曇天に哭く修羅


 

孤独

 
前書き
原作が打ち切りで名前以外が殆ど判明していないキャラは何人かオリキャラに殺されていることになっていますのでご了承ください。 

 
色褪(いろあ)せる。

全てが灰色だ。

縁側に座る少女《黒鋼焔/くろがねほむら》は五才の秋を迎えていた。

茜色の空を見ている。


黄昏(たそがれ)るにはちょ~っと年令(とし)が早いんじゃないと思うんだけどな焔?」


声が響くと鈴の音が鳴る。

その主は焔の隣に座った。

闇色の着物に身を包む絶世の美女。彼女は黒い髪に付けられた鈴飾りを(いじ)り微笑む。

焔の母《黒鋼燐/くろがねりん》だ。


「最近元気が無いね?」

「……面白くないの。戦いが」


焔の言葉に燐は悟る。


「ふーむ……まあ仕方ないわねぇ。焔は恐らく私達の一族における歴史の中でも相当な部類の天才だし、力の片鱗を見せることすら出来ずに『勝って当たり前』じゃあやる気を失くしても無理はないか」


母の言に焔が頷く。


彼女達【黒鋼】一族は生まれ付いての『修羅』であるが故に修練は物心つく前より始まる。

しかしそれは強制でない。

自ら進んで行うのだ。

一族は幼少の(みぎり)より絶え間なく闘争を求める狂気を抱えているのだが、その血脈がもたらす例に()れず、焔もまたそうした異常性を持つ。

恐ろしいことに五才の時点で極めてこそいないものの、一族に伝わる黒鋼流体術を一通り修め、武術の道場破りを趣味にしている。

しかし今は、その生き甲斐である闘争そのものが面白くも楽しくもない日々を送っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「みんなあたしに勝てない。【魔晄(まこう)】が宿ったとしてもきっと同じ。勝ち負けどころか傷一つ付けられないと思う」


誰も彼も少し触れただけで壊れ、その気になれば気合いだけで相手が敗けを認める。

他の人間には生涯を賭けて鍛えたとしても、到底手の届かない強者であることと引き換えに焔は闘技者としての孤独に陥ってしまった。

何もかもつまらない。

暗い顔の焔を母の燐が優しく撫でる。


「自惚れ、じゃあないんだろうけど、それは少々考え過ぎさ。この世には強い奴がわんさか居る。焔を満足させてくれるような相手もね」


実際、燐と夫で焔の父、《黒鋼錬/くろがねれん》は(いず)れ焔に追い越されるだろうが今は焔を歯牙に掛けないほど圧倒するし、祖父に関しては燐と錬よりも強いのではないだろうか。


「何時か素敵な好敵手に出逢えるさ。あたしが貴女のお父さんに巡り会えたようにね」


優しい燐の笑みが焔の心を(いや)す。

焔にとって両親は心の支えだった。

二人が居たから闘技者の孤独だけ。

人としての孤独は何処にも無かった。


(そろそろ黒鋼(ウチ)に弟子入りする人間が来る頃だと思うんだけどなぁ。焔にとって良い影響を、あたし達に刺激を与えてくれれば……)


燐は黒鋼一族と交遊が有り、焔と同年代の子供を持つ者達のことを考える。

彼等なら大丈夫だろうと。 
 

 
後書き
久し振りにお話を書くとしんどい。
( >д<) 

 

解消

 
前書き
_〆(。。) 

 
《黒鋼焔/くろがねほむら》が秋に母親の《黒鋼燐/くろがねりん》と話をしてから冬となり、季節が巡り、春が訪れた。

焔にとっては始まり。


「御世話になります」

「二人居ますが」


黒鋼の屋敷に来たのは少年達。

焔の祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》が【邪神大戦】で拳を交わした【永遠/とわ】と【プロヴィデンス】の血を引いている。


「神明とシェイラは元気かのう?」

「はい、お陰様で」

「怖いくらいに」


弥以覇に答えるのは

白銀の髪を持つ《永遠(とわ)レイア》

漆黒の髪を持つ《エンド・プロヴィデンス》

レイアは焔と同い年でエンドは一つ年下。

実の兄弟なのに名字が違うのは二人がそれぞれの家を継ぐことが決まっているから。

焔と同じく幼い頃から修業に励む日々を送っており気迫が伝わってくる。


「来て早速で悪いんだけど、君達の力を見せてもらえるかい?」


焔の父《黒鋼錬/くろがねれん》の言葉に返事をしたレイアとエンドが道場に向かう。

相手をするのは焔だ。

彼女は期待した。

もしかしたら彼等ならあたしを戦いで打ち負かしてくれるかもしれない。

満足させてくれるかもしれないと。

数分後、その答えが焔の前に現れる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


先ずはエンドとの戦い。

それは一瞬だった。

そして一撃だった。

相手の強さを敏感に(さと)った焔が本能的に全力を出して跳び掛かり拳を撃ち込む。

しかし彼女の拳はエンドの体を()り抜けて空を切り、直後に気を失ってしまう。

その残像を置き去りにした動きは燐と錬がエンドの姿を見失ってしまうほど。

二人がかろうじて捉えたのはエンドが焔の額を人差し指で小突いた所だった。

焔より圧倒的に強い燐と錬よりも更に強い弥以覇ですらもはっきりとは見えなかった。


(儂が【邪神大戦】で戦い命の()り取りをしていた上位存在に匹敵するかもしれんな。神明とシェイラめ、末恐ろしい孫を育ておってからに。天賦の才は一族屈指の我が孫が凡人に見える程だわい)


次に戦ったレイアはもっと判り易い、誰の目にも見て取れる差を見せ付ける。

指一本動かすことも出来ず、まばたきすることも躊躇(ためら)われ、呼吸すら途切れる程の威圧と威嚇で焔を恐怖で震わせながら自らの口で以て降参させて見せたのだ。

敗北は悔しかったが焔はそれ以上に喜ぶ。

やっと常勝が当たり前に繰り返される鬱屈(うっくつ)の日々が終わり、どうやって勝つかという試行錯誤と我武者羅に鍛練する、いや、出来る努力の日々がやって来たのだから。

全く勝てないことが嬉しく、楽しく、喜びに満たされる相手というのは貴重である。

それでいてこの上なく目標に出来る存在でもあることに焔はどんどん二人に熱中して彼女の才能を知る両親が驚く程の早さで飛躍的に強くなっていった。

レイアとエンドが自分達の使う技法を教えたせいでもあるが、この二人も黒鋼流体術をマスターして、焔が追い付かない早さで成長するのでイタチごっこ。


「良かったわね焔。満たされる相手が現れて。闘技者としての孤独が解消されて」
 
 

 
後書き
(-.-) 

 

濁った白

 
前書き
_〆(。。) 

 
永遠(とわ)レイア》と《エンド・プロヴィデンス》が黒鋼の屋敷に来て一年が過ぎた《黒鋼焔/くろがねほむら》六才の春。


「白鋼のことは覚えてるか黒鋼?」


ある日、少女が現れた。

焔より一つ年上。

髪が白く、肌が白く、服が白く、表情が白く、纏う雰囲気すらもが白い。

その身一つで『白』を表したような少女は焔を鏡写ししたように綺麗で同時に(おぞ)ましい。


「アタシ、親が居なくなってしまたネ。頼れる親戚オマエ等しか居ないから世話なるヨ。別にそこの二人が面倒見てくれても良いけど」


少女は《白鋼水命/しろがねすいめい》と言い、黒鋼と同じ祖を持つ一族の出身で『剛拳』の黒鋼と並ぶ『柔拳』の血脈らしい。

レイアとエンドは祖父母から黒鋼だけでなく白鋼の話も聞き及んでいる。


永遠(ぼく)の所は別に水命さんが来てくれても構わないんだけど何でだろう。何か起きそうな気がしてならないのは」

「お兄ちゃんもそう思う? ボクもプロヴィデンスへ連れていく前に黒鋼で一緒に過ごしながら様子を見た方が良いと思うんだよね」


何も無かったら水命の身柄を永遠とプロヴィデンスで引き取っても構わないと伝える。


「約束ネ。アタシの黒鋼での生活に納得がいったなら二人の家に邪魔するヨ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


黒鋼の面々は水命に面白味を覚え、彼女と共に生活を送ることになった。

そして水命の力を表現するなら『バケモノ』という一言に尽きると結論付ける。

焔は一族史上有数の天才と言われてきたが、白鋼水命の天稟(てんぴん)はそれを遥かに超え、[盲目]というハンデを物ともせず、桁外れの戦闘能力で焔に勝って勝って勝ち続けていく。

焔の両親《黒鋼燐/くろがねりん》と《黒鋼錬/くろがねれん》をして、自分達と同等かそれ以上かもしれないと言われるほど。

彼女が黒鋼の屋敷に来て半年経っても焔が自分の意思でまともに攻撃を当てたことは一度も無いという『卓越』どころか超えられない壁、『隔絶』と言って然るべき力量と技術の差。

あのレイアとエンドでやっと互角。

焔にとってはこれ以上ない闘技者としての好敵手がまたしても現れてくれたことになる。


「焔は僕達が教えた技を使ってないけど全部使えば水命と戦えるんじゃないかな?」

「まあボク達も【魔術師】としての『異能』を使わず【魔晄(まこう)】だけを使った戦いに徹してるから今は使う気が無いんだけど」

「レイアとエンドが使わないならあたしもいざという時しか見せないよ。水命には魔術師と黒鋼流拳士としての力で勝ちたいからね」


焔にとって問題が有るとすれば、水命との戦いは楽しい反面、レイアやエンドと違って完全には満たされず、何かが足りない焦れったいものだということだが原因がはっきりしない。

焔はある時それを水命に伝えたのだが、水命は何処か妖しく微笑みながら言った。


「はっはっは、安心しろヨ。アタシとの戦いに足りないものは直ぐに埋まるからサ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

分かれ目

 
前書き
(*^^*) 

 
《白鋼水命/しろがねすいめい》が《黒鋼焔/くろがねほむら》に『足りないものは直ぐに埋まる』と告げて暫く経ったある日のこと。

その日は本当に何ら変化を感じ取れない何時もと同じ日になる筈だったのだが……。


「おお焔や。買い物を頼めるかのう? 少し数が多いが頑張ってくれい」


焔の祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》がこんなことを頼むのは初めてだった。

焔にとっては生まれて初めての買い物。


「……気を付けてね」


母《黒鋼燐/くろがねりん》の言葉に違和感を覚えなかったことを焔は今も後悔している。

永遠(とわ)レイア》と《エンド・プロヴィデンス》の姿が見えなかったことにも。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


弥以覇の買い物はなかなかの数だった。

そして何件もの店を回らなければ揃わないような内容の物だった事からも時間が掛かる。

午前に屋敷を出たのに帰るのは日が暮れる頃になってしまう程に。


「疲れた……お腹も空いたし」


そんなことを考えていた焔が屋敷の門を潜ると直ぐに異常な空気が満ちていることに気付く。


(生気が無い。何か足りない)

「爺ちゃん。お父さんとお母さんは? レイア達も居ないよね? 何処に行ったの?」


焔の誕生日が近いからみんなでプレゼントでも買いに出掛けたのかと思いたかったが弥以覇の顔から察するにそんな微笑ましい事態ではないことを告げている。


「どのみち、言わねばならんか……」


深い溜め息を()いた祖父が渋々と答えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


弥以覇が話してくれたそれは焔にとって呆気に取られるような内容。


「白鋼水命から今の儂ら一族当主である当代黒鋼へ、つまり焔の父《黒鋼錬/くろがねれん》へと[立ち会い]の申し込みを受けた。黒鋼であるからには挑まれれば断れぬ。じゃから場所を変えた」


二人ともその気になれば小さい街の一つや二つ、単独で壊滅させることは容易い。


「あ奴等が本気で決闘すると言うのなら、互いの力に余程の差が付いていない場合を除いては周囲に影響が出るのは避けられんじゃろうからのう。街一つくらい吹き飛ばしてしまうような戦いになるやもしれん」


水命が父と戦う。

母は見届け人らしい。

ならばレイアとエンドは?


()らんのじゃ。錬達が出掛けた時分には居るのを確認出来ていたが……」


もしかすると錬と水命の『死合い』に割って入るつもりなのかもしれないという。

水命達が向かったのは【魔獣領域】の深部であり、軍属の【魔術師】であろうとも、一定水準の戦闘能力が無ければ無事に帰れないとされる危険地帯。

例え深部でなかろうと魔獣領域は一般人の立ち入りは禁じられている。

そんな人跡未踏の地だが【黒鋼】という一族は特殊な存在ゆえに立ち入りが許されていた。


「焔が修業の為に足を運んだことの有る場所じゃ。まあ今更行っても遅かろうて。もうそろそろ終わっておる頃じゃろうからな……」
 
 

 
後書き
_(._.)_ 

 

九死一生

 
前書き
_〆(。。) 

 
『そろそろ終わっておる頃じゃろうからな』という祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》の言葉を聞いた《黒鋼焔/くろがねほむら》は黒鋼流体術に伝わる身体強化の術を以て人外じみた挙動で屋敷を飛び出す。

人波を縫うように抜け、ビルの谷を抜け、何時もと変わらぬ街並みを後にする。

焔が目的地である【魔獣領域】の入り口に到着すると既に空が黒くなりかけていたが、彼女はそれを気にすることも無く突っ込んだ。

息を切らし、脇目も振らず、魔獣と言われる異形が横行闊歩する危険地帯を走る。

そして突如、焔の視界に荒野が映り、それが一面に広がっているエリアに出た。

魔獣領域の深部だ。

そこに有った光景は───


「グゥッ!? 手前ェ、アタシの戦いを邪魔するんじゃねぇヨ!!」


《エンド・プロヴィデンス》が《白鋼水命/しろがねすいめい》を押している。

そして《永遠(とわ)レイア》はというと。


「お、焔か。安心して。二人とも無事だよ。かなり際どかったけどね」


彼の足下にはボロボロで赤黒くなった道着の母《黒鋼燐/くろがねりん》と父の《黒鋼錬/くろがねれん》がすやすやと眠っていた。

それを見た焔はほっとして気が抜けたのか膝から崩れ落ちてしまう。


「さて、心配事も無くなったし僕も行くか」


レイアはエンドと協力して水命にまともな反撃をさせず一方的に叩きのめしてしまう。

それが何を意味するのかを理解しながら。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レイアが錬を、エンドが燐を、焔が水命を担いで黒鋼の屋敷まで戻ってきた。

そして目が覚めた焔の両親と屋敷で待っていた弥以覇に焔を加えた四人が事情を聞く。


「ほう。するとつまり、錬と燐が殺されるところだったのを助けたわけか」

「そうなりますね」


水命と錬、燐の実力は天地ほどの差が有った。二人掛かりでも話にならない程に。

レイアとエンドから黒鋼流体術以外の戦闘技術を一年以上学んでいた焔であろうとも現段階では敵わなかったであろう。

焔はレイアとエンドに感謝した。もし両親が死んでいたら自分は闘技者としての孤独が埋まっても人としての孤独に苦しんだだろうから。


「人としては礼を言わなければならないね。助けてくれてありがとう」


錬が頭を下げる。


「だけどそれを別にして、貴方達二人が黒鋼の決まりを破ってしまったことについても言っておかなければならないのよ」


燐は悲しそうな顔をした。


「一対一の命を懸けた立ち会いに介入した両名は本日を以て黒鋼の修業を打ち切る」


弥以覇がレイアとエンドに告げる。

しかしこのようなことになるであろうことを判っていた二人は普段と変わらない。


「打ち切るとは言ったものの、既に二人は『真眼』を極め『真打』を会得しとるからのう。はっきり言って教えることは何も無いんじゃ。黒鋼流拳士としての段位は儂と同じよ」

(水命が真眼領域の最終地点まで到達しているのは気付いていたのじゃが、この二人も辿り着くとはの。燐と錬はおろか、黒鋼と白鋼の歴史でも殆ど修得できなかった両一族の拳士としての極みに)

「真眼と真打を極めたからと言って自惚れてはいかんぞ二人とも。黒鋼流体術のみで戦うという条件ならば60年前の全盛期でなくとも今の儂で十分二人に勝てるからのう。まあ『今はまだ(・・・・)』じゃがな」


弥以覇はかつての自分を追い越していくかもしれない天才を見て同じ時代を生き切磋琢磨し競い合った宿敵達のことを思い出していた。 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

開眼

 
前書き
他作品要素が入ります。 

 
永遠(とわ)レイア》と《エンド・プロヴィデンス》は修業の為に黒鋼へ来ていた。

それが出来ないなら家へ帰るしかない。

《白鋼水命/しろがねすいめい》は向こうで引き取っても構わないそうだ。

自身の目の前で進む話に《黒鋼焔/くろがねほむら》は思い悩む。

このままでは闘技者としての孤独を消し、自分を満たしてくれた二人が居なくなってしまう。

二人は気にしていないのだろうが両親を救ってくれた彼等に何も返せていない。

心にポッカリと大きな穴が空いてしまったような気持ちに陥った焔は気付く。

この二人が好きだ。

失いたくない。

傍に居てほしい。

そう思う彼女の目から自然と涙が溢れて零れ落ちると大きな変化が起きる。


「焔……?」

「!」

「その目は!?」


《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》

《黒鋼燐/くろがねりん》

《黒鋼錬/くろがねれん》

祖父や父母は驚いた。


「黒鋼の本に有った通りだ」


エンドは思い出す。

赤い虹彩に浮かぶ黒い巴と漆黒の瞳孔がもたらすは比類無き眼力と絶無の瞳術。

その名を【写輪眼】と云ふ。

完成形は巴が三つらしい。

しかし焔に目覚めた写輪眼は両目の虹彩こそ真紅なものの、巴は片目に一つだけ。


「未完成じゃが間違いないの」


弥以覇が十代の頃、自身の祖父に聞いた話によると、祖父の父が巴三つの写輪眼を持っていたのだが、黒鋼で写輪眼に目覚め完成させた人間は彼が最後だったらしい。

時代を遡るほど写輪眼を有した血族は多かったと黒鋼の古文書には伝わっている。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


100年以上も生まれていない写輪眼の所有者となった焔は両親と祖父に対しレイアとエンドから彼等が使う技術や理法を学びたいと直談判。

それは了承されるが条件として、燐や錬も二人の弟子になることとなった。


「いや、それは構わないんですけどね」

「ボク達もずうっと此方(こちら)に居るわけにはいかないので向こうと此方を行ったり来たりしますから時々居なかったりしますよ?」


その結果、錬と燐も写輪眼に目覚め、黒鋼流体術を更に向上させ、【魔晄(まこう)】ではないエネルギーを扱えるようになった。

焔に到っては【万華鏡写輪眼】の代わりに巴が四つの【四星写輪眼】を覚醒させ、万華鏡写輪眼の固有瞳術まで身に付ける。

黒鋼の写輪眼に関する古文書曰く、万華鏡と違って失明の心配は無いらしい。


(親戚筋の[うちは一族]が抱えていた万華鏡の苦労は一体なんだったんだ)


突っ込んでも意味は無いのでエンドは黙っておいたが残酷な話だ。

うちはは出来るだけ近しい血族の万華鏡を移植してもらわなければ確実に失明する。

その移植も成功するとは限らない。

他に失明予防できる方法は存在を六道に近付けるか突然変異で先祖返りを起こすくらい。

レイア達は自らの持ち得る永遠とプロヴィデンスの一族に伝わる技術と理法を焔が10才になるまで伝えつつ、彼等自身も黒鋼の書物を漁って技を覚える。

そして永遠とプロヴィデンスの教え切れなかった事は両家の資料をコピーして渡し、黒鋼が自分達だけでも覚えられるようにしてから帰っていった。

また会うことを約束して。

この別れが焔達に新たな力をもたらす。


「あ、お父さんとお母さんの写輪眼、私と同じで巴が四つになってるよ」

「焔の巴も増えてない?」

「これで五つか……」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

起源

 
前書き
やっと原作主人公の出番。

この作品における魔術師とは武器を持った超能力者みたいなイメージです。 

 
紀元前3000年前。

始まりは上位存在の出現から。

西暦2000年を超えた現代の人類が観測できる範囲の宇宙約600億光年の[内宇宙]よりも遥かに遠い[外宇宙]から飛来した超常の『何か』と眷属が地球に降臨。

それから千年間、敵対する侵略者に対抗するため人間の戦闘能力は飛躍的に向上する。

そして紀元前2000年。

人類史において初となる『異能』と『魔晄(まこう)』を所持した【魔術師】が生まれた。

徐々に魔術師の数が増えて勢力の優劣を巻き返していた紀元前1000年、遂に上位存在と人類の全面衝突による【邪神大戦】が勃発。

戦争は西暦2000年、開戦から3000年の時を経て何とか人類側の勝利に終わる。

しかし敵対する上位存在の中で最後の一柱となった《ナイアー=ラトテップ》が眷属の残党を連れて世界中でテロ活動を続け、約60年間に渡って人間社会に恐怖を刻み、混沌を引き起こしていた。

だから8年前、俺が体験したことも特に珍しくない日常の一つでしかなかったのだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

西暦2063年。

《立華紫闇/たちばなしあん》7才の時。

彼の街で異変が発生。

大通りに居る幾人もの人間が急激に体を膨張させて半人半獣の怪物に変わった。

人間に擬態していた奴等は人々を襲い、悲鳴と怒号があちらこちらを飛び交う。

紫闇はその真っ只中に居た。

彼は恐怖を感じ、尻餅を着く。

目の前で誰かが死ぬ。

その光景に震えて動けない。

まるで上半身が狼のような眷属が人間を串刺しにするのに十分な太さと大きさを持った(くい)のような何かを腕から発射した。

しかしそれと紫闇の間に立ちはだかった青年がことも無げに杭を払い除ける。

白髪を(なび)かせ黒い軍服に身を包む。

手に携えるは巨大な黒剣。

纏うは噴き出す鮮血と深淵の闇が混ざったような赤黒い魔晄の防壁。

彼は化物に視線を向けていた。


「もう大丈夫だよ。僕が守る」


紫闇の耳に響いたのは優しくて力強い、何処か安心感を与えてくれる声。

青年は言葉を残して前へ駆けると絶対的な暴力で剣を振る毎に眷属を両断していく。

恐ろしくも美しい何処か凄絶な彼の姿は紫闇の目に輝かしい存在として映った。


『あんな風になりたい』と。


邪神大戦が終結して以降、最大の英雄と呼ばれ、今の平和な時代をもたらした青年。


大英雄《朱衝義人/あかつきよしと》


彼との出逢いが紫闇の生き方を決める。


そして、その出来事から8年後。

西暦2072年。

紫闇は夢を叶える為の一歩を踏み出す。
 
 

 
後書き
2055年

レイアと焔が生まれる。

────────────

2061年

レイア(6才)

エンド(5才)

黒鋼へ修業にやって来る。

───────────────

2062年

レイア、焔(7才)

エンド(6才)

水命の凶行を阻止。

───────────────────

2063年

紫闇(7才)

義人と出逢う。

焔(8才)

巴が四つの四象写輪眼を開眼。

──────────────────

2064年

焔(9才)

両目の四象写輪眼に固有瞳術が覚醒。

──────────────────

2072年

紫闇(15才)

魔術学園へ。
 

 

三十六計逃げるに如かず

 
前書き
作中に登場する魔術学園の名前は原作と変わっていることが多いです。

主人公の学校名は同じ。
_〆(。。) 

 
午後6時。

雑多に高層ビルが建ち並ぶ正に大都会の繁華街は人がごった返し盛況な賑わいを見せる。

ここは日本に八ヶ所を数える[魔術学園領域]の一つであり【関東領域】と呼ぶ。

住んでいる人間の半数が【魔術師】

領域は軍が管理している。

学生魔術師は鍛練に励み、年中開催しているバトルイベント[天覧武踊(てんらんぶよう)]に勤しむ。

魔術学園は一つの領域内に複数在るが、それらのお膝元は何処も退屈とは縁遠い。

それを証明するかの如く、《立華紫闇/たちばなしあん》の前では一人の女子が何人もの男子生徒に囲まれていた。

制服からすると、関東領域に在る魔術学園の一つ【刻名館学園/こくめいかんがくえん】

(たち)の悪い輩が多いことで有名。

行き交う人々は厄介事に巻き込まれたくないのか無視を決め込んでいるようだ。


(仕方ない。俺が何とかするか。今は『あいつ』が居ないわけだしな)


紫闇が男子の集団に声を掛ける。


「嫌がってる女の子にしつこいぜ?」

「何だお前、文句あんのか?」


一人が銀色の膜、【魔晄(まこう)】の防壁に身を包むと彼の前に赤い幾何学模様が現れた。

それに右手を突っ込み引き抜く。

肩に担いだのは深緑色の棍棒である。

他の男子も次々と得物を現した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彼等が手に持っているのは【魔晄外装】と言われるもので、魔術学園に入る前の魔術師でも大半は持つ専用の固有武器なのだが何処から出てくるのかは不明。


「ちょ、いきなり外装は無しだろ!? 素人がそんなもんでやられたら死んじゃう!」

「ビビりがしゃしゃんな」

「こいつダッセェわ」


馬鹿にしてくる連中を横目に紫闇は女子にアイコンタクトを送った。

彼は男子の気を引く為に近付いたのだ。

女子は合図に気付き走って逃げる。


(うっし、これで良い)

「引っ掛かったなお前ら! 周りの人達をよく見てみろよ。『狩人(ハンター)』に通報してるぜ?」

「てめぇ!」

「ブッ殺してやらぁ!」


紫闇は彼等に耳を貸さず綺麗なターンを行うと背中を見せて人混みに駆け込む。


「はあっ!?」

「嘘だろオイ!」

「あんだけ煽っといて……?」

「打つのは逃げの一手かよ!!」


刻名館の男子達が慌てふためいた。


「バーカ! お前等みたいなのに付き合ってられるわけねーだろうが!」


人並みを走って避けて逃げ回る。

しかしこの帰宅ラッシュ時では全力疾走していれば誰かにぶつかってもしょうがない。

90才近そうな老人と孫娘と思わしき驚くような美少女の二人が歩いている。

紫闇が『退いてくれ』と言うのが間に合わず、もう(かわ)せない位置に迫っていた。


「おっと危ない」

「気を付けろ糞餓鬼」


両者は紫闇の目に捉えられないコマ送りのような体捌きで体を引き、更には紫闇の走る勢いを殺さないよう彼の体を投げてしまう。

人混みの中でも人が少なく、紫闇が極力誰かとぶつからないルートに一瞬で誘導したのだ。

紫闇は何が起きたか解らず束の間に起こった出来事に驚くも、今は謝罪や礼を言っている暇は無いので必死に刻名館の男子から逃走した。
 
 

 
後書き
判った方もいらっしゃるでしょうが老人と少女は既に登場しているあの二人です。
_〆(。。) 

 

邂逅

 
前書き
_〆(。。) 

 
【刻名館学園/こくめいかんがくえん】の男子達から逃走を続ける《立華紫闇/たちばなしあん》は前方に曲がり角を見つけ、そこに飛び込もうとする。

しかし突然そこから人が出てきた。

今度は先頃の老人と少女の二人のように避けさせてもらえずぶつかってしまう。

紫闇はぶつかった衝撃でグラつき倒れそうになるが相手はびくともしていない。

下半身が鍛えられているだけでなく、平衡感覚も良いのだろうその人物は紫闇の手を掴んで彼が転ぶのを防いでくれた。


「大丈夫か? 不注意だったようで済まん」


紫闇と同じ15才くらいの学生。

175cmほどの身長で大人びた雰囲気の男子は長い黒髪を後ろで束ね眼鏡を掛けていた。

目付きが鋭く顔は仏頂面で表情は変わらない彼は見るからに堅く真面目そう。


(考えてる場合じゃない!)


そうこうしている内に刻名館の男子が追い付き息を切らしながら恨み節をぶつけてきた。


「ハァ……ハァ……」

「ゲホッ」

「……て、てめぇ……!」

「やっと追い付いたぜ」

「半殺しで済むと思うなよぉ!?」


紫闇は彼等の様子を見て気付く。


(この疲れ方、恐らく学校でもまともに鍛えてない連中なんだろうな……)


紫闇のように走り込みもしてなさそうだ。

かと言ってまともに喧嘩したことが無く、何時も罠に嵌めたり逃げたりしてきた彼には幾ら体力が無いとは言え、殴り合いに慣れている刻名館の不良に敵わない。

どうするべきか考えていたその時。


「何故かは知らないが追われているのか。ここで会ったのも何かの縁。助太刀する」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇がぶつかった男子は全身に白銀の【魔晄(まこう)】を纏い、体の真横に現れた赤い、何処か魔法陣のような幾何学模様から漆黒の鞘に納まった長い直刀を引き出して構えた。

彼からは冷然とした気配が漂いその目は刻名館の生徒達を睨み()え視線を外さない。


「御託は不要(いらん)。掛かって来い」


挑発に乗った刻名の五人はいきり立つ。

そして各々の【魔晄外装】を振り翳して猪突猛進に走ってくる。

彼等の動きに合わせて眼鏡男子も踏み込みあっと言う間に間合いへ入るがそこからは静かで鋭く速い歩法で一直線に集団の間を通り抜けた。

眼鏡男子が過ぎ去った直後に五人の不良は突然動きを止め、まるで糸が切れてしまった操り人形が落ちるように地面へ倒れ伏す。

完全に意識を失っているようだ。

紫闇には何をしたのか解らない。

だがこれだけは言える。


「強い……」

「貴君も【魔術師】であるか」


自身の外装を消した眼鏡の男子は紫闇に近付いてじっと見詰めてきた。


(こいつ、エンドや聖持より強い?)


紫闇は自身の周りに居る人間の中で最も強いだろう者達と眼鏡の男子を比較した。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

不安

 
前書き
_〆(。。) 

 
「貴君も【魔術師】であるか……」


眼鏡の男子は《立華紫闇/たちばなしあん》に近付いて彼のことを見据える。


「ああ。今年から【龍帝学園】に通うんだ。君は俺の同級生なのかな?」

「オレも龍帝学園の新入生だ。《江神春斗/こうがみはると》と言う」

「俺は立華紫闇。学校ではライバルになるわけだけど宜しくな」



春斗は『うむ』と首を縦に振る。

そこに彼が出てきた曲がり角からまたもや龍帝学園の制服を着た生徒が姿を現す。


「おお、居た居た。捜してたんだぞ春斗」


紫闇より10cm以上背が低いだろう男子はスタスタと二人の元に歩み寄る。


「あり? もしかして紫闇か?」

「エンド?」


《エンド・プロヴィデンス》


紫闇とは小学生からの幼なじみだ。


「何だ。貴公の知り合いだったのか。もう少し早ければオレの出る幕は無かったな」


どうやら春斗もエンドと親しいらしい。

エンドは倒れている【刻名館学園/こくめいかんがくえん】の男子を見て察する。


「こいつ等も懲りないな。いっそ刻名館に乗り込んで締めてやるか」


物騒なことを言い始めたエンドを紫闇と春斗が二人がかりで(なだ)めすかす。

彼の実力なら魔術学園の一つや二つ落とすのは朝飯前なのを知っているから。

紫闇の知り得る限り、本気のエンドを止められるとしたら彼の兄かもう一人の幼なじみ。


(【魔神】なら知らないけど)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


気を静めたエンドに一息ついた紫闇と春斗はエンドのことについて話す。


「へー、それじゃあ江神は昔からエンドと修業してきたわけなんだな」

「うむ。エンドはオレの目指す一人だ」


江神は家に道場が有る裕福なところらしいのだが代々剣を学び『武』に生きる家系のようで、厳格に育てられてきたのだという。


(何か納得だわ。そんな雰囲気だし)


自分と違って幼い頃から親や祖父に仕込まれてきたのだろうことが手を見て判る。

いわゆる『剣だこ』が有った。

何度も豆が潰れ、皮が分厚くゴツゴツしたものになってしまった剣士の手。

年季が入っている。

春斗は線こそ細く見えるが首から下は絞り込まれた筋肉に覆われているに違いない。

エンドと同じ系列の人種だ。


「そろそろ帰るか。明日から授業だしな」


紫闇は二人と別れて帰路に着く。


「参ったなぁ。トレーニングは8年間やり続けてきたけど彼奴等(あいつら)みたいに『戦う為』の体は作ってきてないんだよなぁ俺」


魔術師の【魔晄】と『異能』が有るので普通の人間にも出来る戦い方なんて意味が無いと世間では武に対しての評価が少し低くなっている。

まあエンドや春斗は例外過ぎて参考にならないが、だからと言って魔術師に生身の戦闘技術が必要でないということは決して無い。

自身の異能が通じない相手も居るのだから。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

学園初日

 
前書き
_〆(。。)

 

 
「入学最初の授業くらい起きなよ」

「いやー昨夜はゲームが捗って捗って楽しかったもんでついつい遅くまで、な……」


【龍帝学園】に入った《立華紫闇/たちばなしあん》は幼馴染みの《的場聖持/まとばせいじ》と同じクラスで偶然にも隣の席だった。

巨大な教室には100人の生徒が居る。


「紫闇は大物だな。【魔術師】として成り上がることも娯楽を極めるのも、両方こなせる能力が自分に有ると思えるんだから」

「ハハハ、照れるなぁ~」


聖持は皮肉で言ってやっているのだが紫闇は全く(こた)えていないようだ。


「ポジティブだな」

「それに関してはな。世界一根拠の無い自信に満ち溢れていると言って良い。取り敢えずのライバルというか目標になりそうな奴は居るには居るんだが……」


紫闇は今年の一年について考える。

入学したのは千人。

これは毎年のことだ。

しかし卒業までに半分以上は消える。

大半は軍属となるので基準をクリアしていない成績と能力の者は進級することが許されない。

まあ座学が悪くとも戦闘能力が突き抜けているなら卒業することは珍しくはないが。

聖持と《エンド・プロヴィデンス》は入学前からふるい落としの基準を超えているので自主退学以外で辞めることは無いだろう。


(こいつらはあまりに強過ぎて俺のライバルにすることが出来ないからな……)


だから()が一番のライバルになる筈だ。

別のクラスになった男子。

昨日は【刻名館学園】の生徒から助けてくれた《江神春斗/こうがみはると》

雑魚とは言え五人を瞬く間に倒すなど今の紫闇には絶対に無理だが紫闇が成長すればあの程度の連中に苦戦することは無いはず。

当面目指すのは彼となるだろう。


(敵わないのは現時点での話だ。(いず)れは江神と同じくらいのことが出来るように)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一限目の座学が終わる。

ここからが魔術学園の本分。

魔術学園の座学は朝と夕に一限ずつしか存在しておらず他は全て戦闘訓練。

魔術学園という機関は平凡な学生と同じように学力や社会技術を教えたりしない。

戦士を育成する施設である。

一年の全員が体育館に向かう。

更衣室で着替えるからだ。


「おいあれ……!」


しかし移動しようとした一年が止まった。

ドアの所に女性が居たから。

龍帝学園の五年生で生徒会長。


《島崎向子/しまざきこうこ》


日本中で知られる全国区の学生魔術師であり海外の魔術師からも注目されている。


「品定めか」


聖持は彼女をよく知っているらしい。

彼女は昔から周囲に居る同年代の将来有望そうな魔術師をチェックして繋がりを持っており、それが今でも続いているのだという。

特に龍帝に入ってからは顕著。

毎年のように一年の教室を回って目星を付け、その後の活躍によって生徒会へ引き入れる。

だが彼女は大きな問題を起こしても居た。

一年の頃、最大のライバル的な女子生徒を殺してしまっているのだ。


「まあ現在の魔術師の頂点に居る人達がそんなのばっかりなんだけど」
 
 

 
後書き
他の学園とオリキャラを確認しておこう。

原作キャラが死んでる設定だし。
_〆(。。) 

 

現状

 
前書き
_〆(。。) 

 
今の【魔術師】がどうなっているか。

【魔術学園】を卒業した多くは軍に入る。

一部は学生魔術師が参加している[天覧武踊/てんらんぶよう]の延長であるプロリーグに行って競技者としての道を歩む。

それで、だ。

────────────────────

[九州領域]

迦楼羅(かるら)院学園】

『暴食』

《夢国亜理栖/ゆめぐにありす》

────────────────────

[関東領域]

【刻名館学園】

『天上のトリックスター』

『気狂い道化』

《外山道無/とやまみちなし》

────────────────────

[近畿領域]

【天鏡学院/てんきょうがくいん】

『愚者』

『鉄拳』

『女帝』

『純粋なる強さの象徴』

《白鳥マリア》

─────────────────────

マリアはかつて《江神春斗/こうがみはると》を一秒で沈めたことが有るという。

今より弱かったとは言え。

そして───

────────────────────

[中部領域]

【九曜学院】

『存在そのものが至高の芸術』

『神が気紛れに創り出した者』

『全世界の魔術師の頂点』

『史上最強』

『オール・タイム・キング』

《神代蘇芳/かみしろすおう》

────────────────────

彼は《立華紫闇/たちばなしあん》の命を救った大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》が率いた義人を含める最強の魔術師七名からなるチーム【マジェスティックセブン】で唯一の生き残り。

最後の敵対する上位存在《ナイアー=ラトテップ》を討伐した最終決戦では10才に満たなかった少年にも関わらずチームの主力だった。

紫闇にとって目指すのは義人のような存在だが強さにおいての到達点が蘇芳である。

この四人の【魔神】は他の国にも居る魔神に到達した魔術師でも一向に敵わない。

特に蘇芳は魔神になってからというもの挑戦しようと思う者すら皆無。

勝てるわけがない。

それが当然のように圧倒的だから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しかし昨年のこと、この世界でどんな魔術師とも比べる者が居なかった四人の魔神が次々と倒されていく非常事態が発生した。

無名だった魔術師によって行われた行為は全世界に中継されてしまっていたので各国のパワーバランスが著しく崩れてしまうが日本はあまり影響が無かった。

死体も残らぬ程に消滅させられた四人の魔神も彼等を倒した四人の魔術師も日本に所属しているので所詮は短期的なトップの首がすげ替わっただけに過ぎないからだ。

しかも国家元首というわけでもない。

他の国は新たに現れた更に強大な脅威に戦慄して大慌てだったようだが。


「まあ『暴食の亜理栖』の時点で天上人だから今の頂点に立つ四人を超えるなんて遠い先の話で夢のまた夢なんだけど」


紫闇はワンフロアが大きい複数階有るビルのような体育館に入っていった。

全員体操服に着替えている。

魔術学園の戦闘訓練は一つの学年に在る全てのクラス合同でやるらしい。

なのでグラウンドも体育館も広い。

体育館の床に刻まれている(みぞ)のように走るラインは結界(バリア)の発生装置。

これでバトルフィールドを形成し、学生魔術師はその中で戦うわけだ。


「見たこと無い顔ばっか」


紫闇は《的場聖持/まとばせいじ》と《エンド・プロヴィデンス》が訓練をサボってこの場に居ないことに寂しさを覚えた。
 
 

 
後書き
原作だと道無以外の魔神は強いということだけ明かされて殆ど不明に終わってしまいました。

代わりにオリキャラを入れます。

でも出番無いだろうな。
_〆(。。) 

 

訓練開始

 
前書き
_〆(。。) 

 
「全員整列!」


その声は実戦訓練用スペースの入口に立っている女性から放たれた。

髪も靴もジャージも赤一色。


「今年一年間、訓練の教官を務めることになった《斬崎美鈴/きりさきみすず》だ」


威圧感で真面目な彼女は話を続ける。


「毎年のように一年の『ひよっ子』どもには言ってやっているのだが、先ずは自分が『子供』という気持ちを捨てて、一人の『戦士』になったと自覚しろ」


厳しい言葉に生徒が強張った。


「貴様等も覚えているだろうが、7年前に邪神《ナイアー=ラトテップ》は討伐された。しかし新たな脅威も生まれている」


朱衝義人(あかつきよしと)》と【マジェスティックセブン】の犠牲によって上位存在との決着はもたらされたのだが『あれ』が発生してしまう。


「日本の【無明都市(ロストワールド)】は新たな【魔神】によって【聖域】になっているが他の国にはまだ残ったままになっている」


学生魔術師の使命は無明都市の解放。

大人は【魔獣領域】などに対応して手が回らないので都市の解放は学生が担当する。

義人によって幾つもの問題が解決しているが無明都市だけはどうにもならなかった。

その彼ももう居ない。


「都市の解放と人命の救助。学生魔術師にとって最も大事なことはそれだ。【天覧武踊(てんらんぶよう)】は普段の成果を出す場に過ぎんと理解しておけ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「訓練に入る。外装を」


生徒は各々の【魔晄外装】を出す。

立華紫闇(たちばなしあん)》は自身に白銀の魔晄を装う。

右手に赤い[装紋陣(サークル)]が浮かび、輝く魔晄の粒子が右腕に絡み付いていく。

光は肘まで覆う灰色の外殻となった。


「右腕だけをカバーする籠手か?」

「あの外装おかしい」

「見たこと無いタイプ」

あの(・・)外装型かよ……」

「天文学的に低い確率で生まれる?」

「実在したんだ」


紫闇の外装は『規格外』と呼ばれている。

但し良い意味ではない。


「最低のゴミタイプでよくもまあ」

「どうやって魔術学園に……?」

「図太さや(にぶ)さは認めよう」


そう、紫闇の外装は欠陥品。

15年の人生を振り返る。

誰も彼も紫闇を認めない。

だがここからは違うのだ。


(俺は特別な存在。この世界の主人公)

 
 

 
後書き
原作の序盤における紫闇は魔術師としてあらゆる面で悲惨なくらい弱いです。

体を鍛えてはいるけど凡人の範囲。

外装に致命的な欠陥を抱えている。

現実が見えないふりをして自分の弱さを認めていないので成長できません。
_〆(。。) 

 

一・二・三

 
前書き
_〆(。。) 

 
真っ赤な色の教官《斬崎美鈴(きりさきみすず)》が一通り全員の【魔晄外装】を確認。


「私を含めた教官が指導してやるのは一軍と二軍の生徒のみ。【天覧武踊(てんらんぶよう)】への参加が許されるのも二軍から上だ。三軍に関しては実戦訓練をすることも禁ずる。二軍に昇格するまで別室で筋トレするなり外周を回って走り込みするなり好きに鍛えろ」


一軍は《江神春斗(こうがみはると)》が入っていた。

当然のことだが。

他にも一年生で序列一位の金髪少女《クリス・ネバーエンド》が居る。

立華紫闇(たちばなしあん)》の名は無い。

しかしそれは本人も解っていた。

悪い意味での『規格外』という最低な外装なのだから一軍落ちでも仕方ない。

二軍の発表が始まる。

無かった。

つまり……。


「以上。残りは三軍」


二軍までに選ばれなかった者の中には抗議する者も居たが美鈴はにべもなく。


「貴様等の心情なんぞ知ったことではないしはっきり言ってどうでも良い。不満が有るなら【龍帝学園】から去れ」


彼女は一軍と二軍を連れて巨大な体育館の中央へ向かって移動する。


「二軍以上は一対一で戦ってもらう」


自分が特別な存在だという自信の有る紫闇も規格外という身で簡単に成り上がれると思っていなかったので気にしていない。


(三日ぐらいで二軍に行くぜ)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


取り敢えず無駄に広い体育館の内部に在る外周を走っていた紫闇だが退屈になってしまったので中央に居る一、二軍の訓練を眺める。


「クリス・ネバーエンド。学年一位の実力を見せてもらおう。他の者も目に焼き付けろ。自分達の頂点が如何な力を持つのかを」


【魔術学園】では[学年序列]と[全体序列]が設けられており、新入生は主に【魔術師】としての【異能】が大きく影響して最初の格付けが為されるのだ。

次からは実積で序列が変わる。

この世界には魔術師と並んで【超能力者】も少なくないのでそういう特殊な力の場合でも序列が変わったりすることは珍しくない。


(まことに遺憾(いかん)ながら、そういう分類になると下から数えた方が早いんだよなあ俺)


恐らく紫闇は最下位付近。


「クリス・ネバーエンド、ここに序列二位から十位が居る。今から戦えるか?」

[順番に? それとも纏めて?」


ほくそ笑むクリスに美鈴が眉を寄せる。


「貴様、一位だからと調子に乗るなよ? 良いだろうネバーエンド。それならいっそ、この9人と同時に戦ってもらおうか。お前達、コイツの長く伸びた鼻をへし折って自身の傲慢さを思い知らせてやれっ!」


美鈴の号令に序列の二位から十位までが各々の武器である外装を出していく。


「上等っ。それでいきましょう。このクリス・ネバーエンドがどういう存在なのか此処に居る連中に見せてあげるわッッ!!」 
 

 
後書き
規格外の欠陥は魔術師として痛い。

主人公なんで何とかなりますが。
_〆(。。)
 

 

格付け箔付け

 
前書き
最近何かを書く気力が減りました。

集中力も落ちましたし。

平均文字数は以前の半分以下。

一部キャラの性格が原作とかなり違う。 

 
【龍帝学園】の一年生において学年序列一位の《クリス・ネバーエンド》が教官の《斬崎美鈴/きりさきみすず》から9人を相手にしての実戦訓練を命令され、クリスもそれを受けた。

しかし9人は二位から十位。

クリスに次ぐ一年の実力者達。

そのことに《江神春斗(こうがみはると)》以外は驚く。

立華紫闇(たちばなしあん)》も9対1ですら有り得ないのに学年序列最上位ばかりが一人に向かって挑むという状況が信じられなかった。

だが一人で戦わねばならないクリスはひたすら余裕で不敵な態度を崩さない。

実戦訓練スペースの床に有る[結界/バリア]の展開装置がクリスと9人の対戦相手を包み込んでバトルフィールドを形成する。


「では始めろ」


美鈴の声に9人が外装を構える。

すると彼等の目前に巨大な[装紋陣(サークル)]が現れて少しずつ浮き上がっていく。

そこから顕現したのは腕。

無機質で灰色。

鉄で出来たような。

人よりも大きい。


「さーて行きましょうか。恨まないでね? 直ぐに終わらせてあげるから」


クリスは腕を組む。

白銀の【魔晄(まこう)】を帯びて迎え撃つ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一年の序列二位から十位。


「思ったより脆かったわね」


クリスの前には10秒立てただけ。

彼女は戦闘で全く動かなかった。


彼女の【魔晄外装】は浮遊する鋼の巨腕。


指から途切れず放たれるミサイルや召喚されてくる大量の銃砲による弾雨。

それらは視界を埋め尽くす。

過剰な火力に相手は瞬く間に倒れていく。

戦闘を見ていた春斗以外の生徒は紫闇と同じく呆然と口を開けっ放しになった。

クリスが負けることを期待していたのだろう教官の美鈴も苦い顔をしている。


(これ、江神よりもヤバくないか?)


攻撃力では彼の上であろう。

そう考える紫闇の耳に聞こえた。


「フッ、準備運動はこれくらいで良いかしらね。じゃあ本番といこうかしら」


クリスは笑みを浮かべて首を回す。

誰かを捜しているようだ。

紫闇は彼女が『特別な存在』の自分を見抜いて挑んでくるのかと緊張してしまう。


「初めてあんたを見た時から気になってた。本っ当に良い踏み台になってくれそうだから」


睨んだのは江神春斗。

彼は興味無さげな顔から迷惑そうな顔になり、溜め息を吐くと肩を落とす。


「断らせてもらう。オレに興味無し。この立ち合いは避けるべきだ。互いの為にならん」

「あたしとの戦いから逃げてる割に、何処か上から目線っぽい気がするのが腹立つわ~! 機会が有ったら覚悟しなさい!」


春斗にとってクリスからの評価など知ったことではないしどうでも良かった。


「何とでも言え。オレは()うの昔にちっぽけなプライドなぞ捨てている。それにお前と本気で戦う機会などそうそう来ないと思うがな」


紫闇には春斗がクリスを恐れているようには見えなかったが何故戦いを避けたのか。


「俺は見たかったんだけどな」
 
 

 
後書き
前書きの続き。

書いている途中で頭が回らなくなる。

何を書いているのか解らなくなる。

なので話の繋がりがおかしい。 

 

歩幅

 
前書き
(´- `*) 

 
「そろそろ筋トレに行くか」


江神春斗(こうがみはると)》と《クリス・ネバーエンド》の遣り取りを見ていた《立華紫闇/たちばなしあん》が移動しようとした時。


「ぶへぇ~……ぶ、ぶへぇ~……」

(あれは確か)


紫闇と同じ三軍。

小学生に見える身長。

モジャモジャ頭が特徴的だ。


《佐々木青獅/ささきあおし》


泡を噴いている。


(凄いな)


何故走れるのか。

意識が有るのかすら怪しい。


「でも30周くらいであれじゃあ」


二軍は無理だろう。

こうして紫闇は一日目の訓練を体育館外周のマラソンと筋トレで終えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

翌朝、紫闇は幼馴染みの《的場聖持(まとばせいじ)》と二人でトレーニングに励む。

もう8年はしてきただろうか。


「よく続くな」

「体力は付いたぞ」


紫闇は《朱衝義人(あかつきよしと)》に憧れてから勉強も運動も頑張って努力し少しでも近付けるよう頑張ってきたつもりだ。

報われることが無かったにも関わらず、よく諦めなかったと自分で思う。

そんなことを考えながら紫闇は[魔晄防壁]を展開すると、拳に向かって【魔晄(まこう)】を集める為にイメージする。

拳の魔晄が金色に光る不思議な現象が起こったがこれは何時ものことなので良し。


「紫闇の【魔晄外装/まこうがいそう】は規格外だから【異能】が宿ってるわけでもないだろうしどうなってるのかね?」

「たぶん魔晄を込めたパンチになるんだろうけど威力が普通より上がるんじゃない?」


【魔術師】の異能が無い紫闇は手段を選ばず強くならねば他人に追い付けないだろう。

その為にも異能に頼らない基礎能力の高さとなる土台作りに時間を惜しまないのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇が拳を突き出す。


「拳の集中させた魔晄の光がちょっとした爆発みたいなのを起こすのか」


聖持の目からは紫闇の力が未完成なのが見てとれたが敢えて黙っておく。


「コイツをぶつければ並みの奴なら一撃だろ。江神やクリスはまだ無理だが」


紫闇の目が聖持を捉える。


「お前とエンドは二人を超えた後だ」

「【龍帝学園】に来たのは紫闇やエンドが居るからで別に魔術師として成り上がろうって考えてないんだよなあ俺。大会に出る気が無いし【天覧武踊】にも興味が無い」

「強さへの欲求が有って実際に滅茶苦茶強いってのに勿体無いよなあ聖持」


聖持が上を目指せばかなり上のレベルまで行けるだろうと紫闇は思っている。

彼をクリスや春斗より評価してきた。

紫闇は才能が無いながらも聖持やエンドと一緒に今まで魔術師への道を歩んできたのだ。

同じ歩幅に合わせてもらいながら。

彼等が紫闇と鍛える以外のところで修業しているのは知っているが、もしも二人に置いていかれたのなら自分は耐えられないだろう。


(だからせめて、クリス・ネバーエンドには追い付かないと。出来るだけ早く)


彼等の好意に甘えるだけなのはもう嫌だ。

紫闇は自分を信じてくれる幼馴染みの期待に応えようと必死に藻掻いていた。
 
 

 
後書き
(?_?) 

 

足掻き

 
前書き
原作より展開を早くしてます。
(>.<) 

 
入学二日目の訓練前。

二軍へ上がる者が発表される。

立華紫闇(たちばなしあん)》の名前は無い。

仕方ないので外周マラソン。


「あの二人、今日もサボりか」


今日は登校すらしていない。

一人でお昼を()っている紫闇が見渡すも、幼馴染みの《的場聖持(まとばせいじ)》と《エンド・プロヴィデンス》の姿を見付けることは出来なかった。


「おい、昨日に続いて」

「また来たぞ」

「早くもスカウトに?」


教室がざわめいたのは【龍帝学園】の五年生で生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》が現れたから。

向かう先に居るのは彼奴(あいつ)


「君が《江神春斗(こうがみはると)》君?」

「何かした覚えは有りませんよ?」


二人の会話は教室のドアが勢いよく開かれたことで遮られてしまう。


「コウガミハルトオォォォォーッ!」


その声に春斗は頭が痛そうだ。


「勝負しなさいよゴラアァァァァァッッ!!」


一年の学年序列一位《クリス・ネバーエンド》は金髪を揺らし、まるで鬼のような形相をしながら春斗の席へ近付いていく。


「会長、失礼させて頂きます」

「えっ? ちょっ、江神君!?」


彼は一目散に逃げる。

その際に紫闇と目が合った。


「お互い大変だな」


そんな呟きに紫闇は共感する。


「全くだ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


入学三日目の訓練。


「《佐々木青獅(ささきあおし)》、二軍に入れ」


教官の《斬崎美鈴(きりさきみすず)》に名前を呼ばれたモジャモジャ頭で小学生のような身長と童顔の男子は紫闇よりも体力が無く、紫闇から見て二軍に上がれないだろうと思っていた人物。

彼が昇格したことで希望が見える。


(あいつが呼ばれたなら……)


しかしまたも三軍で現状維持。


「おい立華紫闇、やる気が無いのならとっととこの学園を去れ。ボサッとしているだけの奴に居てもらっても迷惑なだけだ」


その後は何時も通り走っていることにしたが退屈になったので春斗の実戦を眺める。

春斗は紫闇を助けた時に見せた漆黒の直刀を構え、相手は盾とランスの【魔晄外装(まこうがいそう)

1ラウンド目は相手が押し気味で春斗は劣勢だったのだがインターバルでのこと。


「気になっていたが江神春斗、なぜ本気を見せない。二軍に落ちたいのか?」


春斗は教官に叱責を喰らう。


「俺はこぞって誰かと競おうという気は有りません故そう受け取られても仕方ありません。二軍に下がるのならそれもまた良し」


春斗はクリスに絡まれ戦いを求められるのが嫌になってきた所だ。

ちょうど良いだろう。

2ラウンド目の春斗は1ラウンド目よりも俊敏に動き回り一進一退に持ち込む。

結果は相討ちに終わった。

美鈴は肩を(すく)めて言う。


「貴様を二軍に格下げする。今よりも手を抜くなら三軍落ちも覚悟しておけ」


春斗は一切気にしていない仏頂面で二軍の生徒に混ざり素振りと型をメインに汗を流す。


「江神もエンド達と同じ変わり者か」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


四日目の訓練。

二軍を見ていた紫闇に寒気が走る。

強烈な怖気。

モジャモジャ頭で弱そうでやけに小柄。


(明らかに成長不良だろ)


紫闇は佐々木青獅の体格が同い年の平均と比べて小さすぎるのが気になっていた。

灰色の棒を外装に持つ彼はあっと言う間に相手から血達磨にされてしまう。

紫闇が初めて見た時から弱そうと判断した彼は本当に弱かったらしい。


(でも何でだ。俺は佐々木が)


怖くて仕方ない。

理由は不明だが嫌な感じがする。

五回目のダウンを奪われた青獅は直後に立ち上がりながら『にいっ』と笑う。

紫闇には彼が鬼のように見えた。


(何か有るのか? 俺には理解できない、感じ取ることが出来ない何かが)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


入学して十日になるも状況は同じ。

相変わらず紫闇は三軍のまま。

実戦を許されない。


「ハルト、今度の休みは暇でしょ? 暇じゃなくても私の屋敷に来なさい。言っとくけど強制連行よ。意地でも付き合ってもらうわ!」

「学年序列一位が二軍の一人に拘るな。折角の格が下がってしまうぞ?」


春斗はまたもクリスの誘いを断る。

どうあっても戦わないつもりらしい。

彼は紫闇に近付いてきた。


「まっこと諦めが悪い。俺が戦いたい相手はこの場に居らんというのに何故わざわざ興味が無い奴の為に無駄な労力を掛けねばならんのか」

「江神、俺は決めた。無理矢理であろうが実戦をやらせてもらうつもりだ」


紫闇の言葉に沈黙した春斗は三軍の紫闇を馬鹿にすること無く考えている。

そしてただ一言。


「そうか」


しかしそれで終わりでは無かった。


「二軍でも一軍でも良いから上がってこい。俺は待っていることにしよう。見せてもらうぞ。エンドやレイアさんが気に掛けている力を」


春斗の言葉には熱が込もっていた。

目には闘志が満ちている。

一体何を見ているのか。


「ああ、必ず上がるから待ってろ」
 
 

 
後書き
江神が原作ほどピリピリしてない。
( ̄* ̄) 

 

挫折

 
前書き
何時もより長いです。
_〆(。。) 

 
入学から十一日目。

《立華紫闇/たちばなしあん》は朝の訓練開始時に教官の《斬崎美鈴(きりさきみすず)》へと実戦訓練が受けられるよう願い出た。

周りの反応はというと。


規格外(ゴミタイプ)が何言ってんだか」

「負けるのがオチだろ」

「貴重な訓練スペースが狭くなる」

「意味も価値も無え」

「無い無い尽くしだな」

「良いじゃんやらせろよ」

「面白いものが見られそうだ」


二軍と一軍の生徒が紫闇に対して口々に文句を言う中で《江神春斗(こうがみはると)》が眼鏡を逆光で輝かせながら前に出る。


「立華紫闇。貴君が踏み出そうとしているのは修羅道も同然の世界。それでも歩もうというのなら、俺が相手になろう」


どうやら彼は気を遣ってくれたようだ。


「心配してくれてありがとな江神。俺は絶対に諦めない。大活躍して【魔神】になって世界中の人間に俺の名を刻んでやる」


周りから冷笑が聞こえるが江神は笑わない。


「その意気や良し」


彼の目が鋭くなり眼光が煌めく。

紫闇は負けじと睨み返した。


「待て立華。貴様と江神を戦わせるわけにはいかん。訓練で死人が出ては困るからな。よって相手はこちらが選ぶ。《佐々木青獅(ささきあおし)》、こいつに『現実』というものを、【魔術師】の厳しさを教えてやれ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(現実と厳しさを教えてやれ、か。俺の負けが決まっているような言い草だな)


紫闇は直ぐに青獅を倒そう、そして春斗を指名しようと思い、相手の顔を見た。

ゾクリと寒気が襲ってくる。


(何ビビってるんだ俺は。大丈夫だ勝てる。だって俺は『特別』なんだから)


佐々木青獅は紫闇が訳も解らずに恐怖していたあの笑顔をしている。

一人の生徒が美鈴の指示で結界発生装置を起動すると体育館の床に走る無数の(みぞ)から半透明な幕が伸びて八角形のドーム型をしたバトルフィールドが形成された。

生徒が続けて装置を操る。

結界に入り口が出来た。

紫闇と青獅が中に入り終えると入り口が閉じられてしまうが棄権(リタイア)すれば開くので問題ない。


(何だこの異常な空気。それに幾ら閉鎖した密室とは言え極端に狭いような)


結界の外に居る皆が遠慮無く悪意に満ちた目を紫闇に対して向けていた。


「逃げ場は無いぞ。立華紫闇」


春斗は眼鏡の奥に有る瞳で結界内の二人を見詰め、戦いを注視している。

紫闇の体は震えていた。


(どういうこった。何でこんなに怖いんだよ。相手は佐々木なんだぞ? 小学生くらいの身長だった筈なのに何で俺よりデカイ? まるで別人じゃねぇか!)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


開始まで10秒。

館内にアナウンスが響く。


「外装を出せ」


美鈴の合図が掛かる。

紫闇はビクッと震えた。

その途端に(こら)え笑いが起きる。

(あざけ)りも飛ぶ。


「もしかしてチキン?」

「ビビってるダセェ」

啖呵(たんか)切ってあれかよ」


紫闇は外野を無視。

魔晄外装(まこうがいそう)】を出して青獅を見た。

『怖い』


(その笑み消してやる)


体の震えと胃の痛みが治まらない。

しかし構わず開始ブザーが鳴る。

一気に踏み込んだ青獅は両手で灰色の長棒を突き出し相手の顔面に()じ込む。

紫闇は反応できていない。

ひたすら痛みが走り抜けた。


(なんだこれ? 打たれたらこんな痛──)


再び灰色の長棒が来る。

今度は左肩を打ち()えられてしまう。

肩の骨が(きし)みを上げた。

紫闇は痛みで何も出来ない。


(このままじゃダメだ……打ち返せ!)


しかし涙で前が見えず、鼻血が気持ち悪い上に胃痛は戦う前より酷くなってきた。


(反撃しなきゃ、反撃だ、反撃するんだ)


無意識に叫ぶ紫闇の外装が纏われた右拳に【魔晄】が集まり黄金に輝き出す。

それを自分より身長が30cmは低そうな青獅の顔へ思いっきり喰らわせた。

拳が完全にめり込んだところで外装に宿った魔晄が放つ金の光が爆発する。


(倒れない? [必殺技]なのに何で?)


紫闇が戸惑っていても関係ない。

青獅の外装である灰色の長棒が迫り、そのまま紫闇の鳩尾に刺さった。

痛みと共にピシリと音が響く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


気付けば紫闇は逃げていた。


「ひいぃぃぃぃぃぃー!!」


無様に恥ずかしい悲鳴を挙げているのが自分だと気付いてはいても紫闇にはみっともなく逃げるしか出来ない。

青獅は背中から打つ。

紫闇が弱くとも容赦なく追い詰める。

彼は自分が弱いと解っているので油断せず攻勢に回り徹底的に叩き潰す。

守りに回ると勝てないから。

分を弁えているのだ。

自分に出来ることを突き詰めている。

しかしそのことが余計に紫闇を追い詰めて彼の心に亀裂を入れていく。

長棒と【異能】による炎でボロクソになっていく紫闇の口からは『御免なさい』と謝罪の言葉が飛び出して小便を漏らしてしまうほど。


(俺は特別なのに……)


本当に特別なのか?

自分に疑問視が湧く。


(特別に決まってるだろ!)


なら何故こんな目に遭うのか。

何故青獅には必殺技が効かなかった。


(どうして佐々木から逃げてるんだ)


紫闇の脳内に流れるのは【龍帝学園】へ入る前にぶつけられていた罵声。

必死に否定し続けてきたもの。


『才能が無い』

『無駄な努力』

『みっともない奴だな』

『お前なんかモブだろ』


紫闇の頭にベキリという音が広がる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


立華紫闇(たちばなしあん)》は自分のことを『特別』な人間だと思って生きてきた。

今まで自分の人生を(さいな)んできた不幸はこれから訪れる幸福の前振り。


(そうじゃなきゃ俺の人生なんか)


何の価値も無いのだ。

何事も上手くいかず、ただ馬鹿にされ、欲しいものは得られない。

そんな人生が嫌だった紫闇。

だからあの魔晄によって拳が光る[必殺技]を身に付けた時は嬉しかった。

しかし全て勘違い。

不様に悲鳴を挙げて逃げている現状に対して彼は自覚せざるを得ない。

自分は特別な人間ではなく『凡人』

『主人公』ではなく『モブキャラ』

幻想が砕かれる。

現実を直視してしまう。

こうして見るも無惨な結果を晒した1ラウンド目終了のブザーが鳴った。


()めるか?」


斬崎美鈴(きりさきみすず)》の声は冷ややかだ。

しかしその問いは今の紫闇に祝福。

救いの導きに思える。


『ダメだ、諦めるな』


自分の中にまだそんな声や想いが有り、抵抗しようと内側から押し留めたものの。


「……はい」


中止を受け入れてしまった。


「両者外装を消してフィールドから出ろ」


羞恥(しゅうち)

悔恨(かいこん)

憎悪

怒気

後悔

悲哀


(ああ、何と言えば良いのか)


もしかしたら『死にたい』というのはこんな気持ちなのかもしれない。

思考を放棄したい紫闇だったが非情にも美鈴はそれを許すことは無かった。


「私も情が有る人間だ。貴様の教官としてハッキリと断言してやる。お前が大成することは無い。学生魔術師としても軍属になった後も最低極まりない人生が待つ。その末に使い捨ての駒として死ぬだろう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


美鈴の言葉が紫闇に刺さる。

しかし彼女は止まらない。

冷徹に残酷な事実を突き付ける。


「立華が努力してきたのは身体能力の程度を見れば理解できているつもりだ。しかし人間には適性や限界が有る。実戦形式とは言え特に強者でもない佐々木に訓練で臆す者に『軍人』としての魔術師は務まらん。競技者としての魔術師であろうとな。無駄な努力は止めて大人しく一般人として生きていろ」


紫闇はこれまでの生き方、積み重ねの全てを否定されたような気がした。

生徒達は教官に同調する。


「マジでだせぇ(笑)」

「お前が活躍できるとでも?」

「弱い者いじめの趣味は無いんだよなぁ」

「典型的な脳内チャンピオンじゃねーかw」

「実力差から逃げるのはしゃーないとしてクリーンヒットが効かないのはちょっと」

「はっきり言ってやれよ。格好悪いって」


江神春斗(こうがみはると)》は特に失望していない。

ただ残念な顔をしていた。


「立華紫闇。お前はまともな実戦訓練もしたことが無かったのだな。今までは体力を付けることに主眼を置いていたのか。ならばまだ間に合う。強くなれる筈だ。出来ればもっと昔から実戦に慣れておいてほしかったが」


小・中学生の成長期に戦闘競技者としての基礎を学んでいないのは痛い。

まともに友人も作らず祖父と剣に生きてきた春斗だからこそ解っていた。

犠牲にした期間の重要性を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「『敗北』とは打ちのめされ倒れ伏すことを指すのではない。弱さと諦めを受け入れてしまうことを言うのだと私は思っている。お前は諦めないと息巻いてこの(ざま)か? そんな(てい)たらくでよくも【魔神】になるとほざいたな」


春斗の気遣いと美鈴の辛辣(しんらつ)さに何も言えない紫闇はひたすら心が痛む。

気付けば逃げ出していた。

彼は家に着くと直ぐに自分の部屋へと駆け込みベッドへ倒れ込んでしまう。

正に生き地獄。


格好悪い

みっともない

地球上で最も醜い

そんな劣等感を(いだ)いて生きてきた。

人生の大半をである。


耐えられたのはあの[必殺技]が有ったからであり、あれは紫闇の心の支えだった。

しかし必殺技はもう無い。


「どれだけ繰り返した? 報われない努力を。何度持ったっけ? 届かない想いを。ああ……もう嫌だ。こんな人生はもう沢山だ……」


今日のことで夢見ていた将来の、魔術師となって英雄と(たた)えられる道は絶たれてしまったのだろうという確信が有る。

しかし彼は出来なかった。

学園を去る選択を。

頭の中で青獅との実戦訓練が始まる前から終わった後までのことが延々とループしているが、一番痛かったのは春斗に気を遣わせたこと。


「終わりたくない……!」


紫闇にとって春斗は見ていると腹立たしくて妬ましい劣等感が刺激される奴だった。


(江神は誰かを見下してるわけじゃない。俺が全く実戦を経験していないことも含めて気にせず受け入れるだけの度量も有る。だからこそ俺は彼奴(あいつ)のことが嫌いなんだ)


春斗が裏表の無い、損得抜きで良い友人になれるような人間であるが(ゆえ)、余計に紫闇の駄目さが浮かび上がってしまう。


「エンドや聖持より弱くとも憧れの存在で尊敬すべき対象なんだ。俺にとって江神は理想像とも言うべき魔術師の一人なんだよ」


そんな存在が『強くなれる』と言ってくれたのに終わりにはしたくない。

かといって今のままでは駄目だ。

どうにもならない。

紫闇(じぶん)は彼等のような特別では無かった。

そう証明されている。


「もう終わったも同然だろう……!」
 
 

 
後書き
負けるのは原作通り。

少し変えてますけど。

オリキャラの出番が来ないな。
_〆(。。) 

 

呪縛

 
前書き
やっとオリキャラが再登場。
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》は家を出る。

気を紛らわす為だ。

街を徘徊するが気は晴れない。

降りだした雨に打たれて歩く。

目前で魔術学園ではない一般校の生徒が以前、《江神春斗/こうがみはると》にやられた【刻名館学園】の連中に絡まれていた。


(俺が行っても無駄だろうな。[狩人(ハンター)]に通報して後は任せることにしよう。ここで動いたって俺が痛い目に()うだけだ)


なのに紫闇は【魔晄外装(まこうがいそう)】を出す。

そして刻名の集団に近付く。

気付くと彼は後ろから不意討ちを喰らわせ一人を殴り倒してしまっていた。


(ああー……そういうことか。もう取り返しが効く時期は過ぎちまってるのか)


大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》への憧れは紫闇の心に巣食い、人生に根を張っているらしい。

まるで『呪縛』のようだ。


(俺が特別じゃないとかモブキャラだとか、んなもん知ったことかよ。負け犬で終わっちまう人生なんか嫌に決まってんだろッ!!)


刻名館の生徒は紫闇が前に逃がしてしまった相手だということに気付いて激昂し、外装を出すと一斉に襲いかかってくる。

しかし紫闇は逃げない。

今の彼は《佐々木青獅(ささきあおし)》と戦った時、そして以前に刻名の生徒達から逃げ出した時のようなことは絶対にしないと決意していた。

もう恐怖や苦痛に負けたくなかったから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


五人の集団に突っ込み拳を振るった紫闇だったが簡単に攻撃を躱されてしまう。

空振りした紫闇が体勢が崩れたところを躱した男子とは別の男子が背中から攻撃する。

(たち)の悪い不良が多いことで有名な刻名館の生徒だけあって喧嘩慣れしているらしい。

仲間との集団戦闘もお手の物。

学校での訓練をサボってはいても、恐らく佐々木青獅より手強い相手のはずだ。

紫闇はダメージのせいか耳が聞こえ難い。

打ち所も悪かったのか頭も痛くなってくる。


「ちく、しょう……! なんて弱いんだ……俺は……! こんな連中にさえ……」


紫闇の劣等感が怒りと化す。

更に怒りが闘志となって点火する。

彼の中で何かが爆発した。


『必殺技』


これまでのように【魔晄(まこう)】を右拳に集め金色に輝かせると刻名館の生徒でもリーダー格のような男子に狙いを付けて踏み込む。

彼等は何故か微動だにしない。


(なら遠慮なくッッ!!)


渾身の力を相手の顔面にぶつけた。

直後、今までの必殺技とは比べ物にならない爆発が起こり金の粒子が飛散して辺りを包む。

リーダー格は吹き飛んで水たまりに落ちたまま立ち上がってくることは無い。

完全にKOしたようだ。


(何だ今の。火事場の馬鹿力……なのか?)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一人を倒したがまだ四人居る。

士気を取り戻した刻名の生徒は取り囲んで四方から紫闇の守りも構わず叩きのめす。


(どれだけ奮起しても、どれだけ強い想いを持っていてもモブキャラなことに変わりはない)


だから掴めないのか。

勝利の栄光を。

紫闇は激しい変化を欲した。

運命を覆すほどの。


「無駄にしつこかったな」


刻名館の生徒が外装に力を込める。

止めを刺す気だろう。

彼等がその一撃を振るおうとした直前、予想外の乱入者が鈴の音色を響かせ現れる。


「楽しそうだね。私も混ぜておくれよ」


声の方には一人の女子と青年。

紫闇は二人を知っていた。

少女は《江神春斗(こうがみはると)》に助けられる前に老人と一緒に居てぶつかりかけた娘だ。

黒い帯に白い甚平(じんべい)という姿。

背は紫闇より僅かに低い。

紫闇が170cmくらいなので165cmくらい。

長い(つや)の有る黒髪には鈴飾り。


青年は全身が真っ白。

薄幸が似合う線が細い美形。

背は180cmほど。


(あの人が何でこんな所に)


彼は紫闇の幼馴染みで《エンド・プロヴィデンス》の兄でもある《永遠(とわ)レイア》と言い、紫闇が実際に知る【魔術師】の中でも《的場聖持(まとばせいじ)》と並ぶ最強の部類。


「ちょっと待ってて紫闇。直ぐ終わるから」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レイアの放った言葉の直後、幼さの残る美貌の少女は猛獣が獲物に見せるような恐ろしい笑顔を見せると白銀の[魔晄防壁]を展開。

次に顕現したのは彼女の外装。

右腕の肘から先を隠している。

(いか)めしい黒鉄の籠手。

紫闇の外装と同じような形状。

規格外と言われる欠陥品の外装だった。


が、その強さは桁外れ。

手加減しているのは解るが見えない。

紫闇の五感では捉えることが出来ない程に少女は迅速果断に躍動している。

少女の鈴飾りが鳴る度に刻名館の生徒は体から馴染みの無い音を鳴らす。

紫闇は()れる音が何か気付く。

人体の破壊される音だ。

少女は訳が解らない速さで武術を行使しながら人の体で破壊の調(しらべ)を奏でている。

彼女は愉しそうに嬉しそうに(わら)う。

恐ろしくて勇ましく、(おぞ)ましいのに美しい蹂躙を眺めていた紫闇だが、遂に意識を手放して眠りに落ちた。
 
 

 
後書き
必殺技で殴った時に刻名館の生徒が止まっていた原因は話が進むと出てきます。
_〆(。。) 

 

弟子入り

 
前書き
早送り早送り。

原作がクトゥルフネタを使ってます。

原作に有る弥以覇のギャグはカット。 

 
気を失った《立華紫闇(たちばなしあん)

彼は何故か見知らぬ場所に居た。

真っ白で広大な空間。

地平の果てが見えない。

本能的に限りが無いことが解る。

そこに在るのは【門】

古びて黒い。

そして途轍もなく巨大(でか)かった。


(なんだこれ……?)


不気味だ。

名伏し難い恐怖が溢れる。

けれど懐かしい。


(何処からか……)


遠方からの音楽。

奏でられている。

耳に心地良いものでない。

おどろおどろしい醜さを含む。

騒がしい害なす悪響。

紫闇の体が溶けていく。


そして『何か』を見る。


(あっ)


誰だと思う間も無く意識は暗転した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇が(まぶた)を開く。

一人の老人と白銀の髪を持つ青年。

青年は《永遠(とわ)レイア》

紫闇より一才上の幼馴染み。

老人は《江神春斗(こうがみはると)》に助けられる直前、黒髪の少女と一緒に歩いていた祖父らしき人物。


「起きたか小僧」

「目が覚めたみたいだね」


二人が声を掛けた直後、少女が現れる。

紫闇は彼女が【刻名館学園】の生徒を相手に尋常でない強さを見せていたことを覚えていた。

彼は上半身を起こす。

どうも屋敷の居間っぽい。


「怪我が治ってる……?」

「企業秘密というやつかな」


レイアが微笑みながら告げると紫闇は彼の方を向いてその姿を眺めだした。


「久し振りですね。レイアさんと会うのは」

「一年くらいフラフラしてたからなぁ」


少女と老人は二人の様子を見ているだけで何かしようとする気はないようだ。


「取り敢えず自己紹介でもしておけば?」


レイアに促された紫闇が名乗る。


「助けてくれてありがとう。俺は【龍帝学園】の一年生で立華紫闇って言います」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あたしは《黒鋼焔(くろがねほむら)》。君と同じ龍帝学園の二年生だよ。そしてこっちが」

「ワシはこの屋敷の主で焔の祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》じゃ」


紫闇は何故彼等が自分のことを助けてくれたのかを尋ねてみることにした。


「いや、助けるつもりなんて無くてね。ただ暴れたかっただけなんだよ。その為にレイア兄さんと街をウロウロしていたんだ」

「ワシは孫とレイアが拾ってきた奴を無下に放り出したくなかったから屋敷に入れたんじゃよ」


別に好意ではなく、興味や気紛れで紫闇のことを助けてくれたのだろうか。


「感謝するなら彼にした方が良い」

「今は修業の旅に出とる焔の両親とワシが認める後継者の一人がレイアじゃからの。貸しを作っておくに越したことはないわい」


紫闇は再びレイアを見る。


「何が有ったか話してくれないか?」


その言葉に紫闇は事情を語り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇から話を聞いたレイアは彼が強くなりたいのだということを理解できた。

【異能】が宿らない『規格外』と言われている【魔晄外装(まこうがいそう)】でありながら、焔が何故あそこまで強いのかという秘密を知りたがっていることも。


「一応言っておくけど」


焔が右腕に外装を顕現する。


「確かにあたしは君と同じ規格外の外装を持つ【魔術師】。でも今は違う。異能も【超能力】も使えるんだよ。まあ使わなきゃならない相手なんて数えるくらいしか居ないけど」


レイアは弥以覇に目配せした。


「立華の小僧よ。我等が【黒鋼流体術】を修めれば焔には勝てんかもしれんが有象無象に負けることは無い。弟子入りしてみるか?」


願ってもいなかった誘いに紫闇は驚く。


「はい、弟子にして下さい!」

「良い返事じゃな。では聞かせてもらおう。貴様は何の為に強くなろうとする?」


弥以覇から気の塊をぶつけられるような圧力と鋭い視線が放たれた。

紫闇は思わず(ひる)みそうになるも、『負けてたまるか』という思いで耐え抜く。


「自らの力で道を切り(ひら)き、胸を張りながら己の道を一直線に歩む。その為に力が欲しい。強くなり限界を超えて、その末に過去の英雄達のような輝かしい存在になりたいんです」


レイアが肩を叩くと弥以覇が大きく息を吐いてポリポリと自分の頭を()いた。

そして僅かに口の端を上げて笑う。


「貴様も馬鹿野郎の一人というわけかよ」

 
 

 
後書き
原作と違って焔の両親は白鋼水明に殺されていないのでオリキャラから習った戦闘技術や写輪眼の特殊能力を覚醒させた上で長い修業の旅に出ました。

目標は異能を抜きにした魔晄と外装の力だけで水明に勝てるようになること。

二人も焔も黒鋼以外の力も使えば楽勝なんですが黒鋼の力で勝つことに拘っています。 

 

刻印

 
前書き
キャラ設定の紹介は何時しようかな。
_〆(。。) 

 
黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は《立華紫闇(たちばなしあん)》の弟子入りを認めると、後のことを《永遠(とわ)レイア》と《黒鋼焔/くろがねほむら》に任せて出ていった。


「紫闇って空手やってたよね?」

「二ヶ月しかやってませんけど」


レイアの質問に紫闇は思い出す。

彼は《朱衝義人(あかつきよしと)》に出会って直ぐ後に力と強さ、戦闘能力を求めたのだ。

義人に近付く為に判りやすい強さを得る。

それで周囲に自分を認めさせようと。

しかし【魔術師】や【超能力者】という一般的な常識では(はか)れない存在が珍しくない世界で武術というのは特に評価されない。

だから紫闇のことを認めてくれるのは相変わらずレイアや《エンド・プロヴィデンス》、《的場聖持/まとばせいじ》の三人のみであった。

なので空手は辞めている。


「良かったな焔。他流の型は覚えてないぞ。【黒鋼流体術】の指導がやり易くなる。問題は飲み込みの早さと成長率というわけだな」


焔はレイアの言葉に頷く。


「入門テストだよ。一応ね」


彼女は手を差し出す。


「あたしの手を握って。その状態で【魔晄防壁】を展開するんだ。君が魔術師としての【異能】や超能力を持ってるんならそれも見せてもらうところなんだけどね」


紫闇は言われた通りにする。

その瞬間、焔の顔から感情が抜け落ち何を考えているのか読み取れなくなってしまう。


「兄さん。知ってたね?」


レイアに向けられた焔の虚無を宿した瞳に紫闇は思わず氷点下になったような冷気を感じ、得体の知れない寒気に襲われた。


「まあ紫闇が普通じゃないのは昔から判ってたから放置してたんだよ。僕達がむりやり鍛えたところで意味は無いだろうしね」


どういうことなのか。


「合格だよ紫闇。これから宜しく。君もあたしを焔って呼んでくれると良い。年上だけど気にしないで良いから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


無事に黒鋼へ弟子入りした紫闇は出来るなら屋敷へ住み込む方が良いと言われ、一旦レイアと自宅に帰り、必要な荷物を纏める。

家族への連絡は無し。

どうせ何の心配もしないから。

そして弟子入りした日から二日後の朝、紫闇は黒鋼の屋敷に有る居間で弥以覇と共にテレビを眺めていた。

無明都市(ロストワールド)】の特番をしている。

画面には白髪の大英雄。

紫闇の憧れ義人だ。


『今から7年前、2064年』


ナレーションが流れる。

紫闇が義人に救われた一年後。


『朱衝義人が率い、彼を含めた世界で最強の魔術師7名からなる特殊部隊として名を馳せていた【マジェスティックセブン】』


この地球上で彼等七人を知らない人間の方が遥かに少ないとされ、宗教や文化、地域を問わず、尊敬の対象となっている偉大な魔術師達。


『彼等が日本の[東京]で《ナイアー=ラトテップ》と激突し、その結果として昨年までは『史上最強』と言われていた《神代蘇芳(かみしろすおう)》を除くマジェスティックセブンの6人を犠牲に最後の【旧支配者(オールドワン)】が封印されました」


当時10才に満たなかった蘇芳は後に魔神となり、『全世界の魔術師の頂点』と言われるまでに成長したが、昨年に現れた学生魔術師によって遺体も残すこと無く消滅させられてしまう。

その最期は最高の歓喜に満ちていた。


『世界は救われ人類が勝利したと思われた時、如何(いか)なる力によってかナイアー=ラトテップは謎の[黒い粒子]を世界中に放ったのです。それは特定の地域を覆い尽くし、今日(こんにち)まで続く無明都市が生まれることになりました』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


テレビの画面は【無明都市/ロストワールド】を上から撮影した映像に切り替わり、闇色をした半円球状のドームを映し出す。

中がどうなっているかは不明。


『無明都市は世界に千個が生まれました。日本は東京が丸ごと闇の世界と化したのですが、昨年に現れた新しい四人の魔神によって無明都市が解放されているので世界に現存するのは999個になっています』

しかし解放された東京は【聖域】と化す。

聖域は旧支配者などの【上位存在】や魔獣とは似て非なる者達の棲み家となった。

聖域に現れた【精霊】は東京に結界を張って外界と隔離しておりこう告げている。


「我々は人類と敵対するつもりは無い。しかしこの東京という地から追い出し排除しようと言うのならば全力を持って抗うことになる。その代わり東京の在る日本に何か有れば協力させてもらうぞ」


そう言って人間が一人も居ない東京に無数の精霊が棲み付いてしまった。

精霊を排除しようにも結界を通れるのは限られた存在のみであり、精霊の中には上位存在クラスの強さを持つ者が多く居たので手が出せない。

日本政府は仕方なく全ての権限を放棄して、東京が日本の領土でない状態とする。

精霊の条件を受け入れた格好だ。


『無明都市が形成されて(のち)、人類を導く上位存在の【古代旧神/エルダーワン】は【古神旧印/エルダーサイン】というものを魔術師に与えたのです』


それは次のようなもの。
 
魔術師の左手の甲が画面に映った。

そこには一つの[五芒星/ペンタグラム]と、それを取り囲むように配置された一つの[五角形/ペンタゴン]によって構成された10本の線で描かれる模様。

普段は目を凝らさねば判別できないほど薄い。

しかし【魔晄外装/まこうがいそう】を出すとはっきりと手の甲に浮かぶ。

もちろん紫闇の手にも有るが……。


御主(おぬし)はまだ【天覧武踊(てんらんぶよう)】に出とらんからの。この画面に映っとるのは完成した刻印じゃから気にするでない」


紫闇は弥以覇に頷きナレーターの話を聞く。


『古神旧印は初期状態だと一つの点に過ぎませんが他の魔術師と交戦して気絶させることで相手の刻印を奪うことが出来る。こうして刻印が成長し、完成した時に無明都市を一層分解放できます』


古代旧神が何故こんなシステムを作り、彼等自身の手で救わないのかは謎に包まれている。


『日本において刻印の完成者、つまり魔神の称号を得たのは昨年に亡くなった

鉄拳の女帝《白鳥マリア》

暴食《夢国亞理栖(ゆめぐにありす)

気狂い道化《外山道無(とやまみちなし)

オール・タイム・キング《神代蘇芳》

の去年までの世界最強四名と、彼等を倒し彼等に次ぐ都市解放者となった

《皇皇皇/すめらぎこうのう》

《夢絶叶/むぜつかの》

《ミディア・ヴァルトシュタイン》

白良々木眩(しららぎくらむ)

新たな四名の魔神です』


日本は無明都市を消し去ったが他の国はまだ被害者が闇を払うことを待ち望んでいる。

多くの人命と関係者の救済を行うべく魔術師は天覧武踊を盛り上げて数多くの戦いを乗り越え、刻印の完成を急がねばならないのだ。
 
 

 
後書き
焔は同い年のレイアを兄さんと呼んでいますが別に実の家族ではありません。

エンドとレイアの二人は《白鋼水明》から焔の両親を助けたことによって、彼女から非常に(した)われ懐かれています。

精霊は某ゲームのモンスター。
_〆(。。) 

 

練氣術

 
前書き
原作を読んで疑問だったんですが、普通の魔術師が使う魔晄は白銀なのに、なぜ黒鋼流の練氣術や特定の魔術師の魔晄が黄金なんだろう。

特に紫闇の必殺技は黒鋼に来る前から金色だったのに威力が無かったし。 

 
黒鋼での修業。

その始まりは普通。

ストレッチに筋トレ、ランニングと至って健全なスポーツな内容を朝から昼まで行った。

立華紫闇(たちばなしあん)》は拍子抜けする。


「よく鍛えてあるね紫闇は。その割りに戦闘技術は素人でお粗末だけど」

「紫闇は8年くらいトレーニングを続けて体力付けてるし体も作ってるからな」


黒鋼焔(くろがねほむら)》の感心に《永遠(とわ)レイア》が頷く。


「なら次はアレにしよう」


そう言って焔は午後の修業に移る。

黒鋼の屋敷に在る道場で紫闇を待ち受けていたのは高さ2メートル程のピラミッド。


「見本を見せるよ」


焔がピラミッドに向かって小さく跳ぶ。

このままでは体育の[跳び箱]で失敗する人みたいに激突してしまう。

そう思われた時、彼女の背中から黄金の粒子が噴き出して体が浮き上がっていく。

そのまま軽くピラミッドを飛び越した。


「これは黒鋼流に伝わる【練氣術】で、今の技は『三羽鳥(さんばどり)ノ一・音隼(おとはや)』と言うんだ」


この技を覚えるのにリモコンで高さを調節できるピラミッドが便利らしい。

紫闇は声を震わせながら焔に尋ねる。


「これは【異能】……なのか? でも外装のタイプからして有り得ないよな。そもそも外装を出してないし、【超能力】だったり……?」


紫闇は先日に焔の外装が異能を宿さない【規格外】ではあるものの、異能や超能力を使えると聞いているのだが、もう一度確認をしてみた。


「違うよ。【魔晄外装(まこうがいそう)】を出してないから【魔術師】の異能じゃないのは判るだろう? それに超能力みたいなのも使ってない」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇の考えは否定される。


「練氣術は【魔晄操作】の技術を極めた先に在る黒鋼流の技法であって、音隼は練氣術で使えるようになる黒鋼流の技でしかないよ」


焔の言葉に紫闇は驚きを隠せない。


「紫闇の気持ちは解る。魔晄操作は魔術師が魔晄外装を出せるようになる前に覚えるものだからね。魔術師のみんなが使っている身体強化や魔晄防壁みたいにして使うだけしかイメージがないんだろう?」


レイアの言う通りだ。

その身体強化や魔晄防壁も突き抜けて優れたものにしてくれるわけではない。

世界でも上位の魔術師は別だろうが。

紫闇にとって魔晄操作は魔術師ならば誰にでも使える特に大したことがない技術。

もちろん目新しさは無い。


「大半の魔術師間ではレイア兄さんが言った認識で正しいと思うよ。ちょっとした身体強化や防御にしか使うものじゃあない」


しかし魔晄操作を黒鋼流でいう練氣術の域まで使えるようになると、生半可な異能よりも遥かに強力で厄介なものになるという。

飛行能力・桁外れの攻撃力・鉄壁の防御・超人的な速度に人外的な身体能力。

異能のように解りにくい特殊なものではないが、基本を磨き抜き追求した力を得る。


「魔術師の魔晄はドラゴンボールの[気]とハンターハンターの[念能力]における基本の四大行と似たようなものかな?」


紫闇は二人の話に疑問を覚えた。

そんなに上達した魔晄操作が強力なのに、なぜ魔術師は使わないのか。

最もな意見だ。

扱いが難しい、使いどころが限定される異能を持った魔術師の場合なら尚のこと。

何せ練氣術は下手な異能を必要としないほどの圧倒的で解りやすく、シンプルかつ単純な、

防御が堅い

動きが速い

攻撃が重い

つまりは強い

を体現してくれるのだから。


「使わない答えは簡単。普遍的な魔術師は【魔術学園】でやってるみたいな訓練を繰り返して【天覧武踊】の実戦で経験を積みながら自分の異能に習熟したり、使い方に幅を持たせた方が遥かに早く、効率的に強くなれるから」


レイアは小細工や特殊能力より魔晄操作のような基本の土台と基礎能力の高さを重視している魔術師なので魔晄技術が無駄だと思わない。

魔晄以外にも力を使える身としては。

紫闇は焔達の話を聞いて悟る。

練氣術は異能を使えない規格外の魔術師が戦う為に覚える技術なのだと。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なるほど。確かに異能の使い方を習熟させた方が早く強くなれるよな。だからみんなは練氣術と同じ発想に至らないのか」

「魔術師は異能を宿した魔晄外装が全てで異能を頼りに戦うのが当たり前。だから外装の形状や型に合った使い方を身に付けていない奴や魔晄に対して質量しか見ていない奴も居る」


紫闇の言葉にレイアは嘆く。


「対して紫闇やあたしみたいに異能無しの規格外が持つ外装は頑丈なだけのガラクタ。普通の人間がその辺に置いてある物で殴るようなもの。打撃の威力がちょっと上がるくらいにしか役に立たない」


だから規格外は普通の魔術師や超能力者と同じ戦い方で勝つことは有り得ないのだ。

相手の魔晄防壁が弱くて薄かったり魔晄が切れたりした場合は別なのだが。


「黒鋼一族は代々魔術師なんだけど、何故か規格外の人間しか生まれなくてね。だから普通の人間にも出来る武術と【魔晄(まこう)】に着目して一般的な魔術師とは違う戦闘技法を編み出したというわけなのさ」


焔は黒鋼の先達(せんだつ)が千年以上に渡って研鑽し、磨き、練り、積み上げた果てに漸く完成した一族の黒鋼流体術に自信を見せた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

殺意の壁

 
前書き
キャラ設定を先に出すか後に出すか。
_〆(。。) 

 
「【音隼(おとはや)】は【魔晄(まこう)】を背部から放出して推進力を得る技術。これに限らず【練氣術】はイメージが大切だから気を付けるんだよ」


《黒鋼焔》は《永遠レイア》に実演を頼む。

先に焔が見せた見本の発展形をするらしい。

焔はリモコンでピラミッドの高さを下げた。

それをレイアが跳び越す。

すると焔が高さを上げる。

その繰り返しだ。

やがて人間では跳べない高さになるとレイアは音隼を使って飛び越えてきた。


「あんな風に何度も跳んで浮遊や飛行の感覚を掴んでもらうというわけさ」


焔はピラミッドの高さを最低にする。


「緊張しなくて良い。僕が思うに紫闇は音隼を修得する為に必要な条件を満たしてるから。遅くても一月あれば覚えられるよ」


レイアは紫闇の肩を叩いて緊張をほぐす。

彼の言葉を信じて技のイメージ。


(背中にブースター。そこから魔晄の噴射。それにより推進力を得て飛行)


ピラミッドに向かって跳んだ紫闇は何かが開き跳躍とは違う感覚を得た。


「……一発で修得するとは思わなかったよ」


焔はドキドキしてしまう。


「僕どころかエンドですら初見では音隼を使えなかったんだけどなぁ……」


レイアも驚いている。

しかし二度目は制御できず、道場の天井にぶつかりそうなところをレイアに助けられた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ところで紫闇は疲れてない?」

「大丈夫だよ」


紫闇は焔の問いに余裕を見せる。


「僕の知る限り紫闇は昔から普通の【魔術師】と比べて魔晄の総量が多いんだ。肉体はそれなりに出来てるから黒鋼流体術に適した作りに変えてしまおう。取り敢えずは『喰牙/くうが』を覚えてもらおうかな」


そう言うとレイアは受け手に回って焔と組手を行い紫闇に喰牙を見せることにした。

レイアが踏み込むと『ガッ』、『ベキリ』という音がしてレイアは地面に転がる。


「喰牙っていう強そうな名前だけど別に何も面白くない技だろう? 先ずはこれを」

「焔、紫闇の動体視力じゃ見えなかったみたいだ。紫闇、魔晄で身体能力を上げておいて。それなら何をやったのか解る筈だ」


紫闇は現時点で身体能力の最大強化をしても恐らくは通常の2倍程度だろう。

そもそも殆どの魔術師はそれに頼らず魔晄防壁の防御力に重点を置いている。

なので紫闇でも銃弾を弾く位は楽勝だ。

しかし回数を重ねる度に速度を落としてくれている組手を見てどういう技か理解した。


(相手の突きに合わせて相手の側面に回り込む。そして伸びきった相手の腕に自分の腕を絡める。次に肘の関節を極めることが出来たら[脇固め]の形に持っていく)


問題はそこから。

その状態から肘を折りながら相手を地面に倒し伏せて頭に足を落とす。

下手をすれば死ぬ。

相手が死んでも良い古流の実戦技。


(人を殺せる技を見て興奮してるのか俺?)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇はレイアと焔から喰牙の動き方を一工程ずつ説明してもらい、反復練習。

その後に喰牙(くうが)の修得に入る。


「実戦だと男女は関係ないけど最初はやり辛いだろうからね。僕に技をかけてみよう」


レイアの突きを(かわ)した紫闇だが技は失敗。


「この技に力は要らないよ。リラックスリラックス。体は羽毛のように軽くを意識して」


焔の言葉に紫闇は何度も練習する。


(やっぱり俺は運動の才能ねーな)


しかし根気良く続けたことで全体の流れや技の8割方は問題が無くなってきたので事実上は修得できたと言えるのではないだろうか。

だが焔は不満だったらしい。


「何で腕を折らないの? 転がした後の踏み付けも寸止めしちゃってるし」


彼女の冷めた声に怒りを感じる。

子供を叱るような。


「折らなきゃ駄目なんだよ紫闇。大事なことを教えるから覚えておいて。強くなりたいのなら『笑って』殺せるようになれ。でなければ上に行けないから」


レイアの言葉に紫闇は目を見開く。

紫闇は焔を失望させ破門になることを恐れた。

今の彼女はそう思わせる凄味が有る。


「出来ないなら僕が鍛えるか[改造]するしかないけどオススメはしない」


レイアの言う改造とは何なのか。

得体の知れない恐怖が襲う。

紫闇は覚悟を決めた。


(せっかく修業が始まったばかりのところだって言うのに終われない)


レイアが腕を伸ばすと紫闇の腕が絡まり肘を極めたままへし折られてしまう。

その感触に紫闇の脳が痺れる。

しかしこれで終わりではない。

続けてレイアの体が地面に引き倒されると潰すかのように頭が踏み付けられた。


(何だこの爽快感? 笑ってるのか俺?)


紫闇は心の奥から何かが流れ込み、自分が別の何かに変わってしまう。

そんな感覚に(とら)われる。


「良いね。その笑顔だ。一通り黒鋼を修得できた人間はみんなそんな風になる。例外は兄さんとエンドくらいだけど、それでも黒鋼一族(こっちがわ)の気は有るからね」
 
 

 
後書き
黒鋼の技は名前や読みが原作と変わっていることが多くなりそう。

オリキャラの大半は自身の最低と最高の範囲内で強さを調節することが出来ます。

やらないと紫闇がレイアの腕を折れない。
_〆(。。) 

 

異常な弱者

 
前書き
とにかく原作一巻分までは書きたい。
( 。゚Д゚。) 

 
喰牙(くうが)』という技を会得したところで初日は終了することとなった。


「レイアさん。腕が折れてるんだけど明日からは一体どうするんですか?」


立華紫闇(たちばなしあん)》が気遣うと《永遠(とわ)レイア》の折れた右腕が淡い緑の光に包まれる。


「はい。これで心配ないよ」


レイアは動かせなくなっている筈の右腕を事も無げに持ち上げて見せた。


「な、何が起きたんだ!?」


当然だが紫闇は驚く。


「黒鋼流【練氣術】の一つだよ。もっと酷い怪我でも治せるんだよねー」


出鱈目すぎる。そんなことを思いながら紫闇は顔を引き攣らせるのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そしてその日の夜。

レイアは三人で話をしていた。

相手は《黒鋼焔》と《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)

話題は紫闇について。


「一目で出来る奴だとは思ってたけど、ここまで成長過程を飛ばすとはね」


焔にとって紫闇は異常。

何故あれで弱者なのか。

特に【魔晄(まこう)】の総量がおかしい。


「儂等の練氣術は別に【異能】を持たぬ【規格外】でしか使えぬわけではないから【魔術師】であるならば理論上は誰でも覚えられる。最低でも並みの魔術師基準で数十倍の魔晄量を必要とするが」


弥以覇の言うように黒鋼流の練氣術は絶大な効果を発揮する代わりに尋常でない魔晄を消費してしまうという不可避の難点が有る。

なので殆どの魔術師は魔晄を増幅する為の修業から始めるのが普通なのだ。

黒鋼式の増幅修業を要求通りにこなした場合、常人よりも頑丈に出来ている筈の魔術師が千人居たとして999人は死ぬと思って良い。


「莫大な量の魔晄を手に入れるには大きなリスクを背負わなきゃならない。だから修業の最中に問答無用で脱落していくことになる。それに魔晄の総量が条件を満たしても更に厳しい修業が待ってるわけだし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レイアの言う増幅の次。

魔晄を特殊な形で操る修業。

苛烈なのは増幅の修業と同じ。

例え増幅修業の段階を乗り越えた才能と強靭な精神に加えて悪運を持ち(あわ)せた者が千人居たとしても、一人が生き残れば黒鋼から見て上出来と言える確率だろう。

基本的にここで間違いなく死ぬから。

単純計算で平均値でも中央値でもなく、一番多い最頻値の魔術師だと100万分の1以下でしか黒鋼流練氣術を修得できる可能性は無いのだ。

しかも練氣術と同じ発想をしたり練氣術レベルの魔晄操作技術や知識に触れる機会など魔術師全体で見ても皆無に等しいだろう。

最初から天然で練氣術と同等の魔晄操作を出来ていた者は現在の世界で20人も居るかどうか。


「しかし紫闇という小僧、増幅と操作の過程を飛ばすとは面白いのう。そんなことが可能な『人間』は去年おっ()んじまった史上最強の《神代蘇芳/かみしろすおう》やレイア、エンド、今の日本に居る【魔神】みたいな奴等くらいじゃろうて」


ならば紫闇は何なのか。


「兄さんは彼と幼馴染みだから気付いてたんだろうね。【神が参る者(イレギュラーワン)】だって」


焔の指摘にレイアが口を開く。


「99%そうだろうなあ。知り合いと同じ感じがするし【神仏魔性(ディバイン)】とは明らかに違うし弥以覇さんなら判別できるんじゃ」


弥以覇は夜空を見上げた。


「ふっ、60年以上前から終戦まで散々に()り合った連中と同じ匂いがしとるよ」


彼はかつてのことを思い出す。

今や世界中に殆ど残っていないだろう最前線の更に中央や隠れた死地の経験者。

黒鋼弥以覇は60年前に終結した【邪神大戦】に身を投じて戦っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


人類と上位存在の戦争が邪神大戦だが全ての上位存在が敵だったわけではない。

人類に味方する半数の上位存在は【古代旧神/エルダーワン】と呼ばれ、敵になった上位存在は【旧支配者/オールドワン】と呼ばれた。

しかし弥以覇にとって敵味方などは無く、かと言って善悪も興味の対象では無く、ただ強いか弱いかこそが重要な事柄であったのだ。

もし強いなら立場や状況など無視して等活地獄に居る修羅の如く挑み掛かって()く。

黒鋼一族が持つ戦闘狂の(さが)を抑えず本能の望むまま、ひたすら闘争に明け暮れた結果として、弥以覇は大戦が終わる立役者となる。

しかしあまりに無軌道で無差別に暴れ回ったことで功績は無かったことになり、その存在は歴史の闇へと葬り去られてしまう。

本人はどうでも良いと思っているが。

三千年に及ぶ邪神大戦の中で最も上位存在を倒した紛れもない黒鋼一族史上最強の鬼神。

それが黒鋼弥以覇である。


「あの頃は(たの)しかった」


道を歩けば鬼に当たるような時代。


「特に上位存在は面白い好敵手じゃった。まあ【神が参る者(イレギュラーワン)】には一段劣るがの」


神が参る者/イレギュラーワン

それは上位存在を宿す人間。

強さは宿した上位存在の強さに比例するが、彼等は例外無く化け物と言って良い。

上位存在は人間に宿ると互いの力を引き上げる性質を持つのだが、宿主が死んだ場合には宿った上位存在も同時に消滅してしまうのだ。

上位存在は殺されても石化して封印状態になるだけで何れは復活できる。

わざわざ死のリスクを背負ってまで人間に力を与える変わり者は先ず居ない。

だから神が参る者は超絶希少。

焔とレイアは二人有ったことが有る。

一人は紫闇。

もう一人は大戦終結後の約60年において最高の大英雄とされた紫闇の憧れ《朱衝義人(あかつきよしと)


「彼には失望させられたねぇ。紫闇にはあんな風になってほしくないよ」


義人は焔が望んでいたような『鬼』にはならず、レイアと同じように『人』として在り続ける道を選んだのだので焔に嫌われている。

レイアが義人と同じでも焔に嫌われていないのは両親の恩人であり、自分よりも強く、黒鋼一族のような鬼と同じことが出来るから。


「僕は義人さんのこと嫌いじゃないんだけどな。そこそこ話が合う人だったし」
 
 

 
後書き
原作は弥以覇さんのイラストが無い。

過去編を見たかった。

個人的に神代蘇芳より若い頃の鬼神だった弥以覇さんの方が強いと思ってます。
_〆(。。) 

 

そうだったのか

 
前書き
原作の焔は両親を殺された復讐の為に命を削って強くなりましたが、この話の焔は命を削らずに原作よりも強くなっています。

魔術師としての力だけで。

レイアやエンドから伝えられた戦闘技術やオリジナル設定で覚醒した写輪眼などの能力もフルに活用すると原作で登場した中で最強の魔術師であり【魔神】である《神代蘇芳》の実力を優に超えています。
_〆(。。) 

 
翌日の修業。

午前は昨日と同じ。

ストレッチ・筋トレ・ランニング。

これを昼まで。

午後は上下が黒の胴着を着て道場へ。

ここまでは前日と変わりない。

黒鋼焔(くろがねほむら)》は今日の課題を出す。


「もう覚えた『音隼(おとはや)』は慣れていけば実戦でも十分なレベルになるだろうから別の【練氣術】を覚えることにしようか」


告げられたのは『盾梟(たてさら)』と『禍孔雀(かくじゃく)

《立華紫闇(たちばなしあん》には想像がつかない技だ。


「百聞は一見にしかず。音隼と二つの技を用いて演舞するから見ててくれ。身体強化した状態でね。『喰牙(くうが)』の見本を見せた時の組み手とは比較にならないほど速いから」


永遠(とわ)レイア》と焔が向かい合う。

先ずは焔が動いた。

彼女の背中から黄金の粒子が翼に見えるような勢いで噴き出し一瞬でレイアとの間合いが侵食され格闘する為の距離となる。

昨日の修業で紫闇も身に付けた黒鋼流練氣術の一つ、[三羽鳥(さんばどり)ノ一・音隼]

この技では高速運動に加えて飛行も含めた立体的な機動も可能となるが、紫闇の前で出されたものは彼のそれとは全く別物。

繰り出す使い手の実力と技の熟練度・完成度が増せばここまでになるのだ。

しかしこれは演舞。

攻守が有る戦闘。

続きが有る。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


焔の足から【魔晄(まこう)】の粒子が発生した。

背中のように噴射。

宙を舞いながら踊るように前後左右へと体を振りながら動き回り右足での蹴撃。

華麗な足技はレイアの左腕で防がれた。

互いの攻守が入れ替わる。

レイアは魔晄の防壁と(ゆる)い身体強化のみ。

武器の【魔晄外装】は出さない。

しかしそんなことはまるで気休めにならないような疾風の駆動で接近すると彼の左脚が(なめ)らかに鋭く跳ね上がった。

狙うは焔の右側頭。

だがこめかみに入る直前、焔の魔晄防壁が膨張して迫る蹴り足を受け止める。


「これが三羽鳥ノ一・盾梟(たてさら)。魔晄防壁をより強固なものとする技」


焔の右拳が輝く。

【刻名館学園】の不良を一撃で沈めてみせた紫闇の[必殺技]と同じように。

彼女の雰囲気が激変した。


「よく見ておけ紫闇」


レイアが眼前で両腕を交差させ守りに徹す。


「破あッッ!!」


焔が突き出した拳がレイアに触れると爆発して拳を包む金の魔晄が粒子となって飛散する。


「三羽鳥ノ一・禍孔雀(かくじゃく)。御覧の通り打撃の威力を上げる為の技だよ。全ての打撃技が必殺と言って良い威力に変化するから便利」

(そうか。俺の必殺技は禍孔雀だったのか)


紫闇は焔の禍孔雀を見て呆然とした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は盾梟の訓練に移る。

用意されたのは何やらピッチングマシーンに似た[鉄球ぶつけ装置]という機械だ。

何でもこのマシーンから拳大の鉄球をボールのように発射して紫闇に当てるから、その度に盾で体を覆うイメージをしてほしいという。


「というわけで早速始めようか」


焔の合図でレイアが装置に手を掛ける。


「最初の内は体には当てないけど魔晄防壁は張っておくんだぞ。速度を落とすから飛んでくる鉄球に反応することに注力するんだ」


装置からは50㎞の速さで鉄球が発射されていき、これによって紫闇の感覚を慣らす。

徐々に速度が上がっていく。

そして60㎞に達した時。


「試しに鉄球を横から押してみて。まだ装置の正面には立たなくて良いから。鉄球の勢いと圧力を肌で感じることにしよう」


紫闇は飛んでくる鉄球が自身の前を通りすぎる瞬間に手の平で押してみることにした。

しかし上手くいかない。


「普通の人間がそんな速度で迫る鉄球に怖がるのは当然だから気にしなくて良いぞ。確りと着弾の直前に防壁を操る為の訓練だからな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一時間後、紫闇は70㎞に対応できるようになり、二時間後には80㎞で飛んでくる鉄球の正面に立ってノーガードで受け止められるまでに盾梟を使えるようになる。


「盾梟は音隼より覚え易いかもしれないけど、この短時間で修得するなんて凄いよ」

「そ、そうかな?」


焔の称賛に照れてしまう。


「黒鋼の人間じゃない僕が言うのもなんだけど、黒鋼の人間でも修業の二日目でここまで成長した人って居ないんじゃないかなあ」


レイアの発言に焔が苦笑った。


「まあ、あたしどころか黒鋼史上最強の爺ちゃんですらも修業開始時の初期状態に限定すれば【魔晄】の総量で紫闇に敵わないだろうね。本来やるべき魔晄の増幅と特殊操作の修業をすっ飛ばしちゃってるわけだし」


しかし問題は黒鋼流の修業における初級が終わって次に来る段階であろう。

肉体だけでなく精神にも基礎技術の修得とは比べ物にならない負担を掛ける。

とは言っても修業がその段階に至るまではもう少し余裕が有るので先のことだが。


「さて、じゃあ次は最後の三羽鳥である禍孔雀の訓練に移るとしようか。内容は今までで一番単純。まず拳に魔晄を集中させる。そして突きを出すと同時に『爆発』するイメージ。これを繰り返すだけだよ」
 
 

 
後書き
レイアやエンドのように、紫闇よりも魔晄の量が多いオリキャラが何人も居ます。
_〆(。。) 

 

肉体言語

 
前書き
_〆(。。) 

 
「たしか紫闇って『禍孔雀(かくじゃく)』みたいなの使ってたよな。あの拳が光る必殺技。今どうなってるか見せてほしいんだけど」


立華紫闇(たちばなしあん)》は《永遠(とわ)レイア》に頼まれると【魔晄/まこう】を拳に集めるイメージを行い拳を黄金に輝かせる。

これには《黒鋼焔(くろがねほむら)》も目を丸くした。


「確かに禍孔雀の第一段階だね。この技は黒鋼流の【練氣術】で戦う場合だと三羽鳥の『音隼(おとはや)』や『盾梟(たてさら)』に並ぶ、基本にして奥義の一種なんだけど。でも思い通りに爆裂できないと明かり代わりにしかならないよ?」


その通り。

使えなければ意味は無い。


「刻名の生徒から助けた時に使ったよね? 辺りの魔晄を察知してたから判る。あれが偶然じゃなかったら僕としては嬉しい。修業は次の段階から厳しくなるからね。そっちの方に時間を割きたいんだ」


紫闇は二人の期待に応えようと突きを放つが迫力の無い音と共に拳の煌めきは失われた。

もう一度試すが結果は同じ。


「うーん。まだ制御できないみたいだね」

「むしろここまでが順調すぎたからな」


そう言ってレイアと焔が禍孔雀を使う。

轟音と共に黄金色の粒子が拡散する。

これが格の違いだろうか。

悔しい紫闇は何度も突きを繰り出すが爆裂の規模は変わらず魔晄を消費して息を切らす。


「紫闇はこれまで黒鋼に弟子入りしてきた人間と比べて何年も早く、死にもせず、無事にここまで辿り着いてるんだ。焦る必要なんか無い」

「兄さんの言う通りさ。じっくり行こう」


紫闇は決意する。

禍孔雀を修得して【龍帝学園】に戻り、馬鹿にしていた連中へ目にもの見せてやろうと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇が黒鋼に弟子入りして二週間。

まだ禍孔雀を覚えていない。


「これで初級は終わり。もう一段階上の修業だ。具体的に何をするかと言うと、精神の修養と組み手による戦力の底上げかな」


焔の言葉に紫闇の心が痛む。

佐々木青獅(ささきあおし)》と戦ってボコボコにされたことを思い出したからだ。


「今の紫闇は少しだけ黒鋼の技が使える一般人ってとこかな。戦力や内面は出会った頃と同じ。けどそれも仕方ない。実際に戦わないで強くなれる人間は居ないよ。鍛えて能力が上がることは有ってもね」


そういう焔だがレイアやエンドは例外。

実戦をせずに頭の中でイメージし、架空の相手とバトルをするだけで強くなれる。

一通り相手の戦い方を見ることが出来ればそれだけで問題が無いのだ。

しかしそんな彼等であっても実際には戦闘をこなして経験を積み重ねた。

そうすることでイメージだけの戦いに実戦の経験を加えて一段と早く成長していく。

紫闇は焔の正論にぐうの音も出ない。


(俺は英雄になる)


紫闇は不安を抑え組み手を申し込む。

焔は笑みを浮かべて魔晄防壁を全身に張ると、【魔晄外装】は出さずに深呼吸。

今の彼女は獰猛さを隠さない凶暴な獣が牙を向いたように恐ろしい。

紫闇は恐怖しながら外装を出す。


「基本的には盾梟(たてさら)の訓練と同じで常に魔晄防壁を張るんだ。そして攻撃は盾梟で防ぐ。でないと防ぎ切れないから。それじゃあ左拳で顔を殴るからね」

「組み手なわけだから焔の攻撃を躱しても良いけど今の紫闇には先ず無理だから兎にも角にも防御と予測に絞った方が良いぞ」


紫闇はレイアの助言を耳に入れる。

焔はゆっくりと構えた。

紫闇は彼女の動きを見逃すまいと凝視して攻撃に耐えられるよう踏ん張っておく。

刹那、焔の姿が消失。

時を飛ばしたかのように紫闇の前へ。

瞬く間に彼女の左拳が炸裂した。

嫌な音が口の辺りから響く。

焔の宣言通り顔面だ。

次に激痛。

間違いない。

これは───


(顎が折れた)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


声を出す(いとま)は無い。

焔は直ぐに紫闇を投げ倒し馬乗りになる。

そして悪魔のように口の端を上げて拳を作りながら手の指をポキポキ鳴らす。

腕が振り下ろされた。

殴る、殴る、殴る。

紫闇の鼻が折れ、歯が折れ、頬が折れ、目が見えなくなっても容赦なく躊躇(ちゅうちょ)なく躊躇(ためら)わず拳の爆撃を降らせ沈黙させてしまう。

『粉骨砕身』という四文字熟語を人間の体で表すかの如く全く(もっ)て無感無情に攻撃を止めず紫闇の意識を奪い去った。


「これ、大丈夫かなぁ。体は意外と簡単に治せるけど心はそうもいかないよ? やっぱり最初は僕が戦った方が良かったんじゃ」

「兄さんは甘いからね。元々からして黒鋼のやり方はこんなものさ」


気が付くと紫闇は自分の足で立ち、対峙していたのだが違和感が(ぬぐ)えない。

体に怪我一つ無いのだ。

明らかに重症だったのに。


「ほら気を抜かない。相手に集中」


焔の髪に付いた鈴飾りから音がすると再び彼女の左拳が飛来するが今度は回避する。

しかしこれはまぐれ。

紫闇は何かを考えることも出来ず、無意識にメチャクチャな動きで対応を行う。

命の危機を感じた彼は自身が出来る可能性が有る攻撃の中で威力が最も高いものを本能的に選んだのか禍孔雀のイメージが脳裏に走る。

しかし放たれた黄金の右拳は未完成であり、掴んだ焔の左手で『ポン』と鳴ったのみ。

技の失敗を見届けた焔の長い黒髪は陽炎のように揺らめき左脚が撃ち上がった。

それは紫闇の右太腿(ふともも)に命中。

エネルギーが不足なく伝わり接触した面から『メシャメシャメシャ』と響き出す。


「大腿骨粉砕骨折って感じかな?」


焔が呟くと紫闇がふらつく。

バランスを崩して倒れ伏す。

またもや猛烈な痛み。

勝手に涙が溢れ手が患部(かんぶ)に添えられる。

紫闇は再び動けなくなってしまった。
 
 

 
後書き
エンドのイメトレは【刃牙】のダメージまで喰らう[リアルシャドー]

レイアのイメトレは【終末のワルキューレ】『史上最強の敗者(ルーザー)』《佐々木小次郎》が使う想像と先読みの[千手無双]
 

 

狂気

 
前書き
_〆(。。) 

 
「兄さん。治して」


《黒鋼焔/くろがねほむら》の指示で《永遠(とわ)レイア》が《立華紫闇(たちばなしあん)》に近付き手から緑色をした【魔晄(まこう)】の光を放つ。

すると砕けた大腿骨がみるみる元に戻り、痛みも残らず消えてしまった。


(確かレイアさんは『喰牙(くうが)』で右腕を折られた後に治してたな。同じ緑の光で)


紫闇はレイアの顔を見る。


「これは黒鋼流練氣術の技で【氣死快清/きしかいせい】という。この技を生み出したことで黒鋼一族は極限を超えた努力を可能とし、一族の狂気に拍車をかけた。何せ即死以下の負傷は直ぐに治るんだから」


紫闇は氣死快清の力に驚くが、それ以上にレイアの言う『極限を超えた努力』とは何を意味するのかを悟って全身の毛穴が開く。

脂汗が(あふ)れる。

これは治療を目的とした優しい技などではなく、その逆のことをする為に考案・開発された恐るべきものであるに違いないと。


「生まれついて修羅や戦鬼のような気性の人間しか居ない好戦的な黒鋼一族が地獄の修業に耐えて乗り越える為に氣死快清が有るのか……」


紫闇から漏れた答えに焔が満足する。


「良い技だろう?

鼓膜が破れても、

顎が割れても、

肋骨(あばら)が折れても、

鼻が陥没しても、

筋肉が裂けても、

手足が砕けても、

耳が千切れても、

顔面がめり込んでも、

眼球が(えぐ)れても、

金玉が潰れても、

神経が断たれても、

五感を失くしても、

全部治せるんだよ?

それも見てる間に。

となればどうなるか解るだろう?

黒鋼なら考えるまでも無い。

幾らでも無理や無茶や無謀が出来る。

そんなの最高じゃないか!

何せ世を闊歩(かっぽ)する闘技者達が絶対にできない修業をこなせるんだからねぇ」


黒鋼の血族は皆このような狂気と力に対する渇望、強さへの欲求、そして飽く無き闘争への執着を持ち併せてしまっている。

それは変わらない。

どれだけ武の才が無くとも。


「焔さーん。紫闇がドン引きしてるぞ。まあ黒鋼の技を自分のものにするっていうことは焔が言ったような内容のことを正気で望めるような人間になるってことだから覚えておいて」


紫闇は思った。

このイカれた精神性が有るから黒鋼の人間は代々強く在れたのだろうと。


(俺にそれだけの狂気が有るか?)


正直今は解らない。

ただもう後には引けないのだ。

紫闇も引きたくないと思っている。

彼はその一念でここから三日を過ごす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三日後。

紫闇はシンデレラの話を思い出した。

魔女と出会い変身する。

彼女は魔法の力でお姫様になったのだ。

紫闇は自分もそんなお話のように変われるのだと少し前までは信じていた。

しかし世の中は甘くない。

彼は現実の中に居る。

今も体の隅から隅まで丹念に入念に念入りに破壊され尽くしている最中。

それを回復させてまた破壊される。


「控え目に言って地獄だし、まともじゃ居られないよね。黒鋼や僕等みたいな人間以外は。この環境を耐えられたら常人じゃない」


二人の組み手を眺めるレイアの前でちょっとした、しかし大きな問題が発生していた。

紫闇が攻撃に目を(つぶ)る。

無条件にだ。

防御がままならない。

『イップス』や『パンチアイ』だろう。

しかし焔には知ったことではない。

彼に対して投げを使い、地面に叩き付ける。

すかさず寝技に入り、腕ひしぎ十字固めを極めて体重を乗せ、肘に負荷を掛けていく。

関節が(わめ)き靭帯が鳴く。

恐怖で紫闇の口から懇願(こんがん)が飛び出す。


「やめてくれえぇぇぇぇぇ───ッッッ!!!」


その声に焔が動きを止めた。

彼女は直ぐに立って構える。


「続きだ」


紫闇は震える体を起こせない。


(逃げるのか?)


彼の脳内で自問が反響し(こだま)する。

もう二度と逃げないと誓ったのに。

また繰り返してしまうのか。

しかし叱咤(しった)に心身が応えない。


「もう、嫌だ……」


紫闇は我慢できなかった。

この日はこれで終了となる。


「解るよ。でもこれを乗り越えられないのなら紫闇が憧れている大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》の域まで辿り着くことは無い。紫闇は今まで負けて、逃げて、這いずり回ってきた。後は勝って上へ登るだけなんだ」


レイアは頑張れとは言わない。

もちろん強要もしない。

結局は本人次第なのだから。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

再燃

 
前書き
原作そのままの部分が多い。

この話は書きにくかった。
_〆(。。) 

 
「気分転換でもしておいで」


立華紫闇(たちばなしあん)》は《黒鋼焔(くろがねほむら)》に(すす)められて外出したが気持ちは晴れない。


「言われたな。人間には限界が有るって」


【龍帝学園】で教官をしている《斬崎美鈴/きりさきみすず》の言葉を思い出す。

その言葉を痛感している。

江神春斗(こうがみはると)》や《クリス・ネバーエンド》に肩を並べたい気持ち、英雄になりたい気持ち、ここで終わりたくない気持ち。

今は全て二の次。


「人間って苦痛に弱いんだな」


紫闇は焔との組み手を振り返りながら河川敷を歩いていたが突如として足を止めた。

見覚えの有る人影。

春斗と《的場聖持(まとばせいじ)》、それに《エンド・プロヴィデンス》の三人だ。

彼等は紫闇に気付き駆け出す。


「貴君、今は何を?」

「無事で良かった」


聖持と春斗が声を掛ける中、エンドだけは紫闇の耳元であることを呟く。


「《永遠レイア(お兄ちゃん)》から聞いてるよ」


エンド以外は事情を知らないらしい。

そう簡単に言えるものでもないが。


「立華紫闇。俺は良い。聖持と話せ」


春斗とエンドは紫闇達を二人きりにする。


「なあ覚えてるか紫闇? 初めて俺と出逢った時のこと。そこからの付き合いなんだが」

「幼稚園に入り立ての頃に聖持と会ったのは覚えてるんだが何が起きたかまでは……」

「紫闇は昔からそういう奴だったよ。人にしてもらった良いことは覚えてるくせに自分が他人にした善行は直ぐに忘れるんだから」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの頃の俺は周りに馴染めず浮いてた。そんなわけで[いじめ]の対象だったんだよ。そこをお前に助けられた。他の奴等は見て見ぬ振り。でも紫闇だけは違った。数の暴力で無茶苦茶されてたけどな」


紫闇の記憶が呼び起こされる。


「あ~有ったなあそんなこと。その後で聖持と一緒に作戦を立ててえげつないリベンジかましてやったっけ。いじめっ子に宣言してたし」

「そうだよ。高笑いしながら『俺の友達に手を出したら許さないぞ』ってね。俺はあの言葉がな。嬉しかったんだよ。あの時の紫闇は誰よりも輝いて見えた」


聖持は紫闇が馬鹿にされる姿が嫌らしい。


「それにしても学園の人間が口を揃えて言いやがるのは無性に腹が立つ。『あんな奴と関わってるのは的場君の為にならない。切り捨てろ』ってな」


彼は震えながら拳を握る。


「ふざけんなよっ! どいつもこいつもっ! 俺の幼馴染みを馬鹿にしやがって!」


聖持は戦闘能力こそ高いものの、基本的には普通の人間に混ざって目立たなくしている。

冷静で落ち着いた人間だ。

声を荒げたりする性格ではない。


「誰に何を言われても絶対に諦めない。俺を助けてくれた時もそうだった。弱くたって俺にはヒーローみたいな存在だったんだよ。そんな紫闇が馬鹿にされるだけの人生を送るなんて我慢できるか……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


聖持は言う。

エンドも春斗も普段は態度に出さないが、紫闇が学園に来なくなってからは何処かそわそわして学園を欠席することも多くなったのだと。

かなり心配していたらしい。

聖持が紫闇の肩を掴む。


「何をしてても良い。ただ腐らないでくれ。ここまで努力してきたのは何の為だ? 俺は紫闇が負け犬で終わるのなんか見たくない。俺は俺のことを助けてくれたお前が駆け上がってヒーローになる姿が見たいんだよッ!!」


紫闇は目尻が熱くなり涙が浮かぶ。

そして今までのことを話し出す。

学校から逃げて焔とレイアに助けられた後に黒鋼へと弟子入りをしたこと。

今は絶望していることも。


「頑張ろうって思ったんだ。でももう無理だと感じてる。俺にはどうしても、どうやっても苦痛と恐怖を克服することが出来そうにない……」

「紫闇なら出来る。誰が否定しても俺が信じる。だから自分の可能性を諦めないでくれ」


聖持の言葉に紫闇の心が応える。

小さな火が点いた。


(俺は俺を殺す。過去の弱い自分を殺して新しい俺に、強い俺になってみせる)


火は大きくなり炎となる。


「聖持のお陰で立ち直れた。約束するよ。俺は限界を超える。そしてあの《朱衝義人(あかつきよしと)》以上の英雄になるんだ」


紫闇は燃料を得た。

諦めず戦い続ける為の。


「江神を超えたら聖持の背中は見えるか?」

「先ずはクリスにしとけ」
 
 

 
後書き
原作で聖持くんの担当をしてる田中くんは紫闇に対して少し事情と裏が有ります。

打ち切られてしまったのでその辺りは明かされていませんが本心から友達だと思う。

聖持くんも紫闇に対して事情有り。
_〆(。。) 

 

認識の違い

 
前書き
登場キャラの能力は決まっているキャラと決まっていないキャラが居ます。

一度出すと変えられないしなあ。

魔術師の異能は良いけど超能力はシンプルでかぶるのが多いからちょっと悩む。
_〆(。。) 

 
的場聖持(まとばせいじ)》のお陰で立ち直れた《立華紫闇(たちばなしあん)》は黒鉄の屋敷に帰る。

黒鉄焔(くろがねほむら)》は彼を迎え入れた。


「戻って来れたんだね」

「ほっとしたわい。もし修業を辞めとったら儂の見込み違いじゃったということじゃしの」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は安心する。


「弥以覇さんは自分の目が曇ったと言われるのが嫌だっただけですよね?」


永遠(とわ)レイア》が突っ込む。

紫闇は待っていてくれた三人と共にテレビを見ながら夕飯を取ることになった。

画面には【天覧武踊(てんらんぶよう)

というよりこの時間はどのチャンネルも似たような内容が流れているのだ。

放映される天覧武踊には幾つもの種類が有り、


────────────────────

それぞれの【魔術学園】が主催の試合

学園同士の対抗戦

全領域統一戦

毎日のように開催している軍の興業試合

魔術学園を卒業して軍属にならなかった者が行う魔術闘技戦などがそう。

────────────────────


今テレビで流れているのは【龍帝学園】が主催をしている[番付勝負]でルールは学園のスタジアムを舞台にしたコロシアムルール。

内容は一対一のラウンド制。

まるで格闘技の試合。


「この番付勝負ってほぼ毎日やってたよね」

「うん、だから入れ替わりが激しい」


基本的には同じ学園内での番付であり、同学年のランキング、序列を決める為のもの。

対戦する二人が互いに出場届けを出し、彼等を担当する教官、そして学園の上層部が試合の開催を認めて許可をすることで行われる。

序列下位の生徒が勝てば序列上位の生徒から入れ替わりで序列を奪い、奪われた者はランキングが一つ下がってしまうというシステム。

ちなみに序列が下がった生徒より下位の序列も一つ下がることで全体の序列を調整する。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。常に気を張っておくには良いやり方と思うぞ儂は。大戦時の面子(めんつ)よりも甘っちょろい闘技者が多くなってしまったのは残念じゃがの」

「弥以覇さんの頃と比べたらそうでしょうけど学生魔術師も毎日のように下克上が起きる立場に居るんですから。今の時代に【旧支配者(オールドワン)】や魔獣がうろうろしていたのと同じ精神性を持てって言う方が無理ですよ」


弥以覇の指摘にレイアが反論した。

そうこうしている内に序列を賭けて戦う二人がスタジアムに入ってくる。

テレビには会場の全体を見渡すような映像が映し出されており、スタジアムの天井付近には1メートル四方の立方体が浮いていた。

立方体の六つの面には金色の目に似たマークが付けられていている。

この立方体が何なのかは不明だ。

判明しているのはこれが見下ろしている空間でしか【古神旧印(エルダーサイン)】の奪い合いをすることが出来なくなっているということ。

で、肝心の試合なのだが紫闇にとってはなかなか見応えの有る内容であった。

しかし弥以覇と焔は退屈だったらしい。

レイアは口に入れた物を噛む回数が30回以上になるよう集中しており見ていなかった。


「みんな興味無さすぎでしょ……」


紫闇は三人が強い奴や『鬼』にしか気を引かれないということを改めて実感する。
 
 

 
後書き
原作の流れだとここで《江神春斗/こうがみはると》の試合が有ります。

春斗は原作と同じで強くなろうとしていますが基本スペックでは既に原作の最終巻よりも強くなっており、性格も違います。

流石に最終巻で覚えたあれはまだですが。

原作には無い能力や技術を使える。

古神旧印(エルダーサイン)】の完成や【魔神】になることにも拘っていませんし、一巻のように鬼になるという気持ちも有りません。 

 

静寂(しじま)が沸き立つ

 
前書き
紫闇の修業はこれで終了。 

 
翌日は朝から基本の型稽古。

それが終わると問題の組み手。

的場聖持(まとばせいじ)》のお陰で《立華紫闇(たちばなしあん)》には覇気が戻ってきている。

しかし相変わらず恐怖で体は動かないし、攻撃に目を閉じたり苦痛に反応を示す。

例の如く《黒鋼焔(くろがねほむら)》からは半殺し。

直ぐに【氣死快清】で回復。


「さあ起きなよ」


焔の呼び掛けに紫闇が拳を握る。


(自分の弱さを越えられないなら先は無い。成長することが出来ない)


彼はそう悟った。

諦めや嫌気。そういったものをねじ伏せて一歩を踏み出す為に上体を起こす。

立ち上がることをさせないよう自身の足は震えているが活を入れて立つ。


「まだまだぁ!!」


気合いで叫んだ紫闇。

焔は即、その顎へ拳を叩き込む。

当然のように粉砕。

痛覚が脳を刺激。

自然と涙を(こぼ)す。

弱音が紫闇を染めていく。

しかし聖持とのやり取りがフラッシュバックして逃避を押し留め踏ん張らせた。


『俺は俺のことを助けてくれた紫闇(おまえ)が駆け上がってヒーローになる姿が見たいんだよッ!!』


紫闇の思い描く夢と歩む人生は既に自分だけのものではなくなったのだ。


(諦めるわけにはいかない)


彼は咆哮を挙げて床を蹴る。

右腕を輝かせて打つ。

まだ未完成の【禍孔雀(かくじゃく)】だ。

しかし不発して失敗。

焔は反撃に回し蹴りを見舞う。

頭蓋に(ひび)が入った。

倒れた紫闇は記憶に有る顔と声が浮かぶ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『何でこんな風に育ったのかしら』

『お前に期待などしない。兄を見習え』

『産まれなきゃ良かったのに』


紫闇を否定しかしなかった家族。


『実在するんだな。最低のゴミタイプが』

『能無しに魔術師は務まらん』

『無駄な努力は止めろ』


嘲笑い罵倒する学園の人間。

しかし諦めない。

もしもここで紫闇が折れてしまったら奴等が正しかったことになってしまう。

氣死快清で回復された紫闇は痙攣する体を躍動させ、再び禍孔雀に挑戦。

拳に【魔晄(まこう)】を集めて凝縮し、突くと同時に爆発をイメージするが、それは軽い音を立てて黄金の光は消えてしまう。


(仮に成功しても当たらないと意味が無い)


カウンターの中段突きで肋骨が軋みを上げ、紫闇の体が後方へ吹き飛んだ。

焔は彼を追って覆い被さる。


「受けるか返すか素早く決めなきゃ死ぬよ」


途切れない拳の雨に紫闇は魔晄防壁を【盾梟/たてさら】にして防ぎ出すも、どんどん衝撃が伝わって息苦しくなってきた。

完璧に防げない威力は流石だ。

うんざりして頭が痛い。

体も熱く、気持ち悪くなる。


(自分は輝けるのだと証明したい。認められる英雄になりたい。物語の主人公で在りたい。《朱衝義人(あこがれ)》と同じ舞台に立ちたい)


その願いは許されないのか。

立華紫闇はモブキャラや背景で在り続けなければならないのだろうか。

(いな)

そのようなことは認めない。

例え神の決めたことであろうとも。

自分は絶対に受け入れない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


焔が降り注がせる拳の隙間を突いて紫闇の貫手が彼女の喉へ放たれる。

読まれていたのか回避された。

互いの腕が流れるように絡まり肘の関節が極まると焔は紫闇の上半身を抑え込む。

ガチガチに固められ何も出来ない紫闇は痛みに『止めてくれ』と言いそうになった。

しかし彼は口を閉じて飲み込む。


(馬鹿か俺は。自分を殺すんだ。精神的に自殺するしか成長は無い。だから言うのは───)

「折れるもんなら折ってみろッッ!」

「それで良い。やれば出来るじゃないか」


優しい声の直後。

紫闇の肘は関節と逆に折れる。


「ぐぎゃあああああああああああ───────ッッッッッ!!!!!?」


彼の血管は切れそうになった。

刻名館の生徒を倒した時と同じく、まるで時間が止まったような感覚に包まれる。

緩んだ拘束を抜け出して蹴った。

焔は難なく避けたが動揺の色。

驚いて立ち上がる。

追うように紫闇も立つ。

何故か焔は笑っていた。


(腕は折れたが戦える)


紫闇は氣死快清をかけてもらわずにそのまま戦闘続行することを決断。

何故かと言うと《江神春斗(こうがみはると)》ならば腕の一本くらいどうしたと言わんばかりの態度を取るだろうと思ったから。

大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》も手足を失ったまま戦ったという逸話が有る。

だから紫闇もそうならなければならない。


(聖持やエンドの居る領域へ行くというのなら俺はそんな風になるべきなんだ。もう後戻りするわけにはいかないんだよ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「来いッッ! 焔ぁッッ!!」


天才だろうと人間は狂わなければ英雄達が集う戦場に辿り着くことが出来ないだろう。

そもそも狂うほど彼等と同じことをしたからと言って肩を並べられるとは限らない。

だからこその超人であり英雄。

だから狂え。

狂ってしまえ。

紫闇が折れた右腕に魔晄を圧縮させて黄金に輝かせるがここまでは何時もと同じ。

見た目は変わらない。

しかし頭の中で何かが開く。

そう、以前に一発で【音隼(おとはや)】を修得した時と同じ感覚の『あれ』だ。


(来た来た来た来たぁッッ!!!)


焔が腕を振り被るのが見えた。

しかし何も恐怖は無い。

繰り出された焔の拳に対して紫闇は折れた右腕をしならせ鞭のように叩き付ける。

強烈な爆発と閃光。

金色(こんじき)の魔晄が粒子となって弾ける。

焔が勢いよく吹き飛ぶ。

壁に叩き付けられた彼女を見て紫闇は脳が激痛で焼き尽くされていく。


「イヒッ」


紫闇の口から勝手に笑いが出る。

汗が、涙が、鼻水が、(よだれ)が、尿が(こぼ)れた。


「あぁ……堪らないねぇ。今の紫闇は凄く良いよ。とっても素敵だ」


焔はのそりと立つ。

左手の指をバキリと鳴らす。

上げられた彼女の顔に有る両の(まなこ)は紫闇を見据えて離そうとしない。

絶大な熱量が心を(あぶ)る。

その瞳は黒から赤になっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


焔が(わら)う。

顔に有るは恍惚(こうこつ)艶然(えんぜん)

その表情は紫闇が今までの人生で見た中で最も恐ろしく美しいものであった。


(構えろ。行くぞ)


覚悟を決めた紫闇に黒髪の鬼が近付く。


七門の零(ヴィフス=ヨグ)


二人が人と思えぬ声で吠える。


混沌の解放(ナル・シュタン)


熱くて痛い。

だが心地良い。


我は虚無の顔に名を刻む(ヴォルグン・ナル・ガシャンナ)


紫闇に流れ込む何かは彼の血を、骨を、臓腑を、精神(こころ)を真っ黒に染める。


求むは苦痛(イア・ネフテス)


焔の打撃は全てその身で受けた。

返礼に焔を打つ。

延々と続く応酬に両者の笑みは深まる。

まるで一つに繋がったかのよう。


報奨は恐怖なり(ルスタ・グン・ビライ)


(良いぞ。もっと痛みをくれ)


紫闇も焔に対し出来ることを考える。

腕を折り合ったり

鼻を潰し合ったり

耳を千切り合ったり

目を(えぐ)り合ったり


(そんなことをしよう)


これは楽しい。

紫闇はやっと焔の教えを理解する。


(闘争は楽しいな。痛くて恐くて(おぞ)ましくて苦しくて。とても楽しいや。だから焔。もっと()ろう。どちらかが何も出来なくなるまで)


気持ちよくて

ワクワクして

ゾクゾクする


刻む我が名は(ウルグルイ・ゼェム)


来い来い来い来い来い来い来い来い。

さぁ。もっと。来い。来てくれよ。

この気持ちが果てるまで。

どちらかが燃え尽きて灰となり、風に(さら)われ全てが()せてしまうまで。


闇を彷徨う者(トラペゾヘドロン)

 
 

 
後書き
次から【龍帝学園】メインに戻ります。

後半の詠唱は原作とちょっと変えました。

とは言っても大体同じですけど。 

 

始動

 
前書き
紫闇の修業は一通り完了しましたが黒鋼流の奥義までは覚えていません。
_φ(゚Д゚ ) 

 
黒鋼での修業を終えた《立華紫闇/たちばなしあん》を【龍帝学園】へ送り出した《永遠(とわ)レイア》と《黒鋼焔(くろがねほむら)


「さあどうなるかねぇ」


紫闇は年に一度だけ行う[夏期龍帝祭]へ参加する為の申請を済ませている。

今日はその予選会。

当然だが試合も有り。


「今の紫闇には丁度良いんじゃない?」


レイアがそう言うのも解る。

この選抜戦出場者は龍帝学園の一年生のみに限定されており、実のところ新人戦。


「ちょうど良いとは思うけど、仮にエンド君や聖持君が出てたら優勝は不可能だよね。後は兄さん達が鍛えた《江神春斗(こうがみはると)》とか」

「エンドと聖持君は出ない。今は出ても意味が無いって言ってたし。けどもしかしたら春斗君はこの大会に出るかもしれないな」


名前の挙がった三名。

彼等は強い。

今の紫闇には早すぎる。


「ということは一番の問題になるなら現在の龍帝一年で学年序列一位の彼女だね」


焔が候補に挙げたのは金髪のハッピートリガー《クリス・ネバーエンド》

会ったことは無いが知っている。


「今のところ夏期龍帝祭で紫闇と当たって壁になるとしたらあの娘だけだよ。向子さん、会長が何かしないことが前提になるんだけど」


レイアと焔はある人物を思い浮かべた。

龍帝の全体序列一位。

学園で最強の座を4年も防衛する女帝。

龍帝学園の内部に秩序と安寧をもたらしてきた生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)

レイアは彼女や一部の人間と共に、出来る限りは紫闇の成長を観察していかなければならない立場なので向子との関係が深い。


「紫闇も厄介なもの抱えてるからなぁ」


事情を知る焔がレイアの肩を叩く。


「紫闇は今日から学園を休んでた分を取り返すとして、兄さんは学校の方どうするのさ。今年は顔出してないよね? 座学で強引に卒業資格取ってるけど」

「たまには顔出しておこうか。関東から近畿に足伸ばすのは面倒臭いんだがさくっと学校の全体序列一位を取れば文句は無いだろうし」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


魔術学園の【天覧武踊(てんらんぶよう)

一般的なものは番付勝負。

学年内での序列争いだ。

しかし夏期と冬季の龍帝祭は龍帝学園主催の天覧武踊でも特に盛り上がるもの。

世間からも注目されている。

ここは龍帝の内部に有る中型スタジアム。


江神春斗とクリス・ネバーエンドは観客席で夏期龍帝祭の予選を観戦していた。

結界に包まれた舞台には予選参加者10人が上がり生き残りを懸けたバトルロイヤルが繰り広げられ、ころころと戦況が変わっている。


なお、一定以上の高位序列を有した生徒が参加申請した場合は予選を免除。

自動的に本選出場が決定されるのだ。


「ちょっと。アンタなんでこんな予選見てんのよ。つまんなくない? そんな暇が有ったら早いとこアタシと戦いなさいよね」


クリスは頬杖を突いている。


「退屈なら帰れば良いと思うが。それに俺と戦いたくばもっと強くなれ」


春斗の返事はつれなかった。

この二人は予選には出ない。

しかし両者の立場は違う。

クリスは一年生だけしか出場できない夏期龍帝祭に出場している一年生の中で序列一位なので当然ながら予選試合を免除されている。

春斗は紫闇が黒鋼での修業を初めてから自分で三軍に落ちることを志願。

そして三軍となる。

その後は暫く学園を休んで《エンド・プロヴィデンス》や《的場聖持(まとばせいじ)》と修業三昧の日々を送っていた。

学園に復帰したのは昨日(さくじつ)のこと。

別人のように強くなった雰囲気に包まれている春斗に対しクリスが絡むもスルー。

彼は出場申請しなかった。


(エンドと聖持が出ずに俺が出れば、先ず間違いなく優勝する。黒鋼で鍛えたと言えど、立華紫闇も一月半では俺と勝負にならんのは明白)


クリスは眼中に無い。

やる気は認めているが、正直なところ力不足なので戦う価値は無いに等しいのだ。


(雑魚狩りの趣味は無いのでな)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「帰れば良いと思うがって言うけど残ったアンタは一人寂しく観戦することになるわよ? それを可哀想だと思った私がわざわざ付いてあげてるっていうのによく『帰れ』なんて言えたもんね。クソ無礼よアンタ」


春斗は思う。クリス・ネバーエンドに礼儀の何たるかを言われたくないと。

しかし春斗は何も言わない。

言い返したことの何倍も愚痴や文句が返ってくることが解っているから。


「まだ6組も残ってるのよねぇこの予選。アンタに限らず何で見に来てんのよ」


クリスには不評だが客数は多い。

本選や冬季龍帝祭ほどではないが。

春斗はクリスが面白くない試合だと言う気持ちは解るのだが、それは仕方ないこと。

一年生しか居ないからレベルが低い。

なので過激なサバイバルルールで10人同時に戦わせて客の興味を引いているのだ。

しかし、春斗は試合内容を期待して見に来たわけではないので別に構わなかった。


「俺が予選を見に来た理由は闘技者の熱を感じたかったからだ。彼等がどれだけ本気で戦っているかを知りたかったに過ぎん」


次に戦う10人が入ってきた。

予選に望む者は皆一様に必死の形相であり、何らかの目的を抱いて戦う。


(どんな思いで戦っているかは俺には解らん。だが内容を問わず、尊敬に値する。天覧武踊は死者が出ることもまま有るのだから)


出場者から放たれている気が熱い。

それを肌で感じ取る。

春斗は共感して己に活を入れた。

うかうかするな。追い付かれるぞ。

彼はそんな想いを持つことで日々の鍛練を有意義なものに変えようとしている。


(強くなれ立華紫闇。俺はまだお前に追い付かれたりしないから安心しろ。何時か壁としてお前の前に立ちはだかってやるぞ)
 
 

 
後書き
春斗が出ない時点でかなり違うけど、夏期龍帝祭の本選はどんな試合にしようか 

 

Birthday(バースデイ)

 
前書き
_〆(。。) 

 
観戦していた予選が終わる。

しかしすぐさま次の組が現れた。


「ねぇ。あんなの居た?」


【龍帝学園】の一年生で序列一位《クリス・ネバーエンド》が指差す方向を見た《江神春斗(こうがみはると)》の視界に一人の少年が飛び込む。


白い。

他の色が全く無い白髪だ。


「うーん、あれだけ目立つ頭をしてたら忘れないと思うんだけどなぁー。しっかし見事に白いわね……。染めてたりするのかしら?」


クリスの言う通り。

しかし髪の色以外には特に変わった所は無く、印象はあまり強くない少年。

だが春斗は感じていた。

強者が持つ特有の気配。

その少年が春斗の方を向く。


(なるほど。成ってみせたのだな。やっと舞台に上がれるというわけだ。良いだろう。そのまま強くなり続けろ。登って来たところを返り討ちにしてやる)


そう考えた春斗の背筋には僅かな寒気が走り、頬には一筋の汗が流れ落ちた。

黙り込んだ春斗にクリスが(いぶか)しんで彼の顔を覗くと春斗は口の端を吊り上げて笑いながら鋭い眼差しを白髪の生徒に向けている。


「クリス・ネバーエンド。この試合をよく見ておけ。退屈なことにはならん。(ようや)く俺が待っていた相手が来てくれたようだ。これは少し考えておかねばならないかな」


その言葉にクリスは驚愕し衝撃を受けた。

さんざん自分(クリス)からの挑戦を受けておきながら時には避け、時には逃げ、普段からスルーして、遂には三軍に落ちてしまった春斗。


(しかも三軍に行った理由が教官と合わない。私と戦わないで済む。その二つが理由の大半を占めるんだから腹立たしいわ)


そんな彼が喜んで戦うことを望む相手にクリスは嫉妬して少年を睨み付ける。


「ハルト。私が優勝したら勝負なさい。今回は逃がさないわよ。アンタにもこのクリス・ネバーエンドの実力を知らしめてあげるわ」

「そうか。それは楽しみだ。まあお前も『奴』も今回は優勝できんかもしれんからな。期待せずに待つこととしよう。万が一、本当に優勝すれば、[見合う力]で相手をしてやる」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クリスと春斗の前で予選が始まる。

全員同時に【魔晄(まこう)外装】を展開。

次々と三種有るタイプの(いず)れかに属す外装が現れていく中でただ一人、白髪の少年だけが周りと違うタイプの魔晄外装を出す。

右腕を肘まで覆うそれは灰色の外殻を思わせる篭手であり、形状は不気味で怖ましい。

外装の随所には生きているかのように血管に似たラインが走っている。


「何だあの外装?」

「片腕を覆ってるだけじゃん」

「他の選手も笑ってるぜ」

「あいつが最初に脱落するな」


観客は口々に呟く。

クリスはその『規格外』と言われる【異能】が宿らない外装を見て、やっとのことで少年が誰だったのかを思い出すことが出来た。


「まさかあの白髪男……」

「そうだ。奴は吐き出される弱音と諦念に耐え、己の弱さを知り、かつての自分を殺すことによって生まれ変われたのだろう」


地獄から這い上がってきた少年の戦闘によって顕現したのは絶対的な暴力。

背からは魔晄の粒子が翼のように放出され、縦横無尽に結界の内部を駆け抜ける。

黄金に煌めく拳は一撃必倒。

他の九人による攻撃は双方を別ち絶つ【魔晄防壁】を強化したような鉄壁が阻む。

試合開始から20秒。

舞台は血の海と化す。

内臓が破裂して吐血を繰り返す者。

気が()れたように転がる者。

睾丸を潰され壊れた機械のように(うめ)く者。

白髪の少年は無傷だが他は全員が重傷。


「あの技……間違いない。しかしお前がその流派を学んだのは運命かもしれんな」


春斗は不敵に笑う。

その視線は少年を射抜いていた。
 
 

 
後書き
_φ(゚Д゚ ) 

 

世間の風潮

 
前書き
久し振りに更新。 

 
予選を勝ち抜き【夏季龍帝祭】の本戦へ参加する資格を得た白髪の少年《立華紫闇(たちばなしあん)》は嬉し過ぎて発狂しそうだった。

しかし敢えてそれを我慢したのは客席に見覚えの有る彼の姿を確認したから。

同じクラスの同級生で眼鏡を掛け、黒髪を後ろで束ねた鋭い視線を持つ凄腕の剣士。


(《江神春斗(こうがみはると)》なら、あいつならばこんなこと位で喜んだりはしない。さも当然と言わんばかりの態度を取る筈だ……)


彼に追い付く為にも無事に予選を抜けた程度で気を緩めるわけにはいかない。

だからといって人間なので気を張り続けているというわけにもいかないが。


「……お前は一体何を一人で笑ってんだ。知らない人からすればメチャクチャ不気味で怪しい挙動不審だぞ。つーか気持ち悪いから」


現れたのは幼馴染の《的場聖持(まとばせいじ)


「お、聖持か。一月振り」

「もうちょっと会ってないんだけどそれはまあ別に良いんだよ。この短期間にえらく強くなったな。でもあれだけ力の差が有るんなら手加減しても良かったんじゃないのか? 大体の人間は容赦が無さすぎて引いてるだろうに」


聖持の意見に紫闇は悪びれず返す。

黒鋼での修業によって相手の殺傷は呼吸するのと同じで生理現象と化しているのだと。


「気付けば急所を潰してる感じなのか……」


修業でそうなったのなら人格が歪んだり白髪になってしまうのも仕方ない。

聖持はそう判断した。


「そういやぁなんか俺、時々おかしな幻聴が聞こえるようになったんだぜ? いやはや人体ってどういう構造してんだろうなぁ~」

「いや笑ってる場合じゃねーだろ。早く病院行けや。主に頭をメインにしてる方の」

「別に気にならないから良いや。俺はその時間を修業に()ぎ込みたいんだよ」

(う~ん。以前にも増して努力馬鹿の度合いが上がったな。やってきたことが報われる快感を知ったら無理ないかもしれないけど)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇と聖持の二人が【龍帝学園】の内部に在る中型バトルスタジアムのエントランスホールを抜けて出入口に差し掛かった時だ。


「聖持君も一緒だったのか。まあそれはおいといて本戦出場おめでとう紫闇」


立っていたのは長い黒髪の少女。

紫闇を鍛え上げた師匠《黒鋼焔(くろがねほむら)

龍帝の制服を着ている。


「久し振りに来てみたわけだけど相変わらずの空気だねぇ此処は。退学にでもしてくれれば良かったのに。物好きなんだから『彼女』は」


焔は弟子の試合を見に来たが一足遅く、勝ち残ったところを確認できただけ。

かと言ってそのまま屋敷に帰るというのも愛想が無いので直接会いに来たわけだ。


「そっか。修業に夢中で忘れてたけど焔は龍帝の二年生って言ってたよな」

「一年くらい来てないけどね」


紫闇に答えた焔が聖持を見る。


「フッ。相変わらず強いことを判り難くしてるみたいだね聖持君は。君らしいけど」

「焔さんはちょっと妥協した方が……」


紫闇には二人の言葉にどういった意味が含まれているのか理解することが出来なかった。

なので教えられる。

『妥協』とは何なのかを。


焔曰く、『強者が優遇される』といった風潮は既に過去のものらしい。

人類と敵対していた側の上位存在。

つまり最後の【旧支配者(オールドワン)】が大英雄ら七人によって倒されてから8年。

《ナイアー=ラトテップ》が置き土産として世界中に千個も残した【無明都市(ロストワールド)

日本に存在した一つは七人の【魔神】が誕生したことにより無事に解放された。


「無明都市の四層目まで解放された時点で日本政府のトップ達は状況を楽観視したのさ。残りの三層も直ぐに解放されるって。実際そうなったしね。それ自体は良いことなんだけど」


焔は溜め息を()く。


「でもその結果として魔神や魔神候補には以前より高い『英雄性』が求められるようになったわけだ。つまりは『プロパガンダ』だな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


聖持によれば【天覧武踊(てんらんぶよう)】は最早、無明都市を解放する為ではなく、莫大な興業収入によって国庫を潤す金稼ぎのツールらしい。


「その為にも常に優秀な学生魔術師が増加することを望んでるってわけか」


紫闇は納得した。


「魔神や候補の英雄性が高いほど憧れる奴は増えていき学生魔術師が増えて儲かるような経済システムが出来上がってるんだ」

「だからもう【魔術師】にとって求められる第一の条件は『強さ』じゃない。カリスマ性の高い人格者が欲しがられるんだ。何処の学園もそうなってると思う」


日本以外もその傾向が強く、世界的な流れになっているので仕方ないと言えば仕方ないが。


「その点だとあたしは駄目だよ。憧れを抱くような人間は今の紫闇みたいなタイプが多い。つまりは少ないってことだね。それどころか魔術師のイメージを悪くする可能性の方が遥かに高い」

「だから焔さんは気を使って表の天覧武踊には出ないことにしたのさ。紫闇も一般的に見て行き過ぎた行為には気を付けた方が良いぞ」


焔自身は公式の試合で戦いたい相手が居ないわけではないのだが、ただ戦うだけなら別に表の世界でなくとも構わなかった。

だから普段は学園に通わず鍛えて備える。


「でも向子さんに誘われてますよね焔さん」

「うん。何でか気に入ってくれてるんだよ。しつこく試合への出場を打診してくるけど特別どうしても戦いたいわけじゃないから断ってる」

生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》とは非公式で何度も戦っているので全力を出しても良い『大丈夫』なレベルだと判ってはいるのだが。
 
 

 
後書き
更新してない間に読んでた小説が消えた。 

 

空気を読め

 
前書き
そろそろ戦闘を考えないといけないが。

カービィの小説は自分で消したんじゃなくて原因が不明で消えてたんですね。
_〆(。。) 

 
《立華紫闇/たちばなしあん》

《的場聖持/まとばせいじ》

《黒鋼焔/くろがねほむら》

三人が【龍帝学園】の門から一歩踏み出して帰宅の途に着こうとした時、彼等の後方から声が掛かる。


「おーい」

「待て」


対照的な声音だ。

一つは友達へ声を掛けるように軽くて親しみの有る感じだが、もう片方は硬い態度で厳しい、何処か鋭さを持ったような(とげ)を含んだ言い方。

紫闇達が振り向くと三人の生徒。


龍帝の一年生で現在の学年序列一位である金髪少女《クリス・ネバーエンド》

仏頂面の眼鏡男子《江神春斗(こうがみはると)

紫闇、聖持、焔、三人揃っての幼馴染み《エンド・プロヴィデンス》


クリスは焔の方を見ている。

軽い声はエンドのもので、彼は特に何かしらの理由が有って声を掛けたのではないだろう。

相変わらず何も考えて無さそうだ。

硬い声は春斗のもので、彼は先ず紫闇の方に目を向けてから視線を焔の方へと移す。


「俺は龍帝学園一年の江神春斗。いきなりの質問で済まぬが其方(そちら)の女子に御尋(おたず)ね申す。黒鋼の一族とお見受けしたが如何に?」


肯定した焔が首を縦に振る。


「では其処(そこ)なる立華紫闇に闘争の()を伝授した人間は其方(そなた)ということで理解をしても構わぬのだろうか黒鋼の者よ」

「ああそうさ。まあ本当はもう一人紫闇を鍛えていた人間が居るんだけど、彼は今この関東に居ないからね。【魅那風流剣術/みなかぜりゅうけんじゅつ】の小倅(こせがれ)君はエンド君に指導を受けたんだろう?」


焔が春斗の隣に立つエンドを見て笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うむ。魅那風流の『剣士』ということに拘って剣技だけ極めるのも一つの道だが今まで魅那風流に無かったものを取り入れて強くなる方が俺の性に合っていたのでな」


焔の指摘に春斗は楽しそうだ。

そんな彼は紫闇を見詰める。


「黒鋼という『鬼』と出逢ったことで自身も鬼と化したのだな立華紫闇。俺が選んだ『人』とは違う道だが互いが同じ鬼になって戦うよりも面白くなるはず」

(今の立華を試してみたい気は有るのだが、はてさてどうするべきか)


春斗と紫闇が互いの顔を見合わせながら愉快な状況にニヤついていると邪魔が入った。

黙って話を聞いていたクリスだ。


「ハルト、あんたのターンはここまでよ! ここからは私のターンなんだから無駄っ! あんたの苦情は一切受け付けないわッ!」


彼女は焔に向かって歩いていく。


「何処の誰なのかは知らないけど良~い感じの踏み台になってくれそうねぇ。それに相当な強さみたいだし。あと天然で上から目線みたいな顔が気に食わない」

「気に食わないならどうするのかな?」


焔は実に楽しそうな顔で喜色を浮かべながら長い黒髪に付いた鈴飾りを鳴らす。

クリスはその碧眼に憤怒と闘争心の炎を宿して焔を指差しながら高らかに宣言した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あんたはこの私がブッ壊してあげることにしたわッ! 直々にね! そうするだけの価値が有ると判断したっ! 勘だけど!」


エンド、聖持、春斗は頭を抱える。

この女は頭痛の種だと。


「邪魔すんじゃないわよハルトッ!? 前にも言ったけど私の歩みを止めて良いのは私だけなんだから! あんたも他の連中も、このクリス・ネバーエンドが突き進む様を指(くわ)えて見てりゃ良いのよッ!」


(いや、邪魔はお前だろう)


春斗は思わずクリスにそう言ってやりたかったのだがこの女のことだ。

何を言っても聞く耳を持たない。

彼女が相手では時間の無駄。

彼は思考を切り替えて焔と紫闇がどういう反応をするのか眺めることにした。


「面白い娘だね君。私と()りたいなんて。別に構わないよ。体育館へ行こう。今なら一年用の実戦スペースが貸し切り状態だろうし、あの広い空間を思う存分使うことが出来る」


紫闇は二人の対戦が気になるらしい。


(修業の中で散々体感させられてきた焔の攻防力にクリスの手数と武器の火力が一体何処まで通用するやら。俺が焔と戦う際の参考になれば有り難いんだけどなぁ)


春斗は約60年前の【邪神大戦】において自身の祖父に勝った《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》の孫が、不敗神話を受け継ぐ者がどれだけの力を持った存在か、その片鱗だけでも垣間見ておきたかった。

目前に立つ黒鋼の少女を超越できれば自身の夢へと大幅に近付けるだろうから。

彼女の先に居る聖持とエンド、そして【白銀の真人】こと《永遠(とわ)レイア》

彼等を意識して。
 
 

 
後書き
キャラの異能と超能力どうしようかな。

原作キャラの異能は原作通りだけど。
_〆(。。) 

 

歴然

 
前書き
_〆(。。) 

 
黒鋼焔(くろがねほむら)》と《クリス・ネバーエンド》を先頭に《立華紫闇(たちばなしあん)》《エンド・プロヴィデンス》、《的場聖持(まとばせいじ)》、《江神春斗(こうがみはると)》を含めた6名は【龍帝学園】の体育館へと来ていた。


焔とクリスが戦う為だ。


【魔術学園】に在る体育館は一度に何百人もの学生魔術師が実戦訓練を行う前提で作られているので生半可な実力しかない【魔術師】や【超能力者】には破壊することが出来ないくらい頑丈であり、床には戦闘する者を周囲と隔離してバトルフィールドを作る『結界/バリア』の発生装置も設置されている。


「クリス・ネバーエンドだったね。あたしは皆と違って律義(りちぎ)にルールを守るような人間じゃないよ? 普通のラウンド制は無視するし、君が倒れてしまっても立ち上がるまで待つなんてことはしないから」

「上等よ。あんたのお望み通りストリートファイトの実戦仕様に付き合ってあげるわ。ルール有りにしなかったことを後悔させてあげる」


クリスと焔が向かい合った。


「さて、結界は要らないか。君達も流れ弾を気にするような実力じゃないだろうし」


紫闇や聖持は焔に頷くと壁際へと移動して白銀の【魔晄/まこう】による防壁を展開し、二人の少女が繰り出す攻撃が逸れて自分達の方に飛んできた場合に備える。


クリスは獰猛に笑い、焔は不敵に笑いながら互いの【魔晄外装】を顕現させた。

焔の右腕は黒く分厚い籠手のような装甲。

クリスの両手には金色に光る大型拳銃が握られ周囲に巨大な鎧の一部に見える腕が浮かぶ。


「ふーん。あんたも彼処(あそこ)に居るタチバナシアンと同じで『規格外』の外装なのね。【異能】が宿っていないゴミタイプ。でもあいつとおんなじでそんなの関係無いんでしょ?」


クリスは紫闇が予選試合で外装と基本の魔晄操作だけを使い無双していたのを見ているので相手が規格外と言えど気を抜いたりしない。

圧倒的強者の匂いがするなら尚更。


(ハルトの言っていた言葉通りに受け取るならこの女はタチバナシアンの師匠。それならハルトと戦うつもりで()らせてもらうわ!)


クリスは開始の合図無しに両腕を上げて焔に銃口を向けると撃って撃って撃ちまくる

その最中、外装の異能でクリスの周囲に円柱が何本も召喚され次々とフタが開いていく。

見えたのは無数の弾頭。


「ミサイルポッドか。派手だな」


エンドが呟くと焔の身長ほど有る小型ミサイルが何百と発射され、それらの全てが寸分違わず焔の元へと飛来して急襲を仕掛ける。


「相変わらずだなぁあの娘」


聖持は入学初日に見たのと同じでクリスが得意とする手数と高火力の広範囲攻撃で相手を逃がさないゴリ押しの正面突破に苦笑い。


「確かにクリスの火力なら防御力の有る異能無しで耐えられる魔術師は多くないだろう。だがしかし、お前の正面に立っている黒鋼焔はその『多くない』分類に入る」


そう言い放つ春斗に限らず他のクリスと焔の戦いを見ている者も判っていた。

この戦いでクリスが勝つことは無いと。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ブゥゥレェイカアアアアアアアッッ!!」


絶叫するクリスからトリガーハッピーに押し寄せる波の如き勢いで銃弾・砲弾・弾頭が対峙する焔に対して押し潰すように到来。


(攻撃の密度は有るね。だけど)


焔は展開していた魔晄防壁を膨らませて防壁を強化すると[黒鋼流練氣術・三羽鳥ノ一・盾梟(たてさら)]を発動し、全ての攻撃を弾き飛ばす。

召喚する重火器と延々続く爆発的な大火力による攻撃から『爆裂戦姫』という渾名(あだな)で呼ばれるようになったクリスの攻撃力が通じない。

カメラフラッシュのように視界を埋め尽くす無数のマズルフラッシュと頑丈な体育館の床や壁を削っていく異能の着弾に爆風は焔を包み込んで途切れることは無いが、焔はまるで微風程度にすら感じていないかのように余裕の笑みを浮かべ続けている。


(今の紫闇でも暫くは耐えられるくらいの攻撃力なんだろうけど、流石にネバーエンドの魔晄が切れるまで浴びてはいられないだろうからな。焔さんは当然のように大丈夫なんだが)


聖持は焔とクリス、二人の間に存在する隔絶した力の差を正しく認識していた。

闘技者としての次元が歴然なのだ。


「あああああー! もおおおおー! 腹っ立つわねええええー! こんなんで(ひる)むタマじゃないでしょうアンタは! さっさと本気出しなさいよおおっ! それともあたしの強さにビビってんのおッッ!?」


聖持とエンドがクリスの台詞に噴く。


「お前だって本当は理解(わか)ってるんだろう? クリス・ネバーエンド」

「違う。違うんだよクリス。『()』が」


比べることが烏滸(おこ)がましい。


「うーむ。君は随分『強さ』という概念に執着してるんだねクリス。何か理由でも?」

「決まってるわッ! 馬鹿にされたくないッ! 見下されたくないッ! 逆にそういう風に私を見るクソッタレをブッ壊して魔術師の頂上に登るッ! そして私がどいつもこいつも見下す! その為に私は世界最強にならなきゃいけないのよッッ!!!」


焔はクリスの答えが気に入ったのか笑みが深く凶暴なものとなり、顔貌(がんぼう)に鬼を宿す。


「素敵な夢じゃないか。でも───」


次の瞬間、クリスの体がコの字に折れて吹き飛び体育館の壁に激突する。

遅れて轟音が鳴り突風が吹き荒れた。

クリスが立っていた辺りには何時の間にか拳を振り切っていた姿勢の焔が。


世界最強(そのばしょ)は私の夢でもあるんだよ」

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

打算による立ち会い

 
前書き
_〆(。。) 

 
《クリス・ネバーエンド》が壁に張り付いていた背中からずり落ちると【魔晄(まこう)】の気配、そして【魔晄外装】が消えた。

意識を失ったようだ。


「特定の人間を除いた中では強い【魔術師】だったけどあたしの首を取るには未熟。新しい【異能】でも身に付けてから出直しておいで」


黒鋼焔(くろがねほむら)》はクリスを見下ろす。


(一体どうやって、何をしてクリスを倒したのかまるで解らない。何も見えなかった。気が付いたら終わっちまったって感じだ)


焔や《永遠(とわ)レイア》と共に黒鋼の屋敷で修業していた頃は《立華紫闇(たちばなしあん)》の目で追えるくらいの速さだったはず。

ということは紫闇を完全に殺してしまわぬよう手を抜いてくれていたということに他ならない。


(遠い……。何て距離なんだ。一体どれだけ離されてるんだ俺と焔は。そして焔より強いレイアさんとは想像することすら出来ないな……)


焔の背中に届くどころか足下にも及ばない以上の差が付けられている。

その現実が紫闇を打ちのめす。

しかし彼は恍惚(こうこつ)とした。

これだけの力を持った強者が自分の師。

それは紫闇にとって超えるべき目標が増えたということに他ならないのだ。

先が楽しみになってしまう。


「立華。あの動きが見えたか?」


江神春斗(こうがみはると)》は焔に鋭い目を向けながら紫闇に彼女が取った行動の理解を問う。


「いや、理解(それ)以前に見えてない」

「そうか。黒鋼焔はさっきの一撃に異能も【超能力】も用いてはいない。クリスの猛攻に耐えるだけの防壁を張りながら一足跳びで近付き外装の有る右腕を振り下ろしてクリスの胴へと叩き付けた。それだけだ」


紫闇は春斗の解説に瞠目(どうもく)する。


「技術も理法も何も無い。ただただ基礎能力の高さに任せた素人のような手打ちで体重も乗ってなければ腰も入ってないものであれとはな」

(流石は当代の黒鋼と言ったところか)


紫闇と違い春斗には全て見えていた。

故に紫闇は感じ取る。

現時点の自分と春斗の明確な差を。


「俺の師であるエンドと聖持もそうだがお前もつくづく恐ろしい師を得たものだな。闘技者として(やつ)(のぞ)みたい気持ちは有るが、今はそれよりも優先すべきことが有る」


春斗は紫闇を見た。


「俺は構わないぜ。今からでもな」


願ってもないことだ。今の力が何処まで春斗に通じるか本人を相手に試せるのだから。

この機会を逃す手はない。


「成る程。俺もお前も互いに気持ちの準備は出来ているというわけか。それでは何の問題も無いわけだな。学園の【天覧武踊(てんらんぶよう)】で学年序列を取り合う番付勝負をしているよりよっぽど有意義な時間を過ごせそうだ」


紫闇と春斗は嬉々として目を輝かせ、愉悦に口元を歪ませながら闘志を剥き出しにした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「焔さーん。そいつ死んだの?」


《エンド・プロヴィデンス》が様子を尋ねる。


「君なら判ると思うけど、まだまだ未完成で成長段階の惜しい逸材だからね。彼女が熟すのを待って出来上がってから(いた)だくよ」


そう言って焔は《的場聖持(まとばせいじ)》に近付く。


「ところで聖持君。そっちの二人がヒートアップしてるけど何か有ったの? 今にもおっ(ぱじ)めそうな雰囲気なんだけど」

「焔さんに許可を得たらやるみたいですよ」


断りを入れずとも構わないのだが、自分とクリスの戦いが終わるまで待ってくれていたのは焔にとって有り難いことだった。


(これで思う存分に江神を観察できる)


紫闇は春斗を倒したがっている。

しかし今はまだ無理だ。その為にも紫闇をどう育てるかに必要な情報が欲しかった。


(是非とも欲しいそれをくれるって言うんだから願ったり叶ったりだよね。紫闇にも江神との差を身を以て実感してもらえるし)


焔が見た春斗の感想は『腕が立つ』学生魔術師だがその腕の段階が尋常ではない。

ただ『鬼』ではないことも判ったので自分が望む相手というには不十分だった。

それを帳消しにする強さなら話は別だが。

焔は二人の立ち会いを許す。


「これで心置きなく戦えるってわけだな。この拳でお前に刻んでやるぜ江神春斗。立華紫闇という存在を。先ずはそこからだ」

「俺は【夏期龍帝祭】に出ない。クリスには優勝すれば相手をすると言ったが正直なところ彼奴(きゃつ)が優勝するのは難しい。エンドや聖持が出ずとも貴君が居るからな。しかし今の立華だと万が一で遅れを取ることが有り得る」


春斗は体の真横に赤い[装紋陣(サークル)]を浮かべると漆黒の鞘と鍔が無い柄に納まった『直刀』の魔晄外装を引き出す。

彼の熱意に溢れた瞳が紫闇に向く。


「立華が優勝する為の確率を少しでも上げる為に俺も協力させてもらおう。クリスが優勝できたとしても戦う気がしないのだ。奴は自分の異能を使いこなせていないように思えるのでな。せめて今の紫闇を普通に倒せる位になってくれれば別だが」

「へっ、打算だろうが理由はどうあれ俺はお前と戦うのを楽しみにしてたんだ。お前と【魅那風流剣術】を確りと味合わせてもらうからな。そうすりゃあ夏期龍帝祭の相手は楽勝だろうから」

「立華がどういう魂胆でも構わん。俺を利用して強くなるが良い。簡単には追い越せん。此方(こちら)も【黒鋼流体術】を体感させてもらう。『技』ではなく、お前達の抱えている『鬼』をな」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

才気

 
前書き
_〆(。。) 

 
江神春斗(こうがみはると)》は体育館の中央に移動。

深呼吸や精神統一をしている。

立華紫闇(たちばなしあん)》もウォームアップ。

体を温め中央へと踏み出す。


「度肝を抜いてやれ」


黒鋼焔(くろがねほむら)》は彼とすれ違う時に激励し、《エンド・プロヴィデンス》や《的場聖持(まとばせいじ)》の居る所へ歩いていく。

紫闇の右腕が肘の辺りまで灰色の外殻に覆われ全身が銀色の魔晄防壁に包まれる。


「では見せてもらうぞ」


春斗は直刀を下段に置く。

そして脱力した。


「持国天の構え」


紫闇から感嘆の息が出る。

見事な立ち姿だ。


(ぶちのめしてやりたかったのに思わず見とれちまうとはな。良いね。そうこなくちゃ。でなきゃ俺が憧れるだけの価値が無い……!)


初めて会った時に五人の学生魔術師を瞬殺して見せた頃から薄々感じてはいたが、紫闇は改めて春斗との間に有る絶対的な差に戦慄してしまう。

隙を探す紫闇は春斗を囲むようにゆっくりと周回しながら歩を進める。

が、付け入るような(あら)は皆無。


(やっぱ駄目か。どうせ背後からの不意討ちも当たらないだろうし。負けるってんなら潔く真っ向勝負と行かせてもらうぜ)


紫闇が間合いに侵入。

刀を()った春斗は悠然に動く。

紙一重で躱し、刀身で受け、位置取りを変えて攻撃が出来ないように立ち回り、紫闇の猛攻を事も無げに、当然の如く凌ぐ。

そんな春斗を見て解らされる。


(一連の体捌きで判るな。やっぱ天才だわ。同じ期間修業してもこうなれる気がしない)


そんなことを考えていた紫闇の耳に春斗の声が危機を報せるように飛び込んできた。


「参る」


速度・鋭さ・タイミング・軌道。

文句無しの一刀。

以前の紫闇なら訳も解らず食らっていた。

しかし今の彼は違う。

スレッスレで避ける。

春斗の顔面にカウンターの右拳が飛ぶ。

対応する春斗は何時の間にか剣を元の位置に構えて次撃を出す体勢を整えていた。

彼は紫闇の反撃を読んでいたのだ。

斬撃が飛ぶ。

が、ここまでは紫闇の想定内。


紫闇は拳を繰り出しながら交差して迫る春斗の攻撃が命中する寸前で[盾梟(たてさら)]を発動。

防壁を膨らませて強化。

これは『堅剛(けんごう)』という技術。

防御で相手の攻撃を受け止めながら、自分の出した攻撃の反動で攻撃を出した部位を痺れさせることで意図的に相手の隙を作り出すもの。

間接的な攻撃には使えないが直接攻撃してくる相手には大体通じるので便利。


(技の性質上、相手の攻撃力と耐久力、麻痺からの復帰を計算に入れないといけないけど)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇が盾梟を発動したことを確認した春斗は直刀が魔晄防壁にぶつかる前に柄の握りを弱めながら後方へ跳び下がることで衝撃による腕の痺れを防ぎつつ、紫闇の反撃が届かない場所へと迅速に避難する。


(一定以上の力を使って硬く質量の有る物体を叩くと腕が痺れてしまうのと同じ原理の迎撃をする防御用の技なのか)


金属バットを力いっぱい硬い床や壁に向かって打ち込んでみれば判るかもしれない。

(すす)めはしないが。

ならばと春斗は紫闇がカウンターによる反撃を取れないようにしようと攻め方を変える。

紫闇に近付くと彼の攻撃に合わせて自分がカウンターを決めることで地道に斬っていく。

全身なます切りだ。


「普通なら死んでいるのだが頑丈だな。魔晄防壁だけでなく体も心も有ってこそだが」


春斗の斬撃は切っ先だけではあるが、紫闇の魔晄防壁を完全に突き抜けていた。

お陰で出血多量。

長くは持たないだろう。


「満身創痍であろうと相手が相手だ。そう簡単に手を抜くわけにもいくまい」


春斗が腰を落とす。

直刀の柄頭を腹に当てた。


「増長天の構え」


春斗の威圧感が増していく。


「魅那風流剣術・飛車斬り」


震脚のように春斗の足が踏み込む。

強靭な体育館の床が砕ける。

有象無象の【異能】なら破壊すること叶わぬ強固な構造の体育館を【魔晄】の身体強化が有るとは言え、ただの踏み込みで破壊するのは異常だ。

紫闇と春斗、彼我(ひが)の間合いが詰まる。

今までとは比べ物にならない速さの斬撃。

連続して飛ぶそれは紫闇からすれば無数の光る銀色の筋が殺到するようにしか見えない。

一閃たりとも見切れなかった。


(この斬撃は立華の攻撃を()なしながら出していたカウンターとは違う。此方(こちら)から積極的に斬っていく乱撃だ。既に全身が傷だらけのお前が何処まで耐えられるかな?)


傷の上から無数の斬撃を浴びる紫闇。

まるで痛みという嵐の中に投げ込まれたかのように体のあちこちが余すところ無く痛い。

皮膚が裂け鮮血が散る。

骨が折れて砕ける。

何処かの内臓も破裂した。


血反吐を吐いて紫闇は春斗に迫る

ボクシングのクリンチと同じ。

抱き付けさえすれば密着状態なので下手に剣を振ることが出来ず攻撃も止むだろう。


(押し倒して寝技へ───)


しかし見抜かれていた。


「甘い」


春斗は側面に回り首に一撃。

それに反応した紫闇の右拳が黄金に輝く。

繰り出した[禍孔雀(かくじゃく)]はクリーンヒットして春斗の顔面で爆発を起こす。

しかし彼は動かない。

完全に発動して捉えたのに無傷。


「その程度か?」


春斗から返礼の突き。

直刀の切っ先は紫闇の首筋を打ち、彼の体を体育館の端まで吹き飛ばした。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

人か、鬼か

 
前書き
_〆(。。) 

 
「敢えて時間をかけてるね」

「【異能】も【超能力】も出してない」

「普通に戦るだけで十分だからな」


立華紫闇(たちばなしあん)》と《江神春斗(こうがみはると)》の戦いを眺めていた《黒鋼焔(くろがねほむら)》、《的場聖持(まとばせいじ)》、《エンド・プロヴィデンス》は両者の実力差から紫闇に勝ち目が無いことを判っていた。

それでも焔は現時点で紫闇を春斗と戦わせることに意味を見出だしている。

春斗の戦闘情報を集めるというだけではなく、紫闇が身を以て春斗の強さを味わい心を揺らがすこと無く居ることが出来るかどうか。


(そういう部分も見てるからね)


当の本人達はというと、春斗が吹き飛ばした紫闇の姿を見ながら両腕を垂らして一息ついている。


「どうする立華紫闇。まだ戦るか?」


紫闇が床に手を突き上半身を浮かす。

その顔は牙を剥くように笑っていた。


「へっ、ここからが本番だぜ。『今の俺』じゃあ無理なのは解ってる。どうしようもない。けど『別の俺』ならこの状況が変わる」


紫闇は左手の中指を右手の親指で押さえた。


「焔さん。あれってルーティーン?」


聖持が尋ねたもの。

それは特定の活動を行う中で自分の行動に自然と組み込まれることにより、普段の限界を超えたパフォーマンスを発揮する為の動作。


「江神春斗……。俺は黒鋼で修業したこの一月半負け続けた……。何度もな……。弱音を飲み込んで諦念を跳ね除けてきた。その末にかつての自分を殺して乗り越えたんだ……。俺はお前に並ぶ為に地獄の底から這い上がってきたんだよッッ!!」


血まみれで叫ぶ紫闇は右手の親指に力を込めることで左手の中指を鳴らす。

関節のバキリという音が響いた途端、過去の記憶が、修業で[禍孔雀(かくじゃく)]を会得した時の記憶が紫闇の脳裏を(よぎ)る。


(あの時の俺は強くて恐ろしかった)


紫闇は自身の根幹から黒い狂気が噴出し、真っ当な心を染めるのを感じたが拒絶しない。

有るがままに受け入れる。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」


紫闇の【魔晄(まこう)】はみるみる内に普通の銀色から黒色に変色していく。


「黒って言うよりどす黒いな」


エンドの指摘した通り。

同じ黒でも邪悪さを放つ。

そんな紫闇はまるで生まれ変わるように(うな)りながら立ち上がってきた。


(空気が違う。あれだけの傷でダメージが無いかのように振る舞えるとはな。これが奴の、立華紫闇という闘技者の抱えている『鬼』か)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は折れた鎖骨が有る部位を撫でながら面倒臭そうにぼやき始める。


「はあぁ~痛ってぇなぁー。痛ぇ痛ぇ痛ぇ。江神~、確かにお前の攻撃は凄ぇしパワーもスピードも有って痛ぇんだけどよぉ。体に響く割に心には響かねぇんだよなぁ~」


彼は迷い無く歩を進める。

そして春斗の斬撃範囲に入った。

半円を描く刃が折れた鎖骨の有る部位を打つも紫闇は何も感じていないかのよう。


「だからさぁ。響かない(・・・・)んだって」


今の紫闇に痛いだけの攻撃は通じない。

魔晄防壁を越えるだけの威力が有ろうと。


「前に焔が言ってたのを思い出したよ。江神はさ。『人』なんだろ? 俺等とは違うんだ。だから攻撃に明確な殺気が(こも)らない」


にいっと笑う紫闇に春斗は困り顔。


「その通りだ。俺は『鬼』の域へと到っていない。歴代の[魅那風流剣術]を継いだ者は黒鋼と同じく皆一様に鬼だったのにな」

「言っとくがな江神。俺は馬鹿にしてるんじゃないぜ。技量はお前が遥かに上なわけだしな。ただ一線を越えてほしいだけさ。でなきゃあ折角の勝負が味気ない」


再び紫闇が前に出る。


「俺で覚えろ。一線越える感覚を」


もっと間合いに踏み込む。

春斗の袈裟懸けを右腕に装備された籠手のような【魔晄外装】で受けて蹴りを放つ。

春斗は一歩退いて回避。

それを追う紫闇は左拳が金に輝く。

禍孔雀が振るわれた。

しかし先読みしていた春斗は顔に迫る拳に対して首を捻ることで回しカウンターの一閃。

が、紫闇は喰らいながら前に出る。

右拳が繰り出された。


(馬鹿の一つ覚えも使い(みち)が有るが)

「ここでは悪手だったな『鬼の子』」


春斗が近付く右腕を鞘で弾く。

斬る、斬る、斬る。

そこからは一方的な展開。

攻撃を(かわ)しながら斬り、先手を取って斬り、攻撃を攻撃で押し切って斬る。

面白いように紫闇へ当たった。

先に春斗が出した魅那風流の[飛車斬り]という乱撃技に劣らぬそれに紫闇の体はあちこちから血が噴き上がっていく。


「立華紫闇。悪いが俺は『鬼』になるつもりは毛頭ないのだ。鬼にならずとも『人』のまま強く在れることを証明してくれた人が居る。俺はあのようになりたい。故に今のお前に負けてやるわけにはいかん」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

人か、鬼か 【2】

 
前書き
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》は残念だった。

江神春斗(こうがみはると)》の『人』で居る宣言に。


「そっか。江神が意地でも『鬼』にならないって言うんなら仕方ない。でも俺は諦めた訳じゃないぜ。江神が自分から鬼になれないってんなら俺が鬼にしてやるよ」


紫闇は既に春斗が鬼になることを半分諦めているが希望は捨てていない。窮地に追い込まれた人間はどうなるか解らないから。

しかし春斗の意志はそう簡単に変えられてしまうような(やわ)なものではなかった。


「教えてやる立華紫闇。人は鬼よりも一線を越えられるということを。そして人は鬼よりも残酷になれる存在だということを」


紫闇はわざと首の魔晄防壁を薄くした。

一線を越えさせる為に。

しかし春斗は臆さない。


「鬼に成らずとも同じことは出来る」


目付きを鋭くして左の頸動脈を狙う。

切断に成功。

夥しい出血だ。


「俺を舐めるな」


春斗は防壁が解かれた紫闇の眼球にも刃を突き入れると脳に到達させた。

そのまま直刀を回して(えぐ)る。

更に素早く引き抜き胴を()いでから[のどぼとけ]を突いて吹き飛ばす。


【魔術師】は生命力が常人とは比べ物にならない程に高い肉体を持ち、数ヶ所の骨折を三時間で回復させる自然治癒力を持つ者も居る。

致命傷を喰らった紫闇でも易々と死なない。


「後悔しろ。安い挑発を」


全身の防壁が消えている紫闇に対して春斗は直刀を上下反対に向け、峰で脳天を打つ。

頭蓋に(ひび)が走る。

脳が欠損したとは言え紫闇は失禁しそうなレベルの痛みを感じていた。


「お前が望んだことだ。遠慮はしない。普通はここまでしないのだが……」


両手で直刀の柄を持つと腕を引く。

足が半円を描き体が(ねじ)れた。

みるみる内に引き絞られる。


「これで終わらせてやろう」


全力で前に出て突くことしか考えていない。

そういう形の体勢だろう。

春斗の型には魔晄ではなく体の動きを利用した運動と筋肉の力が蓄えられていた。


「焔さん。あれは不味いですよ」


《エンド・プロヴィデンス》の呼び掛けに対して《的場聖持/まとばせいじ》も頷く。


「そうだねぇ~。もう決着は付いちゃってるわけだしそろそろ止めようか。あのままだと本当に紫闇が死ぬし」


力を溜め終わった春斗が最後の一撃を繰り出そうと右足を動かし始めた時、焔や聖持が春斗を制止したことで紫闇は命を救われる。


「最後は殺す気など無かったのだがな。この先もまだ戦いたい相手なのだから」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

隔たり

 
前書き
_〆(。。) 

 
【黒鋼流練氣術・氣死快清(きしかいせい)】によって《立華紫闇/たちばなしあん》は瀕死の状態から復帰するも、既に《江神春斗(こうがみはると)》の姿は無かった。


「【夏期龍帝祭】で優勝すれば、また相手をするって言ってたよ。江神(かれ)は大会の期間中、精神と感覚を研ぎ澄ませ備えておくらしい」


黒鋼焔(くろがねほむら)》の言葉に紫闇が首を(ひね)る。


「何に備えるんだ?」

「そりゃあ優勝者に挑む為でしょ」


的場聖持(まとばせいじ)》が何を今更とばかりに答えた。


「派手に負けたから実感が湧かないのかもしれないけど、俺等が知る限り紫闇は出場する生徒の中でも優勝する第一候補の筆頭だからな。春斗も次を楽しみにしてるのさ。一月半の修業で今の強さになったわけだし」


そうは言っても惨敗。

あちらが期待してくれているのは嬉しいが春斗は無傷で紫闇は死ぬ寸前だった。


「悔しいけどそこまで悲愴感は無いな」


佐々木青獅(ささきあおし)》を相手に逃げていたことを思えば成長しているのは明白。


「焔。修業を一段階きつくしてほしい」

「江神に勝つ為かな?」


今回は負けで良い。

自身の変化を実感したから。

価値の有る敗北と言えよう。

でも次は負けたくないと思った。


「二度目の敗北は価値有るものにならないんじゃないかって思うんだ。結局は今日と同じだし。もしそうなったらレイアさんや焔と過ごした時間が水の泡になる」


だから勝ちたい。


「酷だけど厳しいよ? 江神春斗は【魔術師】の【異能】を全く使わず、ただの武器としての【魔晄外装】と【魔晄】の操作だけで紫闇をこの有り様にまで追い込んだわけだからね」

「……そんなに隔たりが有るのか? 今の俺と江神の間に有る実力差は……」


焔の忠告に紫闇は眉間に(しわ)を寄せた。


「はっきり言わせてもらうけど、春斗は紫闇が今の10倍強くなったとしても異能と魔晄外装を使わずに魔晄操作と体術のみで殺せる」


そこまでかと紫闇は驚く。


「春斗の修業に何年も付き合ってる身としては魔術師としての力だけ(・・)に頼って戦ってる内はまだ(・・)紫闇に勝ち目が有るぞ。『それ以外』も出してきたら何年かかることやら」


エンドは(うな)る。


「今日の彼でさえ紫闇が無策の真っ向勝負を挑むなら最低でも五年は()る」


皆の意見に紫闇は嘘だと言ってほしかった。


「もしあたしと同じで魔術師以外の力も持つなら紫闇が修業開始から今日までの一月半と同じペースで成長できても10年以上かかる。それほどに江神は底が知れない」

 
 

 
後書き
焔と同じく春斗も原作より強化。

原作と話が全然違ってきた。
_〆(。。) 

 

勝ち目は有るか

 
前書き
更新は休んでたけど、年末年始はあんまり休みという感じにならなかった。
_〆(。。) 

 
江神春斗(こうがみはると)》に敗れた《立華紫闇(たちばなしあん)》は黒鋼の屋敷へ戻った後、《黒鋼焔(くろがねほむら)》とこれからどうするかの方針を話し合う。


「学園で『今日の江神』に勝つなら最低5年は掛かると言ったのを覚えてるかい?」


紫闇は悲痛な顔で頷く。


「実は勝つ方法が有る。但し、あくまでも『今日の』江神に対してだから、明確に上の力を出されるとどうしようも無い。それをようく頭に入れておいてくれ」


紫闇は思わず目を見開く。


「あ、有るのか……? 明らかに本気でないとは言っても俺からすれば今日の江神も到底敵わない強さだったぞ」


あれ(・・)で『人』に留まっているのだ。

もしも紫闇と同じように『鬼』となり、全ての攻撃に無差別で軽々しく殺気や殺意を込められるようになれば間違いなく死ぬ。


「あくまでも、江神が今日の調子で戦ってくれた場合なら『勝てる可能性』が有るだけで真面目に戦られたら負けるからね? 十中八九、大丈夫とは思うけど」


焔が見出だした勝機。

それは本人(はると)にとって只の癖。

無意識でやっているのだろう。


「解ってる筈だよ。あいつの戦り方を」


恐らく春斗に対する焔と紫闇の考えは一致している。これは間違いない。あれだけ堂々とやられて解らないなら(にぶ)すぎるというものだ。


「江神は相手に合わせて(・・・・)力を出す。実力を引き出そうとする。その上で本気になった相手を倒す傾向に有るんだよな」


紫闇の認識に焔は笑う。


「普通、自分が上だという自信が無ければそんな真似をする奴は居ない。もし居たら負けたがりか勝敗を無視して場馴れしたい奴だろう。つまり江神は『負ける』という考えを極一部の相手以外に持っていないということだ」


焔の言葉から受け取れるのは、江神春斗が立華紫闇のことを経験値稼ぎ、遊び相手くらいにしか見ていないということに他ならない。


「それでいて俺が【魔術師】や[闘技者]として成長したのは認めている。そして将来性を見込んで戦うことで俺に格上との実戦経験を積ませ成長させようってことか」


春斗は単純に戦う相手が決まった限られた者しか居ない上に、自分と競い合い、高め合える者も、着いて来れる者も、その限られた相手しか居ないのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「江神のことは何となく解った。でも彼奴(あいつ)に勝つ方法なんて、手加減してもらう以外に存在するのか?」


紫闇も焔も春斗が手を抜いて戦うことが当たり前になっているのは理解している。

問題は手加減した状態にすら紫闇が着いていけないことと、どうやって戦えば良いのか。


焔は一つの案を示した。


「江神の持つ一番の武器は『速さ』だけど、その速さが彼の(あだ)となる。紫闇との戦いを見るに、彼は高速移動中に殆ど減速しない。制動(ブレーキ)に到っては全く使われない」


紫闇はどういうことか理解する。

その身に春斗の斬撃を嫌と言うほど喰らい、まるで流れるように攻撃を(かわ)す、舞うような身のこなしを散々目に焼き付けてしまったから。


「減速も制動もしない高速移動中ならさぞかしカウンターは効くだろうな。つまり奴が俺に向かって近付いたら必殺の一撃を叩き込む」


正解だったようだ。

焔は首を縦に振る。


「そんなわけである技を教えるよ」


焔に呼ばれた祖父の《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》が対峙。

二人はズレも無く、共に致命傷を狙える位置にまで踏み込むが弥以覇だけが吹き飛ぶ。


「成る程……。相手と同時に勢いよく前へ出て、体術での攻撃が確実に届く間合いに入る。そこから【禍孔雀(かくじゃく)】を発動して胸に一撃か」


見えていたことに安心した焔が一息吐くと弥以覇は何事も無かったように立ち上がった。


「小僧が言った通り、この技は相手と自分が前に出る『推進力』を利用したカウンターじゃ。武術で言うと【交差法】と【後の先】が近いんかのう?」

「自分だけの勢いだけでなく相手の勢いも使えば通常の数倍から数十倍の威力を見込める。ここで自身の攻撃を禍孔雀にすることによって威力を更に何十倍にも高めるんだ」

「黒鋼流体術では【打心終天】と呼ぶ」

「原理的には【魔晄(まこう)】を操作する技術以外、普通の人間にも出来るよ。互いに助走を付けてクロスカウンターするか相手に紙一重早く攻撃を出させてから自分が紙一重早く攻撃を当てるかっていうシンプルな技だし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(簡単そうに言ってるけど、普通の人間なら何十年と武術に打ち込んできた達人に近い人が格下相手に対して使った場合でも完璧に決められるかどうかっていう技術のはずだぞこれ……)


打心終天は互いに推進力が有るほど強い。

もし江神春斗が高速移動と突進技を合わせて使ってきたところに当てれば終わる。


しかし躱されたなら───


「紫闇の想像した通り、失敗すればジリ貧か即座に負けるだろうね。そもそも江神は本気のあたしと戦えそうな感じがしたから」


地力が違うのだ。

春斗は無理をして攻めずとも、時間を掛けて丁寧に戦っていれば良い。

それだけで紫闇をあしらえる。


「打心終天を決める為の過程(プロセス)が要るな。手を抜いているとは言え、僅かにでも江神を慌てさせるくらいしないと焦って攻めて来ないだろう」

「紫闇の言う通り。手抜きの相手を少しで良いから圧倒できなければならん。そうでなければ小僧が江神の孫を相手に勝つ見込みは無い」


焔と弥以覇の作戦。

剣士の春斗を寝技に持ち込む。

そこから腕を一本折る。

これで剣技の性能を落とす。

更に小細工無しの一閃を正面から仕掛けてきた春斗へ打心終天を入れて終わり。

真っ向からの実力勝負が好きな春斗は必ず正直な攻め方をしてくれるはずだ。

簡単な流れだが恐ろしく難しい。

今の紫闇は素直に春斗とぶつかったとしても凌ぐ実力が無いので不可能。


「基礎能力の向上は必須。技の修得も有る」

「修業の厳しさは跳ね上がるぞ立華紫闇。今までと比べ物にならん程にな。それでも江神の孫へ挑むか? まあ奴と戦う前に【夏期龍帝祭】を優勝せねばならんのだが」


紫闇は二人に即答。


「地獄を味わってでも勝ちたい。だから頼む」

(よろ)しい」

「覚悟せい」


紫闇はふと思った。

今年の夏は暑くなる。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

裏事情

 
前書き
オリジナル設定。
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》が【打心終天】の会得を決意し《江神春斗(こうがみはると)》を打倒する方針を固めた夜。


「やっぱり今の彼は弱すぎるよね~」

「自覚もしてないみたいなんで」


【龍帝学園】の生徒会室。

そこに一組の男女が居た。

彼等が眺めている立体モニターには紫闇と春斗が戦っていた時の様子が流れている。


「龍帝の生徒としては、強さランキング10番に入れるかどうかですけど、そこから上は春斗や俺達が居座ってるんで、敵うようになるのは厳しいですよね」

「出来れば去年死んだ史上最強の『オール・タイム・キング』こと《神代蘇芳(かみしろすおう)》を超えてほしいんだけど、まあ駄目なら駄目で良いや。人類にとってはその方が有り難いだろうしねー」


男子生徒は龍帝の一年。

紫闇の幼馴染《的場聖持(まとばせいじ)


女子生徒は五年。

一年の時から生徒会長。

学園の顔《島崎向子(しまざきこうこ)


「紫闇を手に掛けるのは絶対に嫌です。けど、もし彼奴が彼奴(あいつ)で無くなったら、その時は容赦しません。俺をいじめから救ってくれた恩人で親友だからこそ全力で殺しに行きます」


聖持は紫闇に見せたことの無い真剣な顔で映像の紫闇を見据えている。


「そこまで気負うことは無いさ。君の幼馴染を信じようじゃないか。自分の内に居る【上位存在】に負けず高みに登ってくることを」


二人は《黒鋼焔(くろがねほむら)》や《永遠(とわ)レイア》が気付いているように、立華紫闇本人が知らない彼自身に関わることを知っていた。

そう、【古代旧神(エルダーワン)】や【旧支配者(オールドワン)】といった上位存在をその身に宿し、融合してしまった人間、【神が参る者/イレギュラーワン】なのだということを。


上位存在を飼い慣らして上手く力を使いこなせるようになれば良いが、一歩間違えると宿主の精神が消滅し、体を乗っ取られてしまう。


「私の知り合い二人が上位存在に内側から存在を喰われちゃってたからね。一人はあたしの手で始末したよ。もう一人は別で処理されちゃったみたいだけど」


向子は龍帝一年の頃に最大のライバルとされた親友を殺してしまっている。

しかしそれは親友の仇を討っただけ。

曰く、生徒会長としての才能を見るなら本来は自分でなく彼女が成るはずだったという。

向子は暗躍する方が適任なのだ。


「あたしの親友だった《小鳥遊鈴里(たかなしすずり)》に【刻名館学園】の前会長で、『気狂い道化』の《外山道無/とやまみちなし》と言い、どうして面倒臭いことになるのかなぁ~」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「脱線してるんで話を戻しましょう」

「おお、そうだったそうだった。立華紫闇についてのことだね。総意としては、あたし以外も含めて彼が上位存在に呑まれなければ放置しても構わないっていう立場(スタンス)なんだ」


紫闇を刺激せず触れない。

最初からその考えが貫かれていれば彼が魔術学園に来ることは無かっただろう。

しかし別の意見を持った派閥も有る。

紫闇の上位存在が覚醒する前に消す。

そう言った強硬派だ。

彼等はレイアや聖持が必死に説得し、影から紫闇を守ることで落ち着いた。

しかし捨て置くには色々と危険。


「じゃあどうするかっていうことで発案されたのが紫闇を魔術師として鍛え上げ、内なる上位存在を支配させ、その力で以て役に立ってもらおうっていう計画なんだけど」


なかなか大変だ。

先は長い。

紫闇の憧れ大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》が率いた彼を含む当時最強の魔術師7人によるチーム【マジェスティックセブン】に入れるくらいにまで育てなければならないのだから。


「【神が参る者(イレギュラーワン)】の実力って宿った上位存在で変わるから一種の博打みたいなものなんですよね。修業から一月半で世界の上位1000位以内に入る実力になったのは流石だけど」


聖持も向子も他の協力者とプランを組んで紫闇を成長させる為に頭を(ひね)っている。


「レイア君に頼んで立華君のことを改造してもらえれば早いんだけどなー」

「それは最終手段って言ってましたよ。自力で強くなった方が良いって。改造したところで上位存在やその影響を何とか出来るかは微妙ですし」


やはり常に紫闇のことを監視して地道に力を付けてもらうしかないようだ。

時間と手間は掛かるが安定状態のまま経過観察できるのでリスクが少ない。

とは言っても何が切っ掛けで急成長するのか解らないので確実に対処できる準備しておくことは欠かせないだろう。


「今年の【夏期龍帝祭】、何事も無ければ紫闇の独壇場で、決勝まで来たクリスを倒すだけなんだけど、向子さんがちょっかい出さないわけないよなぁ……」

「勿論さ! 向子さんはみんなの期待に応える良い女会長なんだからね!」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

春斗に非ず

 
前書き
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》と《江神春斗(こうがみはると)

彼等が立ち会った翌日。

午前五時半。

江神の屋敷。

起床した春斗は水風呂に入る。

気を引き締めてから《エンド・プロヴィデンス》、祖父である《江神全司/こうがみぜんじ》の二人が待つ道場へ向かう。

彼にとっては何時ものこと。

エンドは道場の端で見ているだけだが他の二人は剣道の防具を着けて竹刀を持つ。

全司は今年で90才になる。

だが、【邪神大戦】の折に『剣鬼』と呼ばれていた益荒男(ますらお)の気迫は今だ衰えない。

筋骨も隆々。

上背(うわぜい)も175cm有る春斗より更に高い。

180cmを越えている。

そんな祖父・全司との稽古は常に緊張感に溢れているのだが、春斗は九才になった頃から一度も一本を取らせたことは無かった。

春斗は2年前の13才だった当時、日本で最初の【魔神】と話題だった[鉄拳の女帝]《白鳥マリア》に挑むも一秒で大の字に倒れ見下ろされてしまう完膚無きまでの敗北を喫する。

しかしそれは、あくまでも【魔術師】として、【魅那風流】の剣士としてに(こだわ)ったからであって、全ての力を惜しみ無く使っていれば、決して負けはしなかっただろう。


「今日も春斗の勝ちかぁ」


エンドがぼやく。

互いに探りを入れて剣を交わす両者。

そこから良の調子で撃を打ち込む。


「ふぅーむ。春斗の剣は日々成長を遂げ、冴えを増しておるようじゃな。もはや先読みで技を察知できていても躱せん」

「恐縮です」


外観から見た全司の肉体は60年前の全盛期と比べても殆ど変わらない雰囲気だ。

加齢による老いは有るが、現在の状態でかつての邪神大戦に参加しても、まだまだ強者の部類に入るだけの実力を維持している。

剣技の熟練度に関しては大戦が終わってからも長年の鍛練と研鑽を経て、当時よりも数段上の領域であろうことは間違いない。

寄る年波による弱体化を技術と経験、気迫と磨き抜いた感覚で埋め合わせ補う。


総合的には全盛期と変わらないはず。


(なのに勝てぬのは)

(勝てないのは)


全司とエンドは同じ答えが浮かぶ。

単純な実力で春斗の方が上。


(例え『鬼』で在らずとも、今の俺は貴方には負けませんよ、御爺様。あの頃に、父上と母上が亡くなるより前にレイアさんとエンドに出逢っていなければ解りませんが、今の俺なら[本気]の御爺様であろうと歯牙に掛からない程度でしかない)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


江神春斗の両親は七年前に死んだ。

《ナイアー=ラトテップ》が討たれ東京が【無明都市/ロストワールド】となった。

その時に死んだという。

春斗は無明都市の発生時に何らかの影響で外部へと弾き出されてしまったことで彼は無明都市に隔離されなかった『生還者』という世界的にも稀な存在となる。

春斗は二人のことに執着しているわけではないが、二人は今でも彼に影響を与えていた。


仏頂面の父と厳格な母が一度だけ破顔して頭を撫でてくれた時のこと。

魅那風流の奥義を身に付けた時だ。


「よくぞその歳で身に付けた」

「貴方には剣才が有る。かけがえの無いものを持って生まれましたね春斗」


これが忘れられなかった。

だから剣の道を歩み続けている。

鬼に成れない自分でも諦めが付かないのは、この時のことが有り、『人』のままで強者となって見せた《永遠レイア》が居たから。


(父母が褒めてくれたのはあれっきり。最初で最後のことだった。だからこそ魅那風流の剣士であることに固執するのかもしれない)


左手の甲に有る【古神旧印(エルダーサイン)

春斗は初期状態の点。

それも仕方ないだろう。

彼は学園に不登校な状態。

もちろん【天覧武踊(てんらんぶよう)】にも出ていない。

春斗を気にした全司が話を振る。


「五割まで完成させてからが長い道程になる、と何処かで聞いたことが有るな」

「はい。古神旧印のシステムが生まれてから七年経ちますが、完成率が五割以上に達した者は世界で30名に満たないようです」


古神旧印は天覧武踊で相手を失神・殺害してエネルギーを奪うのだが、それを続ければ必ず五割以上になるというものではなかった。

二人の会話にエンドが口を挟む。


「俺の予想ですけど刻印は強者を倒さないと成長しないんじゃないんですかね? このシステムは圧倒的な強者、『神に選ばれし者』を決める為のものじゃないかと」


古代旧神(エルダーワン)】が何を考えているのか人間には理解できるわけも無いが、エンドと春斗には全司の思考が手に取るように解った。

神に選ばれし者。

それは孫の春斗に(あら)ず。

彼はそう思っている。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

決意は固く

 
前書き
_〆(。。) 

 
江神全司(こうがみぜんじ)》が孫の春斗は【古神旧印(エルダーサイン)】を完成させて【魔神】に、【古代旧神(エルダーワン)】が選ぶ者になれないと思っているのには訳が有る。

そしてそれは全司が春斗のことを剣の道から、『闘技者』としての生き方から外したがっている理由でもあった。

[魅那風流]の剣士としては歴代最高と言っても良い武才とそれに見合った肉体・精神を有し、江神家に栄光をもたらすことが約束されている麒麟児に対して何故そんな思いを持っているのかと言うと。


(俺は『鬼』に成れない。『人』の道を外れるどころか逸脱することすら出来はしないだろう。だがそれで良いんだ。俺の目指すは人を超えた『超人』の域なのだから)


江神春斗(こうがみはると)》は自分の祖父である全司が自身のことを欠陥品であると思っていることなど当の昔に悟っていた。

人としては愛せても、闘技者としては軽蔑されていることなど百も承知。

毎朝の稽古で本気を出さない全司に言いたいことは有るが、春斗にとって祖父の全司は【魔術師】や闘技者としては既に『越えてしまった壁』であり、祖父として以外の彼にはそこまで時間を割く必要が無い。

故に変わらず接している。


「時に春斗へ聞きたい。お前の心に変化が見られるが何か有ったのか? 今日の気配は少し熱を持っていたように感じたのだが……」

「当代の黒鋼と会いました」


絶句する全司に《エンド・プロヴィデンス》は押し殺したように笑う。

エンドは自分が黒鋼で修業していたことを全司に話しているものの、全司は気にすること無く受け入れ魅那風流剣術を伝授している。


「彼奴の名は《黒鋼焔(くろがねほむら)》と言い、自分の通う龍帝学園の二年生です。しかし全く登校していない様子だったので知る由も無かった」


全司は静かに耳を傾ける。

何か感じ入っているようだ。

無理もないだろう。

江神全司にとって黒鋼は【邪神大戦】で出逢い鬼の血が騒ぐような闘争を繰り広げた相手であり忘れ得ぬ好敵手なのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


沈黙していた全司が天井を見上げる。


「彼奴の……我が好敵手《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》の孫は如何なる者であった?」

途轍(とてつ)も無く強い。底が見えぬ程に。学生はおろか、例え軍属であっても比肩する【魔術師】が居るのか疑問です。かつて俺が挑んだ魔神、『愚者のマリア』こと《白鳥マリア》をも凌駕するやもしれません」

「左様か……。くくっ、修羅から生まれるのは修羅のみということかよ」


春斗も《エンド・プロヴィデンス》もこんな上機嫌の全司を見るのは久し振りだ。

しかし笑みは数秒で終わる。

表情を無に戻した彼は厳然に問う。


「立ち会ったのか?」

「いえ、弟子がおりましたので其方(そちら)と」

「儂の知る限り、黒鋼に弟子入りする人間の悉くは特異な存在であるからのう。勝負が預かりになるのも無理は無かろうて」


全司は実に懐かしそうだ。

彼は弟子についても尋ねる。


「あ、そいつについては俺が」


エンドとは幼馴染みだった。


「名前は《立華紫闇(たちばなしあん)》。俺や春斗と同じ十五才。才覚で言えば三流以下です。しかし魔神になることを諦めない狂気を持つ。龍帝に入学した当初は学年でも最弱に近い生徒に手も足も出なかった。しかし一月半で生まれ変わりましたよ。昔からあいつを知ってる身としては驚かざるを得ません」


それには春斗も同意する。

諦めること無く困難を乗り越え地獄を耐え抜いた紫闇は凄まじい、尊敬に値する男だ。

心の底から思う。

未来の好敵手だと。


「奴は此方(こちら)の心を熱くする不思議な男。あの者にだけは負けたくないという想いが有る。故に成長を促すような真似をしました。力を完成させた立華紫闇を叩き伏せ、己が強さを証明する為に。とは言ってもあの男が【夏期龍帝祭】で優勝することが前提になりますが」


柄にも無く熱くなった春斗だったが、全司の方は彼を冷然とした目で見る。


「そうか……。どうあっても考えは変わらぬのだな。しかし今一度繰り返させてもらおう。江神春斗は半端にしか狂気を受け継いでいない。人と鬼の狭間を彷徨うばかりで先に進むこと(あた)わず。ならばいっそ剣を捨てて常道を歩んだ方が幸せであろう」


春斗に哀れみの目が向く。

春斗を信じていない。

何の期待も抱いてはいないのだ。

亡き父母も同じ目をしていた。

彼等にとって、いや、江神という一族にとってどんなに剣才が有ろうと春斗は欠陥品。

鬼の狂気に染まれない失敗作。


(ならばそれで良い)


自分は人のままで鬼の江神を超える。

魅那風流以外の力に手を出してでも。


(既に自分のことを応援し、認め、支えてくれている人達もおり、彼等の力も有って世界でも上から数えられる領域に入った実力の俺は、もはや江神という枠には囚われないし縛られない)


成長した立華紫闇を倒す。

春斗の闘技者としての集大成はそれを成し遂げて漸く完成を見たと言えるのだ。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

乗り越えろ

 
前書き
_〆(。。) 

 
6月末。

一年生のみによるトーナメント戦【夏期龍帝祭】が開幕する時がやって来た。

舞台となるのは【龍帝学園】の専用ドームとなっているドラゴンズガーデン。

何万もの観客が来ている。

白髪が目立つ《黒鋼紫闇(くろがねしあん)》は整列した選手一同の中に紛れていたのだが、彼はこの毎年行われている大会の様子が違うと感じざるを得ない。

昔から映像で見ていた。

だから判るのだ。


「幾ら何でも客が多すぎる……」


夏期龍帝祭がこれ程に注目されているのは大会初まって以来のことだろう。

夏期は一年のお披露目や新人戦という扱いであり【冬季龍帝祭】のように全学年が参加する選抜トーナメントほど見応えは無いのだから。

なのにドームの席が埋め尽くされるくらいの客数が集まったのは金髪少女で一年生の序列一位《クリス・ネバーエンド》が原因で間違いない。


(人気高けーからな)


彼女を見る為に客は来た。

紫闇と同じ一年だが最上級生の五年生でも圧倒されることが珍しくない実力。

ルックスも抜群。

それは人気が出るというもの。


『さあ今年もやって参りました! 第50回目になる夏期龍帝祭ッ! 参加者は57名!』


熱くなっていく観客とは逆に紫闇の心は冷えていき他の参加者に意識が向かう。

大半は知らない奴だ。


(《江神春斗(こうがみはると)》が居ないのは残念だが優勝すれば彼奴(あいつ)と戦えるからな)


クリスには悪いが踏み台になってもらう。

この大会は五日から七日に一度の試合日で進行していき1か月に渡って続く。

司会が選手の紹介を終えると参加者は広い控え室に通されて試合を待つ。


「立華紫闇君」


出番が来るまで時間を潰していた彼は呼ばれると胃が痛くなってきた。


「《佐々木青獅(ささきあおし)》君」


紫闇の気が重くなる。

自分を叩きのめしたまるで小学生のような体格しかないクラスメイトには何れリベンジしなければならないと思ってはいたのだが。


(初戦で当たるとは)


紫闇が視線だけ向けると青獅には以前戦った時の怖い笑みが無く、真剣そのものといった眼差しで紫闇を睨み付けてきていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


二人は控え室を出ると並んで歩く。


「き、君は、どうして、ここに居るの? どうして、戦おうとするの?」

「何で、そんなことを?」


紫闇は当惑する。


「こ、答えてほしい」


青獅には大事なことのようだ。


「理由は沢山ある。けど、一番大きいのは……諦めたくないから、かな」

「あ、諦めたく、ない?」

「そうさ。英雄になりたいって夢を、輝きたいって願望を諦めたくない。だから学園に戻ってきた。だからお前ともう一度戦うんだ」


青獅の瞳が鋭くなると炎が宿り、紫闇からの睨み据える視線を受け止める。


「ぼ、僕にも……立華君と、同じように、ま、負けたくない、理由が、有る……!」


闘技場への通路が分かれていた。

互いの入場口に向かって。

そこで青獅が吼える。

まるで獣が伝えるように。


「ぼ、ぼくの方がッ! 強いッッ!」


紫闇が戦った時とはまるで別人。

遊ぶつもりなどまるで無い。


「俺も前とは違うぜ佐々木……!」

(笑っていた奴等に証明してやる。過去を乗り越えたことを。お前を倒してな)


もう胃の痛みは消えていた。

会場に入ると眩いスポットライト。

紫闇を照らす。

それを浴びて花道を歩く。

耳には歓声。

舞台に上がり青獅と対峙。

舞台ごと結界で包まれる。

バトルフィールドが形成された。

同時に紫闇の右腕が肘まで装甲に覆われたが少し、しかし確実に様相が違っている。

形状は変わっていないものの、以前までは灰色だった【魔晄外装】が黒い。


『一回戦第六試合! 東方は立華紫闇選手ッ! 彼の外装はなんとっ、超稀少でありながら何の価値も無い『規格外』ですッ! そこに一年生の序列最下位という肩書きならば誰もがこう思うはずです! 一体彼はどうやって予選を勝ち抜いたんだ!? と!!』


ブーイングは無視。


(黙って見てろ。直ぐに教えてやる)


立華紫闇が如何な存在か。

対する青獅はと言うと。


「やっぱ中身だけ変わったんじゃないか」


紫闇の見る彼も外装が変わっている。

以前は灰色の棒だったが今は蒼穹色の槍。

外装の形状は本人の成長などによって変化することが有ることが知られている。


『西方は学年序列12位! 佐々木青獅選手ッ! 無礼を承知で断言しますが彼には何の才能も有りませんッ! しかしながら負けん気と根性は天下一ッ! 心の強さで限界を超えてきました! 常軌を逸した凡人は何処まで登るのかッッ!!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


現在の龍帝一年で序列12位。

元は紫闇と同じ三軍の中でも最底辺。

青獅は紫闇と焔のような出逢いが無かったにも関わらず自力でそこまで駆け上がった。


「佐々木。俺、ずっと謝りたかったよ」

「な、何、を?」

「お前を見下してた。凄い努力家だけど上には行けない。絶対俺の方が上だってな。それを今、謝っておきたい。本当に、馬鹿なこと思ってたよ。過去の俺は節穴野郎だ」

「べ、別に気にしてない……。み、見下されるのは、慣れてる、から」

「佐々木は本当に凄い奴だ。俺にとっては正にトラウマなんだよ。だから───」


試合の開始まで10秒足らず。


「そんなお前を踏み越えて俺はッ!」


青獅が槍を構える。


「先へと進むッッ!」


紫闇は試合が始まると地面を蹴って一直線に相手と間合いを縮めていく。

そして【禍孔雀(かくじゃく)】を発動。

右手が黄金に輝き固く握り締められた。

振られた腕は真っ直ぐに青獅の顔へ。

直撃した拳がめり込む。

顔面で爆裂。

金色の粒子は花から花粉が撒き散らされるように周囲へと広がっていく。

結界にぶつかった青獅の体は受け身も取られず地面へと落下していった。

10カウントされる間に青獅の【古神旧印/エルダーサイン】は輝く筋となる。

それは紫闇の体に入り込む。


『試合終了ーーッ!! 12秒でノックアウト! 凄まじい圧勝劇ッ! 一発ですッ! まるで歴史的な瞬間に立ち会ったような気分だぁッ!』


ドーム内には数万の色々な声が響いている。


「俺は、乗り越えられたんだな……」


気絶した青獅を見ながら紫闇が呟く。

声援を浴びながら退場。

彼は(たま)らず胸に(たぎ)る思いが口を()いて言葉となり発露してしまった。


「待ってろよ江神……!」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

思惑

 
前書き
原作と同じく二、三回戦は無しです。 

 
【夏期龍帝祭】は滞りなく進む。

立華紫闇(たちばなしあん)》も[打心終天(だしんしゅうてん)]の会得を除いては順調で、二回戦も三回戦も突破。

少しずつ注目を集めている。

早くも準々決勝に(のぞ)む彼は。


『立華選手ダウンッ! 三回戦までは圧勝だったのに苦戦させられていますッ!』


心身共に最悪のコンディション。

試合が始まる前は良かったのに始まった直後からいきなり原因不明の体調不良。

片や対戦相手の士気は極めて高い。

調子も抜群に良いようだ。


(頭が割れそうに痛い。体も熱くて仕方ない。自分が思うように動けない)


これ等に加えて時間が止まったような、以前に【刻名館】の連中や《黒鋼焔(くろがねほむら)》に対して覚えたのと同じ感覚に襲われる。

あの時は不思議で奇妙なだけとしか捉えていなかったが今の紫闇には気分が悪い。


(体の動きに誤差が有るみたいだ)


お陰で普通なら苦戦しない相手にこの様。

紫闇は体調不良を利用してわざと自分に隙を作り出してから相手を誘い込む。

そこから金的を蹴り上げた。

倒れて痙攣する相手から【古神旧印(エルダーサイン)】が輝く筋となって紫闇の体に入っていき、10カウントが進む毎に観客のボルテージが高まる。

逆転勝利が確定すると割れんばかりの大歓声が巻き起こりドーム内に鳴り響く。


『学年序列最下位のバッドルーザーが、[まぐれ勝ち]と言われ続けたこの男が準決勝への切符を手に入れましたッッ!! 立華紫闇ッ! お前は一体何者なんだあぁぁぁぁぁぁッッ!?』


ふと体調不良が消える。


(出来れば試合中に治ってほしかったけど、まあ勝てたから良しとしとこう)


花道を歩いて退場していく彼を(たた)えて沢山の紫闇コールが掛けられていく。

感動と感慨と感激。

罵倒されるばかりの人生だった彼が今はまるで英雄のような扱いを受けている。

紫闇は途轍もなく気持ち良かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


治療を受けた紫闇が控え室に戻る。

残りの準々決勝三試合を見届けた。


「準決勝の第一試合は俺と……」


序列一位の《クリス・ネバーエンド》

紫闇としては決勝で当たりたかった相手だが組み合わせなのでしょうがない。

準決勝第二試合には興味が無かった。


「一年の序列二位は今でも勝てるしな」


ベスト4に残った最後の一人は三軍の底辺から此処まで上がってきた男子。

紫闇と同じような立場だ。


(めちゃくちゃ強いって評判だけど、まあクリスより強いことは無いだろ。それなら何時も通り戦えば問題なく勝てるだろうし)


紫闇はドラゴンズガーデンを出ていく。


「どうだい今の彼は?」


【龍帝学園】の五年生で生徒会長の《島崎向子/しまざきこうこ》は全ての相手を一撃で倒し、全ての試合を3秒以内に終わらせてきた一人の生徒に紫闇のことを尋ねていた。


「特に見るべきところは有りませんね。俺が優勝して終わりですよ。基本性能において話にならないくらい差が着いてますから。一定水準に達していない【異能】も意味が有りませんし」


向子の予想した通り、現状の紫闇では内なる【上位存在】に取って代わられでもしない限り、この人物に敵うことは無いようだ。


「拘束・封印・抑制・制限・限定・抑止・減少・衰退と色んな方法で本来の力を出せないようにしてるのに全然勝ち目が無いって言うのも悲惨だよねぇ」


向子にとって今年の夏期龍帝祭の意味は紫闇を成長させる為のもので、彼を新たな段階へ移行させる為の舞台装置でしかない。

そこに越えることが容易ではない『壁』となる相手を用意することで燃えてもらう。


「待ち通しいよ。完成の日が」

「俺に負けて《江神春斗(こうがみはると)》と戦う権利を失えばさぞかし悔しいでしょう。必死になって食い下がって来るはず」


そんな紫闇を返り討ちにして叩き潰す。

紫闇の想いに反応した内なる上位存在を強引に表へ引き出し、【神が参る者/イレギュラーワン】としての完全な覚醒を早める。

やり過ぎると紫闇が消滅して体を乗っ取られるので注意が必要だが、もしそうなっても始末しさえすれば良いだけのことで問題は無い。


「上手くいくことを願っとくか」
 
 

 
後書き
原作で一番意外な活躍をしたキャラクターなのは一回戦で負けた佐々木青獅。 

 

おかしなこと

 
前書き
短い。 

 
「ただいまー」


【夏期龍帝祭】が始まって以来、何処かへ行方を眩ませていた《永遠(とわ)レイア》が黒鋼の屋敷に戻ってきた。


「あ、兄さん」


黒鋼焔(くろがねほむら)》はレイアに近寄る。


「紫闇は?」

「あそこ」


立華紫闇(たちばなしあん)》は打倒《クリス・ネバーエンド》を目指して修業に励んでいたが、今日も【打心終天】を会得できないでいた。


「レイアさん、帰ってたんですね。一体今まで何処に行ってたんですか?」

「私の学校だよ。別に出席しなくても卒業は出来るんだけど、たまには顔を出しておいた方が良いからね。留守を任せてる人も居るし」


そこへ《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》もやって来た。



「ほっ、ほっ、ほっ。久し振りに小僧の鍛練を見ておったがレイアまで揃うとはの。どうじゃ、お主も参加せんか? 体が(なま)っとらんか確認してやるぞい」


レイアは道着に着替えてから紫闇と共に焔と弥以覇に見られながら基礎能力を上げて地力を付ける為の訓練に参加。

肉体を酷使し【魔晄(まこう)】を枯渇させ、精神を磨り減らす苛烈な鍛練だが紫闇は歯を食い縛って耐え、滝のような汗を(したた)らせていた。

しかし、そんな彼の直ぐ近くでレイアは軽いジョギングでもしているかのように淡々と、平然とした顔で汗を掻かず、息も切らせず紫闇と同じメニューをこなす。


「やっぱり兄さんは化物だ」


焔は嬉々としている。

レイアの弟《エンド・プロヴィデンス》もそうだが二人は持って生まれた才器(もの)が自分達と比べて良いようなレベルに留まっていない。

紫闇もレイアの様子を眺めながら呆れているが修業は休むこと無く続けていた。

そんな彼がとある行動を取ると弥以覇が驚き焔が喜びレイアが関心して視線を向ける。


「どうしたんだよ三人とも。俺は別に何もおかしなことはしてないだろ?」

「いや、さっき紫闇の小僧がやったことは黒鋼流において間違いなくおかしい。何せ儂と焔が絶対に出来んことをしたからのう」

「見るのは兄さんとエンド君以来だね。この調子でどんどん強くなってくれ。打心終天と一緒にその技術も伸ばそう。今年だけでどれだけ強くなるのか本当に楽しみだよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


修業が終わって一段落した後、紫闇はレイアに今まで何をやっていたのか尋ねる。


「さっきも言ったけど自分の学校に行った。それから留守を任せてる人間に会ってきたんだ。ついでに一部を除いた各学年の序列最上位を何人も野試合で負かしてやったよ。まったく生徒会長っていうのは仕事が多い」


紫闇は目を丸くした。

【魔術学園】の生徒会長は学園で最強の実力を持つ生徒が勤めていること殆ど。


(レイアさんが強いのは昔から知ってるし、この人なら会長やってても納得できる。でも去年の【全領戦】には居なかったよな?)


一体何処の魔術学園に通っているのかを聞いたことは無かったが、レイアの力なら個人と団体どちらかの部に必ず出ている筈だ。

彼が無名のままで居るなど有り得ない。

紫闇はそう確信している。


「レイアさんの学校ってレイアさんが全領戦の選抜になれないような所なんですか? 俺にはちょっと考えられないんですけど」

「私が無名のままなのは、正直なところ【天覧武踊/てんらんぶよう】に興味が無くて、【魔神】になってやろうっていう意思も皆無だから、まともに試合や大会へは参加してないっていうのが有るのかな」


他にも全く登校していなかったり、生徒会長という面倒臭い仕事を引き受ける代わりとして、他の人間に全領戦へ出場してもらったりしたのだという。


「どうりでレイアさんの【古神旧印(エルダーサイン)】が成長してないわけだ。俺ですら四割完成してるのに。一体何処の学校なんです?」


紫闇の問いに返ってきたのは。


「【鳳皇学園/ほうおうがくえん】」


【龍帝学園】のライバル校だ。


「……は? え、いや、マジっすか? マジですか? マジなんですか? あの(・・)鳳皇学園で間違いないんですか!?」


紫闇が叫ぶのも無理は無い。

日本全国に存在する八ヶ所の【学園領域】の一つ、近畿領域・奈良の魔術学園。

其処が去年出した全領戦の成績は。


「うん。全領戦で個人・団体の二冠を達成した所で間違いないよ。昨年は四人の魔神が死んだゴタゴタで【頂上決戦】はしてないけど」


紫闇が知る昨年の鳳皇学園団体メンバーは皆一年生にも関わらず、既に全員が魔神と同等の域とまで言われる程で、単一の学園生徒によるチームでは古神旧印のシステムが生まれて以来、最高という評価も有る。

個人戦で優勝したのも団体戦メンバーの一人であり、その人物は昨年まで史上最強と言われた《神代蘇芳(かみしろすおう)》を超えて自分に匹敵する、と蘇芳を殺した新しい最強から御墨付きを出されている程の逸材だ。


「そりゃレイアさんは強いわけだ」


現在世界中に在る魔術学園で団体戦をすれば間違いなく優勝するとされる鳳皇学園の代表達と『対等(ため)』を張れるのだから。

しかもそのメンバーから生徒会長を任せても良い程の信頼まで得ている。


「彼等と比べて私の方が強いとは言えない。一番弱くないのは確かだけど」
 
 

 
後書き
鳳皇学園の団体戦メンバーで現在の作品世界に居る魔術師トップ4に君臨する

白良々木眩/しららぎくらむ

ミディア・ヴァルトシュタイン

夢絶叶/むぜつかの

皇 皇皇/すめらぎこうのう

と指しで戦って勝てる可能性が有るのはレイアを含めて三人居れば良いかな。

三人以外に居るメンバーの内、二人は成長次第でトップ4に勝てるかもしれない。

残り一人はちょっと厳しい。 

 

運命力

 
前書き
_〆(。。) 

 
「明日はどっちが勝つかなぁ」


黒鋼焔(くろがねほむら)》は縁側で呟く。


「あの体調不良は突発的だからね」


永遠(とわ)レイア》も《立華紫闇(たちばなしあん)》が何時もの通りなら心配せずともやってくれると言えるのだが、今回は(うな)るしかない。


「頭痛や発熱が有るのは把握しとる。しかし小僧は儂らにも話していない『何か』を隠しておる気がするんじゃ」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》も気にかかるようだ。


紫闇が【神が参る者(イレギュラーワン)】であるということが原因なのは察しているが、対処法に皆目見当がつかないので何も出来ない。

【夏期龍帝祭】もいよいよ準決勝。

明日の相手は《クリス・ネバーエンド》

彼女が一年生とは言え、学年序列一位だけあって紫闇の不安要素が表に出てしまった場合には到底勝てるような相手ではない。


「悩ましいね全く」


焔のぼやきに弥以覇は顎髭(あごひげ)をなでながら真面目な顔をして見解を述べる。


「クリスとかいう娘の勝負、テレビで幾度か見させてもらったわい。なかなか大したもんじゃ。手数と火力に任せたゴリ押しにしか見えん者は多いだろうて。しかし実のところはと言うと、(したた)かな計算が有ってのこと」

「人格もただ傲慢なように見えますが、勝負に向き合う姿勢は意外に真摯(しんし)。不調の紫闇が突けるような隙は微塵も無いでしょう」


弥以覇もレイアも何時もと同じであることを祈るしかないがそれは焔も同じ。


「信じよう、彼を」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日の朝、紫闇が起き上がる。

クリスとの戦いに思いを馳せた彼は勝てるかもしれないという自信を持っていた。

しかし頭が割れるように痛い。

急にそんな症状が彼を襲う。

更に体が燃えるような発熱まで。


『大丈夫だ』


かつてない程にキツい体調不良。


『問題ない』

「大ありだ馬鹿野郎……」


幻聴を罵倒しなければやっていられないほど切羽詰まっており、朝食など喉を通る筈が無いので会場のドラゴンズガーデンへ向かう。


(こりゃあ不味(まず)いな。思うように足が上がんねぇぞ。ちょっと歩いただけで息が切れちまう。むちゃくちゃ体が重い)


地面を這いずりながら辿り着くと警備員に肩を貸してもらいながら控え室へ入った。


「……あんたねぇ。そんな状態でこのクリス・ネバーエンドに勝てると本気で思ってんの? 舐められたもんだわまったく。顔色が悪いなんてもんじゃないじゃない」


紫闇の耳はまともに音が聞こえていない。

彼には今のクリスが何を言っているのかさっぱり理解できないでいる。

目も焦点が合っておらず、像が幾つも重なって見えているような有り様。


(負けるかよ。絶対に勝つからな)

「立華紫闇君。クリス・ネバーエンドさん。これから準決勝が始まります」


二人は控え室から出た。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


舞台までの通路を歩く二人。


「ねえ。あんたどう見ても棄権した方が良いわよ。試合で手は抜けないし」


クリスは油断はしている。

戦うまでも無いと。


「は…はぁ……。勝つぞ……。俺は勝つぞ……」


紫闇は強がって笑う。


「でしょうね。諦めた目じゃないもの。ところであんた『運命力』って知ってる? ある学者が発表した説なんだけど私は信じてるのよ」


曰く、この世界には運命力という概念が有り、それが強い人間ほど困難にぶつかった場合に乗り越えやすいそうだ。

実際に紫闇も覚えが有る。

フィクションの主人公みたいな存在。

彼等は味わう苦労こそ差は有れど、数多幾多(あまたいくた)の人間が絶対に越えられないとされている壁を都合良く乗り越えてしまう。

中には壁を壁と認識せずに踏み越えたり、(また)いだり、壊したりする人間。

そんな人間を近くで見てきた。


「タチバナシアン。あたしから見たあんたも運命力が強いと思う。でもコウガミハルトには敵わないわ。あそこまで運命力が強い人間は世界中を探してもそうそう見つかるもんじゃない。だからこそあいつはブッ壊してやりたい極上の踏み台なのよ」


クリスは優勝して《江神春斗(こうがみはると)》への挑戦権を手にし、そして勝つことを譲れないのは紫闇のように限界を突破して壁を壊すことで何かを得る為なのかもしれない。

しかし春斗と戦いたいのは紫闇も同じ。


「これでも良い踏み台だって認めてるのよ。だから調子が万全の時に戦いたい。今回はあんたの望み通りにならないんだから」


対抗心に火が()いて反骨心が高まる紫闇からクリスに対しての負けん気が顔を出す。


「お前の言葉を……借りようか……。上から目線がムカつくんだよド畜生……! 彼奴(あいつ)と戦いたいのは俺だっておんなじだ……。それに……江神は『俺』を待ってくれてるんだぜ? だったら大人しく敗北を受け入れるわけにはいかないだろ……!」


クリスと紫闇は途中で分かれた。

互いの入場口に向かう。


「負けてたまるかよ……」


『門はまだ、開ききっていない……か』


またもや幻聴が聞こえてくる。

しかし今はどうでも良い。

彼は歩くことに集中し舞台へ上がった。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

片鱗

 
前書き
_〆(。。) 

 
準決勝第一試合。

《クリス・ネバーエンド》と《立華紫闇》

今にも倒れそうな紫闇。

対するクリスは至って元気。

始まる前からこれだ。

果たして勝負になるのか。


(あいつは勝ちを疑ってないだろうな。死に体みたいな相手に負けると思う筈が無いから当然だ。けど今の俺にとってそこがチャンス)


紫闇が右腕に黒い腕部装甲を顕現させる。

クリスも自分より大きな甲冑の手にも見える【魔晄外装】を三つ出現させた。


(あっちは初手を中途半端な攻撃で来るはず。全力を出すまでも無いってな。だからいきなり『あれ』を使ってやる。でなきゃ無理だ)


紫闇は理解していた。今の自分では速攻を仕掛けて決着を付けるしかない。

そうしなければ勝てないと。

それほどに紫闇の調子は悪い。


「本音を言うとあの力は春斗と戦う時まで取っておきたかっただろうにね。今の紫闇でもクリスに勝機を見出だせるくらいのものだから」


紫闇の師匠を勤めてきた《黒鋼焔/くろがねほむら》には既に試合展開が見えている。

クリスが押し切るか紫闇が不意討ちを決めるかのどちらかになる確率が非常に高く、それ以外での勝敗になることはまあ無いだろう。


「私達の想像する以外でこの試合の勝敗が左右されることが有るのなら、間違いなく【神が参る者/イレギュラーワン】の不確定要素によってだな。あれは本人にも解らないものだし」


永遠(とわ)レイア》も焔と同意見。

勝率で言えばクリスが圧勝している。

そして、試合が始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


召喚(サモン)ッ! 灰塵ト滅亡ノ三壊器(ヴァニシング・カタストロフ)ッッ!!」


開始直後に動いたのはクリス。

紫闇は先手を取られた。

彼女は巨大な鎧腕に乗って一気に浮遊すると上空から地上を見下ろしながら指差す。


「焼ケ果テテ死ネ」


焔が不味いと思った途端にクリスから死刑とも思える非情な宣告が飛び出した。


「プロミネンス・オーバー・タイフーン」


発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射─────


クリスの操る三つの外装から弾丸・弾頭・光線を主体とした光と熱の超火力が雨霰の如く降り注ぎ、天災となって肌を()く。

紫闇は[盾梟(たてさら)]で強化した魔晄防壁で防ぐことしか出来ず、全く身動きの叶わないまま魔晄だけがガリガリと削られていく。

紫闇は虚を突かれた格好だ。

まさかあの、人一倍プライドが高いクリスが戦う前からフラフラの相手を開幕と同時に全力で潰しに来ることなど想像もしていなかった。

このままだとジリ貧。

物量で押し切られる。


(負けたくない)

『門が』

(ここまで来て)

『少しだけ』

(認めたくない)

『本当に』

(何か手はないのか)

『少しだけ』

(負けたく、ない……!)

『開く』


紫闇の幻聴が何かを知らせるように告げた。

それにどんな意味が有ったのかは解らない。

しかし明らかな異変。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……あれ?」


目を(つぶ)ってクリスの攻撃を耐えていた紫闇は急に静寂となったことにそっと目を開いて確認すると呆然となってしまう。


(何で攻撃を止めたのかと思えば)


そういうわけではない。


「時間が止まってる……のか?」


紫闇が今まで何度か体験した感覚と同じだが今回は自分の意志で動けるようだ。

クリスの攻撃は空中で静止している。

弾頭も、光線も、起きた爆発や飛び散る破片も固定されたようにピクリともしなかった。

紫闇はそれらを躱してクリスの元へ。


「攻撃しても良いのかこれ。まあ戦ってるんだから許されるだろうけどさ」


貫手で喉仏を潰す。

自身の手が彼女の脛椎(けいつい)へ触れると時が針を進め、クリスは白目を剥き失神。

彼女の【古神旧印(エルダーサイン)】が光の筋として紫闇に入ると彼の刻印が半分まで完成。

左手のそれを感慨深く見詰める。

試合時間は1ラウンド10秒。

会場の人間は殆ど何が起こったのか解っていないので拍手も歓声も焔とレイア以外では一切起こることは無く、紫闇もそれを納得していた。

彼自身釈然とせず、勝者でも敗者でもない複雑な気持ちで舞台を去っていく。

しかし紫闇の闘志が()えることは無く、どんどん燃え盛って先の相手を見据える。


「この際どうしてクリスに勝てたのかなんて理由はどうでも良い。優勝っていう土産を持って《江神春斗》への挑戦権を得るまであと一つ」
 
 

 
後書き
霰・あられ

 

 

ダークホース

 
前書き
_〆(。。) 

 
【夏期龍帝祭】の準決勝で優勝候補の筆頭だった一年の序列一位《クリス・ネバーエンド》を倒した《立華紫闇》が控え室に戻った後。


「あれ。兄さんは帰らないの?」


朝から調子の悪かった弟子である紫闇の様子を見に来ていた《黒鋼焔》は観客席から腰を上げない《永遠レイア》に声を掛ける。


「うん。今日は紫闇の試合を見に来た理由が一番なんだけど、もう一つ同じくらい大事な用事が有るんだ。次の試合でそれが解ると思うよ」


次に行われる準決勝第二試合で勝った方が決勝で紫闇と戦うことになるので気にするのは解るが今の紫闇なら普段の実力さえ出せればクリス以外に苦戦するような対戦相手は居ない。

そう考えていた焔は今日の準決勝に至るまでまともに試合を見てきていなかった。

しかしレイアは本戦に残った選手の中で気になる名前を見付けたので、その選手の試合だけは紫闇のものと同じように見続けていたのだ。

だからこそ確信する。


(あの人が手を回したな)


【龍帝学園】の生徒会長《島崎向子》

紫闇を成長させるために『壁』となる人間を大会へ送り込んできたことを。


「へぇー……。兄さんが気にする程の逸材だって言うなら興味が有るね。それじゃあ予定を変更してあたしも付き合うよ。紫闇が決勝で戦う相手が気にならないわけじゃないし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆


控え室に戻った紫闇は何時もなら試合が終わるとあまり長居(ながい)はせず帰るのだが、ちょっとした気紛れが起きたのか部屋に備え付けられたモニターで準決勝第二試合を観戦することにした。

注目している出場者はクリスしか居なかったので焔と同じく今までの試合を見ていなかった紫闇だったのだが今日は自分の気紛れに感謝することになる。


「おいこらちょっと待て」


思わず腰を浮かせ立ち上がってしまう。

彼にとっては噴飯ものの試合内容。

とても悪い意味で。

自分と同じく三軍の底辺から上がって来たと聞いたがこの選手は自分のような落ちこぼれとは明らかに違うと解ってしまう強さから受ける紫闇の印象はというと。


「こいつ、基礎能力だけならクリスよりも全然上で間違いないだろ。しかもとんでもない舐めプっつーかハンデ付けて勝ちやがった」


その選手は【魔術師】の武器であり、【異能】を発動させる媒介となっている【魔晄外装】を出さず、魔晄防壁も張らず、左拳にだけ付与した【魔晄】だけで相手を粉砕。


「やってるのは開始と同時に一撃当てるだけ。三回戦までは3秒。準々決勝は2秒。そして今回は1秒。おまけに【天覧武踊(てんらんぶよう)】の歴代最速KOタイムを更新……か」


この選手ならクリスと戦っても普通に勝っていただろうと紫闇は思う。

同時に何故わざわざ三軍に甘んじていたのかという疑問も湧いてきた。


「クリスを倒して楽できると思ったが、世の中上手く行かないもんだな。まあコイツを倒しての優勝なら江神も文句ないだろ。悪いが手加減してやれないぜ」


視線の先に映し出された容姿と名前は紫闇の記憶に確りと刻み込まれる。


《橘花翔/たちばなしょう》


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


黙り込んでいた焔が口を開く。


「兄さん。何だいあれ(・・)は」

「私が気にしてた選手だよ。名前を聞いたことは有ったから試合を見てたんだけど」


レイアは焔に翔のことを伝えていない。


「橘花は《江神春斗(こうがみはると)》の側だね。『人』であって『鬼』じゃない」


そう言う焔だが解っている。

今の紫闇よりも圧倒的に強い。

見ただけで悟ってしまう程には。


「正直、紫闇が戦うには早すぎるステージに居る闘技者なんだよね彼」


二人は首を(かし)げ困ってしまう。


「『真眼』無しの黒鋼流だけで戦ったらあたしでも厳しい難敵だし……」

「真眼有りでもどうだろうな」


出来るのは今までの修業と同じく基礎能力の向上しかないがどうしたものか。


「まあ解っているのは橘花君が普通の魔術師ではなくもっと厄介ってことだ」

「兄さんは情報有るの?」


焔がレイアの方を向く。


「彼は魔術師としてだけではなく超能力者としての力も持っている。魔晄が有ろうが無かろうが戦うことが出来てしまうんだよ」

「どんな能力かは?」

「いや知らない。得意とするのは体術で近距離を主軸にしているくらいか」


今日のように手を抜いてくれれば勝ち目は有るが真剣に戦えば勝ち目は無い。


「はぁ……」

「頑張れ焔」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Next Level

 
前書き
第一部の終わりが見えてきました。 

 
決勝戦まであと二日。

しかし《立華紫闇》は未だに【打心終天】を会得するに至ってはいない。


(焔に出された課題。これがどうしても越えられない障害になってる。弥以覇さんやレイアさんも根気よく付き合ってくれてるけど……)


紫闇は今、《永遠(とわ)レイア》と向かい合って彼から話を聞いていた。


「紫闇。これは反射神経と瞬間的な思考力に加えて相手の気を読む技術を(やしな)う為のもの。これが無いとカウンターに合わせてフェイントを掛けられる。結果としてカウンターをカウンターで返されかねない」


反射神経・瞬間思考・気読と打心終天を得る為に要求される力の水準は高いものだ。


「それじゃあ再開しよう」


紫闇の受けている訓練。

彼が達成できない課題とは。


「「じゃーん、けーん」」


二人が引いた腕を前へ。


「「ぽんっ!」」


そう。じゃんけんだ。


「私と弥以覇さんが交代でやってるわけなんだけど、これで3000連勝か。最初に比べれば相当に反応が良くなったよ」


なお普通のじゃんけんとは違う。

後出しOK。とにかく勝てば良い。

しかしこれが大変。

お互い『ぽん』の声で手を出す。

ここまでは特に問題ない。

その時に出された手を確認して、自分が負ける手なら自分の手を切り替える。

これには先程も言われた反射神経と瞬間思考が大きな要因になることが解ると思う。

しかしルール上は相手も手を変えてくることが有るので相手の心理と気を読む力も並外れていなければ狙って勝つことが出来ない。


(こんな決まりでレイアさんか弥以覇さんに勝てとか無茶言ってくれるぜ)


まだ江神に勝つ方が難易度は低い。

両者ともに揃いも揃って達人中の達人。

せめて弥以覇と同等にならなければおよそ達成不可能な課題であることは明白。

しかし紫闇は諦めなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


繰り返す敗北に絶望が高まる。

しかし二度と諦めないと決めた紫闇は屈すること無く気合いを入れて相手を睨む。

しかし今のままでは勝てない。

それは紫闇も理解していた。


(そういやあ前に言ってたっけ)


焔の言葉を思い出す。


『相手がどうにもならない存在だった場合には自身の目的が何であれ、とにかく相手の想定外を起こす。それなら活路が見えるだろう』


紫闇は《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》と向き合った。


(想定外か。課題のクリアは置いといて、上手く行けば一矢報いることも出来る)

「「ぽんっ!」」


紫闇はグーで弥以覇はチョキ。

このままなら紫闇の勝ち。

なのだが後出しOKというルールなので弥以覇は手を変えてくるはず。

しかし紫闇は変える気が無い。


(このままグーか)


気は弥以覇に伝わっていた。

なので弥以覇は手を動かし始める。

紫闇はその一瞬に前へ出していない方の腕を振り上げ弥以覇に張り手を繰り出す。

当然だが格上で考えるよりも先に自然と技を出せる弥以覇にそんな真似をすれば考えるまでもないということを紫闇は百も承知だ。

手が触れる直前にゴキリと鳴る。


「ぐえっ!」


地面に叩き付けられた。

しかし狙い通り。

流石の弥以覇も手を変えながら技を極める器用なことは出来なかった。

なので互いの手は変わらない。

つまり紫闇はグーで弥以覇はチョキ。


「勝利への執念を認めよう。格上に対して勝つ為の拘りを捨てたこともの。(から)め手しか方法は無かったじゃろうし。これで小僧の打心終天を覚える為の修練は完了じゃ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


弥以覇の合格宣言に紫闇は困惑する。


「でも……まともな勝ち方じゃないです」

「だからノーカンだって?」


焔の言葉に紫闇が頷く。


「安心せい紫闇の小僧。お主は焔に出された課題なんぞ、とうの昔に終えとるんじゃよ。ただ自分では気付いていないだけでの」


どういうことか紫闇には解らない。

なのでレイアが説明する。


「そもそもとして、私や弥以覇さんに勝とうって言うのが不可能なんだ。まともにやってたら焔であろうと勝てないしね。故に本当の課題はじゃんけんをやり続けて打心終天に必要な部分を鍛えることだったのさ」


つまり技の修得には弥以覇やレイアに勝つ必要は無く、既に紫闇は現時点で打心終天の技を使える状態に在るということ。

しかし焔に釘を刺される。


「勘違いしないように言うけどね紫闇。この一月間を『勝たなきゃいけない』想いを持って必死に課題へ挑んだからこそ君は必要な水準になれたんだ。甘えた気持ちだったら絶対にクリア出来なかったよ」


そこは紫闇も理解していた。

彼に運動する才能は無い。

ただ天才すら計り知ることが出来ない精神性から来る狂気と自身の夢への執念。

それらを以て黒鋼に課された地獄の修業を乗り越えて来たからこそ今が在る。


「紫闇は儂らに勝とうと悩んだ。これによって勝利を掴む為の思考と発想は十分に養われたであろう。これは本当に大切な要素なんじゃ。強き相手に挑むなら頭脳も勝敗を左右する。【夏期龍帝祭】を制した(のち)、《江神春斗(こうがみはると)》を倒した先に居る者達にはそういう力が備わっておらんと戦えん」


弥以覇は顎に手をやり紫闇を見た。

紫闇は彼の言葉に痛感する。

自分の考えが浅かったと。


「江神の先……。そうだ、俺はあいつと戦って引退するわけじゃない。ならもっと先のことを考えて動かなきゃ。【魔神】になって大英雄の《朱衝義人(あかつきよしと)》を超える為にも」

「期待以上の成果が出て何より」

「さあ。打心終天の実演と行こう」


レイアと焔は仕上げにかかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レイアと紫闇が対峙。

紫闇は僅かな動きも見逃すまいとレイアの五体のあちこちを観察する。

レイアが目を動かす。


(これはフェイント)


今度は指先が動く。


(これも吊り)


紫闇は繰り返し行われるレイアのフェイントを読みながら動きに着いていく。


(ここだ!)


レイアの気を読んだ体が無意識に動き、双方は同時に踏み込んで直進。

紫闇の右手に【魔晄(まこう)】が集束。

その手は黄金に輝くが握られていない。

眼前のレイアは驚いた顔。

しかし満足気。


(よくここまで成長したな紫闇……!)


昔から知っている身としては見違える。

紫闇の掌打がレイアの胸部へ。

骨が折れたような響き。

叩き込んだ紫闇が驚く程の手応えを表すようにレイアの体は真後ろに飛んだ。

今まで紫闇が出していた【禍孔雀(かくじゃく)】では一部しか破壊できないほど頑丈に作られた道場の壁を突き破り、何処までレイアが飛んでいくのか解らないようなパワーは衰えを見せない。


「一応は敷地を囲む壁に結界の発生装置を付けとるからそこで止まるじゃろうて。それにしても大した威力を出したもんじゃのう小僧」


弥以覇が微笑む。


「あたしの全力と同等以上かも」


焔は鈴飾りを鳴らして見届けた。


決勝の相手は《橘花 翔(たちばなしょう)

底の見えない強敵。

しかし不安は無い。


「あいつを倒す」


道場の壁に空いた穴からは紫闇を祝福するように朝日が射し込んでいた。
 
 

 
後書き
第一部終わった後どうしようかな。 

 

変異する魂

 
前書き
ちょっと強化。 

 
【夏期龍帝祭】の決勝を翌日に控えた《立華紫闇/たちばなしあん》は《永遠レイア》に招かれて黒鋼の道場へと来ていた。


「何ですかレイアさん?」

「うん。とても大事な話が有ってね」


聞けば次の対戦相手である《橘花 翔(たちばなしょう)》とは力の差が開き過ぎていて、現時点の紫闇がどう頑張っても勝てる見込みは無いという。


「そこでだ。私が反則しようと思い付いた。とは言っても滅多なことではしない。あくまでもそれをして大丈夫そうな人間にしかしないぞ。私自身は好んでやりたくないしな」


紫闇も翔の試合を見て薄々は気付いていたが、あまり認めたくなかったのでレイアに言われるまでは気付かないふりをしていた。


(気持ちで負けていたら、ただでさえ低い勝率が更に低くなってしまう。かと言って強さの格が違うという事実を受け入れないと前には進めない)


紫闇はレイアの話に耳を傾ける。

別に【天覧武踊(てんらんぶよう)】や龍帝祭のルールに抵触するようなことをしようというわけではないらしいので一安心だ。


「私が紫闇に施すのは【魔術師】の武器である【魔晄外装】、またの名を[ファーストブレイク]とも言われるそれを改造すること」


外装を作り替える。

そんなことが可能なのだろうか。

とんでもない技術だ。


「知らなくても当然の力さ。魔術師が生まれた紀元前を含めても、私と同じように出来るのは100人に満たないだろうからね。宿す【異能】を好きなように決められるわけじゃないし」


何と《黒鋼焔》もレイアから外装の改造処置を受けており、そのお陰も有って歴代黒鋼の誰もが辿り着けなかった領域に入ったという。


「但しリスクも有る。何だか解るかい?」


普段殆どの魔術師は忘れている。

または気にも留めないこと。

外装は『何から』出来ているのか。


「ああー……。成る程そういうことですか……。確かに大きなリスクですね。もしも外装の改造に失敗すれば俺の『魂』は……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


意図的に魂を(いじ)る。

恐ろしく不安だ。

どうなるか解ったものではない。

しかし紫闇はリスクを受け入れた。

勝率を上げる為に。


「《江神春斗》と戦う為にも橘花翔を相手に手段は選んでいられないです。俺の魂をレイアさんに預けますから強くしてください」


レイアは紫闇が顕現させた外装に触れると意識を集中させて精神と霊魂を繋げていく。

独特の感覚だ。

それは紫闇にも伝わった。


(うおっ……スゲェなこれ……!)


感覚的に自分が少しずつ変わっていくだけでなく外装にも少しずつ変化が起き始める。

形状こそ変わらないものの、色の基調は黒から紫になったことで雰囲気は一新。

ぼんやりと光を放つ。

みるみる内に作り替えられた紫闇の魔晄外装は最初からそうだったかのように馴染む。


「残念だけど【異能】は目覚めなかったね。後から使えるようになる可能性も無くはないけど。それよりも調子はどうだい?」


紫闇は体と外装に魔晄(まこう)を流して動く。


「体が軽い。まさに別人ですよ」


レイアによれば、魔晄操作の効率化と恩恵の増幅、そして身体強化が魔術師の異能とは別で、外装の[機能]として使えるそうだ。


「何か勝てそうな気がしてきました」

「いや、最高の条件が揃ってそれでも全然厳しいからね橘花君は。【魔神】じゃないのが不思議なくらいだから」


やれることは全てやった。


「外装に名前でも付けてみたら良いよ。ただの外装じゃあ味気ないし」


後は挑むのみ。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

火花

 
前書き
お待たせー? 

 
とうとうこの日がやってきた。

江神春斗(こうがみはると)》への挑戦権を賭けた大一番。

【夏期龍帝祭】の決勝戦が行われる。

例年ならば決勝をする前に第三位決定戦が有るのだが今年は様子が違う。

準決勝で負けた《クリス・ネバーエンド》は《立華紫闇/たちばなしあん》から受けたダメージでドクターストップが掛かり、戦うこと無く敗北することとなった。

クリスとしては悔しいはずだ。

普通なら必ず勝てる、今まで5秒以内で勝ってきた相手に不戦敗なのだから。

黒鋼 焔(くろがねほむら)》はその放送を聞きながら祖父の《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》と《永遠(とわ)レイア》の三人で観客席の後方に有る立ち見席へ向かう。


「もし。黒鋼弥以覇、かな?」


その声は熱に満ちていた。

声の主は老人。

しかし背筋は真っ直ぐ。

180cmは有ろう身長。

全身が鍛えられている。

特に前腕の発達は尋常でない。

面構え・佇まい・雰囲気は正に達人。

自然に取られた間合いからすると剣士か。

弥以覇は真面目な顔をして老人を見る。


「……久しいな。お主の孫は出とらんから会うことも無いであろうと思ったが、誰か気になる参加者でもおったのかのう江神」

「60年ぶりだな好敵手」


春斗の祖父《江神全司(こうがみぜんじ)

【邪神大戦】で『剣鬼』と言われ、『鬼神』と呼ばれた弥以覇と殺し合いを楽しんだ

【魅那風流剣術】の師範でもある。


「こっちは儂の孫じゃ」


弥以覇の言葉に全司が焔を見た。


女子(おなご)ながら昔の貴様によう似とる。ところで弥以覇。『万葉(かずは)』は息災なのか?」

「……死によった。焔が産まれる直前に」


万葉は焔の祖母で弥以覇の妻だ。


「……やはり、持たなんだか」


焔は名前しか知らない。

しかしこの二人にとっては違うようである。

彼等は会場の中心を見た。

そこには武舞台。


「さて此度(こたび)の試合、貴様の弟子は勝って優勝出来るかな弥以覇」

「成長ぶりでは破格。生意気にも儂や焔が扱えぬ独自の技を身に付けた。クリス・ネバーエンドと同等なら先ず大丈夫じゃろうて」


全司は苦笑してしまう。


(どうやら良き弟子を得たようだな)


全司は弥以覇が羨ましかった。

孫も弟子も『鬼』であることに。

しかし自身の孫は『人』だ。


「お前の弟子が勝ち抜いて我が孫に挑めば勝ち残るのはやはりお前の弟子かのう。正直に言えば自分の孫が勝つことを信じられん」


全司の想いに弥以覇は哀れんだ顔をした。


「兄さんはどうかな? 紫闇は優勝できると思う? 言わなくても解りきってるけど一応は聞いとかなきゃね」


焔の問いにレイアは溜め息を()らす。


「断言したくないんだけどなー」


言葉に詰まった。既に結論は出ている。だからこそ困っているのだ。


「兄さんも多分あたしと同じだよ」


焔が目を瞑る。


「どう足掻いても」


レイアの続きを焔が紡ぐ。


「負けるのは紫闇だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


控え室を出た紫闇は入場口に向かう。

ベストコンディションである。


「いきなり来るからな、あの体調不良」


大丈夫だろうか。

入場口を出て花道を歩く。

紫闇と相手に対して声援が飛ぶ。

何万人もの観客から寄せられる注目。

武舞台へ上がった両者が互いを見た。

二人は結界で覆われる。

閉ざされた空間は闘気で歪むよう。


『大変長らくお待たせ致しました。第50回夏期龍帝祭の決勝戦が始まりますっ!』


実況が紹介を始める。


『西方は立華紫闇選手。学年序列は1000位。最下位かつ三軍の負け犬。加えて時に廃棄物とまで揶揄される『規格外』でもあります。しかしこの男は強いッ! どうやって力を身に付けたのかは解りませんが今の彼にはこの場に立つ資格を有していますッ!!』


紫闇にぶつかる声が増えた。

大きくなって。


『東方は《橘花 翔(たちばなしょう)》選手。彼もまた三軍で学年序列997位から這い上がってきた努力の人。予選から準決勝まで全ての相手を一撃でタイムも3秒以内です。歴代レコード全てを塗り替えてしまいましたッ!』


このまま行けば、昨年に《皇皇皇/すめらぎこうのう》と戦って敗れ亡くなった、前・史上最強の魔術師にして【魔神】《神代蘇芳(かみしろすおう)》を超えると言われている。

紫闇よりも沢山の声援。

しかし翔はどうでも良いようだ。

無言で紫闇を見ている。


「江神も凄いと思ったけどお前も凄いな」

「そうか? まあ俺は立華に勝てさえすれば何でも良いんだが」


【龍帝学園】の会長である《島崎向子(しまざきこうこ)》の依頼を受けた彼は思う。


(江神春斗と戦うにはまだ早い)


故にここで紫闇を倒す。

そしてまた再起させる。

時間は掛かるがこれを繰り返して少しずつ強くするのが一番確実だ。


(それでも何時まで掛かるか解らん。今の江神と立華にはあまりにも差が有るから)


紫闇の右手に赤い装紋陣(サークル)が浮かぶ。


「輝け。【紫闇/しあん】」


彼の【魔晄外装(まこうがいそう)】が顕現した。

その様相を見た翔は少し驚く。

準決勝までの外装とは変化していたから。


(以前は黒い籠手だった)


しかし今は紫で不気味かつ怖ましい。

それでいて闇の如く深い光を放つ。


(あの光は外装に流れる【魔晄(まこう)】か?)


準決勝よりも一段強くなっている紫闇に何が起きているのか考えた翔は心当たりに辿り着くと会場に居る人間の気配を探ってレイアを見つけた。


(成る程。会長には聞いていたが、どうやら彼が外装を改造したらしいな)


しかし翔は一笑に付す。

所詮は付け焼き刃でしかない。


(今の立華なら対処できる範囲だ)


これまでの試合と同じく外装は出さず。

それで勝てるから。


「別に橘花は外装出さなくても良いぜ。江神と戦うのは俺なんだからな」

『最後の戦いが、一年の頂点を決める戦いが、始まるぞおおおおおおおおッッ!!』


二人は構えて待つ。


『開幕だあああああああッッ!!!』

「お前には負けねえぞ橘花」

「俺も負ける気は無い」
 
 

 
後書き
1巻分で話を終わらせるか原作と同じ4巻分を書き上げるか悩む。 

 

Round Zero

 
前書き
というわけでやっとです。 

 
【夏期龍帝祭】の決勝戦。

立華紫闇(たちばなしあん)》と《橘花 翔(たちばなしょう)》の試合。

紫闇は[音隼(おとはや)]を発動し、背中から黄金の翼にも見える【魔晄(まこう)】の粒子を放出する。


翔は左足を一歩踏み出す。

軽く膝を曲げると脚を肩幅に開く。

右のかかとを浮かせて少し前屈みに。

左拳は目の位置より少し高くしながら左肩で顎を隠すようにガード。

右腕は肘を脇腹に付けてボディーのガードをさせながら右拳で顔面を守る。

顎にパンチを貰わないよう顎を引く。

目は紫闇を見据えて(はな)さない。


説明が長くなってしまったが翔が何をしているか解った方は居るだろうか?


(ボクシング)


紫闇だけではない。格闘技に興味が無い人間でも見たことが有る基本的なフォーム。

会場がざわつく。

何故なら翔は準決勝まで構えを取ったことが無い上にスタートと同時にKOしてきたから。


「そうかい。準決とは違うってことだな。じゃあ俺も見せてやる」

(クリスの時とは一味違うことを)


魔晄によって形成された一対の翼を生やした紫闇が床を蹴り、その推進力に身体強化した脚力まで加えて猪突猛進に激走。

その勢いで空気が引き裂かれていく。

合わせて翔も動いた。

風切り音が鳴る。

直後、紫闇の体に衝撃。


「!」


翔の姿が無い。

気付いた時には居なかった。


(何処に……)


そうこうしている内に叩き付ける雨のような勢いで衝撃が繰り返され、どんどん紫闇の体が弾かれていく。


「何時まで持つかな?」


翔はフットワークとステップで動きながら左腕一本のみのジャブを当てているだけ。

しかし紫闇にとっては大問題。

何せ翔の姿が殆ど視界に入らないのだ。

死角から攻撃が飛ぶ。


(ただのジャブなら耐えられるのに……!)


翔の繰り出すジャブは重かった。

腰が入り腕がしなって(うな)りを挙げる。

紫闇の体に触れる寸前で拳に[禍孔雀(かくじゃく)]のような魔晄が練り込まれ、見た目からは測れないような威力を出す。

魔晄の流れが滑らか。

魔晄による恩恵の入れ切れも早い。

翔の魔晄操作は紫闇より上だ。

紫闇は思い出していた。

以前戦ったあの男を。


「こいつに勝てたら《江神春斗(こうがみはると)》の速さに対抗できるかもしれないな。悪いが慣れるまで付き合ってもらうぜ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


兎にも角にも動いて逃れようとする紫闇と影のように貼り付きジャブを浴びせ魔晄防壁を打ち続けることで魔晄を消耗させていく翔。

今の二人がしている動きは普遍的な【魔術師】であれば魔晄による身体強化が有ろうとも肉眼で捉えることは叶わないだろう。

だが紫闇なら見えるはずだ。

さんざん格上と戦ってきたのだから。


(慣れてきた)


紫闇は離れようとする逃げの挙動から足を止めて翔の方に振り向く。

徐々にジャブを防ぎ、(かわ)しだす。

カウンターで蹴り返してやろうと思った彼だったが出鼻を(くじ)かれる。

翔はハンドスピードを上げてきた。

カウンターに割り込み足を使わせない。

翔にとって今の速さは序の口。

まだまだ遊びのようだ。

しかし対する紫闇も慌てなかった。

想定していたのは江神春斗。

速さと技が自慢の超が付く凄腕の剣士。


「想定内だよこの野郎」


紫闇の足裏からも音隼。

重力に逆らう機動で(かかと)を落とす。

トリッキーでファンブルなアクション。

しかし翔は苦にしない。

フットスピードを上げて僅かに体を後ろに下げると左フックのようなジャブを落ちてくる足に引っ掛けながら体を右へと回し気味に退避。


(江神の前に良い練習台が出来たな)


時間を掛けて修得した【打心終天】や寝技への持ち込みを試すには最低でも今の翔くらい速い相手でないと意味が無い。

江神はそれほどに速いのだから。


(俺を叩き台にするつもりか。良いだろう。俺はあの男ほど優しくないぞ)

 
 

 
後書き
【最低で最高なクズ】と世界は違うけど、翔君の戦闘スタイルは特に変わらない。

あっちと違って魔力の代わりに魔晄で余裕が有るからエンジョイバトルしてますけど。 

 

Tough Boys

 
前書き
_〆(。。) 

 
「時間も限られてるし、そろそろ行くか……」


立華紫闇(たちばなしあん)》は背中から魔晄(まこう)を噴射。

しかし何かが違う。

推進力や速度が数倍だ。

橘花 翔(たちばなしょう)》との間合いが一瞬で埋まる。

紫闇が編み出したというか、自然と出来てしまった技でレイアやエンドも出来る。

【黒鋼流・三羽鳥ノ一・音隼(おとはや)双式(ふたしき)

通常の音隼は一対二枚の翼に見えるような魔晄の放出が行われる。

双式は二対四枚のような姿。

段違いの出力から生まれる高速の領域で紫闇は息を吐きゆるりと右拳を放つ。

翔の顔面に迫る打撃は最下級の【魔獣】なら見失ってしまうほどの迅速さ。

だが彼は平然とした顔で首を動かす。

それだけで躱した。

お返しに裏拳ぎみのジャブを見舞う。


(はえ)が止まるように感じてるのはそっちだけじゃねえんだよ。喰らいやがれっ!)


紫闇も余裕の回避。

体を左斜め下へ落とす。

最中に右足が跳ねる。

袈裟斬りのような蹴り。

回避と反撃が繋がり応じ合う。

一方が動けば風が吹き像を残す。


会場に来ている人間で見えているのは

黒鋼 焔(くろがねほむら)

黒鋼弥以覇(くろがねやいば)

江神全司(こうがみぜんじ)

永遠(とわ)レイア》

の四人だけだろう。

他の人間には一定速度までしか見えない。

高速戦闘しながらの心理戦を行っていることなど及びもつかないのは明白だった。


(切りが無いな。使用予定の上限はまだまだ先だがそろそろ知ってもらうか。身の程を)


敢えて翔が前へ出る。

それを紫闇は見逃さない。

空中で前転しながら勢いを付けた縦一閃の手刀が振り下ろされ右肩に食い込む。

平均的な軍属の【魔術師】なら魔晄防壁を張っていようと頭を真っ二つに出来る威力。

そのはずだがダメージは無かった。

紫闇は続けて鳩尾(みぞおち)へ攻撃。

右の拳が完璧に捉える。

が、またもダメージは無い。


「別に回避しても良かったんだが面倒だ。別に受けても構わないだろう? お互いにこれで終わるわけじゃあるまいし」


紫闇は歯軋りする。

考えが甘かったことに。


(こいつ、スピードだけじゃない。タフネスも有るから耐えるしガードも堅い!)


ノーガードの魔晄防壁だけで受けきられた。

ならば攻撃が通るようにしなければ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翔は再びボクシングのフォーム。

その場でステップを踏む。

紫闇は構えを変えた。

両腕を前に出し腰を落とす。

()り足の運びで間を詰める。

先手は翔。

今までよりも速くステップイン。


「そらよ」


ストレートのようなジャブ。

込められた力も今までで一番。

だが紫闇には脅威でも何でもない。

彼の魔晄防壁が膨れて球状に変化したところで翔の左拳が激突する。

硬質な音が響く。


黒鋼流・三羽鳥ノ一【盾梟(たてさら)丸魔(がんま)

通常の盾梟よりも堅い。

直接攻撃してきた相手はぶつけた手足が衝撃で痺れてしまうこともザラだ。


「どうだい堅剛の味はッ!」


紫闇は近付いて腕を掴む。


「良い防御。しかし詰めが甘い」


動かない。

紫闇は関節技を極める為に必要な体勢に入って後は技を掛けるだけだと言うのに翔の真っ直ぐ伸びた腕はビクともしなかった。

彼は左腕一本で全身から出るパワーと体重に逆らい紫闇の服を掴み取ってしまう。


「耐えて見せろ立華」


翔が掛けた言葉の意味は解らない。

しかし良くないことなのは解る。

紫闇の視界がブレた。

翔は左手で紫闇を捕らえたまま左ジャブを繰り出し魔晄を流し込む。

ただ揺らされるだけなら紫闇は耐えた。

しかし体へと流入する魔晄は紫闇の魔晄と反発し総身を荒れ狂いながら蝕ばむ。

左腕が振られてシェイクされる毎に魔晄の影響が強くなるので堪ったものではない。


(相手が江神だったなら想定内だけど橘花だと想定外だったな。うんざりするほど強ぇ。あらゆる面で俺の上を行きやがる……!)


紫闇は音隼/双式を発動。

魔晄で四枚二対の翼を出す。

手の平と足の裏からも噴射。

無理矢理に翔の腕を振り(ほど)く。


「ああ~気持ち悪い。気功を体内に食らったらこんな感じなのかね。しっかしクッソ強いし底が見えないからどうしたもんか……」


宙に浮いた紫闇は吐き気を(こら)える。

そして次にどうしたら良いか考えるのだった。
 
 

 
後書き
音隼はV2ガンダムの光の翼をイメージ。

本体と比べてあそこまで大きくないけど。
_〆(。。) 

 

札を切る

 
前書き
_〆(。。) 

 
音隼(おとはや)双式(ふたしき)】で背中から金色の魔晄粒子を翼のように噴出。

立華紫闇(たちばなしあん)》は相手と自分が閉じ込められている結界の壁を足場の代わりにして天井に飛ぶと今度は天井を蹴り違う位置に下りた。

手を離れたボールのようにランダムで跳ねる動きで結界の内部を縦横無尽に巡りながら高速でフェイントを仕掛けることで反応を伺う。


「対処としては正しいのだろうな」


翔は紫闇が考えるより速く消えると何時の間にか紫闇の前に現れ左腕を(はし)らせていた。


「!?」


天井へ逃げる紫闇を翔が追う。


(またジャブだと思ったのに……!)


当てて直ぐに引く牽制のような撃ではない。

翔は紫闇の肘をエルボーのように下に曲げ、ニーキックのように膝を上に曲げて噛み合うように作られたガードを勢い良く弾き飛ばす左のボディーブローで胴体を突く。

拳が紫闇の体に触れた状態で自分の体を回し引っ掛けたまま勢いを付けた。


(またかよこん畜生!)


触れたところから魔晄が侵入して体調を崩した紫闇は天井付近から地上に投げ落とされる。

床は砕け砂煙が上がった。

魔晄防壁を張っていなければ立てなかったかもしれないと冷や汗をかく紫闇はゆっくりと起き上がって動く為の態勢を整える。


「立ったか。なら続きだ」


振り下ろされる左拳を皮一枚で避けるが休ませることの無い切り裂くような連続ジャブが紫闇の魔晄防壁をひたすら刻む。

翔のジャブは素の状態でも人間の肌を切るくらいわけが無い鋭さなので、今の切れ味なら並みの防壁くらい魔術師ごと殺傷する切断力。


「なん……つー速さ……だ!」


紫闇には見えない。

【打心終天】を修得する際に覚えた『瞬間思考』と研ぎ澄まされた『反射神経』に音隼/双式が有ることで何とか対応しているが、ひたすら躱すだけしか出来ていなかった。

翔は気にせず攻める。

また速くなったかもしれない。


(違うな)

(あれは錯覚だね)


観客席から眺める《永遠(とわ)レイア》と《黒鋼焔/くろがねほむら》は翔と紫闇の間に何が起きているのかを掴み取っていた。


「速さは変わっとらん」

「立華紫闇の動作や心理を分析していたのだ。この状況になる前に」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》や《江神全司(こうがみぜんじ)》も見抜く。

翔は紫闇に合わせて対応し、攻撃の角度やパターンを最適にすることで実際よりも速く見せているのだがそれは証明でもある。


「素の力。基本スペックが違う」

「ポテンシャルの差が開きすぎだ」

「しかもまともにやっとらんじゃろ」

「我が孫の春斗より上やもしれんな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇はわざと攻撃を受けた。

そして後ろへ跳ぶ。

彼が着地すると翔は既に目前まで踏み込みながらジャブを放っている最中。

だが紫闇は慌てない。

足に魔晄を集め【禍孔雀(かくじゃく)】を発動。

直線のジャブに合わせた後ろ回し蹴り。

が、翔はバックステップしながら左腕を引き、カウンターの後ろ回し蹴りを回避。

着地直後に紫闇の正面から外れ横へ跳ぶ。

空振りした紫闇の足が床へ落ちると通常の禍孔雀と同じで爆発が起きた。

黄金の魔晄粒子が結界内に飛散。

爆煙と輝きが立ち込め視界を防ぐ。


(無駄なことを)


翔の全身から魔晄が噴射され煙が晴れる。

上空からは音隼/双式の推進力で急速降下してくる紫闇が足刀を放っていた。

当然のように反応した翔は迎撃の左。

足刀とジャブが衝突する直前。


(あんがとよ。反応してくれて)


不敵な笑みの紫闇は『それ』を出す。

盾梟(たてさら)丸魔(がんま)】と音隼/双式。

二つの同時発動。

盾梟に強化された魔晄防壁が球状に。

翔の左が防壁に激突。

その隙に紫闇は音隼の空中移動。

両足が開きシザースロー(蟹挟み)へ。

翔の腰辺りを挟んだ紫闇は体を捻って無理やり彼を引き倒そうとする。

しかし大木のように動かない。

地面に根を張っているようだ。

紫闇は冷や汗を掻く。


「成る程な」


翔は自分に【夏期龍帝祭】への出場を依頼した生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》から聞いていた。

【黒鋼流】の技[三羽鳥]

音隼・盾梟・禍孔雀の三つ。

これらは同時に出来ない技だと。


「お前は特別なのか立華」


翔は笑みを浮かべ問うが紫闇は青ざめた顔で蟹挟みを極めたまま固まる。


「……そうだ。一羽が羽撃(はばた)く時に他の二羽は翼を広げられない。黒鋼流では常識だよ。俺は三羽とも飛ばせるけどな……」


しかし切り札とも言える秘密を明かしたにも関わらず紫闇は寝技に入れない。

江神春斗(こうがみはると)》へ用意していた対策は翔のフィジカルによって破られた。


「今は弱いが確信した。立華は強くなる。だからもう暫く付き合わせてくれ。成長する為の(かて)となろう。それを以て江神に挑んでみろ。俺に勝てたらの話だけどな」


翔は魔晄で強化された単純な筋力で紫闇の拘束を外し互いの体術が届かぬ位置へ。

そこで第1ラウンドが終了した。
 
 

 
後書き
原作でも焔や弥以覇は三羽鳥を同時に使うことが出来ない設定です。

ここの焔は特殊ですが。
_〆(。。) 

 

崩壊

 
前書き
書くペースを上げたいが昔のようにモチベーションが湧かないんですよね。
_〆(。。) 

 
第2ラウンド開始直後。

《立華紫闇》が左手中指の関節を鳴らすと彼の纏う白銀の魔晄防壁が闇色に染まった。


「これがそうか」


《橘花 翔》が警戒していたもの。

《江神春斗》との戦いで見せた鬼。


「もう終わりかと思ったけど」


そう呟いたのは《黒鋼焔》達の所に来て観戦していた《クリス・ネバーエンド》


「どっちの肩を持つわけでも無いんだけどシアンを応援させてもらうわ」

(リベンジしてやりたいしね)


外野のことなど知らない紫闇は吹っ切れたかのように翔へ直進する。

豪快な右フックをフルスイング。

テレフォン全開の大振りパンチ。

当然のように当たらない。

カウンターの左ボディが入る。

翔への強引な攻めに意味は無い。

第1ラウンドで思い知らされたはず。

なのに紫闇は止めなかった。

ひたすら前へ出て攻撃を行う。

その全てを回避されている。

勿論カウンター付きで。

しかし一部の者は気付いていた。

紫闇はやけになったのではない。

相手を(おの)が術中に落とす。

そういう目をしている。

血に染まっていく彼が倒れ込む。

この試合で初めてのダウン。

しかしテンカウントが終わる直前に脚を震わせながら立ち上がって見せた。


「立華紫闇は心身共に頑強だな。よほど気合いを入れて鍛えてきたと見える」


江神全司(こうがみぜんじ)》は納得。

これだけタフなら耐えられると。


「才能が有る奴でも壊れるような鍛練を乗り越えてきてますからね。短期間であそこまで成長した彼は自慢の弟子ですよ」


永遠(とわ)レイア》は劣勢に立たされている紫闇のことを誇らしく思っていた。


「小僧は黒鋼の技を使うが黒鋼ではない。じゃが儂等の意思は心の底まで刻み込んであるからのう。黒鋼は諦めが悪いぞ?」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は目を細める。


「勝負はこれからさ」


焔は不気味に微笑んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


第2ラウンド後のインターバル。

紫闇は満身創痍(まんしんそうい)の体。

そんなふり(・・)をしていた。


「あ~痛ぇ。マジでキツいわ~。でも橘花は江神と同じで響かねぇんだよなぁ。クッソつまらなくてどうしよう」


黒鋼と同じく好戦的で力と強さを欲する鬼のスイッチを入れた彼は『勝ちたい』のと同じくらい『楽しみたい』という思いを持つ。

今は医者に体を確認されている。

動けるのは奇跡と言われる程に痛め付けられた彼のことを誰もが第3ラウンドでKOされると思っているだろう。

それこそ紫闇の思惑。

第3ラウンドが始まるや(いな)や第2ラウンドと同じように愚直な攻めで突撃。

紫闇は【魔晄外装】を付けた右腕を主としてひたすら拳を出し続ける。


「もう策は無いか?」


翔の問いに答えず腕を振った。

一歩下がった翔は再び聞く。


(すべ)は無いんだな?」

「これが答えだッ!」


紫闇の左拳は空を切るが翔の方は左ジャブで紫闇の腕を弾いてしまう。


「なら少し強めに行くぞ」


翔の左手が白銀に光った。

閃光が紫闇の顔に直撃して頭部を包み込んでから爆発すると流れるような二発目の左が腹へと着弾して更に銀の魔晄粒子が散る。


まるで黒鋼流の【禍孔雀(かくじゃく)


(こいつも【練氣術】を使えたのは予想外だが江神と同レベルの想定をしてたからな。お陰でまだ踏ん張れるよ)


バックステップで距離を取った翔がオーソドックスなボクシングフォームを構えた。

決めるつもりだろう。

紫闇は翔の初動に対し、僅かに遅れたタイミングで踏み込んでいく。

【打心終天】を使う時が来たのだ。

禍孔雀を発動して右手が金色に。

翔と自身の推進力に禍孔雀が掛け合わさって生まれる絶大の威力のカウンターは普段の禍孔雀と比較して数十倍。

格が一つくらい上の相手なら、決まりさえすれば確実に倒せると言って良い。


(この三ヶ月が報われて終わりだ)


本当に色んなことが有った。


「ん?」

(ちょい待ち。何だその(つら)。急に来た負けに対して普通はそんな顔しないだろ。まさかここまでの展開を読んで───)


タイミングを合わせていた打心終天は今まで以上に速い翔の急加速によって外れる。


「これでも立てるか?」


紫闇が絶望する前に彼の視界は銀の光で埋まり体は浮遊感に包まれた。
 
 

 
後書き
5年くらい前は四六時中ずうっと書きたくて仕方ないのが困るくらいだったのに。
_〆(。。) 

 

覚醒

 
前書き
原作一巻分も終盤です。
_〆(。。) 

 
《立華紫闇》は武舞台に倒れている。

左手の【古神旧印(エルダーサイン)】も光の筋となって《橘花 翔》の元へ流れ出していた。


「う……」


失神していた紫闇が意識を取り戻すと黒かった魔晄は通常の白銀に戻り、『鬼』の狂気も消え去って人間の正気に戻っていた。

しかしそんなことはどうでも良い。


(10カウント中。まだ終わってないぞ!)


立ったところで全てを打ち砕かれた自分に勝ち目が無いことなど理解している。


「それでも」


諦めるわけにはいかなかった。

ここで折れたら以前と同じ。

だから絶望していても立つ。

敗北を確信しようと抗う。



「……力が欲しい」

『もう少し、もう少し』


紫闇の頭に響く声。

何時の頃からか聴こえてきた。


(これで終わりなんて嫌だ)

『門が今、』


翔と自身の為に何かを得たい。


『開く』


直後、真っ白な空間。

気味が悪くて巨大な黒門。


「あれ? 会場に居たよな俺?」


紫闇は以前にも此処へ来た。

試合が気になる彼が見る門の前に黒い(もや)が現れて人の形となっていく。


「そういうことか」


紫闇の目前には黒い髪の紫闇。

彼を見て理解する。

試合での体調不良。

謎の幻聴。

時が止まったような感覚。

この存在が原因。

理由は解らないが悟った。

そもそもこいつは何だ。


「どうでも良いか。お前は俺に『力』をくれるんだろう? なら早く寄越せ。魂と交換でも構わない。終われないんだよ。あいつを、《橘花 翔》をがっかりさせたくないんだ」


紫闇の願いにうっすら笑ったもう一人の紫闇は左腕を向けて視界を塞ぐ。

次の瞬間、視界は武舞台に戻っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(体が熱い)


頭も割れるように痛む。

紫闇はそれが心地良い。

熱狂の観客。

叫ぶ実況。

自分に期待する翔。

何もかも頭から消し飛ぶ。

内からは言の葉が漏れ出す。

紫闇の意思に関係なく。


七門ノ一(ヴィルス=ヨグ)


翔が(すく)む。


混沌の解放(ナル・シュタン)


驚きに目を見開く。


我は虚無の貌に名を刻む(ヴォルグン・ナル・ガシャンナ)


紫闇の前に立つ彼は震えた。


大気よ唸れ(ヴオ・ゾルディス)


翔は冷や汗を(ぬぐ)う。


時よ止まれ(イルイス・カルラ)


顔には恐怖が浮かぶ。


刻む我が名は(ウルグルイ・ゼェム)


何故か紫闇には全てが遅く。


“風に乗りて、歩む者(イタクァ・ザ・ウェンディゴ)


翔は無意識に後ろへ跳ぶ。

紫闇の言葉が紡がれた結果何が起きたか。


(……我が事ながら自覚無ぇー)



周囲の時間が凍り付く。

紫闇は熱や痛みが抜けると【魔晄外装】の赤いラインが青色に変化した。

もう一人の自分から得た力の使い方を直感的に理解しながら翔を睨む。


「次はお前が絶望する番だッ!!」



後方に飛び退()きながら停止する翔へと飛び掛かり顔に殴り込んでいく。

蹴って割れた床の破片を置き去りにして。
 
 

 
後書き
原作を見て紫闇の能力に思ったこと。

何で風のイタクァで時間?

クアチル・ウタウスが居るぞ。

チート系ならまあ解るんですけどイタクァの名前出したんなら風系にしといた方が。

原作のパワーインフレからすると、個人的に時間能力の覚醒は終盤が良かった。

原作が進んでいった場合、恐らく紫闇は最終的に7つ目くらいまで能力を覚醒するはずだったんだろうなあと思っています。

作者さんが書いてる今の作品も設定の一部に7が使われているところからすると。
_〆(。。) 

 

Wrath

 
前書き
スペック差が酷い。
_〆(。。) 

 
顔面への一撃を食らった翔が宙に浮く。

それを紫闇が飛んで追う。

鳩尾(みぞおち)に肘。

翔は背中から落ちる。

しかし地に着く前に蹴り上げ。

再び顔に拳。

脊髄への前蹴り。

真横から投げ倒す。

手刀が首を打つ。

《立華紫闇》の一気呵成(いっきかせい)な猛攻。

今まで溜め込んでいたものを爆発させるように見違えるような大暴れだ。


「ははははははははははははははッッッ!!!」


《橘花 翔》から漏れるは歓喜と愉悦。

それが止まらない。

紫闇も止まらない。

追撃が途切れない。

一方的に殴る。

一方的に蹴る。

一方的に投げる。

もしも紫闇が翔から同等の威力を持つラッシュを受けていたらもれなく戦闘不能。

なのに翔は無傷。

二人にはそれほどの差が有った。


「これは……想像以上だ……」


翔は時間に干渉した紫闇の速度に迫る。

そして素で追い抜いて見せた。

紫闇が手に入れた新しい力でも着いていけないほど速く移動して翻弄する翔。

残像を追うのがやっと。

足捌きは五感の知覚が不能な俊敏さ。

腕は第六感でも認識外。

紫闇が空振るとカウンターが飛ぶ。

翔が攻撃に使っているのは左腕だけだと解っているのに何をやっているのか解らないほど迅速な一撃が正確に命中する。


「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


紫闇が不甲斐なさに怒り吼えて求む。


(力が足りない。もっとだ)

『危ない』

(もっと寄越せ。これじゃまだ駄目だ)

『危ない』

彼奴(あいつ)()るにはもっと力が要る)

『でも』

(例え死んでも良いから───)



「力を寄越しやがれッッ!!!」


『……解った』


【魔晄外装】に走る青いライン。

それが一層強く輝くと、まるで真っ青な血液を思わせるように魔晄(まこう)の粒子が噴出する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

今まで何とも無かった怪我が。

気が狂いそうなほど。

頭が顔が首が肩が腕が掌が胸が腹が尻が金的が太腿が脹脛が足裏が指が。

内臓に至るまで全て痛い。

兎に角痛い。

死んだ方がましだ。

しかし力は得た。

翔は止まっている。

倒れ込みたい気持ちを抑えて武舞台の床を踏み砕きながら接近すると全力で殴り飛ばす。

だが速度に関しては双方にこれと言った程の差は付いていないようだ。

返礼に殺到した翔の左拳は紫闇の意表を突いて回避を許さず直撃。

ただでさえ痛い【異能】を行使する代償の痛みに攻撃を受ける痛み。

紫闇は激痛で発狂しそう。

しかし何だ、それがどうした。


「きぃあああああああああああッッッ!!!」


気が()れたように声を出す紫闇。

その裂帛(れっぱく)な気合いはまるで示現流の猿叫(えんきょう)を思い起こさせるほど苛烈。

吼えた紫闇は突撃。

顔を殴り、腹に膝、左の脇腹に右のボディを放って全弾クリーンヒットさせるも間髪を入れずに翔から左の打ち下ろし。

脳天に横拳が落ちて衝撃。

目には大輪の花火が咲いた。

足下がぐらつく。

それが何なのか。

紫闇は逃げない。

一歩も退かず。

意思が痛みを超える。

本能で動く。

中段蹴りの【禍孔雀(かくじゃく)】が翔の腹へ炸裂。

爆発し黄金の粒子が舞った。


「俺としては満足している。この試合中で立華がここまで出来るようになるとは思っていなかったからな。だが向かって来ると言うのなら応えさせてもらおう」


紫闇の背筋に寒気。

そのジャブは見えない超速。

しかも斬撃のように切れる。

両の肘、肩、首筋と血が噴き出す。


「耐えたぜ橘花ァッッ!!」


紫闇の後ろ回し蹴りは翔の腹筋に命中。


「それがどうした?」


翔は魔晄の光を放つ左のストレートを一直線にぶつけて紫闇を白銀の中へと呑み込んだ。
 
 

 
後書き
第一部終わったらどうしようか悩む。

何度も書いてますけど真面目に。
_〆(。。) 

 

灼熱

 
前書き
_〆(。。) 

 
《橘花 翔》の左ストレートが直撃した《立華紫闇》は彼の拳から放たれる白銀の魔晄に包まれてその姿が見えなくなった。

まるで爆発しない禍孔雀(かくじゃく)のように全身を余すこと無く走り抜け、細胞の隙間を縫うようにダメージを与えていく。


「それがどうしたああああッッ!!」


紫闇は気合いで我慢。

銀光を掻き割け前へ。

踏み込んだ先に居た翔の顔目掛けて魔晄外装を纏った右手を握り込み拳を作ると全力全開の禍孔雀をぶち込む。

フルパワーのマックス。

これ以上は出せないだろう力で。

予想外だったのか翔は踏ん張れず、観客席と舞台を隔てる結界の壁面まで吹っ飛び豪快な音を立て叩き付けられた。

しかし落下した彼は平然と着地。

けろりとした顔を向ける。


「どうと言うことは無いな」


吐かれた台詞に紫闇の激情が爆発。

怒りでは無く嬉喜(きき)恍惚(こうこつ)

両者は結界の中を躍動しながら退くこと無く激突し、異能によって停止した時間の中で打撃が衝突し続けた。

紫闇の衣服が破れ血に染まる。

それでも蹴り、殴り、打ち、突く。

動きが(にぶ)っていく。


(限界が近いな)


紫闇の様子から判断した翔は止めを刺す為に今日一番の速度を出すが読まれていた。

紫闇は音隼(おとはや)で魔晄の翼を出し回避。

空振りした翔は体勢を崩していない。

しかしチャンスと紫闇のあれが出る。

音隼/双式(ふたしき)と禍孔雀を同時に発動。

翔との間合いを詰めた。

三羽鳥を同時に使うことで【打心終天(だしんしゅうてん)】をカウンターという枠から解き放ち、あらゆる状況で使えるようにしたのが彼のオリジナルだ。


「黒鋼流異形ノ一・打心終天/(かい)


相手が自身に向かって来る推進力が利用できないなら足りない推進力を自分で生む。

そういうコンセプト。

体内へ衝撃を伝える為の掌打が通常の禍孔雀と比べて数十倍の威力で翔の胸に直撃。


「敗れるのはお前だ立華紫闇」


翔は攻撃を魔晄防壁で受け切る。

彼はわざと攻撃を空振りして隙を見せ、紫闇のことを誘い込んだようだ。

紫闇の攻撃を食らう前提で。

翔は打心終天/改と同等のカウンターを返すことで紫闇を弾丸のように吹き飛ばし、先程のお返しとばかりに結界の壁面へと激突させた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の外装に変化。

青から赤のラインに戻る。

会場の人間は理解できていない。

文字通り『瞬き』の間。

それだけで舞台上は破壊された後。

紫闇が倒れていた。

そんな光景。

《クリス・ネバーエンド》もそうだ。


「い、今のは、外装の力、よね?」

「いや。規格外はゴミタイプさ。紫闇の外装に異能は宿ってなんかない」


《黒鋼焔》が否定する。


「じゃあさっきのは何なのよ!?」


この問いに《江神全司(こうがみぜんじ)》が答えた。


「あの小僧は【神が参る者(イレギュラーワン)】と言ってな。【上位存在】と融合した人間よ。先刻の力は外装でなく立華紫闇という個人に宿ったもの。そうであろう黒鋼焔?」


焔が頷く隣でクリスが驚愕。


「本人には言わないでくれ。今はまだ秘密にしてる。明かす段階じゃない」


《永遠レイア》はクリスに注意しておく。


「しかしそれにしても」


焔は熱中している。

紫闇の想定以上の力に。

今回の橘花 翔は破格の相手すぎてどうにもならなかったので仕方ないだろう。


「紫闇の力は『時間操作』の類い。今は周囲の力を数万分の一に圧縮する程度。けれども成長するなら(いず)れは[完全な時間の停止]も可能になるかもしれない」


現時点なら焔も攻略できる。

しかし将来的には未知数。


「しっかし紫闇の小僧も決勝であんなのに当たりとはのう。せっかく宿しとる上位存在が……。いや、断定するのは()しとくか」


黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は紫闇と融合している上位存在が誰なのか言及を避けた。

倒れていた紫闇が目を醒ます。


「強い、な橘花……。本当に、さ……。まさか外装も出さず、左腕一本で……攻める相手に。しかも……あれだけ、攻撃を当てた奴、に……。負ける、とは……思わなかった」


翔は目を合わせて告げる。


「俺は認めるぞ立華紫闇。お前は美事な男だった。本当にな。心からそう思う。今度戦う時までにもっと強くなっておけ」


古神旧印(エルダーサイン)】が翔に移ると紫闇の意識は黒一色に染まり、何も見えず、聞こえなくなった。

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

道筋

 
前書き
あと少しで第一部が終わります。

その後の執筆は未定。 

 
【夏期龍帝祭】が終了して直ぐ。

《立華紫闇》は入院した。

彼は準優勝よって【龍帝学園】の一年生において学年序列[第二位]に格付けされる。

当然一位は《橘花 翔》

紫闇にはマスコミから渾名(あだな)も。


【白狂戦鬼/バーサーカー】


「ほえー」

他人事(ひとごと)みたいだけど君のことだからね」


ベッドに寝ながら話を聞いている紫闇の横には椅子に座る《黒鋼焔》の姿が有った。


「的場君が言ってたよ。『見たかったものを見ることが出来た。優勝できなかったのは残念だけど、俺のヒーローが帰ってきた』ってね」


紫闇の幼馴染み《的場聖持(まとばせいじ)

彼が居なければ紫闇は黒鋼流の修業に耐えられず落ちこぼれのままだった。


「彼奴には礼を言わなきゃな」


朱衝義人(あかつきよしと)》に憧れて龍帝学園に入学するまでした努力は報われなかった。

そんな彼が黒鋼と出会い三ヶ月で夏期龍帝祭を準優勝出来るところまで来たのだ。


(自分という物語でやっと序章が終わった気がする。此処からが本当の始まりなんだ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


かつての東京。

そして昨年、世界で唯一解放された元・【無明都市/ロストワールド】

現在は【聖域】だ。

【魔獣領域】のような【魔獣】ではなく、似て非なる【モンスター】の生息地。

あちらこちらにモンスターが倒れている。


「お、居た居た。探したぞ」


声の主は《エンド・プロヴィデンス》

永遠(とわ)レイア》の弟で紫闇の幼馴染み。

彼はある人物を追っていた。

夏期龍帝祭が始まる前に龍帝学園から姿を消し、全く登校しなくなった男子生徒。


「なんだエンドか。立華が勝ったのか?」


死んでいる一頭の巨大なモンスターに魔晄外装の日本刀を突き立て腰を下ろしている眼鏡を掛け、長い黒髪を後ろで束ねた剣士。


「解り切ったことを聞くなよ春斗」


江神春斗(こうがみはると)

紫闇が戦いを望んだ相手。

彼は聖域に棲むモンスターのボスとも言える立場に居る【精霊】やモンスター達に頼み、一月半近く戦い続ける日々を送っていた。


「ということは、挑むのは翔か」


春斗は元々夏期龍帝祭の優勝者と戦う為に体を鍛え、技を練り、心を澄まし、勘を磨き上げたのだから誰が相手でも関係ない。


「取り敢えず出るとしよう」


春斗とエンドは聖域の外へ向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なあ焔」

「んー?」


紫闇は気になって仕方ない。


「江神どうしてるかな」

「流石にまだ早いよ」


二人とも知っている。

春斗と戦うのは優勝者だ。

二位の紫闇は資格が無い。

ならばせめて見たかった。

紫闇を負かした二人の底を。


「言っとくけど【氣死快清】を使って怪我を治す気は無いよ。紫闇は大会で気を使いすぎたからね。少し精神を休ませた方が良い」


氣死快清は体を回復させる技。

精神までは治療できなかった。

紫闇を大人しくさせる為には安静必須の状況を作った方が手っ取り早かったので焔は強引な方法を取ったのだ。


「まあ大会が終わった翌日でいきなり戦うことは流石に無いだろうしな。江神は万全の相手と戦ってなんぼな性格だし、そこは橘花と調整するか」


紫闇は目を(つぶ)る。

この場に居ない人間を気にすること無く。


「上手くやったわね『ほむほむ』は。それじゃあ向子さんも行きますか。みんな来てるだろうしほむほむばっかりに負担を掛けられないよ」


龍帝の生徒会長《島崎向子(しまざきこうこ》は焔以外に気付かれること無く、病院から一瞬で姿を消してしまう。


(行ったか。手間のかかる人だね)


焔は小さく溜め息を()いた。
 
 

 
後書き
別の話を書いてみようかなー。

毎度の如く需要が無い話だけど。 

 

First Step

 
前書き
雑ですが第一部は終わりです。 

 
病院から転移した《島崎向子》は龍帝学園の生徒会室に有る会長席へ座す。


「エンド君は欠席だね」


部屋に居る向子以外。

副会長

書記《的場聖持》

庶務《橘花 翔》

《永遠レイア》

会計は《エンド・プロヴィデンス》だ。


彼等は《立華紫闇》に宿る【上位存在】を覚醒させ力を引き出そうとしている。

その過程において紫闇が上位存在に肉体の主導権を奪われると不味い。

なので色々と話し合っている。


「今は問題無いから良いけど」

「邪神大戦の再来は勘弁」

「幼馴染みだし何とかしてやりたい」

「ここぞという時には本人に話すぞ」

「任せて。責任はこっちで持つから」


もし内なる上位存在が紫闇の意識を消し去り彼の体に受肉して降臨すれば、この場に居る何人かは死ぬことになるだろう。

かつて世界最強とされた魔術師七人のスペシャルチーム【マジェスティックセブン】

そのうち六人を犠牲にして封印した《ナイアー=ラトテップ》を上回る強さ。


「何とか折り合い付けてほしいね」


神が参る者(イレギュラーワン)】の件は抜きで紫闇が魔術師として大成し、頼れる仲間になってくれることを望むのも事実であり、彼を死なせなくない。


「頭の痛い問題だよ全く」

「次のイベント決まってます?」

「うん。ちょうど良い時期だし」


ならばレイアが気になっていることを。


「《佐々木青獅》はどうしましたか?  紫闇に負けてから学園に来てないんですけど」


向子が行方を教える。


彼処(あそこ)か……」

「何時か名前を聞く時が来るんじゃないかな。誰かに弟子入りしたみたいだし。生きてさえいればまた会えるよ」

(向子さん達が保証すると大体どこか大丈夫じゃないんだけどな。対象になる相手が特殊だから切り抜けられるだけであって)


生徒会の雑務を担当する翔は無事を祈った。


「粗方の議題は終わったので解散しますか」


副会長はそそくさと部屋を去る。


「あたしもカナ☆リンとこ行く。橘花君と立華君の試合を見てもらわないと」


向子は映写機ごとワープ。


「上二人があれで纏まってるって凄いわ」

「そこは感心してほしくないです」


聖持はレイアのぼやきに顔を覆った。
 
 

 
後書き
やる気が湧くまでこの話は休みます。

その間は何を書こう。

 

 

追憶

 
前書き
またヒロアカで何か書こうかと思ってたんですが此方の方が気になったので。
 

 
《クリス・ネバーエンド》

龍帝学園に通う一年生の女子。

彼女の家は英国で随一の貴族。

代々が武人として名を馳せた名門。

【魔術師】に目覚める確率も高い。

同国で知らぬ者は居ない程だ。

その邸宅は正に城である。


夏のある日、クリスが6才の頃。

人生に転機が訪れた。


敷地内に在る広大な庭。

そこには三つの人影。


一人はクリス。


一人は7才の少女。

金髪に碧眼。

クリスと似た容姿。

名を《エリザ・ネバーエンド》

クリスの実姉。

右手には木剣。

この(よわい)にして騎士の風格が漂う。


そして最後の一人は10才の少年。

他の二人とは違い貴族でもなければ先祖に高名な武人を持つわけでもない。

魔術師を排出したことすら無いごくごく普通の一般家庭に生まれた正真正銘の一般人。


ただ、彼は7才の頃に《ナイアー=ラトテップ》が率いる【旧支配者(オールドワン)】の眷属によって家族を喪ってしまっている。

その時に魔術師と【超能力者】として覚醒。

周囲の敵を皆殺しにしてしまう。


発揮された力を目撃した軍によって彼の身柄は保護され厳しい戦闘訓練を受ける。

1年後の8才で少年は英国最強の超能力者となり、2年後の9才で英国最強の魔術師と軍から評価される程の域まで登り詰めた。

表の世界では知られることが無かったものの、英国の《神代蘇芳(かみしろすおう)》とも言われる才能と成長に目を付けたネバーエンドの当主に実力を買われることとなる。

目的は当主の娘二人にとっての刺激となるよう共同生活を送らせることだ。


その目論見は上手くいった。

クリスもエリザも彼を目標としている。

今は居ないもう一人もそう。


「《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》。見てなさい。私がクリスに勝つところを」


既に飽きるほど見ている。

今のクリスに勝ち目など無い。

それでもイリアスは期待していた。

クリスが一矢報いることを。


エリザの煽りで頭に血が昇ったクリスが木剣を振り上げながら突っ込む。


(冷静とは無縁だな)


イリアスがエリザに目を移す。

一つ違いと思えない落ち着き。

クリスは上段から木剣を振る。

彼女は勝てると確信したが思考は中断。

喉に強烈な痛み。

クリスは尻餅を着く。

6才のクリスが解らないのも無理はない。

解る方がおかしいのだ。

今の一撃が何なのか。


「能力と言うより性格の違いか」


エリザとクリスは師である父に闘争は初手を取った者が勝つ『先手必勝』ということしか教えられていなかった。

クリスはそこで考えることを止め、ひたすら先制することにこだわってきたのだが、エリザはそれが本当に正しいかどうか考えることを止めず、その末に『後の先』と言われるものを理解し実行できるよう励んできた。

思想の差が今の結果だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まだまだぁッ!」


クリスは直ぐに立ち上がる。


(頑張りは認めるけど無理だクリス。今の君じゃあ勝てない。今はまだ(・・・・)、ね)


彼女はエリザを睨みながら突撃。


「呆れるわクリス」


エリザの目が細められた。

冷たいと錯覚するような気が放たれる。

寒気に襲われたクリスが止まってしまう。


「無様ね」


氷をイメージさせるエリザは右腕だけを持ち上げて勢い良く木剣を振り下ろす。

クリスは動けない。

回避や防御をしなければと理解しているのだがエリザへの怯えに思考がフリーズ。


「あ」


イリアスが見守る先でクリスは目を瞑る。

彼女の眉間に衝撃。

また尻餅を着いてしまう。

悔しいのか涙が溢れていた。

エリザは溜め息を吐く。


「本当に能無しねクリス。出来損ないだわ」



妹に掛けられる言葉は冷たい。



「イリアス。貴方も御父様に聞いたわね?」


姉妹の戦いを黙って観戦していた彼はエリザの問い掛けに対し応答する。


「英国の貴族はすべからく【古代旧神(エルダーワン)】の為に生き、古代旧神の為に死ぬ。それが責務であり運命だと聞いています」


彼は認めたくない考えだが。


「そう。私達の役目。でもこの娘には果たす力も資格も無い。クリスにはムシケラの生き方がお似合いよ。貴族の人生なんて似合わない」


言外に言っているのだ。

戦うことを辞めろと。


「地べたを這って負ける度に『弟分』やイリアスから慰められて泣きべそをかく弱虫に戦い続けなければならない時間は過ごせないわ」

(本来は私も其方側(そちらがわ)なんですが)


イリアスは好きで戦っているわけではなく、それしか生きる手段が無かったから軍に管理される魔術師として生きている。


(クリス、少し不味いな)


彼女の心は折れかけていた。


「ふざけないで! 私はあんたよりも強くなるッ! そうよ……。あたしだって強くなることくらい、出来るんだから……ッ!」


そう言ったクリスだったが諦めが生まれたことをイリアスは感じ取る。

しかし彼女は認めない。

必死に恐怖を抑え込む。


魔術師の武器【魔晄外装/ファーストブレイク】は本人の心を表すという説が有るのだが、これは恐らく正しいのだろう。

二人の戦いから数週間後。

クリスは【魔晄】を宿し、直ぐにファーストブレイクに目覚めて異能を有した。

多種多様な外装を生む力を。

しかしトラウマである姉の象徴とも言える『近接武器』の類いは未だに出すことが出来ず、クリスの成長に歯止めを掛けている。


イリアスの方はと言うと数年後に魔術学園へ入り、見事【魔神】となる。

だが何故か自国の古代旧神や英国軍と一人で戦いを繰り広げ、後に日本へ亡命した。


「何れ機会を見て奴を倒す」
    
 

 
後書き
イリアスは亡命前の時点で英国の古代旧神に勝てましたけどそれなりの力を出さなければならず、もしそうしていれば英国の被害が甚大になっていました。

というわけで知り合いの居る日本に来て修業しておりかなりパワーアップしています。
_〆(。。) 

 

予兆

 
前書き
一人増えるだけでやり辛くなるなあ。
_〆(。。) 

 
【魔術師】が有する生命力や回復力は常人だと考えられないほど高く治りも早い。

現代医学も加われば尚更。


「普通は全治数ヶ月らしいが」


立華紫闇(たちばなしあん)》は四日で病院を出た。


【夏期龍帝祭】の決勝戦から四日。

そう。あの試合からそれだけ。

まだそれだけしか経っていない。

紫闇は準優勝という結果を出した後、色々あって家族に絶縁状を叩き付けるに至った。

今の彼は《橘花 翔(たちばなしょう)》と同じ【魔神】候補。


「だからって病院来んなよ」


軍の人達によると紫闇には生活のサポートが入るらしいが金でも飯でも異性でも叶う限りを用意してくれるのはやり過ぎだと思う。

まあ紫闇は家を出てしまった身なので住む所だけは手配してもらっているが、これくらいは許されるのではないだろうか。


「焔やレイアさんも居るし、黒鋼の屋敷に行こうかって案も有ったんだけど、俺の修業だけでも負担かけてるしなあ。特にレイアさんは事情を知ったら心配するだろうし」


紫闇は家を出たことを秘密にする。

そこに連絡が来た。

【龍帝学園】の生徒会長から。


「あ、立華くん? 生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》だよー。頼み事したいんだけど」


何でも紫闇が住む部屋の隣の部屋に住まわせてほしい人物が居るとのこと。


「ちなみに橘花翔よりも強いよ」


挑戦する許可を得たのだが会ってみた紫闇はあまりに予想外の人物だったのでそんな気持ちは何処かへ消え去ってしまう。


(橘花より強いってそりゃそうでしょ)


夜の繁華街を歩く紫闇は隣で歩いている長身の男を見上げて身を固くする。


《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》


英国から亡命してきた【魔術師】

向こうの国内に限定してだが歴史上最強の実力を持った最高の経歴を誇る魔神。

最低の経歴も持っている。

七層有る【無明都市(ロストワールド)】の一層を解放した英国初の魔神でありながら、自国の【古代旧神/エルダーワン】と軍隊を相手に単独で引き分けるような化け物と戦うのは無理だ。


(明らかに焔より強いよな……)


()るなら最低でも今は亡き、純粋な強さの象徴とまで言われた【鉄拳の女帝】

出来るなら先代の【史上最強】

それくらいの実力は欲しい。

何せイリアスは自国全ての戦力を相手に一人の死者も出さず、魔術師を含めた殆どの人間を無傷で、古代旧神を除く総勢の戦意を喪失させ心を折ってしまう程の差を見せ付けたのだ。

もし最初から殺す気だったなら……。

紫闇はゾッとした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


街を歩く紫闇とイリアス。

目前では二人の男による(いさか)い。


「迷惑じゃなければなあ」

「好きにしろと言いたいけど」


二人は学生魔術師のようで体が白銀の魔晄防壁によって覆われる。

そして互いの【魔晄外装】を出した。


「不味いですねイリアスさん。みんな避難したり罪を犯した魔術師を捕まえる【狩人/ハンター】に通報したりしてますけど」

「建造物が(ただ)じゃ済まない」


紫闇達は二人を止めようとする。


()しなさい。迷惑です」


一同が声の方を見た。

そこにはイリアスのような貴公子。

闇色のスーツに包まれた体はモデル形無し。

身長は180センチ前後。

腰まで伸びた金髪が特徴的だ。

夜でも判る碧眼も印象に残る。

美女のように整った凄まじい美形。


そんな青年から掛けられた言葉と柔和な笑顔が気にくわなかったのか争っていた二人が喧嘩相手よりも優先して突っ込んでいく。

紫闇は青年を助ける為に外装を出そうとするがイリアスに制止されてしまった。


「心配ない。何とでもなる」


どういうことか聞きたかった紫闇だが、取り敢えず見守ることに。

青年は白銀の防壁に包まれた。

どうやら魔術師らしい。

その行動は紫闇を驚かす。

向かって来る二人を躱すと外装を出すこと無く、首筋に手刀を入れて失神させたから。


「相変わらずか」


イリアスは青年を知っているらしい。


「こうなると解ってたんですね」


青年は去っていった。


「龍帝学園の『白狂戦鬼(バーサーカー)』だけではなく貴方まで居るとはねイリアス。近い内にまた会うことになりますよ」


 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

どうでも良い

 
前書き
紫闇以外で設定を出すタイミングはどの辺りが良いんだろうか。
_〆(。。) 

 
《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》と夜の街を歩いた次の日、《立華紫闇》は【龍帝学園】へ行き、座学を受けていた。

彼は強くなりたいだけではなく、憧れの大英雄《朱衝義人/あかつきよしと》のように軍へ入り、誰かの役に立ちたいという想いが義人に助けられた時からずっと有る。

だから勉強はきちんとこなして無事に進級できるようにしなければならない。


「強くなるなら黒鋼の屋敷に行きゃ良いんだけど座学の単位は登校出席しなけりゃどうにもならねぇ……」


紫闇は勉強が苦手だ。

どうにか【天覧武踊(てんらんぶよう)】や大会での活躍に応じて座学の単位を免除してくれないだろうかと紫闇は机に突っ伏す。


「それはしょうがない。発展途上や紛争なんかで学校に行けなかったんなら兎も角、日本でまともに学校出てない奴と学校出てきた人間のどっちに会社へ入って欲しい?」


幼馴染みの《的場聖持(まとばせいじ)》が言うことは理解できるのだが紫闇としてはその意見に対して完全に同意したくなかった。

どれだけの戦力と活躍が有ろうと卒業はおろか進級も出来ないことに。

そして座学の時間が終わる。


「脳へのダメージが酷いから今日はこれで早退しても良いかな聖持ー?」

「訓練の出席日数も留年に関わってくるぞ。俺も紫闇も聖持も二月半以上サボタージュしてたから進級に響いてるはずだ」


気落ちした紫闇は聖持や《エンド・プロヴィデンス》と共に嫌々な態度を隠すこと無く馬鹿でかい体育館へと向かう。

三人が一年の実戦スペースに入った。


「あいつは来てないのか……」


紫闇がキョロキョロと首を回して周囲を見渡すが集まった一年の中に《橘花 翔(たちばなしょう)》の姿を確認することは出来ない。


「もう一人もな。あっちは進級とか気にしないで強い奴と競うか強くなる為に何処ぞで修業してる。まあ最近座学の単位を稼ぎまくっているみたいだが」


聖持によれば《江神春斗(こうがみはると)》は紫闇が決勝で負けた次の日から学園に来て特別な試験を受けて合格しているという。


「何だそれ?」

「座学免除のペーパーテストだよ。座学の授業科目ごとに有って全部受けたんだ。今のところ一つも落としてないから春斗は座学を受けなくて良い」


座学の免除試験は学年単位で座学を受けなくて良いことになるもので、特に春斗の試験は卒業まで免除という一番難しいものらしく、紫闇では無理だから諦めろとエンドに告げられる。


「理不尽すぎるだろー!!?」


紫闇は叫ばずに居られなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇・聖持・エンドが久し振りに戦闘訓練を受けに来たことで三人の同級生である一年生の注目が否応無く集まっている。


「うわぁ江神以外は揃ってるよ」

「マジで来てんじゃん」

「もしかして復讐しに!?」

「いや、的場とエンドは違うだろ」

「謝っといた方が良いかなあ……」


散々紫闇と彼を信じる聖持・エンド・春斗らを蔑んで馬鹿にしていたというのに今は(おび)えて目を合わすことも叶わなくなっている。


「居心地(わり)ー」


そう言った紫闇が振り向くと他の二人は実に晴れ晴れとした笑顔をしていた。


「完全に悪役だな。気持ち良いー!」

「ビビってやがんのw 超気持ち良い」


この状況を楽しんでいる聖持とエンドはやられ役のAとBが振る舞うように周囲を舐め腐りながら馬鹿にしていた連中のことを指さす。


「来やがったわねタチバナシアンッ! 夏期龍帝祭での借りは今回の訓練できっちりと返させてもらうわッ! あとそっちの二人もあたしの踏み台になりなさいッ!」


《クリス・ネバーエンド》が好戦的な笑みを向けて紫闇へのリベンジを口にする。


「全員集合ッ! 整列しろッ!」


そこに号令。

懐かしい顔と声。

赤髪、赤靴、赤ジャージ。

龍帝学園で一年の戦闘訓練を担当している教官《桐崎美鈴/きりさきみすず》

紫闇と顔を合わすのも二ヶ月半ぶり。

全員が彼女に従い列を作る。

美鈴は紫闇の顔を見て眉間に(しわ)

しかしそれは一瞬のこと。

直ぐに何時もの無表情へ戻った。


「今回の組み合わせは」

「はい教官。お聞きしたいことが有るのですが宜しいでしょうか?」

「エンド・プロヴィデンスか。貴様、私の言を遮るとは良い度胸をしているな……」


ドスの利いた声と鋭く()わった目で不機嫌に威圧する美鈴に対してエンドはへらへらした態度で用件を告げる。


「そんな邪険にしなくても良いでしょ。紫闇の扱いについて聞きたいだけです。実力的にはとーぜん一軍に入りますよね~?」


美鈴は質問に口を(つぐ)ませた。


「当然だ。立華は私の言葉を覆して十分過ぎる結果を残したのだからな。あの時の立華に対して私の目が曇っていたとは言わんが今の立華なら認める」

(とは言え橘花との戦いを見る限り学園の戦闘教官が教えられることは無さそうだがな。既に私よりも、いや、日本で正規の軍属となっている魔術師でも勝てる者は三人も居ないだろう)


美鈴が手首を回すように態度を軟化させたことに対して紫闇は複雑だった。

以前はあれだけ厳しかったのに。


(まあエンドや聖持と手合わせ出来るならそれに越したことは無いからな)


今この場に居る人間の中で紫闇の相手になるのは二人だけであり、他の誰かと戦っても満足できるほど強くはなれないだろうから。

入院している間に三軍で外周マラソンするのもなかなか極め甲斐が有ることが解った。


「橘花に勝つには勿論パワーも要るんだが、彼奴に着いていけるスピードやスタミナも必要だからなあ……。一時間単位を全力疾走で動くぐらいは楽勝になりたい」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

教官からの報せ

 
前書き
_〆(。。) 

 
戦闘訓練の開始直後、《クリス・ネバーエンド》は教官の《桐崎美鈴(きりさきみすず)》に対し、《立華紫闇》と戦う許可を求めた。

夏期龍帝祭のリベンジをしたいのだ。


「好きにしろ。どうせ此処に居る中で立華の相手が出来るのはお前と的場、プロヴィデンスの三人しかおらん」


クリスと紫闇は早速体育館の中央へと移動して向かい合い、体をほぐし始める。

そして牙を剥くように笑った。

一人の生徒が結界の発生装置を操作。

すると結界は二人が内部に収まったドーム型のバトルフィールドを形成。

これで戦っている人間の攻撃が外に漏れることは『殆ど』無くなったわけだ。


「ブッ壊してあげるわタチバナシアンッ!」

「やってみな。出来るもんなら……!」


【魔晄外装】が同時に顕現。

クリスは巨大な鎧腕。

それが宙に浮く。

紫闇は紫の腕甲。

不気味に光る。


「ぶちかませぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」


鎧腕の指からミサイル。

紫闇は[音隼(おとはや)]で背中から魔晄の粒子を出すと一対の翼を作り、推進力を得て速度を上げながら結界内のフィールドを飛び回った。

爆風や熱は気にせず全て回避。

しかしミサイルは秒刻みで増えていく。


「手数が足りないか、なら!」


クリスは近くに新たな外装を召喚。

巨大なライフルが複数。


「デェェストロォォォォイッッ!!」


銃口が火を吹き、雨のように弾丸を発射。

ミサイルと共にこれ等も躱さなければならないのだが今の紫闇が出しているスピードでは正直キツイものだ。

何せクリスは大量の外装を出せる。

手数がまだまだ増やせるというのだから対戦相手にとっては堪ったものじゃない。


(夏期龍帝祭では余裕が無かったからじっくり見られなかったが本当に反則だな)


紫闇は少し嫉妬する。

魔術師の外装は一つという常識。

このルールを破った存在。

彼等を【特質型】と言う。

紫闇や《黒鋼焔》は稀少であるにも関わらず【異能】は宿らないゴミタイプとされるがクリスのような特質型は稀少な原石と呼ぶ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


特質型の外装を使いこなせる者は戦闘能力が高い者が多くおり、クリスもそうだ。

しかし紫闇は負ける気がしなかった。

夏期龍帝祭の準決勝。

あの時は体調不良の上に切り札を温存しなければならない縛りに苦しめられたが決勝で全てを見せた今、隠す必要は無いのである。

更に体調も問題無し。


「持ち札を全部切れるんだよ」


背中に有る魔晄の翼。

それが二対に増えた。


【音隼/双式(ふたしき)


紫闇の速度と推進力が通常の音隼より何倍にも増していき、それを活かせる運動能力で織り成される三次元の変則機動はクリスの放つ攻撃を意に介さず余裕で回避。

瞬く間にクリスの懐へと潜り込んだ紫闇にクリスが出した二挺のライフルが銃口を向けるも無駄でしかない。

纏めてはたき落とす。


「よっ」


掌打がクリスの左側頭へ。


「終わりだ」


彼女は脳震盪/のうしんとうで倒れた。

教官の美鈴が試合を終わらせると紫闇は外装を消し、結界に開いた穴から外へ。


「退院したばっかなのに良い感じだな」


的場聖持(まとばせいじ)》の言葉に紫闇が笑う。

それから特に何事も無く訓練が終わる。

美鈴は全員を整列させ話を始めた。


「今月下旬に開催する【日英親善試合】だが今年は日本で行う。そして栄えある今回の日本代表校に選ばれたのは我が【龍帝学園】だ」


美鈴の報せに生徒が騒ぐ。

在校生としては鼻が高い。

紫闇達は興味無かったが。


「相手が強けりゃまあ」


《エンド・プロヴィデンス》や聖持もそう。

気にするのは相手の実力のみ。


(的場、プロヴィデンスの二人は立華が準優勝してからやっと少しマシになったからな。この調子で《江神春斗》も親善試合の流れに引っ張り出したい。《橘花翔》も加われば一年だけで選手が揃うかもしれん)


日英親善試合は殆ど4年か5年が出る。

一学年違うだけで【古神旧印(エルダーサイン)】の平均完成度が全く違うだけあって実力も比較にならないほど高いのが当たり前。

そんな中、美鈴は親善試合のメンバーに一年が多く選ばれることを期待した。


(会長の島崎や副会長が参加しない限りは大半が一年になりそうだからな)


一年だけなら快挙である。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

選抜に向けて

 
前書き
何時もより長め。 

 
日本の代表は【龍帝学園】

英国(イギリス)は【ブラック&ホープ】


「イギリス随一の名門だ。しかし代表になった選手の経歴からするとチーム戦で脅威にならんだろう。だが今回はアリーナが舞台の一対一で戦う団体戦」


赤髪の教官《桐崎美鈴(きりさきみすず)》によれば、シングルスならば英国最強と言っても過言ではない実力を持ったのがブラック&ホープらしい。


「特に2年の《エリザ・ネバーエンド》と3年の《レックス・ディヴァイザー》は怪物と言える。龍帝で勝てる者は10人も居まい」


立華紫闇(たちばなしあん)》はレックスの名を聞いて《イリアス・ヴァシレウス》の話を思い出す。

しかし今はエリザのことだ。


「なあクリス。ネバーエンドって」

「忌々しいけど私の姉よ」


イリアス曰く、《クリス・ネバーエンド》は複雑な家庭の事情が有るのだという。


「今回の親善試合はイギリスの【古代旧神/エルダーワン】が御上覧なされる。しかし日本の古代旧神であらせられた《逢魔京華(おうまきょうか)》様は昨年に倒されてしまった」


なので現在の【魔術師】において世界四強が一人である《白々良木眩(しららぎくらむ)》が代わりに来ることになったらしい。


「出場者は選りすぐりでなければならん。無様な勝負を見せればどうなるか解ったものではないからな。学園の教師陣も必死だ」


今年は生徒会長や学園上層部の指名ではなく親善試合の【代表選抜戦】を行う。

一年だけの【夏期龍帝祭】と違って全学年の希望者が出るとのことだ。


「魔術学園の全国大会である【全領域戦争】、略して『全領戦』に参加する権利を獲得する戦い【冬季龍帝祭】に近い形式となる」


美鈴の言葉に一年が盛り上がるも話題に上がるのはクリスと《橘花 翔》の二人だけ。

紫闇や《的場聖持(まとばせいじ)》、《エンド・プロヴィデンス》のことは完全に無視。


「俺と聖持は相変わらず学年最下位付近だから仕方ないとして、紫闇は学年2位なんだからいい加減実力を認めれば良いのに」

「器の小ささを証明してるよね」


美鈴の話が終わると全員教室へ戻っていき、昼休みを終え、何事も無く放課後を迎えることになったのだが急にどよめきが起こる。


「やっほー。たっちばっなく~ん」


大人の色気が漂う。

何処か悪戯好きな雰囲気。

美貌の姉御肌。


「うっそだろおい」

「的場く~ん。ちょっと借りてくわよ~」


紫闇は生徒会長の《島崎向子》に腕を引っ張られ学園の外まで連れ出された。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


校門の前ではマスコミがインタビュー。

答えていたのはクリスだ。


「私達としてはエリザちゃんとの姉妹対決を期待するんだけども」


一瞬だがクリスの顔が曇る。


「そ、そんなの当然エリザよ。決まってるじゃない。親善試合はこの私があの噛ませ犬を倒し無敵神話をブッ壊す為の舞台でしかないわッッ!!」


マスコミは変化に気付いていない。


「強がりだな」

「エリザちゃんはトラウマみたいよ」


紫闇と向子はその場を後にして街へ。

そこかしこに並ぶモニターから流れるのは【人類保全連合(HCA)】と言われる世界的なテロ組織のニュースばかりであった。

彼等は魔術師と古代旧神を狙う。

人類の敵だと考えている為だ。


邪神大戦で【旧支配者(オールドワン)】の全てが倒され封印された現在においてHCAこそがテロリストの代名詞だと言っても良い。


「元気だね~。参っちゃう」

「そう言えば会長って既に半分は軍属みたいな立場になってるんでしたっけ。じゃあHCAの件に関しても何か仕事を?」


紫闇の問いに向子が苦笑う。


「そーなんだよね~。向子さん優秀だから、かなりの権限と仕事を押し付けられてるんだ~。まあ腕の良い知り合いがいっぱい居るからその人達にもサポート頼んで楽させてもらってるけど」


それにしても最近になって人類保全連合(HCA)の活動が異常に増えた。

あまりに犯行が多過ぎる。


「親善試合大丈夫ですか?」

「古代旧神を()るチャンスだし来るだろうね。でも責任者はあたしだから頑張るよ。生徒会の総出で対処させてもらうつもりだから」


少し安心した紫闇だが気になる。


(会長以外の生徒会見たことねーな)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ここだよ立華くん」


向子が連れてきた場所。


「黒鋼の屋敷じゃないっすか」


何時も閉まっている門は開いている。

玄関も同様だった。


「お、来てる来てる」


向子は靴を脱ぐと遠慮せず上がり込む。

障子を開けると居間。


そこには紫闇の師《黒鋼 焔(くろがねほむら)》と屋敷の主である《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)

そしてもう一人。


「あ、あの人は……」


直接見るのは初めて。

しかし立華紫闇も知っている。

青い瞳に《永遠(とわ)レイア》と同じく白を基調にした服装と髪色でちょっとホストに見えなくもない長身の男。


「やあやあ御初(おはつ)だね立華君」



【矢田狂伯/やだきょうはく】

龍帝学園と同じ関東領域に在る魔術学園の一つ茨城の【刻名館学園】4年生。

その生徒会長である。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。どうやら儂は居らん方が良さそうな雰囲気じゃのう。ここからの話は関係無さそうじゃし」


弥以覇は腰を上げ退席した。


「それじゃ本題に移ろうか会長」


向子に対し焔がニヤつく。


「だね。何で狂伯くんが居るのか話すよ」


彼女は席に着いて語り出す。

聞くところによると、彼は紫闇を始めとした『合宿』に参加する生徒の護衛として向子から依頼を受けたらしい。


「立華君って他国との親善試合はどういうものだと思う?」


紫闇は狂伯の質問に対して一般の感覚で常識的な答えを返す。


「同盟国同士が毎年行う友好を深める為の交流戦じゃないんですか?」

「うーん。普通のスポーツとか表向きの意味はそうなんだけどね。でも魔術師の場合だと裏の意味が有るんだよ」


焔は溜め息を()いた。


「さっさと教えてあげれば?」


狂伯は彼女の言葉に応じる。


「他国の魔術師から【古神旧印(エルダーサイン)】を奪って自国の【無明都市(ロストワールド)】を解放する為に利用するのさ。だから他の国にスパイや刺客を送り込み、親善試合に出場しそうな奴を襲う。俺が護衛役に来たのはそういうこと」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


無明都市の『階層』を解放した数。

それは国家の強大さを測る指標。

世界の共通認識。

日本は昨年までに4人の【魔神】が居た。


[暴食]

[気狂い道化]

[鉄拳の女帝]

[史上最強]


無明都市の階層は魔神になった魔術師の数だけ解放される仕組みになっている。


「去年の途中まではアメリカの5層目に次ぐ世界2位の記録だった。十分に特別扱いされるんだけど、だからこそ国際社会でも邪魔者なんだよ。どの国も表には出さないけどね」


しかしこの解放数に急激な変動。

日本に居た4人の魔神は世界中を探しても敵う者が居ないとまで言われていたが、突如として現れた4人の魔術師に倒されてしまう。

だが魔神を倒しても意味は無い。

魔神になると左手の【古神旧印(エルダーサイン)】が完成し、それを引き換えにして無明都市の階層が一つ解放されるからだ。

彼等は4人の魔神を倒した後に駆けつけた日本軍の魔術師達を撃破して己の刻印を完成させ新たな魔神となっている。


「軍の魔術師は死亡者ゼロで気を失っていたり直ぐ治るような怪我だったから特にお咎め無く新たな魔神として認められたわ」


以前より更に強い魔神を得られた上に無明都市の完全解放まで達成できたので日本としては言うこと無しに4人を評価。

今や世界最強の国家となった日本は最も影響力・発言力を持つので更に他国から狙われる立場になったが4人の内、誰かを動かせば軍事力で何も問題ない。


しかしここで疑問。

史上最強ら4人が居た時点で残り3層。

生まれた魔神は4人。

一人の刻印は余分なはず。


「多かった分の古神旧印は一つも解放されてない国の中からランダムに選ばれて、その国の無明都市を解放する為に使われるらしいよ」


向子によると実際そうなったらしい。


「自国の解放が終わっても古神旧印を完成させる意味は有るんだな」

(戦う理由が減らないで良かった)


紫闇は安心して戦いに臨む。

その覚悟を決める。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「紫闇、ちゃんと聞こうね」

「話を戻すわよー」


ぶっちゃけた話、どの国も他の国を蹴落とすことに必死なのだ。

日本は既に無明都市の完全解放を成し遂げ他の国よりも先んじているからマシ。

しかし親善試合をするイギリスは争いから抜け出せるような状況ではない。


「英国の悪どさは有名だ。勝つ為なら本当にどんな手段も問わないからね。刺客のことも【人類保全連合(HCA)】辺りのテロリストに責任をおっ被せるだろうさ」


イギリスの偽装工作は世界一らしい。

証拠は残らないだろうとのこと。


「なーるほどね。刺客による襲撃祭りが始まるってことか。大半の人間はそういう雑音で本スペックを発揮できなくなってしまう」

「ほむほむの言うとーり。それだと困っちゃうから代表になれそうな実力を持つ有能な生徒に護衛を付けてるわけなんだ」


焔の理解に向子が笑む。

そして狂伯を見た。


「立華くんを始めに選んだ合宿メンバーは生徒会長のあたしお気に入り。特に注目してるってわけ。期待も大きいんだよ?」

「てなわけで俺にお(はち)が回ってきたわけよ。向子さんとは知らないわけじゃないしね。昔のよしみで軍内部に限った[便利屋]の力を見せてやる。安心してくれよ。俺一人だけが護衛ってわけじゃねーしな」


紫闇は狂伯の経歴を知っている。

龍帝とも所縁(ゆかり)が有る人物だ。


「いや、あんたの実力は疑わないよ」

(今の俺だと絶対に勝てない)


狂伯は一年の頃、龍帝に居た。

圧倒的な学年一位の成績。

【全領戦】の学園代表を決める個人戦では決勝で島崎向子に敗れ代表になれなかったが団体戦では全領戦において本選で副将を任され一敗もしていない。

入学直後に向子からスカウトされ生徒会の副会長まで勤めあげた。

当時は文句無しの学園No.2。


2年からは刻名館に転校したが、そこでもいきなり学年1位を取り、転校から一月後には生徒会長の座を譲られてしまった。

魔術学園の生徒会長とは学園最強の代名詞みたいなものなので、それを戦闘力以外が理由で手放すというのはよっぽどのことがなければ有り得ない。

しかし前会長の判断は正しかった。


狂伯は有望な人間を生徒会に任命し自分の手で鍛え上げ、全領戦の団体戦では1年目でベスト16という成績を残し、昨年は全国ベスト8。

個人戦では2年連続刻名館代表。

全国ベスト4に食い込んだ。


世界ランクにおいても30位以内に数えられるほど高い戦闘能力は既にかつての世界四強魔術師の一角【暴食の亜理栖(ありす)】に手が届いていると言われるほど。


「あの~気になってたんですけど」


紫闇は合宿について尋ねる。


「向子さんが龍帝学園でお気に入りのメンバーを選抜戦で勝たせ日英親善試合の代表にする為に無人島で合宿しようって企画なのさー!」


立華紫闇

クリス・ネバーエンド

《的場聖持/まとばせいじ》

生徒会の副会長

監督に向子と教官の桐崎美鈴。

《エンド・プロヴィデンス》は永遠レイアと兄弟揃っての用事で欠席。

橘花翔と《江神春斗(こうがみはると)》は行方不明で連絡が着かないそうだ。


「気にせず行ってきな紫闇。たまには黒鋼以外で戦う人と修業してきたら良いよ」

「会長としては、ほむほむにも参加してほしかったんだけどねー」


期間は1週間で出発は明日の朝。


「いや、ちょっと急すぎる……ッ!」


紫闇は急いで新居に戻っていった。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

押しかけ

 
前書き
他の設定を書くのが忙しかった。 

 
生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》から『合宿』への参加を通達された《立華紫闇(たちばなしあん)》は荷物を纏めるため自宅に戻っていた。

しかし生家ではない。

彼は家族に絶縁状を叩き付け家を飛び出しているので軍に新しい住まいを用意してくれるよう頼んだのだ。


そこはタワーマンションの最上階。

月の家賃は120万もする。


見栄(みえ)を張り過ぎたな……」


基本的に生活費は軍が出してくれるとは言え一人住まいするにはあまりに広い。


「今更か」


紫闇は手早く合宿の準備を終えた。

そして午後8時。

彼は隣の部屋に住む元イギリスの【魔神】《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》とカップラーメンを食べながら共にテレビのモニターを眺めている最中。

流れるのは【龍帝学園】が日本代表校を勤める【日英親善試合】についてのこと。


『この祭典では歴史に残るような名試合が幾つも有りました。あの大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》も当時イギリスで最強と言われた【魔術師】を打ち破り───』


義人だけではない。

英雄と呼ばれる程の魔術師達。

彼等の多くは親善試合の経験が有る。

憧れる紫闇としては同じ道を歩みたい。

そういう想いが有った。

その先に待ち受ける結果が違っても。

なので親善試合の代表選手として残りたいし、絶対に出場を果たしたいのだ。


『日本からは朱衝義人の出身校である龍帝学園が代表校に選ばれております。昨年まで会長の島崎向子を除けば世界的に注目される選手が居ませんでしたが今年は違う! 1年のスーパールーキー《橘花 翔(たちばなしょう)》と[白狂戦鬼(バーサーカー)]の立華紫闇が居る! 両名の出場は確実とされており、イギリス随一の学生魔術師《レックス・ディヴァイザー》との一戦が───』


翔と紫闇の映像が流れる。

夏期龍帝祭の決勝だ。


「立華君は今年のルーキーの中でも注目株なんだね。凄いじゃないか」

「イリアスさんにそういう評価を受けるのは素直に嬉しいです。でもやっぱ照れるなぁ」


少し前までゴミ扱いだった自分がこんな風になるなんて紫闇には現実味が無かった。

二人がカップ麺を食べ終える。

そして後片付けが済むと。


「ん?」

「お客さんか」


部屋のインターホンが鳴らされた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇は首をひねる。


「おかしいな……」


自分がこのマンションに住んでいることを知る知り合いは向子とイリアスだけ。

ドアを開けた所に居たのは。


「お邪魔するわよっ!」


サイドアップ状の金髪と碧眼。

年より上に見える美貌。

発育の良い胸。

声が聞こえたイリアスも悟る。


(何で此処に)

(つくづく縁が有るな)


《クリス・ネバーエンド》

紫闇とは龍帝の同級生。

学年序列で第三位の実力者。

無駄に声がデカいのは相変わらず。


「勝手に上がんなよっ!?」

「大きなバッグだね」


クリスが笑う。


「喜びなさい! 暫く私も一緒に住むわ!」


紫闇は理解できなかった。


「深くは聞かねぇけど聞きたいことが有る」

「立華君、ネバーエンドの情報網はなかなかだよ? 向子さん程ではないけど」


イリアスの言葉に紫闇は溜め息。


江神(こうがみ)んとこでも行きゃ良いのに」

「クリス。立華君に使用人は居ないよ。他に宛てが無いなら私の伝手(つて)で探そうか?」


何か事情が有るのかクリスは表向きこそ何時も通りだが落ち込んでいるよう。

力付くで追い出すのも忍びない。


「イリアスの紹介は有り難いけど……」


再びインターホンが鳴った。


「追い付くのが早いわね」


今度はイリアスがドアを開く。

紫闇は訪問者に驚いてしまう。

クリスと全く同じにしか見えない。

そういう容姿の女。


「私は《エリザ・ネバーエンド》」


後ろからはもう一人。


「先日振りですね御二人とも。《レックス・ディヴァイザー》です」


白銀の【魔晄(まこう)】オーラを纏っただけの状態で【魔晄外装】も【異能】も無く、手刀の一撃を以て二人の学生魔術師を沈黙させた光景は紫闇の記憶にも新しい。


「疑問は尽きないけど上がれよ二人とも」


頭痛を起こす紫闇は二人を部屋に通した。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

賭けをしよう

 
前書き
_〆(。。) 

 
五人がテーブルを囲む。


「事情を聞いても?」


《立華紫闇》が問う。

《エリザ・ネバーエンド》が答えた。


「愚妹がレックスとの婚約に反発して家出をしたから連れ戻そうとしているのよ」

「へーおめでとうレックス」


《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》は幼馴染みの《クリス・ネバーエンド》と《レックス・ディヴァイザー》の婚約を祝福。


「ありがとうイリアス」


レックスは顔を赤くした。


「政略結婚だけどレックスさんが相手なら別に良ーんじゃねーのかな?」


紫闇からすれば断るのは勿体無い。

引くほど美形でメチャクチャ強い上に性格も紳士で悪くなさそうだ。


「私にとっては嫌がらせよ」


そこまで嫌がられる理由が有るのか。


「確かにこいつは見た目も性格も良いし、家事万能で頭も良ければ運動だって出来る。スペックなら間違いなく完璧だわ」


イリアスは目を瞑って聞き流す。

彼はよく理解しているのだ。

レックスが嫌がられる理由を。


「でもこのレックス・ディヴァイザーはね。超が付く真性のマゾヒストなのよッ! こんな超絶ド変態と婚約するなんて絶対嫌に決まってんでしょうがッ!!」


紫闇は信じられなかった。

この完璧超人に思えるレックスが。


「ふふふふふふふふっ……! やはりクリスから浴びる罵声は素晴らしいですね! あぁぁぁぁ、いけないのにエクスタシィしてしまうぅぅーーー!!!」

(やべぇ。前言撤回だ。ド変態じゃねぇか。そりゃあ結婚したくないわな)


紫闇は同情してしまう。


「確かにレックスはマゾ豚の変態野郎。気持ち悪い男と言って差し支えないわ」

「エリザ。失礼ですよレックスに」


イリアスが(とが)める。


「その通り。私はクリス限定のマゾ。エリザでは気持ちよくなれません」

「黙りやがれこの畜生」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エリザはクリスに冷たい目を向ける。


「この婚約は家の為であると同時に貴女のため。それを受け入れないのは何故?」


レックスはエリザも認める優秀な人間。

古神旧印(エルダーサイン)】の七割が完成しており国内でも指折りの実力を有した【魔術師】


「一緒になって彼を支える。一人の女としてね。それがクリスの幸せなのに何故?」


更にエリザは続けた。


「世界中の魔術師、その頂点に立つ。そんな夢はさっさと諦めた方が良いわ」


紫闇は理解する。

クリスがエリザを敵視する理由を。


(第三者でも腹が立つわ)


直接言われるクリスは言うまでもない。


「ふっざけんな! 私はもうあんたに見下されてるだけの女じゃないわよッ!」


対するエリザは動じず。


「勘違いよ。真に得たものなんて有りはしない。いまのままである限り、貴女は私に遠く及ばないのだから」


紫闇もイリアスも覚えが有った。

人間をゴミのように見る目。


「能無しで誇りの無いクズ。それがクリス・ネバーエンドの本質。どうして我が一族に生まれてきたのかしらね」


自分のことで無いにも関わらず、紫闇は怒りが限界を超えそうだった。


「そこまでにしておけ」


紫闇が声の方を見るとイリアスは不快なことを隠さずエリザを見ていた。


「何故イリアスが味方を……惚れたの?」

「妹みたいな娘にそれは無い」

「ならば何故かしら?」

「それは立華君も同じだと思うぞ」

「へぇー二人ともクリスの側にね」


紫闇は不調だったとはいえ【夏期龍帝祭】で負ける一歩手前まで追い込まれた。


「クリスは俺が認めた好敵手だからな。そういう奴を馬鹿にされると腹に()えかねる」


闘技者として許容できない怒りを見せる紫闇の意見にエリザは何処吹く風。


「馬鹿にするのを止めない」

「と言ったら私がお仕置きかな」


イリアスはにこやかに告げた。

その言葉にレックスが反応。

凄まじいプレッシャーを放つ。

エリザ、クリス、紫闇の三人は体が沼に嵌まったように動けない。

流石にイリアスは平気だが。


「私がイギリスから亡命した時よりもまた強くなったねレックス。ならこうしないか?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


イリアスの提案。

先ず紫闇とクリスが選抜戦を勝ち抜く。

そして親善試合に出場。

シングルスでの団体戦なので二人はレックスかエリザと一対一で戦う。

紫闇達が勝てば婚姻は無し。

片方でも負ければ婚姻成立。


エリザは不満そう。

しかしレックスは納得している。

彼の顔は何処か悲哀が有った。


「シアン! あんたはレックスよ! 私は今回こそエリザをブッ壊す!」

「俺はあんたが気に入らない」


紫闇はレックスの心に諦念、あきらめしかないことが気に食わなかった。


「私もです。紫闇とは相性が悪い方ですよ」

「だからこそ戦わずに居られないんだろう」


イリアスの前でエリザとクリス、紫闇とレックスが火花を散らして室温を上げる。 
 

 
後書き
_〆(。。 

 

裏付け

 
前書き
_〆(。。) 

 
【日英親善試合】で《レックス・ディヴァイザー》と《クリス・ネバーエンド》の婚約を賭けた戦いをすることが決まった翌日。

立華紫闇(たちばなしあん)》を含めた【龍帝学園】の一部生徒は生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》が所有している無人島に来ていた。

彼女の別荘も有るが目的は【合宿】

向子が紫闇を含む『お気に入り』のメンバーを親善試合に出場する選手を決める[代表選抜戦]で勝ち残らせる為に企画したものだ。


同行した赤髪の教官《桐崎美鈴(きりさきみすず)》は島に到着した直後から宿泊施設でメンバーを全員を集めミーティングをしている最中。

龍帝学園の中でも合宿に参加しているメンバー以外で選抜を勝ち進むと言われる有力な生徒の試合映像を流していた。

みな強豪と言えるだろう。

しかし美鈴は言う。


「此処に居ない龍帝の生徒でお前達に勝てるとしたら、《エンド・プロヴィデンス》、《江神春斗/こうがみはると》、《橘花 翔(たちばなしょう)》の3名しかおらん」


教官の言う通り。

紫闇も他の合宿メンバーも美鈴と同じ感想で、選抜の有力候補が戦う映像に対してこれっぽっちも負ける気がしなかった。


「そもそもとして、この部屋に居る生徒は私が指導できるレベルを逸脱している奴ばかりだからな。私は本当に付き添いで合宿に来たようなもの」


───────────────

立華紫闇

島崎向子

生徒会副会長の《春日桜花(かすがおうか)


「この三人は問題ない」

─────────────────

的場聖持(まとばせいじ)


「お前は普通にすれば良し」

──────────────────

クリス・ネバーエンド


「この合宿はお前を強くする為に開かれているようなものだからな。私が指導するとしたらネバーエンドだけだ。他のメンバーに置いていかれたくないなら頑張れ」

──────────────────


クリスはぶすっとした顔で美鈴を見た。


「続いての映像は」


日英親善試合の英国代表。

魔術学園【ブラック&ホープ】

美鈴いわく5人とも怪物。

だが3人は問題ない。

クリスでも善戦勝利を狙える。


「しかし残り二人は全く別。どちらも他の三人を同時に相手取って苦戦することすら無いほど圧倒的に格が違う」


クリスの姉《エリザ・ネバーエンド》

そしてレックス・ディヴァイザー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エリザの【魔晄外装(まこうがいそう)】は[武器型]

深緑色の細剣/レイピア

【異能】は気圧と風圧の制御らしい。

自身から周囲数メートル以内の大気を操ることによってイギリス国内で『風の絶対防壁』と呼ばれているものを作り出す。

クリスの天敵だとされる。

彼女の武器・兵器を生み出す異能は殆ど無効化されると思って良い。

この合宿で対抗できる武器を作れなければ高い確率で敗北してしまうだろう


「このエリザは厄介でな。いわゆるオールラウンドプレイヤーと言われる万能型だ」


桐崎美鈴によると、苦手な距離が存在しない対応力を見せるらしい。

近距離は剣術で(さば)き、中遠距離は風の異能で独壇場なので近距離よりも厳しいかもしれず、風の絶対防壁は距離を問わない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「次はレックス・ディヴァイザーだ」

      
外装は[独立型]

異能は己の立ち位置を『コンマ数秒前』に戻すという有って無いような異能。

なのに英国全体で【魔神】に次ぐ。

そこまで登り詰めたのだ。


「この男は『人』としての強さが魔術師としての強さで足りない部分を埋めて余りある領域に達している異端であり超人」


洞察力・戦略構築・野生の勘

普通の人間にも有るものによってあらゆるタイプの魔術師を打ち倒す異常さは落ちこぼれから這い上がってきた紫闇がよく解っていた。


「独立型の外装って異能に頼らないと何にも出来ないって言われるタイプなのに、異能を使わずこの強さかあ」


島崎向子も称賛。

正統派の魔術師としてならエリザの方が怪物だが出鱈目さはレックスの方が上。

何せ彼は『最弱』とされる異能一つでイギリスの次期魔神候補最有力。

人間としてのスペックが意味不明なレベルで高い天才でなければ不可能だ。


しかし紫闇は才能を感じなかった。

江神春斗のように誰でも判ってしまうぐらいの凄まじい才覚を感じない。

きっと紫闇と同じ凡人だったはず。

そんな人間が国家代表。

有り得ないことをやっている。

自分のように狂気を伴って地獄の鍛練を積み重ね、強さと力を求め続けることを止めなかったから紫闇やクリスが認めるまでになれた。


(なのに何であんたは諦念に呑まれてんだよレックス・ディヴァイザー)
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

怒り

 
前書き
(-.-) 

 
【龍帝学園】の生徒会長《島崎向子(しまざきこうこ)》が所有する無人島では【日英親善試合】の選手となる為に開催される【代表選抜戦】を勝ち抜く為の『合宿』が行われていた。

現在は一年の《クリス・ネバーエンド》と副生徒会長で三年の《春日桜花(かすがおうか)》が戦っているのだが、近接戦闘に関して苦手意識を持つクリスの動きがぎこちない。

合宿に同行しているクリスの幼馴染みかつ、英国(イギリス)最高の【魔術師】であり【魔神】の《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》はクリスが不調になっている原因を理解していた。

姉の《クリス・ネバーエンド》によって何度も何度も叩きのめされたことによるトラウマであり、イリアスもクリスが折れてしまった時にその場で見ていたのだから。


(春日桜花は剣の【魔晄外装(まこうがいそう)】だ。彼に近付かれる度にクリスの体が僅かに怯えている。だから避けられる筈の攻撃が避けられない)


闘技者として致命的な欠陥。

その弱点はクリス本人が一番痛感させられてきたことなので何とかしようと長年に渡って克服する為にチャレンジしてきた。

しかし出来ない。

それは【異能】にも影響を与えている。

彼女は様々な形状の外装を生み出すという異能を持ってはいるが、エリザのトラウマも有って近接用の武器を作ることが出来ないのだ。


(今回も駄目か……)


しかしクリスは諦めない。

今より強くなり、エリザをブッ壊し、自分の方が上になったことを証明する為に必死でもがき、運命に抗い、諦念を()じ伏せて前に進もうとしていた。


「立華君ならクリスを救えるかもしれない。何せクリス以上の地獄を乗り越えて来ているはずだからね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆


合宿5日目の訓練も終了。


「なあクリス。エリザと何か有ったのか?」


紫闇はイリアスの頼みも有って彼女のことを気にかけ観察していたのだが、クリスはこの5日間で全く成長が見られなかった。


「昔ボコボコにされてたの。そして刷り込まれた。こいつは私にとって『越えられない壁』なんだって。だからこそブッ壊してやりたい」


クリスは小さい頃からずっと家族の中で出来損ないという扱いを受けてきた。

故に努力の日々を送る。

だがエリザには勝てなかった。

挑んでは負け、泣きべそをかく。

そして弟分だった《レックス・ディヴァイザー》に慰められるの繰り返し。


「強いわよエリザ。もしかしたら普段の(・・・)ハルトに匹敵するかもしれないわ。まあハルトがその気なら瞬殺でしょうけど」


普段の《江神春斗(こうがみはると)》ということは、以前に紫闇が戦った時と同じくらいの強さを持っているのだろうか。

もしそうなら紫闇が見たエリザの試合映像では二割も出していなかったことになる。


(だとしてもエリザがあの時の俺が出した【禍孔雀/かくじゃく】を魔晄防壁だけで受け止めてノーダメージに済ませられると思わない)


風の絶対防壁も使えば別だが。


「私の親はエリザ打倒への努力と執念を一切認めず日本との人質留学に出しやがったわ。ったくやってらんないわよホント」


人質留学とは同盟国同士で行う交換留学の一種で両国の架け橋が目的とされる。しかし実態は人質の送り合いであり、表向きは普通の留学。


「何だよそれ」


紫闇は正気を疑う。

双方の貴人要人を交換し、理解していた間での問題が起こった万一の時、その人物を人質にして相手の国を脅す為に使うわけだ。


「私はそいつに選ばれた。ま、捨て駒だから価値なんて無いし、もしも事が起きたならイギリスは私に構わず日本ごと攻撃するわね」


イリアスもクリスの件には腹を立てており、彼が祖国に対して悪感情を持つ一因になっているが、別にそれだけがイギリス国内で暴れたり日本へ亡命した理由ではない。


「人ん()のことに口出ししたかあ無いんだが、お前の両親()最低だな」

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

刺客

 
前書き
_〆(。。) 

 
「シアンも家族で何か有ったの?」


《クリス・ネバーエンド》が尋ねると《立華紫闇》はこれまでのことを語り始める。

落ちこぼれと言われ、周囲の人間からは馬鹿にされながら生きてきたことを。

家族ですら彼を(さげす)んだ。


「俺さ、【夏期龍帝祭】で優勝したら認められると思ってたんだ。普通の家族になれるんじゃないかって。でも……」


紫闇の両親は今までのことを無かったかのように手の平を返して()びを売ってくる。

(てい)の良い金づる扱い。

兄は嫉妬を隠さなかった。

紫闇は彼等に失望し絶望。


「つーわけで縁を切ってやったよ」


クリスは頷く。

紫闇の気持ちが解るのだろう。

しかしくよくよしてはいられない。


「先ずは代表選抜戦!」

「それを勝たないとな」


クリスは自信たっぷり。

しかし今のままでは選抜戦を勝ち抜いて親善試合の代表メンバー5人に残ることが難しいという自覚を持っているはず。

姉の《エリザ・ネバーエンド》へリベンジする以前に戦いの舞台へ上がることすら夢で終わってしまう可能性が高かった。


(クリスは俺と同じだ。どれだけの否定にさらされても藻掻くことは止めないし諦めようとしない。細かな差異は有れど本質は同じ)


紫闇は心から願う。

彼女の幸せな結末を。


(何とか力になりたいが……)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「最悪の気分ね」


宿泊所の自室に戻って寝ていたクリスは悪夢にうなされて目を覚ます。

出てきたのは両親。

子供を駒としか思えない連中。

しかし夢にはもっと憎い相手が出た。

姉のエリザだ。


『本当に愚かね。自身が敗北した本質を理解できない無様で醜いクリス』


エリザは夢の中でクリスのことを外装である深緑色の細剣を以て斬り続ける。


『自分以上に対しての嫉妬・憤怒・破壊衝動といった捨てるべきものを貴女は捨てられない。何時まで経っても情けないまま』


クリスは何も出来ない。

泣くことだけ。


『貴女はそのままがお似合い。強さを得られずに弱さを抱えて生きて行くのよ。貴女が私に届くことなど無いのだから』


ベッドから起き上がったクリスはネグリジェのまま移動しようとしたが、いきなり部屋のガラスが割れる音が響いてくる。

目をやると誰か居た。

全身ダーク系の軍用スーツを着こんだ黒い仮面に両手は闇色の革手袋。

夜闇に紛れる為の出で立ち。


「来たわね」


状況と相手の様相にクリスは悟る。

大英帝国イギリスの刺客が来た。

自分を殺す為に。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


硝子(がらす)の割れる音に気付いた紫闇が飛び起きた直後、爆発が聞こえてきた。


「無人島まで来たか!」


英国の刺客だと考えた紫闇。

彼はクリスの元へ駆け付ける為に爆発が起きる方へと向かっていく。


《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》

《矢田狂伯/やだきょうはく》

二人は島の外周を廻りながら警備しているので恐らく駆け付けることは出来ない。


「ちょっと急ぐか」


紫闇は窓ガラスを破って三階から飛び降り着地するも、そこを狙って何か近付く。

紫闇は反射で躱す。

それは空間に溶けるように消えた。


(刺客は【魔術師】だな)


銃弾が来た方向には黒一色の軍用スーツに身を固めた刺客が銃剣を構えており、再び紫闇を狙って攻撃を仕掛けてくる。

しかし当たらない。

紫闇は背中から金色に光る【魔晄】の粒子を放出して【音隼/おとはや】による高速移動を行うと連射される弾丸を尽く回避して近付く。

そして後ろ回し蹴り。

刺客は吹き飛び転がっていく。


「これが龍帝学園の[白狂戦鬼/バーサーカー]か。正面からでは勝てないな」


刺客は闇へと走り去った。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

来たる

 
前書き
_〆(。。) 

 
刺客と《クリス・ネバーエンド》が対峙。

同時に【魔晄外装】を顕現。

クリスは巨大な鉄腕を浮かべた。

刺客は二体の人形。

王冠と赤いマントが特徴の石像に盾を構えた石像が並びクリスの方を向いている。


「同じ『特質型』でも格が違うわ!」


例に漏れずクリスは弾丸と弾頭の雨。

対する刺客は人形を動かして弾を迎撃しながら自分も回避を行っていく。

クリスはこれに驚いた。

人形の外装で防ぐのは解る。

しかし自力で躱すのは不可解。


(彼奴は特質型なんだけどベースは『独立型』だと思うのよね。なら身体能力は一般人と変わらない。なのにこの弾数で反応できるなんて)


《立華紫闇》や《黒鋼 焔》のように【魔晄】だけで超人的な身体能力を発揮できるような魔術師なら話は別だが。

彼女がそう考えた直後。


「───ッ!!」


後ろから殺気。

伏せながら横に跳ぶ。

自分の頭が有った所を何かが通る。

振り返れば人形。

僧侶のような石像だ。


(3体目!?)


刺客はクリスが正面から受けて立つと読んで裏を掻き、予め配置していたのだろう。

クリスの攻撃が中断すると盾の石像は刺客を守り、王冠の石像と僧侶の石像はクリスを挟み撃ちして剣とメイスを振るい打ちのめす。

姉の《エリザ・ネバーエンド》から刻まれたトラウマでクリスは動きが悪い。

気付けば口から悲鳴を挙げて泣きながら逃げていたが転んでしまう。

二体の人形が近付く。


「助、けて……!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


命乞いは通じない。

メイスと剣が振り上げられる。


「させるかよおッッ!!」


声と共に二体の人形が消えた。

立華紫闇が到着する。


(間に合ったか)


紫闇は一旦クリスに目をやった後、黒一色の姿をした刺客のことを睨む。


「ぶっ潰してやる……!」


彼は拳を握り締め構えた。

右手は顎の先で左手は脱力し垂らす。

刺客は消した二体を再び召喚。


王冠の石像が突っ込み剣を振り下ろす。

紫闇は鼻で笑った。

江神春斗(こうがみはると)》の斬撃と比べれば眠くなるような速さでしかないのだから。


(かわ)してカウンターだな)


そう判断した紫闇の(そば)を僧侶の石像がメイスを構えて駆け抜けていく。

先には怯えて座り込み動けなくなってしまっていたクリスの姿が有った。


「てめっ!?」


紫闇は【音隼(おとはや)】で魔晄の翼を生やす。

王冠の人形を放置して跳ぶ。

紫闇は僧侶の人形に急接近。

途端に僧侶も急停止。

クリスから向きを変え反転。

近付く紫闇の土手っ腹に勢いを付けたメイスの一撃をカウンターで叩き込む。

そして紫闇は後頭部にも衝撃。

王冠の人形が剣を振り下ろしたらしい。


彼奴(あいつ)の仕業か)


紫闇が見たのは人形を出した刺客。

奴が途中で人形を操った。

紫闇の思考を察するように。


(読まれているなら仕方ない)


橘花 翔(たちばなしょう)》との戦いで出した『あれ』を使いたいが焔に厳命されている。


『あの時間を圧縮する【魔術師】の【異能】でも【超能力】でもない力は【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】とでも呼ぼうか』


焔いわく、あれは将来的には兎も角として、今の紫闇の限界を遥かに超えた力。

それを何らかの方法で無理やり引き()り出しているような気がするという。


今は(・・)極力使わないでほしい。下手をすれば紫闇が死んでしまいそうだからね』
 
 

 
後書き
やっと紫闇の一つ目の能力の名前を出せた。

原作だと2巻のキャラクタープロフィールまでずうっと名前が出ませんからね。
_〆(。。) 

 

読めない

 
前書き
さて、どれだけ早く進められるかな。 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》は《黒鋼 焔/くろがねほむら》の言いつけを守り、『時間の圧縮』を行う能力である【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】ではなくもう一つの切り札を出す。


(この刺客は先読みに秀でてる。『今の俺』じゃあ勝てない。だが別の俺は甘くねぇ。狂った奴の行動に着いてこれるか?)


彼は右手の親指を左の人差し指に当てた。

力を入れると関節が鳴る。

ベキリという音の直後に変化。

魔晄防壁が白銀から黒へ。

心の奥から狂気が溢れ出す。

怖ましい怪物が生まれるように。


「ふぅ」


紫闇は首を回すと歩き出した。

刺客の人形が迎え撃つ。

王冠と赤いマントの石像が近付いてくる。


「読まれたら勝ち目が無い?」

(馬鹿か俺は)


変わる前の紫闇なら防御や回避など色々考えていたのは間違いないだろう。


「アホらしい。滑稽(こっけい)だ」

(戦いの中で考える必要なんか無い)


紫闇は棒立ちになったまま、ノーガードで人形の外装から剣撃を浴びる。


「お~痛ぇなぁ~」


そのまま無視して刺客の元へ。


「やっぱ邪魔」


紫闇が不意に放った裏拳は王冠の石像頭部を簡単に粉砕してしまった。

続いて僧侶の石像がメイスを振り被り突っ込んで来たので王冠の人形と同じく無防備に対処してやろうと考えた紫闇だったが気紛れに放った蹴りを股間にブチ込みそのまま人形を破壊。


「一発かよ。もちっと頑丈に作れ」


これで残っている人形の外装は大盾を構えている無骨な戦士が一体のみ。


「おんやぁ~? もしかして警戒してる? さっきまでと違って全く動きが予測できなくなったから焦っちゃったのかな~?」


なら教えてやろう。

次に何をするか。


「真っ直ぐ突っ込んで、テメェを外装の人形ごとブッ飛ばしてやんよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


音隼(おとはや)双式(ふたしき)】を発動。

魔晄(まこう)で出来た二対四枚の翼が生える。

その推進力は音を置き去りに。

紫闇は一直線に前へ。

言った通りの行動だ。

刺客は安心したように人形を移動。

戦士の石像に自身の前で大盾を構えさせ、紫闇の攻撃を受け止めようとする。


(お前の予想通りと思ったのか?)


紫闇は相手の甘さに苦笑う。

防いでからの立て直しなどさせない。


「言ったろう。人形ごとって」


右拳に魔晄が集まると黄金に輝く。


【黒鋼流練氣術】の技。

【三羽鳥ノ一・禍孔雀(かくじゃく)


今の紫闇が出せる最大の攻撃。

それが人形の大盾に向かう。

衝突すると拳の光が()ぜて散る。

無数の黄金粒子が大気に広がった。


戦士の石像は自身の体が隠れる程の大盾を木っ端微塵にされたがそこで終わらない。

紫闇の右拳は突き進む。

力が衰えること無く頭を砕く。

背後に居た刺客の顔面にまでめり込む。


刺客は宙に浮いた後、紫闇の宣言通りに吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

が、直ぐに立ち上がる。

しかしその仮面に亀裂が走ると刺客は慌てて戦意を消し逃げ去っていく。


「追う気分じゃないな」


狂気に染まっている時の紫闇はよく解らない思考なのでこういうことも有る。

戦いが終わりを認識すると紫闇は正気に戻り、魔晄防壁も黒から白銀に戻った。


「凌いだ……か」


紫闇は大きく息を吐いた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

申し出

 
前書き
流れが原作と変わりませんね。

修業をさっと終わらせてとっとと親善試合まで行きたいところなんですが。
_〆(。。) 

 
刺客を撃退した《立華紫闇/たちばなしあん》はボロボロになった《クリス・ネバーエンド》の元に駆け付けて様子を確かめる。


「一人で大丈夫よ」


立ち上がった彼女はふらふら。


「クリス。お前は弱い。さっきの刺客は《エリザ・ネバーエンド》に比べたら『格』は二つほど落ちる。今のお前はそんな相手にすら手も足も出なかったんだ」


このままだとクリスは姉を超えられない。

【日英親善試合】でエリザと戦える状態にまで持っていくどころか【代表選抜戦】を勝ち抜いて選手になれるかどうか。


「俺の弟子になれ」

「私は()びない。すべきことじゃないわ。そんなことを『強い女』が……あれ? 強い女って誰? 私のことじゃあ……ない?」


クリスは今まで強い女に拘ってきた。

そんな女になることを。

しかしそれは誰を指しているのか。


「教えてやるよクリス。お前の言う強い女ってのはエリザだ。間違いないと思う」


クリスは紫闇の言葉に絶句。


「証拠になるかどうかは解らないけどクリスとエリザには共通点が多い」


人に譲らない尊大な性格。

威圧的で居丈高(いたけだか)な振る舞い。

認めた人間としか関わらない付き合い方。

そして髪型だ。

指摘されたクリスは自身の金髪に手をやる。


「私が無意識に彼奴の……エリザの真似をしてたって言うことなの……?」

「トラウマで敵わない相手だからそいつに近付く。同じように強くなろうとする。俺も少し前まで《江神春斗/こうがみはると》を意識してあんな風になろうと頑張っていたから」


紫闇の師である《黒鋼 焔/くろがねほむら》や《永遠(とわ)レイア》もそれを見抜いていたので紫闇に忠告してきた。


『君は立華紫闇だ。江神春斗じゃない。それを忘れないでくれ。でなければ君は江神の劣化コピーにしかなることが出来ないから』

『理想を表面だけなぞったって本物より劣る。良い部分を取り入れて自分の活かしたい部分と合わせるんだ。上手く行けば自分だけの力で戦うより強くなれるよ』


紫闇は二人の話を胸に刻んでいる。


「今の私はエリザの真似事。彼奴の劣化コピーを止めなきゃ成長は出来ない。確かに一人でそれを成すのは難しいわね。仕方ない、か」


クリスが手を差し出す。

顔はそっぽを向いているが。


「俺はクリスに幸せを掴んでほしい。輝いてほしい。望むものを得てほしい。だからお前の手伝いをさせてくれ。強くなる為にも」


紫闇はクリスの手を握る。


「頼りないし、きっと微力だろうけど、ほんの少しだけ期待してあげるわ馬鹿師匠」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

勝つ為に

 
前書き
雑になってきた。 

 
合宿が終わり皆が帰った後。


「刺客のアジトは判った?」

「勿論。頑張ったんで」


龍帝学園の生徒会長《島崎向子(しまざきこうこ)》は刻名館学園の生徒会長《矢田狂伯/やだきょうはく》と話している。


「【関東領域】に幾つものアジトを作ってましたよ。俺等の庭なのに良い根性してるわ」

「だからって独断専攻で全てのアジトを潰されると困るんだけどなあー」


向子の所有する島に刺客が侵入できた理由は向子自身が解っているのでどうでも良い。


「明らかに《クリス・ネバーエンド》が標的。わざわざ最弱のクリスちゃんを」


狂伯は薄ら笑いのまま向子を見ている。


「いきなりなんだけどさあ。無人島に刺客を入れたのって狂伯君だよね~?」

「やっぱり気付いてたか。別に悪気が有って入れたわけじゃないんですけど」


向子は言われずとも解っていた。

クリスの弱点を克服する為だ。

結局トラウマは治らなかったが。


「親善試合の穴は彼女だよねぇ。江神君や橘花君が出てくれるなら良いんだけど」

「その二人は今何を?」


向子いわく、【夏期龍帝祭】で優勝した《橘花 翔/たちばなしょう》は《江神春斗/こうがみはると》からの挑戦を受け、親善試合の日に戦うことになった。

二人とも修業に励んでいるらしい。


「立華君は悔しがるだろうなぁ」

「俺も見たいですしね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日、向子の屋敷に有る地下。

クリスと《立華紫闇(たちばなしあん)》が居る。

向子が修業の為に貸してくれたのだ。

大量のピンポン球は紫闇が用意。


「今からやるのは【盾梟(たてさら)】を修得する訓練。俺の時は『鉄球ぶつけ装置』だったけどピンポン球でも行けると思う」


紫闇はクリスに説明。

クリスが姉の《エリザ・ネバーエンド》に勝利する為の条件として、彼はクリスが盾梟を覚えることが必須だと思っていた。


「先ずはエリザの使う『風の絶対防壁』をクリアしなきゃならないがその手段。クリスが使う兵器で突破できるなら盾梟は要らないんだが、今のクリスには無理だろ?」

「そうね。まともにやったら攻撃は通じないし、彼奴から距離を詰めて終わりよ。近付かれた時点で負けは免れないと思うわ」


しかし盾梟を使えるなら違う。

黒鋼流の【堅剛(けんごう)】を使えるから。

この技は相手の直接攻撃に合わせて盾梟を受け身のカウンターとして用い、敵の手足を痺れさせることで動きを止めるというもの。


「【異能】が無い俺には理解できないんだが、異能の制御には集中力が要るんだろ? 堅剛が成功すればエリザは少しだけ風の制御が出来なくなると思うんだ。あの技術は高度な上に精密さが欠かせない」


クリスは理解できた。

集中力を乱せば無防備になる。

風の壁を素通りすることも可能。


「もし彼奴の防御に空きが出来たらクリスは何時も通りの火力で一気に仕留めてくれ。エリザとの戦いは接近戦が肝になる」


一瞬クリスが強張った。

エリザのトラウマが消えていないから。

しかし直ぐに何時もの顔。

堂々として自信に満ちる。

どう見ても空元気だが。


「上等よッ! 彼奴を接近戦で倒すのはさぞかし気分が良いでしょうねッ!」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

任せて

 
前書き
_〆(。。) 

 
訓練開始から二日。

《クリス・ネバーエンド》に変化は無い。

盾梟(たてさら)】を覚えられないのだ。

立華紫闇(たちばなしあん)》は自室で共に夕飯を摂る。


(俺でも数分で会得した技だしクリスなら直ぐにマスターすると思ってたんだけど)


予定では一日で盾梟を修得。

四日で【堅剛(けんごう)】を覚える。

これによって元からの手数と大火力に鉄壁の防御を得たクリスが【代表選抜戦】を勝ち抜き本番の【日英親善試合】における《エリザ・ネバーエンド》も事前に立てた作戦で攻略するはずだったのだが。


(俺の時は落ちこぼれの時期から【夏期龍帝祭】の予選に至るまで一月半有ったけど今のクリスには2週間も無いからな。正直言ってかなり不味い。一体どうすりゃ良いんだ)


そう考えていた時だった。

テーブル上に有った携帯が鳴る。

見ると《永遠(とわ)レイア》から。


「元気かな紫闇? 焔も事情は納得してくれたから思う存分クリスさんと修業してくれて良いよ。何か有れば僕が力を貸すから」

「気を使わせてすいません。今から黒鋼の屋敷に行きます。俺一人の力じゃどうにもならない問題みたいなんで」


紫闇はクリスを連れ黒鋼の道場へ。


「先ずは強化のやり方だね。紫闇はクリスさんに盾梟を覚えさせる必要が有ると考えたみたいだけど【黒鋼流】としては間違ってる」


レイアの言葉に紫闇は瞠目した。


「彼女みたいに【特質型】で複数の【魔晄外装】を出す【魔術師】は【練氣術】と相性が悪い。どちらも大量に【魔晄(まこう)】を使うから」


もう一つ大きな問題が有る。


「選抜戦まであと10日。焔に聞いたけどクリスが練氣術の基礎を覚えるのに8年は掛かるそうだ。紫闇みたいに基礎段階を飛ばして修得するなんていうのは例外だから真似は出来ない」

「じゃあどうするのよ。練氣術を教えられないならもうやることなんかないじゃない。どうやって強くしてくれるって言うの?」


紫闇もレイアを見る。

クリスと紫闇は二人揃って不安そうだ。

対するレイアは笑う。


「本来なら紫闇がやったように黒鋼式の組み手で肉体破壊と【氣死快清】による再生を延々と繰り返す地獄を見てもらうところだけど急がなきゃならないからね。紫闇にやらなかった『改造』をフルに使って全面的に強化する」


まともなやり方では時間が足りないので手段を選んでいる場合ではなかった。


「任せて。トラウマの解消や調節もする。一日に数時間は改造することになるけど」


納得行くまで一週間は欲しいところ。


「ついでに紫闇が黒鋼でどんな修業をして強くなったのかも疑似体験させるよ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

選抜期間突入

 
前書き
_〆(。。) 

 
【日英親善試合】の予選とも言える【代表選抜戦】はAからDまで4つのブロックに分けられており、各ブロックに出場する生徒が16名で2日置きにブロックトーナメントを行う。

今日はAブロックだ。

場所は【龍帝学園】内に有る専用のバトルドーム[ドラゴンズガーデン]となっており、早くも決勝を迎えている。

観客に紛れてイギリス代表の3年生《レックス・ディヴァイザー》と2年生の《エリザ・ネバーエンド》は静かに眺めていた。


「やはり、と言うべきか、日本の学生魔術師は然して大したことは無いようね」


相手に少し期待していたのだろうエリザの落胆にレックスは苦笑する。


「確かに『平均』や『中間』のレベルなら英国の学生が勝ると思います。しかし国の最上位に位置する【魔術師】を比較すれば日本は次元が違いすぎますから……」

「我が国だとリベレーターと呼び、日本では【魔神】だったわね。同じ位階とは言え【無明都市/ロストワールド】で階層解放者となった同士に何故あれほどの差が」


──────────────────

昨年亡くなった日本の魔神。

暴食の亜理栖(ありす)

気狂い道化の道無(みちなし)

愚者のマリア

史上最強・神代蘇芳(かみしろすおう)

────────────────

この4人に関しては前年度までだけに留まらず現在でも日本にしか勝てる魔術師は居ないとされるほど圧倒的な強さ。

特に神代蘇芳は大英帝国の全魔術師を一時間とかけず全滅させるとされた。

日本に亡命した魔術師《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》を除いて。


「今はもっと強い4人が居ますからね。神代蘇芳達を一対一で、あまりにも簡単に倒して死亡させた時は冗談かと思いましたよ……」


レックスがそう言うのも無理はない。

あのイリアスに敵わないと言わしめた。

神代蘇芳にも勝てると自信を見せ、レックスがその力を知る最強の魔術師が。

そんな存在が何人も居るような国と事を構えられるわけが無いのだ。

──────────────

世界中に居る魔術師達の新たな頂点に君臨することとなった4人の魔神。


世界最強の雷使いと言われる魔神を兄に持つ世界最強の炎使い《白良々木眩(しららぎくらむ)


人任せで働こうとしない怠慢の散歩師《ミディア・ヴァルトシュタイン》


史上最高の破壊力を誇り、上位存在も避ける面倒臭がりの暴君《夢絶叶(むぜつかの)


至高の魔術師だが【異能】も魔晄外装も無く、一つの超能力しかない《皇 皇皇(すめらぎこうのう)


───────────────


「なぜ日本には化物や怪物みたいな魔術師が集まってくるのかしらねぇ」

「彼も神代蘇芳に届くかもしれません」


エリザとレックスの見る先。

会場の中心で目立つ男が居た。

皆彼を待っていたのだろう。

ギャラリーのテンションが急上昇。

目にしただけで感涙する者も。


『出たぞおおおおおおおおおおッ!! 夏期龍帝祭で準優勝した一年生の序列2位! 【白狂戦鬼/バーサーカー】こと《立花紫闇/たちばなしあん》だああああああああッッ!!』
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

黒い想い

 
前書き
原作通りじゃねーか。
( ゚A゚)

つーかまんまだよね?
(-ω- ?) 

 
代表選抜戦のAブロック決勝。

紫闇の相手は4年生の序列1位。

実を言うと4年生こそ龍帝戦力の穴。

平均の実力は3年生までよりも上だが他学年のように絶対的存在が居ない。


本来なら《矢田狂伯(やだきょうはく)》がその立場に在る筈だったのだが、彼は一年時の学生魔術師による全国大会【全領戦】で団体の部ベスト4に入った後、【刻名館学園】に転校してしまった。


しかし侮ってはならない。

狂伯のように個々の学園で存在する歴代屈指の天才ではなくともそれぞれの世代でそれなりに才能や力が有る人間は居るはずだ。

現在の1位もそうである。


「かなり出来る、わね。あれは……」


エリザが注目する程度に。

レックスも頷いて同意した。


「でもあちらの方が上ですよ」


彼は紫闇を見て確信。

結界に包まれた武台で両者が立つ。

互いに外装を顕現。


紫闇は右前腕に闇色の篭手。

4年の1位は二本の棍棒。


すると紫闇は右手の親指を左手の人差し指に押し当て力を入れ、バキリと鳴らす。

いきなり『あれ』を出した。

紫闇の魔晄防壁が白銀から黒へ。

公式で見せるのは《橘花翔》の時以来。


「確か【神が参る者(イレギュラーワン)】でしたか」

「そうよ。私の父が一度だけ教えてくれた。【上位存在】の【旧支配者/オールドワン】や【古代旧神/エルダーワン】と融合して人の領域を遥かに超えた怪物だと」


エリザの目が鋭くなり体が強張る。

レックスは闘気と殺気を放つ。


4年の1位は開始点から動かない。

その場で棍棒を振った。

すると紫闇の肩に突然の爆発。


「なるほど、そういう【異能】ですか」

「座標に『爆発』という事象を起こす」


どんな位置からでも一定のダメージに予め効果が決まっているゲームのスキル。

それ等に近い。


「極めて強力ね」

「でも立華紫闇には意味が無い」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇は笑う。

爆発がマッサージにもならない。

一歩ずつ悠然と近付く。


「あの頑強な魔晄(まこう)の防壁は【魔晄外装/ファーストブレイク】とは違う魔晄操作の発展形といったところかしら。異能ではなく単純に魔術師としての基礎能力が強い」


4年の1位は棍棒を振り続けているが紫闇との間が詰まる度に後退した。

しかし武台は結界によって外部と遮断。

ずっとは逃げられない。

壁に背が付いた4年の1位。

目前には紫闇が居る。

追い詰められ恐慌状態に陥った4年の1位は紫闇の体に対して棍棒を叩き込む。

滅多矢鱈に乱打していることで紫闇はどんどん爆発に包まれていくがやはり通じない。

紫闇は失望したのか嘆息。

握られた右拳が金に輝く。

彼が踏み込むと膂力で床が砕けた。

棍棒の滅多打ちを受けている最中でも無視して右腕がUの字を描き顎に拳が刺さる。


爆裂───


拳が帯びた魔晄が弾けた。

黄金の粒子が結界内に飛散。

苛烈な爆発は美しい。

4年生の1位が起こしたそれよりも。


4年の1位は真上に吹き飛ぶと結界の天井に激突し体が押し付けられる。

エネルギーを失ってから落ちてきた。

左手の【古神旧印/エルダーサイン】は光の筋となって紫闇の左手に向かう。

動かない対戦者を見下ろす紫闇。

今の彼には王者の威風が有った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「恐ろしいわね……。立華紫闇が繰り出すあの一撃はこの《エリザ・ネバーエンド》が誇る【風の絶対防壁】をも貫きかねない。おまけにまだ切り札を隠している。あの時間停止に等しい力を使われたら……」


彼女がここまで褒めるのは珍しい。


「私が認めた男は三人目よ」


一人目は英国史上最強の魔術師《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》

二人目は過去の最弱から這い上がってきた《レックス・ディヴァイザー》


「昔の哀れな自分によく似ている」


憎らしい程に。

レックスは花道を歩く紫闇を睨む。

どんなことが有っても諦めない。

諦念を拒絶して跳ね除ける。

ただ前へ。

前へ前へ。

ひたすら前へ。

振り返らず進んだ末に運命を超越できると信じているような男が立華紫闇だとレックスには誰よりも理解できてしまう。

幾多の地獄を越えて何度も狂気を高め、立ちはだかる壁を粉砕してきたことが。

正にかつてのレックス。


「気に入らない。本当にね……」


黒い想いを抱くレックス。

そんな彼にエリザが目を細める。

彼が《クリス・ネバーエンド》以外の人間のことで他者に対してこれほど強い反応を見せるのは本当に珍しいことだから。


「心の底から貴方の友として願うわ。立華紫闇がかつてのレックスに戻してくれることを。私が認めた男の一人が帰って来ることを」


現在の英国最強に近い。

そんな域にまで登り詰めた最弱。

諦めとは無縁のかつて。


「彼が私を変える、ですか。むしろこちらが変えてやりますよ。彼の信念は幼子の幻想に過ぎないことを教えてあげましょう」

(思い知ると良いですよ立華紫闇。貴方はその末に絶望を味わうこととなる。かつての私が心を折られた時と同じように)

 
 

 
後書き
もっと変えないとオリキャラの出番無いけど原作キャラの出番も欲しいんですよね。
(;´Д`) 

 

破られた壁

 
前書き
_〆(。。) 

 
親善試合の代表選手となった《立華紫闇》は黒鋼の屋敷へ向かい、クリスの『改造』が何処まで進んだのか確かめる。


「お疲れ紫闇」

「代表おめでとう」


《黒鋼 焔》と《永遠レイア》が祝福した。


「それよりもクリスは?」


焔は無言で顔を向ける。

其処には魔晄防壁を【盾梟(たてさら)】へと変化させ、トラウマで握れなかった近接武器を手に持つ金髪の美少女。


「おお……!」


どうやら姉エリザへのトラウマは完全に克服できた上に強くなったらしい。

紫闇は思わず頬が緩む。


「クリスさんを改造した私が言うのも何だけどちょっと強くなり過ぎた。肉体的・精神的に留まらず、魔術師として本来の力を出せるようになっただけでなく、【超能力者】としても覚醒してしまったからね」


レイアによると、恐らくではなく確実に《エリザ・ネバーエンド》を超えており、異能無しで戦えば紫闇に匹敵するかもしれないらしい。


「そう言えば気付いてたかい紫闇? クリスって今までただの一度として【異能】を見せたことが無いんだよ? 試合だけでなく普段の訓練ですらね」


焔に言われた紫闇はハッとした。

自分や焔のように【規格外】以外の外装型は魔術師としての特殊能力を宿しているものだが紫闇の記憶にはクリスの異能らしい異能は覚えが無い。

武器や兵器の形をした外装を大量に出すのはあくまで複数の外装を出せるという【特質型】の外装型が持つ特徴にしか過ぎないのだから。

曰く、異能は有る。

しかし使えなかった。

魔術師が異能を発動するには外装に魔晄を流し意識を集中させるのだが、雑念が有ると本来の性能が発揮されない。

紫闇が選抜決勝で戦った4年生の1位が良い例で、彼は紫闇が近付いたことで恐怖を感じ、離れた所から使うよりも爆発が小さくなってしまっていた。


「彼女の異能は強力だったよ。超能力もなかなかに面倒な代物さ。レイア兄さんが思わず笑ってしまうほどにね。あたしも兄さんに外装を改造してもらって異能を使えるようになったから解る。嬉しいよ~?」

「俺が憧れてる大英雄の《朱衝義人/あかつきよしと》は誓いや約束を必ず守る男だったと聞いたからクリスを強くするっていう誓いを守れて良かった。レイアさんが居ないと間に合わなかったな」


クリスは紫闇を見ながら思う。

強く在ろうとしてエリザの真似。

間違いだった。

自分は大馬鹿だと。

他者と壁を作り孤独に向かう。

自分の弱さを否定。

クリスが強くなる為にはその逆。

己が欲求に従い友達を作って大切な人と出会い自らの弱さを受け入れることがエリザを超える為に必要なことだったのだ。


(私《クリス・ネバーエンド》の根幹は『怒り』と『破壊衝動』。武器による物量と手数に攻撃力でごり押しする私にお似合いじゃない)
 
 

 
後書き
クリスは総合力で原作最終巻のクリスを超えましたが完全には超えていません。
_〆(。。) 

 

意欲

 
前書き
_〆(。。) 

 
代表選抜戦は進む。

Aブロックは《立華紫闇》

Bブロックは《春日桜花》

Cブロックは《的場聖持》

この3人が勝ち抜いた。


日英親善試合に参加できる代表は5人。


生徒会長の《島崎向子》は

《エンド・プロヴィデンス》

《江神春斗/こうがみはると》

《橘花翔/たちばなしょう》

《黒鋼焔》

の4人が親善試合に出てくれないので代わりに4人目の選手となり穴を埋める。

ちなみに選抜戦は免除。

そして最後の5人目。

Dブロック決勝。


《クリス・ネバーエンド》

彼女は決勝(ここ)まで外装を出していない。

その必要が無かった。

格下相手と言えども異常過ぎる。

今日の相手は五年生の序列6位。

以前のクリスなら負けただろう。

しかし今の彼女は《エリザ・ネバーエンド》に勝利する為に【異能】を温存してきたにも関わらず、まだまだ余裕が有った。


「良い調整相手ね」


対する五年生の6位は女性で[ブラックパンサー]という渾名(あだな)を持つ実力者。

魔晄外装は三日月のような曲剣にエリザと同じ大気を操作する異能を持つ。

エリザによれば、日本には自分の『劣化コピー』とも言える魔術師が何人も居るのでうんざりとしてしまい、溜め息が出るそうだ。


「到底及ばない」


風の制御も範囲も剣腕も。


「そろそろ終わらせるわ」


クリスの魔晄防壁が変貌。

黒鋼流・【盾梟/たてさら】

防壁が強化される。

背部から金の粒子が噴射。

黒鋼流・【音隼/おとはや】

魔晄粒子による翼を展開。

そして右の拳が黄金を纏う。

黒鋼流・【禍孔雀/かくじゃく】


紫闇と同じ三羽鳥の同時発動だ。


クリスは突進すると正面から風の防御を突き破って相手の胸へと拳を届かせる。

爆発が五年生の6位を呑み込んで見えなくなり、クリスの【古神旧印/エルダーサイン】に光の筋が流れ込んでいく。


「これで刻印の完成率は5割か」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今までのクリスは勝った後に両腕を上げて歓声に応えていたが、この選抜においては何時ものビッグマウスが鳴りを潜めている。

常に冷静で、相手を倒すともう興味は無くなったのかの如く悠然と退場していた。

別人のような威風と厳格さが漂う

永遠(とわ)レイア》による『改造』によって単純な『強化』だけではなく、『経験』と精神的な『悟り』まで得たクリスは無意識に抑制されていた能力が解放されており、更に伸びる【底】と将来性を感じさせるまでになっているのだ。

親善試合への準備は万全。

エリザが相手でも死角は無い。


「これで何の(うれ)いも無いな」


《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》は幼馴染みが無事に5人目の代表となったことを喜び自身の決意を新たにする。

【魔神】にまで至った彼が地位も名誉も捨てて自国イギリスの魔術師と軍隊を相手に暴れ果たそうとした目的。

それを達成する為に。


「私個人の恨みは無い。だが友人のことに関しては許さん。今度こそ跡形も無く消し去ってやる。もはや彼奴以外であろうとも手加減する必要は無いみたいだからな」


目的を達成したところで彼が亡命状態から逃れられるわけではないのだが、そんなことを気にして達成できるような目的ではない。

彼の足下には刺客が倒れている。

銃剣の外装でクリスを狙っていた。

合宿で紫闇から返り討ちにされた人物。

息をしていない。

完全に死んでいた。


「取り敢えず親善試合の当日もクリスを気にかけておいた方が良さそうだ」


自身の願いが成就しても彼女に何か有ったら意味が無いのだから。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

嫌悪

 
前書き
かなり原作シナリオを削りました。

特に無くても成り立つようにしたので。
_〆(。。) 

 
親善試合の代表が決定した後もクリスは黒鋼の屋敷で修業を行っている。

紫闇は別行動を取っていた。

イリアスと共に早朝の走り込み。

何処からかレックスも加わる。


「彼女は強くなりましたね」


彼は嬉しそうだ。


「今ならエリザに勝つ。漸くクリスの念願が叶うんです。胸が高鳴って仕方ない」


そう言うが顔に悲哀が宿る。


「でもクリスが勝つと結婚できないよ?」


クリス、エリザ、レックスの幼馴染みでもあるイリアスは意地悪な問い掛けをした。


「……まあそうなりますね。しかしやはりクリスに勝ってほしい。イリアスも私も彼女がエリザに敗れ辛酸を舐める姿を見続けてますから。クリスの悲しい顔はこちらも悲しくなってしまう」

「じゃあ結婚は諦めるのか?」


紫闇の質問にレックスは口ごもる。


(諦念まみれでも恋心は捨て難いか)


心底クリスが好きなのだろう。

頬を赤くしている。


「レックス、刺客は止められない?」


イリアスが尋ねると顔が曇った。


「不可能です。刺客も全員が貴族。おまけに彼等は【古代旧神(エルダーワン)】の命令で任務に臨んでいますから誰にも止めることは出来ません」


レックスはイリアスを見た。

彼はかつてイギリスの全戦力を敵に回しても引き分けに持ち込んでいるが、イリアスからすれば結果として目的を達成できなかったので負けに終わっていると言えるだろう。

戦闘では圧勝ですらないほどの差を見せ付けているので本人以外からだとイリアスの勝ちにしか見えないのがあれなのだが……。


「古代旧神に従って死ぬ貴族の運命か。自分には何もすることが出来ない、意味が無いっていう英国貴族の考えは私の性に合わないから拒否するぞ。それは今も昔も変わらないよ」


イリアスは紫闇に同意して頷く。


「動いても無駄なんです」


レックスは自己嫌悪が強い。

諦念は自分への失望から。


「今回はクリスに勝ってほしい。しかし貴方には負けませんよ立華紫闇」


レックスは速度を上げて去っていった。


「彼は自分に対して何の期待もしていないし自信も抱いていない。強かったレックスに戻るにはまだ時間がかかりそうだな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


8月下旬。

関東領域最大のバトルスタジアム【タイタン・スクウェア・ガーデン】


「どうやら無事に興業収入のノルマは超えられそうだね。向子さんもプロモーションに関わった甲斐が有ったってもんだよ」


今回の親善試合で管理運営責任者になっているのは龍帝学園会長《島崎向子》だ。

日本側控え室はモニターを見ていた。

画面の後方には来賓席。

其処には日英の国家首脳。

そして英国の【古代旧神(エルダーワン)

もう一人は日本の【魔神】


「事前に知らされてたけど本当に来たな。日本は古代旧神が居ないからとは言え」


《的場聖持》がその人物を見る。

世界最強の炎使い。

魔神《白良々木眩(しららぎくらむ)

明らかに英国の古代旧神よりも強く、彼等のような上位存在を封印状態にすること無く完全滅殺できるという途轍もない存在だ。

約4000年に及ぶ【魔術師】の歴史においても上位存在を確実に殺せるのは現在の限られた者達だけであり、そこに至るまでの記録では封印までしか出来ていない。

紫闇は古代旧神を見た。男性の姿をしているが上位存在は人の姿と本来の姿が有る。

人間社会では人の姿で過ごしており、どの古代旧神も絶世の美貌ばかり。


「今まで古代旧神っていうのは人類の救世主で崇めるべき対象と教わってきたけど完全に嘘っぱちだったみてーだな」


少なくともクリスを殺す命令を出すような奴と紫闇の気が合うことは無い。

あと数分で親善試合が始まる。

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

困惑

 
前書き
_〆(。。) 

 
日英親善試合は順調に進んでいる。

日本代表の圧倒的勝利で。


先鋒の3年生《春日桜花》は4秒。

次鋒の1年生で紫闇の幼馴染み《的場聖持/まとばせいじは》気を使って5秒。

中堅の会長《島崎向子》は6秒。


3人とも魔晄操作だけの技術を用い、【異能】も外装も出さずサクッと終わらせた。


こうして団体戦での勝敗は決まったが《クリス・ネバーエンド》と《立華紫闇》にとっては残り二試合こそが本番。

ここまでの三試合は前哨戦に過ぎない。


「レックスはエリザより年上だけど私の弟分みたいな奴なの。彼奴(あいつ)がどれだけ必死に努力してきたか誰より理解してるつもり。だから私はシアンと同じで今の彼奴が気にくわない。ある日を境にして彼奴は変わった。今のしょぼくれた人格になったの。そしてその少し後で突然イリアスが暴れ出したわ。亡命してまで英国から出ていった」


クリスが紫闇の胸を叩く。


「あんたなら彼奴を昔のレックスに戻せると思う。何となくだけど確信が有るの。だから私の弟分を頼むわね」

「ああ、任せとけ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


副将戦は[白狂戦鬼/バーサーカー]・立華紫闇と[ゲームマスター]《レックス・ディヴァイザー》による対決。


「漸くですね立華紫闇」

「俺もあんたも未来を変えられる力を持っているっていうこと証明する」


紫闇の言葉が気に障ったのか一瞬だがレックスの顔に鬼が宿り、紫闇を睨み付けた。


「良いですよ。思い知らせてあげます」


両者が同時に外装を顕現。

紫闇は右腕に黒い装甲。

レックスは長髪の女剣士を象った像。

試合の開始と同時、紫闇が【音隼・おとはや/双式・ふたしき】を使って高速で間合いを詰めようと突っ込んでいく。

レックスは表情を変えない。

冷静に人形を操る。

紫闇の正面に女剣士の像。


「どけ」


紫闇が左拳を放つ。

しかし女剣士の像は見事に躱す。

僅かに体を動かしただけで。

魔晄で強化した魔術師がやっても難しい動きを遠隔した人形でやってのけた。

恐ろしい精密操作。

女剣士の像はカウンター。

高速移動中の紫闇に剣を振る。

しかし紫闇は【盾梟(たてさら)】を展開。

『堅剛』による防御で受け止め腕を痺れさせるつもりだったが人形には通用しない。

女剣士の像は連続で攻撃。

紫闇は回避して回り込もうとする。

しかし足を踏みつけて足止め。

そのまま逃げられない剣撃を喰らわせて綺麗に紫闇を吹き飛ばす。

思わず感心した。

レックスの力と重ねた修練を。

どんな思いで魔術師をやってきたか。

そんなところまで理解できる。

だから気に入らないのだ。

女剣士の像はとてもレックスが指示して動かしているとは思えないような動きで紫闇の出す攻撃を掠らせず、一方的に自分の攻撃を打ち込む。

何もかも読まれているのだろう。


(マジで魔術師としての差よりも人間としての差が有るから追い込まれてる気がする)


紫闇の予想通りではあるが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


再び紫闇が吹き飛ぶ。

しかしこれは罠。

女剣士の像はレックスから大きく離れた紫闇の所まで向かってくる。


「上手くいったか」


紫闇はレックスに対して攻撃を仕掛ける為に、どうしてもレックスと人形の距離を引き離しておきたかったのだ。

先程までのレックスと女剣士の像は一定の間隔を維持しており、紫闇が【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】以外のどんな行動を取ろうとも対応できるポジショニングだったので迂闊に仕掛けられない。

しかしこれだけ距離が有れば別。

レックスに攻撃が向かっても人形を呼び戻して間に合わせることが出来ないはず。

何かしら【異能】を使わない限り。

紫闇は女剣士の像による攻撃を盾梟で強引に受け止めると彼女を置き去りにしてレックスの方に全力疾走を開始。

がら空きのレックスに近付く。

だが追ってくる人形の動きは速い。

音隼無しでは追い抜かれそうだ。

そうすれば女剣士の像は紫闇とレックスの間に割り込むだろうことは明白。

しかしその心配は無い。

残り5メートル有るが既に届くのだ。

紫闇は何時もの【禍孔雀(かくじゃく)】と違い、拳だけでなく肘まで黄金に輝かせた。

攻撃するには体術しか手段が無いはずの紫闇はその場で真っ直ぐ拳を突き出す。

金色の光が腕から放たれる。

離れた光は巨大な拳を象った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「───ッ!?」


レックスの表情が一変。

初めて動揺する。


「今の俺が唯一使える遠当てだ」


【黒鋼流練氣術/三羽鳥ノ一/禍孔雀・かくじゃく/偽炎・ぎえん】

魔晄の粒子で形成された巨大な拳はレックスの全身を炎のように包み捕らう。

爆裂と粒子の飛散が起きるとレックスは結界に叩き付けられて吐血し倒れ込む。

ダウンを取られカウントが始まる。


(ここで終わる奴じゃない。レックスはまだ切り札が有るはずだ。けどそれはこちらも同じ。ここまでは準備運動に過ぎないんだから。しかし遅いな。何で動かねーんだ?)


『シックス!』

(いやいやいや)

『セブン!』

(おいちょっと待て、早く立てよ)

『エイト!』

「嘘だろレックスッ!」

『ナイン!』

「何してんだお前ッ!」

『テン!』


終わった。終わってしまった。

呆気ない幕切れに紫闇も観客も困惑。

レックスは勝敗が決すると何事も無かったかのように立ち上がり微笑む。

後悔は皆無。

手を差し出す彼に紫闇も戸惑ったが取り敢えず握手しながら話す。


「どういうつもりだ?」

「これで婚約は破棄されました」


レックスはわざと負けたのだろうか。

そう思った紫闇は何か引っ掛かる。


「私と貴方は再び敵となります」


レックスは紫闇に告げて退場した。
 
 

 
後書き
原作も必要無いのか親善試合の試合三つは描写がカットされてます。
_〆(。。) 

 

問題無し

 
前書き
_〆(。。) 

 
大将戦のクリスとエリザ。

紫闇達は彼女等の試合を最前列の特等席で応援することになった。

試合開始を待っていた龍帝学園の代表だったが突然アリーナの入口付近から聞こえてきた銃声と爆音に反応。


「あ、狂伯君だ」


向子に《矢田狂伯(やだきょうはく)》から連絡。

どうやらHCA(人類保全連合)のテロリストが内通者によって警備をすり抜けてきたらしく、戦闘中とのことだ。


「狂伯君。HCAの思惑は?」

『あいつらイギリスと組んでる。最近のHCAが活発に活動できてたのも武器と資金を向こうから提供してもらってたからだよ』


日本の魔術師から【古神旧印(エルダーサイン)】を奪うのは勿論だが、自作自演で日本に軍事的・政治的なダメージを与えるのも計画だという。


「なるほど。来賓に居る英国の首脳陣を自分たちの手で殺した上で責任を押し付ける気か。ついでに賠償金や人材を差し出させると」


どうもクリスの命を狙う理由にもこの計画が絡んでおり、イギリスの潔白を証明する為に死んでほしかったらしい。

クリスはイギリスの人間。

しかも国内屈指の貴族。

そんな存在を味方が殺すわけは無い。

だから今回のテロにイギリスは関与していないという言い訳としてクリスの死を利用するつもりなのだと。


「向子さんはこのイベント責任者だからね。HCAを処理しなきゃいけない。皆の力も貸してほしいんだけど良いかな?」


クリスの応援がしたい紫闇も了承。

こうして向子、桜花、聖持は遊撃に回り、紫闇は来賓室の前に向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《クリス・ネバーエンド》が居る控え室。


「あの馬鹿は……」


レックスがわざと負けた。

クリスはそのことに気付いている。

不愉快で仕方ない。

勝利に飢えていた頃を知っているから。


幼少期のレックスはクリスと同じように出来損ないとして扱われ、虐めも受けていた。

しかしクリスと出逢い精神的に変わった彼は必死に努力を積み重ね初めて勝利。

我がことのように嬉しかった。


『貴女の言う通りでした! 頑張れば僕みたいな人間でも勝てるんですね! もっと頑張ってもっと強くなります! それで、世界一強くなったら僕と……。い、いえ、何でもありません。秘密です!』


あれだけ輝いていた頼もしくて好ましい弟分なのに、またしょぼくれた性格に逆戻りしたことが腹立たしくて仕方ない。


「親善試合が終わったら殴ろう」


クリスがそう決めた直後、控え室に係員が来て、彼女の出番を知らせる。

部屋を出て通路を歩いていく。

背後から殺気。

彼女は魔晄防壁を張りながら前へ跳び、着地後に振り返った。

居るのはバスターソードを構えた係員。


「刺客だったのねアンタ」


クリスは背中に痛みを感じる。


「防壁が遅かったかしら?」


その疑問に刺客が答えた。


「我が【異能】は『物体の切断』だ。如何なるものも一振りで断ち切れる。それが例え核兵器に耐えられる物理防御力を持った魔術師の魔晄防壁で有ろうとな」

「はっ、笑わせるわ。あんたに異能は要らない。直ぐに終わらせてやる。今の私に勝ちたいなら紫闇でも連れてきなさい!」


【練氣術】によってブーストがかかったクリスの身体能力に【音隼(おとはや)】による高速移動が加わり刺客を翻弄すると、隙を見て【禍孔雀(かくじゃく)】の拳を叩き込んで床へとめり込ませた。


「防壁をすり抜ける攻撃っていうだけじゃあ今の私には到底勝てない。もっと基礎能力を上げなきゃね。つまり鍛え方が足りてないのよ」


ピクリともしない刺客を放置して武台に向かうクリスは花道で浴びる歓声に高揚し、闘争心が不安と緊張を駆逐していった。
 
 

 
後書き
原作だとクリスはこの刺客に心を折られるんですが、この作品では既に覚醒しており原作より遥かに強いので速攻で勝ちました。
_〆(。。) 

 

笑み

 
前書き
エリザ戦大幅カット。

クリスが原作より強いですからね。
_〆(。。)

 

 
日英親善試合・大将戦。

《エリザ・ネバーエンド》は冷然とした闘気を放ち、《クリス・ネバーエンド》は微笑みを浮かべている。

試合の開幕まではエリザの圧勝に終わると思われていた予想を覆し、序盤からクリスが流れを持っていった。

エリザは【魔術師】になってから初めて公式戦でのダウンを経験し、全身ズタボロで血まみれになるまで追い込まれる。

彼女が誇る『風の絶対防壁』が意味を為さないのだからそれも当然だろう。

エリザはそれでも立ち上がった。

クリスは容赦しない。


召喚(サモン)暴虐極メシ妖精群(バイオレンスファミリア)


青い人形と赤い人形の群れ。

その赤い人形がエリザに向かっていく。


「爆ぜろ、ファミリア」


エリザは風の絶対防壁によって自身の3メートル圏内まで来た攻撃をことごとく防いできたのだが、今回のクリスに限っては勝手が違う。

彼女の攻撃は風の防御を突き抜ける。

エリザは風の【異能】で自身を加速させつつ風によって迫り来る攻撃の軌道を歪めるが、クリスの攻撃は徐々に激しくなり勢いを増していくので処理が追い付かない。


(私の知るクリスとは別人ね……)


基本的な能力が自身を凌駕することを認めたエリザだが、クリスは異能や外装の『攻撃力』で風の絶対防壁を破られたわけではないのだ。

永遠(とわ)レイア》の『改造』で使えるようになったクリスの異能が発揮する『効果』によってクリスはエリザの天敵とも言える存在と化した。


「エリザ、あんたは強い、私は弱い。でもそれで良い。私は弱者だからこそ強者のあんたに勝てる。もうエリザの真似はしたりしないし強者になろうとしない。私は弱者で在り続ける。その運命を背負いながら強者として生まれた連中をブッ壊す!」


エリザとは真逆に有る対極の道。

それを選んだクリスは髪を纏めていた紐/ひもを解/ほどいて捨てる。

サイドアップの金髪がシンプルなロングになったことで双子に見えるほど似ていたエリザとクリスに見て解る違いが表れた。

トラウマは完全に消えたようだ。

クリスの宣言にエリザの雰囲気が変わる。

見下すような態度ではない。

倒すべき『敵』だと認めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「光栄に思いなさいクリス……。エリザ・ネバーエンド最大の一撃を見せてあげる……。これで終わりにするわ」


左手に握る深緑色の細剣(レイピア)を天へ掲げた刹那、エリザを中心にして色が付いた深緑の風が渦を巻いて結集し、凝縮されたエネルギーが高まって輝きを放つ。


「正念場だもの。出し惜しみはしない。全てを出し尽くす。我が【魔晄外装/ファーストブレイク】のゼフィロスに懸ける」


ならばとクリスも鬼札を切った。

彼女が持つ【特質型】と言われる外装の特徴は外装の複数召喚である。

フィールドに出せる限り、そして自分の【魔晄】が保てるギリギリの数を呼び出して自身の周囲を埋め尽くしていく。


災禍ノ軍勢(テンカウントナイツ)ッ!! 大軍招来(アッセンブル)ッ!!」


外装によって構成された軍隊の様相。

彼女が出せる外装の最大数と言えた。

多種多様な武器兵器の群衆だ。

エリザが細剣を突き出し力を解放。


「ゼフィロスエクセリオンッ!! バーストオオオオオォォォォォッ!!!」


深緑の風が巨大な光柱の刃となって真っ直ぐに大気を貫きながら疾走(はし)る。


滅べ、灼熱と輝きに包まれて(スケアリー・ヒート・アルティメイタム)……!!」


クリスの外装が放つエネルギーが集束し、一つの奔流になって最強の一撃を生む。

ぶつかる二つの威力は同等。

しかし性質が明暗を分けた。

レイアに改造されるまでクリスが使えなかった異能は【破壊】と言い、外装の攻撃によって生物以外のあらゆる物質と魔術師の異能を破壊して消滅させることが出来る。

エリザは火力に呑まれていく。


「やるようになったわねクリス……」


彼女は敗北の間際に微笑んだ。 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

急変

 
前書き
第二部も終盤です。
_〆(。。) 

 
エリザの【古神旧印/エルダーサイン】がクリスの左手に流れ込む。

これで刻印の完成度は6割に達した。

目を覚ましたエリザにクリスが声を掛ける。


「ねえエリザ。今までの罵声って私の成長を促す為だったの? あんたは表に出さないけど私の成長を願っていた。だから敢えて酷いことを言い続け私のやる気を高めたって思うのよね」

「お気楽な思考ね。あたしは只の悪役よ」


クリスはエリザの返事を鼻で笑う。


「ありがとう。姉さん」


クリスが手を差し伸べる。

エリザは頬を赤くしながら手を取った。

その時だ。

来賓席から悲鳴と銃声が聞こえる。

クリスはエリザを立ち上がらせると音の方を見て何かが来ることを感じ後ろに跳ぶ。

空から落ちてきたのは『独立型』の人形と合宿でクリスを襲った全身黒ずくめの刺客。

王冠と赤いマントを身に付けた人形はクリスの右腕に向かって剣を振り下ろす。

しかしそれは防がれた。

飛び込んできた紫闇によって。


「て、めぇ……。さっき俺が殺したろうが……。脛椎(けいつい)折ってんだぞ? てことは今の悲鳴、イギリスの首脳か。【古代旧神(エルダーワン)】と【魔神】がやられるわきゃねーし」


黙っていた刺客が言葉を発する。


「先程の動きを見た感じならクリスは人形の襲撃に対しても十分対応できそうでした。まさか彼女がここまで強くなっていようとは私の想像を超えていましたよ」


この声は《レックス・ディヴァイザー》


「どういうことッ!?」


エリザの怒声が響く。


「クリス暗殺の命を受けました。貴女に知られれば(ひそ)かに邪魔されてしまう。なのでエリザは蚊帳(かや)の外に置かせてもらいましたよ」


曰く、この場所に邪魔は入らない。

古代旧神にとってはサプライズ的な娯楽なので何者にも介入させないという。

邪魔するならイギリスの古代旧神ならびにイギリスの全貴族が敵に回ると思って良い。

魔神《白良々木眩(しららぎくらむ)》は今回のようなことを好まないので古代旧神を説得してくれるかもしれないが、もしそれでも駄目なら来賓席で両者が戦うことになるかもしれないのだ。


「もしかすると《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》は古代旧神を狙うかもしれませんが、この場で全力を出すことは無いでしょう」

「どういうつもりだレックス」


紫闇の心に怒気が(こも)る。


「私はクリスを愛している。これは唯一無二の誇り。けれど言いましたよね。英国貴族の運命を。古代旧神に逆らってもクリスは殺されてしまう。私などではどうにもならない。だからこの命令を受けた時に決めました。他の誰かに殺らせる位なら私の手で彼女を葬ると」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レックスは諦めていた。

彼の周囲に人形が現れる。

王冠の剣士。

大盾の鎧。

メイスの僧侶。

馬頭の双剣騎士。

何も持たない骸骨。

そして女剣士。

親善試合で紫闇が戦った女剣士だ。

この刺客は本当にレックスなのだと受け入れた紫闇は躊躇(ためら)わず力を使う。

《黒鋼焔》との約束を破り。


「“七門ノ一(ヴィルス=ヨグ)“」


紫闇の中で巨大な黒い門が開く。


「“混沌の解放(ナル・シュタン)“」


レックスは恐怖と緊張を見せる。


「“我は虚無の貌に名を刻む(ヴォルグン・ナル・ガシャンナ)“」


しかしレックスは動こうとしない。


「“大気よ唸れ(ヴオ・ゾルディス)“」


紫闇の外装に走るラインが赤から青へ。


「“時よ止まれ(イルイス・カルラ)“」


それは緩やかに。


「“刻む我が名は(ウルグルイ・ゼェム)“」


しかし確実に。


「“風に乗りて、歩む者(イタクァ・ザ・ウェンディゴ)“」


紫闇は止まった時の中を進む。

そして全力の右拳を顎に。



























に顎を拳右の力全てしそ─────



































「あれ?」


今レックスの顎を打ったはず。

それなのに紫闇は時間の圧縮を発動させた位置まで戻ってきている。

これは既視感(デジャブ)ではない。


「これじゃまるで……」


































者む歩、てり乗に風(ゴィデンェウ・ザ・ァクタイ)





























今度は能力が解けてしまう。


「何、だと……? 一体どうして……!?」


紫闇は堪らず声を漏らす。

困惑を隠せない。


唯一無二ノ最低ナ行為(ザ・パーフェクト・マリガン)


そう(さえ)ずるレックス。

彼の人形が紫闇に襲い掛かる。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

八方塞がり

 
前書き
_〆(。。) 

 
襲い掛かってくる6体の人形。

彼等の武器が紫闇に迫る。

しかし攻撃される直前で再度【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】の時間圧縮が掛かり時間が凍結して人形の動きは停止。

紫闇は人形でなくレックスを見た。


(さっきのは彼奴の【異能】だよな?)


合宿で教官の《桐崎美鈴》から教えられた《レックス・ディヴァイザー》の【魔術師】として有した第一の異能【魔晄外装/ファーストブレイク】は『己の立ち位置をコンマ数秒前に戻す』というもの。

しかし明らかに違う。


(【魔晄神氣/セカンドブレイク】か)


まるで時が止まっているかのように圧縮された時間の中でレックスが紫闇の動きを認識する事ができる筈が無い。

恐らく自動で発動する異能。

しかしどれだけ強力無比であろうとも、魔術師の使う異能であるのなら、必ず共通する弱点が存在している。

それは外装の破壊。

魔術師の異能は魔晄外装に宿る。

つまり外装が無いなら異能も無い。


(てことは6体の人形(がいそう)を壊しゃ良いわけだ)


紫闇は近くの人形に攻撃。


「げっ!!」


戻った。時計の針が逆回転するように。

また珀刹怖凍が解除された。

そして紫闇が攻撃する前の状態へ。

再び人形が(むら)がる。


「もう一度!」


また解除されてしまう。

殺到する人形の攻撃。

紫闇は【盾梟(たてさら)】で魔晄防壁を強化。

攻撃に耐えながら考える。


(レックスへの攻撃だけじゃなく、人形を攻撃しても俺が力を使っても戻るのか)


エリザを連れて安全な所まで避難したクリスも紫闇の手詰まり感が伝わってきた。


「レックスの魔晄神氣ってあんな強いの?」

「私も見るのは初めてよ」


エリザは改造されたクリスが新たに覚えた黒鋼流の練氣術【氣死快清】で全快しており紫闇に加勢しようと思っていたがレックスの異能が厄介で手を出せない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「私の【魔晄神氣/セカンドブレイク】に弱点は有りません。【唯一無二ノ最低ナ行為(ザ・パーフェクト・マリガン)】は『時間の逆行』を起こす力。私か外装がダメージを受けるとオートで働き相手の行動を無かったことにする。そして『触れた対象』の時間を任意で逆行させ精子と卵子にまで戻すことも可能です。しかし後者については時間系能力を有する紫闇(あなた)には効果が薄い。ここは予想通りなので良いでしょう。それに一番問題だった時間停止のような力を潰せた」


レックスの解説に紫闇は思った。

これ程の力は消耗も激しいはず。

ならば粘って戦闘を引き伸ばせば。


「魔晄が切れるまでの長期戦は無駄ですよ。私の魔晄神氣は強力な割りに燃費が良いので。其方(そちら)を始末する前にエネルギーが底を突くことは無いでしょう」


その時だった。

クリスが立ち上がり武台に飛び込む。

そして紫闇を攻撃する人形達と戦い出す。


「レックス! あんた何で諦念に呑まれてんのよ! どうして自分を信じないの! これだけ強いのは努力を続けて信念を貫いたからでしょうが! 異能が最弱でも不屈の意思があんたを強くしたんじゃない!」


レックスはクリスに答えなかった。

淡々と人形を操作。

じわじわ二人を追い詰める。

6体の人形は一体の攻撃を躱しても狙い澄ましたように別の人形が奇襲し反撃してもレックスの読みと高速かつ精密な人形操作で回避したり、大盾の人形が攻撃を受け止めてしまう。

距離を置いても時間が戻され移動前の状況となり攻撃を浴びせられる。

どんな行動を取っても手詰まり。

八方塞がりの状況を作り出していた。

昔は異能に頼れず外装の複数召喚も制御が難しい為に扱えなかったレックスが魔術師ではなく人間としての力を積み重ねた結果が今の強さ。

それが伝わるような戦い方である。


紫闇とクリスは悲しかった。

かつてのレックスを知るクリス。

自分と同じだったと解る紫闇。

諦めを拒絶して誰よりも上へ行くことを願い、挫折を繰り返す地獄の道程を歩み続け、乗り越えてきたレックスを本当に尊敬する2人。

その表情を見たレックスは人形を止める。


「御二人の疑問に答えましょうか。なぜ私がこうなってしまったのか」


彼は髪の長い女剣士の人形を見た。


「外装の形状はそれを出した魔術師本人の精神を表すという説が有ります。……事実なんでしょうね。でなければこの外装はこんなにも私の『母』に似ている筈がない」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

折れた心

 
前書き
_〆(。。) 

 
かつての《レックス・ディヴァイザー》は《立華紫闇/たちばなしあん》と同じように決して『諦め』を受け入れない人間だった。

努力すれば運命が変わる、変えられるのだと信じて強くなったのだから。

しかし彼は大きく変わってしまう。

事の発端はイギリスの【古代旧神(エルダーワン)】がレックスの母に対して明らかに無理な任務を命じたことから始まる。


「母は捨て駒だったんです」


レックスと彼の父は母を止めた。

古代旧神に反発もした。

しかし母は古代旧神の命令通りに任務へと臨み惨殺されてしまう。

家やレックス達を守る為に。

返ってきた母の遺体は酷い状態。


「気が狂いそうでしたよ」


何せ彼女が死ぬその時まで生き地獄を味わったのだろうことが手に取るように解るような凄惨さだったのだから。


「私は母を手にかけた者達よりも古代旧神のことを憎悪しました。奴が無理をさせなければこんなことにはならなかったと。そして復讐を計画し実行に移したんです。でも……」


レックスは古代旧神に指一本も触れることが出来ずに敗北を喫し、抗いようの無い恐怖を骨の髄まで叩き込まれる。

復讐が叶うなら死んでも構わないと意気込んでいたことが嘘のように震えて縮こまり、命乞いをしてしまうほど。


「古代旧神は笑って許しました。その代わりに私は心が折れたんです。今までやってきたことに意味は無かった。そんな風に思うようになってしまったから。結局のところ、クリスと出逢った頃の『出来損ない』と言われていた自分と何も変わっていないんですよ」


積み重ねた努力に意味は無く、運命を変えることが出来る人間ではない。

そう思い知らされた。

レックス・ディヴァイザーとはその程度の人間でしかなかったのだと悟る。

故に彼は古代旧神に従って生きるだけの人形となり果ててしまう。


「私の事情を知った《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》が激怒しましてね。御存知の通り大英帝国の全戦力を敵に回して暴れ狂ってしまったんです。そして古代旧神を引っ張り出すところまで行きました」


当時のイリアスも自国の古代旧神を滅するだけの力を持っていたが異能制御の関係上、広範囲を巻き添えにしてしまう可能性が有ったため断念し、日本へと亡命する。

現在はピンポイントで古代旧神を滅ぼせるのだがイギリス国内ならもはや巻き添えにしても構わないと思っているようだ。

クリスへの刺客を送り込んできた時点でイギリスに対する配慮は消えた。


「私は人形としての生に疲れた。命乞いして生き長らえた身ですが今は惜しくも何とも無い。愛する者さえ手に掛けなければならない人生は送りたくありません。だからこそ今回のクリス殺害指令は決め手になった。彼女と紫闇(あなた)を殺し、私も死ぬ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


語り終えたレックスは人形を動かす。

再び紫闇と《クリス・ネバーエンド》に対して攻撃を仕掛けていく。


(力が欲しい)


都合の良いことは解っている。

それでも紫闇は認められない。

自分もクリスもレックスも救う為に。


『“門は開かない“』


しかし紫闇の内から響く声は無情。


「だったらどうすんだよッ!」

『“(はや)るな。今のままで勝てる“』


紫闇に情報が伝わっていく。

現時点で使える力。

それでしていなかったことの。

人形をクリスに任せて距離を取ると彼は右腕を天に向けて【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】を発動。

外装に走る青いラインから蒼穹色をした強い輝きが放たれ周囲を照らす。


「悪足掻きを。また戻るだけですよ」


しかしレックスは焦る。


「【異能】が働かないッ!?」

「今さっき解った。珀刹怖凍は俺の『体感時間』をベースにして干渉してるんだ。その影響で俺からは他の奴が止まってるように見えるし現実時間との差分だけ高速移動が出来る。これが普段(・・)の珀刹怖凍らしい」


しかし今使ったものは違う。


「この辺りに在る空間。その時間を凍結した。擬似的な時間の停止だ。空間の時間自体は流れてるけど進みも戻りも出来ない。だから時間の逆行は出来なくなってる」


レックスは歯軋りした。

時間の逆行が使えない間にクリスはレックスの人形を破壊していく。


「レックスの任意じゃない自律モードでも思ったよりやるじゃない。レックスの思考をコピーしてるのかしら。お陰で良い運動になるけど」


王冠の人形が剣を振り下ろすもクリスはただの魔晄防壁で弾いてしまう。

ぐらついた相手にカウンター。

頭部が破壊された人形が倒れる。

後ろから迫る僧侶は手に持つメイスごと裏拳で豪快に薙ぎ払った。

馬頭の騎士が奔らせる双剣を掴み取りながら蹴り上げ股下からボディを引き裂いていく。

骸骨の人形は複数出せたようでクリスを取り囲むも、人形の中で一番脆かったのであっさりとバラバラにしてしまった。

大盾の鎧は【音隼(おとはや)】で突っ込みながら盾ごと後ろの人形本体に風穴を開ける。

最後は長い髪をした女剣士の人形。

レックスの母に似ているという彼女はレックスの思考にレックスが覚えている母の動きが混ざり合い相乗効果をもたらして見事に舞う。


「今までの人形と違うわね」


しかしやはり届かない。

今のクリスはもっともっと強いから。

クリスは二丁の銃を召喚。

女剣士の手足と頭を撃ち抜いた。


「さて。これで人形は全部オシャカよ」

「外装が無いなら異能も使えないぜ?」


しかしレックスはまだまだ余裕。

紫闇とクリスに気勢を上げていく。


(あんたは凄いよ。本当に)


こんなに追い込まれた状況で覇気を増すような人間がどれだけ居るだろう。


(だからこそ尊敬してるんだ)


紫闇とクリスはそんなレックスだからこそ強い想いを持って彼を救いたい。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

My Enemy

 
前書き
お久し振りです。やっと少し執筆のモチベーションが回復しました。本当に少しですけど。
( ゚∀゚)ノ 

 
自身の【魔晄外装】であり、【魔術師】の【異能】が宿る人形を全て破壊されてしまった《レックス・ディヴァイザー》はもう異能を使えない。

少なくともこの戦闘が終わるまでは《立華紫闇》と《クリス・ネバーエンド》は外装の再召喚を許さないだろう。

それでも関係ないとレックスは構える。


「私は外装を複数出せる『特質型』の魔術師ですが基本は『独立型』なので身体強化に使える異能以外での身体強化は出来ない。魔晄操作を紫闇(あなた)くらいまで使えれば別ですが」


レックスが溜め息しながら自嘲。


「独立型は『神経』こそ強化されますが体が着いていけないんですよ。しかし、だからと言って諦めるつもりは有りません」


紫闇は弱体化したレックスに対して突撃し、顔面に向かって渾身の拳撃を放つ。

異能と外装が無いのに容赦しない。


(独立型は癖の強いトリッキーな異能が多い。それを操る魔術師の強化はレックスの言う通り神経しか強化されないと来てる。つまり俺みたく黒鋼流の練氣術みたいな技術や異能を使わなければ神経以外、普通の人間と変わりないってことだ)


独立型は直接的な戦いを外装に任せきりであり、魔術師本体に一発でも攻撃を喰らわせることが出来ればそれで終わりが大半。

但し強い奴は極端に強いピーキーなタイプの魔術師でもある。

その強い独立型でも強いのは魔術師でなく外装と異能の方であり、本人が脆いことは何ら変わらないのが常識。

しかし紫闇は知っている。

初めて見た時のレックスは魔晄防壁だけを纏い、外装すら出さずに二人の学生魔術師をそれぞれ手刀の一振りで鎮圧して見せた。


(だからこの男には油断できない。異能と外装が無かろうと独立型で有ろうと手加減せずに仕留めるつもりで攻める!)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇の判断は結果として間違っていなかったがそれは予想を超えたものだった。


「ゴフッ!!」


紫闇の体が浮く。

後方へと飛ばされる。

渾身の拳をあっさりと躱したレックスは紫闇の喉に向かって貫手を突き込んだのだ。

地面に落ちて()き込む紫闇に対してレックスは再び構えながら告げる。


「先程に申し上げた通り、私は特質型ですが仕組みは独立型です。しかし他の独立型とはちょっと違うんですよ」


喉に詰まった血反吐(ちへど)を吐き出した紫闇がレックスの方を向いて息を整えていく。


「貴方のように特別な魔晄操作をしているというわけでは有りません。私はただの『修練』で体を鍛えることによって独立型の魔術師が出せる身体機能の限界を超えました。これによって貴方に近い動きが出来ます」


その言葉には闘志が(こも)っていた。


「つまり、このレックス・ディヴァイザーはまだ立華紫闇とクリス・ネバーエンドの両名を殺せるということ。体術の心得も有りますし、そう簡単には終わりません」


耳に入る宣言にクリスは(たぎ)る。

危うく自分が戦いそうになるほど。


(でもそれは駄目。レックスはシアンに任せたんだから。私は紫闇(あいつ)のことを信じて後ろに下がって居れば良い)


一方の紫闇も滾っていた。

熱望、戦意、友愛、憎悪、期待、憧憬といったあらゆる感情が湧き上がり、紫闇の心を満たして爆発しそうになる。

座り込んで腰を下ろしていた紫闇は躍動して跳び跳ね本能のまま、盛りが付いた獣のようにレックスを見定め走駆。


(最高だなこいつ!)


紫闇にとってのレックスとは闘わずには居られない程の好敵手であり、己が目標としている大英雄《朱衝義人/あかつきよしと》とは違う意味で尊敬できる存在。

そんな相手が自分に集中して神経を注ぎ、全身全霊を懸けて来ているのだから堪らないことこの上なしと言って良いだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(流石は立華紫闇(たちばなしあん)ですね。そうこなくては。でなければクリスと、私の最愛と天秤に掛ける価値が無いというもの)


レックスは急激に迫る紫闇に対して再びカウンターを仕掛けるが今度は紫闇が狙ったように自分の頭を攻撃に合わせた。

衝突音が鳴り嫌な音が鳴る。


(どうだレックス?)


カウンターにカウンター。

紫闇はレックスの拳を額/ひたいで受けることで手の骨を折ってやったのだ。

恐らく指の骨は砕けている。


(駄目ですね。まともに使えない)


レックスは左手にそう判断した。

しかし彼も紫闇も解っている。

それが『まともな人間』の思考だと。

だが二人の精神は『鬼』だ。

『人』ではない。

使えない左手でも使う。

そんな時も有る。

それが必要なら躊躇しない。

彼等はそういう生き物だから。


(まあ今はその場面じゃないけど)


紫闇は更に近付く。

そのまま掴もうとした。

しかしレックスの右足が上昇。

紫闇の股間に直撃。

まともなら失神したり死ぬかもしれないが今の狂気に染まっている紫闇にとっては普通の痛みは効かず、効く痛みは快楽に過ぎない。


「Foooooッ!!! 良いね! Coolに響く痛みだッ! よくやったッ!!」


痩せ我慢では無かった。

涙も(にじ)ませず顔も歪ませず汗も掻かずにレックスの行為を賞賛する紫闇は嬉しそうに笑いながら右の拳を黄金に包む。

そのまま【禍孔雀(かくじゃく)】を顔面にブチ込み爆発させて結界の壁にまで吹き飛ばす。

レックスの付けた仮面に亀裂。

一部が剥がれ落ちる。

露/あらわになった仮面の奥に有る右目は紫闇を睨み付けており、視線に乗った殺意だけで人を殺せそうだ。

しかし紫闇は気にしない。

地面に転がったレックスに覆い被さりマウントポジションを取る。


「さあて寝技の時間だ。黒鋼流体術を学んだ俺にあんたが何処までやれるか、今までどれだけ体術をやり込んで来たのか見せてくれ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Get it back

 
前書き
_〆(。。) 

 
レックスと紫闇が急所を狙い合う寝技を繰り広げている姿を見ている者達。

その中に【龍帝学園】の生徒会長《島崎向子/しまざきこうこ》と【刻名館学園】の生徒会長《矢田狂伯/やだきょうはく》が居た。


「いや~予想外だったわ~。元から強くするつもりだったけど、まさかクリスちゃんがあんなに強くなるとはねぇ。十中八九、レイア君が『改造』したんだろうけど手間が省けたわー」

「向子さんのプランでは容赦なかったですからね。レイア君が手を加えてなきゃクリスちゃんが死ぬ可能性、『大』だったでしょ」


実を言うと今日の【日英親善試合】にテロリストの[人類保全連合(HCA)]が乱入し、そこにイギリスの刺客まで混ざっていたのは向子の仕業だ。


「開催地が日本だったし彼等がここまで大掛かりな騒動を起こそうと思えば日本の権力者が協力しなけりゃ無理ですもんね」


もちろん狂伯もプランに一枚噛んでいるが、本命は《立華紫闇》の強化であり、《クリス・ネバーエンド》の強化はついでにするつもりだった。


「このまま立華君と関わり続けるつもりならクリスちゃんには強くなってもらう必要が有る。先のことを思えばね。だから今回はエリザちゃんに対するトラウマを克服してもらうプランも立ててたんだ。レイア君のお陰で仕事減ったのはラッキーだよねホント」


後は紫闇がレックスに勝ちさえすれば向子の思い通りに事が進むので次の育成プランを考えておかねばならない。


「俺達にとっては立華君が力を制御できるようになってくれれば有り難いけど、途中で潰れたり死んだりしても特に問題ないからなあ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


馬乗りになった紫闇がレックスの右腕関節を取りに行くがあっさり往なされる。

足を首に絡めて三角絞めを狙うも動きを読まれて回避されてしまう。


(間違いない。レックスは寝技や関節技の受け方・抜け方を熟知してる。それに返しでこっちの左足を極めに来やがった)


上手くて強い。

しかしそれだけでは足りない。

だがレックスは鬼。

ゾクゾクするほど楽しめる。

ルールに縛られた試合では有り得ないほど急所を狙った攻防に当然の如く人体破壊のリスクが常に付きまとうワクワクな展開。


「大人しく死にましょうか?」


レックスは自分がマウントを取ろうと体を動かすが紫闇は主導権を渡す気が無かった。


(立ち技だけじゃない。黒鋼で死ぬほど寝技の修業をやってきてるんだよ)


体術の専門である黒鋼で鍛えられた紫闇に対抗できる信じられない男がレックス。


「けど体術(こっち)では負けらんねぇんだわ」


紫闇はレックスの両腕を掴み取って組み伏せると更にマウントの圧を上げる。

そして大きく口を開く。


噛み付き(バイティング)ですか)


レックスの首を狙う紫闇の口。

しかしレックスは慌てない。

口から針を吹き出す。

紫闇は思わず反射で躱した。

回避が元で拘束が緩んだレックスは軟体動物のようにすり抜け紫闇と同時に立つ。

そこからは打撃の応酬。

更に口論も並行した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「自分の限界を決め付けてんじゃねぇ! たかだか一回心が折れただけで立ち止まりやがって! この根性無しがぁッ!」

「黙りなさい夢想家」


レックスは苦い顔をする。


「そもそも折れた理由が下らない。命乞いしたからどうした? そんなんで自分に失望してたらきり無えよ。自分の可能性を見限んなッ!」


レックスは紫闇の言葉を止めようとボディーに向かって痛烈な打撃を打ち込む。


「黙れと言っている……」


紫闇は思わず胃液が口へ昇ってきそうになるのを堪/こらえて叫ぶ。


「死んだ母親が今のあんたを見たらどう思うかねぇッ! 良い反応は貰えないだろうよッ! あんたは死んだ母親に顔向け───」


レックスはキレた(・・・)

彼の攻撃が激しくなる。


「お前に何が解る! 母を奪われたッ! 抗っても意味が無かったッ! 貴様に私の絶望を理解できてたまるものかッ!」


何もかも諦めたレックス。

それを否定する紫闇。

言葉だけでは伝えきれず理解できないことが有るから身をぶつけ合って戦う。


「諦めを否定して自分を信じ抜き! 前に進む意志を持ち続けることが出来たのならばッ!! 人は何処までも進めるッッ!!!」


紫闇はレックスが再びクリスとエリザから認められた頃に戻れると信じていた。


「世界はそんな風に出来ていないッ! 全ては運命によって決まっているッ!! どんなに足掻いても変えられないものが有るんですッ!!!」


両者共に引かない。

譲る気は全く無いのだ。

自分を力で押し通し、相手を捻じ曲げる。

そんな想いが原動力となって互いの望む結末を迎える為に今の彼等を動かしていた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Wake Up

 
前書き
_〆(。。) 

 
親善試合に乱入したテロリストの粗方を始末し終えた3名が《レックス・ディヴァイザー》と《立華紫闇》の戦う会場に駆け付ける。

龍帝の1年生で紫闇の幼馴染み《的場聖持(まとばせいじ)》と副会長で3年生の《春日桜花/かすがおうか》、日本に亡命してきたイギリスの【魔神】《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》だ。


「レックスは今頃混乱してるだろうな」


イリアスは幼馴染みの姿を眺めながら複雑な表情で今後のことを考えている。

一度向こう(イギリス)へ帰らねばならないと。


「そろそろ終わりそうだね」


桜花はレックスの心情を見透かす。

彼はわざと負けようとしていると。


「攻撃を食らってやるつもりか。その後は目の前で自害でもするかな? 紫闇に心の傷を残すならそういう方法で来る可能性が有る」


しかし聖持は思う。

そう簡単には死ねない。

鍵を握るのは。

目を向けたのはレックスが最も執着している《クリス・ネバーエンド》


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「馬鹿なこと考えてんじゃないわよッ!」


クリスの叫びがレックスの耳に入ると負けるつもりだった彼の体は咄嗟(とっさ)に紫闇の攻撃を回避し反撃してしまう。


(何をしてるんだ私は)


しかしそれよりも重要なことが有った。

レックスの意図を読んだのだろうクリスが自分に対して声を挙げたことだ。

負けた方が良いはずなのに。


「レックスが私を襲ったのは何でか、どういうつもりだったのか。色々事情は有るんでしょうがそんなことはどうだって良いッ!!」


彼女にとって自分が命を狙ったことはちっぽけなことだと言いたいのだろうか。


「そんなわけがないでしょうッ! どうやっても償えないですよッ! 貴女が死んでいないだけで取り返しのつかないことの筈だッ!」

「だから死ぬつもりだった? ふざけんな! あんたの積み重ねた努力はそんなざまになる為だったとでもッ!?」


レックスが頑張ってきた理由。

それは強くなり、周りの人間に自身のことを認めてもらいたかったから。


(しかし何よりも貴女(クリス)と───)


おかしい。自分の意に反して体が動く。紫闇に対して積極的に攻撃を仕掛けていく。

負けて死ぬ。

そのつもりだったはず。

まさかクリスの影響か。

しかしもう遅い。

今の自分(レックス)には───


「そんな資格は無いって? 安心なさい。全て許すし忘れる。でもあんたが積み重ねてきた努力と貫いてきた想いをあんたが裏切ることは許さないッッ!!」


かつてのレックスが地獄のような修練を己に課し、乗り越えられた理由それは。


「最後まで私の隣を歩きなさい、歩き続けるのよッ! いや、歩き続けろレックス・ディヴァイザァァァァァァァァァッッッッ!!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(ああそうか……。そうだった……。私が努力した一番の理由はクリスと肩を並べて歩き、共に進みたかったからだ……)


心に熱が生まれ体に力が漲る。

かつてのことを思い出す。


(クリスが褒めてくれれば苦痛なんか全て吹き飛んでいった。私が初めて試合で勝てた時は最高だった。泣いて喜んでくれたんだ。まるで我が事のように)


レックスは師に言われた。

人は[強さ]を求めていくと何時かは必ず道を踏み外してしまう。

そして『人』から『鬼』になると。

しかしレックスはそれを選んだ。

他に方法が無かったから。

例え人では無くなってしまうとしても辿り着きたい場所が在り、欲しいものが有った。


(クリスと対等になりたかった。彼女に相応しい男に。でももう後戻りすることは)

クリス(あいつ)の想いや俺の想いがまだ解かんねぇのか!? 俺達が許せないことが有るのなら今みたいな生き方をしてることだッ!! 早いとこ戻ってきやがれッ!!!」


紫闇はレックスが好きでしょうがない。本気で殺されても良いと思っている。

レックスが納得するというのならとことん、それこそ死ぬまで自分が付き合ってやるという想いを抱いているのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レックスは戻っていた。

あの頃の熱さが。

紫闇とクリスの熱に当てられたせいで心身ともに滾っている。

もう負けるつもりなど無い。

そんなことは頭から消えていた。

諦念や己への失望。

それらレックスの歩みを止めていたものは情熱で燃え上がり灰と化していく。


(こいつには、この男には、立華紫闇だけには負けたくない……!!)


レックスから久しく遠退(とおの)いていた勝利への執念と渇望が息を吹き返す。

勝ちたいのだ。

クリスの弟分で在る為に。

何より純粋に闘技者として思う。

この凄まじい好敵手を倒したいと。


(敗北する運命だとしても今回だけは諦めたくない。諦められない。そんなことを出来はしない。紫闇(あなた)が相手だから)

「絶対に……勝つッ!!」


レックスが帰ってきた。

凡才しか持たず、最弱の異能を抱え、自分の外装すら満足に扱えなかった落ちこぼれ。

そんな状態から諦念を()じ伏せ、地獄を乗り越え、数多の敵を倒し、大英帝国で魔神に次ぐ国内最強の地位にまで登り詰めた不屈の魔術師が。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

執念

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇はひたすら自身と格闘しているレックスに対して感嘆としていた。


(すげぇ……)


レックス本人から聞いている。

普遍的な魔術師より体術を学んだと。


(冗談じゃねぇ)


謙遜するレベルではない。

紫闇は黒鋼の組み手で骨折や内臓破裂など、一定以上のダメージを受けると即座に回復させられながら延々と体術漬けの日々を繰り返してきた。

それを乗り越え並み居る魔術師達に体術をベースにした戦い方で圧倒できる体術の専門家と化した紫闇とまともに張り合えるのがレックスだ。

レックスは【特質型】ではあるが、【独立型】の性質を有しているため身体強化は不向きの魔術師でありながら、黒鋼のような【練氣術】も無しで紫闇と対等。

どれだけ努力を重ねたのか。

どれだけ修練を積んだのか。


(頭が下がる思いだ)


もうすぐ決着が付く。両者がそれを解っている。外から見るクリスや向子、狂伯も同じくそれを察していた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レックスが大振りのストレートパンチ。

彼の性格なら先ずやらない。

フォームが乱れている。


(レックスの奴、誘ってんのか? それとも息切れして雑になってきたか? 通常のコイツなら間違いなく『釣り』だが)


紫闇は一瞬迷った。

が、直後に腹を決める。

師である《黒鋼焔》とその祖父《黒鋼弥以覇》から教わったことを実戦する為に。


『危険を恐れて逃げるより、それを楽しむ為に飛び込んでいけ。黒鋼は生まれながらに鬼の気質を持つ一族であり根っからの闘技者。その弟子として認められた者も然り。[勝ち]は重視するけど[負け]を許さないわけじゃない。安心して楽しんでいけ』


紫闇はストレートパンチを回避。

レックスの腕に自分の腕を絡ませる。


「黒鋼流体術・喰牙(くうが)


骨がへし折られた。

更に地面へ引き倒す。

止めに後頭部へ踵落とし。


「駄目ですかね。これは……。悔しいな。この結果を予想していたのは私自身であると自負していたんですが……」


レックスは歯軋りした。


「立華紫闇。私は貴方に嫉妬していた。貴方が戦っている所を見て確信したんです。貴方には『運命』を変える力が有ると」


なぜ紫闇なのか。

なぜ自分(レックス)ではないのか。

同じような生き方をしたはずなのに。



「貴方みたいになりたかった」


レックスが魔晄(まこう)防壁を消す。

紫闇も防壁を消した。


(油断しましたね)


レックスの上半身が起きる。

紫闇の虚を突いて。

左腕が跳ねた。

袖から拳銃が飛び出す。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔術師は素の治癒力こそ普通の人間より高いが魔晄による防壁や身体強化が無ければ肉体は一般人と変わらない程度の防御力しかない。

レックスの奇襲したタイミングはと言うと、時間が足りないので再び魔晄防壁を纏うことが不可能と言って良いものである。

しかし別に受ける必要は無い。

紫闇は弾丸が発射される前に銃口の前から移動して難なく弾丸を外させレックスの左手に有る拳銃を蹴り弾く。


「信じてたよレックス。あんたは本質的に俺と同じだ。勝敗が確定するその時まで絶対に諦めないってね。だから対応できたのさ」


紫闇には確信が有った。

レックスは今も自分を殺そうと考えている上に、まだ打つ手が残っているのではないかと。そしてその手を必ず決める策を練り続けている。


「あんたは俺よりも凄い。俺より上の存在になれる。貴族の運命から解放されて、【古代旧神(エルダーワン)】の支配から抜け出せるだろうよ」


紫闇は本気で思う。

この男は自身と戦っている最中に一度として絶望する気配が無かった。

しかし紫闇は違う。

彼の心は何度も折れかかったのだ。

レックスは紫闇を倒すという一念を持ち続けたまま最後まで頭を働かせていたのだから天晴れというしかない。

本当に『負けるはずが無い』、『絶対に勝つ』といった思想が他の思考を凌駕していなければ出来ないことだ。


「俺は諦念を受け入れない強い気持ちこそが運命を変える力なんだと思うし信じている。だから、あんたにはやり直してほしい」


レックスは体を震わせ空を見上げた。

一筋の涙を流しながら。
 
 

 
後書き
第二部もあと少しで終わりです。
_〆(。。) 

 

事の顛末

 
前書き
やっと原作の半分が終了。
_〆(。。) 

 
《レックス・ディヴァイザー》が敗北したことにより、イギリスの《クリス・ネバーエンド》暗殺は失敗に終わった。

彼の所属するイギリスは刺客であり自国の首脳を暗殺することに成功したレックスを連れ帰ろうと彼の元に駆け付ける。

しかし《矢田狂伯(やだきょうはく)》によってイギリスからの迎えは壊滅し、レックスはそのまま日本に残ることとなった。

そして今回の出来事による交渉が日本とイギリスの間で行われたのだが【日英親善試合】の開催地であるにも関わらず日本は何の要求もされず、何一つとして責任を負うこと無く交渉を纏めることに成功。

両国ともに【HCA/人類保全連合】のテロということで決着を見る。

イギリスの立てた本来の計画では日本に責任を取らせ資金や人財を提供させるつもりだったのだがそうはならなかった。

こうなった背景には《島崎向子》が暗躍し、今回の事案がイギリスの仕業であるということを突き止めて証拠を手に入れたということが有るのだが、事件はこれで終わらない。

日本の方は幕引きされたがイギリスの方では数日後に国を引っ繰り返すような『人災』が発生してしまう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ちょっとイギリス行ってくる」


イギリスから亡命していた【魔神】《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》はそう言い残し、何年か振りの故郷へと旅立っていった。

わざわざ幼馴染みのクリスと彼女の姉《エリザ・ネバーエンド》の許可を貰い、レックスにも了承を受けてからのことだがそれには理由が有る。

イギリスへ極秘裏に帰国したイリアスはクリス達の両親である貴族ネバーエンド夫妻が治める領地を住んでいた人間ごと消し去ったのだ。

エリザは貴族の役目や領地の人間を大切にしていたがクリスの暗殺に対して祖国に失望したことで全てをイリアスに任せたので特に何の感想も無い。

ネバーエンドのデータ化できる資金的な財産は裏から手を回して日本に居るクリス達の手元に渡っているので後の生活は心配ないだろう。

そしてレックスの父を保護して日本まで連れてくることで安全を確保しイギリスの統治下から完全解放することに成功する。


「ここまでは想定内だったんだけどねぇ。まさか彼があそこまでやるとは流石の私も想像がつかなかったよ」


向子はイリアスと一緒にイギリスへ行ったので彼が何を目的にしていたのか知っている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


イリアスがイギリスに戻った最大の理由とはレックスの母が死ぬ要因となり、レックスの心をへし折った自国の【古代旧神(エルダーワン)】を殺すことだ。

イリアスが日本に亡命することにした理由もレックスの母が死んだことによるものなので、恨み骨髄、一日千秋の想いでこの時を待っていたのである。

かつては良心が働いて関係の無い人間を巻き添えにすることを避けたが今回は一切の考慮をせず本気で決着を狙っていた。

そしてその結果イリアスは首都ロンドンと共に古代旧神を完全消滅させることに成功する。

当時ロンドンに居た住人に加えて合計1000万人以上存在していた首都圏を塵の一つも残さず黒い虚空に呑み込み彼方の亡囚とした。

ネバーエンドの領地と同様に底すら見えぬ深底遠望の暗がりが広がる奈落と化した大地に世界は震撼し、真実を知るイギリスの上層部はイリアスと彼の周囲に居る人間に対して手を出さない誓約を結ぶ。

これによって何とかイリアスの怒りを鎮めてもらったが、古代旧神を失ったイギリスの社会的地位や影響力が極端に落ちることは避けられないのでこの先は凋落の一途を辿るのみだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「面の皮が厚いイギリス(あちらさん)も相当に懲りたみたいだからね。古代旧神の加護を失ってもやっていけてる日本と違ってこれからは外交で相当に苦労することになるよ」


向子にとっては想定していた以上に素晴らしい結果になったので今後は海外勢を相手取っても動き易くなるだろう。

最優先にしていた《立華紫闇(たちばなしあん)》の成長も達成できているのでこれ以上を望むべくもない。


「さあーて。後は江神(こうがみ)君と翔君のどっちが勝ったのかを聞いたらこの一件は片が付くねぇ。またプランを練らなくちゃいけないけど」


そう、紫闇はまだ完成していない。

早く及第点に達する実力を身に付けてもらわなければならないのだ。


「んーにしても、レイア君から報告を受けた時はあたしも驚いたよ。一体どれ程の存在が宿ってるんだか」


神が参る者(イレギュラーワン)】である紫闇は古代旧神や【旧支配者/オールドワン】といった[上位存在]と融合し、互いの力を高め合っている稀有な人間だ。

彼は《永遠(とわ)レイア》によって『改造』を施され、【魔術師】の武器であり『魂』そのものの【魔晄外装(まこうがいそう)】を強化されている。

レイアはその改造をしている時に紫闇と混ざっている上位存在を感じ取った。

その強大さを。


弥以覇(やいば)さんが言った上位存在は神が参る者に一段劣るという内容は間違っていないのかもしれないが、これはあまりにも───)


神が参る者が有している力は融合した上位存在に寄るのだが、レイアですら二の句を継げぬ程に巫山戯(ふざけ)たそれ。

間違いなく紫闇の憧れ大英雄《朱衝義人/あかつきよしと》と彼を含む世界最強の魔術師だった七人【マジェスティック】の内6人を道連れにした《ナイアー=ラトテップ》を上回っている。

【邪神大戦】が終結した後に残った古代旧神を全て合わせても敵いそうに無い。


「最悪の事態を考えないといけないな。割りと本格的にどうしようも無いことになりかねない存在みたいだから……」


レイアと向子は唸りを上げて首を捻り、頭を悩ませながら対策を考えていた。
 
 

 
後書き
第二部が終わりました。

このペースだと今年で完結できない。 

 

新たなり

 
前書き
昨日はクリスの設定書いてました。

紫闇の設定が書いてある近くに有ります。 

 
6月の末。

夏期龍帝祭の一回戦。

彼は大会に全てを賭けていた。

戦ったのは実戦訓練の授業で叩きのめした相手だが予選を見る限り別人のよう。

髪も黒から白になっていた。

再戦は瞬く間に終わる。

僅か12秒。

顔面への一発で幕を下ろす。

目が覚めたのは医務室。


「お兄ちゃんッ!」


勢い良くドアが開く。

駆け込んできたのは妹。

その声には焦りが混ざる。

強烈な悪寒に少年は察した。


「ちょっと失礼」


そこにもう一つの声。

見ると一人の青年。


「君のお母さんは無事だ。安心してくれ。俺は君に話が有って来たんだよ。《佐々木青獅/ささきあおし》君」


青年の言葉に青獅が驚く。

彼が有名人だったから。


「《矢田狂伯(やだきょうはく)》……さん?」


【刻名館学園】の4年生で生徒会長。

元・龍帝学園の生徒でもあり世界的な実力を持つ【魔術師】が何の用だろうか。

中学卒業を前にしてやっと【魔晄(まこう)】が宿って魔術師となり、3年間ずっとパシりをさせられていたような青獅に。


「君の力を貸してくれ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


母の病室に集まった青獅・青獅の妹・狂伯の3人は眠っている青獅の母を見ている。


「狂伯さん……の条件を、飲みます」


妹は悲しい顔をしているが狂伯は意地の悪い顔で不気味に笑った。


「よし、これで交渉成立だ。お母さんの治療に掛かるお金は全て此方(こちら)で持つし、行きたい病院が有るなら移してあげるよ」


青獅が狂伯に課せられた条件とは試合で負けても良いから強くなることだ。

師匠は用意してあるらしい。

かなり問題の有る育て方らしいが乗り越えれば間違い無く強くなれるとのことなので不安ながら任せることにした。

場所を移した狂伯と青獅に会った師匠となる人物は青獅のことを評価する。


「闘才は皆無。が、得難きもん持っちょる」


師になったのは老人男性。

腰は曲がらず背筋は真っ直ぐ。

頭は完全に禿頭(とくとう)

顎には立派な髭。

まるで仙人のような風貌。


()の名は《流永/りゅうえい》。またの名を二十六代目《九月院瞬崩/くげついんしゅんほう》と言う。儂がお()を今よりも強うしたるから着いてこい(つってこい)

「妹さんの生活費も必要なだけ出すし、安心して行ってくれたら良い。気になるなら様子を見に来ても構わないから」


狂伯は青獅の背中を押す。


「手続き、はどうすれば……」

「こっちでやっとくよ。佐々木君は龍帝から刻名館に移って思う存分、九月院さんの元で修業に励んだら良い」


流永が言葉を投げ掛ける。


「佐々木青獅よ。お()は気付いとらんが、特別(まんべ)な才覚ば持っちょる。それを()が伸ばす。そっから先はお()次第よ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


相手は初対面。

いきなりそんなことを言われても信用しろと言う方が無茶で有ろう。

しかし青獅にとっては福音。

母や妹のことを気にせずひたすら修業して強くなることだけに集中する事が出来るチャンス。


「強うなりたいなら黙って(もんじて)着いてこい。この流永がまげんに(べらぼうに)強うしたるわ」


青獅は思った。

自分も変われるかもしれない。

《立華紫闇》のように。

諦めなくても良いのだろうか。

なら強くなろう。

誰よりも強く。


この出逢いが有った翌日から佐々木青獅は龍帝学園から姿を消す。

それから二ヶ月。

刻名館学園で怪物に変貌したもう一人の落ちこぼれが誕生した。
 
 

 
後書き
第一部で出てきた青獅君です。

原作見た時も驚きました。

再登場しないと思ってたんで。

原作だと青獅の母は青獅が夏期龍帝祭で紫闇に負けた日に死んでます。
_〆(。。) 

 

Slump

 
前書き
_〆(。。) 

 
時刻は午後9時辺り。

ここは【魔獣領域】

上空には白い物体が有る。

1m四方の立方体だ。

六つの面全てに金色の瞳が描かれている。

これが有るということはとある舞台であるということを意味していた。

学生魔術師の戦う【天覧武踊(てんらんぶよう)

今回は魔術学園の内部で行われるランキング戦や大会の試合ではない。

金儲けの興業試合だ。

6チームによるサバイバルであり、その中には【龍帝学園】も有る。


参加しているメンバーは

《立華紫闇/たちばなしあん》

《クリス・ネバーエンド》

《橘花翔/たちばなしょう》

《エンド・プロヴィデンス》

《島崎向子/しまざきこうこ》

この五名だ。


彼等は現在戦闘中。

休んでいる最中にいきなり奇襲を受けた。

紫闇はエンドの制止を無視して攻撃の来た方に突っ込んで行ってしまう。

幼馴染みの声を振り切ってまで敵の居る場所に向かったのは訳が有った。


(俺達の強さを知るなら当然だろ)


紫闇達は日英親善試合に勝利したことで学園ごと注目されてしまっている。

正面戦闘を避けるのは当然と言えよう。


(安全圏を出て身を(さら)すからこそ必死になるし、闘技者としての成長が有る)


紫闇はそう思っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇の体が銀色の【魔晄(まこう)】で作った防壁に包まれ右腕が黒い装甲に覆われる。


「行くか」


走りながら【音隼(おとはや)】を使う。

背中から魔晄の粒子が噴き出し一対の翼を形成すると爆発的な加速で敵に接近。

樹上に居る相手は一人。

紫闇を見下ろしながら青い弓を構えて今にも矢を放たんとしていた。

狙いを付けていた弓からラインを引いたかのように青白い光の矢が飛ぶ。

しかし紫闇は矢を掴み折る。

そして跳躍し音隼で飛行。

これが敵の狙いだった。


「アロー・フィールドッ!」


敵に一撃を入れようとした紫闇の耳に相手の声が届いた途端、無数の矢が飛来。


(【異能】か)


紫闇が避けられないよう全方位から迫る光の矢は人間の這い出る隙間が皆無。

しかし紫闇は慌てない。


「【盾梟(たてさら)丸魔(がんま)】」


ただでさえ通常より強化された魔晄防壁の盾梟を球状に膨らませて全ての矢を弾く。


(あれだけの数でやってこれか……)


紫闇は退屈で溜め息。こいつでは足りない。そう思いながら拳を握る。

すると相手の水月(みぞおち)付近が光った。しかし紫闇はそれを無視。鼻っ柱に拳を決める。

綺麗に吹っ飛んで致命傷。

地面に落ちた相手の左手から【古神旧印/エルダーサイン】が光になって紫闇の左手へと吸い込まれていった。


「一体何なんだろうな」


相手の一部が光って見える。

この現象は何度も有った。

親善試合が終わった後からだ。


「勘になるけどもう一人の俺とか大きい門とかと関係無さそうだし、特に嫌な感じとかもしないし放っといて大丈夫だろ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今夜で決着しそうだな」


紫闇の心が曇る。


(足りない。全然だ)


《レックス・ディヴァイザー》のように自分を高みに引き上げてくれる相手はそうそう居ないことくらい解っている。

もう普通の相手に満足することが出来ない。

そんな基準に達した相手との戦闘経験が無ければ成長できないと感じていた。


(人間じゃなくても良い。【魔獣】でも良いから相手になってくれ)


親善試合以降は強くなれていない。スランプに陥ったのだろう。これを脱するには好敵手。だが国内には居なさそうだ。

紫闇より強ければ良いのなら何人も居るが、差が開き過ぎて勝負以前の問題。


「対象外だな」


橘花翔もまともに戦えば圧倒される実力者だということは解っているが、彼は上手く紫闇に合わせてくれる器用さが有る。


「そんな橘花でも江神に負けたって言うんだから【魔神】までの道程は遠いぜほんと……。お、みんな来たみたいだな」


後ろから紫闇に遅れて龍帝のチームが他校のチームを撃破して駆け付けてきた。


「何で一人で行ったんだ?」


エンドは眉に皺を寄せながら怒気を洩らす。


「好敵手と窮地が無いなら強くなれないからな。良い相手が欲しいもんだ」


エンドが顔を険しくして睨む。


(エンドの気持ちが解らないわけじゃない。たぶん聖持もそうだろうし)


心配させているのは百も承知。

それでも紫闇は強くなりたかった。

《黒鋼焔》や《江神春斗》に追い付くくらい。
 
 

 
後書き
原作でも有った鳩尾(みぞおち)の辺りが光って見えるのは先の展開の伏線でした。
_〆(。。) 

 

食えない奴

 
前書き
_〆(。。) 

 
試合で勝った龍帝学園のメンバーはそのまま帰っていくが、紫闇とクリスの二人は黒鋼の屋敷に立ち寄っていた。

テレビを見ている最中だ。


『本日から【領域内戦争】が始まる! 今年の注目は関東領域の龍帝学園でしょう。【日英親善試合】を制した彼等が【全領戦】の出場権を得るのか? 今年は関東が話題と波乱の中心になりそうですね』


何処もかしこも領域内戦争と全領戦に関しての番組しかやってない。

それもまあ仕方ないだろう。

日本の【魔術師】にとっても一般人にとっても国内で最大の天覧武踊なのだから。


────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


領域内戦争。

日本に在る8つの領域

北海道/東北/関東/中部

近畿/中国/四国/九州

その各領域に存在する魔術学園同士で行われる特別な戦いのことだ。

勝ち抜いた学園が全領戦に出られる。

全領戦は日本一の魔術学園を決める超ビッグイベントであり、普通の学生魔術師はここで優勝することを目指す。


────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「へー、なかなかだね」

「そうね、本当に」

「それ以上でも以下でもない」


黒鋼焔、クリス・ネバーエンド、立華紫闇は紹介される選手達を見てそう結論付けた。

全国の強豪校に居る注目株。

特にエース級の面構えやオーラは強者とされるに相応しいと言って良いだろう。

だが紫闇には物足りなかった。

《橘花翔》や《江神春斗(こうがみはると)》は当然として、《レックス・ディヴァイザー》と比較しても二段は劣っている。

そこで紫闇はふと思い出す。


(確か【刻名館】に転校したって聞いたけど、『あいつ』はどうしてんのかな。不良が多いし校風も合ってないと思うんだが)


脳裏に浮かぶのは龍帝で初めて戦った相手であり、紫闇を打ち負かして心を折った小学生にも見える小柄で根性の有る男子。


「気にしてもしょうがないか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


次の日、龍帝学園生徒会長の《島崎向子》から組み合わせの連絡が入る。


「試合は2日後。メンバーはあたし、立華君、的場君、クリスちゃん、エンド君」


相手は埼玉の【風天学園】

しかし向子と紫闇の幼馴染み《的場聖持/まとばせいじ》には、対戦相手よりもっと気になっていることが有った。

刻名館学園。

というよりその生徒会長。

矢田狂伯(やだきょうはく)》のことだ。

同じ関東領域なので彼も敵。

何処の魔術学園でも最強の学生魔術師は生徒会長だというのが当たり前。

聖持は溜め息を吐く。


「強いのはしってる。けどそこまで警戒するような存在なのか? 俺は兎も角として、聖持や会長までもが」


紫闇の疑問に答える聖持が言うところ、面倒臭い人物であり、向子が嫌がるくらい暗躍するので正面から戦った方がマシなのだという。

エンドとクリスは疲れた顔をした。


「あたしのことは置いといて狂伯君のことだもん。戦う前から仕掛けてくるよ。他校と一緒に龍帝を叩くくらいは。やっぱり彼が龍帝から転校したのは惜しかったね~」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「もしもし狂伯くーん。さっきまで君のことを話してたところなんだけど~」

「そーなんです?」

「君が何か企んでるんだろうけど出来れば止めてほしいんだよね~」

「え~? やだよそんなの。せっかく向子さんと戦れる機会なんだし。まあそんなわけで、宣戦布告させてもらうから」


狂伯の言葉に向子が笑う。

見た者が震え上がるような顔で。


「まああたしと狂伯君がガチでバトるなんて珍しいことだしね。けど、この大会も『プラン』に入ってることを忘れちゃ駄目だぞ?」


立華紫闇を強化して【神が参る者/イレギュラーワン】として成長させる。

今回は魔神を除いてイギリスで最強だったレックス・ディヴァイザーよりも上の敵と戦わせなければならないので大変だ。


「そこは割り切ってる。ちゃんと人材を探して仕上げといたから大丈夫」

「信用できるような出来ないような」

「だからこそ面白い。でしょ?」


食えない奴だ。

そう思う向子。

だが悪い気はしなかった。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

九月院

 
前書き
_〆(。。) 

 
《島崎向子》が《矢田狂伯(やだきょうはく)》に宣戦布告された次の日の放課後。

《立華紫闇》は《クリス・ネバーエンド》、幼馴染みの《的場聖持》と下校していた。

その途中、人通りが多い街中でガラの悪い連中に囲まれている女の子の姿が目に入る。


(中1が中2くらいか?)


クリスより背が低い。

たぶん150㎝辺り。

ツインテールの黒髪が目立つ。


「小動物って感じね」

「可愛い系だな」


どうやらクリスと聖持も紫闇と同じような感想を少女に抱いたらしい。


「行くの?」


聖持の問いに紫闇がニヤリとした。


「囲んでる刻名館の連中に見覚えが有るんだよ。俺をボッコボコにしてくれた奴等だ。悪縁はここで断ち切っとかなきゃな」


紫闇は逃げる間を与えない為に不意打ちで襲い掛かると少女を囲んでいた刻名館の連中を徹底的に叩いていく。

心が折れる程に。


「これは再起不能じゃないかしら。もう魔術師としては無理でしょ。体が治っても心が応えてくれないと思う」


クリスは苦笑いしている。


「あ、ありがとうございます」

「何もされてないか?」

「良かったら送るけど」

「いえ、大丈夫です」


少女は紫闇達に礼を言うと、何処か逃げるようにして去っていく。


(あれが『彼奴(あいつ)』の妹か……)


似ていない。

今の彼奴とは兄妹に思えないほど性格がかけ離れており、血の繋がりが有ることを疑わしく思ってしまう。


「聖持、あの娘が気になってたりする? お前が女の子を、しかも特定の人物をじっと眺めるなんて珍しいぞ」


紫闇に的外れなことを指摘された聖持は思わず鼻で笑ってしまう。


「別に気にしてないって。特に気にするような子じゃないし、一般人ならもう会わない可能性の方が高いだろ」


そう言い放つ聖持だが内心は近い内に再会することになるかもしれないと思っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【領域内戦争】

これは毎年形式を変えている。

今年は市街地や魔獣領域などを舞台として利用した【5対5】のチーム戦。

紫闇は黒鋼の屋敷で夕飯を食べつつ一回戦を観戦していたのだがこれと言って感想は無かった。


「興味を持てないみたいだね」


師匠の一人であり、龍帝学園の2年生《黒鋼焔/くろがねほむら》の言葉に頷く。

紫闇が望むような強敵。

そんな者は一人も居なかった。


「市街地戦をするのに専用のバトルエリアを作るなんて、日本人は本当に【天覧武踊/てんらんぶよう】が好きよね。土地と管理コストの無駄でしょ」


クリスの国イギリスには【邪神大戦】の遺物と化した廃墟街が幾つも有り、そこで市街地戦を行う。

日本は学園領域内の特定学区で行うが、そこは基本的に立ち入り禁止となっている。

わざわざ市街地戦をする為だけにだだっ広い土地を用意するのは狭い日本だと文句を言われても仕方ない。


「次の試合には期待してるんだけどな。何せあそこにはあの人が居るし」


刻名館学園の生徒会長《矢田狂伯》

今の関東領域で龍帝学園以外の学生魔術師が紫闇を満足させられるとしたら、恐らく彼しか居ないだろう。

しかし彼は居なかった。

どうやら一回戦では出ないようだ。

紫闇は肩を落とす。

だが相手チーム5人と1人で対峙する刻名館の生徒を見て姿勢を正した。

自分と同じ総白髪の男子。

190㎝は有ろう身長に野獣めいた風貌から覗く鋭い瞳は迫力たっぷり。

にこりともしない真一文字の口と後ろに流れる獅子の鬣が如く逆立った髪。

1人で相手チームの全員を前にしているにも係わらず仲間の元へ逃げようなどという雰囲気は微塵も感じられない態度。


(こいつは強い。間違いなく。もしかしたらレックスよりも)


白髪の男子が魔晄防壁を纏い、装紋陣/サークルから魔晄外装を取り出す。

蒼穹の()と黄金の穂先の槍。


(何処かで……)


紫闇は男子の槍に見覚えが有るような気がしたが思い出すことが出来ない。

白髪の男子が動く。

右足を前に。

左足を後ろへ引く。

柄は顔ほどの高さ

穂先は地に着ける。


「あの構え、まさか……!!」


焔の祖父《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》は紫闇らと共に試合を見ていたが急に大きな反応を示して声を挙げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


圧巻。

白髪の男子は近付いてきた相手チームの3人を瞬く間に倒してしまう。

一人は間合いに入ると同時に喉を突かれ失神し、一人は攻撃を出すも回避された直後の石突きによる返しで沈み、一人は動くこともさせず眉間を弾かれ吹き飛ぶ。

遠距離から攻める残りの2人は全ての攻撃を躱して近付き一撃の下に気絶させる。

黒鋼焔が褒める程の腕前。

そんな人物の目がカメラの方を向き、画面越しに紫闇と視線が合った。

背筋が凍るとはこのこと。

紫闇は大量の冷や汗を掻く。

確信だった。

この男は紫闇(じぶん)より強い。

そして条件にも合う。

心を熱くする何かが有る。

間違いなく難敵の部類。

好敵手になり得るだろう。


「こんな強豪が今まで目を付けられずに居たなんて信じられない」


紫闇は捜していた逸材を見付けられて嬉しいが不思議な違和感を拭えなかった。

強いのに足りない。

あの白髪男子は紫闇が要求する何かが欠けてしまっているのだ。

それが何かは解らないが。


「兎にも角にも情報が要るな」


紫闇がどうにかして男子のことを調べようと考えたその時だった。


「やはり……九月院、じゃったか……」


弥以覇は心当たりが有るように言う。


「何か知ってるんですか?」

「うむ。【九月院(くげついん)】とは───」


戦国時代に生まれた槍術の一門。

知名度は極めて低い。

趣味で日本全国の特殊な武術を研究しているような物好きしか知らないという。

世界全体を見渡しても彼らと彼等の使う流派を知るのは50人と居ないとのこと。


「しかし本当の事を知っている者は総じて奴等を評価し断言する。あれは全ての武器術流派の頂点であり最強の術理であるとな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そう言えば爺ちゃんから何度か聞いたことが有るね。全盛期の『鬼神』と呼ばれていた頃の爺ちゃんを死の一歩手前まで追い込んだって」

「焔の言う通り。儂が戦ったのは[流永/りゅうえい]と言って九月院一門の槍術【天地崩穿流/てんちほうせんりゅう】の正統後継者じゃったんじゃ」


流永は一門の中でも最強の使い手に与えられるという【瞬崩/しゅんほう】の称号を受け継いだ天才でもあった男。


「あやつは秘境の出身だからか地方の(なま)りみたいなものが酷く、何を言うとるのか少し理解が難しかったのう。が、死合った強者の内でも五本の指に入る」


弥以覇によれば、白髪の男子がしていた動きからして流永の弟子であることに間違いないだろうとのこと。


「あやつめ。くたばっておらんかったか。久方振りに()うてみたいと思うとったが」


試合が終わった後であの男子生徒の名前が《九月院瞬崩》と紹介された。

しかしそれはリングネームとのことで、本来の名前が有るという。


《佐々木青獅/ささきあおし》


龍帝の一年だった男であり、紫闇に魔術学園での敗北を与え、紫闇に敗北した男。

紫闇もクリスも驚く。

【夏期龍帝祭】までは小学生なみの体格しか持たず、大した戦闘技術も無かった。

そんな彼が紫闇より20㎝ほど大きい190㎝程になり、筋骨も別人のように隆々。

戦闘技術も破格の高さ。

生物的に原形も面影も無い。


「何が有ったんだ佐々木……?」


紫闇は立ち上がり黒鋼の屋敷を出た。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

揺らぐ信念

 
前書き
_〆(。。) 

 
黒鋼の屋敷を出た紫闇は青獅が戦っていた市街地戦の専用区画へとやって来た。


「ん? あれは……」


青獅と1人の少女。

黒髪のツインテールに覚えが有る。

紫闇が助けた子だ。

二人は口論していた。

青獅は少女を突き飛ばす。

それを見た紫闇は闘争心が消え失せ代わりに明確な怒りが生まれる。


「あの野郎」


紫闇が歩いてくることに気づいた青獅は少女から目を離して笑う。


「試合を見て来たんだろぉ立華紫闇?」


青獅は容姿や強さだけでなく、おどおどした態度や吃音も無くなっていた。

紫闇は青獅に答えず突き飛ばされた女の子に近付いて手を差し伸べる。


「立てるか? 痛いとこは?」

「すいません……大丈夫、です」


女の子の涙が止まらない。どんなに拭っても出てくる。どんどん溢れ出す。

とうとう嗚咽(おえつ)まで漏れてきた。


「佐々木、どういうつもりだ」

「そいつが悪いと思うけど? ぼくには関わるなって何度も言ってるのに聞きゃしないんだから」


紫闇は殴ろうかと思ってしまう。


「酷いよ! お兄ちゃん!」

「はぁっ!? 兄、だって……!?」


紫闇は思わず目を見開く。


「血縁上はね。今は赤の他人さ。ぼくは昔の名前と一緒に『それ』を捨てたんだよ」


青獅は気にしていないようで淡々と述べていたが、紫闇の方を見てまた笑う。


「立華はぼくに怒ってるけどさ、ぼくを批難できないでしょう? だってぼくと『同じこと』をしてるんだし」


青獅は紫闇に語った。


[努力は裏切らない]


殆どの人間は積み重ねた努力が結果に繋がっていると言って良い。

個人の差は有れど一番になるべくしてなった者はなるだけの努力をしている筈だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「何でそれが妹を捨てることに?」

「立華なら解るだろぉ? ぼく達みたいな凡人から以下は目標を達成する為に他より『努力しなきゃいけない』っていう目的意識を除いてひたすら何かを切り捨てないと上には行けない」


家族との時間すら無駄になる。

才が無いなら有る者より努力しなければならないのは当然の身の上。

誰かと話している時にも競争相手は見知らぬところで自分より一秒多くしているかもしれない。


「たかが一秒劣るだけって思うかもしれないけどねぇー。ぼく達みたいな人種はそんなの耐えられないだろおぉぉ~?」


紫闇は思う。

確かに同じだ。

青獅と変わらない。

《江神春斗》を倒すという目標が有った頃は出来る限りの時間を作って春斗より多くの修業をすることで彼を超えようとしていた。


「どうやら解ってくれたようだねぇ。ぼくは君より強くなりたかった。だから名前も、過去も、全部捨てたんだよぉ」


青獅は背中を向けて去ろうとしたが、ふと立ち止まって紫闇に告げる。


「ぼくはもう佐々木青獅じゃない。今は天地崩穿流の二十七代目《九月院瞬崩/くげついんしゅんほう》さ。昔の名で呼ばれるとイライラするから止めてくれ」


青獅の妹も紫闇に礼を言って去った。

残された紫闇は青獅の方を見て呟く。


「……お前は正しいよ佐々木。心の底からそう思ってる筈なんだけどな。でも、何でだろうか。ほんの少しだけ俺は……」


自分の信念が揺らいだ。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Extra thoughts

 
前書き
_〆(。。) 

 
佐々木青獅の名を捨てた二十七代目《九月院瞬崩》にとって今夜の天覧武踊は期待外れも良いところだった。

相手校の中でも最上位の五名。

選び抜かれた魔術師だと言うのに汗の一つも掻かせることが出来ないのだから。

闘争に対する欲求不満。

紫闇と同じで満たされない。

もっと強い相手が現れないか。

そんな風に思ってしまう。


「危うく襲いそうになったよ」


自分に会いに来た紫闇。

彼を大舞台でぶちのめすという目的の為に修練しているのに台無しにするわけにはいかないので必死に衝動を抑えた。


「不満そうじゃな」


目の前には禿頭の老人。


「師匠」

「勝負ば見させてもうた。何ゆえ手ぇ抜いた? あんな連中ごとき、お前なら目したと同時に潰せたろうが」


この老人は流永/りゅうえい。

二十六代目・瞬崩。

黒鋼焔の祖父である弥以覇の好敵手。


「わざとですよ。長引かせれば『あいつ』が見てくれるかもと思ったんでねぇ。まあ弱すぎて直ぐに終わっちゃったんですけど」

「あいつ……立華紫闇のことか。ふん。あげなもん所詮は黒鋼の劣化模造品。お前が気にかけるのは本物のみじゃ」


青獅は自分が認めた闘技者の紫闇を馬鹿にされたくは無いが反論しなかった。

彼はこんな自分に期待して黒鋼の打倒という夢を託し、青獅を鍛えてくれたのだから。


「龍帝学園と当たったら邪魔になる奴等を蹴散らして立華を仕留めます。そして師匠の念願も叶える。伝説の一族だろうと関係ない」


流永の力で150㎝ほどだった身長は190㎝ほどに達し莫大な量の【魔晄(まこう)】を得る。

しかしどれだけ基礎能力が上がろうとも凡人以下の無才でしかない青獅には【天地崩穿流】の術理を覚えることは至難。

だから家族を捨てた。

妹は勿論、療養中の母と面会することも止め、その時間を修業に回す。

人間らしさを排除することになってしまったが壁を越えて強くなることが出来たのだから後悔などしていない。

そう思っていた筈なのに。


『縁を切る?』

『お兄ちゃんが居なくなったらわたしはこれからどうやって生きれば良いの!?』

『青獅が決めたことなら……』


妹の泣き顔、母の悲痛な顔が頭にこびりついて離れようとしない。


「お前の中に残っちょる人間性が雑念をもたらしとるんじゃ。なぁに心配ない。お前は儂とは違う。人間性すら捨てられる」


そうすれば青獅は自分よりも高みに行けると流永は信じていた。


「儂より高く翔べ、二十七代目」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

本当の顔

 
前書き
今までショートカットしまくってるんですけど更新が早くないのでなかなか進まない。
_〆(。。) 

 
青獅と再会した翌日。

紫闇はロードワーク。

何時もなら幼馴染みの《的場聖持(まとばせいじ)》や《エンド・プロヴィデンス》と一緒に走るところだが今日は別のルートを走っていた。


(一歩進む為に何かを捨てる。でないと俺みたいな人間は強くなれないし、才能が有る人間には絶対追い付けないだろう)


これは間違っていない。

真理だと紫闇は思っている。

彼も捨てて強くなったから。

娯楽は勿論のこと、友との付き合いや睡眠時間も出来る限り削っていく。

だから龍帝の代表チームに入れた。

そう確信している。

故に《佐々木青獅》は正しい。


(そのはずなんだ)


だが紫闇の気分は晴れない。

青獅の妹が気になるからだろうか。

他に思い浮かばなかった。


「あのっ! 立華さんですよね!?」


紫闇は足を止めて振り返る。

青獅の妹だ。

上下青のジャージ。

黒いツインテールが揺れていた。


「わたし、《佐々木凜音(ささきりんね)》って言います」


彼女は昨日のことを謝る。

その顔は何処か暗い。

紫闇は思う。

自分が青獅に勝ったことで佐々木家の関係は壊れてしまったのだろうと。


「なあ凜音。俺、知り合いの屋敷で世話になってるんだけどさ。これからは一緒に食事とかしないか?」


心の隙間が埋まるとは言えないが凜音の寂しさが紛れるかもしれない。

そう思い誘ってみた。

凜音の来訪に黒鋼の屋敷は歓迎一色。

クリスや焔はまるで妹が出来たように喜び彼女のことを可愛がった。

凜音は焔の料理が気に入ったようで焔から料理を教えてもらうことになる。

しかしやはり自然な表情は無い。

作った顔なのだ。

紫闇は決めた。


(佐々木と凜音を和解させる)


二人の絆を取り戻す。

やり方は解らない。

しかし必ず元に戻さなければ。

紫闇は凜音が見せる本当の顔がどうしても見たくなってしまったらしい。

紫闇が青獅に感じた物足りなさの原因がそこに有るのだとは知らずに。
 
 

 
後書き
オリキャラの出番が回って来ない。
(;´д`) 

 

暗部

 
前書き
_〆(。。) 

 
【領域内戦争】第一回戦。

龍帝学園の相手は風天学園。

対戦する学園は市街地戦を行う区画に存在する東西の出入口からそれぞれ別れて入る。

そして街の中を進み、その途中で試合開始の合図が掛けられることになるわけだ。

───────────────

龍帝学園のメンバーは

島崎向子

立華紫闇

クリス・ネバーエンド

的場聖持

エンド・プロヴィデンス

──────────────

「何か遅くない?」


エンドがぼやくのも当然だ。

試合の開始時刻は()うに過ぎている。

もう30分は待っているのに。

他のメンバーも同じことを思っていたのか未だに市街地へ来ていない風天学園に対して溜め息。


「一旦戻ろっか」


向子の言葉に賛同した龍帝メンバーは市街地の入り口で時間を潰す。

街と空には大量のドローンが試合を撮影する為に飛び交っていた。

その一機が降りてくる。


「お待たせ致しました。風天学園の皆様が来られたようです。それと、お知らせしなければならないことが有るのですが」


風天の選手が全員違うらしい。

試合の当日に登録選手の変更を行うのは完全にレギュレーション違反なのだが。


「運営は特例だと」

「は~」


向子は風天に何が起こっているのか大体のことを理解していた。


矢田狂伯(やだきょうはく)


どうやら一回戦から動いたらしい。

ドローンからホログラムが投影される。


「こちらが変更された選手です」


紫闇が知らない人物ばかり。

だが向子には心当たり。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「全員が【暗部】かなこれは」


曰く、大体の魔術学園は暗部と呼ばれる裏の組織を持っているものらしい。

普段は学園の生徒だという。


「暗部が大人だと捕まった時が面倒なんだよ。大人だから目的がバレちゃう。でも学生なら言い訳が効く。特定の生徒を殺した時とか」


暗部の魔術師が持つ【異能】には人を殺すことに特化したものも有り、そういう生徒は天覧武踊に出たくても出られない。

人死にを放送したらクレームが洪水のように押し寄せ対処するのに困ってしまう。

だから暗部に入ることになる。


「向子さん的には魔術師が死ぬのなんて当たり前だからクレームなんて無視しときゃ良いと思うんだよね。学園を卒業したら大半は軍属なんだからさ。戦闘で死ぬのが嫌なら魔術師は諦めた方が身のためだよ」


暗部は裏工作のエキスパート。

当然のことながら暗殺も仕事の内。

公式戦に出して良いはずは無いのだが《レックス・ディヴァイザー》という前例が有るので紫闇もクリスも特に驚かなかった。


「下手したら風天の暗部は居ないかもね。関東領域に在る龍帝以外の魔術学園から狂伯君が選んだ暗部の精鋭ってところかな」


今日の龍帝メンバーなら真っ向から戦えば問題ないのだが暗部なだけにどんな手段を取ってくるか解ったものではない。


「 面倒臭いから向子さんが能力を使う必要は無いと思いたいんだけど」


エンドと聖持が居るので大丈夫とは思いながらも油断だけはしない向子だった。 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

殺しに来てる

 
前書き
_〆(。。) 

 
試合開始から10分。

未だに会敵は無い。


(持久戦なのか?)


紫闇がそんなことを思っていた時のこと、何かが物凄い速さで真っ直ぐに飛んできた。


「水か。高圧で高速の。なかなかの威力だな。俺は受けても大丈夫だけど紫闇は気を付けた方が良いと思うぜ」


《エンド・プロヴィデンス》が持つ実力を知っている紫闇からすれば、この幼馴染みがあんな攻撃でケガをするわけが無いと信じているが、それでも紫闇に注意する程の力を持つ敵であることに嬉しくなった。


「足りてるかもな」


紫闇が敵を求めて駆け出す。

向かったのは水を放ったのであろう男子が消えた路地裏の角の先。


「おい待て紫闇ッ!!」


的場聖持(まとばせいじ)》を無視して突っ走る。

前方に目標が見えた。

これなら追い付けそうだ。

路地裏を抜けた先。

相手は大通りの交差点で止まる。


「かかったな立華」


紫闇と水の男子、二人を中心にして広範囲が黒い檻で覆われたことで紫闇と龍帝メンバーは分断されてしまった。

クリスが右拳に黄金の【魔晄(まこう)】を纏った拳によって[禍孔雀(かくじゃく)]で檻を殴ると青白い電撃が走って弾かれてしまう。

檻に別の【異能】を合わせたらしい。

解除には発動者の打倒が必要になってきそうだが、生徒会長の《島崎向子》によると、見付からないようステルスの異能を持つ魔術師が居る可能性も有るという。


「これなら他の連中を潰して来るから無茶はしてくれるなよ。行きましょう向子さん。パッパと終わらせて紫闇を助ける」


聖持と共に他の3人も散った。

紫闇の目前に居る水の敵は銃の形をした水色の魔晄外装を取り出し笑う。


「こいつは」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


前が見えない程の霧。

これは水の男子ではない。

別の誰かだ。

水から霧を発生させるメカニズムからして冷気を操る異能を持っているのだろう。

しかし黒鋼流の修業において視覚に頼れない状態でも戦える訓練はしている。

焦ることは無い。

紫闇は両手を下げてノーガード。

相手の攻撃に合わせてカウンターを取ることで状況の打開へと持っていくつもりだ。

しかし相手は来ない。

仕掛けて来る気配は皆無。


(読まれてる。予想以上に『プロ』だ)


向子が【暗部】のことを裏工作のプロフェッショナルと言った理由が解った。

風天学園は試合で戦うという真っ当な正攻法で仕留めようなんて生温い考えではない。

戦争における戦場と同じく相手の命を確実に奪おうという意志の下に行動している。

作戦もそれに即したもの。

だから相手を殺傷しても気にしないもう一人の紫闇はともかく『闘技者』の思考で居る表の紫闇はスポーツと同じ競い合いという土俵でしか通用しないのだ。

[兵士]や[暗殺者]のように策謀で相手の実力が発揮できないように罠へと陥れてから戦う暗部にとっては紫闇のことが手玉に取り易い獲物としか認識し出来ないのだろう。

それでもスペックで押し切れる戦闘能力を有した紫闇を相手に油断はしない。


(やってくれる……!)


マイナス何度くらいだろう。

紫闇の周囲の気温は。

霧を生んだ冷気使いの仕業。

高圧の水や氷の刃といった攻撃なら紫闇も対処できたが環境そのものを変えられてしまうと対抗する為の手段が無い。

敵の狙いは[低体温症]

御存知の通り、人間は体温が落ちてくると色々な症状に見舞われてしまう。

最終的には死ぬ。


(流石は暗部。俺と直接戦うリスクを極力減らして完殺を狙うとは恐れ入った)


感知能力を持たない紫闇は大ピンチなのだが彼は今とても嬉しい。

複数の異能を合わせて巧妙な手間を掛けてくる『群』の強さを活かした魔術師とは今までに戦った経験が無いから。

天覧武踊で戦う時は基本的に一人なので『個』の強さを売りにした魔術師となる。


「この状況を乗り越えたら強くなれるかもしれないな。ビビってる場合じゃない」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

殺しに来てる 2

 
前書き
話の名前を考えるのが難しい。 

 
紫闇は極寒の中に居た。

相手の異能だ。

先程まで目前に居た水の奴ではない。


(10分持つかなこれ)


徐々に思考が鈍っていく。


(先ずは俺を檻の中に入れて分断した奴を見付けないといけないんだが、俺は感知系の異能を持ってないんだよな)


【風天学園】の選手として出てきた【暗部】がこのまま紫闇のことを凍死するまで放っておくことは無いだろう。

もう大丈夫だという確信が出来れば一斉に仕掛けてくるはずだ。


(俺を殺しに来たのなら凍死という形ではなく自分達の手で殺したという実感が欲しいはず。魔術師は治癒能力が高いから)


紫闇が逆の立場ならそうする。

彼には【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】という力が有るからだ。

擬似的な時間停止で攻撃を躱されても困るし近付いたところでカウンターを取られても困るのは目に見えている。


(問題はこの力のリスクだ)


以前に《黒鋼焔》が忠告してくれたが紫闇は《レックス・ディヴァイザー》との戦いを経てやっと実感できた。

珀刹怖凍は焔が言った以上に何かしらの危険をもたらすことを本能で察知する。


(出来れば使いたくないが)


頭脳以外の戦闘スペックなら暗部より高い紫闇が使う『コレ』は本当に厄介だが見えないほど遠くに居れば何とかなる。


(ブラフでもかましてやるか)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇はぶつぶつと呟き出す。

それを見た暗部の空気が変わった。

隠れている暗部も気付いたのだろう。

紫闇が珀刹怖凍を使う時には必ず詠唱をしてきたのでそれをしていると思ったに違いない。

紫闇の声が聞こえないなら何を言っているのか解らないのだから。

その力は暗部にとって避けたいもの。

故に邪魔をする。


「!」


土色の弾丸。

水使い・冷気使い・檻の主・檻に電気を流した奴に加えて5人目が来たのか。

ということは風天学園のメンバーは紫闇と共に檻の中で揃っている可能性が有る。

一網打尽のチャンスだ。

逆に一斉攻撃の危険も有る。


(今は回避に集中だな)


土色の弾丸を躱す。地面へと着弾。その弾丸が爆ぜて割れて何か出た。

垂れ流された液体が地面を溶解。

紫闇は弾丸の来た方向に走る。

途中で高圧の水が大量に飛ぶ。

魔晄防壁は物理的な攻撃を防げるが異能の攻撃を防ぐには異能の威力と性質が関わってくるので防げるとは限らない。

それに紫闇の幼馴染みで今の自分より強いと認め見上げる程の高みに居る《エンド・プロヴィデンス》が紫闇に注意するような威力の攻撃を無視するわけにもいかない。

攻撃に間が出来れば前に進む。


(ヤバい。意識が)


低体温症にかかったらしい。


「作戦通りになって良かった」


1メートル先の影も見えない濃霧の向こうから声が掛かり、水と氷と土色の弾丸が途切れること無く襲い掛かってくる。


「立華紫闇。貴方の敗因は知識不足と独断専行だ。あとは慎重さ、冷静、用心深さ。そして何よりも仲間と協力しないチームワーク」

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

殺しに来てる 3

 
前書き
_〆(。。) 

 
人間は汗を掻く。

汗が蒸発すると体温が下がる。

暗部が紫闇に対して絶え間なく攻め続けたのは激しい回避運動で汗を掻かせるため。

只でさえマイナス50度辺りにされた氷霧の中に居たのにそんなことをされれば[低体温症]になろうというもの。


「勝負は付いたも同然。他の龍帝メンバーが来る前に片付ける」


何処かから土色の弾丸が飛ぶ。

しかし紫闇は反応しない。

いや、体が動かないのだ。

身体機能に障害が起きている。


盾梟(たてさら)丸魔(がんま)


紫闇が体に張っている白銀の魔晄防壁が膨らんで丸くなった。

そこに土色の弾丸が直撃。

爆ぜて液体が散布。

目に悪そうな毒々しい色身。

雨のように降ってきたそれは紫闇の防壁を突き破って顔にかかる。

激痛が起こること自体は気にしない紫闇だが他の現象には戸惑う。


(毒か)


異能の毒は秒を刻む毎に体を蝕み目眩と吐き気を強くしていく。

だが紫闇は倒れない。

こんな状態でも戦えるように十分な訓練を積んであるのだ。

どんどん悪くなる体調に地震が如く揺れる視界であっても敵に向かう。


(これが立華紫闇。確かに《矢田狂伯(やだきょうはく)》が私達を当てるだけのことは有る。『化け物』と言って差し支えない)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は強い。

今戦っている暗部の誰もが一人なら絶対に負けていると認める程に。

しかしチームで勝つことが前提と言っても良い以上は紫闇一人で勝てない。

一人で勝とうと思うのならもっと強くならなければならないのだから。

紫闇が前に出ると足下が爆発。

地雷が有ったらしい。

おかしいと思った紫闇の思考は決して間違ってはいなかった。

そんな異能を持った【魔術師】は今の風天学園チームには居ない。

この地雷は《佐々木青獅》が一回戦で戦っていた時に他の【刻名館学園】メンバーが仕掛けておいたものだ。

青獅が一人で相手チーム全員と戦った理由の一つがそれだった。

だがそれだけではない。

他にも仕掛けが有る。

紫闇が周囲の建物を見ると窓ガラスの向こうに何かが設置されているのが見えた。

小銃(ライフル)のようだ。

魔術師には普通の兵器が通用しないのだがそれは魔晄防壁が有るから。

しかし【魔獣領域】で採取された特殊な材料を使えば対魔術師の弾丸を精製可能。

【魔神】の防壁をも貫通する。

弾丸が発射されガラスが割れたのを見て紫闇は満足し敗北を受け入れることにした。


(勉強になったよ)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


戦いは自分が思っているよりも以前に始まっているというつもりで臨む。

紫闇にとってその意識は収穫だ。

問題は暗部をどう凌ぐか。

このままだと死んでしまう。

紫闇の体が吹き飛ぶ。

しかし痛くはない。

同時に風天学園の3人が宙を舞う。

紫闇の体が受け止められる。


「大丈夫か、紫闇」


窮地を救ったのは紫闇の幼馴染み《的場聖持/まとばせいじ》だった。

遅れて駆け付けたもう一人の幼馴染み《エンド・プロヴィデンス》が黒鋼流の練氣術【氣死快清】による緑の光を放つ。

紫闇は直ぐに回復。

エンドと聖持が紫闇を見る。

二人とも真剣だ。


「約束しろ紫闇。もう二度と自分の命を粗末にするようなことはしないって」

「出来ないならもう俺達は何も言わない。勝手にしたら良い。好きにしろ」


紫闇が早く強くなる為には二人の言うことを拒んだ方が良いと頭では解っている。

しかしそれをすればエンドも聖持も紫闇から離れ去っていくことは明白。


「……約束する」


紫闇は親友との縁を切れない。


「紫闇が必死に頑張って強くなろうとしてるのは好ましいし応援してるんだ」

「けど何でここまで来れたのか、そして強くなれたのかを考えてくれ。それを考えた方が良い時期に来てるんだろうからな」


エンドと聖持の言葉が紫闇の胸に刺さり、頭にこびり付いた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

旧敵との再会

 
前書き
原作エピソードをごっそり飛ばします。 

 
黒鋼の屋敷に来客。

一人で留守場をしていた《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》と面を突き合わせて懐かしんでいた。


「72年振りか」

「ほんに久しいのう」


記録には残らない出来事。

歴史の闇に葬られた真実。

黒鋼弥以覇という【鬼神】

そして彼が出逢った漢達。


「親父殿……」


まだ10代の弥以覇は涙を流す。


「これで、良い。今日からは、お前が、黒鋼の当主になるのだ……」


弥以覇は自らの父を(たお)した。

これにより正式に黒鋼流を継承。

そして名と共に一族の夢も引き継いだ。


[黒鋼が世界最強だという証明]


その為に【邪神大戦】へ身を投じる。

人間も旧支配者(オールドワン)も関係ない。

どちらにも味方しなかった。

ただ一人の鬼として、只管(ひたすら)に強き者を求め全ての勢力に喧嘩を売り続けていく。


────────────────


「富も、名誉も、女も、全て不要。ただオレは、お前に勝ちたい……!」


[魅那風流/みなかぜりゅう]

【剣鬼】

江神全司(こうがみぜんじ)


────────────────


「20年だ。20年、待たされた。先代との約束を、今こそ果たしてもらうぞ黒鋼」


[双牙新天流/そうがしんてんりゅう]

【双戟】

備前雷光(びぜんらいこう)


────────────────


「私の生を締め括るには……やはり、君との闘争が相応しい」


旧支配者の眷族。

最強の二文字を欲しいままにした男。

《ガルド・ヴェラ・メギナ》


─────────────────


「天地崩穿流ッ! 二十六代目《九月院瞬崩》ッ! 参るッッ!!」

─────────────────


屋敷に来たのは流永/りゅうえい。

二十六代目の瞬崩。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「弟子を取ったようじゃな流永」

「儂の夢を託した。黒鋼の打倒を」


目を鋭くした弥以覇に流永は語る。


「お主と戦って敗れた後に何人も弟子を取ったが中でも《佐々木青獅》という男はとびっきりの逸材じゃった」

(流永がそこまで言うか)

「とは言っても肉体的、技術的闘争の才は絶無。そん代わりに精神的な才能はこれまでの弟子で一。もうこれより上は無いと言える。【死視刎神/ししふんじん】にも耐え抜き儂の期待を超えよった」


流永は誇らしげ。

九月院(くげついん)に伝わっている死視刎神(ししふんじん)とは【魔晄/まこう】の循環を弄る術理。

肉体を強制的に成長させられる。

それによって力量も別人のよう。

しかし途轍もない苦痛が襲いくる。

施術されると発狂して死ぬのが当たり前だが苦痛を乗り越えた者は例外なく、流派で最強の使い手を意味する称号【瞬崩】の名を継げた程の効果を持つ。


「生来の貧弱さを死視刎神で補った青獅は日を追う毎に心を完成に近付けとる。儂のように捨てきれなかったせいで負けることは無い。先ずはあの模倣小僧(たちばなしあん)。そして当代の黒鋼も潰したるから覚悟せい」

「そりゃあ楽しみじゃのう」

 
 

 
後書き
弥以覇さんの過去編を見たかった。
_〆(。。) 

 

気付き

 
前書き
_〆(。。) 

 
日が過ぎるのは早い。

明日は【領域内戦争】の決勝戦。

【龍帝学園】と【刻名館学園/こくめいかんがくえん】は予想通り勝ち上がった。

その日の夜。


「どうした?」

「あ、立華さん」


紫闇と《佐々木凜音(ささきりんね)》が話す。


「何で立華さんは戦ってるんですか? なぜ誰かに勝とうとするんですか?」


紫闇は彼女の兄、《佐々木青獅》が夏期龍帝祭で戦う前に言ったことが浮かぶ。


『き、君はどうして、ここに居るの? どうして、戦っているの?』

「佐々木にも同じことを聞かれたよ」

「お兄ちゃんが?」


紫闇はその時の答えを聞かせる。

英雄になりたい夢を、輝きたいという願望を諦めたくない。


「そう言った。俺は光り輝く存在に憧れて自分もそうなりたいって思う一般人。だから闘争に赴く理由も珍しくない。小さい頃からの夢を叶えたかったんだ。でも今は違う」


紫闇の顔に真剣さが宿る。


「強くなりたいと思うのは変わらないけど、それだけに拘り過ぎていたことにやっと気付いた。俺は大事な人を悲しませてたんだよ」


聖持とエンドの顔が脳裏に浮かぶ。


「俺は佐々木と同じになってた。強くなる代わりに誰かとの繋がりを捨ててたんだ。そのせいで一人の時間が多くなってたけど全然気にならなかった。それが当たり前なんだって無意識に行動してたんだよ」

「強くなる為に大切な人を捨てる。私は絶対に認めません。間違っています」


紫闇を見る凜音の目には怒り。

なぜ紫闇が強くなれたのか。

それは捨てただけではない。

《永遠レイア》と再会し、焔に助けられ、弥以覇に弟子入りを認められたから。

しかし彼等だけではない。


「お兄ちゃんは何もかも捨てないと前に進めない、強くなれないと言ってたけど違うと思う。人は誰かに支えられて前に進む生き物だと思うから。支えてくれた人達まで捨てるなんておかしいですよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


凜音の言葉を聞いた紫闇は想起した。

自分が黒鋼の修業に耐え切れず心が折れそうになった時、幼馴染みの《的場聖持》が紫闇に対して言ったことを。

聖持と紫闇が初めて逢った頃に聖持が周りに馴染めず苛めに遭っていたこと。

それを紫闇が助けたこと。


『あの時の紫闇は輝いて見えた』

『ふざけんなよっ! どいつもこいつもっ! 俺の幼馴染みを馬鹿にしやがって!』

『弱くたって俺にはヒーローみたいな存在だったんだよ。そんな紫闇が馬鹿にされるだけの人生を送るなんて我慢できるか……!』

『俺は俺のことを助けてくれたお前が駆け上がってヒーローになる姿が見たいんだよッ!!』

『紫闇なら出来る。誰が否定しても俺が信じる。だから自分の可能性を諦めないでくれ』


「ああ……そうだ。聖持が居なかったら俺は修業に耐えられなかった。何で忘れてたんだ。何で気付かなかったんだろう」


師匠になってくれた焔や聖持のような友だけでなく、《江神春斗(こうがみはると)》のように対抗心をもたらしてくれる強敵もそうだ。

応援してくれるファンのように紫闇が顔も名前も知らないような人も同じ。


「凜音の言う通りだよ。誰かが支えてくれるから人は前に進めるんだ。俺は色んな人の力を貰ってやって来た。佐々木だって同じはず。その支えになったのはきっと」


紫闇は凜音を見る。


「?」

「凜音のお陰で間違いに気付けた。お陰で何の迷いも無い。自分が正しいと信じて戦える。今までの信念は捨てることになったけどな」


凜音は困惑していた。


「勝つよ。そしたら佐々木は凜音と元の関係に戻れるだろうからな」


紫闇はマンションの自室に戻る。


「ん、着信か」


《矢田狂伯/やだきょうはく》からだ。


「やあ立華君。突然なんだけど良いかな?」

「構いませんが」

「佐々木凜音の身柄をこちらで預かった。俺の要求は領域内戦争決勝での敗北だ。申し訳ないとは思うが宜しく頼む」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

時間稼ぎ

 
前書き
時々PVとUAが一気に伸びたりするんですが何か有るんですかね。
_〆(。。) 

 
領域内戦争の決勝戦。

矢田狂伯(やだきょうはく)》はそのルール自体にも今回だけの特別ルールと舞台を用意しておいた。


「《佐々木凜音(ささきりんね)》は駒の一つに過ぎない。その程度で《立華紫闇(たちばなしあん)》を()れるのなら苦労はしないし悩まないさ」


今年は5対5のチーム戦。

チーム戦の舞台は常に専用の市街地か魔獣領域で行うと決められている。

しかし今回は芝生のスポーツスタジアム。

これは史上初のことだ。


「領域内戦争は毎年変わる試合方式に沿ったルールが考えられ最後までそれが守られる。それが当たり前。けど向子さんを相手にルールを守ってたら裏を取られてしまう」


だからこそ根回ししてのルール変更。

────────────────

そのルールとは【コスト制】

学園内序列に応じてコストを付ける。

コスト内なら何人でも参加可能。

1年の序列最下位~200位はコスト10

199位~100位はコスト50

99位~20位はコスト100

19位~1位はコスト200

これは1年生の場合。

─────────────

2年生なら最下位~200位はコスト20

3年生なら最下位~200位はコスト30

という風にコストが増えていく。

決勝の規定コストは4000まで。

このコスト内に収めなければならない。

───────────────

やろうと思えば100人以上出せる。

しかし今年の関東領域で最強の龍帝学園と2年連続で【全領戦】に出場を果たした刻名館学園で数を頼みにすることは有り得ない。

その差を覆す強豪が居るから。

しかしこのルールだと強い1年を主体にしてレギュラーを組む龍帝の方が有利。


「そんなこんなでちょっと卑怯な手を使わせてもらうことになったわけだ」


狂伯が1年の《九月院瞬崩/くげついんしゅんほう》を引き連れてスタジアムに入場すると、そこには他の刻名館メンバーが立ち並んでいた。

狂伯らを合わせて総勢125名。

だが只の物量作戦ではない。

123名は龍帝を除く関東の魔術学園から集めた暗部の精鋭であり、各学園の最強たる生徒会長の命を狙える怪物もちらほら居る。

対する龍帝はと言うと。


「お~、やってるねぇ狂伯くん」


生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》一人だけだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時は戻り龍帝の控え室。

狂伯による凜音の誘拐と決勝での敗北要求を知った龍帝学園のレギュラーメンバーは揃って頭を悩ませていた。


「凜音ちゃんが居そうなのは四ヶ所。決勝に出場するメンバー5人の内、4人は救出に向かってもらうことになるね。狂伯くんは此方に対して暗にそれを指示してるのは間違いない」


他の人間が動けば向子達が動かなければならないように持っていかれるだろう。


「狂伯さんのことだし特別ルールで数を揃えてくる可能性が高い。しかも一人一人の質が高い粒揃いで集団戦にも明るい連中ばっかりを」


3年生の副会長《春日桜花(かすがおうか)》と向子は狂伯との駆け引きに負けてしまったので不利になる動きしか出来ない。


「みんなが戻って来るまではあたしが時間稼ぎをしておくから任せて。たまには向子さんの良いところを観客にも見せとかないと」


今日の龍帝メンバーは向子・紫闇・桜花・《的場聖持》・《黒鋼焔》だが狂伯が残って戦うことを望むのは向子らしいので乗ってやる。

そして現在スタジアムでは。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「龍帝の会長。まさかこれ程とは」

「公式戦で魔術師の異能を使ったことが無いと聞いていたが納得した」


暗部は学園の上層部から降りた命によって裏の仕事をこなすプロの工作員であり、敵対する学園の人間を殺すこともまま有る。

時として暗部同士でも戦う。

出場を禁止されているので【天覧武踊(てんらんぶよう)】という華やかな表舞台で人目に付くことは無いが、代わりに命懸けの実戦をしているだけあって学園の代表メンバーより高い戦闘能力を持つ者も珍しくない。

そんな人間が既に20人倒れていた。


暗部は厳しい訓練を受けている。

私情を捨てる教育もされる。

兵士としての練度も高い。

それでいて統制が取れた一糸乱れぬ連係を容易く見せる暗部の集団が魔術師とは言え、たった一人の女に手も足も出ないのだ。

翻弄されていると言って良い。

向子は未だに武器の【魔晄外装】を出さず、魔晄防壁を張ったまま身体強化を掛けた状態の生身で戦っている。


正面から闇色のクナイが飛ぶ。

向子は別の方を向いたまま回避。

そのクナイが向きを変えた。

おまけに分裂して増える。

そこに仲間の異能も追加。

追尾・分裂・(かす)っただけで殺すという天覧武踊への出場を禁止されても仕方のない力を有したクナイを死角の背後から。

向子はそれを手ではたき落とし、身を躱し、掴んで当たらないように投げ返し牽制するという行動に出た。

異能を使った3人は想像の埒外(らちがい)に有る動きに対応できず、自分達の方へ近付いてきた向子によって一撃で倒されてしまう。


その時死んだふりをしていた刻名館のメンバーが拳銃を取り出して不意打ち。

魔獣領域で得られた材料で作った弾丸(それ)は魔神の魔晄防壁でも貫くことが出来る。

しかし向子は親指と人刺し指の二本で平然と挟み込むと弾丸の推進力を強引に殺す。

弾丸は音を立てながら回転を遅くしていき遂には運動エネルギーを使い果たしてしまった為に動かなくなってしまう。


「あれを(つま)んで止めるだと……!?」


結局、狂伯が用意した123名の暗部は全て向子の手で壊滅させられてしまった。 
 

 
後書き
原作3巻の半分くらい終わりました。
_〆(。。) 

 

不完全な急行

 
前書き
_〆(。。) 

 
桜花・聖持・焔から連絡。

彼等が向かった場所に護衛や警備の魔術師が居たので全員倒して奥まで探したが凜音を模したぬいぐるみしか置いていなかったという。


「後は立華くんのところだけか」


向子の前に居るのは九月院瞬崩と矢田狂伯の2人しか居ないがここからが厄介だ。


「やっぱり向子さんは強いなぁ。暗部じゃあ荷が重かったかな? まあこっちも負けること自体は解ってたことなんだけどさ」

「狂伯くん。凜音ちゃんは何処なの? 立華くんと佐々木くんを戦わせないと予定が遅れちゃうんだけどなー」

「ああ、それなら心配ないですよ? 俺達のプランは破棄して立華紫闇には死んでもらうことにしましたからね」


向子の気配が別人のように変わる。


「どういうこと?」

「恐い顔しないで下さいよ。運が良ければ生き延びるんですから。【白鋼/しろがね】の気紛れが有ればですが」

「立華くんが『あの女』に対抗するなら二段階は強くしないといけない。そういう予定で動いていたはずだけど」

「俺は立華君が嫌いじゃない。けど彼の力は危険だ。完全覚醒したとしても味方にならなければ人類が滅びかねない」


狂伯の目は真剣だ。

しかし悲哀が見える。

紫闇を手に掛けたくないのだろう。

だがそういう甘い考えを捨て切れないにしても割り切って計画を実行した。

全ては人類の為に。


紫闇(かれ)が居なくとも現状の戦力で事足りる。味方になってくれるか解らない上に『内なる存在』から牙を剥かれて彼の意識が消失したら無事では済まない」

「確かに立華くんがそうなったら四強の誰かが死ぬ事態になるかもしれないっていうことは認める。それでもやる価値が有るから【プラン】が実行されてるんだよ」


狂伯の意志が固いことを理解した向子は信頼できる[切り札]に連絡を取った。


「ちょっとちょっと向子さん。チートしないでくれせんかね?」

「悪いね。プランを完遂したいんだ」


向子の耳に声が聞こえる。


「もしもし会長?」

「狂伯くんが思ったより本気だった。今から動いてもあたしじゃ間に合わない。だからやる気を出して的場君」

「解りました。でもやり過ぎないで下さい。特に九月院の方を」


聖持が通信を切る。


「さて。《佐々木青獅(ささきあおし)》くん」

「ぼくは九月院瞬崩だ」


青獅は槍の穂先を向けてきた。

狂伯は動かない。

戦う気が無いのだろう。


「そんじゃまあやりますか。立華くんと当てる前にあたしで確かめさせてもらうから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇が来たのは大型スーパー。

ここは狂伯が運営しているという。

エレベーターのスイッチを特定の順番で押すことによって公的には存在しない秘密の地下エリアに辿り着けるらしい。

特に変わったものは無く広々としており対人戦がし易そうな環境が整っている。

長い通路を道なりに進む紫闇。

トラップなども無かったのだが……。


「!?」


凍り付いたように動きを止めた。

正体の解らない寒気に全身が震え出す。

紫闇は覚えが有る。

青獅と初めて戦った時。

そして黒鋼焔と組み手した時。


「つまり現在(いま)の俺より遥かに強い何か」


とんでもない奴が潜んでいる。

恐怖しているのに足が止まらない。

彼の『鬼』が戦いたがっているのだ。

本能に逆らい歩が進む。

その果てに怪物の姿が映った。


「女の子……?」


永遠(とわ)レイア》を彷彿(ほうふつ)とさせる。

髪・肌・爪・靴・チャイナドレス。

どれもこれも全てが真っ白。

目だけは灰色に濁っていた。


「アタシは盲目だが気にするナ。オマエなんかよりずっと()えている。立華紫闇だろ? 『氣』の流れがおかしいからな」


紫闇は驚きで動けない。

あまりに焔と似ていたから。

だが親近感は無かった。

プログラムされた通りの感情を顔に出しているだけで人の形をした無機物。

温かみなど感じられない。


「佐々木凜音はここに居るヨ? アタシを殺せたら会えるから頑張りナ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

はいちょっとごめんよ

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇の右腕に外装が顕現。

拳が金の光を放つ。

禍孔雀(かくじゃく)]で速攻を仕掛ける紫闇は防衛本能がけたたましい音を鳴らしていることに疑問を持たなかった。

この白い少女はあまりにも危険な存在であり、殺らなければ殺られると強く思う程に。

一切の手加減なし。

相手が死んでも良い、むしろ死ねという勢いの右拳が少女の顎に吸い込まれていく。

彼女は躱そうともしない。

禍孔雀が届き爆裂。

だがその瞬間、白い少女は拳の力が走る方向に合わせて首を振った。


(間違いなく当たった。なのに手応えが消えるなんて。一体何の冗談だ……)


信じられないが禍孔雀の攻撃を受け流したらしく、ダメージというものは皆無。


「今度はこっちの番ネ」


少女の左手が紫闇の胸へ伸びる。

避けられないことが解った彼は[盾梟/たてさら]を使って魔晄防壁を強化。

直後、衝撃で吹き飛ぶ。

体が浮く感覚を味わった後、地面に落ちて転がり壁に激突。


「立華紫闇がアタシに負けた場合。そしてアタシから逃げた時は凜音とかいう餓鬼を殺れと依頼者に言われたネ」


紫闇は驚きで痛みを忘れる。


「もう一度言ウ。オマエが負けたらオマエを殺すし逃げても殺ス。勝たない限りはオマエの目前で佐々木凜音をくびり殺すヨ」


言葉にならない叫びを響かせた紫闇の背中から二枚の翼に見える黄金の粒子が噴き出す。


[音隼/おとはや]


高速で一直線に白い少女へ向かう。

再び禍孔雀を放つ。

しかし流される。

続けて紫闇の下段蹴り。

少女の(もも)に命中。

しかし独楽のように回り威力を殺す。

何度も仕掛けていく紫闇だが少女はその全てを悉く流してしまう。

灰色に濁った瞳は紫闇を侮蔑。


「オマエ。マジで才能ねぇナ」


少女の右足がブレる。

直後に紫闇は脳震盪を起こす。

知覚できないほど速い蹴り。

防壁を張った状態で受けてもこの威力。


「まだまだ死ぬナヨ?」


白い少女は紫闇に攻撃するが紫闇からは何をされているのか解らない。

攻撃の種類も軌道も判別できない。

倒れたら起こされる。

延々とその繰り返し。

何分くらいだったか。

少女の猛攻が止む。

彼女は不思議そうな顔をした。


「オマエ、何で手を抜く。さっさとアタシに力を見せろ。【神が参る者(イレギュラーワン)】だロ?」


紫闇には覚えが無い。

聞いたことの無い言葉だ。


「ああそうカ。教えてもらってないんだナ。過保護が過ぎるぞ《黒鋼焔(あいつ)》は」


少女は溜め息を吐いて背を向ける。


「今から佐々木凜音に会わせてやル。そしてオマエの前で首を引き千切って殺ス。それくらいやれば頑張れるだろウ?」


何を言っているのだろうか。

ふざけるのも良い加減にしろと言いたかった紫闇だが言葉が出てこない。

この少女は本気だ。

本気でそう言っている。

凜音を殺す。

紫闇の力を出させる為に。


「力をくれ、バケモノッ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の内なる門が開く。

力を得た紫闇の出血が右腕に集まり黒い魔晄外装を赤く染めていった。


(勝てる!)


紫闇は確信する。

これを当てれば終わりだと。


「白鋼流奥義・流れ崩し」


しかし拳は外れた。

いや、自分から外したと言える。

そんな気は無かったのに。


「オマエの攻撃が当たることは無イ」


紫闇が伸ばした右腕に白い少女の腕が絡まると関節からへし折られた。

そのまま倒され頭を踏みつけられてしまった紫闇にとってこの技は衝撃的。


「黒鋼の、[喰牙(クウガ)]……?」

「白鋼でも同じ呼び方ネ」


少女は笑って紫闇を踏みにじる。

足をグリグリして力を入れてきた。


「うん、今のは面白かったヨ。だからオマエの根性に免じて凜音は殺さないから安心しロ。まあオマエは殺すんだけどナ」


紫闇は理解する。

少女は自分達と同じ『鬼』だ。

そして闘技者であり戦いを楽しむ。

焔に教わったこと。

真剣勝負は生殺与奪の権利を得たり相手を失神させたりするのではなく、どちらかが死んだ時に決着するもの。


『覚えておくんだよ。真剣勝負で生殺与奪の権利を握った場合、また戦りたい・もっと戦いたい相手なら生かしておくと良い。でもそうでない相手だったなら───』


一切の容赦なく、一時の躊躇い無く、まるで呼吸するかの如く殺せ。

それが自分達のような人でなしの流儀。

つまり白い少女にとって今の紫闇はどうでも良い、もう戦いたいと思わない、ここで死んだって構わない程度の相手だったということ。

踏みつけられている紫闇の頭からみしみしと頭蓋骨の音が鳴っているのが解る。


「代われ紫闇」


紫闇の口から不意に言葉が出る。

しかし今のものは彼の意志ではない。

もう1人の紫闇とも違う。


「何ネ? 急に体が硬く───」


紫闇の左手が頭を踏んでいる少女の足を掴むとそのまま引き剥がした。

異様な力の上がり方だ。


「外装を弄る時に保険をかけておいて良かったよ。ここからは僕が戦う」


紫闇が頼りにしている人。

焔と共に自分を助けてくれた人。


「レイア……さん?」

「休んで見てて」


白い少女は口をぱくぱくさせている。


「ま、まさかこの魔晄と気配……。大分弱いけど、本当に《永遠(とわ)レイア》なのか!?」

「ああ、久し振りだね《白鋼水明/しろがねすいめい》。自分の体じゃないし僕本来の強さは出せないけど今の紫闇が出せる限界を超えて力を引き出せる。当然ながら僕の技術も使えるよ?」


水明は逃げようかと思っていた。

焔の両親を殺そうとした時に彼と《エンド・プロヴィデンス》の二人に邪魔をされ、徹底的に叩き潰されたことを覚えているから。


(レイアとは言え使うのは立華紫闇の体。なら勝てるかもしれない)


水明が考え事をしている間、レイアは紫闇に状況を説明していた。

レイアが紫闇に対して行った【魔晄改造/カスタムブレイク】は魔晄外装を強化する為のものだが普通なら改造は一度で済む。

改造の技術が無くとも精神の在り方で外装の形状を変えられるので強く念じ、心から願えば自分の理想とする武器の形に近づく。

だが目覚めた【異能】や外装が持つ特性までは変えられないもの。

そういう意味では紫闇の外装は稀少ながら特に何の変哲もない上に異能も覚えられない『規格外』と言われるゴミタイプ。

しかし紫闇は【神が参る者(イレギュラーワン)】なのでレイアは紫闇と融合した内なる上位存在の魂にも干渉して手を加えたのだ。

そして神が参る者として備えていた7つ有る能力枠の内、5つを奪う。

5つの内の1つは魔晄を使う能力にして、4つは超能力の枠とした。

これで上位存在の影響を少なくする。

更に黒い魔晄を使うもう1人の紫闇と戦って叩きのめしこれを掌握すると紫闇の主導権をかなり多くして暴走の危険性を減らす。

力が解放される仕組みを改造し、紫闇の成長に応じて力を解放できるようになった。


「で、成長が敵に追い付いてない時にピンチに陥ったら疑似人格の僕が紫闇の体で戦えるようにしておいたわけ。今の紫闇の体でも水明と戦えるから大丈夫だよ」


無茶苦茶な技術だが信じるしかないので納得した紫闇はレイアに体を預けて自分の中から成り行きを見守ることにした。


「さーて行くぞ水明。あれからどれだけ強くなったのか見せてもらおうか」

「はン。レイアの本体じゃないなら別段アタシに恐いことは無いネ。長年果たせなかったリベンジといかせてもらウ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

教示

 
前書き
パッパと水明を倒そう。 

 
紫闇の体を操って戦うことになったレイアの疑似人格は先ず具合を確かめてみる。


(今の紫闇はAランクというところかな? 水明のランクはAOくらいか)


レイアは呼吸した。

鬼息(きそく)に始まり鬼気・鬼脈・鬼骨と段階的に身体強化を重ね掛けしていく。


「さて、これで何処まで行けるか」


レイアは紫闇の体で魔晄を使って防壁を展開し、同時に身体強化も行う。

紫闇自身は魔晄でしか身体強化できないのでレイアとは雲泥の差が有る。


「立華紫闇の体を永遠(とわ)レイアが使うとそこまで変わるものなのカ……。魔晄操作のレベルが違い過ぎるせいで別物ヨ」


白鋼水明が白い髪を振り乱してレイアに突撃し、踊るように必殺の一撃を繰り出す。

しかし当たらない。

惜しいところまでは迫るのだが、あと一歩のところで攻撃が届いてくれない。

レイアは水明の攻撃を躱しつつ今の状況を分析していくことにした。


(鬼息・鬼気・鬼脈・鬼骨に加えて魔晄の身体強化を重ねたことで紫闇の身体能力は水明と並ぶ域に至ったけど僕の技術と経験を利用すれば常に水明の一歩先、一枚上手を取れる。問題は決め手と佐々木凜音の安全確保だ)


レイアは自分から攻めに回って水明に重圧をかけ、精神的に追い込んでいく。


「何で他人の体を使ってそんな風に動けル!? インチキも良いところだロッ!!」


水明は周囲の事に気を使わず全力で殺しにかかるがレイアの動きに着いていけない。

水明の白い服はあっと言う間にボロボロとなり、ところどころに血が滲んでいる。


「水明が禍孔雀(かくじゃく)盾梟(たてさら)音隼(おとはや)まで使っても紫闇の防壁は破れない、か。やはり上位存在が影響しているのかな」


レイアが紫闇の体を操っているとは言え紫闇よりも圧倒的に格上であるはずの水明が一方的にやられるというのは考えにくい。


(今使っている身体強化と魔晄操作を駆使しても水明と互角程度なはず)


ならば原因はレイアでも紫闇でも水明でもなく紫闇と融合した上位存在しかない。


「ますます楽しみになってしまったな。紫闇が【神が参る者/イレギュラーワン】として完成する日が来るのが」


邪魔をさせてなるものか。


「終わりにしよう水明」


紫闇(レイア)の両手が光り水明に向く。


「【雷鳴光翼(ケリードーン)】」


手から放たれた光は水明の四肢を爆ぜ裂き戦闘不能へと追い込む。

手足を失った水明は地面に落ちるも【氣死快清】を用いて直ぐに再生させる。


「アタシの魔晄防壁を紙の障子みたいに軽々と抜いてくるとは恐ろしい威力ね……。やっぱりアタシじゃあレイアには勝てないのカ」

「今の光は紫闇が使えるようになる予定の一つだから何時かは今くらいの性能にはなるよ。ところでまだ僕と続ける気かい?」

「いや、アタシの負けだ。好きにしたら良イ。言う通りにさせてもらうヨ」

「じゃあ水明はここで待ってて。凜音さんを助けてくるから。紫闇、体を返すから凜音さんを助けてここに戻ってくるまでは任せた」


レイアの気配が消える。


「……俺がレイアさんの見せた強さに追い付けるかもしれない日が来るというのが信じられないな。けど今は凜音が先決だ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

憎まれて

 
前書き
_〆(。。) 

 
《白鋼水明/しろがねすいめい》を残して奥に進むと部屋が在り、その中央に置かれたベッドの上に《佐々木凜音》が居た。


「立華さん……来ないで下さい」

「トラップでも有るのか?」


紫闇はキョロキョロする。


「白鋼さんと戦いましたよね?」

「危うく死にかけた」

「残念でしたね。だってどれだけ頑張ってもわたしは貴方を好きになれない」

「どういうことだ?」

「初めて会ったのは偶然です。けどその次は狂伯さんに貴方と会う方法を教えてもらって自分から貴方に会いに行った」


凜音は《九月院瞬崩》を、自分の兄である《佐々木青獅》を倒した人間のことを理解した上で深く憎みたかったらしい。


「折角お母さんの病気が治ったのにおにいちゃんに捨てられて訳が解りませんでした。自殺しようとも思いました」


けど恐くて死ねない。

ならば生きようと思った。

しかし生きる為の原動力が無い。


「狂伯さんにはおにいちゃんに勝って今の状況になる原因を作った貴方を恨んでみたらと言われました。実際少し楽になりました。けど……」


凜音にとって紫闇は良い人で、不愉快なところが無くて、優しくて格好良かった。

今も怒気すら見せない。

憎める人だったらどれだけ良かったか。


「凜音。俺はお前の心を救う。憎んでくれて良い。佐々木の奴がああなったのは俺の責任だ。だから二人の関係を元に戻す」


紫闇は青獅に凜音が教えてくれた、『人との繋がり』だけは捨ててはいけないということを解らせる為にその場を後にする。

水明のところまで戻ると彼女と共に幼馴染みの《的場聖持》が待っていた。


「凜音ちゃんは俺が連れてく。紫闇はこの女を連れてスタジアムに。まだ龍帝(うち)の会長が頑張ってくれてるだろうから」


水明は紫闇の後を着いていく。


「ちょっと遅れたな。けど無事ってことはレイアさんが上手くやってくれたんだろ。でなきゃ紫闇がぴんぴんしてるわきゃないし」


聖持は疲れた顔になる。


「凜音ちゃんとこ行こ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張

 
前書き
_〆(。。) 

 
関東領域の第三スタジアム。

横長構造の広大なスポーツ用の空間。

そこには《島崎向子》、《九月院瞬崩》、《矢田狂伯》が立っている。

フィールドのところどころには小さなクレーターが出来てしまっていた。


「どうかな向子さん? 【天地崩穿流】を継いだ27代目瞬崩の力は」

「現時点なら立華くんよりも強いだろうねぇ~。悔しいけども」


狂伯と向子はまるで道端で立ち話しているような気楽さで瞬崩を評価する。


「やっぱり強いなあぁ。流石は龍帝学園で1年の時から今まで学園最強の生徒会長をしてるだけはあるよおぉ……」


時間稼ぎの向子と戦っていた瞬崩は向子から何発も魔晄防壁で耐えられない攻撃を喰らい血を流していた。


「大人しくしといた方が良いよ~。立華くんと戦うのに支障が無い程度で抑えといたし体も暖まったでしょ~?」


プランの為にも向子が瞬崩を倒すわけにはいかなかったので加減しておいたらしい。

瞬崩にとっては屈辱だが彼にとっての最優先は紫闇と戦って勝つことなので大人しく向子の忠告を聞いておく。


「狂伯くんは戦わないの?」

「俺は見届け人かつフィクサーなんで。『今』の向子さんはともかく『真面目』な向子さんだと勝てないですし」


狂伯は顔を斜め上に向ける。


「それにそろそろ来ますよ」

「だね」


複数の着地音。

現れたのは

《佐々木凜音》を抱えた《立華紫闇》

副会長の《春日桜花》

《黒鋼焔》

《白鋼水明》

《的場聖持》


「そんじゃ俺と焔さんは凜音ちゃんと観客席で応援しとくから頑張れよ」


焔と聖持が凜音を連れていく。


「僕と向子さんは立華君が負けた時にしか出番が無いから離れとくね」


桜花と向子はフィールドの端に寄る。


「健闘を祈るよ」


狂伯も紫闇と瞬崩を残して下がった。


「やっと来たなあぁぁ立華紫闇」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


凜音と焔、聖持は立ち見席に来ていた《黒鋼弥以覇》と先代の26代目・九月院瞬崩だった《流永》が並ぶ所へ行く。


「若い頃の弥以覇に似とるな」

「江神全司にも言われたよ」

「本物の黒鋼ならともかく紛い物では我が弟子の相手にならん。この戦は27代目が勝つ。そん次はお前の番じゃ黒鋼焔」

「勝つ根拠は貴方が捨て切れなかった家族への情を27代目が捨て切れたからかい?」


流永が頷く。


「あたしは爺ちゃんからかつての貴方について聞かされている。だから言うけど60年前に負けた理由は情を捨て切れなかったからじゃあないと思うんだ」


焔がそう言うとフィールドの紫闇と瞬崩に熱が生じ会場の雰囲気が変わる。


「凜音ちゃんには辛いものになるだろうけど最後まで見てやってほしい」


聖持が優しく声を掛けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「佐々木に聞きたいんだけどさ。お前、凜音が誘拐されたことは知ってたのか? お前に助けてほしかったみたいだぞ」

「捨てたもののことなんて知ったことじゃない。それに今のぼくは佐々木青獅じゃなくて九月院瞬崩だって言わなかったっけ?」


瞬崩の言い様に対して一段と怒りが湧いた紫闇は闘争意欲が高まった。

左足を前に。

右足を後ろに。

左手は脱力して下げておき、右手は顎の下へと持っていく。


「黒鋼流・【四形ノ一《青龍》】」

「やっぱり良いなあぁ。お前と戦うのに余計なものは要らない」


瞬崩は全身の力を抜いた。

両腕を下げていく。

槍の穂先は地に着く寸前。


「動かざること山の如く」


瞬崩が放つ重い圧力に紫闇は心臓の鼓動を高鳴らせ胃を痛くした。

恐怖で冷や汗が止まらない。

それほどの好敵手なのに以前と同じで物足りなさを感じてしまう。


(ちょっと前までは解らなかった。何で強くなった佐々木をそんな風に思うのか)


でも今は解る。

『人との繋がり』を捨てたから。

今でも別の紫闇なら人との繋がりを『そんなもの』と言うに違いない。

強さに直結することは無いと。


「佐々木。お前に届かないことは解ってるがやっぱり言わせてもらう。お前は半分正しくて半分は間違ってるってな。前へ進む為に何かを捨て続けなきゃならないのかもしれないが本当に大切なもの、人との繋がりは絶対に捨てちゃあならないんだよ。そいつをこの勝負で解らせてやる」

「下らない不純物が混じったようだね立華。ぼく達みたいな奴は強くなることを求めるべきだ。純粋にね。ただ勝利を望み、他の全てを捨てる。でなきゃさ、濁る。闘争に対する姿勢と感情が。この二つが澄みきって純度の高い奴こそ最も強い。それを教えてやる」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 2

 
前書き
毎回タイトル考えるのめんどくさい。
_〆(。。) 

 
紫闇が【音隼(おとはや)双式(ふたしき)】を発動。

初っ端からギアを上げる。

背部から噴き出す黄金に輝く魔晄の粒子で出来た二対四枚の翼に加えて蹴足での踏み込みが刹那で瞬崩の間合いへと導いた。

蒼穹の槍が動く。

紫闇は首を振って穂先を回避。

更に相手の懐を狙う。

対して槍の柄がしなった。

紫闇の体に叩き付けられる。

盾梟(たてさら)】で防御しようにも柄が触れる方が早かったので体が吹き飛ぶ。


(盾梟でなくとも普通の防壁は張っていたのにこれだけの衝撃とは。大した威力だ)


瞬崩は金色の穂先を向けて追撃。

紫闇の喉を目掛けて突き込む。

紫闇は咄嗟に音隼を使うと推進力を逆噴射に利用して飛行し距離を取る。

初めて紫闇と戦った時の瞬崩。

彼がまだ《佐々木青獅/ささきあおし》であり、小学生みたいな体で弱かった頃。

青獅は決められた縛りでも有るかのように突きしか出していなかった。

狂ったように攻めのみの一点突破。

そんな彼が技を身に付けて練磨し、今や紫闇と同等以上の高みに居る。

どれ程の地獄を味わえばたった二ヶ月ほどでここまで至れるのか。

紫闇は瞬崩を尊敬せざるを得ない。

紫闇が彼の周囲を回りながら探しても瞬崩に隙らしい隙は無いほど完成されている。


「近付かないなら此方(こちら)から行く」


瞬崩が間を詰めてきた。

しかし槍は振るわれない。


「上がれ。炎幕」


紫闇の足下から炎。

熱さと痛みが足を捕らえる。

紫闇は転がって足を抱えた。


「ぼくが強くなったのは体と槍の技だけじゃない。魔術師の【異能】もだ」


紫闇は瞬崩の言葉を聞きながら痛みに耐えて立ち上がり瞬崩と睨み合う。


(前の佐々木は槍先から炎を出すだけで操ることが出来ないレベルが低いものだったよな。範囲も威力も大したことは無かったはず……)

「今のぼくは自分を中心にした半径20メートル以内なら何処でも炎を出すことが可能。けどそれだけじゃないのは解ってるだろう?」


初対決した時の炎は防壁を張っていたとは言え貧弱だった頃の紫闇にも大したダメージを与えることが出来なかった。

しかし今の炎は強くなった紫闇が防壁を張っても苦痛を覚えるほど。


「今のぼくはかなり早く岩を溶かせる。マグマが1000℃から1200℃くらいらしいから、ぼくの炎は少なくとも倍の温度が出てるんだろう。まあきちんと炎の温度を計測したことは無いから勘になるんだけどね」


ただの物理的な炎ならば魔晄防壁が物理に強い特性で殆ど無視できる。

しかし異能の炎は防げない。

少なくとも今の紫闇には。

瞬崩の顔は無機質。

事実を言ったのみであり、誇りや驕り、傲慢さも感じられなかった


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(ちょっとは油断しろ! もう一人の俺に代わるわけにはいかないし……)


もう一人の紫闇ならば流れを掴んでくれるだろうことは解っている。

しかし彼は『人との繋がり』など考慮しないし間違っていた頃の紫闇より酷い。

紫闇が瞬崩に自分の信念が正しいと証明するなら力を借りるわけにはいかなかった。


「レイアさんが言ってた力は感じるけどまだ使えないっぽいし『あれ』しかないか」


焔には止められている。

紫闇自身も嫌な予感がする。

だが使わせてもらう。


七門ノ一(ヴィルス=ヨグ)

混沌の解放(ナル・シュタン)

我は虚無の貌に名を刻む(ヴォルグン・ナル・ガシャンナ)

大気よ唸れ(ヴオ・ゾルディス)

時よ止まれ(イルイス・カルラ)

刻む我が名は(ウルグルイ・ゼェム)

風に乗りて、歩む者(イタクァ・ザ・ウェンディゴ)


周囲の時が凍結する。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】の力だ。

全てが不動。

音が(こだま)することも無い。

ただひたすら静寂の世界。

そんな世界で紫闇は瞬崩に向かう。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 3

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇が[禍孔雀(かくじゃく)]を発動。

右の拳を黄金に輝かせる。

時が凍結した中で止まっている瞬崩目掛けて叩き込もうと腕を振った。

だが残り数センチで命中というところで急に瞬崩の体から炎が噴出。

紫闇の視界から190センチ近い身長で筋骨隆々な瞬崩が消え失せる。

紫闇の背中に痛みが走った。

浮遊感が襲う。


(何……だ? もしかして……吹っ飛ばされたのか……? 俺は……?)


地面に落ちた紫闇は直ぐに転がると、その勢いで立ち上がった。

瞬崩は左胸を中心にして左肩・右脇腹・左大腿から炎を出し燃えている。


「フェアじゃないな。ぼくは立華の力をかなり把握してるけど立華はぼくが槍使いで炎を使うこと以外、殆ど知らないだろう?」


瞬崩は不利になるとしても自分の情報を曝して対等な条件で戦いたいのだ。

でないと完全な勝利だと言って堂々と胸を張れないだろうから。


「自分の命を燃やす。それを代償としてぼくの力、二つ目の異能【魔晄神氣/セカンドブレイク】の《反逆者の灼炎/レッド・リベリオン》は行使される」


その効果は対象よりも一段階、強く・速く、動作できるというもの。

弱点は制限時間。

命を使うのだから当然だ。


「使えるのは24時間で8分だけ。それ以上に命を燃やしたらぼくは死ぬ。まあ今のままだと立華の方が先に斃れそうだけど」


瞬崩が『後の先』を取る為に取る[待ち]の構え【山】から構えを変えた。


「侵掠すること火の如く」


腰を落とした低重心。

前のめりに紫闇の方を向く。

口元は牙を向くように笑む。


(こ、れは……!)


先程まで後手をとって動いていたことが嘘のように猛攻を仕掛ける瞬崩。

反逆者の灼炎によって【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】の時間凍結を超え、紫闇に打つ手を取らせなかった。

紫闇に見切ることを許さない。

蒼穹色の槍が軌跡を描く度に、刺突・斬撃・打撃が紫闇に刻まれ(あと)を残す。

全てが命中する。

その違和感ともたらされる異常な結果に紫闇は不可解さを隠せない。


(速さが有る。けどそれだけじゃない。俺に当てるというより攻撃を置くような……)

「躱せないのが不思議か立華。反逆者の灼炎は兎も角として、ぼくが持つ【魔晄外装/ファーストブレイク】は炎を操るだけじゃない。熱エネルギーの操作と支配、そして熱の概念へも干渉できる」


どうやら異能の応用らしい。


「体温の感知、か?」

「そうだ。人間は何か行動をする時に体温が僅かに変化する。ぼくはそれを感じることで相手の未来位置に攻撃を放つ」


RPGのゲームで必ずエンカウントするモンスターのように思えるかもしれない。


「ぼくは《レックス・ディヴァイザー》よりスピードもパワーも先読みも上だからね。今日は勝たせてもらうよ立華ぁぁぁ」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 4

 
前書き
_〆(。。) 

 
九月院瞬崩(くげついんしゅんほう)》は《立華紫闇(たちばなしあん)》に止めを刺そうと槍を構えて踏み出す。

だが紫闇は瞬崩と妹の《佐々木凜音》に和解してもらう為にも負けられない。


「このまま黙って敗北を受け入れるわけにはいかないんだよおッッ!!」


紫闇の外装から青い粒子。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】の力を上げたのだ。

限界よりも高められる効果の代わりにダメージとは別の激痛を伴う。


「輝け! 紫闇!」


紫闇が放令を唱えて改造された魔晄外装を解放すると外装の色が黒から紫に変化。

基礎能力が1ランク上がる。


「……行くぜ」


紫闇が比べ物にならない速さを得て瞬崩の動きは極端に遅くなる。

実質二段階は速くなった紫闇は瞬崩から距離を取ると[音隼(おとはや)双式(ふたしき)]を使って直ぐ様反転し瞬崩に突っ込む。

そして右拳に[禍孔雀(かくじゃく)

この二つの技を足した上で、この相手へと迫る動きは【夏期龍帝祭】で《橘花 翔(たちばなしょう)》を相手に出した紫闇のオリジナル技。


【黒鋼流異形ノ一・打心終天/改】


ここに強化魔晄防壁の[盾梟]を更に強化した[盾梟(たてさら)丸魔(がんま)]を加えたことで、今の紫闇が使える攻防速ともに最強の技が出来た。


「【黒鋼流異形ノ二・古今伝授(ここんでんじゅ)】」


決まれば瞬崩は倒れる。

だが瞬崩は余裕の笑み。


(今のぼくは【反逆者の灼炎(レッドリベリオン)】の効果によって君よりも一段階速く、強い動きが出来るんだって忘れたのかなぁぁ?)


瞬崩は紫闇が消えたと勘違いするような動きで掌打を躱すと紫闇の真横に移動。

そこから槍で喉を突く。

盾梟/丸魔の防壁越しでも意識を失いそうになる強烈な威力だった。

壁まで吹き飛び叩き付けられた紫闇が落下すると珀刹怖凍が解除される。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(く、そ……。珀刹怖凍が使えない。ダメージが使用の許容限度を越したか?)

「珀刹怖凍は君の持つ最強の切り札。これまで攻略したものは居ない。でもぼくは破った。立華紫闇、敗れたりッッ!!」


強さを求める気持ち。

勝ちたいと思うこと。

二つを残し全てを捨てる。

でなければ濁る。

闘争への姿勢と感情が。

確かに瞬崩は濁りが無い。

だがそれ故に軽い。

瞬崩の槍に想いが無いから。


(もし佐々木の攻撃に凜音や母親の為にとか、そういう感情が乗ってたら、こいつには負けても良いと思えたのかもな)


だが今の瞬崩が槍を振る行為には感情というものが乗っていないのだ。

まるでただの作業。

勝つ為には正しいのだろうが。


(勝てなくて当然なのかもしれない。想いも繋がりも捨てず、余計なことを考え濁った俺が、闘技者の鑑みたいになった佐々木に負けても何ら不思議じゃないのかもしれない。けど俺は───)


負けたくない。

それでも諦められないから。

繋がりを捨てる者と捨てない者。

捨てない方が強い。


「捨てちゃならないことを教える。その為には勝つしかないんだ」

『それで良い。よく言った』


紫闇の耳に《永遠(とわ)レイア》の声。


『少し力を解放する』


観客の声援が届く。

会場が一つになってシアンコールを叫ぶ。

力が漲ってきた。


(これが人と繋がる力。負けたら否定されてしまう。間違っていると証明される)


絶対に嫌だ。


「門を開けバケモノ。レイアさん、力を貸してくれ。佐々木に絆を取り戻す為に」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 5

 
前書き
原作と変えられる場所が少ない。

流れは同じで良いから変えたい。 

 
紫闇は白い空間に立っていた。

目の前には巨大な黒い門。

そこに黒い気体と白い気体が集まってそれぞれが人の形を取り始めた。

黒い気体の方は黒髪の紫闇になった。

何度か会ったことが有る。

紫闇がスイッチを入れると黒い魔晄が噴出して性格も変わるのは彼の影響だろう。

白い方はレイアになった。


「頼む、二人とも」


彼等が門に力を入れて押す。

ゆっくりと開いていく。

気付くと元のスタジアムに居た。


「待たせたな佐々木」


瞬崩は戸惑う。

珀刹怖凍が解除されてから数分しか経っていないのに雰囲気が激変している。

明らかに強くなった。


(何が起きてる……!?)


紫闇の外装、その表面に走っている赤いラインが緑へと変化していく。


七門ノ二(ゼフィス=ヨグ)

混沌の解放(ナル・シュタン)

我は虚無の貌に名を刻む(ヴォルグン・ナル・ガシャンナ)


(珀刹怖凍の詠唱に似ている。けど最初に唱える節が少し違っているな。他は珀刹怖凍のものと同じみたいだが……)


流れ動せし血潮(アヴァタ・ヴェル・ソヴン)


瞬崩は血相を変える。


全てを喰らう(ゼヴァ・イア・ヴェズス)


明らかに珀刹怖凍と違う詠唱。


刻む我が名は(ウルグルイ・ゼェム)


紫闇の血脈が鳴動。


深淵にて蠢く者(ク・リトル・リトル)


詠唱が終わると同時だった。

瞬崩が踏み込み槍を放つ。

黄金の穂先が首に奔る。

しかし紫闇は避けない。


「その必要が無いからな」


溶けて消えた。

槍が触れた途端にだ。

全力で繰り出した一撃だったらしく、瞬崩は勢いが付いた自分と槍を止められない。

やっと止まった時、瞬崩の槍は原形を留めておらず、柄の半分以上が失われていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そらよ」


軽くステップしながら瞬崩に拳を振り抜いていく紫闇は溶け残った槍の()で防ごうとする瞬崩を意に介さない。

そのまま柄を溶かすと紫闇の拳は瞬崩の右胸に穴を空け、肺を突き破る。

紫闇と瞬崩が戦い始めてから初めて瞬崩がダメージを負った。

急いで飛び退()いた瞬崩は直ぐに外装を喚び直すと血を吐きながら異能を行使。


「飲み込めッ! 炎龍ッ!」

「無駄だって」


紫闇の傷口から流れて彼を赤く染める血は触手のように伸びると壁を作って炎の龍を受け止め消し去っていく。

瞬崩は瞠目したが無理もない。


「佐々木。お前はさっき【反逆者の灼炎(レッド・リベリオン)】のことを明かした。だから俺も教えてやる。この能力は【融解】だ。さっき使えるようになった」


血液に概念を溶かす力を付与し、思うがままに操ることが出来る。


「反撃させてもらおうか」


右の肺に穴を空けられ動きが鈍る瞬崩に対し紫闇は容赦せず叩きのめす。

あっという間に血達磨。

肌の色を探す方が難しい。

そこまで出血させられる。


「【神が参る者(イレギュラーワン)】、その中でも特別なやつだというのは承知しとった。じゃが、それを考慮しても、どうしてこれ程までにやられるか!?」


瞬崩の、《佐々木青獅》の師である《流永》は何故こうなったのか解らない。


「人は何かを捨てながら前へ進む。捨てたものは自分を形成し支えてくれたものだということを忘れながら。人は何かを捨てることでしか前に進めないくせに捨てるほど弱くなっていく」


《黒鋼焔》が流永に語り出す。


「矛盾してるけど何か捨てないと前に進めないのが人間という存在。だから本当に大事なものは捨てずに取っておくべきだと思う」


それは誰かとの繋がりだったり貫きたい信念なのかもしれないが、青獅と流永はそれ等すらも捨てて前に進み(から)になった。


流永(あなた)という『器』はあたしの祖父、弥以覇を超えていたのかもしれない。けど器の中に入れておくべきものまで捨てたせいで中身は空っぽだったから負けたんじゃないかな」


流永は客席の手すりを握り締めて震え、叫びそうになるほど感情的になっていたが、何も焔に言い返すことが出来なかった。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 6

 
前書き
_〆(。。) 

 
新たな能力に目覚めた《立華紫闇》に《九月院瞬崩》は何ら対抗策が浮かばない。


(【魔晄神氣/セカンドブレイク】さえ使えたら逆転の目が有るのに……)


今の瞬崩は【反逆者の灼炎/レッド・リベリオン】を使えなかった。

どういうことなのか。

それは先程の話で紫闇に明かしていない反逆者の灼炎の情報に有る。

24時間で8分しか使えないという以外にも、もう一つ弱点が存在したのだ。


(少しでもダメージを受けたら8分しかない制限時間が更に減る。今のぼくが魔晄神氣を発動すれば死んでしまう)


だから紫闇にやられている。

しかしそれ以上に不愉快なこと。


「何で殺さないッ!? 直ぐに殺せるだろうッ! 侮辱しているのかッッ!!」


瞬崩には解っていた。

紫闇は手を抜いている。


「本気で戦る価値が無い相手だとでも思っているのかッ!? ふざけるなッ!」

「殺ろうと思えば出来る。だがしない。もう一人の俺なら今でもそうしてる」


紫闇の足が瞬崩の胴を蹴った。

彼の動きが一瞬止まる。


「俺はお前を殺さない。敢えてこういうやり方を通させてもらう。俺はどうしても凜音からお前を奪いたくないんだよ」


瞬崩の鼻に拳がめり込む。

190㎝近い体が宙を舞う。

背中から地面に落ちる。


「ふっざけるなぁ立華紫闇ッッ!!」


頭に血が昇った瞬崩は直ぐに立ち上がり槍を突き出すも、命中した途端に【融解】を付与された血液で槍が溶かされてしまう。

カウンターの顔面パンチ。

瞬崩は張り子の虎が首を振るように頭部が後ろの方へ飛ぶように跳ね上がる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今更ながら紫闇は理解できた。


(俺には明確な方向性が無かったけど、もう一人の俺にはそれが有ったんだろうな)


もう一人の彼は[殺人拳]

闘争と殺傷を楽しむ。

紫闇はそれを否定しない。

しかし自分は違う。


「俺は憧れの大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》を目指して同じ[活人拳]の道を歩む」


瞬崩は紫闇のことを、自分と同じく強さと力を求めて他の全てを捨ててでも悪鬼羅刹となり、修羅の道を往く者だと思っていた。

しかし違ったのだ。

彼は輝く人生を歩む星の(もと)に生まれた人間であり、自分とは違う。

瞬崩の心が折れかけている。


(これまで発狂しそうな苦痛や漏らす程の恐怖に耐えてきた。その末に今が在る。なのに何で屈してしまいそうに……)


彼は紫闇に勝ちたかった。

それは何故だろうか。

何の為に勝ちたかった?

どうして地獄を乗り越えられた?


『ほどほどにしときなさい』


そうだ。

治療中の母に胸を張るため。


「何でこんな大事なことを……」


忘れていたのだろう。

瞬崩が《佐々木青獅》だった頃、《流永/りゅうえい》に弟子入りすると【死視刎神】で肉体の成長と引き換えに激痛を味わった。

そこからは只管に修練の日々。


『死にたくなければ余計なことを考えず、生き延びることだけ考えろ』


瞬崩は流永の言葉に従う。

それが正しいと思ったから。

少なくともその時は正しかった。

だが生存することのみを考え続けたせいで母への想いを忘れてしまったのだ。

日々の修業はそれほどの地獄。

そうしなければ死んでいたほどに。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


立華(こいつ)の拳はぼくが忘れ、消し去ってしまったものを思い出させる)


しかしそれだけではない。

瞬崩が努力できた理由は母の為だけではなくもう一人の為でもある。


『初勝利おめでとう!』


凜音が居たから頑張れた。

子供の頃に父から家庭内暴力を受けて震えるしか出来なかった自分を庇ってくれた妹。

彼女の為に父へ逆らう。

包丁を振り回して追い出してやった。

それから二人の為に強くなろうとした青獅は数年後に魔晄が宿り魔術師となる。

離婚後の母は働き通しで痩せ細って病気になり、凜音も中学を出たら働くと言う。


(看護師の夢を諦めて家族の為に働くと言った凜音の顔は哀しかった。でもぼくが魔術師として活躍して、いっぱいお金を稼げば夢を諦めずに済むと思ったんだ)


母も働かせずに済むし莫大な治療費だって青獅が賄うことが出来る。

二人とも養ってみせると決めた彼は何度倒されても立ち上がれた。


(人との繋がりがもたらす力か)


瞬崩は転がって紫闇を見上げる。


「……立華(きみ)の言ったことが理解できた。ぼくは、前へ進む度に何かを捨ててたんだ……。お陰でぼくは空っぽな人間になっちゃってたよ……」


残ったのは努力した過去。


「積み重ねたものが土壇場で支えになるって言うけどありゃ嘘だね。努力は『過去』のことだから『現在(いま)』の自分を支えてくれない」


現在を支えるもの。

それは現在自分の周りに在るもの。


(ぼくがこいつに勝てる道理なんて無い。こいつは色んなものを背負って周りに色んなものが有り、色んな人が居る。プラスと言って良いような奴だ)


対する瞬崩はゼロ。

何より大切な二つを捨てたから。

空っぽで何も無い。

立ち上がる気にもなれなかった。


(この勝負、ぼくの負けだ)


瞬崩が降参しようと口を開く。


「おにいちゃんっ! 大丈夫!?」


妹の声。

フィールドには《佐々木凜音》と彼女を連れてきた《黒鋼焔》の姿が在った。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 7

 
前書き
_〆(。。) 

 
黒髪のツインテールを揺らしながら《佐々木凜音》が瞬崩へ駆け寄る。


「何、で……泣く?」

「……おにいちゃんは何時もわたしを守ってくれた。貧乏を理由にいじめる人からも暴力を振るうお父さんからも……。わたしはそんなおにいちゃんが好き!」


昔の瞬崩は無力だった。

それに弱々しかった。

格好のいじめ相手。

確かに辛かったことは間違いないのだが、耐えられない程でもなかったのだ。


(でも凜音へのいじめは嫌だったな)


止めさせる為にいじめをしている奴に立ち向かってぼこぼこにされる。

だが凜音を助けることは叶う。

珍しく自分を褒めてやれる程に誇らしかったのに瞬崩は忘れていたらしい。


「ああ……。あんな良いことまで記憶から消し去ってしまっていたのか……。ごめん凜音。もう一度だけ妹だと思わせてくれないか……?」

「まだ戦うの?」

「母さんに見せたいからね。強くなったのを」


凜音は瞬崩の想いを受け入れて《黒鋼焔》と共にスタジアムの壁まで下がる。

二人は和解できたようだ。


「待たせたな。立華紫闇」


瞬崩は槍の柄を肩に担ぎ腰を落とす。


「疾きこと風の如く」


今の瞬崩は限界を超えている。

痛みさえ感じない。

体を強引に動かし槍を振った。

概念を溶かす【融解】を付与された血液の隙間を縫うように突いていく。

しかし紫闇は避けてしまう。


(くそっ……重い……!)


何時も何気なく持っている槍も自分の体も違う何かのように感じる。

体温感知で先読み出来ていても紫闇の動きに着いていくことが出来ない。


「負けないで! おにいちゃんっ!」



凜音の声に力が漲る。


「負け、ない。ぼくは負けないよ……!」


何十発と食らいながら紫闇に一発を返す。


(限界なんか無い。自分で決めるものだ。何処までも進める。目の前の壁を壊して)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雄叫びを挙げる瞬崩の中で何かが起きる。

今までの自分という殻を破って新しい自分が出てくる脱皮とでも言えば良いのか。


(再誕という表現が正しいのかな)


通常は白銀色をしている魔術師の魔晄防壁が黄金色へと変化していく。

蒼穹色をした槍の柄は全体に金色の模様が浮かび上がり、炎のような赤い光が巻き付いた。

まるで赤い龍のよう。

そして全身からは青い炎。

瞬崩はこの炎がどういうものなのかを直ぐに理解することが出来た。

試合で負ったダメージが瞬く間に癒えて新調されたような体になる。


「お前は完全になった。物足りなさなんか微塵も感じられない。お前という闘技者は更なる高みに至った到達者になったんだろう」

「どうやらそうみたいだね。ぼくが限界を超えられたのは立華(きみ)のお陰だけど」


瞬崩は観客席を見渡す。


(師匠。今のぼくは間違ってますか?)


もしかしたら破門されるかもしれない。

彼はそれでも良いと思った。

流永(りゅうえい)の教えを破ったのだ。

これからも(そむ)き続ける。


(貴方はぼくにとって本物の祖父と思えた。厳しくて怖かったのは間違いない。けど、それでも優しい人。叶うなら貴方もぼくのように取り戻してほしい)


強くなれたのは流永のおかげ。

瞬崩は彼への恩を忘れることは無い。

だが名は捨てる。

今の瞬崩に《九月院瞬崩》という孤独な闘技者でいることは出来ないししたくない。


「今まで、お世話になりました……」


瞬崩はかつて捨てた名を取り戻す。


「侵掠すること火の如く」


槍を前へ突き出すような構え。

獲物を狙う獣のように低い姿勢。

更に【反逆者の灼炎(レッド・リベリオン)

赤と青の炎を身に纏う。


「天地崩穿流ッ! 《佐々木青獅/ささきあおし》……ッッ!! 参るッッッ!!!」


【夏期龍帝祭】一回戦以来からの因縁。

真の再戦はここから始まる。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

主義主張 8

 
前書き
流永さんの苗字って原作だと出てこないんですけど九月院で良いのかな。たぶん天地崩穿流を興した人の苗字だと思うんだけど。
_〆(。。) 

 
【融解】によって逆転した《立華紫闇》は《佐々木凜音》との絆を取り戻し《九月院瞬崩》の名を捨て新たな力を得た《佐々木青獅》に逆転返しされる。

蒼穹の槍によるただ只管(ひたすら)の突き。

それが全身に突き刺さっていく。


「あの小僧……! よもや【魔晄極致(サードブレイク)】に到るとは……ッ! あれが一体どういうものか解っている者は少ないじゃろうな……」


─────────────────

【魔晄外装/ファーストブレイク】は魔術師の武器と第一の異能を指しており、規格外でない魔術学園の生徒なら誰もが持っている。

─────────────────

だが【魔晄神氣/セカンドブレイク】に到る者は魔晄外装を持つ者に比べて極僅か。

第二の異能を得る魔術師は神から天稟(てんぴん)を授ったとされるような才能を以て死を垣間見る程の努力をした末に得られる。

魔術学園の生徒に限れば皆無。

─────────────────

そして修得条件が不明であり、魔晄神氣より遥かに会得する難易度が高い魔術師にとって究極の領域とも言えるのが【魔晄極致】

第三の異能であり、魔術師が覚醒できる最後の異能だともされている。

─────────────────

黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》も隣に居る《流永(りゅうえい)》も72年以上前の【邪神大戦】に参加していた時ですら見たことが無い稀少なものだ。

何せ魔術師が誕生した紀元前2000年から今の西暦2072年まで100人しか居なかったくらい辿り着くことが難しい至高の領域。


現在(いま)は10人ほどおるが、一つの時代にこれだけ魔晄極致が揃うのが異常事態よ」

「二十七代目は……。否、佐々木青獅は捨てたものを拾い直した。家族への情すら切って強大な力を得たのにそれを失うような行為に走った」


なのに流永を超えた域に居る。

捨てたものを再び手にしたことで、弱くならずに強くなったのだ。

否、本当は流永も解っている。

彼は家族への情を捨てられなかったから72年前に弥以覇と戦って負けたという考えを認めたくなかった。それ故に別の答えを求めた。

しかし見付からなかったのだ。

だから認めざるを得なかっただけ。

全てを捨てられなかったから負けたと。


(儂だって信じたかった。人は大切なものを捨てずとも強くなれるという風に)


目の前で戦う弟子が出した答え。

それは流永が求めていたもの。


「確信したぞ青獅……」


全てを捨てて前に進める者が最強になれるという自分の信念は間違い。

間違ってくれていたのだ。

流永は(こら)え切れず涙を流す。


「のう流永」


出来が悪く才能など微塵も無い。

しかし何処か自分に似ている青獅。


()い弟子を持ったのう」


我が子のような存在だった。

良き師匠では無かっただろう。

優しさは見せられず手酷い真似ばかり。

しかし常に彼の栄光を願った。

それくらいしか出来ないから。


(お前はもう儂の意志など継がんで良い。何しろ間違っていたのじゃからな)


ただ己が背負う何かの為に。

その為に青獅(じぶん)の意志を貫け。


「勝利ば掴めぇッ! 青獅ぃッ!!」

 
 

 
後書き
原作だと魔術師は生まれてから200年くらいの歴史しかなく、魔晄極致に至った者も5人に満たないそうですが青獅と江神春斗は至りました。
_〆(。。) 

 

主義主張 9

 
前書き
やっとここまで来た。
_(:3 」 ∠)_ 

 
《佐々木青獅/ささきあおし》は試合が始まった時以上の動きを見せていた。

彼が覚醒した【魔晄極致(サードブレイク)】は【自己再生】と言われる類いのもので間違いないだろう。

それもあらゆる損傷を瞬時に治してしまう程の高性能なやつだ。

武器である魔晄外装も再生できる。

これは《立華紫闇》の【融解】と相性が良い【異能】だったらしい。

青獅の槍が命中する場所へ血液を集めてガードすることで触れたものが溶けるのだが、直ぐに再生して防御をすり抜けてしまう。

せっかく溶かしても意味が無く、無効化と変わらないではないか。


(メチャクチャだ。再生が増えただけでこんなに厄介になるとは)


紫闇は冷や汗が止まらなかった。

青獅は再生と共に【魔晄神氣(セカンドブレイク)】も使っているのだが、これが一体何を意味しているのか。

理解できる紫闇は更に気分が重い。


(再生することで24時間の内、8分しか使えない制限は無くなったらしいな)


青獅は【反逆者の灼炎(レッド・リベリオン)】によって紫闇よりも一段速く、強い動きが出来る。

つまり彼は常に紫闇より上のパワーとスピードを有した状態だということ。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】による時間の停滞や凍結を受けてもそれは変わらない

ダメ押しに体温感知で細部の動作まで把握しているので紫闇が起こそうとしている肉体運動は先読みされてしまう。

おかげで紫闇の主体とする体術は全て躱され青獅の槍は面白いように当たる。

おまけに紫闇の攻撃を喰らってもダメージが回復するから意味が無い。


「いや、無理だろ」


こんな反則的に相性が悪い奴に勝てるわけないと観客の殆どが諦めていた。

しかし戦っている紫闇は違う。


(レイアさんが《白鋼水明/しろがねすいめい》に使ってた『アレ』は俺も使えるみたいだしな。やってみるか)


紫闇が[音隼(おとはや)]を発動。

背部と足から金色の魔晄粒子が噴出し、あっという間にスタジアムの上空まで飛ぶ。


(佐々木は炎熱の類いを無効化できるみたいだが、生憎とこいつ(・・・)は物理に縛られないんでな)


紫闇の背部に金属で出来たような黒いウイングが二枚生えて彼を浮遊させる。

そして両手には指の先に鋭い鉤爪が付いた黒い手甲のようなものが現れた。

右腕の魔晄外装は手甲と融合。


「何だ、あれ……?」


青獅は初めて見る紫闇の姿に戸惑い足を止めて空から降りてくるのを待つ。


(恐らく佐々木の持つ最大攻撃射程は火炎を使う時の20メートル。ということは、その外側から攻撃すれば良いわけだ)


しかし青獅には再生が有る。

それはどう攻略するのか。

実を言うと、そこはあまり問題ではない。

魔術師の異能は【魔晄(まこう)】を消費して使うものなので魔晄が尽きるまで粘れば良いのだ。


(これが地上戦限定だったら佐々木にも勝ち目が有ったろう。どっちみち今からの攻撃は簡単に回避できないけど)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇の両手が地上に向く。

手の平は光を放っていた。

背中に有る黒いウイングも同じく光る。


「じゃあ行くか。お前の魔晄が切れたら終わりだから頑張ってくれよ」


紫闇の手と羽は輝きを増す。


「【雷鳴光翼/ケリードーン】」


光が弾け殺到する。

狙うは佐々木青獅とその周辺。

掌からばら撒かれた無数の光は散弾銃とマシンガンを足したような驟雨(しゅうう)となった。

鋼の黒翼から迸る大量の光はミサイルポッドから発射される弾頭のように輝く煙尾の残光を引きながら青獅を追尾する。

《クリス・ネバーエンド》のお株を奪うような手数だが火力は彼女に及ばない。

しかし青獅に対しては能力の性質上、紫闇が攻撃する方が合っている。

クリスの攻撃は基本的に熱が乗っており、それは青獅にとって最高の相性。

彼女の場合、異能の破壊による異能の無効は出来ても熱と熱エネルギーの操作・支配で対応されてしまうのでダメージは与えられない。

接近戦をすることになる。

しかし紫闇の雷鳴光翼はパワーとスピードは有れど熱が無く、物理を無視して飛ぶ。


(どんなに動いても躱し切れない程の広範囲攻撃を続けて魔晄を削り取るつもりか!)


青獅は三つの異能を同時に使いながら戦っているので大量の魔晄が物凄い早さで減っていくことを避けられない。

対して雷鳴光翼は【超能力】

使用する為の制限も無かった。

性能は使い手次第。

このまま続ければどちらが勝つかなど誰から見ても解りきっている。

それでも二人は止めない。

どちらかが倒れる時。

または【古神旧印(エルダーサイン)】が相手に渡って決着だと思っているから。

何時か見た光。

それが青獅の胸に有る。

紫闇は吸い寄せられた。

空から一直線に向かう。

手を伸ばす。

青獅が吹き飛ぶ。


「母さん。ぼくは……」


仰向けに転がる。


「強く、なったよ」


しかし立ち上がった。


「おい勘弁してくれよ……」


紫闇に余裕は無い。

戦闘でのダメージが過剰に蓄積している上に力を使い過ぎたようだ。

そんな紫闇の前で青獅が止まる。


「佐々木お前」


彼は意識が無かった。

拳を握っての仁王立ち。

青獅の左手に刻まれた古神旧印が光の筋となって紫闇の体に流れ込む。


「佐々木青獅……」


紫闇の全身が震える。

心の底から凄いと思う。


「美事な、男だった、ぜ……」


紫闇は意識を手放した。
 
 

 
後書き
青獅の胸に見えた光と同じ光は今までに何回か出てきてますが、原作だと最終巻に出てくる設定の伏線でした。

気付く人は気付くけど私は鈍かったので全然気にしてなかったですね。

もうすぐ第三部も終わりです。

ケリードーンの元ネタは作者さんが病気で休んでたけど再開した現在も移籍して連載中の漫画キャラが使う武器です。 

 

Good bye My Essential

 
前書き
第三部、完。
_〆(。。)

 

 
ここは空港。


「やれやれ……。何も言わずに帰ろうとは酷い奴じゃのう流永よ」

「負け犬の帰郷に見送りは要らぬ」


流永の口から出たのは自虐の言葉だが彼の心には満足しかなかった。

長きに渡って探し求めていた答えを弟子の青獅が見せてくれたのだから。


(大切なものを捨てずとも、人は何処までも強くなることが出来る)


70年以上前、自分の目前に居る《黒鋼弥以覇》と戦って敗れた原因はそれだ。

捨てなければならない。

そうしなければ強くなれないと思い込んでいたからであり、捨てずとも構わないと信じ切れなかったから。

中途半端だったのだ。

だから青獅が到達した魔晄極致に至れず限界を超えることが出来なかった。

もはや悔いは無い。

それを知ることが叶った以上、流永は闘技者として生きる意味を無くしていた。

黒鋼打倒に人生を賭けるほど弥以覇への執着が有ったのに今はそんな気持ちが湧いてこない。


「今はさっぱりした気分よ」

「のう流永よ。もう一度だけ儂と戦ってみる気はないか? 今のお主なら……」

()の槍は折れた。戦る資格は無い」


流永は笑みを浮かべる。

そして弥以覇の付き添いで空港まで来た隣の焔に対して忠告していく。


「黒鋼焔よ。お前の弟子は強かった。されどこのままでは黒鋼の劣化コピーから脱却できまい。例え【真打】を会得してもの」


流永の後ろ姿を見送りながら弥以覇は力を抜いたように大きく溜め息を吐く。


「共に時代を駆け抜けた好敵手がどんどんと去っていくのう。どれほど強くとも心の痛みからは逃れられんか」


弥以覇と共に空港を出た焔は流永に言われた言葉を思い出す。

このままだと紫闇は黒鋼の劣化コピーにしかなり得ないだろう。

彼は黒鋼でなく立華紫闇だから。

このまま成長しても、紫闇は本当の意味で焔と並び戦うことが出来ない。


「出会って4ヶ月。強くなったね紫闇は。けどそろそろ潮時か。レイア兄さんにも話をしておくことにしよう」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


領域内戦争が終わった後、紫闇と青獅は病院送りになってしまった。


「いいザマじゃん佐々木」

「君もな立華あぁぁ」


二人のベッドは隣同士。


「おにいちゃん。わたし達が仲直り出来たのは立華さんのおかげなんだよ?」


青獅は凜音に頭が上がらない。


「幸せになれよ、二人とも」

「立華。手を出したら殺すよ?」

「出せるか。今の俺は大切なものを捨てずに強くなることに必死なんだから。確かに凜音は可愛いと思うけどさ」


それから暫くして退院を迎えた紫闇は黒鋼の屋敷に向かい、胴着に着替え道場へ。

そこにはレイアと焔の姿。


「じゃあどうぞ、焔」


レイアに促された焔が口を開く。


「立華紫闇。本日を以て君を破門とする」
 
 

 
後書き
次を書くまでは間が空きそう。
_〆(。。) 

 

課題

 
前書き
最終の第四部です。 

 
【領域内戦争】の決勝。

【龍帝学園】は【刻名館学園/こくめいかんがくえん】に勝利する。

これにより【全領域戦争】、略して【全領戦】の【団体戦】に出場する権利を得た。


それから一週間───


立華紫闇(たちばなしあん)》は《黒鋼焔/くろがねほむら》から破門を宣言されていた。

永遠(とわ)レイア》は焔の横で佇んでいる。


「君はこの4ヶ月で黒鋼流の技術をほぼ全てものにしてみせた。でも今のままだと黒鋼の劣化した模倣でしかない」

「実を言うと、俺自身も劣化コピーじゃないかなとは思ってたんだ。このままじゃあ焔には追い付けないって」


紫闇が使う特殊能力以外の戦う力は大概(たいがい)が黒鋼流で学んだ技術。

焔の真似みたいなものだ。

焔が頷くとレイアが話し出す。


「紫闇は黒鋼とは別の力が有る。それを伸ばして自分のスタイルを作ってもらう」


紫闇は納得した。

心技体を三つとも全て成長させるなら黒鋼から離れる必要が有ると感じたから。


(黒鋼流は強力なんだが、それに頼り過ぎるのも良くない。俺自身を変えないと)


焔は半月ほど黒鋼の屋敷へ来訪することを禁じ、その間は口も聞かず、顔を合わせたりもしないという縛りを設けた。


「あたしの手を借りずに強くなれ。でも他の人に頼るのは構わないよ」


今回の課題をこなして焔が認める程の力を得られたならば、半月後に黒鋼の【真打】を伝授するつもりなのだという。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それが免許皆伝になるね。その後でも教えられることは有るんだけど……」

「半月後には【冬季龍帝祭】が有る。それまでは僕が付き合うよ」


冬季龍帝祭は全領戦の【個人戦】に出場する権利を得る為のもの。

【夏期龍帝祭】は一年生のみで行う大会だったがこちらは全学年から希望者が出る。

その熾烈さは夏期と比べ物にならず、出場選手の士気や実力も高い。

全領戦(全領域戦争)・個人戦へ出場出来るのは一つの魔術学園に一人のみ。


立華紫闇

《橘花翔/たちばなしょう》

《クリス・ネバーエンド》

《江神春斗/こうがみはると》


この四人は既に冬季龍帝祭へ参加することを表面してエントリーしている。


「全領戦の個人優勝は国内で最強の学生魔術師という称号だが、今なら【魔神】を除いて世界最強に近いと言っても過言じゃない」


レイアの言うように、今日本に在籍する魔術師のトップ勢は史上最高の戦力を保有している世界四強の魔神を筆頭とする。

魔神でないトップ勢の中にはレイアを含めた【鳳皇学園/ほうおうがくえん】で不動のレギュラー勢や、紫闇の幼馴染みである《的場聖持/まとばせいじ》、レイアの実弟《エンド・プロヴィデンス》の名前も。


「取り敢えず紫闇の目標は、半月後の冬季龍帝祭までにあたしが要求する最低ラインの強さになってもらうことだから頑張ってね」 
 

 
後書き
第四部は私がイメージしているよりかなり短くなるかもしれません。
_〆(。。) 

 

課題 2

 
前書き
せっかく考えた設定と借りているキャラの出番が皆無なのが残念ですが仕方ない。
_〆(。。) 

 
レイアと紫闇は黒鋼の屋敷を出ると紫闇の部屋が有るマンションまでやって来た。


「【神が参る者(イレギュラーワン)】についての話は終わってるからな。取り敢えず休もう」


レイアに気を抜くことを提案された紫闇は大人しく言うことを聞いておく。


(焔に破門を伝えられて焦ってたし、修業に入る前にはちょうど良いか)


二人が見るテレビは【全領域戦争】についての放送が流れていた。

今は歴代の優勝校やベストバウト、名選手などが紹介されている。

紫闇の憧れ大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》も闇色の大剣を以て相手を圧倒していた。

画面に映る数多(あまた)の怪物と言われる学生魔術師の雄姿に紫闇の不安は消えていく。


『では8つの魔術学園領域から今年の注目校とその注目選手を紹介していきます』


────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

[北海領域]

【白夜館学院/びゃくやかんがくいん】

四年生

《一条連理/いちじょうれんり》

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[東北領域]

宮城

月天学院(げってんがくいん)

《騎城優斗/きじょうゆうと》

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

[関東領域]

神奈川

【龍帝学園】

一年生

《立華紫闇/たちばなしあん》

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[中部領域]

山梨

【九龍学園/くりゅうがくえん】

五年生

《八蛇狂鵺/やだきょうや》

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

[近畿領域]

奈良

【鳳皇学園/ほうおうがくえん】

二年生

《神無 雫/かみなしずく》

昨年度の【全領域戦争】において優勝した【団体戦】のリーダーであり、【個人戦】でも優勝した『四強』に次ぐ有名人。

生徒会の副会長。

昨年は魔神だった先代の世界四強が現在の四強と戦って死んでしまったので彼等と戦うことは出来なかった。

四強の領域に最も近い魔術師とされる。

────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[中国領域]

島根

【太極学園/たいきょくがくえん】

二年生

《七枷彼岸/ななかせひがん》

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

[四国領域]

高知

【天蓋学院/てんがいがくいん】

三年生

《島崎狩牙/しまざきりょうが》

────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[九州領域]

鹿児島

【夜刀神学園/やとがみがくえん】

二年生

《シャルル・ロード・ガイロス》

ドイツから移住してきた貴族の末裔で、何処ぞで人外と交わった王族の血脈に当たる。

破格の戦闘能力と天賦の才を持つ。

────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『特に龍帝学園の立華紫闇選手は白髪や戦い振りから朱衝義人の再来とも言われており、前年度の個人戦と団体戦を両方とも制した鳳皇学園とのライバル校同士による戦いが期待されますッ!』


あの義人と比較されるところまで来たのかと思うと紫闇は感慨深かった。


『去年は世界最強とされていた四人の魔神が倒される未曾有(みぞう)の出来事が有りましたが今年も定番となっている企画は有ります! つまり【個人戦】を制覇した優勝者と魔神の対決ッ! その名も【頂上決戦】ッッ!!』


全領戦の個人戦優勝者(シングルチャンピオン)はボクシングのランキング1位に相当する。

1位より上のチャンピオンやタイトルホルダーと言われる選手に当たるのが魔神だ。

魔神は【無明都市(ロストワールド)】の解放者になる代償として【古神旧印(エルダーサイン)】を喪失してしまうので学生魔術師の【天覧武踊】には出られない。

なので普段は魔術学園を卒業した者が戦う【プロリーグ】に参加したり、国からの任務を行って過ごすことになる。

しかしそんな魔神が現役の学生魔術師と公式に戦う機会が年に一度だけ有った。

それが個人戦優勝者との頂上決戦。


(日本に所属している魔神の中から一人だけを選んで挑戦できる。日本中の学生魔術師が目指す最終目標がここでの勝利)


もちろん紫闇も強い興味を示していた。

勝っても古神旧印は完成に近付かないし、賞金が出るわけでもない。

だが凄まじい名誉を得る。

特に現在の日本に居る魔神は魔術師が発祥したとされている紀元前2000年から現在までの4000年以上に及ぶ歴史でも最強とされる面子(めんつ)

学生魔術師に限らず世界中の魔術師が彼等との戦いを希望して止まない。

中には彼等を倒して日本の戦力を削り影響力を弱めようとする(やから)も居るが。

勝てれば魔術師だけではなく、『人類』という大きな(くく)りの史上で最強の一人として後世の末代まで長く広く名を残せるだろう。


「そう言えばイリアスさんとアンゲルさんも日本に国籍と所属を変えたんだっけな。あの二人と戦えるかもしれないぞ紫闇」
 
 

 
後書き
紫闇はアンゲルさんと知り合いではありませんが有名なのでよく知っています。

魔術学園は【聖域】になって普通の人間が入れなくなってしまった東京を除き、各府県に1つずつ有りますが、北海領域は北海道一つしかないので北海道は7つ。

他は石川・山梨・岐阜が2つずつ。

設定が変わらなければですけど。
_〆(。。) 

 

課題 3

 
前書き
龍帝学園以外で原作に出てきた殆どの魔術学園は原作と名前を変えてあります。

いちおう全ての都道府県に有る学園の名前を考えてはありますが、無意識に私が好みとするワンパターンな名前になっていたり、なかなか名前が思い付かず、いい加減に名前を付けたりしてます。
_〆(。。) 

 
テレビではまだ【全領域戦争】についての放送が流されている。


『ではここから頂上決戦で選択できる【魔神】の皆さんを紹介しましょう』


───────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

イギリス史上最高の魔術師。

古代旧神(エルダーワン)】の討伐者。

[剣聖]と[剣王]の称号を持つ『騎士』


中国領域・鳥取県

【鷲鷹学院/しゅうおうがくいん】

四年生

《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》

──────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

小学生でギリシャに留学し、現地で魔術師の頂点にまで登り詰めた天才にして超人。

彼方(あちら)では[ゼウス]と呼ばれる。

世界最強の雷使い。

四強の一人と実の兄弟。


東北領域・秋田県

【傾世学院/けいせいがくいん】

四年生

リングネーム
《アンゲル・シン・シララギ》

本名《白良々木天神(しららぎてんしん)

─────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

兄弟ともに魔神。

世界最強の炎使い。

古代旧神を滅した者。

(あと)に残るは灰燼(かいじん)


九州領域・沖縄県

【獅哮館学園/しこうかんがくえん】

三年生

白良々木眩(しららぎくらむ)

───────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

怠慢の具現化

無職の化身

理不尽な散歩師


北海領域

【天狼学院/てんろうがくいん】

二年生

《ミディア・ヴァルトシュタイン》

───────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

魔術師史上最高の攻撃力。

最強のバトルマニア。

面倒臭がりの暴君。

偽悪の英雄。


四国領域・徳島県

【羅喉学園/らごうがくえん】

四年生

《夢絶 叶/むぜつかの》

────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

独尊の頂点。

至高への到達者。

史上最強を超えた者。

孤高の英雄。


中部領域・山梨県

【星霜学園/せいそうがくえん】

五年生

《皇 皇皇/すめらぎこうのう》

────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「挑戦権を得たら誰を選ぼうかな。その為にも個人戦の枠に入らなきゃだけど」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

《永遠レイア》は紫闇を連れて修業する為の場所へと移動した。

二人が来たのは元東京。

かつての日本国首都。

そして《ナイアー=ラトテップ》に【無明都市/ロストワールド】へと変えられた街。

今は魔神によって解放され【聖域】となっているが、棲んでいる【精霊】の結界によって外界からの干渉は断たれている。

精霊の要求を受け入れた国が全ての権利を手放したので東京は日本でなくなった。

上位存在に匹敵する上位精霊が何体も闊歩(かっぽ)する危険地帯が紫闇の修業場所。


「大丈夫だ紫闇。精霊は基本的に人類と敵対する気が無いんだから。()みかを追い出そうとする奴等に抵抗するだけだ」


彼等は【魔獣領域】の【魔獣】と違って無闇に人間を襲わないし、上位の精霊であればあるほど知性が有るので話は通じる。

しかしもっと気になること。


「何で『そいつ』が居るんです?」


紫闇は冷や汗を流す。


「細かいことは言いっこ無しヨ。アタシも修業に協力するだけネ」


レイアと並べば兄妹に見えなくもない白一色の容姿は温かみというものが無い。


《白鋼水明/しろがねすいめい》

紫闇を殺しかけた女。


「水明は僕や焔の幼馴染みなんだ。黒鋼のことをよく知っているし役に立つよ」

「修業のメイン担当はレイアでアタシは補助みたいなもんネ。まあ修業最後の仕上げとして戦うかもしれないけどナ」


不安が有る紫闇だったが焔に追い付く為にも贅沢は言っていられない。


「解った。宜しく頼む」

 
 

 
後書き
皇さんの所に有る史上最強は原作に出てくる史上最強の魔術師《神代蘇芳(かみしろすおう)》のことです。
_〆(。。) 

 

課題 4

 
前書き
_〆(。。) 

 
「ところでどんな修業を? 今までやったことの無いものなのは解るんですけど」


紫闇がレイアに尋ねる。


「【神が参る者(イレギュラーワン)】というのは力を使う度に融合した上位存在へ人格や肉体の主導権が奪われていくんだけど、その目安(めやす)となるのが紫闇の右腕全体に広がる(あざ)なんだ」


上位存在からの侵蝕を防ぐ方法。

それは上位存在と対決して勝つことで上位存在を支配することである。


「それが出来ると神が参る者として成長し、今よりも遥かに強くなれるよ」


これが修業の第一目標。

以前にレイアが紫闇の外装を改造した時に紫闇と融合した上位存在を倒して支配権を奪ったので上位存在はかなり弱っているらしい。


「つまり今がチャンス。もし弱らせてなかったら先ず勝てなかったろうから」

「そんじゃ次はウチの番ネ。第二の目標は黒鋼流の【真打】を会得すること。焔と戦る時に使って驚かせてやると良いヨ」


白鋼水明(しろがねすいめい)》の言葉に紫闇が驚く。


「えっ? 水明は黒鋼流を学んだわけじゃないのに黒鋼の真打を?」

「知ってるし使えるヨ。お前や焔と違って努力なんて要らない才能が有るからナ。けど先に上位存在を倒してからの話。別にそうしなくても真打を覚えられるけど、その方が確実だかラ」

「じゃあ早速やろう。そこに寝て」


レイアの指示に従い仰向けに寝転がった紫闇の額に水明の手が当てられる。


「白鋼は黒鋼の親戚で二つの一族は同じ先祖から派生したらしイ。だから同じ【練氣術】も使えるヨ。その一つを使ってお前の意識を死の淵まで沈めル。そこまで行ったら自分の上位存在と会えるから戦って勝テ」

「上位存在は【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】と【融解】を使ってくるだろうが奴の能力枠を潰して発現した【超能力】は使えない。それでも厄介だが今の紫闇なら弱った上位存在を倒せる筈だ」


もしもの時は紫闇の外装に付けたレイアの疑似人格が力を貸してくれるという。


「そんじゃあ頑張レ」


水明の手から赤い光が放たれると紫闇の意識は瞬時に暗転してしまった。


「ここは……」


紫闇が気付く。

何処を見ても黒い空間。

そこに赤黒い(もや)が現れた。

人の形を為す。

黒い髪の紫闇だが今まで会った彼とは違い、会ったことの無い別人らしい。

スイッチを入れて黒い【魔晄(まこう)】を出し、『鬼』と化した紫闇に近いようだ。

狂暴な笑みに歪む顔。

激しい戦闘の意思。

いつ襲ってくるか解ったものでない。


「お前が俺の中に居る上位存在なのか? 初めて会ったけど物騒だな」

「その答えは合ってもいるし間違ってもいるって言えるんだよなぁ~。けどさあ、そんなこたぁどうでも良いことだろう? お前は俺を倒しに来たんだから」

「……確かに、そうだ……」


黒鋼流四形ノ一・青龍。

右手は顎下に左手は下げる。

双方とも同じ構え。


「自分と喧嘩する機会なんざ、こんなことでもないと有り得ないからな。お前も俺との戦いを楽しんでくれよ?」


二人の紫闇が拳を交錯(こうさく)させた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

それぞれの想い

 
前書き
短くなりました。
_〆(。。) 

 
現在午前10:00

普通なら学園で授業中。

しかし【冬季龍帝祭】に出場する生徒は殆ど休学届けを出して姿が見られない。

本番までの半月で登校する者は皆無。

トーナメントに向けて自主的に鍛練したり、相手を用意して実戦訓練に励む。

【全領域戦争】で【団体戦】のメンバーに入り、【個人戦】への出場も有望視されている《橘花 翔/たちばなしょう》もその一人。

【夏期龍帝祭】の優勝者である翔は優勝した後で《江神春斗/こうがみはると》に戦いを挑み、敗れてしまっている。

冬季には春斗も出るらしい。

彼にリベンジすることを目標に、《立華紫闇/たちばなしあん》との再戦も目指す。


(全領戦の個人戦出場は正直どうでも良い。そっちは紫闇が出れば良いんだから。俺は春斗を倒すことだけを考えれば良いんだ)


翔は自身の目前に春斗を投影しながらシャドートレーニングに没頭した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《クリス・ネバーエンド》が日本で住んでいる屋敷の地下には広大な空間が有る。

そこはトレーニングエリア。

最先端のトレーニングマシンや公式戦と同じく結界/バリアの発生器も置かれた闘技場まで備わっているのだから驚くしかない。

クリスはスパーリング中。

地下には姉の《エリザ・ネバーエンド》や弟分の《レックス・ディヴァイザー》も居るのだが、二人はクリスの相手ではない。

もう戦うまでもなかった。

それほどにクリスが強くなったのだ。

そんなクリスが召喚した無数の銃火器で攻撃される相手は魔晄防壁で受け止めながら素手で攻撃を払い除けていく。


「いやー本当に強くなったね」


《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》

イギリスから亡命してきた本国で史上最高の【魔術師】であり【魔神】

クリスの幼馴染みにして自国の【古代旧神/エルダーワン】を殺した男。

クリスがわざわざ魔神のイリアスに来てもらったのは紫闇に恩を返すため。

彼女は紫闇のお陰で姉と和解できただけでなく、弟分を救ってもらった。


(だから今より強くなって紫闇が震えるくらいの戦いをした上でブチのめす!)


闘技者の師弟であり、好戦的な紫闇とクリスにはこれが恩返しになるのだ。

だがそれだけではない。

クリスは紫闇を好きになった。

恋愛的な意味で。

自分の(とりこ)にしたいのだ。

視線を釘付けにしたい。

その感情を向けてほしい。

彼の心に自分(クリス)を刻みたい。


「振り向かせてあげるわッ!!」
 
 

 
後書き
もうちょっと続く予定。
_〆(。。) 

 

それぞれの想い 2

 
前書き
_〆(。。) 

 
旧東京・現【聖域】で

永遠(とわ)レイア》

《白鋼水明/しろがねすいめい》

《立華紫闇/たちばなしあん》

の3名が修業を開始した直後。


「ん?」

「どうしたの?」


同じく聖域の何処か。

レイアの弟《エンド・プロヴィデンス》

龍帝の副会長《春日桜花(かすがおうか)

彼等は修業しに来たわけではなく、修業をする者に対しての補助とコーチ。


「どうやらお兄ちゃんが珍しい水明(やつ)と紫闇を連れて来てるみたいですね」

「レイア君が自ら動くとは……。一気に【プラン】を進めるつもりなのかな?」


立華紫闇の覚醒と完全制御のプランに関わる桜花のようなメンバーには有り難い。

二人はレイア達が居る方に視線を向けているが、どうにも気配が薄い気がする。

恐らく結界を張って周囲に影響が及ばないようにしているのだろう。


「立華君が内なる上位存在に負けて人格消滅したら殺さなきゃならないからなぁ」


桜花がそう言い終わった時、何か重い物が倒れて大きな地響きが起こる。


「はあ……。はあ……」


倒れたのは一頭のドラゴン。


【火焔龍・アマノホデリ】


「お、倒したか」

「これで何体目だっけ?」


エンド、桜花と共に来た剣士。

彼は剣を地面に突き刺して杖の代わりにし、片手と片膝を地に着いていた。


「解らない……。数えて、ハアッ……ないからな……。今は肉体の、最終……調整、を、している最中……なん、だから、な……っ」


長い黒髪を後ろで束ね、ポニーテールにした眼鏡の男子は龍帝学園の一年生。

橘花 翔(たちばなしょう)》や紫闇、《クリス・ネバーエンド》が戦いを望む相手。


《江神春斗/こうがみはると》


「これが片付いたら精神集中してから魂を研ぎ澄ますだけか。公式戦が楽しみだ」


入学する前から修業に付き合っていたエンドは彼の初陣を待っていた。


「転がってる精霊はどうするのさ。放置しても大丈夫なのは知ってるけど」


桜花が見る先には【精霊】や【聖獣】とも呼ばれている聖域の住人。

3人の周りは春斗が倒した巨大なドラゴン型の精霊が何体も倒れ伏している。


【烈水龍・テュルフィング】

【巨樹龍・イルミンスール】

【迅雷龍・エクソスフィア】

【夢邪龍・カシマール】


全て死体だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「この聖域を治める精霊の最上位連中からは好きにして構わないと言われてる。このドラゴン達も死ぬことは承知で来てるしな」


エンドの言った通り。

精霊は生命体であり、個体に差は有れど、エネルギーの塊かつ、世界の一部。

死のうが世界と同化して循環し、再び精霊としてこの世に生まれ(いず)るのだ。

精霊の転生体は基本的に前世の記憶は無いが、個体によっては残っているし、前世の力を引き継いでいる場合も有るので精霊にとっては決して死ぬことが悪いことであるわけではない。

なので精霊は人間に比べて自分の生命に対しての執着が希薄な傾向に有る。


「そもそも精霊って妖精と違って人間から物理的に干渉できる存在じゃないから違う【位相】に居れば会えないんだよね」


桜花が()べた通り、本来の精霊は【精霊界】で過ごし、人間界に関わる時も同じ世界のズレた位相で全く干渉されないようにする。

人間と同じ世界、同じ位相で居ても、あらゆるものをすり抜けてしまうほど存在を薄くして妖精のように実体化しない。

そんな精霊が人間界の一部を切り取って擬似的な精霊界を作った挙げ句、一部の人間に対してだけ協力する理由は上位存在だ。

精霊は地球が生まれるよりもずっと昔、約80億年前から上位存在と争っている。

特に【旧支配者/オールドワン】との関係は険悪で、【古代旧神/エルダーワン】とは限定条件での不干渉を貫く。

【魔獣領域】と【魔獣】に関しては一定以上の力を持つ精霊の餌場と餌として利用。


「俺には想像も出来んが、旧支配者が精霊と戦っていなければ地球は無くなりはしなかったものの、生態系が変わっていたらしいな」


恐らく魔獣だらけだったはず。

春斗はエンドに回復してもらいながら目を瞑って物想いに(ふけ)っている。

旧支配者が地球に差し向けた軍勢は全体から見て、ほんの一部に過ぎない数。

思いのほか地球人が頑張ったので、旧支配者でも最強クラスに位置する《ナイアー=ラトテップ》のような最精鋭が送り込まれてきただけ。

最初から必要な分だけ軍勢を使えば一時間もかからず勝利できていた。


「まあ今は【冬季龍帝祭】に集中しなくちゃいけないからな。桜花さん、俺はお兄ちゃんの方に行ってきます。何か有るかもしれないんで」


エンドは二頭のドラゴンを呼ぶ。

もちろん精霊だ。

仲間にした精霊である。

名を《インドラ》と《ヴリトラ》

下級の上位存在をも喰らう。


「じゃあお願いします桜花さん」

「任せて。江神君を立華君に負けない位の強さに仕上げてあげるよ」


エンドはヴリトラに乗ると、インドラを引き連れ紫闇の下へ飛んでいった。


「さて江神君。この修業で最後の対戦相手は僕が務めさせてもらう。今まで倒した精霊よりも強いから覚悟してもらうよ?」

「願ってもない。貴方に勝てれば成長した立華紫闇にも勝てるでしょう」

 
 

 
後書き
インドラとヴリトラが食べる下級の上位存在より弱い最下級の上位存在であっても石化した後の復活を防いで完全滅殺できるのはオリキャラだけです。

原作設定だと史上最強の《神代蘇芳(かみしろすおう)》でも倒して石化封印は出来ても討伐による滅殺は出来なさそうでした。

ドラゴン達はパズドラから。
_〆(。。) 

 

それぞれの想い 3

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇が自身の上位存在と戦い始めた日。

午前0:15分。

【龍帝学園】の生徒会室には五年生で生徒会長の《島崎向子(しまざきこうこ)》が居た。

テーブルを挟んだ向かい側にはギリシャで【魔神】となった《アンゲル・シン・シララギ》こと《白良々木天神/しららぎてんしん》が座っている。


「今年はどうなるかなぁ~」


向子が口を開く。


「新人だと龍帝(ここ)の《的場聖持(まとばせいじ)》と《エンド・プロヴィデンス》が()げられるが、恐らく今年は出て来ないんだろう? なら同じ【関東領域】に居るじゃないか」


彼等は【全領域戦争(略して全領戦)】がどうなるかについて話していた。


「天神くんの言ってる新人って栃木の【神明学園/しんめいがくえん】で1年生の《九条天武/くじょうてんぶ》くんだよね?」


あれは良い。とびきりだ。

的場聖持にも劣らぬ戦闘能力。


ともすれば(もしかしたら)、《白良々木眩(ウチのおとうと)》と張り合いかねんからな……。末恐ろしい奴だ」


魔神である天神の弟は、同じく魔神で世界四強の一人とされる魔術師《白良々木眩/しららぎくらむ》なので、比較対象にされる天武がどれだけ異常か解ろうというもの。


「はあー……。優秀な子が出てくれるのは良いことだし嬉しいんだけど、問題は彼のことについてなんだよねぇ……」


今の向子にとって重要なのは、『彼』が全領戦で何処まで成長してくれるか。


「ふっ。流石の島崎向子も《立華紫闇(たちばなしあん)》のことについては頭を悩ませるか」


向子も天神も【プラン】関係者であり、紫闇が【冬季龍帝祭】に向けて【聖域】で自分の上位存在と戦っているのは知っている。


「半月後までにアタシが望む水準に達してなかったら、クリスちゃん、江神君、翔くんの3人には勝てないだろうね」

「今回は《黒鋼 焔(くろがねほむら)》も冬季祭への出場に乗り気なのだろう? それでもその3人の誰かが優勝するかもしれないと?」


プランの関係者は【黒鋼流練氣術】と一族が受け継ぐ【写輪眼】を高く買っている。

鬼神(きしん)]と言われ、【邪神大戦】を終結に導いたともされる《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)》の孫である焔も注目されていた。


「ほむほむは100年以上も生まれなかった写輪眼の発現者になった。その後で親御さんも、あの鬼神も目に覚醒したんだから凄いよね~」


焔が()る気になればクリス達に勝てるだろうが、彼女が公式で本気を出すことは無いだろうし、出すわけにもいかない。


「黒鋼焔が【大筒木】の力を存分に奮うには会場が狭すぎるからな……。俺や向子(オマエ)だってそうだろう? 何かしらの制限を付けないと真剣勝負は無理なんだよ……」


天神が感じている通り、地球上で全力を出すと国を越えて環境に影響が出てしまう。

それほど力が頭抜(ずぬ)けている。

佐々木青獅(ささきあおし)》と戦った【領域内戦争】からの僅かな期間で異様に強くなったと言えど、

《クリス・ネバーエンド》

《江神春斗/こうがみはると》

《橘花 翔/たちばなしょう》

では天神達に届かない。

日本以外の魔神なら勝てるだろうが。


「今の立華くんじゃあ厳しいよね~。仕方ないから向子さんが冬季に出ますか。何とかして彼とほむほむが当たってほしいし」


いちおう組み合わせは操作してあるが、今のままでは厳しいものが有る。


「裏方に徹しているだけで出来ることは限られているからな。それに俺も久し振りに島崎向子の戦いを見たい。試合になるかは別として」
 
 

 
後書き
(´ぅω・`) 

 

Rebirth Day

 
前書き
_〆(。。) 

 
修業の一日目。

立華紫闇(たちばなしあん)》は内なる【上位存在】にこっ酷くやられてしまった。

試しに【超能力】を使わず【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】と【融解】、体術のみで挑戦してみたらこんなことになってしまったらしい。

スペック的にはそこまで変わらないし向こうは能力を二つしか使えないのだが。


「10回戦って全部殺されてしまったか。そこまで圧倒的な差が有るとはね」

「一応はレイアが弱らせてるわけなんだろう? それでこの様ならプライド捨てて超能力を使うべきだとアタシは思うヨ?」


修業に付き合っている《永遠(とわ)レイア》も《白鋼水明/しろがねすいめい》も、そこまで今日の敗北を心配していない。


「ところで二人に聞きたいんだけど、この惨状はどういうことなんだ?」


3人が居るのは最初に紫闇が寝ていた場所と殆ど変わっていない位置。

しかし辺りは戦いが行われていたことが(うかが)えるほど荒れ果てている。

レイアと水明だろうか。

そう考えた紫闇だが、精神的に疲れたので今日の修業はお開きとなった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


修業の五日目。

紫闇は【雷鳴光翼(ケリードーン)】だけでなく、新しく覚えた【黒窓の影(スピラスキア)】の超能力も使って戦っている。

初日に比べて健闘しているが、相変わらず上位存在には勝てない。

こいつは本当に弱っているのかと思うほど、黒髪の紫闇を模した上位存在は紫闇のことを簡単にあしらってしまう。

黒い空間では紫闇が両手と両膝を地面に着いて息を上げてしまっている。

服はボロボロ。

全身は血で真っ赤。

内臓や骨は複数を損傷。

しかしそれは相手も同じ。

上位存在のダメージは紫闇と同等か、それ以上に重いものなのだ。

そのダメージは戦いを楽しむ為に敢えて受けたものであることが恐ろしい。

黒髪の紫闇は本人である白髪の紫闇を見下ろしながら言い放つ。


「才能ねぇなぁ~。仮にも俺と融合してるんだから、もうちっと頑張れよ」


痛い。辛い。何故こんな目に合うのか。嫌だ。もう逃げたい。死にたくない。


(自惚れてた……)


紫闇(おれ)はこんなに弱かったのか。


「はぁぁぁぁ~~…………」


長い長い溜め息。

それは失望を表すような。


「俺の宿主にお前を選んだのは失敗だったのかねぇ~。中途半端だわ」


上位存在は紫闇に呆れていた。


「もう良いや。お前は予想以上に駄目な奴だったからな。焔を満足させる存在としちゃあ失格も良いとこだ」

「何故そこで焔が?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇には解らないが、上位存在は焔のことがお気に入りらしい。


宿主(おまえ)が焔に師匠や闘技者として以外の感情を持ってないことは解ってる。今は女に興味が無いってこともな」


紫闇は憧れの大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》のようになりたくて【魔術師】になったのだ。

自分の人間関係を(ないがし)ろにすることは無いが、才能の足りない自分が恋愛にうつつを抜かしている余裕など有りはしない。


「悪いな。俺はお前を殺して肉体を奪う。何回も戦って勝ったお陰で同化が進んでるからな。今回勝てばお前は消えるだろう。俺は立華紫闇に成り代わる。そして《黒鋼焔》を、俺が惚れてる女を(よろこ)ばせてやるんだ」


紫闇は上位存在の見せた人間臭さに興味や好感のようなものが湧き上がる。

何度も殺されているのに。

こいつがこれだけ必死になっているのなら自分も応えてやるべきだと解禁する。


「良いのか紫闇?」


ここは紫闇の中に有る空間。

紫闇に宿るレイアの疑似人格も具現化することが可能なのは当然のこと。


「お願いします」


レイアが紫闇に吸い込まれた。

体の【魔晄(まこう)】が流れを変える。

レイアが内から話す。


「紫闇。魔晄を『流す』という行為は魔術師ならば意識してやっている。だが『無意識』でやっているような術師は少ない」


紫闇くらいの魔術師でもそうだ。

しかし今は出来ている。


「更に速く、スムーズに。魔晄の流れをもっと良いものへと変える。【練氣術】の性能も上がるぞ。先ずは『部位』の概念を取り払う」


頭や腕や足。

どれか一つでは部位だ。

しかし体は部位ごとに成り立っていても何処か一部分だけのことではない。

全て揃って『肉体』である。

そこに納まる『魂』も(しか)り。

魔術師の武器である【魔晄外装/ファーストブレイク】は魂から出来ているのだから。

そして外装は持ち主である魔術師の『精神』から強く影響を受けるもの。


「体・心・魂。三つの力で戦えれば紫闇は今とは比べ物にならない程の高みへ至る」


上位存在から奪った魔晄の能力枠。

その最後の枠を埋める能力が目覚め、その一撃は上位存在を喰らい尽くした。
 
 

 
後書き
かなり短くなってしまった。
_〆(。。) 

 

知らぬが華

 
前書き
紫闇が上位存在の所に行ってる間のこと。
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》が《白鋼水明(しろがねすいめい)》の【練氣術】で眠りに()き、己と融合した上位存在と戦う為の世界へ向かった後のこと。

永遠(とわ)レイア》は毎回のように紫闇の体へ『結界』を張り、寝ている彼をその場へ留めるようにしていた。


「無駄なことは解ってるんだけど、やらないよりはましだからね」


なお紫闇の体に対してだけではなく、紫闇を眠らせた地点を中心に一定範囲を結界で囲って外に出られないようにしている。


「必要なのかレイア?」

「紫闇の宿す上位存在は普通の上位存在とは明らかに違う。雰囲気も格も桁違い。乗っ取られた紫闇が来たら水明でも死ぬんじゃないかな」

「……果たして、ウチ等だけの力で止められるのかそいつハ……?」


水明は珍しく不安そうだ。


「その為に助っ人を頼んでおいたんだよ。紫闇と会わせると(うるさ)いことになりそうだから隠れてもらってたけど」


水明が首を(ひね)る。


紫闇(あいつ)に会わすと不味いのか?」

「直接会ったことは無いけども、紫闇がよく知っている人物だからね」


何処からか二人の学生魔術師が現れてレイアの方に近付いていく。


「あれが例の子ですか」

「生徒会長が自ら付き合うとは」


その二人を見た水明は納得。

確かに彼等を見たら戦いを挑むかもしれず、収集が付かなかったかもしれない。


「わざわざ近畿領域から関東領域まで足を伸ばしてくれてありがとう」


レイアは二人の【魔術師】に頭を下げる。


「ハハッ、()して下さいよ会長。むしろ私達は嬉しいんですから」

「貴方は他人に頼りませんからね。殆ど一人でやってしまいますし」


助っ人に来た二人はレイアと同じで奈良の【鳳皇学園/ほうおうがくえん】に所属。

昨年の【全領域戦争】において【団体戦】で優勝したメンバーでもある。

女性と見紛(みまご)うような美貌を持った青年《セリーヌ・エマ・ブレンダ》

ツインテールで小学生にも間違われてしまう女子《龍宮斗浪/たつみやとなみ》

日本以外の【魔神】なら普通に勝ってしまう戦略兵器なみの実力者。


「過剰戦力だろウ。レイア一人だけでも十分な気がするんだガ……」


水明の言うことも解る。

幾ら紫闇の上位存在が強いとは言っても史上最強クラスの魔術師であるレイアと彼に追従するレベルのセリーヌと斗浪の3人が対処に必要とは思えない。


「私もそう思わないわけじゃないよ。でもまあ、かなり危険な存在であることに間違いはないから良いんじゃないかな」


レイアがそう告げると結界が張られた中で眠っていた紫闇の体が電気ショックでも受けたかのように跳ねる。


「お、早速きたか。どうやら紫闇が上位存在と戦い始めたらしい」


4人が見ている前で紫闇の体は何度も跳ね、そしてピタリと動きを止めた。


「治まったのかな?」

「いえ、違います」


斗浪はセリーヌの意見を否定。


「ここからですよ」


紫闇の上半身が起こされて彼の手が自身を閉じ込める結界に触れた。

しかし壊せず出られない。


「ウガアアアアアアアッッッッ!!!!」


紫闇でも上位存在でもなく、両者の闘争本能が体を満たし、衝動となって意識の無い筈の肉体を暴走させる。

紫闇が黒い魔晄(まこう)の防壁に包まれた。

右腕に魔晄外装を顕現。

右拳が黄金に輝く。

どうやら理性が吹き飛んだ暴走状態であっても普段通りの力を振るえるようだ。


禍孔雀(かくじゃく)だな。しかし破れるか?」


レイアは結界を破壊される想定はしているが禍孔雀では無理だと思っていた。

神が参る者(イレギュラーワン)】の能力や【超能力】なら兎も角として、通常攻撃の延長線上に有る禍孔雀でレイアの結界は破れない。

何故なら結界を張ったレイアと封じられた紫闇の力量差が隔絶しているから。

本能が(おもむ)くまま金色に光る拳を結界に打ち込むが、案の定びくともしない。


「その結界から出て来られたらセリーヌか斗浪が相手をしてくれる。紫闇も内面世界で頑張って上位存在に勝ってくれ」
 
 

 
後書き
セリーヌも斗浪も設定だけで出番が来ることは無いと思ってたんですけどね。
_〆(。。) 

 

知らぬが華 2

 
前書き
_〆(。。) 

 
禍孔雀(かくじゃく)】ではレイアの結界が破れないことを(さと)った紫闇は左手の人差し指を自分の口へと持っていった。


「何する気ですかね」

「恐らくあの能力かと」

「そりゃそうなるよナ」

「今の紫闇が持つ能力の中で私の結界を突破できるものは一つしかない」


セリーヌ、斗浪/となみ、水明、レイアは四者四様に成り行きを見守る。

紫闇が指先を噛み肉を裂く。

当然ながら血が(にじ)み出す。

その血が糸のように伸びた。

紫闇の血が彼を囲うレイアの結界に触れると音も立てずに溶かしていく。

概念を溶かす【融解】だ。

薄く、脆くなり、ところどころに小さな穴が空いた結界に禍孔雀が炸裂。

爆発を起こし黄金の粒子が散る。


「あ~出てきたネ」

「私と水明は()らなくて良い」


(いや)らしい笑みを浮かべる紫闇を放置するレイアは水明を連れて下がっていく。


「じゃあ任せたよ」


斗浪とセリーヌが前に出る。


(なら)え。【白瀘の魔剣(レイ=グラムス)】」

()せ。【青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)】」


セリーヌは白、斗浪は青の(つるぎ)


「ウゥゥゥゥゥ……!」


紫闇の外装が黒から紫に変化。

セリーヌ達と同じく解放して能力を上げた。

更に金属のような黒い二枚の翼。

両手には鉤爪が付いた手甲。

右手の手甲は魔晄外装に混ざる。


「いきなりブッ放す気まんまんネ」

「遊びは無しか。力の差が解るんだな」


喰らったことのある水明は顔をしかめたが、レイアの方は紫闇を評価した。

紫闇が【雷鳴光翼(ケリードーン)】を使う。

手と翼から大量の光が噴出。

数的に躱し切れるものではない。

しかし斗浪とセリーヌは無数に飛んでくる攻撃以上のスピードで動きながら光を弾き、斬り、回避し、当たり前のように対処。

むしろ紫闇を追い詰める。

迫る二人に対し防壁を展開。

それは間違いではないのだが───


「例え正しい行動でも」

「結果が出るとは限らなイ」


離れて見物していたレイアと水明はなるべくしてなる末路に苦笑う。

二振りの剣は紫闇の魔晄防壁をX字に斬り裂き、続けて両腕を切断した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《セリーヌ・エマ・ブレンダ》の持つ魔晄外装【白瀘の魔剣】の刃は任意で対象にしたもの以外の全てを『透過/とうか』、つまり()り抜けさせることが出来る。

龍宮斗浪(たつみやとなみ)》の【青鳴の魔剣】は指定した座標軸の『空間ごと』対象を斬れる。


「よほど格上であるか、相性の良い能力を使わないと防げないネ」


普通ならここで終わりなのだが。


「おっ、まだ戦るみたいだ」


セリーヌの視線が地面を濡らす紫闇の血が浮き上がった場面を捉える。

赤い筋は紫闇の肩口に有る切断面と切り落とされた腕の切断面を繋ぎ、そのまま釣り竿のように引き上げて切断面同士をくっ付けた。

更に傷口まで消え、指が動き出す。


「失った血は戻らないし、ダメージが回復するわけでもないですが、傷自体は『結果』を消滅させられる、ということですか」


斗浪の分析通り。

【融解】は攻防の能力で回復できない。

しかし概念を溶かして傷口を塞ぐくらいの芸当は可能な能力だった。


「セリーヌさん。退がって下さい。あとは私だけでやりますから」

「では御言葉に甘えて」


セリーヌはレイア達の元へ跳んだ。
 
 

 
後書き
斗浪とセリーヌの外装は御存知【学戦都市アスタリスク】から四色の魔剣。
(´Д` ) 

 

知らぬが華 3

 
前書き
おかしいなあ。
( ´Д`) 

 
《セリーヌ・エマ・ブレンダ》が十分に離れたことを確認した《龍宮斗浪(たつみやとなみ)》は暴走する《立華紫闇/たちばなしあん》の肉体と一対一の状況になった。

紫闇の魔晄防壁が形を変える。


「黒鋼流三羽鳥ノ一・【盾梟(たてさら)】ですか。通常の防壁より防御力が高い」


だがそれだけではない。

紫闇の背中と足から魔晄(まこう)の粒子。

それはまるで翼のよう。


「今度は三羽鳥の【音隼(おとはや)】。高速移動に主眼を置くも、飛行すら可能とする」


空中を利用した三次元の立体機動は通常の魔術師に対処することが難しい。


「それに加えてやはり来ますか」


斗浪が注視する紫闇の右手は魔晄外装ごと金の煌めきを放っている。

三羽鳥ノ一・【禍孔雀(かくじゃく)】だ。


「黒鋼流練気術の基本にして奥義とされる三羽鳥はどれか一つしか使えなイ。それが黒鋼と白鋼の持っている共通の認識ネ」


紫闇の師である《黒鋼 焔(くろがねほむら)》より体術と練氣術の才能が有る《白鋼水明(しろがねすいめい)》でも、その縛りは破れなかった。

そもそも白鋼と黒鋼には三つ同時どころか二つ同時に使う者すら皆無。

両一族の歴史で三羽鳥を三つ同時に完壁な状態で使うことが出来るのは《永遠(とわ)レイア》と《エンド・プロヴィデンス》に鍛えられた焔のみ。

焔の両親と祖父の弥以覇(やいば)もレイア達の修業を受けて二つまでは問題なく使えるが、三つ同時は不完全にしか発動できない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あれは……」


斗浪の前で紫闇が盾梟を変化。


「なるほど。【盾梟/丸魔(がんま)】。ということは《佐々木青獅》に使った技ですね」


黒鋼流異形ノ二・【古今伝授(ここんでんじゅ)

黒鋼流練氣術における基本的な戦闘技術の結晶と紫闇の基礎能力を結集させたもの。

攻・防・速が揃った文句なしの一撃であり、特殊効果を除いた攻撃の威力なら、紫闇にとって最強の技と言って良いだろう。


(試してみますか)


斗浪は全速力で駆ける紫闇に対して特に反応することも無く棒立ちになっている。

だが獣の如く、本能のままに動く紫闇は先程の攻防で斗浪が持つ強さの片鱗を感じたので遠慮は無く、良心の呵責(かしゃく)も感じない。

殺気も殺意も増し増しで古今伝授が命中すると、人間一人に対しては過剰すぎる爆発・爆縮が起こり、辺り一帯が黄金の魔晄粒子に包まれた。


「う~ん……。技は良いんですけど私にダメージを与えるには足りませんね」


斗浪は自身を中心にして目に見えない、球状の何かに守られているように姿を(あらわ)す。

金の魔晄粒子が不可視の丸い形に沿()って巻き付くように(むら)がっており、彼女は傷や汚れの一つすら付いていない。

外装の【青鳴の魔剣/ウォーレ=ザイン》】は()を消して腰に()いている。


「もう少し付き合うことにしました。現時点でのデータを取ることにしましょう」
 
 

 
後書き
水明は焔より才能は有りますが、【大筒木一族】由来の力を発現しておらず、焔のようにレイアやエンドから特殊技術を教えてもらってもいないので、焔と戦えば普通に負けます。
_〆(。。) 

 

知らぬが華 4

 
前書き
_〆(。。) 

 
紫闇が斗浪(となみ)の誘いに乗った。

再び右手が光り出す。


(また【禍孔雀(かくじゃく)】を使う気でしょうか?)


禍孔雀ならば、また斗浪の方に近付いてから撃ち込む必要が有る。

しかし様子が違う。

肘まで魔晄(まこう)に覆われるほどエネルギーを溜めたのに近付いて来ない。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


紫闇は5メートルほど離れたところから斗浪に向かって拳を突き出す。

すると紫闇の右腕が帯びていた金色の魔晄が放たれて巨大な拳の形を成した。


三羽鳥ノ一・【禍孔雀/偽炎(ぎえん)


(初めて見る技)


斗浪は少し離れた所に跳ぶ。

そして偽炎の威力を観察。


「なかなか器用ですね。魔晄を体から引き離せる技術を扱えるのは軍属の魔術師でも世界に10人と居ないんですけど」


のん気に(つぶや)いている彼女の(そば)には既に紫闇が左手を赤く染めて迫っていた。

紫闇の左腕が振り上がる。

赤い腕からは大量の血がバケツの水を浴びせかけるようにして()かれ、それが斗浪の頭部を見えなくなるほど飲み込んだ。

しかしまだ終わらない。

外装を()めた右手が腹に押し当てられ、其方からは全身を消し去る程の光が渦巻いた。

左手から放たれたのは概念を溶かす【融解】の媒介となっている紫闇の血液。

右手の閃光は【雷鳴光翼(ケリードーン)】によるもの。

今度こそ勝利を確信したのか紫闇は背を向けてレイア達の方へと踏み出す。


「この(くだり)、さっきやりませんでした? 残心は知っていると思うんですけど」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


振り返った紫闇の目には斗浪。

相変わらず綺麗なままだ。

紫闇が驚くのも無理はない。

彼は致死の一撃を与えたのだから。


「暴走している貴方に言っても無駄かもしれませんが当たってませんよ? 触れたのは私の体ではありませんから」


斗浪の手が紫闇の手を掴むと指の間に指を差し込まれて確りと組まれた。

いわゆる恋人繋ぎでホールドされた紫闇の左手が斗浪にロックされる。

次の瞬間、腹に掌底。

小学生のような体躯から繰り出したとは思えぬほど強烈な衝撃は紫闇に一発で血反吐(ちへど)を吐かせ、体を浮かす。


「はい頑張ってー」


続けざまに掌底をもう三発。

盾梟(たてさら)】を突き抜けるダメージ。

紫闇の防御が意味を為さない。

意識が朦朧(もうろう)とした紫闇の左手から斗浪の指が離れてロックが解除。

浮き上がった体が落ちるその刹那。


(はじ)け」


斗浪の右手人差し指。

そこから何かが紫闇にぶつかる。

触れたと同時に紫闇が吹き飛ぶ。

森の木々を直線コースで次々とへし折りながら、しまいには廃ビルの壁を砕いて向こう側まで貫通してしまった。

音隼(おとはや)】による魔晄の翼を使い空中で体勢を立て直した紫闇は直ぐに雷鳴光翼の翼と手甲を展開し、自分が飛んできた方に向かって反撃。

ビルを倒壊させる程の光を両手で放つ。

しかし紫闇を追いかけてきた斗浪の姿は無く、何時の間にか背後に有った。

彼女は紫闇の背中に回し蹴りを入れ数十メートルの高さから落としクレーターを作る。


「そろそろ限界ですか?」


着地した斗浪の声が掛かると紫闇はゆっくり立ち上がり雰囲気を一変させた。

その周囲には黒い球体が数個浮かぶ。


(ここに来て新しい能力とは……。なんて都合良く覚醒するんでしょうか)


紫闇が黒い球体に攻撃。

すると斗浪の近くにも黒い球体。

そこから紫闇の手足が飛び出す。

しかし斗浪に触れる寸前で止まる。


「なるほど。『ワープゲート』ですか。空間同士を繋げる能力。慣れれば球体を大きくして全身を移動させらますね」


斗浪は紫闇と同じ【龍帝学園】で生徒会長をしている《島崎向子(しまざきこうこ)》の能力を知っているので特に驚くことは無い。

同系統の能力でも彼女の方が上だ。

もう紫闇と戦う必要は無いだろう。


「どうせ正気に戻ったら覚えていないので、少し私の能力を見せましょう。今まで貴方の攻撃を無傷で済ませたものも有りますよ」
 
 

 
後書き
偽炎のえんは原作だと焉。
(__)
 

 

知らぬが華 5

 
前書き
出てこないオリキャラの設定を弄ってたら遅くなってしまいました。 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》が左手に何かを出した。

細く黒いそれからは緑の光で出来た刃。

どうやら刀の(つか)だったようだ。


「また新しい能力ですか。大盤振る舞いですね。データ収集には良いですけども」


龍宮斗浪(たつみやとなみ)》にとっては将来的に紫闇と戦うことになった時のため、手の内を知ることが出来るのは有り難いことだ。


(レイアさんによると、立華君の持っている能力の枠は今のところ(・・・・・)7つ。その内の3つは【神が参る者/イレギュラーワン】としての能力)


既に4つは判明している。


─────────────────

時間操作系の【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)

─────────────────

概念を溶かす血液の【融解】

─────────────────

飛行能力に加え、大量の手数と高い火力を備えた攻撃が出来る【雷鳴光翼(ケリードーン)

─────────────────

先程の黒い【ワープゲート】

─────────────────

そして5つ目が今出した緑の光刀。


「さて、あの刀がどんな能力を持っているのか楽しみですね。剣については門外漢な彼がわざわざ剣を能力にするだけの価値が有るのか」


紫闇が両手で緑に輝く光の刀を握りながら、右腕の外装に走る『赤』のラインを『青』に変えて光を放った。


「!」


斗浪は青い光が何かに気付いた。

珀刹怖凍のものだ。


(成る程……。攻撃を(かわ)せないように時間能力を同時に発動させてきましたか……。でも立華君は今まで二つ同時に能力を使ったことが有りませんでしたよね?)


何故そうしなかったのかと言えば、単に神が参る者としてのレベルが低かったから。

内なる上位存在が関知しない【超能力】なら同時の発動が出来たのかもしれないが、超能力は今回の暴走に到るまで雷鳴光翼一つしか覚えていない。

斗浪の考えを余所(よそ)に、紫闇の珀刹怖凍が斗浪の時間を減速させていきつつ周辺の時間も凍結させていく。

人によっては時間停止に等しい停滞。

紫闇が刀を振り下ろす。

離れた場所で閃いた刃からは光の斬撃が飛び出して彼女の体を引き裂かんと猛る。

斗浪はそれを黙殺(もくさつ)


(『飛ぶ斬撃』自体は珍しくない。しかし本当にそれだけでしょうか?)


緑光の斬撃が着弾。

やはり斗浪にダメージは無かった。

しかし何かがおかしい。


「む、どういうことですかこれは。(ただ)の斬撃なら直ぐに運動を止めて衝撃も消えてしまうはず。なのにこの刃は……」


斗浪が張っている能力の壁に接したまま()い回り、まるで彼女を閉じ込めてしまうかのように斬光が走り続けている。

紫闇は何度も刀を振った。

その(たび)に光の斬撃が(はし)って見えない防壁に喰らい付き、どんどん数を増して斗浪が見えないほど光が呑み込んでいく。


「よもや剣士でない立華君が遠距離斬撃でこの命中精度とは……。もしや自動(オート)で攻撃が追尾するタイプ? だから滅多やたらと刀を振っても私のところに攻撃が来る? 攻撃が消えないのは常時発動で効果を出す永続ダメージのパッシブスキルだから、といったところですかね」


一定水準の技量を持った剣士なら、そら恐ろしい効果を発揮できただろう。

素人の紫闇でこれなのだから。


「確かに厄介ですが、まだ足りません。では行きますよ立華君。次は私の番です」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

知らぬが華 6

 
前書き
こんなに長くなるとは思わなかった。 

 
紫闇(しあん)斗浪(となみ)に対し狼狽(うろた)えていた。

珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】で時間の流れを緩め動きを遅くしているのに平然と歩いてくるからだ。

この状況で考えられるのは主に2つ。

斗浪のスペックが遅くされた時間を問題としない程に高いのか、はたまた珀刹怖凍に対抗できる能力を持っているのか。

暴走状態とは言え今の紫闇は正気の紫闇が持つ知識を引き出すことが出来る。

去年の【全領域戦争】で団体戦の優勝メンバーだった斗浪のことは知っており、基本ステータスが自分を超えているのは納得だろう。

おかしいのは斗浪が遅くなった時間に対抗しようと運動しているのではなく、何事も無いかのようにして歩いてくること。

激しい動きをしているのならもっと違った表情や呼吸のはずだが斗浪の歩みは珀刹怖凍で時間を停滞させる前とまるで変わらない。


つまり何らかの対抗能力持ち。


「何か気付いたみたいですね。まあ気付いたところで無駄に終わるんですけど」


斗浪は少し(おび)えがちになった紫闇に構わず彼の方へ近付き何かを(ささや)いた。


「【無窮虚空(パピロスフィル)】」


紫闇の動きが完全に止まる。


「どうですか? 広くて透明だけど、地平線が見えなくて果てしないでしょう?」


見えないのに見えてしまう。

紫闇は今、全てを知覚できるということの恐ろしさを身を以て感じていた。

[情報]が流れ込んでくるのだ。

六感と脳では処理しきれない程に。

自動で体が動くような能力を有していれば現状でも戦えるのかもしれないが。


「ちゃんと聞こえてるか解りませんが教えておきましょうか。私の【無窮虚空】は普通の人間ならば即死してしまうような量の情報を強制的に与えることが可能です。能力を発動している限りは永続的に」


最後まで紫闇の攻撃を通さなかった防御力や情報能力は無窮虚空が持つ効果の一つに過ぎないので正気に戻った紫闇が覚えていようが問題ない。


「取り敢えず死なないように手足をもぎ取っておくことにしましょう。立華君が此方に戻って来るまではそのままです」


彼が上位存在との戦いを終えて起きる前に手足を元に戻してしまえば良いのだから。


「しかし私の【森羅眼】も困り物ですね。せっかく【六眼】から進化したと言うのに能力を覚醒していなければ見抜くことが出来ないとは……。まあ六眼の時よりもよく見えるようになりましたから良いんですけど」


斗浪は【六眼(りくがん)】を持った同い年で魔術師の遠い親戚を思い出す。


「今年は全領戦に出てくるんでしょうか」
 
 

 
後書き
私のプロフィールで書いてある好きな作品の中に【呪術廻戦】とある通り、本文の【六眼】も呪術原作の五条先生と同じです。

斗浪の無窮虚空は五条先生の術式と領域を合わせて更にオリジナルで追加して強化したもの。

【森羅眼】は【NARUTO -ナルト-】の大筒木一族または【白眼】所有者の血が混ざったら低い確率で生まれることが有る六眼の上位種。

斗浪や最後の六眼を持った親戚は五条先生と同じことを術式でなく能力でやってます。

修業パートやその間で起きていたことを書き終わったので、次からは原作最後の大会になった冬季龍帝祭へと突入です。 

 

Aブロック

 
前書き
完結が近くなってきた。 

 
【冬季龍帝祭】

一つの魔術学園に()いて一人しかなれない【全領域戦争】の個人戦出場者。

その権利を勝ち取るトーナメント。

───────────────

日程は以下のようになっている。


1日目はAブロック

2日目はBブロック

3日目はCブロック

4日目はDブロック


4日目までで各ブロックの優勝者を決め、5日目以降は残った4人で争われる。


5日目はAとBの優勝者

6日目はCとDの優勝者


そして7日目は勝ち残った2人による決勝を行い、そこで勝つと最終選抜者となる。

─────────────────

これから始まるのはAブロックの決勝。


「【夏期龍帝祭】では歯牙にも掛からない程度の奴だったんだが【日英親善試合】で化けたからな。果たして彼奴(あいつ)が何処まで()れるようになったのか……楽しみだ」


《立華紫闇》を倒して夏期龍帝祭の優勝者となった《橘花 翔(たちばなしょう)》が花道を進む。


「シアンに勝ったアンタを倒す」


今や世界屈指の実力を身に付けた《クリス・ネバーエンド》も花道を歩く。

二人は武台で向かい合った。


「良い気迫だ。しかし負けんぞ」

「踏み台になって、ショウタチバナ」


試合が始まると同時、クリスが【灰塵ト滅亡ノ三壊器/ヴァニシング・カタストロフ】という魔晄外装を召喚。

鈍色(にびいろ)をした三つの巨大な甲冑の腕は上空へと浮かび上がり、その一つにクリスを乗せている。


「ブレイカー」


彼女が合図をすると三つの巨腕に搭載された幾つもの武装・兵器が攻撃を開始した。

弾丸・弾頭・光線の雨が降り落ちる。


発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射発射


光と熱が観客の目と肌も焼く。

入学当初から見せてきたクリスの代名詞とも言える物量と火力によるごり押し戦法。

しかし今大会では初めてだ。

彼女は決勝まで基本的な【魔晄(まこう)】の操作と身体強化だけを使っており、全ての相手を手足の一振りで下してきた。

そんな彼女が繰り出したこの攻撃が示すのは、橘花翔がそこまでしなければ倒せない相手であると判断したということ。

対する翔は動じない。

紫闇と戦った時と同じように魔晄防壁を張って熱や衝撃の影響を遮断しながら俊敏なフットワークで途切れない縦横無尽の火線を(くぐ)り、弾幕の中を駆け抜けていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(ネバーエンドの奴、相当進化してるみたいだな。攻撃の手数自体はそこまで夏期と変わらないはず。けれど攻撃の速さや威力が段違いに跳ね上がっている。足を止めて受けに回ったら耐え切れる気がしない)


夏期龍帝祭では紫闇の【打心終天/改】を魔晄防壁で受け止めた翔だが今回は同じことが出来そうな雰囲気では無かった。

ならば見せなければならないだろう。

夏期で使わなかった力と技を。


「黒鋼流三羽鳥ノ一・【盾梟(たてさら)】」


白銀の防壁が膨らんで強化される。

クリスの攻撃を通さない。


「なっ! アンタも使えるの!?」


クリスは動揺しながらも攻撃を続ける。


「三羽鳥ノ一・【音隼(おとはや)】」


翔の背中から黄金の魔晄粒子が噴き出して二枚の翼のようになった。

更に足からも金の魔晄粒子が噴き出す。

彼は音隼で増したスピードと得られた飛翔能力を活用し、地上と空中を利用した三次元の立体機動を行いながら、(おびただ)しい数の攻撃を苦も無く(かわ)していく。


(この調子だと【禍孔雀(かくじゃく)】も使いそうね。これ以上は魔晄の無駄だから止めときましょう)


クリスは三つの巨腕を消した。


「終わりか?」

「当たらないなら意味ないしね。だから私が得た新しい力を使うわ。《佐々木青獅》には使えなかったから公式では初お披露目よッ!」


【領域内戦争】の決勝より前に会得した力だが、青獅のことは紫闇に任せていたので大人しく二人の戦いを見ていたクリス。

しかし日英親善試合より以降の成長は修業に付き合った《永遠(とわ)レイア》や《黒鋼 焔》が認める程に尋常では無かった。


「行くわよショウ。これが私の身に付けた力の一つ。魔晄ノ神氣(セカンドブレイク)、【絶対不可避ノ領域(シューティング・ザ・ワールド)】」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Aブロック 2

 
前書き
_〆(。。) 

 
クリスは【魔晄ノ神氣(セカンドブレイク)】を発動するとバイザー型の外装を召喚。


「【暴虐極メシ妖精群(バイオレンス・ファミリア)】」


更に赤い人形と青い人形の群れを喚ぶ。


「ファイアッ!」


クリスがGOサインを出すと人形達は抱えていたライフルを構えて一斉に《橘花 翔/たちばなしょう》へと撃ち始めた。

しかしこの程度なら問題ない。

先程まで翔が躱していた光線の方が遥かに速かったし、弾幕も薄く、威力に関しても比較にすらならないだろう。


「よっ」


翔は軽々と回避するが様子がおかしい。

銃弾は軌道を変えて射線上から外れると、回避した翔の居る方へと向かってきた。


自動追尾(ホーミング)の【異能】なのか?)


ならば追い着けぬよう動く。

そしてクリスに攻撃を加える。

翔はスピードを上げて弾丸の群体を振り切ろうとしたのだが、自分の予想していなかった事態に驚いてしまう。


(差が(ひら)かない……?)


翔は先程まで【魔晄(まこう)】による身体強化のみのスピードで魔晄ノ神氣(セカンドブレイク)の追尾に対応していたが、今は【音隼(おとはや)】も使って何倍もの速さを出している。

足で千切れるくらいの速度差が翔と弾丸との間には有ったはずだ。

なのに距離が変わらない。

むしろ少しずつ差を詰めている。


「なるほど。こいつが【絶対不可避ノ領域(シューティング・ザ・ワールド)】の有した力というわけか」


追尾するだけではなく、相手のスピードに応じて弾の速度が上がる。

ひょっとしたらクリスの行う攻撃全てに適用されるかもしれない力。

佐々木青獅(ささきあおし)》が使っていた【反逆者の灼炎/レッド・リベリオン】は制限時間付きで相手よりも一段階上のパワーとスピードをもたらしていたが、恐らくクリスの異能に時間の制約は無い。


「仕方ない。出すとしようか」


翔の靴が違うものに変化。

赤いスポーツシューズのようだが。


「これが俺の【魔晄外装】だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


極一部の限られた【魔術師】は異能を使わずとも外装だけで身体強化を掛けられるので、出すだけでも無駄にはならない。


「取り敢えず、邪魔だから落とすか」


翔のスピードが更に上がる。

彼の外装は例に出された魔晄や異能とは別で身体強化の恩恵を受けられるタイプ。

更に紫闇と同じく【魔晄ノ改造(カスタムブレイク)】されたことで得た【魔晄機能(ゼロブレイク)】は『高速移動』と『真空波』であり、特に動かなくとも攻撃可能。

翔はそれ等を利用して弾丸を迎撃。

しかし手応えは無い。

翔の拳と真空波は当たった。なのに何故か空振った感触しか伝わってこないのだ。

まるで蜃気楼や幻であるように。


「かかったわね」


銃弾は翔へと殺到する。


「ネバーエンドの使う魔晄ノ神氣の真髄は追尾や対応速度では無くこれか!」


翔の迎撃は弾丸を『透過』した。

ことごとくすり抜けてしまう。

そして透過した弾丸は翔の体へ着弾すると、熱や衝撃を放ちながら、強靭な魔晄防壁を喰い破らんと()ぜていく。


「逃がさないわよッッ!!」


クリスは超能力【抑封規制(ストイック)】を発動し、翔の動きを規制して抑え、封じ込めた。

更に超能力【鎧袖一触(パンツァー)】によって身体強化が掛かり、能力の効果によって更に追加で身体強化が掛けられる。


(不味い、これは不味い……。まさかこれほど厄介な奴になっていたとは……!)


このままでは確実に負けてしまう。ここまで追い込まれるとは思っていなかった。


見縊(みくび)っていた《クリス・ネバーエンド》。俺が倒すに値する闘技者だ」


魔術師の基本ステータスだけで言えば、クリスは翔よりも2ランクは低い総合力なのだが、彼女はその差を埋めて来ている。


「《立華紫闇(たちばなしあん)》や《江神春斗(こうがみはると)》と同様に相手をさせてもらうとしよう。ここから俺の力を見せてやるぞネバーエンド」


翔はガードを固めて耐えながら、終わらない爆発の向こうで笑っていた。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Aブロック 3

 
前書き
これ以上引っ張るのもあれなのでAブロックはここで終わらせます。 

 
橘花 翔(たちばなしょう)》が外装を解放する。


()(にじ)れ。【ギルミルキル】」


赤いスポーツシューズが変化して西洋鎧のパーツに見える、脛当(すねあて)の[グリープ]と靴の[サバトン]と化す。

色は相変わらず『赤』だ。


「解放したことで身体強化が増した。【魔晄機能/ゼロブレイク】も『超速移動』が追加されたから覚悟してもらうぞ」


翔が対抗手段として選んだのは特攻。

彼の防御なら暫くは《クリス・ネバーエンド》の攻撃を受け続けても問題ないので大丈夫な間に終わらせようというつもりらしい。

翔は【抑封規制(ストイック)】による強制停止を破るとクリスの人形から放たれる銃弾の雨を食らいながら彼女にストレートパンチ。

しかし思わぬ事態。


「馬、鹿な……!」


クリスは自分の胸に沈み、背中から突き抜けている翔の腕を掴みながら彼に伝える。


魔晄極致(サードブレイク)・【泥の魔王(ボルボロス)】」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


クリスの体が輪郭(りんかく)を失いながら、曖昧な形となって流動していく


(ネバーエンドは魔術師として一つの到達点に辿り着いたというのか。一度ならず二度までも、俺が読んだ先を行くとはな……!)


翔は頭の中から紫闇と春斗を消す。意識をクリスへと集中させる。でなければ勝てない。翔はクリスをそれほどの相手と判断した。


(問題はどう攻撃を当てるかだが)


今やクリスは人の形を成していない。

黒い泥で出来たスライムのよう。

その体が伸びて翔へと襲い掛かり、躱したところを外装の火器と絶対不可避ノ領域によるコンボで罠に嵌めるようにして攻める。


「あの泥の魔王とかいう異能で変えた体もミサイルやビーム程じゃないが、そこそこ攻撃力が有る。しかも流動性だけじゃなく粘着性まで有るから下手に近付くと捕獲されかねない」


どれだけ打撃を加えても、油を含んだヘドロのような滑らかさで受け流すクリスの体にはどんな攻撃が通じるのだろうか。


「異能を使うか。【紫電孤虐(しでんこぎゃく)】」


翔が紫電を纏いステータスを向上。

敵が触れれば感電する。


(水や空気も速く動けば手応えが出る。もっと速く、もっと鋭く攻撃しよう)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クリスは押されていた。


(ショウの奴、一体どこまでパワーとスピードが上がるのよ……。勢いだけで私の液状化した体を切り裂いただけでなく、風圧と衝撃で吹っ飛ばしてくるだなんて……!)


クリスの体はバラバラになっても千切れた破片が集まって元に戻るし破片が残らないほど消されても、増殖で補うことが出来る。

しかしそれも魔晄(まこう)が尽きるまで。

激しい複数の外装召喚を行う【特質型】であることに加え、物量攻撃を得意とし、効果は大きいが異能も常時発動に近いものばかり。

魔晄の消費を考えると早いところで勝負を決めたいというのがクリスの本音。

おまけに翔が使う紫電孤虐の電撃は、100%ではないがクリスの流体ボディにも効く。


「一気に行きますか」


クリスは液状化した体を一気に広げ、そこから大量に触手のようなものを伸ばし、それらを尖らせてから固体にする。

武台の半分を覆う黒い沼と刃の波。


「勝負に出たか。なら此方(こちら)も」


翔が超能力【超人加速(オクロック)】でこれまでとは比較にならない爆発的な加速を見せ、超能力の【盛者必衰/ウィフォール】で間合いを調整しながら互いのステータスを増幅・減衰していく。


「俺と彼奴(あいつ)のラッシュ。どちらが上かな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


クリスは変形させた体から生やした硬質の液状ブレードを重ねて波のようにする。

押し寄せた刃の波に、翔は幾つもの残像を出しながら殴り砕き、吹き飛ばす。

優勢なのは翔。

クリスの攻めと再生より、翔が攻めて押し返す方が有利に進んでいる。

しかしこれは計算の内。

こうなることは判っていた。

クリスの思い通りだ。

彼女のやろうとしていることは、彼女の近くに居るほどやり易いのだから。

そして黒い泥の波を跳ね飛ばしてきた翔が十分な位置までクリスに近付く。


(これで止めよ)


泥の魔王が反応すると、翔がいきなり自分の胸を押さえて膝を着いた。

口からは血が(こぼ)れる。


泥の魔王(ボルボロス)の能力は自分の体を固体や液体だけじゃなく、『気体』にも出来るのよ。本当はまだ隠しておきたかったんだけどね……」

「……気体、に変えた体を……俺の体内に入れ、それを……ブレード、に……したのか」

「でも思ったより平気みたい。もしかして体内に魔晄防壁を張ったの?」


翔は膝を着いたままの状態から急にクリスの足を掴んで捕らえる。

彼女は液体になっており、手で掴むようなことは出来ない筈なのに。


魔晄神氣(セカンドレイク)・【深遠玄士(ディークロース)】、魔晄極致/サードブレイク・【破魔砕星(バサドーネ)】、使うのが間に合って良かったよ」

「え?」


クリスの能力が使えなくなった直後、跳ね起きた翔の一撃が意識を刈り取った。 
 

 
後書き
翔君は打撃メインで戦いますけど本来はインファイターじゃなくアウトボクサー。

深遠玄士(ディークロース)を使ったタイミングは体内からの気体ブレードを少し喰らった後。

血を吐くぐらいのダメージを受けることでクリスを油断させました。

破魔砕星(バサドーネ)は足を掴む直前に発動させました。効果範囲が広くないので。

泥の魔王(ボルボロス)はワールドトリガー《エネドラ》のあれそのままです。

深遠玄士は元ネタが解らないように名前を違うものに変えています。

破魔砕星の方はカタカナの読みが元ネタと同じで漢字もかなり元ネタに寄せました。

説明してない能力の紹介はこの作品が終わった後か、気が向いた時にするかもしれません。

クリスは原作だと魔晄極致が無い。

翔は運が良かった。今作クリスの持つ最後の能力が出たら負けてたかも。
(。-ω-) 

 

Bブロック

 
前書き
Losや偽悪で戦闘が無かったけど、まさか別の話で戦闘することになるとは。 

 
「貴女と戦えるとは願っても無い機会だ」

「そう言ってもらえると光栄だね」


Bブロック決勝。

1年生の《江神春斗(こうがみはると)

彼は【龍帝学園】に入って今回の【冬季龍帝祭】が初めての公式戦参加となる。

しかし【夏期龍帝祭】で優勝した《橘花翔/たちばなしょう》に勝った。

それに《クリス・ネバーエンド》が入学当初から戦いを望み、《立華紫闇(たちばなしあん)》が再戦でリベンジを狙う実力者。

長い黒髪を後ろで総髪(ポニテ)にして束ねた美形の剣士は眼鏡の奥から覗く眼光を向ける。


対するは5年生の《島崎向子(しまざきこうこ)

1年の時から生徒会長を勤め、4年連続で冬季龍帝祭を優勝し、【全領戦】の個人戦へ出場する世界的魔術師であり有名人。

龍帝学園の内部事情を知らない人は彼女こそ現在の龍帝で最強だと信じる者が多く、日本軍の中でも将官クラスの地位と特殊な立場を持つ。

龍帝の在る関東領域を守っている軍属の魔術師も、ほぼ全員が彼女の配下だという。

そして有名なのが、公式戦で【異能】と魔晄外装を出したことが無いということ。

軍の任務でも全く使わないので本当の実力を知る者は皆無に等しいと言える。

しかし異能無しでも強く、空間系の【超能力】を持つことが知られており、毎年のように個人戦で上位入賞するエリートなのは間違いない。

問題なのは本気を出さないことと、軍も学園も関係なく、ふらりと居なくなること。


「そうだね。江神くんなら良いかな」


向子は外装を喚び出す。

現れたのは馬上で使う黒い短鞭。


「それが会長の……」


春斗も黒鞘に納まった(つば)無しの直刀を引き抜いて黒い刀身を(あらわ)にすると、その切っ先を向子に向けた。


「では行きますよ」

「何時でもどうぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


持国天(じこくてん)


春斗が刀を下段にして構えた。

更に脱力して(にら)()える。

それを見て向子は思う。


(プラン変えよっかな。今年は立華くんが個人戦に出るのは難しいかもしれない。クリスちゃんと翔くんでギリギリの試合になるくらいだし)


悠然とした動きで春斗が斬り込む。

繰り出される無駄の無い一刀は鋭い。

まるで為す(すべ)が無いようにも見える向子はまだ考えている最中だった。


(個人戦には出られなくとも団体戦で経験積んで成長すれば良いし、それでも足りないならアタシが彼をレイアくん達と一緒に鍛えるのも有りだと思う)


春斗は命中すると確信していた一振りを黒い短鞭で無造作にはたき落とされてしまい、度肝を抜かれる。


(なっ……!? あの距離とタイミングで迎撃が間に合うのか……!? 流石は島崎向子。ならばこれならどうだ?)


彼は腰を落とす。

そして柄尻(つかじり)を自身の腹に当てた。

【増長天】と呼ばれる構え。

春斗の威圧感が増す。


魅那風(みなかぜ)流・飛車斬(ひしゃぎ)り」


武台の床を砕くほどの蹴足(けそく)彼我(ひが)の間合いを詰めると外から眺める観客の目には無数の銀光が見て取れた。

向子の前で(ひらめ)くそれは()り返す黒刀。

ひたすら続く斬撃。

それ等は全て弾かれ、逸らされ、躱され、春斗の前に立つ女に傷一つ付けられない。


(解っていた。この人が強いことは。だがこれほどか。俺が異能も超能力も行使していないとは言え、こうも簡単にあしらわれるとは……)


遠い。

向子との距離(つよさ)が。

かけ離れている。

互いの実力と技量が。


今の春斗は

『鉄拳の女帝』

『純粋なる強さの象徴』

とまで言われた今は亡き、『愚者のマリア』こと《白鳥マリア》と戦っても勝利を見いだせる域にまで至った闘技者。


(一度戦って秒殺された相手ゆえに彼女の強さを知っている。昨年あの者が敗死するまでは世界四強の上から二番手だった。そのマリアと比べても会長は異端に過ぎる……!)


春斗は後ろへ跳びながら首筋に打ち込むも、向子はヒョイと立てた短鞭で軽々と受け止めた。
 
 

 
後書き
個人戦の上位入賞は8位以内。この作中世界だと現代日本の学生魔術師で8位以内に入れたら卒業魔術師プロリーグでも世界20位以内を狙えるレベル。

現代(当代)の現役学生魔術師の強さ平均がトップ層だけでなく、魔術師史上第二の黄金時代みたいなものですしね。

一番ヤバかった世代は焔の祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》が戦っていた【邪神大戦】における最終盤の面子です。

負けかけてる【旧支配者(オールドワン)】の軍勢は必死でしたし焔や紫闇みたいな『鬼』の気性持ち闘技者がうろうろして、神が参る者/イレギュラーワンもちらほら居た環境なので。

紫闇の1年から向子の5年が弥以覇と同時代なら、魔術師は強さ至上みたいなところが有ったので、かなり平均が上がると思いますよ。

全体の何割死ぬか解りませんが。
_〆(。。) 

 

Bブロック 2

 
前書き
_〆(。。) 

 
[飛車斬り]による乱撃を事も無げに防ぎ続ける《島崎向子(しまざきこうこ)》に対して《江神春斗/こうがみはると》が【異能】を発動。


「【重転じ軽変ず(オルタ・グラビティー)】」


春斗の速度が上がった。

しかしそれだけではない。


(重く……)


向子は短鞭で打ち返す刀の質量が増えたことに気付くが敢えて無視。

鞭に込める力を上げる。


(まだだぞ会長)


二人の打ち合いは拮抗しだす。

今まで弾かれていた春斗の斬撃は跳ね返されること無く向子の鞭打と(せめ)ぎ合う。


「あ~、何かやってるねこれは」

(どうしたもんか)


彼女が思案する間も春斗は緩めない。


(貴女に加減は要らないだろう)


上段に構えた春斗の直刀が大気を引き裂いて半円を描きながら縦一閃に落ちる。

プロリーグのトップランカーとして列する魔術師でも御目に掛かれない一撃。

向子は短鞭を横に寝かせると、振り下ろされた刀を支えるようにして受け止めた。


「何の能力か解らないけど、この程度の弱体(デバフ)なら問題ないよ。互いの基本ステータスに絶対的な差が有るわけだしね」


向子の言う通り二人には差が有る。もはや隔絶と言っても良いだろう。

試合になる時点で判っていたことだ。

向子が最初からスペック通りのステータスを出していれば既に終わっていた。


重転じ軽変ず(オルタ・グラビティー)は重量の概念に干渉する)


これによって少しはマシになった。

春斗を軽くして速さを上げ、斬撃を重くして威力を上げておき、向子は重くして動きを(にぶ)らせ、彼女の鞭打を軽くして圧を下げている。

その上で春斗の斬撃を受ける時は春斗を重く、向子が鞭打を当てる時は向子を軽くすることによって重量の差で有利になるよう仕向けた。

それでも向子の方が有利。

解りきっていたことだが実際に試し、体感してみることで、改めて春斗は重い知る。

地力では勝てないと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(四の五の言っている場合ではないな)

「【神速斬光(エル・グリント)】」


春斗の【魔晄神氣(セカンドレイク)

その力は『高速運動』だ。

この力で高速移動している時はブレーキが効かないという欠点を抱えていたが、既に春斗はその致命的な弱点を克服していた。


「おっ、良いね」


急激に速度を増した春斗を見て僅かに頬を緩めた向子は楽々と回避して反撃へ。

カウンターで顔に短鞭を振る。

会場に居る人間の殆どは目視できない。

そんな速さに抗って春斗は首を傾けた。

鞭をやり過ごしながら後ろへ飛んで着地。


多聞天(たもんてん)


春斗が刀の柄を顔の側に置く。

切っ先は向子に向いた。


神速斬光(エル・グリント)二ノ段(ツヴァイ)


彼の体に力が(みなぎ)る。


魅那風(みなかぜ)流・刺突貫仏(つらぬきぼとけ)


先に出した飛車斬りが多撃必殺の乱舞技なら、こちらは急所狙いの一撃必殺。

春斗が踏み込み疾風のような早駆け。

明らかに速くなった。

どうやら神速斬光には底が有ったらしい。

狙い澄ました刺突が向子の(のど)穿(うが)つべく、矢のように放たれる。


(無駄だけどね)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


向子の喉仏に刀の先端が容赦の欠片も無く猛然と食い込むも、伝わってくる感触と共に硬質な音が鳴り響いて刃の前進が阻まれた。


「言ったはずだよ。私と江神くんはステータスが違い過ぎるって。生身の肉体なら兎も角として、きっちりと【魔晄(まこう)】を使って防壁を張り、身体強化をしたら、その攻撃が通るわけないじゃないか。威力こそ有るけど物理的に出すオーソドックスな刺突と何ら変わらないんだし」


向子は春斗の繰り出した必殺になり得る一撃に対し、奇を(てら)うこと無く、王道で正統派とも言える、『明確な実力差』によって真っ向から受け止め凌いで見せた。

闘技者としての格付けは済んだと言って良いが、それはあくまで基本性能という面であり、魔術師としての勝負は終わっていない。


「まったく……。ここまで差が有るとなれば、逆に開き直りもし易いと言うものだな。ここで全てを出し尽くすことになるかもしれん」


春斗は目の前に立つ高い壁に対して試行錯誤しながら楽しそうに笑っていた。
 
 

 
後書き
o(__ ) 

 

Bブロック 3

 
前書き
Aブロックより長くなりますね。 

 
「【帝釈天/たいしゃくてん】」


春斗が黒い直刀を右手だけで持った。

腰を落とした構えは威圧的で重苦しい。


「これが【魔術師】の俺が持つ【異能】で出せる最高速度。行きますよ、会長?」


神速斬光(エル・グリント)三ノ段(ドライ)


消失。

そう言って良いだろう。


魅那風(みなかぜ)流奥義・四天宵突(してんしょうとつ)


眉間・喉・鳩尾(みぞおち)・下腹部

正中線に位置する四つの急所を突く。


元々からして速さを要求される技だが神速斬光を合わせることで一瞬に完了する。

だが向子は笑みを崩さない。

春斗の突きが来るヶ所に黒い短鞭の先を持っていき、わけなく防いでしまう。


「ん~……江神(こうがみ)くん。別に出し惜しみする必要は無いんだよ? 君が見せた分だけ私も見せてあげるつもりだから」


どうやら向子は春斗の全力を引き出す為に、敢えて時間を掛け、試合を引き伸ばしているらしい。


「……そうですか。では胸を御借りします」


春斗は祖父から好敵手だった【黒鋼(くろがね)】の話を何度も聞いたことが有る。

自分でも黒鋼の【練氣術】を真似てみた。

しかしやはり不完全。

本家黒鋼のようにはいかない。

だが彼には昔から修業に付き合ってくれた頼りになる幼馴染み達が居る。

彼等は黒鋼流を修めてきた闘技者だった。


永遠(とわ)レイア》

《エンド・プロヴィデンス》


二人の兄弟は春斗が練氣術を身に付けようとしていることを知って、自分達の使う黒鋼の練氣術を春斗に教え込んだ。

その結果として彼は黒鋼流練氣術をマスターするに留まらず、[江神式]とも言えるオリジナリティーを作り上げる。


「良い。良いよ江神くん。立華くんやクリスちゃんもだけど、君も可能性の塊みたいだね。その練氣術は黒鋼にも劣らない」


春斗は向子の前で黒鋼流の三羽鳥を発動。

魔晄の翼【音隼/おとはや】が生え、魔晄防壁が【盾梟/たてさら】に強化され、直刀を握る右手には金の爆光【禍孔雀/かくじゃく】が宿る。


「黒鋼は体術。江神は剣術。(ゆえ)に同じ練氣術では合わぬことも有ります。なので我々の方に合わせてもらいました」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


右手の金光が直刀に移る。

刀身が黒から白銀になった。


「体だけでなく外装も強化する。武器使いなら当然のことですよね? あまりやっている魔術師を見掛けませんが……」


確かにそうだ。

わざわざ外装にまで【魔晄(まこう)】を付与して強化しようという魔術師は少ない。

しかし当然と言えよう。

メリットが少ないからだ。

魔晄を使ったところで外装の威力が上がるわけでもないし防壁で頑丈になるくらい。


(そうなんだよね~。江神くんみたいな例外を除いては。というか、外装に魔晄を使うなんて普通はやらないし)


練氣術の域まで魔晄操作を習熟した者ほど魔晄と外装を合わせようとしない。

それは何故か。


「魔晄外装は『魂』から出来ている。そこに自分から生まれたとは言え、魔晄という『異物』を混ぜるなんてやらないよ。外装の表面に展開して防壁を張るくらいならやるけどさ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


外装の外で使うなら解る。

元が魂でも既に固体化した物質として、道具として物質世界に成り立っている状態でエネルギー源としての魔晄を注ぐのも理解できる。

だが自身の魂によって構成された外装を構築する[構成]に魔晄を組み込むというのは魔晄操作の技術と知識を持つ者ほど理解しがたい。

向子は春斗の思想を何となく理解しているが、それを実行に移すかどうかは別。


「魔晄で[肉体]を強化できる。それならば[霊魂]から生まれた外装でも同じことが可能であるという結論に至るのは珍しいことではないと思いますが」


春斗は当然のように告げる。


「結論が出てもやらないからね普通。私も人のことを言えないけどさぁ~」


彼が『鬼』ではなく『人』だと聞いていた向子は春斗がこんな発想をする筈が無いと油断していたのか、隠すことも無く呆れている。


「君は想像を超えてきたね。実力はアタシの方が上だけど異端というか、突飛なところは江神くんの方が上じゃないかな」


向子は予測より春斗が上回ってきたことに驚くも、同時に嬉しくなっていた。


(立華くんが個人戦に出られなくとも良いライバルになってくれそうだ。その時は翔くんも一緒に立華くんの力を引き出してもらうよ)

 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Bブロック 4

 
前書き
何処まで伸びるか解らない。

1話飛ばして【Bブロック5】の方に目が行ってしまった方が居るようですので5は明日読めるようにします。 

 
江神春斗(こうがみはると)》は言われていた。

自身が【超能力】に目覚めた時に。


『剣士なら自分の握る剣で直接(・・)斬って倒したいと思うのかもしれないが、春斗の超能力は[それ]をしなくても良いものだ。だから使用の有無は春斗の意思に任せる』


(レイアさんは言った。剣士として戦うという拘りを捨ててでも勝ちたい、勝たなければならないと思ったら使えば良いし、最後まで剣士の戦い方を貫くなら使わず負けても良いと)


今が決断の時だ。


「《島崎向子(しまざきこうこ)》に告げる。ここからの俺は、まともな剣士では無くなってしまう。不様を(さら)すことを(ゆる)してほしい。だが、俺はそこまでしてでも貴女に勝ちたい」


春斗は【全領域戦争】の個人戦はおろか、次の試合に出ることも切り捨てた。

ここで向子を倒す。

その為に必要な手段を取る為に。


(江神くんは此処(ここ)を死地に選んだね。楽に勝たせてもらえそうにない)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


春斗の雰囲気が変貌。

観客が居る前で出すには物騒なそれ。

生と死の狭間に立つ命を懸けた人間だけが放てる濃厚で重苦しい『死気』と『鬼気』が会場に広がり充満していく。

皆気付いたようだ。

江神春斗は島崎向子が死ぬとしても全身全霊で勝ちに行くつもりなのだと。

観客が巻き添えになるような、何らかの犠牲を伴うやり方で有ろうとも。

観客が席を立って会場を出ていく。いや、逃げ出す。悪寒と恐怖に震えながら。

その顔は青褪(あおざ)めている。

それを見ながら春斗は安堵(あんど)した。


(俺の意は伝わったみたいだな)


後先を考えず本気の全力を出せば、会場が(ただ)では済まないことを解っている。

だから人払いしたのだ。

すっかり寂しくなってしまった会場を見渡して春斗は思わず苦笑い。


(結局残ったのは何時もの顔ぶれか)


龍帝学園の総合ランキングで10位以下のトップランカーがこぞって逃げ出す中でも彼等だけは生き残る自身が有るのだろう。

残るのは9位以上の一桁に座しており、10位以下とは次元を(こと)にする者。

それに該当する人間は


江神春斗

クリス・ネバーエンド

橘花 翔(たちばなしょう)

的場聖持(まとばせいじ)

エンド・プロヴィデンス

黒鋼 焔(くろがねほむら)

春日桜花(かすがおうか)

島崎向子


そして───


「男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ。とは言うものの、見違えたぞ《立華紫闇(たちばなしあん)》。お前との再戦は叶わんだろうがな……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


春斗の感覚が研ぎ澄まされ、異常な程の知覚能力を彼にもたらしていく。

そして目に映るものが透き通る。

透視と変わらぬ世界で見る向子の骨を、筋肉を、臓器をつぶさに観察し、それぞれの向きや収縮、血の流れすらも洞察。


「【夜天中月(ムーンレイズ)】」


鞘に納まっていた刃を抜刀。

横一文字の軌道を描く斬撃。


(速いね)


明らかに身体能力が上がった。

変わる前とは大違い。しかしまだだ。まだ向子にステータスで勝てないだろう。

彼女は今までと同じように黒い短鞭で春斗の斬撃を弾こうとしたが、不可怪なものを目の端に捉え、即座に己の身を退()いた。

向子は春斗の斬撃を睨む。目を凝らすとうっすら何かが見えてきた。幾つもの刃だ。まるで三日月のようなそれは、エネルギーで出来た不定形であり、常に長さや大きさが変化している。


(もしや気付かれたか……? 例え五感や黒鋼の【真眼】で有ろうとも知覚できないと御墨付きを頂いたものなのだが……。もしはっきりと認識できているのなら、やはり会長は普通でないということになるな)


春斗の考えた通り、向子は刀の斬撃そのものが帯びた三日月の斬撃を、普通に避けただけでは喰らってしまうだろう非常に厄介な当たり判定を持っているに違いないと判断した。


(魔晄防壁で受け切る自信が無い訳じゃないけどまあ躱しといた方が良いよね)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「夜天中月はこの程度ではない」


春斗は刀身を立てバットのようにスイング。当然のように三日月の刃が発生。通常の斬撃に数十の斬撃が重なって射程を広げる。

彼の前方から数メートルに渡って幾つもの斬痕が刻まれていくも、やはり向子は三日月が届く範囲外に逃れて回避。

彼女は攻撃した後の空白時間を狙って躊躇(ためら)うこと無く突っ込み短鞭を振りかざす。

水平に剣を振り抜いた春斗は僅かに動きが止まっており、勢い余ってしまったのか体が(ねじ)れ、背中まで向けていた。

彼の手中で刀が回り反転。


「シィィィィィィィ……」


刃が逆を向き、今振った方と反対に刀身が走り、体が捻れたことで溜め込まれた力も利用され、刀の推進力が増して加速。

やはり月のような斬撃も帯びた。

向子は突っ込む最中で咄嗟に跳ぶ。前転しながら逆立ちのような姿勢に。


音隼(おとはや)


背・手首・足首から魔晄(まこう)が噴出。

粒子で出来た金色の翼が構築され、向子を浮かし、宙に留め置かれる。

その姿を春斗の目が追った。


「アタシは黒鋼焔の友人だからね。彼女とは何度か戦ったし、黒鋼の【練氣術】を覚える機会も有ったんだよ。お陰であの()に獲物として目を付けられることになったけど」

 
 

 
後書き
休みの間にBブロックの試合を終わらせたかったんだけどなあ。 

 

Bブロック 5

 
前書き
どのくらいBブロックの話が続くのか、書いている私にも解りません。

前の話を読んでいる方が1名だけしか居ませんので注意ですが、順番に読まないと只でさえ解りにくい私の話が余計に解りません。 

 
春斗が浮遊する向子へ切っ先を向ける。

すると彼女の体が水中へ沈むようにして、何も無い空間へと埋もれていく。


(会長の【空間接続(アクセション)】か)


世界的な魔術師として知られている向子の代名詞ワープゲート(ワームホール)。

彼女は紀元前2千年から現在まで4千年にも及ぶ【魔術師】の歴史より千年は古く長い発祥とされる、【超能力】の歴史5千年の中でも3本の指に入る空間能力者と言われていた。

他の二人は世界四強の一人《ミディア・ヴァルトシュタイン》と、【鳳皇学園(ほうおうがくえん)】の《龍宮斗浪/たつみやとなみ》である。


(ワープゲートなら何処かに出口が開くはず。武台を覆う結界の内部に出口を出すのなら、会長が攻撃体勢を整えるまでに先制して攻撃することも可能だろう)


頭を出した瞬間を狙って奇襲を。

そう考えた春斗は【夜天中月(ムーンレイズ)】によって飛躍的に増強された知覚を以て武台上だけに留まらず、選手同士の戦いで観客に被害が出ぬよう設置された結界の内側全てを楽々把握。


「さあ来い。その首貰い受ける」


そしてゲートが開いた。

春斗が向子の脈動を捉えようと動き出す。

しかし彼の体が急停止。


「……何だ……これは……?」


確かにワープゲートの出口は存在する。

しかしその有り様は予想と違っていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


異変の元凶を察知した春斗。彼が知覚したのは小さなワープゲートだ。

剣先も入らない程の。

それだけなら問題ない。そこから向子が出てくるのは確実なのだからゲートが(ひら)き切って、彼女が姿を現す瞬間に斬り込むだけ。

しかし最初の小さなゲートが開いた直後、離れた場所に同サイズのゲートが(ひら)いた。

もちろん春斗も反応する。

だが同じようなゲートは次々と現れて結界内部の空間に穴を穿(うが)っていく。

正に虫食い穴(ワームホール)のような勢いで増殖し、数えるのも馬鹿らしい数となった。


(どれだけ増えるんだこれは……!?)


未だに向子の姿が見えないところからすると、彼女は別の空間でこちらの空間に戻ってくるタイミングを計っているのだろう。

ゲートが数ミリだったものが数センチとなり、指が入る程には成長すると、そこかしこからスピーカーのように向子の声が響く。


「試すよ?」


ゲートに小さな影が見えた。

春斗は刀を振って迎撃するも、現れたのは正体不明の黒くて小さな欠片(かけら)


「なんだこれは」


武台の床に落ちたそれを剣で()つく。

特に何も起きる気配は無い。


(一体どういうことだ?)

「簡単に私が出たら詰まらないじゃないか。悪いけど、今から江神くんの集中力を()ぎ落とさせてもらうよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(なるほど。そういう趣向か。実力差は歴然だというのにそこまで慎重に戦闘を進めるくらいは俺を認めてくれたのだろうか)


拳大になった数百のゲートに影が浮かぶ。

春斗は両手で刀を握り締め、思いっ切り体を(ねじ)ると高速で水平に一回転。

彼を中心に小規模な竜巻が起こると数千の三日月が弧を描いて刃となり渦を巻く。

ゲートから現れた黒片は全て吹き飛んだ。

その光景を亜空間で眺めていた向子は口笛を吹きながら春斗の技量を称賛。


「下手に出ると斬られるかな? かと言って何時までも引き(こも)ってられないし、まあどうにかして隙を作りますか」


空間振動(シェイキング)

手始めに空間を揺さぶってみる。

発生した振動が空間を波打たせた。

春斗は空間の変化を敏感に感じ取り、迫る振動から逃れるため、素早く移動。

彼が居た場所は空間振動によって生まれた衝撃波が押し寄せて破壊される。


「ふむふむ。もしかして空間振動だけだと倒し切れないのかもしれないね。ゲートの数は維持して江神くんの情報処理は散漫にしとこ。知覚する数にも限界が有るわけだし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


向子が空間振動を乱発すると、春斗は【夜天中月/ムーンレイズ】の斬撃に【魔晄神氣/セカンドレイク】の【神速斬光(エル・グリント)】を合わせ、剣の振りを速めた。

三日月の刃も動きが高まって、より遠くへと飛んでいくようになる。

速まった斬撃で空気が(うな)ると風を起こし、空間振動とぶつかって相殺。


「へー。異能と超能力に剣技を組み合わせるとはなかなか器用だね。じゃあそんな江神くんには二つ行って見よーかー」


空間歪曲(グラインド)

空間が歪み捻じ曲がる。


空間移動(テレポート)

この能力の名前はテレポーテーションを略して付けたものではない。

故に空間を別の場所に飛ばしたり、能力者が空間を越えることは出来ないのだ。

出来るのは空間の移動。

空間を動かすだけの能力だが高位の空間能力者が使うなら厄介である。


「ヒュウッ……!」


春斗の喉が鋭く音を鳴らす。


(息継ぎや(まばた)きをするだけでも細心の注意を要求されるとはな……! 一体どれだけの余力を残しているんだ会長(あのひと)は……)


春斗は神速斬光を【ニノ段(ツヴァイ)】に上げて新たな空間能力に対処する。
 
 

 
後書き
Cブロックは書く必要ないし、DブロックはBブロックよりも短くなるはず。

しかし、向子さんの本格戦闘を偽悪やLosの本編以外で先に書くことになろうとは。 

 

Bブロック 6

 
前書き
話の流れがおかしくなったかな? 

 
空間振動(シェイキング)】で空気が揺れ、衝撃波となって襲って来るも、春斗は【神速斬光(エル・グリント)ニノ段(ツヴァイ)】の高速運動と【夜天中月(ムーンレイズ)】の斬撃で迎え撃つ。

大きく振りかぶった数百に及ぶ三日月型の刃は方向を問わずに広がっていき、刀を振った周囲まで斬り刻んでしまう。

空間振動と月刃がぶつかる直前だった。三日月の刃が全て狙いを逸れる。これでは相殺できない。衝撃波は春斗へ一直線。


(この、陽炎(かげろう)にも見える景色の揺らぎ方。仕込んだみたいだな会長は……)


島崎向子(しまざきこうこ)》による【空間歪曲(グラインド)】だ。

春斗は回避して難を逃れる。


(ここで出し切らせるか迷うなあ。立華くんの成長に良さそうな気もするし)


向子は亜空間で寝転がりながら頭を悩ませている最中であり、同時に《立華紫闇(たちばなしあん)》の【プラン】についても考えていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


神速斬光(エル・グリント)三ノ段(ドライ)

魔術師の【異能】で《江神春斗(こうがみはると)》が出すことの出来る最速。

そこに通常の魔晄操作を超えた上位互換の技術である【練氣術】の身体強化と防壁。

同じ魔晄を使った身体強化と魔晄防壁だが比較にならない程の性能を誇る。

更に夜天中月で得られる基礎能力。


春斗は初めてだった。

修業では慣れているし、レイアやエンド、聖持にも使ったことが有る。

しかし今の自分が出している力は実戦で出したことが無いほどの領域。


(まだか。まだ出てこないか)


春斗の焦燥を余所に向子は【空間移動/テレポート】を戦闘へと組み込む。

春斗は直ぐに気付かない。

だが徐々に察した。


「おかしい。歩みが遅い」


あまり大っぴらに能力を使うとあっさりバレてしまうと考えた空間移動を抑えて使ったのだ。


「空間を飛ばすワープ系の能力は景色が変わるから直ぐに解るけど、空間移動は名前の通りに空間を動かすだけの能力だからね。それに今は一度に動かしても10センチ以内。魔術師だろうと超能力者だろうと誤差は殆ど感じられないレベルなんだけど」


全力疾走の人間が左右のズレ10センチ、ゴールまでの距離10センチという違いを正確に感じ取れる筈が無いのだが、今の春斗はその精度で違和感を覚えるようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


空間接続(アクセション)

空間振動(シェイキング)

空間歪曲(グラインド)

空間移動(テレポート)


4つの空間能力を同時に行使して亜空間から高みの見物をしている向子に対し、春斗は激しく動きながら無数の斬撃と三日月のような刃を降らせつつ、空間の異常を検知。


「夜天中月を軸に戦うのはこの辺りが限度か。もっと上げられるが代償も大きい」


彼の能力が追加される。


「【舞狂悪魔(エイレナオス)】」


666本のナイフが現れた。


「轟け。【天譴(てんけん)】」


続けて魔晄外装の解放。


(力づくで会長を引き摺り出す)


武台を覆う結界の内側に、これだけ沢山のワープゲートが開いた状態で、空間が揺れ、歪み、移動させられている状態なら春斗の狙いも達成できるはず。

春斗が天譴を振ると、何処からか数十メートルの刀が現れて、春斗の刀と同じ軌道をなぞって武台の上を払っていく。

神速斬光・三ノ段と巨大化した三日月の刃もおまけした一撃は会場を容易く廃墟に変えられるのだが何故かワープゲートの開く空間を狙う。


「あ、ヤバい」


向子の口から思わず漏れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


能力で干渉し過ぎたせいなのか、すっかり脆くなってしまった武台の空間は春斗の攻撃によって呆気なく粉砕されてしまう。

亜空間に居た向子も出てくる。

そこに数百の月刃が殺到。


(こうべ)()れろ。【禁鞭】」


彼女の持っていた黒い短鞭が褐色(かっしょく)の長鞭に変化して威圧感が放たれた。


Wonderful(素晴らしい)。別に外装の解放なんかしなくても良いんだけど、江神くんの健闘を表して見せてあげようじゃないか」


向子が手首だけで鞭の先端に動きを伝えると、それだけで鞭の残像が大量に現れた。

全ての月刃を打ち砕いていく。

だが舞狂悪魔(エイレナオス)のナイフは違った。

鞭を避けようと動き回る。

流石に躱し切れないものの、破壊された筈のナイフは際限なく修復されて元の666本に戻り、禁鞭の回避と向子への攻撃を繰り返す。

勿論そこには夜天中月による月刃も後から後から押し寄せてくる。

二人の攻防は拮抗。


(アタシは禁鞭と4つの空間能力で行けると思ってたんだけどやるじゃないか。これは学園の卒業後に期待できそうだ)
 
 

 
後書き
舞狂悪魔は元ネタ有ります。
_〆(。。) 

 

Bブロック 7

 
前書き
_〆(。。)

 

 
「【天騒翼/てんそうよく】」


春斗の背中から翼。

白と黒の一枚ずつ。

白からは風、黒からは雷。


(攻撃範囲が広いわけじゃない。けどピンポイントで狙えるから使える場所も多いのか。大技で周囲を巻き込むことも少ない能力だね)


春斗はエネルギーを収束させて攻撃できる範囲を狭くしたが、そのぶん攻撃は速くなり、貫通力も通常より増している。

向子は【空間移動(テレポート)】で風と雷の前に有る空間をずらし、自分の居る空間も移動させることで、防御と回避を同時に行う。


(会長の空間移動は空間をパズルのように、大量のピースで組み上げられた一つの構成物として扱うことが出来るのかもしれない)


しかも組み方は自由自在。

動かした空間が有った所には別の空間が移動して、抜き取られた穴を埋めるので空間的には特に大きな問題が起きないようだ。


「もしこれと類似した能力がもう一つ出たら、今の俺にはどうしようもないだろうな……。それを使う相手にもよるが……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ん~やっぱり面倒臭いね」


島崎向子(しまざきこうこ)》は《江神春斗(こうがみはると)》の解放された魔晄外装【天譴(てんけん)】によって現れる鎧兜を着込んだ巨人の手足や刀の圧倒的なパワーに手を焼いていた。


(いや、そりゃあ『(かな)リン』よりましだよ? 何とか出来る範囲だしね)


だが公式戦でそこまでしない。

観客が避難した後とは言え、そこまでしたら色々と不味いことになるだろう。


(【魔獣領域】を舞台にして戦うか、【旧支配者/オールドワン】を相手にしてるなら、そこそこの犠牲者を出しても目を(つぶ)ってもらえるかもしれないけど、その後がねぇ……)


問題が有ると解っているからこそ、春斗も全ての動きを天譴にトレースさせない。


「うぉっ!?」


向子の真上から巨人の足裏。彼女は手を(かざ)す。彼女の左腕にはワープゲートから出した小さな黒い欠片が集まって包み込んでいく。

龍帝学園の全体を揺らすほどの巨体と重量が向子を踏み潰そうと足を下ろす。


「まったく以て気を使うね」


向子は左腕一本で何千トンも有りそうな黒い鎧武者の足を支え、受け止めていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


巨人の足が消えた後、向子の左腕を見た春斗は彼女の腕に密集した大量の黒い欠片を見て、あれが何なのかを思い出す。


「確か……あれは会長がゲートから出して俺が叩き落とした何かだったな。気になってはいたんだが……もしかして防御と強化をしてくれる能力の媒体(ばいたい)だったのか?」


向子は天騒翼で飛ぶ春斗を見て笑う。

そして何かを口にした。


「【制御解除(リベライル)第一解除(アインス)】」


彼女の威圧感が増して重くなり、緊張感は空気で刺すような痛みを与える。

しかし春斗は怯まない。


舞狂悪魔(エイレナオス)】で操る666本のナイフを【魔晄(まこう)】で強化し、【神速斬光(エル・グリント)】で運動性能を高め、天騒翼の風と雷を付与して補助。

舞狂悪魔の能力単体よりも遥かに強力なそれは、能力本来の性能を10倍20倍にしたくらいで済むようなものではない。


「足だけとは言え、天譴のあれを腕一本で受け止めたのは見事ですが、これは腕一本だけで凌げるものでは有りませんよ会長?」


春斗が腕を振り下ろすと全てのナイフが摩擦と断熱圧縮で燃えながら光を放ち、向子を目掛けて流星のように墜ちていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そう来たかー。でもそろそろだろう? 【超能力】や【異能】を『同時』に使えば[消耗]が大きくなる位で済むけど『合体』や『融合』させて使うと負荷が強いだろうからね」


向子は左腕に付着していた黒い欠片を全身に広げると、覆い尽くすように(まと)った。


「【黒死蝶の鎧】」


彼女は防御を固めると、そのうえで【制御解除・第一解除/リベライル・アインス】したことによって得られた力と恩恵を使って666本のナイフに対応していく。


空間転送(アスポート)


向子に近付いたナイフが次々と消えた。

次に現れたのは春斗の周囲。

しかも刃は全て彼に向いている。

ナイフは向子に対して突き進んでいた勢いそのままに春斗へ飛んでいく。

春斗はヒヤリとしながら回避。休むこと無く襲ってくる自分のナイフをやり過ごしながら注意は向子へ置いたまま、彼女のことを観察。


(能力の発動が早くなったか?)


春斗が見る限り、向子は接近する666本のナイフを一つずつワープさせているようにしか思えないが、もしそうなら驚異的だ。


空間近奇(アポートス)


春斗の近くに有ったナイフが向子の元へ。

それは他のナイフと衝突。

更に【空間接続(アクセション)】も併用。

ゲートからナイフが飛び出す。

あちらこちらでナイフが飛び交い、ところ構わず衝突し、見る影も無く砕けていく。

3つの空間能力から逃れたナイフも

【禁鞭】

空間振動(シェイキング)

空間歪曲(グラインド)

によって数を減らす。


「そんな出鱈目(でたらめ)な……」


春斗は舞狂悪魔を解除してナイフを消した。


(あのナイフは666本が全て壊れてしまったら次に使うまでインターバルが出来るからな。一旦戻した方が良いだろう) 
 

 
後書き
ワープゲートから出した黒い欠片はBブロック5くらいで出てたかな?

制御解除は別作品の設定。

空間転送(アスポート)は巨大なものを転移させるのには向いていません。それは空間跳躍や空間接続でやりますね。

近付いてくるナイフを空間転送で春斗の周りに転移させつつ空間近奇(アポートス)で自分の近くにナイフを転移させ、ガードに利用。

空間接続(アクセション)のゲートを開いて空間転送と空間近奇の2つとは別にナイフを往き来させる。

前兆無しでいきなり現れたり消えたりするナイフと解りやすくゲートから出てくるナイフの組み合わせで頭が余計に混乱しますね。
_〆(。。) 

 

Bブロック 8

 
前書き
やっと終わる。
_〆(。。)

 

 
「よーし、これでナイフが消えたね」


向子はすっきりした視界に清々しい気分となったが対する春斗は追い込まれたことに表情を曇らせた。


「使っていない能力は一つしかないが、近接戦闘する為のものだからな……」


あれを多用する気は無い。


「これで行くか」


黒鋼の【練氣術】を元に春斗が生み出したオリジナルの魔晄操作技術。

左手に魔晄で出来た剣が現れた。


「【江神式練氣術】。【斬魔(ざんま)】」


薄く透き通った白銀の刃。

その斬れ味は春斗自身の外装を上回っており、魔晄防壁を無視して斬れる。


「江神式練氣術。【追刀(ついと)】」


春斗が外装を投げると空中で停止。

黒い直刀と春斗は魔晄で出来ている見えない縄のようなもので繋がっている。


「会長の足を止めますよ?」


序盤で使った【重転じ軽変ず(オルタ・グラビティー)】だ。

最大出力で向子の動きを重くする。


(僅かでも攻撃を当てる可能性を上げないと勝負にならないのでね)


春斗は向子が多少、重く、遅くなった程度で何とかなる相手ではない。

身を以て体感している。

だからまだ攻めない。


夜天中月(ムーンレイズ)


春斗が宙に投げた黒刀は月光を帯びる。


「げっ、またそれか」


舞狂悪魔(エイレナオス)】より多い数の攻撃。

しかし先程の強化して他の能力と合わせた666本のナイフより脅威ではなかった。


先刻(せんこく)とは違うぞ」


春斗が魔晄の刀、斬魔を振る。

数百の三日月が刃となって飛ぶ。

向子は重い体を【空間移動(テレポート)】と【空間接続(アクセション)】で動かしながら、【空間振動(シェイキング)】で月刃の動きを緩め、エネルギーを拡散し、【空間歪曲(グラインド)】で狙いを逸らす。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「言いましたよね。先刻とは違うって」


春斗が言うや否や、空中に留まっていた黒い直刀の外装が動き出し刃を振るう。

其方からも三日月型の飛刃。


「変則の二刀流ってわけか。しかも片方は手から離して操るなんてね」


魔晄で春斗と繋がっているとは言え『独立型』ではない外装を自分から遠ざけた状態で操るのはリスクが高く、これを為せるのは極めて優れた魔晄操作の技術が有ってのことだ。


(速さや正確さは強化した舞狂悪魔に劣るけど、攻撃の数と密度は圧倒的にこっち。しかも別々の方向から攻撃してくる本体が2つ)


この試合で一度に生み出した手数としては、今の春斗がしている攻撃が一番多い。

しかし向子にもやりようは有る。

舞狂悪魔を止めさせた方法だ。


空間転送(アスポート)

空間近奇(アポートス)

空間接続(アクセション)


この3つで月刃同士の打ち合いに持ち込んで数を減らし、春斗にも月刃を向ける。


(早速やろう)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


向子の狙いは大方上手くいった。

しかし予定通りにはいかない。

春斗は右手に魔晄を集めると、二本目の斬魔を作り出し、共に放り出す。

それを【追刀(ついと)】で遠隔操作。

浮遊する直刀を手に取った。

彼は向子の方へと身構える。


三日月の刃が雨のように降り注ぐ中で春斗は魔晄神氣/セカンドレイクの【神速斬光(エル・グリント)】を『三ノ段/ドライ』で発動。

音隼(おとはや)】と【天騒翼】を出力最大に。

全てを速さと速度のみに結集。

ただ向子の元へ()せる。

軌道は最短の一直線。

躱すことを考えていない疾空。


春斗は外装を腰に着けて抜刀の構え。

しかし既に鞘から出ている。

彼は剥き出しの刀身を左手に掴んだ。

そして右手が刀の柄を引く。


「【魔晄極致(サードブレイク)】」


春斗のスペックが底上げされて加速。

彼の防壁が白銀から黄金へ。

黒い刀身に一筋の線が走った。

春斗の右手が動くと刀身が鞘のように滑り出し、白銀の刃が姿を現す。


「【万象無斬(ばんしょうむざん)】」


彼の斬撃は月刃はおろか、空間能力による妨害でさえも、一撫ですれば消し去る。

概念の切断と消滅だ。


「やっと見せてくれたね」


向子の喉元に春斗の刃が迫る。


「【空間交位(エクスシフト)】」


二人の位置が入れ替わった。

その瞬間、不可視の衝撃が顕現。

前触れの無い波紋が春斗に伝播(でんぱ)

一つであれば耐えられただろうが付着した衝撃は多重に積層されていた。

挽き肉にされてもおかしくない。

だが叩きになった春斗は原形を残す。

そこまでする必要が無いから。


「【繽紛無垠(ピロテクニマ)】」


向子は地に伏した春斗を見下ろす。


「うん。強かったよ」
 
 

 
後書き
後はDブロック書いて終わりでも良い。

原作の最終戦よりショボくなりそうだけど。
_〆(。。) 

 

Dブロック

 
前書き
原作だと全領域戦争の個人戦出場者選抜トーナメント決勝がラストバトルです。
_〆(。。) 

 
【冬季龍帝祭】のCブロックは大番狂わせが起きることも無く、順当に【龍帝学園】で生徒会副会長を勤める《春日桜花》が勝ち残った。

そしてDブロック決勝。

最後のベスト4を決める試合が《立華紫闇/たちばなしあん》と《黒鋼焔/くろがねほむら》によって行われる。


(強くなったね紫闇。黒鋼に弟子入りして、まだ半年も経ってないのに……)


この試合が始まる前、彼の姿を目にしたその時から、紫闇は焔が想定していなかった程の力を持っていることが解った。


(最終試練を受ける前に【真眼】を使えるようになるなんて最高だよ紫闇)


ひょっとしたら黒鋼流の最終奥義【真打】すら会得しているかもしれないのだ。

はっきり言って予定していた戦い方を変えなければ負けるだろうが、生憎と焔は変える気が全く無かった。彼女にとってこの試合は自分が楽しむ為ではなく、弟子である紫闇の成長を確かめる為のもの。

故に焔が勝とうが負けようが、彼女自身には関係ないことであり、紫闇が強くなっていれば後はどうでも良い。

既に基礎能力は今の焔(・・・)と同等以上で真眼も得ていると確信できている紫闇とは戦う必要が無くなってしまっている。


(あたしはこの試合で真眼や【大筒木】の力を使わずに紫闇と戦う。その決着を以て紫闇の黒鋼流における卒業試験とする。彼の目標で居られるか、それとも数多いる凡百の闘技者に落ちるかはあたし次第だね)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二人の右腕に魔晄外装が顕現。

同じように黒い腕部装甲だ。


「輝け。紫闇」


紫闇が外装を解放すると腕甲が紫色に。


「行くぜ師匠(ほむら)


彼は体を低くして力を溜めると【音隼(おとはや)】を使って背中から魔晄粒子の翼を二枚生やし、踏み込みの力と粒子の噴出による推進力を加え突撃。


(やはり速い……!)


焔は【魔晄(まこう)】を集めた額を突き出し魔晄が凝縮された紫闇の拳を受け止めた。

轟音が観客の外耳道を抜けて鼓膜を揺らし、観客はその交通事故すら生温いと思わされる音に、思わず耳を塞いでしまう。


「ぐぅっ!?」


外装に包まれた右手に異変。

手の骨が折れたようだ。

紫闇が繰り出した打撃に対して頭の最硬部を武器と為しカウンターを取る。

黒鋼流では【撃鉄】と呼ぶ。


(力も速さも申し分なし。でも黒鋼流の拳士としては、『技』があたしに届いてない)


次は焔の番だ。音隼の金翼で加速。ワン、ツーと彼女の拳が紫闇の頭部を打つ。

焔は更に追撃を行う。

紫闇の左へ回って蹴り。吹き飛んだ紫闇の反対へ回り込んで顔面パンチを叩き込むと、また吹き飛んだ紫闇に回り込み一撃。

決まると逃げられない『()(ごろ)し』の連続コンボが如く、為す術の無いまま吹き飛び続ける紫闇を殴打する。

しかし焔は気付いていた。


(防壁が硬いね。直撃してるのにあんまり変化が見られない。ダメージは受けてるけど、それも攻撃の積み重ねによるものだし)


対する紫闇は心地良かった。

あの焔が自分を仕止める為に全力で攻撃を仕掛けてきているのだから。

彼の夢が一つ叶ったのだ。


(俺は今、焔と実戦をしているッ!)


紫闇は焔の連撃から抜け出す。

小細工なしの勝負をする為に真っ向から打ち合って、攻撃・防御・回避・反撃。

基本ステータスでは引けを取らない筈なのに一発も当たらず一度も(かす)らない。


(そうだ。これが黒鋼焔。俺の師匠。無意識の内に諦めて悩んだことすら無い。俺は下で焔が上だと当たり前に思ってた)


しかし今は違う。

制服があちこち破れても、皮膚から血が出てきても、自分の顔が()れ始めても、紫闇が焔に劣等感を感じないのだ。

だがそろそろ崇拝者で居るのも終わり。

賞賛はすれど焔は越えるべき壁だから。
 
 

 
後書き
原作の流れと同じく、この試合でラストバトルにするかもしれません。

紫闇の物語ですし。 

 

Dブロック 2

 
前書き
_〆(。。) 

 
焔が紫闇から離れて笑う。


「……この半月で君がどれだけ強くなったのか見せてもらおうか紫闇」


紫闇が右手の親指を左手中指に当てた。


「これが今の俺だ、焔」


右手の親指に力が込もる。

左手の中指が押された。

『バキリ』という音が聞こえた途端に白銀だった魔晄防壁が闇色と化す。

炎のように揺らぎ膨張。

少し前までの紫闇なら内なる上位存在の影響を受けて凶暴になっていたところだ。

しかし今の彼は違う。

自身に宿す上位存在を支配することに成功した紫闇は普段の人格そのままで普段よりも強大な力が全身に漲り迸っている。

右腕の外装が変化していく。

赤黒い光に包まれると制服の袖に収まる位だった外装は上腕まで覆う腕甲となった。

無骨で何処か禍々しい。

表面には赤・青・緑のラインが走る。

変化が終わると赤黒い光が消えた。


「よし、やるか」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


紫闇は目に神経を集中。

すると光の筋や玉が無数に見えた。

これは『気の流れ』というもの。

焔のそれも見えている。

どんな風に気が流れ、どのように循環しているのか手に取るように解ってしまう。


(【真眼】を使ったかな? なら『今の』あたしが出せる本気の一撃で行くよ)


焔が【音隼(おとはや)/双式】を展開。

魔晄(まこう)の翼が四枚生えてくる。

直後に間合いを詰めてきた焔に対し、紫闇は完全に軌道を読みながら拳を回避。

更に傷口から血を放出。

それはピアノ線のように張り詰め硬化。

振り下ろされた赤い糸は刃のよう。

焔の左腕が切断される。


「!」


焔は素早く後ろに跳ぶ。


「読んでたよ」


紫闇が呟くと武台のあちこちに垂れ落ちていた彼の血液が弾丸となって焔に向かう。


「ちぃっ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


盾梟(たてさら)丸魔(がんま)

普通の魔晄防壁より強化された防壁の盾梟を球状に膨らませて更に強化。

焔の全身をすっぽり包み込む。


(解ってるだろ焔。無駄だって)


紫闇の血液操作は魔術師の【異能】

魔晄神氣(セカンドレイク)】の【融解】だ。

概念を溶かす性質を持つ。

当然ながら防壁を突破。

もっと次元違いの魔術師が張る魔晄防壁なら防げる可能性が有るのかもしれないが、『今の』紫闇と焔の間に有る程度の実力差では無理なことでしかない。


「ごぶっ……!!」


焔は堪らず喀血(かっけつ)した。

大腿・下腹・肺・頬を血液の弾丸が貫通して臓器を傷付けていったせいだ。

無理もないことだろう。

直ぐに【氣死快清(きしかいせい)】を発動した焔が緑の光を放って傷を塞ぎ、失った左腕も再生させるが紫闇は邪魔をしない。

互いの違いを解らせる為には焔が完全に近い状態で居る方が良いからだ。


「今の俺は焔の想定より何倍も強いぞ」


焔は既にそれを痛感していた。

自分が負けてしまうことも。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(これは真眼を使っただけじゃ埋まらない程に差が着いてしまってるね。基礎能力と体術の差は技術でカバーできるけど、異能や【超能力】に加えて真眼まで使われてしまったらまるで勝ち目が無いじゃないか)


焔は紫闇に合格判定を出す。

彼は自分の弟子を卒業だ。

後は独立してやっていけば良い。

しかし試合を棄権することは紫闇が納得できないだろうし焔も不完全燃焼だろう。

だから続けることにした。

絶対に負けると理解していても。

どんなにぶざまを晒しても。

この試合を納得するまで投げたくない。

師匠として最後の勤めだ。


「諦め悪いのが黒鋼さ」

「知ってるよ。だから手は抜けない」
 
 

 
後書き
パパッと終わらせるなら次でDブロックが決着になりますがもうちょっと書きたい気もします。

Dブロック終わってからが悩みですが。
_〆(。。) 

 

Dブロック 3

 
前書き
あっさりですが幕引き。 

 
自らの内に宿る【上位存在】を支配した紫闇は肉体を侵されず、無詠唱かつ何の代償も支払わずに【神が参る者/イレギュラーワン】としての能力を使えるようになった。

制限時間は無く、【魔晄(まこう)】も消費しない。

しかも複数を同時にだ。


「【珀刹怖凍(びゃくせつふとう)】」


【融解】を発動中の紫闇が時間の流れを緩め、何もかもを停止させていく。

しかし焔は違った。

通常より遅いが十分に動けている。


「流石、と言うべきか……」


彼女は魔術師の【異能】を持っておらず、この試合では【超能力】も【大筒木】に由来する写輪眼などの力も使用を禁じていた。

なのに動ける理由は単純。

基礎能力が高いから。

だが紫闇はそれより上の基礎能力。

恐れるに足りず。


(ただでさえ【真眼】で動きを読まれてるのに下のスペックじゃ無意味だよ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は焔が【打心終天(だしんしゅうてん)】でカウンターを取ろうとしていることを気の流れによって察知していた。

真眼の修業で学ぶのだが、『気』というのは魔晄の源であるとされ、肉体の『生命力』であり、生きていく為には不可欠。

これは肉体に有る数十の【関門】から放出されて常に全身を巡っている。

気というものは、生き物が動いたり考えたりすると、流れが僅かに変わるらしい。

流れの変化は見間違いで済ませてしまうようなものなのだが、真眼を最終段階まで修めた者には捉えられるものなのだという。

つまり今の紫闇は焔の考えや動きを完全に先読みして準備・対応できるのだ。


(だからこうなる)


打心終天が決まりそうなタイミングまで引き付けてから回避して、空振りした焔の体勢を崩させると、血脈の刃で上から頭を、下から逆袈裟に斬った。

だが焔は本能で以て強引に体を退く。

浅く斬られながらも難を逃れた彼女は転がって武台の床へと倒れ込む。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふ、ふふっ。ふふふふふふ。くはははははははっ! ふうー、危ない危ない」


焔はのそりと起き上がる。


(楽しい。そして嬉しい。自分の弟子がここまで強くなって自分のことを追い込んでくれる。師匠冥利に尽きるというものだね。本気を出せないのが残念で仕方ないよ)


氣死快清(きしかいせい)】で出血を止めた焔は魔晄を全開にして、暴嵐のような勢いで襲い掛かるも紫闇は涼しい顔で回避。

今の彼はどう動けば避けられるのか直ぐに解ってしまうので、焔のようにスペックが下の体術使いは特に相性が悪かった。


「そろそろ見せてやるか。【気の流れ】を利用した攻撃を……。とは言っても『気功』を使ったりするわけじゃあないんだが」


気は【関門】から発生する。

関門が有る場所を見極めて攻撃を行う。

(しか)るべきタイミングで。

すると破壊できるのだ。


(ここで【神が参る者/イレギュラーワン】として覚えた最後の能力が役に立つ)


焔が右の拳に魔晄を集めた。

【禍孔雀/かくじゃく】だ。

黄金の魔晄が外装から放たれる。

焔は右ストレート。

紫闇も青い魔晄を帯びた右ストレート


「【神討つ拳狼(フェンリスヴォルフ)】」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人の拳が衝突した結果、焔の外装は砕け散り、右手の骨も粉砕された。


(治らない……)


氣死快清が働かない、と言うより右手に魔晄が流れない状態になってしまったようだ。


「右手の関門を壊した。少なくともこの試合で使えるようにはならないだろう」


神討つ拳狼を使わずとも打ち合って勝つ自信は有ったが焔に対してはこの方が良いだろうという判断で使わせてもらった。


神討つ拳狼(フェンリスヴォルフ)】の能力。

それは拳に魔晄を集中・凝縮させ、魔晄・外装・異能・超能力などを無効化して破壊してしまう力を持った高威力の一撃。

概念系能力の側面を有しており、拳に込められた魔晄を上回るような概念でなければ物理的な事象も問答無用で無効化してしまう。

打ち消す力の量が多かったり、規模が大きかったり、複雑な仕組みの能力だったり、格上の相手には効きが悪くなるが、それでも強力。


「つくづく恐ろしい奴になったね紫闇」

「この半月で互いの差が埋まるどころか逆に追い抜いたけど最後まで()るよ焔」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


確かに勝ちたかった。

彼女を超えたかった。

その後を追い、背中を見てきた。

だがもうどうでも良い。

焔は自分より弱くなり、戦って面白い相手ではなく、勝って当たり前と言われてしまうような三下になってしまったのだ。


(真眼で本気を出してないのは解る。けど『今の』焔が出せる限界なのも解ってるんだ。だからもう良い。今日のところはこれで)


紫闇の目が胸部の辺りに有る最も大きな関門を見据えながら拳を握る。


「黒鋼流真打・【覇天焔武(はてんえんぶ)】」


決めれば体に流れる魔晄が全て止まり、人間なら確実に死ぬ最終奥義。

それを6割ほどの力で放つ。

喰らった焔の体は武台を包む結界を硝子のように砕いて飛んでいき、観客席に激突すると、そのまま席を削りながら登っていく。

そして最上段の壁に叩き付けられると一つのクレーターに無数の亀裂を走らせながら、運動エネルギーをゼロにした。

10カウント無しのTKO。


(焔)


紫闇は涙が(あふ)れて止まらない。


(俺はお前が憧れの一人だった。お前よりも強くなりたいって思ったのは嘘じゃない。けど───)

「俺は、お前に越えられない『壁』で在ってほしかったんだ。矛盾してるけどな……。だから、今度は本気で戦ってくれ」


霞む目の真眼でそれを見た焔は苦笑い。


(ああ……また今度ね……)


彼女は意識を手放した。
 
 

 
後書き
後は後日談を書いて終わりにしても良いところまで来ています。

原作の時系列だともう最後の2ページくらいしか書く部分が残っていません。 

 

経過

 
前書き
続きました。
_φ(゚Д゚ ) 

 
黒鋼焔と立華紫闇の決着が付いた後。


「よく我慢してくれたよ、ほむほむは」


Bブロックを勝ち抜いた生徒会長《島崎向子/しまざきこうこ》は焔が力を抑えて戦ってくれたことに感謝した。


「さて。これでベスト4が揃ったわけだけど、このまま立華くんを優勝させるか否か」


──────────────────

[Aブロック]

《橘花 翔》

──────────────────

[Bブロック]

島崎向子

──────────────────

[Cブロック]

《春日桜花》

──────────────────

[Dブロック]

立華紫闇

──────────────────


今の紫闇だと他の3人が戦る気にならなくても負けてしまうだろう。


「手を抜けば良いんだろうけど、それで優勝したとしても生き残れないしなあ」


向子は溜め息を吐く。


現在世界で魔術師にとって最激戦区とも言える日本の学生魔術師が争う全国大会の【全領域戦争】は『団体戦』だろうと『個人戦』だろうと楽に勝ち進めるようなものではないのだ。

狙って勝てる向子達が異常なのである。


「世界トップクラスになった今の立華くんならアタシ達以外どうにでもなるんだけど」


問題は全領戦で運良く駒を進めた先で当たる向子のようなプラン関係の実力者。


【聖域】の精霊なら今の紫闇にも丁度良い相手がゴロゴロ居るのだが、何時か来るかもしれない【外宇宙】で無数に蠢く【旧支配者/オールドワン】や【古代旧神/エルダーワン】との決戦に備えてあまり精霊の数は減らせない。


「精霊も普通に倒されるだけなら上位存在と同じように期間を置いて復活するんだけど、立華くんが先代の史上最強《神代蘇芳(かみしろすおう)》と並ぶくらいになったら最上位の上位存在とも張り合えるような強さの持ち主でないと修業にならないだろうしね……」


紫闇が《永遠(とわ)レイア》と協力して【プラン】を幾つも飛ばし、何段階も成長したことは嬉しいが、同時に紫闇の覇気(やるき)も維持していかなくてはならないのだ。


「その為には彼が強くなる度に彼より強い相手を用意するか、アタシ達が追い付かれないように努力していくしかないんだよなあ」


仕事をサボりたい向子にとって自由な時間を削られるのは死活問題である。


「まさかプランを投げるわけにもいかないし、やっぱり頑張るしかないか」


向子は組み合わせを見た。

準決勝の第一試合は向子と翔。

第二試合は紫闇と副会長の桜花。


「ここで立華くんを負かすかは桜花くんに任せた方が良いかもしれないね。去年までの四強ならともかく今の四強に食い込めるようになるまでは、かなり時間が掛かるだろうし」


紫闇をもう一度挫折させる。

敗北から学ばせるのだ。

まだまだ上は居ると思わせて向上心を捨てさせず、持ち続けてもらう。


「もし桜花くんが負けたらアタシか翔くんでそれをやることになるかもね」
 
 

 
後書き
準決勝の二試合で終われたら良いな。
_φ(゚Д゚ ) 

 

準決勝第一試合

 
前書き
_〆(。。) 

 
Aブロック代表《橘花 翔(たちばなしょう)

Bブロック代表《島崎向子(しまざきこうこ)

翔は震えていた。

まさか公式戦で上司かつ、何時か挑もうと思っていた向子とこんなにも早く戦うことになるとは思っていなかったから。


「観客さえ居なければ思い切り戦えると言うのに間が悪いものだな。せっかく【破降(はごう)】を使っても良い相手なんだが……」


入場口から現れた翔が花道を歩いて武台の上へ登っていくと、同じタイミングで武台の上にやって来た向子の姿が有った。


「やあやあ翔くん。君がクリスちゃんを倒してセミファイナルまで上がって来るのか気になってたんだよ。アタシ達は別に優勝を狙う必要は無いわけだしね」

「【プラン】の目標からすればそうなんですが、俺は『闘技者』としても戦ってるんで力を出せる場が欲しいんですよ」


翔からすれば、向子と闘える今日の試合は絶好の機会であり、もし今のような場所でなく、市街地戦用の舞台を用意してくれていれば、間違いなくフィールド全てを廃墟にしていただろう。


「翔くんと戦るのは2ヶ月ぶりだったかな? 何時もは【破降(はごう)】無しだけど、今日は使って来るつもりなんだろう?」

「あんまり大勢の前でばらしたくない力なんですけど、向子さん相手に使わないというのは、俺にとって『負け』を意味しますからね。今の俺だと使っても勝てないでしょうけど」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


試合が始まると翔は赤いスポーツシューズ、向子は馬上で使うような黒い短鞭を出す。

二人が開始直後に自分の【魔晄外装】を見せるのはかなり珍しいことだ。

入学して初めてのことだろう。


「向子さん、前の試合で春斗に使うまで公式試合で外装を使ってなかったみたいですけど、もう隠すのは止めたんですか?」

「別に隠してたわけじゃないよ。必要ないから使わなかったっていうのが理由。これからもそれは変わらないんじゃないかな。使うべき時は使うし負けても良い時や勝っちゃいけない場合にもあんまり見せないと思う」


向子が短鞭を持つ右手を後方に引くと、翔は姿勢を低くして下半身へ力を込める。


「踏み(にじ)れ。【ギルミルキル】」

(こうべ)()れろ。【禁鞭】」


外装を解放して性能強化と形状変化。

翔のスポーツシューズは膝から爪先までガードするように覆う赤い脚甲となり、向子の黒い短鞭は褐色で威圧感の有る長鞭に。


「どうやら最初から外装を解放するという考えは同じだったらしいですね」

「長引かせたらこの会場が持ちそうにないからしょうがないと思うよ?」


向子はこの試合に備えて客数を規制し、会場のあちこちに結界(バリア)の発生装置を増設。

武台、観客席、会場まるごと、そしてこの会場が在る龍帝学園の敷地と其処(そこ)に存在する全ての建築物に結界装置を配備。

更には観客一人一人に対して個人用の結界装置を配布する程に手を回した。

翔が気兼ねせず闘えるように。

それでも未知数な翔の本気は不安だ。


「この限られた状況の中で今の翔くんを見せてくれ。君が【聖域】の精霊やレイアくん達相手でしか使おうとしない破降もね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


禁鞭が(うな)り、空気を引き裂いて軌道を真空に変えながら衝撃波を起こす。

禁鞭は数十、数百の残像を生む。

翔に向かって到るところから襲いかかり、打ち据えてしまおうと弧を描いた。

正直なところ、ここで攻撃を受けようが受けなかろうが、勝つつもりで来ている向子に対して翔が敵うことは有り得ない。

あらゆる面で違いすぎる。

向子は今の翔が、まだ戦ってはいけないレベルの領域で棲む住人なのだから。


例え

《立華紫闇/たちばなしあん)》

《クリス・ネバーエンド》

《江神春斗/こうがみはると》

《黒鋼焔/くろがねほむら》

の4名が翔と協力しても、真の実力を発揮した向子と渡り合えるかは(はなは)だ疑問である。

翔個人の考えでは副会長の《春日桜花(かすがおうか)》を足しても勝つことは無理。


龍帝で勝てるのは

《的場聖持/まとばせいじ》

《エンド・プロヴィデンス》

この2人だけというのが結論だ。


(まあ簡単にやられる気は無いが)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翔は解放前から使える【高速移動】でスピードを数倍にした上で、ギルミルキルの魔晄機能(ゼロブレイク)である【超速移動】を使って数十倍の機動性を得るが、向子の禁鞭は悠々と追い付いてきた。


「だろうな……!」


江神春斗が【神速斬光(エル・グリント)三ノ段(ドライ)】で運動速度を数百倍にした状態から更にスペックの底上げをしても上回ってきた向子が振るう禁鞭なら何もおかしいことではない。

翔は超能力【超人加速(オクロック)】で肉体だけでなく思考も300倍まで加速するが、そこには当然、高速移動や超速移動の分も加わっている。

それでやっとスレスレ(かわ)せる程度。

翔は直撃こそ避けられているが、体のあちこちに禁鞭が(かす)っていく。


(今の禁鞭だと【領域内戦争】の決勝で紫闇と戦ったAランク相当の《佐々木青獅(ささきあおし)》でも一発で肉片にされそうだ)


それどころか2A(ダブルエー)ランクの魔術師でも特殊防御や再生の異能が無ければ三発以内、3A(トライエー)ランク相手でも五発以内で禁鞭によって確殺されるだろう。

翔は背筋が冷やりとするどころか体が凍り付きそうになるほど緊張した。

一方の向子はというと、思ったよりも粘っている翔に対して感心を持つ。


(力を出し切る前に終わるかなとも予想してたんだけど、知らない内に強くなってたみたいだね。じゃあもっとやっても大丈夫か)


禁鞭の動きが激しくなり、少しずつ残像が増え、翔の逃げ道を塞いでいく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「折角だから、彼の望み通り、出せるだけの力を出してもらおう」


数千に及ぶ鞭の残像が武台の上で荒れ狂い、翔を狙って次々と殺到。


(躱し切れん!)


彼は両手に魔晄(まこう)を集める。

握った拳は金色に輝いた。

黒鋼流の【禍孔雀(かくじゃく)】だ。


「【紫電孤虐(しでんこぎゃく)】」


更に魔術師の異能で紫の雷電を纏う。

身体強化に加えて高速移動。

翔は迫り来る禁鞭を禍孔雀で殴り、爆発させて迎撃していくも、禁鞭は特に破損することは無く、少し押され気味な状態。


盛者必衰(ウィフォール)


翔がその超能力を発動させた途端、急に禁鞭の動きが遅くなっていった。

それだけでなく、翔の動きも上がる。

難なく禁鞭の連撃を打ち払う。


「お、とうとう公式戦でそれを出したね。じゃあこっちも行かせてもらうよー」


向子は思っていた。

春斗より力を使うことになると。

翔なら彼より頑丈なので、少々手荒になっても死なないだろうとポンポン攻める。


「【繽紛無垠(ピロテクニマ)】」


既に『衝撃』を付与された空間となっている武台でその【異能】を使えばどうなるか。


(是非とも生き残ってほしいもんだよ)


見えない衝撃は数千ケ所で同時に炸裂。

その衝撃は連続で発生し途切れない。

舞台上の空気を揺らし、目視できない大気中の小さな物質ならびに分子を過剰に運動。

熱が生まれて燃焼を開始。

縦横無尽に重なる衝撃と火炎は武台を覆う結界をあっさりと粉砕した。


「今の翔くんなら【破降(はごう)】を使わずとも案外平気な顔をして出てくるかもしれない」
 
 

 
後書き
_φ(゚Д゚ ) 

 

準決勝第一試合 2

 
前書き
φ(・ω・`) 

 
炎が渦巻く衝撃の絨毯爆撃に(さら)される中、翔は【魔晄極致/サードブレイク】を発動。


「【破魔砕星(バサドーネ)】」


向子に違和感が走る。


「ん?」


向子が【繽紛無垠(ピロテクニマ)】で起こしていた大量の衝撃が全て収まった。

彼女は少し禁鞭を動かす。


(やっぱり(にぶ)いな)


翔が使った破魔砕星は【魔晄(まこう)】に干渉することが出来る【異能】であり、魔晄を用いて戦う魔術師や上位存在にとって天敵の一つ。


「はあっ……危なかった。【深遠玄士(ディークロース)】も使って凌げたとは言え、あのまま衝撃を喰らい続けたら負けてたな」


深遠玄士はあらゆるものへと潜り込み、泳ぐことが出来る翔の【魔晄神氣(セカンドレイク)

しかしそれだけではない。

深遠玄士は周囲のものと同化して、自身の存在を拡張することが出来るのだ。

同化したものから自分の手を大量に生やしたり、内臓を移動させたり、体を液状のようにも変えて攻撃を無効化することも可能。


「今から使う能力で駄目なら【破降(はごう)】を出すしかないだろうな。その前に決着する可能性も有るわけだが」


翔の全てが変質した。


「あれは……もしかして、夢絶叶(カナリン)や狂伯くんの超能力と同類の何かかな?」


向子は翔が放つ特異な雰囲気を出せる能力の知り合いが何人か居る。

そしてそれ等の能力が厄介な性質を抱えていることも彼女は承知していた。


「いや、勘弁してほしいんだけどね。ある意味で破降よりめんどくさいし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「【眠希子(ドーマウス)】」


翔の性格は変わっていない。

なのに何処か刺々しい。


「さて。暫く使わなかったからな。この寝坊助がきちんと力を出せるかどうか」


翔が向子に意識を向けると彼の周りに大量の針が生成されて浮き上がる。


「ああ~……。喰らうと(ろく)なことにならないやつだろうねぇアレは」


向子は【間移転門(アリゲーター)】と【黒死蝶の鎧】を展開し、防御と回避のどちらも出来るように対処する準備を整えた。


「行け。魔弾タスラム」


翔の周囲に浮いていた針が先端を向子の居る方へと向けて一直線に飛来。


(やっぱりか)


どうせ飛び道具だと思っていた。

江神春斗(こうがみはると)》の【舞狂悪魔(エイレナオス)】と【夜天中月(ムーンレイズ)】で既に経験済み。

立華紫闇(たちばなしあん)》以上の近接タイプが遠距離攻撃を使いこなすのは厄介だ。

しかし彼等以上のレベルに居る相手と戦っているので特に慌てることは無い。

向子は【空間接続(アクセション)】を使って飛んできたタスラムを別の場所へ送り、近付いてきたタスラムと衝突させる。


「そう来るのは予想できてたよ。春斗との試合を見てたからな。今はとにかく向子さんの警戒能力を下げておかないと……」


どんな人間でも対処できる事態や警戒できる数には限界が存在しており、その力をどのような配分で割り振っているかで動きは変わっていく。

集団戦なら強い者に注意が行き、弱い者に対しては警戒の度合いが低くなる。

今の向子は飛んでくる針の方へと警戒して翔本人からは少し注意が逸れているようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


衝突した針のタスラムは床に落ちると少し間を置いてから爆発を起こす。

その様子から向子はタスラムがどのような武器なのかをイメージ出来た。


(針のような形状で深く突き刺し、体の内側から爆破して殺すのか)


どれだけの貫通力や他の機能を有しているか解らないが基本はそれだろう。


「クリスちゃんみたく、自動追尾できるかもしれないから考慮しとかないと」


もしそうなら【空間歪曲(グラインド)】で軌道を逸らしたり、【空間移動(テレポート)】で空間を別の場所へ動かしても時間稼ぎにしかならないだろう。


(じゃあこれしかないよね)


制御解除(リベライル)第一解除(アインス)

間移転門(アリゲーター)の制限が解除されて性能が強化され、空間能力も追加された。


空間近寄(アポートス)

空間転送(アスポート)


空間接続(アセクション)と合わせて使うことで、ニードルミサイルのタスラムをどんどん同士討ちさせて爆砕に追い込む。

しかし翔も負けじと眠希子(ドーマウス)によってタスラムを大量生産し、即座に向子へと射出して応戦。

今のところ拮抗していた。

出来る筈が無いのに。

翔は第一解除する前の間移転門とタスラムの撃ち合いで互角だったのだから。


(やっぱあれは【騎士(ナイト)】や【獅勇猛鷲(グリフォン)】と同じで能力者とは独立して『学習』や『成長』、『進化』が可能なタイプの力か)


一つの性能に特化して過剰に進化させ過ぎた場合は自滅してしまうらしい。

しかし進化の度合いを好きな段階でリセット出来る機能が有るので問題ないという。

向子の知り合い曰く、この類いの能力は、弱点を補うようにして、満遍なく全ての性能を上げながら学習・成長させていけば、自分が望むタイプの能力に進化してくれるとのこと。

恐らくだが、翔は眠希子(ドーマウス)を使って戦ったことが殆ど無く、成長や学習が出来ていないのだと思われる。

自分の力で戦う翔らしい。


「進化させたにしちゃあ、出す攻撃がシンプル過ぎるもんねえ。針型のミサイルを大量に飛ばすだけでも雑魚散らしとしちゃあ十分だけど」


もし眠希子の本体である翔自身を成長させているなら話は別なのだが。
 
 

 
後書き
_φ(゚Д゚ ) 

 

準決勝第一試合 3

 
前書き
( ´~`)うーん。何を書いているのか自分でもよく解らなくなってきました。 

 
「しかし……こういう状況になると、改めて向子さんのおかしさが見て取れるな」


【眠希子/ドーマウス】の能力で針型のニードルミサイル[魔弾タスラム]を()ちまくる《橘花翔/たちばなしょう》は、戦っている《島崎向子/しまざきこうこ》の様子を見て、思わずぼやきを漏らす。

彼女は得意の空間能力を使って特に大したことも無さそうな雰囲気で、弾切れを起こさないタスラムを次々と迎撃・転移しまくっている。


「一応タスラムも進化したんだけどな。眠希子の基本性能も上がってるし」


向子は【空間接続(アクセション)】で開けたゲートで何処か知らない場所へタスラムを飛ばす。

近付いてくるタスラムに対しては【空間近寄(アポートス)】で別のタスラムを軌道上に転移させて、向子自身のガードへと利用。

至近距離まで迫ったタスラムは【空間転送(アスポート)】で翔の方へと送り返してきた。

更に【空間移動(テレポート)】でパズルの如く空間を並べ替え、自分と翔、タスラムの位置を不規則なタイミングで変化。


(俺の空間認識が狂うから空間の構造を動かして弄るのは止めてほしいなあ)


だがそんな翔の気持ちは知ったこっちゃないので向子が止めることは無い。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(ふむふむ。予想通り、眠希子の出すニードルミサイルは自動追尾(ホーミング)の機能を獲得してきたか。それに翔くん自身の動きも良くなった。眠希子が私のパターンを学習したな?)


翔の単純な身体能力(フィジカル)も向上しているので厄介な事この上なく、常に少しずつ成長していくので眠希子は非常に性質(たち)が悪い。


「翔くん自身の防御力や守備力、それに伴う技術は上がってるけど、攻撃そのものに対して耐性が付くわけじゃないから助かるよ」


もし眠希子(ドーマウス)が進化して無効化など修得されたらどうしようも無いので取り敢えずは一安心といったところだろう。

眠希子と同系統の能力であり、学習・成長・進化する【魔獣】や【神獣】は特定の攻撃が殆ど効かない限定された無効化のようなものを有しているのだが。


(まあ基礎能力が増してるから、こっちの攻撃が効きにくくはなるけど『今のところ』ダメージは入ってるから良いや)


翔は眠希子が最初から持っている高い再生能力のお陰で戦闘が継続できているものの、この試合で向子に勝てるほど進化するのは難しい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「解っていたことでは有るさ。俺が眠希子を使った理由に俺自身の基礎能力を底上げするというのが入ってるからな。残念とは思わない。ここまで俺の力を成長させれば【破降(はごう)】を使っても振り回されることは無いはずだ」


翔が攻撃を中断し向子も動きを止める。


「……来るか」


破降を幾つ出して来るのかは彼女にも解らないが、破降が一つだけであっても翔が大幅に強くなることは確実。


「みんな飛ばしといた方が良いね。限られた人間は残しとくけど」


制御解除(リベライル)第二解除(ツヴァイ)

向子の【間移転門(アリゲーター)】がもう一段階制限を外したことで【九蓮宝燈(リバティー)】へと強化。

水色のオーラを放ち、藍色の霧にも見える何かを散布するようになった。

会場に居る数千の一般人を【空間跳躍(ジャンピング)】で安全なところまで転移させる。


「これ以上の制御解除はしたくないなあ。翔くんと戦うのは兎も角として正直めんどい」


真面目にやるのは向子の性に合わなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「【爆熱炎隼神・ホルス】。【白光炎隼神・ホルス】。橘花翔の御名(みな)に於いて(まね)き通ず」


翔は【聖域】で倒した【精霊】を調伏し、自分の式神にしているようだ。

しかしそれはどんな精霊でも仲間にしているわけではなく、彼なりにきちんと選んだ上で、限られた数だけ契約した結果。

[最下級]や[下級]の精霊は兎も角[中位]から先の精霊は調伏の可能性が低い。

旧支配者(オールドワン)】や【古代旧神(エルダーワン)】のような【上位存在】を餌にすることも有る[上位]の精霊を倒して調伏出来る者は珍しかった。


破降(はごう)。【ギルミルキル】」


二羽のホルスは粒子化すると、翔が足に装備している赤い具足の魔晄外装へ吸収された。

すると急に彼と向子が立つ武台が震え出し、遂には激しく砕けて飛び散ってしまう。

利用者は浮遊して対峙。


(飛行能力に加えて20倍でも到底効かないような出力アップと武台を破壊した何か。やっぱり翔くんの破降は結界を増やしてなかったらこの会場が持つようなレベルじゃなかったね)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


向子は悩む。

破魔砕星(バサドーネ)】で【魔晄(まこう)】に干渉されているせいか、魔術師としての力が不調気味なのだ。

このままだと魔晄防壁なしで戦いに臨むことになるので不味い状況である。


「しゃーない。割り切って行こう」


向子は魔晄を止めて外装も消す。

ほぼ全てのリソースを空間能力へ。


(元々こっちが本来のスタイルだからね)


向子は一瞬で姿を消し、一瞬で翔の頭上に現れると上から清々しい顔を見せた。


「翔くんのギルミルキルが破降でどれだけ強くなったのか楽しみだなあ。第二解除したアタシで足りるのか。それとももっと出さなきゃならないのか」


ここまで粘り戦っていた翔だが魔晄の気配を消して一変した向子の様子を目の当たりにして自身の置かれた状況に気付いたようだ。


(あれ? これは不味いのでは?)

 
 

 
後書き
精霊の調伏は精霊を倒せれば誰にでも出来るわけではなく適性が有ります。

仲間に出来る精霊の種類や『格』の高さが有る精霊も調伏の制限が有ります。

制御解除はするごとに新しい能力、または出来ることが増えて基礎能力が上がるので、制御解除するまでに出来ていたことも強化されます。

アップデートするほどスマホが使いにくくなり、文字が打ちにくくなる。

余計な機能を削ってほしい。どうせ殆ど使ってない機能ばっかりだし。
(+.+) 

 

準決勝第一試合 4

 
前書き
語録が無いし意味も解らないので状況描写が謎なことになっています。
φ(・ω・`) 

 
【冬季龍帝祭】が行われている会場が在る【龍帝学園】の敷地全体が揺れ始めた。


空間振動(シェイキング)


向子は《江神春斗(こうがみはると)》との試合で見せた制御解除なしのそれと比べて数百倍の規模で空間を振動させ、それを会場に収束。


もちろん標的は翔だ。


彼は上位存在クラスの精霊【爆熱炎隼神・ホルス】と【白光炎隼神・ホルス】を付与した自身の魔晄外装【ギルミルキル】で対抗する。

翔は勢いよく前蹴り。

するとギルミルキルから高音が響く。

外装の異能【紫電孤虐】で纏う紫色の雷電に加えて【破降/はごう】で得た機能の『衝撃波』がギルミルキルから拡散し空気中に広がった。

向子の空間振動は打ち消される。


(第二解除したアタシの空間振動と互角か。しかもまだ余力を残して。二体のホルスから考えて衝撃波以外の能力も有るだろうし)


向子はもっと【制御解除(リベライル)】するかどうかを考慮して戦うことにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今の(・・)向子さんと同じくらいの出力か? なら力を使っても問題ないな」


翔が紫電にプラスして、青い雷と黄色の雷、炎を発生させ、ギルミルキルを中心にして、それらのエネルギーを帯同させる。


(そこにギルミルキルの『真空波』と新しく手に入れた衝撃波も足してみるか)


破降に使ったホルスは二体。

先程の一撃は一体分のみ。


「ああそうだ、忘れてた。もう一つ新しい機能が有ったんだったな。それも一緒に使おう。向子さんが第二解除のままなら押し切れそうだ」


翔は空中で足に力を集中。

そして向子に対し蹴りを繰り出す。


(さあ耐えて下さい向子さん。それともここで俺に負けることを選びますか?)


翔の足に装備されたギルミルキルから力の奔流がドリルのように渦を巻く。

構成するのは青・黄・紫の雷。

炎・衝撃波・真空波。

そして大気に伝播する【振動】である。

向子の視界が揺れて空中で傾いた。


(おお?)


即座に空間振動・【空間歪曲(グラインド)】・【空間移動/テレポート】の三つを使って翔の攻撃の威力とエネルギーを減衰。


(むむっ。消しきれない)


会場から【空間跳躍(ジャンピング)】すれば回避できるが翔の攻撃は会場が全壊してしまうだろうレベルのパワーなので向子はこの場に留まる。


「翔くんの攻撃で空間に影響が出てるし第二解除のままで何処まで出来るか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


向子は現在の最大出力による最大サイズのワープゲートを【空間接続(アクセション)】で限界の数まで開き、一定の分だけエネルギーを転移し放出。


(残った攻撃エネルギーの中心部を【空間転移/ムーブメント】で削りつつ、【空間断裂/ティーリング】で千切りながら分割してるから、受け止められるかな?)


向子は第二解除によって強化された空間能力である、【九蓮宝燈(リバティー)】を行使しながら【黒死蝶の鎧】を着て迎え撃った。

膨大なエネルギーは向子を呑み込み彼女の姿を隠すと会場の二割ほどを破壊。

水が枯れて剥き出しになった深い川底のようなクレーターを作り上げる。


「4割は吹き飛ぶ計算だったが……」


向子は翔と同じように浮遊したまま攻撃に耐え抜き黒死蝶の鎧を解除する。


「まさか数百メートルに渡って大気を震わすレベルの振動能力を得るとはね。アタシの空間振動が顔負けじゃないか。もしかしてまだ上限が有ったり?」


「いやいや。今の(・・)ギルミルキルとしては最大放出でしたけど、あんまり消耗ないんですよ。大半は破降の精霊が(まかな)ってくれますしね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


やはり今の翔に対抗するにはもっと大きな力が必要になってくるようだ。

そして向子はその力を用意できてしまう。


(限界ならリタイア出来るのになー)


【プラン】に関わる人間の中でも《立華紫闇/たちばなしあん》に直接的な関わりが有る者には戦闘能力が要求される。

いつ何時(なんどき)に彼と融合している上位存在が牙を剥くか解らないのだから。

向子はプランの中枢メンバーであり調整役も担う立場なので弱いはずが無い。


「【制御解除(リベライル)第三解除(ドライアウト)】」


翔の上から重圧がのし掛かってくる。


「うおぉぉぉぉぉぉ!?」


いきなり精神的、肉体的なプレッシャーに晒された翔は逡巡したが決断。


「【炎天双極星・イフリート】」


火龍の精霊が喚び出され、粒子化して翔の両腕を覆い赤色のガントレットとなる。


破降(はごう)・【双天破神・焔魔(えんま)】」


翔は精霊を武装に変えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「翔くん、もしかして割りと本気?」

「そりゃそうでしょう。公式戦で破降を使う機会なんて無いですから」


向子は思わず苦笑い。


「まあ今回はこれで締めですよ。これ以上は公式戦だと止められますからね」

「それを聞いて安心したよ」


もし翔が全てを出し尽くすなら見知らぬ地へ飛ばすか速攻で終わらせていた。

向子はそれが可能なのだから。


「もしも向子さんと本気で戦るのなら、何処かの【魔獣領域】か【聖域】でレイアさんやエンドが居る時に戦りましょう」

「分別が有って助かるよ」


向子にとって翔は有能な部下だ。

失うのは損である。

上位存在との戦いに引っ張り出せるような逸材など、ごく稀にしか現れないのだから。


「向子さんが公式で出せる限られた力を俺が引き出させてもらいますよ」
 
 

 
後書き
φ(・ω・`) 

 

準決勝第一試合 5

 
前書き
φ(・ω・`) 

 
翔が【炎天双極星・イフリート】を喚び出して【破降(はごう)】の武器【双天破神・焔魔(えんま)】に変え、自身の両腕に赤いガントレットとして装備。

すると翔のステータスが上昇。

更に足へ着けた【ギルミルキル】も強化。

先ほど以上に激しく大気が揺れる。


(今のギルミルキルは足を動かさなくとも一定のレベルで【魔晄機能(ゼロブレイク)】を使える。【異能】は動かず使えるものだったしな)


ギルミルキルの一部機能は足を動かして発動させることが前提になっていた。

だが今の翔は違う。

微動だにせず大気に地震を起こせるし、何処からともなく風を吹かせて衝撃波を生み、空気に断層を作って真空波を放つ。


「ギルミルキルの高速移動と超速移動も強化されるわけだからな。これに焔魔の力も有れば向子さんの第四解除を出させることも……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「面倒なことになったねぇ~」


向子は翔を見てぼやく。

彼はギルミルキルの飛行・高速・超速で軌道しているのだが、それに合わせて焔魔から炎を噴出しながら空気を吸入・放出して推力を得ていた。


「うーん。変則だけど[ラムジェットエンジン]みたいに取り込んだ空気を圧縮して押し出してるのかな? 本家ラムジェットが使うのは気流だし、取り込んで圧縮した気流は減速するけど翔くんの【焔魔】はスピードが落ちないみたいだからどうするかなぁ」


翔は飛行する(かん)もギルミルキルの雷・炎・振動・真空波・衝撃波を飛ばし、【紫電孤虐】の雷や【眠希子(ドーマウス)】の針型(ニードル)ミサイル『魔弾タスラム』を降らせる。


(振動は【空間振動(シェイキング)】、衝撃波は【空間転移/ムーブメント】、炎は【空間接続(アクセション)】、雷は【空間歪曲/グラインド】、タスラムは【空間断裂/ティーリング】で対処できるんだけどなあ)


翔は焔魔による攻撃を一度も使っていないので対応する方法が解らない。


「使ってもらおうかな」


向子が指を鳴らす。

飛行する翔の周りに普通の人間では捉えられない筋が幾つも走り、それによって空間がズレた結果、まるでケーキのように切り分けられた。


「【空間切断(セクション)】って言ってね。空間断裂みたいに『雑』じゃない上位互換だよ」


このままだと躱せないと判断した翔は意を決し腕を振りかぶると焔魔で一撃。

ただのストレートパンチ。

だがそんな単純な一撃が度肝を抜く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


上腕から指先までを覆っている赤いガントレット型の武装【焔魔】の全体から炎が翔の後方へ流れ、推進力を増しながら爆発的に加速。

そして大気中に有る目に見えないほど小さな物質も吸収してエネルギーを高めた。

どシンプルなスピードとパワー任せ。

それが正面の空間切断を粉砕。

直撃していない向子や周囲一帯まで有り余るエネルギーで吹き飛ばしてしまう。


(これはあれだね。《夢絶叶(カナリン)》の使う『あれ』や《白良々木眩(くらむくん)》の力を擬似的に再現した感じなのかな?)


向子は【空間移動(テレポート)】、【空間接続】、【空間跳躍/ジャンピング】で吹き飛ばされている途中から翔の近くまで戻ってきた。


「単純な物理威力だけで空間を壊せそうだ。焔魔は機動じゃなく攻撃が脅威か」

「同格の上位存在を餌にする精霊を3体も破降してるんです。まだ終わりませんよ。しかしさっきの空間切断は本気で焦りました」

第三解除(ドライアウト)で解禁になる能力だからね。焦らせる位は出来ないと」


向子としては、あわよくば戦闘不能に追い込むつもりだったのだが、(いささ)か翔と焔魔を甘く見積もっていたらしい。


(ヤバいの来たら第四解除しよ)
 
 

 
後書き
φ(゚ー゚*) 

 

準決勝第一試合 6

 
前書き

_〆(。。) 

 
翔が向子に【焔魔(えんま)】を振るう。

しかし今度の一撃は先程のように周囲を巻き込んで吹き飛ばすことは無かった。

その代わり翔の身長と同じくらいの太さが有る円筒形のビームが拳から発射。


(焔魔のロングレンジはさっきみたいなスピードとパワーの物理的なものか、単なるエネルギー放出しかないと思ったんだけどねぇ)


向子は翔が腕を振る度に放たれる太いビームを躱しながら観察していた。


「避けられるのは予想通りだよ」


如何に攻撃範囲が大きめのビームだろうと素の動きが速い上に空間能力で移動補正のサポートを受ける向子に攻撃を当てるのは難しい。


「その辺を考えた機能も有る」


悲しいかな、近接格闘を得意とし、それのみで殆どの敵を倒して来た翔は解っていた。

少なくとも島崎向子は現時点の彼がクロスレンジだけで勝てる相手ではない。

もし自信が有るなら翔はミドルレンジ以上の特殊能力は得なかっただろうから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おいおい。何だいその能力」


向子が遠距離で防御と回避に徹していると、彼女の周りでは丸い光の円が出たり消えたりしながら向子にビームを放ってくる。

翔は腕を振ってこそいるものの、腕に装備した焔魔からはビームが出ていない。

だが腕の振りに合わせて自動で向子の近くに円形の陣が現れてビームを出すのだ。


「円の出る場所は任意でも決められるが今は自動で捕捉する発動速度を重視」


多少の命中精度を犠牲にして狙っているが、そうでもしないと当たらない。

翔は自身の動きを幾つかの能力を使って高速化しながら攻撃も強化している。

それでも当たらないのだから。

しかし向子も翔に近付けない。


「アタシが近付くとアタシが弱くなって向こうが強くなるからなあ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの人が慣れる前に決める」


翔は円陣を任意と自動の両方で展開していき、向子の動きを封じるように配置。


(この丸い円は空間に作用するみたいだ。だから私の空間能力が使いにくい。そんな状態で全包囲攻撃を仕掛けてくるのか)


円を縦一列に重ねてビームを放つ場合には円を通り過ぎる毎にビームの速度・威力・規模が上がっていくことは確認済みだ。

この状況なら良いだろう。


制御解除(リベライル)第四解除(フィアーズ)・【天地界条(ヴァロータ)】」


向子は第四解除で解禁された

【空間操作/マネジメント】

【空間汚染/ヴァスメント】

【空間崩壊/ディケイス】

の3つを同時に発動。


向子を目掛けていた全ての巨大なビームが別方向に折れて外れ、空間に崩壊が汚染。

翔の円陣ごと崩れていく。


「これで良し」


向子は【空間跳躍(ジャンピング)】で移動すると翔の真横に現れて腕を振り、首の後ろを掴む。

そのまま【空間振動/シェイキング】と【空間歪曲/グラインド】を行使。

翔は昏倒して失神。

魔晄外装も焔魔も消えた。


「死線を潜るような戦いは御免だけど、翔くんくらいの相手なら良いかもね」
 
 

 
後書き
後は最後の話だけです。
_〆(。。) 

 

魔術学園領域の拳王

 
前書き
上手く終わらないのは何時も通り。

用意したオリキャラとその設定は殆ど最後まで出番が来なかったなあ。

キャラ設定に追加しました。 

 
【冬季龍帝祭】は《島崎向子》が優勝した。

準決勝第二試合で《立華紫闇(たちばなしあん)》を倒した《春日桜花》が棄権したからだ。

そして時は経ち年末。

遂に【全領域戦争】が始まる。

現在【団体戦】の一回戦を控えていた【龍帝学園】のメンバーは中部領域に来ていた。

場所は日本国内に存在する最大のスタジアム【アポロンズ・スクウェア・ガーデン】


───────────────

選ばれた龍帝のレギュラー陣は

島崎向子

春日桜花

立華紫闇

江神春斗(こうがみはると)

《橘花 翔/たちばなしょう》

───────────────


「じゃあ行っくよ~みんな」


向子が間延びした声を上げる。


「良いですよー」


桜花は覇気が無い。

紫闇は武者震いしている。


「準備は万全です」


春斗は僅かに微笑む。


龍帝(うち)が団体戦で負けそうな魔術学園は全国で一つだけですからね。組み合わせだと決勝まで当たりませんし」


翔は平常通りの顔で返事をした。

紫闇は先が待ち遠しい。

この全領戦で勝ち抜いたなら【魔神】へ挑めるが、それは【個人戦】の優勝者のみ。

龍帝では向子の持つ権利だ。


(来年こそ冬季で勝つ)


龍帝の面々は向子を先頭に入場。


「今は全身全霊で楽しむぞ」


紫闇は戦意を剥き出しにして笑った。
 
 

 
後書き
終わるまでに1年近く掛かりましたね。

読んでくれた方へ感謝を。 

 

立華紫闇

 
前書き
暇が出来たので。 

 
【立華紫闇/たちばなしあん】

性別・男

一人称・俺

年令・15才

身長・170cmくらい

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

原作の主人公。

7才の時、大英雄《朱衝義人/あかつきよしと》に出逢い彼に命を救われた。

そのことで憧れ【魔術師】を目指す。

劣悪なまでに才能が無かったのかは解らないが、【龍帝学園】に入学した当初までは完全に落ちこぼれ。

《黒鋼 焔/くろがねほむら》と出逢って黒鋼流を学ぶ為に弟子入りする。

修業で黒かった髪は全て白くなり、相手を躊躇なく殺傷できる『鬼』の精神性を得た。

────────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

魔術師としての力は【魔晄/まこう】の量ぐらいしか優れたものは無く闘技者としても自分で認める程の凡才かそれ以下。

但し不屈の根性と【神が参る者/イレギュラーワン】としての力によって本人の素質以上の勢いで成長している。

一部の人間に対しては強い執着を持っており、彼等が関わっていることでは思いも寄らぬ力を発揮することも。

──────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

原作では各キャラの武器に『名』は無い。

魔術師の【異能】は魔晄外装で発動する。

外装を出さないと異能は使えない。

立華紫闇は極端に少ない確率でしか生まれない『規格外』と言われるタイプで外装に異能が宿っていないという致命的な欠陥を抱えている。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[紫闇の魔晄外装]

【紫闇/しあん】

放令[輝け]

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今作オリジナルの設定。

《永遠レイア》が改造した紫闇の魔晄外装。

形状は原作と変わらない。

カラーリングは黒から紫になった。

右腕の肘から先を覆う籠手。

そのままでも身体強化や打撃威力の向上、魔晄操作の効率化、魔晄を使用して発動する身体強化や魔晄防壁などの『恩恵』をパワーアップする効果を受けられる。

放令を唱えると外装の性能が全て上昇。

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

原作の異能における段階は

魔晄外装/ファーストブレイク

魔晄神氣/セカンドブレイク

魔晄極致/サードブレイク

この三つが魔術師の異能になっている。

神が参る者(イレギュラーワン)の能力は別扱い。

外装と異能が近い扱いなのが謎。

─────────────────

異能の代わりに【超能力】を持ってたり、異能を捨てて使えなくすることと引き換えに基礎能力を上げたりしたキャラも。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【魔晄改造/カスタムブレイク】

オリジナル設定。

殆どは自分の外装しか適用されない。

他人の外装を扱えるレイアなどは特殊。

先ず改造できる魔術師自体が魔術師の歴史上でも100人に満たない。

改造によって基本性能がアップ。

規格外でも異能を得ることが有る。

魔晄改造を施すと今作の紫闇の外装がそうであるように身体強化や魔晄の操作、恩恵などで様々な特典を得られるので異能が目覚めなくとも改造すること自体が無駄になることはない。

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【魔晄機能/ゼロブレイク】

魔晄改造した外装に付与されるもの。

異能と変わらないものを覚醒する場合も有るが内容は決めることが出来ない。

後天的な異能の発現も有り得る。

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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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───────────────────

《紫闇の特殊能力》

[七門ノ一]

【珀刹怖凍/びゃくせつふとう】

時間操作に類する能力。

時間圧縮とも言われる。

自分の行動時間を『加速』させているようにも見えるが恐らく時間の『減速』

習熟すると時間が進んでいるのに時間が経過しない時間の『停滞』に到るという。

《黒鋼焔》曰く、極めると時間の『停止』すらも可能になるかもしれないらしい。

──────────────

『七門ノ』と付いているのは

神が参る者(イレギュラーワン)】としての能力。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[七門ノ二]

【融解】

血液に概念を溶かす力を付与する。

それをコントロール出来る。

────────────────

原作が打ち切りになるまでに出た紫闇の[神が参る者]の能力は二つだけです。

────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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【神討つ拳狼/フェンリスヴォルフ】

概念系であり物理系のパンチ。

今作の紫闇は内なる上位存在を支配した段階で『七門ノ』と呼ぶことは有りません。

元ネタは以下。

fortissimoシリーズ主人公《芳乃零二》が使う【神討つ拳狼の蒼槍/フェンリスヴォルフ】

《上条当麻》の【幻想殺し】


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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《紫闇の超能力》

今作オリジナル。

原作に超能力は有りません。

オリキャラの《永遠(とわ)レイア》が魔晄改造をする時に手を加え、七門の能力枠の内、4つまでを超能力の枠に変更しました。

なので今作の紫闇は神が参る者の能力を3つまでしか使えません。3つ目の能力も本来のものとは全然違うものになってますしね。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[超能力・1]

【雷鳴光翼/ケリードーン】


元ネタは【ワールドトリガー】の《ランバネイン》が使う【雷の羽/ケリードーン】


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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[超能力・2]

【黒窓の影/スピラスキア】

元ネタはワートリの【窓の影】

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[超能力・3]

【風刃/ふうじん】

元ネタはワートリの【風刃】

原作より強化されている。

走る斬撃の数に制限は無い。

標的を知覚せずとも自動捕捉する。

当たった斬撃は直ぐに消えず相手に纏わり付いてダメージを与えていく。

斬撃は地面や壁、天井などの物質ではなく、『空間』を移動するので、水中や空中、地中にも斬撃を飛ばすことが可能。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[超能力・4]

【壮練絶鬼/ヒロイック】

オリジナル。

全ての能力を強化。

気の力を別人のように上げる。

強化状態から更に活性化。

─────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【第一部終了時のステータス】

力:B(6)

速:B(6)

技:C(5)

知:G(1)

心:2A(8)

魔:SA(10)

総合ランク:B(36)

─────────────────

魔は魔晄で心は精神です。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──────────────────

【第二部終了時のステータス】

力:A(7)

速:A(7)

技:B(6)

知:F(2)

心:SA(10)

魔:SA(10)

総合ランク:A(42)

──────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──────────────────

【第三部終了時のステータス】

力:3A(9)

速:3A(9)

技:2A(8)

知:A(7)

心:AO(11)

魔:AO(11)

総合ランク:3A(54)

────────────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【第四部終了時の紫闇】

力:2S(13)

速:2S(13)

技:2S(13)

知:2S(13)

心:2S(13)

魔:2S(13)

総合ランク:2S(78ポイント)


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《ステータスのアルファベットと数字》

想定キャラは個人的イメージ。

原作にはランクが有りません。

ステータスは2巻に四人だけ載ってます。

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【G(1ポイント)】

原作最初の紫闇

6つのステータスで合計6ポイント以上

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【F(2)】

1巻の序盤でボコられてた佐々木青獅

合計12ポイント以上

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【E(3)】

合計18ポイント以上

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【D(4)】

クリス・ネバーエンド(1巻)

合計24ポイント以上

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【C(5)】

原作1巻の夏期龍帝祭決勝

江神春斗/こうがみはると

立華紫闇

合計30ポイント以上

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【B(6)】

今作の第一部終了時の紫闇

合計36ポイント以上

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【A(7)】

合計42ポイント以上

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