ヘルウェルティア魔術学院物語


 

第一話「無能で優秀なエルナン」

「これよりテストを開始する!まずは受験番号50番、前へ!」

巨大な室内演習場に一人の男性の声が響いた。十人の少年少女と二人の大人がいるここは大陸一魔術が発達しているヘルウェルティア魔術学院国である。小国である学院は領土全てが学園の敷地でそれぞれ様々な魔術の研究をしていた。

「よし、早速始めろ!」

「はい!」

男、学院教師の言葉に受験番号50の少年は元気に返事をして魔力を練っていく。自身が発動したい魔術を思い浮かべそれに見合った魔力量をコントロールし、集める事で発動できる魔術は魔術師なら誰もが出来て当然の行動だ。現に50番の少年は自分の顔と同等の火球を生み出すと演習場の端に置かれた的に向かって放った。

しかし、魔力量が低いのか、それとも術者の練度が低いのか火球は近づくにつれて小さくなっていき的に命中する前に完全に消失した。少年は悔しそうな顔をして肩を下げる。この試験で行われる最低限の事である的に命中させることが出来なかったからだ。中には補助魔術を得意とする者もいるがそう言った者は別の試験内容が与えられておりそもそもここにはいるはずがなかった。

「試験番号50番失格!次!51番!」

「は、はい!」

入れ替わるように次の番号の人が前へ出る。先程とは違い51番の放った魔術は見事に的に命中し傷をつける。それを見て自信がなくなったのか?二名程顔を青くしていた。

「よし!51番合格!次!52番!」

「はい」

声の大きい教師の声に返事をしたのは一人の青年であった。赤や黄色等の色を編み込んだ服を着た青年の姿はこの辺では見られない衣装で目立っていた。

「あれって南の公国の服じゃ…」

「あ、本当だ。あの国にも魔術師はいるんだな」

「いや、だからここに来ているんじゃないか?でも、受かるほどの実力があるのかは分からないけど…」

「こらぁ!試験中だぞ!私語は慎め!」

受験生たちは青年の服装から国について話し出す。しかし、直ぐに教師の怒声で黙らせられる。そんな様子に青年は全く動じた様子を見せず魔術を発動する。

「…ん?」

教師の男は青年の魔力コントロールに違和感を持った。青年が今使用している魔力はかなり大きく、教師が試験で見てきた中では多い部類に入る。しかし、それに反して青年が発動しようとしている魔術は下級のファイアボールだった。

別に魔力を多く注いでも発動する事は出来る。しかし、使用した魔力量に反して作り上げられた魔術は貧相な物であった。明らかに青年が使用した魔力の十分の一以下で発動できる程度のものだった。

それでも生み出された火球は寸分の狂いなく、そして速度を一定に保ち的の中央付近に命中する。威力は前の人より低いが速度、コントロールは明らかに今の青年の方が上であった。先程の違和感さえなければ特級クラスに入れるくらいには。

「よし!52番合格!次!53番!」

青年に対する疑問を持ちながらも今は試験中と言う事で教師は試験を進めていくのであった。





☆★☆★☆
「…ふう」

試験から一月後青年、エルナン・ハルフテルの姿は学院国首都ベルン郊外の宿屋にあった。試験結果が発表されるのは今日でありそれまでは実家に帰るのもこの国に滞在するのも自由であったがエルナンはここに残る事にしていた。

別に彼の実家の公国に帰れない距離ではないが彼が実家に戻ったところで居場所などなかった。

エルナンはヘルウェルティア魔術学院国を囲むように存在する三つの大国の一つ、共和国の南部に位置する公国の貴族の出であった。幼いころから大量の魔力とそれを制御できる才能を有し魔術先進国の魔術学院国や帝国、合衆国なら偉大なる賢者としての道を歩めていたかもしれない。

しかし、彼が生まれた公国は魔術後進国であり魔術を卑しい物として扱われていた。その為魔術の才を持つエルナンを彼の家族は疎み腫物の様に扱っていた。それでも魔術の世界に魅入られたエルナンは例え周りから蔑まれようとも魔術にのめり込んでいった。

『エルナン!貴様はまたその様なくだらない事を行っているのか!その様な物に時間をつぎ込むくらいなら将来兄の手足となれるようにしっかりと勉強しろ!』

『何でなの?何でそんな事に手を出すの?エルナン、お願いだから母の言う事を聞いてよ!』

『エルナン…。俺は親父やお袋の様に頭ごなしに否定はしない。魔術はとても素晴らしい物だと分かっているからな。だが、この国で魔術師がやっていく事は出来ない。それどころか生きていく事すら出来ないだろう。来年、魔術学院国の試験を受けろ。そうすればお前は魔術を好きなだけ学ぶことが出来る。旅費は渡してやる』

エルナンは兄から渡された貨幣が入った袋を片手に魔術学院に入るためにここまで来ていた。それは事実上の勘当でありエルナンは公国貴族から一般平民に落ちた事を意味していた。無論魔術学院は平民でも試験をクリアすれば入学自体は可能であり魔術学院は他国のからの入学者は全て国内の寮に入る事が義務付けられていた。魔術学院は学院でありながら国でもあるので他国から通学されるわけにはいかなかったからだ。

「取り合えず一月の間は日雇いの倍とでも探して金を稼がないとな。なんかいい感じのバイトがあるといいんだが」

エルナンは泊まっている宿屋を出て街を歩きだす。ベルンは魔術学院国の首都だけあって活気があった。エルナンが見た限りでは彼の故郷のエデタニアや公都マドリード、更にはベルンに向かう途中で立ち寄った共和国領のルグドゥヌムよりも賑わっている。

「(まあ、四年前に訪れたマドリードよりも大国とはいえ地方の都市以下の繁栄しかない祖国に哀れすら覚えるけどな)」

この事実を知っている公国人は少ないだろう。公国は出入りに厳しく公国貴族の紹介でもない限り一日から三日は足止めを食らう。その為公国に出入りする人間は少なく大陸の国々の中でも異色な国だった。

「とは言えもう公国に帰る事も無いだろうしこれからは好きなだけ魔術の勉強が出来ると考えただけですごく楽しみだな!」

エルナンは内から湧き出てくる知識欲に身を震わせながら大通りを歩いていく。

「おじさん、串焼きを一本下さい」

「おう!それなら1スランになるぞ!」

「はい」

エルナンは途中で見つけた露天商で串焼きを一つ購入する。スランは魔術学院国で使用されている通貨でここでは基本このスランでのみ売買できる。エルナンは到着した日に国境の町で公国のペセタを全てスランに変えていた。二度と戻るつもりのない祖国の通貨を持っていても意味がないからだ。

「ところでこの辺で日雇いのバイトとか募集しているところってないですか?結果が分かるまで一月もあるので…」

「お、それなら俺の所で働けばいいぞ。丁度よく前に働いていてくれた奴が辞めちまったからな。内容は店の手伝いで昼前から夕方までで35スランでどうだ?」

「えっと、1スランが100ペセタだから…。分かりました。お願いします」

「おう!なら早速頼めるか?この荷物をあっちに…」

「はい、えっと…」

こうしてエルナンは何とかバイトを見つけ働く事が出来た。そして、一月後。運命の試験発表がされる日を迎えるのであった。
 

 

第二話「入学式」

遂にこの日を迎えた。今日試験結果が発表される。この合否によっては俺は魔術師への道を諦めるしかない。そうなったら本格的におじさんに雇ってもらおうかな。もう二度と祖国へは帰れないし帰れたとしても帰りたくもない。

ここに来てから気づいたがどうやら公国以外の大国では国を結界で覆っているらしい。結界は主に厄災や魔獣の侵入を防いでおり結界がある地域とない地域とでは目に見えて差が出ているらしい。確かに公国ではありえない程作物の実りが良く山道を歩いていても魔獣と遭遇したことがなかった。共和国では魔獣の代わりに盗賊の襲撃を何回も受けたけど。

体内に魔力を宿す魔獣はかなりの危険だ。体内にある魔力を制御しきれない個体がほとんどで見境なく暴れるから公国では毎年たくさんの死傷者を出している。てっきりそれが普通の事だと思ったけど公国を出てからあちらでは当たり前の事がこちらでは通用しなくて戸惑っていたりしている。それだけ公国が遅れていると言う事だろう。

さて、そんな事よりも結果を見なくては。ベルンの中央にそびえる様に建っている魔術学院本校はとてもでかい。流石は世界一の魔術師育成学院だ。でもそれと同に一国を治めているとか正気を疑うけど。公国では絶対に見下される国だな。

合格者は紙に貼りだされており俺の受験番号の名がそこに刻まれていた。それを確認して俺は小さくガッツポーズを取る。周りでは入れなかった者が目に見えてショックを受けており逆に受かったやつの中には大げさに飛び上がっている者もいた。しかし、初めて見るな。緑色の髪の女性とか。それに何より素晴らしい体をしているけどあまり女性の体を見るのは失礼だろうな。さっさと制服を受け取りに行くか。

「受験番号52番、エルナン・ハルフテルです」

「52番…はい、確認しました。これが君の制服よ」

教師と思われる女性から俺は制服を受け取る。一目見ただけでかなりの魔力が練り込まれている。俺もやろうと思えばできるけどあれ(・・)のせいでかなり時間がかかるうえに魔力もかなり消費するからやりたいとは思わないけど。

「入学式は明日行います。寮についてもその時に言われるので送れずに来てね。それと、入学おめでとう」

「あ、ありがとうございます!」

女教師の祝いの言葉で俺は本当に入学できたんだ、という自覚が広がってくる。まるで夢の様に感じるけど確かに、俺は今魔術師になるための最初の一歩を踏み出しんだと自覚した。





☆★☆★☆
「店長!俺合格してました!」

「まじか!そりゃよかったな!」

制服を受け取った俺は宿屋にある荷物をまとめた後バイト先の店長に報告しに行く。周りの大半が見知らぬ人の中で唯一会話をするのが店長だ。あの日、串焼きを買った客と店長と言う関係から始まったけどもう一月になるのか。意外と長かったな。

「坊主、お前は明日から学院に通うんだろ?なら今日で最後になるのか…。少し悲しいな。だけどそれが坊主がここに来た理由だしな、仕方ないか」

「店長にはお世話になりっぱなしでした」

「構わんよ。それに世話と言っても大したことはしていない。せいぜいベルンの街を案内したくらいだ」

店長はそう言うが実際はかなりお世話になった。余った食べ物をただでくれたり店長の言ったように街を案内してくれたり…。他にもたくさんの事をしてもらった。

「店長の串焼きはとても美味しかったですよ。また食べに来てもいいですか?」

「勿論だとも!何時でも来てくれ!そん時はサービスしてやるよ!」

「ありがとうございます!」

店長の言葉に感謝の念を抱きながら最後のバイトの日を過ごした。帰る際には串焼きを数本持たせてくれた。

「さて!明日から…と言っても明日は入学式や授業の説明で終わりそうだけどいよいよ始まるんだな…!」

すっかりお世話になった宿屋に戻って俺は緊張と興奮で激しい鼓動を続ける心臓に手を当てて心を落ち着かせようとする。しかし、夢にまで見た日を迎えると言う事もあって結局眠る事は出来ず落ち着くことが出来たのは日が昇り始めた時だった。





☆★☆★☆
結局一睡もできなかった俺は目の下にうっすらと隈を付けながら制服に身を通す。白いワイシャツの上に黒のブレザーを着る。左の胸ポケットには魔術学院国の国旗である二つの杖が交差する紋章が描かれている。一見地味にも思えるが個人的には気に入っている。公国にいた頃は黒っぽい服を選んできていたな。

荷物の入った袋を背負い女将さんに別れの挨拶をして宿を出る。女将さんも良く受験生が泊まりに来る関係か笑顔で祝ってくれたな。こっちに来てから良い人ばかりに出会っている気がするな。いや、公国にいたころが酷かっただけか。

ベルンの大通りを歩いていくと同じ新入生なのか魔術学院の制服を着た人達と会う。みんなそれなりの荷物を持っていたりするが中には教材を入れていると思われる鞄のみを持った生徒もいる。恐らくベルンに実家がある人なのだろう。基本魔術学院の寮に入るのは魔術学院がある街に住んでいないものと国外の人だけだからな。

昨日訪れたはずの学院は今日から通うためか一月見てきた学院とはまた違って見えた。俺は感動で体が震えるのを感じながら魔術学院の敷地を跨ぐ。門の前には魔術学院国の陸軍の軍服を着た者が立っていた。恐らく怪しい物が入ろうとすれば即座に捕らえるだろう。

基本的に魔術師は近接戦が苦手だ。魔術を使うのにはかなりの集中力を有するため敵が目の前にいては集中できないからだ。その為基本的に戦うときは自然と安全な後方から高威力の魔術や補助魔術を味方兵士に付与する役割になる。無論中には近接戦が得意と言う奴もいるだろうし俺みたいに国柄、家柄のせいで無理矢理習わされた者もいるため「魔術師=近接戦が出来ない」とはならないが大半はこの図式に当てはまってしまう。

さて、そんな事よりも俺は入学式が行われる第一体育館に来ている。順番とかは特に決められていないので自由に座る。勿論席は全て埋まる筈なので詰められるところは詰めなくてはいけないけど。

俺は真ん中の列の端の方に座ることが出来た。ふと隣を見ると昨日見た緑の髪の女性が座っていた。こんな偶然もあるんだな。そうしてみていたせいか女性がこちらの視線に気づき顔をこちらに向ける。…ふむ、かなりの美少女だな。

「…え、と。何ですか?」

「あ、ごめん。珍しい髪の色だからちょっと気になってね…」

「…もしかして他国の人ですか?」

「そうだよ。でもなんでわかったの?」

試験の時には民族衣装を着ていたから知っている人なら知っていただろうけど今着ているのは学院の制服だし髪の色も金髪で特に珍しいわけでもない。しいて言うなら少し日焼けしているくらいだ。まあ、それも公国にいたころの話で今は目立つほど肌が焼けている訳じゃない。

ここ(魔術学院国)ではこの色は別に珍しくないんですよ」

「へぇ、そうだったのか。俺ベルン以外はあまり立ち寄らずに来たから分からなかったよ」

「そうなんだ。あ、もしよかったら他国の事とか教えて…」

『静粛に!これより魔術学院入学式を開始する』

彼女がそこまで言った時教師の言葉と思われる声が体育館に響き渡る。今のは風属性魔法を応用して声を大きく、そして遠くまで届けたのだろう。

「入学式始まったからまたあとでね」

「う、うん。そうだね」

彼女にそう言って話を区切り入学式に集中するが途中で気付いた。俺、名前聞いてなかったわ。しかもこの後ってクラス毎に別れてそれぞれの教室で注意事項とか授業の説明をするんだった…。話す時間ねえじゃん。

俺はGクラスって言われたけど彼女はどうなんだろうか?もし同じクラスだったら嬉しいんだけどな。やっぱり同じクラスにキレイどころがいるだけでテンション上がるよな!
 

 

第三話「魔術学院本校1年Gクラス」

入学式が何事もなく終わりそれぞれのクラスに分かれて移動する事になった。俺はGクラスの看板がある場所に行く前に隣に座っていた緑の髪の女性に声をかける。

「さっきはごめんね。よく考えたらこの後いろいろ行事があったんだよね」

「い、いいえ。私も忘れていましたし」

そう言って笑う女性はとても可憐で頬が赤くなるのが分かる。

「…え、えっとそれで自己紹介なんだけど。俺はエルナン・ハルフテル。あまり家名で呼んでほしくないからエルナンでいいよ」

「私は、ルナミスと言います。家名は、ありません」

俺が名字を言ったからなのか女性、ルナミスさんは少し俯き気味に言った。名字を持つ者は基本的に貴族若しくは裕福な商人等に限られる。一応俺は公国の貴族だったけどこうやって他国を見る限りあまり祖国に国力があるとは思えないな。

「じゃあ、そろそろクラスに向かわないといけないから後で会おうな。因みにルナミス、さんはどのクラス?俺はGクラスだったけど…」

「本当ですか!?わ、私もGクラスなんです…」

これは驚いた。まさかこの美少女と同じクラスとは。一人の男としては今にも飛び上がりそうなほど嬉しいが目の前でそれをやらかせば俺の学院生活はひたすら魔術の訓練につぎ込まれるな。

「そうなのか。なら一緒にいかないか?」

「い、いいんですか?なら…」

俺は自然な形で手を出す。ルナミスさんはそれをおずおずと握り返してくれる。公国でこれをやれば「魔術にのめり込む無能が触んな!」とボコボコにされるからな。実際、一回やられたし。

しかし…。女性の手ってこんなに柔らかいんだな。俺は家族以外の人に触れあった経験なんてほとんどないからな。自然と手を出したけどすごく恥ずかしい。少し前に戻れるならこんなことをした俺を殴りたいくらいだ。おかげで俺はルナミスさんの報を向くことが出来ずただひたすら前を見ている事しか出来なかった。

「じ、Gクラスってここでいいんだよな?つ、着いたよ」

「あっ、はい。…ありがとうございました」

俺はGクラスの集合場所まで到着すると耐え切れなくて手を放す。これ以上は無理です。顔は熱いし見えないけどきっと真っ赤になっているだろう。それに顔に意識を集中させていないと嬉しいやら恥ずかしいやらで凄い事になりそうだ。

暫くそうしていると同じクラスメイトになると思われる生徒がやって来る。確か一クラス20人でAからGまでクラスがある。それが一学年で基本留年でもない限り本校だけで人学年140人。本校全体で420人いる。更に魔術学院国には支部校が三つあったな。人数は大体同じらしいからこの魔術学院国には将来の魔術師が1260人いる事になるのか。ていうか人多すぎだろ。

そう思っていると目の前から一人の教師が近づいてきてGクラスの前で止まった。

「全員いるな?俺はお前らGクラスの担任となったディートハルトだ。家名はあるが別に覚える必要はないからな。まあ、言うつもりもないしな」

Gクラスの担任と名乗った男は一言でいえば暗い人だった。ぼさぼさの黒髪に目の下には真っ黒い隈を作っている。髭も整えているようには見えず生えっぱなしであった。これで服が穢ければ浮浪者その者だが服は普通でそれが余計にディートハルト先生を目立たせている。

「早速お前らのクラスに行くからちゃんと道を覚えろよ」

ディートハルト先生はそれだけ言うとさっさと歩いていく。俺たちは慌ててその後を追いかけていくが途中他クラス、それもA、B、Cクラスとすれ違った時はなぜかこちらを見下しているような視線を多く感じたが今の俺にはそれが何なのか全く分からなかった。

体育館を出て校舎…と言う名の城に入る。何も知らない人が見れば魔術学院の本校舎はどっからどう見ても王様とかが住んでいる城にしか見えない。まあ、この国のトップは学院長らしいしその学院長がいるここが城と言っても問題ないかもしれないけど。

教室は二階にあるらしく階段を昇っていく。一応魔力で動く昇降機がこの学院にはあるらしいけど一般の生徒は使用しちゃいけないらしい。教師の手伝いや身体的欠陥のある人は利用できるらしい。

話はずれるが最近魔術が発展している国では魔力を用いた物が作られ、実用化されているらしい。ルグドゥヌムに立ち寄った時に住民から聞いた話だが共和国の首都パリスィに続く鉄道が二年後に開通すると言っていたな。丁度卒業の時期に開通か。遥か東方の連邦では大陸横断鉄道と呼ばれる長い距離を走る鉄道が八年前に開通したらしい。今では極東から送られてくる珍しい品が高値で売れてそれが連邦の収入にもなっているとか。残念ながら俺は極東の品を見た事がないためよく分からないが。

そんな事を考えているとどうやら教室についたらしくある一つの部屋の前で止まった。けど、教室と言うよりは物置に近いに感じる。だって中には木箱が天井近くまで積み上げられその間を縫うように机や椅子が置かれている。物置と教室を一緒に空間にしたような、そんな部屋だった。

「ここがお前らGクラスの教室だ。直ぐに説明をするから取り合えず全員中に入れ」

俺も含めたクラスメイトが茫然としていると横からディートハルト先生が声をかけてくる。先生も不快なのか顔をしかめつつも最初に入っていく。俺たちも慌てて中に入る。

「さて、勘の悪い奴でも流石に気付いているだろうがお前らGクラスの生徒は学院では落ちこぼれとして扱われる」

教室に入りそれぞれ好きな席…と言っても木箱の量が多く更にその隙間に机や椅子を押し込むように入れてあったため座る事は出来ず机の上に座る形となった。…なんか、学級崩壊した教室みたいになっている気がする。

「クラス分けは、受験時の成績のいい順に振り分けられる。受験時に優秀な成績を出した者はAクラスに入れられそこからB、C、D、E、F、Gと分けられていく。つまり、お前らは入学した者の中で最も実力が低い奴らと言う事になる」

ディートハルト先生の言葉に数人ほど納得いっていないのか「嘘だ」「あり得ない」等聞こえてくるがそれ以外の人は自分の実力を分かっているのか仕方ないと言った風に俯いている。

かくいう俺もとあるスキル(・・・)のせいで魔術師としてやっていくには難しい状態となっている。この学院にくればこのスキルを消す手段があるのではないかと期待しての事だったけどその前に退学とかにならないといいけど…。

「…とは言えこれはあくまで入学時の成績順に振り分けただけだ。今落ちこぼれだからと言ってこれからもそうとは限らない。現に学院を卒業した者の中にはGクラスから始まり卒業するころには卒業生の優秀者上位6位まで食い込んだ奴もいる。無論入学時から変わらなかったがために退学になった者もいる。だから、これから実力をつけていくのかそれともこのまま落ちこぼれのままなのかは今後のお前らの努力次第だ。分かったな?」

先生の言葉に俺は頷く。確かに今の俺は落ちこぼれかもしれないけどだからと言ってこのままで終わるつもりはない。俺の目標は世界の誰もが認める偉大なる魔術師の頂点賢者だ。まだ始まったばかり、これから実力をつければいいんだ!

「…よし、なら早速やってもらう事がある。それがこれだ」

そう言うと先生は教卓の下から大きな水晶を取り出した。青い輝きを薄っすらと放つその石の上に手を置き先生は続けてこう言った。

「お前らには自分のステータスを知ってもらう」
 

 

第四話「ステータス」

「ステータス、ですか?」

聞いたことがなかったのか、一人の少女が聞き返す。声には出さなかったがそれは俺も同じ気持ちだ。公国にいたころあんな物を俺は見た事ないしステータスという言葉も聞いたことがない。…まあ、公国は他国よりも魔術面では遅れているからあれが魔道具なら見た事ないか。因みに魔道具は魔力を使い発動、使用できる物の総称だ。前に言った鉄道も一応魔道具に入るな。

「この水晶に触れ魔術を流す事でステータス、お前らの能力を数値にして映すことが出来る。最近合衆国の魔術学園で開発された物でな。今年から導入される物だ」

成程、なら分かる訳ないか。最悪一般の人も知らないだろうからな。しかし、自分の能力を映す、ねぇ。今まで漠然としか分からなかった自分の体を知ることが出来るのはかなり良いな。

「では早速行う。呼ばれた者から順に前に来い。先ずはエリクだ」

「は、はい!」

俺の後ろに座っていた奴が立ち上がり教卓に向かう。物が多いせいで木箱や机の上を歩く事になりかなり不安定だが何とかたどり着く。

「魔術を使う要領で魔力を流し込んでみろ」

「はい」

エリクはそう返事をして水晶に触れると魔力を流していく。すると水晶は輝きを増し水晶から文字が浮かんでくる。

エリク・ド・グランジェ
体力:C+ 魔力:C+
筋力:D+ 俊敏力:C
魔術
・ウォーターボール(下・水)
・アクアウォール(中・水)
スキル
・遠視Lv1

「…ふむ。まあ、魔術師としては能力は低いな。戻っていいぞ」

「ぐっ!は、はい」

先生の無慈悲な言葉にエリクは涙目で戻ってくる。その様子にクラスメイトは何とも言えない顔をしている。まあ、ステータスが分かった時にあんな事を言われたんじゃ凹むしな。

「…よし、次だ」

そして順番に進みいよいよ俺の番となった。

「エルナン、前へ来い」

「はい」

ここまで半数近くやったが皆がみんな撃沈している。殆どの者が平均C以下で偶にBを出す奴がいる位だ。自分は一体どのくらいの数値なのだろうか?クラスメイトの実力が分からないしあの(・・)スキルのせいで上手く魔術が使えないからな。

「見ていてわかっただろう?この上に手を置いて魔力を流せ」

「分かりました」

俺は水晶に手を置き魔力を流す。相変わらずなのか慣れたと言えばいいのか上手く魔力が使う事が出来ない。俺は魔力を更に増やし無理矢理流し込む。最初の内はこれで通っていたがスキルのレベルが上がったのか最近は全力でやらないとだめになっていた。

「っ!?これは…!?」

俺の魔力量に反応したのか一瞬先生が驚くがその瞬間水晶に俺のステータス情報が映し出された。

エルナン・ハルフテル
体力:B+ 魔力:S+
筋力:C+ 俊敏力:B
魔術
・ファイアボール(下・火)
・フレアショット(中・火)
・アイスボール(下・水)
・サンダーボール(下・雷)
スキル
・魔力抵抗Lv10
・詠唱短縮Lv2
・見切りLv1
・回避Lv1

「しゅ、俊敏力以外B越え!?」

「凄すぎだろ!」

「で、でもなんでGクラスに…?」

俺のステータス情報にクラスメイトはざわめくが俺はそれよりも気になったスキルが一つあった。

魔力抵抗Lv10

これが俺の魔術師としての道を阻んでいる物だ。効果はその通り魔力に対する一切の抵抗。つまり魔術を使用する為に魔力を使おうとすると上手く練ることが出来ずそのまま霧散していしまう。だから魔力消費が少ない下級魔術を使用すれば俺の場合魔力抵抗を上回る魔力を使わなければいけないため上級魔術並みの魔力を使用せざるをおえない。中級魔術何て使用すれば二、三発で魔力が空となってしまう。

簡単に説明すれば土を丸めて球にしようとするときに俺がやるとほぼ水の泥水か水分がすっからかんの乾いた砂でやろうとしている状態だ。さらに言えばこのスキルは
レベルが上がりやすいのかどんどん上がっていき三年前にはマックスまでレベルが上がっていた。

これさえなければ俺は魔術師としてもっと成功していたかもしれない。まあ、そうなれば公国からはもっと早く出ていただろうしな。…いや、公国を出る前に殺されていたかもしれないな。祖国はそう言う国だからな。

「…成程、な。珍しいスキルだがかなり厄介だな。戻っていいぞ。次」

俺のスキルに気付いたのかディートハルト先生は納得し詳しい追及はしなかった。先生、先程は失礼しました。いきなり目の前で上級魔術並みの魔力を出せば誰だって驚きますよね。これ、もし俺が生徒じゃなかったら今頃拘束若しくは反撃が飛んできていたな。

そうやって俺のステータスで驚きはあったがその後は特に何事もなく順調に進み最後のルナミスさんの番となった。

ルナミスさんは細い手を水晶に乗せ既に見慣れた文字が現れる。しかし、今度は少し様子が違った。

ルナミス
体力:C- 魔力:B+
筋力:D- 俊敏力:C+
魔術
・アイスボール(下・水)
・ウィンドボール(下・風)
・グラビティ(下・無)
・ストーンウォール(中・土)
・ロックボール(下・土)
スキル
・翻訳Lv1(無効化)
・毒耐性Lv1(無効化)

呪い
スキル無効化

魔力はGクラスの中では俺の次に高く筋力や体力も女子という事を鑑みれば納得の数値だ。だけど、最後の呪いと言う文字が引っかかる。

呪いは確か禁忌の魔術や一部の魔獣の発する瘴気を浴び続ける事で発動する物だったはず。だけどルナミスさんは特に魔術学院、どころかベルンから出た事は無いと言っていたし禁忌の魔術を使用する機会があったとは思えないし何より禁忌の魔術を見る機会なんてないだろうからな。

だけど、スキル無効化の呪い、か。どういった物かは分からないけどその名の通りスキルが無効化されるんだろうな。実際ルナミスさんのスキルは無効化と書かれていたし。もし、呪いを変われるなら変わってやりたい。そうすればスキルは使えるだろうし俺の魔力抵抗のスキルが無効化されるだろうからな。本来ならかなり酷い呪いなのだろうけど俺には有用にしか見えない。

本人はあまり触れてほしくないかもしれないがこの後一度聞いてみるか?
 

 

第五話「実験準備」

「ルナミスさん、少し聞きたいことがあるんだけど…」
「は、はい!」

説明を終え今日の分が終わった後俺はルナミスさんに話しかけた。内容は勿論呪いについてだ。

「実は、呪いについて聞きたくてさ」
「っ!そ、それは…」

話を振られた話題についてルナミスさんは言いづらそうに顔を歪める。

「…いや、やっぱり大丈夫。ごめんね、あまり話したくはないよね」

俺はそう言って頭を下げる。公国では「貴族が簡単に頭を下げるな!」と怒鳴られていたけどもう実家とは関係ないし大丈夫、だよな…?

「…いえ、大丈夫ですよ。少し、驚いただけですので…」

ルナミスさんはそう言って儚げに笑う。それをみた一部の男子生徒が顔を赤らめていた。因みにその中に俺も入っている。

「それで…呪いの何を知りたいのですか?」
「あ、えっと…。ル、ルナミスさんのスキル無効化の呪い?について聞きたくてさ」
「…それは、その名の通りです。私はこの呪いのせいで今までスキルの恩恵を受けた事がないのです。呪いの効果は私と触れている(・・・・・)者のスキルを無効化すると言うものです」

スキルの恩恵を受けられないのか…。基本スキルは持っているだけで効果を得られるものだ。肉体を強化したり毒等の有害な物に耐性を持ったり無効化する物もある。しかし、スキルを無効化、それも自分だけでなく触れている者にも、か…。

「ですが、聞いた中には魔力封印の呪いや体が動かなる呪いもあるのでそれに比べれば呪いなんてへっちゃらです!」

ルナミスさんは俺が同情していると思ったのか語気を少し強くして言うが俺はそれよりもルナミスさんの言った言葉が気になっていた。

「…ルナミスさん、少し手伝ってほしいことがあるのだけど…」
「?なんですか?」

ルナミスさんは少し小首をかしげる。…うん。可愛い。





☆★☆★☆
「俺の持つスキルの中に魔力抵抗Lv10というスキルがあるんだ」

そうルナミスさんに説明する俺は今校舎の隣にある校庭に来ている。ここは基本的にスポーツをするための場所だが端の方には的がありそこで魔術の訓練が出来るようになっている。ただし出来るのは下級魔術のみでそれ以上の魔術を使用したいときは別の場所にある専門の施設にいかなければならない。しかし、そこは授業以外での使用時には予約制であり今のところ予約は一月先まで埋まっていた。今日から受付のはずだったがこのシステムを知っている上級生が朝一で予約をしていったらしく気付いた時には既に手遅れだった。

「このスキルはその名の通り魔力を俺の体に通しづらくするスキルでレベル10の今なら大抵の魔術の攻撃を無傷で防ぐ事が出来る」

とは言え今の俺は下級魔術以外は使う予定はないのでここで十分だった。周りには数名の生徒がおり中には上級生と思われる人がちらほらといる。因みに学年を判別する方法は簡単だ。ネクタイの色で分かる。一年生が赤、二年生が青、三年生が黄色だ。

「ただし魔力を通さないから自分から魔術を撃とうとしても魔力抵抗のせいで失敗する。だから俺は魔術を使用する時は魔力を多く使用している。そうしないと魔術の発動が出来ないからな」
「それで水晶に魔力を通す時にあれだけの魔力を…」
「そうだ。魔力を魔道具に流すのにも抵抗されて上手く注げないからな。恐らく俺がGクラスなのはこれのせいだな。自慢じゃないがステータスを見た限り一クラス上でも十分通用すると思うからな」
「そうだったのですか…」
「ああ、俺が魔術学院に来たのもこのスキルを消したいと言う理由があったからな。勿論最強の魔術師たる賢者の称号も狙っているけどな」

さて、そろそろ本題に入るか。本来なら寮に荷物を運ばないといけないのにその時間を使ってルナミスさんに手伝ってもらっているのだからな。

「そこでルナミスさんの呪いを少し借りようと思ってな」
「成程、私の呪いであるスキル無効化で」
「そう、この魔力抵抗Lv10のスキルを一時的に無効化する。そうすれば俺も普通に魔術が使えるようになると言う訳さ」

無論これは理論上の話でしかなく確実にそうなると決まった訳ではない。そもそもスキル無効化の呪いが何処まで効き目があるかだ。最悪この呪いを魔力と認識して抵抗されて効かないと言う可能性もある。流石にそんな事は無いと思うがこの世に絶対という言葉はないからな。

「ごめんね、ルナミスさんにはあまりメリットがない事だと分かっているけどどうしても試して見たくてさ」
「…いえ、私もこの呪いが人の役にたつのなら、その、喜んで…」

途中からルナミスさんは顔を赤くして呟くように言うがどうしたのだろうか?呪いに何かおかしな点があったのか?聞いただけだと呪いは…ああ、そう言う事か。

呪いの発動条件は他者と触れている事。つまりルナミス若しくは俺がルナミスさんに接触する事で呪いが発動する。ルナミスさんが何を想像したのかは分からないけど恐らく恥ずかしいと言う気持ちが出てきたのだろう。これはもう少し気持ちを確認しておくか。

「本当にいいのか?言い出しっぺがいう言葉じゃないと思うけど呪いを発動させると言う事は、その…」

やばい、すごく恥ずかしくなってきた。ここまで異性と会話した事なんて無かったから少し緊張するな。公国ではあまり異性と話す機会はなかった、というより話させてくれなかったからな。

「…私の呪いを恐れる人は今までいました。だけど、私の呪いを恐れず役に立つと言ってくれたのは初めての経験です。だから、私はそう言ってくれたエルナンさんのお役に立ちたいんです。たとえそれが私にとっては全く関係のない事であろうとも」

ルナミスさんは俺を見て答える。その瞳には確かな強い意志が宿っており俺の心にすっ、と入って来た。

「…分かった。なら早速お願いできるか?」
「…はいっ!」

俺はそう言って手をルナミスさんに伸ばす。それをルナミスさんは笑顔で掴んでくれた。
 

 

第六話「実験開始」

的に向けて右手に持った杖を向ける。そこからの行動はいつも通り、魔術を放つときと寸分変わらない。しかし、今回はいつもと違う部分もある。俺の左手に柔らかくも温かい感触がある。魔力を杖に集中させながら気づかれない程度に左の後ろに視線を向ける。そこには俺の左手を両手で包みつつも顔を真っ赤にするルナミスさんの姿があった。

ルナミスさんが俺が差し出した手を握ってくれてから既に十分近くの時が経っている。しかし、実験は今始まったばっかりだ。理由は単純二人とも手を握ったは良いがそこから顔を真っ赤にして硬直したからだ。女性との触れ合いに慣れていない俺は初めてとも言える同年代の異性の手の感触に妙な恥ずかしさを覚えていた。

ルナミスさんの手は想像以上に柔らかくもっちりとした感触でありながらすべすべの肌。そして手に宿るあたたかな体温。どれも初めての経験だった。

そこから何とか回復し実験を開始したのだ。ただ、ルナミスさんは未だ恥ずかしいのか一言も喋れず顔を真っ赤にして俯くだけだ。美少女が顔を真っ赤にしている様子はとても興奮を覚えるがそんな事をしている場合ではないし俺の実験に付き合ってもらっているルナミスさんに失礼だ。

俺は視線を杖に戻す。先程から魔力の抵抗が何時もより少なく感じる。ルナミスさんの呪いが聞いている証拠だ。魔力を集めた俺はそこから火の属性を付与する事で初歩的な下級魔術「ファイアボール」を生み出す。ここまでの工程は何時もより少し遅い程度であるが十秒かからずに終える。魔術師にとってどれだけ早く魔術を行使し放てるかが重要となっている。いくら強い魔術を使用できるからと言って発動までの時間が長ければそれは連発できる初歩的な魔術にすら負ける。故に魔術師なら魔術を覚える事よりも魔術をどれだけ早く生み出しロスタイムを無くせるかを考え日々の鍛錬に生かしている。

公国にいた俺はそれすら知らなかったが魔力抵抗のせいで中級魔術すら使えなかった俺は早打ちとロスタイムを無くすことを努力したから自惚れではないが他の魔術師よりも出来る自信がある。

さて、話を戻すが俺は杖先に生まれた火球を遠くの的にぶつける。的に中った火球は呆気なくはじけ飛び的に多少の焦げを付けただけだった。しかし、それでもファイアボールの威力が上がっているのが分かる。今までなら焦げが付きそうで付かないくらいだったからな。

「やっぱり…。ルナミスさんの呪いの効果で魔力抵抗が薄まっている。これなら今まで出来なかった上級魔術も使用できるかもしれない…!」

俺は確かな手応えを感じて杖を持った右手を握り締める。今までどれだけ頑張っても到達できなかった高見に後少しで届く、それを思うと自然と体中に力が入った。

「…っ!」

そしてルナミスさんの手を握っていた手にも力が入ってしまいルナミスさんは一瞬体を振るえさせた。

「あっ、ごめん。つい力が入っちゃったよ」
「い、いえ。私は気にしていませんので…」

ルナミスさんは最初は普通の声量で喋っていたが段々と声が小さくなり最後の方はほとんど聞こえんかった。ただ、別に嫌われたとかではなさそうだな。ルナミスさんに嫌われるとスキルを無効化できないからな。…とは言え、いつまでも俺の事につき合わせるのも不味いだろうし対価として何かできる事を考えておくか。

「じゃあ、もう少しだけ付き合ってもらってもいいかな?」
「いいですよ。私もとても勉強になっていますから」

ルナミスさんはそう言って微笑む。薄っすらと頬を染めるその姿は女神と間違えても可笑しくはなかった。俺は一瞬理性が世界の果てまで消えて言った感覚に陥ったが直ぐに正気を取り戻し的に顔を向ける。そして上級魔術の術式を思い浮かべ魔力を通した。先程と同じく何時もより軽やかに魔力が集まってくる。

必要最低限の魔力が通った事で魔術が発動、先程とは比べ物にならない業火球が右手に誕生した。業火球の熱がチリチリと右手を軽く焙るように襲ってくる。火属性の上級魔術「クリムゾンスフィア」だ。今までは魔力抵抗のせいで使うことが出来なかったが今ならギリギリ発動できるか。

俺はクリムゾンスフィアを的に向けて放つ。ファイアボールより少し早い程度の速度でまっすぐに向かって行き、的に当たった瞬間周辺を火の海に変えた。

「「!?」」

俺とルナミスさんはそろって驚き思わず手を放す。周りでは燃え盛る的を見て軽く混乱が起きている様で人が集まってきている。中には水属性の魔術で消化を試みる物もいるが火は消えるどころか更に火力が上がっていく。

…そう言えば、クリムゾンスフィアは外部からの刺激があった瞬間周辺に火を広げる性質があったな。しかもちょっとした水属性魔術では消化すらできない火力を持っていたな。初めて使った事と上級魔術自体使う事が出来なかったから忘れてたわ。

結局、消化が完了したのは一時間近く経ってからだった。たまたま付近に先生がおらず生徒の魔術では餌を与えるような物でどんどん火力が上がったのが原因だな。幸い校舎や学院の外に燃え広がる事は無かったが的は全部燃え尽き暫くの間使用が禁止された。そして上級魔術を考えなしに使った俺は慌てて駆け付けたディートハルト先生にこってりと絞られることとなった。因みにルナミスさんは近くにいただけとして軽い説教だけで済んだ。よかった。不幸中の幸いとはまさにこの事だな。
 

 

第七話「注意」

「ねえねぇ、エルナンくん」

入学式の翌日、今日から本格的に授業が始まっていくが俺の心はかなり落ち込んでいた。何せ入学式の日に校庭の的を燃やしあわや大惨事になるような騒ぎを起こしたからだ。幸い退学処分にはならなかった。ディートハルト先生曰く「この位で生徒を退学にしていては魔術学院を卒業する者はいなくなる」らしい。つまり卒業生は大なり小なり似たような騒ぎを起こしているらしい。まあ、ここ魔術学院だし気持ちは分かるよ。ただ、入学式でやらかしたのは学院史上でも初との事。こんな事で初めてを飾りたくはなかったな。

そして気持ちが沈んだまま教室に入ると一人の女子生徒に声をかけられた。確かレギーナ・フォン・シュレックだったか?出生地は分からないけど「フォン」が付くと言う事は帝国若しくはその周辺国の貴族の出なのであろう。とは言え魔術学院は基本的に平等に扱われるため貴族の権力など通用しない。というより合衆国にある魔術学園に行く連合王国を除き大陸全ての魔術師の卵がやって来るこの魔術学院では一国の貴族の権力など意味がないからな。

「昨日校庭でボヤ騒ぎを起こしたって本当?」
「え、ええ。少し、やりすぎちゃって。…もしかして結構噂になっている?」
「多分ここ(魔術学院本校)の人たちは余程噂に疎くない限り知っていると思うよ」
「そ、そうなんだ…」

自業自得とはいえ噂が広がるのは早いな。俺はともかくルナミスさんがこの件で不利益を被ることがない事を祈るばかりだ。流石に俺の実験で手を握っていただけでボヤ騒動の加害者になるのはかわいそう過ぎるからな。

「何でも魔術学院始まって以来の事らしいね。しかも入学したばかりのGクラスの生徒がやったから他のクラスの人たちは皆悔しがってたよ」
「え?何でですか?」
「だって二年生や三年生のGクラスは別として基本的にGクラスの人は入学段階で実力が低い人たちが入るクラスだよ?それが入学初日で上級魔術を使ってボヤ騒ぎを起こすのだから他のクラス、AやBの人たちからすれば馬鹿にされてると取れるからね」
「…ああ、なるほど」

確かにAやBからすれば入学ほやほやの、言い方は悪いが実力が自分たちより実力の低いGクラスの生徒が上級魔術を使ったなら驚きや嫉妬を感じても可笑しくはないか。

しかし、そう考えるとルナミスさんがかなり心配だな。後で伝えておくか。

「…レギーナ」
「あっ!おはようアンネ!じゃあ、それじゃ私は行くね」
「こちらこそ。早めに知れてよかったよ」

レギーナは友人と思われる少女、確かアンネ・フォン…家名は思い出せないが帝国出身の貴族令嬢だったはず。その少女の元に向かって行った。

「お前ら席につけ。ホームルームを行うぞ」

ちょうどルナミスさんが教室に入ってきたため伝えようと思ったがディートハルト先生がやってきた為後で話すか。そのディートハルト先生は昨日はあまり眠れていないのか目の下には軽い隈が出来ていた。恐らく昨日の件の後始末で眠れてないのかもしれない。…先生、ごめんなさい。

「今日から本格的に授業が行われていく。先ずは月一で行われる実力確認テストに向けて頑張ってくれ。とは言え一月ほどで実力がぐんと伸びるなんて稀だがな」

そう言うディートハルト先生はちらちらとこちらを見てくる。別に入学試験の時から一気に成長したわけじゃない。魔力抵抗のせいで発揮できない本来の実力を使った感じだ。

「んじゃ次の連絡だが…」

ディートハルト先生はそう言って次の内容を話すが特に重要とは思えないことだらけだ。せいぜい研究会についての説明くらいだろう。研究会に夢中になりずぎて退学になった者もいるから気を付ける様にと言っていたな。

さて、そんな事より今はルナミスさんの元に行くか。

「ルナミスさん、少しいいかな?」
「あ、エルナンさん。何でしょうか?」

ホームルームが終わり授業が始まる少しの時間に俺はルナミスさんの元へ向かう。因みに昨日この教室に積み上げられていた荷物は昨日のうちに撤去されたらしく登校して来た時には机といすが奇麗に並んでいる状態になっていた。

「実は昨日の事で一部の人が敵意を持っているみたいなんだ。もしかしたらルナミスさんにも何かされるかもしれないから伝えておきたくて」
「そうだったんですか…。分かりました。私も気を付けておきます」

ルナミスさんはそう言って微笑むが元々俺の事情のせいで巻き込んだみたいなもんだからな。何かしてやれれば…、そうだ。

「ルナミスさん、突然だけど今日の放課後って何か予定ある?」
「…いえ、特に用事はないですけど…」
「ルナミスさんさえ良ければいくつか魔術を教えようかなって」
「ほ、本当ですか!?」

ルナミスさんは若干食い気味で聞き返す。まあ、ルナミスの使えた魔術ってほとんどが下級魔術だったしな。中級魔術の一つや二つ覚えたい気も落ちがあるのかもしれない。俺は自慢じゃないが公国にいた頃にみっちりと魔術の勉強をしてある。使えなくとも教える事ぐらいなら出来る。

「いざと言う時に仕える魔術や他にも護身術なんかを教えようと思うけど…、問題ない?」
「勿論です!ありがとうございます!」

ルナミスさんはそう言って笑顔で手を握ってぶんぶん上下に振る。よっぽどうれしいのか腕が引きちぎれそうだ。

暫くの間そうしていたが漸く正気に戻ったのかハッとした顔をした後に顔を真っ赤に染める。よくよく見れば首や腕まで真っ赤になっている。。恐らく前身真っ赤になっているんだろうなぁ。

「ご、ごめんなさい!私ったら急に…っ!」
「別に何ともないよ。それだけ喜んでもらえるなら教える方としてもやる気が出るよ」

魔術を勉強してから人に乞われる事なんて無かった。公国における魔術とは下等な物であり使う人間も同じく下等と言う風評があったからだ。そんな中で俺に教えて欲しいと言う人なんていなかった。だからこそ、ルナミスさんの行動はとても嬉しかった。
 

 

第八話「練習」

「さて、教える前にルナミスさんの実力を見せてくれる?」

放課後、俺は約束通りルナミスさんに魔術を教えるために校庭にいた。流石に前回のような事をやらかすつもりはない。あの時は少しやりすぎたと今なら思うしよく教師陣からの御説教だけで済んだなって思うよ。最悪退学になっても可笑しくなかったな。

「えっと、何をすればいいでしょうか?」
「うーん、取り合えずあの的に向かって得意な魔術を使ってみてくれるか?」
「分かりました」

ルナミスさんはそう言うと杖の先を的に向ける。的は少し離れた場所に置いてあり丁度意志を投げて届くくらいの距離だ。
ルナミスさんは杖先に魔力を貯まっていく。やがて杖先には小さな風の塊が現れる。下級魔術の「ウィンドボール」だ。ルナミスさんは風の球体を射出する。それなりに早いが目で追えない程ではないし不意打ちや至近距離じゃなければ避ける事が出来るだろう。
球体は的の真ん中に命中する。基本的に魔術は距離が離れれば離れるほど命中率が下がる。故に上級魔術などは高い威力と広範囲に命中するようなものばかりだ。俺が昨日使ったクリムゾンスフィアも速度や命中率を殺して広範囲に火炎をばら撒く奴だったからな。

「……えっと、こんな感じでしょうか?」
「うん、いい感じだね。ただ、見た限りもう少し魔力を込めても良いと思うよ。そうすれば威力も速度も上がるだろうし。命中させるのは難しくなるかもしれないけど今ので安定しているなら大丈夫だと思うよ」
「分かりました。やってみますね」

そう言ってルナミスさんは再びウィンドボールを放つ。先程よりも魔力が込められており球体が少しだけ大きくなっていた。そして速度は先ほどよりも早く威力は先ほどよりも強かった。そして、命中精度は落ちていなかった。

「うん、いい感じだね」
「エルナンさんは魔力制御が得意なんですか?」
「んー、まあ。そうだね。あのスキルのせいでね」
「あっ、……ごめんなさい」
「大丈夫、別に気にしてはいないから」

そう言って俺は笑う。実際このスキルのせいで苦労はしているが既に何年も付き合っているスキルだ。

「さて、ルナミスさん、次だけど……」
「はい。何をすればいいですか?」
「悪いけどもう一回何か使ってみてくれる?今度は別の魔術で」
「は、はい!分かりました!」

ルナミスさんは再び的に向けて魔術を発動する。先程はウィンドボールであったが今度は冷気が集まっていく。恐らく下級魔術の「アイスボール」だ。やがて拳ほどの大きくなった氷の弾は的に向かって飛んでいき的を粉砕した。木製であった事とそれ程強度があるわけではないため脆くはあったがまさか的を破壊する程の威力があるとは思っていなかった。
とは言え先ほどと同じように速度は大してないため動く相手なら簡単に避けられるだろう。恐らくルナミスさんの欠点の一つだ。

「えっと、どうでしたか?」
「うん、何となく分かったよ。先ずは二つの魔術についてだけど命中精度、威力、共に申し分ないけど速度がない。あれじゃ的は百発百中を狙えるけど変則的に動く、例えば試合とかだと一気に命中率は落ちると思う。厳しい言い方をすれば【練習でしか活躍できない】、それが今のルナミスさんだと思う」
「な、成程。確かに私は他の人より魔術の発射速度は遅いですし……」
「そして次に、ルナミスさんは魔術を使用した後に少し膠着するよね」
「は、はい。魔術を使った後は大体固まってます」
「それだと試合や実戦ではいい的だよ。だから硬直しないようにしないと」
「わ、分かりました!」

その後は速度を上げるように意識しながら魔術発動後の硬直を無くす事を中心に練習を行った。流石に目に見えての変化は対してなかったけどルナミスさんはいい練習でしたと喜んでくれていたからな。
練習は日が暮れ始めるまで行われその後はルナミスさんと別れた。ルナミスさんはそのまま帰ったが俺は暫くの間魔力制御や魔術の練習を行った。その時に如何に自分のスキルが重いデメリットなのかを改めて理解した。
本来ならこのスキルは騎士には向いているのだろう。魔術が効きづらい相手など敵からしたら厄介だろう。とは言え最近は銃の発展により接近戦なんて時代遅れとなってしまっていたがな。

「……賑やかな町だな」

練習を終え帰路につく中俺は所どころで騒がしいベルンの街を見てそう呟く。故郷の公国では夜にこんなに騒ぐことは出来ない。魔獣が出るからだ。
魔獣は魔力を持ったがために暴走した獣たちの事だ。基本的に獣は魔力を持っていない。それが何らかの理由により魔力を体内に有してしまい体が魔力に適合しようとした慣れの果てだ。基本的に理性などなく騒がしいところに出ては見境なく襲う。公国以外の国では国を覆う程の結界により魔獣はほとんど発生しないが魔術後進国である公国は結界などない。だから国中で魔獣の被害が相次いでいる。故に人々は魔獣が最も活発化する夜には家に籠り朝まで出てこないのが一般的だ。
既に見慣れた光景とは言えいつ見ても俺の心を軽くしてくれる。世界には自分の知らないことがまだまだたくさんある。そう思わせるのだから。
 

 

第九話「定期テスト」

「全員揃っているな?早速HRを始めるぞ」

ルナミスさんに指導をして暫く経った。魔術学院にも慣れ始めていた。そんな中迫ってきている物があった。

「……最後に、前々から言っていた通り明日は月に一度の定期テストが行われる。各々準備は済ませておくように」

担任のディートハルト先生はそれを最後にHRを終え教室を出て行く。先生がいなくなったことでそれぞれが友達と喋ったりするために席を立つ中俺は一人考え事をしていた。内容は先ほど話題に上がった定期テストの事だ。
定期テストの内容はとても単純だ。入学試験時の実技試験と同じく魔術を使うだけだ。半年に一度だけ筆記もあるが入学したばかりのこの時期に行われる物ではないため今は考える必要は無かった。問題なのは実技である。
あのスキルのせいで下級魔術ですら大幅に魔力を消費する。故にテストで好成績を取れるであろう威力、速度、命中などの面からはとても評価されるとは思えなかった。流石に最下位と言う事にはならないだろうが今のままならそれに近い順位になるのは明白だった。
どうすれば威力を上げられる?無理をして中級魔術を使うか?それとも魔力消費が少なくても済む魔術に特化させるべきか?いろいろ頭の中を巡っては直ぐに消えていく。
そして、ふと一つの案が浮かんだ。それは恐らく現状で一番楽で確実な案だろう。俺は直ぐに行動に移すことにした。

「ルナミスさん、ちょっといいですか?」
「はい?なんですか?」

案というのはルナミスさんの呪いを使う事だ。テストの際に俺に触れてもらいその状態で魔術を発動する。そうすれば入学時よりいい成績が得られるだろう。尤も、この方法を使うにはルナミスさんの許可と教師への確認が必要だ。

「明日のテストについてなんだけど。もしルナミスさんが良かったらテストのときに俺に触れてほしんだ」
「えっと……、私の呪いが理由ですか?」

ルナミスさんは一瞬俺に不審な目を向けてきたが直ぐに真相に気付く。確かに今の言い方だと危ない発言に聞こえるな。ちょっと言い方をミスっちゃったな。

「そうなんだよ。ごめんね、少しいい方が変で」
「いえ、構いませんよ。ただ、この方法って大丈夫なんですか?」
「そこはこれから確認するつもりだよ。一応先にルナミスさんの許可を取っておこうと思ってね」
「そうだったんですか。私は良いですよ」

ルナミスさんは笑顔でそう言ってくれる。……可憐だ。
さて、ルナミスさんの許可も貰えたし早速聞きに行くか。

「……成程。確かにルール上特に問題はないな。許可しよう」

ディートハルト先生に聞くとあっさりと許可を貰えた。流石にこんな事は前例がないらしくテストの注意事項がかかれた紙を何度も確認していた。

「ありがとうございます」
「おう。……ただ、人によっては反則と思われる可能性もある。教師陣には予め伝え解くが生徒全員に伝える事は出来ないだろう。多少喧嘩を吹っ掛けられるかもしれないが用心しとけよ」
「分かりました。忠告感謝します」
「……俺はお前を結構期待しているからな。やるからには前の時の様に派手にぶっ放せよ。ただしテストは屋内だからな、建物を壊すんじゃないぞ」
「ははは……、その辺は気を付けます」

ディートハルト先生の言葉に俺は苦笑いで答えるのであった。





☆★☆★☆
そして迎えた定期テスト当日。俺は入学試験の実技試験で使われた屋内演習場にいた。ここでクラスごとにテストが行われる。
既にA、B、C、Dクラスは終わっていた。一部を除き演習場から出ており残った者もクラスが変わるごとに少なくなっていく。恐らく他クラスの実力を見たのだろう。とは言え実力者はDクラスまでに集まっておりE以降は現時点で出来損ないの者しかいなかった。
……まあ、俺みたいに事情がある奴とかもいるから一概には言えないけどな。

「う~、緊張するね。アンネもそう思わない?」
「……別に」
「アンネは本当に動じないよね~。ルナミスはどう?」
「私は少し緊張してます」

俺の隣ではルナミスさんとクラスメイトのアンネさん、レギーナさんが話している。いつの間にか仲良くなっていた様で最近はよく三人でいるのを見かける。レギーナさんはこういう場に弱いのか何時もの様な元気は鳴りを潜めていた。アンネさんは特に変わりはなくルナミスさんも緊張しているのか表情が硬かった。

「まあ、入学してから一月しか経ってないから入学試験の時と大差ないと思うけどね」
「……同感」
「私もあまり実力が伸びている感じはしませんね」
「うーん、これ意味あるのかな?エルナンくんはどう?」

Eクラスの様子を見ているとレギーナさんが話しかけてくる。

「俺は少し自信があるよ。ちょっとばかり策を用意したから」
「え、本当?気になるな~」
「それは始まってからのお楽しみ……と言う程の事じゃないよ。ちょっとルナミスさんに手伝ってもらうだけさ」
「?テストは確か他者の支援を禁止するはずだったけど?」
「既に先生には確認済みさ。問題ないよ」
「へ~、じゃあエルナン君の番は楽しみにしてるよ」

そう話しているとE、Fも終わり遂に俺たちGクラスの番となった。この頃になるとC以上の生徒は残っておらず演習場の広さに比べて人が少なくなっていた。
俺は自分の番を今か今かと待ち望むのであった。
 

 

第十話「二重魔術」

「次!エルナン・ハルフテル!」
「俺の番か」

漸く俺の番が来た。既にGクラスの半分が行われた。その為かFクラスの生徒すらおらずこの演習場にいるのは教師とGクラスのクラスメイトだけであった。

「それじゃあ、お願いするよ。ルナミスさん」
「はい」

俺はかねてからの予定通りにルナミスさんに声をかけ右手を差し出す。それをルナミスさんは返事をして握る。ルナミスさんと触れた事により魔力抵抗が消えたのが感覚で分かる。まるで体の周りに出来ていた分厚い層が消えた感じがする。初めてルナミスさんの力を借りて上位魔術を発動した時と同じ感覚だ。
俺は息を一つ吐き一歩ずつ踏み出す。俺の番にも関わらずルナミスさんも一緒に出てきたことにクラスメイトはざわめく。

「あれってルナミスさんじゃない?」
「今はエルナン君の番でしょ?どういうこと?」
「テストは支援を受ける事は禁止のはずなのに……」
「お前ら少しは静かにしろ!エルナンとルナミスの行動は教師の許可を取った正当な行いだ!ルナミスが一切魔術を使わないことを条件に許可しておりもし少しでも魔術の反応を見せれば失格とも伝えてある」

ディートハルト先生の言葉にクラスメイトは静かになる。しかし、奇異の目で見られている事は後ろから感じるたくさんの視線によって分かる。
だが、今は魔術に集中するんだ。俺は右手を出し一気に魔力を注いでいく。使う属性は火、そして風だ。
属性を複数使用する事は二重魔術と呼ばれている。一人前と認められる条件の一つでもありこれが出来なければ魔術師の資格はないと判断されるほど重要な物だ。現在俺と同級生でこれを使える物はAクラスですら数人といった具合だろう。
中心に炎、その周りを風が包み込む。やがて二つの属性は混ざり合い強力な熱風へと姿を変えた。この魔術にクラスメイトとディートハルト先生は驚いているのが分かる。俺は彼らに注意を払うことなく魔術に更なる魔力を注ぎ込む。既にこの熱風はかなりの熱を持っている。この風を浴びた物は一瞬にして焼き尽くされる程だ。

「ルナミスさん、危なくないとは思うけど一応俺の後ろに隠れて」
「は、はい!」
「……よし、行くよ。二重魔術(デュアルマジック)クリムゾンテンペスト!」

上級魔術のクリムゾンスフィアと同じく上級魔術のアーク・テンペストの合わせ技。全ての物を焼き尽くす熱の嵐は寸分たがわず的を飲み込み一瞬にして的を焼き尽くした。そして、嵐は止まることなく的のあった周辺に猛威を振るった。嵐が止むころには灰すら残さずに消えた的と煙と火が立ち込める演習場に炭と化し役割を全う出来ず太陽の光を屋内へと居れる屋上があるのみだった。
……やばい、少しやりすぎた。

「……え、エルナン。お前……」
「え、エルナンさん……」

後方から怒りをまき散らすディートハルト先生と心配そうに声をかけるルナミスさんがいたが俺は振り返る事は出来なかった。

「こ、の、大馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

瞬間、ディートハルト先生の怒鳴り声と共に頭に拳が落ちる。頭の天辺から足先まで響く激痛に俺は涙目で頭を抑える。そんな俺にディートハルト先生は怒りが収まらない様子でお説教を始めた。

「あれって、二重魔術って奴じゃない?」
「二重魔術!?俺らと同じ年でもう使えるのかよ!?」
「しかも俺らと同じGクラスなのに……」
「もしかしてエルナン君って実はすごい?」
「実際ステータス見た時も能力全部俺らよりとびぬけてたからな~」
「じゃあなんでGクラスにいるんだ?先生のミス?」
「さぁ?」

後方ではクラスメイト達が俺の使用した二重魔術について考察している。いくら落ちこぼれと言っても魔術師の卵たちだ。こういう考察は好きなんだろう。実際、俺も好きだし。

「おい、聞いているのか?」

「は、はい!ちゃんと聞いてます!」

そう考えているとディートハルト先生の顔がドアップで映し出される。どうやら別の事を考えていたことがバレたようだ。先生の顔は既に人ではなく悪魔の如き形相となっていた。直視できない様相だ。

「……ったく、ほら!お前らは何時までそうしているつもりだ!次の奴は前に出ろ!エルナン、お前は罰としてテストの手伝いだ。先ずはあそこの備品室から新しい的を持ってこい!」
「はいっ!」

俺はディートハルト先生の怒鳴り声にビビり走って備品室まで行く。情けないけどディートハルト先生は本当に怖い。今後は起こらせないようにしないと。
備品室から的を取ってきて先ほどと同じ距離の場所に置いたことで再びテストは再開された。その後は特に何もなく終わりクラスメイトはそれぞれ帰路についた。

「あ、エルナンはこのまま残れ。演習場をこのまま半壊にさせておくわけにはいかないからな」
「はい……」

どうやら今日はいつ帰れるかは不明のようだ。こんなことならもっと出力を抑えるなり別の魔術にしとくんだった。調子乗って二重魔術なんて使わなければ……。

「あ、あの!ディートハルト先生」
「何だルナミス?」
「私も手伝っていいですか?」
「何?」
「流石にこの量を二人でとなると大変だと思うので……」

クラスメイトが帰路につく中ルナミスはディートハルト先生に掃除の許可を貰っていた。確かにこれを二人でとなると朝まで終わらなそうだな。

「……いいだろう。だが下校時刻はきちんと守れよ」
「はい!」
「なら私達も手伝うよ」
「……」
「いいだろう。許可する」

ルナミスの後ろからレギーナさんとアンネさんが顔を出す。ああ、これなら少しは早く終わりそうだな。俺は三人の申し出に心の中で涙と感謝の言葉を言うのであった。
 

 

第十一話「結果」

「いよいよ発表ですね」
「う~、緊張する~。アンネはどう?」
「……別に」
「もう、アンネは平常運転で羨ましいな、このこの~」
「あはは、レギーナさんあまり突かない方が」

入学してから初めての定期テストから七日が経過した。この間は先生たちが試験を集計し順位を決めている最中だった。そして、今日のHRに結果が一斉に公表される。生徒が一か所に集まらないようにするためか各クラスごとに記した紙が貼られる。

「私はどのくらいの順位なんだろ~。400くらいかな?」
「……ここは420人いるから400~420の間。一月程度でそこまで変わっているはずがない」
「んもう!そんなことわかってるよ~。いいじゃない。夢を見たってさ~」
「見るだけ損」
「う~!」

何時ものメンバーとなったルナミスさんとレギーナさん、アンネさんは結果について話している。が、実際はレギーナさんが高望みしてアンネさんがそれに何時もの様子で突っ込みルナミスさんが苦笑しているだけだった。

「……多分順位にそこまで変動はない。あるとしたらエルナンくらい」
「あ~、確かにね。噂になってるもんね。『Gクラスの生徒が二重魔術を使って演習場を半壊させた』って」
「毎日の様に聞きに来てましたね。正直、迷惑でしたけど」
「ははは、ごめんね」

三人の言葉に俺は苦笑いで謝罪する。実際、Gクラスの教室前には毎日の様に他クラス、それもAクラスやBクラスの人たちが集まっていたからな。教室に出入りが出来ない状況にまで陥って最終的にディートハルト先生の一喝で収束したんだけど。
因みにクラスメイトは誰がやったのかあかさなかった。何でも見下してくる他クラスの人たちに一泡ふかすことが出来たとかで。まだ入学してから一月しか経っていないが既にGクラスへの侮辱が行われていたらしい。とは言えそれは例年より少ないらしい。入学初日の騒動がその原因らしい。

「お前ら、HRだぞ。さっさと席付け~」

そこへディートハルト先生が一枚の大きな紙をもってやって来る。どうやらあれが結果の記された紙だろう。

「さて、お前らも気になっている定期テストの順位が出たぞ。それを今から張り出すから見たい物は好きに見ればいい。今日は他に連絡事項はないからな。これでHRは以上だ」

ディートハルト先生はそれだけ言うと紙を貼り教室を後にする。ルートヴィヒ先生が出て行ったあとクラスメイトはこぞって前に集まり自分の順位を確認している。とは言え俺たちはGクラス。その順位も下から数えた方が早い。いや、ワースト20はほぼGクラスしか埋まっていないだろう。

「あった!私405位か~。殆ど最下位じゃん」
「……」
「私はえっと……。よ、415位……」

三人は自分の順位を見て三者三様の様を見せている。さて、俺も確認するか。二重魔術の件から恐らく上位だとは思うけど。どれどれ……

1位エルナン・ハルフテル(G)
2位カール・フォン・アルタウス(A)
3位ウィリアム・アーサー・ハインドマン(A)
4位ヒルトルート・フォン・ペーペル(A)
5位……

「い、1位ぃぃぃぃぃぃっ!!!!????」
「「「「ええぇぇぇぇぇっ!!!???」」」」」

まさかの順位に俺は驚きのあまり声を上げる。2位から21位までAクラスで埋まっている中1位はまさかのGクラス。これに驚くなという方が無理であった。俺はてっきり100位前後と思っていた。しかし、よくよく考えれば全クラスのテストは同じ演習場を使って行われていた。そして演習場を半壊させるほどの威力の魔術を使った物はいなかった。精々が的を破壊しつつそのまま後方の壁まで直撃させた奴がいたくらいだ。
そいつは確か学年主席のカール・フォン・アルタウスだったな。つまり、2位の奴と言う事になる。今頃他のクラスでもちょっとした騒ぎになっているだろう。

「す、すげぇ!Aクラスどころか学年主席をも抜いて1位……」
「もしかしたら俺たちも……」
「俺、Gクラスに入って諦めてたけど希望が見えてきたよ!」
「早速魔術の強化をしなくちゃ!」

クラスメイトは俺が1位を取った事実を喜んでくれた。同時に自分たちにも伸びるチャンスがあると感じたようだ。別にそれが悪い事ではない。魔術師は向上心が命だからな。この調子で皆も頑張って欲しい。

「す、すごいです。エルナンさんがここまでの実力者だったなんて」
「凄いな~。私も1位になりたい!」
「……おめでとう」

ルナミスさん、レギーナさん、アンネさんの順に声をかけてくれた。ルナミスさんは敬意、レギーナさんは羨望、アンネさんは分からないが本心から言っているのは理解できた。アンネさんはいつも無表情で何を考えているのかは分からない。知っているのはレギーナさんと同じく帝国貴族で家ぐるみで仲が良い事ぐらいだ。
さて、1位を取った事は意外だったが取ってしまったものはしょうがない。諦めて注目の的になるか。心配なのは嫉妬に駆られてよからぬことをするような生となり教師が出て来ないかという点だ。人間は大なり小なり嫉妬や恨みなどの負の感情を持っている。それを抑えられるかは人それぞれだが中には負の感情のままに動く者もいるだろう。
なんにせよそう言った者たちが現れない、最悪でも俺以外のクラスメイトに手を出さないことを祈るばかりだな。
 

 

第十二話「決闘」

「エルナン・ハルフテルはいるか!」

定期テストの結果が出てから三日が経った頃、Gクラスの教室に一人の男がやってきた。整えられた金の短髪に鋭い目つき。そして体中からにじみ出る圧倒的な覇気。明らかにただの生徒とは言えない姿であった。

「……俺だけど」
「お前がそうか」

俺はこの三日の間に慣れてしまった返事に溜息をつきたくなる。
この三日の間にGクラスには他クラスの生徒が殺到した。全員が「エルナン・ハルフテルは誰だ!?」と声を上げておりその度に俺は答えていた。幸いいちゃもんを付けられることは無かった。既に二重魔術を俺が使ったという事実が出回っており明らかに格上の俺と戦おうとする者は現れなかった。その為俺を見る度に「何でお前みたいのがGクラスにいるんだ!」と声を荒げるだけだったな。一回だけ「どんな卑怯な手を使ったんだ!」と言っている奴もいたが運悪くHRの時間となりディートハルト先生に説教を食らっていたな。
今回もその類かと思い朝から憂鬱な気分になっていた。

「俺はカール・フォン・アルタウスだ。今年の学年主席と言えば分かるか?」
「ええ、存じてますよ。で?その学年主席様がなんの用ですか?」

カール・フォン・アルタウス。定期テストで2位だった奴だ。そして、自ら名乗った通り今年の学年主席であった。噂によると二重魔術を使用できる人物だとか。つまりこいつはこの時点で既に一人前の実力を有していると言う事になる。
……まあ、複合魔術の中で一番簡単な二重魔術を扱えるくらいで一人前と言われている現状だ。魔術師の家系とかならこの位で出来るのだろう。俺の場合は魔術抵抗のせいで使った事は無い。テストの時が初めてだったからな。魔術が使えないなら知識だけでもと調べまくった結果だ。

「まずは定期テスト1位おめでとう。まさかGクラスの生徒に抜かれるとは思わなかった」
「そりゃ、ね。誰だってそうでしょ」

実際入学してから最初の定期テストでGクラスの生徒が活躍した事はないそうだ。これはディートハルト先生に聞いた話だけどどんなに良い生徒でも380が現界だったらしい。

「それで?わざわざそれを言いに来たのか?」
「まさか。確かに今の言葉は本心だが狙いは別にある」

そう言うとアルタウスは俺に向けて指をさしてくる。

「エルナン・ハルフテル!カール・フォン・アルタウスは正式に君に決闘を申し込む!」
「何……っ!?」

まさかの言葉に俺は驚くも同時に成程とも思った。今の今まで文句しか言ってこない奴ばっかりだったからな。いつかこういう奴が来ても可笑しくはないな。

「別に構わないが今やるのか?」
「いや、既に場所は取ってある。学園内にある第一競技場で行う。日時は明日。どうだ?何か言いたい事はあるか?」

成程、断っても無理やりにでも参加させるつもりだったか。これでは相手が用意した土俵で戦うことになる。明らかに俺が不利だ。
俺はルナミスさんの力がなければ大した魔術も使えないが相手は今年の学年主席にして既に二重魔術を使える魔術師だ。このまま戦えば敗北は確定となる。……心苦しいが頼んでみるか。

「……放課後、もう一度来てくれ。その時までにこちらの望みなどを確定させておく」
「分かった。一応言っておくが今回の決闘は俺が君の実力を確認したいがために行われる物だ。こちらがなにか要求する事は無いから安心してほしい」
「それはありがたいね」

アルタウスはそれだけ言うと自身の教室へと戻っていく。そして入れ替わりでディートハルト先生が入って来た。

「ん?なんだ。どうかしたか?」
「い、いえ。何でもないです」
「そ、そうです!何でもないですよ!」

ディートハルト先生は状況が分かっていないようで俺が誤魔化すとクラスメイトがそれに続いてくれた。ディートハルト先生はその様子に眉を潜めつつ教壇に立った。

「んじゃ、早速HRを始めるがその前に……。ハルフテル」
「は、はい!」
「お前に決闘状が届いているぞ。相手はAクラスのカール・フォン・アルタウスだ」

どうやら既にディートハルト先生の許可も貰っていたようだ。これじゃ完全に事後承諾じゃんか。まぁ、ディートハルト先生も「目立った以上決闘なんかが来るだろうが俺のところに来る者は全て通すからな」って言っていたな。
ディートハルト先生は口調はかなり投げやりだが生徒思いなせんせいだということはわかる。そしてその言葉も俺なら出来るという信頼の者なんだろう。とは言え最初の決闘が学年主席になるとは思わなかったけど。

「場所は第一競技場、日程は明日の放課後だ。準備しておけよ」
「はい……」
「安心しろ。後で細かいルールなどを教えてやる。それに相手は学年主席だ。決闘の中で見えてくる物もあるだろう」

確かに、実戦程いい鍛錬はないけど最初にしてはいきなりすぎますよ。何で学年主席なんですか?BやCとかじゃないんですか?それだって素の俺からすれば格上なのに。
俺はそう心の中で呟くが決して口には出さずにそのまま飲み込むのであった。