イベリス


 

第一話 卒業してその一

               イベリス
              第一話  卒業して
 小山咲は中学の卒業式を終えてクラスに戻ってこれまでずっと遊んでいた友人達に対して背伸びしてから話した。
「いや、この三年あっという間だったわね」
「そうね、今思うとね」
「昨日入学したと思ったらね」
「もう卒業根」
「受験も終わったしね」
「もう進路決まった人もいるし」
「私はね」
 咲は友人達に言った、膝までのスカートの濃紺とえんじ色のセーラー服でありスカーフも同じ色であり。長い黒髪を三つ編みにしていてやや面長で顎の先は尖っている。唇は赤く小さく鼻はやや高めだ。縁の太い眼鏡をかけていて眉は細い。何の化粧気もない感じだ。
「一応八条東京高校に行くけれど」
「咲はそこよね」
「偏差値五十八だったわね」
「それなりの学校よね」
「偏差値的にな」
「ほら、お父さんが八条グループの会社に勤めていて」
 それでというのだ。
「あの学校八条グループの学校だから」
「その縁で受けて」
「それで合格して」
「通うのよね」
「その為にずっと受験勉強も頑張ってきたしね」
 そもそも咲は元々その高校に入れる様な成績だった、このことは中学の三年間ずっと変わらなかったことだ。
「それで行くことになったけれど」
「うちの中学であの学校行く子少ないわよ」
「あんた位だった?」
「殆どいないわよね」
「そうよね」
「ええ、だから高校入ったらどうなるか」
 咲は友人達に少し不安な顔で話した。
「ちょっと不安なのよね」
「お友達出来るか」
「それでこれまで通り遊べるか」
「そのことがよね」
「そう、私としては中学の時みたいにね」
 つまり今までの様にというのだ。
「アニメ観て漫画とかライトノベル観て」
「漫画研究会で楽しくやるか」
「そうしたいのよね」
「同人誌とかも読んで」
「そうしたいけれどどうなるかしら」
 咲は腕を組んで言った。
「果たして」
「まあそこは私達もなのよね」
「高校でどうなるかわからないわよ」
「もう趣味が変わるかも知れないしね」
「高校に入ってから」
「趣味ね、何かね」
 咲はここでこんなことも言った。
「従姉の人が高校に入ったらがらって変わったけれど」
「ああ、高校デビューね」
「従姉さんそれしたのね」
「そうなの、何か別人みたいに派手になって」
 咲はその従姉の変化についても話した。
「所謂ギャルみたいになったのよ」
「そうなの」
「そんなに変わったの」
「もう別人みたいに」
「そうなの、私ギャルは趣味じゃないけれど」
 それでもとだ、咲は話した。
「やっぱり高校になったらこの三つ編みと眼鏡は卒業しようかしら」
「いいんじゃない?髪型変えても」
「コンタクトに替えても」
「それ位はね」
「あとメイクもね」
「高校に入ったら」
「そうね、うちの中学大人しい学校だったけれど」
 都内でも地味なカラーだった、東京にあるといってもどの学校でも誰でも垢抜けている訳ではないのだ。 

 

第一話 卒業してその二

「それでもね」
「咲ちゃんがそうしたいならね」
「やってみたら?」
「流石にドキュンはないにしても」
「お洒落位はね」
「そうね、考えてみるわ」
 卒業式の後でそんな話をした、そうして友人達と卒業してからも遊ぼうと約束してから暫しの別れを告げてだった。
 咲は家に帰った、それからすぐに母の露、黒髪をショートにしていて自分と同じ位の背で顔もよく似ている彼女に学校で話したことを言った。すると母はすぐに言った。
「それじゃあティーン雑誌買ったり美容室行ってね」
「そうしてなのね」
「勉強したら?ただ咲の場合は」
 母は娘のその顔とスタイルを見て言った。
「髪型変えて眼鏡外したらね」
「それでなの」
「かなり変わりそうね」
「そうなの」
「その二つがかなり地味にしてるから」
 咲の外見をというのだ。
「だからね」
「その二つを変えたらなのね」
「随分変わるわ、ただね夢ちゃんみたいにはね」
 その従姉のことも言ってきた。
「あまりね」
「ならない方がいいの」
「あの娘ずっとお勉強は出来るけれど」
「高校入ってから随分派手になったから」
「大学に入ってもああだからね」
 派手な外見だからだというのだ。
「ああいうのはね」
「よくないのね」
「お母さんああいうのはね」 
 従姉のファッションの様なものはというのだ。
「賛成出来ないわ」
「そうなのね」
「ただあの娘はファッションだけで」
 問題はというのだ。
「他のところはね」
「別によね」
「ないのよね」
「悪いことしないし」
「悪い人とのお付き合いもね」
 これもというのだ。
「ないからね」
「いいのよね」
「お母さんにしてもね」
「姪よね、お母さんから見て」
「ええ、叔母さんとしての立場から見ても」
 その彼女はというのだ。
「どうかって思うのはそのファッションで」
「その他のことは」
「何も言うことはないわ、ただね」
 それでもとだ、母は娘に話した。それはどうしても見過ごせず言わずにはいられないという表情でのことだった。
「あのファッションはね」
「あんまりにも派手だから」
「言うわよ」
「それで私もなのね」
「お洒落はいいにしても」
「派手過ぎないことね」
「そう、そこは気をつけてね」
「そうなのね」
「ああしたギャル過ぎなのはね」
 その従姉の様にというのだ。
「どうかって言うけれど、ただね」
「それでもお洒落はいいのね」
「むしろ咲はこれまでお洒落しなさ過ぎたから」
「もうなのね」
「高校デビューでもね」
「やったらいいのね」
「むしろ折角校則の厳しい学校卒業したから」
 そうであるからだというのだ。 

 

第一話 卒業してその三

「もうね」
「お洒落すべきなのね」
「常識の範囲内でね、じゃあ早速明日美容院行って」
 そうしてというのだ。
「コンタクトも雑誌も買いなさい、ネットでいい雑誌とか調べたりしてね」
「そうしたお洒落な雑誌も」
「あんた雑誌は漫画とかアニメばかりだけれど」
 買う雑誌はというのだ。
「そうした雑誌も買ってね」
「勉強ね」
「そうしたらいいわ」
「うん、それじゃあ明日からね」
 咲は母の言葉に微笑んで頷いた、そうしてだった。
 夜は父の実、四角い眼鏡をかけて四角い顔立ちで髪の毛は白くなったものをアイロンパーマにしている彼も交えて卒業を祝った、父はビールを飲みながら娘に言った。見れば背は一七〇位でがっしりした体格だ。顔や眼鏡だけでなく全体的に四角い。仕事は八条石油という企業の東京の会社で管理部長をしている。
 その父がこう言うのだった。
「もう咲も高校生か」
「うん、それで明日美容院に行って来るわ」
 咲は父に笑って話した。
「お母さんと話したけれど」
「美容院か」
「卒業したし高校入ったらお洒落したいから」
 だからだというのだ。
「それでなの」
「美容院行ってか」
「この髪型止めて」
 そしてというのだ。
「それでコンタクトにもして」
「眼鏡も辞めるか」
「そうしてね」
 そしてというのだ。
「お洒落もね」
「するんだな」
「高校デビューね」
 咲は母が作ってくれた料理の中にある海老フライを食べつつ話した。
「それやるから」
「おいおい、お前もそう言うのか?」
「高校デビューするって?」
「よく聞くけれど自分の娘がそう言うなんてな」
 それはというのだ。
「思わなかったぞ」
「そうだったの」
「ああ、けれどお前がそうしたいならな」
 父は微笑んで話した。
「そうしたらいいな」
「お父さんも賛成?」
「賛成っていうかお洒落位はな」
「いいのね」
「夢ちゃんみたいなのはどうかって思うけれどな」
「お父さんも夢姉ちゃんにはそう言うのね」
「派手過ぎるからな」
 父もこう言った。
「だからな」
「ああしたファッションはなの」
「ああ」
 どうしてもというのだ。
「父さんも賛成出来ないな」
「そうなのね」
「あとお前の通う高校は悪い評判もなくてな」
 父は娘に今度はこう話した。
「悪い生徒もそんなにいないが」
「それでもよね」
「やっぱり悪い人と付き合うことはな」
「注意ね」
「世の中本当に変なのいるからな」
「間違っても顔だけいい人とは付き合ったら駄目よ」
 母はハンバーグを食べながら言ってきた、見れば今日の料理は母が作った咲の好物ばかりで統一している。
「いいわね」
「ヤクザ屋さんとかよね」
「そこら辺のチンピラとかね」
「そういうのとはよね」
「本当に変なのと付き合ったら」
 それならというのだ。 

 

第一話 卒業してその四

「とんでもないことになるから」
「最初からよね」
「そう、付き合ったら駄目よ」
「やっぱりそうよね」
「夢ちゃんはそうしたところはしっかりしているけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「そうした人には気をつけることね」
「学校の外でもね、東京はそんな人も多いから」
 それだけにというのだ。
「いいわね」
「私も東京で生まれ育ってるから」
 咲も母に答えた、答えつつマカロニグラタンを食べる。
「だからね」
「わかってるでしょ」
「ええ」
 その通りだと答えた。
「もうね」
「だったらね」
「高校に入っても」
「胡散臭い人には声をかけられてもね」
「近寄らないことね」
「そこは気をつけてね、学校でも外でもね」
 両方でというのだ。
「気をつけてね」
「そうしていくわね」
「絶対にね」
「高校は賑やかなところにあるしな」
 父は娘がこれから通うその学校の話をした。
「東京の中心に近くてな」
「そうよね」
「渋谷にも近いだろ」
「もうすぐそこね」
「あそこもな」
 渋谷もというのだ。
「色々あるからな」
「胡散臭い人も多いから」
「注意してな」
「学校にも行くことね」
「ああ、そうしろ」
 父は唐揚げを食べつつ言った。
「いいな」
「わかったわ」
「あと痴漢がいたら」
 母は厳しい顔で言ってきた。
「もう手をコンパスの針でも使ってね」
「ブスリなの」
「そうしてやるのよ、いいわね」
「それじゃあね」
「あとね、スカートは短くしても」
 制服のそれはというのだ、母は昨今の女子高生が制服のスカートを短くしてファッションにしていることから娘に話した。
「用心しなさい」
「痴漢については」
「だからよ」
「若し触ってきたら」
「もうね」 
 この時はというのだ。
「コンパスか何かでな」
「ブスリね」
「そうしなさいよ、もう容赦は無用だから」 
 痴漢にはというのだ。
「いいわね」
「そこまでしていいのね」
「冤罪の人間違えて通報したら大変だけれど」
「刺すのならなの」
「触ってきたらね。そうした相手も犯罪だから」
「そこで退くから」
「そうしてやることよ」
 こう娘に言うのだった。
「いいわね、あと寒かったら」
「その時は?」
「スカートの下にスパッツでも半ズボンでもね」
「穿くといいのに」
「冷えない様にね、兎に角胡散臭い人には注意」
 母は娘にしつこいまでに話した。 

 

第一話 卒業してその五

「そこは絶対よ」
「そういうことね」
「そう、そうしたこと気をつけながら」
「高校生活やっていくのね」
「そうしなさい、あといじめとかあったら」
 その時はというと。
「録音でも録画でもしてね」
「証拠にしておくの」
「そうしてね」
 そのうえでというのだ。
「やっていくのよ」
「いじめがあってもなの」
「あんたがいじめ受けても」
 咲は中学まではいじめられた経験がない、だが母は親として娘である彼女を心配してそれで今言うのだ。
「そうしたらいいのよ」
「やり返す方法はあるのね」
「そういうことよ、それと部活はどうするの?」
 母は今度はそちらの話をした。
「一体」
「部活?」
「また漫画研究会?」
 ビールを飲む娘に問うた、飲んでいるのは家の中の内緒のことだ。
「そっちにするの?」
「いや、それはね」
「まだ決めてないの」
「高校調べたら漫研あるけれど」
「それでもなの」
「アルバイトも考えてるし」
 それでというのだ。
「だからね」
「決めてないの」
「うん、そこまではね」
「そうなのね」
「けれど高校はお洒落して」
 そしてというのだ。
「それからね」
「部活もなのね」
「今はその次位に考えているから」
 だからだというのだ。
「あまりね」
「考えてないのね」
「ええ、けれど高校に入ったらお洒落して胡散臭い人には気をつけて」
「それでなのね」
「やっていくわ」
 こう母に答えた。
「それでね」
「やっていくわね」
「そうするわ、そして入学してからね」
「部活とかアルバイトも」
「考えていくわ」
「そういうことね」
「じゃあ明日早速ね」
「美容院行くのね」
「そうしてくるわ」
 母にビールを飲みながら笑顔で話した、そしてだった。
 咲は実際に次の日朝起きて暫く経つとまずは美容院に行った、そうして美容院の人に対して言った。
「似合う様にです」
「任せてくれますか」
「はい」
 こう答えた。
「お願いします」
「それでは」  
 美容院の人も頷いてだった、咲を髪の毛の色はそのままのストレートのロングヘアにした、すると咲は眼鏡をかけたままだったが。
 自分の今の姿を見て驚いて言った。
「これは」
「如何でしょうか」
「全然違いますね」
「そうなりましたよね」
「三つ編みの時とは」
「はい、お客様のお顔立ちとお顔の形それにスタイルを見まして」
 そうしてというのだ。 

 

第一話 卒業してその六

「こうしてみましたが」
「いいです、じゃあです」
「これで、ですね」
「いきます、有り難うございます」 
 こうしてだった、髪型は決まり。
 コンタクトも買った、そしてメイクやファッションの雑誌を買って。
 今度は百貨店、新宿の八条百貨店に行き化粧品の店に行ってお店の人に話を聞くと実際にメイクをしてもらって言われた。
「もう手早くです」
「メイクはですか」
「お客様はそれがいいと思いまして」
 それでというのだ。
「睫毛はそのまま、アイシャドーはクリムゾンレッドをうっすらとで」
「ファンデーションは」
「それは色白なので白いもので」
 咲の肌に合わせてというのだ。
「そうしてルージュもです」
「赤ですか」
「スカーレッドにしました」
「アイシャドーも赤で」
「はい、そちらもです」
 ルージュもというのだ。
「そうしました」
「そうですか」
「これで、です」
 今の咲はというのだ。
「かなり違うと思いますが」
「何か」
 咲はお店の人が出してくれた鏡に映る自分今はもう眼鏡でなくコンタクトの自分を見てそうして言った。
「全くです」
「違いますね」
「はい」 
 本当にというのだ。
「別人みたいです」
「お客様はナチュラルで、です」
「そのメイクで、ですか」
「こうなります」
「ちょっとのメイクで」
 これまでの自分より倍は奇麗に見えた。
「ここまでなるなんて」
「それがお化粧です」
「そうなんですね」
「これからはご自身でもされますか?」
「はい、そのやり方は」
「それですが」
 お店の人は咲が出した雑誌のことから話した、そしてその後で。
 今度は服を買ったがそれもだった。
 お店の人に似合う服を選んでもらった、洒落たシャツやブラウスに。
 ズボンやミニスカートを選んでもらった、これまで部屋着はいつもジャージで外出着も地味であったが。
 これはという服を着てみてだ、咲はこちらの店でも鏡に映る自分を見てそうして驚きの声をあげた。
「何か本当に私かって」
「思われますか」
「ええ」
 実際にというのだ。
「これは」
「服も変えますと」
「それで、ですか」
「変わります」
「ここまで、ですね」
「人によりますが」
 それでもというのだ。
「そうなります」
「そうなんですね」
「ですから」
 だからだというのだ。
「服も選ぶといいですよ」
「そうですね」
 咲はこちらの店の人の言葉にも頷いた。
「これは。それじゃあこれからも」
「服もですか」
「選んでいきます」
 こう言ってだ、化粧品と一緒に服も買ってだった。 

 

第一話 卒業してその七

 咲は家に帰った、すると母は今の娘の姿を見て言った。
「また随分と変わったわね」
「そうよね、私もね」
「驚いたでしょ」
「ええ、髪型変えてコンタクトにして」
「メイクもして服も変えたら」
 そうしたらというのだ。
「こうなったわ」
「本当に別人ね」
「ええ、ここまで変わるなんてね」
 自分でもというのだ。
「思わなかったわ、けれど今凄く素敵な気持ちだから」
「このままいくのね」
「そうするわ、お父さんにも見せてあげるわね」
 今は仕事に行っている父にもというのだ。
「そうするわ」
「いいわね、お父さんも驚くわ」
「そうよね」
 二人で笑って話して実際に帰宅した父にも自分の姿を見せた、すると父も今の娘の姿を見て驚いて言った。
「咲だってわかっても別人にしかな」
「見えない?」
「垢抜けたな、アイドルは無理でもな」
 父は笑って話した。
「まああの娘奇麗だなって言われる位にはな」
「なったかしら」
「ああ、そうなったな」
 こう言うのだった。
「本当に」
「そうなのね」
「東京のな」
 父は笑って言った。
「女子高生だな」
「東京のなの」
「やっぱり東京は違うだろ」
「垢抜けてるっていうのね」
「世界の流行の最先端でな」
「世界はオーバーでしょ」
「いや、実際な」
 それはとだ、父は娘に少し真面目な顔になって話した。
「今や東京はだ」
「世界の流行の最先端なの」
「ニューヨークと並んでな」
「あそことなの」
「そうだ、そうなったからな」
 だからだというのだ。
「元々百万の人口がいた大都市だぞ」
「江戸時代よね」
「その頃から世界屈指の街だったんだ」
 その繁栄ぶりを見て朝鮮通信使が仰天したという、もっともそれは江戸だけでなく大坂や京都、名古屋についてもだった様だ。
「そしてだ」
「今はニューヨークと並んでなの」
「世界の流行の最先端でな」
「その東京の女子高生になのね」
「お前もなったな」
「そうなのね」
「いや、別人みたいだ」
 父はにこにことして話した。
「これはもてるな、だからな」
「悪い男にはよね」
「注意しろよ、一見恰好よくてもな」
 それでもというのだ。
「中身は腐れ外道とかあるからな」
「さからよね」
「悪い男には気をつけろ」
 そこは絶対にというのだ。
「いいな、それとだ」
「それと?」
「女の子もだ」 
 同性もというのだ。
「悪い女には気をつけろよ」
「悪友っていうの」
「それも只の悪友じゃなくてな」
「本当の意味でなのね」
「悪い娘とはな」
「付き合わないことね」
「そうだ、もててもな」
 それでもとだ、父は娘に真面目な顔で忠告した。 

 

第一話 卒業してその八

「いいことばかりじゃないぞ」
「悪い人も寄って来るから」
「注意するんだ、お金を取られたりな」
 父はさらに話した。
「麻薬を売られたり悪事の共犯にされたり」
「そうなるから」
「だからな」
「注意することね」
「くれぐれもな」
「お父さんの言う通りよ」
 母も真顔で言ってきた。
「咲確かに別人みたいに奇麗になったけれど」
「それはそれでなのね」
「悪い人も寄って来るから」
 そうなるからだというのだ。
「間違ってもお顔とかルックスだけでね」
「人を選ばないことね」
「あと悪い遊びに誘われても」
 それでもというのだ。
「絶対によ」
「断わることね」
「ちょっとだけと思ってしたら」
「そこからズルズルとなのね」
「止められなくなるから」
 それ故にというのだ。
「いいわね」
「悪い人には注意して」
「悪いこともしない」
「最初からなのね」
「お酒ならいいのよ」
 これはというのだ。
「うちではね、けれどね」
「煙草は身体に悪いだけだから」
「あれはしないことよ、お父さんもお母さんも吸わないしね」
 その煙草をというのだ。
「それで特に麻薬はね」
「絶対によね」
「あんなものに手を出したら」
「人生終わりね」
「そうなるわよ」
「麻薬は魔薬なんだ」
 父はあえて言葉を変えた。
「悪魔、いや外道が売って儲けるな」
「そんなものなのね」
「ヤクザ屋さんでも外道の域に達したのが扱うんだ」
「ヤクザ屋さんは誰でもって訳じゃないのね」
「そうだ、腐っていないとな」
 このことは映画仁義なき戦いの最初の作品でもある、ヒロポンつまり覚醒剤を扱うことで組の内部で騒動があった。
「やらないんだ」
「そんなのを売ってる人は」
「犯罪だしな」
 それにというのだ。
「その犯罪の中でもな」
「特に悪質なのね」
「人の身体も心もボロボロにして食いものにしているんだ」
「だからなのね」
「そんなことをやる奴はな」
「絶対になのね」
「近寄るな」
 何があってもというのだ。
「いいわね」
「ええ、そうするわね」
 咲も確かな顔で頷いた。
「東京も色々な人がいるしね」
「歌舞伎町、父さんも時々行くがな」
 東京一の繁華街であり様々な店が存在している。
「あそこもちょっと行くとな」
「裏道とか?」
「よく聞くな」
「うん、私もね」
 咲も父に答えた。 

 

第一話 卒業してその九

「あそこのことはね」
「表はな」
「安全なの」
「ああ、ただな」
「ちょっと裏に入ったら」
「やっぱりな、おかしなお店もな」
「あるのね」
「だから父さんもあそこに行くときはな」
 その歌舞伎町にというのだ。
「くれぐれもな」
「裏に行かない様にしてるの」
「そうしているんだ」
「そうなのね」
「勿論おかしなお店にも行かないぞ」
 そうした店にもというのだ。
「安心出来るお店にしかな」
「行かないのね」
「ああ」
 そうしているというのだ。
「そうしているしな、東京自体がな」
「そうした人もお店も多いから」
「注意しろよ、お前も東京で生まれ育ってるしな」
「わかってるっていうのね」
「そうだと思うがな」
 それでもというのだ。
「注意しろよ」
「高校になったら特に」
「これまでは基本お家と中学の行き来だったが」
 それがというのだ。
「高校になったら電車通学になってな」
「色々な場所にも行くから」
「注意するんだ」
「そうしていくわね」
 娘は父の言葉に真剣な顔で答えた。
「高校に入ったら」
「絶対にな」
「まあね、こうしたことはね」
 母は腕を組んで首を傾げさせつつ話した。
「夢ちゃんが強いから」
「夢姉ちゃんそんな風ね」
「あの娘確かに外見は軽いけれど」
 そうであることは事実だがというのだ。
「あれでしっかりしてるから」
「だからなのね」
「そう、こうしたことについてもね」
「詳しいから」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「あの娘は強いから」
「それでなの」
「そう、だから」
「こうしたことはお姉ちゃんに聞いたら」
「わかるから」
「じゃあ春休みの間に」
 つまり高校に入学するまでにというのだ。
「夢姉ちゃんと会って」
「ええ、聞いてね」
「そうするわね」
「あの娘のあの外見はね」
 本当にとだ、母は困った顔で言った。
「困りものだけれど」
「昔から派手な娘だしな」
 父も困った顔で話した。
「夢ちゃんは」
「そうなのよね」
「服装は派手でな」
「色々ちゃらちゃらして」
「そのままギャルだからな」
「それも派手な部類のね」
「わしもずっと注意しているんだが」
 自分から見て姪にあたる彼女にというのだ。
「それでもな」
「ファッションはね」
「ずっとああだからな」
「私もよ。小学校の時からね」
 母も母で言った。
「派手過ぎるって言っても」
「それでもな」
「あのままで」
 どうしてもというのだ。 

 

第一話 卒業してその十

「大学生になったら」
「余計にだからな」
「ええ、だからね」
 それでというのだ。
「困るのよね」
「全くだ、けれどな」 
 それでもとだ、夫は妻に話した。
「ファッションは兎も角として」
「他のことはしっかりしてるのよね、あの娘」
「ああ、考え方だってな」
「だからね」
「悪い手合いについてもな」
「詳しいししっかりした考えだし」
 だからだというのだ。
「それでね」
「あの娘からも聞くといいな」
「夢ちゃん咲をずっと可愛がってるし」
「咲も嫌いじゃないしな」
「私夢姉ちゃん好きよ」
 咲もこう答えた。
「確かに私もファッションセンスは派手過ぎると思うけれど」
「それでもよね」
「というかファッションも似合ってるし」
 夢にはというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「むしろお父さんやお母さんが言い過ぎで」
 それでというのだ。
「そこまではってね」
「思ってるから」
「もう私すぐにでもよ」
「夢ちゃんと会って」
「それで聞くわね」
「じゃあそうしなさいね」
 母は娘に言った、娘が彼女についてどう思っているのかは知っていたのでそれでそれならという返事であった。
「あんたでね」
「そうするわね」
「ええ、明日にでもね」
「あの娘今は原宿でアルバイトしてたな」
 父はここでこのことを言った。
「だったらな」
「原宿に行って」
「アイスクリーム屋さんだったな」
 そのアルバイト先はというのだ。
「だったらな」
「アイスクリーム屋さんに行くの」
「それであの娘のアルバイトが終わったら」
「その時になのね」
「話を聞け」
「それじゃあね」
 そうするとだ、咲は父に答えた。そうして実際に次の日に原宿に行った、どの店かは既に愛本人からラインで聞いていた。
 それでラインで愛本人に行っていいかと聞くといいと即答で返事が来た。そうして三時位にだった。
 店に行くと店の制服を着た長く伸ばした金髪でそこに赤いメッシュを入れてメイクも派手だが顔立ちやスタイルは咲そっくりだがより胸は大きく背も一六五位あり彼女より大人びている女性が店のカウンターから彼女に言ってきた。
「いらっしゃいませ」
「はい、それで」
「ええ、お仕事の時間もうすぐ終わるから」
「そうなの」
「三時だから」
 仕事が終わる時間はというのだ。
「あと少しだからね」
「じゃあ待ってるわね」
「その前にね」
 その女性小山愛は咲に笑って話した。
「うちのアイスをね」
「買っていい?」
「美味しいわよ、うちのアイス」
 笑顔での言葉だった。
「だからね」
「ええ、それじゃあ」
「何か買っていってね」
「わかったわ」
 咲は愛の言葉に頷いた、そうしてだった。 

 

第一話 卒業してその十一

 他の店員にあがりですと言われて店の奥に引っ込んだ愛とは別の店員にバニラの上に抹茶とレモンのアイスを重ねてだった。
 トッピングにシロップとバナナチップをかけてもらった、それを店の中で食べていると。
 黒い皮のコートに真っ赤なマフラーと白いセーター、黒のかなり短いタイトのスカートに真っ赤なストッキングに白い靴という格好の愛が来た。愛は咲のところに言ってきた。
「私も同じもの注文するから」
「お姉ちゃんもなの」
「ええ、それで食べたらね」
「アドバイスしてくれるの」
「東京の悪い奴に引っ掛からない方法についてよね」
「うん、それだけれど」
「そんなの簡単だから」
 愛は咲の席の向かい側に座った、そうして。
 咲と同じ注文を同僚でもある店員にしてから話した。
「だからまずはね」
「アイス食べるのね」
「まだ寒いけれど」
 三月の終わり、卒業式の後の時期はまだそうだ。特に東京はまだ風がありその分さらに寒さを感じる。
「寒い時に暖かいお部屋でアイスを食べる」
「それがいいのよね」
「そう、それでうちのアイス美味しいでしょ」
「本当にね」
 咲は食べながら頷いた。
「これはね」
「そうでしょ、だからね」
「まずはなのね」
「アイスを食べて」 
 そしてというのだ。
「それからね」
「お話ね」
「そうしましょう、それと」
「それと?」
「お話するのは私のお家でね」
「お姉ちゃんのなの」
「色々こっそり教えることもあるから」 
 愛はその派手なメイクの顔で笑って話した、見れば服装だけでなくアクセサリーも派手だ。ペンダントやブレスレットは金や銀でちゃらちゃらしている。頭にも飾りがある。
「だからね」
「お姉ちゃんのお家に行って」
「そこでお話するわね」
「そうしてくれるの」
「東京って実際にね」
 愛は来た注文を受け取ってからさらに話した。
「悪い人もね」
「多いわよね」
「一千万いて関東中から人が来るでしょ」
「そうよね」
「それでなのよ」
「悪い人も多くて」
「悪い人に引っ掛からないで」
 アイスを食べながら話した。
「それで悪いこともしない」
「その為にはなの」
「まずは見極めることでかわすことだから」
「かわす?」
「悪い人や悪いことからね」
 今話していることからというのだ。
「だからね」
「かわす為にも」
「そう、こっそり教えるから」
「お家でなのね」
「そうしてね」
 そしてというのだ。
「高校に入ってもね」
「悪い人に引っかかったりしないで」
「高校生活を満喫するのよ」
「そうすればいいの」
「そうしたことなら任せて」
 愛は自分のアイスを食べつつ咲に話した。
「私得意だし」
「お父さんとお母さんもそう言ってたわ」
「どうせ外見は派手とか言ってよね」
「ええ、そこから話した」
「叔父さんも叔母さんも相変わらずね」
 愛は咲の返答に何でもないという笑顔で応えた。 

 

第一話 卒業してその十二

「これは私のファッションでね」
「気にすることないの」
「全くね」
 そうだというのだ。
「人間外見じゃないわよ」
「そうよね」
「だから私もね」
「外見じゃなくて」
「中身がしっかりしてたらいいでしょ」
 こう従妹に話した。
「そうでしょ」
「まあそれはね」
 咲も否定しなかった。
「そうよね、けれどね」
「咲ちゃんはこの後服装の乱れは気の緩みって言うわね」
「わかったの?」
「こうしたことわかるから」
 愛は少し驚いた咲に笑って返した。
「私はね」
「そうなの」
「勘がいいし相手をよく見てるとね」
「わかるのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「わかるのよ」
「それでそう言うのね」
「そうなの。ただ私のはファッションよ」
「そういうファッションが好きだからなの」
「してるだけよ、叔父さん叔母さんはそう言うけれど」
 それでもというのだ。
「これでも中身はしっかりしてるつもりよ」
「それは私も知ってるつもりだけれど」
「やっぱり派手過ぎっていうのね」
「ギャルファッションといっても」
 それでもというのだ。
「極限までいってるじゃない」
「だからなの、まあ詳しいお話はね」
「お姉ちゃんのお家でっていうのね」
「そう、ちなみにお父さんとお母さん何も言わないわよ」
 愛は自分の家族のことは笑って話した。
「一切ね」
「そうなの」
「そう、何もね」
「だからやっていけてるのね」
「そう、じゃあ後はね」
「ええ、アイス食べ終わったら」
「私のお家に入ってね」
 愛はアイスを食べながら咲に笑って話した、そして咲は従姉と同じ組み合わせのアイスを食べた。そのアイスは確かに美味かった。
 食べ終わってから愛の家葛飾区のそちらに行った、下町であるがその風情から少し離れた場所のマンションが愛の家だった。
 部屋に入ると愛は咲を自分の部屋に入れてダイエットコーラを出してから話した。
「下着は白で大人しいデザインだから」
「ファッションはギャルでも?」
「いいでしょ」
「そうだったの」
「もう純白よ」
 咲に笑って話した。
「私はね」
「だからいいの」
「そう、下着はもうね」
「白で大人しいデザインだから」
「間違ってもティーバックとかね」
「そういうの穿かないの」
「流石におばさんパンツちゃないけれど」
 それでもというのだ。
「白でね」
「普通のデザインの下着なの」
「上下共にね」
「そうなの」
「例えギャルファッションでもね」
 それでもというのだ。
「私はね、下着がそうだったら」
「いいの」
「そう思ってるわ、私はね」
「そんなものかしら」
「それで私に聞きに来たとこだけれど」
「悪い人の見分け方よ」
 まさにとだ、咲は愛に話した。 

 

第一話 卒業してその十三

「それで悪いことに誘われてもどう守るか」
「そのことよね」
「お姉ちゃん詳しいと思ったけれど」
「もう目と口元ね」
 愛は自分の分のコーラも出している、それを飲みながら答えた。
「そこに出てるの」
「悪い人はそうなの」
「もう悪人は目が笑ってなくてね」
「それよく言われるわね」
「特に悪いこと企んでいる時はね」
「目が笑ってないのね」
「そう、それで目が濁ってるし」
 笑っていないうえにというのだ。
「わかるのよ、それで口元もね」
「そっちもなの」
「変に歪んだ笑いを浮かべたりするのよ」
「歪んでるの」
「こんな感じでね」 
 愛は実際に表情を作って話した、それは刑事ドラマ等の悪役の笑顔であった。
「歪んでるの」
「そうした笑顔ね」
「そう、それでね」
「それで?」
「全体的に下卑た感じなのよ」
「悪人っていうのは」
「もう人を騙して悪いことに誘う様な奴はね」
 こう従妹に話した。
「こうした笑顔になるの」
「そうなのね、けれどよくそんなの知ってるわね」
「近所に札付きのヤクザ屋さんの事務所があったのよ」
「ヤクザ屋さんは皆札付きでしょ」
「そのヤクザ屋さんの中でもよ」
 特にというのだ。
「特にね」
「酷かったの」
「もう下劣な悪事の限りを尽くしたね」
「そんな事務所だったの」
「もう近所の皆が嫌っていたけれど」 
 それでもというのだ。
「そこの人達皆そうだったのよ」
「目が笑ってなくて」
「濁っていてね」
 そしてというのだ。
「もう笑ってもね」
「下卑たものだったの」
「その人達を見てきたから」
 それでというのだ。
「私はわかるの」
「そうなの」
「ちなみに去年遂に警察が入ってね」
「捕まったの」
「そうしたらもう悪事の総合結社だったわ」
 コーラを飲む従妹に話した。
「文字通りのね」
「悪のなの」
「そう、それも下衆なね」
 悪は悪でもというのだ。
「そうだったわ」
「そんな事務所だったの」
「もう麻薬とか臓器売買とか密輸とかね」
「凄いわね」
「当然殺人もね」
 こちらもというのだ。
「してたけど全部が全部ね」
「下衆だったの」
「それでそこの人達が」
「皆そうした目だったの」
「そう、その人達の画像ネットでも出てるけれど」
 愛は自分のスマホを出してきて言った。
「そっちも見てみる?」
「それじゃあね」
 咲も頷いて答えた。
「見せて、お話を聞くよりもね」
「見る方でしょ」
「ええ」
 実際にと従姉に答えた。 

 

第一話 卒業してその十四

「百聞は一見に如かずって言うけれど」
「そうそう、実際によ」
「聞くよりもよね」
「実物見た方がね」
 まさにこの方がというのだ。
「いいから」
「そうよね、じゃあ見せて」
「ええ、動画だけれどね」
 愛はその動画を見せた、それはニュースの動画で事務所から連行されていく組員達がそこにいたが。
 咲は彼等の顔を見て愛に言った。
「こうした風なのね」
「ええ、ガチの悪人はね」
 愛も見せながら話した。
「こうした人達なのよ」
「そうなのね」
「目が違うでしょ」
「笑ってないし」
「目元にも出てるでしょ」
「捕まったから何だって笑ってる人もいるけれど」
 咲はそうした者達も見た。
「口元がね」
「歪んでるでしょ」
「嫌な感じでね」
「これが悪人の目でね」
「悪人の笑いなのね」
「そして動きもね」
 身体のそれもとだ、愛は話した。
「わかるでしょ」
「ええ」
 従姉に強い声で答えた。
「変に身体ゆすったり背中曲がっていてね」
「これがよ」
「悪い人ってことね」
「本物のね」 
「それでこうした人達になのね」
「注意することよ」
 こう咲に話した。
「わかったわね」
「わかったわ」
 咲も確かな声で答えた。
「よくね」
「わかったならいいわ、高校に入ったら」
「中学の時より色々なところに行くし」
「だからね」
 それでというのだ。
「悪い奴や物事には注意しないと駄目なのよ」
「特に男の人に」
「女の人もね、今見せたのは男の人ばかりだけれど」
「悪い人は女の人でもいるわね」
「勿論よ、世の中半分は女の人でしょ」
 愛はクールな口調でこの真実を告げた。
「そうでしょ」
「それはね」
「だからよ」
「女の人でも悪い人はいるってことね」
「性根の腐りきったね」
 ただ悪いだけでなくというのだ。
「そうした人がいるのよ、というか性別とか人種とか民族とか宗教とか職業とかね」
「関係なくなのね」
「悪い人がいるわ、まあヤクザ屋さんはね」
「悪い人がなるのよね」
「もうこの職業はそれがお仕事だから」
 悪事を働くことがというのだ。
「悪人ばかりだけれど」
「どんなお仕事でもなのね」
「悪い人がいるわよ、学校でもそうでしょ」
「そうね、いい人もいればね」
 それにとだ、愛はさらに話した。 

 

第一話 卒業してその十五

「悪い人もね」
「いるでしょ」
「ええ、確かにね」
「そう、だからね」
「悪人は何処でもいることも」
「覚えておいてね」
「私が通う学校にも」
 これから入学する高校にもとだ、咲は言った。
「いるのね」
「そうよ、いるからね」
 だからだというのだ。
「注意しておいてね」
「そうなのね」
「そう、中々本性を出さない人もいるけれど」
 それでもというのだ。
「目と口よ」
「見極めに大事なのは」
「その二つを見てね」
「見極めることなのね」
「そうしてね」
「ええ、それで悪人は何処でもいる」
「そのことも覚えておいてね」
「このヤクザ屋さん達みたいな人もいる」
 咲は暴力団員達の動画をもう一度観ながら話した。
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「今日見たことはね」
「悪い人達の顔や動き」
「特に目や笑った時の口元はね」
「覚えておくことね」
「そう、そしてね」
 絶対にと言うのだった。
「悪い人には引っ掛からずに」
「悪いことにも手を出さないことね」
「そして危険な場所にも入らない」
 愛はこのことも話した。
「いいわね」
「ああ、危険な場所も」
「そこも最初からね」
「東京ってそうした場所も多いから」
「日本は確かに治安いいわよ」
 愛はこのことは間違いないした。
「実際にね」
「他の国と比べても」
「そう、この東京もね」
「治安はいいのね」
「夜コンビニに行って帰られるでしょ」
 この一見何でもないことを言葉に出した。
「けれどこれってね」
「他の国だとよね」
「そうそう出来ないから」
「どの国も物騒なのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「日本が治安いいのは紛れもない事実よ」
「そうよね」
「けれどよ」
 ここでだ、愛はあらためて真剣な顔になって咲に話した。
「場所にもよって」
「新宿の歌舞伎町とかだと」
「それこそ裏道とかね」
「お父さんが言ってたけれど」
「そうよ、変な人がいたりして」  
 そしてというのだ。
「おかしなお店もあったりするから」
「行かないことね」
「危ない場所には最初からよ」
 まさにというのだ。
「行かないことよ」
「そういうことね」
「このことも気を付けてね」
 危険な場所にもというのだ。
「最初からそう言われている場所にはね」
「行かないことね」
「そうよ、いいわね」
 咲に真剣な顔で話した。 

 

第一話 卒業してその十六

「いいわね」
「わかったわ」
 咲も素直に頷いた。
「そうするわ」
「そうしてね」
「ええ、肝に銘じておくわ」
 咲も強い声で答えた。
「私もね」
「くれぐれもね、咲ちゃんの為によ」
「私の為にも」
「身の安全のね」
 まさにその為にというのだ。
「私も咲ちゃんには幸せになって欲しいし」
「幸せになの」
「ええ、従妹で子供の頃から仲いいでしょ」
 だからだというのだ。
「それでよ、妹みたいなものだから」
「それでなの」
「咲ちゃんには変な人と付き合ったりね」
「悪い道に入ったり」
「そうはなって欲しくないから」
 ここでも愛は真剣な顔で話した。
「だからよ」
「それでなの」
「そう、言うのよ」
 今もというのだ。
「そうしているのよ」
「そうなのね、じゃあね」
「ええ、よく覚えておいてね」
「そうしておくわ」 
 咲も確かな声で答えた。
「よく覚えたから」
「そうしてね、それと東京は全体を歩くと」
 今度は東京そのものの話だった。
「凄く面白いから」
「東京自体はいい場所ってことね」
「危険な場所があって」
 そしてというのだ。
「悪い人やお店やものはあっても」
「全体的にいい場所ね」
「実際そう思うでしょ」
 愛はこのことは陽気に話した。
「咲ちゃんも」
「ええ、まだ全体は見て回ってないけれど」
 基本的に足立区から出ていないからだ、中学を卒業するまで家と学校を行き来するのが常であったからだ。
「それでもね」
「時々叔父さんや叔母さんと外出もしたわね」
「ええ、そうしてきたわ」
「それもよかったでしょ」
「色々面白い場所があって」
「そうした街だから」
 それでというのだ。
「全体的に見てね」
「面白い場所ね」
「多分世界屈指の」
 そこまでのというのだ。
「そうした街だから」
「楽しめばいいのね」
「山手線定期使って行き来出来るでしょ」
 愛はこのことも話した。
「そうでしょ」
「高校電車で行くし」
 その山手線を使ってとだ、咲も答えた。
「そうなったわ」
「だったらね」
 それならというのだ。
「これを機にね」
「東京のあちこちをなのね」
「行ってみたらいいわ」 
 危険な場所には行かないことは気をつけつつというのだ。
「是非ね」
「行っていい場所教えてくれる?」
「そうしたところになの」
「具体的にね」
「いいわよ、私の知ってる限りでね」
 愛は笑って答えた。
「そうさせてもらうわ」
「それじゃあね」
「まあね、高校生が行く場所ならね」
 それならとだった。 

 

第一話 卒業してその十七

 愛は咲にそうした場所も話していった、その話が終わってから咲は時計を見てそのうえで愛に話した。
「もうね」
「帰るのね」
「いい時間だからね」
「帰らないとよね」
 愛は笑って言った。
「叔母さん怒るわね」
「お姉ちゃんのところにいるなら」
 それならというのだ。
「いいって言うけれど」
「早いうちに帰らないと」
「お母さん心配するから」
「叔母さんらしいわね」
 愛はくすりとして返した。
「過保護よね」
「そうかしら」
「私のお家にいるってわかってたら」
 それならというのだ。
「もう安心だから」
「それはね」
「咲ちゃんも思うでしょ」
「愛ちゃんが一緒なら」
「私も家族も咲ちゃんと仲いいしね」
「特にね」
「お父さんとお母さん晩ご飯も出してくれて」
 愛はさらに話した。
「お風呂も入っていいしお泊りもね」
「いいのね」
「泊まったことないけれどね」 
 それでもというのだ。
「それもね」
「いいから」
「だからね」 
 それ故にというのだ。
「何の心配もいらないのに」
「心配するっていうの」
「だからね」
 それがというのだ。
「もうね」
「心配性だっていうの」
「そうよ、けれど親を心配させるのはよくないから」
 愛はこうも言った。
「だからね」
「もう帰った方がいいのね」
「その方がいいわ」
 実際にというのだ。
「じゃあもうね」
「お家に帰って」
「ええ、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「叔母さんに宜しくね」
「今日お話したって」
「言っておいてね」
「それじゃあね」
「何時でも来てね」
 咲はこうも言った。
「お話出来ることならするから」
「それじゃあね」
「ただね」
「ただ?」
「高校生活は楽しんでね」
「それはなのね」
「中学生活も高校生活も楽しいから」
 そのどちらもというのだ。
「人次第にしてもね」
「楽しいの」
「ええ、私はそう思ったから」 
 だからだというのだ。
「咲ちゃんもね」
「楽しい高校生活をなのね」
「してね」
 こう言うのだった。
「いいわね」
「それじゃあね」
「その為にもね」
「悪い人にはなのね」
「気をつけて悪いこともしない」
「それで悪い場所にも行かない」
「そうよ、まあさっき話したヤクザ屋さんとね」
 愛は考える顔で言った。 

 

第一話 卒業してその十八

「人の下半身あれこれ言う人と生きもの平気で捨てる人は絶対に近寄っても無視してね」
「その二つの人達はなの」
「何があってもね」 
 それこそというのだ。
「近寄ってきても無視して信用もね」
「したらいけないの」
「間違っても友達に持ったら駄目よ」
「どうしてなの?」
「人の下半身、スキャンダルって記憶に残るでしょ」
「あっ、確かに」 
 咲も気付いた。92
「そういうことって」
「例えそれが嘘でもね」
「人の頭に残るから」
「人を貶めるには最適だけれど」
 それでもというのだ。
「これって凄く汚い攻撃よ」
「人の下半身のことは」
「その人の問題点を指摘せずに」
 それでというのだ。
「スキャンダルで攻撃するっていうのは」
「言われてみれば」
「咲ちゃも思うでしょ」
「ええ」 
 実際にとだ、咲も答えた。
「それはね」
「だからよ」
「それをする人はなのね」
「絶対に友達に持たないで」
 そうしてというのだ。
「信用することもね」
「近寄ってきても無視ね」
「そうしてね」
「それだけ人の下半身を言う人は信用出来ないのね」
「女性問題とか男性問題とかね」
 愛は下半身について具体的に話した。
「論理とかじゃないから、ましてそれが若し嘘なら」
「余計になのね」
「もう何があってもね」 
 嘘、捏造に基いて相手の女性問題や男性問題を言い募って攻撃する輩はというのだ。
「信用したら駄目よ」
「幾らいい人でも」
「それいい人じゃないから」
「絶対になの」
「いい人に見えたら装っているのよ」
「そうなの」
「そう、その実はね」
 愛は真剣な顔で話した。
「最低最悪の屑野郎だから」
「信用しないの」
「そう、それと生きものを平気で捨てる人はね」
 愛は今度はこうした輩の話をした。
「命を何だと思ってるってなるでしょ」
「それはね」
 咲もこのことについてははっきりと言えた。
「捨てられた犬や猫がどうなるか」
「野垂れ死ぬか保健所よ」
「保健所に送る人もいるわね」
「飽きたり自分の都合が悪くなったらポイとかね」
「そんなことする人は」
「命を大切にしないのよ」
 愛はいささか怒った口調で咲に話した。
「もう人だってね」
「大切にしないわね」
「自分の都合が悪くなったら」
 それでというのだ。
「もう平気でね」
「人を切り捨てるのね」
「裏切ってね」
「だからなのね」
「こんな人もね」
 人の下半身を攻撃する輩と同じくというのだ。 

 

第一話 卒業してその十九

「信用したら駄目よ、咲ちゃんのことを親友だとか言っても」
「口だけね」
「それで自分の都合が悪くなったら」
「逃げるのね」
「そうするからね」
「信じたらいけないのね」
「それどころか自分のしたことの責任押し付けて」
 そうしてというのだ。
「逃げるから」
「信じたら駄目で」
「近寄って来ても無視してね」
「そうしないと駄目なのね」
「この二種類の人達もね、まあ叔父さんと叔母さんもうちのお父さんとお母さんもそうした人達じゃないけれどね」
 愛はこのことは笑って話した。
「ただ叔父さんは何か埼玉県嫌いみたいだけれど」
「あれっ、そうなの」
 咲は父のこの話にはきょとんとした顔で応えた。
「お父さん別に」
「叔父さんこの前法事で西武ライオンズの話が出た時にね」 
 愛はこのことは小声で話した。
「眉曇らせたのよ」
「そうだったの」
「ええ、それで私思ったのよ」
「お父さん埼玉県嫌いって」
「叔父さんはヤクルトファンよね」
「うちは三人共野球はそうなのよね」
 ヤクルトだとだ、咲は答えた。
「お姉ちゃんは阪神よね」
「そうよ、だからトラ柄の服も持ってるわよ」
「大阪のおばさんみたいね」
「大阪はヒョウ柄だからまた違うわよ」
「そうなの?」
「ええ、お父さんもお母さんもヤクルトだけれどね」
「うちの一族巨人ファンいないわね」
「だって悪いチームだから」
 これに尽きる、巨人程邪悪を極めたスポーツチームはこの世に存在しない。戦後日本のモラルと知性と品性の絶望的な低さの象徴と言える存在であろう。
「だからね」
「親戚も皆巨人嫌いなのね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「あんなチーム応援するとか願い下げよ」
「親戚皆そうした考えね」
「それで叔父さんはね」
 咲の父はというと。
「実際埼玉県の話題しないでしょ」
「住んでる足立区のすぐ傍なのに」
「そうでしょ」
「東京のお話多いわね」
「東京生まれだしね」
「うちは元々東京だしね」
「ひいお祖父ちゃんからだったかしら」
 咲は記憶を辿って述べた。
「戦争終わってから復員してこっちに来て就職して」
「ずっとだからね」
「皆東京生まれでお父さんもで」
「それでね」
 そのうえでというのだ。
「東京のお話はするけれど」
「埼玉しないでしょ」
「確かにね」
「だからね」
「お父さん埼玉嫌いなの」
「そうかもね、まあそれ以外は」
 これといってという口調でだ、愛は咲に話した。
「別にね」
「これといってなのね」
「おかしくないから」
「お父さんもお母さんも信じていいのね」
「親が信用出来たら」
 それならというのだ。
「それだけで違うでしょ」
「うん、若し最悪な親だったら」
「どうしようもないでしょ」
「DVとかギャンブルとか麻薬とかね」
「そういうのなかったらね」
「それだけで違うのね」
「そして信頼出来たら」
 愛は踏み込んだ言葉で告げた。
「もうね」
「いいのね」
「だからね」
 それでとだ、従妹にさらに話した。
「叔父さんと叔母さんはね」
「信じていけばいいのね」
「そうして家でも暮らしていってね」
「両親が信じられる人っていいことよね」
「絶対にね、じゃあね」
「またね」 
 最後に別れの挨拶をしてだった。
 咲は自分の家に帰った。そうして家では普通の暮らしを送った。だが咲の高校生活がはじまりの時を迎えるその時は確かに近付いていた。


第一話   完


                 2021・2・1
 

 

第二話 はざかいの時その一

               第二話  はざかいの時
 咲は卒業式から入学式まで家にいるよりも外にいたかった、だが母は娘に対して少し厳しい口調で言っていた。
「こうした時こそね」
「慎重に、なのね」
「そう、変にはしゃいで」
 そうしてというのだ。
「迂闊に道に出て交通事故とかね」
「あるから」
「そう、それでね」
 家で娘にさらに話した。
「街に出てね」
「変な人に誘拐されるとか」
「悪いことに誘われてね」
 ここでこのことも言うのだった。
「そうなるからよ」
「だからなのね」
「こうしたね、何かが終わって何かがはじまる」
「そうした時こそなのね」
「はざかい期って言うけれど」
 この時期こそというのだ。
「慎重にならないとね」
「駄目なのね」
「そうよ、よくこうした時こそ交通事故とかに遭うのよ」
「そういえばもう少しで入学とか言うわね」
「だからね」
 それでというのだ。
「出来る限りね」
「こうした時こそなのね」
「出来る限りお家にいて」
「ゲームしたりパソコンしたりだけれど」
「あと漫画とかライトノベル読んだりしてるわね」
「アニメも観てるわ」
「それでいいのよ」
 こう娘に言った。
「秋葉原に行くよりもね」
「ううん、秋葉原は結構知ってるけれど」
 そこに行けば買いたい漫画やライトノベルそれにゲームが揃っているからだ。それで咲も中学時代はよく行っていた。
「けれど今はなの」
「春休みの間退屈しないだけの漫画あるでしょ」
「小説もゲームもね」
「アニメも観られるわね」
「ええ」
「だったらよ」
 退屈しないならというのだ。
「もうね」
「出来るだけ外に出ないで」
「じっとしてて、あと髪型はセットしたし」
 今度はそれの話もした。
「メイクの仕方を勉強してもね」
「いいのね」
「ファッションの雑誌を読んでもいいし」
 母は娘にこれもよしとした。
「だからね」
「ここはなのね」
「高校生活に備えることよ」
「それが大事なのね」
「そう、お家にいても色々やることあるから」 
 だからだというのだ。
「そちらを頑張ってね」
「そうすればいいのね」
「そうよ」
 こう言うのだった。
「貴女もね」
「そうなのね」
「そしてね」
「そして?」
「愛ちゃんからも聞くことよ」
 母は姪については微妙な顔で話した。 

 

第二話 はざかいの時その二

「やっぱりあの娘は派手好きだけれど」
「お姉ちゃん外見だけでしょ」
「それはわかっているけれど」
「それでもなの」
「あの派手さがね、お父さんも気にしてるのよ」 
 愛の派手さはというのだ。
「本当にね」
「だからお姉ちゃんとお話することはなの」
「どうかとも思うけれど」
「それでも色々聞けるし」
 世の中のことをというのだ。
「お話してもいいのね」
「どうかとも思うけれど結論を言うとね」
 物事を総合的に考えてのことである。
「そうなるわ」
「そうよね」
「お母さんもね、あれで頭がいいし世の中のことも知ってるから」
「私にとっては本当のお姉ちゃんみたいよ」
「頼りにしてるのね」
「子供の頃からね」
「愛ちゃんは子供の頃から咲を可愛がってるし」
 このことは母もそして父も知っていることだ、愛はお互いが子供の頃から咲をよく可愛がっていて何かと教えて護ってもきているのだ。
「それでよね」
「喧嘩したこともないしね」
「愛ちゃんは優しいしね」
「そうよね」
「だからね、愛ちゃんともね」
「話してよね」
「やっていってね」
 こう娘に話した。
「春休みの間に」
「世の中のことも聞いておくのね」
「そうしてね」
「お家にいてもやること多いのね」
「そうよ、じゃあ高校に入るまではね」
「出来る限りお家にいることね」
「そうしていなさい、ただずっとお家にいてもね」
 これはこれでというのだ。
「よくないわよ」
「運動不足になるのね」
「あんた元々あまり運動しないけれど」
 基本インドア派だ、だから部活も漫画研究会だったのだ。
「一日一万歩位はね」
「歩かないと駄目なのね」
「さもないと運動不足になるから」 
 だからだというのだ。
「お散歩はね」
「するべきね」
「そう、だからね」
 母は娘に笑って話した。
「犬のお散歩はね」
「行けっていうのね」
「そう、朝と夕方ね」
 一日二回というのだ。
「言ってきてね」
「わかったわ」
 咲の返事は即答であった。
「行って来るわね」
「そこで嫌とは言わないのね」
「だって言ってもね」
 それでもとだ、母に反論した。
「退屈なままだし運動不足になるのもね」
「嫌でしょ」
「私あまり太らない体質だけれど」
「やっぱり運動不足はね」
「学校にいた時は歩いていたけれど」
 夏休みも冬休みも塾まで歩いていた、だから咲は文科系の部活でも毎日それなりに運動はしていたのだ。 

 

第二話 はざかいの時その三

「それでもね」
「学校も塾もないとでしょ」
「全然歩かないから」
「そう、だからね」
「それでよね」
「運動の為にもね」
「お散歩しないと駄目で」
「歩くならよ」
 それならというのだ。
「もうね」
「ワンちゃんのお散歩ね」
「それにうちの子トイプードルだから」
 小型犬である、その中でもかなり小さい。見れば部屋のケージの中にダークブラウンの毛の足の短い犬がいる。
「お散歩も楽でしょ」
「ええ、小さいからね」
「大きい子ならともかくね」
「しかもこの子大人しいし」
「行って来なさい」
「それじゃあね」
「ええ、ワンちゃんもお散歩しないと」
 そうしなければというのだ。
「よくないから」
「人間以上によね」
「ワンちゃんをお散歩に連れて行かないなんて問題外よ」
 母はこのことは強く言った。
「本当にね」
「ああ、何かインスタグラムで言ってたわ」
 咲はここでこの話をした。
「買ってたワンちゃん、うちと同じトイプードルの女の子だったけれど」
「どうしたの?」
「子供生まれたら一日中ケージに入れてね」
「それ飼育放棄よ」
 母は即座に怒った声で言った。
「もうね」
「それで一日中鳴くからってね」
「一日中ケージに入れたら当たり前でしょ」
「私に言われても困るわよ」
 怒って言ってきた母に困った顔で返した。
「私がやってないのに」
「それはそうだけれど」
「けれどそれで保健所に送ってね」
「飼育放棄してなの」
「それまでインスタにずっと出ていたのに出て来なくなったからある人が聞いたら」
 インスタグラムの中でというのだ。
「あっさりとね」
「保健所に捨てたって言ったの」
「そう、そしてね」
 それでというのだ。
「すぐにその人の親戚の人が引き取ったらいいでしょと書いたけれど」
「よくないわよ」
「だからインスタ大炎上して」
 それでというのだ。
「閉じたけれど」
「酷い飼い主ね」
「そうよね」
「子供が生まれたら邪魔になったのね」
「そうみたいよ」
「その人は犬を家族と思ってなかったのよ」
 母の顔と声は怒ったままだった。
「もうね」
「やっぱりそうよね」
「おもちゃだったのよ」
「おもちゃ?」
「そう、おもちゃだったのよ」
 その犬はその飼い主達にとってというのだ。 

 

第二話 はざかいの時その四

「家族じゃなくてね」
「インスタ見たら洋服着せてケーキ上げて可愛がっていたけれど」
「だからおもちゃで遊んでいたのよ」
「可愛がっていたんじゃなくて」
「そうだったのよ」
「そうなの」
「どうせその赤ちゃんもね」 
 生まれた子供もというのだ。
「同じよ」
「おもちゃなの」
「どうせ自分の思い通りにならないか次のおもちゃが手に入ったらね」
「捨てるの」
「虐待するわよ」
 そうしてくるというのだ。
「絶対にね」
「まさか」
「いえ、そうするわ」
 母の言葉は絶対の響きがあった。
「だからそんな人とは付き合わないことよ」
「お姉ちゃんも生きものを平気で捨てる人は信用するなって言ってたけれど」
「その通りよ、命を平気で捨てるなら」
 それならというのだ。
「もうね」
「人も裏切るって言ってたけれど」
「絶対にそうしてくるわ」
 間違いなくというのだ。
「自分達の都合が悪くなったら」
「お母さんもその考えね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「そんな人とはね」
「付き合わないことね」
「そうしなさい」
「命は大事なものだから」
「それが人間以外であってもね」
「その命を粗末にするなら」
「そうよ、そんな人はね」
 まさにというのだ。
「もうそれこそよ」
「自分の都合で切り捨てるのね」
「躊躇なくね、人を利用して」
 そしてというのだ。
「その価値がなくなればね」
「ポイってことね」
「例え自分から友達とか言ってても」
 それでもとだ、母は咲にやや怒った顔で話した。
「口だけよ」
「その実はなのね」
「自分の都合が悪くなったらね」
「切り捨てて」
「それでこっちが助けても」
 そうしてもというのだ。
「感謝しないわよ」
「そうなの?」
「だってそうした人って自分だけなのよ」
 極端な利己主義者だというのだ。
「だから他の命も粗末に出来るのよ」
「自分だけの人だから」
「だから他の人が何かしてもね」
「感謝しなくて」
「もう自分の都合でね」
「切り捨てるのね」
「掌返しで」 
 母は実際に右手の平をくるりと反転させた、そうして咲に今は手の甲を見せてそのうえで話を続けた。
「裏切ることもね」
「するのだ」
「だから絶対にね」
「信じないことなのね」
「そうよ、だからそうした人が近寄ってきたら」
「信じないことね」
「ええ、外面はよくても」
 例えそうであってもというのだ。 

 

第二話 はざかいの時その五

「内面は腐りきっているから、もう目に出るから」
「それお姉ちゃんも言ってたわ」
「そうなのね、あの娘若いけれどわかってるわね」
「お母さんが見てもよね」
「派手だけれどね、やっぱり賢い娘ね」
「愛お姉ちゃんはね」
「あらためて思ったわ、命を何とも思ってないなんて」
 また娘に言うのだった。
「それだけで人間として、でしょ」
「ペットを山奥に捨てたり保健所に連れて行ったり」
「今だと飼えなくなったりしたら里親に出せるでしょ」
「ネットとか使ってね」
「そうしたボランティアだってあるし」
「そうよね」
「そうしたのを使わなくてね」
 それでというのだ。
「もう鳴き声が五月蠅い、朝から晩まで鳴くから」
「保健所になのね」
「捨てたってインスタで平気で書いたのよ」
「それ皆怒ったわよね」
「返事でワンちゃん最近インスタで観ないけれどどうしたのって質問あったら」
「そう答えたの」
「それまでずっとお洒落させたりしてインスタに出してたのが」
 それがというのだ。
「急に出なくなったから聞いた人いたら」
「そう答えてなの」
「もうふざけるなとか命何と思ってるんだとか娘って言ってた相手にそんなことするのかって」
「普通にそうなるわね」
 母も納得することだった。
「お母さんだって怒るわよ」
「私だって怒ってワンちゃん可哀想って書いたわ」
「咲もなのね」
「他には犬はおもちゃじゃないって書いた人もあったし某巨大掲示板でも晒されてね」
「徹底的に荒れたのね」
「それでインスタ閉鎖したのよ、その人」
「自業自得ね」
「それからどうなったか知らないけれど。娘さん生まれたから子育てに鳴かれると支障が出るとか」
 咲も話していて怒っていた。
「朝から晩までって」
「ワンちゃんが鳴くのも理由があるでしょ」
「それは私だってわかってるわよ」
 丁度ケージにいる愛犬を見て言った、茶色の毛専門的にはアプリコットと呼ばれる毛色でティーカップサイズで脚が短いドワーフタイプのトイプードルだ。黒い目が大きく頭には女の子なのでピンクのリボンがある。
「モコだってね」
「鳴くにはね」
「理由があるのよ。性格が変わったとか言ってるけれど」
「性格変わったら娘って言ってた娘捨てたのね」
「子供生まれてね」
「つくづく最低な人ね」
「どうも捨てられた娘は保護されて」
 そしてというのだ。
「新しい飼い主に育てられているらしいけれど」
「それはよかったけれどね」
「飼い主の人は新しい飼い主見付かったからよかったじゃないってね」
「反省してないのね」
「どう見てもね」
「子供生まれてすぐにそれまで可愛がっていた子捨てる人は」
 母は娘に忠告する様に言った。 

 

第二話 はざかいの時その六

「その自分達の子供もね」
「捨てるの」
「どうせ次の子が生まれたら」
「その子を贔屓してなの」
「平気で育児放棄するわよ」
「自分の子供です?」
「絶対そうするわ、だって命を粗末にする人よ」
 だからだというのだ。
「それじゃあね」
「子供でもなのね」
「どうせ旦那さんもそんな人でしょ」
「夫婦でやってたインスタよ」
「じゃあ同じね」
「そうね、私も捨てたって返事見て一気に嫌いになったわ」
「そんな人を嫌わない人の方がおかしいわよ」
 むしろというのだ。
「咲がそこで頷いてたらお母さん怒ってたわよ」
「間違ってるって」
「そうよ」
 その時はというのだ。
「本当にね」
「言ってたのね」
「ひっぱたいていたかもね」
「そこまでなの」
「このことは許せないから」
 だからだというのだ。
「その時は本気で怒ってね」
「ひっぱたいてなの」
「その性根叩きなおすわよ」
「そうするのね」
「自分の娘だからね、けれどあんたはね」
「そんな人達にはならないわ」
 絶対にとだ、咲は言い切った。
「何があってもね」
「ああはなるまいよね」
「その人のインスタの騒動見て思ったし」
「嫌な人達だって思ったわね」
「服まで着せて娘だってちやほやして」
「人間の娘が出来たらポイってね」
「おもちゃじゃないから」
 断じてというのだ。
「ワンちゃんはね」
「あらゆる生きものがね」
「モコがいるから」
 そのトイプードルを見た、ケージの中にいてそこで今は丸くなってそのうえで気持ちよさそうに寝ている。
「その人のインスタ見たけれど」
「同じトイプードルの家族だからよね」
「それでずっとお気に入りにしてチェックしてたけれど」
「そんなことしたらね」
「もう一発で冷めてね」
 気持ちがというのだ。
「嫌になってね」
「お気に入りから外したのね」
「それで黙って炎上見ていたら」
 その騒動をというのだ。
「挙句に閉鎖したのよ、たかが犬一匹で何だって夫婦で書いて」
「犬一匹、ね」
 母の目が怒ったものになった。
「それが全てね」
「その人達の気持ちが出てるのね」
「これ以上はないまでにね」
 そうだというのだ。
「本当にね」
「家族と口では言ってたけれど」
「内心はね」
「たかがだったのね」
「そう、たかがね」
 それこそというのだ。 

 

第二話 はざかいの時その七

「家族じゃなくてね」
「犬だって思っていたの?」
「犬は犬よ」
 母はそれは当然とした。
「種族はね、けれど種族は関係なくね」
「家族ってことね」
「モコもね」 
 家の愛犬もというのだ。
「あの娘だってよ」
「ええ、家族よね」
「お父さんがチヤホヤしてるでしょ」
「本当にね」
「お父さんにとっては二番目の娘なのよ」
「私の妹ね」
「そう、妹だから」
 それでというのだ。
「あんたから見れば」
「それでお父さんから見たら二番目の娘で」
「お母さんから見てもよ」
「二番目の娘ね」
「お母さんが生んだ訳でも種族は違っても」
 人間と犬の違いはあってもというのだ、母はモコを見てそのうえで咲に話した。
「この娘もね」
「娘ね、お母さんの」
「心のあるね、おもちゃじゃないのよ」
「家族であって」
「そうよ、その人達にとってそのワンちゃんは家族でなくね」
「おもちゃだったの」
「そうだったのよ、心の底ではそう思っていたのよ」
 人間でなく、というのだ。
「だからインスタに出していたのよ」
「家族としてでなく」
「お気に入りのおもちゃだったのよ」
「それを皆に見せていたの」
「自慢してね」
「家族を可愛がってでじゃなくて」
「そうよ、そしてね」
 それでというのだ。
「別のおもちゃが手に入ったからね」
「自分達の赤ちゃんが」
「そう、だからね」
「捨てたのね」
「そうよ、命とかはね」
「気にしなかったの」
「そうだったのよ、だからいらなくなったからね」
 母は怒った顔で話した。
「それでよ」
「保健所に捨てたの」
「殺処分されるね、飼い犬とか飼い猫が保健所に入れられたら」
 どうなるかとだ、母は娘に話した。
「所有権なくなってるから何時殺処分されてもね」
「おかしくないの」
「そうした保健所もあるらしいわ」
「自分の家族に対する仕打ちじゃないわね」
「命ある大事なものにでもないでしょ」
「ええ」
「だからそうした人達にってはね」
 まさにというのだ。
「そのワンちゃんもおもちゃで」
「赤ちゃんもなのね」
「所詮そうよ、いらなくなったら」
 自分達の子供もというのだ。
「捨てるわよ」
「腐ってるわね」
「ええ、そんな人達だから」
「絶対にお付き合いしないことね」
「あんたもそんな人達が相手だと」
「利用されれるだけされて」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「相手の都合でね」
「ポイ、ね」
「そうよ」
 そうなるとだ、娘に話した。
「本当にね」
「犬もそうする人は」
「人も一緒よ、自分しかないから」
「自分以外はなのね」
「もうおもちゃかね」 
 若しくはというのだ。 

 

第二話 はざかいの時その八

「駒よ」
「漫画に出て来る悪役みたいね」
「実際悪役はね」
 そうした者はというのだ。
「そんな連中よ」
「自分達はおもちゃか駒なのね」
「それで用済みになったらね」
「切り捨てて終わりね」
「だからこんな人と付き合ったら」
 それこそというのだ。
「あんたもそうなるから」
「そうした人と思ったら」
「絶対に信用しないでね」
「付き合わないことね」
「そのワンちゃん見たらわかるでしょ」
「毎日インスタにあげてたのよ」
 おもちゃとして遊んでいた時はとだ、咲は話した。
「美味しいご飯あげてクリスマスやお誕生日は家族でお祝いしてね」
「自分達の娘としてよね」
「ええ、ちやほやしてね。お洋服とかリボンもで」
「着せて付けてあげて」
「そうしていたのがね」
「自分達の赤ちゃんが出来たらね」
「その子、女の子だけれど」
 咲はその子の性別も話した。
「その娘ばかりインスタに載せて」
「ワンちゃんは出なくなって」
「聞いたらだったのよ」
「保健所行きね」
「朝から晩まで鳴いて五月蠅い、子育て出来ないって」
「ワンちゃんが鳴くには理由があるでしょ」
 母は娘に言った。
「そうでしょ」
「ええ、私だってわかってるわ」
 犬を飼っているからだ、咲も答えた。
「それはね」
「そうでしょ」
「けれどそうしたのよ」
「保健所に捨てたのね」
「もういらなくなったって堂々と書いてたわ」
 インスタグラムにそうしたというのだ。
「このままじゃ自分達も赤ちゃんもノイローゼだって」
「絶対にケージに閉じ込めて無視してお散歩もトリミングもね」
「しなかったのね」
「それじゃあワンちゃんもストレス溜まるわよ」
「無視してそれじゃあね」
「飼い主失格よ」
 母は怒って言い捨てた。
「もうね」
「そうよね」
「勿論親としてもね」
「問題外ね」
「ええ、そんな人が咲にどうするか」
 それはというと。
「わかるわね」
「ええ、本当にね」
 咲も怒った顔で答えた。
「ここまで話してよくわかったわ」
「そのワンちゃんが新しい飼い主の人に引き取られて何よりだけれど」
「そうした人とはね」
「ヤクザ屋さんと同じよ」
 それこそというのだ。
「絶対にお付き合いしないことよ」
「そうよね」
「だからね」
 それでというのだ。
「生きものを粗末にする人とも」
「お付き合いしない」
「いいわね」
「よくわかったわ、モコを捨てるなんて」
 そのモコを見て言った。
「想像も出来ないわ」
「そうでしょ」
「モコは家族だから」
「おもちゃじゃないわね」
「そんな筈ないじゃない」 
 返事は一つしかなかった、そして咲もその返事を出した。 

 

第二話 はざかいの時その九

「絶対に」
「それでいいのよ、じゃあ春休みの間はね」
「私がモコのお散歩ね」
「運動も兼ねてね」
 このこともあってというのだ。
「朝夕二回ね」
「お散歩ね」
「行ってきてね、犬を飼ってもお散歩もしないなんて」
「絶対に駄目ね」
「それをしないなら」
 それ位ならというのだ。
「最初からよ」
「飼わないことね」
「そうよ」
 そうすべきだというのだ。
「ワンちゃんにとって絶対だから」
「それはそうよね」
「全く、そんな人は生きものを飼うんじゃなくて」
「どうすればいいのよ」
「飼われればいいのよ、鬼にね」
「鬼になの」
「それで粗末に扱われればいいのよ」
 こう言うのだった。
「そうね」
「厳しいわね」
「そんな人には当然よ」
「そこまで言うのね」
「厳しいかも知れないけれど」
 それでもというのだ。
「命がどれだけ大事か」
「そのことを思ったら」
「もうね」
 それこそというのだ。
「そこまでしないとよ」
「駄目なの」
「お母さんはそう思うわ」
 こう娘に言ったのだった。
「命を何とも思っていないなら」
「そこまで受けてもなのね」
「当然よ、そして咲はこれから間違ってもね」
「そんな人にならないことね」
「あんたが嫌うならわかるでしょ、そんな人が好かれるか」
「そんな筈ないわね」
「そんな人にならないことよ」
 自分が嫌に思うならというのだ。
「いいわね」
「わかったわ、気をつけていくわ」
「くれぐれもね、じゃあモコのお散歩もね」
「行って来るわね」
「そうしてね」
 こうした話をしてだった。
 咲は夕方にモコの散歩に行った、モコはハイテンションで散歩に出て散歩の間ずっとはしゃいでいた。
 それで途中近所のおばさんにであったがおばさんはそのモコを見て笑って言った。
「モコちゃん今日も元気ね」
「はい、元気過ぎる位です」
 咲はおばさんに笑って答えた。
「今日も」
「そうよね、けれどワンちゃんはそれ位でないとね」
「駄目ですか」
「元気過ぎる位でないと」
 それこそというのだ。
「駄目よ」
「そうなんですね」
「逆に元気でないと心配になるでしょ」
「はい、ここまででないと」
 咲もこう答えた。
「私も」
「ワンちゃんはそうなのよ、もうお散歩とか遊びの時はね」
「元気過ぎる位元気ですよね」
「おもちゃを出してもね」
 それで遊ぶ時もというのだ。
「そうでないとね」
「かえって心配になりますね」
「そうでしょ、だからモコちゃんもね」
「こんなに元気で、ですね」
「いいのよ」
「そうなりますね」
「ええ、ただトイプードルちゃんはね」
 おばさんはモコの修理のことも言ってきた。 

 

第二話 はざかいの時その十

「よく跳び跳ねるでしょ」
「そうですね、小さな身体で」
「それで着地の時に怪我をすることもあるから」
 だからだというのだ。
「そこは注意してね」
「元気だからそのことはですね」
「そうしてね。うちは猫を飼ってるけれど妹夫婦がね」
「トイプードルの子をですか」
「飼っていてね」
 それでというのだ。
「よく見るから」
「それで、ですか」
「妹も言ってたし」
 トイプードルのそうしたことをというのだ。
「だからね」
「そこは注意してですね」
「そしてね」
「飼っていくことですね」
「元気なことについてもね」
「そうですか、確かにモコもよくジャンプしますし」
 家の中でもだ、それで一家でモコは元気だと喜んで可愛がっているのだ。
「そのことは注意していきます」
「そうしていってね」
「遺伝病とかは勉強してますけれど」
「トイプードルは怪我もね、それでね」
「それで?」
「モコちゃんはトイプードルの中でも小さいわね」
 モコを見てこうも言ってきた。
「ティーカップ位かしら」
「はい、貰う時にそう言われました」
 咲も答えた。
「この娘のサイズはそれ位だって」
「しかも足短いわね」
「そのことも言われました」
「そうした体型なら余計にね」
「小さくて足が短いならですか」
「ジャンプした時に着地の衝撃が短くて小さな足に一気に来るから」
 それでというのだ。
「余計にね」
「注意しないと駄目ですか」
「怪我しない様にね」
「わかりました、注意していきます」
「そうしていってね」
 おばさんはこう言って咲とモコから別れた、そして咲は散歩から帰ってモコの足を拭いてケージの中に戻して母におばさんの言ったことを話すと。
 母も頷いてもモコを見ながら言った。
「ええ、そうなのよね」
「トイプードルの子はなの」
「小さくてね」
「足が短い子も多くて」
「特に最近そうした子が多いのよ」
「モコみたいな子が」
「人気があるから」
 飼い主達にというのだ。
「だからね」
「怪我に注意が必要なのね」
「小さくて足が短いのにね」
「活発で」
「よく高くジャンプもするから」
 それでというのだ。
「着地の時にね」
「ぐきっとかいくのね」
「そうなったりもするから」
 だからだというのだ。
「そこはね」
「注意してなのね」
「そしてね」
 それでというのだ。
「飼っていかないとね」
「駄目よね」
「そうよ、というかあんたトイプードルのそのこと知らなかったの」
「怪我のこと?」
「そうよ、言われるまで」
「ちょっとそこまでは」 
 咲は母にバツの悪い顔で答えた。
「知らなかったわ」
「言ってたでしょ」
「そうだった?」
「そうよ、お家に来た時にね」
「あの時お母さんにモコのこと色々言われて」
 咲はその時のことを思い出しつつ言葉を返した。 

 

第二話 はざかいの時その十一

「覚えてないことも多くて」
「それでなの」
「そのことはね」
「覚えてなかったの」
「お散歩は一日二回、ご飯とお水は三回で」
 今度は覚えていることを話した。
「ケージから出すのは決まった時間、トリミングは三週間に一回ね」
「それ位ね」
「あと躾のこともね」
「それで怪我のことはなのね」
「ジャンプすることも多いからっていうのは」
 このことはというのだ。
「忘れていたわ」
「そのことはなのね」
「ついついね」
「全部覚えておきなさい」
「多くて無理だったわよ」
「全く。まあそこまで覚えていたら合格かしら」
 母はここで考えなおしてこうも言った。
「それなら」
「いいのね」
「まあそこまで覚えていたら」
 それならというのだ。
「まだね」
「じゃあいいのね」
「ええ。それにこれで覚えたわよね」
「そうしたわ」
「それでいいわ。けれどね」
「けれど?」
「トイプードルは飼いやすいっていうけれど」
 よく言われることであろうか、小型で散歩の時に強い力で引っ張られることもなく賢くもあるので言うことも聞いて躾もしやすいからだ。
「覚えておかないことはね」
「やっぱりあるわね」
「そう、間違ってもおもちゃじゃないし」
「それは絶対ね」
「それで一生ね」
 その犬のというのだ。
「面倒見ないとね」
「それが一番大事ね」
「若しどうしても無理なら」
「次の飼い主探すことね」
「そしてその人にね」
 新しい飼い主にというのだ。
「お願いするのよ」
「面倒見てって」
「確かな人にね」
「それが一番大事ね」
「犬の十ヶ条ってあるけれど」 
 母は娘にこれまで以上に真面目な顔で話した。
「それは全部絶対によ」
「守らないと駄目よね」
「咲も何かあったら読んでおいてね」
 その犬の十ヶ条をというのだ。
「そこにちゃんと一生面倒を見なさいとも書いてあるから」
「それだけ絶対のことよね」
「さっき話した人なんてね」
「その時点でよね」
「失格だから」
 問題外、そうした言葉だった。
「人間としてね」
「飼い主以前ってことね」
「命をもういらないとか子供出来たから無視とかね」
「おもちゃじゃないから」
「だからよ」
「失格ね」
「人間失格だから」
 太宰治めいた言葉も出した。
「それこそね」
「本当にそうよね」
「咲もそう思うならいいわ」
「ええ、じゃあモコはね」
「これからもいいわね」
「家族としてね」
「可愛がるのよ」
 娘にまた犬のことを言うのだった。
「これからも」
「そうするわね、じゃあモコもお願いね」
「ワン」
 モコはケージの中から明るい声で応えた、咲はそのモコを見てまた笑顔になったがここでふとだった。 

 

第二話 はざかいの時その十二

 モコのその短い足ともふもふとした毛を見て母にふとこんなことを言った。
「ぬいぐるみみたいよね、モコって」
「小さくて毛ももふもふとしててね」
「そうよね」
「だから人気があるのよ」
「トイプードルはね」
「特にこうした小さいね」
「ティーカップの子は」
「しかも足が短いと」
 即ちドワーフタイプならというのだ。
「尚更ね」
「人気が出るのよね」
「そうよ、けれど外見だけじゃないでしょ」
「生きものはね」
「それだけで可愛がるものじゃないのよ」
「性格も見てね」
「そう、大事なのはどんな生きものも」
 それこそというのだ。
「心、性格だからね」
「外見よりもそちらを大事にしないと駄目ね」
「命ある存在としてね」
「それが出来ないと生きものは飼ったら駄目ね」
「そうよ、そして命を粗末にしない」
「それは絶対ね」
「そのこと覚えておいてね」
「一生覚えておくわね」
 母の今の言葉をとだ、咲も答えた。
「確かに」
「それじゃあね。しかしね」
「しかし?」
「咲もちゃんとわかっていてよかったわ」
「生きもののことが」
「それがわかっていてね」
 本当にというのだ。
「よかったわ」
「だって私も生きてるし」
 咲は今もモコを見ている、そうして母に話した。
「だからね」
「それでよね」
「そう考えたら」
 それならというのだ。
「ペットもね」
「そう、どんな生きものもよ」
「ワンちゃんだけでなくて」
「大事にするのよ、絶対に」
「そうするわね、モコも一生ね」
 そのモコを見てまた言った。
「そうするわね」
「いいわね、絶対に」
「そうしていくわ」
「ええ、じゃあまた明日ね」
「一日二回ね」
「お散歩行って来るわね」
「それがいい運動にもなるしね」
 咲にとってもというのだ。
「いいわね」
「そうするわね、入学まであとちょっとの間ね」
「愛ちゃんからもお話を聞いてよ」
「ファッションやメイクも勉強して」
「悪い人や物事のことも知って」
「モコの相手もするわね」
「そうしていきなさい」
 母は娘に言った、そうしてだった。
 自分はモコとおもちゃで遊んだ、モコは咲だけでなく彼女にもよく懐いてそうして尻尾をピコピコと振っていた。


第二話   完


               2021・2・8 

 

第三話 少しずつでもその一

                第三話  少しずつでも
 春休みの間咲は愛と毎日の様に会って色々と話を聞いていた、その中でメイクやファッションの勉強もしていたが。
 愛は咲の今のメイクを見て親指を立てんばかりにして言った。
「いい感じよ」
「いけてるのね」
「ええ、今までで一番ね」
 こう咲に答えた。
「奇麗よ」
「じゃあメイクはこのままね」
「そのまま続けていったらね」
「いいのね」
「咲ちゃんは手早く薄めがいいわね」
「ナチュラルメイク?」
「そう、私もそっちだけれど」
 自分もナチュラルメイク派だがというのだ。
「咲ちゃんもね」
「ナチュラルメイクにして」
「もう手早くね」
「それがいいのね」
「うちのお父さんだって今は髪の毛が薄いけれど」
 愛は笑って家族の話もした。
「昔はオールバックにしてたでしょ」
「そうだったわね」
「あれは骸骨ブラシにジェル塗って一気にだったのよ」
「そうだったの」
「それがいい場合もあるのよ」
「叔父さんオールバックにこだわりあったみたいだけれどね」
「それで今内緒だけれど」
 自分の部屋だがだ、愛は無意識のうちに小声で話した。
「今植毛してるのよ」
「そうなの」
「それで近いうちに増えるから」
 その髪の毛がというのだ。
「お父さんその時はまたね」
「オールバックにするの」
「そう言ってるから」
 それでというのだ。
「待ってろとか言ってるわ」
「そうなのね」
「ちなみに人によるけれど男の人に髪の毛のお話は厳禁よ」
「それ言うと怒るのよね」
「誰だってね」
 そうだというのだ。
「だから叔父さんにもね」
「お父さん髪の毛あるけれど」
「今はね、けれど将来はね」
「わからないのね」
「男の人の髪の毛ってわからないから」
「抜ける時は抜けるの」
「一気にね、遺伝では違ってもスズメバチ何匹かに頭刺されたりしたら」
 その時はというのだ。
「抜けるから」
「蜂の毒で」
「ちなみにこの話の人私の知ってる人で一度に二十数ヶ所刺されたのよ」
「よく生きてたわね」
「何とか血清打って助かって」
「頭それだけ刺されてなの」
「助かったけれど」
 命はそうなったがというのだ。
「髪の毛の方はね」
「抜けたのね」
「その時を境にしてね」
「それは怖いわね」
「こうしたこともあるから」
 それ故にというのだ。
「男の人にはね」
「髪の毛のことはなのね」
「禁句よ」
 絶対に言うなというのだ。
「いいわね」
「そういうことね」
「本気で怒る人いるから」
 実際にというのだ。
「だからね」
「よくわかったわ」
 咲も納得して頷いた。 

 

第三話 少しずつでもその二

「そのことはね」
「そういうことでね」
「それじゃあね」
「それとメイクのことはね」 
 愛はこちらに話を戻してきた。
「後は数をこなしたらね」
「いいのね」
「メイクも経験だから」
 それでというのだ。
「やっていってね」
「わかったわ、それじゃあね」 
 咲も頷いて応えた。
「そうしていくわ」
「そういうことでね、あと下着はいいものをね」
 そうしたものをというのだ。
「色は白でも」
「愛ちゃんもで」
「白でももうこれはっていう恰好いいものをね」
 それをというのだ。
「着けておくことよ」
「見えなくてもなのね」
「見えないところも大事なのよ」
 愛は真面目に答えた。
「脱いでも凄いって心の中にあるだけ違うから」
「だからなの」
「それで下着もよ」
 これもというのだ。
「いいものをね」
「着けるのね」
「そうしたらいいのよ」
「それでも違うのね」
「そうよ、だからね」 
 それでというのだ。
「咲ちゃんもこれからはね」
「下着もそうしていくのね」
「ええ、あとね」
「あと?」
「笑顔を忘れないことよ」
「笑顔なの」
「難しいけれどどんな時でもね」
 こう咲に言うのだった。
「笑顔でいることよ」
「困った時でもなの」
「そう、そんな時でもね」
「笑顔でいることなのね」
「笑顔の方がいいから」
「そうなの」
「顔もそうだし雰囲気もね」
 それもというのだ。
「痩せ我慢でもいいから」
「笑っていることね」
「悪意ある笑いは駄目でもね」
「ああ、よくあるわね」
「悪いことをする人の笑いってあるでしょ」
「歪んでるわね」
「歪んだ笑顔はね」
 これはというのだ。
「駄目よ」
「それはよね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「悪意がある笑顔はね」
「出さないことね」
「そんな笑顔誰も好きじゃないから」
 悪意ある笑顔はというのだ。
「咲ちゃんもそんな笑顔知ってるから言うのよね」
「ええ、正直見ていても嫌よ」
「その人の心の醜さが出てね」
「凄く嫌なものになってるわね」
「政治家でもそんな笑顔見せる人いるでしょ」
「野党の女の人ね」 
 咲もすぐにわかった。
「ネットで標葉悪いわね」
「どうして評判悪いかっていうとね」
「その笑顔のせいでもあるわね」
「性格がね」
 まさにというのだ。 

 

第三話 少しずつでもその三

「そのまま出てるからよ」
「何かそうした人多いわね」
「野党の女の人にはね」
「国会観てるとね」
「ああした人達の笑顔を見てもよ」
 愛は従妹に話した。
「絶対にね」
「そんな笑顔は見せないことね」
「自分の心の醜さを観られて」
 そしてというのだ。
「確実に評価下げるから」
「嫌われるのね」
「絶対にね」
「そうなのね」
「笑顔でもいい笑顔と悪い笑顔があるのよ」
「いい笑顔をいつも浮かべるべきなのね」
「にこりとしたね、そうしたら自分もね」
 愛は咲に笑顔で話した、今の笑顔は明るいものだ。
「明るくなれるから」
「そうなのね」
「笑顔が気持ち悪いとか言う人は無視していいのよ、というか人を無闇に気持ち悪いとか言ったら恨まれるわよ」
「恨みは買うものじゃないわよね」
「誰の恨みでもね。流石に私もこれは経験ないけれど」
 こう前置きしてだ、愛は話した。
「何十年も恨まれたくないでしょ」
「それは極端ね」
「そうでしょ、だからね」
 それでというのだ。
「出来るだけね」
「人からは恨まれないことね」
「だから気持ち悪いとか悪口とか言わないこともね」
「大事よね」
「咲ちゃんは人の悪口言わないけれど」
 それでもというのだ。
「その時は無力な人でも後々わからないでしょ」
「どういった人になるか」
「そう、地位ある人でなくてもツイッターとかで何千人もフォロアーいる人に恨まれたらね」
「大々的に宣伝されるわね」
「そうなったりするから」
「恨まれないことね」
「買っていいのはいいものだけよ」
 愛はこのことは確かな表情で言った。
「悪いものはね」
「恨みね」
「それでいつもにこりとしたね」
「明るい笑顔でいることね」
「そうよ」 
 従妹に今度は明るい声で話した。
「まずはね」
「そういうことね」
「ええ、宜しくね」
「わかったわ、じゃあいつも笑顔でいてね」
「明るいね」
「恨まれることもね」
 このこともというのだ。
「避けていってね」
「誰からの恨みもなのね」
「自分から悪口とか悪いことして恨まれたら」
 そうなればというのだ。
「本当に損だから」
「いじめとか意地悪はしないことね」
「それが第一よ、因果応報でしょ」
「自分の行いは返って来るっていうわね」
「悪いことをしたらね」
「悪いことが返って来るわね」
「そうなるから」
 だからだというのだ。
「最初からしないことよ」
「それがいいのね」
「悪いことはね、まあ人間どうしてもね」
 愛は苦笑して従妹にこうしたことも言った。 

 

第三話 少しずつでもその四

「気をつけていてもね」
「悪いことはしてしまうのね」
「そうよ、何も悪いことしない人間なんてね」
「いないのね」
「生きているとね」
 それならというのだ。
「もうそれだけで悪いこともね」
「するものなのね」
「そうよ、気付かないうちに悪いことをして」
「悪口もなのね」
「言ってね」
 そしてというのだ。
「罪を犯して恨みもね」
「買うのね」
「ええ、けれど気をつけていたら」
 そうしていると、というのだ。
「その分そうしたことをすることが減るから」
「いいのね」
「そう、だからね」
 それ故にとだ、愛は咲にさらに話した。
「本当にいつも気を付けることね」
「そういえば愛ちゃん悪いことしないわね。悪口だってね」
「あまり言わないでしょ」
「私の知ってる限り悪口も悪いこともね」
「これでも絶対にね」
 咲がそう言ってもとだ、愛は返した。
「悪いことしてるし」
「悪口もなのね」
「言ってるわよ、私も」
「そうなのね」
「それが人間だからね」
「今言ってる通りに」
「そうよ、生きてるだけでだから」
 人間はどうしても罪を犯してしまうからだというのだ。
「気をつけないとね」
「そういうことね」
「それで私思うのよ」
 愛は真面目な表情になった、咲はこの従姉が表情豊かであることを知っているが今回は特にだと思った。
「人間自分が悪いことをすると自覚してね」
「気をつけることね」
「それで行いを反省して」
 そしてというのだ。
「気をつけないとね、それでよりよくいい人にならないとってね」
「思うことね」
「ほら、悪人正機説ね」
「教科書で出たわね」
「浄土真宗の教えよね」
「親鸞さんよね」  
 咲も言った、これは歴史の教科書で習ったことだ。
「あの人よね」
「そう、自分が悪いことをしたと自覚している人がね」
「悪人よね」
「そう思っていない人が善人で」
「それでよね」
「悪人こそ救われるべきだってね」
 その悪人正機説を愛は自分なりの解釈で咲に話した。
「言うわね」
「そうよね」
「本当に人は生きてるだけで罪を犯すから」
 だからだというのだ。
「気をつけていってそしてね」
「悪いことをしないで」
「そしてこの場合は仏様だけれど」
 浄土真宗の教えだからだというのだ。
「神様にも助けを求めね」
「救われるべきなのね」
「やっぱりね。咲ちゃん神様とか信じる?」
「まあ一応は」 
 信仰心と言うと咲は自覚がほぼない、だが神や仏の存在は否定するかというとそうでもないのでこう答えた。
「いるとは思うわ」
「だったらね」
「神様や仏様にもなのね」
「助けを求めることよ、人間信仰心もないと」
 それもなければというのだ。 

 

第三話 少しずつでもその五

「どうも駄目みたいだし」
「そうなの」
「北朝鮮って宗教ないでしょ」 
 愛は今度はこの国の話をした。
「そうでしょ」
「そういえばあそこ個人崇拝の国よね」
「あの将軍様へのね」
「それは私も知ってるわ」
「あの国共産主義だしね」
「そうよね」
「何処がってなるけれど」
 階級社会でしかも国家元首は世襲だからだ。
「それで宗教もね」
「否定しているの」
「あるって言う人もいるけれど」
「共産主義はなのね」
「共産主義って宗教否定しているから」
 これはマルクス以来のことだ、この流れはマルクス主義の源流と言っていいジャコバン派からのことである。
「だからね」
「あの国もなの」
「宗教否定して」
「あの将軍様が生き神様なのね」
「あの国を見て私も思ったのよ」
 愛にしてもというのだ。
「やっぱり人って神様や仏様も信じないとね」
「駄目なのね」
「まともな宗教を信じないと」
「あんな人崇拝するとかあるの」
「そうなるかもって思うのよ」
 こう従妹に話した。
「私としては」
「そうなのね」
「ええ、変な人崇拝するより」
「神様仏様を信じる方がいいの」
「そうみたいよ、まあカルトはね」
「それもあるわね、世の中」
「同じ位問題外だけれど」
 個人崇拝ひいては共産主義と同じだけというのだ。
「確かな神様仏様を信じて」
「そうして」
「助けを求めて。あと人は神様仏様の前では小さい」
「確かに小さいわね」
「そうでしょ」
「人間はね」
 咲は考える顔で述べた。
「そうね」
「それでこのことはね」
「頭に入れておくことね」
「いつもね」
「人間は小さくて」
「神様も仏様もいるのよ」
 この世にはというのだ。
「そうなのよ」
「若しそれを忘れたら」
「やっぱり失敗するでしょうね」
「北朝鮮みたいに」
「あんな人崇拝する位なら神様や仏様信じた方がいいでしょ」
「ずっとね」
 咲は即刻答えた。
「それはね」
「そう、だからね」
「神様仏様がこの世にいることもなのね」
「覚えておくことよ、それで何時でも人を見ているのよ」
「お天道様はって言うわね」
「まさにその通りでね」
 咲に対して話した。
「日頃の行いを」
「神様仏様は見ているのね」
「人の行いをね」
「そうなのね」
「だから悪いことをしてもね」
「ばれていて」
「報いがあっていい行いにはね」
 これに対してはというと。 

 

第三話 少しずつでもその六

「いいことがね」
「あるのね」
「そう、だから咲ちゃんもね」
「いいことをすることね」
「出来るだけね、まあ私はね」
 愛は自分のことは笑って話した。
「悪い子だから」
「自分で言うの」
「自覚あるから」
 笑って言うのだった。
「それで何時か天罰が下るわよ」
「まさか」
「自分ではそう思ってるわ、けれど咲ちゃんはね」
「いいことをしていくことね」
「そうしたらいいわ、あと最近モコちゃん元気?」
 今度は咲の家の愛犬のことを聞いてきた。
「最近会ってないけれど」
「元気よ、相変わらずよく食べるし」
 咲は従妹に愛犬のことを明るい笑顔で話した。
「それでお散歩の時もね」
「元気なのね」
「小さい尻尾を動かしてね」
 左右に振ってというのだ。
「いつも楽しんでるわ」
「それは何よりね」
「それで恰好はぬいぐるみみたいで」
「相変わらずそうなのね」
「毛並みもいいわよ」
「可愛がって大事にしてるのね」
「家族全員でね」
「じゃあいいわ、私もモコちゃん好きだし」
 咲の家の家族である彼女をというのだ。
「今度会いに行くわね」
「そうしてね」
「可愛がっていってね、ただね」
「ただ?」
「可愛がっても太り過ぎには注意よ」
 このことにはというのだ。
「いいわね」
「ああ、そのことにはね」
「やっぱりワンちゃんもね」
「太り過ぎにはよね」
「要注意だから」
 それでというのだ。
「そのことにはね」
「注意して」
「一緒にいてね、モコちゃん太ってるかわかりにくいでしょ」
「それね」 
 咲はその通りという顔で答えた。
「実はね」
「気になってるでしょ」
「あの娘小さいし体型がずんぐりしてるから」
「元々ね」
「足が短いからね」
「あの娘トイプードルでも小さい方でしょ」
「タイニーっていうけれどティーカップ位?」
 トイプードルでも小さい方だというのだ。
「それ位よね」
「確かに小さいわね」
「そうでしょ、トイプードルの中でも」
「それであれはドワーフタイプよね」
「足が短いから」
 それでというのだ。
「そうなるわね」
「ええ、そんな体型だから」
 愛は咲に話した。
「余計にね」
「太ってもわかりにくいのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「気をつけてね」
「さもないとわからないのね」
「太ったかどうかね」
「元々そうした体型だと」
「余計にね」
「そうしていくわね、モコはよく動くけれどよく食べるしね」 
 太る心当たりはそれだった。 

 

第三話 少しずつでもその七

「それじゃあね」
「そう、食べてもいいけれど」
「よく運動させることね」
「そうよ、モコちゃんも運動好きでしょ」
「大好きよ、お散歩もして」
 そしてとだ、咲は笑って答えた。
「そしてね」
「お家の中でも遊んで」
「運動してるのね」
「いつもね」
「それならいつもよ」
 それこそというのだ。
「あの娘はね」
「それはいいことね」
「逆に元気過ぎて」
 それでというのだ。
「やんちゃして怪我したりとか」
「それが心配なのね」
「だから気をつけてもいるわ、ジャンプして」
「足挫いたり?」
「それもあるけれど衝撃で」 
 ジャンプして着地した時のそれでというのだ。
「足首とか膝をね」
「痛めることね」
「そのことも心配しているの」
「トイプードルって活発だからね」
「犬の中でもね」
「そうよね」
「猫ちゃんより小さいけれどね」
 多くの種類の猫よりはだ、スコティッシュフォールドの雄と比べると杯以下の体重しかない個体も多い。
「それでもね」
「猫ちゃん並に動くこともね」
「あるから」
 それでというのだ。
「身体もね」
「痛めることもね」
「あるから」
「そう、注意しないとね」
 それこそとだ、愛は咲に話した。
「怪我するわよ」
「そうよね」
「私が見てもね」
「やっぱりトイプードルの子って元気よね」
「ユーチューブの動画を観ても」
「よく動くわね」
「お部屋の中を走り回って跳び回って」
 その様にしてというのだ。
「動き回るわね」
「おもちゃでもよく遊ぶし」
「モコもなのよ」 
 咲は愛に言った。
「実際にね」
「走り回って跳び回って」
「おもちゃでもよく遊んでお散歩でもね」
「元気よね」
「そんな娘なの」
「だったら余計にね」
「注意しないと駄目ね」
「ワンちゃんを怪我させたら」
 家で飼っているつまり家族をというのだ。
「よくないわよ」
「そうよね」
「だからね」
 それでというのだ。
「くれぐれもよ」
「そうしたことも見ないと駄目よね」
「飼育放棄とか論外だけれど」
 それでもというのだ。
「可愛がっていてもね」
「その子が怪我しない様に注意する」
「そのことは人間と同じよ」
「同じ命ね」
「そう、だから咲ちゃんもね」
「モコのそうしたところも注意して」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。 

 

第三話 少しずつでもその八

「注意していってね」
「そうしていくわ」
 咲は従妹に確かな声で約束した。
「そうさせてもらうわね」
「ええ、それで私もまたね」
「うちに来て」
「モコちゃんに会うわね」
「待ってるわね、じゃあメイクとかファッションは」
「これからもね」
「勉強していくわ」
 こう言ってだった。
 咲は愛と再びこちらの話もした、そしてだった。
 家でも勉強を続けた、それで彼女の父は夜会社から帰るとリビングでファッションやメイクの雑誌を読んでいる彼女を見て言った。
「お前も漫画やライトノベル以外の本読む様になったんだな」
「うん、やっぱりね」
 目を雑誌に向けたまま答えた。
「これからはね」
「ファッションとかメイクとかか」
「大事だから」
 それでというのだ。
「だからね」
「そうしてなのね」
「ちゃんと見て」 
 そしてというのだ。
「そのうえでね」
「勉強しているんだな」
「そうなの、それで実際にメイクとかファッションもね」
「やっていってるか」
「愛ちゃんともお話してね」
「そうなんだな、お前も変わったな」
 父は背広の上を脱いでネクタイを外しながら言った。
「卒業してから」
「まあそれはね」
「自分でもなの」
「思うわ」
「そうだな、まあ女の子はそういうのも大事だしな」
「人は外見じゃないっていうけれど」
「どうしてもな」
 このことはというのだ。
「事実だしな」
「それじゃあね」
「頑張れよ」
「こっちもね、勿論他のこともね」
「勉強だってな」
「大学行きたいしね」
「お前元々成績いいけれどな」
 それでもとだ、父は娘に言った。
「やっぱり勉強はしないとな」
「よくならないわね」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「そこはな」
「高校に入ってもね」
「ちゃんとしろよ」
「わかったわ」
「まあ大学はな」
 父は進路のことも話した。
「何処に行くかはな」
「それはなのね」
「じっくり考えたらいいさ」
 こう言うのだった。
「受験までの間な」
「焦ることはないのね」
「東京の大学でもいいし他のところの大学でもな」
「いいのね」
「別にな、父さんだって東京で生まれ育ってるけれどな」
「お父さん八条大学だしね」
「神戸の大学だからな」
 自分にしろそうだからだとだ、彼は娘に笑って話した。
「それで楽しかったしな」
「それでなのね」
「もう東京に限らないで」
「じっくり選べばいいのね」
「ああ、受験までに」
 その時までにというのだ。
「考えたらいいさ」
「そうなのね」
「ああ、それとな」
 父は自分の席に座ってからサランラップで覆われている自分のおかずを出した、そしてご飯も入れつつ言った。 

 

第三話 少しずつでもその九

「どうも父さん店長やるかも知れないな」
「店長って?」
「店長ってガソリンスタンドだよ」
 娘にいただきますをしてから答えた。
「父さんは八条石油で働いているからな」
「それは知ってるけれど」
「だからお店っていうと」
「ガソリンスタンドね」
「それで父さんまだ店長やったことないから」
 それでというのだ。
「今度な」
「やるかも知れないのね」
「お店には若い時にいたしな」
 ガソリンスタンドにはというのだ。
「その経験もあるということで」
「店長さんになのね」
「なるかもな」
「お父さんが店長さんね」
「ああ、ただどのお店でやるかは」
 このことはというと。
「まだやるかもでは」
「わからないのね」
「ただお父さんは関東担当だからな」
「関東からは離れないのね」
「まあ東京か神奈川だな」
 おかずの鮭のムニエルでご飯を食べつつ言った。
「店長やるにしても」
「近くね」
「東京が一番お店多いしな」
「人も一番多いしね」
 それも日本全体の話でだ、
「だからなのね」
「ああ、お店はな」
「東京の可能性が高いのね」
「ずっと東京担当で働いて来たしな」
「なら問題ないのね」
「それか神奈川だな」
 東京でなければというのだ。
「あちらも知っているし」
「問題なしね」
「ああ」
 全くとだ、娘に食べながら答えた。
「だからはじめての店長にしても」
「不安はなしね」
「そうだ、流石に群馬はないだろうな」
「群馬って」
 そう聞いてだ、咲はどうかという顔になって言った。
「もうね」
「ああ、想像がつかないだろ」
「ちょっとね」
「同じ関東でもね」
「群馬だけじゃなくて」
 ファッション雑誌を読みながら父にさらに言った。
「栃木とか茨城もね」
「想像出来ないな」
「ちょっとね」
「ずっと東京にいるとそうだな」
「ええ」
 こう父に答えた。
「地域差別する訳じゃないけれど」
「東京にいたらな」
 どうしてもというのだ。
「わからないな」
「そうよね」
「父さんもだ、ずっと東京にいるからな」
 それでとだ、父も答えた。
「それでな」
「そうした場所に行くとかも」
「想像出来ないな、あと埼玉もな」
「埼玉って隣じゃない」
 咲は父にすぐに言った。
「それもね」
「このお家がある足立区の隣だな」
「もうすぐそこじゃない」
 それこそというのだ。 

 

第三話 少しずつでもその十

「埼玉って」
「いや、それでも父さん達から見ればな」
 その時はというのだ。
「もうな」
「それこそなの」
「埼玉はもうな」
「あまり、な場所なのね」
「どうしてもそうした意識はあるな」
「そうなのね」
「そう、だからやっぱり東京だな」
 働くならというのだ。
「ガソリンスタンドもな」
「そうなのね」
「まあそこからな」
 それでというのだ。
「店長になってもな」
「そんなになのね」
「不安じゃないな」
「東京ならいいのね」
「東京なら地元だからな」
 それ故にというのだ。
「もうな」
「いいのね」
「やっぱり父さんは東京の人間だ」
「江戸っ子?」
「いや、江戸っ子っていうとな」
 父はその表現についてはどうかという顔になって述べた。
「葛飾とかだろ」
「下町ってこと?」
「ああしたところに三代住んでな」
「言われるの」
「そうだろうな、あとチャキチャキの江戸っ子とか言ってな」
「もうその表現死語でしょ」
「まだ言う人いるだろ、それでそう言っていてな」
 自分をというのだ。
「自分は飄々としているつもりで自己中心的で陰湿で底意地が悪いのが出てな」
「江戸っ子のイメージじゃないじゃない」
「ああ、凄い嫌な奴になってる先輩もいたな」
「そうだったの」
「昔職場にな」
「その人嫌われてたでしょ」
「人好きはしなかったな」
 実際にとだ、父も否定しなかった。
「目も笑ってなかったしな」
「目ね」
「ああ、いつもな」
「お姉ちゃん人の目には気を付けろって言ってたけれど」
「愛ちゃんか」
「この前ね」
「それはその通りだぞ、目が笑っていなかったり濁っているとな」 
 そうした目の人はというのだ。
「近寄らない方がいいな」
「それで近寄って来てもよね」
「信用するなよ」
「絶対によね」
「ほぼ確実に悪い人だからな」
「それお姉ちゃんも言ってたから」
 愛もというのだ。
「はっきりね」
「そうだろうな、愛ちゃんもいいこと言うな」
「お姉ちゃん色々わかってるわね」
「派手だけれどな」
 ファッションやメイクはだ、父はここでも愛のそうしたところは気になってそれで言ったのである。
「そうみたいだな、それで実際にな」
「目を見ることね」
「その通りだ」
「あと人相も言われたけれど」
「人相も生き方が出るからな」
「それもお姉ちゃん言ってたわ、ヤクザ屋さんはね」
 愛に言われたことをまた話した。 

 

第三話 少しずつでもその十一

「そうした生き方だからね」
「人相が悪くなるんだ」
「そうよね」
「だからそういうのを見てな」
「人と付き合うことね」
「そうするんだぞ、しかしな」
 父は何時の間にか焼酎を出していた、それをロックで飲みつつ言った。つまみも出していてそれはピーナッツだった。
「東京だといいけれどな」
「お店は?」
「神奈川もな、それで千葉もまだな」
「いいの」
「千葉市とかはな、ただ埼玉はな」
「埼玉近いのに」
「お父さん達の頃は埼玉は田舎扱いだったんだ」
 娘にこのことを話した。
「実はな」
「田舎って」
「埼玉県民はその辺りの草でも食ってろとか言うだろ」
「それ漫画の台詞じゃない」
 咲は即座に返した。
「確か」
「本当にそんな扱いだったんだよ、埼玉は」
「そうだったの」
「西武ライオンズもな」
 このプロ野球の球団もというのだ。
「どれだけ強くてもな」
「人気ないとか?」
「周りに西武ファンの娘いるか」
「あれっ、殆どいないわ」
 咲も言われてこのことに気付いた。
「そういえば」
「そうだろ」
「ヤクルトか横浜で」
「阪神も多いだろ」
「もう全国区だしね」
「それでパリーグは何処だ」
「日本ハムとか楽天?」
 ヤクルトファンの咲はパリーグのことには詳しくない、それで首を傾げさせつつそのうえで言った。
「一番多いのはロッテね」
「あそこは地元千葉だからな」
「関東だしね」
「日本ハムも昔は東京が本拠地だったんだ」
「私が生まれる前に北海道に行ったのよね」
「そうなったからな」
 それでというのだ。
「今は北海道だけれどな」
「昔は東京に本拠地あったのね」
「東京ドームだったんだ」
「そうだったの」
「ああ、それで西武ファンいるか」
「今言ったけれど殆どよ」
「そうだな、実はな」
「西武って人気ないの」
「お父さんが子供の頃滅茶苦茶強かったけれどな」 
 八十年代から九十年代中頃までだ、文字通り獅子の時代と言っていいまでに西武の強さは圧倒的だった。
「けれどな」
「人気はなかったのね」
「どんなに強くてもな」
「ソフトバンク強くて人気あるのに」
「九州じゃ凄いな」
「圧倒的よね」
 強さだけでなく人気もというのだ。
「話を聞くと」
「そうだな、けれど西武はな」
「人気なかったの」
「昔からな」
「そうだったのね」
「それで埼玉県もな」
「田舎扱いだったの」
「もうネタにされっぱなしだったんだ」 
 自分が若い頃はというのだ。 

 

第三話 少しずつでもその十二

「そんなところだったからな」
「埼玉には行きたくないの」
「ああ」
 焼酎を飲みながら肯定した。
「どうもな」
「じゃあ群馬とかは」
「もっと嫌だな」
 酔っているので本音がそのまま出た。
「茨城も栃木もな」
「嫌なのね」
「遠いからな」
 東京からはというのだ。
「通えないしな、家からだと」
「単身赴任よね」
「ああ、お前と母さんは東京に残ってな」
 そうしてというのだ。
「父さんはな」
「そこで単身赴任ね」
「それも、だからな。千葉県の先の方でもそうなるな」
「館山とかだと」
「そうなるな、けれどまだ単身赴任の方が踏ん切りがつくか」
「もうそれならって」
「かえってな」
 そうなると、というのだ。
「まだな」
「じゃあ群馬や茨城はなの」
「栃木もな」
「埼玉よりはなのね」
「そうかもな」
「何処まで埼玉嫌なの?」
「気持ちの問題だな」
 娘に焼酎を飲みながら話した。
「それは」
「埼玉だからなの」
「結局はそうか」
「本当に埼玉嫌いなのね」
「嫌いというか気分の問題だ」
「その辺りの草でもっていう」
「あと埼玉埼玉って言ったりな」
 これはインターネットのスラングにもなっている、何故か埼玉県はこちらでも人気になっているのだ。
「それでだ埼玉とかく埼玉とかな」
「言われてるから」
「だからな」
「嫌なのね」
「東京がいいな」
「ううん、そんなに東京っていいかしら」
「あちこち行ってみればわかるさ。お前も」
 父は咲に笑って話した。
「東京で生まれて育ったならな」
「やっぱり東京が一番だって」
「そのことがな」
「そういうものなのね」
「ああ、本当にな」
 父は焼酎を飲みつつ咲に応えた、そうしてだった。
 咲はその父との会話を終えるとまた雑誌に目をやった、そうしてファッションのこともメイクのことも学んでいった。


第三話   完


                  2021・2・15 

 

第四話 家でこっそりとその一

                第四話  家でこっそりと
 四月に入り入学式が間近に迫ってきていた、その中で咲の母は愛が家に来た時に姪である彼女にどうかという顔で言った。
「今日もね」
「お洒落でしょ」
「それは派手って言うの」
 こう言うのだった。
「愛ちゃんの場合はね」
「こういうのがいけてるのよ」
「どう見てもギャルじゃない」
 それもかなり派手な部類のというのだ。
「どう見ても遊んでる娘よ」
「実際遊んでるしね」
「そうよね、まあ悪い遊びはしてないから」
「いいわよね」
「相変わらずカラオケとかショッピング行ってるのね」
「そうよ、それでお酒もね」
 こちらもというのだ。
「飲んでるわよ」
「そっちは程々にしなさいね」
「私お酒強いけれどね」
「それでもよ」
 酒のことはというのだ。
「あまりね」
「飲まないことね」
「飲み過ぎは毒だから」
「よく言うわよね」
「事実そうだから」
 姪にさらに言った。
「愛ちゃんもお酒はね」
「程々っていうのね」
「それでね」
「ファッションはっていうのね」
「全く。いつも派手なんだから」
 あちこちにアクセサリーを付けてかなり短いスカートに赤いストッキングのそれを見て言うのだった。上着のシャツもかなり目立つ柄だ。
「傾奇者じゃないのよ」
「前田慶次さん?」
「そうよ、そうした感じじゃない」
「それはいいわね」
「何処がいいのよ、傾奇者じゃなくてね」
 姪にムッとした顔で話した。
「普通にお洒落じゃないの」
「私そういうの好きじゃないから」
「全く。昔からそうなんだか」
「それじゃあガングロはどうかな」
「好きにしなさい。それで今日はどうして来たの?」
「咲ちゃんいる?」
 愛は叔母に問うた。
「遊びに誘いに来たけれど」
「咲は今本屋さんに新刊買いに行ってるわよ」
「そうなの」
「もう少ししたら帰って来るわ」
「帰って来たらね」
 愛はそれならと言った。
「一緒にカラオケにね」
「誘うの」
「そう、それでお酒もね」
「咲まだ未成年でしょ」
 母として言った。
「駄目でしょ」
「まあ十五歳だし内緒ってことで。それに咲ちゃんも飲んだことあるでしょ」
「親戚の集まりの時にこっそりね」
「だったらいいってことで」
 それでとだ、愛は笑って言った。
「煙草じゃないんだし」
「愛ちゃん煙草は吸わないわね」
「好きじゃないのよね、煙草は」 
 愛はそれはと答えた。
「だからね」
「吸わないのね」
「叔母さんも叔父さんもでしょ」
「ええ」
 愛にその通りだと答えた。 

 

第四話 家でこっそりとその二

「それはね」
「うちもそうだから」
「愛ちゃんもなのね」
「煙草はね」
 それこそというのだ。
「吸わないのよ」
「そうなのね」
「だから咲ちゃんにもね」
「煙草は勧めないの」
「お酒だけよ」 
 あくまでというのだ。
「本当に」
「そうなのね」
「本当によ」
 愛はさらに言った。
「カラオケに行っても」
「お酒だけなのね」
「ジュースも勧めるけれどね」
「ジュースについては何も言わないわよ」
 母もこう返した。
「別に」
「そうなのね」
「けれど未成年にお酒は」
「大丈夫よ、夜だし」
 飲む時はというのだ。
「お昼から飲むとか言わないから」
「朝もなのね」
「朝に飲むなんて北条氏康さんじゃないから」
 この戦国大名は阻喪をすることが少ないので酒は朝に飲むのがいいと言ったことが歴史に残っている。
「言わないわよ」
「朝酒は人間として駄目よ」
「私もそう思ってるからね」
「それは言わないのね」
「お酒は夜に飲むものよ」
 これは絶対だというのだ。
「本当にね」
「夜ね」
「カラオケ行って」
 夜にというのだ。
「それでよ」
「お酒も飲んで」
「帰るのよ」
「そうするのね」
「そう、私も一緒だしいいでしょ」 
 愛はこうも言った。
「そうでしょ、何ならお家で飲む?」
「ここで?」
「そうしてもいい?」
「止めてもするでしょ」
 愛の性格を知ってだ、母は言った。
「そうするでしょ」
「私のお家でね」
「全く。お酒だけならいいわ」 
 ここで折れ時だと思ってそうした。
「煙草も麻薬も他の悪い遊びも駄目よ」
「そういうのは勧めないから」
 愛もそこは笑って否定した。
「安心してね。というかそういうことをしないことを教えるのもね」
「愛ちゃんのすることっていうのね」
「だからね」
「お酒だけね」
「ええ」
 まさにというのだ。
「そういうことだから」
「咲、あまり飲まないでね」
 今度は自分の娘に言った。
「いいわね」
「お酒なら時々飲んでるけれどね」
「時々でもいつもは駄目でしょ」
 娘に常識を話した。
「そうでしょ」
「それはね」
「まだ十代なんだから」
 即ち未成年だからだというのだ。
「大人になっても毎日はよ」
「駄目よね」
「お酒は過ぎたら毒になるから」
 それ故にというのだ。 

 

第四話 家でこっそりとその三

「だからよ」
「やっぱりそうよね」
「毎日は駄目よ、あと飲んでもね」
「程々になのね」
「飲み過ぎたら肝臓壊すし」
 沈黙の臓器という、痛んだりしないのでついつい飲み過ぎて身体を壊してしまうことが多いのでこう言われている。
「糖尿病や痛風にもよ」
「なるの」
「日本酒は糖分が多いから」
 これはお米から造られるからだ、糖分が高いという意味ではジュースと同じだ。
「それでよ」
「糖尿病になって」
「それでビールはプリン体が覆いから」
 痛風の素である。
「それで危ないのよ」
「痛風になるのね」
「そう、だからね」
「お酒は飲み過ぎないことなのね」
「若し飲み過ぎたら」
 その時はというと。
「本当によ」
「危ないのね」
「そう、だからね」
「飲んでも飲み過ぎない」
「お父さんだって気をつけてるから」
 彼もというのだ。
「お母さんだってそうだしね」
「お母さんもお酒飲むわよね」
「あくまで程々よ、黒田清隆さんにならない様にしてるわ」
「確か明治の元老の」
 咲は漫画やライトノベルで得た知識から述べた。
「あの酒乱の」
「色々言われてるでしょ」
「酔って奥さん殺したとか大砲撃ったとか」
「ああなるまいってね」
「思ってなのね」
「そう、お母さん学生時代この人のことを聞いてね」
 それでというのだ。
「お酒は飲んでもね」
「あまりなのね」
「飲まない様にしているの」
「そうなのね」
「だから咲もよ」
「お酒を飲む様にしても」
「そうしてね、確かにうちでもお父さんがちょっと飲ませたりもしているけれど」
 母はこのことも話した。
「けれどあくまでね」
「少しってことね」
「愛ちゃんお酒好きでしょ」
「わかる?」
「わかるわよ。今楽しそうにお話してるし」 
 酒のそれをというのだ。
「それじゃあ丸わかりよ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「叔母さんも今言うのよ」
「そうなのね」
「まあお酒位ならいいわ」
 妥協も見せた。
「まだね」
「言っておくけれど私ギャンブルとか援助交際とかね」
「悪いことはっていうのね」
「しないし教えることもね」
「ないわね」
「ギャンブルと援助交際は別だけれど」
 ギャンブルは競馬や競輪等公のものもある、ただし援助交際は言うまでもなく違法行為であるからだ。
「風俗にも興味ないし」
「女の子で風俗?」
「ホスト遊びが結構近い?」
「あんなのハマる人の気が知れないわ」
「私もよ。だからね」
「咲にそういうのもなのね」
「教えないし。カラオケでね」
 その店でというのだ。 

 

第四話 家でこっそりとその四

「歌ってね」
「そのついでにお酒飲むのね」
「それ位よ」
「それ位ならいいわ」
「そういうことでね、特に麻薬やシンナーはね」
「何があってもよね」
「しないし誰にもね」
 それこそというのだ。
「教えなくて咲ちゃんにもだから」
「まあお酒ならまだいいわね」
「そういうことでね。煙草だって吸わないから」
「じゃああまりよ」
「ええ。じゃあ咲ちゃん借りるわね」
「借りるって大事な娘だけれど」
「一緒に遊びに連れてくわね」
 叔母に言われてだった、愛は自分の言葉を笑って訂正させてそのうえで咲を連れて地下鉄のある駅前に出てだった。
 丁度外に出たところにあるカラオケボックスを見て咲に言った。
「このお店いいのよ」
「お姉ちゃんのお勧めね」
「お部屋奇麗で料金も安くて曲も多くてね」
「そうした機種でなのね」
「しかも音声変換も出来るのよ」
「あっ、声を男の人にしたり」
「そうそう、あと採点機能もあるし」
 そうした機能が充実していてというのだ。
「それにお酒も飲み放題だし」
「お酒もなの」
「これ内緒よ」
 咲の母には話しているが咲にはこう言った。
「お酒を飲むのはね」
「いいの?」
「だから内緒なのよ」
 このことを断った。
「あくまでね」
「ジュースを飲むっていうのね」
「ジュースも頼むし私も飲むから」
 それでというのだ。
「だからこのことはね」
「あえてなのね」
「内緒ってことでね」
「飲むのね」
「そのお酒も色々あるから」
「ビールとか焼酎とか?」
「いやいや、サワーとかカクテルとかあるから」 
 愛は笑ってこうした酒の話をした。
「それもここの結構強いのよ」
「そうなの」
「お店によってはジュースと変わらないところもあるけれど」
「このお店は違うの」
「結構強いから」
「酔うのね」
「そう、そのお酒も飲み放題だから」
 それでというのだ。
「どんどん飲んでね、サワーとかカクテルとかは甘いから」
「甘いの」
「ジュースみたいにね、だから飲みやすいから」
 従妹に笑って話した。
「どんどん飲んでいきましょう」
「内緒で」
「お酒位はおおっぴらじゃないといいのよ」
「そうなの」
「学校で飲む筈ないしね、こうしたお店で大人の人が一緒とかね」
 二十歳以上の者がというのだ。
「お家でとかじゃね、煙草学校に持って行ったら停学最悪退学だけれど」
「お酒はいいの」
「だから学校で飲むものじゃないでしょ、二日酔いはしんどいってことにするか朝にお風呂入って抜いて」
 二日酔いの際の対処方法も話した。
「そうしたらいいから」
「飲み過ぎたらなの」
「その時はお風呂よ、一気にあったまって」
 湯舟でそうしてというのだ。 

 

第四話 家でこっそりとその五

「頭から冷たいシャワー浴びて冷やして」
「それでお酒抜けるの」
「またお湯に入ったらね」
「それでなの」
「もう嘘みたいにね、私だって二日酔いの時はそうしてるのよ。旅行の時だってね」
 この時もというのだ。
「いつも物凄く飲むけれど」
「それでもなの」
「そうしてね」
「お酒を抜いて」
「一日はじめてるのよ」
「二日酔いにはお風呂なの」
「そのこと覚えておいてね、次の日学校ならもう朝早く起きて意地でもお風呂に行って入ったら」
 湯舟、そこにというのだ。
「本当に復活するからね」
「いいのね」
「そうよ、じゃあ飲むわよ」
「歌いながら」
「カラオケは行ったことあるでしょ」
「ええ」
 従妹にすぐに答えた。
「何度もね」
「そうでしょ」
「もうね」
「そうでしょ、慣れてるわね」
「近所のお店だけれど」
 家のというのだ。
「そうだったわ」
「そうね、じゃあ歌って」
「それでなのね」
「お酒もね」
 こちらもというのだ。
「飲みましょうね」
「内緒で」
「今からね」
「それじゃあ」
 咲は愛の言葉に頷いた、そうして店に入った。勘定は愛は自分が金を持っているからと言って笑顔で出してだった。
 フリータイム飲み放題で入った、そして。
 歌いながら注文もした、その注文は。
「カルピスなの」
「そう、カルピスサワーね」
 愛は咲に笑顔で話した。
「これが滅茶苦茶甘くて美味しいのよ」
「甘いの」
「カルピスよ」 
 だからだというのだ。
「それでね」
「甘くて」
「それで飲みやすいから。咲ちゃん甘いの大好きでしょ」
「カルピスもね」
「じゃあまずはね」 
 一杯目はというのだ。
「それを飲んで」
「それでなのね」
「二杯目もいきましょう」
「歌いながら」
「そうしていきましょう」
「それじゃあね」
「二人で楽しみながらね」
 愛は笑顔で言ってだった、早速歌いはじめた。愛は人気のアイドルグループの歌を歌い咲はアニメソングだったが。
 愛はその咲に笑って言った。
「アニソンもいいから」
「歌っていいの」
「もう好きな歌をね」
 それをというのだ。
「歌っていいの」
「そうなのね」
「ええ、私は今アイドルの歌を歌ってるけれど」
 愛は自分の話もした。
「実は特撮の曲もね」
「歌うの」
「アニメもね。演歌だって歌うわよ」
「演歌も?」
「そうよ、そっちもね」
 咲に笑って話した。 

 

第四話 家でこっそりとその六

「私歌うのよ」
「そうだったの」
「いいと思った曲はね」 
 それこそというのだ。
「何でもなのよ」
「そうなのね」
「オペラの曲もあるし」
「あっ、あるわね」
 咲は曲の入力ナンバーが書かれたファイルにクラシックも観て言った。
「何か」
「そこに乾杯の歌とかあるでしょ」
「ええと、ヴェルディって」
 その作曲者の名前も観て言った。
「教科書に出てたわね」
「音楽のね」
「椿姫って」
「そのオペラの曲もね」
「歌うの」
「それデュエットだから」
 二人で歌う曲だというのだ。
「だからね」
「歌うのなら」
「一緒に歌おうね」
「わかったわ、それとだけれど」
 咲は座ってカルピスサワーを飲んだ、それで言った。
「確かに甘くてね」
「美味しいでしょ」
「ええ、今度はね」 
 メニューを見て言った。
「オレンジサワーをね」
「飲むのね」
「そうしていい?」
「ええ、私も私で頼むしね」 
 愛は歌を入れつつ言った、入れたのはその乾杯の歌だった。
「注文したらいいわ」
「それじゃあね」
「それとね」
 愛はさらに言った。
「カルーアミルクもね」
「このお酒もなのね」
「飲んだらいいわ」
「そのお酒も甘いの」
「かなりね、だから甘いものが好きなら」
 それならというのだ。
「飲んでね」
「それじゃあね」
 咲は頷いて二人で一緒に注文した、そしてデュエットの曲も歌った。それからオレンジサワーも飲んでだった。
 そこからも飲んだ、そして十杯程飲んだが。
 咲はここでこんなことを言った。
「何か少しね」
「酔った?」
「ええ、甘いお酒っていいわね」
「そうね、ただ咲ちゃん強いわね」
「そうかしら」
「ここのお酒強めなのよ」 
 このことを言うのだった。
「そうなのよ」
「そうだったの」
「けれど十杯飲んで」
「平気だけれど」
「それは強いわね」
「まだまだ飲めそうな感じよ」
 咲は実際に今飲んでいるライチサワーをジュースの様に飲みつつ答えた、ロックがあっという間になくなった。
「これ位はね」
「咲ちゃん酒豪だったの」
「そうかしら」
「叔父さんか叔母さんよく飲むの?」
「お父さんウイスキー一本空けて平気よ」
「ああ、それは結構な」 
 愛は自分にとって叔父にあたる咲の父の話を聞いて述べた。
「じゃあ叔父さんの血ね」
「そうなの。お母さんもそれ位だけれど」
「じゃあ両親の血ね」
 愛は自分の言葉を訂正して述べた。 

 

第四話 家でこっそりとその七

「そうなるわ」
「そうなのね」
「日本人って全然飲めない人もいるけれどね」
「下戸っていう人ね」
「そう、織田信長さんとかね」
 愛は歴史上のこの人物の名前を出した。
「昭和天皇もだったし」
「あの方もなの」
「どうもそうらしいわ」
「そうだったのね」
「それで織田信長さんはね」
 愛は再びこの人物のことを話した。
「如何にも飲みそうでしょ」
「それも酒乱でね」
「色々逸話があるから」
「ええ、私もそんなイメージだったわ」
「それはイメージで実は短気でもなかったし」
 信長といえばそのイメージがあるが、というのだ。
「悪人は容赦しなかったけれど不要な血は望まなかったの」
「必要なだけ殺してたのね」
「そうよ、処刑も当時としては普通のものだったし」
「そんな人だったのね」
「ええ、それで実は甘党で」
 本題の酒の話もした。
「お酒はちょっと飲んでそれ以上はだったそうよ」
「物凄く意外ね」
「そうでしょ、けれど本当にね」
 織田信長、彼はというのだ。
「お酒はね」
「飲まなかったの」
「そうよ、あと野球関係だと西本幸雄さんとか野村克也さんとか」
「監督だった人達ね」
「この人達もそうだったらしいわ」
「私お二人共詳しく知らないけれど」
「野村さんヤクルトの監督でしょ」
 愛は咲の贔屓のチームがこのチームであることから言った。
「あの人ヤクルトの監督でもあったでしょ」
「いや、その頃のヤクルトその目で観てないから」
「詳しくないの」
「西本さんもね。パリーグ詳しくないし」
「西本さんは阪急や近鉄お監督だった人よ」
「どちらも関西の球団だったわね」
「それぞれのチームを優勝させたのよ」
 他には大毎の監督も務め優勝させている。
「怒ったら物凄く怖くてね、鉄拳制裁も出す」
「殴るの」
「そう、それでも有名だったのよ」
「星野さんみたいな人だったの」
「星野さんよりずっと怖かったみたいよ」 
 西本幸雄という人についてこう話した。
「どうもね」
「そうだったの」
「それでこの人達もね」
「お酒飲めなかったの」
「そうらしいわ」
「それでそれは体質なのね」
「弥生系の人はアルコール分解する酵素か何かがないらしいのよ」 
 愛はその原因も話した。
「縄文系の人はあるけれど」
「じゃあ信長さんは弥生系の人なのね」
「皇室もその血が強いってことね」
「それで西本さんや野村さんも」
「ええ、けれど咲ちゃんは強いから」
 それでというのだ。
「縄文系の血が強いんかもね」
「それでお酒強いの」
「今そう思ったわ」
「そうなのね」
「まあ強くても気をつけてね」
「お酒には」
「そう、飲み過ぎたら身体壊すから」
 それでというのだ。
「アルコール中毒とか痛風とか糖尿病とかね」
「怖い病気ばかりね」
「肝臓壊したりね」
「毒なのね」
「お酒はお薬にもなって毒にもなるのよ」
 その両方の属性を備えていることも従妹に話した。 

 

第四話 家でこっそりとその八

「神変鬼毒って言うけれどね」
「何か漫画で読んだわ」
「酒呑童子よ」
「あの大江山の鬼ね」
「創作じゃよく出てるでしょ」
「私も読んだわ、そうした漫画」
 咲も答えた。
「ライトノベルではなかったと思うけれど」
「咲ちゃんがこれまで読んだライトノベルではなのね」
「けれどゲームではね」
 今までプレイしたそれではというのだ。
「あったわ」
「じゃあこの言葉も聞いたことあるでしょ」
「記憶にあるわ」
「これは人間でも同じでね」
「程々ならお薬で」
「飲み過ぎたら毒になるのよ」 
 こう変わるというのだ。
「つまりはね」
「よく飲み過ぎでってあるわね」
「そうでしょ」
「ええ、身体壊すとか」
「これは実際にだから」
 愛はさらに注文をしてからまた話した。
「人間でもね」
「だからなのね」
「そう、注意しないとね」
 さもないと、というのだ。
「酒呑童子になるわよ」
「毒に苦しむのね」
「流石にそこを討たれないけれど」
「今の日本だとね」
「新選組じゃないから」
「ああ、新選組ね」
 咲はここでまた反応を見てた。
「ライトノベルでも漫画でもね」
「滅茶苦茶出てるでしょ」
「もう幕末っていったら」
 それこそというのだ。
「坂本龍馬さんと並ぶスターだから」
「それで咲ちゃんも知ってるわね」
「よくね、隊長全員言えるわよ」
「一番から十番まで」
「参謀さんや初代局長さんもね」
「その参謀さんと初代さんそれでしょ」
 まさにとだ、愛は話した。ここで注文した酒が来た。そして二人共それを飲みつつ曲を入れてあらためて話した。
「お酒飲ませて」
「後でね」
「暗殺だったわね」
「そうだったのよね」
「初代局長さんは芹沢鴨さんで」
 愛はさらに言った。
「参謀さんが伊東甲子太郎さんね」
「お二人共強かったけれど」
「飲ませてその後で」
「闇討ちとか待ち伏せして」
「そうだったわね」
「ええ、何かね」
 ここで咲はこう言った。
「ある人に言われたけれど新選組ってヤクザ映画みたいらしいのよ」
「極道?」
「裏切り裏切られで」
「武士じゃなくて」
「自分達は武士って言ってても」 
 その厳しい法度も武士道故だった。
「もう中で殺し合い外で殺し合いで」
「中でもだから」
「それも裏切り裏切られで」
 咲はまたこの言葉を出した。
「闇討ちとかばかりで」
「そう言われるとね」
「お姉ちゃんも思うでしょ」
「いや、私ヤクザ映画観ないから」
 それでとだ、愛は答えた。 

 

第四話 家でこっそりとその九

「ちょっとね」
「わからないの」
「血生臭いとは思うけれど」
「私も知らないわよ」
 咲は咲でこう答えた。
「ヤクザ屋さんの世界は」
「そうでしょ」
「あの動画観たけれど」
「あれは悪い人達のサンプルでね」
「お姉ちゃんも観たことはないの」
「映画はね。というかヤクザ屋さんイコール悪い人で」
 それでというのだ。
「中の世界がどうとか抗争とか」
「知らないの」
「悪事の種類は頭に入れてるけれど」
 それでもというのだ。
「これといってね」
「映画は知らないのね」
「創作とかはね」
「それで中のやり取りも」
「そうなの」
「ええ、けれど新選組ってそうなのね」  
 愛はマイクを持ったまま言った。
「武士じゃなくて」
「何でもね」
「ヤクザ屋さんみたいなのね」
「そう聞いたわ」
「成程ね、まあ殺し合いばかりだしね」
「池田屋もそうだしね」
「それで中でも粛清ばかりでね」
 それでというのだ。
「血生臭いのは確かね」
「恰好よくてもね」
「それね、実際はね」
 新選組のそれはというのだ。
「やっぱり理想とかに燃えてるんじゃなくて」
「幕府への忠義とか武士道とか」
「それよりもね」
「もっと人間同士がぶつかって」
 そしてというのだ。
「エゴとかも剥き出しで」
「必要なら殺し合う」
「そうしたね」
 まさにというのだ。
「世界だったみたいよ」
「そうなのね」
 こうした話をしてだった。
 二人はまたそれぞれ数曲ずつ歌った、そして。
 そのうえでだ、愛はもう二杯飲んでいた咲に問うた。
「どう?今」
「ううん、もう結構ね」
「酔い回ってきた?」
「少しは」
「少しなのね」
「そんな感じになってきたわ」
 こう話した。
「何かね」
「まあね、ビールだと五百八本分はね」
 それだけはというのだ。
「飲んでると思うから」
「酔ってなの」
「当然よ」
 それだけ飲めばというのだ。
「やっぱりね」
「そうなのね」
「というか十五でそれだけ飲めたら」
 それならとだ、愛はさらに言った。
「お酒はいいわ」
「充分?」
「十二分よ」
 そこまでというのだ。
「もうね」
「そうなの」
「立派な酒豪よ」
 従妹に微笑んで話した。 

 

第四話 家でこっそりとその十

「むしろ私以上のね」
「そう言うお姉ちゃんも」
 咲は愛に話した。
「結構以上にね」
「飲んでるっていうのね」
「そう思うけれど」
「実際同じだけ飲んでるわね」
 愛も否定しなかった。
「私も」
「ええ、そうよね」
「甘いお酒中心でね」
「というか私達どっちもよね」
「さっきからカルピスサワーとかね」
「甘いのばかり飲んでるわね」
「好みは同じね、その甘いお酒がね」
 まさにというのだ。
「本当にね」
「お互いね」
「飲みやすいから」
 その甘い酒がというのだ。
「どんどん飲めるわね」
「ビールは苦くてバーボンはイガイガするのに」
「そうしたお酒もあればね」
「甘いお酒もあるってことね」
「そういうことよ」
 愛は今度は林檎サワーを飲んでいた、そうしてそのうえでさらに酔うことを感じながら咲に話した。
「お酒も色々だから」
「そういうことね」
「それで咲ちゃん日本酒は」
「あまりね」
 どうにもとだ、咲は答えた。
「今飲んでる甘いお酒よりはね」
「好きじゃないの」
「お口に合わないのよ」
 こう答えて注文したばかりの酒を飲み干した。
「これがね」
「そうなのね、それはね」
 ここで愛の曲だった、ボールを七つ集めるアニメの最初の主題歌だ。
 それを歌って咲は咲で魔法少女が魔女にもなるアニメの主題歌を一人で歌った。それからあらためて話した。
「私もなのよ」
「お姉ちゃんも日本酒はなの」
「どうもお口に合わなくてね」
「飲まないのね」
「飲めるけれど」
 それでもというのだ。
「あまりね」
「好きじゃないの」
「どうもね」
「そうなのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「昔は日本酒ばかりだったけれど」
「ビールとかね」
「サワーとかなかったから」
 それでというのだ。
「本当に日本酒がね」
「主流で」
「その頃だったら私も」
 どうもというのだ。
「お酒あまり飲まなかったわ」
「そう言われると私も」
 愛は次の曲を入れつつ新たに注文したカルーアミルクを飲みながら話した、その酒も美味しいと思った。
「日本酒が主流だと」
「飲まなかったのね」
「やっぱり甘いお酒ね」
 今飲んでいるこれだというのだ。 

 

第四話 家でこっそりとその十一

「私はね」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「本当にね」
「それでよね」
「こうしたお酒はないと」
「咲ちゃんもね」
「お酒こんなに飲まなかったわ」
「お酒が口に合わないと」
「やっぱり飲まないわね」
 咲は自分で言った。
「お酒は美味しくないと」
「まずいと思ったら飲まないことよ」
 愛はまた注文しながら咲にこの言葉を告げた。
「お酒もね」
「そういうことなのね」
「飲みたいと思ったら飲んで」
 そしてというのだ。
「飲みたくないならね」
「飲まなかったらいいのね」
「お酒はね」
「そうしたものなの」
「というかまずいのに無理して飲んだら」
 そうすればというと。
「身体も壊すし心にもね」
「よくないのね」
「そうよ、坂口安吾って知ってる?」
「昭和の作家さんね、漫画やゲームにも出てるわ」
「作家さんもなの」
「文豪何とかっていう作品があって」 
 それでというのだ。
「そうした作品で出てるわ」
「それで知ってるのね」
「その人がなの」
「そう、ウイスキー美味しくないと言いながらね」
 正確に言えば著作で書いてあったことだ。
「それでね」
「そのうえでなのね」
「飲んでいたのよ」
「そんなことして飲んで楽しかったのかしら」
「さあ。それでも飲んでいたのよ」
「わからないわ、そんなことするなんて」
 咲は本気でいぶかしんで言った。
「何がいいのか」
「私もそう思うけれど」
「坂口安吾はそうしていたの」
「それで飲んでいたのよ」
「私そんなことは」
 咲はその飲み方について眉を曇らせて言った。
「どうにも」
「するつもりないでしょ」
「今飲んでるのも」
 これもというのだ。
「やっぱりね」
「美味しいからでしょ」
「ええ」
 従姉に答えた。
「やっぱりね」
「それがいいの、まずいなら」
「無理して飲むことないのね」
「そんなのして何がいいか」
 愛もこう言った。 

 

第四話 家でこっそりとその十二

「わからないでしょ、別に飲まないと死ぬものじゃないし」
「お酒ってね」
「飲んでまずい、楽しくないなら」
 それならというのだ。
「もうね」
「飲まなかったらいいわね」
「本当にそう思うわ」
「やっぱりね」
「確実に身体壊す麻薬は論外でも」
 それでもというのだ。
「お酒はね」
「それでいいわね」
「咲ちゃんも楽しんで飲んでね、ただね」
「ただ?」
「私はまだ経験はないけれど」
 それでもというのだ。
「自棄酒もね」
「ああ、それね」
「憂さ晴らしのね」
「それもなのね」
「まあ時としてはね」
「あるのね」
「そう、そうでもないとやっていられない時もね」
「人間あるから」
 こう咲に話した。
「そのことも覚えておいてね」
「わかったわ」
 咲は従姉の言葉に頷いた。
「嫌なことを忘れることもあるのね」
「時としてね。それで今はね」
 さらに飲みつつ話した。
「楽しんでね」
「そうして飲むことね」
「そうしていきましょう」
 愛は自らこう言って飲んでいった、そうして歌も歌った。そのうえで咲に酒のことをさらに話していった。


第四話   完


                     2021・2・22 

 

第五話 入学間近その一

                第五話  入学間近
 入学まであと二日となった、その中でも咲は春休みの生活を過ごしていた。それで朝起きてモコの散歩に行ってだった。
 それから朝ご飯を食べたがここで母に言った。
「何か自然に十二時になったら眠くなって」
「それで寝てよね」
「ええ、そして朝はね」
 この時になればというのだ。
「自然に目が覚めるわ」
「それでまずモコのお散歩行ってるわね」
「何か私って」
 咲はさらに言った。
「夏休みでも冬休みでもね」
「それで春休みでもよね」
「普通に夜は寝て」
 そしてというのだ。
「朝起きるわね」
「それがいいのよ、やっぱりね」
「夜寝て朝起きるね」
「それでお昼もね」
 この時もというのだ。
「ちゃんとね」
「起きていることね」
「そう、夜起きて朝寝るとかね」
 そうした生活はとだ、母は朝食の納豆ご飯を食べつつ言った、他には昨日の夜の茸の味噌汁の残りに漬けものがある。
「人間はね」
「そうした生活はよくないのね」
「ええ、そうよ」
「夜行性じゃないのね」
「そういうことよ」
「だから私もなの」
「そうした生活が身に着いていて」
 それでというのだ。
「いいのよ」
「そうなのね」
「だからね」
「これからもなのね」
「そうした生活をして」
 そしてというのだ。
「やっていくといいわ」
「お休みの時でも」
「そうよ。ただ咲はこれまで夏休みとかでも塾行ってたでしょ」
「あと習いごともしてたし」
「書道とかね」
「書道は今はしてないけれど」
 こちらは小学生までだった。
「何だかんだで部活もね」
「してたでしょ」
「中学の美術部夏休みもあったし」
「冬休みもでしょ」
「普通にあって」
 それでというのだ。
「学校にも行ってたし」
「そうでしょ、だからね」 
「夜寝て朝起きる習慣が身に着いたのね」
「そうだと思うわ」
「そうなのね」
「そう、そしてそれがね」
 その夜寝て朝起きるそれがというのだ。
「いいのよ」
「人間にとっては」
「そうよ、だからその生活は守ってね」
「わかったわ」
 食べながら母に答えた。
「そうするわ」
「それが本当にね」
「人間にはいいのね」
「身体もね」
「そうなのね」
「だからこれからもね」
 母は咲にさらに言った。
「お休みの時にもね」
「夜寝て朝起きる」
「その生活をしていってね」
「わかったわ」 
 咲は母のその言葉に答えた。 

 

第五話 入学間近その二

「そうしていくわね」
「これからもね、それで徹夜はね」
「しないことね」
「忙しても少しでも寝る」
 母の言葉は強いものだった。
「そうしなさいね、絶対に」
「絶対になの」
「間違っても二日とか三日の徹夜はしないことよ」
「それ無茶苦茶でしょ」
「昔の漫画家さん、手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんはそうだったの」
「二日も三日も徹夜してたの」
「一日どころかね」
 娘にこの話もした。
「そうだったのよ」
「三日って」
「若い頃はそうしても平気とか言ってたのよ」
「それって身体無茶苦茶疲れるでしょ」
「だからこの人達は若くしてだったのよ」
 眉を曇らせての言葉だった。
「そうなったのよ」
「若い頃の無理が祟ってだったのね」
「そう、一日の徹夜でも駄目よ」
 徹夜、それはというのだ。
「本当に寝ないとね」
「人間駄目なのね」
「寝ないと本当にね」 
「無理が祟って」
「若くしてになるから」
「だから寝ろって言うのね」
「ちゃんとね。基本夜にじっくり寝て」
 そうしてというのだ。
「幾ら忙しくてもね」
「少しでも寝ることね」
「そうしなさいね」
「さもないと身体によくないのね」
「そんな三日も徹夜していたら」
 それこそという口調での言葉だった。
「若くしてってなるわよ」
「その時はよくてもなの」
「絶対に身体に疲れが溜まるから」
「寿命を縮めるのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「咲もよ」
「寝ることね」
「夜にしっかりとね。いいわね」
「わかったわ」
 咲も頷いて答えた。
「それじゃあ今日もね」
「朝起きたしね」
「このまま頑張るわ」
「そういうことでね」
「わかったわ、じゃあお昼はラノベとか漫画読んでゲームして」 
 そうしてというのだ。
「夕方またね」
「モコのお散歩ね」
「行って来るわ。モコもそれでいいわね」
「ワン」
 今はケージの中にいる愛犬も鳴いて応えた。咲はそれも見て母に言った。
「モコもそうしてって言うし」
「それじゃあよ」
「そうしていくわね」
「ええ、それとね」
「それと?」
「あんた最近牛乳結構飲むわね」
 今丁度牛乳を飲んでいる咲に言った。
「どうしてなの?」
「いや、飲むと背が高くなってね」
 咲は飲みながら答えた。
「それで胸もね」
「大きくなるからなの」
「前から飲んでるわよ」
「そういえば前からね」
「そう、だからね」 
 それでというのだ。 

 

第五話 入学間近その三

「今もね」
「飲んでるのね」
「そう、それでね」
 そのうえでというのだ。
「背も高くなって」
「胸もなの」
「大きくなったらなってね」
「そうなのね」
「駄目?」
「いいわよ」
 母の返事はあっさりしたものだった。
「別にね」
「そうなの」
「だってね、牛乳身体にいいから」
「それでなの」
「ジュース飲むよりね」
「牛乳の方がいいから」
「好きなだけ飲んだらいいわ」
 こう娘に言った。
「そうしたらいいわ」
「それじゃあね」
「ええ、どんどん飲んでね」
「そうするわね」
「それじゃあね」
「まあ胸はね」
 母はこうも言った。
「兎も角として背もね」
「伸びないの」
「そうなるかもだけれど」
「それでも飲んでいいの」
「だから身体にいいからよ」
 それ故にというのだ。
「どんどん飲みなさいね」
「それじゃあね」
 娘も頷いて答えた。
「そうするわね」
「飲んでね」
「これからもね」
「お酒よりもよ」
 母の目がここで注意するものになった、そのうえでの言葉だった。
「牛乳よ」
「そこでそう言うの」
「言うわよ、牛乳は栄養の塊なのよ」
「だから背も伸びて胸もなのね」
「そうでなくても蛋白質とカルシウムの塊だから」
 そう言っていいものだからだというのだ。
「筋肉にも骨にもなるから」
「お酒よりもなのね」
「飲むべきよ。だからどんどん飲みなさい」
 遠慮せず、そうした言葉だった。
「そうしなさい、また言うけれどお酒よりもよ」
「お母さん私にお酒飲んで欲しくないのね」
「当然よ。飲み過ぎは身体に毒だし」
 母は娘にさらに言った。
「あんたそもそも未成年でしょ」
「もうすぐ高校生で」
「だから尚更よ」
「あまり飲まない方がいいのね」
「そう、本当にお酒よりもね」
「牛乳をなの」
「飲みなさい。あとビタミンは」
 こちらの栄養はというと。
「お茶を飲むことよ」
「お茶なのね」
「飲みもので摂るならね」
「お野菜や果物以外に」
「そう、飲むならお茶でね」
 それでというのだ。
「摂るのよ」
「お茶もいいのね」
「そう、だからお母さんはお水を飲むよりも」
「牛乳やお茶なの」
「そうしたものを飲んで」
 そしてというのだ。
「摂ってね」
「そういうことね」
「ええ、いいわね」
 娘のその顔を見て言うのだった。 

 

第五話 入学間近その四

「今もね」
「牛乳かお茶ね」
「そうよ。それで健康になってね」
「背が高くなって」
「胸も大きくなるから。というか」
 母はここで咲を上から下までまじまじと見てから述べた。
「あんた結構スタイルはいいわよ」
「そうかしら」
「背は普通だけれどね。お肌奇麗だし」
「お肌もなの」
「健康的な生活しているからね。だからその生活をね」
 まさにというのだ。
「続けていけばいいわ」
「そうなのね」
「これが煙草吸ったら」
「お肌荒れるの」
「あと背も伸びなくなるから」
「煙草はよくないのね」
「それは絶対に駄目よ。お酒はあまりって言うけれど」
 つまり飲むこと自体はある程度はいいというのだ。
「煙草は論外よ」
「身体に凄く悪いから」
「お母さんも吸ってないし」
 それにと言うのだった。
「お父さんもでしょ」
「うち吸う人いないわね」
「大人になって吸っても身体に悪いのよ」
 このことは変わらないというのだ。
「だから未成年の時は絶対に駄目で」
「大人になってからも吸わない方がいいのね」
「出来るだけね」
「私も煙草が身体に悪いことは聞いてるし」
「一回吸ったら癖になるらしいから」
「最初から吸わないことね」
「そう、煙草はね」
 母は娘に対してここで徹底的に教えておこうと思い言うことにした、煙草のことはどうしても気になるからだ。
「恰好いいとかで吸わないことよ」
「恰好いいの?歩き煙草とかポイ捨てとか最低でしょ」
「昔は俳優さんが吸ってるの見て憧れて吸う人もいたのよ」
「そうだったの」
「パイプとか葉巻もね」
 こういったものでの喫煙もというのだ。
「あったのよ」
「葉巻って」
「昔はね」
「いや、どれもね」
 咲は納豆ご飯を食べつつどうかという顔で母に返した。
「私何がいいのかわからないから」
「恰好いいとも思わないわね」
「何処が?」
 本気で疑問符を付けて母に問い返した。
「恰好悪いでしょ」
「歩き煙草とかポイ捨てが」
「ドラえもんでポイ捨てて結構酷いことになった時あったわよ」
 最早国民漫画となっている名作漫画の話も出した。
「のび太君の背中に当たったり道具を燃やしたり」
「そうなることもあるのよ、マッチ一本火事の元よ」
「それ事実なのね」
「そうよ、ほんの些細なことから大変なことにもなるし」
「煙草は火だから」
「そこから火事になることも多いのよ」
「身体に凄く悪いだけじゃないのね」
 咲も食べながら応えた。
「煙草は」
「そう、寿命を縮めてね」
「しかも火事にもなるから」
「あと吸ってたら食べものもまずくなるそうよ」
「それも悪いわね」
「いいことなんて何もないから」
 喫煙、それを行ってもというのだ。
「絶対にしないことよ、誘われてもね」
「吸わないことね」
「そう、煙草が駄目なら麻薬なんてね」
 それこそというのだ。 

 

第五話 入学間近その五

「犯罪だから」
「問題外ね」
「覚醒剤なんか本当に煙草より遥かに身体に悪いから」
「そうよね」
「何があってもしないことよ、犯罪やって身体ボロボロになるっていいことないでしょ」
「何一つね」
「だからよ」
 それでというのだ。
「麻薬はね」
「絶対にしたら駄目ね」
「したら本当にお母さんあんた警察に連れて行くわよ」
 母の言葉は真剣なものだった。
「絶対にね」
「犯罪だから」
「そうよ、しかもね」
「身体ボロボロになるから」
「娘がボロボロになっていい母親なんていないわよ」
 こう言い切った。
「この世にね」
「やっぱりそうよね」
「そう、若しそうなったら」 
 それこそというのだ。
「親としてどれだけ悲しいか」
「それでなのね」
「そう、その時はね」
 麻薬、それに手を出した時はというのだ。
「許さないわよ」
「そうなのね」
「覚えておくのよ」
「その時は警察ね」
「それで罪を償って帰ってきなさい」
「お家は追い出さないの」
「娘なのにどうして追い出すのよ」
 母はこうも言った。
「一体」
「娘だからなのね」
「自分の子供だからね、だからね」
「私が警察に捕まってもなのね」
「罪を償ったらね」
 その時はというのだ。
「帰ってきなさい」
「そうしていいの」
「若しそうなってもね、ただそうならないことがね」
 そもそもというのだ。
「前提よ」
「そうなのね」
「そう、そしてね」
「そして?」
「あんた今日はご飯食べたらどうするの?」
 今度は予定を聞いて来た。
「また愛ちゃんのところに行くの?」
「いや、今日は行かないわ」
「そういえばゲームするとか言ってたわね」
「ライトノベルとか漫画読んでね」
「ゆっくり過ごすの」
「明日もね、そうしてね」
 そのうえでというのだ。
「入学式よ」
「明後日ね」
「いよいよ私も高校生ね」
「これまで長かったでしょ」
「子供の頃高校生になるなんて」
 それこそというのだ。
「遥か昔だってね」
「思っていたのね」
「本当にね。けれどね」
「明後日ね」
「いよいよそうなるのね」
「行っておくけれどそれ大人になったらね」
 それならとだ、母は娘に話した。
「あっという間よ」
「そうなの」
「あっという間に大学卒業して就職して」
 そうしてというのだ。 

 

第五話 入学間近その六

「結婚してね」
「子供生まれて」
「その子供が大きくなるのよ」
「あっという間に」
「気付いたらお父さんも髪の毛に白いものが多くなって」
 夫のことも話した。
「それでお腹も出てるから」
「そこでそう言うの」
「事実だから」
 こう娘に返した。
「だからね」
「そう言うの」
「それで本当にあっという間にね」
 まさにというのだ。
「お母さんもね」
「今みたいになの」
「皺が多くなるのよ」
 笑って自分のことも話した。
「おばさんにもなるのよ」
「そうなの」
「そうよ、本当に大人になったらね」
 それならというのだ。
「あっという間にね」
「時間が過ぎていくの」
「子供の頃とは時間の流れが変わって」
 それでというのだ。
「あっという間になるのよ」
「そうなの」
「そう、少年老いやすくってあるわね」
「ああ、そんな言葉あるわね」
「学成り難しね」
「その言葉ね」
「それでね」
 娘にさらに言った。
「それは大人になるとなのよ」
「子供の頃じゃないの」
「そうよ、子供の時はね」
 その時はというと。
「本当に時間の流れが遅くて」
「高校生になるのなんて遥か先で」
「そうでしょ」
「そうだったのにって思っていたわ」
 まさにというのだ。
「今まで」
「そうなのね」
「そう、ただね」
「大人になったら」
「おばさんになるのもよ」
 それもというのだ。
「あっという間だから」
「覚悟しておくことね」
「そうよ」
 娘に強い声で話した。
「いいわね」
「歳取るってそうなの」
「そうよ、時間の流れは歳を取るにつれて早くなって」
「そしてなのね」
「二十歳を超えるとね」
「物凄く速くなるのね」
「中学時代から速くなってるでしょ」
 母はこうも言ってきた。
「そうでしょ」
「そう言われると」
「そうでしょ、小学生まではゆっくりで」
「高校生になるのなんて夢みたいでも」
「もうすぐなるし」
 それでというのだ。
「これからはね」
「もっとなのね」
「それで子供生まれたら」
 そうなればというと。
「大人になってからもそうなのに」
「尚更なのね」
「速くなるから」
「じゃあ私の中でお母さんは」
 咲はここまで聞いて母に問うた。 

 

第五話 入学間近その七

「この前まで中学校に入ったとか」
「赤ちゃんよ」 
 笑っての返事だった。
「もうね」
「そうだったの」
「それがね」
「もう高校に入る」
「そうなってるわ」
「そうなのね」
「だから咲もよ」
 彼女自身もというのだ。
「同じよ」
「何か子供の頃は信じられないけれど」
「今は信じられるでしょ」
「ちょっとね、じゃあ朝ご飯食べたし」
「お昼は食べるわよね」
「お昼今日何なの?」
「スパゲティでいい?」
 母はこちらの料理を出してきた。
「それで」
「ソース何?」
「ペペロンチーノよ、オリーブオイルと大蒜のスライスを入れて」
 そしてというのだ。
「あとはペペロンチーノの素絡めて」
「それで完成ね」
「それでいいわよね」
「うん、スパゲティ好きだし」
 咲の好物の一つである。
「それじゃあね」
「それね、呼んだらすぐに来なさいね」
「そうするわね」
「それで夕方はモコのお散歩にね」
「行って来るわね」
「それまでゲームでも読書でもね」
 それこそという返事だった。
「何でもしていいから」
「それじゃあね、ゆっくり出来るのもね」
「明日までよね」
「ええ、明後日からは」
 まだ実感はない、しかしだった。
「高校生活ね」
「はじまるわよ」
「そうね」
 朝食の場で母とこうした話をしてだった、咲はこの日はゆっくりした。そして晩ご飯の時にまた母に言った。
「ねえ、私もね」
「どうしたの?」
「お料理時々作ってるし」
 事実作る時もある、自分だけ家にいる時もだ。
「明日はね」
「何か作るの」
「そうしていい?お昼か夜にね」
「じゃあお昼に餃子作って」
 そしてとだ、母はこう返した。
「夜もね」
「食べるの」
「水餃子作ってくれるかしら」
 こちらの餃子をというのだ。
「それだったら」
「焼き餃子じゃないの」
「だって水餃子はスープに出来るでしょ」
 娘に笑顔で話した。
「そうでしょ」
「ええ、お野菜も入れられるわね」
「だからよ」
「栄養摂りやすいからなの」
「そう、餃子ならね」
「水餃子なのね」
「それ作ってくれるかしら。お野菜は白菜と韮とお葱買って来るから」
 買いものは母がするというのだ。
「あとスープは鳥ガラね」
「中華風ね」
「餃子だけにね。そうそう、茸もね」
 これもというのだ。 

 

第五話 入学間近その八

「入れたらいいわね」
「茸もなの」
「これは椎茸ね、咲餃子作れるし」
「中のあんも作るわね」
「宜しくね。お料理もね」
 これもというのだ。
「出来た方がね」
「いいわよね」
「やっぱりね」
 何といってもというのだ。
「美味しいもの食べられるでしょ、それに趣味になったら」
「いいわね」
「だからお料理もね」
「出来るに越したことないのね」
「そう、だから」
 それでというのだ。
「咲もね」
「お料理やっていくことね」
「他の家事もね。まあ先はそっちはね」
 家事のことはというのだ。
「出来てるししてくれるし」
「いいのね」
「そっちはね、これからもしていくといいわ」
「やっぱり結婚した時とか」
「一人暮らしでもよ、家事出来たら強いわよ」
 それだけでというのだ。
「だからね」
「お料理もして」
「他の家事もよ」
「お洗濯もお掃除も」
「食器洗いもね」
「私どれもいつも結構してるね」
「その結構していることがね」 
 まさにこのことがというのだ。
「後々役立つから」
「一人暮らしした時とか」
「結婚してからもよ」
「そういうことね」
「とはいってもお掃除もお洗濯も楽でしょ」
「だって掃除機とか洗濯機使うだけだから」
 それでとだ、咲は母に答えた。
「そうだからね」
「じゃあ出来るわね」
「ええ、覚醒剤で捕まった元プロ野球選手は洗濯機の使い方もわからなかったっていうけれどね」
「あの人頭あれだから」
「あれなの」
「覚醒剤してよ」 
 そもそもという口調での言葉だった。
「とんでもない糖尿病になって野球選手なのに格闘家のトレーニングしてたし」
「あと刺青も入れてたわね」
「もうどれを取ってもね」
 それこそというのだ。
「あれよ」
「そう言われたら」
「その極みが覚醒剤でね」
「洗濯機使えないことも」
「それだけ世の中のこと勉強してこなかったのよ」
「そうした人なの」
「世間知らずな人もいるけれど」
 それでもというのだ。
「あの人の場合はわね」
「頭あれなの」
「そう、何か番長とか言われていい気になってたし」
「そういえばそうだったわね」
「もう何もかもがね」
「あれだったの」
「そうした人だったのよ」 
 こう娘に話した。
「結局はね」
「だから覚醒剤もやったのね」
「それで今滅茶苦茶に太ってるでしょ」
「おかしな格好のままで」
「もう本当に徹底的にあれな人なのよ」
「ううん、だから洗濯機も使えないの」
「あの人の場合はね、ただね」
 母は娘にこうも話した。 

 

第五話 入学間近その九

「あの人お母さんが若い頃とか子供の頃とかスターだったのよ」
「ああ、西武とかにいて」
「高校時代もね」
 PL学園にいた頃の話だった。
「凄かったのよ」
「それは私も聞いたことあるけれど」
「アイドル選手でね」
「それ全然信じられないけれど」
「もう一人の人の方が悪いイメージで」
「あの巨人のエースだった」
「そう、咲は知らないし信じられないでしょうけれど」
 それでもというのだ。
「昔はそうだったのよ」
「今はもう一人の方がずっと評価上ね」
「真面目で理知的でね」
「凄く頭いいって」
 咲は自分と友人達の評価を話した。
「そうした感じだけれど」
「昔は違ったのよ」
「あの人の方がずっとなのね」
「人気あってね」
 そしてというのだ。
「アイドル選手で爽やかなイメージだったのよ」
「今のどうしようもないものじゃないの」
「そうだったのよ」
「信じられないわね」
「けれど今はそうで」 
 それでというのだ。
「ああした人になったらね」
「駄目ってことね」
「そうよ、わかっておいてね」
「わかったわ」
 咲もすぐに答えた。
「家事の方もね」
「全く。お母さん達が子供の頃はスターだったのに」
 それがというのだ。
「あんなに落ちぶれてね」
「落ちぶれたの」
「あんな落ちぶれた人そうそういないわよ」
「スターから今じゃね」
「ああなったから。本当にああなったら」
 それこそというのだ。
「人間としてね」
「終わりね」
「もう長く生きられないかもね」
「糖尿病でずっと覚醒剤やってて」
「あの太り方じゃね。長い間物凄い不摂生な生活してたっていうから」
「スポーツ選手だったのに」
「若い時からそこにネオンがあるから行くって人だったっていうから」
 母の言葉は否定的であった。
「それじゃあね」
「もうなの」
「そう、長くないわよ」
 人生のこれから先はというのだ。
「長い間不摂生な生活していて糖尿病にもなって物凄く太って」
「覚醒剤もしていたから」
「やっぱり節制はしないとね」
 母の言葉は切実なものであった、娘である咲に対してではなくむしろ自分に対して言っている言葉だった。
「駄目ね」
「それはね」
「そう、本当に思うわ」
「あの人長生き出来ないのね」
「お母さんはそう思うから」
「あの人みたいな生活もなのね」
「覚醒剤は論外にしても」
 そのことを置いておいてもというのだ。
「それ以外も駄目過ぎるから」
「刺青も」
「それ普通の人しないでしょ」
 絶対にという言葉だった。
「刺青なんて」
「そうよね」 
 咲もその通りだと頷いた。 

 

第五話 入学間近その十

「刺青なんて」
「ヤクザ屋さんが入れるでしょ」
「背中とかにね」
「今だと変な人が入れるわね」
「ドキュンって言われる人達がね」
「何か色々な文字とか模様入れるけれど」
 それが入れ墨というものである、タトゥーと他の国の言語で表現しても結局は同じことである。普通の人間は入れないものだ。
「あれもよ」
「まともな人はまず入れないわね」
「一時のお洒落とかで入れても」
「一生ものよね、ただね」
 咲は食べつつ言った。
「刺青って消す方法もね」
「あるのね」
「お母さん知らなかったの」
「そんなのあるの」
「水滸伝であったのよ」
「中国のあの小説ね」
「それにあるしタレントさんでもね」
 刺青を入れた人がいるというのだ。
「消した人いるわよ、ただね」
「それでもかなりでしょ」
「そうみたいよ」
「そうでしょ、だから入れるなんてね」
「普通の人はしないわね」
「それをしたからあの人はね」
 その元野球選手はというのだ。
「もうそうした意味でもね」
「駄目な人なのね」
「駄目も駄目で」
 それでというのだ。
「最悪なことしたわよ」
「ヤクザ屋さんみたいな」
「というかファッションもそのままになっているから」
「その時点で駄目で」
「刺青もね」
「論外ね」
「咲は興味ないわよね」
 母は娘にかなり強い口調で問うてきた。
「刺青とか」
「一生ものでしょ、ないわよ」
 娘の返事はあっさりしたものだった。
「私これまでファッションにはこれといって興味なかったけれど」
「最近になってよね」
「色々なファッションあってその都度変わるのに」
「一生身体に残るものはっていうのね」
「一時でしたら駄目でしょ、どうせやるなら」
 それならとだ、咲は母に話した。
「そのままお肌にペインティングするかペーパータトゥーをね」
「貼るの」
「それでいいでしょ」 
 あっさりとした口調であった。
「もうね」
「一生はしないっていうのね」
「一時の趣味が一生身体に残るとか」
 それこそというのだ。
「私興味ないから」
「それでなのね」
「そう、しないから」
 絶対にという返事だった。
「私もしないわ」
「それがわかってるならいいわ」
 母にしてもというのだった。
「それでね」
「それじゃあね」
「ええ、ただペーパータトゥーはするの」
「というか漫画のキャラクターみたいにお肌にペインティングね」
「コスプレ?」
「そっちの方が刺青よりずっといいでしょ」 
 これが咲の考えだった。
「一生入れるとか馬鹿みたいよ」
「消えるにしても随分苦労するから」
「私何があってもしないから」
「そうしなさいね」
「一生ね。というかあの人最初はアイドル選手だったの」
「スターでね」
「それがああなるのね」
 咲は今の彼の姿を思い浮かべながら述べた。
「高校時代とかは全然違ったの」
「西武の時もね」
「どんな風だったのかしら」
「ちょっとスマートフォンで検索してみたら?」
 母は咲の手元にある彼女自身のそれを見て提案した。 

 

第五話 入学間近その十一

「食べながらはよくないけれど」
「今はいいの」
「そうしたら?」
「それじゃあ」 
 咲は母の言葉に応えてそうしてみた、高校時代の彼の画像を検索してみた。ついでに西武時代のそれも。
 そうしてからだ、咲は母にどうにもという顔になって述べた。
「変わり過ぎでしょ」
「別人よね」
「どうしてこうなったのよ」
 そこまで変わったというのだ。
「一体」
「人相が悪くなったわね」
「悪くなり過ぎていて」
 それでというのだ。
「正直驚いてるわ」
「そうなったからね」
 だからだというのだ。
「お母さんも言うのよ」
「本当に酷い変わり方ね」
「悪い見本にしなさいね」
 母は自分のスマートフォンから目を戻した咲にこうも言った。
「その人は」
「絶対にそうするは」
「ああはなるまいよ」
 娘にこうも言った。
「いいわね」
「反面教師ね」
「そう、ああした人はね」
 絶対にという口調で娘に忠告した。
「女の人でもよ」
「反面教師にして」
「やっていくことよ、反面教師も必要なのよ」
「そうなの」
「そう、そうした人を見てね」
 そしてというのだ。
「生きていくのよ」
「健全に」
「ああはなるまいもね」
「大事なのね」
「人間ね、そしてそうした人にはね」
 反面教師にはというのだ。
「自分はね」
「なってはならないってことね」
「ああはなるまいって思った人になったら」
 それこそというのだ。
「こんな馬鹿なことはないでしょ」
「確かにね」
 その通りだとだ、咲も答えた。
「このことも覚えておくわ」
「それじゃあね」
「ええ、高校入学まで僅かだけれど」
 それでもというのだ。
「そのこともね」
「そういうことでね」
 母も言った、そうしてだった。 
 入学をあと少しに控えた咲はそれまでの時間人生の色々なことを母からも教えてもらい頭に入れていった。それからはじまる新しい人生の為に。


第五話   完


                 2021・3・1 

 

第六話 入学式の後でその一

                第六話  入学式の後で
 入学式は遂に明日になった、その日愛は咲の家に来た。だが咲の母は玄関で明るく挨拶をする彼女に憮然として言った。
「相変わらず派手ね」
「お洒落でしょ」
「全く、カナリアみたいじゃない」
 赤のミニスカートに黄色のタイツ、オレンジのシャツにスカイブルーの帽子という格好の彼女を見て言った。金や銀のアクセサリーも多い。
「その恰好」
「これが私のスタイルだから」
「メイクも派手だし」
「そのメイクもね」
「スタイルっていうのね」
「そう、それで咲ちゃんいる?」
「いるわよ」
 母は憮然とした顔のまま答えた。
「もうすぐ晩ご飯だしね」
「そうなの」
「折角来たし」
 母は今度は何だかんだという口調で言った。
「食べる?」
「晩ご飯一緒にしていいの」
「ええ、そのつもりで来たんでしょ」
「そんなつもりなかったわよ」
 愛はこのことは正直に答えた。
「全然ね」
「そうなの」
「ただ咲ちゃんに入学前にね」
 その時にというのだ。
「エールをしにね」
「来てくれたの」
「頑張ってねってね」
 その様にというのだ。
「言いに来たのよ」
「そうだったの」
「そうよ、けれど晩ご飯一緒に食べていいなら」
 それならというのだ。
「私もね」
「一緒になのね」
「食べさせて。それでメニュー何?」
「咲の好物のハンバーグと」
 母は愛に早速話した。
「マカロニグラタンとシーフードサラダに海老フライよ」
「全部私も好きよ」
「それは何よりね。あとお父さんも帰ってるから」
 愛にとって叔父にあたる彼女もというのだ。
「一家三人でこれからってつもりだったのよ」
「じゃあ私も入って」
「四人ね。じゃああがってね」
「それじゃあ」
 愛も頷いてだった、黒のブーツを脱いで。
 そのうえで家にあがった、そうして咲達がいるリビングに行くと先が愛を見てすぐに笑顔になって言ってきた。
「いらっしゃい、お姉ちゃん来てくれたの」
「わざと連絡しないでサプライズでね」
「お姉ちゃんらしいわね。それじゃあ」
「一緒にね」
「食べようね」
「全く、愛ちゃんはいつもだな」
 咲の父も憮然として言った。
「突然来るな」
「驚くでしょ」
「ああ、携帯あるんだから」  
 それならと言うのだった。
「ちゃんと咲にも話さないと」
「そこで言わないのが面白いから」
「突然来ることがか」
「咲ちゃんも喜んでくれるし」
「お姉ちゃんだったらね」
 その咲も笑って言った。
「私もね」
「そうよね」
「ええ、じゃあこれからね」
「一緒にね」
「飲んで食べてね」
「そうさせてもらうわ」
「沢山作ったしね」
 母も言ってきた。 

 

第六話 入学式の後でその二

「量としてはね」
「問題ないのね」
「ええ、食べてね」
 こう愛に言った。
「そうしてね」
「ええ、あとお酒持って来たから」
 愛は実際にワインのボトルを一本出してきた。
「咲ちゃんにプレゼントよ」
「あっ、有り難う」
「早速飲んでね」
「だからお酒はね」
 母はその従姉に言った。
「あまり」
「だからお家の中だから」
「それでなの」
「大目にってことで」
 それでというのだ。
「許してね」
「全く。仕方ないわね」
「それじゃあ今から乾杯ね」
「そうしましょう」
 愛に応えてだった、彼女を交えた一家は乾杯をしてだった。
 咲の入学祝いをはじめた、その中で。
 咲はハンバーグやグラタンを食べながらワインを飲んでそうして言った。
「いよいよなのよね」
「明日からね」
「私も高校生ね」
 こう母に応えた。
「もうすっかり変わって」
「中学までとはね」
「本当にね」
「奇麗になったわよ」
 母は娘に微笑んで言った。
「眼鏡外してメイクしてね」
「髪型変えて」
「そしてファッションもね」
 これもというのだ。
「変わってね」
「奇麗になったのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「後は悪い人にね」
「引っ掛からない様にすることね」
「そうしてね」 
 娘にビールを飲みながら笑顔で話した。
「いいわね」
「わかったわ」
 娘も応えた。
「絶対にね」
「気をつけてね」
「そうしていくわね」
「悪いことにもよ」
 悪人だけでなくというのだ。
「いいわね」
「そうよね、そっちにもね」
「充分にね、東京だから」
「悪い人も悪いことも多いから」
「だからね」
 そうした街だからだというのだ。
「充分に気をつけてね」
「そうするわね」
「私もこれまでずっと言ってたけれど」
 愛はカルピスサワーのロックを飲みながら咲に話した。
「本当にね」
「悪い人と悪いことには」
「注意して」
「そしてよね」
「やっていってね、これまで言った通りね」
「外見や目ね」
「そういうのを見て」
 そしてというのだ。
「そのうえでね」
「見極めて」
「近寄らないことよ」
「そうよね、悪人は出るのよね」
「笑い方にもね」
 これにもというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその三

「それでね」
「目が笑ってない」
「そう、そして外見はね」
「チンピラとかヤクザ屋さんみたいで」
「もうあからさまになるから」
 それでというのだ。
「注意してね、それで隠している人も」
「笑い方や目ね」
「気をつけてね」
「それとキャッチセールスもな」
 ここで父が言ってきた。
「特徴があるな」
「そうなの」
「ああ、やたら長々としていてな」 
 父は焼酎を飲みながら娘に話した。
「あとメールしてくれとか言ったり個人情報を言ったりな」
「してくるの」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「そうした相手にもな」
「気を付けることね」
「そうしたこともな、ネットをして変な広告とかあるだろ」
「ええ」
 咲も心当たりがあって答えた。
「確かにね」
「それでな」
「キャッチセールスにもなのね」
「気を付けるんだぞ」
「わかったわ」
 娘は父の言葉にも頷いた。
「そっちもね」
「世の中気をつけないことは多いぞ」
「そうよね」
「いい人も多いけれどな」
「悪い人も多いのね」
「いや、悪人は実は世の中少ないんだ」
 父はこのことは断った。
「独善的な人もな」
「そうした人は目がいってるのよね」
「カルトみたいにな、そんな人も少なくてな」
「悪い人もなの」
「しかし目立つんだ」
 悪人や独善的な者はというのだ。
「どうしてもな」
「それで注意しないといけないのね」
「ああ、それはいいな」
「それじゃあね」
 咲も頷いて応えた、そしてだった。
 グラスの中のワイン赤のそれを飲んでまた言った。
「明日から本当に気をつけていくわ」
「そうしろ、高校生になるんだからな」
「余計にね」
「そうしろ、しかし」
「それでもなの」
「護身用のものも必要だな」
 父はこうも言った。
「やっぱり」
「何かあった時に?」
「そうだ、母さんが何か買ったそうだな」
「ああ、スタンガンね」
 それだとだ、母も応えた。
「買ってるわよ、特殊警棒もね」
「そうか、二つあるとな」
「大丈夫でしょ」
「父さんは防犯ブザーを買った」
 父はこれもと言った。
「いつも持っておけよ」
「護身用になのね」
「そうだ、もう二重三重にな」
「用心しておくのね」
「警棒振り回したらね」
 母は娘に渡すこの武器のことを話した。
「それだけで結構よ、頭に当たったらノックアウトだから」
「一撃でなの」
「死ぬ位ね」
「死ぬって」
「正当防衛よ、女の子襲う様な奴には自業自得よ」
 母の言葉は今は容赦がなかった。 

 

第六話 入学式の後でその四

「だからね」
「死んでもなの」
「いいのよ」
 この場合はというのだ。
「だから気にしないことよ」
「そうなのね」
「あとね、襲われない格好もあるわよ」
 愛はカルピスサワーをごくごくと飲みつつ咲に言ってきた、咲程ではないが実にいい飲みっぷりである。
「だから普段はね」
「そうした格好で外出したらいいの」
「もう上下ジャージでシューズとかサンダルだと」
 そうした格好ならというのだ。
「まず声もかけられないわ」
「そうなの」
「色気とか全然なくてね」
 それでというのだ。
「もうね」
「声もかけられないの」
「後はもう咲ちゃんがこれまでかけていた眼鏡の中でも縁の太い四角いね」
「ああした眼鏡なの」
「それで髪はぼさぼさにしてノーメイクだと」
 それならというのだ。
「まずね」
「襲われないどころか」
「声もね」
「かけられなくて」
「安全よ、あと私もね」
 愛は笑って話した。
「これでもあまり声はかけられないから」
「愛ちゃんは派手過ぎるのよ」
 母は愛の今の言葉にはむっとした顔で突っ込みを入れた。
「ギャル過ぎてね」
「それでなの」
「そう、派手過ぎたら」
 それならというのだ。
「もうね」
「声もなの」
「かけてもらえないのよ」
「ナンパもされないのね」
「キャッチセールス位じゃないの?」
「あっ、それもないわ」
 キャッチセールスにかかることもというのだ。
「最近はね」
「それはもうね」
「外見が派手だから」
「それ過ぎるからよ」 
 だからだというのだ。
「かえってね」
「声をなのね」
「かけられないのよ」
「派手過ぎるとなのね」
「今の恰好だってそうだよ」
 今度は咲の父が叔父としてどうかという顔で愛に言った。
「愛ちゃんは本当に派手過ぎるよ」
「これでも昔のコギャルさんやヤマンバさんよりましでしょ」
「同じ位だよ」
 その派手さはというのだ。
「だからかえってなんだよ」
「声かけられないのね」
「叔父さんでも愛ちゃんみたいな外見だとどうかと思うからね」
「いけてないの」
「いけていても派手過ぎるんだよ」
 兎に角それに尽きるというのだ。
「だからだよ」
「それでかえってなのね」
「声をかけられないんだよ」
「そうなのね。じゃあ咲ちゃんもね」
 愛は自分の叔父と叔母に言われてからそうした言葉は何とも思わずそのうえで咲にあらためて言った。
「やっぱり最初から声をかけられない為にはね」
「ジャージを着るとか」
「地味な格好をするかね」
「お姉ちゃんみたいに派手に」
「そうすればよ」
 それでというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその五

「声かけられないから」
「そうなのね」
「まあ私みたいに派手にするのはお金がかかるし」
 実際に愛は自分のファッションには金をかけている、アルバイトで得たそれをかなり注ぎ込んでいる。
「ジャージね」
「それがなのね」
「いいわ、もう近所のコンビニに行く時でもね」
「ジャージに眼鏡、シューズかサンダルで」
「髪の毛もボサボサならね」
「声もかけられないのね」
「ええ、ただそんな時も警棒とかは持っていてね」
 護身は忘れずにというのだ。
「いいわね」
「護身用に」
「用心に越したことはないから」
 だからだというのだ。
「いいわね」
「そのことはなのね」
「忘れないで」
 そしてというのだ。
「やっていってね」
「それじゃあ」
 咲も頷いた、そして。 
 ワインを飲んでからこう愛に言った。
「地味な恰好で」
「そう、それと護身用のでね」
「二段でいくのね」
「そうしたらいいのよ」
 それでというのだ。
「念には念を入れてよ」
「悪い人や悪いことに注意して」
「かつね」
 それに加えてというのだ。
「そういうことなのよ」
「世の中大変ね」
「楽しいことも一杯だけれど危険も一杯よ」
 愛はこの真実を話した。
「本当にね」
「そうなのね」
「そう、そしてね」 
 それでというのだ。
「咲ちゃんはこれから人生を楽しみながら」
「注意もなのね」
「していってね、深く考える必要ないから」
「そうなの?」
「そうよ、要するに自分のことは自分で守る」
 愛はハンバーグを食べつつ話した、咲の母の手作りであり量も多く愛も楽しんで食べている。味もいい。
「そういうことよ」
「そうなの」
「だからね」
 それでというのだ。
「深くはね」
「考えなくていいの」
「自分が嫌な目に遭わない」
「そういう風にしていくことね」
「要するにね。咲ちゃんも襲われたりしたら嫌でしょ」
「電車の痴漢も嫌よ」
 そのレベルでとだ、咲は答えた。
「とてもね」
「そうでしょ、だったらね」
「それならなのね」
「そう、嫌な目に遭わない」
「そう考えてなのね」
「やっていけばいいのよ」
「本当に簡単に考えていいの」
「そういうことよ、それとね」
 愛は咲にさらに話した。
「素敵な男の人に出会ったら」
「素敵な?」
「そう、これはっていう人だって思ったらね」
 それならというのだ。
「その人をよく見て」
「それでなの」
「そう、そしてね」
 それでというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその六

「本当にいい人って思ったら」
「その時は」
「アタックよ」
 愛はここでは一言で言った。
「いいわね」
「その時はなのね」
「うちのお父さんとお母さんもそうだったし」
「私のお父さんとお母さんも」
「だから結婚して今もね」
 その時だけでなくというのだ。
「一緒にいるのよ」
「そうなのね」
「そう、そしてね」
「付き合ってもいいの」
「そうしたらいいのよ」
 こう言うのだった。
「いいわね」
「私が恋愛なの」
「そう、恋愛はね」
「恋愛は?」
「そう、恋愛はね」
 それはというのだ。
「経験してね、まあね」
「まあ?」
「私もまだだけれど」
「そうなの」
「けれど言うわよ」
「恋愛もなの」
「経験してね」
 こう言うのだった。
「まあ中には酷い経験もあるけれどね」
「酷いっていうと」
「だから失恋もね」 
 これもというのだ。
「あるから」
「失恋、ね」
「若し失恋したら私のところに来てね」
「お姉ちゃんのところに」
「どんな酷い目に遭っても」
 それでもとだ、愛は咲に笑って話した。
「いいわね」
「その時はなの」
「私のところに来てね」
「話していいのよ」
「何でも聞くから」
「失恋のことも」
「そう、何があってもね」
 こう従妹に話した。
「そうしてね」
「そんな時来るかしら」
 咲には実感がなかった、彼女はまだそうした経験がないのでどうしても理解出来なかったのである。
 それでだ、こう愛に言った。
「私にも」
「恋愛は何時来るかわからないわよ」
「そうなの」
「そうよ、急に誰かと出会って」
 そしてというのだ。
「恋に落ちるなんてね」
「あるの」
「私もそうしたものを見てきたから」
「じゃあ失恋も」
「見たわよ、酷い振られ方して泣いた娘もね」
「そうだったのね」
「男の子でもいたわよ」 
 失恋、それを経験してというのだ。
「それを囃し立てることもしないし」
「お姉ちゃんそれはしないわね」
「人を傷付けるから」
 だからだというのだ。
「それでよ」
「しないわね」
「絶対にね」
 それはというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその七

「何があっても。自分もと思ったら」
「それはなのね」
「しないわ」
 従妹に断言で答えた。
「それはね、しかもこうしたことで囃したら恨まれるからね」
「そんなになの」
「そう、それもかなりね」
 そうなるというのだ。
「一生ね」
「一生恨まれるの」
「だってね、失恋って深く傷付くから」
「それを囃されたら」
「余計に心に堪えるから」
 だからだというのだ。
「本当にね」
「恨まれるのね」
「一生ね、だからね」
 そうなるからだというのだ。
「私もよ」
「最初からなのね」
「言わないわ」
「そう心掛けているのね」
「誰かに一生恨まれるなんて願い下げよ」
 愛はサラダを食べつつ言い切った。
「それは咲ちゃんもでしょ」
「ええ、一生とかね」
 咲もこう答えた。
「嫌よ」
「自分は軽い気持ちで言ってもね」
「相手には違うのね」
「そう、自分にとっては軽いそれも昔のことでも」
「相手にとっては違っていて」
「もうね」
 それこそというのだ。
「一生でどれだけ経っても生々しい」
「そんなことなの」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「絶対によ」
「言わない様にしていて」
「咲ちゃんもそうしないとね」
「下手したら一生なのね」
「その人のね」
「それは絶対に嫌だし」
「じゃあいいわね」
「言わないわ」
 咲は誓って答えた。
「何があっても」
「そうしてね、恨まれたり嫌われていいことないから」
「そうよね」
「だからよ」
「そこは最初からなのね」
「気を付けてね、意地悪とかしても」
 それを悪戯心でしてもというのだ。
「何もね」
「いいことがないのね」
「咲ちゃん元々そうしたことはしないけれど」
「それでも高校に入ってからも」
「何もしないことよ」
 全くというのだ。
「そうしたことはね」
「それじゃあ」
「そう、そして」
 それでというのだ。
「頭に入れておいてね」
「そうするわ」
 咲は今度はワインを飲みつつ述べた。
「高校に入ってからも」
「それじゃあね、あといじめられたら」
「その時もなのね」
「私に言ってね、いいやり方教えるから」
「いいやり方っていうと」
「だからいじめの現場録音とか録画とかして」
 そうしてというのだ。
「それでね」
「ネットに流せばいいから」
「そういうやり方があるのよ」
「いじめは犯罪よ」
 愛はきっぱりと言い切った。 

 

第六話 入学式の後でその八

「犯罪者には犯罪者へのやり方があるのよ」
「ううん、過激ね」
「やられたらやり返せだしね」
「お姉ちゃんそうしたこともしっかりしてるわね」
「暴力は嫌いよ、けれどね」
 それでもというのだ。
「暴力にはね」
「負けないのね」
「そんなのに負けてたまるものかよ」 
 愛の言葉は強いものだった、それはまさに既に確固たる考えを備えていてそのうえで言っている言葉だった。
「そうでしょ」
「けれど殴られたり蹴られたら」
「だからそれは犯罪だから」
 それになるからだというのだ。
「そんなのにはね」
「負けないのね」
「そうよ」
 こう言うのだった。
「だからその時もね」
「いじめられたら」
「私に言ってね」
「録音したり録音したり」
「そのやり方教えるから。その後もよ」
「ネットに流すことも」
「一気に炎上させて」
 本気の言葉だった。
「そしてね」
「いじめた相手をやっつけるの」
「二度とお天道様の下歩けない様にしてやるわ」
「二度となの」
「ええ、もうそれこそね」
「そうなの」
「だから言ってね」
 いじめられた時はというのだ。
「どうせいじめする奴なんて碌な奴じゃないし」
「そうよね。自分より力が弱い相手を攻撃するなんて」
「腕力なり権力なりね」
「暴力を使って」
「そんな奴碌なものじゃないから」
 だからだというのだ。
「もう容赦なくね」
「やっつけるの」
「そうしてやるから」
 だからだというのだ。
「いいわね」
「お姉ちゃん過激ね」
「そうかしら、普通でしょ」
「いや、そこまでやるって」
「悪党には微塵の容赦もしないのは世紀末救世主もでしょ」
「あの漫画ね」
「あの人悪党にはそうでしょ」
 こう咲に言った。
「もう微塵もね」
「それはね」 
 咲もその漫画のことは知っている、そして読んでいる。この作品は最早不滅の作品となっていると言っていいだろう。
「そうだけれど」
「私暴力は振るわないけれど」
「それでもなのね」
「こうしたやり方もあるのよ」
「ネットを使うのね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「容赦なくやっつけてやるのよ」
「そうするのね」
「だからいじめに遭ったらね」
「その時はなの」
「私に言ってね」 
 従妹に年長者それも親戚のそれとしての笑顔で言った。
「いいわね」
「それじゃあその時は」
「そう、叔父さん叔母さんもいるし」
「お姉ちゃんもいるから」
「頼ってね、失恋した時もいじめに遭った時もね」 
 逆境の時もというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその九

「何時でもね」
「あの、愛ちゃんお祝いの場でそう言うのは」
 咲の母が姪にどうかという顔で言った。
「よくないわよ」
「いや、やっぱり人生山あり谷ありだから」
「それでっていうの」
「そう、困った時のこともね」
「言うの」
「そう、だから困った時はよ」
 その時はというのだ。
「私を頼ってってね」
「そのお話の中身が問題よ」
「お祝いの場ではっていうの」
「そうよ、けれど咲はなのね」
「叔父さん叔母さんもいてね」
「愛ちゃんもいるから」
「頼っていいのよ。というか困った時に頼ってくれないと」
 逆にというのだ。
「私怒るから」
「言わないとなの」
「一人で抱え込まないの」 
 咲に今度はややむっとした口調で告げた。
「嫌なこと、困ったことはね」
「お姉ちゃんやお父さんお母さんにお話して」
「そしてね。叔父さん叔母さんに言えなくても」 
 そうしたことでもというのだ。
「私に話せばいいから。私に話せなかったらね」
「お父さんお母さんになのね」
「話していってね」
「抱え込まないことなのね」
「そう、抱え込むなんて」
 それこそというのだ。
「思い詰めてね」
「よくないのね」
「だからね」
「言うことね」
「私だってそうしてるのよ」
「お姉ちゃんもなの」
「そう、お父さんやお母さんやお兄ちゃんに話したり」
 愛は咲に飲みながら自分のことも話した。
「それにお友達や先輩にもね」
「お話してるのね」
「そうしてるのよ。信頼出来る人にね」
「そうなのね」
「逆に信用出来ない人にはね」
「お話してないのね」
「ええ、そうしてるわ」
 ワインを今も飲んでいる咲に話した。
「だから咲ちゃんもなのね」
「お話していいのね」
「そうよ、こっちも出来る限りはするし」
「じゃあ」
「その時はね」
 愛は今も飲んでいた、そしてだった。
 咲は両親それに愛と共に飲んで食べて楽しんだ、デザートのケーキも食べ終えた時咲はかなり酔っていたが。
 風呂には入った、この時愛も言ってきた。
「一緒に入ろう」
「いいの?」
「いいのよ、すっきりしましょう」
 風呂に入ってというのだ。
「それで帰るから」
「そこまで酔っていてかい?」
 咲の父が愛に後ろから言ってきた。
「女の子一人酔って夜道なんて危ないよ、泊まりなさい」
「そうしていいの」
「いい、お家には叔父さんから話しておく」
 愛に強い声で告げた。
「だから泊まりなさい」
「有り難う、おじさん」
「パジャマとお布団用意するわね」
 咲の母も言ってきた。
「じゃあゆっくりしなさいね」
「私のお部屋で寝る?」
 咲も咲で愛に言った。 

 

第六話 入学式の後でその十

「そうする?」
「そうしていいの」
「うん、久し振りに同じお部屋でね」
「お休みね」
「そうしよう」
「それじゃあね。いや本当に飲んだわ」
 愛は真っ赤になった顔で言った、表情も飲んでいる人のそれになっている。
「気持ちいいわ、けれどよ」
「その気持ちよさがっていうのね」
「二日酔いになるわ、けれどお風呂ですっきりしたら」
 それでというのだ。
「かなり違うから」
「だからなのね」
「お風呂入ろう。ただお酒かなり入っているから」
 愛はこのことも話した。
「注意してね」
「そうしてなのね」
「入りましょう」
「うん、じゃあね」
「今からね」
 こう話してだった。
 二人で風呂に入った、まずは二人共身体を洗い。
 湯舟に入った、ここで愛は咲に言った。二人は湯舟の中に向かい合って座ってそうして湯に浸かっている。
 その中でだ、愛は言うのだった。
「実はお酒飲んだらあまり入らない方がいいのよ」
「お風呂には」
「特にサウナにはね」
「そうなの」
「そう、アルコールで血の流れがよくなっていて」
 そしてというのだ。
「そこでお風呂でさらによくなるから」
「だからなのね」
「あまりね」
 それはというのだ。
「よくないの。特に今の私達みたいにかなり飲んでる時はね」
「止めた方がいいのね」
「そう、ただね」
「今はいいの」
「いいっていうかまあ成り行きでね」
 それでというのだ。
「入っているってことでね」
「あまりなのね」
「今度からはここまで飲んで二日酔いになりそうだったら」
 そこまで酔っている時はというと。
「朝起きてね」
「その時になの」
「飲んだらいいわ」
「そうなのね」
「そう、そうした二日酔いも吹き飛ぶから」
「お風呂で」
「お湯で汗かいてね」
 そうしてというのだ。
「そうなるから」
「飲んだ時は朝に入るのね」
「そうよ、二日酔いは物凄く辛いけれど」
「何かお父さん時々言ってるけれど」
「実際になのよ」
 咲の父の言っている通りにというのだ。
「二日酔いはね」
「辛いのね」
「頭が痛くて身体がだるくてね」
「辛いのね」
「けれどそれはお酒が残っていて水分不足で頭が痛いから」
 それでというのだ。
「何とかお風呂場まで行って」
「お風呂に入って」
「それでお酒徹底的に抜いてあがってからお水沢山飲んだら」
「すっきりするのね」
「お風呂入る前が嘘みたいにね」
 その辛さが消えるてというのだ。 

 

第六話 入学式の後でその十一

「そうなるからね」
「お酒飲み過ぎた時は」
「朝に入るのよ。シャワーでも違うから」
「シャワー浴びてもなの」
「それでも随分違うから」
「二日酔いなくなるの」
「そうよ、お湯やお水浴びて身体や頭洗ったら」
 例え湯舟に浸からずともというのだ。
「かなり違うから」
「シャワーだけでもなのね」
「浴びて学校行ったり外出すればいいから」
「そうなの」
「そう、だからね」
「私もなの」
「二日酔いの時はそうしてね、ただ」
 愛はくすりと笑って咲に話した。
「それは早起きしてよ」
「学校があるから」
「そう、学校があるなら」
 その時はというと。
「朝に入るなんて相当時間ないと出来ないでしょ」
「そうよね」
「だからね」
「その時は」
「そう、学校があったらね」
「早起きして」
「何とかお風呂に入って」
 例え頭が痛くても身体がだるくて辛くてもというのだ。
「いいわね」
「身体をすっきりさせるのね」
「特に頭もね。二日酔いで学校に行ったら」
「お姉ちゃんも経験あるのね」
「あるから言うのよ、こんな嫌なことはないわよ」
「身体が辛くて」
「そう、だから二日酔いになったら」
 その時はというのだった、今も。
「まずはね」
「早起きね」
「そうしてね」
「お風呂に何とか行って」
「汗かいてね」
「わかったわ」
 咲もそれならと従姉に答えた。
「そうするわね」
「ええ、そうしてね。あと咲ちゃん今お顔真っ赤よ」
「お酒飲んだからよね」
「それにお風呂も入ってるから」
 このこともあってというのだ。90
「それでよ」
「真っ赤なのね」
「耳や首までね」
「じゃあ身体全体が」
「そうなってるわ」
「そうなの。けれどそう言うお姉ちゃんも」
 咲も愛を見て話した。 

 

第六話 入学式の後でその十二

「随分とよ」
「真っ赤でしょ」
「そう言うと同じね、私達」
「そうね、実はお顔も背もスタイルも似てるって言われてきて」
「ずっと仲いいから」
「いつも実の姉妹みたいに言われてるわね」
「そうよね」
 愛に笑って話した。
「子供の頃からね」
「そうね、だからこそいいわね」
「あっ、晩ご飯の時のことね」
「そう、何かあったら」
 困った時はというのだ。
「いいわね」
「何でもよね」
「お話してね」
「わかったわ」 
 咲も頷いて答えた。
「その時はね」
「何でもよ」
「お姉ちゃんに言うわ」
「叔父さん叔母さんに言えないことでも」
「お姉ちゃんにはなのね」
「言ってね、それで若し私に言えなかったら」
 そうした話はとだ、愛は風呂場でもこのことを話した。
「いいわね」
「お父さんとお母さんにね」
「話してね」
「そうするわね」
「そうしてね、いやしかし明日私も大学なのよ」
「大学の一学期はじまるの」
「そうなの、前期がね」
 それがというのだ。
「はじまるからここでお酒抜いておいて」
「明日はすっきりして」
「そのうえでね」
「大学行くのね」
「そうするわ、一緒にお家出て」
 そしてというのだ。
「それぞれの学校にね」
「行くのね」
「そうしましょう」
「うん、それじゃあね」
 咲は愛の言葉ににこりと笑って頷いた、そしてだった。
 二人は風呂で酒を抜き身体も清めた、そのうえで。
 同じベッドで一緒に寝た、そうして咲は入学式に赴くのだった。


第六話   完


                 2021・3・8 

 

第七話 入学式の後でその一

                第七話  入学式の後で
 咲は朝愛と一緒に起きるとすぐに高校の制服を着た、それは黒のブレザーとグレーのミニスカートだった。
 黒のブレザーの袖には金モールの模様が二本ある、そして赤いネクタイと白のブラウスというものだった。
 その制服になると私服に着替えていた愛は咲に言った。
「いい制服ね」
「八条学園って制服何十もあるけれど」
「それで有名な学校なのよね」
「神戸の本校もそうで」
「東京の方もよね」
「それでその中からね」
「その制服にしたの」
 こう従姉に話した。
「色々見て選んでね」
「成程ね」
「似合うかしら」
「何か自衛隊みたいね」
 愛はその黒のブレザーを見て笑って答えた。
「海上自衛隊ね」
「あそこなの」
「そう、あそこみたいよ」
 従妹に笑顔で話した。
「黒のブレザーで袖に金モールあるから」
「それでなのね」
「本当にね」
「海上自衛隊みたいなのね」
「お洒落じゃない、似合ってるし」
「似合ってるの」
「脚もはっきり見えるし」
 今度はグレーのミニスカート、制服から出ているそれを見て言った。
「そっちもね」
「脚もいいの」
「ミニスカート似合ってるわよ」
 咲に笑顔で話した。
「咲ちゃんスタイルいいから、特に脚がすらりとして長いから」
「そんなにいいの」
「色白だし」
 このこともあってというのだ。
「凄くね」
「ミニスカートもいいの」
「しかも胸もあるから」
 今度はそちらの話だった。
「本当にね」
「似合ってるの」
「というか咲ちゃんあらためて見たら」
 その制服姿を見ての言葉だ。
「本当にね」
「スタイルいいの」
「凄くね、だからその制服姿もね」
 それもというのだ。
「いいわよ、そしてこれは余計に悪い虫には気をつけないとね」
「そうなの」
「スタイルよくてしかも奇麗だし」
 顔もいいというのだ。
「だからね」
「悪い男もなの」
「寄って来るから」
「気をつけないといけないのね」
「そこはこれまで言った通りにね」
「気を付けて」
「そうしていってね」 
 従妹に強い声で話した。
「いいわね」
「それじゃあね」
「そのことは気をつけて今日からね」
「ええ、楽しくね」
「高校生活過ごしてね」
「そうするわね」
「じゃあ朝ご飯食べて」
「それから学校行こう」
 それぞれの学校にというのだ。
「そうしようね」
「わかったわ」
 咲も頷いて答えた、そしてだった。
 二人でリビングに出て母が作ったご飯を食べてだった、それぞれ歯を磨いてから家を出た。この時もう父は会社に行っていたが。 

 

第七話 入学式の後でその二

 母は咲にこう言った。
「じゃあ今日からね」
「うん、高校生活はじまるから」
「頑張ってね」
「そうするわ」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「三年間のことをいい思い出になる様にね」
「するのね」
「そうなる様にしてね」
「いい思い出ね」
「どうせ三年過ごすなら」
 高校でというのだ。
「やっぱりね」
「いい思い出ね」
「そうなるに越したことはないでしょ」
「そうね」
 咲も母のその言葉に頷いた。
「やっぱり」ね」
「ただ過ごすんじゃなくてね」
「いい思い出にしないとね」
「だからよ」
「この三年間」
「いい思い出になる様に」
 まさにそうなる様にというのだ。
「頑張ってね」
「それが一番ね」
「そして一生の思い出にしてね、その一生もね」
 高校を卒業してからもというのだ。
「やっぱり振り返って」
「楽しかったら」
「そう、いい思い出だったらいいでしょ」
「そうね、やっぱり一生ね」
「そうそうそうはいかないけれど」
「よくないこともあるわね」
「生きていたらね」
 それならというのだ。
「そうした時もあるわ、けれどね」
「それでも出来るだけは」
「その方がいいから」
 それでというのだ。
「努力していってね」
「いい思い出を作っていく為に」
「そうしてね」
「ええ、この三年間ね」
「もっと言えばそれからもだけれど」
「そうしていく様にするわ。それじゃあ」 
 咲は母に笑顔で言った。
「これからね」
「入学式にね」
「行って来るわ」
「じゃあ咲ちゃん行こう」 
 愛がここで言ってきた。
「今から」
「うん、電車に乗って」
「そしてね」
「私は高校で」
「私は大学よ」
「そうよね」
「途中まで一緒だし」 
 電車でもというのだ。
「行きましょう」
「それじゃあね」
「ええ、今からね」
「行こう」
 二人でこう言ってだった、母と別れを告げて。
 咲は愛と共にまずは駅に向かいそこで定期を使って駅に入った、そして電車に乗ったがその満員電車の中で。
 咲は愛にここではこう言った。
「はじめて定期使ったわ」
「どんな気持ち?」
「楽にね」
 それでというのだ。 

 

第七話 入学式の後でその三

「駅に入れてね」
「電車に乗れたでしょ」
「嘘みたいにね」
「それが定期よ、それで通学よ」
「通学なの」
「これから毎日していくことよ」
 愛は咲に笑って話した、満員電車の人ゴミの中で笑って話している。
「咲ちゃんもね」
「これも毎日なのね」
「そのうち慣れるわよ」
「そうなの」
「自然とね。何でもなくなるわ」
「毎日しているうちに」
「そうよ、中学までは歩いて行ってたけれど」
 それがというのだ。
「そうなるのよ」
「そうなのね」
「だからはじめての時はこうなのかって思うけれど」
「自然と慣れて」
「それでね」
「普通に通学するのね、毎日」
「すぐ慣れるわ、それで咲ちゃん次の駅よね」
「ええ、次でね」
 まさにとだ、咲は答えた。
「高校よ」
「その最寄り駅でしょ」
「そうよ」
「じゃあ降りる用意して」
 こう咲に言った。
「今からね」
「うん、それで」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「高校行って来てね」
「うん、それじゃあ」
 咲も頷いてだ、そうしてだった。
 その駅で降りた、そこで咲は電車の中にいる愛の方を振り返ってそうして笑顔で手を振って挨拶をした。
「じゃあお姉ちゃん行って来るわ」
「うん、私も行って来るわ」
「頑張って来るわね」
「頑張ってそしてね」
 そのうえでと言うのだった。
「楽しくね」
「高校生活過ごしていくのね」
「そうしてね」
 是非にというのだ。
「いいわね」
「それじゃあね」
 こう話してだった、咲は高校に行った、高校に行くと。
 咲は自分のクラスに入った、そこはというと。
「宜しく」
「宜しくね」
「こっちこそね」
「こっちこそ宜しく」
「こっちこそね」 
 お互いに紹介をしていた、そしてだった。
 咲にもだ、クラスメイト達が声をかけてきた。
「ねえ、名前何ていうの?」
「何処の中学?」
「お家何処?」
「うん、私はね」
 咲は素直に自分のことを名乗った、そしてこう言った。
「これから宜しくね」
「こっちこそね」
「これから一年宜しくね」
「入学式の後自己紹介あるけれど」
「その後でまたお互いお話しようね」
「その時にもね」
「ええ、その時もね」
 咲もこう返してだった。
 入学式の後でクラスメイト達はそれぞれ自己紹介をした、それからはそれぞれ和気藹々と話をしてそうしてだった。
 咲はクラスメイト達と楽しく話しながら下校した、そして電車の中でだった。 

 

第七話 入学式の後でその四

 あるクラスメイトが咲にこう言った。
「小山さん道玄坂のそのお店に行ったことないの」
「道玄坂は一回?二回?行ったことあるけれど」
 このことは嘘ではない、中学時代に友達と行ったことがあるし小学校の時母にこうした場所もあると連れて行ってもらったことがあるのだ。ただ坂の上まではない。
「それでもね」
「ないのね」
「そんなお店あるのね」
「そうなの、魔法のアクセサリーを売ってるのよ」
「ルーン文字とかが入った」
「おまじないのね、それでその店長さんがね」
 クラスメイト、黒髪をポニーテールにして元気のいい感じの彼女は咲に話した。着ている服は青のセーラー服だ。
「また凄い美人さんみたいなの」
「そうなの」
「黒いスーツに身を包んでいて背が高くて物凄いスタイルで」
「スタイルもいいの」
「胸も凄いらしくてね。目は切れ長で黒髪を後ろで上げてまとめていて」
「そんな人で」
「もうびっくりする位にね」
 山手線の中で話した。
「美人らしいのよ」
「それでその人が店長さんで」
「そんなお店があるの」
「そうだったのね」
「だから一度ね」
「そのお店になのね」
「小山さんも言ってみたら?」
 咲に少し真剣な顔で提案した。
「今日にでもね」
「渋谷ね」
 東京でもおしゃれなことで知られている、ファッションリーダーとも言うべきその場所の名前に興味を持って頷いた。
「じゃあ高校にも入ったし」
「それならよね」
「高校デビューじゃないけれど」
「行ってみる?」
「ええ、渋谷も少し見てみたいし」
「じゃあそうしてね」
「ちょっと行って来るわね」
 こうクラスメイトに答えた。
「今から」
「明日お店のこと聞かせてね」
「どんなお店か」
「それでどんな店長さんか」 
 クラスメイトも笑顔で言った、そして彼女と別れてだった。
 咲は足立区の自宅ではなく渋谷に向かった、そして渋谷に着くと八チ公やモアイの像を見てからだった。
 道玄坂に向かいクラスメイトが話していた魔法のアクセサリーを売っている店の場所を聞いてだった。
 そこに行ってみた、その店は全体的に黒魔術の趣が強く配色もダークネスだった。そして売られているものも。
 アクセサリーだけでなくグッズそれに実際の魔法の品の様なものまであった。ファンタジーの要素も好きな咲にとってはいい感じの店だった。だが。
 メイド服の若い大学生位の店員に店長のことを聞くと店員は咲に申し訳なさそうな顔でこう答えた。
「店長は今はおられないです」
「そうですか」
「はい、今は急なお仕事が入りまして」
「お仕事ですか」
「このお店以外の仕事もしておられて」
 それでというのだ。
「今は広島に行かれています」
「広島ですか」
「福山の方と言われていました」
 広島県のそこだというのだ。
「そこに行かれていて」
「今はおられないですか」
「申し訳ないですが」
「いえ、謝られることはないです」
 咲もそれはいいとした。 

 

第七話 入学式の後でその五

「お仕事ですから」
「そうですか」
「はい、じゃあこれ買います」
 ふと目に入ったルーン文字のペンダントを見て手に取った。
「これお幾らですか?」
「五百円です、税抜きで」
「わかりました」
 咲はすぐに金を出した、そうしてだった。
 そのペンダントを買って店を出た、それから道玄坂にあるコンビニに入って飲みものを買おうとしたが。
 後ろからだ、こう言われた。
「お店のお客さんには注意した方がいいですよ」
「お客さん?」
「あの人です」
 店の中にいる一人の者を指差して咲に話した、見ればロッカーの出来損ないみたいな恰好でやけに目つきが悪い。
「女の子を騙して覚醒剤中毒にして身体を売らせています」
「えっ、そんな人ですか」
「可愛い娘と見ると声をかけるので」
 だからだというのだ。
「決して近寄らないで下さい」
「そうですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「今はお店に入られない方がいいです」
「わかりました、ただあなたは」
 咲は後ろから自分に話すその人を振り返って見た、見れば。
 一八〇はある長身ですらりとしている黒い髪の毛はショートだが左目のところを隠している。細面で切れ長のめの整った顔立ちだ。
 青いスーツに裏が赤の白いコートを着ている、靴は黒でネクタイは赤、ブラウスも白だ。咲はその人を見てすぐにこんな格好いい人を実際に見たことはないと思った。
 思わず見惚れたがそれを何とか隠して彼に問うた。
「どなたですか?」
「速水丈太郎です」
 男は咲に微笑んで答えた。
「お見知りおきを」
「速水さんですか」
「この渋谷で占いのお店を持っています」
「占いの」
「一〇九のビルの中に」
「えっ、あそこにですか」
 これには咲も驚いた、渋谷の象徴とも言える店だからだ。
「お店をですか」
「はい、実は今日お店のアルバイトに来るべき人がここにいると占いで出まして」
「それで、ですか」
「ここに来ましたら」
 そうすればというのだ。
「まさにでした」
「まさに?」
「その人がいました」
 こう咲に語った。
「占いの通りに」
「それでその人は」
「貴女です」
 咲に微笑んで答えた。
「まさに」
「えっ、私ですか」
「アルバイトに興味はありますか?」
 速水は咲にその微笑みで問うた。
「占いの事務所ですが」
「事務ですか」
「占いは私がしてまた私の占いは門外不出でして弟子も取らないです」
「そうなんですか」
「ですからアルバイトの方はです」
 そうした者はというと。
「あくまで事務と受付と雑用をしてもらう」
「雑用っていうとコーヒーを淹れたり」
「お掃除です、そうして頂けますと」
 そうしたことをしてもらうと、というのだ。 

 

第七話 入学式の後でその六

「一時間で千五百円は」
「千五百円、高いですね」
 高校生の東京でのアルバイトとしてはとだ、咲はその額に驚いた。
「それはまた」
「ですがどうでしょうか」
「本当にいいんですか?」
「はい、間違っても怪しいお仕事ではありません」
 速水は咲にこうも話した。
「何でしたら貴女のご両親ともお話して」
「会ってですか」
「そしてです」
 そのうえでというのだ。
「来て頂くということで。あと私のことは調べて下さってです」
「宜しいですか」
「存分に。速水丈太郎と検索されますと」
 ネットでというのだ。
「それで、です」
「お名前が出ますか」
「はい、占い師ということで」
「そうですか」
「私を怪しいと思うなら」
「それならですか」
「そうされて下さい」
 こう言うのだった。
「存分に」
「それでは」
「はい、ではご両親にお会いして」
「そしてですか」
「お話したいですが」
「そうしてですか」
「アルバイトのお話をしましょう」
 こう話した、そしてだった。
 速水は自分の名刺を渡してから咲の前から姿を消した、コンビニは結局行かずユーターンして駅に向かい。
 そこから家に帰った、すると母が言ってきた。
「遅かったわね」
「入学式の後渋谷行ったの」
「渋谷に?」
「そう、あそこにね」
 咲はリビングにいる母に素直に答えた。
「行ってきたの」
「そうだったの」
「それで道玄坂の魔法のアクセサリーのお店に行ったの」
 そのペンダントを見せながら話した。
「それでこれ買ったの」
「渋谷ね。あまり行かない方がね」
「いいの」
「あそこも結構色々な人がいるから」
「そう、それでね」
 咲はさらに話した。
「覚醒剤の密売人の人も見たわ」
「お話してないわね」
「それはね、あの人に近寄るなって注意されたから」
「それでなのね」
「その人コンビニにいたけれど避けられたわ」
「それはよかったわね、ただね」
 それでもとだ、咲はここでだった。
 母に速水の名刺を見せた、そうして話した。
「アルバイトに誘われてるの」
「速水丈太郎!?あの占い師の」
 名刺の名前を聞いてだった、母は目を丸くして言った。
「有名な人じゃない」
「そうなの」
「お母さんも聞いた位よ」
「そんな有名な人なの」
「そう、タロット占いをして外れないっていう」
「外れないの」
「凄い人らしいわよ」
 こう咲に話した。
「何でもね、その速水さんとなの」
「コンビニの前で中にいる柄の悪い人が密売人って教えてもらって」
「その人と関わらずに済んで」
「そしてね」
 それでというのだ。 

 

第七話 入学式の後でその七

「名刺差し出されて」
「アルバイトもなの」
「そう、誘われてるの」
「速水さんの占いの?」
「お店にね」
 そこにというのだ。
「誘われてるの」
「そうだったの」
「それでうちに来て正式に採用したいってね」
「お母さんにお話するの」
「お父さんにもかしら」
「あの速水さんにね」 
 東京でも知られた占い師であることからだ、母は言った。それは信じられないというもので顔にも出ていた。
「凄いことになったわね」104
「あの人そんなに有名なのね」
「雑誌でも時々出る位よ」
「雑誌で?」
「連載も持っていてね、占いは当たるし凄い美形で」
「そうそう、美形だったわ」
 母の言う通りだとだ、咲は答えた。
「背も高くてね」
「雑誌の写真の通りなのね」
「雑誌の方は知らないけれど」
「美形だったのね」
「何かホスト風の」
 これは咲の感じた速水を見た印象である。
「青いスーツと裏地が赤の白いコートで決めた」
「それで左目を髪の毛で隠してる?」
「そうした人だったわ」
「間違いないわ」
 まさにというのだ。
「その人よ、よくそんな人があんたに声かけたわね」
「何かアルバイトの娘がそこにいるってね」
 咲は母にこのことも話した。
「占いで出たらしくて」
「それでなのね」
「ええ、コンビニの前に来たら」
 それでというのだ。
「私がいたみたいよ」
「そこでも占いなのね」
「何でもお店は109のビルの中にあるそうよ」
「そうそう、速水さんのお店はね」
「109にあるの」
「あのビルの中でね、そのことも有名だから」
「それじゃあ」
「間違いないわ」
 まさにとだ、母は娘に言った。
「速水さんよ」
「そうなのね」
「すぐに連絡しなさい」
 母は積極的に言った。
「速水さんにね」
「名刺に携帯やメールのアドレスもあるし」
「だからね」
「速水さんに連絡して」
「お母さんはいいって言ったってね、お父さんにもお話するから」
「お父さんはいいって言うかしら」
「普通アルバイトでわざわざお家に来て採用したいって言う人いないわよ」
 母の言葉は真剣なものだった。
「そこまでする人が来るのなら」
「お父さんもなの」
「まずね」
「うんって言ってくれるのね」
「間違いないわ」
 母の言葉は太鼓判を押したものだった、もっと言えば母は父が難色を示してもそれでも説得するつもりだった。
 そうした考えでだ、咲に言った。
「だからね」
「速水さんになのね」
「連絡しなさい、すぐにでも」
「すぐになの」
「来て欲しいってね」
 お家にというのだ。
「そうしてね」
「それじゃあね」
 咲は早速だった、自分の携帯を出してだ。 

 

第七話 入学式の後でその八

 速水の携帯に連絡を入れて彼に話した。
「あの、小山咲です」
「はい、コンビニでお会いしましたね」
「そうです、それでお返事ですが」
「如何でしょうか」
「お母さんにお話しましたが」
 母の返事をそのまま話した。
「お願いしますとです」
「その様にですか」
「答えてくれました、後はお父さんですが」
「そうですか」
「はい、お父さんの返事があれば」
「その時はですね」
「正式にです」 
 まさにその時にというのだ。
「お願いします」
「そうですか、ではお父さんも頷いてくれたら」
「その時はですね」
「はい」
 まさにというのだ。
「またご連絡下さい、ただ今からまた仕事に入りますので」
「だからですか」
「今度からはメールで」
 それでというのだ。
「連絡して下さい」
「わかりました」
「そしてそちらにお邪魔する日時も」
「そちらもですね」
「お話しましょう、あとよかったら貴女の住所と電話番号も」
 これもというのだ。
「教えて下さい、お父さんがいいと言われたら」
「わかりました」
 咲は速水に頷いて答えた、これで携帯でのやり取りを終えて母に話すと母は娘に満面の笑顔で言った。
「あんた人生勝ったわね」
「えっ、勝ったの」
「だってイケメンカリスマ占い師のお店で働かせてもらうのよ」
 だからだというのだ。
「それじゃあね」
「人生勝ったの」
「少なくとも今はね」
「今はなの」
「人生浮き沈みがあって」
 そしてというのだ。
「負ける時もあるわよ」
「勝ち組負け組って言っても」
「そんなのいつもよ、スポーツはいつも勝敗があるでしょ」
「それはね」
「優勝するチームもあれば」
「最下位のチームもあるわね」
「そんなのいつも変わるのよ」
 人生の勝ち負けはというのだ。
「それね、けれどね」
「それでもなの」
「そう、今はね」
「私は勝ったの」
「そうよ、お金は入るし」
 アルバイトをしてというのだ。
「そしてね」
「イケメンカリスマ占い師のお店で働かせてもらって」
「それでね」
 まさにというのだ。
「あんたはね」
「勝ち組なのね」
「そうなったわ」
 まさにというのだ。
「よかったわね」
「ううん、そうなのね」
「じゃあ後はお父さんにお話して」
 そうしてというのだ。
「正式にね」
「家族三人でなのね」
「速水さんからお話を聞きましょう」
 母は笑顔で言った、そして会社から帰った父に話すと。
 父は速水の名前を聞いただけで驚いて言った。 

 

第七話 入学式の後でその九

「おい、あの人か」
「お父さんも知ってるの」
「グループの上の人達も占ってもらってるそうだ」
「グループっていうと」
「八条グループだ」
「お父さんの会社だけじゃないの」
「ああ、グループ全体でな」
 それでというのだ。
「占ってもらってるんだ」
「そうなのね」
「もう日本でも指折りの占い師だぞ」
「そんな人だったの」
「ああ、お父さんでも知ってる位だ」
 こう咲に言うのだった。
「そんな人からか」
「アルバイトにどうかってね」
「何でお前がって思うけれどな」
「私占いは漫画とかで読んでるけれど」
 それでもというのだ。
「けれどね」
「自分はしないな」
「全然ね」 
 そうだと父に話した。
「だから私自身ね」
「何で声をかけられたかわからないか」
「ええ、けれどなのよ」
「声をかけられたんだな」
「速水さんの占いの結果ね」
 それでというのだ。
「それでなのよ」
「そうか、じゃあ一回うちに来てくれるんだな」
「そう言ってるわ」
「それじゃあ来てもらえ」
 父も即答だった。
「いいな」
「お父さんも賛成なのね」
「賛成っていうかな」
 どうかとだ、父は娘に答えた。
「信じられないってな」
「思ってるのね」
「ああ」
 その通りという返事だった。
「本当にな、けれどな」
「それでもなのね」
「来てくれるならな」
「来てもらって」
「そしてな」
 そのうえでというのだ。
「アルバイトに雇ってくれるならな」
「是非なのね」
「そうしてもらえ」
「それじゃああね」
「それであんたはジムとか雑用よね」
 母は咲に横から聞いてきた。
「そうよね」
「ええ、占いは速水さんだけがされてね」
「それでなの」
「そう、私はね」
「そうしたお仕事ね」
「それだけらしいわ、速水さんにコーヒー淹れたりね」
 そうしたというのだ。
「お仕事らしいわ」
「成程ね」
「速水さんの占いがどんなのか詳しく知らないけれど」
「タロットみたいよ」
「そうなの」
「タロットで何でも占われるらしいわ」
 母は咲に雑誌で得た知識を話した。
「そうらしいわ」
「そうなの」
「だからね」
 それでというのだ。
「あんたのこともね」
「タロットでなのね」
「占ってね」
「私と会ったの」
「そうだと思うわ、これはね」
 娘にさらに言った。
「運命ね」
「速水さんとお会いしたことは」
「それで採用してもらったら」
「それもなのね」
「運命よ、いや運命ってあるのね」
 母はここでしみじみとした口調になって述べた。 

 

第七話 入学式の後でその十

「実際に」
「お母さんも運命とか言うの」
「何言ってるの、神様も仏様も信じてるでしょ」
 母の返事はあっさりしたものだった。
「そうでしょ」
「言われてみればそうかしら」
「それでよ」
「運命もなのね」
「信じてるのよ」
 こう咲に話した。
「全部が全部じゃないけれどね」
「お父さんも信じているぞ」 
 今度は父が言ってきた。
「運命はな」
「あるの」
「そう、そしてな」
 それでというのだ。
「速水さんと会ったのもな」
「運命なのね」
「少なくともコンビニに入っていたらな」
「覚醒剤の密売人の傍に来て」
「下手をして声をかけられたな」
「大変なことにもなっていたわね」
「そうなる可能性もあったからな」 
 だからだというのだ。
「助かっただろ」
「確かにね」
「そう思うとな」
「助けてもらったことも」
「運命だ、じゃあその運命に従ってな」
「速水さんになのね」
「連絡しろ」
 家に来て欲しいと、というのだ。
「いいな」
「それじゃあね」
「何でもかなり不思議な人らしいがな」
 父は速水についてこうも言った。
「時々いなくなってすぐに帰って来るらしいしな」
「そうなの」
「占いが当たるだけでなく」 
 それに加えてというのだ。
「時々いなくなる」
「そのことが不思議なの」
「そう言われているな」
「凄い美形だし」
 見れば母は自分のスマートフォンを出してそのうえで速水の名前を検索して画像を観ている、そうして言うのだった。
「浮いたお話があってもおかしくないわね」
「浮いた話は聞かないか」
「ええ、ネットでも美形の占い師さんとしてね」
「有名なんだな」
「そうだけれど」
 夫に話した。
「これがね」
「浮いた話もか」
「なくて」
 それでというのだ。
「そのこともね」
「不思議か」
「私が思うにね」
「そうか、けれど女の人に清潔ならな」
「咲にとってもいいわね」
「お店の娘に手を出す人もいるからな」
「ええ、そんな人でないなら」 
 それならというのだ。
「そのこともね」
「いいな、じゃあな」
「速水さんに来てもらって」
「お話を聞いてな」
「咲のことをお願いしましょう」
「アルバイトのことをな」
「そうしましょう」
 こう夫婦で話した、そしてだった。
 夫婦の話の後でだ、母はまた娘に言った。 

 

第七話 入学式の後でその十一

「じゃあね」
「速水さんにね」
「連絡しなさい」
「わかったわ」
「本当にこんなお話滅多にないから」
「時給千五百円のアルバイトだし」
「お金もだけれど」
 それだけでなくというのだ。
「そんなね」
「有名な占い師さんのところでアルバイトさせてもらって」
「しかも美形ときてるから」
「お母さん美形にこだわってない?」
「そうかしら」
「ええ、確かに速水さん凄い美形だけれどね」
 このことは事実だがとだ、咲は返した。
「ちょっとね」
「こだわり過ぎっていうのね」
「そう思ったわ」
 速水の外見のことにというのだ。
「本当に」
「母さん、浮気は止めてくれよ」
 父もここで妻に言った。
「頼むから」
「浮気なんてしないわよ」
「そうだといいけれどな」
「ホスト通いとかもしないし」
 そうしたこともというのだ。
「私はそうでしょ」
「お金を使うだけだな」
「そう、ホスト通いなんてね」
 それこそとだ、妻として夫に話した。
「何になるのよ」
「それは僕も思うよ、キャバクラとか」
「お父さんもでしょ」
「何がいいのか」
 そうしたところで遊んでもというのだ。
「わからないな」
「そうよね、何がいいのか」
「お酒飲むならお酒だけにして」
「男の人と遊ぶとか」
「女の子とはな」
「何処がどういいのか」
「ホストクラブ?借金作るところ?」 
 咲は中学校で得た知識を話した、ある人がそこに入り浸って借金生活に入ったことを聞いているからこう言ったのだ。
「お酒飲んで」
「まあそうだな」
「そうなるわね」
 両親も否定しなかった。
「結論から言えば」
「そうした場所だな」
「男前の人なんて」
 咲はこれまた主観から話した。
「アニメとか漫画とかラノベにね」
「いや、現実だから」
 母は娘の今の言葉には苦笑いで応えた。
「ホストクラブは」
「だからなの」
「そう、アニメとかでないね」
「実際の人で」
「お店で遊んで」
 入り浸ってというのだ。
「貢いだりしてね」
「お金使うの」
「高いお酒注文したりしてね」
「余計にわからないけれど」
 咲は眉を曇らせて述べた。 

 

第七話 入学式の後でその十二

「それって」
「そうした世界もあるの」
「そうなの」
「けれどお金をそうして使うのはね」
 それはというのだ。
「確かにね」
「よくないわよね」
「お金は大事よ」
 言うまでもない、そうした母の言葉だった。
「本当にね」
「もうお金がないとね」
「何も出来ないでしょ」
「そのことは事実よね」
「そう、だからね」
「お金はちゃんと使うべきよね」
「そんなホストクラブで遊んで」
 そうしてというのだ。
「一億とか散財するなんてね」
「馬鹿なことよね」
「ホストの人に貢いでも」
 そうしてもというのだ。
「何か返ってくるか」
「それはないわよね」
「そう、何もね」
 それこそとだ、母は娘に話した。
「ただホストの人が喜ぶだけよ」
「本当にそうよね」
「それでホストの人達もね」
 その彼等もというのだ。
「それがステータスで生き方だから」
「貢がれることが」
「そう、そしてそのお金でね」
「生きていくのね」
「勿論ホストクラブからのお給料もあるけれど」
 それはあるがというのだ。
「やっぱりね」
「貢がれてなのね」
「それがあの人の収入だし」
「ホストクラブのお給料でも生きられるわね」
「基本ね、お母さんにはそうした人に貢ぐなんて」
「理解出来ないわね」
「それならあんたみたいによ」 
 咲自身にも話した。
「漫画やライトノベルやゲームにね」
「使う方がいいのね」
「ずっとね」
「そうなのね」
「あとギャンブルも駄目だな」
 今度は父が言ってきた。
「あれにお金使って何もなくす人もな」
「いるわね」
「借金漬けになる人もいるぞ」
 ギャンブルに溺れてというのだ。
「お父さんもそんな人聞いてきたしな」
「それで知ってるのね」
「そんなことで身を持ち崩してどうするんだ」
「私ギャンブルしないけれど」
「ああ、するな」
 それならとだ、父は娘に言った。
「もうな」
「最初から」
「そうだ、あれは勝とうと思ったらな」
「勝てないのに」
「昔阪急って野球チームがあったんだ」
 阪急ブレーブスである、関西の私鉄会社が親会社であり何度も日本一にもなった黄金時代も存在したチームである。
「そのピッチャー足立さんは競馬が得意だったがな」
「そのギャンブルね」
「強い秘訣はな」
 それはというと。 

 

第七話 入学式の後でその十三

「勝とうと思わない」
「それだったの」
「そう言ってたらしい」
「そうなの」
「どうしても勝とうと思うな」
「それはね」
 咲もその通りだと答えた。
「思うわよね」
「しかしな」
「その人、足立さんはだったのね」
「勝とうとはな」 
 そのギャンブルにというのだ。
「思わなかったらしいな」
「それで逆に勝っていたのね」
「そうでもないとするなってことだな」
「ギャンブルは」
「そうだ、それで咲は勝とうと思うな」
「お金かかってるし」
 咲もこう答えた。
「それならね」
「そうだな、だったらな」
「ギャンブルはしないことね」
「最初からな、アルバイトのお金はお洒落に使ってもいいし」
 愛に教えられているそれにというのだ。
「あとこれまで通りだ」
「漫画とかラノベに使ってもいいのね」
「そういうものは返ってくるんだ」
 ホストやギャンブルと違ってというのだ。
「自分にな、だからな」
「それでなのね」
「アルバイトに採用してもらったらだ」
「そうしたものに使っていけばいいわね」
「そうだ、お金の使い方も考えろよ」
「そうしていくわね」
 咲は父にも頷いた、そうしてだった。
 速水にあらためて連絡をした、速水は咲の話を聞いて行きたい日時を話した、咲は両親にその話をすると両親はその日時ならと笑顔で答えた。


第七話   完

 
                 2021・3・15 

 

第八話 速水の訪問その一

                第八話  速水の訪問
 咲は高校生活をはじめていてその中でクラスメイト達のうち何人かとも打ち解けて言っていた、そして部活も決めた、その部活はというと。
「漫画研究会なの」
「小山さんそこに入るの」
「そう決めたの」
「中学の時もそうだったしね」
 咲はクラスメイト達に自分達のクラスで話した。
「だからね」
「小山さんだとテニス部とかって感じだけれど」
「あとバスケ部とかね」
「そうした感じなのに」
「漫研なの」
「私元々スポーツしないから」 
 咲はクラスメイト達に笑って答えた。
「授業以外で」
「そうなの」
「スタイルいいけれど」
「運動はしないのね」
「犬の散歩位ね」 
 するのはというのだ。
「やるのはね」
「それ本当に意外」
「小山さんが運動しないって」
「文科系って」
「ちょっとね」
「意外なのね」 
 むしろ言われる咲の方がという顔だった。
「そうなの」
「そう、実際どうなの?」
「小山さん運動出来ないの?」
「その辺りどうなの?」
「平均より下よ」 
 咲は正直に答えた。
「中学の時はね」
「運動部じゃないから」
「だからなのね」
「そこはどうしてもなのね」
「落ちるのね」
「そうなの。それで部活も」
 高校のそれもというのだ。
「やっぱりね」
「漫研にするの」
「中学もそうだったから」
「高校でもなのね」
「そうしてね」
 それでというのだ。
「そっちも満喫したいわ」
「わかったわ、じゃあね」
「漫研頑張ってね」
「私達は私達で部活入るし」
「そうするし」
「そういうことね。あとね」 
 咲はさらに話した。
「部活入らない子もいるわよね」
「所謂帰宅部ね」
「あとアルバイトに専念する子ね」
「うちはアルバイト先生に言ったら確実に許可下りるらしいけれど」
「相当変なものでもない限り」
 申請すれば通るというのだ。
「そうらしいけれど」
「帰宅部の子もいるわよね」
「やっぱり」
「そうよね。中学の時にいきなり生徒を何発も殴ったり蹴ったりする先生に出会って」
 それでというのだ。
「それから絶対に部活入らないっていう人もいるみたいだし」
「それ暴力じゃない」
「絶対に駄目でしょ」
「生徒を何発も殴ったり蹴ったりって」
「それ指導?」
「虐待でしょ」
「そうした先生に出会ってね」 
 咲はクラスメイト達にさらに話した。 

 

第八話 速水の訪問その二

「もう二度とね」
「部活に入らない」
「そうなった人もいるのね」
「それ完全にトラウマになってるわね」
「間違いないわね」
「普通こんな先生クビだけれど」
 咲は腕を組んで首を傾げさせて述べた。
「実際にね」
「そんな先生もいるのね」
「朝鮮労働党にいそうな人が」
「ヤクザ屋さんと変わらない人が」
「そうみたいね、それでその部活辞めようとしたら」
 暴力が嫌だからなのは言うまでもないとだ、咲は話していて思った。
「親が続けろとか言うそうだし」
「それ駄目でしょ」
「DV男と一緒にい続けろって言うのと同じでしょ」
「その先生の暴力で怪我したらどうするのよ」
「取り返しつかないでしょ」
「それで余計に嫌になってもう無理に部活辞めて」
 そうしてというのだ。
「もうそれからね」
「部活を二度としなかった」
「先生に暴力受けて親に続けろって言われて」
「それならもう最初からしない」
「そうなったのね」
「そんな話も聞いたわ、東京じゃないらしいけれど」
 この話はというのだ。
「けれどね」
「そんな先生もいるってことね」
「何発も殴ったり蹴ったりする先生」
「無茶苦茶な暴力を振るう先生いるのね」
「この先生生徒を床の上で背負い投げしたりもしたそうだし」
 咲はこの話もした。
「普通柔道の技って畳の上でするらしいけれど」
「それ最悪死ぬわよ」
 クラスメイトの一人、茶髪をショートにした背の高い娘が真顔で答えた。
「冗談抜きで」
「そうなの」
「私のお兄ちゃん柔道やっててね」
「柔道のこと知ってて」
「私にも色々言うけれど」
「畳の上でするものなのね」
「それがクッションになるから」
 柔道の技を仕掛けた時にだ。
「絶対なのよ」
「そうなの」
「若し床の上で技仕掛けたら」
 その時はというのだ。
「本当にね」
「死ぬこともなのね」
「そう、あるわ」
 その可能性があるというのだ。
「下手したらね」
「じゃあその先生は」
「確実に暴行罪ね」
 そのクラスメイトは断言した。
「傷害罪になりかねないし」
「殺人もあるのね」
「普通にね、それうちのお兄ちゃんに話したら」
「どう言うのかっていうのね」
「絶対に怒るわよ」
 そうなるというのだ。
「だって本当にね」
「死ぬかも知れないから」
「そうしたお話だから」
 それ故にというのだ。
「柔道の技は危ないっていつも言ってるから」
「人を投げたり締めたりするから」
「だから誰にも遊びで技かけないのよ」
「危ないから」
「そう、しかしよくその先生警察に捕まらないわね」
 クラスメイトの言葉は完全に呆れたものになっていた、そしてその呆れの中に明確な怒りもあった。 

 

第八話 速水の訪問その三

「そんなことして」
「普通は捕まるわよね」
「凶器よ」
 そこまでいくと、というのだ。
「知らないで済まないから」
「床の上で背負い投げしたら駄目だって」
「畳の上以外で柔道の技は絶対に仕掛けないことよ」
「危ないから」
「正当防衛にならない限りね」
「それをやったから」
「その先生も犯罪者になってもね」
 それこそというのだ。
「おかしくないわよ」
「それでもね」
「捕まらないのね」
「今も先生やってるみたいよ」
「じゃあ今もそんなことしてるのね」
「そうだと思うわ」
「とんでもないわね、一般社会ならクビでも」
 会社をそうなってもというのだ。
「学校の先生は違うのね」
「普通のお役所でもそうなるわよ」
「そんなの完全に犯罪じゃない」
「人にそうした時点で終わりでしょ」
「学校の先生だけ捕まらないって」
「とんでもないことね」
「そうした先生に巡り合ってね」
 そうしてというのだ。
「もう絶対に部活に入らない」
「そうした人もいるのね」
「それ滅茶苦茶運が悪いわね」
「犯罪者になる様な暴力教師に会うとか」
「しかもそれで部活自体嫌になるとか」
「運がないわね」
「私はそうした人には会ったことないから」
 咲は自分のことも話した。
「有り難いことにね」
「それで漫研なのね」
「部活は」
「中学からそうなのね」
「そんな先生が顧問だと逃げてたわ」 
 咲は断言した。
「本当に」
「それがいいわね」
「そんな暴力教師の傍にいたら絶対に駄目よ」
「暴力受けるだけよ」
「しかも暴力振るった人はお咎めなし」
「そんなの大損じゃない」
「誰だって暴力なんて振るわれたくないわよね」
 咲はどうかという顔で話した。
「やっぱり」
「それは当然でしょ」
「変な趣味の人でもないと」
「誰もいつも殴ったり蹴ったり罵ったりする人の傍にいないわよ」
「だから皆ヤクザ屋さんの傍にもいないのよ」
「そんな部活絶対に入ったら駄目でしょ」
「そんな先生が顧問の部活なんて」
 クラスメイト達も口々に言った。
「どんな活動していてもね」
「そのうち自分が怪我するわよ」
「そうなるから」
「絶対に逃げるべきよ」
「それか最初から近寄らないことよ」
「それがいいわね」
 咲は強い声で言った。
「さもないとね」
「こっちが泣くから」
「そうなるからね」
「殴った方はのうのうとしてるし」
「それじゃあね」
「勿論暴力の現場は抑えて」
 ここでこうした意見も出た。
「スマホの動画を録画して」
「それいいわね」
「それで動画拡散させたらいいわね」
「これは効くわよ」
「それもかなりね」
「それね、確かにいいわね」
 咲もその考えに賛成した。 

 

第八話 速水の訪問その四

「現場抑えてそれを拡散したらね」
「もうこれだけいいことはないわね」
「それじゃあね」
「そうした先生はネットね」
「そこで社会的に抹殺ね」
「それが一番ね、ただ私は自分から暴力を受けたくないから」
 それでというのだ。
「そうした先生のいる部活にはね」
「最初から入らないのね」
「小山さんとしては」
「そうするのね」
「やっぱりね」
 それがいいというのだ。
「ただ現場見てそれでスマホ持ってたら」
「即座に撮ってね」
「それで拡散ね」
「そうしてやるわよね」
「私だってね」 
 そうするというのだ。
「そうするわ」
「やっぱりそうよね」
「そんな悪党は許したら駄目よね」
「社会的に抹殺しないと」
「自分がされたら嫌だけれど悪党は放っておけないし」 
 その二つの考えが今の咲にはあった、それで言うのだ。
「だからね」
「ええ、じゃあね」
「そうした先生は撮ってやりましょう」
「それでやっつけてやりましょう」
「現場観たらね」
「その時はね。あとね」 
 咲は今度はあることを思い出して言った、そのあることはというと。
「私アルバイトもしそうなの」
「じゃあ先生に申請出して」
「それでよね」
「アルバイトもよね」
「するわね」
 こうクラスメイト達に話した。
「このままいけば」
「部活もしてアルバイトもなのね」
「それはまた忙しそうね」
「忙しい位がね」
 咲は自分の考えをここでクラスメイト達に話した。
「いいんじゃないかしらってね」
「思ってなの」
「それでなの」
「そこまで忙しくしてるの」
「そうなの」
「帰宅部でもいいかしらってね」
 その様にというのだ。
「入学式の前は思っていたけれど」
「それがなのね」
「変わったのね」
「考え方自体が」
「ええ、漫研あるなら入って」
 そしてというのだ。
「活動させてもらってね」
「アルバイトもする」
「それで忙しくなって」
「そうしてなの」
「そう、頑張るわ」
 咲は笑顔で話した。
「入部の申請してね」
「それでアルバイトもはじめる」
「そうするのね」
「何か渋谷の方で働くっていうけれど」
「あそこお店多いしね」
「人も多いしね」 
 咲はここではどの店かまでは言わなかった、流石にそこまで言うと後で何かと突っ込まれると思ったからだ。
 それでそのことは言わずに漫研の部室に行くと。
 随分と太ったこの学園の制服の一つである黒の詰襟の制服を着た大柄な男子生徒がいた、彼は部室に入った咲を見るとこう言った。
「ノックしなかったよね」
「あっ、すいません」
「そこは気をつけてね」
 咲に穏やかな声で言った。 

 

第八話 速水の訪問その五

「今度から」
「わかりました」
「漫研は部室に入る時部屋に鍵がかかってないならね」
 それならというのだ。
「三回ノックしてね」
「それから入るんですね」
「ノックしたらどうぞって言うから」
 だからだというのだ。
「その時にね」
「入るんですね」
「うん、今度からそうしてね」
「はい、それじゃあ」
「それでどうしたのかな」 
 男子生徒は咲にあらためて問うてきた。
「漫研に何か用かな」
「入部希望で」  
 それで来たとだ、咲は答えた。
「来ました」
「そうなんだ」
「はい、願書も持ってきました」
「わかったよ、じゃあ願書出してくれるかな」
「書いてきました」
 こう答えてだった、咲はその願書を男子生徒に出した。そのうえで彼に対して問うた。その目をじっと見ていた。
「これでいいですか?」
「うん、確かに受け取ったよ」
「じゃあ私は今から漫研の部員ですか」
「今は仮入部だけれどね」 
 それでもとだ、男子生徒は咲に笑顔で答えた。
「そうだよ」
「そうですか」
「後は先生も来てくれてね」
 そしてというのだ。
「先生が正式に認めてくれるから」
「入部をですね」
「そうしてくれるよ、うちの先生は優しい人だから」
「暴力は振るわれないですか」
「暴力?とんでもないよ」
 男子生徒は暴力については即座に否定して答えた。
「そんなのはね」
「ないですか」
「ないよ」
 絶対にという返事だった。
「うちの部活ではね」
「それは何よりです」
「まあね、今も部活で顧問の先生が暴力振るうとかね」
「ありますね」
「残念だけれどね」 
 男子生徒は咲に曇った顔で答えた。
「あるよ」
「そうですよね」
「けれどうちの学校ではね」
「暴力はないですか」
「ないよ、先生が暴力振るったらクビだし」
「生徒もですね」
「ばれたら無期停は覚悟しないとね」
 そこまでの処罰はというのだ。
「いけないから」
「退学もありますね」
「普通になるだろうね」
「やっぱりそうですか」
「僕の知る限りこの学園で退学した人っていないけれど」
「退学者少ないんですね」
「かなり少ないのは事実だよ」 
 このことは男子生徒も否定しなかった。
「やっぱりね」
「そうですか」
「それに穏やかな校風だしね」
「それはそうですね」 
 咲も実感していることだった、この学園の校風については。
「この学園はそうですね」
「偏差値はそれなりでも色々活動もしていてね」
「それで穏やかな校風で」
「暴力、いじめとか悪質な犯罪もね」
「ないですか」
「だからね」
 それでというのだ。 

 

第八話 速水の訪問その六

「そのことは安心していいよ」
「そうですか」
「うん、それで漫研だけれど」
 今度は部活の話をしてきた。
「ここもね」
「平和ですか」
「先生もだしね」
「そうした部活ですか」
「活動は同人誌とね」 
 それの作成と、というのだ。
「漫画を読んでね」
「そうしてですか」
「勉強会とかしたりね、ユーチューブで紹介したり」
「そうしたことで」
「特にね」
 これといってというのだ。
「大変なことはないよ」
「そうですか」
「そうした意味でも平和だよ、部員は今は六人だよ」
「六人ですか」
「男の人三人で」
「女の人も三人ですか」
「三年生は僕を含めて三人で」
 咲にさらに話した。
「そして二年生もだよ」
「三人ですか」
「これで一年の子が三人来てくれたら」
 そうなったらというと。
「九人だね、ただ今度は性別のバランスは崩れるね」
「三人だとですね」
「そうなるね、まあそれはそれで別にね」
 これといって、という口調での言葉だった。
「いいね、あとうちは掛け持ちもいいから」
「他の部活ともですか」
「うちの学園は掛け持ちいいから」
 部活のそれがというのだ。
「君もよかったらね」
「掛け持ちしてですか」
「いいよ」
 咲に優しい笑顔で話した。
「あと部活の決まりで徹夜はしない」
「ちゃんと寝ることですか」
「健康の為にね」
「そうですか」
「漫画家さんも寝ないで仕事する人がいて」
 それでとうのだ。
「若くして、って人もおられたから」
「手塚治虫さんですか?」
「石ノ森章太郎さんもだよ」
「サイボーグ009の」
「他にも沢山の作品を描いているけれど」
 この偉大な巨匠もというのだ。
「この人は三日徹夜とか若い時にされていたんだ」
「三日ですか」
「若い時はそれでも平気だったけれどってね」
 このことはご自身の漫画で描いていた、サイボーグ009の中でサン=ジェルマン伯爵が出たのこでこの伯爵を描いた作品で言っていたのだ。
「今は辛いとかね」
「三日連続徹夜は」
 流石にとだ、咲も言った。
「幾ら何でも」
「駄目だね」
「身体に無理がきて」
「だからだよ」
「若くしてですか」
「そうなるからね」
「だからなんですね」
「寝る時はね」
 その時はというのだ。
「ちゃんとね」
「寝ることですね」
「それがね」
「この部活の決まりですか」
「そう、まあテストの前はね」
「誰もですね」
「寝ていられないけれど」
 テスト勉強でだ。 

 

第八話 速水の訪問その七

「けれどね」
「寝ることですね」
「それがね」
 まさにというのだ。
「うちの部活のね」
「決まりなんですね」
「他にもあるけれど」
 それでもというのだ。
「まずはね」
「このことをですね」
「守ってね」
「わかりました」
「部活は健康的に」
 咲にこうも言った。
「だからね」
「それで、ですね」
「ちゃんと寝てね」
「わかりました」
「あと僕の名前は」
 今度はこの話だった。
「宮本空悟っていうんだ」
「宮本先輩ですか」
「そうだよ、ちなみに部長だよ」
「そうでしたか」
「だから宜しくね」
「はい、お願いします」
「そういうことでね、じゃあこれからね」
「この漫研で」
「楽しんでいってね」
「わかりました」
 咲も笑顔で応えた、そしてだった。
 咲は漫研に入ることもした、そうして。
 速水が家に来る日になるとだ、両親は口々に話した。
「もうすぐだな」
「そうよね」
「速水さんが来られるな」
「うちにね」
「お菓子用意したよな」
「お茶もね」
 母は父にすぐに答えた。
「用意したわ」
「そうか」
「だからね」
「もう何時来られてもか」
「大丈夫よ」
「それは何よりだ」
 父は妻の話を聞いて笑顔で応えた。
「準備万端だな」
「もうね」
「何必死になってるの?」
 咲はそんな両親に問うた。
「速水さんが来られるだけで」
「だからね」
 母が娘に言った。
「物凄く有名な占い師さんよ」
「しかも咲きを雇ってくれるんだぞ」
 その面接だからだとだ、父も話した。
「そりゃ必死になる」
「それは当然でしょ」
「というかあんた随分落ち着いてるわね」
「いいのか?」
「いいも何もね」 
 咲は至って落ち着いて話した。
「別に天皇陛下が来られるんじゃないから」
「だからか」
「落ち着けばいいの」
「お茶とお菓子用意したら」
 それならというのだ。
「もうね」
「それでいいのか?」
「あんたとしては」
「後は礼儀正しくして」
 そしてというのだ。
「速水さんとお話すればいいでしょ」
「いや、そういう訳にはいかないだろ」
 父はあっさりとして言う娘にこう返した。 

 

第八話 速水の訪問その八

「折角うちに来てくれるんだからな」
「大切なお客様だしね」
 母もまた言った。
「だからね」
「そんな簡単にはいかないぞ」
「簡単じゃなくてそんな必死にならなくても」
 それでもとだ、娘はまた両親に話した。
「別にいいじゃないってことよ」
「そういえばあんた普通の服ね」
 母はここで咲の今の服装を見た、青のブラウスに白のスラックスといったものだ。
「今も」
「当然でしょ」
 これが咲の返事だった。
「そんなの」
「当然なの」
「そうよ、だって普通にお家に来てもらって」
 そうしてというのだ。
「お話聞いてね、それでこっちも」
「お話をするから?」
「相手が有名人でもね」
 それでもというのだ。
「特にね」
「畏まることないの」
「そうでしょ」
 こう母に言うのだった。
「何で二人共そんな必死なのよ」
「そう言われてもな」
「やっぱり雑誌でも出てる様な人だし」
「雑誌に出ていても」 
 それでもとだ、咲はさらに言った。
「おかしな人もいるしゃない」
「それはね」
「そうよね」
「モコみたいな子だってね」
 ここで家族である彼女を見た、モコは今は開けっぱなしのケージの中で気持ちよさそうに眠っている。
「有名人でも捨てる人いるでしょ」
「そんな奴いたら教えろ」
 父は娘の言葉に本気の怒りを見せて言い返した。
「お父さんが成敗してやる」
「成敗なの」
「ネットで拡散するなりしてな」 
 そうしてというのだ。
「社会的に抹殺してやる」
「命を粗末にするなんて許せないわよ」 
 母も本気の怒りを見せていた、そのうえでの言葉だった。
「そんな人達は絶対に許せないわ」
「ああ、神戸の人達だけれど」
 咲はすぐの両親に彼等の話をした。
「百田さんってね」
「わかった、すぐにネットで拡散してやる」
「社会的に抹殺してやるわ」
 二人は本気で早速自分達のツイッターやフェイスブックで拡散した、命を粗末にする輩こそ生きてはならないのだ。そんな輩の命こそ抹殺すべきである。
「世の中無駄な奴はいなくていいのよ」
「だからこうしてやる」
「そうよね」
 咲も無表情で神戸にいるその夫婦の情報をネットで拡散した。そのうえで両親に対して穏やかな顔で述べた。
「私もそうしたわ」
「命を粗末にする奴は粗末にするな」
「飼育放棄のうえに保健所送りなんて最悪よ」
「子供が生まれたら飼育放棄か」
「それでいらないなんてどうなのよ」
「モコがそうなったらッて思うとな」
「こうしないといられないわ」
 夫婦で神戸のその夫婦の情報を拡散した。
「ツイッターでもフェイスブックでも拡散してやったわ」
「さて、どうなるかな」
「生きて来たことを後悔するかしら」
「やっぱり屑はそこまでしないとね」
 咲はネットで友人達にまで知らせて述べた。
「屑にはね」
「そうだ、屑は容赦するな」
「その人生を壊してあげないと駄目よ」
 二人で娘達に真顔で話した。 

 

第八話 速水の訪問その九

「ましてトイプードルだから」
「モコと同じ種類だからな」
「余計に腹が立ったわ」
「こんな連中地獄に落ちろ」
「個人情報出さないレベルで拡散したけれど」
「まあこれでこの夫婦の人生終わりね」
「屑に容赦は無用よね」
 咲はライン等でも知人達に拡散を希望しつつ言った。
「やっぱり」
「酷い奴がいるものだ」
「ワンちゃんは引き取られたらしいけれどそうした問題じゃないでしょ」
「こんな奴こそ地獄に落ちろ」
「命を粗末にするものじゃないわよ」
「そうよね、命を粗末にする人が子供を育てられるか」
 咲もこう言った、
「言うまでもないわよね」
「うちなんかな」
 父は怒った声のままさらに言った。
「モコは家族としてだろ」
「ずっと一緒よね」
「そうだ、お前も大事な娘でな」
 咲に対して言った。
「モコもだ」
「娘よね」
「大事なな」
「そうよね」
「そう、モコは種類は違うけれどね」
 人間と犬の違いはあるがとだ、母も言った。
「ちゃんとね」
「娘よね」
「そう、私達にとってはね」
 こう咲に言った。
「大切なよ」
「だから捨てたりとかは」
「考えもしないわ」
「そうよね」
「というかケージはあっても」
「閉じ込めてないわね」
「何時でも出られる様にしてるでしょ」
 扉を開けてだ。
「そうしてるでしょ」
「ケージはあくまでお家で」
「檻じゃないのよ」
「まして自分達の子供が生まれたから飼育放棄して捨てるなんてな」
 父の口は完全にへの字になっていた、そのうえでの言葉だった。
「言語道断だ」
「どっちも育てろっていうのね」
「そうだ、娘だろ」
 それならというのだ。
「最後まで大事にしろ」
「本当にそうね、それでそうしたお話したら」
「ああ、怒ったにしてもな」
「いい気分転換になったわね」
 父だけでなく母もだった。
「さっきまで速水さんをお迎えしようって必死だったけれど」
「気持ちが切り替わったな」
「肩凝りが取れた感じよ」
「屑に怒ったにしてもな」
「成敗もしたしね」
 飼育放棄する様な連中をというのだ。
「それじゃあね」
「速水さんが来られたら」
「お話しましょう」
「そうしましょう」
 娘が中心に言ってだった、今は速水を待った。すると暫くして家のチャイムが鳴ってそうしてだった。
 速水が来た、すると両親は彼を迎えてから言った。
「今さっき渋谷を発たれたそうですが」
「お早いですね」
「もう一瞬でしたが」
「どうしてこちらに」
「少しコツがありまして」
 速水は驚いている二人にタロットの大アルカナの一つ星のカードを出しつつ話した。 

 

第八話 速水の訪問その十

「それで、です」
「すぐにですか」
「こちらまで来てくれましたか」
「はい、ではこれよりです」
「お話ですね」
「咲のことで」
「宜しくお願いします」
 こう話してだった。
 速水は玄関からリビングに案内されそこで紅茶と苺のケーキを出してもらってそのうえで話に入ったが。
 速水は二人そして咲に微笑んで話した。
「放課後、九時までということで」
「アルバイトをですね」
「咲にですね」
「してもらいたいです、事務所の受付と」
 それと、というのだ。
「お掃除やお茶をです」
「用意する」
「そうしたお仕事ですか」
「占いは私がしますので」
 肝心のことはというのだ。
「お嬢さんはです」
「雑用ですね」
「そちらをですね」
「してもらいます、時給は千五百円で」
 それだけでというのだ。
「週三回か四回です」
「高い時給ですね」
「それはまた」
「千五百円とは」
「高校生にしては」
「そうでしょうか、私はそれだけのお金は普通に出せますが」
「私アルバイトしたことないですが」
 その咲も言ってきた。
「高校生で時給千五百円は」
「高いですか」
「流石に」
「ではどれ位でいいでしょうか」
「半分では」
「そうですか、では間を取って九百円で」
「それだけですか」
「千円と考えましたが」
 それでもというのだ。
「それも高いと思いましたので」
「だからですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「それでいいでしょうか」
「それでお願いします」
「欲がないですね、千五百円といいますと」
 速水は微笑んで述べた。
「普通にです」
「出せますか」
「そうですが。では九百円で」
「お願いします」
「交通費は出します、ただ福利厚生は」
「それはですか」
「普通です」
 そうなるというのだ。
「あと休日は十二時から九時までもです」
「ありますか」
「その時もお願いします」
「わかりました、部活土日はお休みみたいですし」
「それならですね」
「お願いします」
 休日もというのだ。
「是非」
「わかりました、ただ」
「ただといいますと」
「私は時々いなくなります」
 速水は微笑んで咲にこうも話した。
「仕事で」
「お仕事で、ですか」
「渋谷で占いをしているのは事実ですが」
「それでもですか」
「他にも依頼を受けてです」
 そうしてというのだ。 

 

第八話 速水の訪問その十一

「お仕事をしているので」
「占いのお仕事ですか」
「こちらを使うお仕事です」
 速水は微笑んだまま咲にタロットカードの一枚を見せて答えた、そのカードは大アルカナの恋人の逆だった。
 そのカードを見てだ、速水はこうも言った。
「成程、貴女は」
「貴女は?」
「何でもありません、ただそのお仕事は」
「はい、それはですか」
「タロットを使うお仕事です」
 咲にあらためて答えた。
「そうだと申し上げておきます」
「では占いですね」
 タロットならとだ、咲はこう解釈した。
「やっぱり」
「まあそれはそういうことで」
「タロットを使うということで」
「はい、それでなのですが」
「時々ですか」
「いなくなります、その時は代理の人がです」
「来られますか」
「出来た人なので」
 その人はというのだ。
「どの人も」
「そうなんですか」
「ですからご安心を」
「わかりました、とりあえず時々ですね」
「私はいない時があります」
 その占いの店にというのだ。
「そのことはご了承下さい」
「はい」
 咲はとりあえず頷いた、多分速水は東京以外の場所から特別に依頼を受けて占いに行くのだと思った。
 そのうえでだ、速水に答えた。
「そのことも」
「そういうことで。ではこれから履歴書を書いてもらいますので」
「写真もですね」
「撮ってもらって」
 そしてというのだ。
「私に提出してくれますか」
「今からですね」
「書いてくれて」
 そしてというのだ。
「私の事務所に送ってくれましたら」
「それで、ですか」
「正式に採用とさせてもらいます」
「そうですか」
「はい、それで宜しいでしょうか」
 速水は咲そして彼女の両親に尋ねた。
「その様にして」
「はい、それならです」
「今から書かせますので」
 咲の両親がすぐに答えた。
「写真も撮らせますので」
「今日中に書いて」
「そして送らせます」
「暫くお待ち下さい」
「届きましたら」
 その履歴書がというのだ。
「すぐに連絡させてもらいます」
「わかりました、そしてですね」
「咲もアルバイトをですね」
「学校の方はもう宜しいですね」
 速水はそちらから許可を得ていることを確認した、確認であるがもうわかっているという口調であった。
「そちらは」
「はい、許可を頂きました」
 今度は咲が答えた。
「いいと言ってもらって」
「許可証もですね」
「貰いました」
「ならです」
 笑顔でだ、速水は咲に応えた。
「後は履歴書を送ってくれましたら」
「それで、ですか」
「来てもらいます」
「四月中にアルバイトがはじまりますね」
「いえ、履歴書さえ頂ければ」
 それが届けばというのだ。
「もうです」
「その時点で、ですか」
「貴女が宜しければ」
 咲自身がというのだ。 

 

第八話 速水の訪問その十二

「その翌日からです」
「来てもいいですか」
「はい」 
 まさにというのだ。
「そうしてもらいたいです」
「それじゃあ」
「履歴書をお待ちしています、では今日は」
「これで、ですね」
「お暇させてもらいます」
「わかりました」
 こう話してだった、そのうえで。
 速水は咲の家を後にした、玄関を出ると歩いて帰ったが一家はすぐに履歴書を書いて写真も撮って貼って印鑑も押してだった。
 履歴書を封筒に入れてポストに投入した、すると。
 ここでだ、父はふと言った。
「速水さん歩いて帰っておられたな」
「そうね」
 母も言われて気付いた。
「あの人は」
「それで渋谷からここまですぐか」
「何か不思議ね」
「ワープでもされていたりしてな」
「まさか」
「そうだな、まあその辺りは色々あるんだろうな」 
 父は笑って言った。
「僕達が気にすることじゃないな」
「そうよね」
「そのことまではな」
「流石にね」
「最初お会いした時から思っていたけれど」
 咲は両親の隣で首を傾げさせながら述べた。
「随分ミステリアスな人よね」
「そうだな」
「半分この世の人じゃないみたいよね」
 両親もこう答えた。
「凄く整った感じで」
「あんまりにも整い過ぎているしな」
「それに紳士的で」
「あの服装といいな」
「どんな人なのか」
 咲は首を傾げさせたまま再び言った。
「気になるわ」
「その人がこれから咲を雇う人になるのよ」
 母はその咲に話した。
「そのことはわかってるわね」
「うん、じゃあ履歴書送ったし」
「後は速水さんのところに届いたら」
「そうしたらよね」
「咲はアルバイトもはじめるのよ」
 娘に笑顔で話した、そして次の日の夕方早速速水から返事が来た。その返事によって咲はアルバイトもはじめることになった。


第八話   完


                     2021・3・23 

 

第九話 部活も入ってその一

                第九話  部活も入って
 アルバイトが正式に決まった次の日咲は朝登校するとすぐに漫研の部室に向かった。そして扉をノックすると。
「どうぞ」
「はい」
 咲は扉を開けた、するとそこには宮本がいた。そして咲に言ってきた。
「うちは朝練とかないよ」
「そうなんですね」
「けれど僕は朝もいたりするよ」
「実は今日はいないと思ってたんですが」
「朝はだね」
「文科系の部活って朝練ないですから」
「それが普通だね」
 部長の宮本もこう答えた。
「やっぱり」
「ですから一応お邪魔しても」
「誰もいないと思ってたね」
「そうでした」
「今日はいたんだ」
 部長は笑って答えた。
「そういうことだよ」
「そうなんですね」
「ちょっと読みたい漫画があって」
 それでというのだ。
「読む為にね」
「今朝はおられるんですね」
「そうなんだ、けれど他の部員の人達はいないね」
 部長は咲にこのことも言ってきた。
「そうだね」
「それはどうしてかですね」
「やっぱり朝の部活はないからね」
 だからだというのだ。
「このことはね」
「どうしてもですね」
「あるから」
「漫研も朝はですね」
「何もないよ、あと土日は部活なくて」
「そうなんですね」
「休日もないから」
 それでというのだ。
「そうした日はね」
「自由ですね」
「好きなことしてね」
「実はアルバイトすることになりまして」
 咲は部長にこのことも話した。
「それで平日も二日位は」
「わかったよ、じゃあそういうことでね」
「やっていきます」
 咲は部長に笑顔で答えた。
「そういうことで」
「そういうことでね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「部長さんは部活と掛け持ちでもいいですか」
「構わないよ、僕もアニ研と掛け持ちだしね」
 部長も笑顔で答えた。
「だからね」
「それで、ですか」
「うちの学校部活の掛け持ちも普通だから」
「アルバイトと掛け持ちもですね」
「いいよ、両方やって」
 そうしてというのだ。
「楽しんでね」
「わかりました」
「そういうことでね」
「高校生活をですね」
「楽しんでね、いい部活に入っていいところでアルバイトをして」
「楽しめばいいですね」
「悪い部活に入るなら最初から入らない方がいいからね」
 部長の今の言葉はシビアなものだった。
「だからね」
「ああ、それは」
 咲はそれはと頷いて部長に言った、何時しか咲も部室の席に着いてそのうえで話ををしている。 

 

第九話 部活も入ってその二

「私もわかります」
「ええと、小山君だったね」
「はい、小山咲です」
 咲は自分の名前のことも話した。
「宜しくお願いします」
「小山さんもそうした部活知ってるんだ」
「剣道部で顧問の先生がやりたい放題の暴力振るったとか」
「先輩の場合もあるね」
「そうしたお話を聞きまして」
「それで小山さんも知ってるんだね」
「いい部活に入らないと駄目ですね」
 咲は部長にあらためて答えた。
「顧問の先生でも先輩でも」
「うん、さもないとね」
「自分が痛い目を見ますね」
「そうなるよ」
 絶対にとだ、部長も答えた。
「だからね」
「それで、ですね」
「うちはそういうのないから」 
 この漫研はというのだ。
「だからね」
「安心してですね」
「若し何かあったら」
 その時はというのだ。
「僕に言ってもいいし僕に問題があったら」
「その時はですか」
「先生にね」
 顧問の先生にというのだ。
「そうしてね」
「そうしてもいいですか」
「問題があったら正さないと」
 それこそというのだ。
「駄目だから」
「それで、ですか」
「僕に問題があったらね」
「先生にですか」
「何なら警察にもだよ」
 公権力にもというのだ。
「言っていいよ」
「警察って」
「あくまで問題があったらね、これでもいい人でいたいから」
 そう思うからだとだ、部長はこうも話した。
「悪いことはしない様にしているよ」
「セクハラとか暴力とかですね」
「お金のこともね」
「そちらもですね」
「あと万引きもだし」
 これもというのだ。
「煙草やドラッグもね」
「されないですか」
「当然いじめもね、全部ね」
「されないですか」
「ただお酒は好きだよ」
 これはというのだ。
「いつもお家で飲んでるよ」
「それはですか」
「流石に外では飲まないけれどね」 
 未成年だからである。
「そうしているけれど」
「お酒はお好きですか」
「そうだよ、それでね」
「悪いことはですね」
「しないよ、好きなのは漫画とゲームとアニメとライトノベルだよ」
 そうしたものだというのだ。
「あと野球は楽天だよ」
「楽天ファンですか」
「まー君が好きでね」
 田中将大である、高校時代から活躍している現代の大投手だ。その体格の見事であることも知られている。
「それでITにも興味あるから」
「漫画とかゲームとかネットでよく調べますし」
「だからだよ」
 それでというのだ。 

 

第九話 部活も入ってその三

「楽天ファンなんだ」
「そうなんですね」
「うん、小山さんは何処ファンかな」
「私はヤクルトです」
「セリーグなんだ」
「一家というか親戚も多いです」
「巨人ファンはいないんだ」
 部長は咲に忌まわしい日本の悪性腫瘍であるこのチームはと尋ねた。
「そうなんだね」
「一人もいないです」
 咲はきっぱりと答えた。
「巨人ファンの人は」
「そうなんだ、実は僕の一家もね」
「巨人ファンの人はいないんですね」
「親戚で二人いたけれど」
「いた、ですね」
 咲はすぐに言葉の過去形に問うた。
「ということは」
「最悪な母親とその息子がいたけれど」
「そのお二人が、ですか」
「そうだったけれど母親は癌で死んでね」
「息子さんは」
「今どうなったか」
 視線を右にやりどうかという顔になっての返事だった。
「行方不明だよ」
「そうですか」
「もう死んでるかもね」
 こう咲に話した。
「とっくにね」
「そうですか」
「二人共どうしようもないね」
「ろくでなしだったんですね」
「文字通りね」
 まさにというのだ。
「そんな人達だったから」
「それで、ですか」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「僕は巨人ファンにいいイメージないし巨人にもね」
「ないんですね」
「しょっちゅう他のチームから選手を掠め取って」
 これは別所の頃からである、巨人は常にそうしてきて悪辣に戦力を整えてきたのである。これこそ悪である。
「球界の盟主だって威張ってるね」
「それが嫌ですよね」
「うちの学園本校神戸にあるし」
「それで巨人はですか」
「嫌いな人が殆どだよ」
「そうなんですね」
「セリーグだとヤクルトか横浜で」
 この二チームでというのだ。
「パリーグファンの人も多いよ」
「部長さんみたいに」
「そうだよ、ロッテや西武の人が多いかな」
 ファンの人はというのだ。
「楽天よりもね」
「そうですか」
「それで巨人ファンはね」
「少ないですね」
「かなりね」
「そうなんですね」
「それで漫研の野球漫画でもね」
 こちらでもというのだ。
「巨人を題材にしている漫画はないよ」
「ないですか」
「常に敵になっているよ」
「悪いチームですからね」
「そうだよね」
「東京の真ん中で偉そうに本拠地あって」
 東京ドーム、悪の巣である。
「実際球界の盟主顔していて」
「そうなっているので」
「だからね」
 それでというのだ。
「僕も嫌いだし」
「漫研もそうで」
「学園でもね」
「ファンの人少ないんですね」
「幸い今は万年最下位だけど」
 そうなっているというのだ。 

 

第九話 部活も入ってその四

「あのチームはね」
「弱くなりましたね、巨人も」
「十年連続最下位でね」
 そうしてというのだ。
「勝率二割台だから」
「毎年百敗以上してますね」
「そうなったけれどね」
「それまでは」
「もうやりたい放題でね」
「北朝鮮みたいでしたね」
「あそこは日本の北朝鮮だよ」
 巨人こそそうであるというのだ。
「まさにね」
「本当にそうですね」
「今はお金がないことからもそう言われてるけれど」
「そもそもですね」
「あの暴虐の限りがね」
 まさにこのことがというのだ。
「北朝鮮そのものだから」
「そう言われていますね」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「あのチームはね」
「そうですよね」
「もう栄光の時代なんて来ないよ」
 巨人、邪悪の権化であるこのチームにはというのだ。
「これはらもずっとね」
「最下位ですね」
「そうなるよ、そんなチームが主人公の漫画はね」
 かつては野球漫画というと巨人ばかりであった、この様な歪み切った風潮が戦後ずっと蔓延ってきたのだ。
「一冊もないよ」
「それはいいことですね」
「巨人は悪だからね」
 文字通りのそれであるからだというのだ。
「もうね」
「最初からですね」
「置いていないんだ」
「本当にいいことですね」
「けれど野球漫画はね」
 このジャンルの作品はというと。
「結構多いから」
「読んでいいんですね」
「そうしてね」
「そうさせてもらいます」
「サッカー漫画もバスケ漫画もあるし」
 そうしたジャンルの作品もというのだ。
「あと自転車のね」
「あの弱虫何とかですね」
「全巻あるよ」
「全巻ですか」
「うん、あるから」
 この作品もというのだ。
「だからね」
「その作品もですね」
「読んでね」
「そうさせてもらいます、それじゃあもう時間ですから」
「また放課後ね」
「今日から来ていいですか」
「まだ仮入部の扱いだけれど」
 それでもとだ、部長は笑顔で答えた。
「小山さんが来たいならね」
「そうさせてもらいます」
「それじゃあね」
 部長も笑顔で応えた、そうしてだった。
 咲は自分のクラスに入った、そうしてクラスメイト達とも野球の話をしたがクラスメイト達も口々に言った。
「ああ、巨人ね」
「弱いわよね」
「それでいてまだ球界の盟主面してね」
「腹立つわよね」
「昔は悪いことばかりしてたし」
「今もだけれど」
「私巨人嫌い」
 はっきりとした言葉も出た。 

 

第九話 部活も入ってその五

「あのチームは」
「私も嫌いよ」
「私もよ」
「今時巨人ファンなんていないでしょ」
「何もわかってないか昔からの人だけでしょ」
「若い人は皆嫌いでしょ」
「そうよね、巨人なんてね」
 咲もこう言った。
「もう今更よね」
「万年最下位のカスチームよね」
「セリーグいや球界のお荷物よね」
「今やそうよね」
「いいとこなんて全くない」
「そんなチームよね」
「そうよね」
 まさにとだ、咲は皆の言葉に頷いた。
「あのチームは」
「ええ、それで小山さん応援してるチーム何処?」
「それで何処なの?」
「何処応援してるの?」
「私はヤクルトよ」
 クラスメイト達に正直に答えた。
「あのチーム好きなの」
「ああ、ヤクルトね」
「ヤクルトいいわよね」
「清潔な感じもするしね」
「そうよね」
「東京のチームだから」
 そのヤクルトがだ。
「東京人だからね」
「そうそう、地元だとね」
「やっぱり応援するわよね」
「関西は阪神でね」
「広島は広島で」
「まあ実は私阪神ファンだけれど」
 ここで一人がこう言った。
「それもかなり好きだけれど」
「それ私もよ」
「私も阪神ファンよ」
「私だってそうよ」
「私もそうよ」
「えっ、阪神ファン多いわね」
 これには咲も驚いた。
「東京なのに」
「だってね、何か違うから」
「他のチームとはね」
「勝っても負けても華があるし」
「絵になるから」
「だからね」
「阪神好きになるのよ」
 所謂虎キチの子達は口々に答えた。
「あんなチーム他にないから」
「時々信じられない負け方するけれど」
「ネタも提供するけれど」
「それでもね」
「いいチームなのよね」
「絵になるから」
「強い弱い越えてるってことね」
 咲はここまで聞いて阪神とはどういったチームなのかを言った。
「つまりは」
「最近毎年日本一だけれどね」
「巨人には毎年二十勝以上して」
「それでいつも蛸殴りにしてるけど」
「虎だけれど」
 それでもというのだ。
「けれどそれがなくてもね」
「やっぱり阪神って魅力あるのよ」
「強さ弱さを越えたね」
「それがあるのよ」
「そんなチームって阪神だけよね」
 咲の口調はしみじみとしたものとなっていた。
「本当に」
「野球じゃなくてもね」
「サッカーでもね」
「そんなチームそうそうはないわね」
「日本にはないわね」
「多分他の国でもね」
「普通勝ったらよくて」
 咲はまた言った。 

 

第九話 部活も入ってその六

「負けたらね」
「それじゃあね」
「もう何でもないわね」
「普通のチームはね」
「それで終わりよ」
「けれど阪神は」
 このチームはというと。
「勝っても負けても」
「そうそう、絵になるのよ」
「華があって」
「あの伝説の三十三対四でもね」
「あの冗談みたいな負けでもね」
「あのシリーズその目で観てないけれど」
 咲だけではない、他の娘達もだ。まだ彼女達が生まれたかその前のことなので誰もその目ではなのだ。
「けれどね」
「それでもよね」
「ネットでも観られるしね」
「今も語り草になってるし」
「それでね」
「ええ、もうね」
 それこそというのだ。
「あのシリーズはね」
「私達も知ってるわ」
「それもよくね」
「伝説のネタとして」
「悪夢は悪夢でもね」
「何でや阪神関係ないやろ」
 咲はあまりにも有名なこの言葉も出した。
「これよね」
「もうしょっちゅう言われるから」
「三十三対四ってね」
「惨敗とかとんでもない一方的なお話あると」
「野球以外でも言われるから」
「アニメでも何でもね」
「そうよね、ネットでアニメ観て書き込みあったら」 
 そうしたことが出来る場所ならというのだ、ニコニコ等がそれだ。
「惨敗とかあったら」
「書かれるでしょ」
「この三十三対四がね」
「もう今も書かれていて」
「ネタになってるわね」
「今も書かれるなんて」
 それこそというのだ。
「屈辱よね」
「かなりね」
「もういい加減にして欲しいけれど」
「それでも笑えるのよね」
「阪神ファンにしても」
「それね、阪神だけよ」
 野球以外のところでもネタとして出て来るのはというのだ。
「ゲームでもだし」
「こんなチーム他にないわよ」
「絶対にそうよ」
「ここまでネタになって愛される」
「絵になるチームってね」
「ヤクルトファンから見てもね」
 咲自身のことに他ならない。
「そうだしね、正直応援してて楽しいわよね」
「だから負けてもね」
「当然悔しいけれどね」
「それでも笑えたりするから」
「今年もとかね」
「やれやれとかね」
「けれどね」
 それでもというのだ。
「阪神はね」
「鳥谷さんがチャンスで凡退して」
「その後何故か高確率で相手チームのビッグイニングになっても」
「特にカープ相手でそうだけれど」
「どういう訳か強くても毎年カープに負け越しても」
「甲子園に魔物がいても」
「ケンタッキーのおじさんがいても」
 今度は都市伝説の話になった、阪神の凄いところはこうした都市伝説まで存在しているということだ。 

 

第九話 部活も入ってその七

「それでもよ」
「ずっと貧打線だったけれど」
「それでもね」
「阪神はいいチームよ」
「ずっとピッチャーいいし」
「先発中継ぎ抑えいつも揃ってるし」
「ファンも熱いしね」
 この熱さはあまりにも有名である。
「七回になったら風船」
「甲子園じゃね」
「そして縦縞」
「もうこれが最高よ」
「それわかるわ、私も嫌いじゃないし」
 阪神はというのだ。
「ヤクルトファンでもね」
「他の球団のファンでもそうなのよね」
「それが阪神よね」
「本当にね」
 その通りだとだ、咲も答えた。
「私もそうだしね」
「そこが巨人と違うわね」
「他のチームのファンからも嫌われないのよ」
「むしろ愛される」
「そうなるのよね」
「これがね」
「そうね、阪神には負けても」
 咲はヤクルトがそうなった時のことを思い出しながら話した。
「詳しいけれど」
「腹は立たない」
「そうなのね、小山さんも」
「負けは負けでも」
「そうなのね」
「そこまではね」 
 どうにもというのだ。
「思わないわ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「どうしたの?」
「交流戦でソフトバンクと戦ったら」
 このチームとそうした時のことも話した。
「いつも怖いわ」
「ああ、あそこは強いわね」
「伊達に超巨大戦力じゃないわね」
「実際滅茶苦茶強いしね」
「人材揃い過ぎてて」
「それでね」
「阪神以外じゃ勝てないのよ」
「シリーズ以外ではね」
 このことを皆言った。
「ソフトバンクは確かに強いわ」
「文字通り超巨大戦力よ」
「けれどシリーズじゃ毎年よね」
「ソフトバンクは負けるか」
「そのことを考えると」
「阪神はどうかってことよね」
「戦力としてはソフトバンクが圧倒してるわ」
 咲は言い切った。
「どう見てもね」
「そうよね」
「どう見てもそうよね」
「戦力はソフトバンクが圧倒してるわよ」
「パリーグがね」
「けれど阪神がいつも勝ってる」
「それが何故か」
 阪神ファンの娘達は口々に言った。
「やっぱりね」
「そこに戦略があるのよ」
「確かなそれがね」
「阪神はどうしてそのソフトバンクに勝つか」
「圧倒的に強いけれど」
「他のチームが出る場合もあるけれど」
「そうよね、阪神は伝統的に投手陣がいいから」 
 咲もこう言った。 

 

第九話 部活も入ってその八

「そこから考えたらね」
「強いわよ」
「あの投手陣は伊達じゃないわよ」
「何と言ってもね」
「どんなに打線が弱くてもよ」
「投手陣はよかったわよ」
「いつもね」
 阪神のこのことを言うのだった。
「もう十二球団一」
「暗黒時代もそうだったしね」
「八十年だ以降後半から二十一世紀までだったけれど」
「星野さんが監督になるまで」
「そうだったけれどね」
「やっぱり野球はピッチャーよね」
「そうよね」
「ピッチャーね」
 咲も阪神ファン達の話を聞いて言った。
「それがいいと」
「それが違うわよ」
「もう何といってもね」
「もうそれがね」
「ヤクルトもそこからでしょ」
「チームを強くするには」
「そうなのよね、けれどね」
 咲は難しい顔でクラスメイト達に言った。
「先発、中継ぎ、抑えもって」
「全部揃えるとね」
「ちょっとね」
「そうなるとね」
「流石にないわよね」
「三つ全部って」
 それこそというのだ。
「そうはね」
「まあないわよね」
「他のチームにはね」
「そうそうないわよね」
「三つ全部っていうのは」
「それだけでもないわよ」
 それこそというのだ。
「滅多にね」
「まあね」
「その三つがいつも充実してるとかね」
「先発も中継ぎも抑えもって」
「特に中継ぎ抑えがね」
「充実してるから」
「それがね」
 咲は羨ましそうに言った。
「羨ましくもあるわ」
「まあそうそうないからね」
「投手陣が全部いつも充実してるとか」
「滅多にないことよね」
「阪神だけよね」
「それは」
「うん、そんなチームないわよ」
 咲は真顔で言った。
「本当に」
「それでね」
「今は毎年日本一なのよね」
「その十二球団の投手陣でね」
「やっていってるのよ」
「野球はピッチャーよね」
 心からの言葉をだ、咲は出した。
「本当にね」
「それは本当にそうよね」
「今は阪神打線も凄いけれど」
「ずっと打線は駄目だったから」
「そうだったからね」
「それがね」
 咲はまた言った。
「今はね」
「凄い打つから」
「打率は毎年二割八分越えていて」
「得点圏打率も高いし」
「一発長打もあって」
「滅茶苦茶強くなったわね」
「もう打たないことで有名だったのに」
 伝統的にそうであった打線がというのだ。 

 

第九話 部活も入ってその九

「それがもう打ってくれて」
「得点にもちゃんとつながって」
「しかも盗塁も多いし」
「阪神打線も滅茶苦茶強くなったわ」
「本当にね」
「もう隙ないわね」
 咲が見てもだ。
「今の阪神は」
「だから毎年日本一なのよ」
「もう無敵のチームよ」
「しかもどんどん強くなっている」
「そんなチームになったのよ」
「そうよね、巨人はどんどん弱くなってね」 
 かつての自称球界の盟主はそうなっている、最早かつてのやりたい放題の姿なぞ何処にも存在していない。
「それとは逆にね」
「阪神はどんどん強くなって」
「それでこれからも強くなる」
「そうなるわ」
「いいことね、巨人のホームラン去年はシーズン五十七本で」
 それだけでというのだ。
「阪神は二百五十一本」
「比較にもならないわよ」
「いやあ、もうピストルね」
「阪神を大砲としたら」
「巨人はそうね」
「しかも阪神エラーは三十一しかないけれど」
 守備もいいというのだ。
「巨人は百五十七」
「記録らしいわね」
「一年辺りのエラー数では」
「それやっちゃったみたいね」
「そうみたいね、補強出来なくなったら」
 巨人の十八番であった悪辣な手段である。
「あそこまで弱くなるのね」
「弱いみっともない恰好悪い」
「巨人はその三拍子ね」
「あんないいところないチームもないわよ」
「打たないしエラーばかりで」
「しかも打たれるってね」
「そうよね、あんなチームなんてね」
 まさにというのだ。
「いいところないわ」
「けれど阪神は違うから」
「今年も日本一よ」
「どんな相手でも勝ってやるわ」
「目指すは世界一のチームよ」
 阪神ファンの娘達は意気軒高であった、そんな彼女達の言葉も聞いて咲ははじまったばかりの航行生活を過ごし。
 部活にも出た、そして野球漫画を読むと。
 あるプロ野球の漫画を読んで咲は部長に尋ねた。
「ちょっといいですか?」
「どうしたのかな」
「あの、南海ホークスって」
「今のソフトバンクだよ」
「そうですよね」
「昔は大阪に本拠地があってね」
 部長はその漫画を読む咲に話した。
「親会社は鉄道会社だったんだ」
「そのことは知ってましたけれど」
 その漫画を読みながら部長にさらに話した。
「ユニフォーム緑だったんですね」
「緑と白だったんだ」
「それで監督野村さんで」
 その頃の野村克也も出ているのだ。
「江本さんもですか」
「南海にいたんだ」
「阪神じゃなかったんですね」
「江本さん最初日本ハムだったのよ」
 三年の女子の先輩がこう言ってきた。
「今で言うね」
「最初は」
「昔は東映が親会社でね」
「ああ、映画会社の」
「江本さんは最初東映にいて」
 そしてというのだ。 

 

第九話 部活も入ってその十

「そうしてね」
「南海に移籍して」
「阪神にだったのよ」
「そうだったんですね」
「あとそこに西本さん出てるけれど」
「ああ、野村さんが敵と言ってる」
「その人もその頃はまだ阪急だったのよ」
 このチームの監督だったというのだ。
「それが近鉄に移るのよ」
「そんな昔ですね」
「僕達のお父さんお母さんがまだ子供か生まれてないよね」
 部長は笑って話した。
「勿論顧問の先生もだよ」
「生まれてないですか」
「そんな頃のことでね」
「大昔ですね」
「昭和四十八年なんてね」
 それこそというのだ。
「もうね」
「大昔で」
「そんな風だったんだ」
「そうですか」
「ホークスは本当に昔はね」
「大阪のチームだったんですね」
「大阪球場ってところが本拠地だったんだ」
「まさに大阪ですね」100
 咲はそう言われてしみじみと思った。
「名前からして」
「大阪の難波にあったんだ」
「難波、ですか」
 そう言われて咲はピンとこなかった、それで首を傾げさせてこんなことを言った。
「東京で言うとどんなところですか?」
「何処だろうね」 
 部長の返事は要領を得ないものだった。
「一体」
「わからないですか」
「僕も大阪行ったこと殆どないから」
 だからだというのだ。
「難波も詳しくないから」
「そうなんですね」
「東京にいるとね」
「やっぱり関西には詳しくなくなりますね」
「地元がこっちだと」
 東京ならというのだ。
「当然東京に詳しくなるよね」
「住んでいますし」
「そうなるよ、あと横浜とか川崎とか」
 そうした街もというのだ。
「時々行ってねわかる様になるね」
「あと千葉もですね」
「そうそう、千葉もあれで結構賑やかだから」
 部長は咲の言葉に応えて述べた。
「結構行くと楽しいしね」
「そうですよね」
「柏市なんかもいいよね」
「あそこもですか」
「あと船橋とかもね」
 千葉県のこの市もというのだ。
「いいよ」
「そうですか」
「あと神奈川だと横須賀もいいよ」
「海上自衛隊ですね」
「あそこもいいしね」
「東京以外もいいですね」
「そうそう、そうした街には詳しくなって」 
 そしてというのだ。
「関西にはね」
「住んでいないとですね」
「どうしてもね」
「知らなくなりますか」
「だから僕も大阪は殆ど知らなくて」
「難波もですか」
「知らないよ」
 そうだというのだ。
「大阪の簿価の場所もね」
「そう言ったら私もです」
 咲は自分もと答えた、事実咲は関西には殆ど行ったことがなく頭の中の地図の中学の教科書のままだ。 

 

第九話 部活も入ってその十一

「奈良や京都も」
「知らないね」
「神戸も堺も」
「僕もだよ、本当に関西はね」
「知らないですね」
「そうだね」
「漫画読んでいても」 
 咲は漫研らしくこちらの話もした。
「関東はわかりますが」
「関西が舞台だとだね」
「何が何か」
「僕もじゃりん子チエとかミナミの帝王とか読んでもね」
「どっちも舞台大阪ですね」
「全然わからないよ」
「私もです、司馬遼太郎や織田作之助や開高建は大阪の人らしいですけど」
 今度は文学の話をした。
「何が何か」
「わからないよね」
「やっぱり」
「それが普通だね、東京にいたら」
「住んでいるからですね」
「自然と詳しくなるよ」
 部長もこう言った。
「渋谷とか原宿とかあるしね」
 こうした地域の名前も出した。
「もうそれぞれの区が大きな街で」
「凄いですね」
「伊達に一千万もいないよ」
 東京の人口の話もした。
「だからね」
「色々な場所があって」
「色々な場所にすぐに行けてね」
「楽しめますね」
「いい場所だよ」
「そうですね」
「だから僕も楽しんでるし」 
 それでとだ、部長は咲にさらに話した。
「小山さんもね」
「そうしていいですね」
「是非ね」
「私もそう思うし」
 ここで三年生の女性部員も言ってきた。
「だから小山さんもね」
「楽しんでいいですね」
「というか楽しまないとね」
「駄目ですか」
「ええ、人間生きていたら」
 それならというのだ。
「幸せに楽しくね」
「生きないと駄目ですか」
「いい人ならね」 
 この部員は咲にこうも言った。
「平気で生きもの捨てたり騙す様だとね」
「生きていてもですか」
「駄目だと思うけれどね」
「悪人は、ですか」
「悪人というか屑ね」
 この部員は咲に悪人ではなくこちらになると言った。
「この場合は」
「屑ですか」
「そう、ドキュンとかいるでしょ」
「世の中には」
「ヤクザ屋さんとかね、他にも生きているだけで害毒と迷惑ばかり撒き散らす人」
「この世の誰の為にもならなくて」
「親戚で一人位いるでしょ、そうした人」 
 咲にさらに言った。
「ヒス起こして喚き散らして暴れてエゴばかりで強欲で図々しくて無遠慮で自分は何もしないしかも執念深くて自分がしたことには全く平気な人」
「最低ですね」
「そんな人いるでしょ」
「私の親戚にはいないです」
 咲は実際に心当たりがなくてこう答えるしかなかった。 

 

第九話 部活も入ってその十二

「ちょっと」
「そうなの」
「はい、そんな酷い人は」
「じゃあ酒乱で奥さんや子供さんに暴力振るう人は」
「いないです」
 こうした人間も親戚にはいなかった」
「ちょっと」
「じゃあ働かないで人の家に上がり込んで大飯ばかり食べてお金貰ってお風呂も入って奇麗なお布団で寝て人の部屋に勝手に入って本漁っていつも尊大で文句ばかり言う人は」
「いないですけれど」 
 咲の返答は同じだった。
「そうした人も」
「皆いないの」
「あの、どの人達も最低ですよね」 
 咲は先輩に怪訝な顔で返した。
「どう考えても」
「だからそうした人達がね」
「親戚にいないかですか」
「聞いたけれど」
「本当にそうした人達はです」
 咲はあらためて答えた。
「私の親戚にはです」
「いないのね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「有り難いことに」
「それは本当に有り難いわね」
 これが先輩の聞いた感想だった。
「小山さんっていったわね」
「はい」
「貴女それだけで幸せよ」
「そうなんですね」
「中にはこうした人が全部親戚にいる人もね」
「おられるんですね」
「毒親とかね」
 今度はこうした人間の話をした。
「兄弟のうちどっちかだけを贔屓してね」
「もう一人は邪険に扱いますね」
「漫画動画でもあるでしょ」
「あっ、よくそうしたお話ありますね」
「こうした親がいる人もね」
「おられて」
「大変だったりするのよ」
 こう咲に話した。
「中には虐待もね」
「ああ、自分の子供を」
「そんな人間ですらない親もね」
「持っている人がいますね」
 咲もこのことはわかった、それで先輩にも話した。
「交際相手の子供虐待して殺した屑男の顔ネットで見ました」
「どうだったかしら」
「もう如何にも」
 咲は見たそのままの感想を述べた。
「ゴロツキかチンピラで目の感じも」
「碌でもない奴だったのね」
「如何にも屑そうな」
「そうした奴だったからよね」
「従姉のお姉ちゃんも言う様な」
 愛のことも思い出して話した。
「屑そうな奴で」
「実際にだったわね」
「屑でした」
「子供は大人より弱いよ」
 部長はあえて誰もがしていることを話した。
「その子供を虐待して殺すなんてね」
「最低ですね」
「人間ですらね」
 それこそというのだ。
「ないよ」
「そうですよね」
「僕もそうした人に会ったことはないけれど」
 それでもとだ、部長は咲にさらに話した。 

 

第九話 部活も入ってその十三

「世の中にはね」
「そうした親もですね」
「いてね」
「大変な思いをしている子供もいますね」
「人もね。まあ動物を平気で虐待したり捨てる様だとね」
「人間にもですか」
「そうするよ、自分達の実の子供でも」
 血のつながりはあってもというのだ。
「そうするよ、それが毒親でね」
「毒親を持っている人もですね」
「いるよ」
「そうなんですね」
「けれど小山さんは違うね」
「お父さんもお母さんもそんな人達じゃないです」
 これまた自分のことなのではっきりと言えた。
「間違っても」
「うん、だったらそのことはね」
「とてもいいことですね」
「凄くね、だからそのことには感謝しないとね」
「駄目ですね」
「本当にね」
 こう言うのだった。そして先輩がそこでまた言ってきた。
「それだけで随分と違うわよ」
「親戚におかしな人がいなくて」
「それでいい親御さん達ならね」
「お父さんもお母さんもそうなら」
「幸福の原点かしらね」
「そうなんですね」
「やっぱり健康であって周りがいい人達なら」
 それならというのだ。
「それだけでかなり幸せよ」
「そうですか」
「今私が話した人達近くにいて欲しくないでしょ」
「絶対に」
 間違ってもとだ、咲はきっぱりと答えた。
「いたくないです」
「そうよね、私だって同じよ」
「そうですよね」
「これ私の知り合いの人の親戚だけれどね」
「その知り合いの人も大変ですね」
「三人共いて」
 今話した咲が言う最低な親戚達は全員だった。
「三人共流石に今は全員親戚全員から縁切られたけれど」
「あんまりにも酷くて」
「それでね」
 その為にというのだ。
「そうなったけれど」
「それでもですか」
「いるだけでね」
「周りは迷惑しますね」
「だってそんな人達は本当にね」
「迷惑しかですね」
「周りにかけないから」
 だからだというのだ。
「いるだけでよ」
「皆が困るから」
 咲も言った、咲自身は心当たりのあることではないが話を聞いてそうしたものかと思いながら応えた。
「だからですね」
「いるだけでね」
「嫌ですか」
「早く死んでくれとか」 
 その様にというのだ。
「思う位によ」
「嫌ですか」
「そうした人達はね」
「早く死んで欲しいとか」
「心からね」
 まさにとだ、先輩は咲に返した。
「思うみたいよ、そして死んだり行方不明になったら」
「嬉しいんですね」
「幸いどの人もそうなったらしいわ」
「それはいいことでしょうか」
「その人はよかったって言ってるわ」
 実際にというのだ。 

 

第九話 部活も入ってその十四

「三人共そうなって皆喜んでるって」
「親戚の人達が」
「そう言ってるわ」
「よっぽど嫌いだったんですね、その人達が」
「そのことは間違いないわね」
「親戚でも嫌いなんですね」
「だから生きている限り周りに迷惑をかける人達よ」
 そうした者達だからだというのだ。
「それじゃあ親戚でも。というか近くにいる親戚だから」
「尚更ですか」
「嫌いというか」
 それこそとだ、先輩は咲に言った。
「憎むのよ」
「憎みますか」
「嫌ってね」
 それと共にというのだ。
「そうなるのよ。ただね」
「こうしたことはないに限るね」 
 部長も言ってきた。
「本当に」
「人を嫌ったり憎むことはよくないですね」
「何といってもね、そんな人がいないなら」
 それならというのだ。
「もうね」
「それが一番いいですね」
「好きな人が多ければ」
「多いだけいいですね」
「そして嫌いな人はね」
 それはというのだ。
「少ない方がよくていないなら」
「一番いいですね」
「人を嫌うとそれだけで嫌な気持ちになるからね、とはいってもね」 
 部長はここで苦笑いになってこうも言った。
「僕も嫌いな人はいるよ」
「部長さんにもですか」
「そうなんだ」 
 咲に苦笑いのまま話した。
「自分でもどうにかしないとって思ってるけれど」
「やっぱりですね」
「いるよ」
「そういえば私も巨人が嫌いで」 
 咲も人間だ、それで嫌いな相手はいる。それは誰かも話した。
「テレビで偉そうに言ってる人とかは」
「嫌いなんだ」
「あと弱いものいじめして楽しむ人とか」
 そうした輩はというのだ。
「嫌いです」
「そうなんだ」
「はい、嫌いでして」
 それでというのだ。
「会いたくもないですし考えますと」
「嫌な気分になるね」
「なります」
 実際にとだ、咲は答えた。
「どうしても」
「そうだよね、けれど嫌な人のことを考えるよりね」
「好きな人のことを考える方がいいですね」
「精神衛生的にね」
「漫画も精神衛生的によくなる為に読まないとね」 
 先輩は笑ってこうも言った。
「やっぱり」
「それはそうですよね」
「面白くて笑えたりワクワクしたりためになる」
「そうした漫画を読んで楽しむことですね」
「ちなみに私ホラー漫画が好きだけれど」
 先輩は自分の趣味も話した。
「怖がることも楽しむのなら」
「いいですね」
「妖怪や幽霊が出ても」
「楽しめますね」
「映画でもね、ただハッピーエンドでないとね」 
 そうでないと、というのだ。
「駄目なのよ」
「そうですか」
「さもないとね」
「精神衛生的にですね」
「すっきりしないわ」 
 そうだとだ、咲に笑って話した。 

 

第九話 部活も入ってその十五

「どうしてもね」
「僕は未完の作品が一番嫌だね」
 部長も自分の好みを話した。
「やっぱり作品は終わらないとね」
「駄目ですか」
「未完のまま放置か」 
 若しくはとだ、部長は咲にさらに話した。
「作者さんに何かあって」
「それで、ですね」
「未完で終わるのはね」  
 それはというのだ。
「凄く嫌だよ」
「そうした作品もありますね、異国迷路のクロワーゼは残念ですね」
 咲は未完と聞いてこの作品を思い出した。
「絵も奇麗で異色の作品で」
「僕その作品はよく知らないけれど面白いんだ」
「はい、ですが」
 面白かったがとだ、咲は残念そうに話した。
「作者さんがお亡くなりになって」
「それでだったんだ」
「アニメ化もされたのに」
「未完なんだね」
「終わって欲しかったです」
 心からこの言葉を出した。
「本当に」
「そうだね。作品は終わってこそね」
「いいですね」
「作者さんも作品を生み出したら」
 そうしたならというのだ。
「絶対にね」
「終わらせないといけないですね」
「そうだよ」
 部長は強い声で語った。
「そうしないと創作者としてね」
「駄目ですよね」
「書いて中断また書いて中断とか」
「それネット小説でよくありますね」
「あるよね」
「困りますよね」
「作品ははじめることと終わらせることが一番難しい」
 部長はここでこの言葉を出した。
「そう言われるけれどね」
「それは事実ですね」
「うん、まずはじめて」
「そして終わらせる」
「言葉で言うと一言だよ」
 それに過ぎないというのだ。
「所詮というかね」
「それで終わりですね」
「けれど実際にやるとなると」
「難しいですね」
「そうだよ、けれどはじめたからにはね」
「終わらせないと駄目ですね」
「そうだよ。さもないと作品も可哀想だから」
 部長は少し悲しみを込めた声で述べた、そこには作品に対する愛情とそして終わらない悲しみがあった。
「だからね」
「それで、ですね」
「はじめたら終わらせる」
「どういった創作でも」
「そうしないと駄目だよ」
 絶対に、そうした言葉だった。
「本当にね」
「それが大事ですね」
「作品はね。漫画もだよ」
「終わってこそですね」
「いいんだよ。まあ打ち切りもあるよ」
 部長はこの言葉は苦笑いで話した。
「どうしてもね」
「商業だとそれも常ですね」
「けれど打ち切りでもね」
 その作品を愛している読者には残念だがというのだ。
「それでもだよ」
「終わるといいですね」
「終わらないよりはずっといいよ」
 例えそれが打ち切りでもというのだ。
「まだね」
「そうですね、打ち切りよりも未完はよくないですね」
「本当にそう思うよ。じゃあこれからも」
 部長は咲にまた笑顔になって話した。
「この部でね」
「漫画を読んで」
「そしてね」
「そのうえで、ですね」
「こうして楽しくお喋りもね」
「していけばいいですか」
「そうしていこう」
 部長は咲に笑顔のまま話した、そしてだった。
 咲は部長のその笑顔を見て明日もまた部活に行こうと思った、まだ仮入部だがいい部活だとも思った。


第九話   完


                2021・4・1 

 

第十話 アルバイトその一

               第十話  アルバイト
 咲のアルバイトの採用が決まった、速水は自分の携帯から咲に話した。
「今届きました」
「アルバイトのですね」
「はい、そして貴女の採用もです」
「そうですか。それじゃあ」
「明日から来られますか」
「はい、明日学校が終わったら」
 それならとだ、咲は速水に答えた。
「すぐにです」
「こちらに来てくれますね」
「そうさせてもらいます」
 是非にとだ、咲はまた答えた。
「渋谷まで行かせてもらいます」
「場所はわかっていますね」
 詳しい住所はとだ、速水は咲に問うた。
「そちらも」
「はい、サイトで調べさせてもらいました」
「そうですか、ですが住所を知ることと」
 頭でそうすることと、というのだ。
「実際に行ってみることとは違います」
「そうなんですか」
「ですから」
 それでとだ、速水はさらに話した。
「時間は余裕を以てです」
「行くことですか」
「そうされて下さい」
「わかりました」
 咲は速水の言葉に頷いた。
「そうさせてもらいます」
「それでは明日から」
「行かせて頂きます」
 是非にとだ、速水は答えた。
「そうさせてもらいます」
「わかりました。では明日から」
「宜しくお願いします」
「それとですが」
 速水は電話の向こうで頷いた咲にさらに話した。
「ご自身の安全には気を付けて下さい」
「それお母さんにも言われました」
 咲はすぐに答えた。
「高校生になったからって」
「何かとですね」
「中学校まではお家の近くを行き来するだけでしたが」
 それで済んだがというのだ。
「高校になって遠くにも行って夜歩くこともあるので」
「だからですね」
「警棒とかスタンガンも」
 母からというのだ。
「貰いました」
「それはいいことです、用心に越したことはありません」
「だからですか」
「警棒もスタンガンも常に持っておいて下さい」
「自分を守る為に」
「そうです、幸い日本は銃を持っている人は少なく」 
 そしてとだ、速水はさらに話した。
「刃物もです」
「ナイフは持っている人もいますね」
「そうそう持っていられません」
「銃刀法があるので」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「刃物もあまりです」
「日本ではですね」
「外で出す人もいないです」
「法律がしっかりしていて」
「警察も頑張ってくれていますから」
「治安がいいですね」
「はい、ですが」
 速水は咲に言った。 

 

第十話 アルバイトその二

「悪人はいるものでして」
「犯罪者もいて」
「悪いことをする人もいるので」
「用心の為にです」
「警棒とかもですね」
「持っていて心配はありません」
「だからですね」
「岡三が用意してくれたなら」
 それならというのだ。
「是非いつもです」
「持っていることですね」
「はい」
 こう咲に言った。
「宜しくお願いします」
「はい」
 咲もはっきりとした声で答えた。
「そうさせてもらいます」
「そうしてくれると私も嬉しいです」
「速水さんもですか」
「雇う人がいつも元気で安全なら」
 それならというのだ。
「それに越したことはないですから」
「だからですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「私もです」
「私が安全ならですか」
「いいので。私も出来る限りのことはしますが」
 咲の安全の為にというのだ。
「ご自身だけでという時もありますね」
「どうしても」
「そうした時もありますので」
 だからだというのだ。
「くれぐれもです」
「自分の身は自分で守る」
「このこともしておいて下さい」
「わかりました」
「それと危ない場所には最初からです」
「行かないことですね」
「そうです、日本は確かにそうした場所は少ないですが」
 それでもというのだ。
「最初からです」
「そうした場所にはですね」
「行かず」
 そうしてというのだ。
「近寄らないことです」
「ええと、君子危うきに」
「近寄らずです」
 そうなるというのだ。
「ですから」
「だからですね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「そこはです」
「くれぐれもですね」
「お願いします」
「わかりました、そうします」 
 咲はまた速水に答えた。
「そうしたことも踏まえて」
「働いて下さい」
「そうさせてもらいます」
 咲もこう答えた、そうしてだった。
 咲はその連絡を受けてから家で両親に夕食の時に話した、すると両親は二人共娘に笑顔でこう言った。
「そうか、じゃあな」
「明日から頑張りなさいよ」
「そうして働いてな」
「お仕事がどんなのか知りなさい」
「そうね、お仕事なんてね」
 それこそとだ、咲も言った。
「学校の見学や体験ではあったけれど」
「それでもだろ」
「実際にお金貰ってはないでしょ」
「ええ、それはね」
 実際にというのだ。 

 

第十話 アルバイトその三

「本当にね」
「はじめてだろ」
「けれどいいことだからね」
「頑張ってくるんだぞ」
「真面目に働いてくるのよ」
「そうするわ。真面目に働いて」
 そうしてとだ、咲は両親に答えた。
「お金稼ぐはね」
「お金を稼ぐだけじゃなくてな」
 父はそう言う娘に笑って話した。
「世の中の色々なことも知ってな」
「そしてなの」
「学ぶんだ」
「世の中のこともなの」
「それが仕事なんだ」
「お金貰うだけじゃないの」
「そうだ、色々経験もするからな」
 だからだというのだ。
「働くことはいいんだ」
「そうなのね」
「だからな」
「アルバイトはいいのね」
「仕事はな」
「そうなのね」
「自分を磨くことにもなる」
 仕事はというのだ。
「だからどんどん働いてこい」
「そうするわね」
「そしてな」
 父はさらに言った。
「今以上に人間としてだ」
「成長するのね」
「そうなるんだ」
 こう娘に言った。
「仕事の中の経験を積んでな」
「だからなのね」
「頑張ってな」
「働いてくることね」
「そうだ」
 まさにというのだ。
「そうして来い」
「お母さんもそう思うわ。お母さんもパートしてるでしょ」
 母も言ってきた。
「そうしたらね」
「パートでもなのね」
「その中でね」
「やっぱり経験を積んで」
「自分を磨けるのよ」
「そうなのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「働いてきなさい、ただお金を稼いでも」
 母は娘にこうも言った。
「無駄遣いはね」
「駄目よね」
「お金があってもよ」
 それでもというのだ。
「無駄に使うことはね」
「駄目よね」
「貯金して」
「いざという時に置いておく」
「そうよ、お金は大事よ」
「何といってもね」 
 咲もお金のことはその通りだと頷いた。
「だから無駄遣いなんかしたら」
「幾ら持っていてもね」
「あっという間になくなるわね」
「ほら、五十億以上稼いだ野球選手いたでしょ」
「あの刺青入れた」
 咲は母が今言った選手が誰かすぐにわかった、それでその選手の顔を脳裏に思い浮かべながら母に応えた。
「覚醒剤もやってた」
「あの人自分が稼いだお金何処に行ったってね」
「言ってるの」
「今お金なくてね」 
 そうした状態に陥ってというのだ。 

 

第十話 アルバイトその四

「そう言ってるのよ」
「いや、それってね」
 咲はその話を聞いて目をじととさせて述べた。
「もうね」
「まさに無駄遣いでしょ」
「覚醒剤とか刺青に使ったのでしょ」
「すぐにわかるわね」
「他には遊んで」
「他の人と遊んでもね」
 その時もというのだ。
「お金は自分が払うとかね」
「そう言ってたの」
「それでもうお金を散財して」
 そうしてというのだ。
「今ね」
「そう言ってるのね」
「そうなの」
「まさにそれが無駄遣いね」
 咲はじと目のまま答えた。
「人間そうはなりたくないわ」
「これは極端だけれどね」
「無駄遣いがどれだけ駄目か」
「わかるでしょ」
「ええ、いいサンプルだから」
 反面教師としてというのだ。
「本当にね」
「だからね」
「もうよね」
「お金を沢山手に入れても」
「無駄遣いはしないことね」
「そうよ」 
 絶対にというのだ。
「そのことも気をつけてね」
「そうするわね」
 咲は母に確かな声で頷いた。
「ゲームセンターで散財とか」
「しないでね」
「そうしていくわね」
「そうしてね」
「ええ、お金も大事にして」
 そのうえでとだ、咲はあらためて述べた。
「それでね」
「働いていけよ」
「そうして経験を積みなさい」
「絶対にお前の糧になるからな」
「将来いいことにつながるわ」
「そうよね。それに渋谷だから」
 咲は笑って働く場所のことも話した。
「何かと楽しめそうね。無駄遣いはしなくても」
「それはそうだな」
「あそこは東京でも特に賑やかな場所だし」
「いたらそれだけでな」
「若い子は尚更楽しめるわね」
「そうよね。休日仕事が終わって」
 そうしてというのだ。
「遊ぶのもいいわね」
「そうだな」
「それもいいわね」
「カラオケとか行ってね」 
 その遊ぶ場所の話もした。
「ゲームセンターとか本屋さんとか」
「買いものとかな」
「楽しめそうね」
「食べたりね」 
 咲はこちらの話もした。
「出来そうね」
「渋谷だからな」
「若い人の場所だしね」
「お父さんも昔はよく行った」
「お母さんもよ」
 両親も過去はだった。 

 

第十話 アルバイトその五

「昔は結構行ったわ」
「楽しかったな」
「渋谷は昔から若い人の場所ね」
「ああ、そうだ」
「あそこはそうよ」
 その通りという返事だった。
「だから時間があったらね」
「あそこで遊んでもいいな」
「それも経験よ」
「渋谷で遊ぶこともな」
「悪い遊びは避けて」
「そうしてな」
「そうね、渋谷のことも」
 咲は両親の言葉を受けてからあらためて考えた、そうして両親に言った。
「お姉ちゃんなら知ってるわね」
「まあね」
 愛のことだとわかってだ、母は少し憮然として答えた。
「愛ちゃんならね」
「そうよね」
「ええ、ただね」
「お姉ちゃんみたいになの」
「ああした派手過ぎる外見にはね」
「ならないことね」
「あの娘はあの派手さがね」
 どうしてもというのだ。
「気になるから」
「けれど中身はね」
「しっかりしてるっていうのね」
「だからいいでしょ」
「ええ。ちゃらちゃらしてるのは外見だけで」 
 それでとだ、母も答えた。
「しっかりしてるけれどね」
「それで色々知ってるから」
「渋谷のこともで」
「だからね」 
「あの娘に聞くのね」
「そしてね」
 そのうえでとだ、咲はさらに話した。
「渋谷も何処に行っていいか悪いか」
「そのことをなのね」
「教えてもらうわ」
「まあな、聞くことはいい」
 父も憮然としているが肯定した。
「愛ちゃんにな」
「そうよね」
「しかしああしたファッションはな」
「よくないのね」
「派手過ぎて軽薄だの遊んでる様に見えるからな」
「遊んでるってあれよね」
 咲は父のその言葉についても言った。
「悪い遊びよね」
「それをしている様にな」
 まさにというのだ。
「思われるからな」
「駄目なのね」
「お父さんは賛成出来ないな。あの娘も最初は地味だったんだ」
 そうしたファッションだったというのだ。
「それがな」
「高校に入ってからだったわね」
 夫婦で話した。
「あの娘が派手になったのは」
「ああ、高校に入ってアルバイトをはじめてな」
「お金出来てね」
「あちこち歩き回って」
「そうしてね」
「ああなったな」
「全く。親も言わないからだ」
 愛の両親のことも話した。
「中身さえしっかりしていればいいなんてな」
「そう言ってね」
「全く、ファッションについてもな」
「言ってくれたらいいのに」
「人は確かに服装ではわからないが」
「愛ちゃんは目立ち過ぎよ」
「お父さんもお母さんもそう言うけれど」
 それでもとだ、咲は両親に返した。 

 

第十話 アルバイトその六

「けれどお姉ちゃんはね」
「それでもだな」
「しっかりしてるっていうのね」
「お前にも色々教えてくれる」
「有り難い従姉ね」
「だから今回も聞くわ」
 そうするというのだ。
「今後の為にね」
「まあね、それでどうにかなるならいいわ」
 母は娘に折れた感じで応えた。
「じゃあね」
「ええ、聞いてくるわね」
「そうしなさい」
「お姉ちゃんにも色々話して」
 咲は両親との話を終えてすぐに携帯を出して愛にもアルバイトのことを話した、そして渋谷のことも聞いた。
「何処に行っていいかね」
「お店とか場所よね」
「悪いかも教えてくれる?」
「いいわよ、それはね」 
 愛は咲に早速渋谷のことを話した、そのうえで従妹に言った。
「原宿も新宿も銀座も六本木もね」
「知ってるの」
「もう東京一通り行ってるからね」
「そうなの」
「巣鴨とか大塚とか駒込も知ってるわよ」
 そうした地域のこともというのだ。
「鶯谷も両国もね」
「本当に色々知ってるのね」
「ええ、ただ夜の繁華街は一人で行かないこと」
「そのことは絶対ね」
「さもないとね」
 愛は咲に注意する様に話した。
「とんでもないことになるわよ」
「夜の繁華街ね」
「歌舞伎町とかね。私も一人じゃ行かないから」
 夜の繁華街はというのだ。
「危ないから。高校生じゃ間違ってもよ」
「行かないことね」
「それが身の為よ、あとネットでも調べて」
 そちらでもというのだ。
「危ない場所はね」
「お姉ちゃんから聞くだけじゃなくて」
「そう、自分でも調べて」
 そうしてというのだ。
「確かめるといいわ」
「自分でも調べるのね」
「あらかじめね、そうしたらよく覚えるから」
「聞くよりも自分で調べることね」
「そう、その方がよく覚えるから」
 だからだというのだ。
「そうしてね」
「それじゃあ」
 咲は従姉のその言葉に頷いて応えた。
「これからはね」
「調べてね、それと」
「それと?」
「わかってると思うけれどネットの情報は嘘が多いから」 
 愛は咲にこのことも話した。
「だから情報の見極めもね」
「大事ね」
「そう、食べものなら実際に食べてみてだけれど」
「危険な場所はね」
「危険な目に遭ってからじゃ遅いから」
 こう言うのだった。
「このことはね」
「要注意ね」
「私は咲ちゃんには嘘は言わないからどうかわからない時はね」
 その情報が嘘か真か、という時はというのだ。 

 

第十話 アルバイトその七

「私にね」
「聞けばいいの」
「そうした時は教えるから」
「そうしてくれるの」
「知ってる限りのことはね」
「じゃあ頼りにしてるわね」
「ええ、じゃあ渋谷でのアルバイト頑張ってね。占い師さんのお店だけれど」
 愛はこのことも言った。
「そうよね」
「ええ、速水さんって人のね」
「速水さんね。私も聞いてるわよ」
「知ってるの」
「タロット占いでね。雑誌で見たことあるから」 
 速水、彼のことをというのだ。
「雑誌の占いのページを担当されてて」
「雑誌でよくあるわね」
「黒髪で左目を隠した凄い美形の人よね」
「若いね」
「青いスーツの」
「そうよね、何かあまりにも凄い美形で」
 愛電話の向こうの咲にこうも言った。
「驚いたわ。ただどうした人か知らないから」
「注意した方がいいの」
「男の人とはあまり二人きりにならないことよ」
「誰でもなの」
「そう、誰でもね」
 このことを言うのだった。
「それこそ心を許さない限りは」
「二人きりにならないの」
「そこは注意してね」
「速水さん紳士だけれど」
「普段は紳士でも本性ってあるでしょ」
「いきなりそれを出して」
「襲って来るってこともあるから。私は注意してるからね」
 それでというのだ。
「そうした目に遭ったことはないけれど」
「それでもなの」
「注意していてね」
「速水さんでもなのね」
「家族でも危ないのよ」
「まさか」
「叔父さんはそういうのないけれど」
 咲の父はというのだ、愛も彼についてはそうしたことは一切ないとわかっていてそれで言うのだった。
「家族でもよ」
「注意しないといけないの」
「そう、だからどんな男の人にも」
「注意して二人きりにはなのね」
「あまりならないことよ」
 このことは控えろというのだ。
「いいわね」
「わかったわ、そうするわ」
 咲も頷いて応えた。
「速水さんにもね」
「そうしてね」
「用心は必要ね」
「誰でもね、本当に心を許さないと」
 それでもというのだ。
「駄目よ」
「家族でも」
「そうしたことは注意よ」
「心を許していないと」
「そう。叔父さんは大丈夫だけれどね」
「お父さんは絶対にないわね」
 咲もその通りだと思って愛に返した。
「本当に」
「けれど家の中でもね」
「そうしたことがあるから」
「用心は必要よ。だから警棒やスタンガンもね」
「いつも持っていることね」
「そうしておいてね、じゃあアルバイトもね」
 愛は咲にまたこう言った。
「頑張ってね」
「そうするわね」
「そして楽しい高校生活送ってね」
「これからね」
「失恋しても」
 若しそうなってもとだ、愛はこのことも話した。 

 

第十話 アルバイトその八

「落ち込まないことよ。告白は自分でよく考えてね」
「自分でなのね」
「誰にけしかけられてもね」
「自分でなのね」
「考えてね。けしかけて自分が都合が悪くなったら逃げる奴もいるから」
「自分がけしかけても」
「お前が決めたこととか言ってね」 
 そうしてというのだ。
「逃げて昨日まで友達面していて」
「手の平返しとか」
「そんなことする奴もいるから」
「酷い奴ね」
「告白は考えてね、迂闊にしない。そして失恋しても」
 振られてもというのだ。
「そうしてもね」
「落ち込まないことね」
「そのことを色々言われても」
 告白と失恋、それをというのだ。
「気にしないことよ、落ち込んだら私に言って」
「聞いてくれるの」
「それで絶対に先ちゃんに悪いことしないから」
「そうしてくれるの」
「私だって失恋したことあるのよ」 
 従妹に笑って話した、その笑いには過去が存在していた。
「それもかなりのダメージだったわ」
「お姉ちゃんも失恋したことあるの」
「そう、それで落ち込んだこともあるから」
「私が失恋してもなの」
「囃したりからかったりしないし」
 そうしたことはしないで、というのだ。
「悪くも言わないわ」
「そうしてくれるの」
「お話も聞くから。聞いてから厳しいことを言うかも知れないけれど」
 それでもというのだ。
「悪いことはしないから」
「そうしてくれるのね」
「だから安心して。それとね」
「それと?」
「失恋でどれだけ傷付いてもそれを囃す人のことは信じないことよ」
 そうすることが大事だとだ、愛は咲に話した。
「人の痛みをわからない人だから、だから咲ちゃんもね」
「私もなの」
「そんなことはしないでね」
「失恋した人を囃すことは」
「ええ。そしてけしかけておいて自分がそのことで言われてもね」
「裏切らないことね」
「どれも人としてやられたら嫌でしょ」
 咲に真剣な声で言った。
「先ちゃんにしても」
「自分がやられて嫌なら」
「人にはしないことよ」
「人を傷付けるし」
「しかもこうしたことは一生恨まれるから」
「一生なの」
「ええ、軽い気持ちで言ってもね」
 自分では例えそうだとしてもというのだ。
「相手の人は物凄く傷付いて当然怨んで」
「それが一生だから」
「もう絶対にね」
 それこそというのだ。
「言わないことよ」
「そうした方がいいのね」
「絶対にね。一生恨まれるのも嫌でしょ」
「誰からもね」
「その時取るに足らない相手と思っていても」 
 自分を恨む人がというのだ。
「後でどうなるかわからないし自分に言わなくてもね」
「自分に?」
「自分の家族やお友達に言うこともあるのよ」
「自分がそうしたことを」
「それも嫌でしょ」
「確かにね」
 咲はまた言葉で頷いて応えた。 

 

第十話 アルバイトその九

「そうしたことも」
「だったらね」
「最初から言わないことね」
「そして恨みを買わないことよ」 
「それが一番ね」
「軽い気持ちが一生になるから」
 今言っている通りにというのだ。
「まして傷付いた人がおかしくなったらね」
「言われてそれで」
「もっと酷いわよ」
「おかしくなった人に一生恨まれたら」
「刺されたり殺されたくはなくても」
 それでもというのだ。
「それ以外のやり方は幾らでもあるから」
「やり返す方法は」
「過去を家族やお友達に言ったりね」
「今言った風に」
「意外なところで会ってやり返されたり」
「将来に」
「お仕事で一緒になったりして」
 そうしてというのだ。
「お仕事ミスする様にされたりとかね」
「やられるから」
「本当に人は何時何処で会うからわからないのよ」
「運命の再会ね」
「その再会が自分を恨んでる相手とってこともあるのよ」
 咲にこのことを忠告した。
「だからね」
「最初からなのね」
「言わないことで」
「恨まれないことね」
「そうしてね」
「わかったわ、失恋も怖いのね」
「人の心の傷、トラウマにもなることだから」
 それ故にというのだ。
「怖いのよ」
「トラウマね」
「心に受けた傷は身体に受けた傷よりも治りにくいのよ」
「身体に受けるよりも」
「そちらの傷も残ることがあるけれど」
 外傷から話すのだった。
「トラウマはもっとね」
「治りにくくて」
「そう、残ってね」
「ずっと心を傷めるのね」
「そうしたものだからね」
「注意しないといけないのね」
「そうよ、覚えておいてね」
 トラウマのこともというのだ。
「いいわね」
「そうしていくわ」
「お願いね」
「ええ、トラウマね」
「咲ちゃんにもあるかしら」
「私はあまり」
 咲は考える顔と声になって愛に答えた。
「ないと思うけれど」
「そうなの」
「お姉ちゃんはあるの?」
「私もね」
 これといってとだ、愛も考える顔と声になって答えた。二人共顔はわからないがそれでもそうなった。
「別にね」
「ないの」
「そうなの。けれどある人はね」
「あるのね」
「中には何度もトラウマを受ける事態を経験して」
 そうしてというのだ。
「かなり酷い人もいるわよ」
「そうした人もいるのね」
「失恋でもそうよ」
「今お姉ちゃんがお話してくれてる通りに」
「ある人はあるから」
「そうした傷を作らない様にして」
「そして傷付けない様にして傷付いた人は」
 そうした人のことも話した。 

 

第十話 アルバイトその十

「気遣ってね」
「そのトラウマに触れないことね」
「そうよ、傷口に触れられたら痛いから」
「身体の傷口もそうだし」
「心だとね」
「尚更よね」
「そう、こんな痛いものはないから」
 それ故にというのだ。
「触れないことよ」
「それは絶対になのね」
「守ってね」
「そうするわ」
 咲もこう答えた。
「私もね」
「是非ね。それとね」
「それと?」
「今度遊びに行こうね」
 愛は微笑んでこうも言った。
「一緒にね」
「何処に行くの?」
「渋谷でもいいし」
 咲がアルバイトをするその場所でもというのだ。
「原宿でもね」
「何処でもいいのね」
「そう、渋谷にいいお店あるしね」
「どんなお店?あそこお店多いけれど」
「道玄坂に魔法のグッズ売ってるお店あるの」
 こう咲に話した。
「アクセサリーとかね」
「ああ、あそこね」
 咲はそう聞いただけでどの店かわかって応えた。
「私も知ってるわ」
「行ったことあるの、咲ちゃんも」
「ええ」
 咲もすぐに答えた。
「そのお店にはね」
「そうなのね。お店の雰囲気も素敵よね」
「ミステリアスな感じでね」
「もう如何にも魔女のお店って感じでね」
「いいわよね」
「ええ、じゃあ日曜アルバイトが終わったら」
 その時にというのだ。
「一緒にね」
「そのお店に行きましょう、あとうちにも泊まったらね」
 愛の家にというのだ。
「それもいいわね」
「パジャマパーティーするの」
「それもいいでしょ。一緒にお風呂も入ってね」
 そうしたこともしてというのだ。
「お菓子食べてジュースも飲んでお酒もね」
「そっちもなのね」
「内緒だけれどね」
 それでもとだ、愛は笑って話した。
「よかったらね」
「そうしたこともなのね」
「楽しんでいきましょう」
「ええ、じゃあ」
「また一緒に遊びましょう。カラオケも行けるし」
「部活にアルバイトもだから忙しいけれど」
「忙しいからこそ遊べるのよ」
 愛は笑ってこうも言ってきた。
「むしろね」
「忙しいからなの」
「だから遊びがいがあって」
「忙しいと余計に?」
「そうよ、学校の授業に部活にで」
「アルバイトで」
「忙しいからこそ遊びたくなって」
 そうしてというのだ。
「遊びたくなるから」
「いいのね」
「そう、だから遊びましょう」
 忙しくなるからこそというのだ。 

 

第十話 アルバイトその十一

「幾らでも遊べるとかえってね」
「遊べないの」
「というか遊んでもね」
 それでもとだ、愛は話した。
「面白くないのよ」
「忙しい中で遊ぶからいいのね」
「そうよ、じゃあね」
「これからは」
「沢山遊びましょう」
 こう言うのだった。
「いいわね」
「ええ、それじゃあね」
 咲も応えた。
「二人で遊びましょう、あとパジャマパーティーもね」
「そっちもなのね」
「楽しみましょう」
「それじゃあね」
 咲も頷いた、そうしてだった。
 電話を切った、その後で咲は母に言った。
「お姉ちゃんともお話したわ」
「そうなの」
「それでアルバイトのこと以外にもね」 
 母にあっさりとした口調で話した。
「色々教えてもらったわ」
「そうなのね」
「それで今度一緒に遊ぶこともね」
 母にこのことも話した。
「決めたから」
「何処で遊ぶの?」
「渋谷でね。道玄坂のお店に行こうってね」
「お話したの」
「そうだったの」 
「まあ愛ちゃんのファッションをしないならね」
 それならとだ、母は娘に話した。
「いいわ」
「それは駄目なのね」
「あんな派手なのはね」
「私そうした趣味はないけれど」
「これからも持たないの。流石に派手過ぎるから」
 愛のそれはというのだ。
「だからそれはね」
「参考にしないで」
「普通にね」
「遊んだらいいの」
「そうしたらね、じゃあモコと遊ぶ時間だから」
 母はその愛犬を見つつ言った。
「一緒に遊ぶ?」
「ああ、もうそんな時間なの」
「ええ、モコおいで」
「ワンワン」
 モコは母の言葉に応えてケージの外に出て来た、そうして母の傍に尻尾を振ってきたが。
 咲はそのモコを見てこんなことを言った。
「若しもね」
「どうしたの?」
「いや、モコがいなくなったらってね」
 こう母に言った。
「どうなるかしらってね」
「今は考えられないわね」
 母はこう答えた。
「ちょっとね」
「モコがいなくなるなんて」
「ええ、お父さんもお母さんもいてね」
「私もいて」
「そしてモコもいて」
 そうしてというのだ。
「家族でしょ」
「そうよね」
「四人でね」
「モコは犬だけれどね」
「種族は違っても家族よ」
 このことは変わらないというのだ。
「だからね」
「モコがいなくなるなんて」
「想像も出来ないわ」
「家族だから」
「そう、家族がいなくなるなんて」
 こんなことはというのだ。
「とてもね」
「そうよね。私もね」
 モコの頭を撫でつつ言う、咲に頭を撫でられてモコは短い尻尾を左右に激しく振って喜びを見せている。 

 

第十話 アルバイトその十二

「モコがいなくなるなんて」
「言ったけれどよね」
「ちょっとね」
「考えられないでしょ」
「とてもね」
 こう母に答えた。
「やっぱり」
「家族だからね」
「ずっと一緒にいるってね」
 その様にというのだ。
「思うわ」
「そうよね。けれどね」
 母はブラッシングをはじめつつ娘に話した。
「誰だって何時かはね」
「死ぬわね」
「だからモコもね」
「何時かはいなくなるわね」
「そうなるわ。そしてお父さんもお母さんもね」
 自分達もというのだ。
「何時かはね」
「死ぬわね」
「そうなるわ」
「誰だって死ぬから。私も」
 咲は自分のことも話した。
「死ぬわね」
「絶対にね。けれどね」
「けれど?」
「死ぬのはずっと後でいいわよ」
 娘に顔を向けて話した。
「モコよりもお父さんお母さんよりもね」
「長生きしろっていうのね」
「私達より先に死んだら駄目よ」
「娘だからなの」
「子供は親より早く死んだら駄目よ」
「どうせなら長く生きろっていうのね」
「そう、親よりもずっと長生きする」
 娘に微笑んで話した。
「これも子供の務めよ」
「長生きしないといけないのね」
「そうしなさい。いいわね」
「じゃあ健康とか事故にも気をつけないとね」
「駄目よ。そのこともわかってね」
「ええ、そうするわ」
 娘は母のその言葉に応えた、そして。
 モコを見た。今彼女は母のブラッシングを気持ちよさそうに受けているが。
 その彼女にだ、咲は笑って話した。
「あんたも長生きするのよ」
「そうよね、モコもね」
「どうせならね」
「長生きしないとね」
「十年や十一年じゃなくて」
「十五年十六年ってね」
「生きて欲しいわね」
 モコを見てこんな話もした、咲は犬も見て思うことがあった。


第十話   完


                  2021・4・8 

 

第十一話 アルバイト初日その一

               第十一話  アルバイト初日
 咲は学校の授業が終わるとすぐに駅に向かい電車に乗った、そうして渋谷駅で降りて109にある速水の占いの店に行った。
 ここまで地図を観て来た、だが。
 速水の店の入り口を見て青と赤、そして白と黒と黄色の配色の店の入り口とその中を見てから店の受付に行ってそこにいる二十代の奇麗な女の人に尋ねた。
「あの、ここが速水さんのお店ですか」
「はい、そうです」
 その人は咲に笑顔で応えた。
「それで貴女がですね」
「今日からアルバイトをさせてもらう小山咲です」
 こう答えた。
「それで来させてもらったんですが」
「はい、では今からお願いします」
 その人は笑顔のままこうも応えた。
「事務所に入れば他のスタッフの方がおられるので」
「それで、ですか」
「お仕事の内容を聞いて下さい」
「わかりました」
「あとタイムカードはもう用意していますので」
 こちらのことも整っているというのだ。
「すぐに通して下さい」
「わかりました」
「それからお仕事の内容を聞いて下さい」
「受付とですね」
「はい、雑用がです」
 この二つがというのだ。
「主なお仕事になります」
「占いはしないんですね」
「それは速水さん、店長がされるので」
 それでというのだ。
「私達スタッフは誰もです」
「しないですか」
「はい」
「それは聞いていましたが」
「店長の占いは秘伝でして」
 こう咲に話した。
「誰にもです」
「お話してくれなくて、ですか」
「うちの占い師もです」
「速水さんいえ店長さんだけがですか」
「基本行われます」
「そうですか」
「ただ店長がおられない時もありまして」
 そうした時もあってというのだ。
「それでその時は別の人が入ります」
「そうなんですね」
「はい、その人もタロット占いです」
 そちらで占うというのだ。
「店長の知り合いの方で」
「その人が入ってくれますか」
「そうしてくれます」
「そうですか」
「店長は忙しい方で」
 それでというのだ。
「時折外に出られて」
「そこで占いをされるんですか」
「そう聞いています。ただお客様のことは」
 外で依頼をする人のことはとうと。
「プライベートなので」
「だからですか」
「店長も決してお話しないので」
 それでというのだ。
「そのことはです」
「わかっておくことですね」
「そうです」
 こう咲に話した。
「宜しくお願いします」
「それでは」
「はい、では」
「今からですね」
「事務所に行って下さい」
「わかりました」 
 咲は受付の人の言葉に頷いて店の中に入った、すぐに関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を見てだった。 

 

第十一話 アルバイト初日その二

 その中に入った、そしてだった。
 事務所に入るとそこにも人がいた、男女が数人いてその人達からタイムカードを受け取ってだった。
 カードで時間を入れてから仕事のことを聞いた、それは実際に受付と雑用だった。そして速水のことも詳しく聞いたが。
「高校を卒業されてですか」
「そうです、すぐに占い師のお仕事を始めてです」
 彼のマネージャーという若いホスト風の男が話した。
「そうしてです」
「今に至るんですか」
「最初は道でやっていまして」
 占い師の店をというのだ。
「そこで修業を積まれ海外にもです」
「行かれて」
「どんどん名が知られお金もです」
「集まってですか」
「こちらにです」
 109のビルにというのだ。
「お店を持たれました」
「まだお若いのに」
「そうなりました」
「そうですか」
「そして普段はこのお店で、です」
「占いをされてるんですよね」
「ただお忙しい方なので」
 マネージャーも咲に速水のこのことを話した。
「ですから」
「あっ、外にですね」
「出られて暫くおられない時もです」
「あるんですね」
「横須賀やフランス、ドイツ、スペインとです」
「そんなに遠くにですか」
「出られて」
 そしてというのだ。
「暫く戻られないです」
「そうですか」
「はい、ですが詳しい内容は私も知りません」
「タロット占いですね」
「このお店以外のお仕事のお話があれば」
 そうなればというのだ。
「私が受け取れば後は店長がです」
「全部ですか」
「行われて」
 仕事の話をというのだ。
「そうされてです」
「そしてですか」
「はい、外に出られて」
「お仕事をされますか」
「店長だけが知っているお仕事も多くまたお客様のプライベートは」
 それはというと。
「決してです」
「プライベートですから」
「そこは小山さんもお願いします」
「わかりました」
 咲はマネージャーの言葉に素直に頷いて答えた。
「それでは」
「そして店長がおられない時は」
「その時はですね」
「知り合いの方が来れくれるので」
「お店のことはですね」
「店長がおられなくても」
 それでもというのだ。
「安心して下さい」
「そうですか」
「尚その代理の方は某大企業のオーナーの専属の」
 そうしたというのだ。
「方だそうですが」
「そうした人がですか」
「はい、特別にです」
 速水がいない時はというのだ。
「掛け持ちの形で、です」
「来てくれますか」
「はい」 
 そうだというのだ。 

 

第十一話 アルバイト初日その三

「そうしてくれます」
「それも凄いですね」
「店長の人間関係は私も完全に把握していませんが」 
 それでもとだ、マネージャーは咲にさらに話した。
「どうもかなりのです」
「ものがありますか」
「相当な人脈の様です」
「そうなんですね」
「ですから」
「速水さんいえ店長さんがですね」
「おられない時は」
 その時はというのだ。
「そうなります」
「そうですか」
「ですから」
「その時もですね」
「安心してです」
 そうしてというのだ。
「お仕事に励んで下さい」
「わかりました」
 咲はマネージャーのその言葉に頷いた。
「そうさせてもらいます」
「それでは、では今から」
「はい、アルバイトにですね」
「頑張って下さい」
「そうさせてもらいます」
 咲は笑顔で応えた、そうしてだった。
 咲はアルバイトに入った、その仕事の内容は実際に受付と掃除やお茶を出したりと雑用であった。だがやることが多く。
 バイトが終わった時にだ、咲はこう言った。
「あっという間でした」
「そうでしたね」
「あれこれ動いて応対もして」
 そうしてとだ、マネージャーに話した。
「本当にです」
「それは何よりです、忙しいお仕事程です」
 マネージャーは咲に笑顔で話した。
「まさにです」
「やりがいがありますか」
「そうです、そして充実しています」
「そうなんですね」
「それと振込先ですが」
 マネージャーは咲に金の話もした。
「お話してくれた口座にです」
「入れてくれますか」
「毎月二十一日に」
「その日にですね」
「そうさせもらいます、今月からです」
「入れてくれますか」
「働かれた分だけ」
 それだけというのだ。
「そうさせて頂きます」
「ではお願いします」
「頑張って下さいね」
「そうさせてもらいます」
「ではまた」
「アルバイトのある日にですね」
「お願いします」
 マネージャーは家に帰る咲に笑顔で話した、このやり取りを経てだった。
 咲は家に帰った、家に帰ってこれまでよりも遅い夕食を食べつつ両親にアルバイトの話をするとだった。
 一緒に食べている両親はそれぞれ言った。
「そうか、充実してるならな」
「いいわね」
「楽な仕事は案外時間経つの遅くてな」
「これが結構嫌なのよね」
「けれど時間がすぐに過ぎるならな」
「それに越したことはないわよ」
「そうなのね、何か本当にね」
 咲は今晩のおかずのアジのフライを食べつつ言った。
「気付いたらね」
「終わってたか」
「そうだったのね」
「ええ、本当にね」
 こう言うのだった。 

 

第十一話 アルバイト初日その四

「そうだったわ」
「それで続けられそう?」
 母は娘にこのことを確認した。
「アルバイトは」
「いけそうよ」 
 娘は一言で即答した。
「今日の感じだと」
「そう、だったらね」
「続けることね」
「部活もそうよね」
「ええ、そちらもね」
 こちらのことも即答だった。
「これはね」
「だったらね」
「両方なのね」
「続けて」
 そうしてというのだ。
「それでね」
「お金稼いで」
「楽しめばいいわ、人生はまずね」
「楽しむべきなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「あんたもよ」
「楽しんでなのね」
「成長していってね」
「部活でもアルバイトでも」
「そしてクラスの授業でも友達とのお付き合いでもね」
 そうしたもの全てでというのだ。
「成長していってね」
「そうしていけばいいのね」
「そうしていってね」
「東京は色々ある場所だしな」
 父は茸の味噌汁を飲みながら言ってきた。
「そうした場所にも行ってな」
「経験をして」
「成長していくんだぞ」
「楽しみながら」
「そうしていくんだ」
 こう娘に言うのだった。
「いいな」
「そうしていくわね」
「東京はいいからな。あと父さんどうもな」
 父はこんなことも言った。
「急で季節じゃないが転勤するかも知れないな」
「四月なのに?三月の終わりでしょ」
「普通転勤はな」
「それでもなの」
「五月辺りにな。今度は何処か」
「東京よね」 
 咲は冷静に返した。
「そうよね」
「まあ多分な、東京かな」
 若しくはとだ、父は娘に返した。
「神奈川か。千葉でも千葉市だろうな」
「都会ね」
「父さんはそうしたところに詳しいし取引先も多いからな」
「だからなのね」
「転勤するにしてもな」
「そうしたところね」
「多分な、流石に栃木や群馬や茨城はな」
 そうしたところはというと。
「ないみたいだな」
「そうなのね」
「そちらはそちらのエリアの人達がいるからな」 
 だからだというのだ。
「同じ関東でもな」
「同じ会社でもなの」
「ああ、基本それぞれの都道府県で別れていて」
 そしてというのだ。
「総合職や管理職の上だとな」
「他の都道府県に行くこともあるのね」
「ああ、ただそれでも関東は東京と神奈川、千葉にお店とか多いしな」
「基本そうしたところで」
「群馬とかはないな」
「そうなのね。ただね」
 ここまで父の話を聞いてだった、咲は。 

 

第十一話 アルバイト初日その五

 関東の中で一つ抜けている県があることに気付いてそれで言った。
「埼玉は?」
「それはないな」
 父は娘のその言葉に笑って返した。
「絶対に」
「埼玉ないの」
「お父さんは埼玉に縁がないんだ」
「私達の住んでる足立区ってお隣埼玉県よ」
「それでもな、お父さんは基本埼玉だからな」 
 それでというのだ。
「だからな」
「それでなの」
「ああ、これまで十回は転勤してるがな」
「埼玉はないから」
「あそこはないな、埼玉だけはな」
 こう言うのだった。
「絶対にないな」
「そうなのね。ただお父さん埼玉嫌いよね」
 咲は父の言葉をここまで聞いてこう察して述べた。
「そうよね」
「まあそれはな」
「やっぱりそうなのね」
「行ったことがないしな」
 事実そうでというのだ。
「どうもな」
「好きじゃないのね」
「あまりな」
「お父さん実際埼玉には絶対にお話振らないのよ」 
 ここで母も言ってきた。
「昔からね」
「そうなのね」
「ええ、お母さんも思うわ」
「お父さんが埼玉嫌いだって」
「そうね」
「まあお母さんも埼玉は殆ど行ったことないけれどね」
「東京にいるんだったらな」 
 父の今の言葉は強いものだった、それは何があってもというものであり揺るぎが一切ないものであった。
「もう東京を巡ったらいいだろ」
「何か東京絶対主義ね」
「そうか?神奈川も入ってるぞ」
「千葉もなの」
「前は千葉は抜いていたけれどな」
 自分でもこのことを認めた。
「けれどな」
「それでもなのね」
「東京と神奈川、千葉でな」
「埼玉はないのね」
「そうだ、埼玉に行く必要はない」
 絶対にという言葉だった。
「そして仕事でも縁はな」
「ないのね」
「ああ、だから転勤になってもな」
「埼玉はないのね」
「そうだ、埼玉はない」
 娘に笑って話した。
「そこは安心だな」
「まあそうなればいいわね」
 咲は父のその返事にどうなるかわからないと思いながら応えた、だが彼女もまず東京だと思っていた。
「転勤しても」
「ずっと東京にいるとな」
「東京から離れなられないの」
「便利だし愛着もあるからな」
「それでなの」
「もう東京に生まれ育ったらだ」
 もうそれこそというのだ。
「行けないな」
「そこまでなのね」
「お父さんとしてはな」
「埼玉ってあれでしょ」
 ここでだ、咲はこんなことも言った。 

 

第十一話 アルバイト初日その六

「あのその辺りの草でもとか」
「そんなことは言わないけれどな」
「それでもなのね」
「やっぱり好きじゃないな」
 そうだというのだ。
「どうしてもな」
「そうなのね」
「行かず嫌いだけれどな」
「埼玉ってそんなに嫌かしら」
 咲はあくまで埼玉を否定する父の言葉に首を傾げさせて述べた。
「私そうは思わないけれど」
「そこは人それぞれね」
 母が言ってきた。
「それはね」
「そうなの」
「そう、そこはね」 
 どうにもというのだ。
「お父さんはお父さんでね」
「私は私ね」
「そうよ、だから咲が埼玉が好きでも」
 それでもというのだ。
「別に構わないわよ」
「そうなのね」
「そう、そして」 
 それでというのだ。
「お父さんは転勤してもね」
「それでもなの」
「多分ここから通えるから」
 自宅からというのだ。
「安心していいわ」
「そのことは安心してるよ、父さんも」
 父自身こう言った。
「別に他の地域に行くんじゃないからな」
「関東だけね」
「それも東京近辺だからな」
「じゃあいいわね」
「ああ、だがそれでもな」
「埼玉はなのね」
「行きたくないな」
 咲にまた言った。
「やっぱり」
「その辺りの草でもってなるから」
「何か漫画で言ってるな」
「結構流行ってる言葉よ」
「そうだな」
「所沢とか色々言われてるわよ」
 その漫画ではというのだ。
「社長さんの出身地としても少なくて」
「そうなんだな」
「それで総理大臣も出していないってね」
「誰かいないか」
「いないみたいよ」
 埼玉出身の総理大臣もというのだ。
「どうもね」
「選挙区でもか」
「そこまではわからないけれど」
「そうか」
「どうもね、けれど野球のチームはあるわね」
「ライオンズか」
「そう、埼玉西武ライオンズ」
 咲はあえてチームの正式名称を出した。
「ドーム球場だしね」
「緑の芝生が奇麗らしいな」
「いい球場って聞いてるわ」
「そうだな、しかし父さんはヤクルトファンだ」
 父の返事は冷静なものだった。
「日本シリーズでヤクルトと西武は三度争ったがな」
「あっちには行かなかったの」
「父さんが行く球場は神宮だ」
 一択という返事だった。
「東京ドームも行かないからな」
「巨人の方もなのね」
「誰が行くか、あそこは悪の巣窟だ」
「あのね、巨人の本拠地はね」
 母も言ってきた、とても嫌そうに。 

 

第十一話 アルバイト初日その七

「日本中の悪いものが集まるのよ」
「そんな場所なの」
「巨人自体が悪いチームだから」
「そうね、巨人っていうとね」 
 このことは咲も頷いた、実は咲もヤクルトファンであり一家揃ってこのチームを応援しているのである。
「悪いことばかりしている」
「そんなチームだからな」
「お母さんもあそこに行ったことはないわ」
「そうね。あのチームを応援するなら」
 咲も言った。
「他のチーム応援するわ」
「そうだな、それで父さんはな」
「神宮しか行ってないの」
「ものごころついた頃からのファンだ」
 この言葉には絶対の自負があった。
「だからな」
「神宮以外行かないのね」
「横浜スタジアムには行くけれどな」
 ベイスターズの本拠地であるこちらにはというのだ。
「けれどな」
「東京ドームには行かないのね」
「絶対にな」
「それで所沢にも」
「行ったことがないんだ」
「そうなのね」
「だから埼玉への転勤は」
 あらためてこのことについて話した。
「本当にな」
「嫌なのね」
「どうしてもな。東京がいいな」
「けれどお仕事ならね」
 娘はあえて父に言った。
「やっぱり」
「転勤もあってだな」
「それは好き嫌い別にね」
 それでというのだ。
「どんな場所でもね」
「行くものか」
「そうだと思うけれど」
「それはそうだ」 
 父は娘にはっきりとした声で答えた。
「やっぱりな」
「そうよね」
「だから父さんもこれまで色々転勤してきたが」
「嫌だとは言わなかったの」
「会社ではな」
「そうなのね」
「ああ、だがそれでもやっぱり埼玉はな」 
 この県はどうしてもというのだ。
「嫌だな」
「本音はそうなのね」
「あそこはな、食わず嫌いというか行かず嫌いでもな」
「嫌なのね」
「どうしてもな、まあ多分東京だ」
 次の転勤先もというのだ。
「それでだ」
「お家からなのね」
「通うさ、まあ気楽にな」
「考えているのね」
「ああ、咲もいるし母さんもいてな」
 そしてとだ、父はケージの中のモコも見て言った。
「モコもいるからな」
「だからなのね」
「いいさ、じゃあモコ今日は散歩行ったか」
「私が行ってきたわよ」
 母が答えた。
「夕方にね」
「朝もだよな」
「そうしたわ」
「そうだな、じゃあ遊ぶか」 
 そのモコもとだ、父は散歩に行けないことは寂しく思ってもすぐに気を取り直してこう言ったのだった。 

 

第十一話 アルバイト初日その八

「そうするか」
「そうするのね」
「モコと一緒にいるとな」
 自身の妻に微笑んで話した。
「それだけで癒されるからな」
「それはあるわね」
「家族だからな」
「それは私もよ」
「そうだな。モコがいてよかったな」
「本当にね」
「うちに迎えてよかったよ」
 モコを見つつ笑顔で話した。
「本当にな」
「一生うちにいて欲しいわ」
「長生きして欲しいな」
「自分達の子供生まれたらこれまで可愛がっても無視する人いるらしいけれど」
「そんなのだともうな」
 妻からその話を聞いて怒って言った。
「最初から飼うな」
「そうよね」
「犬はおもちゃじゃないからな」
 だからだというのだ。
「それまでは自分達の子供って言ってな」
「人間の子供が出来たらね」
「そちらばかり可愛がってな」
「それまで可愛がっていた子は無視とか」
「おもちゃじゃないんだ」
 犬ひいては生きものはというのだ。
「だからな」
「そんなことはしたら駄目ね」
「絶対にな」
「本当にそうよね」
「そんなことするなら」
 咲も今の話には怒った顔で語った。
「私も思うわ」
「もう最初からよね」
「飼わない方がいいわ」
「咲もそう思うわね」
「人間の子供が出来ても」
 それでもとだ、咲は母のその言葉に頷いて述べた。
「自分達の子供なら公平によ」
「愛情を以て接しないとね」
「駄目よね」
「その言葉忘れないでね」
「それはいいな」
 母だけでなく父も娘の今の言葉に言った。
「ずっと覚えておくんだ」
「心に刻み込んでおいてね」
「人には公平に接しろ」
「子供は平等に愛しなさい」
「分け隔てはするな」
「それは絶対に駄目よ」
「そうよね、そんなこと絶対にしないから」
 両親にモコを見つつ話した。
「モコは妹だけれどね、私の」
「お父さんもお母さんもあんたとモコ分け隔てしてないわよ」
 母は強い声で言った。
「人間と犬の違いはあるから」
「育て方の違いはあっても」
「愛情はね」
 これはというのだ。
「同じだけ注いでいるつもりよ」
「実際そうよね」
「そう、どちらも命よ」
 咲もモコもというのだ、ひいては人間も犬も。
「それに娘だったらね」
「息子でもよね」
「同じよ」
 性別が違ってもというのだ。
「やっぱりね」
「公平に育てて」
「平等に愛情を注がないと駄目よ」
「若し分け隔てしたら」
 その場合はどうかとだ、咲は母に問うた。 

 

第十一話 アルバイト初日その九

「その時はどうなるの?」
「それこそ毒親よ」
 これが母の返事だった。
「よく言われる」
「そうした人になるの」
「そう、その時はね」
 まさにというのだ。
「そうなるわ。よく子供が二人いて出来がいい方を甘やかしたりするお話あるでしょ」
「ネットの動画漫画で多いわ」
 咲もそうしたものを観てきて知っていて答えた。
「確かにね」
「そうよね」
「それで邪険にされた方が頑張ってね」
「親は困った時に見捨てられるでしょ」
「自業自得の展開ね」
「そうなって当然なのよ」
 そうしたことをする親はというのだ。
「本当にね」
「そうよね」
「だからね」
 母は娘にさらに話した。
「あんたもね」
「今私が言ったことを」
「覚えておいてね」
「わかったわ」
 母に確かな声で答えた。
「そうしていくわ」
「そこはくれぐれもね」
「これからは」
「犬でも同じだから」
 このことはというのだ。
「猫でもね」
「ちゃんとよね」
「そうしていってね」
「分け隔てなくね」
「そもそもそんな連中に子供が育てられるか」
 父は口をへの字にして述べた。
「これまで可愛がっていたのに自分達の子供が出来たら無視する」
「人間の」
「愛情なんてないだろ」
 そうしたことをする連中にはというのだ。
「一切な、挙句に捨てるとなったらな」
「もうね」
「知り合いだったら絶対に信用しないからな」
 父は強い声で言った。
「父さんはな」
「それはどうしてなの?」
「わかるだろ、可愛がっていた相手をな」
「次に可愛がる相手が出来たらポイ」
「命をもの扱いするんだぞ」
「そうした人だと」
「もうどんな人にもな」
 それこそというのだ。
「同じだ、可愛がらなくても利用してな」
「そうしてなのね」
「それでな」
「ポイってことね」
「そうする、子育てだってな」
「出来ないってことね」
「出来る子がいたら贔屓したりしてな」 
 そうしてというのだ。
「碌な親になっていない」
「そうなのね」
「そんな奴だからな」
「絶対に信用しないのね」
「ペットへの扱いは人間性が出るんだ」
 飼う人のそれがというのだ。
「だから碌でもない奴はな」
「碌でもない飼い方するのね」
「虐待したり今言ってるみたいにな」
「次のおもちゃが手に入ったらポイ、ね」
「そんなことをするんだ、だから咲もな」
「そんな飼い方する人とは」
「付き合うな」
 絶対にというのだ。 

 

第十一話 アルバイト初日その十

「見たらな」
「友達にもなのね」
「そうだ、まして交際なんてな」
「したら駄目ね」
「ああ、裏切られるぞ」
「そうなるのね」
「だからな、いいな」
 こう言うのだった。
「お前は気をつけろな」
「何かその言い方過去に何かあったみたいね」
「あったから言うんだ」
 これが父の返事だった。
「実際にな」
「そうだったの」
「本当にそんな奴がいてな」
「それでなのね」
「人を裏切った場面があったんだ」
「そうなのね」
「ああ、だから言うんだ」 
 今実際にというのだ。
「いいな」
「うん、そうした人見たらね」
 実際にとだ、咲も答えた。
「そうするわね」
「そうしろ、いいな」
「絶対にね」
「そうね、モコをそんな風にしたら」
 母はモコを見て言った。
「どれだけ酷いことか」
「そうよね」
「ええ、じゃあね」
「そうした人達に会ったらね」
「お母さんもそう言うのね」
「気をつけなさい」
 母も実際にこう言った。
「いいわね」
「そうしたことも見て人を見極めるのね」
「そして自分はそんな人にならない」
「反面教師ね」
「見たら嫌になるでしょ」
「ええ、命を何だのってね」
 咲も自分の思うことを話した。
「実際にね」
「そうでしょ、だからね」
「そんなことはなのね」
「咲もしないことよ」
 こう言うのだった。
「いいわね」
「そうしていくわね」
「絶対にね」
「命は大事にして」
「大事にしない人は信じないことよ」
「それで公平に平等に」
「そう接してね」
 人にもというのだ。
「いいわね」
「自分がされたら嫌だし」
「それよ、自分がされたらどうか」
 母は娘にまさりと言った、穏やかな表情であるがそれでもそこにあるものは非常に芯の強いものだった。
「そう思うことがね」
「大事よね」
「そう、それはね」
 まさにというのだ。
「人にどう接するかでね」
「本当に大事なことね」
「そうよ」
 こう娘に言うのだった。
「覚えておいてね」
「そう、本当にね」
「中には嫌いな相手に敢えてね」
「敢えてなの」
「その人の嫌がることを調べて」
 そうしてというのだ。 

 

第十一話 アルバイト初日その十一

「それでね」
「そのうえでなの」
「徹底的にそれをやる人もいるけれど」
「意地悪いわね」
「だから嫌いな相手だからね」
「そこまでするの」
「そうした人もね」 
 世の中にはというのだ。
「いるのよ」
「そうなのね」
「こんな人にもなったら駄目よ」
「それ絶対に嫌われるわよね」
「嫌いな人にしてもね」
 それでもというのだ。
「それでもね」
「やられたらね」
「そこまでされたら」
 咲に言った。
「誰だって怨むわね」
「そうよね」
「こうしたことと人の恋愛のことは言わないの」
「それが大事ね」
「あと好きな野球チームを何処かのチームの引き立て役とかね」
「それリアルで殴られない?」
 咲もそれはと言った。
「その場で」
「そうなってもおかしくないでしょ」
「それ阪神ファンに巨人のとか言ったら」
「関西じゃ死ぬかも知れないわよ」
「ええ、そんなこともね」
「言わないことよ」
「最後は私もわかるわ」
 咲は眉を顰めさせて答えた。
「流石にね」
「だからよ」
「言わないことね」
「こうしたことはね」
「失恋のことに野球でそんなこと言うことと」
「わざわざ人の嫌がること調べてね」
 そうしてというのだ。
「それをするのはね」
「どれも一生怨まれるのね」
「そう、兎に角人のトラウマに触れないこと」
「それが大事ね」
「下手しなくても逆鱗だから」
 母はこの言葉も出した。
「それには触れないことよ」
「逆鱗はそれよね」
「何があってもね」
「相手が誰でもなのね」
「本気で怒って」
 そうしてというのだ。
「その場で本気で怒られるか」
「一生怨まれるか」
「どっちも嫌でしょ」
「絶対にね」
「だったらね」
「こうしたことも気をつけることね」
「それがあんたの為でもあるのよ」
 母は娘に真顔で話した。
「時土岐人の気持ちをお年寄りでも全くわからない人いるけれどね」
「物凄い稀少価値ね」
「普通最悪でも毒親とか言われる時点でどうにかなるけれど」
「そこでならなくて」
「そう、それでお年寄りになってもね」
「そんな人いるのね」
「所謂糞婆とか糞爺とかね」
 そうしたというのだ。
「老害とかいうでしょ」
「よく言われるわね」
「そうした人もいるけれど」
「そうはなったら駄目ってことね」
「お母さんもお父さんも気を付けてるしね」
 老害、そう言われる様な人間にならない様にというのだ。母は娘に自分に言い聞かせながらそのうえで話した。
「だからよ」
「私も今から」
「そう、気をつけて」
 そうしてというのだ。
「暮らしていってね」
「そうするわね」
「結局それもあんたの為なのよ」
「人から嫌われない様にすることも」
「嫌われていいことないから」
「そういうことね」
「そうしたことも気をつけてね」
 こう娘に話した、そしてだった。
 一家で色々と話した、それは普通の世間話もあったが大事な話もあった。その話もまた咲の糧になっていくのだった。


第十一話   完


                2021・4・15 

 

第十二話 四月を過ごしてその一

                第十二話  四月を過ごして
 入学式から暫く経ち授業もはじまりそれが軌道に乗ってきてだった。咲は体育の授業中にクラスメイト達に授業が行われている体育館の中で言った。
「うちの体操服色々あるけれど」
「ええ、半ズボンにスパッツにね」
「色もかなりあってね」
「ジャージもあって」
「種類多いわね」
「ええ、けれどね」
 咲は自分の体操服の下の黒い膝までの半ズボンを見つつ言った。
「ブルマはないわね」
「いや、今時ないでしょ」
「流石にね」
「ブルマはないわよ」
「そうよね、漫画とかライトノベルでも」
 そうした創作の世界でもとだ、咲は話した。
「もうね」
「ないでしょ」
「学園ものでもね」
「実際今ブルマの学校ないわよ」
「半ズボンの丈は色々でも」
「それでもね」
「そうよね、確かにうちの学園半ズボンやスパッツの丈も色々で」
 色だけでなくというのだ。
「かなり短いのもあるけれど」
「けれどブルマはないわよ」
「流石にね」
「それだけはね」
「というか私見たことないわ」
 そのブルマをというのだ。
「生まれてからね」
「そうよね」
「私達だってそうよ」
「ブルマ見たことないわ」
「この目ではね」
「何かコスプレであるらしいけれどね」
「風俗とかでね」
「それはあるけれど」
 それでもというのだ。
「学校じゃないわね」
「プロとか企業でもね」
「バレーボールでも半ズボンとかだし」
「もうないわ」
「死滅してるわよ」
「死滅、確かにね」
 咲はクラスメイトの一人のその言葉に頷いた。
「そうなったわね」
「漫画とかでもなくなったから」
「ライトノベルでもアニメでも」
「ゲームでもないわよね」
「もうそんなのだからね」
「だったらね」
「死滅っていいわね」
「絶滅と言うべきかしら」
「絶滅なら生きものだけれど」
 それでもとだ、咲は考えつつ言った。体育の授業の中の自分の順番を待つその間でこうした話をしていった。
「けれどね」
「まあ例えでね」
「そう言ってもいいわね」
「ブルマは絶滅したわよね」
「絶滅危惧種どころか」
「そうなったわね」
「そうね、ブルマの学校なんてなくなって」
 そしてというのだ。
「私達の学校でもだし」
「皆スパッツか半ズボンだから」
「もう明らかよね」
「ブルマはないわよ」
「完全にね」
 クラスメイト達も言った。
「もう過去のものよ」
「というかあんなの穿けないわよ」
「あれ下着でしょ」
「下着姿で体育やれとか」
「もうセクハラでしょ」
「性犯罪引き起こす元凶よ」
「男の子なんて、よね」
 咲は少し深刻な顔で述べた。 

 

第十二話 四月を過ごしてその二

「もうそうしたことにはね」
「興味があって仕方ない」
「そんな年代でしょ」
「十代ってもうそうした感情が一番高いから」
「男の子はね」
「そんな子達の前であんな格好で出たら」
 それこそというのだ。
「もうね」
「大変よ」
「冗談抜きで性犯罪よ」
「それ起こるわよ」
「何処でもね」
「学校の先生だってね」
 あるクラスメイトが言った。
「危ないわよ」
「ああ、そうよね」
「学校の先生ってそうしたお話多いわよね」
「これがね」
「だからよね」
「密かに連れ込んだり脅したり」
「そうしてね」
 それでというのだ。
「もうね」
「何かされても隠蔽されてね」
「その先生はお咎めなし」
「ブルマ姿の女子校生に何かしても」
「高校生でも中学生でもね」
「挙句は小学生にも」
 まさに何をしてもというのだ。
「おかしくないわよ」
「学校の先生変な人多いし」
「犯罪率滅茶苦茶高いっていうし」
「性犯罪もみたいだし」
 それでというのだ。
「生徒より危ないかも」
「その可能性あるわね」
「それもかなり高いわよ」
「そうだったらね」
「ブルマなんてね」
「穿いたら大変よね」
「私達どうなるか」
「それにブルマって」
 咲はここでまた言った。
「ちょっと動けばはみ出るわね」
「ああ、下着が」
「それすぐになるわね」
「デザイン的にね」
「下着重ね穿きしてる様なものだから」
「すぐにそうなるわね」
 クラスメイト達も話した。
「それも普通に」
「そうなるわね」
「そうならない方がおかしいわね」
「実際によくなったでしょうね」
「下着はみ出るなんて」
「半ズボンやスパッツならないけれど」
 どちらもデザイン的にというのだ。
「それでもね」
「ブルマはなるわね」
「そうでなくてもお尻出たりとか」
「恥ずかしいことになるわね」
「そうよね」
「まあ下着のラインはね」
 咲はこのことも話した。
「これはね」
「半ズボンでもスパッツでも出るわね」
「ジャージでもね」
「油断したらね」
「すぐに出るのよね」
「これがね」
「そう、けれどね」
 それでもとだ、咲はさらに話した。 

 

第十二話 四月を過ごしてその三

「ブルマも出るし尚且つデザインがね」
「そうだから」
「下着だからね」
「あれはないわ」
「絶対にね」
「そうよね、あれだけはね」
 本当にというのだ。
「駄目よね」
「何であんなのあったのかしら」
「半ズボンでいいのに」
「女の子のこと考えて欲しいわよね」
「昔の人何考えていたのかしら」
「理解不明よ」
 こうした話をクラスでしてだった、咲は昼休みはクラスで仲のいいクラスメイト達と一緒に食べたが。
 一人がご飯の真ん中に梅干しを置いているのを見て言った。
「日の丸弁当なの」
「うちはいつもこうなの」
 そのクラスメイトは咲に答えた。
「お弁当はね」
「そうなのね」
「お握りでも中に梅干し入れるの」
「梅干しは外せないのね」
「一家全員好きでね、それでこうしてご飯の時は」
 お握りでなく、というのだ。
「こうしてね」
「日の丸にするのね」
「そうなの。お祖父ちゃんが乃木大将にちなんでるって言ってね」
「乃木大将ってあの」
「日清、日露の戦争で活躍したね」
「まさにあの人よね」
「何でも凄く質素な人で」
 このことは歴史にある、最初は放蕩をしていたらしいがそれが心を入れ替えたのか質素倹約に務める様になったらしい。
「奮発してね」
「日の丸弁当だったの」
「そうらしいから」
「ああ、当時白いご飯ってご馳走だったのよね」
 黒髪にカチューシャの娘が言ってきた。
「そうだったのよね、当時は」
「そうなの、それで乃木大将もね」
「奮発してなのね」
「日の丸弁当でね」
「その日の丸弁当をなのね」
「うちはするの」
 ご飯の時はというのだ。
「こうしてね」
「そうなのね」
「兎に角梅は欠かせないの」
 これはというのだ。
「それでお握りにもよ」
「梅干しいいわよね」
 咲はその話の最後にこう言った。
「あの酸っぱさが食欲刺激してね」
「それだけでお茶漬けにもなるしね」
「おかずにもなるし」
「何でもない様で」
「あると嬉しいのよね」
「そうよね。食卓にあると」
 それでとだ、咲はさらに話した。
「違うのよね」
「そうそう」
「お弁当の中にもあると」
「それだけで一品になるしね」
「上杉謙信さんも好きだったの」
 日の丸弁当の娘はこの戦国大名の名前も出した。
「あの人お酒好きだったけれど」
「ああ、それ有名よね」
「あの人毎日かなり飲んでいたのよね」
「もう趣味はお酒でね」
「酒豪だったのよね」
「それで肴はお塩とかお味噌とか干し魚とか」
 そうしてとだ、その娘はさらに話した。 

 

第十二話 四月を過ごしてその四

「このね」
「梅干しね」
「そうした塩系のもの食べて」
「それで毎日飲んでたのね」
「結構危ない食生活ね」
「糖尿病か高血圧ね」
「脳梗塞とか脳卒中とか怖いわね」
 皆でこう言った、そしてその娘はこのことも言った。
「それで実際に倒れたけれど」
「脳梗塞だった?確か」
「脳卒中でしょ」
「おトイレで倒れてよね」
「それで亡くなったのよね」
「やっぱり飲み過ぎと塩分過多で」
 そのせいでというのだ。
「倒れたらしいの」
「梅干しもお酒の肴だとね」
「かなり食べるからね」
「それじゃあ塩分摂り過ぎよね」
「しかも毎日だとね」
「それで謙信さん倒れたのよ」
 そうした生活が祟ってというのだ。
「まあ普通に食べていたら梅干しもね」
「大丈夫だからね」
「むしろ塩分は必要だし」
「あるなら食べた方がいいわね」
「酸っぱくて食欲もあるしね」
 食べる時にこうした話をしてだった、咲は食後昼休みを利用して学校の図書館に入ってだった。図書館の係の二年生に尋ねた。
「あの、歴史のコーナーは」
「五番の棚だよ」
 二年生の男子はすぐに答えた。
「そこにあるよ」
「そうですか」
「うん、好きなの読んでね、ただね」
「ただ?」
「借りるならここで手続きしてね」
「そうしてですか」
「借りてね、一週間だから」
 それだけだというのだ。
「延長したい時も来てね」
「わかりました、まあ借りる時は」
「こっちに来てね」
「そうさせてもらいます」
 咲はその話も聞いて歴史の棚に行ってそこで上杉謙信についての本を探してその本を見付けて読んでだった。
 クラスに帰って友人達に話した。
「実際に謙信さんって相当お酒好きだったみたいね」
「ああ、お昼の話ね」
「お弁当食べてた時ね」
「その時のお話ね」
「ええ、毎晩大酒飲んで」
 本に書いてあることをそのまま友人達に話した。
「戦の時もだったらしいわね、馬に乗ってもね」
「ああ、そうらしいらね」
「馬に乗ってる時も飲んでいてね」
「それで馬上杯作らせてね」
「それで飲んでいたのよね」
「だからね」
 咲はさらに話した。
「冗談抜きで酒豪だったのよ」
「毎日大酒を飲んで」
「それでだったのね」
「倒れたのね」
「それでお亡くなりになったのね」
「禁欲的なイメージあるけれど」
 謙信といえばというのだ。
「女性とは縁がなかったし」
「結婚しなくてね」
「毘沙門天を信仰してね」
「信仰心篤かったしね」
「まあ男色家ではあったらしいけれど」
「当時は普通だし」
「そうそう、当時普通だったのよ」
 咲はさらに話した。 

 

第十二話 四月を過ごしてその五

「同性愛ってね」
「日本は昔からなのよね」
「平安時代もそうだったし」
「それで室町時代もで」
「それでよね」
「江戸時代もそうだったし」
「戦国時代でもそうでね」
 咲は友人達にさらに話した。
「謙信さんのライバル信玄もね」
「ああ、美形のお小姓さんいてね」
「浮気して身の潔白言う手紙書いたのよね」
「それ残ってるのよね」
「それで信長さんもね」
 あまりにも有名なこの人物もというのだ。
「森蘭丸さんいたし」
「前田利家さんとか蒲生氏郷さんとか」
「相手にこと欠かなかったのよね」
「あの人は特に」
「だから謙信さんはそっちだったけれど」
 妻はいなかったが男色は嗜んでいたというのだ。
「精悍で恰好よくて義を重んじていて」
「ストイックよね」
「そのイメージ強いわよね」
「どうしてもね」
「それでもお酒だけはで」
 こちらは好きでというのだ。
「それでね」
「毎晩大酒飲んでいて」
「しかもおつまみがそうしたもの」
「そりゃ身体に悪いわね」
「成人病一直線ね」
「そうだったのね」
「それで実際にそうなったから」
 脳梗塞か脳卒中で倒れたからだというのだ。
「残念ね」
「お酒には注意しろっていうけれど」
「塩分にもね」
「まさにその通りよね」
「謙信さんもそうなったから」
「そうよね、皆も飲んでるでしょ」 
 咲はこのことは小声で言った。
「そうよね」
「ええ、それはね」
「お家だとね」
「流石に外では飲めないけれど」
「お酒位はね」
「そうよね、私も飲んでるしね」
 咲は自分のことも話した。
「好きだけれど」
「毎日大酒はよくないわね」
「飲んでも時々ね」
「それ位がいいわね」
「ええ、気をつけないとね」
 自分達も酒にはとだ、咲は友人達に話した。そのうえで今日は部活の日なので部活に行くとだった。
 部長は咲が謙信と酒の話をここでもするとこう言った。
「お酒の漫画もあるけれどね」
「そうなんですか」
「どんなお酒があるかとかね」
「グルメ漫画みたいなのですか」
「飲み歩くお話とかね、何とかの細道とか言って」
「松尾芭蕉みたいですね」
「あとバーを舞台とした漫画もあるよ」
 部長は咲にそうした漫画を実際に出しつつ話した。
「勉強になるよ」
「そうした漫画もあるんですね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「僕的にはソムリエの漫画が一番好きで」
 それでというのだ。
「日本酒、謙信さんも飲んでいたけれど」
「童子はお酒はですね」
「絶対にね」
「日本酒でしたね」
「そうだったよ、それも濁酒だったんだ」
「濁ったお酒ですね」
「そうだよ、お店でも売ってるけれどね」
 濁酒、この酒はというのだ。 

 

第十二話 四月を過ごしてその六

「日本酒は苦手なんだよね」
「部長もお酒飲まれるんですか」
「ワイン派だよ」
「そうですか」
「飲むならね」
「それで日本酒はですか」
「駄目なんだ」
 つまり飲めないというのだ。
「どうもね」
「そうなのね」
「そう、それでね」
 そのうえでというのだ。
「謙信さんみたいにね」
「飲まれることはですか」
「ないよ、グラスにワインを入れて」
 そうしてというのだ。
「チーズとかソーセージとかパスタをね」
「おつまみにしているんですか」
「白だと魚介類だね」
「そちらですか」
「和食は好きだけれど」
 それでもというのだ。
「日本酒は飲めないから」
「白ワインですか」
「そちらを飲んでいるよ」
「白ワインですか、そちらの方が身体にいいですね」
「そうだよ」
 実際にとだ、部長は答えた。
「日本酒よりもね」
「白ワインの方がなんですね」
「赤ワインもだよ」
「そちらもですか」
「身体にいいんだ」
 こう咲に話した。
「だから僕もね」
「飲まれるならワインですか」
「日本酒よりもね、あとビールもね」
 こちらもというのだ。
「あまりね」
「飲まれないですか」
「日本酒は糖分が多くて身体のことを考えるとね」
「あまりよくなくて」
「ビールもね」
「ビールはプリン体ですね」
「そう、それでね」
 まさにというのだ。
「それがあるからね」
「痛風ですね」
「なったことないけれど」
 それでもとだ、部長は咲にさらに話した。そのことを彼女に対して真面目な顔で言っていくのだった。
「もうね」
「滅茶苦茶痛いんですよね」
「最初に足の親指の付け根がね」 
 この部分がというのだ。
「まさに万力で締め付けられる感じで」
「痛くなって」
「それでね」
「そこからですか」
「歩けなくなる位痛くなって」
 そうしてというのだ。
「そよ風が当たったり人の肩がぶつかっただけでね」
「痛いんですね」
「物凄くね、風が当たっただけで痛いから」
 それでというのだ。
「痛風って言うんだ」
「その名前の由来ですか」
「お肉や卵、ケーキの生クリームも危ないけれど」
「ビールがですか」
「一番ね」
 何といってもという口調での言葉だった。
「怖いんだよ」
「そうなんですね」
「そう、ちなみにバターもね」
 これもというのだ。 

 

第十二話 四月を過ごしてその七

「危ないよ」
「あれっ、ビールにお肉に卵にケーキそれにバターって」
 咲はこの組み合わせにはっとなった、それで部長に言った。
「ドイツですよね」
「あそこはジャガイモの上にバター乗せること多いね」
「そうして食べますね」
「あとケーキ発祥の国だし」
「そうでしたね」
「あのヒトラーも好きだったし」 
 それで官邸のシェフ達はよく激務に励んでいるヒトラーに特製のケーキを作って差し入れをしていたという。
「ケーキよく食べるし」
「そうですね」
「卵もよく食べて」
「ソーセージやベーコンがお肉で」
「ハムもね」
「それでビールですね」
「朝食欲がないとビールに生卵入れて飲むから」
 それを朝食にするのだ。
「お茶漬けみたいにね」
「それだと」
「特にビールは朝からごくごく飲むから」
 そうした風だからだというのだ。
「もうね」
「痛風多いんですね」
「その割合は日本よりずっと多いよ」
「やっぱりそうですか」
「あの国の国民病の一つだよ」
 そこまでなっているというのだ。
「実際にね」
「それは深刻ですね」
「歴史的にもなっている人多いよ」
 部長は咲にドイツの痛風についてそのことからも話した。
「実はね」
「そうなんですね」
「カール五世とかルターとかね」
「どっちの人も教科書に出ますね」
「フリードリヒ大王もだったし」
「その人もですか」
「多いよ、スペインの人だけれどカール五世の息子さんのフェリペ二世もね」
 この人物も教科書に出て来るので話に出したのだ。
「なっていたしメディチ家はビールでなくてもファアグラとかいつも食べていて」
「肝臓も悪いんでしたね」
「そう、そのせいでね」
「痛風がですか」
「代々の持病だったんだよ」
「そうだったんですね」
「カール五世は質素だったけれど朝からビールをごくごく飲んでいたそうだから」
 今話しているその酒をというのだ。
「それでなんだ」
「それは駄目ですね」
「だから僕はビールもね」
「注意されているんですね」
「本当になりたくないから」
 その痛風にというのだ。
「あと糖尿病にもね」
「お身体にはですね」
「気をつけているよ」
「そうですか」
「太っていて運動もしていないけれど」
 それでもというのだ。
「最低限成人病にならない位にはね」
「健康には気をつけておられて」
「それでなんだ」
「飲まれるのはワインですね」
「うん、あと死亡率も実は上下二十五位だよ」
「それじゃああまり」
「太っていてもかな」
「深刻でないですね」
「そうだといいね、健康には気をつけないと」
 何といってもという言葉だった。
「危ないからね」
「それはそうですね」
「自分の身体はね」 
 何といってもというのだ。 

 

第十二話 四月を過ごしてその八

「自分が気をつけないと」
「駄目ってことですね」
「うん、謙信さんだってね」
 その彼もというのだ。
「昔でね」
「そうしたことはですね」
「詳しく知られていなかったけれど」
「それでもですか」
「お酒のことは言われていたね」
「昔からですね」
「飲み過ぎは駄目だって」
 身体の毒になるというのだ。
「だからね」
「このことはですね」
「注意しないと駄目だったよ」 
 こう言うのだった。
「だからこれからどうなるかって時に」
「織田信長さんと戦うか」
「北条家と戦うかね」
「そうしようかって時だったのに」
「倒れてね」
 脳梗塞か脳卒中でそうなってしまってというのだ。
「志半ばで世を去ったんだよ」
「そういうことですね」
「人間五十年って言われて四十九歳ならそんなものかだけれど」
 当時では若死にとは言えないというのだ。
「やっぱりね」
「残念でしたね」
「凄くね」
 こう咲に話した。
「僕も好きだった人だから」
「そうですか」
「残念だよ」
「もっと活躍出来た人ですか」
「お酒さえなかったらね、それで僕もね」
 部長もというのだ。
「気をつけていたんだ」
「お酒そして他のこともですか」
「気をつけてるんだ」
「お身体のことは」
「健康のこともね、ただ運動はね」 
 それはというと。
「好きじゃないから」
「だからですか」
「どうしてもね」
 このことはというのだ。
「しないんだ」
「そうですか」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「それはしないけれど」
「それでもですか」
「食べもの、飲みものには」
「注意されていますか」
「うん、それでお酒も」
 これもというのだ。
「ワインをよく飲んで」
「日本酒やビールは控えて」
「そうしていっているんだ」
「そうですか」
「食べものもね」
「気をつけていますね」
「出来るだけ糖分は高くない様にしてカロリーやプリン体も」
 そうしたことにもというのだ。
「気をつけてるよ」
「健康志向なんですね」
「そうなんだ、ただね」
「ただ?」
「それで料理漫画も読んでるけれど」
「身体にいいものを食べる為に」
「鵜呑みにすることもね」
 読んだそのことをというのだ。
「しない様にね」
「されていますか」
「うん、ある料理漫画なんかね」
 部長は顔を曇らせてこうも言った。 

 

第十二話 四月を過ごしてその九

「もう運動家そのものの主張でね」
「運動家っていいますと」
「ほら、何かあるとデモする」
「ああ、テレビとかで出て来る」
「沖縄の基地の前とかでもいるね」
「あの変な人達ですか」
「あの人達そのままの主張でね」
 それでというのだ。
「結構以上に出鱈目言ってるから」
「それで、ですか」
「そうした漫画も知っているからね」
 それ故にというのだ。
「鵜呑みにはね」
「されないですか」
「そうしない様に注意しているんだ」
「何でも鵜呑みにしたらいけないですね」
「漫画家、原作者も色々だから」
「それ小説でもですよね」
「そうだよ、人はそれぞれで」
 それでというのだ。
「主張もね」
「色々で」
「その中にはね」
「そんな人もいるんですね」
「もう文明とかが徹底的に嫌いで」
 そうした考えの持ち主でというのだ。
「ハウス栽培とか電子レンジとか嫌いでって人もいるから」
「電子レンジがないと」
 咲はそれが嫌いと聞いて驚いて言った。
「簡単にピザなんて」
「食べられないよね」
「冷凍食品も」
「温めて終わりだからね」
「すぐ食べられます」
「忙しい時なんかいいよね」
「インスタント食品も」 
 咲はこちらもと述べた。
「いいですよね」
「そのインスタント食品も冷凍食品も駄目でね」
「否定しているんですか」
「その人はね」
「それって何か」
「おかしいよね」
「はい」
 咲もそれはと頷いた。
「やっぱり」
「確かにそうしたものは栄養は偏ってるよ」
「インスタント食品も冷凍食品も」
「うん、けれどね」
「それでもですよね」
「人類を飢えから救うのに物凄い貢献をしてるよ」
 こうした食べものはというのだ。
「食べ過ぎないといいし工夫次第でね」
「インスタントラーメンですと」
 咲はすぐに言った。
「お野菜をたっぷり入れるといいですね」
「炒めたり一緒に煮てね」
「そうですよね」
「お店でもそうしたラーメンあるしね」
「お鍋でもありますね」
「だからね」
 それでというのだ。
「工夫次第だよ」
「無碍に否定出来ないですね」
「ハウス栽培の野菜だってね」
 こちらもというのだ。
「栄養素が少ないっていうけれど」
「そう言われていますね」
「このことだってね」
 こう言うのだった。
「季節や土地柄によって違うから」
「一概に言えないですね」
「だから変に読んで」
「鵜呑みにしたら駄目ですね」
「それはとても危険だよ」
 こう咲に話した。 

 

第十二話 四月を過ごしてその十

「どんな本でも鵜呑みにすることは危険だけれど」
「漫画も同じで」
「ある料理漫画は特にね」
「鵜呑みにしたら危ないですか」
「それでうちの部には置いていないんだ」
 その漫画はというのだ。
「ネットが普及して問題点が指摘されて」
「それで、ですか」
「読んだら危ないって意見が多くなったそうで」
 それでというのだ。
「今はね」
「置かれていないですか」
「一冊もね」
「そうなったんですね」
「これは運動家の本だってなって」
「沖縄の基地にいる様な人達の」
「そうだってね、そんな漫画もあるから」
 それでというのだ。
「僕も注意してるし料理漫画を読んでもね」
「注意されていますか」
「健康にもね、おかしな漫画を鵜呑みにして」
 読んでそうしてというのだ。
「かえって健康を害したらね」
「意味ないですね」
「だからね小山さんもね」
「気をつけることですね」
「健康にはね」
「読む漫画も注意して」
「そうしていってね」
 咲に穏やかな声で話した。
「くれぐれもね。あとね」
「あと?」
「お酒は高校生の間は外では飲まない様にね」
「未成年禁止ですね」
「神戸の八条町、うちの本校があるところじゃ飲めるけれど」
「未成年でもですね」
「あそこは町の条例でそうなってるから」
 未成年でも飲酒が可能だというのだ。
「けれどね」
「それでもですね」
「そう、他の場所では飲めないから」
「この東京でも」
「だからお家の中でね」
「飲むことですね」
「あと煙草は絶対に駄目だよ」
 部長はこれは厳禁とした。
「未成年はね」
「それはですね」
「外での飲酒は校則でも駄目だからで」
「それでこっそりお家で、ですね」
「それならいいけれど煙草はね」
 これはというと。
「見付かったら停学になるしお酒よりも癖になって」
「学校でも吸ったりですね」
「する様になるし見付かったら」
 煙草を吸っているこのことがというのだ、こうした話は高校はおろか中学でもどうしてもあることであろうか。
「停学、退学もね」
「ありますね」
「だからね」
「吸わないことですね」
「最初からね」
「そして身体にも悪いですね」
「それが一番大きいね」
 まさにとだ、部長も答えた。
「何といっても」
「やっぱりそうですね」
「煙草はこのことでもお酒以上に問題だよ」
「ずっと身体に悪いですね」
「寿命縮まるから」
 冗談抜きで、そうした言葉だった。 

 

第十二話 四月を過ごしてその十一

「だからね」
「吸わないことですね」
「最初からね」
「そこまで健康に悪いですね」
「小山さんも知ってるよね」
「はい」
 咲はまた答えた。
「私も」
「癌にもなりやすいし」
「だから最初からですね」
「吸わないことがね」
 このことがというのだ。
「第一よ」
「そうですよね」
「だからね」
「もう最初から吸わない」
「そうしていってね、健康を考えたら大人になっても」
 煙草を吸える様になってもというのだ。
「吸わない方がいね」
「そうですね、私も吸わないですし」
「それならね」
「一生ですね」
「吸わないことがね」
 それがというのだ。
「もうね」
「一番ですね」
「煙草はね」
「健康の為には」
「絶対にしないことよ」
「それが第一ですね」
「もう身体に悪いことはわかってるしね」
 部長ははっきりと言った。
「それで吸うのはね」
「やっぱりおかしいですね」
「僕はそう思うよ」
「そう言われると私も」
 咲も実際そうだった、実はこれまで煙草を吸おうだの吸いたいだの思ったことは一度もない。誘われたこともない。
「煙草はです」
「興味ないね」
「両親も吸わないですし」
「そうなんだ」
「はい、全く」
 父も母もだ。
「親戚も少ないです」
「それは何よりだね、じゃあね」
「これからもですね」
「吸わないことだよ」
「それが第一で」
「やっていってね」
 部長はこう咲に言った、そして後は漫画の話を他の部員達とも話した。そして活動の一環であるサイトの更新もした。
 その後でだ、咲はこの日もアルバイトに行ったが。
 そこで速水は咲に笑って話した。
「実は私もです」
「煙草はですか」
「吸いません」 
 咲に部活での話をされてこう答えた。
「全く」
「そうですか」
「そうです、ただある人は」
 ここでふと遠い目になってだ、咲は答えた。
「吸います」
「ある人っていいますと」
「私の知人です」
「まあ煙草吸う人は知人には」
 それこそとだ、咲も答えた。
「何人かはおられますね」
「そうです、その中にです」
「吸う人もおられますか」
「特に私が大事に思っている人が」
 まさにというのだ。
「吸います」
「そうですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。 

 

第十二話 四月を過ごしてその十二

「煙草には思うところがあります」
「吸われなくてもですか」
「左様です、ちなみに私はお酒は好きです」
 こちらはというのだ。
「それもかなり」
「そうなんですか」
「ワインが一番好きですが」
 これは部長と同じだとだ、咲は聞いていて思った。
「他のお酒も飲みます」
「日本酒なんかも」
「時と場合によっては」
「そうですか」
「居酒屋では基本ワインですね」
「魚介類だろ白ですね」
「お肉ですと赤です」
 こちらのワインになるというのだ。
「そちらもです」
「飲まれますか」
「パスタも好きでしてステーキも」
「お好きですか」
「そうです、お野菜も好きで」 
 魚介類やパスタ、ステーキだけでなくというのだ。
「サラダや八宝菜、あとラダトゥーユもです」
「お好きですか」
「カレーも」
「お好きな食べもの多いですか」
「そうですね、お鍋も好きで」
 こちらもというのだ。
「そこでもお野菜をよく食べます」
「やっぱりお野菜はたっぷり食べないと駄目ですね」
「そうですね、それはです」
 是非にという返事だった。
「食事はバランスよくです」
「食べないと駄目ですね」
「左様です、そして」
 速水はさらに話した。
「果物も色々好きです」
「好き嫌いないですか」
「そうですね、強いて言うとないですね」
「それはいいことですね」
「偏食ではないです」
 自分から咲に笑って話した。
「好きなものはありましても」
「嫌いなものはですか」
「ありません、そして趣味はお酒です」
「そこまでお好きですか」
「よく仕事が終わったら飲みます」
 お店が終わればというのだ。
「居酒屋やバー、レストランに入って」
「そこで、ですか」
「よく飲んでいます」
「特にワインをですね」
「そうしています。今日も終われば」 
 その時はというのだ。
「飲むつもりです」
「バーで、ですか?」
「そこはまだ決めていません」
「そうですか」
「お店が終わった時に決めます」
 こう咲に答えた。
「そうします、ではお客様が来られたので」
「はい、それじゃあ」
「お仕事に入ります」
「わかりました」
 咲も応えた、そうして自分も時間まで仕事に入った。そして終わると家に帰って後は風呂と夕食のあと予習復習に励んだ。


第十二話   完


               2021・4・23 

 

第十三話 学業もその一

                第十三話  学業も 
 咲はこの時愛と一緒にバイト先の渋谷に向かっていた、丁度学校が終わってアルバイトに行く時に駅で会って同じ車両に乗ったのだ。
 その中で隣に座っている咲を見てだ、愛は言った。
「いい感じね」
「いい感じっていうと」
「高校生って感じでね」
 それでというのだ。
「いいわよ」
「そうなの」
「制服にナチュラルメイクでね」
「女子高生らしいの、今の私」
「ええ、メイク教えたかいがあったわ」 
 愛は笑ってこうも言った。
「似合ってるわよ」
「そうなの、有り難う」
 咲は愛に笑顔で返した。
「じゃあこれからもね」
「メイクはナチュラルね」
「これでいくわ」
「ファッションもね」
 愛は今度はこちらの話をした。
「かなりね」
「いいの」
「女子高生らしいし似合ってるし」
 それでというのだ。
「凄くね」
「いいのね」
「ええ、スカートの長さもね」
「折ってるけれど」
「その折って短くしてるのもね」
 ミニスカートに見せていることもというのだ。
「いいのよ」
「女子高生らしいの」
「凄くね、女子高生ってね」
 愛はさらに言った。
「独特のよさがあるのよ」
「そうなの」
「初々しくてそれでいて半分大人で」
「それでいいの」
「そう、だからね」
「その良さをなのね」
「出してね」
 そのうえでというのだ。
「三年間やっていってね」
「三年。長いわね」
 三年と聞いてだ、愛は思わずこう言った。
「それって」
「長いわよ、けれどね」
「それでもなの」
「終わってみるとね」
 そうなると、というのだ。
「あっという間よ」
「そうなの」
「一寸の光陰っていうけれど」
「まさにそんな感じで」
「思えばあっという間よ。中学の時もそうでしょ」
「三年。長い様でね」
 それでもとだ、咲も答えた。
「今思うとね」
「あっという間だったでしょ」
「高校に入ってすぐなのに」
 それでもというのだ。
「思い出よ」
「そうね、だからね」
「高校の三年もなの」
「あっという間よ、私そのことを実感してるわ」
 愛自身がというのだ。
「今振り返るとね」
「あっという間で」
「ええ、もうね」
 それこそというのだ。
「だから今の航行生活をね」
「楽しむことなのね」
「十分にね、私もそうしたしね」
「お姉ちゃんいつも楽しそうだったね」 
 高校の時はとだ、咲は愛に笑顔で話した。 

 

第十三話 学業もその二

「今もだけれど」
「私は何時でもそうよね」
「それで高校の時もね」
「実際そうだったわ、ただね」
「ただ?」
「それでもね」
 こう咲に言うのだった。
「高校時代もね」
「楽しくて」
「いい思い出よ、だから咲ちゃんもね」
「これからも」
「楽しくしてね、あと勉強もね」
 愛はこちらの話もした。
「ちゃんとね。咲ちゃんは大丈夫だけれど」
「勉強はね」 
 やっぱりとだ、咲も答えた。
「アルバイトも部活もしてるけれど」
「そちらもよ」
「ちゃんとすることね」
「そう、私もやってたしね」
「だから大学に行けたのよね」94
「そうよ。東大とかは別格だけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「大学は行った方がなの」
「色々勉強になるから」
 それでというのだ。
「行くといいわよ」
「そうなのね」
「私が思うにはね」
「そうなのね」
「人生の勉強になるから」
 だからだというのだ。
「いいわよ」
「ええ、じゃあね」
「勉強もしてね」
「そうしていくわ」
 咲も約束した。
「この三年ね」
「そうしていってね」
「ええ、じゃあそろそろね」
 渋谷駅が近くなって愛に話した。
「着くから」
「アルバイト行って来るのね」
「そうするわ」
「頑張ってね、私もね」
「アルバイトよね」
「それに行って来るわ」
「アイス屋さんに」
「お互い頑張りましょう、あとお金はね」
 愛はこちらの話もしてきた。
「上手に使うことよ」
「無駄使いするなじゃないの」
「私はそんなこと言わないでしょ」
 無駄遣いするなとはとだ、愛は笑って返した。
「そうでしょ」
「というかお姉ちゃん使う方よね」
「そう、むしろ言われる方よ」
 無駄使いするな、とだ。
「だからね」
「それでなの」
「そうしたことは言わないわ、けれどね」
 それでもというのだ。
「お金は使い方が大事なのよ」
「どう使うかなのね」
「そうよ、無駄使いじゃなくて」
「上手に使うことね」
「それが大事なの、五十億稼いで」
 そこまで稼いでというのだ。
「後で自分が稼いだその五十億何処に行ったとかね」
「それ元プロ野球選手よね」
「わかる?」
「わかるわよ、あの柄の悪い人ね」
 咲は嫌悪感丸出しで答えた。 

 

第十三話 学業もその三

「巨人にいた」
「自称番長のね」
「あの人そこまで稼いで」
「変なお金の使い方してね」
「そんなこと言ってるのね」
「遊んでばかりで」
 野球以外はというのだ。
「それで残ったのはね」
「何もなくて」
「そんなこと言ってるのよ」
「これは駄目よね」
「駄目も駄目、最悪よ」
 愛はきっぱりと否定した。
「お洒落には使ってもね」
「それは駄目ってことね」
「馬鹿な遊びに覚醒剤にってね」
「最悪よね」
「それで五十億するなんてね」
 こうまでだ、愛は言った。
「絶対に駄目よ」
「ああした使い方は駄目ね」
「お洒落に使っても」
「それは必要ね」
「ええ、女の子だからね」
 それならというのだ。
「必要よ、ただね」
「それでも上手に使うことね」
「それが大事ってこと、いいものを安く買ってね」
「それでやっていくのね」
「お金は大事よ」
 愛はこうも言った。
「使わないじゃなくてね」
「上手に使うことね」
「無駄使いをしないんじゃなくて」
「どう上手に使うか」
「それが大事なのよ」
 こう従妹に話した。
「使わないんじゃなくて」
「上手に使う」
「そうしてね、あとギャンブルはね」
 愛はこの遊びの話もした。
「儲けるには勝とうと思うな」
「儲けるのに?」
「そう、勝とうと思ったら欲が出て」
 そうしてというのだ。
「負けるっていうから」
「そうなの」
「読みの目とか狂うみたいね」
「それで負けてなの」
「余計に悪くなるから」
「もう最初からなのね」
「勝とうと思わない、昔阪急にいた足立投手がそうだったらしいわ」
 このかつての名投手の名前も出した。
「競馬が趣味だったらしいけれど」
「阪急って」
「昔そうしたチームもあったの」
「そうなの」
「私も知らないチームだけれど」
 昭和のことだ、平成生まれの愛も知っている筈がなかった。
「そのチームにいた人でね」
「競馬が趣味で」
「強かったらしいけれど」
「勝とうと思わなかったのね」
「そうらしいの」
「そうだったのね」
「あと親になること」
 愛はギャンブルの話をさらにした。
「それがね」
「儲かるのね」
「遊ぶ方だと儲からないというか」
「巻き上げられるの」
「だからヤクザ屋さんもギャンブルやるのよ」
「親が儲かるから」
「そう、だから儲けたいならね」
 ギャンブル、それでというのだ。 

 

第十三話 学業もその四

「遊ばないことよ」
「親になることね」
「そうよ、そして勝とうと思わない」
「そうなのね」
「まあ私はしないけれどね」 
 ギャンブルはというのだ。
「咲ちゃんも興味ないわよね」
「やっても負けて破産して地獄見るとかね」
「そうしたお話多いでしょ」
「よく聞くわ」
 実際にという返事だった。
「私も」
「そうなりたくないでしょ」
「絶対に」
 咲ははっきりと答えた。
「そんな馬鹿なことはね」
「だったらよ」
「ギャンブルはしないことね」
「遊んで勝って儲けたいならね」
「儲けるのは親ね」
「それになってね、ただし」
 愛は強い声でこうも言った。
「非合法な場合が多いから」
「日本ではそうね」
「そうよ、だからね」
 それでというのだ。
「そこは気をつけてね」
「闇賭博とかあるわね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「犯罪は論外だから」
「気をつけることね」
「そうしてね、さもないと捕まるわよ」
「そうよね」
「だからそこはね」
 ギャンブルで儲けようと思ってもというのだ。
「犯罪にならない様にする」
「そこは注意ね」
「まあ雀荘やったりね」
 この店を経営したりというのだ。
「ゲームセンター位ならね」
「いいのね」
「ええ、ただどっちも最近ね」
「あまり、なの」
「潰れてるお店も多いみたいよ」
「そうなの」
「特にゲームセンターなんて」
 愛は暗いい顔でこちらの話をした。
「渋谷とかでも大きなお店が潰れるから」
「そういえば」
「咲ちゃんも聞いてるでしょ」
「有名なお店でもね」
「最近潰れてるから」
「そうよね」
「だからね」
 それでというのだ。
「こっちもね」
「難しいのね」
「どうもね」
「スマートフォンのゲームもあるし」
「それでよ、だからね」
 ゲームセンターもというのだ。
「最近は苦しいみたいね」
「昔は違ったのね」
「世の中変わるわ、じゃあね」
「ええ、これからね」
「アルバイト頑張って来てね」
「そうしてくるわ」
 こうした話もしてだった、咲は山手線の渋谷駅で降りて愛と手を振り合って別れてだった。そのうえでアルバイト先に向かった。
 そしてこの日も働くが。
 客の一人でテレビでよく見る女優、サングラスをしていたがその人だとわかってそれで誰もいなくなったところで先輩に尋ねた。 

 

第十三話 学業もその五

「あの」
「さっきのお客様ね」
「沢口小百合さんですね」
「そうよ、あの美人女優のね」
「物凄いお奇麗ですね」
「ここにはよく来られるの」
 先輩は咲に何でもないといった声で答えた。
「あの人もね」
「そうなんですね」
「そう、今後のことをね」
「占ってもらいにですね」
「どうすればいいかとね」
「そうですか」
「女優さんとか。芸能界の人ってね」
 この世界にいると、というのだ。
「どうしても先がわからないわね」
「急にスキャンダルで、とかありますね」
「そうでしょ」
「はい、本当に」
「だからね」
「これからどうすればいいかをですか」
「占ってもらう為にね」
 まさにその為にというのだ。
「このお店にね」
「来られるんですね」
「そう、そしてね」 
 それでというのだ。
「占ってもらってるのよ」
「そうですか」
「そしてね」
 先輩は咲にさらに話した。
「他にも有名な俳優さんやお笑い芸人の人がね」
「来られますか」
「プロ野球の監督やフロントの人もね」
 こうした人もというのだ。
「サッカーでもよ。大企業の経営者や政治家の人も」
「来られて」
「占ってもらってるの。うちの先生の占い当たって」
 そしてというのだ。
「どうしたら難を避けられるかもね」
「言ってくれますか」
「そこも当たるから」
 だからだというのだ。
「本当にね」
「人気なんですね」
「何でもそうした人の払うお金が」
 それがというのだ。
「百万単位だったりするから」
「百万ですか」
 その桁にだ、咲は思わず声をあげた。
「凄いですね」
「だから渋谷のこのビルに事務所があって」
 109のそこにというのだ、渋谷はおろか日本でも有名なそkに。
「それで先生もかなりお金持ってるそうよ」
「そう言えばバイト代高いですね」
「そうでしょ、私達もね」
 先輩や他の社員もというのだ、アルバイトを含めて。
「お給料いいの」
「そうなのね」
「けれど」
 それでもというのだ。
「先生何かとボーナスもくれるから」
「バイト代だけでなく」
「その時に応じてね」
「そうなんですね」
「常じゃないけれどね」
「それは流石にないですね」
「ええ、時々よ」
 それはというのだ。 

 

第十三話 学業もその六

「まあ四ヶ月にね」
「一回ですか」
「それ位よ」
「まあそんなものですね」
「ボーナスだからね」
「けれどそうしたこともちゃんと」
「速水さんはしてくれるの」
 彼はというのだ。
「お金払いも凄くいいのよ」
「ただ待遇がいいだけでなくて」
「そう、うちの事務所はホワイトよ」
「それもかなりでしょうか」
「そうね、ホワイトの中のホワイトと言ってね」 
 そこまで言ってもというのだ。
「いいわ」
「そうなんですね」
「本当に速水さんは優しい人だから」
「待遇もお金の支払いもですか」
「いいの、どうもお金に執着しない人だし」
「そうした人ですか」
「どうもね、何でも一つのことだけにはね」
 先輩は咲に速水のことをさらに話した。
「かなり執着してるってご本人がね」
「言われてますか」
「ええ、けれど」
 それでもとだ、咲にさらに話した。
「その一つのことが何かはね」
「言われないんですね」
「そうなの」
「そうですか」
「だから私達にもね」
「セクハラとかはですね」
「一切されないわ、パワハラもモラハラもね」
 そうしたこともというのだ。
「全くされないから」
「紳士なんですね」
「ええ、かなりの紳士よ」
「口調も穏やかで」
「そうした人だから」
「ここにいてですか」
「悪いことはないさ」
 一切、そうした言葉だった。
「だからね」
「安心してですね」
「働いてね」
「そうさせてもらいます」
「今日もそうしてね」
 先輩は咲に笑顔で話した、そしてだった。
 咲はこの日もアルバイトに励んだ、それが終わってから家に帰ると丁度母がモコをケージから出してみていた。
 その母を見てだ、咲はすぐに尋ねた。
「モコどうしたの?」
「いや、歯を見てね」
「虫歯とか?」
「歯周病とかチェックしてたの」 
 そうだったというのだ。
「今ね」
「それでどう?」
「大丈夫みたいよ」
「ワンワン」
 そのモコが鳴いた、いつも通り明るい鳴き声である。母はそのモコを見つつ娘に対してさらに話した。
「よかったわ」
「そうしてチェックしてるの」
「時々ね」
「病院で診てもらってるでしょ」
「お家でもよ」
 家族もというのだ。
「ちゃんとね」
「チェックしてるの」
「さもないとね」
「虫歯とかになったら」
「よくないでしょ、ドッグフードに歯磨きの要素も入ってるけれど」
「歯には気をつけてるのね」
「お母さん子供の頃虫歯になって痛かったから」
 そうしたことがあったというのだ。 

 

第十三話 学業もその七

「幸い乳歯だったけれどね」
「永久歯だったらね」
「歯は元に戻らないから」
 だからだというのだ。
「余計にね」
「注意してるのね」
「そう、それでね」
 母はさらに話した。
「モコも見てるのよ」
「そんなことまでしているなんて」
「家族の健康チェックは当然でしょ」
「それはね」 
 そう言われるとだった、咲も頷くしかなかった。
「そうね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「チェックしてたの」
「そういうことね、じゃあ着替えてくるわね」
「ええ、着替えたらご飯よ」
「わかったわ」
 咲は娘の言葉に頷いた、そしてだった。
 実際に自分の部屋で部屋着に着替えた、そのうえで。
 すぐにリビングに戻った、そうしてすぐに母と共に夕食の用意をした。それから二人で夕食となったが。
 今日のメニューのグラタンとコロッケそして韮ともやしの炒めものを見て母に対してこんなことを言った。
「グラタンに何入ってるの?」
「何ってソーセージと玉葱とマカロニよ」
「マカロニもなの」
「そう、入ってるわ」
 そうだというのだ。
「というかマカロニ入ってないとね」
「お母さんとしてはよね」
「グラタンじゃないから」
 だからだといのだ。
「ちゃんとね」
「入れたのね」
「そう、それでコロッケは買って」
 こちらはというのだ。
「お野菜はね」
「韮ともやしね」
「安かったからよ」
 それでというのだ。
「買ったの」
「それで炒めたのね」
「そう、それとね」
 母はさらに話した。
「デザートにネーブルもあるから」
「あっ、いいわね」
 咲は果物が好きだ、それで柑橘類も好きでその中でもネーブルは特に好きな方であるのだ。それでこう母に返した。
「それじゃあね」
「食べるでしょ」
「ええ、是非ね」
「ビタミンも摂らないとね」
「駄目よね」
「食べるのはバランスよくしっかりとよ」
 娘にこうも言った。
「いつも」
「それが大事よね」
「だからね」
「お野菜もあって」
「食べるのよ」
「そういうことね」
「そう、ただお母さん菜食主義は言わないでしょ」
 娘にこうも言った。
「そうでしょ」
「それはないわね」
「お魚も食べないとね」
「それでお肉も」
「そう、というかお野菜ばかり食べても」 
「栄養のバランス悪いのね」
「かえってね、お野菜や果物と牛乳や大豆で生きられても」
 それでもというのだ。 

 

第十三話 学業もその八

「やっぱり栄養バランスはね」
「よくないのね」
「中にはその牛乳も大豆もで卵も食べない人もいるけれど」
「蛋白質やカルシウムが」
「心配でしょ」
「そうなるとね」
「そうも思うしね、お魚はコレステロールも分解するし」
 何かと言われているこの問題の解決に貢献するというのだ、このことは栄養学的に確かなことである。
「お肉だってね」
「実はなのね」
「何でも食べ過ぎたらよくないから」
「お肉もそうで」
「だからね、何でもバランスよくよ」
 大事なことはというのだ。
「食べることがね」
「大事なのね」
「そう、だからね」
「いつも色々なもの出してるのね」
「グラタンの中にソーセージ入れてるし」
「コロッケにもお肉入ってるしね」
「実はミンチカツもあるから」
 母は笑ってこちらもと言った。
「二つのうち一個それよ」
「そうだったの」
「ちゃんとそこも考えてるのよ」
「食べるのはバランスよくね」
「そう、あとあんた牛乳も飲むでしょ」
「ええ、好きよ」
 だから毎日飲んでいる。
「そうしてるわ」
「それもいいことよ」
「牛乳を飲むことも」
「それもね、それで明日鰯だけれど」
「そうなの」
「あんたお魚何でも好きだから助かるわ」
「特に好きなのはお寿司よ」
 そのネタである、大好物の一つだ。
「お刺身もね」
「ええ、あとムニエルも好きでしょ」
「焼き魚さと秋刀魚とかホッケとか」
「それもいいことよ、だからね」
「お魚もなのね」
「食べてね、ただお魚はお酒にも合うから」
 母はこのことも話した。
「日本酒とか白ワイン飲むなら」
「飲み過ぎに注意ね」
「お父さんもお魚好きで」
「そういえばお魚何でも好きよね」
「それで飲むのも好きだから」
 魚料理をつまみにしてというのだ。
「そこは気をつけてるの」
「お魚食べてるとなのね」
「ついつい飲み過ぎるから」
「そうなの」
「それであんたもよ」
「注意しないと駄目ね」
「お母さんも好きだしね、日本酒や白ワインでお魚食べるの」
「魚介類には白ワインっていうわね」
「赤ワインはお肉やパスタでね」
 そうしたものを食べる時でというのだ。
「やっぱり和食だとね」
「ワインだと白なの」
「そう、あとこれ愛ちゃんに言ったら」
 咲と仲のいい彼女にというと。
「気をつけなさいよ」
「愛ちゃんお酒も好きだし」
「もう大好きで」
 それでというのだ。
「ワインもでね」
「それで白ワインもなの」
「あの娘多分お父さんよりお魚好きよ」
「へえ、そうなの」
 咲はこのことは知らなかった、自分の父が魚好きなのは知っていたが愛がそれ以上だとは。 

 

第十三話 学業もその九

「愛ちゃんそうだったの」
「カレーもシーフードでお寿司も海鮮丼もよ」
「好きなの」
「中華料理でもフランス料理でも好きで」 
 それでというのだ。
「パエリアだってだしスパゲティでもね」
「シーフード系なの」
「それでイカ墨も好きよ」
 こちらのスパゲティもというのだ。
「もう何でもね」
「徹底してるわね」
「それで和食でシーフードなら」
「ワインは白なの」
「もう目がないから」   
 愛、彼女はというのだ。
「気をつけてね」
「それじゃあね」
「あとお酒は絶対に勉強が終わってから」
 母はこのことは強く言った。
「飲んだ後で頭に入らないでしょ」
「そうよね、まともに考えられなくなるし」
 咲もそれはと頷いた。
「もうね」
「飲むならね」
「お勉強も終わって」
「全部終わってよ」
「後は寝るだけね」
「その時になって」
 そしてというのだ。
「飲むものよ」
「そうよね」
「そこは守ってね」
「わかったわ、お勉強もして」
 咲はミンチカツを食べながら母に応えた。
「それが終わってね」
「飲んでね」
「飲む時は」
「そうしてね、北条氏康さんは朝飲むといいって言ってたけれど」
 このことは歴史にある、この戦国大名は実際にそう家臣達に言ったのだ。その方が粗相はしないとだ。
「今はね」
「それは出来ないわよね」
「朝から飲んだら」
 それこそというのだ。
「朝酒でしょ」
「朝寝朝風呂ね」
「お家潰すわよ」
「よく言われるわね」
「これは遊び人よ」
 その生活だというのだ。
「それか昔の漫画家さんよ」
「昔の?」
「昔の漫画家さんは徹夜で描いてね」 
 その描くものが漫画であることは言うまでもない。
「それで朝ね」
「飲んでたの」
「そこでまた描いてたの」
「あの、それって」
 徹夜で仕事して朝から飲んでまた仕事に入る、咲はその生活を聞いて言った。
「死なない?」
「無茶苦茶でしょ」
「徹夜で漫画描いて休まないで飲んでそれでまた描いたの」
「そうしていたのよ」
「本当に死ぬでしょ」
「だからお亡くなりになったのよ」
 母もこう答えた。
「お母さんが産まれる前の人だけれど」
「そんな人いたのね」
「そう、こんなことは絶対に駄目よ」
「流石にそんなことしないわよ」
 咲はかなり引いた顔になって答えた。
「私徹夜自体しないから」
「夜遅くなっても寝るわね」
「ええ、絶対にね」
「そうよ、少しは寝ないとね」
「駄目よね」
「それで朝飲むのもね」
 このこともというのだ。 

 

第十三話 学業もその十

「よくないわよ」
「飲むなら夜ね」
「日中は飲まないことよ」
「お昼も」
「そうしなさいね」
「やっぱりそうよね」
 咲も母のその言葉に頷いた。
「流石にね」
「日本だとね」
「それはよくないわね」
「そこはずっとよ」
「大人になっても」
「そうしないと駄目よ」
「わかったわ、朝寝朝酒朝風呂はね」
 この三つはというのだ。
「私もしないわ」
「朝風呂はシャワーがあるから」
「まあそれはなのね」
「今はそんなにだけれど」
 それでもというのだ。
「あとの二つはね」
「しないことね」
「夜勤ならいいけれど」
 こうした仕事ならというのだ。
「夜がお仕事でね」
「それが終わってよね」
「そう、休むから」
「そうだといいのね」
「夜勤だとお昼と夜が逆になるから」
 だからだというのだ。
「それはいいの」
「そうなのね」
「あんたも将来夜勤になったら」
 そうした仕事に就けばというのだ。
「いいわよ」
「そうなのね」
「そう、その時はね」
「いいのね」
「ええ、ただしお昼のお仕事そして今の学校だったら」
「お昼は働いてお勉強して夜寝るから」
「夜に飲みなさい」
「わかったわ」 
 咲も頷いて答えた。
「そうするわね」
「そうしてね。しかしね」
「しかし?」
「お父さんやっぱり転勤になるけれど」
「そのこと?」
「まあどうなるかはね」
 このことはというと。
「わからないけれどお母さんは何処でもいいってね」
「思ってるのね」
「お父さんやけに埼玉嫌がってるけれど」
「そんなに埼玉嫌かしら」
「お父さん的にはね」
「あれがわからないけれど」
 咲は今度は韮ともやしの炒めものを食べつつ話した。
「そんなに埼玉嫌なの」
「みたいね」
「地獄に行くんじゃないのに」
「だから東京と埼玉だとね」
「お隣でもなの」
「かなり差があるのよ」
「そうなの」
 咲は実感がない感じだった。
「神奈川や千葉と変わらないでしょ」
「お父さんの中では千葉よりもね」
「千葉も田舎なんじゃ」
 東京から見ればというのだ。
「むしろ埼玉よりもね」
「だから埼玉ってお父さんの中ではね」
 東京の隣であってもというのだ。
「もう特別ね」
「田舎なの」
「僻地なのよ」
「東京の隣で?」
「そうなのよ」
 そうなるというのだ。 

 

第十三話 学業もその十一

「これがね」
「そうなのね」
「まあそこはね」
 母は娘にさらに言った。
「お父さんの主観だから」
「言っても仕方ないのね」
「幾ら所沢に球場があって」
「西武が強くても」
「パリーグでしょ」
 母は西武のこのことについても述べた。
「西武は」
「うちは一家全員ヤクルトなのよね」
「皆巨人嫌いでね」
「燕党ね」
「リーグも違うし」
 パリーグの西武とセリーグのヤクルトではというのだ。
「余計にね」
「馴染みないのね」
「そう、咲も神宮は行っても所沢行かないでしょ」 
 その球場もというのだ。
「そうでしょ」
「だってね、ヤクルトの試合しないから」
 それでとだ、咲も答えた。
「だったらね」
「行かないわね」
「埼京線自体ね」
「乗らないでしょ」
「電車も都内より少ないわね」
「都内は別格だけれどね」 
 特に山手線はそうである、その電車の多さは間違いなく世界屈指である。かつ地下鉄もかなり多い。
「それでもね」
「埼玉になると」
「少ないわ」
 このことは事実だというのだ。
「本当にね」
「そうなのね」
「けれどそれは東京と比較してよ」
「やっぱり別格ね」
「東京がね、それでも埼玉も何百万もの人がいるよよ」
「やっぱり多いわね」
「東京と神奈川、千葉、埼玉はね」
 何といってもという口調での言葉だった。
「人は多くて交通もね」
「いいわよね」
「けれどお父さんはね」
「埼玉嫌がってるのね」
「そうなの、まああれよ」
 母はこうも言った。
「食わず嫌いよ」
「食べものじゃないけれど」
「けれどそれよ」
「行ったことなくて言ってるのね」
「それだけだから」
 娘に笑って話した。
「まあね」
「そんなになのね」
「気にすることないわ」
「そうなのね」
「ええ、まあ愚痴を言っても」
 それでもというのだ。
「最初だけでね」
「すぐに終わるの」
「そう、そしてね」
 母は娘にさらに話した。
「すぐに慣れるから」
「それでなのね」
「安心していいわ」
「それじゃあね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「お父さん嫌になっても自暴自棄にはならないし」
 そうしたタイプではないというのだ。
「それでお酒は飲んでもね」
「自棄にはならないの」
「お酒を飲んで憂さ晴らし位よ」
 することといってもというのだ。 

 

第十三話 学業もその十二

「だからあんたも安心してね」
「私に何かする?」
「あまり言わないけれど愚痴は言うかもね」
 それ位はするかも知れないというのだ。
「お父さん愚痴も言わないけれど」
「それはそうね」
 言われてみればと咲も頷いた、確かに父は自暴自棄になるタイプではない。そしてもっと言えば愚痴も言わない。
「だからなのね」
「そう、本当にね」
「少しだけなのね」
「愚痴言ってもね」
「お酒を飲んで」
「それだけよ、まあ気にしないでね」
 一切というのだった。
「いいわね」
「それじゃあね」
「そういうことでね、あとあんた今日は食べたらどうするの?」
「勉強するわ」
 こう答えた。
「やっぱりね」
「予習復習はするのね」
「そうするわ」
「偉いわね、だから成績もいいのね」
「お母さんそこで頭いいとは言わないわね」
「お勉強が出来てもっていうのね」
「ええ、そうよね」
 母にご飯を食べつつ言った。
「昔から」
「だってね、お勉強はすればね」
 そうすればとだ、母は娘に答えた。
「成績はよくなるから」
「誰だってなの」
「教科書を何度も読んで書いて」 
 そうしてというのだ。
「問題と解いて公式を頭に入れるとね」
「お勉強は出来るの」
「それこそ誰だってね」
 まさにというのだ。
「そうしたものだから」
「頭がいいとは言わないの」
「成績がいいって言うのよ」
 学校の勉強のそれがというのだ。
「お母さんはね」
「頭のよし悪しじゃないのね」
「頭がいい悪いはまた別よ」
 学校の成績とはというのだ。
「それは」
「そうなのね」
「頭がいいのは良識を弁えていたりね」 
 その言葉の意味をここで娘に話した。
「頭の回転が早い」
「そうしたことなの」
「そう、よく気が付いたりね」 
 そうしたというのだ。
「的確な答えを出したり」
「そうしたことなの」
「おかしなことを言ったり支持したりはね」
「そうしたことだとなの」
「頭が悪いってなるのよ」
「そうなるのね」
「馬鹿とか阿呆とか言うわね」 
 俗に悪口と言われる単語も話に出した。
「馬鹿はものがわからない、阿呆はものを知らない」
「そういうことなの」
「愚かはやってはいけないことを言ったりする」
「そうしたことなの」
「東大法学部出てる元弁護士の政治家さんでいるでしょ」
 今度は具体的な例を出した。
「女の人も」
「ああ、あの」
 言われて咲も頷いた。
「変な喋り方の野党の人ね」
「そう、あの人頭よく思える?」
「いえ、全然」
 まさにとだ、咲も答えた。
「あの人はね」
「そうでしょ、全然そうは思えないでしょ」
「というかあんな人小学生よりもね」
「東大法学部首席だったのよ」
 この女性議員はというのだ。 

 

第十三話 学業もその十三

「それで弁護士だったのよ」
「学校の成績はよかったのね」
「抜群にね」
「それでもなのね」
「ああなのよ、物凄くお勉強が出来てもね」 
 それでもというのだ。
「ああだったりするのよ」
「成績の問題じゃないのね」
「お勉強のね」
 頭のよし悪し、それはというのだ。
「大事なのはね」
「ちゃんとしたことを知っていて」
「それでそれが出来るか」
「そういうことね」
「お母さんあの人見てわかったのよ」
 その女性議員をというのだ。
「学校の成績がよくてもね」
「あれな人はあれなのね」
「そう、何度も言うけれど東大法学部よ」 
 日本で最も偏差値の高い大学の学部である。
「そこを首席で卒業してもね」
「ああなのね」
「元総理で鳥みたいな名前の人もいるでしょ」
「ああ、あの」
 咲はこの人物のこともわかった、テレビでもインターネットでも総理でなくなっても話題の人物だからだ。
「あの人もね」
「頭いい?」
「いえ、おかしいでしょ」
 返事は即答だった。
「あの人」
「そうでしょ」
「もうね」
「そう思うのがね」
「普通よね」
「あの人も東大よ」
 この大学を出ているというのだ。
「工学部よ」
「法学部でなくても」
「理系でかなり難しいところよ」
 そうだというのだ。
「そこを出ていてもね」
「ああなのね」
「責任感ないでしょあの人」
「責任自覚出来ないんじゃないの?」
 咲が見たところだ。
「あの人は」
「そう見えるわね」
「どうもね」
「そうした人でもよ」
「東大出てるのね」
「だからね」 
 それでというのだ。
「学校の成績じゃなくて」
「常識があるかどうか」
「それよ」
 頭がいいか悪いかはというのだ。
「要するにね」
「そういうことね」
「だから咲もね」
「学校の勉強もして」
「そしてね」
「ちゃんとしたことを知るべきね」
「そうよ、幾ら勉強が出来ても」 
 またこう言う母だった。 

 

第十三話 学業もその十四

「それでもね」
「ああした政治家さんみたいだと」
「どうしようもないから」
「お勉強が出来ても」
「ああだとね」
 その女性議員の様ならというのだ。
「どうにもならないわ」
「よくあれで政治家になれたわね」
 咲はその女性議員の発言や行動を自分の中に思い出しながら首をひねった、そのどれもが碌でもないものばかりだった。
「どうしてかしら」
「ああ、そのことね」
 母も応えた。
「不思議だっていうのね」
「学校のお勉強が出来たら」
 それならというのだ。
「東大も弁護士資格もね」
「司法試験通ってね」
「合格出来て通るけれど」
 それでもというのだ。
「政治家になるには」
「選挙で当選しないとなれないわよ」
「そうなのに」
「だって選挙は人が投票するのよ」
「いや、だからね」
 それでとだ、咲は母に言った。
「あんな人に投票する人が」
「だからあの人の選挙区の人が」
「そういうこと?」
 咲は察して応えた。
「つまりは」
「そう、東京にもいるでしょ」
「あの駝鳥に無理矢理歯をくっつけたみたいな顔の人ね」
「あの白い服のね」
「あの人もそうよね」
「いい大学出てるでしょ」
「青山よね」
 青山大学をというのだ。
「そうよね」
「大阪でも名古屋でもでしょ」
「いるわね、ああした人」
「仙台でもね」
「結構いるわね」
「どの人も何で通るかは」
 それはというと。
「投票する人がね」
「そういうことなの」
「投票する人があれなら」
 あえてこう言ってぼかす母だった、だが咲にはそれでもよくわかった。
「それならよ」
「選挙に当選してなのね」
「政治家になれるのよ」
「そうなのね」
「ああした人を政治家にしたくないならね」
「投票しないことね」
「それが第一よ」
 こう娘に言った。
「男の人でもああした人いるけれどね」
「東大工学部出身の元総理大臣の人とか」
「東京にも元総理の人いるでしょ」
「あの最低な人ね」
 咲は目を顰めさせて応えた。
「もう何もかもが」
「ああした自分のことしか考えない人もね」
「政治家にしない為には」
「そう、もうね」
 それこそというのだ。 

 

第十三話 学業もその十五

「投票しないことよ」
「その人には」
「そうよ」
「そういうことね、けれどああした人の選挙区の人って」
「どうかしてるわね」
「どう見てあれなのに」
 咲は眉を顰めさせて言った。
「それでもなのね」
「人は自分と同じレベルの人に投票するわよ」
「あの人と同じレベル?」
「駄目だって思ったらその人に投票しないから」
 そもそもというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、もうね」
 それこそというのだ。
「そこでわかるのよ」
「そうなのね」
「その選挙区の人のレベルも」
「ああした人を通すか通さないかで」 
 それでというのだ。
「わかるよ、だからああした人にはならない様にして」
「選挙に出ても」
「投票しないことよ」
「そういうことね」
「まあ今はああした人を見て」
 その女性政治家の様な人物をというのだ。
「ああはなるまいとね」
「思うことね」
「それで反面教師にするのよ」
「馬鹿な人をなのね」
「それが大事よ」
「馬鹿な人を反面教師にする」
「そうよ、馬鹿な人を見たら」
 その時はというのだ。
「いいわね」
「ええ、じゃあね」
 咲は母の言葉に頷いた。
「そうしていくわ」
「それで尊敬出来る様な人の立派な面をね」
「お手本にするのね」
「そうすればいいのよ」
 娘は母にこうも話した。
「いいわね」
「わかったわ」
 娘は母の言葉に頷いた、そうして夕食を食べその後は勉強をした。咲は学業以外のことも勉強していった。


第十三話   完


                2021・5・1 

 

第十四話 反面教師その一

                第十四話  反面教師
 咲は下校中にだった。
 あまりにも酷い人を見て顔を顰めさせた。それで一緒に帰っていた漫画部の二年の女子の先輩に言った。
「あの、あそこの」
「うわ、酷いわね」 
 その先輩もその人を見て顔を顰めさせた、咲のこっそり指し示した方を見て。見れば。
 座席で横になって寝ている、そしてだらしない姿勢でいびきをかいている。くたびれたスーツを着た中年男だ。
「何あれ」
「最悪ですよね」
「電車の中で寝るにしても」
「座席で横になって」
「靴履いたままでね」
 しかもその靴を履いた足を座席にやっている。
「そうしてるわね」
「無茶苦茶ですね」
「サラリーマンかしら」
「会社何処ですかね」
「あれかしら。リストラされて」
 そうしてとだ、先輩は咲に話した。着ている制服は咲のものと違い青のミニスカートとブレザーそして水色のブラウスでネクタイは群青色だ、黒髪を短くしている。
「それでね」
「自棄になってですか」
「酔ってるし」
「お顔赤いですしね」
「それでね」
 リストラされて自棄酒を飲んでというのだ。
「ああなってるのかしら」
「リストラは大変ですね」
「仕事がなくなるからね」
「これからどうなるか」
「そう思ってね」 
 それでというのだ。
「大変だけれど」
「それでもああしたことはですよね」
「したらいけないわ」
「本当にそうですよね」
「よくどうせ死ぬんだとかね」
 先輩は咲にこうした話もした。
「病気になって」
「それで自棄になって悪いことをしますね」
「漫画とかであるでしょ」
「はい、地震で出られなくなったりしても」
「地下とかでね」
「それでもう普段の姿じゃなくなって」
 自暴自棄に陥ってというのだ。
「悪いことをする」
「そうしたお話あるけれど」
「最後の最後まで自分を保ちたいですね」
 咲は心から言った。
「やっぱり」
「そうよね、理性的にね」
「死にたいですよね」
「人間としてね」
「獣みたいにならないで」
「そうありたいわ」
 是非にというのだ。
「私もね」
「そうですよね」
「人間ならよ」 
 それならというのだ。
「最後の最後までね」
「理性を保って」
「人間として死にたいわよね」
「それでリストラされても」
「理性を保って」 
 そしてというのだ。
「飲んでもああならないで」
「最低限のマナーは守って」
「それで次のお仕事探して」
「やっていきたいですね」
「全くよ、あと変にお金や権力持って」 
 先輩は咲にこうした話もした。 

 

第十四話 反面教師その二

「舞い上がって威張ったり金遣いが荒くなったり」
「やりたい放題する人いますね」
「こうした人もね」
「嫌ですよね」
「そうはなりたくないわ」
 強い否定の言葉で述べた、見れば車内の多くの乗客がその中年男を見て眉を顰めさせて嫌な顔をしている。
「本当にね」
「ありのままの自分でありたいですね」
「そうよね」
「どんな風になっても」
「謙虚で理性的」
「やっぱりそれが一番ですね」
「そしてああもね」 
 その乗客をじっと見たまま述べた。
「絶対にね」
「なりたくないですね」
「若しなったらね」
「人間終わりですね」
「ええ。ああした人こそね」
「反面教師にすべきですよね」
「本当にそう思うわ」
 まさにというのだ。
「私もね」
「全く以てそうですよね」
「人間失格よ」
「太宰治でしたね」
「代表作よ。この人教科書に出るから」
 太宰治はというのだ。
「覚えておいてね」
「テストにも出ますね」
「絶対にね」
 教科書に出ているだけにというのだ。
「芥川龍之介とか志賀直哉とかもだけれど」
「太宰治もですね」
「絶対に出るから」
「人間失格もですね」
「覚えておいてね」
「わかりました」 
 咲は先輩に真面目な声で答えた。
「予習しておきます」
「小山さん予習してるのね」
「復習もしています」
 真面目な声のまま答えた。
「そちらも」
「それはいいわね。やっぱり勉強しないとね」
「駄目ですよね」
「私はあまりしないけれどね」 
 先輩はこのことは少し苦笑いで述べた。
「けれど小山さんは違うのね」
「小学校の時から」
 それこそ低学年の時からだ。
「何かです」
「勉強しないとなの」
「いけないって思っていまして」
「それでなのね」
「予習と復習はです」
 この二つはというのだ。
「いつもです」
「しているの」
「はい、そうしています」
「真面目ね」
 先輩は咲のその返事に感心した声で応えた。
「小山さんは」
「真面目ですか」
「ええ、それで部活もちゃんと出てアルバイトも」
「今のところですが」
「出てるのね」
「さぼるのは好きじゃないので」
 それでというのだ。
「それで遅刻はしても」
「出る様にしているのね」
「そうしています」
「真面目ね、やっぱり」 
 先輩はまたこう言った。 

 

第十四話 反面教師その三

「いいことよ、真面目っていうだけでね」
「いいですか」
「それだけでね、私なんてね」
 先輩はまた笑って言った。
「テスト前は勉強するけれど」
「それ以外は、ですか」
「漫画読んでゲームしてね」
 そうした遊びをしてというのだ。
「お金稼ぐのにアルバイトもして」
「それで、ですか」
「適当にね」 
 そうした感じでというのだ。
「暮らしているから」
「だからですか」
「真面目とはね」
 到底というのだ。
「言えないわ」
「そうですか」
「そう、だからね」
 咲はさらに話した。
「小山さん凄いと思うわ、ただね」
「ただ?」
「堅苦しいところはないわね」
 咲にはというのだ。
「本当にね」
「私そうしたのは好きじゃなくて」
 それでとだ、先輩は咲にこうも話した。
「それで堅苦しいことはです」
「しないの」
「はい」
 実際にというのだ。
「そうしたことはです」
「制服の着方は真面目でも」
 それでもというのだ。
「スカート短いしね」
「短か過ぎないですよね」
 スカートの話になるとだ、咲は先輩に小声で囁く様にして聞いた。それはどうにも不安といったものだった。
「私のスカートの丈」
「そんなものでしょ」
 先輩の返事はこうだった。
「私だってそれ位だし」
「いいですか」
「ぎりぎりの娘っているわよね」
「ライトノベルかアニメって位に」
「漫画とかでね」
「もうちょっとしたら見える」
「それ位の娘いるでしょ」
 先輩も述べた。
「本当に」
「うちの学校でもいますね」
「ええ、あれ位でないとね」
「いいですか」
「下着は見せるのはまずいわよ」
 先輩は笑って言った。
「流石にね」
「その下にスパッツ穿いてても」
「それでもよ」
 それで下着は見えないがというのだ。
「それでもね」
「見せないことですね」
「やっぱりね」
 何といってもというのだ。
「だからね」
「それで、ですか」
「それ位でないとね」
「いいですか」
「丈それ位でいいわよ」
 スカートのそれはというのだ。
「小山さんもね」
「それなら」
「ええ、ただスパッツはね」
 咲が今言ったこのことはというと。 

 

第十四話 反面教師その四

「穿いておいた方がいいわね」
「やっぱりそうですよね」
「ええ、万が一に備えて」
「風でも吹いたらめくれて」
「見えるでしょ」
「ちょっとしたことで」
「膝丈のものでもそうだし」 
 それだけの長さのスカートでもというのだ。
「だからね」
「それで、ですね」
「万が一の為に」
「スパッツは穿くことですね」
「そうしておいてね」
 こう咲に言うのだった。
「いいわね」
「じゃあこれからも」
「夏は暑いけれどね」
 先輩はこのことは笑って話した。
「やっぱり」
「そうですよね」
「けれどね」 
 その夏でもというのだ。
「我慢してね」
「穿くことですね」
「中学校でもそうしてたでしょ」
「はい」
 咲は先輩に素直に答えた。
「そうしていました」
「そうよね」
「正確に言うとうちの中学短い半ズボンで」
「そっち穿いてたの」
「はい」
 スカートの下はそうだったというのだ。
「それを穿いていました」
「そうだったのね」
「やっぱり見えたらよくないですからね」
「本当に油断するとね」
 その時はというのだ。
「見えるからね」
「丈が長くても」
「膝丈でも」
 その長さでもというのだ。
「油断しますと」
「ちらってなるから」
「そうですよね」
「小山さんの中学ではスカートの丈長かったの」
「短くしていた娘もしていましたが」
 それでもというのだ。
「私は違いまして」
「その時はなの」
「スカート折らずに」
 そうして短くせずにというのだ。
「普通にいっていました」
「そうだったのね」
「それでも穿いてました」
 半ズボンをというのだ。
「そうしていました」
「そうだったのね」
「そうでした、そして高校に入って」
 その短くしているスカートを見た、スカートの先にあるのは素足だ。白い足が今は随分艶めかしく見える。自分の足でも。
「折っています」
「お洒落でよね」
「高校に入って色々お洒落をしたくなって」
「それでなの」
「正確に言うと卒業した時に」
 中学校をそうした時にというのだ。
「そうしたくなって」
「それでなの」
「メイクとかファッションも勉強して」
「スカートもなのね」
「そうしました」
 制服のそれを短くしているというのだ。
「今みたいに」
「そうなのね」
「あと下着も」
 これもというのだ。 

 

第十四話 反面教師その五

「派手なものでなくて色も白ですが」
「気を使ってるのね」
「従姉に色々アドバイスを受けて」
 愛のことも話した。
「そうしてです」
「今みたいにしてるのね」
「そうしてます、あとです」
「あと?」
「何かどうでもいい時のファッションもです」
 これもというのだ。
「教えてもらいました」
「その従姉の人に」
「そうしてもらいました」
「それどんな格好なの?」
「ノーメイクで髪の毛はぼさぼさで」
 まずは首から上のことを話した。
「上下ジャージで靴はシューズかサンダル」 
「ああ、それならね」
 先輩も咲の言うファッションに頷いた。
「もう誰も声をかけないわね」
「それでお腹には腹巻、首筋から見えるババシャツ」
「それもなのね」
「しかもガニ股で歩くと」
「もう誰もなのね」
「声をかけないからいいって」
「確かにね」
 先輩も咲の今の話には頷いた。
「そうした格好だとね」
「誰からもですね」
「ナンパもされないわ」
「起き抜けみたいですね」
「色気の欠片もないから」
 それこそというのだ。
「誰からもね」
「声かけられないですね」
「やっぱり色気とか可愛さってね」
「注目されますね」
「もう皆そうしたのを見てね」 
 先輩は自分そして咲のファッションを観つつ話した、二人共制服とはいえギャル系であるが咲の方がナチュラルである。
「声かけたり好きになるから」
「見た目のことで」
「そうしたね」
「色気も可愛さもですね」
「ない言うならサボテンみたいだと」
 それならというのだ。
「もうね」
「誰も声かけないから悪い人も」
「そうね、暴漢除けにはいいわね」
「従姉にそう言われました」 
 咲にというのだ。
「夜一人でコンビニに行く時とか」
「今度私もその恰好でいってみるわ」
「いいですね」
「コンビニにいい人いたら出来ないけれど」 
 先輩は笑ってこうも言った。
「けれどね」
「それでもですね」
「冬だとそこにどてらね」
「あっ、余計に色気ないですね」
 咲も笑って応えた。
「それもとなると」
「そうね」
「それじゃあ私も冬は」
「どてらね」
「丁度家にありますし」
 それで冬は実際に家の中で着ているのだ。
「それを着て」
「外出するのね」
「そうした時は」
「そうしたらね」
「変な人にも目をつけられないですね」
「薄着でね」
 それでというのだ。 

 

第十四話 反面教師その六

「夜に外歩くとか」
「絶対に駄目ですよね」
「お家の近所でもね」
「何処に誰がいるかわからないですね」
「そう、ご近所に変な人いるとかね」
 そうしたことはというと。
「もうね」
「普通ですよね」
「そうよ、東京なんか特にね」
「人が多くて」
「その分変な人も多いわよ」
「人が多いとどうしてもですね」
「田舎でもそうしたお話あるのに」
 おかしな輩は何処にもいるということだ、ただしどうしても人が多いとその分おかしな輩も多くなるのは事実である。
「東京は特によ」
「それで、ですね」
「よく注意しないとね」
「夜の外出についても」
「もっとも一番は一人でいない」
「身の安全の為には」
「そう、女の子が一人で外を歩くことは」
 どうしてもとだ、先輩は咲に話した。
「やっぱりね」
「危険ですね」
「そうよ、だからそんな恰好をするよりもね」
「一人で出歩かないことですね」
「夜に外はね」
「じゃあお母さんと」
「そうしてね、犬を連れてたらいいけれど」
 それならというのだ。
「犬がボディーガードになってくれてるから」
「トイプードルでもいいですか?」
 咲は愛犬モコのことを思い出して笑って言った。
「タイニーかティーカップの大きめの女の子ですが」
「トイプードルって小さいわよね」
「この前体重測ったら二・五キロでした」
 実際に測るとそれ位だった。
「小さいですね」
「それ位だとティーカッププードルね」
 先輩は咲が話したその大きさを聞いて述べた。
「もうね」
「そうですか」
「あの、ここで言う子は柴犬位でね」
「柴犬も小さいですよ」
「小さいけれどトイプードルよりずっと大きいでしょ」
「はい、それは」 
 咲もはっきりと知っていることで確かな声で頷いて答えた。
「もう全然違います」
「そうよね」
「何倍も」
「しかも柴犬って元々狩猟犬でね」
 その為に進化してきた犬だ、このことは秋田犬や甲斐犬と同じである。
「気も強いでしょ」
「よく吠えて向かってきますね」
「そんな子だから悪い奴でも一人ならね」
「向かって行ってですね」
「撃退出来るわよ」
 身体は小さくともというのだ。
「それが出来るわ、けれどトイプードルはね」
「トイプードルも元々は狩猟犬ですけれど」
 咲はこの時もモコのことを思い出しつつ答えた。
「スタンダードプードルから小さくなっていって」
「プードルは元々狩猟犬だったのね」
「そうなんですよ」
「私それは知らなかったわ、柴犬は知っていたけれど」
 それでもというのだ。
「そうだったのね」
「元々水鳥を捕まえる為の犬で」
 飼い主が撃ったそれを水の中に入って咥えて持って来ることを主な仕事にしていたのだ。 

 

第十四話 反面教師その七

「それで観賞用、愛玩用にです」
「小さくなってなのね」
「なった犬で」
「元狩猟犬なのね」
「はい」 
 まさにというのだ。
「トイプードルは」
「そうなのね、そういえば結構吠えるわね」
「ワンワンって」
「元狩猟犬なのはわかったわ、けれどね」
 それでもとだ、先輩はさらに話した。
「あれだけ小さいと」
「三キロない位ですと」
「やっぱり吠えられても。例え向かって来られても」
「怖くないですね」
「ええ」
 そうだとだ、先輩は咲にどうしてもという声で答えた。
「それじゃあね」
「じゃあうちの犬は。モコっていうんですが」
「モコちゃんね」
「はい、可愛くて頭がよくてとても性格がいいんですよ」
「物凄くいい娘なのはわかったけれど」
 それでもと言うのだった。
「そこまで小さいとね」
「ボディーガードにはなれないですか」
「というか小山さんがね」 
 むしろ咲の方がというのだ。
「護る方ね」
「実際そうなっていますね」 
 咲も否定しなかった。
「お散歩してると」
「そうでしょ」
「本当に小さいですから」
「ぬいぐるみみたいなものよね」
「外見も」
「それじゃあね」
 どうしてもというのだ。
「そこまで小さいとね」
「むしろ私がですね」
「護ってあげないとね、そもそも誰かを護れる位であって」
 それでとだ、先輩はこうも話した。
「いいと思うわ、人間はね」
「そうですか」
「男の子がよく言われるけれど」
「女の子もですか」
「将来お母さんになるでしょ」
 先輩はこのことは強い声で話した。
「そうでしょ」
「結婚してですね」
「まあ結婚しなくてもね」
 それはなしでもとも話した。
「子供はね」
「そうですけれどね」
 咲はいささか引いて苦笑いで述べた。
「そのことは」
「色々なケースでね」
「そうしたこともありますね」
「けれどやっぱりね」
「社会的にはですよね」
「結婚してが普通よね」
「そうですよね」
 咲はこのことは率直な笑顔で応えた。
「やっぱり」
「それでね」
「結婚して」
「子供生まれたら」
「その子供を護るんですね」
「お母さんが護らないと」
 子供、それをというのだ。
「お父さんがいてもね」
「やっぱりいつも傍にいるから」
「産んだだけあってね」
「第一に護るべきですね」
「お父さんはその次よ」
 子供を護るのはというのだ。 

 

第十四話 反面教師その八

「だから女の子も」
「誰かを護る様にしないといけないですね」
「そしてご主人もね」 
 自分の子供だけでなくというのだ。
「護る」
「よく男の人に護られるっていいますけれど」
「女の人もよ」
「男の人を護るべきですね」
「腕力がなくても心でね」 
 それを以てというのだ、先輩は咲にこのことを穏やかではあるが芯の強いものを入れてそのうえで話した。
「それでよ」
「護るべきですね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「小山さんはお家のワンちゃんもね」
「護るべきですか」
「大きな子だと護ってくれても」
 それでもというのだ。
「小山さんが護ることもね」
「大きな子でもですね」
「必要よ」
「お互いに護ることですか」
「そのワンちゃんも小山さん護ってくれてるでしょ」
「小さくて」
「暴漢除けにはならなくてもね」
 それでもというのだ。
「何かと」
「何かあったらケージの中でも鳴きますね」
「それは警戒してね」
「それで、ですね」
「吠えて知らせてくれるだけでも」
 それだけでもというのだ。
「違うでしょ」
「はい、気付いて気をつけられますし」
「それだけでね」
「大きいですね」
「そうよ、それで小山さんもそのワンちゃんをね」 
 咲に再びこのことを話した。
「大事にしてあげて」
「護ることですね」
「護るにはまず護ろうと思うことよ」
 まず思うことだというのだ。
「そんな気持ちないと出来ないでしょ」
「ですね、そう思うからこそ動きますから」
 咲もそれはと答えた。
「ですから」
「そうね、だからね」
「それで、ですね」
「まず思うこと」
「それが大事ですね」
「そこから全てはじまるから、そして誰も何も護ろうとしないで」
 先輩はこうしたことも話した。
「自分だけ、自分しかなくて自分しか護ろうとしない人は」
「誰もですね」
「護れないわ」
 そうだというのだ。
「決してね」
「そうしたものですね」
「そんな自分勝手な人は誰からも見捨てられるから」
 護られることなくというのだ。
「それでね」
「自分だけで自分を護れるか」
「世の中そうはいかないから」
「そうした人はですね」
「破滅するわ、平気で誰かを裏切る人は誰も助けないわ」
「自分も裏切られるからですね」
「そんな人誰も救わないから」
 だからだというのだ。 

 

第十四話 反面教師その九

「それでね」
「破滅しますね」
「結局自分にもいいことよ」
「誰かを護ることは」
「誰かを護ろうと思って護る人こそね」
「護られるんですね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「そうした人こそね」
「それが世の中ってことですね」
「そして人間よ」
「人間ですか」
「人間なら誰かを護る」
「そうあるべきですね」
「それをしようとしないなら」
 自分だけならというのだ。
「もうね」
「破滅しますね」
「そうだと思うわ、だからいいわね」
「私もですね」
「護っていってね」
「そうします」
 咲は笑顔で答えた。
「モコも自分の安全も」
「そうしていってね」
「どれもですね」
「全てを守ろうとすると何も守れない」
 こうもだ、先輩は言った。
「誰かが言ったわね」
「ええと、フリードリヒ大王ですか」
「あの教科書に出て来る」
「あの人の言葉とネットで見た気がします」
「そうだったの」
「はい、物凄く戦争に強い人でしたね」
「そうそう、教科書だとね」 
 勉強する限りではというのだ。
「あの人はね」
「戦争強いですよね」
「立派な宮殿建てて」
「色々ある人でしたね」
「音楽も好きでね」
「結構中二病設定くすぐりますね」
「そういえばそうね」
 先輩は咲のその言葉に頷いた。
「この人って」
「それでその人の言葉ですか」
「全てを守ろうとするとね」
「何も守れないですね」
「ええ、けれど自分と家族を守る位はね」
「普通は出来ますよね」
「相当危ない状況でもないとね」
 こう咲に話した。
「戦争とか大地震とかね」
「そうした状況でないと」
「あとお家が滅茶苦茶で」 
 それでというのだ。
「もう家中でDVが荒れ狂ってるとか」
「それ最悪ですね」
「そんな状況でもないとね」
「今の日本ではですね」
「そうそうないわよ」
 自分も家族も守れない様な状況はというのだ。
「全部守れないとか」
「本当にそうですね」
 咲もその通りだと答えた。
「そんなことは」
「そうそうないわよ」
「だから私自身を守って」
「ワンちゃんもね」
 モコもというのだ。
「ちゃんとね」
「そうしていきます」
「将来お母さんになるんだし」
 このこともあってというのだ。 

 

第十四話 反面教師その十

「そうしてね」
「そうします、今はモコを大事にして」
「お父さんにお母さんにね」
「そして結婚したらですね」
「ご主人を大事にして」
 将来の夫である彼をというのだ。
「そしてね」
「自分の子供もですね」
「そもそも自分の子供を大事にしない母親ってね」
「母親じゃないですね」
「子供を愛さないで大事にしない親なんて」
 先輩は真剣な顔で言った、それはこの場で彼女が見せる表情で最も真剣なものだった。その顔で言うのだった。
「親じゃないわよ」
「子供を産んでもですね」
「そうよ、親っていうのはね」
「子供を大事にですね」
「そうしてね」
「護って」
「育てるものよ」 
 そうするものだというのだ。
「だからね」
「私もそうしていくことですね」
「私もよ」 
 先輩自身もというのだ。
「そうしていかないとね」
「先輩もですか」
「当り前よ、私も人間でね」 
 そしてとだ、咲に言うのだった。
「女の子だから」
「だからですか」
「そう、将来お母さんになるかも知れないから」
「それでなのですか」
「自分も家族も他の大事な人もものも」
「守れる様にですね」
「するわ、うちには猫がいるけれど」
「猫いるんですか」
「シャム猫でね、凄い我儘で高慢だけれど」
 それでもというのだ。
「それでもね」
「大事な家族ですか」
「そう、私から見たら弟よ」
 咲に今度は笑顔で話した。
「可愛いね」
「だからですか」
「大事にしてるし」
「いざとなればですね」
「護らないとね」
「いけないですね」
「何でもしてるしね」
 その猫にというのだ。
「我儘を聞いて」
「猫って我儘って聞きますね」
 咲は家で猫を飼ったことがないのでこのことは知らないのだ。
「実際にそうですか」
「そう、これがかなりね」
「我儘なんですね」
「我儘で気まぐれで高慢よ」
 気まぐれという要素も普通に加わっていた。
「そうなのよ」
「犬と全然違いますね」
「犬って素直でしょ」
「素直で謙虚ですね」
 モコのその性格から述べた。
「それで愛嬌もあって」
「愛嬌があるのは一緒だけれどね」
「猫はそうした生きものなんですね」
「そうなの」
「そうした生きものなんですね」
「実際にね」
「猫のこと覚えておきます」
 咲は先輩に答えた。
「飼うことがあるかも知れないですし」
「そうしてね。何かの縁でね」
「猫を飼うこともですね」
「有り得るから」 
 だからだというのだ。
「宜しくね」
「猫のこともですね」
「そういうことでね」
「わかりました」
 咲は先輩の言葉にまた頷いた、そのうえでこの日はアルバイトもないので部活に専念した。そうして家に帰るとまた勉強をした。


第十四話   完


                2021・5・8 

 

第十五話 慣れてきてその一

               第十五話  慣れてきて
 入学式から二週間を過ぎた、咲は次第に学校そして高校生活に慣れてきた自分に気付いてクラスで親しくなったクラスメイト達に話した。
「そろそろ馴染んできたわね」
「そうそう、高校にね」
「そうなってきたね」
「少しだけれど」
「そうなってきたわね」
「最初は地に足がついていなかったけれど」
 文字通りそうした感じだったがというのだ。
「それがね」
「少しずつね」
「そうなってきたわね」
「それで今じゃね」
「すっかり落ち着いてきたわね」
「ゴールデンウィークまでにはそうなるってね」 
 咲は明るく話した、皆文科系の部活で大人しい娘達だ。
「言われたけれど」
「実際にね」
「そうなってきたわね」
「中学校の時もそうだったし」
「高校だってそうね」
「そうよね、ただ高校ってね」
 咲は友人達にこうも話した。
「やっぱり中学と違うわね」
「義務教育じゃないからね」
「エスカレーターで入っていてもね」
「やっぱり違うわよね」
「どうしてもね」
「中学の延長みたいで」
 そのカレーもあるにはあるがというのだ。
「それで全く違う」
「そうよね」
「やっぱりまた違うわね」
「中学と高校じゃね」
「本当にね」
「だから中学とはまたね」
 延長の様なところはあってもというのだ。
「違う生活送ってるわね」
「そうよね」
「そしてその生活にね」
「少しずつ慣れてきたわね」
「そうよね」
「そうなってきてね、もうすぐね」
 咲は笑ってこうも言った。
「ゴールデンウィークね」
「あと一週間位でね」
「もうそうよね」
「何だかんだでね」
「それよね」
「皆ゴールデンウィークどうするの?」
 その時の予定のことも聞いた。
「一体。私は全部アルバイトでお金稼いで空いた時間渋谷とかでお買いものするけれど」
「私家族と箱根行くわ」
「私は山梨よ」
「私千葉に行くわ」
「私はお父さんの実家のある和歌山行くわ」
「皆旅行に行くのね、うちは今年のゴールデンウィークは」
 咲は旅行に行くという皆の言葉を聞いて述べた。
「特に予定なくて」
「それでなの」
「アルバイトなの」
「それでお買いものなの」
「原宿も行くけれど」
 それでもというのだ。
「基本はね」
「アルバイトね」
「小山さん渋谷でアルバイトしてるし」
「それで空いた時間はなの」
「渋谷でお買いものなの」
「そうするつもりよ」
 こう言うのだった。 

 

第十五話 慣れてきてその二

「毎年旅行行くけれどうちは基本夏だしね」
「夏なの」
「ゴールデンウィークは行かないの」
「そうなの」
「うん、まあお休みならね」
 それならとだ、咲はさらに話した。
「それだけでもいいしね」
「休めるっていいわよね」
「それだけで」
「やっぱりそれだけで違うわよね」
「本当にね」
「それでどうせならね」
 学校が休みならというのだ。
「アルバイトしてね」
「お金稼いで」
「それでそのお金でお買いもの」
「そうするのね」
「そしてね」
 それでというのだ。
「後で遊べる時にね」
「そのお金で遊ぶ」
「アルバイトのお金で」
「そうするのね」
「そうするわ、ただね」
 咲はこうも話した。
「働いてるお店占いのお店だけれど」
「あれでしょ、渋谷というか都内でも有名な」
「物凄い当たる占い師さんのお店よね」
「109のビルにあるね」
「そのお店よね」
「何か店長さん時々ね」 
 速水の話もした。
「お店空けるらしいのよ」
「出張とか?」
「出張占い?」
「小山さんのお店の店長さんそうしたこともしてるの」
「そんな占いもあるのね」
「そうみたいね」
 咲は速水のそうした事情を知らないまま述べた、もっとも彼と出会って間もなく知らないことばかりだ。
「どうもね」
「占いも色々ね」
「出張占いもあるのね」
「そうなのね」
「そう、あと雑誌でも連載持っていて」
 速水のこのことも話した。
「そっちの占いもされてるらしいわ」
「忙しい人みたいね」
「やっぱり当たるからにはね」
「売れっ子で」
「それで雑誌でも連載持ってるのね」
「結構なものね」
「ええと、お名前はね」
 彼のそちらのことも話した。
「速水丈太郎さんっていうの」
「その人って」 
 その名前を聞いてだ、友人の一人がはっとなった顔で述べた。
「物凄く有名な人じゃない」
「雑誌で連載持ってるから、いや」
 ここで咲は前に別のクラスメイト達に言われたことを思い出した、そのうえではっとした顔になって述べた。
「物凄く当たって美形だから」
「そう、それでよ」
「有名なのよね、速水さん」
「そう、美形のカリスマ占い師でね」
 それでというのだ。
「凄くね」
「そうだったわね」
「そうよ、この人でしょ」
 この友人は自分のスマートフォンを取り出した、そこにある速水の画像を見せた。そこにいる彼も整った外見だった。
「そうでしょ」
「ええ、そうよ」
 咲もそうだと答えた。 

 

第十五話 慣れてきてその三

「この人がね」
「速水丈太郎さんよね」
「そうなの、店長さんよ」
「小山さん凄い人のお店に行ってるわね」
「どうもそうみたいね」
「そうみたいじゃなくて」
 それこそという口調での返答だった。
「実際にね」
「凄い人なのね」
「占いの世界だとね」
「確かに凄い美形ね」
 別の友人も速水を見て言った。
「この人」
「そうよね」
「ホスト風ではあるけれどね」 
 それがホストに対してあまり印象のよくない人には抵抗があるかというのだ、このことは人それぞれである。
「それでもね」
「かなりの美形よね」
「落ち着いた感じでね」
「それで涼し気で」
「ただ美形なだけじゃなくて」
 こうもだ、咲は言った。
「凄い紳士なのよ」
「そうなの」
「ただ美形なだけじゃないの」
「占いも凄くて」
「それで紳士なのね」
「喋り方も物腰も丁寧で」
 それでというのだ。
「紳士なの」
「ポイント高いのね」
「外見、占いに加えてね」
「性格もいい」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「私もこんな人いるんだってね」
「思ってるのね」
「小山さんにしても」
「そうなの、今日もアルバイトあるけれど」 
 咲は友人達にさらに話した。
「速水さんにお会い出来るのよね」
「羨ましいわね」
「とはいっても羨んでも仕方ないけれどね」
「小山さんも偶然スカウトされたっていうしね」
「それじゃあね」
「私運がよかったっていうか」 
 咲は友人達に腕を組んで考える顔になって話した。
「カードの占いの結果らしいから」
「その速水さんのなのね」
「占いで出会って」
「それでアルバイトに採用された」
「そうだったのね」
「そうなの、それでね」
 だからだというのだ。
「私今のお店にいるから」
「不思議なお話ね」
「全部占いって」
「まあ占い師さんだからありだけれど」
「カードの占いで出会って採用されたって」
「かなり不思議よ」
「そうよね、じゃあ今日もそれでゴールデンウィークもね」
 この時もとだ、咲はあらためて話した。
「アルバイト頑張るわね、勿論部活もね」
「そうしていくのね」
「私達も皆部活にアルバイトだし」
「皆頑張っていこうね」
「そうしていきましょう」
 全員で笑顔で話した、そしてだった。
 その後も授業まであれこれと談笑した、そうして咲はこの日は部活はなかったのでそのままアルバイトに出た。
 そこでアルバイトをしていると不意に咲のところに速水が来て声をかけてきた。
「そろそろ慣れてきましたか」
「あっ、はい」
 咲は突然速水が来たので戸惑ったがそれでも応えた。 

 

第十五話 慣れてきてその四

「少しですが」
「それは何よりです」
 速水は咲のその言葉に笑顔で頷いた。
「やはり慣れることがです」
「いいですか」
「慣れるとそれだけ楽になります」
「仕事もですか」
「ですから」
「慣れていいんですね」
「そうです、ただ」
 速水は咲にこうも言った。
「慣れると馴れるは違います」
「馴れるは、ですか」
「こちらはだれる、油断するとです」
「そうした意味ですか」
「私はそう思います、ですから慣れて」
 そしてというのだ。
「そこから成る」
「成る、ですか」
「そうあるべきです」
「仕事に慣れて」
「そしてその仕事を立派に出来る人に成る」
 咲に優しい笑顔で述べた。
「そうなることがです」
「いいんですね」
「そう思います、私はまだです」
 今度は自分のことを話した。
「立派な、本物の占い師に成れていません」
「えっ、店長さんでもですか」
「とても」
 こう咲に答えた。
「成れていません」
「あの、店長さん聞きますと」
「占いが当たる、ですね」
「外れない人だって」
 それで評判だというのだ、事実速水のタロット占いは当たるそして悪いことを避けられると評判である。
「言われていますけれど」
「当たる外れるのではないのです」
「違うんですか」
「占いは道標です」
 そうしたものだというのだ。
「人を救うものです」
「そうなんですか」
「はい、例えば悪い結果が出ます」
 占いをしてというのだ。
「それは悪い運命です、ですが」
「それでもですね」
「その悪い運命をどう回避するか」
「それがですか」
「重要なのです」
 占いではというのだ。
「例えば事故に遭うとします」
「その事故をどう避けるかですか」
「それが問題です、またいい結果が出て」
 先程の話とは逆にというのだ。
「その結果にどう辿り着くか」
「そうしたことが大事ですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「悪い運命を避けていい運命に至る」
「占いを受けた人にそうなってもらう」
「それが真の占いで」
「店長さんはですか」
「まだです」
「出来ていないんですか」
「そう考えています」
 自分でというのだ。
「ですから」
「まだですか」
「成っていません」
 真の占い師にというのだ。
「残念ですが」
「そうですか」
「はい、これからもです」
 まさにというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその五

「努力して」
「成られますか」
「それを目指しています、ただある人は。この人は魔術師ですが」
「魔術師ですか」
「そうです」
 この職業にあるというのだ。
「その方は」
「あの、魔術師って」
「実在しませんか」
「小説とか漫画のお話ですよね」 
 創作の世界それもファンタジーのそれだというのだ、咲にとっては事実魔術師は実際にはないものである。
「そうした人達は」
「いえ、これがです」
「実在しますか」
「はい」
 速水は確かな声で答えた。
「そうなのです」
「そうですか」
「この東京、渋谷にもおられます」
「ここにもですか」
「左様です」
 咲に微笑んで答えた。
「その方は」
「あの、道玄坂に」
 咲は渋谷と聞いてまさかと思いつつ速水に問うた。
「魔法の品を売っているお店がありますね」
「アクセサリーやお守りをですね」
「あのお店の方ですか」
「あのお店の店長さんです」
「凄い美人さんっていう」
「まさにその方です」
 速水はその白い頬にほんの僅かであるが朱を入れて述べた。
「あの方は魔術師なのです」
「そうですか」
「その界隈では有名な方です」
「オカルトの」
「そう言われている世界では」
 咲にその白い中に微かに朱が入った顔で答えた。
「かなりです」
「そうした人ですか」
「オカルトの世界では魔術師も存在しています」
「それで魔術もですか」
「そこはご想像にお任せします」
 こう返してはっきりとは話さなかった。
「その様に」
「あそこのお店は」
「インチキではありません」
 はっきりとは話さないが答えは述べた。
「間違っても」
「そうなのですね」
「ですから」
 それでというのだ。
「効果はあります」
「そうですか」
「はい、そして」
 それでというのだ。
「あそこで買われるなら」
「いいんですね」
「確かな加護があるので」
 本物の魔術によるそれがあるというのだ。
「大丈夫です、ですが多くのそうしたグッズは実はインチキではないのです」
「ちゃんと御利益があるんですね」
「お寺のお経も神社のお守りもです」
 そうしたものもというのだ。
「僅かではあっても」
「御利益があるんですね」
「そうです、文字自体に力がありますので」
 それ故にというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその六

「そして絵にも」
「そうなんですね」
「あのお店ではルーン文字のペンダントやイヤリングもありますね」
「ルーン文字って北欧の昔の文字ですね」
「はい」
 速水は微笑んで答えた。
「そうです」
「何か魔力が備わっているとか」
「あらゆる文字がそうですが」
「ルーン文字もですか」
「むしろあの文字は特に魔力が強く」
 あらゆる文字の中でもというのだ。
「ただそれを刻んでいるだけで」
「強い魔力がですか」
「備わっています」
「そうですか」
「はい、そして」
 速水はさらに話した。
「あのお店でもありますね」
「ルーン文字のアクセサリーが」
「あの人はお店の全ての商品に注ぎ込んでいますが」
 己の魔術をというのだ。
「ただそれだけでも」
「ルーン文字を書いているだけで」
「力があります」
「そうなんですね」
「ですから多くのお経やお守りも」
「御利益がありますか」
「そうです、僅かであっても」
 それでもというのだ。
「左様です」
「そうですか」
「そしてあのお店は」
「その人が、ですか」
「ですからかなりの守護をする力が」
 それがというのだ。
「備わっています、買われて損はないです」
「そうですか」
「ですから」 
 それでというのだ。
「魔術師は実在していて」
「魔術もですね」
「左様です」
 答えは述べているがはっきりとその単語を言わない、速水は今は咲に対してその様に話を続けていった。
「そのことは」
「そうですか」
「ただ。あの人にはご注意を」
 速水は微笑んでこうも述べた。
「くれぐれも」
「といいますと」
「非常にお奇麗ですが」
 それでもというのだ。
「実は無類の女性好きで」
「あれっ、あのお店の店長さんは」
「女性ですね」
「というと」
「男性も嫌いではないのですが」
「女性もですか」
「むしろ女性の方が遥かにでしょうか」
 こう咲に話した。
「そうした人です」
「そうですか」
「ですから」
 それでというのだ。
「あの人にはです」
「注意してですか」
「接して下さい、そうされる時は」
「わかりました」 
 咲は速水のその言葉に頷いて答えた。
「そうします」
「その様にしてくれれば。ただ私の気を感じれば」
 その魔術師がというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその七

「あの人は貴女にはそうした誘いはかけないですね」
「そうですか」
「私のことはご存知なので」
 だからだというのだ。
「それはです」
「ないですか」
「おそらく」
 そうだというのだ。
「ですから」
「安心していいですか」
「そうですか」
「はい、では道玄坂に行かれれば」
 この店のある109のビルと目と鼻の先である、それこそ歩いてすぐに行くことが出来る場所である。
「そちらのお店にもです」
「行ってきます」
「そうされて下さい」
「そうしてみます」
 こう答えてだ、そしてだった。
 咲は占いの場に向かった速水を見送ってこの日の仕事に励んだ、そうしてそれが終わると家に帰ったが。
 家に帰るとテレビでは魔女狩りについての番組が放送されていた、咲はそれを観て母に対して言った。
「お母さん、魔法使いとか魔女っているのかしら」
「いるかもね」
 否定しない返事だった。
「若しかしたら」
「いないって言わないの」
「それはね」
 母は娘にすぐに答えた。
「実際魔術の本とか残ってるでしょ」
「欧州とかね」
「陰陽師もいたでしょ」
「日本にね」
「陰陽師も魔術師って言ったらいいわ」
 咲にこうも言った。
「安倍晴明さんとかね」
「あの人漫画や小説でも出て来るけれど」
「色々お話があるから」
 安倍晴明という人物にはだ、言うならば日本の歴史上最大の魔術師であると母は娘に話した。
「そうしたお話を聞いたら全部嘘とも思えないし」
「色々お話あるわね」 
 安倍晴明についてはとだ、咲も答えた。
「何か」
「他にも役小角さんいるし」
「その人も有名ね」
「そもそも東京がよ」
 自分達が今住んでいるこの街もというのだ。
「結界だらけよ」
「ええと、漫画や小説でもアニメでも」
「言われてるでしょ」
「高層ビルが多いのも五つのお不動さんも」 
 不動尊を祀った神社もというのだ。
「お寺も。それで東京タワーや山手線も」
「言われてるでしょ」
「あと東京の場所も」
「四神がっていうでしょ」
「相応とかね」
「お母さんも東京で生まれ育ってるからね」 
 それ故にというのだ。
「色々聞いてるのよ」
「東京が結界に囲まれた街だって」
「北東には日光東照宮あるし」
「そうよね」
「丑寅の方角にね」
 鬼が出入りする方角である、京都もこのことが警戒されていてそれでその方角に比叡山が置かれているのだ。
「あるわね」
「結界も魔術ね」
「そのものよ」
「そうでしょ、だからお母さんもね」
「魔術師も否定しないのね」
「そうよ、東京は災害の塊みたいな街でもあるし」
「地震多いし台風も来て」
 それにだ、東京という街は。 

 

第十五話 慣れてきてその八

「昔は洪水もあったし昔は火事も多かったわ」
「何度も災害に逢ったわね」
「それで廃墟になったのよね」
「何度もね。それでも蘇ってきたし」
 これも東京の歴史だ、何度も大災害に逢ってきたがそれでもその都度復興してきたのである。江戸時代からそうであったのだ。
「そのことからもなの」
「災害を封じ込める為に」
 まさにその為にというのだ。
「結界はね」
「あるのね」
「そうも考えられるし。あと天海さんがね」
「あの百二十歳生きた人ね」 
 咲はこの人物も知っていた、江戸時代初期に幕府に仕えた僧侶である。
「妖術使ってたイメージあるわ」
「妖術はどうか知らないけれどこの人そうした知識があったのよ」
「結界の」
「それで江戸の街を造る時にね」
「神社とかお寺置いたのね」
「そうよ、山手線とかビルとか東京タワーは戦後だけれどね」
 勿論スカイツリーもである。
「結界を張ってね」
「東京を護っているのね」
「そこにいる人達もね」
「そうなのね」
「お父さんはもっと信じてるわよ」
 父はそうだというのだ。
「神田明神に毎年お参りしてるでしょ」
「明治神宮や靖国神社にもね」
「それでお家にお札置いてるし」
 そうしてこともしていてというのだ。
「本当にね」
「お母さん以上になの」
「こうしたこと信じているのよ」
「意外ね」
「意外じゃないわよ、あれで縁起担ぐ方だし」
「江戸っ子は縁起担ぐっていうわね」
「その言葉らしくね」
 それでというのだ。
「そうしているのよ」
「そうなのね」
「ええ、それで魔術師といっても」
「いるって言われたら」
「お母さん否定しないわ」
 こう咲に述べた。
「むしろね」
「肯定するのね」
「そうよ、ただ今魔女狩りのお話してるけれど」
 テレビの話もしてきた。
「これはもう頭がおかしいから」
「それは無茶苦茶よね」
 咲もテレビの話を聞いて顔を顰めさせた。
「もうそれこそ」
「そうでしょ、水に放り込んで浮かんだら魔女とかね」
「インチキの取り調べとかね」
「拷問も滅茶苦茶だし」
「こんなのもうおかしいから」
「私もそう思うわ」
「というか本物の魔女はね」 
 それこそというのだ。
「こんなことで捕まらないわ」
「やっぱりそうよね」
「本物の魔術が使えたら」
 若しそうだとすればというのだ。
「こんな裁判簡単に逃げられるでしょ」
「黒猫に化けられたら」
 魔女、魔術師の魔術でとだ。咲は答えた。
「それでね」
「そうでしょ」
「ええ、簡単にね」
「そう、だからこれで殺された人はね」
 何十万にも及ぶその人達はというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその九

「一人もよ」
「いないわよね」
「本物の魔女があんなので捕まるかっていうね」
「そのこと自体がおかしいわよね」
「魔女狩りの人達の言う魔女って無茶苦茶でしょ」
 母は強い声で言った。
「一つの国を変えるんじゃないかっていう位でしょ」
「物凄い魔法使うでしょ」
「疫病流行させたりね」
「お空飛んだり姿消すなんて何でもないし」
「そうよね」
「そんな風だから」
 それでというのだ。
「普通の人に捕まるか」
「そんなことは無理ね」
「絶対にね」
「そうでしょ、だからね」
「魔女狩りで捕まる人は全員」
「魔女じゃなかったのよ」
「無実の人が捕まって」 
 そしてというのだ。
「酷い拷問受けてね」
「火炙りになったのね」
「何十万人もね」
「酷いお話ね」
「日本でこんなことがなくてよかったわ」 
 母は顔を顰めさせてこうも言った。
「本当にね」
「そうよね」
 咲もその通りだと頷いた。
「デマとか信じて馬鹿なことはしないことね」
「そうよ、魔女狩りもでしょ」
「嘘ね」
「魔女がいてもね」
「あんなことで捕まらないわね」
「絶対にね」 
「というか魔女でも」
 咲は首を少し捻って述べた。
「人の役に立つならね」
「いいでしょ」
「それで悪いことしてたら」
「それで詳しく調べてね」
「どうするかよね。使い魔とかいても」
 黒猫なりのそういったものがというのだ。
「それでもね」
「何でもないでしょ」
「それでってね」
「日本ではずっとそうだったわ」
 魔女狩りの様な集団ヒステリー、何か得体の知れないものに無闇に怯えたうえでの愚行の極みが存在しなかったというのだ。
「そうしたね」
「おかしなことは起きなくて」
「そりゃデマで酷いことは起こったわ」
「関東大震災でもあったっていうわね」
「井戸に毒を投げ込んだとかいうあれね」
「それで自警団の人が暴れたとか」 
 咲は母にこうした話をした。
「それを警察とか軍隊が止めたのね」
「そうよ、ある署長さんはあらゆる井戸の水を皆の前で飲んだのよ」
 若し毒があるなら自分が飲んで確かめると言ってだ。
「それで暴徒を止めたのよ」
「凄いわね」
「魔女狩りは政府もしたけれど」
 特に教会がだ。
「日本は政府が止めたのよ」
「警察や軍隊がね」
「それは全然違うわ」
「暴徒になった人達が暴れるのを止めたことは」
 咲も考える顔で応えた。
「いいことね」
「そうでしょ」
「ええ、確かにね」
 咲は今度は母の言葉に頷いた。
「そんなことしなかったのは」
「いいことでしょ」
「凄くね」
「というか日本でデマ流すのは」
 それはとだ、母は咲に忠告する様に話した。
「ネットのおかしな人もだけれど」
「他にもいるのね」
「マスコミよ、特にテレビはね」
 この媒体にいる者達はというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその十

「もう好き勝手言うでしょ」
「コメンテーターの人とかが」
「無責任にね」
「それでなのね」
「本当に好き勝手言って」
 そうしてというのだ。
「それが何の根拠もないから」
「注意することね」
「言うでしょ、テレビ観たら馬鹿になるって」
「言うわね」
「それは嘘やデマを鵜呑みにするからよ」
 その為にというのだ。
「そうなるっていうのよ」
「馬鹿になるって」
「実際にテレビばかり観てる人ってそうでしょ」
「そうね、実際に」
「だからテレビはね」92
 この媒体はというのだ。
「魔女狩りの教会と同じ位酷いから」
「そこまでなの」
「日本のマスコミ自体がそうよ、北朝鮮のことがあるでしょ」
「あれ?地上の楽園とか嘘言って」
「それで行った人いたでしょ」
「そうよね」
「けれど真実はね」
 北朝鮮の正体はというのだ。
「違ったでしょ」
「悪の組織みたいな国ね」
「特撮かアニメのでしょ」
「ええ、とんでもない国よ」 
 究極の独裁国家であり階級制度まで存在している、言論弾圧はどの国よりも酷く人権なぞなく人々は餓えている。
「あそこは」
「そんな国に行ってよ」
「誰も生きて帰って来なかったのよね」
「そんなことをしても」 
 それでもというのだ。
「誰も責任取ってないわよ」
「誰もなの」
「そう、誰もね」
 実際にというのだ。
「一人もね」
「とんでもないことをしたのに」
「それでもよ」
「だれも責任を取らないで」
「今に至るのよ」
「最悪ね」
「だからね」 
 こうしたことがあったからだというのだった。
「お母さんマスコミはね」
「信じないのね」
「そうなったのよ」
「それも当然ね。というか」
 咲は母の話を聞いてこうも言った。
「よくそんなことして良心が痛まないわね」
「お母さんもそう思うわ」
「大勢の人を知ってか知らないかでも地獄に送ったじゃない」
「天国って言ってね」
「行った人も鵜呑みにしてね」
「人生潰してね」
「どうかってなるけれど」
 騙される人も悪いというのだ。
「けれどね」
「第一はでしょ」
「騙した人が悪いから」
 そうなるからだというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその十一

「その人が責任取らないと」
「誰だってそう考えるわね」
「ええ、けれどなのね」
「そんなことしなかったのよ」
 そうだったとだ、娘に話した。
「今もね」
「一人も責任取ってないのね」
「それで他の人に責任転嫁してるのよ」
「邪悪ね」
 咲はここまで聞いて思わずこの言葉を出した。
「その行いだけでも許せないのに」
「そうでしょ」
「ええ、邪悪と言うしかね」
「絶対の善も絶対の悪もないけれどよ」
「邪悪ってあるわね、お姉ちゃんともそんなお話したけれど」
「あるわね、ただ最近咲愛ちゃんと前よりも仲良くなってるわね」
「やっぱり駄目?」
 愛との関係についてだ、咲は問い返した。
「お姉ちゃんと一緒にいるのは」
「あの派手なところがね」
「お母さんもお父さんもどうかって言ってるわね」
「ええ、けれどちゃんとしてるところはね」
「ちゃんとしてるでしょ」
「だから派手なところを真似ないと」
 それならとだ、母は咲に話した。
「最近思いはじめたわ」
「そうなのね」
「意外とちゃんとしたこと咲にも教えてるみたいだし」
「危ないところとか教えてくれるわ」
「やったらいけないこともよね」
「それで私も参考にしてるの」
「そうだといいけれどね」
 こう娘に返した。
「それならね、けれどね」
「派手なところはなのね」
「あまり真似しないでね」
「お姉ちゃんも私に似合うのって言ってるから」
「そうだといいけれど」
「あとお姉ちゃん下着は白だし」
 このことは見てもそうだった、そしてそのデザインも決して派手なものではないシンプルなものである。
「妙にこだわりがあるのよ」
「下着はそうなの」
「物凄く普通よ」
 愛のその下着の話をさらにした。
「別によ」
「派手でもないのね、下着は」
「むしろ地味よ」
「下着に色々出るっていうわね」
「派手な下着だとっていうわね」
「やっぱり派手な娘ってね、根っからの」
「そうなるのね」
 母に応えた。
「じゃあ下着が地味で清潔系なら」
「その上の服装が派手でもね」
 それでもとだ、母も答えた。
「やっぱり根はってなるわ」
「お姉ちゃんあれで男遊びとかしないし」
「それで麻薬とかもなのね」
「絶対にしないしアルバイトも真面目にして」
 アイスクリーム屋でのそれもというのだ。
「今度ゴールデンウィークでも時間があったら」
「一緒に遊ぶのね」
「そうお話してるし」
「まあね、愛ちゃんはお母さん達が思っている以上に真面目ね」
「だからファッションだけで」 
 愛が派手なのはというのだ。
「別にね」
「中身はなのね」
「真面目だから」
 それでというのだ。 

 

第十五話 慣れてきてその十二

「安心してね。遊びもカラオケとかだしね」
「カラオケね」
「そこで歌ってお酒飲んで」
「そうしたことだけね」
「他にはゲームセンター行ったり」
「それ位ならいいわ」
 母はここまで聞いて述べた。
「お母さんも」
「それじゃあね」
「いいわ、ただね」
「ただ?」
「愛ちゃんはやっぱりね」
 少しやれやれとなりつつ述べた。
「もっとファッションが真面目だったら」
「よかったっていうのね」
「お母さんもお父さんもどうかってなってないわよ」
「人は外見じゃないって言ってるのに」
「それでも派手過ぎだからね」
 そのファッションがというのだ。
「やっぱり思うのよ」
「偏見は駄目でも。それに親戚なのに」
「けれど色々思うことはね」
 このことはというと。
「あるのよ」
「そういうことね」
「そう、けれど今のあんたのお話でね」
「お姉ちゃんへの認識変わった?」
「ただ派手なだけじゃないのね。ゴールデンウィーク愛ちゃんと遊ぶ時は」
 その時のことも話した。
「愛ちゃんと一緒にね」
「楽しんでくればいいわね」
「愛ちゃんと一緒に遊んで」
 そうしてというのだ。
「遊び方を教わるのもいいわ」
「遊び方っていうのもあるの」
「あるわよ、遊んでも楽しんで」
 そうしてというのだ。
「溺れないことよ」
「溺れる?」
「そうしたことも教わったらいいわ」
 愛、彼女からというのだ。
「いいわね。じゃあ晩ご飯をね」
「今からね」
「カレー作ったから」
 夕食はそれでというのだ。
「今から温まめるわ」
「ええ、じゃあね」
「食べましょう」
「うん、それで何カレーなの?」
「シーフードカレーよ。あんたも好きでしょ」
「カレー自体好きだけれど」
 それでもとだ、咲は母に笑顔で応えた。
「シーフードカレーは特にね」
「だったらね」
「今から温めて」
「食べましょう」
 母はソファーから立った、そうしてだった。
 二人でカレーを食べた、そのカレーも実に美味かった。


第十五話   完


              2021・5・15 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその一

                第十六話  ゴールデンウィーク前に
 咲はこの日アルバイトを終えると休日なので時間があったので愛と渋谷のハチ公像の前で待ち合わせた、そして。
 愛と合流してまずはミスタードーナツに入った、そこで咲は愛に向かい合って紅茶とドーナツを楽しみつつ母が愛について言ったことをそのまま愛に話した。
「そういうことなの」
「そうなのね」
 愛は紅茶を飲みながら何でもないという顔で応えた。
「まあそういうことならね」
「いいの?結構酷いこと言ってるけれど」
「別にいいわ」
 その顔のまま答えた。
「私はね」
「そうなのね」
「おばさんとおじさんが私のファッションによく思ってないのは知ってたから」
「派手過ぎるって」
「実際派手だしね」 
 自覚はあった。
「だからね」
「別にいい」
「そう言われてもね」
 特にという返事だった。
「これといってね」
「そうなのね」
「ただ下着はね」
 このことは愛は店の他の客に聞かれない様に小声で話した。
「事実ね」
「お姉ちゃん白よね」
 咲もこう返した。
「そうよね」
「ええ、その色でないとね」
 白でないと、というのだ。
「私としてはね」
「駄目なのね」
「デザインもシンプルで。リボン位付いていてもいいけれど」
 それでもというのだ。
「フリルとかもなくで露出も普通な」
「そうした下着ね」
「スケスケとかティーバックとかね」 
 そうした派手と言われる下着はというのだ。
「もうね」
「駄目なのね」
「絶対にね」
 それこそという言葉だった。
「私はね」
「そうなのね」
「抵抗あるのよ」
 どうしてもという言葉だった。
「私としては」
「白以外の色も」
「まあピンクやベージュとかライトブルーならいいけれど」
「赤とか黒とか紫は」
「無理ね、そうした色は」
「似合うと思うのに」
「そう言われてもね」
 愛としてはというのだ。
「どうしてもね」
「駄目なのね」
「そうなのよ」
「それで白なのね」
「普通のデザインのね」
「ブラもショーツも」
「そうなの、高校時代体育の授業で着替えたら」
 咲にその時のことも話した。
「下着がシンプルで意外ってね」
「言われたの」
「クラスの皆にね」
「そうだったの」
「もう黒とかティーバックとかってね」
「思われていたのね」
「そうだったのよ、けれど私はね」 
 どうしてもというのだ。
「そうした下着はね」
「抵抗あるのよね」
「そうなの」
 愛は話を続けた。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその二

「それでよ」
「今も白なの」
「ブラもショーツもね」 
 上下共にというのだ。
「そうなの」
「私はそのこと最初から知ってるけれど」
「知らないと意外みたいね」
「そうね」
「それでお母さんもお父さんもね」
 この二人もというのだ。
「どうもね」
「私のそうしたところはなのね」
「知らなくて」
 それでというのだ。
「誤解しているみたい」
「まあね。誤解されていてもね」
「いいの?」
「おばさんとおじさんならそのうちね」
「わかってくれるっていうの」
「そう思ってるから」
 だからだというのだ。
「特にね」
「困っていないの」
「これといってね」
「そうなのね」
「それでそのわかってくれる時がね」
 誤解が解けてというのだ。
「来たってね」
「思ってるのね」
「ええ」
 その通りだというのだ。
「よかったわ」
「そうなのね、しかしね」
「しかし?」
「いや、私は好きでやってるけれど」
 そのファッションをだ、愛は明るく話した。見ればそのファッションは今もかなり派手なものである。
 それでだ、こう言ったのだった。
「今だってね」
「派手よね」
「スカートもブラウスもタイツもね」
「アクセサリーも付けて」
「メイクだってね」
 これもというのだ。
「そうだけれど」
「それでもなのね」
「下着は白だから」
 それでというのだ。
「いいってね」
「いうのね」
「下着は大事よ、生地によって着け心地も違うでしょ」
「いい生地なら落ち着くわ」
「そうでしょ、それでこれはっていう下着なら」
 愛は咲にさらに話した。
「私脱いでも凄いんですってね」
「そうしたなの」
「無言の自信も出て」
「いいの」
「堂々と出来るし」
 例え見せるものでなくともというのだ。
「そうなのよ」
「成程ね」
「それで私は下着は白でシンプルで清潔な」
「そうしたのなのね」
「けれど質のいいものはね」
 これはというのだ。
「選んでるわ」
「その脱いだら凄いね」
「それよ」
 まさにとだ、愛は咲に笑って話した。
「そうしてるのよ」
「そういうことね」
「そう、それで服が乱れてると心も乱れるってね」
「制服の乱れはっていうわね」
 咲はよく学校で言われているこの言葉をここで思い出した。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその三

「よく」
「その言葉逆の場合もあるって前に言ったでしょ」
「あっ、ヤクザ屋さんね」
「ヤクザ屋さんのあの外見はね」
「心がそのまま出てるのね」
「そう、それで私も多分ね」
 愛にしてもというのだ。
「ファッションは派手でもこれは好きで」
「それで下着は」
「私がまだね」
「根は真面目っていうのがなのね」
「出てると思うわ」
 実際にというのだ。
「私もね。逆に下着が派手なのに変わったら」
「その時はなの」
「もうね」
 それこそというのだ。
「私も変わったってことよ」
「そうなるの」
「先ちゃんは私以上に地味な下着ね」
 今度は彼女の話をしてきた。
「そうね」
「うん、中学の時みたいな」
「それでいいわよ」
「いいの」
「そう、全然ね」
 それはというのだ。
「咲ちゃんのいいものが出ていて」
「それでなの」
「全然なの」
「いいわよ、というか咲ちゃんも私もその辺りのドキュンが見に着けるみたいな」
「派手な下着だと」
「そういうの着けたらね」
 その時はというのだ。
「かなりまずいかもね」
「下着は大事なのね」
「前田慶次さんもそうでしょ」
 愛はここで安土桃山時代にその名を遺した傾奇者の名前を出した。
「あの人も下着、褌はね」
「白だったっていうわね」
「咲ちゃんも知ってたでしょ」
「そうみたいね」
「そう、それはね」
 まさにというのだ。
「前田慶次さんも傾奇者でね」
「物凄い派手な服装だったわね」
「そうだったけれど」
「違うのね」
「心はね」
「服装は派手でも」
「心はそうだったのよ」
 下着つまり褌が白だったことからわかる様にというのだ。
「本当にね」
「清廉潔白で真面目だったのね」
「あの人も筋は通っていたでしょ」
「ええ」
 伝え聞く前田慶次はとだ、咲も答えた。
「傾奇者でもね」
「傾奇者は傾く、突っ張っていて奇矯な振る舞いを行う」
「そうした人ね」
「中にはゴロツキもいたけれど」
 傾奇者の中にはというのだ。
「本物は違ったのよ」
「前田慶次さんは」
「あの人は本物だったのよ」
「本物の傾奇者ね」
「織田家の人だしね」
 織田信長のこの家だというのだ。
「織田信長さんも傾奇者でしょ」
「ええ、尾張の大うつけよね」
「有名でしょ」
「もう漫画とかでね」
 咲もそうした作品を読んできたので知っている、織田信長といえば吉法師だったその頃も有名である。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその四

「物凄い変わった服装で」
「街を練り歩いていたでしょ」
「あれが凄かったのよね」 
 咲は愛に言った。
「もう何あれって」
「尾張どころか他の国でも噂になって」
「うつけと評判で」
「これは将来駄目だってね」
「言われてたわね」
「けれどあれはね」 
 信長の若き日の奇矯な振る舞いはというのだ。
「傾いていたのよ」
「傾奇者だったのね」
「そう、派手な身なりでね」
「若様とは思えない身なりも」
「全部よ」
 まさにというのだ。
「傾いていたのよ」
「うつけでもなかったのね」
「そう、うつけじゃないって知ってるでしょ」
「物凄く頭切れたわね」
「信長さんも傾奇者だったのよ」
「それも本物の」
「だから洋服にマントとかね」 
 これは馬揃えの時の恰好だと言われている。
「そうした格好もね」
「したのね」
「そう、もうね」
 それこそというのだ。
「信長さんは本物の傾奇者でね」
「慶次さんもだったのね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「本物の傾奇者でね」
「下着は白だったのね」
「そこに心が出ていたのよ」
「つまりお姉ちゃんは前田慶次ね」
 咲はここまで聞いて腕を組んでこう言った。
「そうなのね」
「そうなるかしら」
「私はそう思ったけれど」
「下着は白だから」
「慶次さんも白でね」
 それでというのだ。
「同じだってね」
「思ったのね」
「ええ、そうだと思ったけれど」
「それはいいわね、私慶次さん好きだしね」
 愛は咲のその言葉に笑って返した。
「あの人みたいだったらね」
「嬉しいのね」
「そう、じゃあこれからも下着はね」
「白ね」
「上下共ね、というか白もね」
 この色の下着もというのだ。
「ぐっとくるみたいよ」
「ぐっとって誰が?」
「だから見た人、彼氏さんとかね」
「そうした人がなの」
「そうなるらしいから」  
 それでというのだ。
「いいのよ、黒もいいらしいけれど」
「白もなのね」
「同じ位いいらしいわ、まあ私黒はね」
 この色の下着はというと。
「持ってないし着けたこともないしこれからもね」
「買わないのね」
「多分ね、やっぱり私はね」
「白がいいのね」
「下着はね、けれどそれは私のことで」
 愛自身のことでというのだ。
「他の人がどんな下着でもね」
「いいの」
「人それぞれでしょ」
 こう言うのだった。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその五

「だからね」
「下着がどんなのでもなのね」
「いいわ」 
 これといってというのだ。
「正直言ってね」
「じゃあ私もなのね」
「好きな下着をね、けれどやっぱりね」
「下着に一番なのね」
「その人の個性が出ると思うわ」
 愛は自分の考えを述べた。
「やっぱりね」
「そうなのね」
「これも私の考えだけれどね」
「下着になのね」
「それで私が見たところ咲ちゃんはね」
 本人に対して話した。
「派手なファッションをしてもね」
「下着は地味だから」
「やっぱり根は真面目ね、というか堅物ね」
「そこまでなの」
「そう思うわ」
 こう言うのだった。
「私としてはね」
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「これからはわからないわ」
 咲を見て言った。
「咲ちゃんも変わるし」
「下着もなのね」
「そう、それでね」
「これから私がどうなるかなのね」
「そうよ、よく変わることもあれば」
「悪く変わることもあるのね」
「そうよ、全部ね」
 まさにというのだ。
「咲ちゃん次第なのよ」
「どうなるかは」
「私はやっぱりよくなって欲しいわ」
 従姉としての言葉だった、今のそれは。
「これからどんどんね」
「そうなのね、お姉ちゃんは」
「だから色々お話してるし」
「よくなる為に」
「悪い人や物事には注意する様にね」 
 まさにその様にというのだ。
「お話してるしね」
「いい方に変わる為ね」
「そうよ、今以上にね」
「今以上?」
「そう、今以上よ」 
 従妹に笑って話した。
「そうなって欲しいのよ」
「ってことは今の私もいいの」
「ええ、けれど最高とか最良とか完璧ってないのよ」
「完璧もないの」
「そうなの、よくなることに際限はないのよ」
「じゃあ人は何処までもよくなるのね」
「仏教でも言ってるわよ」
 愛はここで宗教の話も入れた。
「悟りを開いてもまだ先があるのよ」
「悟り開いて終わりじゃないの」
「そう思うでしょ」
 愛は咲に思わせ振りに笑って話した。
「悟りを開いたらもうね」
「それが仏教の目的よね」
「そうよ、六道の輪廻とかそうしたしがらみを越える」
「それが仏教よね」
「ええ、けれどね」 
 それでもとだ、咲にさらに話した。
「まだあるのよ」
「悟りを開いても」
「そう、まだね」
「あるのね」
「仏教の菩薩さんや如来さんはまだ修行してるでしょ」
 こうした仏達の話もした。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその六

「仏様だからもう悟りは開いてるわよ」
「そういえば」
 咲もそう言われてある話を思い出した、それで愛に対してその話をした。
「弥勒菩薩がね」
「修行してるでしょ」
「五十六億七千万後に全ての人を救う為に」
「そうでしょ、まだあるから」
「悟りを開いても」
「そう、まだね」
「あるのね」 
 咲は愛に途方もない様なものを身る目で述べた、事実彼女はそこにとても見えない様なものを見ていた。それが何かは言葉がなかった。
「そうなのね」
「弥勒菩薩でわかるでしょ」
「そう言われるとね」
「だからよ」
「仏様もそうで」
「何処までもよくなるのよ」
 こう咲に話した。
「人はね、そして世の中もね」
「何処までもよくなるのね」
「完璧ってなくて」
 それでというのだ。
「どんどんね」
「よくなっていくのね」
「宇宙みたいなものよ」
 愛はここでさらに言った。
「要するに」
「宇宙となの」
「宇宙には限りがあるけれど」
 それでもというのだ。
「その限りわからないでしょ」
「ちょっとね」
 それはという返事だった。
「流石に」
「そうでしょ、その宇宙に出る様なものよ」
「上がないのね」
「お空を出ても宇宙に出て」
 そうしてというのだ。
「さらによ」
「先があるってことね」
「そうよ、だから咲ちゃんもね」
「どんどんよくなるのね」
「そういうことなの。だから努力して悪い方には行かない様に注意して」
「よくなっていくことね」
「今以上にね」
「そうするわ」
 咲は愛に強い声で頷いた。
「これからは」
「そうしてね」
「ええ、私も頑張るわ」
 誓いもした。
「これからね」
「そうしてね。それで幸せになってね」
「いい人になれば幸せになれるの」
「というか何でもいいことだって思える様になるのかしら」
 いい人ならというのだ。
「そうなるのかしらね」
「いい人は何でもいいことって思えるのね」
「そうかもね、不平不満ばかりの人って人としての徳がないしね」
「徳がないから不平不満ばかり言うのね」
「誰だって思うところはあるわよ」
 それ自体はというのだ。
「やっぱりね、けれどね」
「その不平不満をどうするか」
「不平不満だけじゃなくて」
 愛は強い声で言った。
「そこからその不平不満を解決することよ」
「その為にどうするかなのね」
「努力してね、それがいい努力なら」
 それならというのだ。
「自分を磨けてね」
「徳を高められるのね」
「それならね」
「不平不満を感じても」
 それでもというのだ。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその七

「いいのよ、おかしいとか違うと思うことは普通よ」
「普通なの」
「人間は感情があるから」
 それ故にというのだ。
「それがあるからね」
「だからなのね」
「そうも感じるわ、そしてそう思うなら」
「その不平不満を解消する為に」
「努力することよ」
 このことが大事だというのだ。
「そうすればいいのよ」
「自分以外のことでも」
「政治が悪いなら」
 愛は例えも出した。
「自分が選挙に出るか」
「政治家になるか」
「それをしてくれそうな政治家に投票する」
「そうすればいいの」
「例えば税金が安くなって欲しいなら」
 税金が高いと不満があればというのだ。
「減税を公約に挙げている政治家にね」
「投票すればいいのね」
「そう、あと日本全体をどうにかしたいなら」
 それならというのだ。
「それが出来る政策を出せる様勉強してね」
「出せばいいのね」
「そうなの」
 まさにというのだ。
「そうればいいの」
「そうなの」
 まさにというのだ。
「こうしたことも努力よ、成績が悪いなら」
「学校の」
「それが不満なら勉強してね」
 その様にしてというのだ。
「成績上げればいいのよ」
「そういうことね」
「太ってたり痩せてるなら」
 愛はこの場合も話した。
「ダイエットしてもいいし、食べてね」
「太ればいいの」
「あまり瘦せ過ぎてもよくないでしょ」
「それね、私は体重気にしてないけれど」
 今の体重で満足している、体重測定でもう二キロはあってもいい位だと言われたことがある位である。
「痩せ過ぎてるとかえってっていうわね」
「体力がね」
「なくなるのね」
「そうよ、それで太りたくてもね」
「努力すればいいの」
「その場合もね、兎に角ね」
 愛は咲にさらに話した。
「努力すればいいのよ」
「不平不満があれば」
「それだけよ、無理と思っても諦めないで」
 そしてというのだ。
「やっていけばいいのよ」
「努力こそ大事なのね」
「何でもね、私にしても今努力しているつもりよ」
 愛も言ってきた。
「大学の勉強もアルバイトもお洒落も」
「全部なの」
「あとカラオケもね」
 遊びのこともというのだ。
「歌唱力上げる為にね」
「頑張ってるの」
「そうなの、だからゴールデンウィーク咲ちゃんと一緒に遊びに行くでしょ」
「約束してるわね」
「その時行こう」
「カラオケに」
「そうしよう。東京はカラオケ行っても安いし」
 所謂田舎だと高い場合がままにしてある。
「だからね」
「思いきり歌うのね」
「そして」
 そのうえでというのだ。
「今以上にね」
「歌も上手になるのね」
「そのつもりよ」 
 咲にその気持ちも話した。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその八

「咲ちゃんみたいに上手くなるわよ」
「私歌上手?」
「上手よ」
 その返事は一言だった。
「かなりね」
「そうだったの」
「自信持っていいわよ」
 咲に笑って話した。
「咲ちゃん歌上手よ」
「そうなの」
「だからもっと歌えばね」
「もっと上手になるのね」
「歌えば歌うだけね、それで私もね」
「努力してるのね」
「歌ってね」
 カラオケボックスでそうしてというのだ。
「そうしてるのよ」
「そうなのね」
「そう、だから負けないから」
 また先に笑って話した。
「いいわね」
「私になの」
「そう、今度新曲も練習してるから」
「誰の新曲?」
「AKBのね」
 アイドルグループの曲をというのだ。
「それをね」
「そうなの」
「そう、乃木坂もHKTもNMBもね」
「凝ってるわね」
「やっぱりアイドルの曲がね」 
 それがというのだ。
「歌いたいでしょ」
「新曲ね」
「そしてアニソンね」
 このジャンルの歌もというのだ。
「こちらもね」
「新曲勉強してるの」
「今クールのね」
「早速なのね」
「出たら」
 カラオケにというのだ。
「もうね」
「歌うのね」
「そうするわ」
 咲に強い声で答えた。
「そうするわ」
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「アニソンも最近多いから」
「というか多過ぎよね」
 咲は真面目な声で応えた。
「言われてみると」
「そうでしょ」
「アニメ自体が一クール何十作とあるから」
「それだけオープニングとエンディングあるでしょ」
「アニメは一クールで一曲だしね」
「特撮だと一年だけれどね」 
 愛はこちらのジャンルの作品の話もした。
「それがね」
「アニメだと一クールだから」
「それが何十作よ」
「無茶苦茶多くなるのも当然ね」
「しかも声優さんが歌う曲もあるでしょ」
「オープニング以外にもね」
「エンディングだってね」
 こちらの曲の話もした。
「あるから」
「カラオケにある曲だけでもね」
「もう相当に多いから」
「歌うのも困るわね」
「そうなのよね」
「多過ぎても」
 咲はたまりかねた様に言った。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその九

「困るわね」
「そうよね」
「気に入った曲だけ歌う」
「それでも多いのよね」
「アニソンもね」
「しかも名曲多いでしょ」
「無茶苦茶多いのよね」
 まさにとだ、咲は愛にまた応えた。
「これが」
「アニソン侮れずよ」
「昔のもそうで」
「今だってね、私スパロボに出て来るみたいなね、いや」
 愛は自分の言葉を訂正した、そのうえで咲に話した。
「出て来た作品の曲がこれまたね」
「凄くいいわね」
「昔の曲も今の曲も」
「どっちも」
「そうなの、それで今歌えるアニソン三百あるかも」
「三百全部一度には歌えないわね」
「まあ五十曲歌えたら」
 愛は笑って言った。
「いいわね」
「いや、それだけ歌ったら喉痛くない?」
 五十曲と聞いてだ、咲はどうかという顔になった。そのうえで愛に話した。表情が独特なものになっていた。
「流石に」
「そうね、歌えたらね」
 五十曲はとだ、愛もそれはとなった。
「かなりね」
「一人で五十曲歌っても」
「相当ね」
「普通に三時間かかる?」
「速くしてもかかるわね」
 一曲一曲そうしてもというのだ。
「普通に」
「そうよね」
「やっぱり五十局は無理ね」
「そうね」
「まあそれでもある程度歌う」
「三百曲の中から」
「そうしましょう、アイドルの曲もで」
 そしてというのだ。
「アニソンもね」
「歌うのね」
「それとね」  
 愛は真剣な顔でこうも言った。
「演歌もね」
「いいの」
「そうなの」 
 これがというのだ。
「味があるのよ」
「演歌ね」
 咲は演歌については考える顔で答えた。
「私演歌はね」
「歌わないの」
「歌おうと思ったこともね」 
 その時点でというのだ。
「ないわ」
「そうなのね、けれどね」
「演歌もいいの」
「そうなの」
 実際にというのだ。
「だから一度歌ってみたら?」
「私もなの」
「一曲や二曲ね、あとクラシックもね」
 こちらのジャンルもというのだ。
「いいのよ」
「クラシックなの」
「そう、こちらもね」
「クラシックってシューベルト?」
「歌劇よ」
 こちらだというのだ。
「それの曲がね」
「いいの」
「そうよ、だから機会があればね」
 その時にというのだ。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその十

「歌えばいいわ」
「私も」
「これも名曲が多いから」
 それでというのだ。
「咲ちゃんもチャレンジしてね」
「それじゃあね」
「色々な曲があるから」
 それ故にというのだ。
「歌いましょう」
「そうね」
 咲も頷いて応えた。
「これからはね」
「ええ、それでその時はお酒もね」
 これもというのだ。
「楽しみましょう」
「やっぱり飲むのね」
「世の中お酒がないとね」
 愛は酒についても明るく話した。
「駄目よ」
「お酒好きだから言うのよね」
「こうもね、咲ちゃんもでしょ」
「高校生だからおおっぴらには飲めないけれど」
 それでもとだ、咲も答えた。
「お家じゃね」
「飲んでるでしょ」
「実はね」
「だからよ」
 それでというのだ。
「カラオケに行ったらね」
「お酒もなのね」
「楽しむわ、それで咲ちゃんも」
「内緒で?」
「飲んだらね」
 そうしたらというのだ。
「いいわよ」
「そうなのね」
「そう、そしてね」 
 そのうえでというのだ。
「一緒に楽しみましょう」
「お酒も」
「お店の人にも内緒でね、私が注文するから」
 酒はというのだ。
「二人で歌ってね」
「飲むのね」
「そうしていきましょう」
「それじゃあね」
「兎に角東京はカラオケボックス安いから」
「それで飲み放題のお店も多いわね」
「このことは助かるわ」
 カラオケ好きとしてはというのだ。
「何といってもね、これ神奈川や千葉もだけれどね」
「関東はそうなのね」
「人が多いとよ、大阪でもみたいよ」
 関西一の都市であるこの街もというのだ。
「人が多くてどんどん入るからね」
「それで採算取れるから」
「安いのよ」
「それで田舎だとなのね」
「人が少ないから」
 それで客も少なく、というのだ。
「だからね」
「料金高いのね」
「関東全体で人口数千万でしょ」
「東京で千二百万ね」
「それだけいるから」
 だからだというのだ。
「カラオケボックスに入る人も」
「多くて」
「採算取れるのよ、繁華街にあったら」
 店がというのだ。
「そうしたらね」
「どんどんお客さんが入って」
「充分採算が取れるから」
 それでというのだ。
「いいのよ」
「そういうことね」
「採算が取れたらね」
 それで店が経営出来て従業員達の生活が成り立つならというのだ。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその十一

「安くてもいいのよ」
「あくまでやっていけたら」
「新宿でビル単位の巨大なお店でもね」
「あるわね、実際に」
 咲もそうした店は知っていて応えた。
「あそこには」
「そうでしょ、安くてもね」
「ああしたお店もなのね」
「お客さんが多いなら」
 それならというのだ。
「ビル単位で十階位まであってエレベーターで移動するところでも」
「やっていけるのね」
「そうよ」
 実際にというのだ。
「やっていけるのよ」
「採算が大事ね」
「それが全てよ」
 まさにという言葉だった。
「若しそれが無理なら」
「お店もなの」
「高くしないとね」
「やっていけないのね」
「そう、日本は資本主義でしょ」
「資本主義だとなのね」
「採算が取れないと」
 それならというのだ。
「もうね」
「お店もやっていけない」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「それはもう絶対よ」
「それが嫌なら共産主義ね」
「そう、最悪ね」
 共産主義となってだ、愛は言った。
「北朝鮮よ」
「最悪の最悪ね」
「あくまでそうだけれど」 
 それでもというのだ。
「あそこも一応ね」
「共産主義だから」
「私も言うのよ」
 今そうしているというのだ。
「そうよ」
「そうなのね」
「あんな国にいたくないでしょ」
「何があってもね」 
 これが咲の返事だった。
「一番いたくない国よ」
「私もよ」
 それは愛もだった。
「だから例えに出したのよ」
「最悪だって」
「そうなのよ」
 その様にというのだ。
「最悪のケースとしてね」
「共産主義の中でも」
「違うかも知れないけれど」
「知れないっていうと」
「だから北朝鮮は共産主義国家でもないってね」
「そういえば」
 愛にそう言われてだ、咲も言った。
「あの国世襲だしね」
「国家元首そうでしょ」
「将軍様がね」
「しかも階級あるから」
「共産主義って世襲も階級もないわよね」
「平等が絶対の建前よ」 
 建前ではあるがとだ、愛はさらに話した。
「それで何だかんだで建前って大事なのよ」
「事実は違っていても」
「そう、明確に世襲で階級を公言して定めているなんて」
 そうした国はというのだ。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその十二

「もうね」
「共産主義かどうか」
「違うって思うのよ」
「そう言われると」
 咲も思った。
「あの国はね」
「共産主義でもないでしょ」
「そうね」
 従姉のその指摘に頷いた。
「また別の国ね」
「封建主義でしょ」
「そうした国ね」
「今時珍しいね」
「二十一世紀なのに」
「しかも神権政治よ」
「将軍様が神様の」
「そうしたね」
 まさにというのだ。
「とんでもない位の」
「神権政治も共産主義にないわね」
「そのことからも考えてね」
「北朝鮮は共産主義国家じゃないのね」
「今咲ちゃんと話して確信したわ、あの国絶対に共産主義じゃないわ」
 例えで共産主義でも最悪の国として出したがというのだ。
「神権政治で収めてる封建国家よ」
「今時珍しい」
「しかも中が滅茶苦茶なね」
「食べるものがなくて軍隊ばかり強い」
「そんなね、将軍様だけ贅沢三昧の」
 国民は餓えていてというのだ。
「漫画の悪役みたいな国ね」
「漫画ね、確かにね」
「有り得ないからね」
「絵に描いた様な悪役国家ね」
「だから共産主義ですらね」
「ない国ね」
「だから取り消すわね、まあ兎に角採算が取れるかどうか」
 このことはというのだ。
「かなりね」
「大事なことね」
「お店やっていくうえでね」
「そうなのね」
「採算が取れないなら」
 それこそというのだ。
「お店潰れるからね」
「やっぱりそうよね」
「どれだけ品揃えがよくて店員さんのサービスよくて場所もよくて安くても」 
 それでもというのだ。
「採算が取れないとね」
「お店潰れるのね」
「それで生きることもよ」
 店の収益で生活の糧を得てというのだ。
「出来ないわよ」
「それが今の日本ね」
「そしてそうした仕組みが嫌ならね」
「共産主義ね」
「何とか金融道とか何とかガンボね」
「あっ、私どっちも大嫌いだから」
 先は愛が今言った二作品がどういった作品か瞬時に察して答えた。
「キャラも世界観もストーリーも主張も絵も」
「全部嫌いね」
「汚いから」
 まさに全否定の言葉だった。
「何もかもがね」
「だからなのね」
「どっちもちらっと読んだけれど」
 それでもというのだ。
「もう二度とね」
「読みたくないのね」
「変な考えの人が捻くれて描いたみたいだから」
 そうした漫画だからだというのだ。
「読まないわ」
「この二作駄目ならよ」
 それならとだ、愛は答えた。 

 

第十六話 ゴールデンウィーク前にその十三

「共産主義は駄目ね」
「そうなの」
「それじゃあ採算は当然としてね」
「考えてなのね」
「生きていかないとね」
「そういうことね」
「それで東京のカラオケの料金が安いのはね」
 再びこちらの話をするのだった。
「そうした理由からよ」
「人が多くて大勢のお客さんが入るから」
「お店に入る人が多いからよ」
 まさにその為にというのだ。
「だからなのよ」
「やっていけるのね」
「東京は土地代とか高いけれどね」 
 それでもというのだ。
「やっていけるの」
「そういうことね」
「現実はそうなのよ」
「採算次第ね」
「お店はね、逆に言えばね」
 咲はこうも言った。
「採算が取れてお店がやっていけたらどんな無茶してもね」
「いいのね」
「そうよ」
 咲にこの現実の話もした。
「ヤクザ屋さんがやっていてもね」
「いいの」
「極端に言えば売れたもの勝ちよ」
 こうもだ、愛は言った。
「お店っていうのは、まあそれでも信頼がないとね」 
「お店潰れるわね」
「採算が取れていてもヤクザ屋さんがやってるお店に行きたい?」 
 愛は咲に真顔で問うた。
「咲ちゃんは」
「いえ、絶対にね」
 それはとだ、咲も首を横に振って答えた。
「嫌よ」
「そうよね」
「信頼のないお店は採算が取れていてもね」 
 今はそうでもというのだ。
「そのうち潰れるわ」
「そうなるのね」
「信頼も大事よ、信頼がないならね」
「お店潰れるわね」
「そうなるわ」 
 愛は断言した。
「そうしたお店はね、そのことも覚えておいてね」
「わかったわ」
 咲は愛の言葉に頷いた、そうしてゴールデンウィークに一緒に遊びに行くことの話をさらにした、もう心はそちらに向かいはじめていた。


第十六話   完


                2021・5・23 

 

第十七話 裏側のことその一

               第十七話  裏側のこと
 咲はこの時自分の家の中でモコを見ていた、今モコは遊ぶ時間なのでケージの外に出ておもちゃで遊んでいる。
 その彼女を見つつビールを飲んでいる父に尋ねた。
「モコの親どうしてるの?」
「どうしてるって今も家で暮らしてるよ」 
 父はあっさりと答えた。
「飼い主さんの家でな」
「そうなのね」
「そうだよ、モコだって生きものだからな」
 それでというのだ。
「親がいるぞ」
「生きものだったらね」
「ああ、絶対にな」
「機械じゃないから」
「ちゃんとな」
「お父さんとお母さんがいるのね」
「それこそ何もなくて生まれるなんてな」
 父はビールを飲みつつ言った。
「絶対にないからな」
「生きものならなのね」
「植物だって種があってな」
「そうよね」
「だからモコだってな」
「お父さんとお母さんがいるのね」
「人間と同じだよ」
 親がいることはというのだ。
「キリストさんだってマリアさんがいるだろ」
「それでお父さんもね」
「ヨセフさんな」
「何か神様が宿したのよね」
「けれどマリアさんの旦那さんだからな」 
 ヨセフはというのだ。
「だから神様が宿していてもな」
「キリストさんにもお父さんとお母さんがいるのね」
「そうだよ、モコにも親がいてな」
「今も元気ね」
「ペットショップの犬や猫だってそうだぞ」
 父はつまみの柿ピーナッツも口の中に入れた、そしてそれを齧りながらそのうえで娘にさらに話した。
「ただそこに売られてるんじゃないんだ」
「お父さんとお母さんいるのね」
「ちゃんとな、それで買ったらな」
 ペットショップでというのだ。
「一生大事にしないとな」
「いけないわね」
「ただな」
 ここでだ、父は。
 一旦テレビを見ている母に顔を向けてそのうえで問うた。
「母さん、ペットショップの話していいか」
「あのこと?」
「咲にな、いいか」
「もう知っておいていいと思うわ」
 母の返事は真剣なものだった、父に向けた顔もそうだった。
「咲も高校生だし」
「そうだな、じゃあな」
「?随分深刻なこと?」
 先は両親の様子が一変したのを見てこのことを察した。
「ひょっとして」
「かなりな、店によるけれどな」
 父も真剣な顔で咲に語った。
「悪質な店もあってな」
「そうしたお店だとなの」
「店の裏とか工場で犬や猫を産ませてるんだ」
「?産ませるって」
「だから店で売ってる犬や猫をな」
 その彼等をというのだ。
「産ませるだけの犬や猫がいるんだ」
「えっ、産ませるだけって」
「ケージにずっと入れて出さないで餌だけやってな」
「ブラッシングとかおトイレは?」
「ずっとそこだ」
 父は今度は苦い顔と声で述べた。
 

 

第十七話 裏側のことその二

「ブラッシングはしないし爪は切らないしな、トイレもな」
「ケージの中なの」
「ああ、取り換えるなんてしなくてな」
「それじゃあ」
「わかるな、もう完全にもの扱いでな」
「子犬や子猫産むだけなの」
「それでもう産めなくなったらな」
 父はその時のことも話した。
「業者が引き取るが」
「碌な業者じゃないわよね」
「闇に近いな」
 その筋にというのだ。
「そうしたのに引き渡して終わりだ」
「殺処分?」
「そうだな、山奥の小屋で死ぬまでほったらかしだ」
「餓死なの」
「そんなのだ、売れ残った子犬や子猫も同じだ」 
 彼等もというのだ。
「そうなるからな」
「酷いわね」
「ヤクザ屋さんが関わってるって話もある」
「ヤクザ屋さんがなの」
「色々とな」
「覚醒剤とか銃とかだけじゃないの」
「金になるならな」
 それならというのだ。
「もう何でもな」
「するのね」
「それがヤクザ屋さんでな」
「ペット業界にも関わっているの」
「ああ」
 そうだとだ、父は咲に話した。
「そうなんだ」
「何でもね」
 母も言って来た。
「ブリーダーの人でもいるらしいのよ
「ヤクザ屋さんが」
「入れ墨入れた様な人がね」
「動物好きの人がやってるんじゃないの」
「そうした人も多いけれど」
「ヤクザ屋さんもいるの」
「世の中いい人も悪い人もいるんだ」
 父がまた言ってきた。
「どんな場所でもな」
「ペットの世界でもなの」
「特に命を預かってお金にもなるからな」
 それ故にというのだ。
「そうした人が関わっていたりお店の裏でな」
「そうしたこともあるの」
「そうだ、それで飼い主もなんだ」
 穏やかだが強い言葉だった。
「うちみたいな家、もっといい家があってな」
「酷い家もあるのね」
「虐待する家や捨てる家もあるだろ」
「あるわね」
 そうした話は咲も聞いていた、それで父に暗い顔で答えた。
「実際に」
「折角飼ったのに捨てるとかな」
「何で捨てるのかしら」
 咲は顔を曇らせて首を捻った。
「わからないわ」
「理由は色々だけれど酷い理由もあるんだ」
 捨てる理由、その中にはというのだ。
「飽きたりしてな」
「飽きたって」
「あと自分達の子供が出来て興味がそっちに行ってな」
「捨てるの」
「新しいおもちゃが手に入ってな」
 自分達の子供がそれだというのだ。
「それでなんだ」
「捨てるのね」
「ケージの中に入れたままで無視する様になったらな」
「だったら最初から飼わなければいいでしょ」
 咲は怒って言った。 

 

第十七話 裏側のことその三

「そんなことして捨てるなら」
「お父さんもそう思うけれどな」
「世の中そんな人もいるのね」
「ああ、それでこんな手合いは次の子供が産まれたらな」
「最初の子供は無視するのね」
「そうするんだ、出来のいい子の方を可愛がったりしてな」
「子供も贔屓するのね」
 咲は余計に嫌そうな顔になった。
「それはね」
「酷いことだな」
「ええ、子供は公平にでしょ」
「育てないと駄目だな」
「邪険にされる子が可哀想よ」
「そう思うから咲はいいんだ」
 父はここでは微笑んで述べた。
「そのままでいてくれ、けれどそうじゃない人もいてな」
「子供が何人かいたら贔屓する子がいたり」
「生きものもな」
「捨てるのね」
「そうした人もいるんだ」
「最初から飼ったら駄目な人達も」
「そうだ、それでお店やブリーダーの人でもな」
 そうしたところでもというのだ。
「碌でもない人がいるんだ」
「ヤクザ屋さんとか命を何とも思っていない人が」
「そうだ」
 まさにというのだ。
「いるんだ、それでな」
「そうした人達がいて酷いことをしている」
「そのこともな」
「覚えておかないといけないのね」
「そうしてくれ」 
 娘のその顔を見て言った。
「いいな」
「わかったわ」
 咲も強い声で頷いた。
「私絶対に忘れないわ」
「モコも大事にするな」
「当り前よ」
 当然、そうした返事だった。
「モコは家族でしょ」
「そうだな」
「だったらね」 
 それならというのだ。
「何があってもよ」
「それでいいんだ」
 まさにとだ、父は咲に言った。
「だからな」
「ええ、これからもね」
「モコを大事にして他の子もな」
「大事にすることね」
「そしてペット業界のこうした話もな」
「覚えておくことね」
「そうしてくれたらお父さんも嬉しい」
 こうも言うのだった。
「忘れないでくれ」
「絶対にね」
「そうしてくれ」
「お母さんもそう言うわ」
 母がまた行ってきた。
「命のことだから」
「覚えておくことね」
「そうしておいてね」
「そうしていくわね」
「そしてね」
 それでというのだ。
「若しそうしたところに就職するなら」
「それなら」
「そうよ、そうしたお店やブリーダーの人にはね」
「入らないしならない」
「そうしてね」
 絶対にという言葉だった。
 

 

第十七話 裏側のことその四

「いいわね」
「ヤクザ屋さんか同じレベルの人達だから」
「そう、関わったら駄目よ」
「最初からなのね」
「碌でもない人とはお付き合いしないことよ」
 やはり絶対にと言うのだった。
「最初からね」
「それがいいのね」
「命を平気で粗末にする人は更正もまずないわ」
「どうしようもないってことね」
「そう、人間でなくなって」
 そうしてというのだ。
「餓鬼にまでなったらね」
「どうしようもないから」
「餓鬼とは付き合わない」
 最初からというのだ。
「いいわね」
「餓鬼になるとどうしようもない」
「そうそうなことでは救われないから」
「母さんの言う通りだからな」
 父は残念そうに述べた。
「人間堕ちてな」
「餓鬼にまでなるとなのね」
「鬼畜って言うわね」
 母はこの言葉も出した。
「鬼はそのままで畜は畜生つまり生きものよ」
「鬼や生きものみたいっていうの」
「その下にあるのが餓鬼なのよ」
「餓鬼も鬼よね」
 咲は漢字から言った。餓鬼の中にある『鬼』という文字に反応したのだ。それで餓鬼も鬼ではというのだ。
「違うの?」
「もっと下よ、ここで言う鬼は咲が知ってる鬼よ」
「童話とかに出て来る」
「そう、あの怖いね」
「鬼って怖い、残酷、非道って言うわね」
「悪いイコール鬼ね」
 まさにそれだというのだ。
「それで生きものと言っても獣だとね」
「怖いイメージあるわね」
「そうした意味なの。温もりとかを知らない非道な人がね」
「鬼畜ね」
「そこにさらに浅ましさとか卑しさが加わったのが」
 そうした輩がというのだ。
「餓鬼なのよ。鬼や生きものだって心をあらためたら仏様にもなれるわ」
「鬼でもなのね」
「実は元ヤクザ屋さんのお坊さんもいるわよ」
「心をあらためてなのね」
「更正した人よ。けれどこうした人達はね」
「まだいいのね」
「鬼畜までなら何とかなるのよ」
 更正が可能だというのだ。
「けれど餓鬼までになるとね」
「更正しないのね」
「誰が何を言っても更正しないし反省も成長もしないの」
「だからどうしようもないのね」
「もうこうした人とは付き合ったら駄目よ」
「それでそんな人が生きものに酷いことするのね」
「そうなの」
 その通りだというのだ。
「下手をすれば引き込まれるわよ」
「だから絶対に近寄らない」
「ペットショップで働いても」
 例えそうしてもというのだ。
「絶対にそうしたお店では働かないことよ」
「生きものを大事にするお店でなのね」
「働くのよ」
「そこは絶対になのね」
「そうしなさい、いいわね」
「わかったわ、モコを見ても」
 ここで咲はまたモコを見た、そうして言った。 

 

第十七話 裏側のことその五

「やっぱりね」
「大事にしないといけないって思うでしょ」
「家族だし命があるんだから」
「当然心だってあるわよ」
「だったら大事によね」
「接するのよ」
「ペットショップで働いても」
「将来ね、本当にヤクザ屋さんも関わっているから」
 母はこのことをまた言った。
「余計によ」
「ああしたところにまで関わってるなんて」
「思わなかったわね」
「全くね」
 心からとだ、咲はまた答えた。
「想像もしなかったわ」
「だからお金になりそうで警察の手が及ばないところだとね」
「ヤクザ屋さんは関わるのね」
「手を伸ばしてくるのよ」
 闇の中からそうしてくる様にとだ、母は娘にそうした口調で話した。これは彼女が実際に思ってい折るからこうした風に言ったのだ。
「それでね」
「悪いことをして」
「お金を儲けるの」
「可愛いワンちゃんや猫ちゃんを利用して」
「そうするのよ」
「酷いわね」
「それで酷い飼い主もいるから」
 飼う、買う方にも問題があるというのだ。
「平気で捨てる人がね」
「そうした人も餓鬼かしら」
「そうよ」
 返事はその通りというものだった。
「まさによ」
「そうした人も餓鬼なのね」
「死んだら本当によ」 
 その時はというのだ。
「餓鬼になるのよ」
「その時は」
「そう、心が餓鬼になっていれば」
「死んだら身体も餓鬼になるのね」
「そうなるのよ」
「餓鬼って凄く苦しいのよね」 
 咲は眉を曇らせて述べた。
「そうよね」
「地獄じゃないけれど地獄にいるのと同じか」
「もっと?」
「そうかも知れないわね」
 そこまで苦しいというのだ。
「だっていつもね」
「餓えていて渇いていて」
「お腹の中も虫が一杯いて攻撃して来るから」
「いつも痛いのね」
「そうした風だから」
 それ故にというのだ。
「餓鬼になるとね」
「地獄に落ちるより辛いかも知れないのね」
「地獄もかなりだけれどね」
「何か一杯あるわよね」
 咲も地獄での責め苦については聞いている、少しでありその知識も断片的だが大きく分けて八つの地獄がありその八つの地獄もそれぞれ八つに分かれていることは知っている。
「針の山とかね」
「血の池もあるわね」
「鬼に切り刻まれたりね」
「燃やされたりするわね」
「ええ、凄いわね」
「その地獄よりもね」
 餓鬼になることはというのだ。
「若しかしたらね」
「辛いかも知れないのね」
「そうかも知れないわ」 
 こう娘に話した。
 

 

第十七話 裏側のことその六

「だから咲もね」
「餓鬼になっている人達には近寄らなくて」
「咲自身もよ」
「餓鬼にはならないことね」
「そのことは気をつけてね」
 娘の目を見てじっと見て告げた。
「いいわね」
「そうするわ」
 咲も答えた。
「それは怖いから」
「絶対にね」
「餓鬼になったらな」 
 父はここで遠い目になって述べた。
「本当にも助からないかもな」
「どうしようもないって言ったわね」
「父さんもそうした人は見てきた」
 生きながら餓鬼道に堕ちた輩はというのだ。
「国会でもいるしな」
「ひょっとして野党の」
「いるだろ、女の人達で」
「何かショートカットの人多いわね」
「八条グループは違うが組合にも多いみたいだな」
 労働組合にもというのだ。
「それで学校の先生にも」
「何か学校の先生って」
 咲も教師と聞いて察した。
「犯罪犯す人が」
「多いな」
「どうもね」
「そうした人達はな」
 どうにもというのだ。
「何かそうしたな」
「餓鬼道に堕ちた人が多いのね」
「野党の女の人達でよくテレビに出てくる顔を見るんだ」
「皆卑しそうね、男の偉い人達も」
「あれが餓鬼の顔なんだろうな」
「ああした顔の人には近寄らない」
「絶対にな」
 そうしろというのだ。
「そうした方がいいぞ、そして餓鬼はな」
「救われないって言ったけれど」
「餓鬼を救える人は相当以上に徳がある人でも難しいだろうな」
「徳があっても」
「相当以上にな」
「そうなの」
「何があっても恩義を感じないし反省しないあらためない人をどう更正させられる」 
 それはというのだ。
「そもそも」
「そう言われると」
「そうした人が餓鬼になるんだ」
「それで餓鬼を救えたら」
「もうな」
 それこそというのだ。
「その人は本物を遥かに超えたな」
「凄い人なの」
「仏様の域に達してこそな」
 まさにというのだ。
「出来るかもな」
「餓鬼を救うって本当に難しいのね」
「お父さんもこれまで鬼や畜生と言われた人も見て来たが」
「そうした人は救われたのね」
「まだな、しかし餓鬼になるとな」
「救われなかったのね」
「そんな人は一人も見なかった」
 それこそという言葉だった。
「悪魔と言われても救われた人もいたがな」
「餓鬼になるとなの」
「いないな」
「餓鬼は本当に酷い存在なのね」
 咲は父の話をここまで聞いて腕を組んだ、そうして真剣な顔になってそのうえで声もそうしたものにさせて言った。
「仏様でないと救われない」
「お母さんも餓鬼はそうだと思うわ」
 また母が言ってきた。 

 

第十七話 裏側のことその七

「仏様でもないとね」
「救われないの」
「そうかも知れないわ」
「だから餓鬼にはならないことね」
「絶対にね、だから気をつけてね」
「そうするわ、餓鬼にならない為には」
 どうすべきかともだ、咲は考えた。
「どうすればいいかしら」
「毎日真面目に生きて勉強して働いて」
 そうしてとだ、母は咲に話した。
「人を見て思いやりや優しさをね」
「持つことなの」
「それで人や本や世の中を見て学ぶ」
「そうすればいいの」
「そうすればね」
「餓鬼にならないのね」
「普通はね。流石に餓鬼にまでなるのはかえって難しいわ」
 そこまで堕落することはというのだ。
「普通に生きていれば」
「そこまでならないの」
「人は生きていれば経験積んで反省もして学んでもいくから」
「そこで自分を磨いていって」
「そこまで堕ちることはね」 
 流石にというのだ。
「ないわ」
「そうそうなのね」
「ならないものよ」
「そうなのね」
「ヤクザ屋さんみたいなものだから」
 そのレベルだというのだ。
「流石にそうはね」
「ならないのね」
「底を割った」
 そうしたというのだ。
「堕ち方だから」
「そうはならないのね」
「ええ、けれどなるから」
 そうはなるからというのだ。
「気をつけることはね」
「気をつけないといけないのね」
「そうよ」
 絶対にというのだ。
「いいわね」
「わかったわ」
 咲も頷いた、そして。
 咲はモコを見てそれでこうも言った。
「しかしね」
「しかし?」
「いえ、モコも若しも」
 モコを見つつ考えながら話した。
「そうした風になっていたかも知れないのね」
「繁殖犬とかよね」
「それで売れ残って」
 そうなってというのだ。
「とんでもないところに送られたり」
「捨てられたりもよね」
「なっていたかも知れないのね」
「そうよ、若しもね」
 それこそとだ、母は話した。
「そうなることはね」
「あるのね」
「そうよ、人だってね」
 犬に限らずというのだ。
「一歩間違えたらね」
「そうなるのね」
「そうよ、本当にね」
「そう思うと怖いわね」
「それも世の中なんだ」
 また父が言ってきた。
「一歩間違えたらな」
「不幸になったりするのね」
「そうだ、本当にちょっとした違いでな」
 それでというのだ。
「不幸になったりもするんだ」
「それが世の中ってことね」
「そこも怖いんだ」
 娘に真顔で話した。 

 

第十七話 裏側のことその八

「だからそうしたこともな」
「気をつけることね」
「そうだ、幸せと不幸せはちょっとした違いでな」
「分かれるのね」
「それも世の中なんだ」
 こう娘に話した、そしてだった。
 父はここでだ、こうも言った。
「父さんもな、本当に転勤になりそうだしな」
「やっぱり埼玉嫌なのね」
「ああ」
 今回も真顔で言った。
「やっぱりな」
「そうなのね」
「埼玉はな」
 どうしてもというのだ。
「やっぱりな」
「本当に嫌なのね」
「馴染みがないからな」
 それ故にというのだ。
「やっぱりな」
「そんなに駄目?埼玉って」
 咲はどうかという顔で言った。
「別に北朝鮮じゃないでしょ」
「あの国はな」
 流石にとだ、父も答えた。
「流石にな」
「問題外よね」
「日本じゃないだろ」
 そもそもというのだ。
「大体」
「それはね」
 咲も否定しなかった。
「極端な例としてね」
「出したな」
「ええ、けれど行きたくないわよね」
「誰が行きたいんだ」
 こう娘に返した。
「一体」
「そうでしょ」
「あそこに行くならな」
「埼玉の方がよね」
「比べられるか」
 こう咲に返した。
「幾ら何でもね」
「食べものないしね」
「しかも言論の自由なんてないぞ」
「ちょっとしたことで」
「死ぬぞ」
 文字通りにというのだ。
「将軍様の粛清とかでな」
「もう気分次第で」
「実際にあそこ行った人で生きて帰るなんてな」
 それこそというのだ。
「出来るか」
「不可能よね」
「イリュージョンより難しいぞ」
 こうも言うのだった。
「それこそな」
「じゃあ埼玉ね」
「行く」
 返事は一言だった。
「というかあそこに転勤とかな」
「八条石油あそこに進出してないわね」
「グループ自体でな」
「そうよね」
「一応共産主義だからな」
「一応ね」
「何処が共産主義かな」
 それこそというのだ。
「わからないからな」
「お父さんにしても」
「封建主義にしかな」
「見えないから」
「一応な」
「あっちはそう言ってるわね」
「ああ、けれどな」 
 事象はそうだがというのだ。 

 

第十七話 裏側のことその九

「あそこはな」
「共産主義じゃなくて」
「封建主義にしか思えないからな」
「そう言うのね」
「そうだよ、それでも企業の活動はな」
 共産主義国家だからだというのだ。
「出来ないし日本との国交もないんだぞ」
「だから直接行けないのよね」
「船に乗ったり中国からは行けるがな」
「船ね」
「そうだ、言っておくがその船に乗ってな」
 父は咲に真顔で話した。
「生きて帰れなかった人が大勢いるんだ」
「帰国事業?」
「そうだ、それで北朝鮮に帰ってな」
 この事業は実際にあった、そして多くの人が北朝鮮に渡ってそして生き地獄の中で死んだのだ。生きて帰った者は一人もいない。
「もうわかるな」
「あんな国に行ったら」
 どうかとだ、咲も応えた。
「もうね」
「そういうことだ」
「わかりやすいわね」
「その話お母さんも知ってるわよ」
 母も娘にこの話について言ってきた。
「本当にね」
「生きて帰った人はいないのね」
「そうよ、そして帰国すれば地上の楽園と言った人は」
 多くの知識人や政治家、マスコミが関係している。
「一人も責任取ってないわよ」
「えっ、大勢の人が生きて帰っていないのに」
「そうよ」
 実際にというのだ。
「誰もね」
「責任取っていないのね」
「これも現実よ」
「酷い話ね」
「このことも酷いでしょ」
「ペットのお話も酷いけれど」
 それと同じだけとだ、咲は言った。
「充分以上にね」
「そうでしょ、このことも覚えておいて」
「ペットのことも餓鬼で」
 咲は両親との先程の会話を思い出しつつ言った。
「帰国事業のこともね」
「餓鬼でしょ」
「悪魔って言っていいかも」
 こうもだ、咲は言った。
「餓鬼って言うか」
「帰国事業のことね」
「ペットのこともね」
 これは帰国事業の話を聞いて最初に思いそれからペットのことが頭の中で結びついて思ったことだ。
「もうね」
「悪魔ね、そうかも知れないわね」
 母も真顔で否定しなかった。
「こんなことをして責任取ってなくてそれどころか色々他の人達に言ってるの」
「偉そうに?」
「そう、あれこれとね」
「そんなことして言うのね」
「他の人にね」
「キリスト教の悪魔って神様に敵対しているだけで」
 これはゲームで得た知識だ、そして漫画や小説でも学んだ。
「私から見ればね」
「悪くはないでしょ」
「けれどそうした人達はね」
「本物の悪ね」
「そうでしょ」
「ええ、悪は何かを考えたら」
 それはとだ、母も答えた。
「そうした人達こそがね」
「悪でしょ」
「ええ」
 娘のその言葉に頷いた。
「そう思うわ」
「そうだ、こうした連中はな」
 まさにとだ、父も言った。 

 

第十七話 裏側のことその十

「まさにな」
「悪でしょ」
「そうだ、ペットのことといいな」
「帰国事業のことも」
「悪だ」
 その通りだと娘に述べた。
「お父さんもそう思う」
「そうよね」
「こんな人達にもなるなよ」
「絶対によね」
「こうなったら地獄に落ちるぞ」
 それこそという言葉だった。
「それかだ」
「餓鬼になるわね」
「どちらかだ」
「地獄か餓鬼になるか」
「どちらも嫌だろ」
「それはね」
「餓鬼は地獄よりも辛いかも知れないが」
 父はさらに言った。
「それでもな」
「地獄に落ちることもね」
「嫌だな」
「ええ、しかしこうしたことは」
 先は暗い顔で述べた。
「絶対によね」
「そうだ、絶対にするな」
「人を地獄に送ることも」
「その後で知らん顔をすることもな」
「その口で偉そうに他の人にあれこれ言うことも」
「こんなことは恥知らずも極まっていないと出来ない」
 それこそというのだ。
「人間ですらなくならないとな」
「餓鬼ね」
「それか悪意の塊のな」
「そうした意味の悪魔ね」
「そこまでならないとな」
「出来ないのね」
「本当にそうなるな」
 絶対にというのだ。
「いいな」
「そうよね、そうなったらね」 
 咲も述べた。
「地獄に落ちてもね」
「当然だな」
「そうした人こそね」
「餓鬼になってな」
「地獄に落ちるわね」
「そうなるんだ」
 まさにというのだ。
「本当にな」
「そうよね」
「だからな」
「それでよね」
「注意してな」
 そうしてというのだ。
「そうはなれなくてもな」
「ならない様にするのね」
「そうするんだ」
「人間のままでいるわね」
 咲はここでこの言葉を出した。
「私も」
「そうするんだ」
「私もそうなるのは嫌だし」
「お前自身もだな」
「絶対にね」
 それはと言うのだった。
「何があってもね」
「そう思うならな」
「気をつけていって」
「そうした人とも交わらない」
「そうするんだ」
「それで自分を磨かないと駄目なのね」
 このことにも気付いたのだった。
「やっぱり」
「それはね」
 母もその通りだと答えた。 

 

第十七話 裏側のことその十一

「人は努力しないとね」
「よくならないわね」
「磨けば磨く程よくなるのよ」
「だから努力すべきね」
「そうよ、例えばモコと一緒にいて」
 今も遊んでいる彼女を見つつ話した。
「お世話するだけでもね」
「いいのね」
「色々わかるでしょ」
「命に触れて」
 そしてというのだ。
「モコの気持ちや身体を考える」
「それだけでもね」
「自分を磨けるのね」
「相手のことを考えて想うだけで」
「些細なことよね」
「けれどその些細なことがね」
 そういったことがというのだ。
「大きくて」
「自分を磨けるの」
「そうよ、それで人として成長して」
「よくなっていくのね」
「そうよ。あと苦労も人を磨くっていうけれど」
 母はこうも言った。
「これは向こうから来るから」
「苦労は」
「そう、咲もこれまで辛い思いしたことあるわね」
「何度もね」 
 高校に入学した今までを振り返った、やはり咲にしてもこの十五年の間でそれなりのことがあった。
「酷い風邪ひいたり。受験勉強したり」
「あったでしょ」
「成績が思う様にのびなくて悩んだり」
 中学二年の二学期のことだ。
「怪我したりね」
「そうでしょ、何かとあったでしょ」
「そういうのも苦労で」
「これからもっともっとあるけれど」
 苦労する時はというのだ。
「それは求めなくてもいいの」
「向こうから来るから」
「だからね」 
 そういったものだからだというのだ。
「別にね」
「求めないで」
「来たそれをね」
 苦労をというのだ。
「乗り越えていけばいいの」
「そうなの」
「ただ。その苦労から逃げ続けて」
 そしてともだ、母は話した。
「何も努力しないとね」
「成長しないのね」
「そして何もしないと」 
 それならというと。
「堕ちてね」
「餓鬼にもなるのね」
「そうした人もいるから」
「来た苦労からはなのね」
「逃げないで」
 そしてというのだ。
「向かっていってね」
「わかったわ」
 咲は母の言葉に頷いた。
「そうしていくわ」
「お願いね」
 このことはと言うのだった。
「いいわね」
「苦労からは逃げない」
「出来るだけね、ただどうしようもない災難は」
 これはというと。
「逃げないととんでもないことになったりするから」
「逃げてもいいのね」
「そうなの」 
 娘にこうも言った。 

 

第十七話 裏側のことその十二

「例えばDVする彼氏がいて」
「そうした人からはなのね」
「逃げないと死ぬこともね」
 暴力、それを受けてというのだ。
「あるから」
「そうした場合は逃げないと駄目なのね」
「理不尽に滅茶苦茶に暴力を振るう人の傍にずっといても」
 そうしてもというのだ。
「何もならないわよ」
「それは苦労じゃないのね」
「それは災厄よ」
 こちらになるというのだ。
「まさか地震に立ち向かえっていうの?」
「それは」
 どうかとだ、咲も答えた。
「絶対にね」
「無理でしょ」
「地震に立ち向かっても」
 災害にとだ、咲は眉を曇らせて言った。ここでモコの背中を撫でるとモコは尻尾を左右に振ってきた。
 そのモコを見つつだ、咲は母に答えた。
「死ぬだけよね」
「すぐに机の下に逃げないとね」
「駄目よね」
「そう、だからね」
「逃げることもなのね」
「災厄には必要よ」
 そうだというのだ。
「これは苦労と違うの」
「災厄とは」
「そこは覚えておいてね」
「苦労には向かって乗り越える」
「それで災厄からは逃れる」
「そうしていくことね」
「そうよ、間違ってもね」
 母は娘に強い声で話した。
「向かうべき苦労と逃げていい災厄は見極めてね」
「それで苦労は乗り越えて」
「災厄は逃げてね」
「難しいわね」
「そこはちゃんと見るんだ、暴力ばかり振るう教師のいる部活にいるとな」
 ここでだ、言ったのは父だった。
「どうなる」
「体育会系の部活であるわね」
「教師のその時の気分で殴ったり蹴ったりしてくるんだ」
「そんな部活にいたら」
「もうどうなるか」
 それこそというのだ。
「わからないからな」
「だからなのね」
「そうだ、そんな部活はどんな好きなものでもな」
 そうした教師が顧問ならというのだ。
「絶対にな」
「部活に入ったら駄目ね」
「他のところでしろ」
 学校以外の場所でというのだ。
「いいな」
「さもないとよね」
「怪我をするならまだいい」
「下手したら死ぬから」
「そうした部活なら他の場所で楽しめ」 
 部活で行われる活動をというのだ。
「碌でもない奴のところにはいるなと言ったな」
「この場合もそうね」
「そうだ、逃げろ」 
 絶対にというのだ。
「何があってもな」
「そうするわね」
「父さんも思う、苦労は乗り越えてな」
「災厄からは逃げる」
「地震や津波に向かってどうするんだ」
 こうも言うのだった。 

 

第十七話 裏側のことその十三

「だからな」
「逃げた方がいいのね」
「ああ、そのことも覚えておくんだ」
「そうね、若し」 
 咲は速水とはじめて出会った時のことを思い出した、その時彼に後ろから声をかけられてコンビニの中に入っておかしな男と巡り合わずに済んだ。
 その時のことを思い出してだ、咲はこうも言った。
「それとね」
「どうしたの?」
「そうした人に出会う出会わないのも運命かしら」
 母に述べた。
「そうかしら」
「そうよ、運命もね」
「あるのね」
「それ次第でね」
 まさにとだ、娘に話した。
「出会う出会わないもね」
「あるのね」
「それでも運命は変えられるわ」
「悪い人と出会っても」
「見極めるの、悪い人ならね」
「逃げるのね、お姉ちゃんも言ってたし」
 愛の言葉も思い出した。
「そうしないと駄目なのね」
「特に悪いことに誘う人は」 
 そうした者はというのだ。
「何があってもね」
「近寄らないことよね」
「麻薬とか犯罪にね」
「もうその時点でよね」
「それで外見、目の光とか物腰とかに出るから」
「お姉ちゃんも言ってるわ」
 また愛のことを思い出した。
「本当に」
「愛ちゃんは色々お話してるのね」
「そうなの」
「愛ちゃんは派手なだけなのね」
「そうだな」 
 母だけでなく父も頷いた。
「そうした娘か」
「そうみたいね」
「見方をあらためないといけないな」
「本当にそうね」
「だからお姉ちゃんは悪いこと言わないししないわよ」
 咲は愛のことを両親にここぞとばかりに話した。
「本当にね」
「ええ、じゃあね」
「今度あの娘とじっくり話してみるか」
「それがいいわね」
「そうだな」
「というか今までそうしてこなかったの?」
 咲は両親の今の言葉に眉を曇らせて問うた。
「お姉ちゃんと」
「親戚でも離れて暮らしてるしな」
「同じ東京都に住んでいてもね」
「昔はよく会ったけれどな」
「最近はあまりだったし」
 両親は咲にすぐに答えた。
「しかも派手になって」
「そんなのだったからな」
「ファッション派手なだけだから」
 咲は愛のことをこう言った。
「だからね」
「ここはか」
「愛ちゃんとじっくりお輪することね」
「お姉ちゃんには私が話しておくから」
 娘として間に立つことも申し出た。
「それじゃあ今度ね」
「ああ、愛ちゃんとな」
「三人でじっくりお話してみるわ」
「そうしてみて。というかお姉ちゃんこれまで悪いことしたことないでしょ」 
 警察沙汰になったり深刻な校則違反はというのだ。 

 

第十七話 裏側のことその十四

「そうでしょ」
「それはないな」
「これまで一度もね」
「叔父さんも叔母さんもそのまま接しているじ」
 自分の娘としてだ。
「だったらね」
「問題ないか」
「あの娘は」
「お話したらわかるからね」
「そのことが確かにか」
「そうなるのね」
「だからね」
 それ故にとだ、咲はさらに言った。
「お願いね」
「それじゃあな」
「そうするわね」
「これで決まりね。モコよかったわね」 
 咲は話が一段落したところで妹とさえ思っている愛犬に笑顔で声をかけた。
「今日は大切なお話もしたしお姉ちゃんとお父さんお母さんも会うことが決まったわよ」
「ワンワン」
 モコは咲の言葉に頷く様に尻尾を横に振って応えた、咲はそんなモコを見てより一層笑顔になってさらに言った。
「やっぱりモコっていい娘よね」
「可愛くてな」
「頭もよくてね」
 両親もそんなモコを見て笑顔で話した。
「だからもうね」
「いつも一緒にいたくなるわ」
「私達の二番目の娘よ」
「掛け替えのないな」
「私にとっては妹でね。ペットは家族っていうけれど」
 こうも言う咲だった。
「本当にそうよね」
「全くだな」
「こんないい娘いないわよ」
「家族を育てたり虐待したり」
「そんなことは絶対にしたらいけないわ」
「悪いことをしたら怒るけれど」
 それでもというのだ。
「その時以外はね」
「愛情を以て接しないとな」
「そうしないと駄目よ」
「そうよね。家族を捨てたり裏切る人なんて」
 咲はモコを抱き上げた、すると。
 その腹が見えた、トイプードルの腹は毛がなくそこだけピンク色だ。その腹の部分を見つつ両親に話した。
「誰だってね」
「裏切るものだ」
「愛情なんてない人のすることだからね」
「家族を捨てたり裏切ったり」
「そうしたことはね」
「そうよね、だからね」
 それでというのだ。
「私もしないわ。モコはずっと私達の一緒よ」
「それはいいけれど」 
 母はここで娘にこう言った。
「あまり持ち上げないの」
「モコ抱っこされるの好きよ」
「それは好きでもよ」
「持ち上げられることは好きじゃないのね」
「というか高いところからぶら下げられるのがね」
 持たれてそうされることがというのだ。
「好きじゃないから」
「これはしたら駄目なの」
「持ち上げるなら」 
 それをする位あらというのだ。
「抱っこしなさい」
「モコはそれが好きだから」
「そうしなさい」
「それじゃあね」
 咲は母の言葉に頷いてモコを抱き締めた、すると。 

 

第十七話 裏側のことその十五

「クンクン」
「モコ嬉しそうね」
「抱き締められて愛情と温もりを感じるからでしょうね」
「だから抱き締められるの好きなのね」
「犬は賢いから」
 母はこうも話した。
「抱き締められたこと覚えているわよ」
「愛情を温もりの二つを」
「だから犬を捨てる位なら」
「最初から抱き締めないことね」
「そしてそんなことする人とは付き合ったら駄目よ」
「餓鬼だから」
「どうせあんたも裏切るわよ」
 自分がまずいと思った時はというのだ。
「平気でね」
「犬を捨てるみたいに」
「そして自分だけ安全な場所に逃げるから」
 そうした輩共だからだというのだ。
「絶対にね」
「信じないで」
「付き合わない、いいわね」
「そうするわね」
 母のその言葉に頷いた、そして。
 抱き締めているモコを下した、すると。
「ワンワン」
「まだ抱っこして欲しいのかしら」
「そうみたいね」
 母もこう答えた。
「甘えん坊ね」
「そうなのね、じゃあね」
「あと少しね」
「抱っこするわね、モコもそれでいいわね」
「ワンワン」
 モコは咲のその言葉に尻尾を横に振って応えた、そのモコを。
 咲はもう一度抱き締めた、そうしながら今日の両親との話のことも思うのだった。


第十七話   完


                   2021・6・1 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその一

               第十八話  ゴールデンウィークを前にして
 咲は愛に携帯で両親との会話のことを話した、すると愛は笑顔で応えた。
「こちらもね」
「いいのね」
「ええ、叔父さん叔母さんとね」
 即ち咲の両親と、というのだ。
「お話したいわ」
「お姉ちゃんもいいのね」
「やっぱり近い人に誤解されてるとね」
 どうにもというのだ。
「私もどうにもだし」
「だからなのね」
「ええ、それじゃあね」
 是非にと言うのだった。
「お話させてもらうわ」
「それじゃあね」
「今度私からお邪魔するから」
 咲の家にというのだ。
「それでじっくりお話するわ」
「そうするのね」
「襟を開いてね、その後でね」
 愛はさらに言った。
「飲むわよ」
「お酒もなの」
「お酒を飲んで」
 そうしてとだ、愛は従妹に話した。
「そうしながらさらにお話してお互いに理解し合うの」
「それで飲むの」
「だからね」
「お酒も飲むのね」
「お酒あるわよね、なかったら持って行くわよ」
「お父さんもお母さんも好きだからあるわよ」
 咲はそれはと答えた。
「煙草は吸わないけれどね、二人共」
「なら大丈夫ね、じゃあ終わったらね」 
 その襟を開いての話がというのだ。
「それからね」
「お酒を飲みながらなのね」
「もっとお話するから」
 こう言うのだった。
「それで私のことわかってもらうわ」
「そうするのね」
「私も悪いことはしないつもりだから」
 咲自身もというのだ。
「別にね」
「そうよね、お姉ちゃんってファッションだけで」
「下着は白でね」 
 ここでもこのことを言うのだった。
「それでだから」
「そうよね、じゃあね」
「ええ、ゴールデンウィーク前にそっちにお邪魔するわね」
「それじゃあね、そう言えばお姉ちゃんってちゃんとうちに来る時お邪魔しますって言うわね」
「当たり前でしょ」
 常識だという返事だった。
「だって人様のお家に入るのよ」
「それならなのね」
「お邪魔しますって言って」
 そうしてというのだ。
「謙虚にする」
「そうするものなのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「私だってね」
「ちゃんと言うのね」
「それないと厚かましいわよ」
「やっぱりそうよね」
「人のお家に今日行くって言ってお邪魔しますとも言わないでふんぞり返って来て勝手に人のお部屋入って本漁ってご飯遠慮なくたらふく食べてお風呂入って寝て朝ご飯食べて帰ったら物凄く腹立つでしょ」
「それ図々しいにも程があるでしょ」
「それが親御さんがおられるお家でもね」
「独立していたらないわね」
「そんなことしないから」
 絶対にというのだ。
「私はね」
「そうなのね」
「だからね」
 それでというのだ。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその二

「私もちゃんとね」
「お邪魔しますって言うのね」
「それでその日のうちに帰って」
「自分のお家で休むのね」
「そうするわ」
 絶対にというのだ。
「私だってね」
「やっぱりお姉ちゃんちゃんとしてるわね」
「ここまできたら極端だけどね」
「本当に図々しいにも程があるわね」
「そうもなりたくないから」
 絶対にというのだ。
「そこは弁えて」
「そうしてなのね」
「私もお邪魔するから」
「じゃあ待ってるわね」
「ええ、あとおつまみは持ってくるから」
「それはなの」
「柿の種かチーズね」
 そうしたものをというのだ。
「持って来るから」
「それで飲むのね」
「一緒にね」
 咲の両親と、というのだ。
「それで叔父さん叔母さんがいいって言ったら咲ちゃんともね」
「私ともなのね」
「飲みましょう、それでね」
「お父さんお母さんに知ってもらうのね」
「誤解解かせてもらうわ」
 咲に笑顔で話した。
「是非ね」
「わかったわ、それじゃあね」
「ええ、じゃあ何時お話するか決めましょう」
「空いてる日言って」
 咲は愛にこう切り出した。
「そうしたらね」
「手配してくれるの」
「ええ、何時でもね」
「明日空いてるわよ」
「明日!?」
「明日の夜ね」
 その時にとだ、愛はあっさりとした口調で答えた。
「もうね」
「その時になの」
「そう、明日はアルバイトがないから」
 それでというのだ。
「明日の夜行ってね」
「お父さんとお母さんとお話して」
「後は飲むわ、六時に行けばいいわね」
「六時だとお母さんしかないけれど」
「じゃあまずは叔母さんともお話して」
 そしてというのだ。
「それでね」
「お父さんが帰って来たら」
「その時はね」
「お父さんともお話して」
「それで終電までには帰って」
 自分の家にというのだ。
「休むわ」
「お風呂とかはお姉ちゃんのお家で入るの」
「そうするわ、明日の朝にね」
「そうするのね」
「行く前にお風呂入って」
 愛はそうすると咲に話した。
「それでね」
「奇麗にしてうちに来るの」
「それで明日朝起きて二日酔いなら」
 その時にというのだ、愛は咲に自分のペースで話していった。
「朝にまた入るわ」
「朝風呂ね」
「二日酔いにはこれが一番だから」
 それでというのだ。
「死ぬ程頭痛くても這ってでもお風呂場に入って」 
「それでお風呂に入って」
「復活するのよ。二日酔いにはお風呂よ」 
 これが一番だという口調だった。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその三

「どんなに死にそうでも一気に抜けるわよ」
「そんなに効くのね」
「だからその時はそうするから」
「終電までには帰るの」
「そうするわね、だからいきなり今日行くって言ってお邪魔しますも言わないで上がり込んできてね」
「図々しくご飯お腹一杯食べてお風呂入って寝て」
「朝ご飯も食べてね」
 そしてというのだ。
「その前に人の部屋に勝手に入るとか」
「図々しいことはしないのね」
「そんなことする人咲ちゃん嫌でしょ」
「絶対にうちに来て欲しくないわ」
 咲は即答だった。
「そんな人は」
「誰だってそうよ」
「そうよね、さっきのお話通りに」
「だから私もね」
「そんなことしないのね」
「うちだとそんな人来たら即座に叩き出すわよ」 
 愛も即答だった。
「うちに来た時点でね」
「というか今日行くって言った時点で来るなよね」
「そうなるわ、こっちにも都合があるから」
「今日いきなり言われても」
「こっちの都合も考えろってね」 
 その様にというのだ。
「なるわ」
「普通はそうよね」
「それでお邪魔しますも言わないで上がり込んでね」
「ご飯お腹一杯食べて」
「それ人のお部屋勝手に入るとか」
「もう二度と来るなで」
「うちだと今日行くって言った時点でよ」
 最初でというのだ。
「来るなよ」
「そうよね」
「それでそんな図々しい人はね」
「親戚でも」
「絶対にうちに入れないわ」
 咲にまたこう言った。
「何があってもね」
「そうなるわね」
「何様よ、ってなるわ」
「本当にそうね」
「図々しくて無神経にも程があるわ」
 こうも言うのだった。
「まあ世の中こうした人もいるけれど」
「常識のない人が」
「それも五十にもなって」
「五十でそれなの」
「そうよ、五十を超えてもね」
 そうなってもというのだ。
「そんな人もいるのよ」
「五十でそれってまずいわね」
「相当にね」
「つけるお薬ないかも」
 咲は本気でそうした人間にこう思った。
「五十でそれって」
「高校生でもどうかでしょ」
「今日行っていいって聞いて」 
「遊びに行くのでもね」
「それでお家に来たらお邪魔しますで」
 この挨拶をしてというのだ。
「入ってって言われて入ってご飯もね」
「普通は断るわね」
「自分のお家じゃないから」
 だからだというのだ。
「そうするわ、泊まるなんてのもね」
「ないわね」
「親戚でもね」
「それをする人がいるのよ」
「そうなの」
「親がいるからって」
「実家でも普通そこまでしないでしょ」
 幾ら何でもだ、咲は返事した。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその四

「やっぱり」
「それがなのよ」
「気をつけないといけないことね」
「弁えることよ」
「親しい仲でも」
「そう、そこまでするとね」
「流石に嫌になるわね」
 咲はさらに言った。
「どんな親しい人でも」
「そうなるわね」
「だからよ、ちゃんと遠慮もね」
 この感情もというのだ。
「持つことよ」
「人としてそのことも大事ね」
「そう、まあここまで無神経で図々しい人も」
「そうはいないわね」
「ここまでいったら破滅まですぐかもね」
 愛はこうも言った。
「奈落に落ちるのもね」
「落ちるの?」
「そこまで図々しくて誰かに好かれたり認められたりする?」
「それは」
 咲もそれはと述べた。
「やっぱりね」
「ないわよね」
「皆から嫌われるわ」
「それで他のマイナス面も」
 図々しい、無神経なだけでなくというのだ。
「絶対に出るから」
「そこまで酷い人は」
「どうせ自分しかなくなってるから」
「それでなの」
「もう人として徹底的に落ちていて」
「皆から嫌われていて」
「それで感謝の気持ちもなくて」
 そうしてというのだ。
「不平不満ばかり言って努力しない」
「考えてみたら」
 咲は愛の言葉をここで一旦頭の中で思い出して述べた。
「お邪魔しますも言わないで大飯食べて勝手に人の部屋入ってお風呂入って寝て朝ご飯食べて帰るなら」
「感謝してると思う?」
「いつもそうよね」
「だから今日行くよ」
「そう言って平気で来るのね」
「そんなことで来る人が感謝してるか」
「そんな筈ないわね」
 咲も確信した。
「やっぱり」
「そうでしょ、それで根拠もなくね」
「根拠もなく?」
「尊大だったりするのよ」
 そうした輩はというのだ。
「何も出来ないのに」
「それでも尊大で」
「それでね」 
 そのうえでというのだ。
「ちょっとしたことで不平不満ばかりで努力しないの」
「どうしようもない人ね」
「もうそうなってるから」
 そうした行為をする輩はというのだ。
「もうね」
「奈落に落ちるのもなの」
「すぐかもね」
「そうなのね」
「そう、だから咲ちゃんもね」
 こう彼女に言った。
「絶対にそうした人にもね」
「ならないことね」
「遠慮と謙虚もね」
 こうした徳分もというのだ。
「持ってね、そして思いやりとか気遣いもね」
「持つことね」
「さっき話した人なんて幾つでもね」 
 例え何歳でもというのだ。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその五

「子供よ、全く教育も躾も受けていない」
「それじゃあ何なのよ」
「何でもないわよ」
 愛の今の返答は実に素っ気なくかつ冷淡なものだった。それこそ公衆便所の脇に生えている雑草を見る様なものだった。
「それこそね」
「幾つでもなの」
「全く成長してないから」
 子供の頃からというのだ。
「それじゃあね」
「何でもないのね」
「人は学んで経験をして何かになるの」
「そうした人は何を学んで何を経験したか」
「何もしてこなかったからよ」
 学ぶことも経験することもというのだ。
「何でもないのよ」
「じゃあ価値ないの」
「かもね」
 愛は否定しなかった。
「生きる価値もね」
「ヤクザ屋さんみたいに」
「前も言ったけれどどうしようもない人も色々よ」
 ヤクザ者だけではないというのだ。
「こうした人もね」
「どうしようもないのね」
「そうよ」
 まさにという返事だった、今度は。
「何の徳分も備えなかった」
「生きていて」
「幼稚なまま生きていってね、それで童心もね」
 この徳分もというのだ。
「忘れたね」
「童心は必要なの」
「子供の時の感性や純粋さもね」
 こうしたものもというのだ。
「やっぱりね」
「人には必要なの」
「こうした人は悪い意味で子供のままなの」
「悪い意味で」
「そう、幼稚なままでね」 
 それだけでというのだ。
「歳を重ねただけなの」
「それってね」
「なりたくないタイプね」
「そのうちの一つね」
 まさにとだ、咲も答えた。
「私にしても」
「なりたくないって思えばね」
「反面教師にすべきね」
「そうよ、なりたくない嫌いだって人を見て」
「ああはなるまい」
「そう思うことよ、まあ世の中そうした人を見て攻撃する人もいるけれどね」
「いるわね、嫌いになったら徹底的で」
 咲もそうした人物について知っているので応えた。
「もう容赦しないって」
「そんな人もいるけれどね」
「かちかち山の兎みたいな人ね」
「あの兎咲ちゃんどう思うかしら」
「絶対に傍にいて欲しくないわ」
 咲は愛の問いに即答で答えた。
「何があってもね」
「敵になったら嫌でしょ」
「平気で騙すし後ろから攻撃するしね」
「滅茶苦茶残虐でしょ」
「背中に火を点けるしね」
 薪にそうしたことは童話にある通りだ。
「それで背中焼いてね」
「その後で身分偽って来て背中に辛子塗るでしょ」
「火傷だけでも酷いのに」
「あの辛子もかなりよ」
 そこに陰湿な悪意が存在してることは言うまでもない。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその六

「酷いわよ」
「苦しめにかかってるわね」
「しかもね」
 それで終わらずだ。
「最後はね」
「泥舟でね」
「そこにさらにでしょ」
「助ける振りして殺すから」
「確かにあの狸極悪よ」
 このことは愛も認めた。
「もうね」
「お婆さん殺して鍋にしてお爺さんに食べさせて」
「そんなことしたことはね」
「絶対に許されないわね」
「けれど兎のしたことは」
「やり過ぎよね」
「よくネットで犯罪者の個人情報公表する人いるでしょ」
 愛はこうした人物のことも話した。
「これどうなるかわかるわね」
「ネットに出たらね」
「もうその所業に怒ったり悪意持った人が嫌がらせに動くわよ」
「それ怖いわね」
「わざとそうなる様にしてるから」
 だからネットで公表するのだ、その相手の人生を完全に潰して生き地獄を味あわせてやる為にそうするのだ。
 それでだ、公表された相手はどうなるかというと。
「相手の人生を潰す」
「確信犯でしてるのね」
「これはもう兎と同じよ」
 かちかち山のそれとだ。
「やり過ぎよ」
「やったことは悪くても」
「そう、罪を憎んで人を憎むじゃなくて」
「罪を憎まず人を憎むね」
「そんな人もいるのよ」
「復讐鬼みたいな人ね」
「人間そうなると」
 復讐鬼、それにだ。
「もう憎しみで心を支配されてね」
「そうした行為ばかりするのね」
「そんな人の一生は」 
 それはというと。
「末路は悲惨よ」
「憎しみで動いて」
「幾ら相手が屑でも人生破壊したら」
 そうしたらというのだ。
「その屑の人でも家族とか親戚とかいるでしょ」
「お友達とか」
「そう、そんな人がどう思うか」
「言うまでもないわね」
「親しい人がそんな目に遭ったら」
 個人情報を公開されたりして人生を破壊されるとだ。
「怒るでしょ」
「それでその人が復讐する」
「そうなっていくから」
「末路は悲惨ね」
「人間憎しみに心を支配されたら復讐鬼になって」
 そしてというのだ。
「そのうえでね」
「そうした行為を繰り返して」
「憎しみを買ってね」 
 憎しみで動いていった結果そうなっていってというのだ。
「自分がやられるわよ」
「それが末路ね」
「あの兎もね」
「最後そうなってもなのね」
「おかしくないわよ」
「そうなのね」
「事実あんなタイプ傍にいて欲しくないでしょ」
「絶対にね」
 咲の考えは変わらなかった。
「何されるかね」
「正面からは絶対に来ないわよ」
「後ろから来るわね」
「平気で騙してくるのよ」
「それで延々と攻撃してくるのよね」
「悪意剥き出しでね」
「幾ら相手が悪いことをしても」 
 咲は心から思った。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその七

「あんな仕打ちはね」
「やっていいことと悪いことがあるでしょ」
「あの兎がやったことは完全に悪いことね」
「あれが正しいって思えたら」
 それこそというのだ。
「おかしいわよ」
「そうよね」
「あの兎に自分が似てるって思ったらすぐに行いあらためてね」
「そうしないと復讐鬼になるわね」
「嫌いな相手がいても」
「接し方が大事で」
 それでというのだ。
「あそこまでは駄目よ」
「復讐鬼になったら」
「ああして騙して後ろから攻撃して延々と陰湿で残虐な攻撃したら」
 それこそというのだ。
「最後は自分に返って来るわよ」
「因果応報ね」
「因果応報は絶対だから」
「悪いことをすれば自分に返って来る」
「これはね」
 まさにというのだ。
「絶対のことよね」
「この世の摂理よ」
「そこまでのものね」
「だからね」
「あの兎にしても」
 どうかとだ、愛は言った。
「若し狸に家族や親戚やお友達がいたらね」
「家族怨むわよね」
「惨殺だからね」
 文字通りのそれでというのだ。
「だからね」
「怨むわよね」
「そうなるでしょ」
「そうよね」
「だからあの兎もそうなるかも知れないし」
「あの兎みたいにはならないことね」
「私も気をつけてるから」
 愛自身もというのだ。
「だから咲ちゃんもそうしてね」
「ええ、しかしあの兎確かにね」
「どうかしてるでしょ」
「憎しみの感情強過ぎるわね」
「そこがおかしいでしょ」
「幾ら何でもね」
「狸より怖いわよ」
 それこそというのだ。
「あそこまでいったら」
「だからおかしいからね」
「私もああしないことね」
「そしてああならない」
「気をつけていくことね」
「人間憎しみに心を支配されたら」 
 そうなってしまえばというのだ。
「復讐鬼になって」
「ああなるのね」
「そうなっても終わりだからね」
「そうね、最初に話したあまりにも図々しい人もだけれど」
「こっちも問題よ」
「わかったわ、謙虚でしかも心穏やか」
「それが一番よ、憎んでもね」
 何かをそうしてもというのだ。
「何にもならないわよ」
「本当にそうね」
「憎しみで生み出されるものはマイナスのものばかりよ」
 愛は咲に語った。
それこそね」
「そうよね」
「そう、それで先に進んでも」
 そうしてもというのだ。
「あるものはね」
「かちやち山ね」
「それしかないわ」
「本当に酷いことにしかならないのね」
「そうなの。けれど咲ちゃんは今はそうした人も周りにいないし」
「大丈夫かしら」
「これからはわからないけれど」
 それでもというのだ。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその八

「今はね」
「大丈夫なのね」
「だから安心してね」
「それじゃあね」
「ええ、じゃあ明日の夜ね」
「うちに来てくれるのね」
「叔父さんと叔母さんにもお話して」
 咲の両親にもというのだ。
「そうしてね」
「わかったわ、じゃあね」
「また明日ね」
 二人で携帯を通じてこう話した、そして。
 咲は両親にこのことを話すと二人は冷静な顔で答えた。
「わかった、じゃあな」
「明日の夜ね」
「じっくり話させてもらう」
「愛ちゃんとね」
「そうしてね、きっとね」
 咲はさらに言った。
「お父さんもお母さんもわかってくれるわ」
「むしろね」 
 母はここでこう言った。
「これまでね」
「そうだな」
 父の言葉には反省が感じられた。
「これまで無闇にな」
「あの娘の外見だけでね」
「変に遠ざけていたな」
「そうよね」
「けれど咲が言うにはな」
「そんな娘じゃないし」
 こう夫に言った。
「全く、とはいってももうこのことは」
「わかっていた筈だな」
「私達もね」
「子供の頃から観ていたんだ」
 愛をというのだ。
「どんな娘か」
「ずっと悪い娘じゃなかったわ」
「それじゃあな」
「お話しないとね」
「ああ、そうしないといけなかったんだ」 
 こう言うのだった。
「変に遠ざけないで」
「本当にそうね」
「だからな」
「もうね」
「明日の夜にな」
 まさにその時にというのだ。
「話をしてな」
「わかりましょう」
「そうだな」
「あの娘のことを」
「よくな」
「そしてね」
 母はさらに言った。
「お話の後で」
「一緒に飲むか」
「そうしましょう」
 こうも話した。
「折角だから」
「そうだな、お酒は何があったかな」
「ウイスキーもビールもワインもあるわよ」
「そうか、ウイスキーあるか」
「あなたはウイスキーよね」
「最近好きだからな」
 それでというのだ。
「あるなら飲むよ」
「じゃああなたはウイスキーね」
「それで母さんは何飲むんだ」
「私はビールにしようかしら」
 母は少し考えてから答えた。
「そうしようかしら」
「そうか、それで愛ちゃんは何を飲むか」
「お姉ちゃんはワインが好きみたいよ」
 咲は父に答えた。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその九

「お話聞いてたら」
「そうか、ワインか」
「赤でも白でもね」
「ワインならロゼあるわよ」
 母は娘の話を聞いて酒はそれだと答えた。
「それがね」
「じゃあお姉ちゃんはロゼね」
「そうね、それがいいわね」
「それで咲は何飲むんだ?」
 父は娘にも声をかけた。
「家の中だから内緒でな」
「飲んでいいの」
「ああ、それで何飲むんだ」
「そうね、ワインあるなら」
 それならとだ、咲は父に答えた。
「それかしら」
「お前はワインか」
「とはいってもあるなら何でも飲むわよ」
「ロゼのボトル二本あるわよ。あと梅酒の二リットルのあるわよ」
「じゃあ梅酒頂戴」 
 咲はまだ梅酒は飲んだことがない、それで母の今の言葉に乗った。
「そちらね」
「わかった、お前は梅酒だな」
「何でも飲むけれど」
 それでもとだ、咲は答えた。
「それじゃあね」
「明日は梅酒だな」
「それ飲むわ」
 こう言ってだった、そのうえで。
 一家はそれぞれ飲む酒を決めた、そしてだった。
 次の日に出すつまみの話もだった、両親はしていった。咲は何処か楽しそうに話す両親を見てこう言った。
「二人共楽しみ?」
「いや、愛ちゃんとどういった話になるかな」
「結構心配よ」
「あの娘と会うのも久し振りだしな」
「今はどんな娘になってるか」
「不安でもあるんだ」
「咲の言う通りだと思うけれど」 
 両親は娘の言うことを即座に否定はした。
「それでもね」
「やっぱり不安なのは事実だしな」
「だからね」
「あれこれ考えてるのよ」
「そう言う割には楽しそうにおつまみの用意してるし」
 柿の種やサラミ、チーズ等が出されて集められていた。
「その前のお茶の用意もしてるわね」
「紅茶とクッキー出してね」
 母は平然として答えた。
「お話の時に飲むでしょ」
「そっちも楽しそうにしてない?」
「だから気のせいよ」
「そうかしら」
「お話の時にないと」
 紅茶やクッキーそれにつまみはというのだ。
「困るでしょ」
「なくてもお話出来るでしょ」
「出来ないわよ、だから用意して」
「リラックスしながら話したいな」 
 父はまた言った。
「そうしたいな」
「そうね、それじゃあね」
「用意していこうな」
「そうしましょう」
「やっぱり楽しそうね、けれど」 
 それでもとだ、咲は両親が楽しそうなところから愛と話すことを決して嫌がっていないことを理解して言った。
「それでいいわ、じゃあ明日ね」
「話そうな、愛ちゃんと」
「じっくりね」
「お姉ちゃん時間守るから」
 愛のこのことも話した。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその十

「安心してね」
「そうか、時間は守るか」
「今もなのね」
「そう言えばあの娘昔からそうだったな」
「時間守る娘だったわね」
「約束は守るし」
「それじゃあ時間もね」
 二人で娘の言葉に頷きつつ話した。
「守るのね」
「今もそうだな」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「安心してね」
「よし、じゃあな」
「その時間に待っているわね」
「父さんは仕事次第だけれどな」
「お母さんは明日パート早くに終わるしね」
「パートあったのね、まあそれじゃあね」
 両親の話に頷いてまた言った。
「私も明日アルバイトないし」
「家にいるな」
「学校から帰ったら」
「そうするわ。部活はそんなに長くかからないし」
 漫画研究会、漫画部とも言われるそれはというのだ。
「早く帰るわね」
「それじゃあな」
「愛ちゃん待っていましょう」
「それじゃあね、あとチーズあるのね」
 咲はつまみの中のそれを見付けてそちらの話もした。
「そうなのね」
「おつまみの定番だろ」 
 父の返事はあっさりしたものだった。
「チーズは」
「ワインとかには」
「だからな」
「チーズもあるのね」
「だからいつも用意しているしな」
 それでというのだ。
「今回もだ」
「明日パートの帰りにもっと買って来るわね」
 母はこうも言った。
「そうするわ」
「やっぱり飲む方に考えが向いてない?」
「そうかしら」
「というか二人共何だかんだでお姉ちゃん嫌いじゃないのね」
 咲はこのことを察した。
「そうなのね」
「そう言われるとな」
「嫌いじゃないわよ」
 両親もそれはと答えた。
「だって姪だしね」
「赤ちゃんの頃から知ってるしな」
「嫌いかっていうと」
「それは違うな」
「むしろ好きね」
「そうだな」
 こう二人で話した。
「最近確かに派手でどうかと思っていたが」
「別に嫌いじゃないわ」
「そうなのね。だから私の言うことも強く否定しなかったのね」
 愛は外見が派手なだけで真面目で良心的だということをだ。
「そうなのね」
「そうなるな」
「言われるとね」
「そうなのね。じゃあ明日ね」
 咲は両親にモコのおもちゃ、傍に置いたままになっていたそれに気付いて拾いつつ言った。
「お姉ちゃんとね」
「じっくり話してな」
「それで一緒に飲むわよ」
「それじゃあね。あとモコのおもちゃだけれど」 
 熊のぬいぐるみのそれを手にしつつ言った。
「モコが忘れたの?これ普段ケージの中でしょ」
「あっ、お母さんが出したままだったわ」
 母が思い出した様に言ってきた。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその十一

「御免なさいね」
「そうだったの」
「ええ、じゃあケージの中に入れておくわね」
「私が入れておくわ」 
 咲が応えた。
「そうするわ」
「そうしてくれるの」
「だってケージのすぐそこから」
「ワン」 
 咲がモコを見つつ言うとモコも鳴いて応えた、咲はそのモコも見て笑顔で言った。
「お姉ちゃんもモコ好きなのよね」
「動物嫌いより動物好きの方がいいな」 
 父は娘の今の言葉にこう返した。
「その方がな」
「嫌いより好きな方がいいわね」
「自分以外の生きもの全て大嫌いな人もいるしな」
「そんな人生きていけないでしょ」
「他人に迷惑を撒き散らして害毒を垂れ流して生きるものだ」
 そうした輩はというのだ。
「自分勝手で図々しくて浅ましく生きてな」
「餓鬼みたいね」
「そうだな、餓鬼だな」
 そうした輩はとだ、父も頷いた。
「そうした人は」
「そうよね」
「そんな人は極端だがな」
「正直お会いしたくないタイプね」 
 咲は心から思った。
「親戚やクラスにいたら皆から嫌われそうね」
「職場でもな、まあそうしたタイプは本当に稀だ」
「そうそう多かったら怖いわ」
「そうだな、それで動物好きな方がな」
「動物嫌いよりましよね」
「ああ、それで愛ちゃんがモコが好きなら」
 それならというのだ。
「いいことだ」
「それだけでね」
「本当にそう思う」
「嫌いより好きな方がいいわね」
「好きなら好かれるし嫌いなら嫌われるわよ」
 母がここで言ってきた。
「だからさっき言ったみたいな人はね」
「皆から嫌われるわね」
「そうなるわ」
「まあそうよね」
「嫌うとね」
 そうすればというのだ。
「嫌われるわ、それでモコは皆が好きでしょ」
「だからモコも皆が好きなのね」
「家族をね」
「そうよね」
「人も犬も他の生きものも同じよ」
 それこそというのだ。
「心があるから」
「それで自分を好いてくれるとね」
「その相手を好きになるのよ」
「そうよね」
「それで咲もね」
「自分を好きな人なら」
「好きになるでしょ」
「ええ。ただ私恋愛とかはね」
 こうしたことについても話した。
「経験ないわよ」
「それはそのうちよ」
「またあるだろ」
 母だけでなく父も言ってきた。
「惚れた人がいたならな」
「それでよ」
「そんなものね、私告白とかそうしたこともしたことないし」
 一度もだ、咲はこれまでの人生で自分が恋愛を経験したことはない。創作の世界で読んだり周りで聞いただけだ。
 だからだ、こう言うのだった。
「そうしたことがあるのかしら」
「またあるだろ」
 父は今度はこう言った。 

 

第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその十二

「それもいきなりな」
「あるの」
「歌でもあるしな」
「歌?」
「ラブストーリーは突然にってな」
「ああ、カラオケでもあるわね」 
 咲はその曲名を聞いてすぐにどの曲かわかった、自分は歌ったことがないがそれでも誰が歌っていたのかも知っていて父に応えた。
「小田和正さんの曲ね」
「名曲だぞ、父さんもま陀小学生か中学生だった」
「今の私よりまだ年下ね」
「その頃の曲でな」
「凄いヒットしたのよね」
「その曲でも言っている」
 そうだというのだ。
「タイトルのままだがな」
「そうしたことは突然になの」
「なるからな」
「そんなものなの」
「何時誰を好きになるかなんて誰にもわからないんだ」
「自分自身にも?」
「ああ、そうだ」
 その通りというのだ。
「本当にな」
「何時誰を好きになるか」
「そうだ、だがいい人を好きになれ」
 父はこのことは釘を刺した。
「いいな」
「悪い人は好きになるなっていうのね」
「一目惚れもあるがまずはその人をよく見るんだ」
 人に本気で恋愛感情を抱く前にというのだ。
「外見だけじゃなくて性格を見てな」
「そうして好きになるべきね」
「そうだ、性格や行動に問題がある様ならな」
「好きになったら駄目ね」
「外見だけで判断するな」
 絶対にというのだ。
「いいな」
「まずは性格ね」
「外見なんてどうでもなるんだ、不細工という顔でもな」 
 そう言われる様な顔でもというのだ。
「確かに生きていると人相がよくなってな」
「いいお顔になるのね」
「そして逆もあるんだ」
「それ皆から言われてるわ」
 現在進行形でとだ、咲は父に答えた。
「人相をよく見るべきだってね」
「その通りだ、人の顔なんてどうでもなるんだ」
「整形でもよね」
「それ以上に生き方でな」
 まさにこれでというのだ。
「変わるからな」
「だからなのね」
「そんなものよりもな」
「性格ね」
「それを見て好きになるんだ」
 恋愛感情を抱けというのだ。
「いいな、そうするんだ」
「性格がいい人を好きになるべきね」
「そのことは絶対だ」
「外見はどうでもよくて」
「性格だ、よく見て好きになるんだぞ」
「そのことしっかりと覚えておくわ」
 咲は父のその言葉に頷いた、両親と愛のこともあるが自分のそのことも気になった。そうして一生覚えておこうと自分自身に誓ったのだった。


第十八話   完


                  2021・6・8
 

 

第十九話 両親と姪の会話その一

               第十九話  両親と姪の会話
 愛はその夜、とはいってもまだ夕方と言うべき時間と思われる六時に家に来た。咲は母と共に彼女を出迎えたが。
 咲の母は娘と共に愛とお邪魔します、いらっしゃいというやり取りの後で彼女に呆れた様な顔と声で言った。
「相変わらずのファッションね」
「似合う?」
「似合うとか以前よ」
 こう彼女に言うのだった。
「派手過ぎるのよ」
「私こうしたファッションが好きだから」
「好きでもよ」
 家に上がってきた姪に話した。
「派手過ぎてどうかってなるわ」
「その派手なのがよくない?」
「如何にも遊んでますって感じでね」
 それでというのだ。
「いいイメージないわよ」
「もうキラキラ派手派手の路線でね」
「いってるっていうのね」
「そうなの。それが好きだから」
「今もなのね」
「このファッションなの」
 黄色いタイツにオレンジのミニスカート、ライトブルーのブラウスに赤い上着という格好だ。模様のデザインも派手めでネックレスやブレスレットは金色だ。髪飾りも色々で脱色している髪のセットも派手な感じである。
「考えてやったのよ」
「正直やれやれよ」
「そうなの」
「お父さんも何て言うか」
「まあまあ。それで今日はよね」
「愛ちゃんとじっくりお話したくてね」
 母は呆れた顔から普通の顔になって姪に答えた。
「呼んだのよ」
「私自身を見たくてよね」
「今の咲ちゃんがどんな娘かね」
「お父さんやお母さんから聞いてくれた?」 
 咲の両親にというのだ。
「そうしてくれた?」
「実はまだよ」
「そうなのね。けれどなのね」
「そう、愛ちゃんと直接お話して」
「私のことを知りたくてなのね」
「来てもらったのよ、後でうちの人も帰って来るけれど」
 それでもというのだ。
「今は叔母さんとお話してくれるかしら」
「喜んで、私のこと知ってもらうならね」 
 それならとだ、愛も笑顔で応えた。
「お話してね」
「それじゃあね」
「それじゃあリビングでお話しましょう」
 咲も会いに声をかけた。
「そうして紅茶やお菓子を食べて」
「そうしてね」
「お話しよう」
「ええ、じゃあ咲ちゃんも入れて三人で」
 それでというのだ。
「お話しましょう」
「ええ、まずはね」 
 こうしたことを話してだった。
 愛は咲と彼女の母にリビングに案内された、するとそこには。
「ワン」
「あっ、モコ元気だった?」
「ワンワン」 
 モコがケージから出ていて彼女を見ると明るく鳴いて短くされた尻尾をピコピコと横に振った。愛はその彼女を見て言った。
「元気そうね」
「この通りね」
「いや、元気で何より」
 モコのその頭を撫でつつ咲に応えた。
「暫く振りに会ったけれど」
「お姉ちゃん見て嬉しそうね」
「好かれている様で何より」
 愛は今度はモコを抱いて笑顔で言った。 

 

第十九話 両親と姪の会話その二

「じゃあモコも一緒にいる?」
「ワンワン」
「深刻なお話にはならないしね」
「なるかも知れないわよ」
 ここで咲の母が言ってきた。
「若しかしたら」
「そうなの」
「愛ちゃん次第でね」
「いや、私お腹にあるもの全部話すけれど」
 それでもとだ、愛はモコを床の上に戻しながら応えた、モコはそこでじっと彼女を見上げてへっへっへ、と舌を出して尻尾を振っている。
「別に疚しいこととかね」
「ないの」
「そう、だからね」 
 それでというのだ。
「別にね」
「悪いことはなの」
「ないから」
 それでというのだ。
「深刻なお話、厳しいお話にはね」
「ならないの」
「ええ、じゃあお茶飲みながら」
「お話しましょう、あとご飯食べた?」
「ええ、来る前にお家でね」
「食べて来たの」
「そうしてきたわ」
 こう咲の母に答えた。
「だからね」
「お腹は空いてないわね」
「そうなの」
「こちらも食べたしお父さんも食べて来るっていうし」
 そうしてくるからだというのだ。
「そっちの心配はいいわね」
「そうね、それじゃあね」
「お茶とお菓子出すから」
 それでというのだ。
「飲んで食べながらね」
「お話ね」
「それに入りましょう、紅茶でいいわね」
「有り難う、叔母さん」
 愛は咲の母に笑顔で応えた。
「自分で淹れるわ」
「お客さんなのにいいわよ」
「いや、自分のことは自分でね」
「遠慮はいらないわよ、図々しいの嫌いだし」
「そこは変わってないわね」
 母は姪の言葉にそれはと頷いて応えた。
「叔母さん安心したわ」
「他の人の家で自分からお茶とか煎れろとか言うとか」 
 咲と携帯で話したことを思い出しつつ彼女の母に話した。
「そういうの嫌いだし」
「図々しいことは嫌いだから」
「だからね」
「自分で淹れるっていうの」
「そうするわ」
「そこはいいわよ、叔母さんがいいって言うから」
 それでとだ、愛に対して言った。
「遠慮しないで」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「遠慮は無用でね」
「淹れてくれるのね」
「叔母さん達の分も淹れるから」
「それじゃあね」
 そこまで言うならとだ、愛も頷いてだった。
 三人で紅茶を飲みクッキーやチョコレート菓子を食べながら話した。そこで咲は母と共に愛と腹を割って話したが。
 彼女の話を聞いてだ、先の母は言った。
「よかったわ」
「私が変わってなくて?」
「ファッションは派手でもね」
 このことは事実でもというのだ。 

 

第十九話 両親と姪の会話その三

「それでも中身はいいわね」
「だからこれは好きでやってて」
「それでなの」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「中身はね」
「この通りなのね」
「守るべきところは守って」
 そうしてとだ、愛は咲の母に話した。
「悪い人とも付き合わないで」
「悪いこともしないのね」
「そうよ、アウトローなことなんて」 
 とてもというのだ。
「しないわよ」
「昔からの通りね」
「変なお金の使い方も」
 これもというのだ。
「しないわ」
「そこも真面目ね」
「お酒は飲むけれど遊びはカラオケとかでアルバイトもね」
「ちゃんとしてるのね」
「働いてお金を儲ける」 
 そうしていることも話した。
「そうしてるわ」
「変なお金の稼ぎ方していないわね」
「真っ当に働くのが一番でしょ」
 何といってもというのだ。
「やっぱり」
「それはね」
 姪の言葉にその通りだと頷いて答えた。
「そうよ、援助何とかとか」
「ああいうの絶対にしないから」
 愛は強い声で答えた。
「私はね」
「そうなのね」
「愛人契約とかパパ活とか」
「そういうこともよね」
「絶対にしないから。お金が欲しいなら」 
 それならというのだ。
「私はね」
「アルバイトしてなのね」
「稼ぐわ」
 そうするとだ、自分の叔母に話した。
「そうしてるわ」
「真面目になのね」
「そう、汗水流して働いて」
 そうしてというのだ。
「お金を手に入れて」
「それで遊んでるわね」
「それで遊ぶにしても」
「遊ぶことは好きね」
「大好きだけれど」
 それでもというのだ。
「間違ってもドラッグなんてしないわ」
「それは当然よね」
「あんなのするなんて」
 叔母に強い声で言った。
「気が知れないわ」
「身体も心もボロボロになるわよ」
「だからよ。あと私ギャンブルとかもね」
「しないのね」
「そっちも興味ないから。ゲームは好きだけれど」
 それでもというのだ。
「そういう遊びもね」
「しないわね」
「それ位なら貯金してるわ」
「貯金してるの」
「少しはね。いざって時もあるから」
 金を使う時があるというのだ。
「だからね」
「貯金もしてるのね」
「そうよ」
「それはいいことね」
「ええ。ただね」
「ただ?」
「私いじめられた経験ないし」
 愛は自分から言った。 

 

第十九話 両親と姪の会話その四

「いじめた経験もね」
「ないのね」
「だからそうしたことはね」
「わからないのね」
「けれど弱い者いじめとか興味ないから」 
 このことも言うのだった。
「周りで見たこともないし」
「いえ、それはあったわよ」
「あったの」
「愛ちゃんが気付いていなくても」 
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「あるの」
「だからそこはね」
「見ていくことね」
「そうよ、見たらね」
 周りをよくというのだ。
「あるから見付けたらね」
「その時はなの」
「注意するなりして」
 そうしてというのだ。
「止めてね。ただ自分がいじめられることは」
「避けることね」
「そこは頭使ってな。何かあったらお父さんかお母さんに相談して」
 叔母として姪にさらに話した。
「叔母さんにも叔父さんにもね」
「相談していいの」
「ええ、ここまでお話してわかったわ」
 咲の母は微笑んでこうも言った。
「愛ちゃんは昔のままね」
「そうでしょ。お姉ちゃんはお姉ちゃんよ」
 咲も母に語った。
「いい人なのよ」
「そうね。根はしっかりしているわ」
「私の言った通りでしょ」
「そうだったわ、じゃあお父さんが帰ったら」
「お父さんも交えて」
「今度は四人でお話して」
 そしてというのだ。
「そのうえでね」
「さらによね」
「そう、そしてね」
 それでというのだ。
「お父さんにもね」
「お話するのね」
「そうするわ」 
 愛のことをというのだ。
「そうするわ」
「それじゃあね」
「ええ、むしろね」
 母はここでこうも言った。
「愛ちゃん成長してるわね」
「そうなの」
「人間的にね」
 咲に話した。
「そうなってるわ」
「そうなの」
「昔よりも。高校時代よりもね」
「そうかしら」
 その愛が言ってきた。
「私成長してるの」
「叔母さんはそう思うわ」
「私は別に」
 自分自身ではというのだ。
「思わないけれど」
「叔母さんにはわかるわ」
 こう姪に言った。
「そのことはね」
「わかるの」
「人を見ていたら」
 そうしていたらというのだ。
「それでね」
「わかるの」
「そうなの」
「このことは長く生きて」
 そうしてというのだ。 

 

第十九話 両親と姪の会話その五

「色々なもの、色々な人を見ているとね」
「わかるのね」
「人生の経験を積んだらね」
 そうしたらというのだ。
「わかるのよ、やっぱりね」
「経験を積むことね」
「経験は最高の先生よ」
 愛に笑ってこうも言った。
「人生のね」
「そうなのね」
「ただしね」
 ここで咲の母はこんなことも言った。
「授業料は高いわよ」
「経験は」
「汚れちまった悲しみとか言うでしょ」
「中原中也ね」
 この詩人の詩の一節である、中原中也という人物は実はかなりの放蕩で波乱のある人生でかつ酒乱でもあった。
「あの人ね」
「これもよ」
「経験の一つね」
「そう、後悔したり反省したりして」
「経験を積んでいくのね」
「そうして成長したら」
 そうなればというのだ。
「こうしたこともわかるわ」
「成長すればわかるのね」
「そういうことよ」
「そうなのね」
「ええ、覚えておいてね」 
 愛に笑顔で話した。
「そしてこれからもね」
「成長していくといいのね」
「人は何処までも成長して」
 そうしてというのだ。
「よくなっていくのよ、努力すればね」
「人間努力が大事ね」
「そう、自分が偉いとか思わなくて」
「努力していくことね」
「それが大事なのよ」
「わかったわ」
 愛は叔母の言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「これからもなね」
「頑張っていくわ」
「そうしてね」 
 ここで咲の父が帰ってきた、そして愛と一旦挨拶を交えて自分の部屋で私服に着替えた、そうしてリビングに来てだった。
 愛と話した、そして彼も言った。
「よかった、愛ちゃんの中身は変わってないか」
「そうよね」
 妻がその言葉に応えた。
「外見は確かにね」
「派手になったけれどな」
「中身は変わってないわね」
「ギャルになってもな」
 それでもとだ、夫は妻に応えた。
「そうだな」
「派手なのは外見だけで」
「中身はしっかりしてるな」
「そうね」
「私は知ってたから」
 咲は微笑んで言った。
「お姉ちゃんのそうしたところは」
「咲の言う通りだったな」
「そうだったわね」
 両親は自分達の娘の言葉に頷いた。
「しっかりしていて真面目で」
「堅実でな」
「悪いことはしないわね」
「いい娘だな」
「そうよ、だから私も色々教えてもらっていて」
 そうしてとだ、咲は両親に話した。 

 

第十九話 両親と姪の会話その六

「頼りにしてるのよ」
「何かあったら私に言ってね」
 愛も応えた。
「私の知ってる限りのことをね」
「教えてくれるのね」
「そうさせてもらうから」
 だからだというのだ。
「宜しくね」
「そうさせてもらうわね」
「咲のことを頼むな」
 咲の父は自分の姪に真面目は声で言った。
「叔父さんも叔母さんも頑張って育てているが」
「愛ちゃんもアドバイスしてくれたら嬉しいわ」
「だから頼むな」
「愛ちゃんも助けてね」
「私でよかったらね。ただ私お酒好きだから」
 愛は笑ってこうしたことも言った。
「お酒勧めるわよ」
「それ位はいいわよ」
 咲の母は笑って返した。
「お酒はね」
「いいのね」
「お酒は普通に飲んでるし」
「おおっぴらに飲まないといい」
 咲の父も言った。
「それならな」
「そうなのね」
「家の中で飲む位ならな」 
 即ち宅飲みならというのだ。
「それならな」
「じゃあこれからもね」
「そうするといい、それとお酒の話が出たから」
「もういい頃ね」
 咲の両親はそれぞれ言った。
「お酒出しましょう」
「そうするか」
「それで咲も入れて四人でね」
「飲むか」
「そうするのね」
 咲もその話を聞いて言ってきた。
「これから」
「もういい頃でしょ」
 母が応えた。
「飲むには」
「そうなのね」
「じゃあ出すわね」
 酒、それをというのだ。
「そしてこれからはね」
「飲みながらなの」
「お話していきましょう」
「お話するにしても」
「飲みながらだから」
 それ故にというのだ。
「真剣なものじゃないわ」
「今度は砕けたものだ」
 父も言った。
「もう襟を開いて腹を割ってな」
「お話したから」
「だからな」
 そうした話をしたからだというのだ。
「もうな」
「砕けたなの」
「明るい話をするんだ」
「そうなのね」
「開いた襟をもっと開くな」
 そうしたというのだ。
「話をするんだ」
「襟をもっとなの」
「開くんだ」
「そうしてお話するのね」
「じゃあ咲もいいな」
「私も飲みながら」
「話すぞ、いいな」
 こう娘に言った。 

 

第十九話 両親と姪の会話その七

「これからは」
「それじゃあね」
 咲は父の言葉に頷いた、そうしてだった。
 そのまま残って実際に酒を飲みながら愛と両親を交えて話した、飲んでからの話は確かに砕けたもので。
 襟はより開かれていた、愛は飲みながらこんなことを言った。
「お酒で充分でしょ」
「何が充分なの?」
「楽しい気持ちになることはね」 
 咲の母にストロング系のレモンを飲みつつ話した。
「ドラッグなんてね」
「覚醒剤とかね」
「特に覚醒剤よ」
 これはというのだ。
「何でやるかわからないわ」
「覚醒剤は怖いわよ」
 母は焼酎を飲みつつ真剣に応えた。
「手を出したらよ」
「心も身体もボロボロよね」
「そうなるわよ」
 こう姪に話した。
「廃人になって寿命もね」
「縮まるわよね」
「骨がボロボロになるのよ」
 それならというのだ。
「歯もなくなったりしてね」
「そうなるならね」
「寿命が縮まることもね」 
 このこともというのだ。
「当然よ」
「やっぱりそうよね」
「あんなものはしたら駄目だ」
 咲の父はウイスキーのロックを飲みながら愛に話した。
「叔父さんなんか煙草も吸わないだろ」
「うちのお父さんもね」
「あいつも昔からだ」
 自分から見て弟になる彼のことも話した。
「お酒は飲むがな」
「煙草はね」
「身体に悪いだけだからな」
「そう言ってるわ」
「そうだ、煙草ですらそうでな」
「ドラッグはね」
「余計にな」
 それでというのだ。
「やったら駄目だ、覚醒剤なんてな」
「命縮めるだけよね」
「身体も心もボロボロになる、ただ終戦直後まで合法だったんだ」
「そうみたいね、ヒロポンとかいって」
 愛も応えた。
「それでね」
「それで煙草屋で売られていたんだ」
「やってる人もいたのよね」
「台湾統治は阿片を合法にして総督府の専売にして免許がないと吸えない様にしたんだ」
 咲の父はこの話もした。
「そうして新しい免許を出さない様にして」
「そうしてだったの」
「阿片を時間をかけてなくしたんだ」
「そんなことしてたの」
「確か満州でもな」
 そちらでもというのだ。
「そうしていたんだ」
「そうだったのね」
「ただ覚醒剤は合法で」
 再びこちらのことに話を戻した。
「やっている人もいたんだ」
「大阪の作家さんで織田作之助って人がいたけれど」
 咲の母も言ってきた。
「この人もやっていたのよ」
「夫婦善哉の人ね」
 愛は織田作之助と聞いてすぐに作品名を出した。
「あの人ね」
「そう、あの人は結核で死にそうで」
「それで覚醒剤打っていたの」
「もう何とか力出してね」
 覚醒剤にはこうした効用がある、体力を回復させるのではなく無理に生命力を引き出して燃え上がらせるのだ。 

 

第十九話 両親と姪の会話その八

「そうして書いていたのよ」
「結核で死にそうで」
「結局結核で亡くなったけれど」
 事実そうなった、大阪から東京まで執筆していた作品の取材に来てそこで客死してしまっているのだ。
「それでもね」
「覚醒剤打っていたの」
「当時は合法だったから、けれどね」
「結核で死にそうな人を書かせるなんて」
「愛ちゃんもわかるでしょ」
「相当無理していたわね」
「その無理をさせるのが覚醒剤なの」
 この麻薬だというのだ。
「だから使ったら」
「身体のエネルギーを無茶に出されて」
「ボロボロになるのよ、心もね」
「両方が」
「愛ちゃんも知っている通りにね」
「一週間寝ないで済むっていうけれど」
 覚醒剤を使えばだ。
「一週間寝ないと」
「身体にどれだけ負担か」
「心にもね」
「そうよね」
「これだけもわかるわね」
「覚醒剤が人の身体にどれだけ悪いか」
 勿論心にもだ。
「一週間寝ないだけでもそうだし」
「それだけのものを無理に出させるからね」
「覚醒剤は危ないのね」
「絶対に使ったら駄目よ」
 それこそというのだ。
「誰でもね」
「末期の結核って」
 咲は結核が死に至る病気のことから話した、彼女もこの知識は持っているのだ。戦前まで多くの人が死んでいることを聞いているのだ。
「もう死にそうで」
「起きていることすら難しいわよ」
 咲の母は娘にも話した。
「余命幾許もないから」
「それじゃあ小説書くなんて」
「普通はね」
「かなり難しいわね」
「そんなに人に書かせる位だから」
 身体の中にあるエネルギーを無理に引き出させてだ。
「もうね」
「どれだけ危ないか」
「今お話している通りよ」
「正直怖くなったわ」
 咲はあらためて覚醒剤に対してその感情を抱いた。
「あと幻覚とか見えて括約筋とか緩んで」
「そっちも大変よ、電波を受信したとかなって」
「そういうのも怖いわね」
「覚醒剤で怖くないものがあるか」 
 父も娘に真剣な顔で言った。
「本もあるしネットでもわかるからな」
「見ればいいのね」
「そうだ、その挙句死ぬとな」
 寿命を縮めてそうなってというのだ。
「骨も残らないんだ」
「身体がボロボロになっていてね」
「骨もそうなっているからな」
 それ故にというのだ。
「死んでもな」
「火葬したら骨がまともに残ってなくて」
「灰だけになってな」
「それも残らないのね」
「火葬にしても残る骨は残るんだ」 
 焼ける骨もある、丈夫な骨は残って脆い骨は焼けてしまうのだ。これは人間以外の生きものも同じである。
「だから骨がボロボロだとな」
「残らないのね」
「全くな」
 そうだというのだ。 

 

第十九話 両親と姪の会話その九

「そうなってしまうんだ」
「それも怖いわね」
「そうなりたくないな、咲も」
「何時死ぬかわからないけれど」
 それでもとだ、咲も答えた。
「やっぱり死んだらね」
「火葬だからな、日本は」
「そうよね」 
 ただし田舎ではまだ土葬の場合もある、このケースはかなり減っているがそれでもだ。
「死ぬとね」
「火葬になってな」
「骨をお墓に入れてもらうわね」
「しかし覚醒剤をやってな」
「骨もボロボロになっていたら」
「灰しか残らないからな」
 それ故にというのだ。
「灰でもお墓には入れてもらえるんだが」
「骨かっていうと」
「また違うんだ」 
「それはね」
「だからそうなりたくなかったら」
「覚醒剤はしない」
「絶対にだ、何度も言うが覚醒剤をやっていいことはないんだ」
 一つとしてというのだ。
「だからな」
「私もしたら駄目ね」
「絶対にな、ドラッグはな」
「やったら犯罪で」
「お金もかかってお金はヤクザ屋さんに流れてだ」
「身体も心もボロボロになるから」
「いいことは絶対にない」
 何一つとしてというのだ。
「だからするな」
「何があっても」
「そうだ」
 娘に強い声で告げた。
「いいな」
「そうするわね」
「私も咲ちゃんに言ったけれど」
 愛も言ってきた。
「ドラッグはね」
「しないな」
「したら本当の意味で終わりじゃない」
 法律的にも倫理的にも身体や心のことでもというのだ。
「逆に何でするのかしら」
「気持ちいいっていうけれど」
 咲は従姉に応えた。
「そうね」
「気持ちいい?それだけでってね」
「やるものじゃないわね」
「そう思うわ、馬鹿よ」
 こう従妹に返した。
「これ以上はない位にね」
「私もそう思うわ、だからね」
「私達は二人共ね」
「ドラッグは何があってもしない」
「そうしましょう」
「ええ。あと私ギャンブルとか貢ぎもしないし」
「あっ、貢いだらね」
 愛はこの話にも言及した。
「お金幾らあっても足りないわよ」
「ホストの人とかね」
「それで駄目になる人もいるから」
「女優の娘さんとか」
「あれはないわ」
 愛は眉を曇らせて言った。
「ホストクラブは。私は行かないにしても」
「お酒好きでもよね」
「ああした場所で飲んでどう面白いのか」 
 首を傾げさせつつ述べた。
「私わからないのよ」
「私も。ちょっとね」 
 咲も言った。
「ああしたことはね」
「わからないわね」
「面白いの?」
「さあ」 
 愛は従妹に首を傾げさせて応えた。 

 

第十九話 両親と姪の会話その十

「高いお酒飲んで男の人達に持て囃されて」
「それで騒いで」
「何が面白いのか」
「わからないわよね」
「叔母さんもわからないわよ」
 咲の母も言ってきた。
「ああしたところで遊んでもよね」
「面白いとはよね」
「思わないわ」
「そうよね」
「銀座のキャバレーと同じなんだろう」
 咲の父は首を傾げさせて言った。
「それはな」
「そうなの?」
「キャバレーとなの」
「お父さん、叔父さんも興味はないが」
 それでもとだ、咲と愛に話した。
「やっぱりな」
「興味がある人はいて」
「遊ぶ人もいるの」
「それで貢ぐ人もな」
 男にしてもというのだ。
「いるからな」
「性別に関係ないのね」
「そうしたことをする人って」
「貢いでどうするのよ」
「恋人でもないのに」
「相手は貢がせるのも稼ぎ方なんだ」
 そうした職業の人達はというのだ。
「貢ぐ、貢がせるのが悪いんじゃなくてな」
「悪くないの?」
「そうなの?」
「そうだ、勝手に恋人と思い込んでな」
 そうしてというのだ。
「やたら貢ぐのが悪いんだ」
「勝手にって」
「恋人って告白してオッケー貰ってないのに」
「お店の外でお付き合いしてるの?」
「違うわよね」
「お店の中でなんだ、お父さん叔父さんの知り合いにも貢いだ人がいてな」
 その目で見ていたというのだ。
「それで借金地獄になった」
「馬鹿じゃないの?」
 咲は父の話を聞いて呆れた顔と声で返した。
「そんなことで借金を作るなんて」
「無駄な使い方よね、つくづく思うわ」 
 愛も言った。
「今お話した女優さんの娘さん」
「あの人もよね」
「お母さんの遺産それで全部なくしたから」
「お母さん草葉の陰で泣いてるわよね」
「色々聞いてもね」
「ドラッグと同じだけ馬鹿な使い方よね」
「貢ぐのもあれは遊びなんだ」
 咲の父の言葉はここでは達観したものだった。
「要するにな、贔屓の相手に寄ろ喜んでもらうな」
「遊びなの」
「そうなの」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「そんな夢中になって貢いでな」
「借金作るなんて」
「馬鹿なことなの」
「そうだ、それもお金持ちがやる遊びだ」
 こうも言うのだった。
「そんな普通に入って軽い気持ちでやるものじゃない」
「覚悟してなの」
「やるものなの」
「本当の遊び人は死ぬで遊ぶ」
 遊びに命を賭けているというのだ。
「そうらしいしな」
「遊びに溺れるなら」 
 それならとだ、愛は気付いた顔になって言った。
「そういうことね」
「要するにな」
「そういうことなのね」
「遊びに命をかけてだ」
「いつも真剣に遊ぶのね」
「そうするのがな」
 まさにというのだ。
「本当の遊び人だっていうな」
「命を賭けて」
「武士みたいにな」
「そんなものなの」
「そうみたいだ、叔父さんもそこまで真剣になって遊んだことはないからわからないがな」  
 それでもというのだ。 

 

第十九話 両親と姪の会話その十一

「本当に遊び人はそうらしい」
「だから溺れなくて」
「粋があるらしい」
 遊びにというのだ。
「それで余裕もだ」
「あるのね」
「まあ昔からそんな遊び人が何人いるか」
 考える顔でこうも言った。
「果たしてな」
「女優さんの娘さんは」
「ああいうのは論外だ」
「ああ、やっぱり」
「親不孝の極みだろう」
「お母さん心配だったでしょうね」
 この言葉が自然に出た。
「娘さんのことをよく知っていたから、母親だから」
「あああるのかもってな、そしてな」
「実際になったわね」
「あれは遊びに溺れたんだ」
 その女優の娘はというのだ。
「完全にな」
「ホストの人に貢いで」
「ホスト遊びとも言うしな」
「その遊びに溺れて」
「ああなったんだ」
「お母さんが心配した通りに」
「相当遺産があったらしいが」
 母親の残したそれはというのだ。
「それでもな」
「全部なのね」
「使い切ったみたいだな」
「ホストの人に貢いで」
「真面目に使えば一生それで暮らせる位あった筈なんだ」
 母親の遺産はというのだ。
「けれどな」
「そんな下らないことで全部使ったのね」
「ホストの人に」
 咲も愛も呆れて言った。
「何て言うかギャンブルとかドラッグで使うとか」
「同じレベルよね」
「自分の為に使うなら兎も角」
「そんなことに使うなんて」
「まだ漫画とかカラオケに使った方がましね」
「ラノベとかゲームにね」
 そうした遊びにというのだ。
「遥かにましよね」
「そうよね」
「そうしたことに使っても安いだろ」
 咲の父は二人に言った。
「しかも全部自分に返って来るな」
「カラオケは歌上手になってカロリーも消費するし」
「あれダイエットになるのよね」
「漫画とかラノベとかゲームからも知識得られるし」
「あれで馬鹿に出来ないわ」
「けれどホストの人に貢いでも」
「ギャンブルもドラッグも」
 二人で言った。
「何も生み出さないわね」
「ドラッグなんか身体滅ぼすだけだし」
「意味ないわね」
「無駄遣いね」
「愛ちゃんはわかってるな、そうしたことがわかっていればいい」
 咲の父はウイスキーを飲みながら笑って応えた。
「叔父さんも安心した」
「そうなの」
「色々抜けていても大事なものは持っていてわかっていればいいんだ」
 それでというのだ。
「だからこのままいいものをどんどん手に入れていってくれ」
「人としてよね」
「そこもわかっていればいい、誤解して悪かった」
「叔母さんもね。愛ちゃんを誤解していたわ」
 咲の母も言ってきた。
「愛ちゃんは大丈夫よ」
「これからも咲と一緒にいてくれ」
「そして色々教えてあげてね」
「そうさせてもらうわ」
 愛も笑顔で応えた、そうしてだった。
 四人で飲んで食べながら楽しい話をした、愛は終電前には帰ってそうして自宅で休んだ。彼女への先の両親の誤解はもう完全になくなっていた。


第十九話   完


                 2021・6・15 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その一

                第二十話  ゴールデンウィークの予定
 先はアルバイトに行くとそこで速水に尋ねられた。
「ゴールデンウィークは何処かに行かれますか」
「オフの日に従姉のお姉ちゃんと遊びに行きます」
 咲はすぐに答えた。
「あとはあまり」
「旅行は行かれないですか」
「別に」 
 また答えた。
「ありません」
「ではこちらにもですね」
「はい、ずっと働かせてもらいます」
「それは何よりです。ただ旅行はいいものです」
 速水は微笑んで旅行の話もした。
「各地を巡ることも」
「いいですか」
「はい、素敵な趣味になります」
 穏やかな微笑みと共にだった、速水は咲に話した。
「私はお仕事で行ってばかりですが」
「そういえば時々」
「そうです、外でのお仕事が入りまして」
「その時にですか」
「お仕事をしながら」
 そうしつつというのだ。
「楽しんでもいます」
「観光スポットやお料理をですか」
「そして人と会うことも」
 こちらもというのだ。
「そうしています」
「そうなんですね」
「プライベートで行ったことはもうずっとないのですが」
「お仕事ばかりですか」
「そうなのです」
「そうですか。ですが占いって出張もあるんですね」
 咲は純粋に考えた、速水を完全に占い師であると思っているのだ。
「そうなんですね」
「そう思って頂けるなら何よりです」
 今度は咲に謎めいた笑みで応えた。
「私も」
「そうですか」
「はい、それでなのですが」
 速水はさらに話した。
「私はゴールデンウィークに旅行に行かれても」
「よかったんですか」
「それが貴女の貴重な財産になるので」
 旅行で見て経験したことがというのだ。
「ですから」94
「そうなんですか」
「機会を見付けてです」
「行けばいいんですね」
「お好きなら」
「旅行は嫌いじゃないです」
 咲は基本インドア派である、だから漫画やライトノベルそれにゲームが好きで部活も漫研なのだ。だがそれでもだ。
 旅行も嫌いではない、それで速水にも正直に答えたのだ。
「よくお父さんお母さんと行きました」
「そうなのですね」
「中学までは。ですが高校生になったので」
 少し大人になったからだというのだ。
「やっぱり親と一緒でなく」
「お一人で、ですか」
「行く方がいいですね」
「ツアーかどなかたかと一緒でなら」
 速水は咲に穏やかな声で話した。
「宜しいです」
「一人旅は危ないですか」
「女性のそれは危険です」 
 速水はここでだった。
 タロットのカードを出した、そのカードはというと。
 塔の逆だった、咲にそのカードを見せて語った。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その二

「塔は最悪のカードと言われています」
「正でも逆でもですね」
「最悪の、破滅の意味しかない」
「本当に最悪のカードですね」
「女性の一人旅は少し間違えるか何かありますと」
「破滅ですか」
「はい」 
 まさにという返事だった。
「これは我が国でも同じです」
「日本でも油断しますと」
「いえ、油断せずとも」
「間違えると、ですか」
「そうなります」
 塔、即ち破滅に至るというのだ。
「ですから出来るだけです」
「一人旅はしないことですか」
「それが宜しいです」
「そうなんですね」
「旅はいいものですが」
 それでもというのだ。
「用心は必要なのです」
「そういうことなんですね」
「そうです、そこはお気をつけ下さい」
「わかりました」
 咲も速水のその言葉に真剣な顔で頷いた、彼女にしてもよく聞いて頭に残っていることだからである。
「そうします」
「楽しむことはいいですが」
「油断はいけなくて」
「そうです。安全であることも」
 このこともというのだ。
「注意しないといけません」
「そうなんですね」
「そのことはご注意を。ただ」
 ここでだ、速水は。
 またカードを引いた、そして今度は星の正のカードが出た。そのカードを見ながら咲に微笑んで話した。
「貴女のゴールデンウィークは非常にです」
「星は確か」
「正ならです」
「最高ですね」
「幸せが訪れます」
「そうなりますか」
「楽しまれて下さい」
 笑顔での言葉だった。
「そうされて下さい」
「わかりました」
 咲も頷いて応えた。
「そうさせてもらいます」
「それでは」
「お姉ちゃんやお友達と一緒に」
「お姉さんですか」
「従姉の。まるで本当の姉妹みたいに仲がいいんで」 
 それでというのだ。
「お姉ちゃんって呼んでいます」
「そうなのですか」
「それでなんです」
 咲はさらに言った。
「お姉ちゃんと一緒にカラオケに行ったりして」
「楽しまれますか」
「そうします、そして」
 それにと言うのだった。
「お友達とも」
「それではそうされて下さい」
「そうしてきます」 
 咲はまた笑顔で応えた。
「是非」
「はい、しかし私も旅は」 
 ここで速水は自分の話もした。
「お仕事ですが色々な国に行っています」
「そうなんですね」
「フランスやスペイン、ドイツやイタリアにも行っていまして」
「欧州多いですね」
「クロアチアにも行ったことがあります」
 この国にもというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その三

「アイルランドにも」
「あの国にもですか」
「そして日本でもです」
 国内でもというのだ。
「何かとです」
「お仕事で、ですか」
「巡っています」
 そうしていることを話した。
「それで時々です」
「事務所におられないんですね」
「その時は代理の方に来てもらっています」
 そうしてもらっているというのだ。
「この方も確かな方なので」
「占いは当たりますか」
「左様です」
「そうなんですね、そういえば速水さんよく一枚で占われますね」
「出したカードで、ですね」
「タロットは他の占い方もありますね」
「ケルト十字や円もあります、そして他にもです」
 さらにというのだ。
「あります、依頼の都度です」
「変えていますか」
「どのやり方で占うか」
 このことはというのだ。
「その方の依頼に応じまして」
「変えていますか」
「そうしています」
 こう咲に話した。
「私は」
「そうですか」
「一枚で占う時も多いですが」 
 それでもというのだ。
「必要とあればです」
「本格的な」
「そうした占いもです」
「されていますか」
「一番多いのはケルト十字ですね」 
 この占い方だというのだ。
「よくわかりますので」
「だからですか」
「大アルカナだけでなく小アルカナも使います」 
 こちらもというのだ。
「そうしています」
「絵のあるのだけじゃないんですね」
「私の占いは」
 タロットのそれはというのだ。
「左様です」
「カードを全て使われて」
「そしてです」
「占われますか」
「その占い方もです」
 それもというのだ。
「その都度です」
「変えられますか」
「そうしています。ですが」
 速水はさらに話した。
「基本は大アルカナの二十二枚で占い方もです」
「ケルト十字ですか」
「そうなのです」
「基本はあるんですね」
「はい」
「そうなんですね、そういえば」 
 ここで咲は速水に真顔になって問うた。
「この前政治家の」
「政治家の方もよく来られます」
「このお店には」
「経営者や官僚、タレントやスポーツ選手も」
「そうなんですね」
「サラリーマンの方も来られますが」
 速水はさらに言った。
「そうした方もです」
「来られますか」
「色々な方が。そして」
「占ってるんですね」
「私の占いは来る者は拒まずです」
 速水は微笑んで述べた。
「私のところに来られて占って欲しいと言われて」
「お金を支払えば」
「それで、です」
「占われますか」
「そうしています、あと貴女とはじめてお会いした時の様に」
「さっきもでしたね」
「無料で即席で占わせてもらうこともあります」
 その場合もあるというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その四

「その場合はカードを一枚出すだけですが」
「それでどうかですね」
「この場合は即座にわかりますが」
 しかしというのだ。
「細かいことはわからないので」
「だからですか」
「無力となります」
「そうなんですか」
「細かいところまで見極めるのがです」
 それがというのだ。
「私の本来の占いなので」
「そうした時はですか」
「お金が必要です、そして占いは絶対ではないです」
「未来を見るんですよね」
「運命を。ですが運命は変えられます」
 速水は咲に話した。
「貴女も若しあの時コンビニにそのまま入っていますと」
「麻薬の密売人に引っ掛かって」
「大変なことになっていた可能性が」
「そうでしたね」
「ですが運命は変えられるのです」
 速水はまたこう言った。
「占いは道標なのです」
「運命のですか」
「人生のです、危険があれば」
 それが占いで出ればというのだ。
「それを避ける為にどうすべきか」
「それが大事ですか」
「そうです、幸運があれば」
 やはり占いで出ればというのだ。
「それにどう辿り着くか」
「それを見せる道標ですか」
「それが占いです」
「そうなんですね」
「予言がありますね」 
 速水はオカルト等で言われるものの話もした、最も有名な予言はやはりノストラダムスのものであろう。
「あれも同じです」
「人類が滅亡すると言われていても」
「それをどう避けるか」
「それが大事ですか」
「最も大抵の預言は適当に書いているだけです」
「予言の本とかですね」
「十年前の予言の本を古本屋で買って下さい」
 咲に笑って話した。
「そうすればです」
「わかることですか」
「はい」
 一言で答えた。
「ほぼ全て外れています」
「予言が」
「そうなっています」
「そういえば一九九九年に世界は滅亡するんですよね」
「最も有名な予言ですね」
「確かノストラダムスの」
「ですが今もです」
 二十一世紀を相当に過ぎてもというのだ。
「人類は存在していますね」
「そうですよね」
「その予言は大騒ぎになりました」
 信じて人類は終わると思った者が総統に存在したのだ。
「しかしです」
「今も人類は存在しているので」
「街で売られている予言の本はです」
「大抵は、ですか」
「本を売る為に衝撃的なことを書いているだけで」
 人類が滅亡するだの何だのというのだ。
「その実はです」
「当たらないんですね」
「適当なことを書いておけば」
 衝撃的なそれをというのだ。
「注目されて売れますので」
「ノストラダムスとかですか」
「予言者の名前を出して」 
 そうしてというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その五

「戦争や災害、兎角大きなことを書いて」
「人類滅亡ですね」
「そう書いてです」
「売るだけですか」
「はい」
「それが本屋さんとかにある予言の本ですか」
「過激な話は読まれます」
 人類滅亡だのというのだ。
「衝撃的で」
「インパクトがあるので」
「それで驚いて興味を持って」
 そうしてというのだ。
「買います。ですからああした本は一定の売り上げを持っていたのです」
「そうなんですね」
「流石に一九九九年以降下火になりましたが」
 ノストラダムスの一番有名なこの予言が外れたからだというのだ、彼の代名詞と言っていいまでの予言であったが。
「ですがまだある程度はです」
「売れますか」
「その様です」
「そうなんですね」
「ですから」
 それでというのだ。
「こうした本は今もあることはあります」
「ノストラダムスでなくとも」
「中にはもう箸が転がっても」
 些細なことでというのだ。
「人類滅亡を言う」
「そうした本もあったんですね」
「はい」
 実際にというのだ。
「最早狂気の域でした」
「電波でしょうか」
 咲は侠気と聞いてこう問うた。
「そうですか」
「そうですね」
 速水も否定しなかった。
「あそこまでいきますと」
「やっぱりそうですか」
「あまりにもです」
「そんなことばかり言うので」
「最早」
 それこそとだ、速水も否定しなかった。
「そう言っていいまででした」
「凄い本もあったんですね」
「ですが売れました」
 こちらの本もというのだ。
「非常に」
「衝撃的で過激だったので」
「そちらに振りきれていたので」
 その為にというのだ。
「そうでした」
「そうだったんですね」
「ですから」
 速水はさらに言った。
「売れます」
「それで売れるんですね」
「人は刺激を求める生きものなので」
「売れるんですね」
「そして読んで」
 そのうえでというのだ。
「信じてしまいます」
「どんなものでもですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「目にすれば、特にです」
「特に?」
「目だけでなくです」
 さらにというのだ。
「耳でしかも文章でなく絵しかも動画になりますと」
「さらにですか」
「目に入ります、ですからテレビは」
 この媒体はというのだ。
「新聞や雑誌、本以上にです」
「危ないですか」
「はい、ですから私はです」
 速水自身はというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その六

「テレビには出来るだけです」
「関わらないですか」
「そうしています」
「では出られることも」
「しない様にしています」
 そうだというのだ。
「そうしています」
「そうなんですね」
「危険なので」
 テレビという媒体がというのだ。
「人を騙すことにもってこいですから」
「騙すには」
「目と耳から。動画と声で頭に入れば」 
 そうなればというのだ。
「記憶に残ります。若しそれが過ちなら」
「間違った情報が頭に入って」
「そのまま残り」
 そうしてというのだ。
「知識になりますので」
「その人にそこまでの影響を与えるので」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「出来るだけです」
「テレビにはですか」
「出ない様に。関わらない様に」 
 その様にというのだ。
「しています」
「影響を与えないですか」
「多くの人に無責任に」
 速水はこう述べた。
「意識しています」
「そうなんですね」
「何事にも責任があり」
 そしてというのだ。
「背負います、その背負うものを放棄するなら」
「それならですか」
「占いはです」
「出来ないですか」
「他のこともです」
「そうなんですね」
「責任を放棄するなら時として犯罪になります」
 速水はこうも言った。
「まことに」
「犯罪って」
「マスコミはいつも無責任に言います」
 速水は咲に冷静な声で述べた。
「しかしです」
「責任はですか」
「言論の自由、報道の自由を言い逃れにして」
 そうしてというのだ。
「そのうえで」
「責任を取らないんですね」
「どの国でもそうかも知れませんが」
 速水は難しい顔になって述べた、その間も左目の部分を隠している髪の毛は動かない。まるで見せるものではないものを隠しているかの様に。
「しかし特に我が国のマスコミは」
「酷いですか」
「どんな嘘を吐いてもいいのですから」
 責任を取らないというのだ。
「だからこそ腐敗し」
「酷くなっていくんですね」
「極限まで。腐敗を極めて」
「そうしてですか」
「それがずっとですから」
「相当に酷い世界ですね」
「自浄能力なぞです」
 それこそというのだ。
「戦前からなかったですが」
「戦争前からですか」
「これは今では学者の人達の世界もです」
「自浄能力がないんですね」
「運動家の様な人が大勢います」
 そうだというのだ。
「学説ではなく運動の様なことを言います。経済侵略という言葉をご存知ですか」
「何ですか、それ」
 咲はその言葉に目を瞬かせて問い返した。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その七

「一体」
「昔よくあった言葉です」
「そうなんですね」
「学者やマスコミ、作家の人達が言っていました」
「そうした言葉ですか」
「企業が他の国でお仕事をしたりものを売りますね」
「はい、それは」
 それは咲も知っていて頷くことが出来た。
「ありますね」
「これがです」
「経済侵略ですか」
「そう言われていたのです」
「お仕事じゃないんですか?」
 咲はきょとんとした顔で言葉を返した。
「それって」
「いえ、それがです」
「経済侵略ですか」
「日本の企業が他国で活動したりものを売りますと」
「あの、普通じゃないんですか」
「それをそう呼んだのです」
「何処が侵略か」
「その国の経済を占拠するので」
「いや、してないですよ」
「普通に考えればそうですが」
 しかしというのだ。
「それをです」
「そう言っていたんですか」
「今言った人達、知識人の人達は」
「そうなんですか」
「これは共産主義、マルクス主義の論理です」
 速水はこのことも話した。
「企業つまり資本家の活動なので」
「言っていたんですか」
「批判していました、財閥もです」
「あっ、教科書とかで」
「よく批判されていました」
「何か戦争を起こすとか」
「ビジネスは戦争が起こっては出来ません」
 速水はそれはきっぱりと否定した。
「到底」
「そうですね、戦争があれば」
 それならとだ、咲も頷いた。
「どうしても」
「物騒で商売なぞ出来ないですね」
「ここでも何かあったら」
 渋谷でもとだ、咲は言った。
「暴動があっても」
「お仕事は出来ないですね」
「そうですよね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「むしろ企業は戦争を望みません」
「財閥もですね」
「戦争を望むのは革命家か極端な宗教家です」
「十字軍みたいな」
「そうです、戦争を起こしても目的を達成したい」
「平和を望まずに」
「そうした考えなので」
 だからだというのだ。
「戦争を起こします、ですが戦争が起こっては商売が出来ない」
「だからですか」
「戦争は避けます」
「じゃあ経済侵略は」
「そんなものはありません」
 きっぱりと否定した。
「ですがそれをです」
「知識人の人達は言っていましたか」
「はい」
 そうだったというのだ。
「そして今もその発言について何も弁明していません」
「間違っていたとか」
「一切です、尚経済侵略の先は東南アジア等でしたが」
「東南アジアって結構発展してません?」
 咲は現代の状況から言った。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その八

「タイとかインドネシアとか」
「昔はずっと貧しかったのです」
「その時のことですか」
「貧しい国に進出して搾取する」
「お仕事することがですか?」
「そう言っていたのです」
「本当に訳がわからないです」
 少なくとも咲には全く、だった。それで首を傾げさせた。
「どういうことか」
「ですから共産主義の論理です」
「それでなんですか」
「はい、言っていました」
「経済侵略って」
「そしてやたら喧伝して企業も批判していました」
「そうだったんですね」
 まだわからないが言葉は返した。
「それでそう言った人達もですか」
「責任は取っていません」
「そうなんですね」
「そして今も普通に暮らしています」 
 そうだったというのだ。
「反省しないまま」
「そうなんですね」
「そして何かと言っています、基地の前にも」
 そこにもというのだ。
「いる人達です」
「基地っていいますと自衛隊の」
「そしてアメリカ軍の」
「デモをしている人達ですね」
「あの人達もそれです」
 速水は看破する様にして語った。
「日本の経済侵略だの。アジア再侵略だの」
「侵略好きですね」
「根拠が的外れなことを言っていて」
「今もですか」
「そうしたことをしています」
「何かネットで聞きました」
 咲はそちらの知識から速水に応えた。
「運動家の人達ですね」
「沖縄で活動していますね」
「何かいつもデモしている」
「不思議ですね、平日のお昼からです」
「デモしていますね」
「毎日そうしていますが」
 平日の昼にデモをしているがというのだ。
「働いているのか」
「それ不思議ですね」
「もうそこにです」
 まさにというのだ。
「答えは出ているかと」
「働かないで、ですか」
「生活費、お金の出所がわからない」
「そんな人達ですか」
「お金の出所がわからない人には近寄らないで下さい」
 速水は咲にきっぱりとした口調で話した。
「何があっても」
「そうした人にはですか」
「裏社会、危険な勢力からです」
「出ているかも知れないですか」
「若しくは犯罪を犯している」
「碌でもないお金の出所だからですか」
「絶対にです」
 そうした輩はというのだ。
「信用してはいけません」
「危ない人だからですね」
「はい」
 まさにというのだ。
「ですから」
「そうした人はですか」
「信用しないで」
 そしてというのだ。
「近寄ってはいけません」
「何があってもですか」
「ああした人達は。実際にです」
 ここでだ、速水はまたカードを引いた。そのカードは。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その九

 悪魔だった、咲にその悪魔のカードを見せた。そうしてそのうえで咲に対してさらに話をするのだった。
「こうした輩であったりします」
「悪魔ですか」
「この場合はまさにです」
「文字通りのですか」
「悪魔です、悪意や悪事に染まりきった」
「そうした悪魔ですか」
「悪魔といっても様々です」
 悪魔とは何かという話もした。
「ただキリスト教の神に対する」
「その場合もありますか」
「聖魔伝という漫画でありました」
 漫画の話も入れてきた。
「悪魔とは何かと聞かれ」
「そうしてですか」
「神に歯向かう愚か者だという返答が出て」
 そうしてというのだ。
「まさにそうだという返事でした」
「それが正解ですか」
「はい」
「それが悪魔ですか」
「神を絶対の正義としたならば」
 そう考えると、というのだ。
「それならです」
「まさにですね」
「悪魔は絶対の悪となります」
 神を絶対の正義と定義してその神と敵対する悪魔は何かと考えるとどういった存在になるかというのだ。
「そうなります、ですが」
「この場合悪魔が本当に悪か」
「そう考えますね」
「深く考えると」 
 咲も答えた。
「そうですね」
「はい、失楽園や多くの創作では悪魔は決してです」
「悪ではないですね、そういえば漫画やライトノベルやゲームでも」
 咲は自分の専門知識からも答えた。
「別に悪魔は。モンスターとして出ても」
「それでもですね」
「仲間になったりします」
「闇の力を使う位ですね」
「邪悪とは」
 決してというのだ。
「違います」
「そうですね、ですが今私が出した悪魔は」
 タロットカードに出たそれはというのだ。
「今小山さんが言われた」
「邪悪ですか」
「悪意や悪事に骨の髄まで染まりきった」
「そうした悪魔ですか」
「吐き気を催す邪悪です」
 それだというのだ。
「この場合の悪魔は。戦後日本はこうした知識人がです」
「多くいたんですか」
「そしています」
 今も尚というのだ。
「運動家も含めて」
「今もいますか」
「はい」
 そうだというのだ。
「彼等に近付いても信じてもいけません」
「絶対にですね」
「あの北朝鮮との関係も」
「あの国ともですか」
「あったりしますから」
「あの国ですか」
「北朝鮮については言うまでもないですね」
 速水は咲に述べた。
「どういった国か」
「犯罪国家ですね」
 咲は北朝鮮に就いてこう言った。
「もう」
「そうですね」
「皆知ってますよ」
 咲はこうも言った。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その十

「北朝鮮については」
「どういった国か」
「言うまでもないです」
 それこそというのだ。
「本当に」
「ですがそうした人達は」
「北朝鮮とですか」
「関りがあってしかも」
 さらにというのだ。
「支持しています」
「あんな国をですか」
「世の中そんな人もいるのです」
「おかしな人ですか」
「おかしいからそうしたことを言い」
 経済侵略だの日本のアジア再侵略だの根拠となると甚だ不明な極端な主観に基く発言を行うというのだ。
「そしておかしな行動もです」
「するんですね」
「そうなのです」
「おかしいからですか」
「おかしいことはおかしいとです」 
 速水はこうも言った。
「はっきりわかることもです」
「大事なんですね」
「はい、テロを起こして」
 速水は今度はこう言った。
「テロを起こした人達が権力なりに反対しているから」
「だからですか」
「いいとはなりませんね、大勢の人が死ねば」
「殺人ですよね」
「もうどれだけ大義を掲げていても」
 それでもとだ、咲に答えた。
「無実の無関係の人達を巻き添えにする」
「もうその時点で、ですね」
「テロであり」
「犯罪ですよね」
「許されない」
 そうしたというのだ。
「そうなります、権力に反対していても」
「間違っていますね」
「それをいいと言う人もですね」
「おかしいって言いますか」
 咲は眉を顰めさせて答えた。
「あの、人殺されていますよね」
「はい、何の関係もない無実の人が」
「テロで」
「そんなことをする人達でも権力に反対しているとですか」
「いいと言う人がいます」
「人殺してもですか」
 徐々に信じられないという顔になって述べた。
「いいんですね」
「その通りです」
「殺された人の命や心、人生や遺族の人達の悲しみは」
「一切考慮していないから言えます」
「遺族の人の前に突き出したら殺されても文句言えないですね」
 その様なことを言う、言える輩はとだ。咲は心から思った。
「というか人への思いやりとかない人ですね」
「そうですね」
「それで法律への知識も」
「はい、興味もありません」
「そんな人生きていても」 
 それこそと言うのだった。
「それこそ」
「意味がないですね」
「無関係な人が殺されてもいいとか」
 権力に反対するからいいと言う輩はというのだ。
「その人の人生や苦しさも痛みも」
「理解せずしようともしません」
「理不尽に殺されても」
「そして遺族の人達の悲しみも」
「全くです」
「人間として生きている意味ないですね」
 またしても心から言った。
「そうですと」
「私もそう思います、最早」
「思いやりが全くないんですね」
「そうです、そして」
 そのうえでというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その十一

「法律が何故存在するかもです」
「わかっていないんですね」
「法律は人と社会を守るために存在しています」
 速水は咲に確かな声で述べた。
「弱い人を守る為に」
「法律がないととんでもないことになりますね」
「法律が存在しないと無政府状態になります」
「それってつまり」
 咲は無政府状態と聞いて言った。
「北斗の拳みたいな」
「ああした社会です」
 その通りという返事だった。
「まさに」
「やっぱりそうですか」
「ああした風になります」
「ならず者のやりたい放題ですね」96
「そうなります」
「ああした世界になるって」
 暴力を持つ者だけがのさばる社会になる、このことを考えてそうしてだった。咲は速水にこう言った。
「誰でもです」
「わかりますね」
「そうしたことすらわからないのでは」
 それこそというのだ。
「最早です」
「人間としてですね」
「私は存在価値すらです」
 人としてのそれすらというのだ。
「果たしてあるのか」
「そうお考えですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「幾ら何でも」
「酷過ぎるからですね」
「人は誰かへの思いやり、最低限の思慮分別を持たないといけません」
 こう言うのだった。
「そうでないとです」
「存在価値がない位の人になりますね」
「実際に私もです」
 速水は右目をほんの少し顰めさせて述べた。
「そうした人とはお付き合い出来ないです」
「人が殺されてもそう言う人は」
「殺された人や遺族の人達の傷みや苦しみ、悲しみ、絶望を想う」
「例えテロをした人が権力に反対していても」
「権力なぞ幾らでも変わります」
「幾らでもですか」
「徳川幕府の後で明治政府が産まれました」
 歴史から述べた。
「そうなりましたし」
「権力は、ですか」
「国家権力もそうです、そしてそうした人は権力イコール国家権力ですが」
 それがというのだ。
「何処にでも権力は存在します」
「あっ、そうですね」
 咲は速水の今の言葉にはっとなって頷いた。
「会社でも部活でも」
「人間の社会ならですね」
「何処でも」
「一つのコミュニティがあれば」
「そこにですか」
「必ず権力が存在します」
「偉い人がいますね」
 速水に応えた。
「そうですね」
「その通りです、そしていつも変わります」
「どのコミュニティの権力も」
「部活も顧問の先生が交代したり先輩が卒業すれば」
「それで変わりますね」
「そうなりますし」
 それでとだ、速水は話した。
「権力に反対することがいいか」
「何でもトップは嫌いですか」
「ですから社会が成り立たず」
 そうした輩の意見が通ればというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その十二

「無政府状態になり」
「世紀末な世界になりますね」
「そうした人の主張を聞けば」 
 そうなるというのだ。
「まさに」
「碌なものじゃないですね」
「そしてそんな人こそ無政府状態では生きられないです」
「そうなんですね」
「無政府状態では己の力と知恵が必要ですが」 
 法律がないならというのだ。
「ですがそうした人はです」
「どう見たって頭悪いですね」
「人並みの知恵、知能、分別、何もかもがです」
「ないですね」
「そしておおよそ悪い意味で頭でっかちで」
 知恵も知能も分別もないがというのだ、つまりおかしな知識だけ備えているというのだ。まさに最悪のケースである。
「そればかりで身体はです」
「貧弱ですか」
「そうと相場が決まっているので」
 それ故にというのだ。
「どのみちです」
「そうした社会では生きられないですが」
「真っ先に暴漢に襲われ」
 そうしてというのだ。
「命を落とします」
「そうなるんですね」
「そして誰からもです」
 死んでもというのだ。
「何も思われません」
「無様ですね」
「そうです、そうした人は無様です」
 速水はきっぱりと言い切った。
「自分は何かポリシーがある、格好いいと勘違いしていても」
「勘違いですね」
「その実はです」
「恰好悪くて」
「無様なのです」
「そうなんですね」
「小山さんはそうはなりたくないですね」 
 咲に目を向けて訪うた。
「絶対に」
「最低です」 
 これが咲の返事だった。
「ですから」
「そう思われるなら」
「思いやりとですね」
「思慮分別を備えて下さい」
「わかりました」
 速水のその問いに答えた。
「そうさせてもらいます」
「そうされて下さい。世の中そこまで愚かですと」
「存在価値もないんですね」
「そう言うしかないです」
 思いやりも思慮分別もないならというのだ。
「人の傷みも苦しみも悲しみもわからない、わかろうとしないなら」
「生きている価値もないですね」
「そう思いますので」
「権力に反対するしない以前ですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「権力に反対するなら何をしてもいいのか」
「そんな筈ないですね」
「では自分が殺されてみるか」
「そうした人は嫌がりますね」
「間違いなく自分だけ助かろうとします」
 そうした輩こそというのだ。
「他の人はどうなっても」
「そうですよね」
「自分だけは助かろうと」
 そう考えてというのだ。
「必死にです」
「逃げますか」
「あがき言い逃れや責任転嫁もし」
 そうしてというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その十三

「醜くです」
「逃げようとしますか」
「そうします」
 速水はここでカードを出した、それは愚者の逆だった。咲にそのカードを見せてそうして言うのだった。
「その結果です」
「不吉ですね」
「愚者も逆はです」 
 そうなると、というのだ。
「落ちますね」
「真っ逆さまですね」
「この愚者の逆も様々な意味があります」
「そうなんですね」
「無謀や不注意、過失、愚かさと」
「そうした人そのものですね」
「そして逆さになっているので」
 その為にというのだ。
「もう愚かさで」
「転落しますか」
「そうした輩は」
「そうなるのが末路ですね」
「実際そうした輩を雇っていたお店があったのですが」
「そんな馬鹿な人をですか」
「その輩を店員にした数年後潰れました」
 そうなったというのだ。
「そして今はありません」
「あの、それって」
「その輩が仕事が出来たかどうか知りませんが」
「そんな馬鹿な人を雇う様だと」
「わかりますね」
「そうですよね」
 咲も頷いた。
「そんな人を雇うなら」
「お店も人を見る目がないですね」
「そうですよね」 
 咲もそれはとなった。
「そんな思いやりもないし法律もわかっていない人だと」
「モラルもないことがわかりますね」
「それでいざという時役に立たない」
「そんな人を雇うなら」
「お店もです」
 それこそというのだ。
「人を見る目がない、そしてそれがです」
「経営にも出てですね」
「潰れたとです」
 その様にというのだ。
「私は思います」
「そうですか」
「私はそんな人は雇いません」 
 絶対にという言葉だった。
「思いやりも何もない」
「そんな人だからですね」
「そうです、真の意味での愚か者です」
 それこそ存在価値がないまでのというのだ。
「ですから」
「それで、ですね」
「最初からです、私もそうしたお店の人程はです」
「人を見る目がないとはですか」
「思いませんので」
 それでというのだ。
「決してです」
「雇いませんか」
「どうも人を見る仕事なので」
 それでというのだ。 

 

第二十話 ゴールデンウィークの予定その十四

「そうした人はわかります」
「カードで占って」
「それに目や雰囲気です」
「雰囲気ですか」
「オーラにも出ます」
 それにもというのだ。
「それで、です」
「わかりますか」
「はい、それでなのです」
「最初からですか」
「採用しません」 
 店員としてというのだ。
「実はお仕事が出来なくても」
「いいですか」
「真面目に努力していれば何時か結果になります」
 それでというのだ。
「そうした人はです」
「採用されますか」
「カードが指し示しば。無能な働き者は配置次第で」 
「あっ、向いているお仕事に就くと」
「それで、です」
 まさにというのだ。
「有能な働き者になります」
「そうなんですね」
「ですが存在価値がないまでの人間の屑は」
「どうにもならないですか」
「ヘドロはヘドロにしかなりません」 
 速水は言った。
「有能無能の問題ではないです」
「そういうのの下ですか」
「そうです、無能な働き者は向いているお仕事で有能な働き者になりますが」
「そうした人はです」
「ヘドロのままです」
 速水は咲にこう話した、そしてだった。
 彼は仕事に入った、そうして多くの人を占って導き彼の仕事をしたのだった。


第二十話   完


                 2021・6・23 

 

第二十一話 勉学もその一

                第二十一話  勉学も
 咲は予習復習も欠かしていなかった、それで部活や部活の後で予習復習をしていたが朝に母にこんなことを言った。
「難しいわね、お勉強」
「高校の?」
「特に数学が」
 この科目がというのだ。
「どうもね」
「あんた昔から数学が一番駄目よね」
「文系は得意だけれど」
 それでもというのだ。
「どうもね、理系はね」
「苦手よね」
「生物や化学はどうにかなっても」
「数学はよね」
「そうなの、どうもね」
「けれど平均はいつもいってるでしょ」
「偏差値は五十いってるわ」
 母にトーストを食べつつ答えた。
「それはね」
「だとね」
「いいの」
「まだいいでしょ」
 これが母の返事だった。
「苦手でもね」
「いや、けれどね」
「それでもなの」
「私はもっと。国公立も出来ればって考えてるし」
 大学のことも言うのだった。
「だからね」
「理系もなのね」
「勉強して」
 そうしてというのだ。
「成績もね」
「今以上に上げたいのね」
「数学もね、さもないと」
「国公立は入試五科目だから」
「文系の英語と国語と社会に加えて」
 大きく分けてこの三つにというのだ。
「数学と理科もでしょ」
「だから数学もなのね」
「もっと偏差値上げたいの」
「だから頑張ってるの」
「ええ、けれどね」
 咲は牛乳を飲みつつ難しい顔で述べた。
「どうもね」
「難しいのね」
「どうしたものかしら」
「とはいってもお母さん文系よ」
 母は難しい顔で答えた、父は既に出勤している。今日は朝早くから仕事なので自分だけ朝ご飯を昨日のご飯のお茶漬けを食べて済ませて家を出たのだ。
「だからね」
「数学はなのね」
「確かに大学出てるわよ」
「それでもなのね」
「私立の文系だったから」
 合格して卒業した大学はというのだ。
「だからね」
「数学にはアドバイス出来ないのね」
「中学までなら出来るけれど」
 それまでの数学はというのだ。
「わからないところもね」
「中学の数学までだったら」
「教えられるけれど」
「高校になったら」
「無理よ。塾行く」
 母はここで咲に提案した。
「小学校や中学の時みたいに」
「部活とアルバイトあるから」
 それでとだ、咲は母に難しい顔で答えた。
「だからね」
「塾までは時間ないのね」
「ちょっとね。それに問題なのは数学だけだから」
「他の教科はいいわね」
「今も大体わかるわ、文系は全部ね」
 英語、国語、社会の系統はというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその二

「特に英語はね」
「じゃあ大学もう私立にしたら?」
 母はこう提案した。
「それなら」
「私立?」
「学費は出せるから」
 私立は学費が高いがというのだ。
「そうしたら?」
「いいの」
「国公立だけじゃないでしょ」
 大学はというのだ。
「だからね」
「それでもいいの」
「大学行けるなら行った方がいいわよ」
 娘にこうも言った。
「行きたいならね」
「私も大学行きたいけれど」
「それで教員免許欲しいのよね」
「博物館の学芸員と図書館の方もね」
 そうしたところに就職出来る様にというのだ。
「大学に入ったら」
「全部取りたいのね」
「だからね」 
 それでというのだ。
「私も取りたいけれど」
「それなら私立でもいいから」
「そうなの」
「確かに国公立は学費安いし」
「大学のランクも高いってね」
「されてる大学多いわね」
「東大は別格として」
 日本最高峰とされるこの大学はというのだ。
「やっぱりね」
「国公立の方がいいわね」
「だからね」
「国公立行きたいのね」
「そう思ってるの」
「だからなのね」
「ええ、数学の成績を上げて」
 そしてというのだ。
「行きたいけれど」
「難しいのね」
「どうしたものかしら」
「まあね、勉強して」
 アドバイス出来ないなりにもだ、母は娘に親として話した。
「教科書の問題を何度も解いておくとか」
「そうしたらいいの」
「どうかしら」
「教科書を何度も読んだら覚えて」
「成績よくなるでしょ」
「それはね」
 咲は目玉焼きを食べつつ頷いた。
「そうね」
「だったらね」
「教科書の問題解いていくことね」
「そいうしたらいいわ」
「そうなのね」
「それ位しか言えないわ」
 娘に眉を曇らせて話した。
「高校の数学については」
「そうなのね」
「ええ、今日も数学あるの?」
 授業のことも聞いた。
「そうなの?」
「あるわ」 
 実際にとだ、娘は母に答えた。
「それもね」
「そうなのね、それじゃあ頑張って授業聞いて」
「教科書の問題を何度も解くことね」
「予習復習をして」
 そうしてというのだ。
「やっぱり勉強することよ」
「それが大事なのね」
「別に教え方下手な先生じゃないでしょ」
「別にね。というか」
 咲は中学一年からの数学の授業を思い出しながら母に答えた。 

 

第二十一話 勉学もその三

「私別に下手な先生とはね」
「会ってないのね」
「塾でもね」
「それだけでいいわよ」
「やっぱりそうなのね」
「教えるのが下手な先生なんて」
 それこそというのだ。
「幾らでもいてもうそれで数学の授業されたら」
「わからないの」
「お母さんが中三の時の先生なんて凄くて」
「どんなのだったの?」
「黒板に向かって書いていっているだけよ」
 それだけだったというのだ。
「生徒に教えないで黒板に向かって言っているだけよ」
「それどういうこと?」
「だから授業は生徒に向かってわかる様に言うでしょ」
「ええ、その為の授業だから」
「その先生は教えないで」
 生徒にというのだ。
「黒板に向かって公式書きながら言うだけよ」
「黒板に」
「自分のね、だからわからないのよ」
 授業を受ける生徒はというのだ。
「生徒に教えないで自分で公式書いて黒板に言っているだけだから」
「教える気がないの」
「教え方がわかっていないのよ」
 そうだというのだ。
「今思うとね」
「そんな先生塾だと不採用ね」
 クビになる以前だというのだ。
「もうね」
「そうね、だからお母さん塾で勉強していたわ」
 中三の時の数学はというのだ。
「それと自分でもね」
「授業受けてもわからないから」
「そんな風でないなら」
 それならというのだ。
「まだいいでしょ」
「言われてみる」
「そういうことでね、じゃあね」 
 娘にあらためて言った。
「とりあえず数学は自分でね」
「頑張ることなの」
「少なくともお母さんはそう言うしかないわ」
「わかったわ」
 咲は母と一緒に朝食を食べながらそうした話をした、そしてだった。
 朝食を食べてから歯を磨いて顔を洗って髪の毛に櫛も入れて登校した。もう制服を着ていて鞄の中にこの日の授業の教科書とノートはもう昨日の夜のうちに入れていた。
 そうして駅まで歩いて行って電車で登校した。そしてクラスメイト達に数学のことを話すと話した娘は全員こう言った。
「数学って私苦手よ」
「私もよ」
「私もそうよ」
「難しいわよね」
「もう公式からわからないわ」
「そうなの。誰か数学に強い人いないかしら」
 先は話した娘達が皆苦手と聞いて言った。
「一体」
「そう言われてもね」
「まだテストもやってないしね」
「はっきりわからないわよ」
「入学テストの結果なんてわからないしね」
「誰にもね」
「じゃあ先生に聞くとか」
 咲は生徒が駄目ならと思って言った。
「それが一番かしら」
「そうね、やっぱりね」
「先生に聞くのが一番いいんじゃない?」
「やっぱりね」
「わからなかったら」
「そうよね、じゃあどうしてもわからなかったら聞いてみるわ」
 咲はクラスメイト達に考える顔になって述べた。 

 

第二十一話 勉学もその四

「そうするわ」
「そういうことでね」
「小山さん随分真面目みたいだけれど」
「やっぱり成績上げたいならね」
「先生に聞くのが一番でしょ」
「そうよね、私って頭悪いから」
 自分でこう言ったのだった。
「勉強しないとわからないから」
「いや、それ誰もだから」
「何もしないでわかる人いないから」
「文字知らないで文字書ける人いないわよ」
「何でもそうよ」
「そうなの?モーツァルトなんか」  
 天才の代名詞である彼はというのだ。
「三歳で作曲したのよね」
「それでも音符とか知らないと作曲出来ないでしょ」
「楽譜書けないと」
「だからモーツァルトも勉強してたわよ」
「それであの人ずっと作曲してたじゃない」
 それこそ作曲していないと苦しくて仕方ないと言うまでにだ、モーツァルトはそこまで作曲をしていたのだ。
「常に作曲してたのよ」
「努力してたのよ」
「何もしないでわからない人なんていないわよ」
「頭が悪いとかじゃないわよ」
「そうなの。じゃあ勉強してわかるのは」
 学校の授業のことがというのだ。
「いいのね」
「というか普通でしょ」
「最初から何でも頭に入ってる人なんていないから」
「赤ちゃんの中に何か入ってる?」
「何も入ってないでしょ」
「そうね」
 言われてみればとだ、咲も頷いた。
「だから学校のべんきょうもなのね」
「当たり前でしょ」
「誰でも勉強しないとわからないわよ」
「この場合頭悪いって言うのは勉強してない」
「そういうことでしょ」
「じゃあ勉強したら」
 それならと言うのだった。
「頭よくなるのね」
「成績がいいって意味だとね」
「そういうことでしょ」
「人間として賢いか馬鹿は別にしてね」
「この場合はそういうことでしょ」
 頭がいいイコール勉強をしてきたことだというのだ。
「つまりはね」
「勉強してきたってことでしょ」
「人間として頭がいいかは別にして」
「それは凄いことよね」
「そうなるのね、まあ私勉強はするから」
 これは咲の癖性分なのでそうすると述べた。
「だから数学もね」
「頑張るのね」
「そうしていくのね」
「これからもね。けれど勉強が出来ても」
 友人達の話からこのことについて思って言った。
「頭がいいか悪いかは別ね」
「普通に政治家見てたらわかるでしょ」
「野党の人とかで多いじゃない」
「東大出ても東北大学でもね」
「青山出てもあれな人いるでしょ」
「そうね、特にあの人?」
 咲は今丁度そうした政治家の中で思い出した女性議員がいたので友人達のその政治家のことを話した。
「元女性タレントの人相の悪い」
「あの黒のショートヘの人?」
「いつも白い服着てる」
「人睨んでばかりで駝鳥に人の歯をくっつけたみたいな」
「あの人よね」
「あの人やたら目立つから」
 それでというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその五

「思い出したけれど」
「あの人もいい大学出てるし」
「それであれよ」
「人の粗捜しばかりで」
「何かあると鬼の首取ったみたいに騒いで」
「自分のことは知らんふりでね」
「あの人どう見てもね」
 その他人にあれこれ言う顔を思い出しながら話した。
「頭よくないわよね」
「それ以上に性格が、だけれどね」
「いい人じゃないわね」
「どう考えても」
「それで頭もね」
「それと小さな政党の党首の人」
 咲はこの人物のことも思い出した。
「やっぱり女の人だけれどね」
「あの人東大なのよね」
「しかも法学部」
「それで弁護士だったけれど」
「東大法学部首席だったのよね」
 ただ卒業しただけでなくというのだ。
「それでもね」
「あの人喋り方聞いても」
「言ってる内容聞いても」
「どう考えてもね」
「あの人頭よくないわよね」
「東大法学部首席で」
 兎に角勉強は出来るがというのだ。
「弁護士になったけれど」
「それであれだから」
「学校の勉強出来ても」
「それでも頭がいいか悪いかってね」
「また別ね」
「そうね、学校の成績はよくありたいけれど」
 それでもとだ、咲は言った。
「けれどね」
「それでもよね」
「ああした風にはなりたくないわね」
「人間として頭もよくなりたいわ」
「せめて悪くはなりたくないわ」
「ああはなりまいね」
 咲はこうも言った。
「出来る限りね」
「何ていうかね」
「人間勉強出来てもね」
「あそこまで酷いと」
「ちょっとね」
「そうよね、元政治家さんでも」 
 ここでこうも言った咲だった。
「いるしね、学者さんで」
「どの人?」
「そういう手の人だってのはわかるけれど」
「どの人?」
「あの髪の毛を赤くしてキノコカットにして」
 その人の外見のことを思い出しつつ話した。
「四角い眼鏡かけてて四角いお顔で扇子持ってる」
「ああ、あの人」
「あの人ね」
「あの人もね」
「お勉強出来ても」
「言ってること聞いてたら」 
 それこそというのだ。
「さっきの人達と変わらないっていうか」
「もっと酷いわよね」
「あの人は」
「あれで学者さん?」
「信じられないわよね」
「学者さんでも」
 頭がいいと言われる職業でもというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその六

「頭がいいか」
「人間としてね」
「それかどうかは別で」
「それでどうか」
「頭がいいか」
「それはまた別のことね」
 咲は考える顔で言った。
「学校の成績とは」
「それね」
「学校の成績とは別で」
「人間としてどうか」
「そのことも考えていかないとね」
「そうよね。人間として頭がいい人にならないとね」
 学校の成績だけでなくとだ、咲は思った。
「今お話に出て来た人達みたいになったら」102
「もうね」
「どうしようもないわよね」
「幾ら勉強出来てもあれじゃあ」
「もう最悪よね」
「特に白い服の人なんてね」
 咲は最初に話に出したこの人のことを特に思った。
「ああはなるまいってね」
「思うわよね」
「もう見る度に」
「そう思うわよね」
「そうよね」
「頭がどうもでそれ以上にね」
 遥かにというのだ。
「性格がね」
「酷過ぎるわよね」
「すぐに噛み付いて」
「やたら目立ちたがりで」
「他人には凄く厳しいけれど自分には滅茶苦茶甘い」
「そんな人だから」
「ああなったら」
 それこそというのだ。
「人間としてね」
「どうかで」
「本当になりたくないわね」
「人相だってね」
「あそこまでなったら」
「人間性って人相に出るっていうけれど」
 それでもというのだ。
「あの人そのままよね」
「特に目つきね」
「そこに出てるわね」
「もう他の人の粗捜ししてやる」
「攻撃してやるってしか考えてない」
「それで自分のことは見ない。というか」
 ふとだ、咲は気付いて言った。
「他の人にあれこれ言う人って自分のことは見てないわね」
「そうそう、お説教好きな人ってね」
「実は大した人いなくてね」
「ああして他の人やたら攻撃する人も」
「文句ばかり言う人も」
「大したことないのよね」 
 こう友人達に言った。
「何でかしらね」
「他の人ばかり見て自分ばかり見てないから?」
「だからかしらね」
「それも他の人の悪いところを探そうとばかりしていて」
「悪いことばかり言って」
「いいものを見たり言ってないから」
「それでかしらね」
 考える顔で述べた。
「ああした人達ってね」
「頭もあれで」
「人間性はもっとあれ」
「そうした人になるのかしらね」
「どうしても」
 クラスでそんなことを話した、咲は数学のことも話したがこのことも話して考える顔になった。そうしてだった。
 数学は休み時間に先生にわからないところを聞いて効果的な勉強の仕方を聞いた、そうしてからだった。
 先生、授業で数学を教えている先生にそうした女性議員のことを話してからそのうえで先生にそのことも問うた。 

 

第二十一話 勉学もその七

「どうしてそうした人って大したことないんですか?」
「ああ、そんなの当然だよ」
 先生は咲にこう返した、自分の席に座っている自分のところに立ってそのうえで向かい合っている彼女に対して。
「他の人ばかり見ていると」
「それで、ですか」
「自分は見ていないからね」
「だからですか」
「しかも悪いことばかりね」 
 まさにというのだ。
「見ていて言っているからね」
「大した人にならないですか」
「自分を見て悪いところはなおしていって」
 先生は咲にさらに話した。
「いいものを見て考える」
「そうしないとですか」
「人はよくならないからね」
「だからですか」
「そうした人は大した人じゃないんだよ」
「そうですか」
「ああなったら駄目だよ」 
 こうもだ、先生は咲に言った。
「先生は与党も好きじゃないけれどね」
「野党もですか」
「嫌いだからね、特にね」
「ああした人達はですか」
「大嫌いだよ、自分のことは棚に上げて」 
 そうしてというのだ。
「ああしてね」
「文句ばかり言う人はですか」
「そうだよ、自分を見ることだよ」
 そうしなければ駄目だというのだ。
「さもないとああなるよ」
「ああはなるまいですね」
「反面教師だから」
 そうした人はというのだ。
「気を付けてね」
「ああはならない」
「そうした風にね」
「そうですか」
「他の人を見てそれからでもいいから」
「自分も見るんですね」
「そうするんだよ、ああはなるまいって思うことこそが」
 まさにというのだ。
「大事なんだ」
「人間にとって」
「顧みる」
 自分をというのだ。
「このことは本当に大事だよ」
「自分を見ることですか」
「説教好きな人なんてね」
 先生も言うのだった。
「おおむねね」
「大したことないのは」
「それだよ」
「他の人のあげつらいばかりしていて」
「自分を見ないからだよ」
 それ故にというのだ。
「反省してあらたまることがないからね」
「大した人にならないんですね」
「他の人に説教するなら」
「それよりもですか」
「自分を見ることだよ」
 そうすることが大事だというのだ。
「もう本当にね」
「自分を見ることですか」
「その欠点を見て」
 そしてというのだ。
「あらためることだよ」
「自分の行いを」
「それが成長する糧になるから」
「だからですか」
「努力して」
 そしてというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその八

「反省する。他人が反省しないと言っていても」
「自分で、ですね」
「反省していれば」
 それでというのだ。
「反省だよ、というか反省は他の人に言われても」
「それでもですか」
「するものでもないよ、自分でどうかだから」
「自分でどうかですか」
「うん、そしてね」
「ああした人達は」
「人の悪いことばかり言って」
 そうしてというのだ。
「自分を顧みない、ならね」
「成長もですか」
「しないよ、だからずっとああなんだ」
「人にあれこればかり言って」
「自分に甘くてね」
「反省もしなくて」
「努力もだよ」
 こちらもというのだ。
「しないんだよ」
「成長しないんですね」
「何の努力もしない人は成長しないし」
 そしてというのだ。
「あそこまで反省しないとね」
「尚更ですね」
「成長しないんだよ」
「だからずっとああですか」
「そして人相も」
 これもというのだ。
「どんどんだよ」
「悪くなっていきますか」
「実際なっているね」
「特にあの白い服の人が」
「あの人昔タレントさんだったけれど」
 所謂タレント議員である、これも人によりけりということであろうか。優れたタレント議員もいればそうでない者もいる。
「その頃の顔はね」
「あんな風じゃなかったんですか」
「遥かにましな人相だったよ」
「そうですか」
「それが政治家になって」
 そしてというのだ。
「どんどんね」
「ああしたお顔になったんですか」
「人相が悪くなっているんだ」
「そうですか」
「もうね」
 それこそというのだ。
「今はね」
「ああですか」
「悪いどころじゃない顔になったよ、あと元プロ野球選手で」
 先生は咲に残念そうな顔で述べた。
「西武から巨人に行ったスラッガーの」
「自称番長の人ですか?」
「そうそう、あの人だよ」
 まさにという返事だった。
「あの人も昔はね」
「あんなお顔じゃなかったですか」
「高校時代から西武時代はね」
 その頃はというのだ。
「普通の顔だったのが」
「巨人に入って」
「どんどん柄が悪くなってね」
「人相もですか」
「驚く位悪くなって」
 そしてというのだ。
「ああなったんだよ」
「そうですか」
「変な頬髯まで生やしてね」
「あの人入れ墨も入れてますね」
「今は消したかも知れないけれど」
 入れ墨も消すことが出来る、ただし非常に手間がかかるし傷みも伴う。代償は大きいということか。 

 

第二十一話 勉学もその九

「そうだよ」
「入れ墨って」
「ヤクザ屋さんみたいだね」
「そういえば髪型もファッションも」
「ああなったんだよ」
「悪く変わったんですね」
「ああもなったら駄目だよ」
 そのプロ野球選手の様にというのだ。
「絶対にね」
「そうですよね」
 咲も頷いた。
「ああなったのはそうした人とお付き合いして」
「なったよ、人間悪い人とも付き合ったら駄目だよ」
「ヤクザ屋さんとも」
「そうだよ、努力して自分を振り返ることも大事で」
 それでというのだ。
「悪い人と付き合うこともね」
「駄目ですね」
「絶対にだよ、しかし小山君はいいことに気付いた」
 咲にこうも言った。
「人間自分を見詰めることも大事だ」
「悪いところがあるかどうか」
「そうしたこともね」
 まさにというのだ。
「本当にね」
「大事で」
「今言った人達みたいにはならない」
「そう努力することですね」
「そうしていくんだ、ただ普通に生きていれば」
 どうかとだ、先生はこうも言った。
「ああした人達には中々だよ」
「ならないですか」
「酷過ぎるからね」
 それでというのだ。
「流石に」
「そうはですか」
「ならないよ」
 あそこまで悪くはというのだ。
「そうそうはね」
「人間悪くなっても」
「限度があるから」
「限度ですか」
「人間にはね」
「だからですか」
「あそこまでなるには」 
 それこそという口調での言葉だった。
「恥を知らないとね」
「なれないですか」
「あの人達をこう言うんだ」 
 先生は咲に真顔で話した。
「恥知らず、厚顔無恥ってね」
「その言葉がですか」
「当てはまるんだ」
「そうなんですね」
「そうでもないとね」
「あそこまではですか」
「悪くならないよ、人間恥を知っていると」
 それならというのだ。
「行いを慎んで自分を顧みてね」
「反省してですか」
「それで踏み留まるから」
 そうなるからだというのだ。
「ならないよ、大阪のあの人なんかね」
「ああ、あの人ですか」
「やっぱり野党の人だね」
「白い服の人と同じだけ言ってますね」
「あの人は逮捕されたことがあるんだよ」
「そのことネットでも言われてます」
「お金のことでね」 
 この件でというのだ。
「汚職みたいなことでね」
「逮捕されているんですか」
「逮捕される前は別の政党で偉そうなこと言ってたんだ」
「今みたいにですか」
「市民団体の代表から政治家になって」 
 そしてというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその十

「それで正義の顔でだよ」
「今と一緒ですね」
「そうだよ、それで他の人の疑惑を追及していて」
「自分もですか」
「逮捕されたんだよ」
「それでもですか」
「ああして平気な顔で言えるんだ」
 他の人のことをというのだ。
「大きな政党に移って」
「何か色々酷い人なんですね」
「あれはとんでもないと言っていい人だよ」 
 それこそというのだ。
「先生はそう思ってるよ」
「それであの人はですか」
「逮捕されるってことは大きいね」
「はい」
 咲はそれはとすぐに答えた、彼女はまだ警察の厄介になったことはないがそれでもこのことはすぐにわかった。
「とても」
「けれどだよ」
「ああしてですか」
「そんなことは知らない顔でね」
 それでというのだ。
「ああして今もだよ」
「正義の様に言えることは」
「恥を知っているなら」
「出来ないですか」
「あれが恥知らずって言うんだ」
 まさにという言葉だった。
「厚顔無恥って言うんだ」
「そうですか」
「いいかい、恥を知るんだ」
 先生は咲の目を真剣に見て言った。
「恥を恥と思わなくなったら」
「ああなるんですね」
「そうならないとああはならないんだよ」
「あそこまで酷くはですか」
「そしてそうなった時は」  
 恥を恥と思わなくなった時はというのだ。
「人は何処までも腐るんだ」
「何処までもですか」
「その時にこそ最も恐ろしい腐敗がはじまると言うよ」
「どんな腐敗かは」
「それがあの人達だよ」
 まさにというのだ。
「生き証人だよ」
「何か凄いですね」
「悪い意味でね、小山さんは恥を知るんだ」
「そうしてですね」
「自分を顧みて。時々でも」
「生きることですか」
「そうするんだ、いいね。学校の勉強も大事だけれど」
 それでもというのだ。
「それ以上にだよ」
「こうしたことはですか」
「大事なんだ」
「人間としてですね」
「その通り、人間で大事なことを学ぶことも学校じゃ大事なんだ」 
 勉強だけではないというのだ。
「人生そして人間をね」
「勉強だけじゃなくて」
「そう、そして世の中もだよ」
 こちらのこともというのだ。
「学ぶんだ」
「そうして社会に出てですね」
「いい人生を歩む為の場所なんだ」
「そうですか」
「じゃあそういうことでね」
「これで、ですね」
「僕の話は終わりだよ」
 咲に微笑んで話した。
「色々話したけれどね」
「有り難うございました」
「お礼はいいよ、兎に角恥を知ることだよ」
 何といってもというのだ。 

 

第二十一話 勉学もその十一

「いいね」
「人間としてですか」
「うん、それを知っていたら」
「底まで落ちないですか」
「そうなるからね」 
 そこまで悪くならないというのだ。
「恥を知るんだ」
「そうします」 
 咲も答えた、それで放課後は部活に出てそれが終わるとアルバイトもないので数学の予習と復習をしたが。
 父が帰るとウイスキーをロックで飲んでいる父の前に来て恥について尋ねた。
「恥って恥ずかしいってことよね」
「ああ、何かをしてな」
 父は娘に飲みつつ答えた。
「悪いことをしたりして」
「恥ずかしいって思うことね」
「それでこうしたことをしたら駄目とかな」
「思うことなの」
「それが恥なんだよ」
「そうなのね、実はね」
 ここで父に学校でクラスメイトや先生と話したことを話した、すると父は頷いてそのうえで咲に言った。
「お前今日のことは財産になるぞ」
「人生のよね」
「そうだ、恥について教えてもらったんだからな」
 それでというのだ。
「お父さんも数学のことよりもな」
「恥のことを知れて」
「よかったと思うぞ」
「そうなのね、やっぱり」
「現実にもいるしな」
「恥知らずの人って」
「文学でもいるぞ」
 そちらの世界でもというのだ。
「罪と罰って小説走ってるな」
「ドフトエフスキー?読んだことないけれど」
「完全な翻訳版は読むと重いぞ」
「そうなの」
「長いしな、暗い作品だしな」
「それでなのね」
「重いんだ、それでその作品にな」
 罪と罰にというのだ。
「当時のロシア社会で成功していてもな」
「恥知らずな人が出ているの」
「名前は何だったか」
 父はここで首を傾げさせて言った。
「忘れたがそんな登場人物もいてな、読んでいて薄汚さを感じた」
「薄汚いの」
「醜かった、恥を知らないとな」
「そんな人にもなるのね」
「そうだ、だから咲は今日な」
「薄汚い醜い人にならない為に必要なことを教えてもらったのね」
「よかったな」 
 今度は微笑んで言った。
「今日のことは忘れるなよ」
「わかったわ」
「それでな」
 父はウイスキーを飲みながら言った、つまみにチョコレートを一粒一粒食べている。そうしながら飲んでいるのだ。
「今のお父さんに言ってよかったな」
「酔いが回る前で?」
「これからどんどん酔いが回るからな」
 言いながらも飲んでいる。
「今日はボトル一本空けるぞ」
「飲み過ぎじゃないの?」
「今日は飲みたいんだ、どうもお父さん本当に転勤になりそうだ」
「ふうん、そうなの」
「都内でも神奈川でもないかも知れない」
「千葉じゃないわよね」
「埼玉かも知れないんだ」
「すぐそこでしょ」
「家がある場所からというのだ。
「歩いてもいけるでしょ」
「東京と埼玉は違うんだ」
 父はそこは厳密に一線を引いた。 

 

第二十一話 勉学もその十二

「お前は埼玉を知らないんだ」
「ってすぐそこでしょ」
「もっと言えば群馬も知らないだろ」
「電車で日帰りで行けるじゃない」
 その群馬もというのだ。
「通勤も出来るでしょ、群馬も」
「違う、埼玉は何か」
「西武ライオンズの本拠地?」
 咲はここでこの野球チームのことを話に出した。
「昔滅茶苦茶強かったのよね」
「二十世紀の終わりはな」
「所沢に球場があってね」
「しかし東京じゃないだろ」
 そこにこだわる父だった。
「まさにその辺りの草でも食べさせておけなんだ」
「何、その言葉」
「それが埼玉だ、埼玉はお父さん達の世代で言うと僻地中の僻地なんだ」
「だからお隣なのに」 
 咲は自分の考えから言った。
「そこまで滅茶苦茶言うことないでしょ」
「お前の感覚だとそうか」
「同じ関東だし」
「だからお父さんは生粋の東京都民なのよ」
 テレビを観ている母が言って来た、時代劇チャンネルで遠山の金さんを観ている。金さんは高橋英樹である。
「それで埼玉はね」
「偏見があるの」
「というか妙に田舎だってね」
 その様にというのだ。
「思ってるのよ」
「そうなのね」
「まあお母さんも東京にいられたら」
「それでいいの」
「それか神奈川だけれど」
「どうしても埼玉は駄目なの」
「お父さんもお母さんも野球はヤクルトでしょ」
 本拠地は東京の神宮球場である。
「それでよ」
「埼玉はなのね」
「西武?名前は知っているけれどな」
 父は酒を飲み続けつつ言った、次第に酔いが回ってきている。
「お父さんはパリーグは知らない」
「じゃあロッテは?」
「今の監督誰だった」
 これが返事だった。
「バレンタインさんか」
「井口さんよ」
 咲は即座に返した。
「今の監督さんは」
「そうだったか」
「西武の監督さんも知らないわね」
「広岡さんか」
 父は考えつつ言った。
「確か」
「お酒かなり回ってる?」
「自覚している」 
 見れば酔いが急速に回ってきていた、そうした顔になっていた。
「お父さんもな」
「やっぱりそうね」
「森さんの前の人だったな」
「森さんって何時よ」
「一九八〇年代後半から一九九〇年代前半の人だ」 
 獅子の時代とさえ言われた西武黄金時代の時である。
「その人の前だからな」
「それじゃあね」
「その人言うならな」
「やっぱり酔い過ぎよ」
「本当に誰だった」
 西武の監督はというのだ。
「辻さんだったか」
「そうよ、正解よ」
 母が答えた。
「今度はね」
「だったらよかったな」
「ええ、ただ今何位か知ってる?」
「いや、知らない」
「私も知らないわ」
 母もだった。 

 

第二十一話 勉学もその十三

「パリーグのことはね」
「今東京にパリーグのチームないからな」
「昔は日本ハムがあったけれど」
「今は北海道に移ったからな」
「だからね」
 夫婦で話した。
「今はね」
「何処もないな」
「千葉にロッテがあって」
「その埼玉に西武があるな」
「それ位で」
 それでというのだ。
「もうね」
「僕達はパリーグに疎いな」
「どうしてもね」
「そうだよな」
「私もパリーグよく知らないけれど」
 咲も野球はヤクルトだ、子供の頃から巨人なぞという悪の権化のチームは応援するものかと神に誓っている。
「幾ら何でもお父さんは極端よ」
「埼玉を嫌い過ぎるか」
「その辺りの草でも食べておけなんて」
「あくまで冗談だがな」
「そうなの?」
「ああ、しかし埼玉には行きたくない」
 絶対にという言葉だった。
「本当にな」
「東京か神奈川ね」
「せめて千葉だ」
「千葉より埼玉の方が田舎?」
「お父さんはそう思っている」
「そうかしら」
「自衛隊の基地が二つのあるんだ、海自さんのな」
「お父さん海上自衛隊好きだったわね」 
 咲はここでこのことを思い出した。
「そういえば」
「軍服いや制服が恰好いいからな」
「だからなの」
「子供の頃から好きなんだ」
「自衛隊の中でも」
「そうだ、親切な人も多いしな」
「航空自衛隊の方がいいでしょ」
 母はこちらだった。
「自衛隊なら」
「パイロットの人がいるから?」
「戦闘機あるでしょ」
 こう娘に答えた。
「だからね」
「お母さんはそっちなの」
「自衛隊はね、あの濃い青の制服もいいし」 
 恰好いいというのだ。
「だからね」
「それでなの」
「お母さんはそっちよ」
 三つの自衛隊で一番好きなのはというのだ。
「どれかっていうと」
「私は三つ共だけれど」
「埼玉は海がないから海上自衛隊の人達も殆どいないしな」
「だから余計になの?」
「そうだ、埼玉は嫌だ」
「兎に角お父さんが埼玉嫌いなのはわかったわ」
 飲みながら言う父に応えた、そして父との話が終わるとまた勉強に戻った。咲はこちらも頑張っていた。


第二十一話   完


                  2021・7・1 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその一

                第二十二話  ゴールデンウィークに入り
 咲は入学してから部活にもアルバイトにも勉強にも頑張っていた、そうしているうちにゴールデンウィークに入った。
 初日は朝からアルバイトで母に言った。
「今から行くから」
「十時からだったわね、アルバイト」
「ええ、その時間までにはね」
 朝食も身支度も整えて家に出る時に言ったのだった。
「行く様にするわ」
「だから今行くのね」
「余裕持って行きたいから」
 それでというのだ。
「今からね」
「わかったわ、それで何時帰るの?」
「七時までには帰るから」
 こう母に答えた。
「晩ご飯はこっちで食べるわ」
「別に九時でもいいでしょ」
 母はこう返した。
「いつもそれより遅くなることもあるし」
「それでもよ」
「早くっていうのね」
「何かと物騒だから」 
 それ故にというのだ。
「それでよ」
「暗くならないうちに帰って来るのね」
「護身用に色々と持ってるけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱり暗くならないうちにが一番でしょ」
「だからなのね」
「私一人だしね」 
 帰り道はというのだ。
「だからね」
「早いうちになのね」
「帰って」
 そうしてというのだ。
「後はご飯食べてゲームして」
「過ごすの」
「そうするわ」 
 母に対して言った。
「今日は」
「真面目というか慎重ね」
「さもないとね」
 それこそというのだ。
「何かあったら困るから」
「起こってからじゃ遅いっていうのね」
「実際そうでしょ」
「ええ、やっぱり何もないことがね」
 まさにというのだ。
「一番いいわ」
「そうでしょ、だからね」
「今日は早く帰るのね」
「そうするわ」
「それじゃあ晩ご飯作っておくわね」
「今日の晩ご飯何なの?」
 咲は晩ご飯の話になったところで母にメニューを尋ねた。
「それで」
「今日は豚キムチ丼よ」
「それなの」
「豚キムチ炒めて」
 そうしてというのだ。
「その真ん中に卵乗せてね」
「掻き混ぜて食べるのね」
「あとお味噌汁も作るから」
 こちらもというだ。
「椎茸と玉葱のね」
「お味噌汁もなのね」
「そちらもね」
「じゃあ楽しみにしてるわ」
「咲どっちも好きでしょ」
「豚キムチ丼もお味噌汁もね」
 咲は母に笑顔で答えた。
「好きよ」
「そう、だからね」
 それでというのだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその二

「楽しみに待っていてね」
「それじゃあアルバイト終わったらすぐに帰るから」
「寄り道しないで」
「そうするわ」
「じゃあ待ってるわ、けれど咲も」
 ここで母は赤のスラックスに白いブラウスと緑の上着の咲を見て言った、服のデザインはどれも洒落ている。
「お洒落になったわね」
「そう?」
「配色もね」
 それもというのだ。
「いいじゃない」
「そうなの」
「イタリアの国旗ね」
「あっ、そうね」
 言われてみればとだ、咲も頷いた。
「赤と白と緑だから」
「そうよね、その配色もね」
「いいの」
「お洒落ね」
「そうなのね」
「色合いもね」
「その色も」
 これもというのだ。
「前はもっと野暮ったかったわよ」
「そんな風だったの」
「高校入ってからよくなったわね」
「それはね」 
 どうしてかとだ、咲は笑顔で話した。
「お姉ちゃんに教えてもらって」
「それでなの」
「やっぱりそうよ」
 母に笑顔で話した。
「お姉ちゃんのアドバイス受けてよ」
「咲ちゃんそう考えたらやっぱり」
「いいわよね」
「そうね、やっぱり人は外見だけじゃ判断したら駄目ね」
 母は娘の言葉に頷いた、そうしてだった。  
 咲はその母に見送ってもらって家を出て渋谷の速水の占いの店まで行った、そうしてそこに入るとであった。
 タイムカードを押してから受け付けに入った、すると速水は咲にこう言った。
「では今日は夕方まで」
「はい、受付にですね」
「いて下さい、時々です」
 速水は咲に穏やかに話した。
「お仕事があれば」
「お話してくれますか」
「そうさせてもらいますので」
 それでというのだ。
「お願いします」
「それでは」
「あとです」 
 速水は咲にさらに言った。
「ここに黒い服の女性が来られても」
「黒い服のですか」
「はい」
 こう言うのだった。
「スーツでスラックスの」
「そうした人ですか」
「かなり特徴的な人なので」 
 だからだというのだ。
「おわかりになられます」
「ここに来られたら」
「はい、その時その人に声をかけられても」
 それでもというのだ。
「乗られないで下さい」
「声をですか」
「その人は中々面白い人で」
「面白いんですか」
「はい、女性もお好きで」
「ってことは」 
 そう聞いてだ、咲は瞬時に察して頷いた。
「その人同性愛者ですか」
「そうでもあります」
「男性もですか」
「どちらもという方で」
 それでというのだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその三

「大変魅力的な方ですが」
「その人が来られてもですか」
「貴女にその趣味がなければ」
 それならというのだ。
「そうされて下さい」
「わかりました」
 咲は速水の言葉に頷いた。
「そうさせて頂きます」
「それでは」
「はい、そしてですが」
「そして?」
「お昼ですが」 
 速水はそちらの話もした。
「用意されていますか」
「途中コンビニで買ってきました」
 咲はすぐに答えた。
「ですから」
「大丈夫ですか」
「そうでした」
「何でしたら」
 速水は微笑んで述べた。
「お店を紹介しようとです」
「お店ですか」
「この渋谷の美味しいお店を」
「あの、美味しいって」
 そう言われてだ、咲は速水に怪訝な顔で応えた。
「どういったお店でしょうか」
「いえ、ハンバーグのチェーン店」
「ああ、あそこですね」
 そう言われて咲もわかった。
「びっくりですね」
「あちらです」
 速水は微笑んだまま答えた。
「今日のお昼はと考えていまして」
「そうだったんですか、そういえば」
 咲はここで速水のプライベートのこと、それまで碌に知らなかったそのことについて彼自身に尋ねた。
「所長さんは好きな食べものは」
「何かです」
「はい、どういったものが」
「多いですがお話して宜しいでしょうか」 
 速水は咲にまずはこう返した。
「そちらのことも」
「お願いします、どういったものがお好きですか?」
「まずはお刺身ですね」
 これだというのだ。
「天麩羅、焼き魚にムニエルも好きです」
「お魚お好きなんですか」
「魚介類は全て。ですからブイヤベースや海鮮麺も好きです」
 そういったものもというのだ。
「パスタもそうしたものが」
「魚介類ですか」
「八宝菜や炒飯も魚介類が入っていますと」
「いいんですか」
「和食も中華もフレンチもイタリアンもです」
 そういった料理でもというのだ。
「魚介類がありますと」
「じゃあお寿司は」
「大好きです」
 笑顔での返事だった。
「やはり」
「やっぱりそうですか」
「そして」
 速水はさらに話した。
「お野菜も。サラダやシチューもです」
「お好きですか」
「特に大蒜とトマト西瓜と苺が」
「ああ、どちらもいいですね」
「果物は桃や無花果、柿にライチです」
 そうしたものがというのだ。
「好きです」
「甘いものもお好きですか」
「そちらもかなり。杏仁豆腐やケーキも」
 そうしたスイーツもというのだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその四

「好きです」
「そうですか」
「それで先程お話したハンバーグも」
「お好きですか」
「そしてハンバーガーも」
 こちらもというのだ。
「好きです。そしてお酒は」
「飲まれますか」
「ワインをよく飲みます」
「ワインですか」
「赤も白も」
 どちらもというのだ。
「好きです」
「そうなんですね、じゃあ嫌いなものは」
「そうですね、ないですね」
 少し考えてから咲に答えた。
「これといって」
「そうですか」
「はい、それとお豆腐もです」
「お好きですか」
「湯豆腐も冷奴も」
 どちらもというのだ。
「まことに。そして最近は鯨を」
「ああ、鯨ですか」
「よく食べます」
「鯨も海のものですね」
「本当に魚介類が好きで」
 それでというのだ。
「よく食べます」
「そうなんですね、焼き魚もですか」
「そうです、秋刀魚も鰯も鮭も好きで」
 そしてというのだ。
「川魚も」
「鮎とかですか」
「好きです、川魚は特に鯉が」
 この魚がというのだ。
「好きです」
「鯉もですか」
 咲は意外といった顔で速水に言った。
「あの、鯉は。というか川魚は」
「こちらも美味しいですよ」
「あの、怖くないですか?」
 こう言うのだった。
「あたると」
「よく言われていますね」
「虫がいて」
「ですから確かなお店で、です」
「川魚は召し上がられていますか」
「危ないことは私も承知していますので」
 寄生虫がいることはというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「はい」
 速水自身もというのだ。
「その様にです」
「気をつけられていますか」
「そうしてます」
「それで美味しいんですね」
「左様です。兎角魚介類は何でも好きです」
「川のものも含めて」
「はい、旅行に行きますと」
 その時はというのだ。
「海ですと」
「魚介類をですか」
「楽しむことが多いです」
「そうでしたか」
「ですがお肉もです」 
 こちらもというのだ。
「好きでして」
「楽しまれますか」
「そうしています」
「嫌いな食べものはそれで」
「特にないです」
「そうなんですね」
「ただ、イギリスに行った時は」 
 この時のことは苦笑いで述べた。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその五

「オランダもですが」
「どちらも食べものは、ですね」
「口に合いません」
「そうなんですね」
「嫌いなものはなくとも」
「お口に合わないものはですね」
「あります」
 こう咲に話した。
「どうしても」
「それはありますか」
「左様です、それで今日はコンビニのですか」
「お弁当を買っていますので」
 それでというのだ。
「ですから」
「お昼にですね」
「食べます」
「それではその様に」
「はい、お昼はそうします」
 こう言って咲は実際に昼まで働きそして昼食の時にそのコンビニ弁当を食べて昼休みを取ってからまた仕事に戻り夕方まで働いた。
 そうして仕事が終わると家に帰ろうとしたが。
 速水はここで咲に言った。
「お家に帰られますね」
「寄り道しないで」
 それでとだ、咲は速水に答えた。
「まっすぐに帰ります」
「そうされて下さい、どうもです」
 速水はここでカードを出した、それは女帝の逆だった。
「寄り道せずに帰られた方がです」
「そのカードならですか」
「帰られた方がいいです」
「多くのタロットカードで逆はです」
 これはというのだ。
「よくないですが」
「そのカードもですね」
「逆ですと大抵はです」
「悪いことなので」
「お家にすぐに帰られて」
 そしてというのだ。
「楽しまれて下さい」
「そうすることが一番ですね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「本屋さんやコンビニにも立ち寄らず」
「そうしてですね」
「帰られて下さい」
「そうします」
 咲は速水に応えてそのうえでだった。
 彼の言葉通り寄り道をせずそのまま家に帰った、そうして家に帰ると母に対してこんなことを言われた。
「本当に早かったわね」
「寄り道しなかったからね」
「それでなのね」
「うん、最初からそのつもりはなかったけれど」
 母にこう返した。
「けれど所長さんに言われて」
「速水さんね」
「そうして帰ったの」
 寄り道をしないでというのだ。
「今までね」
「そうだったのね」
「若し寄り道したら」
 女帝の逆、速水が出したそれのことも思い出しつつ言った。
「どうなっていたかしら」
「それはわからないわね」
「まあよくないことにはね」
「なっていたのね」
「あの人が占ってくれたのよね」
「そうだったの」
 ここでもカードのことを思い出して母に話した。
「実はね」
「それならね」
 母はそう聞いて娘に言った。
「その通りにしてよかったわ」
「そうなのね」
「そう、何かあってからじゃね」
「やっぱり遅いわね」
「占いって悪いことを避ける為にあるものでしょ」
 こう娘に言った。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその六

「そうでしょ」
「そうね」
 速水の言葉を思い出しつつ頷いた。
「所長さんもそんなこと言われていたし」
「だったらね」
「悪いことを避けられてなのね」
「よかったわよ」
 娘に笑顔で述べた。
「本当にね」
「何が起こったか知りたいんじゃなくて」
「何も起こらなくてよ」
 それでというのだ。
「よかったのよ」
「何が起こったかよりも」
「悪いことを避けられて」
「よかったのね」
「無事が何よりでしょ」
 娘に笑顔でこうも言った。
「あんたもそう言ってたし」
「そうね、じゃあ」
「晩ご飯作るから」
 今からというのだ。
「待ってなさい」
「私も手伝うわ」
「あんたも?」
「いいわよね」
「お手伝いを断る親はいないわよ」
 子供がそう言ってきてというのだ。
「じゃあね」
「ええ、何すればいいの?」
「切ってくれる?あとお米研いでね」
 早速娘に答えた。
「そうしてね」
「食材切ってなのね」
「それでね」
 そのうえでというのだ。
「お米ね」
「わかったわ、じゃあ早速ね」
「やっぱりね」
 ここでこうも言った母だった。
「お料理もね」
「出来ないと駄目ね」
「女の子だからとは言わないわよ」
 母はそうだった。
「男の子でもね」
「やっぱりよね」
「お料理が出来たらね」
 それならというのだ。
「それに越したことはないから」
「そうよね」
「毎日コンビニ弁当やインスタント食品とかね」
「冷凍食品も同じね」
「これ絶対身体によくないから」
 母は断言した。
「外食もいいけれど」
「高くつくしね」
「それに味付けが濃かったり栄養バランスも」
「偏りがちね」
「だからね」
 それでというのだ。
「自分でお料理出来る方がね」
「いいわね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「あんたもよ」
「お料理は出来ることね」
「そして食べるなら」
「栄養バランスはしっかりね」
「お肉やお魚にね」
 さらにというのだ。
「お野菜や果物もよ」
「食べないと駄目ね」
「お豆腐もね、いいわね」
「そういうのを食べて」
 そしてというのだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその七

「それでね」
「健康でいることね」
「そうよ、だからね」
「私もお料理出来ることね」
「ある程度下手でもいいのよ」
 母はそれは構わないとした。
「別にね」
「そうなの」
「それはもうやっていったら」
 数をこなしていけばというのだ。
「それなりになるから」
「いいの」
「ええ、ただ栄養バランスはしっかりで」
 そしてというのだ。
「メニューも多くね」
「作られることね」
「幸いあんた包丁捌きも味つけも悪くないから」
「いいの」
「ちょっと火加減が心配なところあるけれど」
「焦がしがちよね」
「基本火をかなり通すわね」
 咲の調理のこの特徴についても述べた。
「そうよね」
「そうなのよね」
 咲自身否定しなかった、実は火をよく通すとあたらないのでそれで調理の時は何でもよく火を通すのだ。
「私って」
「火を通し過ぎて」
 それでというのだ。
「焦がしがちだから」
「注意しないと駄目なの」
「あんたはそこが問題ね」
 料理についてはというのだ。
「そこは注意して」
「そうしてなの」
「どんどん作っていってね」
「わかったわ」 
 母のその言葉に頷いた。
「そうしていくわ」
「そういうことでね」
「じゃあ食材切ってね」
「お米もね」
「研いでね」
 こう話してだった。
 咲は母の言葉を受けてそうしてだった。
 肉や野菜を結構慣れた捌きで切ってだった。
 お米も研いだ、それが終わってから母に言われた。
「今度スパゲティ作るけれど」
「そうするの」
「その時はね」
 娘にその時のことも話した。
「あんたがパスタ茹でてね」
「私がなのね」
「あんた火加減が問題だって言ったけれど」
 それでもというのだ。92
「パスタとか麺類はちゃんと茹でてくれるからね」
「それね、時間測って試食してるから」
 それでとだ、咲は母に答えた。
「だからね」
「そっちは失敗しないわね」
「パスタだとアルデンテね」
 咲は母に笑って言った。
「これお姉ちゃんに教えてもらったの」
「愛ちゃんになの」
「お姉ちゃんあれでお料理得意でしょ」
「そういえばそうね」
 娘に言われて姪のそのことを思い出した。
「あの娘って」
「特に和食得意なのよね、お豆腐のお料理とか」
「そういえばずっと前からお豆腐好きね」 
 愛のこのことも思い出した。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその八

「今度ね」
「愛ちゃんのお料理も食べろっていうのね」
「そうしたら?」
「そこまで上手なのね」
「私よりずっとね」
「そういえばあの娘爪奇麗ね」
 母はここでふと気付いた。
「そういえば」
「いつも短いでしょ」
「服装は派手でもね」
「マニキュアとかしてないでしょ」
「ええ、確かにね」
「お料理それで家事するからって」
 それでというのだ。
「いつもね」
「爪は切ってるのね」
「それでマニキュアとかしてないの」
「如何にも伸ばしてしてる感じだけれど」
「だからそれはファッションで」
「実はなのね」
「前にも言ったかも知れないけれどお姉ちゃん下着は白とか地味でね」
「派手じゃないの」
「デザインもね」
 それもというのだ。
「シンプルなのよ」
「下着に本質が出るっていうわね」
「人のね」
「それじゃあ愛ちゃんは」
「そう、服装は派手でもね」
「スカートも短いしストッキングの色も派手でも」
「ブレスレットとかペンダントとかしていても」 
 それでもというのだ。
「下着はね」
「そうだったのね」
「だからね」
「愛ちゃんは実はっていうのね」
「根はそうなのよ」
 真面目だというのだ。
「そのこと覚えておいてね」
「わかったわ、あらためてね」
「それでお料理もなのよ」
 こちらもというのだ。
「結構上手で」
「お豆腐も得意なのね」
「そちらのお料理もね」
「お豆腐得意なのはいいことね」
 母はここで考える顔で述べた。
「それはね」
「いいの」
「お豆腐は身体にいいからね」
 だからだというのだ。
「そのお料理が上手なら」
「いいのね」
「そのまま食べても美味しいけれどね」
「冷奴ね」
「簡単に湯豆腐にしてもいいけれど」
「冬とかいいわね」
「お豆腐料理が上手なのはいいことよ」
 咲にまた言った。
「本当にね」
「それじゃあね」
「今度なのね」
「ご馳走になってね」
「よくわかったわ」
「それじゃあね」
「そういうことでね。あとね」
 母は咲にこうも言った。
「あんた牛や豚の内臓食べるわね」
「それがどうかしたの?」 
 ホルモンやレバーを思い出しつつだ、咲は母の今の言葉に応えた。彼女にとっては何でもないものだ。
「一体」
「今度鶏のレバーとか玉ひものお料理作るつもりなの」
「作ったら?」
 咲は素っ気なく返した。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその九

「そうしたいなら」
「そうしていいのね」
「食べるから」
 やはりあっさりと答えた。
「内臓も身体にいいのね」
「凄くね」
「私牛や鶏のレバー好きだし」
「豚もよね」
「子供の頃から食べてるじゃない」
 母が作ったものを食べてきたのだ。
「だからね」
「じゃあいいわ、内臓はお肉自体より安いから」
「そこからもいいのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「そっちのお料理もね」
「覚えておくといいのね」
「そうよ、安くて栄養があるから」
 だからだというのだ。
「覚えておきなさいね」
「そうするわね」
「レバニラなんかね」
 母は特にこの料理を話に出した。
「特にいいからね」
「身体によくて」
「ご飯にも合ってね」
 いいおかずになってというのだ。
「それで安くつくから」
「いいのね」
「しかも韮入れるでしょ」
 母はレバニラのもう一つの主役にも言及した。
「それでもやしも入れるでしょ」
「あっ、中華料理店だとね」
「入れてるでしょ」
「そういえばそうね」
「お野菜も入れるからね」
「余計に身体にいいのね」
「そう、だからね」 
 それ故にというのだ。
「レバニラは特にね」
「お料理出来る様にしておくことね」
「お豆腐もいいしね」
「内臓もなのね」
「いいのよ。だから覚えておくのよ」
「わかったわ、ホルモンもいいしね」 
 咲は焼き肉のこちらも思い出した。
「それじゃあね」
「ええ、内臓料理もね」
「覚えていくわね」
「本当にいいからね」
「お魚の内臓もよね」
「そうよ、あん肝とかあるでしょ」 
 鮟鱇の肝臓である。
「あれもね」
「美味しくて」
「身体にいいのよ」
「だから食べるといいのね」
「ええ、ただファアグラはね」 
 母は世界三大珍味の一つに挙げられているこの食材については咲に対して微妙な顔になって答えた。
「あれはね」
「滅茶苦茶高いわよね」
「しかもあれはね」
 そのファアグラはとだ、母はさらに話した。
「首から下を埋めたりして動けなくした鵞鳥にね」
「無理に食べさせて太らせるのよね」
「そう、酷いものよ」
「あれ動物虐待よね」
 咲はお米を研いで電子ジャーに入れてから応えた、馴れた動きだ。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその十

「完全に」
「そうよ」
 母も否定しなかった。
「どう見てもでしょ」
「そうよね」
「確かに食べるけれど」
「それまでの課程が問題ね」
「食べること自体にも何かとあるわ」
 母はこのことは否定しなかった。
「やっぱりね」
「世の中そうよね」
「奇麗ごとばかりじゃないしね」
「家畜を食べるっていうことには」
「何かとあるわよ」
 このこと自体は否定出来ないというのだ。
「先も知ってるのね」
「中学校の時フランドル農学校の豚読んだから」
「宮沢賢治ね」
「何となくだけれど」
「知ってるのね」
「ええ、だからね」 
 それでというのだ。
「私もね」
「知ってるわね」
「ええ」
 母に暗くかつ沈んだ顔で答えた。
「家畜がどんなものか」
「ああしたことは事実でもね」
「銀の何とかって漫画でも読んだし」
「漫画でもなのね」
「農業高校を舞台にしたね」
「そうしたこともあるわよ、けれどね」
 それでもと言うのだった。
「ファアグラはね」
「酷過ぎるのね」
「幾ら何でもね」
「だから言うのね」
「そうよ、動けなくして無理矢理食べさせて太らせてね」
「そうした鵞鳥の肝臓ね」
「作るまでも酷くて」
 そうしてというのだ。
「それにそんな太らせ方したら病気でしょ」
「鵞鳥も」
「フォアグラは病気になった鵞鳥の肝臓よ」
「脂肪肝?」
「そう、それがフォアグラよ」
 まさにそれになるというのだ。
「病気になった生きものの内臓が健康かしら」
「そう言われたら」
 咲もわかった、それで今度はまた食材を切りつつ応えた。
「やっぱりね」
「食べてもね」
「健康的じゃないわね」
「コレステロールとか多いから」
 現実としてそうだというのだ。
「カロリーもかなり高いし」
「健康的な食べものじゃないのね」
「昔の欧州のお金持ちで痛風が多いのも」
 メディチ家では代々の持病であった、それが常の美食のせいであることは言うまでもないことである。
「そういうものを食べてきたからよ」
「やっぱりそれね」
「だからね」
「内臓はよくても」
「ファアグラはね」
 どうしてもというのだ。
「よくないわ、まあ滅多に食べられないわね」
「高いから」
「そう、私達にはね」 
 娘に笑ってこうも言った。 

 

第二十二話 ゴールデンウィークに入りその十一

「とてもね」
「いつも食べられないわね」
「そんないつもそうしたもの食べられるなんてね」
「フォアグラとかを」
「もう大金持ちよ」 
 やはり笑って言った。
「私達なんかより遥かにね」
「そうよね」
「私達は庶民だから」
「普通のもの食べるのね」
「内臓もね。それで普通の内臓の方がね」
「ずっと健康的よね」
「あんたもフォアグラ食べたことあるでしょ」
「キャビアもトリュフもね」
 咲はすぐに答えた。
「お父さんとお母さんが私が中学校に入学した時に」
「お祝いにレストランに連れて行った時に食べたでしょ」
「その時に食べたわよ」
「それでどうだったかしら」
「確かに美味しいけれど」
 それは事実でもとだ、咲は母に答えた。
「私はお寿司の方がね」
「いいのね」
「流石に回転寿司よりはいいと思うけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「そんなに美味しいと思わないでしょ」
「珍味だとか大層に言う位はね」
 そこまではというのだ。
「本当にね」
「お母さんもそう思うわ」
「そうなのね、お母さんも」
「だからね」
「あまり食べないのね」
「安くても」
 例え値段の問題がなくともというのだ。
「それでもね」
「出来るまでの経緯がそうで」
「それで栄養的にもだから」
 問題があるからだというのだ。
「それでよ」
「フォアグラは食べないわね」
「そうしていくわ、それに最近問題になってるし」
「ああ、動物虐待よね」 
 何故問題になっているか、咲もすぐに察した。
「首から下埋めて無理矢理食べさせるって」
「そうして作るからね」
「だから問題になってるのね」
「あんな酷いやり方ないからね」
「ただ食べるよりも酷いわね」
「だから問題になってるのよ」
 こう娘に話した。
「最近はね」
「それも当然ね」
「そう、まあ兎に角生きものの内臓を食べること自体はいいけれど」
 それでもというのだ。
「フォアグラはね」
「高い、食べものとして健康的かどうか」
「そして作る過程が酷過ぎるからね」
「止めるべきね」
「それに咲も好きじゃないなら」
「余計にね」
「食べる必要ないわ、鶏のレバーの方がいいわよ」
 こちらの方がというのだ。
「ずっとね」
「そうね、それじゃあね」
「そっちを食べるのよ」
「そうするわ」
 母に笑顔で応えた、そうしてだった。
 咲はこの日の夕食も楽しんだ、そうしてゴールデンウィークの最初の一日を楽しく終えたのだった。


第二十二話   完


                  2021・7・8 

 

第二十三話 愛と二人でその一

                第二十三話  愛と二人で
 咲はこの日は愛と一緒に遊びに行った、咲が待ち合わせ場所の原宿の駅に行くとそこにオレンジの半ズボンに黄色のタイツ、赤の上着に銀や金のアクセサリーで飾った愛がいた。愛は咲を見るとすぐに声をかけてきた。
「待った?」
「今来たところだけれど」
「私もよ。丁度よかったわね」
「五分前に来たけれど」
 咲は時計の時間を確認してから従姉に応えた。
「お互い丁度よかったわね」
「そうね、それじゃあね」
「今からね」
「一緒に遊びに行きましょう」
「それじゃあね」
「若い子が遊ぶ場所はね」
 愛は咲ににこにことして話した。
「東京だと渋谷かね」
「原宿ね」
「そうなるわね、新宿だとね」
「あそこは繁華街でね」
「そう、飲む場所だから」
 それでというのでだ。
「公に飲める様になってからよ」
「行く場所よ」
「だからね」
「高校生が遊ぶ場所は」
「そう、ここか渋谷よ」
「そうよね」
「池袋も悪くないかも知れないけれどね」
 それでもというのだ。
「原宿なら結構知ってるし」
「だからなのね」
「咲ちゃんを誘ったの」
 そうしたというのだ。
「今日はね」
「そうなのね」
「街を見て回ってね」 
 原宿のそれをとだ、愛はさらに話した。駅を出て二人で歩きはじめている。咲の服装は水色のブラウスに青のロングスカートだ。頭には白い鍔の広い帽子がある。アクセサリーは白のネックレスとヘアピンである。
「それでカラオケもね」
「行くのね」
「メインはそれと」
 カラオケと、というのだ。
「それにお食事よ」
「そっちね」
「スパゲティ食べる?」
 咲に笑って言ってきた。
「そうする?」
「スパゲティなの」
「いいお店知ってるの、量も多いね」
「味もいいの」
「そうしたお店なの。チェーン店だけれど」
 それでもというのだ。
「いいわよ」
「スパゲティのチェーン店なの」
「ピザもあるわよ」
「ひょっとしてカプリ?」
「それよ」
 愛もそうだとだ、笑顔で答えた。二人で歩行者天国に入ろうとしている。
「そのお店よ」
「あそこなのね」
「日本全国にあるけれどね」
「東京にはあちこちにあるわね」
「もうちょっと行けば」
 それでというのだ。
「あるわよね」
「渋谷でも何処でもあるわね」
「それでね」
「ここにもあるのね」
「そうなの、だからね」
「お昼はあそこね」
「そこでは飲まないでいましょう」
 愛はこうも言った。 

 

第二十三話 愛と二人でその二

「お昼から飲むとね」
「結構辛いの」
「そう、だからね」
「お昼は飲まないで」
「カラオケに行った時に」
「飲むのね」
「もうその時はね」 
 愛は笑顔で話した。
「二人でね」
「飲むのね」
「カラオケボックスのお酒って弱いけれど」
 アルコール度は低いというのだ。
「殆どジュースだけれどね」
「そういえば前飲んだ時も」 
 咲も言われてそれはとなった。
「かなり飲んでね」
「そうしてだったでしょ」
「酔ってきたわ」
「ほろ酔いの感じなの」
「そうなのね」
「けれどね」
 それでもとだ、愛は咲にさらに話した。
「かなり飲めばいいから」
「あまり酔わないなら」
「そう、私がどんどん注文するからね」
「どんどん飲めばいいのね」
「どんどん歌ってね」
 そうしてというのだ。
「そしてね」
「どんどん飲むのね」
「そうすればいいのよ、それと」
 愛は笑顔でこうも言った。
「おトイレに行きたくなったら」
「飲むとね」
「どうしても行きたくなるけれど」
 それでもというのだ。
「その分ね」
「おトイレに行けばいいのね」
「もうそれは当然のことだから」
 飲めばトイレに近くなることはというのだ。
「その都度ね」
「行けばいいだけで」
「もう飲んで歌って」
「おトイレに行って」
「二人で楽しみましょう、カラオケボックスは安くて」
 そしてというのだ。
「長く楽しめるからね」
「いい遊び場所よね」
「お金をかけないで楽しむなら」
 そうしたいならというのだ。
「カラオケはね」
「最適の場所ね」
「ギャンブルなんかするよりも」
「楽しめるわね」
「ギャンブルは負けたら何も返って来ないわよ」
 愛は持論を述べた。
「お金なくすだけよ」
「本当にそれだけよね」
「大事なお金をね」
 従妹にこうも言った。
「カラオケで歌ったらその分ストレス解消になってカロリーも消費するわよ」
「歌うだけでね」
「ダイエットにも使えるわよ」
 カラオケはというのだ。
「あれはあれでいい運動だから」
「歌うことも」
「演説だってスポーツになるのよ」
「そうなの」
「ヒトラーはそう言ってたわよ」
 ドイツの独裁者であった彼はというのだ。
「演説によるけれどね」
「ヒトラーって随分激しい演説してたのよね」
「演説の天才って言われていてね」
 その他には統率と内政でもそうであったと言う者がいる、終戦まで軍と国家をまとめておりかつ破綻していたドイツの治安や雇用、秩序を瞬く間に復活させたからだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその三

「それでね」
「激しい演説してたから」
「そう言ってたのよ」
「そうだったのね」
「それでカラオケもね」
 即ち歌うこともというのだ。
「こちらもね」
「いい運動になるのね」
「だから返って来るものはあるのよ」
 遊んでもというのだ。
「歌えば歌うだけ上手になるしね」
「このことも大きいわね」
「だからね」
 それでというのだ。
「カラオケはいいけれどね」
「ギャンブルは」
「負けたらお金なくすだけよ」
 それに過ぎないというのだ。
「返って来るものなんてね」
「ないのね」
「何もね」
 それこそというのだ。
「そんなものよ」
「だからするだけ無駄ね」
「私はそう思うわ」
 こう従妹に話した。
「正直競馬とかパチンコとかルーレットとか」
「ギャンブルは」
「麻雀でもトランプでもよ」
 こうした遊びでもというのだ。
「当然スロットもね」
「無駄なのね」
「する人の気が知れないわ」
「まあね、私もお金あったら」
 それならとだ、咲も答えた。
「カラオケに使うか」
「それかでしょ」
「服とか」
「ファッションね」
「あと漫画とかライトノベルにね」
「使うわよね」
「そうするわ」
 お金はというのだ。
「あればね」
「それでいいのよ、そういうことに使ったらね」
 愛は咲に話した。
「返って来るものがね」
「あるのね」
「ちゃんとね、自分にね」
「返って来るのね」
「けれどギャンブルは」
 これはというのだ。
「何もね」
「負けたら返って来ないのね」
「お金なくすだけよ」
 これだけだというのだ。
「しかもギャンブルって儲かるのは親よ」
「やる人は儲からないのね」
「昔は神社やお寺で賭場開かれていたけれど」
 江戸時代からのことである。
「ヤクザ屋さんが仕切ってね」
「それでヤクザ屋さんが儲けていたのね」
「あと場所を提供するお寺や神社が」 
 そちらがというのだ。
「儲けていたのよ」
「そうだったのね」
「これが結構ね」
 愛はさらに言った。
「お寺や神社の収入源だったのよ」
「賭場を貸すことが」
「そうだったのよ」
「信者さんのお布施だけじゃないのね」
「それもあったけれど」
 それに加えてというのだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその四

「賭場を提供したりテキ屋さんにね」
「場所を貸すことも」
「そちらにもよ。ちなみにテキ屋さんも」 
 こちらもというのだ。
「結構ヤクザ屋さんと近いのよ」
「そうだったのね」
「ヤクザ屋さんは賭場とテキ屋から出て来たのよ」
「悪いことをしてじゃないの」
「まあ悪いこともしてるけれどね」
 愛は苦笑いでそのことを否定しなかった、やはりヤクザ者イコール悪人の図式は存在しているのだ。
「けれどね」
「元々はそうしたところからなの」
「出て来ていて」
 そしてというのだ。
「今に至るのよ」
「麻薬の密売とかショバ代からじゃないの」
「そちらも収入源だけれどね、ショバ代は最近ないけれどね」
 こちらの取り締まりも厳しくなってだ。
「兎に角最初はね」
「テキ屋とか賭場からだったの」
「ヤクザ屋さんはね、それでギャンブルで儲けるのは」
「親で」
「ヤクザ屋さんとか場所を提供している人だけよ」
「そうなのね」
「カジノだって」
 こちらもというのだ。
「儲かるのはね」
「カジノを経営している人達ね」
「そうよ、競馬や競輪もそうよ」 
 こうしたギャンブルもというのだ。
「儲かっているのはね」
「やる人じゃないのね」
「馬主さんとか競馬を運営している人達よ」
「じゃあやる人は」
「博打で蔵建てた人はいない」 
 愛はこの言葉も出した。
「そういうことよ」
「やる人は儲からないのね」
「そうよ」
 実際にというのだ。
「だからギャンブルで儲けるとかね」
「ないことね」
「どうしても儲けたいなら」
 そう思うならというのだ。
「自分がね」
「親になることね」
「そう、けれど咲ちゃんそんなつもりないでしょ」
「そもそもギャンブル自体にね」
 咲はあっさりと答えた。
「ゲームセンターは行くけれど」
「まああれは遊びね」
「それだけね」
「別に換金とかないでしょ」
「お金入れてゲームする場所で」
「そういうのないから」
 だからだというのだ。
「別にいいのよ」
「そうなのね」
「遊んでもね」
「パチンコは駄目なのね」
「あれはギャンブルよ」
 純粋なそれだというのだ。
「それでパチンコでもね」
「儲けるものじゃないのね」
「パチンコでも儲けるのはね」
「親ね」
「つまりパチンコ屋さんよ」
 彼等だというのだ。
「だからお金をそちらでなくすつもりでないなら」
「しないことね」
「ギャンブルはね」
「正直私ギャンブルは無駄だってね」
 咲は自分の気持ちを述べた。 

 

第二十三話 愛と二人でその五

「そうね」
「思ってるのね」
「はっきり言うとね」
「それ私もだから」
「だから今お話してるのね」
「そう、ギャンブルにお金使うより」
「他のことに使うのね」
「お洒落とかカラオケとかね」
 そうしたことにというのだ。
「使うわ」
「そうするのね」
「あと咲ちゃん程じゃないけれどね」
 それでもというのだ。
「漫画とかライトノベルもね」
「買うの」
「あと食べ歩きにもね」
 こちらにもというのだ。
「使ってるから」
「それじゃあギャンブルは」
「とてもね」
「しないのね」
「全くね」
 それはというのだ。
「私も同じよ」
「やっぱりそうよね」
「ギャンブルはしないわ」
 絶対にというのだ。
「そうしてね」
「他のことでなのね」
「お金を使うわ」
「それがいいわね」
「そう、だからね」
 咲にさらに話した。
「お金はね」
「大事に使うことね」
「ギャンブルとかに使わないで。あとね」
「あと?」
「麻薬に使うなんてのはね」
「もっと駄目よね」
「これが一番無駄でしょ」
 金の使い方として、というのだ。
「ギャンブルもだけれど」
「ギャンブル以上に」
「だって身体も心もボロボロになるから」
 それでというのだ。
「もうね」
「そこにお金を使うなんて」
「それこそね」
 もうというのだ。
「最も無駄なね」
「お金の使い道ね」
「しかも高いのよ」
「そうみたいね」
「覚醒剤とかね」
「だからヤクザ屋さんの利権にもなってるのね」
「重要な収入源にね」
 それにというのだ。
「なっているのよ」
「そうしたところにお金使うのは」
「ヤクザ屋さんを食べさせてるってことでもあるのよ」
「それも問題ね」
「しかも高いから」
「尚更なのね」
「昔は覚醒剤も煙草屋さんで売ってたにしても」
 終戦直後の話もした、愛は咲と原宿の歩行者天国を歩きながらそのうえでさらに言うのであった。案内役もしている。
「今はね」
「高いのね」
「そうよ、だからね」
 それでというのだ。
「余計にね」
「そっちに使うなんて」
「馬鹿としか言い様がないわ」
 それこそというのだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその六

「だからね」
「そこは使わないのね」
「間違ってもね」
「ギャンブルにもそうで」
「麻薬にもね、あと咲ちゃん煙草は」
「未成年だしね、それにこっそりもね」
 そうして吸うこともというのだ。
「しないわ」
「そうよね、叔父さんと叔母さんもだし」
「お姉ちゃんもでしょ」
「身体に悪いのわかってるから」
「覚醒剤と違うけれど」
「流石に麻薬程じゃないけれどね」
 身体への悪影響はというのだ。
「それでもね」
「煙草もなのね」
「身体によくないから」
 だからだというのだ。
「あまりね」
「吸わない方がいいのね」
「私の方も家族誰も吸わないし」
「私達もなのね」
「出来るだけね」
 煙草は麻薬と違って合法だがというのだ。
「吸わないでね」
「それでなの」
「そう、あまりね」
「吸わないことね」
「こっちもね、しかしね」
「しかし?」
「煙草は今のところ合法だから」
 それでというのだ。
「咲ちゃんが二十歳になってね」
「吸いたいなら」
「吸ってもね」
 例えそうしてもというのだ。
「いいわよ」
「こちらはそうなのね」
「まあ今でもこっそりでもね」
 愛は笑ってこうも言った。
「私別に咲きちゃんの学校の先生じゃないし」
「言わないの」
「ええ、大学だといるしね」
 喫煙者がというのだ。
「歩き煙草は最悪だけれど」
「あれは確かにね」
「手で下に持ったまま歩いてね」
「その煙草がすれ違う人の手に当たったら」
「火傷よ、子供の目に当たったら」
「失明よね」
「だからね」
 そうした事故が起こりかねないからというのだ。
「歩き煙草はね」
「最悪ね」
「絶対にしたら駄目よ」
 こう言うのだった。
「間違ってもね」
「そうよね」
 咲もそれはと頷いた。
「やっぱり」
「他の人の為にもね」
「やったら駄目ね」
「煙草を吸うにしてもね」
 これ自体は合法だがというのだ。
「これはね」
「注意して」
「やったら駄目よ」
「何があっても」
「煙草を吸うのは喫煙所よ」
 そこだというのだ。
「他の場所ではね」
「吸わないことね」
「そうしてね」
「それがマナーね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその七

「煙草は吸ってもね」
「二十歳からで」
「それでね」
「マナーも守る」
「そうしてね、歩き煙草なんてね」
 それこそというのだ。
「何があってもよ」
「したらいけないわね」
「昔は多かったけれど」
「歩き煙草も」
「危なかったのよ」
「やっぱりそうよね」
「だからね」
 それでというのだ。
「咲ちゃんもね」
「煙草を吸っても」
「注意してね」
「マナーも守ることね」
「あと覚悟してね」
「覚悟?」
「身体に悪いことは」 
 煙草はというのだ。
「そのことはね」
「ああ、煙草はね」
 咲もそのことは察して頷いた。
「確かにね」
「身体に悪いでしょ」
「ええ」
 その通りだと答えた。
「それもかなりね」
「だからね」
「そのことも覚悟して」
「吸うことね」
「あと頭の悪い人が煙草吸ったら」
「余計に悪くなるのね」
「そんな気がするわ」
 こう咲に話した。
「どうもね」
「そうなの」
「そうした人が歩き煙草とかするのよ」
「それで人に迷惑かけるのね」
「そう思うわ、というか私煙草吸わないから」 
 愛は全く吸わない、もっと言えば興味もない。
「これ位しかね」
「言えないのね」
「そうなの」
 これがというのだ。
「まあ咲ちゃんは吸うタイプじゃないわね」
「興味ないわよ」  
 咲もこう答えた。
「お酒にはあっても」
「そうよね、私もよ」
「お酒は好きでもね」
「煙草はでしょ」
「私も身体に悪いの知ってるから」
 だからだというのだ。
「お父さんもお母さんも吸わないし」
「うちもよ」 
 愛の両親もというのだ。
「煙草はね」
「そういえば叔父さんと叔母さんも」
「うちの家族皆吸わないから」
「うちはモコもいるから」
 愛犬の話もした。
「煙草吸う人がお家に来てもね」
「吸ってもらわないの」
「ベランダでね」 
 そこでというのだ。
「吸ってもらってるの」
「そうなのね」
「やっぱり吸う人はいるから」 
 だからだというのだ。
「そうした人にはね」
「吸ってもらって」
「それでね」
 そのうえでというのだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその八

「ベランダでなの」
「それうちもよ、ただモコちゃんにはね」
「人間以上によくないわよね」
「ええ」
 愛もその通りだと答えた。
「やっぱりね」
「犬はデリケートだしね」
「お酒も少しで危ないのよ」
「それじゃあ煙草もね」
「煙草は煙もよくないから」
 有害だというのだ。
「だからね」
「犬には天敵ね」
「その一つだから」
 それでというのだ。
「注意していて正解よ」
「それじゃあこれからも」
「注意してね、それとね」
「それと?」
「室内で犬とか猫を飼っていてね」
 それでというのだ。
「煙草吸う人いたら」
「よくないわよね」
「煙が一番よくないから」
 それが一番毒だというのだ。
「煙草はね」
「だからよね」
「そう、よくないから」
「犬や猫を飼っていたら」
「煙草は絶対によくないわ」 
 室内飼いではというのだ。
「どうしてもね」
「そうね、じゃあ私これからも」
「煙草は吸わないわね」
「元々吸わないし」
 それにというのだ。
「興味もないし身体に悪いのもわかってるし」
「それじゃあね」
「ええ」
 愛に対して頷いて応えた。
「これからもね」
「吸わないってことで」
「そうしていくわ」
「結局それが一番なのよね」
「煙草については」
「昔は吸うことが恰好いいってイメージだったらしいのよ」
 咲にこのことも話した。
「映画俳優の人が吸ったりCMが流れていて」
「それでなの」
「恰好いいってィメージがあってね」
「吸う人多かったの」
「葉巻だってね」
 こちらもというのだ。
「そうなのよ」
「葉巻もなの」
「パイプだってね」
「吸ってる姿が恰好いいってイメージがあって」
「それでね」
「吸う人多かったの」
「それで癖になって」
 吸うことがというのだ。
「ヘビースモーカーの人も出たのよ」
「本当に好きになって」
「昔はね、今もヘビースモーカーの人いるけれど」
「昔はもっと多かったの」
「漫画家さんや小説家さんなんてね」
 こうした職業の人達はというのだ。
「ヘビースモーカーの人多かったのよ」
「吸いながら書いて描いていたの」
「そうだったのよ」
「煙草の火で原稿燃えない?」
「そんな話漫画であるわね」
 実際にというのだ。
「あと軍人さんもね」
「あっ、軍人さんは多いわね。そういえば」
 ここで咲はふと思い出して愛に話した。 

 

第二十三話 愛と二人でその九

「あるアニメでドイツ軍イメージした軍隊出ていて」
「ドイツ軍ね」
「一次大戦と二次大戦合わせた様な」
 そうしたというのだ。
「ドイツ軍のイメージで」
「それで煙草出てたの」
「将軍の人達の作戦会議でね」
 その場面でというのだ。
「皆ワイン飲んで煙草をね」
「吸ってたのね」
「ワイン出てたのに驚いたわ」
 愛はこのことは真顔で言った。
「お酒飲みながら作戦会議って」
「あっちじゃ普通よ」
「お酒飲みながら作戦会議も?」
「ドイツって朝食欲ない時ビールに生卵入れて飲むから」
「それが朝ご飯で」
「イタリアでもフランスでもイギリスでもね」
 即ち欧州各国でというのだ。
「朝からお酒飲むからね」
「作戦会議でワイン飲んでいてもなの」
「普通よ、それでそこでもね」
「煙草吸ってたのね」
「皆ね、そうしてね」
 ワインを飲み今の話の主役である煙草を吸いながらというのだ。
「作戦会議していたのよ」
「そうなのね、まあ兎に角軍人さんはね」
「特になの」
「煙草を吸う人が多かったの」
「そうなのね」
「今も自衛官の人で吸う人結構おられるわよ」
 この職業の人達もというのだ。
「兵隊さんはね」
「煙草と縁が深いのね」
「そうなの、ただね」
「ただ?」
「ドイツで思い出したけれどヒトラーは吸わなかったのよ」
 ナチス=ドイツの総統であったこの人物はというのだ。
「煙草は大嫌いだったのよ」
「そういえば何処かの本でヒトラーは禁欲的って書いてあったわ」
 咲もこのことを思い出した、多くの創作ものでもヒトラーはよく出てくる。よくも悪くもよく知られた人物である。
「かなりね」
「そう、それで煙草を吸わなくて」
 そしてというのだ。
「お酒も飲まないで菜食主義だったのよ」
「何かお肉をガツガツってイメージあるけれど」
「それがね」 
 ヒトラーという人物はというのだ。
「菜食主義で甘いものが好きだったのよ」
「お菓子とか?」
「紅茶が好きでね」
「お酒は飲まないで」
「作戦会議でもね」
 この場所でもというのだ。
「自分はお酒も煙草もだから」
「凄く目立ちそうね」 
 咲は自分が見たアニメのその作戦会議の場面を思い出しつつ述べた、その場面ではワインと煙草が極めて印象的だったからだ。
「それって」
「だから今も言われてるのよ」
「煙草もお酒も口にしないで」
「菜食主義者だったってね、女性にも清潔だったのよ」
 咲にこのことも話した。
「これがね」
「権力使ってやりたい放題とかは」
「なかったのよ」
 それがヒトラーの一面だった、また蓄財はしていてもそれは全て政治的活動の為に使っていた様である。
「少なくとも私利私欲の為にはね」
「権力を使わなかったの」
「確かに独裁者で色々なことしたけれど」 
 それでもというのだ。 

 

第二十三話 愛と二人でその十

「それでもね」
「私利私欲には使わなかったのよ」
「意外ね」
「それでその会議に出たら」
 作戦会議にというのだ。
「かなりね」
「異様だったのね」
「ヒトラーはね」
「そうした人だったの」
「あの時代色々な人が煙草吸ってたけれどね」
 今よりも遥かに喫煙者が多かったというのだ。
「けれど大の煙草嫌いで」
「吸わなかったのね」
「色々言われてる人なのは事実でも」
 このことは事実だがというのだ。
「私人としてはね」
「そんなに悪い人じゃなかったの」
「人種的偏見は強かったわ」
「それがナチスよね」
「社会主義を掲げて」
 ナチスはドイツ国家社会主義労働者党の略である、自由経済を制限し労働時間を短縮し福祉や教育に力を入れた。雇用も確保したそれはまさに社会主義政策であった。
「そしてね」
「人種政策もしたわね」
「ユダヤ系やロマニの人達への迫害もしたし」
「身体障害者の人達もよね」
「迫害したけれどね」
 虐殺もした。
「しかしね」
「それでもなのね」
「私人としてはね」
「真面目な人だったの」
「趣味は読書と音楽鑑賞でね」
「その二つなのね」
「どんな難しい本も読破して」
 このことはヒトラーを間近で見て来たドイツ軍の名将グーデリアンが彼の自伝でも書き残している。
「そして音楽もね」
「好きだったの」
「ワーグナーとかね」
「ああ、ニーベルングの指輪の」
「あの人の音楽が好きで」
 それでというのだ。
「今言った通りお酒も煙草もしなくて」
「菜食主義者で」
「女性にも清潔だったの」
「本当に真面目だったのね」
「あと馬とか犬が好きで」
 競馬も好きだったというがギャンブルが好きだったという話はない様だ。
「動物愛護もね」
「していたの」
「そっちにも積極だったのよ」
「本当に悪い人じゃなかったのね」
「子供にも親切だったしね」
「ううん、イメージ違うわね」
「とんでもないことをしたけれど」
 独裁者としての政策はそうだったがというのだ。
「お付き合いする分にはね」
「悪い人じゃなかったのね」
「そうだったのよ」
「意外ね」
「元々画家になりたかったしね」
「そのことは有名ね」
 咲も知っていることだ。
「もうね」
「それでも落ちてね」
「ああなったのね」
「まあああした人は出たかもね」
 ヒトラーが美大に受かって彼の望み通り画家になり夢を適えてもというのだ。
「ドイツにね」
「出たかしら」
「だってドイツ大変だったから」
 一次大戦の後のこの国はというのだ。
「もうボロボロだったでしょ」
「戦争に負けて物凄い賠償金課せられて」
「それで世界恐慌もあってね」
「もうどうしようもなかったわね」
「おかしな犯罪者も出たしね」
 一次大戦後のドイツは異常犯罪者が目立つことでも知られている、フリッツ=ハールマン等がそうである。 

 

第二十三話 愛と二人でその十一

「もう完全に破滅していて」
「どうしようもなかったから」
「だからね」
 その為にというのだ。
「ああした独裁者が出て」
「それでなの」
「ドイツを何としてもね」
 それこそ極端な独裁を行ってだ。
「救おうとしたかもね」
「そうなのね」
「ヒトラーが出なくても」
 それでもというのだ。
「独裁者は出たかも知れないわ」
「ドイツ国民が欲しがって」
「ヒトラーは救世主だったのよ」
「ヒトラーが!?」
「そうよ、当時のドイツ国民にとってはね」
 敗戦と賠償金と世界恐慌で破滅していた彼等にとってというのだ、インフレは一億倍に達し経済は完全に破綻していたのだ。
「まさにね」
「ヒトラーは救世主だったの」
「どうしようもない自分達を救ってくれる」
 そうしたというのだ。
「救世主だったのよ」
「それでヒトラーが総統になったの」
「実際救ったしね」  
 その政策によってだ。
「インフレは収まって雇用も確保されて生活も向上して治安もよくなって」
「いいこと尽くめだったの」
「誇りも何もなくなってたけれど」
「その誇りもなの」
「ゲルマン人第一主義を掲げてね」 
 このことも歴史にある通りだ。
「強い軍隊も復活させて」
「ドイツをよくしたから」
「実際に一度はね」
「ドイツを救ったの」
「あんまりにも酷かったから」
「救世主を欲しがっていたの」
「だからヒトラーが画家になっても」
 そしてナチスが政権に就かずともというのだ。
「当時のドイツ共産党が凄い勢いだったから」
「共産党?」
「そう、共産党が政権握って」  
 この可能性も充分にあったのだ、当時のドイツでは。
「それでソ連と一緒になってね」
「当時のソ連ってスターリンよね」
「あの独裁者と組んで」
「それも怖いわね」
「そうなっていたかもね」
「何か色々難しいのね」
「そうね、ヒトラーは私人としてそうで」
 その生活態度から批判される謂れはない人物だったのだ。
「弱い者いじめなんてこともね」
「私人としてはしなかったの」
「ユダヤ人やロマニの人達や障害者の人達を迫害したけれど」
「個人としてはなのね」
「そうしたことはね」
 いじめ等はというのだ。
「しなかったのよ」
「そうした人だったのね」
「偏見の塊だったけれど」
 それでもというのだ。
「そうした人で能力もね」
「物凄く高かったわね」
「だから一度はドイツを救えたのよ」
「そうなのね」
「そのことは覚えておいてね」
「ヒトラーのことも」
「そう、それとね」
 愛はさらに言った。
「煙草のお話だけれど」
「それね」
「やっぱり吸わないならね」
「それが一番ね」
「無駄にお金も使わないしね」
「そのことも大きいのね」
「お酒と違って完全に身体に悪いから」
 そのことがわかっているからだというのだ。
「しないならね」
「それに尽きるわね」
「そうよ、それじゃあね」
「ええ、今から」
「原宿歩いて」
 歩行者天国をというのだ。
「それからスパゲティも食べて」
「カラオケも行って」
「楽しみましょう」
 笑顔で言ってだった。
 二人で原宿を楽しみに入った、歩行者天国の店やパフォーマンスを見るのもかなり楽しいものだった。


第二十三話   完


                  2021・7・15 

 

第二十四話 二人での楽しみその一

                第二十四話  二人での楽しみ
 原宿のパフォーマンスを見てだ、愛は言った。
「いや、やっぱりレベル高いわね」
「原宿のパフォーマンスは」
「日本一集まるからね」
 パフォーマンスを行う人達がというのだ。
「だからね」
「そのレベルもなのね」
「凄いわ」
「歌もダンスも」
「凄いでしょ」
「ええ、確かにね」
 咲も頷いた。
「そう言われると」
「ここからメジャーになる人もいるしね」
「一世風靡セピアとか?」
「知ってるのね」
 愛はこのグループを出した咲に笑みで応えた。
「そうなのね」
「中学の時からユーチューブで観てね」 
 そしてというのだ。
「知ってるの」
「そうなのね」
「昭和の、五十年代後半の音楽もいいかなって思って」
「聴いてて」
「その頃のジャニーズとかチェッカーズとかCCB聴いてて」
「一世風靡セピアもなのね」
「歌もダンスもね」
 そのどちらもというのだ。
「いいって思って」
「それでなのね」
「時々だけれど視てるの」
「中々いいわね」
 愛は咲のその返事に唸って応えた。
「実際昭和のね」
「五十年後半からよね」
「女性アイドルもね」
 こちらもというのだ。
「かなりね」
「レベル高いわよね」
「そうなのよね」
「それで一世風靡セピアもね」
「いいわよ」
 このグループもというのだ。
「そのグループに注目するなんてね」
「いいのね」
「かなりね、センスあるわよ」
「そうなのね」
「だからどんどん聴いていってね」
「それじゃあね。あと女性アイドルもいいのね」
 咲は愛に逆にこのことを聞いた。
「そうなのね」
「そう、中森明菜さんとかね」
「ああ、あの人ね」
 咲は愛に言われたその名前を聞いて大きく頷いた。
「有名よね」
「三年連続レコード大賞獲得したけれど」
「それだけのものがあるのね」
「聴いて、あの人の一番凄い時の曲をね」
「丁度その時がなのね」
「そう、三年連続レコード大賞獲得したのよ」
「昭和五十年代後半?」
 咲は年代を問うた。
「その頃?」
「六十年代の」
 昭和のとだ、愛は答えた。
「もうね」
「その頃から平成のはじめ頃の曲をチェックしてるけれど」
「じゃあまさにその頃よ」 
 愛は即座に答えた。
「私が言ってるのはね」
「そうなのね」
「それでね」
「その頃の中森明菜さんは」
「もう神だから」
 そう言っていいまでだからだというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその二

「咲ちゃんもね」
「聴くべきね」
「男性アイドルもいいけれど」 
 この頃はというのだ。
「女性アイドルもなのよ」
「中森明菜さんね」
「他の人もよかったわよ」
 中森明菜だけでなくというのだ。
「女性アイドルは」
「あの頃だったら」 
 咲はその年代のことから考えて言った。
「松田聖子さんも」
「その人と中森明菜さんは別格ね」
「やっぱりそうね」
「松田聖子さんもね」
「今でも凄い人だし」
「あの人の曲もね」
 それもというのだ。
「凄いから」
「だからなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「聴いてみたらいいわ」
「それじゃあね」
「そうするわね」
「ええ、それとね」
「それと?」
「おニャン子クラブもよ」
 このグループもというのだ。
「モーニング娘。やAKBのはしりだけれど」
「大勢のアイドルグループね」
「女の子のね。そちらもね」
「いいの」
「やっぱり一時代を築いただけあって」
「凄いものがあるのね」
「だから聴いてみてね」
 このグループの曲もというのだ。
「いいわね」
「そうしてみるわね」
 咲は愛のそのアドバイスにも頷いた。
「これから」
「そうしてね」
「あの年代も色々いい曲があるのね」
「そうよ、平成もいいけれど」
「昭和の終わりも」
「いいの、ただ私演歌は」 
 このジャンルの歌はというと。
「男の人よりは」
「女の人なの」
「どうも歌いにくいから」 
 だからだというのだ。
「それでね」
「歌わないの」
「歌うのだったら」 
 演歌はというのだ。
「女性のものよ」
「というかお姉ちゃん演歌歌うの」
「そう、歌うの」
 実際にというのだ。
「私はね」
「それも凄いわ」
「そう?」
「私演歌歌えないから」
 だからだというのだ。
「歌えるなんてね」
「凄いのね」
「私はそう思うわ」
「アニメでも演歌出るでしょ」
「そう?」
「咲ちゃんも歌えない?特撮でも出るし」 
 演歌はというのだ。
「だからね」
「歌えるのね、私も」
「そう思うわ、だからね」 
 それでというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその三

「どう?」
「じゃあカラオケで」
「歌うのね」
「そうするわ」
 咲は確かな声で答えた、そうしてだった。
 二人で歩行者天国からイタリア料理の店に入った、そこでジュースとスパゲティを注文したのだが。
 イカ墨のスパゲティをダブルで頼んで愛は咲に笑って言った。
「ダブルだからね」
「二人で食べてお腹一杯ね」
「そうなるわ。このお店のスパゲティはね」
「ダブルだとね」
「量が凄いからね」
「そのことでも有名よね」
「それで看板はトマトと大蒜のスパゲティだけれど」
 このメニューも話に出した。
「何といっても」
「このお店で一番有名なメニューね」
「けれどね」
「イカ墨もなのね」
「いいのよ」
「美味しいのね」
「だからね」 
 それでというのだ。
「今回はね」
「イカ墨のスパゲティを注文したのね」
「そうなの、それに私イカ墨のスパゲティ好きだし」
 このこともあってというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「今回はそっちを注文したのよ」
「そうなのね」
「これが本当に美味しいから」
 だからだというのだ。
「一緒に食べましょう」
「私もイカ墨のスパゲティ好きよ」
 咲は愛に笑顔で応えた、二人で二人用の席に向かい合って座っている、そうして料理が来るまで話をしているのだ。
「美味しいわよね」
「あの真っ黒なのが食欲そそるわよね」
「スーパーでもソース売ってるしね」
「あれも美味しいわよね、それでね」
「このお店でもなのね」
「美味しいから」
 だからだというのだ。
「一緒にね」
「これから食べるのね」
「そうしましょう、ただお酒は」 
 こちらはというのだ。
「お外でしかもお昼だから」
「私まだ高校生だから」
「それに私もね」 
 愛もというのだ。
「お昼からはね」
「飲まないのね」
「ええ」
「そうするのね」
「お酒は夜飲むものでしょ」
 愛は強く言った。
「やっぱり」
「お昼から飲むものじゃないのね」
「お昼は働く時間でしょ」
「だからなのね」
「そう、休日でもね」
「お昼はなのね」
「飲まないものよ」
 こう咲に言うのだった。
「何かあるとすぐに行かないといけないから」
「お仕事に」
「だからね」
 それでというのだ。
「飲まないでいて」
「夜に飲むのね」
「日本ではそうよ」
「イタリアとかじゃ良くても」
「ここは日本よ」
 愛はそれは絶対とした。 

 

第二十四話 二人での楽しみその四

「日本にいたらね」
「日本でやることをしないといけないの」
「だからね」
 それでというのだ。
「お昼から飲まないで」
「すっきりしているのね」
「それで夜にね」
 この時になればというのだ。
「飲むものよ」
「そうなのね」
「だからね」 
 愛は咲にさらに言った。
「これからカラオケもあるし」
「今は飲まないのね」
「カラオケは夕方に行くから」
 だからだというのだ。
「飲んでもね」
「いいのね」
「そうよ、けれど今は」
 昼食の時はというのだ。
「飲まないわよ」
「絶対に」
「そうするわ。ただこのお店でも夜は」
 この時間はというのだ。
「咲ちゃんも飲める年齢になったら」
「飲んでいいのね」
「好きなだけね、ワイン何本空けても」
 それでもというのだ。
「いいわよ」
「私そんな飲める?」
「この前二本分は空けてたわよ」 
 ワインにすると、というのだ。
「カラオケでね」
「そうだったの」
「私もだったけれどね」
「そうだったのね」
「だからね」
「ワイン二本は」
「大丈夫よ、それだけ飲めたら」
 それならとも言うのだった。
「将来有望よ、じゃあね」
「今からね」
「イカ墨のスパゲティ食べましょう」
「それじゃあね」
「二人で楽しみましょう」 
 こう話して二人でイカ墨のスパゲティを待った、そしてそれが来ると早速一緒に食べはじめたが一口食べてだった。
 咲は笑顔になって愛に言った。
「うん、本当にね」
「美味しいわよね」
「うん」
 食べてから笑顔で応えた。
「コシがあって、アルデンテね」
「それでね」
「イカ墨も美味しくて」
「それでガーリックやイカもたっぷりでね」
「物凄く美味しいわ」
「これがなのよ」
「ここのお店のイカ墨ね」
 咲は笑顔で言った。
「そうなのね」
「そうよ、それでね」
「それで?」
「この味だから」 
 だからだというのだ。
「私も先ちゃんを案内したのよ」
「美味しいから」
「ここのフランチャイスのお店は他のメニューも美味しくて」
 そしてとだ、愛も食べつつ話した。
「看板はやっぱりね」
「トマトと大蒜のスパゲティね」
「そうだけれどね」
「このイカ墨も凄く美味しいから」
「だから一緒に食べたくて」 
 それでというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその五

「一緒に来たのよ」
「そうなのね」
「美味しいものは一人で食べないで」
 そうせずにというのだ。
「皆でね」
「食べるものなのね」
「そう思うから」
「私も一緒に連れて来てくれたの」
「そう、それで咲ちゃんが喜んでくれたなら」
 咲のその笑顔を見つつ話した。
「私も嬉しいわ」
「そうなのね」
「美味しいものは皆で食べる」 
 愛はこうも言った。
「これが一番美味しいの」
「一人で食べるより」
「皆でね」
 そうした方がというのだ。
「一番ね」
「美味しいのね」
「そうよ」
 咲にまた言った。
「だからね」
「こうしてなのね」
「今咲ちゃんと食べてるのよ」
「美味しいものは皆で」
「一人で食べていたら」
 それならというと。
「これがね」
「美味しくないの」
「美味しいものを独り占めしても」
 それでもというのだ。
「自分が美味しいって思うだけでしょ」
「他のことはないのね」
「けれど皆と食べたら」
 その場合はというと。
「相手の人の笑顔を見られるでしょ」
「一緒に美味しいものを食べてる人の」
「その笑顔が見られるから」
「余計にいいのね」
「そう、それで相手の人もね」
「笑顔を見るから」
「笑顔を見ればそれだけで嬉しくなるでしょ」
 咲に笑って問うた。
「そうでしょ」
「美味しいものを食べる時の笑顔をね」
「お互いにそうなって」 
 そしてというのだ。
「美味しいものも楽しめるから」
「余計にいいのね」
「だから美味しいものは」
「皆で食べることね」
「そうよ、それがね」
 このことがというのだ。
「いいことなのよ」
「だから独り占めはしないことね」
「美味しいものを独り占めにしたら」 
 どうなるかもだ、愛は咲に話した。
「北朝鮮よ」
「ああ、あの将軍様ね」 
 北朝鮮と聞いてだ、咲もすぐに言った。
「あの人ね」
「あそこ国民は餓えてるでしょ」
「美味しいものを食べるどころか」
「それで将軍様だけはね」
「美味しいものをお腹一杯食べて」
「肥え太ってるでしょ」
「あれは酷いわね」
 咲はイカ墨のスパゲティのその味を楽しみつつ答えた。
「そういうことね」
「あの国で太ってる人はね」
「あの将軍様だけよね」
「見たらそうでしょ」
「見事にね」
「皆痩せ細っていてね」
「あの人だけそうよね」
「前の代からね」
 父親の頃からというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその六

「ああなのよ、もっと言えばお祖父さんの頃からね」
「初代の人?」
「そうなのよ」
「物凄い悪いものを感じるわね」
「そうでしょ、一人だけ肥え太ってるなんてね」
「日本とえらい違いね」
 咲は心から思った。
「というか日本の皇室って」
「質素でしょ」
「それで有名だしね」
「明治帝も昭和帝も質素であられたのよ」
 明治帝は冬でも軍服一枚で暖房は火鉢一つであられた、夏も軍服で通されていたのだ。昭和帝は使えるものは最後まで使われた。
「宮内庁の予算ってあそこの将軍様の贅沢費以下よ」
「日本って世界第三位の経済規模よね」
「北朝鮮は最貧国よ」 
 世界のだ。
「ちなみにその贅沢費が国家予算の二割よ」
「二割って」
「五分の一ね、ちなみに軍事費が二割五分よ」
「四分の一ね」
「この二つで国家予算の半分近くよ」
「よくなる筈がないわね」
 咲もすぐに言えることだった。
「それじゃあ」
「だからよ」
「あの国はああなのね」
「酷いままなのよ」
「そうなのね」
「それで日本の宮内庁の予算よりもね」
 即ち皇室の予算である。
「あそこの将軍様の贅沢費の方が多いの」
「無茶苦茶とんでもないわね」
 咲は食べつつ呆れ返った、フォークを使う手が思わず止まってしまった。
「何それって」
「それで一人だけね」
「美味しいもの食べて」
「肥え太ってるのよ」
「漫画の悪役みたいね」
「そうした悪い国出るでしょ」
「ライトノベルとかでもね」
 咲はこちらのジャンルも話に出した。
「あとゲームでも」
「ないでしょ」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「真似したら駄目よ」
「自分一人だけ美味しいもの食べるとか」
「皆でよ、だからね」
「今もね」
「こうして一緒に食べてるの。カラオケボックスでもね」
 こちらでもというのだ。
「一緒にね」
「飲むのね」
「そして歌うのよ」
 そうするというのだ。
「いいわね」
「それじゃあね」
「何時間も入って」
 カラオケボックスにというのだ。
「一緒に歌いましょう」
「飲みながら」
「カラオケボックスのお酒はアルコール度低くて」
「それで甘いのよね」
「ジュースみたいだけれど」
「お酒はお酒ね」
「弱くてもね、あと何杯も飲むし何時間もいるから」 
 飲む量も時間もというのだ。
「沢山ね」
「飲むのね」
「歌ってるから喉も渇くし」
「それじゃあ」
「カラオケボックスでね」
「沢山飲むことね」
「そうしましょう」
 咲に笑顔で話した。 

 

第二十四話 二人での楽しみその七

「二人でね」
「食べた後は」
「沢山歌いましょう」
「それじゃあね」
 咲はここではだった。
 イカ墨のパスタを食べジュースを飲んだ、そしてその後でカラオケボックスに入った。そうしてだった。
 二人でカルピスサワーを注文してからだった、歌う曲を入れていった。そうしてからどんどん歌うが。
 咲も愛も交代でどんどん歌いデュエットもした、そして酒も甘いものばかりをこれでもかと飲んでいった。
 そして四時間程歌うとだった。咲はこう言った。
「もうね」
「いい頃よね」
 愛も応えた。
「お互い歌ったしね」
「飲んだわね」
「おトイレもよく行ったけれど」
 飲んだ分そうなったことは言うまでもなかった。
「いや、かなりね」
「飲みもしたわね」
「そうね、じゃあね」
「ええ、もう時間だし」
「それじゃあね」
「帰るのね」
「そうしましょう、咲ちゃんも満足したでしょ」
 咲にすっかり赤くなった顔で問うた。
「そうでしょ」
「せえ、そうなったわ」
「じゃあね」
「満足したから」
「だからね」
 それでというのだ。
「これでね」
「帰って」
「今日は解散しましょう」
「それじゃあね」
 咲も頷いた、そしてだった。
 二人でカラオケボックスを出て後は電車で帰路に着いた、ここで咲は自分達が歌った曲を思い出して愛に話した。
「確かに昭和の終わりから平成のはじめって」
「いい曲多いでしょ」
「今回はその頃の曲メインだったけれど」
「よかったでしょ」
「ええ」
 愛に確かな声で答えた。
「一世風靡セピアも中森明菜さんも」
「チェッカーズもね」
「トシちゃんマッチもで」
「松田聖子さんもでしょ」
「よかったわ、何ていうか」
 咲はここでこうも言った。
「レベル高いわ」
「音楽も歌詞もね」
「おニャン子クラブの曲も」
「いいでしょ」
「どれもね」
「それがあの頃の曲でね」
 それでとだ、愛は咲に話した。
「今の曲もいいけれど」
「あの頃の曲もいいのね」
「だからどんどん聴けばいいのよ、アニメや特撮も昔の曲もいいでしょ」
「それね」
 まさにとだ、咲は愛にまた答えた。
「実際にね」
「あの頃のアニソンとかもいいでしょ」
「というか昭和四十年代、仮面ライダーとかね」
「ああ、あの特撮ね」
「かなりいいわ」
 局のレベルがというのだ。
「あのシリーズは」
「私もそう思うわ、仮面ライダーのシリーズはね」
「音楽もいいのよね」
「だから余計にね」
「作品のレベルが高いのね」
「そうなのよね」
「お姉ちゃんもライダー好きなのね」
 咲は笑顔で問うた。 

 

第二十四話 二人での楽しみその八

「私もだけれど」
「好きよ、今のシリーズもね」
「平成も」
「戦隊もね、下手なドラマよりもね」
「面白いっていうのね」
「そう思うわ、というか今のテレビって」
 愛はここでは顔を曇らせて言った。
「面白くないでしょ」
「ドラマはまだいいけれど」
「ボラエティとか報道とかね」
「どっちも酷いわね」
「バラエティなんて特定の事務所のタレントさんばかりで」 
 それでというのだ。
「如何にもお金かけてない」
「そんな風よね」
「報道番組なんて印象操作ばかりで」
「ネットでよく言われてるわね」
「もう最悪だから」
「観ない方がいいわね」
「報道番組は特にね」
 そうだというのだ。
「お陰でドラマかスポーツの実況か」
「アニメかね」
「特撮位しかね」
 それこそという口調での言葉だった。
「観るのないわ」
「だから余計に」
「仮面ライダーとか戦隊とか」
「そうしたシリーズがいいのよね」
「ええ、だからね」
 愛はここではぼやく様にして言った。
「テレビは視聴率がね」
「落ちてるのね」
「スポンサーもね」
 最も大事だというこちらもというのだ。
「去っていってるのよ」
「そうなのね」
「面白くなくて」
 そしてというのだ。
「悪影響も受けるから」
「観ていいことないのね」
「昔はテレビを観ると頭が悪くなるってね」
 その様にというのだ。
「言われていたけれど」
「実際になのね」
「そう、酷い番組ばかりだから」
「テレビ観てると」
「おかしな知識を植え付けられて」
 そうしてというのだ。
「そうしてね」
「頭が悪くなるのね」
「それは本当のことよ」
「だからテレビは」
「そうした番組は観ない方がいいわね」
「バラエティとか報道とか」
「もう報道番組なんて」
 それこそというのだ。
「嘘ばかりだから」
「よくないのね」
「迂闊に観たら」
「頭が悪くなるから」
「鵜呑みにする位なら」
 それこそというのだ。
「観ないことよ」
「それがいいのね」
「そう、相手は騙すつもりよ」
「最初から」
「新聞だって嘘吐くでしょ」
「それも有名よね」
「ある新聞なんて」
 それこそとだ、愛は話した。ただしここではあえてその新聞の実名は出さなかった。咲もわかっていると思ってだ。
「もう捏造が代名詞でしょ」
「そうした新聞あるわね」
 やはり咲もわかっていてこう応えた。 

 

第二十四話 二人での楽しみその九

「日本には」
「そう、そうした新聞だってね」
「嘘を吐くのね」
「もうマスコミは嘘を吐く」
 その様にというのだ。
「思っておいてね」
「騙しにかかるのね」
「あのね、慰安婦の話なんて」
 愛は従軍慰安婦のそれの話もした。
「ちょっと調べたらわかることなのよ」
「嘘だって」
「そう、軍隊とか当時の歴史に詳しくない私でも」
 もっと言えば実は関心もあまりない。
「それでもネットでね」
「調べればわかることなのね」
「当時遊郭あったでしょ」
 このことから話した。
「戦後まであったけれど」
「吉原とかの」
「あれまだあったのよ」 
 その頃はというのだ。
「普通にね」
「だから」
「そうした人はね」
「遊郭に声をかけたら」
「それでね」
「人が来たのね」
「素人さんを攫ってまでしなくても」
 それも軍隊がだ。
「普通にね」
「遊郭やってる業者さんに声をかけたら」
「来たのよ」
「そうだったのね」
「こんなのね」
 愛はそれこそという口調で咲にさらに話した。
「歴史の素人でも当時をちょっと調べたら」
「わかることね」
「大体慰安婦の人の証言が」
 被害者であるという彼女達のそれがだ。
「言う度に生年月日、出身地、生い立ち、慰安婦になった経緯が変わるのよ」
「それおかしいわよね」
「そんな証言信じられないでしょ」
「それはね」
 咲も頷いた。
「おかしいわね」
「けれどそんな嘘をね」
「新聞は言っていたのね」
「テレビもね、どう考えてもね」
「どう考えても?」
「事実を言わないで」
 マスコミの責務は真実を伝えることとされているがだ。
「嘘を吹聴してね」
「読者や視聴者を騙していたの」
「これもう犯罪でしょ」
 怒った口調での言葉だった。
「そうでしょ」
「法律に触れるかしら」
「偽証罪?少なくとも確信犯で平気で人を騙す人は信じられないでしょ」
「詐欺師ね」
 咲もそれはと頷いた。
「それって」
「そうよ、詐欺師ってわかったら」
 それならというのだ。
「誰も信じないでしょ」
「そうよね」
「言ってる人の背後関係も怪しいし」
「背後関係って」
「慰安婦が強制とか言ってる人全部北朝鮮寄りの人よ」
 これは実に奇怪なことにだ、この話が出てから今に至るまでそう言っている者は何故か北朝鮮寄りなのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその十

「あの国なんてね」
「もう、よね」
「言うまでもないでしょ」
「スパゲティ食べてる時にお話した通りに」
「究極の独裁国家よ」
「世襲制の」
「テロでも何でもござれのね」
 過去多くの犯罪を犯している。
「そんな国とね」
「つながってるの」
「慰安婦が強制とか言う人はね」
「その時点でおかしいわね」
「咲ちゃんもそう思うでしょ」
「北朝鮮って悪いことばかりする国だから」
 咲の中の認識ではそうだ、最早悪逆の国としか思えない。愛の言う通りテロでも何でもする国とみなしている。
「だったら」
「普通にわかるでしょ」
「北朝鮮の謀略?」
「日本と韓国の仲を割いて」
 愛は言葉を続けた。
「しかも日本を貶める」
「その為の謀略なの」
「芸能人のスキャンダルもそうでしょ」
 愛はここで例えも入れた。
「不倫とか堪えるでしょ」
「それで消える人もいるわね」
「噂でも残るわね」
「そういうことがあったってね」
「それを見てもわかるけれど人を貶めたいなら」
 そう思うならというのだ。
「人の下半身、不倫とかそうしたね」
「スキャンダルをなのね」
「でっちあげでもいいから言うことよ」
「そうしたら貶められるの」
「これが一番効果あるのよ」
「そうなのね」
「それが嘘でもね」
 それでもというのだ。
「人の頭の中に残るから」
「効果があるの」
「嘘でも仕掛けられた人の評判は落ちるわ」
 愛は確かな声で話した。
「確実にね」
「効果てきめんなのね」
「そうよ、嘘でもいいのよ」
「不倫とか言えばいいの」
「もっと酷いことでもね」
「それが慰安婦なのね」
「それで言っている人達は」
 その彼等はというのだ。
「北朝鮮と関りのある人達」
「それだと」
「大体わかるでしょ」
「北朝鮮の謀略ね」
「多分ね、ただ確かな証拠はないわよ」
 それは存在しないというのだ。
「北朝鮮の謀略とも他の誰かが言ったとも」
「証拠はないのね」
「私は北朝鮮が黒幕だと思うけれど」
「証拠はないのね」
「それでもっと大事なことがあるの」
 愛は酔っているがその酔いよりも真剣なものを出して話した。
「こうした貶め方、というか人を貶める人はね」
「下半身を攻撃しなくても」
「信用したら駄目よ、特に下半身を攻撃する人は」
「嘘を言って」
「絶対に信用しないで」
 咲に強い声で語った。
「友達にも持たないで、近寄ってきたら避けて」
「絶対に関わったら駄目なの」
「間違ってもね」
「そうしないと駄目なのね」
「これは凄く汚いやり方でしょ」
「下半身のことってそうそう言わないし」
「それをする人はどんな汚いことも悪いこともするわよ」
 そうした輩だというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその十一

「だからね」
「信用したら駄目ね」
「慰安婦を強制って言ってる人は皆絶対に信用しないで」
「そうした人達だから」
「関わっても駄目よ、いい顔をしていても」
「それは嘘ね」
「素顔はとんでもなく醜いから」
 だからだというのだ。
「絶対によ」
「お付き合いしたら駄目ね」
「そこはわかってね、前にチンピラと付き合ったら駄目って言ったけれど」
「そうした人達よりも」
「さらにね」
「付き合ったら駄目な人達ね」
「ヤクザ屋さん以下だから」
 愛は強い声で言った。
「もうね」
「お姉ちゃん前に目を見てって言ったけれど」
「こんな人達はそれ以前よ」
「目に出てる以前なの」
「腐れ外道もいいところだからね、行動を見てね」
「判断することね」
「そう、目以前に」 
 それこそというのだ。
「行動を見てすぐにね」
「避けるべき人達ね」
「そうした人達もいるのよ、ヤクザ屋さんも酷いけれど」
「チンピラも」
「そんな人達よりもね」
 さらにというのだ。92
「まだレベルの低い人達よ、ヤクザ屋さんやチンピラは死んだら餓鬼か地獄だけれど」
「そんな人達は」
「餓鬼や地獄の中でもね」
「酷いところに行くのね」
「そうなるわ、地獄も色々でしょ」
「広いわね」
「それでね」
 その為にというのだ。
「餓鬼も色々で」
「レベルがあるの」
「ましな餓鬼もいれば」
「そうした状況の餓鬼ね」
「そして餓鬼の中でも状況の酷いね」
「そうした餓鬼もいるのね」
「その酷い餓鬼になるか」
 それかというのだ。
「酷い地獄にね」
「堕ちるのね」
「そうなるわ」
 こう言うのだった。
「生きながらその域に落ちてるから」
「死んだら」
「もうね、身体も住んでいる世界もね」
 そういったものもというのだ。
「そうなるのよ」
「そうなのね」
「そう、餓鬼はね」
 それこそというのだ。
「心でなるものよ」
「地獄に行くのも」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「そうした人達は」
「もう餓鬼になっていて」
「餓鬼道に堕ちるわ」
「それか地獄ね」
「そうなって」
 そしてというのだ。
「苦しむのよ、餓鬼だって嫌でしょ」
「それもかなり酷いね」
 そうしたというのだ。
「そうなるのよ」
「そうはなりたくないわね」
「そうでしょ、しかしね」
「しかし?」
「いや、慰安婦は強制とかね」 
 この話はというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその十二

「素人がちょっと調べてわかるのに」
「それでもなのね」
「学者さんがわからないって」
「学者さんが調べてでしょ」
「本来はすぐにね」
 まさにとだ、愛は咲に話した。
「わかる筈なのに」
「わからなかったの」
「多くの学者さんが強制されていたってね」
 それも歴史学者がだ、このことについては疑問を抱かずにいられない者も多いのではないだろうか。
「言ってたけれど」
「素人さんがちょっと調べてわかるのね」
「赤い腕章の憲兵さんいたらしいけれど」 
 その彼等が車に乗って攫いに来たという話もある。
「赤い腕章の憲兵さんいなかったわよ」
「そうなの」
「日本軍にはね」
「そうだったのね」
「白地に黒い字で憲兵って書かれていたのよ」 
 日本軍の憲兵の腕章はだ。
「そうだったのよ」
「そうなの」
「だからね」 
 それでというのだ。
「赤い腕章の憲兵の日本軍なんて」
「いないのね」
「明らかにおかしいから」
「見間違いとかは」
「見間違いの時点でアウトよ」
 それならとだ、愛は即刻答えた。
「証言としては」
「そうなの」
「証拠にならないわ」
「憲兵さんだったって」
「赤い腕章の憲兵さんだったら」
 それこそというのだ。
「少なくとも日本軍じゃね」
「ないのね」
「それとジープに乗って攫いに来たとか」
 こうした話もした。
「ヘリコプターに乗ってとか」
「?自衛隊?」
 ジープにヘリコプターと聞いてだ、咲は首を傾げさせた。
「自衛隊にはあるわよね」
「ヘリは一杯あるわね」
「あとジープよりも今はパジェロよ」
「自衛隊の車は」
「そう、けれど昔の日本軍は」
 二次大戦中でもそうだった。
「車少なかったのよ」
「日本自体にも少なくて」
「軍隊の車もね」
 これもというのだ。
「やっぱりね」
「少なくて」
「ジープなんて便利なものは」
「なかったのね」
「ジープはアメリカ軍のものよ」
 自衛隊のジープにしてもアメリカ軍のものだった。
「そうなのよ」
「それじゃあ」
「これもおかしいから」
「ジープやヘリコプターで攫われたって」
「ヘリコプター戦争中もなかったわよ」
 第二次世界大戦中はだ。
「それも確かだし」
「ヘリで攫われたとかも」
「それもね」
「おかしいのね」
「そうよ、それ以前に言う度に出身地や生年月日や慰安婦になった経緯が違う人の証言あてに出来る?」
「無理ね」
 咲も言った。
「それじゃあ」
「でしょ?色々考えてね」
「慰安婦はなの」
「あっても今で言う風俗嬢よ」
 それになるというのだ。 

 

第二十四話 二人での楽しみその十三

「軍の系列のね」
「そうなのね」
「風俗嬢は今もおられるでしょ」
「東京なんかね」
 東京で生まれ育ってしかも高校生なので咲もわかっている。
「かなり多いわね」
「横浜だってね」
「そうよね」
「千葉だってそうしたお店あるし」
「それじゃあね」
「慰安婦の人達は」 
 その彼女達はというのだ。
「普通におられたの」
「風俗嬢ね」
「そうよ」
 まさにその人達だというのだ。
「だからね」
「今も昔も同じね」
「そう、慰安婦は風俗嬢で」
 今で言うと、というのだ。
「軍にいた人達よ」
「それで当時は遊郭もあって」
「今よりも公だったから」
「募集で普通に来てもらったから」
「強制的に集める必要なかったの」
 そうだったというのだ。
「軍の関与の証拠の文書も」
「違ったのね」
「その文書よく読んだら」
 どうだったかというと。
「悪質な業者がいてね」
「風俗とかいるのよね」
「こっちもヤクザ屋さん関わるからね」
 だからだというのだ。
「それでね」
「昔もなのね」
「そうした業者さんがいたから」 
 それでというのだ。
「軍としてそうした悪質な業者に注意する様に」
「そう書いてあったのね」
「そうした文書でね」
「関与って言っても」
「悪い関与じゃなかったのよ」
「むしろヤクザ屋さんに気をつけろとかいう」
「そこまで気を使っていたね」 
 そうしたというのだ。
「いいことだったのよ」
「それをなのね」
「ある新聞社と学者さんはね」
 どちらも何かしらの悪意としか言い様がない意図があったと言われている、そしてそれはほぼ間違いないであろう。
「それを出して関与はあったってね」
「言ったの」
「関与自体が悪いってね」
「あからさまにおかしいわね」
「そうでしょ、私このことからね」
 慰安婦のことでというのだ。
「わかったのよ、人の下半身を攻撃する人は」
「碌な人じゃないわね」
「ヤクザ屋さん以下のね」
「そうした人とは関わらない」
「それで自分もね」
「そんな人になったら駄目ね」
「絶対にね」
 それこそというのだ。
「咲ちゃんも気をつけてね、私も気をつけるから」
「ええ、絶対にそんな人にならないわ」
「そうしてね」 
 帰り道はそうした話をした、そしてだった。
 咲は家の最寄りの駅で愛と別れた、それからは家に帰って夕食を食べて風呂に入ってくつろいだ。咲のゴールデンウィークはいい滑り出しだった。


第二十四話   完


                 2021・7・23 

 

第二十五話 アルバイトもしてその一

                第二十五話  アルバイトもして
 ゴールデンウィーク中も咲はアルバイトによく入っていた、それで店の中で速水にこんなことを言われた。
「いいのですね、ゴールデンウィークでも」
「いえ、ゴールデンウィークだからこそ」
 咲は速水に笑って応えた。
「是非です」
「働いてですか」
「はい」
 そうしてというのだ。
「お金をです」
「稼ぎたいのですね」
「休日でも」
 即ち土日でもというのだ。
「働きますと暇もなくなって」
「そしてお金もですね」
「貰えますから」
 だからだというのだ、
「私はです」
「休日に出られることもですね」
「大好きです」
「では先のことですが夏休みも」
「どんどんです」
 笑顔での返事だった。
「お仕事入れて下さい」
「そうですか」
「アルバイトしてますと」
 そうしていると、というのだ。
「結構動きますね」
「ここでもそうですね」
「何かと」
「動くことがですね」
「行き来だけでも」
 家とアルバイト先のそれもというのだ。
「結構。家にいてばかりですと」
「どうしてもですね」
「運動不足になったりしますし。部活も入って」
 そしてというのだ。
「文化部でも」
「入っているとですね」
「行き来して歩いて」
 そうしてというのだ。
「その分運動になって」
「健康にもいいと」
「私運動は好きじゃないです」
 咲はこのことは断った。
「基本インドアで」
「それで、ですね」
「スポーツはしないですが」 
 それでもというのだ。
「やっぱり歩いたり身体動かした方が気分転換になって」
「その通りですね、身体を動かすとです」
 速水も話した。
「その分です」
「いいですね、健康にも」
「そして気分転換にもなります」
「だから私部活も入ってます」 
 中学の時からだ。
「漫研ですけれど」
「そこも行き来されていますね」
「このゴールデンウィークの間も」 
 この時もというのだ。104
「やっぱり」
「そうですか」
「それでその分歩いたり身体も動かして」
「健康の維持と気分転換をですね」
「そうしています」
「いいことです、身体を動かしますと」
 速水は笑顔で話した。
「それがお散歩でもです」
「身体を動かすことで」
「いいのです」
「だからお散歩もですね」
「すべきです、小山さんは犬を飼っておられますね」
「はい、トイプードルの女の子で」
 そのモコを思い出しつつ答えた。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその二

「とても元気でお散歩大好きです」
「犬も同じです」
「犬にお散歩は必要ですよね」
「絶対に。以前神戸で小山さんと同じ様にトイプードルを飼いまして」
「女の子ですか?」
「はい」
 このことも同じだというのだ。
「毛は茶色で」
「それも同じですね」
「足が短く」 
 即ちドワーフタイプでというのだ。
「そしてマズルもです」
「目とお鼻の間ですね」
「それも短く大きさはタイニーの小さいかティーカップの大きい位ですね」
「うちの娘そっくりですね」
 モコにとだ、咲は話を聞いて思った。
「それだと」
「そうですか」
「その娘がどうしたんですか?」
「飼い主達はペットショップでその娘を見まして」
 そしてというのだ。
「一目惚れして買って」
「そうして飼ったんですね」
「最初は可愛い可愛いと毎日可愛がっていましたが」
「あっ、そのお話知ってます」
 咲は速水に眉を曇らせて答えた。
「自分達の赤ちゃんが出来たら」
「一日中ケージに入れまして」
「お散歩どころかですよね」
「見向きもしなくなりました」
 速水は表情を消していた、彼は怒った顔は見せないがそれでも怒りの感情は持っているのだ。それで今彼は怒っていたのだ。
「そうなれば犬はどうするか」
「呼びますよね」
「人間でもそうしますね」
「急に無視されたら」
「自分の居場所を言って呼びます」
「そうですよね」
 こう言うのだった、咲に。
「やっぱり」
「すると五月蠅いと言って」
「捨てたんですよね」
「この前まで可愛がっていた娘を」
「それも保健所に」
「新しい飼い主なぞ探さず」
 そうしたこともせずにだ。
「性格が変わって朝から晩まで鳴くと」
「自分達が面倒見なかったとは考えなかったんですよね」
「それでもういらない、です」
「保健所にポイ、ですね」
「殺処分されるかも知れない場所に」
「私そんな人達大嫌いです」
 咲はあからさまな嫌悪を見せて答えた。
「絶対に好きになれません」
「幸いこのトイプードルの娘はすぐに新しい飼い主が見付かってです」
「助かりましたね」
「ですがこの飼い主達は」
 咲が露骨な嫌悪を見せた彼等の話もした。
「二人目が産まれると一人目の子を今度は」
「可愛がっていた犬もそうしたんなら」
「おわかりですね」
「今度は一人目の子をですね」
「育児放棄しました、そしてそれが明らかになり」
 速水はここでだった。
 タロットのカードを一枚出した、そのカードは塔の正だった。
「こうなりました」
「破滅ですか」
「因果応報です」
 これ以上はないまでに冷たい声で述べた。
「悪事の報いを受けたのです」
「ワンちゃんは助かったのは聞いてましたけれど」
「飼い主達はそうなり子供達の親権もです」
 これもというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその三

「なくしました、一人目の子が保護されたうえで」
「結局その人達は犬を飼う資格がなかったんですね」
「子供を育てる資格も」
 これもというのだ。
「そして禁治産者になりお酒に溺れ」
「破滅ですか」
「二人共廃墟同然の家で腐乱死体となり発見されたそうです」
「無残な末路ですね」
「外道の末路はこんなものです」
 速水の言葉はここでも冷たかった。
「所詮は」
「そうなるものですか」
「はい」 
 まさにというのだ。
「それが人の世の摂理です、そしてお話を戻しますがお散歩は」
「人にもよくて」
「ワンちゃんにもです」
「いいんですね」
「適度な運動で健康維持とストレスの発散になります」
「あと世の中を知って社交性も出来るので」
「ですから」
 そうしたメリットもあってというのだ。
「人も犬もです」
「身体を動かすべきですね」
「それがわかっていない犬の飼い主なぞ」
「最初から飼う資格はないですね」
「彼等はその犬も自分達の子供もおもちゃと思っていました」
 それに過ぎなかったというのだ。
「だから邪魔になるとです」
「ポイ、ですね」
「そして次のおもちゃが出来ますと」
「それで遊ぶだけだったんですね」
「こうした人達は死にますと」
 どうなるのかもだ、速水は話した。
「人には生まれ変わりません、勿論犬にもです」
「餓鬼になるんですね」
 愛との話を思い出しつつ言った。
「そうですね」
「あまりにも浅ましい輩が餓鬼になるのです」
 死んで餓鬼道に堕ちるというのだ。
「そうなるのです」
「そうですか」
「ですから」
「人間浅ましいことはですね」
「しないことです」 
 絶対にというのだ。
「餓鬼になりたくないなら」
「さっき塔のカードでしたよね」
「破滅ですね」
「餓鬼になるということは」
「そうです、人としてです」
 まさにというのだ。
「破滅することなのです」
「恐ろしいことですね」
「私もなりたくないです」
 速水自身もというのだ。
「人として」
「そうですよね」
「こうした人達を見れば」
 その時はというと。
「ああはなるまいです」
「そう思うことですね」
「浅ましい人、卑しい人、悪人はです」
「見るとですね」
「ああはなるまいです」
 その様にというのだ。
「思い反面教師にして」
「実際にそうしていくことですね」
「それが大事です」
「そういうことですね」
「さもないと先程のカードです」
「塔ですか」
「私は餓鬼になる様な人の末路は一つと考えています」
「塔ですか」
 咲も言った。
「それしかないですか」
「そうでなくとも逆です」 
 カードのそれだというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその四

「それになります」
「占ってみても」
「やはり浅ましいとです」
「そうした結果にしかならないんですね」
「そうかと」
「私もそうならない様にします」
 咲は速水に言われ心から思い言った。
「本当に」
「その心掛けが大事です、ああはなるまい」
「反面教師を見てですね」
「そう思うこともまたです」
「よくなることですね」
「お手本を見ることもいいですが」
「反面教師もですね」
 その犬のかつての飼い主達のことを思いつつ速水に応えた。
「見ることですね」
「そういうことなのです、私もお手本の方がいて」
「反面教師もですか」
「います、自分はなりたくないですがね」
 咲にここでは微笑んで述べた。
「ですがそうした人はいて」
「心掛けておられますか」
「左様です。では小山さんも」
「そうしていきます、そしてうちの娘を」
 モコ、自分から見れば妹になる彼女をというのだ。
「大事にしていきます」
「そうされて下さい」
「はい、それでなんですが」
 ここで咲は話題を変えた、今度の話題はというと。
「実は父が今度転勤するかも知れないです」
「そうなのですか」
「けれど何処に転勤するか心配みたいです」
 埼玉に行くことにならないかと心配していることは隠して話した。
「どうも」
「では占ってみますね」
「そうしてくれますか」
「はい、それでは」
 速水はこうした時の占いをした、大アルカナのカードを一枚出すものだ。そして出たカードはというと。
「皇帝の正ですね」
「いいカードですね」
「転勤先でしっかりした良いお仕事が出来そうですね」
 速水はカードを見つつ咲に答えた。
「いいことです」
「転勤先は」
「それが何処でもです」
「いいお仕事が出来ますか」
「カードはそう教えてくれています」
 引かれたそれはというのだ。
「ですから」
「安心していいですか」
「例え望まない転勤先でも」
「そうなんですね」
「リーダーシップも発揮出来そうですね」
「お父さん管理職です」
 咲は速水にこのことも話した。
「それだと」
「いいですね、まさにです」
「転勤してもですか」
「良いお仕事が出来るので」
 それでというのだ。
「どういった場所でも」
「安心してですね」
「しっかり励まれることです」
「それじゃあそう伝えます」
「はい、それでは今日も」
「働かせてもらいます」
 咲は笑顔で応えた、そうしてだった。
 早速働いていった、それは昼食を食べて休憩を挟んでも行われ夕方まで行われた。そして仕事が終わるとだ。
 交代で来た大学生の大人びた女性にこう言われた。
「お疲れ様」
「はい、それじゃあ」
「後は任せてね」
「宜しくお願いします」
「店長さんとお話したかしら」
 速水と、とだ。大学生は咲に笑って聞いて来た。
「そうしたかしら」
「お仕事前に少し」
 咲は正直に答えた。
「そうしました」
「それで占ってもらった?」
「お父さんのことも」
 このことも正直に話した。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその五

「そうさせてもらいました」
「店長さんの占い当たるから」
「何か百パーセントとか」
「そうよ、日本でも屈指のタロット占い師だけあってね」
「当たるんですね」
「確実にね」
 そうだというのだ。
「当たるのよ」
「そうですか」
「ただね」
「ただ?」
「店長さんが言っておられるでしょ」
 その速水自身がというのだ。
「占いは道標」
「未来じゃないですね」
「予言じゃないのよ」
「未来に何が起こるかで」
「いいものならそうなる様にして」
「悪いものなら避けられる様にする」
「そうしたものよ」
 それが占いだというのだ。
「だからね」
「悪い結果が出ても」
「それでもよ」
「残念に思わないで」
「そうならない様にすればいいのよ」
「どちらにしてもいい様になることですね」
「それが占いよ、だからね」 
 そうしたものだからだというのだ。
「店長さんは占い師であってね」
「予言者じゃないですね」
「そして悪い結果が出てもね」
「未来は決まっていないですね」
「例えばテストの結果を占って」
 そしてというのだ。
「悪い結果が出たらどうするか」
「そうならない様に勉強すればいいですね」
「そうよ、例え授業が下手な先生でも」
 こうした教師は何処でも存在する、中には黒板に書いていきそして生徒に語るのではなく自己満足で喋っているだけの教師もいる。生徒に語らずして自分で喋っているだけの授業がどうして生徒に理解されようか。
「最低でも赤点にはならない様にしないとね」
「厄介ですよね」
「そうした先生の科目でも赤点を避ける為には」
「ちゃんと勉強しないと駄目ですね」
「それで占いで悪い結果が出ても」
「それにがっくりとこないで」
「勉強すればいいのよ」
 それが解決方法だというのだ。
「それだけよ」
「簡単なことなんですね」
「至ってね」
 その通りというのだった。
「それが占いで店長さんのタロットも」
「そうしたものですね」
「当たるけれどね」
「道標ですね」
「だから店長さんはその結果にどう進むかどう避けるかを言われるのよ」
「それでよくなるので」
 占われた人がだ。
「店長さんの占いは当たるんですね」
「そういうことよ」
「そうなんですね」
「ええ、それとね」
「それと?」
「私彼氏いるけれど」
 大学性は咲に笑ってこうも言った。
「店長さんいけてるでしょ」
「美形ですよね」
 正直にだ、咲も述べた。
「それもかなり」
「そうでしょ」
「背も高くてすらりとしていて」
「黒い髪の毛も奇麗でね」
「スーツも似合っていて」
「かなりでしょ」
「はい」
 その通りとだ、咲は答えた。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその六

「美形ですよね」
「そのスーツもね」
「青のスーツで」
「白いコートの裏地は真っ赤でね」
「ブラウスは白でネクタイも赤で」
「靴は黒でね」
「はい、ファッションもよくて」
 そしてというのだ。
「凄く」
「あれ多分五行思想の風水ね」
「あっ、陰陽道とか道教ですね」
「貴女も知ってるのね」
「漫画やゲームでもよく出てきますから」
 もっと言えばライトノベル等にもだ。
「ですから」
「知ってるのね」
「青、赤、黒、白そして黄色ですね」
「そう、その五色に陰陽ね」
「季節や方角や司るものがあって」
「四霊獣とかいてね」
「それで店長さんは」
 その速水はというと。
「その色をですね」
「ファッションに入れられているわね」
「そうですね。ただ黄色は」
「あっ、それないわね」
「どうしてでしょうか」
「さあ。若しかしたら」
 大学生は少し考えてから答えた。
「店長さんいつも左目隠しておられるでしょ」
「髪の毛で」
「その左目に実はカラーコンタクト入れてるとか」
「黄色の」
「それがね」
「黄色ですか」
「そうだったら面白いわね」
 咲に笑って話した。
「まあ店長さんの左目誰も見たことがないけれど」
「覗こうとした人もおられないですか」
「何かあの髪の毛絶対にめくれないらしいの」
「風が吹いても」
「そうなってもね」
 それでもというのだ。
「絶対なのよ」
「めくれなくて」
「それで左目はね」
 速水のそれはというのだ。
「誰もね」
「見た人がいないんですね」
「ええ。店長さん実は謎が多い人だけれど」
「そういえばずっとここにお店持っておられますね」
 咲は聞いた話をここで出した。
「確か」
「結構前からね」
「お幾つかもですね」
「不明よ」
「そうですか」
「何でも高校は神戸の高校で」
「あれっ、東京生まれじゃないんですか!?」
 咲はその話に少し驚いて聞き返した。
「店長さん」
「ご出身はそうだけれど」
「それでもですか」
「噂では高校は神戸の高校で」
 関西のこの街のというのだ。
「八条学園らしいわ」
「八条学園って私もですよ」
 咲はすぐに答えた。
「東京校ですけれど」
「小山さんはそうよね」
「はい、そうです」
「それで店長さんはね」
「神戸の方ですか」
「本校になるわね」
「そうなりますね」
 今度はその通りだと答えた。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその七

「やっぱり」
「高校はそちらで高校を卒業されて」
 そうしてというのだ。
「こちらに戻って」
「東京の方に」
「それである人にタロットを教わって」
「占い師さんになられたんですね」
「そうらしいけれど詳しいことはね」
「謎の方ですか」
「背丈とか体重とかスリーサイズは公表されてるけれど」  
 店のサイト等でそうしているのだ、速水はそのルックスでも評判であり店のスタッフ達が彼のそうしたデータもサイトに掲載しているのだ。
「東京生まれ以外は生年月日もね」
「公表されていませんか」
「お名前は本名らしいけれど」
 それでもというのだ。
「血液型もね」
「謎ですか」
「好きな食べものは何でもね」
「どんなものでもですか」
「和食系がお好きとのことだけれど」
「好き嫌いはなしですね」
「そうみたいね」 
 このこともわかっているというのだ。
「趣味は占いで」
「お仕事を離れても」
「ええ、あとお酒もね」
 こちらもというのだ。
「お好きで」
「そういえばそんなこと言われてました」
「そうでしょ、ただそれでもね」
「生年月日のことといい」
「謎の多い方よ」
 速水はというのだ。
「実際にね、そしてね」
「そして?」
「その謎の多さがね」
 大学生は咲にここで笑顔を見せた、何処か楽し気なそれを彼女に見せてそのうえでさらに話したのだった。
「ミステリアスであの人の魅力の一部でもあるのよ」
「そう言われると」 
 咲もはっとなった。
「謎が多いだけに」
「尚更でしょ」
「はい」  
 まさにと答えた。
「尚更です」
「あの人は魅力的ね」
「あのルックスに物腰に」
「占いは当たって」
「そして謎が多くて」
「ミステリアスな要素も加わってね」
 そしてというのだ。
「尚更ね」
「魅力的ですね」
「あの人はね」
「本当にそうですね」
「だからいいのよ」
「謎が多くて」
「それでね、むしろ謎がないと」
 それならとも言うのだった。
「あの人の魅力がかなりね」
「なくなりますね」
「そう、だからね」
 それ故にというのだ。
「私としてはね」
「店長さんには謎が多いままで、ですね」
「いて欲しいわ」
「そうですか」
「特にプライベートのことがわからない」
「何かそんな空気ないですね」
「それがね」
「いいですか」
「あのプライベートを感じさせないところもね」
 このこともというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその八

「本当にね」
「魅力的ですか」
「お住まいもわからないしね、そちらでの生活も」
「想像出来ないものがありますね」
「多分独身でしょうけれど」
「結婚されてないですか」
「左手に指輪ないしね」
 薬指にというのだ。
「それ見たらね」
「結婚は、ですか」
「されてないわね」
 そうだというのだ。
「あの方は」
「そう言われると結婚の気配も」
「ないでしょ」
「全く」
「生活臭もないし」
「何かプライベートが」
「本当に謎でしょ」
「はい」
 咲も答えた。
「本当に」
「そうしたところがまたね」
「いいんですね」
「それと道玄坂の魔法のアクセサリーのお店の店長さんと仲がいいみたいなの」
「あそこですか」
「そうみたいなの」
 咲にこのことも話した。
「どうやらね」
「そうなんですね」
「またそのお店の店長さんが凄い美人さんらしいの」
「そういえば評判になってますね」
「魔法が実際に効果あるみたいで」
 それでというのだ。
「そのうえでね」
「店長さんも美人さんなんですね」
「黒のスーツとズボンが似合うぞっとする位のね」
「美人さんですか」
「女の人でも付き合いたいと思う位の」 
 そこまでのというのだ。
「美人さんだってね」
「評判ですか」
「それで店長さんはね」
「その人と仲がいいんですね」
「ただ付き合ってはないわね」
 それはないというのだ。
「どうもね」
「美人さんでもですか」
「お付き合いしたら美男美女の組み合わせだと思うけれど」
 それでもというのだ。
「どうもね」
「店長さんお付き合いはしていないですか」
「みたいね、というか店長さん女性の気配もないでしょ」
 身の回りにというのだ。
「そうでしょ」
「ですね、生活臭もなくて」
 そしてというのだ。
「それで」
「女性の気配もね」
「ないですね、おトイレに行く感じも」
「ああ、それもないわね」
「不思議と」
「人は誰でも行くけれどね」
 トイレにはというのだ、人は生きている限り食べたり飲んだりせねばならずその結果として排泄も絶対だからだ。
「けれどね」
「店長さんはですね」
「おトイレとかもね」
「行く感じしないですね」
「どうもね」 
 こう言うのだった。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその九

「言われてみれば」
「そうですよね」
「そのミステリアスさがいいわね」
「好きになる人も多いでしょうね」
「小山さんまさか」
「あっ、それは」 
 言われて咄嗟にだ、咲は否定した。
「ないです」
「あれっ、そうなの」
「はい、素敵な人だとは思いますけれど」
 それでもというのだ。
「ですが」
「そうなのね、まあ私は彼氏いるから」
「店長さんにはですか」
「素敵な人と思うけれどね」
「相手の人がおられて」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「その彼氏が私の一番のタイプだから」
「だからですか」
「いいの」
 そうだというのだ。
「店長さんについては見ているだけよ」
「素敵な人ということで」
「それだけよ」
「そうですか」
「ええ、じゃあ交代ね」
「後はお願いします」
 申し継ぎもしてそうしてだった。
 咲は店を後にした、そして渋谷から自宅に帰ったが。
 家に帰ると母にこう言われた。
「どうだったの?アルバイト」
「特に何もなかったわよ」
 おかしなことはとだ、咲は答えた。
「別に」
「そうなのね」
「ええ、店長さんとお話していつも通りお仕事をしてね」
 そしてというのだ。
「別にね」
「何もなかったのね」
「そうよ」
「ならいいわ、頑張って働きなさい」
「働くこと自体がいいことだから」
「そうよ、お金を稼げて」
 そしてというのだ。
「色々な経験も積めるからね」
「いいのね」
「勤労は美徳っていうし」
 母はこうも言った。
「学校でもあるのよ」
「学校でもあるの」
「そうよ」 
 こうも言うのだった。
「社会のことを色々と学べるね」
「そうしたところでもあるのね」
「だからね」 
 それでというのだ。
「アルバイトはどんどんしてね、ただお金はね」
「無駄遣いはしないことね」
「お買いものに凝ってもだしギャンブルなんかしたら」
「すぐによね」
「そう、なくなるから」
 金はというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「ギャンブルはしなくて」
「それでよね」
「そう、無駄遣いはね」
「したら駄目ね」
「そこは気をつけてね」
こう娘に話した。
「いいわね」
「お金はなくなるものなの」
「簡単にね」
「そうなのね」
「無駄遣いしたら」 
 それでというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその十

「幾らあってもよ」
「宝くじに当たっても」
「ああ。そんなの何でもないわよ」
 例え宝くじに当たってもというのだ、よく人生において最大の幸運とまで言われることであるがだ。
「それこそね」
「三億よね」
「三億当たっても変な使い方すればね」
 それでというのだ。
「あっという間よ」
「なくなるの」
「自称番長見なさい」
 この元プロ野球選手をというのだ。
「宝くじの十倍以上稼いだでしょ」
「現役時代ね」
「けれどね」
 それがというのだ。
「今何て言ってるかあんたも知ってるわよね」
「わしが稼いだお金何処行ったかってね」
 咲も答えた。
「そう言ってるわね」
「それはね」
「それだけ稼いでも」
「年棒が宝くじ以上あってもよ」
 普通の人の最大の幸福と言われる以上にというのだ。
「お酒に女の人にね」
「覚醒剤ね」
「馬鹿なことばかりに使って」
 それでというのだ。
「ああなったのよ」
「そういうことね」
「あの人見れば一目瞭然でしょ」
「お金は幾ら稼いでも」
「馬鹿な使い方すればよ」
「すぐになくなるのね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「そういうものなのよ、そして持っている人にね」
「持っている人?」
「そう。お金持ちにね」
 そう言われている人達にというのだ。
「集まるものよ」
「それ前にも誰かに言われたけれど」
「その通りよ、お金はね」
「お金のある人になの」
「集まるの」
「そうなのね」
「寂しがり屋だから」
 だからだというのだ。
「集まるのよ」
「お金のある人に」
「貧乏神が憑いてると」
「集まらないのね」
「そして貧乏神もね」
 こう呼ばれている存在もというのだ。
「無駄遣いしない人にはなのよ」
「憑かないの」
「最初からね」
 そうだというのだ。
「そうしたものなのよ」
「じゃあ幸せに暮らすには」
「お金に困らない様にね」
「それにはなのね」
「そう、無駄遣いしない」
 このことがというのだ。
「大事なのよ」
「そういうことね」
「だから咲もね」
「これからは」
「お金は使うけれど」 
 そうしたものだがというのだ。
「無駄遣いはね」
「しないことなのね」
「一旦減ったらね」
「お金は寂しがりだから」
「沢山ある人のところに行ってね」 
 そしてというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその十一

「なくなるわよ」
「そうなのね」
「お母さんのお祖父さんがそうでね」
「ひいお祖父ちゃんね」
「お父さんのお父さんがね」
 その人がというのだ。
「ずっとだったのよ」
「お金に困ってたの」
「お店は今も続いてるけれど」
 それでもというのだ。
「中々ね」
「お金はなの」
「そう、なくて」 
「困ってたの」
「お祖父さん気前がよ過ぎて」
「それでなの」
「お店の人にも商品にもお金出して」
 それでというのだ。
「お金はね」
「なかったの」
「それでなくなったら」
 その時はというのだ。
「もうね」
「すぐになの」
「なくなるのよ」
「それがお金なのね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「だからね」
「私も無駄遣いしないで」
「そうしていってね」
「わかったわ」
 咲は腕を組んで頷いた。
「それじゃあね」
「そういうことでね」
「していくわ」
 こう母に約束した。
「絶対にね」
「そうしてね、お金はね」
「すぐになくなるのね」
「無駄遣いすればね」
 それでというのだ。
「そうなるものよ」
「寂しがり屋で」
「そのこともあってね」
「このことも覚えておくわね」
「ええ、お金はね」
「寂しがり屋ね」
「沢山あるところにね」
 そこにというのだ。
「集まるのよ」
「つまり無駄遣いしないと」
「どんどん集まっていいこともあったりしてね」
「余計に集まるのね」
「普通のお家だとね」
 母は自分達の暮らしからも話した、都内で一軒家はかなりだと自分でも思っているが実は社宅であるのだ。
「そんなお金持ちになれないでしょ」
「そうそうね」
「それこそスポーツか漫画か小説で活躍しないとね」
「まずないわね」
「そんな人達でも色々大変なのよ」
「税金とかで?」
「そう、新庄さんみたいに年棒二千万の時に一八〇〇万の車買ったら」
 それこそというのだ。
「どうなるか」
「いや、それ極端な例よね」
「新庄さんだからね」
「あの人はちょっと凄いから」
 普通とは違うとだ、咲も言った。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその十二

「だから参考にはね」
「ならないわね」
「宇宙人って言われてたけれど」
「物凄く独特の人よね」
「野村さんも驚いていたし」
 阪神の監督であった頃のことだ。
「妙に波長が合ったらしいけれど」
「仲はよかったみたいね」
「悪い人じゃないと思うから、けれどね」
「あの人はまた別っていうのね」
「ぶっ飛び過ぎだから」
 幾ら何でもというのだ。
「参考にはね」
「ならないわね、お母さんもそう思うわ」
「あと二百万で税金とか生活費とかどうするのよ」
「全く考えてなかったのでしょうね」
「有り得ないから。けれど」
 咲はあらためて述べた。
「そうした人達もなのね」
「日本は実はお金持ちからも税金取る国よ」
「優遇しないの」
「もう必死に節税しても」
 それでもというのだ。
「最後の最後はね」
「納めることになるの」
「そうしたお国柄だから」
「漫画とか小説で当ててもなのね」
「いい暮らしは出来ても」
 それが適うことは事実だが、というのだ。
「税金取られるわ、それでプロ野球選手で年棒五億になってもね」
「もう大スターね」
「けれど変な使い方したら」
「なくなるのね」
「遊んでばかりだとね」
 その場合はというと。
「お金は寂しがり屋だから」
「なくなるのね」
「それでわしが稼いだ金何処行ったって言うことになるわ」
「いや、自分が散財したんでしょ」
 その稼いだ金をとだ、咲は即刻言葉で切り捨てた。
「そうでしょ」
「その通りよ、そうなったらね」
 それこそというのだ。
「後悔先に立たずよ」
「本当にそうね」
「だから無駄遣いはしない、ギャンブルとかホストクラブとか」
「ホストって何が面白いの?」
「さあ」 
 母も首を傾げさせて返事をした。
「何がかしらね」
「お父さんもキャバレーとか行かないわね」
「お父さんは飲んで食べるのが好きでね」
「それでなのね」
「女の人と一緒に飲んだりしないの」
「じゃあ銀座も行かないの」
「全くね、というか銀座のお寿司屋さんとかあるでしょ」
 そうした店の話もするのだった。
「わかるでしょ」
「滅茶苦茶高いのよね」
「驚く位ね、銀座なんてね」
「私達には縁がないわね」
「なくていいの。それでお母さんもホストクラブのよさわからないし」
「何がいいのかしらね」
「持て囃されるのがいいみたいだけれど」
 それが楽しいというのだ。
「けれど高いお酒空けたりね、貢いだり」
「そうしたことしても」
「自分に返って来ないわよ」
「そうよね」
「お金使うにしても」
 それでもというのだ。
「自分に返って来るならね」
「いいのね」
「けれどギャンブルもホストクラブもね」
「返って来なくて」
「使えば使うだけね」
 それこそというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその十三

「お金がなくなっていくのよ」
「そうしたもので」
「しないことよ、それこそ年棒五億あってもね」
「あっという間になくなるわね」
「それで後で言うことになるのよ」
 ここで母はまた言った。
「自分が稼いだお金何処に行ったって」
「物凄く馬鹿な言葉ね」
「それを言わない為にもね」
「無駄遣いはしない」
「それは守ってね」
「そうするわ」
 母に強い声で答えた。
「これからもね」
「そうしてね」
「お金があってもなのね」
「そう、幾らあってもね」
 それでもというのだ。
「無駄遣いはね」
「禁物ね」
「そうよ、いいわね」
「注意するわね」
「そうしてね」 
 母は娘に言った、そして。
 モコを見てだ、こうも言った。
「モコは無駄遣いはしないけれどね」
「犬だからね」
「それは当然だけれどこの娘頭いいから」
 だからだというのだ。
「悪いことしないから」
「それでよね」
「人間でもね」
「無駄遣いする娘じゃないわね」
「絶対にね。そうしたところはね」
「見習わないといけないわね」
「人間とか犬とかはね」
 生きものとしての種族の違いはというのだ。
「あまりね」
「考えないでいいわね」
「いいと思ったところはね」
「見習わないとね」
「そうよ、ちゃんとね」
 それはというのだ。
「大事なことよ」
「モコのいいところも見てね」
「見習うべきね」
「そうね、お母さんもね」
 母もというのだ。
「モコを見てね」
「お手本にしているところもあるのね」
「この性格のいいところはね」
 是非にというのだ。
「見習わないとね、人間でも悪い部分があれば」
「そこは反面教師にしないとね」
「駄目だから」
「それはそうよね」
「本当に若しモコが人間だったら」
「どれだけいい娘か」
「そう思うわ」
 こう咲に話した。
「ルックスもいいし」
「トイプードルの中でもね」
「だから人間なら」
 それならというのだ。
「どれだけいい娘か」
「わからないわね」
「そうも思うわ、こんないい娘いないわよ」
「そうね、モコそういうことだから」
 咲は母の話を聞いてモコに笑顔で声をかけた。
「あんた人間だったら素敵よ」
「ワン?」
「犬でも凄く素敵だけれどね」
 自分の言葉にケージの中から怪訝な声をあげたモコにさらに話した、その言葉は暖かいものであった。
「人間になってもね」
「そうね、けれどね」
 ここで母はこうも言った。
「どの家でもこう言うわね」
「うちの犬が一番だって」
「猫でもね」
「そうなのね」
「種類に関係なくね」
「うちの子が一番って言うのね」
「可愛がってるからね」 
 だからだというのだ。 

 

第二十五話 アルバイトもしてその十四

「それでよ」
「どのお家でも言うのね」
「うちの子が一番だってね」
「言うのね」
「だからね」
「うちではモコがそう言って」
「他のお家ではなのね」
 咲もわかって頷いた。
「それぞれ言うのね」
「そうなのよ、身内贔屓ね」
「要するにそれね」
「だからうちではモコをこう言って」
「他のお家でもそれぞれの子に言うのね、けれどね」
 それでもとだ、咲は言った。
「やっぱりうちだとね」
「モコがでしょ」
「一番よ」
 咲は笑って言い切った。
「私としてはこんないい娘他にいないわよ」
「お母さんもそう思うわ」
「そうよね」
「本当にね」
 まさにとだ、母は応えた。
「モコは一番いい娘よ」
「私達の中ではね」
「ええ、だからね」
 それでというのだ。
「これからも可愛がっていくわよ」
「そうしないとね」
「いけないしね」
「最後までね」
「そうよ、モコはずっとね」
「私達の家族ね」
「長生きしてね」
 母もモコに声をかけた。
「ずっとね」
「ワンワン」
「頷いてくれたみたいね」
 母はモコの今の声を聞いてまた笑顔になった。
「どうも」
「そうね、そんな感じね」104
 咲もそれはと頷いた。
「見てたら」
「そうでしょ」
「今は二歳だから」
「あと十年は普通にね」
「生きてくれるのよね」
「トイプードルはね」
 この種類の犬はというのだ。
「そうよ」
「あと十年ね」
「勿論大事にしたらね」
「もっと長生きするわね」
「最近飼い犬も長生きするから」
 だからだというのだ。
「それでね」
「十二年以上なのね」
「生きることもあるから」 
 だからだというのだ。
「だから大事にね」
「していくことね」
「沢山食べて飲んでもらってね」
「お散歩もよね」
「それでブラッシングもね」
 これもというのだ。
「していってね」
「健康で清潔な生活ね」
「そうした生活を送られる様にしていけばね」
 それでというのだ。
「十二年以上にね」
「それじゃあ二十年以上も」
「ひょっとしたらね」
「そうなのね、じゃあ大事にしていきましょう」
「家族全員でね」
 母は笑顔で応えた、そしてだった。
 夕食の後でモコと遊んだ、モコはケージから出ると彼女と明るく元気に遊んだ。咲はその彼女と一緒にいてまた笑顔になった。


第二十五話   完


                  2021・8・1 

 

第二十六話 部活ではその一

                第二十六話  部活では
 ゴールデンウィークの間漫画研究会は基本部活はない、だがそれでもこの日は部活がありそれでだった。
 登校して部室にいたがここで同級生の女の子に言われた。
「小山さんゴールデンウィークどうしてるの?」
「アルバイトしたり従姉の人と遊んでね」
 それでというのだ。
「過ごしてるの」
「そうなのね」
「それで今日はね」
「漫研に出て来て」
「部活を楽しむの」
「そうするのね」
「何かね」
 咲は同級生に笑顔でこんなことを言った。
「最近充実してるわ」
「いいことね」
「遊びも部活もあって」
「アルバイトもね」
「忙しいわ、けれどね」
「その忙しいのがなのね」
「凄くね」
 本当にというのだ。
「充実してて」
「それでなのね」
「楽しいわ」
「それは何よりね」
「うん、神奈ちゃんはどうなの?」
 咲は同級生の名前を呼んで尋ねた。
「ゴールデンウィークは」
「私もアルバイトしてるからね」
「それでなのね」
「もう今日ここに来るまではね」
「アルバイトしてなの」
「頑張ってるわ、スーパーのレジしてね」
「アルバイトしてるとお金稼げるしね」
 咲はこのことを笑って話した。
「いいわよね」
「凄くね、暇潰しにもなるし」
「それで色々世の中のこと勉強出来るし」
「もうアルバイト出来たらね」
「しないとね」
「それに越したことはないわよ」
「本当にね」
 こう同級生に言うのだった。
「そのお金で漫画買ってね」
「ライトノベルとかゲームとか」
「ヲタク生活もね」
「やっぱりお金あってよね」
「そうそう、まずはね」
「そうした意味でもよね」
 同級生は笑顔でさらに言った。
「アルバイトいいわよね」
「将来就職した時にも役立ちそうだし」
「経験ってことでね、まあ私はね」
 咲はここで自分のアルバイトのことを話した。
「占いのお店の手伝いだから」
「受付とか雑用よね」
「レジみたいなこともするけれどね」
 それもというのだ。
「あるけれど特殊なアルバイトね」
「スーパーの店員と比べたら」
「やっぱりね」
「けれどアルバイトはアルバイトだから」
 同級生は自分のことを言う咲に話した。
「いいことよ」
「働いているなら」
「それが犯罪でないとね」
 それならというのだ。
「いいでしょ」
「そうなのね」
「それにお金は稼げてるでしょ」
「ちゃんとね」
「だったらいいじゃない」
「占い師のお店でも」
「特殊なお店でもね」
 それでもというのだ。 

 

第二十六話 部活ではその二

「行けばいいわよ」
「そうなのね」
「バイト代もいいでしょ」
「そうなのよね」
 咲はお金のことも話した。
「これが」
「じゃあいいでしょ、どんどん働いてね」
「どんどん稼いで」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「頑張っていけばいいのよ」
「そうなのね」
「それでね」
「稼いだお金で、よね」
「漫画とか買えばいいのよ、漫画とか読んでもね」
 そうしてもとだ、同級生は咲にさらに話した。
「ためになるから」
「それはね」
「漫画でも小説でも読んでると勉強になるでしょ」
「そうそう、何かとね」
「だからね」
「漫画を買って読んでもいいわね」
「そう思うわ、漫画を馬鹿にするな」
 同級生はこうも言った。
「そこには多くの宝があるのよ」
「宝ね」
「小説もね」
「ライトノベルもよね」
「勿論よ、何もかいかというと」
「違うわね」
「何もないどころか宝箱よ」
 漫画や小説はというのだ。
「読めば読む程いいのよ」
「そうそう、漫画って下手な思想の本より凄い場合あるわね」
「哲学書とか思想書読まなくても死なないでしょ」
 特にというのだ。
「そうでしょ」
「それはそうね」
「けれど漫画を読まないとね」
「生きられないわよね」
「何を言ってるかわからない文章読むよりも」
 それよりもというのだ。
「わかりやすい漫画を読むべきでしょ」
「文章でも小説よね」
「それも妙にわからない文章の小説よりも」
「わかりやすい文章の方がね」
「いいのよ」
 その方がというのだ。
「わかりにくいものって実は中身がないのよ」
「ああ、その実は」
「そう、あれこれ書いていても」
「難しいことを」
「それでもね」
 その実はというのだ。
「大事なことは書いていないの、昔お祖父ちゃんに言われたの」
「そうだったの」
「お祖父ちゃん区役所で働いていたけれど大学でね」 
 通っていたそこでというのだ。
「教授さんにそう言われて自分でもね」
「難しい本を読んでみたのね」
「それでわかったみたいよ」
「難しい本は実は中身がない」
「ほら、難しい文章読めたら自分は頭いいって思えるでしょ」
「あっ、確かに」
 咲もその通りと頷いた。
「そう思うわね」
「けれどその実はね」
「違うのね」
「そう、それは錯覚なのよ」
「頭がいいって思うだけで」
「自分がね、そしてそんな文章書けるこの作家凄いって」
 その様にというのだ。 

 

第二十六話 部活ではその三

「錯覚してね」
「その人の文章読むのね」
「作品もね」
「けれどその実は」
「中身がないってね、ほら小難しい台詞を登場人物に延々と喋らせたら」
 その様にすればというのだ。
「それ読めたら自分凄いそんな自分が凄いって思わせたこの作家さん凄いってね」
「そんな作家さんいるわね」
「けれどね」 
 それがというのだ。
「そうした作品もやっぱり」
「作品の中身はどうかっていうと」
「どう?心当たりあるでしょ」
「あるわ、それでね」
 咲は考える顔で答えた。
「事実ね」
「中身ないわよね」
「その実はね」
「そうでしょ、だからね」
「文章はわかりやすく」
「そうした作品の方がね」 
 こう咲に話した。
「いいのよ」
「そうよね」
「そう、だから読むなら」
「わかりやすい文章の作品ね」
「やたら横文字入れてもね」
 その様にしてもというのだ。
「やっぱり読んでいて難しく感じるから」
「あとそうした文章書ける人知的ってね」
「錯覚もするから」
「そうよね、けれどその実は」
「中身がなくて」
 それでというのだ。
「そうした作品読むよりも」
「わかりやすい、それが大事ね」
「描写がわかりにくかったら意味ないじゃない」 
 同級生はこうも言った。
「バトルシーンとかね」
「ああ、バトルシーンとか心理描写がね」
「わかりにくかったらでしょ」
「作品としてね」
「漫画でもよね」
「どうもね」 
 咲はそうした作品を読んできたのを思い出して述べた。
「あまりね」
「よくないでしょ、わかりやすいっていうのはね」
「重要ね」
「やたら難しい作品は読まない方がいい」
「お祖父ちゃんそう言って」
「私もその通りと思うわ。実際小難しい言葉を延々と羅列して喋らせている作品見てわかったわ」
 まさにその作品をというのだ。
「難しい文章はその実はね」
「中身がない、ね」
「実際詐欺師ってやたら長々と小難しい言葉言うみたいよ」
 犯罪者はというのだ、咲はそう聞いて目をやや鋭くさせた、彼女にしても最近犯罪者について気をつけているからだ。
 それでだ、彼女から言った。
「そうなの?」
「そう、実はね」 
 同級生もその通りだと答えた。
「小難しい言葉を延々とね」
「言うのね」
「それでも実はね」
 その中身はというのだ。
「ないのよ」
「そういえば小難しい言葉って」
 咲も言った。 

 

第二十六話 部活ではその四

「もう適当に漢字とか横文字使ったら」
「出来るでしょ」
「ええ、そうよね」
「それじゃあね」
 同級生にあらためて言った。
「案外」
「そう、小難しい言葉って実はね」
「ちょっと文章書くことが出来たら作られるのね」
「それを延々と羅列すれば」
 それでというのだ。
「出来上がりよ、何を言ってるかわからなくても」
「いいのね」
「何を言ってるかわからない文章をあえて出して」
 そしてというのだ。
「読者さんに読ませる」
「それがいいのね」
「それで読者さんが頑張って読むのよ」
 その文章をというのだ。
「読解せんとしてね」
「それで読めなかったら読解力がない」
「つまり馬鹿ってなるのよ」
「そういうことね」
「それで読めたらね」
「読解力がある」
「その自分頭いいってなるのよ」
 そう錯覚するというのだ。
「もうそこにはキャラクターやストーリーとかなくて」
「小難しい文章だけね」
「それだけでその文章取ったら」
「キャラクターもストーリーもない」
「それで肝心の文章もね」
 これもというのだ。
「読みにくい」
「それで終わりね」
「要するに下手」
「最低の評価ね」
「純文学でも太宰治って読みやすいでしょ」
「私走れメロスしか知らないけれど」
 中学の授業で習ったものだ、言うまでもなく太宰治の代表作の一つである。
「確かにね」
「わかりやすい文章でしょ」
「かなりね」
「それで宮沢賢治もでしょ」
 この童話作家もというのだ。
「読みやすいでしょ」
「小学校の教科書でしょ」
「小学生でもすらすら読める」
「それだけわかりやすいのね」
「私最近純文学も読んでるけれど」
 咲にこのことも話した。
「芥川龍之介もね」
「読みやすいの」
「この人は作品によって文章変える時もあるけれどね」
 奉教人の死等ではそうだ、候文の作品もある。
「大体はね」
「読みやすいのね」
「末期の作品頭おかしいのかって思うけれど」
「あの人自殺してるし」
「そのせいかね」
「最後の方の作品はおかしいのね」
「もうどう考えても頭おかしい状況で書いた作品ばかりなのよ」
 芥川の末期の作品の特徴である、暗鬱極まる作品か明らかに狂気が感じられる作品のどちらかであるのだ。
「これがね」
「やっぱり自殺してるから」
「絶対にそうね、まあ太宰も自殺してるけれどね」
「そうよね」
「けれど二人共読みやすいのよ」
 その文章はというのだ。
「宮沢賢治もで夏目漱石もね」
「読みやすいのね」
「三島由紀夫は凄く奇麗な文章だけれど」
 その美麗な文章でも定評がある。 

 

第二十六話 部活ではその五

「やっぱりね」
「読みやすいのね」
「すらすら読めるの」
 そうだというのだ。
「これがね」
「そうなのね」
「本物はね」
「読みやすいのね」
「私読んだことないけれど思想家の小林秀雄も」
 この人物もというのだ。
「相当教養ないと何について言ってるかわからないらしいけれど」
「教養ね」
「クラシックとか古典のね」
 小林秀雄一流の教養が出ているのだ、彼は音楽や古典そして日本の歴史に非常に通じた一代の知識人だったのだ。
「それがないとね」
「何について言ってるかわからないのね」
「まあ高校生だとね」
 それ位ならというのだ。
「そんな教養はね」
「ないのね」
「だから大学卒業する位でないと」
 それまでに教養を身に着けてというのだ。
「読まないと駄目らしいけれど」
「文章自体はなのね」
「わかりやすいそうよ」
「そうなのね」
「それで勉強にもなるらしいけれど」
 それでもというのだ。
「これが小難しいだけのね」
「そうした文章だと」
「何を言っているかわからないで」
「理解したら頭いいと錯覚させるだけで」
「実は何もない文章なんてね」
「読むだけ無駄ね」
「そんな小説読む位なら」
 それこそというのだ。
「漫画読むかもっといいライドノベル読むか」
「それ位ね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「それがいいわ」
「じゃあ私達は」
「面白くてわかりやすいね」
「作品を読めばいいのね」
「そういうことよ、しかし本当に太宰ってね」
 彼の文章はというのだ。
「読みやすくてね」
「わかりやすいのね」
「確かに自虐的だけれどね」
 この要素はあるというのだ。
「作品全体に」
「太宰はそうなのね」
「太宰節っていうかね」
「そうしたっていうの」
「そう、独特のね」
 まさにというのだ。
「自虐的なものがね」
「あるのね」
「私それを太宰節って呼んでるけれど」
「それがあるのね」
「ええ、けれどね」
「読みやすいのね」
「そしてわかりやすいの、本当にね」
 笑顔で言うのだった。
「そうした文章で作品なのよ」
「太宰はそうなの」
「まあこの人も自殺してるから」
「心中してるわね」 
 昭和二十四年六月十三日に愛人とそうしており六月十九日に二人の遺体が発見されている。この心中した日を命日としており桜桃忌と呼んでいる。
「私も知ってるわ」
「有名だからね」
「太宰が心中したことは」
「だから末期の作品はね」
「自殺したこと出てるのね」
「そうなの、だからね」
 それでというのだ。 

 

第二十六話 部活ではその六

「斜陽とか人間失格とかは注意して読まないといけないけれど」
「それでもなの」
「そう、読みやすいから。しかもそんなに長くない作品ばかりだから」
「読んでもいいのね」
「しかも太宰ってね」
 ここで同級生は咲に笑って話した。
「イケメンでしょ」
「そうそう、写真見たらね」
 まさにとだ、咲も応えた。
「太宰って男前よね」
「そうでしょ」
「これはもてるってお顔よね」
「あれで背は一七五あったらしいわ」
「背もあったのね」
「芥川も美形だったけれど」 
 太宰が終生敬愛していたこの作家もというのだ。
「太宰もね」
「芥川も確かに美形よね」
 咲はこのことも認めた。
「今でももてるわね」
「絶対にね」
「流行作家であの顔で」
「ちなみに太宰実家はあれでしょ」
「今も政治家さんよね」
「そう、それで津軽の大地主だったのよ」
 このことが太宰の人生に大きな影響を及ぼしている、そして六男であったことも彼の人生にそうさせたという。
「お金持ちのね」
「家の人で」
「それで性格結構明るかったっていうし」
「自殺しても?」
「躁鬱だったかもね」
「急に上がったり落ち込んだり」
「そんな人でね」
 同級生は太宰について考えながら話した。
「それでじゃないの?」
「自殺したの」
「時々死にたいって衝動が起こって」
「鬱の時に」
「それでじゃないの?けれど普段はね」
「明るかったの」
「だったらもてるわね、ただ私はね」
 こうもだ、同級生は咲に話した。
「作家さんのお顔で言うと三島由紀夫ね」
「あの人も美形ね」
 咲はこの作家の顔も思い出した。
「確かに」
「小柄だったらしいけれどね」
「ボディービルや剣道もしていて」
「身体も鍛えていてね」
「精悍な感じだったのよね」
「それで私としてはね」
「三島由紀夫が好きなのね」
 同級生に問い返した。
「作家さんのお顔ですと」
「そうなのよ」
「ああした人がタイプなの」
「そうなのよ」
「成程ね」
「咲ちゃんはどんな人がタイプ?」
 同級生はここで咲に聞き返してきた。
「それで」
「そう言われたら」
 どうかとだ、咲はふと考えた。すると。 
 脳裏に不意に速水の姿が思い浮かんでこう言った。
「スマートで奇麗な人?」
「そんな人?」
「ええ、ただね」
 それでもだ、咲は話した。
「あまりね」
「あまりっていうと」
「何でかしら」
 自分でもわからなかった、何故速水が脳裏に思い浮かんだのか。それで内心戸惑いつつ同級生に話した。 

 

第二十六話 部活ではその七

「一体」
「一体も何も何のお話してるのよ」
「いや、まあそれはね」
「それは?」
「私の中のことだから内緒ね」
「気になるわね」
「いや、別に作家さんの中にあるタイプじゃないから」
 それでというのだ。
「まあそうしたね」
「スマートで奇麗な人なの」
「それでいてミステリアスな」
 速水を思い浮かべながら話した。
「そうした人ね。大人で」
「大人なの」
「私達よりずっとね」
「というとサラリーマン?じゃないわね」
 同級生はすぐにこう返した。
「やっぱり」
「ええ、公務員でもないしね」
「肉体労働の人でもないわね」
「違うわ」
「じゃあ」
 咲の話をさらに聞いて言った。
「あれかしら」
「あれ?」
「自営業でコンサルタントでもしている」
「そうね」
 コンサルタントと言われてだ、咲も頷いた。
「強いて言うならね」
「そうした人なの」
「スマートで奇麗で」 
 そしというのだ。
「ミステリアスでね」
「大人の人ね」
「そうした人がね」
「小山さんのタイプなのね」
「咲でいいわよ」
「じゃあ咲ちゃんね」 
 咲の言葉を受けて呼び方を変えた。
「咲ちゃんのタイプは」
「そうした人で」
 それでというのだ。
「作家さんで言うと誰かしら」
「そうね、日本の作家さんでね」
「スマートな美形ね」
「ミステリアスな」
「そんな人だけれど」
「中原中也も美形だったけれど」 
 同級生はこの詩人をここで思い出した。
「帽子が似合っていて」
「確か遊び人だったのよね」
「石川啄木もだったけれど結構無頼なのよ」
 中原中也はというのだ。
「もてて十代、それも今だと私達位の年齢で女の人と同棲してて」
「凄いわね」
 これには咲も驚いた。
「それはまた」
「それで酒癖も悪くてね」
「そうだったの」
「スマートでミステリアスかっていうと」
「違ったのね」
「ええ、ちょっとね」
 こう咲に話した。
「あの人は」
「そうなのね