アジアンカンフーイリュージョン・2021夏 これはびっくり鶴見の産地偽装エイ【完結】


 

JR鶴見線国道駅裏の大秘密エイ白骨死体

鶴見の埋め立て地にどす黒い泡に巨大な白骨死体が転がっていた。異臭を放ち瘴気が漂っている。大きさは小型飛行機ほど。規制線を乗り越えると建物の残骸と巨大なエイとおぼしき骸骨がある
戦後最大の産地偽装と言われた鶴見カンフー沖縄商会の惨殺現場だ。昭和47年、返還されたばかりの沖縄から鶴見区に国籍不明のアジア人が大挙した。のちのカンフー商会である。彼らは巨大な冷凍庫を建てて遠洋漁業の裏方を務めた。陸揚げされる魚介類は出処不明だが新鮮で美味しいと評判になった。カンフー商会は南西印度洋産の加工食品と言い張った。工程を経ている食材の原産地は明記不要だった。カンフー商会は高度成長期の残照に乗ってオイルショックまでの束の間を謳歌した。不況でカンフー商会は事業停止。冷蔵庫の廃墟だけが残った。神奈川県文部省は荒廃の一途を辿る施設を危険視した。跡地に小中学校を整備する計画が持ち上がったのだ。推進役は当時の沖縄開発庁長官竜胆正雄だ。しかし猛反対にあい建設計画は自然消滅する。戦後の闇だけが令和に保存された。令和二年、鶴見区に再開発計画がもちあがりカンフー商会跡地の問題が議論された。県議会は満場一致で取り壊しを可決。戦争遺産に税金が投入されることになった。その強制代執行当日に事件は起きた。重機で倉庫を壊そうとしたところエイの巨大白骨死体が出たのだ。「ゲンちゃん!」死体を弔う少女がいた。静岡県茶摘み協会が推薦する茶娘探偵ナマムギだ。彼女がゲンちゃんと慕うエイの正体とは何か。ゲンちゃん殺しの真犯人は誰か。ナマムギはカンフー商会跡地に向かったのだが
香港マフィアが襲って来た。ナマムギは生足で香港忍者を蹴り倒す。「とあー


あっ!」白目をむいて痙攣しているだけだった。この時点で白目が黒く戻る。「この白い顔!」白い犬歯を持つ老犬が出現した。「この黒い犬の眼!」白い猫背に黒いスーツを着て、足に巻いた包帯を外していたのだ。「この黒い服。」香港忍者で、彼は黒の服を着ている。「この白い着物は何で着ているんですか?」犬歯だけ消えて元の黒い犬が出てきた。「あんたは?」「僕はタンカーだ。」「どうして?」「僕は“この場所”を知りたいんだ。」
カンフー商会跡地に到着した。「ここ、人がいる。」237人が武装していた。それぞれに武装しているのは“警察”だ、黒スーツを着こんで手には拳銃を持っている。「どういった?」と、カンフーが言った。この時点で“警視庁”の警察は武装していない。「俺たちは“警察”を装ってこの場所で動いてるんだな。」と、言い放った。「どうして?」と、カンフーは訊く。「この場所の近くに“警視庁”なんて場所は無いんだ。」「警察に気づいた後に何があった?」「それは“警察”を装って動いた後だ。」「何、それ? 何のために」
「警視庁というわけなんです。」と、カンフーは言った。「俺は“警察”を装って、この場所に来ました。」「なるほど。」と言ってカンフーが“警視庁”に近づいた。「警視庁が“警察”を装ってくるとは限らない。」「どういうことですか」
「いや。」「ではなんの説明ですか。」
「ここにいる警察に訊いても教えてくれないだろ。“警視庁”に連れて行く必要性があると思ったというだけだ。」「ここに来たら俺はその警察のところに行きたいと思っていて、その理由を訊いた次第で。」
「その説明でわかるだろう?」
「それはだな、」と、言いながらカンフーはなにか言おうと口を開いた。が、その前に、「“警視庁”に行って来い。」と、カンフーは言った。「それが、お前の答えだ。」
「どういう意味ですか?」
「この件についてはもう説明は必要ない。」
「どうして?」
「“警視庁”から来た。」と、カンフーは言った。「“警視庁”に行けば、今お前が立っているところが、“警視庁”だ。」
「この場所の位置が。」と、カンフー。
「“警視庁”に行けば、この“警視庁”の中の広い世界が見える。」「じゃあ、お前はどこまで行きたかっていうんだ?」
「その質問は不要だ。」
「いや、」
「必要だ。」と、カンフーは言った。「“警視庁”のある場所まで行って、そこから“警視庁”の中の情報が見えたら、その情報の意味について教えてもらうようお前に頼んだ。」
「“警視庁”の中で、お前の言う“事件”が起きた。」
「“事件”があった?」
「そうだろう。お前はここに来た。」と、カンフー。
「俺は何も質問していない?」と、カンフーは尋ねた。「……。」
「お前は“何も言えない”。」「あ、そうか。」
「“何が”“起きたのか”“何が起こったか”を正確に俺に見せてくれ。」と、カンフー。「俺がどこを“歩いたか”。」
「“歩いた先”?」
「ああ。」
「そこでなにしたの?」
「その人は“どこへ”行って……」
「ここを“訪れた”。」と、カンフー。「“その”場所に“向かったのだ”。」
言葉に、「“歩いた”?」と、カンフーはかじりついた。
「でも、何も“何も”なかったよ。」と、僕も言った。
「まあ、そうだろう。その場所を“訪れた”からわかることなのだから。」と、カンフーは言った。「“歩いた”ならば。“その場所へ”行ったことを証明できる。」
「その場所に“辿り着いた”?」僕も、聞いてみた。
「“その場所”がある場所に辿り着いたのだ。」
「“道”を“見た”の?」
「その通り。見た。」と、カンフー。
「いい加減にしてよ!ゲンちゃんを殺したのはあんたたちでしょう」
ナマムギは香港忍者に真空国内生産二光限定直販延髄ナヲたけわりをくらわした。
「ポっ?」
ポッと出の香港忍者は死んだ。残るはカンフーだ。しかし、お得意の意味不明自分探しで対戦相手を錯乱させる作戦は使えなくなった。相方の忍者が死んだからだ。カンフーはいよいよ追い詰められた。

 

 

70年目の戦後史

カンフー商会元社員の証言
香港マフィアを仕込んだのは僕の上司だ。カンフー商会は香港マフィアに買収されて湾仔公司に生まれ変わった。そこで虎視眈々と鶴見の本社跡地を狙っていたんだ。
湾仔公司は世界に隠然たる勢力を拡大していたけどエイのケンちゃんだけはどうしようもなかったんだ。
ナマムギとケンちゃんは幼なじみで昭和35年の生まれだ。十歳の時に鶴見カンフー沖縄商会の大物産展に親と一緒に来た。当時の記録によると東南印度洋で地引網に巨大エイがかかった。
会場の目玉商品にしようとしてしくじったんだ。祟りにあった。食い物の恨みは怖ろしい。
展示のスタッフと客が呪いの巻き添えになった。ケンちゃんはエイに憑依されナマムギは死なない呪いにかかった。そして祟りの影響で会社は潰れてナマムギも転校を繰り返しながらずっと女子高生だった。
湾仔公司は小中学校建設計画を潰そうといろいろ手を尽くしたけどエイのせいでことごとく失敗した。
こうなったらナマムギをおびき出してケンちゃんと再会させることでできる湾仔公司の力をつかうしかない。二人を引き合わせる工作はどういうわけかスムーズに進んだ。きっと祟りのせいだ。
そしてケンちゃんが発見された。
僕も、ナマムギもなすすべなく捕まるのが分かった。
ここから先は、どう考えても僕たちの世界でだ。僕は、ナマムギと手を組んでいることを知った。
カンフーの命を助けることは、この先のカンフーにとっては、悪いことじゃない。
そう思った。
僕は、僕らを呼び出したカンフーを、どう思うだろう。
僕は、僕らからなのか、もしかしたらお前ら自身からなのか、その答えを知るのが怖い。
僕のことしか話してくれない。
そうして、僕が、そう思うことは、少なくないはずだ。
それが悪いことなのかどうか分からない。どうしてそう思うのか自分で、自分の体が理解せねば、ならない。
ナマムギを殺した後、カンフーは、「“道”を“見た”。
」と言った。
それは、もしかしたら、彼らの世界の“行き先”とは全然違う世界の“行き先”を意味しているのかもしれない。
「どういうことだ?」と、僕は言った。
カンフーと自分たちのいる場所の“行き先”ではないということだ。
「“誰が言った”?」
「“俺らが言った”。
」と、カンフーは言った。
「““道”を“見た”」と、カンフーは言った。
「“誰が言った”?」 「誰が?」 「それが?」
「俺らが言った」 「俺らが?」 「俺らで?」 「俺らで」 「誰が?」
「俺らで?」 「俺らで?」
「俺らでも?」 「俺らでもする?」
「カンフーを捕まえて……」
「捕まえた」 「捕まえて?」
「捕まらなかった」 「捕まらなかった?」
「俺らなら、捕まらないだろう?」
「“誰が”?」
「“俺ら”で捕まるだろ?」 「自分らが捕まらない?」
(“自分”が捕まらない?)
「そうだ」 「そうだ」
「誰が“捕まらない?”。
誰が?」
「カンフー?。俺ら“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”“全員”だ」
声が辺り一面に響いた。
(“全員”?)
「”皆“だって?」
「“皆”……」
「”皆“?」
「「”皆“だ?」?」
「「「そうだ?」」」
(“皆“? ”
「“全員“全員、だ?」
「「「そうだ?」」」
「“皆“? ”皆“?」

(みんな)……?)
「“みんな”だ?……俺らは誰だ?
“全員”は―――……」 (みんな、みんな、みんな――――――)
「「――――」」?
「「「―――」」」?
(みんな、みんな―――ってどうした―――?)
「…………」
そう思っていると、
俺の言葉が、
この場にいる全員に聞こえてしまったのだろう。

頭の中が真っ白になった。
いや、僕がホワイトボードに転生したみたいだ。
びっしりと身体に書き込まれている。


(「「「―――」」」」) (「「「……」」」)
「…………」
(((((((((((((((((( 皆、みん、みん、みんな、みんな――――――――――――――……)……?
“そう”? ―――ってどういうこと? ―――それって―)
―――え、いや、ええっと……って、
そんなことより、 何で―――
「「「(みんな、そんなおっかない顔をするなんて。――――――。どうかしたんですか? 誰か、誰か――― いや、みんなではないでしょう。――――みんな、です!)」」」

わけのわからない言葉がどんどん、どんどん羅列していくんだ。

そして、
ついに―――、

僕は自分が何者かわかった。
「あなたはケンちゃん?」

「「……「そ、そうだった〜?」」」
自我と記憶を取り戻した。
僕はエイのケンちゃんだ。この白い身体は僕の肉体だ。
エイのおなかがホワイトボードのかわりになっている。
「ナマムギ?」
僕は彼女に向かって叫んだ。
茶娘が全速力で僕に近づいてくる。
「「「……やっぱりそうだよね!」」」
(……皆さん―――〈みんな〉なのですね、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!)
と、
俺は自分に言い聞かしながらも、
『みんなには、なんて言えばいいんだろう?』
そんなことを考え、
“俺はそこまで、皆に心配と配慮をさせてしまっているのでしょう、と思った。

真相はこうだ。あの日僕は行きたくもない物産展に連れていかれた。
親は本土復帰したばかりの沖縄に渡って商売をはじめようとしていた。

「道」というのは親の建設会社が宮古島に作ろうとしていた開錠道路のことだ。
両親は僕に沖縄の魅力を教えたくて物産展につれてきたのだ。
幼かった僕は両親の愛を理解できなかった。それで隣のナマムギと一緒でなきゃ嫌だとごねた。
巨大エイなんて女の子は怖がると思ったんだ。そうしたら物産展に僕は行かなくていい。
ところがナマムギは興味津々だった。結局、四人で行くことになった。
僕はイチかバチかエイにお願いする事にしたんだ。
神様仏様エイ様。そんなに大きいのなら僕に力を貸してください。どんなことでもします。
悪い事だってお望みとあらばします。
だから僕とナマムギを結婚させてください。

『いいだろう! だが後悔するなよ!!』
エイはぎろっと僕を睨み、そこで記憶が途絶えた。
気づくと僕は大人になって居た。そして湾仔商事の社員としていろいろなことを裏でやってきた。
『ナマムギ、一緒に行こう!』
僕は願った。するとナマムギと僕は一心同体になった。
「総員退避ー!エイが、エイが動き出したぞ」
雲の子を散らすようにパトカーや警官が逃げていく。
僕は大きく羽ばたくと鶴見の海にダイブした。

おわり