ラブロマンス!ピラミッド大化粧板33.33度の攻防【完結】


 

恋の始まりは大バビロン♪

面の皮が厚い男の真心を話そう。古代チグリスユースケサンタルチア文明のころの出来事だ。神官見習いのアフメドは飲んだくれた生活に明け暮れていた。親父のセッ・トポジションは敬虔なアホダラ教徒だったが息子は出来が悪かった。お経や修行を早々にリタイアし勘当された。今では枯れた泉の畔で石工をしている。賽銭を浪費して寺を質に入れるような破戒僧むけに安っぽい神像を捏造して売りつけている。そうして稼いだ金を酒代に費やし、尽きた頃にまた石を彫るという自堕落な毎日だった。しかしアフメドも深酒がたたって腕が鈍るようになった。そして客は腐っても僧侶である。ジリ貧になる石像の品質にクレームが続出しはじめた。アフメドは商売を畳まざるを得なくなり父親に泣きついたのだ。しかしそう簡単に許してもらえない。セッ・トポジションは罪滅ぼしのためにバビロンで修行せよという。「そうしたら許してくれるのですか?父上」アフメドは頭をさげた。
「そうだ。愚息よ。バビロンへ行け。そこでバビロン大ピラミッドの建立に汗水たらせ」
「バビロン大ピラミッド?父上」
「そうだ。バビロン大ピラミッドの化粧板が剥がれかかっておる。それをお前の面の皮でどうにかするのだ」
「ええっ、何か悪いこと言いましたか?」
「お前の頭は馬鹿だが、馬鹿者は馬鹿を馬鹿と言わず馬鹿と言う者は馬鹿なのだ。だが、バビロン大ピラミッドは私の人生を捧げてくれることだ」
「しかし父上、バビロン大ピラミッドがでたら、父上はまた何かやらかされるのでは?」
「それなら構わない。だが、バビロン大ピラミッドを掲げたらどうなる?馬鹿だから、お前はどうなる?」
アフメドは父親であるアゲンマーに怒り出した。
「アゲンマー様、お許しください。ただ父の申し出を飲んだのみにすぎません。実は、父上の申し出を受けてから、父上は家のことも考えてくれるようになりました。ただ、大きなため息をつくと言うことをしません。この馬鹿者は何も判っておらぬではありませんか。実は私を守る家の者はおらず、その家の者が屋敷を捨てたのです」
「お前にとってバビロンの神々は私の人生に必要不可欠な家の者だ。父上にとっても私にとっても、それは同じだな」
「はい分かっております」
アフメドは父親アゲンマーの心を読むことはなかったが、その表情を見れば何も思わないということはなんだか判った。
「なら私も父上の気を引きたいとおもいます」
アゲンマーはそう言うと、アフメドに言った。
「アフメドよ。お前を使えば、私から家を継いだものとして、バビロン大ピラミッドの化粧板を剥がしてやり直しさせればよい。しかし、大がかりなことはしないでくれ」
「何か、私に何か…?」アフメドは困惑している。
「お前はその、家の者ではない。お前の代わりに自分でやってくれ」アゲンマーはそう言った。これまで黙っていたアゲンマーが口を開く。
「父上の申し出はいつでも受けます。私はあなたとお話ししたい。そしてお父上にお聞きしたいことがございます」
「何、話したいことでもあるのか?」
そう言われてしまうと、アフメドはあまりにも緊張し始めてしまった。
「話したいこと…そうなのです、ですが私にとっては…」
そう言うと、アゲンマーは再びアフメドの顔をのぞき込んだ。
「お父さまは、それからもう二十年近く前のことになってしまわれました。しかし、お前が大ピラミッドの中に入ってしまったことはまだわかり、大ピラミッドへと戻されるところを何度も見ています。お前は…それからもう何年も経ってしまいました。どうかそっとしておいてほしいものです。お父上からのご命令ですけれど…」
アゲンマーは言い終えると目をそらし、少し黙りこんでしまった。そしてそれ以上言うことはなく、アフメドの方に振り向いた。
その目はすっかり潤んでいた。
「私に出来ることがあればやります。ただ、ご迷惑おかけしてはいけません」
「…………」
「…お願いできますか」
アフメドは何も言えず、ただただ頷いた。
アゲンマーはそれだけ言うと、また目をそらした。
アフメドはそのまま黙って下を向いていると、不意にこちらを見上げた。
「父上?」
恐る恐るアフメドは聞いた。
「なあ、いいのか、と思っているんだ」
「え」
急にアゲンマーは言った。
「いいんだ」
そう言われ、アフメドはようやくアゲンマーを見上げた。
「いいんですか?」
アフメドがうなづくと、アゲンマーは笑った。
「いいんだ、いいんだ、お願いだ。あの子の気持ちを止めたくなくて、私はありがとうって思った」
何か聞こえるかと思ったが何も聞こえない。ただその笑みが、笑みを浮かべているのには少しも気づかないでいた。
「でも、こんなになってしまったとは言え、私は父上を知らない、だから何もできずに、そう、私なんて、私じゃ、私じゃ、私じゃなんて……」
涙が溢れ、それを止めらない。
するとどこからか女神の声が聞こえた。
「アフメドよ。鏡を見るのです」
彼は驚いて周囲を見まわした。しかし、誰もいない。
「アフメドよ。私はそなたの傍にいるのです。もう一度言います。鏡を見なさい」
しかたなく水瓶をのぞいた。そこには父の面影があった。
そうなのだ。アフメドはセッ・トポジションの名を継ぐ大石工アゲンマーの後継者だ。
「おお、これは女神様、もしや、貴方は…」
「ツラの皮です。私はそなたのつらの皮です。世間体を気にすぎて怯える小動物のように縮こまっている。私はそのような情けないお前の唯一の守り神なのですよ。もう突っ張ることはありません。素直になりなさい」
「しかし、女神様」
「聞き分けの無い子ですね!」
突如、水瓶が宙に浮いた。そしてざあっとアフメドに降り注いだのだ。
「わあっ、何をなさいますか!女神様」
聖水はみるみるうちにアフメドのありとあらゆる煩悩を洗い流した。
気づくと長い髪で身を隠した美しい女性が佇んでいた。
「すっかりいい男になりましたね」
「貴方は女神さまですか」
「そうです、アフメド。私はお前の面の皮です。大ピラミッドを剥がしたのも私です。お前に美醜でなく真の美に目覚めて欲しくてこのように計らったのです」
それを聞いてアフメドはすっかり恋に落ちた。心を入れ替えた彼は面の皮を娶り、大バビロンで新生活をスタートさせた。