今ならキーホルダープレゼント殺人事件


 

「もう絶望ですか」
マリーは万能検索機九官鳥に乞うた。
「私は違法な再発行のことは、わかりませんが恐らく不可能です」
「なぜ?」
諭すように九官鳥は告げた。
「実は文鳥には文鳥番号という神様が付与した特別のナンバーがあるからです。文鳥番号は、再発行できません。この事実をご理解ください」
「でも迷い鳥の里親がいるじゃない」
「シリアルと違い文鳥番号は一羽ずつ違います。だから、たとえ里親がいたとしても、その人が持っているナンバーと私の知っているナンバーが一致しなければ、私には再発行のことはわからないのです」
「では、迷い鳥が二羽以上いたらどうなるの? 三羽いたら?」
「その場合は、文鳥保護センターの職員で対応します」
「でも……」
「お気持ちは察します。しかし、これは規則なんです」
「それなら、迷子になった小鳥を保護したら、文鳥保護センターで預かりなさいよ。そうすれば、迷子になっても大丈夫でしょう」
「残念ながら、それはできません」
「どうして!」
「保護された動物が飼い主のところに戻った事例はありませんし、それに文鳥は、この世にたった百七十羽しか存在しない希少種です。とても貴重な存在なんですよ。だから、そんな簡単に保護することはできないんです」
「でも、今、目の前にいるわよ。目の前に一匹いるわよ」
「それが問題なんです」
「どういうこと?」
「実はですね……」
九官鳥は、ためらいがちに話し始めた。「迷い鳥の中には、ペットショップやブリーダーから逃げ出して、野生化した個体もいるようなんです」
「えっ! そうなの」
「はい。そして、そういう個体は、たいてい野良文鳥として人間を恐れず平気で人前に現れるようになりました。それで、先ほども申し上げましたように、迷い鳥を保護することはできないんです。だって、迷い鳥を保護した場合、文鳥保護センターの職員であるあなたが、自分の判断で勝手に野鳥を飼っているわけですからね。そんなことが許されるはずないですよね」
「じゃあ、どうしたらいいの?」「諦めてください」
「そんなぁ……」
マリーは肩を落とした。
九官鳥の声が聞こえなくなった。マリーは、ゆっくりと顔を上げた。そこには、もう誰もいなかった。
「おい、あんた!」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこに警察官の姿があった。
「あっ、はい」
マリーは返事をした。
「さっき、そこで、あんたが、九官鳥と話しているところを見ていたんだが、何の話をしていたんだ」
「別に……何も……ただ、話をしていただけです」
「どんな話だ」
「えーっと……」
マリーは言葉を詰まらせた。
「言えないのか」
「いえ、言います。あの、迷子の文鳥を探していました」
「迷子か」
「はい」
「どんな迷子なんだ」
「それが、ちょっと事情があって詳しくは説明できないんですけど、とにかく困っているみたいだったので助けようと思って」
「それで、その迷子は見つかったのか」
「はい。見つかりました」
「どこにいたんだ」
「この公園の中にいました」
「なんという種類の迷子だったんだ」
「種類って?」
「文鳥の種類だよ」
「えーっと、確か……オナガとか言ってました」
「オナガだと!」
警察官の顔色が変わった。「それは本当なのか?」
「はい」
「本当にオナガなのか?」
「間違いありません。確かにオナガと言っていました」
「なんてことだ……」
警察官は頭を抱えた。「オナガなら、迷子になるはずがない」
「どういう意味ですか」
「オナガはな、迷子にならないんだよ」
「どうして?」
「あいつらはな、飼い主のところに必ず戻ってくる習性を持っているからだ。だから、飼い主がいなくなったり、家出をしたりしても、必ず飼い主のところに戻ることができるんだ。だから、迷子になることなんかあり得ないんだよ」
「でも、現にここにいますよ」
「どこから来たんだろうな……」
「わかりません」
「飼い主の名前はわかるか?」
「それが、わからないんです」
「どういうこと?」
「実は……」
マリーは九官鳥と話したことを全て警察官に話して聞かせた。
「なにぃ! 飼い主の名前がわからないだとぉ!」
「はい。すみません」
「それは、いつの話だ!」
「ついさっきです。今朝方、迷い鳥を保護したので、相談に乗ってもらおうと思って連絡しました」
「ということは、まだ、この辺りにいるかもしれないということじゃないか!」
「はい」
「早く探せぇーっ!!」
警察官の怒号が公園内に響き渡った。
9 公園のあちこちを警察官たちが走り回っていた。だが、なかなか見つからないようだ。マリーも一緒になって探し回ったが、やはり見つからなかった。「どうしよう……」
マリーは途方に暮れていた。「このままじゃ、保健所に連れて行っちゃうわよね」
「そうだろうな」
「そんなの可哀想すぎるわ」
マリーの目から涙がこぼれ落ちた。「せっかく、飼い主のところに帰れるチャンスなのに」
「そうだな」
「なんとかならないかしら」
「飼い主の名前さえわかればなぁ……。でも、無理かもなぁ……」
「諦めちゃだめよ。最後まで頑張ってみましょうよ」
「ああ、もちろんだ」
警察官は力強く答えた。「だけど、一体、どうやって見つければいいんだ?」
「それは、私にもわからないです」
マリーは首を横に振った。「ただ一つだけ言えることは、飼い主さんがオナガに名前を付けているかどうかがポイントだと思うんです」
「なぜ、そんなことが言い切れる」
「だって、オナガには名前が付けられていないのに、迷い鳥として保護されていますからね。それに、迷い鳥の中には、文鳥保護センターの職員である私が勝手に野鳥を飼ってはいけないという理由で、飼い主が名乗り出てこないケースがあるんです。きっと、そういう場合は、名前を付けていると思います」
「なるほど。そういうものなのか……」
警察官は納得した様子で大きく肯いた。「よし、わかった。もう少し粘ってみるよ」
「お願いします」
マリーは深々と頭を下げた。「それともう一つ、質問があるので、教えてください」
「なんだ?」
「あの九官鳥は何者なんですか?」
「九官鳥?……あっ、あれね」
警察官は少し驚いた表情を見せた。「あれはな、迷い鳥を捕まえるための罠だよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。あれを仕掛けておけば、迷い鳥は必ず引っかかるんだ」
「へー、知らなかった」
「普通は、捕まえた後に処分するんだけどな。今回は特別だ。どうしても、あのオナガを見つけたいんだろ。だから、見逃してやるよ」
「ありがとうございます」
マリーは何度も礼を言った。
それから数時間後。
日が暮れてきた頃、ようやく警察官が戻ってきた。そして、疲れ切った顔をしながらマリーの前に座ると、一枚の写真を差し出した。写真を見た途端、マリーは驚きの声を上げた。
「あーっ、この人です!」
「本当か?」
「間違いないです」
マリーは大きく首肯した。そこには、オナガと一緒に写っている若い女性の姿があった。
10
「本当に、この人が?」
警察官は信じられないという顔をしていた。
「はい。間違いありません」
マリーは自信を持って答えた。「そうか……」
警察官は複雑な表情を浮かべながら、もう一度写真を見直した。 

 

「何か気になる点でもあるのですか?」
「いや……ちょっと待ってくれ……」
警察官はしばらく考え込んだあと、「なぁ、あんたが言っていた迷子のオナガの特徴は何だった?」
と尋ねた。
「特徴ですか……えーっと……」
マリーは口ごもった。「確か、オナガにしては珍しい黒い色をしていたと言っていたな」
「はい」
「もしかしたら、その女性の特徴と一致するんじゃないか?」
「えっ!」
マリーは思わず大きな声を出した。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
マリーは慌てて取り繕った。
「まぁ、いいか……」
警察官は不思議そうに首を傾げた。「それで、他に特徴はなかったのか?」
「他には特に……」
「ふむ……」
警察官は再び考え込むような仕草をした。「それじゃ、これはどうだ。この女性は、どこにいると言っていた」
「それが、この公園だと言っていました」
「この公園だと!?」
警察官の顔色がさっと変わった。「まさか、この公園にオナガがいるというんじゃないだろうな!」
「はい、います」
マリーは即答した。「でも、どうしてわかるんですか?」
「どうしてって、そりゃ、ここが俺たちの縄張りだからだよ」
警察官は不機嫌そうな声で答えた。「もし、ここにオナガがいたら、すぐに捕獲しないと保健所に連れて行かなきゃならなくなる。それは困るんだよ。俺は、まだ仕事が残っていて、これから帰らないといけないんだからな。悪いけど、ここは俺に任せてくれないか」
「それは無理です」
マリーはきっぱりと答えた。「無理って……どういう意味だ?」
「実は、このオナガの飼い主が見つかったんです」
「なんだと! それは、いつの話だ?」
警察官は大きな声を上げた。
「つい先程です」
「ついさっきだとぉ!?」
警察官は呆気に取られた表情になった。「そんなバカな……」
「でも、事実です」
「うーん、そうかぁ……。それは、確かに残念だなぁ……」
警察官は深いため息をついた。「だが、仕方がないな。飼い主が見つかってしまった以上、こちらとしては引き下がるしかないだろう」
「すみません」
マリーは頭を下げた。「私のせいで、こんなことになってしまって」
「別に謝ることじゃないよ。こっちだって、オナガを保護してあげたかったんだからね。それにしても、飼い主が見つかるなんて運が良かったじゃないか」
警察官は優しい口調で言った。「まぁ、こういうこともあるよ。人生っていうのは、そういう風にできているもんさ」
「ありがとうございます」
マリーはもう一度頭を下げた。「あの、最後に一つだけ教えてください」
「なんだ?」
「この公園には、どんな種類の野鳥がよく来るのですか?」
「そうだなぁ……」
警察官は顎に手を当てた。「大体、カラスとかスズメ、ハト、ムクドリ、ヒヨドリあたりが多いな。でも、最近は、アオサギやカルガモ、シギなどの大型の水鳥もよく見かけるよ。あっ、そういえば、一度だけだけど、オオタカが来たことがあったな。もっとも、あいつは、オナガなんか見向きもしなかったけどね」
「へー、そうなんだ」
マリーは感心したように肯いた。「わかりました。いろいろとお世話になりまして、ありがとうございました」
マリーは深々と頭を下げると、自転車に乗って走り出した。
11 家に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。マリーは急いで夕食の準備に取り掛かった。そして、食事が出来上がる頃、玄関の方から音が聞こえてきた。どうやら、誰かが帰ってきたようだ。
「ただいまー」
ドアを開ける音と共に元気の良い声が響いてきた。そして、足早に廊下を歩く音が聞こえると同時にリビングの扉が開かれた。
「あーっ、疲れたー」
現れた人物はソファーに倒れ込むようにして座ると、大きく伸びをした。
「おかえり」
マリーは料理を作りながら、振り返らずに声をかけた。
「うん、今帰ったところ」
その人物――美沙子は答えると、ゆっくりと起き上がった。「ねぇ、お腹すいたんだけど……」
「もう少し待ってて。もうすぐできるから」
マリーはフライパンを振りながら答えた。
「わかったわ……」
美沙子が渋々といった感じで肯く気配を感じた。
それから、少ししてテーブルの上に出来上がったばかりの料理が並ぶと、二人は向かい合って席に着いた。
「いただきます」
マリーは手を合わせると、早速食べ始めた。
「それで、どうだったの? オナガちゃんのこと、何か手がかりは見つかった?」
美沙子はすぐに尋ねた。
「ごめんなさい。結局、何も見つからなかったの」
マリーは申し訳なさそうに首を振った。「本当に迷惑をかけてしまって……」
「いいのよ、そんなこと気にしないで」
美沙子は優しく微笑みかけた。「それより、早く犯人を捕まえないとね。このままじゃ、オナガちゃんが可哀想だもの」
「ええ……」
マリーは暗い顔で肯いた。「でも、どうやって探せばいいんだろう?」
「やっぱり、警察に頼るしか方法はないんじゃないかしら?」
「でも、警察は当てにならないと思うの」
マリーは不満げに唇を尖らせた。「何しろ、私たちの話をまともに聞いてくれないんだから」「でも、他に方法があるかしら?」
「うーん、それが思いつかないのよね」
マリーは腕組みをして考え込んだ。「そうだ!」
突然、大きな声を出したので、美沙子の身体がビクリと震えた。
「ど、どうかしたの?」
「私、いいことを思いついたの」
「どんなこと?」
「それはね……」
マリーは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
翌日、マリーはいつもより早めに起きた。朝食を食べた後、身支度を整えてから、マンションを出た。今日は日曜日なので学校は休みだ。しかし、朝早くから出かける予定があった。それは、オナガを探すためだ。
昨夜、マリーが考えた作戦は、オナガを探している振りをするというものだ。つまり、実際にオナガを探してみるということだ。もし、それらしい人物が公園にいた場合、マリーはわざとらしく、あるいは、不自然に、何度も同じ場所を行ったり来たりすることで、その人物に気付いてもらえるかもしれないと考えたのだ。だが、これはかなりの博打になるだろう。何故なら、その人物が自分の方に向かって歩いてきたとしたら、その時点でアウトだからだ。もちろん、オナガの姿など何処にも見えない状態で、しかも、ずっと見張っているような状況であれば怪しまれる可能性もある。しかし、仮に、ほんの一瞬だけ見かけた場合ならば大丈夫ではないだろうか。それに、もし、見つかればラッキーぐらいに考えて行動すれば、それほど危険ではないだろう。とにかく、今は、一刻も早くオナガを見つけ出さなければならない。マリーは公園に着くと、注意深く周囲を見回した。まだ、誰も来ていないようだ。とりあえず、ベンチに座って待つことにした。しばらくすると、遠くの方で人影が見えた。その人物はキョロキョロと辺りの様子を窺いながら公園の中に入ってきた。そして、マリーの姿を目にした途端、驚いた表情になった。それは、オナガを保護してくれた警察官だった。
「やぁ、君か。こんなところで会うなんて奇遇じゃないか」
警察官は愛想笑いを浮かべながら近づいてくると、親しげな口調で話しかけてきた。
「こんにちは」
マリーも笑顔で挨拶を返した。 

 

「もしかして、この前の話を聞いてくれたのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
マリーは慌てて首を横に振った。「実は、ちょっと聞きたいことがあるんですよ」
「なんだい?」
「あの……、ここに、オナガっていう名前の鳥がいたはずですよね」
「ああ、そうだよ」
「その鳥って、どこに行ったかご存知ですか?」
「さあ、わからないな」
「そうですか……」
マリーは落胆して肩を落とした。「わかりました。ありがとうございます」
マリーが立ち去ろうとした時、
――カァーッ! 突然、カラスの鳴き声が響いた。マリーが驚いて振り返ると、そこには、一匹のカラスが飛んでいた。
――まさか……。
マリーの心臓が激しく高鳴った。
――もしかして、あれが?全身の血の気が引いていくのを感じた。間違いない。オナガだ。
――どうしよう? このまま逃げられてしまう。マリーは咄嵯に判断を下すと、勢いよく駆け出した。
オナガは逃げる素振りを見せなかった。それどころか、真っ直ぐこちらへ向かって飛んできた。そして、目の前で止まると、まるでマリーを誘うように、くちばしを大きく開けた。
マリーは恐る恐る手を伸ばすと、オナガに触れた。
次の瞬間、マリーの視界は真っ暗になり、意識を失った。
12 気が付くと、マリーは暗闇の中に浮かんでいた。周りには何も見えず、音さえも聞こえてこなかった。自分が目を開けているのかさえわからなかったが、何故か不思議と不安はなかった。むしろ、心地良い気分だった。マリーはしばらくの間、そのままの状態でいたが、ふと思いついて手を伸ばした。すると、指先が何か柔らかいものに触れ、その感触を楽しむことができた。それから、ゆっくりと身体を移動させていった。しばらくして、腕のようなものが触れた。さらに、それを辿っていくと、今度は脚らしきものが見えてきた。マリーはそっと足を動かしてみた。どうやら動くようだ。次に、お腹の部分に手を伸ばしてみる。やはり、触れることができる。ということは、自分の身体は今、宙に浮いている状態なのだと理解した。その後、背中のような部分に触れると、そこにも柔らかなものがあることに気付いた。マリーはその部分を撫でるように動かした。とても気持ちが良い。このまま眠ってしまいそうだ。
その時、不意に大きな声が聞こえた。
――マリー、マリー、聞こえるかい!? それは、美沙子の声だった。
――美沙ちゃん? マリーは返事をした。
しかし、美沙子は黙ってしまった。
――美沙ちゃん、どこにいるの? マリーは尋ねたが、何も答えてくれなかった。ただ、悲しそうな顔をしているだけだ。やがて、美沙子の姿が消えてしまった。
――待って!行かないで! マリーは必死になって叫んだ。だが、その願いは届かなかった。美沙子が戻ってくることはなかった。マリーの目から涙が流れ落ちた。それが頬を伝う感覚があった。すると、突然、光が差し込んできた。眩しい光だ。思わず手で顔を覆う。ようやく目が慣れてくると、そこには一人の女性が立っていた。
――お母さん……? マリーの口から言葉が漏れた。それは間違いなく母の姿だった。母はマリーの方に近付いてきた。マリーは反射的に後ずさりしようとしたが、なぜか動けなかった。
――どうして? 戸惑っているうちに、母の手がマリーの顔に伸びてきた。
――えっ、何するの? マリーは恐怖を覚え、身を捩ろうとしたが無駄に終わった。その前に、母の両手でしっかりと固定されてしまったからだ。
――何をするつもりなの? マリーが怯えながら尋ねると、母は微笑んだ。
――大丈夫よ。怖くないわ……。
その笑顔を見て、マリーは安心した。そして、自分はオナガに食べられてしまうのだと悟った。何故か満ち足りた気分でそれを受け容れた。
13 気が付くと、マリーは地面に倒れていた。すぐに起き上がると、辺りを見回したが、そこは公園ではなかった。薄暗い路地裏だった。空を見上げると、太陽は沈んでおり、すっかり暗くなっていた。
マリーは自分の身に起こったことを思い出そうとした。すると、頭の中が割れるような痛みに襲われた。そのあまりの激痛に、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。しばらくそうやって耐えていたが、そのうち、少しだけ楽になった。マリーは大きく深呼吸をして立ち上がった。そして、ふらつく足取りで歩き始めた。――そうだ……、帰らないと……、家に……、あの場所に……。
頭の中に、オナガの声が響いたような気がした。
14
「ねぇ、マリー、どうしたの?」
亜衣が心配そうに声をかけてきた。しかし、マリーには答える余裕がなかった。身体の奥底から込み上げてくる熱い塊のようなものを感じていたからだ。――なんだか変だ……。
身体の内側から炎が噴き出しているようだった。それに加えて、胸の中心に杭でも打ち込まれているかのように激しい鼓動が続いているのだ。まるで、自分のものではない別の命が生まれようとしているかのような感じだった。突然、視界に黒い羽が映った。そちらに視線を向けると、一メートルほどの大きさがあるカラスがこちらに向かって飛んでくるところだった。マリーは呆然としながら立ち尽くしていた。カラスはそのままマリーの横を通り過ぎ、近くの塀の上に止まった。
――あ、オナガだ。マリーは直感した。カラスの背に乗るようにして止まっているオナガが、先程見た時と明らかに様子が違っていたからだ。全身から邪悪なオーラを放っており、目つきも鋭くなっているように見えた。マリーは、まるで睨みつけるように見つめられていた。マリーはその眼差しから逃れようとしたが、何故か足を動かすことができなかった。しばらくして、カラスが飛び立った。それと同時に身体の自由を取り戻したため、慌てて振り返ると、もうオナガの姿は見えなくなっていた。だが、そんなことはどうでもよかった。今はそれよりも大事なことがあるからだ。マリーは再び身体に異変が起き始めていることに気付いていた。それは、徐々にではあるが確実に強くなっていく一方だった。
――嫌だ、やめて……! マリーは心の中で叫び声を上げた。すると、身体の中の熱がさらに激しく燃え上がり、ついには爆発してしまった。
――うわぁあああっ!! 悲鳴を上げると同時に、マリーの意識は完全に途切れた。
15 翌日、病院を訪れた亜衣たちは、マリーが行方不明になったということを知った。マリーの家出が発覚したのである。警察も動いているようだが、未だに発見されていないらしい。
亜美はショックを隠し切れない様子だったが、麻衣子と沙織は特に驚いたりはしなかった。「きっと家出したかったんだろうね」
麻衣子はさらっと言ってのけた。
亜美は困惑した表情を浮かべたが、すぐに立ち直ったらしく、「うん、そうだよね……」と答えた。
しかし、内心では不安に思っているはずだ。亜美が何か言おうとして口を開きかけたその時、部屋のドアが開いた。入ってきたのはマリーの父だった。三人は驚いて立ち上がった。
「お邪魔します……。みなさん、お揃いでお待ち頂いて申し訳ありません……。実は、娘の行方について新しい情報がありまして、皆さんにも聞いていただきたいと思いましたので……」
彼は沈んだ声で言った。
「どういうことですか?」 

 

4

「えっと、つまり、昨日はマリーちゃんが公園にいなかったという証言をしてくれた方が見つかったのですが、それが一人ではなく、他にも複数の人が同じようなことを言っているということでして……」
「じゃあ、誰かと一緒に遊んでいたということなんですね?」と亜衣が尋ねた。
「そういうことになると思います。ですが、まだ幼い女の子なので、一人でどこかへ行ってしまうなんて考えられないと親御さんは話しているんです。そこで私は考えたんですよ。これは誘拐されたんじゃないかと……。あるいは、事件に巻き込まれた可能性もありますし……」
彼の話を聞いた瞬間、亜衣たちの間に緊張が走った。「えぇー!」
亜衣は驚きの声を上げてしまった。他の二人も同じ反応だった。「あの、それは間違いないんでしょうか?本当にそうなのだとしたら大変ですよ!?」
麻衣子が身を乗り出して尋ねると、マリーの父は神妙に首を縦に振って肯定した。
亜衣は思わず溜め息を漏らしたが、その一方で、ある疑問を感じた。――マリーがいなくなったことを、お父さんがこんな風に冷静に考えられるはずがない……。それに、公園に行った時に誰もマリーを見たことがないと言っていた。ということは……。亜衣の思考を読み取ったかのように、父が話し掛けてきた。
「私にはわかります……。娘の身に何が起こったのか……。どうしてなのかは説明できませんが、今の娘は普通の状態ではないんです……。おそらく……、いえ、間違いなく、これはウイルスの仕業です。マリーの体内に、何らかのウイルスが潜り込んで、その力を暴走させている……。そして……」
亜衣たちはごくりと唾を飲み込んだ。
「……オナガに取り憑かれているのかもしれません」
16
「……どうしたんだよ、急に呼び出すなり、『大事な用がある』とか言い出しちゃったりしてさ。なんか怖いよ~」
「うるせぇな、ちょっと静かにしろよ」
薄暗い部屋の中で、少年と青年が小声で会話をしていた。室内には、彼らの他には誰もいないようだ。二人は並んでベッドに腰かけていた。少年の方が、青年より年上に見える。彼らは双子だった。
「おい、早く終わらせてくれよ。俺、もう眠いんだけど……。明日も学校なんだから……」
「そうか、わかった」と青年が呟いた。次の瞬間、彼の瞳の色が赤くなった。同時に、顔付きが少し変化したように思われる。
――あれ?あいつ、あんな声だっけ? 少年は一瞬不思議に思ったが、特に気にすることはなかった。それよりも、彼が発した言葉の方に興味があったのだ。
「いいか?よく聞けよ……。俺はもうすぐ死ぬ。でも、お前はまだ助かるんだぞ……」
「はぁ?」と、彼は間抜けな声で答えた。何を言ってんだこいつは、といった様子だ。しかし、それはすぐに消えてなくなり、「ああ、そっか。また例のやつだよな……」という独り言へと変わった。この奇妙な症状が発症してからというもの、彼らにとって、死に関する話はすっかり日常的なものになっていたのである。
「そうだ。でも、勘違いするんじゃねぇぞ。別に同情してもらおうと思って言ったわけじゃないからな……。むしろ逆だ。感謝して欲しいぐらいだぜ。わざわざ助けてやったんだから……」
「わかってるって!それで、今回はどんな感じで死にそうなの?」
「あぁ、まず最初に心臓が止まるんだ。次に呼吸困難になって、最後には全身が麻痺してくるだろう。だが、安心してくれ。意識を失う直前で、なんとか食い止めることができるはずだ……」
「へぇ、そうなんだ。それはすごいね……」
少年は感心したように言った。「じゃあさ、もし失敗したら、どうなるの?」
「そりゃ、もちろん、死ぬしかなくなるな……」と青年は平然と答えた。「ま、お前なら大丈夫だと思うけど……」
「うん、そうだよね……」
少年は明るい調子で相槌を打った。「で、いつ頃になるんだろう?」
「あと二時間くらいかな……」
「えー、そんなに待ってられないよ!」
「仕方ないだろ。マキシマムドリンクという特効薬があるが、未承認なんだ。しかも薬科大の研究室で試作されてる。今すぐおいそれとは手に入らない。強奪でもしない限りはな!だから、諦めるしかないんだよ……」
「うわ、ひどい話……」
「そういうことだ。我慢しろ」
「はぁ……。じゃあ、大人しく待つとするか……」
「それが賢明だ。じゃあ、そろそろいいか?」
「うん、いいよ」
「よし……。それでは……」
青年が目を閉じた。すると、彼の身体が薄くなっていくのがわかった。まるで空気の中に溶け込むようにして消えていく。
――あれ?あいつ、こんなに存在感なかったっけ? 少年は不思議に思いながらも、じっと見つめていた。やがて、女の声が聞こえた。
「お薬。持ってきてあげるね。あたしはオナガっていうの。よろしく……」
少年が目を向けると、そこには見知らぬ少女の姿があった。黒い髪に白い肌。年齢は十歳前後だろうか。人形のように可愛らしい顔をしている。
「……えっと、君は誰だい?」
彼は尋ねた。
「あなたの恋人よ……」
彼女は微笑んで答えると、姿を消した。
* 亜衣たちはマリーの両親と共に警察署へ向かっていた。マリーの父は、亜衣たち三人を自分の車に乗せて運転していた。彼は、亜衣たちがマリーの行方について新しい情報を掴んだと言ったのだった。そして、その情報が本当ならば、一刻も早く確認しなければならないと言うのだ。亜衣たちは、マリーの家に残されていた落書きのことや、公園での不思議な出来事などについて詳しく話した。マリーの父はとても驚いていたが、亜衣たちの話を頭ごなしに否定したりせず、最後まで真剣に聞いてくれた。
「なるほど……。つまり、君たちにはその絵描きがオナガだということがわかったわけだね?それに、彼女が『マキシマム』と言っていたのを聞いたと……。そして、その言葉の意味するところについてもある程度理解できたと……」
「はい、そうです……」と麻衣子が答えた。
「わかりました。では、とりあえず、その絵描きが何者かを突き止めましょう。おそらく、今回の事件にも関係していることでしょうから……」
「あの……、どうしてそう思うんですか?」と亜衣が訊いた。
「さっきの話を聞いていて、私にはそう思えたんですよ。ただ、あくまで勘なのですが……」
「いや、そうですね。きっとそうだと思います」と父が言った。「ところで、その絵描きはどこにいるのか、見当はついているのですか?」
「いえ、残念ながらまだ……。でも、手がかりはあるはずなんです」
「どういうことでしょうか?」
「実は、その女の子のことを覚えている人が何人かいました。その子はいつも、同じ服を着て、同じ鞄を持って歩いてたみたいなんです。その人によると、彼女はとても身なりの良い子だったみたいで、友達からも羨ましがられていたとか……」
「もしかしてマキシマム薬科大学教授の御令嬢のことか? そう、確かマキシマム堀門博士の一人娘だな。名前はマリー・ベルといったはずだが……」
「知ってるの?お父さん……」と母親が言う。
「ああ、もちろんだとも。この辺りに住んでいる者なら、誰でも知っているはずだ。この国で一番の金持ちだからな。特に医学界での影響力は絶大だよ。御子息の方は、あまり評判が良くなかったが……」 

 

5

「へぇ、そうなんだ……」
「とにかく、彼女に関する情報を集めよう。何かわかるかもしれないからね」
「はい、お願いします!」と亜衣が元気よく言った。
「ええ、任せておいて下さい」
「あ!ちょっと待って……」
突然、麻衣子が声を上げた。
「どうしたんだ?麻衣ちゃん……」と亜衣が尋ねる。
「うん……。今、思い出したんだけど、そのオナガさんという人の家の前に変な落書きがされてたの……」
「落書き?」
「うん。たぶん、そこに行ったら見つかると思うけど……」
「よし、じゃあ、そこへ行ってみよう!」と亜衣は言って、車のスピードを速めた。
亜衣たちは警察署の駐車場に車を停めると、急いで建物の中に入った。そして、受付で事情を説明してから、刑事の部屋へと向かった。
「……なるほど。話はわかりました。でも、本当にそんなことがあったのかね?」
若い刑事が疑わしそうに言った。
「はい、間違いありません!私たち、確かに見たんです」
「その子はマリー・ベルと言う名前か? 十年前に死んだよ。誘拐されて」
「えっ!?」
亜衣たちは顔を見合わせた。
「何だって?」
「だから、十年前の今日、マキシマム堀門の娘が誘拐されたんだよ。犯人はまだ捕まっていないがね……」
「まさか……」
「おいおい、冗談はやめてくれ。あの子はもう死んでるんだよ。解剖の結果、そう出ている。心臓麻痺を起こして亡くなったそうだ。今さら生き返って来るわけがないじゃないか……」
「…………」
亜衣は唇を噛んで黙り込んだ。
「どうした? 納得できないのかい? じゃあ、もっと詳しく調べてあげようか?」
「いいえ……、結構です」
「ふん……。それならいいが……。それで、君たちは何をしたいんだ? 何か捜査に協力してもらえることがあるのか?」
「あります!ぜひ協力させて下さい。私たちはそのマリーさんの友達なんです。どうしても、彼女のことを救い出したいんです」
「ふうん、そうなのか。わかったよ。できる限りのことをしよう。で、その落書きというのはどこにあるのかな?」
「はい、こちらになります……」
亜衣たちは、マリーの家まで案内した。
「ふむ……。ここが、例の落書きのあった場所か……」
「はい、そうです」
「なるほど……。うーん……」
彼は腕組みをして考え込んでいた。
「どうかしましたか? 何か気になることでも……」と麻衣子が尋ねた。
「いやね、この絵……。どこかで見たことがあるような気がするんだよな……」
「本当ですか? どんな絵なんですか?」
「それがね、よくわからないんだ。ただ、絵の中に何か文字のようなものが描かれていることは確かなんだが……」
「見せていただけませんか?」
「ああ、もちろんだ。しかし、少し時間がかかりそうだぞ。もしかすると、明日になるかもしれない」
「構いません。お願いします!」
「よし、わかった。じゃあ、とりあえず今日は帰りなさい」
「はい、ありがとうございます」
亜衣たちが部屋を出ると、刑事が声をかけて来た。
「君たち……、ちょっと待ってくれないか?」
「はい、何でしょう?」
「実はね、僕には娘がいるんだ。今年高校三年生なんだが、受験勉強の邪魔をしたくないから、なかなか会えないんだよ。そこで、もしよかったら、その絵を見せてもらってくれないか? もちろん、無理にとは言わないが……」
「いえ、喜んでお引き受けいたします」と麻衣子が答えた。
「そうか。それは良かった。じゃあ、明日の朝、迎えに来るよ」
亜衣たちは警察署を出て、車に乗ろうとした時、後ろから走って追いかけて来た人物がいた。
「あなた方は探偵さんですね?」と女性が言った。
「えっ? どうしてわかるんですか?」
亜衣は驚いて振り向く。
「やっぱり……」
女性は胸の前で手を合わせて微笑んだ。「私はマリアといいます。マリー・ベルのお姉ちゃんなんですよ」
「ええっ!?」
「驚かれるのも当然だと思います。私も信じられない気持ちでいっぱいですから」
「あ、あの……、どういうことでしょうか?」と麻衣子が尋ねる。「ええ……。ちょっと説明し辛いのですが、先程、署内で大きな声を上げて話されていた会話を耳にして、何事かと思いましたの。それで、すぐにあなた方の車の後を追いかけて行ったというわけです」
「じゃあ、ずっと聞いてたんですか?」
と亜衣が聞く。
「はい、すみませんでした。盗み聞きするつもりはなかったんですけど、つい耳を傾けてしまいました。ごめんなさい」
彼女は深々と頭を下げた。そして、ゆっくりと顔を上げると、「ところで、さっきの話は一体何だったんですか?マリーが十年前に死んだとか言ってましたよね?」
亜衣が説明すると、マリアは大きな溜息をついた。
「マリー……可哀想に……」
亜衣たちは顔を見合わせる。「あの……、マリーさんってそんなに有名な人なんですか?」
と麻衣子が質問した。
「ええ、まあ……」
と言って、しばらく黙り込んだ後に彼女は話し出した。
「私の母はアメリカ人なんです。それで、父と一緒に日本に来たんですが、父が事故で亡くなってしまったため、母と妹はアメリカで暮らしています。ですが、時々日本に帰って来ることがあるんです。その時に必ず寄るところがあるんです。それはマキシマム堀門さんという方が経営する『マキシマム』という名前の喫茶店なんです。そこのコーヒーはとてもおいしいですよ。ぜひ一度行ってみてください。あっ、そうそう……、今ちょうど母の携帯が鳴っているようです。きっと電話が来たんだわ。じゃあ、私はこれで失礼しますね」
彼女が立ち去ろうとすると、また携帯電話が鳴り始めた。「あら? お母さんからだわ。何だろう? もしかしたら、何か事件があったのかしら?」
亜衣たちも彼女の後を追うように歩き出した。
亜衣たちはマリーの家に着いた。ドアを開けると、マリーが玄関に出て来た。
「皆さん、いらっしゃいませ」と言うと、ニッコリ笑って一礼した。「どうぞ、お入りください。今、お紅茶を用意しますから」
リビングに入ると、亜衣たちは椅子に座って彼女を待った。しばらくして、ティーポットとカップを乗せた盆を持ってマリーが入って来た。
「今日はどんな用事で来られたのでしょうか?」と彼女は尋ねた。
「はい、実は私たち探偵なんです」
「えっ? そうなんですか?」
「そうです! 私たちは困っている人の悩みごとや問題を解決するために活動をしているんですよ。ですから、何でも相談していただければ、協力させていただくことができます。ただし、料金が発生しますけれど……」
「わかりました。では、早速お願いしたいことがあります」
「えっ、何かしら?」
「最近、町のあちこちで動物の鳴き声が聞こえるような気がするのです」
「ええ、本当ですか?」
亜衣がマリーの話を真剣に聞いていた時、マリアからもらったメモのことを思い出し、亜衣はバッグの中を探ると手帳を出して確認を始めた。「ちょっと待っててね……。ええっと……。あった!」
亜衣はそれをポケットに入れると、再び話の続きを聞くために姿勢を正す。「どんな感じなのか、詳しく聞かせていただけるかしら?」 

 

6

「ええ、初めは気のせいで済ませることができたのですが、最近はその頻度が増えてきて、しかもだんだん大きくなってきているのです。それで最近では怖くて外に出られないほどで……、私……」とマリーは話し始めたが、途中で言葉に詰まって泣き出してしまった。
麻衣子がそっとハンカチを差し出すと、マリーはそれを受け取り涙を拭いた。少し落ち着いたところで、亜衣が声をかける。
マリアは亜衣たちに事情を話し終えると、紅茶を一口飲んでから話し出した。
亜衣たちがマリーから話を聞いたあと、マリアは彼女たちを連れてマリアの実家を訪れた。マリーの姉マリアは両親にマリアの話を伝えた。両親はマリアの話を信じてくれなかったが、マリーの必死の説得によってようやく納得してくれた。そして亜衣たちは、マリーが住んでいる町へと向かった。そこは都会ではなく、田舎でもない普通の町である。ただ、その町の中心に大きな木が一本生えているのが特徴で、それがこの町の名前の由来になっているようだ。その大きな木の下を通り抜けると、その先にある森を抜け、さらに進むとそこには小さな町があるという。ちなみにその大きな木の根元には大きな洞窟があり、昔はそこがこの辺り一帯を支配する大地主の屋敷であったそうだ。だが現在はその主人が亡くなり、代わりに新しい町長が誕生した。しかしその新しい町長が変わってから、なぜか町民たちの生活環境が急激に悪化していったのだという。今では多くの人たちが職を失い、町を出て行く者が増えている。それに伴って空き家も目立つようになった。
やがて亜衣たちは森の中へと入っていった。木々の間を縫うようにして道が続いている。その先にはマリーが言っていた通りの大きな木が生えていて、そこから先は林が広がっていた。そしてその奥に一軒の木造の家が見えてきた。どうやら、あれがその町長の家のようである。
玄関の前に立つと、マリアが大きな声で呼びかけた。ピンポーン。
しばらくして扉が開かれ、一人の男が姿を現した。年齢は三十代半ばといったところだろうか。眼鏡をかけていて細身である。
男はマリアの顔を見ると笑顔を浮かべて言った。
いらっしゃい。待っていたよ。さあ、上がってくれ。みんな中に入っているからさ。君たちは初めて見る顔だけど、君は一体誰だい?」
と彼は麻衣子を指して言う。すると彼女が答える前に、麻衣子は慌てて答えた。
あの……、私は橘麻衣子と申します。よろしくお願いします」
麻衣子が挨拶をするのを待って、亜衣が続けて自己紹介をした。そしてその後、三人もそれぞれ名乗る。
そうか。まあ、とりあえず上がりなさい。遠慮はいらないから。話はそれからだよ。僕はこの町の町長をしているものだ。名前? そんなことより早く中に入りなさい」
と言いながら、町長と名乗った男性は亜衣たちを中に招き入れた。亜衣たちは彼の後について行き、居間に入った。部屋の隅にはテレビが置かれており、そこに映っているニュースによると、現在この近辺で鳥の姿が頻繁に見られるようになっているらしい。しかもそれは今まで見たこともないほど巨大なものであり、その姿から想像できるのはおそらく猛禽類だろうということだった。また、それらを目撃した人の中には怪我をしたり病気になった人もいるらしく、病院に担ぎ込まれる患者も増えている。
今はまだそれほど被害が大きくないが、いずれはこの周辺でも深刻な事態になるかもしれないとキャスターは伝えていた。そして最後にアナウンサーは次のように締めくくった。
次のニュースです。今朝未明、○×市の住宅街において、オナガと思われる生物が人を襲っているとの通報を受けて警察が駆けつけましたが、既に犯人はいなくなっていました。
亜衣たちは町長に連れられて屋敷の裏手の方へと向かう。そこは山の入り口になっており、彼らはその中へ入って行った。
しばらく歩いて行くと、急に目の前に広い空間が現れた。その場所の中央付近に大きな建物が建っており、入り口らしきものが見える。町長はその建物に入ると、階段を使って上の階へと向かった。亜衣たちもそれに続く。建物の二階に着くと、そこにはいくつものドアが並んでいた。
さてと……、じゃあ、どこが良いかな。よし! ここなんてどうかな?」と言いながら、一つの部屋の前で止まると、そこにあった鍵をつかんで開けた。中にはベッドや机などが置かれていたが、あまり使われている形跡はないようだ。亜衣たちは促されるままに部屋に足を踏み入れる。
「それで、話というのは何なのかね?」と町長が尋ねてきた。
亜衣はメモを取り出し、それを読み上げる。
「えっと……、最近町のあちこちで動物の鳴き声が聞こえるようになりました。最初は気のせいで済ませることができたのですが、最近ではその頻度が増えてきて、さらにはだんだん大きくなってきているのです。それで最近では怖くて外に出られないほどで……、私……」とマリーは言いかけて再び泣き出してしまった。
麻衣子がそっとハンカチを差し出すと、マリーはそれを受け取り涙を拭いた。少し落ち着いたところで、亜衣が声をかける。
マリアは亜衣たちに事情を話し終えると、紅茶を一口飲んでから話し出した。
亜衣たちが町長から話を聞いたあと、マリアは彼女たちを連れてマリの家に立ち寄った。マリーの姉マリアは両親にマリアの話を伝えた。両親はマリアの話を信じてくれなかったが、マリーの必死の説得によってようやく納得してくれた。そして亜衣たちは、マリの家に向かうことになった。ちなみに、その町の名前は、この近くにある大きな木の名前から来ているそうだ。その木の下を通り抜けると、その先にある森を抜け、さらに進むと小さな町があるという。ちなみにその木の元には洞窟があり、昔はそこがこの辺り一帯を支配する大地主の屋敷であったそうだ。だが現在はその主人が亡くなり、代わりに新しい町長が誕生した。しかしその新しい町長が変わってから、なぜか町民たちの生活環境が急速に悪化していったのだという。今では多くの人たちが職を失い、町を出て行く者が増えている。それに伴って空き家も目立つようになった。
やがて亜衣たちは森の中へと入っていった。木々の間を縫うようにして道が続いている。その先にはマリーが言っていた通りの大きな木が生えていて、そこから先は林が広がっていた。そしてその奥に一軒の木造の家が見えてきた。どうやら、あれがその町長の家のようである。玄関の前に立つと、マリアが大きな声で呼びかけた。ピンポーン。
しばらくして扉が開かれ、一人の男が姿を現した。年齢は三十代半ばといったところだろうか。眼鏡をかけていて細身である。
男はマリアの顔を見ると笑顔を浮かべて言った。いらっしゃい。待っていたよ。さあ、上がってくれ」 

 

7

と言いながら、町長と名乗った男性は亜衣たちを中に招き入れた。亜衣たちは彼の後について行き、居間に入る。部屋の隅にはテレビが置かれており、そこに映っているニュースによると、現在この近辺で鳥の姿が頻繁に見られるようになっているらしい。しかもそれは今まで見たこともないほど巨大なものであり、その姿から想像できるのはおそらく猛禽類だろうということだった。また、それらを目撃した人の中には怪我をしたり病気になった人もいるらしく、病院に担ぎ込まれる患者も増えている。
今はまだそれほど被害が大きくないが、いずれはこの周辺でも深刻な事態になるかもしれないとキャスターは伝えていた。そして最後にアナウンサーは次のように締めくくる。
次のニュースです。今朝未明、○×市の住宅街において、オナガと思われる生物が人を襲っているとの通報を受けて警察が駆けつけましたが、既に犯人はいなくなっていました。
亜衣たちは町長に連れられて屋敷の裏手の方へと向かう。そこは山の入り口になっており、彼らはその中へ入って行った。
しばらく歩いて行くと、急に目の前に大きな空間が現れた。その場所の中央付近に大きな建物が建っており、入り口らしきものが見える。町長はその建物に入ると、階段を使って上の階へと向かった。亜衣たちもそれに続く。建物の二階に着くと、そこにはいくつものドアが並んでいた。
さてと……、じゃあ、どこが良いかな。よし! ここなんてどうかな?」と言いながら、一つの部屋の前で止まると、そこにあった鍵をつかんで開けた。中にはベッドや机などが置かれていたが、あまり使われていないようだ。亜衣たちは促されるままに部屋に足を踏み入れる。
「それで、話というのは何なのかね?」
と町長が尋ねてきた。
亜衣はメモを取り出し、それを読み上げる。
「えっと……、最近町のあちこちで動物の鳴き声が聞こえるようになりました。最初は気のせいで済ませることができたのですが、最近ではその頻度が増えてきて、さらにはだんだん大きくなってきているのです。それで最近では怖くて外に出られないほどで……、私……」とマリーは言いかけて再び泣き出してしまった。
麻衣子がそっとハンカチを差し出すと、マリーはそれを受け取り涙を拭いた。少し落ち着いたところで、亜衣が声をかける。マリアは亜衣たちに事情を話し終えると、紅茶を一口飲んでから話し出した。
亜衣たちが町長から話を聞いたあと、マリアは彼女たちを連れてマリの家に立ち寄った。マリーの姉マリアは両親にマリアの話を伝えた。両親はマリアの話を信じてくれなかったが、マリーの必死の説得によってようやく納得してくれた。そして亜衣たちは、マリの家に向かうことになった。ちなみに、その町の名前は、この近くにある大きな木の名前から来ているそうだ。その木の下を通り抜けると、その先にある森を抜け、さらに進むと小さな町があるという。ちなみにその木の元には洞窟があり、昔はそこがこの辺り一帯を支配する大地主の屋敷であったそうだ。だが現在はその主人が亡くなり、代わりに新しい町長が誕生した。しかしその新しい町長が変わってから、なぜか町民たちの生活環境が急速に悪化していったのだという。今では多くの人たちが職を失い、町を出て行く者が増えている。それに伴って空き家も目立つようになった。やがて亜衣たちは森の中へと入っていった。木々の間を縫うようにして道が続いている。その先にはマリが言っていた通りの大きな木が生えていて、そこから先は林が広がっていた。そしてその奥に一軒の木造の家が見えてきた。どうやら、あれがその町長の家のようである。玄関の前に立つと、マリアが大きな声で呼びかけた。ピンポーン。
しばらくして扉が開かれ、一人の男が姿を現した。年齢は三十代半ばといったところだろうか。眼鏡をかけていて細身である。
男はマリアの顔を見ると笑顔を浮かべて言った。いらっしゃい。待っていたよ」と言いながら、町長と名乗った男は亜衣たちを中に招き入れた。亜衣たちは彼の後について行き、居間に入る。部屋の隅にはテレビが置かれており、そこに映っているニュースによると、現在この近辺で鳥の姿が頻繁に見られるようになっているらしい。しかもそれは今まで見たこともないほど巨大なものであり、その姿から想像できるのはおそらく猛禽類だろうということだった。また、それらを目撃した人の中には怪我をしたり病気になった人もいるらしく、病院に担ぎ込まれる患者も増えている。
今はまだそれほど被害が大きくないが、いずれはこの周辺でも深刻な事態になるかもしれないとキャスターは伝えていた。そして最後にアナウンサーは次のように締めくくる。
次のニュースです。今朝未明、○×市の住宅街において、オナガと思われる生物が人を襲っているとの通報を受けて警察が駆けつけましたが、既に犯人はいなくなっていました。
亜衣たちは町長に連れられて屋敷の裏手の方へと向かう。そこは山の入り口になっており、彼らはその中へ入って行った。しばらく歩いて行くと、急に目の前に大きな空間が現れた。その場所の中央付近に大きな建物が建っており、入り口らしきものが見える。町長はその建物に入ると、階段を使って上の階へと向かった。亜衣たちもそれに続く。建物の二階に着くと、そこにはいくつものドアが並んでいた。
さてと……、じゃあ、どこが良いかな。よし! ここなんてどうかな?」と言いながら、一つの部屋の前で止まると、そこにあった鍵をつかんで開けた。中にはベッドや机などが置かれていたが、あまり使われていないようだ。亜衣たちは促されるままに部屋に足を踏み入れる。
「それで話というのは何なのかね? あぁ……、そうか……。君たち……、もしかして、最近この町にやってきたという人たちかい?」
町長は亜衣たちが町長に会いに来た理由を確認すると、突然そんなことを尋ねてきた。亜衣たちは戸惑ったが、とりあえずは質問に答えることにする。
「はい。私たちはここより遠く離れた場所からやってきたんですけど、私たち以外には誰もいないんですよ。それで……」
「ふむ……、なるほどね……」と言いながら町長は腕組みをして考え込むような仕草を見せた。
麻衣子は亜衣の話を聞いて、少し違和感を覚えた。彼女の話が本当だとすると、どうして彼女は亜衣たちのことを知っているのかしら……?
「あの……、町長さん?」と麻衣子が尋ねた。
「んっ……、何だい?」
「実は私……、この近くに来る前に、ある人に聞いたことがあるんです。この辺りでは、町の人が夜になるとどこからともなく聞こえてくる謎の動物の鳴き声に悩まされているって……」

「ああ、それなら僕も知っているよ。確かに少し前まではそのことでみんな悩まされていたね。最近はめっきり減ったみたいだけど」
「はい。それで私、不思議に思ったことがあったので尋ねてみたんです。その人は町長さんの知り合いだと言ってました。その人の名前を教えてくれませんか?」
町長は少しの間黙っていたが、「残念だが、それはできない相談だよ。それにもう済んだことだし、君は気にしなくていいんじゃないかな」と答えた。
「そっか……、やっぱり駄目なんだ。でもその人、この辺りにいるらしいんだけど……」と亜衣が言う。 

 

8

町長は苦笑いを浮かべると、頭を掻いた。「うーん、困ったねえ。どうしても知りたいっていうのかい? だったら、一つだけ条件があるよ。もしも君たちが僕のお願いをきいてくれたら、その人の名前を教えることができる。どうだい、引き受けてくれるかな?」と彼が尋ねる。亜衣たちは迷わず答えた。
分かりました。何をすれば良いのですか?」
亜衣は気になっていたことを訊いてみる。
うん、ちょっと待ってくれるかな。それじゃあ、えっと……、確かここに……。
彼はそう言い残すと部屋の奥の方へ姿を消した。そして何かを手にして戻ってくる。
亜衣たちは町長の手にあるものを凝視した。それは一本のビデオテープであった。
はい、これ。受け取ってくれるかな? と言いながら、町長はそれを亜衣に手渡した。
麻衣子は再び違和感を覚えて言った。でもその前に確認したいことがあります。
亜衣たちは互いに顔を見合わせる。
麻衣子の問いかけに対し、町長は何だろうと言わんばかりに首を傾げた。私は、あなたと以前にどこかでお会いしたことがありますか?」
彼の動きが止まった。しばらく沈黙が流れる。やがて彼は口を開いた。
僕は君のことを知らない。会ったことはないと思うよ。
町長の言葉を聞き、麻衣子はさらに続けた。私の思い違いでしょうか。以前、この付近で町長さんとよく似た人と出会った気がするんですけど。
彼は再び亜衣たちを見た。そして言った。
悪いけれど、君の言っていることはさっぱり分からない。僕には心当たりもない。
今度は町長が亜衣たちに質問をする。ところで君たちはこの町のことが好きかい?亜衣たちは正直に答えた。町長はさらに続ける。そうか……、それは嬉しいな。じゃあさ、ここで働かないかい? 町長が提示した報酬はかなり魅力的だった。特に亜衣はその額に魅力を感じたようで、二つ返事で了解してしまう。亜衣たちが働くことを決めた瞬間、町長の顔に不気味な笑みが生まれたことに彼女たちが気づくことはなかった。
それから数日間、二人は役場で働きながら、町長について町の住人から聞き込みをしていた。最初はなかなか協力してくれなかった住人たちも、麻衣子と亜衣の熱意に負けて、少しずつ情報を明かしてくれるようになる。しかし有力な情報は得られなかったため、二人は次の手を考えることにした。すると町長が再び二人に声をかけてくる。どうだい?仕事は順調かい?亜衣たちは素直に応じた。はい。今のところは特に問題なく、順調にやっています。町長は嬉しそうに顔をほころばせると、亜衣たちに対して一つの提案を持ちかけた。マリーをいけにえに捧げよう。そうすればオナガは鎮まる。亜衣たちは最初その話を断るつもりだったが、結局町長に押し切られる形で引き受けてしまった。亜衣たちは屋敷へ向かう途中、町長にもらった薬を飲んだ。その後屋敷にたどり着くと、亜衣は扉の鍵を壊して中に入ろうとする。その時突然後ろから肩を強くつかまれた。振り返るとそこには町長の姿があった。町長は静かに告げる。今晩は私が相手をしよう。亜衣たちの返事を待たず、町長は亜衣たちを地下室まで連れていった。そこで一晩を過ごすように言われる。亜衣たちはおとなしく従った。その夜、町長は自分の家に戻らなかった。翌日、町長の屋敷に行ってみると彼は帰っていた。
昨夜、僕の家に忍び込んだね。
町長の表情から、彼が本気で怒っていることが分かった。
君は私の妻を殺し、この家に入り込んで私も殺そうとした。そうだね。亜衣は答えた。
なぜそんなことを? 理由なんかないわ。
私も殺すつもりなのかい?亜衣はもう一度だけ尋ねた。そうよ。邪魔さえしなければ危害を加える気はない。
私はここを出ていく気はないよ。あなたとは結婚するつもりもない。
あなたが出ていかなければ、私たちは永遠に離れられないの。分かってちょうだい。亜衣は言った。それはできない相談だね。私は君を許さない。たとえ君が何度生まれ変わっても、何万回君が生まれてきても、絶対に許さない。亜衣は思った。じゃあ……、死ねば? 町長はゆっくりと亜衣に向かって近づいてくる。その時だった。マリーが乱入してきた。「亜衣を殺すならわたしを殺して‼」その後をオナガがバサバサっと追いかけてくる。「ああっ!」あっという間にマリーは捕らえられ、そのまま地下室に連れて行かれてしまう。しばらくして戻ってきた彼女の足下に、町長のものと思われる血液が落ちていた……。
これで全部だよ。もうこれ以上何も出てこない。
麻衣子は黙って聞いていたものの、「本当にそれで終わりなんですか?」と確認せずにはいられなかった。
彼は答えない。代わりに、君たちに頼みがあると話を切り出した。
実はね、先月この辺りに大きな地震が起こったんだよ。幸い死者こそ出なかったものの、被害は大きくてね。
ああ、あの時のことか。確か震度6くらいの……。
うん。そして、地下から巨大な遺跡があらわれた。ローマ時代のコロセウムのような石造りで部屋のあちこちに白骨化した死体があった。身に着けていたものからどうもいけにえらしいことがわかった。考古学者の調べでこの遺跡は鳥の化け物に若い女を捧げる祭壇であることが判明した。なぜなら闘技場の真ん中に巨大な鳥の化石があったからだよ。腹の部分に人間の頭骨があった。それから一週間後、町が何者かに襲われ始めた。奴らはオナガをけしかけて人間を襲った。そしてその血肉を食らったオナガは巨大化し、町を襲っていった。
僕はこの町を守るためオナガと戦っている。そしてマリーもその一人だ。古文書によればマリーを捧げればコロセウムの呪いが解ける。
その時だった。マリーの悲鳴が聞こえる。かけつけるとオナガがマリーのスカートをついばんでいた。スカートが裂け白いパンティが見えている。彼女は下着を脱ぎ、裸で町長と対峙した。町長は剣を構える。するとオナガが奇声を上げながら襲いかかってきた。それを何とか避ける町長だったが、次の瞬間彼の腹部に深々とオナガの爪が突き刺さった。町長が倒れ込む。オナガは再び飛び上がり、鋭い嘴を使って攻撃する。しかしそれは町長の頭上すれすれを通り過ぎ、床板に穴を空けただけだった。「危ないっ」麻衣子が駆け寄り町長を抱き起こす。町長はすぐに立ち上がった。どうやら怪我はないようだ。
町長が再び構え直す。するとオナガの動きが変わった。それまで直線的にしか動かなかったのが急にジグザグに動き始める。町長はオナガをとらえきれず、その隙をつかれてまたダメージを受けてしまった。オナガは壁際まで逃げていく。マリーは追い打ちをかけようと走り出すが、町長がそれを止める。どうして止めるんですか?このままではオナガに逃げられてしまいます! いいんだ。彼はそう言って再び剣を構えた。オナガが羽ばたきを始める。マリーは叫んだ。ダメです!! しかし町長は止まらない。オナガが滑空してくる。「うわぁーっ!」町長は叫びながら剣を振り上げた。しかしそれは空振りに終わる。町長はバランスを崩して転倒した。「きゃあ~!!」同時にオナガも地面に落ちてきた。町長はなんとか起き上がる。だが遅かった。オナガはすでに立ち上がっていた。町長に向かって突進していく。
「だめぇ―――ッ!!!」 

 

9

町長とオナガの間に割って入る。町長を突き飛ばし、オナガの攻撃を避けようとした。しかし避けきれない。背中に強い衝撃を受ける。痛みを感じなかったのは一瞬のことだった。すぐに激痛に襲われる。息ができない。苦しい。マリーは咄嗟に裸のままオナガのくちばしに飛び込んだ。マリーは悲鳴をあげる間もなく消化された。そしてオナガは苦しみながらマリーの骨を排泄した。オナガは悶絶して死んだ。僕はオナガを殺した。
彼は静かに言った。
なぜそんなことを? 彼は答えず、僕たちの方を見た。
これで分かっただろう? 君たちは僕たちにとって脅威だ。だから……、 殺さなければならない。
マリーの葬式が終わった後、麻衣子と真砂子は麻衣子の家にいた。
結局、あの時何が起きたのかよく分からないままだった。麻衣子はベッドの上に寝転がり、天井を見つめていた。
「麻衣子、大丈夫?」
真砂子が心配そうな顔で覗き込んでくる。
麻衣子は笑おうとした。でもうまくいかなかった。
「うん……」
身体が震えていた。寒くはないのに。
「怖い?」
麻衣子は答えられなかった。
「怖かった?」
麻衣子は小さく首を横に振った。
「嘘つきね」
今度ははっきりと答えた。
「うん……、ほんとはすごく怖かった」
「そうでしょうね」
麻衣子は上半身を起こすと、隣に座っている真砂子を抱きしめた。
「な、何?どうしたのよ、いきなり!」
慌てる真砂子に構わず、強く抱きしめる。「ちょっと、痛いわよ!」
それでも放さない。「ねえ、麻衣子ってば!」
「ごめん……。もう少しだけこうさせて」
「ええ!?」
「お願い」
しばらく黙っていた後、「仕方がないわねぇ」と言ってくれた。
「ありがと……」
どれくらい経っただろうか。町長が銃を向けている。「死ね‼悪魔め!!」
銃声と共に血飛沫が上がる。麻衣子の肩から出血していた。「きゃあああっ!」思わず悲鳴を上げる。しかし次の瞬間には傷口が塞がり始めていた。
「効かないだとぉ!?」
町長は慌てて逃げる。「待て、化け物!」
しかし町長は支離滅裂なことを叫び、自分の頭を打ちぬいた。そして屋敷が火事になった。たちまち町中に類焼して千人が死んだ。
これがオナガ事件の全容である。
おわり。あとがき ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品は、とあるサイトで連載している小説の1話分を切り取ってまとめたものです。そのため、ストーリー性などはほとんどありません(あっても皆無)。おまけに文章も拙いし構成も悪いしで、読みにくいことこの上ないと思います。