胃カメラ世界条約


 

バラモン度胸の誓い

今この瞬間にも心臓がはち切れそうだ。満席の待合室、ひっきりなしの呼び出し、ガラスがぶつかりあう音。走り去るベッド。ギャン泣きする子供。救急車のサイレン。否が応でも緊張感する。
ドキドキのクライマックスで名前を呼ばれた。案内されるままベッドの前に座らされた。
しかし振り向いたのは厳めしい顔つきの白衣でなくストレートヘアを束ねたうなじだった。モスグリーンの半袖ワンピース。膝半分ほどの丈でストッキングは履いていない。そしてうっすらと面積の狭い生地が透けている。俺は鼻腔に鉄の匂いを感じた。ドキがムネムネして収縮期血圧が平常値を突き抜ける。
「あの……診察は?」
息も絶え絶えに聞く。
「先生は他の診察でお忙しいので。あと、ご相談とお聞きしていましたので」
「そっ、そうですか」
絶対領域に向こう、向こうとする目を理性で押さえつける。
「お話をうかがって先生にご判断いただきます」
「な、なるほど。実はですね」
俺は唾をゴクリとす飲み込んだ。肺に空気をためる。
「実は胃カメラ世界条約締結のニュースを聞きそびれてしまいました。私は国民に胃カメラ検診を義務付ける国際条約にどうも納得できません。胃カメラの必要性は理解していますが胃にカメラを入れるという思考に嫌悪感を感じます。同僚は「お前の為じゃない。病気になったらみんなが迷惑する」と言います。私が悪いのでしょうか?」
一気にまくしたてた。
「C.I.A.」
「は?」
俺は耳を疑う。しかし彼女は確かにそういったのだ。
「米国国防総省」
看護婦は机上のスマートスピーカーにそう伝えると50インチディスプレイが即座に対応した。

『スーダン政府がダルフールで、イスラム・マグレブのアルカイダ(AQIM)やイラクとレバントのイスラム国(ISIL)などのテロ集団を支援していることが、米上院情報委員会に提供された機密文書によって明らかになりました。この文書は、テロとアルカイダに関する中央情報局(CIA)の2007年の国家情報評価(NIE)に対する公式報告書で、スーダン政府がこれらの武装集団を支援するとともに、彼らの国内への侵入を積極的に促してきたことが明らかにされています。NIEによると、スーダン政府は、スーダンを隠れ家や訓練に利用する過激派グループに資金や後方支援を提供し、スーダン政府高官は彼らの活動を促進している。例えば2004年、CIAは「スーダンを拠点とするアルカーイダのテロリスト、モハメド・モフモフ・サウドは、スーダン国内の武装組織アルカーイダ(AQST)のリーダーだった」と報告した。彼はアル・カーイダのスーダン支部の司令官であり、AQSTの軍事司令官を務めていたアーメド・オマール・エビテンスと親しい友人でした。” スーダンのアル・カーイダ支部は、例えば2003年に米国大使館員を含む約300人の米国人を誘拐し、2002年にはケニアのナイロビとスーダンのハルツームで米国大使館を爆破するなどの犯行を行った。同NIEは、2007年1月にスーダン政府が「スーダンのアルカーイダ」のメンバーのハルツーム主要空港への立ち入りを拒否したとし、2007年7月に米政府高官が「スーダンのアルカーイダのメンバーは500〜1000人の範囲にある」と推定したことを明らかにした。 「アル・カーイダはスーダンでの反政府組織(アル・カーイダやアルコール・アルコールのグループなど)を支援している。さらに、アル・カーイダは、イラク、イスラエル、サウジアラビア、南スーダン、アル・カーイダのアルカやアラブ首長国連邦も支援している」と スーダン警察は伝えた。しかし、2007年7月にスーダンのスーパーマンがアル・カーイダとアル・カダルア・アルカナムで起こした軍事介入について、国防総省は「アル・カーイダは、その能力に優れたメンバーを雇うという新しい目標に取り組むことには責任がある可能性を、国防総省は認めておらず」と伝えた。この報告は、国防総省による監視の目に止まりません。 国防総省は、「アル・カダルア・アルカナムは20年以上前から計画され、現在でもアル・カダルア・アルカナムが作戦を実施している。アル・カダルアはアル・カダルア・アルカナムに加え、アル・カダルア・アルカナムとアル・カーイダの両方に参加すると考えられているアル・カダルア・アルカナムのメンバー全員が、アル・カダルア・アルカナムではない別のグループに加入することを認めている」と報じました。しかし、国防総省は「このグループは、アル・カダルア・アルカナムやアル・カーイダといったアル・カーイダが組織化されています」と伝えました。』
 

 

8時だよ10兆縁

「なるほど、だいたいわかりました。胃カメラ世界条約の陰にそんな陰謀が潜んでいたのですね。しかし裏事情がどうあれ私には関係のないことです。胃カメラ受診は断固拒否しま」」「あー! 待ってください! 待ってください!」
再び立ち去ろうとする俺の腕を、先ほどの看護婦さんが再び掴む。
「なんです? もう話は終わりましたよね?」
「まだ終わっていませんよ! むしろここからが本題です!」
「本題……ですか」
俺は首を傾げた。
「はい。実はあなたにやっていただきたいことがあるのです」
「私ができることならいいですよ。なんでも言ってください」
「ありがとうございます。それではさっそく――」
看護婦さんは俺の耳元へ口を近づけた。
そして小声で囁く。
「あなたの胃の中にいる寄生虫たちを退治してください」
「えぇ……!? ど、どういうことですか?」
予想外の展開に思わず声を上げる。
すると看護婦さんは慌てて口を押さえてきた。
「静かにして下さい。今から説明するので」
「わ、分かりました……」
看護婦さんの勢いに押されてコクコクとうなずく。
彼女は手を離すと、コホンと咳払いをした。
「まず最初に確認させてもらいますけど、あなたは虫垂炎を患っていますね?」
「そうみたいですね。でも私は健康診断では何も言われていませんよ」
「それは当然でしょう。だって虫垂炎だと分かったのはつい最近の事だから」
「最近? 一体何があったんですか?」
「あなたは3日前に、近所の病院に行きましたね。そこでレントゲン撮影やCTスキャンを受けたはずです」
「はい、確かに行きましたけど……。それが何か?」
「その病院で、あなたはある検査を受けませんでしたか? 内視鏡を使った検査を」
「ああ、受けました。先生から『これは間違いなく虫垂炎だ』と言われまして」
「その時、医者は何と言いましたか?」
「確か、お腹の中が真っ黒だったとかなんとか……」
「それで間違いありません。その黒い部分は、あなたの体の中で増殖したウイルスのせいです」
「ウイルス? どうしてそんなことに」
「アルカイダの仕業です。最近は渡航歴のない人にも感染が広がっているらしく、世界中で大騒ぎになっているんですよ」
「アルカイダが……まさか」
「はい。その通りです。アル・カダルイダの連中が、世界中にウイルスを放ったせいです」
「なんてことを……許せない!」
怒りのあまり拳を握りしめると、看護婦さんが心配そうな顔を向けてきた。
「落ち着いてください。気持ちはよくわかります。だけど怒っていてはいけません。アル・カダルイダの連中につけ込まれるだけですから。奴らは狡猾で残忍な性格をしているんです。絶対に騙されないでください」
「……分かりました。肝に命じておきます」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、改めて質問をする。
「それで俺はどうすればいいんですか?」
「世のため人の為に胃カメラ検診を受けてください。まさか、嫌だとは言いませんよね?放っておいたら貴方のからだからウイルス兵器が拡散して、テロリストの思うつぼです。貴方にも大切な人がいるでしょう? 彼らの命を守るためにもぜひ協力してください。」
「……わかりました。協力します」
「良かった。これで世界の命運も救われる」
看護婦さんはほっとした様子で胸を撫で下ろした。
「あのー、ところで一つ気になることが」
「なんでしょうか?」
「どうして私の病気がアル・カダルイダによるものだってわかったんですか? レントゲンを見ただけでは分からないと思うのですが」
「私は白衣の天使ですよ。何でもお見通しです」
「そっ、そうですか。それはどうも」
俺は彼女の怪しげな色目線に気づきそそくさと退散したのだった。その夜は彼女のあですがたがチラついて眠れなかった。しかし悶々としていると胃に鈍痛をおぼえる。やはり胃カメラを体が怖がっている。
だが、ここで逃げては男が廃るというものだ。俺は覚悟を決めると、翌日再び病院を訪れた。そして胃カメラの世界条約に加入する。
こうして俺は晴れて胃カメラ受診者となったわけである。


※ さて、胃カメラの世界条約に加入し終えた俺は、看護婦さんに連れられて手術室へとやって来た。
そこには巨大なカプセル状のベッドが置かれており、中には銀色の液体が入っている。
「この中に入るのですか?」
「ええ、そうよ。服を脱いで横になってちょうだい」
「わっ、分かりました」
言われた通りに全裸になると、銀色の液の中に体を浸ける。ひんやりとして少しだけ肌寒い感じがした。看護婦さんは俺の体に電極のようなものを取り付けると、なにやら機械を操作し始めた。すると頭上からシューッという音が聞こえてくる。
見上げると、天井の一部が開いており、そこから蒸気のような気体が噴き出していた。 

 

サリドマイド百姓

「それじゃあ始めるわね」
「お願いします」
「いい返事よ。そのまま楽にしてリラックスしていてね」
「はい」
俺は大きく息を吐くと、目を閉じた。やがて意識が遠のいていく―――。



「……ん」
しばらくして目が覚める。なんだか頭がぼんやりする。視界が霞んでよく見えない。それに全身が痺れているようだ。
「あら、起きたようね」
声の方を見やると、いつの間にか隣に看護婦さんがいた。
「ここは……?」
「手術室の隣の病室よ。貴方は今から三日間入院してもらうことになったわ」
「そうですか……」
なぜだろう? 妙な違和感がある。何か忘れてはいけないことを忘れてしまったような……。
「うふふ」彼女は妖艶な笑みを浮かべると、俺の上に覆い被さってくる。
「ちょっと何を!?」
「いいじゃない。私達もう恋人同士になったんだし」
「まっ、待ってください! 僕はそんなつもりでは……」
必死に抵抗するが、手足が麻痺して力が入らない。
「大丈夫。優しくしてあげるから」
「いや、やめてください!」
「そんな恥ずかしがらないで。ほら、ここがこんなに大きくなってる」
「あっ……そこはダメです!」
「可愛い。食べちゃいたいくらい」
「い、いやぁああああああああああ!!!!」


「……ハッ!」
気が付けば朝になっていた。時計を見ると朝の6時を指している。外はまだ薄暗く、辺りには誰もいない。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、昨夜の出来事を思い返す。
「夢……か」
そう呟いて安堵の溜息をつく。どうやら悪い夢を見ていたらしい。
俺は額に浮かんでいた汗を拭いながら、ゆっくりと起き上がる。
「……ん?」
そこでようやく異変に気づく。何かがおかしい。具体的に何がとは言えないが、とにかく変なのだ。
「あれ? どうして裸なんだろうか?」
不思議に思い自分の体を見下ろすと、胸から腹にかけて大量のキスマークが付いているのが見えた。
「まさか、また悪夢が現実に?」
俺は慌てて服を着ると、部屋を出てトイレへと向かう。しかし、個室の扉を開けるが、なぜか中には何もいなかった。
「どういうことだ? 誰か入っているのか?」
俺は首を傾げながらも用を足すと、手を洗って廊下に出る。すると前方に看護婦さんの姿があった。
「おはようございます」
挨拶をして通り過ぎようとするが、腕を掴まれてしまう。
「ねえ、どこに行くつもり?」
「えっと、顔を洗いに行こうと思いまして」
「嘘つき。貴方はこれからここで一生暮らすのよ」
そう言って微笑む彼女の瞳の奥に狂気の色が宿っていた。
「……そうか、そういうことだったんですね」
俺は彼女の言葉に全てを理解すると、小さく嘆息した。
「お手上げだな」
俺は観念すると、大人しくベッドに戻ったのだった。

※それから一週間後。俺は病院の中庭にあるベンチに腰掛けていた。空は青く澄み渡り、心地よい風が吹き抜けていく。絶好のお散歩日和である。しかし、気分はどんより曇り模様である。
「はあ」
思わず溜息が出る。どうしてこうなった。どうして俺はこんなところで油を売っているのだ? そう自問するが答えは出ない。
「……まあ、いっか」
俺は考えるのをやめた。人生とは諦めが肝心である。
「さて、そろそろ戻るかな」
そう独りごちると、立ち上がって病室に戻ることにした。今日も退屈な一日が始まる――はずだった。
だが、俺の運命を変える出会いが訪れることになる。
それは突然のことだった。
「危ないっ!」
背後から叫び声が聞こえたかと思うと、凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、痛みに悶え苦しんでいると、今度は何者かに踏みつけられた。その正体を確認すると、そこに立っていたのは一人の少女であった。
彼女は血走った目でこちらを見下ろしている。そして手に持ったナイフを振り上げると、躊躇なく振り下ろす。ザクッという音と共に激痛が走る。見ると、腹部が切り裂かれており、ドクドクと血液が流れ出していた。
「ぐあぁああっ!」あまりの苦痛に悲鳴を上げる。このままでは死んでしまう。なんとかしなければ――。そう思った矢先のこと、俺の中に眠っていたもう一つの人格が目覚めた。「ククク、いい声で泣くじゃないか。もっと聞かせてくれよ」
「なっ!?」
目の前の少女は驚愕の表情を浮かべる。それも当然だろう。先ほどまで瀕死の状態にいたはずの人間が、一瞬にして元気を取り戻したのだから。
「お前は何者なんだ?」
俺の口が勝手に動く。
「内志鏡《プローブ》だ」
少女は凍り付いた。すぐさま「そうか、検査されていたのは我々の方か」
俺は筋肉質の腕で少女の手首をねじり上げた。ナイフが落ちる。
「ああ、気づいてないふりをしているどころか本当に自我を殺していた」
「まさか違星人同士で監視しあう仲になるとはな!」 

 

伯爵柔術師

少女の輪郭が不定形になった。
「そういう条約だったじゃないか。俺は密告を受理しただけだ」
俺も本来のフォルムに戻った。身長が十倍に伸びガチムチになる。
「それを言うなら、この女こそ主犯だろう」
丸太より肥えた蔦が看護婦さんを絡めている。
「ガバメ人、貴様」
俺が手を出す前に六角形の光が立ちふさがる。それは分裂し二重三重になる。
「地球人に集合知封鎖術をそれとなく漏洩し惑星規模の視覚を『発見』させた。WHOに介入し胃カメラ世界条約の締結をおぜん立てした」
ああ、ガバメの言うとおりだ。違星人ナルスアンはよき隣人を装って知的文明の自然進化を狂わせるのが仕事だった。
「その通りだ。俺はただのメッセンジャーにすぎない」
「なぜ地球がこんなにも平和ボケしているのか不思議だったが、そういうことだったのか」
「お前らが何もしないからだろうが! 地球人に技術を与えれば、必ずやお前らの支配領域に牙を剥くぞ。それがわかっていて放置するとはな」
「それは違う。我々とて必死なのだ」
「ならば、今すぐ全ての知性体に集合知を開放しろ!」
「それはできない相談だ」
「なぜだ?」
「それはもう人類が宇宙進出する力がないからだ。プローブは地球に蔓延るテロリストの振る舞いを観察していた。二大勢力を代替えする覇者を委員会も期待したが一極支配を崩す不自然が観測された。俺は露骨な介入を示唆するタレコミを受けておとり捜査した。同調圧力に弱い島国で特に耐性の強い個体をすぐった」
ガバメ人はふむふむとうなづいた。
「それで彼に受診を拒ませ故意にひずみをつくりだした。焦ったナルスアンは圧力を高め彼を屈服させたところで飽和状態が訪れる。そこで貴様は意識下から現れナルスアンの繭空間にわざととらわれ物的証拠を固める。実に嫌らしい作戦だ」
嘲笑ともとれる高周波を俺は聞き流す。
とらわれの看護婦は涙ぐむ。「巧くいくと思ったのに」「残念だったな」
俺はそう言って彼女の腹を思い切り蹴りつけた。
「うぐぅっ」
彼女は苦しそうに身を捩らせる。
「おい、地球人。この女の始末をつけろ」
「わかった」
俺は拳を握る。
「待て、内志鏡《プローブ》。俺を殺せばお前は死ぬことになるぞ」
「ほう、それは面白い」
俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ、私は地球のエージェントに情報を流してるんだ。ここで私を殺したら、地球が黙っていないわよ」
「そんなことは知っている」
俺は彼女に向かって手を伸ばす。「何のつもりだ? 地球人」
「決まっているだろう。記憶を消すんだよ」
俺はそう言い放つと、彼女を殴りつける。
「あああっ!?」
彼女は頭をおさえる。
「これでよし」
彼女は白目を剥いて気絶していた。
「さすがは我が友」
ガバメ人がパチパチと拍手をする。
「ああ、でもこいつはどうしようかな」
俺は地面に転がっている少女を見下ろしながら言った。
「殺すか」
「いや、それじゃあ意味がない。俺に考えがある」
俺はそう言うと、地面に落ちたナイフを手に取った。そして、少女の首筋に突き立てる。
「何をするつもりだ?」
「こうするのさ!」
ナイフを引き抜くと、刃先に付着した血を舐める。
「なるほど、地球人はやはり野蛮だな」
「俺は地球人じゃない。違星人だよ」
「ああ、そういえばそうだったな」
「それにしても、こいつらはいったいどこから現れたのだろうな」
「ああ、それなら簡単なことだ。彼らは集合知の産物だからな」
「集合知の産物?」
「集合知には様々なパターンが存在するが、その一つがこの世界の成り立ちだ。この世界は、この星が生まれた時から存在していた。ただ、我々が気づかなかっただけでな。だが、最近になって我々も気がついた。つまり、我々はこの星の創造主であるとも言えるのだ。まぁ、それはいいとして、この女は我々の目を逃れるために、この世界に紛れ込んだ違星人の記憶を封じることに成功した。おそらく、この女が集合知の産物だということを知らないのはそのせいだろう。もし知れば集合知に集合知をぶつけることになる」
「ということは……」
「ああ、こいつらが集束するのも時間の問題だ」
ガバメ人は腕を組む。
「しかし、困ったな。俺が地球人に混じっているのがばれたら、ガバメ人も違星人だというのがばれるかもしれない。そうなると、俺は地球に帰れない」
「それは大丈夫だ。地球は今、未曾有の危機にさらされているからな」
「え?」
「地球人が団結すれば、違星人など問題ではない」
「なるほど、地球人が一丸になれば勝てるというわけか」
「ああ、そうだ」
「ならば、地球人に集合知を開放するべきだ」
「それはできない相談だ」
「なぜだ?」
「それはもう人類が宇宙進出する力がないからだ」
「お前らが何もしないからだ」
俺はため息をつく。 

 

初恋喫茶ポロロよ永遠に

「それは違う。我々だって必死なのだ。集合知の開放は地球にとって諸刃の剣なのだ。人類に余計なことを吹き込まれてはたまらない」
「だが、地球がこのままでは滅びてしまうぞ」
「その通りだ。だからこそ、地球人には頑張ってもらわなければならない」
「まったく難儀な話だな」「そうだとも」
ガバメ人は首をすくめた。
*
「それで、これからどうします?」
俺はガバメ人に尋ねる。
「とりあえず、ナルスアンを倒さなければならない。ナルスアンは人類の総意をコントロールしている。だから、そいつを排除さえできれば、後はどうとでもなる。そこで、君たちに頼みたいことがある」
「なんでしょう」
「まずは、地球人を一人こちらによこしてくれないか」
「わかりました」
俺はうなづく。
「あとは、君の端末に情報を送信しておく」
「はい」
「それじゃあ、健闘を祈る」
そう言ってガバメ人は消えた。
「なあ、内志鏡《うちしかがみ》。俺と一緒に来てくれるよな」
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
「いえ、そんな。お礼を言うのは私の方ですよ」
「ところで、君はこれからどうするつもりなんだ?」
「私は、内志鏡《うちしかがみ》の使命を果たすつもりです」
「そうか、それはよかった」
「あの、あなたは?」
「俺は、地球に帰るよ」
「そうですか、残念ですね」
「残念ってどういうことだい」
「いえ、なんでもありません」
「ふーん」
俺は彼女の言葉の意味を考えながら歩き出した。
「あ、待ってください」
「どうかしたのか」
「私も一緒に行きます」
「別に構わないけど、どうして」
「私も地球人になりたいんです」
「そうなんだ」
「はい」
彼女は笑顔を浮かべる。
「それじゃあ行こうか」
俺は彼女に向かって手を差し伸べた。
「はい」
彼女は俺の手を握る。
こうして俺たちの旅が始まった