緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
閑話(スペース) 死角無き戦車(ノンホールチャリオット)
前書き
リハビリがてら書いたものです。
いつもと変わらず四限までを終えた俺は、探偵科棟の屋上に身を置いていた。
柵に両腕を置きながら見飽きたとも言える東京湾の景色をただただ意味もなく眺めていると、屋上入り口の扉が開かれる音がした。
「……ん」
気怠げに体を起こして振り返ってみると、臙脂色のセーラーに身を包み、茶髪をポニーテールに結った少女の姿を捉えた。俺はその少女に対して投げかける。
「何の用だ——マキ」
俺の前に現れた彼女は強襲科所属の武偵、大岡マキ。俺のパートナーであり、幼馴染だ。
「お昼ご飯一緒に食べない、って誘いに来たんだけど」
「……もう昼休み始まってから10分過ぎてるけど」
腕時計を見やりながら溢す。昼食べるならさっさと食わなきゃ時間がなくなるからね。そこを考慮しても時間が少しばかり経ち過ぎているかと。
「シュウ君がチャイムと同時にどこか行っちゃうからじゃん」
「……それもそうか」
彼女の返答により自身のせいであったと理解する。これは、俺のせいでしたね。マキさんの貴重な時間を10分も無駄に消費させてしまいましたね。反省してどうぞ。
内心でボヤいていると、マキが俺の方へ歩みを進め傍らに立った。
「というか油断しすぎじゃ無い?」
「武偵高にいるからかもな」
「この前ケースD7出たばかりなのに?」
「そうでした……」
マキの言葉に大きく項垂れる。つい数日前のアドシアードの時に事件起きてるじゃん。それも二件。なのに平和ボケしたような状況にある今の俺。気張りすぎてた反動だろうか。軽度だが倦怠感を感じている始末だ。
そんな俺の手前、再びマキが口を開く。
「武偵は常在戦場——」
彼女の言の葉を聴きながら、反射的に左腰のホルスターにしまっていたDEを左手で抜き彼女の方へ向けて突き出す。
すると、いつの間にやら抜いていた向こうの愛器グロック17の銃口と俺のDEの銃口が接した状態で激突した。
「——だな」
先の彼女の言葉に首肯しながらも、変わらずに銃の位置を維持し続ける。右手での抜き出しを読んで左で抜いたがドンピシャを引いたみたいで自分でもびっくりしてる。
「やっぱりシュウ君は速いね」
「声掛けがなかったら普通に遅れて死んでたな」
「大丈夫だよ。急所は外すから」
彼女の返答に畏怖を覚えつつ、構えていたDEをホルスターに収める。マキもまたグロックをホルスターにしまった。とりあえず一段落した、な。
「怒ってる?」
「ええっと、何に対してだ?」
不意に投げられた問いに僅かにだが戸惑う。今のことに対してなのか。はたまた一人でいるところに水を差されたことに対してなのかが分からなかった。本音を言うとどっちも怒ってないがな。
「私がロンドンに行きたいって言ったこと」
「んんっ?」
予想の斜め上を行く答えに驚愕する。え、マキさん急にどうしたのロンドンの話なんかして。今のこの流れで繰り出されるとは思わなんだよ?
「なんで、だ」
「シュウ君に、辛い思いをさせちゃったかな、と思って」
そう言って、先の俺宜しく柵に腕を置いてもたれるマキ。その瞳は、どこか哀しげに揺れている。
対して柵に両肘と背を預け寄りかかっている俺は、空を仰ぎながら彼女の言葉に応じていく。
「怒ってなんていないさ。あそこで経験したことは、今現在の俺にしっかりと繋げられているし」
そう言って両手を強く握る。あの時経験したのは、本物の戦場。日本という、戦争とは遠い場所での銃撃戦ではなく、互いに殺し合う中東の砲弾行き交う空の下、巻き上がる砂塵と激しい硝煙の匂い、そして——人の叫び。
その中を駆け抜けて、標的を捕らえる。そのために数多の武装を手にし進んで行った。それが俺の通り名『人間戦車』の所以。
脳裏にこびりついて離れない、凄惨な場面も多々あった。けれど、それらは今の俺に強い覚悟と意義を与えてくれた。
「だから、ロンドンに行ったことを辛かったと後悔はしていないし、行って良かったと思ってる部分もある」
「そっ、か」
俺の返答を聞いて、少しばかり安堵した様子を見せるマキ。その姿を見ていた俺は無意識の内に新たな言葉を紡いでいた。
「——むしろ謝らなければいけないのは俺の方だよ」
「え?」
俺の言葉に面食らった表情を浮かべたマキ。俺はと言えば、彼女の方を向くどころか俯きがちになりながら続きを吐き出していく。
「俺は、マキのことを置いて一人で日本に戻ってしまった。自身を制御できなかった結果の身勝手な理由だけで」
中東で水蜜桃と対峙したあの時、俺は自分自身を制することができず感情のままに刀を振るった。その結果、人を殺めてはいけない武偵という立場でありながら、人を殺めかけてしまった。
そんな自分に失望した俺は、刀をマキに預けて一人日本へと戻ってきてしまった。このことを凄く申し訳なく思っている。未だに悔いているぐらいには。
「だから、ごめん」
「謝らないで。私も、怒ってないから。仮に私がシュウ君と同じ立場だったらきっと、同じようにして日本に戻ってたと思う」
「でも俺は、武偵を辞めようとした……」
自責の念に押し潰されそうになり吐き出してしまった本音。彼女を失望させてしまうかもしれない。そんな恐れと共にマキの方を見やるとこちらをまっすぐと見据える彼女と視線があった。
「そうかもしれない。でもシュウ君は、帰国してからも武偵であり続けてくれたし、私のことをパートナーに選んでくれた。その事が凄く——嬉しかった」
言い切った後、こちらへと優しく微笑みかけてくるマキ。……また、彼女の言葉に、想いに救われてしまったようだ。昔からずっと、彼女に助けてもらってばっかり、だな。
「ありがとう、マキ」
「ううん。こちらこそ」
互いに謝意を述べて笑い合った直後、再び入り口の扉が開く音が耳に届いた。……え、今度は誰?
「あら、抜け駆けでして?」
「凛音……!」
俺たちの視線の先に現れたのは沖田凛音……殿。鑑識科所属の武偵ですが……何用で探偵科の屋上に来たんだお前。あ、そもそも探偵科と鑑識科は同じ探偵学部だからここにいても問題ないのか……じゃなくて。
「あの凛音さん、なんかキャラ違いません?」
「あらそうでして?」
「やっぱなんか変だぞお前……」
普段とはどこか違った言動をする彼女に訝しみながら言葉を投げていく。後その左手に持った日本刀はしまっておいてもらえると嬉しいのですが。精神衛生的な意味でも。
「私にあんな事をしておいてマキにもそんなことを言うのね?」
「は、え?」
「私の事をあんなに強く抱きしめて……」
訳がわからずに戸惑っていると、凛音から爆弾発言が飛び出す。おい、待て。半分以上語弊じゃないか。半分は語弊じゃないけども……ッ!?
内心で抗議していると、自身の傍らから強い殺気を感じる。
「……シュウ君?」
「待て、誤解だ! 話せばわかる!」
「ここは屋上ですよ」
いつの間にやら姿を現した第三の少女こと尋問科所属の武偵、土方歳那に揚げ足を取られる。犬養方式の説得を試みているところに横槍されたよ。後いつからそこにいたんだお前は。
「歳那さん、そうじゃなくて」
「シュウ君……どう言うことか説明してね嘘偽りなく。じゃなかったら、蜂の巣だよ?」
全身の至る所、加えて言葉の端々に殺気を纏わせたマキを前に後退る。これは、普通に正面からお話しても生きて帰って来れるビジョンがないね。サイレントアンサーの俺もきっと同じことを言うよ。こうなった時のやることは、一つ。
「三十六計ーッ!」
ベルトに内蔵したワイヤーを引き出しながら、フェンスを飛び越え下へと落ちていく。こう言う時は恥を捨てて逃げる一択! だってあの三人を相手取って勝てる気がしないもん!
「シュウ君!」
「待ちなさい!」
「停止を推奨します」
各々がこちらへの制止をかけながら追うようにして柵を飛び越えてきた。……今日の昼休みは飯食えそうにないな。小さくため息をつきながら地に足が着いた俺は、ワイヤーを外して走り出すのだった。
第00弾 〜プロローグ〜
前書き
初めまして、希望光と申します。
元々はハーメルンで投稿していましたが、マルチ投稿という形で、こちらでも投稿しようと思い、こちらに来ました。
未熟者ですが、私の思い描く話にどうぞお付き合いくださいませ。
では、本編の方をどうぞ
——平穏に生きたいと願えば願うほどそれとは程遠いものとなる——
その言葉の通り、昨日読んだ漫画は平穏を望んだものが願いとは逆の方向に進んでしまう話だったな……。
そんな俺も今それと同じ状況にいる。
(俺は、俺はただ平穏な日常を過ごしたいだけなのに……)
そんな俺の願いは音を立てて虚しく散って行った。
その、俺の前には1人の少女が立っている。
まるで小学生のような見た目をした俺と同じ高校2年生のな。
外見的特徴は、推定身長140センチ弱、ピンクブロンドのツインテールに、赤紫色の瞳。
その手には、左右で色の違うコルト・ガバメントを携えている。
1年の3学期にここ東京武偵高校の強襲科アサルトに留学生として入ってきた神崎・H・アリアである。
「私が勝ったら私のドレイになりなさい! 樋熊シュウヤ!!」
何故だ、何故なんだァ!!
———ここ、東京武偵高校はレインボーブリッジの南に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人工浮島メガフロートの上にある。
学園島と呼ばれているここは武偵の総合教育機関である。
武貞とは、凶悪化する犯罪に対抗するために作られた国際資格で武偵免許を取ったものは武装を許可され逮捕権を有するなど警察に近い活動ができる。
そして、俺こと樋熊シュウヤは東京武偵高校に通う、普通の2年生である。
因みに今日は新学期が始まって3日目。時間は昼休み。
現在俺のいる場所は強襲科———通称『明日無き学科』の専用施設で『黒い体育館』と呼ばれる演習場である。
今俺は、強襲科Sランク武偵の『双剣双銃カドラのアリア』こと神崎・H・アリアに決闘じみたものを挑まれている。
もちろん決闘のため俺が負けた時はさっき彼女が言っていたとおり彼女のドレイにならなければならない———って、そんなの一般常識的に考えたらありえないだろ!?
つーか、ドレイって何!? 何されんの俺!? 最初に決闘申し込まれた時と、言ってること違うんですけど?!
俺が決闘を申し込まれたのは、今朝1時間目が終わった後である。
屋上で風に当たっていたら、いきなり現れて『アンタに決闘を申し込むわ!!』とか言われた。
内心『?』となった俺は取り敢えず事情を聞くことから入った。
そしたら、『アンタが凄い武偵だって聞いたから』という理由だった。あのー、ものすごく迷惑なんですけど。
そんな俺の内心はスルーされ、決闘の勝敗の時の条件を言われた。
その時の条件は確か———
『私が勝ったら、キンジについて知ってること全部教えてもらうからね!』
こう言われたが、俺は『面倒いからp———』と言いかけたら、即座に『来ないと風穴を開けるわよ!』と返された。ていうか、なんでキンジ? と思っていた俺に質問する暇は無かった。なんか、反論できる空気ではなかったからである。
因みにキンジとは俺の友人の事だ。
ついでに、何故かありがたいお言葉(?)まで頂いた。
「私には嫌いな言葉が三つあるわ。それは『無理』、『疲れた』、『面倒臭さい』。この三つは、人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉よ。これからは、私の前でこの言葉を言うのは禁止ね」
と言った感じである。
「はいはい、分かりました」
と流そうとしたところ言葉を間違えたようで叱られた。
「返事は一回!」
「はい……」
こんな謎のやり取りをしていた。要するに、半ば脅されてこの場に立っているのである。
無駄だと思いながらも一応「俺に拒否権は?」と聞いてみたが無論、「無いわよ」と返された。
デスヨネー……。
と、ここまでの経緯はこんな感じ。
そして、今俺は一番疑問に思っていることを彼女に聞いてみた。
「なんで、俺なんだ?」
この質問も、ほぼ何の意味も成さなかった。要するに無駄だった。
「太陽はなんで昇る? 月はなぜ輝く?」
話が全くと言っていいほど噛み合わない……。
ていうか、質問文に質問文で返してくる奴初めて見たわ……。
まあ、今ので大体の真意はわかった。
「要は、自分で考えろってことだろ?」
「そうよ」
あー、やっぱそっち系ですか。
「思い当たる節はいくつかあるからなんとなくわかった」
「あいつとは違って理解が早いわね」
「そりゃどうも」
褒められても嬉しくない……。
「あと、今回の決闘についてひとつ提案が」
ここで俺はある提案を持ちかける。
「何?」
彼女は怪訝な顔で尋ねてきた。
「決闘についてのことなんだけど———」
「言ってみなさい」
許可降りたので俺は提案の内容を話し始める。
「俺が負けた場合は俺のことを好きにしていい。ただし俺が勝つ、又は引き分けだった場合は何も無し。試合時間は昼休みが終わるまで。これでどう?」
「……いいわよ」
少し考え込んだ後、彼女は渋々了承してくれた。
「ただし、一人のSランク武偵として本気で掛かって来なさい!」
「分かった、本気で挑むと約束するよ」
———この状態のままでの本気だがな。
そして、この日知ることになった。
———「人は生まれ持った性からは逃れられない」———と言うことを
後書き
如何だったでしょうか。
既にハーメルン様では投稿し切っているところまでは、継続的に更新していく予定です。
では、今回はこれで
第01弾 〜Starting of battle(試合開始)〜
前書き
第1話です
気がつくと周りには何人かの生徒が集まって来ていた。
その中のうちの一人に自然と目がいく。
俺の視線の先にいるのは強襲科所属のEランク武偵であり、神崎の戦妹の間宮あかりである。おそらく呼ばれてきたのであろう。
ていうか、なんでこんなに見物客がいるの??
そう思いながら、うっかり聞くのを忘れていたことを聞いてみる。
「ところで訓練施設の使用許可もらってるのか?」
「それなら安心していいわ。昨日のうちに蘭豹先生にも許可もらってるし———」
今納得した。この見物客たちについて。蘭豹が広めたせいだ!! ていうかこの戦い昨日から企ててたのかよ!?
ぶつけようのない怒りを抑えながら俺は努めて冷静に振る舞う。俺の顔にその表情が現れていたのか、彼女は少しまってくれた。
ある程度落ち着いたところで、
「さて、始めますか」
俺がそう言うと彼女は、
「あかり! 試合開始の宣言よろしく!」
「はい!!」
間宮が元気のいい大きな声で返事した後、
「レディー……ファイト!!」
と叫び決闘が始まった。
開始の宣言と同時に彼女は両手のガバメントの装弾を行った。
「お先にどうぞ」
ポケットに手を入れた体勢でそう言う。
「何よ、怖気付いた訳?」
「いいや———レディーファーストだ」
「そう。なら遠慮なく行かせて貰うわ!」
その言葉を発すると同時に左右のクロスした手に持ったガバメントから一気に.45ACP弾を放ってくる。
俺はすかさず右前方に前転の容量で回転しながら避ける。なんて、正確な射撃なんだ。胸をしっかりと捉えるコースで撃ってきた。
しかし、今の射撃コースは想定内。開幕攻撃の仕方をいくつか頭に浮かべてをいたのが正解だったみたいだ。
体勢を立て直した俺はホルスターから、自ら改造を施した黒のデザートイーグルを取り出す。
デザートイーグルは世界最強の自動式拳銃と言われていて、.50AE弾という高威力の弾を使用することができる。
だが、威力が高いのと引き換えに発砲した際の反動は凄まじく、狙いを定めて撃つには両手持ちが無難である。
俺は右手に持ったDEを左手で抑えるように構え、右方向へ跳びながら神崎目掛けて発砲した。
彼女はそれを飛んで回避し、回避した方向から回り込むように走りこんで来る。
それを迎え撃つために銃を向けるとすでに発砲していた。
しまった……! 銃を撃った瞬間は全くといいほど分からなかった。
反応が遅れた俺は、ギリギリのところで胸に向かって飛んできた銃弾を右肩の位置に当たるように避けた。ズッシリと重たく鈍い痛みが右肩を襲う。
「クッ……!」
銃弾の痛みで軽く体勢を崩した。
そんな俺を見て彼女は銃を弄びながらこう言った。
「変ね……。あんたはまだ本気を出して無いみたいね。早くあんたの本気を見せてちょうだい!」
そう言い終わると同時に、彼女は銃を構え直した。
「これでも……本気出してんだよ……今の状態のだが……」
俺は嫌なんだ……本気を出すのが。本気を出した俺になるのが……!
だから決めたんだ。2度と、2度とアレには頼らないって。
歯を食いしばって痛みをこらえながら立ち上がり、DEを低反動モードに切り替えた俺はホルスターから別のDEを取り出しこちらも低反動モードに切り替えた。もちろん色は黒。二挺拳銃である。
「そうこなくっちゃ!」
俺が二挺拳銃にしたことで、彼女は俺が本気を出したと勘違いしたらしい。物凄く嬉しそうな顔をしている。
両手に持ったDEを3点バーストに切り替え、込めた弾を一気に発射した。.50AE弾による牽制を兼ねた攻撃だ。
「狙いが甘いわ。そんな狙いじゃ当たらないわよ」
彼女は、弾幕をものともせずに避けた。
そして即行で弾倉を入れ替えるとこちらと同じく3点バーストに切り替えたガバメントで.45ACP弾をかましてきた。
「そこ!」
彼女が叫びながら弾を放ってくる。俺は寸前の所でそれを避ける。
「クッ!」
そして、向かってくる弾の数々を躱しつつ相手の懐へと飛び込みそこから、近接拳銃戦での勝負に移行する。
近接拳銃戦とは、その名の通り拳銃を使った近接戦闘である。
常に防弾服を着ている武偵同士の近接戦では、拳銃弾は一撃必殺の刺突武器になりえない。つまり、打撃武器として扱うのだ。武偵同士の行う近接拳銃戦は、射撃線を避け、躱し、あるいは相手の腕を自ら弾いての戦いである。
「これで!」
隙を見つけた俺は、神崎にDEを撃ち込む。
「遅い!!」
俺と彼女の手が交差するその瞬間に、俺の手を流して射線を変更されてしまい攻撃が当たらなかった。
「今度はこっちの番よ!」
瞬時に攻守を入れ替えた神崎が襲い掛かってくる。
「……ッ!!」
今度は神崎の攻撃を俺がギリギリのところで逸らす。
ここからお互いに一歩も引かない攻防戦が始まった。
撃たれそうになっては流し、撃ち損ねては応戦し、の繰り返しである。
だが、これもそう長くは続かない筈……。何故なら、明らかに俺の方が劣っているからである。
「……ッ!?」
「……弾切れッ!!」
いつまで持つのかを考えて居た矢先、お互いの銃が同時に弾切れを起こした。
弾が切れた瞬間間合いを開けようとした俺に対して彼女はこちらへ向かってきた。
「逃さない!!」
そのまま素手の殺傷圏内に入ってきた。
「?!」
そして俺を掴んだ。こいつ徒手格闘もできるのか! しかもうまい!
そして俺のことを投げ飛ばした。とっさの判断で受け身をとったが、やはり遅かったようだ。
俺は背中を強打して動けなくなった。同時に両手のDEも落としてしまった。
まさに、絶体絶命の状態である。
そして彼女はとどめを刺す為に背中から二本の小太刀を抜いた。
「見込み違いだったかしら……。まぁ、悪く思わないでね。約束は———守ってもらうわよ!!」
そう言った彼女は、凄まじい勢いで右手の小太刀を振り下ろして来た。
瞬間的に俺は脳裏にあることが浮かんだ———
———俺はここで死ぬのか?
後書き
次回もお楽しみに
第02弾 禁忌解放
前書き
第2話です
———ドクン。
俺の中に眠る何かが目覚めてしまった。俺は何が起こったかすぐに理解した。なってしまっているのだろう。《《バーストモード》》の俺に。
同時に破ってしまったのである。自分の中での禁忌を———
誰もが、この戦いに終止符が打たれた———そう、思っていただろう。
しかし、実際にその終止符は打たれなかった。
何故ならば振りかざされた刃を、膝立ちの姿勢になった俺が受け止めていたからである。
『!!』
その光景に、一同は絶句していた。
もちろん、俺の目の前の彼女も。
内心俺は、自身の行いと状況を把握し頭を抱えていた。
しかし、戦うことに目覚めてしまった俺は、思考とは裏腹に刀を受け止めている。真剣白刃取りで。
しかし彼女は二刀流。今受け止めているのはその片方にしか過ぎない。
驚いていた彼女もすぐに我に返って左手に持った小太刀で切りかかってきた。
俺は抑えていた、刃先を左手で思いっきり押して推進力に変えて迫り来る刃と同じ方向に跳ぶ。俺が手を離した反動で力を入れていた右手の小太刀と左手の小太刀が何もない場所でぶつかりあった。
「……避けた!?」
俺は横に跳んだ後、頭が地面の方向を向いた瞬間に地面を思いっきり押してバク転を決めて地面に降り立つ。
無論このバク宙は、体勢を立て直すためのものである。
そして、そこで再び少女の顔を見た。その顔にはまた驚きの色が出ていた。少女と目が合った瞬間、恐怖のような表情も一瞬であったが滲み出ていた気がする。
彼女が呟いた。
「あんた、一体どうしたの……? 急に人が変わったみたい……。まるで、あの時のあいつみたい……」
寝言のような事を言ってるのでハッキリと思ったことを言う。
「何寝ぼけたこと言ってんだ。さっきからずっと俺としか戦ってないだろ。それとも、怖気付いたのか?」
そう言いって俺は軽く睨んだ。
「———!? そんなことないわよ!!」
いやいや、さっき思いっきり怯えた表情していませんでしたか?
取り敢えず、観衆(主に後輩)の前で無様な姿を見せたく無いと言うことにでもしておいてやるか。
「でも、私の見込みは間違っていなかったようね!」
さっきの、否定した時の表情から一転して彼女は、少し嬉しそうな顔をしながらそんなことを呟いている。
だが、こっちの俺を見てもがっかりするだけだろう。下手したら武偵法9条を破り兼ねないほど危ない状態だからだ。なんせ今の俺は戦闘狂の状態だからである。
今の俺は、B ・S・T———通称バーストモードの状態である。
バーストモードは極限状態に陥ることにより、γエンドルフィンの放出が一定量を超えることによって全身の神経、思考回路などへの伝達物質に媒介することで発動する。発動した際の特徴として、反射神経、運動神経や戦闘能力などが通常の人間の32倍まで上がる。反面、口調が強めになったり、性格がやたら好戦的になったり、思考が若干劣ってしまうなどのデメリットも持ち合わせている。
これはうちの家系に代々伝承されているものである。
ある事件をきっかけに、俺はこれを封印してきた。
どうしても、なりたくなかった。
でも、現になってしまっている。
だが、ドレイにならないためにも今は頼るしか無さそうだ。
若干鈍くなってきた思考でそんなことを思いながら、俺は新たに二挺のDEを抜く。今度のは、低反動モードには切り替えない。今の状態の俺なら、DEの反動くらいどうということはないからだ。
「さっさと、蹴りをつけようじゃないの」
俺はDEを構えながら彼女に言う。
「良いわよ。ただ、後悔しないでね!」
そう言って彼女は、いつの間にか再装填したらしい二挺のガバメントを構えた。
そして二発の銃弾をとても正確な軌道で俺に向けて放った。だが、その弾は俺に当たることはない。今の俺は見なくても自分に迫って来る銃弾のコースがわかる。狙いは———胸部!
迫る銃弾を見ないまま俺は構えを解き、地面を蹴って左に移動しながら体を右に90度回転させる。先ほどまで俺が居た位置を二発の.45ACP弾が通り過ぎて行く。俺はそれを真横から見届ける。これら一連の動作に名前をつけるなら———神回避!
俺が避けることを想定して居たのか、既に彼女はガバメントを小太刀に持ち替えていた。
すかさず俺は、両手のDEをフルオートに切り替えると同時に弾を一斉発射した。
またしても、彼女はその弾を避け間合いを詰めてくる。
その顔には一切の迷いがない。ただまっすぐに俺の方めがけて迫ってくる。
俺は弾が切れると同時に、弾倉を床に落とし、その弾倉を相手に向けて蹴った。
彼女はそれに動じることなく迫ってくる。
次の瞬間、俺の蹴った弾倉が鋭い光を放った。
「……ッ!? 何……これ?」
彼女が若干怯み、足を止めた。
「そいつは、閃光弾倉。お手製の武装さ」
そう言いながら俺は左手のDEをしまい素早く再装填し、光が収まるのと同時に銃を向けたが、そこに彼女は———居なかった。
「何処に———ッ?!」
彼女は僅か3メートルの距離にいた。弾倉に気をとられて彼女が移動していることに気づかなかった。
この距離では、銃を向けて発砲する前に斬られる。
この距離———即ち、近接戦闘の距離。
そして彼女が再び襲い掛かってきた。
この場を凌ぐ術を探している俺自身の思考とは別に俺は———左手で抜いた刀で迎え撃っていた。
また、やりたくないことをやってしまった———刀を抜くのも禁じていた。
やはり、バーストモードのせいか……。
そのまま俺は相手の刃をはじき、右手のDEもしまってもう一本の刀を抜く。
それを見た彼女は驚いた様に呟いた。
「———逆刃刀!?」
後書き
今回はここまで
第03弾 〜Finishing battle(決着)〜
前書き
第3話です。
彼女が驚きの声をあげると、周りも驚きの声をあげた。
武偵高で逆刃刀を持ってるのが珍しいのだろう。そんなに騒ぐ必要もないと思うがな。
「……あんた珍しいもの使ってるのね」
「そうか? そんなに逆刃刀が珍しいのか?」
「防刃服を身に纏ってる武偵が殺傷能力の無い近接武器を使うなんて稀なことでしょ?」
「確かにそうかもな。だが、武偵法の中で何を使おうと個人の自由じゃ無いのか?」
「それもそうね」
彼女は俺の言葉に頷いた。
「でも、逆刃刀だからって舐めてもらったら痛い目見るぜ!!」
辞めろ……こっちの俺。好戦的になるんじゃない。俺はもう嫌なんだ……。
そんな思考とは別に、俺は両手に持った逆刃刀を構えて彼女に迫って行く。彼女は再び小太刀を構えなおして迎え撃つ体勢をとる。
近づいた俺は、右手に構えた刀で右から左へと、横一文字に斬りかかる。
彼女は左手の小太刀を受け止める形に構える。
「これで!」
「クッ……!」
そして、互いの刃が火花を散らしながらぶつかり合った。
「そこだ!」
火花が散った瞬間すかさず左手の刀で再び斬りかかる。
その瞬間、俺の頭の中を光の速さである一つの記憶が駆け巡った。
「ッ?!」
「?!」
その記憶は、思い出したくもない。バーストモードと抜刀を封じる原因を作った出来事。その時、鈍った思考で俺は納得していた。
———これは、あの時のことを……ッ!!
トラウマになった出来事を断片的であるが垣間見た。
「———隙だらけよ! その一瞬が命取りになる!!」
「———ッ!?」
その言葉で現実に引き戻された。そして次の瞬間、俺の手元にあった二本の逆刃刀が弾き飛ばされていた。
そう、今の一瞬の隙に彼女が弾き飛ばしたのである。
一瞬の隙に起こった出来事を脳が処理し切る前に、彼女は斬りかかってきた。
———ガキンッ!
その攻撃を、彼女の渾身の一撃を、俺は手首で押さえていた。そしてそのまま、小太刀を押し上げ間合いを取り、両腕のYシャツと学ランの袖の間からあるものを取り出した。それは———折りたたみ式の、トンファーである。
トンファーを左右の手に構えた俺は一旦落ち着くためにその状態を維持した。
対する彼女は俺の様子を見るためかこちらを向いて小太刀を構えたままである。
そして、呼吸が整ったと感じたあたりで一気に詰め寄った。素早く詰め寄った俺はそのままの勢いで一気に突きを数発繰り出す。そのうちの1発が彼女の左肩の端の方を捉えた。
「……ウッ!! この!!」
彼女が唸るような声を出していたが、すぐさま小太刀で反撃してきた。
左手に持ったトンファーがガキンという音と共に弾かれ、空中を回転しながら、後方の地面に突き立った。
「……チッ」
それを見ることしかできない俺は、舌打ちしながらすぐさま切り替える。
しかし俺は、右手に残ったトンファーのみで二本の小太刀を去なさなければならない。
二本の小太刀を去なしながら、俺は後退して行く。容赦のない連撃、隙が全くと行っていいほど無い。これは気を抜いた瞬間にやられる。
しかし俺もただ守っているだけでは無い。策は講じてある。だが、これはほとんど賭けといってもいいことである。
それでもやるしか無いのだろう。その為にタイミングを計っていた俺は、ある程度のところで地面を思いっきり蹴って後退し、連撃を潜り抜けて1メートル程後ろに下がり再び地面を蹴って相手の方へ向かって行く。
「これでもくらいなさい!!」
「ほっ!」
彼女の放つ攻撃を俺は神回避で避ける。
そして、俺はトンファーの持ち手を離し端の方を掴んで、地面に突き立っているトンファーに思いっきり突き立て、棒高跳びの要領で彼女を飛び越えた。
飛び越えた、つまり成功。俺はこの賭けに勝ったのである。そして飛びながら周囲に視線をやる。
その光景を見た一同は騒然としていた様子だった。
俺が飛んだ先にあるものそれは、さっき弾かれた二本の刀。
それを掴もうとする俺に彼女が勘付いた。
「そうはさせない!」
彼女はそれを阻止するべく、小太刀を持って向かってくる。
それに対して俺は、空中で地面の方向に頭を向けたままフルオートのDEを抜いてそのまま発砲した。この射撃で、俺の所持していた銃弾が底をついた。
「しまった!」
彼女は、予測していなかったようでその弾を小太刀で弾き守る体勢に入った。その、瞬間を俺は逃さなかった。刀を掴んだ俺は、一気に詰め寄りそして彼女の左手の小太刀を防御の上から弾き飛ばした。
「ハァ!!」
そんな甘いガードでこれが防げるわけ無いだろ。
「!?」
瞬間的なことに驚いた彼女はそこで一瞬、硬直していた。
「———やったわね!!」
だが、彼女は硬直が解けると同時に、俺の振るった攻撃に対してカウンターを入れてきた。
次の瞬間俺の右手の刀は、又しても弾かれていた。そのまま、俺たちは同時に持っていた刀を振った。
「はあぁぁぁぁ!!」
「これで終わりよ!!」
お互いの叫び声の後、激しい1つの金属音が施設内にこだました。
「……」
俺は沈黙していた。
「……?!」
彼女は何が起きたのか分からない様子だった。
直後、地面に何かが刺さる音がした。
この時、お互いの持っていた刀は手元に無かった。
今のは刀が刺さった音だ。
「この!!」
彼女は諦めずに飛び掛かってきた。
「……!?」
突然の事に俺は反応できなかった。
呆気にとられているとは言え、硬直が長すぎた。
ここでようやく思考が起動した俺は彼女の攻撃を防ぐための方法を考える。しかし、何も思いつかない。
そして彼女が徒手格闘で俺に触れるその瞬間———キーンコーンカーンコーンと昼休み終了のチャイムが鳴った。
今、お互いの手元に武器は無いが二人とも立っている。
つまりこの試合———引き分けである。
後書き
今回はここまで
第04弾 〜Flashback memories(悲しき過去)〜
前書き
第4話です
———引き分け。
即ち、俺の勝ちである。
暫くの間、静寂に包まれた。
やがて、その静寂をかき消す一人の声があがった。
「アリア先輩!」
間宮の声だった。
間宮に呼ばれた彼女はというと、その場で何が起きたかわかっていない様子で立っていた。
俺は落とした武器を拾い上げ仕舞うと、その場を立ち去るため施設の出入り口に向かおうとすると彼女が口を開きこう言った。
「……あんた、手抜いたでしょ?」
そう言って彼女は俺を睨んでくる。
「……」
俺は、扉に掛けようとしていた手を止めて彼女に向き直る。
「……何の……事かな?」
歯切れ悪くそう言った。
「あんた、あれだけの技量があるのに私と互角のはずがない!」
「馬鹿なことはよしてくれ! 俺はただの……ただの武偵だ」
彼女から視線を逸らしつつ、俺反論した。
「嘘よ! さっきのはただの武偵ではなくSランク、それもかなり上の方に入る技量だった!」
しかし彼女は、それを許さずに追求してくる。
確かに俺はSランクの武偵だ。ただしそれは評価の上でのS。普段はBかCぐらいの能力しか持っていない。
「それはその———」
「それにあんた、一回刀を振り下ろす瞬間に手を止めた! あれは、明らかに手を抜いていた動かぬ証拠よ!」
「…………」
……分かっていたさ。そう言われることぐらいわかっていたさ!
それでも、俺は反論できなかった。バーストモードが切れ、通常状態に戻った今の俺ですら。
彼女の言っていることは正しい。それは俺が一番わかっている。だが、心の何処かでそれを認めたくない俺も居た。
俺は強めの口調でこう言った。
「例え俺が……俺が手を抜いていたとしても、勝負の結果を覆すことはできない。結果的に引き分けで俺の勝ちだろ!」
俺はそう言って、強襲科を後にした。
これが俺こと樋熊シュウヤと、後に『緋弾のアリア』として世界中の犯罪者を恐怖に陥れる鬼武偵、神崎・H・アリアとの武器を向けあった最悪の対面であった———
———時は放課後。
バーストモードの発動によって、疲労の溜まった俺は探偵科の依頼を自由履修で取った。
と言っても、探偵科はすでに修了してるから取る意味もないのだが。
今回取った理由は、昼休みの一件で強襲科にいづらいことと、疲労が半端ではないという理由からである。
今回取った依頼は校外に行く依頼であるが、気休めがてら今は一般校区の校舎の屋上で座って空を見上げている。
「はぁ……」
などとため息をついていると、不意に扉の開く音がした。
振り向くと昼休みに対決した彼女が立っていた。
俺は素っ気なく態度で尋ねた。
「何の用?」
彼女は俺の隣に来て座りながら言った。
「尋問の続き」
尋問って……。
そう思っている俺に彼女は続けてこう言った。
「あの時、どうして手を止めたりしたの?」
やっぱりそこだよな……。
「昔の出来事が頭の中を駆け巡った」
そう説明した俺に対して彼女は首を傾げていた。
「どんな?」
「それは言えない」
そう短く返した。
何か言いたげな顔をしていた気もしたが、俺はそのことを流しつつ、逆に質問を投げかけた。
「なぁ、神崎」
「アリアでいいわよ」
そう神崎……アリアに訂正された。
「じゃあアリア、お前はなんでそんなにキンジにこだわるんだ?」
今一番な疑問はこれだ。何故、必要以上に感じのことを付け回しているのか。
「あいつは、私から逃げた」
「……どいうこと?」
彼女の言葉に眉をひそめつつ尋ねた。
「私の実績を知ってる?」
「ああ、犯罪者連続逮捕。99回連続だっけ?」
何処ぞの資料で読んだことを、頭のうちからひねり出した。
「そう。あいつは、その私から逃げた。その実力を見込んで私のドレイにしようと思ったの」
……ドレイねぇ。まあ、キンジが追っかけ回される理由は大体わかった。
「なるほど。あいつの実力を見たってのは、3日前の自転車爆破事件の時か?」
ここからは、俺の推理タイムだ。
「そうよ」
「ここは大体想定していたから分かった。後、もう一ついい?」
答え合わせしてみたら正解だったようだ。どうせなので、もう1つ尋ねることにした。
「いいわよ」
「なんで、最初に決闘申し込んだ時とやる前とで言うことが違ってたの?」
「……あいつが、パートナーになってくれなかった時に必要になるかもしれないと思ったから」
ふーん……俺は予備だったって訳ね。
「それに、勝負を挑んだのはあんたの経歴を調べて信頼ができると思ったからよ」
「……俺のこと調べたのか?」
衝撃発言に、俺は若干動揺していた。
「そうよ」
「どこまで?」
「そうね。まず、あんたのランクがSってことね」
そこから来たか。確かに俺はSランクに格付けされている。しかしそれは、バーストモードの俺で今の俺は良くてBってところである。
「しかも、強襲科だけじゃなくて探偵科と車輌科でもSランクに格付けされているということ。後は、狙撃科と装備科ではAランク、後はSSRとCVR以外の全ての学科でBランク以上を取っているってことね」
指を折りながらそんなことを言ってきた。こいつの言っていることは全て本当である。俺はほぼ全ての学科を受けてきた。もっとも今は、強襲科と装備科と救護科の三つに絞っている。
「最後に、私と同じでロンドン武偵局に所属していると言うことね」
「ああ、そのことについては少し誤りがあるな」
「?」
「俺はあそこに所属している訳じゃないんだ」
「どういうこと?」
俺の返答に、彼女は問いかけてきた。
「あそこに行ってる理由は、なんて説明したらいいのか分からないけど俺を頼りにして呼ぶ奴がいるから出入りしているってだけなんだよ」
「それでも、あそこでかなりの成果を上げてるんじゃないの? あんたみたいなやつなら、通り名くらいあると思うけどね」
「通り名? ああ、それならつけられてるよ。えっとなんだっけな。あ、そうだ。確か、こんな通り名だったな———『人間戦車』」
「……え?!」
「どうかしたか?」
突然声を上げたアリアに対し、俺は尋ねた。
「あんたが、あの『人間戦車』? あの、いくつものマフィア組織を壊滅させたとかいう噂のある?」
「そういう名前らしいよ。もっとも俺は通り名に興味なんかないけど。ついでに言うと……噂じゃないよ」
過去のことを思い出した俺は頭を抱えながらそう返す。
「やっぱり、私の見込みは間違っていなかったんだわ」
迷惑な話だ。お前に見込まれても嬉しくないよ。でも、ここまでするということは何かあるな。
「お前、何を焦っているんだ?」
「?!」
「そんな驚いた顔するなよ。一応これでも武装探偵、探偵だぞ。今の言葉から推察するに何か時間が無いと読み取れる」
それに、伊達に探偵科のSはやってないし、な。
「そう、私には時間がないの。ママに、濡れ衣を着せたやつらを全員捕まえて、ママの疑いを晴らす必要がある。そのママの裁判まで時間がないの。だから……」
「分かった。それ以上言わなくてもいい。だから、泣くな」
泣きそうになったアリアにそう言った後、俺はこう言った。
「教えてやるよ」
「え?」
「あいつのこと知りたいんだろ? だから教えてやるよ」
「でも……」
「気にするな。これは俺の独断なんだから」
「そう」
こう前置きして、キンジの知っていることを、去年起こったとある事件のこととH・S・S以外のことを全て話した。そして最後に一枚の紙を手渡した。
「何これ?」
「俺の携帯の番号だ。何かあったら連絡してくれ。力にはなるよ。」
「え、でも……」
「気にするな、今日の決闘の時のお詫びとでも思ってくれ。俺はそろそろ行くよ。依頼があるんでね」
そう言って俺は立ち上がり、屋上を後にしようとした。
その瞬間アリアが何か呟いた気がした。だが俺は彼女がなんと言ったのか聞き取れなかった。
俺はそのまま依頼者の元に向かうのだった。
後書き
今回はここまで
第05弾 旧友
前書き
第5話です
依頼を終えた俺は、過度の疲労に襲われていた。
「疲れた……」
そう言いながら、俺は第3男子寮にある自室に入った。
俺の部屋は第3男子寮の403号室である。
ここも、4号室と同じ4人部屋であるが何故かルームメイトは居らず、俺一人で使っている状態である。
リビングに入った俺は、荷物を置き洗面所で手を洗いうがいを済ませた。
それからソファーに座った俺は携帯(スマートフォン)を出して、装備科の平賀さんに電話をかけた。
『はいなのだー?』
「あ、もしもし平賀さん?」
『その声は樋熊君なのだー』
彼女は、装備科所属Aランク武偵の平賀文。
彼女は、あの平賀源内の子孫である。
見た目は、アリアとほぼ変わらない大きさの少女。しかも、見た目だけではなく精神年齢もお子様という……なんだこのスキル?
彼女の能力は実際にSなのであるが、度重なる問題行動によりAランクに留まっている。
「こんな時間にごめんね」
現在、午後9時を過ぎている。
『いいのだー。ところでご用件はなんなのだー?』
「あ、そうそう。実は頼みがあって、拳銃を探してほしいんだ」
『お安い御用なのだー。ところでどんな銃なのだー?』
「ああ、ベレッタM93Rを探してほしいんだ」
『わかったのだー』
「あ、先取りして言っておくけど、なるべく安く頼むよ。こっちは、そっちの購入金額にプラス10%乗せて払うから」
『話が早くて助かるのだー』
「じゃあ届いたら連絡入れて。よろしく〜」
平賀さんとの通話を終えた俺は、別の携帯番号を打ち込み再びかける。
『……もしもし?』
「もしもし?」
『なんだ、シュウヤか』
「なんだとは失礼な。ところで8代目?」
『誰が8代目だ!! しかも、俺は7代目かもしれないぞ?』
「あ、そういえばどっちだか分からないとか言ってたね」
俺は以前言われた言葉を思い返しながら答えた。
『そうだ』
「ごめんごめん」
『ていうか、お前も偉人の末裔だろ? えっと……誰だっけか?』
「えっと俺のご先祖様はね———って話を脱線させちゃったよ」
俺は、脱線してしまった話の路線を元に戻した。
『7割型お前の責任だな』
「案外冷たいのなお前」
『学校での俺のあだ名知ってるだろ?』
「うん。えっと、根暗、昼行灯、女嫌いだっけ?」
『……そうだ』
……ん? なんだ今の間は? まあ、それは置いといて
「ところでキンジ? お前厄介な奴に付きまとわれているな」
電話の相手は、アリアが付きまとっている、元強襲科Sランク、現探偵科所属のEランク武偵で、俺の旧友の遠山キンジである。
『お前まさかあいつに———』
「———ああ、今日の昼休みに戦った。後は今日受け取った筈の資料にも書いてあるはずだぞ、あいつがどれほど凄いやつか」
『マジかよ……。確かにあいつは、すごい。でもどれくらいなのかイマイチよく分からないんだ』
「あいつ、俺の禁じていること両方使ってしまうレベルだぞ」
『……?! まさかお前……』
「ああ、なった」
『マジかよ……。俺はとことん付いてないみたいだな』
「そうらしいね。ヒスったところ女子に見せちゃうし、見せた相手が双剣双銃だし、人生どん底だな。今度お祓いしてやろうか?」
俺は冗談交じりにそう言った。
因みに、お祓いできるってのは本当ね。
『できることなら頼みたいぜ。全く、俺の望む日常は来ないのか?』
「俺の望む日常なら、今日の昼に音を立てて崩れたよ」
俺は体験談を語った。
「何さらっと怖いこと言ってんだ! はぁ……もう本当に最悪だ』
『白雪が合宿に行ってるのは幸いなんじゃないの?」
『まあ……そうだな』
———星伽白雪
超能力捜査研究科———通称SSR所属の超偵。
キンジの幼馴染の黒髪ロングの絵に描いたような大和撫子。青森にある星伽神社の長女で、義理も入れて妹が6人いるのである。
また、偏差値45の武偵高では破格の偏差値75の頭脳を持ち、生徒会長と園芸部部長と手芸部部長と女子バレー部の部長を務めている。
偏差値75ってなんですか!?
確か俺は60代の真ん中あたりの偏差値だったけど。どんだけすごいのあの人? ていうか星伽さんは人間なのかな?
後は、良くキンジの身の回りの世話をしている。なんかもう奥さんのポジション入ってるよな。
ちなみに過去に俺とも面識があったりする。
超偵とは、超能力を使う武偵のことを示す言葉。つまり彼女は超能力者である。彼女は星伽に伝わる鬼道術と呼ばれる物を使えるらしい。
因みに、星伽神社はどういう訳か御神体を守るために武装した神社らしい。これはキンジから聞いた話だから本当かどうかはイマイチ良く分からない。あそこは、男子禁制のため俺は入った事がない。
だから、キンジについて行ったはいいものの中に入れなかったのである。なんでも、遠山家の男だけ特例らしい。
というわけで、入れなかった俺は神社の近くの木に登ったりしていた。ただその時、幼い俺に対して幼い白雪の妹などが木の上の俺めがけて矢を放ったりしてきたな。
あれはマジで死ぬかと思った。いや冗談とかじゃなくてマジ。
取り敢えず、本題に入ることにした俺。
「そうだ、お前に聞きたいことがあったんだけどいい?」
『さっきからずっと質問されてる気がするがまあいい』
という鋭い突っ込みを華麗に紙回避した俺は質問を投げかける。
「お前、強襲科に戻るのか?」
『ああ、そのことなんだが———』
「白旗上げたな?」
『なんでそれを!?』
「声のトーンから人間の心理を推測して見た結果ってとこかな」
推理理由を明確に説明していく。
『全くお前にはお手上げだよ。流石、探偵科Sランク修了武偵』
そう、俺はすでに探偵科の課程を全て終えてしまっているのである。だが、こいつの心理を読めた理由はそれだけではない。
「まあ、お前との付き合いが長いってのもあるけどな。で、戻って来るってことだよな?」
『一応な。条件つけて戻るってことで話はつけてある。それに俺はまだアリアに知られていない切り札がある』
「……ヒステリアモード」
H・S・S———通称ヒステリアモード。
性的興奮によってβエンドルフィンが一定以上分泌されると、神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進される状態のこと。
ヒステリアモード時には思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する。遠山家の人間が持つ特異体質。
その代わり、女性のことを最優先で考えることで物事の優先順位付けが正しくできなくなったり、女性にキザな言動を取ってしまうなどの反作用があるとかなんとか。
名称はキンジが独自に名付けたものらしい。
「因みに、いつから取るの? 強襲科の自由履修?」
『そこまで分かっていたか……』
「なんとなくでね」
ほぼほぼ直感だがな。
『一応2日後から出る予定だが。なんでだ?』
「いや、お前が戻ってくる日を知って置かないと大変なことになるな〜なんて思ったりしたから」
『俺は疫病神か!?』
似たようなもんかもな。まあ、それは内緒ということで。
「強襲科の奴らからすれば神様みたいなもんじゃないのか?」
『あんな奴らに好かれたくない』
「激しく同意」
嫌だよね。あんな奴らに好かれるの。
『元はといえば、全部ヒステリアモードのせいだな……』
「入学試験の時とか?」
『ああ』
「確かに俺の改造した銃1挺と、バタフライナイフ一本であの成績だもんな」
『今考えただけでゾッとするぐらいだ』
東京武偵高の入学試験の時のキンジは、今あげた武装のみでSランクの評価をもらっている。
キンジは本気になれば強いんだけどね……。それも、俺以上に。
「まあ、とりあえず頑張れよ。じゃあまた」
『ああ』
そう言って俺は電話を切り、自分の部屋(一人しかいないが)の机に向かって行った。そして引き出しを開けて1挺の拳銃を取り出した。
俺が取り出した拳銃は、マッドシルバーのベレッタM93R。
この銃は一般に向けての販売はされておらず、主に警察などの組織に販売される銃である。
因みにこの銃は、神奈川武偵高付属中学に通っていた頃の俺の主武装であり、自らが改造を施した最初の武器でもある。
改造した点としては、フルオート機構を追加したり、専用のアタッチメントを作ったりした。
入手経路としてはイタリアの警察の払い下げといったところである。
因みに先ほど頼んだやつは予備として使うためである。
そのベレッタを持つと、リビングに向かった。
リビングの机の上に今日持っていた武器を全て出した。メンテナンスのためである。
まずは一番簡単なベレッタを分解してメンテナンスした。
それが終わると、次にDE4挺を出した。
このDEも自分で改造を施した武器の一つで、3点バースト、フルオートへの切り替え機構と、威力と引き換えに反動を減らす、低反動モードへの切り替えを取り付けてある。
そのDEうちの一つのメンテナンスを終えて、二つ目の途中でメンテナンスを切り上げた。
寝る前に、メールをチェックしその1つに返信した俺はそのまま眠りについた。
後書き
今回はここまで
第06弾 非日常という名の日常
前書き
第6話です
俺とキンジが出会ったのは、4〜5歳ぐらいの時だった。
その時の俺は生まれ故郷の青森に住んでいた。
俺が住んでいたのは街中でも山奥でもないちょうどその間のような場所。周りに俺と年の近い人間はいないに等しかった。
そこに引っ越して来たのがキンジだった。
キンジとは年が同じだったということから仲良くしていた。
けれど、キンジが引っ越して来てからしばらくして俺は、埼玉に引っ越して行った。
そして、俺は埼玉の小学校に通った後神奈川武偵高付属中学に進学した。そこでキンジに再開した。そこであいつは一つのトラウマを作ってしまった。
俺はあいつを助けられなかった。そのことは未だに後悔していることである。
あいつは、女子に体質を知られ独善的な正義の味方にされていた。そのことを未だに引きずっている。だから俺は誓った。困っている人を助けられる武偵になろうと。というわけで、今東京武偵高校にいる。
もともと、家と遠山家は協力関係にあったとか何とか。ご先祖様が遠山家に使えていたとか言ってたはず。
だから、遠山家の人間も家の家系に伝わる体質を知っている。
そういうようなことは青森にいた頃に教えてもらったが故にあまり良く覚えてはいない。
唯一しっかりと覚えていることは、キンジのお兄さん———金一さんに教えてもらった遠山家に代々伝わる体質H・S・Sについてのことぐらいである。
でも、その金一さんももういない……。
去年のクリスマスイブに起こった、豪華客船の沈没事故で乗客全員を助け、東京湾に散って行った……。
何故、あの人が……金一さんが……武偵として目標だったと言っても良いぐらい凄い人が何故……。
しかも、乗客からの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社、そして焚きつけられた一部の乗客たちは、事故の後、金一さんを激しく非難した。
その際、遺族のキンジにもマスコミや被害者達の矛先が向けられた。
そんなキンジは、金一さんが亡くなったことをヒステリアモードのせいだと思ってる。
そして、死んでもなお、石を投げつけられる武偵というものに失望した。
だから、あいつは武偵になることをやめていた。
その為に、来年一般の高校に転校すると言っていた。
同時に強襲科から探偵科に転科していった。
俺はまたあいつに何もしてやれなかった……。
結局俺は何もできない、無力な人間だった。友達一人助けてやることのできない……。
そう思った———
目が覚めると、時刻は午前6時40分。
アラームより早く目が覚めていた。
「夢か———」
そう呟きながら上体を起こすと、頬を何が伝っていった。
「……?」
それは涙だった。夢で泣いてたのか。
ベッドから出ると、俺はリビングに向かった———
朝飯のトーストを食べ終えた俺は、制服に着替え、洗面所に向かい歯を磨き顔を洗って、洗面所を後にし、リビングのテーブルの上にあるベレッタM93R改とDEをそれぞれ1挺ずつとフォールティングナイフを仕舞い鞄を持ち上着を着て家を出た。
因みに今日は、逆刃刀を持って行かない。間違ってももう一度抜きたくないからである。
この時の時刻、午前7時52分。
そしてバス停に向かった。
バス停に着くと午前7時55分。うん、ちょうど良い時間だ。
因みに俺が乗るバスは午前7時58分にここ第3男子寮の前を発車するバスである。
そしてバスが来たので乗り込むと、後ろからキンジが乗ってきたので話しかけた。
「おはよう。今の気分は?」
酷いと分かりながらも弄らずにはいられなかった。そんな俺は最低かな?
「最悪だ。あんな奴らの元に戻るのは」
うん、分かるよ。あそこは武偵高屈指の狂人集団がいるからね。
「ドンマイ(他人事)」
ほぼ毎日の様に通ってる俺にとってはどうでも良いんだがな。
「お前絶対他人事だろ」
当たり前ですよね。まあ、知らないふりでもしとこ。
「何のことかなぁ」
「お前な……」
なんか、呆れたような顔されたよ。なんかどんよりムードになりそうだよ……。話題でも変えてみるか。
「それより」
「ん?」
前置きした俺は、小声でこう言った。
「アリアはどうなった?」
「ああ、昨日も話したけど、とりあえず俺が降伏したから自室に戻って行ったぞ」
「で、今日はあそこに戻ると」
「そうだ……」
「お互い大変だな……」
「ああ……」
他人から見ると、凄く不気味な光景に見えそうだなこの会話。だって、キンジとシュウヤだよ? やばいオーラ出まくりじゃん。
そんな状況でも構わずに会話している間に、武偵高に着いたのでキンジと別れて、2年C組の教室に入っていった。
入ると窓際の席に、ヘッドホンを付けた狙撃科Sランク武偵の天才狙撃手、麒麟児レキが座っていた。あいつとキンジとは何回かパーティーを組んだな。
どうでもいいが、レキの苗字は不明。本人も知らないらしい。
相変わらず何を聞いているのか気になるが、考えないことにしておこう。
普段と何も変わらない自分の教室を見渡しながら、自分が今いるのは武偵高における何一つ変わらない日常の中だということを感じていた。
相変わらず賑やかで、硝煙臭い教室。
たまに空薬莢の落ちている廊下。
そして、相変わらず無人で沈黙を守っている俺の隣の席。
俺の席は6列あるうちの廊下側から3番目の列の一番後ろ。
どういうわけだか始業式の日からこの席に座るものはいない。
普通に考えてあまりの机は無いはずだが俺の隣の席は置いてあるのである。———不思議だ。
HR開始のチャイムが鳴ったので俺は席に着いた。
後書き
今回はここまで
第07弾 頼みごと
前書き
第7話です
4時間目の授業が終わり昼休み。今は教室で弁当を食べている。
因みに弁当は、朝食の前に作ったものである。弁当を食べながら何気なく、普段レキが何を食べているのかを考えていた。
今レキについて考えていた理由は、窓際の席に座っていたはずの彼女がいなかったからである。
その後、ボーッとしながら弁当を食べていると、教室の入り口に見覚えのある人影を見つけた。
その人物はキンジだった。目が合うと、マバタキ信号で『ハナシガアル デテコイ』と伝えて来た。
俺はほぼ食べ終えていた弁当を仕舞って、廊下に出た。
「なんのようだ?」
「実は相談があって」
……ん? 相談? キンジにしては珍しいな。
「教務科に行くから一緒に来てくれないか?」
…………おい。ちょっと待て。お前は小学生か!?
「なんで、教務科に着いて行かなきゃいけないんだよ」
「お前、あそこがどれほどの危険地帯か知ってるだろ?」
「まぁ……ね」
「それに、あそこに行かなきゃいけない理由も知ってるだろ?」
「ああ、分かったよ。お前からの頼みを断る理由も無いしな」
「悪いな……」
「良いよ。昔からの付き合いだろ」
「そう……だな」
そんな会話を交わした俺たちは教務科に向かって歩いっていった。
教務科の職員室の前に着いた俺とキンジ。
そして、恐る恐る手を扉に伸ばしていくキンジ。
———焦れったい。早くしろ。強襲科に戻りたくないのは分かるが付き合ってるこっちとて暇じゃない。
「ていうか、ノックしてないだろ?」
「あ……」
「おいおい……」
ノックをしてから扉を開けるキンジ。
「失礼します」
「おお、なんや遠山どうした?」
奥から出てきたのは蘭豹。強襲科担当教師兼、2年C組担当教師──俺やレキの担任でもある。なんでも、香港のマフィンのボスの愛娘だとか。香港で無敵の武偵として恐れられていたらしいが、凶暴過ぎて出入り禁止なったとかなんとか。おかげで今は、各地の武偵高を転職してるらしい。因みに彼女は未成年である。
「自由履修の件で———」
「そうか。で、樋熊はどうした?」
「いや、俺はただの付き添いです……」
「付き添い?」
「あ、いえ、こっちの話です」
キンジがそう言った。
「それより樋熊、昨日はご苦労」
「何の話だ?」
「後で話すよ。取り敢えず履修届け出してこい」
「だな」
そう言ったキンジが蘭豹の元に行って直ぐに、急に声がかけられた。
「あら、樋熊君。どうしたの?」
声をかけてきたのは、探偵科担当教師兼、2年A組担任教師の高天原ゆとり先生。
おっとりとした感じで常に笑顔の絶えない先生だが、ここに来る前は凄腕の傭兵だったらしい。
しかも、頭部を狙撃され戦えない体にされるまでは、「血塗れゆとり」と呼ばれ恐れられていたらしい。
今の姿からは到底想像できない名前である。
「遠山君が、自由履修の届けを出すのについてきて欲しいって言ったのでついてきただけです」
「自由履修?」
「あれ、もしかして聞いてないやつですか?」
「聞いてないなー」
ありゃりゃ。これは結構大変だな。
そんなことを考えている内に、先生は自分の作業机(?)に行ってしまった。
どうするかを考えていると、キンジが戻ってきた。
「お前、自由履修のこと言ってないのか?」
「あ……」
「……ハァ」
俺は、本日最大級の溜息をついた。
「忘れてました」
「そこにいるから伝えてこいよ」
「そうする……」
なんやかんかで、報告が終了したので俺たちは一般教科の校舎へと戻って行った———
———5時間目、専門科目の時間である。
専門科目。俺の場合は強襲科である。
施設に入った瞬間に囲まれる俺。ほんと、ここは賑やかだよ。悪い意味で。キンジが戻りたく無い理由がよくわかる。
「おい、樋熊〜、昨日は専門科目蹴ってどこ行ってたんだよ。まぁどこに行ってたかなんかは知らないけどな。取り敢えず今すぐ死んでくれ!」
「そういう、お前が早いとこ死んでくれ」
「なんでまだ、生きてるんだよ。出先で死んだかと思ってたぜ」
「そういうお前は、なんで生きてるんだ? 昨日は、校外にいたんだろ?」
「……?! 何故それを!」
見てたからに決まってんだろ。
「お前みたいなやつは、とっくに死んでると思ったぜ」
「そういう、お前は何故にまだ生きている?」
ブーメランだよ、それ。
「おい、昨日の決闘で見せた実力を俺たちにも見せてみろよ!」
「じゃあ、自分で引き出してみろ」
「んじゃ、お言葉通りに」
その言葉を皮切り、4人が一斉に襲いかかってきた。
うーん、はっきり言って遅い。動きにキレがないというかなんというか。取り敢えず撃退するか。
まずは、顔面目掛けて飛んでくる拳をしゃがんでかわしそいつの足を払って倒す。
「うわ!?」
はい、一人終了。
次に、腹部に向かって来るナイフを握っている手の上から掴み素早く体を回し相手の懐に潜り込むと、そのまま一本背負いで背中から落とす。
「うっ!」
二人目終了。
投げ終わった直後に三人目が近づいてきていた。今度は、トンファー。
相手が右手を振りかぶってきたので左半身を後方に逸らす形で回避し、回る勢いを乗せて右フックをお見舞いしておく。
「ぬわっ!」
三人目終了。
三人目が倒れる瞬間、死角になっている箇所から四人目が撃ってきた。
しかし、この弾の狙いは甘く、俺には当たらない。
すかさず、間合いを詰めた俺はポケットからフォールティングナイフを取り出し喉元に突きつけた。相手が怯んだその一瞬に、左手で腹パン。四人目終了。
「はあ……なんでいつもこうなんだよ」
「さあな」
「やっぱりダメなのか?」
「どうしたらいいのやら」
そんな事を呟いている四人を横目に俺は射撃訓練場の方に進もうと向き直った俺の目の前には、一つのグループあたり四人×四グループが俺の目の前に立ちはだかっていた。
一つのグループでは勝てないと悟り、いくつかのグループで同時に襲うということにしたのか。考えたな。だが、この人数ならギリギリ許容範囲内。相手が詰め寄ろうとした瞬間───全員が倒れた。
正確には俺が撃ち倒した。
フルオートに切り替えたM93R改で、流しながら撃つことは今の俺であっても容易いことである。もちろん、防弾制服の上にしか撃っていない。
やっぱり、ベレッタverSは手に馴染むし、扱いやすい。
その場に倒れた奴らは、取り敢えず大丈夫そうなのでそのままにして射撃訓練場に向かった。
因みに、今回俺を襲って来た奴らはB〜Dに位置している奴らである。
こいつらは、何度も懲りずに俺を襲いにきているから普通の俺でも去なすのは簡単だ。
だってあいつらワンパターンなんだもん。
訓練場に入ってしばらくすると、外の様子が一瞬静まりかえった。何事かと思って顔を出してみると、人だかりがてきていた。
その様子を見るに、あいつが来たことを悟った。
「お──う、キンジぃ! お前は絶対帰って来ると信じてだぞ!」
やっぱりあいつは人気だな〜。
「さぁ、ここで1秒でも早く死んでくれ!」
「まだ死んでなかったのか。お前こそ、俺よりもコンマ1秒でも早く死ね」
「キンジぃー、やっと死にに帰って来てくれたか! 武貞はお前みたいなマヌケから死んでくからな!」
「じゃあなんでお前が生き残ってんだよ」
郷に入りては郷に従え。
強襲科では、お互いに死ね死ね言い合うのが挨拶なのだ。さっきの俺のやつも、一種の挨拶のような物だ。
揉みくちゃにされているキンジから視線を変えて、なんとなく二階を見た。そこには、キンジを見る一年のEランクでアリアの戦妹の間宮あかりと、その友達のBランクの火野ライカが見えた。
二人の視線はキンジに向いていた。まぁ、何考えているかは関係無いのでスルーしつつ視線をキンジに戻した。
解放される様子のないキンジ。
仕方ないな。
今のあいつを連れて行くこともできないので、訓練場へと戻った
「今日は、こんなもんかな」
もうそろそろ6時間目も終わる頃なので引き上げる事にした。
出口に向かうと、キンジが帰ろうとしていた。キンジに近づいて話しかけた。
「今の気分は?」
「最悪だ!」
「やっぱり?」
分かり切ってるのに聞くあたり、性格悪いのかもな、俺。
「分かってるなら聞くな!」
「ごめんごめん」
「俺はもう帰るぞ」
「了解。またな」
「ああ」
そう言ってキンジは先に帰って行った。俺もそろそろ引き上げることにした。
学校を出る為に門に向かうと、怪しい人影を見つけた。
その人影は間宮だった。
何を見ているのか気になったので、彼女の視線の先を見るとアリアとキンジが並んで歩いていた。キンジの不幸スキルはこんなところでも作用してしまうのか?
彼女がなんとなく怒っている理由がわかったところで俺はバス停に向かって行った———
———16時15分、バス停に着いた。しかし、人の姿が見えない。それもそのはず、武偵高の生徒が帰るのはもっと後の時間である。
バス停に着いてから1分少々で、バスが来た。そのバスで、俺は第3男子寮に向かって行った。
第3男子寮は探偵科の男子寮である。
何故、強襲科所属の俺が探偵科の寮を使っているかというと、二つの理由がある。
一つ目の理由は、俺が探偵科に在籍しているということである。確かに探偵科はSランクで修了しているが、在籍状態に変わりはない。故に、第3男子寮を使わせてもらっている。
二つ目の理由は、強襲科の寮に空きが無かったということである。
現在強襲科の寮は、相部屋すら空いてない状態である。しかも、男子だけ。そのため、空いたら移るかと聞かれてはいたがここが気に入っているという理由もあった為、断りそのままの状態でいる。
因みに気に入っている理由とは、第3男子寮が静かだということだ。
強襲科の寮は、とにかく騒がしい。夜間であろうと銃声やら、罵声だの、金属が擦れ合う音などいろいろな音がある。もちろん断った理由に、騒がしいからというのも入っている。反面、探偵科の男子寮は静かである。正直なところ、ここから移動するつもりはないのである。
部屋に着いた。現在16時30分。ここから、学校まではそんなに遠くないため、自転車で通っている人もいる。もっとも、俺の周りでは約1名バスを乗り過ごして、自転車で行こうとして自転車に爆弾が取り付けられているのに気づかず出発した挙句、UZIの付いたセグウェイに追いかけ回されたやつがいるけどな。
今思うと、これがきっかけだったのかな。なんて思ったりもする。
そう、この事件———世にも奇妙なチャリジャックという訳の分からないような事件で、遠山キンジと神崎・H・アリアは出会った。そして、そこでアリアは見てしまった。もう一人のキンジを。ヒステリアモードのキンジを。そのために、キンジはアリアに必要以上に付き纏われてしまった。
そしてアリアは、どこかで同じ学科の俺とキンジが繋がっていることを知り、俺に勝負を仕掛けてきた。負けたらドレイになるという条件付きで。つまり俺に関しては、飛び火ということになる。
これがつい2日前までの出来事である———などと、今までの経緯を考えながら洗面所に向かった。
うがいをしながら、何故アリアがあんなにパートナーを必要としているのかを考えていたが、全くと言っていいほどわからない。
また、母親を助けたいとか言っていたはずだが、いったい彼女の母親は今どこにいるのだろうか?
これも全くと言っていいほど分からない。
キンジに頼まれて、アリアのことについて少し調べたが、完璧に調べ終わっている訳では無いので分からないことだらけだ。
本当は調査したものをまとめて、キンジに渡す予定だったがアリアに決闘を申し込まれてしまった為、同じくキンジから依頼を受けていた理子に引き継ぐ形で渡してきた。
峰理子———探偵科所属のAランク武偵でキンジと同じ2年A組在籍。
一般科目の成績はあまり良く無いが、武偵としては凄腕である。特に、ネットなどを駆使した調査の能力は俺なんかよりもずっと凄い。
まぁその理由としては、ネット中毒である上にノゾキ・盗聴盗撮、ハッキング等々武偵向けの趣味を持っているということである。一般人では絶対に必要の無い趣味である。そんな趣味を持っているからこその能力だと思う。
その能力からはまさに、現代の情報怪盗である。
何を考えても、これ以上アリアのことについて考えても分からないと思ったので、この辺で一旦推理することを止めた。
リビングに行き、携帯を充電するために取り出した。よく見るとメールが来ている。
昨日のメールの返事であった。俺はまた、そのメールに返信をして充電するため画面を閉じた。そして、今日持っていた武器を取り出し、メンテナンス中だった武器のそばに置いてから整備途中だった銃と、逆刃刀の整備を始めた———
———午後20時26分、メンテナンスが終わった。勿論、今日使った武器もだ。
なんだかんだで、もう夕飯と風呂は済ませてあるためそのままベットに入った。そして、5分程で俺は眠りについた。
後書き
今回はここまで
第08弾 戦徒試験
前書き
第8話です
翌朝5時半、リビングで携帯が鳴った。こんな時間に誰だろうか。
さっきまで寝ていたのに着信音で起こされてしまった。
「……もしもし?」
寝起きということと、無理矢理起こされたことで今は若干機嫌が悪い。
『樋熊。起きとったか』
電話の相手は蘭豹先生。
なんだこの教師。朝から元気だなー。
「何かあったんですか?」
『昨日、お前と戦徒を組みたい奴らから届けが出されてな。それで連絡しただけや』
「連絡ありがとうございます。ところで、何人ぐらいから来ていますか?」
『ざっと数えて4人だな』
微妙だな、おい。
ていうか、ざっと数えるほどの人数でもないだろ。
「わかりました。7時ごろ教務科に向かいます。あと、7時20分までに看板裏に来るように、4人に伝えてもらえませんか?」
『分かった。待っとるで』
戦徒ね……。俺にも、依頼があるのか……。
そんなことを思いながら、俺は準備に取り掛かかった———
———午前7時20分。現在看板裏と呼ばれる空き地にいる。
看板裏とは、レインボーブリッジに向けて立っている看板と、武偵高の施設の間にある長方形の空き地である。ここは、基本的に人が来ないので指定場所に選んだ。
今ここにいるのは、俺と1年が4人だけである。その1年達は皆俺と戦徒を組みたい奴ららしい。一年はそれぞれ、強襲科、探偵科、諜報科、鑑識科といった感じである。
ここに来る前に、教務科に寄って1年の情報を貰って来た。目を通したのは、学科の部分だけだが。
「全員いるな? よし、始めようか」
「先輩、質問いいですか?」
1人がそう行った。確か彼女は、探偵科の生徒だったかな。
「ん、どうした?」
「今回は、何で採用試験をするんですか?」
いい質問だ。基本的に戦徒試験は、強襲科が推奨するエンブレムと呼ばれる物で決めることが多い。しかし、今回は違う。
「ああ、今回はお前ら全員で総当たり戦をやってもらう」
「総当たり戦?」
「そうだ。それで、お前達の戦い方を見て考える」
「はぁ……」
まぁ、困惑するよな。いきなり、1年同士でやり合えと言われたのだから。
「1試合、1分半だ。それで回す。いいな」
「「「「はい」」」」
こうして、1年対1年の総当たり戦が始まった———
「やめッ! そこまでだ」
全ての試合が終わった。現在時刻午前7時33分。
取り敢えず、全員の戦い方を見てみた結果ここから2人を選抜することにした。
「お疲れ。ここから2人選抜する」
「2人?」
「そうだ。最終的には1人に絞るがな。で、その2人っていうのは、君と君だ」
「あの、他の2人はどうなるんですか?」
「他の2人は、俺の戦徒に出来ない」
「なんでですか!」
「そうですよ!」
「お前らには、俺から教えられることが何もないんだ。だから俺はお前らを戦徒にはできない」
「どういうことなんですか?」
「俺が、お前達を教えるのに向かないってことだ。だから、俺以外にもっと良い先輩がいるはずだ。その人達と組んだ方が圧倒的に良い。そういうことだ」
俺は、前にアリアが言っていた通りSSRとCVR以外の学科に通っている。だが、やはり俺も人間である以上できることとできないことがある。
教えてもらった際の吸収は自分的に早い方だとは思っている。
周りからもそう言われている。
だが、人に教えるとなるとしっかり教えられないのである。現状俺が教えられるのは、強襲科で習うことと、探偵科で習うことや、狙撃科で習うことを少々といった感じである。
「と言うわけだ。悪いが今呼ばれなかった2人はこれでおしまいだ。今から、別の奴に戦徒の届けだしてこい」
「……わかりました」
「……ありがとうございました」
「ごめんな……」
そんな会話をした後、2人は去っていった。
「……さてと、今から1人に絞ろうと思う。それぞれ名前と学科、志望理由をそれぞれ言ってもらう。後、取り敢えずだがランクも言ってくれ。いいな?」
「「はい」」
「じゃあ、まず俺から見て左のほうからよろしく」
「はい。強襲科所属の1年、篠田勇輝です。ランクはBです。志望理由は、先輩の戦闘センスに興味を持ち自分も先輩みたいな武偵になりたいと思ったからです」
と答えた男子生徒。
「なるほど。篠田……だっけ?」
「勇輝でいいです」
「わかった。じゃあ勇輝、お前が興味を持った俺の戦闘センスっていうのは、どういう戦い方のことだい?」
すると、勇輝は暫く考えた後にこう言った。
「そうですね、例えば3日前の神崎先輩と戦った時に見せた動きとかですかね」
こいつ、あの時の戦いを見ていたのか。まぁ、強襲科所属って言うくらいだから仕方がないと言えば仕方がない。
「なるほど。だが、俺の戦弟になったところであれができるようになるとは限らないぞ」
「だったら、盗むまでです」
なかなか、面白い奴だな。
でも、もう1人いるのでそっちも聞かないと選べないな。
「わかった。ありがとう。それじゃあ、次宜しく」
「はい。探偵科所属の1年、笠原璃野です。ランクはBです。後、探偵科の他に救護科も兼科していてそっちのランクはAです」
探偵科と救護科の兼科か。しかも、兼科してる学科の方がランクが高いと来ましたか。
「志望理由は?」
「えっと、自分は戦闘関係がそんなに得意では無くて———」
それはさっきまでの模擬戦で分かっていた。他の志望者に比べて戦闘面は劣っていると言えた。
「自分を守れる程度の戦闘技術を覚えたかったというのが一番の理由です」
なるほど。そう言う理由で俺に志望して来たのか。
俺のところに来た1年生は皆戦闘能力が高かったが、彼女だけは違った。
故に俺は、何故彼女が俺に志望したのかが気になった。
だから、彼女の答えを聞くために候補に残した。
それともう一つ気になったことを質問してみた。
「なんで、兼科の救護科のランクがAなんだ?」
「あ、それはですね、もともと私は救護科をメインでやっていたのですけど、途中で別の学科にも挑戦してみようかと思って探偵科をメインにしたらこうなりました」
「なるほど。分かった、ありがとう」
さて、どうするかな。どっちを戦徒にするか……。
「悪い」
「「?」」
「少し時間をくれ……」
「「はい」」
さてと、少し考えますか———
———よし。
「時間がかかって申し訳ない。今から戦徒になる方を発表する」
「……」
「……」
あたり一帯を静寂が包む。
「合格したのは———笠原、お前だ」
「……」
「……!?」
俺が戦妹に選んだ笠原は、固まっている。
「……先輩、何で彼女なんですか?」
勇輝が質問して来た。無理も無い。
普通に考えて強襲科に所属している俺は強襲科の生徒を選ぶべき。それは極々普通の考えだと思う。
だが、俺が選んだのは探偵科所属の笠原。
一応俺は、彼女と同じく探偵科所属だから問題は無いが———勇輝の質問は多分そう言うことではなく何を理由に彼女を戦妹にしたかの答えを求めているのだと思う。
「彼女を戦妹にした理由は———さっき彼女が志望理由で何て言ったか覚えてるか?」
「確か、自分を守れる程度の戦闘技術が欲しいとか言ってましたね。それが、関係あるんですか?」
「ああ。彼女は、自分に何が足りなくて何が必要なのかわかっている。探偵科は尾行などの犯罪者などと関わったりする任務があったりして、もしもの時は戦闘を行う必要があるからな」
俺はそのまま続ける。
「その際に最低限自分の身を守ることができないといけない。彼女はそれを分かった上で俺の元に来た。これが一番の理由かな」
「そうですか……。それでは、先輩に質問します。僕は何故選ばれなかったのですか?」
「お前の場合は———少し、自分に必要なものが見えていなかったってことかな。確かに強襲科に所属する生徒は敵を制圧したりする任務を受けたりするから強く無いといけないっていう気持ちはわかる」
そう言われた勇輝の顔色は、変わることが無かった。
俺はそれを横目に続ける。
「だが、お前は純粋に強さを求めすぎた。それに強さを求める理由が不透明だったっていうのもある。こんな感じかな」
「……」
「まぁ、なんかあったら聞きに来い。その時は答えられるものであれば答えるからさ」
「……はい!」
「取り敢えず、俺の連絡先だけ渡しとくよ」
俺はそう言って、その場でサラッと書いたメモを手渡した。
「ありがとうございます」
「じゃあこれ。後で空メール送っといてくれ」
「はい」
「おーい、笠原しっかりしろ」
勇輝に連絡先を渡した俺は、今の今までフリーズしている笠原を呼んでみる。
「……はっ! 此処は?」
「看板裏だ」
「私今まで何してたんですか?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。さっき俺の戦妹になっただろ」
「そうでした。すいません」
「取り敢えず、今日の午後の専門科目の時間空けておけよ。強襲科の施設でお前の状態を見るからな」
「はい!」
「じゃ、そろそろ教室に向かわないとな。今、7時58分だし」
「「はい」」
こうして、朝早くから行われた戦徒試験は終了した。
余談だが、朝早くに叩き起こされた俺は4時間目の終わり頃から昼休みの中頃まで爆睡していた———
———5時間目、専門科目の時間である。
今俺がいるのは強襲科の訓練施設の前である。
今は、笠原が来るのを待っている。遅いな、あいつ。
などと思っていると、こちらに向かって来る人影がある。
「すいませーん!」
無論、笠原である。
「お前何してたんだ?」
「……自由履修の……ハァハァ……届け出を……ハァ……していました」
「大丈夫か?」
「はい……」
「そうか。取り敢えず、中に入るぞ」
俺達は施設の中に入った。
入って早々、手厚いお出迎えが待っていた。言うまでも無い、死ね死ね団の連中からの襲撃である。
「懲りないなぁ……。笠原、俺の後ろにいた方が良いぞ」
「え、あ、はい」
正直彼女は後ろに居ろと言われた理由がよくわかっていないだろう。
「さぁ、今日こそお前を倒すぞ!」
「俺は忙しいんだ。他を当たってくれ」
「そんな事言ってに……のわっ!」
襲いかかって来たやつを、そのまま向かって来た方とは逆方向に向かって投げ飛ばす。
「え、ちょ、まっ———うわっ!」
投げ飛ばした方向からも俺に向かって来ていたらしく、投げたやつと向かって来た奴がぶつかった。まさに、玉突き状態だなこれ。
「俺はやらなきゃいけないことがあるんだ。取り敢えず、また後にしてくれ」
そう言った俺は、笠原を連れて射撃訓練場へと向かった———
———射撃訓練場に着くと、見覚えのある奴がいた。
「ようキンジ。射撃訓練か?」
「ん? なんだシュウヤか。見ての通りだよ。お前はどうしたんだ?」
「今朝戦妹ができたから様子見がてら連れて来た」
「ん? 戦妹?」
俺に戦妹ができたのが驚きなのか、右手に持った違法改造のベレッタM92F———通称ベレッタ・キンジモデルの弾倉を入れ替えながら聞き返してきた。
「そう。確かお前もいたよな。諜報科の———」
「風魔のことか?」
キンジは俺の言葉に続けていった。
「あ、そうそう」
「———お呼びでござろうか、遠山師匠」
「「「うわ! (わ!)」」」
「脅かすなよ風魔」
———風魔陽菜
1年、諜報科所属のBランク武偵。
俺やキンジと同じく神奈川武偵高校付属中学の出身。
中学時代、偶然ヒステリアモードになっていたキンジと戦闘訓練を行った際に、キンジに赤子の手を捻るように倒されたことによりキンジを尊敬して師匠と呼んでいる。
相模の高名な忍者の末裔だとか言う噂がある。
どうでもいいが、彼女はとても貧乏らしい。いくつものバイトをこなしているとか。
「すまないでござる、師匠」
「お前いつから居たんだ?」
「師匠が来るより前でござる」
「結構長時間いるんだな……」
「調査の依頼でも入っているのか?」
「さよう。しかし、標的は言えないでござる樋熊殿」
「言わなくても良いよ。元々聞こうとも思ってなかったし」
俺は風魔に、そう返した。
「某はこれで」
「ああ」
「頑張れよ」
そう言った後、風魔は去って行った。
「———話を戻すがお前、戦妹ができたのか?」
「うん、俺の後ろにいる奴」
「なんで、後ろにいるんだ?」
「ここに入った時死ね死ね団が俺に襲いかかって来たから後ろにいるように言ったからだ。笠原、自己紹介しとけ」
俺に促された璃野は、名乗るのであった。
「1年探偵科所属の笠原璃野です。よろしくお願いします」
「遠山キンジだ」
「え、あなたがあの強襲科でSランクだった遠山先輩ですか?」
「そうだよ」
「お、おい」
「でも、今の学科は違うよ」
「え?」
「笠原と同じで今は探偵科だぞ」
そういや、2人とも探偵科だったな。面識とか無いのかな? 無いだろうな。だってキンジ根暗だし、昼行灯でもあるからな。同時に、人との接触を極力避けたいタイプだろうから。
「じゃあ、今の2年生の首席候補って誰なんですか?」
「多分———」
「アリアじゃ無いのか」
「———かもしれないな」
「樋熊先輩じゃないんですか?」
「俺は首席とかに興味ないしなる気もない」
「そうですか———」
「ていうかキンジ、お前射撃の命中率悪いな」
キンジの射撃レーンを見て思ったことを正直に言う。
「ほっといてくれ」
「この腕だとおまえの武器が泣くぞ」
さっきも説明した通り、キンジの銃は違法改造だ。改造内容としては、3点バーストとフルオート機構の追加。だった筈……。
改造したのは平賀さんだからあまり詳しくは分からない。
でも、内部構造を見たことはある。
一度だけキンジに頼まれてメンテナンスをしたことがあるが凄かった。
ほかに言い表しようが無いくらい凄かった。
キンジには勿体ないくらいの銃だと思える。
「……」
「ごめん、悪かったよ」
「……相変わらずだな」
「そっちこそ」
「ところで、そいつを連れてきて何するんだ?」
「おっと、そうでした。笠原、お前の射撃の腕を見せてもらいたいんだがいいかな?」
「はい!」
そう言って笠原が取り出したのは、9mm拳銃。
9mm拳銃とは、SIGP220をベースに日本で作られた国産の銃。
使用弾薬は9mm弾である。
この銃は自衛隊で採用されている拳銃であり、米軍と弾薬を共通化させるために9mm弾が使用されている。
ここで、気になることを聞いてみる。
「武器はそれだけ?」
「今は手元にありませんが、他にSIGP225とP226、P245があります」
おいおいSIG系統ばっかだな。
SIGP225、P226、P245はそれぞれP220から派生した銃である。
SIGP225は、P220の小型化したものである。
小型化に伴い装弾数も減ったりしている。
しかしそのサイズは秘匿武装としては文句のない大きさである。
ちなみに、P245はP225の弾薬が9mm弾から.45ACP弾に変わっているだけで他に変わりは無い。
P226は、P220の後継型の銃である。装弾数が9+1から15+1に増えている。
どうでもいいがこの銃、アメリカ軍の主力武器の候補に挙がったのだが、最終的にベレッタM92に敗れて主力武器になれなかったという経緯を持っている。
「SIG好きなのか?」
「はい! とても使いやすいので」
「確かにシンプルなデザインで性能も標準的だしな。どっかの誰かさんよりも全然いい理由で銃を選んでるな」
「うるせ……。そういうお前はどういう理由で選んだんだよ」
「見た目と性能ですかね」
「どうせ高かったんだろ」
「そんなことないぜ、横流し品だったからな。確かお前の安売りしてたやつだっけ? しかも今は違法改造品か」
「そういうお前のだって改造してあるだろ!」
そういうキンジに対して俺は、小馬鹿にするような口調でこう言う。
「残念だったね遠山君。僕の銃の改造は全て合法の範囲内なのですよ」
そういうと、痛いところを突かれたというような顔をした後こっちを睨んでくる。
「おっと話が逸れてしまった」
「お前が逸らしたんだろ!」
そう言ったキンジが頭を抱えている。
「おい、大丈夫か?」
「誰かさんのせいで頭が痛いよ」
「誰でしょうね」
「お前だよ!」
「悪かったよ、今度なんか奢るから」
「……そういうのはお前の悪いところだぞ」
「お前のそういうお人好しのところも命取りになるかもな」
「別に俺はお人好しなんかじゃ無い」
「まぁそうツンケンすんなよ。俺はお前のいいところだと思ってるし」
「……」
「まぁいいや。笠原、教えるからまず撃ってみろ」
「はい」
こんな感じで指導を始めたが———正直言って笠原のセンスなどは悪くはない。教えていけばしっかり上達するタイプだと思う。
現にどっかの誰かさんより命中率いいし。
そんなことを思いながら指導を続けるのであった。
6時間目が終わった後———つまり放課後、俺は兵站学部に出向いた。
何故かといえば、装備科の平賀さんのところに行くということと、たまには車輌科に顔を出しておかないとマズイと思ったからである。
ちなみに、平賀さんのところはすでに訪れた。
それでこの間頼んだ銃のことに関して聞いたら『次の金曜日に届くのだ 』と言われた。
で、その銃の代金を先払いしてきたのだが……あれ、銃ってこんなに高かったかな? と言えるぐらいの金額だった。
ヤバイ、今月持つかな……。
取り敢えずそのことについては、今は置いといて車輌科でのことに専念しようと気持ちを切り替える。
「あー、久々だなここ」
俺が今いるのは、自動車教習所みたいなコースがある訓練施設。ここでめちゃくちゃ車の運転とかやったな。
「おう、シュウヤ! 久しぶりだな!」
「なんだ武藤じゃん。まだ残ってたの?」
俺に声をかけてきたのは俺と同学年の武藤。
———武藤剛気
車輌科所属のAランク武偵。
身長190近くの大男で、特徴はツンツンした頭。
『乗り物』と名のつくものならなんでも運転できるという特技を持っている。
また、キンジの親友である。
口癖は「轢いてやる」だったはず。
「ああ」
「なんでまた?」
「新しく改造したやつに乗りたくてな」
「その違法改造したやつで減点くらうなよ」
「わかってるって。ところで、お前はどうしたんだ?」
「ああ、なんとなく車輌科にも顔を出しておかないとなって思って」
「そうか。どうだ、たまには俺とレースしないか?」
「お、いいね。たまにはやろうぜ」
「よし、5分後に開始だ」
「了解!」
この後、俺は武藤と車両を使って勝負をしたが、全部引き分けだった。
それともう一つ後日談みたいなものだが、この翌日武藤は違法改造がバレて減点くらったそうな。
せっかく注意してやったのに。
後、キンジに『約束は守れ』と言われて学食で一番高いものを奢らされた。
今月もうもたない気がしてきたな……。
後書き
今回はここまで
第09弾 バスジャック
前書き
第9話です
金曜日。
俺は朝6時半から登校している。
何故かといえば先日頼んだベレッタM93Rを受け取るためである。
ちなみに今いるのは、装備科の平賀さんの部屋である。
「これがご注文のお品物なのだ」
そう言って平賀さんが出したのはマッドシルバーのベレッタM93R。
「いつもありがとう。ところで平賀ちゃん、作業場借りても良いかな?」
普段俺は彼女にはお客さんとして接しているため「平賀さん」と呼ぶが、今の俺は同じ学科の者として彼女と接しているため『平賀ちゃん』と呼んでいる。
「ご自由にどうぞなのだ」
「ありがとう」
作業場を借りた俺は、受け取ったばかりのベレッタM93Rの改造に取り掛かるのであった。
……ようやく終わった。
結構時間が掛かったな……。
今は7時半。
つまり改造に約1時間使ったということになる。
作業が終わった俺は、平賀さんにお礼を言った。
そしたら作業場の使用料(30分単位での金額)を請求された。
今は金欠だった為、ツケといてもらった。
これ以上行くと今月破綻してしまいそうだからだ。
その後、登校時間に遅れないようにする為早めに教室に向かおうと思い装備科の建物を後にしようとしたら、携帯に着信が入った。
知らない番号からだ。誰だろうかこんな朝早い時間に?
「もしもし?」
『もしもし、シュウヤ?』
電話の主はアリアだった。
「どうしたんだ、こんな朝早くに?」
『アンタ今どこにいる?』
「装備科棟だが?」
『そこから車輌科に行ってヘリを用意して。大急ぎで』
「は? どういうことだよそれ?」
いきなりヘリを用意しろと言われて素で質問してしまう。
『今は説明している暇は無いわ! 後で話すから、今は私の言ったことを急いでやって!』
彼女の口調から、何かとんでもないことが起きるということが予想できた。
「わかった。ヘリでどこに向かえば良い?」
『女子寮の屋上よ。キンジが来たら連絡するからいつでも出られるように準備して待機してなさい!』
「了解」
そう言った俺は通話を終了して装備科棟から車輌科まで走る。
雨が降っているがそんなもの今は気にしていられない。
そのまま、全速力で走った俺は濡れながら車輌科の施設に辿り着く。
だが、そこに他の生徒の姿は無い。車輌科は基本的に朝は人がいない。
他の奴にヘリの操縦を任せようと思ったがそうもいかないようだ。
取り敢えず、車輌科担当教師の江戸川先生の元に行ったら、既にアリアが連絡をしてヘリの使用許可を取って居たようだった。
それを聞いた俺は急いで装備を整える。
インカム付きのヘルメットを被り、簡易仕様の操縦服に着替える。
この簡易仕様の操縦服は、武偵高の制服の上から着るもので見た目は防弾チョッキのようなものである。
簡易仕様の操縦服に着替えた俺は、自身の携帯武装を再確認してヘリに乗り込む。
その際、アリアからメールが入っていて、インカムで合わせる周波数が書かれていた。
ヘリに乗り込み操縦席についた俺はインカムを起動する。
そして指示された周波数に合わせる。
そして合わせると、僅かなノイズの後、雨の音が聞こえた。そして向こう側にいると思しき人間に語り掛ける。
「アリア、聞こえるか?」
『聞こえてるわよ』
「今何が起きてるんだ?」
『事件よ。第3男子寮の前を7時58分に出るバスがジャックされたわ』
「マジかよ。バスの状態は?」
『恐らく爆弾が積まれているはずね』
「爆弾……! かなりマズイなそれ」
『これは、キンジを狙ったやつと同じ奴が起こした事件ね』
「まさか……武偵殺し!」
『そうよ』
———武偵殺し———
武偵を狙った事件を起こしている犯人を示して使われる言葉。
その手口は乗り物などに爆弾を仕掛けてジャックすること。
また犯人は、その名の通りに武偵ばかりを狙っている。
「マズイな……。でも、武偵殺しは捕まったんじゃなかったのか?」
『あれは誤認逮捕よ! 本当の犯人はまだ捕まっていないわ!』
捕まった犯人は冤罪だと?
政府は何をやっているんだ!
本当の犯人を探すのが行政機関とかの仕事だろうに。
「犯人はバスに乗っているのか?」
『乗っていないはずだわ。武偵殺しは基本的に遠隔操作したものを使って事件を起こすわ』
「急がないと大変なことになりそうだ……! キンジはまだ来ていないのか?」
『まだよ』
「そうか。ちょっと考え事するから、キンジが来たら呼んでくれ」
そう言って一旦回線から離れ、武偵殺しについて考えてみる。
とりあえず、武偵殺しの狙いはなんだ?
奴の起こした事件を思い出してみよう。
最初の事件は確か———バイクジャック。
次がカージャック。
で、その次がチャリジャック。
そして今回のバスジャック。
分からない。
全く分からない。
何かのメッセージか?
だとしたら誰に向けて?
ますます謎が深まって行くばかりである。
そんなことを考えていたらインカムに通信が入った。
『キンジが見えたわ。今から来て』
「了解、女子寮の屋上だよな?」
『そうよ、急いで。今の事態は1分1秒を争うわ』
急かされた俺は、ローターを動かしてヘリを急速発進させた———
———女子寮の上空から下を見ると、何やらキンジとアリアが言い争っている。
取り敢えず、ヘリの高度を下げて着陸することにした。
着陸してから気づいたがレキもいた。相変わらず陰が薄いというか、隠密というか。
多分、アリアに呼ばれたのであろう。
アリアの奴、結構人選が上手いな。
そんな事を思いながらも、3人が乗ったことを確認した俺はヘリを発進させる。そして台場へと向かう。
通信科からの情報で武偵高行きのバスであるいすゞ・エルガミオが台場に入ったことを伝えられた。
そのため、バスのいる台場へと向かっているのである。台場に向かいながら3人の会話をインカム越しに聞いていた。アリア以外は俺に気づいていない様子だ。そんな事を思っていると、レキが台場上空に到達したあたりでこう言った。
『見えました』
見えたって? この距離でか。冗談だろ。
まだ、車は小さくしか見えない距離だ。
今見えているのは台場の建物と湾岸道路とりんかい線だけだ。
『何も見えないぞレキ』
キンジも同じことを思ったらしくレキに問いかけている。
『ホテル日航の前を右折しているバスです。窓に武偵高の生徒が見えます』
『よ、よく分かるわね。あんた視力いくつよ?』
あの双剣双銃さんでも質問しちゃうレベルなんだな。レキって。
『左右ともに6・0です』
……は?
6・0??
お前本当に人間か??
確かに狙撃科でSランクに格付けされてるけど、まさかここまで超人だったとは……。
本当に危ない奴しか居ないんだな武偵高は……。
そんな事を思いつつも、ヘリをレキの言った辺りへと降下させていくと、本当にそこに武偵高のバスが走っていた。それもかなりの速度で。
俺は他の車を追い抜かしながら走るバスから離れないようにヘリの速度を上げる。
『空中からバスの屋上に移るわよ。あたしはバスの外側をチェックする。キンジは車内で状況を確認、連絡して。レキはヘリでバスを追跡しながら待機』
インカム越しにアリアのテキパキとした指示が聞こえる。
どうやら俺は、そこにいる超人狙撃手を乗せてバスを追跡することになったらしいな。
『内側……って。もし中に犯人がいたら人質が危ないぞ』
それには同意見だな。
『「武偵殺し」なら、車内には入らないわ』
『そもそも「武偵殺し」じゃないかもしれないだろ!』
確かに『武偵殺し』が犯人の確証も持てない。
これはキンジの言い分の方が正論だ。
『違ったらなんとかしなさいよ。あんたなら、どうにかできるハズだわ』
この返しはあんまりだろ。
いくら元強襲科のSランク武偵とはいえ、今は探偵科のEランクだぞ。
キンジを含めたチームメンバーの力を過信しすぎじゃないか?
それに、有無を言わさず現場に一番に乗り込んで短期でカタをつけて制圧しようとする辺り、セオリーも何も無いな。
———こんなに凄い武偵なのに何故パートナーが居ないのかがなんとなく理解できた。
強襲用のパラシュートを使ってキンジとアリアがバスへと落下していった。それを俺は上から見ていた。
バスの上に着地した後滑り落ちそうになったキンジをアリアが助けたのを見て俺は冷や冷やしていた。
なんとかバスの中に侵入していたのを見て俺は少し安心したがやはり不安である。
何か起こる。
そんな気がしたからである。
キンジ達がバスに入って1、2分後1台のルノー・スポール・スパイダーがバスに近付いてきた。そしてバスに追突した。
よく見るとそのルノーは無人である。
それを見て俺はマズイと気付いた。
そして、ルノーがバスの横に並んだ瞬間、バスに大量の銃弾が撃ち込まれた。それを見て俺は確信した。あのルノーが、『武偵殺し』によって遠隔操作されているものだと。
『シュウヤさん』
いきなり、レキがインカム越しに語りかけてきた。
ていうか、気付いていたんだな。俺だって。
「どうした」
『レインボーブリッジ付近に先回りしてください』
「先回り? なんでまた?」
『2人が危ない』
「バスに行った2人のことか?」
『はい』
「なんでそう思う?」
『風がわたしに言いました。「あそこに居る2人が危ない」と』
風? なんだそれ。
レキのいうことはよくわかんない。
だけど、今のレキの言ったことに俺自身は同意である。
「わかった」
荒れた天候の中俺は、ヘリを飛ばして行く。
目的地であるレインボーブリッジへ———
先回りしたつもりだったが、ヘリとバスはほぼ同時にレインボーブリッジに到達した。
よく見るとブリッジの入り口は封鎖知れている。
警視庁が手を回したのだろう。
バスは猛スピードでレインボーブリッジに進入していく。
そして、入ってすぐのところにある急カーブに差し掛かり横転しそうになるがなんとか曲がりきる。
バスがカーブを曲がっている間に俺はヘリのスピードを上げてバスとの差を広げる。
ある程度の距離を取ったところで、ヘリの高度を下げていく。
それと同時にレキもヘリのハッチを開け放つ。冷たく強い風と雨粒がヘリの中へと入ってくる。
肩に担いでいたドラグノフを構えたところを見るに、準備万端と言うことだろう。
俺はバスにいる2人に援護射撃を行うことを伝えるためにインカムを繋いだ。
その時、インカム越しに2発の銃声が聞こえた。
『アリアっ!』
直後、キンジのアリアに呼びかける声が聞こえた。
……まさか、やられたのか?
……まただ……また目の前で見ているだけだった……。
キンジの呼びかけの後に、アリアが転がったであろう音が聞こえてきた。
『アリア———アリアああっ!』
聞こえてきたキンジの叫び声が頭の中に響き渡る。
その声が自分の無力さを思い知らせてくる。
『アリア———!』
インカム越しに聞こえた絶叫により我に返った。
そして、震える手でヘリの高度を調整した俺は、反射的に叫んだ。
「———レキッ!!」
そんな俺の叫びと同時に、パァン!
レキのドラグノフの音だ。
さらにもう一度、パァン!
その後、爆発音がした。
恐らくルノーが壊れた音だろう。
『———私は一発の銃弾』
インカムから、レキの声が聞こえてきた。
『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない———』
抑揚の無い声でレキが呟く。
『———ただ、目的に向かって飛ぶだけ』
これは、レキの集中していることの証だ。
これはなにかを確実に狙う。
そう言う場面でよく呟いていた。
そんなセリフを言い終えた直後に、レキは弾を放ったらしい。
パァン! パァン! パァン!
3回分の銃声が、俺の耳に届く。
『———私は一発の銃弾———』
この声に続いて、銃声。
そして僅かに、バスの側で火花が散った後———
———ドウウウウッ!!
激しい爆発が起こった。
レキはこの位置から、バスに搭載された爆弾を撃ち落としたらしい。
やはり、こいつは普通じゃないなと心の底から思ってしまった。
そして、爆発物の処理が完了したことを確認した俺はインカムを起動させる。
「中空知、聞こえるか?」
『はい、なんでしょう』
———中空知美咲
2年通信科所属のBランク武偵。
クラスは俺と同じくC組である。
通信科の生徒で恐らく誰よりも滑舌が良い。
例えるなら、アナウンサーと同じぐらいすごいと言えば伝わるだろう。
しかし、彼女は極度のあがり症のため人と会って会話するのが苦手であったりもする。
「衛生科と救護科、並びに武偵病院に連絡を入れてくれ」
『分かりました。直ちに連絡します』
「頼んだ」
そう言って、回線を閉じ別の回線を開く。
「お疲れ」
レキにそう伝える。
『はい』
いつもの抑揚のないロボットみたいな喋り方で、返事を返してきた。
仲間が負傷した。
それだけでもかなり気分は沈むが、この雨はそれを一層引き立たせるのであった———
アリアとキンジが乗った車と俺とレキの乗ったバスは、ほぼ同時に武偵高に到着した。
到着と同時にアリアは待機していた衛生科の生徒に容態を確認してもらっている。
激しく降る雨の中、騒ぎを聞いたらしい野次馬が集まっているのが見えた。
遠くから救急車のサイレンも聞こえてくる。
恐らく、アリアを運ぶためのものであろう。
ヘリから降りた俺は、アリア達を見送らず車輌科棟へと向かった———
後書き
今回はここまで
第10弾 真実
前書き
第10話です
着替えた俺は、車輌科棟から出ようとする。そこにメールが入った。
武偵病院からだ。
どうやら、今回のバスジャックで出た負傷者を手当てするための人員が足りず、手伝って欲しいという内容だ。
メールを読み終えた俺は、携帯をしまい武偵病院へ向かった———
武偵病院に到着すると、受付の近くにキンジが座っていた。
「どうしたんだ、こんなところに座って。アリアの見舞いか?」
隣に座りながら尋ねる。
「……ああ。だけど、面会謝絶だ」
「そっか……」
「そういうお前は何しにきたんだ?」
「俺は、武偵病院の手伝い。応援要請が入ってきたもんでね」
「流石、万能武偵様。なんでもできますね」
「俺は万能じゃないよ」
俺は、キンジの言葉を否定した。
「1年であんな成績とった奴が言う言葉か?」
「どうだか。それに、俺は平均程度の能力しか持ってないよ」
「あ、樋熊先輩」
そんな会話をしていると笠原が来た。
「笠原か。悪いキンジ、俺行くわ」
「ああ」
そう言ってキンジの元を後にした。
「樋熊先輩、どうしてここにいたんですか?」
「ああ、応援要請が来てな」
「そうだったんですか」
「で、今どんな状況?」
「患者に対して人数が足りてない状況です」
「やっぱり今日の事件の負傷者だよな……」
「はい……」
「急がないとだな……」
俺は笠原と共に救護に向かった———
数時間後、ある程度の患者の手当が終わったのでアリアの病室に向かった。
アリアの病室は豪華な部屋だった。
そういえばアリアは貴族だったなと今更ながら思う。
病室の扉をノックする。だが、返事がない。
「入るぞ」
そう言って扉を開けると、部屋の中は空っぽだった。
仕方がないので、アリアの病室を後にして別の患者の病室に向かうことにした。
その患者は急患で入院になったのだが、少し気になることがあるのでその患者の病室に向かってみる。
気になる事というのは数日前まではなんともなかったのにいきなり失明してしまったということだ。
その患者の病室へ向かうと中から声が聞こえてきた。
「———敵に接触されたのね?」
アリアの声だ。どうやら此処に来ていたようだ。
アリアの言葉を聞いた俺は、扉に伸ばした手を戻した。
そして、扉の横の壁にもたれかかった。
「あたし、カンは鋭い方なの。あんたが隠しているのは、その敵———夾竹桃の事だけじゃない」
その名前を聞いた俺は驚愕する。
(夾竹桃だと……! まさか、あいつのことか!?)
そんなことを考えている俺の耳に、アリアの声が届く。
「———自分自身のことも、隠してる」
中の会話は着々と進んでいた。
その会話に耳を傾けている俺の元に———笠原がやってきた。
「あ、樋熊先ぱ———フゴッ?!」
素早く笠原の元に駆け寄った俺は口元を押さえた。
そして、耳元で囁く。
「静かに。後で行くから、下で待っていて」
何故か顔を真っ赤にした笠原はコクコクと頷くと戻っていった。
笠原を見送って、再び室内の話に耳を傾ける。
そして間宮の声と思しき声が聞こえてきた。
「私の家は昔、公儀隠密———今で言う政府の情報員みたいな仕事をしてました」
———思い出した。
間宮一族の先祖の間宮林蔵とうちの先祖は繋がりがあったと聞いていた。
が、まさかあいつがその子孫だったとは。
人と人の繋がりは意外と身近にあるのかもな。
そんなことを考えていた今の俺は知る由もなかった。
この会話を全て聴いてしまうことがこれから起こる事に巻き込まれていく要因のうちの一つになるということを———
病室の前を後にした俺は、下の階にいる笠原の元に向かう。
結局、病室内での会話を全て聞いてしまった。
決して盗み聞きするつもりはなかった(ほぼ盗み聞きと同じような状態になっているので弁明しても無駄だと思うが)。
でも、聞き入ってしまった。
彼女らの関わっている事件が、自分にとって無関係とは言い切れなかったからである。
いつかはその時が来ると覚悟していた。だが、自分はそれを投げたしたかった。
しかし、今の自分にはそれを投げ出すということは到底できない。
それは自分自身が一番よくわかっている。だけどもう何も失いたくない。
そんなことを思っていたら笠原を見つけた。向こうもこちらに気づいたらしく駆け寄ってきた。
「悪い、待たせたな。で、何の用だ笠原?」
「あ、えっと、さっき先輩に電話が」
「電話?」
不思議に思った俺は携帯を開く。そこには、沢山の不在着信が入っていた。発信者は理子だ。
携帯を確認している俺の元に再び電話がかかってきた。
「もしもし?」
『やっほーシューくん? やっと繋がったよー』
「どうしたんだ理子?」
『バスジャックの犯人の泊まってた部屋が見つかったから鑑識の手伝いに来てー。来てくれないとりこりん、ぷんぷんがおーだぞ」
「分かった分かった、ちゃんと行くから。取り敢えず、位置だけメールしといてくれ」
『うー、らじゃー!』
そう言って電話が切れた。
相変わらず嵐のようだぜ……。
「悪い笠原、後頼む。急用が入った」
「わかりました。それから先輩、一つお願いが」
「ん? なんだ?」
突然のことに少し驚きながらも、あまり表に出さずに会話を続ける。
「私のこと下の名前で呼んでもらっても———いいですか?」
顔を真っ赤にしながら少し俯いてそんなことを頼んできた。
「わかった———璃野」
戸惑いながらも俺は了承した。
すると、彼女の顔がパァーッと明るくなった。
なんだろう? 何が嬉しいのだろう?
「取り敢えず俺は用事があるから———後は頼むぞ、璃野」
「はい!!」
俺は武偵病院を後にした———
ホテル日航の一室、そこには鑑識科の生徒と探偵科の生徒がいる。
ここは、バスジャックの犯人———武偵殺しの泊まっていた部屋だ。
現在は鑑識科と探偵科が合同で現場検証を行っている。
そんなところに俺もいる。
「シューくぅーん! 遅かったね〜」
「仕方ないだろ、武偵病院にも行ってたんだから」
「おー、それはご苦労さん」
「それより、なんで俺を呼んだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」
「?」
「それは、シューくんに現場監督をやってもらいたいからです!」
———は? 現場監督?
「ちょ、ちょっと待て! 俺はそんなの引き受けないぞ! 第一なんで俺なんだよ!」
俺は全力で引き受けることを拒否する。
対する理子は、理由を述べてくる。
「なんでかって言ったら、ほらシューくん今回の事件の関係者だからねぇ〜。それにランクSで卒業できるだけの単位取り終わってるからだよ」
理子がそういうと周りの奴らも頷く。
「まさか、その説明で周りの奴らは———」
「もちろん全員納得したよ!」
ああ……。やっぱりウチの生徒は単純なのか……。
こんな説明で納得してしまうなんて……。
「それに———仲間を傷つけた犯人に関する事件の捜査だよ。捜しださなくていいの?」
理子が普段の明るい口調ではなく、暗いシリアスな口調でそう言ってきた。
「あぁ……わかったよ。やりますよ、現場監督」
「さっすがー! じゃあ、頼みますよ監督ぅ〜」
「その呼び方やめろ。取り敢えず現状は?」
「全くと言っていいほど何も出てこないね〜」
そういった後、理子は不敵な笑みを浮かべながらこういった。
「くふ。結構慎重な犯人なんだよ、理子みたいに」
「なるほど。ホテルの宿泊記録もか?」
「んーとね、それは外部から改ざんされてた」
「手を回すのが早いな。この犯人。取り敢えずもう一回この部屋入念に調べるぞ。理子、手伝ってくれ」
「———あい!」
その後、理子に手伝ってもらいながら現場検証に取り掛かった———
あの後、夜が明けるまで調べたが犯人に繋がるものは何一つ出てこなかった。
調査書に関しては、ほとんど書けることが無かったが他の奴が作ってくれるというのでお願いしてきた。
今は寮の自分部屋にいるが、正直なところ眠れる気がしない。昨日いろいろなことがありすぎて頭の中での整理が追いついていないせいだと思う。
そんな俺の携帯に着信が入る。
「もしもし?」
『もしもし、シュウ君?』
「———マキか。久しぶりだな」
彼女は大岡マキ。東京武偵高の生徒でありながらロンドン武偵局に所属する武偵であり、ロンドン武偵局における俺の依頼者でもある。
『うん、久しぶり』
「どうしたんだ電話なんかしてきて?」
『メールの返信を久々してきたから、何かあったのかなと思って』
なんだその返信があったら俺が災難に巻き込まれてるみたいな状態。
まぁ、実際に巻き込まれてしまったけど……。
「まぁ、あったといえばあったな……。用事はそれだけか?」
『まだあるよ。単刀直入に言うけど、たまにはこっちこない?』
「そっちにか……。どうしよう……」
『来ないの? ちょっと残念だな』
「……わかった、行くよ。どちらにせよ、そっちには行かないといけないわけだし」
『オッケー。じゃあ、飛行機の座席は久々に来てもらうから普段よりもいいやつにしておくからね』
「あ、ハイ」
『えっと、飛行機だけど———』
マキから搭乗する飛行機の日時を聞いた後、俺の記憶はプッツリと途切れてしまった。
気がつくと午後3時を回っていた。
自分がどれくらい眠っていたのかがわからない。
しかも、異様に体が重い。
取り敢えず起き上がった俺は武偵病院へと向かった———
アリアの病室へと向かう途中キンジに会った。
「よう、キンジ」
「悪い、1人にしてくれ」
なんとなく沈んでいるあたり、アリアと口論でもしたのであろう。
「わかった、帰り気をつけろよ」
「ああ……」
キンジと別れた俺はアリアの病室へと向かう。
「アリア、入るぞ」
「……いいわよ」
中に入るとアリアは、窓の外を見つめていた。
こっちも沈んでるみたいだな。
「ほらよ」
そういって俺はアリアに来る途中で買ってきたももまんを手渡す。
「どうしたのこれ?」
「台場まで行って買ってきた。この近辺で売ってなかったから」
「そう……」
アリアはももまんを受け取ってくれたが食べようとはしなかった。
「なんでそんなに沈んでるんだ?」
「……なんでもないわ」
アリアはそう言って再び窓の外を見つめていた。
しばらくの間、病室の中を静寂が支配した。
そしてアリアがこちらに向き直し口を開いた。
「ねえ、私のパートナーになってくれない?」
そういったアリアは少し俯いた。
「良いよ」
「え?」
二つ返事で了承した俺に対してアリアは赤紫色の瞳をまん丸に開いた。
「アンタ、今———」
「いいって言ったよ」
その言葉にアリアは目を見開く。
「こんなあたしなんかがパートナーでもいいの?」
アリアは首を傾げながら尋ねてきた。
「俺は構わないんだが、今すぐにパートナーになることができないんだ」
「どういうこと?」
「前に話したロンドン武偵局にいる依頼者がいるだろう?」
「ええ」
「あいつのところに行って話をつけないといけないんだ」
「話って何の?」
「パートナーを解消してもらう話」
「まさか、その依頼者とはパートナーなの?!」
アリアは衝撃的だったらしい。
「いや正確には、パートナーになる予定の解消だな」
「それが、終わらないとあたしとはパートナーにならないってこと?」
「そうなるね……」
「そのパートナー候補のところに行くのはいつなの?」
「近々行ってくる。だいたい2日後ぐらいかな」
「分かったわ。しっかりと話をつけてきてね」
「そこのところは心配しなくても大丈夫なんだけど……お前の傷の方はどうなんだ?」
「こんなのただのかすり傷よ。医者は大袈裟すぎるのよ」
(その医者側の人間にそれを言うのか……)
そんなことを思いながら視線を周りに移すとゴミ箱の中にある書類を見つけた。
「この書類は?」
「今回のバスジャックとチャリジャックの報告書よ。読むだけ無駄だと思ったから捨てたのよ」
「悪いな……何の手がかりも見つけられなくて」
「……?」
昨日の捜索のことを考えながらそう言った。
それから話を変えようと思いあのことを話してみることにした。
「あのさ」
「何?」
「昨日病室で1年とかと話してだろ?」
「ええ、話してたわ」
「悪い、その話全部聞かせてもらった」
アリアは少し考えるような仕草をした後こちらに向き直した。
「やっぱり誰かに聞かれてると思ってたけどアンタだったのね」
「盗み聞きする気は無かったんだ」
「聞いてしまったものは仕方ないわね」
そう言った後、こう付け加えた。
「でも、あのこと———イ・ウーのことを聞いてしまったからには後戻りはできないわよ」
「元よりその覚悟はあるよ」
何かに気づいたらしいアリアは俺に問いかけてくる。
「まさか、アンタもイ・ウーと関係があるの?」
「まぁ、ね。どういう風にとかは悪いけど言えない」
「そう、良いわ。でも下手に口外しないことね。もし口外したら公安0課に消されるわよ」
公安0課とは日本で唯一殺しのラインセンスを持っている公務員達である。
バーストモードの俺でも公安0課には絶対に勝てないと断言できるほど危ない奴らだ。
「注告ありがとう。取り敢えず帰るよ。こっちもやることがあるから」
そう言って扉に手をかけようとしたあたりで、ふらっ。
突然、めまいが俺を襲った。
「……?」
あまりのことに俺は少し驚いていた。
「アンタ大丈夫? 顔色悪いけど?」
「ああ。ただ、めまいがしただけだよ」
「アンタ昨日何してた?」
アリアが厳しい顔で尋ねてくる。
「事件の後直ぐに武偵病院にきて負傷者の手当てをした後、犯人の泊まっていた部屋の現場検証してた」
「それってまさか、そこの報告書に書いてあること?」
「そうだよ。徹夜で調べてた」
一瞬、部屋の中の空気が重くなった。
「……悪かったわ」
アリアがそう言った。
「いいんだ。何も見つけられなかった俺らに責任があるわけだし。俺はやることがあるから帰るよ」
「……わかったわ」
そういって俺は病室を後にした。
その後、寮に戻って仮眠を取ろうと思ったのだが全く眠りに着くことができなかった。
後書き
今回はここまで
第11弾 〜Happening hijack(事件への離陸)〜
前書き
第11話です
目を開くと、夜が明けていた。
重い体を起こし立ち上がる。
少しは眠っていたのだろう。
だが、深い眠りにつけなかった。
そんな感じがする。
顔を洗うため、俺は洗面所へと向かった———
正午を過ぎた頃、俺はロンドンに向かうための荷造りを始めた。
外へ足りない物を買い足したり何だりしていたら雨が降ってきた。
念の為に折り畳み傘を持っていって正解だった。
荷造りの終わった俺は、教務科にロンドンへ行くということとその趣旨を伝えた。
その後、武器の整備をしてから布団に入った———
翌朝8時、布団から這い出る。
昨日は何となく眠れた気がしたが、頭が軽く痛む。
痛む頭を抑えながらいつもとほとんど変わらない朝を過ごす。
敢えて違うところを上げると、今日は学校に行かないということである。
朝食を食べ終わった俺は、荷物の最終確認をする。
そして昼食を摂り、暫くしてから部屋を出た。
その後、ゆりかもめなどを乗り継いで羽田空港へと向かう。
羽田に着いた俺はチェックインを済ませてラウンジで時間を潰す。
時間を潰す合間に乗る飛行機を確認しておこうとネットで検索したら……あった。それもページトップに。
よくよく見てみると、俺の乗る飛行機———この前、ニュースで見たぞ。
確か『空飛ぶリゾート』と言われてた、全席スィートクラスの超豪華旅客機。
座席ではなく完全個室性の機内は12の個室があり、その個室一つ一つが高級ホテルのような造りをしている、だったはず。
おまけにそれぞれの部屋にベッドやシャワーも完備しているという徹底ぶり。
マキさん、なんていう飛行機を取ってくれたんですか……。
飛行機のことを確認し終えたので、メールが来ていないかを確認した。
メールボックスには、一件のメールが入っていた。
開いて見ると———マキからだ。
内容は、飛行機が相乗……相乗り?!
いきなりのことに驚いた俺は、座りながら跳ね上がりそうになった。
まあ、現実でそんなことができるやつなんて———もしかしたら、俺の周りにいるかもしれない……。
できることならいないと信じたい。
なんか話が逸れた気がしたが気にせずに、再びメールへと目を向ける。
内容を要約すると、マキの知り合いに頼んで乗せてもらうということらしい。
どんな知り合いなんだろうね、一体。
そんなことを思いながらも携帯をしまった俺は目を閉じた———
気がつくと外は暗くなっていた。
どうやら、ラウンジで座りながら眠っていたらしい。
時計を確認すると午後6時半前。
乗る飛行機は確か午後7時発なのでそろそろボーディングタイムだ。
荷物を持った俺はラウンジを後にした。
出発ロビーに着くとちょうどボーディングタイムになった。
開いたゲートを潜ってボーディングブリッジを渡り機内へと入る。
機内は2階建てになっており、1階部分はバー、2階部分が客室となっている。
2階の右側手前から2番目の部屋に俺は入った。
部屋に入った俺は荷物を部屋の隅に置き、備え付けのソファーに座っていた。
そこへ1人の女性が入ってきた。
その女性は俺を見るなり微笑んで話しかけてきた。
「あなたが樋熊君?」
「はい、そうですが」
その返しで、彼女の表情がはっきりとしたものになった。
それで俺はわかった。彼女がマキの言っていた人物だということを。
「マキさんからお話伺っておりました。森セアラです。セアラと呼んでください」
「樋熊シュウヤです。どうぞ宜しく」
そう挨拶を交わし握手をした———うおッ、なんだこの威圧力は?!
彼女に触れた瞬間に伝わってきたこの威圧力、常人は疎か俺の知る限り武偵でもこんなの持ってるやついないぞ。
俺は動揺を悟られないようにしながらソファーに腰を下ろした。セアラさんも腰を下ろした。
「あの、さっきマキから自分のことを聞いたと言ってましたよね?」
「ええ」
「マキとはどういう関係なんですか?」
「彼女とは、昔からの知り合いなんです。彼女のお父さんとは昔から面識があったので」
「それでマキのことを知っていると?」
「はい。今は彼女からの依頼などで、たまにですがこうやって彼女と会ってるんです。その時、良く貴方のことが話に出てくるんです」
マキのやつ俺のこと話してたのか……。
何かあまり聞きたく無いような話をしている気がするけど聞いてみるか。
「マキは自分についてどんなことを言っていましたか?」
そうですねと言ったセアラさんは答えてくれた。
「ロンドン武偵局での活躍とかをよく話してくれましたね」
笑顔でそう答えたセアラさんは、何というか可愛かった。
……って、何考えてんだ俺!!
この人は武偵を超えた威圧力を持ってるぐらいの人なんだぜ!
そんな事を思っている俺を他所にそういえば、と言ってセアラさんは話を続けた。
「マキさんが言ってましたけど、ロンドン武偵局において通り名があるのよね?」
ほらきたよ。1番聞かれたくないやつ。
「確か———『人間戦車』だったかしら?」
「ええ……確かそんなのだった筈です……多分……」
「多分?」
「そう言うのにあまり興味が無くてよく覚えていないんです」
そう言って俺はうやむやにした。
本当ははっきりと覚えているけどあまり公言したくないからな、このこと。
このことは置いておくとしてもう一つの質問をしてみるか。
「セアラさん」
「はい?」
改まって聞いた俺にセアラさんは向き直して返事をした。
「単刀直入に伺います。セアラさんは武装職についていますね?」
「……」
俺の質問に彼女は黙り込んだ。
俺はそれを肯定とみなして話を続ける。
「しかも警官や武偵ではない武装職……武装検事か武装弁護士、あるいは———公安警察。この3つのうちのどれかじゃないですか?」
セアラさんは未だに沈黙を保ったままである。
ですが、と言って俺は話を続ける。
「最後に残った3つの選択肢の中から消去法でいくと1つだけ消すことのできる選択肢があります。武装弁護士です。武装弁護士でここまでの殺気を持つ人間はまずいないと見ていいでしょう。よって最後に残った———武装検事か公安警察のどちらかと言うことになります」
もっともどちらに転んでもヤバいことに変わりはないけどね。
長らく沈黙を保っていたセアラさんが口を開いた。
「さすがね。だいたい正解ですよ」
あー、今ので理解したけど自分試されてたんですね。
「でも、少し詰めが甘いですよ」
確かに公安と武検の違いを見抜けないのは俺の詰めが甘いせいかもな……。
「ちなみに私は公安4課の所属です」
へー、公安警察なんだー……え?
公安4課? 嘘でしょ?
公安4課とか駄目なやつだよ!
公安4課、正式名称『警視庁公安部 公安第4課』は公安警察の中でも異能———対超能力者に特化している課だ。
4課に所属している人間は基本的に超能力者だって話を聞くけどまさか、ね。
「セアラさんもしかして———」
「はい、超能力者です」
言い切る前に、しかもYESで返ってきたよ。うん、知ってた。
しかし、マキが公安の人と知り合いだったなんて驚きだ。
これはあくまで推測だが、マキはセアラさん以外にも公安に知り合いがいると思う。
これは、マキに対して変なことしたら公安に消されるかもしれないな……。
「どうかしたの?」
現実から逃避していた俺の意識は、セアラさんの声で現実に引き戻された。
「いえ。なんでですか?」
「どことなく険しい表情をしていたので」
あ、マジか。顔に出ていたか。これはもう隠す必要無いだろうね。もっとも、最初から読まれていたと思うが。
「ああ、あまり敵に回したくないなぁと思っただけですよ」
「私をですか?」
「セアラさんもそうですけど、マキの方も」
「確かに、マキさんを敵に回すのは危なそうですね」
そう言ってお互いに苦笑した。
多分この人は大丈夫なんだろう、と言うことを改めて認識したところで俺は猛烈な睡魔に襲われた。
「すいません……少し眠らせていただき……ます」
そう言ったところで、俺の意識は現実と夢の狭間へと落ちていった———
その後しばらく寝ているが、何となく記憶があるような状況が続いていた(確かレム睡眠の時に起こるものだった筈)。
それがどれくらい続いたか分からないが、何処からかパン! パァン! と銃声のようなものが聞こえた。
それに続いて何処かで聞いた声が響いた。
「———みんな部屋に戻れ! ドアを閉めろ!」
それに続いてこの部屋のドアが閉まる音がした。その直後、飛行機がグラリ、と揺れた。その揺れで俺は完全に覚醒した。
周りを見ると赤い非常灯が灯っている。ドアの方を見るとセアラさんが立っていた。
「どうかしたんですか?」
俺はセアラさんに尋ねた。
「落ち着いて聞いて……この飛行機がジャックされたわ」
ハイジャック……やはりさっきの音は銃声だったのか……!
つまり今は、2人いるパイロットは何かされていると考えられる……。
「さっき、部屋を閉めろと叫ぶ声が聞こえましたけど誰が叫びましたか?」
俺は今の状況を整理するために尋ねる。この飛行機にはおそらく武装職の人間が他にもいる筈だからだ。
そうでなければあの指示を出すことは出来ない。
どの武装職なのかを明らかにする事で協力もしやすくなるかもしれないからな。
「確か、武偵高の制服を着ていたと思いますけど……」
武偵高の制服ということは武偵か。同じ職業で良かったと言うべきかそうではないのか。
「武偵か……」
取り敢えず、それだけ分かれば十分だ。携帯を取り出した俺は通信科の中空知に電話をかける。
「いったい誰に電話を?」
「ちょっと知り合いに」
その言葉で理解してくれたらしいセアラさんはベットに腰をかけた。
3コール目に中空知が電話に出た。
「はい?」
「あ、もしもし中空知?」
「何でしょう?」
「今何か事件とか起きてる?」
「はい、ANA600便がハイジャックされました。それがどうかしましたか?」
「そのANA600便の乗客名簿とかはもう周知してる?」
「今やっています」
「それが終わったら俺の携帯にも送ってくれないか?」
そういった直後、ガガーン! と雷鳴がした。
「わかり……ズザザ……かんり……しだ……そう……」
酷いノイズの後電話が切れてしまった。
ここは航空機の中だ。回線が繋がりにくくなるのは仕方がないことである。
それを今の雷でやられたのかもしれないな。
繋がっただけ奇跡かもな。
俺が通話を終えたことに気が付いてセアラさんが声をかけてきた。
「どうですか?」
「電話が繋がらなくなりました」
「じゃあ、情報は……」
「恐らく受信できないでしょう……」
「だったら、あの犯人をどうやって?」
そこだ。
どうやってハイジャック犯を捕まえるか。
そういえば、人数を聞いていなかったな。
「セアラさん、実行犯は何人でしたか?」
「さっきいたのは、アテンダントが1人だったわ」
犯人は1人なのだろう。
だが、それは実行犯というだけであってもう1人いる可能性も視野に入れなければならない。
しかし問題がある。
俺自身がこういう事件とは疎いということだ。
基本的には、地上で戦うことの方が多い。
また、乗り物でのジャックは片手で数えられるほどしか解決していない。
しかも、その事件は全て乗客がいないというものだった。
故に今回の事件は俺が解決出来るのか分からない事件なのだ。
だが、最善を尽くす事をしなければ何もできない。それは今までの経験でよく分かっている。
今やるべきことは———
「すいませんがセアラさん、ここで待っていてもらってもいいですか?」
「何をする気なの?」
セアラさんは深刻そうな面持ちでこちらを向いた。
「犯人の元へ行きます」
そう言った俺は所持している武器を確認する。
ベレッタよし。DEよし。弾倉よし。近接用武装よし。
「そんな、無謀すぎるわ! 犯人の目的もわからないのに」
たしかに無謀かもしれないな。でも、やらなきゃいけないことなんですよ。これは。
「セアラさんの言う通りです。犯人の目的もわからないのに犯人のもとに向かうのは無謀以外の何者でもない。それに加えて、犯人がどんな武器を使うかなどの情報もなく戦況はこちらが圧倒的に不利。でも、何もしないままでいるのは嫌なんですよ。それに———自分はこんなところで終わるわけにはいかないんです」
そういった俺は、最後の武装を探す。
「セアラさん、自分の荷物はどこに?」
少し黙っていたセアラさんは口を開き教えてくれた。
「上のラックの中よ」
言われたところに入っていた荷物の中から2本の刀を取り出した。
その刀を柄の部分を下にして交差するようにブレザーの下に背負った。
「……気をつけてね」
「はい」
そう会話を交わした俺は部屋を出た———
床に点々と灯る誘導灯のみを頼りとして、俺は慎重に1階へと進んでいく。
1階のバーの入口に近づくにつれて銃声がはっきりとしたものへと変わっていく。
中で撃ち合いが行われているのであろう。
すると突然、その銃声が一旦止んだ。
不審に思った俺は入り口の横の壁———中からは死角となる位置に滑り込もうとした瞬間、うあっ! という声が聞こえた。
滑り込んだ死角で俺は、武偵手帳にしまってある伸縮棒付きの小型ミラーを取り出した。
それで中を見ようとした時、中から大声がした。
「アリア……アリア!」
その声に俺は驚きつつも、急いで部屋の中を確認した。
見ると中には、血塗れで倒れるアリアとその側にしゃがみ込んだキンジがいた。だが、犯人の姿が見えない。正確にはこのミラーの死角なのだ。
キンジは、アリアをお姫様抱っこで抱えるとこちらへと走ってきた。
こちらに気づいた———訳ではないと思う。
あいつの今の顔を見るに、半分くらいパニクってる筈。
そんなキンジはアリアを抱えて2階、恐らくアリアの部屋へと向かったのだろう。
そのキンジの背中に見知った声がかけられた。
「きゃははははっ! ———ねえねえ、狭い飛行機の中、どこへ行こうっていうのー?」
ベレッタM93Rの安全装置を外した俺はそれを構えて入口の前へと飛び出し中にいるであろう犯人へと向けた。
「武偵だ、大人しく———」
そこまで言ったがその先の言葉は続かなかった。
犯人がこいつだということは予想できていた。それでも、目の前の光景に驚愕してしまう自分がいた。
「……理子!?」
「あれれ〜、シュー君? どうしてこんなところにいるのかなー?」
不敵に笑いながら問いかけてくる理子に、普段の面影は殆ど無い。
両手に銃を持ちながら、ツーサイドアップのツインテールでナイフを握っている。
その光景を見た俺は呟いた。
「……超能力者だったのか、お前」
「くふふ、そうだよ。シュー君はあまりこういうのは驚かないんだね」
そう言った理子はナイフについた血を舐める。
あのナイフでアリアが切りつけられた。そのことを物語っている。
「お前、本当に……本当になんなんだよ! 何が目的でこんなことしてるんだ!」
怒り混じりで、睨みながらそう尋ねた俺に理子は答えた。
「理子は理子だよ。後は目的だっけ?」
いつもの口調でそういった理子は続けた。
「目的はオルメス4世———アリアを超えてあたしは、あたしになる!!」
なんだ、なんの話なんだそれは。
言ったことがわからないことだらけである。
しかし、今のでこいつが何者なのかを理解する事が出来た。
「今、アリアのこと『4世』って言ったよな?」
「それがどうかしたのか?」
「この台詞から推測するに、お前も『4世』なんだよな?」
この質問は地雷だったようだ。
「———今なんて言った?」
やばいなこれ。ガチで踏んではいけないものだったようだ。
「なんて言ったかて聞いたんだ!!」
そう叫んだ理子は切りかかってくる。
「!?」
咄嗟の出来事で対応が少し遅れた俺はなんとかその攻撃を回避するが、ナイフが髪の毛を掠めた。
俺はそのまま後退して、態勢を立て直した。
「待て、なんでそんなに怒るんだ!」
「どいつもこいつも4世、4世数字で呼びやがって!」
それか、こいつの怒りの原因は。
「落ち着け理子。お前は結局何者なんだ」
名前で呼んだせいか少し落ち着いた理子は答えてくれた。
「さっきも言ったように理子は———」
「そういうことじゃない」
そう言われた理子は理解したらしい。
「ああ、そういうこと。じゃあ、ヒントをあげるから考えてごらんよ」
「ヒント?」
「フランスの大怪盗って言えばわかるかな」
そう言って理子はくふふ、と笑った。
「フランスの……大怪盗……まさか!」
「わかったみたいだね〜」
「アルセーヌ・リュパン……!」
「せいかーい! 流石だねシュー君。理子の曽お爺さまは大怪盗アルセーヌ・リュパンだよ。で、理子の本当の名前は理子・峰・リュパン4世」
マジかよ。
大怪盗の曾孫かよ。
なんなんだマジで。
訳が分からなくなってきた。
「そうだ、シュー君もどう?」
理子が突然問いかけてきた。
「何がだ?」
「一緒に、イ・ウーに来ない?」
「!?」
その言葉に俺は衝撃を隠せなかった。
同時に、こいつを叩きのめしたいという衝動さえ生まれてしまった。
そんな俺に対して理子は、シリアスな口調で続けた。
「どう、来ない? それだけの実力があれば上を目指せるよ。それにシュウヤの———」
そこまで言われた俺は、衝動的に怒鳴っていた。
「いい加減にしろ! 俺にテロ活動しろって言うのか! お前———武偵殺しや、あいつらのやった間宮の里での破壊活動とかをやれって言うのか?!」
「やっぱ言わなくても気づいたか。理子が武偵殺しだってこと」
「ああ、たった今な」
イ・ウーにこないかと誘われた瞬間に頭の中のありとあらゆる情報が繋がった。それにより理子が武偵殺しだということもわかった。
「そっかー残念だなー。じゃあもう一つ別の質問しようか」
「?」
俺は首を傾げた。
「———始業式の日、どうして無傷で学校に来れたの?」
後書き
今回はここまで
第12弾 避けられない衝突
前書き
第12話です。
始業式、それはキンジとアリアが出会った日。
全ての元凶が起こった日。
「どういう意味だ?」
質問の意図が分からず、目の前にいる理子に質問した。
「そのまんまだよ。始業式の日なんで無傷のままで登校できたの? それも時間通りに」
俺は始業式の日を思い返した———
朝起きてから、普段通り朝食を摂り、普段通り支度をし、普段より早く家を出た。
始業式の日は若干気分が上がってしまうタイプなのだ。
それ故に、この日はバスでは無く自転車を使った。
自転車を出すときにサドルの部分をつかむ癖があるのだが、その時にC4爆弾が付いていることに気がついた。
しかしこの時の俺は誰かのイタズラ程度にしか考えておらず寧ろ、「なんか資材が手に入ったな〜。ラッキー」とさえ思っていた。
C4爆弾をサドルから外すと3分かからずに解体した。
その後、解体したC4爆弾のパーツを鞄にしまった俺は自転車を漕いで学校へと向かった。
漕ぎ始めて暫くすると、後ろからUZIを積んだセグウェイがやってきて右側を並走し始めた。
そのセグウェイにはスピーカーも積まれておりボーカロイドのような機械音声で話し始めた。
「減速すると 爆発 するでやがります」
最初はなんのこっちゃと思い流していたが、途中でC4爆弾のことを思い出した。
これは無視して行こうと思ったのだが、あまりにもセグウェイが鬱陶しかったもんでついつい行動に移してしまった。
「んなもん、とっくに解体したわ!」
そう叫んだ俺は、自転車を少し左に動かした後勢いをつけて右へ———セグウェイへと蹴りをかます。
自転車の勢いが乗った蹴りでセグウェイはドカッ! という音とともに横転した。その際に、銃座のUZIは外れてしまった。
セグウェイを横転させた後、誰がなんの目的でこんな事をしているのかを考えていると新たに15台程のセグウェイが来た。
こちらはスピーカーは付いていないが、相変わらず無人でUZIを搭載している。
俺は自転車のギアを6に入れると全力で漕ぎ始めた。
それに合わせるかのようにセグウェイも加速した。
俺は学校のある学園島を出て青海を目指した。
チャリで全力疾走しながら無数のセグウェイに追われるというありえない状況だったね、これ。
台場のゆりかもめの線路沿いを全力で走行していく。
台場駅を通り過ぎてそのまま青海へと向かっていく。
そして青海の倉庫街へと進んでいく。
狭い道を蛇行しながら進んでいく。
この時ドリフト気味に曲がったりしていたので、曲がりきれなかったセグウェイが何台か壁にぶつかっていった。
それ故、先程まで15台近くいたセグウェイは5台にまで減っていた。
残ったセグウェイ達は、しぶとく俺を追ってきた。
だがそれも、ここで終わりだ。
俺は海へと自転車を飛ばす。
そして地面がなくなる瞬間にハンドルを思いっきり持ち上げ、ちょうどバイクのウィリーの様な状態で海へと飛んだ。
飛び上がると同時に俺は、ベルトのワイヤーを右手側にあった近くの倉庫のドアノブに絡みつかせ、引いた。
引いた勢いで、俺は再び地面の方へと戻った。
海へと飛んだ俺を追いかけてきたセグウェイの内2台は減速が間に合わず水没して行った。
残った3台のセグウェイは、着地しようとした俺に銃口を向けた。
俺はUZIの銃口をジッと見つめ、そこに全ての意識を集中させた。
そして、俺が着地すると同時にUZIからそれぞれ1発ずつ弾が発射された。
普通ならこのタイミングで撃ってくる弾は避けられない。
それをわかった上でこのタイミングで撃ったのだろう。
だが、そいつは無駄だったようだな。
何故かって?
それはだな、今の俺には弾の動きが全て見えているからだ。
狙いは———頭、首、心臓。殺す気でやってるな。
そんなことを思いながらも俺は弾の射線から離れるために、銃弾を見ながら反時計回りに90度、軸回転をした。
そして、俺の側を銃弾が通り過ぎると同時に、右手で持ったベレッタを回転の勢いを使って流すように撃った。
この際に使用した弾は3発のみ。
その3発の銃弾は、確実にセグウェイの銃座を破壊していった。
いまので、セグウェイは完全に沈黙した。
俺は、セグウェイをくまなく調べた後全て解体し、鞄とは別で持ってきていたリュックに詰めた。
部品を詰めきった俺は再び自転車にまたがった。そして、左腕に巻いた腕時計へと目を落とす。時刻は7時58分。
ちょうど第3男子寮前にバスが来たあたりだ。
俺は、今度は学園島を目指して自転車を漕ぎ始めた。
その後、始業式の10分前には学校に着き普通に始業式に参加した。
その日、教務科から出された始業式中の時刻に起きた事件についての周知メールに、俺が気がついたのは夜になってからだった———
「———アレをやったのはお前だったのか」
今更ながら、周知メールに書いてあった内容と全く同じことが自分の身に起きていたことに気がついた。
「そうだよ。ぜーんぶ理子が仕組んだことだよ。で、どうして無傷だったの?」
「ああ、まずC4についてだが、乗る前に解体した。で、セグウェイは蛇行運転とフェイクと銃撃で全部お釈迦にした」
と、言うような感じで軽く説明してやると、驚きと僅かだが感動のようなものが混じった顔をした。
「で、解体した爆弾とかはどうしたの?」
「爆弾とセグウェイの残骸は全部、放課後に平賀ちゃんと一緒になって夜までやってた発明に回した」
それを聞いた理子は、少し唖然としていた……気がした。
それにしても、一体何が目的で俺を狙ったんだ?
そこのところが全く分からない。
「何故俺を狙った?」
「そんなの簡単だよ。アリアとくっついてもらうためだよ」
普段通りの口調でそう言った理子は、中身が入れ替わったかの様にシリアスな口調になって続けた。
「でも、本命は———シュウヤ、お前じゃ無い」
ああ、そう。結局のところそうじゃないか。
「要するに予備だったんだろ、俺?」
「大正解!! 最初の予定では、シュウヤとアリアをくっつける予定だったんだけど、やっぱりキンジの方があってたんだよね〜」
そこまで聞いて、俺の中で何がプツリと切れた気がした。
「……いい加減にしろよ、お前。さっきから黙って聞いていれば人のこと物みたいに扱いやがって。おまけに、お前の私的な理由で巻き込まれる者の身のことなんて全く考えて無いみたいな言い方しやがって」
俺はそういう奴が1番気に食わない。こういう奴を前にすると冷静ではいられなくなってしまうタイプなのだ。
「あたしと戦うっていうの?」
「上等だぜ。戦ってやるよ」
そう言い放った俺は、ベレッタを仕舞ってベルトの左右に付けたシースナイフを鞘から抜き、左手のナイフを逆手持ちにしてダガーのように構えた。
「あれ〜、そんなオモチャなんかで良いのかな〜?」
確かに、刀などの武器を使い慣れた者や、それを見てきた人間からすればナイフなどはオモチャ同然であろう。
俺自身もその内の1人であるから、言っていることはよくわかる。
だが、今この場においては小回りの効くナイフの方が圧倒的に優秀である。
何より今の俺は持っているとはいえ、刀を抜くつもりは無い。
「こいつで十分だ」
俺は、内心を悟られないようにするためそう返した。
そして、理子へと襲い掛かった。
飛び込んでいく俺に理子は銃口を向けようとした。
理子が銃口を向けきる前に体勢を低くした俺は彼女の懐へと忍び込んだ。
そして俺の刃が彼女を捉えようとした刹那———彼女のツインテールで握られていたナイフが双方から襲い掛かってきた。
俺はとっさの判断でその刃を抑えた。
そして蹴りをかまそうとした瞬間、嘲るような顔をした理子は俺に右手で持ったワルサーP99の銃口を向けてきた。
そして、2回のマズルフラッシュと同時に金属バットで殴られたような痛みが2回走った。
「ぐふっ?!」
俺は反射的にナイフを弾いて後退した。
至近距離で銃撃してきたのか。
まあ、武偵同士の戦いでは当たり前のことなのだが。
俺はナイフを仕舞ってベルトの背面側に付いた2つのホルスターから2挺のDEを抜こうとした。
それを見計らったかの様に理子が襲いかかってきた。
俺は即座にDEを抜き、応戦する態勢に入った。
銃口を彼女に向けた途端、手元にあった2挺のDEが消えた。正確には、彼女によって弾き落とされたのである。
「……?!」
瞬間的に理解の追いつかなかった俺は僅かに硬直していた。
理解の追いついた瞬間には———もう、遅かった。
自分の眼前には、平行に並んだ2本のナイフが迫って来ていた。
この時の俺は、純粋な死への恐怖しか無かった。
(駄目だ、終わった———)
そう思った俺の中で再び、あの血流の感じが生まれた。
全身を物凄い勢いで血が巡り、上半身へと血流が集まっていくこの感じは———間違いない、バーストモードを発動するときのものだ。
そして、意識が再び現実へと戻ると俺は、上体を逸らしてとある映画の銃弾を避ける時の様な体勢になり、ナイフを避けた。
そして、避ける体勢に移る時に抜いて置いたベレッタから、弾丸を彼女の左右の肩へと放った。勿論、相手の方を見ずに。
被弾した彼女は、少し後退しながら態勢を立て直した俺に言った。
「くふっ、その感じなったんだね」
「……知っているのか」
「勿論知ってるよ。B・S・Tでしょ。確か狂戦士みたいになるんだよね?」
俺の体質のことを知っていたのか……。
「そうだ。で、まだ続けるのか———4世さん」
その言葉を聞いた彼女はキレた。
「———お前もか。お前もあたしを侮辱するのか!! アイツらと同じように!!」
「知らねーよ、そんなこと。今さっき、人のこと物扱いしたんだから因果応報とでも考えろ」
俺は煽るようにそう言った。
「お前は絶対殺す!!」
「上等だ、やってみろよ! 受けてやるからよ!」
ヤバイ、完全にバーストモードの俺に呑まれてきている。
そんな事を考えていると、彼女が飛び掛ってきた。
俺は、ブレザーの内側から2本の逆刃刀を抜き応戦する。
俺の右の刃と彼女の右のナイフがぶつかりあって火花を散らした。
俺は刀ならではのリーチを生かして、ガラ空きとなった彼女の右の脇腹へと刀を振った。
「貰った……!?」
その瞬間、またしてもあの忌々しい記憶が蘇り邪魔をした。
そのせいで、左手の力は抜け、握っていた刀を離してしまった。
「やっぱり、甘いね」
そう言われたことで俺の意識は戻ってきた。
しかし、目の前の彼女は既に左側のナイフを振り下ろしていた。
俺は急いで刀を掴み直そうとした。
「……ッ?!」
しかし、その刀を掴むことができず刀は床へと落ちた。
なんだ、この左手に感じる違和感は? 自由に動かすことができない。
俺は、無理矢理左手を地面について左へとローリング行い、ナイフを避けた。
「あれれ〜、さっきまでの威勢はどうしたのかな〜?」
理子は、嘲るような顔で言った。
「ッ……」
駄目だ、形勢が逆転している……!
一体どうなってるだこれ?
俺の身に何が起きているんだ?
分からない……。
それに、この状況も打開しなければならない。
こんな窮地でどうすれば良いんだよ……。
策はある。だが、一か八かの賭けになる。
やるしか無いみたいだな、可能性に賭けて。
俺は震える左手を懐に入れて、弾倉を取り出した。
それを見た理子はこう言った。
「悪足掻きかな〜?」
俺は、その弾倉を投げつけた。
瞬間、弾倉は眩い光を放った。
「……?! これは?」
「閃光弾装、お手製の武装さ」
彼女の言葉に対して、あの時と同じ台詞で返す。
そして、光が収まる前にブレザーを脱いだ俺は、刀を破棄してブレザーを彼女に覆い被せる為に飛びかかった。
近距離であれば、体格で圧倒できる。その結論に至った俺はこの作戦を決行した。
しかし、飛びかかった瞬間、僅かに機体が揺れた為に誤差が生まれてしまった。
おまけに、ブレザーを離してしまった。
その、ブレザーの死角から彼女———『武偵殺し』は現れた。
そして俺は、ナイフで切りつけられた。
左肩から鎖骨の辺りまで、そんなに深くは無いのだろうが傷ができていた。
俺は飛んだ勢いのまま床に倒れて幾らか滑った。
左肩からは血が飛び散っている。
俺の意識は徐々に薄れて行った。
薄れ行く意識の中で理子の声が聞こえてきた。
「残念だったな〜。シュー君ならもっとやってくれると期待してたんだけど〜。まぁ、しょうがないよね」
そう言った彼女は俺の首元にナイフを突きつけていた。
「じゃあ、バイバイだね」
ああ、俺はここで終わってしまうのか。
結局、あいつ———マキの所に行くということも遂げられず、ただただ『武偵殺し』による犠牲者になってしまうのか。
そして、ナイフが俺の首を裂こうとした瞬間、理子がナイフを止めた。
突然理子は、背中を向けどこかへ行こうとした。
途切れそうな意識の中、俺は尋ねた。
「何処へ……行くんだ……?」
顔だけこちらに向けた理子は答えた。
「あの2人の元だ。お前はあくまで余興に過ぎない。あの2人こそがあたしの目的の本命なんだからな」
そう言った理子は、バーの出口へと歩いていく。
「……待……て……」
そう言ったところで、俺の意識は途切れてしまった———
次に気がついた時、俺は客室のベットの上にいた。
上裸で、傷口には包帯が巻かれていた。
俺の荷物の中にあった医療キットのやつだな、これ。
それになぜか、僅かだが傷が塞がっている気がする。
「気がついたのね」
セアラさんが声をかけてきた。
「セアラさんが自分をここまで?」
「ええ、驚いたわ。血塗れで倒れていたから」
そう言われた俺は俯いた。
敗北。その事実が俺の胸を抉った。
「もう、平気なの?」
「……はい、手当していただいたお陰で」
ゆっくりと顔を上げながらそう言った。
「ところで、自分は何分ぐらい気を失っていましたか?」
「私が見つけたのが15分前だから———15分ね」
15分か。その15分で、何が起こったのかは分からない。
だが、まだやるべきことは残っている。
そう思った俺は、Yシャツに袖を通した。
「あ、左腕を吊ってあげるから待ってて」
そう言ったセアラさんは、三角巾で俺の左腕を吊ってくれた。
「ありがとうございます」
そう言った俺は、ブレザーを左腕だけ通さずに羽織った。
そして、部屋を出ようとした。
「何処へ行くつもりなの? その怪我ではもう戦闘は無理よ」
セアラさんにそう言われた。
「乗客などの安全確認です。あの、セアラさんにも手伝ってもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「わかったわ。私はどうすれば良い?」
「取り敢えず、客室の方々の元へお願いします。自分は操縦士達の容態を確認してきます」
そう言った俺は客室を後にした。
そして、操縦士たちの元へと辿り着く。
その瞬間、機体が大きく揺れた。
俺は、急いで容態確認へと入った。
1人目の確認が終わり、2人目に入ろうとした瞬間にアリアが現れた。
「アリア……お前もう大丈夫なのか?」
「シュウヤ! あんたなんでこんなところにいるの!」
「えっと、まあ、ロンドンに行くんでこれ乗ったこうなった。で、アリアの方はもういいの?」
「ええ。それよりあんた、その怪我どうしたのよ?」
吊っている俺の左腕に視線を向けながら、アリアは問い掛けてくるのだった。
「理子にやられた」
「あんたもあいつとやったのね」
「負けたけど。で、理子は?」
「逃げたわ。今キンジが追ってる」
「そう。あ、あとこれ」
「?」
俺はアリアに、機長のポケットにあったICキーを渡す。
「操縦室に行くんだろ? それが無いと入れないからここに来たんだろ」
「よくわかったわね。流石、あたしが見込んだだけのことはあるわね」
「そいつはどうも。とにかく、この2人は俺が見とくから早く行け」
「分かったわ」
そう言ってアリアは操縦室へと向かっていった。
そして、俺が2人目の容態確認を終えた途端、轟音と共に、今までで一番激しい振動がANA600便を襲った。
「なんだ?!」
突風や落雷では無い、物理的に殴られたような衝撃だ。
ANA600便は急降下を続けていた。
俺は何があったのか確認しようと思い立ち上がった。
そして、一旦出ようと思いドアノブに手を伸ばして開けると、目の前にキンジが立っていた。
「シュウヤ……!! なんでこんなところに! それにその腕は?」
「まあ、色々と訳あってだな。腕は、理子にやられた。ところで、理子の奴はどうなった?」
「逃げたよ、機外に。それと入れ替わるかのようにミサイルまで飛ばされた」
「ミサイル?! じゃあ、さっきの衝撃は———」
「ミサイルがぶつかった衝撃だ。おまけにエンジン2基を失った」
アイツら、マジで何考えてるんだよ! このままじゃヤバイぜ。
「このままいけば、俺ら御陀仏だな」
「そうなるな。でも、そうはいきたくないな」
「同感だ。で、何しに来た?」
「取り敢えず、連絡手段を探しに」
「あー、それなら操縦士の持っていたこれを使ったらどうだ?」
俺は衛星電話をキンジに渡す。
「これなら連絡が取れる。ナイスだ。ところで操縦士たちはどんな感じなんだ?」
「両人とも昏睡状態だね。恐らくだけど麻酔弾あたりを打ち込まれたんだと思う」
「そうか……」
このタイミングで俺は、今1番の疑問をぶつける。
「ところで、お前今なってるだろ。ヒステリアモードに。どうしてなった?」
「気づいていたか。まあ、色々あったんだ。察してくれ」
うん、狭い機内で何したのかって言われると、選択肢が絞りやすいから察しやすいわ。
「そういうお前もまた、なってんじゃ無いのか?」
「まあね。と言っても、終わり際の方だがな。それより、行かなくていいのか、操縦室? アイツが怒るぞ?」
「そうだな、早く行かないとアリア嬢がお怒りかもな」
「というわけで早く行け」
「そうするよ。本当はシュウヤに操縦を頼みたかったんだが」
「悪いな……こんなになっちまって」
俺は、視線を逸らしながら謝罪の言葉を述べるのだった。
「お前が謝ることじゃ無いさ」
「ありがとな。とにかく、頑張れよ」
「ああ」
そう言ったキンジは、走って操縦室へと向かって行った。
俺は、近くにいたアテンダントさんに2人をお願いして、客室へと戻った。
客室に戻った俺は、ソファーに座って携帯を開いた。
そして、電波の状況を確認した。
しばらく画面とにらめっこしていると、アンテナが立った。
俺は、電話を掛けたが相手は通話中だった。
仕方がないのでしばらく置いてから掛け直した。
そして、相手が出た。
『もしもし?』
「もしもし武藤?」
『シュウヤ! お前今どこにいるんだ?』
「んー、敢えて言うなら東京上空かな?」
『お前、まさか……!』
「そのまさか。ANA600便の機内だ」
『お前も乗ってたのか! でも、通信科の周知した情報だとお前の名前は無かったぞ?』
「そうだろうね、だって俺の名義で乗ってないんだから」
名義は多分セアラさんだろうから、俺がいるなんて1ミリもわかんなかっただろうな。
『どういうことだよ?』
「今話すと長くなるからまた後で話すわ。取り敢えず、やってもらいたいことがあるんだけど」
『なんだ? こっちは今忙しいんだ』
「お前まさか、滑走路の用意してるのか?」
『ああ、羽田の滑走路は自衛隊が封鎖してるからな。で、キンジの奴が「空き地島」に着陸するとか言い出したからな』
あいつらしい発想だな。
多分俺も同じことしただろうけど。
「もう既にやってるんだったらいいや」
『お前、このことがわかっていたのか?』
「うん、なんとなくね。悪いけど頼むよ」
『ああ』
武藤がそう言って電話は切れた。
その直後、セアラさんが部屋に戻ってきた。
「どうでしたか?」
「怪我人はいなかったわ」
その言葉を聞いて安堵していた。
セアラさんが向かいのソファーに座った。
その時、機内放送が入った。キンジの声で。
『皆様、当機はこれより緊急着陸を行います』
セアラさんはソファーを強く握っていた。
ソファーを握った。
そのアナウンスの後、機体はどんどん高度を下げていく。
そして、レインボーブリッジが見える辺りまで来た。
俺は窓から外を見る。
案の定、空き地島は見えなかった。
すると、空き地島にポツリポツリと、光が灯り滑走路になっていた。
武藤たちがやってくれたんだ。キッチリと対角線になるように。
滑走路は準備できてんだ、後は頼んだぜキンジ。
そのまま、空き地島に着陸した600便はブレーキをかける。
そして、何か途轍も無い衝撃が機体に走った。
他の部屋からは、悲鳴が聞こえて来たが、俺の意識は再びここで途切れた———
気がつくと武偵病院にいた。
あの後、救助された俺は武偵病院に搬送されたらしい。
殆ど記憶がないのだが、救助の際に俺は受け答えはできていた、ということを璃野から聞いた。
ついでに、俺の症状について聞いたところ、傷は跡が残らないもので全治2週間ほど。
腕の痺れに関しては、過労とのことで。
要は、しっかりとした睡眠がちゃんと取れていないからこうなったらしい。
今思い返すと、敗因となったことが睡眠不足だなんて言えない。
そんなことを思いながらも、取り敢えず一晩グッスリと眠った。
そして、現在俺の元にはセアラさんが来ている。なんでかって? 簡単だよ。
「今から、ロンドンに向かいますよ」
だってさー。
ちょっと待って、武器の整備とか荷物の支度とかしてないよ。
そう思っていた俺の前でセアラさんは、俺の荷物を取り出した。
「荷造りなら済ませましたよ」
ニッコリと笑ってそう言った。
わー、早いなー。ちゃんと銃弾の数とかもリストアップされてるよ。
ていうか、学校に申請通してないんですけど。
「あ、学校には既に連絡済みです」
嘘でしょ? 早すぎるだろ?
「じゃあ、行きましょう」
そう言ったセアラさんになされるがままに、俺は病院から羽田へと連れて行かれる。
因みに、退院するとき璃野にどこに行くか聞かれたのでロンドンへ出張と言っておいた。
そしたら「お土産買ってきてくださいね」と言われた。まぁ、いいけど。
で、なんやかんやあったが羽田に着いたのが15分前。
だが、既に俺は機内にいる。
今回はファーストクラスだってさー。なんでそんな簡単にこういう席取れちゃうの、マキさん??
ていうか、セアラさんも行動に移すの早く無い?
いや、早いのは悪いことじゃ無いけどさ……。
それで、もう離陸と。
いくらなんでも一連の流れが早すぎる。
あー、でもなんか眠くなってきて考え事したくなくなってきた……。
どうも俺は、乗り物に乗ると眠くなってしまうタイプらしい。
そのまま、俺は夢と現実の狭間へと落ちていった。
その際、セアラさんが「おやすみ」と言った気がした———
寝ている俺は、ある音で目が覚めた。しかし、目を開いたりはしない。
何故かと言われたら、簡単だ。
銃器の音がするからである。
「動くな!! 大人しくしてろよ!! 動いたら撃つからな!!」
そして極め付けに、そんな声が聞こえたからである。
またかよ。また、これかよ。
あー、もう! 一体全体———な ん な ん だ よ ッ !
後書き
今回はここまで
番外編 〜Chasing(追跡)〜
前書き
番外編です。
時系列は4話と5話の間です。
屋上を後にした俺は依頼者の元に向かうために学校を出ようとしたが、ここであることに気がついた。
依頼者がいるのはここ、東京武偵高であった。
ついでに、その依頼者がいるのは、隅々まで危険な東京武偵高で三つの指に入る危険地帯の一画である教務科である。
この時点でいい予感はしていなかった。
そして、教務科にある職員室の前に着いた俺は恐る恐る扉をノックし開けた。
「失礼します……」
「おお、きたか……って、なんや樋熊か。なんの用や?」
「探偵科で取った依頼の件で———」
「なんや、あの依頼取ったのお前なのか」
一瞬、俺の頭の上に? が浮かんだ。
そして、ある考えが頭をよぎる。
「まさかとは思いますが、今回の依頼者は———」
「ウチや」
———嘘だろ。なんで探偵科で取った依頼の依頼者が武偵高の教師なんだよ! やっぱり武偵高は普通じゃねー!
今回の依頼者が蘭豹。
その事実に俺は、心の中で叫ぶことしかできなかった。
「あら、樋熊君。どうしたの?」
心の中で叫んでいる俺に話しかけてきたのは、探偵科の高天原ゆとり先生だった。
「いえ、なんでもないです……」
「あ、そういえば蘭豹先生の出した依頼を受けたの樋熊君だったわよね?」
「はい……」
「じゃあ、蘭豹先生から説明があるそうですよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「よし樋熊、説明するぞ」
「お願いします……」
俺は絞り出すような声でそう言うのだった。
「今回の依頼は、ある人物を調べてもらいたい」
「ある人物? 何かの標的ですか?」
「まぁ、そんなところや」
「わかりました。その人のことを調べればいいんですね?」
「ああそうや。で、これがターゲットの写真や」
「どれどれ———」
そこに写って居たのは、スーツを着た20代前半の男性。
あれ、これってもしかして、もしかするんじゃ無いの?
「———先生」
「なんや?」
「今回、身辺調査ですか?」
「そうや」
あくまでも、仮説にしか過ぎないのでその考えはあえて言わない。
間違ったことを言って殺されたく無いので。
「ちなみに、この標的の名前は?」
「山本翔太。それが、その男の名前だ」
「他に手がかりは?」
「住所ぐらいや。所在は青海ってことぐらいや」
青海って、このあたりじゃ無いですか。近くて良いけど。あそこの何処にいるのだろうか……。
「この人の素性を調べに行けばいいんですね?」
「そうや。頼んだで」
「分かりました。失礼しました」
こう言って俺は教務科を出た———
———ゆりかもめに乗って青海に着いた俺は、何処を探すのかの目処を立てていた。
正直言って何処を探したらいいのかがわからないので、取り敢えず聞き込みをすることにした。
結果ですか? ほとんど収穫無しですよ。
あまり成果が得られなかった聞き込みをやめ、俺は街の中を散策することにした。
ここ青海地区はかつては倉庫街であったが再開発され、今は億ションとハイソが建ち並ぶおしゃれな街となっている。
こんなおしゃれな街に今回の標的がいるとは、やっぱり俺の仮説はあっていたのだろうか?
などと考えながら歩いていると武偵高の制服を着ているやつを見つけた。
何か依頼を受けてきたのだろうか。
取り敢えず、何か知っているかもしれないので聞きに行ってみることにした。
「おーい」
「ん?」
俺は呼んでから気付いた。
最も会いたくないやつであったということを。
「やあ樋熊君。元気かい?」
「元気なわけありません……」
こいつは、強襲科所属2年のBランク武偵の石田カズマ。
俺と同じ学科であると同時に俺の苦手なタイプの人間である。
こいつは、普段はおっとりとしたマイペースを貫くタイプであり、バカである。
この二つがマッチングして話す内容がフリーになりすぎてしまいついて行けない。
つまり、馬が合わないという感じなのである。
しかし、こいつは強い。
強襲科のBランクの奴らの中でおそらく一番強いと思う。
実際、俺は一度こいつとの模擬戦で負けそうになったことがある。
まぁ、最後はこいつが自爆するという異例なことが起こって逆転勝ちしたけど……。
「こんなところで何してるんだよ……」
「見た通り依頼さ」
見てわかるかっつーの。分かんねーから聞いてるんだよ。
「何の依頼だよ」
「治安維持だって」
「治安……維持?」
「うん。街の警備だって」
どんな依頼だよ。
武偵高はそんなのどっから受け付けてるの?
おかしいだろ絶対。
「そうか……。まぁ、頑張れ。ところで、この男の人見かけてないか?」
「どれどれ? あー、この人さっき見たよ」
お、ここで有力証言獲得。
「本当か? それはどこでだ?」
「本当だよ。確かここから500メートルぐらい後ろのところですれ違ったよ」
「分かったありがとう。警備頑張れよ」
「樋熊君もね」
そう言って俺は、標的の目撃証言のあった地点に走って向かおうとした矢先、どういう訳か地面に落ちていたバナナの皮をカズマが踏んだ。
「へ?」
「は?」
———ドボン!
そして、バナナの皮を踏んだカズマは滑って転倒———ではなく直ぐ真横の海に落っこちた。
「カズマァ!」
入水からおよそ3秒後、カズマが上がってきた。
「ふー、危ない危n———あ、この場所速i……スボボボボ……ボハッ! 助けて……流され……スボボボボ!」
しまった、あいつはカナヅチだった。
しかも、ここ流れが早いな。
仕方ない、助けに行くか。
「落ち着け! 今助けに行くッ!」
そう言った俺はブレザーを脱ぎ、ワイシャツとズボンの状態で海に飛び込む。
ザバァーン!
「よし、今助けn———あ、この海深i……ズボボボボ」
……やっちまった。
なんでカズマの事助けようとしたんだろう———俺泳げないのに!!
俺は何を隠そうカナヅチである。完璧に泳げないわけではないが、人並みには泳げないのである。
実際にクロールと平泳ぎそれぞれ100メートル泳ぐことができない。
しかし、25メートルは泳ぐことができる。遅いけど。
逆に言えば、25メートルは泳げるのでギリギリその範囲内で溺れてるやつなら助けることができる。
因みに、水に浮くことはできる。
なんとかして浮かんだ俺は、カズマとの距離を測る。目測で21メートルほど。
ギリギリ助けられるが、流れが早い。
「カズマァッ!」
「ボハッ! 僕はまだ死にたくない……助けて樋熊k……ズボボボボ」
「君たち大丈夫かい!!」
どうするか考えていると1人の男性が岸に立っていた。その男性に向かって俺は叫ぶ。
「すいません! そこにあるブレザーの左ポケットから腕時計出してもらえませんか!」
「わかった! ちょっと待ってろ!」
そう言って男性は、俺のブレザーの左ポケットから腕時計を出す。
「これかい!」
「それです! その、右側のツマミを思いっきり引っ張ってもらっていいですか!」
男性は俺の指示した通りに腕時計をいじる。
すると腕時計の文字盤の12側から、フック付きの極細ワイヤーの先端が飛び出した。
「その先端を掴んでこっちに投げてもらえませんか!」
「わかった! 行くぞ!」
そう言って、男性はワイヤーの先端を俺の方向に投げてくる。
そして、ワイヤーの先端を掴んだ俺はベルトにフックを引っ掛ける。
「そのまま、持っててもらっていいですか!」
「わかった!」
男性に支えを頼んだ俺は、自分のベルトのワイヤーを引っ張り出してカズマの方に投げる。
「カズマ! 掴め!」
カズマがワイヤーを掴んだのを確認して俺はベルトについているワイヤーを一気に巻き上げて、カズマを自分の側へと手繰り寄せる。
そして、男性にワイヤーを巻き上げてもらうように頼む。
「もう一回ツマミを引っ張ってもらってもいいですか!」
男性がツマミを引くと俺とカズマは物凄い速度で岸の方に引き上げられて行く。
———シュルルルルッ!
何とか岸に上がった俺とカズマ。
「すいません……ハァハァ……ありがとう……ハァハァ……ございます」
「無事で良かった。ところで君達は何をしていたんだい?」
「えっとそれは……「水遊びです!」……って、コラ、カズマ何を言ってる! ふざけるなァァァ!!」
コイツ……どういうつもりなんだよ……!
「何ですかー?」
「お前、誰のせいでこうなったと思っている!」
「サァー」
「貴様ァァァ!」
俺は某社長の様に抗議の声を上げた。
「ふ、計画通り」
「コイツー……」
「あのー」
カズマと会話していると男性が口を開いた。
「あ、すいませんちょっと待ってもらっていいですか?」
「あ、はい」
男性は少し引きながらも了承してくれた。
「カズマくん、少しO☆HA☆NA☆SIしようか」
「え、今何と? (難聴)」
「だから、O☆HA☆NA☆SIしようって言ったの」
「えっと、O☆HA☆NA☆SIに応じたら、い、痛いことはしませんか?」
「え、うん、そうだね」
「だが、断る!」(`・ω・´)キリッ
ドヤ顔でそう言うカズマを、俺ばこう告げた。
「あ、そう。じゃあ、あっち逝こうか」
「ヤバイ、死んじまう。に、逃げるんだ〜」
「何処へ行く?」ガシッ
「や、やめろ! HA☆NA☆SE!」
「ん、それじゃあお話しようか」
「そっちじゃない! この手をHA☆NA☆SE!」
「離したら大人しくしてくれる?」
「も、勿論!」
「だが、断る!」
当たり前じゃあないですか?
「あんまりだァァァ!」
「ところでさ、さっき『計画通り』とか言ってたけどどの辺が?」
「違う! 粉☆バナナ! ……じゃない! これは罠だ!!」
いや、どんな間違いだよ。
「取り敢えず、行こうか」(^言^)
「やめろ〜、死にたくない、死にたくな〜い!!」
「DA☆MA☆RE!」
「行ってしまった……」
———数分後———
「すいません、お待たせしました」
「あ、うん、そんなに待ってないよ……」
「えっと、助けてもらったお礼がしたいのですぐ側の喫茶店にでも行きませんか?」
「お礼なんて、そんないいのに」
そう言って男性は食い下がった。
「いえ、危ないところを助けてもらったのでしっかりとお礼はさせていただきます」
「じゃあ、そうして貰おうかな」
「行きましょうか」
「ところで、もう1人の方は?」
「呼びましたかー?」
ヒョイっ、と俺の背後からカズマが顔を出す。
「あ、いた(なんで無傷なんだろう……」
「あ、こいつのことは気にしないでください」
「もしかして、顔に出てた?」
「ええ、なんとなく。こいつが何故無傷なのかが気になってるっていうような顔してたんで」
俺は包み隠さず本当のことを伝えた。
「はは、こりゃ、隠し事はできなそうだね」
「平常を装っていた方がいいですよ」
「そうみたいだね」
「まぁ、通称が『人外』ですからね」
「君は少し黙ろうか」
「ウィッス」
ここで、気になっている人もいると思うので補足を入れておくが、今着ている制服は乾いている。
なぜかと言えば、装備科の平賀さんに制服を届けて貰ったからである。
ただ、配達料はめっちゃくちゃ高いけど。料金は、今回の騒動の当事者持ちである。
「———以上の理由から、制服は濡れていないと」
「一体、何のことを言っているんだい?」
「気にしないでください。取り敢えず行きましょう」
〜武偵移動中〜
というわけで、近くの喫茶店にやって来た。
座っている席は大通りに面した窓際の席である。
その窓から何気無く外を見ていると武偵高の生徒の姿が見えた。
あれは確か強襲科の奴だったかな。
多分依頼でこの辺りを訪れているのであろう。
俺は視線を目の前の男性へと戻した。
「改めて、助けていただきありがとうございます」
「そんな改まらなくても」
そう言った男性は微笑んだ。
対面に座って改めて顔を確認すると、アレ? 今回の標的じゃんこの人。
「君達は武偵高の生徒だよね?」
「はい。それがどうかしました?」
俺の問いに男性は、実はと言って答えた。
「僕はあまり武偵というものを信頼出来なくてね。あまりいいイメージを持て無いんだ」
この人の言っていることはよくわかる。
武偵という職業は、世間的に観ても賛否が分かれるものなのだ。
特に武偵を育成する機関などはその中でも風当たりが強いのである。
早いうちから銃などを握らせるという所が批判が多い理由になっているのだと思う。
反面、武偵に憧れを持つ者も多い。
キンジはどうだか良く分からんが、俺なんかはその部類だ。
この人は、武偵という職業をあまりよく思っていないのかもしれないな。
「でも、君達は少し違うかな」
唐突にそう言われた俺は驚いた。隣に居るカズマは———ドリンクバーにあったメロンソーダを飲んで御満悦的な顔をしていた。
相変わらずマイペースだなこいつ。
「なんだか見ていて、普通の高校生みたいだからね」
「普通の高校生ですよ」
男性の言葉に対して俺はそう返した。
「基本的には、ね」
そう付け加えて、隣を見た。
それを聞いた男性は、分かってくれたらしく苦笑いしながら言った。
「確かにそうかもね」
ここで俺はあることに気づく。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
そう言って自己紹介をした。
「東京武偵高2年強襲科所属の樋熊シュウヤです」
俺に続いてカズマも自己紹介した。
「東京武偵高2年強襲科所属、石田カズマです。宜しく」
相変わらず、何処と無く軽い自己紹介だな。
「山本翔太です。翔太で構わないよ」
と言った感じで自己紹介が終わった。
すると翔太さんがいきなりこういった。
「ほぼ初対面だけど、僕の相談に乗ってもらってもいいかな? お礼の代わりとして」
「いいですよ。カズマは……放っておこう」
「え、酷く無い?」
「だって、お前こういう事で当てにできないし」
「そんなの聞いてみなきゃわからないだろう?」
一理あるな。
「2人ともOKってことでいいのかな?」
「はい」
そう返すと、翔太さんは実はね、と言って話し始めた。
「僕は近々お見合いをするんだ。でも僕は、あまりそういうのをしたく無いんだよ」
そう言った翔太さんは少し俯きながら続ける。
「でも、断りにくくてね。僕の家は昔から厳しくて、親の言うことが絶対みたいな感じの家なんだ。2つ上の兄さんがいるんだけど、彼もまた親の紹介した人とお見合いして結婚した後家を出たんだ」
俺はここで質問した。
「どうしてお見合いが嫌なんですか?」
「僕には、好きな人がいるんだ。できることなら僕はその人と結婚したい。けど、親にそのことを伝えていなくてお見合いする流れになったんだ」
今度はカズマが問いかける。
「どうして伝えていないんですか?」
「恥ずかしい話だが、伝えるのが怖いんだ。親に何て言われるのかが想像がつかなくてね」
この人は多分だが、親に反抗したことが無いのだと思う。
だから、自分の意見を通せないままここまで生きてきたのかもしれない。
「僕は、どうするべきなのかな?」
翔太さんはそう言い、俯いた。
「自分の意思はしっかり伝えるべきです」
俺はそう答えた。
「僕もそう思います」
カズマも続けてそういった。
「でも———」
「翔太さん」
俺は彼の言葉を遮った。
「自分の意思ははっきりと自分の口で伝えるべきです」
「けど……」
「何も行動を起こさずに決めつけるのは、いいことだとは思いません。それとも翔太さんは、行動を起こさないまま終わってしまってもいいんですか?」
少し考え込んだ彼は口を開いた。
「嫌だよ。自分の意思を伝えられないまま終わるのは嫌だよ」
そう言った翔太さんは笑って言った。
「君達のお陰で何かが吹っ切れたよ。ありがとう」
「いえ、お礼を言われるようなことではありませんよ」
「そうですよ」
「どうやら武偵という職業は、僕の思っていたものとは大分違うみたいだね」
「困っている人の為に働くのが、武偵ですから」
俺はそう返し、こう付け加えた。
「また、何かあったら武偵高の方に依頼を入れて下さい。その時は自分が向かいますから」
「そうさせて貰うよ」
翔太さんは笑顔でそう返した。
その後、翔太さんは自分の意思を伝える為に帰って行った。
俺達は、会計を済ませて店を出た。
「で、どうだった樋熊君?」
唐突にカズマに尋ねられた。
「何がだ?」
「さっきの相談の話だよ」
ああ、そういうこと。
「まあまあだったんじゃ無いの。俺からすればだけど」
「それはOKだったということで良いのかな?」
「まあね」
そう言われたカズマは少し嬉しがっていた。
そして突然こう言った。
「じゃあ、僕と戦って」
どうしてそうなるんだよ。
苛ついて「お前はとっとと依頼終わらして、帰って飯食って寝ろ!」と言ったらカズマは首を傾げた。
「依頼?? あ、忘れてたァァア!!」
そういったカズマは慌てて街中へと消えていった。
マジで何あいつ? 嵐かな??
カズマを見送った俺は、調査書を纏めるために武偵高へと戻った———
「で、調査書を蘭豹に出してから、家帰って平賀さんに電話した後、お前に電話を掛けたと」
一般校区の廊下を歩きながら、キンジにその日にあった事を伝えた。
それを聞いたキンジはドン引きしてた。ナゼソンナカオヲスルンダ。
「あの日そんな事してたのかよ……」
「そうだよ」
キンジの言葉に素早く返答する。
「そういえば、そろそろ昼休み終わるよな」
キンジをおちょくるためにそう言った。
それを聞いたキンジは頭を抱えていた。
俺は、腕時計に目を落とす。
現在時刻は昼休み終了5分前。
「……あ」
「どうした?」
「やばい、昼飯食い終わってねぇ!!」
俺はその場から全力で走り出した。目指すは勿論、2年C組の教室。
キンジは———多分呆然としていたんじゃ無いかな?
その後30秒で教室に辿り着き、3分で食べ終えた俺は強襲科へと向かうのであった。
余談だが、あの依頼での標的———翔太さんは、蘭豹のお見合い相手だった。
恐らくだがあの時言ってたお見合いがそうだろう。
だが、そのお見合いは行われなかったらしい。あくまでも風の噂で聞いた程度だが。
あと、カズマに関しては結局依頼が達成できなかったそうで。
そのせいかどうだか知らないけど、なんか蘭豹に呼び出されてボコられたらしい。
多分、お見合いが出来なかった分の腹いせも入ってると思う。
俺はそんなカズマに対して、静かに十字を切るのだった。
後書き
次回は本編に戻ります
第13弾 〜Happening≠Finishing(連続する災難)〜
前書き
お待たせしました。
第13話です。
今の俺が置かれている状況、それはハイジャックである。
人数は、足音だけでも3、4人はいるな。
恐らくだが、コクピットの中にもいる筈である。
それを踏まえた上でいくと、最低でも4人は居るな。
俺は目を軽く開いて辺りの様子を伺った。
その視界に入ったのは、犯人と思われる男が2人である。
見ると、乗客に銃を突きつけている。何をやっているんだ?
すると1人の男がこちらに向かってきた。
そして、俺の真横に立ち銃を向けてきた。
「おい、起きろ!」
男は、俺に向かってそう怒鳴った。
男に対して、隣に座っているセアラさんが言い返した。
「やめてください! 寝てる人を起こさなくても良いでしょ?」
すいません、セアラさん。起きてます……。
「黙れ! とっとと言った通りにしろ!」
怒鳴りかえした男は両手で持った銃———AKMを俺に向けてきた。
AKMは、ソビエト連邦軍が使用していたAKー47を改良したものである。
7.62mm弾を使用する自動小銃で、1回に装填できる弾の数は30発。
一体、どうやってそんな銃を機内に持ち込んだんだよ……。
男はAKを俺へと向けて再び怒鳴った。
「早くしろ! さもねぇと、撃つからな!」
あ、これ撃ったことのない奴の台詞だな。
「良い加減にしてください!」
セアラさんがそう言い返すと、男はセアラさんへとAKを向けた。
その瞬間、俺は反射的に男に飛びかかった。
足払いで相手を床へと倒し上から馬乗りになる。
「何だお前! この!」
男は俺を逆に押し倒そうとする。不味いな……体格で圧倒されてしまっている。
俺はそのまま男に押し倒された。
そして男は、懐からナイフを取り出し、俺の顔に突き刺そうとした。
瞬間、俺の中で血流の流れが変わる。バーストモードの表れだ。
俺は、男の右腕を左手で掴んで自分の方へと相手を引き寄せる。
そして、右肘で肘鉄を相手の鳩尾に入れる。
「グハッ!」
男は苦しがりながら床へと倒れ伏そうとした。俺はすかさず左肘で首筋に当身を放つ。
男はそのまま失神してしまった。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
俺は改めて、自分がバーストモードになっているということを認識する。
しかし、血流に何処と無く違和感を感じる。
いつも通りでいつも通りでは無いこの血流は恐らく———俺の怒りが極限まで溜まっていたのが爆発したからであろう。
バーストモードは極限状態になることで発揮される。この極限状態は、生死が関わる事でなくても良い。心理的に危なくても発動できてしまうのである。
特に今回の件に関しては、トリガーこそ普段と同じようなものだが、基盤となったものが怒りであるため、こうなったのであると思う。
顔を上げるともう1人の男がこちらに銃を向けていた。こちらの銃も同じくAKM。
「てめぇ、何者だ!」
男は叫んだ。
俺は、武偵手帳を見せながら答えた。
「武偵だ。大人しくしろ」
「お前みたいなガキが武偵だとぉ? 舐めやがって!」
男はAKの引き金を引こうとした。
俺はとっさの判断でポケットから出したフォールディングナイフを展開しながら銃口へと投げた。
ナイフが銃口に刺さったAKは発砲と同時に先端部分の方が変形してしまい、使い物にならなくなってしまった。
男は使い物にならなくなってしまったAKを投げ捨てようとした。
俺は素早く男に近寄ると、相手の腕を掴んでねじ伏せる。
「ガキが相手で悪かったね」
そう言った後、男の両腕をブレザーのポケットに入っていた結束バンドで縛った。同じ様に両足も縛った。
俺は、機体の後方にもいるであろう犯人を探しに、ビジネスクラスへと通じる扉を開く。
扉を開けると、待ち伏せされていたらしくAKを構えた男が立っており、そのまま俺に向けてAKを乱射してきた。
発砲音と共に乗客の悲鳴が上がる。
慌てて俺は扉を閉めたが、5発程被弾した。
お陰で身体中が痛むが、幸いにも頭などには当たっていない。
参ったな……扉を開けようにも、待ち伏せされて居る。
そんな事を思っている俺の目に、床が映った。
直後、俺の頭に電流が走った様な感覚が起こった。
何だ。何が言いたいんだ。
今の俺の思考力が落ちていることはお前が一番分かっている筈だぜ。
———ああ、そういうことか。分かったよ。
全部お前———バーストモードの感覚に任せろって事だろ。
俺は腰のホルスターからDEを抜き、安全装置を外す。
そして、扉を開くとほぼ同時に、俺は飛び出した。
男は突然の事に対処が遅れたらしく、慌ててAKの銃口を俺に向けた。
そして、引き金を引こうとした。
俺はバーストモードの感覚のみを頼りにして、床に向けてDEを発砲した。
斜め下に放たれた弾丸———.50AE弾は、防弾性の床に当たり反射した。
そして、男の持っているAKの引き金に、男の手を掠める事なく当たり、AKの引き金を破壊して使い物にならなくした。
男は何が起きたのか分からなかったらしく呆然として居る。
俺は近づくと足払いで相手を押し倒す。
それで我に返ったらしい男は暴れ出す。
暴れる男の腕を強引に捻り上げた。
「クッ……! この野郎!」
あんまり暴れない方が良いと思うけどな。
一応忠告ぐらいはしておくか。
「あんまり暴れない方が良いよ。自分の力で腕が折れるかもしれないから」
俺がそう言ってからも男は暴れていたが、次第に踠き始めた。
俺は両腕を結束バンドで縛る。
男は観念したようで、大人しくなった。
男を縛った俺は、エコノミークラスの方へも向かったが、犯人と思しき人物はいなかった。
ただ、不可解な事があった。
20〜30代くらいの会社員のような男が、新聞に目を通しながらも、チラチラとこちらを見てきた。
しかし俺は、その男に気を止めることなくスイートクラスへと戻った。
どう見ても普通の乗客だったしな。他にも俺の事チラ見してくる客もいっぱいいたわけだしね。
自分の座席付近に向かうと、セアラさんが倒れている男達の容態を確認していた。
「やった本人が言うのもアレですけど、容態はどんな感じですか?」
「普通よ。そっちの倒れてる人も昏睡しているだけみたいだから」
そりゃ、加減してるから容態は普通だよな。
「他に犯人は?」
そう思っている俺に、セアラさんが尋ねてきた。
「後ろに1人いましたが、他はいませんでした。ただ、コクピットの中に立て籠もっているかもしれません」
そう言った途端、俺のいる通路の先にある、コクピットの扉が開け放たれた。そして、中にいた武装した男が叫んだ。
「動くな、俺の言う通りにしろ! さもないと———」
そこまで言った男は、視線を斜め後ろに送る。
コクピットの中には、両手を頭の後ろに付けた状態になった機長と副機長がいた。
そういう事か……!! 動けば、コクピットの中で乱射すると。
今の状況から把握するに、操縦はオートパイロットの筈。
もし、乱射された場合どうなるか。それによって何が起きるかは容易に想像できる。
「ッ……」
「先ずは手始めに、そこのお前」
男は俺を指差した。
「お前には、仲間が散々世話になった様だからな」
そう言った男は俺にAKMを向けてくる。
狙いは———頭部。
おいおい、どんだけ危ない王様ゲームだよ。
俺は、銃口の向きを逸らすために、徐々に態勢を低くしていく。
「動くんじゃねぇ! さもないとどうなるか分かってんだろ!」
そう言った男は、銃を向けながら怒鳴った。そして、不敵な笑みを浮かべた。
男は引き金を引こうとした。
俺は瞬時に神回避を行う。
すると、銃声が鳴り、先程まで頭のあった位置を弾丸が通っていく。
そして、その弾丸———7.62mm弾は、コクピットの中にいる男のAKの銃口へと吸い込まれて行った。
そして、男の持つAKは壊れた。
側から見れば偶然に見えるのだろう。
しかし、これは全て俺が、いや———バーストモードが感覚で行ったこと。
俺はコクピットの方向へと走りながら、即座に抜いたDEを後方に向けて放つ。
放たれた弾丸は後ろにいる、先程まで昏睡していた男の足に着弾する。
撃たれた男はその場で足を抑えてうずくまる。
俺が今放った弾は非殺傷弾。
その名の通り殺傷力の無い弾である。
先程の銃撃はこの男が行ったものだ。
何と無くだが、俺は起き上がって来たことに気付いた。
恐らくだが、コクピットにいた主犯格の男もこの男に気付いていて、ギリギリまで俺の視線を正面に固定しようとしていたのだろう。
だが、今の俺にはそんなことは関係ない。寧ろ逆手に取ったと言ってもいいだろう。
後ろの男の狙う位置を誘導して、放たれると同時に回避して相手に当てる。
この一連の動作に名前をつけるなら———銃弾誘い。
後方の男を戦闘不能にしながら、俺はコクピットへと滑り込む。
男は、懐からナイフを取り出し切りかかって来たが、瞬時に背後を取った俺は、ほぼゼロ距離で非殺傷弾を撃ち込む。
男は顔を歪め悶絶していた。
俺は男の両腕を縛った。
機長と副議長は、ぐったりとしてしまった。緊張が解けたのであろう。
俺は、機体後方で拘束した男の回収へ向かった———
4人の犯人を一箇所に集めた俺は自分の席に座っている。
犯人達は俺の視界に入る位置に集めてある。
因みに、ファーストクラスに居た乗客は安全面を考慮して、全て後方へと移動してもらった。
今は、セアラさんがCAさんと話している。恐らく、到着までの対処を話し合っているのだろう。
すると突然、CAさんが声を上げた。
「お客様お待ちくださいこれより先は———」
その言葉を遮るかの様にドンと聞こえた。恐らく突き飛ばしたのであろう。
そして、足音は早足でこちらに向かって来る。
足音が止まると同時に、俺の正面に人影が現れ刃物が振り下ろされた。
俺はその刃物を相手の右手首を自分の右手で掴んで止める。
そこに居たのは、エコノミークラスに居たあの男だ。
「なんの真似だ?」
俺の問いに対して男は声を荒げて言った。
「黙れ! お前なんかに俺の完璧な計画を潰されてたまるか!」
自尊心の高いやつだ。俺はこの手の犯人は苦手なんだよな。
「今回の騒動の首謀者はあんたか」
男は怪しげな笑みを浮かべながら答えた。
「そうさ、今回のハイジャックを計画したのは俺だ」
ここで俺は思ったことを正直にぶつける。
「アンタ、今ナイフを持ってるこの右手———利き手じゃないんだよね?」
図星だったらしく、男は驚愕していた。
「簡単な事さ。利き手としては力が弱すぎる。でも、敢えて利き手で持たないということは———利き手の左手で何かを持っているんだよね?」
バーストモードが切れかかった事によって若干戻ってきた思考力で立てた推測を相手にぶつける。
男は反射的左手を出す。結構速いな。
でも、まだ続いてるバーストモードの目からは逃れられないけどな。
俺も左手を出して対応する。
男の左手にはデリンジャーが握られている。見た感じだと、装弾数は2発ってところだな。
俺の左手には、相手のデリンジャーの銃口に当たるよう逆手持ちしたシースナイフが握られている。
今俺の腕は自分の前で交差する形になっている。
「どうする、このまま撃ってもいいけどその銃爆発するよ?」
「ッ……! だが、何もできない状況はお互い同じだろ?」
男はそう言った。本当にそうかな?
「何勘違いしてるんだ」
「は?」
男は何を言っているのか分からないという顔をした。
「これでもくらってろ!」
俺は右足を振り上げ、相手の鳩尾に入れる。
「うぉっ!?」
俺は相手の腕の力が軽く抜けた瞬間に、そのまま右足で相手の鳩尾を突くという追い打ちをした。
男は胸を押さえながら倒れ込んで悶えてた。
倒れ込んだ男の顔の前に立った俺は正直な感想をぶつける。
「アンタはさっき、完璧な計画と言ったな? アンタの計画が失策になった理由は———全てアンタにある」
俺は計画の何が悪かったのかを話す。
「アンタは相手の戦力を見誤った」
それに、と言って俺は続ける。
「アンタの計画は、恐らくだけど武偵などが乗り込んでいない時の計画。武偵などが乗っている時の想定の計画をアンタは立てていなかった。違う?」
男は横目でこちらを睨み、口を開く。
「何が……言いたい?」
「まだ分からないのか?」
俺は話の核心を率直に言った。
「アンタは計画を立てた時点で、失敗が決まっていたんだよ!」
俺の言葉を聞いた男は驚愕していた。
俺は追い討ちをかけるかの様に続けて言った。
「何が完璧な計画だ。笑わせるんじゃねぇ!!」
俺の言葉で自尊心を折られたのか、男は悶えたまま涙を流していた。
やっぱり、この手のやつはこれくらいしないと大人しくならないな。
俺は男の手に手錠をかけた。
そして、男を仲間のそばに座らせた。
俺はリーダー格の男の目の前に屈んだ。
「……何だ? まだ、俺を罵るのか?」
……なんか、不貞腐れてるんだけど。
「いや、ただアンタ等を尋問しようかなと思って」
リーダー格の男はそっぽを向いた。
暫く俺は男を見ていたが、やがって見るのをやめて立ち上がった。
「……?」
男はこちらを見て首を傾げた。
「やめた。アンタ等を尋問してるだけ無駄な気がしてきた」
俺は座席へと戻る。
「尋問しなくて良いの?」
セアラさんがそう聞いてきた。
「ロンドン武偵局に丸投げしようと思いましてね。それと、もう時期ロンドンに着きますよね?」
「ええ、そうだけど」
「向こうに着くまで犯人たちを見張っててもらっても良いですか?」
「構わないわ」
「ありがとうございます」
「あ、後」
セアラさんに呼び止められた俺は彼女の方を振り向く。
「何ですか?」
「どうして結束バンドなんか持っていたの?」
ああ、その事ね。
「だいぶ前に家の配線を纏めるために買ったんですけど、そのこと忘れて制服に入れっぱなしにしたみたいで入ってたんですよ」
それを聞いたセアラさんは納得したような顔をした。
俺は座席に着くとそのまま眠ってしまった———
飛行機が止まった衝撃で目を覚ました。
どうやらロンドンのスタンステッド空港に、無事にたどり着くことができた様だ。
俺は荷物をまとめると、セアラさんとともにハッチから機外へと向かう。
出てみると外は夜———うわ、ここ滑走路じゃねぇか。ハイジャックされたって情報入ってたのかな?
階段の下に視線をやると、複数の人間、それも武装をしている奴らがいた。
恐らくロンドン武偵局の者達であろう。
その後ろには、ロンドン警視庁の人間が多数いる。
そいつらは、俺とセアラさんが階段を降りきるなり取り囲んで来た。
後ろも銃を構えて厳戒態勢だな。
あ、これあれか。俺らのこと犯人だと思っているのか。
俺は武偵手帳を取り出し見せる。
するとそいつらは、包囲を解いた。
本当に犯人と勘違いされてたのかよ……。
ていうかなに? 武偵手帳の名前見たのか知らないけど急に謝ってきたよ。
なんとかやめさせて、一連の流れを軽く説明した後、「後でロンドン武偵局に向かう」と伝え、その場を後にした———
空港の入国審査の部分は事件のせいかピリピリしていた。
俺は、入国審査の金髪の色白お兄さんに武偵手帳を見せて「この後、ロンドン武偵局に用がある」と伝えるとセアラさんも一緒に通してくれた。何故かその時のお兄さんは、満面の笑みを浮かべていた。
てか、お兄さん入国審査軽すぎない?
周りのピリピリした雰囲気に流されてた自分が馬鹿馬鹿しくなってくるよ。
俺たちは空港の入り口を出てロータリーに出る。
出て直ぐに右側を向いた。
するとそこには、身長160センチ程の茶髪でポニーテールの少女が,笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
彼女が、マキだ。
———大岡 茉稀
ロンドン武偵局所属のSランク武偵。俺の依頼者であり、俺の幼馴染。
二つ名持ちで、二つ名は『死角なしのマキ』
1年の時の俺は、彼女からの依頼をこなしに良くロンドンを訪れていた。
元々俺と同じく東京武偵高に居たが、1年の1学期の途中ぐらいからロンドン武偵局に呼ばれて移っている。
武偵高にいた時は、諜報科と強襲科を兼任していた。ランクは諜報科がS、強襲科はAだった。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
彼女の言葉に短く返した。
するとセアラさんの携帯に電話が入った。
電話に出たセアラさんは2分程で電話を切った。
「どうかしたんですか?」
俺は尋ねる。
「上から命令が来たの」
「公安のですか」
「ええ、今から日本に戻るわ」
「気をつけてください」
マキが言った。
「ありがとうございました」
俺はお礼を言った。
セアラさんは笑顔を見せた後、空港の中へと向かって行った。
「公務員っていうのも大変なんだね」
「そうだね」
俺の呟きにマキは短く返してくれた。
セアラさんを見送った俺たちは、車に乗り込んだ———
今はマキの運転する車の助手席にに乗っている。
彼女の運転する車は、トヨタのマークX。
しかもジオ特別仕様車。色々と解せぬ。
「ねえ」
「何?」
「この車さ、2人で乗るにはデカくないか?」
「武偵局で出せる車がこれしかなかったの」
え、これ武偵局のやつ?
「武偵局に日本車なんかあったんだな」
「あるよ。何台かだけどね」
そう言ったマキの顔は何故か嬉しそうだった。
「何がそんなに嬉しいんだ?」
そう言われたマキは、ビクッとしながら顔を赤くしていった。
……本当にどうしたこいつ?
「熱でもあるの?」
マキは首を横にふるふると振った。
「ただ、シュウ君に久々会えたのが少し……嬉しかっただけだよ」
マキは赤い顔のままそう言った。
「俺に会えたのが嬉しいね……。俺と一緒にいてもロクなことが無いぞ」
「なんで?」
「例えば———ハイジャックに遭遇したりするからかな」
「そんなことないよ。そういえばハイジャックって、シュウ君の乗ってた飛行機で起きたの?」
「そうだけど。出動命令来てないの?」
「私は用事があって向かえないって言ったの」
ええ……。それで断れちゃうの……。
「それになんとなくだけど、シュウ君が乗ってるんじゃないのかなと思ったの」
「俺が乗ってるとなんなんだ?」
「シュウ君が解決してくれると思ったの」
「どうしたらその根拠に至るんだ?」
「シュウ君の実力かな」
おいおいマキさんや、私のことを信用しすぎじゃあないでしょうかね?
つうか何その根拠?
いや、確かにイギリスで色々やってきましたけど……。
何となく現実から逃避したくなった俺は携帯を開き、機内モードを切った。
回線を見ると、イギリスの携帯会社の回線に変わっていた。
機内モードを切った瞬間にメールが入って来た。
メールの差出人は、アリアだ。
なになに……『キンジがパートナーに決まった』だって?
おうおう、どういうこった?
何がどうしてこうなった? 俺の苦労は一体なんなんだ?
まぁ、どちらにしたってこっちに来る必要はあったんだがな。
そういえばキンジと言えば———部屋の管理頼むの忘れてた。メールしとこっと。
『俺が戻るまで部屋の管理宜しく』っと。ハイ、送信。
そう言えば、まだアリアからのメールに続きがあったな。
えっとなになに———『妹に会って欲しい』だって? 何で?
え、何? そもそも、アイツ妹居たのか? 初耳だな。
良く良く考えると、そんなに関わりがなかったから知らなくても当然か。
そんな事を考えてると武偵局に到着した。
「着いたよ」
「ん」
俺は車から降りると、マキと一緒に中へと入って行った———
俺は武偵局で、ハイジャックの事後処理を行った。
どうでもいいけど犯人達、武偵局での聴取終わったら警察に送られるそうで。
ロンドン警視庁に連れてかれるとか怖くね?
いや、本当のところはどうだか知らないけど。
で、なんか知らんが俺宛に手紙が来ていたらしく、受け取って開けてみると———アリアからだった。
これ絶対妹に会わないといけないじゃないですか。何故かって?
妹宛の手紙が俺宛の手紙の中に入ってるという状況だからだよ。
俺の伝令係が決定したな、これ。
そんな感じで項垂れた後、マキの住んでるアパートに行くことになった。
そこまでは別にいい。でもな、移動手段が歩き。なんで?
まぁ、時間が時間だから交通機関もあまり当てにできないっていうのもあるから仕方ないといえば仕方がない。
え、マキが住んでるのがどの辺りかって?
ベーカー街の辺りだったかな。ベーカー街までは、ここからそんなにかからない……はず。
何となく不安を覚えながらも、マキとともに夜のロンドンを歩いていく。
今日は満月の夜だったみたいだ。空には綺麗な月がうかんでいる
なんかこの雰囲気、気恥かしいな。夜の街で美少女と2人っきりなんて。
マキは可愛い。多分だけど、アリアにも劣らないんじゃないのかな?
夜のロンドンの静けさが、余計に場の空気を引き立てている気がしてきたよ。
「ねぇ」
マキが唐突に口を開いた。
「どうした?」
「あの時———私と初めて会った時のこと、覚えてる?」
マキと出会ったのは小学校の時。
1年生の時のマキは入学から目をつけられていたらしく、3人組の上級生から虐められていた。
ある時俺は、その場面に出くわした。
その時の俺は、衝動的マキを庇って上級生の前に飛び出していた。
上級生達は、俺を見るなり標的を俺に変更した。
俺はこの時バーストモードになってしまい、上級生を返り討ちにした。
この時からマキと仲良くなり、良く遊ぶようになった。
「ああ、嫌でも覚えてるよ」
小1にして乗能力を行使して相手を返り討ちにしたんだからな。
絶対忘れられないだろ。
俺の言葉を聞いたマキは何故か嬉しそうだった。
理由が全くわからんのだが。心当たりも無いしな。
謎が謎を読んでるな、これ。
「あの時ね、嬉しかったの」
マキが再び話し始めた。
「誰にも助けを求められなくて、とても怖かったの。そんな時、シュウ君が助けてくれた」
「アレは……前にも言ったけどたまたま助けただけ。それに……困っている人を助けるのは当たり前のことだろう」
気恥ずかしくなった俺は、頭の後ろを掻きつつマキとは反対に視線を移す。
そんな感じで言葉を交わせずにいると、前方で大きな音ともに砂塵が舞い上がった。
「「?!」」
俺とマキは急いでそこへ向かった。
そこへ向かってみると、建物の壁に大きなクレーターができており、クレーターの真ん中には同い年ぐらいの白髪の少年が倒れていた。
「おい、しっかりしろ!」
俺は屈んで少年を抱き上げた。
良かった。息はしている。
だが、昏睡状態のようで目を開かない。
少年は額の部分を切ったらしく出血していて、顔の部分には血が垂れてきている。
こいつの顔を何処かで見た気がする……だが、思い出せない。何処でだ……?
そんなことを考えていた俺だが、思考を切って目の前に集中する。
良く見るとこの少年の着ている服、東京武偵高の制服じゃん。
どうりで、どっかで見た気がするわけだ。
「……チッ」
俺は舌打ちをした。
仲間を傷つけたりされるとどうも冷静になれないな。
「マキ、コイツを頼む」
「うん」
俺はマキに少年を頼んだ。
その時のマキは、不安げな表情を浮かべていた。
俺はクレーターとは逆側の路地の方を向き、叫んだ。
「誰だ、こんなことしたやつは!」
その言葉の後、暗闇から人影が現れた。
「私だけど」
———女?! それも成長期真っ只中といった感じの少女だ。
その少女は闇に溶け込むようなマッドブラックと、闇に怪しく浮かぶ蛍光ブルーをの塗装を所々に施したプロテクターを着用しており、目には半透明の赤ヴァイザーを掛けている。
その右手には、日本刀というよりは西洋刀剣に近い感じの刀を握っている。
ただ、それは普通の刀ではなさそうだ。どう見ても長さが彼女の身長———1・5メートル程ある。
さらに鎬や樋の部分には、筋のようプロテクターと同じ傾向ブルーの発光が見られる。
「お前がやった……のか?」
俺は半信半疑で尋ねる。
「そうだよ」
彼女は悪びれる様子もなく、普通に会話するかのように言った。
「何故こんなことをした?」
俺は冷静さを保ちながら問いかける。
「サードがやれっていうから」
———サード? 誰だそいつは?
「G20とか言ってた割には呆気なかったな」
突然上から声がした。
思わず俺は上を見上げた。
そこには、屋根の上に立つ人影があった。
「誰だ?」
俺が問いかけたが返事はない。代わりに、別の台詞が飛んできた。
「フォースにも勝てねぇようじゃ相手にもならねぇな」
さっき、G20とか言ってたよな。
そもそもGとは超能力者の強さを表す値。
この数字が大きければ大きい程、超能力者としては強い。
そして、屋根の上にいる人物はあの少年のことを言ったはず。
つまり、今倒れていた少年は超偵。
そして、そこにいるフォースという少女は恐らくだか、手にした刀一本で強者の部類に入る超偵をここまで叩きのめしたのである。
「……何が目的なんだ」
俺は再び屋根の上の人物に問いかけた。
「強い奴と戦うことだ」
屋根の上の男は、満月を背後にそう言った。
後書き
今回はここまで。
第14弾 〜G and H(『武力』と『理力』)〜
前書き
第14話です。
……強いやつと戦う?
「そんな事のためにコイツはやられたってのか?」
「そうだ」
こいつの言葉からは他に何も感じられない。こいつは純粋に思っている事しか言ってないんだ。
「で、お前が望む強い奴———ってのはどういう奴なんだ?」
駄目元で問いかけてみる。
「そうだな———例えばお前みたいな奴だな」
……俺?
「どういう意味だ?」
「お前が『人間戦車』の樋熊シュウヤだろ?」
こいつ、知ってやがるのか?
「そうだったとしたらどうする?」
「隠さなくても良いんだぜ? ———お前の情報は全て知っている」
チッ……掌握済みかよ。
「そうだ。俺が『人間戦車』の樋熊だ」
俺はホルスターからベレッタを抜きながら返した。
「で、結局俺をどうするんだ?」
「まずはフォースと戦らせて、お前がどのくらいなのかを見せてもらう。フォース」
「分かったよ、サード」
そう言って、フォースと呼ばれた少女は手にした剣を振るった。
俺は、右肩を時計回りに回して縦に振られた刃を紙一重で回避し、一歩下がって間合いを開いた。
「ふーん、これを避けるのか。でも、こんなの序の口だから当たり前か」
避けられて当然といった感じてフォースは呟いた。
普通は避けられませんけど。
その時、何気なく違和感を感じた。
>
そして、制服の右袖に目を向ける。
……防弾制服が切れてる。
TNK繊維を用いているため、刃物でも切れないこの服が。
「どんな切れ味してるんだそれ?」
「今見たまんまだよ」
それ、最初の攻撃避けられなかったら俺真っ二つだったじゃん。
気持ちを切り替えながら、俺は右手に持ったベレッタをフォースに向けて連射する。
「銃撃なんて非合理的ぃ」
そういったフォースは動かない。
……何が非合理的なんだ?
俺の疑問の答えは直ぐに出た。
フォースへと直撃した9mm弾は全て地面へと落ちた。
そしてフォースは何事もなかったかの様に襲いかかってきた。
「言ったでしょ? 非合理的だって」
俺は左へと飛びながら攻撃を避ける。今度は俺のいた地点にクレーターができる。
どうなってんだコイツら。到底人間にはできないことしてやがる。
俺は体勢を立て直し、銃を仕舞う。
あのプロテクターに銃が効かないと分かった以上、銃は無用の長物。そして、無駄な事はしないという事を表すためでもある。
そして、背中に差した2本の逆刃刀を抜きフォースへと向かって行く。
俺の意図を理解したらしいフォースも同様に向かって来た。
俺とフォースは斬り合った。
しばらくの間静寂が其処を支配していた。
そして、その静寂を断ち切るかのように金属片の落ちる音がした。
俺は閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
そこには———刀身の真ん中辺りから刃の折れた逆刃刀が映った。
「———ッ!!」
さらに俺の制服のブレザーの胸元に切れ目が入った。
いつの間に切ったんだよ……! 全く見えなかった。
出血はしていないとはいえ、これは素直に不味いかもしれない。
「サード、このまま行くと殺しちゃうけど?」
「そいつが死んだらそれまでって事だ」
なんだよその扱い……だけど、本当に死んだらそれまでだな、この状況。
なんとしても切り抜けなければ……!
俺はフォースの方へと振り向く。
「まだやるの?」
フォースは刀を構え直しながら言った。
「ああ。俺は逃げるってのは得意じゃなくてね」
そう言った途端にフォースは飛びかかって来た。
しかも、速い……!!
フォースは剣の切っ尖を突き刺す勢いで迫って来る。
「あーあ、残念。結局非合理的だからやられちゃうんだよ」
言葉と共に俺の胸へと剣が当たるその刹那———俺は左手を突き出し刃を受け流す。
やっぱりここまで来るとお前に頼るしか無いみたいだな。バーストモード!
「流した?!」
フォースはいきなりの事に驚いていた。
俺は折れた右手の刀を思いっきり横一文字に振る。
振った時の勢いで、フォースを5メートル程後ろに飛ばす。
飛ばされたフォースはバク宙を決めて着地する。
「ふーん、私達と同じか」
何かを理解したと言ったような感じでフォースは呟いた。
(同じってどういう事だ?)
考えれば考えるほど分からなくなりそうなので、それに関する思考を中断した。
「フォース、下がれ。後は俺がやる」
そう言って屋根の上にいた奴———サードと呼ばれていた男は目の前に飛び降りて来た。
思考を中断して正解だったみたいだな。
「なんで急に変わったんだ?」
「なったんだろ、強者としてのお前に」
ここまで分かってるのか?! だとしたら、こいつは相当手強いぞ!
「どうだかね!」
俺はしっかりとした返答はせず、左の刃を振りかざす。
サードはその刃を右手の指2本で掴んだ。
何だこれ! 刀がビクともしない。
「こっちのお前でもこの程度か?」
「どうだか———ね!!」
俺は左手の刀を離すと、相手の顎を目掛け右足からハイキックを放つ。
同時に靴に仕込んだナイフを展開し、リーチを伸ばした。
サードは刀を離して、右手で足を捉えた。
全然攻撃がはいらねぇ……!
「チッ!」
俺は思わず舌打ちをした。
「随分と変わったところに付けてるな」
サードは何食わぬ顔で言った。
「なら、こっちはどう?」
掴まれて居る部分を支点として自分の体を持ち上げ、反動を利用して後ろ回し蹴りを放つ。
「オラよっ!」
サードは俺の体が浮いた瞬間に手を離した。
体勢を崩した俺は地面へと落ちて行く。普通ならここでジ・エンドだろう。
だが、俺はまだ終わらない。
右手に持った折れた刀を相手の顔目掛けて飛ばす。
サードはその刀を左手で振り払う。
ここまでは想定内。
そして、この僅かな瞬間だけで良かった。
即座に空いた右手を地面に着けて支点とし再び後ろ回し蹴りを放つ。
今度の攻撃は、相手の胴を捉えた。
ある程度スピードも乗っていたのでサードは少し横にずれた。
多少のダメージも入ったはず。
俺は地面を押して体勢を元に戻す。
「俺に1発かますとは——褒めてやるぜ」
「そいつはどうも」
嬉しか無いけど。
「さて、お前には俺のとっておきを見せてやるぜ」
……とっておき?
「———『流星』」
そう言ったサードは溜めのような構えを取る。
俺はカウンターができる構えをとった。
なんだ。普通の正拳突き———なのか?
そして次の瞬間、サードが飛び掛ってて来た。
俺は攻防を切り替えることを優先した構えと即座に変更した。
この攻撃は受け止められる。そう確信していた。
だが、俺は吹っ飛ばされた。後ろへ10メートル程。
そして、建物の壁にめり込み止まった。
「ッ……?!」
ヤバイ、背中を強打した勢いで呼吸が出来ない!
「チッ……アイツやセカンドの奴が強いって言ってたから来てみたが———まだ、成長段階だったか」
サードは俺に背中を向け立ち去ろうとした。
「……待……て」
俺は何とか声を絞り出し相手を呼び止める。
「何だ?」
「お前は……何者……なんだ?」
ようやくできるようになった呼吸をしながら言った。
「俺はGⅢだ。行くぞ」
そう言ったGⅢは、その姿を物理的に消した。
それに続いてフォースも消えて行く。
「お兄ちゃんに宜しく!」
そう言ってGⅢ同様に消えて行く。恐らく光学迷彩の類いだろう。
(フォースの言う兄とは誰……だろうか……?)
俺は緊張が解けると同時に意識も途切れた———
目を覚ますと周りには警官などがいた。
通報したんだな。
(そうじゃなきゃ規制線なんぞ貼られるわけが無い)
俺は上体を起こした。
———アレ、良く良く考えてみると俺って壁に埋まってなかったか?
「シュウ君!!」
声のした方を向くとマキがいた。
「大丈夫?」
「ああ。それよりアイツは?」
「彼はさっき病院に搬送されたよ」
「容態は?」
「命に別状無しだって」
本当か……! なら良かった。
「でも、本当に大丈夫? 10メートルも吹き飛ばされた挙句に壁にめり込んだけど?」
……そうだあの時、GⅢに殴られて吹っ飛ばされたんだ。
あいつの拳、推定だがマッハ1は出ていたな。
この衝撃吸収材を大量に詰めた改造制服じゃなかったら死んでたな。
「……取り敢えず、大丈夫。それより、そろそろお暇しませんか?」
俺は様々な理由から来る疲労でヘトヘトだった。
「また倒れるのも嫌だし……」
「そうだね。ここは警察に任せて行こうか」
俺は立ち上がるとマキと共にその場を後にした———
「シュウ君がここに来るのは久しぶりだっけ?」
部屋に入りながらマキは尋ねて来た。
「そうだな。最後に来たのは去年の2学期頃じゃなかったかな?」
最近こっちなんか来てなかったしな。
来る理由がなかったって言うのが1番な理由だけど。
でも、今回は明確な目的があって来たわけだ。
「で、マキ。アレは?」
「あるよ。入ってきて」
そう言われたので俺は突入(?)する。
中は……めちゃくちゃ綺麗じゃ無いですか。
ゴミ1つ無いと言っても過言じゃ無いくらい綺麗だな。
「はい、シュウ君」
唐突にマキに介入された俺は意識を現実へと戻した。
マキが手にしているのは、2本の真剣。それも日本刀である。
「ありがとう。悪いな、長い間預かって貰って」
お礼を言いながらそれを受け取る。
この2振りの刀は俺の持っていた刀である。
今右手に持っている、鞘に藍色のラインが入っている刀は『霧雨』。
そして左手に持った、鞘に琥珀色のラインが入った刀が『雷鳴』。
どちらも、俺が神奈川武偵高付属中学の時から使っている武器だ。
だが、ある時から俺は真剣を振ることを辞めてしまった。
その代わりに使っていたのが、あの逆刃刀だ。
「それから、逆刃刀壊しちまった……悪い」
「ううん、シュウ君が無事ならそれで良いよ。それに、また壊れても私が打ち直してあげるよ」
あの逆刃刀はマキが打ってくれたもの。
俺が刀を振らないと誓ったあの日に送ってくれたもの。
そんな大切な物を壊してしまった。
「……」
俺は無言で折れた逆刃刀を見つめた。
「とても大事にしてくれていたんだね」
「ああ」
当たり前だろ。
これはここまでの人生で1番嬉しかった贈り物なんだから。
「私もシュウ君の打ってくれた刀———『氷華』と『炎雨』大切にしてるよ」
あれは確か———武偵高に入学してすぐマキに作った刀。
まだ、大切にしてくれてたのか。
「……お互い様だな」
「そうだね」
マキは笑顔を向けた。
その顔が可愛のなんので俺はドキッと来てしまう。
お前そういう不意打ち何処で覚えて来るんだよ?
俺は話題を変える。
「明日もやる事づくめの気がするし———そろそろ寝る準備しない?」
「そうだね。明日はロンドン警視庁に呼ばれかもね」
そんな事をお互いに言い合いながら、眠りにつく準備を進めて行くのであった———
翌日、俺は1人でベーカー街221番地を訪れていた。
マキは昨日の事後処理をしに行った。
そこに立つのは改装こそされているが、歴史的な趣のある屋敷といった感じの建物だ。
何処と無く19世紀の雰囲気が漂ってくる。
扉の横には彫金の表札がありそこには『Minuet Holmes』と書かれている。
(メヌエット……それがここの主人の名前か)
今更ながら、この表札の綴りを見て『オルメス』って読めるな、とか思っちゃったよ。
でも、ここはシャーロック・ホームズの住んでいたアパート。
つまり正式な読み方は『ホームズ』。
アリアはシャーロック・ホームズ4世って事か。
うわぁ、気付くのめっちゃ遅かった……。
手紙に書いてあった住所の時点で気付かなかった自分が情けないわ。
(その事は置いておいて早く用事を済ませ無いと)
と、呼び鈴を押すと……白地に黒いフチ取りをした木のドアが開き、こちらも白黒のステレオタイプなメイド服を着た2人のメイドさんが玄関の左右にいた。
瞬間、俺の脳裏に『リアル貴族』なる言葉が浮かんだ。
俺はその言葉を素早く頭から消して、意識を視界へと戻す。
そのメイドさん達は、ひと目で双子と分かる、俺と同い年ぐらいの金髪碧眼の白人少女。
「樋熊シュウヤです。昨日連絡した通りメヌエット嬢に会いに参りました」
「サシェです。ようこそ」
「エンドラです。ようこそ」
髪が短い方がサシェで、長い方がエンドラか。取り敢えず覚えたね。
なんか無愛想だけど、メイドってこんなもんなのか?
でもかなり美人ですね、この2人。
とかなんとか訳のわからんことを解析してしまった。
「こちらへどうぞ。メヌエットお嬢様がお待ちです」
サシェに案内されて廊下を歩いて行く。
窓からは中庭が見えた。
円形の———ハーブ園かな?
良く見ると一部だけ花が咲いている。
あれは、1年時計になっているんだ。
これは植物学の知識がないとできない芸当だな。
赤紫色の壁紙には金色で柄が描かれていて、その壁には額縁に収まった白黒の写真が飾ってある。
———知ってるぞ。あれは、シャーロック・ホームズ本人の写真だ。
前に探偵科の教科書で見たな。
「…………!」
1階の奥間に入ると、途轍も無い光景が目に入った。
そこはまるで博物館。アンモナイトなどの化石があった。
奥に目をやるとプテラノドンの幼体などの中型恐竜の化石もあった。
サシェに続いて奥へ進むと、爬虫類や哺乳類の骨格標本もあった。
「ここはメヌエットお嬢様がコレクションなさった品を収蔵した博物室です」
スッゲーな、おい。これメヌエット1人で集めたのかよ。改めて貴族だってことを思い知らされたね。
「お嬢様のお部屋はこの先の、2階にございます」
俺は先へ進みながら、ガラス戸の棚中のものにも目をやる。
そこには、蜂抜きの蜂の巣や、蜘蛛や蝶などの昆虫標本、鷹やフクロウの剥製などなど。
こういうのもアレだけど、趣味が暗い。
俺は博物室の先の階段を目指した———
メヌエットは折角の客人と1対1で話したいらしく、双子のメイドのどちらにも上がる許可を下していなかったらしい。
俺は1人で簡易エレベーターの付いた階段を上る。
そして、薄暗く静かな廊下を歩いて行く。
なんかさっきから床がミシミシ言ってんだけど大丈夫?
しかしどんだけロンドンに通っても、家の中で靴を脱がないのは落ち着かないな。
———サシェの言ってたドアはこれだな。
金の取っ手、黒縁の白いドア。あってるなみたいなのでノックする。
「……」
返事が無い。もしかして中にいるのは———ただの屍か? そんな事は無いと思うけどね。
普通に人の気配はあるし———突入するか。
俺はゆっくり扉を開く。
薄明るい部屋の中は、マキの部屋を見た後のせいか、散らかってる様に感じた。
だが、それは印象だけで実際には『綺麗といえば綺麗』的な感じだった。
部屋の中にあるものは、蓄音機やら木製のレターボックスやらタイプライター、果ては振り子時計と言ったように、懐古趣味なものばかりだった。
ここの部屋に住んでる奴幾つだよ。年上感半端ないけど。
そこに異彩を放つものが1つ。PCだ。しかも唯一の電子機器。
「———火薬のにおい」
いきなりかけられたアニメ声に俺は振り向いてみると、カーテンを殆ど閉ざした窓際にいた。
少女が。座っている———正確には乗っているというべきだろうか。
その少女は車椅子に乗って窓の外を眺めていたようだ。
「あなたは、お姉様と同じく日常的に銃を撃つ人物。そして、お姉様が寄越したと考える所から、お姉様と同じ武装探偵ですね」
俺の方を見ないで正解を言った。しかもドンピシャで。
「まあ、元から推理できていたので、合っている問題の答え合わせのようなものですけど」
なんか……アリアの声を録音したテープを鮮明にして聞かされてるみたいなんだけど。
でも、若干だがアリアより声が低い……かな?
「身長は170〜175、といったところでしょう。訓練はされているがあまり筋肉質では無い様子ですね。恐らくですが意図的にそうしている。そして、体重は65キロ前後」
……俺の身長は174.0。体重は65.5。ジャストミート。
ていうか、さらっと人のプロフィール当てないでいただきたいね。
「全て推理して導き出したんだよな?」
「ええ、初歩的な推理なので」
初歩的ね〜。強ち間違いでは無いけど。
「どうせなので、私が何故あなたのプロフィールを言い当てたのか———小舞曲の如く、順を追って話して差し上げます」
「いや、その必要は無いね」
「……あなたは既に、私がどこから推理するために必要な情報を手に入れたか分かっているのですか?」
ある程度は……ね。
「ああ。職業に関して当てられたことについては、言ってた通り『匂い』を材料として推理していた。これは普通の人でも答えられる」
「はいそうです。あなたの言う通りです。では、身長や体重は何を推理の材料にしたとお考えで?」
そこだよ……。心当たりはあるけどな。
「……廊下だ」
「廊下がどうしたのですか?」
「廊下を歩くときにやけにミシミシ言っていた。恐らくだがその音を使っていた。そして、あなたは階段からこの部屋までの距離も分かっている。それを踏まえた上で行くと、ここまで歩いて来る人が発する情報を推理材料としていた。違います?」
「ご名答です。今のであなたがどの様な人物か大体分かりました」
そういうと、きこッ……と車椅子をゆっくり回転させてこちらを向いた。
その見た目は、アリアを金髪碧眼にしたらこんな感じのなんじゃ無いのって感じの見た目をしている。
途中で変色しただけで、そもそもアイツはこういう色か。……なんでそう思ったんだ?
でも、この子の目は物忘草色。しかも、肌がアリアより白い。後で経歴でも洗ってみよっと。
それは置いといて……服装はなんというか、ゴシックロリータのようなものだ。
「あなたの探偵面は優秀な部類ですね」
そう言った彼女の手元に俺は視線を注ぐ。
その手には古いイギリスの軍用ライフルを持ち、銃口をこちらに向けている。
どいつもこいつも、なんでそんなに物騒な物持ってんの?
ほんと世の中世知辛くなったね。
「ところで、あなた名前は?」
「おっと、これは失礼。自分は樋熊シュウヤです。以後お見知り置きを」
俺は手を胸に当てお辞儀する。
「初めまして。そして、さようなら。私はメヌエット・ホームズ。ホームズ4世ですわ」
———ナイス・トゥー・ミート・ユー・アンド・グッド・バイ———だって?
何が好きで会って直ぐの人間にサヨナラされなきゃいけないんだよ。
あれ? ていうかここ7m半の距離じゃん。
ここにいるってことは、あれの弾必中じゃん。
しかもご丁寧にスコープまで覗いてるよ、メヌエットさん。
———パウッ!
俺は音と同時に上体を逸らす。
俺は視界に映るであろう銃弾に意識を集中———あれ?
銃弾が飛んでこない?
俺は元の姿勢に戻る。
「あの体勢で避けるのはあまりオススメ致しませんわ」
メヌエットはそんなことを言ってくる。何食わぬ顔で。
訳がわから……あ、あの銃まさかだけど……。
「それ空気銃か?」
「ええ。R/I電池でポンプの空気圧を変えられるので殺傷力もあります」
ええ……。なんてもん持ってやがる……。
「で、本日のご用件は何で?」
おっと、色々ありすぎて忘れてた。
「アリアから手紙を預かって来たから届けに」
俺は制服のブレザーの内ポケットから、手紙を取り出しメヌエットに渡す。
「ふむ、確かにこれはお姉様の文字」
そう言ったメヌエットは、手紙に目を通し始めた。
2分ほどしてから、顔を上げた。
「30分程時間を頂いてもよろしくて?」
「なんで?」
「お姉様に返事を書くので渡していただきたいのです」
ああ、そういうこと。
「構わないよ」
「そう、では宜しく。それと———」
「?」
「先程から敬語の時とそうでは無い時が混ざっていますがその理由は?」
「流れ? 俺にもイマイチよく分からん」
正直なところ、『挨拶はしっかりと』がモットーだから挨拶しっかりやったけど、それ以外はね。
「まあいいですわ」
「それより、この部屋で待機してても良い?」
「構いませんわ。この部屋にそもそも男性を入れている時点で特例ですので」
そーなのか。そいつは少し名誉なことだな。
俺は体育座りで壁に背中をつけて待つことにした———
「これをお願いしますわ」
30分程体育座りをしていたため痛めてしまった体を無理に動かし、俺はメヌエットの差し出した封筒を受け取る。
「はい、確かにっと」
俺はその手紙をブレザーの内ポケットへと仕舞う。
「俺はそろそらお暇させてもらうよ」
「今夜の便で日本に戻るのですね」
「ご明察通り」
「では、日本に戻る前に1つ忠告して差し上げましょう」
「忠告?」
なんだ、一体?
「はい。あなたは近々大きな事件に巻き込まれるでしょう。そこで何かしらの因縁が交錯します」
なんのこっちゃ? 全然分からんのですが……。
「忠告ありがとう」
俺はドアノブに手をかける。
「またいらして下さいな。その時はまた、《《歓迎する》》ので」
ん? なんか凄く最期の台詞に寒気を覚えたんだが。
俺はホームズ家を後にした———
所変わって武偵局。
マキと一緒に事後処理をしていた。
「あの後、GⅢって名前で洗ってみたけど何も出なかったわ」
「しょうがないな。後はロンドン警視庁に任せるとしよう」
「そうだね」
俺はそう言って武偵局を出ようとした時、肩を掴まれた。
「何か? ———ってアラン先輩」
そこにいたのはここでの俺とマキの上司に当たるアランさんだ。
「少し耳を貸してくれ」
俺は言われた通り耳を傾けた。
「先日、日本に君の追っている者が入国したとの情報が入った」
……!?
「本当ですか?!」
「ああ。それを伝えに来た」
「分かりました。ありがとうございます」
アランさんは中へと向かって行った。
「シュウ君待って」
マキさんも来たことだし……ってなんだそれ?
「なんだその荷物は?」
「私も一緒に日本に戻ろうかなと思ってね」
この日、ロンドン武偵局は軽い騒ぎが起こったのであった———
あの後なんとか場を鎮めた俺たちは、空港へ行き飛行機に乗った。
帰りは安全でありますように、っと。
結局騒ぎが起こった理由は、マキの帰国。
あんたら、そんなにマキを帰したく無いんですか?
まあ、本人が帰りたい言ってたから無理だと思うけど。
で、その当事者は私の隣の席で眠っていると。
2日ぐらいしかいないのに疲れた。
マキも同じだろうな。
エコノミーの座席でも寝ることに支障はないな。
むしろこっちの方が慣れてる気がする。
俺はそのまま眠りについた———
到着した羽田空港から武偵高へと戻った。
久々の日本……と言っても数日いなかっただけだが、やっぱり落ち着く。
ゆりかもめを降りて、台場を歩き、学園島に着いた俺とマキは寮を目指して歩く。
「ところでマキ、お前部屋はどうするんだ?」
「取り敢えず、シュウ君のところ借りようかなと思ってるんだけど」
「男子寮に女子がいるって軽く問題なんだよな……」
と思ったけど前言撤回した方がいいかな?
「俺は構わないからいいけど」
そういうとマキは物凄く嬉しそうな顔をした。
俺は何となくその顔を見ながらホッとしていた。
なんだか安心感さえ覚えていた。
すると突然声がかけられた。
「久しぶりだな」
「「?!」」
目の前に人影が現れた。
「見ない間にだいぶ成長したみたいだな」
この声、聞き覚えがあるぞ……!
間違いない。俺がずっと追いかけてきた奴。
「あなた何者?」
マキは問いかける。
目の前の奴は顔を上げて思いっきり名乗った。
「私は———水密桃だ!!」
後書き
今回はここまで。
第15弾 過去との交錯
前書き
第15話です
「……水蜜桃?」
マキが首をかしげるのも無理は無いと思う。こいつ———薄い水色の髪に幼さを残した感じの少女、水蜜桃は国家機密である『イ・ウー』の構成員なのだから。
———『イ・ウー』に関する事は迂闊に話せない。
話せば公安0課に消されるからな。
「本当に久しぶりだなぁ。最後に会ったの何年前だ?」
水蜜桃は笑いながら言う。
この態度、何処と無くイラつくな。
「……ッ。よくもまあ、ノコノコと俺の前に出てこられたな」
「知り合いなの?」
「知り合いって言えば知り合いだが———どっちかって言うと仇かな」
俺は腰のホルスターに手を伸ばしながら答えた。
「あんまり動くなよ。動くと穴だらけになるからな」
そう言った水蜜桃の手元をよく見ると、ガトリングガンが握られている。
「なっ!! どっから出しやがった!!」
「ずっと持ってたぜ」
マキの方へと軽く目を向けると、やはり俺と同じく動けないと言った感じである。
だが、あんなもの立ったまま扱える筈もない。
「お前そんなの撃ったら、反動で吹っ飛ぶんじゃねぇのか?」
「確かにそうかもな。普通のだったらな」
……普通の?
「こいつはイ・ウーの技師に改造されたやつでな。反動を抑えまくってるらしい」
……魔改造品かよ。よりにもよってガトリングガンを。
「このッ!」
俺は水蜜桃の前へと飛び出した。
水蜜桃は反射的に引き金を引いた。銃口からは無数の7.62mm弾が射出され俺の元へと向かってくる。
俺は屈んでそれらを躱し、低い姿勢を保ちながら相手の懐へと飛び込む。
水蜜桃は俺を追うように銃口を下へと向けていく。
しかし、かなりの重量のためか向ける速度は遅く俺には当たらない。
「……クッ!」
俺はM134の銃口とほぼ同じ位置まで近づいた。
これでもう射撃は当たらない。
そのまま相手の胸元に低反動モードに切り替えたDEの銃口を向けて発砲しようとした。
直後、俺の腕にワイヤーが結び付けられ、それをキャンセルする羽目になる。
「……ッ?!」
それはこの防弾制服にも使われているTNK繊維のワイヤー。
「……大丈夫、姉さん?」
声のした方を向くと人影があった。
「……夾竹桃!?」
黒髪で何処と無く根暗な感じの雰囲気の少女、間宮達が追いかけてるそいつがそこに居た。
「助かったぜ夾竹桃」
水蜜桃はそう言ってこちらに向き直す。
「……何しに俺の前に現れた」
俺は軽く睨みながら言った。
「そんなに怖い顔するなよ。私はただ、お前に会いに来ただけだ」
「……嘘つけ。どうせ、10年前と同じ事しに来たんだろ?」
「あんなに物騒な事は……一概にないなんて言えないな」
その言葉に、物凄い腹立たしさを感じる。
「それはそうと———お前、ちゃんと刀振るえるようになったか?」
「……」
俺は黙り込む事しか出来ない。
「期待外れかー。なんか面白く無いなお前」
———プツリ。俺の中で何かが切れた。
それと同時に俺は、縛られていない腕でベレッタを向ける。
「無駄よ」
夾竹桃がそう言うと同時に俺の体は動かなくなる。
正確には動けなくなった。
「……?!」
よく見ると辺り一面にワイヤーが張り巡らされている。
下手に動くと何処かがちょん切れる。
見落としてた……!
「こんな初歩的なことに気づかないとはなぁ。お前もだいぶ落ちぶれたな」
そう言って水蜜桃は笑った。
そして、M134を俺に向ける。
「———ここで死ねー!!」
M134が火を吹いたと同時に俺の周りのワイヤーが切断された。
俺は行動可能な事を確認すると、急いで伏せて攻撃を回避した。
「チッ、誰だよ邪魔したのは?」
銃撃が止むと同時に水蜜桃が口を開いた。
「私だよ」
刀を両手に握ったマキが答えた。
「邪魔しなければ死なずに済んだのにな」
水蜜桃は銃口をマキへと向け直した。
「馬鹿、止めろマキ! 早く逃げろ!」
だが、マキは逃げようとしない。
「まずはお前からだ!!」
水蜜桃は引き金を引いた。
「……?」
しかしM134は動かない。
「———その銃ならもう動きませんよ」
「……誰だ!!」
マキの背後から新たに人影が現れる。
それは、セミロングに整えた黒髪を一つ結びで纏めた少女。
背丈はマキより少し低い位である。
左手には鞘に収まった日本刀を持っている。
「……凛音!」
「騒がしいから来てみたけど———何してたのかしら」
彼女は沖田凛音。
鑑識科所属のAランク武偵。
去年、俺達と4対4の時にチームを組んだ奴の1人。
確か、名前の通り沖田総司の子孫だとか。
その影響か刀の扱いに慣れており、剣技に優れている。
「なんだ、お前?」
「通りすがりの武偵よ」
「このッ!」
再び水蜜桃は引き金を引く。
しかし、先程と同じくM134は沈黙している。
「この、動け!」
「言いましたよね、その銃はもう動かないと」
水蜜桃の姿を見ながら凛音は冷静な口調で言う。
「何でだ! 何したんだ!」
「何って———」
「———その銃の機関部を、既に私が斬ったから」
凛音の言葉に合わせるかのように声がした後、今度は木の上から人影が現れる。
こちらは、茶髪のセミショートの少女。
身長は凛音とほぼ同じぐらい。
腰には、身の丈程ある日本刀が差してある。
「歳那……?」
「久しぶり。4対4以来かな?」
彼女は土方歳那。
尋問科所属のAランク武偵。
凛音と同じく,1年の時に組んだ4対4のチームメンバー。
こちらは、土方歳三の子孫らしい。
凛音と同じく刀の扱いが上手い。
「お前ら、何でここに?」
「激しい銃声が聞こえたから見に来たの」
凛音の後に、歳那が続けて言う。
「そう、あまりにも煩くてね。文句言ってやろうかなと思って来てみたけど———」
2人は水蜜桃の方へと向き直す。
そして凛音が言葉を補うかの様に口を開く。
「まさかこんな事になってるとはね。そこの貴方、銃刀法違反で逮捕する」
凛音は、腰元から抜いた刀を水蜜桃に向けながら言った。
「面白いこと言うなぁ。でも、そこに足手纏いがいるのにどうやって私を捕まえるんだ?」
俺の事を示しながら言った。
確かに俺は———「そんな事ないッ!」———ッ?!
マキが叫んだ。
「シュウ君は———シュウ君は足手纏いなんかじゃない!」
水蜜桃はその言葉を嘲笑した。
「へぇー。そいつが足手纏いじゃ無いって言い切れるのか?」
水蜜桃は続ける。
「怒るとすぐに我を忘れて周りが見えなくなるような奴だぜ?」
挑発……いや、違うな。
「それに、そいつは1回———」
まさかアイツ、あの事を言うつもりなのか?!
「止めろ、それ以上言うな!!」
俺の必死の懇願は虚しく散った。
「———9条を破りかけた事もあるんだぜ?」
その言葉を聞いた瞬間、忘れかけていた———否、自ら忘れていたと言うべき記憶。
その記憶の全てが、一気に頭に流れ込むかのように思い出される。
「う゛う゛っ゛!」
俺は頭を抱えてその場に倒れこむ。
「シュウ君!」
「「?!」」
薄れ始めた意識の中、マキが駆け寄ってくるのが見える。
その奥では、凛音と歳那が硬直していた。
俺は何とか起き上がろうと試みるが、体に力が入らず起き上がれない。
「マキ、歳那! ここは一旦引こう!」
我に帰った凛音がそう叫ぶ。
「逃すかぁ!」
水蜜桃が叫ぶ。
水蜜桃を牽制するために、歳那がグロック18を取り出して発砲する。
俺は動かない体を無理に動かして、懐から武偵弾『煙幕弾』を取り出し投げる。
予め衝撃を加えた煙幕弾は、地面につくと同時に煙幕を張る。
「チッ、煙幕か」
煙幕弾がしっかりと作動したことを確かめた俺の意識は、誰かに背負われるような感覚と共に途切れるのであった———
いつもの朝と同じ感覚で目が醒める。
若干だが、視界がぼやける
だが、部屋の中は真っ暗だ。まだ夜間である。
アレ、確か俺は煙幕弾を投げて……どうなったんだ?
考え事をしながら、俺はゆっくりと上体を起こした。
それとほぼ同時に、寝室の扉が開きマキが入って来た。
同時に寝室の明かりもつけられる。
「……もう良いの?」
何処と無く不安げな表情を浮かべたマキが尋ねてきた。
「……ああ」
俺が短く返事をしたのと同時に、凛音と歳那が部屋に入ってきた。
「気がついたのね」
俺は凛音の言葉に頷いたまま俯くことしかできない。
この状況で俺はどんな顔をしたら良いんだ……。
「ねえ———」
マキの言葉に顔を上げる。
「———9条を破りかけた事は本当の事なの?」
「ああ、本当だ」
「どうして、そんな事を?」
「それは———」
次の言葉を紡ごうとした瞬間、再び激しい頭痛が俺を襲った。
「うっ!!」
「シュウ君!」
頭を抱えて悶える俺に、マキが寄ってくる。
「———大分辛い思い出なのね」
凛音が諭すように言った。
チッ、あの野郎良くも……。
「————そうだ、彼奴は?」
俺の問いに歳那が答える。
「水蜜桃とか言ったっけ? 逃げられた。いや、何とか逃げ切ったって言うべきだね」
「そうか……」
「その様子だと追いかけるつもりだったのね」
凛音に心の内を言い当てられた。
「今の貴方じゃ無理ね。少し休みなさい」
「そうするよ」
俺は再び横になった。
俺はどうするべきなのか?
自分ではどうして良いのかが分からない。
「冷蔵にあるもの使っても良い?」
凛音に声を掛けられたが、条件反射の要領で返事する。
「ああ」
あ、それからと凛音が続ける。
「今日ここに泊まっても良い?」
「ああ」
こちらも反射的に返事をする。
……ん? 今『ここに泊まる』って言ったんだよな。
で、俺は返事したわけだ。
「……ちょっと待て!」
ガバッと、勢い良く上体を起こした俺は叫ぶ。
「……何?」
扉のところから顔のみを出した凛音が尋ねてくる。
「何でここに泊まるんだよ!」
「何でって、もう時間も遅いし」
今の時刻は、午後10時過ぎ。
反論の余地無し……。
諦めた俺はそのまま横になる。
「……泊まってけよ」
降参という事で俺は凛音にそう言う。
「そういうと思った」
ニッコリしながら答えた凛音は、リビングへと戻って行った。
溜め息を吐いた俺は、左腕を額へと持ってくると、そのまま眠りに着いた———
深夜に目が醒める。理由は寝汗だ。それも尋常じゃない程の量の。
魘されていたのかもしれない。
シャワーでも浴びようかと起き上がる。
ここで俺は自分の置かれた状況に気がつく。
周囲を女子に囲まれているのである。
何処と無く部屋の中が甘く感じる。
オイオイ……マジか。
勘弁してくれよ……。
自分が寝ているベッドとは反対側にある二段ベッドの下段に目をやる。
そこには穏やかな顔で眠っている凛音がいた。
こうやって見るとやっぱし可愛い……人の寝顔を見ながら何を思ってるんだ俺は!
あそこに凛音が寝ているということは、上段に寝ているのは歳那だな。
あの2人は仲が良く、本人達曰く女子寮の部屋も2人で住んでるとの事。
で、俺の真上はマキで決定かな。
そう結論付けた俺は、そっと寝室から抜け出す。
そして、自分の部屋へと入り着替えを取ると、そのままシャワー浴びて自分の部屋のベッドで眠りについた———
翌日の早朝。
防弾制服を身に纏った俺は、看板裏へとやって来た。
そこに1人の足音が近づいて来る。
俺は振り向きながら言葉をかける。
「来たね」
俺の視線の先にいるのは———マキだ。
家を出る時マキの携帯にメールを入れて呼び出し、時刻を指定したが———1秒のズレもなく現れたよ。
「話って何?」
早速マキは本題に入ろうとする。
「それはね———っと、本題に入る前に」
俺は左右の腰にあるホルスターからDEを抜き、マキの後ろにある木と看板の上に向ける。
「出てこいよ。怒ったりしないから」
すると、木の陰から凛音が、木の上から歳那が姿をあらわす。
「え? 歳那が凛音と同じところにいた? じゃあアレは———」
少し予想外の状況に俺は眉をひそめる。
すると看板の上に人影が———って、飛び降りてきた?!
唖然としていた俺は即座に受け止める体勢に移ろうとした。
「……あ」
どういうわけか俺は、バランスを崩してしまい背面から地面へと倒れて行く。
そして、上から落ちてきた奴が俺に衝突した。
その後俺は、地面へと叩き付けられる。
「ゴヘッ!」
自身に掛かった重力加速度に、結構な高さから自由落下を行い速度の付いた奴の勢いもあり、結構な衝撃をもらった。
「シ、シュウ君?!」
マキの声に頭を抑えながら目を開ける。
「痛って……」
この場面だから敢えて聞こう。
———空から女の子が降ってくると思うか?
この場合はYESだ。
実際に降ってきたのだから。
アリアが。
「ッ———! しっかり受け止めなさいよ、このドベ!」
聞いた? 開口1番の台詞がコレだよ。俺もう泣くよ?
ヒョイっと立ち上がったアリアはポンポンと服の汚れを払っている。
何故か、制服以外の服着てるんだが。
「なあ、なんの格好だそれ?」
「見てわかんないの? チアよ」
「アドシアードのか?」
「そうよ」
アドシアードとは毎年5月に行われる催しで、世界中の武偵高から選りすぐりの武偵が来る。
言わば武偵達の祭典と言った所だ。
しかし、それのチアねぇ。
……違和感しかねぇ。
「あんた今失礼な事考えてなかった?」
怪訝そうな顔をして聞いてくる。
「何も」
紙回避でアリアの言葉を流す。
しっかし痛かったな……。
アリアじゃなきゃ死んでたかもな。
「……風穴」
アリアがホルスターからガバメントをチラつかせる。
「落ち着け」
俺は彼女を宥める。アリアは、何処か不満そうな表情を浮かべながら腰に手を当てた。
———ていうか、こいつはエスパーか。
「凛音と歳那がここにいる理由は大体分かってる。で、アリアは何でここに?」
「聞きたいことがあってね」
聞きたいこと?
「何をだ?」
「手紙の件」
ああ、メヌエットに渡したやつね。
「しっかり渡したけど。あ———」
自分の制服の内ポケットから1通の手紙を取り出す。
「これお前にってメヌエットから」
俺の渡した手紙を受け取ったアリアは、ありがとうと言って手紙の裏を確認する。
「確かにメヌの書いた字ね」
そりゃあねぇ、目の前で書いてもらったやつだし。
「で、用事は済んだか?」
「まだよ」
まだあんのかよ……。
「……で、その用件とやらは?」
「あんたに頼み事よ」
頼み事ねぇ……。
「悪いけど、今は受けられない」
「なんでよ」
「今厄介ごとに当たってるんだ」
頭をかきながら答える。
そして、マキ達の方へと向き直る。
「マキ、凛音、歳那———これから話すことを聞いたら後戻りできなくなるけど良いか?」
3人を見ながら俺は言った。
これから話すことは聞いたら最後、これから一生背負って行くであろうことに巻き込んでしまう。
出来る事なら、俺はこいつらの事を巻き込みたく無い。
だからこうして最後にもう一度聞いた。
3人は頷いた。
覚悟はできていると言うかのように。
ついでにアリアの方に視線だけやると、『早く言いなさい』と言うように腕を組んでいた。
少し間を置いてから口を開いた。
「———この話をする前に、俺自身のことも聞いてもらいたい」
そう前置きして話し始める。
「俺の名前———樋熊シュウヤって言うのは、偽りの名だ」
「「「「え?」」」」
一同は衝撃的な顔をする。無理も無いと思う。
俺もあいつらの立場なら同じ反応をしたと思う。
だがこれは、紛れも無い事実。
「じゃあ、あんたの本当の名前は?」
「———平山。平山柊弥。それが俺の本当の名前」
「平山? 平山ってあの平山行蔵の?」
凛音が驚いた様に言った。
「そう、俺の先祖は平山行蔵」
俺は平山行蔵の7代目か8代目の子孫。
「……平山行蔵って誰?」
マキが首を傾げた。
知らないのも無理はないな。
あまり知られた人では無いと言うのが正直なところだから。
「平山行蔵は江戸時代の兵法家、つまり武術家だね。確か『講武実用流』って言う流派を開いた人だった筈」
凛音がマキに説明する。
「凛音の言う通り。平山行蔵は兵法家であり『講武実用流』を開いた人」
「つまりシュウ君はその講武実用流の継承者って事?」
「そう言うこと」
俺は幼い頃、講武実用流に関することはだいたい習ったからな。
そもそも講武実用流と言うのは、『忠孝真貫流』と呼ばれる剣術を中心に、槍術、柔術、砲術などの多彩な武芸を纏めたもののことを言う。
あ、でも砲術は習ってないな。
代わりに銃火器の扱い方を教え込まれたけど……。
「そういえば、今使ってる名字は一体どうしたの?」
「これは俺を引き取ってくれた親戚の名字をそのまま使ってる。一応住民登録とかもこの名前で入ってる」
「……講武実用流に剣術入ってたよね?」
歳那が口を開いた。
「あるよ。それがどうした?」
「あの剣術は一刀流の流れを汲んでるはず。どうして貴方は二刀流なの?」
そう来たか。
また、ややこしい方に転がりそうだな。
「それは、俺が宮本武蔵の血筋も受け継いでいるからだ」
「「「「え?」」」」
……やっぱり戸惑うよな。
そう、俺は僅かであるが宮本武蔵の血を引いている。
もう一度言う。僅かだが。
「あの剣豪の?!」
「そうだよ」
だから凛音さん落ち着いて。
「まあ、俺のルーツに関してはこんな感じ。なんか質問ある? 無いなら先に進むけど」
一同は無言だった。俺はそれを肯定として受け取り次に進む。
「次はあいつ……水蜜桃との因縁かな」
俺はレインボーブリッジを観ながら話し始める———
10年前、俺は青森から秩父の山奥に越して来て住んでいた。
そこは平山一族が住んでいる場所。
そこで、色々な技術を学んでいた。
武器の扱いから戦闘時の動作、人間の急所や一撃必殺———と言った、殺しの技術も交えたりしてた。
そして俺は、平山に代々受け継がれる刀『霧雨』と宮本側から受け継いだ刀『雷鳴』をこの時にもらった。
そんな風な日常を家族や従兄妹達と過ごしていた。
だが、その日常も崩れた。
突如として現れ襲撃して来た『イ・ウー』の奴らによって。
一瞬で戦場へと変わったそこで、俺は生きる為に走った。
その途中で俺は水蜜桃に捕まった。
奴は、珍しいものを見つけたと言う様な顔をした。
瞬間的に危険を感じた俺は相手の脛に蹴りを入れた。
水蜜桃から解放された俺はひたすら走った。
そんな俺に対して、水蜜桃はARを放ってくる。
放たれた弾のうち1発が、俺の足を掠めた。
俺は痛みを堪えてまた走り出すと茂みに隠れた。
その時の俺は恐怖と痛みに涙を流していたと思う。
そして俺はやり過ごすことができた。
ただ、自分が生き延びる代わりに、俺は家族と生き別れてしまった。
その後、俺は親戚に引き取られ小学校に入学した———
「そこでマキ、お前に出会った」
俺は視線をレインボーブリッジからマキへと向け直す。
「私と出会う少し前にそんな事が……」
マキは深刻そうな顔をした。
「でも、それと9条破りがどう言う関係があるの?」
凛音がすかさず口を挟む。
「それは、去年の2学期の終わり頃、あいつと再び対峙したんだ。その時の俺は、ただただ相手に憎しみなどの感情をぶつけるような戦いしか出来なかったんだ」
未だに抱いている自責の念を押し殺しながら話を続ける。
「その時、水蜜桃が連れてきたその辺のゴロツキが一般人を人質に取ったんだ。それを見た瞬間から記憶が無くなった」
俺はそこで、一度言葉に詰まる。
だが、やや強引に言葉を紡ぎ、話を続けるのだった。
「——— そして、気がつくと血塗れで倒れているゴロツキが目に入ったんだ。そして手元は血に塗れた刀が両手に握られていた。そこで初めて自分が何をしたのかに気付いた。自分が人を殺めようとした事に。その日から俺は剣を握る事を辞めたんだ」
俺は俯きながら言い切った。
「つまり、あの時は手を抜いたわけじゃなかった?」
アリアが聞いてくる。
「言った筈だ、『昔ことを思い出した』って」
「そういえば言ってたわね。でも、どんな感じなの?」
その言葉に思わず拳を握る。
「お前の時も、ハイジャックの時も、刀を人に向けて振るたび思い出されるんだ。あの……血に塗れた惨状を!」
「……だからシュウ君は真剣を私に?」
俺は頷く。
「またあの惨状を繰り返してしまうかもしれない。そう思ったから預けたんだ」
握った拳を解き再び握る。
「要するに自分から逃げてたってことね」
アリアに言われた。
全くもってその通りだ。
「……そう、俺はひたすら自分から逃げてきた。多分怖かったのかもしれない。それと同時に自分が武偵失格だと思ったんだと思う。だから、一時期武偵を辞めようとまで思った」
これは本当の話だ。
俺は自分がこの職業に向いてないと思ったからだ。
「でも、マキが逆刃刀をくれたおかげでこうして武偵高に居られた。それに決めたんだ。もう運命に背を向けて逃げ出さない。立ち向かうって」
「だから、刀を取りに来た?」
「うん。自分の覚悟を示すために」
今まで俺はこの刀———『霧雨』と『雷鳴』を受け継いでから自分の覚悟は全てこの刀に託した。
今回のこともその1つ。
「俺は———あいつを倒す」
ただ1つの目標であると同時に、これ以上悲劇を繰り返さないために。そして、己自身を越えるために。
「倒すって、相手の居場所は分かってるの?」
凛音に言われる。
「ああ。ここに来る前に通信学部に寄って居場所は特定済みだ」
「仮にこちらから強襲するとしても、いつ実行するの?」
「……今夜。今夜実行する」
「今夜?! いきなり過ぎない?」
凛音が驚愕する。
「わかってる。でも、ここで取り逃がすと次に現れるのがいつかが分からない」
「だから今夜……」
「ああ。だから、頼みがある。奴の強襲を———」
「『———手伝ってくれないか?』でしょ?」
マキが言った。
読まれてたか、俺の言いたい事。
「私は元からそのつもりだよ」
マキはそう言った。
凛音と歳那の方を見ると頷いていた。
それにとマキは続けた。
「シュウ君を悪くいう人は絶対に蜂の巣にするんだから」
……物騒だな。
でも、これはある意味口癖みたいなものだもんな。
同時に、マキが俺の事を思ってくれているという証拠でもある。
「あたしも良いわよ。でも、こっちも別の仕事があるからどうなるかわからないわ。一応助っ人でも呼んでおくわ」
「……みんな。ありがとう」
ただただ感謝する事しか出来ない。
「必ず捕まえよう、水蜜桃を」
マキの言葉に返事を返す。
「ああ。もちろん!」
「で、この作戦に名前とかはあるの?」
アリアに聞かれる。
「あるよ。作戦コード———」
俺の全てを込めた作戦。
故に、作戦名はこうだ。
「———『/』」
この後知ることになるのだが、この日はアリアの戦妹間宮あかりが夾竹桃を逮捕する為に行った作戦コード『AA』の実行日であった。
後書き
今回はここまで。
第16弾 作戦(オペレーション)コード 『/(スラッシュ)』
前書き
第16話です。
「作戦の内容は?」
歳那が尋ねてくる。
「ここだと誰に聞かれるか分からない。だから、俺の部屋で話す」
現に誰かがこの会話を聞いている気がする。
誰なのかは詮索したりはしないが。
「了解」
マキがそう答えた。
俺たちは第3男子寮へと向かった———
日が沈む頃、俺は学園島内にある倉庫街へとやって来た。
そして、1つの倉庫の中に入った。
情報科で事前に調べておいた水蜜桃の潜伏先である。
「ここに居るのは分かってるんだ。隠れてないで出て来いよ」
しかし反応は無い。
俺はブレザーの内側の左ホルスターからベレッタを抜くと両手持ちをした。
そして胸の前で構える。
所々に積んであるダンボールやコンテナなどを壁にしながら慎重に奥へと進んで行く。
奴は何処に居るんだ……!
落ち着けシュウヤ。
慎重に、そして冷静に。
自らを落ち着けるために目を閉じながら奴の居場所を考えることに意識を集中させる。
思考がだんだんと深いところへ落ちて行くのを感じる。いいぞ。
そして、思考が沈みきった感覚と同時に目を開く。
……なれたみたいだ。沈黙の解答者に。
今の俺は、通常の人間の32倍の思考能力と判断能力、演算能力を持っている。
この状態を俺は『サイレントアンサー』と呼んでいる。
始業式の日にUZIを撃破するために使ったのもこれだ。
このサイレントアンサーのトリガーはイマイチはっきりしないのだが、どうも深く考え込んだりするとなるみたいだ。
しかし、サイレントアンサーもバーストモードと同じく弱点があり、反射神経や運動能力が下がってしまう。
だが、これで落ち着いた。
再び奥を目指しながら俺は歩き始める。
しかし、すぐに走る羽目になってしまった。
足元にあったTNK線維性のワイヤーに気付かずに踏んでしまった。
ここまでなら何の問題も無かった。
だが、次があった。
今の状態だと僅かな振動からでも先にある物が分かってしまったりする。
それで分かったのだが、糸の先にはUZIがあり、ワイヤーは引き金に繋がっていた。
急いで左前方へとローリングを行う。
飛んだとと同時に俺のいた場所に大量の9mm弾が降り注ぎ床を抉る。
危ねぇ……。
あんなの喰らったら地面をのたうち回りながら蜂の巣にされてただろうな。
安堵したのも束の間、転がった先で再びワイヤーに触れてしまった。
今度は右前方へと飛び込み前転を行う。
そして、先程と同じように無数の銃弾が降り注ぐ。
こちらもUZIによる射撃。
あの重火器オタクめ……サブマシンガンばっかり用意しやがって———え?
そう思っていると正面からM60による銃撃が飛んで来た。
7.62mm弾をあの速度でアレだけ喰らえば間違いなくお釈迦だ。
でも、避けることが出来ない……!
瞬間、俺の中であの血流が現れる。
そう、バーストモードだ。
サイレントアンサーには弱点と呼べるものがもう1つある。
それは、バーストモードの方が優先されてしまうと言う事である。
恐らくバーストモードは優勢形質の部類で、サイレントアンサーは劣勢形質の部類なのだと思う。
故に窮地では狂戦士が優先されるのだと思う。
バーストモードになった俺は、即座に空いている左手でナイフを抜くと自分に当たるコースの弾を———切り裂いた。
切り裂かれた弾丸は、左側の弾丸は上へ。
右側の弾丸は下へと飛んで行く。
切り裂いた瞬間に手首を軽く時計回りに捻ったため弾道が変わったのだ。
この一連の動作に名前をつけるなら———銃弾捌き———!!
俺は銃弾を切ると同時に、右手のベレッタを3点バーストに切り替え、素早くM60の一点に3発撃ち込む。
そして、周囲に配置された他のARなどにも発砲し破壊する。
今の一瞬だけで周囲にあった全ての罠を破壊した。
通常ならあり得ない。
だが、現にあり得てしまっている。
これもサイレントアンサーとバーストモードが組み合わさった結果。
しかし、バーストモードになった事で落ち着きを失った。
ヤバイ……抑えていた攻撃衝動が表に出ようとしている……。
俺は必死になってそれらを抑え込む。
その状態で1分程経つとバーストモードの血流は治った。
そこから再びサイレントアンサーへと切り替える為に、周囲の状況へと意識を集中させる。
そしてあの、思考が沈み込む感覚へと到達する。
改めてサイレントアンサーになった俺はあることに気がついた。
———罠に付いてる銃が先ほどに比べて大型化しているのである。
つまり、奴までの距離が近いと言う事。
武装を再確認した俺は再びベレッタを構え足早に先へと進んでいく。
そして倉庫の1番奥に奴は居た。
「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」
コンテナに腰をかけた状態で腕を組んだそいつは話しかけてくる。
「随分と手荒い歓迎だったな」
ベレッタを向け軽く睨みながら返答する。
「そんなに怖い顔するなって。しかしお前も成長したんだな。大分冷静になったみたいだし」
落ち着け俺。
奴の言葉に耳を貸すな。
受け流せ。
ここで奴の言葉に耳を貸せば奴の思う壺。
あの時の様に口車に乗せられてしまう。
だからこそ、奴の言葉に耳を貸すな。
「ある程度は、な」
受け流しながら返答する。
「で、こんな所まで来てどうする気だ?」
そんな事言うまでも無い。
「お前を逮捕する。その為に俺はここに居る。それだけだ」
それを聞いた水蜜桃はどこか満足げな表情を浮かべた。
「何だよ?」
「何って、そう来なきゃ面白く無いなと思っただけだ」
……は?
「どう言う意味だよ?」
すると水蜜桃は、コンテナから降り不敵な笑みを浮かべこちらに向き直る。
「こう言う事だ!」
叫ぶと同時に煙幕が張られる。
「待て!」
俺は銃口を見えなくなりつつある水蜜桃へと向ける。
「良いのかそんなもん使っちまって?」
その言葉を聞いて気づいた。
この煙幕には僅かだが火薬と小麦粉が含まれている事に。
俺は慌てて近くのコンテナの裏へと滑り込む。
僅かに遅れて爆発が起きる。
「……ッ! やりやがった」
呟きながら立ち上がった俺は周囲が安全かを確かめる。
建物への損傷は……恐らくだが壁のみだな。
天井等に亀裂は見られない。
そうだ……あいつは?
先程まで水蜜桃の居た位置を確認する。
そこには穴の空いた壁があるのみ。
急いでそこから外へ出る。
周りに人影は無い。
……何処へ行った?
奴の行き先をサイレントアンサーの脳を回転させて考える。
すると足元に足跡を見つけた。
これは……燃えなかった粉末が積もった所を踏んだ跡の様だ。
その足跡のつま先の方角へ逃げたと俺は推測した。
俺は倉庫の入り口側に回ると停めてあった自転車に跨る。
そして、インカムを繋ぐ。
「聞こえるか? 水蜜桃が逃げた」
俺の問いかけにマキが答えた。
『聞こえるよ。どっちの方角に逃げた?』
「凛音がマークしてる方角だ。今から追いかけて加勢する」
『了解。凛音にも伝えておくね』
通信を終えた俺は自転車を漕ぎ始める。
加速した自転車で倉庫の間を走り抜けていく。
その途中マキから通信が入る。
「どうした?」
『大変! 凛音が!』
それだけで言いたい事は大体分かった。
俺は自転車を飛ばす。
クッ……サイレントアンサーのせいで飛ばし切れない!
今の状態の全速力で自転車を漕いだ。
そして、凛音の居る地点へと到着した。
乗っていた自転車を放り出すとそのまま倉庫の中へと走る。
無事でいてくれ……凛音!
倉庫に飛び込むと、床に倒れ伏した凛音の姿があった。
急いで駆け寄り容態を確かめる。
……脈も呼吸も安定している。
良かった、生きてる。
だが、意識が無い。
昏睡しているようだ。
近くには凛音の持っていたAR『ステアーAUG』が落ちていた。
ステアーAUGはオーストラリアのシュタイヤー・マンリヒャー社がオーストラリア軍向けに作ったARである。
それ故オーストラリア軍ではこの銃が正式採用されている。
俺はAUGの弾倉を確認する。
この銃は通常30発、弾倉を交換すると42発入る。
因みに凛音のは後者である。
すると弾が10数発撃たれていた。
どうやら交戦して直ぐにやられてしまったようだ。
つまり奴はこの倉庫にいる。
そう考えた俺は周囲に目を向ける。
……しっかしコンテナだらけの倉庫だな。
「何探してるんだ?」
俺の正面にあったコンテナの前に突然、奴が———水蜜桃が現れた。
「凛音に何をしたんだ?」
凛音を抱えた状態の俺は水蜜桃を睨みつけつつベレッタを向ける。
不味い、サイレントアンサーが切れ始めている。
このまま行けばどうなるか分からない……。
奴の返答次第では飛びかかるかもしれない。
「安心しろ。ただ眠らせただけだから。あ、でもちょっと強めの奴で寝かせたから当分の間起きないだろうけどな」
水蜜桃は軽く思い出すような仕草をしながら言った。
……催眠薬の類か。
恐らく気体式のやつだな。
俺は推理しながらも現状打破の策を考える。
しかし、何も思いつかない。
「……お前に選択肢をやる」
突然水蜜桃が言った。
「選択肢?」
あまりの事に鸚鵡返ししてしまった。
「そうだ。1つはお前の持ってる講武実用流の奥義を渡す、もしくは『イ・ウー』に来る。2つ目は———ここで死ぬ」
この場でそれを言うか。
まあ、答えは1つしかないけどな。
「……どちらでもない。俺は、お前を捕まえる」
その言葉を聞いた水蜜桃は不敵な笑みを浮かべた。
「そう言うと思ってたぜ!!」
言葉と共にいつのまにか握っていた銃———俺の愛銃と同じベレッタM93Rを、凛音の頭部に向けて発砲した。
「……な!?」
突然の出来事に俺は反応できなかった。
予測出来ていれば動けていた。
だが、予測できなかった。
———ヤバい。このままだと凛音が死ぬ。
その単語がきっかけとなり、頭の中で様々な記憶が蘇る。
……走馬灯? いや、違う。
これはバーストモードが何かを言おうとしている。つまりメッセージだ。
記憶に映っているのは……全て無力な自分。
どういうつもりだ? 何も出来ない俺なんかを見せて。
……アレ? 全部力があれば救えた……のか?
今更ながらそう思える出来事ばかりだ。
今の俺にはその力があるって言うのか?
……そうか、そういう事か。分かったよ。使ってやるよ。
だから、見せてみろよ。お前の———バーストモードの俺の力を!!
瞬間、意識が現実へと戻った。
そして、俺は既にバーストモードになっていた。
———これなら、行ける!!
そう確信した俺は、左袖からトンファーの代わりに隠し刃として仕込んでおいたタクティカルナイフを、左手に滑り込ませ握る。
同時に右手のベレッタを3点バーストで水蜜桃目掛け発砲した。
「———銃弾捌き———ッ!」
俺は左手でナイフを振るった。
そしてバーストモードによってスローモーションになった視界の中で、横向きに振るった刃が9mm弾を捉える。
そして、刃は弾丸を切り裂いていく。
その途中で手首を反時計回りに回した。
それにより切れた銃弾は動く向きを変え、凛音には当たらない別々のコースを進んでいった。
同時にベレッタから発射された9mm弾が水蜜桃の右肩に2発当たる。
そして駄目押しの3発目が相手の銃口へと入る。
相手の銃口の動きを予測して撃つ技。
これに敢えて名前を付けるなら———銃口撃ち!
肩と銃を撃たれた水蜜桃は、体勢を軽く崩した。
「マジかよ……。防御と攻撃を同時に行うとか。だが、こいつはどうするかな?」
驚いた表情の後再び不敵な笑みを浮かべた水蜜桃は、懐から取り出したスイッチを左手で押した。
すると周囲のコンテナのいくつかが開き、中から巨大な何かが出てきた。
「なんだ……あれ……!」
俺はあまりの事に息を呑んだ。
そして5つのパーツ構成のそれは水蜜桃の背後で組み上がっていく。
「さあ、こいつを止められるかな!!」
それは正しくロボットとでも形容できるもの。
俺はこれを知っている。
「Personal……Arsenal……Armor……!!」
「その通りだ。よく知ってるな。因みにコイツはうちの技師が単独で作り上げたオリジナルだ」
『Personal・Arsenal・Armor』とはその名の通り個人運用を想定して作られた強化スーツ。
アレはArsenalという意味の通り工廠、つまりは武器貯蔵庫としても機能する。
因みに略称は単語の頭文字を取った『P・A・A』となる。
マズイ……詳細が分かっていても対応策が無い……!
俺が対応策を構築していると水蜜桃はそれに乗り込み、腕部と思しき部分についたM60を向けて来た。
反射的に俺は凛音をお姫様抱っこで抱えて、側にあったコンテナの裏に隠れ難を逃れた。
次にどうするべきかを考えていると再びM60の銃声が轟き始めた。
乱射してやがる! 倉庫ごとやるつもりか!
俺は凛音を抱え直すと急いで外へ出る。そして振り返ると、倉庫が倒壊し始めあっという間に崩れ去った。
そして舞っていた埃が晴れると、奴が、奴の乗るP・A・Aが立っていた。
すると水蜜桃はどういうわけか海の方へと進んで行く。
……まさか?!
そう気付いた時には遅かった。
奴の駆るP・A・Aはホバー推進を採用していた。
つまり、海を滑っていくつもりなんだ。
ここから出すとどんな被害が出るか分からない。
それなのに奴を出してしまった。マズすぎる……!
俺の直感が、俺の仮説が、そう告げる。
「……クッ!」
俺はインカムを起動する。
「マキ! 聞こえる?」
ノイズの後マキの声が聞こえて来た。
『聞こえるよ! やっと繋がった。どうかしたの?』
「奴が台場に移動した!」
『え、どういう事?』
俺はここで立てた仮説を話す。
「恐らくだが、奴はレインボーブリッジを経由して都心に向かうんだと思う」
『それって———』
俺は仮説の核心部分を口に出した。
「———都心で暴れるつもりだ」
恐らく今の奴ならそうすると思う。
1番被害が出せて尚且つ国1つを混乱させられるからな。
『暴れるって……そんな武器あるの?』
マキが半信半疑と言った感じで尋ねてきた。
「奴は今P・A・Aを使用している」
インカムの向こうからマキの驚く声が聞こえた。
『P・A・A?! もしかしてあの機動兵器の事?!』
「ああ。にわかに信じられないと思うが本当だ」
『武装は?』
焦った声でマキが聞いてきた。
「内臓武装までは分からないが都市を混乱させるほどの武装を積んでると仮定してる。現状確認できたのは、M60が2基」
俺は会話をしながら凛音を安全な場所へと運ぶ。
「凛音の位置特定出来る?」
俺は運びながら聞いた。
『一応こっちからは特定出来てるけど』
「凛音の回収……頼んだよ」
俺は凛音を降ろすと壁に寄りかかるように座らせた。
『分かったけど……シュウ君はどうするの?』
「俺は今から奴を追いかける。凛音を回収してから合流してくれ」
俺はそう告げると、転がっている自転車を起こして跨り漕ぎ出した。
自転車を漕ぎながらインカムと携帯を片手で繋いでいく。
そして電話をかける。
8コール後電話が繋がった。
『……もしもし?』
「武藤、今何処にいる?」
電話に出たのは武藤だ。
『シュウヤ? 今は車輌科だが。なんでだ?』
「格納庫の中に俺の弄ったハヤブサあるよな?」
『ハヤブサっていうとGSX1300Rの事か?』
GSX1300Rは正式名称『スズキ GSX1300R ハヤブサ』。
量産市販車最速の車両である。
だが、途中からスピードリミッターの装備が義務付けられてしまったため、現在のモデルは最高速度が出せなくなっている。
俺が改造した奴は、リミッターを付けたままで310km/hまで出せるように改造してある。
つまり普通のより速く走れるのだ。
「それだ。そいつのエンジンをふかしておいてほしい」
『な、なんでまた』
「緊急の要件だ。頼む」
『わ、分かった』
「サンキュー。後もう1つ」
『まだあるのか……』
「ああ。装備科の俺の作業室から7.62mm弾をハヤブサに積めるだけ用意してくれ」
これはAUG用にである。
先程回収した凛音のAUGを使うことにした為持ってきたのだ。
本来武器の貸し借りは良く無いが……緊急時という事で割り切った。
『いいけどよ……。お前どれくらいで着く?』
「早くても8分、遅くても10分ってところだ。それまでに行けるか?」
『十分だな。ただ、別料金取るぞ?』
「払うか考えとくわ」
『おい、ちょっ———』
俺はインカムを一方的に切り、自転車を飛ばした———
その後、9分かけて車輌科に到着した。
俺は自転車ごと格納庫へと滑り込む。
「来たか」
自転車から飛び降りると武藤が話しかけて来た。
「もちろん。で、準備の方は?」
「万端だ」
武藤は親指で後ろを示しながら言った。
「流石」
俺はバイクに跨り状態を確認する。
荷台には7.62mm弾が積載限界まで積んである。
この短時間で良く積めたな。
まあ、これが出来ると信じてたから頼んだんだけどな。
乗ってないとは言え、整備は怠って無いからバッチリだな。
「おい、この自転車はどうするんだ? 前輪が逝ってるみたいだが」
床に倒れている自転車について武藤が訪ねてきた。
「悪い、ここに着くと同時にパンクしたんだ」
バーストモードの過剰運転に耐えられなかったようでパンクしてしまった。
恐らくだが、フレームの方も歪みかけているはず。
「修理車両の箇所にでも置いておいてくれ。間違っても廃棄するなよ」
俺は武藤に釘を刺した。
「分かったけどよ……本当に大丈夫なのか?」
「支払いか? 支払いなら生きて帰ってきてからな」
俺は冗談交じりにそう言った。
「そうか。じゃあ死んだら承知しねぇ! そん時は轢いてやる!」
「まあ、死ぬつもりなんて微塵も無いけどな!」
俺は苦笑しながらそう言い、ハヤブサを勢いよく発進させた。
ハヤブサはエンジンの音とともにスピードを上げていく。
俺はゆりかもめの路線に沿ってバイクを走らせて行く。
そして台場に入り、台場駅を通り過ぎてあっと言う間にレインボーブリッジへと到着した。
なんてたって150km/hで飛ばしてたからな。
そこからレインボーブリッジの有料道路へと侵入していく。
そこは、何故か渋滞していた。
不審に思いながらも先に進んでいくと上空から何かが落ちて来た。
「……?!」
上空から降ってきたそれは、落下地点の近くにあった乗用車数台を吹き飛ばした。
俺は砂塵が開けると同時に目を見開いた。
降ってきたのは、水蜜桃の狩るP・A・Aだったのだから。
硬直の解けた俺は、急いで横転した車へと駆け寄る。良かった、乗ってる人達に怪我は無いみたいだ。
乗っている人達を車外へと救出した俺は即座に避難誘導へと移った。
なんとか全員避難したようで、人は見当たらなくなった。
この間、奴に動きは無かった。
俺はベレッタを片手にP・A・Aに近付いて行った。
あの機体、先ほどな事で分かったが短時間であれば飛行可能らしい。
そう考えると先程のは海面から飛んできたのか。
そんなことを考えている俺の目の前で突然、P・A・Aが動き始めた。
そして2基のM60がこちらへと向けられ、放たれた。
慌てて俺は車の陰に隠れる。
M60は車の窓ガラスを破り、扉を貫通して来た。
俺は地面に伏せ、車の下に潜り込む事で攻撃をやり過ごした。
どうやら奴は俺の事を探しているらしい。
ベレッタに武偵弾炸裂弾を装填すると、水蜜桃から死角になる位置へと出た。
そこからそっとP・A・Aを狙う。
この距離からの炸裂弾なら……?!
俺が構えると同時に無数の7.62mm弾が降り注いできた。
再びスローモーションになった視界の中で、自身に当たりそうな弾丸を紙一重で躱し、車の影へと戻る。
チッ……! さっきのは罠だったって訳か。
内心舌打ちをしながらも次の策を講じる為に頭を働かせる。
するとサイレンの音が聞こえてきた。
———この音は警察車両だな。
恐らくレインボーブリッジの封鎖に来たんだな。
すると水蜜桃の駆るP・A・Aが都心へと向けて進み出した。それもかなりの速度で。
コイツ、逃げるのを兼ねて攻撃を開始するつもりか!?
俺は急いでハヤブサの元へ駆け寄る。
そのままハヤブサを起こすと跨った。
再びエンジンを掛けると、そのまま発進させる。
しかし、目の前には横転した車などがあり道は塞がっている。
それでも構わずに、俺はハヤブサを加速させた。
車と接触する瞬間、車体を上に持ち上げるようにする。
それにより、目の前の車のボンネットに車体が乗り上げる。
そこからスピードを落とす事なくフロントガラスの部分を走り抜けて、勢いよく上空へと飛び上がった。
そして勢いそのままに着地した。
それにより、車を飛び越える事に成功した。
俺は再びハヤブサを加速させた。
だが、まさかあの場所に夾竹桃もいるとはな……。
先程まで水蜜桃に動きがなかったのは、夾竹桃と会話をしていたんだな。
先程上空から見えたのだが、道の脇にいたのだ。夾竹桃が。
誰かを待つかの様に、佇んでいた。
だが、今の俺には関係無い事だ。
俺は彼奴を———水蜜桃を止めなければ行けない。
その想いとともにハヤブサを一層加速させた。
すると、インカムに通信が入る。
「はい?」
『あ、シュウ君。やっと出た』
まただ。さっきも言ってたけど、どういう事なんだ?
「やっと繋がったって、さっきも言ってたけどどうかしたのか?」
うん、という言葉の後にマキが答えてくれた。
『さっきもそうなんだけど、シュウ君に連絡を取ろうとするとノイズが入って繋がらないの』
ノイズ……? 確かにさっき俺も感じたけど……。
マキと会話している回線に、歳那が割り込んできた。
『恐らくですが、相手が妨害系の電波を使っていると思われます』
報告するかのような口調でそう告げて来た。
なんだ、あの機体電子戦機も想定してるのか?
そうだとしたら余計に厄介だぞ。
だが、1人でアレを沈めるのは不可能だ。
「マキ、今どの辺りにいるんだ?」
『今さっき凛音を回収してそっちに向かってるところだよ』
「凛音の容態は?」
『変化なし。安定してるけど、意識が戻って無い……』
まだ戻ってないのか……。
だが、あれから容態の急変がない辺りは安心だな。
『シュウ君の方は?』
マキの言葉に意識を戻した。
「レインボーブリッジで交戦。この交戦によりレインボーブリッジは通行不能。渡るなら下の一般道を使うしか無いよ」
今まで起こった事と現状を伝えた。
『標的は?』
「レインボーブリッジから都心方面へ向けて進行中。同時に現在追跡中ってところだ。さっきも言った通り現場で合流するぞ」
『了解』
そこで一旦通信を終了した。
そのまま俺はレインボーブリッジを渡りきり、港区海岸3丁目へと入って行った———
後書き
今回はここまで。
第17弾 覚醒(バーサーキング)
前書き
第17話です
首都高11号線に沿ってバイクを飛ばして行く。何処だ。奴はどこにいる?
俺は芝浦ふ頭駅まで来て気が付いた。
奴はこっちには来ていないと。
俺は急いでレインボーブリッジへと引き返す。
そしてカーブのあたりの壁から一般道側を見る。
そこに奴はいた。
やられた……! あそこから一般道へ降りてしまえば上空からの追跡は首都高11号線を死角にして防ぐことができる……!
つまり、上空からの援護等を受けることができない……。
俺は2挺のDEに自身の作成した武偵弾『反動弾』をそれぞれ2発ずつ装填した。
この『反動弾』は、俺の開発した試作型の武偵弾だ。
元々は非殺傷弾の打突力を強化する事を念頭に置いて開発したものだが、余りにも反動が大きすぎて普通に撃つのには適さない弾となってしまったのである。
その反動は、俺1人が吹き飛ぶほどである。
それ故に、今は落下時の速度軽減用の弾として扱っている。
弾の装填を確認し一度壁から距離を取り、ある程度のところでハヤブサを前方へと急発進させた。
壁に向けて加速して行くハヤブサ。そして壁にぶつかる直前、両手を離しDEを即行抜きすると反動弾を路面に向けて放った。
発砲と同時に俺の両腕に凄まじい衝撃が走った。
「———ッ!?」
そして、弾丸が地面に着弾すると同時に俺を乗せたハヤブサの車体が浮き上がった———否、吹き飛んだ。
因みに言い忘れていたが、今の俺はベルトでバイクとつながっている。
故に車体も浮いたというわけだ。
が、予想以上に車体が重い!?
このままだと着地できずに真っ逆さまに落ちる……!
そう感じた俺は、ハヤブサに着いたボタンを押した。
すると車体の正面側から2本のアンカーが射出された。
射出されたアンカーは道路の壁へと向かって行き、先端に着いた鉤爪状の金具がその壁にしっかりと引っかかった。
金具が引っかかっるのとほぼ同時に、俺はもう1つのボタンを押した。
今度はアンカーのケーブルが物凄い勢いで巻き取られて行った。
それにより車体も壁へと引き寄せられていく。
そして一般道の車線の壁を超え、道路へと着地する。
が、まだ先ほどの勢いが残っているため、車体は正面にある壁の方へと向かっていく。
「———クッ!」
ハンドルを曲げて車体を横向きに滑らせていく。しかし、止まることはない。
咄嗟に俺は、2挺のDEを抜き壁に向けて放った。
———中に入っていた弾は反動弾。
反動弾の勢いでなんとか車体は止まった。
やった。成功した。無事に着地することが出来た。
まさか『何かの時の為』にと付けておいてレッカーの際にしか役に立たなかったアンカーが役に立つなんて。
本当に付けといて良かった。そう思えたね。
だが、今までの一連の流れで、激しい衝撃を加えすぎた。……こりゃ車体の何処かが逝ってるだろうな。
そう思った俺は、ハヤブサを破棄することにした。
そして、改めて武装を確認してみる。
ベレッタはさっき装弾してから1発も撃ってないから弾は入っている。
DEは再装填しなきゃだな。
周囲を警戒しつつDEに弾倉を装填すると、俺は走り出した。
そして、水蜜桃の駆る『P・A・A』の前に立った。
「やっと来たか。でも、思ってたよりも早かったな」
機体のスピーカー越しに水蜜桃が言った。
「ちょっとした近道をしてきたからな」
DEを向けながら返した。
『まさか、バイクごと飛んでくるとはな』
……知ってる?
『見てたのか?」
「バッチリな』
見ていたのなら俺を狙う暇もあったはず。
「待っていてくれたのか?」
『まあ、な』
どういうつもりなんだよ———こいつは?
「なんの真似だ?」
『別に何も無い』
……何も無い?
ますます奴の狙いがわからない。
「じゃあ、なんで……」
「簡単なことだ」
そう言って水蜜桃はP・A・Aの右アームに取り付けられたM60の銃口を俺に向ける。
『お前と正面からやりあって潰すためだ』
言い切った直後、無数の7.62mm弾が銃口より放たれた。
俺は咄嗟に神回避で射線からズレた。
そして神回避と同時に、3点バーストに切り替えたDEをM60の中心に向けて放つ。
しかし直撃した50.AE弾は全て弾かれた。
「……なッ?!」
想定外のことに俺は動揺した。
僅かにだが硬直して隙の出来てしまった俺のもとに、再び7.62mm弾が飛来した。
先程のように神回避で避けることは不可能だと悟った俺は、上体を後ろへと倒し、どこぞの映画よろしく銃撃を躱しながら、DEで銃口撃ちを行う。
即座に銃撃は止んだ。
俺は上体を元の位置に戻す。
「……えッ?!」
俺は目の前の光景に戦慄した。そこには、使い物にならなくなったはずのM60が、健在していた。
「嘘だろ……?!」
確かに銃弾は奴の銃口を捉えて着弾した筈。
なのに、何故壊れていない?
俺は再び、銃口撃ちを行う。
その瞬間、バーストモードの目は捉えていた。
奴のM60の銃口が閉じるのを。
「な、なに?!」
本体と同じく、防弾性に長けた材質で作られている様で、俺の銃撃は再び弾かれる。
———なるほど。
あの時メヌエットがさっきの避け方をやめた方がいいというのはこういう事か。
彼奴の忠告を守っておけば、無駄撃ちせずに済んだ訳か。
『驚いたか?』
水蜜桃がバカにするかのように聞いてくる。
「当たり前だ。逆にそんなの見せられて驚かない奴の方がおかしいだろ」
普通じゃない武偵高に通ってる俺が驚くレベルなんだよなぁ……。
『やっぱウチの技師は最高みたいだな』
「ああ、凄い腕前だよ。ただ、それを悪事のためにしか使ってないのは———気に食わねぇけどな!!」
俺は左腰のホルスターに入っているDEを即行抜きすると、再びM60に向けて放つ。
『何度やっても同じ事だぜ?』
水蜜桃の小馬鹿にするような言葉を聞いた俺は———嘲笑した。
此奴は何も分かってはいないと。
そして、弾はM60に着弾した。すると、P・A・Aの機関銃の固定部分が変な音を立て始めた。
『……なんの音だ?』
俺の狙いは銃口では無い。
機体と銃を固定している部分。つまり接続部だ。
そこへ、追い打ちをかけるかのように銃声がした。
今のはルーマニア製の狙撃銃、PSL狙撃銃の音。
それにより、P・A・AとM60を接続する金具は破壊された。
そしてM60は大きな音を立てて地面へと落ちた。
「……ナイスタイミング」
俺はそう呟くと振り返った。
そこには1台のボックス車が停まっていた。
———トヨタのボックス車ハイエース。
その車の上部からは、上半身を外に出した状態で狙撃銃を構える人影があった。
『———間に合ったみたいだね』
インカム越しにマキが言った。
「ああ。俺の予想したタイミングピッタシだ。流石だよ」
———まさかここまでしっかりと合わせてくれるとは思わなかったよ。
「次は———分かる?」
俺はマキに尋ねる。
『分かるよ。あの機体の撹乱でしょ?』
本当、以心伝心なんだな。
———俺とマキは。
「そうだ。マキは———」
『煙幕による撹乱、でしょ?』
先読みされちゃいましたよ。
逆に怖くなってきたね。
「頼むよ。俺の合図と同時に発射してくれ」
『うん』
そう言ってインカムの回線を一旦切り、会話をしながら武偵弾音響弾を装填したDEを構える。
そして、軽く体を引きながら、引き金を引いた。
これは俺とマキの間での合図だ。
この動作とほぼ同時にPSL狙撃銃の銃声が聞こえる。
しかし、俺のベレッタからは銃声がしない。
この時、嫌な考えが横切った。
だが、それは現実に起こってしまっている。
そして確信した。
(———不発ッ?! よりにもよってここでかッ!)
俺は弾倉を抜いた。
そして、既に装填されている音響弾を取り出し破棄した。
PSL狙撃銃を抱えたままのマキがこちらへと走り寄ってきた。
「どうしたの?」
「不発だ。弾に不備があったみたい。マキ、音響弾あるか?」
「あるよ」
そう言ってマキは懐から音響弾を取り出した。
俺はそれを受け取ろうとした。
その時、煙幕の向こうからガシン! と言う音が聞こえた。
俺は何の音だか分からなかった。
答えを探した俺は自然とそちらを向いた。
俺の視線が音源に向いた瞬間、そこから無数の弾丸が俺めがけて飛来した。
瞬間、俺は何もできなかった。
ただただ悟ることしかできなかった。
(あ、これ死んだな———)
そして弾丸が俺に当たるまで2mぐらいのところで、刀を盾がわりにしたマキが割り込んできた。
そして、無数の7.62mm弾をその身に受けた。
「……マキッ?!」
俺はマキに駆け寄り、抱きかかえた。
その身体は、刀で守れたところ以外至る所に銃創があり出血していた。
「……マキ? おい、マキッ!」
俺は必死にマキの名前を呼んでいた。しかし返事が無い。
傷口からはかなりの量の出血が起こっていた。
そして、マキの身体は普段よりも軽く感じた。
そう思った瞬間、俺の体内の血流が勢いを増した。
あの、1年の3学期にアイツと対峙した時と同じ血流だ。
ドス黒く破壊と憎悪の感情のみが意識を支配するあの人格。
徐々に徐々に現れ始めた———9条を破りかけた時の俺が。
今あの状態になれば、確実に9条を破り奴を殺してしまう。
だが、一度現れてしまったこの血流を止めることはもう出来ない。
(飲まれるなッ! アレに支配されてしまったらもうお終いだッ!)
そう自分に言い聞かせ足掻くが、それも無駄な足掻きに終わる。
負のみで出来上がっている『ソレ』は徐々に俺の理性を蝕んでいった。
多分今の俺は、怒りと憎しみのみに囚われ、殺意を剥き出しにし、誰にも見せられない様な酷い顔をしているに違いない。
そして、俺の意思とは関係なく体が動こうとする。
体のコントロールすらままなら無くなってきた。
同時に、俺の理性もほぼ無いに等しかった。
俺はただただP・A・Aを睨みつけていた。
その俺の首に腕が巻き付けられた。
俺は思わずマキの方へと顔が向いた。
その時、何か柔らかいものが俺の唇に当たった。
「……ッ?!」
数瞬遅れてそれが何かを理解した。
今当たっているのはマキの唇だということを。
つまりこれはキスなんだと。
「マキ……なんで」
理性が消えつつある状態で何とか言葉を捻り出して聞いた。
「シュウ君に……これ以上……苦しんで欲しく……なかったから」
マキはそう答えた。
「……俺……に?」
俺の疑問にマキはそっと頷いた。
「去年……シュウ君が……刀を振らないって……言ってきた時、私は……シュウ君に……何もして……あげられなかった」
マキは途切れつつも、話を続けた。
「それに、シュウ君は……『力』を持っている。だから、約束……して。その……力を……正しい事に……使うって」
マキの言葉を聞いて、頭の中にあるものが浮かんだ。
(———武偵憲章3条『強くあれ。但し、その前に正しくあれ』)
それを理解した瞬間に、俺の中を流れていたドス黒い血流が徐々に上部から真芯へと集まっていくような感覚が現れた。
これと似た感覚を聞いたことがある。
そして血流は徐々に普段と変わらない血流へと変わっていった。
しかし、今の状態は普段のバーストモードとは異なっている。
だが、今の血流は普段のものよりも強い。
そして何よりも、サイレントアンサーと同等の思考力。
これが決定的な違いだ。
俺の頭を1つの考えがよぎった。
(———ヒステリアモード———)
ところどころ違うとは言えど、今の状態はキンジから聞いたヒステリアモードの感覚に類似している。
だが、今はそんな事は関係ない。
これがなんだって構わない。
これが、この力が、マキとの約束を守れるものならば。
何かを悟ったらしいマキは軽く微笑むとそっと目を閉じた。
俺はマキを抱え上げると、ハイエースの方へと歩き始めた。
『これでも喰らえ!』
その声と共に後方から無数のミサイルが発射された。
俺はそれらを見ることなく、尚且つマキに負担が掛からない様に全て避け切った。
『な、何っ?!』
水蜜桃は焦ったような声を出していた。
俺はそれを無視して進む。
対する水蜜桃は、なおも追いかけようとする。
俺は、懐の武偵弾『炸裂弾』を、衝撃を加え奴の足元へと巻いた。
それにより、P・A・Aは一時的に行動できなくなってしまう。
『な、なんでだ?!』
俺は水蜜桃を無視して、ハイエースへと辿り着く。
中に乗っていた歳那はいつもと変わらず表情を読み取れない顔をしていたが、意識の戻っていたらしい凛音は唖然とした様子だった。
「……今……貴方何を」
「……今はどうだって良いだろ? それよりも、だ」
俺はマキを最後部座席へと寝かせる。
「マキのこと、頼むよ」
2人へそう伝えた。
「待って、貴方はどうするの?」
凛音に呼び止められた俺は振り向く。
「決まってるだろ、あいつを止める」
「そんな、無理に決まってるわ! 一度冷静になって考えなさい!」
———そうだな。多分アレを倒すのは普通に考えたら無理だろうな。
「ありがとう……でも、俺はある奴と約束したんだ。もう、『無理』だとか『疲れた』、『めんどくさい』みたいな人の可能性を押し殺すような事は言わないって。だから、今の俺は無理なことでも———やる。それと」
俺は自身の背面からステアーAUGを取り出し、凛音へと渡した。
「これ、残弾補充はしてあるから。もし足りないなら5mぐらい後ろで倒れてるハヤブサの荷台に弾が入ってるからそれを使って」
それだけ告げると俺は水蜜桃の元へと走りだした。
直後、物凄い勢いでP・A・Aが俺めがけて迫ってきた。
『死ねぇぇ!』
先程まで機関銃の付いていた右アームはマニュピレーターへと切り替えたらしく、そのマニュピレーターで俺を殴り飛ばすかのように突き出してきた。
俺は即座にブレザーの裏側に背負っていた『霧雨』と『雷鳴』を取り出し自身の前でクロスさせるようにして構えた。
そして、マニュピレーターが衝突してきて、凄まじい衝撃に襲われた。
その勢いで後方へと流された。
だが、俺はそれを受け止めた。
『な、何ッ?!』
あまりの事に水蜜桃は驚いていた。———俺だって驚きだよ。
そのまま強引に刀を振りマニュピレーターを弾き飛ばす。
相手が後方へ仰け反った直後に本体へと斬りかかる。
案の定攻撃は弾かれた。
だが、空かさず次の斬撃をコンマのズレもなく同じ箇所へと叩き込む。
先程の攻撃とは違いこちらは装甲に弾かれることなく切り傷をつけた。
俺は3回目の斬撃を叩き込もうとした。
その時、上部から再びマニュピレーターが迫ってきた。
『このッ!』
俺はそのマニュピレーターを避けると少し距離を取った。
俺のいた地点はクレーターができていた。
そんな事は御構い無しに、再びP・A・Aに詰め寄る。
今度はアームを捥ごうと斬りかかった。
そして右のアームに飛びつき斬りつけた。直後、自身の右側から無数の7.62mm弾が飛来してくることに気がついた。
行動をキャンセルせざる終えない俺は、アームを思いっきり蹴り飛ばしてそれらを避けた。
そして、アスファルトに背面から着地し、横向きのまま転がり、その勢いで立ち上がる。
そこからまた、相手の元へと突っ込む。
P・A・Aは背面のコンテナから無数のミサイルを発射してきた。
俺はそのミサイルを躱し、斬り、叩きつけながら避ける。
そして、最後に飛んできたミサイルを叩き斬ることができなかったので、バク宙で避けた。
しかし、それは攻撃を完全には避けきれてはいなかった。
既に水蜜桃の狩るP・A・Aは、マニュピレーターを振りかぶっていた。
俺は既に避けられないと思った。
だが、俺の理論的予感と本能的直観により、自然と体を反時計回りに捻り、神回避を行なっていた。
直後、俺のいた位置を1発の銃弾が駆け抜けて行った。
「……ッ?!」
その銃弾はズレることなくP・A・Aの人間で言う肘の部分を貫いた。
それによりマニュピレーターは動かなくなってしまったようで、垂れ下がるような状態になってしまった。
『何だ?』
あまりの事に水蜜桃は驚いていた。
この一連の出来事の直後、俺の聴覚がある1つの音を捉えた。
そして呟いた。
「———ドラグノフ狙撃銃。レキか!」
俺は後方へ振り向く。
今度は俺の視覚が、ここから1900mほど離れたビルの上に狙撃銃を構えたレキの姿を捉えた。
流石だな、狙撃科のSランカー。
この距離から、あの無数の配線の中の動力系を確実に撃ち抜くなんて。
だが、何故レキが?
そんな事を考えながらも、目の前の敵へと視線を向け直す。
『この、なんで動かないんだ!』
水蜜桃は動かないマニュピレーターを動かそうと必死になっていた。
マニュピレーターが動かない状況は優勢だと言える。
だが、いくらマニュピレーターが動かなくなったしても、戦況が不利なのには変わりがない。
『チッ……動かないか。まあ、いい。だったらこっちだ!』
マニュピレーターを動かすのを諦めたらしい水蜜桃が、左アームのM60を構えた。俺は、弾丸を撃ち落とすために身構えた。
すると上空から2発の発砲音がした。
そして、煙幕がP・A・Aを包み込んだ。
『今度は何なんだ!』
水蜜桃が叫ぶ中、俺は上空を見上げた。
そこには上空からこちらへと向かって降下してくる人影があった。
あれは———
「———アリア?!」
上空からパラグライダーに足を引っ掛け、逆さまの状態で降下してきたのは、双銃双剣のアリアさんことアリアだった。
「……あんたホントにバケモノね」
パラグライダーから足をはずした後、宙返りしつつ着地したアリアにそんな事を言われた。
アリアさんも十分化け物じゃないですかね?
というか十分と言わずに十二分でもいいんだけど。
「あんた今失礼なこと考えなかった?」
なんだこいつの直感は。
お前実は超能力者じゃねぇの?
「そんな事ないけど」
アリアは怪訝な顔をしていたが、直ぐに普段の武偵の顔に戻る。
『どうなってやがる、レーダーがイカれてる!』
水蜜桃は未だに何もできない様子だった。
「お前、何したんだ?」
横目でアリアに聞いた。
「チャフの入った煙幕を巻いただけよ』
チャフ入りかよ……そりゃ何もできる訳ないよな。
「というか、なんでここにいるんだよ?」
「は? あんたまさか忘れた訳? あたしも手伝うって言ったわよね?」
若干キレ気味のアリアは睨みながら言った。
そういえばそうだった、ということを今更思い出したなんていえねぇ……。
言った瞬間に殺されると思う。うん。
「……じゃあ、レキは———」
「あたしの呼んだ助っ人よ」
なるほど。それなら筋が通るな。
「で、どうするの? 今回の作戦の指揮権はあんたにあるのよ?」
……そうだ、この作戦の指揮権は俺にある。
今までの流れで、アイツに対しては俺1人では倒すことができないことは明白だ。
俺はインカムを起動した。
「……みんな、俺の指示に従ってくれるか?」
俺は改めて全員に聞いた。
『勿論よ。この作戦は貴方に全ての指揮があるのだから』
と、凛音。
『分かりました』
と、歳那。
『ハイ』と、レキ。
そして俺はアリアへと視線を向けた。
アリアは『もちろん』と言った感じで頷いた。
「ありがとう。じゃあ、俺が合図を出したら全員同時に———」
俺は普通なら絶対あり得ないであろうことを言った。
「———俺を撃ってくれ」
『貴方正気なの?!』
凛音がインカム越しに叫んだ。
「ああ。至って正気のつもりだが」
『でも、自分を撃てなんて———』
「良いんじゃないかしら?」
凛音の言葉を遮るかのようにアリアが言った。
「シュウヤに指揮権があるんでしょ? ならその作戦に従ってみましょう。あたしはシュウヤの作戦にかけるわ。レキもそれでいいわね?」
『はい』
アリアに問われたレキは短く返答した。
「歳那は?」
俺は歳那へと問いかけた。
『構いません』
歳那も了承してくれた。
『……分かりました。みなさんが賛成なら私も実行に移します』
凛音も了承してくれたようだ。
「全員オッケーみたいね。因みに合図は?」
「合図は、俺がこのベレッタM93を右手で構えたのが合図だ。良いね?」
一同は了解と答えた。アリアは俺に向き直ると口を開いた。
「シュウヤ、必ず成功させなさいよ。失敗したら———」
アリアは2挺のコルト・ガバメントを構えるとこう言った。
「風穴開けるわよ!」
「ああ、わかってるさ。だから、お前らも俺に賭けてくれ!」
そう言うと俺は水蜜桃の元へと走り出した。
そして、漸く動けるようになったらしい水蜜桃もこちらへと向かってきた。
『このッ!!』
水蜜桃は再び背面からミサイルを放ちつつ突撃してくる。
俺はこのミサイルをひたすら右に左にと避けながら進む。
そして、最後の1つを飛び上がり回避した。
『同じことを!!』
水蜜桃は今度は機体そのものを回転させることによって生まれた遠心力でアームを叩きつけようとした。
俺は左手でDEを即行抜きすると、迫り来るアームへと反動弾を発砲した。
直後、俺は凄まじい衝撃により後方へと流される。
反動弾で撃たれたアームは若干凹み、遠心力とは反対の方向へと進み始める。これにより、P・A・Aはバランスを崩した。
『うわぁ!!』
俺は吹き飛ばされながらも右手でベレッタを抜くと同じく反動弾を放った。
同時にベレッタの発砲音ではない音が無数に響いた。
前方へと飛ばされている俺の元に4つの弾丸が後方より飛来した。
俺はその弾丸を自身の体に擦らせ、軌道を変更する。
右腕で左肩の接続部方向へ、左腕で右肩の接続部方向へ、右足のアウトサイドで左膝の接続部へ、同じようにして左足で右膝の接続部へと修正していく。
(……ッ! 弾の擦った場所が痛い……! だが、マキの痛みに比べれば……!)
自身にそう言い聞かせながら弾丸の軌道を修正した。
軌道を変更させられた弾は、P・A・Aの両肩、並びに両膝の関節部分に狂いなく着弾した。
そして、最後に遅れて飛んできたレキのドラグノフの弾を右肩に擦らせコクピットへと撃ち込む。
この一連の動作、名付けるなら———経由撃ちッ!
なんとか着地した俺は、即座に武器を刀へと変えると、P・A・Aの両肩の接続部を切り裂き、アームを本体から切断した。
そして、コクピットへと近づく。
コクピットを外から開こうとした瞬間、コクピットが開かれた。
「これでも食らえッ!!」
中から飛び出して来た水蜜桃は、フルオートに切り替えたM16A1を俺めがけて掃射した。
避けることが出来ないと判断した俺は、強引に刀でそれらを叩き落とした。
しかし、何発か叩きおとせず腹部へと直撃した。
「……グフッ!?」
それにより軽く吐血した。
それでも構わずに俺は銃弾を叩き落とし続けた。
「……な、弾切れ?」
弾が切れた瞬間に俺はベレッタを抜き、相手の足元めがけて発砲した。
俺が今放った弾は『粘着弾』。
名前の通り鳥黐を搭載した弾で、相手を捕獲するための武装だ。
「クソッ! なんなんだこれ! 取れねぇぞ!」
これにより足が、シートに固定された状態になってしまった水蜜桃は踠いていた。
「もう逃げられないぞ、大人しくするんだな」
俺はベレッタを向けながら水蜜桃へと言った。
すると水蜜桃は突然大人しくなった。
俺が怪しんでいると突然笑い始めた。
「何がおかしいんだ?」
俺は若干睨みながら問いただそうとした。
すると、水蜜桃は座席についていたボタンを押した。
同時に凄まじい振動が起き俺は地面へと落とされた。
「……イッ! なんなんだ?!」
俺が再びコクピットへと視線を向けるとコクピットが飛び立とうとしたいた。
「残念だったな! この機体には脱出機能がついてるんだよ!」
……マズイ、ここでこいつを逃したらもう捕まえる術がない!
俺は考えを巡らせた。
だが、なんの案も出てこなかった。
そうこうしている間にコクピットは浮かび上がり始めた。
そして、コクピットがいよいよ飛び立とうとした。
それを見ていた俺がもうダメだと諦めかけた瞬間、凄まじい程の銃声が響き、コクピットに搭載されていたエンジンが爆発した。
俺は、あまりの事に唖然としていた。
そして、数瞬の後に俺は振り返った。
そこには全身に包帯やガーゼを巻いた格好でM60を両手で構えた状態で立つマキの姿があった。
「言ったでしょ、蜂の巣にするって」
マキは、そう俺に微笑んだ。
俺はそれに対して軽く微笑み返すとコクピットの中を覗き込んだ。
そこには伸びた状態の水蜜桃がいた。
俺はその手足に手錠をする。
それを終えると目を覚ましたらしい水蜜桃がこちらをみていた。
「俺はお前を殺したいほどに憎んでいる。だが、殺さない。生きて、生きて罪でも償ってな」
俺はそういうとコクピットから出た。そこへアリア達が駆け寄ってきた。
「シュウヤ、大丈夫?」
俺は口元の血を袖で拭った後答えた。
「ああ、無事だよ。それから、みんなのおかげで奴を逮捕することができた。ありがとう」
俺は凛音、歳那、アリア、そしてインカム越しにレキにお礼を言った。
「悪いけど、あいつのこと連行しておいてくれない?」
全員は頷いてくれた。後のことを任せた俺は、マキの元へと歩み寄った。
「……シュウ君、酷い怪我だね。大丈夫?」
マキは自身の怪我の状態などそっちのけで俺の心配をしてきた。
「ああ、大丈夫だよ。そういうマキも……」
俺はこの先の言葉が続かなかった。
正確には、何を言えば良いのかわからなかった。
戸惑っている俺にマキはそっと抱きついてきた。
「……良かった無事で……シュウ君が……いなくなってたら……私……」
泣きながらマキは弱々しく言った。
「ごめん、本当に……本当にごめん……俺の為にこんなになった挙句に……心配までかけて」
俺は自然とマキを抱き返していた。
同時に、自身の思考とは関係なく言葉が出てしまっていた。
「こんな奴が……相方なんかで……本当に……ごめん」
俺は———泣いていた。
今まで、人前で涙は見せることはなかった。
だが、泣いていた。
「ううん。それは違うよ。シュウ君は私にとって、とても大切な人。だから……もう居なくならないで」
その言葉を聞いた俺は自然とこう言っていた。
「マキ……改めて、俺のパートナーになってくれ」
マキはそっと頷いてくれた。
それを見た俺は安心感のようなものを覚え、徐々に徐々に意識が飛んでいった。
マキが誰かを呼ぶ声を最後に俺の意識は途切れるのだった———
後書き
今回はここまで。
次回から新章になります
第18弾 新たなるスタート(ネクストステージ) その名は『晞(ホープフル)』
前書き
お待たせしました。
第18話です。
聞き覚えのある機械音で目が醒める。若干ぼやけ気味の視界に映ったのは———天井?
漠然と天井と思しきところを見つめていた俺の視界へ、俺の顔を覗き込むような体勢の人影が映り込んだ。
「先輩、気がつきましたか?」
聞き覚えのあるこの声は———
「……璃野?」
徐々に俺の視点が定まり、その人物が璃野であることを認識した。
「良かった、意識ははっきりしてるみたいですね」
そういうと璃野は部屋を出て行った。璃野を見送った俺は、上体を起こそうとした。
「……ッ」
その際、上半身と両腕に激しい痛みが走った。
俺はその痛みを堪えながら上体を起こした。
そして、窓の外へと視線を向けた。
そこには———お台場の景色が広がっていた。
それを見てここが武偵病院である事を理解した。
暫くボーッと窓の外を眺めていると、不意に部屋の扉が開いた。
そこには、マキ、凛音、歳那が立っていた。
「———大丈夫、なの?」
扉付近で佇んだままのマキが、そっと口を開いた。
「まあ、ね。あちこち痛むけど……」
「そっか……」
そう俺に尋ねたマキは不安そうな顔をしていたが、でもと言って話を続けた。
「気がついて良かった……ッ……シュウ君が……もしいなくなっちゃったら……わたし……ッ」
そこまで言ったマキは泣き始めてしまい、言葉が続かなかった。
「マキ……」
「マキさん……」
凛音と歳那がマキの側へと行き、マキを慰めていた。
「2人とも……ありがとう」
それにより落ち着いたらしいマキは、涙を拭うと凛音と歳那の方を向いた。
「ごめん、私、シュウ君と2人っきりで話したいことがあるから1回この部屋を出てもらっても良い?」
「わかったわ。歳那も構わないよね?」
「はい」
……俺と2人っきりで話? どんな話だ?
そんなことを考えている俺を他所に、凛音と歳那は病室を出た。
「……話って?」
「……うん、あの時言ってたパートナーの件」
俺の言葉にマキはそっと答えてくれた。
「……本当に私なんかで良いの?」
「当たり前だろ。寧ろお前程俺と連携できる奴は居ない。それに———俺はお前にパートナーになって欲しいんだ。もしかして嫌だったか?」
俺の言葉にマキはフリフリと首を横に振った。
「嫌じゃないよ。私もシュウ君が良い。私のパートナーは、シュウ君じゃなきゃ……嫌だ」
そう言ってマキは、そっとベットの上に顔を埋めた。
俺は、マキのライトブラウンの髪越しに頭をそっと撫でた。
俺が触れた瞬間、ビクッとなったマキだが、それ以降は何事もなく、なされるがままといった感じで俺に頭を撫でられていた。
そのマキの表情は、凄く気持ちが良いと言った感じである。
俺はそっと手をマキから離した。
これ以上続けると自分の理性がおかしくなる可能性があったからだ。
……今更だけど、サラッとやばいことしたよね。うん。
「ごめん……なんか勢いで……」
俺の言葉にマキはフリフリと首を横に振った。
その顔は、目元は伏せていてどういう表情なのかは分からないが、耳まで真っ赤になるほど赤面している。
「あ、えと、『/』の事後報告を聞きたいんだけど」
しどろもどろになりながらも、なんとか出てきた言葉でマキに伝えた。
「……うん、ちょっと……待ってて」
そう言葉を残し、ぎこちない動きでマキは病室を出た。
ハァ……。我ながらなんという愚行だ……。
いきなり女子の頭撫でるとか最早セクハラで訴えられるレベルだよね。
ほんの数分前のことを思い出して肩を落としていると、病室の扉が開かれた。
扉の向こうにいたのは、無論マキ達だ。先程まで赤面していたマキの顔は、元に戻っていた。
マキさん一体何をしたんだ?
「これ、今回の事件の調査書。そこに被害とか書いてあるよ」
そう言って凛音が、調査書を手渡して来た。
「ん。えっとなになに……」
俺は調査書に目を通した。そして、思ったことが1つあった。
「なんか被害総額が低くない?」
「水蜜桃が使った武装が、人相手じゃないと威力を発揮しないものだったみたいなのよね」
凛音が補足をくれた。
「ふーん。で、肝心の水蜜桃は?」
「水蜜桃は現在、尋問科にて綴先生が尋問しています」
歳那の言葉に頷きながら調査書を置いた。
「じゃあ、まだ尋問してると」
「はい」
それじゃあ暫くは終わらないかな……? いや、綴だから逆に早く終わる可能性も……。
そんなことを考えていると、再び病室の扉が開かれた。
俺を含めた一同は、そちらを向いた。
「シュウヤ、生きてる?」
「……アリア?」
病人にかける言葉ではないことを言いながら入って来たのは———アリアだ。
「無事みたいね」
そう言いながら、何事もなかったかのように病室に入って来た。
何もなかったかのように入ってくんなよ。
こっちはお前の一言めで硬直してたんだよ。
というかレキもいたのかよ。
全く気づかなかったわ。だって影薄いもん。
「……どうしたんだ?」
なんとか出た言葉でアリアに尋ねた。
「お見舞いがてらこれを渡しに来たの」
そう言いながら何やら束になった書類を渡して来た。
「これは?」
「水蜜桃の尋問結果よ」
尋問終わるの早くない? まあ、綴だからかもしれないけど……。
「それはどうも」
「いいわよ」
「あの……」
俺とアリアが会話していると、マキが声をかけて来た。
「何?」
「協力してもらってこういうのは悪いんですけど……貴女は一体誰なの?」
「そう言えば———まだ自己紹介してなかったわね」
そう言ってアリアは、3人の方を向いた。
「あたしは神崎・H・アリアよ。私のことはアリアでいいわ。宜しく」
相変わらずの自己紹介だな。まあ、アリアらしくて良いと思うけどさ。
「私は沖田凛音。で、こっちが———」
「———土方歳那です」
アリアの自己紹介に続いて、凛音と歳那が自己紹介をした。
「凛音に歳那ね。で、あんたは———」
「私は大岡マキ」
マキの名前を聞いたアリアは首を傾げた。
「大岡マキ……何処かで聞いたことあるわ」
「それ多分、ロンドン武偵局じゃないか?」
「どういう事?」
アリアは、俺の言葉に再び首を傾げた。
「マキは二つ名持ちなんだ」
「どんな?」
俺とアリアは揃ってマキを見た。
「———『死角無し』。それが私の二つ名」
「『死角無し』?! あんたが?!」
それを聞いたアリアはかなり驚いていた。
「うん。私が『死角無しのマキ』だよ」
それを聞いたアリアは何かに納得していたようで頷いていた。
「どうした?」
「『死角無き戦車』って呼ばれるコンビを聞いたことがあったけど、あんた達のことだったのね」
アリアの言った、『死角無き戦車』は俺とマキ、それぞれの二つ名、通り名から文字を取られてつけられた謂わば異名だ。
「そんな風に呼ばれてた時もあったね」
「……そうだな」
俺としてはあまりにも嫌な名前だから忘れてたかったんだけど……。
「まあ、そういうことだ」
「ということはマキ、あんたの実力も相当なものね」
「それに関しては俺が保証する」
「あんたに言ってない」
「スミマセン……」
マキの代わりに保証すると言ったらこの有様。もう樋熊さん泣くよ?
「後ここにいる全員、もしかしたら頼る時があるかもしれないから……その時は宜しくね」
まさかそんな言葉がアリアから飛び出すとはな。ビックリだね。
「わかった。宜しくね、アリア!」
マキは笑顔で答えた。コミュ力高いなぁ……。
コミュ力云々の前にコイツらは、自己紹介無しで、お互いの素性を知らずに共闘してたんだよな。中々出来ることじゃないよな。
作戦コード『/』の前にも、アリアは作戦会議に参加して無くて自己紹介する暇なかったしな。
まあ、これにてお互い面識があることになったみたいだし良かった。
「で、アリア用事は済んだのか?」
そんなことを考えつつアリアに聞いた。
「まだあるわよ」
「……え?」
不意打ちをかまされた気分の俺は素っ頓狂な声をあげた。
「ど、どんな」
「あたしとキンジで白雪の護衛任務に就いたの」
「は、はぁ……。まさか……!」
「多分あんたが思ってるそのまさかよ」
「シュウ君、それって?」
え、まって、病み上がりに手伝わせる気?
「シュウヤ、あんたもこの依頼手伝って貰うわよ!」
「嘘だぁ!!」
その日、武偵病院には俺の声が響き渡ったそうだ———
翌日、右腕を釣ったままの状態で、俺は退院した。
因みに白雪護衛の件については———引き受けた。
と言っても、後方支援だけどな。
それは置いておいて、やっぱ見た目がもろ怪我人だよな。
まあ、釣ってると言っても安静にしてろってだけで、とっても問題ないと言われてる。……学校ついたら外そ。
そんな感じで、完璧病み上がりの樋熊さんは何食わぬ顔で2年C組の教室へと向かった。
教室に入ったところで、俺の怪我に特段注目する奴はいない。これが日常茶飯事ですから。
自身の席に着くと、三角巾を外した。
こんな調子で、いつも通りHRから始まるのだが、何やら今日は教室内が騒がしい。なんかあるのか?
そう思っていると時間になり蘭豹が入ってきた。
「ガキども、席付けや!」
その一声だけで教室内は静かになる。……恐るべし。
「今日は転入生が来るで」
……転入生? マジかよ。
どうりで教室の中が騒がしいと思ったよ。
どんな奴が来るのかな。
「入って来い」
蘭豹がそういうと、前の入り口から1人の少女……ん、アレってもしかして、いやもしかしなくても……!
「自己紹介せいや」
「はい」
そう言ってこちらを向いた彼女は———
「初めましての人は初めまして、久しぶりの人はお久しぶりです。ロンドン武偵局から戻ってきました、大岡マキです」
そう名乗ったマキはニッコリと微笑んだ。
すると、教室内を静寂が支配した。
そして数瞬の後、その静寂は断ち切られた。
『『『『『ウォォォッ!!』』』』』
クラスの男子の一部が歓声を上げたのだ。
なんか変なスイッチ入ってるぞあれ。
そしてそれは、連鎖的に教室内すべてに拡散していく。
「あの子初めて見たけど可愛くない?」
「わかるわかる!」
女子もこの始末。さてさてどうしたものか。
というかこいつらは命知らずだな。だってうちの担任は……あの暴力教師だぜ?
「———ガキども! 静かにせんか! 死にたいなら喋ってても良いぞ!」
ほーら、言わんこっちゃない。
蘭豹が『M500』を取り出し発砲した。
それにより、教室内は再び静かになった。
流石にあれ聞くと静かになるもんか。
因みに俺は、いつでもぶっ倒れモードに移行できるようにした状態でまともにHRを受けている。
「話を戻すが、大岡の席は———」
さてと、そろそろ突っ伏せ状態にでも移るかな。
「樋熊の隣や」
蘭豹の言葉と同時に、クラス内の殺気のこもった視線が俺に集まった。
オイオイ勘弁してくれよ……。
あまりの展開に力が抜けきってしまった俺の事などつゆ知らずといった感じのマキは、『わかりました』と言って俺の隣の席へと歩いてくる。
マキの様子を見るに、俺の内心には気づいていないようだ。
俺はマキが着席するのと入れ替わるかのような机に突っ伏せるのであった———
「———起きて」
言葉とともに伝わる揺さぶられる感覚で、俺は目を覚ました。
「んー……」
ボケーッとする頭で、腕時計を見ると……昼休みになってた。
「シュウ君」
呼ばれた俺はそちらを向いた。
「……マキか」
「寝たらダメでしょ?」
マキさんは軽いお説教のように言った。
「今日の一般教科は全部復習で、俺はやり終わってるから良いんだよ」
俺は立ち上がりながら言った。
「ふーん……」
何かを疑う目で、マキは俺の方を見ていた。
「んで、要件は?」
「あ、そうそう。一緒にお昼食べよ」
マキのその言葉で、教室内の空気がピリピリとし始めた。
……ああ、他の男子たちが殺気を込めた目で俺の事を恨めしそうに見てる。
まあ、そんなのもう関係ないんですけどね!
「良いよ。だが、食べるとしたら学食だぞ?」
「私も今日お弁当持ってないからそのつもりだったよ」
そっかそっか。じゃあ利害の一致ですね。
「じゃあ、行くか」
そう言って教室を出ると、放送が入った。
『2年C組樋熊! 今すぐ校長室前まで来いや!』
ブツンという音ともに、蘭豹の声で入った放送は終わった。
「……え?」
あまりの状況に、俺は戸惑っていた。
「……何かしたの?」
マキも不安そうに俺に尋ねてきた。
「記憶にないな……。とりあえず行ってくる。うん。悪いけど先に言ってて」
「わかった」
そう言い残して、マキは学食へと向かった。
俺は反対に、校長室へと向かった。
そして急ぎ足で移動し、校長室の前へとたどり着いた。
そこには腕を組んで立っている蘭豹の姿があった。
「すいません、遅くなりました」
俺が話しかけた事で初めて俺の事を認識したらしい蘭豹は言った。
「お前にしては早い方だな」
「只ならぬ予感がしたので」
俺は、嘘偽りなく答えた。
「そうか。ほな行くで」
そう言って蘭豹は校長室の扉をノックして開いた。
「失礼します」
俺はそう言って蘭豹に続いて校長室に入った。
「はいはいはい。待っていましたよ。蘭豹先生に樋熊君」
そう言ったのは、この東京武偵高の校長を務める『緑松武尊』校長だ。
「ご無沙汰しております。校長」
俺は軽く挨拶した。
「はいはいはい。久し振りですかね、君がここに来るのは」
言葉の通り、1年の時はよくここに来てた。
理由は……まあ、色々。
「で、早速ですが、君を今日ここに呼んだ理由をお教えしましょう」
そう言って校長は、机の中を漁り始めた。
そして1枚の紙を取り出した。
「おめでとう樋熊君。君には国際武偵連盟から二つ名が贈られました」
……ん、今なんて。
「校長……」
「はいはいはい、何でしょうか?」
「申し訳ないのですがも一度だけ言ってもらってもよろしいでしょうか?」
「樋熊、教務科では質問禁止や」
蘭豹にそう言われた。
「構いませんよ蘭豹先生。もう一度だけ言いましょう。君には二つ名がつけられました」
……駄目か。聞き間違いだと思ったけどガチらしいな。
「二つ名……ですか」
「ええそうです。君につけられた二つ名は———『ホープフル』です」
そう言った校長は、紙を広げてこちらに見せてきた。
「因みに漢字で書くと『晞』です。これは朝『日』が昇るような『希』という意味ですね。いやー、めでたいめでたい。これも全て1年生の時からの努力の賜物ですね」
流石武偵連盟、中二病全開だよね。ネーミングセンスが。
というかあれ、常用外漢字じゃね?
「そして、蘭豹先生。貴女の担当のクラスの生徒が二つ名を贈られたのは貴女の教えが良かったからということもあるでしょう。よって、臨時賞与を与えたいと思います」
あ、俺が直感的に感じたイヤな予感はこれかな。
対する蘭豹は、顔に出してないけどめちゃくちゃ喜んでるな。
「これにて用件はお終いです。はい」
「樋熊、行くで」
「はい。失礼しました」
そう言って、俺と蘭豹は校長室を出て、学食へと向かった。
学食にたどり着くと、俺はマキを探した。というか今日も混んでるな。
見渡していると、こちらに手を振ってる人物が見えた。
アレは、マキですね。うん。
俺はそちらへと歩いて行った。
「お待たせ」
「早かったね。で、結局何だったの?」
「あー、えと、実はだな……俺、二つ名がついたらしいんだよね」
「え、二つフグッ……?!」
俺は慌ててマキの口を抑えた。何のために小声で言ったのかわかんなくなりそうだよ。
「声がでかいぞ。小声で言った意味が無くなるだろうが」
「あ、ごめん……。でも二つ名貰ったの?」
「ああ。俺はいらないんだがだな」
「でも凄いことだよ。ちなみになんて二つ名?」
「確か———『晞』だったかな」
先程の校長室での会話を思い返しながら言った。
しかし、俺の頭の中ではしっかりとした校長室での会話を再現できなかった。
理由は緑松校長にある。
校長は武偵高の中で最も危険な人物だと言われている。
何故かと言えば記憶に残らないからである。
なんでも校長は、容姿や声が全て日本人の平均的特徴を取っているらしく、特徴という特徴が無いため記憶に残らないのだという。
実際、俺は1年の時も含めてかなりの数会っているが、今まで一度も記憶に残ったことがない。
だが、そんなことよりももっと恐ろしいことがあの人にはある。
それは、物理的に見えなくなるのである。
俺も去年一度だけ見たが、周囲に一体化してしまい、探そうとすればするほど見失っていくという恐ろしい物だった。故に教師陣も恐れているとか。
とか思ってたら目の前のマキが何やら頷いていた。
「何頷いてるんだ?」
「いや、シュウ君らしいと思ってね」
マキは笑ってそう言った。……いや、どの辺が俺らしいんだよ。
「何処がだよ。寧ろ俺は絶望の方だぞ?」
「そんなことないよ。あ、シュウ君は何食べるの?」
「そうか……? まあ、そういうことにしておこう。で、何食べるかな……。ちょっと見てくる」
「うん」
俺は立ち上がると、未だに列のできてるカウンターへと向かった———
午後、専門科目の時間。今日の俺は鑑識科へと来ていた。
「久方ぶりでーす」
「おう、久しぶり」
「樋熊君、久しぶり」
などと言った感じで、俺に対して返事してくれる。ここの人達優しいよね。……偶にバカになるけど。
そんな感じのやり取りをしながら、俺はある人物に話しかけた。
「よう、久し振りだな。周一」
「……なんだ、お前か。通りで周りが騒がしいと思った」
コイツは、千葉周一。鑑識科のAランクで、2年B組に在籍してる奴だ。
「相変わらず冷たいな」
「うっさい……」
こんな感じで冷たいのだが、本当は優しいんだよ。
基本的に感情が表に出てこないんだよね。
「冷やかしなら帰ってくれ。忙しいんだ」
「違えよ。今日はお礼を言いに来たんだ」
「礼?」
「そ。俺のハヤブサ回収したり、現場の後始末とかお前の指揮でやってくれたんだろ?」
「ああ……そのことか。それなら別に礼を言われるほどのことじゃないな」
「もう素直じゃないな。本当は嬉しいくせに」
俺がそういうと、周一は睨んできた。
「悪かった、冗談だから。とりあえずそういうことだ」
「……あっそう。で、お前のことだし……どうせここで今日は授業受けるんだろ?」
「察しがいいね。そういうわけですのでよろしく」
そう言った直後、校内放送が入った。
『あー、2年樋熊ー。至急ー、教務科の綴のところまでー。後、2年大岡もー教務科綴のところまでー』
ええ……。
「お前、今日2回目の呼び出しだな」
「昼休みの聞いてたんかい」
「校内放送だから」
「あー……。まあ、そういうわけでした。はい」
「気をつけろよ」
「ありがとう」
そう言って俺は鑑識科棟を後にし、本日2度目となる教務科訪問を行った。
綴の部屋の前に行くと、既にマキがいた。
「あ、シュウ君」
「もういたのか」
「元々教務科にいたし」
「なるほど」
短い会話を交わした俺とマキは扉をノックした。
「入れー」
「「失礼します」」
扉を開けると中には綴と———
「……凛音?」
何故か凛音がいた。
「早速だけど説明するぞ」
何処と無くラリってるような口調で綴は言った。
「はい」
「この前のお前らが捕まえてきた奴……あー、えと、なんって言ったっけ?」
「水蜜桃のことですか?」
マキの言葉に綴は頷いた。
「あー、そうそう。その水蜜桃を取り調べしたら、あいつらの目的に沖田の拉致がはいってたらしくてな」
……は? 凛音の拉致?
「誰が?! 目的は?!」
「誰が……確か『妖刀』とか言ってたかな。目的までは水蜜桃も知らないらしいけどな」
マジか……。『妖刀』が来るのか。凛音を拉致しに。それは厄介だ。
『妖刀』は数々の失踪事件において、度々出現しているのではないかと謳われている者を指したものである。
『魔剣』と呼ばれる奴もいたけど、アイツら共犯だって話も聞いたことあるな。
つまり、『妖刀』は『魔剣』と同時に襲来する可能性があるわけだ。
コイツは厄介だな……!
「で、それを伝えたら、沖田がお前ら2人を護衛につけて欲しいって」
「そうなのか?」
凛音に問いかけると、無言のままコクリと頷いた。
「と、いうわけだから引き受けてくれるか?」
なるほど、そういう理由で俺たちを呼び出したのか。
護衛の依頼とか久々だな。
「マキは?」
「私は構わないよ」
「自分も構いません」
逆にこの件、断る理由が見当たらない。
凛音の頼みだからということもあるし、イ・ウーが絡むというなら余計に、な。
「そういうことらしいぞ沖田ぁ」
綴はそう凛音に言った。
対する凛音は何故か俯いたままである。
「先生、凛音に話があるのですが退席してもよろしいでしょうか?」
「あ〜、私としてはもう要件済んだから構わないんだけど〜」
「わかりました」
「凛音、いこ」
マキにそう言われた凛音は立ち上がった。
俺とマキは凛音を連れて綴の部屋を後にした———
教務科棟を出た俺たちは、探偵科棟の屋上に来ていた。
「本当に引き受けてもらってよかったの?」
凛音の言葉に俺とマキは頷いた。
「当たり前だろ。それに、この件は『イ・ウー』絡みの事柄だ。それは俺の対応すべきことでもある」
「それに、大切な友達の頼みだから断る理由もないよ」
俺、マキの順に凛音へと伝えた。
「でも……やっぱり指名は悪い気がしてしょうがない」
凛音は食い下がった。
「そんなことないって。凛音は俺たちを信用して指名してくれたんだろ?」
「う、うん……」
「そうだよ。それは私達にとっては『信頼』っていうことそのものなんだよ。だから、呼んでくれたからには、絶対に遂行するよ」
マキの言葉を聞いた凛音は、泣き始めてしまった。
「……ありがとう……グスッ……2人とも……グスッ」
「そんな、泣くほどのことじゃないだろ。俺たち———チーム『刃』の仲間だろ」
「泣かないで凛音。私たちがついてるから」
俺とマキで凛音を慰めた。
補足だが、チーム『刃』とは、1年の時の4対4のチームの名前だ。
命名したのは俺とマキ。今思うと酷いネーミングセンスだと思う……主に自分。
というか……俺の慰めになってなくね?
そして3分ほどで凛音は泣き止んだ。
「2人とも、本当にありがとう」
「そんな改まらなくても」
俺の言葉に凛音は首を横に振った。
「まだ、しっかりとした依頼をしていないもの」
そういった凛音はキリッとして、こちらへと向き直った。
そして、こう告げた。
「樋熊シュウヤ、並びに大岡マキ。両名に私、沖田凛音の護衛を依頼します」
俺はマキと顔を見合わせるとお互いに頷いた。
「了解した。樋熊シュウヤと———」
「並びに大岡マキ、全力で護衛にあたりその任を遂行します」
そう言い切ると、しばらくの間静寂が屋上を支配した。
そんな静寂を断ち切るかのように、凛音があはははと笑い始めた。
「———可笑しい。なんかぎこちない」
それにつられて、俺とマキも同じように笑い始めた。
「そうかもな、実際に慣れてないしな、こういうのは」
「そうだね。慣れないことはしないに限るのかもね」
そう言ってお互いに笑っていた。
5分ほどしてようやく落ち着いた。ふぅ、笑い疲れた……。
「そういえば凛音、歳那はどうした? 今日は姿を見てないが」
まだ若干ツボにハマってるらしい凛音に尋ねた。
そんなにハマったんですかね?
「あー、えっとね、歳那は今実家に帰ってるの」
「実家? なんでまた」
「親に呼ばれたんだって」
「マジか……」
「なんで?」
マキが首を傾げた。
「歳那がいるんだったら、一緒に護衛頼もうかなと思ったんだけどね……」
「アドシアードまでには帰ってくるって言ってたけど」
「アドシアード……。そっか、もうすぐか」
この前、アリアがチアの格好をしていたのを思い出しながら言った。
アドシアードとは、武偵の武偵による武偵のための競技大会のことである。
種目は射撃だの徒手格闘だのと、完全に武偵向けのものしかないと言った感じである。
これだけであれば、俺は懸念したりはしない。
だが、アドシアード期間中は一般人も武偵高に入ることができる。
これにより期間中に襲撃される可能性が高まると言うことと、『妖刀』を見つけに出しにくくなると言うデメリットが発生する。
「何かあるの」
マキが不安そうに尋ねてきた。
「俺の予想だが、アドシアード期間中に『妖刀』は現れるはず」
「その理由は?」
「強いて言うなら、アドシアード期間中なら一般人も入れるから、怪しまれることがないって言う理由からかな」
凛音の質問にそう答えた。
「まあ、飽く迄も予想の域を脱していないけどな」
と、補足を加えて。
「そっか。でも、それよりも前から警戒しておかないとだよね?」
「もちろん。で、どうやって護衛しようかなぁと思ってたんだよ」
「いっそ凛音にシュウ君の部屋に来てもらうとか?」
「うーん、それもありかな……」
……ん、ちょっと待てよ?
「マキ、今なんて言った?」
「シュウ君の部屋で一緒に過ごせば良いんじゃないのかな?」
はぁ……冗談だろ?
「あのー、マキさん?」
「どうしたの?」
「男子寮に女子がいるのはかなりイレギュラーなんですけど……」
「この前私たち泊まったけど?」
そ、そう来たか……。
「泊まるのと生活するのは別物だろ?」
俺は必死になって説得しようとした。
「でも、アリアはキンジ君の部屋に住んでるって話だよ?」
「アレは本人の意思が1mmも反映されてないからノーカンだろ」
あ、でもとマキは続けていった。
「雪ちゃんもキンジ君の部屋に住むらしいけど?」
その一言で俺の心は折れた。
……駄目だ、これ以上抵抗することができない。
「わかった……分かりましたよ! もう護衛任務の間中俺の部屋で生活すれば良いだろ!」
ヤケクソになった俺はそう叫んだ。
そんな俺の目の前で、2人は笑顔でハイタッチをしていた。
お前らな……。
「……そういえばマキ、お前どこに住むんだ?」
俺の言葉に『何いってるの?』といった感じで首を傾げたマキが答えた。
「え、シュウ君の部屋だけど」
……んん?
「嘘でしょ?」
「もう荷物運んじゃったよ」
「え、見つかったら即アウトじゃ……」
「だから今日ね、教務科に行って許可貰ったの」
お終いだ……俺にはもう抵抗する術がない……。
項垂れている俺に、凛音が追い討ちをかけるかのように言った。
「明日、私の荷物運ぶからね」
俺のメンタルは音を立てて倒れた。もうやめて!
樋熊のSAN値はとっくにゼロよ!
「……はい」
立ち直れなそうな状況の俺は、頭を押さえたまま返事した。
もう駄目だ、お終いだ……!
「そういうことだから、私は1度寮の部屋に戻ってきた荷物をまとめるわ」
「わかった。じゃあシュウ君、私たちも帰ろっか」
2人は俺のことなど御構い無しだ。泣くよ?
「……先に帰っててくれ……じゃなくてマキ、凛音を女子寮の部屋まで送ってやってくれ」
「うん、わかったけど……シュウ君は?」
「俺は色々と整理がつかなくて気分悪くなってきたから……暫くここで風に当たってく」
「わかった。じゃあ、お先に」
「おう。頼んだぞ」
そう言って2人を見送った俺は、自身の武装を確認した。
「———他の奴らは帰したんだから、そろそろでてきたらどうだ?」
俺は、この場にいるであろう何者かに声をかけた。
「……よく分かりましたね」
「伊達に探偵科のSランクはやってないよ。で、どういうつもりだ佐々木」
俺は振り返った。
予想でわかっていたので、答え合わせといった感じで。
そこに立っていたのは、探偵科の1年、佐々木志乃だ。
確かランクはCだったはず。
「……」
佐々木は無言だった。
「なんか言ったらどうなんだ」
「……さい」
佐々木が何かを呟いたが、聞き取ることができなかった。
「悪い、もう一度言ってくれ」
「私と、闘って下さい。佐々木小次郎の子孫として、宮本武蔵の血縁にあたる貴方に勝負を挑みます」
コイツ、知っているのか。まさか……。
「……お前か、あの時盗み聞きしてたのは」
マキ達に真相を打ち明けた時に、誰かに聞かれていた気がしたがまさかこいつだったとは。
「ここで第2回巌流島でもやるつもりか?」
皮肉を込めてそう伝えた。
「元よりそのつもりです。逃げる事は許されません。これは、歴とした血脈に基づいたものです」
そう言った佐々木は、左手に持っていた太刀を抜いた。
「……『物干し竿』か」
物干し竿とは佐々木小次郎の使っていた大太刀のこと。
その刃渡りは3尺余(約1m)と言われている代物だ。
あれを抜いたって事は……もう逃げる事はできそうにないな。
「わかった、相手するよ。宮本の人間として」
俺はそう言って、背面の『霧雨』と『雷鳴』を抜いた。
「さて、始めようか。ここ東京で、第2回巌流島の戦いを!」
後書き
今回はここまで。
第19弾 交錯する事象(オーバーラップ)
前書き
第19話です。
夕暮れを背に、俺と佐々木は互いに刀を構えて佇んでいた。
「……」
「……」
只々、静寂のみがその場を支配している状況が続いた。
「……先に来たらどうだ?」
俺は佐々木に問いかけた。
「そうですか……では」
そう言った佐々木は鞘を傍へと捨てた。
……初っ端から来るのか?
「一撃で終わらせましょう。秘技———『燕返し』」
物凄い速度で、言葉と共に物干し竿の刃が俺へと襲いかかってきた。
対する俺は、太刀筋を予測していたため、その一振りを避けた。
は、速え……!
『燕返し』がどういうものなのかってのは聞いてたが、ここまで速いとは思わなかった。
「如何でしょうか」
「それが『巌流』の奥義……か。噂より速くて驚いたぜ。本当、『百聞は一見に如かず』だったな」
俺は正直な感想を述べた。
「ま、お前の攻撃は終わったわけだし———こっちから行かせてもらう!」
俺は左右の刀を構え直すと、佐々木へと突っ込んでいった。
もちろん、策を練った上で、な。
俺は、左手の刀を逆手持ちすると飛び上がり、佐々木に右の刃を落下の勢いと共に振り下ろした。
「———『落雷』———ッ!」
佐々木は俺の太刀筋を読んだらしく、軽く後退することにより攻撃を避けた。
———だが、これでいい。
「———『激流』———ッ!」
逆手に持った左手の雷鳴で佐々木に追い討ちをかけた。
「……ッ!」
佐々木は2撃目の激流にも対応した。
「……流石だな。今の連撃に対応するなんて」
「こんなの序の口ですよ」
……マジかよ。大抵のやつは取れるんだがな。
「流石は巌流の継承者。俺の予想の上を行く」
「先輩の方こそ。ですが———」
佐々木は再び、居合の構えをとった。
「———勝つのは私です」
「どうだかな」
俺と佐々木の間で火花が散った。
お互いの刃が斬り結んだ証拠だ。
俺はそのまま、左手の雷鳴で2撃目を繰り出す。
だが佐々木は、またしてもそれを回避した。
それを追撃するために、再び右手で霧雨の刀身を佐々木へと振りかざす。
佐々木はそれを受け止めると、押し返しバックステップを行なった。
そして、3回目のバックステップの直後、こちらへと侵攻方向を変更して突っ込んできた。
そして、横薙ぎに刀を振るってくる。
俺は両方の刀で物干し竿の一撃を受け止める。
そして、その勢いを流す様にしながら後退する。普通に強い……!
そんな俺に対して佐々木は追撃をかけてくる。
「これで決めます———」
そう言った佐々木は、ほぼノーモーションで『燕返し』を繰り出した。
「何ッ———!?」
あまりのことに、俺は対応することができなかった。
同時に俺は、負けを確信した。
だが、自身の奥深くに眠るそれは、敗北を認めなかった。
いや、認めてくれなかった。
「———ッ!?」
瞬間的にだが、全身の血液が沸騰した様な感覚に襲われる。
そして、俺の視界はスローモーションの世界へと変化していく。
———見えるッ、太刀筋が。
俺は左手の雷鳴を、物干し竿の軌道と同じ位置に刃を置き、『燕返し』を受け止める。
「……!?」
刃が受け止められたことに気づいたらしい佐々木は、再び間合いを広げた。
……まさか、タイバースト———俊バスになるなんて。
この俊バスとは、バーストモードが瞬間的に行われる状態のことで、生死を分ける事態の時に無意識的に発動するものである。
まあそれは置いておいて、一時的とはいえバーストモードにまで追い込んだ佐々木は賞賛に値するな。
俺は両手の刀を鞘へと納めた。
「……なんの真似ですか」
「……とっておきだよ」
俺はそのまま右足を引いて、左肩が若干前に出る体勢になった。
「……こいよ。お前の———巌流の奥義、打ち破る」
「ならば———その言葉、取り消させます」
そういった佐々木は、先程同様にほぼノーモーションで『燕返し』を繰り出した。
来な———見せてやるからよ。
対燕返し用の秘技ってやつをよ!
俺は、左腰の雷鳴を左手で逆手持ちすると素早く、且つ軽く引き抜いた。
そして、刃が斬り結ばれた。
が、俺の刀は鞘から数センチしか出ていなかった。
その、僅かな幅で俺は物干し竿を抑えたのである。
そして、空かさず俺は右手で霧雨を逆手持ちし、刀の峰を佐々木の首元に突きつけた。
「勝負あり……だな」
俺はそっと間合いを開きながら、刀を仕舞いつつ言った。
「……ええ」
佐々木は返事こそしたが、その場で呆然と佇んでいた。
「……お前は強いよ」
俺はそっと言った。
「……ただ、俺がそれを上回っただけさ」
それを聞いた佐々木は、驚いた表情でこちらを向いた。
「……先輩は傲慢ですね」
「傲慢か。たしかにそうかもな」
俺は自嘲しながらそういった。
「だが、事実だろ? 今の戦いは俺の方が強かったわけだし」
「……ええ」
佐々木は事実をだと言うことを受け入れたらしく、弱々しい返事をした。
「———また挑みに来い」
「……え?」
俺の突然の言葉に、佐々木は困惑していた。
「お前はまだまだ伸び代がある。頑張れば、俺のことなんて容易く超えていく筈だ。だから、また強くなって挑みに来い。そんときは相手してやるからさ」
俺はそう言って扉の方へと歩いていく。
「あ、そうそう」
俺は佐々木の方へと振り返った。
「最後の奴種明かししとくけど、アレは対燕返し用の技」
「対燕返し?」
佐々木は首を傾げた。
「そ。燕返しを受け止めつつカウンターする技。アレの対処法立てとけばだいぶ楽になると思うよ」
俺はそう言って再び扉の方へと向き直った。
「……先輩は、なぜ敵に塩を送るのですか?」
佐々木は俺にそういった。
「簡単なことさ。後輩の成長が見たいからだよ」
俺は振り返って笑いながらそう言った。
「じゃあ、俺はこれでお暇するよ」
そういった俺は屋上を後にした。
扉が閉まる瞬間、微かにだが佐々木がお礼を言っていたような気がした———
「ただいま……」
フラフラになりながらも、何とか寮の自室にたどり着くことができた。
早く休みたいなどと思っている俺は、リビングに入って衝撃的な光景を目にした。
そこには、縦に積まれた段ボールがあった。
「……オイ、なんだこの段ボールは」
「私の荷物だけど?」
先に戻ってきた凛音が、そう答えた。
「多すぎるだろ……」
「これでも絞った方だけど」
「マジかよ……」
ため息をつきつつ、洗面所で手を洗い、うがいを済ませた俺は、自室の扉を開いた。
そこには———またしても段ボールが待ち受けていた。
「……え?」
あまりのことに、俺は素っ頓狂な声をあげた。
「あ、それは私の荷物」
そういったのは、何故か知らんがここに居座ることになった死角無しのマキ事、大岡マキさん。
「何故ここに入れた」
「凛音の荷物とごっちゃにならないように」
「アッハイ」
問いただすことを諦めた俺は、扉を閉めリビングのソファーに腰をかけた。
なんでこうなっちゃったのかな……。
自身の日頃の行いが悪いのかなどと考えながら項垂れていると、不意に凛音が言った。
「そう言えば、夕飯どうするの?」
その言葉で、俺はあることを思い出した。
「あ……買い出しに行ってない……」
「え、つまりそれって……」
マキが不安そうに言った。
「……冷蔵庫空っぽ」
「つまり食材が?」
凛音が尋ねてきた。
「Nothing……」
完全に忘れてた。
と言うか、こんなに増えることを想定していなかった。
「ど、どうするの?!」
凛音が慌てた様子になった。
俺はマキへと問いかけた。
「……買い出し頼んでもいいか?」
「いいよ」
そう言ったマキは玄関へと向かっていく。
「じゃあ、凛音のこと宜しくね」
マキはそう言い残して、買い出しに行った。
「……さてと、俺もちょっと作業しますかね」
俺はソファーから立ち上がると、再び自室へと向かった。
「あ、ねえ」
「ん? なんだ」
凛音に声をかけられた。
「その作業が終わったら、私の方手伝ってもらってもいい?」
「ああ、構わないが」
「ありがとう」
そう言って凛音は微笑んだ。
俺は自室へと入ると、背面に固定してある2本の刀を外した。
「……激しく斬り結んだから、整備しなきゃだな」
俺はそう呟きながら、刀を机の上に置いた。
その時、携帯が鳴った。
「……もしもし?」
『シュウヤ、今どこ?』
電話の主は……アリアだった。
「今は寮の自室だが」
『そう。ならいいわ』
「何がだよ」
『あんたがそこにいるなら、白雪の身に何かあった時でも駆けつけられるわね』
ああ、そういうことね。
「まあ、そうなるな」
『それだけよ』
「そうか。じゃあ、俺は作業があるからこれで」
そう言って、俺は電話を切った。
……さてさて、情報収集でもしていきますかね。
『妖刀』、並びに『魔剣』の。
俺はPCの前に座ると、情報収集を始めたが———正直何も見つかる気がしない。
ほぼほぼ裏社会の事象に当たるため、表社会の情報しか引っかからないネット検索では無理があるというものだ。
俺は10分程で検索をやめた。……後で情報科の奴に手伝ってもらお。
そう考えた俺は、自室から出た。
「あ、終わった?」
「まあ、粗方はな」
「じゃあ、私の方手伝って?」
「了解。で、この段ボールを開ければいいのか?」
そう言って俺は、段ボールを作業し易い場所へ移すため持ち上げた。
……うおっ?! なんだこれ、超重たいんだが?
「うん。で、少し中が崩れてるかもしれないからそれを整えて欲しいの」
「整えるだけでいいのか?」
「いいよ」
凛音の言葉に首を傾げていた俺は、段ボールを置いた。
そして、段ボールを開けて初めてその言葉の意味に気がついた。
「これ、段ボールの中がそのまま収納として使えるようにしたのか」
「そういうこと」
凛音は作業を止めることなく、俺にそう返答した。
よくこんなこと思いついたな……って、中に入ってるのは銃火器か。
どうりで重たいわけだ。
「ステアーAUGも入ってるのか……」
この前の作戦コード『/』の時に勝手に借りたあの銃だ。
その銃が、パーツ分けされた状態でしまってあった。
「もちろん!」
「……というかこの箱、整理する必要ないでしょ」
「そうね」
「ええ……」
あまりの事に俺は困惑した。
しばらくの間、静寂が時間を支配していた。
俺はその静寂を断ち切るために、口を開いた。
「……そういえばさ、凛音はこういうの気にしないの?」
「……こういうのって?」
「その……アレだ。男子と一緒に住むことだ」
「え、え、う、うん……」
慌てた様子の凛音は、顔を背けた。
「そ、そういうシュウヤは……どうなの?」
「俺か? 俺は……まあ、なんというか、問題は無い」
正直なところ嫌だけど。
「そ、そうなんだ」
……我ながら、振る話題を間違えた。
と言った具合に後悔していると———
「ねえ。1年生の時の4対4の事覚えてる?」
凛音が、そう尋ねてきた。
「もちろん」
「あの時の私たちは、何かと衝突してばかりだったよね」
そう言った凛音はクスッと笑った。
「そうだな……お陰で纏める身としては大変だったよ」
1年時の俺たちは、些細なことですら衝突していた。
今の状況からはとても想像ができないが、マキと凛音、マキと歳那は仲が悪かったのだ。
俺は立ち位置的には中立だったのだが、凛音と歳那からは、目の敵にされていた。
「お前と歳那、俺がなんかしたわけでも無いのに、しょっちゅう俺に対してキレてたよな」
「そ、そう……?」
凛音は若干視線を逸らしながら言った。
「そうだよ。しかも普段1対2とかで起こるから収集がつかなかったよ……」
俺はそのことを思い出しながら、溜息をついた。
「でも、実戦の時は不思議なくらい息ぴったりだったよね」
「そうなんだよな」
ここまで仲が悪かったのに、試験本番の時は恐ろしいほどの連携を行うことができていたのだ。
「で、気付いたら皆んな打ち解けあってたんだよな……」
「うんうん。今思うと、つまらない事で喧嘩してたよね」
「だな」
そう言って、俺と凛音は笑った。
「まあ、結果オーライってことにしておこうぜ」
「だね」
「ただいま〜」
話してる間に、マキが帰ってきた。
「「おかえり」」
俺と凛音は声を揃えて言った。
「なんの話ししてたの?」
「4対4の時の話さ」
「4対4か〜。懐かしいね」
「ああ。もう1年経ったよ」
「早いね」
「ほんとほんと」
このペースで行けば———今年1年なんてのも、あっという間なんだろうな。
俺は、立ち上がると台所へと向かった。
「さてと、夕飯の準備でもしますか」
「だね」
「ええ」
そう言って俺達は、夕飯を作り始めるのであった———
翌日の午後、狙撃科を訪れた後に、俺は情報科を訪れていた。
昨日探そうとしていた『妖刀』に関する情報集めのためである。
資料の在り処を探していると、不意に声がかけられた。
「アレ、シュウヤじゃん」
俺は咄嗟に、声のした方向へと振り向いた。
「……由宇?」
俺の視線の先には、身長155cm程で、茶髪をボブカットのようにした少女が立っていた。
彼女は、霧ヶ崎由宇。通信科所属のAランク武偵だ。
「何やってるの、こんなところで」
「ちょっと資料探しをね。そっちこそ、こんなところで何してたの?」
「私は、気分転換よ」
……なんだその理由。
「相も変わらず、だな」
「そっちこそ、いつも忙しそうだけど大丈夫なの?」
「慣れてるから平気さ」
「無理はしないでね」
「心配してくれるのか?」
「そりゃ……一応、一時的とはいえ組んでた訳だし……」
俺と由宇は、去年1ヶ月だけコンビを組んでいた。
「そっか。ありがとな」
と言った具合で会話している、俺の携帯が鳴った。
「……誰だろうか」
俺は、懐から携帯を取り出すと応答した。
「はい?」
『シュウヤ、今から第2女子寮最上階、角の部屋に来て』
……んー? 聞き間違いだろうか?
今一瞬、女子寮って聞こえたんだけど。
「今、女子寮って言った?」
『言ったわよ。今から30分以内に来なさい。いいわね!』
「あ、おいッ」
そこまで言ったアリアは、電話を切ってしまった。
……なんなんだ、一体?
「どうかしたの?」
「ああ、知り合いから呼び出しだ」
「何処に?」
「女子寮の……最上階だとさ」
「私も一緒に行っていい?」
由宇の突然の発言に、俺は驚いた。
「え、なんで?」
「私の部屋、その階だから」
初耳だな。それ。
「わかった。じゃあ、今から行くがいいな?」
「了解」
そう言った俺は、資料を探す手を止めると、由宇を引き連れて情報科を後にした。
そして、20分程かけて指定されていた女子寮へと辿り着くと、由宇と共に最上階へと向かった。
「あ、私の部屋ここだから」
俺が目指す角部屋の少し前で、由宇の部屋に着いた。
「そうかい。じゃあな」
「うん。じゃあね」
そう言った由宇は、部屋の中へと入っていった。
「さてと……俺は向こうか」
角部屋の前に立った俺は、インターホンを鳴らした。
しかし、反応がない。
「……何か御用でしょうか?」
俺が、応答を待っていると突然、レキが現れた。
「……ビックリした。いや、アリアに呼ばれたんだが……なんか知らないか?」
するとレキは、懐から鍵を取り出して、扉を開けた。
「……まさかここ」
「私の部屋ですが」
そこで俺は納得した。
「じゃあ、アリアになんか頼まれてるんだな?」
レキはコクリと頷いた。
「どうぞ」
そう言ってレキは、俺を中に招き入れてくれた。
「お邪魔します」
そう言って中に入ってみたレキの部屋の第一印象は、『無機質』だった。
コンクリートの壁が剥き出しになり、家具などは、見た限りでは一切なく生活感を感じられなかった。
「お前、ここに住んでるのか?」
「はい。何か変ですか?」
「いや、なんでもないさ」
俺はレキにそう告げると、流しを拝借して手を洗った。
「遅かったわね」
俺が顔を上げると、鏡越しにアリアの姿があった。
「色々とやってたもんで、な」
俺はそう言って、アリアの方へと向き直った。
「単刀直入に聞く。俺を呼び出した要件は?」
「白雪の護衛の手伝いよ」
やっぱりか。だが、1つ引っかかる。
「なんでこんな離れた位置から護衛をするんだ?」
「目標を誘き寄せるためよ」
「なるほど」
それを理解した俺は、携帯を取り出し、マキに電話をかけた。
マキは、5コールの後に応答した。
『もしもし?』
「あ、マキ。悪いけど、今日帰れないから凛音の事任せていいか?」
『いいよ。雪ちゃんの護衛の件でしょ?』
「ご名答。悪いな、丸投げする感じになっちまって」
『しょうがないよ。どっちも依頼なんだから』
「ありがとな。後、何かあったらすぐに連絡してくれ」
『うん。じゃあ、おやすみ』
「ああ、おやすみ」
そう言って俺は電話を切った。
「マキと電話してたのね」
俺の目の前に立つアリアがそう言った。
「ああ。こっちも護衛やってるんでな」
「そうだったわね」
そう言って俺とアリアは、リビングへと向かった。
レキはと言うと、台所で何やら開けていた。
「……何してるんだ?」
俺はレキへと問いかけた。
「食事の用意を」
その手には、栄養食品が。
「お前、普段からそれしか食ってないのか?」
「はい」
マジかよ……。
「お前はそれでいいかもしれないが、俺とコイツは多分足りんぞ?」
「そうね……流石の私でも、それだけじゃ足りないわ」
俺はため息をついてから、口を開いた。
「……買い出し行ってくるわ」
「なんか作ってくれるの?」
「ああ。『腹が減っては戦はできぬ』って言うだろ?」
「そうね。じゃあ、お願いするわ」
「はいよ。レキも食べるか?」
コクリ、とレキは頷いた。
「じゃあ、行ってくる」
そう言い残して、俺は玄関を出た———
なんだかんだあって食後。やることが無くなった気分だ。
「しかし、2人してよく食うな……」
5人前とか作った筈の料理が、完売するってどう言うこと?
しかも俺、1人前食べたかどうかぐらいだよ?
2人は胃の中にブラックホールでも飼ってるのではないか、と疑い始めた時、アリアに呼ばれた。
「ねぇ、シュウヤ」
「ん?」
「このケースは?」
「ああ、そいつはな」
俺は立ち上がり、ケースの側へ行くと、ケースを開いた。
中には、パーツ分けされた狙撃銃が入っていた。
「M110狙撃銃。俺の使ってる狙撃銃さ」
俺は、中身を取り出すと、素早く組み立てた。
「そういえばあんた、狙撃科でAランクだったけど、どれくらいの腕なの?」
そう来たか……。
「……見たいの?」
「ええ」
俺は立ち上がると、アリアに言った。
「なら、屋上に行くぞ」
そう言って、俺とアリア、そしてレキも屋上へと向かった。
「で、どうするの?」
「本当なら———アリアにこの9mm弾をもって、400m四方を適当に移動してもらいたかったんだが……流石にそれは悪いから」
俺は、狙撃銃からスコープを外すとアリアに渡した。
「それで覗いて、適当な位置でも示してくれ。それに細かい注文をつけてくれても構わない。但し、半径1.6km内で頼むよ」
「わかったわ」
そう言ってアリアは、四方を見渡し始めた。
「じゃあ、向こうに見える公園の木が密集してる所の真ん中の木で、且つ1番上の葉の真ん中を撃ち抜いて」
「了解」
俺は思考を研ぎ澄ませる。
それにより徐々に徐々に自身の感覚が、深い所まで沈んでいく。
———よし、なれたみたいだ。沈黙の解答者に。
俺は、両手でM110を構えると、引き金にそっと手をかけた。
そして、自身の視力のみでの補正をかけ始める。
風は……ほぼ無し。空気抵抗による影響も配慮しなくていいな。
あとは、地点と、目標物までの距離。
感覚だが……1471mってところか。
俺は、最終補正をかけると引き金を引いた。
M110から放たれた7.62mm弾は、アリアが指定した木の葉へと吸い込まれるようにして当たった。
スコープを覗いていたアリアは、驚きの表情を隠せないようだった。
「腕は確かね。伊達にAじゃないわね」
「そいつはどうも」
そう言いながらアリアは、俺にスコープを返してきた。
受け取った俺は、スコープを取り付け用としていた。
しかし、久々にあんな大胆な狙撃をやったものだ。
我ながら、よくあんなことができるなとか思っちゃうよ。うん。
「そういえばあんた、絶対半径幾つなの?」
突然アリアに思考を遮られた。
「え、ああ、絶対半径か。俺の絶対半径は、1684m。狙撃科の中じゃ短い方だよ」
自嘲しながら俺は言った。
「それでも私は凄いと思うけどね」
「そうか? まあ、そう言うことにしておくよ」
俺はそう言って、屋上を出ようとしたが……先程から何やら視線を感じる。
「……さっきからずっと俺のこと見てるけどさ、なんか言いたいのかレキ?」
俺は、視線を向けていた張本人であるレキの方を向いて尋ねた。
「シュウヤさん、私と———」
次にレキの口から出た言葉に俺とアリアは戦慄した。
何せ、普段のレキからは考えられない発言だったからな。
「———決闘してください」
後書き
今回はここまで。
第20弾 現れし妖刀(カミング・ザ・クラウ・ソラス)
前書き
第20話です。
「———決闘してください」
普段のレキからは、到底予想も出来ない台詞。
これを聞いた俺とアリアは、戦慄していた。
「け、決闘……?」
あまりの衝撃からか、俺は上手く呂律が回らなかった。
「はい。私と狙撃の技術で勝負してください」
そう言ったレキの表情は、依然として普段と変わらず無表情であった。
しかし、彼女からは明らかな闘士のようなものが感じられた。
……やる気なんだ。表情に出てなくても、目を見ればわかる……。
「……分かった」
「ちょ、ちょっと……!」
俺の返答に対して、アリアが声をあげた。
「だが、今はその時じゃない。俺もお前もやることがあるだろ?」
そう言って俺は、ここから見えるとある建物———第3男子寮を見た。
俺の視線の意図に気づいたらしいレキは頷いた。
「と、言うわけだ。油売ってないで見張りに戻ろう」
「そうね……というか、元はと言えばあんたがあたし達をここに連れてきたのが原因でしょ」
アリアにそう言われた。間違っちゃいないな。だが、そいつは訂正させてもらうぜ。
「いや、お前が狙撃の腕を見たいって言ったからだろ?」
俺はアリアにそう言うと、足早に階段を降りていった。
「あ、待ちなさい!」
俺の後方からはそんな声が聞こえてきた———
翌日の昼休み。女子寮から直接学校に登校する羽目になった俺は、言わずもがなクラスの男子連中に囲まれていた。
「オイ、お前今朝女子寮から出てきたらしいけど何やってたんだ?」
「そんなことより誰の部屋にいたんだ!」
「レキの部屋だって話だけど?」
「「「「なに?!」」」」
何このシンクロ率。ビックリなんだけど。
「ていうかA組の神崎まで侍らせてたって話じゃねぇか」
「「「「「お前に人権はない」」」」」
オイ、真っ向から日本国憲法を否定すんな。と言うか、なんでそんなに息ぴったりなの?
「……あのさ、色々言いたいんだが」
「「「「「却下」」」」」
なんでさ。不当な取り調べじゃねぇか。
「とりあえずだ。今この場で昨日起こったことを洗いざらい吐いてもらおうか」
その言葉を皮切りに、周囲の男子連中は、殺気を強めた。
「じゃあさ、こうしよう」
そう言って俺は、懐から500円玉を取り出した。
「この500円玉を、手に入れられた奴に話してやるよ」
俺は500円玉自身の真上へとを投げた。
「「「「「させるか!」」」」」
同時に男子達は飛び上がった。
ここまで息ぴったりにする必要ある?
まあ、そっちの方がやりやすいんだけどさ。
直後、俺の投げた500円玉が———正確には、500円玉と一緒に投げた閃光弾が、眩い光を放った。
「な、なんだ?!」
「ウオッ!」
「ウギャァァア!」
「ま、眩しい!」
「目が、目がぁ!」
と言った具合に、光を直視した奴らは悶えていた。
……というか1人さ、某国民的アニメ映画の某大佐が混じってるんだが。
どうでもいいことを考えていた俺は、少ない動作で机に乗ると、そのまま天井裏へと潜り込んだ。
勿論、投げた500円玉の回収を忘れずに。
「ど、何処に消えたんだ……!」
「さ、探せ!」
「見つけ出してズタズタにしてやる!」
血の気が多いこった……。当分は下手なことができないな……。
そう思いながら、天井板をぴったりと閉めた俺は、廊下の天井裏へと向かった。
「……やっぱりここに来た」
突然声がかけられた。
「……誰だ?」
俺はアンカーウォッチに内蔵した、ライトを起動した。
その光で声の主が照らし出された。
「……なんでこんなとこにいるんだよ、マキ」
「長年の付き合いと予測からここに来るんじゃないかなと思って、ね」
「お手上げだよ……」
自然とそんなことを呟いてしまった俺。
「何が?」
「なんでもない」
俺は即座にマキに返答すると、奥へと進んでいく。
というか分かってたんなら、助けてくれても良くないか?
「何処に行くの?」
「探偵科だ。俺はアドシアードで、東京武偵高の探偵科の代表を任されたんでな」
「そうなの?」
俺の言葉にマキは首を傾げた。
「ああ。辞退する理由もなかったから、引き受けた」
「そっか。そういえば、私も今日は諜報科に行かないとだった」
マキはそんなことを呟いていた。
「……凛音の護衛どうするか」
「あ、それなら安心して」
「なんでだ?」
「歳那が戻ってきたからいないときは任せられるよ」
歳那が戻ってきた? マジかいな。
「いつ戻ってきたんだ?」
「昨日の夜だったよ。私と凛音でシュウ君の部屋にいたら訪ねてきたの」
「そうか。でも、歳那がいるなら安心できるか」
そう言って俺は、天井板を外した。
「ここは?」
「降りればわかるさ」
俺はそのまま天井裏から出た。
それに続いてマキも降りた。
「ここは……」
「空き教室。2学年のフロアの1番端のところ」
基本的に人が来ることのないフロア端。そこには、使わない椅子や机を仕舞っておく空き教室が存在している。
「さてと、B組に向かうか」
俺はそう言って扉を開け廊下へと出た。
「なんか、暗いね」
「名目上進入禁止エリアだからな」
俺はそう言って歩き始めた。
暫く歩くと、徐々に人気が出始めてきた。
そして、B組の前にたどり着いた。
中を覗いて、歳那を探す。
「……どうかしたのか?」
突然、教室内から現れた周一に声をかけられた。
「お前B組だったっけか……」
「そうだよ……で、要件は」
「ああ、えっとだな。土方に用があって」
「そうか」
そういうと周一は振り返っていった。
「歳那、呼ばれてるぞ」
……ん? 呼び捨て?
「なあ、周一」
「なんだ?」
「お前あいつとそんなに仲がいいのか?」
「いや、ただただ付き合いが長いだけだ」
「なるほど」
「じゃ、俺はやることがあるんでこれで」
「おうよ」
そう言葉を交わすと、周一は教室を後にしていった。
「お呼びでしょうか?」
直後、歳那が現れた。
「ああ、話があってな」
「凛音の件でしょうか?」
「ご名答。この後、俺もマキも凛音のそばから離れなきゃいけないから、代わりに護衛を頼みたいんだが」
「了解しました」
「それだけなんだが……一応聞くが、お前と周一って、どう言う関係なんだ?」
それは、と言って歳那は話し始めた。
「彼と私と凛音は、古くからの付き合いです。よく、稽古を一緒に積んだらもしました」
「幼馴染ってことか?」
「はい」
「そっか。それだけ把握できれば十分。ありがとな」
「いえ。では、凛音の件任されました」
「よろしく。じゃあ」
「はい」
そう言って、俺とマキはB組を後にした。
「まさかの人間関係が露見したな……」
俺は誰にとなく、そんなことを呟いた。
「私達も似たり寄ったりでしょ?」
「否定はしないな」
そんなことを言いながら、俺とマキは一般科目棟を後にするのであった———
夕方、探偵科で高天原先生と話し終えた俺は、通信科を訪ねていた。
……確かこの棟の3階の部屋にいたはずなんだが。
俺は、階段を登って突き当たりにあった部屋の扉を開けた。
「失礼します」
部屋の中には、何台かのPCや、通信機器などが配置してあった。
「……覚えてたんだね」
そんな部屋の中にいたのは、由宇だった。
「まあな。俺は記憶力はいい方なんで」
「記憶力"だけ"でしょ」
「失礼な」
そう言いながら、俺は扉を閉め、由宇の側へと向かった。
「で、頼んでたことは?」
「ああ、資料でしょ」
そういった由宇は、自身の目の前のPCのファイルを開いた。
俺は、その画面を由宇の後ろから覗き込んだ。
「一応見つけた。ただ、有力なものではないから、実証には繋がらないと思う」
そう言われたが、見た感じ中々お目にかからないような資料まで集めてあった。
「……昨日無理強いして頼んだのに、よくこんなに集められたな」
「私の情報網を舐めないでよ」
「いや、半分ぐらいハッキングしただろ」
由宇はギクッ、という音が聞こえてきそうな表情をした。
「あまりやりすぎるなよ」
由宇は、情報収集能力が飛び抜けて高い。
何故かといえば、彼女は一種のハッカーだからである。
多分今回の資料なんかも、国家のメインコンピュータあたりに忍び込んで引っ張り出してきたんだろうな……。
「足がつかないようにしてるから」
とは言うけどね……。1回それで、痛い目にあったでしょうが……。
「……まあ、頼んだ俺がとやかく言う権利もないしな」
俺はそう呟くと、PCの画面を凝視した。
「どう?」
「……なんとなく手口みたいなのはわかったが……『妖刀』の特徴とかは全くと言っていいほどわからないな」
俺はPC画面から視線を由宇へと移しながら言った。
「まあ、そうだよね」
「だが、凄く参考になる情報だ。ありがとな」
「どういたしまして」
「後さ、印刷してもらってもいい?」
確か隣が印刷室になってたよな。
「いいよ」
そう言って由宇は、隣の部屋へと入っていった。
俺はそんな由宇の後ろ姿を見て、1年の時のことを思い出していた。
……なんか、あの時と変わらないな。
俺はボヤきつつ、腕時計に目を落とした。
時計は間も無く5時を示そうとしていた。
もうこんな時間か。明日はアドシアード本番だし早く帰って準備せねば。
そう思っていると———
「終わったよー」
書類を手にした由宇が戻ってきた。
「ありがとさん」
書類を受け取った俺は、素早く通学用カバンにしまった。
「じゃあ、俺は明日に備えての準備があるんで」
「うん。明日、頑張ってね」
「ああ」
そう言って俺は、通信科棟を後にし、第3男子寮にある自室へと戻った。
自室に戻ると、凛音と歳那がいた。
「あ、お帰り」
「おかえりなさい」
「はいはいただいま」
俺は足早に自室に滑り込むと、荷物の中から先ほどもらった資料を取り出した。
……さて、読み解いていきますかね。敵の手口とやらを。
俺はそのまま集中することにより、サイレントアンサーになる。
そして、資料にじっくりと目を通していった。
それにより、妖刀が現れる前触れなどを予測していく。
しかし、それはあまりにも無謀に等しかった。
この情報量だけで、無数の策を組む事は今の俺でもできない。
もっと言えば、特定の予兆などが無い為、どんな策を講じていいのかまとまらないのである。
……折角由宇から情報を貰ったのになぁ。
俺は内心ぼやきながら、机の前から立ち上がった。
すると、突如として扉が開かれた。
「シュウヤ、無事?!」
などと言った具合のこと言って、凛音が部屋へ入ってきた。
「……なんの話だ?」
「え、今メールで……」
「えっと、落ち着け。まず俺は、家の中にいるのにメールしたりはしない」
「で、でも」
そう言って凛音は、携帯のメール画面を提示してくる。
「このメールアドレス……」
そこには、確かに俺のメールアドレスが記されていた。
「……!?」
どういうことなんだ。あり得ないだろ。
「……同調されてる?」
俺は無意識の内に右手で口元を抑えると、そのまま無数に思考を走らせる。
「シュウヤ……?」
凛音の言葉を聞きながら、1つの結論に至った。
「……『妖刀』め、接触してきやがったか」
「……?!」
俺の言葉に、凛音は驚きを隠せないでいた。
「それは『妖刀』の手口だ。今さっき確認した」
俺はそう告げた。
その言葉に、凛音は震えていた。
「怖い……のか?」
俺はそっと凛音に問いかけた。
「ううん。大丈夫……」
そう答える凛音だったが、その震えは増す一方であった。
「……良いんだぜ。怖いなら怖いで」
俺はそのまま続ける。
「今の俺は、お前を守るのが仕事だ。だから、何かあるなら正直に言ってくれ。俺のできる範囲内のことなら、やるから」
そう告げると、凛音はそっと顔を上げて言った。
「……私のこと、抱きしめて」
そして、凛音は目元を伏せた。
俺は無言で、凛音背中へと手を回し抱き寄せた。
「……もっと。もっと強く」
そう言われた俺は、凛音を抱きしめる力を強める。
「もっと……もっと……! 私が……私だってしっかりと伝わるぐらい!」
俺は彼女が痛がらない、且つ最大限の力で抱きしめる。
それに合わせて、彼女も俺を抱きしめてくる。
そして、俺の胸に顔を埋め静かに泣き始めた。
対する俺は、彼女の頭をそっと撫でた。
そのままの状態で数分が経ち、漸く凛音は落ち着いた。
「ごめんね……」
「お前が謝ることはないさ」
「ううん。あるよ……。だって、護衛だけじゃなくて、こんな無理なお願いまでしちゃったんだもん……」
そう言った凛音は、耳まで赤くなっていた。
「別にいいさ。それに、他でも無い凛音の頼みなら尚更」
俺はそう言って、右手で後頭部を掻いた。
「で、でも、そういうのはやっぱり……」
と、凛音は食い下がる。
「良いって。俺は正しいと思ったことをしただけだから」
事実、減るもんでも無いからな。うん。
「そ、そう……?」
「ああ。なんだ、そんなに俺が信じられないか?」
「そう言う……わけじゃ無いけど……」
凛音はそう言って俯いた。
うん。やっぱ、戦闘時と平常時での差が激しい。
アレかな、俗に言う戦闘狂かな? あ、それは俺か……。
などと、内心1人漫才を繰り広げる俺は、凛音とともに自室を出た。
「あ、そう言えば歳那は?」
「……なんか、買い物に行くって言ってた」
「そうか」
俺はそう言って、台所へ向かう。
「さて、夕飯の準備でもしますかいな」
「あ、私も手伝うよ」
「頼む」
そして、2人で夕飯の支度へと取り掛かるのであった———
翌日、アドシアード当日。
俺は、探偵科棟の特設会場に居た。
東京武偵高の探偵科代表として。
俺の周囲には、各国の武偵高の代表達がいる。
俺は、手元にある参加者一覧へと目を通した。
……中々凄いメンバーだな。しかも、名前を聞いたことのある奴ばっかりだ。
これは、気を抜いたらヤバイな。
そう思った俺は、視線を上げ辺りを一望する。
その際、他の参加者とも視線があった。
さて、そろそろだな。
俺は資料を仕舞うと、高天原先生の所へと向かう。
「先生、そろそろ定刻ですよね?」
俺は再度、時間の確認をとる。
「ええ。樋熊君も配置についてね〜」
普段と変わらない様子で言われた。
「わかりました」
そう言って、俺は指定されたところへと立つ。
この競技は、事件現場を再現した所から推理できる事、気付ける事などを得点方式にして競うもの。
事件現場は、1人につき1つずつ同じ内容のものが用意されている。
制限時間は1回につき5分。
因みに、決勝戦まで含めて合計3回あるが、場合によっては次が決勝戦なんて事もある、とのこと。
俺は、ブルーシートの掛けられた再現へと目を向け直す。
「さて……どんな中身かね……」
その呟きの後、定刻を知らせるチャイムが鳴った。
そして、ブルーシートが外される。
そこにあったのは……
「刺殺現場……?」
大きな血溜まりが着いた、再現であった。
俺はその現場を、細かく調べる。
遺体があった場所……白線で囲まれているところの、腰にあたる部分に大きな血溜まりがある。
ここから考えられるのは、腹部を刺された事による失血死。
だが、血溜まりはもう一つある。
それは、頭部にあたる部分にあった。
「……頭と腹部を刺されたことによる失血死……なのか?」
普通ならここで終わりだろう。
実際、他の奴らは報告に行ったりしている。
だが、俺には何かが引っ掛かっていた。
俺は頭部付近の血溜まりを入念に調べる。
そこには、何かが転がったような血痕があった。
「……これは」
俺はその幅、様子などから一つの結論を導き出した。
そして、審判の元へと向かう。
「報告をどうぞ」
「はい」
俺は自身の中で作り上げた仮定を述べた。
「被害者の死因は、2箇所の大きな外傷による失血死。その際使われた凶器は内臓まで達する様な、長く鋭利な刃物」
「以上か?」
「いいえ、まだ続きます」
俺はそう言って、続けた。
「この刃物が使用されたのは恐らく一撃目。しかし、被害者はそれでも絶命しなかった為、犯人は拳銃を使用したと考えられます」
「その根拠は」
「血痕の中に、何かが転がったような形跡があり、その幅と距離から.45ACP弾の薬莢部分だと推定しています」
「なるほど」
「しかし、現場付近に薬莢が見受けられなかったことから、犯人は空の薬莢を持ち去ったと考えました。以上」
俺の考察を書き終えた審判は、俺をフィールドから出るように促した。
俺はそれに従ってフィールドの外へと向かう。
そして、暫くしないうちに、結果が発表された。
それによると俺は、このラウンドを同率1位で抜けたらしい。
「……次か」
と思っていると、俺の携帯が振動した。
何事かと思い開いてみると、そこには一通のメールが届いていた。
そのメールの中を覗いた俺は戦慄した。
「……ケース……D7……!」
ケースD7とは、アドシアード期間中に武偵高内で事件が起こったことを示すコード。
この時の数字がいくつかあるが、今回の7は事件性があるかどうかが不明という意味になる。
そして、送られる人間も限られた人間のみになる。
「因みに……詳細は……!」
俺はメールに素早く目を通した。
そして、とんでもない事実を知った。
白雪と凛音、2人が同時に消えたのであった。
つまり俺は、ケースD7を2つ分背負っていることになる。
急いで俺は、高天原先生の元へと向かう。
「……先生」
俺が声をかけると先生は、普段とは打って変わって真剣な表情で振り向いてきた。
「樋熊君も、この件に関わってるのね」
「はい。それも、2件とも」
そう告げると、少し考えるような仕草をしてから、こう言われた。
「樋熊君は、解決に向かって。こっちは、なんとかして置くから」
そう言われた俺は頷くと、早足で探偵科棟の出口へと向かった。
その際、後ろから英語で『逃げる気か!』と聞こえたが、俺は聞こえないふりをした。
そしてそのまま、俺は通信科棟へと一直線に向かう。
目指すのは勿論、昨日と同じ3階の部屋。
到着すると同時に、俺は勢い良く扉を開けた。
「あ、来た来た」
其処には、通信機器の前に座る由宇がいた。
「どんな状況だ?」
「白雪の方から」
えーっと、と言って由宇は報告を始めた。
「彼女は、遠山キンジにメールを残してから消えたらしいよ」
「……つまり、連れ去りじゃなくて、自ら赴かせたってことか」
「そうなるね」
「由宇、通信機貸してくれ」
「了解」
俺は由宇に場所を代わってもらうと、周波数を合わせて指定されたチャンネルを開く。
「あー、あー、聞こえるか?」
『聞こえてるわよ』
通信機から聞こえてきた声は———アリアの声だった。
「状況把握終了」
『報告を頼むわ』
「白雪だが、恐らく『魔剣』に脅されたかなんかで自ら赴いてったな。恐らくアイツが直接連れ去った線はないと思っていい」
『了解。他には?』
「敵は多分だが……海上から来たと推測。現場とか周囲の状況とか確認してないからなんともいえないけど」
『それなら、レキ辺りが何かを見つけてくれるはずだわ」
俺はアリアの言葉に少し納得しながら、話を続けた。
「で、多分キンジの奴だが、今必死になって白雪のこと探してるはずだと思うから……レキのやつもアイツに手がかりを教えるはず」
『その理由は?』
そんなこと言うまでもないだろ。
「お前が、そういう風に仕向けたから……だろ?」
『良く分かったわね。そうよ。あたしが、『魔剣』を誘き寄せるために、護衛をキンジ1人に任せたの』
「じゃあ、お前はキンジの事つけてけ」
『あんたは?』
「行きたいところだが……生憎こっちもケースD7が入っててね」
『もう一つの件ね』
「御名答。援護に行けるようになったら行く」
『わかったわ。あんたも気をつけて』
「ありがとさん」
そう言って、通信を終える。
「どう?」
由宇が尋ねてきた。
「白雪の方はなんとかなるだろうが……凛音の方が……」
俺は携帯を開きながらそうぼやいていると……未読のメールを見つけた。
不審に思いながらそのメールを開くと、差出人は凛音だった。
「……アイツもかよ」
俺はそう呟くと、携帯をしまった。
「由宇、周波数405の回線で、集合通達をしておいてくれ」
「分かった。シュウヤは?」
「俺は、あいつの居場所を突き止める」
「気をつけてね。あ、集合地点はどうするの?」
「装備科棟前って伝えてくれ」
「了解」
由宇の返事を聞いた俺は、そのまま通信科棟を飛び出すのであった———
通信科棟を後にした俺は、走って装備科棟を目指していた。
俺が何故ここを集合地点にしたかといえば……ここが1番怪しかったのである。
あまり知られていないことだが、ここ装備科棟は地下に巨大な保管施設を備えている。
『地下倉庫』に比べれば、規模は小さいがそれでも人が入るには広すぎる空間が、ここ装備科にはあるのだ。
それも、車輌科の船着場付近に繋がる地下通路を要したものが。
俺は他の2人が集合するより前に、中に入り階段付近にある扉をピッキングして開いた。
この地下倉庫、二重扉を採用しているため、このアナログ式な扉の奥にはキーカード認証式の扉が待っている。
つまり、この二重ロックを突破しない限りは、中へ入る方は不可能なのだ。
俺はそんな扉のシステム板の部分を開くと、自身の携帯電話に接続した。
そして、システム内へとハッキングを仕掛ける。
その為に、俺は自身の集中力を極限のところまで引き上げ、サイレントアンサーになる。
さて、ここから先へと通してもらおうか。
扉のセキュリティーコードを弄る為、システムの奥深くまで忍び込んだのだが、最終防衛ラインとも呼べるファイアウォールがとてつもなく硬い。
俺は、思考を全てそこへと注ぎ込み、システムの穴という穴を突いていく。
そして、作業を始めてから15分。
漸くセキュリティーを制圧、扉を開くことができた。
「……たく。ここの扉のコードまで乗っ取るとか……反則だろ」
俺はボヤきながら携帯をしまうと、ホルスターからベレッタを取り出して警戒しながら中へと踏み込んでいく。
倉庫内には、資材から工具、果ては量こそ少ないが火薬まで置いてある。
「下手に発砲したかねぇな……」
俺はベレッタを両手持ちしながら呟いた。
すると、奥の方から何やら会話が聞こえてきた。
「……どうして、私を狙ったの」
「……決まっている。君が才能ある『者』だからだよ」
アレは、凛音の声……!
つまり話しているのは凛音と……『妖刀』。
「参ったな……敵の姿はここから視認できないし……」
俺は、意を決して極限まで足音を殺して走った。
「私にそんな力は……ないよ。第一に、どこへ連れて行って、どうするつもりなの?!」
「そうだね。それは答えよう……と思ったが、どうやら招かれざる客が来てしまったようだ」
……気づかれた?!
「凛音、来い!」
俺は足音を殺すのをやめて、全力で走った。
「ど、どうしてここに……!」
「探偵科Sを舐めんな……!」
俺はそのまま凛音に手を伸ばす。
直後、凛音の体は、凛音の後方にあった闇の中へと吸い込まれていった。
「……な?!」
「……クッ! シュウヤ、逃げて!」
その声を最後に、音はプツリと止んだ。
「……どう……なってるんだ」
俺は周囲に銃口を向けながら警戒した。
「……お探しのものはこちらかな?」
不意に、自身の背後の用具高の上から声がした。
「誰だ!」
振り向くと同時に、銃口を向けながら俺は叫んだ。
「『妖刀』だよ。君達が追いかけ回していた。ね」
そこには、仮面を付け黒装束を見にまとった人影があった。
「……チッ!」
俺は舌打ちをすると、銃を下げた。
下げるしかなかった。
なんせ、気を失った凛音が盾にされていたのだから。
「……凛音をどうする気だ」
「彼女は素質がある。我々と同じように。だから、我々のもとでその才能を開花させ、磨き上げる」
それを聞いた俺は、サイレントアンサーであるに関わらず飛びかかろうとした。
しかし、その行動が叶うことはなかった。
辺りに響き渡った2発の銃声。この銃声は、ワルサーP88のもの。
そして、俺の両脛に走る激しい痛み。
これが表す答えは、撃たれたということ。
「グアッ……!」
俺は痛みに悶えながら、バランスを崩してその場にうずくまる。
「やはり、『弁慶の泣き所』とはよく言ったものだ。Sランク武偵もこの通りだからな」
そう告げて来る『妖刀』に対して俺は、見上げることしかできなかった。
「シュウ君!」
「シュウヤさん!」
そんな危機的な状況下で、マキと歳那が駆けつけてきた。
「待て、近づきすぎるな! コイツは、手強いぞ!」
俺は慌てて静止したが、それはすでに遅かった。
「もう少し、周りの様子を見た方がいいかもね」
『妖刀』がそう言った途端、マキと歳那の動きが止まる。
「ど、どうしたんだ?」
「シュウ君……ゴメン……ワイヤーに嵌められちゃった……」
「ワイヤー……?」
俺は、目を凝らして2人の周囲を見る。
そして、この距離でギリギリ視認できるほどの大きさのワイヤーを確認した。
「……いつのまに!」
さっき———
「俺が通った時は無かった筈。って思っただろ?」
『妖刀』は、俺に対してそう告げる。
「そりゃ、さっきは無かった。なんせ、たった今張ったんだからな」
俺はその言葉に、戦慄した。
「……嘘……だろ」
あの一瞬で、あそこまで複雑に糸を張るなんて……ほぼ不可能に等しい……。
それを、アイツはやってのけた。
……いかん、完全に千日手状態だ。ここからの勝算が見えない……。
「あ、言い忘れたけど、そのワイヤーTNK製だからね」
『妖刀』は、俺に追い討ちをかけるかのように、そう告げた。
そして、勝ち誇ったような勢いで、『妖刀』は、この場を去ろうとした。
その瞬間、新たに3発分の銃声がした。
妖刀は、その銃弾を寸前のところで避ける。
「誰だ?!」
突然の攻撃に、『妖刀』は驚いていた。
「……SIG P250!」
銃声を聞いた俺もまた驚いていた。
何故かって?
それは、俺の知る限り、この銃を持つ人間は、一切戦闘を行ってないからな。
今、この場において戦闘に出てきたことに驚きが隠せない。
「……やれやれ。漸く見つけた。探すの大変だったんだぜ?」
声と共に、奥から足音を響かせてやってきたのは———
「「「……周一(君)?!」」」
他でもない、千葉周一であった。
周一は、右手に待ったSIGをホルスターにしまうと、左で掴んでいる刀へと手を伸ばした。
そして刀を抜くと、そのままマキと歳那の横を通り過ぎていく。
直後、その近辺に張られていたワイヤーが切断された。
「……今切ったのか?!」
あまりの太刀筋に、俺は驚きが隠せなかった。
「さてとおとなしくしてもらおうか……『妖刀』。いや———周二」
「周二?」
俺がその名前に首を傾げていると、『妖刀』が仮面を取った。
そこから出てきた素顔に、俺は愚かマキと歳那も驚いていた。
現れたのは、周一とそっくりな顔。
そんな俺たちをよそに、、彼は周一にこう言うのであった。
「久しぶりだね———兄さん」
後書き
今回はここまで。
第21弾 刃と刀(エッジ・トゥ・ブレード)
前書き
第21話です。
いま、妖刀の奴……なんて言ったんだ?
周一のこと、兄さんって言ったのか?
「久し振りだね兄さん。元気にしてた?」
その言葉に、周一はそっと刀を構える。
「うるせ。こっちとて、お前とこんな話ししにきたわけじゃないんだよ」
「じゃあ、どうするんだい?」
妖刀———周二の言葉に、周一はこう返すのだった。
「『妖刀』、お前を未成年者拐取未遂罪、並びに銃刀法違反で逮捕する」
その時の周一の顔は……普段からは想像もできない顔だった。
鑑識科では、絶対に見せない……顔だった。
「周一……」
「悪い、コイツは俺に任せてくれないか」
こちらを向くことなく、周一は告げた。
「じゃあ、始めようか」
周二は、凛音をそっとその場に横たわらせると、棚の上から降りてきた。
「本当に久し振りだね。こうして向かい合うのは」
そう言った周二も、ワルサーをしまうと、1本の刀を抜いた。
「どちらが相応しいか決めようぜ。千葉の後継として」
その言葉を合図に、2人は駆け出す。
直後、火花が激しく散り始めた。
「……互角……なのか?」
俺は、次元の離れた2人の戦いに魅入っていた。
「シュウ君」
そんな俺のもとに、マキと歳那がやってきた。
「大丈夫ですか」
「ああ。とりあえずは」
痛む脛をさすりながら、そう答えた。
「しかし……何があったんだ、周一は」
「それは……」
と言った、歳那が話し始めた。
「『妖刀』こと、周二は周一の弟です」
「歳那は面識があるのか」
俺の言葉に頷いた。
「凛音も同様に面識があります」
「皆んな、幼馴染だって言ってたもんな」
「はい」
俺は、昨日の言葉を思い出しながら言った。
「で、何があったんだ?」
「はい。アレは半年ほど前。周一は一度だけ強襲科に在籍していました」
……丁度イギリスに行ってた頃だな。
「アイツがか?」
「はい。周一は元々は前線向きの武偵なんです。故に、彼は強襲科でもSランクを記録しました」
そう教えてくれた。R寄りの、と付け加えて。
「聞いたことがあるよ。3日だけ在籍してた凄い人がいたって話」
マキが、横からそう言った。
「そうです。周一は3日で強襲科を辞めました」
「なんでまた?」
「……周二を守れなかったから、と言っていました」
「そこに関しての詳細はわかるか?」
少しだけ……、と言って歳那は答えてくれた。
「5人程に襲われ、周二が連れ去られたとだけ言っていました」
「そのことを引き摺って、前線に立つことを辞めた……ってわけか」
俺はそこまで言って、交戦中の2人に視線を向ける。
其処には、肩で息をする周一と、反対に息を乱す事なく相対する周二の姿があった。
「周一の奴……ブランクがデカいんだな……」
このままでは、周一が負けることが目に見えた俺は、即座に策を講じ始める。
「歳那、凛音の事頼めるか?」
「了解しました」
「私とシュウ君は?」
「周一の援護に行くぞ。いいか?」
マキは首を縦に振ってくれた。
それを確認すると、俺は立ち上がった。
「さて……開始と行くか」
俺の言葉で、歳那は棚の上へと向かった。
「どうやってアシストするかな」
俺はそう呟いて、即座に思考を回す。
そして、一つの案を導き出した。
「マキ、諜報の要領で極限まで気配消していけるか?」
「できるけど……?」
「ならそれで、俺の真反対に向かってくれないか?」
「わかったけど……どうするの?」
尋ねられた俺は、作戦の算段を説明し始めた。
「俺が陽動しつつ周一のアシストに回る。だから、俺が合図を出したら、奇襲をかけてくれ無いか?」
「そういうことね。了解」
そう言い残したマキは、自身の気配を完璧に消した。
それにより、俺の視界で彼女を捉えることはできなくなった。
……飽く迄も今の俺が、だけどな。
俺は2挺目のベレッタを抜き、双銃の構えを取ると、戦場へと走りこむ。
「周一!」
俺は駆け込むと同時に、急旋回しつつベレッタを周二に向けて放つ。
対する周二は、何事も無かったかのように、それを避ける。
「来るな! これは俺自身の戦いだ!」
「うるせ! そんなブランクだらけの体で戦えるわけないだろ!」
俺は周一の言葉を一蹴しつつ、ベレッタを絶え間なく放ち続ける。
「そんなバカスカ撃ってると、弾が無くなっちゃうよ?」
避け続ける周二が、俺にそんな言葉を投げてくる。
確かに当たらないんじゃ意味が無いよな。
でも、無駄に撃ってる訳じゃ無い。
「周一! 立てるか?」
「当たり前だろ……!」
俺の言葉に応えるかの如く、膝を突いていた周一が立ち上がる。
それを見た俺は、空になった左右の弾倉を即座に抜き再装填する。
同時に、地面に落ちた空の弾倉2つを、周二目掛けて蹴り飛ばす。
「……どうせ中身は閃光弾なんだろ? 知ってるんだから」
そう言った周二は、目を閉じて刀を振り、俺の飛ばした弾倉2つを切り裂いた。
……ここまでは予想通りだぜ!
「生憎だったな。俺もそこまで単調じゃ無いんでな」
そう言い切ると同時に、切り裂かれた弾倉から、煙幕が展開される。
今回俺が蹴り飛ばしたのは、煙幕弾倉。
何を隠そう、お手製の武装第2弾だ。
「……チッ。煙幕か」
煙に覆われ、姿が見えなくなった周二のボヤキが俺の耳に届く。
俺はそこへ駄目押しするかのように、再装填したベレッタから音響弾を撃ち込む。
放たれた音響弾は、キィィィイン! という甲高い音を倉庫内に響き渡らせた。
恐らく相手を撹乱できているであろうこの隙に、俺は周一の元へと駆け寄る。
「……大丈夫か?」
「なんとかな……」
「俺たちも援護するから、あいつを……お前の弟を逮捕しよう」
今の周一にとっては複雑、且つ選択の厳しい言葉だったであろう。
しかし、今の俺は否応にもこの言葉をかけるしかなかった。
「……ああ。そうだな。アイツにはきちんと罪を償わさなきゃ……だな」
そう言った周一の瞳には、“覚悟”が写り込んでいた。
「……辛いかもしれないが。良いんだよな?」
「当たり前だろ。それが、一族として……いや、1人の兄としてやるべきことなんだから」
そう言い切った周一は、再び刀を構える。
「援護、頼むぞ」
「了解した」
俺は右手のベレッタをホルスターに仕舞うと、腰のホルスターからDEを抜き出した。
「行くぞ」
周一の言葉に合わせ、俺と周一は走り出す。
そして、未だに晴れない煙幕の中へ足音を殺したまま突入する。
直後、俺の“カン”が危険を察知した。
「……?!」
そして、俺の眼前には物凄い速度で迫り来る、刀剣の切っ尖が現れた。
「……しまった!」
死の危機に瀕した俺の耳には、周一の言葉さえも届かなかった。
これは、いくら何でも避けきれない……!
流石にこれは……死んだ———
そう思うよりも早く、俺の全身の血流は狂戦士に支配される。
そして、俺の眼前では火花が飛び散った。
その後、自身の右後方で何かが跳ね落ちた音がした。
「……何だと」
「今のを……逸らした……?」
徐々に感覚を取り戻した視界には、驚愕の表情を浮かべる周二と周一の姿が映った。
……そうか。俺は今、とっさの判断でDEと刀をぶつけた……否、DEで刀剣を殴って太刀筋をずらしたんだ。
流石の自分でも、コレばっかりは信じられないわ。
あの一瞬で、高速で迫る刀を逸らすなんて、さ。
暫し固まっていた俺だったが、顔色1つ変えることなく、左手のベレッタを周二に向け、その引き金を引いた。
しかし、その9mm弾は、周二を捕らえることは無かった。
ギリギリのところで、周二が射線から外れたが故に。
「……お前もそれを避けるのか」
「……チッ!」
俺の言葉を聞いた周二は、即座に間合いを開く。
が、そこへ空かさず周一が斬りかかる。
「……逃がさない」
「兄さんか……!」
今度は周一の刀を同じく刀で抑える周二。
俺はその傍らで懐からフォールディングナイフを抜くと、気配を殺して周二の後方から斬りかかる。
対する周二は、その俺の右手を左手一本で掴んで、俺の斬撃を抑え込む。
「……危ねえな」
「前に集中しなくて良いのか?」
「……は?」
俺に言われた周二は、再び自身の正面へと向き直る。
そこには、居るべき筈である周一が居なかった。
周二は、掴んでいる俺を、一本背負の要領で投げ飛ばすと、自身のいた地点を離れる。
直後、その地点へ上から剣を構えた周一が現れる。
「……やっぱりかよ」
「流石にわかるようになってたか……」
と、言った言葉を交わしながらも、再び斬り合いが始まった。
対して、投げ飛ばされた俺はというと、受け身を織り交ぜながら、棚の陰へと滑り込む。
……さて。さっきサイレントアンサー中にやって、感覚はわかってるから、後はこっちの俺がやってくれるかな。
俺は、ナイフを仕舞い両手にベレッタを装備する。
そして、未だに刃を交え合っている2人の元へと駆けて行く。
「周一!」
俺の呼びかけにより、秀一は瞬時に周二との間合いを開いた。
それを確認した俺は、フルオートに切り替えた両手のベレッタを発砲する構えになる。
但し、それは無闇にでは無くしっかりと計画したコースを撃つ様に。
「———『空間撃ち』」
技名を呟いた俺は、迷いなく引き金を引く。
俺の放った弾丸は、床や天井で跳ね返り跳弾と化す。
そんな跳弾に、後続の弾丸がぶつかり連鎖的に弾幕が形成されてゆく。
この技『空間撃ち』は、俺が中学時代に考案した技。
その中身としては、屋内でのみ使用可能な跳弾式戦術技。
しかし、この技は誤って相手を殺めてしまう可能性があるハイリスクな技でもあった為、考案だけで実戦運用したことは一度もない。
つまるところ、今回が初めて実行したということだ。
今回使用に踏み切った理由としては、相手が避けるのが上手いと言うのが主な理由であったりする。
「……殺る気のない弾など!」
そう叫んだ周二は、弾丸の斜線を刀で変更して行く。
しかし、それも予想の範囲内。
俺はさらにその先を読んで銃撃しているが故、逸れた弾丸が別の弾丸と衝突する。
これを連鎖的に、且つ無数に行っていき、相手を包囲することを目的とした、弾幕を形成していく。
それに気付いたらしい周二は、僅かにだが慄いている様子だった。
「さて、道は閉鎖させて貰ったぜ?」
「……先読みまでしてたのか」
「……周一!」
「分かってる!」
その言葉で、俺と周一は走り始める。
そして、弾幕の中へと突っ込む。
俺は左右のベレッタで、自身と周一の進む道を作りながら、周一と共に荒れ狂う弾丸の合間を駆け抜け、周二の元へと突っ走る。
そして、弾幕の限界ラインを越えた瞬間に、俺はベレッタを仕舞い背面から『霧雨』と『雷鳴』を抜き、周一と共に周二へと斬り掛かった。
対する周二は、周一の方へと突っ込んで行き迎え撃った。
俺はその隙を逃さず、左右に構えた刀剣で、周二の左側面から斬り込んだ。
「……これで!」
「……甘い」
そう呟いた周二は、左手の親指、人差し指、中指の3本で、俺の霧雨を掴んだ。
あまりの事に、硬直が生まれた俺だったが、即座に左手の雷鳴を振るう。
対する周二は、それを読んでいたらしく、片手で扱っていた刀で、周一を弾き飛ばすと、雷鳴と自身の刃を斬り結ばせた。
「……マジか」
「現実、さ」
そう言った周二は、左手で掴んでいた霧雨を振り払うと、そのまま正拳突きを俺の腹部へとかました。
「……グフッ?!」
「これはおまけだ」
そう言って、固まる俺に回し蹴りを追加してきた。
対する俺は、その勢いのまま、無様に地面を転がっていった。
「……さて、兄さんもう立てないでしょ?」
「……ッ!」
周二は、倒れ込む周一の元へと歩み寄る。
俺はあちこち痛む体を強引に起こすと、手放してしまった霧雨を掴み、周二の元へと走る。
「……させるかよ」
「アンタもしぶといよ」
その言葉の刹那、俺は斬られた。
全くと言って良い程刃を……否、周二の動作をも認識すること無く。
「……ッ?!」
バランスを崩したが、俺はなんとか踏み止まり体制を維持したが、そこへまたしても、見えざる一撃が叩き込まれる。
「……これだけ受けて、よく立ってられるな」
「……武偵は、こんぐらいじゃ、倒れらんねぇだろ……!」
「なら———後どれくらいまで耐えられるかな」
そう言った周二は、認知出来ない斬撃の速度と回数を増やして、俺に叩き込んで来る。
俺は流される様にされながら、その斬撃を浴びる。
「……シュウヤ!」
「……クッ!」
「兄さん、良く見ておきなよ。無力が故に仲間が倒れるところを」
俺はそのまま攻撃に流され続ける。
防弾防刃性の制服も徐々にだが、切れ目が入って行く。
……そろそろ不味いな。
「さて、もう終わりにしてあげるよ。一瞬でね」
周二は居合の構えをとり、とどめの一撃を放った。
今まで放ったどんな斬撃よりも速く、そして強い一振りを。
「シュウヤァ!」
周一の叫びが木霊した瞬間、俺は握り続けていた刀を両方とも離すと、周二の一振りを掴む。
「……真剣……白刃取り?!」
「捕まえたぜ……」
相手の動きを抑え込んだところで、俺は叫んだ。
勿論、アイツを!
「マキッ!」
俺の叫びに応えて、周二の真後ろにマキが現れる。
現れたマキは、左右に握った『氷華』と『炎雨』で、音もなく斬り掛かる。
「……また増えた?!」
驚愕しながらも、周二は靴裏でマキの攻撃を受け止める。
そして、握っていた刀を離すと、マキの刃を蹴り上げた後にその場を離れる。
間合いを開ききった瞬間、周二は背面から新たに剣を取り出した。
それは紛れもない、西洋刀剣であった。
剣を構え直した周二は、マキへと襲い掛かる。
……不味い! 今のマキは近接用の武装を何も持っていない!
俺はその場に落とした自身の雷鳴を掴むと、それをマキの方へと投擲する。
それに気付いたマキは、受け取ろうとするのだったが、周二が雷鳴を弾き飛ばした。
「……しまった!」
俺の言葉などお構い無しで、周二はマキへの攻撃を続行した。
そして、振りかざされた一撃をマキは紙一重で避けた。
直後、回避後硬直とも言える状況のマキに、周二は回し蹴りをかました。
俺はそれを見た瞬間、霧雨を拾い上げ反射的にマキが飛ぶ方向へと走り出した。
そして、吹っ飛ばされたマキを空中で受け止めることには成功したが、マキと共に資材棚へと突っ込んだ。
同時に、凄まじい音を立てて、棚が崩れた。
俺はマキに覆い被さるようにして、降り掛かる資材から守る。
ボルトや釘、果ては鉄パイプまでもが俺の背中に降り注いだ。
「……ッ!」
「……シュウ……君?」
自身を見上げるマキは、不安な表情で俺を見つめた後、現場を把握した瞬間、その瞳を見開いた。
俺はそんなマキに微笑みかけると、再び歯を食いしばって落下が止まるのを待ち続ける。
そして、物品の落下が止まった。
しかし、俺の体は既にこの状態を維持するので精一杯であった。
瞬間、張っていた腕の力が抜け、マキの上に倒れ込んでしまった。
「……シュウ君!」
呼びかけるマキに応じる事もできない程、俺の体にはダメージが溜まっているらしい。
下手したら意識が飛ぶかもしれないとさえ思った。
「あの落下物の中、よく仲間を守り切れたな」
意識が遠のき始めた俺の耳に、嘲笑うような周二の声が届いた。
俺は、震えるのみで動く気配のない体に力を込めた。
が、動かすことは叶わない。
「3人がかりでこのザマ。見苦しいねぇ。Sランクさんよ」
そう言いながら、周二はこちらへと近付いて来る。
とどめを刺す気満々だ……。せめて……せめてマキだけでも逃さなければ……!
そう考えはするが、俺の体が邪魔をしてマキを脱出させることができない。
「———チェックだ」
いつの間にか、俺達の傍に立っていた周二は、西洋刀剣を振りかざした。
そこへ、1発の銃弾が介入する。
それにより周二は、俺達から離れた。
「……まだいるのか?」
周囲を見渡す周二は、そう呟いた。
すると、どこからとも無く声が聞こえてきた。
「天然———理心流」
直後、周二の正面から突っ込んでくる影が現れた。
それは、歳那だった。
「———『月影』ッ!」
「……どっから」
歳那の放つ一撃をバックステップで避けた周二は、何かを呟きながら体勢を立て直す。
そこは歳那が、間髪入れずに突きを繰り出す。
その突きを、周二は刀剣で受け止める。
「……やっぱ容赦無いね。歳姉は」
そう言った周二は、苦笑した。
「……笑止」
対する歳那は、表情を一切変える事なくそう告げた。
そんな会話の直後、歳那の背後から新たな人影が現れる。
「天然理心流———『日昇』ッ!」
「な……!」
突如として現れた影……否、凛音は下段から高速での斬り上げを行い、周二の刀剣を弾きあげた。
対する周二は、あまりの出来事に硬直するのであった。
「……天然理心流の使い手は、歳那だけじゃ無い!」
「クッ……マジかよ。もう動けるように……!」
「歳那!」
「うん」
軽く言葉を交わした2人は、左右に散開して周二を挟み込むような位置に移る。
対する周二は、弾かれた刀剣と先程手放した日本刀を走りながら回収する。
「天然———」
「———理心流」
次の言葉は、2人の心がどれ程まで重なっているかを表すかのようだった。
「「———合技『月日』ッ!」」
漸く動くようになった体を起こした俺の視界に入ったのは、凛音と歳那による完璧な連携攻撃。
周二の正面では、自身を軸回転させながら絶え間なく攻撃を繰り出し続ける歳那。
対して周二の背面側では、歳那に対して行われようとする攻撃を、凛音が素早い斬撃で捌いていく。
「……凄い」
「あれが……天然理心流……」
2人の連携に、俺とマキは息を呑んだ。
それも束の間。
俺はフラフラと立ち上がる。
「……シュウ君」
よろけて倒れそうになったところを、マキが支えてくれた。
「悪い……」
「良いんだよ……さっき、私のこと守ってくれたのに比べれば……」
そう言ったマキは少し俯きつつも、俺に肩を貸してくれた。
そして、俺はマキと共に周一の元に歩み寄る。
「周一」
「……無事……だったか」
「なんとか……ね」
周一は、もう殆ど動かないであろう体を起こしながら、そう言った。
「……まだ、戦えるか?」
「ああ。そういうお前はどうなんだ?」
「俺は多分、次全力出したら倒れるかな……」
「そうか……」
そう言った周一は、俯いた。
対する俺は、でもと言って続ける。
「周一に何か策があるって言うなら、それが実行できるまで……持たせるよ」
それを聞いた周一は、驚いた様な顔をしていた。
それをみた俺は、軽く笑った。
「何がおかしいんだよ……」
「いや、周一の驚く顔、初めて見たなと思って」
俺は自分の足で立つと、ベレッタを抜き出した。
そして、再装填をする。
「で、策はあるの?」
「……無いことはないが」
そういった周一は、未だに交戦を続ける2人の方へと視線をやる。
「あいつらの力が必要なのな」
「ああ……」
「わかった」
そう言った俺は、現状の自身の武装を再確認する。
あるのは、DEが3挺にベレッタが2挺。
それに加えて霧雨と、フォールディングナイフ……だけか。
いや、それだけあれば十分。寧ろ多いぐらいだ。
「俺があいつの相手をしてる間に打ち合わせしてくれ」
「でも、お前そんな体じゃ……」
「さっきも言ったろ。策が実行できるまで持たせるって」
そう言った俺は、マキの方へと向き直る。
それで俺の言いたいことを察したらしいマキは、首を縦に振るのだった。
「分かってる。私も一緒に戦うよ」
「頼む」
そう言って、俺はマキと共に周一に背を向けた。
「じゃあ、頼りにしてるぜ大将」
俺はそう言い残して、マキと共に走り出す。
全身が軋むように痛む。
俺は軽く歯を食いしばりながらも走る。
「凛音! 歳那!」
「……シュウヤ!?」
驚愕する凛音を他所に、俺はベレッタを周二に放つ。
周二は何事も無かったかのように、その銃弾叩き落とす。
「2人とも、周一君の所へ!」
「わ、分かった!」
「了解」
マキの呼びかけに応じた2人は、そのまま後方の周一の元へと向かっていく。
「行かせない……!」
「お前の相手は———こっちだ!」
フォールディングナイフを展開した俺は、右手にベレッタ、左手にフォールディングナイフという一剣一銃の構えをとる。
そのまま迫り来る周二と交錯する。
「そこ!」
「……チッ!」
火花を散らしながら、俺と周二の刃がぶつかり合う。
一見、互角に見えるだろう。
しかしながらこの戦い、俺の方が圧倒的に不利である。
近距離に特化した双剣と、応用の効かせやすい一剣一銃では、この場合圧倒的に双剣の方が有利である。
「……これで!」
俺は刃を受け流すと、空かさず右手のバレッタを放つ。
対する周二は反射のみで、その射線から外れていく。
そんな周二の背後を、霧雨を手にしたマキがとった。
「———『春雨』」
そう言ったマキは、流れる様に且つ数少ない動作で斬り掛かる。
周二は、その太刀筋を読み左手の刀で抑える。
1度刀を自身の方に戻したマキは、間髪入れずに刀を構え直し、再び切り込む。
「……貰った」
「まだまだ」
マキが2段目に繰り出した突きを、周二は避ける。
俺はその隙を逃さずにナイフで斬りつける。
それにより、左肩の付け根辺りに攻撃が入る。
「……ッ! しまった」
そう冷静に呟いた周二は、俺とマキの板挟みから抜け出した。
そこに追撃としてベレッタを放つ。
「……チッ!」
舌打ちをした周二は、勢いよく地面を蹴ると、凄まじい速度で突っ込んできた。
そして、通りすがり様に斬り掛かってくる。
俺はそれを、神回避で退ける。
俺の横を通り過ぎた周二は、地面を再び蹴ると、急旋回してマキへと襲い掛かる。
俺は再三ベレッタを向け、弾を放つ。
しかし、その弾は周二に当たる事はない。
「予想以上に速い……!」
俺はナイフを構え直すと、周二の後を追う。
対して周二が標的としているマキは、霧雨を構え直し、迎撃する態勢に移っていた。
そして、2人が交錯した。
少しの間の後に、マキが持っていた霧雨を落とし、倒れた。
「……マキッ!?」
俺はベレッタで周二を牽制しながら、マキの側へと駆け寄るが、その弾幕を抜けて周二が此方へと向かって来る。
俺は引き金を絶え間なく引き続けていたが、再装填無しで行なっていた為に、弾切れを起こした。
「……ッ!」
「———隙あり」
弾切れの隙を見逃さなかった周二が、即座に下段からの攻撃を仕掛けてくる。
俺は咄嗟の判断で、左手のナイフを出し応戦した。
しかし、迎撃準備が不十分であったが故か、俺の左手からナイフが弾き飛ばされる。
そして、驚く暇も与えない速度で、2段目の攻撃が始まっていた。
瞬間、俺は回避不能な攻撃である事を悟った。
先程同様、銃を盾にして逸す事はできるだろう。
しかし、先程とは状況が違いすぎるが為に、成功率は著しく低下している。
視界がスローモーションに変化する中、俺は考える事をやめなかった。
何か、この場を打開できる策は無いものかと。
そして、俺の脳裏にこの戦闘で得たある行動が浮かぶ。
それしか無いと確信した俺は、体の制御をバーストモードの意識に預けるのだった。
直後、俺が捕らえるのは右手で振りかざされた2段目の斬撃。
行動する事など不可能な状況下で、バーストモードの俺ははとある動きを行う。
それは、空いている左手を太刀筋に置くと言う行為であった。
そして、刃と触れ合う瞬間、バーストモードの俺は刀と同じ速度で下ろしながら、左手の5本の指先で真剣白刃取りを行った。
この行動を敢えて名付けるなら———『五本指真剣白刃取り』ッ!
「……何ッ?!」
スローモーションが解除され、視界の認識が通常に戻ると同時に、周二がそんな声をあげるのであった。
俺は右手のベレッタを破棄すると、DEを即抜きした。
「……観念しろ。『妖刀』———いや、千葉周二!」
その言葉とともに、俺はDEの銃口を向ける。
対する周二は、我に帰ると同時に左手の刀を下段から斬り上げてきた。
だが、その一撃が俺に届く事はないだろう。
何故ならば———
「……させないよ!」
マキが受け止めるから、な。
受け止められた周二は、再び驚愕するのであった。
「千日手……だろ?」
「どうかな?」
そう言った周二は、右手の西洋刀剣を離し、左手の日本刀を両手持ちに構え直す。
「……沈め!」
「だから、お前はもう千日手なんだってば」
直後、周二の左右に凛音と歳那が現れ、寸分の違いも無く刀の同じ位置を両サイドから斬り付ける。
そして、離れると同時に俺の背後から飛び上がった周一が、刀を持ったまま前宙して、その勢いを利用し周二に斬り掛かる。
「「「———攻防一撃』ッ」」」
3人の重なった声が倉庫内に響き渡った後、周二はゆっくりとその場に倒れた込んだ。
「……終わった……のか」
「……みたいだ」
俺は内心ホッとしながら、DEをホルスターへと戻した。
そんな俺の元に、マキが駆け寄ってくる。
「これ、ありがとう」
「ああ。それより、さっきの大丈夫だったのか?」
「うん。紙一重で避けたから」
「じゃあ、アレ演技だったのな」
「そう言う事」
それを聞いた俺は、苦笑した。
マキは、そんな俺を不思議そうに見つめるのだった。
「いや、あの場面でも演技できるあたり、流石だなと思っただけさ」
そう言った俺は、周一の側へと向かう。
「周一……」
「……大丈夫……か?」
「俺は、取り敢えず平気」
「それより今の、どうやって一撃で仕留めたんだ?」
「人体には経絡って箇所があるんだが、そこのある一定のラインを峰打ちした」
「それが、お前の家に伝わる技か?」
「そうだ」
「すげぇな……」
俺が感嘆していると、周一が突然頭を下げて来た。
「すまない……俺が不甲斐ないがあまりに……。そもそも俺があの時……コイツを……」
そう言う周一の方を掴んだ俺は、その頭を上げさせた。
「お前が謝る事じゃ無い。それに、何時迄も過去に囚われてたって、過去には戻れないし、変えることなんて不可能なんだ。だからさ、これから先のことについて考えよう。もう、過去の事を引きずったり、謝罪したりしなくて良い」
「……ありがとう」
そう呟く周一は、瞳に涙を浮かべていた。
俺はそんな周一の肩を再び叩くと、凛音と歳那の元へと向かう。
「凛音、歳那」
俺が呼ぶと、歳那は即座にこちらを向いたが、凛音は何かを躊躇う様子だった。
「どうかしたのか?」
「その……色々迷惑掛けて……ごめん」
そういった凛音は、俯いた。
「……そうだな。お前1人で勝手にいなくなっちまったもんな」
俺の言葉に凛音は震え始めた。
俺はそれを承知の上で続ける。
「もっと、俺等の事頼ってくれよ。迷惑だなんて思わない。それが仕事だし、何より大切な仲間が困ってるのを見過ごすなんて出来ないんだから。それは歳那も同じだよね?」
俺の言葉に歳那は、コクリと頷いた。
「凛音、もっと私を頼って欲しかった。私は貴方の幼馴染みでもあり、同志でもあり、何より———大切な相方なんだから」
それを聞いた凛音は、堰き止めていた感情が溢れ出してしまったようで、歳那に抱きつき泣き始めた。
「ごめんね……ごめんね……」
「良いんだよ。こうして、凛音が無事でいてくれたのだから。ただ、次からはしっかりと相談するって約束してね? 私も困ったら凛音に正直に話すから」
「うん……絶対……約束する……」
俺はそんな2人のもとを離れ、散らばった武装の回収を始めた。
さてと、先ず俺の雷鳴は何処に……。
そう思って進もうとした瞬間に、俺の視界は大きく揺れた。
「……ッ?! シュウ君?!」
遠ざかるマキの声を最後に、俺は意識を手放した———
後書き
今回はここまで。
次回から新章です。
第22弾 少女との再会(ミッシング・リンク)
前書き
第22話です。
———鼻をつく消毒の様な匂いで目を覚ます。
俺は、どうなっていたんだ?
確か、周二と戦って……倒した後……?
「……あいつは?!」
ハッとした俺は、思わず上体を起こした。
「……落ち着いて。周一君の弟なら、周一君達が尋問科に連れて行ったから」
俺の傍に座っていたマキが、そっと答えてくれた。
「……マキ。ここは?」
「武偵病院の病室だよ。シュウ君、気を失っちゃって……」
そこまで言ったマキは、俺の胸に顔を埋めてきた。
「……良かった。また、あの時みたいな事になったから……」
「悪い……」
俺はそっと、マキの可憐な躰を抱いた。
俺よりも小さい、その守ってやらなきゃいけない……俺の守りたいと思うその人物を。
「……ごめんね。私を守るために……」
「マキが気にすることじゃ無いさ……」
俺の返答を聞いたあたりで、マキもそっと俺の背面へと腕を回した。
その細い腕は、俺を離すまいと力強く俺を押さえつける。
その際、先の戦闘で負った傷を痛めた。
「……イテッ」
「あ、ごめんね……」
マキは反射的に腕を離して、俺から距離を取る。
だが、俺はそのマキの体を抱きとめた。
「……いいさ。マキを守れた証拠だから」
俺はそう言って、彼女を抱く力を少しだけ強めるのだった。
対するマキは、ふにゅ……などと呟きながらも、再び抱き返してくるのだった。
「……あ」
俺はそんな空気をぶち壊す様な、素っ頓狂な声をあげた。
「……どうしたの?」
顔を上げたマキが訪ねて来た。
「閉会式……」
俺は本日行われる閉会式の、裏方の責任者を請け負っていた。
その閉会式はもう直行われるであろう。
だが、そんな場面に責任者である俺がいない。
「ヤベ……どうするか」
不測の事態に陥った俺は、頭を抱えた。
少なからず、今直ぐにでもここを出るのは不可能であろう。
なんせ、この怪我なのだから。
「閉会式なら、周一君が代わりに入るって……」
「マジで?」
「うん。だから、今はゆっくり休めって」
「そうか……」
俺はそう呟くと、再びベッドに横たわった。
「アイツには、いつもいろんなことで世話になってるな」
誰にとなく、俺はそう呟く。
この前の……水蜜桃の時だって、事後処理やってくれたのはなんだかんだアイツだったしな……。
「また、借りが出来ちまったな」
「そんなこと言ったら、私だってシュウ君に借りが沢山あるよ」
マキはそう言葉を返すのであった。
「そうなのか? あまりそう言うことした記憶無いけどな……。まあ、後でゆっくり考えるかな」
俺はそう言って、ベッドに横になるのだった。
マキはベッドから降りて、真横にあった椅子に腰掛けた。
俺はふと、マキに声をかけるのだった。
「マキ」
「ん、何?」
「何か、やりたい事とかあるか?」
俺の質問が予想外だったらしく、マキはキョトンとしてしまうのであった。
そのままの状態が暫く続いたが、我に帰ったマキが慌てた様子で尋ねてくるのだった。
「え、えーっと……そ、それはどう言う意味?」
「そのまんまの意味だけど」
「な、なんでそんな急に」
「その……今回と言いこの前と言い、マキに心配ばかりかけたことに対する償いかな」
俺の言葉を聞いたマキは、少しばかり考え込んでいた。
そして、口を開くのであった。
「……じゃあ今度、一緒に出掛けよう?」
マキの言葉に、俺はそっと頷いた。
「分かった。ただ、俺の体がしっかり治ってから……になるかな」
「うん。今のシュウ君は、安静だもんね」
マキはそう返してくれた。
やっぱり、優しいよな。うん。何処ぞのピンクツインテ武偵も、マキのこと見習って欲しいね。本当。
「その……何処に行きたいか、決まったら言うね」
「ああ」
俺はそう言葉を返すと、意識を手放すのだった———
翌日、退院した俺はマキに付き添われながら鑑識科を訪れていた。
「ええっと……いたいた」
周囲を見渡していた俺は、探していた人物を見つけた。
「……シュウヤか」
「何でそんな沈んでんだよ。周一」
俺が探していたのは、昨日共に『妖刀』を撃退した周一である。
「いや、少しな……」
「やっぱ気になるのか、周二のこと?」
周一は少し俯きながらこう答えた。
「まあ、な」
「たった1人の、弟だもんな」
俺の言葉に、周一は力なく頷いた。
「ま、その辺はあまり心配しなくてもいいかもな」
「……どうしてそう言い切れるんだ」
「———“勘”、だって言ったら信じるか?」
「そんな無責任な事、信じられねえよ」
その返答を聞いて俺はフッ、と笑うのだった。
「そうか。その調子なら心配無いな」
「……は?」
首を傾げる周一を他所に、俺は踵を返した。
「さて、俺はこの後用事があるからお暇させてもらうよ」
それだけ告げ、俺はマキと共に鑑識科を後にした。
さて、お仕事と行きますか———
数時間後、俺はマキと共に強襲科に居た。
病み上がりの身体をなんとかするためのトレーニングを行うためだ。
現在は射撃レーンで練習をしていた。
「……外れる」
俺はボヤきながらDEから2射目を放つ。
放たれた弾丸は、的の中心から僅かに逸れる。
「中心から3.5mm左に逸れてるよ」
「マジか……。誤差としてみればデカイな……」
マキにそう返しながら、第3射目を放つためにDEを構え直す。
そして、引き金を引く。
「着弾……っと。位置は?」
「今回はど真ん中」
「よし。今日はこの辺にしておくか」
俺はそう言って、DEをホルスターにしまった。
「このまま帰る?」
「そうだな。特に寄るところもないし」
「あ、じゃあさ———」
そう言ってマキは俺の前方へ歩いて行くと、振り返ってこういうのだった。
「この後、打ち上げ行こ?」
「え、なんの?」
「アドシアードの」
ダメ? と言った表情で、マキは答えるのだった。
「……誰が来る?」
「凛音と歳那と周一君かな」
「分かった。案内してくれ」
「うん」
そう言葉を交わすと、俺とマキは強襲科棟を後にするのだった。
そして、マキに連れられゆりかもめに乗車した。
「……これ、どこまで行くんだ?」
「豊洲かな」
「結構遠いな……」
俺はマキと共に車両に揺られながら、車窓を眺めていた。
流れゆくビルや臨海部。
ボーッとそれらを見つめていると、到着のアナウンスが入る。
「行こ」
マキにそう言われ、俺は車両を降りる。
そして、改札を潜りゆりかもめの豊洲駅近くのファミレスへと入っていくのだった。
「あ、来た来た」
店に入ると、入口から近いところの席に周一、凛音、歳那の3人が座っていた。
俺とマキは、その席へと向かう。
「遅かったね?」
「うん。ちょっと色々やっててね」
凛音の言葉に、マキがそう返す。
「シュウヤさん、怪我の方は?」
「万全じゃないが取り敢えずは大丈夫」
俺は周一の隣に座りながら歳那の問い掛けに応じる。
「というか周一がいるの、意外だな」
傍らの周一にそう言葉をかける。
「いたらダメか?」
「いんや、寧ろいた方が楽しいけどな」
「そうか」
そう言って窓の外へと視線を向けた周一。
「素直じゃないな」
軽く笑いながら、周一へと言葉をかける。
「余計なお世話だっての」
こちらを向かないまま、周一は言葉を返すのだった。
「で、えっと……何か頼んだのか?」
俺は凛音へと問い掛けた。
「うん。もう頼んであるよ」
「早すぎるだろ」
「元々何頼むか決めてたからね」
「……なるほどな」
俺は凛音の言葉に納得する。
そして暫くすると、テーブルの上に料理が運ばれて来る。
「……え、多くね?」
運ばれてくる料理の多さに俺は戸惑う。
そんな俺の目の前で、テーブルはみるみるうちに料理で埋め尽くされた。
「———ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
店員の問い掛けに歳那が頷く。
それを見た店員は、伝票をテーブルの横に挿すと『ごゆっくりどうぞ』と告げ店の奥へと消えていく。
「———さて、揃ったし始めよっか」
「お、おお……?」
得意げな表情になった凛音に、俺は戸惑いながらも返事をする。
「じゃあ、えっと、アドシアードお疲れ様!」
「……お疲れさん」
普段より若干高い位のテンションで、周一が答える。
俺はその横からこう付け加える。
「後、『妖刀』の件もだろ?」
「だね。じゃあその両方、お疲れ様でした!」
そう言って凛音は、グラスを掴み掲げる。
「「「「お疲れさん(お疲れ様)(お疲れ様でした)(お疲れ)」」」」
それに合わせて俺達もグラスを掴み同様に掲げる。
「あー……今更だけど、冗談抜きで疲れたわ……」
俺はグラスを置きながらそんな事をぼやく。
「……具体的には?」
「ん、そうだな……例えば、どっかに消えた誰かさんを探し回ったり、とんでもない奴と斬り結んだり……」
「て、それ1つ私のことじゃない!」
俺の言葉に噛みついてくる凛音。
———あ、一応自覚はしてたんですね。いや、逆か。
凛音があんなことするとしたら、まずはこっちのことを心配してからか。
「まあな。マジでお前がいなくなった時大変だったんだぞ?」
「それは……確かに悪かったとは思ってるけど……」
「ま、無事だったから良かったけど。前にも言った通り、もっと頼って欲しかったね」
「その……ごめん……」
「もう良いって。そんなことより早く食べないと……じゃない?」
俺は眼前の料理に視線を落としながら尋ねる。
「そうだね。せっかくの料理が冷めちゃもったいなもんね」
そう言って俺に同調してくれるマキ。
しかしながらその視線は……じ、ジト目?
アレ、俺なんかやりました?
なんかわからないけどすいません……。だから、その目はやめて。
「……いただきます」
「おま……腹減ってたんだな……」
「ああ」
そう言って、目の前にあったピザを取る周一。
普段からは想像がつかない光景に、俺は思わず頬が綻ぶのだった。
そんなことを思っていると、俺の頭をある1つの事柄が過ぎる。
「あ、そうだ」
「……どうかしたの?」
俺の呟きに凛音が反応を示す。
「今、俺の部屋に凛音の荷物あるけど、いつ取りに来る?」
「……え?」
「え?」
え、なに。なんでこの子『何言ってんの』みたいな顔してるの?
「あれ、私言わなかったっけ?」
「何を?」
「依頼終了後も住み込むって」
……は?
今コイツなんて言った?
「え、住み込む?」
「うん」
聞き間違いじゃなかったか……。
「いや、なんで?」
「え、荷物の移動面倒だし」
「いやそこ、面倒がらないでよ」
「いいじゃん」
「ダメ……」
俺は頭を抱えながら、凛音に言葉を返す。
「ならマキはどうなの?」
「……ッ」
痛い所を突かれた俺は反論できなかった。
「マキが住むなら、私達が住んでも大丈夫だよね?」
「私……達……?」
凛音の言葉に、俺は首を傾げる。
「私のことです」
「え、歳那……も?」
「はい。何か不都合でも?」
キョトンとした顔で首を傾げる歳那。
「いやいや、大アリだから」
「そうですか。それなら問題ありませんね」
「オイ待てぇ。人の話聞いてたか」
「ええ。ですが、シュウヤさんがそう言う時は、大抵は問題ないので」
「諦めるんだなシュウヤ」
「周一?!」
予想外の方から飛んできた言葉に、俺は大いに困惑する。
「ああなった凛音と歳那は止めようがないからな」
「他人事みたく言ってくれるな……」
「だって他人事だもん」
「周一ィ!」
「シュウ君落ち着いて」
周一に飛びかかろうとする俺であったが、いつの間にか隣にいたマキに羽交い締めにされ止められる。
「マキ離せ! 俺はこいつを1発殴らないと気が済まないんだ!」
「……シュウ君?」
捥がく俺に対して低いトーンの声で呼びかけてくるマキ。
その声を聞いた瞬間、俺の中の本能が警報を鳴らす。
ここでマキに従わないと、命が危ないと。
「……なんか、ごめん」
一瞬で闘気を削がれた俺は、全身から力という力が抜ける。
ヤベェ……久々マキのあの声聞いたわ……。
「分かってくれればいいよ」
そんなことを思う俺の傍らで、いつものトーンに戻った声でマキは言葉を返してくれる。
「でも、次はわかるよね?」
「はい……」
力なく返事する俺。
そんな俺とマキのやりとりを見ていた3人はというと———ドン引きしていらっしゃるじゃあないですか。
「ん? どうかしたの?」
「いや……2人は前に何かあったのかなぁ……って。特にシュウヤ」
「聞かないでくれ……」
俺は左手で顔を覆いながら凛音に言葉を返す。
「とりあえず、食おうぜ。冷め始めてるし」
「そうね」
周一の言葉に同調する歳那。
それに続くかのようにマキと凛音も頷く。
そんな中、俺は制服の内ポケットから1枚のカードを取り出すと凛音へと渡す。
「これ……」
「これは?」
「403号室の鍵。好きにすればいいさ」
「ありがとう!」
そう言った凛音は、歳那とハイタッチを交わす。
そこまで嬉しいの……?
「はぁー、もうヤケになるしかないわ……」
「程々にね?」
「肝に銘じております」
マキとそんなやりとりをしてから、俺は目の前のピザに手を伸ばす。
と言った具合で開幕した打ち上げは、この後4時間ほど続くのだった———
翌日、強襲科を訪れている俺。
「はぁ……参ったなぁ……」
「どうしたんですか先輩?」
そう尋ねて来るのは俺の戦妹である璃野。
「いや、昨日色々あってな」
打ち上げの後、凛音と歳那の部屋から必要なものを運んだり、今度は今度で2人の歓迎会をやったりと忙しかった。
てなわけで、やや疲れ気味な本日の俺。
それに気づいたらしい璃野がこんなことを口にする。
「先輩その……無理なお願い……しちゃいましたかね?」
「そんなことないさ」
俺は璃野の言葉を即座に否定した。
「戦妹の頼みを聞くのは戦兄の使命だからな。だから、璃野が気にすることじゃないさ」
「先輩……ありがとうございます」
満面の笑みで言葉を返す璃野。
俺はそんな彼女を見て一安心した。
「良いさ。で、今日は何するか……」
「先輩、その、よろしかったらですけど、先輩の戦闘が見てみたいです」
「俺の戦闘……?」
力強く頷く璃野。
それを見た俺は、少し考え込む。
俺の戦闘を……か。
確かに直接見て学ばせるのは悪くない。
「なるほどな……」
ただそれを行う場合、俺と同じぐらいの強さ人間でないとできないんだよな……あ、勿論今の俺と同じ強さのやつね。
そんなことを考えていると、不意に声がかけられる。
「あ、シュウ君」
「……ん、マキ?」
振り向いた先にいたのはマキ。
「どうしたんだこんなところで?」
「んっとね、さっき戦姉弟契約を交わした子を教えにね」
「戦弟……?」
俺はマキの背後へと視線を向ける。
「あ、樋熊先輩。ご無沙汰です」
「ゆ、勇輝……?」
そこにいたのは以前、俺に戦兄弟契約を申し込んできた篠田勇輝。
「お前、マキと組んだのか」
「はい。2日程前に申請を出してさっき試験で受かってきました」
「なるほどな」
「そういうこと。シュウ君は?」
「俺も似たり寄ったり……かな」
そう返した俺は、とあることを閃く。
「なあマキ」
「なに?」
「勇輝になに教えるか決まってるのか?」
「特に決めてないけど」
「じゃあさ……俺と手合わせしてくれない?」
その言葉に、マキは驚いていた。
「え、何で急に?」
「いや、璃野に戦闘を見せて欲しいって言われたんだけどさ……」
「同じレベルの人が居ない、ってこと?」
「まあ、ご名答」
後は、模擬戦なら身近なやつの方がやりやすいってのもあるけどね。
「なるほどね……。うーん、でも……」
そう呟いたマキは、勇輝へと視線を向ける。
それに気付いた勇輝は、こう言葉を返す。
「自分も、先輩方の戦いを見てみたいです」
「そっか……うん。わかった」
「ありがとう。じゃあ、移動しよう」
「だね」
俺達は、強襲科内にある闘技場へと移動する。
ガラスに覆われたそこは、闘技場の名に相応しく、地面と壁以外何も無い。
そこへ入る俺とマキ。
入ると同時に、扉が自動でロックされる。
さてと……決着が付くまでは出ることは許されないな。
俺はある程度のところまで歩くと、マキと相対する。
「久しぶりだね。こうして向き合うのは。
「だな。最後にやったのは神奈川の時か?」
「そうだね」
そう返したマキは、ホルスターからグロック17を取り出し、左右の手に1挺ずつ握る。
対する俺も、『低反動モード』にセレクターを入れたDEを左右に1挺ずつ握る。
「手抜きは無しだからな」
「勿論。シュウ君もだよ」
そう言って互いに、口角を釣り上げ、銃口を向け合う。
俺は合図を頼む為に、ガラスの向こう側へと視線を向ける。
そこには、いつの間にか集まっていた多数の生徒がいた。
「なんか見られてんなぁ……」
「私たちの戦いが気になるんじゃないかな?」
「見せ物じゃねぇんだぞ……」
ため息を吐く俺。
つーか蘭豹、なんで酒を片手に『はよ殺し合えー!』って言ってんだよ。
他の生徒を散らばらせろよ。
俺は担任に内心で悪態付きながら、璃野へこう告げる。
「璃野、開始の合図を!」
「はい! 始めてください!」
璃野の合図により始まった俺とマキの模擬戦。
俺は合図と共に右前方へと飛ぶ。
同様にマキも前方へと飛んでいた。
俺はその着地の隙を狙って左右のDEを放つ。
しかしその攻撃は読まれていたらしく、地面に手をつくと同時に腕の力のみで前宙を決め攻撃を退ける。
そしてマキは、前宙の途中でグロックを俺目掛けて放つ。
オイオイマジかよ……!
俺は敢えてバランスを崩し、今度は左前方へと体を倒す。
そして、地面から足が離れると同時に膝を折り抱え込むようにして転がる。
「シュウ君流石だね」
そう言ったマキは、拳銃を手にしたまま俺の方へと向かって来る。
対する俺は、体勢を立て直すとその場で動くことなくマキを迎撃するため、DEの引き金を引く。
銃口から放たれた50.AE弾は、真っ直ぐにマキの元へと向かっていく。
マキはと言うと、体を軸回転させながら弾幕を潜り抜ける。
その動きを見た俺は驚愕する。
「な……神回避……!」
マキが行ったのは、俺のバーストモード時に於ける技『神回避』。
まさか、俺が軽くやったのを見ただけで真似たってのか……。
「マジかよ……」
俺は苦笑しながらもDEのトリガーを引き続ける。
マキは相変わらず俺の弾を退けていく。
そしてそのまま、近接拳銃戦に持ち込まれる。
「貰った」
下段から突き出されるグロックの銃口。
俺はマキが引き金を引くのと同時に、腕ごとグロックを払い除ける。
「ぶねぇ……」
ボヤきながら俺は、DEの銃口をマキへと向け引き金を引く。
対してマキは、先ほどの俺と同様にして銃撃を退ける。
「やらせないよ」
「同じく」
言葉を交わした俺達は、向けては弾き、躱しては放つの繰り返しで、互いに一歩も引かぬ攻防を繰り広げる。
すると突然、俺のDEが空砲を放つ。
「弾切れか!」
「そこ!」
一瞬の隙を見逃さずに襲いかかって来るマキ。
俺は咄嗟の判断で両手のDEを破棄すると、マキの左右の腕を脇腹とそれぞれの腕で抱え込み、グロックを自身の後方へと向かせる。
直後、反射的に引き金を引くマキ。
数回の銃声の後、それは空砲へと変化する。
「お互い弾切れだな」
「そうだね……」
言葉を返してきたマキは、不敵な笑みを浮かべ頭を後ろへと振りかぶる。
コイツまさかヘッドバッドする気か……!
それを察知した俺は、プロレス技のスープレックスのモーションを行う。
そしてマキを地面にぶつけた瞬間、その勢いを逆手に取られ俺が巴投げの要領で投げ飛ばされる。
投げ飛ばされた俺は、受け身を織り交ぜながらその勢いを利用し、マキとの間合いを開く。
「今の返すのかよ」
「そっちこそ、何事もなかったかのように受け流すよね」
「どうだか」
言葉を紡ぎながらの俺は、ホルスターからベレッタを左右1挺ずつ抜き出し構える。
対面のマキも再装填し終えたらしく、再度グロックを構え直しこちらへと向かって来る。
俺はマキが向かって来る僅かな時間で、自身の思考を極限値まで引き上げる。
そしてやや強引に沈黙の解答者へと変化させる。
少し甘いが……いけるか?
完璧にとはいかなかったが、サイレントアンサーへと変化できた俺は、フルオートに切り替えたベレッタを掃射していく。
「……?」
俺の射撃の違和感に気付いたらしいマキは、眉を潜める。
勘付くまでが早いね。流石だよマキ。
「でも……抜けられるかな?」
誰にとなく呟きながら、俺はベレッタを放っていく。
放たれた弾丸は壁に当たり、跳ね返り後続の弾丸へと当たる。
ぶつけられた弾丸は、進行方向を下へと向け地面に跳弾する。
今度はその後ろから飛来した弾丸が、地面に跳弾した弾の脇から衝突し、進行方向を斜めに変えていく。
「まさか……」
「見ての通り、さ」
俺が今マキに行っているのは、先日周二に放った連鎖的に引き起こされる銃弾の衝突により、弾幕による包囲網を作り上げるあの技、『空間撃ち』。
「やられたみたい……」
そう言って苦笑するマキ。
だがしかし、その顔から戦意は消えていなかった。
寧ろ、強まっていた。
「でも———負けてないよ」
そう言ってマキは、左手のグロックをホルスターに仕舞うと、背面から1本の刀を抜き一剣一銃になる。
あれは……炎雨か。
直後、俺の目線の先にいるマキは、グロックを2発弾幕に打ち込むと即座に走り出す。
俺はそれによって弾かれる弾を、銃弾撃ちで弾き返す。
その数瞬の後、均衡を保っていた弾幕が崩壊し始める。
「な……」
突然のことに戦慄する俺。
そんな俺に対して、不敵な笑みを向けて来るマキ。
なるほど……な。
「……謀ったね」
「うん。シュウ君の先を読んでね」
本当……こっちの俺を逆手に取るなんて、どこまでも凄いよ。マキは。
でも、それだけじゃこの弾幕は突破できないよ。
「普通なら、あれだけの事じゃ、この弾幕は突破できないよね?」
「だな」
「でも、私にはあるよ。突破するための算段が」
マキは俺にそう告げ走り出し、再びグロックを放つ。
そして弾幕の中に道を築き上げる。
俺はマキが出て来る地点を先読みし、真正面に回ると左手のベレッタの残弾を全て撃ち出す。
「お見通し!」
『空間撃ち』による弾幕の中から出てきたマキは、左手に握った炎雨を横一文字に振りかざし、俺が新たに放った弾丸を切り裂く。
そして切り裂かれた弾丸は、別の弾丸に当たり分散していく。
これも退けるのか……。
唖然とする俺の手前、再度地面を蹴ったマキがこちらへと突っ込んでくる。
そしてマキと交錯する瞬間、俺は左右のベレッタを反射的に投げ捨てながら、マキの一撃を退け間合いを開く。
「……」
「……」
互いに無言の中、俺はマキの方へと振り向く。左手に刀を握りながら。
「……私の氷華、今の一瞬で抜き取ったんだね」
「まあ、な」
交錯した僅かな時間で、俺はマキの背面に背負っていた刀『氷華』を抜き取った。『相鋏』という、平山に伝わる技で。
この相鋏という技は、『鳶穿ち』と呼ばれる相手の内臓を抉る技を原型にした技。
本来鳶穿ちは片手で行うものだが、うちの先祖はこの技を完全に真似ることができなかったため、両手で行う相鋏という別の技として仕上げたそうな。
俺は更にその技を、相手の服の内側などのものを奪う技へと変化させ、先程のようなことを行えるようになった。
この改良版相鋏は、本来ならば俺だけの技。
そう思っていたが、どうやらそれは間違いのようだ。
「そういうマキも……だろ?」
そう告げた俺の先、振り向いたマキの右手には炎雨よりもやや長い刀が握られている。
先程の一瞬で、俺同様にマキも相鋏を行っていたらしく、俺の背面からは『霧雨』が姿を消していた。
「霧雨……抜き取ったね」
氷華を鞘から取り出しつつ、マキへと尋ねる俺。
「見ての通り」
いつの間にか鞘から抜き出していた霧雨と炎雨を構えつつそう返すマキ。
そっちが双剣なら、こっちだって。
背面に取り残されている『雷鳴』を右手で抜き、氷華と共に構える。
そして、俺は地面を蹴り勢いよく飛び出す。
今の俺は戦闘面では圧倒的に劣る。だけど、1人の刀使いとして背を向けることは出来ない。
「———『落雷』ッ!」
飛び上がった俺は、上空からマキへと斬りかかる。
「———『渓流』」
対するマキは、霧雨で雷鳴の一撃を受け止めた瞬間に刀を引き、自然な流れで俺の一撃を退ける。
「『激流』ッ!」
俺は着地と同時に逆手持ちした氷華による追撃を放つ。
「———『潮風』」
一歩下がるのではなく、逆に一歩踏み込みながら俺と同様に逆手持ちした炎雨で氷華を受け止めるマキ。
それと同時に、下段から繰り出される霧雨の斬撃。
「ヤバ……!」
俺は慌てて後方へ飛びマキの攻撃を紙一重で躱すが、追い討ちを掛けるように追撃してくるマキ。
「『摺廻』ッ!」
体勢を低くしたマキは、刀を引き摺るような動きから無数の斬撃を繰り出す。
俺はそれらを左右に握った刀でいなしていく。
「……ッ!」
目にも留まらぬ斬撃を前に、押されていく俺。
そして、俺の対処が追いつかず振りかざされた一刀が俺の眼前に迫ってくる。
直後、俺の中に流れるあの血流。
同時に、身体を後ろに傾けバク転を行いマキとの間合いを開く。
まさかこの状態にまで追い込まれるなんて……。
「……っと」
「これも抜けるんだね」
「ギリギリだけどな」
そう言葉を返しながら、再三刀を構える俺。
「そろそろ決着といこうじゃないの」
「だね」
同意してくるマキもまた、三度刀を構える。
そして、互いに走り出す。
「———『霞雨』ッ」
平行に構えた二刀を振り下ろす俺。
「———『時雨』!」
それを退けたマキは、鋏の様に上下に構えた二刀で斬りかかって来る。
俺はそこへ、霞雨の2段目である『突き』を放ち迎え撃つ。
斬り結ばれた互いの刃は、激しく火花を散らす。
「……ッ!」
「クッ……!」
反動で一歩下がる俺とマキだったが、同時に地面を蹴りぶつかり合う。
再度行われる交錯の瞬間、俺は右手の雷鳴の切っ尖を下に向け自身の前に突き出す形をとる。囮として扱うため。
それとほぼ同時に、俺の視界はマキが同じ構えなのを捉える。
「「———『八海』!」」
雷鳴を軸にして、180度回転する俺。
本来ならここで相手の背後をとれているのだが、どうやらマキも同じ技を繰り出しているらしい。
即ち今回は、直ぐに相手の真正面に出る。
その一瞬を逃さずに、俺は氷華の峰をマキの首筋へと振り、減速させながら当てる。
刀がマキの首に当たった感覚と共に、俺の首筋に冷たい感覚が伝う。
「……」
「……」
どうやらこの試合、引き分けらしい———
「まさか……俺の技をあそこまでコピってくるとはな……」
寮への帰り道。隣を歩くマキに対してそう溢す俺。
いや、相鋏だけじゃなくて神回避や八海を真似てきたのは驚きってレベルを超えてたね。
「見様見真似だけどね」
微笑みながらそう返してくるマキ。
絶対的に回したくない……。
人間関係だけじゃなくて、純粋に戦闘能力だけで敵に回したくない……。
「見様見真似であそこまでは出来ないから」
「それならシュウ君だって、時雨見せたことないのに即座に対処してきたじゃん」
「いや、それは……」
痛いところを突かれた俺が返答に困っていると、マキがこんなことを言う。
「でもね、私はシュウ君が居たからこうなれたんだよ」
「俺が……いたから?」
首を傾げる俺に対して頷くマキ。
「あの時私を助けてくれたシュウ君が居たから、あの時私に教えてくれたシュウ君が居たから、そして———今もこうして隣に居てくれるシュウ君が居るから今の私がある」
真っ直ぐと俺の顔を見ながら、そう告げてくるマキ。
そんなマキの言葉に、どことなく恥ずかしさを覚える俺。
「そ、そっか……」
「うん。だから———これからも、私の隣にいてね」
「ああ。勿論」
そう言って、互いに笑う。
「ありがとう。シュウ君」
「礼を言われることじゃないさ」
そう言って鞄を担ぎ直す俺。
ここで俺はとあることに気づく。
「あ……」
「どうしたの?」
「いや……ちょっと用事を思い出した……」
「どんな?」
「人と会う約束をね……」
俺は溜息を吐きながら、マキへと答える。
「だから、先に帰っててくれない?」
「うん。わかった」
「ごめんな」
そう言って、第3男子寮へと歩いていくマキを見送る俺。
そして、マキの姿が見えなくなったのを確認したところで、後ろへと振り返る。
「……誰だ、さっきからつけて来るのは」
そう声をかけると、街路樹の裏から出て来る人影。
その人物を見た俺は、驚愕する。
「お、お前は……理子!」
「シュー君久しぶり! 飛行機以来かな?」
現れた人物は、4月のハイジャック事件の時、俺を戦闘不能にまで追い込んだ張本人である理子。
「な、何やってんだこんなところで……」
警戒しながら、俺は理子へと問い掛ける。
「シュー君にお願いがあってね」
「お、お願い……?」
首を傾げる俺に対し、夕陽を背にした理子はこう答えた。
「理子と一緒に、泥棒しよ!」
後書き
今回はここまで。
次回も気長にお待ちください
第23弾 闇夜の誘い(クロス・レンジ)
前書き
お待たせいたしました。
第23話になります。
「理子と一緒に泥棒しよ!」
……は?
泥棒ですか?
「……泥棒?」
「うん! 泥棒」
「よし、計画犯としてしょっぴくか」
そう言って俺はブレザー内のホルスターに手を掛ける。
だが、俺を見据える理子の瞳は冷静なままであった。
なんでそんなに余裕なんだ……まさか?
「お前……司法取引してきたんだな」
俺の頭を過った1つの理由。司法取引だ。
「正解! 流石シュー君!」
そう言って嬉しそうにピョンピョンと跳ねる理子。
お前はいつからウサギになったんだ。
「さいですか。んで、下手したら死刑になりそうなことを頼むってことは———何があるんだ?」
俺の言葉に驚いた表情の理子。
そしてやや俯き口を開く。
「……そこまで見抜いてたんだね」
「伊達に探偵科Sランクはやってない」
俺の返答を聞いた理子は顔を上げて訳を話し始める。
「イ・ウーNo.2———」
「無限罪のブラドか……」
「うん……そのブラドに……御母様の形見を盗られちゃったの……」
なるほど……。
「それで俺にそいつを取り返す手伝いをしろ、と」
「当ったりー! それで、乗ってくれるの?」
普通に考えて武偵は犯罪に加担するなんてあり得ないだろう。
だがしかし、俺は困ってる人の味方だ。
「良いだろう。その計画乗ってやる」
と言うわけなので、俺は即座に首を縦に振る。
「聞いといてなんだけど、本当に良いの?」
「良いよ? 武偵法が怖くて武偵やってられるかよ」
最近の俺はどうもどこか吹っ切れてる部分があるらしく、こんなことを平然と言う。
でもな、ハッキリ言うと死刑にはなりたくないです。
え、だってまだ死にたくないもん。
「そっか……じゃあ、また連絡するねー!」
「おう」
頷いた俺は、踵を返し第3男子寮へと進んでいくのだった———
寮の自室に帰った俺は、リビングに正座させられていた。
「———で、理子ちゃんと何話してたの?」
「いや、ほんと、他愛もない世間話を」
「それであんな真剣な顔しますか?」
俺の言葉にド正論をかまして来るのは歳那。
「……えーっと、歳那さん」
「はい?」
「屋上から俺のこと監視してたのかな?」
「はい」
首を縦に振りながら答える歳那。
はい、じゃないですよちょっと。
「そこは素直に肯いたらダメだと思うよ。うん」
「それで、何話してたの?」
「いや、だから……」
「正直に」
ずいっ、と顔を寄せてくるマキ。
対する俺は大きな溜息を1つ吐き答える。
「仕事の話。次の依頼組んでくれって言われたんだ」
「ふーん?」
「何故そこまで疑う」
「1回はぐらかしたからに決まってるじゃない?」
そう答える凛音。
なんか知らんが、今の一言スゲェ刺さったんだが?
「普通に考えて、武偵が仕事話を漏らしたりはしないだろ……」
俺の言葉を聞いた3人は少し考え込んだ後、同時に口を開く。
「「「確かに」」」
「分かってもらえたようで幸いです……」
そう返した俺は立ち上がるが……正座による足の痺れが来ており、バランスを崩す。
「アウッ……」
顔面からフローリングに突っ込んだ俺は体を転がし仰向けになる。
そして、ゆっくりと目蓋を開く。
「シュウ君、大丈夫?」
「……ッ!」
心配そうにするマキの手前、反転している俺の視界には、3人の絶対領域内が見えていた。
慌てて目を閉じた俺は、マット運動の『ゆりかご』の要領で体を起こす。
「な、なんなの……?」
そんな俺の様子を見た凛音が引きながら問いかけてくる。
「なんでも……ない」
頭を抱えながら返答する俺。
そしてそのまま、自室へと向けて歩き出す。
「ちょっと、どこに行くの?」
「部屋……やることがあるから少し篭らせて……それが終わったら、夕飯作るから」
そう返した俺は、部屋に入り扉を閉める。
「はぁ……」
今の一連の流れにより疲れがどっと現れた俺は、扉に背を預けへたり込む。
なんて日だ。強襲科では見せ物にされるわ、理子の奴に窃盗……的なの手伝うことにさせられるわ、果てには見たくもない女子の下着……しかも俺が知る限り1番やばい3人。
災難だよね?
しかも最後のに至っては、俺じゃなくてキンジの専売だし。
「……っと、とりあえずやることだけやるか」
切り替えた俺は、立ち上がり机へと向かう。
「何するの?」
「とりあえず、潜入先の情報抽出したいから理子に連絡かな……」
……ん?
俺は今誰と会話してるんだ?
疑問に思った俺は首のみを動かして、声の下方向を向く。
「……ッ」
驚いた俺は無言のまま壁際まで飛び退く。
そんな俺の視線の先には、ベッドに腰をかけるマキの姿があった。
「え、ん、マキさん……? どっから入ってきた……まさか天井裏から?」
「うん」
コクリと頷くマキ。
いやだから、『うん』じゃないんですよ。
「な、何の用だ……」
「シュウ君、さっき何か隠し事してるんじゃないかなと思って、ね」
どうして俺の周りの女子というものはここまで鋭いんだか……。
「何も。さっき話したことで全部だよ」
マキに背を向けた俺は机の椅子を引き、そこに腰をかけPCを起動する。
すると、俺の背後から首元に腕が回される。
「……マキ?」
「隠さないで……教えてよ……またあの時みたいなことになったら私……」
涙ぐんだ声でそう告げてくるマキ。
「マキ……ごめんよ……」
そう返した俺は、自身の左肩に乗せられたマキの頭をそっと撫でながらこう続ける。
「でも、このことを話したらマキは俺に対して幻滅すると思う……というかある意味では自分の身が危うくなるから言いたくないんだけど……」
「言って」
「何もしない……?」
「うん」
「さっき倒れて起き上がろうとした時その……3人の下着が見えました……ッ!?」
そこまで言い切ったところで、首に回されていたマキの腕に力が込められる。
あ……待って絞まる……死んじゃう……ッ!
慌てた俺はマキの腕を軽く連打しギブアップの意思を示す。
それに応じるかの様に、マキは腕を緩める。
「ゲホッ……ゲホッ……」
噎せながら息を整える俺。
そんな俺に、マキはこう言う。
「私の涙を返して」
「マジでゴメン……でも、だからって殺そうとしないで……いや、ホントごめんなさい」
謝罪とともに反論するアレだが、既に抜き出されていたグロックを向けられたため、再度謝罪する。
「言い訳だけすると完全に不可抗力なんです……」
「本当に……?」
「本当だって……」
俺の言葉を聞いたマキは、数瞬の後グロックを下ろす。
「分かった。そういう事にしておくよ」
そう言ってホルスターにグロックを仕舞うマキ。
「よく考えると、シュウ君にそんなことする度胸ないもんね」
……ん?
なんかさり気無くディスられてない?
確かに正論だろうけどさ……まあ、理由はともあれ疑いが晴れたのは良かったとするか……。
「ねぇシュウ君」
そんなことを考えていると、再度ベッドに腰をかけたマキが声をかけてくる。
「何?」
「この前さ、やりたいことがないかって聞いてきたじゃん?」
……そういや武偵病院でそんなこと言ったような。
「それがどうかしたか?」
「もう1つ追加したいんだけど」
「構わんが……なんだ?」
「今日……一緒に寝たい」
……はい?
一緒に寝たい?
「えーっと……どういう意味ですかね」
「そのままの意味だよ……」
頬を赤く染めながらそう答えるマキ。
「同じ布団で……?」
「うん……」
マキさん……本気ですか……。
「できればご丁寧にお断りしたいのだけれど……」
「もし寝てくれるなら、さっきのこと黙っててあげるから……」
俺に抱きつき耳元で囁くマキ。
というか最近、マキとのスキンシップが多いような……。
「どう、終わった———」
なんてことを考えていると、突然部屋の扉が開かれ凛音が姿を現す。
……ていうかこのタイミング最悪じゃね……?
案の定、プルプルと震え始めた凛音は、何処からともなく取り出した刀を抜刀する。
「こっちは待ってるのに……何やってるの!」
「待て! これは———」
「問答無用!」
その台詞と共に突き出される刃の切っ尖。
慌てた俺は、マキをベッドの方は軽く投げて避難させた後、椅子ごとバランスを崩し後方に倒れることによって攻撃を退ける。
だが、安堵したのも束の間。直ぐに刃が真下に向かって振り下ろされる。
「ヤバッ……!」
急いで俺は首元の緩めていたTNK繊維製のネクタイを外すと、両手で張り刃を受け止める。
あ、危ねぇ……。
「凛音、一旦話を聞いてくれ……」
刃を押し返しながらそう言葉をかけてみるが、応答は無い。
「———凛音、シュウ君は悪くないよ」
そんな中で打開策を考えていると、マキが凛音に言葉をかける。
「え、でも……」
「今のは私からした事だから、シュウ君を責めないで……」
にそ、そう……マキがそう言うなら……」
マキにそう返した凛音は、刀を鞘に収める。
……なんでマキの言葉には耳を貸すんですかね?
「日頃の行いが悪いからでしょ?」
「やっぱり酷いよね?」
半泣きで反論した俺は立ち上がる。
「夕飯半分にしてやる……」
「え、それだけはやめて?!」
大人気ない俺と、その一言が衝撃だった凛音。
まあ、もう慣れてるかな……この日常に。
そう思った俺は、台所へと向かうのだった———
翌日、横浜駅に降り立った俺。
昨晩理子にメールしたところ、今日紅鳴館に潜入してほしいと言われたためこうして横浜へと足を運んでいた。
「完全に寝不足だ……」
重い目蓋を擦りながらボヤく俺。
完璧な余談だが、結局昨晩はマキさんの有言実行によりマキさんと同じ布団で寝ました。はい。
お陰で一睡もできなくてご覧の有り様。
対するマキさんは熟睡してたね。
「さてと……サクッと終わらせますか」
俺は駅を出てまっすぐと目的の場所である紅鳴館を目指す。
そして駅を出て数十分後、紅鳴館に辿り着く。
「と、遠い……」
荒くなった息を整えながら、館の視察をする。
……なんか、不気味なんだけど。
とりあえずどっからか侵入できないか調べてみますかね……。
ぐるっと敷地の外から屋敷を一周してみると……なんでか床下にダクトがついてる箇所を発見。
俺は塀を飛び越えるとそのダクトの蓋を外す。
「……いけるな」
呟いた俺は、ダクトの中へと忍び込む。
そして、屋敷の廊下へと顔を出す。
人の気配は……無いな。
確信した俺は、今度は天井裏へと忍び込む。
「さーてと、こっからは……見取りのお仕事だよ」
口角を吊り上げ不敵な笑みを浮かべる俺。
……冷静に考えるとヤバい奴だな、今の俺。
そんな思考を遮った俺は、館内を隈なく探る。
ここがこうで……こうなると。で、カメラや階段の位置はこう……と。
見取り図をその場で書き終えた俺は、来た道を戻り紅鳴館の外に出る。
「……っと。理子に事後報告だけして行くか」
そう呟いた俺は、携帯電話を取り出しながら横浜駅へ向けて歩き始める。
「理子の奴の番号は……と、あったあった」
理子の番号を見つけた俺は理子に電話をかける。
すると3コール後、応答する。
『やっほーシュー君! どうかしたのかな? あ、もしかして理子へのラブコール?』
「んな訳あるか。調査終了の報告だ」
『ちぇ〜、そっちの方か』
そっちじゃなきゃどっちがあるんだよ……。
『それで、どうだった?』
「館内は至ってシンプルな西洋建築だったよ。一部を除いて」
『一部を除いて?』
先程とは打って変わり、ハイジャックの時と同じシリアスな口調へと変わった理子がそう尋ねてくる。
「ああ、地下室だけ妙にハイテクだった。なんせ、暗証番号機能付きの自動扉を採用してるんだぜ?」
『つまりは———』
「保管庫も兼ねた部屋ってことさ」
俺は推理による結論を理子に告げる。
『内部情報は?』
「生憎だが……今日はそこに入るための道具を持ってなくてな。その代わりに、部屋の内部情報のスキャンはした。今日帰った後、纏め直して送るつもりだが……。それで足りるか?」
『もちろん。アタシを誰だと思ってるの?』
「おっと、そうでしたね。『武偵殺し』さん」
やや皮肉まじりでそう返す俺。
「じゃあ、そういうことだから」
『あ、この後マッキーとデートなんだっけ?』
電話を切ろうとしたら、普段のトーンに戻った理子がそんなことを言ってきた。
……ん、ちょっと待て。
「お前何で出かけることを知ってる。後言っとくが、デートじゃないぞ」
『理子はなんでもお見通しだよー』
こいつ……。
「はぁ……もうなんでもいいや。ところで、今思い出したんだが……報酬の件を聞いてなかったんだが」
「おっと、そうだったね」と呟いた後、理子は切り出す。
『じゃあ、理子の知るシュー君の親しい人に逢わせたげる』
「……誰だよそれ」
『———従姉弟、って言えばわかるかな?』
「……ッ?!」
理子の言葉に、思わず携帯を落としそうになる俺。
「その話マジか?」
『理子は嘘つかないよ?』
……確かに。理子は人の事を茶化したりはするが嘘を付いた試しがない。
「分かった。信じる。それで、日時とかは?」
『この件が片付いてからだね〜』
「了解。また何かあったら言ってくれ」
『うん。シュー君もマッキーと楽しんできてね!』
一言余計だろ……と、内心でボヤいた俺は通話を終了する。
「しかし……なんで理子が……」
そこまで考えたところで、俺はその思考を遮る。
今はこのことを考える必要はない。当人に会えるなら、そこで聞けばいい。
そう自身に言い聞かせた俺は、横浜駅へと向かう。
来た道を歩く事数十分後、横浜駅に着くと見慣れた姿を見つける。
すると、向こうもこちらに気づいたらしく駆け寄ってくる。
「お待たせ」
「私も今来た所だよ」
微笑みながらそう答えるマキ。
どうでもいいけど、今の俺達は普段の武偵高の制服ではなく私服である。勿論、防弾繊維製のな。
俺は黒の半袖パーカーにジーパン。
マキが白地のワンポイントTシャツにベージュのカーディガンを羽織り、デニム生地のショートパンツと言った格好である。
「しかし……本当に横浜で良かったのか?」
「うん。前々から行きたかった所もあるからね」
なるほど、と納得した俺は頷く。
「因みに最初はどこから行くつもりだ?」
「とりあえず海沿いからかなぁ」
「了解」
そう返した後、俺とマキは歩き出す。
そんなこんなで汽車道を通り最初に訪れたのは、かの有名な赤レンガ倉庫。
「デカいな」
「そうだね。中入ってみよ?」
小学生並みの感想を述べる俺と、それに同意してくれるマキ。
そんな俺達は、赤レンガ倉庫の中に入り30分程ウィンドショッピングを楽しむ。
そして赤レンガ倉庫を出た後、みなとみらい線に乗り元町・中華街駅へと向かう。
「平日なのに割と混んでるな」
地下の駅舎から地上に出た俺の第一声はそれであった。
今更だけど、もっとマシな言葉なかったのかな俺……。
「みたいだね。ところで、何食べる?」
「うーん……見ながら考えたい」
「そっか。じゃあ、いこ」
マキと共に歩き出す俺は、人混みの中へと歩いていく。
その後、横浜中華街を満喫した俺達はランドマークタワーへと向かう。
「色々回ったけど、〆はここか?」
「うん。展望台から夜景が見たくてね」
気恥ずかしそうに笑いながら、そう答えるマキ。
その様子に、つられて俺も微笑む。
そんな調子で69階の展望台へと上がる俺達。
そこで目にしたのは、ライトアップされたパシフィコ横浜と海を挟んで奥にある首都高の橋をメインとした夜景であった。
「綺麗……」
「ああ……」
互いに窓の向こう側に広がる景色に目を奪われたまま、言葉を交わす。
そんな人間の営みによって生まれた景色は平和の証でもあることを、俺に教えてくれる。
「……守らないとな」
「シュウ君?」
「こうしてある景色を守るためにも……『平和』ってものを守らないとな、と思ってね」
「そうだね。それが、私達の仕事だもんね」
「ああ……」
画して新たな覚悟を刻んだ俺……いや、俺達はランドマークタワーを後にし、帰寮するのであった。
因みに完全な余談となるのだが、翌日は武偵高では中間テストと体力テストが行われ、その際俺は範囲の勉強をしていなかったために考査の方は歴代最低点数を叩き出すこととなってしまうのだが、それはまた別のお話———
横浜へ行った数日後、教室に居る俺はノートPCと睨めっこしていた。
本日より2日前に起こった保健室を『コーカサスハクギンオオカミ』が襲撃してきた事件の調査をしていたからだ。しかし……何もわからん。
「コーカサスハクギンオオカミの生態系を調べたところで分かることもなし……投げたくなってきた」
PCを閉じながらボヤく俺。
とりあえずあいつのところにでも行ってみるかな……。
そんなことを考えていると、俺の元にレキがやってくる。
「……どうかしたのか?」
「今日の1900に狙撃科棟の屋上に来てください———ライフル持参で」
なるほど……先日の宣言を実行する気か。
「……了解だ」
頷いた俺は、そのままレキの横を通り過ぎ教室を後にする。
そしてそのまま、情報科棟へと赴く。
「由宇、いるか?」
一室の扉を開き覗き込む俺。
すると、それに呼応するかのように由宇が振り向く。
「あ、来た」
「待たせた……って、こっちは誰?」
首を傾げる俺は自身の視線の先———即ち由宇の傍らに立つ銀髪色白の少女について問いかける。
どっかで見た様な……。
「パリ武偵高から来たジャンヌだよ」
「ジャンヌ……ああ、思い出した。『魔剣」か。尋問科で綴に虐められてた」
俺の言葉を聞いたジャンヌは、苦虫を噛み潰したような顔をした後、咳払いを1つする。
「……ということだ。表向きは、な」
「司法取引ね……というか、由宇もわざとああやって紹介したよね?」
「あ、バレた?」
「バレバレだよ……っと、なんでジャンヌはここに?」
うむ、と言ったジャンヌはこう答える。
「彼女が先日現れたコーカサスハクギンオオカミの事について追っていると聞いてな」
「……何か知ってるのか?」
俺の問いかけに頷くジャンヌ。
「あのオオカミはブラドの下僕と見るのが妥当だ」
「なんだと……!」
「奴らは世界各地にいて、命令無しに直感頼りの遊撃ができる」
「めちゃくちゃ優秀じゃねぇか、オイ」
「誰かさんとは大違いだね」
「なんで俺を見ながら言う」
俺を皆がそんなことを告げる由宇と、それに反論する俺。
確かに指示待ち人間な自信はあるけどさ……これでも昔よりマシにはなってるんだぜ……?
「……とまあ、情報がもらえただけでも有意義だ。ジャンヌ、ありがとな」
思考を遮った俺は、ジャンヌに礼を言い部屋を去ろうとした。
すると、ジャンヌに呼び止められる。
「ああ、それともう1つ」
「……なんだ?」
「お前にだけ伝えるが———『リーパー』が入国した」
「……ッ?!」
リーパー……だと……ッ!
「あいつが……か?」
「そうだ」
「……ありがとよ、ジャンヌ。お陰で次の目的が見つかったよ」
それだけ言い残して、今度こそ部屋を後にする。
そして、第3男子寮に帰寮する。
「ただいま……」
玄関の扉を閉めながらそう言葉を飛ばすが、中から返事はない。
……ああ、そっか。
凛音と歳那は、実家に呼ばれて戻ったんだった。
マキは……今日は遅くなるとか言ってたか。
「久々1人か……」
そんなことをボヤきながら自室に入っていく俺。
そして、クローゼットからケースを取り出して開き、中にあるパーツを組み上げていく。
「メンテは欠かさずにやってるから……いけるよな」
組み上がった武器———M110Aを見ながら呟く。
この前1発だけ撃ったが……狙撃手のブランクは長い。
「今は……やれることをやるだけ……だな」
自身にそう言い聞かせた俺は、来るべき時刻に向け準備を進め18時半頃、寮を出た。
M110を担いだ俺は人目の付かないところを通りながら狙撃科棟へと向かう。
そして、約束の時刻である19時ジャストに狙撃科棟屋上に到着する。
するとそこには、レキの他に大型の白狼……先日の襲撃犯とみられるコーカサスハクギンオオカミと担任である蘭豹、そして狙撃科の担当教師である南郷がいた。
「樋熊、少し遅いで」
「すいません。それより、これはどういうことなんですか?」
「なんや、何も聞いとらんのか……と、その前に」
何かを言いかけたところで白狼が唸り声を上げ、それに反応した蘭豹は俺の背後へと視線を向ける。
同様に南郷もそちらへと視線を向けていた。
それに続くようにして、俺もそちらを向く。
「誰や、そこにいるのは。大人しく出てきたら懲罰は不問にしたるで」
蘭豹の言葉の後、物陰から姿を現したのは———マキであった。
「……マキ」
「樋熊、お前尾行に対しての感覚が鈍っとらんか?」
「滅相もございません……と、マキは何してるんだ?」
蘭豹の言葉に頷いた俺は、マキへと問い掛ける。
「帰ろうとしたら怪しい動きをしているシュウ君が見えたから」
「……そうですか」
落ち度が完全に俺にあったことを悟った俺は蘭豹の方へと向き直る。
「それで、今回はなんなんですか」
改まって聞き返した俺に対して、蘭豹はこう返す。
「決まっとる。お前のランク考査や」
ランク……考査?
「南郷先生がいらっしゃるということは……」
「そや。狙撃科や」
「試験内容は?」
俺の質問に南郷が口を開く。
「今から———レキと戦ってもらう」
その言葉の後、初夏を匂わせる夜風が俺とレキの間を駆け抜けた。
まるで、嵐の前の静けさ、と言わんばかりに。
後書き
今回はここまで。
次回も気長にお待ち下さい。