流石にくっつきすぎたのか、嫉妬するようにかすみが横に割って入る———続々とスクールアイドル同好会のメンバーも。
「先輩!いつまでくっついてるんですか?」
「かすみさん…それにみんな———みていたんですか。」
「おかえりなさい♪」
「でも……ちょっと盛り上がりすぎかも(^^;;」
しずくが興奮冷めない観衆を横目で見る。
「どうするぅ〜?生徒会長?」
「彼方さん、今の私は正体不明のスクールアイドル 優木せつ菜……さ!正体がバレない前に撤収しますよ!!」
「「「「「おー!!!」」」」」」
スクールアイドル同好会は————あるべき姿を取り戻した。
虹を渡り、夢を泳ぐStoryは……いま、始まったばかりだ。
L7話 明星【Super star】になるべき者たち
前書き
ようやくLiella編に来たぜ……
あと仮面ライダーグレアがちょっと個人的ブームになってます。
「ここは…ハヤトさんの家デスか?」
「あぁ———正確には、師匠の家だけど。」
速人に連れられて、俺こと伊口才の邸宅にやってきたかのん、可可、そのコーチ役である千砂都、そして那由多。
早速5人は速人の誘導で漢方屋に侵入、店頭を突破して、奥地に潜んでいたエレベーターへと乗り込む————全員乗り込んだことを確認した速人はB3と描かれたボタンを押す。
「地下三階……そういえば入ったことなかったかも…」
「あ、たしかに!」
かのんの言葉に千砂都も同調する。すると速人が2人に顔合わせずに、話を始める。
「当然も当然……ここは師匠が秘密で作ったところだからな。そして去年、俺だけ初めて知ったところだ。」
「「へぇ……」」
速人が事情をペラペラと話すのに対して、那由多は口を挟まないことに千砂都は疑問を持つ。
「那由多くんは知らなかったの?」
「あぁ…初耳っていうか、本当に地下三階があったことが初耳っていうか———え、マジなのか速人?」
訊いてくる那由多に、顔を合わせずも大きなため息をついて速人はスパッと答えてしまう。
「正直、お前に知られないように師匠はずっと黙ってたんだ……『馬鹿で短期な那由多に俺のコレクションをぶち壊されたらそれこそ半殺しにしなきゃいけない』って師匠が言うもんだから、俺も黙ってた。」
「コレクション……?」
「さ、ついたぞ。」
かのんが尋ねようとしたところで、エレベーターは地下三階へと到達する。
スーッとエレベーターの扉が開く……5人の前に飛び込んできた空間————それは……おびただしい数の多種多様な光だった。
「これは……
「「「「ゲームセンター!?!?」」」」
その白い空間に敷き詰められた店舗に実装されるであろうゲーム台。レトロゲームからモダンなゲームまで年代順にうまく並べられている……その律儀さはゲーマーである者しか理解できぬこだわりを感じさせる。
その豪勢さに圧巻されているかのんと千砂都……対して可可は「あるゲーム機」を見て目をぱちくりさせ———叫んだ。
「ア、ア、アレハ……!/////」
「ど,どうしたの可可ちゃん!?」
「あれはモシや〜!!!」
かのんの言葉など耳に入れず、一直線にその場所へ向かう可可。何事かとその場にいた速人以外の3人もその後を追う。
可可が向かったゲーム機……それは————
「これは……『スクールアイドル!リズムバトラー!!』ではないデスか!!」
「リズムバトラー?そんなゲームあったっけ……?」
「知らないのデスかカノンさん!?このゲームは伊口ファウンデーションが手がける世界中のスクールアイドルのダンス情報と歌声をインプットして、その動きと歌をプレイできるとんでもないシロモノ…!そしてこのモデルはカノ有名なレジェンドスクールアイドル Aqoursの絵柄が描かれた世界でほんの僅かしか発売されていないレアすぎるモノ————クゥ〜!!!サ、サワリタイ…!」
「なんかよくわからないけど、とりあえず凄いゲーム機なんだね……w」
若干引くかのん……そこへゆっくりと近づいてきた速人が練習要員であるかのんと可可に声をかける。
「早速そのゲームで遊んでみろ……それが俺の思いついたアイデアだ。」
「え!?」
「触ってもイイノデスカ!?」
「あぁ、嫌って言うほど遊べばいい。」
「なるほど!これならリズムゲームが得意な可可ちゃんの長所を活かしながら、ダンスの基本を身につけられるってことだね!」
ポンと手を叩いて速人の考えを理解した千砂都。
「じゃあ早速、やってみよう!可可ちゃん!」
「おー!」
〜〜〜〜〜
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ……くぅ〜」パタリ
全身から吹き出した汗と共になりふり構わず地面に倒れ込む可可とかのん—————そのあまりの無防備さに速人は目を細めて苦言する。
汗と女性……その組み合わせで考えられるのはひとつだ。
「お前らなぁ……ちょっとは体裁を気をつけたらどうだ?」
「別に…いいじゃん…はぁ……幼馴染なんだし———疲れたし……」
「それでいいのか……?」
困惑を隠しきれない速人。この際はっきり言うと、可可とかのんのスポーツ服が濡れ透けて下着がそのまんま浮き出ていると言う話だ。
ここでふと千砂都が速人に尋ねてくる。
「あれそういえば那由多くんは?」
「あぁ…アイツは———腹減ったからって冷蔵庫を漁りに…」
すると……
「なるほど、だからアイツだけが上の階に上がってきたわけか——」
「「「師匠(才さん)!」」」
やってきたのはこのゲームセンターの創造主たる俺 伊口才。俺が現れたと聞くや否や、可可は今までへばっていたのは何処へやら、俺の元へと即行で尋ねてくる。
「才サン!」
「?」
「こ、このゲームは一体どうやって手に入れたのデスか!?」
「あぁ……あれはな————企業秘密だ。」
「ソ、ソコをナントカ…!」
「無理言っちゃいけないよ可可ちゃん。」
「うぅ…!」
勢いで迫る可可をたしなめるかのん。抑止される可可だが、とは言っても諦めきれない気持ちがその大半を占める。
俺は顎を手で押さえて、考えているそぶりを見せる。
「そうだな……ラブライブの全国大会でそれなりの結果を残したら、教えてやるよ。」
「ホ、ホントデスか!?」
「あぁ。ま、残せたら……の話だがな。」
「よーし!絶対に優勝してやるデス!頑張りましょうカノンさん!!」
「あ、うん……」
何かスイッチが入ったように躍る可可の問いかけにかのんは自信の薄い返事を返す。その弱々しい顔を横目で確認した俺は話を変えるようにかのんに問いかける。
「曲は…どうなってるんだ?」
「へ?」
「作曲はともかく、本格的な作詞はやったことないだろう?」
「それは…まぁ、はい。」
「じゃあ……然るべき人物に任せると良い。なぁ?『速人』?」
「げっ…!」
目線をあえて送らない……逆にそれが速人を名指ししている雰囲気を醸し出す。
速人はちょっと嫌そうな顔で2歩下がる。そこで千砂都が思い出したように口を出す。
「あっ、確か速人くん夏休みの課題でポエム書いたらいっつも特選だったよね。」
「そうか…人の心を読めるから————速人くん!!」グイッ
「ハヤトさん!!」グイグイ
「わかったわかった!!わかったから一旦離れろ!!(近いって……!)」
可可とかのん……美少女2人に迫られるオッドアイの美男子 速人。顔を赤面させて2人を遠ざけようとする。
しかし、可可は言質を取ったかのように速人に迫り尋ねる。
「じゃあ引き受けてくれるのデスカ!」
「う、あぁ。しゃーねぇ。」
「「やったぁ!!」」
ハイタッチする「かのクゥ」。その屈託のない純粋な笑顔には、思わず父性のようなそれが湧いてくるような気もしなくはない。
しかし速人の顔はどうも煮え切らない。側で傍観していた俺は速人の横まで近寄り、耳元で囁く。
「ペンは剣よりも強し……やがてそれがお前をさらに強くするだろう。」
「師匠……」
俺は振り返って、喜んでいるかのんたちに提案する。
「さ、今日はいろいろあって料理を作りすぎたんだ……よかったら食っていかないか?」
「「「ほ、本当ですか(デスカ)!!」」」
「あぁ。料理には自信……あるんだ。遠慮せず食ってやってくれ。あ、でも早くしないと那由多が……」
「「「急げー!!!!」」」
かのんたちは急いでエレベーターへと駆け込む。そんな中……速人は少し疑念を抱く。
「(…食って「やって」くれ……?)」
————※————
パラパラパラ……
「諦めないキモチ……輝く……星…明星……」
自室で言葉を羅列する速人。言葉の出自は———ある一冊の大学ノート。
「可可の言った通り一部は中国語か……だけど。」
翻訳というのは実は非常に難しいコトなのだ。言語によって1つの単語に様々な意味が込められる時がある。その真髄は自国民……いや、彼らですらも真に理解はしていないのかもしれない。
その言葉のニュアンスを速人は恐れ……そして読み取ろうとしているのだ。
「そういえば———かのんの父さんなら中国語の詳しい辞書を持ってるかもな……」
ガチャと自室を飛び出す速人。
彼は信念を持っている。かのんなら……彼女たちなら必ずスーパースターになれる。そう信じている。盲信している。
そのためならば……彼は。
————※————
【じゃあ、そっちはうまくいったんだな?】
「あぁ。じゃあ今度は———頼むぞ?」
【了解。】
プツリと切れる電話。まだ4月であるのに少し少し汗ばむほどの陽気……俺もブレザーなど羽織ってはいられず、薄青いワイシャツ姿になる。
そして今、俺は……とある温泉地に構えられた豪邸に来ている。
「はぁ……嫌だ———でも仕方ねぇか…」
ノック抜きでその邸宅の玄関をくぐる俺。そのまま階段を登り、ガラス張りオーシャンビューのスペースへと到達する。
「アイツらは……」
俺は黒いソファに座り込む————と。
バシャ!
ピト…ピト……
奥のガラスが湯けむりに曇る。その中から滴る湯水と共に現れる————絶対なる美女 ハイパーロード/Aqours。
ダイヤモンド色の長髪をポニテで結び、その紫色の瞳で俺を見つめる。
『まさか貴方から来るなんて、珍しい♪』
「あぁ。俺も絶対行きたくないって思ってたんだが……事情が変わった。セフィオスとグリフォスは?」
『あっちの部屋で寝てるよ。』
「——————そうか。」
『どうしたの?そんなに困惑して?』ニコニコ
「お前……服を着ろ。服を。」
そう、彼女は今とんでもないダイナマイトボディを風呂に入ったまま俺に見せつけている状態。
普通の女ならば見過ごしても良いが、コイツには別の意図がある気がして気分が悪い。
しかし———彼女は恥ずかしむ様子もなく…むしろ見せびらかすように話を続ける。
『私は構わないし……好きな時にシていいんだよ?』
「ふざけんな。外見のみピチピチの超若作りBBAの体に欲情するほど俺も…堕ちてはいない———」
『ふーん……ま、いいよ。いずれこの私に魅了されるのはわかってるんだから♡』
「てかそんなことはどうでもいいんだ……単刀直入に言う。アレの出番だ。」
アレの出番……それが何を意味するか、彼女はその『全てを見通す目』で理解しているはずだ。しかし彼女は不満げな顔をする。
『私を老いぼれ扱いした上に言うことも聞いてくれないで、そんな頼み事なんて…なんてワガママな人。』
「これはアイツらのためだ。」
『前にも言ったはずだよ?私はあの子たちが力を手に入れることは反対……大きな力は自由を与えて、人を路頭に迷わせ、争いへと身を投じちゃうからね。』
エコーがかった甘い声が俺に牙を向く。確かに彼女の言っていることは一理ある。いや、それこそ真理なのだ。
だが———それでも、時は進むべきなのだ。
「その通り。それが俺とお前が造った世界……いずれ滅亡は訪れる。そこからどう立ち上がるか…それをアイツらが導くためにも新たな力は必要なんだよ———!」
真剣な眼差しで彼女の目を見る俺……その凛々しさから彼女の目にハートが浮かぶ。
『ほ、本当に仕方のない人だなぁ…そんな目で見られたら断れないじゃん♡』
「じゃあ————」
『はい。お目当てのモノ。』
そうして彼女が差し出したのは……透き通るように青い色のでかいワンダーライドブック。
「赤はお前が…まぁいい。じゃ、これで俺は
『ちょっと待ちなよ。』
「あ?」
『こんなグラマラスな美女が裸でいるのに…ちょっとつれないんじゃない?』
「……何が言いたい?」
『私がゲームで勝ったら……責任、取ってね?』
「何が責任だよバーカ。結局コレかよ……だが、今回もすぐに終わらせてやるさ。』
未だいい歳した女が対面で全裸なのが気になって仕方ないが暇を持て余した神々のゲーム……始めようか。
L9話 Nuisance【邪魔者】
「はぁっ!!」
「ふっ!」
繰り出される剣戟。戦況はまさしく剣、拳、矢が飛び交う乱打戦。一瞬の油断が死へとつながりかねない。
セイバーが振り下ろした火炎剣烈火を仮面ライダーグレイブはなんとか手持ちの剣で受け止める。しかし……その重みは明らかにセイバーの方が上であった。グレイブの剣は徐々に後方へと押される。
「剣の衝撃……調べ通りの強さです。」
「調べだと?」
「天羽速人。文武両道に恵まれた男———その身体能力は新聞紙で相手を気絶させる腕力……そうですね?」
「くっ……!」
セイバー…その変身者たる速人はこの羽田淳一なる男の底知れなさに毒される。
底知れなさとは何も「実力」という意味ではない。自分の手の内を知っている……「かのんたちの情報も漏れているのでは?」という疑念。それが速人の気分を害している。
その隙をつくように、グレイブは剣によるガードを解いて、横っ腹を薙ごうとする。セイバーは背後へと引く。
「どこまで知ってる……?」
「はい?」
「惚けるな。俺たちの情報をどこまで握ってる!?」
「答える義理はありません。貴方はここで……」
「————そうか。」
グレイブはセイバーの問いかけに対して、剣を向ける。
セイバーは微量の嘆息を吐いたのち、同じく火炎剣烈火を向け返す。
再び空気は冷凍状態へと突入した————
しかし、その空気は思わぬところから熱せられた。
蜘蛛の糸がグレイブラウザーに巻き付く。
「はぁっ!!」
「ぐっ…葉月稔——!」
「戦いは2対2……後方から横槍が入らないとは言ってないだろ?」
蜘蛛の糸……もとい蜘蛛の綱を引っ張り合うグレイブとデモンズ。そこにランスの放つ赤いエネルギー矢が飛んでくる。
デモンズはそれをスッと避ける。
「よそ見してる余裕はあるの?」
「あぁ。お前とは……経験値が違う。」
「!!」
お前では俺の相手にはならない……そう言われたランスはショックで言葉に詰まる。
デモンズは声を上げる。
「今がチャンスだ!!セイバー!」
「ああ!」
大きく頷いたセイバーはそのまま火炎剣烈火を納刀し、そのレバーを引く。
【必殺読破!】
【烈火抜刀!!】
【ドラゴン一冊斬り! ファイヤー!】
纏う炎が最高潮に達する刀身。そんな火炎剣烈火を手にセイバーはグレイブに斬りかかろうとする。
グレイブは致し方なく、武具たるグレイブラウザーを手放し、防御の姿勢を見せる。
しかし……
火炎剣烈火が宙を舞った————その場にいる他のライダーたちは理解するより先に、燃え盛る火炎剣に視線を向けてしまう。
否が応でも、それが人間の性である。
「かかったな?」
「「「!!!!!!!」」」
次の瞬間にはグレイブの前にセイバーは立っていなかった。
セイバーの目の前にいたのは…….ランスだ。
「ぶっつけ本番……うまくいったな。」
セイバーの隠し玉————以前、那由多よりパクった水勢剣流水。それを空になったソードライバーに納刀する。
【必殺読破!】
南国のリゾートのようなBGMが流れる……その音楽にのせられるまま、抜刀!!
【流水抜刀!】
【ドラゴン一冊斬り! ウォーター!!】
虚を突かれたランスに、防御の術は残されていなかった。そのまま水龍に呑まれるように居合斬撃が彼女に炸裂した。
水でできた水晶玉に閉じ込められたランスは、玉が爆発するとともに、その装甲を解除されてしまった。
そのままランス……その変身者たるアキは地面に倒れ込む。
「さて……あとは———」
セイバーは突き刺さった火炎剣烈火を二刀流に、グレイブの方を再度振り返る———「次はお前だ」と言わんばかりに。
これがセイバーの作戦。2対1という圧倒的優位な状況に持ち込むための。
「羽田淳一、観念しろ。」
「………」
デモンズが威圧しながら丸腰のグレイブへと近づく———
もはや勝敗は決した……セイバーとデモンズはそう確信した。
そんな時だった。
カランコロン……
「ん……?」
プシュー!!!
転がったスティール缶から放出される大量の煙———いや、煙幕と言った方が正しいか。
故意であるかに関わらず、この煙幕はグレイブにとって好都合でしかない。
「くそっ……!」
火炎剣烈火の熱風で散らばる煙を斬り分けた。
しかし……そこにもうグレイブの姿はなかった。
セイバーとデモンズの2人は変身を解除する。
「逃したか……」
複雑な表情の稔。そんな彼に速人は駆け寄る。
「アンタ……葉月って言ってたな?」
「ああ。改めて……俺は葉月稔。またの名を———仮面ライダーデモンズ。」
「俺は天羽速人。仮面ライダーセイバー……ってことでいいか。」
「天羽速人……か。」
稔は少しの間、言葉を詰まらせる。そして少し目を泳がせたのちに再び速人の方を向いて、肩に手を置く。
「じゃ、俺はこれで。また会う日も近いだろう。」
「あ、あぁ……」
「またな———」
そう言って稔は立ち去ろうとした。当然速人も留まらせる理由はないため、そのまま見送ろうとする。
しかし……凛々しい声が彼を止める。
「待ってください!」
「「………!?」」
稔を止めたのは……
「恋……」
「先ほどから見ていました……やっぱり———貴方も関わっていたんですね。お父様。」
「生徒会長……」
スッと春風が間を通り抜け、生徒会長 葉月恋の綺麗な黒髪を靡かせる。
「お父様…結ヶ丘はお母様の最後の形見——もうこれ以上…死してもお母様を苦しめないでください!!」
「……すまない。」
娘の怒りに、稔はただ謝る———抗弁など垂れず、ただ謝った。
流石にこれまでの状況を見て謝らせるのを気の毒に思った速人は割って入る。
「ちょっと待て。アンタらにどんな因縁があるかしらねぇが、この人は少なくとも現時点において街を守った。そんな人を責めるのは筋が違うんじゃないのか?」
「いいえ。この人は母を見捨てておきながら、自分の都合で母の形見をもメチャクチャにしようとしている——私はそれが許せないのです!」
「どういうことだ……?」
思わず聞き返す速人。恋はその問いに一刻の瞬きを挟んで返す。
「父が仮面ライダーという存在であるというのは母の話から何となく察していました。そして怪人と呼ばれる魑魅魍魎と戦っているという話も。」
「そうか……【花】が———」
「速人さん、ここまで言えばもうわかりますね?」
「この街に怪人の仲間が現れたのは稔さんの所為だってのか……」
恋はその答えを肯定するように、父を横目に睨む。
稔は何か悲しそうな顔で……後退りし始める。
「そうだな……そうかもしれない。俺は謝ることしかできない。だから———決着はつけなきゃダメなんだ。」
「え……?」
「【影】を背負うのは———俺だけでいいんだ。」
そう言って———稔は去っていった。
ただ……速人に【頷き】を託して。
頷きが何を意味するのか———速人は察した。
【恋を頼んだ。】
そう言っているような気がした。
L8話 Chaos【混沌】の序章
前書き
はい、あけましておめでとうございますねぇ。
星々が……全天に煌めく、暖かい草原。まさに神秘的と言うべき幻想郷。
第10次元———移ろいゆくあらゆる並行世界を管理する神と天使【エルロード】のみが入ることを許された場所であり、彼らが生まれた「胎盤」に最も近い場所でもある。
そしてその第10次元…もっと言うと第10.5次元といったところで、ダイヤモンド色の髪をした白き母神の元に小さく可愛らしい女天使がそばに寄る。
「母上様!!」
『あら……どうしたのリエル?』
「さっくんが…私を馬鹿にしてくるの!!あの人を叱ってください!!」
『あら…それは困ったわ———』
彼女…最高神 ハイパーロード/Aqoursはお嬢様結びした長髪を少しかき分け、琥珀の瞳で優しそうに彼女の白ドレスを引っ張る娘の頭を撫でる。
『母は貴方たちに仲良くしてほしい……喧嘩なんてしないで?』
「でもさっくんが……私をバカにするからいけないんです!!」
『リエル…本当のことを言って?』
「え?」
『あなたは本当はサタエルのことが大好きなんでしょう?だから私に叱ってもらうことで彼に構ってもらおうとしてる…母の目は誤魔化せませんよ?』
「それは……」
『同じですよ。あの子もあなたと同じことを考えているわ。』
「え……」
『あなたたちは双子…表裏一体。元を正せば、同じ気持ち……決して嫌いだからあなたを馬鹿にしているのではありませんよ。』
「母上様……」
〜〜〜〜〜
『チェック。』
「バーカ。そっちに気を取られすぎだ———」
今、俺 伊口才———もといハイパーロード/ムテキは目の前の、風呂上がりのままの妻 ハイパーロード/Aqoursと駒を取り合っている。
もう一度言おう。俺は裸体を曝け出した彼女とチェス勝負している。いかにカオスな状況かは理解しているが……
そして……
「……チェックメイト。」
『そ、そんな……ありえないよ!!』
「だから言ったろ?俺にゲームで勝とうなんて無駄だってな。」
『くっ……!』
悔しそうに屈む彼女を、俺は見下すように、口元を緩ませる。別に望んだわけではないが、男性なら誰しも持っていそうな支配欲を満たすような構図となってしまっている。
『くっ……殺せ!』
「はいはい。犯して欲しいと同義語を使うんじゃありません。」
『ちぇっ、バレちゃったか。』
一瞬だけ…ほんの一瞬だけ、誘惑に負けそうだったが、それ以上にゲームに勝った多幸感がそれを掻き消した。
俺はそんな彼女を後にその豪邸を後にする……
と、俺が来ていたスーツの裾を引っ張られる。
『1つ、忠告して忘れてたよ。』
「あ?」
『【あの子たち】は…私があなたに無理矢理犯された時に生まれた子どもたち。私が抱いたぐちゃぐちゃな感情があの子たちに流れ込んでる———怒り、喜び、哀しみ、恐怖、やるせなさ、無常さ。同時にあなたの強烈な自我が受け継がれて……繊細なのを忘れずにね。』
「———忘れてたの半分。気にしてねぇのが半分だな。」
そうか……そんなこともあったか。一度、彼女の妖艶さに負けて獣になったことも。別に後悔も反省もしていないが。
しかし、その事実は俺が奴らに為させようとしていることの障害となろう。
「全く……世話の焼ける奴らだ。」
————※————
「はぁっ…はぁっ……!」
健気な少女たちの吐息が春の陽気を彩る。何か変態的なことを言っているが、何も深い意味はない。飾り気なく言ってしまうと、かのん・可可が千砂都の指導のもと走っているだけである。
そしてそんな彼女らを見守る……獰猛な者たち2人。
1人———天羽速人が、その片割れである中川那由多の頭をパシッと叩く。
「痛っ!……何すんだよ!」
「変な目であいつらを見るな汚れる。」
「見てねぇよ!そういうお前こそ見てんじゃねぇのか!!」
「そういうところが不審者っぽいって言ったんだよ。」
「んだとぉ…!?」
実際、那由多は迷いある目で明後日の方向を見ていたが———別にかのんたちにいやらしい視線を向けていたのではない。
むしろ向けていたのは速人の方だろう。彼はその金色の瞳で、心を覗こうと……これを邪と言わずして何という。
深淵まで覗かない方がよかった者もいるだろうに———
速人は目を強張らせて、何か考え込むように口元を隠す。それを見た那由多はすかさず事情を尋ねてくる。
「どうしたんだ?」
「いや……頭の中で作詞のアイデアを考えてた。」
「師匠にやらされたんだってな……大丈夫なのか?」
「大丈夫とか——そんな次元じゃねぇよ。」
「あ?」
少し斜め上の答え方をした速人に那由多は思わず、疑問と頓狂を孕んだ声が出てしまう。
「俺はやる———たとえ今できないことでも絶対にやる……アイツのためなら———そう誓ったから。」
「速人——お前……」
那由多は口を閉ざしてしまう。その理由は羨望。速人にあって自分には確定していないモノ……それ故に。
そんなところで———辺りを何周か走ったかのんたちが速人らがもたれる樹の下へ辿り着く。
早速、可可が夕日が映す日陰へとダイブ。断末魔のような低い声が響く。
「はぁ……はぁ…ああああ……」
「可可ちゃん、だいぶ走れるようになったんじゃない?」
「まだまだ…イケる……デス———」
「よーし!じゃあ次は体幹トレーニングを……」
「いやいや絶対行けないでしょ…ちぃちゃん————」
小休止———皆が外部のことになど目もくれない。いい意味で無視できていた。
そんな状況が……終わりを告げる。
ドガァァァァン!!!!!
「「「「「!!!!!!!」」」」」
爆音が連れてきた悲鳴。それが彼女たちを否応なしに非日常へと誘拐する。早速その場から動こうと……否、すでに体が動いてしまった速人———しかし。
ドスドスと地面に突き刺さったエネルギー状の矢が速人を威嚇した。
「!」
「アンタがセイバーだね?」
「お前……誰だ?」
ボウガン型の武器を構えながら速人と対峙する赤いAマークのライダー……仮面ライダーランス。速人はそんなヤツをキッと睨んで威嚇する。
そこに、速人を追ったかのん達が彼のそばへと近寄るが———
「来るな!!」
「「「「!!!」」」」
「フッ!」
赤いライダーは近づいたかのんたちを狙い撃ってボウガンを放つ。
速人はすかさず火炎剣烈火を顕現させ、そのエネルギー矢を全て焼き払って彼女たちを守る。
「どういうつもりだ……何で一般人を襲う!?」
「だって———その方がアンタの敵だってことが分かりやすいでしょ?」
「ふっ、舐めてくれんな…お前が敵だってことくらい見た瞬間に見抜けるぜ!」
挑発し返す速人……しかしその頭には何か不気味なものがよぎっていた。
彼の持つ青い右目———精神的、霊的なモノを看破できる左とは対照に、物理的、理論的な看破に優れている目。
その瞳が嫌なものを彼に伝えていた……
そう、背後に敵が迫っていること。
「那由多!!後ろっ……!」
叫んだ時にはもうすでに手遅れていた。
かのんたちが全く気付かぬうちに金色のライダーがその剣を振り下ろそうとしていた。
速人が走る前にもう———
蜘蛛の糸が天上から舞い降りる。
「なっ…!」
蜘蛛の糸は剣と共に金色のライダーをかのんたちから引き離し、街路樹へとその身をぶつけさせる。
「ようやく見つけたぞ……羽田淳一!!」
かのんたちを守ってくれた男————「イケおじ」なボイスがその場を支配する。
その男の名を最初に挙げたのは那由多だった。
「お前は……葉月稔!」
「えっ————」
「葉月……?」
那由多の方を見て微笑する稔。それはさながら「また会ったな」と語りかけているよう。そして「葉月」という単語にかのんと千砂都は1つの疑念が湧いた。
そんな対面も束の間、稔は吹き飛ばされた金色のライダー……仮面ライダーグレイブへと眼を飛ばす。
「お前……まさかこんな『任務』を預かっているとはな。」
「えぇ。我々の任務は人々に争いをもたらすこと———」
「………」
稔は侮蔑するような、少し憐れむような視線を送りながらデモンズドライバーを腰に装着する。
そして蜘蛛の遺伝子データが組み込まれた...バイスタンプをベルト頂上に押印。
【Deal……】
「お前自身がどんな狙いがあるかは知らんが、この街の…『この学校』の人を傷つけようってんだ。俺も容赦しない。」
バイスタンプを天へと掲げる。
「この私、この身を捧げる……変身!!」
【Decide up!】
【Deep.(深く) Drop.(落ちる) Danger…(危機)】
【(仮面)Rider Demons!】
仮面ライダーデモンズ。3人目のライダーがこの場へと現れる。
早速、ランスを蜘蛛の糸製の縄で拘束し、その動きを抑制する。
「ぐっ……これは———」
「はぁっ!!」
デモンズはそのまま起き上がったグレイブの方へと向かって走る————戦闘開始だ。
こうなってしまっては速人たちも動かざるを得ない。動かなければ、警護係の意味がない。
速人はすぐさま火炎剣をソードライバーへと納刀し、ブレイブドラゴンWRBを装填する。
「変身!!」
【烈火抜刀!】
【ブレイブドラゴン!!】
仮面ライダーセイバーへとその姿を変え、戦いへと身を投じる。
それを見た那由多もショットライザーを取り出そうとした……が。
その手が止まる。
『戦う理由もないのに仮面ライダーになるべきじゃない——』
稔に言われたこの言葉が頭の中に反響した———何のために戦うのか。それもはっきりしていない自分に戦いに身を投じる権利などあるのだろうか……
そのモヤモヤした感情が彼の手を塞ぐのだ。
「くそっ……」
「那由多くん…?」
「ここにいると危ない。学校の方に逃げるぞ!」
「「う、うん!」」
かのんたち3人を連れて、那由多は戦線を離脱した———
そんな戦況を見つめる———魔王の視線。
「逃げたか……ま、いいだろう。」
『手を貸さないのか?』
「あぁ。俺が入ったら、一瞬で勝負がついてしまうからな。しばらく様子を見ておく。」
「さて……どれほど成長した?息子よ———」
L10話 それぞれのsufferings【交錯】
早朝……速人&那由多は澁谷家直営のカフェで開店時間前に朝食とした。
速人は口をつけたコーヒーカップを置き、トーストに齧り付く那由多へと尋ねる。
「そういや……昨日。」
「あ?」
「何で戦わなかったんだ?」
「……別に。」
何か嫌なところを突かれたかのように目の玉を背ける那由多。
コーヒーカップが音を立てた。
「お前は明らかに変身しようとしていた。でもあの時…それを辞めた。なぜ
ドン!!
木の机が那由多の拳に揺れる。
「だから!別に逃げたわけじゃねぇ!!」
「じゃあどういうことなんだよ。」
「———かのんたちの誘導を……」
「ふん。お前らしくもないことを。」
速人はコーヒーを一気に飲み干して、その美しい眼光で那由多を見る。
「お前が何に悩んでいるかは興味ないが……」
「?」
「俺が何かあった時、お前だけが頼りなんだ———頼むぜ……」
「速人……」
目を背けながらも期待の言葉をかける速人。
2人は喧嘩ばかりの腐れ縁———同じ師匠を持ちながら、その性質は真逆と言って差し支えない。
だからこそ信頼できる———表と裏のように、どこかでそれが繋がっているから……だろうか。
「さてと……」
コーヒーを飲み干した速人はノート……歌詞を殴り書いたそれを開く。
その使い古され方を見て、ここまで熱心に考えているのが瞬時にわかる。
そんなノートを那由多はチラッと見る。
「なんか……『星』って感じだな。」
「もうちょい語彙力ある言葉で言えねぇのかよ———」
「うっせぇ。」
「可可のアイデアを体系化しただけなんだが……それだけでここまで書けるとは思わなかったぜ。」
「ほーん。」
「お前から聞いといてその態度かよ……」
そんな話をしているうちに、ドアベルが鳴り響かせてかのん&可可が帰還する。
そしてかのんは生気のない瞳を携えて、テーブル席へと突っ伏す。
「はぁ……。はぁ……。」
「(歌えなかったのか……まずいな——このままだとあの生徒会長にイチャモン言われんのは明白だし……うーん。あっ、そう言えば———)」
速人はそのままかのんに言葉もかけずに、那由多に話を振る。
「そう言えばお前の言ってた葉月…
すると……可可は隣にいる那由多へと怒りをぶつける。
『むん!チョットはかのんを心配するのデス!!』
「いや俺じゃなかろう……?」
理不尽な話が那由多を襲う。しかしながら話のすり替えに失敗した以上は、かのんに声をかけるしかあるまい。
「歌えなかったのは仕方ない……克服法を見つける以外あるまい。」
「まだ何も言ってナイデスよ……?」
「やめろ尺が伸びる。」
「はぁ……」
那由多の静止が可可に困惑を残してしまう。
「さてさて……ほんと、困っちゃったな。」
—————※—————
結ヶ丘高等学校 中庭。速人とかのん、可可、そしてダンスコーチたる千砂都が生徒会長 葉月恋と対峙する。
そして事情を話した……が。
「辞めた方が良いのではないですか?フェスで醜態を晒せばこの学校の評判に関わります。」
「まだ歌えないと決まったワケではアリマセン!」
「そうは思えませんが。」
事情を話した瞬間にこの有様。可可は強い口調で言い返したが、それでも恋は冷徹にカウンターを飛ばした。
俺は表情を歪めながら恋に言い放つ。
「フェスの辞退はありえんな……それに、大スポンサーたるエルシャム王の下命がある以上、そう易々と辞められねぇだろうに。」
「………」
流石に王様が槍玉に上がれば、恋も大きい口を叩く事はできない————
それもそのはず。彼こそ母親の悲願であった学校設立を支援してくれた大スポンサーである。
そして……速人は恋の側に立つ。
「全く、お前の【じいさん】も単なる王様ってわけじゃないらしい。」
「………!?!?!?」
恋の表情が一瞬、見たこともない……呆気に取られたようなソレになる。
まるで得体の知れぬものを目にしたように、動揺を隠せない。
「何を……!?」
「知らなかったのか?」
「どこでそんな話を——!」
詰め寄ろうとする恋に、速人は口に指を当てる。その仕草に鬼気迫りかけていた彼女は冷静さを取り戻す。
状況を見計らって千砂都は恋に結論を告げる。
「とにかくやれる事はやってみようと思う。まだフェスまでの時間はあるし、理事長先生たちの許可は得てるんだし、なんの問題もないでしょ?」
「……嵐さんの練習の邪魔にならなければ良いですが。」
そんな捨て台詞に近い言葉を呟いて、恋はその話を終結させ、その場を立ち去っていった。捨て台詞ではあるが、その言葉は今のかのんに負い目を感じさせるに事足りた。
「ごめんねちいちゃん……」
「ううん!心配しないで!ダンスもバッチリ練習してるから!————そうだ!放課後、時間ある?」
—————※—————
東京 霞ヶ関 某所……人のカタチを見る魑魅魍魎が一室に集う。
議長らしき者が一声をかける。
「皆……今日の議題は———わかっておるな?」
議長の隣にいる人物がその問いに回答する。
「あの男の件……ですか。」
「その通りだ。」
議長はゆっくりと首を動かし、議題について淡々と……不機嫌さを露わにして話し始める。
「あの男は我々の情報を世間に流しすぎた。今の所メディアコントロールで、ウワサ程度にしかなっておらんが———今後はわからん。そればかりではない、仮面ライダーとなって我々のエージェントを潰しまわっていると聞く。」
「やはり、消えてもらうしかございませんか……」
「しかし———」
評議員の1人が懸念を述べる。
「彼を殺せば、あの人……いや、【得体の知れぬ】者が芋づる式に現れるかも———」
「では……どうするべきか。」
すると……1人が手を挙げる。
「私に……お任せください。」
「ほう、ウィル。君が……」
「私とジェイコブで対処いたしましょう。彼と私が一番若い。」
「そうか……では採決だ。彼に委託する者は立ってくれ。」
人々が………立ち上がった。
—————※—————
「」フラフラ
「あのお兄さんなんでキョロキョロ
「しっ、見ちゃダメよ……」
女子高生の聖地 原宿。この地域を含め、結ヶ丘ができてからはエルシャム王国の影響か、自由な風潮を象徴するような街となった。
つまるところ、人の賑わいも極致を見せたのだが……そこに挙動不審な男 中川那由多が。
「クソっ……ぐわーっ!」
後悔とやるせなさに苛まれ、よくわからない奇声を上げる那由多。その念を持って歩いているからなのだ。
さて……そんな彼の数メートル直線上に人影が。
「」チラチラ
その人影———もとい、そのJK 平安名すみれ。以前に隼人たちと少し一事のあるクラスメイト。
さて、そんな彼女は周りの視線を気にしながら、口にクリームをつけながらクレープの味に大袈裟なほど歓喜する。
「うわ〜♪美味しそーう!!」チラチラッ
注目を集めたい彼女ではあるが、悪目立ちすらする気配は皆無である。
「場所が悪かったみたいね。」
流石に彼女も目立っていないことを察したのかその場を去ろうとするが……
「おわっ!」
「ギャラクシィ!!」スッ
刹那。衝突しかける那由多とすみれの2人。しかしすみれはすんでのところで躱した。
そして那由多のタックルの餌食になってしまったのは……
「目が…目がぁ!アーッ!!」
「ちょっ———私のクレープ!!」
顔がクリームまみれの那由多に、すみれは怒り心頭で肩を揺さぶる。
「ちょっとどうしてくれんのよ!!あのクレープ意外に高かったんだから!」
「いや知らねぇよ〜!」
顔はクリームまみれの無様な姿で叫び声を上げる那由多。
ここに速人がいれば間違いなく大爆笑の上でネタにしまくっていたに違いない。
さて、こんな悪目立ちする彼を……高みから見物する者たち。
「あれが……」
「あぁ。彼が……中川那由多。私の友人が育ての親として様々な武術を教えているそうだ。」
「そうですか————」
「約束通り君の弟に合わせてやった……いや、これから関わることになるのかもしれないが。これで思うこともないだろう?」
「………イフトさん。」
「どうした?中川菜々……いや、優木せつ菜くん?」
そう、優木せつ菜……その彼女が生き別れた弟を複雑な表情で見つめる。
「私は侑さんに教えてもらいました。大好きを貫いていい…思い通りに生きてもいいって。そんなこと気づくのが遅すぎました———あの子を見てるとそう思うんです。」
「どうかな……彼には彼なりの苦悩があるだろうに。」
「そう…ですね。」
「また相見える日が来るだろう。次は……直にな。」
「え?」
意味深な一言を最後に……イフトらはその場を後にした。