僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ


 

1-⑴

 
前書き
 僕達4人は、同じ小学校から中学に進んで、仲好しグループだった。そして、地域では有名な進学高校に揃って進もうと約束していた。僕は、三倉蒼《みつくら そう》、サラリーマンの家庭で、高校2年生の兄がいる次男坊だ。  

 
 三年生の夏休み、図書館に集まって、高校受験の為、勉強していた。僕の隣は、中道美鈴(なかみちみすず)。向かいには、岩上昇二(いわがみしょうじ)吉井光瑠(よしいみつる)が居る。中でも、中道とは、小学校に入った時、最初に席が隣で、6年の時にも隣同士だつた。僕が、体育で手首を捻挫した時、彼女は授業中のノートを僕の分も書き記してくれた。それ以来、筆記具も貸し借りして、特に、仲良くなっていた。だから、図書館なんかで座る時も必ず隣にいる。

「ねぇ 来年は、みんなで花火見に行こうね 高校受かって」と、中道が言うと

「そうか 昨日、終わったんだよね 今年でも、良かったんだけどな ふたりの浴衣姿観たかったなぁ」

「でも、さんざん私等のテニスの見てきたじゃぁない」と、吉井が言ってきたけど、確かにふたりはテニス部で、練習とか試合に僕達も応援に行っていた。ふたりとも、脚がスラッとしていて魅力的だった。

「あぁ 応援に行くたんびに、負けていたけどな でも、別の意味では、楽しみだったよ 他の学校の奴もな」と、昇二も言っていた。

「純粋に応援だったんじゃあないの? 他の学校の女の子も目当てだったんだ」

「そんなこと無いよ もちろん、ふたりの応援さ なぁ 蒼」

「そうだよ 頑張れって思ってたもの」と、僕もあわてて答えた。

「別に・・ 弱かったんだもの、仕方ないよ それに、このふたりなら、私はそんな風に見られていても良いよ」と、中道は意味深なことを言っていた。

「そーだよね 仲間だから、まぁ良いっか でも、わたし、高校は文化部にするわ 体育系は素質ないし、しんどいし」

「それがいいかもな 俺も、筋肉隆々の姿見たくないよ 吉井はスラッとしてなきゃ、もったいないよ」

「あのさー それ けなしてんの ほめてんの」

「まぁまぁ ほめてるに決まってんじゃん だけど、ふたりともしっかり食べないと倒れるぞ 体力勝負でもあるからな、受験は」と、僕は、中道に聞かせるように言った。彼女は、普段から、あんまり食べないのを知っていたから。

 彼女は、僕の眼をじっと見つめていたが、直ぐに、微笑んだように思えた。 

 

1-⑵

 11月も終わる頃、日曜日に中道から「一緒に、付いてって欲しい所がある」と誘われた。何か事情があるみたいで、詳しく聞かないでOKした。

「勉強のさまたげになるようで、ごめんね 何か、一人じゃぁ心細いから」

 当日の朝、駅で待ち合わせして、電車で向かった。途中乗り換えもして

「どこに行くんや」と聞いたが

「私も、よく、わからんね 初めてやから」と、訳のわからないことを言って返してきた。

 中道は、チャコールのダッフルコートにジーンのミニだったがスキニーを穿いているのに、向かい合って座っていると、細い脚を、僕はドキドキしながら時々、見ていた。テニスのスコートから伸びた素足を見慣れているはずなのに・・。電車の中では、中道が持ってきていた問題集をふたりで解きながら、目的地を目指していた。

 途中、右手に琵琶湖を望みながら、福井の敦賀に着いた。ここから、まだ、ローカル線に乗り換えるという。待ち合わせの間、ようやく、中道は訳を話し始めた

「先月な、お父さんが脳梗塞で救急入院したんよ。まだ、入院してるんやけど、それでな、お母さんが会社のことを見ることになってな。それまで、経理をやっていた女の人を、お父さんとの仲を疑って、追い出したのよ。それで、総務をやっている男の人とふたりでやっているみたいやけど。でもね、私、その女の人も、知っているけど、お父さんとはそんなことないと思うのよ。私なんかも可愛がってくれてたし・・。お父さん、まだ、頭がはっきりしないし、本当のこと聞けないし、私、その人に確かめたいと思って・・。実家に戻っているって聞いたから・・」

「そんなことになっているのに、なんで、もっと早く言わないんだよ 僕達は・・仲間だろう」

 中道のお父さんは、少し、大きめのステーキレストランを2店経営をしていて、サイドメニューとかスィーツも評判が良くて、新興住宅地にも3店目の開店を進めていると聞いていた。

 敦賀から何個目かの駅に降り立った。駅前は閑散としていて、タクシー乗り場にも1台も停まっていなかった。夏ならもう少し賑やかなんかも知れない。

「目的地はわかってんだろう どっち行くんだよ」

「あのね 高井って家で 民宿やっていたんだって」

「それだけか 住所調べてないんか」

「うん 田舎だったらわかるかと思ったんだもの 電話もお父さんしか知らないし・・」

「なんか 無鉄砲やのー いき当たりばったりかー」

「だから、三倉に一緒に来てって頼んだのっ 迷惑だった?」

「そんなことは無いよ 少し、あきれているだけ 仕方ないから、民宿がある方に、歩いて行くか― そこで、とりあえず聞いてみよう」

 バスもあるみたいだが、本数が無いみたいで、歩くことにした。多分、1Kmちょっとだろう。

「ほんまに、変なこと頼んでごめんね」

「大丈夫だよ 中道の頼みだっだら、平気 平気」と、言いながら、手をつないでいった。

「なぁ 中道じゃぁなくって なんか、遠い人みたいで・・美鈴って呼んでよぅ」と、言って、つないだ手を自分のほうにたぐり寄せてきた。

 結局、30分近く歩いて、最初にみつけた民宿で聞いてみたど、心当たりが無いとのことで、もう少し先の民宿は古くからやっているから、そこで聞いてみればと勧められた。

 又、30分近く歩いて、その民宿に行って聞いたけど、民宿組合の名簿を探してくれたが高井という名前は無かった。すると、おばあさんが出てきて、駅の方の海辺で以前に民宿をやっていた人が、確か高井と言ったと思うと教えてくれた。だけど、10年くらい前に、主人が亡くなって、もう、民宿はやっていないという話だった。

「海辺に行って、ご飯たべよ おにぎり作ってきたんよ」と、美鈴がそっちへ引っ張っていった。

 海辺に出ると砂浜が広がっていたが、波打ち際は木クズとかゴミが打ち寄せられて、寂しい風景に思えた。陽はさしているが、風が少し冷たい。それでも、砂浜に座るとほんのり暖かい。

 美鈴がリュックから水筒と包みを取り出して、広げると白い容器に海苔の巻いたおにぎりで、別の容器には、玉子焼きとかハム、レタスなんかが入っていた。

「美鈴 これ作ってきたんか おいしそうだよ」

「うん 蒼君に食べてもらおうってね」

「これをずーと背負っていたのか 言えば、代わったのに・・」

「そうだね 忘れてた 手をつないでくれたから」

 水筒の中は、何にも入ってない紅茶だった。いい香りがして高級なものだと僕にもわかった。食べたあと、波打ち際を少し歩いて、美鈴は貝殻を拾っていた。そして、気持ちよさそうに、髪の毛をひろげて、風になびかせていた。

 僕達は、駅のほうに戻って行き、教えられた高井さんの家を探した。付近まで行って、畑をしている人に尋ねて、家を教えてくれたが、多分、もう誰も住んで居ないよと言われた。

 それでも、その家に行ってみたが、確かに人が住んでいる気配がなかった。

「しょうがないよ もう、あきらめよ」と、僕は、美鈴の背中をさすりながら言った。

「そうだね だめかなー」と言いながら、美鈴は隣の家を訪ねて行った。

「去年だったかねー 娘さんが訪れてね、母が心臓が悪いので、入院させるとかで、連れて行ったよ 一人っ子だったからね」と、隣の人から聞き出した。

 帰りの電車の中で「本当に ごめんね 面倒かけて」と美鈴は謝ったきり、黙り込んでしまった。普段は、留めている長い髪の毛を、今日はひろげたままだったのだが、胸元に持ってきて、指に巻き付けるようにして、何かを考えている様子だった。だけど、反対側の手で僕の手を握り締めていた。 
 

 

1-⑶

 その年は、僕達には、正月も無かったが、昇二が合格祈願ぐらいは行こうぜと提案があった。みんなも賛成し、大阪天満宮に決めた。

 駅で待ち合わせしていたが、美鈴が現れた時、僕はびっくりした。学期末に別れた時よりも、やつれて顔に艶も無いように思えたのだ。

「美鈴 大丈夫なんか?」

「何が 元気だよ ちょっと、勉強し過ぎて、寝不足なだけ」

「美鈴 お肌も荒れているよ いつもツヤツヤなのに」と、光瑠も心配していた。

 僕達は、天満橋まで出て、そこから歩いて向かっていて、前に昇二と光瑠が歩いて、後ろから、僕と美鈴は並んで歩いていた。美鈴は、前を伺いながら、時々、そーっと手をつないできていた。まだ、初詣客で混んでいた。

 お詣りを済ませて、みんなで絵馬に願い事を書いた。その時、美鈴は隅っこに「みんなで一緒に」と書いていたのが見えた。僕はあわてて「美鈴と」と書いて結んだ。そして、僕は、内緒でミサンガ風のお守りを買っていたのだ。

「美鈴 お父さんの具合どうなの?」と、光瑠が切り出した。帰りの電車に乗る前にみんなでカフェに入っていたのだ。

「うん もうすぐ退院すると思うよ でも、しばらくは、仕事出来ないとだろうって」

「そう お母さんが会社の方見てるんでしょ だから、美鈴が病院のほう面倒見てるのか 大変なんだ」

「そうなんだけどね・・」と、美鈴は歯切れが悪かった。

「中道 無理すんなよ 俺等仲間なんだから、手伝えることあったら、言ってくれよな 身体だけは、大事にしろよ」と、昇二も心配していた。

「有難う でも、大丈夫 私のことなんか心配しないで、受験に集中してよね」と、美鈴は返していたのだが・・

 みんなと別れた後、僕は、美鈴を追いかけた。あのお守りを渡すためだ。

「美鈴 これ! もう一つは、僕の 一緒に高校行こうぜ」と、ピンクと赤のほうを差し出した。

「ありがとう うれしいー そっちは、ピンクと青なんだ 絆だね」

「美鈴 本当に、大丈夫なんか?」

「うん なんとか乗り切るよ 今だけ、少し大変なだけ」

「何かあれば、言えよ 俺は、お前の・・」

「わかってるって 君は、私の蒼君 美鈴も蒼君のものってことで、いいんだよね!」と、お守りを美鈴の利き手の左に着けて見せた。
 

 

1-⑷

 私は、二つのレストランの総料理長に会いに来ていた。お昼が落ち着いた頃をみて、裏から訪ねて行ったんだけど、客席に案内され待っているように言われた。

「待たせてすみませんね ちょっと、片づけてきたもんで・・ 珍しいね、今日はどうかされましたか」と、もう60に近い松永さんが来てくれた。松永さんは、私が小さい頃、よく、遊んでもらっていた。

「お久しぶりです すみませんね、お忙しいのに 私、松永さんにしか聞けなくて・・ 高井さんのこと」」

「やはり そうですか 実は、お嬢さんはどうしているのかなと気にはなっていたんです。高井のことは、色々と複雑でね、ここでは、あまり話が出来ないので、僕は、明後日休みなので、お嬢さんの学校の終わった後にでも、別の場所で会えませんか」

「良いですけど 飲食店は、学校の帰りには、ちょっと 市民会館のロビーで良いですか」

「もちろん 先週、病院にお見舞いに行ったんですけど、社長は、あまり仕事のことはねぇーという感じでしたね」

「えぇ まだ でも、回復すると思いますよ 頑張ってもらわないと・・」

 - - - ☆ ☆ ☆ - - -

 その日、ロビーのベンチに座って、松永さんは待っていてくれた。

「ごめんなさい お休みで、ゆっくりしたいのに 出てきてもらっちゃって」

「いいんだよ 僕も、お嬢さんには、一度、会って話をしなきゃって思っていたから 今から話すことは、お嬢さんには、少し酷なことかも知れないし、僕だけが感じていることだからね」

「わかりました 私、松永さん信じていますから、何でも話してください。お父さんと高井さんのことも」

「君のお父さんは、学生の頃から福井の美浜の民宿によく行っていたんだ。30歳になって、この店を開いた後もな。その時、あの子が小学生で、懐いてくれて、可愛がっていたそうだ。だけど、10年ぐらい前かな、突然、主人が亡くなってな、でも、しばらく母と娘で民宿は続けていたそうだ。だけど、続かなくなって、娘を自分の店に来ないかと社長は誘ったんだ。それから、彼女は経理の勉強してな、うちの店でも一生懸命仕事していた。でも、社長は、気にはしていたけど、奥さんが言うような男と女の関係では決してなかったよ。彼女も社長のことは信頼していたみたいだけど」

「本当ですか 私、お父さんを信じていて良かった 高井さんと連絡とれます?」

「それがな 知らないんだよ 辞めたのも突然だったしな」

「そーなんですか 私、あの人にも可愛がってもらったから・・」

「うん 仕事も真面目だったしな 僕は、お嬢さんに余計な苦労かけるつもりはないんだけど、今から話すこと、辛いだろうけど、しっかり受け止めて欲しい」

「わかった 乗り越えるつもりで来たから」

「実は、奥さんが来てから、ホールの人間が次々と辞めているんだ。給料を下げられたらしい。総務の上野の提案らしい。それに、あいつは、近くに新しく出来るチェーン店に引き抜きの話があって、うちの調理の連中も連れて行くという話が出来ているらしい。実際、調理の2番手との間では話が出来ている」

「それで、松永さんは?」

「僕は、社長との恩と義理があるのわかっているからね 多分、僕には、内緒にしているよ」

「ありがとう 松永さん お父さんを何とか支えてね」

「もちろんだよ 社長は、従業員にいつも感謝していて、儲かると特別手当を出して、自分の分は減らしていた。立派だよ。僕も、さんざん世話になってきた。僕には、子供も居ないから、お嬢さんのことも自分の子供というか孫というか、可愛いと思っているし、何とか守りたいと思っている」

「それを聞くとお父さん喜ぶと思うわ 色々と思いだすかも」

「お嬢さん まだ 言っておきたいこと、あるんだよ 言いにくいことだけど 上野と奥さんの仲があやしいんだ だから、今じゃぁ、上野の言いなりで・・ふたりで会社の金を貯め込んでいるってウワサだし」

「松永さん そんなことって あるわけないじゃぁ無い お父さん、あんな状態だし、私も妹の清音(きよね)も居るのよ」

「お嬢さん 奥さんは、社長が従業員に給料を出し過ぎだって、やり方に前から不満を持っていたんだ。それに、高井のことが重なって・・奥さんはまだ若いし」

「お母さんって、そんなこと思っていたんだ。だから、お父さんのことも、あんまり面倒見ていない。最近は、家のこともほったらかしで・・私、会社のことが忙しいんだと思ってた」

「僕の勘違いだったら、良いんだけど お嬢さんには、この際、知らせておいた方が良いと思って 覚悟しておいてください お店も、多分、閉められていくと思います」

「えぇー そんな状態なのー」

「今まで、社長がやりくりして伸びてきたんですけど、今はー すみません 僕には、どうにも出来なくて・・料理のことしかわからないんです」

「松永さんのお気持ちはわかりました。有難うございます。私、そのこと頭に入れて行動します。でも、松永さん、私達のことは、気にしないで置いてくださいね 今からでも、条件の良い所あったら、移ってくださいね 私、これから病院のお父さん看に行かなきゃ またね」

「お嬢さん これ プリンです 社長に食べてもらってください 僕が作りました」

 私は、病院に向かう途中、涙が出てきていた。何の涙かわからない。色んなことを聞いたので、頭ん中も混乱していた。だけど、お父さんと高井さんが変な関係じゃぁなかったことだけは、安心していた。
 

 

1-⑸

 3月に入ると美鈴は学校に来なくなった。ラインしても「大丈夫 元気 お父さんの側にいたいの 試験にはいくから」とだけ返事が返って来る。心にひっかかるものがあったが、試験の日が迫ってきていた。

 当日の朝、美鈴が現れた。僕達の前では「頑張るぞー」とか声を出して明るく振舞っているみたいだった。僕は、昇二と「様子が変だな」と顔を見合わせながら、試験会場に入った。

 科目が終わった後も、美鈴は自分の席から離れず、僕達とは、話しせずじまいだった。全て終わった後も「ごめん お父さんの側に居なきゃ」と言って、さっさと帰って行った。皆が、夜にラインしたみたいだったが、返事がないままだった。そのまま、学校にも出てこなくなった。

「中道の店 出口店を閉めたらしいぜ 割と急だったらしい」と、昇二が言ってきた。

「そうなんか お父さんが入院しているのって、影響しているのかな 美鈴、何にも話さないから あいつ」

「蒼 お前 中道と特別に付き合っているのか?」

「うん 僕は、彼女が好きなんだ 意識している」

「だろうな うすうす感じていた 最近、名前、呼び捨てだから 二人ともミサンガ着けていたものな でも、お前等、小学校から仲良かったもんな 中道は可愛いし」

「すまん 高校に入ったら、話そうと思ってた でも、最近だよ」

「謝ることじゃぁないよ お似合いだと思うよ やったなー」

 合格発表の日。僕達は、みんな揃って受かっていたが、その日、美鈴の姿は無かった。ラインしてみたが「おめでとう 卒業式は出る」と短い返事が返ってきたきりだった。

 卒業式の朝も美鈴の姿は無かった。僕達は心配しながらも、式を終えて、それぞれの教室に戻ろうととしていた時、僕の前にテニスボールが転がってきた。

 振り向くと、体育館の陰から・・美鈴だ。おいでおいでをしている。僕は、側に駆け寄っていった。

「どうしたんだよ なんで、来なかったん 大変なのか」

「ごめんね 急な用事で・・ 蒼君には、会っておきたかったから・・」

「何でも、抱え込まないで、話してくれよ 約束だろう」

「うん 落ち着いたら話す これ 渡したかったんだ 私が、大事にしている子猫チャンの人形 持ってて あのね 次に会えれば 多分、高校の入学式までも・・」

「どういう意味だよ 僕は、何か力になれないのか」

「うぅん そういうんじゃぁないけど でも、待ってー 蒼 私は、あなたが好き ちょっとかがんで」と、言ってきたかと思うと、いきなり、背伸びして、僕のほっぺにキスをしてきた。そして「元気でね」と、言い残して去って行った。

 僕は、いきなりで、情けないことに、しばらく動けなかった、そして、追いかけることも・・。この時は、もう会えなくなるなんて、思ってもみなかった。昇二と光瑠にそのことを話した。

「そうなのよ 美鈴から 意味不明なメール入っていたのよ もう、会えないみたいな」と、光瑠が言っていたが

「俺にも、来ているよ 今まで、有難うっていうような意味かな」と、昇二も言っていた。

「美鈴のうちにみんなで行ってみようぜ あいつの店、本店も15日に閉めたらしい 大丈夫かな、あいつ」

 先生に住所を聞いて美鈴の家に3人で行ってみた。社長と言うには、ごく普通の家だったが、門には「売り家」の看板が下がっていた。美鈴に電話してみても(電源が切られているか・・)で連絡付かなかった。

 そのまま、何回も電話してもラインしても返事がなく、数日後には(現在使われていません)に変わっていた。

 そして、高校の入学式を迎えたが、美鈴は僕達の前から姿が消えてしまったのだ。

 

 

2-⑴

 僕達3人は、同じ高校に通うことになった。僕は、特定の女の子と付き合うことも無く、昇二と光瑠とは仲良くグループ付き合いをしていたが、美鈴のことは忘れたことが無かった。最後に、美鈴から渡された子猫の人形は、学校に行くときも鞄の中に入れて、いつも離さないようにしていた。

 高校3年の冬休み、図書館で昇二と会っていると

「中学の時の北川紘一を覚えているか?蒼は同じクラスだったろう」

「うん 覚えているよ 割と、仲が良かったから」

「この前、あいつと道で会ってな 美鈴によく似た女の子を見たって言ってたんだよ」

「それって どこでだよ」と、僕は焦っていた。

「落ち着けって 四条畷の弁当屋らしい 友達の家に泊りに行った時、そこに弁当を買いに行ったら、似た子が奥で働いていたんだって マスクして髪の毛も短かめだったから、よくわからないけど、あの眼元はたしかに美鈴だと思ったらしいんだが、確かめること出来ないままに、弁当買って帰ったらしい。でも、気になったんで、次の週も、行ったらしいんだが、もう、店を辞めていたそうな お店の人に聞いたら、その子を目当てにストーカーまがいの男がいて、毎日買いに来るのは良いんだけど、彼女が仕事を終わるのを外で待ち伏せして、付き合ってくれと付きまとったりするようになってきたんで、店に迷惑が掛かるからと、辞めたらしい とてもよく働いていたらしい それに、もう18になったんで、知り合いの料理人に呼ばれて、大阪のホテルのナイトラウンジで働くと言って居たそうだ。借金の返済のため、お金が必要らしかったと、だけど、彼女は しずかちゃんと言って居たそうな それで、人違いかなって思ったそうな それでも、連絡先を教えて欲しいと頼んだんだが、駄目だったみたいで、それ以上は聞かなかったということなんだよ どう思う?」

「なんとも言えないな しずかって言うんなら、違うし 名前変えてるかも知れないし 髪の毛も切ったんかなぁー」

「でも もう一つ気になったんが、左手にリストバンドしているのが見えたらしい 北川も美鈴と蒼がミサンガ着けているの知っていたから」

「うーん まだ、着けているかなぁー 昇二には、言うけど、僕のは切れかかって、ちょこちょこ補修しているんだ ほれっ これ 切れてしまうと、美鈴との絆も途切れてしまうような気がして・・」

「リストバンドで覆っているのか 確かに気になるなぁ だけどな 蒼 わかっているだろうけど、俺たちは、今、受験を控えているんだ 今は、探しようも無いよ そんなつもりで、このこと話したんじゃぁないんだぞ」

「あぁ わかっているけどなー すまんな お前にまで、心配かけて」

「なんの 美鈴は、俺たちにとっても仲間だからな」

 昇二と僕は、京都の同じ大学の農学部を目指していて、新しい食品となるものを勉強しょうと約束している。光瑠は同じ大学の法学部を目指していた。 
 

 

2-⑵

 明けて正月の2日、3人で大阪の天満宮に合格祈願にいこうとなった。高校受験の時も、4人で来ていた。あの時、美鈴はもう家庭環境の変化に悩んでいたのだろうか。僕達には、何にも言わずに独りで抱え込んでいたのだろう。僕も、もっと、軽く考えていたのだ。でも、相談されても、僕にはどうしようもなかったかも知れない。

 神社の境内はやっぱり混んでいて、何とかお願いを済まして、絵馬を奉納することにした。それぞれの願い事を書いて、吊るしていると、光瑠が大きな声で

「これを見てー」と、僕の腕を引っ張ってきた。その指を指した先には

  {蒼が 希望の大学に受かりますように}と書いた絵馬があった。

「きっと 美鈴よ 私達より先に来たのよ それで・・ 私達がきっとお願いに来るって、考えたのよ だから・・あの時と同じように」

「でも 名前が書いてないぜ 偶然かも」と、昇二が言ったが

「それはね 気を使ったのよ 蒼に、もしかして彼女がいたら気まずいでしょ あのね、絵馬が裏向いていたでしょ 普通なら、書いた方を隠すじゃぁない それも、真ん中に吊るして 気づいて欲しかったんだよ 美鈴は」と、二人が話している間に、僕は辺りを見回していたが、彼女の姿は無かった。でも、間違いなく美鈴の字だ。僕は、それを撫でながら、愛おしく思った。

 {とにかく 連絡してくれ 蒼}と、記した。

「何で 何でだろう きっと見つけ出すよ」と、僕は思わずつぶやくと

「しっかりしてよ 蒼 あの子の気持ちを考えて 何か、事情があって、私達の前から消えたのよ 多分、私達に心配かけまいと思っているのよ でも、今でも、蒼のことは想っているよ きっと 美鈴も会いたいに決まっているじゃぁない だから、こうやって・・ きっと、自分を探し出すことより、美鈴が望んでいるのは、今は、蒼がしっかり自分の道を進んで欲しいと思っているのよ 彼女は元気にしているわ きっと 美鈴のことを信じてあげて・・私、女だからわかるのよ」

「そうだよな 光瑠の言っていることは、正しいよ 蒼 今は、大学に入ることに集中しよう」

「そうだな 確かに 会えるんなら、向こうから来るよな 光瑠ありがとう わかったよ」

「うん、大学に入ったら俺達も協力するからさ 美鈴のこと探そう 何か、助けられることあるかも知れない」と、昇二も言ってくれた。

「そうよ あの時は、私達も中学生だったし、今度は何かできることあるかもしれないよ 蒼、とにかく頑張って大学に受かろー 蒼と美鈴の絆 今日、改めてわかったわ きっと、又、会えるよ」

「よし わかったよ 必死になってな 美鈴の分までやるよ」と、僕は誓った。
 

 

2-⑶

 4月になって、僕達は揃って希望の大学の入学式を迎えた。

「光瑠 化粧してんのか いつもより、少し可愛いよ」と、昇二がからかっていた。

「バカ 少しだけじゃぁ無いでしょ 大学入ったら、恰好良い男の子見つけるんだ」

「光瑠もようやく色気づいてきたんだ いままで、男には、興味なかったのに・・ でも、光瑠がその気になったら、もてるよな スタイル良いもん さっきから、チラチラ見ている男連中居るものな」と、僕も言った。 

「やだー 蒼 そんな風に言ってくれたのって、初めてよね」

「おい 光瑠 俺達を見捨てないでくれよな」と、昇二が言うと

「何言ってんの 君達が居たから、私、頑張って来れたのよ 感謝してる 仲間にしてくれて」

「履修科目決まったら、どこかバイト探さなきゃな」と、昇二が言うと

「私 決まっているんだ 今度、近くにフレンチのレストランが開店するから、そこでバイトする」と、光瑠が言っていた。

「そうか 僕は、しばらく様子みるよ」と、僕が言うと

「もしかして、美鈴のこと 探すの?」と、光瑠が聞いてきた。

「いや 宛も無いからな どうしたら、いいのか」

「あのね うちのお母さんが、この前ね お友達と食事に行った時にね 昔あったレストラン「ナカミチ」は安くておいしかったって話になって その人が、たまたま、美鈴の家の近くなのよ その人が言うには、お店を閉める前に、離婚したんじゃないかなって お母さんと妹の清音ちゃんが荷物まとめて、車で出て行くのを見たんだって それ以来、姿見なくなったんだって それから、美鈴は学校にいっている様子が無かったって 多分、お父さんの面倒見ていたんじゃぁ無いかなって そうしたら、しばらくして、あの家が売りに出されていたんだって」と、光瑠が言い出した。

「それ 確かなんか」と、僕は聞き返したが

「人の話だから わかんない 私も、このこと、蒼に伝えていいのか、迷っていたんだけど でも、それ聞いて、美鈴が私達の前から居なくなったのが、何となくわかる」

「そんなことになっていたんなら、なんで僕等に言わないんだよ そんな仲だったんだろうか」

「あの子 私達も高校受験の直前だったから よけいな心配させまいと思っていたんじゃぁ無い」

「うん 聞かされても、あの当時じゃぁ 俺達には、どうしょうも出来なかっただろうな」と、昇二も言った切り黙り込んでしまった。

「でもな なにも 黙って・・居なくなるなんて・・」僕も、頭ン中が色んなことで交錯していた。
 

 

2-⑷

 僕は、3回生になり、就活を考えていた。そんな時、光瑠が話があると、連絡してきた。

「私のバイト先のオーナーがね 元「ナカミチ」に勤めていたんだって まだ、入って、数年だったから、よくわからないまま、上の人に連れられて、新しい店に移ったって言っていたわ」

「その人って、「ナカミチ」がつぶれた時も居たのか?」

「ええ 美鈴のお父さんが倒れてから、給料を突然下げられて、それで、料理の2番手の人が新しく出来る店にみんなを引っ張りこんだんだって それから、直ぐに「ナカミチ」がつぶれたって言っていたわ 後悔したらしいけど、やり方もひどかったって言っていたわ 店はそんなに売り上げ悪くなってなかったのに、総務の上野っていう人と奥さんが貯め込んでいたというウワサらしいわ それで、みんなが怒ってしまって」

「そうか そうだったんか いきなり、閉店だもんな」

「でもね、その新しいお店も、最初の話と違って、扱いがひどかったって話よ だから、直ぐに辞めて、京都の店に修行をやり直して、自分のお店を開いたんだって この前、お店の飲み会があって、話してくれたの」

「そうか でも、美鈴の行方は知らないんだろうな」

「うん それはね でも、「ナカミチ」の総料理長 松永さんって人は、最後まで残って、美鈴のお父さんを助けるって言っていたそうよ 大阪の新しいホテルの料理長に雇われたけど、後輩に譲って、2年前ぐらいに自分の店をやっているそうよ」

「その場所とか、店の名前とかわからないのか」

「そこまでは、わからないんだって 不義理してしまったから、連絡は取ってないみたい ただね、その人の奥さんが生駒のふもとが実家なんだって 「ナカミチ」がつぶれた後、そっちに越したみたいだって言っていたから、そのお店もそっちのほうじゃぁないかって」

「そうか もしかして、あの弁当屋の・・しずかちゃん 方角的には その人の近くに住んでいるって話は合うかも 無理やり、結び付けすぎかなー」

「あのね それとね 美鈴のお母さん 離婚したあと、上野さんって人と一緒に住んでいたってらしいって言っていたわ 美鈴の妹さん連れて・・ 美鈴のお母さんって若かったからね ひどい話よね 美鈴が可哀そう」

「それ 本当かよ メチャメチャやんか だから、あの時、独りでお父さんの面倒みて、学校にも来られなかったんか あいつ 独りで頑張っていたのか―」

「ねぇ 蒼 まだ、美鈴のこと諦めていないんだよね 好き?」

「もちろん あんなに、優しい娘っていないよ お父さんにだってつくしているんだよ 自分を犠牲にして 小学校から見てきているんだ あいつの気持が真っ直ぐで、優しいの」

「そうだね 小学校からかー」

「光瑠 すまんな 迷惑かけて」

「なに言ってんの 私 蒼のこと好きだよ 変な意味じゃぁなくて 蒼と美鈴 うまく、結ばれるといいなって思っている」 
 

 

2-⑸

 5月になって、僕は、以前の美鈴の家の前に居た。もう、外装もリフォームして手を加えられていた。僕は、思い切ってチャイムを押した。

 直ぐに、若い奥さんらしき人が玄関から顔を出した。門からは、少し離れていたが、僕ははっきりとした声で

「突然ですみません 僕は、三倉蒼と言います。実は、お尋ねしたいことがあって」

「はい なんでしようか」

「いきなり、なんですが、この家を買われた業者さんを教えていただきたくて」

「どういうことでしょうか」 

「実は、この前の持ち主の行方を捜してまして、業者さんに聞けばわかるんじゃぁないかと思ったんです」

「そうですか そんなことは、主人に聞かないと もうすぐ帰ってきますから 家にあげるわけにもいかないですから よろしければ、後1時間したら、もう一度来てもらえます?」

「わかりました 変なこと聞いてすみません 後で、もう一度お伺いします」

 確かに、怪しいことをやっているなと思ったが、何か行動しないでは、居られなかった。時間をつぶして、もう一度行ってみた。チャイムを押すと、さっきの奥さんが顔を出して

「あぁ 帰っているわよ」と、後ろから、旦那らしき人が出てきた

「嫁から聞いたけど そんないきなり来て、理由もわからないで、話すわけいかないよな」と、言われた。

「すみません 以前ここに住まわれていた中道さんのことを探してるんです そこのお嬢さんと、僕は、中学の同級生で、一緒の高校にいこうと約束して居たんですが、受験は受かったのに、中学の卒業式から突然、居なくなってしまって・・何とか、消息がわからないかなと思って」

「そうなんか 中道さんを知っているのか 詳しく事情聞くよ まぁ あがんなさい」と言って、ダイニングに通された。

「君が信用できると思うので、話すんだが、ここを売ったのが中道さんだってことは、不動産屋から聞いていて知ってるんだ。登記簿を見れば、中道さんから直接買った業者がわかると思うから、後で見て教えるよ」

「有難うございます そこで聞けば何か手がかりがあるかも」 

「君は、学生なのか」

「はい 今年から〇〇大学です」

「あら 勉強できるのね あなた あのこともお話してあげれば この人、真剣に、彼女のこと思っているのよ」と、奥さんが口添えしてくれた。

「そうだな 僕は、市役所に勤めているんだが、中道さんとは何回か面識あるんだ。あの時は商工課に居てね こんなこと言っちゃぁだめなんだろうけど・・お見舞いにも行ったことあったが、僕のことも認識が無かった状態だったよ あの時、付き添いしていた娘さんが、君のいう彼女だったんだろう しっかりした女の子だったよ」

「ええ 多分、病院に付きっきりで、最後のほうは学校にも来てなかったですから」

「商工会の人から聞いたんだが、お店をたたむ頃、中道さんとその娘さんが相談にきたらしい。店を閉めるにあたって借入金などの返済をしなければならないし、引き続きの融資の相談だった。店の総料理長と言う人も同席していたんだが、肝心の中道さんの状態をみて、決済に戸惑っている間に、この家を売りに出したということだった。僕も、何にも出来なくて、心が少し、痛いんだ」

「そんなことになっていたんですか 有難うございます 話してくださって」

「私達 結婚前に、よく「ナカミチ」に行ったのよねぇー おいしくて、安かったから」と、奥さんが話してくれた。

「そうだったね でも 彼女が君に何にも言わないで、いってしまったということは なぁー」

「あら そういう女の人だって居るわ この人のことが本当に好きだったから なんにも 言わないで、身を引いたのよ 多分」と、奥さんが言ってくれた。  

「そうなのかもな いや 話過ぎたかもな 君が真剣みたいだったから つい でも、うまくいくといいね」

「もし、又、会えたら、絶対、彼女を離したらだめよ」と、言って送り出してくれた。 
 

 

2-⑹

 僕は、あの家を買ったという不動産の会社に行ってみた。事務所に入って、女性の方に要件を話すと、それを聞いていた年配の人が出てきて、応対してくれた。

「すまんが、お客様の情報は漏らすわけにはいかないんだよ。それに、あの物件は、大阪の業者から引き継いだものだから、名義も変わっているし、詳しいこともわからないんだよ」と、言いながらも、大阪の業者を教えてくれた。

 その足で、僕はその業者に行ってみた。受付で事情を話すと、しばらくして、奥から男の人が出てきて、

「ご用件を伺いましたけどね、お客様の情報ですので、お教え出来ないんですよ。あの時の、担当者も外に出掛けていますしね。すみません、決まりですので。それに、移転先を知りたいということであれば、我々が調べても、あそこの住所までしか、わからないと思いますよ」

 僕は、丁寧にお礼を言って、出ようとした時

「ただね、売却を急いでおられたみたいでね、買取の決済を急いだと記憶しております」と、言ってくれたのだ。

 やっぱり、そうだったのか、返済金で急にお金も必要だったんだ。美鈴は、病気のお父さんを抱えながら、ひとりで、そんなに苦労していたんだと思うと、胸が苦しかった。

 でも、やっぱり、行方はわからなかったのだ。僕は、美鈴の彼氏のはずだったけど、見かけだけで、何にもしてやれなかったのだ。
 

 

2-⑺

 学食に、久しぶりに3人で集まっていた。光瑠は授業が忙しくて、バイトを日曜だけに絞っていると言っていた。そのまま、大学院をめざすつもりらしい。

 光瑠の前には、野菜サラダしか無かったので

「光瑠 お昼ご飯それだけなんか」と僕が聞いたら

「うん 最近、ずーとこんな調子 大学に入ってから、だんだん太ってきてね 勉強していると、お腹がすくのよ つい、食べすぎちゃって セーブしなきゃと思っているんだ。太っていると、昇二が嫌がるんだ」

「光瑠 お前 そんなに、俺のことを」と、昇二が言うと

「勘違いしないでよね 男にもてる為よ でも、私、蒼だって、昇二も好きだよ」

「なんだよー 一瞬 その気になったのに」と、光瑠に向かって、自分の口元でチュッとしていた。

「アホかー 君は 早く、相手見つけなさい」と、言われていた。

「蒼 光瑠から、あそこの料理長の話を聞いたよ あのな、俺の叔父さんが米屋をやっているんだけどな この前、言っていたのはな 昔からのお得意の息子さんが買いに来てくれて、たまたま、近くに越してきたそうだ。その人が言うにはな、小さい頃からここの米で育ったから、他のは、もう一つ口に合わないからって言っていたそうだ」と、急に真面目な顔をした。

「そんなものなのかーなぁー」

「俺が、言いたいのはそこじゃぁないんだ」

「あっ そうか 新しい店をオープンしても、前からの米屋と取引があるかも知れないってことかー」と、僕は、声が少し大きかった。

「そうだよ 米屋だけじゃあなくて 酒屋、肉とか食品の卸とか 色々とつながることがあるかもな それに、昔の馴染みで、支払いに融通をきかせてくれるから、資金繰りも助かるはずだ」

「そうだ ありがとう 昇二 さすがだよー」

「わかった 君達は、私に、「ナカミチ」の時の仕入先を、今のお店に聞きだして来いって言っているんだな」と、光瑠はさすがに回転が早かった。

 

 

2-⑻

 それから、しばらくして、光瑠が聞き出してくれた肉の卸の営業所を訪ねた。事務所に入って、事情を説明したら、営業所の所長と言う人が出てきてくれて

「事情は、聴かせてもらいましたが、私等の商売は信用で成り立っているんでね、得意先の情報を漏らすわけにはいかないんだよ おたくの事情もわかるんだが・・」

「そこを なんとか 中道さんとか松永さんの消息を知りたいんです 僕達は、高校の時からずーと探しているんです お願いします 教えてください」と頭を下げた。

「気持ちはわかるが うちも、散々松永さんにお世話になった。恩返ししようと思っている。だけど、会社の決まりだ。許してくれ」

 仕方ないので、出ようとすると「おたくの名前と連絡先を書いといてくれ」と、言われた。どう意味があったのかはわからない。

 僕は、希望の就職先の会社説明会が迫っていた。説明会とはいえ、夏のインターシップに向けた面接もある。昇二とは同じ会社に行こうなと約束していた。僕は、正直、迷っていた。希望の会社は全国に支店、工場がある関西勤務とは限らないだろう。そうすると、ますます美鈴から遠くなるからだ。それに、肉の卸の開始やに行った時のことがあったので、少し、落ち込んだまま、説明会に向かった。

「とりあえず 第一関門突破だな 多分、又、呼ばれるよ 大学と学科専攻が効いているからな」と、昇二は明るかった。

「どうした 蒼 気になっているのか 美鈴のこと 社会ってそんなものだろう 甘く無いって そんなにベラベラ得意先のことは、話さないさ」

「うん それもあるけどな 昇二 実は、僕は、このまま今、希望しているとこに行ってもいいのか 迷ってる」

「それは、勤務先がどこになるかわからないからだろう でもな 蒼 美鈴を迎えに行くために、大企業に入って、生活を安定させるってのも手なんじゃぁないか そーしたら、彼女を連れていけるじゃぁないか それに、あそこに入って、お前の望む仕事をするんだろう?」

「そーなんだけと゛ とにかく、彼女を探さなきゃ―」

「蒼 確かにな 彼女は中学の時から頭も良い、美人だし、気立ても良くて親孝行だ。それに、芯もしっかりしている。申し分ないよ いい女だ。だけど、お前は、自分の将来を女のためにささげるのか 先ずは、自分のことを考えろよ」

「違う 僕は、彼女と未来を創っていきたいんだ 自分独りよりも、彼女と一緒なら、もっと、素晴らしいものを築きあげられる。だから、彼女が必要なんだ」

「わかったよ どうしようもない奴だな これが、昨日今日の話なら別だが、お前等、小学校からずーとだもんな だから、協力するんだ その想い 美鈴に聞かせてやりたいよね」



 

 

2-⑼

 光瑠の情報のもう一つの方。京阪酒販に行ってみた。やはり、なかなか話を聞いてくれる人が居なかったが、最後に応対してくれた人が

「僕も、松永さんには、お世話になってね あの人は、義理がたい人だ 今でも、元気だよ 中道社長もね 君の気持はわかるが、勝手に教える訳にもいかない 直接はね 3時間位、時間あるかね」と、聞かれた。

「えぇ 大丈夫ですけど・・」と、応えると、その人はどこかに電話していた。

「今、配達の車が来るから、それに乗っていけ 君は、アルバイトだ ただし、今日は、得意先とは話はするなよ」と、ジャンパーを渡してくれた。車に乗り込むと

「あんたは、大学生か?」

「ええ 今、3回生です」

「そうか 俺は、高校出て直ぐに、今の会社に入ってな もう20年近くなるんだ。入った頃、中道社長はまだ、小さなレストランやっててな、店に行くと、降ろすのを手伝ってくれたり、たまに、なんか弁当をくれたり、可愛がってくれたんだ。だけど、あんなことになってしまってな、悲しいよ」

「そうなんですか 面倒見の良い人なんですね」

「でも、今、松永さんとこで、調理場を手伝えるまでになったみたいで、良かったと思っているんだ」

「着いたよ」と見ると、「ビストロ ナカミチ」の看板が・・。こじんまりしたレストランだった。店の横の路地を通って裏口まで運んだ。中から男の人が出てきて

「おお 暑いのにご苦労さん ちょっと、待ってろ」と、言って、コップにジュースを入れて持ってきてくれた。

「今日は、助手付きか」と聞いていた。

「ええ まぁ 中道さん 身体変わりないですか」

「おお 元気だよ まだまだ動けるさ」と、元気いっぱいだった。この人が美鈴のお父さんなんだと・・初めて会った。

 怖くて、店の中をのぞけなかった。美鈴がいるかも知れないのに・・。でも、おそらく休憩中なんだろう、客室のほうは暗くて、人が居る様子は無かった。

  何にも、話すなと言われていたから、僕は、黙ったままだった。ジュースのお礼は言ったけど。外のプレートを見ると、やはり、休憩中と書いてあった。なぜか、幾分、ほっとした気持ちもあった。

「あんな調子でな 前の店のことなんて、記憶にないんだ。でも、うすうす俺のことは覚えてくれていてな それが、嬉しくってな 松永さんも義理堅い人で、店の名前を「ナカミチ」にしちゃって だから、今の店をオープンするってなった時、うちの会社も出来る限りの協力をしたと思うぜ」

 その後、2件ほど配達して、戻った。事務所に戻って、さっきの人にお礼を言うと

「バイト代は出せないよ 君も、少しでも、あの店を助けることが出来るように、頑張ってくれ」

 僕は、丁寧にお礼を言って、そこを出た。改めて、「ナカミチ」に行くつもりだった。美鈴が僕に渡した子猫の人形に向かって「会ったら 今度はどこにも行くなよ」とつぶやいた。






 

 

2-⑽

 昇二と光瑠に話した。新しい「ナカミチ」が見つかったこと、美鈴のお父さんを見たこと。

「行くんだろう 店に」と、昇二が聞いてきた。

「ああ 行くよ 当然」と、二人を前にして、答えたが・・。

「でも 本当は、怖いんだ あんなに、美鈴のことを探していたのに、いざ、会うとなるとな あの時、姿を消したのは、相当な覚悟があったのだろう そして、今でも、連絡してこないのは その覚悟を僕が、無視してもいいのかなってな」と、言うと、光瑠は僕の手を取ってきて

「蒼 美鈴だって、会えれば、嬉しいに決まっているじゃぁ無い あの時と違って、もう時間がたっているわ 今でも、思ってくれているんだと 蒼の想いだけでも伝えるべきよ」

「しかし、もう 僕のことなんか忘れて居るかも」

「何言ってんの 自信持ってよ あの絵馬を見たでしょ まだ あの娘は蒼のことを想っているわ 私達、応援しているから、ぶつかっていけー 今の君には、それしか武器が無い」

 - - - - - ☆ ☆ ☆ - - - - -

 その日、電話が鳴った。知らない番号だったが、肉の卸会社のこともあったので、出ると、松永さんだった。話をしたいので、店の方に来れないかという内容だった。

 次の日、3時過ぎに「ナカミチ」に行ったのだ。玄関は開いていて、店には、おそらく松永さんであろう人だけのようだった。

「三倉さんですか 初めまして、松永です 暑いのに、遠くまですまない ゆっくり、話を出来る所が思いつかなかったもんで」

「いいんです 僕も、お伺いしたかったから」

「だと思うよ そうなる前に、一度、会っておきたかったんだ」

「君の目的は、美鈴お嬢さんを探していたのか?」

「そうです 僕は、ずーと想っていた 突然、居なくなってからも、美鈴を忘れたことはありませんでした だから、会いたい」

「そうか 仕入先から若者が探しているようだと聞いて、この前も店まで来たようだったしな ピンときた お嬢さんから聞いたことがある若者だって だけど、今日は、僕から、お願いがあって、来てもらったんだ」

「じゃぁ 美鈴は近くに居るんですか」

「居る 元気だよ だけど、聞いてください 出来れば、今は、会って欲しくないのです」

「どうしてですか? 僕は、ずーと美鈴を想ってきた はっきり、愛しているんだと」

「わかる 君の手のミサンガを見た時に お嬢さんも、同じものを大切にして、離さない だから、この人もお嬢さんのことをずーと想ってくれているんだと」

「美鈴もまだ、持っていてくれてるんですか」

「ああ あの人は、もう、私のことなんか忘れてしまって居るかも知れないけど、私は蒼君のものと約束した絆だと言っていた 唯一、繋ぎ留めるものだからとな」

「だったら 余計に会いたい」

「待ってください 君には、話しておくべきだと思うから 成り行きを話す ゆっくり、聞いておいてくれ」

「お願いします 聞いておきたいです」

「社長が倒れてから、店は大変だったんだ 殆ど、独りで突っ走ってきたからな そして、奥さんが店にかかわってきてから、経理の高井を追い出して、ますます、資金繰りもめちゃめちゃになって、そのうち、総務の上野が策略で、ホールとか厨房の人間を引き抜きにかかって、おまけに、社長の奥さんを抱き込んで、店の資金を持ち逃げしたんだ。それで、奥さんは、離婚を進めていたんだけど、美鈴お嬢さんは、まだ、入院している社長のことを残していけないと、世話をし続けた。だけど、社長は、もう、店のことなんか記憶から消えていたんだ。退院した後も、左手がマヒしていて、お嬢さんが面倒見ていた。そして、会社が倒産して、店を閉めるにあたって、従業員の給料補償とか、店の跡地の保証とか、仕入先への債務もあった。まだ、中学卒業するかという年で、お嬢さんはあちこちに頭を下げてまわったんだ。僕も、社長には恩義があったから、手伝ったんだけども、所詮、雇い人だったから・・。結局、返済金だけが残った。やむを得ず、社長の持ち家を売りに出したんだ。僕も、子供居なかったし、お嬢さんを自分の子供のように思っていたから、小さいマンションを売りに出した。それで、こっちに越してきたんだ」

「あのー なんと言って良いのか 美鈴、大変だったんだ」

「うん 自分を捨てて お父さんのことも、会社の後始末も なりふりかまわずにな 偉いと思う それでも、自分達を捨てて出て行ったお母さんのことも、恨みごとも言わないで、逆に心配しているんだ だから、僕は、出来るだけ、お嬢さんの手助け出来ればなと思って、ここまで、やっと来た 小さいけど、店を出せるまでになった それまでの、社長の人徳もあって、仕入先にも協力してもらってたんだ」

「それで、今、美鈴はどこで働いているんでしょうか」

「あれから、色々な仕事をしててな それも、掛け持ちで、返済と生活を支えるために でも、18になった時には、お昼の時間はこの店の手伝いをして、それから、夜は、僕が勤めていたホテルのナイトラウンジで働いている。と言っても、健全な所だよ 接客と言っても、飲み物を運ぶだけだし、客層も上品な人ばかりだよ。それに、僕の後輩のコックとフロアーマネジャーにしっかりと頼んである。可愛いし愛想もいい、スタイルも良いから彼女のファンは多いんだ 日常会話程度はお相手するからね でね。ホテル側も人気があるから、彼女を大切にしていてくれているんだ 心配は要らないよ 帰りも、社長が駅まで迎えに行っている それにね、通信教育で、もうすぐ高校も卒業する」

「そんなに働いているんだ」と、僕には、衝撃だった。

「返済金を早く終わらせなきゃな でも、あと2年で全て終わる 社長も、回復して、今じゃぁ店の手伝いを出来るまでになったし、そうしたら、新しい店を出す予定だ」と、時計を気にしながら、松永さんは続けた

「お願いというのは、これからなんだ 今、順調になっているんだ お嬢さんは、あの時、自分の生活を全て切り離さなきゃって覚悟したんだと思う 少し、混乱していただろうが だから、突然、君達から離れたんだ 君達に余計な迷惑を掛けたくなかったんだよ 悩んだと思うよ 後で、後悔もしていたみたいだ でも自分で何とかしようと決心したんだ 今でも、君達のことは、それとなく気にしているよ でもな 僕の考えでは、おそらくだろうけど、返済金終わったら、お嬢さんから連絡すると思う だから、お嬢さんのその時の決意を尊重して、今は、そっとしておいてくれないだろうか 君なら、わかるだろう?」

「お話は、わかりました」

「それにな 言っちゃぁ悪いが、君は、まだ学生だ お嬢さんの面倒を見られないだろう 生活の基盤ができたら、迎えにきてもらえれば・・ その時まで、僕が、責任もって、お嬢さんを守る」

「おっしゃるとおりです 確かに、まだ、学生です 今は、我慢します でも、彼女への想いは変わりません」

「そのことは、それとなく、お嬢さんに伝わるようにするよ それと、姿だけでも見たいんだったら、4時05分の電車に乗るはずだ 急げば、間に合う ただし、遠くからな きれいになっているよ」

「有難うございます 感謝いたします これからも、よろしく 美鈴のこと」と、言って、僕は、駅に急いだ。

 走ったので、汗だくだった。遠くからって、隠れるとこも無いので、コンビニに入って、駅の方を見ていた。来た、美鈴だ。赤いTシャツにサスペンダーのストレートパンツ、黒くてツヤツヤした長い髪の毛の一部を編んで耳の前に持ってきている。あのころに比べるとずーと、大人びて見えた。目元もくっきりして、濃いめの化粧だが、きれいだ。輝いているように思えて、初めて見る美鈴だ。でも、確かに美鈴だった。編み上げのバックから、定期のようなものを出して、改札に消えて行った。でも、左手には、リストバンドをしているのが確かに見えて、僕も、手首のミサンガを握っていた。

  



 

 

3-⑴

 年が明けて、僕達3人は光瑠の家に集まっていた。お父さんとお母さんは気を利かせたのか、日帰りだけど、越前の方にカニを食べに行くと言って留守らしい。

 光瑠と妹の明璃(あかり)ちゃんが迎えてくれた。二人とも、着物姿だった。光瑠より少し、背が高くて、やっぱり、ほっそりしていて、日焼けもしているように見えた。すぐに、後から、昇二が顔を出した。

「あれっ あれっ こんな美人がふたり、揃っちゃて、いいのかなぁー」と、第一声だった。

「昇二君は、口がうまいね どうぞ、あがって 会えるの楽しみにしてた」と、明璃ちゃんが嬉しそうに招き入れた。

「あんまり、ごちそう無いけど、今日は、楽しくやろうね お父さん達居ないから」

「うん 充分だよ こんだけあれば」と、僕は、答えていたが、食卓には、箱ずし、鯖ずしにサラダがいっぱい乗っていた。

「ねぇ ねぇ ビール飲むでしょ 私、持ってくるから」と、

「明璃 あんたは、ダメよ 未成年なのに・・」と、光瑠が釘をさしていた。

「明璃ちゃんは、芸大だよね 現役で受かったんだから、たいしたもんだよ」と、僕が、言うと

「うん 昔から、少し、飛んでいたよね 天才的なとこあった」と、昇二も言っていた。

「普段から、ちょっとズレてるとこあるけどね」と、光瑠も言っていた。

 明璃ちゃんが、戻ってきて、ビールを持ってきたけど、ワインクーラーに氷をいっぱい入れて、その中に缶ビールを突っ込んでいた。

「明璃 何よ それ 何で、そんなのに入れてくるのー」と、光瑠が声を大きくして・・

「何でって 冷え冷えの方がいいでしょ」

「そうだけど・・ なにー どうして、この中、赤いのー」

「うん トマトジュース 色ついていた方が、楽しいじゃん」と、サラっと、明璃ちゃんは言っていた。

「あのさー 変なことしないでよー」と、光瑠はイライラしていたけど

「いいじゃん 光瑠 きれいだよ」と、昇二はフォローしていた。

 3人でビールを継いで、乾杯したが、明璃ちゃんだけは、ジンジャーエールを持ってきていた。

「美鈴が居ないのは、残念だよね 来年は揃うかな」と、光瑠はしみじみ言ってきたが

「うん なんとか 頑張るよ」と、僕は、返した。

「蒼 決まったのか?」

「うん ほぼな あそこの社長さんとうちの教授は知り合いらしくってな、直ぐに決めたって言っていたけど、建前上、2月まで正式には、待ってくれって」

「そうか、俺のほうは、3月になりそうだよ 俺、あそこしか受けてないんだけどな」

「お姉チヤン みんなで、写真撮ろうよ デジカメの方が、セルフ便利だよ」と、明璃ちゃんが言い出した。「そう」と言って、光瑠が取りに席をはずしたら、明璃ちゃんは、自分のコップにビールを継いで飲み干したていた。

「ねぇ 昇二君 私と、デートしてよー」と、突然言い出した。

「えぇー 突然、何を言い出すんだよー 何で、俺と」

「だって かっこ良いんだよね 昔から知っているし 蒼君も良いんだけど、先約があるし、昇二君は男らしくて、友達思いだし、私の好み 今度、連絡するね」

「あのなー 電話番号も知らんやろー」

「知ってるよ お姉ちゃんの見たものー」

 その時、光瑠が戻ってきた。4人で揃って撮った後、明璃ちゃんが3人を撮ってくれた。

「今度は、私と昇二君、撮って」と、言ってきた。

「いいけど 明璃 さっきから、昇二に寄りすぎじゃぁない?」と、光瑠が不満げに言うと、

「いいじゃん お願いします お姉さま」と、ふざけていたが、その後も、昇二の隣りに座って、明るく振舞ってた。

「あのさー 昇二 妬いているんじゃぁないのよ ただね この子の相手していると、振り回される君が可哀そうだからね 忠告しておく」

「あ姉様 こんなに可愛い妹をそんな風に、言うのってひどくないですか」と、泣いている振りをしていた。

 確かに、無邪気で可愛いけどなぁーと、僕も思ったけど、昇二はどうなんだろう・・

 

 

2-⑾

 もちろん、昇二し光瑠には報告した。光瑠は聞いていて、泣きだした。

「蒼 必ず、迎えに行ってね 絶対に、幸せにしてあげてよ 君しか出来ないんだから」

「蒼 俺は、この前、自分のことだけを考えろって言ってしまって、すまなかつた。多少の犠牲を払ってでも、彼女を手に入れるのも有りだな お前にとっては宝物だものな」と、昇二も言っていた。

 僕は、その後、授業のこと、就職のことに集中していった。夏には、インターシップに出て、就職も順調に進んでいたが、心の中では、このままでいいのかという風に、自分にも問いかけていたのだ。

 秋になって、僕は、我慢できなくなっていた。美鈴をもう一度見たいと思っていた。昇二に頼んで、夜、連れて行ってくれと頼んだ。彼は、高校卒業した時に、運転免許を取っていたのだ。

「構わないが、会って、話をするのか?」

「いや 遠くから見るだけだ 様子をもう一度見たい ホテルは10時に上がらせてもらうって話だから11時頃、駅に着くと思うんだ」」

「わかった 蒼の頼みだからな この貸しは返せよな」

 僕達は、改札が見える道路に車を停めて、待っていた。30分程待っていると、美鈴のお父さんらしき人が確認出来た。それから、間もなく、電車が着いたみたいで、何人かが出てきた。

 見えた。美鈴だ。ストレートのパンツにジャケットを羽織っている。小走りに出てきて、お父さんに寄っていった。

「おい すげぇ美人になったのぉー あれは、美鈴かぁー」と、昇二が驚いていた。

 美鈴は、お父さんの腕をうしろから組むようにして、横道にそれて行った。幸せそうな父娘に見えた。

「仲が良さそうだったな 安心したよ ありがとう 昇二」

「なんの 俺も、美鈴の元気そうなの見れて、安心したよ」

「昇二 僕は、決めたよ 父さんから彼女を引き離すことはできない。仮に、美鈴を連れて、どこかに行くなんてしたら、彼女は悩むに決まっている。 昇二、一緒の会社を目指すと言って居たけど、すまない」

「わかるよ まぁ 競争相手が減ってホッとしたよ 俺は、そのまま進む 別の会社に居ても、競い合うことは出来るもんな」

「うん 中小の方が、思い切ったこと出来るかもわからないしな 美鈴、待っていてくれ」
 

 

3-⑵

 4月になって、僕達は、4回生になっていた。昇二と会っていた時

「蒼 俺は、ようやく内定出たよ お前ももう、貰っているんだろう」

「うん 向こうの社長が教授に、間違いなく来てくれますよねと念押しがあったみたい」

「そうか 期待されてるんだろうな お互い、頑張ろうぜ」

「それはそうとさー 明璃ちゃんとデートしたんだろどうだつた?」

「うーん 大変たら大変だった 少し、変わっているね 面白かったけどな」

「そうか 振り回されるって光瑠が言ってたもんな」

「どんなかなって思っていたけど、待ち合わせした時から、少し、驚いた サロペットの短パンで来たのは良いんだけどな あの子髪の毛長いだろう その後ろを大きな白いリボンで結んでな 可愛いんだけど、それだけで目立つやん? 歩いていると、みんな二度見やもんな」

「そういうのって 恥ずかしいのか?」

「恥ずかしかったよー でもな、電車降りて歩いているとな 少し、誇らしくなってきた。動物園に行ったんだけどな それからが、又、大変でな」

「動物園かぁー なるほどなぁ」

「そうだろう? でも、俺も、初めてだったんだよ 中に入るとな、彼女、はしゃいでしまって、小さい子供のようだった。天真爛漫ってああいうのだろうな」

「昇二も、少し、飛んでいるとこあるって言っていたやん 覚悟していたのだろー」

「だなぁー それから、鴨川のデルタに行って、明璃ちゃんが作ってきたお弁当を食べたんだけど、又、びっくりだよ 家庭的な娘だよ あの娘は」

「そうか やっぱり 意外性の女なんだな」

「だと思う 食べ終わったらな 靴を脱ぎだして、川ん中に浸かって行って、何をし始めたと思う?」

「泳ぎだしたのか」

「そこまですると狂っているだろう リボンを取り出して、色んな色のな 川にたれ流して、 きれいでしょ 友禅みたい と見せてた 俺は、笑うしかなかったよ」

「昇二 1日で彼女に魅かれてしまったな」

「そんなはずは、ないだろう 光瑠の妹だから・・と思って・・」

「本当に そうかな」

「うん 確かに 手をつないで、川岸を歩いているとき、不思議な感じだった でも、光瑠の顔がチラチラ浮かんでな」

「心配するなよ 光瑠はそんな女じゃないよ 可愛い妹のことを見守ってくれる男が現れたら、安心するよ」

「そうかな あいつは、鉄の女になっていくのかなー」

「その言い方はどうかなー 彼女の優しさは、ありがたいよ」
 

 

3-⑶

 7月に入って、思いかけず松永氏から連絡があった。

「突然 電話して申し訳ない お元気ですか」

「元気です 僕も、気になっていて、連絡しようか迷っていたんですよ 美鈴は変わりなく元気ですか」

「ええ 元気ですよ 失礼ながら、三倉君はもう就職決まりましたか」

「大阪の食品会社で働くことになりました」

「そうか それは良かった 実は、連絡したのは、この秋には、新しい店に移ろうと進めているんだ。返済を早い目に終わらせて、新たな融資が受けられることになった」

「そうなんですか それは、おめでとうございます すごいですね」

「それで、君達に頼みがあるんだ 美鈴お嬢さんのことなんだ もう、縛っているものから、解放されても良いんじゃぁ無いかと思ってな 君も知っている通り、今まで、10代の楽しい時を全て犠牲にしてきているんだよ だから、これからは、君達で作っていって欲しいんだが、お願い出来るかな」

「もちろんですよ 松永さん 僕達は、美鈴が帰って来るのを待っているんです」

「そう言ってもらえるとありがたいよ 君には、前に会った時、無理を言ってすまなかった」

「いいえ 美鈴のことを本当に考えてくださってるんだと、それに守ってくださってありがとうございます そうだ、美鈴は、勉強していた時、みんなで花火見に行こうね言っていたんですよ 今年、それが出来たら・・」

「そうか 考えるよ 手伝ってくれ」

  

 

3-⑷

 昇二と光瑠には、いきさつを話してある。当日、近くの駅で待ち合わせすると、光瑠は浴衣姿だった。

「光瑠ってこんなに可愛いかったっけ あっちから、来た時、どこの女優さんかって思ったよ」と、昇二が言うと

「昇二! 今日は、特別だから、素直に喜んでおくわよ」

「いや 本当に 可愛いよ 光瑠 今日の泊りは大丈夫だったか?」と、僕は、心配したが

「うん 事情話してね 美鈴も一緒だからって許可もらった でも、みんなが一緒の部屋だなんて、言って無いよ 反対されるもの― だから、君達、変なことしたらダメよー」

「わかったよー 今日は、純粋に楽しむよー」と、昇二が応えていたが、僕は、美鈴を前にして、冷静に居られるだろうかと、思っていた。

 天満橋から目的地の橋のたもとを目指して歩いた。花火は大川沿いで上げられる。そこに、松永さんは、美鈴を連れ出すと連絡をもらっていた。その時に、声を掛けてくれって。そのまま、4人で一緒に居て、知り合いのホテルに部屋を取っておくから、時間を気にしないで、今までの分の時間をお嬢さんにを取り戻してやってくれと頼まれていた。それを聞いて、みんな賛成したのだ。

 目的地に着くと、多くの人がもう集まっていた。僕達は、美鈴に見られないように、少し、離れた所で、来るのを待っていたのだ。

 見えた。美鈴だ。紺地に白いスズランの花。松永さんが、人の間を前に進んでいて、その後ろから、離れないようについてきている。暗くなってきていたが、ひと際目立つ、そんなに化粧をしている様子がないが、綺麗なんだ。

 松永さんは、止まって場所を決めたようだった。僕達は近寄って行った。間もなく、打ち上げが始まり、しばらくすると、松永さんは、僕達が後ろに居るのを確かめて、目くばせして、ぼくの側に来て「あとは、頼む」と短く言って、群衆の中に消えて行った。

 僕は、美鈴の後ろに立つようにしていた。長い髪の毛からシャンプーの香りがしていた。

「わぁー すごい きれい」と、美鈴が感嘆の声を上げた時、僕は

「美鈴もきれいだよ」と、言った。その瞬間、美鈴の動きが止まったように思えた。

 そして、ゆっくりと振り返ったかと思うと、逃げるようにした。僕は、思わず美鈴の左手を掴んで

「なんで、逃げるんだよー」と、言うと

「だって 私 何にも 言わないで・・ 約束破ったんだもの・・」と、下を向いて、泣きそうな声だったんだ。

 僕は、手首のミサンガをみせて、美鈴の手首のリストバンドをずらしたら、下から何度も補修したようなミサンガが現れた。

「この約束は、そんな簡単なものじゃぁないだろう つないで、つないできたじゃぁ無いか 僕は、美鈴の彼氏のはずなんだよ」と、言って、僕は、美鈴を抱きしめていた。

「美鈴 会いたかったんだよ ずーと」

「蒼 私も ずーと」と、美鈴は小さい声で・・

 花火もあがっていたが、さすがに、周りの人達も少し引いて、僕達を見ていたんだ。

「蒼 美鈴 恥ずかしいから、あっちに行こうよ」と、光瑠が言ってきた。

「光瑠 昇二も 来てくれたんだ」

「そうよ 美鈴 みんなで花火見に行こうって言ってたじゃぁない」と、光瑠が言うと、美鈴は、本当に泣き出してしまった。光瑠は

「だからぁー 恥ずかしいんだってー」と、ハンカチを渡して、美鈴の手を引いて、その場を逃れるように歩きだしていた。

 落ち着いた場所に移動すると、美鈴が

「あっ 松永さんは」

「大丈夫だよ 美鈴 今夜のことは、松永さんも承知しているんだ」と、僕が言うと

「あー そうか それで、変だなって思っていた 妙に、誘うし、浴衣も用意してくれて・・」

「うん 今夜は、みんなで楽しめって 泊るところも用意してくれたんだ」

「えー そんな 私、そんなつもりで来ていないよー 着替えもないし」

「大丈夫だと思うよ ホテルに行くと・・」

「そうだよ 美鈴 久し振りに会ったんだよ」と、光瑠も言っていた。

「あっ 花火 見れなかったね ごめんね」

「あそこに 何とか 見えてるぞ 花火なんて、いつでも、見れるさ 俺達、仲間だから、この時間の方が大事だよ それに、若い男と女が抱き合って、後ろに花火があがっているとこ見られたんだから、最高だよ」と、昇二が言うと

「恥ずかしいよ 昇二 そんな風に言わないでー さっきは・・」と、美鈴は恥ずかしがっていたが

「光瑠 さっきから、ずーと 美鈴と手をつないだままだよ おかしくないかー」と、昇二が言ったが

「なんでー 懐かしいんだものー うれしくって・・」と、光瑠が言うと、美鈴は、又、泣きだした。それにつられて、光瑠も泣いていた。


 
 

 

3-⑸

 僕達は、居酒屋に居た。昇二が串カツ屋に行こうぜって、言い出した。例のごとく、美鈴は僕のとなりに座った、いつの日以来だろうか。

「美鈴 ナカミチ 復活するんだってな」と、僕は、切り出した。

「うん 進んでいる 松永さんは、元、店があった場所の近くにしたいって」

「うん ナカミチのファンは多かったからな 懐かしがる人も居るだろうな」と、昇二は言ったが

「でも それだけじゃぁないみたい 松永さんは」と、美鈴は、少し、言い方が暗かった。

「それより、本当にあの時は みんな ごめんなさい」と、美鈴は謝っていたが

「どうして 美鈴が謝るのよ 事情があったんだから、仕方ないよ」と、光瑠がかばった。

「ある程度は、予想ついているから、もう、あの時の話はしないでも良いよ 美鈴 でも、本当に頑張ったと、みんな思ってるから」と、僕が言うと

「あの時なあ お母さんに、出て行くって言われて、お父さんを守るのって私しか居てへんと思って、もう、そればっかりしか頭に無かって みんなに迷惑かけたわ ごめんな」

「もう いいって 美鈴 あの時は、俺等も何にも出来なかったかもしれんけど、今は、少しは、手助けできると思うから、言ってくれよな なぁ 蒼」と、昇二が言ってくれた。

 ホテルに着くと、美鈴は

「やっぱり ここなんだ」

「うん 具合わるいのか?」と、僕が聞くと

「うー 私 隅っこで待っているね」と、言っていた。美鈴が勤めているホテルなのだろう。

 チェツクインを済ませて、美鈴のもとに行くと、男の人が寄ってきて

「松永さんの奥様から預かっております」と、バッグを美鈴に渡してきた。

「それと、お部屋にサンドイッチを用意しておきました。皆からの、しずかさんへの心づくしでございます」と、言っていた。

 美鈴はお礼を言って、早く行こうと促してきた。エレベーターの中で

「副支配人なの 私 来月いっぱいで、ここ、辞めるの」と、言っていた。

 部屋に入ると、美鈴は

「4人一緒なんだ」

「美鈴 蒼と2人だけだと、期待してたんでしょ」と、光瑠がからかったっていた。

「そんなぁー 期待だなんて 光瑠 意地悪 ただ、以外だったから」

「先に、お風呂入るね 浴衣疲れるし 美鈴 一緒に入ろー 君達、覗いてもいいよー 鍵かけとくけどね」と、光瑠が言うと

「バカヤロウ ちゃんと、女を磨いて来いよ」と、昇二が返していた。

 部屋は、4人用といっても、奥にツインが繋がっているファミリー用だった。僕と、昇二は又、飲み始めていると、いきなり、光瑠がバスローブ姿で

「ごめんね 浴衣、置く場所ないから」と、言ってベッドに投げ出して置いて行った。

「良かったな 蒼 ようやく会えたな 結婚の約束もしちゃえよ」

「まだだよ 自分で、稼げるようになってからな」

「そうか でも 誰かに取られちゃったらどうすんだよ そうだ 明日 天神さんに、お願いに行こうぜ 付き合うよ」と、言っていたが、僕も「そうだ 新しいミサンガを」と思っていた。

 美鈴等が出てきたとき、申し合わせたようにタオル地のルームウェアで、ふたりとも足が細く、白くて、中学の時以来、久々に見て眩しかった。

「ねぇ ねぇ 美鈴 ミサンガ 切れちゃったんだって 願いがかなったのよね」と、光瑠が言ってきた。

「丁度 今 明日 天神さんに次のお願いに行こうぜって話してたとこだよ」と、昇二が言うと

「次のお願いって?」と、光瑠が聞き返すと

「そんなの 秘密に決まってるじゃん わかるだろう 光瑠なら」

「そうかぁー だよね あっ そのサンドイッチおいしそう 又 お腹すいてきちゃった」

「そんなに食べると 太るぞー」

「昇二 うるさい 私を飢え死にさせる気か」と、光瑠も、はしゃぎ始めていた。


「光瑠は昇二が太った女は嫌だって、言われたから、気をつけているんだって だけど、スタイル良いんだよー」と、長い髪の毛を乾かしていた美鈴も加わってきた。さっきよりも、明るくなったみたいで、僕もうれしかった。

「思いだした しずかって美鈴のことなのか?」と、僕は聞いてみた

「そうだよ あの時 それまでの美鈴は捨てなきゃって思ったんだ だけど、今日から、又、美鈴に戻るよ みんなに会えたしね」

「そうだよ これから新しい生活が始まるんだよ 僕達と一緒にな」

「ねぇ 明日 天神さんの後、海遊館行こうよ 4人で遊びに行ったことないじゃぁ無い? 想い出づくりだよ」と、光瑠が提案してきた。

 みんなが、賛成して、時間が遅いので寝ようかってなった時、光瑠が

「蒼と美鈴は奥の部屋で寝なよ」と、言ってきたが、美鈴は

「そんなぁー 私達は、まだ・・」

「馬鹿ね 美鈴 そんなんじゃぁ無くて、二人だけで話もあるだろうし、手ぐらいは繋いで寝なさいよ」と、僕と美鈴は奥に追いやられてしまった。

 僕達は、しばらく、ふたりで黙ったまま、ベッドに腰かけていたが、美鈴が

「今日は、ありがとう 蒼 うれしかった」と、言って、僕のホッペにチュッとして、ベッドにもぐりこんでしまった。だけど、手だけを伸ばしてきたので、本当に手を繋いだだけで、寝てしまったのだ。がぼそくて、きゃしゃな手だったんだ。


  


  

 

3-⑹

 次の日の朝、僕達は天満宮に向かった。昇二は寝不足みたいに

「あんまり、よく寝れなかったよ 隣のベッド美人が寝ているかと思うとな 地獄だよ」

「あら 昇二とそんなことになったら、明璃に叱られるからね それに、夜中、起き出して、飲んでいたじゃぁないの」

「あのなぁー 言っておくけど、俺と明璃ちゃんはそんなんじゃぁないよ それにな、光瑠の寝顔をつまみに、ゆっくりと飲んでいたんだけど、幸せだったよ」

「やだー なんか それって 怖いわね 美鈴はちゃんと眠れた?」

「ええ 私、酔っていたのよね、でも、すごく、安心して寝ちゃった」

 美鈴はそうだったかも知れないが、実は、僕は、衝動を押さえながら、複雑な思いで寝たのは明方だったんだよ。

 天満宮でお参りした後、美鈴は絵馬に 新しいお店が繁盛しますように と、書いていたが、僕は 美鈴を幸せにするぞ と、はっきり書いた。美鈴をそれを見て、黙っていたが・・。新しいミサンガのお守りを買って、美鈴に渡すと、手首に着けていた。

「この前、着けた時、美鈴が言っていたこと 覚えているかい?」

「うん 君は私の蒼君 私は蒼君のもの」と、言って、下を向いたきりだった。僕は、美鈴の手を握り締めていた。

 海遊館について、まわる時も、美鈴とは手をつないでた。それを見てか、昇二と光瑠も時々手をつないでいた。

「特別な意味ないからね 美鈴を見ていると、うらやましいって思うだけだからね」と、昇二に釘を刺していた。

「あいつ等、付き合えばいいのにね 気が合ってるみたいだし」

「だめよ 光瑠は 中学の時 テニスの先生にベタボレだったんだから 光瑠の初恋 その後、どうしたかのか知らないんだけど 年上が好きみたい あっ これ、光瑠に内緒ね 秘密なんだから」

「そうなんか だから、高校でも、男から告られても、適当にかわしていたんだ」

「蒼 こうやっているのって、初めてだよね うれしいー」

「これからも、ずーとだよ こうやって、会えるんだ」

「うん でもね、私、新しいお店ができるから、かかりっきりになるかも 今、経理の勉強もしてるんだ それに、しばらくは、又、お店の借入金もあるしね」

「わかっている だけど、今度は、僕も手伝えることがあるだろうから、協力するよ 美鈴、独りじゃぁないよ」

「ありがとう 頼っても、大丈夫かな」

「バカ 僕だって 少しは成長しているよ 美鈴の彼氏だし」

「いろいろ、相談するね いつまでも、松永さんにお世話になってばかりじゃぁね」

「うん あの人は立派な人だよ 恩返しもしてゆかなきゃなぁー」 

 そうしているうちに、夕方近くになり

「私、仕事あるから、そろそろ行かなきゃ」と、美鈴がすまなそうに言ってきた。

「あそこのホテルか」

「うん 8月いっぱいだし お世話になったから もう、お休みしないんだ でもね、みんな親切だし、お客様も良い人ばっかりで、楽しいんだよ」

「そうか 良かったな 美鈴は、可愛いから人受け良いんだろうなぁー」

「そんなぁー 私 お客商売に向いているかもね お父さんに、いつでも、笑顔でいなさいって言われていたから」

「美鈴 後ろから見ていると、だんだん二人でベタベタしちゃって・・ 楽しそうね」と、光瑠が言ってきた。

「あっ 光瑠 ありがとうね 友達で居てくれて 私、仕事、行かなきゃ 又、会おうね 昇二もありがとう」

「おう いつまでも、俺達は仲間だよ」

「9月になると、そっちの近くに引っ越すから、度々会えると思う」と、美鈴は言って、駅で別れた。今度は離れないと、僕は、心に誓っていた。




 

 

4-⑴

 8月になって、僕は、前にお世話になった肉の卸会社を訪ねていた。

「所長さんはおられますか」と、尋ねたら、奥からあの時の人が顔を出して

「君は、あの時の 確か、三倉君だったかな」

「そうです お世話になりまして、ありがとうございました」

「いや 何のことかな 僕は、なんにも・・」

「そうなんですけど、松永さんからも、連絡をもらつて 彼女とも会うことが出来たんです。新しい店を開店するとおっしゃて居ました」

「そうなんだよ ナカミチが復活するんだよ 今度も、いい肉を納めるよ 君は、就職決まったのか」

 僕は、就職先の食品会社の名前を出すと

「そうなんか あそこは、うちの得意先だよ 厳しいこと言ってくるけどな 何かの縁なんだろうな 向こうにいったら、よろしく頼むよ」

「ええ もちろん 何が出来るか、まだ、わかりませんが」と、お礼を言って出た。続いて、酒の卸、京阪酒販に行った。

 だけど、僕は、あの時対応してくれた人の名前を聞いていなかったんだ。事務所で聞いたが、要領を得なかったので、そのまま出てきてしまった。あの時の配達の人と思い、配送者の人に聞いたら、多分、ジローさんだろうと言うことで、後、1時間もすれば戻って来るだろうと言うことで、待つことにした。

 入ってきたワゴン車を見ると、あのジローさんのはずだ。降りて来るドァーの側に行って、声をかけたら、しばらく、僕の顔を見ていたが

「あぁ あん時の学生さんか どうかしたか」

「えぇ 実は あの時に、お世話になった人、名前もわからなくて お礼にきたんですが」

「ああ 確か、木下さんだったと思うけどな 先月、辞めた 徳島で、農業を継ぐとか言ってな」

「そうなんですか あの時のお礼を言わなければと思ったんですが」

 僕は、買っておいた冷たい缶コーヒーを差し出して

「あれから、松永さんからも連絡が来て、あの時はありがとうございました 親切にしていただいて」

「なんの あんた 義理堅いな そういうのって、出世するぜ」

「だと良いですけどね 松永さんが、新しい店を出すんでしょ?」

「うん というより、中道さんかな 松永さんも、しばらくは面倒みるらしいけど、あの人は今の店もお客さんが付いているから、閉められないって言っていた。多分、あの人は今の店を残すみたいだぜ」

「そうですか あの人らしいですね」

 僕は、お礼を言って別れようとしたら

「がんばれよ」と、何だかわからない言葉をかけられて、送り出された。

 

 

4-⑵

 僕は、8月に入って、スーパーの品出しのバイトをやっていた。9月中頃までの予定だ。美鈴とは、あれ以来、会うことが出来なかったが、毎日連絡は取っていた。

 9月の初めに越してきて、店のオープンも中頃の予定だと言っていた。駅からは、歩いて10分ほどで少し、離れているが、車だと便利な所なので駐車場も確保してあるらしい。店の中は、テーブル席が5客でカウンターに8席の小じんまりした店だ。だけど、客席同士の間は、余裕を持たせたということだつた。

 9月になって、美鈴が越してきた時、引っ越し祝いをやろうとなったが、「それどころじゃぁ無い」と美鈴は、大変そうだった。店の内装も遅れ気味だし、什器類との納品のタイミングが合わないし、やることがいっぱいあって、少し、イライラしていた。

 僕達は、出来ることを手分けして、手伝うことにした。僕と昇二で開店時の原料、調味料の必要な物の計算と発注書の作成、光瑠は客席サービスをする人の採用面接、そして、光瑠の妹の明璃ちゃんには、メニュー表とか開店チラシの作成を専門とは違うが、友達に協力してもらうからと言って任せていた。美鈴は、工務店との打ち合わせとか、店内のレイアウトにかかりっきりだった。

 開店日の前日、木曜日。僕と昇二、明璃ちゃんとで駅前でチラシを配った。開店から3日間はチラシ持参の人ドリンク各一杯無料という内容だ。文句は「懐かしのナカミチが復活します」というものだったが、もう、知っている人も少なかった。だけど、無料券が付いているので、受け取ってくれる人も多かった。

 その日の夜、プレオープンとかで、僕達に好きな物をオーダーしてくれと言って、招待された。僕達より先に、工務店の4人カウンターに座っていた。僕と昇二は当然のごとく、ステーキを光瑠はクリームコロッケと鯛のハーブ焼き、明璃ちやんはハンバーグと海老フライのセットを頼んだ。新しく入った女の子がオーダーを聞いてきた。短大を卒業して勤めたが、合わなくて辞めたらしい。この娘をどうして、光瑠が薦めたのかは、わからなかったが、少し、ポッチャりめの愛想のいい娘だった。

舞依(まい)さん 2番テーブルのお客様 オーダーを復唱するの忘れていたわよ 落ち着いてね」と、美鈴が厳しく言っていた。カウンターの中では、美鈴のお父さんと若い男の人が二人で調理していた。男の人は、松永さんの所で働いていたということだった。

 料理はおいしかった。僕は、懐かしい感じもした。みんなにも、評判は良かった。タイミング的にも、4人のものが、ほぼ同時に運ばれてきて、美鈴が気配りしているのがわかった。

「明日は、僕と昇二で、各家にチラシ入れて来るヨ」と、美鈴に伝えると

「ありがとう でもね、新聞の折り込みもしてるから、大丈夫だと思うけど」と、美鈴が言っていたけど

「最近は、新聞取っていない人多いし、マンションなんかも独身多いから さーっと配って来るヨ」

「うん 助かるわー 私、これから、お店内で打ち合わせするから みんな 今日は、ありがとう」

 翌日、10時オープンだ。僕達は、1時過ぎに、一度戻ってみた。洗い場に光瑠が控えていたので、様子を聞いてみたが

「午前中は4組7人だけなのよ 大丈夫かなぁー 私、後でお母さんにみんなで来るように電話するわ」

「そうかぁー 俺も、電話しておくわー」と、昇二も心配していた。

「さあ もう少し、マンション中心に配るぞー 大学の前でも、配ってみるかー 女の子なら好きそうかもな」と、僕が言うと、昇二も反応して賛成した。

「3時から、休憩時間で賄い出るから戻ってきなさいよ」と、光瑠に送り出された。

 店に戻る前に大学の前に行って配っていると、昇二が女の子の2人連れに話しかけていた。

「この店 私 知っているわ 小さい頃、よく連れて行ってもらった おいしかったのよー 色んなお料理あってね」と、言っている。

「そうなんだよ 今日だったら、君達、可愛いし、サラダおかわりサービスするよ 友達さそってきてよー」と、昇二は調子のいいこと言っていた。

「昇二 知らないよ あんな勝手なこと言って」

「いいやん 反応良かったよ きっと、来てくれるよ」と、その後も、女の子中心に配っていた。3時を過ぎる頃、店に戻った。松永さんも、今日は、店を閉めて、応援に来たとのことだった。みんなで、賄いを食べていたが、雰囲気が暗い。

「まぁ 開店間際なんて、こんなもんだよ 味は良いし、値段も安いし、徐々に評判になるから、心配しないで大丈夫だよ」と、松永さんは、元気づけていた。

「そうだよ いっぱい チラシも配ったし なぁ 蒼」

「うん 反応は良かったから 来るよ みんな」と、僕も、少し、不安だったが

 5時のオープンの時間になって、直ぐに、昇二が誘っていた女子大生が4人でやってきた。昇二はそれを見て、あわてて、美鈴にしきりに謝っていた。

「蒼も一緒だったんでしょ あの人等 可愛いもんね 仕方ないよね」と、美鈴は冷たい言い方だった。案の定、4人はサラダもおかわりしていたが、帰りには、

「とっても おいしかったです みんなにも、宣伝しておきますね」と、言って帰って行った。昇二は、また、美鈴に頭を下げていたが、チャッカリ連絡先を交換していたみたいだった。

 その後は、光瑠のお母さんが友達2人と来て、「昔、良く、来たのよねぇー」とお互い言っていた。後は、ポツポツと2組の家族と独り者が2人来店したきりだった。僕と昇二も洗い場に居たが、暇なので、もう、引き上げようかと言って居た8時頃、あの肉の卸会社の所長さんが家族で駆けつけてくれたみたいだった。

 

 

4-⑶

 次の日は、開店の10時に間に合うように行くと、光瑠と明璃ちゃんが居た。明璃ちやんは、料理のサービスを手伝うとかで、白いポロシャツ、下も白のパンツに黒の深めのキャスケット、エプロン姿だった。帽子とエプロンにはナカミチの赤の刺繍がしてあった。美鈴の見立てらしい。洗い場の僕達にも、せめて、上だけでも揃えてと、こっちは、黒のポロシャツを渡された。胸には、やはり、ナカミチの赤い刺繍があった。昇二が少し、遅れて来た時、明璃ちゃんが昇二に

「ねぇ ねぇ ズボン長いから、テープで上げたのよ どう、可愛い?」と、駆け寄っていって、まわって見せていた。

 10時、オープンすると同時に、バイクの3人組が入ってきた。明璃ちやんが、手を振っていた。皆が戸惑っていると、明璃ちゃんが接客して

「オーダー入りまーす ステーキ定食3ッツ ご飯大盛りで」と、元気良く声を出していた。

「なんだ、あれは 明璃ちゃんの知り合いか 柄悪るそー」と、昇二光瑠に聞いていた。

「知らないわよ あんなの」と、光瑠も見ない振りしていたみたい。

 連中が帰る時、「うまかったです 仲間にも宣伝しときます 明璃先輩 失礼いたします」と、明璃チヤンに礼をしながら、大きな声で言って去って行った。

「ちょっと 明璃 今の何なのよ ヤバイ連中じゃぁないのー?」と、光瑠が駆け寄って、聞いていた。

「ううん 後輩だよ 1年生 ちょっと、はじけていたけどね、私が、奴らのヘルメットにイラスト書いてやったら、慣れ慣れしくしてきてね 明璃軍団に入れてやったの 男の子いなかったから、丁度良かったんだよね 可愛い奴らだよ」と、普通に答えていた。

「明璃 なに それっ あなたと言う人は・・明璃軍団って何?」と、光瑠が声を失っていたが、美鈴が

「ありがとう 明璃ちゃん お店の為に、宣伝してくれて・・」と、お礼を言っていた。

 だが、その後から、次々とお客が来始めたのだ。お昼頃には、外で、並んで待っている組も居た。僕は、後何分ぐらいですからと言って、謝っていた。結局、3時の休みを30分ほどオーバーして、休憩に入ったのだ。

「中道さん さすがです 手際が良くて」

「晋さんこそ 適格に指示を出してくれて 助かりました」と、美鈴が応えていた。晋さんと言うのは、30前で独身の料理人で、松永さんの下で働いていた。

「いゃ 松永さんに仕込まれましたからね それに、ヘタ打ったら、叱られますよー お嬢さんこそ、てきぱきとお客様をさばいて、さすがですね」と、言っていた。

「晋さん もう その、お嬢さんはやめてよー」

「じゃあ 何と言えば 店長かな」

「あのね それも、しっくりこないわよ 美鈴の方が良いわ」と、美鈴が言うと

「店長 5時からも、もっと並ぶぞー 頑張らなきゃあな」と、昇二も言っていたが、昨日とは、違って、みんな明るかった。

 その時、酒の配達で、ジローさんが来た。

「おお 学生さん 手伝いか 俺も、追加注文を受けてな 順調みたいだな あんたも、真面目だなぁー 中道さんの娘さんの為か?」

「そんなんじゃぁないですよ」

「わかっているって 男は、ほれた女には、弱いからな 頑張れよ 俺も、今度の休みにはガキ連れて、寄せてもらうよ」と、言って帰って行った。

 5時のオープンには、直ぐに満席になって、6時頃には、表に、数組が並び始めた。そして、美鈴は20分以上待たせるようだったら、スープを紙コップで配ってと、僕達に指示をしていた。

 結局、最後の客が帰ったのは、10時閉店のはずが、11時近かった。ひっきりなしに来客があって、遅い時間には、女性の独り者とかカップルが多かった。

「みんな 今日はありがとうございました。舞依ちゃんも良かったわよ 子供さんにも、ちゃんと接してくれて」

「店長 いろいろ失敗したけど 明日から、もっと、頑張ります」

「うん 頑張ってね お父さん 今日ね 何人かのお客様が やっぱり、ナカミチは美味しいわって このお店が出来てうれしいって 言ってくれたの お父さんのお店、まだ、覚えてくれていたのよ 私 涙出てきちゃった」と、美鈴はお父さんの手を握っていた。

「そうか そんなことがあったのか」と、短く答えていたが、僕には、真意は解らなかった。

「松永さんがね この場所にこだわったのが、わかった」と、美鈴が続けていた。

 次の日の日曜日、昇二が朝、来た時、第一声が

「あそこのシャルダン 折り込みチラシ入ってて ステーキセットだけ飲み物付きで3割引きだってよ 今日と明日の2日間だけの緊急スペシャルだってよ 完全に嫌がらせだよ」

「そんなの関係ないわ ナカミチを愛していただけるお客様に来て下さるんなら」と、美鈴は涼しい顔をしていた。僕は、本当に強くなったなと、そして、別人の美鈴のように感じていたのだ。

 10時オープンの後は、さっぱりだったが、1時間ほどすると、徐々に席が埋まってきた。そして、昼過ぎる頃、外で待つ人達もあって、僕と昇二はやっぱりスープを運んでいた。その日、お昼の営業が終わったのは、3時の予定が1時間すぎていた。そして、5時の夜のオープン前からも、2組のお客が来ていて、急遽、早い目に店を開けたのだ。

 この2日間は順調だったが、美鈴は来週からが、本当の勝負よねと言っていた。それに、僕達も月曜からは、そんなに手伝えない。







 

 

4-⑷

 その日の夜、美鈴から連絡があった。相談したいことがある、近くまで来ていると言うことだった。僕の家の近くの児童公園で待ち合わせした。

「どうした 夜に、女の子独りで危険だろう」

「うん あのさー お弁当をしようと思っているの 予約制でさー 冷めても、おいしいのローストビーフとかつけ焼きとか なんぼ位がいいかなぁ」

「そうだな 魅力あるのは、500円が限界 肉なら、もう少し出せるのかなぁー 対象が学生じゃぁないだろうから」

「そうだね 近所の会社勤めの人とか、晩御飯代わりに買う人とか・・」

「あのさー 美鈴 話って、そんなことじゃぁないだろう 話せよ」

「あのね 私 すごく、不安なんや 今日まで、蒼等が居てくれたやんか 心強かった でも、明日から、どうなるんやろってな チラシの効果も今日までやしなー」

「美鈴 しばらくは、やってみないとわからないやん 美鈴も言っていたやんか 明日からが本当の勝負やって 心配したって、何にも変わらないよ しばらくやってみたら、良い所 悪い所が見えてくるから、それから、考えようぜ 明日は行けないけど、どうなろうと、僕は、美鈴の味方だよ」

「ありがとう 頼りにしているわ」

「明日からは平日なので、客足は落ちるだろうけど、お父さんと晋さんの味を信じるんだよ 年配の方が今度お友達を連れてきますよって、言ってくれた人も居たじゃぁないか 徐々に、お店のことが知れ渡ると、増えて行くよ」

「うん 蒼と話していると安心するわ」

「それと あんまり、ピリピリするなよ 舞依ちゃんは、明るくて良い娘だと思う。萎縮しちゃうからな」

「そうだね 気張っていたから」

「美鈴 弱気になって、あまり、考え込むなよ 店長なんだから みんなを引っ張って行くんだろう」

「いやだぁー 蒼まで、その言い方」と、胸を叩いてきた。

 僕は、たまらず、美鈴を抱き寄せて、唇を合わせていった。「あっ」っと言ったきり、美鈴は拒む様子もなかつた。

「リラックス するよう おまじないだよ」と、言うと、しばらくして

「もう、一度 おまじないじゃぁ無いの して」と、身体をあずけてきた。

 僕は、今度はしっかりと美鈴を抱きしめて、それからは長い間、抱き合っていた。 
 




 

 

4-⑸

 月曜日の夜9時頃、美鈴に連絡を取ってみた。

「今日は、28人。お昼が16人で、夜が12人なのよ。難しいわね。これじゃぁ」

「そうか でも、最悪の状況ではないと思えよ 徐々にだよ」

「うん これから、晋さんが相談に乗ってくれるっていうから、いろいろ、考えてみるね」と、美鈴は、元気だった。

「店長 差し出がましいんですがね お昼の定食 もう少し、安いもの出したら、どうかと」と、晋さんが切り出した。

「値段下げるの?」

「うーん どういうのかな この店って、サラリーマンが、気楽には入りづらいんですよね それに、定食って言っても、1000円こえてくるんですよ。一番、安いものでも800円。お子様用もありますけどね。普段の定食なら600円ぐらいが食べやすいかなって。例えば、平日は日替わり定食で、もっと、安いものをメニューに加えたら、どうかなと思いますが」

「晋さん ありがとう 考えてくれて うちは、席数が多くないし、客数が増えても、不便かけるし、客単価がさがると、粗利的にどうなのかしら 忙しくなるばっかりではね しっかり、見極めたいの」

「でも、今は、新しい店だから、行ってみようかという客もいますが、段々と減ってきますよ」

「うん かもね 夜はもう少し、増やしたいわね 子供さん向けに、もう少し、デザート考える あと、晋さんの言うように 平日の日替わり、来週からやるわ ただし、700円にする そのかわり。味とボリュームで勝負したい 晋さん、お願い」

「了解だ 任せとけって」

「あとね もう一つ ローストビーフとか網焼きを使って、600円のお弁当 予約制で売りたい 開始やの会議とかの後にだすやつ だから、毎日、売れなくていいの うちの宣伝になるから」

「そうかそれも良いかもな わかったよ」

「晋さん 頼りにしている でも、お休み無くて、ごめんね 来月からは、週1日休みにするから」

「いいんだよ 僕は、独り者だから、休みでもすることないし それにな、店長が一生懸命だから、きっと、店もうまくいくよ それを見ているのって楽しみなんだ」

「そういうのって あんまり、いい感じしないわ」

「あぁ すみません ただ、店長があまりにも重たそうなんで 協力しますから、何でも言ってください」