戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~


 

風鳴姉弟のサプライズ(天羽奏誕生日記念)

 
前書き
遡ること7月の初め頃。シンフォギアにどハマりし、それからYouTubeの公式配信をマラソンし、適合率が一気に高まった結果、このフォニックゲインをどうにか解放しなくてはという事で書き始めました。
自分でも言ってる事、全然分かりません!

そして遡ること3時間ほど前。諸事情あってハーメルンから引っ越した私は、ここで再スタートする事にしました。
最初に投稿するのが、本来は奏さんの誕生日当日に更新したエピソードだとは……。私は悲しい。

それでは心機一転、新天地での最初の作品としてよろしくお願いします! 

 
「もしもし、姉さん?こっちは準備終わったところだけど」
 翔はスマホを片手に、テーブルの上に最後のひと皿を並べた。
 会場の飾り付けは既に完了。料理もクロッシュを被せ、いつでも主役が来ていいように準備出来ている。
 7月28日、今日は特別な日だ。翔は姉の翼と2人で、サプライズパーティーを企画していた。
 翔が部屋を飾り付け、腕によりを掛けて料理を用意する。
 一方、翼の役割はプレゼントの購入。そして、主役を迎えに行くことだった。
 
 しかし、やはりというかテンプレというか、翼はプレゼント選びで悩み続けていた。
「うーむ……あれがいいだろうか?いや、しかしこちらも……」
『常在戦場を口癖にしてるトップアーティストが、そんな優柔不断でどうするの?』
「そっ、それとこれとは別だ!」
 現在、翼は都内のアクセサリーショップにいた。
 プレゼントには何がいいか。考えた結果、お揃いのアクセサリーを贈る事に決めた翼だったのだが、どれを贈ればいいのかで迷うこと2時間近く。一向に決まらないのだった。
 ペンダント?いや、常に首から下げてるな……。
 ブレスレット?確かに良さそうだが、調べてみたところ贈り物としては意味が重い……。
「さて、どうしたものか……ん?」
 迷い続けた末、店の片隅まで来ていた翼の目にあるものが飛び込んで来る。
 それは、左右ワンセットのイヤリングだった。
 銀色の羽の形をした枠を持つイヤリングには、それぞれオレンジと青の石が嵌め込まれている。
 見た瞬間、翼は「これだ!」と確信した。
 レジへと向かい、イヤリングを包装してもらった翼はそのまま店の外へと出る。
 晩夏の日差しが青空から降り注ぎ、街をギラギラと照らす。
 夏空を見上げながら、翼は翔に連絡する。
「翔、決まったぞ!」
『おお、それじゃあ後は……』
「ああ。奏を迎えに行くだけだ!」
 
 ∮
 
「おいおい、いきなり呼び出したかと思ったら目隠しだなんて、一体どういう事なんだ?」
「いいからいいから。あ、段差あるから足元気を付けてね?」
 姉さんが奏さんを連れて、玄関からやって来る。
 パーティークラッカーを手に待機していると、間もなく二人がやって来た。
 アイマスクで目隠しされた奏さんをエスコートして来た姉さんに、そっとクラッカーを渡す。
 姉さんとアイコンタクトを取ると、足音を忍ばせて距離を置き、クラッカーを構える。
「奏、もう外していいよ」
「わかった。それで、これは何の……」
 奏さんがアイマスクを外した瞬間、パーティークラッカーの栓を引き抜く。
 軽い破裂音と共に紙テープが宙を舞った。
「奏、お誕生日おめでとう!」
「奏さん、ハッピーバースデー!」
 姉さんと僕にそう言われ、奏さんは目を丸くした。
「へ?……あ、そっか!今日、あたしの誕生日だ!何ですっかり忘れてたんだろ……」
「いいから、ほら座って!」
 姉さんに促され、奏さんが席に着く。
 多分、最近任務と訓練、それにツヴァイウイングのライブもあったし、自分の誕生日にまで気が回らなかったんだろう。
 祝ってくれる家族がもう居ないのも、要因の一つなのかもしれない……。
「本当は二課の皆で祝いたかったんだけど、忙しいらしくて……」
「はは、いいよ。翼と翔が祝ってくれるなら、それだけであたしは満足だ」
 奏さんが嬉しそうに笑う。その笑顔はとても幸せそうで、姉さんは少し照れ臭そうだった。
「来年は緒川さんと叔父さん、了子さん、藤尭さんや友里さん達も皆で祝おうって約束しました。今日は僕達姉弟だけですが、思いっきりもてなしますよ!」
 クロッシュを取ると、昨日の晩から仕込んでいた料理の数々が湯気を上げる。
 特に唐揚げはタレに使う調味料から拘り抜いて完成させた逸品だ。二人共、きっと美味しく食べてくれると思う。
 ちなみにケーキは冷蔵庫の中。奏さんはよく食べるので、サイズが大きいのを選んで買って来た。余る心配などしていない。
「それではこれより、天羽奏さんの誕生日パーティーを始めます!乾杯!」
「「かんぱ~い!」」
 
 それから僕達は、日が暮れるまで笑い合った。
 奏さんが唐揚げをどんどん頬張り、「翔、また腕を上げたな!」って言ってくれた時は嬉しかったし、ローソクの火を吹き消した後、姉さんがケーキを寸分違わぬ大きさにキッチリとカットした時は奏さん共々驚いた。
 それから、姉さんからのプレゼントを空けた奏さんは、今日一番嬉しそうだった。
 誕生日にプレゼントを貰ったのは、おそらく久し振りだったと思う。
 小さな青い石が嵌め込まれた、片翼のイヤリング。
 奏さんがそれを手に取ると、姉さんはもう片方のイヤリングを見せた。
 姉さんのはオレンジ色の石が嵌め込まれた、奏さんにあげたものと左右対称のイヤリングだった。
 左右対称で片翼、その上姉さんと奏さんの色だなんて、お誂え向き過ぎるデザインだ。二人の為に用意されていたと言っても過言じゃないだろう。
「奏さん、贈り物のイヤリングがどんな意味が知ってます?」
「いや?どんな意味があるんだ?」
 奏さんが首を傾げる。まあ、予想通りの反応だ。奏さんは普段の性格から見て、その辺りに詳しいタイプではないだろう。
「いつでも自分の存在を感じてもらいたい、という意味があるそうですよ」
「なっ!?こら、翔!余計な事言わない!」
「なるほどな~。つまり、これを付けていればあたしらはいつでも一緒、って事か」
「かっ、奏まで!」
「ホンット、姉さんは奏さんの事大好きだよね」
 僕からの一言で、姉さんはあっという間に真っ赤になって縮こまった。
 まったく。そういう所が可愛いんだから……。
「ありがとな、翼。このイヤリング、大事にするよ」
 そう言うと奏さんは、貰ったばかりのイヤリングを左耳に付け、姉さんを抱き締めた。
 思えばこの二人、よく抱き合ってるイメージがある。
 微笑ましいというかなんというか……お互い、喪ってしまったものと得られなかったものがちょうど重なってるんだろうなぁ、と。
 だからこの二人はこれくらいの距離で、お互いに依存する事で心を保っている。
 僕の勝手な推察だけど、あながち間違っても居ないんじゃないかなぁ。
「あたしも、翼の事は大好きだぞ♪︎」
「うう……もう……」
 あ、これ邪魔しちゃいけないやつだ。
 ここは空気を読んで、暫く二人っきりにしてあげよう。
 そう思って移動しようとした時、思いっきり肩を掴まれて引っ張られた。
「おおおおおおお!?」
「もちろん、翔の事もな!」
「かっ、奏さん!?」
「ちょっと、奏!?」
 何事かと困惑する間もなく、肩に腕を回されたかと思えば、姉さん共々揃って奏さんに抱き締められる。
 フランクで男勝りな奏さんらしい感情表現だなと思う反面、とても恥ずかしいのだが、奏さんは離してくれる気がしない。
 姉さんに至ってはキャパシティーがギリギリらしく、そろそろ顔から湯気が出てくるのではないかと思うくらい真っ赤になっている。うん、可愛い。うちの姉さん今日一番可愛い。
「翼、翔……二人に出会えて、本当によかった……。これからもよろしくな?」
 ──顔は見えなかったけど、その時、奏さんの声はとても静かで。何処か安心したような、慈しみに溢れていた。
 
 この後、仕事が終わって戻ってきた緒川さんにこの状況を見られ、そのまま写真に収められてしまったのは別の話だ。
 その写真は今でも、姉さんと俺の机の上で、それぞれ写真立てに飾られている。
 俺と姉さん、そしてもう一人の姉とも呼べる人が、共に過ごした最後の誕生祝いの思い出として……。 
 

 
後書き
奏さん、XDだとめっちゃ当たって驚いてます。
初めてのガチャで出たエクスドライブは現在2凸、ソルブライト3枚、双星もいます。
あの人にはずっと、両翼揃って歌い続けていてほしかった……。
「生きるのを諦めるな!」はXVまで見ても色褪せない名言ですよね。
感想、お気に入り登録、よろしくお願いします!
 

 

はじまりは何気なく

 
前書き
今回はハーメルン時代、あやひーさん結婚記念回として書いたクリスの幼少期エピソード。
クリス、そして彼女の王子様となるオリキャラの「はじまり」をどうかご覧あれ! 

 
 今でもあの日を、僕は鮮明に思い出す。
 それは、約束の日。幼き日の遠い記憶の中。
 僕が今の僕を目指したスタート地点。そんな、とある日曜日のお話。
 
「ジュンく~ん、これどうするの?」
 
 集めたシロツメクサを束ねながら、彼女がそう聞いてくる。
 日曜日のお昼下がり、公園の端っこにあるクローバーの密集地帯。
 青空を彩る柔らかな陽射しが照らす中で、小さな2人が遊んでいた。
 1人は金髪をショートにした碧眼で、大人しそうな顔つきをした男の子。小さい頃の僕だ。
 もう1人は銀髪を後頭部でツインテールにまとめた、お人形のような可愛らしさを振りまく女の子。クリスちゃんだ。
 バイオリン奏者のお父さんと、声楽家で外国人のお母さんの間に生まれたクリスちゃんは、ピアニストの父さんと、声楽教師の母さんを持つ僕の家とは、家族ぐるみで仲が良かった。
 今日もこうして、公園でシロツメクサの冠を作って遊んでいる。
 
「そこはね、ここをこうして……」
「わぁ、すご~い!」
 
 本当に、僕はあの頃から彼女が好きだったんだろう。
 だって、彼女が喜ぶ顔が見たくて、次に会える日までにって母さんと何度も練習して、コツを覚えたんだから。
 出来上がったシロツメクサの冠を、クリスちゃんの頭にのせる。
 クリスちゃんは大喜びで、その大きな目を輝かせた。
 
「クリスちゃん、まるでおひめさまみたい」
「本当!?あたし、おひめさま?」
「うん。とってもにあってるよ」
 
 シロツメクサの冠を頭に、くるりと回って見せる彼女に微笑みながら、僕はそう答えた。
 するとクリスちゃんは、何か思いついたような顔でもう一度座り、自分が作っていたシロツメクサの冠を手に取ると、再びその茎を編み始める。
 
「できた!」
 
 やがて、クリスちゃんの冠も完成した。
 僕が作ったものに比べて、少し形が崩れてはいるけれど、彼女が一生懸命作ったのはよく伝わってきていた。
 
「はい、ジュンくん。これあげる!」
「これ、ボクに?」
「うん!ほら、これでおそろい!」
 
 そう言って立ち上がった彼女は、僕の頭にそれをのせた。
 雪のような銀髪を春風になびかせ、その小さな顔に満面の笑みを浮かべながら。
 
「あたしがおひめさまだから、ジュンくんはおーじさま!」
「おうじさま?ボクが、クリスちゃんの?」
「うん!だってジュンくん、とってもおーじさまっぽいんだもん!」
「ボクが、おうじさま……。うん、それならボク、クリスちゃんのおうじさまになる!」
 
 あの頃の僕らは幼かったから、この言葉にも特に深い意味はなかった。
 でも、この時の言葉がこの後、僕に大きな影響を与えることになるなんて、この頃の僕は知る由もなかった。
 それはきっと、彼女も同じだったと思う。もっとも、それを知ったのはかなり後になってからだったんだけど。
 
「クリスちゃん、手を出して」
「え?」
 
 クリスちゃんの指に、余ったシロツメクサで作った指輪をはめる。
 母さんから作り方を教わった時に、相手の左手の薬指にはめるのが決まりだって聞いてたから、その意味を知らなかった僕は迷わずクリスちゃんの左手の薬指に、その指輪をはめた。
 
「わあ……」
「やくそく。おおきくなったらボク、ほんもののおうじさまになる。そして、クリスちゃんをむかえにいくよ!」
「ほんとう!?じゃあ、やくそくね!あたしもおおきくなるまでに、もっときれーになってまってるから!」
 
 ゆびきりげんまん、交わした約束。
 子ども同士の何気ない、ただの無邪気さの表れだったはずのそれは……いつか、僕と彼女の心を繋ぎ止める支えになった。
 
 どれだけ離れていても、どれだけ挫けそうでも。
 寝ても冷めても忘れられなくても、心の片隅に忘れていても。
 
「幸運」と「約束」の花が飾る記憶は、「復讐」に駆られて引き金に指をかける彼女の胸にもきっと、僕の存在を強く刻み込んでいる。 
 

 
後書き
シロツメクサの指輪って定番ネタだけど、シロツメクサの花言葉までは知ってる人分かれる気がする。
「幸運」「約束」「復讐」、そして「私を思って」の4つ。
ここに四つ葉のクローバーを加えると、「希望」「信仰」「愛情」「幸福」の意味が加わります。
そして指輪も当然、はめる指によって意味が変わりますし、左右でも意味が変わります。
左手の薬指の指輪、その本来の意味は……おっと、これは改めて調べてもらえばなと。

それではまた、次の更新で会いましょう。 

 

掴めなかった手

 
前書き
始まりました、第一話!
時系列的には原作一話の翌日。原作二話後半の裏側になります。
オリ主、翔くんの物語はここから始まる!それではどうぞ! 

 
 今でもふと、その表情が浮かぶ度に悔しさが込上げる。
 己が無力を痛感し、あの日の自分を呪っては唇を噛み締める。
 どうして俺は、自分を奮い立たせられなかったのだろうか……。思い返す度にやり場のない怒りが身体を駆け巡り、握った掌に篭っていく。
 あの娘はずっと我慢していた。怒っていい筈だし、泣いていい筈だった。でも彼女は最後まで、人前で泣くこともなければ怒りをぶつける事もなく、ただ哀しげな目で俯いているだけだった。
 ただ一度だけ言葉を交わした時も、強がって笑っているだけの彼女を見た時は、胸が締め付けられる感覚があった。
 何故、彼女ばかりがあんな目に遭わなくてはならなかったのか。
 何故、俺は彼女の前に飛び出して、あの教室の百鬼夜行共を一喝してやれなかったのか。
 何故俺は、彼女の手を取る事が出来なかったのか……。
 後悔がぐるぐると渦を巻き、喉を通して溢れ出しそうになりながら、空を見上げる。
 西の空には沈みかけた夕陽。綺麗に輝いてこそいるものの、夜の帳に覆われて、今にも消えそうなところがあの日の彼女にそっくりだ。あの日の放課後の窓も、この空と同じ色に染っていた。
 あの娘は今、何処で何をしているのだろうか。
 今の彼女は心の底から、笑顔で暮らしているのだろうか。
 もしも、またあの娘に会えるのなら……俺は──
 
 ∮
 
 午前中の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
 教科書と筆箱を学生鞄へと片付け、学食へと向かおうと席を立つと、あいつは予想通りの時間ぴったりにやって来た。
「翔~!いるよね?」
「ああ。すぐ行く」
 手を振りながら教室に顔を覗かせる親友に応え、財布の中身を確認しながら教室を出る。
 いつも人懐っこそうに笑っているこいつは、この学院で最初にできた友達の爽々波純(さざなみじゅん)
 なんでも両親のどっちかがイギリス人だとかで、くせっ毛一つ見当たらない金髪はもちろん地毛。海の底みたいな紺碧の瞳に整った顔立ちに、黒縁の眼鏡が大人びた雰囲気を醸し出している。全体的に見てイケメン、いわゆる王子様系男子。
 クラスは違うけど、同じ寮で同室を割り当てられた事で知り合ってから、こうしてよく一緒に行動するようになった。今では一番の親友だ。
「今日のお昼はどうする?」
「食堂で日替わり。お前は?」
「奇遇だね。僕も同じものを頼もうと思ってたんだ」
 廊下を歩きながらのたわいもない歓談。昼餉の匂いに眼を開き、腹の虫が嘶きおる。
「授業終わったら、CDショップにでも寄るのかい?」
「当然だろ?姉貴の新曲だ。弟として、親父に代わり買いに向かう義務がある」
 俺の姉、風鳴翼(かざなりつばさ)はこの学び舎の姉妹校、私立リディアン音楽院高等部の三年生。この日本を代表する歌姫で、俺にとってはある一点を除けば自慢の姉だ。
 そして、そんな俺の名前は風鳴翔(かざなりしょう)。私立アイオニアン音楽院、高等部一年。一通りの楽器は演奏できるのが特技で、得意楽器はピアノとバイオリン。あと三味線。三味線だけ和楽器なのは、多分姉さんの影響が強いからだな。
「……お父さん、お姉さんとはまだ……」
「まったく……ホンット、あのバカ親父は……。いや、この話はよそう。飯が不味くなる」
「ごめん……」
「気にするな……」
 実は、俺の父さんと姉さんはある事情から仲が悪い。我が家の複雑な家庭事情が理由なんだが……正直言って、あまり考えたくはない。
 話題を転換しようとして、俺は昨日のニュースを思い出した。
「そういや、昨日もノイズが出たらしい。お前も帰りは気をつけろよ?」
「うん、気をつけるよ。翔の方こそ、気をつけなよ?現場はいつものCDショップの近くだったんでしょ?」
「ああ。いざとなったら、叔父さん直伝の体術で逃げ切ってやるさ」
 〈認定特異災害ノイズ〉。13年前の国連総会にて認定された特異災害の総称。
 人間のみを襲い、炭素の塊へと分解してしまう謎の怪物。ただ人間を襲うのみであり、意思疎通は不可能。
 通常の物理法則を超えた存在で、あらゆる既存兵器が殆ど意味を成さず、有用な攻撃手段は存在しない……と、表向きはそういう事になっている。
 国連総会での災害認定後、 民間の調査会社がリサーチしたところノイズの発生率は、東京都心の人口密度や治安状況、経済事情をベースに考えた場合、 <そこに暮らす住民が、一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回る> ……と試算されたことがあり、一般認識ではそういう事になっている。
 しかしここ最近、ノイズの発生件数は増えているのだ。特に姉妹校である、リディアン音楽院を中心に……。果たしてそれが何を意味するのか──
「うわ、並んでるね」
 気が付けば、既に食堂の前だった。カウンターを見ればかなり並んでいるように見受けられる。
「えーっと、今日の日替わり定食は……おばちゃんの特性トンカツ定食!?」
「しまった!姉貴の新作の事ばっかり頭にあって、メニュー確認を怠ったばかりに……不覚!」
「ま、まだ大丈夫だよ!ほら、並べばまだ間に合うかも!」
 慌てて列の最後尾に並ぶ。幸い、何とかギリギリ確保する事は出来たものの……残った定食は一人分だった。
「翔が取りなよ。僕は別のメニューにするからさ」
「しかし、遅れたのは俺の責任だ……」
「気にする事無いさ。ほら、早く取らないと冷めちゃうよ?」
「ううむ、面目ない……。しかし、それでは俺の気が済まない。トンカツの半分を譲渡しよう」
「じゃあ、さば味噌定食にしようかな」
 それぞれの昼食を受け取り、窓際の席に向かい合って座る。
 窓の外に広がる青空から差し込む暖かな陽射しに照らされながら、俺達二人は箸を進め始めた。
 
 ∮
 
 時折、彼はとても遠い目をする。
 それは空を見上げている時だけじゃなくて、何やら物思いに耽っている事が多い彼はいつもそういう目をしているのだ。
 放課後、誰もいない教室を見つめている事もある。
 特に見上げているのが夕焼けの時は、より一層……何処か悲哀を漂わせる顔になる。
 日本を代表するトップアイドルの弟というだけあって、その瞬間の彼は何処か絵になるんだけれど、普段は見せない陰が垣間見える。
 何故そんな顔をするのか。知り合ってしばらく経った頃に聞いてみたことがある。
 答えは一言、「なんでもない」とだけ。
 家の事情なんかは、お互い自己紹介をした際に言ってくれたんだけど……どうやら、その件は彼が抱え込んでいたい話題らしい。
 でも、僕はあの目を知っている。あれは間違いなく、深い後悔を抱いている人間の目だ。
 掴めなかった手を思い出しては、自責の念に苛まれる人間の表情だ。
 その蒼空のように澄んだ瞳の奥では、常に曇天が渦を巻いている。
 
 僕と同じだ……。
 
 二度と会えなくなった人がいる。その人を思い返す度に、思うのだろう。
「何故あの時、こうしなかったのか」と……。
 だから、それ以来は敢えて触れないようにしている。
 その話題を広げたところで、僕も答えは持っていないのだ。
 でも、僕達が出会ったのは多分、二人で答えを見つけるためだと思う。
 同じものを抱えている二人が出会ったんだ。偶然ではない、これを運命と呼ばずして何と呼ぶのか。
 いつか、お互いにもっと信頼を重ねて、相手の心の底に触れられるようになったら、その時こそは──。
 
 ∮
 
 今日の授業を終え、モノレールでいつものCDショップを目指す。
 念の為、純には帰りが遅くなるかもしれないと伝えてある。
 発売は昨日で、しっかり予約も入れておいた。
 が、昼休みに知ったんだけど、その昨日のノイズ出現地点はいつものCDショップだったらしい。
 
 ……正直に言うと、ショックだった。
 逃げ遅れた人々は多くが、姉さんのニューアルバムを楽しみにしていたファンの人達だったろうし、いつも素敵な笑顔で迎えてくれていたあの店員さんも、死体すら残らず炭素分解されてしまったのだろう。
 平穏な日常を、一瞬で炭の塊に変えてしまうノイズ……。これほどまでに恐ろしい驚異が、未だかつて存在しただろうか。
 名前さえ知らないけれど、俺の日常の一部だった人たち。その中に少なからずも、二度と会えなくなってしまった人達がいる事に俺は涙した。
 
 でも、そんな驚異に立ち向かっている人達がいる。「特異災害対策機動部」と呼ばれる、認定特異災害ノイズから人々を守る政府機関だ。
 避難誘導、ノイズの進路変更、被害状況の処理が主な仕事だが、市民からはノイズと戦っている組織という認識が強い。
 俺にもあんな力があったら……これまで何度、そう思った事か。
 ……まあ、俺が言ってる特異災害対策機動部ってのは、厳密には()()()()()()()()()()部隊ではないんだけど。
 そんな人達がいるからこそ、俺達は安心して暮らしていける。
 俺もいつかは、ああいう人達みたいになりたいと……モノレールの車窓から見える夕陽を見ながら、そう思った。
 
 いつものショップから離れた別の店が、あのショップの代わりに予約商品の受け渡しを行っていた。
 ノイズ被害の影響で、駅から割とすぐだったあのショップよりも離れた所まで歩く事になり、店を出た頃には日が暮れていた。
 さて、帰ろうかと歩き出して……
 
 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!
 
 耳を劈くようなサイレンの音に、思わず周囲を見回した。
『日本政府、特異災害対策機動部よりお知らせします。先程、特別避難警報が発令されました。速やかに最寄りのシェルター、または待避所へ避難してください』
「ノイズか!ったく、昨日の今日で現れやがって!」
 受け取ったCDを学生鞄に仕舞い、店の中を見回す。
 幸い、昨日の一件が尾を引いているのか客足は少ない。
「避難警報です!急いで逃げてください!」
「っ!?の、ノイズだ!逃げろ!!」
 店員さん達に声をかけると、店員さん達はレジにロックをかけ、慌てて店を飛び出していく。
 店の奥にも声をかけ、店内を駆け回って誰も残っていないのを確認してから俺は走り出した。
 ……よかった。逃げ遅れた人は誰もいない。でも、道の途中で逃げ遅れている人がいるかもしれない。
 走りながらも周囲を見渡し、視覚と聴覚を研ぎ澄ませる。
 
 キュピッキュピッ……
 
「ッ!?」
 慌てて足を止め、靴裏をアスファルトに削られながら壁に張り付く。
 特徴的な鳴き声に息を止め、気配を殺して角を覗くと……いた。
 小型で最も一般認知度が高い〈蛙型個体(クロールノイズ)〉が複数と、両手がアイロンみたいな形状をした〈人型個体(ヒューマノイドノイズ)〉。
 どちらも一番よく見かける個体種だ。
 どうやらこちらの様子には気が付いていないらしい。いや、正確には──
 
 ズダダダダダダダッ!ダダダダッ!
 
 建物に反響して鳴り渡る銃声。どうやら、特異災害対策機動部が応戦しているらしい。おそらく、戦闘しながら離れた場所まで誘導するつもりだろう。
 ここは迂回しないと巻き込まれる。そう判断した俺は、急いで来た道を戻る事を決めた。()()とはいえ、対ノイズ戦用に武装した部隊だ。そう簡単にはやられないだろうし、市民の避難が完了するまでは持ち堪えてくれるはずだ。
 彼らが稼いでくれた時間を、俺達市民が無駄にする事は出来ない。この隙にシェルターまで一気に走り抜ければ……。
 
 そう思っていたが……視界に映りこんだ()()を見た瞬間、俺の脚は止まった。
 先程、俺達市民は特機(トッキ)が稼いでくれた時間を無駄には出来ない、と俺は言った。
 しかし悲しきかな、その時間を無駄にする者がこの世の中には時々存在する。
 例えば、今、目の前にあるコンビニへと侵入して行った火事場泥棒……とかな。
 さて、どうしたものか。特機が誘導しているとはいえ、ノイズに見つかる可能性はゼロじゃない。
 正直言うと、この場合は見なかった事にして逃げた方が理性的だ。欲に目が眩んだ泥棒ネズミが、その後でノイズに殺されてもそれは自業自得。当然の報いだ。
 俺に直接的な不都合があるわけでもなく、むしろ自分の命が大事なら見捨てるのが一番いい。
 
 しかし── 
 

 
後書き
翔「まさか一話から戦闘がないどころか、原作キャラ一人も出てこないってどういうことだ!?いや、ノイズはいるな。いやいや、そもそもノイズって敵だろう!あと俺変身しないのかよ!?一話で変身しない変身モノって一体……ハッ!まさか最終回、怒涛の鬱展開を乗り越えた先でようやく変身するパターン……!?」

キャラ紹介①
風鳴翔(イメージCV:梶裕貴):16歳。誕生日は7月5日。血液型はA型。身長168cm/体重62.1kg
趣味、映画鑑賞(主に特撮)。好きな物、三度の飯と翼姉さん。
風鳴家の長男であり、風鳴翼の弟。姉の名前に付随する肩書きが鬱陶しいけど、姉さんの事は好きなのであんまり気にしないようにしている。
父と姉の不仲が原因で一時期親戚に預かられ、中学時代までは東京から離れていた。
叔父の弦十郎の元で修行する事で日々鍛錬を重ねているが、その裏にはかつて、臆病さから手を掴めなかったとある少女への懺悔が存在しており……。

感想、お気に入り登録よろしくお願いします。 

 

過去からの残響

 
前書き
時限開放式にしようと思ったけどやっぱり辞めた!
月内で全話公開したる!
 

 
「ふへへへへ、たんまりあるじゃねぇか」
 男はこじ開けたレジの中身を見てほくそ笑んだ。
 ノイズ襲来で、店員を含めた周辺の市民は全て避難している。今なら人目を気にすることなく、堂々と盗みを働けるのだ。
 警察さえ、ノイズが現れれば特異災害対策機動部が掃討するまでは動けない。
 今この瞬間は盗人天国。泥棒し放題というわけだ。
「まったく、ノイズ様々だぜ。対策機動部には感謝しなくちゃな」
 レジの中から紙幣を鷲掴む。万札、千札を何枚も握った感触が男を満足させる。
「さて、ノイズの誘導は向こうだから……もう一件くらい盗んでもいいよな?次はこの先のCDショップでも狙ってみるか!」
 
「随分と楽しそうだな」
「あぁ?」
 突然、店内に響く入店音と若い声。男が顔を上げると、自動ドアから入って来た声の主は一瞬でカウンターの上へと飛び乗る。
「ふんっ!!」
 次の瞬間、男の身体は左方向へ勢いよく吹っ飛んだ。
「ごっ!?」
 カウンターに飛び乗った少年は、男の顔を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
 高く安定した足場から放たれた回し蹴りは、その威力を男の頭部へとダイレクトに伝える。男が掴んだ紙幣が手放され、レジ奥を舞う。
 少年はレジの奥へと降りると、宙を舞う紙幣を一枚一枚、全て地面に落ちる前に拾い集めると、そのままレジへと戻して行った。
「な、なんだお前……なんでこんな所にガキが残ってやがる……!」
「運が無かった……いや、むしろ幸運だったな。戦場
いくさば
でノイズに殺されるより、その天命との決別が暫し遠のいたんだ。感謝してくれてもいいんじゃないか?」
「チッ!何処のお坊ちゃんだか知らないが、邪魔するんじゃねぇ!!」
 男は右頬を抑えながらよろよろと立ち上がり、ポケットから折り畳みナイフを取り出すと、少年へと突き出す。
 狭いレジ奥。通路は一直線。ナイフは少年の腹部へと真っ直ぐに突き進んで行った。
 
「やれやれ……この程度、鞘でド突けば充分か」
 次の瞬間、少年は素早く身を逸らしてナイフを避け、男の手首を腕の関節で挟み込むと、そのまま右手で男の左腕を掴み動きを封じる。
 更には男のふくらはぎを踵で引っ掛け、体制を崩した瞬間、腕を背中に回させると、そのまま一気に抑え込んだ。
 わずか一瞬で取り押さえられた上、ナイフを没収される。流れるような少年の動きに、男は困惑した。
「なっ……なんなんだよ!?お前本当に何なんだ!タダの糞ガキじゃねぇのか!?」
「知らないのか?飯食って映画観て寝る。男の鍛錬はそれで充分なんだよ!」
「訳の分からんことを抜かすな!!」
「分からなくて結構。実は俺もよく分からん」
「はぁ!?」
 訳が分からない、という顔で困惑する男。
 少年──風鳴翔は、そんな男の顔を見て一瞬だけ笑った。
 今のは彼に体術を教えてくれた叔父の口癖だ。本当に、どうしてそれだけで瓦礫を発勁で受け止めたり出来るようになるのか……。もっとも、今使った技なんて、基本のきの字くらいなんだけど。
「さて、あとはお前を避難所まで連れてって、警察に引き渡せばそれで終わりだな」
「ったく……本当にわけわかんねぇガキだな。何で放っておかねぇんだよ」
「盗みを見逃してくれればよかったのに、ってか?」
「いや、それもあるけどよ……何故、わざわざ避難所まで突き出そうとする?テメェの命が大事なら、俺なんか放ってさっさと逃げればいいじゃねぇか」
 不思議そうに。または半ば呆れたように。男は翔に問いかける。
 そう問われると、翔はふと考えて……やがてこう答えた。
「善人も悪人も、命の重さに変わりはないからな……。手を伸ばせる所にいるなら、その手を掴まないと後悔する。ただ、それだけだ」
「そいつは……自己満足か?」
「かもしれない。でも、少なくとも心は痛まない。助けた誰かと繋がっている、知らない誰かが悲しまなくてもいい。その方が、後味は悪くないからな」
「そうかよ……。青臭いガキらしい言葉だ。でも俺には生活がかかってんだよぉ!!」
 翔の注意が逸れた瞬間、男は身を捩って翔の技を抜けようとする。
 しかし翔はそれを許さず、後頭部を狙って峰打ちを決めた。
「だからって人様に迷惑かけんな。あんたにはその場しのぎでも、ここで働く人達にとっては死活問題だ」
 意識を刈り取られ、倒れる男。翔はそれを見て、独りごちる。
「だから言ったろ?ド突けば充分だってな」
 直後、市街地から大きな爆発音が鳴り響いた。
 それを聞くと翔は、コンビニを出て駐車場から周囲を見回し、音のした方向を向く。
 灰色の爆煙が夜空へと昇るのを見て、翔は小さく呟いた。
「おつかれ……姉さん」
 
 ∮
 
 やってきた警官に男を引渡し、俺は駅へと向かっていた。
 帰りが思ったよりも遅くなってしまったため、純には電話を入れてある。
 ノイズ出現の影響でモノレールのダイヤが遅れているため、残念ながら門限には間に合いそうもない。
 タクシーでも拾えればいいんだけど……。
 
 などと考えていたその時、後方から走って来た黒いベンツが隣に停車した。
 振り向くと窓が開き、運転手がその顔を見せる。
「翔くん!」
「緒川さん!」
 緒川慎次
おがわしんじ
。風鳴家に仕える、姉さんの世話役兼マネージャー。ホストとして仕事をしていた影響か、常にスーツ姿で私服を見た事がないけど、仕事ぶりは完璧で物腰も柔らかい。
 正直言って、姉さんを任せるならこの人しかいないってくらい信頼出来る人だ。
「どうしたんですか、こんな所で?」
「姉さんのCD、ショップまで受け取りに来てたんですよ」
「なるほど。それは災難でしたね……。どうぞ乗ってください、寮までお送りしますよ」
「ありがとうございます!」
 緒川さんが車を出している、という事は……。
 
 助手席に目をやると、予想通りの人物が座っていた。
「姉さん。お仕事おつかれ~」
「翔……うん、ありがと……」
 窓から助手席側を覗き込んで声をかけると、姉さんはどこか弱々しく、そう返した。
 不思議に思い、姉さんの顔を見ようとして……涙の跡を見つけた。
「姉さん……?姉さん、何かあったのか!?」
「っ!……翔には関係のない事だ!」
 そう叫ぶと、姉さんは顔を逸らしてしまった。
 緒川さんを見ると、緒川さんはただ、俺に後部座席へと乗るよう促すだけだった。
 姉さんが泣いている。その理由を聞くのは、姉さんが落ち着いてからにするべきだろう。
 俺は車に乗り込むと、アイオニアン学生寮の途中にあるコンビニへと向かってもらった。
 
 ∮
 
「新たなガングニールの適合者……ですか」
「はい。翼さんは、彼女がガングニールを引き継いだ事に納得がいかないようでして……」
 コンビニでスポーツドリンクを購入した後、俺は緒川さんから事の顛末を聞くことになった。ちなみに姉さんはというと、助手席でそのまま眠ってしまった。疲れとストレスが一気に押し寄せてきたんだろうな……。ゆっくり休んでね、姉さん。
 
 昨日の夕刻、ノイズ出現と共に観測されたノイズとは異なる高エネルギー反応。アウフヴァッヘン波形の称号により、その正体は二年前に失われた第3号聖遺物「ガングニール」のものと一致したらしい。
 そして現場のカメラが撮影した映像には……ガングニールのシンフォギアを纏う少女の姿があった。
 シンフォギア……それは、特異災害対策機動部()()所属の科学者、櫻井了子(さくらいりょうこ)さんの提唱する「櫻井理論」に基づいて開発された、聖遺物から作られたFG式回天特機装束。
 早い話が、ノイズに対抗出来る唯一無二の特殊装備だ。
 現行の憲法に接しかねない代物であるため、日本政府により完全に秘匿されているその装備は、適合者の歌によって起動し、歌によって真の力を発揮する。
 
 二課が保有していたのは二つ。第1号聖遺物「絶刀(ぜっとう)天羽々斬(アメノハバキリ)」と第3号聖遺物「撃槍(げきそう)・ガングニール」だ。
 そして、ガングニールのシンフォギアは忘れもしない二年前。姉さん、そして姉さんの親友にして相棒だった天羽奏
あもうかなで
さんによるアイドルユニット、〈ツヴァイウイング〉のライブ中に起きたノイズの大量出現事件……通称「ライブ会場の惨劇」の日だ。
 奏さんはノイズを全滅させる代わりに戦死。その際ガングニールは砕け散り、この世から失われた。
 そのガングニールが、2年の時を経て姿を現したのだ。
 姉さんにとって、それは親友の忘れ形見のようなものだっただろう。
 しかし──
「奏さんの忘れ形見を何も知らない、戦士としての心構えもないぽっと出の一般人が受け継いだのが気に食わない、って事ですか。気持ちは分からなくもないですけど……流石にそれ、姉さんも大人気ないのでは?」
「それが……彼女、意図せずして翼さんの地雷を踏み抜いてしまいまして……」
 
 話を聞くと、どうやらその少女にも非がないわけでもないらしく、ピリピリしている姉さん相手に「私が奏さんの代わりになってみせます!」と言ってのけたらしい。
「あー……それはその娘に悪気がなくても、姉さんの地雷を的確に踏み抜いてますね……」
 一体どんな能天気なんだろう。姉さん、その娘に泣きながらビンタかましたらしいし、幸先悪いなぁ……。連携が取れず、戦場
いくさば
で不協和音をもたらすのは確実じゃないか。
「でも、悪い子じゃないんです。きっと、翼さんとも仲良くなれると思いますよ」
「だといいんですけどね……。ところで、そのガングニールの子ってのは?」
「適合者の個人情報を部外者に漏らせないことくらい、翔くんも分かっているはずじゃないんですか?」
「いいじゃないですか。所属されてはいませんが、俺も二課への出入りは許されてますし。今度会った時、姉さんとどうすれば仲直りできるのか、アドバイスくらいはしてあげたいんですよ。その娘の為にも、姉さんの為にもです」
 緒川さんは、仕方ないですね、と笑うとその少女の写真をスマホに出してくれた。
 
 
 
 その顔と名前を知った瞬間、俺は瞠目した。
「……緒川さん、その名前本当なんですよね!?」
「え、ええ。偽名も伏字もありませんよ?」
 だって、その名前は……その顔は……一日たりとも忘れた日はない、あの娘のものだ……。
 モノクロの記憶の中、俯き、涙を堪え、空元気で笑って見せた顔だ。
「立花
たちばな
……響
ひびき
……」
 喪った姉の親友。助けられなかったあの日の少女。
 2年前の運命の残響が、鳴り響き始めた瞬間だった。
「立花がガングニールの適合者……だと……!?」 
 

 
後書き
緒川「縁とは奇妙なものですね。翼さんと奏さんに、響さん、更には翔くん。この繋がりが導くものは果たして……。え?戦闘シーン、モブのコソ泥相手でノイズ戦がないですねって?まあ、翔くんは奏者じゃないですし、時系列もアニメ2話の裏側ですから仕方ないかと。あ、次回は風鳴司令の出番らしいですよ」

さて、次の時系列からは空白の一ヶ月間!早くも完全オリジナル展開です。ご期待ください! 

 

記憶のあの娘はガングニール

 
前書き
一日何話くらいが丁度いいんだろうか……?
その辺考えるの、中々大変ですよね。
しっかしこの頃の翔くん、何がとはあえて言いませんが中々に重いような……。 

 
「立花がガングニールの適合者……だと……!?」
 その事実に、俺は瞠目した。
 二年前に亡くなった奏さんと、失われた筈のガングニール。
 それがあの日、ライブ会場にいた立花に受け継がれていた……。(えにし)とはなんと奇っ怪なものだろうか。
「翔くん、響さんを知っているんですか?」
「はい……。中学の頃のクラスメイトですよ」
「なるほど……同じクラスでしたか」
 納得したような顔だけど、驚きはしていない。多分緒川さんは、立花が俺と同じ中学だって所までは調べていたんだろう。
 もっとも、俺と立花の間に何があったかまでは、緒川さんとはいえ知る由もないだろうけど……。
 
 あれ以来、どうしているのか気になっていた立花が二課にいる。それを知った俺の中に、ある思いが芽生え始めた。
「緒川さん。俺、明日本部に顔出してもいいですか?」
「どうしたんです?そんなに改まって」
「一目でいいので、立花に会わせて下さい」
「別に構いませんけど……」
 あれから二年。立花はどんな生活を送っているのか。心が擦れてやさぐれてしまったのか、それとも新しい環境で平穏な日々を送っているのか。
 写真の顔を見るからに、少なくともやさぐれてはいないと思うが……。俺はどうしても、今の立花に会わなくちゃいけない。たとえ彼女が俺を恨んでいたとしても。もしくは、俺の事なんかとっくに忘れていたとしても。
「それからもう一つ」
「なんです?」
「叔父さんにアポ取ってもらえます?」
「風鳴司令に、ですか」
「今回は大事な用事なんです……。アポくらい取っとかないと、仕事の邪魔になったら大変ですから」
 そう言われると、緒川さんは小さく笑った。
「分かりました。翔くんが来る事を伝えておきます」
「何故笑うんです?」
「いえ、翔くんも大人になったなと思いまして」
「お、俺だっていつまでも子供じゃないんです!」
 そう言うと、緒川さんはまた笑った。確かに、一時期遊びに来る感覚で二課へと通っていた時期はあるけど、今になっても子供扱いとは……解せぬ……。
 
 不服そうな顔の翔に別れを告げると、緒川は車を走らせ去って行く。寮の門限が来る前に、翼を送り届けるために。
 
 ∮
 
 アイオニアンの学生寮から帰る途中の車の中。
 リディアン音楽院にある翼の寮へと向けて走る緒川は、助手席の翼へと話しかける。
「翔くんも変わりましたね」
「そうですね。昔に比べれば、少しだけ大きくなったかもしれません。しかし、まだまだ未熟です」
 翔との話を終え、緒川が車に戻ると翼は既に起きていた。翔との話も途中から聞いていたらしい。
「まあ、確かに未熟ではあるのでしょう。ですが、その未熟さは時に武器です」
「未熟さが、武器?」
「経験が浅く、考え方もまだまだ若い。だからこそ、純粋で真っ直ぐな思考で行動できる。現場慣れしてしまった身には一見、短所として映るかもしれませんが、だからこそ私達が見落としていた物を拾って来てくれる。私はそう考えています」
「緒川さんは翔に甘いから、そういう事を言うんですよ」
 これは手厳しい、と笑う緒川。もっとも、その緒川に甘やかされてるのは翼も同じなのだが。
 
「それで、翔はまた二課に入りたい、などと言い出すつもりでしょうか?」
「おそらくは。でも、多分今回は何がなんでも折れないと思いますよ」
 交差点の赤信号で停車する。車が止まると同時に、翼は緒川の方を向いた。
「何故そう思うんです?」
「翔くんの目が本気だったんですよ。響さんの話をしたら、いつになく真剣な顔になりましたよ」
「立花の?」
「なんでも、中学の頃のクラスメイトだそうです」
「立花が翔の級友だと!?」
 案の定、弟と同じように驚く翼。本当にそっくりだ、と思いながら緒川は微笑む。
「しかし、元クラスメイトとはいえ、あそこまで興奮するものだろうか?」
「鈍いですね、翼さん」
「なっ!?何がです?」
「私は調査部ですが、他人の心の中までは調べられません。ですが、推察する事くらいならできます。翔くんの反応から察するに、おそらく彼は──」
 信号が青に変わり、車は走り出す。
 遠ざかっていく車体は、夜風を斬って走り去って行った。
 
 ∮
 
「翔~、この後の予定は?」
 午後の授業が終わった頃、親友が鞄片手にやって来る。
 俺は教科書とペンケースを鞄に仕舞い、席を立った。
「悪いな、今日は用事が入ってるんだ」
「用事?お姉さんのCDは受け取ったんだろう?」
「実は……中学の頃のクラスメイトに会えるかもしれないんだ」
「会える……かもしれない?」
 そこで何故疑問形?と首を傾げる親友。
 その反応は当然だ。
 
 実際、立花に会いたいという気持ちは本当だ。リディアンが二課の真上である以上、エンカウント率は高い方なのだろうが……俺としてはまだ心の準備が出来ていないというか……正直、気まずい。
 目の前にあったのに、俺はその手を取らなかった。恨まれていても仕方がない。
 
 逆に、覚えられていない可能性だって高い。恨まれていない分気まずさは減るが、それは俺がその程度の男だったのだと自覚することになる。
 どちらにせよ、会うには心の準備が足りない。だから気になりこそすれ、まだ会いたくないと願ってしまうのは俺の弱さが故だ。
 
 会いたい、といっても遠巻きに顔が見れればそれで充分。それ以上を望む必要は無いし、その資格も俺にはない。
 クソッ、自分が思っていた以上に面倒臭い男だった事に腹が立つ。こんな時、姉さんならもっとスッパリと決断しちまうだろうに……。
 どうしてうだうだしてやがるんだ、しっかりしろよ俺!
 
「おっと、時間が迫ってる。純、何か予定でもあったのか?」
「あ、ごめん。また今度でも大丈夫だから、行っていいよ」
「ありがとう。じゃあ、俺行くから!」
「会えるといいね、その人に!」
「……そう、だな」
 親友からの言葉が、少しだけ心に刺さった。
 彼女から遠ざかろうとしている自分に嫌気がさした。
 手を伸ばしたいと言っておきながら、彼女から逃げようとしているなんて……。とんだ偽善者だ。これじゃあ俺、あの教室の腐れ外道共と変わらないじゃないか!!
 
 ……でも、俺がやるべき事だけは見えている。本来なら関わるべきでない彼女が、戦場
いくさば
に立ち、人々を守る為に戦っている。
 ならば、俺は今度こそ……彼女を守らなければならない。
 たとえ自己満足だとしても、これは俺に与えられた懺悔の機会。あの日からずっと待ち望んでいた贖罪のチャンスだ。
 戦場に立つ彼女に降りかかる火の粉を、この手で払う事は出来なくても、せめてその足場を支える事くらいはできるはず。
 歩みが自然と早まる。この決意、必ず伝えてみせる!
 
 ∮
 
 秘密のエレベーターで、地下何千mという距離を降りていく。
 ここは特異災害対策機動部二課の本部。姉妹校、私立リディアン音楽院の地下に存在する秘密基地。ノイズに対抗する力を備えた人類最後の砦だ。
 エレベーターを降り、無機質な廊下をまっすぐ進んで、壁際の大きな鉄扉の前に立つ。
 
 この奥がコンソールルーム。特異災害対策機動部二課の中枢であり、オペレーターが現場をモニタリングし、司令である叔父さんが指示を下している場所だ。
 深く息を吸い込み、深呼吸。緊張で不安定になる呼吸を整え、一歩踏み出す。自動ドアになっている扉はすぐに開いた。
 
 その奥に広がるモニターだらけの広い部屋には、キーボードに指を滑らせるオペレーターさん達の席が並ぶ。
 そして、その中心に立っている厳つい体格の男性が、こちらを振り向いた。
「来たか。それで、わざわざ俺にアポ取って来たってことは、余程大事な話なんだな?」
「当たり前です。今日は俺の覚悟を、叔父さんに伝えに来たんですから」
 俺や姉さんと真逆だが、父さんに少し似てツンツンしている真っ赤な髪と髭。
 髪と同じく真っ赤なワイシャツに、胸ポケットに先端を入れたピンクのネクタイ。
 広い肩幅から、シャツの下には鍛え上げられた肉体を誇る男なのだと察するのは容易い。
 しかし、金色の瞳は力強さと同時に優しさが宿っており、大人の風格を放っている。
 この人が特異災害対策機動部二課司令、風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)。俺達姉弟の叔父であり、俺の師匠。俺が知る中で一番頼りがいのある大人だ。
 
「ほう?なら聞かせてもらおうか。その覚悟とやらを」
 叔父さんの目を真っ直ぐに見据える。
 前に同じ事を言った時は断られてしまったが……今回は折れない。折れる訳にはいかないんだ!
 俺は為すんだ。やるべき事を!あの日の後悔に決着を付ける、罪滅ぼし(リフレイン)を!
 あの時には無かったこの胸の決意で必ず、この機会を掴んでみせる!
「俺をここに……特異災害対策機動部二課に配属してください!!」
 
 

 
後書き
純「翔、浮かない顔してたけど大丈夫かな?昨日帰ってきた時も何処か暗かったし、昔の知り合いと何かあるっぽいけど……。よし、今日の夕飯は奮発して高い牛肉にしてみようかな?我が家特性ビーフステーキ、きっと喜んでくれるよね。早速買い出しに行かないと!」

翔くんと純くんの夕飯はきっと当番制。
翔くんが和食メイン、純くんがオールマイティとかで分かれてるとよき。

次回は翔くんとビッキーの昔話になります。 

 

臆病者の烙印

 
前書き
2期と3期で掘り下げられる要素を1期に持って来たけど、2期ほど深めに掘り下げなければ問題は無いよね。
誰が言ったか火野映司系主人公な翔くん。その昔話をご覧あれ。 

 
「俺をここに……特異災害対策機動部二課に所属してください!!」
 その声は、コンソールルーム全体に反響した。
 叔父さんの席の真下に座るオペレーターの二人がこちらを振り向き、丁度入って来た了子さんが足を止める。
 やがて、叔父さんはいつもの調子で答えた。
「ダメだ。お前を巻き込むわけにはいかない」
「何でだよ!俺だってもう高校生、適合者じゃないけど避難誘導を手伝う事ぐらいはできる!それとも、また前みたいに"子どもだから"って言うつもりか?」
「そうではない!俺はお前の身を案じてだな……」
「そんな事は分かってるよ!でも俺だって……姉さんだけが戦い続けるの見ているだけなのは、嫌なんだ……」
 
 偶然にも聖遺物、天羽々斬の起動に成功したあの日から……世界初のシンフォギア奏者として選ばれた日から、姉さんはずっとその身を剣と鍛えて来た。歳頃の女の子が知っておくべき筈の恋愛も、遊びの一つも覚えず、日常的にアイドル業と任務を繰り返し、休みの日さえ自ら鍛錬に費やしている。
 この前、緒川さんが心配していたのを思い出す。奏さんが死んでから、姉さんの表情には常に険があると。
 確かに。奏さんは、俺にとってはもう一人の姉のような人だった。あの人の快活さが、真面目すぎる姉さんに安らぎを与えてくれていたのは、遠目に見ても一目で伝わって来た。その喪失が、姉さんをどれだけ悲しませたのかはよく知っている。ストイックな姉さんの性格なら、その原因を己の未熟と恥じて自分を追い込むのは目に見えている。
 
 最近の姉さんは、自らに言い聞かせるように「この身は剣と鍛えた身だ」「戦うために歌っているのだ」と言うようになったとも聞いている。
 そんな姉さんは、弟の俺にとっては見ていて辛い。だから、仲間が増えた事がとても嬉しかった。
 でも、その仲間というのは……。
「分かってくれ、翔。俺はこれ以上、家族を巻き込みたくないんだ。可愛い姪っ子を戦場(せんじょう)に立たせなくてはならないだけでも、結構辛いんだぞ?そこに甥のお前まで危険に晒すなんて……」
「姉さんだけじゃない……俺は立花の事も守りたいんだ!」
「何!?何故お前が響くんの事を!?」
「……話せば少しだけ長くなります」
 俺は話す事にした。まだ誰にも、姉さんや緒川さん、親友の純にさえ打ち明けた事のない、昔話を……。
 
 ∮
 
 教室に谺響(こだま)する笑い声。それはとても純粋なものとは言い難く、暗く、ドロドロとしていて、どこか狂気さえ孕んでいるように感じた。
 教室の生徒らは、皆一様にある一点に目を向け、嘲笑い続けている。
 その視線の先というのが、教室の後ろの方に位置する、とある女生徒の机だった。
 生徒らは口々に彼女を罵る。
「うわ、()()()()
「今日も来たんだ。社会のゴミのくせに」
「何の取り柄もないくせして、よくのうのうと生きてられるよね」
 謂れの無い中傷を一身に受け、立ち尽くす少女。当時13歳の立花響である。
 彼女の机は一面、黒の油性ペンで書かれた罵詈雑言で汚されていた。
『人殺し』『金どろぼう』『お前だけ助かった』『生きる価値なし』『死ねばよかったのに』……その他諸々。
 数えるのもおぞましく、全部読めば心が軋む事は間違いないだけの悪意が、そこにこびり付いていた。
 一体、何故彼女だけがこんな目に遭わなくてはならないのか……。
 
 事の発端は、〈ライブ会場の惨劇〉からしばらく経った頃。ある週刊誌が掲載した惨劇の被害内容について、ある事実が発覚した事が切っ掛けだった。
 ライブ会場には観客、関係者あわせて10万を超える人間が居合わせており、 この事件は死者、行方不明者の総数が12874人にのぼる大惨事だった。
 しかし、被害者の総数12874人のうち、 ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、 残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死だと判明したのだ。
 その事実はあっという間に国内全域へと広まり、一部の世論に変化が生じ始める。
 具体的には、死者の大半が人の手によるものであることから、 惨劇の生存者に向けられた心無いバッシングが始まり、そこへ被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、事件に全く関わりのない者達から被災者、及びその遺族らへの苛烈な自己責任論が展開されていったのだ。
 
 やがて捻れ、歪み、肥大化した人々の感情は、被災者らをただ「生き延びたから」という理由だけで迫害するようになっていった。
 ある種の憂さ晴らしでしかない筈のその行為。しかし、集団心理とは恐ろしく、いつの間にか世の中にはそれが正義であるという風潮がまかり通るようになって行った。
 
 そして、立花響もまた、そうやって迫害された被災者の一人だった。
 ライブ会場の被害者の中に、この中学校に通う一人の男子生徒がいた。 彼はサッカー部のキャプテンであり、将来を嘱望されていた生徒だった。俺も顔は知っていたし、名前もよく聞いていた。校内のスターとも言える存在だったのを覚えている。その彼は、不幸にも惨劇の中で亡くなった。
 立花が退院して間もなく。少年のファンを標榜する一人の女子生徒のヒステリックな叫びが、その引き金を引いた。
 なぜ彼が死んで、取り立てて取り得のない立花が生き残ったのか。彼女により、立花は毎日のように責め立てられる。
 
 やがて、その攻撃は全校生徒にまで広がっていくのであった。
 気付けば立花は、校内のほぼ全ての生徒からの悪意を一身に受けていた。
 特にクラスメイトからの攻撃が最たるもので、机への落書きから持ち物隠し、足掛け、席離し、靴に画鋲、下駄箱にゴミ……。
 一度だけ、給食を床にぶちまけられた事だってあった。流石に掃除に支障が出たので、それ以降は無かったが。
 生徒達以上に腹が立ったのは、頼みの綱の担任でさえ立花を見放した事だ。自分も周囲から迫害されるのが怖かった、というのは安易に想像がつく。それでも、教師として果たすべき役目はしっかりと果たして欲しかった。
多分担任は、俺が生涯見た中で一番汚い大人にランクインしたと思う。
 
 立花を迫害したのは学校だけじゃない。自宅には毎日のように、机に書かれたものと同じような文面の貼り紙を貼られ、窓からは石を投げ込まれたらしい。
 自宅と会社、両方から受けたあまりの差別に耐えかね、立花の父親は失踪したとも聞いている。
 母親と祖母、そして幼馴染の親友。味方は少なからずいたとはいえ、まるで世界の全てが彼女の敵に回ったかのような、酷い有様だった。
 それも、これが立花だけでなく、同じ目に遭っていた人達が日本中にいた事を考えると、俺の内側からは怒りが溢れてくる。
 
 馬鹿げている。
 何故、自分の見知った誰かが生き延びた事を喜ばない?
 どうして生き延びた事を理由に迫害する?
 そして……なんでそんなに生命の価値を決めたがるんだ……?
 取り柄の有無で、成績の優劣で、将来が有望だのなんだのってだけで、どうして生き延びた人間への態度を変えられる!
 俺には疑問でならなかった。だって、姉さんはただの被災者として扱われ日本中からその安否を心配されたし、奏さんはその死を多くのファンから悔やまれた。
 なのにどうして立花は、生き延びたのに疎まれるんだ!
 
 そんな疑問を抱きながらも、俺は飛び出せなかった。
 悪意ある言葉の石打ちに晒され、涙を堪えている彼女をすぐ近くで見ていながら、俺は何も出来なかった。見ている事しか出来なかったのだ……。
 何故、俺は動けなかったのか。理由は考えるまでもない。
 
 あの頃の俺は、とても臆病だったのだ。
 クラスメイト達から立ち昇る負のオーラに怖気づき、勇気を振り絞れなかった。
 それに、俺が彼女の側に立った所で何かが変わるとも思わなかったのだ。
 ひょっとしたら悪化するかも、とさえ考えた。
 俺が風鳴翼の弟だという噂は校内中に広まっていた。もし、あそこで立花を守ろうと立ち塞がれば、俺だけでなく姉さんにも悪意の矛先が向く可能性もあったかもしれない。
 または、俺が姉さんの事を引き合いに出して、この疑問をあの場の全員に問い掛けていれば、虎の威を借るような形にこそなれ、あの風潮に問いを投げ掛けることが出来たかもしれない。
 しかし、結局俺は何も出来なかった。それが悔しくて、悔しくて……血が出るくらい唇を噛んだ。
 結局その日の放課後まで、俺は立花に声さえかける事が出来なかった。
 こんな俺はどうしようもなく卑怯者で、偽善者で、そして世界一の臆病者だ。
 だからきっと、あの日の汚名は、手を伸ばせる所にある命を救う事でしか雪ぐ事はできない。
 そして、もう二度と会う事など無いものと思っていた立花に、こうして再び巡り会えたのだ。
 それなら、俺が今度こそ為さなければならない事は……。
 
 ∮
 
「つまり……お前は昔、響くんを救えなかった罪滅ぼしとして、この特異災害対策機動部二課の一員となり、彼女を支えたいと?」
「支えたいんじゃない。守りたいんだ!シンフォギアさえあれば、奏さんみたいにLiNKERでもなんでも使って戦場に立ちたいんだよ!」
 奏さんは、適性こそあったものの、適合率の低さから奏者にはなれないはずだった。
 しかし、副作用と引き換えに適合率を跳ね上げ、後天的適合者を生み出す薬品、"LiNKER"の実験台となり、死ぬほどの苦しみに耐え抜いて奏者の資格を勝ち取った。
 俺に適性があるかはともかく、チャンスがあるなら俺は迷わずその道を選ぶ。
 ……もっとも、シンフォギアは姉さんと立花、二人の分しかない上に、どうやら生物学上の問題で、シンフォギアは男性では纏えないらしい。だから正直な話、今のは勢いで言ったに過ぎない。本当はそうしたいという、俺の願いに他ならない。
「お前……本気で言ってるのか?」
「ああ、本気だとも!これまでの人生で一番の本気だ!たとえシンフォギア奏者になれなくたって、この身一つで姉さんと立花を守れるなら、この命惜しくは……」
「この大馬鹿者!!」
 叔父さんの怒鳴り声に、肩が跳ね上がる。
 それは、叔父さんが本気で怒っている時の声だった。
 何故怒っているのか、それに思い至る前に叔父さんは続ける。
「罪滅ぼしで命を賭けようなどと、この俺が許すと思うか!」
「っ!そ、それは……」
「お前の覚悟はよく分かった。だが、他人の命を守る為に自分の命を粗末にする。そんなあべこべな考えで臨むのなら、俺はお前の主張を認めるわけにはいかん!」
 叔父さんに言われて気が付いた。
 そうだ……俺は何を焦っていたのか。確かに、姉さんと立花を守る為に俺が命を散らしてしまえば、二人を悲しませる事になる。
 姉さんは今度こそ独りぼっちになってしまうし、立花の心に深い爪痕を残す事になるのは確実だろう。
 そんな事にも思い至らなかったなんて……俺も姉さんの事、とやかく言えないじゃないか。
 
「とにかく、だ。お前がその考えを改めるまでは、どれだけ志が高かろうと、お前を二課に入れるわけにはいかん!……分かってくれるよな?」
 先程までとは一転して、叔父さんの眉間から皺が消える。
 いつもの優しい、弦十郎叔父さんの顔だ。
 いつだって子供の事を思って怒ることが出来、いつだって子供にやりたい事がある時は全力で支えてくれる、大人の漢の顔だ。
 その上、厳しい事を言いながらも、結局俺の頼みを完全に断っている訳じゃないのがズルい。多分、一週間くらい経って頭冷やしたら、今度は迎え入れてくれるつもりだろう。
 ……こんな人だから俺は、叔父さんを心から尊敬しているんだ。
「分かりました……しばらく、頭を冷やします」
「なら、次に来る時は……」
 
 ヴゥゥゥゥ!ヴゥゥゥゥ!
 
 その時警報が鳴り渡り、赤いサイレンが鳴る。
 オペレーターさん達の表情が引き締まり、モニターには何ヶ所かが赤く点滅したこの街のマップが表示される。
「ノイズ出現!」
「場所は!?」
 ノイズの出現地点を聞き、叔父さんは端末を二人の適合者へと繋ぐ。
 そう。姉さんと立花、この国をノイズから守っている二人の"奏者"に。
「翼!響くん!ノイズが現れた!大至急、現場へ急行してくれ!」
「それじゃ、俺は邪魔にならないように出てますよ」
 端末を手に取る二人の顔がモニターに映ると共に、俺はコンソールルームを退出した。
 
 背後で扉が閉じる音がした瞬間、ポケットから端末を取り出しながら、職員の休憩スペースへと向かう。
 休憩スペースに座ると、周囲に誰も居ないことを確認して端末を耳に当てた。
 
『周辺住民の避難、完了しました!』
『翼さん、現場に到着!これより戦闘に入ります!』
 先に現場に到着したのは姉さんらしい。
 流石は先輩、と言ったところだろうか。
『翼!響くんの到着を待って……』
『いえ。この程度、私一人で充分です!』
 叔父さんからの指令を無視し、単独で戦闘を始めたようだ……やれやれ、本当に姉さんは意地っ張りというか、ストイックが過ぎるというか……。
 
 え?俺が今何をしているかって?
 叔父さんがモニターの方を向いてる間に、植え込みの陰にスマホを隠して、そこから拾った音を端末から聞いてるだけさ。
 つまり……盗聴だよ。 
 

 
後書き
弦十郎「特異災害対策機動部二課、司令の風鳴弦十郎だ。まったく、翔の奴には困ったもんだ……。翼が二課所属の奏者になって以来、自分も二課に入ると聞かなくてな……」
緒川「でも、彼にも守りたいものがある。その点、響さんと志は同じだと思います」
弦十郎「響くんに比べて、強迫観念のようなものが強い気がするがな」
緒川「あれ?司令はお気付きでないと?」
弦十郎「む?」
了子「緒川くん、年がら年中アクション映画しか見てない弦十郎くんがその辺、この時点で気付けると思う?」
緒川「ああ……確かに……」
弦十郎「二人とも、一体何の事なんだ……?」

次回は盗聴されてる側の視点でお届けします。
果たして、翔くんは二課に入る事が出来るのか!? 

 

不協和音な剣と拳

 
前書き
ようやく原作主人公、シンフォギア最推しである彼女の登場です! 

 
 ノイズに埋め尽くされた現場。幸い、避難は既に完了しており、被害者は出ていないらしい。
『翼!響くんの到着を待って……』
 叔父さm……司令が立花の到着を待つように指示を出す。おそらく、今後に備えての連携を意識しろ、という意図があるのだろう。
 だが、私にその必要は無い。
「いえ。この程度、私一人で充分です!」
 奏が居なくなってしまった穴は、私一人で埋めればいい。
 素人である立花の力など借りずとも、私一人で戦ってみせる!
 アームドギアを構え、ノイズの群れまで突き進む。
 刃を一振り、目の前のノイズが包丁を当てられたトマトのように真っ二つになり、炭となって消滅する。
 こちらへと迫る二体は纏めて一閃。背後より飛来するもう一体は、身を逸らしながら刃を突き出す事でそのまま切断する。
 ある程度ノイズの数が減った所でそのまま跳躍し、アームドギアを巨大な刃へと可変させる。
 蒼ノ一閃。放たれた青き斬撃が、並み居るノイズらを纏めて残らず斬り伏せた。
 
 僅か五分足らず。私一人でも充分にやっていける……自分の腕を確かめ終えたその直後、土煙の向こうから人影が現れた。
「翼さーん!!」
 言うまでもない。奏のガングニールを纏った立花だ。だが、お前の出る幕はない。既に私が終わらせた。
「任務完了、これより帰投します」
「翼さん……?」
 立花が何か言いたげに声をかけて来るが、私がそれに応える義理はない。
 任務は終わった。ならば私は、後処理を一課に任せて戻るだけだ。
 
 背を向けそのまま歩き去って行く私の背中を、立花がどんな表情で見送っていたのかを、私は知らない。
 それどころかこの頃の私は、本部から私と立花を見守り、心配して気を揉んでいる可愛い弟の存在を、雀の嘴ほども知らなかったのだ。
 
 ∮
 
「……やれやれ。こりゃダメだな」
 立花を仲間だと認識していない上に、掘り返された奏さんへの思いから、戦いを一人で全部抱え込もうとしている姉さん。
 うっかり地雷踏んでしまった事を謝りたいけど、姉さんが必要最低限の言葉も交わさずに去ってしまうから中々踏み出せない立花。
 ギスギスしてんなぁ……。これじゃチームとはとても呼べない。
 なんとか緩衝材になってやれればいいんだけど……。
「う~ん……でも、防人根性で動いてる時の姉さんが話聞いてくれるの、奏さんくらいだしなぁ……」
 司令である叔父さんから連携するように言われても、無視を決め込んでノイズを殲滅しに行くし……。
 こうなるとアプローチをかけるのは、まず立花の方からにするべきなんだろうけど……うっ、気まずい……。
「むむ……どうすればいいんだ……」
 
「なるほど~、コンソールルームを盗聴するなんて、ヘタレな翔くんの割には大胆な事するじゃな~い」
「ッ!その声は……」
 頭を抱えていた所、背後からの声に振り返る。
 立っていたのは白衣に眼鏡の典型的学者スタイルに、蝶の髪飾りで髪をアップに纏めた自称できる女。または天才考古学者。
 名前を櫻井了子。シンフォギアシステムの開発者にして、シンフォギアを始めとした異端技術、「聖遺物」を動作させる〈櫻井理論〉の提唱者でもある。
 叔父さんとは長い付き合いで、お互いに名前で呼び合っている所に強い信頼関係を感じる。
 真面目な指揮官である叔父さんとマイペースな了子さんの、共に苦楽を乗り越えて来た相棒感は、二課のオペレーターであるあの二人に並ぶ名コンビとも。
「って、了子さん……気付いてたんですか?」
「ええ。植え込みにスマホを置き忘れるなんて、今のご時世じゃ死活問題だぞっ☆」
「あはは……」
 了子さんからスマホを受け取り、通話機能を切る。やれやれ、現実は映画のようには行かないらしい。いや、気付いたのが了子さんだけだったの、割と上手くいってた証拠では?
 
「それで、翔くんはどう感じたの?響ちゃんと翼ちゃんの事、心配してるんでしょ?」
「はい……。分厚い壁が出来てしまっているみたいですね……。なんとかしてあげたいのですが、自分に何が出来るのか……」
 立花に会って話が出来ればいいんだけど……いや、待てよ?そうだ!
 妙案を思い付いた俺は、了子さんに手を合わせて頭を下げた。
「了子さん!お願いです、立花へ言伝を頼めませんか?」
「え?響ちゃんに?私から?」
「はい。頑固な姉さんより、素直な立花の方が聞いてくれると思うんです。でも俺、立花に顔を合わせるのは……」
「も~、高校生になってもそのヘタレっぷりは相変わらずなのね。盗聴なんて回りくどいことまでしちゃって、そんなんじゃいつまで経ってもかっこ悪いままよ~?」
 ヘタレ……ああ、そうだ。結局、俺は臆病者。叔父さんに鍛えられて、少しは心が強くなったと思っていたけど、本当はあの頃から変わっていない。
 立花から恨まれるのが怖くて。忘れられている事が嫌で。だから、彼女に向かい合う事が出来ない。手を伸ばしたくても、中途半端な所で顔を逸らしている弱い人間なんだ……。
「自分勝手なのは分かってます。でも……こんな臆病者にその資格はないとしても、俺は……」
「……分かったわ。でもぉ~、一つだけ条件を付けてもいいかしら?」
 顔を上げると了子さんは、仕方ないわね、という微笑を浮かべながら人差し指を立てていた。
 
 ∮
 
「はぁ~……翼さん、やっぱりまだ怒ってるよね……」
 エレベーターを降り、ガックリと肩を落としながら廊下を歩く一人の少女。
 茶髪のショートヘアーに、赤いN字型のヘアピンを前髪の左右に留め、太陽のような琥珀色の瞳をした少女の名は立花響。
 先程までオレンジ色のシンフォギア、ガングニールを纏う奏者としてノイズと戦っていた──と言っても、現場に到着する前に翼が全て倒してしまったのだが──彼女は昨日、自分の不用意な発言で翼を傷付け、怒らせてしまった事を後悔していた。
 謝りたいのだが、彼女は顔を合わせても口さえ聞いてくれない。
 壁を作ってしまった翼にどう接すればいいのか分からず、彼女は悩んでいた。
「はぁ……私、呪われてるかも……」
 口癖の言葉を漏らしつつ、トボトボと歩いていく響。
 
 その後ろ姿を見つけ、櫻井了子は声をかけた。
「ハ~イ響ちゃん、元気ないわね?」
「あ、了子さん。あはは、そんな事無いですよ!」
「翼ちゃんとの事でしょ?顔に書いてあるわよ」
「ふえぇ!?ほっ、本当ですか!?」
 自分の顔にペタペタと触って確かめようとする響。
 そんな彼女を見て、了子はクスクスと笑う。
「そんな響ちゃんに、ある人から伝言を預かってるんだけど……」
「へ?伝言?誰からです?」
「ふふっ、それはね……」
 そう言うと了子は、何やら企んでいるような笑みを浮かべながら、響に耳打ちした。
 
「わ、分かりました!私、ちょっと行ってきます!」
 了子の伝言を聞くと、響は慌てて走り去って行った。
 その様子を軽く手を振って見送ると、了子は誰にともなく呟く。
「響ちゃんも放っておけない子だとは思ってたけど、翔くんも同じくらい放っておけないわよね……」
 響が廊下の角を曲がっていくのを確認し、了子は一つ伸びをして、自分の研究室がある方へと歩いて行った。
「さて、私も研究を進めないとよね~。弦十郎くんに頼まれてる()()()()、実戦投入の望みは薄いんだけど……」
 研究室の扉が開き、了子はその中へと入って行く。整頓された真っ白な机の真ん中には、()()()()()が置かれていた。
 
 ∮
 
「了子さん、しばらく待ってろとは言われたけど……」
 休憩スペースの自販機で炭酸飲料を購入し、そのままソファーへと腰掛ける。
 任せといて、とウインクしていたけど了子さん、何時になったら戻ってくるんだろう?
 いつになるのか分からないし、暇潰しに姉さんの新曲でも聴いていよう。
 
 と、イヤホンを取り出してスマホに繋いだ時だった。背後からこちらへと走ってくる足音が聞こえて振り向く。
 誰だろう?マイペースな了子さんではない筈だ。サイレンも鳴ってないし、緊急事態って訳じゃないだろう。
 そもそも緊急事態ならコンソールルームの方へ向かうべき筈だ。ここからは逆方向だし……余程の慌てん坊なのだろうか?
 しかし、俺が知っている二課の職員にそんな落ち着きのない人は……。
 
 振り返った時、俺は目を疑った。
 確かに俺が知る職員ではない筈だ。何せ、ついこの前配属されたばかりの……いや、もう一年近く会っていなかった人物だったのだから。
 足音の主はこちらに気が付くと、満面の笑みを向けて言った。
「あの!翼さんの弟さんって、もしかして君の事だよね?」
「ッ!?な……」
 何で……立花がここに?
 まさか、謀ったな了子さん!!
 
 

 
後書き
響「ようやく登場!原作主人公の響ちゃんだよ~、なんちゃって。でも翼さんの弟さんってどんな子だろ?了子さんは私と同い歳だって言ってたけど、やっぱり翼さんに似てかっこいいのかな?っていうか翼さん、弟さんがいるなんて初耳だよ~!これは帰ったら未来達に自慢できるかも!」

突然の再会。その時少年は何を思い、少女は何を語るのか。
感想よろしくお願いします。 

 

前奏曲(プレリュード)は突然に……

 
前書き
後書きのネタパートまでしっかりバックアップしたから、後書きのわちゃわちゃした感じが好きだった古参読者さんは喜んでくれるかな……なんて事をふと考える。
またコメント欄を賑やかにしてくれると嬉しいな……。 

 
「あの!翼さんの弟さんって、もしかして君の事だよね?」
 
「ッ!?な……」
何で……立花がここに?
俺は困惑し、そして理解した。了子さんに見事に嵌められたのだと。
直接会って話しなさい。ここが男の見せ所よ~、と笑ってる姿が脳裏に浮かぶ。
しかし、この反応は初対面のような……立花はやはり、俺の事など覚えていないのだろうか?
「あっ、ごめん!驚かせちゃった?」
「い、いや……」
立花がこちらの動揺に気付く。不味いぞ、このままだと俺が思ってる以上に気まずくなる。
なんとか会話を成り立たせようと考えるが、出てきたのは堅い言葉だった。
「立花……響、だよな?」
堅い!ガッチガチじゃねぇか!今ので絶対堅苦しいやつだって認識された……ああ、自分で余計に気まずい空気を……。
 
「はい!立花響、15歳です!」
「……へ?」
その一言で、俺の緊張があっという間に緩んだ。
おい立花、今なんと?
「誕生日は9月の13日で、血液型はO型。身長はこの間の測定では157cm!体重は乙女の秘密なので言えません!趣味は人助けで、好きなものはご飯&ご飯!」
えっ、何この自己紹介。滅茶苦茶自分のプロフィール出してくるじゃん。
ってか立花の知らなかった情報がめっちゃあるんだけど!?待って、覚えるつもりもないのに記憶に焼き付いてくのどうにかしてくれない!?
「あ、あと、彼氏いない歴は年齢と同じッ!」
「……プッ」
「へ?」
「アッハッハッハッハッ、ちょ、ちょっと待って、今のちょっとっブフッ!フフハッハッハッハッハ!!」
「な、なんで笑ってるんですか?」
何がおかしかったんだろう、と言いたげな顔でこちらを見つめる立花。
いや、こんなに面白い自己紹介聞かされたら、さっきまでうだうだと悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくるじゃないか!
「いや、悪い悪い。でも流石に今のを笑わずに聞ける奴はそうそういないだろう!」
「あはは~。でも、さっきよりは明るい顔になりましたね」
 
そう言われてハッとした。
気が付けば、とっくに緊張は解れていた。
さっきまで俺の心を曇らせていた迷いも、既に吹き飛んでいる。
立花は、俺の胸中を知るまでもないだろう。だが、俺が緊張でガチガチになっている事に気付き、咄嗟にこんな突拍子もない自己紹介で俺を笑わせる事を思い浮かぶなんて……。よく人を見ている子なんだな、と実感した。
 
「さて……先に名乗られたからには、此方も名乗らなくては風鳴の名が廃るな」
ソファーから立ち上がると、俺は先程の立花の自己紹介を振り返りながら言った。
「風鳴翔、16歳。誕生日は7月の5日で、血液型はA型。身長は168cmで、体重62.1kgだ。至って平均的だな。趣味は映画鑑賞、主に特撮映画が好きだ。そして好きな物はもちろん、三度の飯!」
「おお!やっぱり美味しいご飯が嫌いな人はいませんよね~」
「どうやら、話が合いそうだ。ああ、それと……」
興味津々、という感じで聞き入っている立花。
キラキラした彼女の目を見て、言い知れぬ安心感を抱く自分がいる事に気が付いた。
そういえば、あの頃の彼女は暗い顔でいる事が多かった。きっと今の彼女は、もうあんな目に遭う必要のない生活を送っているのだろう。
そう思うとなんだか少しだけ、肩が軽くなった気がした。
 
「それと、俺も彼女いない歴は年齢と同じだ」
「えええええええ!?翔くんすっごいモテそうなのに!?」
「言われると思ったよ……。ぶっちゃけるとな、肩書きと顔で寄ってくる子の方が圧倒的に多かったから軒並みフッて来たわけ。それに、今俺が通ってるの男子校だからさ。モテるのと彼女が居るかどうかは別なんだよ」
「な、なるほど……。意外に苦労してるんだね……」
特に中学の頃だ。あの頃が一番、その手の輩に腹が立った時期だった。
下手すりゃ人間嫌いを発症しかねなかったと今でも思う。よく耐えられたな、俺。
 
「まあ、これでお互いの事は分かったな」
「そうだね。よろしく、翔くん」
差し出されたその手を見て実感する。
ああ、この手こそ俺が待ち望んでいたものだ。
この二課に入りたいと願った理由を、もう一度思い描く。
そうだ。俺は今度こそこの手を握る為に……今度こそは彼女を守る事で、あの日を償う為にここに居るのだ。
だから……そっと、差し伸べられた手を取って、壊れないように優しく握りしめた。 
 

 
後書き
響「ところで、何て呼べばいいんです?」
翔「同い歳だし、翔で構わないぞ」
響「わかりました、翔さん!」
翔「なんか違うな」
響「翔センパイ!」
翔「艶やかな感じで」
響「翔……せんぱぁい……♡」
翔「身の毛もよだつ風に」
響「恨めし……翔ぅぅぅ…………!」
翔「インパクトが足りないかな」
響「翔司令!」
翔「アシストウェポン風に!」
響「アクセスコード!バスターボラー!」
翔「もうこれ原型無いな」
響「じゃあ翔くん、でいい?」
翔「それが一番しっくり来るな」
響「じゃあ今度は翔くんの番ね!」
翔「なっ!?……た、立花!」
響「うーんやっぱり姉弟……」

ここ確か、呼び方決まらずちょっと迷ったからネタにしたんだよなぁ。
原文はリア友。ネタ提供ありがとう!
さて、次回は姉さん会議です。 

 

頑固な剣(あね)との向き合い方

 
前書き
さあ、姉さん対策会議の始まりです。
今思えば懐かしいなぁ、ブラコン全開だった頃って意味でも面倒臭かった頃の翼さんw 

 
「それで、姉さんとの接し方で迷ってるんだよな?」
 立ち話もなんなので、二人でソファーに腰掛ける。
 立花と立ち話、ね……。いや、なんでもない。
「顔を合わせてもこっち向いてくれないし、口も聞いてくれなくて……」
「完全に拗ねてるな……。加えて、辛いことは全部自分一人で抱え込もうとしてる時の姉さんだ。これは中々厳しいぞ……」
 姉さんが完全に覚悟ガンギマリ状態になりかけているらしい。これはあまり宜しくない流れだ。
 さて、どうしたものか。
 
「翼さん、どうすれば機嫌直してくれるんだろう……?」
「三人で一緒に飯でも食いに行ければ、打ち解けやすいと思うんだけど……」
「三人でご飯!!」
 ご飯。その一言に反応して、立花が勢いよく立ち上がる。
 好きな物はご飯、と豪語した彼女だ。食事に喜びを見出すタイプなのは目に見えていた。
 キラキラと輝いているその顔は、間違いなく歳相応の少女のもので。
 彼女の純粋な笑顔には……少しだけ、引き付けられてしまうほどの、眩い輝きが宿っていた。
「人間、誰かと美味い飯を囲めば気は緩むし、満腹になれば気分も丸くなる。飯の力なら、ガッチガチの石頭な姉さんも話を聞いてくれるようになると思うんだけど……」
「いいじゃないですか~それ!ご飯の力は私もよく知ってます!なにより、憧れの翼さんとご飯……想像しただけでもお腹が鳴るよぉ~」
「気持ちは分かるが落ち着け立花。問題なのは、姉さんをどう誘うかだ。弟らしく、可愛く頼めば来てくれそうな気はするが……」
 仕事と任務にピリピリしてる時は、流石の姉さんでも「悪いが後にしてくれ」の一点張りなんだよなぁ。
 それが読めてる上で秘技・弟の特権を無駄打ちするとか恥ずかしくて無理。
 他の方法を考えるとすれば、緒川さんにも根回ししてもらうとか……。
 
「可愛く頼めば……?」
 立花が首を傾げる。可愛らしい……じゃない。やっべ、口に出てた!?
「ん?……あっ、いや、何でも……」
「ほほ~う。翔くん、見かけによらずお姉さん大好きなんだ」
「いっ、いや、そうだが!これは家族愛とか姉弟愛とか、そういったライトな類のものであって!」
「あっはは~、照れちゃって~このこの~」
 立花に肘で軽く小突かれる。距離近いなこの子、どんだけフレンドリーなんだ!?
 あーもうっ!そうだよ、俺は昔っから姉さんっ子だよ!尊敬してるし、綺麗だと思うし、何処に出しても恥ずかしくない自慢の姉だと思ってるよ!
 でも決してシスコン的な好意ではないからな!?
「い、今のは聞かなかったことにしろ、立花ッ!綺麗に忘れるんだ!」
「分かってるって~♪︎」
 やれやれ、思ってたほど緊張する必要なく話せるのはいい事だけど、それはそれとして調子が狂う……。
 
 ……でも、悪い気はしない。むしろこの空気には、心地良ささえ感じる。
 あの日、ただ陰から見ているだけだった立花響という少女がどんな人となりをしているのか、今になってようやく分かった気がする。
 ついでに、あの頃の俺は意外と彼女の事を見ていなかったのだとも実感した。
 こんなにいい子なんだ。あの惨劇さえ無ければ、きっとクラス一番の人気者になったかもしれない……。
 けど、きっとその"もしも"は必要ない。
 だって、彼女は今を生きているのだから。……まったく。負い目だのなんだのと悩んでいた自分がバカらしくなってくるじゃないか。
 
 ∮
 
 仕事の時間までの合間に、本部のシュミレーターで一汗かいてシャワーを浴びる。
 毎日欠かさず行っている鍛錬を終え、喉の渇きを潤そうと休憩スペースに向かうと、何やらいつもより騒がしい。
「む?先客か。この声は……」
 耳を澄ませながら近付くと、声は二人分。私より歳下の男女の声だった。
 
 ……待て。私より歳下で二課に出入り出来る者など限られている。
 一人は立花。そしてもう一人はまさか……?
 足音を忍ばせ近付くと、視線の先には予想通りの、それでいて並んでいる所を見るのは初めてな二人がいた。
「立花と翔、か。一体何を話しているんだ?」
 昨日、弦十郎叔父様に二課への配属を頼みに来るとは聞いていたし、あの二人が中学時代の学友同士だったとも聞いている。
 しかし、笑い合いながら談話する二人を取り巻く雰囲気は、とても楽しげだった。
 久方ぶりの再会に積もる話がある、という考えに至るのが普通の筈だ。
 だが私は、昨日の緒川さんが言っていた一言──「おそらく彼は、響さんの事が好きなんだと思います」──あの一言が気にかかり、こう考えていた。
 もしや、二人で逢い引きの約束でもしているのではないか……と。
 そうだとすれば、私はこの場を去るべき筈だ。
 しかし……姉としては、どうしても気になってしまうのだ。
 弟は……翔は、立花とどのような言葉を交わしているのだろうか……?
 
「食べに行くとして、何にする?店ではなく、鍋パやたこパという手もあるが……」
「ふらわー、って美味しいお好み焼き屋さんの店があるんだけど、どうかな?」
「へぇ、そんなに美味いのか?」
「おばちゃんのお好み焼きは世界一だよ~!行ったことないの?」
「店の名前自体が初耳だ」
「じゃあじゃあ、今度下見って事で食べに行きません?」
 
 ……会話がはっきりと聞き取れる位置まで辿り着いて早々、私は度肝を抜かれた。
 これは……間違いなく逢い引きの相談!
 しかも立花のやつ、誘い方が思った以上に自然かつさり気ないぞ!?
 もう少しド直球で誘う性分だと思っていたのだが、人は見かけによらないな……。
 さて、翔の方は……。
 
「お、いいのか?なら、奢らせてもらおうかな」
「ええ!?い、いいんですか翔さん……そんな恐れ多い……」
「二課に来たばかりの新人、姉さんの後輩なんだ。この程度は、かっこつけさせてくれよ」
「わ~いやったー!ありがとうございます!」
 
 キリッ、としたキメ顔で言いきった!?
 何の臆面もなく支払いを自分で負担する事を宣言する……。翔、昔のお前なら女性に対し、ここまで余裕のある対応が出来ていなかっただろう。
 緒川さんの言う通り、お前も成長しているのだな……。
 
「それで、いつ行くの?早いに越したことはないないと思うんだけど……」
「なら、平日より休日の方が都合もいいだろう?今週の土曜日、昼前でどうだ?」
「OK!じゃあ、その日は空けとくね!集合は……」
 
 トントン拍子で計画が立っている……だと!?
 あの二人、いつの間にここまで親密な関係になっていたんだ……。
 緒川さんからは学友としか聞いていないが……まさか、その頃から既に!?
 いや、それはない。あの頃の翔はどれだけのラブレターを貰っても、開封した後でまとめて処分しつつ無視を決め込むくらい、言い寄ってくる女子にはうんざりしていたのを知っている。
 となれば……まさか、その理由は既に立花がいたからだというわけか!?
 あの二人、一体何処まで進んでいるのか……気になって仕方がない!!
 いや待て、落ち着け風鳴翼。この程度の事で動揺してどうする?
 この身は剣と鍛えた身。この国を守る使命を帯びた防人たる私が、弟の恋愛関係に心を乱されてなんとする!
 しかし翔の相手が立花だと!?昨日の今日で突き放した立花が翔と……。
 この場合、私はどうすればいいんだ……!?
 
 こうして、二人の預かり知らぬ所で会話を盗み聞きし、その関係を勘違いして一人悶々としている姉がいる事を二人は知らない。
 この後翼は、迎えに来た緒川に声をかけられるまで頭を抱えていたという。
 
 

 
後書き
余計な重荷は降ろせるうちに降ろした方がいい。
そうして残ったものこそ、その荷の本来の重さ。持ち続ける重荷は、本来の重さの分だけで充分ですからね。

翼「今回あれだけ仲睦まじく会話してた上に、前回の後書きでもイチャついていたと聞いている。私はどうすればいいんだ!!」
奏「随分とお悩みらしいな?」
翼「奏!?どうして此処へ!?」
奏「それは今置いといて、素直に謝ればいいんじゃないか?」
翼「それはそれで格好付かないし……」
奏「ならお前らしく、堂々といったらどうだ?」
翼「私らしく、堂々と……」
奏「ああ。ちゃんと向き合えば、きっと仲良くなれるはずさ」
翼「ありがとう奏……お陰で少しだけ、楽になったよ」
奏「そりゃあよかった。ところで、あたしの出番まだ?」
翼「ってそっちが本題なの!?」

さーて、次回はようやく話が動きますよ!ご期待下さい! 

 

胸に宿した誓い

 
前書き
この回は書くにあたって、ニコニコ大百科の世話になりました。
1話の新聞記事を全文まとめてくれてたのがとてもありがたい……。
さて、ここから独自展開が混ざり始めます。お楽しみに! 

 
「純、俺今日も寄る所あるから」
「今日も?別にいいけど、あんまり遅くならないでよ?」
「分かってるって。そんじゃ、行ってくる!」
 教室を駆け出していく親友を見送る。これで三日連続だ。
 
 事の発端は一昨日。昔のクラスメイトに会えるかもって、出て行った日から翔はこんな感じだ。
 帰ってきた時に話を聞いたら、どうやら会う事が出来たらしい。教室を出た時の何処か暗い顔は何処へやら、楽しげに喋る姿に少しホッとした。
 土曜日の午後には、その元クラスメイトの子と二人でお好み焼き屋さんへ行くつもりらしい。
 僕も一緒にどうか、と誘われたんだけど敢えて断っておいた。
 そのクラスメイトの子、どうやら女の子らしいからね。翔はあまり意識していないらしいけど、それどう考えてもデートじゃん。友人のデートを邪魔するほど、僕は無粋じゃない。
 
 それにね翔、多分君自身は気付いてないと思うんだけど、その子の事を話す時の君、かなりキラキラしてるんだよ?
 君はきっとその子の事が……いや、敢えて何も言うまい。その答えは君自身が見つけて欲しいからね。
 そして、もし君がその気持ちに気付く事が出来た時は、僕は親友として誠心誠意祝福しよう。
 
「待ち人来たる、か……」
 親友に春の兆しを感じながら、何となく窓の下に広がる運動場を見る。
 校内には合唱部の歌声と、吹奏楽部の演奏が響き渡り、オレンジ色の空を彩っていた。
 夕陽に照らされながら、僕はポケットの中から定期入れを取り出し、その中に収められた一枚の写真を取り出す。
「僕の待ち人は未だ来ず……いや。いつか、きっと、必ず……迎えに行くから……」
 歌を聞く度に思い出す、面影の中の()()へと語りかける。
 写真に映っているのはまだ小さかった頃の僕と、一緒に手を繋ぎ眩しいくらいの笑顔をカメラへと向ける銀髪の少女。
 今から7年と8か月前、NGO団体の一員だった両親と共に内戦中の国家へ向かい、行方不明となっていた僕の幼馴染。彼女との思い出の一枚だ。
 2年前の11月に救出され、今年の1月5日未明、成田空港の特別チャーター機で日本に戻ったって聞いていたんだけど、用意された宿舎への移動後、再び行方不明になってしまったと、新聞でも話題になっている。
 果たして彼女は何故、何処へ消えてしまったのか……。
 
「君は今、何処に居るんだい?」
 この日本に居るんだろう?
 また、君に会いたいよ──クリスちゃん……。
 
 ∮
 
 立花との再会から2日ほど。約束の日はいよいよ明日に迫っていた。
 無論、その間何もしていなかったという訳でもなく、俺は放課後になる度に二課本部へと足を運び、立花の戦いを見守っていた。
 姉さんは相変わらず快進撃を続けている。しかし、全てのノイズを自分一人で倒し尽くそうとしているきらいがあるのは問題だ。
 叔父さんも困ってるし、俺の方から一言言おうとしてもここ2日連続で逃げられている。
 緒川さんからは、何やら困ったような顔で「今はそっとしてあげてください」って言われるし……やれやれだ。
 
 一方、立花はというと未だに逃げ腰。迫って来たノイズを迎撃する程度ならできるけど、迫られるとつい逃げ出してしまう。
 何やってんだ、とモニター越しに何回突っ込んだ事か……。元々戦士として鍛錬していた訳でもないから仕方がない、とはいえこれではシンフォギア奏者としてあまりにも頼りない。
 これはもう、叔父さんに修行付けてもらうしかないのでは?
 
 そうやって、これまでの立花の事を振り返りながらエレベーターを降りる。
 コンソールルームに入ると、丁度ブリーフィングが始まるところだった。
「は~い、それじゃあ仲良しブリーフィングを始めるわよ~ん」
 了子さんの明るい声が響く。
 ブリーフィングを取り仕切っているのは基本的に、ムードメーカーの了子さんの役割だ。
「お、今日は翔くんも参加?」
「はい。まだ正式な配属ではありませんが、自分にも立ち聞きする資格くらいはありますからね」
「翔くんやっほ~」
「今日も元気そうだな、立花」
 立花が手を振って挨拶してくれたので、こちらも手を振り返す。
 一瞬、姉さんの方から鋭い視線を感じた気がするけど、気の所為だろうか?
 
「さて、今回集まってもらったのは、この特異災害対策機動部二課を指名して、護送任務が入って来たのが理由だ」
「護送任務?何を運ぶというのです?」
「もっちろん、聖遺物よ」
 姉さんからの疑問に答え、了子さんが操作したモニターに画像が表示される。
 それは、錆びて朽ち果てた矢の鏃のような形をしていた。
「了子さん、これは?」
「今朝、遺跡から出土したばかりの第4号聖遺物、〈生弓矢(イクユミヤ)〉よ」
「イクユミヤ……?」
 立花が首を傾げる。まあ、確かに日本神話に詳しくないとパッと浮かばない名前だろう。
「須佐之男命が所持していたとされている生太刀(イクタチ)生弓矢(イクユミヤ)、そして天詔琴(アメノノリゴト)。出雲の三種の神器と呼ばれている聖遺物の一つだ」
「ほえ~……翔くん詳しいね」
「まあな」
 立花から向けられる尊敬の眼差しが、少し照れくさい。
 しかし、どうやら俺の事は忘れているらしい事が、何だか少し寂しいな……。
 
「他二つの聖遺物、生太刀と天詔琴は発見されなかったのですか?」
 そういえばそうだ。三種の神器なんだから、同じ場所に安置されている可能性は高い。
 姉さんからの疑問に、了子さんは大袈裟に肩を落としながら答える。
「残念ながら。多分、経年劣化で他の2つはダメになっちゃったのかも」
「残ったのは生弓矢だけか……」
「今回の任務は第4号聖遺物、生弓矢を研究施設へと輸送する運搬車を護衛する事だ。何も無い事を祈りたいが、万が一という事もある」
 確かに、聖遺物の護送となればシンフォギア奏者の出番だ。
 二年前にライブ会場の裏で行われていた、完全聖遺物の起動実験。その際、二課が保有していた第2号聖遺物イチイバルと、実験中だった完全聖遺物が失われた。どさくさに紛れ、何者かに盗まれたと考えるのが妥当だろう。
 聖遺物は世界各国が極秘で研究を重ねている。他国から盗みたい国家だって、幾つ存在することか。
 故に、警戒は厳重でなくてはならない。またしても聖遺物を何者かに奪われるなど、あってはならないのだ。
「任務は明朝。翼と立花、それから……」
 
「俺も行かせてください!」
 叔父さんの言葉を途中で遮り、挙手で意志を示す。
 その俺の顔を真っ直ぐ見て、叔父さんは問いかける。
「遊びじゃないんだぞ?」
「承知の上です。俺も姉さん達と一緒に、人々を守りたいんです!戦えないなら、戦えないなりに出来ることがある筈です!」
「では、今一度聞こう。翔、お前は何故二課への配属にそこまで拘る?」
 知れた事!その理由は変わっていない。
 いや、少しだけ形は変わったと思う。罪滅ぼしとはいえ、自分の命を軽く見てはならない。今ならその実感が、この胸の奥に強く有る!
「今日を生きる誰かの命を、明日へと繋ぐため。そして、誰かを守る為に戦っている人達を支えるため!理由はただ、それだけです!」
「自らの命を懸けてでも、か?」
「命を懸けなければやっていけない仕事ですから、それは当然です。しかし、だからといって死んでもいい、なんて言うほど俺も馬鹿じゃありません!誰かの命を救って、自分も必ず帰って来る。それこそが俺の、常在戦場の決意です!」
 
「その言葉を待っていた!」
 叔父さんは満足そうな顔で俺の肩に手を置いて続けた。俺が待ち焦がれていた言葉を。
「風鳴翔!今日からお前を正式に、我らが特異災害対策機動部二課の実働部へ配属する!」
「ありがとうございます、叔父さん!」
「あと、任務中は司令と呼ぶように」
「はい、司令!」
 夢にまで見た二課への配属。数年越しの祈願の成就に胸が踊る。
 これで俺は、姉さんや立花の戦う姿を見ているだけじゃなくて、二人を支える事ができる!
 
「やったね翔くん!」
「うおおおおおおおっ!?」
 声をかけられ振り返ろうとした瞬間、立花が背中から飛び付いてきた。
 立花的には無邪気なスキンシップのつもりなのだろうが、何か柔らかい感触がッ!?立花のやつ、意外とあるぞ!?
「たっ、立花!あんまり引っ付くな!距離が近い!!」
「そっ、そそそそうだぞ立花!なんのつもりの当てこすりだ!公衆の面前でそのような破廉恥、この私も看過できんぞ!」
「え?あっ!ごめんごめん、ついうっかり……」
 軽く頭を下げつつ、てへっと笑う立花。不覚にも可愛いとか思っちまった。
 この子、危ないくらいに純粋だな……。
「いいか立花!そういう事、他所の男子にはやるんじゃないぞ?あらぬ勘違いを受けるからな」
「うっ、それは確かに困るなぁ……。分かった、気を付ける」
「おい立花、あああ後で些かばかり話が……」
「はいはい、翼ちゃんは少し頭を冷やして来なさ~い」
 何やら真っ赤になりながら騒いでいる姉さんが、了子さんに抑えられている。
 同じ女子として、今の行動については厳しく言っておきたいんだろうか?
 やっぱり姉さん、真面目だな……。
 
 そんな三人を見て、声を潜めて話し合う大人達がいた。
友里(ともさと)さん、もしかして響ちゃんって……」
藤尭(ふじたか)くん。あれは響ちゃんどころか、翔くんの方も割と……」
「俺も気付いたのは今だが、って事はつまり翼のやつ……」
「「今頃気付いたんですか!?」」
「うーん……俺って、そんなに鈍いのか?」
 オペレーターの藤尭と友里に同時に突っ込まれ、弦十郎は頭を掻くのだった。 
 

 
後書き
藤尭「藤尭朔也です」
友里「友里あおいです」
藤尭「僕達、名前出るまで結構かかりましたね」
友里「ここまで名前出すほど喋ってなかったし、仕方ないんじゃない?」
藤尭「僕達の活躍はここからですからね!」
友里「ここから独自展開らしいけど、どうなるのかしらね」
藤尭「タイトル回収、いつになるんでしょうね?」
友里「それは作者のみぞ知る話よ。今突っ込んだら首が飛ぶわよ?」
藤尭「えっ!?」

果たして「伴装者」とは何なのか。この先もお楽しみください!
今日のところはここまで。また明日、お会いしましょう。 

 

任務前夜

 
前書き
そのまま護送任務だと思った?
ざ~んねん、あと二話ほど挟ませて頂きます。 

 
 ブリーフィング後、俺は立花と二人で自販機の前に立っていた。
「それにしても……まさか約束の日に任務が入るなんてなぁ……」
「朝の5時に任務開始かぁ。って事は起きなきゃいけないのは4時……起きられるかなぁ……」
「俺ら姉弟、朝5時起きは基本だったから余裕だぞ」
 ボタンを押し、オレンジジュースの缶を取りながら答えると、立花は驚いた表情を見せた。
「ええ!?夜更かししないの!?」
「朝から筋トレとかランニングしてるからな」
「凄い……未来でも起きるのは6時なのに……」
「未来……ああ、小日向か」
 聞き覚えのある名前だと思ったが、確か立花の幼馴染で親友の女子の名前だ。
 中学の頃も、クラスの中で唯一彼女の味方だった存在だ。
 前に立つ事はなけれども、立花を隣で支え続けていた事を俺は知っている。
 正直に言えば、俺には届かない場所に居た憧れとも呼べるだろう。
 そうか……立花は、彼女の進路だから同じリディアンに……。
 
「え?何で翔くんが未来の事知ってるの?」
 反射的にビクッと肩が跳ねた。
 この瞬間、立花は俺がかつてのクラスメイトだと忘れているのではないか、という疑念が確信へと変わった。
 迂闊だった。小日向の名前に反応したばっかりに、その話題に触れることになるなんて……。
「え、ああ、それはだな……」
 隠しているつもりはないんだが……正直、俺は立花にあの頃の事を思い出させたくないんだ。
 辛かった日々を思い出し、彼女が翳るのが嫌だ。
 辛さを堪えて俯く彼女を、二度と見たくはない。
 何より、俺の事を思い出した彼女に拒絶されるのが、何よりも恐ろしかった。
 再会からたった三日しか経っていないが、今の関係が崩れてしまうのが怖い。
 そう思うと、答えることを躊躇ってしまう。
 
 でも、このたった三日の間で分かったこともある。
 彼女は過去に囚われずに今を生きていく、強い心を持っている。
 人助けが趣味だと豪語したくらいだ。助けたい"誰か"に踏み躙られた過去を持ちながら、それでも彼女は手を差し伸べる事を選んでいる。
 そんな彼女ならきっと許してくれる。虫のいい話かもしれないけど、そんな確信があった。
 だから……俺は勇気を出してみる事にする。
 蓋をして遠ざけていた過去を、いつまでも隠しているのは偲びない。
 支えて行くと決めたんだ。その彼女に対しては、誠実でいるべきだろう。
「……立花、俺の事を覚えているか?」
 息を呑みながら、立花の答えを待つ。
「え?何が?」
「二年前、俺は立花のクラスメイトだったんだ」
 
 ∮
 
「弦十郎くん、頼まれてた例のやつなんだけどね~」
 ブリーフィングが終わり、輸送車の進行ルートを確認していた弦十郎が振り返ると、入室してきた了子は隣の席に座り、弦十郎の席のモニターにデータを送信した。
 先程まで確認していたタブを一旦縮小し、弦十郎は送られてきたデータを確認する。
「改良の結果はどうだ?」
「今出来る最大限の事はしたつもり。でもやっぱり、使用者本人に頼る所が大き過ぎて不確定要素が多い面は変えられないわね」
「そうか……」
「でも、なんとかテスト運用出来る所までには調整出来たわよ。後は聖遺物の欠片を嵌め込めば、一応起動出来るわ」
 了子が白衣のポケットから取り出した鈍色の腕輪には、中心部にはちょうど翼のペンダントと近い形状の窪みが存在していた。
R()N()()()()()()()()……シンフォギアのプロトタイプとはいえ、その性能は劣化版どころか玩具以下のガラクタ同然なんだけど……。実戦投入出来るように改良出来ないか、って言われた時は驚いたわよ」
「俺達でも使うことが出来るのに、倉庫で埃をかぶるだけだなんて勿体ないだろ?」
「まあ、弦十郎くんの精神力なら案外使いこなせちゃったりするかもね~」
 
 RN式回天特機装束。それは聖遺物の力を歌の力
フォニックゲイン
ではなく、使用者の精神力によって引き出し、ノイズに対抗する装備の名称だ。
 しかし、使用者の精神力の強さによって稼働時間が変わる上、訓練されたレンジャー部隊でさえ数秒と持たず、使えばただ疲労するだけの欠陥品であり、現行のシンフォギアに比べればその性能差は火を見るより明らかだ。
 それでも、一応はシンフォギアのプロトタイプであるため、〈シンフォギアtype-P〉とも呼称されるこの欠陥装備は今、ようやく日の目を見ようとしていた。
「念の為、明日の朝、翔くんに預けちゃってもいいかしら?」
「翔に!?ううむ……確かに、前線に近い場所に立つことになるからな……。護身用に持たせる分には構わんが……」
「じゃあ決まりね?もしもの時は生弓矢の欠片で起動してもらうわ。でも長くは持たないから、生弓矢を持ってダッシュする翔くんを回収する手筈も整えなくちゃね」
「無論だ。何があっても絶対に子どもを守るのが、俺達大人の務めだからな」
 そう言って弦十郎は、護送車の進行ルートに合流ポイントを加筆して行くのだった。
 
 ∮
 
「え……?それって、どういう事……?」
 立花の声が震える。
 怒り……違う。これは多分、恐怖の震えだ。
 立花本人が自覚しているかは分からない。しかし、あの日の傷は確かに立花の心に刻まれているのだと、その声で実感する。
 だから俺は床に膝を着き、頭を下げて謝罪した。
 
「すまない立花!俺は……俺は、お前の苦境を知りながら……ずっとそれを見ているだけだったんだ!」
「翔くん……?」
「本当は助けたかった!でもあの頃の()には……勇気がなかったんだ……。足が震えて……声が出なくて……飛び出せなくて……。手を差し伸べられるチャンスはいくらでもあった!なのに、僕は!!」
 僕は何も出来なかった……。泣いている誰かに手を差し伸べるヒーローには、なれなかったんだ……。
 
「……翔くん」
「許してくれなくてもいい……。君に怒られても、恨まれても構わない!嫌われたって仕方ないって分かってる!でも……あの日の事を謝らせて欲しい……。僕の弱さが君を傷付けた事を謝罪させて──」
「翔くん!顔を上げてよ!」
 立花の叫びに、ゆっくりと顔を上げる。
 視界に映りこんだ立花の顔は、ぼやけてよく見えなかった。
 そこで、ようやく自分が泣いていたことに気がつく。
 
 制服の袖で涙を拭うと、立花は穏やかな顔でしゃがみ込んでいた。
「私、翔くんの事を恨んだ事なんて一度もないよ?」
「え……?」
 僕の事を……恨んでない?
 なんで……僕は、君に手を伸ばさなかった臆病者なんだぞ?
「翔くんの感じた怖さは、人間として当然のものだと思う。誰だって怖いに決まってるよ」
「でも……僕は……」
「それにね。翔くんが私の事心配してくれてたって知った時、すっごく嬉しかった」
 嬉しかった……?
 なんで、そんな事を……?
「だって、あの教室で私はひとりぼっちじゃなかったんだって、翔くんが教えてくれたから私は頑張れたんだよ?」
「僕が……?」
 何の話を……。そう言いかけて、思い出した。
 そういえば、立花に直接話しかけたのはあの日の放課後と……もう一つあったんだ。 
 

 
後書き
未来「私の出番まだ先だけど、名前は出たから予告お願いって言われたので来たんですけど、何を話せばいいんだろう……。そういえば、最近響の帰りが遅くて困ってるって話をしたら、友達から『秘密でアルバイトとか?』『もしかしたら彼氏かもよ?』なんて言われちゃって、気が気じゃありません。でも、もし響が危ない人に関わっているのなら、私は何が何でも響を連れ戻します!そういや、最近特売でよく会う知り合いも似たような悩みをボヤいてたっけ?今度相談してみようかな……」

一話で書ききれると思ったけど、そうは行かなかったんだよねぇ。懐かしい。
次回、過去回想と響の答え!お楽しみに! 

 

溢れる涙が落ちる場所

 
前書き
この頃は、翔ひびの無自覚イチャイチャに萌えた人が増えてて嬉しかったのがいい思い出です。
っていうか、そういう感想は一番嬉しいです!
毎日更新のモチベに繋がるので、感想はどんどん欲しいですね。

では、翔と響の昔話です。 

 
 その日の給食時間。立花は自分の給食を受け取り、彫刻刀の跡が残る机へと向かっていた。
 献立は確か何だったか。カレーだったか、シチューだったか。中身の方は記憶にない。ただ、立花がとてもウキウキしていたのは覚えている。
 日々を迫害の中で過ごしていている立花。美味しいご飯こそが、そんな彼女の心を支える要因の一つだったのは明白だ。
 しかし、立花を虐めていた主犯グループの女子……例のサッカー部キャプテンのファンであり、諸悪の根源とも言える女生徒が、立花の足を引っ掛けたんだ。
 給食の皿は放物線を描いて宙を舞い、その中身はひっくり返って床に散らかる。
 周囲はゲラゲラと笑っており、女生徒もわざとらしく立花を嘲笑っていた。
 いくら普段は笑って誤魔化しているとはいえ、立花はこの僅か40分ほどの短い時間に大きな安らぎを得ていた。さすがにその時ばかりは立花も、今にも泣き出しそうな顔で、床に散らばった先程まで献立だったものを見つめていた……。
 
 この時ばかりは、翔の堪忍袋も緒が千切れた。
 普段は怯えて縮こまっている彼だが、こと食事に懸ける情熱は人一倍強かった事が、この時功を奏したのだ。
『何食いもん粗末にしてやがんだこの下郎共が!』
 机を叩き、勢いよく立ち上がった翔は響の方に歩み寄ると、手持ちのハンカチで彼女の髪に付着した皿の中身を拭き取る。
『立花さん、僕の分の給食代わりに食べていいよ。掃除も君じゃなくて、あいつらがやるべきだから』
『え……?』
『いいから早く席に戻って。ほら』
 翔の給食を受け取ると、響は彼の方を振り返りながら自分の席へと戻って行った。
 それを見送って、翔は例の女生徒及びクラスメイト全員を睨み付けて叫んだのだ。
『今度食べ物を粗末にするような真似をしたら、僕は本気で君達を許さない……』
 
 ──それ以降、響に対する虐めそのものに変化はなかったが、給食時間の彼女を狙った行動はそれっきり二度となかった。
 翔自身は、掃除が終わってもおかず臭さが残ったから懲りたのだろうと思っていたため、それが自分の手柄だとは思ってもみなかったのだ。
 だが、彼はその瞬間だけ、確実に立花響の心を守り、教室の中を漂う蒙昧な空気を断ち切る事が出来ていたのだ。
 
 ∮
 
「何で私も忘れてたんだろう……。たった一回きりだけど、私を守ってくれたヒーローの顔なんて、一生モノの筈なのにね」
 そう言って、立花は微笑んだ。
 その微笑みには一切の翳りなく。ただ、慈しみに溢れる輝きだけが存在していた。
 その微笑みを向けながら、立花は僕の事を"ヒーロー"だと言ってくれた。こんなにも臆病で、ちっぽけで弱かったあの日の僕を。
「立花……」
「だから翔くんは、自分の事を責めないでいいんだよ。でも、心配してくれてありがとう。その気持ちだけで私は、お腹いっぱいだから」
 その一言で、僕の心の中で何かが崩れた。
 涙がどんどん溢れ出して、声が詰まってはむせ返る。
 みっともない姿を晒してしまった、などと考える間もなく。強くありたいと願ったあの日から被り続けていた虚栄の仮面は、見る影もなく剥がれ落ちた。
 
 ……身を包む温かくて、柔らかな感触に顔を上げる。
 頬に触れているのが髪だと気がついた時、今の自分の状況を認識した俺は慌てた。
「たっ、立花っ!?」
「迷惑だったらごめんね?でも……翔くんが泣いてるとこみたら、何だか放っておけなくなっちゃって」
「……まったく……立花は、どこまでもお人好しなんだな……」
 まだ少し弱々しさが残る声でそう言うと、立花は静かに答える。
「そう言う翔くんは、意外と泣き虫なんだね」
「姉さんに似たのかもな……。姉さんも、奏さんからよくそう言われていたよ……」
「翼さんも?人って見かけによらないなぁ……」
「どうもそうらしい……。ありがと、元気出た」
 そう言うと、立花はようやく俺の背中に回した手を離した。
 改めて立花と向かい合う。
「もう大丈夫?」
「ああ……2年間背負い続けた肩の荷が降りた気がするよ」
「そっか……。よかった」
 立花は俺の事を恨んでもいなかったし、忘れてもいなかった。思い出すのに時間がかかったのはきっと、あの頃の記憶に蓋をしているからだろう。
 多分、それは俺も同じだ。辛い思い出ばかりだと思って蓋をしていた記憶の中に、僅かだけれども光があった。
 ただ一度の、だけどとても強い勇気。この思い出はかけがえのないものだ。二度と忘れないようにしなくては、と心に刻む。
 
 そこでふと考える。立花の方はどうなのか、と。
「なあ、立花……君は辛くないのか?」
「え?辛いって、何が?」
「何が?じゃない。あの頃、直接迫害を受けていたわけでもない俺がこうなんだ。君の方が泣きたい瞬間は沢山あった筈なのに、あの頃の君は一度も泣かなかっただろ?」
「ああ、その事かぁ……」
 立花は納得したように首を縦に振ると答えた。
「確かに辛かったよ。でも、私は大丈夫。へいき、へっちゃらだから!」
 
「……大丈夫なわけ、ないだろう!!」
 次の瞬間、俺は立花の両手を握っていた。突然の事に驚き、目を見開く立花。
 へいき、へっちゃら。それはあの頃の立花が、呪文のように繰り返していた言葉だ。
 まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も繰り返していた言葉。
 立花にとっては自分を奮い立たせる為の言葉だったのかもしれないが、あの頃の彼女を見ていた俺にとってその言葉は、一種の呪いのようにさえ見えた。
 だから、その一言で片付けようとする立花を俺は放っておけなかったのだ。
「へいき、へっちゃらじゃない!辛い時は泣いていいんだ……痛かったら叫んでいいんだ!一人で抱え込もうとするな!もっと……もっと周りを頼れ!必要以上に堪えるな!」
「翔くん……」
「君が辛い目に遭う姿を見るのは、俺にとって苦痛の極みだ。でも、それ以上に君が辛さや苦しみを堪えようと、一人で俯いてる姿を見るのはもっと辛いんだ……だから!」
 
 その言葉はとても簡単に、意識せずともするりと口から出ていた。
 胸の誓いは嘘偽りなく、俺の想いを言葉に変えた。たとえその言葉の本意に、俺自身が気付いていないとしても……彼女の胸には確かに響いたと思う。
「せめて俺の前では、自分に素直な立花響で居てくれ……」
 彼女の両手をぎゅっと握って、透き通るような琥珀色の瞳を真っ直ぐ見つめ、俺は一言一句ハッキリと言いきった。
 数秒間の沈黙が流れる。流石に気障っぽかっただろうか?
「いや、いつも素直な立花にこういう事を言うのは門違いか?すまない、いきなり妙な事を……った、立花!?」
「あれ……私……なんで……?」
 自分の頬に手を添えて、指先を滴る雫を見てようやく立花は気がついた。
 いつの間にか、その瞳の端から涙が零れている事に。
「あれ……あれ……?なんでだろ、涙が……止まらないよ……」
「……立花」
 今度は俺が、立花の背中に手を回していた。
 彼女が痛がらないように力は抜いて。そっと、優しく、包み込むように抱き寄せる。
「さっきのお返しだ。涙が止まるまでは、俺の胸を借りていけ……」
「んぐっ……ひっく……ありがと、翔くん……」
 それはきっと、この2年分の涙。心のダムにせき止められていた涙が、今になって溢れ出しているんだ。
 俺も彼女も、きっと同じだったんだ。
 同じ学び舎で、形は違えど同じものに苦しめられて、角度は違うけど同じ痛みを知り、同じくらいの涙を溜め続けた。
 でも、もういいんだ。俺達は二人とも、涙を流さず進み続けるという虚勢を張り続け過ぎた。そんな日々は今日で終わる。過去の痛みを抱いて前に進む、という点では変わらないが、虚勢の負債はここで全て流してしまおう。
 漸く素直に泣いてくれた彼女を見て、俺は心から安心した。
 彼女の心が軋んでしまう前に、その強さで輝きが翳ってしまう前に彼女を支えられた。いつもの自己満足かもしれないけれどこの瞬間、俺はようやく彼女の手を握る事が出来たのだ。
「……立花、もう大丈夫か?」
「ん……もうちょっとだけ……」
 立花が俺の背中に再び手を回す。立花の背中に回した自分の右手を、彼女の頭に置く。
 それから暫く、俺の制服は立花の涙で濡れる事になった。彼女の嗚咽が廊下に反響していたけど、有難いことに通りかかった職員さん達は空気を読み、揃って引き返して行った。
 
 10分くらい経って、立花はようやく泣き止んだ。
 すっかり温くなってしまったジュースを飲み干して、俺達は二人でエレベーターの方へと向かう。
「翔くん、今日はありがとう。私もちょっと、楽になった気がする」
「俺も、立花のお陰で気が楽になったからな。ありがとう」
「じゃあ、明日は頑張ろうね!」
「ああ。さっさと任務を終わらせたら、昼飯はふらわーへ直行だ!」
 立花と二人でしっかりと握手し、ついでに"友情のシルシ"を交わす。
 出会ってから3日。過ごした時間は短いが、今日は立花との距離がとても縮んだ気がする。
 次は姉さんの番だな、とブリーフィングの後で仕事に向かってしまった姉さんを思いながら、俺はエレベーターの手すりを握るのだった。
 
 

 
後書き
なーんでここまでやって恋愛に発展しないんだろうって?
鈍感、無自覚、あとその感情が恋愛だと気付けなくなる程の重い過去、ですかねぇ。

響「ところで、どうして翔くんは私の事苗字で呼んでるの?」
翔「俺達、名前で呼び合うような仲なのか?」
響「うーん、でももう友達なんだし、そろそろ名前で呼んでもらいたいかなって」
翔「そうか……。しかし、いざとなると照れくさいな」
響「仮面ライダーっぽく!」
翔「立花さん!」
響「繰り返~す~」
翔「響鬼!」
響「漫画版遊戯王GXで日本チャンプの?」
翔「響さん!」
響「小説媒体系ウルトラマンの主人公風に?」
翔「ビッキー!」
響「吹雪型駆逐艦の22番艦は?」
翔「響!」
響「私の名前は?」
翔「ひびk……立花、もういいか?」
響「ええ~……そこまで言いかけて止めるなんてご無体な~」

次回も過去編です。それが終わったら護送任務編入りますね。 

 

番外記録(メモリア)・夕陽に染まる教室

 
前書き
前回の翔の台詞への反響が大きかった頃だなぁ。告白、或いはプロポーズに聞こえたという声も多数挙がってましたね。
あれはもう今のところ、翔の一番の名言になった事を確信してたり(笑)
それとこれを書いた次の朝、起きたら「響がとても響らしくヒロインしてるのが最高」という二次創作家にとって最高ランクの褒め言葉がコメントされていたため、今日一日笑顔で頑張ることが出来たという思い出も……。

さて、今回は恐らく気にしている読者も多いであろう、翔が初めて響に話しかけた日のお話になります。 

 
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 放課後、誰もいなくなった教室でただ一人。呪文のように、同じ言葉を繰り返しながら机を吹いている少女がいた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 机には油性ペンで書かれた罵詈雑言の数々。机の隣には大量の週刊誌と新聞が積まれており、そのどれもが流麗な文章に彩られた同じ話題の記事ばかりだった。
 ライブ会場の惨劇。その被災者達への心無い迫害の象徴にして元凶たる、悪意のマスメディア。小さな教室に渦巻く暗黒を生み出した種が、そこには積まれていた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
 少女、立花響はこの中学校の中でほぼ孤立していた。
 彼女もまた、ライブ会場の惨劇を生き延びた被災者の一人だ。親友の小日向未来が急な用事で来られなかった為、一人でツヴァイウイングのライブに向かった彼女は、会場を襲ったノイズの群れにその運命を狂わされた。
 逃げ遅れ、心臓付近に突き刺さった破片により大量出血を引き起こした彼女は入院後、緊急手術室の中でなんとか息を吹き返した。
 それから、彼女は一生懸命にリハビリを続けた。家に帰って、また家族皆で暮らす為に。優しい両親と祖母、四人で過ごす平穏な日々へと戻る事を夢見て。
 
 しかし、社会はそんな少女の小さな夢を踏み躙る。
 退院した彼女を待っていたのは、人々からの心ない迫害と罵倒の数々だった。
 家には口悪い言葉ばかりが書かれた大量の張り紙が貼られ、窓からは石を投げ込まれた。
 学校に行けば生徒は全員、ノイズの恐怖への憂さ晴らしの為に彼女を虐げた。
 机に落書きは当たり前。惨劇の被災者らを貶める記事が見出しとなった週刊誌で机を埋め、学生鞄に針で呪詛を刻み、皆がそんな彼女を嘲笑った。
 会社でも白い目で見られるようになった父が失踪し、彼女に残された心の支えは母と祖母、陸上部の親友、そして大好きなご飯だった。
 それでも彼女は自分の弱さを、涙を流す姿を晒すことは無かった。
 ただ一言、口癖のように呟き続けては、親友に笑いかけて見せるのだ。
「へいき、へっちゃら」だと……。
 
 今日も一人で教室に残り、親友が部活から戻って来るのを待ちながら、その時間までに机の落書きと戦っている。
 そんな彼女を先程から、隠れるように見ている生徒がいた。
 やがて少年は何かを決心したように深呼吸すると、俯く彼女に声をかけた。
「立花さん……」
「へいき、へっちゃら……えっ!?だっ、誰!?」
「僕だよ、清掃委員の風鳴翔」
「え、ああ……どうも」
 少年……もとい、当時14歳の風鳴翔は洗剤入りのバケツとスカッチを手に、ゆっくりと教室へ入る。
「もしかして、僕の名前を覚えていなかったりする?」
「あ~……うん。あんまり話した事ないから……ごめんね」
「いや、別に謝る事じゃないよ。ただ、少しだけ嬉しく……いや、それよりもこっちの方が大事だね」
 翔はバケツを床に置くと、洗剤を溶かした水にスカッチを浸して手に持った。
「手伝うよ」
「いや、でも……」
「校内の備品は綺麗に使え。それが校則だし、清掃委員として見過ごせないんだよ」
 その程度の校則も守れなくなる空気感など馬鹿げている。
 内心でこのクラスの生徒らを毒づきながら、翔は響の机を磨き始めた。
 
「なんだか、ごめんね……」
「立花さんが謝る事じゃないよ。こういうのは汚した側が悪いんだ」
「でも、私と一緒に居るところ見られちゃったら、君も呪われちゃうかも……」
 呪い。この頃から、それは彼女の口癖だ。
 嫌な事、凹む事、落ち込む事、ドジを踏んだ事。そういったよくない事に苛まれる度に、彼女はそう呟く。『私、呪われてるかも』と。
「呪い……か。確かに、あの事件以来この学校を取り囲む空気は、もはや呪いの類だよな……」
 何も非科学的なものでは無い。オカルティックなものでないとしても、人の心の暗黒面がそれを実現してしまう事は、よくある話なのだ。
「でも、僕から見れば立花さんのそれも一種の呪いに見えるぞ?」
「それ、って?」
「さっきから無心に呟き続けてる言葉。ずっと繰り返してる時点で、大丈夫なわけないだろう?それ、何かのおまじないだったりするの?」
「あー、ひょっとして"へいき、へっちゃら"?」
 首を傾げる響に翔は頷きつつ、一瞬呆れたような顔になる。
 何故そうまでして強がれるのか。彼には理解出来なかったからだ。
 無意識だとすればこの言葉こそ、彼女を縛る呪いではないか?
 そうとさえ考えるほど、彼にはそれが強がりに見えたのだ。
「この言葉はね、魔法の呪文なんだ。どんなに辛くても、挫けそうな時でも頑張れる。勇気をくれるおまじない。だから、私は何があっても頑張れるんだ」
「そうか……。ごめん、そんなに大事な言葉だとは知らずに……」
「いいっていいって!それより、また未来に心配かけちゃうから急いで片付けなきゃ!」
 再び響が机を拭き始める。
 それきり、翔は何も話しかけられなかった。
 きっとその言葉には、特別な何かがある。彼女の様子からそう感じた彼は、その言葉を勝手に強がりだと思い込み、呪いだなどと言った自分が許せなかった。
 危うく彼女の支えを折りかけたのではないか。そう思うと、自分も他の生徒らと変わらない、自分を中庸だと宣う蒙昧な人間だと実感し、嫌気がさしたのだ。
 
 それから間もなく、その机は油性ペンの跡は全く残らない、ピカピカの机になっていた。
 ついでにビニール紐で雑誌を縛り、翔はバケツと雑誌を手に立ち上がる。
「じゃあ、僕はこれで」
「片方持とうか?」
「片付けるのは清掃委員の仕事だ。じゃ、気を付けて」
 そのまま翔は足早に教室を出て行った。
「まったく……僕はなんて馬鹿なんだ……」
 これを機に彼女の前に立てればと勇気を出したのに、無意識に彼女を傷付けかけた。そんな自分が、どうして彼女を庇えるのだろうか。
 生来、自己肯定感が強くなかった彼は自分の不用意さに、より一層自信を無くしてしまった。
 バケツを用具入れに仕舞い、雑誌を資源ゴミ置き場に置いて彼は帰宅する。
 翌日、響の鞄にコンパスの針で罵詈雑言が刻まれたと知り、より一層自分を責める事になるとは知らずに……。
 
 ──この時の翔は、自らの不用意さを呪った。良かれと思っての行動が、余計に彼女を傷付けることを恐れた。
 しかし彼はいつか、あの言葉の裏に押し込められた彼女の弱さを、この時と同じ言葉で吐き出させる事になる。
 その日まで、二人の心はすれ違ったままで……。 
 

 
後書き
この後、中学を卒業した翔くんは一人称を「俺」へと改め、OTONAに弟子入りして心と身体を鍛えるわけです。
自信をつけ、臆病さを払拭して、姉に並んでも恥ずかしくないくらいのオーラを放つ男に。
そして、響に手を伸ばしたものの、臆病さ故にその手を掴めなかった後悔は、「もう二度と、目の前の掴める手は掴んで離さない」という決意に変わり、響と同じように率先して人助けをするようになったのです。

次回はようやく護送任務へ。ご期待下さい。 

 

聖遺物護送任務

 
前書き
独自展開、それは空白の二週間の間に挟まれるイベント!
オリジナル聖遺物とRN式の登場。ここまで来れば何があるかは……おっと、この先はまだ未来のページでしたね。
 

 
 土曜日、朝5時10分前。
 輸送車の発着地点に、特異災害対策機動部二課の面々は集まっていた。
 実働部隊の制服は黒服であるため、翼、響、翔の三人はそれぞれの学園のブレザーを着用して並んでいる。
「念の為、緒川さんに迎えに行ってもらって正解だったな」
「ごめん、何とか起きようとしたんだけど……」
 響は案の定寝坊していた。いつもに比べれば早く起きた方ではあったが、走っても間に合うかどうかだった所、こうなる事を予想した翔が緒川を迎えに向かわせた為、なんとか合流したのだ。
「まったく、意識が弛んでいるぞ立花!」
「すっ、すみません翼さん!」
 腕を組み、あからさまに苛立ちをアピールする翼に全力で頭を下げる響。
 綺麗な直角、90度を描くお辞儀はある意味では芸術的だ。
 
「でも、しっかり休めたんだよな?」
「そりゃあもう、一晩中グッスリだったもん!」
「じゃあ今日は思いっきり働けるって事だよな?」
「足でまといにならないよう、頑張ります!今日こそは!」
「……だってさ、姉さん」
 したり顔で翔は翼を見る。
 翼は呆れたように溜息をひとつ吐くと、不機嫌そうな声で返した。
「翔、お前は立花に甘過ぎる」
「そう言う姉さんは硬すぎるんだ。ずっと独りで戦い続ける事なんてできるわけが無いのに、姉さんは立花に全然歩み寄ろうとしないじゃないか!」
「戦場に立ったことの無いお前に何が分かる!」
「ッ!それとこれとは……」
 常に戦場の最前線で戦い続ける姉の一言に、返す言葉を失う翔。
 翼はまだ何か言いたげだったが、そこへ弦十郎が割って入った。
「お前達、作戦行動前に何を言い争っている!」
「叔父さ……司令」
「いいか?作戦行動中に連携が乱れれば、それは命の危険に直結する!自分の命だけでなく、他人の命もだ!それを忘れるな!」
「……はい」
「肝に銘じます……」
 司令官である叔父からそう言われ、翼と翔は口を閉じた。
 
「自分だけじゃなくて、他の誰かの命も……」
 また、響は弦十郎の言葉に周囲を見回す。
 自分以外に、弦十郎、了子、翼、翔、その他何人もの黒服職員達。一人が行動を乱せば、これだけ多くの命が危険に晒される。
 そう思うとより一層、自分が背負っている責任の重大さを実感した。
 今日は、逃げてばかりもいられない。立花響はそう胸に誓い、拳を握った。
 
 ∮
 
「翔く~ん、ちょっといいかしら?」
「はい、何ですか了子さん?」
「君に、季節遅れのお年玉よん♪︎」
 呼び止められ、振り返ると了子さんは俺の手に何かを握らせた。
 それは、金属で出来た軽めの腕輪だった。鈍色で飾りっけのない無骨なその腕輪の側面には、見覚えのある形と大きさの窪みが存在していた。
「了子さん、これって……」
「RN式回天特機装束、またの名をシンフォギアtype-Pよ」
「シンフォギアのプロトタイプ!?」
 驚きに目を見開くと同時に、その名前に少しだけ高揚する。
 プロトタイプ。それは男子たるもの、誰もが憧れを覚える言葉。
 俺とて一人の男だ。心の中の跳ね馬が踊り昂るのは是非もないだろう。
「シンフォギアほど長くは持たないけど、これを使えば万が一ノイズに触れても炭素分解されずに済むし、位相差障壁を無効化して殴る事くらいなら出来るようになるわ」
「これを……俺にですか!?」
「でも過信はしないで。まだ聖遺物が入っていないし、それに効果持続時間は君の精神力に大きく左右されるの。改良したとはいえ、何処まで持つかは分からないわよ」
「つまり、あくまで護身用なんですね?」
「そういう事。君にこれを渡す事について、弦十郎くんには話を通してあるわ。万が一、輸送車が襲われたら生弓矢の欠片でそれを起動させて、指定された合流地点まで走りなさい。いいかしら?」
 合流ポイントについては、先程のブリーフィングで確認済みだ。その位置まで走り抜け、生弓矢の欠片を無事に守り抜く。それが、この任務に於ける俺の役割だ。
 
「分かりました。ありがとうございます!」
「くれぐれも無茶はしないようにね?本当ならこれ、弦十郎くんが使うはずの物だったんだから」
「叔父さんが前線に立てれば、姉さんや立花が危ない目に遭う事も無くなるのは目に見えてますもんね……」
 シンフォギアtype-Pのリングを左腕に嵌める。
 安物の腕時計くらいのサイズをしたリングは、制服と合わせても違和感がほとんど無かった。
「それでは、風鳴翔。作戦行動に移ります!」
「いってらっしゃ~い」
 了子さんに手を振り、俺は輸送車のコンテナ内へと入る。
 目の前には発掘に使われた機材、ダンボールに積まれた遺跡の資料と、厳重に保管され、専用のケースに仕舞われた生弓矢の欠片があった。
 
 ∮
 
 作戦開始から一時間ほど経過した。
 車通りの殆どない立体道路を輸送用のトレーラーと、護衛の黒い車が全力で走り抜ける。
 ここまでは特に異変はなく、トレーラーは順調に目的地までのルートを走り続けていた。
「何も起きませんね……」
 二課本部のモニターの前で背もたれに身を預けながら、やたらツンツンした前髪が特徴的な茶髪の男性オペレーター──藤尭朔也
ふじたかさくや
はそう呟いた。
 ボヤき癖があるが弦十郎の腹心の一人であり、その情報処理能力は二課の中でも随一を誇り、彼のサポート抜きに組織としての二課はまともに動作できないとさえ言われている男だ。
「このまま何も起きずに終わるといいんだけど……」
「そうね。でも、最後まで気は抜けないわよ」
 隣の席に座る藍色の髪をショートヘアーにしている女性オペレーター──友里あおいは、周囲のエネルギー観測量に気を配り続けている。
 1匹でもノイズが現れた瞬間、ヘリで空から指示を出している弦十郎に即座に通達出来るようにする為だ。
 ちなみに彼女は、常に冷静かつ的確に戦況を伝えられる事に定評があり、二課の内部では藤尭と共に二課を後方から支える名コンビとして知られている。
「ですね……。あの子達が無事に帰ってこられるよう、最大限にバックアップするのが僕らの役目。その僕らがしっかりしなくちゃダメですよね」
「あと20分もすれば、研究施設に到着よ。任務が終わったら温かいもの、持って来るから」
「それなら頑張れそうです。友里さんが淹れてくれる温かいもの、とても美味しいですから」
 友里に励まされ、藤尭は姿勢を整え座り直した。
 
 その時だった。トレーラーへと向けて一直線に接近する高エネルギー反応が観測される。
「輸送車に接近する高エネルギー反応探知!」
「ノイズです!南南西から立体道路に沿って北上中!」
 やがて、招かれざる客が続々とバックミラーに映り込む。
 聖遺物護送任務は、ここからが佳境となるのだった……。 
 

 
後書き
奏さんの誕生日記念特別編書いてから直ぐに書き始めたので、この回を書いた日は初めて1日2本書いたのを思い出しますね……。
後書き予告もその時のままでお送り致します。

奏「本日の主役、天羽奏だ。いや、本編ではとっくに死んでるから出番が殆ど無いんだけどな。今日はあたしの誕生日だってこと、忘れないでくれよ!ちなみに作者は昨日の夜知って、慌てて特別編を書き始めたんだってさ。元号が令和に変わって初のあたしの誕生日、皆で盛大に祝ってくれよな!」

次回、○○へのカウントダウン……。 

 

戦う君への小さな応援

 
前書き
初の聖詠&ノイズ戦描写だった回!
戦闘シーンの地の文はキャラソンの歌詞読みながら書いたので、聖詠の直後からヤーヤーヤーセツナーヒビクーを流しながら読むことをオススメします。 

 
『ノイズ接近!各班襲撃に備えろ!奏者2名は迎撃準備に入れ!』
 端末から弦十郎さんの指示が飛ぶ。バックミラーには物凄いスピードで近づくノイズの姿が見えた。
 このまま行けば、あのノイズはきっと最後尾の車に追い付いて、中の黒服さん達を炭へと変えてしまう!
「了子さん!私、ここで降ります!」
 運転席の了子さんにそう言って、シートベルトを外す。
「え?ちょっと響ちゃん、今ここで飛び降りる気!?」
「今行かないと、一番後ろの列を守ってる人達が危ないんです!」
 
 ドアに手をかけようとした時、後ろから細長く形を変えたノイズが一直線に飛んで来る。
 間一髪の所で了子さんがハンドルを切り、ノイズは車の左側をギリギリすり抜けて前方の道路へと突き刺さった。
 私はというと、遠心力に振り回されそうになるのを、ドアと座席にしがみついて何とか耐える。うう、シートベルトを外したことを少し後悔しちゃうよ。
「無茶言わないの!私運転荒いんだから、今ドアを開けようものならあっという間に振り落とされちゃうわよ!」
「すみません……」
「それに、私達はノイズとの戦いのエキスパートなの。シンフォギアを持たないとはいえ、あの黒服さん達も中々しぶといんだから。そんなに心配しないの」
 何処か自慢げにウインクしてくる了子さん。
 あまりにも自信満々に言うから、二課の人達って凄いんだなぁ……と、少し納得してしまう。
 
 だけど、黒服の人達はそうだとしても……。
「でも!あの輸送車の中には翔くんも居るんですよね!?」
「それは……」
「二課の皆さんはプロでも、翔くんは違うんですよね!?だったら、やっぱり私が助けなきゃ!」
「……気持ちはわかるわ。でも、その前にやる事が出来ちゃったみたいよ?」
「え……?」
 了子さんの視線の先を見ると、そこには……道を塞ぐように群がるノイズの群れが並んでいた。
 
「挟み撃ちね……響ちゃん、降りるなら今よ!」
 了子さんが急ブレーキを踏みながら、思いっきりハンドルを切る。
 地面に黒い轍を刻み、甲高い摩擦音を上げながら車は止まった。
「分かりました!」
 ドアを開け、了子さんの車を飛び降りると目の前、そして後ろの方で停車した輸送車を交互に見る。
「後ろからもあんなに来てたのに、前にもこんなにいるなんて……」
 こんな数、私一人じゃ……そう思ったその時、静かな歌

が聞こえてきた。
 
「──Imyuteus(イミュテイアス) Amenohabakiri(アメノハバキリ) tron(トロン)──」
 
 後ろの方から迫って来ていたノイズの群れへと、まるで流星群のように降り注ぐ青い剣の雨。
 そして、銀色に輝く(つるぎ)を手に悠然と向かっていく蒼い影。
 この世に災厄の闇迫りし時、刹那響く無常の中で雑音斬り裂く刃あり。
 風に靡く腰上まで伸ばした長髪と、頭頂部から左寄りの位置で纏めたサイドテール。
 絶刀・天羽々斬に選ばれし歌姫(うため)の名は、風鳴翼。
 人々を守る為にその身を剣と鍛えた、現代の防人である。
「弟にも、生弓矢にも、一切の手出しは許さん!」
 刀を中段に構えると、地面を蹴って一気に距離を詰める。
 眼前のノイズを一突き。続けて後方より迫るノイズを袈裟斬りにし、更にもう一体を斬り上げる。
 
 颯を射る如き神速の刃。その軌跡の麗しさは千の花のように。
 剣の輝きは、宵に煌めく残月の如く。並み居るノイズらを永久の浄土へと還してゆく。
 しかし、美しき剣閃を描く彼女には、同時に苛烈さが溢れている。
 そんな彼女の姿は戦場の華か、或いは慟哭に吼える修羅か。
 雫を流せる場所を失った片翼の歌姫は、自らを奮い立たせる誇りだけでなく、亡き友との思い出さえも一振りの雷鳴へと変え、災厄を薙ぎ払う。
 
「翼さん……そうだ、私、一人で戦ってるわけじゃないんだよね!」
 自らの背中に立ち、無双の刃を振るう先達の姿を見て、響は昨日の夜、翔から贈られた言葉を思い出す。
『一人で抱え込もうとするな!もっと……もっと周りを頼れ!』
「周りを頼る、か……。それなら、私は皆に頼る!」
 後方のノイズは翼が押さえ込んでいる。
 黒服達はそれぞれ車を降り、輸送車のコンテナを開く作業に入っている。
 上空でこの状況を見守っている司令の弦十郎は、ヘリを合流地点へと飛ばすように指示を出しており、二課本部からは藤尭、友里の2人がバックアップしてくれている。
 そしてコンテナの中では、聖遺物の入ったケースを手にした翔が待っている。
 なら、彼女の役割はただ一つ。目の前の壁をブッ壊し、進むべき道を作る事だ。
 胸の傷跡に手を添えて、立花響は歌い始める。
 彼女に生きる力を与えてくれた人から受け継いだ歌を──。
 
「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」
 
 光が彼女の身体を包み込み、撃槍の力を宿す橙色の装束を形成する。
 腕を包むのは厳つい手甲、両脚を覆うのは黒い足鎧。
 撃槍・ガングニールのシンフォギアを身に纏い、立花響は眼前の災厄を見据える。
 その拳を握り締め、敵へと向かって行くその前に響は通信を繋ぐ。
 相手は言うまでもなく翔だ。コンテナの中にて、外部の状況を端末に送信されてきた情報と通信のみで把握し、今か今かと自分の出番を待つばかりの少年に、彼女は自らの役目を告げた。
「翔くん!私が道を切り拓く!だから翔くんは、その隙に走って!」
『立花……戦うつもりなのか?』
「翼さんに比べたら、まだまだ全然弱い私だけど……でも、奏さんのシンフォギアを受け継いだ以上、私も戦わなくちゃ!」
 
『なら、一つだけアドバイスだ』
 通信を切断される前に、とばかりに声を張る翔。
 次の言葉を待ち耳を澄ます響に、彼は優しく告げた。
『ノイズを恐れるな。君の手には、奴らを一撃で倒せるだけの……誰かを守る為の力があるんだからな』
「わかった!ありがとう!」
 通信を切断し、響は拳を握り直す。
「ノイズなんか……怖くない!へいき、へっちゃらなんだからっ!」
 私が逃げれば、目の前にいる人達が危ないんだ。
 逃げない理由がそこにある。だから私は、もう逃げない!!
 立ち塞がるノイズの群れへと向かい、走り出す。
 不慣れな構えで、素人感丸出しの頼りない拳を振り上げながら、立花響は歌い始めた。 
 

 
後書き
聖詠のルビ、意味の方にしようかと思ったけど中身そのものがネタバレ含むのあるし、読み方の方にしました。響の聖詠とか不穏要素の塊だもん。

翼「なに?折角のハイウェイ戦なのにバイクは何処か、だと?いや、本当は乗ってきた方が便利だとは思ったのだが、今ちょうど車検に出していてな……。流石に台車を戦場で乗り回すわけにもいくまい。乗りなれないマシンで戦場(いくさば)に出るなど、得策とは言えんからな。……は?すぐに乗り捨てて破壊するから……だと!?おい、それはどういう意味だ!マシンサキモリーは私の相棒だ!乗り捨てるような真似など、断じてしないからな!戦場で戦いの最中、やむなく結果的にそうなってしまう事はあれど、ただで乗り捨てたりは絶対にしないからな!」

さて次回は……いよいよタイトル回収、ですかね。
次回以降のモチベに繋がるので感想、お気に入り登録、それから願わくば評価もよろしくお願いします。 

 

強襲-アサルティング-

 
前書き
早速新規読者がお気に入り登録してくれてたり、感想欄に見慣れた人が現れてけれて嬉しい。滅茶苦茶嬉しすぎて、作業速度がどれだけ進むことか!!

さて、今回は響のバトルシーンとRN式のお披露目です。
「撃槍・ガングニール」を流しながらお楽しみください。 

 
 ガコンッ!ウィーン……。

 コンテナの扉が開き、外からの明かりが中を照らす。
 外へ出ると前門にノイズ、後門にもノイズ。現場は既に四面雑音状態だった。
『翔!翼が開いた道から、合流ポイントGまで走れ!』
 叔父さんからの指示で、合流地点までの距離を確認する。
 輸送車が今来た道を引き返した先にある、ここから最も近い合流ポイントだ。
 確かに、走って合流するならここから近い方場所の方がありがたい。
 だが、俺はこの状況に疑問がある。そのため、一旦黒服さん達と共にトレーラーの陰に隠れると、叔父さんに進言した。
「いえ、ここは前方のポイントAへと向かうべきかと」
『なに?どういう事だ!?』
「藤尭さん、友里さん、姉さんと立花がそれぞれ相手にしているノイズの数、調べられますよね?」
『え?ええ……直ぐに出せるわよ』
『データは翔くんと司令の端末にそれぞれ転送します』

 オペレーターの二人から届いたデータを確認すると、予想は当たっていた。
「やっぱり……。おじ……司令、以前言ってましたよね?ノイズの出現がリディアン周辺に集中しているのは、何者かが陰からノイズに指示を出している可能性があるって」
『ああ。だが、あくまで憶測の域を出ん推論だ』
「でもこの状況。群体の割には挟み撃ちなんて手の込んだ真似、どう考えても何者かの指示があったとしか思えません。敵はノイズを統制する何らかの技術、ないし聖遺物を所持していると見て間違いないのでは?」
『なるほどな……。という事は、お前はこの状況を仕組まれたものだと見ているわけだな?』
「はい。そのデータを見てください」
 本部から送信されてきた、ノイズの数を示すデータ。
 それによれば、姉さんが相手にしているノイズの数の方が、立花の方に現れたノイズよりも数が多く、姉さんが一瞬道を切り開いても直ぐにノイズが溢れてしまう状態になっている。
「広範囲攻撃が使える上、熟練度が立花より遥かに上の姉さんに戦力を集中させ、逆に素人である立花の方には必要最低限の戦力で対処させる。この戦略的な布陣で、ノイズの数が集中している姉さんの方へ向かうのは危険です」
『ああ、そうだな。しかし、それも敵の罠かもしれんぞ?お前が立花の方を突っ切ってポイントAまで向かえば、その途中で本命の戦力とばったり出くわすかもしれん』
「罠や伏兵の可能性は重々承知してますが、ここは敢えて乗っかるのが得策だと判断します」

『そこまで言うなら心配は不要か。よし、前方を突っ切り合流ポイントAへと向かえ!』
「了解!」
 端末をポケットに仕舞い、左手に持ったケースの持ち手を握りしめる。
 そして、左腕に嵌められたRN式回天特機装束のブレスレットを見つめた。
「頼むぞプロトタイプ……。お互い、初任務を華々しく飾ろうや」
 タイミングを見計らうと、リーダー格の黒服さんからのハンドサインを受け、俺は一気に走り出した。

 ∮

「絶対に離さない、この繋いだ手は!」
 迫って来るノイズへと向けて、思いっきり腕を振るう。
 軽く吹き飛ばされたノイズは宙を舞い、道路の側壁にぶつかって消滅した。
 続けて目の前まで来ていたノイズの顔を、力いっぱい殴る。
 こっちも顔の部分から土人形のように崩れ落ち、炭の山へと変わっていく。
 短い時間の間にどんどん倒していく翼さんに比べれば、一匹ずつだし、全然遅いけど……私、戦えてる!
 そう思うと、より一層頑張れる気がしてきた。
「ノイズなんか……怖くない!!」

 そう言った瞬間だった。背中に何かがぶつかったような強い衝撃が走り、バランスが崩れる。
 背後から飛んで来たカエル型ノイズが体当たりしてきたと気付いたのは、足が縺れて転ぶ直前だった。
「うわぁっ!?」
 咄嗟に両手を出して、身体が地面に打ち付けられるのだけは避ける。
「いった~……後ろからなんて卑怯だよ!」
 起き上がろうとした時、目の前を駆け抜けていく人影が目に入る。
 翔くんだ。生弓矢の入ったケースを抱えて、翔くんは脇目も振らずに全速力で走り抜けていく。
 歯を食いしばり、一生懸命に駆け抜けていくその姿はとても真っ直ぐで、その姿に私は目を奪われた。
「翔くんが頑張ってるんだ!私も、これくらいで負けられない!」
 もう一度立ち上がり、思いっきり深呼吸した私は、翔くんの方へと全力で駆け出した。



「はっ、はっ、はっ、はっ……」
 立花の方へとノイズが集まっている隙を突き、全速力で走り抜ける。
 本当は助けに行きたいところだけど、戦う力を持たない俺が行っても足でまといなだけだ。ここは堪えて、自分の任務に集中するしかない。
 何体かのノイズがこちらに気が付き、紐状の姿に変化して襲ってくる。
 その猛攻をステップとジャンプで華麗に避けながら、更に先へと走る。
 でもこれが精一杯だ。ケースがもう少し重かったら、とてもこんな真似は出来なかっただろう。
「RN式はッ!タイミングを見計らっ……て!」

 しかし、それでもやはり限界は来る。着地の瞬間、背後の側壁にノイズが衝突した衝撃で、前方に吹っ飛ばされる。バランスを崩した身体が宙を舞った。
「くっ……使うなら今か……!」
 抱えていたケースの留め金を外し、ケースが開いた瞬間、中に収められていた鏃を掴む。
「RN式回天特機装束、起動!」
 鏃を掴んだ瞬間、左腕のブレスレットが一瞬だけ発光する。その瞬間、身体全体を虹色の保護膜が包み込むのが確認出来た。

 そして次の瞬間、受身を取った直後に俺は地面を転がる。
 暫くころがって……特に痛みを感じることも無く、俺は起き上がった。
「あれだけ勢いよく転がったのに、擦り傷ひとつ付いてない……。どうやらしっかり展開されてるみたいだな」
 RN式の効果が発揮されている事を確認しながら起き上がり、再び走り出す。
 しかし、効果の実感は無傷の身体だけではなかった。起動してからまだ30秒と経っていないが、少しだけ身体が怠い。
 RN式のデメリットで、精神力が少しずつ削られて来ているのを表す疲労感だ。
 急がなくては。このままでは、肉体的疲労よりも先に精神的疲労で体力を削られ、無防備な状態で倒れる事になる。
 合流地点まではまだ半分。心を強く持って走り続ければ、何とか間に合う!
 そう自分に言い聞かせながら走り続ける。が、やはり邪魔者は現れた。

キュピキュピッ!キュピッ!

「ノイズ……邪魔だァァァァァ!!」
 速度を落とすこと無く、むしろより一層加速しつつ、握った拳を勢いに乗せて思いっきりヒューマノイドノイズの顔面部分へと繰り出す。
 殴られたノイズはきりもみ回転しながら吹っ飛び、地面を転がって行った。
 なるほど。確かに殴っても何ともないし、流石にワンパンで倒せたりまではしないが、こちらの攻撃が効いている。
 この調子で進み続ければ、何とかなる!

 ……と、そう思っていたのだが。現実は非情だった。
 そのままノイズを退けながら走る。飛びかかってきたクロールノイズを躱し、サッカーボールのように蹴り飛ばした直後だった。
「うっ……か、身体が……重い……」
 RN式を起動して、僅か3分足らず。足を進める度に、どんどん身体が重くなっていった。
 小刻みに息が途切れる。肺が悲鳴を上げ、心臓が破裂しそうなくらいバクバクと鳴っている。
 持久走には自信があるのに、体力は自分の予想よりも早く削られていた。正直言って、もう立っているのがやっとだ。
「まだ……まだ、だ……俺は、行かな……きゃ……」
 ゆっくり、よろよろと足を進める。しかし次の瞬間、全身から力が抜ける感覚があった。
 糸の切れたマリオネットのように、その場に崩れ落ちる。
 なんとか身体を仰向けにすると、どんよりと曇り始めた空が見えた。
 両手を見て、両足を見る。虹色の膜は、もう消えていた。俺を守る光の鎧は、既に力を失っていたのだ。
 ああ、とても耳障りな鳴き声が聞こえる。声の方向を見れば、先程のノイズ達が集合し、全長5mほどの巨大な個体、強襲型(ギガノイズ)へと融合していた。
 芋虫のような外見のそれは、動けなくなった俺の方へ向かいゆっくりと迫って来る。

「ここまで……なのか……?」
 悲鳴を上げる力すら残っていない事を自覚した瞬間、目の前を様々な光景が駆け巡る。
 小さい頃、ラジカセとマイクで姉さんの歌を聴いた夜の事。今でも若いけど、もう少し若かった頃の緒川さんを含めた3人で遊んだ日の事。
 厳しくて不器用だった父さん。優しくて頼りになった叔父さん。
 マイペースだけど、話してて楽しかった了子さん。
 よくボヤいてるけど、仕事を卒無くこなす姿がかっこよかった藤尭さん。
 いつも温かいコーヒーを、適温で用意してくれた友里さん。
 将来の夢を笑って語り合い、この一年近くを共に過ごした親友、純。
 皆との思い出が次々と、一瞬の内に駆け抜けて行った。

 そして最後に……あの日、俯いていた少女の手をようやく握る事が出来た瞬間の光景が、ひときわ輝きを放つ。
 立花、響……君にもう一度出会えた事を、心の底から天に感謝してる。
 赦してくれて、ありがとう。お陰でようやく安心することが出来た。
 ヒーローだって言ってくれて、ありがとう。その一言で、ようやく報われた。
 素直に泣かせてくれて、ありがとう。君の涙を見られた事が、ようやく君の手を掴めたんだと実感させてくれた。
 そしてなにより、眩しいくらいの輝きを放つ、心からの笑顔をありがとう……。
 ごめん、立花……。お好み焼き食べるって約束したけど、僕はもうダメみたいだ……。

 死神の足音はすぐそこまで迫っている。身体はRN式の副作用による疲労で、もう動かない。
 僕の精神力じゃ、結局3分止まりかぁ……。でも、街を破壊する大怪獣から地球を守ることは出来るくらいの時間は持ったんだ。
 充分保った方なんじゃないかな……。

「でも……まだ……もっと、沢山……生きて、いたかった……」



















「翔くん!!」









声が聞こえる。








僕の名前を呼ぶ力強い声が。








耳を打つだけで、僕に希望をくれる──








()の原点を司る、太陽の如き少女の叫ぶ声が。
































「生きるのを諦めないで!!」

 その声と、直後に響き渡る打撃音に目を開くと……。
 目の前には頭頂部を思いっきりぶん殴られ、バランスを崩してよろけるギガノイズ。
 そして、空高く跳躍した勢いを全て右腕に乗せて、ありったけの力で拳を叩き込み……こちらへと顔を向ける、立花の姿があった。 
 

 
後書き
これ投稿した日、繋がる絆を司る銀色の巨人の配信日だったんだよなぁ。
あのとても印象的な初登場シーンを再現してもらいました。例のBGM流すとそれっぽく見える……といいなぁ。

翔「危なっ!走馬灯見えた時はもう出番終わりかと心配したぞ……。え?走馬灯の中に映ってない人がいた?誰が知るかあんなクソ爺!走馬灯にまで紛れ込んだら俺は死んでも死にきれねぇぞ!そもそもあの爺、顔見る度にイライラすんだよ!いつもいつもいつもいつも自分は現場に出てこないくせにさぁ!?なーにが(ry」
(以下、丸々カット)
翔「それにしても、また立花に助けられちまったな……。今度、個人的な礼として何かしてやりたいんだけど、立花といえばやっぱり飯だよな。何処か美味い店、探しとかないと……」

次回、迫るノイズから逃げるんだよォォォ!! 

 

生命(ちから)宿す欠片の導き

 
前書き
奏者と装者ってよく間違えますよね。「装者」であり「伴奏者」という響きは中々いい語感だと思ってます。

って事で今回はようやく、皆さん首を長くしてお待ちしていたであろう、運命の瞬間です!祝え! 

 
「翔くん!大丈夫!?」
「たち……ばな……」
 着地すると、慌てて翔くんの傍へと駆け寄る。
 翔くんはひどくグッタリとした状態で、もう一歩も動けない様子だった。
 それでも手にはしっかりと、生弓矢の鏃を握り締めている。
 もう、本当に真面目なんだから……。
「翔くん、逃げるよ!ほら、しっかり掴まって!」
「立花……すまない……。って、ちょ、おい!?」
 動けない翔くんを両腕で抱え上げる。
 普段の私じゃ出来ないだろうけど、シンフォギアで強化された筋力のお陰か、私より背の高い男の子の翔くんは軽々と持ち上がった。
 
 ただ……仕方がないとはいえ、構図がちょっと……。
「ごめん翔くん!でも今はちょっと我慢して!」
「し、仕方ない……。女の子にお姫様抱っこされるとか生き恥でしかないんだが、今はそれどころじゃないからな……。走れ、立花!」
「ホンットごめん!じゃあ、走るよ!」
 そのまま地面を思いっきり蹴って走り出した直後、背後でノイズが起き上がる音がした。
 私の力じゃ、あのノイズには敵わない。でも、翼さんが来てくれるまでの間、翔くんを守って逃げ切る事は出来る!!
 
 ∮
 
『翼!立花が翔を連れて走っているが、ギガノイズが2人に迫っている!すぐにそちらへ向かえ!』
 司令からの通信に、私は目を見開く。
「あの二人に強襲型が!?くっ……邪魔だッ!!」
 これで何十匹のノイズを斬り捨てただろう。ようやく全て片付けられると思った所で、立花の方にいたノイズの群れが融合した。
 ……私の責任だ。私がこいつらを相手取るのに時間を浪費したが故に、このような事態に……!
「友里さん!あと何匹の反応が残っているのですか!?」
「ノイズ総数、残り30!」
「疾く失せろ!一掃する!」
 振るい続けた一振りの刀を、身の丈の倍はあろう大剣へと変形させ跳躍する。
 
〈蒼ノ一閃〉
 
 蒼き残月の如き一太刀が地を割り、残るノイズを纏めて殲滅した。
 刀を元の形に戻すと、着地し、そのまま走り出す。
 バイクがないのが不便だが、仕方あるまい。車よりもシンフォギアで高められた脚力で走った方が今は間に合う!
「もう二度と……喪ってなるものか!」
 何より大事な弟と、奏が救った命だ。私が必ず守りきる!
 
 ∮
 
「了子くん!聞こえているか!?」
 ヘリで地上を見下ろしながら、弦十郎は端末へと必死に呼びかける。
「了子くん!了子くん!」
『ハ~イ、弦十郎く~ん?どうしたのん、そんなに慌てちゃって~』
 ようやく繋がった端末から、櫻井了子が軽い調子の声で答える。
 無事だった事に安堵の溜め息を零しながら、弦十郎は了子に問いかける。
「了子くん!大丈夫か!?」
『ごめんごめん。プラン通り、RN式は展開時間が短いから、翔くんを途中で回収して一気に駆け抜けるつもりだったんだけど……やっぱり現場じゃプラン通りにいかない事の方が多いわね。もう少しで翔くんに追い付けそうだったのに、ギガノイズに道路を破壊されて先に進めなくなっちゃったのよ』
「そうか……君が無事で何よりだ。翔は響くんが保護している。作戦はこのまま実行だ」
『りょーかい。じゃ、私は……あら翼ちゃん、良いスピードね。あれなら世界取れるんじゃないかしら?』
 どうやら翼が近くを通り過ぎたらしい。自分の持ち場に現れたノイズを殲滅して、ギガノイズの方へと向かっているようだ。
「了子くんは負傷者の確認、並びに別ルートから目的地へと向かってくれ!」
『はーい、任せなさいな』
 
 最後まで軽めに返して、了子は通信を切った。
 弦十郎は端末をポケットに仕舞いながら、眼下に伸びる立体道路を這いずり進むギガノイズを見下ろす。
 その先を、少年を抱えて疾走する少女の姿を見て、弦十郎は歯痒く思うのだ。
 俺が戦場へと出られれば、あの子達にあんな苦労をさせる事などないのだが……と。
 了子は冗談半分のようなノリで言っていたが、おそらくあの発言は本心なのだろう。「風鳴弦十郎ならRN式を使いこなす事ができる」と。
 だからこそ、弦十郎は苦悩するのだ。自ら戦場に立つのが難しい立場である事に。
 しかし、なればこそ。彼は子供達を支える為、戦士ではなく"司令官"として在り続けるのだ。
「翔……響くん……無事に逃げきってくれ……」
 
 ∮
 
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 両足の鎧から展開されたパワージャッキが、音を立てて地面を削る。
 その反動を利用した跳躍力で、立花はノイズとの距離を広げつつあった。
 あちらは図体がデカい分、脚はとても鈍重だ。一方こちらには、小さい分だけ足の速さに利がある。
 牛の歩みと鼠の走り、くらいの差だ。逃げ切るだけならこれで充分!
 ただ、やはり倒す事が出来ないのが一番の問題だ。合流ポイントまで辿り着いても、こいつを倒せていなければ叔父さんのヘリは撃墜されるだろう。
 引き離すにしても、距離を考えなくてはならない。
 姉さんが追い付けるように、一定の速度を保っていなくてはならないのだ。
「立花、分かっているな?」
「引き離し過ぎないように、だよね?難しいけど分かってる!」
「なら、このまま速度を保って……」
 
 そう言いかけた瞬間だった。頭上に複数の敵影が現れる。
 ぎょっとして見上げると……嫌な予感は当たっていた。
「不味い!立花上だ!」
「えっ!?うそおおおおおおお!?」
 左にステップを踏んで落下してきた敵を避け、バックステップで後退する。
 見回せば、周囲はあっという間に空から降ってきたノイズの群れに囲まれてしまっていた。
「ノイズがこんなに!?一体どこから……」
「ギガノイズからだ……。あいつ、小さいのを吐き出す能力あるから一番厄介なんだよ!」
「えええ!?じゃあ、私達絶賛大ピンチ!?」
「袋の鼠だな。こりゃあ逃げられそうにないぞ……」
 周囲を完全に取り囲まれた。これでは逃げ場がない。
 跳躍して、上から包囲網を超える手も考えたが、見上げればギガノイズの頭がある。どうやらそれも無理そうだ。
 かといって、側壁を壊して下に降りれば道路の下にある民家を巻き込みかねない。
 ここで全て倒す他に道はないらしい……。
 
「わかった……。翔くん、そこを動かないで」
「立花、お前……」
 俺を地面に降ろすと、立花は俺を庇うようにノイズ達の前へと立ち塞がった。
 立花のやつ……こいつら全員相手にするつもりか!
「翔くんは私が守る。何があっても、絶対に!うおおおおりゃあああああ!!」
 そう言うと、立花は眼前に立ち塞がるノイズの群れに向かって行った。
 拙い構えで、素人丸出しの拳で、彼女は俺を守る為に前へと踏み出した。
 
 ∮
 
 見えた。あそこだ。
 眼前にようやくギガノイズの姿が近付く。
 このまま走り続ければ、1分足らずで奴の背後を狙う事が出来るだろう。
 先程、ギガノイズの動きが止まり、司令から連絡があった。
 翔と立花がノイズに囲まれて動けないらしい。
「まったく、素人の分際で戦場
いくさば
に立つからこうなるのだ!」
 口ではそう言ってしまう反面、同時に自らの不得を悔いる。
 もっと早く、先程のノイズ達を殲滅出来ていれば。もっと私自身が強ければ。
 そうであればと願う度、胸が締め付けられていく。
「待っていろ二人とも、今すぐそちらに……」
 
 その時だった。背後より紫電が迸る音が聞こえ、横へと飛ぶ。
 次の瞬間、巨大なエネルギー球が、一瞬前まで私が居た場所を通り過ぎ、前方の地面を抉り爆発した。
「お仲間の所へは行かせてやんねーぞ?」
「何奴!?」
 振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。
 少女が身に纏っているのは、全身を細かい鱗状のパーツで形成され、肩部には何本もの紫色の刺が並んだ銀色の鎧。
 バイザー状の奥に見える銀髪の少女を私は知らないが、鎧の方は知っている。忘れる筈がない、その鎧は!
「ネフシュタンの鎧、だと!?」
「へえ、アンタこの鎧の出自を知ってんだ」
「2年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか。何より、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!!」
鎧の少女はそれを聞くと、好戦的な笑みを浮かべた。
「あたしの役割はアンタの足止めだ。ま、手加減は出来ねぇから倒しちまうかもしれねぇが、悪く思うなよ?」
 鎧の少女は肩部から伸びる鎖状の鞭を手に、挑発じみた笑みを向けて構えた。
「貴様が何者かは知らぬが、邪魔立てするなら容赦はしない!」
「しゃらくせぇ!やれるもんならやってみな!」
 
 翼が翔と響の元へと辿り着かない理由が、一人の少女による襲撃だということを、この時の二人は知る由もなかった。
 
 ∮
 
「せりゃああああ!!」
 振りかぶった拳が躱される。よろけた瞬間、クロールノイズの体当たりで体が右に吹き飛んだ。
 流石に数が多過ぎる。素人の私じゃ、この数は捌ききれないどころか、まともに相手をすることもできない。
「でも、まだ諦めない……!私が戦わなきゃ!」
 両脚に力を込め、もう一度立ち上がる。
 目の前のノイズに拳を出そうとしたその時、頭上から迫る影に顔を上げる。
「立花!上だ!」
 次の瞬間、3体の鳥っぽいノイズがドリルみたいな形になって、私目掛けて突撃した。
「うわあああああああああああ!!」
「立花!!」
 衝撃に吹き飛ばされ、何回も地面を転がって倒れる。
 もう何回目かの繰り返しだった。何度か翔くんが、殴り方のアドバイスだったり、何処からノイズが来てるかを教えてくれたりと指示を飛ばしてくれたから大分戦えたけど、私の身体が追い付いていなかった。
 でも……私は、まだ……諦めない。
 翼さんが来てくれるまで、負けられない……!
 何とかしなくちゃ……なんとか、しなくちゃ……。
 
 うう、脚がフラフラする。身体が重くて、目の前がぼやけて揺れている。
 何回も吹き飛ばされてる内に、私の心はまだ負けてないのに、身体の方は先に疲れちゃったんだ。
「大丈夫……まだ、私……」
 お願い……動いて私の身体……!
 ここで私が倒れちゃったら、翔くんが死んじゃう!
 私はまだ諦めたくない!だから……。
「この任務を終わらせて……お好み焼き、食べに行くんだから……!」
 だから……お願い、誰か……。
 
 立花はフラフラになりながら、また立ち上がる。
 もう体力はとっくに限界を迎えているはずなのに、まだ諦めない。
 それはきっと、彼女の根底にある「人助け」の精神に彼女が支えられているから。
 ここで諦めれば、俺の命は助からない。だから姉さんが来るまでは一人で戦い続ける。
 立花の意思は本物だ。優しさと強さを兼ね備えた、気高い意思がそこにある。
 だが、それでもこれ以上、彼女を一人きりで戦わせては行けない。
 このままでは俺より先に、立花が死んでしまう!
「……お前の力は、どうすりゃ引き出せるんだ……?」
 腕のブレスレットを見つめ、誰にともなくそう呟く。
 時間が経って、精神的疲労も大分マシになった。今ならもう一度、RN式を展開する事が出来るかもしれない。
 短い間だが、時間を稼ぐ事くらいならできる。しかし、問題はその後どうするかだ。
 
 策を考えるけど、人が足りない。せめてあと一人必要になる。
 せめて俺がシンフォギア装者であれば……。そう思いたくなるくらいに、この状況は詰んでいた。
 左手に握り締めた生弓矢を見る。聖遺物は何も語らない。ただ、朽ちかけたその身を晒すのみだ。
「俺の歌でも起動するならいくらでも歌ってやる……。だから、頼む……この状況を打開する方法を……」
 
「あ……」
 その耳に聞こえてきたのは、絶望の色を含んだ一言だった。
 咄嗟に立花の方を見ると、その目の前には両手がアイロン状ではなく、刃の形をしたヒューマノイドノイズが立っていた。
 既にその手は振り上げられており、次の瞬間にはギロチンのように振り下ろされるだろう。
 立花はもう体力が限界を迎えている。へたり込みながら、その口から出た言葉に絶望が混じっているのは、避けられない事を実感したから。
 背中越しだから見えないが、今の彼女の表情はこれまでに見たことも無いほど、絶望の色に染まっていっているのを感じた。
 
 その姿が、2年前のあの日と重なる。
 あの時、俺は立花に手を伸ばすことが出来なかった。
 掴めたはずの手を取る事が出来ず、以来ずっと後悔し続けてきた。
 あの日をやり直せたならどんなにいいか。そう願っては何度も自分を責め続けたあの頃は、俺の心を蝕み続けた闇そのものだと言える。
 
 でも、今の俺は──あの日の弱い()じゃない!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次の瞬間、立花の前に躍り出ると俺は迷わず彼女を庇った。
「翔くん!!」
 両腕を広げて彼女を庇った俺の肩から、刃は袈裟懸けに振り降ろされた。
 その箇所から俺の体は炭になり始める。こうなる事は分かっていたはずなのに、俺は迷わず飛び出していたのだ。
 
 ……時間が、ゆっくりと流れていく。今だけスローモーションになったかのようだ。
 
 切り口から感覚が消え、それが広がっていく。自分の体が炭にされる感触って、意外と痛くはないんだなと何故か納得して苦笑いする。
 
 あーあ。RN式、結局あんまり役に立たなかったな……。
 
 左腕に嵌められたブレスレットに目をやると、それは相変わらず鈍く輝くだけだった。
 
 こういうのは土壇場で一番活躍してくれないと……なんて、映画の見すぎだと言われても仕方が無いことを思う。
 
 再展開の見込みは五分五分。命を賭けるにしては不十分だと分かっていたのに、俺はどうして立花を庇う事が出来たのだろうか?
 
 ふと浮かんだ疑問への答えは、意外とあっさり出た。
 
 ああ、なんだ。そんなもの、愚問でしかないじゃないか。
 
 これは罪滅ぼしでも、後悔からの自殺衝動でもない。
 
 人類全てが持っている無償の対価。
 
 形、呼び方は多々あれど、これはそれら全ての根底に根ざしたモノ。
 
 全ての奇跡の種にして、この世界を回すもの。
 
 この瞬間、俺を突き動かした理屈のない衝動。
 
 それは─── “愛”だ。
 
 
 


 
 
 
 
 
 次の瞬間、胸の奥に何かが浮かぶ。
 ゆっくりと炭の塊へと変わっていく心臓の奥から何かが溢れ出して、左手の中に握った鉄塊が熱くなった。
 衝動が、身体中を駆け巡る。
 左手の中から、とても強い力が伝わって来る。
 その時、俺の頭に浮かんだのはついこの前、了子さんに見せてもらった立花のメディカルチェックの結果と、立花がシンフォギア装者へと至った理由。そして、この手に握る神話の遺物が司る伝説だった。
 
「生弓矢……俺に……彼女を守る力を!!」
 
 胸に突き刺したそれは、身体を内側から焼き尽くすほどに熱く、目を瞑りたくなるくらいに光り輝いていた。
「うっ……ぐっ、がっ……ああああああああぁぁぁああああああ!!」
 痛みを超えて広がる熱と、身体中へと広がる力の波紋。
 炭素分解され、感覚を失っていた器官さえもがそれを感じていた。
 やがて、鏃は先端から尾っぽの先まで全てが吸い込まれていく。
 胸の奥に異物が入り込んだ違和感は、一瞬で掻き消された。
 代わりに、この胸の奥から届いたのは……一節のフレーズだった。
 
「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」
 
 衝動のままにそのフレーズを口にした次の瞬間、身体の内側を突き破る程の力が溢れ出す。
 刹那の中で、俺の意識を塗り潰せんとする強い力。ドス黒い破壊の衝動。
 同時に、この身体を骨の一本に至るまで焼き付くそうかという熱と、細胞の一片までをも侵食していくかのような激しい痛みを伴うその力は、向かう方向も知らずに走り続ける暴れ馬のように駆け抜ける。
 
 負けない……聖遺物の力に負けてたまるものか!
 
 立花は諦めなかったんだ……だから俺も、諦めない!!
 
 心の中で叫んだ直後、力に流されるばかりだった身体を何かが覆う。
 まるで、止めどなく溢れ出す力を抑え込むかのように。力を力で捩じ伏せるのではなく、優しく包み込むように広がっていくそれは両手に、両腕に、両肩に、両脚に、腰に。
 胸から背中に、脚はつま先から足裏まで。
 そして最後に頭を。顔を両側から包み込むような感触があり、最後には全身を包んでいた光が弾ける。
 その時にはもう、全身に広がった熱も痛みも消えていた。
 
『ノイズとは異なる高エネルギー反応を検知!』
『これは……アウフヴァッヘン波形!?ネフシュタンの反応に続き、新たな聖遺物の反応です!』
「なんだとぉ!?」
 困惑するオペレーター達に、弦十郎も驚きの余りヘリから身を乗り出す。
 翼の前に現れたネフシュタンの鎧の少女。今すぐにでも出向きたいが、作戦行動中に指揮官が動くわけにはいかず、空から静観するしかなかった弦十郎。
 手間取っている翼に痺れを切らし、もはや出撃もやむなしかと思っていたその矢先だった。
 翔と響を襲っているギガノイズの足元から、強烈な光が迸ったのだ。
 弦十郎だけではない。戦っていた翼と鎧の少女も、その光に目を奪われる。
「なんだ……あの光は!?」
「んだよアレ、あたしは何も聞いてないぞ!?」
 その場にいる者全てが困惑する中、本部のモニターに表示された照合結果に、弦十郎は再び驚きの声を上げた。
生弓矢(イクユミヤ)、だとぉ!?」
 

 
「聖遺物、生弓矢。それは生命を司り、地に眠る死人さえ黄泉帰らせる力を持つ聖遺物……」
その女は、誰にともなくそう呟いた。
一人ビルの上に立ち、眼下の光景を傍観する彼女の金髪が風に揺れる。
サングラスの下の彼女の表情を知るものは、誰もいない。
ただ、女は目の前の喧騒をただ笑って観測するのみである。
「奪った後で、米国政府との交渉材料にするつもりだったけど……やっぱり、何が起きるか分からないものね。まさか、こんな予想外の結果をもたらすなんて」
女の見つめる先。迸る光の中で、その予想外そのものである彼は生まれ変わる。
女は卵が孵るのを待つように、ただその光景を見守り続けていた。
 

 
「翔、くん……?」
 あまりにも一瞬の出来事に、何があったのか理解が追いつかず、思わず固まってしまった。
 目の前に広がる青白い光がゆっくりと弱まり、やがて一つの人影が姿を現した。
 ついさっき、私を庇ってノイズに殺されるはずだった人。
 その直後、自分の胸に鏃を突き刺したはずの男の子。
 人影は自らの死因になるはずだったノイズを一撃の拳で粉砕し、こちらを振り返った。
「立花……大丈夫か?」
 差し伸べられた手には、私や翼さんと同じ黒いグローブ。
 向けられた表情はとても優しげで、その声からも私の事を気遣ってくれているのが伝わった。
 さっきと変わったのは、彼の全身を覆う装束……私や翼さんのものと少し似たそれが彼の身体を包んでいた。
 両耳にはヘッドフォンのようなパーツ。両腕や両脚、身体全体を包み込むように……あるいは、まるで内側から溢れ出しそうな何かを抑え込むように、装束の上からは陽光に鈍く光る灰色の鎧が全身を覆っている。
 胸の中心には、まるで下向きにした弓のような形をしたクリスタルが、透き通る様な赤を放っていた。
 
 聞きたいことは山ほどある。言いたいことも沢山ある。周りはノイズだらけで、今はやるべき事が残っている。
 でも、私の口から何よりも先に出た言葉はただ一言。
「もうへいき……へっちゃらだよ」
 頬を伝う熱い雫はとっくに、流れる理由を変えていた。
 
 

 
後書き
1日に2回も主人公が死にかけるハードスケジュール。誰だこんな展開用意したの!
俺か。俺だったわ。
しかし翔くんも翔くんで、二日連続で響を泣かせてる中々罪な男ですね。
今回泣かせた理由は目の前で一度死んでるからですけど。

ちなみに翔くんのRN式イクユミヤギアがこちらになります。

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翔「ようやくか~」
響「ようやくだね~」
翔「特別編除いて15話目、結構かかったな」
響「私でもここまで長くかからなかったよ?」
翔「そりゃ主人公だし、でもライブから2年はかかって……」
響「12話目、最終回でようやく変身シーンお披露目だったんだけど……」
翔「何処の世界線の話をしている!早くクーリングオフしろ!」
響「悪質契約には気を付けよう!」
翔「もう何も怖くないな、このコーナー……」

次回、遂に活躍!装者翔くん!

生弓矢(イクユミヤ):立花響が配属されて数日後、日本で発掘されたばかりの第4号聖遺物。日本神話にて、須佐之男命(スサノオノミコト)が持っていたとされる三種の神器の一つ。生命の宿る弓矢であり、地に眠る死人さえ甦らせる力があるとされている。
残る神器である生太刀(イクタチ)天詔琴(アメノノリゴト)は残っていなかったと報告されているが……?

RN式回天特機装束①:シンフォギアシステムの試作品。性別を問わず、フォニックゲインの代わりに使用者の精神力で聖遺物の力を引き出すために開発されたが、その燃費の悪さは開発者の了子でさえガラクタ以下と評価する欠陥品。現在改良が進んでいるものの、やはり使用者の精神力に性能を大きく左右される点だけは変えられないらしい。
しかし数秒と言えどノイズから身を守る事は出来るため、護身用であり最終手段として翔に貸し与えられる。
訓練されたレンジャー部隊でさえ数秒しか持たなかった所をなんとか3分も保たせたものの、翔の精神力は大幅に削られ、ノイズに襲われる隙を生ませてしまった。
この一件により、実戦投入は更に先送りにされるかと思われていたが……。
 

 

勇者の称号

 
前書き
絶賛された前回の続きって事で、いつもの二倍は頑張って書いたんだよなぁこの回。
翔くんをかっこいいと思ってもらえたり、原作キャラが原作らしいって言われてたり、生弓矢でレクイエムるシーンに驚かされたりしているってのは書いてる身としてとても嬉しいです。これからも「響き交わる伴装者」をよろしくお願いします!

さて、生弓矢ギアの性能をご覧あれ!
それから今回はサブタイにも注目してもらいたいですね。以前の回のサブタイを遡り、気付いてもらいたいものです。
それではどうぞ、お楽しみください。
 

 
「まさか、本当に成功するなんてな……」
 自分の身体に装着された装束を見ながら、翔はそう言った。
 胸に突き刺した生弓矢は、彼の予想通りの結果を発現した。いや、予想はしていたが成功するかは五分五分だった、と言うべきか。
 自らの五体と、胸に浮き上がった赤いクリスタル。そして、身体に漲る力から、翔は確信する。
 自分は今、このRN式回天特機装束……シンフォギアtype-Pの装者になったのだと。
 それが分かれば、やる事は一つだ。
 周囲を見回し、再びこちらを向いて迫るノイズ達を見据えると、彼は構える。
 今度は彼が、へたり込んだ立花響を庇う側としてそこに立っていた。

「立花、下がっていろ。今度は俺が戦う」
「う、うん」
 力強く拳を握ると、翔は眼前のノイズへと向けて拳を真っ直ぐに突き出した。
「ハッ!!」
 拳が当たった瞬間、ノイズの身体が土人形のように崩れ落ちる。
 先程までのRN式とは、威力が桁違いだった。拳ひとつでノイズを粉砕する力、それは紛れもなくFG式回天特機装束……現行のシンフォギアと大差がない。
「フッ!セイッ!」
 続けて右から迫って来たヒューマノイドノイズに左拳を突き出し、反対側から迫るクロールノイズにはそのまま肘鉄を食らわせる。

キュルルピッ!キュピッ!

 頭上からの鳴き声と風を切る音に顔を上げると、鳥型個体(フライトノイズ)が数体、狙いを定めているところだった。
「空か……。さて、どうするか……」
 跳躍して叩き落とす……いや、それでは効率が悪い上に背後からの奇襲を避けられない。
 ならば地上から何かを投擲して落とす……位相差障壁に阻まれるな。
 せめて飛び道具でもあれば……。そう考えた刹那、両腕に力が集まる感覚があった。
 両腕を見ると、腕を覆う手甲の側面には小型の刃のような突起物。
 手甲に意識を集中させると、その刃は熱く輝き始めた。
「これを……ハァッ!!」
 両手で手刀の構えを取り、それぞれ交互に横へ払う。
 刃は空を切り、三日月形の光の刃がフライトノイズへと向けて放たれた。
 フライトノイズらは光の刃によって真っ二つに切断され、消滅した。
「なるほど、こいつはこう使うのか」
 そのまま数回、同じ動作を何度も続ける。
 光の刃は次々とフライトノイズを切り裂き、あっという間に全滅させた。

キュピ!キュルルキュピッ!

 だが、ギガノイズが更にノイズを追加する。さっきのノイズ達もまだ片付いていないのに、ここで追加しやがって!
「なら、こっちもアームドギアで対抗してやるさ!」
 両腕から、こんどは両手の掌に力を集中させる。
 使用者の心象が聖遺物に反映された武器、それがアームドギアだ。
 果たして俺の心象は、生弓矢をどんな武器へとアレンジするのか……。
 両手の中に宿った光は、やがて形を得て実体化した。

 この手に出現した武器は、身の丈近くの大きさを誇る大弓だった。
 弓束(ゆづか)を握った瞬間、灰色の縁取りが青く変化し、右手には光をそのまま矢の形にしたようなエネルギー体が出現した。
 ギガノイズの頭部のド真ん中へと狙いを定め、弓に矢をつがえる。
 弦が張り詰め、矢を的へと飛ばすのに必要な力が集まる瞬間に右手を離した。
 ヒュッ、という風を縫う音の直後、ギガノイズの頭部が吹き飛ぶ。吹き飛んだ頭部から順にその巨体は炭化し、崩れ始めた。
「ギガノイズを一撃か。荒魂を鎮めたその力、伊達じゃないらしいな!」
 そのまますぐ近くに居たノイズを次の的を定め、矢を放つ。
 一体、また一体。正確に的を射抜き、一体を貫けばその後方の何体かが連鎖するように貫かれる。
 どこまでも真っ直ぐに、その矢は飛んで行った。
「だが、まどろっこしい!並んだ敵を一掃出来る貫通力は確かに強いけど、近場の雑魚相手にする時に使う武器じゃないな!」
 引っ込めて再び格闘戦に持ち込むかと迷った瞬間、脳裏に何かのイメージが浮かぶ。
 弓とは違う、二つの器物。共に語られし三位一体の聖遺物。その真の姿を、胸の鏃は示していた。
「まさか……!?」
 弓束を確認すると、人差し指部分にトリガーが存在する。
 脳裏に浮かんだイメージを信じ、トリガーを引くと弓を構成する上下2つのブレードパーツが分割され、2本の剣へと変わった。
 残った大弓のパーツはそのまま光に戻り、手甲の中へと戻っていく。
「次はこいつだ!()()()!」
 柄を握った瞬間、縁取りを赤く変色させた2本の剣を構え、ヒューマノイドノイズを斬り伏せる。
 姉さんのアームドギアと比べて半分ほどの長さの剣が2本。次々とノイズを屠っては、空間に鮮やかな赤い軌跡を描いていく。
 しかし、ここまでやってもまだノイズは残っていた。ギガノイズめ、雑魚を残せるだけ残していきやがって……。

「翔くん!危ない!」
「ッ!?」
 背後に迫るクロールノイズ。振り返ろうとした瞬間、飛び込んで来たのはオレンジ色の弾丸。
 咄嗟に飛び出した立花が、クロールノイズを殴り飛ばしていた。
「大丈夫!?」
「……ちょうど猫の手でも借りたいと思っていた所だ。立花、手を貸してくれるか?」
 そう言うと、立花は軽く笑って答えた。
「もちろん!私の手で誰かを助けられるなら、いくらでも!」
「なら、遠慮なく借りるとしよう。背中は任せるぞ!」
「じゃあ翔くんも、私の背中をよろしくね!」
 互いに背を向け合い、目の前の敵だけを見据える。
 伸ばした手を取るだけじゃなくて、今度は互いに手を貸せる……か。
 どうやら、俺の手はようやく彼女に届いたらしい。これ以上に喜ばしい事があるだろうか?
 であればこの喜び、表さない他に手はない筈だ。
 浮かんだイメージの最後の1つ、恐らく最もシンフォギアに向いている形態のアームドギアを起動させた。

 ∮

「どうなっているのだ!?」
 ヘリから翔の戦いを見守る弦十郎は、翔のアームドギアが三種類の形状へと変化する事に驚いていた。本部の2人もまた、映像と音声を頼りに状況を整理する。
『最初は弓、次は剣、そして今度は弦楽器……』
『もしかして、翔くんが纏っているシンフォギアには生弓矢だけじゃなくて、生太刀(イクタチ)天詔琴(アメノノリゴト)の力も宿しているんじゃないでしょうか!?』
「三つの聖遺物の力を宿しているだとぉ!?しかし、そんな事が……」
『それがどうも違うみたいよん?』
「了子くん?違う、とは一体……?」
 了子からの通信が割り込み、弦十郎は疑問符を浮かべて彼女に問いかける。
『それがね、そもそも私達の認識が間違ってるみたいなのよ』
「どういうことだ?」
『出雲三種の神器は()()()()とは伝わっているけれど、()()()()1()()()()だなんて記述はどこにもないわ』
『それってまさか、遺跡から生太刀と天詔琴が発見されなかったのは……』
 友里の言葉を次ぐように、了子はハッキリと宣言した。
『1つで聖遺物3つ分の機能を有する、可変型聖遺物。それがあの三種の神器の正体よ』
「1つで3つ分の聖遺物……だと……!?」
 死者をも甦らせる弓矢と、生命の力を司る剣。そして神への祈りを捧げる琴。それらが元々は、1つの聖遺物だった。
 弦十郎の一言は、その場にいる誰もの言葉を代弁していた。

 ∮

「鳴り響け、天詔琴(アメノノリゴト)!」
 先程、手甲の中へと収納されたアームドギアが左腕に出現する。
 弓束の部分を上に向け、弓状態で使用していた時とは逆さに持って顎を乗せる。今度は枠の色が黄色に変わった。
 琴という名前だが、どちらかと言えば電子バイオリン「MULTI」に近い形状をしているのは、俺の心象が影響しているのだろうか?
 まあ、バイオリンも日本に伝わった頃は提琴(ていきん)と呼ばれていたらしいから、間違ってはいないと思うのだが。
「それでは1曲、ご傾聴」
 2本の剣を合わせると一瞬で可変し、一本の細長い(きゅう)へと形を変える。戦場(いくさば)にて装者の歌を伴奏する俺は、さしずめ伴奏者ならぬ"伴装者"といったところだろう。
 鎮魂歌の演目は、そうだな……では、今背中を預ける太陽の如き少女の歌を、この手で盛り上げると致そうか。
 指を弦に添え、弓を構えて弦へと触れさせる。雑音を消し去り誰かを救う、災厄への鎮魂歌(レクイエム)が幕を開けた。

「翔くん、この曲って!?」
 翔くんの方から聴こえてきた旋律に驚いて振り返ると、翔くんのアームドギアはまるでバイオリンのような姿に形を変えていて、翔くんがそれを突然演奏し始めた事にもう一度驚かされた。
 しかも、翔くんが弾いているのはなんと、いつもガングニールを纏っている時、私の心の中から響いてくる歌の前奏だ。この何秒かの間に3回も驚かされちゃうなんて、私の寿命は何年縮んだんだろうか。
 私が驚いて振り返っている事に気付いた翔くんは、バイオリンを弾く手を止めること無く、ただ楽しげに笑いながら答えた。
「歌え立花!心の歌を!」
 その言葉と、その表情はとても自信に満ちていた。
 私達ならやれる、と。このノイズ達を倒せると、疑いもせず信じているのが伝わる。
 そんな翔くんを見ていると、私もそんな気がしてきた。
 行ける!私達二人が力を合わせれば、乗り越えられる!
 さっき戦っている途中に貰ったアドバイスを思い出し、拳に力を込めて構える。
 もうさっきまでの不安も、恐怖も、何処かへと飛んで行ってすっかり消えてなくなっていた。
「分かった!最後まで聞いてて、私の歌!」

「絶対に離さない、この繋いだ手は!」
 飛び掛ってきたクロールノイズに、真っ直ぐ拳を突き出す。
 突進の勢いで拳を避けられないクロールノイズは、そのまま炭になって四散した。
「こんなにほら温かいんだ、人の作る温もりは!」
 左から迫って来ているヒューマノイドノイズを、右脚で蹴りつける。
 地面に脚が付いた瞬間、背後から飛んで来たフライトノイズを、右足を軸に身体を反転させて躱し、フライトノイズに続いて迫っていたもう一体に、もう一度右手を突き出して殴り付ける。
 難しい言葉を使わず、素早く丁寧なアドバイスをしてくれた翔くんのお陰で、ちゃんと戦えている。
 さっきまでヘトヘトだったはずの体に力が漲るのは、きっと翔くんの演奏が私に力を与えてくれているから。細かい理屈はわからないけれど、今、分かるのは私の歌とこの全身で感じている旋律が……私の心と、翔くんの心が強く共鳴しているのは確かだって事!それだけで充分だ!
 ぐっと漲っていく力と、止めどなく溢れていくこの思い。繋がり合う音と音が生み出すエナジーが今、2倍でも10倍でもなく、100万倍のパワーで爆発する!!
 さあ、ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

「解放全開!イっちゃえHeartのゼンブで!」
「進む事以外、答えなんてあるわけが無い!」
 静かに演奏に徹するつもりだったが、立花の歌声を聴き、この旋律に込める感情が昂って来ると、どうにも黙っているだけではいられなくなった俺は、遂に立花の声に合わせて斉唱(ユニゾン)し始めた。
 今俺が奏でているのがただの音楽ではなく、確かな力を持つ曲だというのは肌で感じていた。
 根拠は弦を弾くとその音で、妨害しに近付いてきたノイズが微塵切りになる所だけじゃない。一音一音が風に波紋を作る度、全身が何かに震えるからだ。
 無論それは恐怖を初めとしたマイナスな感情ではなく、とても暖かいプラスの感情。
 これは……そう、生きる事への喜び。生命への感謝を天へと捧げる天詔琴が奏でる音は、聴く者の心を高揚させるのだと見つけたり。
 では、最後まで奏でようか。この心が叫ぶ限り!帰るべき場所へと辿り着く為に!
 二人の、全身全霊の思いを込めたこの歌を!!

「「響け!胸の鼓動、未来の先へぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 ∮

「チッ!今日の所はここで引き上げてやる!覚えとけ、勝ちは預けただけだかんな!!」
 翔と立花のいた地点でギガノイズが崩れ落ち、更には強い烈帛音が響き渡り始めて、しばらく経った。
 一際大きな烈帛音が鳴り響くのを聞くと、鎧の少女は身を翻して立体道路を飛び降りた。
「待て!まだ決着は!」
「あばよへむくちゃれ!次はその顔、地面に叩きつけてやっからな!」
 最後まで挑発的な捨て台詞を残し、鎧の少女は撤退して行った。
 追いかけようと側壁に登ったが、既に少女は雲隠れしてしまっていた。
「ネフシュタンの鎧を着た少女……一体何者なのだ……」
 深追いするのを諦め振り返ると、烈帛音は止んでいた。
 まさかとは思うが、立花があのノイズ達を……?
 いや待て、逆の可能性だって……その割には妙に静かだ。それに、先程まで立花の歌も聞こえていた。
 何にせよ、まずは現場を確かめなくては……翔、立花、無事でいてくれ!

「翔!立花!無事か!!」
 と、全速力で角を曲がり駆け付けた私の目に入って来たのは……。

「「イエーイ!!」」
 見た事も無い新たなシンフォギアを纏う弟と、辺り一面に散らばる炭の山。
 そして、満面の笑顔で弟と2人ハイタッチを交わす立花の姿だった。
「やったね翔くん!私達勝ったよ!」
「ああ、よくやった立花!君のお陰だ」
「ううん、翔くんが助けてくれたから、私も頑張れたんだよ。ありがとう」
「そ、そう言われると……なんだか照れ臭いな」
 あまりにも多過ぎる情報量に頭が追いつかず、私の中に困惑が訪れる。
 何がどうなってこうなっている!?何故、翔がシンフォギアを?どうやってあの数のノイズを?
 それに何より……お前達2人、前から思っていたが距離が近くないか!?
「……これは一体……」
「あ、姉さん!」
「翼さん!見てくださいよこれ!このノイズ、実は私達が……」
「これは一体どういうことなんだ!?誰か……説明してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ね、姉さーーーーん!?」
「つ、翼さーーーーん!?」

 情報量の暴力に思考回路がオーバーヒートした翼は、ようやく日が出てきた空へ向かって力の限りに叫ぶのだった。
 彼女がようやく落ち着いたのは、ヘリから降りてきた弦十郎達と合流し、聖遺物研究施設へと向かう途中の車の中だったという。 
 

 
後書き
ようやく一区切り、ですかね。次回はふらわーでゆっくりしてもらいます。

<i11322|45488>

アームドギアはこんな感じ。楽器モード用に本体もう一個描くのが面倒で(きゅう)だけになってるのは是非もないと思ってください。

翔「姉さん、大丈夫か?」
翼「ああ……。すまない、どうも根を詰め過ぎたらしい」
翔「気を張りつめ過ぎると体に障るよ?もっと肩の力抜かないと」
翼「剣は疲れたりなどしない!」
翔「そういう防人根性はいいから。今日はゆっくり休むといいよ」
翼「……そう、だな。このままでは奏にも心配されてしまう。今日は1日休むとしよう」
翔「よかった。ああ、ところで実は姉さんに報告があるんだけど……」
翼「報告?何のだ?」
翔「俺達!」
響「私達!」
翼「立花!?」
翔・響「「付き合う事になりました!」」
翼「やっぱりお前達そういう仲だったのか!!」
翔「うぉっ!?ビックリした!?姉さん、大丈夫か?」
翼「ん?……なんだ、夢か」
翔「どんな夢見てたんだよ……珍しくデカい寝言なんて口にして」
翼「いや、なんでも……」
翔「疲れてるんでしょ?今日はもう、ゆっくり休むといいよ」
翼「そうだな……。私も疲れて……ん?この流れさっきも……もしや無限ループ!?」
翔「姉さん、本格的に疲れてるのかな……」

RN式回天特機装束②:翔がノイズによって炭素分解される瞬間、RN式は保護膜を展開する程の出力こそ発揮出来ていなかったものの、その性能の根幹……使用者の精神力によって聖遺物の力を引き出す機能そのものは、僅かながらに発動していた。
それが炭素分解の瞬間、翔の精神が一時的とはいえ“ある強い感情”によって補強された事で、RN式は生弓矢の鏃を起動させるに至り、更に翔が生弓矢の鏃を自らの体内に取り込む事で融合症例となるきっかけを作った。
現在のRN式は、暴れ馬の如き聖遺物の力を抑え込み、擬似シンフォギアとして制御する役割を担っている。
融合症例としての、融合した聖遺物から引き出される強力な力を、RN式の保護膜で覆う事で、生弓矢のシンフォギアはその形を成しているとも言えるだろう。
融合症例第1号、立花響に続く希少なケースに様々な偶然が重なり生まれた融合症例第2号。それが現在の風鳴翔である。
ちなみに翔本人曰く、起動した鏃を胸に突き刺す事で融合症例になれるかの個人的見込みは五分五分で、融合症例になれなくても生弓矢の力で炭素分解の影響をリセットするくらいは出来ただろう、との事。 

 

任務の後は美味しいご飯

 
前書き
祝!日間ランキング84位!

ハーメルンで書き始めて以来、初めてのランキング入りに奇声あげてガッツポーズしてましたw
あと評価グラフが遂に推し色に染まり、いよいよ筆がノリに乗ること杉田節全開のウェル博士の如くです!
これもひとえにこの作品を読んで下さり、応援してくださる読者の皆さんのお陰です。本当にありがとうございます!
推薦文を書いてくれた熊さん、こちらから入って原作に興味を持ってくださった皐月の王さん、非ユーザーなのに毎回読みに来てはコメントして下さるクエさん、そして毎回コメントして下さる皆さんと、コメントは殆ど書かないけど無言でお気に入り登録して評価入れてくださった皆さん!!
これからも「響き交わる伴装者」をよろしくお願いします!!

それでは前置きが長くなりましたが、前回は序章の山場ということでバトル続きだったため、箸休めに平和な回を挟ませて頂きます。
今回は、糖文を少し多めに盛ってますので(いつも多いとか言わない←)、翔ひび応援団の皆さんはブラック珈琲の持参、もしくは砂糖を吐くための袋の用意、または全ての甘露を飲み干す覚悟を持ってご覧下さい! 

 
「「はぁー、疲れた……」」
 保管施設から本部へと戻って来た翔と響は、休憩スペースのソファーにぐでっと崩れ落ちた。
 まだ半日しか経っていないのに、疲労は一日中動き回ったくらい溜まっている。
 無理もない。あれだけのノイズから逃げ回り、ハイウェイをその足で全力疾走して、RN式に精神力を削られ、更には2回も死にかけた上にシンフォギアまで纏ったのだ。肉体的疲労よりも、精神的な疲れの方が大きいだろう。
 
 半日の割には随分と濃密なスケジュールを経験した後、翔は了子からメディカルチェックを受けた。
 結果が出るのは明日。身体には特に異常が見られないので、この後はそのまま土曜日を楽しむようにと言われた翔は、こうして響と合流したのだった。
「おつかれ、立花」
「翔くんもお疲れ~」
 互いにソファーで崩れている相手の姿を見て、笑い合う。
 それだけで、身体から疲れが抜けて行く気がした。
「さて、もう昼飯時だな……。立花、まだ動けるだろ?」
「もっちろん!約束したもんね、ふらわーのお好み焼き!」
「よし!道案内は任せるぞ」
 そうやって二人は賑やかに談笑しながら、エレベーターへと向かっていくのだった。
 
 ∮
 
 そんな二人の後を付ける、2つの影があった。
 片方はサングラスで顔を隠したSAKIMORIこと、風鳴翼その人。
 もう一人は諜報部としての仕事ではないため、マネージャーモードで眼鏡をかけているNINJAこと、緒川慎次である。
 それぞれ観葉植物と通路の陰に隠れながら、アイドルとマネージャーは二人の様子を伺っていた。
「翼さん、わざわざこっそり後を付けたりなんてしなくても……」
「いいえ緒川さん。これはもはや任務です。可愛い弟が立花とどんな関係なのか、知るには絶好の機会ではないですか!」
「それはそうですが……どうして直接聞かないんですか?」
「それは、その……」
 口篭る翼に、緒川は理由を察して口にする。
「可愛い弟を取られちゃいそうで寂しいのに、相手が響さんなのが気まずい……ですか?」
「……やっぱり、緒川さんには敵いませんね」
 苦笑する翼に、緒川は微笑みながら返した。
「響さんならきっと、笑って許してくれますよ。それにきっと、彼女も謝りたがっているはずです。いつも通りの風鳴翼として、堂々と接すればいいと思いますよ?」
「いつも通りの私で、ですか……」
「それから、今回ばかりは弟離れしないとダメだと思いますよ。翔くんももう立派な高校生なんですから」
「ゔっ……。こ、これは別にそういう訳では!」
 そうこうしている間に、翔と響はエレベーターに乗ってしまった。
 気付いた翼は緒川と共に、別のエレベーターで地上へと向かうのだった。
 
 ∮
 
「おばちゃーん!こんにちわー!」
「あら響ちゃん。いらっしゃい」
 店に入ると、おばちゃんはいつも通りの優しい笑顔で迎えてくれた。
 私の方を見て、おばちゃんはキョロキョロと誰かを探すように視線を動かした。
「あんまり沢山は食べないけど、美味しそうに食べる響ちゃんを見て楽しそうに笑っているいつものあの子は一緒じゃないのかい?」
「今日はちょっと、未来とは別の用事があったので……」
 そこへ、翔が戸を開けて入店する。
「いらっしゃい。おや、あまり見ない顔だね?」
「これはどうも、初めまして。風鳴翔です、よろしくお願いします」
「風鳴……もしかして、風鳴翼の弟さんか何かかい?」
「はい、翼は俺の姉にあたります」
「へぇ、言われてみるとお姉さんにそっくりねぇ」
 翔くんは戸を閉じると、そのまま私の隣の席に腰を下ろした。
 メニュー表を受け取ると、翔くんは一つずつじっくりとそれらと睨めっこし始める。
「小さい店ながらも、バリエーションに富んでるな……」
「翔くん、注文決まった?」
「立花はオススメとかあるのか?」
「私はね~、やっぱりこれかな」
 翔くんのメニュー表を覗き込み、一番お気に入りのメニューを指さす。
 翔くんはそれを見ると、顎に手を添えて更に考え込む。
 すると、おばちゃんが唐突に呟いた。
「もしかして、響ちゃんの彼氏だったりするのかい?」
「「えっ!?」」
「だってほら、いつもは未来ちゃんと一緒なのに、今日は初めて男の子と一緒に来たわけじゃないか」
「そ、そんなわけないじゃないですかー。翔くんとはただの友達で……ねえ、翔くん?」
「そ、そうだな……。俺と立花は昔同じクラスだった程度の縁で、今週久し振りに会ったくらいですよ……」
 お互いに顔を見合わせて、いやいや、と手を振る。
 でも、どうしてだろう……なんだかちょっとだけ、顔が熱い気がする。
「ふ~ん……まあ、未来ちゃんには内緒にしといてあげるよ」
 そう言うとおばちゃんは、何故かニヤっと笑いながらいつもの様に鉄板の方へと向き直った。
「それで、注文は?」
 おばちゃんに催促され、私達はそれぞれ自分の注文を伝える。
「私はいつもの、キャベツ大盛りで!」
「焼き蕎麦入り、頼みます!」
「はいよ」
 注文を受けたおばちゃんは、直ぐに調理に取り掛かった。
 
 翔くんが私の彼氏かぁ……。
 何でだろ。その一言が頭の中でグルグル回って……胸がとってもドキドキする……。
 
『立花、手を貸してくれるか?』
 
 今朝の、ちょっとかっこよかった翔くんの顔が浮かんで……。
 
『君の手には、奴らを一撃で倒せるだけの……誰かを守る為の力があるんだからな』
 
 頼もしい励ましが響いて……。
 
『だから!せめて俺の前では、自分に素直な立花響で居てくれ……』
 
 昨日の夜の優しい言葉が、胸を温かくしてくれた。
 

もしかして、と胸がざわつく。

 

いや、そんなわけと頭で呟き。

 

でも、きっとと心が囁く。

 

まだ確信はないけれど

 

多分、こんな気持ちになっちゃうのは──

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「立花、皿、来てるぞ」
「え?わっ、もう来てたの!?」
 そんな形のない確信は、耳を擽る君の声と、鼻から広がるソースの香りにかき消された。 
 

 
後書き
これ書くためだけにこの日のお昼にお好み焼きを買いに行ったので、次回はちょっとした食レポ回になっています。

了子「今日の担当は私と弦十郎くんね?」
弦十郎「序盤だから、キャラがまだ少ないんだよな……。ローテーションのパターンはそこそこあるから、心配はしないでほしい」
了子「それにしても翔くんと響ちゃん、なーんでデートって自覚がないのかしら」
弦十郎「若さ……いや純粋さか?どちらにせよ、二人ともそういった経験がない事に、相手を恋愛対象として意識してない事が輪をかけているんだろう」
了子「若いっていいわね~」
弦十郎「翼もいい相手を見つけられるといいんだが……」
了子「ところで弦十郎くん、二課の内部であの二人の見守り隊が発足されそうになってるんだけど、知ってたかしら?」
弦十郎「ああ。耳にしているが……」
了子「弦十郎くん、名誉会長枠に名前載せられそうになってるわよ」
弦十郎「なん……だと……!?」
(黒服を初めとした職員達の足音)
了子「ちなみに私が隊長枠、副隊長枠は緒川くんらしいわよん♪」
弦十郎「了子くん君が犯人かぁぁぁぁぁぁ!!」

Toryufrce Ikuyumiya haiya torn.:そのタイトルは、掴み離さぬための飛翔。少年は、ようやく掴んだその手を二度と離さず飛び続ける。
 

 

笑顔で囲む食卓

 
前書き
初めての食レポ!即ち初めて書いた飯テロ回!
あと前回から分割した糖文の残り半分を食らえぇい! 

 
 油が敷かれた鉄板の上に広がる生地が、ジュワッと音を立てる。
 その上からは、さっきまで鉄板の上に広げられたのは何だったのかと疑問になるほどに大盛りのキャベツがドサッと盛られ、そこへ更に生地を垂らす。
 音を立て始めた土台がモクモクと湯気を上げ始め、ゆっくりと固まっていく。
 小山のように盛られたキャベツと睨めっこすること暫く。その間に店主のおばさんは、立花の分のお好み焼きを作り始める。注文通り、こちらもキャベツ大盛りで。
 
 パチパチと弾けていた油の音が、少しずつ静かになっていく。
 漂い始める焼きたての生地の匂いに腹の中の獣が唸り声を上げるが、まだだ、まだだぞと言い聞かせる。気持ちは分かるが、もう暫く待たなくてはならない。
 やがて、2つのヘラが底面の両端に差し込まれ、キャベツの山が綺麗にひっくり返される。
 返しながら先程まで焼いていた生地を移動させ、油を敷き直すとそこへ麺と、生卵を落として火にかける。
 黄身を潰され広がった卵の上に、ソースで味付けされた麺の塊を。その更に上から先程焼いた生地を重ね、更に卵を重ねる。
 仕上げに形を整え、ハケでソースを塗りマヨネーズを波状に。仕上げに青海苔をかければ……。
 
「ほら、御上がり」
「おお……!これはこれは……」
 待つこと15分ほど。目の前の白い皿に乗せられた粉物料理の王様は、ホクホクと白い湯気を上げながら、食卓というステージへと登壇した。
 早速食べようと箸を手に取って、隣の席を見ると、立花は何処か上の空な様子で虚空を見つめていた。
「立花、皿、来てるぞ」
「え?わっ、もう来てたの!?」
「どうした?考え事か?」
「ううん、何でも。わあ、ソースのいい香りだぁ……冷めちゃう前に、早速食べちゃおうよ!」
「そうだな。では……」
「「いただきます!!」」
 両手を合わせた後、箸で切り分け、ふーふーと息を吹きかけて冷ましながら一口。
 
 焦げた生地の苦味と、熱で萎びたキャベツ、そして飴色の玉ねぎのシャキシャキとした食感と僅かな甘さの対比が口の中というホールの中で織り成すハーモニーは、まさにお好み焼きの華。
 よく焼けた卵が歯の間で千切れる食感と、1枚のお好み焼きの中に押し込めらた大量の麺の歯応えが、空きっ腹に言い知れぬ多幸感と満足感を与え、次の一口へと誘う。
 一枚だけ仕込まれた豚肉は、その中でも自身の存在をアピールするかのように舌を撫で、奥歯の中心へと引き寄せられていく。
 それら別々の食材達の個性全てを総括しつつ引き立たせ、焦げの苦味を程よく包み込むソースとマヨネーズの濃厚さは、まさしくお好み焼きという楽団に於ける指揮者と言えるだろう。
 総合した上で感想を述べるなら、この一言に尽きる。
「美味い!!」
 ただそれだけで事足りる。否、真に美味なる食に対して、それ以外の言葉は不要だ。
 
 半分ほど食べ進めた辺りで視線を感じて振り向くと、立花が何やら物欲しそうな目でこちらをじっと見つめていた。
 視線の先を辿れば、そこにはまだ半分ほど残っている俺の皿が……。
「立花……もしかして、食べてみたいのか?」
「くれるの!?」
「別に構わないが……君の事だ。この店のメニューは食べ尽くしているんじゃないのか?」
「いやー、翔くんがあんまり美味しそうに食べてるもんだから、見てたらそっちも食べたくなって来ちゃって」
 そんな風に言われると悪い気はしない。まだ半分も残っているんだ。お裾分けするくらい何でもないさ。
 そう思い、中の具があまり抜け落ちないように気をつけながら切り分けると、立花はこちらに向けて「あ~ん」と口を開けた。
 君は餌を待つ雛鳥か、とツッコミつつも、切り分けたお好み焼きを箸で運び、彼女の口へと滑り込ませる。
 立花はそれを何度か咀嚼すると、ぱぁっと華が開くような笑顔で言った。
「ん~~♪美味し~い♪」
「それはよかったな。でも口角、ソースついたままだぞ?」
「え?嘘!?どっち!?」
「慌てるな、落ち着け、制服の袖で拭こうとするんじゃない!ほらナプキンだ。右端の方に付いてるから、しっかり拭き取るといい」
 立花が紙ナプキンを受け取り、口を拭くその一瞬の間に何やら表の方から物音が聞こえた気がするが……振り向いても店の表には何も見えない。気の所為だろう。
 
「しかし、こうなると立花が食べてる方も食べてみたくなるな。スタンダードな豚玉のはずなのに特製、と銘打たれている所が興味をそそる」
「え?食べる?」
「じゃあ、一口もらおうか」
 俺がそう言うと、立花は自分のお好み焼きを切り分ける。
「はい、あ~ん」
「んぁ……」
 条件反射で口を開けると、直ぐに生地とキャベツのホクホクとした熱が口の中に広がった。
「はふはふ……」
「大丈夫?やっぱり熱かった?」
「ひあ
いや
……ん、こりゃ美味い!」
「でっしょ~!ふらわーのお好み焼きは世界一なんだから!」
「そう言って貰えると嬉しいねぇ」
 店主のおばさんが、やたらニヤニヤしながらこちらを向く。
 確かに、工程がシンプルでもこの味は俺も初めてだ。
 おそらくこのソース……これが生地とキャベツ、玉ねぎ、豚肉、それぞれの味と食感、その全てを引き立たせる働きを担っているんだろう。
 一体何を材料にしているのか……。
 
 ドンガラガラズッドン!
 
 と、ソースの分析を始めようとしたその時だった。
 店の表から、今度はハッキリと物音が聞こえた。
「おや?猫がゴミ箱でもひっくり返したのかね?」
 おばさんが店の戸を引くと、そこに居たのは……。
 
「あ……どうも、こんにちは……」
「あはは……これはどうも」
 サングラスが顔からずり落ちそうになっている姉さんと、姉さんを羽交い締めにして取り押さえている緒川さんだった。
 
 ∮
 
 数分後。ふらわーのカウンター席には左から順に立花、俺、姉さん、緒川さんが並んで座っていた。
 姉さんと緒川さんの前には、立花が勧めてくれたお好み焼きが湯気を立てている。
 一体どうして、店の外でコソコソしていたのかと聞いても、姉さんはそっぽを向くだけで答えてくれない。
 緒川さんに目をやると、こちらもただ愛想笑いで濁すだけだった。
 状況としては、企画していた食事会が前倒しになった形だが、これはこれで都合がよかったかもしれない。
 ただ、先程から姉さんはずっと黙りこくったままだ。空気が重いというか、少し気まずい。立花も先日の件以来、姉さんと上手く喋れず萎縮してしまい、居心地が悪そうだ。
 俺がなんとかしなければ……。
「姉さん、お昼まだなんでしょ?ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「そうだな……。それでは店主の女将さんに失礼だ。ありがたく頂こう」
 割り箸を綺麗に真っ二つに割って、姉さんがお好み焼きに手を付ける。
 それを待ってから、緒川さんも自分の分に手を付け始めた。
「「いただきます」」
 眉間に皺を寄せながら、箸で摘んだ生地を一切れ。
 咀嚼するうち、姉さんの表情がみるみるうちに和らいで行った。
「こ、これは……何たる美味!!」
「この味と食感、チェーン店では味わえませんよ!」
 緒川さんも目を輝かせて次のひと口へと手を伸ばす。
 だが、それ以上に姉さんだ。ひと口、またひと口と箸を動かす手が早くなっていく。
 食べる度に姉さんの顔には、少しずつ明るさが戻って行った。
 
 いつだったか、ライブの後の奏さんが言っていた気がする。
 思いっきり歌うとすっげぇ腹減るらしい、と。
 また、空腹は人の心を荒ませる。満腹は人の心を柔らかくする、とも聞いた事がある。
 では、今の姉さんに当てはめてみるとどうだろうか?
 見事にドンピシャだ。自分を追い込み、鍛錬と任務でも一人きり。その上常に気を張りつめていたら、そりゃあストレスが溜まって行く。
 でも今、姉さんはこうして美味しいものを食べる事で、そのストレスを発散しているのだ。ここ数日、余計なくらいにすり減らし続けた精神的なカロリーを補うかのように。
「すみません……お代わり、頂けますか?」
「はいよ」
 おばさんは、姉さんの食べっぷりに少々驚いたような顔をして。でも、その表情を見ると満足気な表情を見せ、次の生地を広げ始めた。
 
「立花、今なら行けるだろ?」
「うん、そうだね……」
 立花は席を立つと、姉さんの方まで歩み寄る。
「あの、翼さん……」
「立花?」
「その……この前は、どうもすみませんでした!私、翼さんの気持ち全然考えてなくて……奏さんの代わりになるだなんて……」
 深々と頭を下げて謝罪する立花。
 それを見て、姉さんは……。
「いや……。私の方こそすまない」
「え?」
「今朝の任務で思い知ったよ……。一人では何も守れない。なのに私は、翔やお前を巻き込みたくないばかりに、突き放すような態度を取ってしまった……。悪いのは立花、お前だけではない」
 そう言うと、姉さんも立花の方を向いて頭を下げた。
 これは……やったのか?
「立花、お前はあれだけ突き放した私の事を信じて頼ってくれた。だから、これからは私もお前を頼らせてもらう」
「翼さん!それって……」
「ただし、お前は戦場
いくさば
に立つ者としては、まだまだ未熟な身だ。これからはシミュレーターで、みっちり扱いてやるから覚悟しておくんだぞ?」
「へ!?えぇー!そ、そんなぁ……」
 そう言うと、姉さんはようやく立花に向けて、優しさと不敵さの混じった笑みを向けた。
 よかった。これでようやく、一件落着だ。二人の蟠りが解けて、俺も嬉しく思う。
「……だが、それはそれとして。私の目が黒いうちは、翔に手出しはさせん。分かったな?」
「……へ?それってどういう?」
「……姉さん、何を言っているんだ?」
 よく意味の分からない最後の一言に、俺も立花も揃って首を傾げる。
 だが、姉さんはふふん、と満足気な表情でテーブルの方と向き直ってしまった。
 緒川さんに視線を送ると……緒川さんは何も言わず、ただ肩を竦めるだけだった。 
 

 
後書き
次回は遂にアニメ1期第3話へ!お楽しみに! 

 

約束の日、迫る

 
前書き
やっぱり10分毎に1話ずつ解放とかまどろっこしいから、21時30分に一斉解放したる! 

 
「何なんだよあれは!あんなのがいるなんて聞いてないぞ!!」
 町外れの古い洋館。鎧の少女は扉を開くなり、家主である彼女を問い詰める。
 部屋の隅に広がる暗がりから現れた彼女は、淡々と告げた。
「あれは私も想定外よ。まさか奪う筈だった聖遺物が新たな融合症例を生み出すなんてね」
「チッ……。“フィーネ”、次はどうすればいい?」
 聞くだけ無駄だと悟った少女は早々に追求をやめ、次の指示を待つ。
 幼い頃に両親を喪い、身寄りもなく、帰る場所を失った少女は彼女に飼い慣らされる事でしか、生きていく術はないのだから。
「そうね。生弓矢を奪う事は出来なかったけど、代わりに想定外の収穫もあったわ。検体は二つあった方が便利でしょう?」
「攫ってくればいいんだな?逃げ回っていた、あの二人を」
「話が早い子は嫌いじゃないわよ。それじゃあ、決行の日は追々伝えるから……」
 フィーネと呼ばれたその女性は、窓から差し込む光に照らされる金髪を揺らしながら、ゆっくりと少女の方へと近づいて行く。
 そして、その耳元に口を寄せると、妖艶な笑みと共に囁いた。
「私を失望させないよう励みなさい、クリス」
 その一言には、有無を言わさぬ圧が存在した。
 一瞬肩を跳ねさせ、クリスと呼ばれた少女は歯を食いしばる。
 フィーネが離れると、クリスはネフシュタンの鎧を脱ぎ捨てる。 鎧の下から現れた少女は、5年前と変わらぬ銀髪を揺らして俯くのだった。
 
 ∮
 
 立花が二課に配属されてからひと月。
 あれから俺は放課後になると、姉さんと立花の3人で、本部のシミュレーターを使って鍛錬に明け暮れていた。
「はぁっ!せいっ!」
「フッ!ヤアァッ!立花、翔!そちらに向かったぞ!」
「フンッ!ハッ!了解!」
 姉さんが倒し損ねたノイズを、俺と立花が殲滅する。
 連携は大分取れるようになって来ていたし、何より立花の拳も少しずつだが磨きがかかり始めていた。
「これで……最後ッ!!」
 立花の拳が最後の一匹に風穴を開け、シミュレーションが終わった。
 二人の体が一瞬光に包まれ、元の制服姿に戻る。
 俺も心で念じると、シンフォギアは一瞬輝きブレスレットの中へと収納された。
 
「本日の鍛錬はこれにて終了だ。二人とも、腕が上がって来ているな」
「翼さん、ありがとうございます!お陰でちゃんと、誰かを守れるようになって来ている気がします!」
「気がする、じゃないだろ?立花はもう立派に誰かを守ることが出来る。一人前とは行かなくても、俺や姉さんが支えているんだからな」
「無論、立花も私達を支えている。私達は支え合う事で人々を守っていくのだ……だろう?」
「俺が言おうとしてたのに先に言わないでくれるかなぁ姉さん!?」
「ぷっ……あっはっはっはっはっは!」
「ふふ……ハハハハハ!」
 姉さんにセリフを先取りされ、不満を叫ぶと二人は可笑しそうに声を上げて笑った。
 2週間前のギスギスとした空気は、とっくに消えていた。
 
「それにしても翔、お前のRN式……シンフォギアtype-Pは時間制限があったのではなかったか?」
 姉さんの疑問に俺は、前にメディカルチェックの結果を聞いた時、了子さんから言われた事を伝える。
「立花と同じで、生弓矢は俺の身体と完全に融合しているらしい。お陰で制限時間は解消されたんだとさ」
「へぇ~……って事は、翔くん私とお揃いって事?」
「ん~……まあ、分かりやすく言えばそうなるかな?」
 あの時は必死だったとはいえ、我ながらよくもまああんな真似が出来たものだ……。
 
 あれが愛の力……立花を守りたい、という俺の願いが生み出した力か。
 俺が好きな特撮映画のヒーロー達も、口を揃えて愛の力は無限だと言っていた。頭で分かっていたつもりのそれを自分の身で実感した、貴重な経験だったと思う。
「お揃い、か……。いや、流石に体質がお揃いというのは希少というか、特殊すぎやしないか……?」
 姉さんのツッコミはごもっともだ。普通に生活してたら有り得ないもんな。
 でも、俺の抱いているこの愛って、果たして()()なんだろうな……。
 友愛(フィリア)恋愛(エロス)
 個人的には無償の愛(アガペー)的なものだと思ってるんだけど……。
 まあ、そこまで難しく考えることでもないのかもしれない。この感情が"愛"だという実感に、変わりはないのだから。
 
「それで立花、レポートは片付きそうか?」
「翔くんが手伝ってくれたお陰でバッチリだよ~。未来との約束、ちゃんと果たせるかも!」
 時間を見て、立花にはレポートの提出期限が迫っていた事を思い出す。
 どうやら手伝った甲斐あって、早めに終わらせることが出来ていたらしい。
「そうか。ただし、提出には遅れるんじゃないぞ?」
「は~い」
「むう……お前達、本当に仲が良いな……」
 溜息混じりに姉さんがそう呟く。
 そんなに呆れるほどの事だろうか?
「それじゃ翔くん、翼さん!また明日!」
「今夜中にしっかり仕上げるんだぞ!いいな?」
 立花は手を振りながらシミュレータールームを出ていった。
 やれやれ、あれだけ動いてまだ元気が残ってるとは。まあ、そこが彼女のいい所なんだけど。
「しし座流星群、か……。俺も見られるといいんだけど……」
 ふと、そんな事を呟きながら、俺は立花の姿を手を振って見送った。
 
 ∮
 
「……響、寝たら間に合わないよ?」
「……うん」
 リディアンの学生寮。その一部屋の真ん中に据えられた机の上、もうすぐ書き終われるのが見て取れるレポート用紙の前で、響はこっくりこっくりと船を漕いでいた。
 その向かいに座る黒髪のショートヘアー、後頭部に大きな白いリボンを付けているのが特徴的な少女、親友の小日向未来はノートパソコンに向き合いながら、響に声をかけていた。
「そのレポートさえ提出すれば、追試免除なんだからさ」
「んにゃ……」
「だから、寝ちゃダメなんだって」
「寝てないよぉ……起きてるよぉ……。ちょっと目をつぶってるだけ……」
 相変わらず響は机に突っ伏したままだ。
 どうやらレポートを締め括る、最後のまとめに苦戦しているらしい。
 昨日、未来は彼女のレポートに目を通してから、意外にも早く進んでいる上によくまとまっている事に驚かされたばかりだ。
「もう……。珍しくレポートが進んでるからって、調子に乗っちゃって」
「えへへ……」
 最近帰りが遅いのが気になるが、果たして何をしているのだろう。
 何度聞いても、何故か話したがらないのは一体どういうわけなのか。レポートの進み具合が珍しく早い事と関係があるのか。
 不安ではあるものの、未来は敢えて追求しない。親友はいつかきっと、正直に話してくれると信じているからだ。
 
 だから代わりに、未来はノートパソコンを響の方にも向け、見ていた動画を見せた。
「……そうだ。響、この間の約束、覚えてる?」
「約束……。あ、流れ星!」
「そう、しし座流星群。あのね、それがもうすぐ来るんだって」
「本当ッ!?もうすぐ約束、果たせるね未来!」
 そう言うと、響はようやく身体を起こす。
「もう……調子いいんだから。ちゃんとレポートやらなきゃ、追試と重なって見られなくなっちゃうんだからね?」
「う……。よーし、それならさっさと終わらせちゃうぞー!!」
 ようやく響もやる気のスイッチが入ったようで、シャーペンを持ち直すと再びレポートへと向き直った。
「私も手伝うから、ね?」
「ありがとう!一緒見ようね、未来!」
 そう言って笑顔を向ける親友に、未来は微笑みかけるのだった。 
 

 
後書き
翼「今日は私と!」
緒川「僕ですね」
翼「本編ではよく一緒に出ていますが、ここで揃うのは初めてですね」
緒川「さて、何を話しましょうか。そういえば最近、二課内部で発足したある会の副隊長に任命されちゃいました」
翼「初耳ですね。どんな集まりなのですか?」
緒川「"翔くんと響さんを見守り隊"という集まりなのですが」
翼「なっ!?まさか二課内部でそのようなものが発足するレベルとは……」
緒川「了子さんが風鳴司令まで巻き込んで、今やその規模は二課全体に広がりつつありますよ」
翼「くっ……外堀が思いのほか早めに埋まって行く……ッ!ですが私はまだ認めてませんからね!」
緒川「ちなみに翼さんに対しては、『弟離れ出来ない翼さん可愛い』『内心では認めてるのに素直に認めたがらないところがいい』『可愛いのでもうしばらく弟と未来の義妹の関係を見つけられては葛藤し続けてください』『いっそ響ちゃんと二人で弟を可愛がっては?』という声が多数上がってるみたいですよ」
翼「私の行動さえ彼らの糧、だと言うのですか!?」
緒川「翼さん、そろそろ諦めた方がいいと思いますよ」
翼「むむむ……あなた方は私を何だと思っているのですか!!」

防人をたかSA(ただのかわいいSAKIMORI)として書けるよう、努力していたこの頃。ブラコン化が進む理由の一環にXVが辛かったからだというのがありました。
次回、リディアンでの学園生活風景!ようやく出番だよ、ひびみくのズッ友トリオ! 

 

完全聖遺物・デュランダル

 
前書き
この頃はどんどんランキング上位に登り始めてて、毎日毎日頑張っていた頃ですね……。
何もかもが懐かしい……。 

 
「すみませーん!遅くなりましたー!」
 レポートを仕上げている途中、定例ミーティングの時間になったため、響は寮を出て二課へとやって来ていた。
 翼と翔も先に着いており、響を出迎える。
「では、全員揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょ♪」
「それで了子さん、今回はどんな要件で?」
 翔の質問に答えるように、モニターにはマップが表示される。
「さて、これを見てくれ。これはここ1ヶ月にわたるノイズの発生地点だが……」
 マップには大量の赤い点が存在している。そのポイントがノイズの発生地点なのだが、響の口から出た一言は……。
「……いっぱいですね」
「はは、立花らしい」
 その脳天気な一言に翔と弦十郎が笑い、翼は一瞬頭を抱えた。
「まあ、その通りだな。さて、ノイズについて響くんが知っている事は?」
「テレビのニュースや学校で教えてもらった程度ですが……」
 弦十郎からの問いに、響は指を折りながらひとつずつ答える。
「まず、無感情で、機械的に人間だけを襲うこと。そして、襲われた人間が炭化してしまうこと。時と場所を選ばずに、突如現れて周囲に被害を及ぼす、特異災害として認定されていること……」
「意外と詳しいな」
「今まとめているレポートの題材なんです」
 弦十郎が感心したように言うと、響は後頭部を掻きながらそう言った。
「なるほど。どうやら翔との勉強会は、かなり身になったらしいな」
「ちゃんと覚えていてくれてるなんて、教えた甲斐があったよ」
「その件はどうも~」
 翼が若干ジト目気味だった事に気付かない、ブラコンの悩みの種達である。
 
「ノイズの発生が国連で議題に上がったのは今から13年前の事だけど、観測そのものはもっと前からあったわ。それこそ、世界中に太古の昔から」
「世界の各地に残る神話や伝承に登場する数々の異形は、ノイズ由来のものが多いだろうな」
「だとすると……この前翔くんが指摘した通り、そこに何らかの作為が働いていると考えるべきでしょうね」
 了子の一言に、響が驚いた表情を見せる。
「作為……って事は、誰かの手によるものだというんですか?」
「ここ1ヶ月のノイズ発生の中心地はここ。私立リディアン音楽院高等科、我々の真上です。サクリストD──『デュランダル』を狙って、何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」
「だろうね。生弓矢を狙った連中も、多分本命はこっちの方だろうし」
「あの、デュランダルって一体……?」
 翼の言葉に首を傾げる響。翔はだろうな、と言いたげな表情をすると、ここぞとばかりに響に説明を始めた。
「フランスの叙事詩では、シャルルマーニュ十二勇士の一員であるローランが持っていたとされる絶対に折れない剣だよ。ギリシャの叙事詩であるイーリアスに登場するトロイア国の英雄、ヘクトールの武器でもあったとされているね。その黄金の柄の中には聖者達の遺骸の一部が収められていた、とも言われているご利益迸る剣でもあるね」
「えっと……要約すると?」
「金色の滅茶苦茶硬くて絶対折れないすっげぇ剣、かな」
「なるほど……凄い!!」
 翔のIQをかなり下げた説明に納得し、その凄さを理解したのを見て微笑むと、友里はデュランダルの説明を始めた。
 
「この二課の司令室よりも更に下層。『アビス』と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究している、ほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」
 その説明を補足するように、藤尭が続ける。
「翼さんの天羽々斬や、響ちゃんのガングニール、翔くんの生弓矢のような欠片は、力を発揮するのにその都度装者の歌を必要とするけど、完全状態の聖遺物は、一度起動すれば常時100%の力を発揮する。そして、それは装者以外の人間も使用出来るであろうとの研究結果が出ているんだ」
「それが、私の提唱した櫻井理論ッ!」
 藤尭がそこまで説明を終えた瞬間を見計らい、了子はドヤ顔と眼鏡に手を添えた決めポーズでそう言った。
 もっとも、響以外の面々は聞き慣れているのか「やれやれ」と言った顔で流していたのだが。
 
「だけど、完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲイン値が必要なのよね~」
「あれから2年。今の翼の歌であれば、或いは──」
「でも、そもそも起動実験に必要な日本政府からの許可っておりるんですか?」
 弦十郎の言葉に、友里が疑問を呈する。その疑問に対し、藤尭は深刻そうな顔で答えた。
「いや、それ以前の話だよ。扱いに関しては慎重にならざるを得ない。下手を打てば国際問題だ。米国政府が、安保を盾に再三のデュランダル引き渡しを要求しているらしいじゃないか」
「まさかこの件、米国政府が糸を引いているなんて事は……?」
「調査部からの報告によると、ここ数ヶ月で数万回にも及ぶ本部へのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。が、流石にアクセスの出所は不明。それらを短絡的に米国政府の仕業とは断定できないが……」
 国際問題、とまで言われると内容が途端に複雑になり、響は話について行けなくなっていた。
 それでも、少なくとも二課が直面している問題はノイズだけではない。それだけは彼女にも理解出来ていた。
 
「……風鳴司令。お話中のところすみません」
 そこへ、緒川が眼鏡をかけながら現れる。
 その場の全員が彼の方を見ると、緒川は腕時計を指さしながら言った。
「翼さん、今晩はアルバムの打ち合わせが入っています」
「もうそんな時間か。すまない、私はもう行かなければ」
「だとすると、ミーティングはここまでかな」
 弦十郎がミーティングの打ち切りを宣言すると、翼は緒川と共に司令室を退出して行った。
 それを見送り、響は呟く。
「私達を取り囲む脅威は、ノイズばかりじゃないんだね……」
「ああ。悲しい話だけどな……」
「どこかの誰かがここを狙っているなんて、あまり考えたくないよ……」
 そう呟く響の前に立つと、了子は自慢げに宣言した。
「大丈夫よ。なんたってここは、テレビや雑誌で有名な天才考古学者、櫻井了子が設計した人類守護の砦よ!異端にして先端のテクノロジーが、悪い奴らなんか寄せ付けないんだから♪︎」
「はいはい。了子さんの天ッ才ぶりは重々理解していますよ」
「あはは、頼りにしています……」
 了子のしつこい程の天才アピールに、響と翔は揃って苦笑いするのだった。
 
 ∮
 
 翌日、昼休み。私立リディアン音楽院高等科の校庭、その片隅にある芝生では仲の良さそうな五人の女生徒が集まっていた。
「人類は呪われているーーーっ!!」
 そのうち2人は、友人に弁当を食べさせてもらいながら、必死で昨日仕上げる前に寝てしまった事で完成させられなかったレポートの最後のページを仕上げている立花響と、そんな彼女を隣で見守る親友、小日向未来だ。
「むしろ、私が呪われている。あむっ……もぐもぐ」
「ほら、お馬鹿なこと言ってないで。レポートの締め切りは今日の放課後よ?」
「だからこうして……もぐもぐ、限界に挑んでるんだよ」
 
「それにしても珍しいよね~、ビッキーがレポートこんなに早く仕上げてるなんて。頭でも打ったの?」
 灰色がかったショートヘアが特徴的なリーダー格の少女、安藤創世(あんどうくりよ)が不思議そうに呟く。
「確かに珍しいよね。いつもなら放課後ギリギリまでやってようやく提出なのに、今回は殆ど終わってるじゃん」
「未来さんが手伝うよりも先に、ここまで来ていたのですわよね?」
 茶髪のツインテールが印象的なアニヲタ少女、板場弓美(いたばゆみ)と、金髪ロングヘアで上品な言葉遣いの少女、寺島詩織(てらしましおり)も首を傾げる。
「うん。響、このレポート、一体誰に手伝ってもらったの?」
「うーん……何て言ったら良いんだろ。最近出来た友達、かな」
「友達?私、聞いたことないんだけど……」
 未来の目がジトッとする。安藤、板場の二人はその視線に一瞬だけ肩を跳ねさせた。
「ヒナが嫉妬してるよ……」
「し、親友の交友関係にジェラシー妬くなんてアニメじゃないんだから……」
「どのような方なのですか?」
「詩織!それ火に油ぁ!!」
 未来の表情に気づかなかったのか、寺島は他の二人が敢えて避けようとしていた疑問を見事に言いきった。
 そして、その問いに対して響は……少し困ったような顔をして、やがて意を決したように答えた。
「えっと、とっても優しくて……ちょっとだけかっこいい人……かな」
 瞬間、その場にいる全員に電撃が走った。
 その一瞬だけ小さくなった一言を、四人は聞き逃さなかったのだ。
「そ、それって……」
「もしかして……」
「まさかビッキー……」
「ねえ響、ひょっとして……」
「「「「彼氏出来てるの!?」」」」
 四人が導き出した結論は、寸分違わずにその声をシンクロさせた。
 
「ちっ、ちちち違うよ!?翔くんとは友達だけど、そんなっ、彼氏だなんて言われるような謂れは全然ないんだから!!」
 彼氏、と言われて慌てて反論する響。しかし、動揺で名前を出してしまった為、安藤と板場までもがそれに食いつく。
「へぇ、翔くんって名前なんだ。苗字は?何年生?イケメンだったりするの?」
「ちょ、ちょっと待って!って事は土曜日の昼、響がアイオニアンの制服着た男子と一緒に歩いていたって噂は本当だったってわけ!?」
「まあ、このリディアン女学院の姉妹校の?一体どのような出逢いをしたんですか?」
「ちょっ、ちょっと!そんなにいっぺんに聞かれても答えられないよぉぉぉ!!」
 3人から質問攻めにされ、響は未来に助けを求める視線を送る。
 が……一番わなわなと肩を震わせているのは未来であった。
「響、これは一体どういうこと!?もしかして、最近一人で何処かへ出掛けてたのって、そういう事だったの!?」
「だから違うんだってば!!」
「何が違うの!一から説明してよ!!」
「ええ……えっと、その……。わかった、説明出来る所まで説明してみる……」
 未来にまで迫られたら敵わない。響は二課やシンフォギアの事を伏せながら、翔との出会いについて語る事になったのだった。
 
 

 
後書き
響「どうして私達は、ノイズだけでなく人間同士でも争っちゃうんだろう?」
了子「ん?」
響「どうして世界から、争いはなくならないんでしょうね……」
了子「ん~、それはきっと……人類が呪われているから、じゃないかしら?はーむっ」
響「ひぃやぁっ!!??りょ、りょりょりょ了子さん!?なにゆえいきなり私の耳を食むんですかぁ!?」
了子「あ~ら、おぼこいわね。誰かのものになる前に私のモノにしちゃいたいかも♪」
響「え?え!?」
了子「でもそれは許してくれなさそうね~、そこの健気なナイトさんが」
翔「了子さん!立花を揶揄うんじゃありません!ってか、揶揄うにしたって限度があるでしょう!限度が!立花、大丈夫か?」
響「翔くん……わ、私は大丈夫だから落ち着いて、ね?」
了子「うん、やっぱり仲良いわよねあなた達。もし私のものにしちゃうなら、やっぱり二人一緒じゃなきゃダメよね~」
翔「俺も立花も、あなたの玩具になるつもりは毛頭ないのでご心配なく。俺だけならともかく、立花をあまり度を超えたおふざけに巻き込むなら、俺は了子さんが相手でも容赦しませんよ?」
了子「ふ~ん……藤尭くん、友里ちゃん。今の録音できてる?」
藤尭「バッチリです!」
友里「一言一句残らず保存しました!」
了子「はーい、それじゃ馬に蹴られないように撤収するわよ~!」
翔・響(藤尭さんと友里さん、何やってたんだろう……?)

あのシーンは本編に入り切りそうにないので、ここで使わせて頂くことになりました。
今後も本文でカットされた補完シーンは後書きに描かれます! 

 

約束の流星雨

 
前書き
何故か読者の皆さんが揃って393による修羅場を嬉々として待ち望んでいた頃の回(笑)
まあ、原作でも響に彼氏できたらきっと修羅場は避けられないけど……未来を悪者にはしたくない。そんな思いで書いていました。
それではどうぞ、ご覧下さい。 

 
「……って事があったんだ」
 二課やシンフォギアの事を徹底して伏せながら、何とか説明を終えた響はようやく一息吐いて、友人達の様子を伺う。
 友人達はそれぞれ、三者三様の反応を示す。
「なるほど。1か月前、街で偶然再会した中学の元クラスメイトかぁ……」
「学園系ラブコメアニメの冒頭みたいな出逢い方してるわね」
 安藤はわざわざメモを取っては話の内容を纏め、板場はいつもの通りアニメに準えた喩えでコメントする。
 
 一方、聞いた本人である寺島は何やらスマホで調べていた。
「聞き覚えのある名前だと思ったのですけれど、もしかして……」
 探していたページを見つけると、寺島はスマホを響の方へと向けた。
「その翔さんという方は、もしかしてこの人でしょうか?」
「あーっ!詩織、何で知ってるの!?」
「つい先日、ニュースで見かけたもので。『大人気アーティストの弟、火事場泥棒を確保』と、表彰されていましたわ」
 響の両隣から、安藤と板場もその画面を覗き込む。
 
 そこには響と再会した日の前日、ノイズ発生の騒動に紛れて盗みを働いた男を捕らえ、警察へと突き出したアイオニアン音楽院の生徒……風鳴翔の記事が掲載されていた。
「ホントだ!翔くん凄い!」
「えっ、嘘!?あの風鳴翼さんの弟さん!?」
「イケメンじゃん!しかも有名人!え、何この展開!?アニメじゃないんだよね!?」
 二人の驚きは尤(もっと)もだ。日本を代表するトップアーティストにして、このリディアン音楽院の3年生、風鳴翼の弟が友達と知り合いだったのだから。
 それもただの知り合いでなく、中学の元クラスメイト。重なった偶然の数々に言葉を失う。
「他にも何度かニュースに載っていますわ。ひったくり犯を取り押さえたり、川に落ちた子供を助けたり……去年の秋にはバイオリン演奏の全国コンクールでも表彰されていますね」
「なんか……ビッキーに似てる気がする」
「私も思った……。アニメみたいな生き方してるなとは思ったけど、それ以上に響の"人助け"に近いものがあるっていうか……」
 
「全然……似てないよ!!」
 未来が突然声を上げ、四人は驚いて振り向く。
 自分が反射的に叫んでいた事に、未来自身も驚いていた。
「ど、どうしたのヒナ?そんな大声出して……」
「あ……えっと……」
 こんな事を言ってしまってもいいのだろうか?
 小日向未来は、その先に続く言葉を言い淀む。
 その言葉は間違いなく、彼を貶めるものだから。無意識かもしれないけど、彼の事を嬉々として語る親友を傷付けると分かっているから。
 それに、その言葉は決して正しいものでは無いと自分でも分かっている。自分の身勝手な希望の押し付けから生まれた、とても綺麗なものでは無い一言だと。
 しかし、頭では分かっているつもりでも、どうしても浮かんでしまうのだ。
 
 ──()()()と──
 
「と、とにかく……響、今度その人に会う時はちゃんと正直に言ってよね。いい?」
「う、うん……。ごめんね、秘密にしているつもりはなかったんだけど……」
 本当は秘密だらけで、その中の端っこだけを切り取って、それをまだ殆ど隠して話しているのに……。
 親友を危険に巻き込まないために、親友に対して秘密を持たなければならない。
 その事実に心を痛めながらも、響はそう答えた。
 
「……さて、そろそろ私達は行くね。レポートの邪魔しちゃ悪いし」
「でしたら、屋上でテニスなど如何でしょう?」
「さんせー!じゃ、二人とも、また後でね~」
 このまま話を打ち切らずにいると、暗いムードになりかねない。
 そう判断した三人は話題を打ち切り、二人と別れて屋上へと向かって行った。
「そうだ!レポート終わらせないと!」
「私ももう少し手伝うよ。流れ星、見るんでしょ?」
「ありがとう未来~!」
 口から出かけた言葉を押し込める未来と、話したくても話せない響。お互い相手を大事に思うからこそ、言えない言葉が積もって行く。
 それでも二人は、交わした約束を目指して共に歩んで行くのだ。
 いつかきっと、打ち明けられる日が来る事を信じて……。
 
 ∮
 
「良かったぁ、レポート間に合ったよ~!いつもより早かったわね、って褒められちゃった」
「やったね、お疲れ様っ!」
 何とか提出を終えた響は、未来と二人でハイタッチしていた。
 提出期限はギリギリではあったが、時間をかけたのはまとめの一文だけだ。レポートの中身そのものは、もっと早く終わっていた。
 時間は夕方、そろそろ日が落ち始める頃になっていた。
「これで約束の流れ星、見られそうだ!」
「それじゃあ、響はここで待ってて。教室から鞄取ってきてあげる!頑張ったご褒美!」
 そう言って、未来はあっという間に廊下の角を曲がって行った。
「あっ、そんないいのに~……もう行っちゃった。足速いなぁ、さすが陸上部──」
 
 その時、二課の端末からアラームが鳴り響く。
「こんな時に……」
 そのアラームの理由を察して、響は表情を曇らせながら回線を開いた。
『ノイズの反応を探知した。響くん、直ぐに現場へ急行してくれ』
「……はい」
 予想通りの、最悪の展開。
 この日の為に頑張って来たのに……。
 未来にも、翔にも手伝ってもらってレポートを完成させたのに……そんな大切な約束さえも、ノイズは奪ってしまう。
 悔しさに唇を噛む。約束を破らなくてはならない悲しみに、目線が下がる。
(ごめんね、未来……。せっかく約束したのに、私──)
 
 
 
 
 
『いえ、司令!立花は今回、任務から外してください!』
「え……?」
 端末から聞こえてきた声に、顔を上げる。
 翔くん……なんでいきなり!?
『どういう事だ翔?』
『立花は今夜、友達としし座流星群を見る約束をしているんです!その為にレポートを仕上げようと、今日まで頑張って来たんです!その努力を無為にする事など出来ません!だから、今回立花を出動させないでください!』
「翔くん……」
『立花が出ない分は、俺が戦います!俺が2人分働けば、立花がいない分の穴も埋められます!だから……今夜は立花の行く先を、戦場(いくさば)の只中にしないでください!!』
 翔くんの声は必死だった。私に未来との約束を破らせないために、本気で弦十郎さんに訴えかけている。
 私を未来との約束の夜空へ行かせるために、私の分まで戦うとまで宣言して。
 その必死さが伝わったのか、弦十郎さんはその提案を直ぐに受け入れた。
『分かった。確かに、そこまで頑張って守ろうとした約束を、ノイズ如きに反故にさせるわけには行かないな。響くん、今日の所は我々に任せて、友達との思い出を作るといい』
「でっ、でも……」
 
『立花、俺が何の為にレポート手伝ったと思ってるんだ?』
 翔くんに言われて、そういえばと考える。
 自分の宿題でもない、ましてや学校も違うのに翔くんは私のレポートを手伝ってくれた。
 親切心……だと思っていたんだけど、そう言われると……。
『君が小日向との約束を守れるように、俺は手を貸したんだ』
「私が未来との約束を守れるように……」
『当日にノイズが現れる可能性も、考えてなかったわけじゃない。でも親友との約束は、書き終わったばかりの恋文と同じくらい、破っちゃいけない大事なものだろ?』
 微笑み混じりのその声に、ドヤ顔で臆面なく言いきる翔くんの顔が浮かんだ。
 ここまでしてもらって悪いなぁ、なんて申し訳なく思っていた気持ちは、その一言で吹き飛んだ。
 もっと周りに頼れ。それが翔くんからもらった、とても胸に響く言葉だった。
「翔くん、ありがと。今度お礼しなくちゃね」
『ああ。2人分働くんだからな、少しだけ高くつくぞ?』
 だから私は、安心して翔くんに後を託すと通信を切った。
「響、どうしたの?」
 端末をポケットに仕舞った直後、未来が廊下を曲がって戻って来た。
 少し不安そうな顔をしているのは、私が約束を守れなくなったんじゃないかと心配しているからだと思う。
 
 だから私は、精一杯の笑顔を未来に向けて言った。
「未来……流れ星、一緒に見ようねっ!」
「うん……!二人で、一緒に!」
 
 ∮
 
「さて、と……」
 通信を切り、端末をポケットに仕舞うと背後から地下へと伸びている階段……地下鉄、塚の森駅へと続くその階段の先を睨みつける。
 登って来るのは、今日一日の仕事や学業を終え、疲れと開放感に満ちた表情を浮かべながら帰路を目指して歩く街の人々……ではなく、もはや聞き慣れてしまった耳障りな鳴き声を発しながら溢れ出そうとする、特異災害の群れだった。
 一つ深呼吸して、胸に浮かぶ聖詠を口ずさむ。
 

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

 
 光に包まれた影が二つに分かれ、灰地に黒と白のスリートーンカラーでまとめられたインナーが形成されると共に再び重なる。
 両腕、両脚を包み込む鈍色の篭手と足鎧。そして胸に浮かび上がる赤い弓状の水晶体と、ジャケットのように装着される胸鎧。
 最後にヘッドホン状のプロテクターが耳を覆い、この身は鎧を纏って大地に立つ。
「今夜は星が降る夜だ。貴様ら雑音の鳴り響く場などない、神聖で厳粛な、尊き願いが翔び立つ一夜であると知れ!!」
 変身時に発生するインパクトにより位相差障壁を調律され、色の濃度を増したノイズ達へと啖呵を切り、俺は拳を左の掌へと打ち合わせると地面を蹴った。 
 

 
後書き
響「翔くんとの出会いは1か月前。用事があって出かけた先の、自販機の前だったな~」
板場「これまたベタな……」
響「その頃の私、実はちょっとした悩み事があったんだけど、優しく相談に乗ってくれてね~」
寺島「まあ、それはそれは……」
安藤「土曜日のお昼、一緒に歩いてたって噂になってたのは?」
響「翔くん、美味しい物食べるの好きらしいんだけど、ふらわーのお好み焼き食べた事ないって言ってたからさ~。一緒に食べに行ったんだよ」
安藤「そ、それは……」
板場「紛れもなく……」
寺島「おデートなのでは?」
響「ちっ、違うよ!そんなんじゃないよ!翔くんとはただの友達ってだけで、別にそんなに深い関係じゃないんだって!!」
未来「……<●><●>」
板場「未来さん眼ぇ怖ッ!」

次回、ブドウ型ノイズ戦!
皆のトラウマになったあのシーンは近い……。 

 

夜に遭逢す

 
前書き
今回の投稿日はマリアさんの誕生日だったなぁ。
伴装者本編にはまだ出られないから、活動報告にツェルトの設定を上げてプレゼント代わりとした思い出が。

伴装者世界の翼さんにあだ名の一つとして定着しつつある「ブラコン防人」、表記揺れが多くて混沌を極めているため「ブラコンSAKIMORI」に統一したのもこの頃でした。 

 
『小型ノイズの中に、一際大きな反応が見られる。間もなく翼も到着するから、くれぐれも無理はするんじゃないぞ』
「了解!はああああッ!!」
 突き出す拳が、蹴り込んだ足が、ノイズの躯体を粉砕し黒炭へと変えていく。
 離れた所から迫る個体には手刀を振るえば、腕の刃から放たれる光刃がそれらを切り裂き消し去って行った。
 技名は……〈斬月光・乱破の型〉とでもしておこうか。
 自分の攻撃で駅を破壊しないように気を遣いつつも、ノイズ達を倒して進む。
 広い駅内は、もはやノイズの巣窟と化していた。
 こんな密閉空間で、いつもの倍はあろう数を相手にしたくはないんだが……。
「立花の為だ、流れ星が見える時刻を過ぎるまではッ!!」

 既に戦い始めて二時間近く。一向にノイズの数は減らない。
 正直言って、体力的にはまだまだ余裕だ。おそらく、融合した生弓矢の『生命を与える力』が、体力の活性作用を促しているんだろう。ちょっとやそっとじゃ、今の俺の体力は削れない。
 しかし、こうも数が多いと精神的な疲労は出て来る。そちらは休まなければ回復しようがないので、むしろこっちの方がキツい。
「ってか、そもそも何でこんなに多いんだよ!」
 駅内を走り回りながら、大きな反応があった地点へと向かう。
 おそらく、そこにデカいのが一体居るはずだからだ。

 親玉を探して角を曲がったその先に、とても特徴的な姿をした、初めて見る個体がいた。
「いた!あの葡萄みたいなやつか!!」
 頭から背中にかけて葡萄状の器官を持つ、全身紫色の人型個体。安直だが語呂がいいので、ぶどうノイズと呼称しよう。
 ぶどうノイズはこちらの接近に気が付くと、身体を振った勢いでその葡萄のような器官を飛ばした。
 地面に弾着した途端、爆発する球体。
 眼前へと飛んできた器官へと拳を繰り出すが、周囲へと飛び散った方の器官が爆発し、天井が崩れ落ちる。
 咄嗟に防御姿勢を取ったものの、落下してきた瓦礫が降り注ぎ……。

 ∮

「あ、ほら!流れ星!」
 夜空を見上げた未来は、闇を裂いて流れて行った一筋の輝きをを指さす。
 やがて輝きは一つ、また一つと数を増やし、やがて星の雨となって降り注ぐ。
「うわあ……綺麗だなぁ……」
 その光景を、響は感嘆の声を漏らしながら見上げる。
 この流星雨を二人で見る為に、この数日間頑張って来た。それがちゃんと報われた事を、響自身も、親友である未来も喜んでいる。
「響、願い事しない?」
「それ、いいかも!」
 流れ行く星を見つめ、二人は目を瞑る。
 心の中に願いを思い浮かべようとして……ふと、瞼の裏に翔の顔が浮かんだ。
(……翔くんも、連れて来たかったな……)
 そう思うと、今頃翔はどうしているのか気になり始める。
 今頃、街でノイズと戦っているんだろう。きっと、空を見上げる暇もないくらい忙しい筈だ。
 それを思うと……任せる、とは言ったものの心配になって来る。
 段々と不安が募り、やがて響はいても経っても居られなくなって来た。

「響、願い事、何にしたの?」
「……ごめん、未来。私……行かなきゃ」
 私の一言に、未来の表情が曇る。
 分かっている。それは未来にとても心配をかける事になるなんだって。
 だけど、何だか胸騒ぎがする。翔くんの所へ行かなきゃいけない気がするんだ。
「もしかして、翼さんの弟さんの所に行くの?」
「うん……」
「どうしても、今じゃなくちゃダメ?」
「……うん。今日ここに来れたのは、翔くんのお陰なんだ。翔くん、私と未来の約束を知って、頼まれもしてないのにレポートを手伝ってくれたの」
「そうなの?」
 未来は驚いたような顔をする。
 まあ、確かにそれだけの理由で手伝ってくれる人なんて、そうそういないもんね。
「うん。だけど今、翔くんは私の分まで頑張ってくれてる。やっぱり、任せっきりには出来ないよ」
「……そっか」
「本当にごめんね。この埋め合わせは、いつかきっと!」

 そう言うと、未来は静かに首を横に振った。
「ううん。こうして、響と流れ星を見ることが出来たんだもん。約束は守ってくれたんだから、私はそれで充分だよ」
「ホント!?」
「うん。だけど、あんまり遅くならないでね?」
「ありがとう、未来!」
 未来の手を握ってお礼を言うと、私は駆け出した。
 ノイズが出た場所は覚えてる。そこまで向かえば、間に合うかもしれない。
 この胸が叫んでいる。翔くんの元へ迎えって……。
 お願い翔くん、翼さん。どうか二人が無事でいますように!
 そう願いながら、私は胸の歌を口ずさんだ。

「あーあ、借りが出来ちゃった……」
 一つ、小さな溜息を吐く。
 私にとって風鳴翔という男子は、響と同じクラスにいた男子生徒の一人という以外に、ある意味でとても印象に残っている。
 2年前、響が学校中から虐められていた頃に一度だけ、響を助けてくれた人だ。
 でも、助けてくれたのはたった一度だけで、その一回以外はずっと教室の陰から、虐められる響を見ているだけだった。
 ……どうして助けてくれなかったんだろう。いつしか私は、そんな自分勝手な希望を彼に押し付けるようになっていた。
 他の生徒のように嗤うこともなく、虐めに参加する事もなかったけれど、彼はただ見ているだけだった。
 一度だけでも助けてくれたのは、丁度私が風邪で休んでいた時の話だったらしい。響は「足りなくなった給食を分けてくれただけ」って言ってたけど、噂を聞く限りだと、その経緯にはやっぱり響への虐めが関わっていた。

 きっと、彼も怖かったんだと思う。お姉さんが有名人なんだから、きっとお姉さんを巻き込みたくないって思いもあったのかもしれない。
 でも、やっぱり一度だけとはいえ助けてくれたんだから、それからも響を助けて欲しかった……。ただ静かに、親友から離れない道を選んだ(あたりまえのことをした)だけの私と違って、あの人は友達でも何でもない響の為に声を上げてくれた。
 そんな人だからこそ、響を預けられる。私の中の私はそう囁く。
 そんな人だからこそ、響を渡したくない。もう一人の私がそう呟く。
 偽善者と呼ぶ事で彼を拒絶しないと、響を取られちゃう気がして……響が何処かに行っちゃうのが耐えきれないくらい寂しくて。だからレッテルを貼る事でしか心を保てない私は、きっと悪い子だ。
 立花響という親友を、私にとってのお日様を、他の誰にも渡したくないだなんて……。

 だから私は、星に願う。

 どうか、私があの人を許してあげられますように。

 それから……響がきっと、幸せになりますように。

 ∮

「……貴様らのせいで、大切な約束を破りかけた子がいる……」
 瓦礫の下から立ち上がる、灰色の影。
 シンフォギアのお陰で無傷だった翔は、ゆっくりと立ち上がる。
 追い打ちをかけようと襲いかかるノイズ達を、彼は静かに殴り、蹴り、斬り倒す。
「貴様らは、存在している事そのものが罪なんだよ……」
 迫るノイズを全て打ち倒し、階段を一気に飛び降りると駅のホームへと降り立つ。
 ホームに出れば、ぶどうノイズが飛ばした器官を再生し、足音軽やかに逃げ去ろうとしている所だった。
 翔の胸の奥から、とても強い衝動が沸き起こる。
「貴様らが、誰かの約束を侵し……」
 衝動は全身を駆け巡り、ギアの内側から外へと溢れ出そうとする。
 強烈な殺気にぶどうノイズは器官を再び切り離す。すると分離した器官から数体のノイズが生まれ、翔の方へと襲いかかった。
「嘘のない言葉を、争いのない世界を……何でもない日常を!略奪すると言うのなら!」

 正面から襲いかかったノイズの身体に風穴が空く。
 しかしそれはいつもの様に、拳で殴ったことによるものではなく……その風穴からは、赤黒い手甲が飛び出していた。
 消滅したノイズの前に立っていたのは、顔全体を黒に覆われ、爛々と光る真っ赤な目をした“何者か”であった。
 灰色のギアは黒に染まり、血のように赤いラインが血管のように全身を走っている。
 胸の赤い水晶体でさえ、いつもに比べて淀んだ赤へと変わっていた。
 溢れる殺気と相まって、その姿を一目見たものは皆、口を揃えて言うだろう。
 狂戦士、あるいは破壊者と……。
「オ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"!!」
 唸り声を上げ、次々にノイズらを蹴散らす翔。
 しかし、その戦い方は凶暴性と暴力性に満ちた、荒々しいものに変わっていた。
 頭を鷲掴んで首を引っこ抜き、貫手で体躯の中心部を貫き、クロールノイズを真っ二つに引き千切った。
 前後から挟み撃ちにして来たノイズは、やはり頭を掴むとそのまま互いをぶつけて地面に叩きつけ、頭を踏み潰した。

 〈禍ノ生太刀〉

 最後の一体には、同じく赤黒く染まったアームドギアを取り出すと、素早く突き刺した。
 一度だけに飽き足らず、二度、三度と何度も突き刺す。
 食いしばった牙は、突き立てる刃と同じように鋭く、剥き出しの殺意を象徴しているかのようだった。

 ボールのように転がってきた、ぶどうノイズの球状器官が爆発する。
「ッ!?くっ!!」
 爆煙に包まれた次の瞬間、翔の姿は元に戻っていた。
 両腕で顔を保護する防御姿勢を解き、目の前から走り去るぶどうノイズを見ると翔は、目の前のタイルに突き立つアームドギアを引き抜いて走った。
「待ちやがれ!!」
 線路へと飛び降り進むと、ぶどうノイズはまたしても器官を飛ばして爆発させる。
 今度は地下鉄の路線の天井を破壊し、その穴から地上へと素早く登って行く。
 その代わり、分厚い岩盤を破壊する為に全ての器官を費やし、ヒョロヒョロの身体をくねくねと揺らしながら逃げ去る辺り、今追い詰めればトドメを刺すのは簡単だろう。
「このっ……」
 ひとっ飛びで登りきろうとしたその時、見上げた夜空に一筋の蒼い光が降る。
「あれは、流れ星……いや違う、あれは!!」
 あれは何だ!流星だ!UFOだ!いや、違う!!
 あれは……(つるぎ)だ!!

 ∮

〈蒼ノ一閃〉

 ぶどうノイズの頭上から放たれた蒼き斬撃が、身を守る術を失ったその細長い体躯を真っ二つに切断する。
「嗚呼絆に、全てを賭した閃光の剣よ──」
 ヘリから飛び下り、そのまま落下しながらその一太刀を振るった翼は、大剣へと形を変えたアームドギアを片手に降り立つ。
 地面に降り立つ瞬間、両脚の刃がスラスターのように火を拭き、落下の衝撃を軽減する。
「姉さん!」
「これで最後だな?」
 アームドギアを刀型に戻した姉さんへと駆け寄る。
 姉さんは周囲を見回し、もうノイズが残ってない事を確認してから俺の方を向いた。
「助かったよ……そいつ、個体増殖するし機雷飛ばしてくるしで苦労したんだよ……」
「それは確かに、一人で相手取るには辛いな……。だが、よくここまで耐えたじゃないか。お疲れさま、翔」
 そう言うと姉さんは、刀を持っている方とは逆の手で俺の頭を撫でる。
 俺としては恥ずかしいのでやめて欲しいんだけど、辺りに人は居ないし、姉さんが満足げに笑っているから別にいいや。

「翔くーん!翼さーん!大丈夫ですかー!!」

 耳に入った慌ただしい声。反射的に振り返ると、そこには夕方、無事に送り出したはずの人物がいた。
「立花!?何故ここに!?」
「ふう、ふう……やっぱり、私だけ休んでる事なんて出来なくて……」
「小日向との約束はどうした!?」
「それは大丈夫!流れ星はちゃんと二人で見て来たよっ!」
 立花の明るい表情から察するに、約束はちゃんと果たす事ができたようだ。
 しかし、途中で小日向に頭を下げて抜けて来たというのも想像に容易い。
「友人との約束を守れたというのなら、それでいいとは思うのだが……。司令から、今夜は休んでもいいと言われた以上は友人と最後まで流星群を見て、何の憂いもなく帰路につくことも出来たはず。わざわざ戦場(いくさば)へ赴く必要はなかった筈だが?」
 姉さんも俺と殆ど同じ疑問を口にする。
 その問いに、立花は俺の方を真っ直ぐに見て答えた。
「私にだって、守りたいものがあるんです。だから──」





「『だから』?で、何なんだよ?」
「ッ!?」
 その場に響く、第四の声。
 月明かりに照らされ、一歩ずつ歩み寄ってくる銀色の影。
 声の主を見て、真っ先に口を開いたのは姉さんだった。
「ネフシュタンの鎧……」
 その一言を聞き、鎧の少女は挑発的な笑みを向けた。 
 

 
後書き
クリス「ようやくあたしの出番か!ああ?挨拶代わりに後書きで挨拶してこいだぁ?何でそんなせんない事しなくちゃならねぇんだよ。……はあ?それが決まり?全員やってるって?はぁー……仕方ねぇな。雪音クリスだ。こっからはあたしのターンだから、お前ら全員覚悟してな!……それとさっきからあたしの胸ばっか見てる奴らは前に出ろ。全員一発目ずつNIRVANA GEDONブチかましてやっからな!」

やめて!アームドギアを介さない絶唱でやけっぱちの自爆特攻なんてしたら、シンフォギアのバックファイアの影響でSAKIMORIの体がボロボロになっちゃう!お願い、死なないでSAKIMORI!貴女が今ここで倒れたら、実弟や未来の義妹の面倒(イチャつき)は誰が見(て悶えて突っ込む)るの!?
ノイズはまだ残ってる……でも、ここを凌げばクリスに勝てるんだから!
次回、SAKIMORI 死す。デュエルスタンバイ!
翼「待て待て、勝手に殺すな!!」 

 

落涙

 
前書き
皆さんお待ちかね、クリスちゃん大暴れの巻。
やっと原作四話です。じっくりとお楽しみください。 

 
「馬鹿な……。現場に急行する!何としてでも、ネフシュタンの鎧を確保するんだ!!」
 弦十郎自らが出動する為、黒服達が車を手配し始める。
 普段はマイペースな了子も、この時ばかりは眉間に皺を寄せていた。
「ええ、行きましょう。……急がないと、翼ちゃんが()()かもしれないわ」
「唄うって……まさか絶唱を!?」
 了子の言葉に、藤尭が目を見開く。
「あの鎧は2年前のあの日に奪われた物だ。それを前にして、翼が冷静でいられるとは思えない……」
「絶唱……装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に引き出す諸刃の剣……」
「絶唱を口にすれば無事には済まない。翼、早まってくれるなよ……」
 弦十郎と了子は司令室を飛び出し、エレベーターへと走った。
 翼が唄う前に、間に合わせなければと焦燥しながら。
 
 ∮
 
「預けた勝ちを受け取りに来たぜ」
「預けられた覚えなどない。その鎧、今夜で返してもらおうか!」
 挑発的な笑みを浮かべる鎧の少女に、姉さんは刀を向けて構える。
 少女もまた右手に持っていた杖を構え、左手には棘だらけの鞭を握る。
 前回現れた時、姉さんはこの少女に足止めされていたらしい。姉さんと互角にやり合う辺り、実力はかなりあるはずだ。
 ネフシュタンの鎧を取り返す為にも、まずは無力化しなくては……。
「やめてください翼さん!相手は人です!同じ人間ですッ!!」
 などと考えていた矢先、立花が姉さんへとしがみつく。
 立花、確かにその気持ちは分かるが、ちょっと落ち着──
 
「「戦場(いくさば)で何をバカな事をッ!!」」
 ……姉さんと鎧の少女が、同時に同じ言葉を発する。
 オイオイ、この人達意外と似たもの同士らしいぞ……?
 一拍置いて、姉さんと鎧の少女は互いの顔を見て、挑発的な笑みを零す。
「むしろ、あなたと気が合いそうね?」
「だったら仲良くじゃれあうかい?」
「ああ……参るッ!」
 少女が振るった鞭が地面を抉り土を巻き上げる。
 姉さんは立花を突き飛ばすと、そのまま跳躍してそれを躱した。
 慌てて突き飛ばされた立花を受け止める。やれやれ、立花の甘さにも困ったものだけど、姉さんも姉さんで今回は冷静さを欠いているのでは?
「まったく……立花、大丈夫か?」
「ありがと……って、翔くん!翼さんを止めないと!」
「分かってるさ。だけど落ち着け。なにも姉さんはあの子を傷付けるために戦っているんじゃない。ネフシュタンの鎧を取り戻す為にも、まずは無力化しないといけないだろ?」
 立花を宥めるようにそう言うが、立花は納得出来ないという顔をしている。
「例えるなら……武器持った犯罪者相手に銃を向ける警官を見て、立花は同じ事を言えるのか?」
「そ、それは……」
「そういう事だ。相手を傷付けたくて刃を交えるんじゃない。世の中、話し合いで解決出来ることばかりじゃない。でも、話を聞く事くらいまでなら誰にでもできる。だからこれは、話し合う為の手段の一つなんだ」
「話し合うための、手段?」
「そう。話を聞いてもらうためのアピールタイム、または交渉手段。武器を収めてもらうために自分も武器を振る、というのはかなりの皮肉だけど……拳や刃を合わせなくちゃ分からない事もあるんだよ」
 立花の方から、今度は姉さん達に視線を移す。姉さんと鎧の少女の戦いは、拮抗していた。
 
 姉さんが放った〈蒼ノ一閃〉は、少女が放つ鞭の一振りで簡単に弾かれ、狙いを外れて爆発した。
 驚きながらも姉さんは、着地体勢をとりながらも大剣を振り回す。
 少女はそれらを軽々と躱し、刃を鞭で受け止める。
 剣を受け止められ隙が生まれた姉さんの腹に、少女の蹴りが炸裂する。
「ッ!?がはっ!!」
「姉さん!!」
 後方に勢いよく吹き飛ばされる姉さんに、少女は言い放った。
「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな?あたしのテッペンは、まだまだこんなもんじゃねぇぞ?」
 何とか受身を取り、地面に足を付けて後退る姉さん。
 しかし、少女の鞭が追い打ちとばかりに振るわれ、跳躍する。
 地面を抉り、木をへし折って振るわれ続ける鎖鞭。姉さんが押されている……いや、どちらかと言えば、姉さんの動きの方に精彩が欠けている!?
 やっぱり姉さん、冷静さを保てていないんだ!
 
「翼さん!!」
「姉さん!!」
 思わず立花と揃って飛び出そうとする。しかし、少女はそれを阻むようにこちらへと杖を向けた。
「お呼びではないんだよ。こいつらでも相手してな」
 杖の中心部に嵌められた宝玉から、黄緑色の光が放たれる。
 光は俺達の眼前に着弾すると……その光から四体のノイズが現れた。
「なっ!?」
「えっ……ノイズが、操られてる!?どうして!?」
「そいつがこの『ソロモンの杖』の力なんだよ!雑魚は雑魚らしく、ノイズとでも戯れてな!」
「ソロモンの杖……ノイズを操る力を持った、完全聖遺物だと!?」
 現れたノイズは、これまで見たことが無い個体だった。
 トーテムポールのように細長い体躯、丸い頭に嘴が付いた鳥みたいな顔。腕は無く、細い両足だけが身体を支えている。
 縦に長い巨体は、立花の身長の5倍以上はあるだろう。ダチョウ型、というのが適切だろうか?
「新種に初手で接近戦は避けたい、一旦離れるぞ立花!」
「わあっ!!」
 立花の手を引いて駆け出す。しかし、ダチョウノイズ達の能力は予想していないものだった。
 
 ダチョウノイズらの口から、吐き出された白い粘着質な液体が吐き出される。
「えぇっ!?うぇぇ何これ……動けない!?」
「拘束用の粘液だとぉ!?このっ!!」
 立花の手を引きながら、なおかつ別々の四方向から放たれたのでは避ける事もできず、俺と立花は、四方からの粘液に揃って囚われてしまった。
 ベトベトしてる上に粘着力が高く、まるで蜘蛛の糸のようにこちらの動きを封じてくる粘液に、生理的な嫌悪感を覚える。
「そんな……ウソ!?」
「立花!しっかりしろ!」
 ってか、俺はともかく立花にこんなばっちいモンをぶっかけるんじゃねぇ、このせいたかのっぽ共!!
 クソッ!腕に力を集め、両腕のエルボーカッターで切断出来れば……ダメだ、腕が動かせないように刃が触れない位置を狙って拘束されてる!
 こいつら、ノイズのくせに頭が良いぞ!?
 
 ……ということは、あのソロモンの杖って完全聖遺物に備わっているのは、ノイズを召喚して操る能力……。しかも、結構細かい命令を下せる代物なのでは?
 ソロモン王の名を冠する聖遺物といえば、『ソロモンの指輪』なら有名だ。
 全72柱の悪魔を従える魔術の王。神に授けられたその指輪こそが、悪魔達を従える契約の象徴だと言うが……杖、か。
 従えていたのは悪魔ではなく災厄
ノイズ
そのものであり、その聖遺物の実態は指輪などではなく杖だったというわけか……。
 感心してる場合じゃないな。とにかくこいつを何とかしないと……!
 
「はあああーーーッ!!」
「……ッ!?」
 姉さんが再び大剣を手に突進する。
 両手で持った鞭で防ぐ少女に、姉さんは吼える。
「その子達にかまけて、私を忘れたかッ!!」
 姉さんが一瞬の隙を突いて足を払い、少女はバランスを崩してよろめく。
 更に姉さんは何度も少女に回し蹴りを繰り出し、両脚の刃を振るう。
 少女も負けじとその脚を鞭で受け止め、啖呵を返す。
「ぐっ……!!この、お高くとまるなッ!」
 そのまま姉さんの足を掴むと、力任せに放り投げた。
「なっ!?ぐううううッ!」
 地面を抉って吹っ飛ばされ、地面を転がる姉さん。
 更に少女は跳躍し、素早くその先へと回り込むと姉さんの頭を踏みつけた。
「のぼせ上がるな人気者。誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねぇッ!!」
「くっ……」
 鎧の少女は姉さんを見下ろすと、俺たちの方を見ながら言った。
「この場の主役だと勘違いしてるなら教えてやる。狙いはハナッから、そいつらをかっさらう事だ」
「え……わたし、たち……?」
「何だと!?」
「鎧も仲間も、アンタにゃ過ぎてんじゃないのか?」
 姉さんは囚われた俺達の方を見て、鎧の少女を睨み付ける。
「……繰り返すものかと、私は誓った!!」
 空へと剣を掲げると、千の剣が闇を裂いて降り注ぐ。
 
〈千ノ落涙〉
 
 無数の刃に鎧の少女はバックステップを踏んで後退する。
 その隙に姉さんは立ち上がり、サイドステップと共に駆け出した。
 それを追う鎧の少女。二人がぶつかり合い、公園内で何度も爆発が起こる。
「そうだ!私もアームドギアが使えれば!」
 立花が動かない腕に力を込め、願うように見つめる。
「出ろ!出ろぉ!私のアームドギア!!」
 しかし、シンフォギアは何も反応しない。何度念じても、アームドギアが形成されることはなかった。
「何でだよぉ……どうすればいいのかわっかんないよぉ……」
 泣きそうな声で立花は俯く。クソッ、俺もアームドギアさえ使えれば……この状態じゃ出せても振り回せず、落としちまうだけだ……!
「どうすれば……どうすれば立花も、姉さんも助けられるんだ!!」
 
 ∮
 
 何度目かの打ち合いの末、少女が鎧の力に振り回されているわけではなく、その力が本物だと気がついた頃だった。
 少女はその手に握る完全聖遺物、ソロモンの杖の力で何体ものノイズを召喚し、私へと嗾ける。
 ノイズの増援を蹴散らし、少女へと刃を振り下ろす。
 少女も負けじと刃を受け止め、懐に飛び込んだ所で格闘戦を交えて距離を取る。
「はぁっ!!」
 小刀を3本、少女へと投擲すると、少女は狙い通りそれを鞭で弾き返した。
「ちょせえ!!そんなの食らうか!」
 少女は高く跳躍すると、鞭の先に溜めたエネルギーを球状に固めると、力任せに投げ放った。
「それじゃ、こっちの番だ。たあああーーー!!」
 
 〈NIRVANA GEDON〉
 
「──ぐあっ!!」
 防ぎきれず、爆発とともに後方へと吹き飛ばされ地面を転がる。
「姉さん!!」
「翼さん!!」
 弟と後輩の声が聞こえる。身動きの取れない自分達よりも、私の方を心配してくれるとは……まったく……。
「ふん、まるで出来損ない……」
 爆煙の向こうからこちらへと向かって来る少女の言葉に、あの日の光景が頭を過る。
「確かに、私は出来損ないだ……」
 私がもっと強ければ……。あの時、私が奏を守れていれば……。
「この身を一振りの剣として鍛えてきた筈なのに、あの日、無様に生き残ってしまった……。出来損ないの剣として、恥を晒して来た……」
 そして、今度は血を分けた大切な弟と、その弟が守ると誓った後輩を失うかもしれない……。
「だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名を雪がせてもらう!!」
 それだけは……そんな無様だけは絶対に晒せない!
 防人として……先輩として……姉として……家族として!!
 何としても、二人だけは絶対に守りきって見せる!!
 ……たとえ、この生命に変えてでも──。
「そうかい。脱がせるものなら脱がして……──ッ!?なっ、動けない……ッ!?」
 
〈影縫い〉
 
 先程投擲した小刀が少女の影に突き刺さり、身体をその場に縫い止める。
 これで避ける事は出来ない。確実に、邪魔される事無く唄う事が出来る。
「月が出ているうちに、決着を付けましょう……」
 月を覆い隠そうとする雲を見上げ、私は剣を天へと掲げた。 
 

 
後書き
NGシーン、あるいは少しのズレで有り得たかもしれない展開。

響「えぇっ!?うぇぇ何これ……動けない!?」
翔「拘束用の粘液だとぉ!?このっ!!」
響「わあっ!?脚が滑った!わああっ!?」(尻もちをつく)
翔「立花ッ!大丈夫か!?」
響「いたた……うへえぇ、もう身体中がベトベトだよぉ……って、翔くんこそ大丈夫!?なんか凄くバランス取りづらそうだけど!?」
翔「ああ……立花が転んだ時に脚が縺れてな……。すまない立花もう足が持たなっうわあああ!?」(バランスを崩して転倒)
響「うわあああ!?ちょちょちょっ!翔くん顔が近いって!!っていうかどこ触ってるの!!」
翔「すっ、すすすすまない立花!本ッ当にごめん!!今すぐ離して……ちょっ、これ、離れない!?ベットベトにくっ付いてて掌が剥がれない!?」
響「うそおぉぉぉ!?あっ、ちょっ、翔くん……その手、あんまり動かさなッ……ひゃうっ!?」
翔「だああああああ姉さん早く何とかしてぇぇぇぇぇ!!」
(お互い粘液でグチョグチョになった状態で、翔が響を押し倒しているような姿勢に)
翼もといANE「きっ、ききき貴様あの二人に何ということを!!」
クリス「知るかッ!あああ、あたしは何も悪くねぇ!!ってかお前らそういうのは家でやれぇぇぇぇぇ!!」

戦場でナニをヤッてるんだと怒られる展開。二人揃ってダチョウノイズに襲われるって展開と一緒にこういう構図が浮かんだけど俺は悪くない!!
それはさておき、次回は絶唱回です。防人の唄を聞きましょう。 

 

防人の絶唱(うた)

 
前書き
前回、危うく2話分くらい書く所だったんだよなぁ。筆がノッていたというより、4話観ながら書いてたからでしょうけど。

それを分割する事で出来た分が今回です。防人の唄を聞け!
 

 
「……まさか、唄うのか!?『絶唱』をッ!?」
 鎧の少女の顔色が変わった。身動きが取れない今、次に来る攻撃の直撃を免れないからだ。
 でも、今姉さんが唄おうとしているのは……その歌は、歌ってはいけない禁断の唄だ!!
「ダメだ姉さん!その歌は!!」
「翼さん!!」
 俺と立花の叫びを聞くと、姉さんはゆっくりとこちらを見る。
 その表情はとても穏やかで……姉さんの心境がよく伺えた。
 やめろ姉さん!俺達を守った上で……奏さんの元へ行こうだなんて、考えるな!!
 
「防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ!!その胸に、焼き付けなさい……」
 俺達の方からすぐに鎧の少女へと視線を移して、姉さんはそう豪語した。
 その言葉はおそらく、この場にいる者全てに向けられていて……姉さんがただあの日の生き恥を雪ぐだけではなく、俺や立花に"人類を守る者"としての覚悟を固めさせる為の礎になろうとしている事を実感させた。
「やらせるかよ……好きに……勝手にッ!」
 少女が握るソロモンの杖からノイズが召喚される。しかし、身動きが取れないからか、それとも絶唱への恐怖からか。その狙いは外れ、ノイズ達は姉さんの遥か後方に放たれた。
 やがて、剣を天高く掲げた姉さんはゆっくりと唱え始めた。
 命を燃やし、血を流しながら唄う絶
ほろ
びの唄を……。
 
Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) baral(バーラル) zizzl(ジージル)──」
 
Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」
 
 辺り一体の空間が、半球状をした紫色のフィールドに覆われる。
 姉さんは刀を納め、ゆっくりと少女へ近づいて行く。
 縫留られた身体を動かそうと藻掻く少女へと、まるで抱擁と共に口付けを交わすように密着する。
 最後の一節を唄いきった時、シンフォギアから放たれた圧倒的なエネルギー波が、姉さんを中心に、その場にいた全てを吹き飛ばした。
「う、うわああああああーーーーッ!?」
 
「あっ……がっ、はっ……」
 ほぼゼロ距離で絶唱を食らい、何本もの木にぶつかりながら後方へと吹っ飛ばされる。
 公園の池の真ん中に置かれた岩にぶつかってようやく、あたしの身体は浅い水の中へと落ちた。
 全身を襲う鈍い痛み。でも、ゆっくり寝ている暇はあたしにはなかった。
「ぐっ……ああッ……!うぐっ……がっ……ううっ……!」
 全身を鋭い痛みが駆け抜ける。ネフシュタンの鎧に備わった自己再生能力だ。破損した箇所を再生しようとして、装着してるあたしの身体を破片が侵食しようとしている痛みが、全身のあちこちから突き刺してくる。
(ぐっ──クソッ……ネフシュタンの侵食が……ッ!この借りは……必ず返すッ!)
 侵食の痛みに耐えて立ち上がると、空高く跳躍する。
 おそらく奴らは追って来られないだろう。だったら今は、フィーネの所に戻った方がいい。
 この破片を取り除いてもらったら、すぐにリベンジしてやる!!
 
 この時のあたしは、何も分かっていなかった。
 
 フィーネの本当の狙いも、あたし自身の本当の気持ちも。
 
 そして……あたしの帰りを待ってくれている、優しい人がいる事も……。
 
 ∮
 
 絶唱の余波で抉れた地面。その真ん中に、姉さんは独りで立っていた。
 ダチョウノイズの粘液はノイズごと消し飛んでおり、俺と立花は急ぎ、姉さんの方へと走る。
「姉さん!!」
「翼さーーーん!!翼さ……うわっ!!」
「立花!」
 つまづいて転びそうになった立花を、何とか支える。
 そこへ、急ブレーキを踏む音と共に、二課の黒い自動車が停車する。
「無事かッ!翼ッ!!」
 ドアを開けて出て来たのは、叔父さんと了子さん。
 二人とも険しい表情で姉さんの方を見ている。
 
「私とて、人類守護の使命を果たす防人……」
 俺達の視線が集まる中、姉さんはゆっくりと振り返った。
 ヒビ割れ、破損したギア。足元には真っ赤な血溜まり。
 そして何よりショックだったのは……。
「こんな所で、折れる剣じゃありません……」
 両眼と口から血を流し、瞳孔の開いた虚ろな目をした姉さんの顔だった。
 そして、姉さんはそのまま糸の切れたマリオネットのように、力なく地面へと倒れる。
 倒れる瞬間、俺は慌てて駆け出し、ボロボロになった姉さんの身体を抱き留めた。
「姉さん……姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「あ……あ、あ……翼さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 白い月が照らす夜空に、俺と立花の叫び声だけが、静かに吸い込まれて行った。
 
 ∮
 
「辛うじて一命は取り留めました。ですが、容態が安定するまでは絶対安静。予断の許されない状況です」
「よろしくお願いします」
 リディアン音楽院のすぐ隣にある病院の廊下。オペを担当するドクターに、叔父さんと黒服さん達が頭を下げる。
 無論、俺もその隣で静かに頭を下げていた。
 やがて頭を上げると、いつものワイシャツの上からスーツを着た叔父さんは、黒服さん達へと向き直り、指令を下す。
「俺達は、鎧の行方を追跡する。どんな手がかりも見落とすな!」
 ぞろぞろと病院の外へ出ていく、調査部の黒服職員達。
 それを見送ると、俺は待合室のソファーに座って俯いている立花の左隣に腰を下ろした。
「……立花のせいじゃないさ。俺だってあの場にいながら、何も出来なかった……」
「……でも、私がもっと強ければ、翼さんは……」
 ……ダメだ。励まそうにも、いい言葉が浮かばない。
 立花だけじゃない。俺も立花と同じ事を考えてしまうからだ。
 姉さんが絶唱を唄う事を防げなかった。それは、俺の不甲斐なさでもある。
 そう考えると、何も言えなくなってしまう……。
 
「……二人が気に病む必要はありませんよ。命に別状はありませんでしたし、絶唱は翼さんが自ら望み、唄ったのですから」
 突然耳に飛び込む第三者の声に、俺達は顔を上げる。
「緒川さん……」
 そこには、端末を自販機にかざして飲み物を購入する緒川さんがいた。
「翔くん、少し昔話をしようと思うんだけど、いいかな?」
「……お願いします」
 俺だけじゃ立花を励ませない。ここは緒川さんの助け舟に乗るとしよう。
 そう思い、俺は緒川さんに話してもらうことにした。
 姉さんの心の支えにして、無二のパートナー。俺にとっては、もう一人の姉のような存在だった人。
 先代ガングニール装者、天羽奏
あもうかなで
さんの話を……。
 
「……響さんもご存知とは思いますが、以前の翼さんはアーティストユニットを組んでいました」
「ツヴァイウィング、ですよね……」
「その時のパートナーが天羽奏さん。今はあなたの胸に残る、ガングニールのシンフォギア装者でした。2年前のあの日、奏さんはノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるために、絶唱を解き放ったんです……」
「絶唱……翼さんも言っていた……」
「シンフォギア装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に解き放つ絶唱は、ノイズの大群を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命を燃やし尽くしました……」
「それは、私を救うためですか……?」
 緒川さんは何も答えない。その沈黙は、立花の質問を敢えて否定も肯定もしない、正しい答えだったと思う。
 
 湯気を立てる珈琲を一口飲み、緒川さんは話を続ける。
「奏さんの殉職。そして、ツヴァイウィングは解散。独りになった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらに戦ってきました……」
 絶唱を解き放つ直前の、姉さんの言葉を思い出す。
『防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ!その胸に、焼き付けなさい……』
 きっと奏さんが生きていれば、姉さんもあんな真似はしなかっただろう。
 そう思うと、やっぱり奏さんの死が悔やまれる……。
「……不器用ですよね。同じ世代の女の子が知ってしかるべき恋愛も遊びも覚えず、ただ剣として戦ってきたんです。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」
 
「そんなの……酷すぎます……」
 立花の頬を涙がつたう。小さく嗚咽しながら泣き始めた立花の右肩に、俺はそっと手を置いた。
「そして私は翼さんの事を何も知らずに、一緒に戦いたいなんて……奏さんの代わりになるだなんて……」
「僕も、あなたに奏さんの代わりになってもらいたいだなんて思っていません。誰も、そんな事は望んでいません」
「緒川さんの言う通りだ。立花は立花だろ?」
 そう言うと、立花はハッとしたように顔を上げた。
 それを見てから、俺は更に続ける。
「奏さんの立場は奏さんだけのものだ。だったら、立花は立花だ。姉さんの後輩、"立花響"として姉さんを支えてくれればいいんだよ」
「私は……私として……」
「そうそう。それだけは絶対、他の誰でもない"立花響"にしか出来ない事なんだからな」
 自然と零れた微笑みと共に、肩に置いた手で立花の頭を撫でる。
 汗で少しだけベトッとしていたけど、頬に触れた時と同じ柔らかい感触が掌に伝わった。
 それを見ていた緒川さんは優しげに微笑むと、立花へと向けて言った。
「ねえ響さん、僕からのお願いを聞いてくれますか?」
「……え?」
「これから先も、翼さんの事を好きでいてあげてください。翼さんを、世界でひとりぼっちになんてさせないで下さい」
 そう言った緒川さんの目は、とても優しくて……心の底から姉さんの事を慮ってくれているのが伝わった。
「俺からもよろしく頼む……。姉さん、不器用だから友達少なくてさ。これからも仲良くしてくれると嬉しい……」
 俺も緒川さんと一緒に立花を見つめる。それを聞いて、立花は静かに頷いた。
「はい……」
 
 ∮
 
 どこまでも、どこまでも、下へ下へと落ちていく空の中で。
 
 ふと、懐かしい姿とすれ違った気がして目を開く。
 
 目を開いて身体を縦に直すと、視線の先には……
 
 あの頃と変わらない奏の後ろ姿があった。
 
 こちらを振り返った奏の顔は、どこか哀しげに私を見つめる。
 
 そんな顔はしないでほしい。私は奏に向かって叫んだ。
 
「片翼でも飛んでみせる!どこまででも飛んでみせる!だから笑ってよ、奏……」
 
 いつの間にか空は海の中へと変わっていて、私の意識は深い奈落の底へと落ちていく。
 
 最後に映った奏の顔は、振り向いた時よりも哀しそうに……無言で何かを伝えようと、私を見つめ続けていた……。 
 

 
後書き
防人、とうとう絶唱しました。
「その胸に焼き付けなさい」のニュアンス変えてみたつもりなんですけど、伝わってるだろうか……?
それと緒川さんの名台詞も一文だけ変更しました。溝が早めに埋まってるので、嫌われる理由がありませんからね。

奏「はい、ここで新コーナー『天羽奏のお悩み相談室』~!」
翼「えっ?奏、さっきの物悲しい終わり方の後にこんな事してていいの!?」
奏「大丈夫大丈夫、だって本家アニメも今の本編も、翼は泣かされっぱなしじゃないか。ここでくらいはっちゃけようぜ」
翼「そ、そんな事言われても……」
奏「さて、今日のお便りはこちら!SN
ソングネーム
・弟リニティーさんから!」
翼「ど、どうも……?」
奏「『奏さん、どうもご無沙汰してます。いつも姉がお世話になっております』そりゃどうも~」
翼「え?今、姉って……」
奏「『実は最近、一つ悩みがあります。それは決めゼリフ。自分だけ決めゼリフと呼べるものがないような気がしているんです』なるほど、そりゃあ悩みどころだな」
翼「そう言われてみると、確かに……」
奏「『立花の「へいき、へっちゃら」や「だとしても!」、姉さんのSAKIMORI語、まだしばらく敵役やってるあの子の「ちょせえ!」や「ばーん♪」、司令の「~だとぉ!?」、奏さんの「生きるのを諦めるな!」のような、印象的に残る決めゼリフが欲しいです』うーん、こいつは難しいかもな」
翼「いや、お前も中々印象的なセリフは多かったはずでは……」
奏「はいはい、送り主の個人情報は伏せような~。で、決めゼリフか……こればっかりはこの先見つけて行くしかないと思うぞ。こういうセリフって言ってる本人の内面や価値観を象徴してるからな。だから、それを見つけられるのはお前自身だけだ。いつか、そう言う口癖が出来たら、それを使えばいいと思うぞ?」
翼「もしくは、普段時々出て来る防人語から一つ、多用するのもアリだな。知らぬ間に定着して驚くくらいだぞ」
奏「そうだな。それじゃ、今回のコーナーはこれで終わりだ。それじゃ、またな!」
翼「一体私は何をしていたんだろう……」

次回、OTONAとの修行!お楽しみに! 

 

言えない秘密と始まる特訓

 
前書き
今日のところはここまで。明日からはまた新章がスタートします。

さて、今回はOTONAへの弟子入り回になりますよ! 

 
 司令室に集まった俺達は、今回の一件で気になった点についての議論を交わしていた。
「気になるのは、ネフシュタンの鎧をまとった少女の狙いが、翔と響くんだということだ」
「それが何を意味しているのかは全く不明……」
「いや、共通点なら一つだけ」
 了子さんの言葉を否定して、人差し指を立てる。
 俺達が狙われる理由があるとすれば、おそらくは……。
「俺も立花も、聖遺物との融合症例である……この一点かと」
「なるほど……となれば、個人を特定しているのみならず、我々しか知らないはずの情報を握っているというわけだ。必然的に、この二課の存在も知っているはずだな」
「内通者、ですか……」
 藤尭さんが不安げな顔をする。
 確かに、二課の情報が漏れている以上、内通者の存在があるはずだ。
 あの鎧の少女を裏で操っている何者か。それに与している内通者の存在は疑わざるを得ない。
 
「2人の融合症例を拉致する事が狙い……。もしその目論見が成功すれば、響ちゃんも翔くんも碌な目に遭わないでしょうね。ありとあらゆる生体実験、解剖素材として扱われちゃうかも……」
「そ、そんな……」
 立花が怯えた表情を見せ、後退る。
 その肩に手を置くと、立花は俺の顔を見た。
 俺は立花、そして了子さんの顔を見て宣言する。
「そんなこと、絶対にさせません。自分の身は勿論、立花は俺が守ります」
「翔くん……」
 了子さんはそれを聞くと、何故か可笑しそうに笑った。
「翔くんは本当に響ちゃんにベタ惚れよね~」
「ベッ、ベタ惚れって何ですか!?俺は二課所属の装者として当然の事を……」
「そういう真面目すぎる所、弄り甲斐はないけど嫌いじゃないわよん」
 そう言って、了子さんはやれやれ、と言うように肩を竦めた。
 
「わたしも、強くならなくちゃ……」
 立花がそう呟いた。皆の視線が立花に向けられる。
「シンフォギアなんて強い力を持ったのに、わたしがいつまでも未熟だから……。翼さんだって、ずっとずっと泣きながらも、それを押し隠して戦っていたのに……。悔しい涙も、覚悟の涙も、誰よりも多く流しながら……」
「響くん……」
 立花の後悔は尤もだ。1ヶ月間、シミュレーションを重ねて来たとはいえ、彼女は単騎で戦える所まではまだ鍛えられていない。基礎を積んでいないのもあり、この中で一番練度が低いのは立花だ。
 ……でも、あの瞬間の姉さんは"誰よりも強い剣"じゃなくて、"弟を守る姉"として、"シンフォギア装者の先輩"として唄いきった。俺の目にはそう映っていたよ……姉さん。
「……わたしだって、守りたいものがあるんです!だから──ッ!」
 
(──だから、わたしはどうすればいいんだろう……?)
 
 わたしの迷いは口に出ることなく、心の奥底へと吸い込まれて行った
 
 ∮
 
「響?」
 屋上のベンチに座り、一人で考え込んでいると、やって来た未来に声をかけられた。
「未来……」
「最近、1人でいる事が多いんじゃない?」
 未来はこっちに歩いて来ながら、そう聞いてきた。
「そ、そうかな?そうでもないよ?わたし、1人じゃなんにも出来ないし、この学校だって未来が進学するから──」
 隣に座った未来に、手を握られる。
「だって響、無理してるんでしょ?」
 未来の言葉は図星だった。あーあ、やっぱりわたし、隠し事向いてないみたい。
「……やっぱり未来には敵わないや」
「もしかして、翔くんと何かあった?」
「そっ、そんな事ないよ!これは翔くんの事とは関係なくて……」
 そこでちょっとだけ、言い淀んでしまう。
 これは、翔くんの事と全く無関係じゃないから。ちょっとだけ、嘘を吐いている気がして……。
 ふと昨日、翔くんから言われた事を思い出した。
 
『立花、小日向とは上手くいっているか?』
 ミーティングの後、翔くんは藪から棒にそんな事を聞いてきた。
 喧嘩はしていない。でも、隠し事を続けないといけないのは辛い。
 そう言ったら、翔くんは少し考え込む素振りを見せて、それからこう言った。
『嘘を吐くのは辛い。それが傷付けるためのものではなく、大切な人を守る為の優しい嘘なら尚更だ。だから、隠し続けるのが辛い時は、嘘の中に少しだけ真実を混ぜる事も必要になってくる』
 嘘の中に少しだけ……?
 首を傾げると、翔くんは優しく微笑みながら続けた。
『人を騙す方法の一つに、「真実8割、嘘2割」って配分があってな。人を騙すのにも100%の真っ赤な嘘じゃ、当然だけどボロが出る。でも、本当の話をした中に少しだけ嘘を混ぜるだけで、その嘘は現実味を帯びてくるんだ』
 言ってること全然分かりません、と言ったら翔くんはまた少し考え込んでから、つまり、と言った。
『これ、人を騙す為だけじゃなくて、人を守る為の嘘にも使えると思うんだ。隠さないといけない大事な部分は嘘で隠すとして、それ以外の所はちゃんと本当の事を話す。そうすれば、全部隠してるよりは少しだけ気が楽だと思うぞ?……まあ、嘘を吐くのが苦手そうな君に言っても、役に立つかは分からないが……』
 困ったような顔でそう付け足す翔くんに、一言多いよ~、と頬を膨らませる。
 でも、翔くんの優しくアドバイスは、わたしの心にしっかりと染みていた。
 
「未来……ちょっとだけ、相談してもいいかな……?」
「うん……いいよ?」
 このまま隠し続けても、未来を心配させるだけだ。
 だからわたしは、ちょっとだけ話してみる事にした。
 どこまで隠せるかは自信ないけど……でも、未来のためだもん!
「わたしね……強くならなくちゃ、いけないんだ……」
「強く?」
「そう。私はまだまだ全然ダメで、翔くんにも迷惑かけちゃってる。翔くんは優しいから、全然迷惑だなんて思ってないと思うけど……やっぱりわたしも、翔くんに頼りっぱなしじゃダメだよね」
 そこまで言うと、未来は少し考え込む。
 うう……やっぱり色々隠しながら話すのって難しい……。
 
「……あのね、響。どんなに悩んで考えて、出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね」
「わたしのまま……?」
 立ち上がり、空を見ながらそう言った未来に首を傾げる。
「変わってしまうんじゃなく響のまま成長するんだったら、私も応援する。だって響の代わりは何処にもいないんだもの。いなくなってほしくない」
「……わたし、わたしのままでいいのかな?」
「響は響じゃなきゃ嫌だよ」
 その言葉に、翔くんの言葉が重なる。
 私は私、"立花響"のままであればいい……。二人共、私に同じ言葉をかけてくれている。
 その同じ言葉に中学の頃、胸に刺さった棘が1本、抜け落ちた気がした。
「ありがとう、未来。わたし、わたしのまま歩いて行けそうな気がする」
 学校の隣にある、翼さんが入院している病院を見ながら、わたしは決意を握る。
「そっか。ならよかった」
 そう言って微笑むと、未来はスマホを取り出した。
「実はこの前の流星群、動画に撮っておいたんだ」
「え!?見たい見たーい!」
 未来のスマホを借り、動画を再生する。
 
 でも、カメラには真っ暗な空しか映ってなくて、星なんて一つも見えていなかった。
「んん?……なんにも見えないんだけど……?」
「うん、光量不足だって」
「ダメじゃん!!」
 そうツッコむと、わたしと未来の間には自然と笑顔が咲いていた。
「あははは、おっかしいな~もう……。次こそは、最後まで一緒に見ようね?」
「今度は絶対、途中で抜けないでよ?」
「うん!今度は翔くんも連れて来ていいよね?」
「え……う~ん……まあ、響がそれでいいなら……」
 何故か少しだけ困ったような顔をした後、未来はそう言った。
 あの日、翔くんと翼さんは空を見上げる人達を守る為、自分たちは空より目の前だけを見続けていた。
 だから、今度は2人よりも3人で!忙しくなかったら、翼さんも連れて来て4人で一緒に見よう!
 
 ──わたしだって、守りたいものがある。わたしに守れるものなんて、小さな約束だったり、何でもない日常くらいなのかもしれないけど、それでも、守りたいものを守れるように……わたしは、わたしのまま強くなりたい!
 
 ∮
 
「たのもーーーッ!!」
「なっ、何だいきなり!?」
「ようやく来たか、立花」
『風鳴』と木製の表札がかけられた屋敷の門を叩き、声を張り上げる1人の女子校生。
 家主の風鳴弦十郎は驚きながら戸を開く。一方、一緒にアクション映画を見ていた甥の風鳴翔は、予期していたかのように落ち着いていた。
「わたしに、戦い方を教えて下さい!!」
 立花響は二人の顔を見ると、綺麗にお辞儀しながらそう言った。
「この俺が、君に?」
「はい!翔くんを鍛え上げた弦十郎さんなら、きっと凄い武術とか知ってるんじゃないかと思って!」
 そう言われ、弦十郎は少し考え込むような素振りを見せると、真面目な表情で答える。
「……俺のやり方は、厳しいぞ?」
「はい!!」
 響は迷わず頷いた。それを見て、翔は満足そうに笑っている。
「時に響くん、君はアクション映画とか嗜む方かな?」
「……え?」
 これからどんなトレーニングが始まるのかと胸を踊らせていた響は、弦十郎からの予想外の質問に困惑する。
 すると翔が、腹を抱えて笑い始めた。
「翔くんどったの?」
「あはははは、いや、ゴメンゴメン。予想通りの困惑っぷりに、思わず、ね……」
 疑問符を浮かべる響に、翔は叔父の口癖であるあの言葉を教えた。
「叔父さんの鍛錬方法は特殊でさ、『飯食って、映画見て、寝る』。これがこの人の鍛錬方法だから、真似するにしてはアテにならないんだこれが」
「え!?ええええええええええええ!!??」
 それでどうやってあの強さを?と困惑する響に、翔は続ける。
「だから、俺はそれを実践しながらも筋トレやスパーリングも取り入れてなんとかここまで自分を鍛えて来たんだよ」
「そ、そうなんだ……」
「それに実際、叔父さんのは過程をすっ飛ばしてるだけで、アクション映画で戦い方を観察して真似し、映画の通りに鍛える……これが確かに効果あるんだよ。叔父さんのは特殊というか、もはや異常なんだけど」
「うむ。映画は偉大、という事だな!」
 弦十郎の破茶滅茶っぷりを実感しつつ、響はこの人なら師匠として申し分ないと実感するのだった。
「というわけで、叔父さん。宜しく頼めますか?」
「俺でいいなら、いくらでも鍛えてやる。2人纏めて相手してやるから、覚悟しとけよ!」
「はいッ!師匠!」
「よろしくお願いします、叔父さん!」
 
 こうして響は翔と共に、弦十郎の元で修行する事となった。
 弦十郎の好きなアクション映画、または翔オススメの特撮映画を鑑賞し、朝早くから街中をランニングしスパーリング。時間があれば筋トレを続けた。
 また、シンフォギアを纏って戦う以上、歌を磨くのも忘れない。
 未来や友人達を誘い、カラオケへ行っては高得点を狙って歌い続ける。
 翔はカラオケに同伴こそしなかったが、インナーマッスルの鍛え方や発生方法といった点でアドバイスしつつ、自らも演奏技術を高めるべくバイオリンを握っていた。
 やがて、弦十郎の自宅の一角にある道場では、道着姿がやたら様になっている少年少女と、明らかに格ゲーの世界から飛び出してきたのではと思われる大人一名が、組手を行う光景が日常化したそうである。 
 

 
後書き
XDと原作を両方見ながら、その間を取った台詞回しにしつつ、原作と違う状況と照らし合わせてセリフ改変するの、めちゃんこ大変です。
ちなみにOTONAは黒の道着に数珠、ビッキーが白の道着に赤襟巻きなので、OTOKOは灰色の道着に青鉢巻です。

響「師匠の修行、すっごい身になるね翔くん!」
翔「だろ?俺が世界で1番信頼してる大人が師匠なんだ、効果覿面に決まってるさ」
響「これ続けてたら、私達も師匠くらい強くなれるかな?」
翔「2人でOTONAへの階段を登るのか?」
響「お、おおお大人の階段!?それはまだ早すぎるというか、何というか!?」
翔「そっちじゃねぇ!そういう意味じゃないから!」
翼「そうだ!お前達にはまだ早い!」
翔・響「「姉(翼)さん!?」」
翔「入院してた筈じゃ……」
翼「何やらとんでもない発言が聞こえた気がしたので飛び出して来た」
響「これが防人の底力……!」
翔「SAKIMORIってやべぇ……!」
緒川「何やってるんですか翼さん、病室に戻りますよ」
翼「離してください緒川さん!私は2人に間違いが起こらないよう、姉として釘を刺す義務が!」
緒川「以前に比べて大分認めて来てくれてるのは良いことですが、絶対安静って言われてるの忘れないでください!話なら(病院の)ベッドで聞けばいいじゃないですか!」
響・翼「「えっ」」
翔「ああ……聞き間違いが聞き間違いを……。これもきっと、バラルの呪いってやつの仕業なんだ」

正直ブラコンSAKIMORIなら、弟に何かあった瞬間復活する気がする……。
さて次回、天下の往来独り占め作戦が迫る! 

 

なお昏き深淵の底から

 
前書き
これを投稿した頃といえば、XDの確定ガチャで無事にリミッター解除されたOTONAを加入させることが出来た頃!
RN式をネタに書いてる自分が、RN式未所持なのはシャレになりませんからね。
今ではRN式緒川さん共々OTONAパーティー組んで暴れてもらってますw

それから、後書きネタにいい反応してくれるクロックロさんと出会えたのもこの頃。ああいう視点でツッコミ入れてくれるのは、あの人くらいだったなぁ。お陰で後書きや本編でネタにしていける部分が増えたりしたし、また読みに来てくれると嬉しいな……。

と、このように皆さんの面白い視点からの感想で、作者のストックが潤う事もありますので、感想はどんどん送って欲しいです。
もしかしたら、作者自身も意図していなかったネタを提供できるかも?
それでは、デュランダル……の前に、修行の様子とクリスちゃんの例のアレです。どうぞ! 

 
「いいぞ!飯食って映画見て寝る……それが男の鍛練だ!」
「わたし、女です、師匠ッ!あとシミュレーターも使ってますッ!」
「細かい事を気にするな!よし、次はランニングとサンドバッグ打ちだ!ついてこいッ!」
 本部のシミュレーターから出てきた俺と立花は、しばらく休憩を挟み、再び修行へと戻る。
 ここ最近の放課後と休日はずっとこんな感じだ。
「そういや、今度観る予定の映画は……なるほど、カンフー映画。叔父さんの得意技、震脚なんかもここからだったっけ?」
「おお!師匠のオススメ映画ですか!」
「うむ。中国のアクション映画は、俺が最も敬愛する人の故郷のものだからな!人生で一番多く見てきた映画だ」
 叔父さん、わざわざ立花の分まで黄色いジャージ用意したくらいだからぁ。
 ちなみに俺が尊敬している俳優さんは、日本三大特撮の一つである大人気シリーズの初代主人公役。鍛え抜かれた肉体と、顔や声から溢れるパワフルなオーラ、そしてこの世界で1番バイクが似合う漢だ。
 俺も早く、姉さんと同じ二輪免許が欲しい……。
「スポーツドリンクとタオルは持ったな?では向かうぞ!」
「はい!師匠!」
「終わる頃には門限が迫ってる筈だ。遅れないよう、緒川さんに送迎を頼んでおこう」
「ありがとう翔くん!」
 
 盛り上がる3人を見つめる、二課の職員達。
 その表情は、内通者の存在への疑惑などは全く感じさせない明るさがあった。
「翔くん、すっかり響ちゃんのセコンドね」
「あの司令の特訓にここまで付いていける子、初めて見ましたよ……」
 友里は響を積極的にサポートしている翔の手際に、彼の姉を支える緒川の面影を重ね、藤尭は響の素直さと順応性の高さに感心していた。
「……それにしても、映画が教材ってどうなのかしらね?」
 そして了子はというと、弦十郎の独特な修行方法に苦笑いを浮かべていたのであった。
 
 ∮
 
 山奥の古い洋館。豪勢な外見でありながらも寂れており、何処か不気味な雰囲気を醸し出しているその建物の一部屋にて、以前ノイズに襲撃された装者達を遠巻きに観察していた金髪の女性──フィーネは、古い電話機を手に、ある人物と通話していた。
 交わされる言葉は全て英語で、女性は完全聖遺物、ソロモンの杖を片手に流暢な発音で通話を続けていた。
 部屋の天井には巨大なシャンデリアが積まれており、部屋の中心には長方形の豪華な食卓が配置されている。部屋の奥は階段付きの檀が存在しており、そこには巨大なディスプレイを始めとした精密機械が複雑に配置された実験設備となっている。
 ただ、その部屋には不自然な点も幾つかあった。
 一つは部屋の隅々に、明らかに拷問器具と思われるものが配置されている事。
 針だらけで拘束具が付けられた椅子。鳥籠のような鉄檻には、枷付きの鎖とこびり付いた血の跡、そして黒猫の死体がそのまま放置されている。
 そしてもう一つ。それは、フィーネの格好であった。
 彼女は今、ヒールとストッキング以外は何も身に付けず、そのグラマラスな肉体を晒していた。もっとも、この場にいるのは彼女と、部屋の隅にある装置に拘束され、気を失っている銀髪の少女……クリスだけなのだが。
 そのクリスも身にまとっているのは、ネフシュタンの鎧でも、衣服でもなく、やたら露出度の高いボンデージだった。
 
 やがてフィーネは電話を切ると、椅子から立ち上がりながら呟いた。
「野卑で下劣。産まれた国の品格そのままで辟易する……」
 自らに協力している取引相手への愚痴を隠しもせずに口にしながら、フィーネはクリスの前へと立つ。
「そんな男にソロモンの杖が既に起動している事を教える道理はないわよねぇ、クリス?」
 顎に手を添えると、クリスはゆっくりと目を開く。
 クリスの全身からは汗が滴っており、磔にされた彼女の足下には、その汗が水溜まりを作っていた。
「苦しい?可哀想なクリス……あなたがグズグズ戸惑うからよ。誘い出されたあの子達をここまで連れてこればいいだけだったのに、手間取ったどころか空手で戻って来るなんて」
「これで……いいん、だよな?」
「なに?」
「あたしの望みを叶えるには、お前に従っていればいいんだよな……?」
「そうよ。だからあなたは、私の全てを受け容れなさい」
 そう言って、フィーネはクリスから手を離すと、階段を降りてこの拘束具……いや、拷問器具の操作盤へと向かう。
「でないと嫌いになっちゃうわよ?」
 フィーネが操作盤のレバーを降ろすと、青白い電撃がクリスを襲う。
 感電式の拷問器具。それがこの装置の正体だ。
「うわああああああッ!!あっ、がああああああああッ!!」
 苦しみ悶え、苦痛に顔を歪めながらクリスは悲鳴を上げる。
 
 そんなクリスを見て、フィーネは恍惚の笑みを漏らしていた。
「可愛いわよクリス、私だけがあなたを愛してあげられる」
「ああぁああッ!がっ、はぁ……はぁ……」
 電撃が止まり、短く息を吐く。しかしクリスは苦しんでこそいるものの、不満を口にすることは無い。
 何故ならこの拷問器具、本来の用途こそ拷問の為だけにあるものなのだが、今現在使われている理由はそちらに重きを置いたものではない。
 前回の戦闘の中で、クリスの体内に侵食したネフシュタンの鎧。その破片を取り除く為の医療器具としての用途が、この拷問器具が使われている理由であった。
 ──もっとも、フィーネの趣味嗜好という側面も実は少なからず存在しているのだが。むしろ、今の二人の格好もフィーネの趣味であり、彼女の価値観に基づいたものなのだが。
 
 息を荒らげるクリスに、フィーネは再び近付き、妖艶な手つきで頬に触れる。
「覚えておいてねクリス。痛みだけが人の心を繋ぎ絆と結ぶ、世界の真実という事を……」
 クリスはその言葉を、ただ黙って息を呑み、聞いているのみだった。
「……さあ、一緒に食事にしましょうね」
 一晩中、荒療治とはいえ自分の身体を慮り、身寄りのない自分に寝食の場を与えてくれる。
 痛みさえ我慢すれば、この人は自分の事を愛してくれる。
 フィーネから、ようやくかけられた優しい言葉に、クリスは笑顔を見せる。
「……ふっ」
 次の瞬間、再びレバーが降ろされ、クリスの全身を電撃が襲った。
「うわあ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!」
 少女の苦しみはまだ終わらない。その身が銀蛇の鎧を脱ぎ捨てる、その時までは……。
 
 ∮
 
「はッ!ふッ!」
 土曜日の朝、屋敷の庭に響き渡る掛け声。池の傍に植えられた木に下げられたサンドバッグを、立花響は一心に殴り続けていた。
「そうじゃないッ!稲妻を喰らい、雷を握り潰す様に打つべしッ!」
「言ってる事、全然わかりませんッ!でも、やってみますッ!」
 弦十郎に言われた通り、稲妻が落ちる瞬間を思い描く。
「……。──はあッ!!」
 心臓の鼓動に耳を傾け、目の前のサンドバッグに稲妻が落ちる瞬間、それを握り潰すように素早く拳を打ち込んだ。
 次の瞬間、サンドバッグを引っ掛けていた枝はへし折れ、そのままサンドバッグは池の中へと落ちて水飛沫を上げた。
 池を泳ぐ錦鯉が、驚いて水面へと飛び跳ねる。
「わぁ……やりました!!」
「うむ、よくやった!こちらも、スイッチを入れるとするか……続けるぞッ!」
 弦十郎はパンチングミットを両手に付け、構える。
 サンドバッグの次はスパーリングで精度を磨くつもりらしい。
「叔父さんの言う事をそのまま実践出来るとは……流石だ立花。俺も負けてはいられない!」
 そう言って、翔は古新聞を1枚手から離した。
 宙を舞う新聞紙に、翔は素早く手刀を振り下ろした。
「師匠、翔くんはどんな修行をしているんですか?」
「ああ。翔のシンフォギアは、腕に刃が付いているだろう?あれを使いこなせるよう、手刀の練度を上げているんだ」
「なるほど……」
「竜巻を断ち、空気を真っ二つに割るように……斬るべしッ!」
 意識を右手に集中させ、竜巻を切断するイメージを思い描く。
 新聞紙がひらひらと宙を舞う中、翔の手刀が勢いよく振り下ろされた。
 次の瞬間、新聞紙は二つに裂けて地面へと落ちた。
「翔くん凄い!」
 響が歓声を上げると、翔は新聞紙を拾ってそちらを向いた。
「ありがとう。でも、まだまだ片手だ。次は両手を使って、真っ二つどころか四つにしてやるさ」
「よし!では翔も付き合え!2人の拳が何処まで正確に打ち込まれるか、俺が見てやろう!」
「「はいッ!!」」
 弦十郎が構えると、二人は拳を握りそれに応じるのだった。
 
 ∮
 
「……どうした、翼?」
「……え、ここは──」

 目を覚ますとそこは、二課の敷地の一つである森の中で、私の隣には奏の姿があった。

「おいおい、どうしたんだよ。こんな真昼間から寝てたのか?それとも、あたしとの訓練はそんなに退屈か?」
「そ、そんなわけないッ!奏との時間が退屈だなんて!さ、さあ、続きをしよう、奏ッ!」
「いーや、そろそろ休憩だ。翼はもう少し力を抜かないとな」
 そう言うと奏はアームドギアを収納した。
「で、でも……」
 私は日々強くならなくてはいけない。休憩している暇なんて……。
 そんな私の心中を察したかのように、奏は言った。
「翼は真面目すぎるんだよ。あんまり真面目すぎると、いつかポッキリ行っちゃうぞ?」
「奏は私に意地悪だ……」
「翼にだけはちょっとイジワルかもな。いいじゃないか?それとも、あたしが嫌いになったかい?」
「……そんな事、ないけど……もう……」
 お互いに口癖のようになってしまったいつものやり取りは、そういえばこの日が初めてだっけ?
 
 そうだ──私は奏と、こんな風に過ごして──。
 
「はああああーーーッ!もらったッ!」
 
〈LAST∞METEOR〉
 
 場面は変わってノイズとの戦闘。
 奏が突き刺したアームドギアから、螺旋状にエネルギーが放たれ、ギガノイズが爆散する所だった。
「凄い、さすが奏!」
「ああ、任せとけって!さあ、残りも片付けるぞ!」
「うんッ!」
 そして全てのノイズを殲滅し、自衛隊の隊員達を救助していた際のことだった。
「……おい、大丈夫か?」
 奏が声をかけたのは、瓦礫の下で埋まっていた男性隊員だった。
 その人は同僚に肩を支えられながら、奏と私を見て言った。
「……ありがとう。瓦礫に埋まっても歌が聞こえていた。だから、頑張れた……」
「あ、ああ……」
 この時、奏は驚いた顔でそれを聞いていた。
「奏?」
「……いや、何でもないよ」
 奏は朝焼けに染まる空を見上げながら言った。
「なあ、翼……。誰かに歌を聴いてもらうのは、存外気持ちのいいものだな」
「……どうしたの、唐突に?」
「別に。……ただ、この先もずっと、翼と一緒に歌っていきたいと思ってね」
「……うん」
 その時の奏は、とても晴れやかな表情をしていた。
 まるで、何かの答えを得たような……そんな晴れやかな表情を──。
 
 そうして、私達はツヴァイウィングとなって──。
「あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングは何処までも遠くへ飛んで行けるッ!」
「どんなものでも越えて見せるッ!」
 あのライブの日を迎えた。
 そういえば、ツヴァイウィングの名前は奏と二人で考えてた時、翔に言われた一言がきっかけになったんだっけ。
 
『ユニット名か……。そういや、姉さんも奏さんも、名前に羽って入ってるよね。姉さんは奏さんと一緒なら、きっと何処までも飛んで行けるんじゃないかな?』
『2人の羽、か……。ツヴァイウィングってのどうだ?』
『ツヴァイウィング……うん、いい名前だと思う!』
『よし!じゃあ、あたし達2人は今日からツヴァイウィングだ!』
 
 私達は何処までも遠くまで、ずっと一緒に飛んで行く……その筈だった。
 
 でも、そうはならなかった。だって、あの日がツヴァイウィングにとって、最後のライブになったんだから……。
 
 ──あの日、私は片翼となった。
 
 1人じゃ飛べないよ……。苦しいよ、奏……。
 
 違う……それじゃダメなんだ。私は、奏の意志を、奏の為に1人でも──ッ!
 
「……翼」
 
 脳裏に浮かぶ思い出の彼女は、どんな時も笑い続けていた。
 
 でも、目の前を通り過ぎて行った彼女は笑わない。
 
 笑ってくれないんだ……。
 
 どうして……笑ってくれないの……?
 
 奏……。 
 

 
後書き
翔くんは学校をサボらせてくれないので、特訓はちゃんと放課後に。
一日中やるならちゃんと土日を使っております。
それから、例のシーン書いてる間がちょっと辛かったですね。

クリス「うわああああああッ!!あっ、がああああああああッ!!」
フィーネ「覚えておいてねクリス。痛みだけが人の心を繋ぎ絆と結ぶ、世界の真実という事を……」
???「ちょっと待ったああああああああ!!」(最後のガラスをぶち破る音)
フィーネ「なっ!窓から!?」
純「彼女に何をしたァァァァァァァァァァッ!!」
クリス「お、お前は……!」
純「純……爽々波純!クリスの幼馴染だッ!」
クリス「純くん!?」
フィーネ「馬鹿な、お前の出番はまだ先のはず!!」
純「申し訳ありませんが、もう我慢の限界ブチ切れ寸前!いえ、もう完全にプッツンしてるよ僕は!!なので武力介入させていただきますッ!!」
フィーネ「ほう?それはシンフォギア装者でもない小童が、私に逆らうほどの理由だと?」
純「そこの如何にもな格好した悪女っぽい人!あなたみたいな人が絆を語るのもそうですが、それ以上に、クリスに手を出そうなんざ2000年……いや、2万年早いぜ!!」
クリス「眼鏡外してその声で言っていいセリフじゃねぇだろ!!」
フィーネ「2万年……だと!?」
クリス「フィーネも真に受けて『あとどれくらい輪廻転生すればいいんだ』みたいな顔してんじゃねぇ!」
純「ともかく、貴女を略取・誘拐罪と暴行罪で訴えます!理由は勿論、お分かりですね?貴女がクリスをこんな目に遭わせ、その自由を剥奪したからです!覚悟の準備をしていてくださいッ!近い内に訴えますッ!裁判も起こしますッ!裁判所にも問答無用で来てもらいますッ!!」
クリス「覚悟の準備って何だよ!?」
フィーネ「馬鹿め、この私が法で裁ける存在だとでも?」
純「なら、その時は……ブラックホールが吹き荒れるぜ!!」
クリス「宇宙の果てまで運び去る気かよ!?」
フィーネ「面白い!ならばその前にお前にも痛みを与えてやろう!」
純「クリスは必ず取り戻す!爽々波純の名に懸けて!」
クリス「だから出てきちゃいけない赤青銀の謎眼鏡をさり気なく懐から取り出すな!!あーもうっ、誰かこいつらを止めろぉぉぉ!!」

クリス「──って夢を見たんだけど」
フィーネ「あなたの中の幼馴染どうなって……いえ、疲れてるのね。今夜はもう寝なさい」(苦笑)

本編のシリアスブレイク&どうしてこうならなかった系NGシーン。
今回はそろそろ出番が待てなくなってきた純くんの乱入でした。ちなみに、本来の彼はここまではっちゃけたキャラではないのでご安心を。
ちなみに純くんのイメージCVはマモさんです。これは勝ったな(確信) 

 

蠢く影

 
前書き
大変長らくお待たせしました!
デュランダル編、ようやく始まります!

この日は蒼井翔太さんの誕生日だったっけ……。
カリオストロの姐さんは、AXZの中でも上位に食い込む推しでした!
XDの水着イベでも何とか交換出来たので、あとはファウストローブtypeⅡと私服のみ!
いつかはサンジェルマンやプレラーティと並べて、全員ファウストローブtypeⅡの姿でクエストに行きたいですね。 

 
「はぁ~……自分でやると決めたくせに申し訳ないんですけど、朝から一日中トレーニングなんてハード過ぎますぅ~」
 そう言って立花は、司令室のソファーに崩れ落ちた。
「そう言う割には楽しそうだぞ?ほら、汗はちゃんと拭かなきゃ風邪ひくぞ」
「まあね~……あ、翔くんありがと」
 そう言って立花は、俺から受け取ったスポーツタオルで汗を拭いた。
「頼んだぞ、明日のチャンピョン達!」
「はい、スポーツドリンクよ」
 ジャージ姿の叔父さんが、スポーツドリンクを片手に、反対側のソファーにどっかり腰掛ける。
 俺達の分のスポーツドリンクは、友里さんが手渡してくれた。
 この冷え具合、あったかいものだけではなく、冷たいものまで適温で用意してくれる友里さんは、やっぱり二課に欠かせない健康管理役だと思う。
 
「わは~、すみません!んぐんぐんぐッ……ぷは~っ!」
「あんまり一気に飲み干して、噎せたりするんじゃないぞ?」
 生き返る~っ、とばかりにスポーツドリンクをストローから吸い上げる立花に、ついつい笑いながらそんな事を言ってしまう。
 やれやれ、こんなに可愛らしい娘が彼氏いない歴=年齢だなんて……いっそのこと、貰ってしまいたい……。
 いや、何を考えているんだ俺は。
 立花にはきっと、俺なんかよりもいい人が見つかるだろう。それこそ、あの小日向でも認めるような、優しい人が……。
 俺は優しいんじゃなくて、あの日の後悔と憐憫、その贖罪で彼女を支えているだけだ。そんな偽善者なんかじゃ、彼女に並ぶには似つかわしくないだろう。
 
 だが、そんな一歩引いた考えとは裏腹に、こんな事を考える自分もいる。
 もしも、立花の方から俺を求めてきたら……。
 立花が他の誰でもなく、"風鳴翔"を選ぶような事があったとしたら……?
 
 やれやれ、そんな事を考えてしまうなんて。もしかして、これは「愛」ではなく「恋」なのではないかと疑ってしまうじゃないか。
 ──下心なんかじゃない。俺は真心を以て、立花響という少女を支えるんだ。
 
 だから……。
 
 だから……?
 
 はて、俺は果たして立花にとっての"何"なんだろうか……?
 
 そんな事を悶々と考えていると、司令室を見回した立花が、ふと思い出したように言った。
「そういえば師匠、了子さんは……?」
 言われてみれば、今朝から姿を見ていない。
 研究室にでも篭もっているのだろうか……?
「永田町さ」
「「永田町?」」
「ああ。政府のお偉いさんに呼び出されてな。本部の安全性、及び防衛システムについて説明義務を果たしに行っている」
「ああ、広木防衛大臣ですか」
 
 広木威椎(ひろきたけつぐ)氏。改定九条推進派の一人として知られる防衛大臣。この特異災害対策機動部二課やシンフォギアの存在を、「秘匿された武力」ではなく、「公の武力」として機能するよう働きかけてきた経緯があり、叔父さん、ひいては二課にとっては良き理解者ともいえる人だ。
 基本的に二課の活動については厳しい姿勢を崩さず、時に衝突する事もあったらしいけど、叔父さん曰く、それらは全て異端技術を扱う為に周囲から誤解を受けやすい二課の面々を思いやっての行動らしい。
 
 つまり、この人も叔父さんが認めるすごい大人……という訳だ。
 シンフォギアを始めとした異端技術を保有する為、二課は秘匿している情報も多い。お陰で官僚の殆どからは、お世辞にも評判がいいとは言えない評価を受けているくらいだ。"特異災害対策機動部隊二課"を略して、「特機部二(突起物)」なんて揶揄する輩も多いとか。
 情報の秘匿は政府からの指示なのに、やりきれない……と、友里さん達がボヤいてたのを思い出す。
 更にはシンフォギアを有利な外交カードとして利用しよう、などと考える輩も存在している中で、そういった官僚達から俺達を守りつつ、敢えて厳しい姿勢を崩さない事で二課の勝手を出来る限り許してくれる……。そんな広木防衛大臣は、二課にとってとても頼もしい存在なのだ。
 
「本当、なにもかもがややこしいんですね……」
 立花がげんなりとした顔をする。
 分かる、分かるぞ。俺だってそういう、大人の陰謀が渦を巻いてる魔窟の話なんか聞いてると、滅茶苦茶どんよりした気分になってくる。
「ルールをややこしくするのはいつも、責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが、その点、広木防衛大臣は……了子くんの戻りが遅れているようだな?」
 腕時計で時間を確認して、叔父さんはそう呟いた。
 
 ∮
 
「ぶえっくしょーい!!」
 その頃、当の了子本人はというと、車で山を降りながら大きなくしゃみをしていた。
「誰かが私を噂しているのかな?」
 そんなことを呟きながら、了子はハンドルを握り直す。
「今日はいいお天気だからね~。なんだかラッキーな事が起きそうな予感~♪」
 了子は坂を降りると、その先の連続カーブを余裕綽々と曲がっていく。
 ……それもとても荒い、そのドラテクは何処で学んだんだと突っ込まれても文句が言えないような運転で。
 
 ∮
 
 ──わたし、生きてる……。
 
 ボロボロになったギアを纏い、深く深く落ちていく中で、私は奏との思い出を辿る中でふと、疑問になった事を呟く。
 
 奏は何の為に生きて、何の為に死んだのだろう……?
 
「……真面目が過ぎるぞ、翼?」
 
 背中から回された腕と、優しい声。
 
「あんまりガチガチだと、そのうちポッキリ行っちゃいそうだ」
 
 その温かさに、私はようやく笑顔を取り戻す。
 
「独りになって私は、一層の研鑽を重ねて来た。数えきれない程のノイズを倒し、死線を越え、そこに意味など求めず、ただひたすら戦い続けてきた……。そして、気付いたんだ。私の命にも、意味や価値はないって事に」
 
 周囲の風景が、また切り替わる。
 
 今度はあの日のライブ会場。
 
 誰もいなくなり、炭が風に巻い、夕陽だけが照らす荒れ果てたステージ。
 
 その真ん中で、私と奏は互いに背中を預けて座っていた。
 
「戦いの裏側とか、その向こうには、また違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えて来たし、そいつを見て来た」
「それは何?」
 
 私の疑問に、奏はさも可笑しそうに笑って返した。
 
「翼にも、とっくに見えてるはずだぞ?」
「私にも……?」
 
 首を傾げて振り返ると、奏は空を見上げながら諭すように言ってきた。
 
「あの時、翼は何を胸に唄ったんだ?」
 
「私は……」
 
 防人としての使命感?
 
 違う。
 
 剣としての役割を果たしただけ……。
 
 これも違う。
 
 あれはもっと、暖かくて穏やかな感情だったと思う。
 
 絶唱を口にしたあの時、私の胸に浮かんだのは……。
 
「翔と、立花……」
「そういう事さ。なら、答えは見えて来るだろ?」
 
 そっか……。私の命に、剣以上の価値があるなんて事、忘れていた……。
 
 それを思い出した瞬間、涙が溢れて来た。
 
「翼……泣きたい時は、思いっきり泣いてもいいんだぞ?」
「な、泣いてなんか……もう、奏はやっぱりいじわるだ……」
「なら、翼は泣き虫で弱虫だ」
 
 もう、何回も繰り返したやりとりだ。
 
 そして、もう二度と聞くことが出来ない言葉だ。
 
 それを実感すると、もっと涙が溢れて来る。
 
「……でも、そのいじわるな奏は……私にとって、一番大事な人はもう、いないんだよね……」
「そいつは結構な事じゃないか」
「私は嫌だ!奏にも、傍に居てほしいんだよ……」
 
 あの可愛かった弟が、あれからどんどん逞しく育って、今じゃ二課で私と肩を並べている事を、一緒に喜んでほしい。
 
 その弟に出来た大切な人が、私達の後輩で、とっても素直でいい子なんだって事を知ってもらいたい。
 
 だけど、その2人を見ていると何だか寂しくなって、私の中の意地っ張りな部分がついつい鞘走ってしまう事を、愚痴として聞いてほしい。
 
 私の大切な人たちの輪に、奏だけが居ないのはやっぱり嫌だよ……。
 
 振り返ると、奏の姿は消えていた。
 
 でも、立ち上がって夕陽を見つめる私の耳には、奏の声が聞こえていた。
 
「あたしが傍に居るか、遠くに居るかは、翼が決める事さ」
「私が……?」
 
 足元で何かが夕陽を反射して、光り輝く。
 
 拾ったそれは、奏のイヤリングだった。
 
 誕生日にプレゼントした、片翼のイヤリング。
 
 お互い、相手の存在をいつも感じていられるようにって、御守りにしていたもの。
 
 奏が死んでしまった今や、両翼揃う事のなくなってしまったものだ。
 
 ……奏が傍に居るか、遠くに居るのか。それは私自身が決める事だと、奏は言っていた。
 
「だったら、私は……!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ピリリリリリ ピリリリリリ
 
 目を覚ますと、目の前には白い天井が広がっていた。
 緊急手術室だと気が付くのに、少しかかった。
「先生、患者の意識が!」
「各部のメディカルチェックだ。急げ!」
「はい!」
 慌ただしい担当医と看護師の声に、小刻みに刻まれる計器の音。
 酸素マスクを口に被せられたまま、顔を横へ向けると、リディアンの校舎が見えた。
 どうやら今日は土曜日か日曜日らしく、いつもなら聞こえてくるはずの合唱が聞こえない。
 ああ、不思議な感覚。まるで世界から切り抜かれて、時間がゆっくり流れているような……。
 
 でも、私が生きているという実感と、それに付随する安心感が私を満たしていた。
 
 大丈夫だよ、奏。私はもう、独りじゃないから。あなたが言うようにポッキリ折れたりしない。
 
 だから今日もこうして、無様に生き恥を晒している……。
 
 目覚める前、ようやく見られた奏の笑顔を思い出して……私はまた、静かに涙を零していた。
 
 ∮
 
「し、司令ーーーッ!?緊急通信ですッ!」
「──ッ!?どうしたッ!?」
 藤尭さんが慌てた様子で叫ぶ。
 立花と2人でソファーに体を預けている間に、いつの間にか眠ってしまっていた俺はその声で覚醒する。
 通信に出た叔父さん、更には藤尭さんや友里さんの顔が青ざめていく。
 急いで立ち上がろうとして、左肩に何やら重いものがもたれかかっている事に気が付き振り向くと……立花が俺の肩に頭を預けて寝息を立てていた。
 どうしたものかと悩んでいると、司令室が慌ただしさが耳に入ったのか、立花は目を擦りながら目を覚ました。
「……しょーくんおはよ……」
「あ、ああ……」
「ん……なにかあった……?」
 まだ寝ぼけ眼な立花は、周囲を見回してそう聞いてくる。
 可愛らしいな、とは思ったが、それ以上に今は何が起きておるのかを確かめなくてはならない。
「おっと、そうだったな……。叔父さん、一体何が!?」
 通信を終えた叔父さんに声をかけると、叔父さんは厳しい表情で一言、悔しさと憤りを声に滲ませながら告げた。
「……広木防衛大臣が殺害された」
「……え?」
 その一言は、先程まで広木防衛大臣を話題にしていた俺達の胸に、とても重たく響いた。 
 

 
後書き
XDでカットされた原作シーンを何処まで付け足しつつ、何処まで削れるか。
それが、伴装者を書く上で一番苦労しているポイントです。

職員A「あ、Bさん見て見て、響ちゃんと翔くんが……」
職員B「おっ、肩を預けて眠る貴重な瞬間!写真撮っとこう」(パシャッ)
緒川「おや、AさんにBさん。お疲れ様です」
職員B「緒川さん、お疲れ様です」
職員A「あれ見てくださいよ緒川さん!」
緒川「あれ、とは?……なるほど、これは1枚撮らないとですね」
職員A「ですよね~、って緒川さん……いつの間にあの二人のあんなに近くに!?」
職員B「さ、さすが現代を生きる忍者……。速い!しかも音もなく忍び寄って行った……!」
緒川「ほら、この構図からの1枚も中々でしょう?」
職員A「凄い……ああ、後でグループの方に送ってください!」
職員B「自分からもお願いします!」
緒川「構いませんよ。目を覚ました翼さんの御見舞に、持って行くつもりですし」
職員B「翼さん、意識が戻ったんですか!?」
緒川「はい。先程、病院から連絡がありました」
職員A「よかった……。え?でも、大丈夫なんですか?病み上がりの翼さんに、あの二人の仲睦まじい写真なんか見せたら大変なのでは?」
緒川「ははは。翼さんはただ、可愛い弟を響さんに取られるのが寂しいだけですから。そろそろ認めてくれる頃合いなのではないかと」
職員A「はえー、さっすが緒川さん……そこまで見てるとは」
緒川「では、僕はそろそろ次の仕事に戻りますので」(司令室を出る)
職員B「……いっそ緒川さんが翼さんの面倒を見てあげれば、翼さんも寂しくならないし、全方位ハッピーエンドなんじゃないかなぁ?」
職員A「奏さん以外で翼さんのお相手が務まるの、緒川さんしかいないと思うんだけど、あの人そういう素振りを一切見せないのよねぇ……。流石NINJA」
職員B「実はさっさと立ち去ったのも、そう言われるのを予期してたからだったりするんじゃない?」

緒川「……よかった。……さて、向かいますか」(見つめていたスマホの待ち受けには、七五三に撮影したものなのか、おめかしした幼き日の翼の姿が映っていた)



翼さんが入院している間、彼はどんな心境だったんでしょうね。
次回は作戦会議、そして迫るは黄金剣の起動……。

え?トレーニング中に何かアクシデントとかなかったのかって?
その件はまたの機会に。皆さん方が期待してるような展開は、今回は起こらなかったという事で。 

 

廻り始める陰謀

 
前書き
ひびみくの夫婦喧嘩の改変方法が一番面倒なので、苦労しながら先を悩んでいたこの頃。
コピペ作業とはいえ、疲れで更新が止まらないといいんだけど……。いや、止まるんじゃねぇぞ!最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け抜けて!無事に一期までは終わらせるんだ!!

と、自分を鼓舞しながら作業してます。
アニメ13話はあっという間なのに、文字に起こすとこうも伸びるのは……ん?人数増やしたからでしょって?
ですよね~……後悔などあるわけ無い!! 

 
「た~いへん長らくお待たせしました~」
 脳天気な声と共に本部司令室へと入室して来たのは、待ち続けていた相手だった。
「了子くん!」
「何よ?そんなに寂しくさせちゃった?」
 振り返った叔父さんに名前を呼ばれると、了子さんは悪びれもせずに軽く返す。
「了子さん!よかった、無事だったんですね!」
「まったく、何処で油売ってたんですか!?」
「え?どしたの、そんなに慌てて」
 立花と俺も駆け寄ると、了子さんは不思議そうにそう言った。
 状況を把握出来ていない了子さんに、叔父さんは重たい面持ちで答える。
「……広木防衛大臣が殺害された。永田町からの移動中に、殺害されたらしい」
「ええっ!?本当!?」
「複数の革命グループから声明が出されているが、詳しい事は把握出来ていない。目下全力で捜査中だ」
 まったく、この日本にテロリストだなんて。穏やかじゃない世の中になったものだ、と頭を抱えたくなる。
「了子さんの事、皆心配してたんですよ!?連絡にも出ないで、一体どこで道草食ってたんですか!?」
「え?連絡……」
 俺からの問いに対して、了子さんは端末を取り出すと画面を確認して言った。
「あ~、ごめん。充電切れちゃってるわね」
「充電切れって……何やってるんですか……」
 呆れて口が空いてしまった俺に、めんごめんご、と手を合わせる了子さん。
 やれやれ……相変わらずこんな時でもマイペースなのが、この人らしい。
「でも、心配してくれてありがとう。そして、政府から受領した機密資料も無事よ。……任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」
 了子さんは機密資料のケースをテーブルに置き、中に入ったSDカードを取り出すと、真面目な表情でそう言った。
「……よし、緊急ブリーフィングを始める!」
 叔父さんの宣言で、俺達は中央会議室へと向かうのだった。
 
 この時、資料のケースの縁に付いていた僅かな血痕……広木防衛大臣の指で偶然にも残ってしまったダイイングメッセージに気が付いた者は、一人もいなかった。
 
 ∮
 
「それでは了子くん、皆に説明を頼む」
「私立リディアン音楽院高等科。つまり、特異災害対策機動部二課、本部を中心に頻発しているノイズ発生の事例から……その狙いは本部最奥区画アビスに厳重保管されているサクリストD、デュランダルの強奪目的と政府は結論づけました」
「デュランダル……」
 会議室の前にある巨大ディスプレイに、アビスで保管されている黄金剣、デュランダルの映像が映し出される。
「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に、日本政府が管理・保管する事になった、数少ない完全聖遺物のひとつ」
「ああ。そして今回の任務だが、このデュランダルを安全な場所へ移送せよ、との政府決定だ」
「でも移送するったって、何処にですか?アビス以上の防衛システムなんて……」
 藤尭さんと同じ疑問を、俺も抱いていた。
 他に安全な場所なんてあっただろうか……?
「永田町最深部の特別電算室。通称『記憶の遺跡』。そこならば……という事だ」
「……防衛システムはともかく、シンフォギア装者の戦力を考えると、それでもここ以上に安全とは思えませんが──」
 友里さんからの指摘もごもっとも。
 いくら記憶の遺跡が政府の重要施設だとはいえ、聖遺物の扱いに長けた二課以上の安全性には欠けると思うんだけど……。
 すると、叔父さんは困ったような、達観の笑みを浮かべながら答えた。
「どのみち、俺達が木っ端役人である以上、お上の意向には逆らえないさ……」
 ああ……こればっかりは仕方がない。
 上層部からの命令である以上は、流石の叔父さん達でも逆らう事は出来ない。
 移送した後どうするかは、これからの課題になるんだろう。
 でも、狙われているデュランダルを移送する事さえ出来れば、リディアン周囲でのノイズ被害は激減する。それを考えると、一概に悪いとも言えない話だ。
 ここは従って正解だと、叔父さん達は判断したんだろう。
「デュランダルの予定移送日時は、明朝0500。詳細はこのメモリーチップに記載されています。みんな、開始までに目を通しておいてね~」
「いいか、あまり時間はないぞ!各自持ち場へ付いて準備を進めるんだ」
「「「「了解!!」」」」
 藤尭さん、友里さんを始め、職員さん達全員の声が会議室に響き渡る。
 明日の作戦実行に向けて、二課は動き出した。
 
「あそこがアビスですか……」
 了子さんがアームを操作し、デュランダルが保管された強化ガラスのケースを移動させている。
 司令室の画面に映ったカメラ映像を見て、立花が呟いた。
 俺も見るのは久しぶりだ。秘密基地の最奥区画にある、重要なアイテムが保管された区画なんて、いつ見ても心が踊る。
「東京スカイタワー3本分、地下1800mにあるのよ」
「はぁ……」
「いつ聞いても凄いよな……。よく作れたもんだよ」
 デュランダルはアームに掴まれ、輸送する為にエレベーターへと移される。
 操作を終えた了子さんは、俺達2人の方を振り返り、日本人にしてはとても上手なウインクをしながら言った。
「さあ、2人は予定時間まで仲良く休んでおいて。あなた達のお仕事はそれからよ」
「はい!」
「分かりました」
 時間までやる事の無い俺と立花は、一旦寮に戻る事にした。
 先に司令室を出て行く立花の後を追おうとして、ふと視界の端に目に入ったのは、了子さんが広木防衛大臣から受け取って来たケースだった。
 引き寄せられるように、俺はテーブルに置かれたケースの前へと立った。
「……広木防衛大臣……あなたの遺した最後の指令。必ず果たして見せます」
 ケースに触れると、そのまま敬礼する。
 当然ながら、俺は広木防衛大臣に直接会ったことはない。テレビや新聞、叔父さんの話で知っている程度だ。しかし、あの人が他人を思いやる心を持って国を守っていた事は知っている。
 それは、国を背負う役人として一番大事なものだ。叔父さんや父さんが胸に抱く、とても温かくて熱いものだ。……()()()にはないそれを抱いて国を守っていた人を、失ってしまったのは惜しい。
 だから、せめてもの弔いと、今までお世話になった御礼を兼ねて、俺はこの作戦に臨む。叔父さんと、父さんと同じ"防人"の魂を持っていたあの人が、きっと浮かばれるように……。
 
 ∮
 
「ただいま」
「おかえり、翔。遅かったね」
 寮に戻ると、純が夕飯の支度をしている所だった。
 エプロンの着こなし方までイケメンに見えるってのは、正直どうなっているんだろうと疑問になって来る。
「夕飯ならそろそろ出来るから、手洗ってくるなら今だよ?」
「あー、それなんだけど……悪いな。今夜もこれから出なきゃいけないんだ」
「また用事かい?」
「ああ。叔父さんの仕事の手伝いさ。明日の朝五時から始まるから、今夜は向こうで泊まり込んだ方が早い」
 真実8割、嘘2割。叔父さんの仕事の内容を隠しつつ、本当の事を言っておく。二課の任務で出る時、純にはいつもこう言うようにしている。
 叔父さんの仕事はとある音楽関連企業の管理職で、俺は将来そこに就職するため、インターンシップに参加しているのだと。
 
「泊まり込みだって!?そういう事は早く言ってくれよ~。ちょっと待ってて……夕飯、タッパーに詰めるから。ちょうど今夜は包み焼きハンバーグなんだ」
「なんと!?それはありがたい!米は自分で用意しよう。おにぎりにすれば、持ち運びにも困らないからな!」
「じゃあ、僕はその間におかず一式、詰め込んでおくね」
 そう言って俺達は、夕飯をタッパーへと詰め込み始める。
「そうだ、いつも通りなら、おかわりもあるよな?」
「翔が沢山食べるからね。ハンバーグはいつもの通り、4つ作ってあるよ」
「じゃあ、その2つも持って行こう。食べさせたい娘がいるんだ」
「それって、この前言ってた中学の頃の?」
 何故それを!?と驚く俺に、親友はさも可笑しそうに笑って答える。
「だって、あの後も逢い続けてるんだろう?帰ってくる度にいい顔してるの、もしかして自覚してなかったのかい?」
「そんなにか……。やれやれ、純には敵わないな……」
「他人から必要性を感じ取るには、まず相手をよく観ることから。王子様の鉄則さ」
 そう言って、爽やかに笑う親友。爽やかイケメンスマイルが本当に似合うやつめ……。
 
 こうやって純は、"王子様"という在り方に拘っている。理由を聞いてみたところ、昔、遠くへ行ってしまった幼馴染の女の子との約束なんだとか。
 アイオニアンのプリンス、とあだ名されるこのイケメンは、本気で王子様ってのを志している。むしろ、そのあだ名に自負すら抱いている。
 だからこそ、爽々波純という男はとても眩しい。
 子どもの頃の約束を律儀に守って、ここまで自分を磨き続けてきたんだ。いつかきっと、約束の相手にも再会出来るだろう。
 いや、むしろこっちから迎えに行く方かもしれない。いつだって、王子様はお姫様を迎えに行くものだからな。きっと純もそう答える筈だ。
「お前のそういう所、嫌いじゃないよ」
「それはどうも。はい、これでいつでも美味しく食べられるよ」
「おう!それじゃ、行ってくる。帰りは明日の午後になるな」
 純からタッパー入りの布袋を受け取り、玄関へと出る。
「了解。それじゃ、寮監にバレないようにね」
 親友に見送られ、俺は再びリディアンへと向けて歩き出した。 
 

 
後書き
クリスとの再会に向けて。あと、前回クリスの夢のせいで広まった誤解を解く為にも、純くんの出番はもう少し増やしていかないとなぁ。
え?王子様っていうより主婦感あるって?
元ネタがプーサーだからかなぁ……。あと、クリスが食べ専だから、家事万能型にしたのも原因かもです。
さて、皆さんお待ちかね。修行中(平日夕刻)のアクシデントネタです。

翔「ふう……これで今日の修行は終わりだな。さて、いい汗かいたし、シャワーでも浴びて来ますk……」(風呂場のドアを開ける)
響「へ?……うええええええええええ!?翔くん!?」(丁度髪を拭いていた所)
翔「うぉあああすまん立花!!」(慌ててドアを閉じると背を向ける)
響「わああああみっ、みみみ、見てないよね!?何も見てないよね!?」(ドアをガタガタさせながら)
翔「見てない!見てない!何も見てないぞ!?」(ドアに背を向けて首を思いっきり横に振りながら)
響「本当!?本当に何も見てないんだよね!?もし嘘だったら、うら若き乙女の裸を見た罪は重いんだからね!責任取ってもらわなきゃ困るんだからね!!」
翔「俺は風鳴の男だ!この名前に賭けて、嘘は言わない!もし嘘だったら、責任でも何でも取ってやるよ!!」
響「……あ、いや……翔くん、その……何も私、そこまでは言ってないんだけど……」
翔「……あ!いや、これはそういう意味での『責任』じゃなくてだな!?」
響「そっ、そそそそうだよね!?っでっ、でも、名前に賭けて責任取るって言い方はちょっとあらぬ誤解を招くんじゃないかな!?」
翔「あああああ!確かに誤解を生むなぁ!?だっ、だが立花、君も今の流れで安易に責任という言葉を使うのはっ、そのっ、君の方も相手にあらぬ誤解を生んでしまうぞ!?」
響「わああああ本当だーっ!?でもっ、私そういうつもりで……」
翔「別に俺はそういうつもりで……」
響・翔「「深い意味があって言ったわけじゃ、ないんだからな(ね)ッ!?」」
響・翔「「……///」」(ドア越しに背中合わせで座り込み、お互い真っ赤になった顔を両手で覆っている)

弦十郎「……若いな」(悲鳴を聞いてすっ飛んで来たけど空気読んで隠れてた)
緒川「思春期真っ只中ですねぇ」(上に同じく。なお、途中から全て録音済み)

次回、デュランダル護送前夜の翔ひび+緒川さんの会話をお楽しみに。
……敵が巨大ノイズで、翔ひびがくっついてれば、デュランダルでケーキ入刀ネタになるのに。護送前夜っていうか、結婚前夜?
って事は、ビッキーの花嫁衣装は例のセクシーウエディングドレスか……。翔くんがタキシードの上着の部分羽織らせようとするのが浮かぶ……(気が早いぞ作者←) 

 

作戦名『天下の往来独り占め作戦』

 
前書き
もはや、この回のタイトルはこれしかあるまい!(笑) 

 
「はぁ……絶対未来を怒らせちゃったよね……。こんな気持ちじゃ寝られないよ……」
 二課の休憩スペース。響はそのソファーに膝を抱えて座っていた。
 寮を出る前、未来に何処へ行くのかを問い詰められてしまい、上手い嘘が思い浮かばなかった彼女は、笑って誤魔化してから飛び出して来てしまったのだ。
 気を紛らわそうと、響は目の前に置いてあった新聞を手に取る。
 偶然開いたページに目をやると、そこにはグラビア本のカラー広告がでかでかと載っていた。
「うひっ!?お、おおお……男の人って、こういうのとかスケベ本とか好きだよね……」
 顔を真っ赤にすると、慌てて顔を背ける。
 
 丁度そこへ、布袋を片手に翔がやって来た。
「男が何だって?」
「しょっ、翔くん!?べっ、べべべ別に翔くんは見なくてもいいから!!」
「お、おう……?」
 何を慌てているのか分からない翔は、首を傾げると響の左隣に座った。
 先程のページを忘れるために、響は他のページを開く。
 そこには、『本誌独占スクープ 風鳴翼、過労で入院』という記事が、丸々1ページ全てを使って載せられていた。
「あ……」
「ん?ああ、姉さんの記事か。上手く隠蔽されてるだろ?」
「情報操作も、僕の役目でして」
「緒川さん……」
 翔が自慢げにそう言うと同時に、緒川が2人の方へと歩み寄りながら声をかける。
「二人共、丁度いい所に。翼さんですが、昼間、一番危険な状態を脱しました」
「本当ですか?よかった~!」
「意識が戻ったんですね!?よかった……」
 顔を見合わせて喜ぶ2人。緒川はそれを見て微笑みながら、翔と響が座っている場所から垂直に配置されているソファーに座り、続ける。
「ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね。さあ、ファンの皆さんにどう謝るか……翔くんと響さんも、一緒に考えてくれませんか?」
 はい、と答えようとした翔が隣を見ると、響は申し訳なさそうな表情で俯いていた。
「あ……ライブ……。きっと楽しみにしていた人、沢山いますよね……」
「あ、いや、そんなつもりは……」
 慌てる緒川に、響は微笑む。緒川が慌ててる所などそうそう見られない、と翔も一緒に笑っていた。
「ごめんなさい、責めるつもりはありませんでした。伝えたかったのは、何事もたくさんの人間が少しずつ、色んなところでバックアップしているという事です。だから響さんも、もう少し肩の力を抜いても大丈夫じゃないでしょうか?」
「最近、立花も肩に力が入り気味だったからな。もう少し気楽に構えてる方が、立花らしいぞ?」
 緒川と翔にそう言われて、響は笑顔を取り戻す。
 もっと周りに頼れ。翔からの言葉を胸に刻んでいる響は、緒川からの言葉で、自分達が思っているよりも沢山の人間に支えられている事を知ったのだ。
「……優しいんですね、緒川さんは」
「怖がりなだけです。本当に優しい人は、他にいますよ」
 そう言って緒川は、翔の方を見る。
 連られて響も翔の方を見ると、彼は照れ臭そうに指で頬を掻きながら、そっぽを向いていた。
「翔くんも、いつもありがとう」
「お、俺は男として当然の事をしているだけで……」
「でもわたし、翔くんには助けられっぱなしだもん。感謝の気持ちくらいは伝えさせてよ」
 そう言って響は、翔の右手に自分の手を重ねた。
 翔はより一層照れ臭そうに、頬を赤く染めていた。
「……翼さんも、響さんくらい素直になってくれたらなぁ」
「へ?」
「緒川さん、それはどの立場からの言葉です?」
 その言葉の意図に気付かない響と、少し含みを持たせた言い方で問いかける翔。
 緒川はその微笑みを崩さずに、席を立ちながら答えた。
「いえ、特に深い意味はありませんよ」
「そうですか。あなたも食えない方ですね」
「そう言う翔くんこそ、そろそろ気付いたらどうなんです?」
「気付く……とは?」
 翔の言葉に、緒川は可笑しそうに笑った。
「いえ、何でも。そのうち君にも分かりますよ」
 そう言って緒川は、廊下の向こうへと歩き去っていった。
「翔くん、今のどういう意味?」
「さあ?」
 2人で顔を見合わせて、首を傾げる。
 
 グゥゥゥゥ~……
 
 その瞬間、2人の腹の虫が音を立てた。
「あはは、そういや夕飯まだだった……」
「腹の虫が嘶く頃か……。実はここに、親友の純が作った夕飯を詰めたタッパーがある」
「おお!?なになに?今夜の翔くんとこの晩ごはん、何だったの?」
「純特性、包み焼きハンバーグだ!立花の分も用意してもらったから、遠慮せずに食べるといい」
 そう言って翔は、布袋の中から2人分のタッパーを取り出した。
 おにぎりはそれぞれ4個ずつ。タッパーの中にはハンバーグを包んだアルミホイルが、別のタッパーには付け合わせがそれぞれ入っている。
 2人はそれぞれ箸を取ると、両手を合わせた。
「「いただきます!」」
 
 アルミホイルを開くと、デミグラスソースの香りが湯気とともに溢れ出す。
 アルミホイルの中には手のひら大のハンバーグ。付け合せのインゲンソテー、ニンジン、粉吹き芋をソースに浸して一口。
 それから、ハンバーグを箸で切り分ければ、中からは肉汁と共に黄色いチーズが溢れ出す。
 口の中で咀嚼する度に崩れる挽き肉の感触と、下を撫でるチーズのトロトロ感。そしてそれらを包み込みながら口内へ広がる濃厚なソース。
 そこへおにぎりを一齧り。米の食感と僅かな甘みが合わさり、口の中で肉と米のワルツが繰り広げられる。
 気づいた頃には2人とも、あっという間におにぎりとハンバーグを食べ終えていた。
「ありゃりゃ、もう無くなっちゃった……」
「おかわりならあるぞ。立花が食べたがるだろうと思って、用意して来た」
 そう言って、もう一つのホイルを響の前に差し出す翔。
 響は一瞬嬉しそうな表情を見せ、ふと、何かに気付いたように翔の方を見た。
「これ、わたしの分なんだよね?」
「そうだぞ?」
「わたしだけおかわり貰っちゃうの、何だか申し訳ないなって……」
「そんな事ないぞ。俺はいっぱい食べる立花の顔を見るのが好きなんだ」
 好き。その一言に響は一瞬頬を赤くする。そういう意味ではないと分かっていても、やはり響も1人の女の子なのだ。反応してしまうのも無理はない。
「だから、遠慮せずに食べていいぞ」
「うーん……でも、わたしは翔くんと一緒に食べたいな。ほら、美味しいものは一人で食べるより、皆で食べた方がもっと美味しいでしょ?」
「そ、そうか……」
 響の言葉に、翔も再び頬を赤らめる。女の子に名指しで一緒に、などと言われれば、思春期の男子がそうなるのも無理はない。
 ……本当に、どうしてこの2人はここまでやって付き合っていないんだろう?と、2人の様子を監視カメラ越しに見かけてしまった出歯亀職員は、後に同僚達へそう漏らしていたという。
 
「なら、半分こにするしかあるまい」
「そうだね。それなら2人で食べられる!」
 最後のホイルを開くと、翔はハンバーグを2つに割った。
 2人はそれぞれ半分ずつ、箸でつまむと口へと運ぶ。
 咀嚼し、味わい、舌の上で転がして。満足感に溢れた満面の笑みで、2人は声を揃えた。
「「美味し~~~っ!」」
 この後、おにぎりに残ったデミグラスソースを付けて食べ終わるまで、二課の廊下の一角からは、明るい声が聞こえていた。
 
 ∮
 
 翌日、夜明け前。先日の生弓矢護送任務の際と同様、黒服さん達と並んで号令を待つ。
「防衛大臣の殺害犯を検挙する名目で、検問を配備。記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける」
「名付けて、『天下の往来独り占め作戦』ッ!」
 満面の笑みでVサインをする了子さん。作戦名宣言できてご満悦なんだろうなぁ。
「道中、ノイズによる襲撃が予想される。その際は翔、響くん、2人を頼らせてもらうぞ」
「了解ッ!」
「わかりましたッ!」
 2人で了子さんの車に乗り込み、シートベルトを締める。
 前日に打ち合わせた通り、立花は助手席で了子さんを、俺は後部座席でデュランダルの入ったケースを守る。
 襲われたら俺が囮になりつつデュランダルを運び、立花には了子さんを護衛してもらう作戦だ。
「よーし、それじゃあ出発するわよ~?」
「立花、朝食はしっかり食べたな?」
「もちろん!友里さんにちゃんとお礼も言ってきたよ!」
 朝、起きて司令室に集まったら、友里さんが全員分のおにぎりと卵焼き用意していた事には、とても驚いた。
 藤尭さんも手伝ったらしいけど、やっぱりあの人の気配りは目を見張るものがある。
 ちなみに、材料の買い出しは緒川さんが行ってくれたらしい。
「朝飯よし!トイレよし!目は覚めてるな?」
「全部OK!バッチリだよ!」
「あとはいつ襲われてもいいよう、覚悟を決めて!」
「しゅっぱ~つ!」
 了子さんがエンジンをかけ、車を発車させる。
 高速道路に入った二課の全車両は、そのまま永田町を目指して一気に速度を上げた。 
 

 
後書き
ん?例のグラビア写真もう少しネタに出来たのでは、って?
尺の都合でやめておきました。

響「はぁ……翔くん聞いてよぉ」
翔「どうした立花?溜息なんか吐いて」
響「わたし、未来を怒らせちゃったかも……」
翔「そうか……悪い予想が当たったか……」
響「どうしよ……。わたし、未来を守りたいのに、どんどん嘘ついちゃって……翔くんと違って口下手だし」
翔「小日向は立花を心配してくれているのに、立花の小日向を守りたいという思いはすれ違いを生んでしまっている、か……。辛いな……」
響「うん……。わたし、どうすればいいんだろう……」
翔「……よし。今度、俺も一緒に謝りに行くよ」
響「え?翔くんが?」
翔「立花の至らない部分を、俺がサポートする。小日向は俺の事をよく思っていないだろうから、話が拗れる可能性もあるけど……でも、一人で悩み続けるよりはマシだろう?」
響「……ありがと」
翔「大事な親友とすれ違ったままってのは、辛いからな……。謝る時は連絡くれよ」
響「うん。……あっ、そういやわたし、翔くんの電話番号聞いてない!」
翔「しまった!端末で繋がるから、結局まだだったな……ほらよ」
響「えーっと、これこれこうこう……登録かんりょー!はい、こっちはわたしの番号ね~」
翔「はいはい、どれどれ……よし。これでいつでも連絡取れるな」
響「翔くんの方からも、何かあったらいつでも電話していいから!」
翔「立花の方から掛けてくる回数の方が多い予感がするが?」
響「え~、それどういう意味!?」
翔「ははは、そのまんまだよ」
響「も~っ!」

職員A「番号交換……よき」
職員B「悩んだら直ぐに相談できる関係……尊い」
藤尭「気持ちはわかるんだけど、2人共、出歯亀してないで仕事に戻ってくれないかなぁ……」

次回は了子さんのやべー力(どっちの事かは言わない)とデュランダルの起動!
お楽しみに! 

 

完全聖遺物争奪戦

 
前書き
さあ始まりました、第2回聖遺物争奪戦!
不滅不朽の黄金剣は、果たして誰の手に!?

テーテーテーテーテー
EUから譲渡された完全聖遺物、ネフシュタンの鎧によって引き起こされた〈ライブ会場の惨劇〉から2年。
我が国は『特異災害対策機動部二課』、『ノイズ』、『某国政府』の3つの勢力により、混沌を極めていた!!

強大な力を秘めたアイテムの争奪戦といえば、やっぱりこれでしょ?(笑) 

 
 高速道路を全力で駆け抜けること数十分。日が登り、ようやく空が青くなった頃。わたし達は、海上道路に差し掛かっていた。
 翼さんはいない……。でも、わたしは1人じゃない!空から指示を出してくれる師匠に、ハンドルを握っている了子さん。わたし達の周りを囲んで守ってくれている黒服さん達と、本部からバックアップしてくれている藤尭さんや友里さんもいる!
 なにより、後ろの席には作戦を考えてくれた上に、囮まで引き受けるって迷わず言ってくれた翔くんがいる。
 だからわたしも、わたしに出来ることを精一杯頑張るんだ!
 ……まだノイズは見当たらない。だけど、いつ出てきても良いように準備してないと──。
 
「あらあら、今からそんなに緊張していたら持たないわよ。予測では襲撃があるとしても、まだ先──」
「──了子さんッ!前ッ!」
 わたしの心中を察したかのように話しかけてくる了子さん。
 その時、後ろの席から前を見ていた翔くんが慌てた声で叫ぶ。見ると、目の前の道路が崩れ落ちるところだった。
 了子さんが素早くハンドルを切って、崩れた場所を避ける。
 けど、間に合わなかった黒服さん達の車が1台、海の方へと落下していく。……あ、落ちる前に車から飛び出してた。無事でよかった……。
「……二人とも、しっかり掴まっててね。私のドラテクは……凶暴よ!」
 そう言って了子さんは、ハンドルを強く握った。わたしと翔くんは慌てて席に座り直す。
 検問を抜け、車は街の中へと入って行く。ヘリに乗った師匠から、直ぐに通信が入った。
『敵襲だ!まだ目視で確認出来ていないが、ノイズだろう!』
「このまま一気に引き離せればいいんだけど……この展開、想定していたよりも早いかも!護送車がどんどんやられちゃってるわよ!」
 後ろの方を走っていた護送車の真下で、マンホールが水柱とともに勢いよく打ち上げられる。
 護送車は空高く吹き飛んで、遥か彼方に消えていった。
「ッ!?」
『下水道だ!ノイズは下水道を使って攻撃してきている!回避ルートをナビへと転送した、確認してくれッ!』
 
 送られてきたナビを見て、了子さんは怪訝そうな顔をした。
「……弦十郎くん、そのルートはちょっとヤバいんじゃない?」
 師匠から送られてきたのは、この先にある工場へと向かう道だった。
「この先にある工場で爆発でも起きたらデュランダルは──」
「ひゃあああ!ぶつかるううううう!!」
 前の方を走っていた護送車が、またマンホールに打ち上げられて飛んできた。
 了子さんは素早くハンドルを回して、それを軽々と避ける。
 避けた先のゴミ捨て場にぶつかって、積まれてたゴミ袋やゴミ箱を散らばせても、了子さんは止まることなくアクセルを踏み込んで進み続ける。
「分かっている!ノイズが護送車を狙い撃ちしてくるのは、デュランダルを損壊させないよう制御されているとみえる!狙いがデュランダルの確保なら、敢えて危険な地域に乗り込み、攻めの手を封じるって算段だ!」
「勝算は?」
 
「思いつきを数字で語れるものかよッ!!」
 
 上手くいくかどうか……了子さんの心配を吹き飛ばす、師匠の力強い言葉。
 尊敬する人からの頼もしい言葉に、翔くんが不敵に笑う。
「ああ!叔父さんの言う通りだ!思い付きをいちいち真面目に考えてから実行するようじゃ、男とはいえない!」
「了解……弦十郎くんを信じてあげるわッ!」
 そう言って了子さんは、アクセルを思いっきり踏み込んだ。
 目の前では最後に残った護送車の上に、下水道から飛び出したノイズがのしかかっている。
 黒服さん達は護送車を飛び出し、車はそのまま一直線に目の前の燃料タンクへとぶつかり、爆発した。
 残ったわたし達は、工場の中の道を一直線に突き進んでいく。
 
「工場に入っちゃったけど、ノイズは──やった!狙い通り追って来ません!このまま逃げ切りましょう!」
「させるかよッ!!」
「ッ!?この声は!」
 次の瞬間、破裂音と共に車がひっくり返る。
「──ッ!響ちゃん、掴まって!!翔くんも!!」
「えっ……わあああああああああ!?」
「南無参ッ!」
 上下逆さまにひっくり返った車は、コマのように回りながら滑っていき、ようやく止まった。
「い、いたた……。2人とも、無事かしら?車から抜け出せそう?」
「はい、どうにか……」
「問題ありませんが……奴さん、どうやら逃がす気は無いらしいな……」
 シートベルトを外し、ドアを開けて何とか車から這い出すと……周りは既に何体ものノイズに取り囲まれてしまっていた。
「不味いな……猫の子1匹逃げられる隙間もない」
 周囲を見回した翔くんが呟く。
「だったらいっそ、デュランダルはここに置いて、私達は逃げましょう?」
「そんなのダメですッ!」
 了子さんの提案を、わたしは即座に否定する。
 確かに、それならわたし達は逃げ延びられるかもしれない。
 でも、この子にデュランダルを渡すわけにはいかない!そんな事したら、きっと大変な事になる!
 
「俺達は、広木防衛大臣が残した意志を背負って、この作戦に臨んでいるんです!放り投げるなんて真似、出来るわけがありません!」
 翔くんもデュランダルのケースを手にそう言って、建物の上からこっちを見ている鎧の少女を睨み付けていた。
「そりゃそうよね。──二人とも、来るわよ!」
 前を見ると、ノイズが形を変形させて、こちらへ向かって勢いよく飛んでくる所だった。
 慌てて走って逃げようと車から離れる。次の瞬間、ノイズに破壊された車が爆発した。
「うおおっ!?」
「うわあああっ!」
「くうっ!」
 爆風で3人揃って吹き飛ばされ、地面を転がる。
 その拍子に翔くんの手から離れたデュランダルのケースは、少し離れた所に滑って行った。
 
 ∮
 
「大丈夫か翔ッ!響くんッ!了子くんッ!……くっ、通信が!」
 ヘリの前には工場から上がった爆煙が広がっている。
 現場の様子は煙に隠れ、一切把握出来ない状態になってしまった。
 弦十郎は現場に残る3人の無事を祈りながら、爆煙を避けて回り込むように指示を飛ばす。
「無事でいてくれよ……!」
 
 ∮
 
 目の前にはデュランダルのケース。
 爆風に巻き込まれたとはいえ、まだ立つことは出来る……ッ!
 ケースの方へと手を伸ばして、宙を切る音に後ろを振り返ると、ノイズ達がまたしても突貫してくる所だった。
 目の前にはデュランダル、隣には動けない立花、そして棒立ちの了子さん。
 まずい、聖詠が間に合わない……ッ!
 
「……しょうがないわね」
 了子さんが右手を前に出す。
 次の瞬間、了子さんの右手から紫色の光が発せられ、バリアを形成。こちらへと向かってくるノイズ達は、バリアに当たった瞬間弾け飛んだ。
「りょ、了子さん!?」
「え、了子……さん……!?その力は……」
 素手での戦闘能力が何故か憲法に接しかねないレベルの叔父さんと、現代を生きる忍者である緒川さんはともかく……了子さん、そんなものを隠し持っていたのか!?
 って事はこのバリアも異端技術の結晶か何かって事だよな……?
 流石、自称天才考古学者……。二課ってやっぱり大人ならぬ、OTONAの集まりなんだなと実感してしまう。
 ノイズがぶつかった衝撃で、了子さんの髪留めと眼鏡が外れる。
 普段見られないロングヘアを風に靡かせ、了子さんは不敵に笑うと、俺達の方を向いて言った。
「翔くん、響ちゃん。あなた達はあなた達のやりたい事を、やりたいようにやりなさいッ!!」
「「……はいッ!!」」
 了子さんが稼いでくれた貴重な時間、無駄にはしない!
 だから、聞いていてください……俺達の歌を!!

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」
 

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

 
 装着されるシンフォギア。胸の奥から溢れ出る歌と、それに呼応するかのように伝わる旋律。
 アームドギア・天詔琴を構え伴奏を始めると、立花は拳を構える。
 叔父さんとの特訓の成果、見せてやろうじゃないか!
 
 

 
後書き
緒川「翼さん、お見舞いに来ましたよ」
翼「緒川さん……わざわざすみません」
緒川「いえいえ。と言っても、任務があるのですぐに戻らなくてはならないのですけれど」
翼「今朝方、護送車と櫻井女史の車が出ていくのが見えました。もしや、護送任務ですか?」
緒川「はい、デュランダルの護送です。翔くんと響さんが、了子さんとデュランダルを守る為に出てくれています」
翼「あの二人が?……そうですか。私の代わりに……」
緒川「おや?いつもならここで、心配になって飛び出そうとする所では?」
翼「いえ。流石にそんな、身体に障るような真似は出来ません。それに、翔と立花であれば必ずやり遂げる。そう信じてますから」
緒川「なるほど……。翼さんは、あの二人を信じているのですね」
翼「以前の私では、あの二人に……翔はともかく、未熟な立花に任を預けるなど、出来なかったかもしれませんね」
緒川「つまり、今なら響さんも信頼出来る。そういう事でしょうか?」
翼「はい。今の立花になら任せられます。未熟ながらも、翔と共に戦場
いくさば
に立つ身として相応しい戦士であるかと」
緒川「そうですか……。安心しましたよ」
翼「安心?」
緒川「翼さん、ようやく肩の荷が降りたって顔をしていますから。そんな優しい顔を見られたのは久し振りだったので」
翼「そう……ですか?」
緒川「はい、とても。もしかして、眠っている間に奏さんにでも会いましたか?」
翼「……はい。久し振りに、笑っている奏と……」(ベッド脇の机に置かれたスタンドから下げられている、片翼のイヤリング(オレンジ)を見つめる)
緒川「それは……よかったですね」
翼「ええ……」

翼「ところで緒川さん、その茶封筒は一体?それからどうしてボイスレコーダーを?」
緒川「茶封筒はお見舞い用、翼が眠っている間の翔くんと響さんを収めた写真です。それからボイスレコーダーには、その際の音声が録音されています。どうです?」(ベッド脇の椅子に腰掛ける)
翼「ッ~~~!?おっ、緒川さんも意地悪ですっ!」
緒川「でも、響さんを認めた今の翼さんなら、あの2人の事が気になって仕方ないのでは?」
翼「……時間の許す限りで構いません。その……詳しく、聞かせてください……」(枕を抱き締めながら)
緒川「では、どこから始めましょうか……。翼さんが入院した直後からでも?」
翼「なっ!?あの二人、私が入院してすぐに!?一体何が……」
緒川(翼さん……可愛くなったなぁ……)ニコニコ

ブラコンSAKIMORIをネタにするだけの後書きだと思っていたのか?
いいえ。かなつば&おがつば風味のブラコンSAKIMORI陥落ネタです。
後書きがもはや本編の補完になり始めたのもこの頃かぁ。
次回もお楽しみに! 

 

デュランダル、起動

 
前書き
そろそろ話数は3クール、だけど原作的にはまだ5話だよ5話!まだ半分も行ってないんですよ!
そう考えるとアニメってすげぇ……文章だとここまでの量になるのに……。

それでは皆様お待ちかね、ハラハラドキドキ黄金剣!
果たして握るは誰の手だ?それではどうぞ、ご覧あれ!

あ、挿絵のクオリティに関しては突っ込まないでね!? 

 
「絶対に!離さない、この繋いだ手は!」
 勢いよく飛んでくるノイズを躱そうとして、転んでしまう。
 ノイズが後ろの方で地面を抉ったのを見て立ち上がると、周りをナメクジっぽいノイズに囲まれてしまう。
 うう……やっぱりこのヒール、ちょっと動きにくい!
 翔くんからは『多分、奏さんが使ってた頃の名残じゃないかな?得物持って近距離戦闘する際、そのヒールは重心を足裏より高い位置に上げることで、初動の反応速度を上げることに繋がるんだ。つまり、武器持って戦う時はそのヒールがあった方が、相手より先に動けるってわけ』って言われたけど、アームドギアが使えないわたしには、やっぱり動きづらいだけだよぉ……。
 ……やっぱりヒールが邪魔だッ!!
 地面に踵を打ち付けて、両足のヒールを壊す。やっぱり、こっちの方が動きやすい!
 両手を前に突きだし、膝を曲げ、師匠と見た映画の通りの構えを取る。
 そして拳を握って構えると、周りを取り囲むナメクジノイズ達を睨みつける。
 どこからでも、かかってこい!!

「ぶっとべ、このエナジーよぉぉぉぉぉッ!」
 地面を思いっきり踏みつけ、目の前から飛びかかってきたナメクジノイズに掌底をぶつける。
 ナメクジノイズは一瞬のうちに弾け飛び、炭に変わった。
 次に飛びかかってきたノイズには拳を振り下ろし、後ろから斬りかかってきた人型ノイズの刃を躱して、その横っ腹を思いっきり蹴りつける。
 更に後ろから襲ってきた人型ノイズの刃を拳で受け止めると、そのままその腕を掴んで大空へと投げ飛ばす。
「見つけたんだよ、心の帰る場所!YES!」
 走りながら拳を交互に繰り出し、地面を踏み付け砕きながら、並み居るノイズ達を打ち破る。
 周りを取り囲んでいたノイズはあっという間に、その数を減らして行った。
 まあ、半分くらい翔くんがバイオリン片手に切り刻んでたけど……。ついでに、バイオリン演奏そのものを邪魔しようとしたノイズは、あのいかにも蹴られると痛そうながっしりとした脚で蹴り飛ばされてたけど。
 荒っぽく戦いながらも、綺麗な演奏を続けられる翔くん。やっぱりかっこいいなぁ……。
「響け!胸の鼓動、未来の先へええええええええ!」
 と、翔くんの演奏を聞いてる間に迫ってきていたノイズに、勢いよくタックルを決めて吹き飛ばした。
 うん、特訓の成果は出てる!わたし、戦えてる!!

ピー ピー ピー ピー

 了子の背後に転がるデュランダルのケースが、突然アラートを鳴らした。
 振り返ると、ケースのランプが点滅し、やがてプシューッと煙を吐きながら、ケースはロックを解除した。
「この反応……まさか!?」
 了子は再び、戦闘を続行する響と翔の方へと視線を戻した。

「あいつ、戦えるようになっているのか!?」
 鎧の少女が驚き、目を見開く。
 そりゃそうだ。この前までの立花だと思うんじゃない!
 あれから特訓して、しっかり戦えるように鍛えられた立花だ。そう簡単に負けると思うなよ!
 ……まあ、伴奏に集中してるからこれ全部頭の中で喋ってるだけなんだけどな。
 さあ、ノイズはいくらでも追加出来るらしいが……そろそろあの子、自分から出てくる頃合いか?
 荒っぽい口ぶり、挑発的な態度とは裏腹に、姉さんとの戦闘から察するに煽り耐性は低め……。気に食わない展開が続けば、自ずと前線に出張ってしまう性格だと見受けるが、さてどう来るか……。
「解放全開!イッちゃえ、Heartのゼンブで!」
 ナメクジノイズの触手攻撃を、縦横無尽に飛び跳ね回り、素早く避けて接近し、拳一つでブッ飛ばす。
 次の瞬間、その立花の方へと棘状のの鞭が振るわれる。
 咄嗟に跳躍した立花は、そのまま空中で回転すると、着地の体勢を取るが……。
「進む事いが「今日こそはモノにしてやるッ!」ぐっ……」
 鎧の少女は立花の歌を妨害する為、その顔に飛び蹴りを命中させる。
 シンフォギアの弱点、それはフォニックゲインにより出力を安定させる為には、歌い続けなくてはならないこと。歌が止まれば、出力は一時的にダウンしてしまうのだ。
 ……だが、生憎とその欠点は今、それほど大きなものでもない。
 何故ならば!装者立花響の伴奏者である、俺の支援用アームドギア・天詔琴による演奏は、“フォニックゲインを安定させる力”がある!
 たとえ装者の歌が止まっても、伴装者の演奏が続く限り、彼女のシンフォギアの出力が下がる事は無い!!
 しかし、それはそれ。蹴られてバランスを崩した立花は、そのまま地面へと激突する。咄嗟に受け身を取れていたのは、叔父さんの修行の賜物だろう。
「立花ッ!」
「くううっ……やっぱりまだ、シンフォギアを使いこなせてないッ!どうすればアームドギアを……」
 土煙の中から、立ち上がる立花。その時だった。

 バァンッ!シュルシュルシュルシュル……

 ケースを突き破り、中に収められていた剣がその姿を現した。
 聖剣は黄金のオーラを放ち、宙へと浮かぶ。
「デュランダルの封印がッ!?うそ、覚醒……起動!?翔くんの伴奏で安定した響ちゃんのフォニックゲインに反応し、覚醒したというの!?」
「こいつがデュランダル……フッ、そいつはあたしがもらうッ!」
 鎧の少女が素早く跳躍し、デュランダルへと手を伸ばす。
「──渡す、ものかぁッ!!」
 少女の手がデュランダルを掴む直前、跳躍した立花は空中で少女へと体当たりして、彼女を押し退ける。
「ッ!?」
「ナイス!!」
「よし、取った!……──え」
 立花がデュランダルの柄を握った、その瞬間。周囲の風景が暗転した。
「ああっ……!」
「なっ、何だッ!?」
 了子さん、鎧の少女が驚きの声を漏らす中、デュランダルを握った立花が着地する。
 デュランダルの輝きが増していく。それと同時に……。
「……う、うううううううううううううッ!」
「立花……!?」
 立花の目付きが変わった。
 唸り声を上げ、瞳を揺らし、食いしばった歯から鋭い犬歯が覗く。
 次の瞬間、巨大な光の柱が立ち上り、工場全体を黄金の光が照らしだした。
 了子さんも鎧の少女も、何が起きているのか分からず、口を開いて惚けている。
 目の前の立花を見ると、彼女が両手で振り上げた剣の表面が砕け……やがて、聖剣は本来の姿を取り戻す。
 伝説に伝わる通りの、眩い光を放つ黄金の剣。自らの身の丈ほどはあるその剣を握る立花の顔は……真っ黒な影に覆われていた。
「立花……!?立花!!」
「あああああああああああああッ!」
 真っ赤に染った目を爛々と光らせ、牙を剥いた立花は、獣のような唸り声をあげる。

 ∮

「こいつ、何をしやがった!?」
 目の前の状況に困惑する。こいつ、なんでデュランダルを起動させてやがるんだ!?
 その上、そのデュランダルを握って……振り上げて……まさか!?
 振り返るとそこには、その剣の光輝に恍惚の笑みで見蕩れている白衣の女の姿があった。
 まずい……。この力の高まり、まともに受け止めなんてしたらネフシュタンの鎧でもただじゃ済まねぇぞ!?
 こんな……こんなもん見せられたら……あたしは……ッ!
「チッ!そんな力を見せびらかすなァァァッ!!」
 ソロモンの杖を振るい、ノイズを召喚する。
 させるものか!そんな力を振るわせてたまるかよ!
 お前なんかに、私の帰る場所を奪わせてたまるか!!
「ううううううううううううう……ッ!」
「ッ!?」
 デュランダルを握ったあいつは、ノイズの方を見ると……そのまま足を踏み込んだ。
 ヤバい!こいつは止められねぇってのか!?
「やめろ立花!!」
 ……その時、デュランダルを振り上げたオレンジ色のシンフォギア装者の方に、灰色のシンフォギアを着た男が走って行った。

 ∮

「やめろ立花!!」
 立花の方へと走る。だが、立花の眼に俺は映っていないのか、こちらへと反応する事はなく、今にもデュランダルを振り下ろそうとしている。
 させるものか!あの時、俺は姉さんが絶唱を唄い、その強大な力で自分をも傷付ける瞬間を止める事が出来なかった。
 そして今、立花の様子を見るに……デュランダルの力に飲み込まれ、暴走しているのが分かる。
 立花を止めなきゃ……。彼女の心が、どこか遠くへと行ってしまう前に!
 その手を掴むのは俺の役目だ!だから、間に合え!!
「立花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 剣を振り上げた立花の手から、デュランダルを取り上げようと柄に触れたその瞬間だった。

「うッ……ああっ……あああああああああああああ!!」
 デュランダルを握った手から、強い力が流れ込み、胸の奥から抗えない程の衝動が全身を駆け巡る。
 ギアの内側から外へと溢れ出そうとする、ドス黒い力……これ、前にも……。
 灰色のギアが両腕から、どんどん赤黒く染っていく。胸の水晶体が、血のような紅へと変わる。
 意識が真っ黒に塗り潰されて……やがて、深淵へと……落ちて……。

ダメ、だ……俺は……僕は……。


絶対に、何がなんでも……必ず……。



たちばな、の……手……を……。

 ∮

「うあああああああああああああああああああッ!!」
「があああああああああああああああああああッ!!」

 二乗された唸り声が、工場一帯に響き渡る。
 目の前に獣は2匹。理性を失った橙と、深淵へと引きずり込まれた灰色。
 共鳴する唸り声と共に、2人はその手に握った聖剣を力任せに振り下ろした。
「お前を連れ帰って……あたしはッ……!」
 鎧の少女は撤退を選び、黄金の光に包まれてゆく工場を後目に飛び去る。
 光の柱は縦一文字に、眼前に聳える工場の煙突をバターのように容易く斬り裂いて、眼前のノイズを直撃ではなくその余波で、炭すら残さずに消し飛ばした。

 振り下ろされた光の柱の動きが止まる。
 このまま振り下ろされれば、工場の中心部に集まった燃料タンクを破壊し、工場はそのまま吹き飛ばされる……筈だった。
 その直前の、ギリギリのところでデュランダルの刃は止まっている。
 了子は聖剣を握る2人の方を見て、目を凝らす。
 工場全てを照らす閃光の先。その光源を握り締めている2人の姿を確認するのに、少しかかったが……やがて、彼女はデュランダルが止まった理由をその目で確かめた。
 聖剣を握る2人の装者。その剣を振るった少女ではなく、手を添えていた少年の腕が小刻みに震えている。
「……タチ……バ……な……」
 未だ2人の顔は黒い影に覆われ、赤く爛々と光る眼と、食いしばった牙もそのままだ。
 しかし、少年の右目だけは鋭い青を放ち、隣に立つ少女の顔を真っ直ぐに見つめていた。

 やがて、聖剣の輝きが弱まり、光の刃は消滅する。
 剣は力を眠らせ、力尽きた担い手はその手をだらりと下げた。
 手放され、地面に落ちる黄金剣。
 自らを支配していた影から解放された少女は、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
 ……暗がりの中から引き上げようと手を伸ばし、共に深淵へと沈んでなお、彼女の傍に在ろうとした少年の、優しい腕の中に抱かれながら。

(これがデュランダル……)
 了子は響の手を離れ、地面に転がる黄金の聖剣を見つめる。
 もう一歩手遅れだったら、この工場一帯が吹き飛んでいたであろう事は想像にかたくない。
 それを止めたのは、想定外に次ぐ想定外。響に手を伸ばした翔だった。
 意識を塗り潰されるほどの苛烈な力を手放し、手を握っていてくれた少年の腕に抱かれて眠る少女と……そして、力に飲まれた少女が全てを破壊する前に、その手を掴んで引き留め、今は彼女を守るようにその身を抱き締め眠る少年を見て。
 天才を自称する考古学者は、眼鏡を掛け直し、髪を再び結いながら呟いた。
「お互い、力を使い果たしてしまったみたいね。今はゆっくり、お休みなさい……」



 ∮

 ……なに……今の、力?
 わたし……全部吹き飛べって、身体が勝手に……。
 でも……温かい手が触れて……名前を呼ばれて……それから……?

「う、うう……」
 目を開けると、まず見えたのは白いワイシャツだった。
 次に、身体を包み込んでいるような温かい感触……人肌の温度が伝わる。
 そして、背中に回された腕に気が付き、まさかと思いながら顔を上げると……小さく寝息を立てている翔くんの顔があった。
「……え?ふぇっ!!??」
 どっ、どどどどどどうして翔くんの顔がここここここっ、こんな近くに!?
 待って待ってよ待ってってば!近い、さすがに近いって!そっ、そそそそれになんか目元にかかり気味の前髪とか、その奥から覗く寝顔とか!あと顔近すぎてわたしの髪に息かかってるの伝わって来るとか、ここまで密着されてしかも背中に回された腕でしっかりホールドされちゃったら、翔くん細いのに結構筋肉あるのが分かっちゃったりして何だかもう色々大変っていうか!!
 何が何だかさっぱり分かんないけど情報量が多すぎて、ちょっとわたしの中のキャパシティーがもう、無理、限界ッ!今すぐに離れないと爆発しちゃううううううう!!

「あ、目が覚めたみたいね~。大丈夫、響ちゃん?」
「えっ!?あ、はっ、そのっ……はい……」
 了子さんに見られ、慌てて翔くんの腕の中から抜けようとする。
 すると、わたしが動いていたのがきっかけになったのか、翔くんがようやく目を覚ました。
「ん……んん~……たちばな?」
「えっと……その、翔くん……?この状況はいったい全体どういう事情があって……」
「……ん?……ッ!?すっ、すまん立花!!それが俺にもさっぱり!!」
 翔くんがようやく手を離してくれた。わたしも慌てて後退り、翔くんから離れる。
 ……ちょっとだけ、寂しさのようなものを感じた気がするけど、正直あれ以上密着し続けていたらわたし、恥ずかしさでしばらく口聞けなくなってたかもしれない。

「あらあら?何も覚えてないの?」
 何だかいつも以上にニヤニヤしている了子さんにそう言われ、わたしはさっきの恥ずかしさを忘れるためにも記憶を辿る。
「は、はい……。わたし、デュランダルを掴んでそれから……。──ッ!?」
 周りを見回すと、工場が半壊していた。
 幸い煙が上がってる場所は少ないけど、デュランダルを握った後、わたしが何をしたのかは、その光景が充分に語っていた。
「これがデュランダル。あなたの歌声で起動した、完全聖遺物よ」
「あっ、あの、わたし……。それに、了子さんのあれ……?」
「ッ!そうだ、了子さん!あのバリアって……」
 翔くんも怪訝そうな表情で、了子さんの方を見る。
「ん?いいじゃないの、そんなこと。三人とも助かったんだし……ね?」
 了子さんはただ、悪戯っ子のように笑うと口に人差し指を当てて笑った。

 すると、了子さんのポケットの中から端末の着信音が鳴る。
「……あ、はい。──了解。移送計画を一時中断し、撤収の準備を進めます。……あ、はい。デュランダルは無事ですが、それについては──」
 端末で本部と通信しながら、了子さんは破壊された工場の後処理をしている職員さん達の方へと、歩き去ってしまった。
「あ……」
 行ってしまった了子さん。わたしは、もう一度周りを見回して、デュランダルの力が壊してしまった工場を見る。
 了子さんの言う通り……確かに助かったけど、あの力……。
 わたし、もう少しであれを人に……。
「……立花」
 名前を呼ばれて見上げると、地面にへたりこんだままのわたしに、翔くんが手を差し伸べていた。
 自分で立ち上がろうかと思ったけど、疲れてるからか脚に上手く力が入らない。
 さっきの事を思い出して、また恥ずかしさが込み上げそうなのを我慢して、翔くんの手を握る。
 翔くんは優しくわたしを立ち上がらせてくれると、わたしの顔を真っ直ぐに見つめて来た。
「しょ、翔くん……?どうしたの?」
「……よかった。いつもの立花だ」
 そう言って翔くんは、安心したように微笑む。
 ……ああ、そうだ。暗闇の中でもハッキリと聞こえてきた、わたしの名前を呼ぶ声は……。

「……ただいま、翔くん」
「ん?ああ……おかえり、立花」 
 

 
後書き
デュランダル編はこれにて終了。次はひびみくの夫婦喧嘩とクリスちゃん加入。
つまり夫婦喧嘩の後は遂に純クリのターンがやってくるワケダ。

緒川「……と、以上があの二人のこれまでです」
翼「緒川さん……ちょっとブラック珈琲を買ってくてくれませんか?」
緒川「おや、やっぱり甘過ぎましたかね?どうぞこちらに」(予め買っておいたブラック珈琲を取り出す)
翼「ええ、それはもう……んっ、んっ……ふう。ですがこの甘露は、私にとって心地いい」
緒川「本当ですか!?」
翼「何と言いますか……私が心配していたほど、不健全な付き合いでもなさそうですし。喩えるのであれば、仔犬が(じゃ)れあっているような微笑ましさを感じます」
緒川「ああ……わかります。あの二人、揃って純情ですからね」
翼「その様子なら、間違いを起こす事もないでしょう。むしろ、ここまでやって付き合わないなど、天が認めても私が認めません!」
緒川「翼さんが認めてくれるなら、これで外堀は殆ど埋まりましたね」
翼「他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる。これが世の常ですからね。いつまでも意地を張っているなど、姉としてみっともないでしょう?」
緒川「そこまで言ってくれるのなら、僕達見守り隊にも考古の憂いはありませんね」
(着メロ。逆光のフリューゲル)
緒川「あ、任務ですね。失礼します」
翼「はい。緒川さん、今日はありがとうございます」
緒川「では、僕はこの辺で……」
翼(しかし、立花が未来の義妹か……。そう思うと、何だか可愛らしく思えてくるな……)
緒川「了子さん、それ本当ですか!?」
翼「ッ!?緒川さん、何かあったのですか!?」
緒川「……翔くんと響さんが、2人一緒に仲良く抱き合って寝ていた……と了子さんから……」
翼「……2人一緒に、抱き合って寝ていた?」
緒川「もしもし翼さん?どうかしましt……」
翼「櫻井女史!それは一体どういう状況なんですか!?姉として説明を求めます!!」(緒川さんのケータイを奪い取って騒ぐANE)
了子『え~?翼ちゃん、知りたいの~?お姉ちゃんを(異性と付き合ったことが無い、という意味で)追い越していっちゃったあの2人の話、聞いちゃう?』
翼「櫻井女史、それは一体どういう……!?」
緒川「了子さん、翼さんを惑わすのはやめてくださいね」(苦笑)

ブラコンSAKIMORI、遂に公認……?
さて、次回からは夫婦喧嘩のカウントダウンに、目を覚ました翼さんとの会話まで!次回もお楽しみに!

翔の胸の傷痕:生弓矢護送任務の際、自ら生弓矢の鏃を心臓部に突き刺した時にできた傷痕。エナジーコア状……ではなく、奇しくも響と同じ音楽記号のフォルテに似た形となっている。
生弓矢の鏃はその後、響の胸にくい込んだガングニールの破片と同様、体組織との融合が進んでいるらしい。
二人揃ってff(フォルテッシモ)。地に力強く立つ花と大空へ翔く燕は、惹かれ合いながら生命を燃やす。 

 

眠れぬ夜に気付いた想い

 
前書き
第3楽章の最後を飾るのは、新章前の振り返り!
そう……有り体にいえば総集編。翔ひびのこれまでを思い返しましょう! 

 
 デュランダルの護送任務を終えたその日の夜。わたしはいつも通り、ベッドに寝転がって毛布を被っていた。
 隣では未来が、すやすやと寝息を立てている。
 でも、わたしは中々寝付けずにいる。いつもなら、ベッドに寝転がってすぐに眠気が来て、あっという間にぐっすり寝ているはずなのに……。わたしの中では、昼間の出来事が渦を巻いていた。
 
 デュランダルを掴んだ時、わたしの中に流れ込んできた暴走する力。何もかも全部を壊したくなる、あの強烈な衝動──。
 
 怖いのは、それを制御出来ないことじゃない。それを人に……ネフシュタンの鎧を着たあの子に向けて、躊躇いもなく振り抜いた事。
 
 もう少しでわたしは、この手であの子を傷付けてしまうところだった。
 
 もしあの場所が、誰もいない工場じゃなくて街の中だったら……。
 
 もしあの時、関係ない人達がまだ逃げ遅れていたりしたら……。
 
 そう思うと、怖くて手が震えそうになる。
 
 あの時、デュランダルを最後まで振り降ろしてしまっていたら、どれだけの被害が出たんだろう……。
 
 そう考える度に、怖くて耐えきれなくなる。
 
 へいき、へっちゃら……帰ってきた時、心配してくれた未来にはそう言ったけど、怖いものは怖い。こんな気持ちになったのは、いつ以来だろう……。
 
『……おかえり、立花』
 
 ふと、翔くんの優しい笑顔が浮かぶ。
 
 ……そうだ。翔くんは、わたしがデュランダルの力に呑まれても、必死に手を伸ばしてくれた。
 
 暗闇の中でもわたしの名前を呼んで、必死に手を繋いでくれていた。
 
 今回だけじゃない。わたしは、翔くんに助けられてばっかりだ。
 
 最初は中学生の頃。周りが皆、わたしを笑っていた中で、翔くんはわたしのために怒ってくれていた。
 
 次は二課で久し振りに会ったあの日。翼さんとの間に出来た壁をどうにかしようと、翔くんは一緒になって考えてくれた。
 
 それから、生弓矢の護送任務の前の夜。人前で泣くなんて、久し振りだった。
 
 でも、翔くんは『泣いてもいい』って言ってくれた。『周りを頼れ』って言葉も貰った。
 
『せめて俺の前では、自分に素直な立花響で居てくれ……』
 
 あの言葉に、わたしはどれだけ救われた事だろう。お陰でわたし、翔くんの前だと悩んでる事、隠さず全部吐き出しちゃうようになっちゃったんだよ。
 
 あと、生弓矢護送任務の時は、何回もアドバイスしてもらった。
 
『ノイズを恐れるな。君の手には、奴らを一撃で倒せるだけの……誰かを守る為の力があるんだからな』
 
 特にあの言葉が、私の背中を押してくれる一番の励ましだったなぁ。
 
 ……そんな翔くんが、私を庇ってノイズの前に飛び出した時は、本気で泣きそうになった。
 たった3日間だけど、わたし達は中学生の頃よりも仲良くなれていたし、わたしにとっては翔くんや翼さん、師匠や了子さん達がいる二課は、日常の一部になっていたから……。
 だから、目の前でそんな日常の一部がノイズに奪われそうになったあの時は、心の底から願った。
 翔くん、死なないで!って……。そしたら……。
 
『生弓矢……俺に……彼女を守る力を!!』
 
 翔くんは、自分の手で奇跡を掴み取った。
 生弓矢の欠片を自分の身体に突き刺して、わたしと同じ融合症例になる事でノイズの炭素分解を脱し、更には新しいシンフォギアを手に入れた。
 涙が出るほど悲しかったはずが、涙が止まらなくなるくらいの嬉しさに変わった経験は、あれが初めてだったなぁ。
 
 それから2人で一緒に歌って、ノイズ倒して。翔くんのバイオリン、綺麗なんだよねぇ。今度、任務以外で聴いてみたいかも。
 任務が終わった後は、翼さんや緒川さんも揃って、ふらわーで一緒にお好み焼きを食べた。いつもと違うメンバーで食べるお好み焼きも美味しかったな~。
 
『もしかして、響ちゃんの彼氏だったりするのかい?』
 
 ……そういえば、あの時おばちゃんに言われた一言が、今でも胸に引っかかる。
 
 わたし……わたしは……翔くんの事、どう思ってるんだろう?
 
 
 
 ううん。本当はもう、とっくに分かってる。
 
 こうやって翔くんの事を考えだすと、どんどん止まらなくなっちゃって……。
 
 翔くんからの言葉のひとつひとつが、私の胸の中で生きている。
 
 思えば、未来や創世ちゃん達以外にはやらないような事も、翔くんが相手だと自然にやっちゃってたような気もするし……。
 
 わたしと未来の約束のために、ノイズを倒すの引き受けてくれたのに飛び出しちゃったのも、今思うと申し訳なさよりも、単純に放っておけなかったからだと思う。
 
 翼さんのことで落ち込みそうになった時や、あのネフシュタンの子がわたしを狙ってるって分かった時、わたしの不安を払おうとして肩に手を置いてくれたのは嬉しかった。
 
 師匠との特訓中、シャワー浴びて着替えようとした時に、わたしが入ってるの気づかなかった翔くんに……その……見られちゃった時は大変だったなぁ……あはは……。
 
 そして今日、わたしを暗闇の中から引き上げようとしてくれた翔くんが、気付かせてくれた。
 
 だって……あんなにドキドキさせられちゃったら、ちょっと遅れちゃったとしても、もう気付かない理由なんてなくなっちゃうじゃん!
 
「わたし、翔くんの事が……」
 

 好き……。ううん……大好き!!

 
 翔くん……翔くん、翔くん……。
 もう、翔くんの事を考えるだけで胸がいっぱいで……ダメ!今度は別の意味で眠れなくなっちゃうぅぅぅ!!
 
 はぁ、未来を抱き締めて落ち着こう……。
 
 そう思っていつもやっているように、隣で眠ってる未来を起こさないよう、そっと抱き締める。
 
 未来の柔らかさと温かさ、抱き心地が腕の中に広がる。
 
 やっぱり未来は落ち着くなぁ……。
 
 ……未来の感触を感じると同時に、翔くんに抱き締められた時の感触を思い出す。
 
 未来ほど柔らかくなかったけど、なんだか不思議と安心出来て……未来とは違った温かさがあって、それから……ちょっと、いい匂いがした気がする。
 
 未来を抱き締めて寝る時は、お風呂の後だから、使ったシャンプーの匂いがするんだけど……翔くんの匂いはなんだろ?
 
 香水……の筈はないし。でも、どこか知ってる匂いだったような……。
 
 ひょっとして……汗、かなぁ……?
 
 ……って、何考えてるんだろわたし!これじゃまるで変態みたいじゃんっ!
 
 も~……今夜はやっぱり寝られそうにないよぉ……。
 
 わたし、(のろ)わてるかも……。
 
 
 
 
 
 そうやって、彼女の夜は過ぎて行く。
 いつの間にか、親友を抱き締めたまま寝息を立てていた彼女の顔は、とても幸せそうな表情をしていた。 
 

 
後書き
って事で今回は、「立花響の翔くん回想録」でした~。
汗の香りってフェロモン混ざってるから、その臭いをどう感じるかで相性分かるって話、性癖に刺さってるので頻繁に使う気がする(笑)

さて、次回からがいよいよ皆さんが不安と期待を胸に待ち望んでる部分!
原作にどこまで沿い、どこまで離れるのかをお楽しみに! 

 

兆しの行方は

 
前書き
XDのアニメ7話放送記念無料ガチャ回したら、花嫁ビッキーが当たった頃の回。
頑張ったご褒美ですね、これ……。ありがとうビッキー!
これからも頑張って書いてくし、絶対に翔くんと幸せになってもらうからね!
ってノリで書ききったけど、まだ覚醒終わってないしボイスの解放も済んでないよ……。これから頑張らなきゃ……。

花嫁ビッキーで学祭コスプレネタ、夢オチ結婚ネタ、本編から数年後のガチ挙式ネタと3パターンは書けるのでは?
こういうのってインスピレーションが浮かぶ良い機会ですよね。
……あれ?これXDの心象変化ギア全般ネタに出来るぞ? 

 
 山奥の洋館。銀髪の少女……クリスは、洋館の裏手にある湖にかけられた桟橋から、日の出を見つめていた。
(──完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要だと、フィーネはいっていた……。あたしがソロモンの杖に半年もかかずらった事を、あいつはあっという間に成し遂げた……無理やり力をぶっぱなしてみせやがったッ!)
「……バケモノめッ!」
 手に握っている、今は持ち運びやすいように変形しているソロモンの杖を見つめる。
「このあたしに身柄の確保をさせるくらい、フィーネはあいつにご執心ってわけかよ……。フィーネに見捨てられたら、あたしは……」
 8年前、目の前で両親を失ってからの5年間を思い出す。
 捕虜にされ、ろくな食事も与えられず、他の子供達が暴力を振るわれ、何処かに連れて行かれる姿を見て怯え続けた日々。
 思い出す度に、この世界への怒りと大人への不信感が募っていく。
 同時に、もう二度とあんな惨めな生活には戻りたくない、という思いが膨らんでいく。
 ひとりぼっちになんか、なりたくない。あたしにはもう、フィーネしかいないんだ。
 もし、フィーネの興味が完全にあいつに映っちまったら、フィーネはもうあたしに固執する理由がなくなっちまう……。
「…………。そしてまた、あたしはひとりぼっちになるわけだ」
 
 昇る朝日を見つめるクリスの背後に、音もなく忍び寄る影。
 気付いたクリスが振り返ると、丈の短い真っ黒なワンピースに身を包んだフィーネが、朝の涼風にその金髪を靡かせていた。
「──わかっている。自分に課せられた事くらいは。こんなもんに頼らなくとも、あんたの言うことくらいやってやらぁ!」
 そう言ってクリスらは、ソロモンの杖をフィーネの方へと投げる。
 微動だにせず、それを受け取ったフィーネは、煽るように問いかけた。
「ソロモンの杖を私に返してしまって、本当にいいのかしら?」
「あいつよりも、あたしの方が優秀だって事を見せてやる!あたし以外に力を持つ奴は全部この手でぶちのめしてくれる!それがあたしの目的だからなッ!」
 目の前で宙を掴み、拳を握り締めるながらクリスはそう言い放つ。
 その憎悪に満ちた目を、フィーネはただ妖しく微笑みながら見つめていた。
 
 ∮
 
「はッ!ふッ!」
 弦十郎の自宅では、今日も朝早くから響がサンドバッグ打ちを続けていた。
 朝日に汗の雫が舞い、掛け声勇ましく繰り出された拳にサンドバッグが揺れる。
「そうだ!拳に思いを乗せ、真っ直ぐに突き出せッ!ラストッ!大地すらねじ伏せる渾身の一撃を叩き込めッ!」
「はい、師匠ッ!──はああッ!」
 最後の一撃が決まり、サンドバッグが一際大きく揺れる。
「よし、サンドバッグ打ちはここまで!ごくろうだったな。そろそろ休憩にするか?」
「はあ……、はあ……師匠ッ!まだです!続きをお願いしますッ!」
「響くん……。よし分かった!次はシミュレータに行くぞ!」
「はいッ!……ところで師匠、今日は翔くんの姿が見えませんが……」
 響の疑問に弦十郎は、ああ、と思い出したように答えた。
「翔なら、ランニングのついでに、翼への見舞い品を買いに行っている。なんでも、すぐに売り切れてしまうくらい美味いフルーツゼリーがあるとか……」
「そう、ですか……」
「……何か、悩み事か?」
「えっ!?いっ、いえ、別にっ……!」
 図星を突かれ、響は一瞬動揺しながらも平静を保とうとする。
 今、彼女の中で渦巻いているもの。それは昨日の夜、自覚したばかりの恋心。
 こればっかりは翔本人に相談するわけにもいかない。かと言って、誰に相談すればいいのかも分からず、響は悩み続けていた。
 
「なんなら、俺が相談に乗ってやろう」
「えっ、師匠がですか!?」
「おいおい、俺は君の師匠なんだぞ?それに、君より大人だからな。人生経験なら、君や翔の何倍もある。大抵の悩みなら、助けになるかもしれんぞ?」
 そう言われ、響は考える。困った時は、大人に頼るのが一番だ。
 特に、尊敬する師匠である弦十郎であれば、相談相手として不足はないだろう。
 そう考えた響は周囲を見回し、翔が帰って来ていない事を確認してから、打ち明けた。
「翔くんには絶対、内緒ですよ?」
「ん?ああ、勿論だとも。あいつに言えない悩みなのか?」
「はい、実は……」
 
 ∮
 
「見つけた……最後の一個!」
 息を切らして入店した洋菓子店のレジ前。その小さなテーブルの上に並べられていた容器の山は既になく、残るは最後の一つだけだった。
 姉さんのお見舞いに持っていこうと決めた、1日30個限定フルーツゼリー。
 みかん、ぶどう、マンゴー、ピーチ、リンゴの5種類の味があり、使用されているフルーツはどれも、届いたばかりの新鮮な一級品……。
 女性人気が高いだけでなく発売以来、お見舞い品としても重宝されている商品らしい。
「ラッキーだ。あとはあれをレジに持っていけば……」
 机に近づこうとした時、その希望は目の前で摘み取られた。
 客の1人が、俺より一歩先にその最後のゼリーを手に取ってしまったのだ。
「ッ!」
「ん?……少年、もしかしてこれ欲しいのか?」
 ゼリーを手に取ったお客さん……ツンツンした黒髪で、黒地に白い線で龍が描かれたTシャツとジーンズを着た男性がそう聞いてくる。
「いえ……先に取ったのはそちらですし……」
「いいよ。俺は別にお見舞いってわけじゃないし。美味しそうだったから、買いに来ただけさ。でも、君は多分お見舞いに持ってくために、このゼリーを探してたんだろう?」
 そう言って、その人は俺に最後のゼリーを手渡す。
「なんで分かるんですか?」
「君、風鳴翼の弟さんだろ?新聞で見た事あるよ」
 その人は少し声を潜めると、ニカッと歯を見せて笑った。
 ああ、そうか……自分がそこそこメディアに露出する人間だった事を思い出し、苦笑いする。
 姉さんほど定期的に載るわけじゃないから、あんまり騒がれないだけなんだよなぁ。通行人とすれ違ったら、ヒソヒソと盛り上がり始めた……という事はちょくちょくあるけど。
 
「さしずめ、入院中のお姉さんに、単なる人気スイーツというだけでなく見舞い品としての価値も高い、この店のフルーツゼリーを食べさせてあげようと走って来た……とか?」
「ほ、殆ど合ってる……。あなた、一体?」
「なに、初歩的な事だよ。そら、これは君のものだ。お姉さんが早く元気になれるよう、俺も祈っているよ」
 そう言ってその人は、店の奥へと歩き去ってしまった。
 なんか、かっこいい人だったな……。店の奥でケーキを選んでいる、綺麗な金髪をツインテールに結んだ彼女らしき人の隣に並ぶ後ろ姿が、見ていてとても微笑ましく感じる。
 お礼を言いたいけど、邪魔しちゃ悪いだろうな。また今度、ここに来た時に会えるといいんだけど。
「お会計お願いしまーす」
 そう思いながら、レジの店員さんにゼリーの会計を頼み、財布を取り出す。
 ゼリーの味はみかん。……奏さんと同じ色だなぁ、なんて思ってしまったけど、それも含めて姉さんが元気になるなら、それでいいと思う。
「へ……へくしゅっ!」
 その時、急に鼻がムズムズして来たので慌てて口を腕で抑える。
 くしゃみか……誰かに噂でもされているのだろうか?
 
 ∮
 
「……なるほど。つまり響くんは、翔の事を異性として好きだというわけか?」
「うう……そう簡単に言葉にして聞き返さないでくださいよ師匠ぉ……。相談してるわたし自身も恥ずかしいんですから……」
 顔が熱くなってるのが分かる。こうして言葉にすると、やっぱり恥ずかし過ぎて爆発しちゃいそう……。
「ふむ、しかし恋愛相談か……。生憎と、俺はその手の話だけは経験が無くてな……」
「ええ?師匠、恋愛経験ないんですか!?」
「ああ。あったら今頃、俺は独り身じゃなくなってる筈だろ?」
 言われてみれば確かにそうだ。うーん、師匠ならモテると思うんだけどなぁ。
 了子さんとか、絶対お似合いなのに……師匠と了子さん、お互いに名前で呼びあってるし。
「そうだな……。よし、響くん。迷える君にこの言葉を送ろう」
「ッ!はい、なんでしょう……?」
 気を引き締めて、師匠からの言葉を待つ。
 師匠はいつもの穏やかな顔で、諭す様に言った。
「相手と対峙した時、振るうべき正しい拳というものは、己と向き合い対話した結果導かれるものだという」
「……えっと、つまり?」
「大いに迷い、悩む事だ。迷いこそが己を育て、強く大きく育てる為の糧となるッ!」
「言ってる事、全然分かりません!」
 師匠の言葉はいつも通り、修行の時と同じで感覚的なアドバイスだった。
 多分、この言葉も映画からの引用なんだと思う。
「……すまんな。自信満々に豪語した割には、こんな事しか言えなくて」
 困ったような顔で笑う師匠。でも、その言葉はいつもの修行で聞いている師匠の言葉と同じように、わたしの中にストンと落ちた。
「でも……頑張って、悩んでみますッ!師匠、相談に乗ってくれてありがとうございますっ!」
「ああ。もっと本格的な相談なら、了子くんや友里に頼むといい。俺より具体的なアドバイスが貰えるはずだ」
「今度、時間がある時にそうしてみますね!」
 こうして、わたしはその日の特訓メニューを終えて、寮へと戻って行った。
 急ぐ必要は無い、もう少し悩んでみよう。この胸に芽生えた気持ちを、伝えるべきかどうかを……。 
 

 
後書き
それぞれが道に迷い、別の大人と出会い、答えを見出す。
例のモブの割に目立ってたあの人については、いずれの機会に。

了子「翔くんと響ちゃんを見守り隊、定例会議~」
友里「それで、今回の報告は?」
職員A「はいはーい!デュランダル移送の前夜、仲良く2人で夕飯してました!」
藤尭「ああ、しばらく職務より優先させてたあれね……」
職員A「藤尭さんは黙っててください!」
職員B「でも響ちゃんのお腹じゃ物足りないだろうと思って、食べ終わった後にコンビニ弁当を2人分、差し入れておきました」
黒服A「ちなみに何弁を?」
職員B「チキン南蛮弁当とさば味噌弁当を!」
黒服A「分かってるじゃないかヒャッホーウ!流石は職員Bだぜ!」
黒服B「2人の弁当の中身を敢えて別にする事で、おかずの交換を促すその作戦。お見事ですね職員B」
監視員「その様子なら監視カメラにバッチリ映ってるッス!」
職員A「よくやったわ監視員くん!後で上映会よ!」
友里「皆、テンション高いわね。あ、その後ソファーで寝てた2人に毛布をかけたのは私よ」
職員A「さっすが友里さん!気が利いてますね!」
藤尭「やれやれ、ホントこの集まりって毎回騒がしくなるよなぁ。僕は買い出しのついでに、お泊まり用の歯ブラシセットを買って来る事になったぐらいかな」
職員B「うっわ藤尭さん羨ましい!」
黒服A「俺だってあの2人のための使いっ走りになりたい!」
了子「ふっふっふ~、甘いわねあなた達。これを見なさいッ!」(こっそり撮っておいた例のシーンの動画を見せる)
黒服B「こっ、この映像は!?」
藤尭、友里、職員の皆さん「一緒に寝ている瞬間……だとぉ!?」
黒服B「さっ、さすがは了子さん……余念が……ない……」
黒服A「くっ、尊さのあまり黒服Bが倒れた!」
職員A「あっ、尊い……は?無理、尊い……好き……」
監視員「職員Aさんが限界ヲタクになってるッスよ!?」
職員B「翔くんと抱き合って眠り、起きたら恥ずかしさで真っ赤になり悶える響ちゃん……そして、起きた後で慌てて離れる翔くん……。くっ、肉眼で見れた了子さんが羨ましいッ!」
了子「ふっふ~ん、隊長特権よ!緒川くん、翼ちゃんの反応はどうだった?」
緒川「了子さんが意味深な言い方するから、翼さんに無駄な心労をさせてしまったのは心苦しいですが……。再生中は真っ赤になりつつも、響さんが真っ赤になって慌て始めたシーンでは、可愛い義妹を見守る義姉の顔になってましたよ」
職員一同「とうとう姉公認、だとぉ!?」
藤尭「なんか、司令の口癖伝染ってってない!?」
緒川「それ以上に、この集まりって一体何なんでしょうね……」(苦笑)
了子「そりゃあ勿論、これを見ている皆の代弁よん♪」(明後日の方向を指さす)
友里「……え~っと、了子さん?」
藤尭「何処を指さしているんだろう……?」

次回もお楽しみに! 

 

密かな不安

 
前書き
「戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~」、前回までの3つの出来事!
1つ!響が自分の内に芽生えた、翔への恋心を自覚。
2つ!度重なる失敗から、フィーネに見捨てられたくないクリスが焦りを見せる。
3つ!弦十郎の言葉から、響は迷い続ける事で答えを見つける事を心に決めた。

COUNTDOWN TO LOVELY HEART!
響の想いが翔に伝わるまでの時間は……? 

 
「ただいま~。はあ~、お腹へったよ~」
 寮の玄関を開け、響はふらふらしながら部屋へと戻って来た。
「もう、帰ってくるなりなに?」
「いや~、朝から修行するとやっぱりお腹空いちゃってさ~」
 響を出迎えた未来は、腹の虫を鳴かせる親友の様子に微笑みながら提案した。
「しょうがないなぁ。だったら、これからふらわーに行かない?わたしも朝から何も食べてないから、お腹ぺこぺこなんだ」
「ふらわーっ!行く行くっ!未来もお腹空いてるなら、すぐに行こっ!」
「ふふ、待って。すぐに出かける準備するから」
 そう言うと、未来は自分の机に置いてある財布や部屋の鍵を取りに行く。
 響は、口角からヨダレを垂らしそうになりながら、ふらわーの美味しいお好み焼きを思い浮かべる。
「はあ~、ふらわーのお好み焼き~。想像しただけでお腹が鳴っちゃうよ~……」
 
 その時、響のケータイに着信が入った。
「って、あれ、電話だ……誰だろう?……って、翔くん!?」
 翔からの突然の電話に、慌ててケータイを落としそうになる響。
(翔くんからの初めての電話ッ!何の用だろう?待って待って、落ち着いて!深呼吸、深呼吸……!)
 深く息を吸い込み、吐き出して、高まる動機を胸から感じながら電話に出る。
「も、もしもし……?」
『おはよう、立花。今、時間は空いているか?』
「え?どっ、どうしたの急に?」
『姉さんの病室までお見舞いに行くんだけど、一緒に来てくれないか?』
 翔からの電話。それは、入院している翼のお見舞いへの誘いだった。
 弟である自分だけでなく、あの時守った後輩の元気な顔も見せることで、翼を安心させておきたい……。それが翔の狙いだった。
『本当は緒川さんにも来てもらいたかったけど、今はちょうど任務中でさ』
「へ~……緒川さんって、どんな仕事してるんだっけ?」
『調査部のリーダー、かな。拳銃片手にヤクザとか、反社会性力を相手にしては、悪い奴らの悪事の証拠を集めてくるのが役目なんだ』
「おお!?緒川さんのお仕事、映画みたいでかっこいい……」
 改めて緒川の仕事内容を聞き、感心してしまう響。
 その様子を思い浮かべたのか、翔は微笑む。
 
『それで、どうする?』
「もちろん行く!翼さんを元気づけてあげたいもん。その前に、お昼食べてからでもいい?これから未来とふらわーでお好み焼き食べてくるんだっ!」
『小日向とか……。それは大事だな。俺も昼飯を済ませてから合流しよう。2時に病院へ集合だ』
「わかった。また後でね」
 そう言って通話を切ると、響はスマホをポケットに仕舞う。
「……ふー、ドキドキした~……」
「響、どうしたの?」
 振り返ると、既に支度を終えた未来が立っていた。
「ううん、何でもない。ただ、ふらわー寄った後に用事が出来ただけ」
「そう……。なら、いいんだけど……」
「それより早く行こうよ~。すっかりお腹ペコペコだよ~」
「……うん。行こう!おばちゃんのお好み焼き、楽しみだね」
 そう言って2人は部屋を出る。おばちゃんが焼いてくれる、世界一のお好み焼きを食べるために。
 ……しかし、響は気が付かない。親友の表情が、すこし不安を滲ませていた事に。
 
 ∮
 
 二課の司令室に、いつもと違った黒い礼服の弦十郎が入室する。
 ソファーに腰掛け、ネクタイを緩める弦十郎に了子が話しかけた。
「亡くなった広木防衛大臣の繰り上げ法要でしたもんね……」
「ああ。ぶつかる事もあったが、それも俺達を庇ってくれての事だ。心強い後ろ盾を、喪ってしまったな……。こちらの状況はどうなっている?」
 弦十郎は顔を上げると、了子に基地の防衛システム強化の進行具合を尋ねる。
「予定よりプラス17パーセント~♪」
「デュランダル輸送計画が頓挫して、正直安心しましたよ」
「そのついでに防衛システム、本部の強度アップまで行う事になるとは」
 いつもの軽いノリで答える了子。何処かホッとした顔をする藤尭。
 そして、防衛システム強化の進行をチェックしていた友里が振り返る。
「ここは設計段階から、限定解除でグレードアップしやすいように折り込んでいたの。随分昔から政府に提出してあったのよ?」
「でも確か、当たりの厳しい議員連に反対されていたと……」
「その反対派筆頭が、広木防衛大臣だった」
 友里の疑問に答えながら、弦十郎はカップに珈琲を注いだ。
「非公開の存在に血税の大量投入や、無制限の超法規措置は許されないってな……」
 
 溜息を一つ吐き、珈琲を一口飲んで弦十郎は続ける。
「大臣が反対していたのは、俺達に法令を遵守させることで、余計な横槍が入ってこないよう取り計らってくれていたからだ……」
「司令、広木防衛大臣の後任は?」
「副大臣がスライドだ。今回の本部改造計画を後押ししてくれた、立役者でもあるんだが……」
 歯切れの悪い言葉に、友里も藤尭も首を傾げる。
「強調路線を強く唱える、親米派の防衛大臣誕生……つまりは、日本の国防政策に対し、米国政府の意向が通りやすくなったわけだ」
「まさか、防衛大臣暗殺の件にも米国政府が……?」
 その時、基地の火災探知機のアラームが鳴り響く。
 モニターに映し出された映像を見ると、どうやら改造工事中のブロックの1つで、機材が出火してしまったらしい。
「た~いへん!トラブル発生みたい。ちょ~っと見てきますわね」
「ああ」
 そう言って了子は、飲みかけの珈琲が入った紙コップを置いて、火災が発生したブロックへと向かって行った。
 
 ∮
 
 ……最近、響を遠く感じてしまう。
 私の追いつけないどこか遠く……遥か遠くまで行ってしまっている。そんな気がしてしまうのは何故だろう?
 ここ1ヵ月近くの響は、放課後になる度に何処かへ行っちゃうし、今朝も早くから修行とか言ってお昼まで戻らなかった。放課後、後をつけたら公園で筋トレしていたのを見た時は本当に驚いた。一体、何をしているんだろう……。
 
 ……風鳴翔。中学生の頃に同じクラスだった男子生徒。リディアンの3年生で、トップアーティストとして有名な翼さんの弟。
 そして、響が苦しんでいるのを知っていながら、手を差し伸べてくれなかった卑怯な人……偽善者。
 ……ううん。本当は優しい人なんだって、頭の中では分かってる。そうじゃなきゃ、響があんな顔する筈ないもん。
 昼間、電話に出た時の響の顔は……今まで見たことがない表情だった。
 嬉しそうで、恥ずかしそうで……それでいて、とても楽しそうだった響の顔。
 あの顔を見る限り、きっと響は──。
「……そういえば、この向かいの病院。翼さんが入院してるんだっけ?」
 何気なく、本棚から窓の方へと視線を移す。
 
 窓の向こう側、病室の窓の奥に見えた光景に、わたしは図書室を飛び出した。
(どうして、響が翼さんと一緒に……!?それに、一緒に居た青い髪の男の子は……!!)
 見てはいけないものを見てしまったような気分になり、逃げるように走る。
 行き先なんて分からない。ただ、ひたすら走り続けた。
 わたし、どうしたらいいの……?
 分からないよ……響……。
 
 ∮
 
 数分前、翼の病室にて。
 
「最初にこの部屋を見た時、わたし、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかって心配したんですよ!二課の皆が、どこかの国が陰謀を巡らせているかもしれないって言ってたし、翼さんは今、病み上がりですし!」
「も、もうその話はやめて!片付けもしなくていいから……私は、その、こういう所に気が回らなくて……」
 驚く響、恥ずかしそうに顔を赤らめる翼。そして、翔は病室の有様に呆れていた。
 病室内は、まるで強盗に荒らされたかのように散らかり放題になっている。
 本や資料、新聞や週刊誌が床一面に散らばり、薬瓶や珈琲入りのカップはひっくり返っており、丸められたティッシュはゴミ箱に入っておらず、花瓶の花は枯れたまま。
 おまけに、衣服どころか下着まで部屋中に散乱しているという始末だった。
「姉さん、緒川さんがいないとすぐにこれだよね……。立花、覚えておくといい。これが姉さんの数少ない欠点のひとつ、『片付けられない女』だから」
「も、もう!翔まで私を弄る事ないでしょう!」
「まったく……緒川さんから頼まれてるんだ。姉さんの部屋、片付けさせてもらうぞ」
 
 数分後、俺と立花の手により、姉さんの病室は綺麗に片付けられた。
「それにしても、意外でした。翼さんはなんでも完璧にこなすイメージがありましたから」
 畳んだ服と下着を仕舞いながら、立花が呟いた。
「……ふ、真実は逆ね。私は戦う事しか知らないのよ」
「え、何か言いました?」
 立花が聞き逃した姉さんの独り言を、俺は聞き逃さなかった。
 ……忌み子として嫌われ、剣として己を鍛える事だけに精進してきた姉さん。でも、それだけじゃない事を俺は知っている。自覚してないだけで、姉さんは結構可愛いんだ。
 確かに女の子として至らない部分はそこそこある。だから俺は、立花との交流が姉さんを変えていく事を望んでいたりするのだ。
 
「おしまいです!」
「すまないわね……。いつもなら、緒川さんがやってくれるんだけど」
 姉さんの言葉に立花が改めて驚く。
「ふええぇ!?親戚以外の男の人に、ですか?」
「…………ッ!?たっ、確かに考えてみれば色々問題ありそうだけど……」
 一瞬、姉さんの頬が赤く染まったのを俺は見逃さなかった。クソッ、スマホ取り出すの間に合わなかったのが惜しい……。
「姉さん、いつまでも片付けられないと、いつか緒川さんとスキャンダルになっても知らないぞ?」
「えっ!?翼さんと緒川さんって本当にただのアイドルとマネージャーなんですか!?」
 揶揄うつもりで言った言葉に、立花が意外そうな顔で便乗したもんだからたまらない。
 姉さんは耳まで真っ赤になって反論する。
「わっ、わわ、わたしと緒川さんは別にそんな関係ではないぞ!?たた、確かに私が小さい頃からいつも一緒に居てくれたが、それは護衛としての仕事だったからであって別にいいい、異性として意識した事などこれっぽっちも!」
「小さい頃、確か当時高校生くらいの緒川さんにプロポーズした件は今でも忘れてないぞ~」
「子供の頃の話はやめてぇぇぇぇぇ!!あの時は小さかったからよ!そんな頃の話を持ち出さないでよ翔!!」
 あまりの狼狽え様に、俺も立花も声を上げて笑ってしまった。
 ああ、やっぱり俺の姉さんは可愛い。緒川さん、やっぱりあなた以外に姉さんと釣り合う男なんていないと思います。
 なので早く姉さんを嫁に貰ってください。俺が安心します。
 
 ──ふと、窓の外から視線を感じる。
 振り向くと、向かいにそびえるリディアンの校舎。その図書室の窓の奥に、走り去っていく黒髪の少女の姿を見た。
 あの髪型に白いリボン……まさか……!?
「悪い姉さん、直ぐに戻る!あとそのゼリー、早めに食べるんだぞ!」
「ちょっ、ちょっと翔!?」
「翔くん何処に!?」
 ゼリーの袋を花瓶の隣に置き、俺は病室を飛び出した。
 階段使って降りれば間に合う!何とかして、あの子に追いつかなくては! 
 

 
後書き
ふらわーでお好み焼きを食べる約束そのものは果たしました。しかし……?

翔「小さい頃から姉さん、緒川さんに懐いてたよな~。雷が怖くてくっついてたり、ホラー物見た夜はオバケが怖くて一緒に寝てもらったり……」
翼「それ以上言うなぁぁぁ!」
翔「公園で遊び疲れて眠っちゃって、緒川さんにおぶってもらって帰った日もあったなぁ。そういや、以前差し入れ持って行ったら、ライブの衣装合わせ中だったんだけど、ヒールが合わなくて転けた所を緒川さんに受け止められたり……他にもまだまだ色々あるよ?」
翼「やめてぇぇぇぇぇ!」
響「へ~、緒川さんってまるで翼さんの……」
翼「くっ!そこまで言うなら翔の方だって、昔は『お姉ちゃん大好き~(モノマネ)』って頻繁に言ってたじゃない!」
翔「だって事実だし。俺は今でも姉さんの事が大好きだぞ?」
翼「なっ……!?こっ、この弟、かわいく……いや、かわい……うう……」
響「翔くんに臆面なく大好きって言ってもらえる翼さん……羨ましいなぁ……」(ゴニョゴニョ)
翼「立花、何か言ったか?」
響「ああいえ、何でもないです!何でも!」

次回は翔くん、遂に393とのエンカウント!そして翼さんから響に送られる言葉とは!? 

 

衝突する好意

 
前書き
これ書いてたのはグレ響狙いで回したGoGoガチャからヴァンパイアハンター響が出た頃ですね。
今ではグレ響入手済みなのですが、力グレ響も欲しいッ!
あとグレ響の前日譚メモリアも欲しいッ!

さて、いよいよ修羅場です。
覚悟の準備が出来ている人だけお進み下さい! 

 
 階段を一気に駆け下りる。万一人が飛び出してきてもぶつからないよう、下の階を確認してから降りつつも、スピードはなるべく早めに。
 そうして1階まで一気に駆け下りた俺は、病院の外に出た瞬間、リディアンの方へと向けて走り出す。
 小日向は元陸上部。立花の走る速度より上だと見積もった上で、俺が病院を出るまでの時間と小日向があの場を飛び出した時間から……まだ走れば追いつくはずだ!
 病院の敷地から出ると、リディアンの校門を飛び出して行く小日向の姿があった。
「小日向!」
 その後ろ姿を追いかける。だが……流石は元陸上部。その脚は健在か!
 しかし俺も、叔父さんと緒川さんに鍛えられ、シンフォギア装者としてこの街を守る身。一般人に負けるほど、ヤワな鍛え方はしていないッ!
 思いっきりペースを上げて走ると、距離はあっという間に詰められて行った。
 すぐ後ろにピッタリと付いた辺りで、目の前を走る相手の名前を呼んだ。
「小日向!」
「……!」
 小日向はようやく足を止めると、驚いたような顔で俺の方を振り返った。
「風鳴くん……」
「小日向……久し振り、だな……」
 立花に再会し、同じ時を共に過ごすようになってからずっと、いずれ会わなくてはならない人物だと覚悟していた、立花の親友。
 立花の1番の理解者である、小日向未来……。今、ようやくその彼女と会うことが叶った。
 さて、どうなるか……。平穏に話し合えるといいんだけど……。
 
 ∮
 
「翔くん、どうしたんだろ……?」
「でも、ようやく2人きりになれたわね」
「えっ?」
 翼からの一言に、響は驚く。
 翼は響の方を見ながら、彼女に語りかける。
「……今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ。翔と2人で力を合わせて、あなたが私の抜けた穴をよく埋めてくれているという事もね」
「そそっ、そんな事全然ありません!いつも翔くんや二課の皆に助けられっぱなしです!」
「ふふ、もっと自信を持ちなさい。おじさまに鍛えられた翔と並び立つなんて、あなたの実力が確かな証拠よ」
「そ、そうですか?……えへへ、嬉しいです。翼さんにそんな事、言ってもらえるなんて」
 人差し指で頬をぽりぽりと搔く響。
 翼はそれを微笑ましげに見守ると、表情を引きしめた。
「でも、だからこそ聞かせて欲しいの。あなたの戦う理由を。ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を越えてきたあなたになら分かるはず」
 そう問われると、響は困ったような顔をした。
「よく、わかりません……。わたし、人助けが趣味みたいなものだから、それで……」
「それで?それだけで?」
「だって、勉強とかスポーツは、誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか?わたしには特技とか人に誇れるものなんてないから、せめて、自分に出来ることで皆の役に立ててればいいな~って。えへへ、へへ……」
 そう言って窓の外の青空を見上げながら笑う響を、翼は見つめる。
 競い合わなくても……誇れるものがない……そして、皆の役に立つ……。
 これらの言葉に、翼は底知れぬ闇を感じずにはいられなかった。
 以前、翼は翔に響との出会いについて尋ねた事がある。その時聞いた話は、あまりにも凄惨なもので……13歳の少女の心を壊すには、充分過ぎるほどのものだった。
 それを踏まえた上で聞いたこの言葉に、翼は翔を重ねる。
 やはり、この2人はよく似ている。翼はそう確信していた。
「……でも、きっかけは、やっぱりあの事件かもしれません」
 響が遠い目で語り始め、翼も夢の中でさえ見たあの日を思い返す。
「わたしを救う為に奏さんが命を燃やした、2年前のライブ。奏さんだけじゃありません。あの日、沢山の人が亡くなりました。でも、わたしは生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯を食べたりしたいから」
 穏やかな顔でそう語る立花に、翼は再び考える。
 やはり、彼女は少しだけ、自己評価が低いのかもしれない。周囲からの激しい迫害が、彼女の心に深い傷を作っている。
 そして、それが意味するところは即ち……。
 
「あなたらしい、ポジティブな理由ね。だけど、その思いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」
「自殺衝動?」
「誰かのために自分を犠牲にする事で、古傷から救われたいという、自己断罪の表れ……なのかも」
 そう。私や翔と同じだ。自分を犠牲にする事で、あの日の後悔から救われたい……それらと同じ思いが、この子の中にも存在している。
 立花響もまた、私達と同じ十字架を背負っているのだ。
「あのぅ……わたし、変な事言っちゃいましたか?」
「え?……ううん。あなたと私、それに翔はよく似ていると思っただけよ」
「わ、わたしと翔くんと翼さんが……?」
「ええ。経験者だもの、分かるわよ」
 自嘲気味に苦笑しつつ、私は続ける。
「でも、そんなあなただからこそ、尚更似合う娘は他に居ないわね」
「へ?」
「好きなんでしょ、翔の事」
「ふぇぇぇぇ!?ななっ、そっ、それは……その……」
 包み隠しもせずにそう言うと、立花は途端に真っ赤になって慌て始めた。
 可愛らしい……そのまま抱き締めて、撫でくり回してしまいたいくらいだ。
「事ある毎に翔と睦み合っているらしいじゃないか。……乳繰り合う、とまでは行っていないんだな?」
「乳繰りッ……!?って、どど、何処からの情報なんですかそれ!?」
「無論、緒川さんと櫻井女史だ。特に昨日のデュランダル輸送の際は、2人で抱き合って眠っていたと……」
「了子さぁぁぁぁぁん!?何を言いふらしてるんですかぁぁぁぁぁ!!」
 この慌て様……やはり、歳相応の付き合いなのだろう。
 やれやれ、可愛い義妹が出来てしまったものだ。……いや、正確には未来の義妹だが。
「立花、これは姉としての言葉なのだが……」
「えっ、あっ、はい……?」
「その……翔にはお前しかいないんだ。おじさま……風鳴司令の元で本格的に鍛え始めたのも、自分の事を"俺"と呼ぶようになったのも……それから、率先して人助けをするようになったのも、全て立花との縁に端を発している。翔自身は気付いていないかもしれないが、これだけ強く影響を与えているんだ。立花が正直に自分の気持ちを伝えれば、きっと答えてくれるだろう」
 それは私が保証する。なぜなら私は風鳴翼、翔のただ一人の姉なのだから。
「翼さん……。ありがとうございます」
「応援しているぞ、立花。それとも名前で呼んだ方がいいか?」
「なっ、名前で!?そっ、そそそそ、それは一体つまりその、どういう意味でですか!?」
 先程以上に真っ赤な顔であわあわ、と慌てる未来の義妹に、冗談だ、と笑いかける。
 ああ、これは……その日が来るのが楽しみだ……。
 
 ∮
 
「小日向……久し振りだな……」
 声をかけられ振り返ると、そこには……わたしが今さっき、逃げ出してきた光景の中にいた人がいた。
 息も切らさず追ってきて、私の顔を見つめている風鳴くんは、あの頃とは随分印象が違う気がする。
 背も伸びたし、顔つきも変わったような……。なにより、あの頃の弱々しさが見受けられない、むしろお姉さんに雰囲気が近付いたような気さえする。
 でも、そんな印象は今どうでもいい。問題なのは……。
「風鳴くん……どうして君が響と一緒に居るの?」
「それは……」
「ここひと月、響が毎日のように寮を出て行くことはに風鳴くんが関係してるんでしょ!?」
「……ああ。しかし、これは立花が自らの意思で始めた事だ」
「それって何!?響は何をしているの!?君と響って一体どんな関係なの!答えてよ!!」
 気持ちの波が塞き止められず、勢いに任せてどんどん質問攻めにしてしまう。
 それも、まるで責めるような激しい口調で。
 風鳴くんは困ったような顔をして……やがて、こう口にした。
「立花からはどこまで聞いている?」
「響は全然何も話してくれないんだもん!修行って何?いっつも急用で何処かへ行っちゃうのはどうして?帰りが遅くなるのはどういう事なの!代わりに答えてよ!!」
「何も話してないのか……!?やれやれ、立花らしい……分かった。俺から代わりに説明……」
「響らしい……?」
 ──その独り言が、何だか一番癇に障った。
 たかだか1ヶ月そこらの関係で、響の事を分かりきってたようなその口ぶりが、私の心に火を付けてしまった。
「君に響の何が分かるっていうのよ!あの日、あの時、辛い目に遭ってる響を見ていたのに助けようとしなかった君が!響がどんなに傷付けられても、前に出ていこうとしなかった卑怯者のくせに!」
「そっ、それは……俺だって出て行きたかったさ!でも、出来なかったんだ……。あの頃の俺は、心が弱かったから……出て行きたくても脚が震えて、動けなくて……」
「ッ……!」
 知っている。その感情を、その気持ちを……その震えを、わたしは知っている。
 それはあの時のわたしと同じ。響を支え続けはしたけれど、響の前に立って庇えるほど、わたしは強くなかった。
 だからこそ、わたしはあのいじめに巻き込まれずに済んだ。だからこそ、わたしは響の友達でい続けられた。
 だけど、心の何処かではやっぱり、強さを望んでいたんだ。
 そして、前に飛び出そうとしては脚が竦んで動けなくなっている、同じクラスの男子生徒を見て……わたしは、その望みを彼に押し付けた。
 身勝手なのは分かっている。だけど、踏み出せないわたしよりも、後一歩踏み出しさえすれば届く場所にいた風鳴くんに、わたしは期待してしまった。
 わたしの代わりに、響を庇ってくれるんじゃないかって。
 響の居場所になる事しかできないわたしの代わりに、響の盾になってくれるんじゃないかって。
 
 ……ただの押し付けだって、わかっているのに……。
「……言い訳なんて聞きたくない!この偽善者!!」
「ッ!!」
 その時の風鳴くんの顔を見て、わたしは後悔した。
 今の言葉は風鳴くんを一番傷付ける言葉だった……。それなのに……その言葉は身勝手なわたしの、汚い部分から出たものだって頭で理解していたはずなのに……。
 わたしは、その言葉のナイフを躊躇い無く振り下ろしてしまった。
 黙って立ち尽くすだけの風鳴くんが、なんだか怖くなって……わたしは、その場から逃げ出した。
 本当に……わたしって、嫌な子だね……。
 親友の大切な人に、こんな事言っちゃって……謝りもせずに逃げ出して……。
 もう、消えちゃいたいよ……。わたし、どうすればいいのかな?
 誰か……教えてよ……。
 
「偽善者……か……」
 翔は走り去っていく未来の後ろ姿を、ただ見つめている事しかできなかった。
 先程の未来の言葉が胸の奥に突き刺さり、重く、重く残響する。
 その言葉は、言われても仕方ないことだと理解していた言葉だ。
 それでもやはり、言葉にされてしまうと重みが違う。
「……俺は……偽善者、なのかな……」
 未来が消えていった角を見て、誰にともなく独りごちる。
 古傷を抉られたような気分で、少年は立ち尽くしていた。
 
 ∮
 
 どれくらい走り続けたんだろう。気が付いたら、いつもの商店街の真ん中だった。
 そういえば、今日は特売があるんだっけ……。
 でも、あんな事を言っちゃった後だから……こんなに沈んだ気分で買い物なんて……。
「はぁ……。わたし、もうどうすればいいのか、分からないよ……」
 響……わたし、帰ったら響にどんな顔すればいいんだろう……?
 
「小日向さん?どうしたの、浮かない顔して」
「……え?」
 顔を上げると、そこには見知った顔が立っていた。
 陽の光を反射してきらめく綺麗な金髪に、宝石みたいな碧い瞳。
 整った顔立ちに、シュッとした背筋。そして片手にはエコバッグ。
 まるで、絵本の中から出て来た王子様のような雰囲気を持つ、誰が見てもイケメンだと答えるだろうと確信できる男の子。
「爽々波くん……」
「悩み事かい?……いや、その顔は間違いなく悩み事だね」
 わたしの顔を、その海の底へと繋がっていそうな……見つめているだけで引き込まれそうな紺碧の瞳で見つめると、爽々波くんは確信したようにそう言った。
 こういう察しのいいところが、彼の細やかな気遣いに繋がっている。
 共学の高校なら、きっと校内で一番モテるんじゃないかな?
「どうかな?僕でよければ、相談に乗るよ」
「え?でも……」
「小日向さんには、いつもお世話になっているからね。この前教えてもらった味噌汁の隠し味も、親友から大絶賛されたし」
「わたしの方こそ、この前教えてくれたローストチキン、響も美味しいって言ってくれて……」
「小日向さんの親友の子、何作っても美味しく食べてくれるじゃないか」
「爽々波くんの方こそ、同じ部屋のお友達がどんな料理でも美味しいって言ってくれるんでしょ?」
 お互いに顔を見合わせ、笑い合う。
 買い出しで偶然知り合って、お互いの夕飯のレシピを教えあったりしているうちに、わたしと爽々波くんは仲良くなっていた。
 どうやら爽々波くんの親友も、響と同じでよく食べる男の子らしい。
 こうやって、お互いの親友の事や料理の話をしていると、楽しくてつい時間を忘れてしまう。
「それで、どうする?大丈夫そうなら、僕は行くけど……」
「……じゃあ、聞いてくれる?」
 誰に相談すればいいのか分からなくて、迷っていた所に差し伸べられた手。
 独りでグズグズ悩んでいるより、全部吐き出してしまった方が気が楽になるはずだし、きっといい解決方法が見つかるかもしれない。
 だから、わたしは爽々波くんの……この屈託のない王子様スマイルを信じてみる事にした。
「それじゃあ立ち話もなんだし……。そこの店で、お茶でもしながら話そうか」
 それからわたしは、爽々波くんの奢りでケーキセットをご馳走になりながら、事の顛末を話す事になった。 
 

 
後書き
『花咲く勇気』のアマルガムver.実装が決定して、翔ひびver.の花咲く勇気を妄想しちゃった思い出。これも二次創作やってる人間のサガですかね……。
こう、メロディーにもバイオリンの音が入ってる感じのやつをですね……(両手でろくろを回す動き)

未来「特売の卵……あ!最後の1パック!」
モブ客「確保!よし間に合ったー!」
未来「ああっ……!最後の1パックだったのに……これじゃあチャーハンが作れないよ……」
純「あの、ちょっといいですか?」
未来「えっ?わたし、ですか?」
純「よかったら、この卵を」
未来「ええっ!?いいんですか!?」
純「実はルームメイトから、別の店で卵を買ってしまった、って連絡が入ってて丁度困っていたんだ。冷蔵庫に入りきらないし……それなら、僕が持っているよりも、君に分けてあげた方がいいと思って。迷惑かな?」
未来「いえ、そんな!ありがとうございます!……その制服、もしかして……?」
純「ああ。君の通うリディアンの姉妹校、私立アイオニアン音楽院の1年。爽々波純、よろしくね」
未来「ああ~、あの。私立リディアン音楽院1年、小日向未来です」
純「小日向さん、か……素敵な名前だね。よろしく」
未来「いっ、いえいえ、こちらこそ……」

2人の出会いはこんな感じだったとか。
なお、この時出会ったイケメンが「アイオニアンのプリンス」だと未来さんが知る事になるのは、次の日の昼休み、友人達と雑談に興じていた時の事である。

キャラ紹介②
爽々波純(イメージCV:宮野真守):16歳。誕生日は12月12日。血液型はA型。身長180cm/体重68.2kg
趣味、家事全般と自分磨き。好きなもの、歌と演奏。それと洋菓子でのティータイム。
一人称は「僕」で、常に柔和な笑みを浮かべている少年。
とても穏やかな性格で秀才気質。翔の親友であり、常に自分に「王子様」で在ることを課している。
かつて家族ぐるみで仲の良かった幼馴染の少女、『クリス』との約束を果たすために自分を磨き続け、「プリンス」のあだ名を持つ今に至る。
夢は世界を股にかけて活動する音楽家。その夢には、「生き別れとなったクリスを探し出し、迎えに行く」という願いも込められている。
しかし、残っている写真に映る銀髪の少女は、ネフシュタンの鎧をまとう少女に酷似しており……?

次回、ギザギザハートな393の前に現れたプリンス純くん。
果たして罪悪感どっさりな393は親友と翔くんに謝れるのか!?
次回もお楽しみに! 

 

道に迷う者、導く者

 
前書き
最初の頃、見切り発車だから更新亀になるとか言ったの誰だよ……。
毎日更新出来るじゃねぇか!しかも1ヶ月超えてんぞ!
これはこの調子なら来月には1期が完結するかな?

なお、完結に3ヶ月かけた模様。でもXVより先に無印編終わったのは、今でも強い達成感と共に残ってます。

それでは純くんのプリンス力をご覧下さい。 

 
「……でも、わたしはまだまだ、翔くんに守られてばっかりです」
 翼と2人、屋上に出た響は、俯きながらそう言った。
「デュランダルに触れて、暗闇に飲み込まれかけました。気が付いたら、人に向かってあの力を……。翔くんが止めてくれなかったら、どうなっていたのか……。わたしがアームドギアを上手く使えていたら、あんな事にもならずに済んだのかも、と思ってしまうんです」
「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になるという事。それだけ、人としての生き方から遠ざかるという事なのよ」
 そんな響を防人として、剣として生きてきた翼は真っ直ぐに見つめてそう言った。
「戦いの中、あなたが思っている事は何?」
 その問いかけに、響は翼を真っ直ぐに見つめ返すと、力強く宣言した。
「ノイズに襲われている人がいたら、1秒でも早く救い出したいです!最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け付けたい!そして……」
 響の脳裏に、ネフシュタンの鎧の少女が浮かぶ。
 少女とも分かり合いたい。戦うよりも、話し合いたい。今度出会った時こそは……響はそう、胸に固く誓う。
「もしも相手がノイズではなく『誰か』なら──どうしても戦わなくっちゃいけないのかっていう胸の疑問を、わたしの思いを、届けたいと考えていますッ!」
 その答えを聞いた翼は満足そうに微笑むと、先輩としてのアドバイスを口にする。
「……今、あなたの胸にあるものを、できるだけ強く、ハッキリと思い描きなさい。それがあなたの戦う力──立花響のアームドギアに他ならないわ!」
「翼さん……。ありがとうございます!」
 笑い合う2人の姿を西に傾き掛けた太陽が、優しく照らしていた。
 
 ∮
 
「……なるほどね。親友の立花さんが好きかもしれない男の子に、酷い事を言ってしまったんだね」
「うん……。もう、頭の中ぐちゃぐちゃで、どうすればいいのか分からなくって……」
 向かいに座る小日向さんは俯くばかりで、注文したケーキセットにもいっさい手をつけていない。
 彼女、悩み始めるとズルズルと引き摺っちゃうタイプらしいから、今はそういう気分じゃないんだろう。
「う~ん……そうだね。僕が思った事を聞いてもらってもいいかい?」
「うん……いいよ」
「ありがとう。っと、その前に。そのケーキセット、食べないと勿体ないよ?」
「でも……」
「『お腹空いたまま考え込むと、嫌な答えばかり浮かんでくる』……よく行くお好み焼き屋のおばちゃんの言葉だよ」
「え!?」
 その言葉を聞いた小日向さんが、驚いたような顔を見せる。
 どうやら、会ったことは無いものの、その店によく行っているらしい。
「驚いたよ……まさか、ふらわーにまで縁があったなんて」
「わたしも……。この街、意外と狭いんだね」
 そう言って小日向さんは、ようやくフォークを手に取ると、ショートケーキを1口。
 それから、まだ冷めていない紅茶を啜ると、先ほどより柔らかな表情になっていた。
 やっぱり、甘味には人を笑顔にする力がある。こういう時には、カフェでお茶しながら話すのが一番だ。
「それじゃ、僕からの意見だけど……やっぱり、君は彼に謝るべきだと思う」
「そう、だよね……。わたしも、出来ることならそうしたいよ……。でも、頭の中では分かってるつもりなのに、わたしの心の中の黒い部分が溢れて来ちゃって……。気持ちの整理がつかないんだ」
「うん。それなら、いくつか質問するけど……君個人としては彼の事、どう思っているんだい?」
 親友の想い人が、かつて虐められていた親友を助けてくれなかった臆病者だった。
 その親友へ、深い愛情を向けている小日向さんの気持ちは、きっと複雑だ。
 それなら1つずつ質問を重ねて、絡まった疑問を解きほぐし、その複雑なパズルを分かりやすくして行けば、自ずと答えは見つけ出せるはずだ。
「う~ん……。嫌い、ではないと思う。響に手を伸ばそうとしてくれた事は知ってるし、あの日の風鳴くんが感じていた恐怖も、わたしには理解出来る。直接見たわけじゃないけど、一度だけ勇気を振り絞って、前に出てくれた事も……」
「なら、その答えは?」
「……うん。やっぱりわたし、風鳴くんの事は嫌いじゃない」
 よし……っていうか、小日向さんの親友の想い人って、翔……君だったのか。
 って事は、翔の好きな子であり、中学時代のクラスメイトっていうのは、小日向さんの親友、立花さんって事になる。
 翔の抱いていた後悔が何なのか、ようやく理解した。
 立花さんがいじめられているのを見ていながら、校内ほぼ全ての生徒を敵に回すのが怖くて、足が竦んでしまった。
 その後悔がきっと、彼の「人助け」の根幹なんだろう。
『もう二度と』という衝動と、『あの日と違う』という自己満足。
 古傷を隠すため……ううん、乗り越えていくために彼が選んだのがそういう形だったんだ。
 だとすれば……。
「その彼の気持ちは、僕にもよく分かる。深い後悔の念を抱いた人間は、それを拭おうとするものだ。僕だってその1人だよ」
「爽々波くんも?」
「うん……。昔、家族ぐるみで仲の良かった女の子が居てね。その子はご両親と一緒に海外へ旅行に行って、行方不明になった。……あの時、僕があの子を引き留めていたらって、何度も後悔したよ」
「……その子のこと、好きだったの?」
「ああ……僕の初恋さ。だから、僕はあの子との約束を果たすために、こうして自分を磨いてるんだ」
 小さい頃、クリスちゃんと交わした約束を思い出す。
『大きくなったら、ぼくはクリスちゃんの王子さまになる。そして、クリスちゃんをむかえに行くよ』
 クリスちゃんに会えなくなって、毎晩のように悲しんだ僕は、その約束に縋る事でようやく立ち直った。
 まだ、死んだとは限らない。絶対に何処かで生きているはずだ。
 だから、僕が迎えに行く。世界中の何処にいても、必ず見つけてみせる。
 そう誓って以来、僕は『王子様』を目指して来たんだ。
 いつでもクリスちゃんを迎えに行けるように。いつ、クリスちゃんと再会しても、胸を張っていられるように……。
 
「彼もきっと、今日まで自分を磨いて来ているはずだよ。もうあの頃の弱い彼じゃない、立花さんに相応しい男になっているはずさ」
「響のために、自分を磨いて来た……かぁ。もう一度会ったら、印象も変わるのかな……?」
「きっと変わるさ、僕が保証するよ」
 そこで一旦切ると、自分のカップに紅茶のおかわりを追加する。
 香しい香りを吸い込んで啜るこの一杯は、やっぱり心を落ち着かせてくれる。
「それでも、もし、心の中の黒い部分が溢れてきそうになった時は……」
 小日向さんがごくり、と唾を飲み込む。
 正直なところ、このアドバイスが正しいかどうかは僕にも分からない。
 けど、自分が信じる最良最善の言葉を、僕は彼女へと贈った。
「思い出して欲しい。自分が何故、その感情を抱いているのかを。理由を忘れた怒りほど、後で虚しいものだからね」
「わたしの感情の理由を、思い出す……」
 ……さすがに、難しかっただろうか?
 このアドバイスが正しいかどうか、それは僕には分からない。
 小日向さんの言うような、そこまでドス黒い感情を抱いた事のない僕は、月並みな言葉しか持ち合わせていないのだ。
 小日向さんはどう受け取ったのだろうか……?
 
「うん、そうだよね。わたし、自分がどうして風鳴くんに怒っちゃったのか、それを忘れていたのかもしれない」
 そう言って小日向さんは、ようやくいつもの明るい笑みを見せた。
「ありがとう、爽々波くん。お陰で楽になったかも」
「そうかい?それはどういたしまして。僕でよければ、いつでも相談に乗るよ」
「うん!……あ、そういえば特売!」
 小日向さんに言われて時計を見ると、特売開始の時間がすぐそこまで迫っていた。
「これは急がないと!」
「ケーキごちそうさま!今度お礼させてね!」
「礼なんて要らないとも!君のたすけになったのなら、その笑顔が十分な報酬さ!」
 ケーキの乗っていた皿には、フォークが置かれているだけ。
 紅茶のポットは空っぽで、カップの中身も一滴さえ残っていない。
 支払いを済ませた僕らは、いつものスーパーへと全力で走って行った。
 
 ∮
 
 病院の自販機で、カフェオレを購入して缶を開ける。
 一口飲んで、一つ溜息を吐いた。
 小日向に言われた"偽善者"の言葉が未だに、胸の中でぐるぐると巡っている。
 確かに、俺の人助けはただの自己満足だ。立花のように、心の底からそうしたいからというよりも、あの日の自分とはもう違う事を実感したくて、手を伸ばしている。それが俺だ。
 ……やっぱり僕が手を伸ばしているのは、あの日の立花の幻影に向かって……なのかもしれない。
 つまりそれは、あの日を乗り越え前に進んだ今の立花に対する自分自身が、未だに憐憫を以て彼女と接しているという事だ。
「……浅ましい男だな、俺は……」
「随分と浮かない顔だけど……悩み事かな、少年?」
 聞き覚えのある声に、咄嗟に振り向く。
 
 そこに立っていたのは、今朝、洋菓子店で出会った男性だった。
「あなたは、今朝の!?」
「偶然だね。まさかこんな早くに再会できるなんて」
「今朝はどうも……。姉も喜んでましたよ」
「それはよかった。今頃病室で食べているところかな?」
 そう言って爽やかに笑う男性は、院内なのに何故か真っ黒なサングラスを掛けていた。
「それで少年、悩み事だろう?折角の美丈夫が台無しだぞ」
「それは……」
「聞かせてくれないか?彼女の定期検診が終わるまで、少し暇があるんだ」
 そう言って男性は、自販機からいちごミルクを購入すると、ストローを刺した。よく見ると、薬指には銀色の指輪が嵌っている。彼女……というのは、きっと婚約者だろう。
「どうしてそこまで?今朝出会っただけですよね?」
「出会いとは一期一会。沖縄には『いちゃりばちょーでー』という言葉もある。一度会ったら皆兄弟……それだけの出会いでも、俺には充分な理由なんだ」
 たった一度出会って、偶然また会っただけの俺を心配して、こうして相談に乗ろうとしてくれる。
 この人は何処までもお人好しな……いや、もしかしたらこの人も立花と似たもの同士なのかもしれない。
 それなら、断っても余計に心配されるだろう。それに、この胸のもやもやした感情を姉さん、特に立花に漏らす訳にもいかない。だったら、彼に聞いてもらうのが一番いいだろう。
 そう思った俺は、彼の提案を受けいれる事にした。
「わかりました。それじゃあ、聞いてくれますか……?」
「どうぞ」
「……っと、その前に、お名前をお伺いしても?」
「え……ああ、名前かぁ……そうだな……」
 そう言われるとその人は、一瞬困ったような顔をする。
 暫く考え込むと、やがて決心したように溜息を一つ吐いてから笑った。
「仲を継ぎ足し、千の優しさで人々を包む男……仲足千優(なかたりちひろ)だ。誰にも言うんじゃないぞ?」
「……え!?まさか、あのスーツアクターの!?」
 サングラスを外し、素顔を見せると人差し指を口元に当てる千優さん。
 まさかの有名人登場に、俺は困惑のあまり言葉を失った。 
 

 
後書き
サプライズゲスト枠がシンフォギア全然関係ない人で、しかもハーメルン時代の作品のキャラだから読者に困惑されてないか不安ではある(笑)
しかし、伴装者本編にはほとんど絡まないのでご安心を。
彼が主役の処女作は、いずれこちらにも投稿します。

純「今回は僕一人みたいだね。さて、何か言うことがあるかと言われると……。クリスちゃん、見てるかい?君がこの世界の何処にいるかは、僕にもまだ分からない。けど、辛い時、苦しい時には僕の事を思い出してほしい。もし、君が僕を忘れてしまっていたとしても、僕は忘れていないから。君の心の奥底で、君の心を支えているよ。……だから……クリスちゃん、教えてくれないかい……。君は今、何処にいるんだい……?」
(舞台裏)
クリス「あたしだってなぁ……早く会いたいに決まってんだろ……バカぁ……」(真っ赤になって蹲っている)
フィーネ「……今泣くんじゃないわよ?その涙は本編まで堪えてもらわなくちゃ……。ほらスタッフ、そのカメラはここで止めておきなさい。じゃないと怒るわよ?」

キャラ紹介番外編
仲足千優:22歳。大人気特撮ヒーロー番組、『黒竜拳士ライドラン』の主人公であるヒーロー〈ライドラン〉のスーツアクター。
キレのある動きに抜群の運動神経。更には派手なバイクアクションまでこなせる天才。ヒーロー役をやらせて右に出るものなしとさえ言われる期待の新人。
また、高校時代から付き合っている大企業の令嬢、慧理那(えりな)とは婚約しており、その仲睦まじい姿から多くのファンの羨望と祝福を集めている。
どうやらノイズやシンフォギアの存在しない平行世界では、異世界からの侵略者の魔の手から世界を守る戦士の一人であり、戦士達を導く兄貴分として共に戦っているらしい。名前は『(すべて)のヒーローの魂を継ぐ者』とのダブルネーミングでもある。

次回、迷える翔の前に現れた1人の青年。彼の言葉は翔にどのような道を指し示すのか?
次回もお楽しみに! 

 

ヒーローの条件

 
前書き
ゲスト回、スタート! 

 
「……なるほど。つまり君はその一言で、自分の正義を見失ってしまったというわけだね?」
 事の端末を語ると、千優さんは黙って聞いてくれた。
「はい……。あの一言がどうしても、胸に刺さって抜けなくて……。俺は、本当にあの子の隣に居ていい男なのかなって……。こんな偽善者が彼女を支えようだなんて、浅ましいじゃないですか。なのに、それも忘れて、許されたと舞い上がって……。千優さん……これから俺は、あの子にどう接していけばいいんでしょうか?」
 見返りを求めていたわけじゃない。でも、こんな僕にあの子を支える資格なんて、果たしてあるのだろうか。
 自分の弱さに蓋をして、古傷を隠すための手段は自己満足の人助け。
 かっこ悪いなんてものじゃない。滑稽なくらい浅はかだ。
 本当に……俺は、何を思って立花の隣に立っていられるつもりになっていたんだろう……。
 
「……いいじゃないか、偽善者だって」
「……え?」
 真優さんの言葉に首を傾げると、真優さんは自信たっぷりに、堂々と言った。
「やらぬ善よりやる偽善、むしろ偽物だって善は善。全然アリだろ動かねぇよりは、断然そっちがCOOL GUY」
「それって……ライドランの?」
「主題歌の歌詞だとも。知っているだろう?」
 当然知っている。
『黒竜拳士ライドラン』。それはヒーローになる夢を持つ青年がある日、本物のヒーローの力を手に入れ、街の平和を守る為に戦う物語。
 戦いの中で己の正義に迷い、苦悩し、それでも信じた道を貫き進む主人公の心を描いた主題歌のワンフレーズがそれだった。

「つまりはそういう事さ。足が竦んで動けなかったのは、人間として当然の恐怖だ。俺だって、例えば目の前にノイズが居たりしたら、怖くて動けないだろう……。でも、君は今、こうして前に進んでるんだろう?果たしてそれは、本当に偽善かい?」

 そう言われてハッとなる。
 本物の偽善者なら、他人の為に本気で命を懸けるような真似はしない。
 でも、俺は……立花を助けたい一心で、ノイズの前に飛び出した。この胸に刻まれた生弓矢の痕こそがその証。
 それをあの一言だけで忘れていたなんて、俺はなんて大馬鹿野郎なんだ……。

「人の為に善をなす者と書いて『偽善者』だ。結局善に嘘も本当もない。自己満足、お節介、衝動的でいいじゃない。ヒーローってのは基本的にそういう生き方から始まるものさ」
「で、でも……彼女を支えようと思った動機は……」
「動機が憐憫なんじゃないかって?じゃあ聞こう、少年はその子の事を可哀想だ、なんて思った事はあるのか?」

 そう言われ、ふと思い返す。
 あれから2年……俺は立花に対して、どんな思いを向けていた?

 次々とフラッシュバックする光景の数々。胸に抱いた後悔に苛まれ続けた日々の記憶。
 しかし、その中の何れにも、憐憫(それ)を強く意識した瞬間は……。
「……ない、ですね」
「それじゃ逆にどんな感情、あるいは思いなら存在していた?」
「俺が立花に向けていた、本当の感情は……」
「俺の見立てが正しければ、それは恐らく……」
 
 思い出せ……。俺はあの頃……まだ俺が"僕"だった頃、立花に向けていた思いは……。
 
 再会して、ようやく掴んだ手で見つけた答えは……。
 
 俺の胸に宿る、この感情の名前は……!
 
「……支えたい、その手を取って進みたい、彼女の支えになりたい……」
「それらを総括する言葉、それらの思いに根ざした感情。それこそが答えだと、俺は思うよ」
 
 それは、愛。
 
 俺が生弓矢のシンフォギアを発現させた時に自覚した、強烈な感情。
 
 なのに俺は今まで、その愛がどんな形なのか分からなくて……小日向の一言に心を揺さぶられ、うっかり見失いかけていた。
 
 でも、今、この瞬間ようやく分かった。
 
 霧の向こうでボヤけていた形が、ここに来てハッキリと見えた。
 
 俺の愛の形、それはきっと……立花響という少女を、1人の女の子として愛する事!
 
 自覚した瞬間、俺の中で何かが弾けた。
 
『翔くん!』
 
 俺の名前を呼ぶ時、名前通り花が咲いたような笑顔になる彼女が好きだ。
 
『しょっ、翔くん!?』
 
 驚いて慌てている時の顔もまた、とても可愛らしい。
 
『ちょっと~、それどういう意味かな翔くん?』
 
 不機嫌な時の膨れた顔は、ついつい指で突っつきたくなるし……。
 
『翔くん……』
 
 涙に曇っている彼女を見ると、ほっとけない気持ちが湧いてくる。
 
 繋いだ手の温かさ。撫でた髪の手触り。名前に違わずよく響く、朗らかな声。
 
 そして何より、デュランダル移送任務の最中……偶然とはいえ、抱き合って眠った時の温もりと感触。
 
 その全てがどうしても、俺を惹き付ける。
 
 2年越しの発展だ。気付くのに時間が掛かりすぎている。
 
 だけど、これだけの情報量なんだ。自覚するには充分すぎる……。
 
 俺、風鳴翔は……立花響が大好きなんだ。
 
 俺が立花に手を伸ばした理由はただ一つ。彼女を愛しているからだと理解した以上、胸に突き刺さっていた言葉の刃は抜け落ちていた。
 
 もう迷う事はない。今の俺がするべき事は……!
 
「ありがとうございます、千優さん!俺……ようやく答えに辿り着けた気がします!」
「それは何よりだ。では、縁があればまた会おう」
 サングラスをかけ直し、手を振る千優さんと別れると姉さんの病室を目指して階段をかけ登る。
 立花に伝えなきゃ……!今すぐに、真っ直ぐに!
 彼女自身に、この『愛してる』を!!
 
 
 
 
 
 と、階段を登り続けていたその時、二課の通信機がアラートを鳴らす。
「ッ!こんな時に……」
 足を止め回線を開くと、叔父さんの口から飛び出したのは予想外の人物だった。
『ネフシュタンの鎧の反応が、そちらに向かって接近している!今すぐ、指定のポイントに向かってくれ!』
「ネフシュタンの鎧!?って事は、あの子が!?……分かりました、すぐ向かいます!」
 通信を切り、階段を降りようとしたその時だった。
「あ!翔くん!」
「おう、立花!」
 聞き慣れた声に振り返り、顔を合わせる。
 ……が、先程意識してしまったせいか、俺の視点はそのまま止まる。
 立花の方もまた、俺の方を見つめて立ち止まる。
 
 見つめ合うこと何秒か、廊下を通って行った台車の音で、俺はようやく我を取り戻す。
「あっと、その……む、向かうぞ!」
「そっ、そうだね!行こう!」
 タイミングは悪いが、しかしこっちも重要だ!
 ネフシュタンの鎧の少女……二度あることは三度あるが、今度は四度目!次こそは必ず!
「立花!今度こそは絶対、あの子と……」
「うん……!今度こそ、絶対に……!」
 
 その手を繋いでみせる!!
 
 ∮
 
 病院を駆け出して行く2人の少年少女を見て、彼は微笑む。

「千優さん、何かあったんですの?」

 検査を終えた愛する人が、年齢を感じさない美しさを放つツインテールを揺らしながら、小首を傾げる。

「なに、ちょっと青春の手助けをしただけだよ」
「また人助け、ですか?いくつになっても、千優さんは変わりませんわね……。でもそれでこそ、わたくしにとってのヒーローですわ♪」

 そう言って慧理那は、自分の腕を俺の腕に絡める。

 出会った頃から全く変わっていない。いや、むしろ出会った頃よりも甘えん坊になっている。
 でも、そんな彼女の事があの頃から変わらず、愛おしい。

「それで、今度はどんな人助けだったんです?話から察するに、学生の恋愛相談に乗ったとか?」
「ああ。それも聞いて驚くなよ?その子、なんとあの風鳴翼ちゃんの──」
 
 待合室で語らう新婚夫婦を、窓から射し込む夕陽が照らす。
 かつての2人と同じように、今、この夕陽の下を駆ける少年少女も、いつかはきっと……。 
 

 
後書き
シンフォギア全然関係ないゲストが、人生相談に乗ってくれて終わっただけの回になってしまった件w
しかし、これでようやく……祝・両片想いへ!
さあさあ、あとは2人が告白すればOKだ。ついでに空気を読まずにやって来てしまったクリスちゃんは、そのままプリンスに再会してしまうがいい。

千優「皆さんどうも。初めましての方は初めまして。俺、ツインテールになります。二次創作SS『俺、リア充を守ります。』の主人公、テイルドラゴンこと仲足千優です」
慧理那「皆さんどうも。ライトノベル『俺、ツインテールになります。』のヒロイン、テイルイエローこと神堂慧理那です」
千優「まさか本編完結してないのに、未来の姿を別作品で描かれるなんてな……」
慧理那「こちらの更新に集中するため、最近更新出来ていなかった事に対するお詫びの意味も込めての出演らしいですわよ」
千優「まあ、俺リアよりこっちの方が先に完結出来そうなのは、原作アニメが完結したって時点で目に見えてるからな」
慧理那「作者的に、『今一番書きたいのはシンフォギアだ』ということで筆が乗っていますので、俺リア読者の皆さんは気長に待ってくれればなと」
千優「ここまでこっちの読者に対しての話しかしてないな……。新規読者さんは、気が向いた時に読んでくれればいいから!それじゃ、この先は彼らシンフォギア装者達の恋を見守ってくれ!」
慧理那「応援、よろしくお願いしますわ!」

黒竜拳士ライドラン:10年ほど前に放送されていた特撮ドラマ『魔眼戦記リュウケンポー』の続編として制作され、放送されている作品。
龍の魂を宿した宝玉、「魔眼石」に選ばれた龍戦士達の戦い。その新たなる世代の物語を描いている。
テーマは『君も、僕らも、"ヒーロー"だ!!』
主人公以外のヒーローは前作のヒーロー達の子孫という設定であり、旧キャストも時折登場するなど、当時子供だったファンを引き入れるだけでなく、今の子供達にも人気を誇っている。
特に、かつては放送時間が重なり、視聴率に影響を与えた某有名特撮作品では近年見る機会が減ってしまったド派手なバイクアクションを多用しており、放送時間を平日の夕方にする事で、前作以上の視聴率獲得に成功。
ちなみに主人公ライドランは、名前の通りバイクを常用し、格闘戦をメインにして戦うヒーロー。黒いボディに真っ赤な目、体を走る黄金のラインに首に巻かれた真紅のマフラーといった出で立ちは、子供達だけでなく大きなお友達にも根強い人気を誇っている。

次回、遂に親友達にバレてしまう2人の秘密!そしていよいよ、純くんに待ち人来たる……。
明日のこの時間もお楽しみに! 

 

夕陽の中での再会

 
前書き
さて、ここが4人の運命のターニングポイントだ!
これ書いてた頃は確か……翳り裂く閃光が復刻した頃でしたね。
200個貯まったので回したら……星五響とグレ響同時引き+ひびみくパジャマパーティーメモリア、だとぉ!?
いやー、日頃の行い(毎日更新)だったのかもしれませんねぇ。
それとも翔ひびからの祝福だったのか。なんにせよありがたい引きでした。

それでは今回もお楽しみ下さい! 

 
「間に合って良かったね」
 買い出しを終え、両手にエコバッグを持って帰路を進む純。
 その隣には未来が、レジ袋を両手に歩いていた。
「うん。帰ったら響に美味しいご飯、用意しておかなくちゃ」
「僕もしょ……親友が最近、頑張ってるみたいだから応援してあげないと」
「頑張ってるって、何かやってるの?」
「親戚の会社でインターンシップなんだって」
「へ~、真面目なんだね」
 そんな何気ない会話をしながら、公園に差し掛かる。
 辺りはすっかり夕陽に包まれ、オレンジ色に染まっていた。

「はあ……はあ……確か、この辺りだって──」
「気をつけろ立花、先手を取られる可能性が──」
 すると、目の前の角を曲がってくる2人の人影と目が合った。
 未来と純は、走って来た響と翔に驚く。
「あ……響!それに……」
「翔!?」
「えっ、未来?……はっ!?」
「純!どうしてお前が小日向と……ッ!?」
「来やがったな!お前らまとめてあたしが──ッ!」
 2組が互いを認識したのと、鎧の少女が響達を認識したのはほぼ同時だった。
「──くッ!未来、来ちゃダメだ!!」
「純、逃げろ!!」
 牽制に振るわれた鞭が地面を抉り、その衝撃が未来と純を吹き飛ばす。
「え──、きゃああああああッ!?」
「な──、うわああああああッ!?」
「ッ!?しまった!あいつらの他にもいたのか!?」
 宙を舞う2人。翔は咄嗟に飛び出すと、心の歌を口ずさんだ。

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

 思いっきり跳躍すると、吹き飛ばされた2人を小脇に抱えて着地する。
「純!小日向!……無事か?」
「……え?風鳴くん?」
「翔!?その姿は……って、上!!」
 純に言われて見上げると、先程の衝撃で飛ばされた自動車が、こちらへと落下してくるところだった。
 受け止めようにも両手は塞がっており、バックステップしても地面に衝突した際の飛来物には対処出来ない!
 万事休すか!?……いや、まだだ!まだ彼女がいる!

「─Balwisyall(バルウィッシェエル) nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」

「てりゃぁぁぁぁぁッ!!」
 次の瞬間、目の前に躍り出たオレンジ色の影が、落下してきた自動車を思いっきり殴りつける。
 既に廃棄寸前までボロボロになっていた自動車は、一瞬にして廃棄確定レベルでひしゃげ、離れた場所を転がった。
「あ……」
「え……?」
 驚く2人を振り返り、俺は頭を下げる。
「黙ってた事は謝る。でも、これが俺達の仕事なんだ」
「ひ、響……?」
「……ごめんッ!」
 一言だけそう言って、立花は鎧の少女を引き付けるべく、市街地から離れた森の中を走り始めた。
「純、小日向を頼む。そのうち特異災害対策機動部"二課"の職員さん達が来るから、詳しい事はそっちに聞いてくれ!」
「翔、君はどうするんだい!?」
「俺は……行かなくちゃいけない。この街を、お前達を守るために!」
 そして俺もまた、立花を追って走り出す。
 鎧の少女は、こちらの歌を妨害する事も戦略に組み込んでいる。
 なら、伴奏者の出番だ。急いで追い付かなくては!
 奥の方で土煙が上がる。あそこだ!今行くからな!

 ∮

「何故どうして、この広い世界の中で──」
 未来のいた所からも、街からもかなり離れたところまで走って来た。
 ここまで来れば、他の人が巻き込まれることは……そう思っていたその時、例の鞭が飛んでくる。
 両腕を交差させて防ぐと、目の前にあの子が降り立った。
「どんくせぇのがやってくれる!」
「──どんくさいなんて名前じゃない!わたしは立花響、15歳!誕生日は9月の13日で血液型はO型!身長はこの前の測定では157cm!体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!」
「はぁ……?」
「趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯!あと……彼氏いない歴は年齢と同じ!」
 本当は、好きな人なら出来たんだけどね……。でも、翔くんは()()彼氏じゃないから、それはそれ!
「な、何をとち狂ってやがるんだお前……」
「わたし達は、ノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたいッ!」
「なんて悠長、この期に及んで!」
 振るわれた鞭をひと跳びで避ける。
 次のも跳んで、その次は横に飛んで。鞭の連撃を避け続ける。
(ッ!?あたしの攻撃を凌いでやがる!?こいつ、何が変わった……覚悟かッ!?)
「話し合おうよ!!わたし達は戦っちゃいけないんだ!だって、言葉が通じていれば人間は──」

「うるせえ!!」
 わたしの言葉は、その子の怒声にかき消された。
「分かり合えるものかよ、人間が!そんな風に出来ているものかッ!!」
 俯きながら、舌打ち混じりにその子は叫び続ける。
「気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ──ッ!分かっちゃいねぇ事をペラペラと知った風に口にするお前がぁぁぁぁぁ!」
「ッ……!」
「はぁ……はぁ……お前を引きずってこいと言われたが、もうそんなことはどうでもいい!お前をこの手で叩き潰すッ!今度こそお前の全てを踏み躙ってやる!!」
「わたしだって、やられるわけには──ッ!」
 次の瞬間、ネフシュタンの子は跳躍して、鞭の先にエネルギー球を形成すると力いっぱい振り下ろした。
「ああああああッ!吹き飛べぇぇぇぇぇッ!!」

 〈NIRVANA GEDON〉

「くっ、うう……!」
 両手を交差させてエネルギー球を受け止める。地面をガリガリと削りながら後ずさるわたしに、その子は更にもう一撃振り下ろした。
「持ってけ、ダブルだッ!!」

 〈NIRVANA GEDON〉

 2つのエネルギー球がぶつかり合い、爆発する。
 先ほどより一際大きな爆煙が上がり、モニタリングしている二課本部の職員達は息を呑んでいた。
「はあ、はあ……。お前なんかがいるから……あたしはまた……ッ!?」
「なんとか……間に合ったな!!」
 煙が晴れる……いや、何かに飛ばされて消えていく。
 土埃のカーテンを切り開いて現れたのは、持ち手を軸に回転するアームドギアを構えた翔だった。
「なっ!?盾だと!?」
「いいや、弓だ!この子を守り、二度と踏み躙らせない為なら盾にだってなる弓だ!!」
「チッ、ふざけやがって!……ッ!?」
 立ち塞がる翔に一撃食らわせようとした鎧の少女は、その後ろに立つ響を見て驚く。
「……はあああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」
 響は両手で球を作るような構えで、両掌の間にエネルギーを集中させていた。
 オレンジ色のエネルギーは、響の両手の間で球状になっており、形を得ようと膨らむ。

「ぁぁあああ──ッ、きゃあっ!」
 しかし、エネルギーが固定できず暴発し、響はその爆風で転がる。
 少女はその姿を見て確信した。
「やっぱり……ッ!この短期間にアームドギアまで手にしようってのか!?」
「立花!大丈夫か!?」
「大丈夫……!」
(でも、これじゃダメだ……。翼さんや翔くんのように、エネルギーを上手く固定できない!)
 固定できないエネルギーに悩む響。しかし、そこでふと思いつく。
(エネルギーはあるんだ。アームドギアとして形成されないのなら──その分のエネルギーを、ぶつければいいだけッ!)
 右手の中に集めたエネルギーを握り締める。すると、腕を覆うアーマーの装甲がスライドし、勢いよく白煙が吹き出す。
「させるかよッ!!」
 2本の鞭が勢いよく振るわれる。翔はアームドギアを生太刀に切り替え、響の前で構える。
「立花!ここは俺が!」
「ううん、翔くんは避けて!」
「ッ!?わかった……」

 翔が素早くサイドステップを踏み、退避した直後。その鞭を響は右手で掴んだ。
「しまったッ!」
「雷を、握り潰すようにーッ!」
 鞭を思いっきり引っ張り、腰のバーニアで一気に加速する。
「私という音響き、その先に!微笑みをぉぉぉぉぉ!」
(最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にッ!!胸の響きを、この思いを、伝えるために──ッ!!)
「うああ……ッ!?」
 少女は避ける事が出来ない。そして次の瞬間、鎧の少女の腹部のド真ん中に、その拳は力強く打ち込まれた。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 そしてその直後、展開されていた響の腕の装甲部分が、勢いよく元の位置へと戻る。
 その動きはまるで、硬い地面に杭を打ち込むパイルバンカー。拳による殴打のダメージ量を引き上げるジャッキの役割が、その腕アーマーには秘められていたのだ。

 〈我流・撃槍衝打〉

「くはっ……!」
 パラパラ、と砕けた欠片が地面へと落ちていく音が聞こえる。
(馬鹿な……ネフシュタンの鎧が、砕け──)
 その一撃がもたらした衝撃は、遠く離れている未来と純にも見えるほどの砂煙を上げていた。 
 

 
後書き
歌ってる描写はなるべく入れたくて、歌詞をセリフに混ぜこみつつ叫ばせる事にしているのは、個人的拘りポイントです。

響「──どんくさいなんて名前じゃない!わたしは立花響、15歳!誕生日は9月の13日で血液型はO型!身長はこの前の測定では157cm!体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!」
クリス「はぁ……?」
響「趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯!あと……最近、好きな人ができました!」
クリス「……はぁ?」
響「名前は翔くん。私と同学年!青い髪と優しい瞳が素敵な男の子!一緒にトレーニングに付き合ってくれるし、悩んだ時はいつも相談に乗ってくれるし、分かんない事は分かりやすく教えてくれるし、落ち込んだ時は励ましてくれるし……とにかく強いし、かっこいいし、優しいし……と、とっても頼りになるんだよ!」
クリス「おい待て、そもそもンな事聞いてねぇよ!」
響「あー、どうしよ!言っててこっちが恥ずかしくなって来ちゃった……」
クリス「自分で勝手に惚気けて勝手に恥ずかしがってんじゃねぇ!」
翔「立花……」
響「ふえぇ!?しょ、ししし、翔くん!!いつからそこに!?」
クリス「チッ!増えやがったか!まあいい、2人まとめて……」
翔「その、なんだ……実は俺も、君の事が好きなんだ……。前からずっと……」
響「翔くん……」(トゥンク)
クリス「いや待て、お前ら人の話聞いてねぇな?分かってんのか、ここ戦場(いくさば)だぞ?」
翔「だから……立花も、俺の事を好きでいてくれてるのが凄く嬉しい」
響「わたしも……。ってことは、これでわたし達、両想いだね♪」
クリス「敵の前で何をおっぱじめてやがんだお前ら!!」
翔「そうだな。立花……これからも、よろしくな?」
響「うんっ!でも、これからはわたしの事……響って呼んで欲しいな?」
クリス「もうあたし、帰ってもいいか?いいんだな?帰るぞ!?」
翔「改めてそう言われると、少しこそばゆいな……。でも、彼女を名前で呼ぶのは当然だ」
響「わーい、やったー!やっと名前で呼んでもらえる~」
クリス「だああああっ、もう!!あたしだってなぁぁぁぁぁ!もう一回逢えるのずっと待ってんだよ!早く迎えに来いよあたしの王子様ぁぁぁぁぁ!!」(崩れ落ちる)
ダダダダダダ……(純が森の草木を掻き分けて全力疾走してくる足音)

ギャグ路線。バカップルに陥落させられたきねクリ先輩。
そして了解トランザム、と言わんばかりに光を超えて迎えに来るOUJI様。
うん、ハッピーエンドですね(忘れ去られるフィーネ)
ところでクリスちゃん、中の人が結婚したね!おめでとう!

さて、次回はいよいよイチイバル登場!
戦場に響き渡る憎しみの歌が、かつての約束を呼び覚ます。
走れ純!探していたあの娘はすぐそこだ!
次回もお楽しみに! 

 

撃ちてし止まむ運命のもとに

 
前書き
遂に皆さんお待ちかね!赤き鎧に深紅の魔弓、皆大好ききねクリ先輩いつものスタイルが戻って来たぞ!
昼間の特別編を読んでから読むと、きっと色々と想像が膨らむかと思います。
では、『私ト云ウ音響キ、ソノ先ニ』『魔弓・イチイバル』、そして『絶刀・天羽々斬』でヤーヤーヤーヤー出来るようにスタンバった上でご覧下さい! 

 
 翔と、小日向さんの友達が向かった方向から爆発音と共に煙が上がる。
「響……」
 その一点を見つめ、小日向さんは心配そうにその友達の名前を呟いた。
 かく言う僕も、彼女の前だからこそ落ち着いているものの、さっき目の前で見たものに対して疑問を抱き続けている。
 歌とともに翔達2人が変身して、なんだかアニメチックな強化スーツっぽいものを身にまとって、超人的な身体能力で僕達を救った。
 あれは一体……。

 そんな僕の疑問は、次の瞬間どこかへと吹き飛ばされる事になった。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

 風に乗ってこの耳に聞こえてきた声が、僕の記憶を呼び覚ます。
 この声は……僕は、この歌声を知っている。
 人間が他人を忘れる時はまず、その声から忘れていくと言うけれど……これはただの声じゃない、歌声だ!
 例え忘れてしまっていても、一度聞けば鮮明に思い出せるあの歌声だ!
 でもどうして彼女の歌が……。確かめなくてはならない。
 いや、間違いなく彼女はすぐそこにいる!だったら僕は──。
「爽々波くん!何処へ!?」
「行かなきゃ……。あの子の声が聞こえる!!」
「ま、待ってよ爽々波くん!危ないよ!」
 小日向さんの静止を無視して、僕は森の中へと駆け出した。
 そこにいるんだね?もうすぐ、逢えるんだね!?
 待ってて、直ぐに追いつくから……クリスちゃん……!!

 ∮

 響の拳に吹き飛ばされた鎧の少女は、公園内の道を抉って作られたクレーターの真ん中から起き上がる。
(くッ、なんて無理筋な力の使い方をしやがる……。この力、あの女の絶唱に匹敵しかねない──ぐうっ!?)
 先程の一撃で砕け、穴が空いた鎧が再生を始め、鎧が少女の体組織に侵食し始める。穴が塞がろうとするほど、ビキビキという音と共に鎧が身体に食い込んでいく。
(食い破られる前に、カタを付けなければ……ん?)
「その場しのぎの笑顔で、傍観してるより──」
 目の前にいる響はただ、歌い続けているだけだった。
 追撃しようと思えば、いつでも出来るはずだ。それなのに彼女は、それをしてこない。
 彼女ばかりか、先程乱入してきた翔までもが追撃ではなく、アームドギアによる伴奏の方を優先し、こちらの様子を伺っている。
 それが少女には、どうしても腹立たしくなった。
「お前ら、馬鹿にしているのか?あたしを……“雪音クリス”を!!」
「……そっか、クリスちゃんって言うんだ」
「なっ!?」
 怒りをぶつけた自分に対し、穏やかな笑顔で返す響に驚くクリス。
 そんなクリスに、響は呼びかける。
「ねえ、クリスちゃん?こんな戦い、もうやめようよ!ノイズと違ってわたしたちは言葉を交わすことができる!ちゃんと話し合えば、きっと分かり合えるはず!だってわたし達、同じ人間だよ?」
「そもそも、俺達が戦う必要性など元々ない筈だ。やましい目的でなければ、直に話し合えば済むことだったはず。それをせず、ここまでして力づくで誘拐しようとするのは何故だ?話してみろ。もしかしたら、俺達なら君の力になれるかもしれないぞ?」
 翔も加わり、説得を試みる。しかし、クリスは……。
「……お前、くせぇんだよ!嘘くせぇ……ッ!青くせぇ……ッ!」
 怒りと共に握った拳を響にぶつけ、蹴り飛ばす。
 響は後方へと吹っ飛び、植えられている木をへし折って転がる。
「立花ッ!」
「テメェもだ!うらあああッ!!」
 続いて翔へと狙いを定めたクリスは、両腕のふさがっている翔へと向けて飛び蹴りを放つ。
 しかし、その飛び蹴りは少ない動作で避けられ、着地したクリスは更にに2、3撃連続で蹴りを繰り出す。
 しかしそれを少ない動きで回避した翔は、響の分のお返しだと言わんばかりに、続くクリスの殴打を躱すと同時にカウンターの一蹴りを見舞う。
 練習用に何度も見返した特撮と違い、後ろを向きながら……ではなかったが、綺麗なカウンターキックがクリスに命中する。
「うっ!?うう……ぐあああーーーッ!」
 真横へと吹っ飛ばされたクリスは立ち上がろうとして、鎧の侵食に悲鳴をあげた。
「どうしたの、クリスちゃんッ!」
「……まさか、ネフシュタンの鎧の──」
 ネフシュタンの鎧の再生能力がもたらす危険に気が付き、2人の顔色が変わる。
 しかし敵に心配されるなど、クリス自身のプライドが許さなかった。

「ぶっ飛べよ!アーマーパージだぁッ!!」
 その一言で、ネフシュタンの鎧が弾け飛ぶ。飛び散った鎧の破片が四方八方に飛び散り、土煙を上げる。
「うわ──ッ!?」
「くっ……!ん、なっ──!?」
 次の瞬間、2人の耳に聞こえてきたのは、ここ1ヶ月で聞きなれたあの歌だった。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

「この歌って……」
「聖詠……まさか!?」
「見せてやる、『イチイバル』の力だッ!」

 ∮

「イチイバル、だとぉ!?」
 弦十郎が驚きの声を上げた直後、ディスプレイには『Ichai-Val』の文字が表示された。
「アウフヴァッヘン波形、検知!」
「過去のデータとも照合完了!間違いありません、コード・イチイバルです!」
 藤尭、友里によるデータ照合により、その事実に間違いはないことが確定する。
「失われた第2号聖遺物までもが、敵に渡っていたというのか……」
 ノイズ襲撃の際、どさくさに紛れ強奪されたネフシュタンの鎧に加えて、行方知れずとなっていたイチイバル。更には狙われたデュランダルに、二課の情報を握られているという事実。
 内通者はかなり前からこの中に紛れ込んでいる。弦十郎は、現在ここにいないある人物に、疑いを向け始めていた。
 長い付き合いで、互いに大きな信頼を寄せている筈の人物。二課で最も重要な役職に就いている、あの人物へ……。

 ∮

「その姿、わたし達と同じ……」
 煙を吹き飛ばし、再び目の前に現れたクリスの姿は、ネフシュタンの鎧ではなく、新たなるシンフォギアを身に纏っていた。
 両肩と上乳を露出した大胆なデザイン。赤と黒を基調とし、差し色に一部白が入ったカラーリング。
 腰の後ろから広がる真っ赤なスカートパーツに加え、頭部を覆うメットパーツや両足首部分のパーツは何処と無く、赤いリボンを思わせる。
「……唄わせたな。あたしに歌を唄わせたな!」
「え……」
「教えてやる……あたしは、歌が大っ嫌いだ!!」
「歌が嫌い……?」
「ッ!?立花、避けろ!イチイバルの特性は……!」

 翔が叫ぶ瞬間、クリスの両腕を覆う装甲がスライドし変形。
 クロスボウの形状を取り、彼女の手に握られる。
「傷ごとエグれば、忘れられるってコトだろ?イイ子ちゃんな正義なんて、剥がしてやろうか!!」
 5発連続で発射された矢は、地面に弾着して爆発する。
 響と翔はとにかく走り、迫り来る矢を掻い潜る。
「遠距離超火力!それがイチイバルの特性だ!」
「ええっ!?って事はつまり……」
「離れた所から派手にドンパチ!いつでもどこでも、花火大会し放題って事だ!」
 近接戦闘特化型の響と、オールマイティだが弓の大きさからイチイバルに比べて連射性に劣る翔。
 二人共、派手に弾幕を張られると弱いタイプである為、この状況は圧倒的に不利。一気に形勢が逆転していた。
 クリスは跳躍し、曲芸師さながらの空中回転で着地すると、クロスボウ型のアームドギアを3つの銃口が三角形に並んだバレルが二連装、左右合計4門のガトリング型へと変形させ、構える。
「──逃がすかッ!揃って仲良く蜂の巣になりなッ!」

〈BILLION MAIDEN〉

「うわああああああああッ!?」
「立花ッ!!おおおおおおおおおおおお!!」
 容赦なく叩きつけられる銃弾の嵐に、翔は再びアームドギア・生弓矢を高速回転させて銃弾を弾き返す。
 しかし、それも長く持つわけではない。攻めの一手を見つけなければジリ貧だ。
 クリスはトドメを刺すべく、スカートパーツを展開させる。
 スカートパーツの中に収納されていたのは、大量のミサイルだった。
「さあ、お前らの全部……全部、全部ッ!全部全部ッ!否定してやる!そう、否定してやる!!」

〈MEGA DETH PARTY〉

「くッ!?不味い、こいつは防ぎきれない……ッ!」
「駄目、翔くん!!」
 二人に降り注ぐミサイルの雨、鉄矢の暴風。
 地形を変えてしまうほどの銃弾とミサイルを撃ち続け、爆煙が周囲を包んで覆う。
 息を切らしながら、先程までターゲットだった者達が立っていた場所を睨むクリス。
「はあ、はあ、はあ……ッ!どうだ……!これだけの弾丸を叩き込めば……ッ!!」
 煙が晴れた瞬間、クリスの目に飛び込んできたのは、2人を守るようにそびえる、青いラインの入った銀色の壁だった。
「盾……?」
「剣だッ!」
 見上げると、それは〈天ノ逆鱗〉を防御に応用し、剣の上に悠然と立つ蒼き剣姫……風鳴翼が立っていた。

「ふんッ、死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに来たか?」
「もう何も、失うものかと決めたのだ!大事な弟も、可愛い後輩も、2人まとめて私が守る!!」
 翼は剣の上から、クリスを見下ろしながらそう宣言する。
『翼、無理はするな……』
「はい……」
 弦十郎の自身を慮る声に、翼は静かに答える。
「姉さん……!?」
「翼さん……?」
 剣の後ろから見上げる2人を見ながら、翼は言った。
「気付いたか、二人共。だが私も十全ではない……力を貸してほしい」
「当たり前だろ、姉さん!」
「はい!勿論です!」
 ここに来て翼が加わり、更に戦況が逆転する。
 範囲攻撃である〈千ノ落涙〉や、動きを封じる〈影縫い〉、中距離牽制攻撃の〈蒼ノ一閃〉などといった離れた距離の相手にも届く攻撃手段を持ち、更に実力は2人よりも高い世界最初のシンフォギア装者。
 間合いを詰められれば、クリスの勝機は一気に傾いてしまう。

 その上で、翼はクリスを倒すのではなく、無力化するつもりでここに立っていた。
 響はクリスとも分かり合いたいと願っており、自分もネフシュタンの鎧やイチイバルの事について問い質さなくてはならない。
 無論、翔は響を支える事と同時に、自分と同じ事を考えているだろうという事も、姉である彼女には理解出来ている。
 やがてクリスが次の一手に出ようと銃口を向け、引き金を引く直前だった。

「もうやめるんだ!クリスちゃん!!」

 戦場に突如響き渡る、5人目の声。
 声の方向を一堂が振り向く中、翔と……そして、クリスが驚愕の表情を浮かべた。
「ッ!?お、お前……」
「純っ!?何でお前がここに──」
「ジュンくん……!?」
「「「ッ!?」」」
 クリスの一言に翔、響、翼は揃って息を飲んだ。
 戦場の只中で、まさかの再会を果たす2人。8年と数ヶ月の時を超えて、クリスが叫んだ憎しみの歌が、皮肉にも彼女の運命を引き寄せる事になったのである。 
 

 
後書き
いやー、ようやく純クリのターンです。
クリスちゃん推しの全読者様、お待たせしました!
ここからは、クリスちゃんにも手を伸ばすための布石が敷かれて行きますので、ご期待ください!

ところでクリスちゃんのアームドギアが銃なの、真相意識で幼少期の象徴としてトラウマになってるからだったよね確か。
って事はつまり、シンフォギア本体にリボンの意匠が見受けられたり、大胆に肩とか胸とか露出してるのって、少なくとも伴装者世界だと"約束"が深く影響しているんじゃないだろうか……?
つまりイチイバルのシンフォギアそのものが、クリスちゃんの花嫁衣裳と言っても過言ではないのでは!?(お前本当のバカ←)

翼「なあ、翔。1つ言ってもいいか?」
翔「なんだい、姉さん?」
翼「お前、前回私のセリフを盗んだな?」
翔「えっ!あ、あれは別に姉さんのセリフをパクッたとかじゃなくて、お約束というかなんと言うか……」
翼「その上、3期で私が言うセリフのオマージュまでやっているだと!?」
翔「狙ったわけじゃないんだ……ただ、口を付いて出ていただけなんだ……」
翼「まあ、それは良しとしよう。私達は姉弟だからな、似たようなボキャブラリーをしているのだろう」
翔「姉弟だからね、是非もないよ」
翼「だが、そろそろ私とのデュエットがあってもいいのではないか?」
翔「あ~!そういや姉弟デュエットやった事ないよね」
翼「これは作者に頼んで、一度はやってもらうべきなのでは?」
翔「うーん、今後の展開的にその機会あるかなぁ?」
翼「お前は基本的に立花に付きっきりだからな。私と組んで出撃する機会さえあれば……。いっそ立花と3人で、というのはどうか?」
翔「いいと思うけど、ユニゾンが目立ち始めるのはもっと後からだからね!もうちょっと我慢しよう!」
翼「そうか……(´・ω・`)」(どうしても弟とデュエットしたいブラコンSAKIMORI)
翔「……皆でカラオケ行く?」
翼「ああ、その手があったか!」
翔「それじゃ、早速予約しよう!」
翼「ああ!私とお前、それから立花。姉弟水入らずで歌い明かそうじゃないか!」
翔「……ね、姉さん?そ、その……どうして姉妹に立花も姉弟に数えてるんだ……?」
翼「ん?いちいち説明する必要があるのか?」(ニヤニヤ)
翔「~~~ッ!?この剣、可愛くないッ!!」

次回は……、
戦場(いくさば)で巡り会う王子と姫君。
終わりの魔女がかけた呪いは、2人を夜に惑わせる。
次回、『迷子(まよいご)』!
お前はその手に、何を握る?

やたらいい声で喋る銀色の指輪が見えたって?はて、そんな聖遺物知りませんが……(すっとぼけ) 

 

迷子(まよいご)

 
前書き
まさか予告編をザルバに担当されるとは……。
って事でタイトルは牙狼風味になっております。

そういやこれを上げた日は、我らがウルトラマンジャスティス限界ヲタク氏の舞台挨拶を見に行ってたなぁ。
いやー、貴重で尊い時間を過ごさせて頂きましたよ……。

それでは、純クリを見守ってあげてください。どうぞ。 

 
「ジュンくん……!?」
「「「ッ!?」」」
 雪音クリスと名乗った少女の一言に俺も、立花も、姉さんまでもが揃って息を飲んだ。
 まさかこの娘……純の知り合い、だったのか!?
「クリスちゃん!その姿は一体……それに、その手に持ってるのは……!?」
「……あたしを……見るんじゃねぇ!!」
 そう言って雪音は、地面に向けて発砲すると土煙を捲き上げる。
 そのまま跳躍し、雪音は叫んだ。
「あたしはもう……ジュンくんの知ってるあたしじゃないんだ!!」
「何を言って……ッ!?クリスちゃん、上だ!!」
 純の叫びに全員が空を見上げると、フライトノイズが羽を螺旋状にして、ドリルのように回転しながらクリスの方へと突っ込んで行く所だった。
「──な……ッ!?」
 次の瞬間、2体のノイズにより、イチイバルのガトリング砲が破壊される。
 無防備になり、落下していくクリス目掛けて、3体目のフライトノイズが襲いかかり……。
「クリスちゃん!!」
「──ッ!?クリスちゃん、危ないッ!」
 
「え──ッ!?」
 立花が咄嗟に、フライトノイズに体当たりする。
 ノイズは炭と化したものの、勢い余って立花は倒れ込む。
 それを雪音は、反射的に受け止めてくれていた。
「クリスちゃん、大丈夫?」
「お前、何やってんだよッ!?」
「ゴメン……。クリスちゃんに当たりそうだったから、つい……」
「ッ!?バカにして!余計なお節介だ!」
「純!お前もこっちへ!離れているとノイズに狙われるぞ!」
 純に向かって叫ぶ。純は頷くと、こちらへ向かって走り寄る。
 その純を狙って飛来するフライトノイズには、生弓矢のアームドギアで一射見舞ってやった。
 倒れた立花と、それを支える雪音。そして駆け込んできた純を、俺と姉さんで囲んで守る。
 その時だった。知らない声が聞こえてきたのは……。
 
「──命じた事もできないなんて、あなたは何処まで私を失望させるのかしら?」
「「ッ!?」」
「この、声は……」
 雪音が向いた方角……公園から夕陽の沈む海を見渡せるよう、柵が巡らされた場所へと、俺と姉さんも目を向ける。
 そこには、黒服に金髪のロングヘアーでサングラスをかけて顔を隠した、ソロモンの杖を持つ女性が立っていた。
 離れているが、背丈は了子さんと同じくらいだろうか?
「フィーネ!」
(フィーネ?……終わりの名を持つ者?)
 音楽記号で、楽曲の休止を表す記号を名前に持つ女性……。
 この人が一連の事件の黒幕か!?

「こんな奴がいなくったって、戦争の火種くらいあたし一人で消してやるッ!」
 立花を放り出して会話を始める雪音……って立花を放り出すなよ!
 っと思ったら、純がしっかりと受け止めて地面に寝かせてくれた。
 流石は王子様系。やる事がイケメンだな……。
「そうすれば、あんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」
 雪音の縋るような声。しかし、フィーネと呼ばれた女性は溜息を吐くと共に宣告した。
「ふぅ……。もうあなたに用はないわ」
「な……なんだよそれ!?」
 雪音の表情が絶望に染まる。それと同時に、その後ろにいる純の表情が険しくなった。
「フッ……」
 フィーネが手を翳すと、彼女の掌から青白い光が放たれ、辺り一帯に散らばっていたネフシュタンの鎧の欠片が発光する。
 やがてネフシュタンの鎧は粒子化し、フィーネの手元に集まっていくと、竜巻のように渦を巻きながら消失した。
 そしてフィーネは、ソロモンの杖をこちらへと向ける。
 次の瞬間、3体のフライトノイズが独楽のように高速回転し、木々を伐採しながら迫って来た。
「ハッ!やっ!」
「ハッ!」
 姉さんの刃が2体を斬り伏せ、俺の一射が最後の1体を射抜いた。
 その隙に乗じて、フィーネは柵を足場として、夕陽を背に飛び降りて行った。
「待てよ、フィーネェェェェッ!!」
 フィーネを追って、雪音も飛び出していく。
 シンフォギアで強化された身体能力で、雪音はあっという間に柵の下へと飛び降りて行った。
「待って!クリスちゃん!!」
「おい純!何処へ!?」
「クリスちゃんを放っておけない!あの娘は僕が連れ戻さなきゃ!」
 そう言うと純は、1人で何処かへと走り去ってしまった。追いかけようとしたが、気を失ってしまった立花の方が心配だ。
 迎えのヘリがやってきた音がする。純……お前は、どこまで……。
 
 ∮
 
「反応、ロストしました。これ以上の追跡は不可能です」
 クリスのイチイバルが発するアウフヴァッヘン波形をモニタリングしていた友里が報告する。
「こっちはビンゴです」
 一方、クリスの身元を調べていた藤尭は、データベースからその資料を表示させた。
「雪音クリス、現在16歳。2年前に行方不明になった、過去に選抜されたギア装着候補の1人です」
「……あの、少女だったのか」
 そう呟く弦十郎の表情は、何処か重苦しさを感じさせた。
 果たして、彼は何を思っているのか……。今この瞬間の、彼の表情を知らない部下達に、それを推し量ることは出来ない。
 彼が感じている責任は、彼一人が心に仕舞っていた。
 
 ∮
 
 夜の街中、雪音クリスは2人の子供の手を引いて歩いていた。
「えへへ、おててをつないでいると、うれしいね」
「は、なんだそりゃ。ほら、ちゃんとお父さんを探せよ」
「わかってるよ」
 兄の少年と、妹の少女。小学生くらいの2人とクリスが出会ったのは、フィーネを見失い、途方に暮れながら歩き続けていたクリスが、子供の鳴き声を聞いたところからだった。
 最初は、兄が妹を弱いものいじめで泣かせたのかものと勘違いして拳を振り上げたが、兄を庇う妹の姿に理由を聞くと、迷子になって泣いていただけだと言う。
 放っておけなくなってしまったクリスは、2人を父親の元まで送り届ける事に決めたのだ。
「…………ふん♪ふんふふんふん……♪」
「わぁ……。おねえちゃん、うた、すきなの?」
 少女に言わて、無意識の内に口ずさんでいた鼻歌に気がつく。
「……歌なんて大嫌いだ。特に、壊す事しかできないあたしの歌はな……」
 自嘲気味にそう返すクリスに、少女は不思議そうに小首を傾げた。
 フォニックゲインや聖遺物と関係なく歌ったのは、いつ以来だろうか。
 もう既にかなりの日数、歌っていなかった気がする。
 そして歌えば、それはフィーネからの指示であり、シンフォギアや完全聖遺物の起動に使われ、その力は結局全てを壊してしまう。
 自分のために歌わなくなっていたクリスは、いつしか自分の歌が嫌いになっていたのだ。
 その歌が大好きだと言ってくれた人の、預かり知らぬ時間、預かり知らぬ場所で……。
 
「あっ!父ちゃん!」
 気が付けばそこは、交番の前だった。
 交番で警官と話していた男性が、2人に気が付き駆け寄って来る。
「お前達……何処へ行っていたんだ!ん、この方は……?」
「おねえちゃんがいっしょに、まいごになってくれたー♪」
「違うだろ、一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」
「すみません、迷惑をおかけしました……」
「いや、成り行きだったから……その……」
 頭を下げる父親に、クリスはそっぽを向きながら答えた。
「ほら、お姉ちゃんにお礼は言ったのか?」
「「ありがとう!」」
「仲、いいんだな……」
 仲良く2人で声を揃えてそう言った子供達を見て、クリスはふと呟いた。
「そうだ。そんな風に仲良くするにはどうすれば良いのか、教えてくれよ」
 クリスに聞かれると、子供達は不思議そうな表情で顔を見合わせる。
「そんなの分からないよ。いつもケンカしちゃうし」
「ケンカしちゃうけど、なかなおりするからなかよしー♪」

 少女の無邪気な笑顔に、クリスは夕方戦ったばかりの、立花響と風鳴翔の言葉を思い浮かべる。
『ちゃんと話し合えば、きっと分かり合えるはず!だってわたし達、同じ人間だよ?』
 その言葉と少女の言葉が、どこか重なる。
 そして、その言葉を貫かせようと隣に立って支えていた翔の姿が、妹を守ろうと自分の前に立ち塞がった兄に重なった。
「……仲直りするから仲良し、か」
(話をすれば……分かり合えて、仲直りできるのかな……。あたしと、フィーネも……)

 そして、突き放して来てしまった幼馴染の顔が頭を過る。
 ノイズのせいで、ろくに話すことも出来なかった。それに、あんな約束を交わしたのに、自分はこんなにも『お姫様』からは遠ざかってしまった。
 身体中は痣だらけで、歌で何もかも壊してしまう。戦場に立てば引き金に指をかけ全てを撃ち抜き、ムカつく事があれば拳を振り上げてしまう。
 そんな自分を、一目見るだけでも約束に近づこうと進んで来たのが分かる純の眼鏡に、映してほしくなかったのだ。
(ジュンくんにも、謝らないとな……。あたし、折角会えたのに……)
 親子と別れ、少女はまた夜道を彷徨う。
 その先に、求めた答えが待っていると疑いもなく信じて……。
 
「はっ、はっ……クリスちゃん……クリスちゃん、何処だ!」
 一方、こちらも街中の何処か。
 人通りを何度も見回して、夜道を駆け抜けて行くのは、金髪碧眼の美少年。
 捜している少女の名を何度も呼んではまた走る。胸に抱いた想いを胸に、その情熱を糧として。
(詳しい事情は分からないけど、あの状況……クリスちゃんが帰る場所を失った事だけは理解出来た。だったら、僕が彼女の帰る場所にならなくちゃダメだ!事情は後で聞けばいい、真実は後で知ればいい!今は……彼女を見つけ出さなくちゃ!)
「クリスちゃん!クリスちゃん、クリスちゃん!何処だ!?何処に居るんだ!返事をしてくれ……クリスちゃあああああああん!!」
 少年と少女は、同じ街の何処かですれ違う。
 逢いたくても逢えない。話したくても逃げられる。
 そんな2人を再び引き寄せるきっかけは、少年のポケットの中に隠されていた事を、この時誰もが知らなかった。
 公園から走り出す前、咄嗟に拾っていた銀色の欠片。その輝きを、爽々波純だけが知っている。 
 

 
後書き
純クリのターンは開始早々、こんな感じで展開されております。
読んでて辛いところもあるかも知れませんが、同時に純くんのOUJI力もどんどん垣間見えて来ますので、安心して珈琲から砂糖を減らしておいて下さい。
またはブラック珈琲をお飲みください。

響「翔くん翔くん。わたし、前回クリスちゃんに『くせぇ』って言われてから、ずっと気になってるんだけど……わたしって臭いの?」
翔「落ち着け立花。そのセリフ俺も含んで言ってた筈だし……。その理論だと俺も臭うわけだが?」
響「そんな事ないよ!だって翔くん、いい匂いしたし……」
翔「たっ、たたた立花!?いつの間に俺の匂いを……」
響「あっ!いや、その……デュランダル移送で翔くんに抱き締められた時に……不可抗力で……。べべ別にっ、思いっきり吸い込んだりしたわけじゃないからね!?」
翔「わわわわ分かっているとも!そうだよな、不可抗力だよな!別にそんな、俺の匂いをくんかくんかした訳じゃないんだよな!?」
響「そんな事しないよ!……あ、でも……わたしが臭うかどうか、さ……翔くんに確かめてもらうなら、わたしは別に……その……」
翔「たっ、たたた立花……!?それは、その……流石に問題あるんじゃ……」
ANE「おおお、緒川さん!?あれはつまり、その……」(物陰から見守りつつ)
NINJA「耳とか尻尾が幻視できる気がする、ですか?奇遇ですね、僕もです」(同じくin物陰)

次回はいよいよフィーネのアジトに!?お楽しみに。 

 

暗雲迫る陽だまり

 
前書き
苦めの珈琲を最初に出して、そこへ徐々に糖度の濃い砂糖を足していくのは尊みの基本。
今回は、純クリがほろ苦いと言われてガッツポーズしてた頃の回ですね。

それでは、お楽しみ下さい! 

 
(……奏がなんの為に戦ってきたのか、今なら少し分かるような気がする)
 エレベーターで二課本部へと降りて行きながら、私は今日の戦いで胸に抱いていたものを思い返す。
 だけど、それを完全に理解するのは、正直怖いかもしれない。人の身ならざる剣
わたし
に、受け入れられるのだろうか?
「……自分で人間に戻ればいい。それだけの話じゃないか。いつも言っているだろう?あんまりガチガチだとポッキリだ──って。……なんてまた、意地悪を言われそうだ」
 夢の中で出会えた奏の笑顔を思い出し、奏がよく言っていたあの言葉を呟いてみる。
 だが今更、戻ったところで何が出来るというのだろう。……いや、何をしていいのかすら、分からないではないか。
 
『好きな事すればいいんじゃねーの?簡単だろ』
 
「……え?」
 エレベーターを降りた直後、背後からそんな声が聞こえてきた。
 振り向くが、そこには扉を閉じる無人のエレベーターと、誰もいない廊下が続くのみだ。
 ……夢の中で、奏は言っていた。奏が傍にいるのか遠くにいるのかは、私が決める事なんだって。
 だから、きっと……奏は今も私の傍にいる。
 ねえ、奏。私の好きな事ってなんなのかな?
(もうずっと、そんな事を考えていない気がする。遠い昔、私にも夢中になったものがあったはずなのだが……)
 迷いを胸に私は、司令室へと続く廊下を歩いて行った。
 
 ∮
 
「メディカルチェックの結果が出たわよ。外傷は多かったけど、深刻なものが無くて良かったわ。常軌を逸したエネルギー消費による……いわゆる過労ね。少し休めばまたいつも通りに回復するわよ」
 あの後、俺達は司令室に戻っていた。了子さんが、立花のメディカルチェックの結果を報告している。
「じゃあ、わたし……あっ……」
「っと。大丈夫か、立花?」
「あっ……う、うん……」
 ふらついて倒れる立花を支えると、少し頬を赤らめながら離れる。
 少しドキッとしてしまったが、ここ、このくらいなんでもないぞ。
「ああっ、もう、だから休息が必要なの」
「はあ……。わたし、呪われてるかも……」
「気になるの?お友達のこと……。心配しないでも大丈夫よ。緒川くん達から事情の説明を受けているはずだから」
「そう……ですか……」
 立花の心配そうな表情。小日向に色々と隠して活動していたからな……この後の展開は、何となく読めてしまう。
「機密保護の説明を受けたら、すぐに解放されるはずだ。でも、後でしっかり立花の口からも説明するんだぞ?難しいなら、俺も手伝うぞ」
「ありがと翔くん……」
 
「そういや翔くん、君のお友達は?」
 友里さんが心配そうに尋ねてくる。まあ、純に限って問題を起こすとは思えないが……。
「あの雪音って娘を追いかけていきました。なんでも知り合いみたいで……」
「爽々波純。雪音夫妻とは交友関係にあった音楽家夫婦、爽々波夫妻の長男ですね?」
「さすが藤尭さん。もうそこまで調べてたんですね」
 藤尭さんは頷くと、現在スマホのGPSを追って捜索している事を教えてくれた。
 もっとも、純はスマホの電源を落としているらしく、現在は街中の監視カメラを確認している状態らしいのだが。
「あいつは機密をバラすようなやつじゃありません。雪音を探し終えたら、きっと戻ってきますよ」
「ついでに彼が見つけてくれているといいんだけど……。まさか、雪音クリスと共に、イチイバルまで敵の手に渡っているなんて」
「聖遺物を力に変えて戦う技術において、我々の優位性は完全に失われてしまいましたね」
「敵の正体、フィーネの目的は……」
 藤尭さんのボヤきに、友里さんも同意する。
 ようやく姿を現した黒幕。しかし、その目的や正体に関しては、全てが未だ謎に包まれている……。
 果たして、奴は何を企んでいるんだ?
 雪音は確か、戦争の火種を消すとか、人類は解放される……とか何とか言っていたような気がするが……。
 叔父さんも同じ事を考えているのか、ソファーに座って考え込んだままだし……。
「深刻になるのは分かるけど、うちの装者は三人とも健在。頭を抱えるにはまだ早すぎるわよ?」
 了子さんが笑ってそう言った。
 やれやれ。こんな時にこそ、この人のマイペースさはこの職場を和ませる。ムードメーカーはやっぱり大事だなぁ。
 
「司令、戻りました」
 そこへ、姉さんが入ってきた。叔父さんは姉さんの姿を見て、ソファーから立ち上がる。
「翼!まったく、無茶しやがって」
 口ではそう言っているものの、叔父さんは何処か分かっていたような顔だ。
 もうすっかりいつも通りな姉さんに、むしろ安心しているんだろう。
「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に伏せっているなど出来ませんでした!立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、私や弟と共に戦場
いくさば
に立つには十分な戦士に相違ないと確信しています」
「姉さん……」
 あの姉さんが、立花を認めた……。
 その事実に驚いていると、姉さんは俺達2人を交互に見てから笑った。
「完璧には遠いが、2人の援護くらいなら、戦場に立てるかもな」
 立花が嬉しそうな顔で、姉さんに宣言する。
「わたし、頑張ります!」
「俺もだ。姉さんが本調子に戻るまでの不足分は、俺が頑張って埋めてみせる」
「頼もしいな、二人とも。それでこそ、私が背中を預けるのに相応しい」
 姉さんの顔が、前よりもキラキラしている気がする。
 もう姉さんは、孤独に戦う必要が無いんだ。そう思うと、ちょっと泣きたくなって来た。2人の前だから、絶対泣かないけどな。
 
「そう言えば、翔と響くんのメディカルチェックの結果も気になる所だが……」
 そう。実は俺も、立花のついでにメディカルチェックを受ける事になったのだ。なんでも、この肉体に融合している生弓矢の状態を確認しておきたかったとか。
「少し疲れはありますけど、大きな怪我はありませんし、大丈夫ですッ!」
 俺が自分の結果を答えるより先に、立花は元気いっぱいにそう言った。
 うん……俺、やっぱりこんな風に、元気いっぱいの立花が好きだ。
「んー、そうねぇ。どれどれ?」
 ……と、その時だった。了子さんが指先で、立花の左胸をつんつん、と突っつく。
「にょああああああああああ!?なななな、なんてことをッ!?」
「了子さん!?また立花にセクハラして!!」
 立花が悲鳴を上げながら胸を庇い、俺の背後に隠れる。
 俺も反射的に立花を庇う構えを取ってしまい、了子さんはその様子を見て笑っていた。
「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が、前より体組織と融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はそのせいかもね」
「だからって立花の胸を突っつくことはないでしょう!?」
「え~。でも翔くんがやると、問題でしょう?それとも私の代わりに翔くんが触診してくれるのかしら?」
「しょっ、触診ッ!?」
「ななななな、何のつもりの当てこすりですか!冗談にしても限度がありますよ了子さん!!」
 立花の方を見ると、立花も俺の方を見て真っ赤になっていた。慌てて顔を逸らす。
 了子さんめ……まさか、気付いててこんな事を言っているのか!?
 だとすれば、なんという趣味の悪さだ……。俺達の恥ずかしがってる姿を肴に愉悦酒飲んでないだろうな!?
 
「融合……」
(聖遺物と人の融合……?そんな状態で、翔と立花の身体は大丈夫なのか?)
 翼はふと、了子の言葉に疑問を覚える。聖遺物という異端技術の塊、それが人間の体組織と融合する事そのものに違和感はない。そういう事もありうるのだろう。
 だがしかし、果たして人体にとって異物であるはずの聖遺物が融合して、その肉体にデメリットは存在しないのか。翼は考える。
(──いや、問題を孕んでいるのならば、櫻井女史が軽々に話題にする事は無いはずだろう。問い質す必要は無い筈だ)
 聖遺物研究のプロである了子を信用し、翼はその疑問を振り払う。
「ところで翔くん、知ってるかしら?響ちゃんの胸の傷痕、翔くんが生弓矢を突き刺した時にできた傷痕と同じ形してるのよ~」
「ちょっと了子さ~ん……って、翔くんそれ本当?」
「あ、ああ……まあ、その……知ってるというか、なんというか……」
「へ?……って、ああー!!やっぱり見てたじゃん!翔くんのエッチ!!」
「だっ、大事な所は見てないと言っただろう!傷痕と鎖骨と肩以外が目に入る前に、なんとか顔を逸らしてドア閉じたんだからな!?」
「見た場所全部覚えてるじゃん!このスケベー!」
 というか、この喧騒を眺めていると、そんな疑問はあっという間に掻き消されてしまう。
「……って、翔!お前、今聞き捨てならない発言が飛び出していた気がするが!?」
「誤解だ姉さん、あれは事故なんだ!」
「え?翼ちゃん、翔くんのお姉さんなんでしょ?小さい頃は一緒にお風呂入ったりしてなかったの?」
「さっ、櫻井女史!そそそういう話を持ち出すのはどうかと思いますが!?」
 翼にも飛び火した騒動は、この後しばらく続いた。
 
「……ふむ。つまり、翔と響くんの体に問題は無いのだな?」
 弦十郎の言葉でようやく騒ぎが静まり、ようやく翔の爆弾発言から始まった話が終わる。
「はいッ!ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」
「はい。俺もいつも通り、飯食って一晩寝れば何とかなりますよ」
「大丈夫よ、あなた達2人は可能性なんだから~」
 しかし、響の心には不安があった。
 一番あっかいところで眠れれば、また元気になれるだろう。でも、そのあったかい親友は今、どんな気持ちでいるのだろう。
 嘘をついていた自分に対して、怒っているのではないだろうか?
 響と未来の関係は今、雲行きが怪しくなり始めていた。 
 

 
後書き
そろそろ露骨に見えてきますよね。誰とは言いませんが!
クリスちゃんが迷子を送り届け、純くんがクリスちゃんを探し続けている頃、ひびみくの雲行きが怪しくなり、翔は親友と想い人を心配し、翼さんは弟と未来の義妹の身体に不安を抱き始め、OTONAは親友に疑念を持ち始め、そして緒川さんは忍びなれども忍んでいた……。
この夜は皆何かしら大変ですね……。

クリス「1度目は見えていなかったとはいえ関係ない奴と一緒に吹き飛ばし、2度目は威嚇射撃とはいえ銃口向けてブッ放つ……。うう……あたしのバカ!ようやく逢えたジュンくんに2回も攻撃しちまうなんて、やっぱりあたしはもうあの頃には戻れねぇんだ!うわぁぁぁん!」
?「おねーちゃん、どうしてないてるの?」
クリス「なっ、泣いてなんかいねぇよ!……え?あたし?」
クリス(幼)「もしかして、だれかとケンカしたの?」
クリス「……ああ。ジュンくんに酷い事しちゃったんだ……。きっと、嫌われたよな……」
クリス(幼)「ジュンくんと?……ううん。ジュンくんはきっと、おねーちゃんのこと、キライになんかならないよ」
クリス「え……?」
クリス(幼)「だってジュンくんは、いまでもおねーちゃんのことだいすきだもん!えへっ♪」
クリス「ジュンくんは……あたしのこと、今でも大好き……」
クリス(幼)「だって、いつも、どんなときでもおーじさまは、おひめさまをたすけてくれるんだよ?12じになってまほうがとけても、カエルにされても、とじこめられてたって、ぜったいにたすけてくれる。だから、ジュンくんはぜったいにおねーちゃんをむかえにきてくれる。ぜったい、ぜ~ったい!」
クリス「魔法が解けても、カエルにされても、閉じ込められたって絶対に……か」(左手の薬指に、あの日の思い出を幻視しながら)
クリス(幼)「だから……」
──だから、おねーちゃんはいまでもきっと……。
クリス「……今でもきっと?おい、何なんだよ!その先教えてくれよ!!」(目の前から消えたクリス(幼)に答えを求めてベンチを立つ)
クリス「夢、か……。でも……あたしはまだ、ジュンくんにとっての『お姫様』……なのかな?」

本編補完、タイトルは『あの日のあたしが知る答え』
答えはきっと、2人の胸に。

さて、次回はとうとう未来さんの中の393が百合特有のオーラを放つあの回ですねぇ。
我が国(?)は『OTOME』『OTOKO』『YOME』の3つに分かれ、混沌を極める事になるのでしょう。次回もお見逃し無く! 

 

どちらも思うは君のため

 
前書き
この頃は確か……そう。人生初!メロンブックスで薄い本買いました!
うにょん先生の「ビッキーかわいい!シリーズ」の最新刊!
勢いでポチろうとしてそのまま登録しちゃったワケダ。本体より手数料の方が高くついたけど、後悔はない!
むしろ人生初購入の同人誌としては最高でした。可愛いビッキーのイチャイチャを描くという意味では、自分の大先輩と言っても過言ではない方の作品ですからね。これは既刊も欲しいなぁ……。

さて、本編に関してですが、個人的最難関ポイントにして関所だったもの。それが393問題。
393が響を思った上で何に対して怒るのか、これを掴むのが中々大変でしてね。
その末にこんな形になりましたとさ。それではどうぞ! 

 
「た、ただいまー……」
 鍵の空いた玄関から部屋へ入り、恐る恐る顔を覗かせる。
 未来はとっくに着替えていて、不機嫌そうな顔で雑誌を眺めていた。
「ねえ、未来……。なんていうか、つまり、その……」
「おかえり」
「あ……うん、ただいま。……あの、入っても、いい……かな?」
「どうぞ。あなたの部屋でもあるんだから」
「うん……」
 他人行儀な態度に、未来がとっても怒っているんだと実感させられる。
 わたしがもう少し、話せるところは誤魔化さずに話していれば……。
「あ、あの……ね……」
「何?大体の事なら、あの人達に聞いたわ。今更聞くことなんてないと思うけど」
「……未来」
 雑誌を閉じ、テーブルに置くと立ち上がって、わたしの方を見ながら叫んだ。
「嘘つきッ!どうしてわたしに黙ってたの!?わたしが毎晩どれだけ心配してたか分かってる!?」
「そっ、それは……」
「それに風鳴くんとの事だって、どうして隠してたの!?隠す必要なんて無かったでしょ!!」

 未来の言葉が突き刺さる。わたしの事、こんなに心配してたのに……わたしはそれにも気付かずにいたなんて……。
「未来、聞いてほしいんだ。わたし──」
「どうせまた嘘つくんでしょ。わたし、もう寝るから」
 そう言って未来は、二段ベッドの下の方……本当なら未来が眠っているべき場所のカーテンの奥へと入って行った。
 カーテンの間から顔を覗かせると、未来は布団を被って壁の方を向いていた。
「……ごめん」
 絞り出せたのは、ただその一言だけだった。
(……嘘つくつもりなんて、なかったのに。ただ、未来を巻き込みたくないだけだったのに……)
 ふと、部屋の隅に置かれたピアノの上を見ると、中学の頃に2人で撮った写真が目に入った。
 写真の中のわたし達は、満面の笑みで笑っている。
 今までこんなに大きな喧嘩なんて、した事なんてなかったのに……。未来に危ない目に遭ってほしくなかったから、黙ってたのに……。
 わたし、どうすればいいんだろう……。
 
(……ごめんね、響……本当にゴメン……)
 口をついて出た言葉を、わたしは布団の中で後悔した。
 風鳴くんとの事、ちゃんと向き合うって決めたのに……。響がノイズと戦っている事を黙っていたのも、わたしを危ない目に遭わせない為だって分かっているのに……。
 それなのにわたしは……響の事、嘘つきだって言っちゃった。
 風鳴くんの事も偽善者だなんて言って後悔したばっかりなのに……。
 わたし……やっぱり、嫌な子だ。
 そう思うと、わたしなんかが響みたいな優しい子の友達で、本当にいいのか……。そんな迷いが、私の中で渦巻き始めた。
 
 ∮
 
(……装着した適合者の身体能力を引き上げると同時に、体表面をバリアコーティングする事で、ノイズの侵食を阻止する防護機能。更には、別世界に跨ったノイズの在り方を、インパクトによる固有振動にて調律。強制的にこちら側の世界の物理法則下に固着させ、位相差障壁を無効化する力こそシンフォギアの特性である。同時にそれが、人の扱えるシンフォギアの限界でもあった……)

 自身のラボの机にもたれ、手元の珈琲カップをもてあそびながら、櫻井了子は思案していた。

(シンフォギアから開放されるエネルギーの負荷は、容赦なくシンフォギア装者の身体を蝕み、傷付けていく。その最たるものが"絶唱"……。人とシンフォギアを構成する聖遺物とに隔たりがある限り、負荷の軽減はおよそ見込めるものではないと、結論づけている。それが()の櫻井理論だ)

 珈琲を一口啜り、研究室の壁にセロテープで貼り付けた写真を見る。

(この理を覆す可能性があるなら、それは立花響。そして風鳴翔。人と聖遺物の融合体第1号と第2号……。天羽奏と風鳴翼のライブ形式を模した起動実験で、オーディエンスから引き出され、更に引き上げられたゲインにより、ネフシュタンの起動は一応の成功を収めたのだが……立花響は、それに相当する完全聖遺物、デュランダルをただ1人の力で起動させる事に成功する……)

 よく見れば研究室の壁中が写真だらけであり、その写真はいずれも響、そして翔のもので溢れていた。
 日常風景から友人と過ごしている姿まで、いつの間に撮ったのか分からないものも多い。更には『見守り隊』が撮影した、翔と響の2人を中心に写したものも多く混ざっている。

 更に部屋の隅には、広木防衛大臣の血痕が残るケースも置かれていた。

(人と聖遺物がひとつになる事で、さらなるパラダイム・シフトが引き起こされようとしているのは、疑うべくもないだろう。人がその身に負荷なく絶唱を口にし、聖遺物に秘められた力を自在に使いこなす事が出来るのであれば、それは遥けき過去に施されし“カストディアンの呪縛”から解き放たれた証……)

 机のディスプレイに表示されているのは、響と翔のレントゲン写真だ。
 二人とも心臓を中心に、聖遺物が肉体を侵食して癌細胞のように広がっているのがひと目でわかる。彼女はそれを知りながらも、誰にもそれを話さない。
 彼女は自らの真の目的のため、融合症例の詳細を誰にも明かすつもりがないのだ。

(──真なる言の葉で語り合い、人類(ルル・アメル)が自らの手で未来を築く時代の到来……。過去からの超越!)

 櫻井了子を名乗る彼女は、その野望を次の段階へと進める為に動き出そうとしていた。
 立花響と風鳴翔。2人のシンフォギア装者のデータと、起動したデュランダルを見て、誰にも知られること無くほくそ笑みながら……。
 
 ∮
 
「……」
 昼休みの食堂。未来は窓際の席で、黙々とローストビーフを食べていた。
「……ここ、いいかな?」
「……」
 響の言葉にも答えず、彼女はただナイフとフォークを動かして、次の一口を進めるのみだ。
 響はチャーシューメンの乗ったお膳をテーブルに置き、未来の向かいに座った。

「あのね、未来、わたし……」

「何だかいつもと雰囲気が違うのですが?」
 振り向くとやって来たのは、安藤、板場、寺島の3人だった。
「どういうことー?よくわかんないから、アニメで例えてよ」
「これはきっとビッキーが悪いに違いない。ごめんねー、ヒナ。この子馬鹿だから許してあげてね」
 事情は分からないものの、何となく喧嘩した事だけは察した安藤が、茶化すようにそう言った。

「そういえば、音楽史のレポートの事、先生が仰ってましたが……」
「提出してないの、あんた一人なんだってね~。大した量じゃないのに、何やってんだか」
「あはは……」
 さすがに翔に頼りっきり、という訳にもいかないと感じた響は、今回は翔に頼らずにレポートを進めていた。
 だが、度重なる任務により、彼女は全くと言っていいほどレポートに手を付けていなかったのだ。
 ……既に慣れている翼、並びに任務の合間でもしっかりレポートの提出はこなしている翔には、そんな悩みは全く存在しないのだが。

「ビッキーってば、内緒でバイトとかしてるんじゃないの?」
 安藤の何気ない一言に、未来の手が止まる。
「ええっ!?響がバイトぉ!?」
「それってナイスな校則違反では?」
「それかやっぱり、噂の翔くん。もしかして、毎晩こっそりデートしてたり~?」
「えええええッ!?び、ビッキーってばいつの間に大人の階段を……」
 
 ガタンッ
 
 ナイフとフォークを置き、音を立てて席を立った未来は、そのまま何処かへと走り去ってしまう。
「あっ、未来ッ!」
 それを追って、響も行ってしまう。一口も手をつけられていないチャーシューメンをテーブルに残して。
「……もしかして私達、何かマズイこと言っちゃった?」
 険悪な雰囲気を崩すつもりが、悪化させてしまった事に気が付き、安藤達3人は顔を見合わせ、2人が走り去った先を見るのだった。
 
 ∮
 
(──わたしが悪いんだ……)
 息を切らせて階段を上る。着いた先は屋上だ。
「未来ッ!」
 昇降口から外へ出ると、未来はそこで静かに立っていた。
「……ごめんなさい!」
「どうして響が謝るの?」
 こっちを振り向かずに未来はそう言った。
「未来はわたしの事、ずっと心配してくれてたのに、わたしはずっと未来に隠し事して心配かけ続けてきた……。わたしは……」
「言わないで」
「あ……」

 振り向いた未来は、泣いていた。
「これ以上、わたしは響の友達でいられない……ごめんっ!!」
 その一言を最後に、未来は走り去って行く。
 後ろでバタン、と昇降口がとじた音がした。

「……どうして、こんな……」
 わたし、未来を泣かせちゃった……。わたしは、親友に嘘をつき続けた。
 だから未来は、わたしの事……嫌いになっちゃったのかな……。
「いやだ……いやだよぉ……」
 もう未来は、わたしの友達でいてくれないのかな……。
 そう思うと、どんどん涙が零れてきた。
「うッ、ひッ、……ぅ、ぅあぁああぁ……ッ」
 わたしの涙は屋上の床に落ち、嗚咽は青空へと吸い込まれて行った。翔くんが心配していたのって、こういう事だったんだ……。
 翔くん……未来ぅ……。わたし、どうすればいいのかな……?
 
 ∮
 
「I'm sure this is a request, but I'm saying that my job is too ugly.(確かにこちらからの依頼ではあるけれど、仕事が杜撰すぎると言っているの)」
 その夕刻、例の館ではフィーネが苛立ちを顕にした声で電話に出ていた。
「If you put your foot on it, you won't be able to move. If it's your thoughts too──(足がつけばこちらの身動きが取れなくなるわ。まさか、それもあなた達の思惑というのなら──)」
『It is impossible for anything that is not God to interfere with everything. Perhaps you know best.(神ならざるものが全てに干渉するなど不可能。お前自身が一番わかっているのではないか)』
 これ以上は話しても埒が明かないと判断したフィーネは、そのままガチャリと電話を切る。
「……全く。米国の犬はうるさくて敵わないわね。いっそ用済みのクリスでもイチイバルごとくれてやろうかしら──」
 
 バァンッ!
 
 勢いよく扉が開き、そこへクリスが現れる。
「あたしが用済みってなんだよ!もういらないってことかよ!あんたもあたしのことを『物』のように扱うって言うのかよ!頭ん中グチャグチャだ!何が正しくて何が間違ってんのか分かんねぇんだよ!!」

「……どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら……」
 ゆっくりと椅子から立ち上がったフィーネは、ソロモンの杖をクリスの方へと向ける。
 放たれたノイズが、クリスの前に立ち塞がった。
「さすがに潮時かしら……」
「なんでだよフィーネ……どうしてあたしを……?争いのない世界が作れるって、だからあたしは……」

「ええ、そうね。あなたのやり方じゃ、争いをなくす事なんて出来やしないわ」
「なっ……!?」
 フィーネは静かに、そして残酷にその現実を突き付けた。
「せいぜいひとつ潰して、新たな火種をふたつみっつばら撒く事くらいかしら?」
「あんたが言った事じゃないか!痛みもギアも、あんたがあたしにくれた物だけが──」
「私の与えたシンフォギアを纏いながらも、毛ほどの役にも立たないなんて……そろそろ幕を引きましょうか」
 フィーネの右手が青白く輝き、その身に光が集まっていく。
「その光……ネフシュタンの鎧を!?」
「私も、この鎧も不滅……。未来は無限に続いて行くのよ……」
 光はネフシュタンの鎧を形成し、光が弾けるとフィーネは、クリスのものとは違い、金色に変化したネフシュタンの鎧に身を包んでいた。

「カ・ディンギルは完成しているも同然。もうあなたの力に固執する理由はないわ」
「カ・ディンギル……?そいつは──」
「あなたは知り過ぎてしまったわ。だからね、フフ、フフフ……」
 ソロモンの杖がクリスへと向けられる。
 次の瞬間、ノイズ達は変形してクリスの方へと突っ込んでいった。
「うわあっ!?うっ、く……ッ!」
 慌てて部屋を飛び出し、廊下を走って逃げるクリス。
 それをゆっくりと追いかけながら、フィーネは呟く。
「無駄に囀る鳥に価値はないわ。そのか細い喉を切り裂いて、二度と唱えなくしてあげる」
 這う這うの体で足を進めるクリスだったが、館の玄関口を出た所で躓き、転んでしまう。
 その直後、扉からフライトノイズが3体、空へと急上昇して行った。
 運良く助かったものの、早く立ち上がらなければフィーネかノイズ、どちらかは確実に彼女の命を奪うだろう。
(本気で……フィーネはあたしの事を……)
 背後から、加虐的な笑みを浮かべて迫るフィーネを見て、クリスはようやく気が付いた。
「……ちきしょう」
 フィーネが自分の事を利用するためだけに、これまで『痛み』で自分を縛っていた事に。
「ちっくしょおおおぉぉぉぉッ!」
 
「それじゃあ、ごきげんよう」
 ギアを纏う暇もなく、こちらを振り向き立ち上がろうとするクリス。
 フィーネは容赦なく、躊躇いもなく……クリスへと鞭を振るおうとその手を振り上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ゼェェェェェェェェエエエヤッ!!」
 その人物は眼鏡を外して胸ポケットに入れると、左拳を握って走り出した。
 ノイズによって破壊された扉の向こう、廊下の奥から素早い足音が、気合いの掛け声とともに迫る。
 振り返るフィーネ。その瞬間、彼女の顎に鈍い痛みが走った。
 フィーネが腕を振り上げた時、反射的に両腕で顔を守っていたクリスだったが、その声に腕を下ろし……その目を見開いて驚いた。

「ジュン……くん……?」

 そこに居たのは、不意打ちでフィーネに華麗なアッパーカットを決める純だった。
 愛する人の命を狙う者へと、赤く燃えたぎる怒りを込めた拳を見舞う彼の左手首から上は、まるで体表に張り付いたような銀色の鎧に覆われていた。 
 

 
後書き
英訳部分?もちろんGoogle先生のお世話になりましたとも……。
しかし今回、XVまで見終えてると色々懐かしい回になったな……。
ひびみく初の夫婦喧嘩とか、カストディアンの名前が初めて出てきたりとか。フィーネの盛大な勘違いとか……。

不滅の鎧に導かれるまま、漸く出逢う王子と姫君。
黒縁眼鏡が外れた時、ブラックホールが吹き荒れる!
次回、『第1部、完』
ラスボスが早めに倒れたので、次回からは日常系ラブコメメインのシンフォギアを……。
フィーネ「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!」
……はい、嘘です!まだまだシリアス続きます!

暑苦しい友人「なあなあ、純のやつが無断欠席なんて珍しいな?」
クールな友人「翔、君は何か聞いていないのかい?同じ寮の親友なんだろう?」
翔「あー……純なら珍しく風邪を引いてな。今は寮で寝てるんだ」
双子の友人兄「この時期に風邪か……。心配だな、見舞いに行ってもいいだろうか?」
双子の友人弟「兄さんと同意見だ。お見舞いなら、僕も行こう」
翔「大丈夫だ。本人も伝染したくないらしいし、ちゃんと薬飲んで寝れば治るって言ってたぞ」
クールな友人「そうか……。では、今回は遠慮しておこう。あまり大袈裟に心配しても、困らせてしまうからね」
暑苦しい友人「悪化したりしたら呼べよ!?何か手伝える事とか、欲しいモンとかあったら俺達で何とかしてやっからな!」
翔「ああ。純にもそう伝えておくよ」
翔(やれやれ……純、お前は本当に何処へ行ったんだ……)

カットされたアイオニアンでの会話シーンです。
友人達の名前は決まっていないのですが、CVが余裕でわかりますね(笑)
まさかこの頃は名無しモブだった彼らに、後々キャラ名と個性が与えられるとは、作者自身も予期してませんでしたよ……。

次回、フィーネの前に飛び出し、不意打ちで顔に一発決めたOUJI!
その手にはなんと、回収し損ねたネフシュタンの鎧が……どうなる次回!? 

 

陽だまりと雪姫

 
前書き
前回、とんでもなくウルトラな感じの幕引きで終わりましたが、はてさてどうなるのでしょうね(笑) 

 
「ジュンくん!?」
 フィーネを思いっきり殴りつけ、純くんはあたしの方を見て叫んだ。
「クリスちゃん、今の内に逃げて!早く!」
 フィーネは不意打ちで顎に一撃もらってふらついてる。逃げるなら確かに今の内だ。

 でも、ジュンくんはどうする!?
「ジュンくんは!?」
「僕も直ぐに追いつく!だから信じて走れ!逃げるんだ!」
 振り向いて叫んだあたしに、ジュンくんはそう返した。
 その必死な目には、本気であたしを助けて追い付いてやる、という意思が宿る。
 ……そんな目で、そんな事言われたら……信じるしかないじゃねぇかよ……!
「ジュンくん……絶対だからなッ!いいな!!」
 ジュンくんは強く頷くと、フィーネに向かい合って再び拳を構える。

「おのれ……逃がすか!!」
 ソロモンの杖をあたしの方へと向けようとするフィーネ。
 それをジュンくんがもう一度殴ろうとして、今度は止められるところまでは見ていた。
 ギアを纏って助けないと、なんて考えはその時のあたしには浮かばなかった。
 頭ん中がグチャグチャで、どうすればいいのか分からなかったあたしは、ただ、追ってくるノイズから逃げる事しか出来なかった……。
(ジュンくん……絶対、無事に戻って来いよ……!約束破ったら承知しないからな!!)
 
「やってくれたわね……」
 そう言ってフィーネは、忌々しげに純を睨む。
「クリスちゃんは僕が守る。そう決めてんだよ……ぐッ!?うう……」
 急に左手首を掴むと、痛みを堪えるように唸る純。

 その左手を見て、フィーネは純が何をしたのかを察した。
「ボウヤ、さてはあの時砕けたネフシュタンの鎧の欠片を、自分の左手に纏ったのね?」
「アンタが回収する時、咄嗟に拾ったんだ……。そしたら欠片は、僕をこの場所まで導いてくれた。しかも、左手にずっと握ってたらか、アンタがクリスちゃんに迫った辺りで拳を握った時、欠片はこの形に……ぐううっ!?」
「ふぅん?でもそれ、体組織を侵食しちゃうから、と~っても痛いと思うんだけど?」
「彼女が受けて来た苦しみに比べれば……彼女を救えるならこの程度、安いものさッ!」

 力強く宣言する純。それを聞き、フィーネは嗤う。
「ハッ、やっぱり痛みだけが人の心を繋ぎ、絆と結ぶのね」
「バカ言うんじゃねぇよ。アンタみたいなのが絆を語るなんざ……2万年早いぜ」
「へぇ?じゃあ、ボウヤは違うって言うの?」
 右手で逆ピースを向けながらそう言う純に、フィーネはそう返す。
 すると純は胸に手を当てながら言った。

「絆ってのはな、痛みなんかじゃない……心で結ぶもんだ!相手を思ってその手を伸ばし、手と手を取り合い、そして繋げていく!それが絆、それが愛!愛こそが絆を結ぶ事を、僕はここに立つことで証明する!彼女を隠す夜を超え、ようやく見つける事ができた、この僕自身が!!」
「なるほど……。それがボウヤの考え方、ね。じゃあ、その愛とやらで私に勝って見せなさい!!」
 フィーネの鞭が振るわれ、純はそれを避けるとフィーネの懐へと飛び込んで行った。
 王子様を目指す少年は果たして、魔女に勝てるのか……。勝負の行方は──。
 
 ∮
 
 夜明け前からの雨の中、クリスは路地裏をふらふらと彷徨っていた。
 一晩中、追っ手のノイズを迎撃しながら逃げ続けた彼女は、既に1日は何も食べずに街と館を往復していた。
 既に体力は限界を迎え、足取りもおぼつかない。
 遂にクリスはその場に倒れてしまった。

(……すぐに追いつくって……言った、じゃねぇか……)
 自分を逃がしてあの場に残った純。彼が来ない事実に、最悪の展開を想像し……クリスは震えた。
(ジュンくんの馬鹿ッ!……本当は、一緒に逃げてほしかったのに……。そしたらあたしは、何処へだって……)
 冷たい雨が頬を打つ。重なった疲労で全身が重く、濡れた衣服は肌に張り付いている。
 既に立つ力さえ残っておらず、クリスは目を閉じた。
(全部あたしが悪いんだ……ごめん……ジュンくん……)
 
「あっ!?ねぇ、大丈夫!?……どうしよう、救急車呼ばなきゃ!」
「やめろ……ッ!」
 傘を落として駆け寄ったその声に、クリスは反射的に口を開いていた。
 目を開けると、つい先日巻き込んでしまった一般人……小日向未来が顔を覗き込んでいる。
「やめろって言われても……そんな……」
 困惑した顔の未来に、クリスはそれでも病院への電話をやめるように伝える。
「病院は駄目だ……あッ、ぐッ……!ううぅ……ぅ……」
 大人を信用出来ず、今やノイズに追われる身。クリスにとって病院へ行かない理由など、それで充分だった。
 そして、言い終えるのと同時に、クリスは気を失ってしまった。
(この子、何か事情があるのかな……。でも、だったらどうすれば……あ、そうだ!)
 未来は何やら思いついたように、気を失ったクリスの肩を支え、引きずるようにある場所へと向かっていった。
 
 ∮
 
『ノイズですか?』
『ああ。市街地第6区域に、ノイズのパターンを検知している。未明という事もあり、人的被害がなかったのは救いではあるが……』
 登校してからしばらく。叔父さんから通信が入った。
 内容は、早朝にノイズ出現を検知した事だった。しかも、その反応は直ぐに消えたらしい。
「叔父さん?その含みのある言い方、まさか?」
『ああ。ノイズと一緒に聖遺物、イチイバルの反応も検知された』
『って事は師匠、クリスちゃんがノイズと戦ったって事でしょうか?』
『そうだろうな……ん?どうした響くん?』
『……あの子、戻るところないんじゃないかと思って……』
『そうかもな……』
 立花の言葉に、一昨日の雪音とフィーネの会話を思い出す。
 あれは確かに解雇通告。利用価値が無くなった人間を切り捨てる悪党のセリフだった……。確かに、行くアテもなく彷徨っている可能性は高い。
 
 そして純もまた、あれから戻って来ていない。いや、昨日の夕方にメールは届いたが……。
 メールの内容は『クリスちゃんを発見。連れて帰るから待ってて』とだけ書いてあった。
 しかし一晩経っても戻って来ないのは妙だ。今、メールの発信地を藤尭さん達が探している。既に場所は絞り込めており、黒服さん達を向かわせているらしいけど……。
『この件については、俺が直接現場で捜査を続ける。2人は指示があるまで待機していて欲しい』
『はい、分かりました……』
「了解……」
 叔父さんが通信から抜け、後は俺と立花だけの回線となった。

「立花、あれから小日向とはどうなんだ?」
『それが、わたしより早く出たはずなんだけど、学校に来てなくて……』
「無断欠席か?今朝のノイズ、被害者は出てないらしいから、心配ないとは思うが……」
『うん……でも……』
 立花は昨日、小日向と喧嘩してしまった事を語った。とても辛そうに、今にも泣きだしそうな声を、絞り出すように。
 コミュニケーション不足が原因だとは思うが……こればっかりは、俺達二課のサポートが足りていなかったのも問題かもしれない。
 せめて誤魔化すための法螺話くらいは授けておくべきだった筈だ。

 そして、その相談を二課で唯一受けていたのは俺だけ……。叔父さんに話を持ちかけなかった俺の落ち度でもある。我ながら情けない話だ……。
「放課後、俺もそっちに行く。小日向探して、2人でちゃんと謝るぞ」
『うん……ごめんね。翔くんも、友達が行方不明で大変なのに……』
「気にするな。しかし……このタイミングで2人が無断欠席、か。案外、雪音クリスが関わっていたりするかもしれないな」
『え……?』

 ほんの偶然、ただタイミングが重なっただけだとは思う。
 しかし、立花がシンフォギア装者だと小日向にバレたのも、純が戻って来ないのも、一昨日の雪音クリスとの出会いを発端に始まった事だ。何かの因果関係を感じずには居られなくなってしまう。
「ただの妄言だ、真に受けなくていい。じゃ、また放課後にな」
『分かった。またね』
 通信を終え、通信機をポケットに仕舞って教室へと戻る。
 あ……純は今日も寝込んでるって事になるけど、あの4人になんて言われるかな……。
 いつも集まってはバカ騒ぎで盛り上がる友人4人を思い出し、俺は純が休んでいる理由をどう誤魔化すか考えながら、教室へと入って行った。
 
 ∮
 
 暗闇の中を、雨に濡れながら、息を切らせて走る。
 
 走って、走って、走り続けて。だけどその先に、ゴールは見えない。
 
 一寸先も、そのまた先も、ずっとずーっと闇だらけだ……。
 
 あたしは、どこを目指して走ればいいんだろう?
 
 ……顔を上げると、そこには見覚えのある後ろ姿があった。
 
 一昨日見たばかりの、学生服を着たジュンくんだ。
 
「ジュンくんッ!!」
 
 その背中を追いかけて、走る。
 
 走る。走る。走る。
 
 でもジュンくんには全然追いつけなくて、それどころかジュンくんはあたしからどんどん遠ざかっている。
 
 ……違う、遠ざかってるのはジュンくんじゃなくて、あたしの方だ。
 
 それに気が付いた瞬間、目の前の背中は見えなくなってしまった。
 
「ジュンくん……ううっ、なんでだよぉ……。ジュンくん!!」
 
 膝を付き、涙を流す。地面を殴って嗚咽を漏らす。
 
 どうしてあたしは……。
 
 ジュンくん……何処に行っちまったんだよぉ……。
 
 
 
「ん……。……え、あ……ここ……は……?」
 目を覚ますと、見覚えのない木製の天井が広がっていた。
 ……あたしは……確か倒れて──。
 起き上がって見回すと、何処かの家の和室で、あたしは布団に寝かされていた。
 よく見ると服は体操着に着替えさせられていて、胸には『小日向』と名前が書かれている。

「良かった、目が覚めたのね。びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」
 起き上がったあたしの右に座り、洗面器に入った水にタオルを浸して絞っていたのは、一昨日うっかり吹き飛ばした黒髪の一般人だった。

「ここはどこだ!それにお前は──ッ!」
「あなたが病院は嫌だって言ってたから、知り合いの家を貸してもらっているの」
「なっ!?勝手な真似を……」
「未来ちゃん、どう?お友達の具合は」
 そこへ、洗濯物が入った籠を持ったおばさんがやって来る。
「目が覚めたところです。ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」
「いいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから」
「あ、ありがと……」
 何が何だか分からず、出た言葉はそれだけだった。
「目を覚ましてくれたし、取り敢えず身体拭こっか」
 そう言って、小日向って名前らしい黒髪は、新しいタオルを水に浸した。
 いまいち状況が飲み込めていないあたしは、されるがままに身体に付いた泥や寝汗を拭かれる事になってしまった。
 本当に、こいつはなんで、初対面のあたしなんかに……。 
 

 
後書き
終止符(フィーネ)vs(ゼロ)ってルビ振ると中々熱くないです?
終わりと原点、みたいな感じで。

クリス「くっ……腹が減って力が出ねぇ……」
翔「腹が減っては戦場(いくさば)には立てぬ!」
クリス「うおっ!?なっ、テメェはあん時の!?」
翔「落ち着け、今回はお前に渡す物があってやって来た」
クリス「何を今更ッ!……って、これは!?」
翔「焼きたてのパン、ハンバーグステーキ、ポテトサラダ、鮭のムニエル、オニオン入りコンソメスープ、蒸し野菜大盛り……その他諸々おかわり自由だ!」
クリス「……はっ!そっ、そんなモンであたしを釣ろうったって、そうはいかねぇぞ!」
翔「何を言っている。これは俺が用意したものではないぞ?」
クリス「えっ……?」
純「クリスちゃん、お腹空いてるだろうと思って……」(エプロンOUJI)
クリス「ッ!?これ、全部ジュンくんの……!?」
純「食べるかい?」
クリス「……ぐすっ……いただき、ます……」
純「食べる前に涙は拭いておこうね。あとナイフとフォークの持ち方は……」
(テーブルマナー教えつつ食べる姿を見守るOUJI)
翔「これにて一見コンプリート!」
響「うわぁ……美味しそうだなぁ……」(涎タラ~)
翔「あれはあくまで雪音の分だ。……そんなに腹が空いているのなら、俺が作るぞ?」
響「えっホント!?じゃあじゃあ、リクエストはね~……」
翔「リクエストは四人前だろ?やれやれ、冷蔵庫がスカスカになりそうだ」(とか言いつつ嬉しそうに笑う)
翼「(むう、何故か無性に羨ましいぞ……)緒川さ──」
緒川「退院したとはいえ病み上がりですからね。どうぞ、翼さん。鶏雑炊に、小松菜とえのき、高野豆腐の煮物です」(NINJAスマイル)
翼「緒川さんっ!」
未来「うわー、カップルだらけー」(棒読み)
暑苦しい友人「……なあなあ、俺らも出番増やしてもらえればよぉ、名前貰えたり、可愛い子と絡めたりすんじゃねぇの?」
クールな友人「早速作者に交渉してみよう。私は黒髪のあの子が……いや失礼」
暑苦しい友人「テメェ抜け駆けしようとしてんじゃねぇよ!言い出しっぺは俺だぞ!?」

本編が辛い時は、後書きで和ませつつ砂糖を盛るのが私です(笑)
しかし393にオチを付けさせようとしたら、いきなり頭の中に出張って来たファイヤーでミラーな感じの2人。
まさかこの後、リディアン三人娘と同じポジションで準レギュ化するとは……。

さて次回!
未来と交流を深めるクリス。しかし、そこへノイズ警報が鳴り響く!
現れたOTONAはとの出会いは、彼女に何をもたらすのか。
そしてタコ型ノイズ登場!走れ響、駆けろ翔!
次回も目が離せません!お楽しみに! 

 

優しく差し伸べられた手を

 
前書き
取るも取らぬも当人次第。

それでは、どうぞ今回もお楽しみください。 

 
「ありがと……」
「うん……」
「お前……何も聞かないんだな……」
 所々に痣や傷痕の目立つ背中を拭かれながら、クリスはそう呟いた。
「うん。……わたしは、そういうの苦手みたい」
 未来はクリスの背後で俯きながら、その言葉に答える。
「今までの関係を壊したくなくて、なのに、一番大切なものを壊してしまった……」
「それって、誰かと喧嘩したって事なのか?……あたしにはよく分からないことだな」
「友達と喧嘩した事ないの?」
「……友達いないんだ」
「え?」
 顔を上げてクリスの顔を覗き込む未来。
 クリスは、目を伏せながら、自らの過去を語り始めた。

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっとひとりで生きてきたからな。友達どころじゃなかった……」
「そんな……」
「たったひとり理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ……ッ!」
 フィーネに拾われる前の記憶がフラッシュバックする。
 現地の武装組織に捕まり、他の子供達と一緒に両手を縛られ、トラックで運ばれたこと。
 逃げられないよう両手を鎖で繋がれ、虐待を受けた日々。
 泣き叫んでも喚いても、大人達の気が済むまで終わる事のなかった痛み、苦しみ……。
「大人はどいつもこいつもクズ揃いだッ!痛いと言っても聞いてくれなかった……。やめてと言っても聞いてくれなかった……ッ!あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった……!」
「あ……ごめんなさい……」
 謝る未来を振り返り、ようやく乾いた下着と服を身につけながら、クリスは思い付いたように言った。
「……なあ、お前その喧嘩の相手、ぶっ飛ばしちまいな」
「えっ?」
「どっちがつえーのかはっきりさせたら、そこで終了。とっとと仲直り。そうだろ?」
「……できないよ、そんなこと」
「……フンッ。わっかんねーな……」
「でも、ありがとう。気遣ってくれて……あ、えーっと……」
「……クリス。雪音クリスだ」
 ようやく自己紹介してくれたクリスに、未来は微笑みかける。
「優しいんだね、クリスは」
「……そうかよ……」
「わたしは小日向未来。もしもクリスがいいのなら……わたしは、クリスの友達になりたい」
「あ……」
 クリスの手を、両手でそっと包むように掴んで、未来はそう言った。

 ∮

「で、まだ寝込んでんのかよ~純のヤツは!」
 赤髪の如何にも熱血体育会系、といったオーラが炎のように溢れ出ているクラスメイト、穂村紅介(ほむらこうすけ)は退屈そうな顔でそう言った。

「仕方ないだろ?本人も一晩で、は流石に言い過ぎてたかもって苦笑いしてたし。課題はしっかり手を付けてるから、安心しろって」
「ですが、やはり心配にはなります。翔、純の欠席が3日続いたら、その時は見舞いに上がりますよ」
 灰色の髪に切れ長の目、穂村とは対照的にクールな雰囲気をまとった友人、加賀美(かがみ)恭一郎(きょういちろう)の言葉に、翔は一瞬答えを迷う。
 何時帰ってくるのか分からない以上、それはそれで困るのだ。

「分かった。でも、あいつが断ったら日を改めてくれよ?」
「無論、承知しているさ」
「ところで翔、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?どうした、流星(りゅうせい)?」
 普段から本を読んでいることが多い、物静かな雰囲気をまとう文系男子、大野流星(おおのりゅうせい)が挙手しながら、翔へと問いかける。

「翔と純が、最近リディアンの生徒と一緒にいる所をよく見かけるって噂、本当なの?」
「えっ!?いやっ、それは……」
「こら流星、そういう質問はもっと静かにデリケートにだな!」
 臆面もなくクールな顔で親友の男女交際について聞き出そうとする弟を、慌てて咎めるのは如何にも堅物そうな雰囲気をした双子の兄、大野飛鳥(あすか)。俺と純がいつも絡んでいる友人4人は、いつもの様に俺の席の周りに集まって来ていた。

「兄さん、声」
「おっと……。とにかく、そういう質問はもっとデリケートに扱うものだぞ」
「でもよぉ、本当かどうか気になるじゃねぇか!なぁ、どうなんだ?本当なら、俺にも可愛い子紹介してくれよ!」
「うるさいですよ紅介。そもそも下心がダダ漏れです」
「んだよ!カッコつけてる癖にお前も彼女いねーのは、俺だって知ってんだぞ?」
「それは今関係ないでしょう!」
「まあまあ落ち着くんだ二人とも。それで、どうなんだい翔?僕もその話は耳にしている。君自身の話が嫌なら、せめて純の事についてくらいなら聞かせてくれないだろうか?」
 飛鳥にまでそう言われちゃ仕方ない。チラッと話しておくとするか。
 別に大して誤魔化す必要も無いからな。

 そう思って俺は4人に、立花と小日向の話をした。特に立花の話になると、こいつらやたら食い付きが激しくなった。
「お前ら、何揃ってニヤニヤしてるんだ?」
「いやー?」
「別に」
「「なんでもないさ」よ」
「そ、そうか……」
((((分かりやすいなぁ……))))

 その後しばらく、翔は無自覚に惚気けては4人をニヤニヤさせるのだった。

 ∮

 所変わってリディアンの屋上。手すりに寄りかかって黄昏れる響は、ぽつりと呟いた。
「未来……。無断欠席するなんて、一度もなかったのに……」
「何か、悩み事か?」
「翼さん……」
 声をかけられ振り向くと、そこには松葉杖で身を支えながら歩いて来る翼の姿があった。
「相談になら乗ってやるぞ。私はいつか、お前の姉になるのだからな」
「あっ、あああ姉だなんてそんな!気が早いですって!」
「ふふ……」
 響は翼を気遣い、屋上のベンチに二人で腰掛けると、俯きながら話を切り出した。

「……わたし、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るために、シンフォギアの戦士になるんだって。……でも駄目ですね。小さな事に気持ちが乱されて、何も手に付きません。わたし、もっと強くならなきゃいけないのに……変わりたいのに……」
 翼はふと、考え込むような仕草をすると、静かに答える。
「その小さなものが、立花が本当に守りたいものだとしたら、今のままでもいいんじゃないかな……」

 響の方に顔を向け、翼は続ける。
「立花は、きっと立花のまま強くなれる」
「翼さん……」
「……奏のように人を元気づけるのは、難しいな」
「いえ!そんなことありません!前にもここで、同じような言葉で親友に励まされたんです。それに、翔くんからも」
「翔も私と同じ事を?」
 翼は驚きながらも、何処か納得していた。血を分けた弟だ、そんな事もあるだろう。
 むしろ、姉弟の繋がりを感じる事ができて嬉しい。それが翼の本音だ。

「それでもわたしは、また落ち込んじゃいました。ダメですよね~……それより翼さん、まだ痛むんですか?」
「大事を取っているだけ。気にするほどではない」
「そっか、良かったです」
「……絶唱による肉体への負荷は極大。まさに他者も自分も、総てを破壊し尽くす"滅びの歌"。その代償と思えば、これくらい安いもの」
 自嘲気味にそう漏らす翼に、響はベンチを立ち上がる。
「絶唱……滅びの歌……。でもっ!でもですね、翼さん!2年前、辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからですッ!」
 翼は響の顔を見上げる。響は翼の顔を真っ直ぐに見ながら続けた。
「翼さんの歌が、滅びの歌だけじゃないってこと……聴く人に元気をくれる歌だってこと、わたしは知っています!」
「立花……」
「だから早く元気になってください!わたし、翼さんの歌が大好きですっ!」
「……ふふ、私が励まされてるみたいだな」
「え、あれ……?はは、あはははは」
 互いに励まし、励まされ、笑い合う二人。
 しかし──そこに、不穏な音が鳴り響いた。

 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!

「──警戒音ッ!?」
 響と翼は立ち上がり、二課の通信機を手に取った。
「翼です!立花も一緒にいます!」
『ノイズの反応を検知した!相当な数だ、恐らく未明に検知されたノイズと何らかの関連がある筈だ』
「分かりました、現場に急行します!」
 しかし、意気込む翼を弦十郎は厳しく静止する。
『駄目だ!メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳には行かない!』
「ですが!」
「翼さんは皆を守って下さい。だったらわたし、前だけを向いていられます」
 反論しようとする翼の言葉を、響の一言が遮った。
『姉さん、ここは俺と立花で何とかする』
「……わかった。任せたぞ、お前達!」
 通信機越しに弟からも言われては、引き下がるしかない。
 翼はリディアンに待機し、街のノイズを二人に任せる事にした。

 ∮

 友達になりたい。
 初めての言葉に、クリスは戸惑っていた。
 会ってそんなに経ってない、しかも初めて会った時に吹き飛ばした相手が自分に返したのは、心からの優しさだった。
 その優しさをどう返していいのか、どう受け止めればいいのか、彼女は分からないのだ。
「……。……あたしは、お前達に酷い事をしたんだぞ?」
「え……?」

 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!

「なんだ、この音!?」
「……クリス、外に急ごう!」
 未来はクリスの手を引いて、おばちゃんと共に店の戸を開いた。
 商店街の通りは、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の波ができていた。
「おい、一体何の騒ぎだ!?」
「何って……ノイズが現れたのよ!警戒警報知らないの?おばちゃん、急ごう!」
「ノイズが……?……くッ!」
 未来とおばちゃんは、人々と同じ方向……避難所への道へと向かう。

 だが、クリスはその逆の方向……ノイズの現れた場所へと逆走して行った。
「あっ、クリス!どこ行くの!?そっちは──」
 未来の声などお構い無しに、クリスは人の波をかき分けて走る。
(──バカだ……、あたしってば何やらかしてんだ……ッ!)
 地面に放り捨てられた猫のぬいぐるみが、拾われることも無く踏まれ、転がっていた。
 クリスの向かう先に戻ろうとする人など、一人も居ない。脚を動かす理由はただ、落とし前を付けるため……。

 ∮

(このノイズは……あたしのせいだ!あたしが、ソロモンの杖なんか起動させなければ!)
 商店街の外まで走り抜けると、クリスは息を切らしながら膝に手を付いた。
「はあ、はあ、はあ……。あたしのせいで関係のないやつらまで……。……あ、あああ……あああああああああああぁぁぁ……ッ!!」
 その瞳から大粒の涙をアスファルトに落とし、両膝を付いて空を見上げる。
「あたしがしたかったのは、こんな事じゃない──ッ!」
(戦いを無くすためなんて言って、あたしのやった事は──。関係ない奴らをノイズの脅威に晒しただけで──ッ!)
 助けてくれた未来とおばちゃん、そして逃げ惑う街の人々が浮かぶ。
「だけどいつだってあたしのやる事は……。いつもいつもいつも……ッ!」
 地面を叩き、嗚咽する。フィーネに捨てられた事よりも、フィーネに協力した自分の罪に心を苛まれていた。

キュピキュピッ!キュピッ!

「……来たな、ノイズども。あたしはここだ……だからッ!関係ない奴らの所になんて行くんじゃねぇ──ッ!!」
 迫り来る、自分の命を狙うように命じられた無機質な雑音達。
 立ち上がり、振り返り、吼えるように叫ぶ。
 ノイズ達はそれを合図にしたかのように、一斉に鋭利化させたその身体を射出する。
 それらを避けながら、クリスは聖詠を……。
「Killter Ic──げほ、げほッ!」
 しかし、走り続けて乱れた呼吸のまま無理に歌おうとした影響は、最悪のタイミングで咳として現れた。
 その隙を逃さず、上空から3体のフライトノイズが迫る。
「……ッ!」
(ああ……あたし、死ぬのか……。ごめん、ジュンくん……)



 どうしようもない諦めが、クリスの心を支配する瞬間……その男は現れた。



「──ふんッ!とぁッ!」

 震脚と共にメキメキと音を立てて捲れるアスファルト。捲れたアスファルトに突き刺さるフライトノイズ達。
 そしてその人物は拳でアスファルトを砕くと、その破片はノイズ達の方へと向かって飛んで行った。
 当然、位相差障壁でダメージは通らない。しかし、その破片で何体かのノイズは転倒する。
「なんだ!?」
「はああああああぁぁぁ……ッ!」
 拳を握り、格闘術の構えを取るその大人は……獅子の鬣のようにツンツンした赤い髪に、真っ赤なワイシャツを着た大きな背中の漢だった。

キュピキュピッ!キュピッ!

 しかし怯まず、左右から迫ろうとするノイズ。
「掴まれッ!……ふんッ!」
 だがその男は再び震脚でアスファルトを捲って盾にすると、クリスの身体を抱き抱え、そのまま四階建てのビルの屋上までひとっ飛びで跳躍した。
(え、ええ……ッ!?このおっさん、何者だよ……?)
「ふう……。大丈夫か?」
 困惑するクリスを他所に、超人的身体能力で彼女を救った男……風鳴弦十郎は、彼女の顔を覗き込む。
「あ、え……。はッ!追って来やがった……ッ!」
 弦十郎から離れ、逃げるように後退るクリス。
 しかし、そこへ5体ものフライトノイズが飛来する。
「さすがに振り切る事は出来なかったか……」
「……下がってな、おっさん。すう……」
 呼吸は落ち着いている。クリスは今度こそ、その身に魔弓の力を纏う聖詠を唱えた。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

「てりゃあーーッ!!」
 クロスボウから放たれる矢が、フライトノイズらをあっという間に全滅させる。
「ご覧の通りさッ!あたしの事はいいから、他の奴らの救助に向かいなッ!」
「だが……「こいつらはあたしがまとめて相手してやるって言ってんだよ!──ついて来い、クズ共ッ!」
 クロスボウをガトリング砲へと変形させ、ビルを飛び降りるクリス。
 引き金を引き、ミサイルを発射しながら宙を舞い、辺り一面に爆発と共に炎の華を咲かせていく。
「HaHa!! さあ It's show time 火山のよう殺伐Rain!さあ──」

 ノイズ達と戦いながら、街から遠ざかっていく彼女の姿を見て、弦十郎は呟く。
「俺はまた、あの子を救えないのか……」

 そして、その弦十郎とクリスを別のビルの上から見つめ、ソロモンの杖で何体かのノイズを消滅させる何者かの姿があった事を、誰も知らない。
 青いアンダーウェアの上には、まるで拘束具のように四肢と胸部を覆う、チューブの付いた銀色のプロテクター。
 そして、その顔は真っ黒なバイザーに、口元はマスクで覆い隠されていた。

 ∮

 おばちゃんと二人、走り続ける。
 あの後、クリスを追いかけようとしたわたし達は逃げ遅れてしまっていた。
 クリスを見失っちゃったわたし達は、これ以上は危険だと思って、避難所への道を引き返しているのだ。

 ブオオォォォォォ!!

 聞き慣れたものと違う、重厚な鳴き声に振り向くと……そこにはタコみたいなノイズがいた。
「ッ!未来ちゃん!」
「おばちゃん!こっち!」
 するとタコみたいなノイズは、まるでわたしの大声に反応したようにこっちを向き、その太い足を伸ばしてきた。
「きゃーーーーッ!」




「──ッ!?今の悲鳴は、まさかッ!」
 その悲鳴が、街を駆け抜ける親友に届いていた事を彼女が知るのはほんの数分後の事である。 
 

 
後書き
夫婦喧嘩は次回で何とか解決しそうですねぇ。
原作と変わらない部分多いのは、代わりに追加した分で許してください。
それから、友人カルテットの名前を考案してくださった某磁石さんに感謝を。
ミラちゃんの名前だけはあんまりだったので、元ネタの原典主人公に寄せました。

……ジャン兄弟×きりしら、ミラちゃん×393で装者全員CP出来る説。鏡の騎士と神獣鏡、鋼鉄の兄弟ときりしらロボ的に(笑)
え?グレンが余るって?……奏さんが生きていれば、炎の戦士とブリージンガメンで歳下彼氏になってたかもなぁ……。

未来「ところでクリス、本当に友達居なかったの?ほら、幼馴染とか」
クリス「幼馴染?……ああ、いたよ。あたしが知ってる中でも一番優しくてかっこよかった男の子」
未来「へぇ~!クリス、もしかしてその子の事……」
クリス「ばっ、んなわけ……。いや、でも……うん。あたしがいつまでもこんなんだから、あたしとジュンくんは……」
未来「ん?何か言った?」
クリス「……何でもねぇよ」
未来「……その子とは?」
クリス「もう何年も会えなかった……。ようやく会えたと思ったら、あたしは今のあたしをそいつに見せたくなくて、逃げちまったんだ……」
未来「……そう」
クリス「……なあ、あたしはもう、二度とあいつに会えないのかな……?」
未来「……そんな事ないよ。クリスが会いたいって気持ちを持ち続ければ、きっとまた会える。だってその子は、クリスの大事な人なんでしょ?」
クリス「……ああ……そう、だな……。ありがと」
未来「どういたしまして」
未来(わたしも……響と風鳴くんにもう一度会って、話さなきゃ……)

身体拭いてる間に、もしかしたらこういう会話があったかもしれません。

次回、『陽だまりに翳りなく』
ひびみくの夫婦喧嘩、その行方は!?
はたして未来は翔と響との関係をどう決着するのか!?
次回もお楽しみに! 

 

陽だまりに翳りなく

 
前書き
タイトル通り、いよいよです。
いつだって、陽だまりに翳りなく……。これが最初で最後の、一番普通であったかい、歳相応の少女らしい喧嘩……。

何故ひびみくは夫婦喧嘩のスケールがいちいち大きくなってしまうのか(苦笑) 

 
「──ッ!?今の悲鳴は、まさかッ!」
 よく知るその声の方向へ、わたしは駆け出した。
 辿り着いたのは解体工事中のビル。きっとこの中に……!
「誰か!誰かいませ──」

 ブオオォォォォォ!!

「な……くッ!」
 頭上から突き出された触手に破壊される足場。手すりを足場に跳躍し、宙返りしながら体勢を整え着地する。シンフォギアを装着していなくてもこんな動きが出来るようになったのも、きっと師匠や翔くんのお陰だ。
 ……っと、それはともかく。見上げるとそこには、タコみたいな姿をしたノイズがいた。
 あんな所に居座っていたなんて……。でもあの高さなら、シンフォギアを纏えば……!
「……んッ!むぐぐッ!?」
 突然、誰かの手がわたしの口を塞ぐ。
 驚いて振り向くと、そこには……。
(しー)
 身を屈め、人差し指を口に添えた未来がいた。
 やっぱり、あの悲鳴は未来だったんだ。よかった、無事で……。
 そう思っていたら、未来はケータイに何かを打ち込むと、その画面を見せてきた。
(『静かに あれは大きな音に反応するみたい』)
 そっか……。それで未来はわたしの口を塞いで……。
(『あれに追いかけられて ふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』)
 未来の視線を追うと、そこには気を失って倒れたおばちゃんがいた。
(……だとしたら、シンフォギアの力でないと助けられない。でも、纏うために唄うと、未来やおばちゃんが危ない……。どうしよう……)
 すると、未来はわたしの考えを見透かしたかのように、真剣な眼差しで提案してきた。
(『響聞いて わたしが囮になってノイズの気を引くから その間におばちゃんを助けて』)
「ッ!?」
(『ダメだよ そんなこと未来にはさせられない』)
 わたしもケータイを取り出すと、未来にそう返した。
(『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』)
(『何とかならない……ッ!』)
(『じゃあ何とかして?』)
(あ────)
 その言葉に、強い信頼を感じた。
 もう友達で居られない、なんて言っていたけど……未来はわたしの事、まだ信じてくれてるんだ……。
(『危険なのはわかってる。 だからお願いしてるの。 わたしの全部を預けられるの 響だけなんだから』)
(未来……)
 ポケットにスマホを仕舞うと、今度は耳打ちで、未来はわたしに話しかける。
「……わたし、響に酷いことした。ううん、響だけじゃなくて、翔くんにも酷いこと言っちゃって……。今更許してもらおうなんて思ってない。……それでも、わたしはやっぱり、響と一緒にいたい。わたしだって戦いたいんだ」
「だ、だめだよ、未来……」
「どう思われようと関係ない。わたしも一緒に背負っていきたいの」
 そう言って未来は立ち上がり、大きな声で言った。
「わたし……──もう、迷わないッ!」
 ノイズがその声に反応し、未来の方に触手を向ける。
 それを確認した瞬間、未来はビルの外へと向かって一目散に走り出した。
 何度も触手を躱して真っ直ぐに、一直線に……わたし達を守る為に。
「こっちよ!お前なんかに、捕まったりなんてしないんだからッ!」
 ノイズは完全に未来へと狙いを定め、ビルの外へと出ていった。
「未来……」
 わたしは、未来の気持ちを裏切らない為にも、おばちゃんに駆け寄ると聖詠を唱えた。

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」

 おばちゃんを抱えて跳躍し、ビルの天井に空いた穴から外へと飛び出す。
 安全な場所がないか見回すと、緒川さんの車が停車し、窓が開いた。
「響さんッ!」
「緒川さんッ!」
 車を降りてきた緒川さんの前に着地する。
「緒川さんッ!おばちゃんを、お願いしますッ!」
「分かりました!響さんは?」
「わたしは……。大切な人を、守りますッ!」
 緒川さんにおばちゃんを預け、わたしは再び跳躍する。
 電柱のてっぺんや、ビルの屋上を足場に、未来が走って行った方向へと進んでいく。
(未来……どこ……ッ!?)
 夕陽に照らされ、オレンジ色に染まった街を見下ろしながら、ふと思う。
 何故、どうしてこんなにも広いこの街の中で、まるで運命に導かれるようにわたしは未来の所へ辿り着けたんだろう……って。
 あの時思い描いていたのは、もう一度未来と繋ぐ手と手。それがきっとわたし達を、もう一度引き合わせてくれた。
 未来が囮になるって言い出した時、わたしは戸惑った。それでも、未来はわたしに全てを預けてくれたんだ。
 未来の信頼と優しさを、わたしは絶対に裏切らない!

(戦っているのは、わたしひとりじゃない。シンフォギアの力で誰かの助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだッ!助けるわたしだけが一生懸命じゃない。助けられる誰かも、一生懸命──ッ!)
 あのライブの日、わたしを助けてくれた奏さんの言葉を思い出す。

『おい、死ぬなッ!目を開けてくれッ!生きるのを諦めるなッ!!』

 本当の人助けは、自分一人の力じゃ無理なんだ。だからあの日、あの時、奏さんはわたしに……生きるのを諦めるなと叫んでいたんだッ!
(今なら分かる気がする!だから、助けられる誰か……未来のためにもッ!)

「──きゃああああああッ!」
「──ッ!未来ッ!?」
(……足りないッ!もっと高く……もっと速く、飛ぶようにッ!未来の……所へ──ッ!)
 腰のブースターで更に加速して、着地した場所を駆け抜ける。
(そうだ!わたしが誰かを助けたいと思う気持ちは、……惨劇を生き残った負い目なんかじゃないッ!未来から、奏さんから託されて、わたしが受け取った……気持ちなんだッ!!)
 両脚のパワージャッキを全開にしながら、着地した坂道を滑り降り……一気に解き放つ!
 もう、会いたい人はすぐ目の前に見えていた。

 ∮

(……もう、走れない)
 へとへとになりながら、今にも止まりそうになりながらも、足を前へと進め続ける。
 でももう限界で、遂に両膝を付いて倒れてしまう。
 後ろを振り向くと、タコ型ノイズはもうすぐそこまで迫って来ていた。
(ここで……終わりなのかな……。仕方ないよね、響……)
 タコノイズが飛び上がり、わたしに覆い被さるようにして落下してくる。
 あと数秒後、わたしはあっという間に炭にされてしまうんだろう。
(──だけど、まだ響と流れ星を見ていないッ!)
 今度は翔くんも一緒に連れて来たい。響はそう言って笑っていた。
(大好きな響との大事な約束──破りたくないッ!)
 慌てて立ち上がり、残っている力を脚に込めてもう一度走る。
 その直後、タコノイズが落下してきた衝撃で道路が崩れ、わたしは空へと放り出された。
(そんな……!せっかく、頑張って避けたのに……これじゃ──)
 タコノイズと一緒に、高台から投げ出されて落ちていく。
 このままじゃ、助からないのは目に見えている。
「きゃあああああああッ!」

 響……ごめん……ッ!

〈我流・撃槍衝打〉

 何か、重いものがぶつかる音がして、タコノイズが爆散する。
 目を開いた次の瞬間、もう一度何かがぶつかる音がして、わたしの体は抱き抱えられた。
「私と云う音響き、その先に……優しさを──」
 響だ。わたし、響に抱き抱えられてる……。
 ジャコッ!というスライド音と共に、響の両脚からジャッキが伸びて、後ろのゴテゴテした部分から炎が吹き出し、落下の勢いを軽減する。
 その時、着地の姿勢を取った響の傍を、何かが物凄い速度で通り抜けて行く。
 眼下に見下ろす河原の土手の下へと着地した灰色の影……風鳴くんは、わたし達を見上げて両腕を広げ、両脚のジャッキを展開させていた。
「シンガウトゥウィズアァァァァァァァァァス!……っと、おわっととととと!?」
「あれ?響──え、きゃああああ!!」
「よし、予想通r……ってうおおおおお!?」
 土煙を撒き上げて着地した響は、わたしを抱き抱えたまま、バランスを崩して土手を転げ落ちる。
 それを見越して構えていた風鳴くんも、受け止めるまではよかったんだけど、わたし達の体勢がまずかったのかそのまま巻き込まれ、結果的にわたしと響の下敷きになってしまった。
「「いたた……あいたぁ……」」
「ぐえぇ……な、なんとか間に合った……」
 潰れたカエルみたいな声の翔くんに、慌てて響とわたしは彼から退いた。
 響と風鳴くんの鎧は、一瞬で光と共に消え、元の制服姿に戻る。
 凄い技術だ……いったいどうなってるんだろう?
「しょっ、翔くん大丈夫!?」
「大丈夫だ、問題ない……。いやぁ、かっこよく着地するのも、かっこよく受け止めるのも難しいものだな……」
「いやいや、翔くんはかっこよく着地できるでしょ~!」
「君の事だぞ立花」
「あ、そっか……」
「「「あははははは……」」」
 気が付いたら自然と、3人で笑い合っていた。
 何だか少し、不思議な気分。朝はあんなにギザギザしていた気持ちが、嘘みたいだ。
「それで小日向、無事か?」
「ごめんね未来、巻き込んじゃって。大丈夫だった?」
「あっちこっち痛くて……でも、生きてるって気がする。ありがとう、響なら絶対に助けに来てくれるって信じてた。風鳴くんも来てくれたのは意外だったけど」
「立花は小日向を助ける事を絶対に諦めない。それは小日向の方も同じだと思ったからな。俺は、その諦めない心に応えただけだ」
 クールに返す風鳴くん。その横顔は確かに、お姉さんに似ている気がした。
「未来なら絶対に諦めないって信じてた。だって、わたしの友達だもん!」

 友達。昨日あんな事を言ってしまったのに、響はわたしの事をずっと友達だと思ってくれていた。
 その一言でわたしの目からは、熱い雫が零れ落ちる。
「……う、ううッ……。ひっく、う、うう……。──うわあああああああああん!」
「うわっとっとっとぉ!?」
 抑えきれなくなった感情のままに、響に抱き着く。
 勢い余って響が尻餅をつくことになっちゃったけど……あと一瞬視界の端で風鳴くんが顔を逸らしていたけど……わたしはそのまま泣き続けた。
「怖かった、怖かったの……ッ!」
「わたしも……すごい、怖かったよぉ……」
 響も泣いているのが、声で伝わった。
 わたしも、響も、もう二度と会えないんじゃないかって思ったのは同じだったみたいだ。
「わたし、響が黙っていた事に腹を立ててたんじゃないの!誰かの役に立ちたいって思ってるのは、いつもの響だから!でもっ、最近の響はわたしの知らない所までどんどん遠くへ離れて行っちゃうような気がして……わたしはそれがたまらなく嫌だったッ!また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してたッ!だけどそれは、響を失いたくないわたしのワガママだッ!そのワガママで風鳴くんまで傷つけて……。そんな気持ちに気付いたのに、今までと同じようになんて……できなかったの……ごめんなさい!!」
 心の中につっかえていた物を、全部吐き出すように言いきった。
 響も翔くんも、わたしがその思いを吐き終わるまでは、黙って聞いていてくれた。
 響はわたしの両肩に手を添えて、わたしの顔を真っ直ぐに見つめる。
「未来……。それでも未来はわたしの……ぷ、ぷふふぅっ!」
「え?なに!真面目な事言ってる時に笑うなんてっ!」
「あははっ!だってさぁ!髪の毛ぼさぼさ、涙でぐちゃぐちゃ!なのにシリアスな事言ってるしっ!」
「んもぅっ!響だって似たようなものじゃないっ!」
「うええっ!?うそぉ!?ちょっと翔くん!今のわたしどうなってる!?」
「ん?……ぷふっ、あっはっはっはっは!まあ、2人ともどっちもどっちだな」
 風鳴くんは響とわたしの顔を交互に見比べると、とても可笑しそうに笑った。
「そう言う風鳴くんこそ、髪の毛ぼさぼさで泥だらけだよ?」
「なん……だとぉ!?」
「未来、鏡貸して!わたしの顔見るついでに、翔くんにも顔見てもらわないと!」
「えっと……鏡はないけど……。これで、撮れば……」
 わたしはケータイを取り出すと、内カメラを起動した。
「ケータイのカメラ!未来、ナイスアイディア!」
「あ、わたしも一緒にッ!」
「ほらほら翔くんも!」
「お、俺も?いいのか、俺も入ってしまって……」
「響がそうしたいって言ってるんだし、気にしなくてもいいんじゃない?」
 響を真ん中に、わたしと風鳴くんが並ぶ。さすがに3人ともなると、画面が少し狭く感じる。
「ん~……あああ、もうちょっと──あ、ずれたぁ~」
「こう、もう少し詰めれば……」
「もう、撮るよ、二人とも」

 パシャッ

「のわああぁ、すごい事になってるぅ!?これは呪われたレベルだ……!」
「わたしも想像以上だった……」
「俺もだ……。これはある意味二度と撮れないかもしれん……」
「「「……ぷっ、あはは、あはははははははははッ!」」」
 この時の写真は、3人の仲直りの記念として後で印刷する事になった。
 わたしと響が初めて喧嘩して、仲直りした日。わたしと風鳴くんがようやくちゃんと話せた日。
 そして、わたしが響と風鳴くんの仲をちょっとだけ認めた日の……そんな1枚。 
 

 
後書き
ひびみく色が強過ぎて、翔くんしばらく空気化してなかったかって?
いやいや、そんな事は無い……はず……。
あと今回『私ト云ウ音響キ、ソノ先二』を地の文に落とし込むのが一番大変だったかも……。気付かれているかはともかく。

393「ところで風鳴くん」
翔「どうした小日向?」
393「さっきわたしと響を見て、居心地悪そうに顔を逸らしていたけど、何考えてたの?」
翔「い、いや……女子特有の距離の近さを目の当たりにされたら、健全な男子高校生は気まずさを感じざるを得ないだろ……」
393「ふ~ん。羨ましいんだ」
翔「OPお馴染み、特有のオーラ発しながら言うんじゃないよ怖いぞ」
393「ふふん、こればっかりは女の子の特権なんだから」(ドヤッ)
翔「むう……何故だ、悔しさが込み上げてくるな……」
393「でも、わたしも鬼じゃないから。翔くんだけは特別に許してあげる。肝心な所でヘタレても困るし……」
翔「バッ、何言って……!って小日向、お前どこ目線なんだ……」
393「ん?わたしは響の親友だよ?」
翔「だからオーラを出すな!ラスボス感出てるから!」
393「オッス!我シェm……」
翔「言わせねぇよ!そいつの出番は時系列的に、季節がグルッと一周する頃だ!」
393「まあ、それはともかくとして。あ、いっそ夜の寮に来てみる?鍵開けとくよ?」(ニッコニコ)
翔「話の飛び具合を見てようやく気がついた。俺が今お話してるの小日向じゃない、393だ……!」
393「ふふふ……響がよろこぶなら、わたしはそれで……」
翔「何故そこで平仮名表記ッ!ヤバいヤバい、誰か393を小日向に戻してくれえええええええ!!」

ブラコンSAKIMORI「むっ!?何やら翔にピンチの予感……!」(サイドテールがピンッ!と反応する)
緒川「翼さん……?」

YOME発動時は393表記、頼れる綺麗な義姉はANEMORI表記で、ブラコン悪化させてる翼さんの事をブラコンSAKIMORIって呼ぼう。
393vsブラコンSAKIMORIとかどんな怪獣大決戦だよ……。

次回!OTONAへの報告と、2日ぶりの温もり。そして未来は、響の恋心を知る……。
一方、街を彷徨い、寝床となりそうな廃墟に目をつけたクリスの前に現れたのは……?
ひびみくパート、もとい原作8話のエピローグ。次回もお楽しみに! 

 

一番あったかい場所

 
前書き
原作8話エピローグ!
これ描き終えた後でガチャ回したら、RN式緒川さんが出た思い出があります。
RN式司令とネフシュタンフィーネでOTONAパーティー組んでます。あと足りないのはウェル博士ですね。 

 
「はい、ふらわーさんから回収しました」
 緒川さんが未来に、ふらわーへ置いて来ていた鞄を返す。
 商店街はまだノイズの後処理が終わっていないけど、すっかり街の人達が戻って来ていた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの~、師匠……」
 立花が気まずそうな表情で、叔父さんの顔を見る。
 叔父さんは立花の言いたいことを察したようで、後頭部を掻きながら答えた。
「……なるほど。未来くんに戦うところを目の当たりにされてしまったと」
「はい……。あの、それで──」
「ふう、詳細は後ほど報告書の形で聞く。ま、不可抗力というやつだろう。それに、人命救助の立役者に、うるさい小言は言えないだろうよ」
「やったッ!」
「うんっ!」
「「いえーい!」」
 ハイタッチを交わす2人が、どこか微笑ましい。
 と、俺の視線に気がついた立花が、こちらにも手を出してきた。
「翔くんも、いえーい!」
「ん?おう。いえーい!」
 立花とハイタッチを交わした時だった。そこへ激しいブレーキ音と共に、ピンクの軽自動車がやって来る。
 了子さん、相変わらず運転荒いなぁ。
「まあ、主役は遅れて登場よ!さって~、何処から片付けましょうかしらねん♪」
 テンション高め、鼻歌交じりに現場に現れた了子さんは、そのままノイズ残骸処理班に指示を下し始めた。
 遅れてきた割にはホンット悪びれもしないよねこの人。まあ、仕事はちゃんときっちりやってくれる人だから問題ないんだけど。
「さて、後は頼り甲斐のある大人達の出番だ。響くん達は帰って休んでくれ。無論、翔もな」
「「「はい!」」」
「あ!あの……」
 そう言って立ち去ろうとした叔父さんを、小日向が慌てて引き留める。
「わたし、避難の途中で友達とはぐれてしまって……雪音クリスというんですけど……」
「……。被害者が出たという報せは受けていない。その友達とも、連絡が取れるようになるだろう」
「よかった……」
 ……え?まさか小日向、本当に雪音と知り合っていたのか!?
 自分の勘が的中していた事に、立花と顔を見合わせて驚く。
「まさか翔くんエスパーなの!?」
「いやいや、そんなわけあるかって!」
「何の話してるの?」
「あ、聞いてよ未来~!翔くんがさぁ──」
 
 立花と小日向。2人の微笑ましい日常の中に、俺が混ざっている。
 
 わたしと翔くん。ここひと月の間に繋がった関係に、親友の未来が加わった。
 
 一昨日までの険悪なムードは、とっくに消えていた。これから先はきっと、俺もこの2人の輪の中に入っている光景が……。
 
 わたしと未来、その隣に翔くんも居るのが当たり前になって行くんだろう。
 
 ……その中で、俺はいつか立花に、この胸の想いを伝える事になる日がやって来る。
 
 ……その中で、わたしはいつか翔くんに、この胸の想いを伝えなくちゃいけない日がやって来る。
 
 その時には、きっと小日向にも。
 
 そうなったら、きっと未来にも。
 
 祝って貰えたらいいな……。そう、心の中で願ってみた。
 
 ∮
 
「……ここにするか」
 廃墟になったアパートの白い壁を見上げて、クリスは呟いた。
 フィーネに捨てられ、助けてくれた未来やふらわーのおばちゃんを巻き込み、信用出来る人間や頼れる身内のいない彼女は、一晩を明かす寝床を探していた。
 既に昨日の夜から一日中、何も食べていない状態が続いている。
 腹が鳴って仕方がないものの、食べるものは何も無い。
 人の居なくなった商店街、何処かから万引きする事も考えたが、いつ人が戻ってくるか分からない以上は気が引けた。
「……腹減ったなぁ……」
 既に背中とくっつきそうなお腹に手を当てながら、クリスはアパートへと向かって行く。
 
 その時だった。聞き覚えのある……否、今の状況ではあまり聞きたくない雑音が、彼女の耳に届いた。
 
キュピッキュピッ、キュピキュピッ
 
 ゾッとしながら振り返ると、そこには軽快なステップを踏みながら歩いて来るブドウノイズの姿が。
「チッ!昼間あれだけやって、まだやり合おうってのか!!」
 シンフォギアのペンダントを握り締め、聖詠を唱えようとしたその時だった。
 ブドウノイズは立ち止まると、その細長い手にぶら下げていたビニール袋を、地面に置いた。
「ッ!?な、なんだぁ!?」
 そしてブドウノイズはクリスに向かってぺこり、と頭を下げるとそのまま後ろを向いて走り去って行く。
「おっ、おい!待ちやがれ!!」
 慌ててノイズを追い、走るクリス。
 しかし角を曲がると、そこには何もいない。ブドウノイズの足の速さは、そこまでではなかったはずだ。すぐに追いつける筈の場所で見失った……それはつまり……。
「……なんだったんだ、あのノイズ」
 クリスは訝しげに、アスファルトに置かれたビニール袋を拾って中身を見る。
 中に入っていたのは、ペットボトル入りの水と茶封筒。茶封筒を空けると、中には一万円札が2枚入っていた。
「こっ、こいつは……!?」
 人を殺す為だけに生み出されたノイズに、こんなものを届けさせる事が出来る方法はただひとつだけ。ソロモンの杖を持つ者だ。
「フィーネのやつ、どういうつもりだ!?」
 ふざけやがって、と袋ごと投げ捨てようとするクリス。
 しかし、そこでまた腹の虫が鳴いてしまう。
「……くっ!」
 忌々しげに封筒を見るクリス。しかし、封筒を裏返した瞬間、その表情は驚愕に変わった。
 
 茶封筒の裏には、綺麗な字でメッセージが書かれていたのだ。
 差出人の名前はない。しかし、その一言だけでクリスは、これを送ってきた人間に気がついた。
 封筒の裏面に書かれたメッセージの内容は『You are my Princess』、このただ一言だけだった。
「ジュンくん……なのか?」
 どういった経緯なのかは知らないが、姿を見せない純から、ノイズを通じて贈られてきたメッセージと食費。
 それをぎゅっと握り締め、クリスは呟く。
「こんなモン寄越すくらいならさっさと戻って来いよ……バカ……」
 大事な人が生きていた喜びと、逢いたいのに逢えない悲しみ。
 それらが綯い交ぜになって、クリスは1人涙を流した。
 
 
 
「…………」
 そして、その様子をビルの上から見下ろしている何者か……背格好からして少年だろうが、その少年はソロモンの杖の持ち手を握り締める。
 その手は何処か悔しげで、やり場のない感情が掌から漏れだしていた。
 耳の部分に付けられた通信機から通信が入り、鎧の少年は通信に出る。
『用は済んだの?なら、そろそろ戻って来なさい』
「……本当に、契約は守ってくれるんですよね?」
『ええ。もうクリスに用はないし、あなたとの契約だもの。あと数日の辛抱よ、励みなさい』
 それだけ言って、通信は切れた。
 少年はもう一度だけ、食料を買いに街へと向かって行くクリスを見て……それからビルの屋上から飛び去った。
 自由を奪われ、声を封じられ、彼女を手にかけようとした女の計画に加担する。
 それで彼女を守れるなら、と。少年はそれを受け入れた。
 選択の余地は残されていなかったし、それが自分も彼女も生き残る為の方法だったからだ。
 仮に、もしもそれで自分が手を汚さないと行けなくなった時は……。
 少年は自らが最も信頼する男の顔を思い浮かべ、彼女の無事を祈りながら夜空を駆けた。
 
 ∮
 
 その夜、リディアン女子寮の一室では、2日ぶりの微笑ましいやり取りが行われていた。
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
 二段ベッドの同じ段にて、響と未来が並んで寝ている。
 仲直りした2人は、またいつもの距離感に戻っていた。
「ぐ~。ぐ~……」
「えっ、早い!もう寝ちゃったの!?」
「……なーんて、えへへ、だまされた~」
「あ、もうッ!響ったらひどい~!」
「あはははは、くすぐったいよ未来~」
 未来と2日ぶりにじゃれ合いながら、響は実感する。
(よかった、未来と仲直りできて……。ああ……やっぱり未来のいる所が、わたしにとって一番あったかい場所なんだ……)
「……ところで響、翔くんの事どう思ってるの?」
「ふえっ!?どっ、どどどどどうしたのいきなり!?」
「うーん、何となく?響と仲良さそうだったし、この前の話聞く限りだと今はどのくらい進展してるのかな~って」
「ししし進展だなんてそんな!わたし達まだ付き合ってもいないんだよ!?」
「えっ!?それ本当に!?」
 未来の巧みな誘導尋問に引っかかり、響は真っ赤になって口を抑えた。
「もー、そういう顔するからわたしも気になっちゃうんだって~」
「あ、あはははは……はは……」
「それで、どうなの?他の人に言えなくても、わたしには教えてくれたっていいんじゃない?」
 親友にそう言われると響も弱い。
 響は少し悩んだ末に、ぽつぽつと語り始めた。
「……最初はね、中学の時のクラスメイトだった翔くんだったって、気づかなかったんだ。でも……翔くんに何度も助けられたり、大事な事を教えてもらったりして……気付いたんだ」
「うん……」
「わたし……翔くんのこと、大好きみたい……」
 絞り出す様にそう言った響の顔は、未来がこれまで見た事の無いくらいに、キラキラと輝いていた。
「そう……じゃあ、響はその想いを伝えなくちゃいけないね」
「そ~なんだけどさぁ~……ど~んなタイミングで言えばいいのか……。翼さんにもOK貰ってるのに、わたしがタイミング掴めなくて中々言う機会が……」
「えっ!?響!翼さんからお墨付き貰ってるの!?」
 驚く未来に、響は照れ臭そうに頬を掻く。それを見た未来は、何やら思いついたように提案した。
「響、わたしに良いアイディアがあるんだけど……聞いてくれる?」
「えっ?」
 未来は微笑みながら、そのアイディアを響に語って聞かせる。
「……えぇっ!?い、いや、それはいくらなんでも早すぎるっていうか……」
「大丈夫。外堀はとっくに埋まってるんだし、建前もしっかりしてるし」
「じ、じゃあ……今度、翼さんに相談……してみる?」
「そうね。これ、翼さんの協力も必須だもん」
「緊張するなぁ……」
「翔くんにアタックしたいんでしょ?早く告白しておかないと、他の娘に取られちゃうかもよ?」
「うう……」
 こうして、響は親友である未来にも背中を押され、翔に告白する覚悟を決める事になる。
 そんな2人の部屋に置かれたピアノには、夕方3人で撮ったばかりの写真が印刷され、写真立てに飾られていた。
 立花響と風鳴翔。2人の胸の響きが交わる日は、もうすぐそこに。 
 

 
後書き
タイトル回収~。「響き交わる」って交響曲(シンフォニー)の意味と同時に、「立花響とその心を交える伴装者」「少女達と心を響かせ合い、伴奏する少年装者達」って意味も含めてたりするんですよ。

次回は翼さんのライブが迫る!
おがつば要素も入れるよ、勿論。だって好きなんだもの。
ってか、これ書いてる頃にやって来たおがつばイベ、タイミング良さ過ぎますよね。

翼「次はいよいよ私が主役ッ!」
緒川「え?僕にもスポット当てるつもりなんですか?」
翼「あ、緒川さん。RN式実装おめでとうございます」
緒川「翼さんこそ、天叢雲のデュオレリックギア実装、おめでとうございます」
翼「伴装者はRN式を設定に組み込んだ作品。きっと緒川さんもいつか、同じ戦場に経つ機会があるかもしれませんね」
緒川「僕と司令がギア纏って出撃すれば全てが片付く、なんて言われてますけど……いいんでしょうかね?」
翼「パワーバランスは割と重視したがる作者の事です。きっと何とかするでしょう!」
緒川「『何とかならなくても面白く、熱く描く自信はある』ですか。……じゃあ、頼みましたよ?」(作者からのカンペを見る)
翼「ところで緒川さん、おがつばってなんですか?」
緒川「ああ、それは……おっともうお時間みたいです」
翼「次回の戦場も、防人らせてもらう!」
緒川「これがルビ無しで読めたそこのあなたも、立派なサキモリストです。これからも翼さんをよろしくお願いしますね」
翼「皆、私だけではなく、緒川さんもよろしく頼むぞ!」

次回もお楽しみに! 

 

大人の務め

 
前書き
各章のタイトル、ハーメルン時代から少し変えてるのは拘りです。
それでは原作9話編、どうぞ! 

 
「うわぁ……学校の地下にこんなシェルターや地下基地があったなんて……」
 二課の本部、その廊下を歩く2人の女子高生。
 1人はガングニールのシンフォギア装者、立花響。
 もう1人は、先日の一件で二課の協力者として配属される事になった、親友の小日向未来だ。
 未来は自分たちの学校の地下に広がる秘密基地を見回し、驚いていた。

 すると、響は前方の自販機前に立つ人物に元気よく声をかける。
「あ!翼さーん!翔くーん!」
「立花か。そちらは確か、協力者の……」
 翔、翼、緒川、藤尭の4人がそこに立っていた。
「こんにちは、小日向未来です」
「えっへん!わたしの一番の親友です!」
「今日も元気そうだな、立花。それと小日向、ようこそ二課へ」
「翔くん、完全にここの人なんだね……」
 本来なら司令である弦十郎辺りが言いそうなセリフだが、翔はそれを特に違和感もなくさらりと言った。
 それほどまでに、彼が二課に馴染んでいる事が伺い知れる。

「では、改めて。風鳴翼だ、よろしく頼む。立花はこういう性格ゆえ、色々面倒をかけると思うが支えてやってほしい」
「いえ、響は残念な子ですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「あー、否定は出来ないな。……まあ、そんな所も含めて彼女の良さだが」
「えぇ~、なに?どういうこと~?」
 翼にぺこり、と頭を下げる未来。
 翔も含めた3人で意気投合している様子に、響は首を傾げる。
「響さんを介して、3人が意気投合しているという事ですよ」
「むむ~、はぐらかされた気がする」
「ふふ」
 緒川の言葉に、何処か納得出来ていない表情の響。
 そんな響の表情に微笑む翼を見て、緒川は内心で呟く。
(変わったのか、それとも変えられたのか。響さんに出会い、翼さんは良い笑顔を見せてくれるようになりましたね……)
 その表情はいつもと変わらない微笑み。しかし、その内心に気がつく者は、この中に一人もいない。

「でも未来と一緒にここにいるのは、なんかこそばゆいですよ」
「小日向を外部協力者として二課に登録してくれたのは、手を回してくれた司令のお陰だ。それでも不都合を強いるかもしれないが……」
 念を押す翼に、未来は首を横に振りながら答える。
「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんて、そんな」
「あ、そう言えば師匠は?」
「叔父さんなら、TATSUYAまで先週レンタルした映画返しに行ってるらしい」
「ああ……司令らしいですね……」
 翔は弦十郎の席のモニターに表示されていた、外出中の表示と行き先を伝える。
 藤尭はその行先に、納得したように呟いた。
 
「あら~、いいわね。ガールズトーク?」
 そこへ、破天荒な嵐が通りかかる。
 二課が誇る自称天才考古学者、櫻井了子だ。
「どこから突っ込めばいいのか迷いますが、取り敢えず僕を無視しないでください」
「同じく」
「了子さん?俺含めて男子も3人いるんですけど」
「シャラップ!細かい事は気にしな~いの♪」
 呆れたような顔でツッコミを入れた緒川に便乗した藤尭、翔だったが、了子の一言にあえなく撃墜され、不服そうな表情を見せる。
 しかし、了子は持ち前のマイペースさで特に気にせず、女子3人とガールズトークを始めてしまった
「了子さんもそういうの興味あるんですか?」
「モチのロ~ン!私のコイバナ百物語聞いたら、夜眠れなくなるわよ~?」
「まるで怪談みたいですね……」
 苦笑いする未来に対して、響はテンションが上がっていた。
「りょ~うこさんのコイバナ~ッ!きっとうっとりメロメロおしゃれで大人な銀座の恋の物語~ッ!」
「今の一言でよくそこまで連想出来たな……」
「全くだ……」
 翔と翼はテンション高めにうっとりしている響を見て、額に人差し指と中指を当てながら、やれやれ、とでも言うような表情になる。
 姉弟揃って同じ表情、同じポーズという光景だが、翔の場合は口元が少しだけ緩んでいるのは内緒である。

「そうね……。遠い昔の話になるわねぇ……。こ~う見えても呆れちゃうくらい、一途なんだからぁ」
「「おお~ッ!」」
 響と未来が揃って目を輝かせる。
「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」
「俺は了子さんこそ、二課で一番の恋愛経験者だと思ってましたが……どんな話なんです?」
 驚く翼と、予想を的中させつつ話にのめり込む翔。
 完全にガールズトークでは無くなっているのだが、それはそれである。
 ちなみに空気を読んでか、緒川と藤尭は黙って話を聞いている。
「命短し恋せよ乙女ッ!というじゃなぁい?それに女の子の恋するパワーってすっごいんだからぁ!」
「女の子、ですか……」
 次の瞬間、緒川の顔面に裏拳が飛んだ。
 自販機に後頭部をぶつけ、倒れる緒川の眼鏡が外れる。
「緒川さーん!?」

 翔と藤尭が心配そうに駆け寄る中、何事も無かったかのように了子は話を続ける。
「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも──あ」
「「うんうん!それでっ!?」」
 早く続きを聞かせろと言わんばかりにのめり込むJK2人。しかし、了子はそこで口を閉じると、誤魔化すように後頭部に手を当てる。
「……ま、まあ、私も忙しいからここで油を売っていられないわっ!」
「いや、了子さん自分から割り込んできたじゃないですk……」
 次の瞬間、しゃがんで緒川の背中をさすっていた藤尭の顔面に蹴りが入った。サンダル履きの足で。
「藤尭さーん!?」
 緒川同様、自販機に背中を強打する藤尭。口は災いの元、哀れ男性陣2人はたった一言突っ込んだばかりに、撃沈する羽目になってしまった。
「藤尭さーん!ダメだ、完全に伸びてる……。緒川さん、大丈夫ですか?」
「避けられなかった……。背中が、まだ……」

「とにもかくにも、できる女の条件は、どれだけいい恋をしているかに尽きるわけなのよっ!ガールズ達も、いつかどこかでいい恋なさいね?……特に響ちゃん、今、絶賛恋する乙女満喫中でしょ?」
「ええっ!?そ、そそそそんな事は……!」
「立花、無駄だ。お前と翔の事は、二課全体にバレてるからな」
「えええええ!?」
 翼からの暴露に顔を耳まで真っ赤にする響。幸い、そのお相手は目の前にいるものの、了子から会心の一撃をもらってしまった2人を心配するあまり、気がついていない。
 ガールズ3人、大人1人は声を潜めて話し合う。
「何か恋の悩みができたら、私に相談してねん♪んじゃ、ばっはは~い」
 そして了子は3人に手を振りながら、さっさと研究室の方へと歩いていってしまった。
 まさに嵐のような女性である。被害者が2名も出てしまった。
「聞きそびれちゃったね~」
「んむむ~、ガードは硬いかぁ。でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出してみせる!」
「それより誰か医療班!藤尭さん気絶しちゃってる!」
 盛り上がっている女子に対して、男性陣は死屍累々となっているのであった。
「緒川さん、大丈夫ですか?」
「不覚でしたね……。翼さんの前で、二度とこんな無様な姿は見せませんよ」
 翼に差し伸べられた手を取り、緒川は眼鏡をかけ直す。
 その姿を見ながら、翔は内心思うのだ。
 やっぱり姉さんと緒川さん、付き合えばいいのに……と。

「……ハッ!黄色い花畑が見えた気がする……」
「藤尭さん、おかえりなさい……」
 
(……らしくない事、言っちゃったかもね。変わったのか……。それとも、変えられたのか……?)
 誰もいない廊下を一人歩き続けながら、了子は考える。
 さっき無意識に出かけた言葉も、()()()()()()に情けをかけたのも……。
 自分の行動に何処か変化を感じながら、櫻井了子を名乗る者は考え込む。
 果たして自分は、何を思ってあんな事を……と。
 
 ∮
 
「……それにしても司令、まだ帰ってきませんね」
「ええ。メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに……」
 響、未来、翔、翼、緒川の5人は、休憩スペースのソファーに並んで座っていた。順番としては緒川と翼、響と未来、その間に翔が挟まっている形だ。
「次のスケジュールが迫って来ましたね」
 緒川は腕時計を確認しながらそう言った。
「もうお仕事入れてるんですか?」
「少しずつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり」
「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですね?」
「む?まあ、そういう事になるけど……」
 未来にそう言われ、翼は頷いた。

「でしたら翼さん、明日の休日、私達と出掛けませんか?」
「私達……つまり、立花と小日向と一緒にか?」
「ちょっ、ちょっと未来!やっぱり……」
 何やら顔を赤らめて慌てる響を他所に、未来は続ける。
「あ、翔くんは荷物持ちお願いね?」
「え?俺もか!?こういうのは女子3人水入らずが定番なんじゃ……」
「まあまあ。いいですよね、翼さん?」
 未来の提案に、翼は何やら考え込む。
 やがて翼は未来の意図を察して、手をポンと打った。
「いいわよ。こんな機会、初めてだもの。翔もそれで構わないわよね?」
「あ、ああ……俺も特に予定はないし……」
「じゃあ、決まりね!」
 こうして翌日、未来の計画が実行される事になった。
 そう……荷物持ちと称して響と翔を連れ歩きつつ、翼にも息抜きをさせる。
 そんな一石二鳥のデート作戦が、翔に気付かれない所で進みつつあった。
 
 ∮
 
(……あたし、いつまでこんなとこに。これからどうすりゃいいんだ……?)

 雪音クリスは廃アパートの一室にて、古ぼけた毛布に身を包み、体育座りしながら考え込んでいた。
 周囲にはカップ麺やコンビニ弁当の容器、バーガーショップの紙袋、空になったペットボトルが散乱している。
 ノイズを介して渡された食費。それは純が生きている事を証明したばかりではなく、あの時自分を守る為に残った純が、何らかの理由でフィーネの手駒になってしまった事を意味していた。

 どうにかしてその真意を確かめたい。出来ることなら助けたい。
 でも、やっぱりどうしても怖気付いてしまう。もしも、純と戦う事になってしまったら……。そうなれば彼女はきっと、引き金を引くどころか、銃口を向ける事さえ出来なくなってしまうだろう。

(ジュンくん……)

 もう夕方だ。嫌でも腹の虫が鳴いてしまう。
 しかし外は雨だ。傘も着替えもないのに外出すれば、きっと風邪をひくだろう。
 どうしたものか……と考えていたその時、金属が軋む音と共にドアが開く音がした。

(──ッ!?誰だ、ここ、空き家じゃねーのかよ!?)

 毛布から出ると、壁の影に隠れて拳を握る。

(怪しい奴だったらぶん殴って──)

 近付く足音。様子を見ようと顔を覗かせた、その時だった。
「──ほらよ」
 差し出されたのはコンビニのレジ袋。入って来たのは先日、彼女をノイズから救った男……風鳴弦十郎だった。
「えっ……?あっ……」
「応援は連れて来ていない。……君の保護を命じられたのは、もう俺一人になってしまったからな」
「どうしてここが……?」
 ファイティングポーズで警戒を解かないクリスを真っ直ぐに見ながら、弦十郎は腐りかけの畳に腰を下ろした。
「元公安の御用牙でね。慣れた仕事さ。……ほら、差し入れだ。腹が減っているんじゃないかと思ってな」
 そう言って弦十郎は、レジ袋を差し出した。
 断ろうとするクリスだったが、タイミング悪く腹の虫が鳴いてしまう。
 弦十郎はフッ、と笑うとレジ袋の中からアンパンを取り出して袋を空け……ばくり、と一口齧り付いた。
「……何も盛っちゃいないさ」
「……ッ!くッ!はぐ、もぐもぐ……。──あぐ、もぐッ!」
 弦十郎の手からひったくるように奪い取ったアンパンに、ガツガツと齧り付くクリス。
 その様子を弦十郎は、静かに見つめていた。

「……バイオリン奏者、雪音雅律(ゆきねまさのり)と声楽家のソネット・M・ユキネが、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて、死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明になった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって、事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は、発見され保護。日本に移送される事になった──」

 そこで弦十郎は牛乳パックを空け、一口飲む。
 クリスはまたしてもそれを受け取ると、ごくごくと一気に飲み干した。
「ふん、よく調べているじゃねぇか。……そういう詮索、反吐が出る!」
「当時の俺達は適合者を探す為に、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として、手を挙げたのさ」
「ふん、こっちでも女衒(ぜげん)かよ」

「ところが、少女は帰国直後に消息不明。俺達も慌てたよ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが──この件に関わった者の多くが死亡。あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」
 当然、捜査員達はフィーネに始末されたと考えるのが妥当だろう。
 それほどまでに、彼女は自らの存在が明るみに出るのを徹底して防いでいたのだ。
「……何がしたい、おっさん!」
「俺がやりたいのは、君を救い出すことだ」
「えっ……?」
「引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな」
「はんッ!大人の務めと来たか!余計な事以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにッ!」
 そう言ってクリスは、中身の空になった牛乳パックを部屋に投げ捨て、窓の方へと突っ込んでいく。
 弦十郎が振り返った時には、クリスは宙返りしながら、ベランダへと続く窓ガラスを背中で割って飛び降りていた。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

 シンフォギアを纏い、そのままクリスはビルの屋上から屋上へと飛び移りながら、何処かへと去ってしまった。
「……行ってしまったか」
 それを弦十郎は、やはりただ静かに見つめている。
 彼女の心を開くにはどうすればいいのか……。ただ、それだけを考えて。
 
 曇天覆う空の下、降り注ぐ雨の中で濡れながら、電柱の上で立ち止まったクリスは俯く。
(……あたしは、何を……)
 本当はもう分かっているはずだ。あの男、風鳴弦十郎が心の底から自分を気遣っている事は。
 しかし、クリスはやはりどうしても、彼を信用する事が出来ずにいた。囚われの5年間の中で育ってしまった大人への不信感が、どうしても邪魔をするのだ。

 弦十郎を頼れば、自分は逃げ続けなくてもよくなる。なんなら、純を助けられるかもしれない。
 でも……やっぱり信じて裏切られるのが怖い。

(……本当に、何やってるんだろうな、あたしは。逃げて、隠れて……こんなんでジュンくんを助けられるのかよ……)

 本当に心の底から信用出来る人は、フィーネに捕まってしまった。
 このままでは、彼は自分の為に手を汚してしまうかもしれない。もしかしたら、自分と同じ十字架を背負わせてしまうかもしれない。
 そう思うと恐ろしい。今すぐあの館へ、助けに戻りたい。でも、やっぱり怖い……。

(それに比べてあのおっさんは……)

 弦十郎にかけられた言葉を、もう一度思い出す。

『俺がやりたいのは、君を救い出すことだ』

(あたしが、やりたかった事……)

『引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな』

(やりとげる……。……そうだな。逃げてるなんて、あたしらしくないか)

 弦十郎は、これまで見た事のない大人だった。自分の責任を果たすため、前を向いて行動している。
 大人が嫌いな自分が、その大人に求めていた事を実行している。クリスから見た弦十郎は、そういう珍しい在り方をした大人として映っていた。

「いいさ、やってやるよ。これ以上、あんなおっさんに好き勝手言われてたまるかッ!」
 降り注ぐ雨の中、クリスは曇り空を見上げて胸に誓う。
(待っててくれよ、ジュンくん!必ず助けに行くからなッ!)
 自分を迎えに来てくれた王子様が、逆に魔女の手に捕まってしまった。
 それなら今度は、お姫様が助けに行く番だ。
 言葉使いはぶっきらぼう、纏うドレスは鉄より硬く、その手に持つのは鉄の弾吹く魔の(おおゆみ)
 お姫様と呼ぶには程遠いけれど、彼女の心には誰よりも熱く純粋な、彼への恋心が燃え盛っていた。
 
 

 
後書き
クリス「ん?あたしにお便りだぁ?どれどれ……『クリスちゃんに質問です。原作9話といえば司令がクリスちゃんにアンパンを差し入れしてくれるシーンですが、あれよくよく考えてみれば間接キスですよね。純くん以外と関キスして大丈夫なんですか?』……はああ!?い、いや、その……ほ、ほら!あれはそういう意味じゃねえし!毒味させただけだし!そういうんじゃねーよ!!だ、大体ほら、直接キスしたわけじゃねーから!セーフだセーフ!」
純「うん、ノーカンだよね。あれは100%の善意でやってる。やましさストロングコ〇ナゼロ。だから無問題だよ」
クリス「じゅ、ジュンくんいつからそこに!?ってか、〇つける所意味なくねーか?」
純「まあまあ。それにクリスちゃんのファーストキスがたとえ無意識の事故で奪われてしまっていたとしても、問題は無いよ。だって僕のファーストキスは、まだ誰にも渡していないからね」
クリス「じゅ……ジュンくん……」(トゥンク)
純「それで……クリスちゃん、どうするの?」
クリス「えっ!?」
純「僕の唇、欲しいのかい?」(顎クイ)
クリス「えっ、あっ、いやっ、その……こっ、こここここ!本編じゃねぇから!そういうのはここでやるべきじゃないっていうか……!」(真っ赤になりながら)
純「まあ、そうだね。それじゃあ、この先は本編でのお楽しみということで」
クリス「あっ、あんなふざけたお便り寄越しやがったやつ、後で覚えてやがれよ!」

このお便りの主は確か、クロックロさんだったかな……。
また読みに来てくれるかな……。

次回!翔ひび初デート!(姉と親友同伴)
行くぞ甘党王、カメラの準備は十分か!! 

 

デート大作戦

 
前書き
祝・初のデート回っ!
でも期待されてたほど濃厚さに欠けてたら、次の回の砂糖を増量して埋め合わせますので!

では、お楽しみください!
 

 
「……遅いわね。あの子達は何をやっているのよ」
 公園の池に架けられた橋の前。翼は腕時計を見てそう呟いた。
 待ち合わせの時間は既に過ぎている。それなのに、言い出しっぺの未来と響がまだ来ていないのだ。

「翔、やはり迎えに行くべきだったのではないか?」
「待ち合わせの時は、予定より早く到着。なおかつ、相手が予定より遅れても待っている事。相手との入れ違いを防ぐ事と、女の子はおめかしに時間をかけてしまう事を考慮すべし……。って、前に親友が言っててさ」

 翼も翔も、今日は私服だ。目立たないよう、翼は帽子を被って顔をかくしており、翔も一応周囲を警戒している。
「そういえば、お前の親友はまだ見つかっていないのか?」
「藤尭さん曰く、逆探知の結果は隣町の山道からだったらしい。調査員の人達が今、その山を捜索しているんだってさ」
「そうか……。見つかるといいな」
「純の事だし、きっと雪音と一緒にフィーネから逃げ続けてる、なんて可能性も有り得なくはない。心配ではあるけど、絶対帰ってくるはずだ……。あいつはそういう男だよ」

 本当は翔も、今でも親友が心配だ。しかし、今日は姉の貴重な息抜きの時間にして、せっかく普通の女の子らしく過ごせる時間だ。逃す訳にはいかない。
「すみません、翼さ~んっ!翔くんごめんっ!」
 と、そこへようやく待っていた2人が走って来る。
「遅いわよ!」
「はあ、はあ……。申し訳ありません。お察しの事と思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして……」
 息を切らして膝に手を置く二人だったが、翼を見て驚く。
 私服姿の翼を見るのは初めてだったからだ。

「まったく……。時間が勿体ないわ、急ぎましょう」
 さっさと出発しようと歩き出す翼を見て、響は呟いた。
「すっごい楽しみにしていた人みたいだ……」
「姉さん、昨日はずっとニッコニコしながら私服選んでたらしいぜ?緒川さんも手伝ったらしい」
「「へ~……えっ!?」」
 緒川さん経由で知った翔からの暴露に、響と未来が驚きの声を上げる。
 そう、緒川が私服を選ぶのを手伝っていた……という事実に。

「──ッ!誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだッ!」
 頬を赤らめながら怒鳴る翼に、3人は肩をビクッと震わせた。
「え、えへへ……翼イヤーは何とやら~」
「ツヴァイウィングは空を飛び、翼ビームは蒼ノ一閃……かな?」
「それいつの時代の曲?」
 古のアニソンネタに、未来がツッコミを入れる。
 そのツッコミに笑いながら、翔は響の私服姿をじっと見つめる。

「……翔くん?その……何か変、かな?」
「いや……いつもと全然印象違うけど、よく似合ってるなぁ……と。特にこの花の髪留めとか、可愛いと思う……」
「えっ!?あっ、ああ……ありがと……。その、翔くんもその服、似合ってるよ……」
「お、おう……そりゃ、どうも……」
 少しだけ頬を赤らめながら、そんな会話をする初々しい2人。
 それを見て、未来と翼は微笑むのだった。
「ほら、早くしなさい。先に行くわよっ!」
「ほらほら、早くしないと時間足りなくなっちゃうよ!」
「あっ!翼さん、待ってくださいよ~!」
「姉さんと小日向、既に楽しそうだな……」
 翼と未来を追いかけるように、翔と響は足を速めるのだった。
 
 まずはウィンドウショッピング。雑貨屋に並んだキャラクターグッズを見て回った後、映画館へと向かう。
 見る映画は選ぶまでもなく、恋愛映画だった。
 翼と未来はここで、一つ手を打つ。
「はい、これが響の席ね」
「こっちは翔の分よ」
「ありがとー。って、未来!これ……」
「しーっ」
 響の言葉を遮り、未来は耳打ちする。
「せっかく隣同士にしたんだから、せめて手ぐらい握るのよ?」
「そっ、そそそそんなこと言われたって……!」
「風鳴くん。わたし、ポップコーン買ってくるから、先に入ってて」
 そう言うと未来は売店の方へと駆け出していった。

「あっ、未来!」
「姉さん、小日向を任せられるか?」
「任せて。直ぐに合流するわ」
 そう言って翼も未来の後を追う。
 それを見送ると、翔は響の方を見る。
「じゃあ、先に座っとこうか」
「そ……そう、だね……」
「どうした立花?」
「なっ、なんでもない!ほら、行こっ!」
 そう言って2人は指定された席に座る。ちなみに席の順番は左から順番に未来、響、翔、翼だ。

「その……楽しみだね、映画」
「『HAPPY LOVE』、とあるカップルが艱難辛苦を乗り越えて結ばれるまでを描いた作品、だったな。あらすじだけ見るとベタなのに、最近流行ってるんだっけ?」
「そうそう。なんでも、あらすじだけはベタなのに、蓋を開けたらどうあっても泣いちゃう作品なんだって」
「へぇ、そんなにか。そいつは気になるな……」
 映画の話題でしばらく時間を潰す。お互い、いつもと違う服装にドキドキしながらも、いつもと変わらない会話で盛り上がり、気づけばすっかり緊張は解けていた。
「上手く行ってますね」
「だな。さて、我々もそろそろ座るとしようか」
 その様子を、ホールの入口からそっと見守る2人。
 タイミングを見計らうと、ポップコーンと飲み物を手に、2人はそれぞれ翔と響の隣へと向かって行った。
 
 ∮
 
 映画終盤、感動のクライマックス。女性陣3人は泣きながら、スクリーンに映された男女の行方を見守る。
 ハンカチ片手に見入っている未来。指先で涙を拭う翼。
 そして一番泣いているのは響であった。
「……」

 スクリーンに目をやりながらも、翔は隣の響へと意識を傾けていた。
 感動の涙だと分かってはいる。しかし、やはり響の泣いている顔を見るのは、少々思うところがあった。
 何と言えばいいのか、彼の中の庇護欲が彼を掻き立てて仕方が無いのだ。
 ふと、翔の視界に入ったのは、肘掛けに置かれた響の手だった。
 涙も拭かずに見入ってしまっている為、その集中を割くことは躊躇われる。
 しかし、それでも彼は抗うことが出来ずにその手をそっと掴んだ。

「っ……!」
 響が驚いて翔の方を振り向く。翔は照れ臭そうに頬を掻きながらも、視線をスクリーンへと逸らした。
 響はしばらく翔の方を見ていたが、やがて頬を赤らめたまま、スクリーンへと視線を戻す。

 映画の内容よりも甘い空気が、二人の間を漂っていた事は言うに及ばず。
 その後、響はエンドクレジットまで、その左手に誰よりも大好きな人の温もりを感じ続けているのだった。

 もっとも、映画の内容が結構飛んでしまったのは、言うに及ばず。
 しかしこの程度、得られた時間に比べればきっと安いものだろう。
 
 ∮
 
「良かった……本当によかった……」
 映画が終わった後で購入したソフトクリームを舐めつつ、翼がそう呟く。
「最後はどうなることかと心配しましたけど、タイトルは嘘をつきませんでしたね……」
 ストロベリー味のソフトクリームを舐めながら、未来もその言葉に同意する。
「ねえ響。響はさっきの映画……」
 未来は響の方を振り向いて……何かを察したような表情になった。
 響は先程の事を思い出し、少々頬を赤らめていた。お陰で抹茶味のソフトクリームが溶けかけている。

「響!溶けかけてるよ!」
「えっ!?わっ!危ない危ない……」
 慌ててソフトクリームを全力で舐める響。その後ろでは、同じく頬を赤らめた翔が、気を紛らわすかのようにチョコレート味のソフトクリームを舐め続けていた。
「響、映画見てる間に何かあった?」
「いっ、いや、そのっ!ななななんでもない!」
「そう?ならいいけど……。次はお洋服見に行こっ!」
「そっ、そそそそうだね!」

 誤魔化すようにあたふたとする響を見ながら、翼は翔にこっそりと耳打ちした。
「翔、さては立花と何かあったな?」
「なっ!?ね、姉さん!何かってなんだよ!?」
「何だ、てっきり立花と手でも繋いでいたかと思ったが……」

 そう言った瞬間、より一層頬を赤らめた弟を見て翼は悟った。
「図星か」
「い、いいだろ別に……」
「お前は本当に立花に首っ丈だな」
「ッ!?……やっぱ姉さんにはバレてるか……」
 観念したように呟く翔を見て、翼は微笑む。
「翔、これはあなただけにする話なんだけど……実はこのデート、翔のために計画されているの」
「え?」
「小日向にもバレてるのよ?立花への片想い」
 バレていると言われ、思わず手で目元を覆ってしまう翔。
 姉だけでなく、未来にもバレていた。そのショックは計り知れない。

「デートは暫く続くから、その間に頑張って、立花に告白するタイミングを掴みなさい。私は翔の事、応援してるから」
「姉さん……」
「そうと決まったら、次はショッピングよ。荷物が一気に増えるかもしれないけど、よろしくね。それから、呉服店での試着では立花をしっかりと褒めちぎってあげる事。わかった?」
「え、あ……ああ。……ありがと、姉さん……」
 照れ臭そうに感謝を伝える弟を、翼は軽く撫でると未来に声をかける。
「小日向、次の店は?」
「向こうです!行こっ、響!」
「ちょっ、未来!あんまり引っ張らないでよ~!」
 
 この後、服屋での試着やレストランでの昼食、翼に気付いたファンを撒いて逃げるなど、いろんなイベントがあったが、どれも告白するタイミングには及ばなかった。
 それでも2人は互いに相手を意識しては、顔を赤らめながら、その機を伺い続けたという。
 
 ∮
 
 それからしばらく。4人はカラオケにやって来ていた。
 翼が子供の頃から憧れていた歌手の演歌を披露したり、翔が先日出会った仲足千優の出演する特撮ドラマの主題歌を熱唱するなど、各々自分の好きな曲を歌い切った。

 歌った曲の数が合計で50に到達する頃、翼がある提案を投げかける。

「よし。翔、ひとつ勝負をしないか?」
「今日こそは負けないぞ、姉さん!」
「勝負ですか?」
 響が首を傾げる。
 それを見て翼は、楽しげに笑いながら説明した。

「私と翔は、カラオケに来る度に点数を競って勝負するの。負けた方がカラオケ代を奢るルールよ」
「えっ!?それ、翔くん勝ち目ないんじゃ……」
「確かに、これまで姉さんに勝てた事はまだ1度もない……。でも今日こそは負けないからな!俺だってシンフォギア装者になったんだ!負けるものか!」
 翔くん歌わないじゃん、むしろ演奏する側じゃん。
 そう突っ込みたくなったが、盛り上がっているので敢えて言わない未来であった。

「だが、今回はただの勝負ではないぞ?今回はな……デュエット対決だ!」
「デュエット対決、だとぉ!?」
 その一言に翔は目を見開く。
「私と小日向、翔と立花。この2組に分かれての勝負とする!デュエットは二人の息がピッタリ合わなければ高得点は狙えない……ハンデとしては充分だろう?」
 姉の不敵な笑みに、その意図を察する翔。
 未来は響の方をポン、と叩いて翼の隣へと移動した。

「いいだろう!その挑戦受けて立つ!立花、やるぞ!」
「えっ!?う、うん!翼さんと未来が相手でも、負けられない!」
「じゃあ、先行と後攻を決め次第、選曲ね」
 こうして勃発した、姉弟カラオケデュエット対決。果たして翔は、響と2人で歌いきる事が出来るのか……。
 ジャンケンで順番が決まり、決戦の火蓋が切って落とされた! 
 

 
後書き
カットすべきでなかった気がする点が割とある気がする。でもそれは敢えて、皆さんの脳内補完に任せますね!

職員A「有給取れてよかったー!」
黒服B「ジャンケンに勝てて良かったですね。それにしても、古今東西こんなにもしょーもないジャンケンがあっただろうか?」
職員A「勝ちたい理由が休暇そのものよりも、『翔くんと響ちゃんの初々しいイチャイチャを直接この目で見たいがため』ってのが中々ねぇ。でもしょーもないという理性をかなぐり捨てて、これにはそれだけの価値があると断言するわ!」
黒服B「やれやれ。まあ、彼らから託されたこのカメラに色々バッチリ収めたものの、映画館やカラオケにまでは流石に着いていけないのが辛いわ……」
職員A「あ、カラオケの方に関しては無問題よ」
黒服B「どうして?」
職員A「新入りにして、見守り隊一番隊隊長のエージェントAが録音しているわ!」
黒服B「なんですかその真選組一番隊隊長みたいな肩書き!ハッ、まさかそのセンスと頭文字……まさか(ANE)と天羽々斬にかけて……」

尺の都合でカットされたあれやこれも、見守り隊に入ればライブラリから閲覧可能!
更に今までのイチャラブもまとめて視聴・鑑賞できるぞ!

次回!翔と響、意を決して遂に告白!?
砂糖の準備は充分か!! 

 

君色に染まる空の下で……

 
前書き
読者の皆さんが、この作品のあらすじを見て読み始めて以来、待ちに待って望んでいたものです。
大さじで測った砂糖マシマシ、錬成しまくった糖文モリモリ。
さあ、胸焼けとブラック珈琲が激甘に変わる覚悟を決めて刮目せよ! 

 
「では、先手は私達が打たせてもらう!」
 翼が選んだのは、自らの持ち歌とも言える一曲。
『逆光のフリューゲル』だった。
「あの、翼さん……いいんですか、わたしなんかが奏さんのパートを歌ってしまって……」
 あまりのプレッシャーに萎縮してしまう未来。
 しかし、翼は未来の肩をポンと叩いて微笑む。
「私と奏の歌を、この世界の多くの人達が口ずさんでくれている事が、私にはとても嬉しいんだ。だから気にする事はない、小日向は小日向らしく歌ってくれればいい。私が其方に合わせよう」
「はっ……はいっ!」
 翼から励まされ、未来は気合を入れる。
 やがて曲が始まり、2人はマイクを握って歌い始めた。
「遥か~」
「彼方~」
「星が~」
「「音楽となった彼の日……」」
 自分なりに精一杯歌う未来と、未来をリードしながらもポテンシャルを損なうことなく歌う翼。
 2人によるデュエットに、響と翔は聞き惚れていた。
「「Yes,Just Believe……神様も知らない~ヒカリで歴史を創ろう~」」
 部屋のライトで作られた逆光のシャワーが、未来と翼を照らす。
 2人の奏でる旋律は、確かなシンフォニーとなって響き渡る。
 この時、未来は片翼の翼に導かれて、まるで飛んでいるような気持ちだったと語っていたという……。

『88点』
 表示された点数を見て、未来は翼に頭を下げる。
「すみません翼さん……」
「謝らなくてもいいわよ。あなたと2人で取った点数だもの。胸を張りなさい」
「翼さん……」
 未来を励ます翼。その点数を見て、翔は苦笑いしていた。
「姉さん、普段から90点台バンバン出すから……。点数そこまで落ちてないから……」
「おおー!緊張するけど、これは燃えてきた!」
 そう言って響は勢いよく立ち上がる。
「トップアーティストの翼さんと、親友の未来が相手でも!わたしには翔くんがいる!」
「ほう。翔1人で、戦局を覆せるとでも?」
 不敵に笑う翼。しかし、響は自信満々に答える。
「戦う時、わたしの傍にはいつも翔くんがいてくれる……。その翔くんが一緒に歌ってくれるんだもん!負けるはずがありません!」
「立花……」
 響の言葉に胸を打たれ、翔も立ち上がる。
「そうだな……。伴装者になって以来、俺の隣には常に立花がいた。装者としての立花の歌は、誰よりも近くで聴いてきた!一番上手く合わせる事が出来るのは、俺以外にいるものか!」
「翔くん……!」
「やるぞ立花!俺達の歌、姉さんに見せてやろう!」
「うん!未来、わたしも負けないからね!」
 そう言って曲を選び始める2人を、翼と未来は微笑ましく見守っていた。
 なお、翼がさりげなくレコーダーのスイッチを入れていた事には、誰も気付いていなかった。

「立花、歌えるよな?」
「翔くんに勧められて、テレビ版と劇場版は全部見たからバッチリだよ!」
「じゃあ俺が右側だな」
「え?翔くん左側じゃないの?」
「頭脳労働担当は俺向きだろ。立花に中折れ帽が似合うのかはともかく」
「あー……。うーん、麦わら帽子なら!」
「うっ……それは間違いなく似合う……」
 そんな会話を繰り広げながら2人が選んだのは、特訓の間に翔が響に勧めて見せた特撮作品の曲だった。
『W-B-X~W-Boiled-Extreme~』
 2人で左右横に並び、歌い始める。
「「君と」」
「なら叶えられるHalf×Half~」
「ダブルボイルドエクストリーム!」
「「W-B-X!」」
 それぞれのパートからハモリまで、響の元気な歌声と対象的に、クールな翔の歌声。
 その対比がまさに、その作品らしさを醸し出していた。
「「Wを探せ~」」
 そして最後は2人で背中を合わせ、『街を泣かせる悪党達へと投げかけ続ける言葉』のポーズを取る。
 瞬間、翼は素早くシャッターを切った。
「ちょっ!姉さん!?」
「あまりにもノリノリだったのでな。つい撮ってしまった」
「も~、いきなり撮るなんてひどいじゃないですか~!」
「後で送ってやる。気にするな」
 悪びれる様子もなくそう言う翼の顔は、どこか楽しげだった。

「それで、2人の得点は?」
 未来が特典を確認すると……そこに表示されていた点数は、予想外のものであった。
『93点』
「私達を追い越した……だとぉ!?」
「うそ!?」
「やったー!勝ったよ翔くん!」
 驚く翼と未来。響は飛び上がって喜んだ。
「初めて姉さんに勝てた……やった!」
 翔も驚きながら、響と2人でハイタッチする。
 歌で勝負する以上、手は抜いていない。翼は素直に自身の敗北を認めた。
「不覚……!いや、翔と立花の呼吸が私と小日向を凌駕していた、というわけね。認めるわ……」
「未来~、勝ったよ~!イエーイ!」
「おめでとう、響」
 響は未来ともハイタッチを交わす。
 その様子を見守りながら、翼は翔を指さす。
「今回は負けたけど、次はシングルで私に勝ってみなさい!」
「勿論だ!今度は立花の力を借りず、自分の歌唱力で姉さんに勝つ!」
 大人気ない姉の言葉に、呆れもせず素直に応じる翔。
 やっぱり姉弟なのだと、響と未来はそれを見て笑った。

 ∮

「さて、ここまで一緒の時間を過ごしたんだし……もうそろそろなんじゃない?」
 会計をしながら、翼は未来にそう話しかける。
「そうですね。そろそろ時間ですし、最後のポイントまで向かいましょう」
「最後は何処に行くつもりなの?」
 翼の質問に、未来は自信ありげに笑って答える。
「とっておきの場所に。きっと翼さんも気に入ると思いますよ」
「それは……ちょっと楽しみね」
 2人は会計を終えると、店の外で待っている恋人未満なカップル2人の元へと向かう。
 その様子を、影で忍びながら見守る人物がいる事を、街行く人々は誰も知らない。
 その人物が嬉しげに微笑んでいた事も、誰も知ることは出来なかった。

 ∮

「遅いぞ、姉さん」
「はぁ、はぁ……。3人とも、どうしてそんなに元気なんだ?」
 俺達4人は街を見下ろす高台の上にある公園にやって来ていた。
 公園までの長い階段をどんどん駆け上がる響、未来、そして俺。姉さんは少し疲れた様子で遅れて登っていた。
「姉さんがへばりすぎなんじゃないか?」
「翼さん、今日は慣れないことばかりだったからじゃない?」
「なるほど。はしゃぎ疲れる姉さんは、確かに殆ど見たことないな」
「防人であるこの身は、常に戦場にあったからな……」
 小日向の言葉に納得しつつ、姉さんの言葉に俺は少し複雑な気分になった。
 姉さんがこうなってしまったのは、俺がこの世で一番嫌悪しておると言っていい程の存在であるジジイ……風鳴家当主、風鳴訃堂の存在が根底にある。とはいえ、姉さんの防人化が加速したのは親友であり、最高のパートナーだった奏さんの死による部分が大きい。
 奏さんという、姉さんを普通の女の子に戻してくれる数少ない存在がこの世を去って以来、姉さんは剣から人に戻れなくなっていたと言える。
 それが最近になって、ようやく良い笑顔を見せてくれるようになった。
 姉さんを変えてくれたのは、言うまでもなく立花だ。姉さんだけじゃなくて、立花は俺も変えてくれた。俺はその事に深く感謝している。
 だから……姉さんがはしゃぎ疲れているこの状況を、俺は心の底から嬉しく思った。

「ほら、響……」
「で、でも……」
「もう、今逃したらチャンスはないわよ?」
「うう……」
 未来が頑張れ、ってわたしの背中を押す。
 正直、未来と翼さんがお膳立てしてくれたのに、私はまだ緊張していた。
 夕陽に照らされた街を見下ろすこの場所で、翔くんに告白する。それが未来の立てた作戦の最後の仕上げだった。
 とってもロマンチックだし、素敵だと思う。でもやっぱり、いざ本番となると緊張が……うう……。
「ほら、響。いつもの魔法の言葉、思い出して」
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……。……最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に!胸の響きを、この思いを、伝えるために!」
 頑張れ、わたし!頑張れ!
 翔くんに今日こそ、絶対に!胸の想いを届けてみせるんだ!
 そう自分に言い聞かせて、深く深呼吸すると……わたしは、翔くんを呼んだ。
「翔くん!」
「ん?どうした、立花?」
「その……こっち、来てくれないかな……?」
 そう言ってわたしは翔くんの腕を引く。
 翔くんは目を大きく開いて、少しだけ沈黙すると、やがて答えた。
「わかった……」

 立花と2人で街を見下ろす。眼下に広がる街並みも、広がる海も、見上げる空も。全て一面のオレンジに染まっていて……その色はやっぱり、あの日の放課後を思い出す。
 そのオレンジの中で、俺は再び立花と向き合っている。夕陽に照らされたその顔は、あの日よりも少しだけ幼さが消えていた。
「……翔くん、あのね……」
 緊張した様子で、立花が切り出す。
 ああ、分かっている。立花の様子を見れば、分かってしまう。どんな鈍感でも、ここまでされて分からない筈がない。いたらぶん殴られても文句が言えないはずだ。
 もう既に、迷いはなかった。姉さんと、多分小日向も背中を押してくれたんだ。覚悟はとっくに決まっている。
 本当なら俺から先に仕掛けたかったけど、立花に先を越されてしまった以上、先に聞いてやらないのは無粋だろう。
 俺は息を呑んで、次の言葉を待った。
「わたし……翔くんのことが好き。……ううん、大好き!」
「ッ!……お、俺の事が!?」
「うん……。優しくて、強くて、かっこよくて……わたしにとって、世界で一番の男の子。それが、わたしにとっての翔くんなんだ……」
 自分で言って、自分で赤くなりながら、立花は俺への愛を真っ直ぐにぶつけて来る。
 その一言一言に、俺の心は何度も打たれていった。
「だから……その……」
 両手を後ろで組みながら、もじもじと揺れる立花。その愛らしい姿に、俺の視線は釘付けになる。
 そして立花は、しばらく溜めた後、遂にその言葉を解き放った。
「わっ、わたし、立花響とお付き合いしてくださいッ!!」
 ……ああ、そうか。
 俺はようやく……君のその手を取って、共に歩んで行くに相応しい男になれたんだな……。
 強く、深く、それを実感する。その言葉だけで、俺は満たされていった。
 だが、これで満足するにはまだ早い。今度は俺の番だ。
 両目を瞑って右手を差し伸べている立花の手を取ると、俺はその手を引っ張り、立花の身体をこちらへと引き寄せた。

 強く引っ張られる感触と、身体を包む温かさ。
 その、覚えのある温かさに目を開くと……わたしは、翔くんに抱き締められているのだと理解した。
 全身が熱くなる。心臓が早鐘を打つようにバクバクと高鳴り、顔が真っ赤になるのを感じた。
「……俺も、立花の事が大好きだ。……ああ、あの頃からずっと、君の事が好きだったとも!」
「えッ!?……あの頃って、もしかして……」
 2年前……。そんなに前から、翔くんはわたしの事を……!?
 困惑するわたしを他所に、翔くんは続ける。
「あの時の俺は、心に余裕がなかったし、何より弱虫だったから、自分の本当の気持ちに気付けなかった……。でも、今はハッキリと分かる!俺は君が……誰よりも強くて、誰よりも優しい心を持っている立花響が大好きだ!その優しさで周りを照らして、笑顔と元気をくれる立花響を……花が咲くような愛らしい笑顔で、どんな辛い事でも吹き飛ばしてくれる勇気をくれる立花響を、俺は愛している!!」
「ッ……!!」
 翔くんは、矢継ぎ早にどんどんわたしへの想いを語り続ける。
 もう既にわたしのキャパシティーは限界だ。容量がオーバーして爆発寸前、これ以上何か言われたら、わたし……もう、抑えられないッ!
「だから……()、ありがとう。こんな俺の事を好きでいてくれて」
「ッ!?はううううう……」
 なっ、名前……!今、翔くんわたしの事、下の名前で……。
「もし、響さえよければ……俺は、響と一緒に同じ空を見ていたい……」
「ッ!!??そっ、それって……」
 待って翔くん!それ告白どころじゃない!
 その言葉はっ、そ、その……ッ!

「2人で同じ幸せを抱いて、同じ未来へと翔んで、同じ音を奏でていきたい……」
「……翔くん」
「うん?」
 翔くんの背中に手を回す。わたしはそのまま両腕に力を込めて、思いっきりぎゅ~っと、翔くんを抱き締めた。
「その、今の言葉は……プロポーズとして受け取って、いいのかな……?」
 プロポーズ。その一言で気が付いたのか、翔くんも顔を真っ赤にする。
「そっ、そそそ、そそそそれはだな……っ!?……あ~……うん……。そう捉えてもらっても、構わない……ぞ?」
 翔くんの両腕にも力が込められる。自然と密着した翔くんの胸から、わたしと同じくらい激しくなった鼓動が聞こえてくる。
 ……わたし達は今、さっき翔くんが言っていた通り、"同じ音を奏でている"んだ。
 夕陽の赤さで誤魔化せないくらいに真っ赤になったわたしと翔くんは、それから未来に呼ばれるまで、お互い背中に回した手を離す事が出来なかった。
 ファーストキスはまだしてないけれど、これ以上はお互いに歯止めが効かなくなりそうだったから、それはまた次の機会にってことで……。

 ∮

「響……やったね。おめでとう……!」
 未来は少し離れた所で、響と翔の様子を見守りながら、目元を拭ってそう呟いた。
「どうした小日向、泣いているのか?」
 翼にそう問われ、未来は首を横に振った。
「違うんです。なんだか、思っていた以上にずっと嬉しくって……なんだか、涙が出て来ちゃいました……」
「そうか……。緒川さん、居るんでしょう?」
「え……?」
 翼が言った次の瞬間、その背後にシュタッという音と共に緒川が現れた。
「いつから気付いていたんです?」
「何となく、です。仮にも『見守り隊』の副隊長であるあなたが、こんなイベント逃す筈がないでしょう?」
「部下の皆さんに送り出されましてね。僕の代わりに仕事を引き受けるから、初デートはちゃんとカメラに収めてこい……と焚き付けられちゃいました」
「緒川さんも何だかんだでノリノリですよね……。小日向にハンカチかティッシュを」
 翼にそう命じられ、緒川は未来にポケットティッシュを渡す。
 未来は突然のNINJAに驚きながらも、受け取ったポケットティッシュで涙を拭いた。

「それで、翼さんの方は今日一日、どうだったんですか?」
 緒川にそう聞かれて、翼は今日の朝からこの瞬間までを振り返り、夕陽を見ながら呟く。
「本当に今日は……知らない世界ばかりを見てきた気分です」
「……そんな事ありませんよ。ほら、見て下さい翼さん」
 翼の言葉に、緒川はふむ、と何か考えるような仕草をすると、やがて翼の方へと手を差し伸べた。
 何事かと疑問に思いながらも、その手を握った翼は、緒川にエスコートされるように、そっと手を引かれながら柵の方へと近付く。
「お、緒川さん?……あ──」

 翼の目の前に広がる光景。それは、夕陽に照らされ、オレンジ色に染まった街と海だった。
 緒川はその光景に圧倒される翼を見て、優しく言った。
「あそこが今朝、響さん達と待ち合わせしていた公園です。あそこがリディアンで、あそこはふらわー。皆さんが一緒に遊んだ所も、今日は遊んでない所も、全部翼さんの知ってる世界です。今、目の前に広がっているのは、昨日に翼さんが戦ってくれたから、今日に皆が暮らせている世界ですよ」
「これが……私が守っている、世界……」
「……だから、知らないなんて言わないでください」
 そう言って緒川は、いつもと変わらない……いや、いつもよりも少し柔和で、どこか慈しみの浮かんだ笑みを向けた。
(あ……思い出した……。奏も昔──)
 その言葉に、翼はかつて、奏が夢の中でも言っていた言葉を思い出す。

『戦いの裏側とか、その向こうには、また違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えて来たし、そいつを見て来た』

「──そうか。これが、奏の見てきた世界なんだ……」
「……と、らしくない事を言ってしまいましたね。それでは、僕はこの辺で。下に車を回して来ますね」
 翼は振り返ると、立ち去ろうとする緒川に声をかける。
「緒川さん……。ありがとう、ございます」
「……いえ、僕は何も」
 そう言って緒川は振り返り、会釈すると階段を駆け下りて行った。
 未来はその様子を見て、翼にそれとなく囁く。
「翼さん……。もしかして緒川さん、翼さんのこと……」
「なっ!?ないないない!あの緒川さんに限って、そんな事あるわけが!……あるわけが、ない……はず……だが……」
 後半になるにつれて、どんどん小さくなっていく翼の声。
 それを見て、未来は確信した。
(あ、もしかして、翼さんの方が緒川さんの事を……)
 両思いになった親友と、絶賛片想い中……というより、まだそれを認めていない先輩。
 周囲の恋愛事情に、未来は少しだけ羨ましさを感じるのだった。

 やがて、日が沈む頃。緒川が運転する車の前で、翼は緒川から受け取った3枚のチケットを、それぞれに配る。
「……いい一日だった。立花と小日向にはお礼をしないといけないな。こんなものでお礼になるかは分からないが──」
「え……これって……。復帰ステージのチケット!?」
「ああ。アーティストフェスが10日後に開催されるのだが、そこに急遽ねじ込んでもらったんだ。倒れて中止になったライブの代わり、という訳だな」
「なるほど……」
「翼さん、ここって……」
 チケットの裏側を見て、その会場を確認した響が呟く。
 それは2年前のあの日、惨劇の現場となったライブ会場。
 響の運命を狂わせた場所であり、奏が命を散らした場所。そして、2年前に未来と翔が行けなかった会場でもある。
「……立花にとっても、辛い思い出のある会場だな……」

 しかし、響の言葉は予想に反するものだった。
「ありがとうございます、翼さん!」
「響……?」
「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えていけます。そうですよね、翼さんッ!」
「……そうありたいと、私も思っている」
 力強く、決意するようにそう返す翼の顔には、強い決意が浮かんでいた。
「今度は俺と小日向も一緒だ。何があっても、怪我と迷子からは守ってみせるからな?」
「響、その日は絶対に遅れちゃダメだよ?」
「もー、分かってるってば~!」
「ふふ……」
 そう言って笑い合う4人を夕陽に代わり、今度は一番星と、見え始めた丸い月が照らしていた。 
 

 
後書き
祝え!立花響、そして風鳴翔。繋ぐ手の装者と伸ばす手の伴装者、運命で結ばれし2人の恋が成就した瞬間である!
ハーメルンでこの回を上げた頃、選曲コメしてくれた皆さんにスペシャルサンクス!
そして、翔ひびが結ばれる瞬間を期待しながら読み続けて来た皆さん、ありがとうございます!
これがそんな皆さんへの、第1の報酬です!
次は純クリ、そしておがつば!そちらにもご期待ください!

職員A「……以上が、今回我々の入手した映像になります」
職員一同『(´つヮ⊂)ウオォォォォォォォ!!』
黒服A「無理!尊い!式場が来いッ!」
職員B「やっとか……遂にか……おめでとう!」
黒服B「生で見れてよかった……。でもあれ、全員が生で見たら死人が出てたかもしれない……」
監視員「いやそれ黒服Bさんっしょ~」
職員A「まさか思わぬ所で緒川さんと翼さんの美味しい映像まで撮れるなんてね……」
黒服B「それ!本当にそれ……!ちょっと流石に尊さメーターが振り切れて天に昇りかけたわ……」
黒服A「これは今後も見逃せないぜ!」
監視員「ところで、後書きモブ枠の筈が初登場から早々に名前もらって本編準レギュ入りしたメンバーがいるらしいッスね……。僕らも準レギュ入り、したいッスね~」
職員A「何贅沢言ってるのよ!私たちの仕事は!」
職員B「読者の代弁ッ!それが我々のお仕事ッ!」
職員A「って事でこれからも、わたし達『見守り隊』をよろしくお願いします~」

次回、ライブ回!……ではなく、カ・ディンギル編が迫る!?
クリスと司令の間に生まれる信頼。浮上する『カ・ディンギル』の謎。
街に現れるノイズの大群!そして改良型RN式に身を包んだ純を相手に、翔は、クリスはどうするのか!?
次回も目が離せないぞ!お楽しみに! 

 

王子の行方

 
前書き
さあ、純クリのターンだよ!
書き上げたのは響の誕生日まであと9日だった頃か……。何もかもが皆、懐かしい。 

 
「しぶといわね……ボウヤ」
 何度目かの攻撃の後、フィーネはそう呟いた。
 目の前には、鞭による擦り傷と蚯蚓脹れでボロボロになりながらも、まだ立ち上がろうとする少年の姿。
「そんなにボロボロになって、それにネフシュタンの侵食も進んでいるはず。なのにどうして、ボウヤは立ち上がれるのかしら?」
「そんなの……決まっているだろう……!」
 ヨロヨロと立ち上がり、痛みに歯を食いしばりながら拳を握る少年。
 フィーネを睨み付けると、少年は絞り出すような声で吼える。
「愛する人を守るため……!この想いを伝えるために、僕は、クリスちゃんには生きててもらわなくちゃいけないんだ!」
「想いを……伝えるため……」
 その言葉に、フィーネは一瞬だけ動揺したような表情を見せる。

「……馬鹿ね。このまま続ければ、その左手は鎧に食い破られて、その命も私の手で刈り取られる。ボウヤに希望はないのよ?」
「それでクリスちゃんが守れるなら、左手ひとつ、安いものさ……ッ!うぐっ、うっああ……!」
 拳を握り締め、構えようとして……鎧の侵食に苦悶の声を漏らす少年。
 蹲りそうになりながらもなお、膝を屈しようとしないその姿に何を思ったのか……フィーネは鞭から手を離すと、その場を離れる。
「なっ……ま、待て……っぐ!」
「……ちょっとその左手、貸しなさい」
 間もなく戻ってきたフィーネは少年の左手首を掴むと、その手にスタンガンを押し当てた。
「ッ!?ぐあああああああああああッ!」
「……はぁ。侵食してると言っても、所詮は欠片。クリスほど酷くはない事を幸運に思いなさい」
 そう言ってスタンガンを離すと、少年の左手から金属片が床へと落ちた。
 フィーネの行動に、少年は困惑の表情を見せる。

「なっ……え……?」
「勘違いしないで頂戴。助けられたなんて思わない事ね、ボウヤ。これは取引よ」
「取引……?」
「そう。私はボウヤを殺さないでおいてあげるし、なんならクリスの命も見逃してあげる。その代わり、私の計画を手伝いなさい。ボウヤは私が計画を進められるよう、私の身を守る騎士になるの」
 その言葉に、少年は迷いを見せる。この魔女に手を貸せば、何かまずい事になるのは目に見えている。しかし、そうしなければこの魔女は自分を殺すだろう。なにより、自分だけでなくクリスの命も危うい。
 少年に残された道は、一つしかなかった。

「……本当に、クリスちゃんには手を出さないんだな?」
「ええ。私は米国の連中とは違うの。契約は守るわ」
「……もう1つ。どうして気が変わったんだ?」
「そうね……ただの気まぐれよ。ちょっとだけ、殺すのが惜しくなっただけ」
 その言葉に、少年は訝しげな表情でフィーネを見る。
 フィーネは少年に顔を近づけると、契約への是非を問う。
「それで……私と契約するか、それともここで死ぬのか。どちらが賢い選択なのか、ボウヤには分かるわよね?」

 少年は出てきた時と変わらず、フィーネを睨み返すと、彼女の問いかけに答えた。
「……いいさ、乗ってやる。それでクリスちゃんも僕も生きていられるなら……その契約呑んでやるよ」
「フフ……いい子ね。それじゃ、契約成立って事でいいのね?」
「契約する以上は、クリスちゃん達の事も教えてくれるんだな?」
「まあ、最低限の事は教えてあげましょう」
 そう言ってフィーネは少年から離れ、屋敷の奥へと戻って行く。
「ほら、とっととついて来なさい。ボウヤ」

 少年は立ち上がると、屋敷へと戻って行くフィーネの背中に向かって叫ぶ。
「純!爽々波純、僕の名前だ!ボウヤじゃない!」
 フィーネは足を止めると、クスリと笑った。
「じゃあ、爽々波クン。早速あなたに仕事を与えるから、こっちにいらっしゃい」
 こうして爽々波純はフィーネと契約を結び、翌日、クリスを狙って放たれたノイズの回収を兼ねた()()()()のテスト運用の為に、街へと出る事になったのだった。
 
 ∮
 
 明朝、山奥の館。そこは武装した兵士に囲まれていた。
 アサルトライフルを手に、兵士達は館への突入を許可する合図を、今か今かと待ち望んでいた。
 やがて、リーダーらしき兵士が片手を挙げる。
 それを合図に、兵士達は屋敷へと走り出した。
 
(……彼女は何を企んでいる?)
 銀の鎧に身を包み、純はフィーネの狙いについて考えていた。
 見張りを頼まれた際、破壊されたドアの陰から彼女が操作するモニターをチラッと見た彼は、表示されていたのが親友とその想い人であった事に気が付いた。
 フィーネは2人から何かのデータを取っている、という所までは分かったが、それ以外にわかることはない。
(おそらく、シンフォギア……だっけ?僕が今着せられているこれに関係している事は分かるんだけど……一体、何を……)
 ──そう思案していた彼の耳に、足音が届く。
 目をやると、銃で武装した男達がこちらへ向かってくるではないか。
 直ぐに通信機を起動し、フィーネへと連絡しようとした所で発砲音が鳴り響いた。
 反射的に身を庇う姿勢を取ると、金属同士がぶつかり、弾かれる音が鳴り響く。撃たれているのは自分だと気が付くまでに数秒かかった。

(銃弾が当たっているはずなのに、無傷……!?これが、シンフォギアシステム……いや、まだ起動はしていないから、ここまではただの防弾チョッキと変わらない、か)
 耳元の通信機のボタンを押し、中のフィーネに連絡する。
「敵襲!ライフル持った連中が館に!」
『チッ!なんてタイミングの悪……』
 次の瞬間、ガラスの割れる音と共に通信が途絶する。
 そして次の瞬間、目の前まで迫っていた兵士達がその屈強な肉体に勢いを乗せて突っ込んできた。
「……ッ!」
 マスクを付けられた口からは、一言の悲鳴も漏れ聞こえない。
 しかし、純は勢いよく弾き飛ばされ床を転がる。
(ッ!この人達、どう見ても一般人じゃないな……。昨日の説明から察するに、多分米国の……)
 兵士は純を置いて部屋の奥へと向かっていく。
 立ち上がろうとした純の頭に、仲間に着いていかずに残った兵士が銃口を当てた。

「Be nice. I'll get away with it right away.(大人しくしてろ。どうせすぐに片付くんだ)」
『What is your purpose? Are you going to kill that person?(あなた達の目的は?あの人を殺すつもりですか?)』
 兵士からの言葉に対して、流暢な英語で答える純。しかし、ここでマスクを付けていたのを思い出す。
(そうだった。マスク付けてるから聞こえないんだった……)
「Once that woman is done, we will collect your armor. Would you like us to give you that life.(あの女を始末したら、お前のその鎧も我々が回収する。大人しくその命を我々に差し出してもらおうか)」
『……RN式、起動』
 純は左手首のブレスレットへと指を触れる。
 次の瞬間、全身の表面を虹色の保護膜が包み込み、身にまとっていた鎧が形状を変え、各関節部にパイプのようなパーツが現れる。
「What!?(何ッ!?)」
 次の瞬間、その拳の一撃で兵士は吹っ飛ばされる。
 気絶した兵士の横に転がる銃を踏み壊し、純はマスクの裏で呟いた。
『生憎、他人に差し出せるほど安い命じゃないんでね』
 
「Uncle Sam, a beardless who hasn't even looked into the abyss of black art──(ブラックアートの深淵を、覗いてすらもいない青二才のアンクルサムが──)」
「Fire!(撃て!)」
 その時、部屋の奥からフィーネの声と共に音が激しい銃声が鳴り響く。
『ッ!?撃ったのか!無防備なあの人を……!』
 慌てて純は部屋の奥へと向かっていく。破壊されたドアを抜けて、彼がそこで見たものは……。
 
 ∮
 
 その日の昼時。
「ッ!?何が、どうなってやがるんだ……」
 フィーネの館に戻って来たクリスは、中の光景に驚いていた。
 部屋は荒らされ、窓ガラスは軒並み割られている。
 そして、部屋には銃を持った屈強な男達の死体が散らばっている。全員、腹部を刺突された痕が残っている事から、ネフシュタンを纏ったフィーネの仕業だと察することができる。
(生きてる奴は……いなさそうだな。こいつら、何処かの兵隊……か?)
 部屋を見回しながら、先へと進んでいく。

 その時、背後から足音が響く。振り返ると、そこには弦十郎が立っていた。
 クリスは慌てて後退る。
「……あ、ち、違うッ!あたしじゃない!やったのは──」
 最後まで言い切る前に、拳銃を構えた黒服のエージェント達が部屋へと突入する。
 取り押さえられると思い、抵抗しようと構えるクリス。
 しかし、黒服達は彼女を通り過ぎて行った。困惑するクリスの頭に、弦十郎の手が優しく乗せられる。
「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。全ては、君や俺達の傍にいた彼女の仕業だ」
「えっ……」
 弦十郎の顔を見上げるクリス。
 弦十郎はクリスから手を離すと、死体の顔や服装を見て確信したように呟く。
「……倒れているのは米軍のようだな。やはり裏で繋がっていたか──」
「風鳴司令ッ!」
 エージェントの1人が、米軍兵のリーダーらしき人物の死体に貼られていた、置き手紙らしきものを剥がす。

 次の瞬間、ブービートラップが作動し、部屋の各所に仕掛けられていた爆弾が爆発した。
 爆煙に包まれる部屋。崩れ落ちる天井。何とか落下する瓦礫を回避したエージェント達は、幸い1人として負傷すること無く互いの無事を確認する。

 そして、弦十郎とクリスのたっていた地点は……なんと、瓦礫を片手で持ち上げながら、空いた方の腕にクリスを抱いて庇う弦十郎の姿があった。

「え……?」
 クリスは目を見開いて驚いていた。
「どうなってんだよ、こいつは……!」
「衝撃は『発勁』でかき消した」
「そうじゃねぇよッ!離せ……よッ!」
 弦十郎の腕を振り払い、クリスは弦十郎から離れると、その顔を睨む。
「何でギアをまとえない奴が、あたしを守ってんだよ!」
 その手で止めた瓦礫を床に降ろし、弦十郎はクリスの方を振り返る。
「俺がお前を守るのは、ギアの有る無しじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」
「大人……?あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだッ!とんだ夢想家で臆病者!あたしはあいつらとは違う!歌で世界を救う?戦地で難民救済?いい大人が夢なんか見てんじゃねーよッ!」

「大人が夢を、ね……」
 弦十郎が呟く。クリスは拳を握りながら続けた。
「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からブッ潰していけばいい!それが一番合理的で現実的だッ!」
「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方で、お前は戦いを無くせたのか?」
「──ッ!?それは……」
 弦十郎の言葉に、クリスは反論出来なかった。
 ついこの間、自分がその流儀に基づいて行った行動で、無関係な人々を危険に晒した事を思い知らされたからだ。
 クリスの様子を見て、今度は弦十郎が自らの言葉を紡ぐ番となった。

「……いい大人は夢を見ない、と言ったな。そうじゃない。大人だからこそ、夢を見るんだ。大人になれば背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場へ行ったのか?……違うな。歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」
「なんで、そんな事……」
「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない現実をな」
「あ……」
「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親は、きっとお前の事を大切に思っていたんだろうな」
 そう言って弦十郎は、涙ぐみながら震えるクリスを優しく抱き締める。
 それはまるで、娘をあやす父親の様に……。

 それでも何とか堪えようとしていたクリスだったが、床に落ちている何かが、崩れ落ちた天井から射し込む太陽の光を反射して輝くのを見つける。
 それは、ヒビが入った黒縁眼鏡。自分を助ける為に、その身を呈して庇ってくれた幼馴染が身に付けていたもの。
(夢……。そうだ、ジュンくんも……)

 幼馴染の純も、自分の夢を……あの日の小さな約束を、ちゃんと叶えていた。
 両親が伝えたかった想いに気が付き、その上で改めて実感した幼馴染の想いの丈。
 溢れ出した感情の波は、クリスの心に巡らされた防波堤をとうとう決壊させた。
「う、うう……ああ……うッ、ひぐ……ッ!う、うわあああんッ!あああ、あああああッ!」
 クリスは思いっきり声を上げて泣いた。
 両親への謝罪と感謝を。幼馴染との約束を。夢の尊さを。
 全てを胸に、ただただ溢れる感情を雫として、その目から流し続けていた。 
 

 
後書き
純「どうも。なんかクリスちゃんを手にかけようとしていた魔女と契約して、変な鎧を着せられるとかいう一部の人達がハッスルしそうな、或いは軽く落ち込みそうな状況に立たされ、その上留守の間にクリスちゃんがフラグ乱立してるよと煽る様なお便りを貰う羽目になっている、プリンスこと爽々波純です。いや、弦十郎さんはやましさ0で男前ムーブかましてるだけなので、僕は別に気にしていません。ただ、お便りというかコメント欄で度々クリスちゃんにセクハラ発言してる人の方が、僕にとっては問題ですね。早く契約終わって帰りたいんだけど、まだ戻れそうにないんだよね……。弦十郎さん、しばらくクリスちゃんの事、代わりに守ってあげてください」

純くん、心の声でした。

次回、フィーネの語っていたカ・ディンギルとは……!? 

 

カ・ディンギルの謎

 
前書き
純くんの事情も分かったところで、いよいよクライマックスへの助走が始まる! 

 
「「失礼しましたー」」
 響と未来が、職員室に提出物を出して退室する。
 晴れ渡った青空、明るい日が照らす校舎には、合唱部が歌うリディアンの校歌が響き渡っていた。
「ふんふふふーんふーん、ふふふふふーん……♪」
「なに?合唱部に触発されちゃった?」
 未来が響の方を振り向くと、響は窓から運動場や別の棟を見渡しながら答える。
「うーん。リディアンの校歌を聴いてると、まったりするっていうか、すごく落ち着くっていうか……。皆がいる所って思うと、安心する。自分の場所って気がするんだ。入学して、まだ2ヶ月ちょっとなのにね」
「でも、色々あった2ヶ月だよ」
「……うん、そうだね」
 翼の新曲CDを買いに行った矢先、ノイズに襲われた少女を助けようとして、胸のガングニールが覚醒したあの日。
 ノイズと戦う特異災害対策機動二課と出会い、シンフォギアについて知り、戦う覚悟を決めた夜。
 そして翔と出会い、彼と関わる中で惹かれ合い、そして結ばれた。
 2ヶ月間、本当に色んな事があった。それこそ、彼女の人生を変えるほどに。
 でも、これから先もこの日常だけは変わることなく、これから先も続いていくのだろう。
 確証はないが、そんな事を思いながら響は、リディアンという日常の風景を眺め続けるのだった。
 
 ∮
 
「……やっぱり、あたしは」
 本部に戻るべく、フィーネの屋敷を出ていくエージェント達。
 車に乗り込もうとした弦十郎に、クリスはそう声をかけた。
「一緒には、来られないか?」
「……」
「お前は、お前が思っているほどひとりぼっちじゃない。お前がひとり道を往くとしても、その道は遠からず、俺達の道と交わる」
「今まで戦ってきた者同士がか?一緒になれるというのか?世慣れた大人が、そんな綺麗事を言えるのかよ」
「ほんと、ひねてんなお前。ほれ──」
 弦十郎が投げて寄こしたそれを、クリスは片手で受け取る。
「通信機……?」
「そうだ。限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物もできる代物だ。便利だぞ」
 そう言って弦十郎は運転席のドアを閉めると、エンジンをかける。

 クリスは意を決したように、弦十郎へと声をかけた。
「…………『カ・ディンギル』!」
「ん?」
「フィーネが言ってたんだ。『カ・ディンギル』って。それが何なのか分からないけど、そいつはもう、完成しているみたいな事を……」
「……カ・ディンギル。後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる」
 弦十郎はハンドルを握る。それを見てクリスは慌ててもう一言付け足した。
「あとそれから……あたしの知り合いが、フィーネに連れてかれた。あたしを庇って……だから、見つけたら教えてくれ!あたしは絶対に、そいつを迎えに行かなくちゃいけないんだ!」
「……分かった。見つけ次第、連絡しよう」
 そう言って弦十郎はエージェント達と共に、屋敷を後にした。
 砂埃を上げて去っていく車を見送って、クリスは屋敷で拾った眼鏡をポケットの中から取り出した。
(ジュンくん……。待ってろ、もう少しだからな……)
 
 ∮
 
 昼食も終わって、未来と2人で寮へと戻ろうとしていたわたしの通信機のアラートが鳴る。
「師匠からだ!響ですっ!」
『翼です』
『翔です』
『3人とも、聞こえているな。敵の目的について収穫があった。……了子くんは?』
『まだ出勤していません。朝から連絡不通でして……』
 師匠の一言に、友里さんが答える声が聞こえた。
「そうか……」
『連絡が取れないとは、心配ですね。以前の広木防衛大臣の件もあります』
 翼さんが不安そうに呟く。
「了子さんならきっと大丈夫です!何が来たって、わたしと翔くんを守ってくれた時のようにどがーんッ!とやってくれます!」
『いや、戦闘訓練もろくに受講していない櫻井女史に、そのような事は……』
「え?師匠とか了子さんって、人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?」
『叔父さんは戦闘力、緒川さんは忍者、藤尭さんは暗算能力、友里さんは健康状態把握力……。二課は大人、いや、OTONA揃いだから、了子さんのあのバリアーもその科学力の産物だと思うんだけど……叔父さん、見たこと無かったんですか?』
 翔くんに言われて驚いた。い、言われてみれば確かに、二課の人達って凄い人だらけだ……。
『いや、そのような発明は俺も聞いていないが……』
『や~っと繋がった~。ごめんね、寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良くなくて~』
 そこへ了子さんの通信が入る。な~んだ、ただの寝坊かぁ。よかった~。

『……無事か。了子くん、そちらに何も問題は?』
『寝坊してゴミを出せなかったけど……。……何かあったの?』
『……ならばいい。それより、聞きたい事がある』
『せっかちね、何かしら?』
『──カ・ディンギル。この言葉が意味するものは?』
『……カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で『高みの存在』。転じて『天を仰ぐほどの塔』を意味しているわね』
『何者かがそんな塔を建造していたとして、なぜ俺達は見過ごしてきたのだ?』
「確かに、そう言われちゃうと……」
 そんな大きな塔なんて建ててたら、皆すぐに気付いちゃうと思う。
 バレなかった理由があるなら……うーん、何だろう?
『だが、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば、勝利も同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるなッ!』
「了解です!」
『了解です』
『了解!』
 師匠の号令に、わたし達3人が同時に答える。
『ちょっと野暮用を済ませてから、私も急いでそっちに向かうわ~』

 了子さんの声と共に通信を終えたわたしは、ポケットに通信機を仕舞いながら呟く。
「カ・ディンギル……。誰も知らない秘密の塔……」
「検索しても、引っかかるのはゲームの攻略サイトばかり……」
「う~ん、なんなんだろう……」
 検索をかけていた未来も首を傾げる。
 翔くんに電話してみようかな?こういうの詳しいのは翔くんだし。
 そう思ってケータイを取り出した時、ノイズ出現の警報音が鳴り響いた。
 
 ∮
 
「さて……私の計画も、そろそろ大詰めね」
 廃墟の非常階段。撃たれた腹部を押さえながら、櫻井了子は呟いた。
 血に濡れた服、しかし痛む理由は傷ではない。その様子を見て、純が心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「爽々波クン、あなた自分の立場を分かってるのかしら?私の計画よりも、私の身を心配するなんて、お人好しにも程があるわよ」

 了子の呆れたような言葉に、純は苦笑いする。
「こればっかりは性分なので。……僕の役目は時間を稼ぐだけ、でしたよね」
「ええ、そうよ。東京スカイタワーに、シンフォギア装者達が突入出来ないよう相手してあげなさい。改良したとはいえ、聖遺物の力を解き放ったそのギアが安定稼働できるのは3分間。それ以上持たせられるのかは、あなたの精神力次第よ」
 そう言って了子は立ち上がり、白衣の下から取り出したソロモンの杖を空へとかざす。
 バビロニアの宝物庫から呼び出されたのは、旅客機のような姿の巨体を持つ、空中要塞型ノイズ。それを4体、街の上空へと放った了子は、念を押すように純へと言い放つ。
「私との契約を破って手を抜こうとしても無駄だから、その辺り覚えておきなさい。少しでも手を抜いたら、鎧の内側に仕込んだネフシュタンの欠片があなたの心臓を貫いちゃうし、私の目的が達される前に負けようものなら、ノイズ達に命じてクリスを集中攻撃させるわ」

「……やっぱりあなたは真性の魔女だ」
 苦虫を噛み潰したような表情の純を見て、了子は笑った。
「なら、力の限り戦いなさい。あなたが誓った愛のために、ね」
 了子が去って行くのを確認して、純はメットを被る。
 自動でバイザーが降り、口を覆い隠すマスクが展開された。
『……頼むよ、翔。僕があの人との契約を完遂するには、君が本気で僕と戦ってくれないといけないみたいだからね……』
 マスクの裏に封じられた言葉。それでも彼は、こちらの事情を一切知らずとも何とかしようと動いてくれるであろう親友に望みを託し、天高く伸びる塔へと向かって行った。 
 

 
後書き
弦十郎「それにしても、血文字の『I LOVE YOU. SAYONARA』か……。彼女は、誰に対してこのメッセージを残していたんだろうな……」
クリス「知るかよ……。フィーネが愛してる、なんて暇を告げるような相手がいるのか?」
弦十郎「クリスくんへ宛てたものではないか?」
クリス「んなわけねぇだろ!あたしを殺そうとした奴だぞ!?」
弦十郎「ならば、一体誰へ……」
クリス「案外、おっさんに対してだったりすんじゃねぇの?」
弦十郎「俺……だと?」
クリス「ここがバレてんの察して、おっさんがここに来たら爆弾で始末するつもりだったからこそ書いた……とかよ」
弦十郎「……了子くんが、俺へと宛てて……か」
クリス「ま、あいつの考えてる事なんてあたしにゃ読めねぇけどな」
弦十郎「ふむ……。まあ、どちらに宛てていたせよ言えるのは、別れを告げる程度には大事に思われていた……という事だろうな」
クリス「あたしはぜってー認めないからな。あんな奴が、人を本気で愛してるはずがねぇ」
弦十郎「……戻るぞ。もうここに用はない」

本日は補完パート。
果たしてあの手紙、誰に宛てたものだったんでしょうね?

次回、スカイタワーにノイズが迫る!
急行する二課の装者達。そこへ現れたのは……!? 

 

スカイタワーの決戦

 
前書き
米国より譲渡されたソロモンの杖によって引き起こされた、スカイタワーの決戦から(ry
月を崩壊させる強大な力を持つカ・ディンギルを起動させるため、新たな戦いが幕を開けた……。

これカ・ディンギル起動したら、フィーネをエボルト扱いであのナレーションですね。
世界を滅ぼすタワーも建ってますし。
翔(ビルド)、響(クローズ)、翼(グリス)、クリス(ローグ)、純(マッドローグ)かな? 

 
「瑣末な事でも構わん!カ・ディンギルに関する情報をかき集めろッ!」
 司令室にて、弦十郎の指示で職員達は端末を操作し、カ・ディンギルへの手がかりを探し続けていた。
 張り詰めた空気に充ちた司令室。そこへ、ノイズ出現のアラートが鳴り響き、藤尭が反応を確認した。
「飛行タイプの超大型ノイズが一度に三体ッ!──いえ、もう一体出現ッ!」
『合計四体……すぐに追いかけます!』
 通信しながらライダースジャケットを羽織り、緒川が投げ渡したヘルメットを被ると、翼はスタジオから駆け出す。
 愛車であるバイクに飛び乗り、エンジンをかけるとフルスロットルで現場へと出撃した。

「──今は人を襲うというよりも、ただ移動している……と。……はい。はいッ!」
「響……」
 通信を終えた響は、心配そうな表情でこちらを見る未来に笑いかける。
「平気。わたしと翔くん、翼さんの3人で何とかするから。だから未来は、学校に戻って」
「リディアンに?」
「いざとなったら、地下のシェルターを解放して、この辺の人達を避難させないといけない。未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」
「う、うん……分かった」

 響は少し申し訳なさそうに呟く。
「……ごめん。未来を巻き込んじゃって」
「ううん、巻き込まれたなんて思ってないよ。わたしがリディアンに戻るのは……」
「おーい!」
 そこへ聞き覚えのある声が近付いてくる。
 振り向くと、翔が駆けて来る所だった。
「翔くん!」
「やっぱり小日向も居たか……って、あれ?もしかして俺、タイミング悪かったか?」
 隣まで走って来た所でようやく、未来の話をぶった切ってしまった事に気が付く翔。
 しかし、未来は笑って返した。
「ううん。丁度今から言う所」
「そ、そうか……。なら、しばらく黙っていよう」
 一歩身を引く翔。未来は、響の顔を見ながら続けた。

「わたしがリディアンに戻るのは、響がどんなに遠くに行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように……。響の居場所、帰る場所を、守ってあげる事でもあるんだから」
「わたしの……帰る場所」
「そう。だから行って。わたしも響のように、大切なものを守れるくらいに強くなるから──」

 それから未来は、翔の方を見て言った。
「風鳴くん。響のこと、よろしくね。響が無茶しないように……ううん、無茶しても無事に帰ってこられるように、わたしの代わりに守ってあげてほしいな」
「任せてくれ。響は何があっても、俺が守ってみせる」
 力強く頷く翔に、未来は安心したように微笑んだ。
 響は2人を交互に見ると、まずは未来の手を握って口にした。
「未来……。小日向未来は、わたしにとっての陽だまりなの。未来の近くが1番あったかいところで、わたしが絶対に帰ってくるところっ!これまでもそうだし、これからもそうっ!だからわたしは、絶対に帰って来るっ!」
「響……」
「一緒に流れ星を見る約束、まだだしねっ!」
「うんっ!」

 そして、今度は翔の手を握り、その顔を見つめる。
「それから翔くん。翔くんは、わたしにとっての木陰……かな」
「木陰……?」
「うん。翔くんの隣は、未来とはまた違った意味で落ち着ける場所。陽だまりと同じくらいの、わたしにとっての居場所!だから、また三人で笑ったり、遊んだりするためにも、必ず帰って来ようねっ!」
「ああ、そうだな。……流れ星、俺も一緒に見に行ってもいいか?」
「勿論だよ!今度は翔くんや翼さんも一緒に見に行こう!」
 響、翔、未来の3人はお互いに顔を見合わせる。
「じゃあ、行ってくるよ!」
「二人とも、行ってらっしゃい」
「行ってきます……で、いいんだよな?」
「だね~」
 そうして2人は、街の方へと駆け出して行く。その背中を、未来は静かに見送っていた。

 ∮

『翼です』
「響です」
「翔です」
『聞こえているな?ノイズ進行状況に関する最新情報だ。同時多発的に出現したノイズの進行経路の先には、東京スカイタワーがある事が判明した』
「東京……スカイタワー……」

 東京スカイタワー。世界で1番高い電波塔として知られる、東京の数ある建築物の代表格だ。
『カ・ディンギルが塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさにそのものじゃないでしょうか?』
 藤尭さんの言う事はそれらしいけど……なんだろう、あからさまに誘導されている気がしてならない。普通、スカイタワーに何か仕掛けてるなら、こんな目立つ事はしないはず……。
 十中八九、罠に違いない。叔父さんも気付いているはずだ。しかし、それでも敢えて俺達を向かわせるということは……。
 ……なるほど。ここは、叔父さんの策に乗る事にしよう。

『スカイタワーには、俺達二課が活動時に使用している映像や、交信といった電波情報を統括制御する役割も備わっている。3人とも、東京スカイタワーに急行だ!』
『了解!』
 先に姉さんが通信を切る。多分、バイクで現場に向かってる所だろう。
「スカイタワー……でも、ここからじゃ──うっわッ!?」
 スカイタワーまでの距離をどうするか、響がそう呟こうとしたその時だった。
 プロペラ音と共に、空から白いヘリコプターがこちらへと降りてくる。
『なんともならないことを、なんとかするのが俺達の仕事だッ!そいつに運んでもらえッ!』
「りょ、了解ですッ!」
「流石叔父さん!手際がいいッ!」
 俺と響はヘリに乗り込み、そのままスカイタワーの上空へと向かって行った。

(カ・ディンギルの情報を得た直後に、塔に集結する大型ノイズ。罠だとしても──ここは乗るしかないッ!)
 弦十郎は、己の策が功を奏すると信じ、装者達にノイズを任せる。

(これは明らかに陽動。本物のカ・ディンギルは別の場所にあるはず……。誰にも知られずに塔を建造するには……ッ!まさか、カ・ディンギルの正体は!?)
 そして緒川もまた、マネージャー業の間だけかけている伊達眼鏡を外すと、すぐさま車をリディアンへと向けて走らせるのだった。

 ∮

 東京スカイタワーの周囲を取り巻くように旋回する、4体の空中要塞型ノイズ。
 4体は、旅客機で例えれば、貨物室のハッチのようになっている器官を開き、そこから大量のノイズを街へと投下していく。
 更に背部の器官からは空母から飛び立つ戦闘機の如く、フライトノイズが何体も飛び立っていく。
 そんな空中要塞型ノイズの頭上へと回ったヘリから、響は飛び降りる準備をしていた。
「響、そっちは頼むぞ!」
「任せて。翔くんはもう一体の方ね!」
 そう言って響は先に飛び降りると、その聖なる(うた)を口ずさむ。

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」

 そしてヘリはもう一体の要塞型ノイズの頭上へと移動し、翔はそこで飛び降りると、自身の胸の歌を口ずさんだ。

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

 橙色と、灰色の閃光が二人を包み、その姿を変じさせる。

「何故どうして、広い世界の中で──」
 響は右腕のパワージャッキを引っ張り、拳を真下へと真っ直ぐ向け、落下の勢いを全て乗せた一撃を空中要塞型ノイズへとぶつける。

〈我流・撃槍衝打〉

 空中要塞型ノイズの中心部に風穴が空き、響はそこを抜けて地上へと落ちていく。
 風穴を抜けた直後、ノイズは爆発し霧散した。

 一方、翔もエルボーカッターにエネルギーを集約し、その両腕を交差させてノイズの背へと振り下ろした。

〈斬月光・十文刃〉

 空中要塞型ノイズは、その背部から×印に切断されて爆散した。
 爆炎を抜け、翔は道路にクレーターを作りながらも着地する。

 そこへ、バイクから華麗に倒立前転を決めながらギアを纏って飛び降りた翼が、空中で姿勢を整えながらアームドギアを振るう。
「はぁッ!」

〈蒼ノ一閃〉

 飛ばされた青の孤月は、投下されるノイズらの大半を滅するも、親元である空中要塞型ノイズには届かずに消える。
 アームドギアを振り抜いて着地した翼は、苦い表情で歯を食いしばった。
 そこへ、響と翔も合流する。
「相手に頭上を取られることが、こうも立ち回りにくいとは──ッ!」
「ヘリを使って、わたし達も空から──ッ!?」
 響が言った直後、ヘリはノイズに襲われ爆発した。
「そんな……」
「──よくもッ!」
 ヘリを襲ったフライトノイズ達は、そのまま急旋回し、ミサイルのようにこちらへと突撃する。
「だぁッ!」
「はッ!」
「ふんッ!」
 跳躍してそれを回避した3人は、それぞれの元へと突っ込んでくる2体目、3体目をそれぞれ、拳で砕き、剣で斬り伏せ、手刀で叩き落とす。

 しかし、空中要塞型ノイズは更に小型ノイズを投下して来る。これではキリがない。
「空飛ぶノイズ、どうすれば……」
「臆するな立花ッ!『防人』が後ずされば、それだけ戦線が後退するという事だッ!」
「でもどうするんだ姉さん?さっき生弓矢なら届くかもって試したけど、投下されたノイズが盾になって届かないんだ……!」
「くッ……。せめて、広範囲に圧倒的な火力を叩き込める者がいれば……」
 そうこうしている間にも、3人に迫るフライトノイズの群勢。3人が構えたその時……凄まじい射撃音と共に、フライトノイズの群れが一斉に爆発した。
「あ……ッ!え……?」
「今のは……まさかッ!?」
「イチイバルの重火力射撃、だとぉ!?」

 振り返る3人。そこには、両手に三連装ガトリング砲を構えた赤き鎧の少女、雪音クリスが立っていた。
「──空飛ぶノイズが何だってんだッ!そんな雑魚に手間取ってんじゃねぇッ!」
「雪音クリス……何故ここに!?」
「ちッ……こいつがピーチクパーチクやかましいから、ちょっと出張ってみただけ。それに勘違いするなよ?お前達の助っ人になった覚えはねぇッ!」
『助っ人だ。少々到着が遅くなったかもしれないがなッ!』
「な……むぐ……ッ!」
 その手に握っていた二課の通信機を通して、弦十郎が即座にそのツンデレを粉砕する。
 クリスはあっさり自分の言葉を否定され、言い返せなくなり顔を赤くする。
「助っ人……?」
『そうだ。第2号聖遺物『イチイバル』のシンフォギアを纏う戦士──雪音クリスだ!』
「クリスちゃ~んッ!」
 感極まってクリスに抱き着く響。慌ててそれを振り払おうとして、クリスはその手から通信機を落とした。

「ありがとう~ッ!絶対に分かり合えるって信じてた~ッ!」
「なッ……このバカッ!あたしの話を聞いてねぇのかよッ!」
「とにかく今は、連携してノイズを……」
 抱き着く響を振り払い、通信機を拾ってクリスは3人から離れる。
「勝手にやらせてもらうッ!邪魔だけはすんなよなッ!」
「ええッ!?」
「お前そこは空気読めよ……」
 クリスはそのままアームドギアのクロスボウを展開し、空中から迫るフライトノイズへと向けて放つ。
 綺麗に晴れ渡る青空に、季節にはまだ早いいくつもの花火が散った。
「傷ごとエグれば、忘れられるってコトだろ?イイ子ちゃんな正義なんて──」
「空中のノイズはあの子に任せて、私達は地上のノイズを!」
「は、はいッ!」
 払われるように爆散していく空中のノイズ達。
 地上に溢れるノイズらもまた、青き剣に斬り伏せられ、橙の四肢に叩き砕かれ、灰の刃に断たれて散る。

 そんな中、ノイズから距離を置く為に飛び退いた翼とクリスが、偶然にも互いの背中をぶつけてしまった。
「──ッ!なにしやがるッ!すっこんでなッ!」
「あなたこそいい加減にして。1人で戦っているつもり?」
 翼の一言が火をつけ、そのまま言い争いへと発展してしまう。
「あたしはいつだって1人だッ!こちとら仲間と馴れ合ったつもりはこれっぽっちもねぇよッ!」
「む……ッ!」
「確かにあたし達が争う理由なんてないのかもな?だからって、争わない理由もあるものかよッ!この間までやり合ってたんだぞッ!そんな簡単に人と人が──あ……」
 クリスの口を閉じたのは、拳と握られたその手を優しく包む響だった。
「……できるよ。誰とだって仲良くなれる」
 そう言って響は、もう片方の手で翼と手を繋ぐ。
 響を介して、翼とクリスの手が繋がれた。

「どうしてわたしにはアームドギアがないんだろうって、ずっと考えてた。いつまでも半人前はやだなーって。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないから、2人とこうして手を握り合える!仲良くなれるからねっ!」
 2人を交互に見て微笑む響。
「立花……」
 その言葉に、翼はその手に握っていた刀を足元に突き刺すと、その右手をクリスの方へと差し伸べた。
「──手を」
「あ、あ……むぅ……」
「ん」
「あ……うう……」
 しばらく悩んだ後、迷うようにゆっくりと、クリスはその左手を翼の手へと伸ばす。
 翼は焦れったくなり、そのままクリスの手を掴む。
「ひゃ──ッ!?きゅ、急に掴むなっての……。このバカにあてられたのかッ!?」
「そうだと思う。そして、あなたもきっと」
「……冗談だろ?」
 微笑む翼に、頬を赤らめながらクリスは顔をぷいっと逸らす。
 そんな2人を、響は笑いながら見守っていた。

「……3人とも、仲直りは終わったか?」
 そこへ、3人が言葉を交わしている間に邪魔が入らぬよう、露払いを続けていた翔が降り立つ。
 その直後、空に浮かぶノイズの影が4人を覆った。
「……どうする?親玉をやらないと、キリがないぞ」
「だったら、あたしに考えがある。あたしでなきゃ出来ないことだッ!」
 クリスの言葉に、一同の視線が彼女に集まる。
「イチイバルの特性は、超射程広域攻撃。──派手にぶっ放してやるッ!」
「まさか、絶唱を──」
「ばーかッ!あたしの命は安物じゃねぇッ!」
「ならばどうやって?」
「ギアの出力を引き上げつつも、放出を抑える。行き場の無くなったエネルギーを、臨界まで貯め込み、一気に解き放ってやる!」
 自信満々に笑ってそう語るクリス。
「だが、チャージ中は丸裸も同然。これだけの数を相手にする状況では、危険すぎる!」
「そうですね……だけどッ!わたし達がクリスちゃんを守ればいいだけのことッ!」
「露払いなら慣れている。任せてもらおうか」
「ッ……!」
 驚くクリスに微笑みかける響と翔、釣られて翼も頬を緩める。
 3人が地上のノイズ達へと向かい、それぞれの武器を構えた……。



 その時だった。

シュタッ……

「ッ!?何だ!?」
 彼らの目の前に突如、全身を包む黒地に青のアンダースーツの上から、各関節部にオレンジ色のパイプのようなパーツが存在するプロテクターを着た、謎の存在が着地した。
 その顔は黒いバイザーと、口を覆うマスクが付いたメットで隠されている。
「誰ッ!?」
「何者だ!」
 響、翔、翼が警戒する中、クリスはその姿を見て驚いたように目を見開いた。
「おい……うそ、だよな……?まさか……」
 その様子に、3人はクリスの方を振り向く。
 クリスは肩を震わせ、いやいやをするように首を横に振りながら、目の前にいる鎧の少年に呼びかけた。
「……ジュンくん、なのか……?」
「……」
 鎧の少年は一言も喋ること無く……ただ、その言葉にコクリと首を縦に振って答えた。
「「ッ!?」」
 驚く響と翼。しかし、誰よりも驚いているのは誰なのか、それは言うまでもない……。
「純……!?なんで、どうしてお前が……!?」
 カ・ディンギルの起動が迫る中、それはかつてない試練として、装者達の前に立ち塞がった。 
 

 
後書き
原作の名シーンと言えるやり取りに入る隙がない場合、翔くんをどうしておくか……。カレーに溶け込んだ玉ねぎ、と称されるレベルで違和感なく溶け込ませる為に、常に考えてます。

紅介「オイオイ、街がノイズだらけってマジかよ!?」
飛鳥「学園の地下にある避難シェルターが開放された。これは一大事だぞ!」
流星「でも、僕たちにはやるべき事がある…」
恭一郎「他の生徒達の避難誘導。翔や純ならきっとそれを最優先するはずだ。しかし、今は2人とも学園に不在……。つまりは──」
紅介「……俺達の出番、だよな。よっしゃ!そうと決まれば、活動開始だぜ!」
恭一郎「では点呼!加賀美恭一郎、コードネーム『ミラーナイト』!」
紅介「穂村紅介、コードネーム『グレンファイヤー』!」
飛鳥「大野飛鳥、コードネーム『ジャンバード』!」
流星「大野流星、コードネーム『ジャンスター』!」
4人「「「「我ら、U(アルティメイト)F(フレンズ)Z(ゼータ)!学園の危機は、俺(僕)達が救う!!」」」」
恭一郎「各自散開!各フロアに分かれ、避難誘導!」

今日のアイオニアン組でしたー。ちなみに翔を含めて6人なのでゼータです。
あと、土日の更新は(うっかり筆が早まって書き上げない限りは)お休みです。その間にビッキーの誕生日特別編を書き上げますので!
残された時間は、あと1週間……。

アイオニアン音楽院:リディアン音楽院の姉妹校にして、男子校。概要はほぼリディアンと変わらないが、その地下には二課に繋がる通路が通っている。と言っても、二課へと直通しているのではなく、二課のエレベーターホールへと続く通路と貨物運搬用の電動トロッコの線路が走っているのみである。
かつては男性のシンフォギア候補者を探す為の研究施設であったが、エネルギー固着型プロテクターが生物学上、男性には装着する適性がないと言う研究結果が決定打となりプロジェクトは頓挫。シェルター以外の施設は既に破棄されている。

次回……。
遂に再会した王子と姫君。
友と交える拳は、果たして何処へ向かうのか。
次回、『繋いだ手だけが紡ぐもの』
"ちゃんと歌ってるシンフォギアSS"は、次回もしっかり歌っているぜ! 

 

繋いだ手だけが紡ぐもの

 
前書き
さあ、いよいよ原作無印10話までやって来ました。
果たして純クリはどうなるのか……。ドキドキしながらお読みください! 

 
「純……!?なんで、どうしてお前が……!?」
 現れた鎧の少年は、ただ無言でこちらを見ている。
 翔は、こちらの声に答えない親友に問いかけ続ける。
「その沈黙は何だよ……答えろよ!なぁ!?」
「まさか……あのマスクで喋れないんじゃないかな?」
 響の言葉にハッとなる翔。
「そうなのか、純!?」

 その瞬間、純の鎧を虹色の保護膜が包み込む。
「ッ!?あの光は……」
「まさか、RN式!?」
 純は拳を握り、こちらへと向かって駆け出す。一瞬にして、純の姿が消えた。
「ッ!消え……」

 気がつけば、翔の身体が宙を舞っていた。
 あまりの速さに、勢いを乗せて飛び蹴りされたのだと気付くのにしばらくかかった。
「翔くんッ!」
「翔ッ!」
「くッ!?」
 吹き飛ばされる身体に向けて、前転からの踵が振り下ろされる。
 防御の姿勢を取った直後、交差させた腕で踵を受け止め直下のビル屋上へと叩きつけられる。
 ビルの天井と床に穴を開けながら2、3フロア分ほど落下し、ようやく止まる。
 空いた穴から見上げた友の顔は、仮面の裏に隠され、見る事は適わない。
「純……お前、いったい……」

「アウフヴァッヘン波形確認……こっ、この反応は……!」
 二課本部のモニターに表示されたその聖遺物の名前に、弦十郎が驚きの声を上げた。
「“アキレウスの鎧”……だとぉ!?」
 アキレウスの鎧。それはかつて日本政府が、国外から研究の為に譲り受けたものであり、RN式回天特機装束の開発に使うため、了子が利用を申請した聖遺物だ。
 それがいつの間にやら、未知のRN式回天特機装束として、敵の刺客に与えられているという現状。
 弦十郎は確信する。この一連の流れ、黒幕は友人にして二課の科学部門を担当する彼女……櫻井了子の仕業であると。

「アキレウスの鎧、か……。なるほど、その俊足も納得だ……」
 立ち上がると、穴からこちらを覗き込む親友を真っ直ぐに見据える。
 翔は彼の姿に、まるで自分が登ってくるのを待っているよう感じた。
(どうやら、操られているってわけじゃないらしいな……。って事は、何かワケありでフィーネ側についている、って事か。その上、マスクで口が聞けない。立花や姉さんを狙わず、わざわざ俺を狙っている辺り、俺に何かを訴えようとしているって考えてよさそうだな……)
 やがて、友は穴の縁から飛び込み、目の前に着地する。
 翔は通信機能で、他の面々に連絡する。

「皆、純は俺が何とかする。皆はノイズを殲滅してくれ」
『しかし、相手は未知の聖遺物を持つ相手だぞ?』
「親友の事は、俺が誰より分かってる。こんな事をするのは、何か狙いがあってやっているはずだ。だから1発ぶん殴って、あのマスクぶっ壊してみる」
『翔くん……無茶はしちゃダメだからね?』
 響の声に、翔は力強く答える。
「ああ、無茶するほどの事でもないさ。響、君は雪音を頼む。多分、激しく動揺しているはずだから、落ち着かせてやって欲しい」
『分かった!何とかしてみる!』
 通信を終えると、翔は両拳を握って構える。
「純、これで俺とお前の1対1だ。……お前が自分の意思で本気をぶつけて来てるんだ。手加減はしない、本気でかかってこい!」
 向き合う2人はしばらく睨み合い、やがて床を蹴るとそれぞれの拳を繰り出した。

 ∮

「そんな……ジュンくんが……」
 クリスは酷く動揺していた。
 助けようとしていた相手が、敵からの刺客として現れたのだ。しかも、その責任の一端が自分にあるとすれば、戦意を喪失するのも無理はない。
 引き金にかけていた指が離れ、クロスボウが足元に落ちる。クリスはそのまま膝を屈し、項垂れた。
「あたしの……あたしのせいだ……。あたしがあの時、シンフォギアで戦って、ジュンくんを助けていれば……こんな事には……」
「おい雪音ッ!」

 翼の声が響く。声の方向を見たクリスの目に映ったのは、新たに呼び出されたノイズ達を斬り伏せていく翼だった。
「何を項垂れている!お前がやらねば、誰があの親玉を倒すというのだッ!」
「ッ……!」
「お前とあのアキレウスの鎧を着た者が、どんな関係なのかは知らん!だが、あいつは翔が……私の自慢の弟が、必ず連れて戻るッ!だからお前は、お前の成すべき事を成せッ!」
「あたしの……成すべき事……」
 クリスは視界の端に転がるクロスボウを見る。
(あたしのやるべき事……やらなくちゃいけない事……。そうだ、やっと分かったんだ。あたしの夢は……あたしのやりたい事は……)

「クリスちゃん!」
 今度は響の声に振り向く。
 響もまた、クリスを狙おうとするノイズを片っ端から殴り倒していた。

「さっきの人、クリスちゃんにとって凄く大事な人なんだよね?」
「えッ!?あ、いや、その……」
 大事な人。そう言われ、反射的に誤魔化そうとして……そして気が付いた。
(いや……こんな風に素直じゃないから、自分の本当の気持ちに気付くまでこんなにかかっちまったんだよな……。別に否定する必要も無い事実だし、これはあたしがやりたい事にも関わってくる事だ……。なら、否定していいわけねぇよなッ!)

「……ああッ!あたしの帰りをずっと待ち続けて、待てなくなったからって態々迎えに来てくれるような大馬鹿野郎だッ!」
「へへっ、じゃあ、その人がクリスちゃんと帰れる場所、ちゃんと守らなくっちゃね!」
 響はクリスに向かって微笑むと、再びノイズ達へと向かっていく。
 周囲に敵はいない。今なら存分に、イチイバルの全砲門へとエネルギーをチャージ出来る。
 クリスはクロスボウを拾うと、その手に握り直してガトリング砲へと形状を変えさせる。
(……ったく、そこまで言われたら、あたしも引き下がれないじゃねぇか──)

 胸の歌が聴こえる。さっきまでの、荒んだ心から生まれた激しい歌とは違う、優しくて温かい、新しい歌が。
(なんでなんだろ?あんなにグシャグシャだった心が、今じゃこんなにも温かい……。あいつらから差し伸ばされた手を握ったからか?……でも、あの時握った手は、そんなに嫌じゃなかったな……)
 両肩に4本の巨大ミサイル。変形したスカートからはミサイルポッドが展開され、背中のミサイルは発射台の下にアンカージャッキが展開され、身体を支える。
 クリスの身体中に光が、力が溢れ満ちていく。クリスの胸に燃える魂を形にしていく。
(こいつら倒して、純くんをこっちに引き戻すッ!そして、あたしは……ッ!)
 発射までは、もう間もなくだ。

(誰も、繋ぎ繋がれる手を持っている……。わたしの戦いは、誰かと手を繋ぐことッ!)
 殴り、蹴り、受け流して更に殴る。響はクリスの邪魔に入ろうとするノイズらを蹴散らしながら、胸の中で宣言する。
(叩いて壊すも、束ねて繋ぐも、力……。ふふ、立花らしいアームドギアだッ!)
 決意に満ちた眼差しで戦うその姿に、翼もまた、研ぎ澄まされた刃で答える。
 やがてクリスのギアに蓄積されたエネルギーが臨界を迎える。
 2人はクリスの方を振り向くと、同時に叫んだ。
「「──託したッ!」」
(託されて──やらぁッ!)
「ぶっ放せッ!激昴、制裁、鼓動!全部ッ!」
 空を見上げて胸に誓う。もう、自分の弱さに涙は零さない。だって、やっと見つけたんだから……自分の、本当にやりたい事を!

〈MEGA DETH QUARTET〉

「嗚呼ッ!二度と……二度と迷わない!叶えるべき夢をッ!」
 嵐のように撃ち出される弾丸と無数のミサイルが、断罪のレクイエムとしてノイズ達へと向かって行く。
 雑音共を千切り、爆ぜさせ花火とする。しかして穏やかで明るい、未来への歌が戦場には広がっていた。
 残っていた2体の空中要塞型ノイズも粉々になり、街の空からは風に飛ばされていくばかりの炭塵が舞っていた。
 やっと見えたと気が付けた、両親から託されたその夢を胸に、クリスはようやく全ての弾を撃ち尽くして銃口を下ろす。
 この歌はきっと、彼にも届いているだろう。そして、天国から見守っているであろう両親にも……きっと……。

 ∮

 翔と純の戦いは、傍から見れば接戦であった。
 アキレウスの鎧の性質により、高速戦闘で畳み掛けようとする純。更に、その左腕から展開された盾が、翔の得意とする打撃技を的確に弾き返し、拳を弾いたその隙に、その盾を鈍器に殴り付ける。能動的カウンターと素早い動きを組み合わせた、素人とは思えない戦法で翔を追い詰めようとしている。

 しかし、速さと手数で上回ったところで翔も負けてはいない。ギアの扱いに加え、実戦経験では護身術を習っていただけの純よりも、何度もノイズと戦い、敗北が死に直結する修羅場を潜り抜けてきた翔の方が上だ。
 殴打での攻撃を盾でカウンターされる事に気がつくと、フェイントを仕掛け、盾を構えた瞬間に押し蹴りで体勢を崩させ、その隙に素早い蹴撃を叩き込む。
 ビル内を吹き抜ける風と、一撃一撃が決まる度に広がる衝撃波。既にオフィス内は散らかり放題。室内を台風が抜けていったような有様だ。しかし、接戦に見えた戦いも、スピードを除けば実の所純の方が押され気味であり、やがてその差はどんどん如実になっていく。

 やがて、翔の蹴りが純の胸部アーマーのど真ん中に突き刺さり、純は後方へと勢いよく吹き飛ばされる。
 壁にめり込み、そのまま崩れるように床へと落ちる。しかし、気絶することはなく、何とか意識を保って地に足を付けたその時だった。
 純のRN式回天特機装束のメットパーツ、その耳当て部分が赤く発光し、音を立てて点滅し始めたのだ。
「ッ!?なんだ……!?」
 翔は困惑した。まさか、自爆装置では……!?

 しかし、その不安は直ぐに不要なものへと変わる。なんと、純の身を包むRN式の効力を表す虹色の保護膜が、揺らぎ始めたのだ。
(保護膜が消えかけている?……まさか、時間切れッ!)
 翔の表情から、もう自分が戦える時間は長くない事に気が付いていると察した純は、人差し指を立てて翔へと向ける。
(あれは……メッセージ?人差し指を立てて……挑発するハンドシグナル……。『あと一撃で決着を付けよう』って事か……)
「いいぜ……。そのマスク、この一撃で破壊するッ!」
 両者拳を握り締め、互いに睨み合う。
 示し合わせたかのようなタイミングで駆け出すと、2人は互いの顔へと向けて、その拳を突き出した。

 クロスカウンター……それぞれの腕が交差し、相手の顔へと放たれる渾身の一撃。
 相手の顔に拳を入れる事に成功したのは……翔だった。
 次の瞬間、メットのマスク部分に亀裂が走り、破損して床へと落ちる。やっと口を聞けるようになった純は、勝利した親友へと賞賛を送る。

「やっぱり翔はすごいや……。僕の意図をちゃんと把握して、それに応えてくれた……。本気でぶつかった価値はあったよ……」
「まったく……無茶振りしやがって……。俺がお前の意図を読めず、困惑していたらどうするつもりだったんだ?」
「それはないよ……翔なら絶対気付いたはずさ。僕が本気で殴って来るなら、君は僕に何かあるんだって察してくれるだろう?」
「やれやれ……この王子、俺の性格読んだ上で本気で殴ったのかコノヤロー」
 苦笑いしながら、そのメットを外させる翔。
「あ……何かフラフラする……。ちょっと無茶したかな……」
「7分も戦ってたからな、お前」
「7分も!?そっか……4分も限界を超えたんだ……」
 翔に肩を貸されて、純はビルの外へと出ていく。

 すると、その耳には懐かしく、ずっと聴きたがっていた歌声が響き渡っていた。
「……この歌は……ああ、クリスちゃんの……!」
 最愛の姫君の歌声に、ようやく魔女から解放された王子は心を躍らせた。

 ∮

「やった……のか?」
 最後のノイズにトドメを刺し、翼が空を見上げて呟く。
「ったりめぇだッ!」
「あはッ!」
 空から地上へと降り注ぎ、風に吹かれて消えていく燃え滓と炭塵。
 スカイタワーの下で、ギアを武装解除した3人は合流した。
「やったやった~ッ!」
 響が勝利を喜び、飛び跳ねながらクリスへと抱き着く。
「やめろバカッ!何しやがるんだッ!」
 響を引き剥がすクリス。
「勝てたのはクリスちゃんのお陰だよ~!うひひひひ~!」
 もう一度抱き着く響。再び引き剥がすクリス。
「だから、やめろと言ってるだろうがッ!いいかッ!お前達の仲間になった覚えはないッ!あたしはただ、フィーネと決着を付けて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだッ!」
「夢?クリスちゃんの?どんな夢?聞かせてよっ!」
 またしても抱き着く響。
「うるさいバカッ!お前、本当のバカーッ!」
 三度響を引き剥がし、クリスは響から離れて叫んだ。
「えへへへ~」

「立花、あまり過度なスキンシップはそこの2人を嫉妬させるぞ?」
「ほえ?」
 響が振り向くと、そこにはギアを解除した翔と、翔に肩を貸されて歩いて来る純の姿があった。
「響、姉さん、雪音、3人ともお疲れ」
「翔くん!そっちも上手くいったんだね?」
 響が駆け寄ると、純は自分から翔の肩を離す。
「純、もういいのか?」
「大丈夫……。翔は自分のお姫様を、労ってあげるといい」
 そう言って純は、クリスの方へと歩いて行く。
「翔くん、あの人って、あの時未来と一緒にいた……」
「爽々波純。俺の親友にして……雪音の帰る場所、かな」
 そう言って翔は響を背後から抱き締めて充電しながら、2人の再会を見守った。
「やれやれ……。戦場でイチャイチャするなど……いや、もう終わった後なので、戦場ではなくなったがな」
 少し呆れたように、それでいて優しい声で翼も、2人の邪魔をしないように翔と響の隣へと並んだ。

「ジュンくん……」
 僕の方を見て、クリスちゃんが駆け寄って来る。
「クリスちゃん……」
 RN式の効力が切れ、今身にまとっている鎧は、ただの何の変哲もないプロテクターになっていた。
 自分の無茶は分かっている。すぐに戻るって約束したのに、こんなに遅くなってしまったのも悪いと思っている。
 何より、彼女を深く悲しませる事になってしまった事は、僕にとってはとても重い罪だ。
 だから、頬を打たれようが、殴られようが仕方ない。そう覚悟して、目を閉じた。
 ……彼女の足音がすぐ目の前まで来た。しかし、頬に広がる痛みは無い。代わりに、鎧越しなので分かりにくかったが……背中に手が回された事に気が付いた。
「ここか……?」
 ガチャリ、と音がしてロックが外れる。
 次の瞬間、胴体を覆っていたアーマーが外れて地面へと落ちる。
「よし。これでようやく……」

 目を開けるのと、その温もりに包まれたのはほぼ同時だった。
 クリスちゃんはアーマーが外れた僕に、思いっきり抱き着いていた。
「クリスちゃん……怒らないのかい……?」
「ったりめーだろ……悪いのはあたしなんだから……。あたしがあの時逃げ出さなければ、ジュンくんがこんな事する必要は……」
「……ごめんね。辛い思いをさせてしまって……」
 俯く彼女の背中に手を回す。小さな背丈の彼女は、腕の中にすっぽり収まるだけでなく、丁度その頭が僕の胸の位置に来る。
「……ジュンくん……あ、あたし……ジュンくんにずっと、言いたかった事があるんだ……」
「……なんだい?」
 少し彼女から離れると、その顔を真っ直ぐに見つめる。
 僕の顔を見上げながら、クリスちゃんは意を決したように言葉を紡いだ。

「その……あたしの事、ずっと待っててくれたんだよな……?」
「一日たりとも、忘れるもんか」
「……小さい時の約束も、覚えてるんだよな……?」
「その約束があったから、今の僕がいるんだ」
「……ッ!……じ、じゃあ……い、今のあたしを見て……どう、思う?」
 クリスちゃんは、少し自信なさげにそう呟いた。声が小さくなり、彼女は俯く。
「こ、言葉もぶっきらぼうだし……銃とかミサイルぶっ放つし……性格だってひねてるって言われたし……。あの約束を、殆ど全部叶えてるようなジュンくんと比べたら、あたしは……」

「……クリスちゃん。お姫様の条件って、なんだと思う?」
「え……?」
 僕の言葉に、クリスちゃんは首を傾げる。その可愛らしい様子にくすっ、と微笑む。
「簡単さ。“王子様が選んだ女の子であること”。それだけがその条件だと、僕は思ってる」
「王子様が……選んだ……?」
「そう。僕はあの日からずっと、理想の『王子様』を目指してここまで自分を磨いてきた。今の僕は、それを名乗るに相応しい男になれたと自負している。なら、あとは約束のお姫様を迎えに行くだけだ。そして、その王子様が迎えに行く女の子が『お姫様』でないわけが無い。そうだろう?」
「ッ!じ……じゃあ、あたしは……」
「あの約束を交した日からずっと、クリスちゃんは変わらず、僕のお姫様だよ。どれだけ性格がひねくれたって、どれだけ口が荒っぽくなったって……どんなに君が変わっても、君は僕にとってそういう存在である事に、変わりはないのさ。さっきのシンフォギア……イチイバル、だっけ?ドレスみたいで、とっても似合ってたよ」
「ッ!!」

 クリスちゃんの顔が、耳まで真っ赤になる。
 その顔はとても可愛らしくて、思わずこの胸に抱き締めてしまった。
 ああ……長かった。8年間、ずっと待ち続けてきたその日が、ようやく訪れたんだ。これほど嬉しいことはない……。
「おかえり、クリスちゃん……。それとも、僕の方がただいま……なのかな?」
「……ばーか。……ただいま……あと、おかえり……ジュンくん……」
 そう言ってクリスちゃんは、僕の首元へと手を回した。
 足元を見ると、つま先立ちで僕の身長に追い付こうとしている。何をしようとしているのかは、すぐに察することが出来た。
「それから……大好き」
「ああ……、僕もさ。愛してる」
 つま先立ちで背伸びしているクリスちゃんへと、そっと顔を近づける。
 目を閉じるクリスちゃんの頭と背中に手を回して、その唇を優しく奪った。

「……なんというか……凄いね」
「俺たちの時とはまた違った告白だな」
「つい、カメラで撮ってしまった……。見守り隊の癖が伝染っているな……」
 響、翔、翼の3人はその告白を見て、静かにそうコメントしていた。
 その時だった。響の通信機のアラートが鳴った。
「……はい?」
『──響ッ!学校が、リディアンがノイズに襲われ──ッ』
 聞こえて来たのは未来の声。しかし、その通信は途中で途切れ……あとはツー、ツー、という音が流れるのみだった。
「あ……。……え──?」
「なッ……!?」
 決戦の時が、刻一刻と迫っていた。 
 

 
後書き
タネ明かしすると、フィーネの脅しは全て嘘だったりします。
負ける、というのをどう判定するのか。二課に侵入しているのに、敗北した事をどうやって知ってソロモンの杖を使うのか。この辺りを考えるとブラフだと分かるはずです。いや、深読みするとその方法を考えたくなっちゃいますけどね。
次回、カ・ディンギル編突入!お楽しみに!

アキレウスの鎧:ギリシャは叙事詩イーリアスに名高い大英雄、アキレウスの名を持つ鎧。主に脚力を重点的に強化することで、装着者に最速の脚を与える。
また、アキレウスの伝説にある通り、その防御力は極めて高く、尚且つ素材はとても軽い。武器となる得物は存在しないが、左腕に装着されている盾は使用者の意志に合わせて自在に変形する機能を有しており、戦局に応じて様々な使い方で使用する事が出来る。有り体に言えば、フリスビーにもなれるワカンダシールド。
ちなみに伝説通り、踵の部分に存在する小型ジャッキが初動の加速力を生むため、破壊されればそのスピードを大幅に削がれてしまう。
スピード、ディフェンス特化型。即ち、最速最短で戦場を駆け巡り、姫の元に駆け付け守護する為の力と言えるだろう。 

 

リディアン襲撃

 
前書き
無印最終章、突入!
そして遂に今回は、司令のターン!OTONAの拳が全てを砕く!

ところで遂にとうとう、XDUではひびみく連携技が出ましたね。
そしてまーた393を惚れ直させてるビッキーよ……。流石おっぱいのついたイケメン。
え?伴装者世界だとどうなのって?
リディアン主催のイベントだから仕方なく撮影側に回る翔くんと、王子役を演じるにあたって純くんに色々教えてもらう響……ですかね。
劇が終わった後で楽屋まで来た翔くん見て、未来さんが思い付いたように翔ひびでメモリアのイラストになってるシーンやらせてくれる……とか。

さーて、それじゃあクライマックス突入!
ここから怒涛の展開の連続だから、覚悟してくださいね! 

 
 バオォォォォンッ!
 
 巨大な強襲型ノイズ達が、リディアンの校舎を蹂躙していく。
 朝までの平穏は踏み躙られ、潰れ、壊され、消えて行く。
 避難指示を受け、悲鳴を上げながら逃げ惑う生徒達。銃や戦車といった現代兵器による飽和攻撃を仕掛けるも、位相差障壁の前には届かず、破壊された戦車の爆発に巻き込まれ命を散らしていく自衛隊、特異災害対策機動部一課の隊員達。
 しかし、命を散らしながらも懸命に立ち向かう彼らの奮闘により、生徒は誰一人として欠けることなくシェルターへと逃げ延びる事が出来ていた。
 
「落ち着いてッ!シェルターに避難してくださいッ!……落ち着いてね」
 避難誘導を手伝う未来の元へ、安藤らいつもの3人が駆け寄る。
「ヒナッ!」
「みんな!」
「どうなってるわけ?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだからさ……」
 困惑し、不安げな表情を浮かべる板場。
「皆も早く避難を」
「小日向さんも一緒に……」
「先に行ってて。わたし、他に人がいないか見てくるッ!」
 寺島の言葉へ首を横に振り、走り去る未来。
「ヒナッ!」
「君達!急いでシェルターに向かってください!」
 そこへ、銃を抱えた隊員が走って来る。
「校舎内には、ノイズが居て──ッ」
 次の瞬間、天井を突き破り現れたフライトノイズが、その隊員の胸を刺し貫く。
 あっという間にその隊員は、ノイズと共に炭化し、崩れて消えた。
「ッ……!きゃああああああああぁぁぁッ!」
 
 ∮
 
「誰かー?残っている人はいませんかー?」
 逃げ遅れた生徒を探す未来。そこへ、爆発音と共に強い振動が押し寄せる。
 外を見るとそこには、崩れ落ち煙を上げる校舎と、敷地内を跋扈するノイズの群れ。
 リディアン音楽院は、見るも無残な姿と成り果てていた。
「……学校が、響の帰って来る所が……」
 その時、勢いよく窓ガラスを割って3体のクロールノイズが侵入し、未来の方を見る。
「──ッ!?」
 次の瞬間、その体を紐上に変化させたノイズ達が未来を目掛けて突撃する。

「くッ!」
 見慣れた黒服の青年が、一瞬素早く未来の身体を抱いて床へと身を投げ出す。
「あ……う……お、緒川さん?」
「……ギリギリでした。次、上手くやれる自信はないですよ?」
 いつもの余裕を崩さない笑みを向けると、緒川は未来の手を引いて立ち上がらせる。
 振り返ると、狙いを外したクロールノイズは、見慣れたカエル型の姿に戻る。
「走りますッ!三十六計逃げるに如かずと言いますッ!」
「は、はいッ!」

 未来の手を引き走る緒川。目の前にあるエレベーターのボタンを押し、未来が飛び込んだ瞬間、自身もその中へと飛び乗り、二課の通信機をかざす。
 扉が閉じ、更にシャッターが閉まるエレベーター。その僅かな隙間を潜って、クロールノイズは侵入しようとする。
 しかし、間一髪。エレベーターが降下を始め、クロールノイズ達はエレベーターへと侵入することなく、リディアンの1階エレベーター前に取り残された。
 ホッと息を吐き出し、床へとへたり込む未来。緒川は通信機を弦十郎へと繋げた。
 
「……はい、リディアンの破壊は、依然拡大中です。ですが、未来さん達のお陰で、被害は最小限に抑えられています。これから未来さんを、シェルターまで案内します」
『わかった、気を付けてくれ』
「分かりました。それよりも司令、カ・ディンギルの正体が判明しました!」
『なんだとッ!?』
「物証はありません。ですが、カ・ディンギルとはおそらく──ッ!?」

 その時、エレベーターの天井が音を立てて凹み、窓ガラスに亀裂が走る。
 天井を破って現れた人物。未来の悲鳴が、エレベーターシャフト内に反響した。
「きゃああああああッ!?」
『どうした、緒川──ッ!』
 途切れる通信。緒川は、天井から入って来たその人物に首を掴まれ、持ち上げられていた。

「う、うう……」
「こうも早く悟られるとは……。……何がきっかけだ?」
 腰まで伸びた金髪に、全身を覆う刺々しい黄金の鎧。ネフシュタンを纏ったフィーネは、それを突き止めた緒川を睨みながら問い詰める。
「塔なんて目立つものを、誰にも知られることなく建造するには、地下へと伸ばすしかありません……。そんな事が行われているとすれば、特異災害対策機動部二課本部──そのエレベーターシャフトこそ、カ・ディンギル!そして、それを可能とするのは──」
「……漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思っていたのだが──」
 
 ポーン
 
 エレベーターがフロアに着いた音が響く。
 ドアが開いた瞬間、緒川はフィーネの手を振り解いてそこを飛び出すと、懐から取り出した拳銃を3発連続で発射する。
 剥き出しの生身、腹部に命中した弾丸はその皮膚を突き破ることなく潰れ、全て床に落ちた。
「ネフシュタン……ッ!ぐああーッ!」
 エレベーターから飛び出した際に距離を取っていた緒川。しかし、フィーネはネフシュタンの鞭を振るい、緒川の身体を締め上げる。
「緒川さんッ!」
「ぐっ……うっ……ぐああッ……!み、未来さん……逃げ、て……」
「ッ!……くっ……このっ!」
 緒川に逃げるよう言われたが、未来は逃げない。目の前の緒川は放っておけないし、何より響と約束したのだ。帰る場所は守ってみせると。
 未来はフィーネの背に体当たりする。しかし、フィーネは微動だにしなかった。
「……」
「ひっ……」
 背後を振り返り、未来をひと睨みするフィーネ。
 縛り上げていた緒川を投げ下ろすと、彼女は未来の顎に指を添えた。

「麗しいなぁ。お前達を利用してきた者を守ろうというのか?」
「利用……?」
「何故、二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前達被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は、生徒を集めるのによく役立ったよ。フフフ、フハハハハ……」
 高笑いと共に、デュランダルの保管されている区画へと立ち去ろうとするフィーネ。

 その背中を毅然と見据え、未来は声を張り上げた。
「嘘を吐いても、本当の事が言えなくてもッ!誰かの生命を守るために、自分の生命を危険に晒している人がいますッ!わたしはそんな人を……そんな人達を信じてる!」
「チッ!」
 苛立ちを露にした表情で振り返ったフィーネは、未来の頬を叩き、その襟首を掴んで更にもう一度叩いて床へと落とした。未来は床に膝を着き、倒れ込む。
「まるで興が冷める……!」

 フィーネは床に倒れた2人を置いて、了子の通信機を手に廊下の奥へと向かう。最奥区画アビスへと続く自動扉のロックを開けようとしたその時、銃声と共に通信機が破壊された。
「ッ!」
「デュランダルの元へは、行かせませんッ!」
 振り返ると、何とか立ち上がった緒川が拳銃を構えていた。これ以上は拳銃も意味をなさない。緒川は拳銃を投げ捨て、直接戦闘の構えを取った。
「……ふん」
 
 両手の鞭を構えるフィーネ。その時、何処からともなく新たな声が響く。
 
「待ちな、了子」
 
「ん……?」
 次の瞬間、大きな音とともに天井が崩れ落ち、瓦礫の立てた煙の中から赤いワイシャツの巨漢が現れる。
 それを予想していたのか、フィーネは一瞬呆れたような表情を浮かべ、直ぐに凶悪な笑みを顔に貼り付けると、その男を睥睨した。
「……私をまだ、その名で呼ぶか」
「女に手を上げるのは気が引けるが、二人に手を出せば、お前をぶっ倒すッ!」
「司令……」
 フィーネを真っ直ぐ見据え、拳を握り構えるその男の名は、特異災害対策機動部二課司令官、風鳴弦十郎。
 通信が途切れた事から、フィーネは2人が乗るエレベーターを襲い、アビスへと向かった事を察して、その拳で床をぶち抜きながら駆け付けた、二課最強……いや、人類最強と言っても過言では無い男である。

「調査部だって、無能じゃない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに気付いていた。あとはいぶり出すため、敢えてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かして見せたのさッ!」
「陽動に陽動をぶつけたか。食えない男だ。──だがッ!この私を止められるとでもッ!」
「おうともッ!一汗かいた後で、話を聞かせてもらおうかッ!」

 弦十郎が床を蹴るのと同時に、フィーネもネフシュタンの鞭を振るう。
「とうッ!はッ!」
 それを弦十郎は身を逸らして躱し、もう片方の鞭を跳躍して回避。天井の一部を掴んで体勢を整え、その天井を足場にして加速する。
「はああああああッ!」
 フィーネに躱された拳は、当たった床を砕く。
 しかし、その衝撃波がフィーネのネフシュタンの一部に亀裂を走らせた。
「何ッ!?」
 そのまま飛び退き、弦十郎の背後に回って距離を取る。
 亀裂は即座に再生していくが、直撃すればただでは済まないと確信したフィーネは、弦十郎の背後を取ったこの瞬間を狙い、その鞭を勢いよく振り下ろした。
「肉を削いでくれるッ!」
 しかし、振り返った弦十郎はノータイムでその鞭を両方掴むと、響が以前クリスにしたのと同じように、その鞭を引っ張ってフィーネの身体を引き寄せる。
「なッ!?」
「はあああああッ!」
 下から振り上げられたその拳は、フィーネの腹部ど真ん中に命中し、その身体を天井まで高く打ち上げた。
 
〈俺式・剛衝打〉
 
「ぐは……ッ!?」
 弦十郎の拳が直撃し、その背後まで吹き飛ばされ、フィーネの身体が床に叩きつけられる。
 弦十郎は掲げた拳を下ろし、フィーネの方を振り返る。
「な、生身で完全聖遺物を砕くとは……。どういう事だッ!?」
「しらいでかッ!飯食って映画見て寝るッ!男の鍛錬は、そいつで十分よッ!」
 フィーネを睨みながら、理路整然としないトンデモ理論をさも当たり前のように豪語する弦十郎。しかし、それで本当にここまでの戦闘力を手に入れたというのだから、この男は恐ろしい。その身一つで憲法に触れる戦闘力、とさえ言われる実力は伊達ではないのだ。

「なれど人の身である限り、ノイズには抗えまい──ッ!」
「させるかッ!」
 ソロモンの杖を向けるフィーネ。しかし、それを許す弦十郎ではない。
 震脚で床を破壊、その瓦礫を蹴り飛ばしてフィーネの手からソロモンの杖を弾き飛ばす。
 フィーネの手を離れたソロモンの杖は、クルクルと勢いよく回って天井へと突き刺さった。
「な──ッ!?」
「ノイズさえ出てこないのなら──ッ!」
 ソロモンの杖を失って動揺したフィーネの隙を突き、弦十郎は跳躍。拳を握り飛びかかる。
 緒川と未来、2人が弦十郎の勝利を確信した……その瞬間だった。
 
「──弦十郎くんッ!」
 
「あ……」
 その声と表情に、弦十郎はつい一瞬だけ戸惑った。
 何故ならそれは、長年苦楽を共にしてきた友人のものだったから。
 相手がもはや自分の知る彼女ではないとしても、弦十郎は彼女にトドメを刺す事を躊躇ってしまった。
 そして、フィーネはその僅かな隙を逃さない。鎧の一部でもある鞭を刺突武器として、弦十郎の腹に風穴を開けた。
「司令ッ!」
「がはっ……ッ!」
 鮮血が弦十郎の口から吐き出され、傷口から噴き出した血が床に血溜まりを作る。

「──いやああああああああああああッ!」
 廊下全体に反響する、未来の悲鳴。
 意識を失い倒れる弦十郎のポケットから、フィーネは血に濡れた通信機を奪い取る。
「抗おうとも、覆せないのが運命(さだめ)というものなのだ」
 鞭を伸ばしてソロモンの杖を天井から引き抜くと、それを倒れた弦十郎へと向けながら言い放つ。
「殺しはしない。お前達にそのような救済など、施すものか……」
 そしてフィーネは、弦十郎から奪い取った通信機でロックを解除すると、デュランダルを手中に収めるべく、アビスへと進んで行った。
「司令……司令ッ!」
 後に残された緒川は、弦十郎へと駆け寄る。
 未来はただ、何も出来ずに立ち尽くすしかなかった。
 
「目覚めよ、天を衝く魔塔。彼方から此方へと現れ出よッ!」
 とうとうアビスへと到達したフィーネは、保管されたデュランダルの前にあるコンソールを操作し、カ・ディンギルを起動させる。
 魔塔がその威容を現す瞬間は、間近に迫っていた……。
 
 ∮
 
 その頃、司令室の職員達は固唾を飲んで、街を埋めつくしたノイズの群勢と装者達の戦いを見守っていた。
 クリスの作戦が成功し、空中要塞型ノイズが爆発したまさにその時、司令室の扉が開く。
 負傷し、緒川と未来に支えられた弦十郎を見て、友里が驚いて立ち上がる。
「……司令ッ!?その傷は!?」
「応急処置をお願いします!」

 ソファーに寝かされた弦十郎のワイシャツを開き、友里と医療の心得がある職員が応急処置に当たる。
 その間に緒川は、友里の席のコンソールを操作し、響の通信機へと回線を繋ぐ。
「本部内に侵入者です。狙いはデュランダル、敵の正体は──櫻井了子!」
「な……ッ!」
「そんな……」
 緒川からもたらされた信じ難い事実に、藤尭、友里を始めとしたスタッフ達が驚愕する。

「響さん達に回線を繋ぎました!」
「……響ッ!学校が、リディアンがノイズに襲われているのッ!」
 未来が言い終わるその前に、モニターの電源が落ちた。
「何だッ!?」
 驚く緒川に、職員達がコンソールによる操作を試みながら答える。
「本部内からのハッキングです!」
「こちらからの操作を受け付けません!」
 立体操作型のコンソールが、強制的にシャットダウンされ消滅していく。
「こんな事が出来るのは、了子さんしか……」
 藤尭は、先程の言葉が事実だと確信する。もはや、二課の設備はフィーネの手により完全に掌握されていた。
「そんな……響……風鳴くん……」
 薄暗くなった司令室の中、未来の前に広がるモニターには、砂嵐が走り続けるだけだった。 
 

 
後書き
最終章、開始!
あ、もちろんOTONAの技名カットインは、やりたかったからやってみただけです(笑)
この回書いた時、無印10話見返しててふと思ったのが、弦十郎さんひょっとして恋愛面鈍いんじゃなくて、了子さんの事は好きだったけど伝えられなかったパターンなのでは?
と思っていたら、知り合いから先覚で「惚れた女」って言ってたよと報告されて確信。あの二人が弦→了だった事を確信しました。
職員B「本部が乗っ取られたー!」
職員A「しかも黒幕は了子さん!?そんな……あの了子さんが……」
職員B「僕達と過ごした時間は、全て嘘だったのか!?」
職員A「仕事の合間にお茶したり、ガールズトークで盛り上がったり……」
職員B「あのマイペースさに振り回されたり、翔くんと響ちゃん愛でたり……」
職員A「鑑賞会で笑いあったり、翼ちゃんを緒川さんとの事でからかって反応楽しんだり……」
職員A・B「あの日々は全部、嘘だったのか!?」
監視員「2人とも、途中からベクトル変わって来ててシリアスがシリアルと化してるッスよ!?」
黒服A「2人とも落ち着け!一番ショックなのは司令だということを忘れるなッ!」
職員A・B「「黒服A……」」
黒服A「確かに司令は鈍感だが、それでも司令にとって了子さんは……長年連れ添った、かけがえのないパートn……」
黒服B「今女房的な意味で言おうとしてたでしょ?このバカ、空気を読みなさい!」
黒服A「あだだだだ!痛いぞ黒服B!お前が割り込みさえしなければ、違和感なくシリアスに持っていけたかもしれないものを……!」
監視員「あー……本編はシリアス全開ッスけど、後書きの僕らはこうして変わらずワイワイやってるので、安心して欲しいッス」

見守り隊職員一同、本編では真面目に仕事してますのでご安心を。
ってかあの人達、今でこそ大きく分けて翔ひび派とおがつば派が手を組んでるけど、そのうち純クリ派も現れてより一層賑やかになるかもしれませんね。
G編越えれば更に賑わうんだろうけど……さて、そこまで続くかは作者にも。(とか言いつつ構想は練ってる)

次回、リディアンへと駆ける5人!果たしてその先で見たものとは!?
明日も見逃せないぞ! 

 

カ・ディンギル出現

 
前書き
さてさて、原作より増えた装者達。ここから何処までが原作に沿うのか、どこからが逸れるのか。
期待を胸に、いざスクロールッ!

そういやクライマックスって事は、そろそろOP映像も変わりますね。
前回までなら、サビ前のネフシュタンのカットに純が居そう。
個人的には伴装者は無印OPに、翼さんと奏さんの写真とかサビの響と翼さんがノイズと戦ってるシーンで翔も加わってるイメージがあったり。
それではお楽しみください! 

 
「未来……無事でいて……ッ!」
「くッ、ヘリとか車とか、何でもいいから何かないのかよッ!?」
「今は自力で何とかするしかないッ!とにかく急ぐぞッ!」
 響、翼、クリス、3人のシンフォギア装者と、翔、純、2人のRN式適合者は、無人となった街を駆け抜け、リディアンへと向かっていた。

「……じゃあ、つまりリディアンの地下には、特異災害対策機動部の基地があるって事なのかい!?」
「ああ、そういう事だ。理解が早くて助かる」
 その道すがら、純は翔から自分達シンフォギア装者と、二課についての説明を受けていた。
「あのフィーネって人に、最低限の事は教えられたからね。シンフォギア・システムについてと、二課の存在については聞いてるよ」
「それにしても、まさか叔父さんが居たのにこうなるなんて……」
(二課がカ・ディンギルだと気づいた時点で、俺だけでも……いや、それでは純をフィーネの手から解放出来なかった。フィーネの奴、それも想定して……?)
 翔は改めて、黒幕の狡猾さに舌を巻いた。

「ごめんよ、翔。僕がフィーネからの脅しをブラフだって見抜けていれば……」
 純は申し訳なさそうに目を伏せる。
 純のアーマーの裏側には、確かに小さなケースに入ったネフシュタンの欠片が仕込まれていた。が、それはあくまでも格納されていただけであり、何も怪しい仕掛け等は用意されていない。
「仕方ないさ。……おそらく、フィーネもそこまで用意する時間がなかったのかもな。お前の登場そのものが想定外だったんだろう。だからブラフで誤魔化した……と、推測するしかない」
「そう……だね」
 しかし純は、口にこそ出さないものの、少しだけ納得出来ていなかった。
(あの人が僕を手駒にする気があったのは本当だろう。でも、本気で僕を最後まで利用する気はあったんだろうか……?)
 あの時、フィーネは自分を殺さなかった。その理由が、彼は未だ腑に落ちていないのだ。
(気まぐれとか、殺すのが惜しくなったとか言ってたけど、あれは……)
 
「しかし、スカイタワーをカ・ディンギルだと誤認させ、その上であれだけのノイズでの足止め、更に先程の小日向からの連絡……。最初からリディアン、もしくは特異災害対策機動部二課が狙いと見て、間違いなさそうだな……」
「未来……」
 未来を心配し、暗い表情を見せる響。翔は響の隣に寄ると、その肩に手を置いて言った。
「本部には叔父さんも、緒川さんもいるんだ。大丈夫さ」
「……うん……」
「でも翔、通信が途切れたってことは、つまり二課はとっくにフィーネの手に墜ちているって事になるよね……?戻ったとして、地下にある基地までどうやって向かうのさ?」
 純の言葉に、翔は少し考えて……やがて、ある事に思い当たった。
「リディアンが元々、適合者を探す為の研究施設だって事は話したよな?」
「うん……」
「それは姉妹校である、アイオニアンも同じだ。研究が頓挫して今は破棄されてるけど、地下シェルターの何処かに、二課本部のエレベーターホールへと繋がる通路が残っているはず……」
「アイオニアンに!?」
「翔、それは本当か!?」
 驚く翼に、翔は頷く。
「以前叔父さんに聞いたんだ。もし、二課が何者かに占拠されるような事があったら、そこを使って侵入出来るって……」
「さ、流石師匠……。抜け目がない……」
 翔は純の方を向くと、その顔を真っ直ぐに見つめる。
「純、この中で一番戦闘経験が浅いのはお前だ。だからこそ、お前に任せたい。……アイオニアンの地下から、二課へと向かってくれ」
 そして純もまた、翔を真っ直ぐに見つめ返すと、力強く頷いた。
「それは大任だね……ああ、任されたよ。僕は僕に出来る事で、翔達を助けるよ!」
「それでこそだ、親友!」
 一旦立ち止まり、翔と純は固く握手を交わした。

「ジュンくん……」
 そこへ、クリスが神妙な顔つきで近づく。
 純が握手を終えて振り向くと、クリスは言った。
「……リディアンに、小日向未来って奴がいるんだ。そいつは、こんなあたしを助けてくれて、あたしなんかの友達になりたいって言ってくれた……。あたしにとって、初めての友達なんだ。だから……」
「……わかった。必ず助ける。だから、クリスちゃんは心置き無く、フィーネと決着を付けてくるといい」
 クリスの頼みに、純は頼もしく笑って応える。その顔を見たクリスは、純の背中に手を回した。

「じゃあ、行ってくる」
「ああ。行ってらっしゃい、だ」
「……それと、忘れ物だぜ」
 そう言ってクリスは爪先立ちすると、純の顔にフィーネのアジトで拾った眼鏡をかけさせた。
「あ……ありがとう。ずっと昂ってて、眼鏡ないから落ち着かなかったんだ」
「やっぱあの趣味悪いバイザーなんかより、それかけてる方が似合ってるぜ」
「翔、僕が帰ってくるまで、クリスちゃんの事は頼むよ!」
 互いに『行ってきます』のハグを交わし、笑い合った純とクリス。そして、純はアイオニアンの方角へと向かって行った。

「任せたぞ、純……」
「わたし達も──!」
「ああ、いざ往かん!敵はリディアンに在り!」
「フィーネ!首を洗って待っていやがれッ!」
 そして装者達もまた、リディアンへと向かって行く。
 決戦は、刻一刻と迫って来ていた。
 
 ∮
 
「……んんっ……」
 目を覚ました弦十郎が、ソファーから身を起こす。
「司令!」
「……状況は?」
「……本部機能の殆どが、制御を受け付けません。地上及び地下施設内の様子も不明です……」
「……そうか」
 友里からの報告に、弦十郎は歯噛みした。
 自分があの時、躊躇ってさえいなければ……こんな事にはならなかっただろう。

(了子くんが内通者だったのは気が付いていた……。しかし、黒幕であるなどどうして疑えるものかッ!)

 何となく、気が付いていた。これまでの出来事を振り返る度に、元公安の勘が告げていた。
 一連の事件の黒幕は、二課の内情に詳しく、聖遺物の取り扱いに長け、自分達を巧みに誘導できる立場にいる彼女以外に有り得ないと。
 それでも……彼女を疑いたくなかった。内通者だとしても、その裏に真の黒幕がいる。そうであって欲しいと、願ってしまった。

(彼女が黒幕だとしたら……俺は、どうすれば彼女を止められた?……了子くんがこんな事をする為に、何人も犠牲にして、多くの被害を出してでも為し得ようとした企みを、どうすれば止められていたのだ……)

 やがて、弦十郎は一つの後悔に行き当たる。
 それは、己が頑固さ故に伝えられなかったもの。今となってはもう遅い、胸の奥に仕舞ったままとなっていた想いだ。

(……もしも、俺が素直に言えていれば……了子くんは踏み留まってくれたのだろうか?……もし俺がそうなれていれば、俺は君の裏側に気付いてやれたのだろうか……。……大莫迦者だな、俺は……)

 考えるだけ意味が無いのは分かっている。今頃遅いのも理解している。
 それでも弦十郎は、その時ばかりは珍しく……普段見せないような表情(かお)をしていた。と、友里を手伝っていた職員の一人は語っていた。
 
 ∮
 
 紅い月が夜空に怪しく輝く。既に日は沈み、昼間は当たり前の日常に充ちていた姿は見る影もなく、崩れ落ちたリディアンは夜の闇に包まれていた。

「未来……」
 ようやく到着した4人の装者は、その光景を見回す。
「未来ーッ!みんなーッ!……ああ」
「落ち着け響、多分地下のシェルターだ」
「リディアンが……あッ!?」
 翼が崩れず残っていた校舎の屋上を見上げると、そこには……こちらを見下ろし笑っている、櫻井了子が立っていた。

「──櫻井女史ッ!?」
「フィーネッ!お前の仕業かぁッ!?」
「ッ!?了子さんが、フィーネ……!?」
「ふ……フフフフ。ハハハハハハハハッ!」
 クリスの言葉に驚く風鳴姉弟を見て、了子は声を上げて笑った。
「──そうなのかッ!?その笑いが答えなのかッ!櫻井女史ッ!!」
「あいつこそッ!あたしが決着を付けなきゃいけないクソッタレッ!──フィーネだッ!」
 了子は眼鏡を外し、結んでいた髪を下ろす。
 次の瞬間、了子の身体は青白い閃光に包まれ、そのシルエットが変わって行く。
「嘘……」
「その姿は……ッ!」
 やがて光が弾けると、そこにはモデルのような美しい体を黄金に色を変えたネフシュタンの鎧に包んだ、金の長髪を持つ女性が立っていた。
 それを見てようやく、その場にいる全員が確信した。櫻井了子の正体が、フィーネであるという現実を……。
 
 ∮
 
「防衛大臣の殺害手引きと、デュランダルの狂言強奪。そして、本部に偽装して建造されたカ・ディンギル……。俺達は全て、櫻井了子の掌の上で踊らされてきた……」
 主電源を奪われ真っ暗になった本部の廊下を、懐中電灯を手にした藤尭、地図を持った友里が先行する。その後ろには、緒川に支えられた弦十郎、そして未来が続いていた。

「イチイバルの紛失を始め、他にも疑わしい暗躍は、いくつかありそうですね……」
「それでも、同じ時間を過ごして来たんだ。その全てが嘘だったとは、俺には……」
「司令……」
 弦十郎の言葉に、緒川は答えを返せなかった。
 その気持ちは彼も同じだ。しかし、自分以上に共に過ごした時間が長い弦十郎は、他の面々以上のやるせなさを感じている事だろう。
 それを慮ると、何も言えなくなってしまった。

「甘いのは分かっている。……性分だ」
 俯き、下を向きながらゆっくりと歩き続ける弦十郎。
 その目に映るのは、果たして何なのか……。それを窺い知る事の出来る者は、誰もいない。
 
 ∮
 
「……嘘ですよね?そんなの、嘘ですよね?だって了子さん、わたしと翔くんを守ってくれました!」

 響は、デュランダル護送任務の際の出来事を思い出しながら反論する。

「あれはデュランダルを守っただけの事。希少な完全状態の聖遺物だからね」
「嘘ですよ……。了子さんがフィーネと言うのなら、じゃあ、本物の了子さんは?」
「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。……いや、意識は12年前に死んだと言っていい」
「どういう意味だ……!?」

 翔の疑問に、フィーネは間を置かずに答えを返す。
「超先史文明期の巫女フィーネは、遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引く者が、アウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力が再起動する仕組みを施していたのだ。12年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に、実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた……。その目覚めし意識こそが、私なのだッ!」

「あなたが……了子さんを塗り潰して……」
「まるで、過去から蘇る亡霊……」
 驚愕する響、睨み付ける翼。そして翔は、言葉を失っていた。

「はははッ。フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った私達は──パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期に、いつも立ち会ってきた」
「──ッ!?シンフォギア・システム……ッ!」
「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための、副次品に過ぎぬ」
 翔の言葉に、フィーネは嘲る態度で返す。どうやら彼女にとって、シンフォギア・システムは本気で玩具に等しいのが伺えた。
「お前の戯れに、奏は命を散らせたのかッ!」
「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのもッ!そいつが理由かよッ!」
「響があんな目に遭った原因も、広木防衛大臣を暗殺したのも、全部お前がッ!」
 激昴する翼とクリス、そして翔。

 しかし、フィーネはやはり口元に貼り付けた笑みを崩さない。両腕を広げ、高らかに宣言した。
「そうッ!全てはカ・ディンギルのためッ!」
 次の瞬間、地響きとともに地面が割れ、リディアンの真下から()()が屹立する。
 地下シェルターに逃げ込んだ人々が悲鳴を上げ、二課本部の廊下が隆起し、エレベーターシャフトのレールがパージされると共に、その奥に隠されていた装置が顔を出す。
 様々な幾何学模様と古代文字が刻まれ、天高く伸びる色鮮やかな魔塔。
 その姿はまさしく、古き書物に語られし伝説の『天まで届く塔』そのものであった。
「これこそが、地より屹立し天にも届く一撃を放つ荷電粒子──カ・ディンギルッ!」
 終わりの名を持つ巫女は、自らが建てた頂へと至る塔を見上げる。
 カ・ディンギルは遂に起動した。 
 

 
後書き
純「皆、無事かい!?」
紅介「純!お前何処行って……ってなんだその格好!?コスプレか!?」
純「コスプレじゃないよ!」
恭一郎「それより、何処に行ってたんだい!?風邪だと聞いていたから寮にも行ったのに、留守だったじゃないか!」
純「事情は追って説明する。それより皆、聞いてくれ。リディアンが大ピンチなんだ!」
飛鳥「なんだって!?」
純「姉妹校の危機、見過ごすわけにはいかない。このシェルターの何処かに、リディアンの地下フィルターへと続く通路がある筈なんだ。手伝ってくれるよね?」
恭一郎「当然だ。僕達の部活は人助け。困った人達を助け、己を磨き、いい男になるのが僕達の活動目的だ!」
流星「リディアンには、中学の頃の友達もいる。尚更ほっとけないよ」
紅介「ここで動かなきゃ男が廃るぜ!」
飛鳥「全会一致だ!……ところで、翔は何処に?」
純「一足先にリディアンへ向かったよ」
紅介「はあああ!?はえーなオイ!」
恭一郎「ああ……彼女か」
純「知ってるんだ……。なら話は早い、彼の元へ急ぐんだ!」
紅介「おっしゃあ!」
恭一郎「ああ!」
飛鳥・流星「「応ッ!」」

銀河に瞬く6つの光。それは1人のOTOKOの人助けと、あるOUJIの生き様に感銘を受けた者達の部活名。
またの名を「アイオニアンの双璧と四バカ」である。

遂に起動したカ・ディンギル!装者達の最後の決戦が始まる中、閉じ込められた二課の面々は……。
次回もお楽しみに!

改良型RN式回天特機装束 Model-0:RN式の改良型として開発されていたアンチノイズプロテクター、その試作機。
櫻井了子……フィーネ自身は、RN式をこれ以上改良するつもりはなく、シンフォギア・システム以上にコスト捻出用の玩具としての意味合いが強かったのだが、爽々波純という予想外のイレギュラーを殺せなかった彼女は、自身がアジトにいる間、身を守る為のボディーガード……最低でも見張り役としての役割を彼に与えた。
そんな純の身を守る為に与えたのが、本来ならRN式の完成を求める周囲の目を誤魔化す為のガワにも等しかった『Model-0』だった。
聖遺物からのエネルギーを、保護膜として体表に展開するのみならず、使用者の身体ではなく、その身に纏うプロテクターの方に固着させる事で、疑似シンフォギアとしての性能を引き上げることに成功している。有り体にいえば、聖遺物の力を組み込んだG3ユニット。(バッテリーの代わりに聖遺物の起動持続時間)
ただし、やはり素養のある者にしか起動出来ない点は相変わらず。最初期に比べれば、持続時間は数秒から3分までに向上しているものの、きっかり3分保持できるのは今の所、翔と純の二人のみしか確認されていない。
なお、胸部プロテクターの内側に取り付けられていたネフシュタンの欠片入りのケースは、純を本気で戦わせる為のブラフ。口を覆うマスクは、対話による解決……即ち相互理解を妨げる為の措置である。 

 

月を穿つ

 
前書き
月を穿つ力を秘めた『カ・ディンギルの塔』が遂に起動した!
その力による人類解放を謳うフィーネの前に、『シンフォギア装者』達が立ち塞がる!

とうとう例のナレーションが流せる所まで来ましたね。
きっとOPには3人の装者と2人の伴装者が並んでいる事でしょう。

それではどうぞ、お楽しみください! 

 
「カ・ディンギル……ッ!こいつで、バラバラになった世界が一つになるとッ!?」
「ああ。……今宵の月を穿つ事によってなッ!」
 空に昇る紅い月を見上げ、フィーネはそう言った。

「月を……?」
「穿つと言ったのか?」
「なんでさッ!?」
 その答えに困惑する装者達。フィーネは少し憂いを帯びた表情になると、あの日のガールズトークでは押し込めた、自らが聖遺物の研究を始めた理由を、語り始めた……。

「私はただ……、あの御方と並びたかった……。そのために、あの御方へと届く塔を、シンアルの野に建てようとした……。だがあの御方は、人の身が同じ高みに至ることを許しはしなかったッ!あの御方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる……。果てしなき罰、『バラルの呪詛』をかけられてしまったのだッ!」
「って事は、旧約聖書の『バベルの塔』は、あんたの……」
 翔は驚き目を見開く。人類の傲慢さに神が罰を降し、元々ひとつだった言語が分かれてしまい、人類は散り散りになってしまったその記述は、まさに人類から『相互理解』が消えた瞬間の記録だったのだ。

「月が何故古来より不和の象徴として伝えられて来たか……それはッ!月こそがバラルの呪詛の源だからだッ!人類の相互理解を妨げるこの呪いをッ!月を破壊する事で解いてくれるッ!そして再び、世界をひとつに束ねるッ!」
 起動したカ・ディンギル、その先端に紫電が走る。
 バチバチと音を立て、エネルギーが充填されていく。発射準備が整いつつあるのだ。
「呪いを解く……?それは、お前が世界を支配するって事なのかッ!──安いッ!安さが爆発し過ぎてるッ!」
 口角を引き攣らせながら叫ぶクリス。しかし、フィーネは再び余裕の笑みを浮かべ、装者達を見下ろしながら言った。
「永遠を生きる私が、余人に足を止められることなどあり得ない」
 
「それはどうかな!」
 反論の声に、フィーネが視線を移す。
「たとえ最初の動機は恋心でも、あんたはとっくに歪んでいるッ!叶わないと知ってなお諦めきれずに、周りを巻き込み、世界を巻き込んででも自分の我儘を通そうとするその姿!見苦しいにも程があるぞ、フィーネッ!」
「私が見苦しいと言うのか?小僧ッ!口が過ぎるぞッ!」
「間違ってる事を間違ってると教えてやって何が悪いッ!男なら、誰かの間違いは真っ直ぐ伝えてなんぼ!それでも止まらないと言うのなら……叔父さんの代わりに、この拳で止めるまでッ!」
 翔は拳を握りしめ、胸の前で打ち合わせると……皆と共に、胸の歌を口ずさんだ。
 

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」
 
「──Imyuteus(イミュテイアス) Amenohabakiri(アメノハバキリ) tron(トロン)──」

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

 
 弓、拳、刀、クロスボウが構えられる。
 クリスの初撃が足元に命中し、校舎を飛び降りるフィーネ。
 その瞬間を狙い、響は飛び蹴りの構えを、翼は刀を振り上げ、クリスはクロスボウを収納して拳を握って飛びかかり、翔は少し離れて弓を構えた。
 
 ∮
 
 その頃、地下シェルターの一室では、カ・ディンギルの起動により突如襲って来た揺れから身を守るべく、創世、弓美、詩織の3人が折り畳み机の下に隠れていた。
 3人の中でも、とりわけ弓美は振り乱しており、揺れの影響でドアが開かなくなってしまった事を知ると、床に座り込んで震えていた。

「このままじゃ、あたし達死んじゃうよ!もうやだよぉぉ……!」
「弓美!しっかりしてよ!」
「そうですよ!きっと助けが来ます!ですから……」
「助けっていつ来るのよ!こんな時、アニメだったら助けてくれるヒーローが現れるけど、ここは現実!助けなんていつ来るか分かんないじゃん!」

 リディアンの襲撃に、目の前でノイズに殺される人間を見てしまった恐怖。そして密閉されたシェルターの中に閉じ込められてしまった現状。
 3人の内、誰かがヒステリーを起こすのは必然だった。他の2人も、弓美を落ち着かせなきゃ、という気持ちで何とか自身を奮い立たせているが、それも何時まで持つのかは分からない。
「誰か……誰か、助けてよぉぉぉぉぉ!」
 
「誰かいるのか!」
 その時、開かなくなったドアの向こうから声が聞こえた。
 聞き覚えのあるその声。創世が真っ先に返事をした。
「助けてください!ドアが開かなくて……」

「わかった。ドアを突き破るから、離れていてくれ!」
 3人がドアの前を離れると、外からの声が1人ではなくなる。
「行くぞ、流星!」
「うん、兄さん!」
「「兄弟必殺!ダブル・ジャンタックル!」」

 次の瞬間、ひしゃげていたドアを破って、双子の少年が現れる。
「大丈夫か!?」
「兄さん、言い方固いよ……。大丈夫?」
 2人の顔を見た創世達は、揃って驚いた。
「え!?もしかして流星!?」
「アス!?アスだよね!?」
「あ……!安藤さん、板場さん、寺島さん。久しぶり」
「おお!まさかこんな所で会うとは……」
 飛鳥と流星も驚きながら、3人に会釈する。
「大野さん達、どうしてここに?」
「アイオニアンのシェルターは、ここに繋がっていてね。友からリディアンの危機だと聞かされ、放っておけなかったのさ」
「わざわざアイオニアンから!?」
「いったいどうやって……」
 
 そこへ、各シェルターを見回っていた未来と緒川が駆け込む。
「皆っ!」
「小日向さんっ!」
 無事だった3人に駆け寄る未来。
「良かった……みんな良かった!」
 更に、蹴破られたドアから藤尭、友里、弦十郎も入室して来た。
 3人の対応を未来らに任せ、藤尭は部屋にあったコンソールを起動する。

「この区画の電力は生きているようですッ!」
「他を調べてきますッ!」
 生存者の救出を兼ね、緒川は部屋を飛び出して行く。

 突然現れた見知らぬ大人達に、創世達と大野兄弟は困惑していた。
「ヒナ、この人達は……?」
「うん、あのね……」
「我々は、特異災害対策機動部。一連の自体の収束に当たっている」
「それって、政府の……」
「純から聞いていた通りだ……」
 パイプ椅子に腰を下ろした弦十郎からの説明に、救助が来た事に安堵したのか、弓美はようやく落ち着きを取り戻す。
「モニターの再接続完了。こちらから操作出来そうです!」
 藤尭の声と共に、ディスプレイには地上からの映像が映し出される。
 そこに映し出されていたのは、天高く聳え立つ塔。
 そして、その下でフィーネと戦う、4人のシンフォギア装者達だった。

「……あッ!響ッ!?それに、あの時のクリスも……ッ!」
「「「え……?」」」
「これが……」
「了子さん……?」
 戦場で戦士として戦う響の姿に驚く女生徒3人と、フィーネの姿に驚愕するオペレーターの2人。
「どうなってるの……。こんなのまるでアニメじゃないッ!」
「ヒナはビッキーの事、知ってたの……?」
「……うん」
「前に二人が喧嘩したのって……そっか。これに関係する事なのね……」
「……ごめん」
 真実を知った3人。しかし、真実を知る事になった一般人は、彼女らだけではなかった。
 
「失礼しますッ!」
 突然の新たな声に、その場にいる全員が振り向くと、そこには……全身にプロテクターを纏った金髪の少年が入って来た所であった。後ろには、同年代と思わしき2人の少年が、ドアのあった場所から顔覗かせている。
「風鳴翔の叔父とは、あなたの事ですか!?」
「君は……確か、アキレウスの……」
「爽々波純。翔の親友です!翔に頼まれ、アイオニアンから救援に来ました!」
「翔から?そうか……それは心強い」
「爽々波純って……アイオニアンのプリンス!?」
 純の名前を聞き、創世が驚きの声を上げる。
「ああ。僕らのリーダーだよ」
「えっ!?大野達、こんな噂の有名人の友達なの!?まるでアニメじゃん!」

 その時、紅介がディスプレイに映った映像に声を上げた。
「オイ!?あれ、翔じゃねえか!」
「まさか、本当に……」
「純が着ているプロテクターと似ている……。間違いない、あのプロテクターは本物だ!」
「アーティストの翼さんまで……!?」
 紅介の声に反応して、続々と藤尭の隣へと集まるUFZの4人。
 リディアンの3人と未来も含めて、管制を担当する藤尭の周囲には、この場の一般人8人が密集する。藤尭は彼らに仕事の邪魔にはならないよう、念を押すと、コンソールの操作に戻った。
 
 そして、彼らが地上の映像に夢中になっている頃、純は弦十郎の前に歩み寄る。
「翔の叔父さん……」
「風鳴弦十郎だ」
「ああ、どうも。……弦十郎さん、地上への出口は何処にあります?」
「……聞いてどうするつもりだ?戦うつもりだとすれば、俺は戦士ではない君が戦場へ出る事など許さんぞ」
 弦十郎は純の考えを察したのか、険しい表情で彼を見る。
 彼の顔を真っ直ぐに見て、純は迷わずに答えた。

「戦うんじゃありません。クリスちゃんを助けに行きます……。いえ、行かせてくださいッ!」
「クリスくんを、助けに……か」
「僕はクリスちゃんを助けたくて、フィーネのアジトまで突き止めた。そして、クリスちゃんを守る為にこの力を手に入れた。……アイオニアンまでの通路は解放されています。恭一郎達が、避難誘導を手伝ってくれるでしょう。翔との約束はここまでです。僕は、あそこへ戻ります!クリスちゃんを守る為に……そして、フィーネの真意を聞くために!」
「……フィーネの、真意?」

 弦十郎はその言葉に目を見開く。
「クリスちゃんを助けにアジトへ忍び込んだ時、フィーネは僕を殺せるはずでした。でも、あの人は僕を殺さなかった。気紛れだと言ってましたが、僕はその真意を知りたい!だから、行かせてください!」
「……わかった。君を、RN式アキレウスの正式な装者として認める」
「ッ!ありがとうございますッ!」
 勢いよく頭を下げる純に、弦十郎は希望を託す。
 彼はフィーネに……了子に助けられたという。それはつまり、フィーネにもまた、『櫻井了子』として過ごした時間が刻まれている可能性を示唆していた。
 純はフィーネの良心を確かめたいと言う。事態が収束すれば、聞きたいことは自分で聞きに行くが……自分には今、二課の司令としての役割がある。
 だから今、自分にできることは、彼の背中を押すことだ。

「エレベーターホールの近くに、地上へと続く非常階段がある。長いがなんとか走り抜けろ!」
「はいッ!」
 そう言って純は、マスクのなくなったメットを被る。バイザーが降り、ディスプレイが起動したのを確認すると、彼はエレベーターホールの場所まで全力で駆け出して行った。
「おい、純!……あーあ、行っちまったよ」
「純も行くんだな……地上に。この戦場のただ中に……」
 ディスプレイに映る装者とフィーネの激戦は、徐々に激しさを増していく。
 残された友人達は、ただその光景を画面越しに見守る事しか出来なかった。 
 

 
後書き
リディアン三人娘とジャn……大野兄弟は中学の頃のクラスメイトだったりします。

キャラ紹介③
加賀美(かがみ)恭一郎(きょういちろう)(イメージCV:緑川光):翔、純のクラスメイト。純の本気で『王子様』を目指す姿勢に感銘を受け、自らも子供の頃に憧れた『ナイト』として自分を磨こうと、純と交友関係を持ち始めた。コードネームは"ミラーナイト"。
クールな性格だが、意外とナイーブな所も。落ち込むと部屋の隅や暗い場所で、体育座りになっている。UFZの発足は彼が提案した。
ちなみにツヴァイウィングは翼派。

穂村(ほむら)紅介(こうすけ)(イメージCV:関智一):翔、純のクラスメイト。翔とは何度も体育の記録で勝負している内に仲良くなっていた。ちなみに今の所、結果は全敗である。翔の男らしさ、もといOTOKOっぷりに一種の憧れを抱いており、自分も翔のようにかっこいい『漢』になるのが目標。コードネームは"グレンファイヤー"。
暑苦しい程の熱血馬鹿で体育会系。顔はいいのだが、いかんせん熱血過ぎてモテないのが悩み。しかし、四バカの中では一番体力がある。
実はツヴァイウィングは奏派である。

大野(おおの)飛鳥(あすか)(イメージCV:神谷浩史):翔、純のクラスメイト。純とは入学日、隣の席だった縁で仲良くなった。UFZ結成後は、紅介のツッコミ役担当としての地位を確立。委員長気質であり、クラスでは級長を務めている。体育や合唱で弟と組むと、無類のコンビネーションを発揮する。コードネームは"ジャンバード"。
生真面目、堅物。顔はいいのだが、真面目すぎて少々口うるさくなってしまう癖がある。
ちなみにツヴァイウィングは翼派。

大野(おおの)流星(りゅうせい)(イメージCV:入野自由):飛鳥の双子の弟。翔、純のクラスメイト。翔と席が近かった事で友情を育む。恭一郎が落ち込んだ時、よく慰めているのは彼だったりする。趣味は読書で、文学小説が好き。兄と組んだ時のコンビネーションは抜群。特技は機械弄り。コードネームは"ジャンスター"。
物静かで天然。四バカの中では一番モテるのだが、読書中以外はいつも兄に着いていく癖がある。
ツヴァイウィング……ではなく、海外出身のとある新米アイドル派。真剣な顔して彼女のライブ映像を見ながら、猫耳のようになっているあの髪はそのうち動くんじゃないか、などと考えているのは内緒。

今回のキャラ紹介は、UFZの4人でしたー。
名無しモブからよくここまで来たなこの4人……。作者も当初はここまで考えてなかったのでビックリしてたり。

次回──

クリス「ずっとあたしは、パパとママのことが、大好きだった……。だから、二人の夢を引き継ぐんだ……。パパとママの代わりに、歌で平和をつかんで見せる。わたしの歌は……そのために……ッ!」

第57話『守るべきものがある、それが真実』

純「届けえええええええッ!」 

 

守るべきものがある、それが真実

 
前書き
遂に唄うよクリスちゃん。走れOUJI!彼女を救えるのはキミだけだ!
今回はサブタイに注目!もうお察しの方は何人かいるかと思いますが……別タブでBGMに、あの曲を検索しておく事を推奨します。 

 
「うおおおおおおおおーッ!」

〈MEGA DETH PARTY〉

 クリスの腰から展開されたポッドから放たれるミサイルの雨。
「はッ!」
 しかし、フィーネは鞭の一振りでそれを全て撃ち落としてしまう。
 その爆煙を突き抜けて、響と翼が飛び出した。
「「はあああああああっ!」」
 響の連続蹴りをいなし、躱すフィーネ。
 後退した響と入れ替わりで前に出た翼が、刀を振り下ろすも、フィーネは硬質化させた鞭でそれを受け止める。
 鍔迫り合いが続き、火花を散らす両者の武器。次の瞬間、フィーネの鞭が硬質化を解かれ、翼の刀に巻きついた。
 絡め取られ、空へと放られる刀。振るわれる鞭をバックステップで回避すると、翼は両腕でバランスを取り、両脚の刃を展開させながらブレイクダンスのように回転する。

〈逆羅刹〉

 扇風機の如く回転して迫る刃を、フィーネは同じく鞭を回して防ぐ。
「はあああああッ!」
 翼に気を取られている隙を突き、響の拳が繰り出される。
「そのような玩具が私に届くものかッ!」
 だがその拳も、フィーネの左腕に防がれてしまい、2人は後退する。
「シュートッ!」
 その直後、矢の雨がフィーネの頭上から降り注いだ。

〈流星射・五月雨の型〉

「チッ!小癪なッ!」
 2本の鞭を交互に振るって全ての矢を防ぎ、バックステップで後退するフィーネ。
 着地と同時に装者達との間合いを確認する。
 最前線で接近戦を仕掛けてくる響と翼。後方から2人の動きに合わせ、的確な援護射撃で隙を埋める翔。

 ……ここで、先程まで弾幕を張っていたクリスが視界にいない事に気がついたフィーネは、慌てて周囲を見回す。
「本命は……こっちだッ!」
 その目に飛び込んできたのは、背部から展開された巨大ミサイルを発射するクリスの姿であった。
 跳躍し、空中で華麗に舞いながらミサイルを避けるフィーネだが、ミサイルはフィーネの背後をピッタリと追尾して逃がさない。

「ロックオンッ!アクティブッ!スナイプッ!──デストロイィィィッ!」
 その隙に、クリスはもう1発のミサイルを、カ・ディンギルへと向けて発射した。
「ちいッ!させるかぁーーーッ!」
 振り下ろした鞭で、カ・ディンギルへと向けて放たれたミサイルを真っ二つに両断し、破壊する。
 カ・ディンギルの破壊を阻止し、次に自分を狙っていたミサイルを破壊しようとして、フィーネは周囲を見回した。
「もう一発は──はッ!?」

 空を見上げると、そこには……先程までフィーネを追尾していたミサイルに乗り、まるでロケットのように月の方角へと向けて飛ぶクリスの姿があった。

「クリスちゃんッ!?」
「おい雪音!?」
「何のつもりだッ!?」
 響、翔、翼も驚きの声と共に空を見上げる。
「ぐッ──だが、足掻いたところで所詮は玩具ッ!カ・ディンギルの砲撃を止める事など──」
 デュランダルからのエネルギーチャージはほぼ完了。月のど真ん中へと標準を合わせ、それを穿つ一撃が今まさに放たれようとしていた。
 フィーネがほぼ勝利を確信する、まさにその瞬間だった。……その唄が聴こえてきたのは。

Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) baral(バーラ) zizzl(ジージル)──」

「あ──」
 辺り一帯の空間がピンクに染まる。クリスが何をしようとしているのかを察し、フィーネの表情に焦りが浮かんだ。
「この歌……まさかッ!?」
「絶唱──」
「あいつ……ッ!」
 ミサイルが到達する限界高度まで上昇し、それを飛び降りたクリスは、スカート部分からエネルギーリフレクターを展開する。

Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」

 アームドギアを二丁拳銃へと変形させ、リフレクターへと撃つと、本来は広域拡散されるはずのエネルギーベクトルは、リフレクター同士の間を反射して収束されていく。
 それはまるで、彼女の背後に巨大な蝶の羽を形成するかのように広がった。
 絶唱を唱え終わると同時に、クリスの持つ二丁拳銃は超ロングバレルのキャノン砲へと変わる。
 それを連結すると、クリスは自身のギアに残るありったけのエネルギーを銃口へとチャージした。

 やがて、地上から緑色の強烈な光が月へと目掛けて発射された。
 それと同時にクリスも引き金を引く。背後に広がっている、月明かりに照らされた蝶の羽からの光線も、キャノン砲から放たれたビームへと一点へと集中され、ピンク色の眩い閃光を放つ。
 月と地球の間でぶつかり合う、2色の光。
「なっ……」
 その光景に翔も、響も、翼も……そして、地下で見守る二課の面々も目を奪われた。フィーネでさえもが、驚愕の声を上げる。
「一点収束ッ!?押し止めているだとぉッ!?」

 バレルが徐々にひび割れていく。
 纏うギアに亀裂が走る中で、クリスは口角から血を垂らしながら独白した。

(ずっとあたしは……パパとママの事が、大好きだった……ッ!だから、2人の夢を引き継ぐんだッ!パパとママの代わりに、歌で平和を掴んでみせるッ!あたしの歌は……──その為にッ!)

 徐々に押し返され始める、イチイバルの一点収束砲撃。
 このままカ・ディンギルの砲撃を受け止め切れなくても、展開させたエネルギーリフレクターの機能を応用させれば、威力を拡散・減衰させる事はできる。そうすれば、月の破壊は防ぐ事ができるのだ。

 目に浮かぶのは父と、母と、そして二人に手を繋がれて歩いて行く幼き自分の後ろ姿。

 もう、彼女に後悔はない。だって自分は今、両親から確かに受け継いだ夢を叶えようとしているのだから。

(ごめん、ジュンくん……。これは、これだけはあたしにしか出来ない事なんだ……。ここであたしがやらなきゃ、フィーネの思うツボだからな……。だから、ごめん……あたし、『ただいま』は言えないかも──)





Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) baral(バーラ) zizzl(ジージル)──」

「……え?」
 大地を駆け抜ける力強い足音と共に聴こえたその唄に、翔が驚いて振り向くと、そこには……RN式アキレウスを起動し、カ・ディンギルの壁面を全力疾走で登って行く親友、純の姿があった。

「純ッ!?」
「爽々波のやつ、何を……ッ!?」
「あれって、絶唱……!?」
「馬鹿なッ!RN式に絶唱は使えないはず……」
 そう。プロトタイプとはいえ、RN式は響や翼のシンフォギアとは違い、フォニックゲインを用いない設計だ。大元が同じとはいえ、そのコンセプトが異なっている以上、その歌に意味は無い。

 だが、それでも純はそれを歌い続け、人類最速の名を持つその脚で、カ・ディンギルの途中まで駆け上がると、その壁面を足場に跳躍し、空中で宙返りしながら、踵部のブーストジャッキを最大伸縮させる。

Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」

 唄いきると共に、先程までフィーネが立っていた、崩れ残っている校舎の屋上を足場にすると……残っていた校舎が完全に崩れ落ちる程のブーストをかけて、天高く跳躍した。
「「跳んだッ!?」」
「いや、あれは……ッ!」
 跳躍した純は左手を天へと掲げる。その左腕に装備された盾は次の瞬間、その形をブースターへと変えた。
 聖遺物『アキレウスの鎧』は、鎧だけでなくその盾も含めてワンセットの防具型聖遺物である。世界そのもの、そして万物の対極を表す『アキレウスの盾』は使用者の意思を反映し、その形を変える装備だ。

 本来ならばこのブースターは、その推力でパンチの威力を引き上げるためのもの。しかし、純はそれを最大限まで引き上げたジャンプ力と併用する事で、クリスの元へと届かせようとしていた。
「跳んだんじゃない、飛ぼうとしてるんだ!」
「馬鹿め!改良されたとはいえ、RN式は所詮、玩具以下のガラクタ!届くはずが──」
「届かせる……!届けてみせるッ!この鎧が、僕の思いを力に変えるものならば……僕は絶対にッ!クリスちゃんの元へと辿り着くッ!」
 純がそう叫んだ時、その場にいる全員の耳に歌が聞こえ始めた。
 声なき歌。前奏のように響くそれは……爽々波純の胸の内から溢れていた。

「fly high──ッ!」


 瞬間、ブースターの推力が上がり、純の身体はどんどん空へと登って行く。
「なッ!?馬鹿な、届くというのかッ!?」
「まさか……純の歌が、RN式の性能を引き上げている……!?」
 精神力で稼動するRN(レゾナンス)式は、装者の歌で力を発揮するFG(フォニックゲイン)式と違い、機能的に見れば歌う必要性は皆無とも言える。

 しかし、それでもやはり歌には力がある。純は、クリスの絶唱を真似して唱えたその唄で、自らの精神を強く持つことで、自らが纏うRN式の力を引き上げていた。
 また、RN式という名の"シンフォギア・システムそのもの"には意味が無いとしても、コアに使われている聖遺物の欠片そのものに全く効果を及ぼしていないわけではない。
 聖遺物は元々、フォニックゲインで起動する。12年前の翼がそうであったように……または、2ヶ月前の響がそうであったように。純の唄った真似事の絶唱が、聖遺物そのものに影響を及ぼしうるフォニックゲインとなり、胸の内より歌を呼び起こしたのだ。

 そして、引き出された聖遺物の力はRN式の性能を向上させ、今、現行のシンフォギアと並ぶ力となって、純の身体を包んでいた。
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
 やがて、カ・ディンギルからの砲撃を追い抜き、イチイバルの全力射撃を超える。盾の形状を円形に切り替えると、裏面のグリップを左手で握った。
 負荷に耐え切れなくなったアームドギアがとうとう破壊される。しかし、純はその瞬間を逃さず、一瞬でクリスの前に飛び出すと盾を構えた。

「ッ!?……ジュン……くん……?どうして……」
 隣に並んだ純に驚くクリス。すると純は、いつもの爽やかな笑みと共に答えた。
「約束したからね……迎えに行くって。クリスちゃんが、自分のやるべき事を見つけたって言うのなら……それを隣で支える事こそ、僕のやるべき事だッ!」
「ッ……!!」
 円形……即ち、神話通りの形状となったアキレウスの盾を中心に、黄緑色のバリアが広がる。

 永劫不朽の刃のエネルギーにより放たれる、月穿つ一射。

 それに立ち向かうは、ギリシャ神話最高の鍛治神が造り出した盾。

 叙事詩に語られる対戦カードで、持ち主を変えた聖遺物同士がぶつかり合う。
 それでも、単純な防御性能のみで防ぎきれない事は、純も承知している。現に今、まだ10秒と経たない内から押されつつある。
 だから彼は、その盾に願った。大事な人をこの手で、守りきるだけの力を。
(頼む、RN式アキレウス!僕に……クリスちゃんを守る力をッ!)
「燃え上がる太陽になって!ヒカリで照らし続けていこう!いつまでも、傍にいる!それが運命ッ!」
 限りない愛を胸に、彼はその盾を支え続ける。

「ジュンくんッ!」

 その姿を見て、アームドギアを破壊されたクリスは、空いた両手で盾と、純の身体を支える。
 月明かりが二人を照らし、優しく包み込む。
 やがて、盾の表面に亀裂が走り始めようと、純は諦めずに歌い続ける。
 展開されたエネルギーリフレクターが限界を迎えて消滅を始めようと、クリスは純の身体をもう離そうとはしなかった。
 大事な人に支えられ、純は最後の一節を力の限りに叫んだ。
「この想い、永久に刻めぇぇぇぇぇぇッ!!」

 〈Zero×ディフェンダー〉





 次の瞬間、カ・ディンギルの一撃がバリアを押し切り、純とクリスの姿は閃光に包まれる。
 それと同時に、ようやくカ・ディンギルからの砲撃が止んだ。
 固唾を飲んで空を見上げる地上の装者達。

 やがて……見上げていた月に亀裂が走る。しかしその亀裂は月の中心部ではなく、そのほんの端……。カ・ディンギルの砲撃は、月の3分の1程を掠めただけであった。
「仕損ねたッ!?僅かに逸らされたのかッ!?」
 フィーネの声が驚きのあまり上ずっている。翔は慌てて通信を、純のRN式へと繋いだ。
「おい純ッ!生きてるよな!?おいッ!」
『……がはッ……ああ……翔かい……』
 吐血音と弱々しい声。絶唱の負荷が、純を襲ったのだと気づくのにかけた時間は一瞬であった。

「お前……」
『ごめん……後は、任せる……』
「おい……おいッ!純ッ!?」
「翔!あれは……ッ!」
 翼の声に顔を上げると、そこには光の粒子をまき散らしながら真っ逆さまに落ちていく、2つの人影があった。
 白い粒子を散らせているのは、口角から血を垂らし、ぐったりとした様子のクリス。
 そしてもう一人……プロテクター各部が破損し、耳あて部分のタイマーを赤く点滅させ、黄緑色の粒子をばら撒きながらも、クリスをその腕にしっかりと抱き締めているのは……その顎を吐血で赤く染めた純だった。
 二人は、その命を燃やして月の破壊を防ぎきり、真っ逆さまに墜ちて行く。
 リディアンの裏にある森の中へと落下する2人。その直後、大きな激突音が響き渡った。

「あ……あ、あ────」
 膝から力が抜け、へたり込む翔。言葉を失う翼。
 そして……
「ああああああああああああああああああァァァァァッ!」
 響の悲鳴が、虚しく戦場にこだました。 
 

 
後書き
マモ様主演作のネタ2つも入ってるじゃないかって?
ナンノコトカナー。ナンチャラ粒子が出てたとか自分には何の話やら(すっとぼけ)
クリスちゃんだけに唄わせない!純くんにも唄ってもらわねば!というのが今回の目的でした。
設定的にはクリスちゃん1人で逸らす所まで持ち込めたのは分かる。ぶっちゃけ、純くん乱入が蛇足になるかもしれないとも思いはした。
ですが……「独りぼっちは、寂しいもんな……いいよ。一緒にいてやるよ」というわけですよ。
1人でカ・ディンギル受け止めて、1人で真っ逆さまに落ちていく。あのシーンのクリスちゃんには、たとえ同じシーンになるとしても純くんと一緒に居てもらいたかったのです。

思い込みの力:あらゆる人間の持つ不確定要素。悪い方向へと働けば、周囲をも巻き込み、己を含む誰も彼をも不幸にしてしまう力。しかし前向きな方向へと働けば、どこまでも突き進む為の強い力となって人を支え、不可能をも可能とする。いわゆるプラセボ効果。
いつかの未来、風鳴翼が論理の刃を突破した際に見せるものであり、立花響に神をも殺す拳を与えた力の源流でもある。
今回のケースでは、フィーネに掻い摘んだ説明しかされていなかった事で、FG式とRN式の概要や細かな差異を聞かされていなかった純が「シンフォギアとは歌う事でその力を発揮する」と解釈していた事で、真似事の絶唱から引き起こされた奇跡。
歌は人の口から口へと伝達される事で、やがて世界へと広がって行く。



次回──

翼「やめろ翔!もうよせ立花!それ以上は、聖遺物との融合を促進させるばかりだッ!」

翔・響「「があああああああああああッ!」」

第58話『男なら……』

翔(──響が……泣いている……。なら、俺は……ッ!) 

 

男なら……

 
前書き
サブタイからBGMを察して貰えたかと思いますが、流れるのは次回です。
ただし、それとは別で『絆』を表すあの作品のOPから引用したセリフがありますので、そちらを流してみるのもアリかもしれません。 

 
(……さよならも言わずに別れて、それっきりだったのよ。なのにどうしてッ!?)

 力なく墜落していくクリスの姿に、未来は両手で口を覆う。

 その隣では、アイオニアンの男子四人が口々に叫んでいた。

「純ーーーーー!!」
「純ッ!」
「あんな無茶してまで……彼は……」
「何処までも君は……『王子様』を貫いて……」

 そして……弦十郎は震えながら、静かに拳を握り締める。

(……お前の夢、そこにあったのか。そうまでしてお前が、まだ夢の途中というのなら──俺達はどこまで無力なんだッ!)

 シェルター内が悲壮感に包まれていく中、戦場では……更なる波乱が巻き起ころうとしていた……。
 
 ∮
 
「ああああああああああああああああああああああああああああッ!……あ、ああ……あ……あああ、あ……そんな……」
 膝を着き、地面に着いた手を握りしめ、響は涙を流す。
「せっかく仲良くなれたのに……。こんなの、いやだよ……。うそだよ……。う、ううぅ……」
 
 ──ドクン……──
 
 灰色に染まった心臓が、鼓動する。
 
「もっとたくさん話したかった……話さないと喧嘩することも、今よりもっと仲良くなる事も出来ないんだよぉッ!」
 
 ──ドクン……──
 
 俯き、膝を屈し、涙を流す少女の胸の内から、何かが広がり始める。
 
「クリスちゃん……夢があるって、言ったもん。わたし、クリスちゃんの夢、聞けてないままだよ……」
 
 それは少女だけでなく、少女の傍で同じく泣いている少年も同じであった。
 
「ようやく帰って来たと思ったら……純のやつ、人生大一番のカッコつけやがって……」
 
 ──ドクン……──
 
「お前の夢……まだ終わってないだろ……逢いたがっていた人と逢えたんだ……二人で、一緒に叶えられる夢だったろうがッ!」
 
 ──ドクン……──
 
「二人揃って自分を殺して、月への直撃を阻止したか。……ハッ!無駄な事を」
 腕を組み、せせら笑うフィーネ。

 その一言に、翔と響の瞳に怒りが宿った。
「見た夢も叶えられないとは、とんだ愚図だな」
「嗤ったか……?命を燃やして、大切なものを守り抜く事を!……お前は無駄と、せせら笑ったかッ!」
 自分の命を燃やし尽くし、大切なものを守り抜いた人を翼は知っている。
 だからこそ、フィーネの言葉に対する怒りは大きかった。
 
「「……許せなイ」」
「……ッ!?」
 その声に、翼は背後を振り返る。
「……それガ……夢ごと命を、握り潰した奴が言うことかああアアアァッ!」
「……ふざけるナ……二人の未来を奪い去っておいて、何が恋だよこの外道がああアアアァッ!」
「「ウアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァアアアァァァッ!」」

 次の瞬間、2人の姿は完全に影に覆われた。
 赤い双眸でフィーネを睨み、牙を剥き出し咆哮する。
 その雄叫びに、周囲の地面が砕けて飛び散る。
 フィーネは2人を見て、狙い通りだとでも言うようにほくそ笑んだ。
 
「……翔ッ!?立花ッ!?おいッ!二人とも、しっかりしろッ!!」
 翼の声も聞こえていないらしく、2人は唸り声を上げて背を曲げる。
「融合したガングニールと生弓矢の欠片が暴走しているのだ。制御出来ない力に、やがて意識が塗り固められていく」
「あ……まさかお前、二人を使って実験をッ!?」
 翼は以前、了子が言っていた言葉を思い出す。
 響と翔の胸に宿る聖遺物の欠片は、それぞれ体組織との融合が進んでいると。
 あの時は、信頼する了子が軽々しく口にするものだから、危険性は無いものと思っていた翼だが、今思えばそれは敢えて口にしていたのだと分かる。

「実験を行っていたのは立花とお前の弟だけではない。見てみたいとは思わんか?ガングニール、そして生弓矢に翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を」
「お前はそのつもりで二人をッ!……奏をッ!!──ッ!?」

「「ウウゥアアアアアアアアッ!」」
 その瞬間だった。地面を蹴り、獣と化した二人がフィーネへと飛びかかった。
 2人の拳は、フィーネの鞭にあっさりと止められる。
 フィーネがそのまま鞭を振り下ろすと、2人は吹っ飛ばされ地面に激突した。
「翔ッ!立花ッ!」
「もはや、人に非ず。今や人の形をした破壊衝動……」
「「ウウゥゥ……ガアアアッ!」」
 再び飛びかかる二人。フィーネは2本の鎖鞭を幾重にも交差させ、結界を張った。
 
〈ASGARD〉
 
「ウウウウウゥゥゥウウッ!ガアアアァァァッ!」
「グウウウウウウゥゥッ!アアアァァァアアァッ!」
 紫電を散らしながらも、結界に拳を押し当てる響。
 同じくその硬度を力ずくで突破すべく、その脚を突き立てる翔。

 次の瞬間、2人は結界を突き破り、フィーネへと突撃した。
 土煙が上がり、強烈な風圧が戦場を駆け巡る。
 煙が晴れるとそこには……頭頂から中腹までがネフシュタンごとチーズのように裂け、左腕が肩口から削ぎ落とされたフィーネの姿であった。

(フィーネを、一撃で……ッ!?)

 しかし……フィーネはギョロリ、と2人の融合症例の方を見ると、ニタリと笑みを浮かべた。翼は絶句する。
「ハァー……ハァー……ハァー……」
「フーッ……フーッ……フーッ……」
「──ッ!やめろ翔!もうよせ立花!それ以上は、聖遺物との融合を促進させるばかりだッ!」

 翼の声に、二人はゆっくりと振り返ると……その姿を、真っ赤に染まった眼で睨み付けた。
「ウ……。……ウアアアアアアッ!」
「グゥウ……。……ガアアアアアアッ!」
「ぐうッ!?」
 跳躍し、襲いかかって来た二人の腹に刃の背を当てる。
 後方へと吹き飛ばされた二人は宙で体勢を立て直すと、そのままスライディングしながら着地した。
「「ウウゥ……、──ウゥアアアアアアッ!」」
「翔ッ!立花ぁッ!」
 翼を新たな敵だと認識し、襲い掛かる二人。
 もはや獣としか呼べなくなってしまったその姿に、翼は──。
 
 ∮
 
「ああッ!?どうしちゃったの響ッ!風鳴くんッ!元に戻ってッ!」
 暴走し、翼を襲う二人を見て未来が叫ぶ。
「オイオイオイオイ!何か、ヤベェ事になって来てねぇか!?」
 紅介も頭を掻きむしり、目を見開いている。

 そんな中、弓美は俯きながら呟いた。
「……もう、終わりだよ、あたし達」
「え……」
「学院がめちゃめちゃになって、響もおかしくなって……」
「終わりじゃないッ!響達だって、わたし達を守る為に──」
「あれがあたし達を守る姿なのッ!?」

『ウァアオオォ……ッ!』
 涙目で叫ぶ弓美。画面を見れば、そこには変わり果てた響と翔が、破壊衝動のままに暴れまわる姿が映し出されている。
「あ、ああ……」
 創世、詩織も怯えた表情で、黒く染った響を見ている。
「確かに……アレじゃあまるで……」

「紅介ッ!その先が僕の想像通りの言葉だったら……僕は君を殴らなくちゃいけない……」
 紅介の言葉を見越したように、恭一郎がその襟首を掴む。
 紅介は歯を食いしばってその言葉を飲み込むと、恭一郎を睨んで答える。
「分かってんだよ!でもよぉ……じゃあどうすりゃ良いってんだ……?」
「それは……」
 黙り込んでしまう恭一郎。しかし、その沈黙を破ったのは──未来だった。
「……わたしは響を、風鳴くんを信じる」
 その肩は震えている。瞳も恐怖で揺れている。それでも、未来は響らを真っ直ぐに見据え、静かにそう言った。
「う、ううぅ……あたしだって響を信じたいよ……。この状況も何とかなるって信じたい……。……でも……でも──ッ!」
「板場さん……」
 遂に膝を着き、両腕で顔を覆い頭を抱えてしまう弓美。
「もうイヤだよぉッ!誰かなんとかしてよぉッ!怖いよぉ……死にたくないよぉッ!助けてよぉッ!響ぃ……ッ!」
 弓美の絶叫と嗚咽が、狭いシェルターの中にこだまする。
 誰もが彼女にかける言葉を失っていた。──そう、思われた時だった。
 
「……諦めるなッ!」
 その声に、一同の視線が集中する。
 弓美が顔を上げると、目の前にいたのは、膝を着いて自分に視線を合わせる飛鳥だった。
「……翔の口癖だ。生前の、奏さんからの受け売りだと聞いている」
「え……?」
 ポカン、と口を開ける弓美。その隣に流星がしゃがみ、ハンカチを手渡した。
「どんな困難にぶち当たっても、この言葉に力を貰った……。翔は確か、そんな事を言っていたっけ……」
「実際、僕もいい言葉だと思っている。確かに、諦めない事はとても難しく、それを貫き通せる人は中々いない。でも、諦めなければ夢は掴むことが出来る。それを成し遂げた人間を僕達は知っているだろう?」
「「ッ……!」」

 恭一郎と紅介の脳裏に、純の姿が浮かんだ。
 幼い頃から夢見た『王子様』を目指して、ただひたすらに自分を磨いてきた純。
 他人からすれば、一笑に付されてしまうような夢。しかし、彼は諦めずに進み続け、そして今……その夢を叶えて散って行った。
 その輝きは儚いものではなく、四人の友人達に強く刻まれていた。

「そう……だよな……。ああ、そうだよな!ここで諦めていられるかよッ!」
「純がここにいれば、絶対に諦めるような事はしない!」
「翔ならここで、いつものアレを言って動き出す所だよな!」
「いつものアレ、ですか?」
 紅介の言葉に詩織が首を傾げる。
 恭一郎、紅介、飛鳥、流星は互いに顔を見合わせると、同時にそれを口にした。
「「「「男ならッ!」」」」
「……男なら?」
 え、その続きは?と言わんばかりにきょとんとする創世。
「翔のもう一つの口癖だ。毎回パターンが違って、バリエーションに富んでいる」
「毎回これ言う時、男らしさを問われる場面だからなぁ。今日の場合は『男なら、友を最後まで信じ抜け』とかじゃねぇの?」
「違いないだろう。なら、僕は小日向さんに賛成だ。僕らも翔を信じる!」
「さっきから盛り上がってる所悪いけど、あたし男じゃないもんッ!」
 説明する飛鳥と紅介、恭一郎に、弓美から飛ぶド正論。しかし、正論でありながらもそれは後ろ向きだ。
 その言葉に、飛鳥が論を返そうとしたその時だった……戦場に変化があったのは。
 
 ∮
 
「く、うぅ……ッ!……はぁ、はぁ、はぁ」
 跳ね飛ばされ、後ろ向きで地面を滑っていく翼。
 ようやく止まるも次の瞬間、左の二の腕を覆っていたアーマーが砕け散る。
 目の前には、今にも飛びかかろうとしている響と翔の姿があった。

「──ハハハッ!どうだ、大事な弟と未来の義妹に刃を向けた感想は?特に立花響と刃を混じえる事は、お前の望みであったなぁ?」
 以前の、頑なだった頃の翼をダシに煽るフィーネ。真っ二つに裂けていたはずのその身体は、見る間にどんどん再生していく。
 やがて元の通りにくっ付いた身体は、傷一つなく元通りになっていた。
 翼はほくそ笑むフィーネを睨み付ける。
「……命を断たれたはずなのに。人のあり方さえ捨て去ったか」
「私とひとつになったネフシュタンの再生能力だ。……面白かろう?」

 しかし、再び元の通りになったのはフィーネの肉体ばかりではなかった。
 背後に聳えるカ・ディンギルもまた、その砲身に閃光を迸らせ、輝き始めた。
「──まさかッ!?」
「そう驚くな。カ・ディンギルが如何に最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば、兵器としては欠陥品。必要がある限り、何発でも撃ち放てる。そのために、エネルギー炉心には不滅の刃、デュランダルを取り付けてあるッ!それは尽きる事の無い、無限の心臓なのだ」

 自慢げに語るフィーネに、翼は刀を向ける。
「……だが、お前を倒せばカ・ディンギルを動かす者はいなくなる」
「フフフ……出来ると思うのならば、試してみるがいいッ!」

 確かに、フィーネを倒せばカ・ディンギルは止まるだろう。しかし、目の前には敵味方の区別もつかなくなるほど、破壊衝動に飲まれてしまった弟と後輩がいる。
 まずは二人を止めなくてはならない。翼は何度も打ち合いながら、その方法を考えていた。

(二人を元に戻すには……やはり、翔の意識を目覚めさせるしかない……)

 翼は以前、緒川と了子から渡された、デュランダル護送任務の報告書の中で、翔が響の暴走を食い止めることが出来たという話を思い出していた。
 響と共に暴走の破壊衝動に飲まれそうになりながらも、翔は意識を保ち、響を止めてみせた。間近で見ていた了子が煽るように、嬉々として語っていたあの話。もし本当だとすれば、翔の意識さえ戻せれば、自然と響をも元に戻す事へと繋がるはずだ。

(翔……頼む、私の声を聞いてくれ……!)

 翼は視線を翔へと移し、真っ直ぐに見つめて叫んだ。
「翔ッ!何を寝惚けているの!あなたの大事な人が、すぐ傍で泣いているのよッ!」

「グウッ……!?」
 翔の動きが一瞬止まる。
 聞こえているのだと分かった翼は、更に強い口調で続けた。
「大事な人を守る為に、その拳は握られる……。大事な人が泣いてたら、その手で優しく包み込む……。あなたが目指している男って、そういうものじゃなかったの!だったら、今この瞬間こそがそうでしょうッ!?……お願いだから……目を覚ましてよ!翔ッ!」

 翼の頬を、一筋の雫が滴り落ちる。それが地面に落ちた時、翔に変化が生じた。
「ッ!……姉……サん……?」
「……翔?」
 唸るばかりであった翔が、言葉を発する。
 釣り上がっていた目尻が降り、やがてその目の色は血のような赤から、元の青へと戻っていく。
「翔ッ!お願い、戻って来て!立花の涙を拭えるのは、あなたしかいないのよッ!」

 翼の叫びが、塗り固められていた翔の意識を引き戻す。
 隣に立つ響を見て、翔は姉の言葉の意味を理解した。
(──響が……泣いている……。なら、俺は……ッ!)

 その瞬間、翔を覆っていた影が消えていく。
 赤黒く、禍々しさを放つ影は消え失せ、代わりにその下に押し込められていた気高き灰色が、再びその姿を現した。

「ッ!?馬鹿な、聖遺物の暴走を……ッ!?」
「うおおおおおおおおおおッ!テェアッ!」
 影が弾け飛び、翔の姿は元に戻っていた。
「翔……」
「ありがとう、姉さん……。姉さんの声、確かに届いたよ」
「もう……ヒヤヒヤさせないでよ……」
 涙を拭い、戻って来た弟に笑みを向ける翼。
 だが次の瞬間、翔の方へと向けて鎖鞭が振り下ろされた。
「ッ!」
 慌てて飛び退き、翼の隣に並ぶ翔。
 フィーネは苛立ちを顕にした顔で、姉弟を睨み付けた。

「チッ。折角の余興だというのに、興冷めではないかッ!」
「他人の苦しみを余興扱いとは……やっぱ腐ってるじゃないか!フィーネッ!」
 翔は怒りと共に拳を握り、フィーネを睨み返す。

 しかしフィーネは当然のように、怯むことがない。
「だが、お前達が今更どう足掻こうと、カ・ディンギル二射目まではあと僅か……。それで私の勝利は確定だ」
「「果たしてそうかなッ!」」
「なに……?」

 姉弟は声を揃えて返すと、互いに背中を合わせて構える。
「男ならッ!どんな逆境でも諦めないッ!それが大切な人を取り戻し、共に歩む明日を守るための戦いであれば、尚更だッ!」
「この剣はまだ、折れてはいないッ!この誇りはまだ、折られてなどいないッ!ならば私はまだ、戦えるッ!防人として……一人の姉としてッ!弟を、立花を……そしてこの街の、この国に住む無辜の人々を守る為にッ!」
「それがお前達の絆だとでも!?くだらんッ!絆とは、痛みだけが繋ぐものなのだ!そのたった一つの真実も理解できない青二才どもに、私の計画を邪魔されてなるものかッ!」

 翔と翼は互いに目を合わせると、それぞれが向かうべき相手に向かい合う。
 翼はフィーネへと、その剣の切っ先を向け、翔は響の動きを伺う。
「往くぞ、翔ッ!」
「ああッ!俺達は──」

「「──決して絆を諦めないッ!」」

 瓦礫の山をから跳躍するフィーネと、地面を蹴って駆け出す響。
 刀を構えて飛び立つ翼と、握った拳を開いて平手を構える翔。
 絆を懸けた戦いが今、始まった。 
 

 
後書き
翔の口癖は今回決まったわけではなく、前々から固まってはいたんですけど中々出せていなくてですね……これまで何話出てきたか、作者にも曖昧なのですよ(苦笑)
でも、響の「へいき、へっちゃら」や「だとしてもッ!」に並ぶような言葉にはなったかなと思います。
あとあの書き方、奏さんはあのライブより以前から「諦めるなッ!」って言ってた事になりますけど、まあ問題ないよネ!名言だし、口癖だった事にしても!

次回──

翼「今日に折れて死んでも……、明日に、人として唄うためにッ!」

フィーネ「その程度では、切っ先すら届かぬわッ!」

第59話『ただ、それだけ出来れば──』

翔「……この手は、束ねて繋ぐ力のはずだろ?」 

 

ただ、それだけ出来れば──

 
前書き
姉弟揃ってイケメンな風鳴姉弟。いざ、推して参るッ!
さあ、前回流し損ねたあの曲を……最高のBGMとして鳴らしましょう! 

 
「はあああああああッ!」
「フンッ!」
 刀と鞭がぶつかり合い、火花を散らす。もうこれで、何度目の衝突になるのだろうか。未だに翼の刃は、フィーネへと届いていなかった。
「いくらネフシュタンと言えど、再生能力を凌駕する威力で攻撃を与え続ければ、いずれ届くッ!」
「だが、果たしていつまで耐えられるッ!」
「うッ、くッ!?」
 翼のギアは、所々がひび割れ始めている。既に限界が近づいているのは、目に見えていた。

 その頃、すぐ近くでは翔が暴走した響を相手に戦い続けていた。
「ウオオオォォオオオオッ!」
「ふッ!はッ!……くッ!響ッ!返事をしてくれッ!」
 力任せに振り下ろされる拳、突き破らんばかりに放たれる爪撃。
 大地を砕く脚と、空気を震わせる咆哮。
 翔は響からの攻撃を全て躱し、流し、いなし続ける。しかし、力のままに振るわれる撃槍が相手では、それにも限度があった。
 攻撃の余波による衝撃波や、吹き飛んだ土塊までは防げない。
 今もまた、飛んできた土塊を弾いた瞬間に響の拳が命中した。

「がはッ!?」
 吹っ飛ばされ、地面を転がる翔。
 その先で、フィーネに剣を弾かれた翼が、土煙を上げながら後退して来た。
「翔……大丈夫?」
「姉さんこそ……まだまだ行けるよね……?」
 立ち上がった翔は、もう一度平手を構え直す。
 フィーネは未だに諦めない姉弟を見て、再びせせら笑っていた。
「まだ立ち上がるか?もはや無意味だというのに……。貴様らがいくら抗おうと、カ・ディンギルは止められない!立花響も救えない!それが運命というものなのだッ!」

「運命だと?知った事か!男なら、定められた運命なんか変えて見せるッ!そして未来を掴み取るッ!」
「お前を倒す力は、確かにもう残っていない……。しかし、だとしてもッ!私達姉妹はまだ立ち上がる事が出来るッ!」
「「この身に変えても、守り抜くッ!」」

 2人はそれぞれの戦う相手を見据え、小さな声で呟いた。
「……翔、私はカ・ディンギルを止める。だから──」
「だったら姉さん……。一手だけ、力を貸して欲しい……」
「──わかった。それがあなたの望みなら……」
 頷き合い、翔は地面を蹴って響の元へと飛び出して行った。
 それを見送ると、翼はゆっくりとフィーネの方へと歩み寄る。

「待たせたな……次で、決着を付けるッ!」
「どこまでも剣と言うことか」
 鎖鞭が蛇のように動き、フィーネを取り巻く。
「今日に、折れて死んでも……、明日に人として唄うためにッ!風鳴翼が唄うのは、『戦場』ばかりでないと知れッ!」
 アームドギアを握り直し、翼はフィーネを真っ直ぐに睨みつける。
「人の世界が剣を受け入れる事など──ありはしないッ!」

 伸びた鎖鞭は勢いよく、翼を狙って迫る。
 翼がそれを跳躍して躱すと、鎖鞭は勢いよく地面へと突き刺さり、土煙を上げた。
「颯を射る如き刃、麗しきは千の花──ッ!」
 両脚の刃を展開し、向かって来る鎖鞭を弾き返すと、アームドギアを刀から大剣へと変形させる。

〈蒼ノ一閃〉

 一閃さえをも突き破り、鎖鞭が宙を舞う。
 爆発と共に掻き消える閃き。翼は着地すると、フィーネへと迫る。
「慟哭に吼え立つ修羅、いっそ徒然と雫を拭って──」
「くッ……!」
 その身を貫かんと迫るく鎖鞭。それを翼は、身を屈める事で避ける。
「なッ!?」
 一瞬の隙。フィーネの懐へと潜り込んだ翼は、その大剣を振るってフィーネを薙ぎ払い、カ・ディンギルの壁面へと叩き付けた。
「な……あッ!?」
 フィーネがカ・ディンギルの壁にめり込み、煙で視界を隠されたその瞬間、弟の戦いを横目に窺い続けた翼は、太腿を覆う鎧の裏に収納された小太刀を取り出し、投擲した。

「翔……後は任せるッ!」
 そして翼は天高く跳躍し、刀へと戻したその剣をフィーネへと投擲する。直後、投擲された刀は形を変えて、巨大な刀身を持つ両刃の剣へと姿を変えた。
 両脚の刃を展開させて、そこから噴き出すブースターによって加速。飛び蹴りの構えを取った。
「去りなさいッ!無想に猛る炎、神楽の風に滅し散華せよ──ッ!」

〈天ノ逆鱗〉

「ぐ……うう、はッ!?」
 迫る逆鱗に気が付き、フィーネは鎖鞭を幾重にも交差させ、三重に結界を重ねて張った。
 結界と衝突する逆鱗。大質量の刃物に、高度と加速力を乗せて放つ必殺の一撃を、三重結界は難なく受け止めている。
「その程度では、切っ先すら届かぬわッ!」

 しかし、翼の狙いは……フィーネではなかった。

(──防がれる事は織り込み済みッ!)

 拮抗し、宙で止められたままとなっているアームドギア。
 それをそのまま足場として、自身の体重を移動させることでバランスを崩させる。
 翼は更に二本の剣をその両手に握り締め、カ・ディンギルへと飛んだ。
「四の五の言わずに、否ッ!世の飛沫と果てよ──ッ!!」
 翼と構えたその双刃から、紅蓮の炎が噴き上がる。
 炎を翼と携え翔ぶ姿。まさしく不死鳥(フェニックス)の羽撃き。

〈炎鳥極翔斬〉

「く──ッ!初めから狙いはカ・ディンギルかッ!」
 だが、フィーネは結界を解くと、天高く昇ろうとする不死鳥を墜すべくその鎖鞭を振るう。
(あと少し……ッく、追いつかれ──)
 次の瞬間、鎖鞭は不死鳥の携えた両翼を掠め、飛び立とうとしていた翼を撃ち落とした。

 ∮

「ぐッ!?……なんの、これしき……ッ!」
 砕けて飛び散るギアの破片と、剥き出しとなった生身の部分を切り裂かれ、滴る鮮血。
 翼がフィーネと戦っている頃、翔もまた、響の懐を目指して向かっていく。しかし翔が辿り着くよりも先に、響の真っ黒な右腕からガシャン、という音と共に煙が噴き出した。
「ウウウアッ!」
 勢いよく跳躍し、その鋭い爪と共に突き出された右手。

(男なら……守るべき誰かの為に──強くなれッ!)

 その瞬間、翔はその足を止めると……両腕を広げて響を見上げた。
「アアアアアアーーーッ!」
「…………」
 次の瞬間、響の爪が翔のギアの胸部へと突き刺さる……事はなかった。
 その爪を、まさに紙一重で躱した翔は、ただ穏やかな表情で響の背中に手を回すと、その黒一色に染まった身体を抱き締めた。
「ッ!?」

 突然、その身を包んだ温かさに、響は腕を降ろす。それを見て、翔はその右手を優しく取って、その耳元で囁いた。
「……この手は、束ねて繋ぐ力のはずだろ?」
「ッ!?ガッ……ウウウウゥゥゥウウ……ッ!」
 動きを止めたのも束の間、また暴れようとする響。
 そこへ、何かが地面へと突き刺さる音と共に、翼の叫びが耳に届く。
「翔……後は任せるッ!」

〈影縫い〉

 打ち合わせずとも、弟が何をしようとしているのかを悟った姉から届いた、文字通りの『助太刀』。
 影縫いに動きを封じられた響は、これ以上暴れる事が出来ない。
 翔はそのまま響へと囁き続ける。
「……響。奏さんから継いだ力を、そんな風に使わないでくれ……。その気持ちは痛いほど分かる……。でも、それで誰かを傷付けるのは間違っている……」
「ウウゥ……ア……アアア……」
 響の目尻が下がり始め、その目に涙が浮かぶ。
「純と雪音が倒れたり、学院がこんなになっちまったり……悲しいのはわかる。……悔しさと怒りが溢れて来て、ガングニールの力そのものに、心を塗り潰されそうになってるのも分かる……。でもな……それでも──」

 自然と、響を抱き締める腕に力が篭もる。響の右手を掴んでいた手を、その頭に乗せて優しく撫でる。
 閉じた瞼の裏、見えたのは暗闇へと沈んでいく最愛の人の姿。
 翔はそれに手を伸ばすイメージを思い描き、力強く叫んだ。

「諦めるなッ!」

「ッ……!ウウ……う……アぁ……あ……」
「響ッ!」
 翔は響の顔を見る。その目は……泣いていた。
「響……」
 頬を滴る透明な雫が、真っ黒に染まった頬に輝く。
 温もりと、触れる手と、その意識を呼び戻す力を持った言葉。破壊衝動に塗り固められた響の心を、完全に取り戻すまであと一歩……。

 その最後のひと押しに、翔は……最も響の意識を呼び起こすだけの衝撃を与える行動を選んだ。
 背中に回していた両腕を離し、その両手を頬に添える。
 その行動に至ったのは、親友からの影響か。それとも、その展開が王道中の王道だからか。

「……んッ……ぅ……」
「……ッ!?」
 唇を重ねられた瞬間、響はその両目を見開く。
 そして次の瞬間……その身体を覆っていた影は、オレンジ色の光と共に弾けて消えた。

 翔が唇を離すと、そこには頬を濡らし、真っ赤に晴れた目でこちらを見つめる、最愛の少女の姿があった。
「……おかえり……響」
「……翔……くん……」

 次の瞬間、風を斬る音と、炎が噴き上がる音が空気を揺らした。
「ッ!?あれは……」
 振り向くとそこには、カ・ディンギルの頂上を目指して飛翔する、一羽の雄々しき不死鳥の姿があった。
 その両翼に迫る蛇の鞭に、翔は思わず叫んでいた。
「姉さんッ!」

 ∮

(……やはり、私では──)
 ギアが砕け、破片が飛び散る。
 撃ち落とされ地へと墜ちていく中、翼は心の中でそう呟こうとしていた。
 力なく虚空を彷徨う身体。今度こそ、この翼は折れてしまった……そう思いかけた時、耳に届いたのは懐かしい声だった。

『何、弱気な事言ってんだ』

「あ……奏ッ!?」
 目の前に現れた彼女は、あの頃と変わらない微笑みを浮かべながら、その手を差し伸べて来た。
『翼……あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングなら──何処までも遠くへ飛んで行ける』

 奏の手を取り、翼は再びその目を開く。
(……そう。両翼揃ったツヴァイウィングなら──)
 落下していく身体で宙返り、その体勢を立て直して……翼は再び、その両翼(つるぎ)に炎を灯した。
「……ッ!」
「な──ッ!?」
「姉さんッ!」
 翼はカ・ディンギルを支える支柱を足場に、もう一度跳躍する。
 今度は険しい表情ではなく、自信と確信に満ちた雄々しい笑みを浮かべて。
(どんなものでも、越えてみせる……ッ!)
 再び襲い来る鎖鞭。しかし、今度こそは邪魔させはしない。
 その心に呼応するかのように、紅蓮の炎は蒼炎へと色を変え、蒼き翼の不死鳥は天高く飛翔する。

「Yes,Just Believe──!」

 生涯無二の親友と共に歌った、思い出のフレーズ。自らを奮い立たせるように叫びながら、翼はその両翼を羽撃かせる。
 飛び交う鎖を掻い潜り、月穿つ魔塔へと特攻していく不死鳥を……彼女が愛する者達が、涙を流しながら見上げていた。
「あ……あああ……ッ!?」
 見上げるフィーネの目の前で、カ・ディンギルの各部から光が漏れ出す。

 そして次の瞬間……カ・ディンギルは爆発した。
 辺り一面が白一色に染まり、強烈な閃光が戦場を、リディアン全域を包み込む。
 次の瞬間、大きな爆発音と吹き荒れる爆風、そして空には月を穿つ一撃の代わりに、炎と共に爆煙が立ち上った。 
 

 
後書き
原作だと、翼さん抱擁の後でも直ぐには戻らなくて、翼さん特攻(死んでない)でようやく暴走状態から元の姿に戻ったあのシーン。
あれ、もう一歩で元に戻れる所まで来てたけど、そのもう一押しが足りてない状態で影縫いされて、その最後のひと押しが翼さんが死んだかもしれないってショックだったんだろうなぁ、と解釈しました。
なので、こちらではその最後のひと押しとして、某暗殺教室の主人公が永遠のゼ……ゲフンゲフン、プリン大好き天才子役にやったアレよろしく『とっておきの殺し技』を決める流れになりました。告白回で敢えてさせなかったのは、そういう事です。
あと本当なら原作の翼さんと同じく、暴走響の爪を翔が受け止めてそのまま抱擁……の流れにしようとしてましたが、気付いたら回避した上で抱き締め、そこに姉が影縫いして動きを封じるという義妹必殺コンボを決めてきました。
流石はOTOKO風鳴翔……。最愛の人にトラウマを作らせない為にも、死ぬ気で避けてやりやがった……。

それから、翼さん特攻シーン。原作だと「立花ぁぁぁッ!」でしたが、こっちだと翔もいるので悩んだんですよ。
悩んだ末に出た結論は、今でもすぐ傍にいてくれて、背中を押してくれた奏さんでした。奏さんとの繋がりを表しているあの曲、その中でも一番盛り上がるフレーズですし、原作でもピアノver.で流れて、あのシーンに悲壮感を出してましたからね。
イマジナリー翔ひびが元ネタに倣って着衣なのか、かなつば同様の種OP的MAPPAなのかは、読者にの好みに委ねます。
いや、次回結局全員脱ぐけど()

次回──

響「……翼さん、クリスちゃん。それから、純くんも……。さんにんとも、もういない……」

翔「……身体が……もう、動かない……。これ以上は……」

フィーネ「お前らが纏うそれは一体なんだッ!?何なのだあああーーーッ!?」

第60話『シンフォギア』

未来「……響を、翔くんを……二人を助けたいんですッ!」 

 

シンフォギア

 
前書き
叫ぶ用意は出来ているか!
黒バックのEDで再生する為の『Synchrogazer』の検索は?
流すタイミングは分かっているな!?
よし!ならば、準備を終えたものからLet’sスクロールッ!
最高に熱いあの展開を楽しもうじゃないか! 

 
「……姉さん……ねえさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
「翼さん……あ、あ……あ……」
 その身に変えて、発射直前のカ・ディンギルへと特攻した翼。爆煙が晴れた後、そこに残るのは輝きを失った魔塔の残骸のみ。
 翔と響は揃って膝を着き、崩れ落ちる。
 その叫びは虚しく、砕けた月の浮かぶ夜空へと消えて行った。
 
 ∮
 
「天羽々斬、反応途絶……」
「ああ……」
 歯を食いしばり、悔しさを滲ませる藤尭。顔を両手で覆って泣き始める友里。
 翼による決死の特攻を、シェルターにいた全員が見届けていた。

「身命を賭して、カ・ディンギルを破壊したか、翼……。お前の歌、世界に届いたぞ……世界を守りきったぞ……ッ!」
 弦十郎の声が、握りしめた拳が震えている。彼は司令であると同時に、翼の肉親だ。その悔しさは、誰よりも大きい。

「翼さん……ッ!」
「翼さんもまた、諦めない人だったという事か……」
 恭一郎と飛鳥は、翼がその目に焼き付けた勇姿に涙する。
「わかんないよッ!?どうしてみんな戦うのッ!?」
 そこで、未だ泣き止まずにいる弓美が声を荒らげた。アニメが大好きで、毎日常にその話しかしていない程の彼女が、この中で一番、日常を破壊され、非日常の只中へと突き落とされた一般人らしい感情を爆発させていた。
「痛い思いして……怖い思いしてッ!死ぬために戦ってるのッ!?」

「……分からないの?」
「え……あッ!?」
 弓美を真っ直ぐに見て、その両肩を掴む未来。
 その目に諦めの色はなく、強い意志が宿っている。しかし、そんな未来の目からも、一筋の涙が伝っていた。
「あ……あぁ……うぅぅ……うわあああああああああああああああああッ!」
 未来の言う通り、彼女も理解している。戦場に散った彼女達が……まだ戦場に立つ二人が何故、戦っているのか……。
 それを素直に認めた瞬間、様々な感情が綯い交ぜになり……彼女は泣き崩れた。
 
 ∮
 
「ええいッ!どこまでも忌々しいッ!」
 フィーネは瓦礫に鎖鞭を叩き付け、苛立ちを限界まで募らせていた。
「月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす……ッ!惑星規模の天変地異に人類は恐怖しッ!うろたえッ!そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順する筈であったッ!」

 絶たれてしまった自らの野望を吐露しながら、フィーネは項垂れる二人の元へと近づいていく。

「痛みだけが人の心を繋ぐ絆……たったひとつの真実なのにッ!それを、お前がッ!お前達がぁッ!」
「ッ!それ以上響に近寄らせるかッ!」
 フィーネの接近に気が付き、翔はふらつきながら立ち上がる。

 しかし次の瞬間、フィーネの裏拳が翔の右頬にぶつけられた。
「ごッ!?」
 ネフシュタンと融合した事で強化された筋力で、翔は左方へと勢いよく吹っ飛ばされ、地面を転がった。
「ッ!翔く……」
 そしてフィーネはそのまま、響の横っ腹を力任せに蹴り飛ばす。
「う……」
 地面を転がる響。立ち上がる力は、既に残されていない。
 そのまま力なく、うつ伏せに倒れる響の傍にしゃがむと、フィーネは彼女の髪を掴んで頭を持ち上げる。

「まあ、それでもお前は役に立ったよ。生体と聖遺物の初の融合症例。お前達という先例がいたからこそ、私は己が身を、ネフシュタンの鎧と同化させる事が出来たのだからなッ!」
 フィーネは響の頭を鷲掴むと、その体を力任せに放り投げる。

「や……め……ろおおおおおおおッ!」
 立ち上がった翔は、残る力の全てを込めて駆け出す。
 しかし、ダメージの残る身体での疾走では間に合わない。
 人形のようにダラリとなった響はそのまま投げられ、地面を転がり瓦礫へと叩きつけられた。その目には既に、光がない。クリスと純が倒れ、翼が特攻し、カ・ディンギルは破壊出来たものの、リディアンはボロボロだ。
 諦めずに進もうとした先で心が……既に折れかけていた。
「フィーネええええええええええッ!」
 足を止めず、そのまま握った拳を突き出す翔。

 しかし、フィーネはそれを軽く避けると、バランスを崩した翔の背中に肘を叩き付けた。
「がはッ!?」
「融合症例第2号、お前のお陰でより詳細なデータを得る事が出来た。その礼に、二人仲良く痛め付けてやろうッ!」
 肘打ちを当てられ、地面に横たわった翔の頭を掴むと、フィーネは響と同じ方へとその体を放り投げる。
 普通の生活ではありえない軌道で宙を舞い、地面へと激突して転がる翔。
 瓦礫にぶつかって何とか止まった時、視線の先には仰向けに横たわった響の姿があった。

「……ひび、き……かはっ……」
 指先すら動かす力が残っていない。本当は今すぐにでも立ち上がりたい。横たわる響に向かって、手を伸ばしたい。
 でも……もうそれだけの力も残っていない。
「…………翼さん、クリスちゃん。それから、純くんも……。さんにんとも、もういない……」
 弱々しく呟く声が聞こえる。響の目から希望が消えていく。
 翔は自らを引き込もうとする絶望に抗おうしていたが、既に身体が限界を迎えていた。
「学校も壊れて、みんないなくなって……。翔くん……わたし……わたしは何のために、何のために戦っているの……?」
「響……。俺達は……」
(まだだ……まだ、諦めたくない……。俺の心は、まだ……諦めてはいない……のに……)
 最後に残った2人の装者は今、地に伏す寸前であった。
 
 ∮
 
「……ん?」
 聞こえてきた大勢の足音に、弦十郎はシェルターの出入り口を見る。
 顔を覗かせたのは緒川、そして大勢の一般人だった。
「司令ッ!周辺区画のシェルターにて、生存者、発見しました」
「そうか、良かったッ!」
 緒川からの報告に安堵する弦十郎。すると、ディスプレイに映っていた響の映像を見た一人の少女が、ぱぁっと顔を明るくした。
「あっ!おかーさん、カッコいいお姉ちゃんだッ!」
「あっ!ちょっと、待ちなさい!」
 母親の元を離れ、少女は藤尭が座る机の方へと駆け寄る。
「すいません……」
 謝る母親に、創世が声をかける。
「ビッキーの事、知ってるんですか?」
「ええ……詳しくは言えませんが、うちの子はあの子に助けてもらったんです。自分の危険を顧みず、助けてくれたんです。きっと、他にもそういう人達が……」
「……響の、人助け」
 
 そこへ、更に二人の市民が入って来る。
「おや、あの時の少年じゃないか!」
「この子があの時の、ですか?」
 サングラスをかけた黒髪の男性が、パートナーらしき金髪の女性と共に、ディスプレイに映る翔を見て驚いていた。

「あの、失礼ですがあなたは……?」
 怪訝そうな顔をする恭一郎に、男性は微笑みながら答える。
「なに。少し前にたまたま出会って、ちょっと人生相談を受けただけの仲だよ」
「は、はぁ……」
「ねえ、カッコいいお姉ちゃん、助けられないの?」
 ディスプレイを覗き込み、響が大変な事になっているのだけは理解した少女は、響を心配する気持ちでいっぱいなのがよく分かる表情で、未来達を見回した。
「……助けようと思ってもどうしようもないんです。わたし達には、何も出来ないですし……」
「じゃあ、一緒に応援しよっ!ねえ、ここから話しかけられないの?」
 少女にそう聞かれ、藤尭は俯きながら答える。
「あ……うん、出来ないんだよ……」
「あ、応援……ッ!」

 すると、未来は何かに気が付いたように、弦十郎の隣へと向かう。
「ここから響達にわたし達の声を、無事を報せるには、どうすればいいんですか?……響を、翔くんを助けたいんですッ!」
「助ける……?」
「学校の施設がまだ生きていれば、リンクしてここから声を送れるかもしれませんッ!」
「何をすればいいんですかッ!」
 藤尭の言葉に希望を見いだした未来は、自分に出来る事をするべく名乗り出る。
「待って、ヒナッ!」
「……止めても無駄だよ、わたしは響と翔くんのために──」

「わたしもです」
「え……」
 手を挙げたのは、詩織だった。創世も頷いている。
「あたしも……あたしにも手伝わせてッ!こんな時、大好きなアニメなら、友達の為にできる事をやるんだ──ッ!」
 先程まで泣き続けていた弓美も、吹っ切れたのか覚悟を決めた目でそう宣言する。

「僕達も手伝おう。翔が、純が僕達を守る為に頑張ったんだ。今度は僕らが、それに応えるッ!」
「僕も同じだ。今の僕達にできる最善で、二人に応援を届けてみせるッ!」
「男なら、ここで動かぬ道理なし……って、翔に言われそうだ。だから、僕も行く」
「あいつらばかりに、カッコつけさせられっぱなしでたまるかよッ!」
 アイオニアンの男子四人も揃って賛同の声を上げた。

「みんな……うんッ!みんなで二人を助けようッ!」

 未来の声に、七人の友人達は強く頷いた。
「素晴らしい友情だ……なら、我々も手伝わせてもらおう」
「子供達だけに、危険な真似はさせられませんわ!」
「ありがとうございます!……えっと……」
「通りすがりの、ただの世話焼きお兄さんさ」
「同じく通りすがりの、ただの子供好きお姉さんですわ」
 サングラスの男性と金髪ツインテールの女性も加わり、道案内として緒川を先頭にして、彼らは電力管理施設へと向かって行った。

 通う学び舎は違えど、心はひとつ。大事な友達を助ける為に。
 
 ∮
 
「……もうずっと遠い昔、あのお方に仕える巫女であった私は、いつしかあのお方を、創造主を愛するようになっていた」
 明るくなり始めた東の空を見ながら、フィーネは語り始めた。
「……だが、この胸の内を告げる事は出来なかった。その前に、私から、人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって、唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたのだ……ッ!私は数千年に渡り、たった1人バラルの呪詛を解き放つ為、抗ってきた……。いつの日か統一言語にて、胸の内の想いを届けるために……」
 フィーネの声に、悲哀が混ざり始める。こちらに背を向け語るフィーネの顔は、おそらく泣いているのだろう。
 ようやく悲願が叶う。そう思っていた瞬間に、カ・ディンギルを破壊され、悲願を断たれてしまったのだ。泣きたくもなるのは分かる。

 だが……それで納得出来る二人ではない。
「……胸の……想い……?だからって──」
「……ああ……こんな……歪んだやり方は──」
「是非を問うだとッ!?自分の恋心を、愛する人に二度と伝えられなくなる哀しみも知らぬお前達がぁッ!!」
 次の瞬間、再び二人が瓦礫に叩きつけられた重たい音が響く。
 融合症例由来の頑丈さに命を救われている、とも言える程に、二人は更にボロボロになっていった。
 
 ∮
 
「この向こうに、切替レバーが?」
 未来達、リディアンの四人は、緒川と共に電力管理施設の扉の前に立っていた。
 アイオニアンの男子四人は、サングラスの男性と金髪ツインテールの女性に率いられ、電力管理施設に向かう道や、施設の周辺に転がる瓦礫の撤去をしている。
 役割を分担する事で、彼女たちは足止めを食うことなくここまで辿り着いた。電力を復旧させてシェルターへと戻る頃には、瓦礫が撤去されて進みやすくなった通路を歩けるだろう。

「こちらから動力を送ることで、学校施設の再起動が出来るかもしれません」
「でも、緒川さんだとこの隙間には……」
 未来の言う通り、電力管理施設へと向かうための自動扉には、ドアが歪んだ事で小さな隙間が空いている。しかし、それは大人が通るには小さ過ぎる隙間であった。

「……あ、あたしが行くよッ!」
「えっ……弓美!」
 名乗り出たのはなんと、弓美だった。
 驚く未来に、弓美は自分が向かう理由を続ける。

「大人じゃ無理でも、あたしならそこから入って行ける。アニメだったらさ、こういう時、身体のちっこいキャラの役回りだしね。それで響が助けられるならッ!」
「でも、それはアニメの話じゃない」
「アニメを真に受けて何が悪いっ!ここでやらなきゃ、あたしアニメ以下だよ!非実在青少年にもなれやしない!この先、響の友達と胸を張って答えられないじゃないッ!」

 弓美の言葉に、未来は微笑んだ。
 先程まで絶望の只中にいた弓美が、こんなにも自分を奮い立たせている。
 彼女は今、諦めずに前を向く決意を抱いているのだ。

「ナイス決断です。わたしもお手伝いしますわ」
「だね。ビッキーが頑張ってるのに、その友達が頑張らない理由はないよね」
「みんな……」
 創世、詩織もまた、気持ちは同じ。緒川はそんな彼女達を見て微笑むと、切替レバーの位置を伝え、彼女達四人を見送った。
 
「来ましたッ!動力、学校施設に接続!」
「校庭のスピーカー、行けそうですッ!」
 電力が復旧し、藤尭、並びに別の部屋から持ってきたコンソールを操作する友里は、いつも司令室でやっているのと同じ調子で報告した。
「やったぁ!」
 少女が歓声を上げる。
「マイクの接続、終わったよ」
 一人、シェルターに残っていた流星が、二課の職員が何処かの部屋で見つけて来た有線マイクの調子を確認し終え、コードに繋いだ。
 
 ∮
 
「シンフォギア・システムの最大の問題は、絶唱使用時のバックファイア。融合体であるお前達が絶唱を放った場合、どこまで負荷を抑えられるのか。研究者として興味深い所ではあるが……ハッ、もはやお前達で実験してみようとは思わぬ。この身も同じ融合体だからな。新霊長は私1人がいればいい。私に並ぶものは、全て絶やしてくれる。つがいともなれば尚更だ」
 鎖鞭の先端が、それぞれ響と翔に向けられる。
 一方的に嬲られ続け、二人の意識は既に朦朧としていた。
「……身体が……もう、動かない……。これ以上は……」
 力なく横たわった響に手を伸ばす事さえ叶わず、翔は悔しさを噛み締めた。
 
『──仰ぎ見よ太陽を、よろずの愛を学べ~』
「フッ、ハハ……ん?」
 トドメを刺そうとしていたフィーネの耳に、何処からともなく歌が聞こえてきた。
 それはとても明るく、前向きで、『歌』を賛美するフレーズから成る曲だった。

「……チッ、耳障りなッ!何が聞こえているッ!」
 周囲を見回したフィーネの目に、瓦礫に押し倒されながらも完全には壊れていないスピーカーが映る。
 歌はそこから聞こえていた。
「何だこれは……」

(あ……校……歌……?)
(この……声……あいつら……も……?)
 沈みかけていた意識が、急速に浮上していく。
 リディアンの校歌は、二人の耳を通して心に響いていた。
 
(……響、翔くん、わたし達は無事だよッ!二人が帰って来るのを待っているッ!だから、負けないで……ッ!)
 創世、弓美、詩織ら三人を始め、シェルターに集まったリディアンの生徒達。そして歌詞を教えられたUFZの四人と共に、未来は願いを込めて歌う。
 歌うという事そのものを賛美する校歌を。響が帰って来る場所を示す歌を。戦場に倒れた装者達が、命を賭けて守った人々が歌う希望の唄を。
 
 フィーネの目に映ったものだけではなく、校庭の四隅に存在していたスピーカー全てから、校歌は戦場にどんどん拡がっていく。
 止まない歌声に対して忌々しげに、フィーネは舌打ちした。
「チッ!何処から聞こえて来る?この不快な……歌……。……『歌』、だと……ッ!?」

 それが『歌』だと気付いた時、フィーネは目を見開いた。
 気が付けば歌と共に、無数の黄色い小さな光が粒子となり、暁の空へと立ち昇っていく。
「聞こえる……みんなの声が……」
「聴こえる……みんなの歌が……」
 朝日が地上を照らし始め、二人はその手を握って拳とする。
「良かった……。わたしを支えてくれるみんな、いつだって傍にッ!」
「ああ……。まだ皆は、希望を捨てていない……諦めていないッ!」

 拳を握った二人の身体に光が宿る。その胸に宿る聖遺物が、再び力強く輝きを放つ。
 そして二人の目には、希望(ちから)が戻っていた。
「みんなが唄ってるんだ……。だから、まだ唄える……ッ!」
「まだ、頑張れるッ!」
「「戦える──ッ!!」」
 
 次の瞬間、二人の身体から溢れ出した力に、フィーネは吹き飛ばされた。
「──くうッ!?」
 後ずさるフィーネ。顔を上げるとその先では……全身から眩いばかりの光を放ちながら立ち上がり、フィーネを真っ直ぐに見据える二人の姿があった。
「「…………」」
「まだ戦えるだと……?何を支えに立ち上がる……?何を握って力と変える……?鳴り渡る不快な歌の仕業か?……そうだ、お前達が纏っているものはなんだ?心は確かに折り砕いた筈ッ!──なのに、何を纏っている?それは私が作ったモノか?お前達が纏うそれは一体なんだッ!?何なのだあああーーーッ!?」
「「──ッ!」」

 昇る朝日が照らす戦場から、五色の光が柱と立つ。
 崩れたカ・ディンギルの頂点からは、青い光に包まれた翼が。
 森の奥からは、それぞれ赤と金色の光と共にクリスと純が。
 そして、フィーネの目の前では響と翔が、それぞれ黄色と白銀の光をその身に立ち上がる。
 光が弾けたその瞬間、五人は一斉に空へと飛び立った。
 
「「シンフォギアァァァァァァァァッ!」」
 
 そこには、色鮮やかに輝く羽を翔かせ、神々しいほどの純白をその身に纏った三人の戦姫と、神秘的な光を放つ白銀をその身に纏い、陽光を反射して優しく煌めく翼を広げた二人の戦騎が降臨していた。 
 

 
後書き
Listen to my song~♪

というわけで、如何でしたか?
書き終えた瞬間、遂にここまで到達したかッ!という気分になりました。
UFZとリディアン三人娘も、裏方ですがしっかり活躍出来たかなと思います。
あと千優、慧理那がまさかの再登場。ほら、こういうシーンって以前助けられた人に限らず、"何らかの形で関わった一般人"が出てくるからこそ熱いわけですし。

個人的に今回のポイントがあるとすれば、フィーネのセリフに追加した部分かなぁと。
果たして融合症例同士が子を成した場合、どうなるのか……その話題は薄い本案件確定デスネー。

それと、伴装者二人のエクスドライブモードですが、翔くんはウルトラマンノア、純くんはシャイニングウルトラマンゼロにウルティメイトイージスの意匠を追加したものがモチーフとなっております。

最近気づいたんですけど、フィーネの「痛みこそ絆」ってあれ……ひょっとして、ユベルと同じなんじゃないかなって。
エンキさんに何も伝えてもらえずにアレコレあったのが原因でああなったの、絶対ユベルと同じでしょ……。

次回──『エクスドライブ』
とうとう発動したエクスドライブモード。伴装者二人のそれがどう活躍するのか、お楽しみに!

……あれ?この調子で行くと、今週中に最終回を迎えてしまうのでは?
って言ってたら本当に達成出来たんだよね……。我ながらよくもまあ毎日書き続けたものだ……。 

 

エクスドライブ

 
前書き
最高に熱かった前回ラスト、そして今日はとうとう男子二人のエクスドライブの活躍!
オリジナル聖遺物、そしてオリジナルのRN式を扱ってとうとうここまで来ました。
最後まで見ててください、これが!俺の!シンフォギアァァァァァァァァッ! 

 
「お姉ちゃん達、カッコいい!」
 女の子が真っ先に歓声を上げる。
「まさか、人生の内でこんな奇跡の一瞬に立ち会えるなんてな……まるで、本当に特撮ヒーローの世界へ足を踏み入れた気分だよ!ああ、最ッ高だ!」
「ここに集った皆さんの歌声が、諦めなかった人々の希望が起こした奇跡……素晴らしいですわッ!」
 年甲斐もなくはしゃいでいるのは、サングラスの男性と金髪の女性……仲足夫妻だ。

「くぅ~ッ!翔!純!お前ら今、世界最強レベルでカッコいいぜッ!」
「エクセレントッ!愛する人を守るため、同じ境地へと至る……。ああ、今の君達こそ、最高オブ最高の漢だよッ!」
「純……翼さん……よかった、本当に……ッ!」
「兄さん、泣くのはまだ早いよ……。本当の戦いは、ここからなんだからさ」
 紅介、恭一郎、飛鳥、流星もまた、それぞれ身を乗り出して親友達を見守る。

「やっぱあたしらがついてないとダメだなぁッ!」
「助け、助けられてこそナイスですッ!」
「あたし達が一緒に戦っているんだッ!」
「……うんッ!」
 創世、詩織、弓美の言葉に、未来は涙を拭いながら強く頷いた。

 ∮

「みんなの歌声がくれたギアが、わたしに負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さん、純くん、そして翔くんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない。命なんだッ!」
 純白のガングニールを身に纏い、逆V字型をした黄の羽を広げた響は、明け始めた青空を背にフィーネを見下ろしながら、そう言った。
「高レベルのフォニックゲイン。……こいつは、2年前の意趣返し」
『んなこたぁ、どうでもいいんだよッ!』
 クリスの声が、フィーネの脳内に直接響く。
「念話までもッ!限定解除されたギアを纏って、すっかりその気かッ!」
 フィーネはソロモンの杖を取り出すと、何体ものノイズを一斉に呼び出す。

『いい加減芸が乏しいんだよッ!』
『フィーネッ!あなたという人はッ!』
『世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか?』
 翼の疑問に対し、フィーネもまた念話で返答する。
『ノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自律兵器……』
『人が、人を殺すために……?』
『その時代から変わっていない、という事か……』

 響の呟きに、翔はノイズもまた、人類が生み出してしまった負の遺産だと悟る。
『バビロニアの宝物庫は扉が開け放たれたままでな。そこからまろびいずる10年一度の偶然を、私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけのこと』
『まったわけわかんねぇことをッ!』

『なるほど……そういう事か』
『翔、分かるの!?』
 フィーネの言葉の意味を理解して頷いている翔を見て、純とクリスが驚く。
 神話を齧っている彼には、バビロニアの宝物庫もまた、よく知っている名称だ。
 シュメール文明発祥の地、ギルガメッシュ王が統治した黄金の都市として名高きバビロニア。その宝物庫には、ありとあらゆる財宝が納められているとされている。
『その宝物庫がまさか、ノイズのプラントだったとは……』

「──怖じろぉッ!」

 フィーネは呼び出したノイズらを、装者達へと突撃させると、ソロモンの杖を天高く掲げ、その光を空へと放つ。
 その光は街中に降り注ぎ……次の瞬間、街を埋め尽くす夥しい数のノイズが召喚された。
 大小問わず、これまで見てきたあらゆる個体が無人の街を埋め尽くし、その様はまるで、命を飲み込む一つの海のようであった。
「ハハッ!」
「街のあちこちにノイズがッ!」
 背中を合わせる五人。純は足元を見回し、ノイズの大群を見下ろしてはその数に驚く。
「おっしゃあ!どいつもこいつも、まとめてブチのめしてくれるッ!」
 そう言って、クリスが真っ先に飛び出して行った。
「ああ、クリスちゃんッ!……やれやれ、やっぱり昔と変わらず、お転婆なお姫様だ。翔、こっちは任せて!」
「おう。こっちには遠慮せず、思いっきり姫様守ってきな!」
 翔と拳を合わせると、純もまた、クリスを追って飛び立って行った。

「……翔くん、翼さん」
「ん?」
「どうした、響?」
 自分達も、と思った所で響に声をかけられ、振り向く姉弟。
「わたし、二人に──」
 暴走し、二人を傷付けてしまったことを覚えている響が、その事を詫びようとしているのが見て取れた。
 そんな響を見て、翼は静かに答えた。

「……どうでもいい事だ」
「え……?」
「翔は私の呼び掛けに答えてくれたし、立花は翔の言葉に自分から戻ってきてくれた。お前達は二人とも強いんだ。だから……自分の強さに、胸を張れッ!」
「翼さん……」
 翔は響の肩を軽く叩きながら微笑んだ。
「よかったな、響。晴れて半人前卒業だぞ」
「ふふ、まだまだ修行は足りんがな。──一緒に戦うぞ、翔、立花」
 その言葉は、以前に響が何度も言っていたものだった。
 響はそれに気付くと、満面の笑みで頷いた。
「……はいッ!」
「よし!行くぞッ!」
 三人はクリスと純が向かった方角とは逆の方へと飛び立ち、それぞれの得物をその手に握った。

「「「「「さあ、世界に光を──!」」」」」

〈我流・撃槍衝打〉

 2体の巨大ノイズへと突き刺さり、余波でその足元の群れまでも消し飛ばしたのは、響の放った純白の拳。

『うおぉぉらあぁぁッ!やっさいもっさいッ!』

〈MEGA DETH PARTY〉

 クリスのアームドギアは大きく姿を変え、巨大な弓状の戦闘機となって空を飛び回り、空中のノイズ達を一斉に爆撃して行く。
『凄いッ!乱れ撃ちッ!』
『ぜっ、全部狙い撃ってんだ!』
 不服げな表情で振り返るクリスに、響はクスッと笑う。
『だったらわたしが、乱れ打ちだぁぁぁぁッ!』
 響は低空飛行しながら拳を交互に突き出し、散弾のように細かな礫となって放たれる衝撃波で、ノイズらを次々と消滅させて行った。

〈Slugger×シールド〉

 三本の刃を有する円盾を、力強く投擲する純。
 投げられた盾は回転しながら真っ直ぐに進み、道路を埋め尽くすノイズを一掃してその手に戻ってきた。
『ストラーイクッ!』

〈流星射・五月雨の型〉

『お前それ本当に盾なんだよな!?』
 光の矢を雨のように乱射し、地上のノイズを片っ端から消滅させながら、翔は純のアームドギアを見てツッコミを入れる。
『どんな形にもなる盾だからね。ただの盾じゃ、戦いにくいだろう?』
『なら是非、勧めておきたい映画があるんだ。特殊金属製の盾と、己の肉体一つで悪と戦うヒーローの洋画があるんだ』
『あれ好きなんだけど、実は第一作しか観れてなくてさ。……よし!そうと決まれば、さっさと大掃除を終わらせようかッ!』
 盾を投擲し、時にはナックル状にして殴りつけ、時には右腕に装着して剣のように振るって真空刃を放つ。
 変幻自在の盾を手に、純は低空からノイズを迎え撃って行く。
 一方翔は、空中のノイズを相手にしているクリスに代わり、生弓矢のアームドギアで上空から地上を爆撃。
 目前に迫る要塞型ノイズには、エネルギーを右腕に集中し、全力の拳を握って殴りつけた。

〈劫炎拳〉

 殴った瞬間、拳から放出されたエネル