イヌカレたのはホノオのネッコ


 

第壱話「コマイヌとネコマタ」

 
前書き
暁デビュー1周年記念作品。
たまにはシンフォギア以外の分野にも手を伸ばしてみたかったので、読み切りとして書いてみました。

反響次第では続編出します。感想、評価よろしくお願いします。 

 
太陽暦佰九拾八年。

世界は、世界地図が描き変わるほどのとある大災害を境に始まった、人体発火現象による脅威に怯えていた。

突然、人が生きたまま発火し、自我を失い命尽きるまで周囲を焼き尽くす「焔ビト」となってしまうのだ。

国は人々を炎の恐怖から守り、人体発火現象の原因と解決策を究明するべく、「特殊消防隊」を結成。この驚異の対応に当たらせている。
人間の最も多い死因が焼死となったこの世界で、彼ら消防官は日々、人々の希望として戦っているのである。

これは、そんな特殊消防隊に所属した若者達の物語──



東京皇国、新宿区。

国内に8つ存在する庁舎の中で最も大きな聖堂を有する、特殊消防隊のエリート部隊……第一特殊消防隊。

そこでは今日も、いつ何時発生するか分からない人体発火現象に備え、訓練する隊員達や、神に向けて熱心に祈りを捧げる聖職者達が行き来していた。

そして、厳かな雰囲気漂うその中で……とある消防官が悲鳴を上げていた。

「待ぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!こんにゃろおおおおおおおおお!」

顔を真っ赤にした黒髪ツインテールの女性消防官が、頭頂にアホ毛の生えた黒髪の男性消防官を追いかけている。

「すみませんすみませんすーみーまーせぇぇぇぇぇん!!ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」

一方、彼女に追い回されている男性消防官は、何度も謝罪しながら、庁舎の廊下を全力疾走していた。

「今日こそは逃がさねぇぞ!このラッキースケベ野郎!!」
「原因はお前の“ラッキースケベられ”だろうが!だぁーもう、不幸だぁぁぁぁぁ!!」

疾風の如く駆け抜けていく2人を、他の消防官やシスター達は面白半分、呆れ半分と言った表情で見守っている。

そんな2人の行先に、肩まである茶髪を後ろで縛り、眼鏡をかけた消防官が、額に青筋を浮かべて立ち塞がった。

「お前ら!廊下を走るんじゃあないッ!!」
「げっ、鬼灯(ホオズキ)先輩ッ!?」

まるで鬼のような形相で立ち塞がる先輩に怖気付き、男性消防官は慌てて立ち止まろうとする。

ところが、それが悲劇の引き金だった。

足を止めようとした男性消防官の足元に、ちょうど壁から剥がれ落ちてしまったポスターが飛来し、彼はそれを思いっきり踏んずけてしまったのだ。

「どわあああああっ!?」

絶叫を上げ、天井を見上げながら派手にすっ転ぶ男性消防官。
彼の悲鳴と転んで背中を打つ音が、廊下に響き渡る。

だが、そこへ更なる悲劇が到来した。

「どうぇええええええええッ!?」

なんと、彼がコケたことで同じく足を止めようとした女性消防官が、足を引っかけ躓いたのである。

「おっととととととととと、と、と、と……わあああッ!?」

バランスを崩し、両手腕を鳥のようにバタバタさせながら二、三歩踏み出す女性消防官。

抵抗虚しく遂にバランスを崩した彼女は、男性消防官と同様、派手にすっ転んだ。

「いってて……チクショウ、派手に転んだぁ……」
「いたたた……やっぱり不幸だ……え?」
「ん……?」

立ち上がろうとする二人。

だが、目の前に映ったものに一瞬、思考が止まる。

女性消防官が見たのは、男性のものと見られる2本の脚。

そして、男性消防官が見たものは……ムチムチと程よく肉の付いた健康的な太腿と、その間に存在する黒い布だった。

「………………」
「………………」

三拍ほどの沈黙。そして……

「「わあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」」

庁舎全体に聞こえるほどの絶叫であった。

「うるさッ!お前らちょっとはボリューム下げろよ!?」

先輩と呼ばれた男性、鬼灯 飛弾(ホオズキ ヒダマ)一等消防官は両耳を塞ぎながら訴えた。

「なんでまたラッキースケベられてるんだよー!興梠(コウロ)のド変態ー!!」
「俺だって好きでラキスケってるわけじゃないんだよ!!毎回毎回不幸な事故なんだよ古達(コタツ)ちゃん!!」
「だったらその“不幸体質”を何とかしろよー!!」
「古達ちゃんこそ、その“ラッキースケベられ”どうにかならないのかよ!?」
「お前らちったぁ俺の話も聞けよ!?」

互いから離れるなり、またもや言い争いを始めた後輩達に、ホオズキは頭を抱える。

「まったく……お前達はどうしてこう、いつも落ち着きがないんだ」
「だって興梠が!」
「だって古達ちゃんが!」
「うるせぇ!言い争ってないで、とっとと持ち場に戻れ!!」

このままでは、いつまで経っても埒が明かない。
ホオズキは2人を一喝すると、深く溜息を吐いた。

「ホント退屈しねぇな、お前らは……」



「何かと思って来てみたら、またいつもの2人か……」

そんな彼らを、遠巻きに見守る3人の男がいた。
いずれも白い神父服に身を包んでおり、只者ならぬ雰囲気を放っている。

「二等消防官の環 古達(タマキ コタツ)狛司 興梠(ハクジ コウロ)。入隊から既に5日は経っていますが……まだあんな調子なのですか?」

金髪糸目に黒い中折帽の男……フォイェン・リィが呟く。

「相変わらず犬と猫みたいな奴らが、犬と猫みてぇに騒ぎやがって。お陰で騒がしいったらありゃしねぇ」

藍色の髪を刈り上げにし、銀色のヘッドホンを耳に付けた男……カリム・フラムは、呆れたようにそう言った。

「まあ、若くていいじゃないか!俺はいいと思うぞ!少年少女の甘酸っぱい青春、くぅ~……燃えてきたぜ!!」

そして、茶髪で瞳に星が浮かんでいる暑苦しい雰囲気の溢れる男……烈火 星宮(レッカ ホシミヤ)だけが、隣の2人とかなり温度差のあるテンションで拳を握る。

彼ら3人こそ、この第1特殊消防隊を支える“中隊長”を担う者達である。

「カリム、烈火、あの二人は君らの隊なのでしょう?中隊長として、何とか言ってやるべきなのでは?」
「無理だな」
「ああ!無理だぜ!」

フォイェンの言葉を、2人はバッサリと切り捨てる。

「即答ですか……」
「ああ!環のラッキースケベられを止められるのは、俺くらいだからなっ☆」
「正直なところ、あの二人は一緒に居た方が被害の拡散を防げる。狛司の不幸体質は、環のラッキースケベられを集中させるからな。マイナスとマイナスを掛ければ、マイナスにはならねぇ」

2人を預かるカリムと烈火の言葉に、フォイェンは溜息を吐く。

「なるほど……。何と言いましょうか……どうかあの二人に、太陽神の加護が在らんことを。ラートム」

フォイェンは苦笑いしながら、ホオズキに引きずられて行くタマキとハクジに向かい、手を合わせるのだった。



「それで、もう第一には慣れたか?」

向かい合ったデスクに座り、ホオズキ先輩は俺にそう尋ねた。

「まあ、少しは……」
「いつまでも訓練校気分じゃないんだ。とっとと慣れろ」
「そうは言いますけど、ここって聖陽教の色が強いじゃないですか。他とは雰囲気が違うというか、緊迫してると言うより厳かすぎて肩が強ばるというか……」

ホオズキ先輩の首から下がる十字架を、そして俺の制服の襟元に輝く十文字を交互に見て呟く。

聖陽教。それはこの国の国教であり、太陽を神と崇める一大宗教。

この第一特殊消防隊は、聖陽教との繋がりが強い。3人の中隊長は全員が神父であり、俺達一般隊員の制服もツナギではなく、神父服や巫女服となっている所がそれを顕著に表している。

庁舎の前には聖陽オベリスクが立っているし、聖堂の大きさも考えると、庁舎というよりまるで教会そのものだ。

なので、どうにも気が抜けないのである。
神の御前でダラける事など出来ようものか。

「俺達第一は、太陽神様を深く信仰する隊長達の元に集った、選ばれし精鋭だ。その自覚が出来た頃には、その緊張も苦ではなくなるさ」
「んー、慣れって恐ろしいですね……」

慣れるといつの間にか当たり前になって、慣れる前に感じていたものが薄れてしまう。
辛い訓練も難しい職務も、慣れればそうではなくなっていく。

だけど、慣れる事は決していい事とは限らない。

それは、俺がこの17年の人生で誰より学んだ事だ。

「慣れると言えば、お前のアンラッキーっぷりは訓練校の頃から変わってないな」

ふと、先輩が半ば呆れたような笑みでそう言った。

「訓練校どころか、子供の頃から変わってませんよ。俺の“不幸体質”は」

そう。俺、狛司興梠には、生まれついて備わったとんでもない体質が備わっている。

それは、自他共に認める程にアンラッキー……即ち『不幸』である事。

まず、一日に平均5回はバナナの皮や空き缶などで派手に転んでいる。

塗装中の建物の前を通ると頭上からペンキの入ったバケツが落下してくるし、頭上にハトがいる電線は避けて通らないと頭に糞が落ちてくる。

通行人にぶつかり特売で買った卵が全部ダメになった事もあれば、書き終えたレポートに足を滑らせた友人が差し入れのコーヒーをぶちまけた事もあったかな……。

酷い時には、何も無いところで突然頭に金ダライが降ってくる、なんて事まであるくらいだ。

これが幼少期の頃からずっと続いており、周囲からの哀れみの目がちょっと痛い。
太陽神様は何故このような事を……と天を仰いだ日も数知れない。

俺自身、この体質がある人生にすっかり慣れてしまったような気がしている。
だからこそ、「慣れる事は恐ろしい」と俺は胸を張って言えるのだ。かっこよくはないけどな。

「その不幸体質と同等クラスの人間がいるんだから、世界はまだまだ広いものだ」
「古達ちゃんには、本当に申し訳ないと思ってます……。入隊してから毎日のように迷惑をかけてしまって……」

環古達。第一に入隊して以来、俺の悩みの種とも言える存在だ。

俺と同じ日に入隊してきた彼女だが、何の因果か、彼女も俺と似たような体質を備えてしまっていたのだ。

それこそが、“ラッキースケベられ”である。

彼女は事ある毎に、周囲の男性に対して何らかのラッキースケベを誘発させてしまうのである。

例えば、転んだ拍子にすぐ近くにいた男性消防官の顔へと、その豊満な果実を押し付けてしまったり。

例えば、廊下の角でぶつかった拍子に、下着が丸見えになってしまったり。

例えば、すれ違っただけなのに何故かスカートが手に引っかかって脱げ落ちたり……。

取り敢えず、彼女のラッキースケベられに常識は通用しない。それくらい有り得ない状況で、ラッキースケベさせてしまうのだ。

そして、運の悪い事にその体質は、俺の不幸体質と共鳴してしまったらしく……俺が入隊して以降、古達ちゃんのラッキースケベられに一番遭遇しているのは、なんとこの俺なのである。

俺と古達ちゃんが同じ場所に揃うと、彼女のラッキースケベられは全て俺に集中するらしく、事実そうだという観測結果を入隊から3日の間に先輩が統計してしまった。

俺の不幸もここまで来たか、と肩を落としたのが記憶に新しい。
正直言って、こればかりは一番慣れちゃいけない不幸だと心の底から思った。

「……お前、それ本気か?」
「へ?」

先輩の言葉の意図が解らず、思わず聞き返す。

「いや、あれだけ毎日のように環ちゃんの事触っといて、何か思う所とかないのか?」
「何言ってるんですか先輩。嫁入り前の女の子にあんな事してしまうなんて、俺には申し訳なくて仕方ないですよ。土下座でも詫び足りないです」
「はあ……まあ、それはそうだが……」

先輩は苦笑いすると、珈琲を一口啜った。
俺は何かおかしな事を言っただろうか?

俺なんかの不幸に、あんないい子を巻き込んでるんだ。申し訳ないに決まってるじゃないか。

「狛司。正直なところ、お前は環ちゃんの事をどう思ってるんだ?」
「そりゃあ、いい子だと思ってますよ。真面目で、明るくて、気立てもいい。俺は嫌われてるのでツンツンされてますが、バーンズ大隊長や烈火中隊長達には尊敬の目を向けて懐いてる姿なんか、まるで猫みたいで可愛いいじゃないですか」
「いやいや、嫌われてるなんて事ないと思うぞ?俺には随分と仲が良さそうに見えるが?」
「そんなわけないですよ。会う度にガン飛ばされてるじゃないですか」
「まあ、確かにそうだが……」

先輩は顎に手を当てると、目を細めて俺を見る。

「付き合いたい、とか思った事はないのか?」

その言葉に、一瞬だけ息が詰まったような気がした。

「いえ……そんな事は」
「そうか?」
「俺なんかには勿体ないですよ。それに……俺じゃ彼女も不幸にしてしまう。現に、毎日ああですから……」
「……そうか」

それだけ言うと、先輩は再びノートPCに目を戻した。

──その時だった。

ジリリリリリ、と激しい鐘の音が鳴り響く。

「出動警鐘ッ!?」
「焔ビトか。行くぞ!」

危機を告げる鐘の音が、俺達の脚を先走らせる。
消防服に袖を通し、俺は所定の車庫へと向かった。



『焔ビトは3体。各隊は手分けして捜索し、速やかに鎮魂せよ!』
「了解!」

中隊長カリムの指示に従い、ハクジとホオズキは現場の路地裏へと突入する。

「ホオズキ先輩、位置は?」
「待ってろ。今見つける」

ホオズキはそう言うと懐から一葉、緑色の栞を取り出す。
そこにマッチで火を付けると、栞と同じ緑色の炎が上がった。

栞を燃やして発生した炎を、ホオズキは頭上へと投げる。

すると炎は四方に飛び散り、そしてホオズキの目には徘徊する焔ビトの姿が浮かんだ。

「見つけた。南南西の方角、距離200」
「了解!」

ハクジはホオズキに言われた方向を向くと、クラウチングスタートの体勢を取る。

「残り2体は他の隊が当たるはずだが、鉢合わせる可能性もある。警戒はしておけよ」
「分かってますよ。行くぜ、“コマイヌ”ッ!」

そう言ってハクジは地面を蹴ると……四つん這いで走り出した。

直後、その両腕と頭上に炎が灯る。

まるで犬耳と前足のような形のそれは、さながら一匹の猟犬が獲物を追う姿を彷彿とさせる。
いや、彼の言葉通りなら『狛犬』と言うべきだろう。

この世界には、焔ビトの他に「能力者」と呼ばれる者達が存在する。
炎を操る力を有し、焔ビトと戦う事が出来る能力者は、その多くが特殊消防隊に所属しており、日夜戦っているのだ。

ホオズキは特定の条件下で炎を操れる『第二世代能力者』。自ら炎を発生させる事は出来ないが、特化型の能力を持つことが多い能力者に分類される。

そしてハクジは自らの体から炎を発し、また、その炎を操り攻撃手段に応用する事が出来る『第三世代能力者』だ。

「居た!」

壁を蹴り、壁を走り、障害物を飛び越えて、路地裏を走り抜けたハクジは、遂に焔ビトを発見する。

「がああああああああああ!!」

まるで地獄の悪鬼のような……あるいは、苦痛に満ちた悲鳴のような咆哮が轟く。

全身が炭化し、全身から炎を噴き上げながらなお動くそれは、ほんの少し前まで生きた人間だった誰かだ。

「熱いよな……苦しいよな……。今、眠らせてやる!」
「がああああああああああああぁぁぁッ!!」

目の前に現れたハクジを見るなり、焔ビトはこちらへと向かってくる。

ハクジは焔ビトに向かい合い、真っ赤に燃える両手を構えた。

「があああああああッ!!」

振り下ろされた腕を躱し、横に振るわれた腕を避け、真っ直ぐに突き出された受け流す。

「ぐうううううッ!?」
「うおおおおおおおッ!」

攻撃を受け流した事で生まれた隙を突き、焔ビトの顔へと拳を叩き込む。

焔ビトがバランスを崩した所で、ホオズキが到着した。

「がああああああああッ!?」
「ハクジッ!」
「先輩!鎮魂の祈りを!」
「ああ、頼んだッ!」

ホオズキは胸の前で手を組むと、鎮魂の祈りを唱え始める。

「炎ハ魂ノ息吹……」

ハクジは握った右手を広げ、焔ビトの方へと向ける。

「黒煙ハ魂ノ解放……」

掌の中心を焔ビトの心臓部……コアの存在する場所へと向け、狙いを定めて意識を集中。

「灰ハ灰トシテ 其ノ魂ヨ……」

炎が掌へと集まり、野球ボール程の大きさの球体型を形成する。

そしてハクジは、その炎を──

「炎炎ノ炎ニ帰セ」

真っ直ぐ、一直線に解き放った。

「ぎゃあああああああああぁぁぁ……!!」

焔ビトのコアが一撃で消し飛び、胸のど真ん中に風穴が空く。

コアを失った焔ビトは、それ以上活動を続ける事ができない。崩れ落ちていく焔ビトに向けて、ハクジは合掌した。
その魂が、どうか安らかに眠れるように……。

「ラートム……」

辺りはしんと静まり返り、風が塵を巻き上げ吹き抜ける。

ふう、と一つ息を吐き、ハクジは炭しか残っていない焔ビトの亡骸を見つめた。

──その直後だった。

「がああああああああああああぁぁぁッ!!」

頭上からの気配に振り返るハクジ。

そこには、もう一体の焔ビトが迫っていた。

「先輩ッ!!」
「しまっ……ッ!?」

ホオズキの頭上から落下してくる焔ビトの巨体。
間に合わせなければ……ハクジが飛び込もうとした、その時──

ハクジのすぐ側をすり抜け、一人の影が飛び出した。

「はぁッ!!」

聞き覚えのある声に目を凝らすと、細長く伸びた緋色の炎が見えた。

猫耳と二又の尻尾のような緋色の炎を放つタマキが、ホオズキを抱えて飛び退いた。

焔ビトは着地し、地面がひび割れる。
しかし、獲物を逃した事で隙が生じたのは見て取れた。

「興梠、今のうちにッ!祈りは私がッ!」
「ッ!ああ!」
「すまない、助かった!」

ハクジは体勢を崩した焔ビトへと向け、腕を十字に組む。
ホオズキは立ち上がると、再び合掌した。

「炎ハ魂ノ息吹……黒煙ハ魂ノ解放……灰ハ灰トシテ……其ノ魂ヨ……炎炎ノ炎ニ帰セ」

立ち上がった焔ビトは、ハクジの方へ向かって突き進む。
しかし、ハクジは怯むことなく、ただ冷静に焔ビトが距離を詰めてくれるのを待ち続ける。

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

そして次の瞬間、組まれた腕から十文字を描き、勢いよく放たれる炎。
裂帛の叫びと共に放たれたそれは、焔ビトの胸部を貫き、コアを吹き飛ばした。

「ぎゃあああああああああぁぁぁ……!!」
「ラートム……」

崩れ落ちる焔ビト。
その亡骸から炎は消え去り、黒炭へと還った。

「古達ちゃん……ごめん、助かった!」
「バカ興梠!私が来なかったら、今頃どうなっていた事か!」
「うっ……返す言葉もございません……」

開口一番に飛んできたお説教。
中隊長にバレたら怒られる……と、ハクジは冷や汗を流した。

「いや、狛司だけの責任ではない。先輩でありながら、警戒を怠った俺にも非がある……」
「いえ、鬼灯さんは悪くありません。いきなり頭上から」
「しかし……」
「まあまあ鬼灯ぃ!ここは二人っきりにしてやろうぜ!」
「ッ!?烈火中隊長!?」

突然肩を組まれ、驚く鬼灯。
烈火は声を潜め、鬼灯に耳打ちする。

「環は狛司に話したい事があるらしいんだ。俺達はちょっと邪魔だって事だな☆」
「な、なるほど……」
「じゃ、俺達はしばらく席を外すぜ!後は若い2人でごゆっくりなっ☆」
「れ、烈火中隊長!?ちょっと言い方に語弊がありませんかぁ!?」

何やらたタマキが抗議していたが、烈火は特に聞いている様子もなく、鬼灯を連れてそのまま路地裏を出ていってしまった。

あとに残されたのは、ハクジとタマキの2人だけである。

ハクジは両手を合わせ、深々と頭を下げた。

「頼む、カリム中隊長にだけは言わないでくれ……」
「どうしよっかな~。興梠には入隊してから毎日のようにスケベられてるし……」
「わざとじゃないんだ!俺も不本意なんだよ!!」

慌てて弁明するハクジ。
日頃から迷惑かけている事を気にしている彼は、そこを突かれるとどうにも弱い。

「頼む!これまでのお詫びと今回のお礼を兼ねて、今度駅前のスイーツご馳走するから!!」
「え、いいの!?」
「初任給入ったら奢ってやる!だから勘弁してくれ!!」

綺麗な角度で再び頭を下げるハクジ。

その瞬間、タマキの表情が変わった。
駅前スイーツ。その一言で目がキラキラし始めたのだ。

「今度オープンする予定のあの店でもいい?」
「構わん。行きたい店を選べ!」
「オープン記念のケーキバイキングでもいい?」
「好きなだけ食え!持ち帰り分も奢ってやる!」
「おお……おおおおお!?」

頭を下げたまま、勢いに任せて答えるハクジ。
彼からの魅力的な提案に、タマキはすっかり乗り気になっていた。

「そ、そういう事なら……考えてあげなくもないかな~?」
「本当に、古達ちゃんにはいつも迷惑をかけてしまって……だから、どんな形でもいい。少しでも借りを返したいんだ」
「……興梠、頭上げて」

タマキの声のトーンが、浮かれたものから真面目なものに変わった。
言われるまま、頭を上げるハクジ。

彼の目に映ったのは、自分を真っ直ぐに見つめるタマキの顔だった。

「興梠……私、お前が思ってるほど、気にしてないぞ?」
「……え?」
「いや、確かにラッキースケベの件は許してないけどさ……。でも、あれはそもそも私に原因があるわけだし……むしろ、迷惑かけてるのは私の方っていうか……」
「いやいやそんな、古達ちゃんはただ、そのよく分からない体質に振り回されてるだけで……」
「何だよ~、それはそっちだって同じだろー?」
「それは……そうだけど……」
「だったら、これでお相子。貸しとか借りとかなし!それでいいだろ?」

そこでニカッと笑って見せるタマキ。
ハクジは一瞬、頬を赤らめ顔を逸らす。

「ま、まあ……そういう事なら……」

だが、ハクジの頭頂のアホ毛はブンブンと風を切って揺れていた。

「それじゃ、戻るかー。中隊長達に報告しないといけないし」
「そうだな。今頃、他の部隊も鎮魂を終えてる頃だろ──」

そう言って、2人が路地裏を出ようとしたその時……ハプニングは起こった。

なんと、ハクジの足元に案の定、ポイ捨てされた空き缶が転がってきたのだ。

言うまでもなく、ハクジは派手にすっ転んだ。

「ぐおおおおおおおおッ!?」
「わああああああああッ!?」

隣のタマキも巻き込まれ、2人揃って派手に転ぶ。

「いててて……こんな時まで発動しなくていいじゃんアンラッキー!古達ちゃん、大丈……」

目を開け、タマキの無事を確認するため起き上がろうとするハクジ。

だが、その目の前には……。

「…………へ?」
「…………ぶ……?」

押し倒したかのような姿勢で、ハクジの顔を見下ろすタマキの顔があった。

訪れる数秒の沈黙。
一瞬で耳まで赤くなる二人の顔。

そして……

「やっぱり許さねぇぞコンニャローーー!!」
「何でこうなる不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

いつもと変わらぬ絶叫が、路地裏に響き渡った。



「また喧嘩してんのか……本当に騒がしくて騒がしく、騒がしい奴らだぜ」
「ですが、案外いいチームになるかもしれませんね」
「まあ、そうかもな……。だが狛司は後でランニング100週だ」
「……ラートム」 
 

 
後書き
・狛司 興梠(はくじ こうろ)
年齢:17歳
誕生日:11月1日
概要:主人公。第1特殊消防隊の新人隊員。第三世代能力者であり、両腕から炎を飛ばす『コマイヌ』の能力を有する。能力使用時には炎は犬耳、尻尾、前足の形になって現れる。

自他共に認める超絶不幸体質で、一日に平均5回はバナナの皮や空き缶などで派手に転んでいる。
そのせいか、環と一緒に居ると彼女のラッキースケベられが集中してしまい、いつも叩かれては謝っている姿が日常化してしまった。

どれだけの不幸に苛まれようと前向きに生きようと、いつも笑っている。

・鬼灯 飛弾(ほおずき ひだま)
年齢:19歳
概要:狛司の先輩で、聖陽教を信心する第二世代能力者。
金属を染み込ませた栞を燃やした炎色反応により、索敵や読心など様々な能力を発揮する。
趣味は読書。邪魔されると栞を手裏剣のように投げつける癖がある。
読んだ本はそのまま積み重ねてしまう癖があり、積み重なった本が狛司の上に落下することもしばしば。 

 

第弐話「環の気持ち」

 
前書き
第2話、ようやく完成です。
前回を一部修正したり、プロット見直してやっと完成しました。

どうやら暁の炎炎SSは本作を除けば、1話でエタったやつが一作だけ。ハーメルンでは11件中2件が3話以内で去年から更新無しの状態と、中々過疎ってるらしいですね。
加えてpixivは件数こそ1000を超えますが、案の定腐向けと夢小説が多め……。オリ主ものが少ない印象です。

というわけでエミヒロ、動きます。
炎炎オリ主ラブコメSSの代表作と呼ばれる事を目標とし、この未開の地に旗を掲げる事にしました!
皆さん、応援よろしくお願いします!とりあえずコメントと宣伝ツイート、頼みます!  

 
「はぁ……」

第1特殊消防隊庁舎、シャワールーム。
現場から戻ってきたタマキの溜息に、黒髪ロングとショートボブ、二人のシスターが反応する。

「どったの環ちゃん?現場で何かあった?」
「どうせ例の彼でしょう。聞くだけ無駄ですよ」
「ちょっとヒータ、それどういう意味よ!?」
「その反応、さては図星だな~?」

慈温 須藤(シオン ストウ)とヒータ・スミス。
この第一に所属する消防官であり、同時にシスターだ。

黒髪ロングの先輩、シオンはタマキ達と1つ上。
ショートボブの同僚、ヒータは同い歳。
3人は入隊以来、仕事の合間によく喋っている仲である。

「もしかして、またラッキースケベられたとか?」
「そうなんですよ……。せっかく謝れたのに、その傍から……まったく……」
「まったく……もはやここまで来ると運命なのでは?」
「こんな運命あってたまるかーッ!!」

タマキの叫びに、シオンは苦笑する。

確かに、ここまで何度も……というのは只事には思えない。
ヒータはともかく、シオンには2人の姿がそういう風に映っていた。

「それで結局、環ちゃんは狛司くんの事をどう思ってるの?」
「ど、どうって……何が?」
「一部で噂になってますよ~。環さんと狛司くん、実は好き合ってるんじゃないか~って」
「はぁ!?そっ、そんなわけないじゃん!?」

ヒータの言葉を慌てて否定するタマキ。
両手をバタバタと振るその姿に、シオンはニヤリと笑った。

「え~、そうなの~?」
「そうですよ!第一、誰があんな真性ド変態野郎なんかと……」
「じゃあ、興梠くんの事、嫌いなんだ」

その瞬間、タマキの様子が変わった。

「べっ、別に嫌いとは一言も……」
「でも狛司くんの事、好きじゃないんでしょ?」
「それとこれとは話が別です!」
「じゃあ、環ちゃんはどう思ってるの?」
「そ、それは……」

物の見事にシオンに翻弄されるタマキ。
その時、半ば呆れながら髪を洗っていたヒータの脳裏に電流が走った。

ヒータはシオンに視線を送りながら、煽るように呟く。

「環さん本人がそう言うなら、そうなんじゃないですか~。可愛い顔してますけど、本当は環さんのラッキースケベられを利用して不幸な事故を装ってる痴漢常習犯かもしれませんね」

ヒータの意図を察したシオンは、即座に更なる餌を撒く。

「うわっ、何それ最低じゃん」
「人は見かけによらないって言いますもんね~」
「ひょっとしたら他にも犠牲者が……」
「そんな事ないッ!!」

タマキの声がシャワールームに反響する。
2人はしめたと言わんばかりに、タマキの方を見る。

「興梠はそんなやつじゃありません!律儀だし、真面目だし、転んだ時はいつも気にかけてくれて……悪いやつじゃないんです!ただ、真面目過ぎてちょっとほっとけないというか、不幸過ぎて見てられないというか……」
「ほうほう」
「な~るほど……」

先程のド変態野郎発言は何だったのか。凄まじい勢いでハクジへの誤解を解こうとするタマキに、2人は心の中で突っ込んだ。

「とにかく!興梠はそんなクソ野郎じゃないんです!!誤解しないでください!!」
「あ~……うん。なんか、ごめんね……」
「すみません……私も口が過ぎました」
「分かってくれればいいんです。それじゃあ、私はお先に」

そう言ってタマキは、シャワールームを出ていった。

「さすがに意地悪すぎたかな……?」
「かもしれませんね~……。でも、あの反応は……」
「ん~、どうだろ?後でもっかいカマかけてみようかな」
「今度は穏便に、ですよ?今みたいな意地悪なのはナシです」
「分かってるよ~」

タマキが出ていったドアを見ながら、2人はやれやれと肩を竦めた。



「にゃあああああああッ!?」
「わああああああああッ!?ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」

その後、廊下で風呂上がりのタマキとランニングから戻って来たハクジがぶつかった悲鳴が轟いたのは、タマキが更衣室を出て5分と経たない頃だったという。



「それで、結局のところさ。環ちゃんの好きな人って、誰なの?」
「ふぇっ!?」

昼休み。食堂で突然振られた話題に、タマキは思わずテンパった。

「狛司くんではないんでしょ?」
「興梠はあくまで同僚です。そういう目で見たことはないですよ」
「ってことはさ、他に居たりするわけ?」
「そっ、それは……そのぅ……」

分かりやすくモジモジするタマキ。
シオンは思わずニヤニヤしながら、頬杖を着く。

「その人、第一の誰か?」
「ま、まあ……」
「同僚?それとも先輩?」
「いえ、その……」
「分かった!中隊長達だ!」
「ッ!?」

図星を突かれたようで、タマキは思わず肩を跳ねさせる。

「タマキさん、顔に出やすいですからね。わかりやすいですよ~」
「そっ、そんなに顔に出てるかな……?」
「出てる出てる~!で、誰なの?タマキのハートを射止めた中隊長は!」

興味津々、といった様子でずずいっと間を詰めてくるシオン。
タマキは思わず身を引きながら、両手の人差し指を突き合わせる。

「やっぱりフォイェン中隊長とか?中隊長の中で一番優しいし!」
「いやいや、カリム中隊長かもしれませんよ?一見怖そうに見えますけど、厳しい人ほど本当は良い人って言いますし~。口が悪いように聞こえますが、言ってることは特に悪くないですから~」
「え、えっと……」

隣には押しの強いシオン。目の前には切れ味鋭いヒータ。
この2人に挟まれてしまったタマキに逃げ道は……無い。

観念したタマキは、ぽつりと呟いた。

「その……烈火中隊長」
「「……へ?」」
「だから、烈火中隊長。……もう、二回も言わせないでよ」
「「……えぇぇぇぇぇ!?」」

タマキから返ってきた意外な答えに、2人は思わず席を立ち上がる。

「まさかの烈火中隊長!?」
「あの、中隊長で一番熱苦しい……いえ、熱血漢の烈火 星宮中隊長ですか?」
「そんなに驚く事ないじゃん……」
「いやー、意外だったもんでつい……」

突然の大声に驚く周囲に頭を下げつつ、シオンは席に座り直した。

「烈火中隊長のどんな所が好きなの?」
「そりゃあ、誰よりも熱いところがかっこよくて~、優しくて、いつも笑顔なところ……かなぁ」
「なるほど~。環さんは熱血系が好みなんですね~」
「皆は熱苦しいなんて言うけど、烈火中隊長の何事にも全力で挑んでいく熱意、私は憧れちゃうなぁ……」

両手で頬杖をつきながら語るタマキを見て、シオンは確信する。

(あ~……これ、ガチなやつだ。こりゃ噂は噂止まりって事かぁ……)

思いのほかお熱らしいその姿に、先程まで勝手に盛り上がっていた自分がバカらしく思えてしまう。

だが、そんな考えはものの3秒で切り替わった。

何故ならシオンは……かなりの恋愛脳なのである。

(まあでも、ここから狛司くんとの三角関係に発展するとか、まだまだ余裕で有り得るし?恋愛への興味関心の観点から見れば、狛司くんの方が望みありそうだし──これは見応えのあるレースになりそうね~」
「慈温先輩?何か言いました?」
「へっ?ううん、何でも!」
「ん~、やっぱりパンにもヨーグルトにも、イチゴジャムが一番ですね~」

思わず漏れていた心の声を誤魔化すシオン。
首を傾げるタマキに、黙々と昼食を食べ進めるヒータ。

そんな3人の元に近づく足音。
噂の主は、大盛りの白米を手に現れた。

「おっ、何だ何だ?女子会ってやつか~?」
「れ、烈火中隊長!?」
「ありゃ、噂をすればなんとやら……」
「こんにちは、烈火中隊長。お昼、今からですか~?」
「おうッ!組手の後の飯は、最ッ高に美味いからなッ☆」

噂の当人、烈火 星宮はいつもと変わらぬキラッとした笑顔を向けてくる。
手にしたお膳には山盛りの白米に、キャベツの千切りと大量の揚げ物が盛られていた。

「これ全部食べるんですか!?」
「勿論だ!やっぱ米には肉と揚げ物だぜッ☆」
「だからって、取り過ぎないでくださいよ?」

と、その後ろから声をかけたのは、同じく噂の当人だった。

「そう堅い事言うなよ狛司~!俺だってまだまだ食べ盛りなんだぜッ!せいッ☆」
「ちょっと興梠!?なんであんたが烈火中隊長と一緒にいるわけ!?」
「いや~、烈火中隊長が組手に付き合ってくれてさ。どうせだから一緒に昼飯食おうって言われて、ご一緒させてもらう事にしたんだけど」
「組手!?烈火中隊長と!?」

頷くハクジに、タマキは席を立って猛抗議する。

「一体どんな手を使ったの!?」
「同系統の能力だし、参考になるだろうからって中隊長の方から……」
「ズルいズルいズールーいー!!私だってまだなのにぃぃぃ!!」
「ええ……そんな事言われても……」

羨んでくるタマキの厚に押され、思わずたじろぐハクジ。

見かねた烈火は、タマキの頭に手を置いた。

「環も今度相手してやるから、な?」
「ホントですか!?約束ですよ?」
「勿論だぜ!俺は約束は守る男だからなッ!」
「ありがとうございます!!」
「ふぅ……危うく昼飯がひっくり返る所だった……」

ハクジは胸を撫で下ろすと、お膳をテーブルに置いて座る。

その向かいに、ホオズキが腰を下ろした。

「やれやれ、相変わらず騒がしい奴らだな……」
「あ、鬼灯くん。やっほー」
「ごきげんよう、シスター慈温にシスターヒータ。今日もガールズトークかな?」
「乙女は24時間365日、いつだってガールズトークに花を咲かせるものよ!」
「慈温さんの口は花咲かせすぎて、そろそろ萎れてるんじゃないですかね~」
「ん~?また毒が出てるねヒータ?ちょっと搾っちゃおうか~?」
「すみません生意気言いましたこめかみはやめてぇぇぇぇぇ!!」
「飯時に実力行使はやめてくれないか!?」

ヒータのこめかみを笑顔でグリグリするシオン。
半ギレ気味に止めに入るホオズキ。

人の事を言えない騒がしさに身を投じるホオズキ。その隣では何処か似た者同士な3人が、各々の昼食に手を付け始める。

「元気がいいな!俺も負けてられねぇぜッ!いただきますッ!」
「冷めたら勿体ないもんな。いただきます!」
「私も食べ終わらないと……いただきます!」

手を合わせた3人は箸を手に取り、茶碗に盛られたご飯をかき込む。

「二人とも、いい食べっぷりだなッ!その調子なら、二人ともすぐに強くなれるぜっ☆」
「ふぁいッ!ひんじんふぁいはい……んぐっ、新人大会、負けられませんからッ!」
「今年の代表は私と興梠の2人……第1の名前に恥じない活躍をお見せしますッ!」
「おうッ!まあでも第1の肩書きとか、そういう硬っ苦しいのは気にしない方が楽でいいぜ?お前らが全力で挑んで出した結果なら、誰も文句は言わないさっ☆」
「「烈火中隊長……」」

熱血漢からの思わぬ言葉に、2人は箸を止めて烈火を見つめる。

「まあ、どうせ目指すなら優勝がいいってのは、違いないけどなッ!」

烈火は再び豪快に笑うと……ハクジの皿からフライを一切れ掠め盗った。

「あああああああッ!?なに俺のアジフライ盗んでんですか!?」
「カッチャ☆」
「カッチャ☆じゃないですよ!?」
「いやー、美味しそうだったんでつい箸が動いちまったぜ☆」
「そりゃないですよ烈火中隊長ぉ!」
「もー、しょうがないなぁ。ほら、代わりに私のあげるから」
「ニンジン、ピーマン、セロリ……ってこれ全部野菜じゃん!?さては古達ちゃん、俺に苦手な野菜全部押し付ける気だな?」
「ギクぅっ!?」
「環、好き嫌いは駄目だっていつも言ってるだろっ☆熱くなれないぜ☆」
「だってさ。ほら、自分で食べろ~」
「ぐぬぬぬぬ……」
「からの烈火中隊長の唐揚げいただきっ!」
「うおぉぉぉぉい!?やるじゃないか狛司ぃ!」

年甲斐もなく、騒がしいやり取りを繰り広げる中隊長と二人の新人隊員。

皿のおかずを奪い合い、笑い合いながら食卓を共にする光景はまるで……。

「シオンさん、あの3人……」
「うん。多分私も同じ事思ってる」
「なんというか、まるで……」
「「「兄妹みたいだね(な)」」」

先輩二人と同僚は、その光景を微笑ましげに見守る。

これからも、こんな日が当たり前に続いていくのだと……この時、誰もが信じて疑わなかった。 
 

 
後書き
本日の烈火:めっちゃ兄貴ヅラしてくる

烈火中隊長、個人的には「嫌いじゃないけど絶対許せない」タイプのキャラだなぁと。
炎炎を既に観てる人達は、今回かなりの気持ち悪さを感じていたと思います。
でも烈火中隊長ならこんな感じで接してそうだなぁ……ってのが安易に想像つくから尚更なー……。

次回は新人大会、いよいよ原作主人公の登場です。
ハクジくんとどう絡むのか、お楽しみに! 

 

第参話「消防官新人大会」

 
前書き
3話目、ようやく原作主人公の登場です。

壱ノ章を完走したので、今日から弐ノ章をマラソンし始めました(笑)
配信終わるまでに予定してる最終話まで書き切りたいけど、これはまたレンタル頼りになるかなぁ。

2日後、12月12日は伴装者で純くんの誕生日回出すので、そちらもよろしくお願いしますm(*_ _)m

というわけで第3話、お楽しみください! 

 
青空の下。公園の芝生に、二人の少年が立っていた。

「オレ、やっぱりヒーローになる!ヒーローになって、困ってる人達みんな助ける!!」

ギザ歯の少年が、赤いマントをはためかせる。
青いTシャツと相まって、その姿はまるで小さなスーパーヒーローだ。

「だったらオレは、シンラのお助けヒーローになるよ!シンラがみんなのヒーローなら、俺はシンラが困ってる時に助けるんだ!」

もう1人、所々ハネたくせっ毛の少年が、ギザ歯の少年に微笑みかける。

「オレのお助けヒーロー?」
「うん!やくそく!ヒーローは助け合い、でしょ?」

ギザ歯の少年の顔に、満面の笑みが広がった。

「じゃあさ、ハクジが困った時は、オレが誰よりも早く助けに行くよ!」
「ほんと!?」
「ああ、やくそくだ!」

その日交わした約束が、2人の絆になった。
少年達はその後、降りかかる困難にもめげずに、立ち向かっていったらしい。

そして、その少年達は今──



「遂に明日だな、新人大会」
「絶対活躍するぞーっ!そして見事に、優勝してみせるっ!」

明日は待ちに待った新人大会。俺も古達ちゃんも、今から張り切っている。

「興梠、絶対負けないからな!」
「おう!俺だって優勝は譲らないから、覚悟しろよ!」

新人大会。それは年に1度、この時期に行われる消防庁の一大イベントだ。

入隊したばかりの隊員達の実力を、自他共に把握させる事が目的としたもので、つまるところ新米にとっては腕試しの場である。

新人達は自分の隊のメンツを背負い、優勝を目指す。まあ、隊のメンツを抜きにしても、順位があるなら一番を目指すのは当然だろう。

「おっ!張り切ってるなっ!」
「「烈火中隊長!」」

そこへやって来る烈火中隊長。
今日もいつも通り、にこやかな笑顔を浮かべて、そして熱血の炎を燃やしている。

「新人大会、燃えるよなっ!懐かしいぜ!」
「烈火中隊長は新人大会、どうだったんですか?」
「いやー、惜しくも優勝は逃しちまったんだよな~。あの時は悔しかったぜ!でも、全力で挑んだ結果だから満足だぜっ☆」

烈火中隊長の言葉には、全く曇りがない。
この人は本当に、心の底からその結果に満足しているんだろう。

皆が憧れるのも頷ける。烈火中隊長の熱苦しさは、後悔を残さない生き方の表れでもあるのだ。

「明日の大会、俺は来られないんだが、お前らの事は応援してるぜっ☆」
「えー!烈火中隊長、見に来てくれないんですかー?」

残念そうな顔をする古達ちゃんに、烈火中隊長は優しく微笑みかける。

「すまない環、その日はどうしても外せない用事が入っちゃったんだ。くぅ~……残念だぜ、年に一度の新人大会だってのによ~っ!」
「烈火中隊長……」
「でも、俺の分まで燃えてきてくれよっ!環、狛司、ファイトだぜっ☆」
「「はいっ!!」」

烈火中隊長が差し出した手に、俺と古達ちゃんも手を重ねる。

「ファイトぉぉぉぉぉッ!」
「「「いっぱーーーーーつッ!!」」」

円陣を組み、3人で重ねた手を高く掲げる。
これなら明日の大会は、全力で挑めそうだ。

「よぉし!今日は俺の奢りだぜっ☆ゲンを担いで、カツ丼食いに行くぞーっ!」
「いいんですか!?」
「明日の埋め合わせだっ!好きなだけ食っていいぞっ☆」
「ありがとうございますッ!」
「興梠、あんまり高いもん頼むんじゃねぇぞ~?」
「こういう時くらいはいいだろ~」
「何杯でも好きなだけ食え!俺もジャンジャン食うからなっ☆」

こうして、その日の夕食はカツ丼大盛りをおかわりした。

それにしても、新人大会か……。

久し振りに、アイツらにも会えるかな?
どの部署に入ったんだろうか。楽しみだ。



新人大会、当日。

各部隊の番号が振られたテントが張られ、隊員達が右往左往している。
第2、第3、第4、第5、そして第8……医療部隊である第6と、浅草の自警団から組み込まれた第7以外の部隊が勢揃いだ。

各隊の大隊長、中隊長も、新人達を励ますために集まっている。
この大会は、他の隊との顔合わせの意味もあるから、ここで交流を深めておくのも悪くないだろう。

それから来賓席には、聖陽教会の司祭様に灰島重工の社長さん、皇国軍の大佐殿と、特殊消防隊に関わる各方面のお偉方が並んでいる。

礼服やスーツの中、1人だけ白衣のもじゃもじゃ頭がいるんだけど、灰島の研究員だろうか?
どんだけ白衣好きなんだろう。ひょっとしたら年中白衣なのかもしれない。

あと、消防庁のマスコット『119(ワンワンニャイン)』も来ているようだ。
何度見ても思うんだけど……まもるくん、可愛いのか?
犬と猫のマスコットに、1人だけ混ざってる犬顔のおじさん……どう見ても浮いてるような──

「てめぇ!うちの大隊長に気安く話しかけてんじゃねーよ!……はにゃっ!?」
「わ!!違う!!ごめんなさい!!」
「何笑ってんだよ!変態!!」

って、この聞き覚えしかない声とやり取りはッ!?

慌てて声のした方向を見ると、古達ちゃんが男性隊員に胸を触られて……もとい、男性隊員の手が古達ちゃんの胸に触れてしまっていた。

「ああああああ待って待ってストーップ!!」

慌てて駆け出す俺。ラッキースケベられが理由で、他の隊とトラブルが起きてはたまらない。
全力疾走で駆けつけようとした俺は……

「ごめん、そこのお茶拾って!!」

通りすがりの隊員が落としたお茶缶を踏んずけ、派手に転んだ。

「どわあああああああああっ!?」

慌ててバランスを取ろうと、目の前にあった何かを掴む。
幸い、グラウンドに顔から突っ込む事態は避けられたようだ。

「はぁ、危なかった……」

むにゅっ♡

……ん?むにゅっ?
何やら手の先に、妙に生温かくて柔らかな感触が……ある……よう……な…………?

顔を上げると、そこにはきょとん、とした古達ちゃんの顔があった。

手の先を見ると、俺の両手は綺麗に古達ちゃんのズボンの中へと入っている。

……………………あ、これひょっとしなくても古達ちゃんのお尻だわ。

「にゃあああああああああっ!?」
「ごごごごごごごめん古達ちゃんッ!今離すk「何してくれてんだ興梠のド変態!!」待って今動かれるとぉわああああああっ!?」
「ひゃうっ!?」

手を抜く前に動かれたもんだから、古達ちゃんのズボンがそのままずり落ちる。
ついでにバランスを崩した事で、ズボンの下は思いっきり俺の顔の前に晒されてるんだけど地面に打った顎が痛ぇ!!

「チクショウ……いつもの“ラッキースケベられ”が発動するとは……」
「ふ、不幸だ……」

ズボンを履き直した古達ちゃんと2人、ガックリと肩を落として落ち込む。
他所の隊員の前でこんな醜態晒すなんて……。しかも地面に身体打った痛みで涙出てきたわ……。

「その口癖……!お前、狛司じゃないか!」
「え?」

古達ちゃんに絡まれていた隊員の声に振り返ると、その顔には見覚えがあった。

「久し振りだな!狛司!」
森羅(シンラ)!お前だったのか!」

森羅が差し伸べてくれた手を掴み、立ち上がる。

釣り上がった赤目、短い黒髪、サメみたいなギザ歯。
間違いない、森羅だ!

「お前の不幸体質、変わってないな……」
「お前の方こそ、相変わらずみたいだな。それで、どこの部隊だ?」
「第8だ。新設だって聞いてたけど、結構いい所だよ」
「第8か……確かに、お前にはピッタリかもな。アーサーもそっちなのか?」
「相変わらずバカやってる。狛司は、やっぱり第1か。おめでとう、お前なら行けると信じてたぜ」
「ありがとな」
「興梠、お前そいつと知り合いか?」

再会を喜び笑い合う俺達を、古達ちゃんが不思議そうな顔で見つめる。

「ああ。こいつは森羅 日下部(シンラ クサカベ)、俺の幼馴染だ」
「へぇ……」
「なあ狛司、こいつも第1の隊員なのか?」
「古達ちゃんか?俺と同じ第1の新人隊員だけど、何か疑問でも?」

森羅は古達ちゃんの方を見ながら、ボソッと呟いた。

「いや……防火コートはちゃんと閉めろよ……」
「しっ、仕方ねぇだろ!私の能力はこうした方が動きやすいんだから!」
「それは俺も思ってた。古達ちゃん、能力使ってない時くらい前は閉めた方がいいぞ。その黒ビキニ、男には中々刺激が強──」
「分かったよ!分かったからこっち見んな!」

俺が古達ちゃんに引っぱたかれた所で、競技開始5分前の合図が鳴った。

「そろそろ集合か」
「あっ、悪い。先行っててくれ」
「森羅?何処へ行くんだ?」

集合場所ではなく、反対側へと向かっていく森羅。
その先に居るのは……。

「バーンズ大隊長?」

俺達第1の大隊長、レオナルド・バーンズ大隊長。
年齢50歳でありながら、老いを感じさせない筋肉隆々な体格。眼帯で隠した右目、後頭部で結った白髪は、体格と相まってベテランの風格を放つ。

ちょっと迫力あるけど優しそうな表情には、何処か父親のような温かみを感じずに居られない。
エリート部隊を率いるに相応しい、威風堂々とした人だ。

「あの新人、第1(うち)の大隊長に用があるみてぇなんだ。興梠、心当たりあるか?」
「どうだろ?聞いてみなきゃ分からないな……」

バーンズ大隊長と森羅が何を話していたのか、俺達には分からない。
だが、少なくともバーンズ大隊長に軽くあしらわれた事は、遠巻きに見ていてもわかった。

森羅……何を話したんだ?

それと古達ちゃん、大隊長に絡みに行ったからって森羅を蹴るんじゃありません。飼い主をとられた猫じゃないんだから。



「これから、火事場に見立てたあの建物に一斉に突入してもらう。障害を突破し、要救助者を助けてから、最も早く焔ビト役の隊員の元に辿り着け!」

試験官の説明を聞きながら、建物を見上げる。
外から見た所、内部には複数の階層が存在し、3つのエリアに分けられているようだ。
ご丁寧に『壱』、『弐』、『参』と書かれたパネルが付いている。

灰島が建築に携わってるらしいから、おそらく障害として用意されたトラップも、実際の火災現場を想定した本格的なものが用意されているのだろう。

「なるほど、攻城戦か!」
「攻め込むわけじゃねェだろ」

森羅が隣の騎士バカ玉葱頭にツッコミを入れている。
本当に訓練校にいた頃と変わってないな……。

「火怖い……火怖い……火怖い……消す!絶対消す!」

隣のやたら着膨れしてる背の高い隊員は……第2の所属か。
軍中心の部隊らしからぬビビりっぷりだけど、大丈夫だろうか?

「最も早く焔ビトを捜し出し、鎮魂せよ!用意はいいか?」

っと、そうこうしてる間に競技開始だ。
隊員達がそれぞれ、スタートダッシュに備える。

「スタートォォ!!」

試験官が指を鳴らすと同時に、その指先から炎が上がった。 
 

 
後書き
本日の烈火:カツ丼奢ってくれた。

察しのいい人は気付いてるかもしれませんね……。
何が、とは言いませんが(笑)

次回はジョーカー戦。対人バトル描写だヒャッホイ!!お楽しみに!
 

 

第肆話「ジョーカー」

 
前書き
今年初の更新ですね。

YouTubeの炎炎全話無料配信、5月9日までらしいので早めに更新進めないとなぁ。
この機会にフォロワーさん達ももっと炎炎観て欲しい。マジで面白いから。

今回はダークヒーローおじさん、もといジョーカー登場。
今年もタマキちゃんのラッキースケベられは絶好調だよ!お楽しみに! 

 
開始の合図から10分ほど経過した後、俺は着々と障害物を乗り越え進んでいた。

道の途中に炎が噴き出したり、壁や柱、天井が崩壊したりと障害物が多数あった。道こそ入り組んでいるものの、どれも予想の範疇を出なかった。

……が、あれは流石にズルいだろ。

競技開始の合図の直後、新人消防官達は一斉にスタートした。
ところが、その中に1人とんでもないやつがいた。

俺の親友、森羅日下部である。

第三世代能力者である彼の能力は、両足から炎を噴射することであり、空を飛ぶことが出来る。

つまり……

『ヒーローはいつだって、空から登場だぜ』

一人だけ空飛んで障害物を全部避け、一足お先に上の階へと到達しやがったよあの野郎!!

ルール違反ではないが、大会の趣旨に沿っているかと言われると……いや、でも現場で厄介な障害物を無視して要救助者の元へと辿り着けるのは、消防官として見ればとても理に適ってるし……。

うーむ……腑に落ちないけど文句の付けようはないな……。

だが、俺だって負けられない。
今のところ、他の消防官達を追い抜いてトップを独走しているのは俺だ。
このまま進めば、森羅はすぐに見えてくるだろう。

──その時、空気が揺れた。

(ッ!?爆発音!?)

断続的に音が反響し、壁が振動する。

これも訓練……なのか?いや、何かおかしいような……。

音の聞こえた方向へと足を進める。
一歩進む毎に嫌な気配がひしひしと肌に伝わってくる。

あくまで直感だが、日常的に不幸に苛まれている俺のカンはよく当たるんだ。
それも、危険察知に関してなら人一倍だと自負している。危機回避までは難しいのが難点だけど。

ともかく、この先に何らかの危険が存在するのは間違いない。
それが何なのか、確かめなければ……。

……とその時、右側の壁が綺麗な三角形にくり抜かれた。

「なんだ!?」

思わず構える俺は目を凝らす。
壁をくり抜いて出てきたのは……

「む……なんだ、カヴァスか」

バカ騎士もとい訓練校の同期、アーサー・ボイルだった。

「なんだ、アーサーか……。お前、その呼び方やめろって言ってるだろ。俺にはちゃんと狛司って名前があるんだ」
「フッ……」
「いや、フッ……じゃないだろ!?」

アーサーは基本的に他人を名前で呼ばない。
万年厨二病のアーサーは自らを騎士王と名乗り、先輩方や教官達にさえタメ口かつデカい態度を取るくらいの馬鹿だ。

能力は高温のプラズマで剣を形成するというものであり、普段持ち歩いている十字架型の柄だけの剣には「エクスカリバー」と名付けている。

そんなアーサーから俺が付けられたあだ名こそ、「カヴァス」である。
アーサー王お気に入りの猟犬の名前らしい。

「俺はお前の犬になった覚えはないぞ」
「そんな事よりカヴァス、この爆発音はなんだ?」
「いや聞けよ。無視すんな」

久し振りだが、相変わらず話を聞かないアーサーに一言言ってやろうと思っていたその時、またしても爆発音が響いた。

それも、さっきより音も揺れも大きい。

反射的に身構えた、その直後──

「うわああああああああっ!?」
「え?ええええええわぶぅっ!?」

親方、天井から女の子が……。

「いてて……はー、ビックリしたぁ……」

この声……間違いない、古達ちゃんだ……。

「っ!……この先、嫌な気配が……すごく嫌な危険な香りがする……」
「そいつは犬型の座布団ではないぞ?早く降りてやれ」
「へ?」
「犬じゃねぇ……あと古達ちゃんそろそろ降りて……」

アホのアーサーだが、流石に視界を長時間女の子の柔らかくてデカいお尻が占めてるのは色々と不味い……という気遣いくらいはできる。

アーサーに言われてこちらに顔を向ける古達ちゃん。この後のパターンは、もう読めている。

「はにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!?どうして下にいるんだよ興梠のド変態!!」
「痛い痛い痛い痛い!!ごめんってば!!でも今回俺悪くないでしょ!?」
「その辺にしておけ。そいつは犬型のサンドバッグでもない」
「だから犬じゃねぇ!!」

ポカポカと音が出るくらい俺を叩きまくる古達ちゃん。諌めようとしてるけど相変わらず俺のことは犬呼ばわりのアーサー。

何だこの状況、ツッコミ不在か?

「そ、そんな事より先進むぞ!森羅に何かあったかもしれないんだ!」
「そうだった!行かなきゃ……」
「あの悪魔に心配は不要だと思うが……」

今はこんな事してる場合じゃない。この先で何が起きてるのかを確かめなければ。

音のした方へとしばらく進むと、前方にある広い部屋から煙が溢れていた。

この臭いは……爆煙?
発煙筒から出る煙に比べて明らかに焦げ臭い臭いがする。

「行こうっ!」

すると、古達ちゃんが一人先に走り出した。

「おいっ!」
「待つんだ古達ちゃん!何が起きてるかまだ……」

古達ちゃんが部屋へと入った次の瞬間、シュッと空気を切る音がした。

「危ないッ!!」

俺より先に、抜刀したアーサーが動いた。

エクスカリバーが、古達ちゃんを狙っていたそれを弾き返す。

「今のは……炎のカード?」

カードが飛んできた方向へ目をやると、そこには見知らぬ人物が立っていた。

「ゆっくりしすぎたか……邪魔が来だした」

まるでカードディーラーのような服装に、長い黒髪と黒い帽子。そして左目を白いレースの刺繍が施された黒い布で隠した男が、煙草を咥えて立っていた。

「待たせたな、焔ビト役」
「いやどう見ても違うだろ!?」

キメ顔でそう言ったアーサーにまずツッコミを入れておく。
さっきスタート地点で見た焔ビト役の隊員と明らかに違うだろ!?
そもそも服装からしてどう見ても関係者じゃないぞ、怪しすぎるだろ!!

「アーサー!狛司!競技施設内に不審者が侵入、危害を加えられた2名の隊員が負傷!外の隊長に報告しろっ!!」
「なにっ!?」

森羅の額には切り傷があり、血も出ている。
どうやら本当にアクシデントらしい。急いで報告しなければ……。

だが、このバカ騎士(アーサー)は不敵に笑うと自信満々に言い放った。

「……フッ、嘘をつくな。勝つのは俺だ」
「は?」
「アーサー、森羅は嘘なんて……」

アーサーは俺と森羅の話も聞かず、エクスカリバーを手に不審者へと突っ込んで行った。

「俺が捕まえるっ!!」
「だあああああああっ!バカ騎士ぃぃぃぃッ!!」
「あのバカ!!あーもう、森羅!ここに寝てる2人でいいんだな!?」
「ああ、頼んだ!!」

アーサーが戦ってる間に、焔ビト役と要救助者役の隊員を部屋の隅へと運んでおく。
幸い、息はあるようだ。気絶しているだけらしい。

一方、謎の男はアーサーの剣を全て軽々と避け、笑っていた。

「その剣を振り回して、どう俺を捕まえる気だ?」
「私を、忘れるんじゃねぇぇぇぇぇッ!!」

そこへ、古達ちゃんが猫の如く躍り出る。
猫又の尻尾を伸ばすと、不審者をそのまま縛り付けた。

「捕まえたっ!」

不審者を拘束し、思わず自慢げに笑う古達ちゃん。

いや待て、あの男懐から何か取りだして……ッ!?

俺は反射的に、古達ちゃんの方へと動いていた。
両掌の炎をジェット噴射として、一気に加速する。

「んにゅ?」
「古達ちゃん危ないッ!!」

古達ちゃんを抱え、床に身を投げ出した次の瞬間。

ボンボンボンッ!!

ついさっきまでたっていた場所で、断続した爆発が起こった。
しかもかなり威力の高い爆発、音の正体はこれか!!

「新人大会でここまでするの!?」
「そんなわけあるか!!」
「だから言ってんだろ!競技は中止だ!!」

古達ちゃんもアーサーの言葉を信じていたらしく、驚いた表情で爆煙の先を見つめる。
隣ではアーサーが口を空けてポカーンとしていた。お前はもう少し人の話を聞けこのバカ。

「お前、いったい何者なんだよ!?」

俺の問いには答えず、煙の先で男は、ただ両手指の先に持った小瓶に入った()()()()()を散布しながら笑っていた。

「森羅ァ~、お前がヒーローに拘るなら……ここにいる連中を一人残らず助けて見せろ」
「ッ!?またあの灰っ!?」

灰は流れるように部屋中へと広がっていく。
この灰が爆発を引き起こしていたのは、今見たばかりだ。

灰……粉末……密室……爆発……。

……ッ!?ちょっと待て、確か訓練校で習ったものの中に……。

「何だこれ?」
「灰……?」
「これは……」

アーサーと古達ちゃんが周囲を見回す。

四方を壁に囲まれた部屋……充満した可燃性の粉塵……そして、この場にいるのは黒ずくめの男を含めて第三世代能力者揃い……これは、マズいッ!!

「じゃあな、悪魔。お前がその気なら、この”ジョーカー“の仲間に入れてやる……上手くやれよ?」

それだけ言い残すと、ジョーカーと名乗った男はタバコの煙と共に姿を消した。
ご丁寧にも、煙で『Bye』の文字を描いて。

「チッ……早くここから逃げるぞッ!!爆発するッ!!」
「ええっ!?」
「ッ!?」

俺が叫ぶと、ジョーカーのいた方を見つめていた森羅はハッとなり、気絶している隊員達の元へと駆け寄った。

「この人達は俺が運ぶッ!狛司、アーサーと猫女をッ!!」
「了解ッ!!アーサー、天井を抜け!脱出するぞッ!!」
「騎士に指図していいのは、麗しき姫だけだッ!」

そう言ってアーサーは跳躍し、エクスカリバーで天井を三角に斬り裂いた。

だが、切断されたはずの天井が、5秒経っても落ちてこない。

「フッ……切り口が鮮やか過ぎて落ちてこないぜ……」
「何カッコつけてんだバカぁぁぁぁぁッ!!」

命の危機が迫ってんのにドヤ顔してんじゃねぇよこのバカ騎士はあああああッ!!

「退いてッ!天井を抜くんだろ?」

と、古達ちゃんがアーサーの背中を思いっきり突き飛ばし、切れ目の入った天井の真下に立つ。

「はあああああああッ!たああああああッ!!」

尻尾を勢いよく伸ばし、天井を思いっきり押し上げる。ようやく出口が空いた所で、森羅が一足先に飛び立った。

「2人とも掴まれッ!」
「急げ狛司ッ!!」

既に周囲の灰から灰へと燃焼が伝播し、連鎖爆発を起こしている。
古達ちゃんとアーサーがしがみついた直後、俺は脇目も振らずに両掌を床へと向けて飛び立った。

激しい熱が足元から伝わってくる。
炎には耐性のある能力者と言えど、追いつかれればタダでは済まない恐怖の息吹が轟音と共に迫って来る。

ヤバい……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!
追いつかれれば爆風で空まで吹き飛ばされ、勢いよく地面に叩きつけられる!!炎熱の影響以外には、能力者も普通の人間と変わらない。確実に死ぬだろう。

死にたくない死にたくない死にたくない!!こんな所で、死ねないんだあああああ!!

「クソッタレッ!!消防官はヒーローなんだよッ!!」

森羅の声が聞こえる。
ああ、そうだな。ヒーローは死なない。ここで生きて帰らなくちゃ、約束は果たせないッ!!

「死んでたまるかあああああああああッ!!」

そして、森羅と俺が天井を抜けたその直後だった。

ドガァァァァァァァァンッ!!

大きな爆発音と共に吹き上がった煙炎が、脱出した俺達を吹っ飛ばした。

振り落とされた古達ちゃんとアーサーが宙を舞い、俺もバランスを崩して落下する。
チクショウ、ギリギリ脱出出来たのに爆発からは逃れ損ねたッ!!

「狛司ッ!アーサーッ!猫女ッ!!」
「たぁぁぁすけてぇぇぇぇあわやわわわわわふえぇぇぇぇん!!」
「南無三……」

手足をバタつかせながら絶叫する古達ちゃん。

こればかりはどうにもならない、と諦めた顔のアーサー。

両肩に気絶した隊員を抱えてるため、俺達を助ける余裕が無い森羅。

凄くマズい状況だ……!

空中で体勢を立て直し、何とか二人を助けないと……。

「古達ちゃん!俺に掴ま──べふぅっ!?」

何かが、俺の額に直撃した。

「はにゃあああああああっ!?何でこんな時に脱げちゃうんだよぉぉぉぉぉッ!!」

目の前には落下の風圧でブーツが脱げて裸足になった古達ちゃん。なるほど、それが俺の顔に飛んで来たのか……。

「不幸dぶわぁっ!?」
「にゃあああああああっ!?コートまで脱げたあああああああっ!?」


そして真っ黒なものに覆われる俺の視界。
今の声からして、おそらく古達ちゃんの防火コート。クソッ、前が見えない!!

前が見えない上に何かこう、脱ぎたてコートの生暖かさが顔全体に!!あとめっちゃいい匂いする……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!こっちは別の意味でヤバい!!

集中が途切れるし、方向感覚も掴めない……。

誰か……誰か、何とかしてくれぇぇぇぇぇッ!! 
 

 
後書き
こんな時に不幸体質が発動しちゃった狛司くん。絶体絶命、どうなる次回!?