魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers


 

第1話 始まり

 
前書き
長いだけの物語になるかもしれません。ですが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
 

 
――side?――


 木々の枝を飛び跳ねながら駆け回る。視界の端に映るモニターにはこの辺りの地図が展開され、敵と思われる赤いアイコンが蠢いている。

「……多いなぁ」

 思わずというか、もう何度目になるのか分からない位同じ事が口から漏れた。森の枝を飛び跳ね、辺りを見渡す。両腰に差した俺の二本の刀の()をした物がベルトにつけた留め具にあたって鳴る。
 ふと、通信ウィンドウが開いたと思えば。

『そちらに4機居ます!』

「はいはい。わかったよ……っと!」

 同僚から通信を受け、地面へと飛び降りてもう一度周囲を見渡す。すると近くの茂みが大きく揺れ、丸っこい形をした無機質な大きな塊がまず2つ、その後を少し遅れてもう2つ、計4つが出て来る。
 現れたとほぼ同時に、前衛二体がレーザーを撃つ為にその大きなレンズが光る。レーザーが着弾する前に、その動きを見切って一気に接近。
 前の二機とすれ違う瞬間に刃を通し、その勢いのまま、丸っこい奴らの群れの背後を取ったと同時に後衛二機にも刀を通す。
 同時に動きが止まったのを確認して、今しがた通した刀に目を向けて。

「んー、やっぱりまだ脆い……な」

 刀に罅が入ってるのを見つけて軽いため息を吐く。諸事情とはいえ、一応見た目は刀だけど中身は刀とは呼べないほどの刀もどき。無理やり斬り通しているせいもあって直ぐに罅は入るわ、折れるはで何時も困る。幸い修復しやすいものだから融通は聞くが……まぁ、仕方ない事だと割り切って。
 けど、それ以上に。

「……話は聞いてたけど、これがAMFか。面倒だなー……他の面子の場合、苦戦はないだろうけど、魔力少ねぇと余計に大変だわ」

 大きくため息が漏れると共に、真っ二つに割れる。斬った対象、通称ガジェットドローンの残骸を眺めて、改めてこんなのが量産されているという現状が嫌になる。アンチ・マギリング・フィールド(AMF)という発動する対魔術師向けのジャマー。魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御。
 その上、内蔵電源から殺傷能力のあるレーザーを発射する上に、他にも色々バリエーションが多いとか何とかで、並みの魔導師では相手にするのは厳しい、とのこと。

 正直、俺も並の……というか平均行ってないんだけど。今ん所頑張って魔導師ランクA-になってはいるが、魔力保有量はCも無いから、射撃系等全くできないし。身体強化とその延長の飛行しか出来ないから、ただ近づいて斬るってことしか出来てないし。
 今は少ないからなんとか身体強化の魔力を操作が効くが……大きいのが来たら面倒だなぁと。

『そちらから8時の方向にも幾つかの反応と、ロストロギアの反応があって、機動課の魔導師がそちらに向かいました』

 通信が入って来て、その内容に耳を傾け、同時にモニターを複数展開し他の面子の様子も伺う。戦況は思わしくないけれど、皆上手くガジェットを捌いているようで、モニターの端々に残骸が写っている。

『なので、コチラではガジェットの各個撃破を続けますので、そちらに合流して下さい。くれぐれも無茶をしないよーに。奏さんと震離さんに念押しされているので』

「はいはい。分かった分かった。そっちも他の奴らのフォローを頼んだよ。じゃ」

 最初の方は事務的な連絡だったけど、後半に行くにつれてどんどん砕けたような話し方に変わってきて、思わず吹き出しそうになる。理由は単純で、今ここが戦場で、そんなリラックスしたような会話を聞けるとは思えなかったからだ。特に、今オペレートしている子は、ついこの間入ってきた新人の子だから余計に笑っちゃいそうだ。
 でも、吹き出しそうなのを抑えて、直ぐに移動を開始し、先程言っていたガジェットの反応と、ロスト・ロギアの反応が合った場所へと移動を開始する。

 と言っても、割と近くにいたお陰で直ぐにその付近へと到着し、辺りを見渡す。

「とりあえず、色々音は聞こえてるから……って、何だ?」

 突然、木々の隙間から、上空にいるはずの俺の直ぐ側までに青い道の様な物が何本も現れ、それと同時にエンジンを吹かすような音が聞こえて――

「ディバイン……バスター!!!」

 突然、青い砲撃が茂みより現れる。

「危な」

 慌てず冷静に少し横にずれて回避する。
 加えて、現状落ち着いて来たとは言え、ロストロギアを回収した機動科の人達の事を考えれば、結構不味いのではないかと考える。
 理由は単純。今襲ってきているガジェットドローンは、ロストロギアにつられて来ているのだから、それを確保した機動科を狙うのは当然で。
 周りに人の有無を確認せずに砲撃したということは……。

「合流して、退避行動とらせないと」

 直ぐに砲撃が飛んできた方向に移動を開始。遠目で確認出来たのは、オレンジ髪のツインテールに青の短髪の女性と、背が低いが赤髪の少年にピンクの髪の毛の女の子がガジェットと交戦してた。多分、青い道を走ってる子が、さっきの砲撃でガジェットを粉砕したんだろうな。現に青い道を作ってるし。
 おそらく……いや、ほぼ確実だろうな。あれが『機動六課』の隊員だ。それを踏まえてよく観察してみると、ピンク色の女の子が何やらケースを守って戦ってるし、その子を守るように他の三人も動いてる。
 良い連携で、中々統率も取れてて素直に感心する。
 普通はあんなに上手くは出来ないと思う。全員個人所有っぽいデバイスみたいだし、スタイルも4者とも違う。それを上手く纏めてるのは……あぁ、オレンジの子か。すごいなほんと。

「いけね。見てるだけは良くないな……援護に回りますか」

 身体強化をやりながら、更に両の手足を集中的に強化を施す。さっきの戦闘でコチラの手持ちの刀に罅が入ってるからというのもあるけど、AMFが展開されてる状態だと、少し面倒だというのが改めて理解出来たから。
 それらを踏まえてきちんと魔力を練れば、一応飛べるし、身体強化も発動できるから、今の所は、まだ脅威にはならない。
 さて、

「スティール8より管制へ。機動課の隊員を見つけた。合流して退かせるから退路の指示を」

『はい。退路図を送り致します。途中で問題が発生いたしましたら、独自の判断で動いてくださいね!』

「……いやいや、ダメだろ、それは」

『貴方だからいいんです。後、機動課の方が持っているロストロギアに反応してか、まだ交戦されていないガジェット群がそちらに向かいつつあります。早めに退いて下さい。では!』

 そう言って通信が切れると同時に、目の前にモニターが開いて。今いる地点からの退路図と、周辺のガジェットの散布図が展開、更新された。周辺の戦線のガジェットは、少しずつ減ってきているけど、まだ交戦していないガジェットがこっちに……いや、正確には、あのロストロギア目掛けて、集まって来てる。
 機動課の面子の様子を見ると、互いをカバーしあって上手く戦ってるけど、これも時間の問題だろう。徐々に押されつつ……や、なんか違うな。
 赤い子を下げて、オレンジと青い子が前に出始めて……なんだ? 
 一度掃討して、封印処理を進めさせるのかな? でも、それは中々しんどいが……。

 無理させる位なら。 

「行くか」

 呼吸を整え、一気に接近。
 同時に、近くに居たガジェット数体に刀身を通して、そのまま、四人のいる場所へと移動。その勢いのまま、今にもレーザーを撃とうとしていたガジェットに、拳に魔力を込めて――

「捉え……たっ!」

 回り込んで、一気に打ち込み、ガジェットを吹き飛ばし、近くに居たガジェットにぶつかって爆発する。それと同時に、四人とも俺に気づいたのか、一瞬だけ戦闘が止まる。

「こちら、スティール8。ここから退きながら援護するから、宜しく俺は―――」

 そう言った瞬間、降りてきた時に切ったガジェットが爆発して、自分でも名前を聞き取れなかった。けど、まぁ、いいか。とりあえず撤退することが大切だし。 

「支援に感謝します。撤退しますのでよろしくお願いします」

 俺がそう言うと、止まっていた戦闘が、直ぐに再開された。同時に俺も動いて、子供二人のそばへと掛けより、寄ってくるガジェットを迎撃する。

「え……? あ、はい!」

「ありがとうございます!」

 近くで戦闘してると、子供二人から御礼の言葉が飛んできた。
 うん。なんというか、すっげぇ初々しいな。こっちも交戦しながら、近くにいるこの二人の子供を見てみると、女の子の方はブースト型のデバイスに、なんかちっこい龍を使役してるし、男の子の方は武器から見て多分近代ベルカ式のようだけど……、如何せんまだ子供って言う点で、少しずつ押されつつあるな。前で戦ってる二人も、慣れているっぽいけど、練度が高くて驚く。

「邪魔にならない程度、に!」

 目の前に現れたガジェットに刀を通す。同時に、持っていた刀に更に罅が入るけど、それよりも先に、前にいる二人に声を掛ける。

「退路は確保出来てます! お先にどうぞ!」

「……はい!? ……了解しました!」

 とりあえず、退いてくれと言っただけなのに、前にいるオレンジの髪の子の眉間にシワが寄ったのがわかった。いやまぁ、俺もちゃんと所属言ってないけど、それがここまで影響するものなのか、はたまた別の要因か。

「スバル、タイミングを言うから直ぐに下がる! エリオはキャロの防御に、キャロはそのまま処理を進めて。良いわね!」

「わかった!」

「「了解!」」

 テキパキと指示を出す辺り。やっぱすげぇなこの子。あれよか年が下っぽいのに、指揮官適正あるのか。すげぇな。

(協力感謝です。一応この先にコチラの部隊がいるから、そこまで進んで下さい。君等四人が先行して、こちらが殿だ)

 オレンジの子に念話で伝えると、コチラを向いて。

(了解しました。私達……私も殿をしたほうがいいと思いますよ? コチラのフロントとガードを遊撃に、フルバックが封印処理を行なってますし、加えて遠距離魔法の方がリスクも少ないですし、迅速にいけます)

 ……わぉ。すげぇありがたい。けど。

(普通ならそうですが。ロストロギアの確保してくれたお蔭で、ガジェットから集中的に狙われてて、申し訳ないというのが強いんですよ。それに元々こちらの不手際で、こんな事になって他所様の部隊の子を怪我させたとあっちゃ申し訳ないんですよ。
 ただでさえ、確保して狙われて負担強いてるのに)

 そう伝えると同時に、オレンジの子の顔を見ると。納得いかないって様子で、少し考えた後。

(……了解しました)

(ありがとう。それじゃあ、行くか!)

 無事説得できて、正直ほっとする。ちゃんと聞いてくれて有難い。 

「皆、行くわよ!」

 オレンジの子の号令と共に前に居た、スバルと呼ばれてた青い子と、エリオという赤い髪の子が下がると同時に、前に出る。同時に向かってくるガジェットに、途中にあったガジェットの残骸を蹴り飛ばして、擬似的な壁を作る。あくまで殿という役目を背負っているから、コレ以上の攻撃はしない。ガジェットの方も急な撤退に対応しきれていないのか、動きが先程よりも雑になり始めた。

『管制から、スティール8へ』

「こちらスティール8。どうぞ」

 突然俺のデバイスを通して、管制から通信が入って思わず身構えるけど、声を聞く限りかなり安心しているようだから、こっちも少し安心する。 

『ほとんどのガジェットを殲滅し、各小隊をコレよりそちらの援護に向かいます!』

 流石。だけど。

「いや、それよりも機動課の面子と合流を優先。封印処理さえすれば多分ガジェットも引くだろうし。何より他所様の部隊の人を怪我なんてさせたら元も子もないしな」

『あ、りょ、了解です。あ、はい。各小隊に通信を入れますね!』

「了解。宜しく」

 こっちの思ってることを伝えると、急にどもり始めた。
 と言っても、多分隊長からの指示を伝えたのに、俺が違うことを言ったからなんだろうな。で、通信を入れてくれるって言うことは、俺の意見というか頼みというか、まぁ、それが隊長に認められたんだろうな。というか、うちの隊長、自由だからなぁ。まぁ、俺の指示が通る段階で、信用してくれてるんだろう。
 本当にありがたいよ全く。

「さ、というわけで。もうちょっと相手してもらうぞ」

 絶えず動きながら、ガジェット相手に言葉を発して、再び戦闘を再開した。


 ――sideティアナ――

 黒髪の長髪の男が指示したポイントまで、皆で移動して、やっと着いた。殿を務めるとか言ってたのに、全くついて来なかったけど、多分未だにガジェットと交戦しているんでしょうね。
 あの男が付いてから追撃はなくなったわけだし。突然の指示だったから、従ったけど少し腹が立つというか、なんというか。正直嫌だった。
 波状でガジェットが来るのは判ってたし、キャロの封印処理ももう少しだった。
 その上、スバルもエリオもまだいけたし、私自身もまだ余裕はあった。だから、一旦掃討してからって考えてた。
 元々、なのはさんたちからは、ガジェットになれてない人達のカバーをと言われてたんだし……それをこなしていたのに、あんな言い方されたら従うしか無い。

「ティア? 大丈夫? 他の戦線も戦闘が終わったみたいだよ」

 そんな私に気づいたのか、スバルが近づきながら話しかけてきた。指定されたポイントまで下がったと同時に、キャロがロストロギアを封印して、私がその護衛。スバルとエリオが警戒して、どうやら封印されたと同じ頃、敵も撤退したらしい。

「そう、皆お疲れ様。キャロも封印ありがとうね」

「はい! でも、アレはレリックじゃありませんでした……どうして、ガジェット達はあれを狙ってきたのでしょうか?」

 んー……そうなのよねぇ。ロストロギアの出土はわからないことよねぇ。

「……まーそれはシャーリーさん達がきっと調べてくれるし、ロストロギアには違いないし無事確保できてよかったぁ」

 ふにゃっとするスバルの表情につられて、エリオとキャロの顔も少し綻んだ。
 ……まだ作戦中だって言うのにバカスバルは……だけど。

「そうね。取られていたら良いことには使われないだろうし、とにかく任務完了よ!」

「「「完了!」」」

 私がそう言うと、スバル達も同じように言ったのが妙に気恥ずかしい。けど、それはすぐに忘れて、さっきまでいた黒髪の男の事を考える。
 元はといえば、今回のこの任務は、本局第6武装隊の模擬戦中に出土したロストロギアの回収任務だ。もっと細かく言えば、ロストロギアが現れたと同時に、ガジェットも現れて、その反応を六課がキャッチして、そのまま正式に第6武装隊の隊長からの要請で、私達がここに来たというものだ。
 だから、あの男もその部隊の一人なんだろうけど。なんというか、腹立つ。私たちの前に現れたと同時に、ガジェットを瞬殺して、私達に指示を飛ばした段階で、少なくとも普通の武装局員なわけがない。歳もそれほど離れてた様子もないけど、あの立ち振る舞いを見るとそこまで上の階級ってわけでもなさそうだし、何だろう。少し気になるわね。

「ティアナさん」

「え、あ、どうしたのエリオ?」

 一人で考え込んでいると、エリオが声をかけてきて慌ててエリオの方を向くと、そのエリオも別の方を見ていて、その先を見てみると。遠くから誰かがこっちに向かって走ってきた。遠目から分かる位、小柄な白髮の子だ。そして、こっちに着くと。

「は……ゲホッゲホッ……! あ……その……私……本きょ……第……6……武そ……ゲホッゲホッ……隊……の」

「あぁあ、大丈夫ですよ。落ち着いて下さい」

 隣に居たスバルがいたたまれなくなって、駆け寄って背中を摩る。しばらくそのままさすってもらって、ようやく落ち着いたらしく、しっかり私たちの方を向いて。

「申し遅れました、私は本局第6武装隊のオペレーターを担当しています、カナタ・イズミ一等陸士と申します。そして、今回の件。本当にありがとうございます」

 自己紹介をしながら敬礼をして、直ぐにその手を下ろして、そのまま頭を下げてきた。正直戸惑ったけど、こっちも直ぐに敬礼を仕返す。

「コチラこそ援護をして頂きありがとうございます」

「いえ、本来ならば私達で片付けなければならない問題に、機動課の皆さんの力を借りてようやく事態の収集に当たることが出来ました。本当にありがとうございます」

 なんか、何度も何度も頭を下げられると逆にこっちが申し訳なくなってくる。それよりも……

「あの、いいですか?」

「え、あ、はい。私に答えられる範囲ならいいですよ」

「どうして、こんな事になったんですか?」

 とりあえず、一番気になっていることを質問する。初めの内は正直、なのはさんのもとで強くなったって思っていたけど、途中で現れたあの黒髪が自分達よりも強くて、判断能力も高いということに気づいてからは、正直疑問しか残らなかった。

「あ~……多分ある程度伝わっていると思いますけど、模擬戦やっていたんです……。その内容がうちの部隊に入ってきた新人の子達の対抗戦だったんですよ。それが安全が確保されたという知らせを受けての行動だったんですが……」

「……はぁ」

 内容としては何となく理解できるけど、それでも腑に落ちない点がいくつかあるし、正直そんな理由だと思いたくない。

「本来ならうちの部隊の上の人達も付くはずだったですが、タイミングが悪く、殆ど他の部隊の要請で駆り出されていたんです。そして、今回たまたま残った人が数人にて、戦闘に参加してもらったんですが。ガジェットと初めてという方が多く。ぶっちゃけると対応できて、尚且つ指示を出せていたのが一人しかいなかったんです」

「あ、それがあの黒髪の人なんですか?」

 そこまで聞いてようやく納得できた。なるほど、あの黒髪の男はそこそこ階級が高くて、強い人なんだと。だけど、帰ってきた答えは。

「はい。そうなんですが……あの人は、多分名乗ったと思いますけど。階級は空曹で、魔導師ランクはA-です。そして、今回動けた人たちの中で一番階級が低くて、一番ランクも低いんですよ。それでも指揮能力等が高くて、下手な尉官よりも遥かに頼りになるんですけどね。うちの部隊でも、彼より上なのに、指揮について教えてもらってる方もいますし」

 ……空曹? A-? 一番低い? ……は?

「え? えぇぇ!?」

 予想していた答えと違う上に、ランクが一つ上だということを聞いて、本気で驚いた。スバルやエリオ達も同じようで同じように驚いてる。正直予想していた階級はあっていたけど、何より驚いたのがランクが私達より一つ上だという点だ。何でA-で、あんなに手慣れてたのよ? 
 その事について、質問しようとしたら、目の前にいたあの人――もとい、カナタさんの目の前にモニターが突然開いて、そして。

『すいません、カナタ一士。色々確認作業を取りたいので至急戻って下さい』

「あ、はい。了解です」

 そう言うと、直ぐにモニターが閉じて、コッチを向いた。

「というわけなので、申し訳ありませんが、私はコレで戻りますね」

「あ、いえ、そんな」

「気になさらないで下さい。今回は本当に有難う御座いました。それでは、失礼します。近いうちにお礼の品でも送らせて頂きますね。では!」

 そう言って、ペコリという音が聞こえそうな位頭を下げてから、元きた道を走っていった。そしてふと思う。結局あの黒髪の人の名前は分からずじまいだったという事に。

 ……それにしてもよくよく考えれば妙な点がある。
 本局の部隊が、無人世界で模擬戦をする。それ自体はまま有ることだから問題はない。
 でも、わざわざそれを機動六課(私達)に、もっと言えば本局がわざわざ地上に居る支部に要請を出したということ。
 あまり深くは考えたくないけど……ちょっと分かんないことばかり。

 
――side?――

「あ~……だるい」

 模擬戦監修の疲れというか何かがドバっと出てきたのか、凄くだるい。
 機動六課の子達を送るためにガジェットと戦闘して、上手く捌いたけど。問題がその後に来たんだ。六課の子たちと合流して色々話とか聞きたかったのに、戦闘の結果とか、ガジェットの残骸集めるってだけなのに、うちの部隊の消耗が凄くて、結局ほとんど俺一人でやる羽目になった。
 幸い、動ける人達が助っ人でやってきてくれたのはありがたい事だったが、やっぱりガジェットって中々脅威だな。
 本当なら、お礼とかいいたかったし、無事に引けたとかそういうこと聞くことが出来なかった。
 
「……って、いかんいかん。これが終われば休みだ。こんな事で台無しにしちゃ勿体ない」

 柄にも無く、イライラしてしまうけど直ぐに切り替える。
 他の小隊の面子は、対ガジェット戦の演習に参加とのこと。なんでも機動六課に負担を掛けすぎたからって、そう考えるのは中々良い事だと思う半面。改めてあの子らのポテンシャルの高さに舌を巻く。あれでまだBランク帯だっていうんだから、先が明るいわ-って。
 うちもそこまで弱くはないが、あまり交戦経験がないのが祟ったなーと。

 俺も参加だったらアドバイスとかしたけど。やること有るし、明日休みだし……とりあえず目の前の仕事を終わらせましょうかね。
 よし、そうと決まれば。

「さっさと報告終えて、仕事を片付けます……か~」

 これからの予定を立てて、軽く背伸びをしながら呟いてみる。一人部屋だからいいけど、誰かいたら、絶対におかしな人とか思われそうだな。
 さぁ、隊長室へ参りますか!


 ――――――


「は、異動? このタイミングでですか?」

 目の前に隊長がいるにもかかわらず、思わず何言ってんのといった感じで、聞き返してしまった。
 正直、この部屋に入ったと同時に、隊長が良い感じに笑ってたから何となく嫌な予感はしてた。うん。
 そして、色々許可がほしいんですけどっていうよりも先に。一言。「……機動六課に異動なんだけど、いい?」なんて聞かれてしまった。いいも何も多分もう決まっていることなんだろうと、半分くらい諦めてるけどね。
 そして、その隊長――もとい、元上司のティレット・ラートゥスさんはと言うと。

「……うん。ただ、いくつか理由を聞いてくれると有難いんだけど?」

「……えぇ、別に構いませんけど、いくつ理由があるんですか?」

 苦笑いを浮かべながら、指を二本立てた。要するに2つ理由があるということだ。

「一つは俺の個人的な考えと。もう一つはすごく大真面目な理由。一応この部屋に盗聴器とか無いかちゃんと確認したほどだしね」

「へぇ……わかりました」

 苦笑いを浮かべた顔から、一気に真面目な表情へと変わって、本当に大切な話なんだと理解する。

「俺の個人的な考えは一つ。機動六課が何かに対して警戒しているから、ちょっと行ってきてくれよって話だよ」

「何かって……何ですか?」

「さぁな。それはまだ分かっていない。けどお前の親友の一人から話というかメールが届いてたろ?」

 そう言えば、昨日かその前に来てたなーと。隠し言葉でちょっと気になることが出来たって、書いてあったが。任務中には見れなかったなーと。

「はい。でも昨日任務中に来てたので、この後見ようと思っていました」

「そうか、だったらいま見てみろ」

 そう言われ、デバイスを操作する。俺の目の前にモニタが、表れ、そこには例のメールの文面が表示されている。そして、しばらくその文面を読み進めると。

「……へぇ」

「気づいたか。中々面白いことが書かれているだろう?」

「えぇ、コレは凄いですね」

 モニタを消して、隊長の顔を見ると。腕を組んで、不敵な笑みをうかべている隊長がそこに居た。そして、ゆっくり口を開いて、

「機動六課の設立には、かの伝説の三提督、管理局のトップも関わっているんだ、とさ。それを今朝見てな。それでお前と後二人を異動させようと決めたんだ」

 ……確かに、ただの部隊の設立に伝説の三提督が関わるとなると、なにか有るなこりゃ。

「では、もう一つの理由。隊長が大真面目と言ったほどの理由とは何ですか?」

「あぁ、それはな――」


 ――――


「そう……ですか」

「あぁ、本当ならば、最初の俺の案だったら、二人か一人の何方かだったが、今回は全員で行ってもらうことなんだ。お前と奏、その親友である震離はうちの部隊にとっちゃすごく大切な、エースの一角だ。
 その三人を六課に送るということは、さっき話した「やばい事」が本当に起こりそうだから送るんだからな。それにもしそれがただの取越苦労だったら、それが一番いい事だしな」

 隊長の話を聞いて、頭の中は納得出来た。隊長が言った『やばい事』が本当に起こった場合に備えて俺らを送る。その上何の偶然か、あの『四人』も機動六課にいるんだから。
 だけど。

「……隊長。俺は……貴方達に買いかぶられる程の人間ではありません」

「違う。お前はそれほどの人間だ。少なくとも俺なんかよりももっと上にいける。俺は、お前の――いや、お前たちの事情は知っている。だから!」

「異動の件。了解しました」

 隊長の言葉を遮る。隊長が気を回してくれていることも、『俺達』を気にかけていてくれることも知っている。だけど、だけど俺は。

「……隊長……前にも言ったと思いますが、俺は親友を見捨てて生き延びた屑ですよ、買い被らないでください。
 基本的に黒いんですから、俺達は。
 それでは、緋凰(ひおう) (ひびき)、そして他二名。機動六課へ異動します」

 敬礼をしてから、隊長から逃げるように、扉へと向かって行った。そして、扉から出る時、隊長の方へ振り返って、もう一度敬礼した時に見えた隊長の顔は悲しそうな表情だった。
 色眼鏡なしで、黒い噂も気にしないで、何なら俺たちの状況もある程度知ってて……それでも信じてくれた人。

 申し訳ないですティレットさん。何も縛ってるものがなければ良かったんですけどね。

 さ。最後のお仕事ちゃんとこなすかな。

 それにしても。もしかしてわざとパイプ創るために、ロストロギア流したってことは……無いな。
 接触したかっただろうけど、偶然にしては妙な作為が……深く考えるのやめようか。




――side?――

時空管理局・特殊鎮圧部隊

表だって行動することができないこと……また、管理局が直接、関わることができないことをする部隊。つまり、裏の仕事。
 その部隊の……特殊鎮圧部隊の隊長室に、二人の人物がいた。それは一人の老婆と一人の女の子のような顔立ちをした少年が、そこで会話をしていた。

「……自分が異動、ですか?」

 不思議そうな声で目の前に座る人物に声を掛け、目の前の人物もまた、その声に答える。

「……えぇ。そうよ」

「……一応聞いても良いでしょうか? 何故、今の時期に異動など……最近色々動いていますのに」

 不思議そうに首を傾げる少年に、老婆……いや、隊長は微笑みを浮かべてながら手元のパネルを操作しながら、

「……先日、レリックを輸送中だったモノレールが、ガジェットに襲われたというのは、知っているわね?」

 話を振られた少年は一瞬考え込み、思い出したのか視線を隊長へと戻す。

「はい。確か、その事態の収拾を行ったのは、新設部隊の……機動六課……でしたか? ロストロギアの回収を主にと伺っていますが」

「そう。そして、そこに現れたガジェットの……新型であるⅢ型の残骸調査を行ったところ、興味深いものが二つ発見されたの」

「……なんですか?」

 ピクリと少年が反応した。それを確認して静かに語る。

「一つは、その動力源となっていたもの……ジュエルシードよ」

「……ジュエルシード? あぁ確かPT事件のロストロギア……管理局で保管されているはずですが?」

 ため息混じりに話す隊長の言葉をただ、静かに耳にし、率直な疑問を投げかける。隊長も困ったように眉間に皺を寄せて、言葉を口にする。

「そう。本来ならば。外部からならまだしも、管理局内部の人物による、ロストロギアの不正持ち出しも考えられる……でも、もう一つの発見と繋がるとなると、厄介なことになるかもしれない」

「もう一つのは……いったい何なんですか?」

「ご丁寧に内部基盤に、そのガジェットの制作者の名前が付けられていたの。その名は……ジェイル・スカリエッティ」

 先程からいじっていた手元のパネルを操作が完了し、少年の前にガジェットの内部の写真を写したものを少年に見せながら話を勧める。

「……ジェイル・スカリエッティ? あぁ……あのプロジェクトFの元を作った人で、造魔導師計画と戦闘機人計画の人。この部隊のターゲットの一人だったと思いますが?」

「そう、スカリエッティが動きが確認されたのと同時に、うちに子達にも、ナンバーズ達と遭遇したって言うのが出てきたの」

「ナンバーズ?」

「そう。彼女らが動き出した以上、管理局に何かしら手を回すと思うの……そのために、あなたは異動になったの。ナンバーズについては、この資料を確認しなさい」

 再び手元のパネルを操作し、少年の前にモニターを展開する。
 少年の前に映し出されたモニターには、青いスーツを身につけた銀髪の少女のような人物が映し出され、ソレを少年は見ながら、

「……了解しました。そして、その異動先というのは?」

「感づいてるとは思うけど。機動六課だから」

 ニコリと笑みを浮かべながら、移動先を告げる老婆の……いや、隊長の言葉に、目の前の少年は一瞬固まったものの、直ぐに落ち着きを取り戻し、隊長の顔を見るが、その顔は少しだけ呆れてるようでもあった。

「……どうせ断れないんですよね?」

「えぇ、そうよ」

「……しかし、わた……自分はここ以外を知りません。それでもですか?」

「えぇ。だからあなたに行ってもらうの。
 そして、表向きのあなたは武装隊出身で階級は空曹、そして魔力ランクは総合AAA、能力リミッターでAランクまで下げるから。
 それに、あなたの憧れの人というか、あの教導映像の人達も居るわよ」

「……は?」

「えぇ……あと名前もそのままね」

 ニコッと部隊長が笑うのに対し、少年の方は固まったまま動かない。
何かを言おうとするが、まだ固まっていないらしく小さく呻く。

「心配しなくても、武装隊にもあなたの名前が登録されていて、任務でほかの世界に行ってたって事になっているから」

「……え、い……や、あの……」

「そうね。後は六課でのあなたの任務は、ジェイル・スカリエッティの拘束ね。
 前もって話して置くと、六課には『プロジェクトF』の遺産……フェイト・T・ハラオウン執務官に、エリオ・モンディアルの二名が居るし……あぁ、アルザス出身の竜巫女の女の子もいる。
 まだ、あちらも掴んでないかも知れないけれど、戦闘機人だって居るわ。
 それらも含めて。ある意味、最もスカリエッティが狙う部隊だと思うからね」

「……はぃ?」

 部隊長の情報量についていけず、少年の視線が右往左往と泳ぐ。

「あなたの異動はもう決定事項なの……早く準備して行きなさい。
 大丈夫よ。きっといい影響しかないだろうし、何より実力も申し分ない。」
 だから行きなさい風鈴(ふうりん) (ながれ)、機動六課へ」

 泳いでいた視線が定まり、隊長へと向けられる。
 一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに視線は下がり。

「隊長……私を武装隊に登録してたってことは……いつか私を外に出すつもりだったのですか?」

隊長からは見えないが、今の少年――――いや、流の顔はどことなく、寂しそうな目をし、視線を落としている。

「……ただの保険よ、あなたが気にすることでではないわ」

「そうですか……自分が……私が行けば部隊の人たちは死ぬかも知れませんよ……?」

「だれも死なないわ……二度も起こることではないもの」

「……わかりませんよ……私が行けば、また、あの時のようになりかねません。
 それでは、行ってきます。隊長、また……またここに来られることを願っております。」

 寂しそうに。名残惜しそうにつぶやいて、流は部隊長室を出て行った。

 ―――

 流が出て行ったその扉を眺めつつ。老婆はクスリと笑みを浮かべる。

 手元のコンソールを操作すると、違う資料のデータが表示される。そこに表示された文面を見てさらに笑みが深くなった。

 ―――元・特殊部隊第13艦隊主力、起動六課に集結中。

 ブツリ、と電源が切られた。



 

 

第2話 異動と挨拶

 機動六課の食堂にて、四人の男女が食事をとりながら話をしていた。
 食堂ではモニタからニュースが流れているが、現在は政治経済の時間のようで、管理局の予算について放送されていた。ちなみに内容は一部局員の給料カットに関することだ。その内容に四人の表情が若干沈み、重苦しい雰囲気が立ち込める。

「あ、そういや、今日だっけか、あいつらが来るのは?」

 少しだけ草臥れた茶色い陸士部隊の制服に身を包み、テーブルの上に盛られた、ベーコンや卵焼き、サラダを食べながら、(こう)は何の前触れもなく突然口を開き、食事を取りながら四人の前にモニタを展開し、今日来る予定の響達のデータを表示させた。

「今日だよ今日。ったく、少し調べて、色々情報を送った直後だったからビックリしたよ、まったく」

 食事の手を止め、モニタを見ながら――青年の一人。煌の質問に返事をする少年、優夜(ゆうや)はため息を混じりに言葉を返す。だが、その様子とは反対にその顔はどことなく嬉しそうであり、再び食事の手を進めた。

「そうだね。二つ返事で「三人とも送る! 待ってろ!」って帰ってきたときは思わず笑っちゃったもん。それにしても、久しぶりとはいえ、偶然で四人、からの皆が同じ職場に揃うんだねぇ~」

 優夜の向かい側に座る少女が、苦笑いを浮かべながら相づちを打つが、少女の時雨(しぐれ)の雰囲気は嬉しそうで、楽しそうである。

「そうだね、だけど八神部隊長は六課の監視だと思ってるかも。この部隊がいろんな所から睨まれてるって感じてるみたいだし、事実色々突っつかれてるし。なんか知らないけど中将から来てないのは不思議だけど」

 煌の向かい側に座り、ため息混じりに話す紗雪(さゆき)の表情は、査察……という訳では無いが、地上部隊のお偉い様が来たときのことを思い出したのか、どことなく疲れたような表情である。しかし、今は食事の時だからと、暗いことを考えるのをやめ、煌達三人の会話に加わる。
 四人はそれぞれ静かに食事を取りながら会話をしているものの、その様子はどことなく嬉しそうで、事実、時雨に至っては終始笑顔のままである。だが、その表情はすぐに暗くなった。

「……だけど、もしかすると給料が」

 時雨の言葉に、先程のニュースの内容を思い出したのかその場で食事を取る四人の表情が一気に暗くなった。が、すぐに。

「……言うな……早くご飯を食べよ、今日も忙しいんだからさ」

「……フフ、了解」

 腕を胸の前で組み、深いため息を吐く時雨に軽い注意を促す。そういう優夜も気難しい顔をしながら食事の手を動かした。
 
「だけど、向こうの隊長さんが響達を送ったのは純粋な善意? だとして、四人目はどうなの?」

 逸早く食事を採り終えた紗雪が、口元を拭きながら一つの疑問を投げかける。

「さぁ、地上からの異動みたいだけど、ここ最近まで数年間、別の世界の地上支部で仕事をしてたらしいよ。詳しい事は分からないけど」

 紗雪の疑問に優夜が答えるが、先程の暗い雰囲気から一瞬だけ、目付きが鋭くなったが、すぐに小さくため息を吐き、響達が此処に来ることとなった原因である、自身の調べた情報と、「四人目に関する」情報を言うのをやめ、そのまま食事の手を進めた。
 他の三人も何か考えたのか一瞬だけ手が止まったものの、それぞれがまた手を動かし始めた。すると、隣で食べていた煌が食事を採り終えたのか、展開したモニタを閉じその場で立ち上がった。

「さてと紗雪、俺らは仕事に戻るか」

「ん、そうだね」

 と紗雪も立ち上がりトレイを持って席を離れる。そして、二三歩進んだ後に何かを思い出したのか、小さく「あっ」とつぶやき、煌が振り向いた。

「っと、聞き忘れるところだった、優夜、時雨、夕方暇か?」

 突然の煌の言葉に少し首を傾げながら、この後のスケジュールを思い返し、微妙な表情を浮かべながらゆっくりと首を横に振る。

「悪い、まだ他の面々が仕事に慣れてないせいで、その講習会をするんだ」

「ごめんね、煌、紗雪」

 ため息を吐きながら話す優夜と、顔の前で手を合わせながら謝る時雨。

「そっか、一応要件はちょっと情報交換をしないかって話だったんだよ、最近俺もお前も業務が忙しくてしてなかったし」

「なるほど、だけど悪いな、また今度にしてくれ」

「うん、また今度ね、さ、仕事に戻ろう?」

 優夜の断りの返事に、紗雪が軽く手を振りながら言った。優夜も時雨も軽く手を振ってそれに応え、食堂を後にしようとする二人を見送る。そして、残った二人もまた、ひと通り食事を採り終え、その場を後にした。



――――――――――――



――機動六課・部隊長室――

「はやて、今日例の子達が来るんだって?」

「そうなんよ。まったく、突然でビックリしたわぁ」

「そうだね。それも、本局の子達3人はともかく、もう一人の方が地上部隊からっていうのも、なんか怪しいし」

「大方、機動六課の監視やないかな。それでなくとも、私は多くの人に睨まれとるからなぁ。
 その割に、同郷を当てて来るんわ嫌がらせにもほどがあるんやけど」

 機動六課の隊長室にて、部隊長の八神はやてとライトニング分隊隊長のフェイト・T・ハラオウン、そして、スターズ分隊隊長の高町なのはは話していた。
 問題は、今日来るという人員。そう、響達の事である。
 三人の目の前には、四つのモニターが展開されており、その四つの画面の全てにそれぞれの情報が描き出されていた。

本局第6武装隊所属、緋凰(ひおう)(ひびき)空曹。空戦A-で、能力リミッター無し。

同じく、天雅(あまがみ)(かなで)空曹。空戦AAAで、部隊保有制限により、能力リミッターでAランク。

同じく、叶望(かなみ)震離(しんり)一等空士、空戦AAであり、制限によりAランク。

地上第12武装隊所属、風鈴(ふうりん)(ながれ)陸曹。総合AAAで、制限によりAランク。

 本局や地上の陸曹、一等空士というのは別に珍しい訳ではない。ただ、この時期に別々の二つの部隊が同時に送り出したということが珍しいのだ。特に、機動六課の様な新設部隊に送ってくるとなると、その実態はだいたい、内部調査などであろう。と、3人は考えていた。

「四人とも結構な……や、そうでもないんかな? とりあえず、分けときたいんやけど……この響って子は、小隊指揮の経験があるみたいやし、この子はライトニングの方でええかな?」

「そうだね。なのは達に比べると、私もいつもいられるわけでは無いし、シグナムも聖王教会との間で忙しそうだから、いざというときには、この子に任せてみようかなって思ってる」

「……うん、私もそれには賛成だけど、それより先に、どの程度実力持ってるか判断してからじゃないとね」

「そうだね(そうやね)」

 と、他の三人よりも先に響だけが、ライトニング分隊所属が決定したが、当の本人はまだ知る由もない。



――――――――――――



――side響――



「ん~、鼻がむずむずするな……くそ、くしゃみが出そうで出ない」

 真新しい隊舎を遠目で見ながら鼻を擦り、荷物を下ろして隊舎を眺める。前の隊舎というより、ほんの1週間前までいた、本局の寮が妙に古く見える。ただ、正直今はそんなことどうでもいい。

 もう六課の前だし、早い所、部隊長である八神はやて隊長に挨拶をして、この後のスケジュールや、自分の役割、部屋の割り振りと、荷物を片付けたい。片付けたいんだけど。

「何で、震離いないんだ?」

「さぁ、私はちゃーんと、時間教えたし、万が一に備えて、朝電話入れて今日異動だって確認したし」

「……そうか」

 正直くしゃみが出そうで出ないから少しイライラする。加えて、震離が何でか遅れてることもあって、あいつの心配半分、この後、挨拶したら怒られるんだろうという気持ちが半分ずつある。
 ……と言うより、朝電入れたって、奏が? まぁ、そんな時もあるのかな。
 まぁ、あいつがちゃんとした理由で遅れたんなら、少しはマシになるんだろうけど。それでも、正直異動初日から遅刻は嫌だし、失礼だ。なにより面倒だしな。だけど、本当……

「おっそいなー」

「ん、そうだね……なんかに巻き込まれたのかな?」

「さぁ、それだったら連絡いれるだろうし、それに」

 って言いかけたところで奏の持ってるデバイスのアラームが鳴り、小さな声で「やっときたよ」と苦笑しながら奏が応答した。俺は話半分も聞かずに、ボーッとしてる。奏が話ししてるし、まぁ大丈夫だろうと思ってそのまま、空を見上げる。

 あぁ、妙に綺麗だなぁ……優夜が余計な情報送らなきゃ異動しなくてすんだんだけどなぁ。あ、だけど、久しぶりに7人も揃うしなぁ、なかなかいつもの面子が揃わないから正直嬉しいんだよなぁ。それに抑止力になりえるかもしれないし。

「はぁ!?」

 思考の海で漂っていた俺の意識を一瞬で引っ張り出された。隣で怒りながら話す奏をみる。まだ若いのに、そう眉間にシワを寄せるなよーって言ったら火に油を注ぐ様なものだから言わないで、普通に声をかける。

「どったの? そんな大声上げて?」

「え、あ、ちょっと待って震離。響と変わるから、はい」

「説明なしかよ……まぁ、いいけど……はい、変わったぞ」

 明らかに面倒そうな様子の奏から、奏のデバイスを受け取り震離と話す。

『あ、もしもし……響?』

「おぉ、どうした?」

 妙に他所他所しいな。何時もなら「もしもしー! 響ー?」とか言ってるんだが、今回に限っちゃどうも他人行儀だ。なんかあったなこりゃ。

『あのさ、ついさっき連絡があってね』

「あぁ」

『……ちょっと呼び出されちゃって』

 ……なるほど、それでお前が遅れたのか。

「そうか、それでお前はどこに居るんだ?」

『ついさっきまで、呼び出されて正式に、ね』

「そっか、その命令はあいつらにも?」

『うん、ただあの四人から内部の事が全く無いらしいから、多分、それで』

 ……前線に異動の俺らに、か……。なるほど、あいつのやりそうな事だ全く。だけど、あいつらのことだ。まぁ、問題が起こっても上手く誤魔化してんだろうな。

「そうか、それで?お前は今どこにいるんだ?」

『ん、レールウェイの駅で、後二駅くらい』

「おおよそ30分くらいだな、まぁ一応気をつけてくれ」

『あいよ、それじゃね』

 そのまま通信をきり、奏にデバイスを返す。

「はぁ、命令出すなら直接私たちに言えばいいのに」

 ため息を吐きながら文句をいう奏。まぁ、奏の気持ちも分からなくもないし、それに……

「そう言うなよ、あの人はあの人で上に行くことに躍起になってるんだ、誰かを蹴落とす事にな」

「でも、あいつは……」

 あいつの顔を思い浮かべたんだろうな、奏の顔が暗くなる。まぁ、六課の不祥事を報告しろって言うのは、スパイをやってこいって事だからなぁ。それでも……

「まぁ、その場その場で判断してけばいいだろ?」

「そうだけど……」

「……大丈夫だ、なんかあったらどうにかするさ」

「……わかった」

 奏が納得してくれたことだし、さて。

「震離が来るまで待ちますか」

「うん」

 後は震離が来たら、八神部隊長に挨拶だ。さすがに俺と奏だけ先に挨拶するのはまずいからなぁ。ただ、ただ途中に茶髪の子供が中に入っていったんだけど、あれは六課のFWメンバーか? ただ、昨日はいなかったけどな。途中俺らと目があって、向こうから頭下げてきたし……。

「六課のFWの子かなぁ?」

 考えていることと全く同じ事……では無いだろうけど、似たようなことを考えていたらしく奏の口からポロリと漏れた。

「……いや、知らんけど……やっぱりここの世界って」

「うん」

「……子どもでも前に出て戦うから凄いよなぁ」

「そうだよねぇ」

 と奏と話しながら、しみじみ思う。地球とは違うことはよく分かるけど、さすがにどうも自分よりも年下の子が前に出て戦ってるって言うのは、ちょっとどころか、かなり抵抗がある。まぁ、俺らに抵抗があっても、本人が戦うって言ったら、俺らに止める権利は無いし、多分俺らも人のこと言えそうにないし。
 何より、それは俺たちも通った道だったし。ま、普通に俺より強いだろう。

「……それにしても」

「遅いな震離は? って言いたいの響?」

「ん? ……さぁな」

 隣でしてやったりって顔してる奏を見て、こちらも知らないふりをする。……別に言いたいことを先に言われて悔しいとか、そんな事じゃない。……本当に。というか、奏達は別にいいとして、個人的な問題が一つあって正直若干憂鬱気味だ。理由は単純で、先日の前の部隊の援護に六課が来た時のことだ。別にそれは構わない、うちの部隊がお礼したみたいだし。ただ、一つ文句を言いたいことがあるとすれば、人に仕事を押し付けて、結局六課のFWの人たちに会えてないということだ。
 正直その時は別にいいかとか考えてたんだけど、異動となっては話が変わる。アレが原因でなんか言われるのは本当に勘弁願いたい。……まぁ、自意識過剰って言われても仕方ないけどねー。

 さぁ、のんびりとアイツを待ってみますか、な。




――side震離――


「無理は言ってはいない、ただ六課に異動したのなら少し不祥事を、ね?」

「……」

 本音を言えば、声を大にして言いたい「ふざけるな!」って、だけど。

「勿論、無理なら構わないよ、ただ、そのときは、ね?」

「……はい」

 私が……いや、私たちが断れないことを知ってて言ってるから、余計にたちが悪い。だけど、命令だと不味いからお願いするような感じで言ってるのが、余計に腹がたつ。

「いやぁ、優夜君や、煌君達も六課に異動しているんだけど、なかなか起きないらしくてね、それでどうしたものか? なぁんて、考えてる最中に君たち三人も六課に異動って連絡が来たときは、正直驚いたんだ」

「……」

「これは神が……いや、聖王陛下が私に上に行きなさいという、導きだと思えて仕方ないんだ」

 何が、導きなんだろう? ただ、他人を蹴落してでしか上がれないくせに。他人の粗を見つけることしか出来ないくせに。こいつに比べたら、響は……

「震離さん? 聞いてるの?」

「……はい。ただ、私たちが六課に言って情報を送るということになると、あまり表立ったことは出来ないと思います」

「ほぅ、それはどうして?」

「八神はやて二等陸佐は勘の鋭い人物と伺っております。それに自身が他の要人に睨まれているということを自覚して、新たに部隊を立てたのならば、おそらくこういうことには鋭いかと」

「……ふむ、たしかに」

 そう言って顎に手を当てて考え始めた。正直見ててムカツクんだけど、それでも顔には出さない。顔に出して変な不信感とかもたれたら、後々絶対になんかしてくるだろうし。
 それよりも、私自身驚いてるのは、八神はやてさんの事はあまり知らないから、響の言ってたことの受け売りをそのまま喋ったんだけど、案外覚えてるものだね。
 けど……これで、「やらなくていい」なーんて、言われたら万々歳なんだけど、な。

「うん、よし、決めた。既に向こうに言った四人のデータと共に、定期的に送ってくれ」

「……はい。具体的にはどのペースで?」

「うん、二ヶ月に一回の、年6回だ。ただし、緊急の情報とかはすぐに送ること? まぁ、これは既に向こうにいる4人にも連絡を入れてることなんだけどね」

 年6回で、緊急時の通信のみ、か……まぁ、これくらいなら問題ないな。……はぁ、響と奏になんて言おうかな。従ってくれるけど多分、本音じゃ納得しないだろうし。あぁ~あ、せっかくの皆が同じ部隊に揃うと思った矢先にこれだ。正直嫌になる。

「了解です。では、そろそろ失礼いたします」

「うん、では、よろしくね? そして……」

「……」
 
 ニコリと笑みを浮かべて。

「私の「お願い」を聞いてくれて本当にありがとう。別に無理はしなくてもいいんだよ?」

「いえ、無理はしてませんよ。ただ、「好き」でやってるだけですから。では、さすがにそろそろ遅刻しそうなので、これで失礼します」

「はい。それではお願いしますね?」

「……」

 敬礼をして、さっさと部屋から出る。一秒でもあいつの顔を見たくなかったから、少しでも早く。廊下に置いといた荷物を持って、すぐに響達に連絡を入れて、それで駅に行って、急がないと。



――――――――――――――――――




――side響――

「なるほど、「お願い」……ねぇ」

「うん、そう、それでコッチに来るのに遅れた」

「まぁ、そりゃ仕方ないさ、ありがと。そしてスマンなそんな役割させて?」

 目の前でブスッとしてる震離に労いの言葉をかけるけど、正直それでも不満たらたらだ。
 まぁ、無理も無いか。本当なら俺が行って、話聞かなきゃならんのにな。

「別にいいよ。ただ、響とか、奏が行ったらもっと無理な事言われてたかも知んないし」

「そんなこと無いって、言ってあげたいけど。正直否定仕切れないね。ってか本当にごめんね?」

 シュンとする震離の頭にゆっくりと手を伸ばして

「え、ちょ、奏!?」

「ほらほら、いい子いい子ー」

 ニコニコ笑いながら、震離の頭を撫でてる。ってか、奏もまんざらじゃねぇな。久しぶりに見たわ、こんなにニコニコ笑ってるところ。まぁ、最近任務続きだったもんな……。というか、震離よ。

「いやいや言ってる割には、嫌そうに見えないんだが? 俺の気のせいか?」

「え、あ、違っ!」

「フフフ、いい子いい子ー」

「ちょ、もう!」

 まぁ、たまにはこんな日も悪くはないな。さて、と。

「いい加減戯れてないで、そろそろ挨拶にっ!?」

 頭にガツンと入り体を突き抜ける衝撃。殴られたと判断がついたと同時に振り向く。陸士隊の制服を着た赤髪のヤツがそこに立ってて。

「何やってんだよ、お前らは?」

 殺気も気配も何も感じなかったから、気付かなかったし。意識の外から打ち込まれたからすごく痛い。
 頭を押さえて膝をついてたら、なんか話が進んだ。

「あ、煌じゃん。久しぶり」

「おぉ、お二方も前見た時よりも一段と綺麗になったじゃん」

「褒めても何も出ないよ? それより、そんなこと紗雪に聞かれたら不味いんじゃない?」

「その点はご心配なく。居ないから言ってるだけだし」

 頭抑えながら顔を上げると。そこには腹がたつほど笑顔の煌が立ってた。というか。

「お前。俺だったらいい物の、俺とか優夜以外の人を、後ろから襲ったら間違いなくブチ切れるぞ?」

「あっはっはっは、一応事務員として、六課の玄関前に変な三人組が居るって言われて来てるからな。一応対策兼どうせお前らだろうなって予測を立ててここに来たんだ。お前じゃなかったら打ち込まねぇよ」

「……質悪いな」

「ほっとけ」

 ケラケラと笑う煌を見て、怒る気力が一気に削がれる。多分普通の人だったら間違いなくブチ切れてんだろうけど、付き合いが長いからか、怒る気すら沸かない。まぁ、それ以前に怒っても聞かねぇからな。こいつは。

「で、これからお前らどうするんだ?」

「ここの部隊長に挨拶に行くんだよ。さっきまで震離を待ってたしな」

「あー、もしかして、もしかする?」

 軽いため息を吐きながら話す煌の言葉に、俺の後ろで震離と奏が深い溜息を吐いた。まぁ、これで言いたいことはだいたい伝わったろ。

「……まぁ、あとで話すよ」

「そっか、挨拶に行くってんなら案内してやろうか?」

「あぁ、頼むよ」

「その前に一応受付で手続きしてからな」

 ……わかってたことだけど、めんどくさいと思っているのは内緒だ。


――side煌――


「……なぁ、煌よ?」

「あんだよ?」

 受付でひと通り手続きをやらせた後、響達三人をはやてさんの所に連れて行く途中に隣を歩く響に声を掛けられた。というか響よ?

「……お前、道行く人をいちいち見てたら失礼だと思うんだが?」

「少し気になったから見てただけだ。というか、人の視線を追うな」

 まぁ、いい加減気づくよなぁ、後ろの二人は普通に会話してるから気づいてないけど。
 やっぱりお前は気づくか、この部隊の異常さに。

「まぁ、はやてさんや他の隊長に会って話を聞けなかったら、俺らに聞け、今説明すんの面倒だ」

「……了解」

 ため息吐きながら返事をする響を見て、思わず苦笑いを浮かべる。
 まぁ、普通に気づくし、明らかに面倒だって事が分かるから仕方がない。
 でもさ。

「案外楽しいもんだと思うぜ?」

「……そうか? というか俺らの部隊編成が気になるんだけどな」

「何で?」

 ……珍しい事をって、まぁそうか。そりゃ気になるよね、一応震離と奏の二人を指揮してたから、この先の編成が気になるのか。まぁ、普通に考えて基本的には変動しないと思うけどな。FWの四人はまだまだって感じだし、響達と組ませても大して動けなさそうだしな。むしろ変にコンプレックスとか持ちそうなのが怖い。

「いや、さ、この前の事件で、たまたま会ったから見てたんだけど」

「あぁ」

「……確実に一人余るだろ?」

「……はぁ?」

 一人余るって……あぁ、なるほど。響たちは知らないんだな。まぁ、とりあえず教えとくか。別に響と奏ちゃんの二人は驚いても顔には出さないけど。震離ちゃんは……すっげぇ驚くだろうし。それに簡単に伝えとかなきゃならんしな。

「……響」

「なんだ、改まって?」

「今回の異動さ、一つ「不安要素」が出来た」

「……」

 その言葉に反応したのか、ついさっきまで、後ろで話しをしていた二人も俺の話に耳を向けた。
 特に響に関しては、一瞬だけ目が据わったけど、すぐに戻した。多分、予想はしてたみたいだけど、本当にしてくるとか思ってなかったんだろう。実際優夜も本気で驚いてたし。

「まぁ、細かい事は後で話すけど、とりあえずその子は、地上からの異動で総合AAAのエリートだよ」

「……その子ってことは年下か?」

「さっすが響。その通りだ」

 俺の言葉だけで、そこまで読むかね。それに別のことも感づいたらしいし、やっぱり感が鋭いよ全く。

「それで、その子は「あいつ」の回し者か?」

「さぁ、正直わからん、優夜も俺も調べてるんだが、如何せん納得の出来る部分が多すぎてな、逆にさ」

「……分からないのか」

「……あぁ」

 実際、その子の事をいくら調べても、尻尾が掴めなくて正直白旗揚げそうなくらいだ。まぁ、これ以上調べようと思ったら行けるけど、ただでさえ危ないこの部隊を俺らのせいで危険に晒したら元も子もない。……最初は軽い気持ちで来たのにな。偶然がいくつも重なった結果がこれだけど。まぁ、それでも。

「……その子は悪い子じゃないかもな」

「何で?」

「根拠はないよ。でも、お前らに会う前にその子と会って目を見たけど、多分すごくいい奴だと思うしな」

「……そっか」

「あれ?」

 一応ボケを込めて言ったのに、響が妙に納得して笑ってる……いや、そこは「適当だろ!」とか、なんとか言うべき所だろう!? なんか、怖いじゃねぇか!

「気にすんなよ、でそろそろ着くんじゃないのか?」

「え、あぁ、もうすぐそこだな」

 とりあえず、気をとりなおして三人を部隊長室前に連れて行く。
その途中も、響が「やっぱり、お前らしいな」って呟いてたから、なんか気恥ずかしくなってきた。くそぅ、普段なら余裕を持って勝ってるのに、なんか負けた気がしてならん。

「とりあえず、適当に挨拶してこいよ」

「あぁ、悪いな案内させて」

「気にすんなよ、一応こう言うのも事務員の仕事の内だ」

 響の前で笑って見せるけど、申し訳ないと思ってるのか、どうも暗い雰囲気だけど。すぐに何時もの顔に戻して口を開いた。

「そっか、優夜達に宜しく言っといてくれ」

「あい、わかったよ」

 そう言って、ついさっきまで来た道を戻る。俺が角を曲がる頃には、三人とも中に入っていった。今頃、「四人目」と合ってる頃か。というかあの子……どっちなんだろうか、ガキの頃の響と優夜を見てるみたいで、妙に懐かしかったな。それに―――おっと」

 途中から声に出てて、自分でも驚く。まぁ、話した感じ少し硬すぎるんだよな~、俺よりも階級上なのに敬語使って話してたし、まぁ、しばらく退屈せずに済みそうだなって、あ。

「いかん、震離に、伝ーえーてーなーいーけーどー……、まぁ、大丈夫だろう年上だし子供じゃないだろうし」

 まぁ、その時は響なり奏なり、どっちかがフォローするだろうしな。さて、さっさと仕事終わらせて、優夜達の手伝いして、夜はあいつんとこに突撃かますか……麻雀もって。そうだな、負けた奴は……どれぐらい関係が進んだのか言わせるか、ね。

 ん? 俺はどうなのって? さぁな。それは見て判断してください、ね?


――――――――――――


 少し前に時間は遡る。響達が外で煌と再会し、はやてのいる部隊長室に向かうときに時間はさかのぼり、そして。


――sideはやて――


「ようこそ。私が機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長。八神はやてです」

「風鈴流陸曹であります。ただ今をもちまして、機動六課へ出向となります。宜しくお願いします」

 ふむ、この子が地上から異動してきた子なんや……見た限りじゃ、監視者っぽくあらへん。ほんなら、他の三人が監視者なんかな? だけど、本局からやし、第一監視って「誰が」するんやろうか?
 んー、まぁ今決め付けることじゃないし……それよりも流の……。

「八神部隊長? どうかされましたか?」

「ん、あぁ、何でもあらへんよ。それより流は……その……」

「……?」

 目の前で首を傾げる流に、恐る恐る思っている事を、

「……女の子なん?」

「……八神部隊長。自分は「男」ですよ」

「へ……? あ、あぁ……ゴ、ゴメンな?流?」

 あ、あかん、空気が変わったというより、空気が凍った。無表情に近かった流の顔も少し微笑んでるけど……、完全にあの目は笑ってないし……これは……

「あは、ははは」

「……」

 あかん、失敗した。もしかすると監視者かもしれん子なのに、失敗した。こう言うことははじめが肝心なのに、これがきっかけで私に対して不信感を持って、あることないことを報告されたら……。いや、まだ、挽回出来るかもしれん!

「八神部隊長?」

「え、あ、どうしたん?」

「いえ、自分はこの後どの小隊に入ればよろしいのでしょうか?」

「……それなんやけど」

 そっか、流はまだ知らんないんやね。自分以外にも後3人異動してくる子が居ることを。
 まぁ、自分が異動するのに他の人のことまで調べられる余裕はないし、仕方ない事や。

「流の他に……」

「失礼します」

「お?」

 噂をしたらなんとやら、もう来たんやね。
 さっき煌から連絡来たとおりやね、「すぐに連れて来ます」って言っとったし。


――side震離――


「そっか、優夜達に宜しく言っといてくれ」

「あい、わかったよ」

 そう言って煌は来た道を戻っていった。別に事務員だし、中まで案内してくれたらいいのに、そしたら紹介とかいろいろ省け……ないか。
 私が一番気にしてるのが「四人目」の性格とかどんな容姿とか教えてくれても良かったのに。でも、それよりも。ううん、何よりも気になるのが、私は――

「とりあえず、中に入って挨拶だけど……一応確認だ、大丈夫か?」

「私は問題ないよ。震離は?」

「……ん? え、あぁ。うん多分大丈夫」

「了解、それじゃあ、失礼します」

 とりあえず本当のことを言っとく。まぁ、何時もの調子で話ししたら問題ないかな。だけど、新しい子と仲良く慣れたら、いや、それよりも上手くやっていけるのかな、私は。
 なんて、そんなことを考えてたら、響が扉をノックして、扉を開ける。そして、まず最初に目に飛び込んできたのは。

「初めまして、私が機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長。八神はやてです」

 机に座って、優しそうに笑みを浮かべてる女の人―――ううん、八神はやてさんと、その前に立っている茶髪の子がいた。八神はやてさんは、良くメディアに顔を出してる有名人だから、顔はよく知ってるけど、実際見るとなんか感動する。実際優しそうだしね。もう一人の子は―――

「震離、挨拶」

「へ?」

 そう言われて、隣の奏や少し前に立つ響を見ると敬礼して立ってる。ということは―――あっ!

「え、あ、えっと、本局第6武装隊から、い、異動してきました、叶望震離一等空ひひぇす!」

「……噛んでる」

 隣にいる奏に指摘されて、顔が熱くなってくるのを感じる。正直な話。穴があったら隠れたい! 穴がなかったら掘ってでも隠れたい! 

「あはは、別にそんなに緊張せんでもええのに」

「……申し訳ありません、八神部隊長」

「あはは、別に堅苦しく呼ばなくてもええよ、私のことは「はやて」でええで?その代わり私も名前で呼ぶし」

「……はい、はやてさん」

 まだ顔の熱が引かなくて、はやてさんの顔を見れない。正直久しぶりだこんなに恥ずかしい思いをしたのは。奏はまだ苦笑いを浮かべてるのはまぁ、仕方ないけど……前で「ざまぁ」みたいな顔してる響を見るとすごく腹がたつ! というかムカつく。

「……挨拶が遅れました、自分は本日付けで機動六課に異動になりました風鈴流陸曹です」

「流か……こちらこそ、宜しく」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」

 深々と頭を下げる流を見て、ようやく熱の下がった顔を上げて流の顔を見る。それで気づく。鮮やかな蒼い瞳と明るい紅の瞳を。正直蒼い目とかは見たことあるから、珍しくもないけど、紅い瞳は見たことないから正直すごく綺麗だ。

「……あの叶望一等空士? どうかされましたか?」

「え、あ、ごめん、流の眼の色が綺麗だったから、ごめんね?」

「……いえ」

 しまった、一瞬だけど暗い顔させちゃった。地雷を踏んだかな? いや、まだ踏みかけただけ、まだ挽回できる! よし、空気を変えよう!

「え、あぁ、そうだ、流?」

「はい」

「私のことは震離でいいよ、同じ女の子同士だし!」

「…ぁ」

 ん、はやてさんから小さく声が聞こえたけど……気のせいかな? 何はともあれ、これで空気が変わればいいかな! だって流だって、私が声を掛けてから笑顔になったし! もーまんたい!

「叶望一等空士?」

「ん、やだなぁ、私のことは名前で……」

「申し訳ありません、自分は「男」です」

「え゛っ!?」

 今はっきり空気が割れた音が聞こえた、ビシィ!って、え、何、私地雷踏んで、連鎖爆発させた?
 え、え、えーーーー!お、お、落ち着け私!まだ、まだ、まだなんか手が!ほら、誰かが言ってたし、ラケット持って「諦めんなよ!!」って!

「あ、えっと、そうや、FWメンバーにまだ挨拶してへんよね?」

「え、あぁ、はい、まだしてませんよ、なぁ奏?」

「え、えぇ、まぁ、直接こちらに挨拶に来たので、まだですね」

「そ、そか、じゃあ私があんなにするから四人とも付いておいでー」

 そう言って、はやてさんが上着を羽織って外に出て行った。その後を流も追って行ったけど、さっきと打って変わって、挨拶をした時みたいに無表情だったのが印象的だ。それよりも。

「……お前、何やってんの」

「……わかんない」

「……さすがにフォローしきれないよ」

「うん、ごめん」

 ツーって、両目から温かいものが。あ、涙でた。
 そして思う。思い込んだら駄目なんだっていうことを。というか、私の中での不安が大きくなった。私、ここでやっていけるのかなぁと。
 
――side煌――

「なるほど。響らしいな、それは」

「……いやいや、答えになってねぇし」

 俺の隣で、事務の仕事をしながら苦笑を浮かべている優夜を見て、少しばかり……というか、普通に腹が立つ。
 今説明したのは、ついさっき響たちを部隊長室まで案内した途中で笑われたということを教えて、帰ってきた答えがこれだ。

「まぁ、分かんなかったらいいさ。で、空曹殿は他になんか言ってた?」

「あぁ、これからよろしく。だとさ」

「あっはっは、別に仕事終わったら会えるのになぁ。嫌でも会いに行くし」

「そりゃ同感だ」

 笑いながらも手元のスピードは落とさないで……と言うよりも、話す前よりも明らかに処理速度を上げて、自分の仕事を片付けていってる。
 正直な所。それを見てっと、自分が事務員として役に立たない存在じゃないかと自己嫌悪になりそうなくらい、すごく早い。というか羨ましい。だって、俺の数倍の速度で片付けていってんだもん、普通にすげぇよ。
 俺が一つのモニタとキーボードを叩いている間に、優夜の場合、2つのモニタ、2つのキーボードをそれぞれ片手で操作して、且つ俺と同等のスピードだ。それだけでも十二分にすげぇのに、俺と話して笑ってるし、余裕もあるしな。

「とりあえずまぁ、何だ。さっき部隊長から命令きたし、さっさと仕事を片付けないとな」

「……あ? なんかあったっけ?」

「ん? 何だ確認……はしてないな。響達を案内してたし……お前が帰ってくる前に八神部隊長から命令きたぞ。俺と時雨、お前と紗雪に」

「マジか。ちょっと待って確認する……場合によっちゃ手伝ってくれ」

「あぁ、いいぜ。飯一回な」

 さり気なく要求する品が高くて、思わず舌打ちしちまった。けど、俺はあきらめない!

「……オカズ一品で」

 ……これが俺の限界でした。割かしマジで。現に優夜もそれを分かってんのか、それでいいぜって答えてくれて、マジでありがたい。慌ててメッセージボックスを確認すると、そこには八神部隊長からメッセージが届いていたから、開いて中身に目を通すと……。

「……マジで?」

「マジみたいだ。というわけで手伝おうか?」

「……いや、単純に仕事の量が増えるとかそういう事を予想してたから別にいいや。それよか、これ終わったら響達の所、見学に行かないか?」

「いいぜ。それじゃあ、俺は終わったから先に行くわ」

「早っ?!」

 パタパタと、自分の手元の資料とかを片付け始める優夜を尻目に、俺も自分の限界と言わんばかりの速度で、手を動かす。正直久しぶりにテンション上がってるから、デスク系の仕事は基本的に嫌だけど、今のテンションは少し心地良い。
 だけど、このテンションを作った原因の命令が、本当に楽しみだって言うのもあるけどね。

 なんたってこの命令は――


――side響――

 あれから数分。震離が見事に失敗してから数分経過したんだけども。
 現在の状況はというと。

「……」

「……」

「……」

 うん、言わなくても分かるくらい皆静かだ。
 俺の少し前を歩く流は流でずっと無表情だし、後ろを歩く震離は軽く泣いてるし。それを奏が慰めてる。戦闘を歩くはやてさんは、気まずそうにチラチラと視線だけこちらに向けてるし。簡単にまとめたらカオスな状態。
 まぁ、流の性別に関しては初見じゃ分からなくて、言葉遣いとかで適当に聞けばいいやと思ってた俺にも非はあるけど、まさかここまで冷えた空気になるなんて誰が予測したか……というか誰も予測しないよ。

「そ、そうや!」

 気まずいこの空気に耐え切れなくなったのか、はやてさんが振り返って声を掛けてきた。

「グスッ、どうかしましたか?」

「いきなりで悪いんやけど、明日は別次元の世界にロストロギア回収にいかんといかんのよ。場所も場所やから、一緒に来て貰えるか?」

「はい、構いませんが、場所はどこになるんですか?」

 正直な所、いきなり移動してきていきなり……というか初任務予定がいきなり出張か……大変だな。しかも機動六課はレリック専任なはずなのに別次元まで行くのか……大変だなおい。
 まぁ、つい先日のことを考えると一概には言えないけども。

「フフフ、実はな? 第97管理外世界なんや」

「おぉ!」

「えっ?ほんとなんですか?」

 第97管理外世界って、早い話が……

「久しぶりに地球にいける!」

「震離、静かに」

 後ろで奏が震離に注意してるけど、様子を見るからにあまり聞いてないなこりゃ。
 それにしても地球か、前に戻ったの三年前の盆の時か。去年とその前は行けなかったしな……そっか、もう二年たったんだ。

「……緋凰空曹、どうかしましたか?」

 視線を下に落とすと、流がコッチを見ていた。相変わらずの無表情だ。……苗字と階級だと呼びにくくないのか? 一応注意を促してみるかね。

「なんでもないさ、それよか流よ?」

「はい、なんでしょうか?」

 相変わらずの仏頂面に、隣にいた奏が苦笑いを浮かべてる。まぁ、後ろで舞い上がってる震離みたいに、「なんでしょうか?」なんて笑顔で言われたら逆に怖いがな。また地雷でも踏んだのかなって思うし。ま、それよりも。

「……俺らの事、名前で呼べとは言わないけど……せめて階級抜きの苗字で呼んでくれないか?」

「……いえ、しかし」

「これから同じ部隊で働くんだ。遠慮も無しで行こうぜ」

 ……これで、少しは砕けてくれると有難いんだけどな。
 俺の言葉に少し困惑した表情を一瞬だけ見せた後、すぐに何時もの顔に戻して、俺の方を向く。んー、やっぱりまだまだ難しそうだなぁ。

「……はい、善処します」

「了解。そうしてくれると有難いよ」

 小さく頷いた後、すぐに前を向いて、足を進めてはやてさんの後を追っかけてった……やべ、昔の震離を見てるみたいだな、あの頃のあいつは本当に。

「あ、流、私も苗字で」

「黙れ震離」

 後ろで舞い上がったままのテンションで話す震離を、さっさと切り落とす。

「ひどぃ」

「……調子に乗ると直ぐそうなるから」

「奏も酷くない!?」

 いや、どっちも悪くない。お前さっきの事もう忘れたか。それでさっきまで、空気が重くなってたんだろうが。
 同郷あるあるというか、その鉄板ネタで話をして盛り上げようとか考えてたのが全部おしゃかだし。

「あはは、ほら四人とももうすぐやから付いてきてなー」

「了解です」

 そう言ってはやてさんの後に続いて、俺らも後を付いていく。だけど、前線メンバーと会うって事は、以前会ったことを絶対突っ込まれるし。

「……メンドくせぇ」

「……どうかされましたか?」

「なんでもないよ」

 隣で歩く流に聞かれたかと思って、一瞬焦るけど。まぁ、聞かれてても良いかね。……あぁ、面倒だ。模擬戦でもしてくれれば、空気変わるかもしれないけど。その場合、流の実力の程は知らんが、奏と震離は俺と同じくらいのランクに設定されてるから、余計に頑張らないといけないんだろうなぁ。
 
 あぁ、面倒だ。

 そんなこと思ってるうちに、なんか目の前で、シミュレータを起動している戦技教導隊の制服を着込んだ女性と訓練服を着た四人がいた。四人の方はこの前会ったから何となく知ってる。若干気まずいけどね。
 それで、もう一人の方は有名すぎる人だから、俺でも名前を知っている。というか、同郷の人で、有名人で……それ以前に。

「おーい、なのはちゃーん」

「あ、はやてちゃん」

 互いに呼び合ってるお陰で間違えそうにないや。
それで、はやてさんが俺らのことを高町なのはさんに話してるうちに、コッチはコッチで。
 FW組の方に向かう。ちなみに流も連れてきた。けどね、それよりもね。あのオレンジの髪の子の視線が超痛い。何アレ超怖い。けど、ここはフレンドリーに!

「よっ、数日ぶり」

「……どうも」
 
 近づいていって声を掛けると、オレンジの髪の子が、すっげぇ不機嫌な感じで返事をしてくれた。

「今日からここに異動になったんだ。宜しくな」

 ちなみに名前は前回名乗った……っけ? いやまて、落ち着け。あの時爆音で聞き取れなかったけど、指示したポイントまで下がった後、オペレーターしてたカナタが挨拶に行ったから、多分そこで言ったかもしれない。だから大丈夫だと思う! 多分!
 でもまぁ、ある程度フレンドリーっぽく話しかけたのは、オレンジの子と青い子はともかく、ちびっ子二人に、なんか敬語を使わせたくないからな。というか正直嫌だ。前回会ってるから、少しはマシかもしれないけど、長い付き合いになりそうだしね。

「……こちらこそ宜しくお願いします。私はティアナ・ランスター、年は16歳です」

「こちらこそ宜しく、私は天雅奏、年は17。で、こっちが響。あと基本的に敬語じゃなくてもいいよ、これから一緒にやっていくんだしね」

 そう言ってティアナに笑いかける奏。正直さすがだと思う。俺が言わなくてもちゃんとわかってくれてるから、本当に助かる。階級云々の話だとどうしても硬くなるだろうし、特にちびっ子二人が。

「えと、エリオ・モンディアル三等陸士であります!!」

「同じくキャロ・ル・ルシエ三等陸士です!!」

 二人の挨拶に思わずコケそうになる。となりで奏は苦笑いを浮かべてるし、震離は姿が見えんし。というか、奏とティアナの会話を聞いてなかったのかな?
 ……まぁいい、そっちがその手ならばコッチはこの手だ!

「えと、宜しくな、モンディアルとルシエ?」

「……うわぁ」

 できるだけ笑顔で受け答える。後ろから奏がジト目で俺を見てる。ええぃ! そんな目で見るなよ、俺だってなんか、ねぇ? って状態なんだから!

「あの、できたら名前で呼んでもらえますか」

「あたしも、できれば名前で」

 うん、予想通りの反応だ。やっぱり、コミュニケーションに飢えてるんだろうな、やっぱり。俺がこれ位の頃って優夜と煌と震離とで、裏山駆け巡ったり、試合したり……うん。
 まぁ、年上ぶってみるのも悪くはないな。

「うん、タメ語で話したら名前で呼ぶよ」

 そう言って少し間ができる。ちなみに後ろからの視線が一つから二つに増えて正直つらくなってきた。

「そんなこと出来ません」

 とエリオが答えると、キャロも同じなようで首を縦に振る。
 うん、俺のすべてを使って、絶対にタメ語で呼ばせて見せる!

「……燃えるとこ間違ってるよー」

 言うな奏。


―――数分後。


 数分の割には結構いろいろあったけど、結局タメ語で話させた。頑張った俺! 敬語は周囲に壁作るからね。こんなガキの頃から壁だらけの場所じゃいろんな意味で良くない。
 ……一人論外が後ろで待機してるけどね。俺だったら気まずくて、即効でタメ口でいいよとか、名前で読んでもいいよって言われたら従うんだけどな。まぁ、それよりも。

「じ、じゃあ…ひ、響さん」

「響……さん」

 うん、やっぱり何処でも男女の差って出るもんだな。エリオはともかく、キャロの方が話しにくそうだ。
 慣れれば問題ないけど、それまでは、まぁ、キャロの方は奏や震離達に任せといて。

「うん、改めて宜しくエリオ、キャロ」

 名前を呼ばれたのが嬉しいらしく顔を見合わせて笑ってる。なんだろう、なんか逆に心配になってきたのは気のせいか? まぁ、いいや。というか。

「……もう一人の青い子は?」

「え、スバルはここに……って、あれ?」

 とさっきまでスバルって言う子がいたであろう場所をティアナが見る。
 なるほど、あの子はスバルって言うのか、なんて、考えながら辺りを見渡すと。

「へー! スバルとティアナって、主席で通ったんだ!」

「うん! と言うよりティアが凄いんだよ。私なんかよりもずっとずっと!」

 ……問題ないな。そう思って視線をティアナに持ってくと、目があった。
 うん、考えてることは同じでした。でも、良かった、まだ不機嫌だと思ってた……と思ってたんだけど、そんな事無くなんかジト目で睨まれてんだけど……何?
 そして、視線をティアナから外して、奏へ向けると。

 ……うん、なんて言えばいいんだろう。波長が合うんだろうな。なにか別なものが。

 ……多分ね。

 と念話も何もしていないのに、長年の付き合いのお蔭で、アイコンタクトだけで意思疎通が出来ます。
 ちなみに流はエリオとキャロに名前と階級とランクを言ってたけど。同じようにタメ口で良いみたいなこと言ってた。代わりに自分もできるだけ頑張るって意訳するとそんな事言ってた。
 まぁ、それよりも。はやてさんとの話も終わったのか、なのはさんがコッチを見てたから奏と流を呼んでなのはさんの元に足を運ぶ。やっぱり怒ってるかな?

「高町隊長、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」

「あ、ううん、別にいいよ。私もはやてちゃんとお話してたし」

 笑いながら許してくれた。うん、階級云々気にしないタイプの人で何よりだ。たまにいるからなあ、挨拶に来なかったらふて腐れる奴とか……っと、そんなことよりも。

「ありがとうございます、自分は本日付けで、本局第6武装隊から、異動してきました、緋凰響空曹です」

「同じく天雅奏空曹です」

「自分は風鈴流陸曹です」

 とりあえず、ひと通り挨拶を済ませる。ちなみに震離は未だにスバルとの話と夢中らしく、コッチに気づいてすら居ない。ていうかなんか、モニタ展開してスバルになんか教えてるし。まぁ、いいか。一応後で恥かくのあいつだし。

「うん、こちらこそよろしくね、それで早速なんだけど」

「はい、なんでしょうか?」

 あー、この流れだと、分隊発表か、模擬戦だよなぁ……誰とやるんだろうか? 個人的には、奏と震離と流の三人の現在の実力知りたいから、ガジェット辺りがいいんだけど。まぁ、その時は言えばいいか。

「響はライトニング分隊で、他の三人はこれからの模擬戦で決めるからね」

 ……はい? え? はい?

「……失礼ですが高町隊長?」

「うん、何かな? あ、私のことも下の名前でいいよ」

 ……それは後でもいいんですけども、それよりも。

「はい、なのはさん、なぜに俺だけ既に確定してるんですか?」

「うん、それは、はやてちゃんから」

「それはやね、ライトニング分隊で2人の新人指導をしてもらうって言うのが一つと、ライトニングの隊長のフェイトちゃんは執務官の仕事が忙しくて何時も居られるわけやあらへんし、副隊長のシグナムかて、あんまり居られるわけやないからね。
 それで小隊指揮の経験のある響をライトニングに配備しとくって訳や」

「……はぁ、了解です」

 ……すっごく長い説明ありがとうございます。というかそれなら四人しか居ないんだし、一つの小隊にまとめればいいのに。なんて思ったけど口には出さない。だって、後ろでエリオとキャロが喜んでるんだもん。目なんかキラキラしてたし。そんな時に否定的なこと言いたくないし。

「何時もと変わらないんじゃないの?」

「……うっせ」

 隣でニコニコ笑う奏が、若干疎ましく思ってしまった。だってねぇ? 早い話が上二人居ない事多いから、ライトニング任せた、って言ってるようなもんだぜ? いろいろ大変だから正直面倒だけど、まぁ、エリオとキャロが喜んでるし、まぁいいか。
 ある程度の指揮権を渡されるのはありがたいし、そもそも使うかすらわからんけども。
 
「それで、響達四人にはこれから機動六課FWメンバーと模擬戦をしてもらいます」

「……あー、了解です」

 ぶっちゃけガジェット戦がいいって言いたかったけど、俺らと模擬戦ってきた瞬間、ティアナがガッツポーズ取ったのが目に入ったし、エリオ達もやる気になっちまったし……これは、どうしようか?
 まぁ、取り敢えず。

「ちなみに、どうしてまた?」

「うん、最初はガジェットがいいかなーって思ったんだけど、この前の任務中に響と会ったみたいだし。ガジェットの対策も出来てるみたいだしね。それなら一度ぶつけてみようかなって思っちゃって」

 ニコニコ笑顔で話すなのはさんを見て、一つ思う。駄目だもう。今更ガジェット戦がいいなんて、口が裂けても言えねぇ。ちっくしょう。流は解らないから置いといて、奏と震離はAまで落とすの初めてのはずだから勝手とか分かってんのかな。そして、ティアナ達四人もそこそこ出来る。多分俺もヘタすると負けるレベルだし……ヤだなぁ、もう。
 けどな。

「はぁ、了解です。ルールとかってありますか?」

「ルールは簡単だよ。響たちは十秒以上の飛行は禁止。基本的には地上戦で、それ以外はガチンコ勝負だけど」

「そうですか、了解です」

 一瞬だけ、疑問が浮かんだけれど、直ぐに納得する。このルールはできる限りティアナ達陸戦と同等に戦えるようにするためなんだと。それなら、それでこっちにも考えがある。まぁ、それは後でやるとして、今は。

「そう、じゃ、みんな準備して!」

「了解!」

 と、スバルと震離を除いた全員で返事をする。さぁ、頑張ろうかね。

 ちなみに、震離は俺と奏が呼ぶまでスバルとの話で全く気づいてなかった。
 それで、挨拶は終わったって伝えたら、敬礼しながら頭下げてなのはさんに謝ってた。


 ――――――

 さて、林の中で四人で集まる。ちなみに制服のままで移動してきた。なんか明日出張だから今日は軽めの練習で終わる予定らしい。それで、終わるところで俺らがやってきたから模擬戦やってから終わるとのこと。
 取り敢えず集まっているのは、情報交換のためだ。俺は二人のこと知ってるから問題ないが、流の為だし、ランク知ってたら作戦も立てやすいし。ただ五分しかないから少し急ぎ足だけどね。

「それで、作戦の前に、各々前の部隊のポジションと、リミット付きなら、元のランクと現在のランクを報告」

「はい、1番奏。私は基本的に、今はフルバックかセンターガードで元のランクは空戦AAA、Aに落としてる」

「あい、了解、次」

 ん、やっぱり奏は、安定しているな。俺がどういって欲しいとかちゃんと分かってくれてるから、自分から率先していってくれるしホント助かる。さて、次は……。

「はい、2番流。自分はフロントアタッカーかガードウィングをやっていました、自分も元のランクは総合AAAで今はAです」

「……うん、次」

 正直オレもビックリなランクが飛び出しましたが、とにかく続ける。聞きたいことは山ほどあれど、今は時間が足りないからまた後で聞くとするか。
 つーか、陸で総合AAAって……やべぇなおい。

「ん、3番震離私も流と同じポジションで、ランクは空戦AAで、今はAだよ」

「あいわかった。4番響で、前衛職ならどこでも出来る、ランクは空戦A-でリミット無しだ。一番弱いからよろしく」

 っと、これで全員のポジション現在のランクを確認できたけど……。うん、被ってないけど、正直めんどうだな。それにもしかすると……確認とっとこう。

「とりあえず、ランクは分かったけど俺はともかく他の三人はどんぐらい落ちたのか自覚はあるか?」

 そう言って周囲を見渡すと皆一同に微妙な表情をしている。

「あんまない」

「……うーん、私も今のところはあまり無いかな」

「自分もです」

 あー、なるほどなるほど、俺もリミットついてたら、まだなんか分かったかもしれんけど、俺自身ランク低いから付けられること無いしなぁ。……だけど、更にまずいな。仕方ない。

「とりあえず最初は全員ってか三人は自由に動け」

「え? いいの? 頑張るよ私?」

「おぉ頑張れよ震離、ただし一度エンカウントして、二、三回攻撃したら、その後全力で俺ん所に集合な。他の二人も遠距離から攻撃したり、接近戦してもだ。その後は作戦とかポジションとか弄るから全員集合な」

「はぁ?」

 説明した側から、隣で震離が首を傾げる。……お前頭いいのに変なところで鈍いよなぁ。まぁ、いいさ。

「話はそんだけ。あぁ、後今回限定だけど、俺をアサ……いや、俺をスティール1で、流が2、震離が3、奏が4で、今回は進める。とりあえず三人は必ずティアナ達の誰かとエンカウントしろよ? それで逃がした場合は深追い禁止、逆に追撃してくるんなら急いで撤退、以上」

 と俺の説明と同時に目の前にモニタが展開し、なのはさんの顔が映る。我ながらドンピシャだったから、なんとなく嬉しい。けど、思わず口走りかけて反射的に別のに変えちまって、少し焦る。ふと視線を外すと、奏が気にしないでって目で言っているようで少しだけ安心した。

『そろそろ始めるけど……って、奏と震離どうしたの?』

「あぁ、いえ大丈夫です」

「私も大丈夫ですよー」

 なのはさんの質問に二人揃って苦笑いを浮かべる。まあ、俺の指示のせいでこうなったんだしなぁ。それで、相変わらず流は無表情だ。まぁ、まだ初日だし時間を掛けて距離を詰めるか。それよりも先に。

「うん、じゃあ、始めようか」

「了解です」

 と三人の声が重なる。さっきまでの雰囲気とは違って、全員仕事モードだ。

「それじゃあ各々、移動したてでやりにくいかもしれないが、何時も通りに。な?」

「あいあい!」「了解です」「分かった」

 話を聞きながら、それぞれ準備運動みたいなことしたり、デバイスの準備をしたりしている。それをなのはさん微笑みながら見てて、そして。

『それじゃあ……初め!』

「セットアップ!」

 その場にいた全員がデバイスを展開し、バリアジャケットを身につける。うん。相変わらずの管理局カスタムだ。バリアジャケットと云えども、二年くらい使ってるとどことなくくたびれてるように見えるのは俺だけなのだろうか?

「さて、さっき説明したとおり……って、流のはインテリジェントか?」

「はい……あぁ、片方はアームドデバイスに分類されます」

「わぁ、剣とロングライフルかー、かっこいいなー」

 身の丈ほどの杖を手にした震離が呟く。うん、やっぱり個人用のデバイスっていいよなぁ、としみじみ思うが、そう考えると、やっぱり思ってしまう「俺にはいらないな」って。

 しかし、剣と銃か。近距離遠距離対応出来ると見ていいのかな? えー……なんというか何でも屋を始めてみた気がするわぁ。

「まぁ、とりあえず各々勝手に行って来い、それでやばいと感じたらすぐに退くこと、いいな?」

「了解」

 俺の言葉に三人が返事をしてくれる。ただ、流は真面目だからいいけど。後の二人の顔が若干笑ってるのを見ると、少し恥ずかしいと思ってしまう。だって、前の部隊じゃ適当に指示してただけだしな、間違ってもこんなふうに指示は出してなかったし。
 そんなことを考えてるうちに、三人ともさっさと林の中に突っ込んでった。細かく言えば、流がまっすぐどっかに行って、震離がそれに気づいて追跡。奏が微笑みながら小さく「行ってくるね」って言ってから追いかけてった。

「さて、と」

 ゆっくりと歩きながら大きな木の所へ移動する。まぁ、序盤は俺は動かないしね。とりあえず、木の上に出て、3つモニタを展開して3人の様子を伺う。今のアイツらのお手並み拝見と、ティアナ達の動きでも見ておくか。
 
 

 
後書き
ここまでご覧いただき感謝いたします。 

 

人物紹介


前線組

緋凰 響 (ひおう ひびき)

性別/男
年齢/17
誕生日/7月7日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・空曹
機動六課での役職/前線フォワード部隊「ライトニング分隊」 前衛全般、もしくはウィングバック
魔法術式/ ベルカ式
魔導士ランク/空戦A-
魔力光/黒
利き腕/両方(主に左)
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本


 性格は基本的には開放的で知らない人とでもある程度話せるが、旧知の仲以外とは一歩退いた様な対応を行う。
 ただし、年下、似た階級の人とはなるべく普通に接するように心がけてはいる。
 指示を出す立場になることが多く、あまり無理をさせない指揮を取ることが多い。
 オフの日などは完全にだらけている。釣りや散歩などを行なっている。
 管理局員であるという事と、元来の人の良さのせいで、目の前にいる困った人を男女、親交の有無を問わず、なんだかんだ理由をつけて、自らの危険も顧みずに助けようとする性格の持ち主である。
 そのため、よくケガをしているものの、咄嗟の判断能力や理解力は優れていてるため普通の人ならば死ぬであろう事故でも、被害をなるべく小さくする。
 唯一の悩みがあるとすれば、相手がどんな事情を抱え込んでるかも考えずに助けるため、さらなる厄介ごとに巻き込まれる事である。

 身長は高くフォワード陣の中では一番高いが、六課事務員の煌より低い。男としては髪の毛が長く、いつも後ろで縛り、髪の成長が早いことを気にしている。
 その性質のため、髪を切るのをめんどくさがり、幼馴染の誰かが注意をしたときくらいにようやく髪を切る。
 その際一気に短くなるため、イメチェンと取られることが多い。髪を切るときは奏が切っているとの事。それでも一番の切りたがらない理由は別にあるが、詳細は不明。
 あまりおしゃれ等をする気がないと思われるが、意外にも服のセンスは高い。
 
 魔導師ランクは空戦A-。B相当の攻撃しか出来ないが、A程度の動きならば捉え、戦闘を行えるという点が評価されたゆえのランク帯。ただし当人は納得しており、これが限界なのだろうと割り切っている。
 魔力保有量はギリギリCに掛かる程度だが、魔力容量はSというアンバランス型。
 バリアジャケットは管理局の支給した一般局員のものであり、デバイスのみ二刀の刀に変更している。他にも服装のいたるところに暗器を装備している。
 刀を使用しているが、厳密には刀ではなく。防護服の金属部生成を応用したものであり、刀としては非常に脆い。更には魔力が多ければ即時再生が可能だが、響自身の魔力量が少ないためある程度時間がたってから出ないと再生できない。防護服の至る部分に、クナイやワイヤーを仕込んでいる。

 戦闘スタイルは二刀による接近戦ができる。加えて、抜刀術も使えるらしい。他にも、クナイや、ワイヤーを暗器を使用した戦闘も可能。更には格闘術にも長けており、無手での戦闘も出来る。
 しかし、魔力量が低いということが何よりも足を引っ張っており、基本魔力量が多い相手には、ゴリ押しされるとツライ所もある。

 指揮官としても有能で、六課に来る前にいた武装隊では、奏と震離の三名しかいないにも関わらず、誰一人かけることなく任務を遂行させており、かなり評価されているが、他の二人が優秀だからと言って、その功績を否定している。

 容姿は黒髪を後ろで束ね、ポニーテールのような状態になっており、束ねていない時でも腰まであるため、後ろ姿と、髪を解いた時の姿はもっぱら大和撫子とからかわれる。


天雅 奏 (あまがみ かなで)

性別/女
年齢/17
誕生日/3月8日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・空曹
機動六課での役職/前線フォワード部隊「ライトニング分隊」 センターガード
魔法術式/ミッド式
魔導士ランク/空戦AAA
魔力光/白
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/左
魔力変換/光

 人好きのする人物で、実直かつ純粋であり、人の悪いところを鋭く指摘をするなど、人を見る目は鋭い。しかし、あまり口には出さず、心に留めることが多いかわりに、幼少期からの親友に対してははっきり言う。見知った相手だからという事でもあるため、親友一同ちゃんと理解している。
 物事に対し肯定的なためか、皆のサポートをしたり、響の指揮に支援や意見を述べたりもする。
 母方が美容師ということもあり、髪を切るのが得意で、震離の髪を綺麗にそろえたりすることが出来るほか、鏡を見ながら自分の髪を整えることも出来る。

 使用デバイスは管理局で使用されている回転式装弾機構6連式リボルビングライフルを2丁使用している。
 カートリッジシステムも内蔵されているが、ストレージデバイスゆえ、セットした後、手動リロードを行わないと、装填が行われない為、使い勝手が悪い。

 戦闘スタイルは中距離・遠距離戦のどちらともやるが、主に砲撃系が得意であり、その派生など様々な術式を会得している。護身術と、小太刀二刀を幼少期の頃に学んでおり、接近戦もできるが、ポジション的になかなか活用されることはない。

 自身が稀な魔力資質を持っていることは知っているが、基本的に使い方がわからずに大して気にもしていないためあまり使用されていない。

 胸は大きい方なのだが着痩せするタイプで、スリムな体型だが、体重を気にしており、食事には人一倍気を使っている。
 容姿は腰まで届くロングヘアで薄い金髪であり、響と同じサラサラのストレートである。


風鈴 流 (ふうりん ながれ)

性別/男
年齢/14
誕生日/2月14日
前所属・階級/時空管理局陸上警備隊陸士1026部隊・陸曹
実所属・階級/時空管理局特殊鎮圧部隊・階級不明
機動六課での役職/前線フォワード部隊「スターズ分隊」 フロントアタッカー&ガードウィング
魔法術式/ベルカ&ミッドハイブリット
魔導士ランク/総合AAA
魔力光/赤黒
利き腕/両方(主に右)
出身地/本出身地は不明
使用デバイス/ギルガメッシュ・アークジャベリン

 普段はあまり人と関わらないため基本的に一人でいることが多いが、どう接していいのか分からないということと、前の所属が裏側だったということもあり、余計な情報を漏らさないように気をつけているだけである。
 戦闘になると普通に話し、受け答えもはっきり言うが、普段はあまり話そうとしないため、暗いイメージをもたれるが根は優しいし、自分のことを知っている人間とは普通に話す。
 加えて、人が好きだがどうしていいかわからないだけなため、人知れずサポートを行なった、敵のターゲットを一人で受け持ったりする。

 幼少時の記憶がないが、本人は気にしていない。というより何も思っていない。しかし、特殊鎮圧部隊で何かあったらしく世間話程度ならするが、踏み込んだ話題には乗らず、距離を取っている。

 戦闘では近・中・遠とオールラウンダーであり、剣・銃・体・魔術を用いて戦闘するが、基本的には武器を使っての戦闘が多く、体術はあまり活用しない。
 理由は、体自体小さいため有効打を決めにくいとのことだが、体術もそれなりに出来るため、武器なしでも強い。

 しかし、どれかひとつだけを用いての戦闘は強いが……。

 本人は曰くどれも習ったことが無く、体が覚えているらしいとのことだが詳細は不明。

 男なのに女っぽい名前にさらに女顔、さらに右目が真紅、左目が蒼というオッドアイズにコンプレックスを持っている。その上身長もはやてよりも頭一個分小さい。
 髪の毛を少し立てているので少し男っぽく見えるが風呂とかに入ると髪の毛が濡れ、より一層女性に思われる。

 趣味は料理と家事。

 バリアジャケットは全身真っ黒の服装でその上に黒いコートを着ている。

デバイス設定

ギルガメッシュ 愛称は[ギル]
 流が持つ大剣型のアームドデバイス。待機状態は小さな剣のついたブレスレットで、右腕に付けている。カートリッジシステムを搭載してないが、使用者の魔力コントロールに重点を置かれている。
 起動時は自分の身長とあまり変わらないほどの長さの長剣になり、魔力を込めて剣を振れば魔力刃を打ち出せる。
 性格は忠実で戦闘中に流を励ましてくれるが、基本的にあまり話そうとしない。同じく使用されているアークとは割と会話をしているが、機動六課の人格搭載デバイスの多さに驚いており、交流を行なっている。


アークジャベリン 愛称は[アーク]
 流が持つ槍の様なロングバレルの長砲身砲のデバイス。待機状態は小さな銃が付いたブレスレットで、左腕に付けられている。同じデバイスであるギルガメッシュとは違いカートリッジシステムを搭載している。
 起動時は自分の身長よりも少し小さいくらいだがそれでも大きい。カートリッジは6発だが、ガトリングの弾のように連なったカートリッジを使える事も可能。
 長砲身砲のため実弾の連射はあまり効かないがそれでもかなりの威力を持っている。
 性格かなり人見知りだが流が相手の場合は結構喋り、デバイスが相手だとそれなりに会話をする。



叶望 震離 (かなみ しんり)


性別/女
年齢/17
誕生日/3月14日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・一等空士
機動六課での役職/前線フォワード部隊「スターズ分隊」 ガードウィング
魔法術式/ミッド&ベルカハイブリット
魔導士ランク/空戦AA
魔力光/黄色
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/右
魔力変換/雷

 明るく気さくなで、人付き合いも良い人格で、知らない人とでもすぐに友達みたいになることが出来る。

 が、それはキャラ作りというより、自身がいじめられないようにするためであり、本当の性格は、人見知りをすると言うか人付き合いが苦手な方である。事実前書の性格で拒絶なんてされようものなら、本気で戸惑う。
 そうした実の姿を外では微塵にも出さない点から、自身が大層な演技派である事は自覚している。
 ある程度仲良くなった時に、ようやく本来の大人しく、傷つきやすい性格が現れる。幼馴染相手にはその上で遠慮なく物が言えるという事実に何よりも感謝している。
 そんな性格な為、自分のことはあまり話さないが、相手の話は喜んで聞いて(観察して)くれる。方向さえ間違わなければ、会話で盛り上がる事も十分可能である。
 観察し、人をよくよく見るため、良い人かどうか見極めようとする事が災いし、分からない。腹に一物抱えてる人には苦手意識を持つ。
 ただし、なにか目的。それも良い目的だと察してからは一転して少しでも手助けになればと協力的になる。


 入局前に剣術を父から学び、父に実力を見せて認めた貰ってから管理局に入っているため、実力はあるが、無理やり突破したということと、自分より強い人達を知っていることから魔法戦を中心に戦っている。


 戦闘スタイルは全距離対応しているが、ポジションの関係から突撃することが多い。
 気に入った魔法を見たりすれば、すぐに覚えて自己流のアレンジを加えるため、周りからは天才と呼ばれている。ほとんどのことができる為、得意なものはない。魔力光は黄色。

 バリアジャケットは管理局の支給した一般局員のものであり、デバイスも変更していない。カートリッジ内蔵の杖を使用し、背丈程の杖を使っている。
 戦闘スタイルは、杖に巨大な魔力刃を展開させた上での接近戦や、砲撃戦、射撃戦、様々な状況に対応出来る。

 容姿は肩に触れるくらいのミディアムヘアの金髪であり、胸は他の三人に比べると一番小さい事から多少のコンプレックスを抱いているが、一般的に平均である。ちなみにいくら食べても太らない体質だが、別にたくさん食べてるというわけではない。



事務組



楠舞 煌 (なんぶ こう)

性別/男
年齢/17
誕生日/9月1日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・一等空士 
機動六課での役職/事務員
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/右


 性格は、陽気で話し好きな楽天家。男女関係なく誰とでも親しく接し、場を盛り上げるのがとても上手い。一緒にいると非常に楽しいため、同じ事務員やロングアーチの面々からは慕われている、しかし、その騒がしさ故によく怒られているが、楽天家である故なのか怒られたって気にしない。

 いつも一緒にいる幼馴染とは違い常に明るいが、その言語の端々には年不相応な言葉遣いと考え、そして女性の扱いを心得ており、他の二人が「大人ぶっている」とすれば、煌は自然に「大人びている」ため、何時でも余裕を持って行動している。しかし、傍から見ればそんな余裕は微塵も感じられない。
 紗雪と付き合ってるような様子が多いが、本人は「そうだったらいいのにな」と笑っていうだけで真相は不明。ちなみに紗雪との付き合いは長くずっと同じ部隊に居る。

 馬鹿っぽく見られることが多く、年下から煽られたりするが、事務の仕事、後輩への教え方等々、なかなか優秀な人物である。

 優夜と同じ「槍術」を習っていたが、ある程度学んだ後、震離の家の剣術を織り交ぜた、ほぼ独学といっていいほどの棒術を会得しており、ちゃんと習っている優夜とも対等に渡り合えるが、本人はまだ勝てないと一歩引いている。立場的にまずい為、あまり模擬戦闘はしていない。

 魔力も多少は有るらしく、練習している様子が時折見られるとか。

 容姿はツンツンした短めの髪だが、本人曰く天然。赤っぽい髪をしている。



高麗 紗雪 (こうらい さゆき)

性別/女
年齢/17
誕生日/6月1日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・一等空士 
機動六課での役職/事務員
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/左

 子供っぽさを持ち合わせながらも常にクールで冷静沈着だが、強いリーダーシップには従順。天然ボケな面も持ち合わせ、面倒見がいいのだがだが、おせっかいを焼くこともしばしばある。カワイイとかキレイとか、褒められるのが苦手。
 普段から、そっけない態度をとり、愛想が悪いため、冷たい人、もしくは暗い人と思われることが多いため、このことを時雨や震離がよくネタにして、からかわれている。
 よく観察すれば面白い人だが、真顔でボケるということもするのも問題の一つ。

 最初の方は、ロングアーチの面々や事務員からは、よく思われていなかったが、次第に改善されて、今では普通に仲が良い。煌と付き合ってるような様子が多いが、本人はその話になると顔を赤くし誤魔化す。ちなみに煌との付き合いは長くずっと同じ部隊に居る。

 魔力も多少は有るらしく、練習している様子が時折見られるとか。

 他の面々と比べると、常識人故に苦労人。掃除が得意なものの、料理はあまり得意ではない。
 武道は嗜んでいないが、その割に重心がブレないと、実力者たちからは不思議に思われている。

 容姿は肩まで届く淡い灰色のショートヘアだが、本人曰く生まれつき。



有栖 優夜 (ありす ゆうや)

性別/男
年齢/17
誕生日/9月20日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・一等空士 
機動六課での役職/事務員
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/両方(主に右)

 幼馴染のことを常に気遣いつつも自分のことは自分で解決する芯の強さを備えている、束縛されることを好しとせず、ふらふらとどこかに行ってしまうことが多い自由人であるが、なにかと貧乏くじを引かされることも多い。
 男の中では比較的常識人であるが意外に悪ノリすることが多いため、ある意味煌よりも、問題児である。
 時雨と付き合ってるような様子が多いが、本人は上手くはぐらかしている。ちなみに時雨との付き合いは長くずっと同じ部隊に居る。

 実家の槍術の継承者であるため、腕は高く。魔力なしの打ち合いならば渡り合えるが、魔力が少ないからと、あまり模擬戦闘はしない。
 魔力も多少は有るらしく、練習している様子が時折見られるとか。

 ロングアーチに所属しているが、基本的には事務員よりというより、ほぼ事務員でロングアーチとしては補欠のような扱いである。だが、仕事は優秀である上に、様々な情報網を持っている。事実、何となく六課の事を調べて、口の堅いティレットと響に報告したが、話のネタ的な意味で送ったために、響達を寄越せとかそんなことは微塵も考えていなかった。
 ロングアーチの面々や事務員の面々とは普通に仲が良い。

 容姿は、ぼさぼさの黒髪に、響に届かない程度の背丈。



狭霧 時雨 (さぎり しぐれ)

性別/女
年齢/17
誕生日/7月15日
前所属・階級/時空管理局本局武装隊・一等空士 
機動六課での役職/ロングアーチ
出身地/第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区 日本
利き腕/右

 冷静で、何手も先を見通して居ながら多くを語らず、裏が全く読めない性格の上に、つかみ所がなく飄々とした態度を取っているが故に、天然と称されてしまっている。これを知っている人達からは天然ではなく腹黒と言われる。
 響とは逆の強いリーダーシップで引っ張るタイプではなく、にこやかに全体を見守る包容力のある人柄。
 故に、煌や優夜に指示を出せる人物ということもあって、響からは、何かと頼りにされている。更には笑っているのに、ガッツリと策略を張り巡らせるという策略家の面もある。機動六課に来てからはあまり発揮しておらず、現時点ではロングアーチの面々や事務員の面々とは普通に仲が良い。
 優夜と付き合ってるような様子が多いが、本人は適当に流している。ちなみに優夜との付き合いは長くずっと同じ部隊に居る。

 護身術を習っているが、あくまで護身程度に留めているために、素の実力は低く、本人も弱いと言っている。もう一つ何かをしていたとのことだが、詳細は不明。
 魔力も多少は有るらしく、練習している様子が時折見られるとか。

 容姿は、青いセミロングヘアにヘアピンをつけ、伊達メガネを掛けているが、本人曰くカモフラージュ、しかしあまり意味を成していない。胸は他の三人に比べると大きく、同世代の中でもトップクラスだが本人は小さくなってほしいなと願っている。

 

 

第3話 模擬戦

――side震離――

「了解」

 そう言って、私はすぐに反応のある方に向かって移動を開始する。今回の相手は六課のFW4人だから、一人一倒の割り当てだけど、あまり気にしなくてもいいかな?
 移動しながら、魔力の流れを感じてみるけど、今のところ違和感はないかな。うん。
 ただ、さっきの響の指示は正直よくわからない。だって、何時もなら適当にあしらっとこう、みたいな事しか言わないのに今日はどっちかっていうと消極的だ。
 いやまぁ、別に構わないよ。

「まぁ、それでも従うからいいんだけどねー」

「叶望一等空士、どうかされましたか?」

「あ、ううん、大丈夫だよ」

 私の隣を移動する流が声を掛けてきた。うん、正直さっきの事があるから正直かなり気まずい。やっぱり―――

「4つの反応が、3つに分裂したので、自分はその内の一つを追いますね」

「へ? あぁ、うん、一応気をつけてね?」

「了解」

 返事をしてからすぐに流は私とは違う方向に行っちゃった。やっぱり、嫌われちゃったかな? まぁ、地雷二つも踏んだから仕方ない……よね。
 やばい、そう思うと悲しくなってきた……はぁ、これからどうしよう?

(震離?)

 あれ? 奏だ。どうしたんだろう念話なんて。

(はい、どうかしたの?)

(そっちに一つ行った、それで私は遠距離から後ろにいる二人を、流も別の反応の場所に向かってる)

(了解、ありがと)

(うん、後でちゃんと謝ればいいと思うよ?)

(え!? な、何のことかな!?)

 奏の急な言葉に思わず焦る。だってねぇ? 幾ら何でもタイミングが良すぎるんだもん。

(流の事考えてたんでしょ? 後で謝ったら許してくれるんじゃない?)

(べ、別にそんな……)

(ほらほら、準備しないとそろそろ遭遇するよ? それじゃあまた後で)

 うー……見破られてた。なんか顔が熱くなってきて思わず顔を伏せてしまう。あ、いけない、もうすぐで遭遇するんだ、よそ見なんてしてらんない! 首を横になんでも振って邪念を飛ばして、よし!

「さて、と!」

 立ち止まって、耳を澄ます。なんかローラーのような、エンジンを吹かすような音が聞こえてくる。まだ音が少しだけ遠いし、後10秒くらいで遭遇しそうだ。……10秒もある、だったら。

「カートリッジ、フルロード!」

[YES,SIR!]

 自分の持つ杖からこれ以上無いくらい無機質な声が聞こえたと同時に、杖の先端が動いて薬莢が4つ飛び出る。同時に自分の中で魔力が増えたのを感じた、よし。

「ブレード、オープン!」

 杖を天に掲げて、杖を媒体に大きな魔力刃を展開する、同時に周囲に小さな魔力刃も展開しておく。
 さ・ら・に!

「プラズマランサーセット!」

 杖を――ううん、大きな剣の鋒を前に向けて、小さな剣達も少しずつ前にだして構える。
 正直自分でもやり過ぎかって位弾幕を貼っとく。もう一度しっかり耳を澄まして、タイミングを――
 そこまで考えてふと気づく。向こうは陸戦で、ローラーのような音も聞こえる。だったら何で。ローラーの音が安定(・・)しているのか。シミュレーションとは言え、ある程度地面も再現されてて、サスペンションも有るとは言え、多少のブレは有るはずなのに、まるで平地(・・)を走ってるような一定のローラー音。
 そこで気づく、慌てて周辺に視線を向けると、至る所に青い道のようなものが出来てて、私の上空にも道がひかれていた。

 気づくのが遅かった……でも!

「プラズマランサー・カラコールシフト!」

 そう叫んだと同時に、私の杖に展開していた魔力刃と、周囲に展開していた小さな魔力刃達を発射した。
 大きな魔力刃が螺旋を描きながら飛んで、その大きな魔力刃を中心に小さな魔力刃達も巻き込まれるて、どんどん大きくなってく、そして最終的には大きな砲撃みたいなって、ローラー音のする場所へと真っ直ぐ向っていったんだけど……。

(……小っっっさ!?)

 って本気で思った。うん、だって、何時もの半分有るか無いかくらいの大きさだよ!? 一応私の遠距離系じゃ一番威力あるんだよ!? 
 なんて、考えてるうちに音のする方に着弾し煙を上げた。
 一応音が聞こえなくなったけど……いったかな? そんなこと考えながら煙の上がる先を見てた瞬間、煙の中で大きな光が……って!

「一撃必倒! ディバインバスター!」

「危なっ!?」

 自分のいた場所から全力で飛び跳ねると、大きな魔力砲がさっきまで私の居た所に着弾した。空中で体勢を整えようとしているのと同時に、ローラー音とともに、青い道が私に向かってまっすぐ出来た。

「行くよ! 震離!」

「……来なくていいけど!」

 思わず本音が漏れる。けど、それでもスバルは止まらなくて、青い道の上を走って、まっすぐ私の元へと向かってくる。一瞬飛ぼうかとも思ったけど、それじゃ10秒以上飛ぶことになりそうだし、ルール違反で負けるのも癪だ。
 だけど、正直今の私にスバルの突撃を止められるかと聞かれると正直辛い。高機動……いや、突撃力と分厚い装甲魔法をもって思い一撃を与えるというスタイル。
 ぶっちゃけ相性が悪い。力押しされると本当に辛い。
 最初で大きいの撃つんじゃなかったかなぁ……なんて考えていたら。

(震離、そこから降りて!)

「え、あ、了解!」

 急に奏から念話で指示をもらって、慌ててスバルの青い道から飛び降りる。それを見越していたのか青い道が囲うように展開される。
 けど。

[Shining Moon]

「って、えぇ!?」

 瞬間、私が居た場所を、スバルの正面目掛けて、白い閃光が奔り、慌ててそれを回避する姿が見えた。
 割と不意をついた奏の砲撃を避ける辺り、スバルって反応速度が凄いな。
 直撃は無いと思ってたけど、シールド張って受けるくらいはすると踏んでたけど……。
 なら、それを見越した上で……

『震離撤退!』

「……え!? 何で!?」

 いきなり私の真ん前にモニタが展開して響の顔が映し出された。
 ……撤退って、私は別に。

『いいから、さっさと撤退だ。さっきの事もう忘れたか?』

「さっきって……うん、了解」

 そう言われてさっきの響の言葉を思い出す。それに今のままだと正攻法じゃスバル達に勝てそうにないし、何より自分にリミットがついてこんなに変わるなんて思っても見なかった。それに響のことだし、何かあるんだろうから従っとく。

「スバル、また、ね!」

「ちょっ!?」

 魔力刃を思いっきり地面に叩きつけたと同時に、土煙を巻き上げて、

「……参ったなぁ」

 小さく愚痴をこぼしながら、全力で後退。その勢いのまま響のいる場所へと向かう。
 これで追ってきたらなんて考えてたら。ローラー音が離れていったからスバルも退いた事を理解する。もしくは流の所へ行ったのか……。
 スバルの勢いから察するに、あのまま追撃するかと思ってたけど……下がるようにティアナが指示を出したのかな? きちんと見えてて上手いな。
 そんなこんなで木の上で待機する響を見つけてとりあえず、杖を振りかぶって―――

「リミット辛いよぉおおお!!!」

「はぁ!? 知ってるよ見てたんだし、てか、何だよ急に!?」

 思い切り振り下ろすけど、響の刀に受け止められた。
 うん、惜しい。そんなこと考えて、不意に目に入ったモニタを見るとちょうど流が戦闘を始めようとしてるところだった。



 時間を少しさかのぼり、そして―――


 ――side流――


「了解」

 そう言って直ぐ様移動を開始した。今回は機動六課のFWが相手だから、少し警戒しながら移動する。そして、その間私の持つデバイス二機に念話を飛ばす。

(調子はどう、アーク?)

(あ、マスター、私は問題なくて大丈夫で、何時でも行けますよー)

 念話内とはいえ、緊張感のない声で返事をしてくれて、思わず頬が緩みそうになる。相変わらず良い意味でデバイスらしくない。だけどそこがアークのいい所……だと思う。
 もうかれこれ長い付き合いになるけど、陽気でいい子なんだけど、欠点があるとしたら、私以外の人相手にはあまり話をしないで、メンテナンスも私以外の人からは受けようともしない。まぁ、私が出来るから問題ないし、私がお願いしたら嫌そうながらも受けてくれる。

(ギルは?)

(はっ、自分も問題ありません。ですがマスター?)

(何?)

(リミッターのせいで何時もの出力が大幅に落ちてるようです、そして今回は模擬戦ということもありますし、お気をつけて)

(そう、ありがとう)

 移動している間ずっとチェックしててくれたんだ。やっぱり何時もギルには助けられてるなぁ本当に。ただ、ギルもアークと同じで私以外の人とはあまり話そうともしない。二機ともデバイス間の交流には結構参加して話してるらしいけどね。
 とにかく、いつもよりも出力が落ちてるのならば、少し考えて動かないと……

「……いけないんだけどねー」

 気がつけば、いつの間にか隣に来ていた叶望一等空士が小さく呟いた。なんだろうか?

「叶望一等空士、どうかされましたか?」

「あ、ううん、大丈夫だよ」

 小さく苦笑いを浮かべながら返事をしてくれた。だけど、何かあっても私には関係ない。そんなことを考えてると。

(マスター、反応が3つに分かれました)

(うん、ありがとうねギル)

 念話を聞いて、方向を確認する。少し遠くのほうを相手してみるか。

「4つの反応が、3つに分裂したので、自分はその内の一つを追いますね」

「へ、あぁ、うん、一応気をつけてね?」

「了解」

 返事をしてから、すぐに方向転換して、少し離れた所に移動している反応の元へと向かう。そういえば……模擬戦前の作戦説明の時に緋凰空曹が言ってたな……。

「エンカウントして、逃がしたら深追い禁止、追撃してきたら撤退って……」

 正直よくわからない。自由にしていいなら最初から自由にしてくれたらこちらも動きやすいのに。だけど、命令だし従うから問題ない。

「アーク、チャージスタート」

[All right.]

 アークに魔力を送り込み、砲撃のチャージを開始しておく、この位置からだとエンカウントまで後40秒。その状態で移動していたら、背後から大きな魔力反応を感じて思わず足を止めてしまった。

「何?」

[……この魔力反応は不明ですが、位置的には叶望一等空士かと思われます]

「そう、ありがとう、ギル」

[ちなみにチャージは完了しましたので、何時でも打てます]

「了解」

 再び移動を開始して反応のある方へと向かう。ちょっとタイムラグがあったけど、あっちもこちらを補足して近づいてきてるし、問題ないかな。
 後20秒、どなたが来るのかわからないけど足を止めて。迎え撃つ!
 
「散らします」

[Yes,sir.ShotMode]

 そう言ってアークを構えて、その前に私くらいの大きさの魔法陣を展開させて、呼吸を一つ。コチラに向かってくる相手に集中をする。
 後10秒。
 向かってくる方向を見据えるけれど、茂みで見えにくい。
 アークが念話内でカウントをしてくれる。後5秒、4、3、2、1。

「ファイア!」

 アークから砲撃を撃ち出す、反動でちょっと後ろに下がる、同時に目の前の展開していた魔法陣に当たって、

[Avalanche・Canister!]

 赤黒い砲撃が魔法陣を通して散弾状に変換されると共に、茂みへと降り注ぐ。

「カートリッジ、ロード!」

[Road Cartridge!]

「ありがとアーク、いくよギル!」

[Yes, sir.]

 カートリッジで増大した魔力をギルに預けて、そのまま振りかぶって!

「撃って!」

[Blutiger Dolch!]

 赤黒い魔力が、魔力光と同じ短剣へと代わり、二段目の弾幕として煙の中に居る誰かに目がけて放つ。
 が、中に居た反応が一気に後退。加えて別の方向から誰かがやってくる反応に気づく。

(……ダメか、砲撃だけでもちゃんと確認してから撃つべきだったかな)

(えぇ、ですが不意打ちとしては十二分かと。それに向こうも分が悪いと思ったから下がったのかと思われますし)

(別のところから接近する反応がありますが、後退した人には追撃しないですか?)

(うん、このまま緋凰空曹の元へと戻るよ)

 そのまま下がる反応をほっといて、空に上がる。そして、索敵を開始し緋凰空曹の反応を探して、そっちに向かって移動する……叶望一等空士も退いたみたいだけど、この後の作戦はどうするんだろう?
 そんなことを考えながら、緋凰空曹を含めた三人と合流した。


――side響―― 

 なんか分からないけど、急に震離が斬りかかってきて、それを受け止めながら展開していたモニタを覗く。
 そして、流と、多分場所と反応的に多分エリオ……だと思う。その二人の戦闘を観察して思う。

「……ただの武装隊じゃねーな」

「え、何? 聞こえない」

「なんでもない、というかいい加減杖を下ろせよ!」

「ちぇー」

 納得いかないみたいな顔をしながら杖を下ろす震離。ていうか、俺のほうが納得いかないからな? 分かってんだろうけども。それよりも、今の問題は流だ。
 別に砲撃は構わない、人によって差があるんだし、それが得意なのかもしれない。剣に魔力を通して、短剣を飛ばすのも構わない。それが得意なのかもしれないし。ただ。

 今の戦い方は納得いかない。

 意思のあるデバイスを持っているからかもしれない、接近する敵に対する反応が少しだけ違うのは。
 たしかに流はかなりの戦闘経験があるんだろう。武装隊にいたみたいだし、何よりあの年で総合AAAなんだし。現に本局の武装隊にいた俺らも結構場数を踏んでるしね。

 ただ、今の戦いからは明らかに、一人で戦ってた奴の動きだ。普通の武装隊じゃ一人で戦うことは滅多にない、それこそ皆が全滅した時とか、模擬戦の時とかだけで、基本的には複数の人数と共に行動して、作戦を遂行させるんもんだ。だからこそ、頭に浮かぶ現状の結果は。

(……ただの武装局員じゃない。それに、スタンド・プレーを得意としている)

 認めたくないけどこうなってしまう、だからか? 煌や優夜が流の事を、いや、「風鈴流」の事を不安要素と言ったのは。
 それに……技の接続、連携が若干甘く感じた。あのまま、追撃で砲撃を打ち込んだほうが制圧……と言うより、ほぼ撃墜判定になってたと思うが、そうしなかったのは俺の指示のせいか?
 

 あぁ……だけど、いやだなぁ、これから仲間になる子を疑うのは。

 そんなことを考えながらモニタを消して、空を見上げる。ただただ空を見る。

「響」

 なにも考えないようにした直後に隣に奏が来ていて、その顔は微笑んでた。さっきまでは少し離れた所で、俺と震離の攻防を見ていたのに。だけど。

「ありがと、何でもないさ」

「うん」

 こういう時本当に助かるなぁ、本当。いっつも助けられてるんだよなぁ……。
 そんなことを考えているうちに、向こうから流が戻ってきた。うん、これはまた後で考えよう。今は。

「さて、皆揃ったところで、これからの事を言うからちゃんと聞けよ?」 


――side煌――

「作戦会議か……どう見る?」

「やっぱり辛そうだな。響はともかく他の三人……いや、二人がリミッターに戸惑ってるように見えるかな」

「奏は途中で気づいて、この後に備えてるみたいだけど」

 訓練スペースに向かいながらを缶コーヒーを片手に、今現在訓練場で行われてる模擬戦の様子を優夜と二人で見ている。
 まぁ、ぶっちゃけるとさっきの仕事結局優夜に手伝ってもらったし、余裕で見てても大丈夫なんだけど。

「……俺らFW組と話したこと無いしなぁ」

「まぁ、そうだな。話そうと思っても案外会わないし。まぁ仕方ない」

 実際そうなんだよな、俺らって案外こっちの仕事が忙しくて、FW組とあったこともなければ、食事も一緒になったこともない。そんぐらい時間が咬み合わない、咬み合わないはずなのに。

「何でロングアーチの面々は、FW組と仲いいんだ?」

「さぁ、やっぱり波長があってんじゃないの? その割には時雨も紗雪もあったことがないって言ってたけどな」

 まぁ、いいや。響達が来たんだし、これからは会う機会もあるだろう。さて、これをこうして、あれをこうすれば……

「良し終わった」

「何が?」

「ん、あぁ。明日の為に仕込みを少々。色々あんだよ」

「そっか」
 
 モニターを小さく開きながらある作業をしていたんだけど、あんまり優夜は興味を持たなかった……まぁ、良いんだけどな! それに……って。

「お? 作戦タイム終了か、さてさて、どう動くかね、あいつらは?」

「さぁ? ただ、響の事だ面白いことしそうだけどな」

「違いない。ってか、モニターで見るよりも生でみたいな。急ごうぜ」

「あいよ」

 模擬戦の様子を映しだしてるモニターを消して、少しというか、全力で走る。やっぱりこういう事って生で見たほうが良いしな!

「……しかし、疑いは強くなっちまった」

 ……おっと?
 先程の映像を思い出したのか、優夜の視線が鋭くなってる。
 おそらく疑いというのは、流の事を指しているんだろう。確かに、地上出身で、空戦も出来る総合AAA。普通に考えりゃ疑うよな。

「……見た感じ大丈夫そうだと思うけどなぁ」

「……そう思えるだけの確証が無い。砲撃を散弾に変えて打ち出すなんて。まるっきり対人想定で……対多数だろあれ。
 加えて後詰の追撃。普通のBランクの人ならあれで終わってたが……反応と機動力のモンディアル君だったから回避しきったんだぜアレ」

 ……そうだよなぁ。俺らから見える視点は、なのはさんらが見てるであろう奴と同じ。どちらの動きも見える視点。
 あの一瞬、回避行動と槍を用いて射撃を撃ち落としたのは流石というべきか、あの子の対応力が凄いのか……どちらにしても凄いけど。

 うーん、わかりやすい疑いの種だけど、ここまで解りやすくするもんかね?

「ま、もう少し様子見だな」

「……そだな」

 今は観戦したいし急ぎますかね。


――side響――

「響ー、幾ら何でもそれはざっくりしすぎじゃないのー」

「……ばかだな震離? 今日は俺らの顔見せみたいなもんなんだ、初めはこんなもんだ」

「えー、それにあたしいつもよりちょっと後ろじゃん」

「お前は……流や奏はすぐにリミットのかかってる状態に気づいてその上で動いてたのに対して、お前何時もの感覚で動いて魔力使いすぎたんだろうが」

「……うっ」

 実際そうだ、他の二人ってか流はリミットが掛かってる状態だけど、先程の攻撃で何時もと変わらない割合で魔力が減ったて報告してきたことに対して、震離は何時もと変わらない攻撃を……ってか、余裕ぶっこいて攻撃したら何時もの割合どころか、現在の魔力の半分以上も使ったんだ。だけど、まぁ。

「……お前を少し後ろにやるのは、リミットに慣れてもらうためだよ、慣れたら俺とポジション交代だ」

「マジで? 了ー解、それにちょうど遠距離で試したいと思ったのもあるし」

 くるくるとバトンみたいに杖を回す震離を見て、少し冷や汗が。こういう時の震離って、対策取った上での攻撃だからなー。

「危ないことはほどほどにね?」

「大丈夫、危なくないから」

 目の間で終始笑顔の震離に軽い注意を促す奏を見て、毎回思うんだが、本当双子みたいだよなぁ。実際この前も買い物に付き合わされたとき、ナンパで双子? とか聞かれてたしな。まぁ、それはさておき。

「さて、そろそろ動くが、一応確認な?」

「はい!」

 確認入れようとしたら、流も含めて三人が返事してきた。流は真面目だとして、他二人が笑ってるところ見ると、分かっててやってんな……こう言うのは苦手なんだけどなぁ、本当に。

「とりあえず、俺がフロントアタック、震離がセンターガード、流がガードウィング、奏がフルバックで、基本的には俺が前に出て、流が遊撃、震離は俺が取りこぼしたのを倒して、奏が援護。多分向こうも同じような配置というか同じポジションだろう。で……」

 ポジションと基本戦術を説明した後、軽く質問はと思って、皆の顔を見渡すとちょこっと手を挙げる奏を見つけて、目で合図。

「スバル達の配置ってどんなものなの?」

「あぁ、なるほど。いつかの任務中に見たけどアレ撤退戦だし、余り参考にならないと思うけど。多分予想としては、スバルがフロントアタック。エリオがガードで、ティアナがセンターガード、キャロがフルバックだろうな。現に、今の戦闘でもスバルはまっすぐ、エリオっぽいのは少しズレて来たろ」

「なるほど。了解、でも次は……」

 ま、あちらのシフトは2つ有るっぽいしな。平時はスバルとエリオのツートップと、ティアナのキャロの後方支援の王道シフト。
 変化球として、多分この前やりかけてたスバルとティアナのツートップ。この場合はエリオを遊撃寄りのキャロのガードに当てるんだろうが……。
 今回は無いと見て問題ないだろ。
 だとすれば。

「うん、多分向こうも少し固まってくるだろうし。震離と流が良い感じで動いてくれたから警戒してくれたろ。まぁ、突破力も何もない俺が一番前で申し訳ないが……皆。宜しくな」 

「了解っ!」

 そう言って、四人揃って、移動を開始した。時間掛かりすぎてる気がしない事もないが、まぁ、様子見だったし仕方がない。そうこうしてるうちに、前方から2つの気配に気づいて、とりあえずその場で一時停止して、とりあえず一言。

「さっき言ったとおりだ、とりあえず楽にして、落ち着いてやろう!」

「了解、じゃあ、私と震離で弾幕張る用意しとくよ? 震離、用意はいい?」

「何時でも!」

 そう言って奏も自身のデバイスである二丁のライフルを構える。ただ、流のライフルが槍みたいな突撃型に対して、奏のやつは、狙撃用ライフルみたいな細いタイプのものだ。こうしてみると同じ「ライフル」つっても、様々なやつがあるもんだ。

「さて、あの二人は目眩ましかもしれないという可能性も、考慮して。残りは……回りこんでくるかな、あっちも既に補足してるだろうしな……一応全員バックアタックされるかもだから気を付けろよ?」

「了解、そろそろ目視出来る距離に来るよ?」

 後ろで弾幕を張る用意をする奏の言葉を聞いて、少し構えて

「あぁ、じゃあ行くか流?」

「了解。援護します」

「そ、そっか。なら任せたよ、さて……」

 短い会話に思わずこけそうになる、もう少し愛想よくしてもいいと思うんだけどな。まぁ、かなり近くまで来てるし、こちらも身構える。実際なんかローラー音が凄いしね。林の中だし、茂みも多いから未だに目視できないし。さて。

「緋凰響、推して参る」

 刀を二本とも抜いたと同時に、足に魔力を送り込み、音のする方に向かって「跳んだ」。茂みを突き抜けたと同時に目の前に青い道の上を走るスバルと、槍を構えてスバルと並走するエリオがそこに居た。
 この時点で、スバルとティアナのツートップのプランは完全に消えた。
 俺が現れたと同時に、というか既に補足していたのか、既に二人共迎撃体制に入っている。エリオは槍を頭上に構え、スバルはナックルをつけた右腕を振りかぶっている。正直な所、既に俺も向こうもかなりの速度で接近してるから、もう方向を変更することは出来なかった。

「「うおぉおおお!」」

「……おー元気だな、おい」

 思わず口からそんな言葉が漏れるけど、そして、二人の攻撃が俺に向けられると同時に、両手の刀を逆手に持ち替えて、右手の刀でスバルのナックルの側面に当てて少し方向転換。同時に、左手の刀でエリオの槍を受け止めそのまま――

「えぇ!?」

「あっっっぶねぇ!」

 二人の攻撃を上手く受け流し、最初の勢いのまま背後を取ったと同時に、刀をちゃんと持ち替える。正直、少しでもずれたり、タイミングが間違えてたら多分やられてたんじゃなかって位やばかった。あの二人の反応ヤバ過ぎだろうが。最初の予定じゃ、会敵したと同時に、攻撃当てて気絶でもさせようと思ったけど、甘かったな。つーか甘すぎた。
 だけどな、背後を取られたら直ぐに振り向かないと――

「それじゃあ……!」

 未だに俺に背中を見せてる、二人に向かって。瞬間的に魔力を刀に送り込み、そのまま刀を振りあげて巨大な月型斬撃を二つ放つ。そして、もう一度足に魔力を送り込み、自分で放った斬撃に追いついて。

「不味いんじゃねーのっ!!」
 
 その斬撃目がけて刀を斬撃二つに叩きつけた瞬間、一気に後方へと下がって、斬撃が弾けた時の衝撃を回避して、その衝撃を二人に撃ち当てる。

 ここまでは良かった。ここまでは良かったんだ。ただね。ただ、当てた瞬間「やったか!」なんて思うんじゃなかったって今本気で思っています。だって――

「イタタ……びっくりした」

「すごいや、響!」

「……マジで?」

 結構本気でやった筈なのに、衝撃で軽く吹っ飛んだ二人が、何もないように起き上がってきましたよ。しかも。

(まーたヒビが入った……)

 刀にヒビが入ってるのを見つけて軽いため息を吐く。考えられる原因は、スバルとエリオの攻撃を受けて弱ってたんだろうね。しかも、俺の攻撃で罅が入ったんだろう。

 まぁ、それは大して問題じゃない。よくあることだし、刀を再現しただけのバリジャケの延長線みたいなもんだしね。で、問題が。

「……フロントなんてするもんじゃないな」

 小さく呟いて、エリオとスバルを見据える。うん、突破力、防御力。何よりも瞬間火力は向こうのほうが上だし。うん。無理じゃね?
 いやぁ、うん。別にさぁ。俺がフロントアタッカーなんて柄じゃないのはよく分かってんよ。本職の人には勝てないんだろうなー。あいつらみたいに突破力無いしなーって自覚してるけどさ。これはちょっと辛いなー。

「ビックリしたけど、行くよストラーダ!」

「マッハキャリバー!」

 目の前で二人が武器を構えるのを見て、思わず舌打ちをしてしまう。理由は単純。多分俺じゃなく震離の場合ならアレでダウンをとって且つバインドで拘束まで入れていたかもしれないからだ。それに比べて俺はというと完全に背後をとって攻撃まで加えていたのにダウンは愚か、大したダメージを入れられていないからだ。
 正直な所、もうなんかお兄さん泣きそうなんだけど、もうこれだからA-はとかって言われるんのちょっと嫌なんだけど。まぁ、そんな事よりもさ!

 ホント、どうしましょう!
 


 ――なんて言うのは冗談で。

(響、援護居る?)
 
(奏がいてくれるだけで十分かな。流はこのまま後ろへ移動で炙りだして、震離はそこに攻撃を打ち込む。俺と奏はここで二人を足止めってか、スバルをそっちに行かせるからバインドかなんかして、俺はエリオを落とすから)

 武器を構えた二人が俺目掛けて突っ込んでくる前に、奏達三人に指示を飛ばす。正直返答とかにも答えてあげたいけど、それよりも先に。

「「おおおおお!」」

 スバルとエリオは俺との間合いを一気に詰めて、それぞれの攻撃を繰り出してきた。まず体を半歩右にずらして、スバルの拳を回避。同時に、エリオの槍の攻撃を罅が入った右の刀で受け止めて、そのまま受け流す。
 同時に刀が砕けると同時にわずかにエリオの体勢が崩れて、その隙をついて再び二人の背後を取る。
 正直このまま一撃を加えたい気持ちを抑えて、二人を見据えようと振り返ると、二人は直ぐ様追撃に移っていた。

(……反応が良いな)

 素直にそう思う。というか正直驚いた。
 まぁ、二回目だし仕方ないか。なんて考えながらその追撃も、二人の……正確には、エリオの槍が当たる寸前に真後ろに一気に下がって紙一重のタイミングでかわす。二人共一瞬驚いた表情を浮かべたけど、攻撃を出した勢いのまま再び踏み込んできた。それを見て、折れた刀と罅の入った刀を二人よりも上の方へ投げると同時に、今度はコチラからも二人の間合いへ踏み込み、一気に接近する。
 一瞬の出来事に、スバルは拳を振りかぶり、エリオは振り上げた状態だ。だが、既に間合いへ入っているから、二人のメインの攻撃は来ることはない。強いて言えば今度は少しだけ前に居るスバルと激突するくらいだ。だけどスバルも俺も、ここで選択をミスったら、即アウトだ。スバルもそれに気づいているのか、空いた左手を素早く自分の体の前で構えて、しっかりコチラを見据えてた。

(ま、このままぶつかったら、まず負ける。やっぱり力比べは苦手だわ)

 自己嫌悪に近い気持ちで、ため息が出てくる。そんな事考えてるうちに、スバルが既に眼前まで接近してきた。多分スバルもコチラがぶつかってくると考えていると思う。だけどな――

(ぶつかるだけが能じゃないし。その回答は半分正解で、半分はアウトだよ!)

 盾代わりに構えていたスバルの左手首の袖をまず左手でつかみ、同時に右手で、スバルの防護服の左襟を掴んむ。そのまま足を止めて、スバルに背を向けると同時にに、体勢を低くしてそのまま!

「投げる!」

「ふぇ?!」

 向かってくる勢いのままスバルを投げて、そのまま奏が居るであろう方向と投げ飛ばす。本来ならば地面に叩きつけるのがベストなんだけど。このまま地面に叩きつけたら、防護服は着ていても物理的なダメージが半端無いと思ったからだ。そして、背を向けたまま全力で真上に飛び上がり、先程投げた刀を、右で折れた刀を、左で罅が入った刀をキャッチし、その下をエリオが通り過ぎる。
 そのまま、エリオが行った方向へ飛んで、エリオが振り返るよりも先に刀の峰をエリオの後頭部へと軽く当てて気絶させてからの。

「辛!!!」

 心のそこからの言葉を叫ぶ。というか、叫んだと同時に倒れそうになるエリオを支えてゆっくりと木陰に連れて行って、木の幹を背にそこに寝かせる。
 正直というか、本音を言えばこんな勝ち方は正直嬉しくない。スバルを投げたのだって、一本背負いなんだけど正直アレは試合の中で言えば反則だ、同じ側の袖と襟を掴んで投げるのは柔道じゃ即反則を取られる。エリオにしたって正面からやりあわずに、ほとんど攻撃をかわすか受け流すかで、基本的に逃げてたしね。

「響~スバルがなんか飛んできたからバインドしてからキャッチしたけど。どうしたら良い?」

「うぁー、くーやーしーいー」

 なんか、茂みから奏が足をバタバタさせながら悔しがってるスバルを連れてきた。というか早いなおい。取り敢えず

「そしたらこっち連れてきて。エリオが気を失ってるから。あとバインド解除してくれ一応模擬戦上じゃ拘束扱いだし、で、スバルは申し訳ないがエリオを見ててくれ。軽く当てたから酷くはないかもしれないと思ってるけど、万が一があったら嫌だし」

 取り敢えず、スバルにエリオをお願いしておく。だってねぇ、文字通り万が一があったら……俺切腹モノよ?

「あ、了解。ごめんねスバル。痛くなかった?」

「ううん、大丈夫だよ。というか響凄いね。正直三回目はぶつかると思ってたのに」

「ん、あぁ、別に凄くねぇよ。というか……って、一応模擬戦中なんだった。後でアドバイスとかするから待っててくれ。行くぞ奏」

「はい」

「うぅ……次は負けないからね!」

 後ろで、エリオを膝枕したスバルがそう叫ぶ。うん、次やったら俺負けると思うしねー……っと、それよりもだ。

「取り敢えず流と震離を追っかけるか」

「ん~、流はともかく震離は大丈夫かな?」

「さぁ、取り敢えず急ごう」

 そう思って、念話を飛ばそうとした瞬間。

『そこまで! 模擬戦はここまで。みんな、ちょっと休憩』

 目の前にモニターが展開して、なのはさんの顔が写り、声が聞こえた瞬間に念話を飛ばすのをやめた。そのまま、奏に目で合図を送って、木陰に居るスバル達の元へと向かう。

「お疲れ様。エリオ連れてくよ」

「うん、お疲れー。エリオ、結構鍛えてるから重いけど大丈夫?」

「ん、あぁ、大丈夫だろう」

 スバルに手伝って貰って、エリオを背中に乗っけて移動する。ちなみに、奏はスバルの服とか、頭についた埃とかを払ってる。取り敢えずまぁ、なのはさんの元まで行くか……。
 なんて、思ってたら。

「ねぇねぇ響! さっき、というか……って言いかけてたけど、あの後なんて言おうとしてたの?」

 ものすごく目を輝かせたスバルが俺の周りをウロウロと動く。正直説明してやりたいけれど……多分エリオが起きたら、同じ事聞いてくるだろうし、ここはだな。

「どうせ向こうついたら話すだろうし、それまであの時他に攻め方なかったかどうかって考えてみ?」

「……えっと、エリオとのコンビ以外でしょ?」

 キョトンとした顔で、首を傾げるスバルを見て苦笑いが出てくる。こいつ、主席って割にこういう布陣の事考えないのかな……?

「……ちょっと考えていい?」

「おぉ、ただ何が正解かはわからんし、あくまで選択肢って話だからそこまで深く考えなくてもいいよ」

「うん、分かった」 

 そう言って考え始めるスバルだけど……うん、所々クエスチョンマークみたいなのが浮かんでる所を見ると、よくわかってないんだろうなと考える。
 単純に、あの一瞬で出来たことって、いっぱいあったと思うんだがなぁ。けど、それよりもだ。

 このタイミングでなのはさんが、模擬戦を切り上げたのはなんでだろうって考えてしまう。あの一瞬の攻防で、判断したというのならまだティアナとキャロが残ってる。前衛が居なくなったとはいえど、やり方によるけど二人いた。特にブーストが出来て、竜を使役しているキャロと、遠距離から攻撃可能なティアナがいるんだし。まだ勝ち筋は残ってたはず。
 コチラも顔見せなんだしそこまで深く攻める気はなかったし、如何せんどういう戦術で来るかっていうのも見たかった。いつか見たのは、割とスバルとのセットプレーを中心にしてたし……そのスバルが落ちたから?
 だから、あのタイミングでやめた? 

「単純にあっちもこっちも最初だから何じゃないの? それに部隊も立ち上がってから日も立ってないんだしさ」

「……なるほど!」

 ぐるぐる思考が回り掛けてたのがバレたのか、苦笑しながら奏が話す。同時に深く考え過ぎなのは良くないよ? って付け加えられて、少し恥ずかしくなる。深く考えてたっていうのは認めるけど、なんだろう。なんか気恥ずかしいんだ。
 ……ただまぁ、こういう時は、奏に勝てる気しないからそのまま受け入れるけど、やはり恥ずかしいし、慣れないな。

 とりあえず、今日の模擬戦は終了だ。これが終わったら……部屋の整理か。めんどうだなぁ全く。

―――
 
「ひ、響さんすごい!」

「あはは、ありがと、思ってた以上に早いし、反応凄いしで焦ったけどなー」

 あの後、皆でなのはさんの元まで戻った時に意識が復活したエリオが、開口一番にどうしてあのタイミングで見きれたのとか色々聞いてきた。けど、それよりも先にこの子ら、本当にタフだよね……。まぁ、頑丈なのは良い事だ。

「もっと反応速度を磨きます!」

「それはおいおいなー、搦め手は次から気をつければ……あ?」

「? どうかしたんですか?」

「あ、あぁ、大丈夫だエリオ」

 エリオ達からタメ語で話されてるのを黒い服きた金髪の人からジト目で見られてるけど。多分、ってか絶対に気のせいだと思い込む。だって、あの人執務官だろう? 一応俺の上官だろう? 仕事ができる人って噂の名高い人。
 まぁ、やましいことは……あるが、まぁいいか。それよか。

「はーい、皆注目!」

「はいっ!」

 なのはさんの集合合図に皆の声が揃う。まぁ、とりあえず俺以外の三人の配属とポジションの説明、基本的なチーム構成を聞かないとね。

「今響達四人の模擬戦をやって、私とはやてちゃん、そしてフェイトちゃんの三人で話あった結果を発表します」

「はい!」

 奏達三人の声が揃う。まぁこれからどこに配属か決まるから少し楽しみなんだろうな。
 とは言っても前線組は俺らを含めて8人、隊長と副隊長が居るなら、それを含めても12人か。はやてさんも含めて13人……あれ、はやてさんって固有戦力持ちだから……まだいくな……考えるのが面倒になってきたから、なのはさんの話をきく。

「まずスターズには、震離と流、コールサインは流が5で、震離が6ね? ここまでで質問は?」

「問題ありません」

「私も大丈夫です!」

 まぁ、妥当だな、普通に奏がこっちか。それでこの金髪の方が……

「挨拶が遅れてごめんね? 私がライトニングの隊長のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンで、執務官をやっています、皆よろしくね?」

「宜しくお願いします!」

ここでもまた四人揃って挨拶しておく、とりあえず。

「自分は」

「うん、響だよね? 宜しくね」

「え、あぁ、はいこちらこそ」

 普通に挨拶しようと思って、階級とか名前とか言おうとしたら、先に言われた。正直先に言われるなんて思ってもなかったから、なんか、少し……

「あー、珍しいー照れてる」

「……ぅ」

 震離うるさい。と口には出せずそのまま飲み込む。
 と、とにかくだ。

「えと、ハラオウン隊長? 一つ質問があるんですが……」

「何かな? あと私のことは「フェイト」でいいよ?」

 ……隊長陣がここまでフレンドリーだとは正直思わなかった。なんだろう、ここまで来ると逆に怖くなってくるな。まぁ、そんなことより。

「えと、自分と奏のコールサインはなんでしょうか?」

「あぁ、それはね、響が5で、奏でが6になるんだけど。響には私やシグナムが居ないときの指揮をやって欲しいの」

 ……ほら来た。予想通り過ぎて俺の心は泣いてるよ、せっかく異動したから指揮とかしなくて済むかなーなんて思ってたんだけどな、まぁ。

「構いませんが、それはライトニングで動く時ですよね?」

「うん、基本的にはそうなるかな」

 やっぱり、まぁ妥当だろう。基本的にはスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人でずっとチーム組んできたんだ。いきなり俺らが入ったら多分ってか確実に合わなくなるしな。まぁ、エリオ達にはティアナっていう優秀な指揮官と、それと肩を並べてるスバルが居るんだ。基本的には大丈夫だろう。

「そうですか、ありがとうございます」

「ううん、気にしないで」

 なんて言ってるけど、とにかく頭を下げとく。これ以上目をつけられないように。理由は一つ。さっき、なんか俺のことジト目で睨んでたし、なんか睨まれるような事した覚えが無いからとにかく俺の評価をあげとく。既にマイナスにいってそうだけどね!

 あ、そうだ。

「はやてさん、俺らの部屋割りってどうなってます?」

「うん、あぁ、寮に言ったら名前を書いた紙を貼ってるからそれを見てな? そこに荷物も置いてるから」

「了解です」

 あぁ、荷崩しかー、めんどくせー、たまには家に戻って部屋の換気しないと……それは大丈夫か。
 まぁ、なんとかなるし、いい加減雑念捨ててなのはさんの話に集中しないと。なんか、フェイトさんの視線がどんどん強くなってきてるし……俺本当になんかしたかな!? 覚えがないから困るんだけど!?
 因縁……というか、縁が有るのはフェイトさんじゃないんだけどなー。

「っと、話は以上ね、それじゃあ午前の訓練はこれまで。明日は出張任務だから、今日の午後の訓練はお休みね。しっかりクールダウンして、明日のために疲れを残さないように」

「はい! ありがとうございました!」

 皆の声が揃って、頭をさげる。……前半部分聞いてねぇ。まぁ、大丈夫だろう多分きっと!

「さて、エリオとキャロ、クールダウンにいくか?」

「はい」

 うん、素直に返事してくれてありがとう、何時もだと震離が適当にふざけるから、スゲェ楽だ!
 それで足を進めてる間に、その震離はというと。
 
「それじゃあ、クールダウンして昼食にしよっか」

「わは~震離~? これからよろしくねー」

「こちらこそ宜しくー」

「ちょっと、スバルに震離。そんなこと言ってないでクールダウンに行くわよ?  もう皆行ってるんだから」

「ふぇ!? ちょ、ちょっとティア! キャロにエリオも私をおいてかないで~!」

 ……まぁ、いいか。最初のうちはそんなもんだろ。ていうか、さっきからエリオとキャロと話ししてるだけで、フェイトさんの視線が殺気にランク上がったんだけど、どういう事!?

「……ホの字?」

「え、あの、奏さん? どうし……た?」

「冗談冗談、冗談に決まってるじゃない、ねぇ……響?」

 ……殺気の視線が二つに増えました。
 ……よし、決めた!

「さて、と、飯食う前に俺は先に部屋の片付けしてきますねー」

「あ、僕も手伝うよ」

「はは、サンキュ、けどいいよ、前の部隊の資料とかいろいろあるだろうからそれの整理もしないといけないしね」

 せっかくのエリオの申し出を断る。正直申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 だって、こうやって話をしてるだけでも、どんどん殺気のレベルが上がってるんだもん。
 隣と後ろの視線がもう、見ただけで人殺せるだろう? その割には会話してる時には戻して普通にしてるし。
 というか、そのギャップが死にたくなるほど怖いんだよ!?

「それでは、飯食うまでには合流するので、先に失礼しますねー……ん?」

 軽い駆け足で、皆の前に出て適当に挨拶して気づく。
 流はどこに? 視線を動かして周りを見ても、どこにも居ない。まあ、先に帰ったってことでいいのか?
 それよりも。

「それじゃあ」

 振り返って寮のある方向に向かい、途中の角を曲がった瞬間。

「よしっ!」

 全力疾走。それこそ短距離でも走るのかお前は? と言われても仕方ないくらい本気で足を腕を上げて走る。
 なぜなら。振り切ったと思った殺気まがいの視線をまだ感じるから。
まぁ、基本として、いきなり立ち止まって、振り返る。
 既にここは室内。隠れる場所はあまりないが……さっきまで閉まっていた窓が開いている。
 ……まぁ仕方ない。とにかくゆっくり歩いて角を曲がると、後ろからパンプスのカツカツした音で付いてきているのを確認。正直怖い。もう一つ角を曲がった瞬間、もう一度全力で走る。そして相変わらずパンプスの音が頻度を上げて近づいてくる。曲がり角を曲がると急停止。待つこと少し、走りこんできた金髪の隊長。

「あ、あれ、響? 偶然だね?」

「……マジですか」

 まさか、こんなに律儀に引っかかるとは……正直すごくびっくりしてる。

―――――――――

 とりあえず、屋上に行く途中、自販機に立ち寄って飲み物二つ買っておく。
 途中で緑茶とか入ってるのを見て思わず買いそうになったけど、とりあえず二本コーヒーを買って、フェイトさんに渡しとく。
 で、屋上について誰もいないのをかくにんしたあと、フェイト隊長をベンチに座らせて、俺は立ったままコーヒーを一口含む。うん、喉乾いてたから正直落ち着く、さて。

「……俺なんか失礼なことでもしましたか?」

「えと、その前にいつから気が付いていたの?」

 …………え?

 えーーーーーーー。

 と顔にも声にも出さないで心のなかで絶叫する。うん、今の俺頑張ったと思うよ多分きっと。
 おかしいな、俺が記憶してる限りじゃ執務官試験てスゲェ難しいと記憶してんだけど?
 それで、この隊長二つ名まであるほど優秀な方だよね? 何なのかめんどくさくて調べてないけども!

「あー、なんかエリオやキャロと話ししてる途中からですね」

「さっ最初からなんだ……」

 ……管理局ぅううう!? 誰だよこの人合格させたの!? 明らかにミスだろう!? まぁ、優秀だから合格させてんだろうけども。

「その、エリオとキャロの事なんだけど」

「……はぁ」

―――数分後。

「えーと、要約すると、自分よりも俺のほうが二人が懐いてる様で何でなのか聞きたかったと、そういうわけですね?」

「そっそうなんだよ!!」

 ……何でこんな短いこと聞き出すために数分掛けたんだ俺? 一応数分つってもコーヒーがぬるくなるまで掛かるってどういうこっちゃ?だけど、頑張った俺、超頑張った俺! 俺の中の全米が拍手喝采してるよきっと!
……まぁ、そんなことよりも。

「というか、何でさっさと聞かないんですか? 聞いてくれたらすぐにでも答えましたのに?」

「その、どう聞いたらいいか分からなかったし響とはあんまり話した事無かったから」

「……そりゃ初日で、いきなり睨んでくる人間と積極的に話したいですか?」

「はぅっ!!」

 うわぁ、なんか俯いて暗い影まで出来だ。
 なんか頭ん中に煌が出てきて、「そういう時は優しく抱きしめるんだぜ?」って言ってるけど徹底的に無視だ。
 なんか、慌ててるけど無視だ、絶対実行しないからな!?

「んー……俺もあまり話してないのでなんとも言えないですけど、あの二人普通にフェイトさんになついてるように見えるんですけどね。フェイトさんが何か告げる度にどことなーく二人共嬉しそうでしたし。
 大体、俺の方なんて初日だから気を使われてる可能性のが高いんですから」

 普通にフェイトさんの姿見かけりゃ終始ニコニコ笑顔だし、多分天地がひっくり返ってもあの反応だと絶対に悪く言いそうにない……って、なるほど。だからか。

「エリオもキャロもいい子だよ、だけどこんな所に来ても弱音も言ってくれないし……でも、何だか固い所があるから」

 わーい、震離の親父さん見たいな反応じゃん。というか子離れしない親との会話になってきた。
 まぁ、多分褒められたいってか、立派になったね?とか言ってもらいたい二人と甘えて欲しい親みたいな感じか? 
 というか、曲がりなりにもここってば、はやてさんが建てた部隊なのに、こんな所って……案外エグいな。

「……やっぱり、私じゃ……」

「……ぅぉ」

 なんか、うつむきながら泣いてんじゃないかって思うくらい肩が震えてる。不味いこのタイプ一回ショック受けると、落ちるとこまでショック受けるタイプだ。じゃなきゃほぼ初対面の俺相手にこんなとこまで言わないだろう。ていうか、なんか小さくて聞こえないけど、自分で自分を追い込んじゃ不味いだろう。それ以前にこんなトコロ誰かに見られたら……はっ!? 屋上の扉がパタンってしまった……終わった……えぇい、こうなりゃヤケだ!

「フェイト隊長は今年で何年目でしょうか?」

「……やっぱり……うん? 入った時? 確か9歳だったかな」

 ……マジ? 十年てかなりの先輩じゃないですか。それで今更悩むんかい、なんか子育てし始めた人みたいだな……父親側の。

「その時の隊長はやたらと頑張ろうとしませんでした?」

「……うん、した……」

「多分今のエリオ達はそんな感じなんですよ、フェイト隊長の力に少しでもなりたいって、少しでも支えてあげたいって、きっと、だから隊長の前では少しでも一人前に見て欲しくて背伸びするんだと思いますけどねー。
 エリオは年の割には早い反応速度に、キャロなんて封印処理出来るなんて同世代に比べると十分凄いですよ」

「私はもっと自分好きなことして欲しいんだけど……」

「それがエリオとキャロのやりたいことなんですよ、フェイト隊長だって、大好きな人の役に立ちたいってすごく頑張ったことはありませんか?
 ちなみに俺はあります。頑張って出来ないことが出来るようになったら喜んでくれた人がいましたし」

「……」

 コクンって無言で傾くけど、なんかさっきに比べて一気に影がこゆくなったぞ!? どういうこっちゃ!? やっべぇ、PT事件は概要でしか知らんのよなぁ……と、とにかくだ!

「つまり、今はあの二人をゆっくりと見守るべきですよ、いざとなればフェイト隊長がフォローすればいいんですし。
 なのはさんや、はやてさんっていう親友もいらっしゃるんですし、ね?」

 ……おぉ、我ながら結構綺麗にまとまった。だいたい子供の頃ってある程度好きにさせるもんだ。やめなさいっつってもやめないのが大概だし。何より心当たりどころか、隠れてしてたし。

「うん、そうか、そうかも、ありがとうね響?」

「はぁ……」

 わー、初めて悪意ゼロの笑顔見た気がする。どういうわけか俺の周りって何か変なの多いし。なんか変なのって考えた瞬間、頭ん中に涙目の奏が写ったのは気のせいだ、絶対そうだ! だから、頭ん中で、ヨヨヨって泣くなよ!?

「どうしたの響?」

「……いえ、なんか変な電波が……」

「え?」

「……なんでもないです」

 とにかく、これでもう睨まれる心配はない。多分もう無い筈だ!
 ……まぁ、このために時間割いたし、飯でも食いに行こう。噂が広まってなければいいなぁ……だけど。

「……無いんだろうなぁ、やっぱり」

「どうしたの?」

「いえ、こっちの話です」

 奏と震離の目が変わらなかったらいいけどな……はぁ、面倒だ。そんなこと考えながら、残ったコーヒーを飲み干す。うん、ぬるくてまずかった。

 しかし……てっきり疑われてるかなと思ったが、それは流の方なのか。単純に泳がされてるのか……まだわからんな。

 PT事件、闇の書事件を解決させたハラオウン家の一人で、次世代のトライアングルの一角。
 ハラオウン家の人達はあまり接点の無い俺たちですら名前を知ってる。俺の事情で調べてた件には必ず艦長か執務官のどちらかの名前が出てたし。
 
 ……この一連のやり取りが、俺を推し測る事とすれば、あえて道化を演じた可能性も無きにしもあらず。
 
 何より、夜天の書の主(はやてさん)が俺に対して無反応だったということは、知らないからか、俺の考え過ぎか、はたまたコチラも泳がせてるのか。
 あー……めんどくさい。分かってた立ち位置だけど、しばらくこれが続くのか……めんどくさいな本当に。

  
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら、幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 

 

第4話 疑念

――side響――

 あれから数分。屋上から室内に戻って食堂前に差し掛かる。まぁ、その途中もエリオはー、キャロはーってずっと話が絶えなかった。
 そんだけ好きなんだなぁと改めて思うし、あの二人がすごくいい子なんだろうなぁとも思うし。ただ、フェイトさんが過保護すぎる気がすると思ったのは内緒だけど……子を心配する人ってこういう物だと思いたい。

「そうだ、これから俺は飯を食べに行くんですけど、フェイト隊長はどうしますか?」

「……行きたいけれど、私はこれから外回りなんだ。明日は出張だから、今のうちにやれることはやっておこうと思ってね」

「はぁ、そうですか……それでは、先に失礼して食堂に行きますね」

「うん、それじゃあ」

 頭を下げてとりあえず見送る。うん、俺は執務官になりたくないからあんまり知らないけど、執務官ってかなり大変で、かなり努力しないと慣れない役職だというのは知ってる。実際、昔目指してたやつ知ってたし。
 とりあえず中にはいって、奏達を……え?

「……何このパスタの山は?」

「え、あぁ、おかえり響?」

「あぁ、今戻ったよーってか、なんだこれ?」

 目の前にどこの山だよって思うぐらいに山盛りにされたパスタ――の山がある……俺も結構食うほうかなって少し前まで思ってたけど、訂正する。うん、こんだけ食うやつってどんな奴だよ。

「……それエリオと、スバル用だって」

「……へー……え?」

 山の反対側に歩いて誰が食べてるのか確認しに行く。そこにいたのは勿論。

「あ、響おかえり」

「あー、どったの響?」

「おー、ただいま」

 普通に飯を食べてるエリオとスバル。そこに普通に溶け込んでる震離の姿が。お前、これ見て何も驚かんのかよ? 

「ん、どったの響? 私の顔になんか付いてる?」

「……うん、食べかすが付いてんぞ」

「え、嘘!?」

 そう言って顔を拭いてケチャップを拭きとる震離。正直今のはついでなんだけどな、まぁ。こんだけ食べるのは多分、多分成長期だからだ、きっとそうだよ! 俺がエリオやスバルの年の頃に比べて、数倍食べてるけど気にしちゃ負けなんだよきっと。

「現実逃避は行けないよ、響? それよか食べないの?」

「……うん、なんか見てるだけで腹が膨れた気がしたからいいや」

「……うん、だろうね」
 
 気がついたら、隣に奏が座ってた。食べ物が乗っていた取り皿をくれたからそれを食べる。なんか、食いかけだった気がするのは気のせいか?

「……震離がなんか食べてたからだよ」

「そうか、あと人の考え読むなよ、なんか気恥ずい」

「照れない照れない」

 隣で笑う奏を見て恥ずかしくなる。正直あまり勝てないから困る。まぁ、奏に勝てないって事は分かってる事だし、とりあえずさっさと飯を食い終わろう。そして、部屋に行って今度こそ部屋の整理をしよう!
 あ、だけどその前に挨拶を済ませとくか。くるりと食堂を見渡して……居た。

「なのはさんとはやてさん?」

「ん、何かな?」

「どないした?」

 一つ離れたテーブル一緒に食べてるなのはさんとはやてさんに声をかける。まぁ、確認のために聞きたいことが一つあるだけなんだけどね。

「失礼ですが、ライトニングとスターズの副隊長二人はどこにいらっしゃるんでしょうか? 挨拶だけでも済ましておきたいのですが」

「あぁ、シグナムとヴィータは外回り中やったと思うよ、だから多分夕方くらいに戻ってくると思うから……その頃に医務室に行ってな?」

「はぁ、了解です」

 と確認し終えてとりあえず分かったからいいんだけど……。

「奏?」

「ん、はいはい、流と震離には私が伝えとくよ、早く部屋に行って整理したら?」

「あぁありがと。それじゃ夕方にな?」

「はいはい」

 手を軽くひらひらと振ってる奏に、手を振って返事をしながらもう一回食堂を後にする。本当に、言わなくてもある程度伝わるから本当に助かるなぁ。本当。さて。

「部屋に行って片すかね、今晩絶対あの二人が来るだろうし」

 絶対来るな、麻雀とかいろいろ持って! その為には部屋を少しでも片付けないと、人なんて呼べん。まぁ、ルームメイトが居ない事で話進めてるけど、いたらどうしようかな。

「……付いてから考えるか」

 とりあえず、さっさと寮に向かって……ん、あれ?なんか引っかかる……なんか大事なことを放置してるような……してないような……。まぁ。

「……忘れるくらい微妙なことだし、まぁいいか」

 とりあえず今は部屋の掃除だ。さて、忙しくなるぞーーー!


――――――

 で、部屋の前に[ヒビキ・ヒオウ]ってミッド語で書かれた紙がはられてる部屋の前についた。うん、紙をめくっても他に名前が無いのを確認してとりあえず部屋に入る。で一言。

「……一人暮らしとしては申し分ないくらい広いな」

 実際その通りだ。ベットは上と下の二つずつあって、机も二つある。小さいシャワールームとか、簡単なキッチンもあるし……うん。俺の荷物が入ったダンボールも複数ある。何となく不安になって、もう一度外に出て、俺以外に人が居ないかを確認する。うん、やっぱりなにも書いてない。

「……やっぱ不安だなぁ」

 そう思って、とりあえず二段ベットの上側を覗くけど、今まで使われた形跡なんて全くない。それどころか新品そのものだ。まぁ、上は使わないで、下しか使わないからあまり関係ないけどな。ふむ、俺でこうだとすると……

「……落ち着いたら、流の所にも足を運んでみるかね」

 多分あっちも二人部屋を一人で使ってんだろう。後で様子見に行ってみるかね。さて、とにかく。

「……どれに何を入れたのか覚えてねぇな」

 ポツリ呟きながらとりあえず適当に段ボールを開けてそこから適当に片付けをする。うん、すっごくだるい。

――――――


「悪い、遅れた」

「おっそいよー!」

 既に医務室前に集まってた三人に声をかける。うん、俺が集まろうとか言ってて遅れたから俺が悪いのは当然だが、震離よ、だからといって。

「……副隊長達の前では大人しくな」

「うわ、すごく静かに注意された」

「……医務室前で、副隊長陣が集まってるんだ。粗相のないようにしないと」

「え、でもなのはさん達見てるとそんな感じはないような」

「上がいい人だからって、その副隊長陣もいい人とは限らないだろうが」

 実際その可能性もあるからなぁ、たまに隊長よりも自分のほうが凄いはずって、部隊の中でふんぞり返ってる馬鹿がいるからな。まぁ、この部隊じゃ無いと思いたい。まだ出来てからそんなに経ってないから無いとは思うし、はやてさんの騎士たちだから多分平気だろうが。

「うん、それでも私達の上司にあたる人達だからちゃんとしてね?」

「はーい」

「……初めからそうしてくれよ」

 くそぅ、何で俺が言うと反発して、奏が言うと素直に聞くんだよお前は? それより、一つ気になったことがあるんだった。

「そうだ、流?」

「はい、なんでしょうか?」

「流んとこの部屋は誰か人いたか?」

「……いえ、二人部屋ですが、自分の所には居ませんでした」

 なるほど、流のところにも同居人は居ないのか。まぁ部屋の場所はそのうち聞くとして。何でそこは驚いてるんだよ?

「流一人なの?」

「はい、そうですが」

「……あれ、私達相部屋だったよね?」

「うん、そうだけど男子とは違うんじゃない、この部隊男の人あんまり見なかったし」

「……だからかな?」

 首を傾げながら話す震離の疑問に俺が答えるよりも先に奏が答えてくれた。多分、俺が言ったらまた反発するだろうし、それどころか文句言って来そうだし。……だけど、流でさえも一人なのか、そうするとエリオもやっぱり一人なんだろうか?

「まぁ、後で聞いてみるかね」

「ん、何を?」

「ん? あぁ、何でもない、さ、行こう」

「え、ちょっと!?」

 後ろで抗議する震離をほっといて、医務室の扉を軽く3回叩き、返事を待つ。その間に震離も落ち着きを取り戻したのか、少し緊張した面持ちでそこで立ってる。……何時もそうだったら、普通にかっこいいと思うんだけどなー。なんて考えていると。中からどうぞー、と声が聞こえた。軽く深呼吸して、よし。

「失礼します」

 声を聞いた印象は、落ち着いた感じの声だな。なんて、思いながら扉を開けて。医務室へと足を踏み出す。それに続いて、後ろにいる三人も続く。相変わらず奏と流は落ち着いてるのに対して、震離は少し緊張してるみたいだ。
で、医務室の中には、声の主かもしれない落ち着いた感じの白衣を着た湖の騎士シャマルさん、前の部隊で変に有名だった小さな上司、もとい鉄槌の騎士ヴィータさんと、ヴォルケンリッターの将。烈火の将の二つ名を持つ騎士シグナムさん。
 
「何か御用ですか?」

「いえ、こちらにライトニング、スターズ両分隊の副隊長がいらっしゃると聞いて、挨拶に来たのですが。今お時間宜しいでしょうか?」

 一応確認を取っておく、もしかするとがあると困るし。

「あぁ、それならば私とヴィータが両分隊の副隊長だ、私の名はシグナム、ライトニングの副隊長。階級は二等空尉だ」

「あたしがスターズ分隊の副隊長のヴィータだ、階級は三等空尉だ」

「そして私が医務を中心に担当してるシャマルと言います。何か怪我などしたら私に所へ来てくださいね?」

「よろしくお願いします!」

 こっちから挨拶しようと思っていたが、先に挨拶されたから、とにかく敬礼しながら挨拶を返す。まぁ、立ち位置的には俺からだな。

「本日付けで、こちらに」

「あぁ、大丈夫よもうはやてちゃんから聞いてるから、右から順に響君に奏さん、流君に震離ちゃんでしょう?」

「え、あぁ、はい、そうです」

 挨拶しようとしたのに途中で遮られた。というか既に連絡入ってるって、一応は挨拶くらいさせてくれても良かったんじゃないか? まぁ、いいか。

「えと、自分達がどの分隊に所属かは?」

「あぁ、それはわかんねーな」

「わかりました、自分と奏がライトニング。コールサインが自分が5で、奏が6です。そして、震離と流がスターズに所属でコールサインが流が5で、震離が6です、これからよろしくお願いします」

 そこまで伝えてからもう一度敬礼をする。というか、さっきから俺しか喋ってねぇ。隣に居る奏に視線を移すと、目があって。

……ごめんね?

……気にすんな。

 と1秒もしない内に互いの考えが分かった。まぁいいけどね、慣れてるし。まぁ、それよりも……。

「あのシグナム副隊長? 自分の体に何か付いてますでしょうか?」

 さっきからジロジロと人の体を見てるシグナム副隊長に声をかける。
 警戒されてるかと考え、冷や汗が凄い。でも不思議そうな様子は変わらないから、多分平気だろうが……

「お前は……いや、緋凰は何かやっていたのか?」

「……はい?」

 ……懸念してたことは起きそうにないが、下手な回答は間違いだ。少し気をつけて回答しないと。

「さっきからあまり重心があまりぶれないのでな」

「……あぁ、なるほど。小さい頃から一応剣術学んでたんで。それでかと」

「ほぅ?」

 ……あれ? なんかシグナム副隊長の目が輝きはじめましたよ? 何でシャマル先生とヴィータ副隊長はそんな憐れそうな目をしてるんですか? これから売られていく牛でも見るような目で俺を見てるんですか?
 副隊長殿? 昔見たときもう少し……なんかこう、大人しいと言うか好戦的な目はしてなかったと思いますが?

「え、響さー、一応は私よりも剣術はともかくとして、接近戦は私よりも遙かに強いじゃん」

 え、何言ってんの震離よ? 何時も最前線で突っ込んでいくお前よりかは弱いよ? そして、シグナム副隊長? 何でそんなに嬉しそうに笑ってるんですか?そして、何でヴィータ副隊長達は離れていってるんですか?

「……そんなことないよ」

「えー、この前だって普通に一人でガジェットを刀で斬ってたじゃん」

「ほう?」

 ……いかん、目の輝きのランクが上がって、鋭い眼光でこちらを見ている。

「……や、お前も接近戦出来るじゃん」

「あたし杖だもん、それで剣……というか、刀持って純粋な接近戦してるの響だけじゃん」

 もうやめて!? シグナム副隊長がすごくいい笑顔になってきてんだけど!? 絶対この人普段はこんなに笑顔になること無いタイプだよな!?

 だがしかし。

「なるほど、だったら―――」

「しかし、明日には出張ですので。お互いにまたいずれ、というのはどうでしょう?」

 この提案でシグナム副隊長が止まった。

「かの有名な烈火の将と剣を交えられるというのは、自分たちの世代……剣を学んだ人にとって非常に光栄な事です。
 ですが、明日は故郷の世界に行く関係上、模擬戦には適さないと考えます。
 どうせでしたら、何もない時に全力を持って挑ませて下さい」

 一瞬医務室が静かになる。
 後ろに居たヴィータ副隊長とシャマル先生は目を丸くしてるし。

 俺の後方からはなんとも言えない視線を感じるし……。

 まぁ、これで勝負の流れになったら文句言いながらでもやるよもう。
 シグナム副隊長も目を丸くして……

「あぁそうだ。そうだったな。明日は久しぶりの帰郷だ。緋凰達も地球……日本なのだろう?」

「えぇ。流石に地元へ行きたいとは言いません。ですが、久しぶりの故郷の空気を吸えますね」

 フッと笑って視線も柔らかくなったのがわかる。

「私の興味で明日に支障をきたすのは確かに不味い。わかった、近い内にまた時間を作る。
 その時は……」

「えぇ。全力で挑ませて頂きます」

 いつかのリベンジを、あの日よりも強くなったことを見せるために。
 
 ……やっぱり話したら分かってくれたわ。

「さて、挨拶早々で申し訳ないんですが。まだ挨拶するところがございますので、失礼します」

「……へ、ひび……あ、失礼しました!」

 ピッと敬礼をしてから、医務室を後に。後ろで奏達が慌ててるのがわかるけど。
 申し訳ないがすぐに離れる。

 ……考えたくないが、この人選はわざとか? あちらは覚えてないのか、知っててあえて泳がせてるのか……。
 やっぱり将と謳われるだけあって、腹になにか抱えてそうで怖いな。

 どちらにせよ……あまり接点作りたくないが、時間の問題か。


――sideシグナム――

「さて、挨拶して早々で申し訳ないんですが。まだ挨拶するところがございますので、失礼します」

 敬礼をしてから退室していく緋凰を見送りながら、ふと何かがチラつく。
 いや、正確には……動いてる様を見て何かがずっとチラついていた。
 これは……

「しっかしあのバトルマニアが素直に引き下がるとか、明日雨降るんじゃねーか?」

「ヴィータちゃん!」

 ……隣で失礼なことを言われてるが、それは一旦置いて置こう。

「……二人は、今回入った4人に見覚えは有るか? 特に緋凰に」

「「……え?」」

 ……何だその意外そうな顔は。

「コホン、私の方は無いと思う。多分はやてちゃんも見覚えがあったらなにか言ってる筈だし、リインちゃんも無い筈」

 咳払いして小さく手を挙げるシャマルに対して、ニヤーっと笑うヴィ-タは。

「あたしもねぇな。おっぱい魔人はついに人すら思い出せなくなったか」

「……ほー?」

 バチバチと視線がぶつかって火花が散る。ふふふ。久しぶりに手合わせするのも悪くはないだろうが……。

「こらヴィータちゃん!」

「冗談だよ……でもよ。あたしの方も覚えはないし、シグナムん所、あいつら武装隊から来てんだろ。その時、どっかで会ったことあるんじゃねーの?」

「……いや、最近じゃない。駄目だ霞がかってわからん」
 
 フーっと、ため息が漏れる。 
 あの三人とは文字通りの初対面だが、緋凰に似た人物とどこかで……なにかした筈だが……駄目だ分からぬ。

「ま、取っ替え引っ替えされるのが管理局だ。あっちの階級低いし、どっかで見たんじゃねーの?」

「……おそらくな」

 まぁいい。また話を聞けばいいだけだ。

 それよりも、だ。

「……あのオッドアイの……流って言ってたか。はやてが一番に気にしてたの」

「えぇ。地上出身の異動者。あの年で魔道士ランクはAAA。しかも総合で」

「模擬戦の映像も見たけど、アレは解りやすく不安要素だよなぁ。だから目の届く、なのはとあたしン所に置いたんだろうし」

 そのとおりだ。何もない異動ならば、比較的年の近いエリオとキャロ……ライトニングの方に置いていたが、事情が事情ゆえ、六課に大体居るなのはやヴィータの元に置くことになった。
 
「……武装隊からの三人は、まだ微妙なライン。六課が始まってから居る事務の四人も含めれば、あまりにも出来すぎているのよね」

「……あぁ。疑いすぎというのも有るだろうが、こうも続くとなると、な」

 寂しそうに告げるシャマルの言葉に同意する。
 偶然と言うには、同郷の者が揃いすぎている。我が主の願いの為とはいえ、睨むものが多いのもまた事実。
 
「ま、とにかくだ。それよりもあたしらは明日の海鳴に行くための、変身魔法の調整どうにかしねーと」

「そうねー。シグナムもたまにはイメージを変えてみるのはどうかしら?」

「……ぐ、だからそれは遠慮すると言っているだろう」

 なんとか……なんとか無難な服装にせねば。主からも初夏だから薄くてもいいんじゃないかと声を頂いてるが。
 なんとか躱さねば……!


――side響――

「……なんかあったの? なんか急ぐように離れたけど?」

 ジィっと奏からの視線がビシバシと背中に刺さる。震離からもなんか無言の圧力が凄い。
 今日はもう挨拶しないって分かったら流も片付けがありますのでって戻ってったし……。

「……いや、特に。ちょっとまぁ……苦手なんだよ。騎士っていう人達が」

「……ふぅん」

 やべぇ、圧が強くなった怖いわー。
 皆に言った覚えもないし、見てもなんの反応も示してないから知らないんと捉えても良いみたいだが。

 説明してよって視線で訴えてるから怖いわー。

「……ま。そのうち話すからさ、待ってくれよ。悪いことじゃないんだから」

「……わかった」

 はーっと深い溜息が漏れる奏に対して、ギリギリ奏の視界に入ってない震離はジトリと視線をコチラへ向けてから。ゆっくり両手を開いたのが見えた。
 その意味が分かってしまい。冷や汗が流て、俺の顔色が変わったのだろう。それを見た震離はニヤリと意味深な笑みを浮かべて、指を倒し。

「なるほど。あれかぁ」

「……? どうしたの?」

「いや。なるほどってね。響は頑張ってシグナム副隊長と渡り合えるよう頑張らないとねぇ」

「……うん?」

 うわぁ。完全に震離が察しやがった……。別にそれを元になにかするつもりは今の所無いしなー。
 忘れてるならそれで良いんだ。俺もマイナスには捉えてないし。問題があちらがそれに気づいた時、どう捉えるかが怖いんだよなぁ。別件とは言え、疑われてても仕方ないし。

「あ、居た」

 ふいに聞こえた声に、俺たちの視線がそこへ向かい。自然と笑みがこぼれた。

「よぉ。久しぶり」

「こうして会うのは2年ぶり位か。変わりがないようで何より」

 見知った顔がそこには居た。通信で顔こそ見てはいたけど、直接会うのは久しぶりだから……だから。

「あぁ。元気そうで、何よりだ」

 4人が元気そうなのは本当に嬉しいんだ。



――sideはやて――

「ゴメンな、二人ともこんな夜遅くに呼び出して?」

「ううん、大丈夫だよ」

「それよりもどうしたのはやて?」

 目の前に私の親友であるなのはちゃんとフェイトちゃんの二人を呼び出す。
 本当はもう仕事ももう終わって、二人とも疲れてるはずなのにそれでも来てくれたことに感謝すら覚える。

「うん、実はな二人に紹介しておきたい人がいるんよ、ただその人は機動六課の設立に手を貸してくれた人で、その人のお陰でこの六課の隊舎を手に入れることができたんや」

「すごい人なんだね」

「うん、そうなんよ、私もいろいろお世話になってる人やし、ただ、その人がなのはちゃんとフェイトちゃんに挨拶したいって言ってたから今日は呼び出したんよ」

「あ、はやてちゃん、挨拶する前にその人の名前はなんて言うの?」

 なのはちゃんの言葉に思わず名前を言ってなかったこと思い出す。危ない危ない、失礼なことになる前で良かった。

「あ、そやったね、その人の名前は「アヤ・アースライト・クランベル」三等空佐って言う方や」

「あぁ、その人の事は知ってるよ、本局でも有名な方で、一度あったことがあるよ」

「うん、私もあるよ」

 何や二人ともあったことあるんやね……それなら、内緒にしておけば良かったと心のなかで思う。
 けどまぁ、六課に取っては恩人の一人なんやし、失礼な事はあんまりしたくはない。

「それじゃあ、アヤ三佐に繋げるけど、用意はええか?」

「うん」

「大丈夫だよ」

「それじゃあ……ちょっと……あ、繋がった」

 モニタを操作して本局と繋がったのを二人に見せる。
 そして、そこに写ったのは、肩まで伸ばした黒い髪に、ややつり気味の青い眼に、丸いメガネを付けてる人物が現れた。

『お久しぶりです、高町なのはさん、フェイト・T・ハラオウンさん、アヤ・アースライト・クランベルです』

 モニタの向こうで深々と挨拶するアヤ三佐。うん、相変わらず大きな胸や。フェイトちゃんとシグナムとも引けを取らんほど人や。

「いえ、こちらこそお久しぶりです」

 二人の声が重なる、うん、やっぱり会ったことあるから、それほど緊張してないみたいや。
 まぁ、それよりもや。

「それにしてもアヤ三佐? 今日は、どのような用ですか?」

「え、はやてちゃん知らないの?」

「……うん」

 だってなぁ、なのはちゃんとフェイトちゃんに挨拶したいって言っただけで、他はなんにも言ってなかったもん。分からなかった。

『あぁ、そうね、えっと、今日そちらに三人ほど異動してきた子がいるでしょう?』

「え、えぇ、四人居ますよ」

『……四人?』

 あれ、なんか四人来たって伝えたら眉を潜めたで? え、私なんか失礼な事を!?

(落ち着いてはやてちゃん!)

(あ、うん、大丈夫やで、なのはちゃん!)

 心のなかでありがとうと本気で思う。
 うん、あの子ら何をしでかしたんやろうか?

『あぁ、多分私の情報が遅かっただけです、はやてさん、なのはさん、フェイトさん、「緋凰響」と同じ部隊の2人には気をつけなさい』

「……え?」

正直考えてもなかったことを言われたから凄く驚いてる。だって、今日異動してきた三人に気をつけなさいって、どういう事や?

『まだ、私も確証を得たわけではないけど、その三人、あなた達の……いえ、機動六課の不祥事をどこかに報告しようとしているみたいなの』

「えぇ!?」

『ただ、報告先は本局ということを考慮したら、地上のレジアス中将ではないと思う。でもまだ安心は出来ないの』

「……それは本当ですか?」

 なのはちゃんの声が少し震えている。私やってそうや、まだ会って一日も経ってないけど機動六課の仲間をスパイだと見なしたくない。
 それはフェイトちゃんも同じようで、少し肩が震えてる。

『現にその子達……正確には、「緋凰響」「天雅奏」の二人がよく動いてるみたいね。ただ、これ以上は向こうに悟られるから調べられなかったけど……』

「……」

 正直思っても居なかった、私達の予想は地上から来た流が監視者かと思ってた、まだその可能性は捨てきれない。だけど、あの三人が……いや、響と奏が監視者だったなんて……正直凄く驚いてる。

『ごめんなさい、ただ、警戒はしておいてって言う事を伝えたかっただけなの』

「いえ、わざわざ教えてくださって」

『いえ、私こそこんなことでしか貴方達の力になれなくて……でも』

『アヤ三佐、時間です』

 アヤ三佐の秘書らしき人の声が入った。そうか……アヤ三佐忙しいのにわざわざ連絡を……

『ごめんなさい、はやてさん、なのはさん、フェイトさん、今回はこれで』

「あ、いえ、こちらこそ」

 モニタの向こうで深々と頭をさげるアヤ三佐に釣られてこっちも頭をさげる。
 頭を上げたと同時に、モニタが閉じた。同時に、この場を支配する沈黙が痛々しくて、明日から彼らとどうやって顔を合わせればいいのか分からなくなった。

 だけど、今日はそのまま解散したけど、あの三人に対する疑念が生まれた瞬間でもあった。
 でも、言われてみれば確かにそうだ。響達三人と、事務のあの四人も響達と知り合いだといっていた。
 彼ら四人も、新部隊設立のときの志願者だったし、新人揃いのこの部隊の先輩になれると思って採用したけれど、疑念の生まれた今となっては少し後悔しとる。

「とにかく、近いうちにカリムやクロノ君と相談やね」

 そう言ってこの場は解散した。
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

幕間 服と出会いと

 
前書き
本筋に関係有ると言えばありますが、オリキャラオンリーの劇場です。
読み飛ばしても全然問題ないです。 

 


――side震離――

「服買いに行こー」

「あ?」

 目の前で麻雀を打つ響、優夜、煌の三人、略してひゆこに言う。
 というか仕事上がりで麻雀なんか打ってたんだ。麻雀なんて確率ゲームなのに何が楽しいのやら。
 まぁいいや。

「……今何時だと思う?」

「午後8時11分48秒!」

「ほんと突然だな、で? 震離は服なんか買いに行くんだよ? あ、それポン」

「……えー」

 煌が笑いながら聞いてくるけど、一応そこは乙女の……いいやめんどくさいし。

「……単純に遊び用の服とか入った荷物がまだ届いてないんだよ、私も奏も響も、そうだよね?」

「震離ー、今なんか考えたけど絶対面倒だと思ったろ? それチーだ」

「うわ、優夜にバレた」

 ものの数秒でバレたよ、やっぱり付き合いが妙に長いからなーやっぱり隠しきれないかー。それよか響さー。

「なんでそんな微妙そうな顔してんの?」

「……いやさ、ここってさ一応は男子寮だろう?」

「うん、そうだねー」

「……大丈夫だったか? いろいろと。うわ、手牌悪いわ中々来ないわで最悪だな」

 今引いた牌を見て残念そうな顔をしてる。
 全く。確率なんだから、場に出てる牌と持ってる牌から予想なんて立てられるのに。あー、そういえば。

「ここに来る途中に上半身マッp」

「あー了解、もう言うな」

 即効で響がストップしてきたけど、私は!

「……それ以上言ったらお前の子供の頃の写真見せるぞ」

「フッ……誰に見せると?」

 あまり、私を侮っちゃいけないよ響? そう簡単に……

「……はやてさんにだ、多分あの人そう言うの大好きだと思うぞ?」

「了解」

 くっ、あの人きっと楽しみ様なタイプだろうからなー、お話するまでどんな人かわからなかったから怖かったしね。

「ていうか行くの? 行かないの?」

 気がつけば渋い顔してた響が、ニヤリと笑ってる。何か良い手が来たのかしら?

「あー、まぁ待てこれがオーラスだから、もう終わる……ほら早く出せよ煌? 早く出せよ、今きた牌を!」

「落ち着け俺、場に一つと山にドラ表示に出てるんだ……通れ!」

「ほい、清老頭だ! 優夜だっけ免許取ってるのは?」

「あぁ、一応取ってあるから送ってくよ、外出届書きに行くかー」

 なんかプルプルしながらそっと山からとった牌をそのまま場に置いたと同時に、響が自分の牌を全部倒した。
 へぇ、なんか鳥っぽいやつを煌が出して、響が一って書いてる牌と丸っぽい奴が書かれた奴と棒が九こ掘られた……いいや、説明するのが面倒になった。それよりも。

「あー、私達の一部の荷物がまだ届いてないけど、流はどうなんだろう?」

「あぁ、一応連絡入れておくか……三人とも先行っててくれ、連絡入れてからいくよ」

「……おぅ」

 そう言って響の部屋から出て行くけど、煌も一瞬だけ沈んでたけどもう回復してる。
 さすがだね! どうでもいいけども。

「じゃあ、俺は車借りる手続きしてくるよ? ちなみに誰がくるんだ?」

「え、幼なじみ全員」

 うん、服がないこと伝えたら時雨も紗雪も付いてくーって言ってからね。
 そして、何で優夜はずっこけたの?

「……まぁいいやワゴン系の借りてくるから……煌、俺の分の外出届書いといて」

「おーぅ分かった」

「それじゃあ私は響の分の外出届書こうかな」

「そうしたら? ってかこんな時間に開いてんの?」

 あーやっぱりそういう突っ込みが来たか、まぁ。そこんとこちゃんと調べてるんだけど。
 ちゃんと下準備はしてるに決まってんじゃん!

「そっかならいいさ」

「……まだ言ってないよ?」

「あっはっは、別に付き合いは長いんだ大体分かるよ、さっさと行くか」

「え、ちょっとー」

 何で言ってないのにバレたの!? ってそのあと聞いても笑ってばっかりで煌は教えてくれなかった。
 ちぇっ、ちょっとかっこ良く行ってみたかったのになー。

 で。

 そんなこんなで。

「結局全員で行くのかよ」

 なんか珍しく7人の外出届が受理されたんだって。煌に渡したらなんかすっごく驚いてた。
 珍しすぎて、笑ってたしね。
 それよりも、正直に言おう、ん? 違うな正直に思おう。いや言おう。

「どうして流もいるの?」

「うん? 俺が連れてきたに決まってるだろう?」

「……響、胸張って言うことじゃないと思うよ?」

 うんそれは分かるよ、そして、紗雪の言うこともそうだけど、私が言いたいのは若干流ってば不機嫌だよね?
 何でなの? って聞こうとしたら。

「ん、風鈴君はどうしたんだ?」

 お、煌が行った。

「いえ、自分は服があるのでいいと言ったんですが……」

「訓練着でいいって言ってたから連れてきた。流や? ちゃんとした格好した方がいいぞ?」

 あーなるほど。それはうん。仕方ない。カワイ……普通にお洒落するのもいいと思うよ?
 それに今日くらいだしね、服とか必要なもの買えるのは、休みの日はゆっくりしたいし、遊びに行く時とか好きな格好とかしたいし。
 あ……時間があったら六課の近くのお店を調べておこう、美味しいスィーツ店とかあったらいいな……

「で? 開いてる店があるから出るんだろう? どこなんだ?」

「あ、それは私が案内するよ、震離をそっちに行かせてる間に調べたし」

「おぉ、さすがは時雨だ、助手席で案内してくれないか……って、誰か助手席に乗らないと吐くってやついる?」

 って優夜の質問に全員静かになる。まぁ居ないよね。ワゴン車だから結構広いし。問題ないかな全員で行くのは。

「じゃあ行くから全員乗ってくれー」

 優夜の合図で皆車に乗り込む、ちなみに優夜が運転して、時雨が助手席、真ん中に私と奏、紗雪がのって、後ろに煌、響、流の順で乗ってる。さて、ここで助手席の時雨が一言。

「なんだろう行ったこと無いけど修学旅行みたいな感じがして若干テンションが上がってて何より夜に外出ってなかなかいいよね」

「こらこら、興奮しすぎない、そしてよくワンブレスで言い切ったね」

 え、めっちゃわかるんですけど。普通こんな事になったら何となくテンション上がらない!? 私の中で今上がりまくってんだけど!

「でも、分からなくはないよ?」

「ありがとう紗雪!」

 やった、さすが紗雪、話がわかる。そして後ろの面子は寝てるしね! 速くない!?
 
 ――――

で!

「うん、落ち着け私、うん、落ち着け、今の状況を整理しよう。
えーと、15分前に、デパートに到着して、皆で入った、ここまではいい。
で次は、各階に何があるか確認して、近くにエレベーターがあったからそれに乗って。
そこから、女性もの売ってる階に降りたら、既に誰もいなくて、私だけが降りてて。
で、待ってて折り返して戻ってきたかと思ったら、誰も居なくて、今のこの状況っと!」

で、心のなかで一言。というより声を大にして一言言いたい。
何この状況!? あっれ? 何でみんなはぐれたの!? まぁ、落ち着いて私。
今いる階が女性もの売ってる階だから……あ、あの服可愛いな……はっ! 違う。

「とりあえず、皆探そう!」

 ふと引き返して、迷子センターの案内が目に入ったけど、気にしない、絶対に気にしないんだからね!
 だけど、一人はやだなー、面白く無いのにな~ってか、よく考えたら私舞い上がってたかな?
 だから、一人……? 待って落ち着いて私! 多分、多分なんかあるんだよ、きっとね!
……付き合うのが面倒とか言われたりは……しないよね! とりあえず……ん、あれは?


――side響――

さてと、いきなりで何だが……

「あっはっは、参ったなぁ……」

「……笑い事じゃないですよ」

「……うぇぇえええん」

 とりあえず今の状況を言おう。
 実言うと、15分ほど前か、車から降りて皆でデパートに入ったんだけど、震離が案内を見てからエレベーターに直接行って、それを紗雪が追っかけていって、なんかそんなこんなで。
 皆はぐれて、流と行動してたんだけども。

「ママがグレたー」

「……ううん、違うよ?」

 と、なんか迷子の子が寄ってきて流の事を母さんって呼んでるんだよな~。ちなみに女の子ね。
 なんかこの子の母さんが管理局員で、今日一緒に来たんだけど、母さんとはぐれたらしい。
 というか、こんな時間に連れてくるなよー、夜だぜ? 俺らも人のことは言えないけども!

「……ねぇ、名前はなんていうの?」

「……グスッ」

 目の前で流が困ってるのを見て、苦笑いを浮かべる。まぁ、まだ流とはそんなに付き合ってないけども、いろんな表情するんだな。さて、本気で困りだしたからいい加減助け舟出すか。
 さっきから本気で困った顔してチラチラこっち見てるし。

「ねぇ、名前はなんていうの?」

「……グスッ、フレア……フレア・A・シュタイン」

「フレア……フレアちゃんか、えっと、俺の名前は響なんだけど、ごめんね? お母さんの名前はなんていうの?」

 フレアちゃんの目線に合わせて話をする。なんていうか赤い髪のツインテールで、凄く可愛らしい格好をしている。ちなみに言おう、俺はロリコンじゃないからな?
 ちゃんと、片想いの人とかいるからね! でもA? なんの略だ?

「……フレイって言うの、今日私の誕生日だったけど、急にお仕事が……」

「そうか」

 なるほど、それでこんな時間に来たのか……まぁ、これで俺の考えが間違えていたら恥ずかしいよな。
 さて、と、いい加減行動するか。

「フレアちゃん、一緒にお母さんを探そうか?」

「……これがお母さん」

「……そっくりだけど、その子一応男の子だからね?」

「……男の娘?」

「ん? うん、男の子」

 あれ、なんか意思の疎通が出来てない気がするのは気のせいか?
 まぁ、いいや。こりゃ服なんて買ってる暇は無いかもな。適当にサイズ合わせて買うかな。

「じゃあ、行こうか?」

「……うん」

「ほら、流も?」

「……はい」

 んー、流にそっくりだったらマジで笑いそうで怖いなー、頑張ろう俺。
 ……そういや、他の奴らは何してんだろうか?
 やっぱりもう服買ってんだろうなー。あー、優夜にでも頼めばよかったなぁ、まぁ後の祭りか。


――side奏――

「あはは、皆とはぐれたな?」

「……ぅ、まさか人ごみでエレベーターから降ろされるとは思わなかったよ」

「……まぁ、こんな時間なのに明らかに人多すぎるからね、でもどうする?」

 うん、それが一番の悩みどころ。まさかエレベーターに6人乗って、私と優夜と時雨の三人が人ごみに流されて別の階に降りるとは思わなかったよ。
 響と流はぎりぎり間に合わなかったけど、そのうち登ってくると思ってたら一向に来ないし。

「……まぁ、他の面子は自力で来るだろうし、とりあえず服でも買いに行くか?」

「……んーでもなぁ」

「……それもいいかもね、優夜は響のサイズは分かってるの?」

「だいたいはな、一応あいつがどんな好きなのかも分かるし、まぁ、文句言って来たら居ないお前が悪いって言えばいいしな、それじゃ行ってくるよ」

 手をひらひら振りながら、男物が売ってるフロアへ通ずる階段を下ってく、やっぱり、エレベーターはさっきので嫌になったんだね。まぁ、私も嫌だけども。

「……それじゃ、私達も行こうか?」

「そうだね、女性物は4つ上の階だね、エレベーターは嫌だし、エスカレーターでいこうか?」

 トコトコと時雨と二人で女性モノのフロアへ向かう途中、マネキンの服を見ながら、

「うん、それで奏は何買うの?」

「んー、まだ決めてない」

「真っ白いワンピースとかは?」

「……えっ! 私が!?」

「うん、奏が」

 え、ちょっと待って私が白いワンピースを着てる所を想像する。
 ……うん、無いな。

「時雨、私じゃ似合わないよ」

「そんなこと無いと思うよ? 奏って元が可愛いから、普通に似合うと思う」

 普通に可愛いなんてあまり言われたこと無いから、顔が熱くなってくるのが分かる。時雨だって言われたら軽くパニクッちゃってるくせになー、いけないこのままだと負ける!

「それ、私よりも震離や時雨、紗雪の方だよ……私じゃ……」

「んー……まぁ嫌がるなら無理強いはしないよ」

「……うん、ごめんね?」

「気にしない気にしない、まぁ、私が見たかっただけって言うのもあるけどね」

「プッ、何それ?」

 エスカレーターに乗りながら時雨と話をする。あぁ、こうやってると昔を思い出すなー。
 結局勝ててないけども、まぁ、いっか、皆でこうやってどこかで買い物して、何か食べたりしてね。ん?

「あれ、時雨、このお店って……」

「……うん、あ、このお店は」


――side響――

「……ママ抱っこ」

「……はいはい」

 後ろでそんな会話が聞こえてきて、思わずってか吹き出している。だけど、流に悟られないように笑うけど、声が出そうで辛い。
 だって、ねぇ?
 普通に順応していうる流がもう……ん? 今俺なんて思った? うん、少し落ち着け、落ち着けよ俺! 俺は普通だ、普通の男だ、男が可愛いなんて思わねぇよ!
 そう思いながら、多分嫌がってるだろう流の顔を確認しようと、後ろを振り向き、流の顔を見る。

「……グスッ」

「よしよし」

 ……普段ってか、まだ会って24時間経ってないけど……けど、けど!

「うわぁあああああああああ!!!」

「っ!緋凰……さん?」

「違うんだぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 本気で走る。なんか普段から想像出来ない位笑顔で、フレアちゃんをあやしてるのを見て可愛いって思ってないぞ、思ってないんだ! 俺は! 普通だ! 俺は普通なんだ!!!!

「お客様ぁあ!?」

「ごめんなさいぃいいぃいいいぃい!!!!」

 この時俺の中の何かがぶっ壊れた瞬間でもあった。言っとくけど、俺は普通だからな! 絶対普通だからな!



――side流――

「お客様ぁあ!?」

「ごめんなさいぃいいぃいいいぃい!!!!」

 なんか謝りながら走っていく緋凰空曹の後ろ姿を見送る。
 正直に言えば、走って追いかけたいけど、フレアを抱っこしてる状態だと、正直無理で。
 だから見送るしか無いけど……どうしようかな?

(マスター? とりあえず、迷子センターに連れて行ったら良いのでは?)

(うん、それは後で、先に確認取っておきたいから)

(……はぁ)

 アークから念話が届いたけど、それよりも先に。とりあえず、周りに六課関係の人が居ないのを確認してから。

「ねぇ、フレアはどこでお母さんと離れたの?」

「……ぅ、エレベーターに乗ってたら、人に連れられて……」

「……そう」

 正直危ない気がしたけど、多分気のせいだよね。正直その危ない部分が何か分からないけど……うん、もう一つ聞いておこうかな。

「フレアは今日誕生日だったんだよね? ここには何しに来たの?」

「……お母さんが誕生日プレゼントに新しいお洋服を買ってあげるって言ってたら……それで……」

「そう」

 なるほど、服を買いに来たのか。だったら、まだ子供服売り場にいる可能性が高いな……それでも見つからなかったら……。

「……置いてかないで」

「ぅ、大丈夫、見つかるまで一緒にいるからね」

(墓穴ほった! マスターが墓穴ほった!)

(アーク!)

 念話でアークが騒いで、ギルは注意するけど、どっちにしろ傷つくからやめてね? 本当に。
さて、子供服売り場は……ここから3つ上か、あ、ここって男性物が売ってるフロアなんだ……緋凰さんと階段登ってきて良かった、一階だといろいろ駄目だったしね。

「……お母さんエレベーターが来たよ」

「……フレア? 私の名前は流、風鈴流なんだよ」

「……にゃがれ?」

 ……まぁいいです。呼びやすい方がいいでしょうし。

「うん、呼びやすい方でいいよ?」

「……にゃがれお母さん」

 そこは譲らないのかー、なんて考えながらエレベーターに乗り込んで3つ上の階のボタンを押す。
 うん、あんまり人乗ってないんだねー。

「にゃがれお母さん~♪」

「……はいはい」

 男だけど、お母さんって呼ばれるなんて正直思わなかったよ。だけど、悪くは無いかな……。
 頼られることは少ないもんね。

――side優夜――

 あー階段で降りるのめんどくさいな。思ってた以上に、普通にエスカレーターで下れば良かった。さて、男物が売ってるフロアに到着して、辺りを見渡す。
 うん、なかなかいいなー、お? エレベーターの扉が締まっていく。うん、人が多いからもう乗らねぇ。絶対乗らねぇ。
 まぁ、そんなことよりもだ。

「響と流はどこ行ったー?」

 良く解らん口調を呟くけど、言ってて寒くなった。
 けど、あいつらほんとどこ行ったんだ? まぁ、エレベーターに乗ってて人の波に負けた俺が言えることじゃないけども……さて、どこから探すかね。なんて思ってたら。エスカレーターから登ってくるのが二人。

「おぅ、優夜―」

「あれ、迷子だ?」

「……違うからな紗雪?」

普通に挨拶する煌と、会ってそうそうにいきなり失礼なことを言う紗雪にジト目で視線を送る。
まぁ、私を見よって目で語ってるからもうやめるけど。だって、それでも見てたらなんか精神的に負けた気がするからね!

「で、響と流と震離は?」

「あ、知らんけど、時雨と奏は?」

「女性物売ってる場所に行ったから、紗雪も行って来たら?」

「そう、じゃあ行ってくるよ。エスカレーターで」

 やけに強調して言うのをみて察する。紗雪も被害者か。それならば仕方ないな。もう乗って良く解らん場所に折りたくないしね……。
 エスカレーターに乗って登っていく紗雪を見送って、さて。

「どうする?」

「ん、ノープランだ」

「……とりあえず、俺は響の分の服さがすけど、煌は?」

「あぁ、じゃあ俺は三人の捜索かな、優夜はまだここにいるんだろう?」

「んー、まぁ、ここに居なかったらフードコートにいるかもしれんから」

「あいあい、じゃあまたな?」

 そう言って煌もエスカレーターに乗って、また下ってく。
 まぁ、上には時雨達がいるし、このフロアには俺がいるし……まぁ、大丈夫だろ。さて、適当に決めるかな。



――side震離――


「……本当に付き合わせてしまって、本当にごめんなさい」

「いえいえ、お気になさらず~、困ったときはお互い様ですよ」

 お隣りを歩く赤っぽい髪のロングの女の人と話をする。
 ん、私? さっきまで迷子じゃなかったかって? そんなことは無い。
 さっきは、響辺りが迷子センターに居ないかなーって思ったから迷子センターが目に入ったんだよ!

「……震離さん? どうかしましたか?」

「ん、大丈夫です、連れのことを考えてただけですよ」

「……本当に探してくださって本当にありがとうございます」

「いえいえ」

 まぁ、私の事は置いておいて、今私のとなりを歩く女の人は、ついさっき出会った人だ。
 髪が赤っぽくて、ロングなこと以外、正直な所、流にしか見えない。
 実際迷子センターに居て、凄く驚いた。
だって、私の第一声が「え!? 流!?」で、この人……いや、フレイさんが「え、えぇ!?」って反応させてしまって驚かせてしまった。
 だって、そっくりなんだもん……本当に、ただ流との違いは、眼の色、髪の色、髪の長さくらいだもん。それ以外はほぼ一緒、流とも同じくらいの身長だしね。

「それよりもフレイさん?」

「はい、どうしましたか?」

「……すっごく失礼な事を聞きますけど、年は……?」

「ん、ふふっ、何歳に見えますか?」

 優しく微笑みながら、逆に聞いてくる。
 うん、わかんない! だって、この人5歳になる娘がいるんだよ!? とりあえず、皆を探しながら、ついでに娘さんを探してる。

 さて、フレイさんの問題にもいい加減答えなければ……あれ?あのベンチに座って、黒い尻尾をはやした人は……あ。

「あ、すいません、ちょっと待って下さい」

「ん、わかりました」

「……おーい、ひーびーきー!」

ベンチに座ってた人が私の声に反応した。顔が見えて、うん。響で間違ってなかった。
だけど、なんか疲れきってる気がするのは気のせいかな? なんかよろよろした足でこっちに来たけど……

「……ぉぅ、どうした?」

「……どうしたの?」

「……いや、ちょっと、俺の中で何かが崩れて……ん?」

と話してたら、私の隣にいる人に視線がいって……あれ、なんか顔が赤くなって、一気に青くなった。どうしたんだろう?

「……何だ流はついに子連れから、そっちの道に行ったの? むしろ行かせたの?」

「……なんか、わかんないけど、とりあえず失礼な事言ってるよね?」

「あ?」

――事情説明中&自己紹介――

 ただ、途中でお前が迷子じゃねぇかって言われたけど、私じゃないもん!

「……えと、その子って、今日……ってか昨日誕生日で、赤い髪のツインテールで赤のチェックのワンピース着てる子じゃないですよね?」

「え!?」

「そして、フレアって名前じゃないですよね?」

「はい、その子です!」

「ぅぉぅ」

 ってなんか響が膝ついてなんか崩れた。分かりやすく言えばorz状態だ。
 この反応から察するに。

「さっきまで、俺その子と一緒にいた」

「あら? あの子は今どこに?」

「あ、待って下さいフレイさん、今はとりあえず流が側にいて、一つ下の階にいると思います。動いてなければの話ですが」

「で、何で響はココにいたの?」

 って私が聞いたらなんか遠い目で、どっか見だしたよ。え、何この反応は?
 ん? そういえばさっき、「……何だ流はついに子連れから、そっちの道に行ったの? むしろ行かせたの?」って私に言ってきたな……そっから察するに。

「何だ、響、流見て発zy」

「あ゛?」

 殺気に近い視線を感じて目をそらす。

「なんでもない、とりあえず行きましょうか、フレイさん?」

「はい」

 なんか後ろで黒いオーラを私に向けて発する響は置いといて……とにかくフレイさんと共に、一つ下の階に向かう。ただ一つ言っておくけど、響が怖いからじゃないからね!?
 あ、そういやさっきの話の続きが残ってなー。よし。

「フレイさんフレイさん?」

「はい?」

「……さっきの話ってまだ続いてますか?」

「さっきの……あぁ、年の話ですか?」

「はい! 何となく回答がわかりました!」

「……お前、そんなこと聞いちゃ失礼だろう?」

 うるさいな響、さっきのやりとり知らないくせに!

「響さんは、私の事何歳に見えますか?」

「……え? あ、あー……少し待ってください」

「……響だって、即答出来ないじゃん」

 うっせ、って目で訴えかけるけど、私は知らない。さて、フレイさんの年齢、私の予想は!

「フレイさんの年は、25ですね!」

「……それはどうしてですか?」

「えっと、フレアちゃんの年が5歳って言うのと、フレイさんの容姿が若すぎるからですね!」

 多分ってか絶対そうだ、これにはちょっと自信がある。
 隣を歩く響も納得したみたいに首を縦に振ってるし。これはいったんじゃない!?
 当てても何ももらえないけどね。それに特殊型を知ってる分、当てやすいと思う。特に響なんて……お母さんめっちゃ若かったしね。

「……もっと上ですよ♪」

「「……えっ?」」

 二人して時が止まって、直ぐに。

「え!? 嘘ぉ!? じゃあ……じゃあ29歳とか!?」

「いいえ、もっともっと上です♪」

 うそぉ……。
 なんて考えてたら、驚いてる響が小さく手を上げて。

「……失礼ですが、32とか3とかですか?」

「……もう少し♪」

 ここまで言われて私と響が顔を見合わせて、顔が引きつる。
 幾ら何でも若い若いって……えぇ~、パッと見流と同じくらいなのに!?

「あ、この階ですよね、響さん?」

「え、あ、あぁ、はい、さっきまでここにいるはずです」

 で、降りてきた階は、男性物とか取り扱ってる所で、本当にさっきまでここにいたんだろうか……こんな時間だから、ボサボサヘッドは……あれ、優夜じゃない?

「あれ、優夜だ、ってかあいつ服買ってるし……おーい優夜ー」

 響が遠くから、声を掛けると大きな袋を二つ持った優夜がこっちに来た。
 色付きの袋だから分からないけど、響だけにしては多くない?

「おぅ、迷子二人」

「違うよ!」「かもな」

 私は一人で否定して、響は軽く認めてるし……あれ、もしかして私だけ孤立してたのかな……? いや、そんなこと無い、とりあえず優夜にも事情を……って、響が説明して、もう終わってるし。

「……いや、しばらくここにいるけど、流は見てない」

「え? じゃあ赤いチェックのワンピ来た女の子は?」

「いや、もっと見てない。子供が居たら印象に残ってるだろうけど……無いからな。
 すいませんフレアさんお役にたてなくて」

……あれ? そうすると、本当にどこ行ったのか分からなくなったんじゃ……なんか響の顔見ると若干青ざめてるし、フレアさんも青くなってるし……あれ、本当にヤバい。

「おーい、響と優夜ー」

「「「ん?」」」

 なんか重苦しい雰囲気になった頃にエスカレーターから煌が登ってきた。
 とりあえず。

「煌―、下の階で赤いチェックのワンピ着た女の子か、流の何方か見なかった?」

「いんや、見てない、下の階見てきたけど、居なかった……あ、風鈴君……じゃない。そちらの方は?」

「あぁ、この人は……」

 って優夜と響が煌に説明している間、私はフレアさんの隣に移動する。
 私自身、ちょっと役になってないからね、それで……

「……ごめんなさい、フレイさん」

「いいえ、こちらこそ協力してもらってるんです、こちらこそ本当にごめんなさい……元々私がいけないです、私が……」

「いえ、でも、いいお母さんじゃないですか!」

「……何時もあの子の側にいてあげられないから……誕生日の時くらい一緒居ようと……」

 あぁ、なんかフレイさんのネガティブスイッチをいれちゃった……いけない、どうしたら良い? 落ち着け、響はーって、話ししてる……優夜―って、同じく会話中……煌……はもっと会話中だ。男どもはどこに居るかの会議中だし。
 どうしたら……あ。

「フレイさん、誕生日プレゼントって何買う予定だったんですか?」

「え、あ、今日はあの子に新しいお洋服を……」

「それはあちらも知ってるんですね?」

「え、えぇ、ちゃんと伝えて一緒に買おうねって……」

 よし、分かった。流がこのフロアに居ないって事は、多分一緒に子供服売り場のある階に行ったと推測して。

「響、ちょっと行ってくるよ」

「分かった、どうするエレベーターで行くか?」

 フロアマップを見ながらいう響に、

「はぁ!?」「また逸れるだろうが!」「ばかじゃないの!?」

「何で俺がそこまで言われなきゃいけないんだよ!?」

 ブチ切れながらそれぞれ返す。いやだってそうでしょ。また逸れたら面倒だし。

とりあえず、階を確認して……三つ上か!

「ごめんなさい、フレアさん!」

「えぇ、きゃ!」

 フレアさんを抱えて……早い話が、お姫様だっこして、とにかく急いで子供服売り場に向かって走りこむ。だけど、お姫様だっこって憧れるよね!でも、だっこしてから気づく、フレアさんの顔を見れば見るほど、流にそっくりだよなーって。

 ちなみに男どもはというと。

「お客様ぁああああ!? あ、先程の!」

 店員さんに注意されると思ったら、響と目がバッチリあってそちらに行く。

「やっべ」

「何したお前!?」

「巻き込むなや、今登ってきたばっかりなのに!?」

 ありがとう響。私のために犠牲になってくれて。さて、急いで親子の対面をさせようかな。
 ……今日は服買えないなー、でも、ま、いっか。急いで階段を駆け登ってる最中に。

「はっ、はっ、はっ、はぁ」

「……大丈夫ですか、震離さん?」

「勿論ですよ、ただ、思ってた以上に長くて、エスカレーター使えばよかったって後悔してます」

 ちょっと中腰の体制で息を整える。まさか男を犠牲にして、階段登ったら思ってた以上にきつくて、もう二度と走って……人を抱えて登るかって。
 まぁ、それはさて置いて。

「ふー、はー、ふぅ、さて、フレアちゃんを探しましょう!」

「はい」

 私がそう言うと、フレイさんはニッコリと笑ってくれる。多分さっきの話で内心すぐにでも探し回りたいはずなのに、私が息を整えるのを待ってくれた。
 というか本当にすごいなとおもう、流が付いてるとはいえ、フレイさんからしたら初対面の人に預けてるようなもんだから、生きた心地がしないはずなのに。それでも落ち着いてる。だから、本当に。

「……すごいなぁ」

「……凄くないですよ」

「え、あ、その……」

「気にしないで下さい、私は何時もあの子を待たせてるんです。
 今日だって本当は一緒に居れるはずだったのに、私が仕事を優先させてあの子に寂しい思いをさせて……本当、ダメな母親ですね」

 そう言って笑うフレイさんの笑顔は凄く痛々しい物だった。たしかに一般的な母親の像から考えると正直ダメな方だと思う。だけど、だけど私の中では―――

 ―――化物!何で、何であんたなんか■■■■■■■よかったのに!!!

 ふと、昔の事を思い出した。あの人のことを。あの時の事を。

「……りさん? 震離さん?」

「え、あ、はい?」

「どうしましたか?急に?」

「あ、いえ、少し考え事を……というかフレイさんはダメな母親じゃないですよ?
 こんなにも心配してるんです。それだけで十分優しくて、暖かい人だって伝わってきます」

「……そう、ありがとう」

 さっきと違って、今度は本当に温かい笑顔を浮かべる。うん、この人はこの笑顔が本当に良く似合うなぁ。きっと流も笑ったら似合うんだろうな。
 だけど、私も本当馬鹿だな、今更昔のことを思い出すなんて。あの人はもう関係の無い人。今更どうこう思う人じゃない。うん、もうやめよう今は流達を探すことに専念しよう。

「……いませんね」

「えぇ、移動したのかな?」

 だけど、流の事だ流もフレアちゃんから話を聞いてたら多分ここに来てるはず、だけど……姿が見えない。少し歩いて見ると。

「……あ、叶望さん」

「え?」「あ、流」

 柱の陰のベンチに座っている流と、流の膝枕で眠る女の子……多分この子がフレアちゃんだね、きっと。そう思いながら、フレイさんの顔を見ると、本当に安心したみたいで、自然と顔が微笑んでる。
 うんうん、よかったよかった。
 だけど、なんか流が妙にこなれてるっていうか、母親っぽい感じなんだけど……あれ、なんか流の目が点になった。あ、フレイさんも目が点になった。あ、紹介してないや。

「あ、えっと、流この人がその子の……フレアちゃんのお母さんの」

「へ、あ、えと、フレイ・A・シュタインと言います」

「あ、ご丁寧に、自分は風鈴流と言います……申し訳ないです。フレアちゃんを……その」

「あぁ、いえ、事情は分かってます。本当にありがとうございます」

 優しく微笑みながら頭をさげるフレイさんと、釣られて頭を下げる流。だけど、眠るフレアちゃんに気を使って、起こさないようにゆっくり動く。本当にこなれててなんか凄いな。
 だけど、フレイさんは、もう慣れたようだけど、流はまだ驚いてる。

「あ、そうだ……そのシュタインさん?」

「フレイでいいですよ?」

 ニコニコしながら一言。

「え、あ」

「フレイでいいですよ?」

 もう一度。

「ぅぁ」

「フレイでいいですよ?

「……フレイさん」

「はい?」

 ……フレイさん凄い!
 私まだ名前呼んでもらったこと無いのに……一瞬で呼ばせた……今度私もやってみようかな、でも失敗しそうだけど。ちょっと無理矢理距離を詰めよう! うん、そうしよう。そして、失敗を返上するんだ。

「その、フレアが言っていたんですけど、プレゼントなんていらないから、少しでも一緒にいてほしいって。さっきまで言ってました」

「……はい」

 おずおずと告げる流に対して、それを真摯に受け取るフレイさん。

「だけど、フレイさんの事が大好きで仕方がないみたいですよ」

「……ありがとうね、流さん?」

「いえ」

 ……さん付けで呼べば私も最初の時、あんなに地雷を踏まなくて済んだのかもなー。

「えっと、今なら熟睡してるみたいなので……起こさないように」

「あ、はい、背負いたいので、私の背中に」

「はい、起こさないように……」

 おぉ、流がゆっくりフレアちゃんを抱いて、フレイさんの背中に乗せた……本当に上手いなー。
 なんて考えてるうちに、いろいろ準備が終わったっぽい。

「流さん、ありがとうございます」

「いえ、この後はどうされるんですか?」

「……そうですね、明日までお休みなので、今日はもう帰ります」

「はい、そうしてあげてください」

 ……普段は絶対に見せそうにないくらい可愛らしい笑顔を浮かべて、フレイさんも優しそうな笑顔を浮かべてる。

「あ、そうだ流さん、震離さん、響さん達にも伝えてください。何か困ったことがありましたら、私に言ってください」

「え、あ、でも」

「大丈夫ですよ、管理局につなげて私の名前を言ってくれたら繋がりますから。
 今日は本当にありがとうございます」

「あぁ、いえ、こちらこそ、本当にすいません」

 そう言って流もフレイさんも頭を下げる。うん、本当似てるようで全く似てないなと思う。ううん、今はまだそう思うだけで、本当は凄く似たもの同士なんだろうな。

「それでは、失礼します、震離さん、流さん、おやすみなさい。響さんや、女の子達にもお伝え下さいね」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

そう言って、エスカレーターに乗ってゆっくりと下っていった。
だけど、本当にいいお母さんだよなー。あ、そうだ。

「流?」

「なんでしょうか?」

 ぅぁ、私の心が折れそうになった、だって、さっきの優しそうな表情とは打って変わって、いつも通りの無表情に戻ってて、正直心が折れかけた。
  だけど、私負けない! いろいろもう手遅れの気がするけど負けないし!

「とりあえず、奏達が女性物売り場にいるから合流しない?」

「そうですね」

 ごめん、負けないって言ってたけど正直折れそう。ここまでギャップってか、態度の変わり様がすごすぎます……。


――side響――


 登ってくるエスカレーターの見えるベンチに俺と奏が座ってる。さて、一言。

「死ねる」

「……そりゃあ、店員さんから逃げ回りながら、階段登ってきたら誰だってキツイよ」

「……言わないで」

「いや、自分でやったことだし仕方ないよ」

 うん、俺もそう思う。というか自分でまいた種だからな。仕方ないけど。仕方ないけどあの店員さんすごすぎだろう!?壁走ってたし。俺の気のせいじゃなければね!?

「ま、真相は知らないから、なんとも言えないけどね」

「で、奏は服買ったのか?」

「ん、うん。ほら」

そう言って奏の手には大きな袋が二つあった。いろいろ買っても二つは多すぎじゃないか? まぁ、俺が言っても仕方ないけど……そういや、優夜も二つ持ってたな。

「あぁ、これ、震離の分、あの子結局ここにこなかったし、多分優夜の奴も響と流の服だと思うよ」

「……うわぁ、マジでありがてぇ」

「よかったね? ま、中身に対して文句言っちゃいけないよ?」

「……あぁ」

本当にそうだよなぁ、買ってもらってるのに文句言うとかアウトだろう。後でお金払っとこう、ついでに流の分も払っておこう、え? 他意は無いよ? 普通に迷惑掛けたからそのお詫びだ、深い意味はない。絶対に。

「そういや、まだ来ないな」

「そうだねぇ」

「ま、来たらすぐに降りなきゃいけないけどな……そういや」

 携帯端末を取り出して、時計を見ようとすると。

「もうこんな時間か。午後10時だよ」

「ありがとう」

 いつの間にか端末を片手に奏が教えてくれた。言わなくても伝わってるから正直凄くありがたいな。
 それよりも流が来たとき対応をどうにかしないとなー。って。

「噂をしたらなんとやら」

「そうだねぇ」

 ベンチから立ち上がって、二人に声をかける。フレアちゃんがいないところを見ると、ちゃんと親子を再会させて返してあげたんだな。まぁ、その話はまた今度でいいか。

「おまたー」

「すいません、逸れてしまって」

 うん、流は悪気がある……ってか、悪いのは俺の方なんだけどな。というか、さっきと違ってお前、ほんと無表情だな。
 まぁ、ソッチの方がやりやすいからいいんだけど、それにしても震離よ?

「少しは悪びれろ」

「……逸れてないし」

「それは多数決で決める。さて行くぞ」

 震離に言いながらさっさと下りのエスカレーターに乗って、一つ下に降りる。
 まぁ、流は静かに付いてきて、震離は「また下るのー」とかなんとか文句をたれながら付いてくる。とりあえず、黙って付いてこい。

「ま、付いてきたらいいものがあるよ?」

 奏がそう言ったら、震離が納得する。ていうか、何で奏が言うとお前はちゃんと言うこと聞くんだよ!?
 まぁ、いいか、とりあえずさっさと目標の店を探して……あった。

「ほれ行くぞ?」

「あ、このお店って、え、こんな時間にもやってたんだ!? ってかここに入ってたんだ! 凄い!」

 うん、そういう情報に疎い震離がそんだけ言うってことは本当にここ有名なんだな。
 ミッド語で、カフェ「スカイメイル」。なんかここで作られるケーキやアイス、お菓子等が最近の女の子の中でブームになってるらしい。まぁ、どうでもいいんだけどって。

「どうした流?」

「あ、いえ、なんでもないです」

 なんか目がキラキラしてる……その視線の先を追っかけると……なるほど。
 まぁ、一緒に頼むか。甘すぎなければある程度いけるし……。
とりあえず店内に入って……ってか閉店が近いせいってこともあってほっとんど人いねぇな、ある意味穴場じゃないか。

「よ、お待たせ」

「おせぇよ、響」「二人とも、お疲れさん」「流ー、お疲れ?」「二人とも、一緒に食べよう?」

 まぁ、たまにはこんなこともいいかな。

 さて、流がほしがってるパフェでも頼んで皆で食べるか!


――side親子――

「んむ……あ、おかあひゃん?」

「はーい?」

「ありぇ? にゃがれは?」

「フレアが寝てるから、先にかえっちゃった」

「……また会えるかな?」

「……うん、会えるよ、流さんは勿論、皆管理局員みたいだし」

「おかあひゃんよりもえりゃいの? でも、おかあひゃん、上から数えたほうが早いよね?」

「さぁ? どうかな、そうだ明日も一緒に入れるから、また買い物に行こっか?」

「んー、フレアお絵かきしたい、にゃがれの絵を書いて、今度あげる」

「そう、それはいい考えね、だけど今日はもうおやすみなさいしよっか?」

「……うん、おやすみ……なしゃい」

「はい、おやすみなさい」

 うん、フレアを寝かしつけてから、リビングに戻ってソファに座る。
 そして、今日の……いいえ、少し前の出来事を思い出す。フレアがいなくなって本当に焦ったけど、それよりも……

「まさか、ね、あんなところで出会えるなんて思ってもいなかったよ。
 13番目の守護の翼、これは私も動かなきゃいけないかな、あの子達には助けられたお礼もしなきゃいけないし」

 少し笑みが溢れる。だってね、あの子達がまだ管理局にいるのは驚いたけれど。それは後々調べるとして、とりあえず私が居ない間の報告で変わった事……は。

「……そう、ついに動いたか……これはちょっと急いで動かないとね」

 フレアが起きるその時まで、部屋の中をパネルを叩く音だけが静かに響いていた。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第5話 出張任務 前編



――side震離――

「ほなら、みんな準備できたか?」

 はやてさんが、資料を片手に、両隊長に話を聞く。うん、すっごく元気そう。
  
 なぁんか裏がありそうな気もしなくもないけど。

「スターズ分隊、準備完了!」

「ライトニング分隊も、大丈夫だよ」

「ほな、異世界出張任務。出発!」

 なんかいつもより(昨日からの付き合いだけど)元気に見えるのは、やっぱり気のせいじゃない。
 まぁ、隊長陣は地元に、仕事だけど帰れるって、テンション上がるしねぇ。気持ちは分からないでもないけど。
 あと響? 立ったまま、資料見る体制のまま寝るのはどうかと思うよ? 

「まぁ、いっか」

 私が起こす必要なんてないし、ていうか奏が起こしたし。
 まぁ、どうでもいいけど、早くヘリに乗りたい、ローターの風が強すぎて……資料ってかパンフが飛びそうだし。
 ……何度見てもパンフなんだよねこれ。

 異世界出張任務(by機動六課)

 

目的地: 第97管理外世界  現地惑星名称「地球」

    目的: 現地にて存在が確認されたロスト・ロギアの確保、及び封印

   持ち物:所有するデバイス

        現地活動可能な私服数着
        お菓子や飲み物 (ただし300円まで。果物はお菓子に含まない)
        お小遣い (ただし5000円まで。それ以上を求める場合は部隊長室まで)
       

       現地協力者の援助により、生活場所は確保済み



 どこからどう見てもパンフで、そして分かりやすい資料。
 多分はやてさんの仕業だと思う、というか絶対にそうだよ。なのはさん、フェイトさんがそういうお茶目をするとは考えにくいし、副隊長の二人も同じくだ。
 強いて言えば、昨日あったシャマル先生なら雰囲気的にやりそうだけど……まぁわからないや。

「叶望さん? 乗らないんですか?」

「へっ、あ?」

 流に声を掛けられて、周囲を見渡すと既にティアナ達はヘリに乗り込んでて、外にいるのは私と流だけ。慌てて流と一緒にヘリへと乗り込む。

「え、あ、ごめんなさい!」

「いやいや、全然大丈夫や」

 笑顔で大丈夫って言うけれど、私の方はそうじゃなくて、ごめんなさい、と心のなかで何度呟いたんだろう……本当に。



――side響――

 まぁ、うんとりあえず呟かせて……呟いたらアウトか、ヘリの中だし。とりあえず思わせてくれ。
 昨日ちょっと外出した後、気になることを調べたり情報交換したりしてたら気がつきゃ朝よ。時間はいくらあっても足りないこの頃。

「響さん? なんか疲れてるみたいですけど?」

「ん、あぁ、大丈夫だよ、ありがとエリオ」

「そうなんだ、そういえば響さん達の故郷もなのはさん達と同じ地球なんですよね?」

「あぁ、地球だよ。ちなみに最近ってか、今朝方知ったことだけど、なのはさん達の故郷を山挟んで隣」

「えぇ!?」

 俺がそう言うと、なのはさん、フェイトさん、はやてさんの三隊長が凄く驚いた。まぁ、普通そうだよな。
 ただ、少し嘘を、今朝方知ったという嘘を混ぜたけど。はやてさんの表情が一瞬変わったようなそうでもないような……考えすぎかな?

「え、あ、ちなみになんていう場所なの?」

「あぁ、桜庭って所です、ただ海鳴から桜庭まで山ん中を走って1時間くらいなんで、あまり行かない場所ですね。俺らも海鳴の人も」

 話しながら最近帰れてない故郷を想う。俺らの住んでた場所は海鳴に比べるとちょっと田舎だ。だけど困る程でもないし、普通に通販も来たし、行きたいと思えば海鳴よりも近い場所に行けばそれなりにあるし、別に用がない限りは海鳴に行くことはない。

「でも、なんでそんな世界からなのはさんや、八神部隊長みたいな、オーバーSランク魔導師が……」

「突然変異というか、たまたまぁ~な感じかな?」

 ティアナの言葉にはやてさんが振り返り答える。

「へっ? っあ! す、すいません……」

「別にええよ? 私もなのはちゃんも、魔法と出会ったのは偶然やしね」

 なのはさんと、はやてさんの話を聞きながら、そうなんだと考える反面。そうすると俺たちの場合はなんというか微妙な所だったんだなと。
 まぁ、それは別に良いか。そんなの人それぞれだし。

「はい。リィンちゃんのお洋服。」

「わー! シャマルありがとですーっ!」

 隣でリインさんとシャマルさんの会話が耳に入って、皆の顔がそっちに向く。
 だけど、その状況を見て思わず目が点になった。だって、リインさんのサイズの割に服大きすぎるだろうに。それを見てたキャロやティアナが思わず聴きにいった。

「あの、リィンさん。その服って……」

「はやてちゃんの、ちっちゃい頃のおさがりですっ。」

「あ、いえ。そうではなく……」

 ふと、エリオが驚いて無いのが気になるけど……あ、そういう事か。

「可愛らしいですね!」

「震離ありがとうですっ!」

「待って震離、リインさん、それ普通の人のサイズですよね……」

 正しくその通りなんだけど、震離は分かってて言ってるんだなと思う。まぁ、リインさん本人が説明するんだろうから言わないんだろうが……。

「う~ん……あはっ! そう言えば、フォワードのみんなには見せたこと無かったですね」

「へっ?」

「システムスイッチ。アウトフレーム・フルサイズッ!」

「おぉっ!」

 リインさんがそう言うと、FW組が口をそろえた。
 だけど、ごめん少し間違えてたわ、幻術とか変身魔法とかを使うもんだと思ってたけど、そういえばリインさんってデバイスでしたね。うん、忘れてた。

「っと。一応、このくらいのサイズにもなれるですよっ?」

「デカッ!」

「いや、それでもまだちっちゃいけど~」

 本当にこの部隊って緩いよな。侮辱されたって激昂する上官とかまま居るのに。穏やかな機動六課だからなんだろうけどね。

「リインさん、普通の女の子のサイズですね」

「向こうの世界には、リインサイズの人間も、フワフワ飛んでる人間もいねぇからなぁ」

 ケラケラと笑いながらヴィータさんが言うけど……まぁ地球には居ないよなぁ。

「あの……一応ミッドにもいないとは思います」

「……はい」

「スバルにティアナ、多分どころか、普通に居ないよ、新しい世界が見つかる以外は」

 思わず奏が突っ込んだ。だって居ないだろうしそんな人は。
 けど、リインさんくらい小さいと飯代浮くんだろうな……。

「ふ~ん。だいたい、エリオやキャロと同じくらいですかね?」

「ですね」

「リィンさん、かわいいです」

「えへへ」

 うん、どこからどう見ても子どもに見えますよー。ん、そういや、俺の隣りに座ってる流は……あ、死んでる。多分起きてるんだろうけど、静かに目を閉じてるだけかも知れないが。
 
「リィン曹長。そのサイズでいた方が、便利じゃないんですか?」

「こっちの姿は、燃費と魔力効率があんまり良くないんですよ~っ。コンパクトサイズで飛んでいる方が楽チンなんですっ!」

「なるほど~」

 リインさんの話を聞いて、また納得する。というか本当にデバイスっぽくないよなー。
 ま、確かにサイズが小さければ小さいほど消費魔力は小さいだろう。だから常時飛んでいられるんだろうしな。

 ……考えすぎかな? スパイをしろって言われたから、少し思い込んでいたのかもしれんな俺は。
 
 も少し、気楽に行くかね。

―――



 皆で集団転送ポートの乗り、目的地へと転送される。
ちなみに、はやてさんとリインさんと、六課で留守番しているザフィーラさんを除いたヴォルケンズは途中で降りた、別枠の協力者の元へ挨拶に行くんだと。
 で、久しぶりに帰ってきた地球なんだけど。

「……本当に地球か?」

 なんか、なんか、なんか知らんけど俺の第六感がスゲェ警告音鳴らしてるんだけど、なんというか間違いなく強い何かがいらっしゃる。

「響さん? どうしたの?」

 いや、エリオよ、なんか感じ無いか? 何か行ったら死ぬ気がするって?
はやてさんは……っく、先に降りたんだった。フェイトさんは……駄目だ。もしかすると変に取られるから駄目だ。じゃあなのはさん!

「なのはさん、ここってなんかいます? 退職したSSSくらいの魔導師の方とか」

「ううん、いないよ」

「……じゃあ、魔力以外の人で何かまぁ、境地に達してる人とかは?」

なんか後ろでFWメンバー(震離も奏も含む)視線が痛い。それこそ何聞いてんの? っていう生暖かーい視線が。俺だって聞きたく無いけど、なんか警告音が凄いんだよ。

「……いないよ」

 ちょっと隊長? 目を合わせて喋ってくださいよ、いないんですよね?
 縮地みたいなもの使って移動してくる人とか、目を見て、いないって言ってくださいよ。そしていたらどこにいるか教えて下さい! 
 しかも何か、向こう側からエンジン音が聞こえてきて、俺らの少し離れた所で止まって、中から女性の方が降りてきたし。

「自動車? こっちの世界にもあるんだ」

「ティアナ、それ酷い」

「え?」

 うん、震離の突っ込みは間違ってない。そんな俺たちを他所に、車の持ち主の方は降りてからまっすぐなのはさんの元へ向かっている所から察するに、知り合いだな。

「なのはっ! フェイトッ!」

「アリサちゃんっ!」

「アリサッ!」

 うん、やっぱり知り合いだったか。そして多分あの反応からだと幼なじみかなんかか。そして、アリサさんという方は、金髪ショートに雰囲気から察するに、スゲェ活発そう。表裏もなさそうだし。

「なによも~ご無沙汰だったじゃない?」

「にゃははっ。ごめんごめん」

「いろいろ忙しくって」

「アタシだって忙しいわよ? 大学生なんだから」

 ご無沙汰って言ってたから本当に久しぶりに再開されたんだろうな。年相応に話ししてる。後ろでスバルとティアナの目が点になってるのは流すけどね。

「アリサさ~んっ。こんにちわですっ!」

「リィン! 久しぶりっ!」

「は~いですぅ~っ」

 うん、和やかーな雰囲気で会話が弾んでるところ申し訳ないですけども、説明をしてください……俺ら八人蚊帳の外状態って。特にティアナ達は、どうしていいのかわからないみたいで、なんか困ってるし……。うん、まだ掛かりそうだな、今のうちに……。

「桜庭の方角はっと」

 太陽の位置からだいたい場所を割って、桜庭があるんだろうなと思う位置に向いて。誰にも気付かれないように……手を合わせて黙祷。二年近く帰って来なかったからな。これくらいしておきたい。多分仕事してたら忘れるだろうから、覚えてるうちに。

「響」

「……あぁ、終わった」

 不意に奏が声を掛けてくる。内容が分かってるだけ、説明も楽だ。聞かれないところを見ると、誰にも見られてないな。
 そう考えてるうちに、俺らを放置していた事に気がついたフェイトさんが、アリサさんと呼ばれる人物の紹介を行なう。

「紹介するね。私となのは、はやての友達で、幼なじみ」

「アリサ・バニングスです。よろしくね」

「よろしくお願いしますっ!」

 バニングスって名前どっかで聞いたことあるなーとか思いながら、頭を上げたときになんか、俺と目が合った。はて?

「……どこかで会ったこと無い?」

「……すいません、具体的な場所を言って下されば……」

「えと、八年くらい前に有栖着物店って名前のお店で……」

 八年前優夜の家、はてなんか……あっ。

「多分人違いですよ」

「そう? ならごめんなさい、昔そっくりな人とあった事あるなと思っただけだから」

「いえ、気にしないで下さい」

 できるだけ顔に出さないで、平静を保って……ふと、視線を隣にやると、ジト目の奏と目があって

 ―――本当は?

 ―――時間があったら話す、ただ、色々あるから、うん。

 一秒たらずで目で会話する。うん、後で説明するから、だからジト目で見るなよ!?

 本当、何で俺ばっかりこんな目に合うんだろうか?

「さて。じゃあ改めて、今回の任務を簡単に説明するよ」

「はいっ!」

 コテージの中に入って、海鳴の地図を開いて簡単な作戦会議を開く。

「捜索地域は……ここ。海鳴市の市内全域。反応があったのは、こことここと、ここ。」

「移動してますね?」

 なのはさんが表示するモニターを見て、ティアナが声を出す。やけにバラバラに移動してるけど……これは独立して動いてるっぽいな。

「そう。誰かが持って移動しているか、独立して動いているのかは判らないけど。対象ロスト・ロギアの危険性は、今のところ確認されてない。仮にレリックだったとしても、この世界には魔力保有者が滅多にいないから。暴走の危険はかなり薄いね」

「けど、動いてるところを見ると、誰かが所持ってるか、最悪魔導師の人かもしれないし、万が一に備えて動いたほうがいいですね」

「そうだね。レリックでもそうでなくても、やっぱり相手はロストロギア。何が起こるか判らないし、場所も市街地。油断せずに、しっかり捜索していこう」

「はいっ!」

 流石と言うか、ティアナは凄いな-。きちんと要点纏めて予想してるし。
 さて、俺らはどの班で移動するのかねー、人数的には七人、八人か、多いな。楽なのは流を入れた俺と奏、震離の4人組だが……そう上手くはいかんよなぁ。

「そうだ、響?」

「はい、なんでしょう?」

「さすがに市街地を大人数で動くのは大変だから、響が奏と、震離、そして流の四人を連れて、サーチャーの設置をしてくれないかな?」

「……はい。わかりました、けどいいんでしょうか?」

 あれま。希望が通ったが。良いのかね。俺らだけで動いていいとか。

「大丈夫だよ、これはやてちゃんからの指示だし」

「あ、なるほど了解です」

 まぁ、捜索指定範囲が結構広いから分散してやろうってことだな。だけど、遊びそうな奴が一人いるんだよなー。とりあえず、聞いておくか。

「なのはさん、早く終わったらどうしたら?」

「ん、観光してもいいよ?」

「……えっ」

 落ち着け俺、今なんてなのはさん言ったよ? 艦攻って言ったか? でも船なんてないし、間違っても観光って事はない、一応仕事なんだし……ボケかまさないで確認取るか。

「……本当にいいんですか?」

「うん、大体はやてちゃんから詳細聞いてるからね。そして今日はスバル達の……」

「あ、なるほど、了解です」

 そこまで聞いて納得、たしかに回収任務でレリックかも知んないよってぼかしてるけども、実際はどんなんか聞いてるのか、それは納得。そして、スバル達に経験を積ませようって事か。
 
 ……昨日の今日だから俺たちは泳がしてる? いや、それなら置いていけばいいだけの筈。でもそれをしないって事は疑ってない、マジで考え過ぎ?

 あ、駄目だ。思考が回り始めた。
 とりあえず。

「へーい、震離に奏に、流ー俺らはとりあえず別行動だー」

「はーい」「うん、わかった」「了解です」

 各々返事してとりあえず辺りを見渡す。うん初めての出張任務だからか、皆楽しそうだ。特にエリオとキャロはフェイトさんと行動できるから嬉しそうだけど。フェイトさんの顔を見ると本気で嬉しいのかなんか後ろから光が見えるんだけど……まぁ、いいか。

「では、副隊長達には後で合流してもらうので、先行して出発しちゃおう。あ、一応私服でね? 市街地を捜索するから」

「はい!」

 さて、優夜が買ってくれた服でも纏ってさっさと行くかね。せっかくいろいろ自由が効くらしいから、楽しむことを優先するか。
 相変わらず、俺の本能は逃げろって言ってるけどね。

――――

「で、アリサさんとはどんな関係なの?」

「……あー」

 街に繰り出してからはや小一時間、皆でサーチャーを設置しながら、奏がさっきの事を聞いてくる。
 ちくしょう、適当に観光も織りまぜながら進んできたから、もう忘れたもんだと思ってた。くそぅ、まだ覚えてたか。とりあえず確認をとろう。

「ちなみにどんな関係だと思う」

「え……あー、うん、昔の幼なじみとか?」

「あ、はい! 私的に昔に告白したとか?」

「うん、大体わかった、先に言っとく、そんな関係じゃない」

 それぞれ奏と震離予想を言うけど、そんなんじゃない。
 とりあえず大事なことだから先に言っとく。

「……昔さ、優夜ん家の着物店にあの人とそのメイドさん、そしてその父親みたいな人が来たんだよ。アリサさん用の着物を買いに」

「へぇ」「そこから告白」

「ねぇって。それで来たのはいいんだけど、問題が一つあってな」

「うん」

 ……さて、ここまでは話した。ただこっから先言いたくないんだよなーもう。いいやもう言おう。言ってさっさと観光しよう。

「ただ、そん時優夜ん家には、サンプルってか、カタログ替わりの着物を着る女の子が居なかった、まぁ今もだけど」

「うん、それで?」

 ここまで言って、奏の顔が微妙な表情に変わり始めた。うん、早く気づいてね。

「で、だ。そん時どういうわけだか知らんけども、俺に白羽の矢が立ったんよ」

 ここまで言ったらさすがに奏は気づいたか。でも。

「まだわからんか?」

「いや、大体予想は付いたけど、それなら私に白羽の矢が立たないのが不思議で」

 首を傾げながら震離が呟くけど。お前あの時いろいろひどかったからな。まぁ簡単に言っとくか。

「……いやお前、あの頃の震離はどうでしたか? 覚えてない?」

「……ん、ぁ~うん、それは響に矢が立つわけだ。ごめん」

 うん、あの時のお前ひどかったからな……まぁ、そん時のお前に言っても絶対にやらなかっただろうし。俺も女装というか、それをしないといけなかったら忘れたいし。

「あ、じゃあ優夜の家にある、あの綺麗な着物の女の子って響だったんだ」

「いちいち言うな」

「だけど、可愛かったなぁ、大和撫子って言うのは、こういうモノなんだって思ったし」

 このやろう……ただ、悪気がないのも分かるから、なんか怒りにくいし……奏に見せたこと無いからか、スゲェ興味持ってるし……くそぅ、必死に誤魔化したのに。

「それで? その時アリサさんと何話したの?」

「……そん時は全部優夜に任せて、俺は黙ってた。だって着物重いし、精神的にいろいろ来てたしね」

「フフフ、わかった。なんか、ごめんね。疑っちゃって」

 うん、そうして。俺の心がガリガリ削れていってるから。
 さて、残りのサーチャーの設置箇所は……何だほぼ終わってんじゃん。体を影にしてから、海鳴の地図を表示する。なのはさん組と、フェイトさん組、俺らの三組でサーチャーの設置にあたっているからか、予定よりも早く終わりそうだ。しかも俺らの担当分既に終わってたし。

「ねぇ、これだったら少し余裕あるんじゃない?」

「あぁ、あるけど落ち着け」

 震離が隣で俺の手元のマップを見て、時間に余裕があることを喜ぶ。でもなぁ観光つっても、それほど目ぼしいもんなんて無いと思うんだけどな。確か遊園地のオールストン・シーとか有るけど、昔皆で行ったしなぁ。
 ん? なんか隣にいる震離の目がなんか輝いてきた。
 
 ―――その数分後。


――side震離――

「うん、美味しい」

「……昨日も食べて……今日も食べて……ちょっとカロリーが」

「……」

 うん、やっぱり美味しい。さすが管理局の観光マップ。スイーツ系なら「翠屋」ってお店がいいって書いてあったし。
 たくさん来るだけの事はある。テラスもあってなかなかお洒落なお店で私的には凄く好きなお店だ。うん、凄くいいんだけど。私の前で紅茶を飲んでる流を除いた二人がなんかテンション低いんだけど、どうしたんだろう?

「どうした奏?」

「……うん、美味しくてねー」

「だけどあんまり食べてないじゃん」

「……夜中に食べてカロリーが……今日あんまり動きそうにないし」

「……分かった」

 うん、分かった言いたいことは分かったけど、美味しい物は食べたほうがいいのにね。
 我慢は体のなんとやら。私は気にしないからいいか。最悪奏が食べなかったら私が食べればいいんだし。それで響も何でテンション低いんだろう?

「どうしたの?」

「……持ち帰りで外で食べない?」

「……何で? その場で、お店の中で食べるから美味しいんでしょう?」

「うん、分かる。分かるんだけどさ。俺ここあまり居たくない」

 ……はて、何でこんなにネガティブなんだろう? 何時もなら響もそれなり楽しむはずなのに。……えっと、お昼時で平日だからか、今はまだそれほど人は居ない。店内にいるのはメガネを掛けた女の人と、そのお姉さんみたいな人。そして、このお店のマスターっぽい男の人の計三人。外には何人かお客さんがいるけども。

「……なんか不安要素でもあるの?」

「……ひと通りみて、なにも感じないならいいよもう」

 なんか失礼なこと言ってコーヒーを飲みだした。まぁいいや。さてケーキは一つ残しておいて……。ちょっと立ち上がって、目立つようにしてからの。

「すいません、シュークリーム3つ下さーい」

「はい、これから作りますので、少々お待ち下さいね?」

「はいっ♪」

 わーい、焼き立てが食べれると思って思わずガッツポーズ。正直シュークリームの出来立って凄く美味しいよね!

「……震離~まだ頼むの~?」

「うん、美味しそうだし」

「……そう」

 なんか、奏が葛藤してるなー、まぁケーキ一つだけ食べてるのに対して、私ケーキ3つに、これからシュークリームを食べるから。さすがに葛藤もするか。
 さて、いい加減座ろうかな。

 って、思った瞬間。

「お母さ~ん。ただいま~」

「なのは~っ。お帰り~っ!」

「え゛っ!?」「え、なのはさん?」「何!?」「……?」

 ちなみに、発言順は私、奏、響、流の順。
 で突然のことで驚いて体制を崩して……手元に置いといたケーキのお皿の縁に手を突き、ケーキを宙を舞う。慌ててキャッチしようとしたら手元の紅茶を流側に向かってこぼして。で。

「……ぅぇ」

「あれ、そこに居るのは……って、何があったの?」

「い……いろいろすいませんでした」

 簡単な説明を……懺悔をさせて下さい。
 まず、私の席は窓側で流も向かい側の窓側、響と奏は通路側だったんだけど。今の一瞬で、私がケーキとお皿を吹き飛ばして、しかも紅茶を流側にこぼして。その上ケーキのお皿が床に落ちそうになった所を、響がキャッチして、割らなくてすんで……で、問題のケーキが。

「流……あの……本当にごめんね」

「……いえ」

 ケーキが流の頭にあたって、顔の方に零れて、流が飲んでた自分の紅茶をその時の反動で零して、更には、私がこぼした紅茶が流の足に思いっきりかかって……早い話が。

「……大惨事じゃねぇかよ」

「……本っ当にごめん」

「……いえ、問題ないです」

 あぁ……昨日優夜が買った流の黒い服がケーキのクリームその他もろもろでなんか、なんか、なんか、もう。本当にごめんなさい。
 もうやだ、私昨日からずっと地雷踏んでばっかりじゃん……さすがに心が砕けそう……

 そして。少し経った後。

「……震離、もう気にするなよ」

「……」

 本当昨日から私いいところ無しじゃん、ほぼ確実に流私のこと嫌いになったでしょう。同じ小隊なのに絶望的よ。もう絶対そうだよ……。

「すみません、なのはさん、士郎さん」

「ううん、気にしないで」

「あぁ、大丈夫だよ」

 ううぅううう、今ん所私机の上で突っ伏してる状態なんだけど、正直泣きそう。
 ちなみに響がそこに座ってて、奏はフェイトさんに迎えを頼んでて、スバルとティアナはなんか念話で話してる。そしてリインさんはなんか食べてるけど。ちなみに、流は桃子さんと美由希さんに着替えをさせるって連れてかれた。
 だけど……はぁ。

「もう消えて無くなりたい、分子結合崩壊しないかな……」

「……もう好きにしろよ……」

 うん、そうする。そういえば物の数分前に遡るけど。まぁ、片付けしながら各々挨拶して言ったんだ。それでメガネの方……もとい、美由希さんのお姉さんみたいな人がなのはさんのお母さんだとは思わなかった。普通に女子大生くらいだと思ったもん。

「……流が戻ってきたらもう一回謝ろう」

「……あぁ、そうしろそうしろ」

 うん、そうする。だけどこの最中で視線をなのはさん達に向けると、なのはさんと士郎さんがものすごく微妙な顔してるんだけど、どういう事なんだろう?
 あ、響もその事に気づいたみたいで、少し首を傾げて……なんか顔青くなったけど何?

「なのはさん、士郎さん、どうしましたか?」

「え、あぁ、ううん、ちょっと、ね? ちょっと、流が心配で」

「……は?」

「あぁ、あの二人は、かわいいものを見つけたら……その、な……」

 なんか二人の顔色がなんか悪いように見える。本当にどうしたんだろうとか考えてると、お店の奥から。

「おまたせ~」

「少し時間が掛かっちゃって」

 そう言いながら、美由希さんと桃子さんが出てくる。そして、それにつられてもう一人の……要するに流が出てきた時。正直に言おう。私のテンションゲージが限界を突破して。奏もスバルもティアナも凄く驚いた。
 ただ、それ以上に響となのはさんの顔色が悪くなったのは……見なかったことにしよう。

「あっ」

 全員の言葉が一致した瞬間だ。なんだって、奥から出てきたのは膝下くらいまでのダークブラウンのブーツ、黒いスパッツの上に赤と黒のチェックのレイヤードスカート。
 真っ白いブラウスに赤いネクタイをつけて、髪の毛も洗ったのか普段立てている状態ではなく、完全に髪が寝ていて、清楚っぽい子にみえる。まぁ、要するに。

「……可愛い」

 今度は高町さん家を除いた女性陣だけで揃った。
 もうここまで言ったら分かると思うけど、流が女の子の格好で出てきたんだ。着替える前が全部黒だったのに対して、今のは白も入ってるし、というか流自身顔を真っ赤にして俯きながらスカートを握って小さく震えてる。だから……その。

「震離、鼻血」

「え、はっ!?」

 なんか気がつかないうちに鼻血が出てた。もう本当に気づかなかったけど、ねぇ響、何でそんな憐れそうな瞳で流見てるの?なんか凄く……可哀想に見えるんだけど……というか血が、血が足りない。

「……お母さん?」

「なに、なのは?」

「……これ何?」

「うん、あぁ、流君に合う服がなかったからね、仕方なくね」

 そう言いながら笑ってるけど……凄く分かりやすい計画的犯行だ。本当にセンスがいい……本当に、いかん、流が涙目で上目遣いでこっちを見てて、止まりかけてた鼻血がまた吹き出した。
 あ、やばい、本当にやばい、若干意識が……いや、まだだ!

「おまたせなのは、今着いた……よ……」

 扉を開けて入ってきたのはフェイトさんなんだけど、お店の奥にいる流と目があったらしく。
しかも、涙目+上目遣い+赤面のコンボをフルで貰ったっぽく、そのまま扉を閉めた。
 それを見て本気で思う。アレは……アレは本当に危ない。まだ鼻血が止まらないもん。

「流……ゴメンね」

 そういうなのはさんも……いや、なんか眉間抑えてるけど。それはなのはさんのせいじゃないし、もう起きてしまった以上仕方ないんじゃないかなーと考えてみたり。
 よし、やっと鼻血が止まった、若干ふらつくけど、まだ逝ける。あれ、なんか字が違う気が。

「……えっと、そろそろ時間だから、皆行こっか?」

「はいっ!」

 普通に返事したんだけどさ。流はどうするんだろう? なんて考えてたら、真っ赤なままの流がなのはさんの所に行って。

「……自分は、どうしたら良いでしょうか……?」

 顔を伏せながら話してるけど、それでも顔が真っ赤なのがよくわかる。だって耳まで赤いもん。そして、落ち着け私、冷静になるんだ。

「あ、えっ……と」

 と視線を泳がして、本気で焦ってるなのはさん。くそう普段なら普通に可愛いと思うんだけど、今回最強クラスが現れたから……くっ!

「なのは?」

「えっ、なに、お姉ちゃん?」

「集合場所って言っても、あのコテージでしょ?」

「うん、そうだけど」

「なら、後でエイミィ達と一緒に行くから、服が乾くまで流君ここにおいててもいいよ?」

 美由紀さんがそう告げると、なのはさんもそうする気になったらしく。何より流もそうしてほしいらしく。無言で一致した。うん、念話もないけど雰囲気だけで伝わるんだね。

「じゃあ、流またあとでね?」

「……はぃ」

 小さく返事するけど、本当いろいろ限界来てるんだろうなぁ。だけど、本当に可愛くて……って、あれ? なんか響が居ないんだけど、どこに……?

「おーぃ、震離ーお前ここ残れ」

 扉を開けたと同時に、響がそんな事言う。っていうか、何でそんな事言うの!? 私に出血多量で死ねと!?

「……これから戻って、俺は対策の会議に参加して、奏はキャロに封印作業の最終チェックして、それで、なんだかんだでお前しか開いてねぇからだよ」

「……了解」

 なんだ暫定的に私しか居ないのか、それならば仕方ない。甘んじて受けようじゃないか!
 ん? なんか響がずっとこっち見てバチッと視線がぶつかると。

 ―――ミイラ取りがミイラになったとか洒落にならんからするなよ?

 ―――……了解。

 この一瞬のやりとりが終わった瞬間、直ぐに響が視線を外す。正直怖かった。あぁ、響も経験してるから辛いのが分かるんだね。フフフ響私がミイラ化する訳ないじゃない! もう耐性付いたよ!

「震離?」

「あ、はい、なんですかなのはさん?」

「……お母さんとお姉ちゃんが暴走したら……止めてね?」

 その一言を聞いて、私の視線が一度美由紀さんと桃子さんの元に行って直ぐになのはさんに視線を合わせて。

「……頑張ります」

「……うん、それじゃあ、また後で」

 そう言ってからなのはさんはリインさんとスバルとティアナを連れてお店の外に、そして最後まで残っていた奏は。

「……大変だと思うけど、頑張ってね?」

「……うん」

 頭を軽くなでられてから、フェイトさんの運転してきたワゴン系の車に皆乗り込んでく。
 それで、皆乗ってから、車は発進していくのを見送って。残ったこっちではというと。

「ねぇ、流君? これも着てくれない?」

 そう言いながら、どこからか取り出したのは真っ黒のフリフリのゴスロリ服と、真っ白いワンピース。

「お母さん!」

「どうしたの美由紀?」

 先ほどとは考えられないくらい険しくて、凛々しい顔をした美由紀さん、まさか味方が……。

「白黒チェック系の奴もいいと思うよ!」

「あぁ、やっぱり?」

 うん、ですよね。なんか目の前で、キャアキャアと本当に女子高生位のノリで話を進める二人だけど、あぁ、あぁ!

「メイド服もいいと思います!」

「そうね!」「そうだね!」

「……五分もたなかったか」

 小さく呟きながら士郎さんがお店の奥に退散していって、残された流は。こっそり、そのままの格好で外に逃げようとしてたけど。
 美由紀さんが音も無く一気に接近して、肩をつかみ、青ざめた顔で、流がこちらを向く。そして、桃子さんと美由紀さんの一言。

「逃さないよ流君?」

 後は予想通りで、本当にいいものを見せてもらった。写真のデータも貰えたし。
 これは、これは! 失った物(血)は多いけど! 私だけの秘蔵のお宝だ! 絶対に誰にもあげない。そう心に誓った瞬間で、流は多分二度とここにこないんだろうなと本気で思う。



 そして、後日この画像が桃子さん手により、100%ではないが、画像のデータをはやてさんに送って、ちょっとした事件が起こったのはまた別の話。


――sideなのは――

 ……不味いというか、なんというか。
 
 地上からやってきた流。昨日のアヤさんの連絡以外の……響達とは違う疑いを持つ人……なんだけど。
 
 あれ、不味くない?
 
 はやてちゃん、フェイトちゃんと今朝もう一度話し合って、今回の出張で変わった動きがないか見てみようってなった。
 だからこそ、私達のサーチャーに、別行動で空に展開してるヴィータちゃんとシグナムさんのサーチャーはロストロギアを見張るものでも有るけれど、それは響達もというのも有る。
 流石に地球で、コチラに対して変わった動きは無いとは思う。
 
 でもそれは。同郷の人だからという私達の手心かも知れない。
 
 はやてちゃんが……夢のためにと言っていた機動六課。私の希望も最大限に応えてくれた。
 
 けどね。無理してまで私やフェイトちゃんに、はやてちゃん達夜天の守護騎士を集めたということは、私達には言えない何かがあるんだと思う。
 それはきっと、私の考えすぎかも知れない。

 だからこそ、アヤさんは私達に響達という存在への警告を。違う枠から来た、接点の少ない地上からやってきた流に警戒をと決めた矢先の……アレ!!
 
 可愛かったよ。何もなかったら。
 表情変わるんだなって、何もなかったら!
 
 だけどなー……あれはなー……。
 
 あぁ駄目だ。頭痛くなってきた……。
 

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第6話 出張任務 後編



――side響――

 何も考えないって楽だなーと。

「ちょっとスバル! あんたさっきからお肉食べ過ぎっ!」

「え~だってぇ~……ってあぁぁぁ! ね、狙ってたお肉がぁぁぁ」

「ふっ、甘いでぇスバル。バーベキューの網の上は常に戦場や! 周囲を警戒し、尚かつ自分の領分をしっかり守る。それがバーベキューの基本中の基本や」

「了解ですっ! 八神部隊長!」

「ヴィータ。お前も少し食べすぎだぞ?……っ! 貴様っ! 私の焼いていた肉を全て取りおって!」

「ハッ、あめぇんだよシグナム。はやても言ってただろ?『バーベキューの網の上は常に戦場』だってな」

 カオスな現状ありきだけど……それでも無視するんだ俺。
 まぁ、それはさておき。現在行われてるのはバーベキュー。六課の隊長陣の友人さんからの差し入れを頂いて。網を二つに分けて食べてるんだけど。
 ものすごく食べるスバルと、それをコントロールしてるティアナに、肉を食べたいんだろうと思われるヴィータさんを中心とした肉取り合戦が、片方で行われてて、もう一つの網の方は、小食系のキャロになのはさんとフェイトさんという、安定してる中に居るエリオと、隊長の友人二人と奏がいる。

 え、俺? 俺はというと。

「はい、焼けましたんで、適当に食べてくださいねー」

 肉焼いて、野菜焼いて。合間見てウィンナーや、変わり種を焼いていって。肉奉行をしてる。
 理由は単純に隊長陣とそのご友人にさせるのは失礼だし、スバル達もなれない土地、初めての出張ということもあって、俺の方から肉を焼くって申し出た。
 あんまりこういうのは得意じゃないんだけどね。ぐるぐると思考が回り始めてたからちょうどよかったし……。
 奏にもって考えてたけれど、キャロに色々教えてる関係で忙しそうにしてたから頼まなかった。
 あ、焼きそばがある、途中で出そう。
 ちなみに俺の手元には焼けた肉とか野菜とか盛られた皿が3つ、ちなみに俺のも混じってる。そして残りの2つは、ここには居ない二人のためのものだ、食ってないとか言われたら洒落にならんしね。

「フリード、直接鉄板から食ったらやけどするから、ちゃんと待ってろよー」

 うん、フリード用の皿にも肉とか食べても問題のないものを? 食べさせてる、大丈夫かどうかは知らん、キャロが突っ込まないしね。
 あんまりこういうことは慣れないけど、皆が美味しそうに食べてくれるならそれはそれで良かったと思う。さ、もう少し頑張ろうかな。

――――――

「ごちそうさまでしたー!」

 やっと終わったか、うん疲れた。やっぱ皆で飯を食べるのは楽しいな、その度に俺食えてない気がするが。さて、俺の分が……無い?
 あれ、気がつきゃ皿がない。どこいったかなと周りを探していると。

「はい、響」

「え?」

 後ろから声を掛けられて、振り向いた俺の視線に写ったのは肉と野菜と焼きそばが!
 持っている主を見ると、そこにいたのは奏。

「お疲れ様、もしかしたらと思って用意してて良かったよ」

「あぁ、ありがとう!」

 奏から受け取って、とりあえず俺も飯を食う。うん、美味い! これで米があったら尚の事うまいんだけどなー。そういや俺が取ってた分かな? 奏がもってた辺り多分取られそうになってたんだな……怖いわ-……って。

「やべ、あいつらの分」

「ん、あいつらって……あぁ、流と震離ならもう合流してるよ」

「あらま、何時の間に?」

「響が焼きそば作り出した辺りかな?」

 視線を皆が居るところにやるとさっきまで居なかったくせに、普通に馴染んでる震離。それと、なんか悟りを開いた様子の流、そしてさっきもあった美由紀さんと、なんかどこかで見たことの有る人と、子どもが居る。

「そっか、それで皿が減ってたんだな」

「うん、合流して空いてたテーブルに、お皿が二つあったから多分と思ったけど……もしかして違った?」

「いや問題ないさ」

 奏の気遣いに感謝しつつ箸を進める。矢張り肉は美味いな、ていうか普通に良いところの肉だろこれ、脂のノリが良いもん。

「あ、響ー、さっき挨拶してなかったから、ちょっとこっちのみんなと自己紹介しようか」

「え、あ、はい!」

 とりあえず、肉と野菜とご飯を一気にかきこんで、胃に収める。一応口を拭いてからなのはさん達の元に行って、とりあえず挨拶していなかったら挨拶を。多分無礼講だろうし、階級とかはいいかな。

「緋凰響です、先程は顔を出さずに失礼しました」

「さっきも挨拶したと思うけど、アリサ・バニングスよ」

 はい、いろんな意味で知っています。ただ、意地でも知らないふりをするけどね!

「月村すずかだよ、よろしくね」

 月村さん。どっかで聞いたことが有るような無いような……こっちはわからんな。

「アルフだ、フェイトの使い魔改めハラオウン家の使い魔だ」

 これまた小さい、しかしフェイトさんの使い魔ならかなり強いんだろうなー。
 
「エイミイ・ハラオウン、フェイトのお兄さんのお嫁さんやってます、つまり義姉さんだね」

 ……あー通信補佐官。あのアースラの管制官かぁ……通りで見たこと有ると思った。

「で、さっきも紹介したけど、私が高町美由希、なのはのお姉さん」

 うん、こちらもさっき聞いたんだけど……聞いたんだけど、何でだ? いいやもう、聞こう。

「えーっと、美由紀さん、何でさっきにも増して、武装が増えてるんですか?」

 ピリっと、空気が張り詰めた。

 いや手首のバンドとか内ポケとか重そうだよ。なんだ、全員ボサっとして。さっきも見たけど、美由紀さんの手足とかすごい、とにかく無駄な肉が無い。
 手のひらにもタコがあるし、肩が張ってないから打撃じゃない、多分刃物使いだけど……他のものも使ってるはず、暗器系の物を。

 一瞬目が据わったけど、直ぐにパッと笑って。

「おー、よく判ったね、何でまた?」

「いえ、最初は重心ぶれないなーとか思って観察してたら、なんか士郎さんも美由紀さんも店員にしては無駄がないなと思って、更に観察していろいろ気づいたんです」

「へぇ、結構見るんだね」

「いえ、[[rb:密着戦 > ゼロレンジ]]で戦うことも有るんで、重心とか、手癖とか無いかなって観察するんですよ」

 結構重要なことだよね、観察って、相手が何が得意とかって体に出るし。
 俺は刀術重視だからそこまでだけど、六課だとスバルとかいろんな意味で体が詰まってるし。で、何で皆目が点になってんだよ? そして、お前何いってんだよって顔してんだよ?

「そっか。家が実戦剣術やっててね、それで普段から色々と」

「へぇ、それじゃあなのはさんも?」

「にゃはは、私は運動が苦手だから」

 ……嘘だろ。普通そんな人が三次元運動してて教導官なんてやらないで、「エース・オブ・エース」なんて呼ばれないと思う。
 
 それで、その後適当に話に入った訳なんだけど、とりあえず言おう、俺魔力無しの戦闘で美由紀さん達と戦ったら、ほぼ勝ち目ないね。そして、武器指摘した瞬間の冷たい目が忘れられない。だからか、こんな人が普通にいるからヤバイ気がしてたのか。そして、お兄さんとお父さんはもっと強いらしい。なんとなく察してたけど、凄いな本当に。もっと精進しないとな。

 それからは色々昔話に花を咲かせたり、なのはさん達の昔話を聞いたりしたりで色々盛り上がった。スバル達四人とも色々話したかったけど、それはまぁ後々でも出来る。今は珍しい事を聞いておこう。

 そして、後から合流した流達と俺の食事が終わった頃、この後の業務は、設置したサーチャーの監視なんだが、皆でやるにしては効率が悪すぎる。しかも、衛星リンクしている関係もあって人を配置しておくのも実質いらない。ならば、今のうちに……なんて考えていると。

「次はみんなで風呂にはいるでぇ!!」

 部隊長ー、はっちゃけ過ぎでしょうに。というかいいのか? 同窓会やっている場で思うことじゃないけど、いいのかなー?
 というか風呂入るって、このコテージに風呂はないし、湖で水浴びする季節でもない。いや、頑張れば入れるよ、一応、苦行と称して、滝に打たれたこともあるけど。

「そうすると……やっぱり……あそこですかね?」

「あそこでしょう?」

 なんかはやてさんとなのはさん達がなんか顔を見合わせて笑ってんだけど。あそこって言われても俺らはわからない。

「さて。機動六課一同。着替えを準備して、銭湯準備っ!これより、市内のスーパー銭湯に向かうですっ!」

「スーパー……」

「セントウ……?」

 正直思った事を言おう、もうちょいなんかいい名前なかったの? あるだろうなんか、「海鳴の湯」とかさぁ!? あ、駄目だ発想が腐ってやがる。

「……響ー?」

「え、あ、今行く」

 なんか、皆車の側に移動してるし。なんか置いてかれた感が凄くてなんか寂しい。で、一つここで問題が発生してたんだ。
 俺らの目的地は「スーパー銭湯」って場所で、そこまでは、当然車で移動する。
 そして、今ある車は、フェイトさんと、アリサさん、エイミィさんの車の三台だけで。それで、問題が!

「皆乗れなくね?」

「うん、今、どうするって話しをしてる」

 うんその通りで、今いる人数と、車の数が合わないんだよな。だからって歩いて行くには、遠いし、この時間で飛んだら何あれって言われまくるだろうし。さて、どうするかね?
 ちょうどいいし、一人余るってんなら俺ここに居てもいいけどなー。

「じゃあ、流が私の膝に座ればいいよ」

「……は?」

 ……[[rb: 震離> バカ]]が逝った。
 普通なら絶対にってか、普通に流は断ったんだけど、はやてさん、悪ノリだけは天下一品らしく。普通に拒んだ流に、隊長命令という超荒業を発動。そして結果は。

「~~~~~~~!!!!」

「♪」

 言うまでもなく流が押し負けて。一応申し訳程度に奏を置いといたんだけど。
 乗っていた奏曰く、車に乗って、震離の膝に座ってた流は、ずっと真っ赤になって俯いてて、その様子を美由紀さんが写真を撮ってたらしい。
 到着して、扉を開けたと同時に流はさっさと震離から離れた。

「なぁなぁ、震離? 流どうやった?」

「最高です、抱き心地も最高ですし、そこまで重くもなかったし」

 で、高校生のノリで話してるんだけど。多分ってか確実に流は怒ってんだろうなと思って視線をやると、案の定、顔が赤くて、目が赤いけど、完全に不機嫌ってことが分かる。
 で、再び。

「あ、流~?」

 って、先程のことを忘れたんだろうって思うほど明るい声で震離が流に声を掛けるけども。

「……なんでしょうか? 叶望一士?」

「……ぇっ?」

 なんか、流の中で震離のランクが下がったらしく。苗字と階級で呼ばれてた。
 ここに来る前まではさん付けだったのに。で、少し立ち直ったらしく、よろよろとした脚付きでこっちに近づいてきて。

「……どうしたら良いの私」

「自業自得、因果応報、その他もろもろなんとやら、分かっててやったんだろ? 今更どうこう出来ねぇよ」

「響がひどいよ助けて奏……」

「……ごめん無理」

 まさに自業自得。お前好かれたいなら好かれたいでいろいろ方法が合ったろうに。何で自分から嫌われる方向に持って行くんだよ?
 
 しかし……震離が一個人にここまで入れ込むのも珍しいなぁとは思う。基本的にあまり踏み込まないはずなのに、それを演じるだけなのに……。
 まぁいいか。気に入ってるのなら無理に止める必要もないし。
 
 はやてさんに案内されるがままに付いて行くと。

「は~い。いらっしゃいませ~。海鳴スパラクーアへようこ……団体様ですかぁ~?」

「えっとぉ……大人15人、子供5人です」

 シャマルさんの発言になんか引っかかったらしく、スバルが小さく手を上げてから口を開く。

「えと、エリオとキャロと……」

「わたしとアルフと流ですよっ!」

 と、リインさんが答えてるけども、それでも納得いかないらしく、スバルが続ける。正直、死亡フラグだよね?

「あのぉ、ヴィータ副隊長は~……?」

「あたしは大人だ」

 うん、子供五人としてカウントされてなかったから大体予想はついてた。……多分ヴィータさんに睨まれてたから、今後大変なんだろうなぁ。それより、この重苦しい空気どうしようか?

「は、は~いっ。ではこちらへどうぞ~」

 で、店員さんの案内されて、一行が進んだ場所は普通にロビーで、そこから男湯、女湯に分かれてる。少し遅れて会計を済ませたはやてさんが合流。
 だけど、正直一つだけ、俺の中で不安要素が一つ。
 ヘアバンド忘れた……。だって、出張とは言えどうせシャワーとか思ってたし。ちくしょう、マナー的にもアウトなのに、忘れるとか俺何やってんだ……。

「響ー」

「ん、何奏……って、ぉぅ?」

 なんか奏に物を投げられて、それが顔に被さる。なんだろうと思って見てみると、それは風呂用の黒いヘアバンドで。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 皆の視線がお風呂の地図に集中してる時だったから誰にも見られてないから、突っ込まれないし。正直スゲェ有難い。で、俺らがそんなコトして直ぐ側で。

「広いお風呂だって。楽しみだね? エリオくんっ。」

「あ、うん。そうだね。スバルさん達と、一緒に楽しんできて」

「……えっ? エリオくんは?」

「えっ!? ぼ、僕は、その、一応、男の子だし……」

「うん……でも、ほらっ。あれ見て?」

 隣でそんな会話してるもんだから、思わずキャロの指差す方を見る。そして納得。
ん? 何で納得かって? それはこう書いてあったんだ。

「女湯への男児入浴は、11歳以下のお子様のみでお願いします」

 エリオは10歳。見事に問題なくて、法律的にもセーフだ。
 だけど、キャロよ。英語で書かれてるとは言え、そんな所に気づくとか恐るべし。だけど、ただエリオと一緒に入りたいだけだろうから、エリオも断りにくいらしく、しどろもどろになってる。
 ……助け舟は……まぁ、キャロ相手だし、適当にやばくなったら判断して出すか。

「せっかくだし、一緒に入ろうよ?」

「フェイトさんっ!?」

 わーお。なんという追撃。まさかのパターンで思わず吹き出しそうになったじゃねぇか。ほぼ退路は立たれたけど、どうするエリオ? ミスったら女湯に直行だ。

「い、いいいや、ああああのですね。それはやっぱり、スバルさんとか隊長達とか、アリサさん達もいますしっ!」

「別にアタシはかまわないけど?」

「って言うか、前から頭洗ってあげようか~とか言ってるじゃない?」

 スターズの二人はなんてことない様子。ぶっちゃけティアナ辺りが嫌がるんだろうなーとか思ってたけど、無いんだなーと。

「あたしらも良いわよね?」

「うんっ」

「いいんじゃない? 仲良く入れば」

 おっと、隊長のご友人も問題ない様子。

「そうだよ。エリオと一緒にお風呂は、久しぶりだし……入りたいなぁ」

 うわぁ、極めつけはフェイトさんの追撃。ここまで見事に孤立無援になるとはエリオには悪いけど、正直面白い。他の女性陣に反対する気なんて無いみたいだし。奏も震離も問題ないみたいだし。
 さぁ、頑張れエリオ! 俺と流は先に行くから! そう考えながら流に視線をやって、先に男湯の方に向かう。
 ……しっかし、フェイトさんマジかぁ。男性が行ってほしいセリフを普通に言う辺り狙ってんのか天然なのかわからないなぁ。

「あ、あのっ。お気持ちは、非常に……なんですが……ほ、ほらっ! そうなると響さんが1人になってしまいますしっ!」

 ……えー、そこで俺に振るの? しかも1人って事はお前流の存在完全に忘れてるし。
 あんまりにも突然の振りに反応できなかったし、なんか女性陣の視線が俺に来てるし。しかも流はいつの間にやら男湯に入ってったし。

 えー、もう。普通に髪縛ってる紐に手ぇ掛けて、これから着替えて、風呂入りますって状態一歩手前なんだけど。

「……なーエリオー?」

「はい、どうしましたか響さん?」

 うわぁ、なんか期待に満ち溢れた目で俺を見て、女性陣……ってかフェイトさんとキャロの視線はなんか不安っぽいし。えー、俺に任されんの!? いいや自分で何とかするだろう。

「……まぁ、頑張れ」

「えぇぇえ!?」

 そう言い残してから、男湯ののれんを分けて入る。そしてすぐに髪を溶いて風呂入る用意。

「響さーん!? 戻って下さいー!?」

 流石にそろそろかわいそうになってきたし、助けるか。
 
「エリオもこう言っていることですし、せっかくですから、俺もエリオとお話をしたいですからココは男女別に入りましょう。
 それに中には傷心気味の人も居るし、一人でも多いほうが良いんですよ」
 
 パッと表情が明るくなるエリオに対して、フェイトさんとキャロは不満そうに。そして、一人申し訳なさそうに両手を合わせてるなのはさんとバッチリ視線が合う。
 やっぱりなのはさんも、流の事気にしてたことにちょっと安心。

「エリオ、行くぞ」

「え、あ、う、うん」

 エリオを引き連れつつ、もう一度男湯ののれんを潜る。

「あ、あったぁ~」

 不意に、そんな声が聞こえてがコチラには関係ないだろうとスルーして。中にはいってまず最初に思ったことは。

「……人居ねぇ」

「え、響さんどうしたんですか?」

「ん、何でもないさ、それよかロッカーの使い方は分かるか?」

「えと……100円を入れて、鍵が取れるから……これでいいの?」

「そそ。後は荷物を入れておくこと、取られることは無いだろうし、大丈夫だろ。さて、行くか……って、どうしたエリオ、ボケッとして?」

「いえ、少し考え事をしてたんです」

 ふぅん、表情から察するに、ちょっと何かが苦手なことか? まぁ、いいか。ちょっとちょっかい出せば、なんとかなるな。

「……考え事って、女湯の事か?」

「え、な、違います!」

 あっはっはっは、真っ赤になって否定してるけど。それは裏をかえせば行きたかったって捉えられるんだけど。今回は流すか。さて、流は既に行ってるし。俺たちも行こうか。しっかし、ある意味久しぶりの風呂だ。最近はずっとシャワーだったし。さっさと服をたたんで。それから。

「ありがとうございますっ」

 お風呂の出入り口から、明るい声が聞こえた。聞こえた瞬間ちょっとだけ苦笑。
 そういうことだったかって。

「……えっ?」

 エリオも気づいたらしく、振り返って。
 
「あはっ。エリオくんっ」

 長めのタオルを纏ったキャロがそこにいた。

「キャ、キャキャキャキャキャロ。キャロッ!」

「?」
 
「ふ、ふふっ服、服っ!」

「うん。女性用更衣室の方で脱いできたよ? エヘッ。だからほら。タオルを……」

「見せなくて良いから~~っっっっっっ!!!!」

「……あ……えへへ。ごめん」

 うん、何の恥じらいもないかもしれないキャロと、耳まで真っ赤にしてるエリオ。すげぇな、天然かなとは思ってたけど、この場合は単純に一緒に入りたかっただけかな?

「あのっ! っていうかっ! こっち男性用っ!」

「女の子も11歳以下は男性用の方に入って良いんだって。注意書きの方にも書いてあったよ?」

「あ、いやっ、その……」

 うん、キャロの言うとおりだ。
 もうここまで来てんだ、別に追い返すわけにもいかないし。一緒に入るか。
 しかし懐かしいなぁ。俺の知り合いの今女子湯に居る金髪ショートの女子は11まで人の家の風呂に「俺が」居るときに突撃かまして、髪洗わせてーだの、背中洗ってーだの、言って来てるから別に耐性なんぞとうの昔についてるんだよなぁ。……思い出すと悲しくなってきた。

「仕方ない、ほれ二人とも行くぞー」

「はいっ」

「ええ!? 響さん!?」

「エリオー、もうここまでキャロは来たんだから、もう腹くくって一緒に行くぞー」

 ニコニコのキャロとは対象的に、顔を真っ赤にして頭を抱えるエリオはしばらく唸ってから。

「ぅぅ、わかった」

 やっとこさ観念したらしく。ガクリと肩を落としてる。なんだろうかこのコンビは、なんか片方は自然ガールでもう片方は都会ボーイじゃーん。
 まぁ、そのうち慣れるだろう。つーかほぼ服脱いでるからさっさと風呂行きたいしね。寒いし。さて、二人を連れて、いざ風呂場へ。

「うわぁ~……すごい、きれいですね、ここのお風呂」

「う、うん……そうだね……」

 へぇ、健康ランドみたいなもんだと軽く舐めてたが予想以上に良い設備じゃん。ただ、天井を見ると、多分女湯とつながってるだろうな。まぁ、完全に独立してるわけ無いしよくある話だ。

「はいっ!」

「はい、どうしたキャロ?」

 元気よく手を上げるキャロに、発言の許可を出す。

「皆で背中流しっこしたりしましょうよ」

「うん、元気よく片手あげるのは構わんが。タオルがずれるから気をつけなさい」

「はいっ」

 うん、テンション高いし、ご機嫌だねぇ。まぁこう言うことあんまりやったこと無さそうだし。別にいいか。付き合うのも悪くはない。

「あぁ、いいぞ。流しっこしようか」

「え、響さん!?」

「まぁ、諦めろー、こういう機会はほぼ無いんだ、楽しんだもん勝ちだよ。あ」

 これから二人を座らせて体を洗わせようとした時にふと気づく。あいつは……あ、半身浴の所にいた。へぇ、その隣は普通の風呂か。ていうか流、お前翆屋にいた時以上に女の子っぽいな。まぁそれはいいや。

「流ーお前はどうするー?」

「……自分はもう洗いましたので、遠慮しておきます」

 うん、だろうな。浴槽の前の桶にタオルとか、石けんとか入ってるからもう終わってるんだろうなと思ったよ。と言うか翠屋で先に入ってたか。

「あいよ、わかった、さて、三人でやるとして順番はエリオ、俺、キャロの順な? キャロは湯船以外じゃタオルとっちゃいかんぞ?」

「はいっ」

「うぅ、分かりました……」

 とりあえずキャロに釘は打っておく。だってねぇ、別に俺はロリの人じゃないから問題ないけど、そうしないとエリオが倒れる。
 ……今の流を見たらエリオワンチャン倒れるんじゃ……や、考え過ぎか。

 いいやもう。久しぶりの風呂だもんよ、ゆっくり浸かりてぇよ。
 
「エリオ、痛かったら言えよ? そしてキャロ、力一杯やっていいから」

「うん。うんしょ、うんしょ」

 うんさすがに凄く上手いとかそう言うのは全く無いけど、声でわかる。凄く機嫌がいいなって。
 そのせいか、何時もみたいに丁寧語が混じってない。

「響さんの髪の毛って凄く綺麗で、羨ましいなって」

「ん、あぁ、これは母さん譲りなんだよ。それよりもキャロ?」

「はいっ?」

「要所要所で敬語は必要だけど、今みたいにキャロも普通にしてくれたら俺は嬉しい。もちろんこれはエリオも同じだ。あまり気をはらなくても良いところじゃもう少し気楽に接してくれ。何なら好きに呼んでくれても構わんし」

「……えと、じゃあ……お兄ちゃん?」

 ん、一気にランク上がったなぁー。普通に名前の方がいいと思うんだが……まぁいいか。
 
「ん、それでいいよ、エリオは痒いところはあるか?」

「ううん、平気。えと、その、僕も呼んでいい?」

「ん、いいよ」

 うん、二人の顔は俺の位置だと見えないけれど、二人揃って凄く機嫌が良くなったのは凄く分かる。
 キャロなんて、鼻歌交じりだし。だけど、アレだ。エリオの背中を洗ってて、キャロが背中を洗ってくれてよく分かる。
 ……俺たちもそうだったはずだけど、こうして俺より小さい子が前に出てることが正直怖い。それはスバルやティアナにだって言えることだ。実力があるからここに居るのもわかるけど……難しいところだな。

「……お兄ちゃん? どうしたの?」

「ん、何でもない。さて、キャロとエリオ交代。エリオ頼むよ?」

「分かった」「うんっ」

 今度は入れ替わって、キャロの背中を洗う。うん、やっぱりキャロもまだ小さいし、男女の差がそれほど出てない。さすがに女性特有の柔らかさがあるけど。それでも小さいな。
 よっしゃ。こんだけ洗えばもういいだろう!

「さて、体も洗ったし、風呂に行くぞー」

 持参したヘアバンドを頭に装備して、髪が湯船に浸からぬように注意してから、半身浴の隣の普通の風呂に入る。うん、いい湯だね!
 うん、キャロも気持いいみたいで、風呂を楽しんでるけど、エリオよいい加減慣れろよ。仕方ない。一つネタでも教えるか。

「エリオ、キャロ? 見てみ、タオルの真ん中を持ち上げながら外縁を沈めると空気の山ができるんだ。
 このタオルに包まれた空気の固まりを水中で握りつぶすのがおもしろいんだ、やってみ?」

「あ、本当。タオルが丸くなってる、なんか、可愛いかも?」

「ハハッ、それで後両手をこういうふうに組んで、水を手の中に入れればっ!」

「わっ、結構飛ぶね!」

 風呂に客が居ないから、二人に軽い遊びを教えてる。広い風呂だとどこまで飛ぶかやってみたりして楽しいよね。一人だとゆっくり浸かる方を選ぶけども。
 さて、視線を辺りに回してからの……うん、あった。なんか書いてあるな……何々。『子供用露天風呂』12歳以上の男子立ち入り禁止。よし、オッケィ!

「なぁ、エリオ、キャロ? あそこに『子供用露天風呂』がある。一緒に入ってきたらどうだ?」

「えぇえええ!?」

「あ、ホントだ。お兄ちゃんも行くの?」
 
「……無理、この世界の法律が許してくれないからな。それにいろいろ風呂もあるんだ今のうちに体験しとけよ、露天はいいぞ? 風が気持ちいいしな」

「うん、じゃあ行ってきます! エリオ君行こっ!」

「う、うん……」

 良し二人とも露天風呂に行ったな。さてと、少しの間ゆっくり浸かるかね。後はあの二人の問題だしね。これで更に仲良くなればいい事だ。さて、と。少し離れた所の違う湯船に浸かってる流と二人きりになった所で。

「なぁ、流?」

「はい、なんでしょうか?」

「ちょっと、話しないか?」

「……えぇ、構いませんよ」

よしよし、やっぱ風呂だと結構話してくれるな。

「そうだな~、そうだ、得意な魔法は?」

「……砲撃系、斬撃系のこの二つですね」

「へぇ、すごいな、じゃあさ、スリーサイズは?」

「……測ったことありません」

「はは、そうか悪い。じゃあ、好きな食べ物は?」

「……基本的には何でも食べます」

「好きな色は?」

「……白と黒の二つですね」

「そうか~、えーと、あとさ、あとさ」

「……」

「――どこから来た?」

 さて、どう出るかな? 一応背中越しに声をかけてるから、顔の表情はお互いに見えない。そういうふうに話しかけたのは、コチラも事情有りきだから。

「……はぁ、はぁ、どこから、と言いますと?」

 ん? なんか息が荒いな、さっきも少し肩で息してる感じだったけど、何だ?

「流はどこから来たって、文字通りの意味だよ」

「……ん、ふぅ、そこの入り口からですよ」

 んー、何だなんか微妙に話が噛み合ってないな、わざと話題を変えてる……のか?

「単純な話、普通の地上の部隊が、総合AAAを取る優秀な人材を排出するわけがないっ話だ。で、そんな流は本当はどの部隊から来たのかってお話」

「……」

 うん、とりあえず聞きたいことを聞いておく。まぁ、ちょっと流が「あいつ」からの差し金かどうか確かめるだけなんだけど。だけど、これを聞くってことは。普通に俺が流を信頼していないって証拠だよなぁ。

「……緋凰さん?」

「んー?」

 おぉ、釣れたかな? だけど否定するかな、どっちだ?

「……失礼……ですが、逆に……聞きますね?」

「おぅ」

 なんか途切れ途切れで話ししてるけども流は大丈夫なのか? だけども、ここまで来て引き返すのも何だかなぁ……。

「……どうして、貴方は……上に……ボコボコボコ……」

 ん、急に途切れて、ボコボコ……って?

「流ーーーー!?」

 慌てて振り返ると、そこには湯の中に顔から倒れてる流の姿が。慌てて流をひっくり返して、抱き上げる。って、よく見たら全身真っ赤で、お湯に浸かり過ぎてたせいで体も熱くなってる……早い話が。

「……ミスったぁああああ、流も一応ミッドの人なんだったぁぁあああ……」

 正直、本気でミスった。普通に日俺らの感覚だった。流も一応始めての風呂だったかもしれないんだ……しくじった!

「流? おい、聞こえるか?」

「んっ……ん」

 OK、落ち着け俺。目の間で抱き上げてるのは男だ。よし落ち着け。

「お湯は飲んでないが……正直やばいな、直ぐに熱を冷まさないと」

 直ぐに流を湯船から脱衣所まで移動させる。ちなみにおんぶ等だと色々アウトだから、流を横に抱っこして移動させる。とりあえず、移動させて、流にひと通り服を着せるけど……脱衣所なんかよりロビーで休ませたほうが一番いいんだけどなぁ、正直、今の状態だとアウトすぎるが体を拭けば何とかなった。
 問題は俺で、髪を少し拭いた程度じゃ全然乾かない。
 でも……どうしよう、流をそこにおいておくのは凄く気が引けるし、かと言って。俺がそこにいて床を水浸しにさせるのも悪い。

 んー、どうしたら……あ。そうだ。

――――

「というわけで、頼んだぞ震離! 俺は髪拭いてくるから」

「あいよ、りょうかーい」

 とりあえずロビーの長椅子に流を横にして、助っ人を女湯から念話で呼び出した。奏だと髪を拭くのに時間がかかるからキツイだろうし、エリオ達に頼もうと思ったけど今頃多分露天を満喫してる頃だろうし。野暮な真似はしない。
 そして、いろいろ考えて震離が多分うってつけだろ考えた。

 理由はひとつ。少しでも信頼回復のために。幾ら何でも同じ部隊で仲が悪かったらねぇ、駄目だろう。一応同じ日に異動になった者同士だし。

 とにかく、まぁ、あいつに任せるかね。

 ……後で牛乳とか買って持って行こう。うん、そうしよう。


――side震離――

 ……突然の連絡に驚いたけど、結果的に来てよかった。流の寝顔、可愛いな……本当に。
 顔は若干赤いせいか、なんか色っぽいし。これで男の娘だから……あ、字間違えた。まぁ、それでも。

「本当に、昼間は迷惑掛けたなぁ」

 我ながら本当にそう思う。普通に考えると、女装をさせて喜ぶ男の子なんて普通いない、それは流も同じで、全力で嫌がってたし。

 だけど、途中から、言葉に変化が訪れた。最初は淡々と拒否の言葉を言ってたけど、少しずつ歳相応の、言葉を使っての否定。そして気づく。

 私の膝の上で熱を冷ましてるこの子の事が少しだけ分かった。
 最初に流の一人称が「私」だと言う事に。多分これが流の……ううん、この子の素の部分なんだろうな。使い慣れてない感じなんて微塵も感じないくらいに、自然に私って言ってたからね。

 だけど、この後が問題なんだ。多分、美由紀さんも、桃子さんも……それこそ響も気づいてないと思う。流の異常性に。

 事の発端は少し前の翆屋のあの時。

 私が流に白いゴスロリ風の服を着せたときに、私が冗談で言ったんだ。

「これなら、何時運命の人が来ても誓のキスができるね」と。

 正直に言う。普通この言葉を言った瞬間、よほど慣れてる人とか以外の反応は真っ赤になってそんな人居ない。とか、照れる程度で、逆に慣れてる人はこちらをからかいに来る。もしくは全力で知らないふりをするだろう、それでも少しの反応でだいたい分かる。

 だけど、流の反応はその何方でもない。

「……誓いの……キス?」

 私は顔には出さなかったけど、正直に言おう。本当に驚いた。私の考えが……受け取り方が間違いじゃなければ、たしかにあの子の中ではこう思ったんだろう。

「それはなんですか」って?

 私はこの返しにはっきりとした違和感を覚える。
 流の年は14。別に珍しい年でもない、現にスバルの一つ下だしね。だけど、それでもおかしい。普通なら14という年は、ある程度の事を知っているはずだ。勿論さっきの「誓いのキス」の意味も。それがどんな箱入り息子であってもだ。

 だけど、私の考えてることは、おそらく私一人の空想だろう。だからこそ考えられる。「風鈴流」の異常性を。

「ん、んん?」

「あれ、起きた?」

「あ、あれ、わた……自分は……あ、失礼しました叶望さん」

「ほら、まだのぼせてるんだから冷やさないとだめだよー」

「わっ」

 そう言って起き上がった流を私の膝に寝かせて、うちわで仰ぐ。私の膝の上で横になる流は、先ほどとは違った意味で顔が赤くなる。

 だけど、それでも私の中の疑問は尽きないし、流に対する別の考えも止まる事は無い。けれど、それは絶対に疑いじゃない、ただ、ただ、私はこの子と―――

「ほい」

「ひゃ?!」

 急に声が聞こえたかと思ったら、首筋に冷たいものがピトってくっついた。思わず飛び上がろうとするけど、膝に流を寝かせているから反応できず、変な声だけが漏れた。
 やった犯人がわかるけど、直ぐにいつもの私という仮面を被って。

「何すんの響!?」

「いや、終わったから差し入れ替わりに牛乳買ってきたんだが……要らない?」

「あ、ありがとー」

 わーい、牛乳だ。正直これを飲んだところで胸が大きくなるわけじゃないけど、なんか悔しくて。今女湯に居る人達が恨めしくて……何で、あんな大きくなるの!? って聞けば、牛乳かな? って、毎日飲んでるよ、毎日飲んでも胸なんて、胸なんて……。

「え、あの叶望さん……?」

「うぅ、なんでもないよ」

 とにかく貰った牛乳を一気に飲みほして、一言!

「もう一本!」

「……買ってくるけど、腹壊すなよ?」

言われなくても分かってるし!

――――

――side奏――


「もうやだこのカオス」

「……頑張りましょう」

 気まずそうに言う流に対して同意しか出来ない。
 ちなみに私と流は今海鳴の河川敷グラウンド上空で待機して、下ではティアナ達がロストロギアの捕獲に当たってて、そのロストロギアが逃げないように上空から適当な攻撃をしてるんだけど。だけど、だけどね!?

「何で4人中2人しか動けないの!?」

「……さぁ、それは自分もわかりません」

 隣で流が牽制しながら私の問に答えてくれる。ごめんね忙しいのに。ちなみにここに居ない、震離はというと。

「……待って、大丈夫行けるから」

「貧血で立ちくらみ起こしてる人が言っても説得力はないから後ろで私達と援護するの、分かった?」

「……大丈夫、ちょっと血が足りないだけで、問題な」「分かった!!?」

 うん、これだけ釘を刺せばさすがに震離も黙ってくれる。というかこの子、昼間のアレのせいで現在進行形で貧血起こしてついさっき倒れそうになってたんだよね。
 で、まだ震離はいいよ、スターズだし、一応弾幕張ってるし。でもね?

「もうヤダこの小隊」

「……」「……まぁ、アレは仕方ないよ、何で攻撃されてるのか分からないけど」

 うん、私もそう思う。そして、その問題の響はというと。

「がっ!? ちょ!? まっ!?」

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

 うん、これが一番のカオスなんだよね。金色の渦の中から腕が一本生えてる。状況は簡単、フェイトさんがなんか響に攻撃してるんだ。

 ことの発端はついさっきで。

 ――数分前。

 銭湯から出たと同時に設置していたサーチャーが反応して、皆でそこに急行。そして、河川敷グラウンドに居たんだけど。

「な、なにこれっ!? ぷにょぷにょスライム?」

「ちょっと、かわいい……」

「うん、結構かわいいね!」

 スバルはともかくとしてもさ、何で震離とキャロはアレを可愛いと言えるんだろう?
 なんか普通に気持ち悪いなー程度にしか見えないんだけどな。

「これ、全部本体ですか?」

「ん、あぁ、それはない、なんか危険を察知するとダミーを増やすんだとさ、けど本体は一つ」

「うん、そして本体を封印すると、他のダミーも纏めて消えるんだ」

 実際その通りでこの類のロストロギアは高価で貴重なものだから比較的楽なものなんだ。
 たまに、凄い変なロストロギアとかあるけどね。

「放っておけば、増殖したダミーが町中に広がっちまう。空戦チームは広がったダミーを迎撃。そっちはお前らがやって見ろ」

「素早く考えて、素早く動く!練習通りでいけるはずだよっ!」

「はいッ!」

 ヴィータさんとなのはさんの指示のお蔭で即座に分担して行動開始。
 でも、空戦チームって私達もカウントされてるから今回は私達も援護に回るんだ。正直この部隊での初任務だからちょっと頑張ってみようかと思ってたんだけどな。響が言ってた通り今回はスバル達の為のお仕事になったみたいだね。
 さて。私たちは四人で集まって指示を仰ぐかな。

「どうする響?」

「あぁ、普通にティアナ達の援護に回る……んだけど」

 ん、なんか響の様子がなんかおかしいよ?どうしたんだろう?
 
「響、どうしたの?」

「んー、今回は楽な任務だし、とりあえず言おう。俺今日戦闘ほぼ出来ない」

「あれ?」「え、貧血起こして立ちくらみ起こした私よりも元気じゃん?」

 震離の理由はともかくとして、それは今どうでもいいよ。

「まぁ、聞けよ。昨日の模擬戦以降さ、刀整備してなかったせいで、正直今こんな状態」

 セットアップしてるから、響のその手に刀が鞘に入った状態で手に現れる。
 そして、その刀を二本抜いてみると。一応の形は残っている者の、罅が入ってとても使える気がしない。その気になれば多分大丈夫なんだろうけど、何か考えがあるんでしょ。

「昨日からこれだから戦闘は出来なくはないけど、正直キツイね」

「あー、うん、分かった、一応私達三人でやるから……震離いける?」

「ふっ、任せて奏! これから私がぁあああ……ちょっとタイム」

 なんか震離も杖に魔力刃を展開して、振り上げたと思ったら、なんか膝ついたよ?

「ちょっと、貧血が」

「……何で?」

「……昼間のアレで、血を出しすぎて」

 ……どんだけ出したのさ? いろいろ聞きたかったけど止めとく。だって隣で普通に流が顔赤くしてたし。
 え、ちょっと待って。今響がほぼ戦闘できないで、震離の調子が悪いって事は、私と流しかまともに戦えないじゃない。

『そんな、攻撃手段が封じられるなんて……』

『さすがはロストロギア。見た目はかわいいですが、侮れません……!』

 おや、下じゃちょっと苦戦してるっぽいな。援護は……って響がなんか言おうとしてるし、任せようかな。

「エリオ、キャロ、よく観察して。その辺りにオリジナルは居ない。それでだ、オリジナルの現在位置は……キャロの南西50のポイント付近に居るぞ!」

『ありがとう、お兄ちゃん』

 へぇ、響もうあの二人に懐かれたんだ。響の顔も何となく嬉しそ……って!?
 なんか、エリオとキャロの二人に「お兄ちゃん」って言われた瞬間、目の前に閃光が走って――
 
「……はぁっ!?」

 気づいた時には、響の体が横にくの字に折れ曲がって、そのまま吹っ飛んでいった。
 ……え、何!? 私も驚いてるけど、流も驚いてるみたいで、キョトンとしてて、震離は開いた口がふさがらず唖然としている。

「ぐぉぉおお……何!?」

 響が体勢を立てなおして、自分を吹き飛ばした人物を見る。
 そこにいたのは自分のデバイスである「バルディッシュ」を構えて起き上がるのを待っていた、フェイトさんが居るんだけど、後ろ姿からでも分かる、その姿が死神が今にも魂を刈り取ろうとしてる様に見えるんだけど……何したの響?

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

「え、何!? 何が!? ちょ、フェイトさぁあああん!?」

 なんか響が叫んだと同時に、なんか惨劇が始まった。

 金色の体積の固まりのようなものが響がいたであろう場所に叩きつけられていく。既に最初の一撃で、もう響は金色の気体に包まれてみることができないでいた。正直もう響の姿なんて見えないし、何が起こってるかわからない。だけど。

「フェイトさん、とりあえず落ち着きましょう……ぉおおお」

「どうしてどうしてどうしてどうして」

 ……まだ息があるのか。と言わんばかりに、さっきよりも容赦のない攻撃が続けられていく。どうやらまだあの金色の固まりの中にいるみたいだけど、なんか余裕に聞こえてくるのは私の気のせいかな? あ、なんか金色の渦の真ん中から腕が……なんか赤く染まった腕が顔を出した。うん響はそこにいるのは分かったけど……何で赤くなってるかは気にしたくない。

「とにかく、状況を、ガフゥ!」

「なんでなんでなんでなんで」

「言ってくれないと、グハァ!! さすがにっ、俺も、ガァ!?」

 もう、痛々しくて聞いてはいられない。なんか響の悲鳴の度に腕が痙攣しているのが生々しいし。

「あ、グゥっ! 分かったから、ブフッ! とりあえず、ゴフッ! 止まって、ブハッ!」

「どうしてどうしてどうしてどうして」

「とりあえず……ッ!!」

 言葉が途中で途切れたと同時に、赤い腕がまた金色の渦の中に沈んでいくんだけど。
 なんか、最後の言葉が何時もと違ってて、それでいて終わったように聞こえたのは私だけかな?

「もうやだこのカオス」

 なんか響が死にかけてるのを見てるうちに、下じゃ封印終わってたしね。少ししか援護できなかったよ……。

 なにはともあれ、出張任務は終わったんだけども……次の日に響が普通に休んだのは言うまでもないかな。

 ……まだ二日目でこのチームワークでこれから先私達やっていけるのかな……主にライトニングとして……。



――sideはやて――


 あれから封印処理を施しつつ、アリサちゃんやすずかちゃんには申し訳なかったけれど、海鳴への滞在を断ってミッドチルダ。ううん、機動六課へと戻ってきた。
 今回はFW陣に経験を積ませることが目的とは言え、本当に危険な場所はまだ数多く存在する。もしかしたら今も、レリックを巡ってどこかで戦闘が起こっているかもしれない。

 管理外世界へ渡航した各申請書類を片付けながら、最近の――響達の経歴を思い出す。
 彼ら7人は12歳でミッドチルダの訓練校へ入学。だけど、わずか[[rb:1年 >・・ ]]経つか経たないかで、それぞれ違う部隊へと編入された。
 響と奏、震離の三人は[[rb:地上 >・・ ]]の前線警備部隊へ。優夜と時雨は時空管理局辺境部隊の事務官へ。煌と紗雪は自然保護局事務員として。それぞれ別の道へと行った。
 
 ここで疑問になるのは、地上の警備からどうやって本局の武装隊に異動となったかというポイント。響達の入った訓練校自体は、地上にも海にも通じては居る……が、卒業した後まで面倒を見るわけもない。
 加えて、どうやって魔法を知ったかは置いておいても。至って普通の経歴だということ。
 そんな人が誰と通じて、どこに情報を流そうとしているのか……。
 
 前線へ送られた三人に対し、後者四人は事務員といったデスクワークの能力を評価されて、だ。訓練校のデータも取り寄せてみたけれど、4人は適正はDと評価されていた。
 だけど、引き抜きがあったからと言われれば、たしかにそれぞれは光る物をたしかに持っている。実際に前線で戦ってた三人は前の部隊の中核を成していたし。
 裏方や事務員としての道を歩んでる4人もたしかにそうだ。経験の薄い機動六課にはほしい人材やったし、事実、彼らが来てくれたお陰でロングアーチの能力は私達が想定してたよりも向上している。

 本当なら……響達の件を聞くまでは、彼らをロングアーチに編入しようかと考えていた。楽観的すぎるとは言え。

 話を聞いてから、そして、彼らのつながりを聞いてからは、あまりにも、経歴がおかしすぎる。
 特に魔力という概念のない地球から、わざわざ訓練校へ行った事務の4人の違和感もや。魔力がないにもかかわらずミッドへ来て、訓練校に入ったのは……もしかすると魔力が成長すると考えたから? もしかすると、身内、知り合いに管理局員がいてそれで知った? それにしても妙や。
 そう考え、私の目が届く範囲、各隊長達の手が届く範囲に置こうと思っても、彼らは事務員が良いと言う。理由は何かと聞けば、大体定時に帰れるし。残業になりそうでも、明日回せる分しかないからという。何より、[[rb:魔力が無い >・・・・・ ]]から資格取得のための勉強もしたいという。
 ある程度落ち着いて来たら事務に戻すし今だけどう? と伝えても、十分にロングアーチが育って、後は経験値を稼ぐだけだから、自分たちは邪魔になると拒否された。

 彼ら四人もスパイの可能性があると言われてからは、たしかに怪しく感じた。付かず離れずの距離を保っているようにも見えるし、何よりこれと言って情報収集の為に動いてないようにも見える。

 なんというか、意識すれば怪しく見えるが、そうでなければ全然そんなこと無い普通の存在なのだ。事実、彼らはまだFW陣。つまりスバル達とはまだそんなに話せてないし、時間が噛み合わないからわからないという。
 これもまた意外だった。事務員故に、時折作戦の報告書にも目を通すが、あくまで簡略化されたものしか見てない以上、さらなる情報を引き出すために、FW陣と仲良くなっていてもおかしくない。

 最近ようやくFW陣を見るようになったけれど、それはあくまで響達が来てからの話で、相変わらずまだ話せてない様子だ。

 彼らの疑念については一旦置いておこう。次に最近機動六課に来た4人。特に響達3人について、だ。
 これが最近の悩みのタネだ。少し前にアヤさんと連絡を取り合った後。メールで彼に付いての情報を頂いた。
 響に関しては大体の行動原理が謎と書かれていた。正確には、作戦中、たしかに的確に指示を出して居るけれど、単独行動もしている模様。そして、姿が見えなくなった時、そういう時に限って何か面倒事が起きているらしい。スバル達が響と初めて会ったあの日も、彼が目を離し、席を外したその後にロストロギアの反応が発生。更にはガジェットも現れたという。
 それ以外にも、今の部隊でこそ減ったものの、それまで所属していた部隊の不祥事がことごとく表面化しているという。特に彼が所属してからそういうことが頻発するとまで言われている。

 それが本当ならば、私達も気をつけなければと、改めてなのはちゃんやフェイトちゃんにもこの事を伝えた。守護騎士の皆にも、だ。だけど、意外だったのがシグナムや。
 シグナム曰く、そういうことをするような者ではないかと、と言っていた。大事な家族の証言やし、尊重したいけれど。それでもまだ不安要素であることには変わりないんや。

 一応それを踏まえて、暫くは泳がす事を決めた、けど……。

「……とてもそんな風には見えへんのよね」

 ほんのわずかな期間で、既に同じ隊であるエリオとキャロと仲良くなっている。それどころか、今日の話を聞いていると既に兄と呼ばれるくらいに懐かれている。
 それに対してフェイトちゃんが羨ましそうにしてたけど、これは置いとく。けれど、ただの武装隊員ではないというもの今日の事で気がついた。美由紀さんの事を見抜いた辺り、観察力があるんやろう。なのはちゃんの実家のことをある程度教えてもらったとは言え、私らもまだ見破れるかと言われてもまだわからない、それほどまでに普通の生活に溶け込ませているにも関わらず、響はそれに気づき突っ込んだ。まだ、確証は得られないにしろ、これで響がスパイならば面倒なことになる。

 考え事をしながら作業をしていたせいか、既にある程度作業が終わっており、一息つこうと背伸びをする。ギシッと椅子が軋む音が聞こえ、緊張の糸が緩んだのを感じた。

 ふと思い出す。奏も震離をいい体やったなーと。奏の方はボン・キュッ・ボンのナイスバテー。対して震離は胸こそ少し小さいけれど、あれはあれで良い美乳。体も全体的に無駄についてない感じや。
 更には、私は生では見れなかったけれど、流の女装姿。あれは良いものやなー。やっぱり恥ずかしがる表情が映える子はええなぁ。美由紀さんから貰ったデータを後でじっくり見よう。
 流については……うん、もう泳がせよう……こんだけやられたんや。何かしら動きあるやろうし、しばらくはなのはちゃんの監督不行き届きにしておこう……うん。

 さぁ、もう一踏ん張りや。ほな頑張ろ!

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第7話 皆の評価と、事務員達



――side響――

 地球への出張任務という名のプチ旅行から、早数日。のらりくらりと、訓練を続けてる。今は隊員オフィスで仕事中。資料整理やFW陣で使用したカートリッジの使用等、要は備品の報告書類作成。
 他には、万が一があったら面倒なのでエリオとキャロの元へ行くであろう仕事を一部貰い受け、それの処理をすすめる。その脇で、ここ最近の訓練……エリオ達4人の映像を流している。まだまだ合流して日が浅いし動きの癖とか知らない事が多いし、作戦の幅も広がるし。
 ふと、ここ最近の訓練の内容を思い返す。スバル達が形になってる事に比例して、相変わらず俺ら4人は、いや正確には流を加えた場合のチームの形はあまりよろしくない。形にこそなっては居るけれど、スバル達と比較するとどうしてもまだまだ連携が足りない。
 現在の各ポジションは、流をフロントアタッカー、震離をガードウィング。奏をセンターガード、そして、俺をウィングバック(中後衛)に変更した。
 理由は色々あるけれど、俺の実力じゃ満足に戦線維持出来ないということと、もう一つ。一応指揮権をもらっているということもあって、後ろに下がって指示を出し、且つ不安定な二人の戦術補助。奏の射線確保をメインに動いてる。
 一応ライトニングとして動く場合もこのまま行く。あくまでスターズがメイン……というわけではないけど、自然と突破力のある人が集められているように感じる。なのはさん然り、ヴィータさん然り。
 逆にライトニングは、機動力重視な人が多い、フェイトさんは言わずもがな、シグナム副隊長も、正面から戦うタイプだろうけど、機動性重視っぽいし。

 まぁ、それはさておき。皆の実力を鑑みて、この編成になったわけだけど。いまいち、流の実力の底がわからない。

 正確に言えば、わからないわけではないんだが。細かく言えば、なんか変。まぁ、おかしな点を上げればキリがないんだけど。
 第一に流の戦闘術。剣に銃、そして、おそらく体術も使えるだろうが、それは置いといて。まずは剣術について。流自身はなんて事ないように戦っているが、あれはベルカ騎士。それもかなりいい所の剣術だ。実際強いし、ガジェットの戦闘に置いては文句なしだ。だけど、あくまでガジェットとの戦闘にだ。だけど、対人でもそれなりに取り回しが利いてるが、体の大きさに対して全く合ってない。
 エリオと同じように将来的に体が大きくなるだろうから、それを持たせているならまだわからなくない。が、流の場合、小さい頃から訓練してたであろう動きだ。小さい頃から大剣術を練習してたなら体に何かしら影響を及ぼしそうだが特に何もなさそうだ。
 まぁ、剣の腕が良い奴なんて探せばたくさんいる。ディメンジョン(D)スポーツ(S)アクティビティ(A)アソシエイション(A)に出ている子で居合術を使う子がいるくらいだ。居ても不思議じゃない。
 第二に銃術。射撃、砲撃をうまい具合に使いこなしている。収束砲の練度も中々。だけど、戦闘スタイルを見ていると、接近戦では突き出すように、それこそ槍の様に使っている。
 長い砲身を使った良い活用方法だけれど、接近戦に特化し過ぎている点だ。見覚えがあるとしたら、前に聖王教会の騎士が槍術を使っていた気がする。ただ、あくまで戦闘じゃなく演舞でやっていたということを除けば。
 
 そして、何よりも……銃技と剣技を同時に使った戦闘はどうにも噛み合ってないようにも見える。

 どうも練度の割に歳が釣り合ってない。疑い過ぎ……かも知れないが、あの子の持っている技術を見ると疑問が残る。英才教育を受けました。と言われれば納得できなくもないが。
 その割に非武装時の左右の偏り無いとか、地味に遠距離戦苦手だよねとかいろいろ思うところはあるけどなぁ。

「――。――」

 何にせよ、本気の流の動きを見てみたいもんだ。14歳であの実力って何をどう考えても凄いもんな。DSAAで優勝狙えそうなもんだけど、管理局の仕事していると日程が噛み合わなくて出づらいというのと、負けたときのガッカリ感が凄まじい。
 過去に武装隊の奴が何人か出場したらしいけど、結果はベスト8とかで止まったらしい。酷い時は優勝候補と当たって一回戦負け、そして観客から言われるのが、こんなのが武装隊なんてって言われたらしいし。そのせいか知らないけれど、本局も地上も本当に腕に自身あるやつしか出ちゃいけないって空気が出来た。まぁ当然っちゃ当然だよな。

「――き。響!」

「え、あ、はい!?」

 いきなり大声で名前を呼ばれて慌てて立ち上がるも思わず声が裏返った。他に仕事をしていた面子から小さく笑い声が聞こえてきて、恥ずかしくなる。気がつくと俺の隣になのはさんが立っていて、俺の仕事ぶりを見ていた。

「もー、声が聞こえないくらい集中していたんだね」

「……申し訳ないです。それで何かありましたでしょうか?」

 クスクスと笑うなのはさんを見て、更に恥ずかしくなる。隣に立っていることに気づかないくらい集中してたなんて。なんか遠くで、ニヤニヤ笑ってる奴が居るけど、それは置いておこう。後でしばくし。


――sideなのは――

 無表情で資料を片せながら、偶に眉をひそめたかと思ったら、心配事が晴れたようにため息を吐いたり。少しの間隣で見ていたけれどコロコロと表情が変わって面白かった。
 本題を切り出そうと声を掛けるけど、全く聞こえてない。イヤホンとかしているわけではないから、単純に集中しているだけみたい。もう一度声をかけようと思って顔を近づけると、響のデスクの脇にここ最近の皆の訓練の映像が流れてた。流のシーンでもう一度深い溜息。
 なるほど、これを見てため息を吐いてたのかな。

 けど、こうしてみると、正直まだわからない。はやてちゃん――いや、正確にはアヤ三佐の話を聞く限りだと、六課の情報を流そうとしているその中心人物。
 何か粗を探しているから訓練の映像をと思ったけど、様子を見ている限りでは、単に関心しているような、扱いに困るようなそういった様子だ。さて、私の要件も済ませようかな。

「響、響!」

「え、あ、はい!?」

 声を裏返しながら、立って返事をする姿を見て失礼だけど、思わず笑ってしまう。

「もー、声が聞こえないくらい集中していたんだね」

「……申し訳ないです。それで何かありましたでしょうか?」

 気恥ずかしそうに頬を掻きながら頭を下げる。席に座るように手で制した後、近くの椅子を持ってきて私も座る。
 響も今までしていた仕事を保存した後、私に体を向ける。

「さて、じゃあ。質問なんだけど、響からみてスバル達四人はどう見える?」

「どう見える……と、言いますと?」

「私自身、特定の子を一年間ミッチリ教導するのは初めてだからね。どういう風に育ってるようにみえるかなって」

 管理局に本格的に所属して、早4年。その前の経験も含めたら10年目になるけれど、私以外の評価の目が欲しくて響に聞いてみる。口元に手を当て、視線を私から違う場所を見た後。

「……割とガッツリいいますよ?」

「全然良いよ。言って」

 変な育て方するつもりは毛頭無いから、自信を持って言う。私の言葉を受けてから、周りを確認して、小さくため息。そして、改めて私の方を見て。

「わかりました。では――」

 と、それぞれの説明が始まった。

「まずはスバルから。フロントアタッカーとしては理想的な機動力とそれに突破力。だからなのか、防御と回避が全然駄目。突っ込まないと駄目。即ち加速にものを言わせた攻撃しか出来てない印象。
シューティング・アーツ(SA)の特性なんだろうけど、それに甘えて……というより、止まったときの戦闘とゼロ距離に難あり。火力は問題なしなので見切りといった回避択の強化。止まったときの戦闘の強化が必要かと」

 ふむふむ、中々。

「で、次にティアナ。質量を持った幻術を使えて尚且つ、多重弾殻射撃を使えると言うのは同世代と比べても素直に凄まじいです。アレがあるだけで、フィールド防御は抜けますし、対人戦においても下手な防御は抜けますし。
 後は、射撃と合わせて幻術を組み合わせる事が出来ればなお良し。欠点といえば、接近されると弱いということ。これは本人もわかっていることなので解決する問題でしょう。ティアナは焦って自滅するタイプではないと思いますので、問題はないかと……。いざというときにはスイッチで前に出る度胸も素直に凄いかと。
 強いて言えば俺が株を取られないかと、ヒヤヒヤしそうです」

 フフフと、影を落としながら笑う響を見てちょっとだけ引いちゃう。コホンとしてから、

「エリオはまだまだ成長期、間違いなく一級品のポテンシャルを秘てるんですが、まだまだ体ができてないので槍術の感覚、体捌きを覚えさせていくしか無いかと。
 流もそうですが、体が小さいのに背丈ほどの武装をもたせるのはどうかと思います。特に槍なんて振り回してなんぼの武器。体が小さいうちはスバルと同じように突撃しか出来ません。ただ、あのスピードは目を見張る物があります。広域攻撃も練習してるみたいなので、将来を見据えていろんな可能性を見せてあげるのが良いかと」

 ほうほう、なるほど。

「一番問題というかわからないのがキャロですね。召還士の話自体は聞いたことあるんですが、いかんせん組んだことなくて。何とも言えないです。
 ただ、フルバックはポジションの関係で指揮官だと思われることが多いので、まずは回避術や防御、身の守り方と、前衛が帰ってくるまでの時間稼ぎ。それが叶わないなら撤退の即時判断。そのあたりを鍛えることしか出来ないかと……ごめんなさい、こういう事しか分からなくて」

「なるほど」

 うーん、黙って聞いてたんだけど。正直冷や汗が凄い。何が凄いってまだ出会ってそんなに経ってないとは言え、こんなにあの子達を分析してることに舌を巻く。

「総じて言えるのは間違いなくランクA……いや、それ以上、AAAなんかも狙えるんじゃないでしょうか? 既に攻撃力では俺はスバルとエリオには敵わないですし、ティアナにはおそらく接近されないよう対策打たれるでしょう。キャロだって、フリードの火力と、もう一騎とやらを出されたらとても敵いません

 若い子は強いねーと肩を竦めて呟く響を見て。ちょっと思う。
 
「なのはさんとしては、その発言は頂けないかなー」

 実際、敵わないと言いつつ、この前の模擬戦ではスバルとエリオを同時に相手取って余力を残して勝利している。映像を見たときには素直に驚いたっけ。

「頂いて下さい。魔力量はギリギリCに届く位なんですよー。あいつらと正面切ってかち合いなんかした日にゃトリプルスコアで負けますよ」

「いやいや、それは魔力負荷トレーニングで総量を増やすと良いんだよ」

「現在進行形で行なってますけど、この容量(・・)はともかく数年総量上がったこと無いです」

 あっけらんと言う響を見てガクッとなる。そう言えば
 
「響ってシールド張ったりはしないけど、何か理由でもあるの? あと射撃は?」

 今朝の訓練時もそうだったけれど、響がシールドやバリアを使っているのはまだ見たことがない。何か特別な理由でもあるのかなって思って聞いてみる。

「え、いや特に。張れるっちゃ張れますけど、保有量の関係でそんなに長く持たないし、何より効率が悪いので滅多に使わないだけです。射撃も出来なくはないですけど、俺の魔力じゃしょっぱい物しか撃てません。
 それならいっそ目くらましとか、踏み込み時の足場として使う方向で使用してます」

 思ってた以上に普通の理由でこれまたコケそうになる。

 なのはさんとしては、一番もったいないと思う人材なんだけどね。今の所、FW組を相手取ったポテンシャル。見込みは十二分にある、けど。

 言葉の端々から伝わる「限界」。これ以上は出せないという「諦め」。その2つが見えて、ちょっぴり悲しくなった。実際に響を鍛えようと思っても、正直難しい。強いて言えば空戦時の機動を教える程度。戦術も響の経歴を見れば色んな経験を積んでるし、本人も指揮を取る方に変わろうとしてるのがわかる。だから戦闘面は教えるというよりも、少し間違えたところを修正する程度だ。それほどまでに完成に近い状態。
 
 シグナムさんからの依頼を、響と模擬戦をしたいっていうのも許可しても良い気がするけど……血戦になりそうだからなー怖いんだ-。

 ……まぁうん。だからこそ、出来る事、出来ない事を冷静に見極めてその上で修練を積んでるみたい。おそらくA-という評価も、その辺を加味されてのことだと思う。さらに言えば魔力が少ないという点、これも間違いなく入ってる。

 うーん、考えれば考えるほど惜しいなぁ。当面は鍛えることよりも、4人で組んだ時の連携や、8人で組んだときの戦闘の仕方を考えるしか無いのかなぁ。

 あ、そうだ。響を鍛えることは難しくても、響の力を底上げすることは可能。なら。

「うん、分かった。ありがとね響」

「いえ、こちらこそ参考になると良いのですが」

 響が言った内容を纏めて席を立つ。立ち上がろうとする響を手で制す。そして、そのままオフィスを出て、向かうのは――


――side煌――


 はいどうも皆さん。影の薄い事務員C辺りの(こう)です。とりあえず、一言言わせろ。失礼、言わせてください。それがダメなら思わせてください。

 ――なんてことしてくれたんだ、このやろう。

 はい、少し気が紛れました。とにかくこれだけでは分からないと思うので、少し前に戻します。事の発端と、問題発生の二つに分かれるけどね! では、どうぞ。

 ――少し前。

「へぇー、響達三人用のデバイスか、いいんじゃないですか?」

「なのはさんからの指示なんだけど、やっぱり煌君もそう思う!? だから、一つお願いしてもいいかな?」

「あぁ、大体分かったので了解です。この資料の素材とか受注しとくんで、午後には来るかと」

「ありがとー、じゃあ私リイン曹長のメンテがあるからっ」

「はいはい」

 事務室で仕事をしながら、シャーリーとの話をしてる……いや、してたになるな。もう行ったし。さて、いきなりデバイス云々の話が出たんだけども、これにはちょっと訳があって。
 なのはさんからの要請。こっちはついさっきの話らしくてどういった話があったのかは知らない。多分、響となのはさんで話をしてたからその時に何かあったんだろ、多分。

 それよりも……。

「……煌、奏達ってデバイスなんて受け取らないと思うんだけど?」

「あぁ、俺もそう思うけど、既に作成しとけば問題ないよ。あいつら用って言えばいやでも納得するだろうし」

「……そうかな?」

「あぁ、さすがにそこまでされて、逆に受け取らないほうが失礼だろう」

「……まぁ、そうだね」
 
 隣で紗雪がそう言うけど、実際その通りだ。あいつらに言ってから作ると、絶対に拒否するだろうしな。要らないって言ったのにとかいろいろ難癖付けて、でも黙って作って、そしてあげると、問題なく受け取るだろう。
 好意なんだからって付け加えたら尚よし。

「おっしゃ、受注完了、十分経費で落ちるな」

「うん、良かった」

 でもさ、今月ってか近いうちに、ホテルの警護するらしいんだよなーうちの部隊。俺らには関係ないけども……戦えないからね。さてさて。

「紗雪、飯でも食いに行かないか?」

「ごめん、今日はちょっと時雨達と食べる約束したんだ」

「ありゃ、それは残念だ、じゃあまた今度なー」

「ん、指きりげんまんでもする?」

「ん~、それはさすがに恥ずいから遠慮しとく、じゃな」

「はい、またね」

 で、なんだかんだで、皆にふられて一人で飯食ってたんだけどね。ちなみに響は最近フェイトさんに拉致られてる。何でもFWのちびっ子二人に「お兄ちゃん」って呼ばれてるかららしいが、正直わからん。
 未だにFWの四人としっかり挨拶したこと無いしね。だから外見はしってる、だけどどんな人達かは知らん。
 あー、それよかご飯まで暇だな。外のベンチで寝るかな。

 ……で、ここまでは良かったんだ。今日は楽な一日だって。

 そして、問題がこれ! 起きて事務室に戻って、仕事に取り掛かったらさ!
 なんか、普段こっちに来ないレアな人が来たんだよ。で、開口一番ふざけたこと抜かすし。
 
「隊長三人分のドレス代を経費で落として♪」

「え、無理に決まってんでしょ何言ってんスか?」

 ――そこから言い争って。
 
「ねぇ、煌君?」

「駄目です。他の隊員に示しがつかない」

 短く切り捨てる。しかし、それでも相手は――シャマル先生は食い下がる。

「頼めるのはあなただけなの」

「だから無理ですって。出来ないことは出来ません」

 さらに近づかれるけど、俺は動じない。並の人なら動じるんだろうけど俺は問題ない。
 
 だけど、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、シャマル先生は空いた手から一枚の紙をそっと差し出されるが、書いてる内容、金額を見て眉間に皺が寄るのがわかる。

「経費で落して、今月ピンチなの!」

「知りませんよ!」

 階級なんて、もう気にしない、だってさぁ!? これだぜもう!?

「えー、だってだってお仕事で使うんですよ~」

「だってだってで、何処の世界に警備でドレス代払う組織があんですか!!」

 そりゃさぁ、それを……警護を本職としてる人達ならば、仕方ないよ必要なんだろうけども。でも、俺らの場合……いや、うちみたいな部隊の場合話は違う。うちの場合は警備で、要するに見せ札だ。だから、敵に警備してますよって見せつける程度しかできない。

「オークション会場なのよ、こう、スーツにドレスで、優雅に入る所なんだから」

「……知りませんよ、大体階級とかボロボロ付いてるうちの隊長陣の制服のほうがハッタリには向いてると思いますよ? しかも執務官の黒服に、教導隊の白服。これ以上何を求めるんですか?」

 大体なんで三着も買うんだよ、内部から怪盗でもでるってんなら、話は別だけども。意味がわからなすぎて頭が痛くなってくる。

「はやてちゃん達はこういう時に役に立つのよ?」

「うわ、それダメなやつ」

「そんなことないわよ? はやてちゃん達強いんだから」

「あくまでそれは戦闘で、という意味ででしょう? あの人達の実力は折り紙つきですけれど、今回は警備。もっと言えば戦闘よりも隊長陣の顔という点で今回声がかかったんでしょうが」

 包囲網の構築、経路の先読み、それに合わせた人員配置に、不意に備える予備人員の待機とかさ。うちの部隊とはいろいろ相性悪いだろうよ? 響達が居るとは言え、カバーできる範囲も限られてんのに。

「うぅ、それに私達も行くんだから大丈夫よ。せっかく綺麗な三人なんだから」

「綺麗も何も。それでドレス買って抑止力になると思いですか? ただでさえこの部隊色々不味いところがあるのに、自分から見せびらかしてどうするんですか?
 ……極端に言えば他の部隊からこう思われますよ。あそこの新設部隊はトライアングルエースが居るからお金がもらえるんだって」

 そこまで言って、ようやく申し訳なさそうに肩を落とすシャマル先生。別にこの部隊が設立何年とかならいいと思う。だけど、まだ新設な上、オークション警備に古代遺物管理部機動六課を呼び出したってことの意味を考えてほしい。確かにその名の通りロストロギアをメインに取り扱うとは言え。ホテル・アグスタの地域を管轄としてる部隊が居るにも関わらずウチを呼び出すということは経歴云々じゃなく、単になめられているのに。
 まぁ、深く考え過ぎかもしれないけどな。もう一度手元に視線を落として、領収書を見る。

「そもそも何で俺に話すんですか、補佐官が会計でしょう?」

「グリフィス君が、優夜君か煌君に通してくださいって」
 
 ……はぁ? 思わず、視線を補佐官もといグリフィスさんに持ってく。こちらの視線に気づいたのか、俺にニッコリと笑みを見せてから、なんか涙がこぼれた。
 うん、了解。大体分かった。だって、見渡すかぎり、事務室全員の視線が俺に向いてるもん。わかったよ、大体話し聞いてから検討するよ……更に頭痛くなってきた。

「で、何でまたこんなもん買ったんですか」

 しょうもない理由ならそれで跳ねればいいんだ。うう、と呻くシャマルさん、うん設定年齢自称20前半に見えねえ。だけど、今の俺にはなんとも思わんがな! 大体色仕掛けでどうにかしようとか思ってる時点で駄目なんだよ。

「実は、はやてちゃんから要請があって」

「……うん? 今度の警備にドレスが欲しいって?」

「はい!!」

「あっはっはっはっは、なるほど。それは必要ですね……なんて言うかぁああああ!!」

 思わず咆哮、それに対してキャーって乗ってきたシャマル先生。なんかもう、いろいろ疲れてきたな。それよりも気になる点が一つ。領収書を見て頭を抱える。と言うか頭が痛い。痛すぎて涙が出そう。

 落とせなくは無くはないけど、ぶっちゃけそれしたら……間違いなく良い印象は持たれなくなるんだよなぁ。
 いや、まて。この部隊で睨まれてるだろうと自覚してるはやてさんが?
 
「……他に何か伺ってます? これこれこうだから必要だって」

 キョトンとして、考え込むシャマル先生を横目に、ホテル・アグスタで行われるオークションの参加者リストを参照する。が、データ上は特に問題はない。強いて言えば鑑定士の人が欠席、代わりの代理人がまだ不明という事と……。
 いやこれは……無限書庫の司書長が代理で出席。
 
 これは要るなというのが分かって頭痛が更に酷くなる。

 改めて領収書の紙を見て、自然とデカイため息が漏れる。領収書の金額は結構な額に達していたけど、なんかこの金額どっかで見たんだよな、それもついさっき。はて、どこで見たんだっけか? あ、アイツラのデバイスの材料費と重なってんだ。
 デバイスは落としやすいんだよね。新しいシステムを組み込むためのテストも兼ねてるって言えば大体通るし。

「あ、思い出したわ。確か教会から人が来るからって、後は……カレドヴルフ・テクニクスや、ヴァンデイン・コーポレーションからも来るって」

 ……マジか。
 その意味と、わざわざうちの隊長陣を出すということの理由を知って冷や汗が流れおちるのがわかる。

「……教会から来るとしたら、下手すりゃ管理局に出資してるかも知れない大物で、その2社は管理局の車両やデバイスを制作してくれてる贔屓してる会社……なるほど。上層部糞だな」

「……あの、煌……君?」

 ……よし。
 端末を叩いて、ある場所に繋げる。そろそろ付いてる頃だし、ドレス代を経費で落とすとなると、これしか残ってない。

「シャーリーさん、それ返品!」

『……えぇ!?』

「文句はこの人に!」

「え、私!?」

『え、ちょ、何が!?』

「では!」

 即効で通信を切って、クーリングオフする手続きを取って、業者さんに持って帰らせる。だって、ドレス代の金額って、昼前に俺があいつらのデバイスの素材頼んだ金額と同じだって気づいたもんよ。
 ちなみにあの後血相を変えたシャーリーさんが、突っ込んできて俺に文句言ったけど、事情を説明して無理やり納得させた。
 うん、俺は悪くない。シャーリーさん泣いてたけど、それは仕方ない。

 あの後、シャマル先生にシャーリーさんが詰めたらしい。
 で、らしいって言うのは何故かというと。

「……フン」

「……悪かったって、だから機嫌直してくれって」

「……別に気にしてないし」

「……うぅ、本当にごめんって」

 シャマル先生に寄られた時一瞬嬉しそうにしたように見えたらしく、それが原因で紗雪としばらく口を聞いてもらえなくなった。クソゥ、死ぬほど悲しい。

 後々知った話だけど、なんかなのはさんがデバイスの件が無くなった経緯を聞いた時、もうカンカンに怒ったらしい。らしいっていうのは、なんというか訓練の質がいつもの倍以上きつかったから、何か機嫌悪いことでもあったんじゃないかっていう周りの話。
 ちなみにシャーリーさんも、新しいデバイスの開発に気合入れた直後だったらしく、リイン曹長に慰められてたとのこと。FW陣にゃ悪いけど、間違いなくそれシャマル先生の件なんだよなぁ。



――side響――


 なのはさんと別れてから、書類仕事をとっとと締めて休憩に入る。特に疲れたわけでもないけれど、なんとなく屋上へと向かう。
 ドアを空けて、まず目に入ったのは青空が目に見えた。不思議―――ってほどじゃないけれど、六課の隊舎は海沿いにあるせいなのか、この前出張に行った海鳴を思い出す。
 更に、世界は違えど見える空は似たようなもので、地球のように見えるこの場所を、割と気に入っている。

 やっぱりここは良いリフレッシュが出来る場所だな――なんて、背伸びをする。うん、いい場所だよここは。うん。
 俺の後をうちの分隊長が着けてこなければ。
 
 ちなみに、扉は開けっ放しにした。理由は着いてきてることに気づいてたから。いやだって二度目だよ? 今度は何さ?
 なんて考えてると、ドアの前を行ったり来たり、今まで散々人しばき倒しておいて未だにそれかー、悲しいわぁ。
 何かを伝えたいのか、何を考えているのか正直な所、そこはわからない。大事な話だから悩んでるかもしれないし、この前と同じで実はそうでもないかもしれない、本当の所はどうかわからないけどね。

 そんなことを考えていると、いつの間にかフェイトさんは居なくなっていた。なんというか、仕方ないというか、少しだけ疲れたなぁって。

 
 
――――



――side優夜――

 ――事務員とは部隊の運営に関する雑務をこなす役職の人間である。日々の部隊費の算出や部隊内の掃除や破損箇所の補修等々、前線で戦う隊員を影から支える黒子の様な存在である。
 何処かで聞いたこの言葉を割と気に入っている。事務員なんて、と言われることは多い。特にここ、魔法世界においては事務員とかwwww なんて笑われることもままある。
 実際、黙々とデスクに向かって一日が終わる。前線の人達は現場に出れば何かしら感謝の言葉だったりを受けてモチベを高められたりするが、事務員についてはそれはない。もちろん後方部隊というわけじゃないから派手さもない。だけど。

 派手じゃなくても、地味であっても、笑われても。俺たちには役割がある。

 そういう意味では、ここ機動六課は居心地が良い場所だと思う。確かに隊長陣、ロングアーチ、新人、追加組って感じで派閥はできてる。でも、それは仕方ない。だけど、派閥と言ってもどこもかしこも交友は全然出来てる。
 強いて言えば、事務先輩組である、俺達4人のほうが中々交流出来てないくらいだ。いつだったか煌や時雨が言っていたが、FW陣から色々話を聞いてみたいと言ってた。別に深い意味はない。管理外世界――いや、日本出身だとわからないことがあったり、どんな事を考えて戦ったり、なんでこの道を選ぼうとしたのかとか、色々聞いてみたい。
 まぁ、暇そうってわけじゃないけど、現時点じゃまだ平和そうだからいいんだ。だけど、FW陣にはもう少し加減を覚えてもらいたい。ここ最近ずっと出番が無かったというか、俺自体機動六課に居なかった。ここの所、とある保険会社に脚を運んで直に交渉をしていた。
 なんでこんな事になっているかというと、響達が来る前。FW陣の初出動の際に破壊された山岳リニアレールの車両の件。その時破壊された車両、保険で払うことは出来ないなんて言ってきやがった。正直山岳リニアレールの車両なんて……普通に考えても高額で、とてもじゃないがどうこう出来ることじゃない。機動六課の資金から出すことを向こうは希望しているんだろうが、そんなことしたら借金部隊になってしまう。そんなことしたら新設で実績も無いこの部隊は即終了。みんな露頭に迷うかもね。

 ……冗談ですよ、もちろん。

 この世界、まっとうな仕事をしている所ももちろんある。だけど、どんな会社でも叩けば少しなりともホコリは出るし、ホコリの種類によっては色々と不味い展開になり得ることもある。
 本来ならば、ロングアーチか、隊長の誰かが言って交渉しなきゃいけないが、生憎うちの部隊って、見た目以上に忙しいんですよね。そういうこともあって、俺が単騎で出向くことに。もちろんグリフィスさんから許可を得た。時雨も着いてこようとしてたけど、別に問題ないしと思って連れてこなかった。
 結果的に居たほうが早くすんだのかもしれないけれど。さて、とある筋から色々情報を収集、すると出るわ出るわ、不正だったり、ギリギリだったりする情報が。それを交渉の場に手札として用意。はじめは渋ってたけれど、情報の展開と、ここに情報がある意味を考えさせてアドを取る。
 そうこうしてたら軽く3日掛かった。かなり粘られた。まぁ、車両にレールの補修、レリックを運んでた事実とかで大変なんだろうなぁ。知・ら・ん・け・ど!

「なんて思ってたら、やっと戻ったーぁ……はぁ」

 気がつけば六課の隊舎前。問題は解決したと連絡入れた時点で、本日は休んで良い。なんて言われたけれど、自然と……というか、俺のデスクの上に仕事が溜まってないか心配になってつい戻ってきた。
 なんか3日前にドレスを買うために一悶着有りましたとか言われりゃそりゃ帰るよ……何があったんだよ。
 我ながら思う。大人しく家に帰りゃー良い物。それに一人で帰ってもつまらん。何より朝だし。面白くもねぇし。さぁて、暇つぶしに仕事でもやるかね。
 
 なんて考えたら、海沿いから轟音が鳴り響いた。

 突然の音に柄にもなく体がビクリと反応してしまい、誰かに見られてないかと周囲を見渡す。誰も見てなくて一安心。さて、この時間帯は――あぁ、そういうことか。
 ふむ、少し悩む。仕事があると後々面倒。だけど、流石に居ないやつに仕事を回すとは思えないし、正直面倒。それこそ暇つぶしって思う程度に今暇。かと言って向こうにとって見ず知らず……ではないけど、事務員の俺が行っていいものか。よし、決めた。迷うってことは興味があるってことだ。様子見て響達にちょっかいだそう。
 そうと決めたら善は急げ。さぁ、行こう。

 ―――――――――

 海上訓練施設まで移動した後。暫く様子を伺う。響達が来るまでしっかり見たこと無いけど、思ってたよりレベルが高くて驚いた。六課来るまで戦闘したことも無いちびっ子二人の動きも中々出来てるし、一番前を走るナカジマさんのスピードも中々、あれで破壊力もあるんだよな。そして、その三人に指示を出すランスターさんの指示も中々的確。唯一惜しいなぁと思うのはもう少し一歩下がる程度の気配りでいいと思う。あんまりにも一撃必倒を目指してるというか突撃思考と言うか、なんというかまぁ、凄い。
 それに対して、響達四人は形こそ出来ているが、何ていうかまだまだチグハグ気味、まぁ、まだ出会ってそんなに経っていないんだ。仕方ないけど。

「そこに居るのは、有栖か?」

「シグナムさん。お疲れ様です」

 不意に後ろから声を掛けられる。振り返ると、シグナム副隊長がそこにいた。敬礼しようとした所、視線で制止たので、頭だけ下げて、そのまま視線を戻す。

「有栖、この前のリニアレールの件で外に行っていたと聞いてたが本当か?」

「えぇ、まぁ。ちょっと手続きに時間かかりましたけど、無事円満解決致しましたよー」

「そうか、苦労をかけた」

「いえいえ、とんでもないです」

 労いの言葉をかけられる。中々こういうこと評価してくれる人がいないから、素直に嬉しい。大体の上の階級の人って、管理局の名前を出せば黙ると思ってる節があるから、時間がかかると文句つけてくるところが多いからな。
 いや、いかんいかん、暗いことを考えてもよろしくねぇ。視線を訓練へと戻す。

「出会って間もないのに、メキメキと成長してますね」

「あぁ、皆才能にあふれている者達だ。最近はわかりやすい目標が出来たからな、もっと成長するぞ」

「それは楽しみですね」

 いつか、この面子が――ナカジマさん達が中心となって動く事も案外近いんだろうなと思う。前もすごかったのに最近はもっと一生懸命訓練に励んでいるのがよく分かる。ふと、隣に立つシグナム副隊長を見て思う。

「シグナム副隊長は訓練に参加しないんですか?」

「私は古い騎士だからな。それに、人にものを教えるのは柄ではない。負けて覚えろとしか言えないさ」

「そうですか」

 苦笑しながらも納得してしまう。個人的にはそれが一番だと思うしな。基礎が固まった上でこういう人と戦うと、自然と体の運び方から、回避の選択肢等など色んな経験が積めるからね。何より何度も挑んで一本取れたらそれだけでモチベも上がるし、何より自信へつながるからだ。たかが自信と侮るなかれ、いざ強敵や、プレッシャーに負けそうになった時、俺はあの人から一本取れたんだという明確な事実が自信へとつながり、成功へとつながる道ができるからだ。
 まぁ、実際は脳筋というか、古い体制だなぁとは思ったが。

「……有栖。なんか失礼なことを考えなかったか?」

「……まさか」

 さっきとは打って変わって、鋭い眼光でこちらをにらみ付けて言う。

「まぁ、私自身脳筋だという自負があるからな、怒らんさ」

「脳筋なんてそんな、古いなぁって……ぁ」

 苦笑を浮かべながら言うシグナムさんに思わず言ってしまう。同時に墓穴を掘った。

「……そろそろ仕事に戻りますね」

 逃げようとして後ろを向いた途端に、シグナムさんの手が俺の襟を掴む。

「こんな時にここに居るんだ。なぁに、時間はあるさ」

「……いやぁ、事務員て忙しいもので」

「安心しろすぐ終わる」

 そう言うがただでは終わらないことは確実だ。しかし、こんなことで怒る人ではないと思ったが、見極め甘かったかな。でも一つ疑問が、この人仕組んだ?
 ズルズルと訓練場へ連れて行かれながら、考える。普通に考えれば、俺なんかと戦う理由なんて無いはず。特にここ最近は。

 あれ? もしかして響と同期だからって理由で目付けられた? マジで?
 
 ―――――――――

――sideなのは――

「……これはいったいどういうことなんでしょう」

 目の前の状況を見て、疑問しか浮かばない。人に教えるのは向いていないと訓練に参加しなかったシグナムさんが、事務員である優夜を引きずって現れたのだから。
 FWの皆もいったい何が起きたんだろうと、ただ見つめるばかりだ。ただ一人響に関してはケラケラ笑ってるけれど。

「何。緋凰と同じ出身ならばある程度の技量を持っているだろうと思ってな。だから一度手合わせしてみたくてな」

 それを聞いて思い出した。そう言えば、響達が来たあの日、優夜たちも見てたんだっけ。
 
 でも、それだけで……。

「確かに、優夜も中々凄いよね」

「……やめーや」

 震離の言葉に、がっくりと項垂れる優夜。

「ほう、昔からかなりの実力者だったというわけか。それは是非一度、手合わせしてみたいな」

 案の定やぶ蛇で、もう戦いから逃れられないようだ。それを見た優夜は観念したみたいで、大きくため息を吐いた後。シグナムさんをまっすぐ見た後。

「結果はどうあれ、過剰な期待はされないように」

 そう言うと、すっと腰を落として戦闘態勢を取る。シグナムさんもそれを見てレヴァンテインを手元に出す。理由はわからなくもないけど事務員だし、止めたほうがいいような気もするんだよねー。でも、私も気になるから黙っておこう。危なくなったら助けよう。

「行くぞっ!!」

 叫びと共にシグナムさんが一気に間合いを詰め、レヴァンティンを振り下ろす。そう来ると読んでいたように優夜もそれを、全力で後ろに飛び回避。
 初手をかわされたシグナムさんの追撃が始まる。もう一歩踏み込み、振り下ろした剣をもう一度振り上げるも、全身をバネにして、逆立ちにも似た不安定な体勢から真横に飛ぶ。正直、当たると思ってた、一、ニ撃を躱されて私もシグナムさんも驚く。その間も転がりながらできる限りその場から離れる優夜。そして、立ち止まった辺りで。

「震離、杖貸して」

 静かにそれだけを告げると、待ってましたと言わんばかりに杖を投げ渡す。受け取ると同時に杖をしっかり両手で持ち構えたところだった

「デバイスは無いのか?」

「事務員がデバイスなんて持ってるわけ無いでしょう。だから今借りました」

「何? 護身用に持っていると思ったが……それに、言えば待ったぞ」

「いえいえお気遣いなく。それに勝負に待ったは無いでしょうよ?」

 すっと、構える。

「なるほど槍術か。おもしろい」

 そういうシグナムさんの目が燃えるように高ぶっているのを感じる。FWの皆も息を呑んでそれを見守る。ただ、響たちはなんかそこまでって感じなのが気になるけど。だけど、優夜の構えを見ると素直に感心する。ただ構えているだけなのに、隙が無い。どこから打込まれても即座に対応できる。

「有栖優夜。いざ」

 静寂が重い、みんなこの戦いに飲まれて目を離すことができない。そして、一陣の風が吹いた瞬間、シグナムさんが動いた。
 瞬間、刃と杖がぶつかり合う音と、飛び散る火花。杖がレヴァンテインの切っ先を真直、只真直撃ち抜く様に弾き流す。打ち合いは更に加速する。何度も何度も火花が飛び散り、気がつけばレヴァンテインに火が纏われていた。一瞬の打ち合いでお互いに何度も撃ち合う。斬るために、貫くために何度も何度も。ふと、シグナムさんを見ると自然と笑っていた。対する優夜はただ一点。シグナムさんを睨みつけながらも、その手は止めない。真直最短を撃ち抜く。
 普通、槍使いが間合いに入り込まれたら負けると言うが、優夜の戦いは怒涛の攻め、それに尽きる。シグナムさんももちろん負けてないけど、それ以上に間合いに入り込まめない様だ。だけど、それを察したのか一歩下がり、カートリッジロード……って、不味い!

「行くぞ、紫電一閃!!!」

 ストップと声を掛けるよりも先に、シグナムさんの本気の一撃が優夜に向けられた。すぐに遠隔防御魔法の用意をするけれど、それよりも先に。優夜も踏み込んだ。ここまで動かず、ただ攻撃の迎撃を行なっていた中で初めて動き、且つ真直切っ先をシグナムさんへ向け。そして――互いがすれ違い、風が舞った。
 そして――互いに振り向く。シグナムさんはシュランゲフォルムに変え。連結刃を周囲に展開し、次の攻撃の用意を行う。対して優夜は。

「参りました」

「な!? 何を言う。まだ決着は」

「いえいえ無理ですって、ほら」

 そう言って両手を上げる。手に持ってた杖は先端が溶け落ち、罅が広がって今にも砕けそう。だけど、おそらく。

「大体、シグナムさんずるいですよー。俺は魔力を使用した戦闘出来ないのに、カートリッジまで使用しだしたし。お陰で全部そらすだけで一杯一杯ですよ」

 杖を脇に挟み、手をブラブラと振る。それに納得行かない様子のシグナムさんは

「紫電一閃も防いで見せたじゃないか。それ以前の打ち合いも」

「最後のあれは受け流したんです。まともに受けたら俺が2つに別れました。打ち合いに関しては、打点ずらしただけですよ」

 何事も無いように言っているけど、冷静に考えれば凄まじい技術だ。身体強化も何もしてないのに、シグナムさんの攻撃をずらしただけとは。口で言うのは簡単だけれど、それを普通にやってのけたことに驚く。

「それに、シグナムさんの間合い、踏み込みは初手の二打で把握できたから上手くできたんですよ。完全初見ならもっと早く負けてました。一撃一撃が重いんでずらして逸して、迎撃だけしか出来ませんでしたし」

 それを聞いて私もシグナムさんも絶句。たったの二打で間合いを図るということ。これって相当すごい技術だよ? まぁ、とにかく。

「お二人ともお疲れ様。ものすごい戦いだったね。見ているこっちもわくわくしちゃったよ」

 二人の戦いに素直に賞賛言葉を送る。スバル達四人はまだ驚きっぱなし。まぁ、ムリもないよね。これで事務員だって言うんだもん。私もちょっとショック。

「シグナムさんどうでした。優夜の戦いは?」

 レヴァンテインを鞘に収めようとしているシグナムさんへ声をかける。

「武装教官のほうが的確な分析ができるだろう。そちらから見た感じはどうだった」

 むむ、戦技教導官としての頑張ってみよう。

「私の意見を言わせてもらうと、カウンター型の更に手数型。シグナムさんが攻撃している時は徹底的にそれを捌き、紙一重でズラしてそれを逸し、攻撃のスキを狙い、一気に攻撃するというやり方です。シグナムさんの攻撃を最短でずらし続けるのは正直驚きました。さらに、最後の攻防もあえて前に進み、隙を作り出そうとしていたのはかなりやりにくかったかなと思います」

 FWの皆がこの評価に驚いてる。この評価にシグナムさんも深く頷いてくれる。けど。響達3人は微妙に違うらしく苦笑を浮かべてる。優夜に関してはなんか申し訳なさそうにしてる。なんだろ。

「優夜の実力を知ったシグナムさんにちょっと報告を。そいつまだ全力ってわけじゃないですよ」

「何?!」「え?!」

 響の言葉に驚く。いやだって、あれで全力じゃないって。

「正確には魔力を使われた試合ならあれが限界値。ただ、魔力使用しない試合ならば優夜の手数は単純に二倍あります。優夜は二槍流なんですよ」

「あはは」

 気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる優夜と、ケラケラ笑う響を見て、これまた絶句。

「……すさまじいな。有栖。二本に増えてた場合だと私に勝てたか?」

「や、無理でしょう。というか、魔力が入りだした辺りから多分一本に戻して戦闘します。断言できる」

 これを聞いてちょっと……ううん、これは素直に凄い。同じ条件なら二槍を出せるという意味だ。魔力が入りだしたということは力で勝てないと言っている。つまり、同じ土俵ならそのまま続行できると。

「なるほど、なら。もう一度だ。今度はこちらも魔力は使わないが、持てる全てで相手しよう。緋凰もどうだ?」

「機会があれば。でも……」

 二つ返事で了承する。けど、チラリと優夜を見ると、震離が優夜から杖を回収してるところで、こっちの視線に気づいて。

「あ、ゴメンナサイ。暫く無理です。だって、ほら」

 両手の平をこちらに見せる。するとずっとブルブル震えていた。これが意味するのは……

「シグナムさんの撃ち込みが凄くて、ずらすだけでこれです。申し訳ないですが今日は……暫く震えが取れるまでは出来ないです」

 あはは、と苦笑をしているけれど、おそらく制服の中の腕はもっと酷いことになっているだろう。よく考えなくても分かる。あれだけ攻撃を受け止める――迎撃していたら、その衝撃をもろに受けている。
 おそらく相当痛いだろうけど、涼しい顔をしてる。うん、すっごおく。惜しい。響を育てるとしたらって考えたけど、優夜も十分惜しい。技術だけなら既に上位に食い込めるだろうに。でも、これだけ出来るならば――

「あ、そうだ。それなりに戦えるからって、任務とかに連れ出そうとか考えないでくださいね。事務員って一般人と同じ扱いになるんですから、危険なところに連れ出すと大問題になりますよ」

「ぁぅ」

 優夜の言葉に思わず小さくうめき声が出る。誰かと組めば行けると思うと考えたのが直ぐにバレた。

「あ、そうだ。遅くなった。FWの皆さん。こちらから皆さんの事は知っていましたが、ちゃんと挨拶したこと無いので。有栖優夜一等空士。ロングアーチ……というか、事務員なので何かあったらご一報を。よろしくお願いします」

 あ、そうか。私は優夜の事知っているのは単に日本出身、同郷だからって理由で名前だけ知ってた。他にも事務の残り三人も名前は知ってるけど、ちゃんと話しことは無いんだっけ。優夜が挨拶すると皆も挨拶を返す。

「まぁ、という事であまり役に立たないですが、しいて言えば両者合意の上の訓練のサポートぐらいです。それも仕事があるので出ずっぱりと言う訳にはいきません。なんですか、その手があったかという顔は」

「ふむ、その手があるのか」

「ありませんよ。マジ勘弁してください。なのはさんもやめて下さい」

 苦笑を浮かべてるけど、どっちかわからないなー。後で響に聞いてみよう。というか、少し本腰を入れて聞いてみよう。この様子なら、もう一人の男の子も間違いなくなにかあるはず。というか、7人全員集めてみようかな。そして話を聞いてみよう。

「さて、それじゃあ。俺はこれで、仕事に戻りますね」

「うん、今回はありがとね」

「いえ、それでは」

 一礼してから、駆け足で隊舎の方へ走っていく。それを見送りながら、

「しかし惜しいな。あれほどの腕を持っているのにそれを生かせないなんて」

「そうですね、腕はトップクラス。しかも正統派。間違いなく生粋の流派の元で学んでいたんだなと。現場にも出れないのは勿体無いです」

「だが、やつも言ったとおり」

「訓練は手伝えると」

 シグナムさんと二人でニヤリと笑いが溢れる。何よりも優夜の出現は間違いなくプラスになる。特にエリオに関して。
 実際シグナムとの打ち合いの時点で、驚愕以上に憧れと言った感情が現れていたのは誰の目でも明らかだった。うん、そうだよね。同じ槍使い。目の前であんなことされたら素直に憧れちゃうよ。しかもシグナムさんと正面から打ち合えるなんて中々いないし。さぁ。

「皆! 火はついたよね。ティアナ達はシグナム副隊長から一撃取ってみようか!」

 さぁっと、ティアナ達が青くなるのを見て、ちょっぴり苦笑。響達もそれを見て笑ってる。けど。

「その後は響達だよ、私とシグナム副隊長と模擬戦やってみようか!」

 そう言って、シグナムさんも微笑む。常々言ってましたし、響と戦いたいと。さぁ、今日はとことんいこうか!
 
「一対一を!」

「まだ駄目です!」

 ……シグナムさんったらもう……。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第8話 告白。そこから動くもの


――side時雨――

 はぁい。有象無象の一人こと、事務員時雨でっす☆
 うん? ☆はいらない? ウザい? 細かいことは気にしないでくださいな。
 さて、突然ですが。私は――いや、正確には私達事務員4人はスパイです。加えて言うなら、響達3人もスパイです。何故。どこから――と言われても、今はまだ言えないこと。

 言った所で……どうしようも無い所。

 楽観的な見解だけど。おそらくまだはやてさんにはバレてない、と思う。一応六課が始まる時から居る先輩の枠として居るからか、ある程度の信頼はされていると思う。まぁ、同郷の人が4人も同時に来たということもあって、何かしら疑いの目は向けられたんだろうけど。本当の所は割と違う。
 私と優夜が六課に来たのは単に新規募集していて、新しい場所。もっと言えばミッドにあるお家に帰れるようになりたいからというのが本当の所。実際、応募して所属が変わるって同じ事務をしてる煌と紗雪に伝えたら、2人も同じくここを受けていたことがわかった。流石に、4人同時に受かるわけない――と思っていたら4人同時採用。これには驚いた。久しぶりに4人同じ職場だから。そして、凄く喜んだ。

 でも喜びも束の間で、とある奴より、機動六課の事を調べて連絡を入れろ。即ちスパイしてこいって言われた。断れない理由があるとは言えストレートに言ってくる辺り腹が立つ。まぁ新設の部隊、裏じゃいろんなことが絡みに絡んで明らかに何かあるこの部隊。選んでおいていうのも何だけど、確実に問題案件。まぁ、今に越したことじゃないけど。

 話が少しずれた所で、本題に戻ろう。一応不祥事(・・・)を報告ということで、新設部隊あるあるの問題、それも大きそうで実はそうでもない問題を片っ端から報告。
 そしたら、向こうから暫くいらないと来た。ざまーみなさい。
 でも、実際六課に移った最初の方はキツかった。だって、事務専任で来たら私達が一番の先輩ってことになるんだもん。びっくりしたよ、本当……うん、本当に。
 グリフィスさんや、シャーリーさんも居るけど、前者はロングアーチの副官も兼ねてるし、後者はデバイス関係で忙しいし。結果的に席を外す事が多い二人に変わって、私達が実質指揮を取ることになった。

 そして、同時に気づいたのが新設部隊とはいえ、地上で部隊を作るとなるとこうなるって改めて実感。。新人が多い割には人数が少なく女の子が多い。男と女の比率がおかしいんじゃないかと何度も思った、しかもただの事務専と思いきや、経理などの雑用も全て任された。新人の皆は経験不足な上、いきなり大きな仕事を任されてうろたえている。経験ある技術職の人達ももそれなりに忙しいらしくあまりフォローできないらしい。まぁ、しゃーないしゃーない。

 さすがに初日からプルプル震えてる新人を放置するのは良くないから、まず最重要の仕事を私と優夜、紗雪で片している間。煌による新人教育セミナーを展開。と言っても、まず仕事の全体像の説明して、初歩から教える。この点はわかってる子から反感を買ったみたいだけど、それは無視。次に煌と紗雪がふた手に別れてそれぞれに割り振られるであろう仕事を、実際にやってみせる。とりあえず初日はこれでなんとか終了……するはずが、定時になり、新人ズを帰した後。面倒な費用計算が出てきて皆でガッカリ。私達の見落としなんだけど、言い訳しても意味ないからすぐに取り掛かる。7時になる頃にはタイムカードを切って、皆で残業。辛かった。

 4人で片したから、割と早く済んだ。けど、既に夜10時を回ってた。帰ってもろくに休めそうにないし、割と慣れっこだし。こっそり持ってきてた寝袋とお泊りセットを取り出して、この日は泊まる事に。幼馴染だけど、流石に男の子と一緒に寝るのは周りから何か言われそうだから、私達2人が事務室の中で、優夜達2人がロビーのソファーで休むことになった。
 いやぁ、慣れてるとは言え初日からこれは社畜コースだよねぇと。あっはっはっは……はぁ。 

 まぁ、初日にこんな事があったせいか。新人ズの皆が頑張ってくれて、今ではすっかり隠居コースが見え始めてきた。実際最近やってる仕事ってなぁに? って聞かれれば、純事務員の書類の作成や提出に電話の応対ぐらいかな。後はクレーム処理とかその他諸々。ちなみに経理とかは引き続き私達が担当。まぁ、いつでも引き継げる用意というか、もう新人の皆に説明しなくても出来る様になってるだろうし。後はまぁ、変わった仕事とかだね。最近だと彼が担当した保険、保証の問題でちょっと外に行ったくらいだし、後は煌が対応したドレスの件とかかな。前者は問題なく片付いたって連絡を貰ったし、後者はなんとか経費で落としてたし。最近は、まぁ……割と暇。いやまぁ、暇ってわけじゃないけど最初の頃を思い出すと、どうしてもねぇ。

 なんてしていたら、少し前に彼から連絡が入ってた。はて、グリフィスさんから聞いてた話だと。今日は休みをもらってたはずだけど。はてさて、なんでかなーと思ってメッセージを確認。

 暇だから戻ってくる

 わーお、イッツ・ア・シャチク! と言うのは冗談で、彼の事を考えるとすぐに分かる。一人で休み貰ってもすること無いもんね。とりあえずグリフィスさんに報告して、苦笑いを浮かべてたけどあっさり受理。後は帰ってくるのを待つだけ。彼がいなかったこの3日の間。仕事は全部片付けておいた。戻ってきたら仕事で一杯なんて気分悪いからね。何より暇だったからね。片付けちゃったよ。さて、帰ってきたら一緒にFWの皆を見学にいこうかなー。
 なーんて、考えてたらそこから彼が帰ってきた。やー3日ぶりとは言え、なんか疲れた顔してんねー。

「おかーえりー。事務仕事にする? 経理にする? それとも……」

「それとも何だよ……いいよ普通に仕事する」

 あら釣れない。けど、なんだろう。両手が震えてるのはなんでかな? 私の視線に気づいたか彼は困ったように笑って。

「ついさっき、シグナムさんと打ち合って来たんだよ。それでこうなった」

「あらま。一人だけ抜け駆けー? ずるいなー」

「見学だけで済ます予定だったよ。色々あってな」

 そういう彼の顔を見ると嬉しそうな顔をしてた。最近はあんまり見れなかった顔だけど。やっぱり良いなぁ。

「そう。ならいいよ。今度デートね?」

「あぁ。仰せのままに」

 にっと笑う彼を見れ、私も自然と笑みが溢れる。あぁ、近いうちに休みを取らないとなー。手元の申請書類を確認してると。一つ気になる書類が出てきた。隣で仕事に取り掛かろうとしている彼に体を寄せて。

「これ……どう思う?」

「うん? ……なるほど、でもこれって――」

 こういう案件得意な人にお願いするのがベストだよねって。


――sideはやて――


 目の前の書類を見ながら少し頭を抱える。フェイトちゃんの調査を行う為の申請の書類。本来ならば1人でも行える任務なんやけど。とある工場へ出向いて任意で書類を見るためらしい。書類を裁く関係やし、誰か1人連れて行きたいって言っとったんだけど……。

「……相談できなかったって」

 涙目で書類を持ってきたときには頭を抱えそうになった。いつもだったらシャーリーがおるんやけど。生憎本局へ行ってて、連れて行くことが出来ない。かと言って普通の事務員に頼めることやない。あの四人ならーと思ったけど、流石にちょっと悩んで、今回はやめとこうとなった。最初から無理させっぱなしやし……思う所もあるし。で、結局1人で行くことに。後は私がサインしたらすぐにGOってわけやけど。
 大変なのは目に見えてわかってるから1人で行かせるのはちょっと心苦しい。しかもお昼から出るってことは下手したら夕方になっても帰ってこれない可能性もある。でも仕方ないと割り切るしかないんかなーもう。

「八神部隊長、今宜しいでしょうか?」

「はいどうぞ」

 ブザー音と共に、入室の許可を求める声が聞こえ、それに応答する。扉を空けて入ってきたのは事務員の時雨と優夜の2人。もしかして優夜の片してくれた案件の事かと思っていたら。

「八神部隊長。フェイトさんの調査の件でご相談が」

「お、なんかあったん? あ、休んでええよー」

 部隊長室に置かれているソファーに指を指し、2人を座らせる。ちょうど良い時間だし少し休憩にしよか。お茶を用意して2人にも出す。申し訳なさそうにする2人を制しておく。これくらい全然構わんし。

「では失礼して。この書類なんですけれど」

 と時雨が出した書類は、フェイトちゃんの調査申請の書類。日程が少し前の物やけど、内容は同じもの。おそらく事務の誰かに依頼を出そうと用意されてたものやね。

「うん、これがどうしたん?」

「や、これ同じ分隊から響連れてけばいいんじゃないですかと思いまして。なんだかんだで書類作業には強いやつなので」

「それに最近フェイト隊長、響の事ストーキングしてますし。いーんじゃないですか?」

 これを聞いて優夜と2人でお茶を吹き出しそうになる。フェイトちゃん一体全体なにしてるんや。

「……そんなことが。まぁ、何かあったんでしょうよ」

 口を拭きながら優夜が呆れたように話す。

「まぁ、フェイト隊長も割とあれやからな。けど、響なら大丈夫そうか」

 フェイトちゃんの事を思い出しながら、もう一度お茶を飲む。実際仕事ならいざしらず。割と響に対してはフェイトちゃんもオープン気味や。この前の出張の時といい、割と怒ったりしてるみたいやし。
 それにしても珍しいといえば珍しい。割と人見知りするフェイトちゃんが、嫉妬心オープンで接するのは珍しい。そう言えば初日にちょっとお話をしたって言うとったしそれでかな?
 ふむ、もしかして、もしかするかな……?

「個人的には親友を応援したいんですが……無くもないですよね」

 私の考えを読んだ……? 隣の優夜は不思議そうな顔をしてるから分かってないみたいやけど、時雨は間違いなく気づいてる。だって悪どい顔しとる……や、仲良くなれそうや。さてさて、色々用意を始めようか。
 無言で自分に指差してる時雨と考えの一致を確信。自然とハイタッチの流れになった。

 さぁ、面白くなってきたでぇ!


――side響――

 いやー、参った。午前の訓練は痺れたー。中後衛(ウィングバック)でこんなに疲れるってことは、フロントの流と、ガードの震離はもっとしんどかったろうよ。実際震離は何も話さないし。と言うかなんか目が死んでる。流は……わからん。相変わらず無表情だし。奏も割といつも通り。
 でも一番の問題なのが……向こうで屍みたいになってるスバル達。普段なのはさん相手に一撃与える訓練してるけど、今回はシグナムさんだったからか、いつもと勝手が違うのと、連結刃で徐々に追い込まれていく上に、向こうが必殺の一撃を構えながら突っ込んでくるから質が悪い。当たったら即アウトだもんなー。今は仕方ない。
 今はまだ出来ないけど、スバルには二打。エリオには連結刃で囲って撃墜。ティアナとキャロには高速移動からの一打と、各個人に合わせた攻め方をしてたし、捌き方を覚えたら凄いんだろうな-。

 今はちょっと休憩中。食事も終わって一息入れてる所だ。今日は既にというか珍しいこともあったし良かったよ。優夜とシグナムさんの打ち合い見たけど、やっぱアイツ強いというか上手いわ。本領発揮してないとは言え、本気のシグナムさんの連撃をあそこまで迎撃するのなんて俺じゃ無理だ。というか途中で別の手を打つし……何より途中で見切られて終わる。
 でも良いタイミングで来てくれたよ、本当に。あの手合わせ見た後のエリオ、完全に槍術を意識してた。間違いなく良い影響だ。ただエリオのスタイルを考えると、アイツの動きもいつか見せてやりたい。と言うか呼べば来そうなもんだけどなぁ。

『館内放送。緋凰空曹。至急正面玄関までお越し下さい。繰り返します――』

「あら?」

 呼び出しのアナウンスで名前を呼ばれて、少しゲンナリする。視線を横にずらすと頑張れって視線を送ってくれる奏と、どことなく心配そうに見てくる震離。自分の口から乾いた笑い声が漏らしながら、2人に向かってサムズアップする。
 なんだよ誰だよわざわざ俺なんかを呼び出すのは。
 
 我ながらネガティブな考えで頭いっぱいになりながら正面玄関まで行くと。フェイトさんとはやてさん。そして、すっごいニコニコ(・・・・)と笑顔を浮かべた時雨がそこにいた。
 で、事情を聞いて納得。そりゃ人手がほしいわけだ。そして、先日屋上に入るか入らないかしていたフェイトさんの行動に納得できた。この件で俺と話そうとしてたのかな? けど、出張でボコボコにした手前、言い出せなかった。そんなところかな?

 もちろん調査のお手伝いは了承。フェイトさんも気まずそうにだけど、了承してくれた。さて、仕事の内容はガジェットのパーツの素材を製造、販売してた疑いのある工場。普段は個人向け航空機やヘリの部品を製造しているけれど、ここで買われた素材を違う場所――即ち、ガジェットを製造している工場へ流されているかもしれない、と言うことだ。今回はあくまで任意で書類を見せてもらうとの事。了承しててなんだけど、武装隊員所属だった奴の仕事じゃないが……ま、投げ出す事はしないけど。

 とりあえず、フェイトさんに言われるがまま、車へ移動。その前に、時雨からあると便利だからってペンと手帳、ボイスレコーダーを受け取る。なのはさんの許可を得ている事を聞いて一安心。そのまま車へ搭乗し、いざ工場へ。

 結論から言うと、お互い気まずすぎてなんも話せなかった。いや、俺もフェイトさんも話そうと努力してたよ。ただ、タイミングがかぶって結果無言っていう事。

 さて、噂の工場は山の中。周囲は森林生い茂る森の中。見るからに怪しそうな見た目をしている工場の前へ車を止めて、真っ直ぐ責任者の元へ。執務官証と捜査依頼状を見せる時のフェイトさん、さっきまで車を運転してる人には見えないくらいクールだった。あれぐらいの落差があるからこの方色んな方面から人気なんだなーって改めて実感。

 改めて、今回の目的の再確認。今回はあくまで任意捜査であり、強制捜査で無いこと。そして書類を見せてもらっているという事。これを頭に入れて捜査をしないといけない。
 
 フェイトさんは責任者が居るオフィスを。俺は資料室もとい、倉庫へ向かう。そして、扉を開けてゲンナリしてしまった。目の前に広がるのは紙の山。場所によっては谷にまでなってる。見てるとめまいがするが、止まってても仕方ない。やりましょう。
 
 まさかと思うがこれって、捜査が入るから書類ひっくり返して投げ込んだわけじゃないだろうな?
 
 
――sideはやて――

 目の前の画面を見ながら絶句してしまう。量が多いとかそういう訳やなくて、私も気を抜いてサボったりしたらあんなになるんかなぁ。部隊長やってると気を抜いたりするとすぐ書類が溜まるからなー。これを教訓に私も頑張ろう。

 なんで、響の見ているものが分かるかというと、時雨が持ってた三点セット。アレがサーチャーとしての役割を果すという優れものなんや。二点だけだと、音だけ聞こえるらしいけど、三点そろうとそれぞれが連動してサーチャーを展開。映像を……受信機があるここまで届けてくれるっていう代物。なんで時雨が持ってたとかそういう事は一旦置いといて、仕事を片付けながら時雨と紗雪の3人で様子を見守る。ちなみに紗雪が居るのは優夜と交代したというか、飽きて出ていった所を時雨が代わりを呼んだからという事。

「これは……空振りですね」

 ポツリ、と時雨が苦そうな顔をしながら呟く。ここに居る3人は誰も口には出さへんけど、実際その通りやと思う。きっと現場に居るフェイトちゃんも響もそう思ってるかと思う。違法に流しているのに証拠を残す者は居ない。ましてや書類なんてもってのほかや。今回のこの作業はただ時間だけが流れていく作業。ただ、見てて気になったのが響の手際の良さだ。実際手元が見えるからよく分かる。短いスパンで書類を整理、何か情報が無いかしっかり確認してるようで驚いた。
 やけども、それでも動き無いなー。仕方ないこととは言え、これは見てる方も大変やな。

『響、大丈夫?』

 不意にフェイトちゃんの声が聞こえた。

『大丈夫ですよこれくらい』

 肩を竦めて苦笑してる。フェイトちゃんも心なしか疲れてる……というか、ちゃんと執務官モードのフェイトちゃんを見るのは珍しい気がするな。

『ごめんね、ここ最近着いたりして』

『いえ、何かあったのかなぁって。最初の時みたいな気迫は感じられなかったので、それにまだ危害加えられてないですし』

『うぅ』

 どこか遠くを見ながら言う響と、何かに恥ずかしくなったのか赤くなるフェイトちゃん。おや、私の知らない所で何かフラグだったんやろか? これは今度聞いてみないとな。

『よし、見つけた。これなら臭い所突けるんじゃないですか?』

 そう言って響は二枚の書類をフェイトちゃんへ。少し眺めた後。フッと笑顔になった。なんや? 何見せたんや?

『これなら、大丈夫。けどよく見つけたねこれ』

『物覚えは良いもので。全く同じ日に同じものを入荷。識別コードも同じもの。ここまでは問題ないですが、わざわざ二分してる上に、入荷時間が朝と夜の同じ時間、他のやつには印が無いのに、その片方には印がある。片方は正式に取引したものだけど、もう片方は人には言えない取引の為でしょう。俄仕込みの下手な推理ですけど』

『ありがとう。これでここから進展出来るかもしれない。前進した』

 グッと小さくガッツポーズを取るフェイトちゃん。うん、無自覚でこういうことするから、ファンが多いんよ? 実際絵になってるし、かわええもんね。証拠をデバイスで画像データに収めた後。帰り支度をしてる。フェイトちゃんは責任者の元へ、響はその前に纏めた書類を再び元あったように戻す。まぁ、片付ける理由も無いし、当然……? やね。

 しっかし、面白い事が起きるかと思ったのに結局何も無かったなー。さっきのフラグが何なのかわからないだけやったなー。帰る準備が終わった後、フェイトちゃんの車に乗って、後は六課に帰ってくるだけや。車に乗って数分。相変わらず気まずそうな2人。すると。

『響。ちょっとだけ付き合ってくれる?』

『はい、構いませんよ。何か用事でも?』

 お? フェイトちゃんが動いた。食い入る様に3人でモニターを見る。そして、車が向かう先は小さなパーキングエリア。車を降りて少し歩くと、ミッドが一望できる展望台へ。ふむふむこれはフェイトちゃん……

「脈アリ……かな。はやてちゃん(・・・)?」

 そう。脈アリの可能性……って。

「「なのはちゃん(さん)?!」」

「お疲れ様です、なのはさん」

「にゃはは」

 振り返るとそこには、管理局の白いm……いや、下手なことは思えへん。エース・オブ・エースのなのはちゃんがそこおった……終わった。
 紗雪も気づいてたんやったら、教えてくれても良かったのになー。

「もう、はやてちゃん? 盗撮はいけないんだよ?」

「ぅぅ、いや、良かれと思ってな、ほら。色々と、な?」

 我ながら苦しい言い訳。時雨達にはバレない……というか、変な動きをしないか監視する意図もあるにはあったんやけど、ぶっちゃけ色恋に発展しないかと期待してたというのが本音。なのはちゃんも本来の意図を知ってか知らずか、軽くため息を吐いた後。

「次はしちゃいけないよ?」

「うぅ、肝に銘じます……」

 冷や汗を流しながら、魔王さまから……あかん。睨まれた。エースから許可を得て、監視を続行。気がつくと場面は展望台のベンチにフェイトちゃんが座って、響はつかず離れずの距離で立ってた。んー、響ーここは隣に座るところやけどなー。

『ちょうどいい所があってよかったよ』

『そうですね。景色も良いですし、展望台まで近いし良い穴場かと』

 2人揃って景色を眺めてる。うん、ええ感じや時刻は夕方やし、綺麗に夕日も見えて最高や! これはナイスシチュエーション!

『響ごめんね。出張先での事とか、後つけてまわったりとか』

『いえいえ、ホント気になさらないで下さい』

 うんうん、これはいい流れ……って、なのはちゃん、なんでそんな神妙そうな顔しとるん? 時雨と紗雪もなんで微妙そうな顔しとるん? え、いい感じと思ったのは私だけ……?


――side響――

 さてさて、最後に会話してから5分程経過。凄く気まずいです。ここの景色がいいからごまかされてる感があるけど、実際まったくもって進んでない。
 後ろのベンチに座るフェイトさんも何かあるからここに連れてきたんだけど……一体何だろうか?

「……ねぇ、響?」

 返事をするため振り返ろうとするけど、途中で止まる。今この人の顔を見てはいけない。そう思ったから。
 
「今から話すこと。別に隠すことじゃない。なんなら誰かに言ってもいい」

「はい」

 顔は見えないけど、心なしか声が震えてる。でも、こんだけ震えるってことは大切な話だ。心を込めて、こちらも聞かないと。そう考えて、振り返る。

「……じゃあ言います。私とエリオは人造魔導師です」

――sideフェイト――

「……じゃあ言います。私とエリオは人造魔導師です」

 言った。言ってしまった。もう後戻りはできない。この質問をぶつけるという事は、彼を試すような事。もっと言えばなのはやはやて、ヴォルケンリッターの皆以外に初めて打ち明ける事だ。

 心が冷え始める。心臓が煩い。耳鳴りが煩い。呼吸が煩い。
 エリオとキャロが懐いてる。何より2人から話を聞いて悪い人だとは思えない。だからこれはある意味、炙り出しに近い事。疑っていると言っている様な事。
 酷いことをしている自覚はある。
 でも怖い。もし、この後の言葉が拒絶なら、私だけじゃなく。エリオとも距離を取るだろう。せっかく出来た「兄」と慕っている人物。そんな人に拒絶、否定されるのなら……その時は、私が。

 でも、なんで黙ってるの? どうして視線をこちらに向けないの? もしも、もしも。拒絶なら、私は――。

「……少し話をしましょうか。つっても端折り過ぎたお話を」

「……ぇ?」

 もう一度、振り返って展望台からの景色を見始めた。返事は? ねぇ、響。返事は?

「俺の周りは、いえ、とある親友は……酷い迫害を受けました。髪の色がおかしいと。白い髪なんて、と。でも、出会ってからは大人しく……なったんかな。大分常識を身に着けましたね」

「ぇ、ぁ」

「……ある親友は、幼少期に起きた事故が切っ掛けで名前以外のすべてを忘れました。だから俺達も詳しくは知りません。でも、出会ってからは感情表現がうまくなったみたいで、明るい様に見えます」

「……」

「ある親友は、出会った時点でとても有名でした。世界の記録をヒックリ返す程度に天才でした。それ故に、大好きな人から言われました。化物、と。ひどく落ち込んで、泣いて、一緒に居続けたら、なんとか元に戻りつつあります」

「……ぁ、の」

「ある男の子は、10歳になる直前。母親からこう言われました。本来ならアナタは生まれることはなかった。でも、私も父さんもアナタをずっと愛してる。望まれて生まれてきたんだと。そう伝えられ、母親と別れました」

「……それって」

 そこまで言いかけて、言葉が止まる。いつの間にか振り返って、私の顔をしっかりと見つめていた。凄く穏やかな顔で。

「フェイトさん。貴女がどういった意図でそれを告白したのか、俺にはわかりません」

 それは……あの子が告白しても辛い思いを……。

「誓いましょう。俺はその程度で人を見る目を変えません。ましてやこの事を俺から誰かに告げる事はありません。死んで墓に行くその時まで胸に仕舞いましょう」

「……」

「その上で、俺の回答は。ただ一つ。これまで通り受け入れましょう。あの告白で貴女が優しい人だとはっきり理解りました。深読みでなければ万が一にでも俺が拒否した日にはおそらく全力で糾弾したでしょう。貴女があの子達を大事にしているのはあの子達を見れば分かることです」

 あぁ……、あぁ……、心が暖かくなる。自然と涙が零れてくる。なんで、それを言うのにこんなに回りくどいんだろう。

「アナタの本気に返すには、こう返すしかなかった。安心……はまだ出来ないでしょうけど」

 気恥ずかしそうに笑顔を浮かべている響を見て、涙が止まらない。あぁ、この子は……ううん、この人は――


――sideはやて――

「「「「っ……はーーーーーーー」」」」

 四人揃って呼吸を再開する。あ、あかん。心臓に悪すぎや。

「こんなにドキドキするなんて……ほんと、フェイトちゃん……別の意味でドキドキさせ過ぎだよ」

「ホンマに」

 フェイトちゃんも考えがあったんやろうけど、正直心臓に悪い。あ、そうだ。

「時雨、紗雪、このことは……」

「あ、もちろん。大丈夫です。ね?」

「はい、胸に仕舞います」

 響と似たような言い回しだけど、多分きっと、大丈夫……だと思いたい。実際響があそこまで言ったんや。億が一でも漏らした日には、私もなのはちゃんも本気でいく。や、でも。

「響が言ってた子たちって……」

「えぇ。はやてさんが思ってるとおりです。ただ……」

 時雨に聞いてみるけど、その本人は少し考えるように紗雪の方を見る。
 
「3人の事情は……その、本人達から昔聞いてます」

「響のお母さんが10歳の頃になくなっていますけど、響がそれを……自分の事も含めて人に話すのは始めてみました」

 それぞれ小さく首を横に振る。そうなんや、奏が8年位の付き合いって言ってたけど、まだ知らないこともあるんやね。これ以上はフェイトちゃんも、響もあまり踏み込まれたくない事やろうし、サーチャーの電源を落として。

「大変な話になってもうたね」

「そうだねー、はやてちゃんも、これに懲りたら二度としないこと。今回は初犯だから見逃します」

 天使のような笑顔のなのはちゃんに言われて、罪の重さに気づく。なんてことしてしまったんや、私。いやでも、このギリギリの会話が……

「は・や・て・ちゃ・ん?」

「いえ。もうしません」

 白い魔王からロックオンされた……だめや、今日はもう、ご飯食べて休もう。そうしよう。

――――

 三人共それぞれ仕事に戻るのを見送って、思いっきり椅子にもたれ掛かる。
 
 思い返すのは……やっぱりフェイトちゃんの行動の事。
 ……なんで自分の……プロジェクトFの事を話したんや? そして、なんで話すというきっかけはなんや?
 
 フェイトちゃんを疑ってるわけじゃない。だけど、疑惑のある響になぜそれを話したのかが全く分からへん。
 
 もしかすると今も何かを話してるかもしれない。だけど、通信を切った上に、機材は時雨に返しておる。あちらが起動して見てる可能性も――
 
「……あかんわ」

 地球出身の七人に疑いがかかってるとは言え、決めつけてしまっているそんな私が嫌になる。
 確かに情報はもらった。確かに怪しい動きをしてきたという事も聞いた。
 
 だからといって。
 
「……フェイトちゃんがそれを確かめるために話すとは思えへんのよね」

 10年来の付き合いやし、性格もよくわかってるとはいえ……分からへんなぁ。
 
 あかんわーもー。最近面倒なことが増えたし。
 今度のホテル・アグスタのオークションに、ユーノくんが代理で来ることはええねん。むしろなのはちゃんと話が出来るかも知れへんからちょうどいい! ってなったし。
 だけど問題はここからや。教会の上層部からオークションに参加すると連絡があったという事。しかもそれがカリムの支援者の一人、管理局にも出資してる人物。しかも……機動六課を見てみたいと言っているとアヤさんから連絡をもらった事。
 それ以外にも、突然に管理局御用達のデバイスメーカー2社からも参加するって、完全に機動六課(私ら)は見世物扱いや。
 幸い……というか、シャマルにドレス代経費で落ちたらええなぁって愚痴ったら本当に経費で落とされてビックリしたし。煌達にはほんま頭上がらへんわ。
 
 ……何もなければそれでええ。せやけど、完全に狙われても仕方なのない条件が揃いすぎてる。
 オークションの出品されるロストロギアを調べても特に問題はない。
 
 無いんやけど……イレギュラーな参加者が増えた事で、裏取引が行われないと決まったわけじゃない。
 
 ……ほんまもー、タイミング悪いと言うか、お腹痛い……。
 
――sideなのは――

 ――スイッチで前に出る度胸も素直に凄い。
 
 響に今のティアナ達はどう見えるかと質問した時。そんな返答が帰ってきた。
 その場では、教育方針が間違ってないことに舞い上がって気にしなかったけど、よくよく考えたらその返答は妙な所。

 確かにちょっと熱くなりやすい。でも視野は広くて指示も正確……確かにいつかはそのスタイル、エリオを本当に独立遊撃にして、スバルとティアナ、そしてキャロのアシストというのも考えてはいる。
 
 だけどそれは先の先。個人スキルに入るか入らないかって状況だし。まだプランとして置いてあるだけの話なのに。まるで響はそれを見たように言っていた。
 私が知らない所でそれをしようとした? 
 ティアナとスバルが突撃思考とはいえ、訓練ではその様子は見受けられない。
 レールウェイの時は挟み撃ちという都合上、皆前に出たけど……その事を指してた? だけど、そうするとスイッチという単語を使うことはない。

「……駄目。考えが回り始めたー」

[Don't push yourself too much.(無理をなさらずに)]

「……ありがとレイジングハート。まだ大丈夫だよ」

 ……レイジングハートからも心配されちゃった。
 気がついたら、結構良い時間になっちゃってるし。
 
 今日はもー……驚くこともあったしなぁ。はやてちゃんってば、まだ疑いの段階なのに監視ツールなんて使ってるんだもん。まだ早いと思うんだけどなー。
 ただ、それでも……フェイトちゃんが自分のことを話したのは本当に驚いた。
 エリオとキャロが響をお兄ちゃんと慕ってるから、先手を打った? もっとずっと仲良くなった時エリオが話した時に拒絶されないかの確認?
 ……それとも、執務官として、響の炙り出しを行なった? もしかすると、はやてちゃんの側に時雨と紗雪の二人がいたのは、余計な事を言った時にフォローするため……?
 
 うぅーん……?
 
 駄目だ、戦術論ならともかく。探り合いは得意じゃないなぁ……。アヤさんからの言葉を聞いてから、疑り深くなっちゃったなぁ。


――side時雨――

「……どう取る?」

 ポツリと紗雪の質問が響く。もちろんその意味は。
 
「私達に、なら分からないでもない。実際に実行したのだから。でもあっちはまだだよ。指示はあれどまだ、ね」

 周囲に聞かれてないかコチラを見てないかということに注意を払いつつ、その質問に答える。
 そもそも、紗雪が質問した時点でそれは杞憂だというのはあるけど、注意をするのは大事だ。加えて、第三者には意味が伝わりにくくしておく。
 
 実を言うと、響達が来ると決まった時、正直交替部隊の方に行くと思っていた。
 というのも、シグナムさんがトップに居るけど練度で言えばあまり良くはない。一応メインがスターズ、ライトニングに分かれて、交替部隊にはクラウド()の名の通り、機動六課のあっちこっちに所属してる人が代わりに出るといった具合だし。
 でも実質響達を第二の交替部隊のように扱ってる様に見えなくもないが……よくよく考えれば、私達でさえもよく分かってない流を六課にほぼ常駐してるなのはさんと、次点に居ることの多いヴィータさんの手元に置いてるのは監視の意味を兼ねてるんだろう。
 響に関しては、指揮権を渡すかも知れないと伝えてた時点ではまだ疑ってなかった筈だけど……何かミスをした? 響達が?
 
「……少し叩いて見ないと分からないねぇ」

「……やろっか?」

 ニヤリと笑う紗雪を見て、ちょっと考える。確かにこの子ならなんで響を疑う様な事になってるか、その一端がわかるかもしれない……けど。
 
「……良いの? 煌がちょっと悲しむよ? それに割とノーヒントに近い状況だし」

「まぁ……それはそれ、これはこれで。こういうのは早めにしたほうが良いだろうし。まぁちょっと漁ってみるよ」

 ふふんと胸を張る姿にちょっと笑ってしまった。
 私も皆も付き合いの長さからわかるけど、煌はどういうわけかその見分けがつくのは本当に不思議だ。
 
 ならば。
 
「じゃあ、お願い。煌には私から謝っとくから」

「了解。じゃ」

 フッと紗雪が笑って、その目が据わったのを確認して。
 
「さ、紗雪。ちゃっちゃとお仕事片付けて、ご飯食べよ」

「あ、はい。わかりました」

 思い出したかのように、黙々と作業を再開する紗雪を見ながらちょっと思う。
 
 まーたレベル上げたんだ、と。 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第9話 ホテル・アグスタ


――side響――

 新しい任務。もとい俺らの始めての任務が言い渡されたんだ。出張は任務じゃないのかって? アレは任務じゃない、公開処刑かなんかだ。痛かったし。フェイトさんの手伝い? あれはそのまんまの意味で手伝いだ。
 で、新しい任務というのが、オークション会場。ホテル・アグスタでの警備任務。オークションと言っても、骨董価値がある物が出るだけではない。取引許可が出ているロストロギアなどの貴重品も出るし、このような場所は、密輸取引の舞台ともなるし、ロストロギアを奪おうとする連中もいるからな、だから今回六課が出動するはめになった。
 
 ……それ以外にもありそうだが。

『ほな改めて、ここまでの流れと、今日の任務のおさらいや。これまで謎やったガジェット・ドローンの制作者。及びレリックの収集者は現状ではこの男。違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進める』

 はやてさんの説明を継ぐ様に、フェイトさんが小さく手を上げて。

『こっちの捜査は、一応私が中心になって進めるけど、一応みんなも覚えておいてね』

『はいっ』

『で、今回の任務の会場はここ。ホテル・アグスタッ!
 骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。それが今日のお仕事ね』

 んー、モニタ越しから隊長陣の話を聞く。ちなみに他の面々というより女性陣は後ろに全員座っているのだが、如何せん人数が多いということで、俺と流、エリオの三人、要するに男はコックピット側に座ってる。普段居ないシャマル先生もいるから地味に居づらいしね。だけど、一つ疑問がある。

『隊長陣と響と奏は中のオークションの方の警備で、戦闘になった場合は副隊長の指示に従ってね』

 後ろでなのはさんがそう言うけど、正直一番分からないのがこの指示だ。別に指示が悪いというわけではない、別にいいと思う、俺が指揮してるわけではないからな、だけどそれが、二つの小隊から一人ずつ、それこそ俺や流、奏や震離、と一人ずつ抜いていくのは理にかなってる。
 だけど、どうしてライトニングから俺と奏を抜くのかが分からない。でも、ま。

「……信頼されたと思えばいいのかね」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「何でもないさ、ちゃんと話聞いとけよ?」

 隣に座るエリオが声を掛けてくれるけど、今は作戦の説明の途中だから、軽い注意を。うん、口に出てたか。この時点で、俺も話を聞いてないことだよな。でも、本当に面倒だ、自分の会場くらい自分で警護しろよ全く。
 
 まぁ、そうならない事情があるし、知ってるからわかるよ。多分ホテル関係者胃が痛いんだろうなと。


――side震離――

 あっはっはっは、警備って言ってたから、どんだけ堅苦しい事するんだろうって思ってたけども、実際は言ってたよりも落ち着いたものだね。
 ん、ちなみに私の警備ポイントは二階のテラス。響と奏は内部の警備で襲われたときには前に出るみたい、そしてティアナ達は見回りとかいろいろやってて、ちなみに流はというと、正面玄関を警備してる。うん、近いし、始まるまで時間もあるからちょっと様子見に行こうと思って今、玄関付近に居るんだけども……居るんだけども。

「久しぶりね、流?」

「あっ……お久しぶりです、隊長……いえ、―――さん」

 うん、なんか会場に流の知り合い? というより、前の部隊の隊長だと思う人が来てたらしく。今そこで話ししてる。らしいっていうのは、相手は管理局の制服ではなくて、普通のレディーススーツを着て、若干色のついたメガネを掛けてる。5、60歳くらいだけど……駄目だわからん。
 ちなみに私は、側にあったカーテンに身を隠してる。突然だったもん反射で隠れちゃったよ。でも、ここから流とその隊長さんの様子をみる限りだと、ものすごく親しそうだ。理由は簡単、普段無表情というか、大人しい流の顔が本当に嬉しそうで、楽しそうで、安心してる表情だから。

 ……なんだろう、少し胸の中がモヤッとした。

「ええ、本当に久しぶりね。今回こっちの仕事の関係でもう帰らないといけないけど、その前に貴方の顔を見れてよかったわ」

「え、うぁ」

 流の顔を見て微笑んでて、自然な感じで流の頭を撫で始めた。絶対嫌がるかなと思ってたけど、一瞬だけびっくりした様子以外、普通に受け入れて、普通になでられてる。 うん、見てて思う。いいなぁ、と。

「ふふっ……」

「どうしましたか?」

「いえ、ね、あなた、私の所にいた時よりも、いい顔つきになっていたから、それがうれしくてね」

「そうでしょうか……?」

「ええ、そうよ……あ、そうだ、近いうちにスカリエッティの資料をあなたに送るわ」

「分かりました」

 ここまで聞いて疑問が確信へ。流の前いた部隊って一応地上の武装隊の筈。 
 そして、流の目の前にいる人は流の前の隊長で……そんな人がスカリエッティの資料なんて持ってるということは、やっぱり流は普通の部隊出身ではないという事。
 なんて考えてるうちに、あっちは既にやることが終わったらしく、帰る用意してるし!

「私はもう帰るけど……気をつけてね?」

「分かりました、隊長も体に気をつけてください」

「ふふっ……ありがとね、またね」

 そう言って流から離れようとしたときに。はっきりと、はっきりと私の目を見てから微笑んだ。うん、バレてたし。でも、疑問点は多いけども、そろそろ始まる時間だし、戻らないと……。

 カーテンからゆっくりと離れる時に、ふと流の顔を見ると、どことなく寂しそうな表情をしていたのが印象的だった。
 
「へぇ。あんな顔するのか、可愛らしいね」

「そうなんで……ん?」

 横からの声に、同意しかけるけど……え?
 なんか気がついたら、私の隣にシスター服の女性が一人。くせっ毛の黒髪を目元まで伸ばしてるせいで、目が見えにくいが……これは明らかに楽しんでる様な雰囲気が伝わってくる。
 
 ってか。
 
「……ど、どちら様でしょぅか??」

 接近に気づかなかった上に、声が震える。どこからそれが漏れるかわからないし、この人の目的が見えない。
 というか、なんだこの人? 時折見える瞳がフェイトさん以上に紅い瞳だ。
 
 ただ……ただ怖い。だけどそれと同じくらい。どこかホッとしてる自分がいるという訳の解らない感情を抱いてる。
 この矛盾が気持ち悪いし、理解できない。
 
「フフ、見ての通り、通りすがりのシスターですよ。
 ちょっと気になるものが出品されるらしいから、見に来ただけですし」

「……ゃ、そういうことじゃなくて」

 駄目だ、なんか凄いプレッシャーで上手く話せない。思考が出来ない。全身が粟立っているのに、冷や汗が止まらない。
 え……なにこれなにこれなにこれ? こんなの……あ、あれだ。殺気に似てるから……?
 頭が白くなってくる。あれ、これ、私……死んだ?

「――ごめんなさい。意識してた訳じゃなかったとは粗相をしてしまったわ。
 ゆっくりと、深呼吸をして」

 その言葉と共に、プレッシャーが無くなった。
 同時に。
 
「げほっ、ごほ……はっ、はぁ……っ」

 貪るように酸素を取り込む。眼の前を光が瞬く。
 ほんの僅かだと言うのに、呼吸すら忘れていたらしい。
 
 だけど、それは。 

「ごめんなさいね。大丈夫? 立てる?」

「……は、はぁ……」

 差し伸ばされた手を取って立ち上がる。
 しかし不思議なことに、もう一度そのシスターの顔が見えたが、茶色のタレ目にそばかすという、普通の人そのものだった。
 
「な……? は?」

 意味が分からない。今までのが嘘かの様に、何も無かった様子。
 
「ね? あの人とはお友達?」

「……や、友達……じゃなくて、同僚です」

「……同僚、あぁそっか。そうよね変な事聞いてごめんなさい。
 ねぇ? あの人と一緒に動くの?」
 
「……まぁ、同じチームなので……私より強いですし……」

 ……やっばい。何だ隠したら死にそうなこの状況。今まで会ったことの無いタイプなのもあるけど……。間違いなくこの人やばい強い。
 
 と言うか、あんなわかりやすいプレッシャー掛けてきたのに、誰からも連絡来ないのはなんで!?
 
 響に連絡入れる?
 
「……そ。ねぇ? 私なんかが……お願いするのも烏滸がましいのだけど――あの人を見ていてくれますか?」

 ……さっきからこの人は。

「さっきからなんですか? お願いするなら、名前で呼んであげて下さい。あの人なんて他人行儀な。そんなお願いをする以上、知らないなんて事は無いでしょう?」

 ……驚いたのか、ピタリと動きが止まった。
 やっべ、藪蛇かな? 
 
 くすっと笑って。
 
「ごめんなさい。私はあの人――あの子の名前を知らないの。こうして動いているのも初めて見たし。
 まさかこんな所で会えるなんて考えてもなかったから。だけどそうね、お願いする以前にあの人なんて失礼だったわ」

 ……えっ? 
 
「……どういう関係?」

「ふふっ、そうなるわよね。でも……」

 ちらりと、流――は既に居なくなってたけど、居た場所に顔を向けて。
 
「あの人、あの子がああやって動いてる姿を見て、嬉しかった。
 あぁ、本当だったんだって」 
 
 嬉しそうに、だけどそれ以上の違う感情が入り混じった優しい呟き。
 
 ……やべぇ、マジで関係が読めない。何だ?
 
「さて。私はそろそろ行こうかしら。お仕事ほっぽってますし。シスターがこんな所でサボってちゃ不味いですし」

「……いや、もう遅いと思うんですけど?」

「そんな事無いわ。また会えたら逢いましょう」

「や、その前に名前――」

 パチリとまばたき一つした瞬間、その人は消えた。
 
 意味が分からない。
 でも慌てて響や奏に念話を飛ばして、さっきプレッシャー無かったと聞いても。
 風邪でも引いたんじゃないと言われた。奏は純粋に心配してくれたのがわかるけど、響め……覚えてろ?
 
 しかし……聖王教会のお偉いさんが来るのは知ってたけど。シスターが来るのはどうなのということと。
 
 今日の参加者にシスター居ないはずなんだけど何なのあの人? 加えて流の上司というか、その人もそれっぽい名前見つけられなかったんだけど。

 最初からイレギュラー有りなオークションとは思ってたけど、更にイレギュラー重なってえげつない事に。

 そして、警備をやり直してから、少し経った後。周囲に反応が出たんだよね。様子を見て話を聞きたかったけれど、まぁ、仕方ない、頑張ろうか。後でも話は聞けるしね。


――side響――


 ガジェットドローンⅠ型がおおよそ、35機かぁ。あぁ。

「……メンドくせぇ」

「ボヤかないボヤかない、仕事でしょう?」

「……初めから外だったらいろいろ出来たのになぁ」

 その一言に尽きる。何で隊長という名のジョーカーが三枚も中にあるのに、俺みたいなしょぼいカードと、奏みたいに優良手を中に入れるか分からん。でも、ま、大体予想はつく。俺らを中に置いとけば安心するってことは何か隠してるか、純粋な考えかの二択だろうし。俺としては後者がいいけどな。

 さて。

「奏? 俺は外で遊撃に回ってる流と震離の援護に行くから」

「そして私は、ティアナ達の援護だね」

 さすが、俺が全部言わなくても、分かってくれるのは凄く有難い。でもなぁ。

「……警備にドレスもってくるとかうちの部隊って一体」

「まぁ、上は半ばそう捉えてるってことだよねぇ。嫌だったろうに」

「……ほんとだよ全く」

 本当、機動六課を……管理局の中核を成すかもしれないのに。まぁ、今に始まったことじゃないか。

「さて、周辺のガジェット蹴散らしてから行こうか?」

「うん」

 合流する前に少しでも楽させとこうか! とにかく今は数を減らそう。

「響後ろ!」

「お? うぉおお!?」

 全力でガジェットに刃を立てました。とっさ過ぎて変な声出たわ。恥ずかしいにも程がある。

「別に気にしてないよ~っと!」

「……あぁ、そうかい」

 気にしてないよって言いながら、奏よ? 顔が笑ってるんだけど……。しばらくネタになるかなぁ。さすがは奏、ガジェット群をどんどん打ち抜いていく。さすが。

「っ!」

 が、瞬間。肌が粟立つと同時に、震離達の反応がロスト。先程までのゆるい雰囲気をすて、森の奥の方睨みつける。

「響!!」

「あぁ、分かってる! 予定はそのまま! 気をつけてな」

「了解!」

 ロスト――いや、アイツラが居るであろう場所に結界がはられて、直ぐに対応する。
 とは言っても、最初の段階で離れてる俺らが今できるのは限られているけどな。でも、最悪な展開を防げればそれでいいさ。
 森の中を駆けつつ、今はガジェットの処理をしつつ、合流を――

「待たれよ!」

 その声が聞こえたと同時に、紅い斬撃が頭上より降り注ぐ。
 回避――間に合わない。防御は意味がない。
 斬撃に合わせて刀を振り上げ、わずかに軌道を逸らす。飛んでくる斬撃は大きな一撃のみ。なら出来る。
 すぐさまその場を離れ、木々に紛れて空を睨む。
 自然と舌打ちが漏れる。防護服をカスタムする奴は多いが、斬撃を撃って来た奴は。

「―――どこの南蛮武士だよアイツ?」

 黒い服に黒い陣羽織を纏ったヘルムを付けた男が空に居た。しかも右手には紅い、それも血染めた様な色の大太刀。
 
「待たれよ侍! 我と……戦え!!」

 空でなんか能書き垂れてるが、陣羽織の右内が一つ膨らんでる。多分小太刀か何かを持っているんだろう。

 警戒してたが、震離達の反応がロストした瞬間に接近してきたと考えて――いや、
 
(ロングアーチ! 応答を、ロングアーチ!)

(―――! ―――!!)

 ……マジかよ最悪。通信遮断というわけじゃないが、ジャマーでも装備しているのか?
 奏はあちらに向けてるが、それ以前に副隊長達がそれを察して動き始めてると信じたい。せめて、俺の所じゃなくて……震離達の方へ向かっててくれることを願うか。
 映像を残すために、サーチャーを展開しておいて。
 
「侍! どこだ、我と決闘しろぉ!!」
 
 ……こいつを無視してアイツラの元へ行くことも出来る。だが、そうした場合のこいつの動きが読めん。下手すりゃ……ティアナ達の元へ行くかもしれない。
 アイツラが弱くないことは知ってる。だが、ガジェットと共にアンノウンを処理するとなると話は別だ。
 
 ゆっくりと懐に入れてる苦無を一本取り出して。
 
 ――俺のやるべき事は。アイツの足止めだ!
 
 現在地の反対方向の木目掛けて苦無を投げると金属音が響き、

「そこかぁ!」

 空から急降下――否、魔力反応と共に掻き消え、苦無の投げられた場所へ現れた。が、当然俺はそこに居ない。
 
 踏み込んで仮面の――マスクマンの右後方へ回り込み、左手の刀で袈裟斬りを放つ。
 しかし、この一撃を読んでいたと言わんばかりに更に一歩踏み込み回避され、振り向き様に薙ぎ払うかのような一閃を右の逆手にもった刀で逸し、左手を振り上げるがこれも回避された。
 ならば、と肩から突っ込み、弾き飛ばして距離を取って、
 
「ははははははは!! そうでなくては、そうこなくてはなぁ!!」

「……能書き垂れてんじゃねぇよ」

 やり難い……クソが!
 
 咄嗟に左の刀を侍に向かってまっすぐに投合。すると、マスクマンは懐に左腕を突っ込み、取り出したのは。
 
 ――拳銃かよ。めんどくせぇ!
 
 真赤な拳銃の銃口を即座に向けて、放つと同時に刀が弾かれ下へと落ちた。弾いた鈍い音と共に、今度はマスクマンの方から間合いを詰めようと踏み込む。
 右手に持った刀を構え、重い一撃を叩き込もうとまっすぐに斬り込まれる――よりも先に、空いた手に鞘を持ち替え、突き出しこれを迎撃。
 不意をついたと思ったが、マスクマンは、銃で鞘を受け止め、これを防ぐ。しかし自身の加速故に重い威力となり、武士はふっ飛ばされた。いや、正確には自分から飛んだ。
 
 たった数分。いや、これだけで分かる。

 こいつ、上手い。あのまま突っ込んできてくれれば、そのまま重いダメージにもなった、だが、あの勢いを殺してでも後ろへ下がり尚且つ、あの体制から、空いてた俺の刀に銃弾を当てやがった。とっさの事で斬ることも出来ずにモロに受けた事もあって刃の部分が既に欠けている。
 
 右の刀を構え直し、左手には鞘を刀のようの構えて腰を落とす。あちらも銃口をこちらに向けつつ、右の長刀を逆手に持ち替え構え直す。

 そして、一瞬の間。
 
「……ふむ、目的は果たしたか。侍、預けるぞ!」

「何? おい、手前ぇ!」
 
 武士の足元が紫色に輝きだした。そして、一際光が強くなった瞬間、奴が消えた。突然の事で把握するまでに時間がかかったが、おそらくあれは第三者の手による転移魔法、又は召喚魔法のどちらかだろう。周辺の確認をした後、刀を鞘へ納め、息を吐く。けど。
 
「あいつら無事か!?」

 通信ウィンドウを展開し、ロングアーチに通信を飛ばすが、未だ不通。ノイズ混じりで何か叫んでるのはわかるが――
 
『ティ、ティ――、大―夫? 無茶―な――!』

 あん? シャーリーさんがなんか叫んでるが。誰にだ?
 だが。
 
「ライトニング5。スターズ5、6と合流する!」 
 
 無事で居てくれ。
 
 そう願うと共に、視線の先に罅が入った。
 いや、正確には景色に、だ。そして、その罅の発生元ははるか上空。まるで卵が孵る様に罅は広がり、そして。
 
 赤黒い魔力光が輝いたと同時に、割れて――

――――

――side震離――

 通信が途絶。完全に分断されたけど……最悪!

「欝陶しい、もう!」

 自分の杖に刃をつけて一気に薙ぎ払って、周辺のガジェットを破壊する。
 隣で砲撃と射撃を駆使して戦闘する流は落ち着いてるようで、心強い。しかも手数優先というか、突っ込む必要もないから、長銃――アークだけ展開してる。

「……どうかしましたか叶望さん?」

「ううん、なんでもないよ」

 ……やっぱりまだ私との心の距離はあるなぁ。この数日流と接してきたけど、殆ど表情出さないし……だけど、流をデレさせれば……向こうの隊長さんに見せてた表情を見ることがきっと出来る! よし!

「頑張ろう!」

「えぇ。そうですね。ジャマー系か、わざわざ完全に途絶するように結界を張ったか……わかりませんが。なんとかしましょう」

 その通りだ。ジャマーを用いた分断だと思いたい。わざわざ結界を張るなんて、なんのためにって話になるし。
 
「ブルーティガードルヒ、フォイア!」 

 刃を展開させた杖を構えて、雷を短剣方スフィアをガジェットに向けて発射する。流が使ってる技だけど、結構使い勝手がいいかな。私的には十分使いやすい。威力も申し分ないし、周辺に見える限りのガジェットは破壊し終えたし、いいかなこれで。

「どうよ!」

「……凄いですね」

 やった、素直に驚いてくれた! 現に普通に驚いてるのか目が点になってるし。よっしゃ。このへんは終わったし次は……。あれ、流の顔が一気に変わった。

「しんr……叶望さん! 後ろ!」

「は?」

 しんってまで言いかけたんなら、最後まで呼べばいいのになーとか思いながら、後ろを見た瞬間、ローブを纏ったアンノウンが拳を振りかぶってて、振り下ろした瞬間だった。


――side流――

 油断していた……正直腹がたつ。いや、自分が嫌になる。気を失って墜ちる叶望さんを、アンノウンから引き離して、少し離れた場所へと連れてくる。手首を持って、脈を確認――正常。外傷は――無し。
 ただ、突然の衝撃で防ぎきれなくて、気を失っただけ……か。

「よかったぁ……」

 思わず声が漏れた。本当に良かった、だが。何故あのアンノウンは加減をした? いや、こちらとしてはそれで十分助かった。直ぐにギルとアークを取り出して――

[っ?! マスター!!]

 アークの言葉を聞く前に腹部に衝撃――上空に飛ばされ、そこでようやく攻撃されたという事実に気づく。
 ダメージは重い。何時接近された? 何故気づかなかった? 敵の総数は? どれほど差がある? 私一人で対処は可能? 
 
 否、それらよりも。
 
「ギル!」

 叶望さんの近くには、吹き飛ばされた時に手放してしまった大剣――ギルに指示を出す。万が一にもあいつが叶望さんを攻撃するかもしれないから、だから!
 
[っ……! 了解。ご武運を!]
 
 元々込めてあった魔力で防御魔法を張ってもらう。今の手持ちの武装はアークだけ。銃だから接近戦は厳しい……だけど。

「さぁ、お前はどこまで持つかな?」

「……黙れ」

 遊び感覚でこいつ……!
 ノイズ混じりの声を聞きつつ、空中で体勢を整え、私を吹き飛ばしたアンノウンに銃口を向ける――が。

「遅い」

 既に地上には居らず、気がつけば横に来ていた。
 
 でも!

「アーク!」

[分かってます!]

 地上目掛けて砲撃を放つ、そして、その車線上には盾を配置するようにミッド式魔法陣を展開。同時に砲撃が魔法陣に当たった瞬間、砲撃が私とアンノウンに向かって戻ったとほぼ同時にもう一つ魔方陣が展開。当たった瞬間、散弾状になって向かって降り注いだ。

「ほーぅ。だがっ!」

「ぐ、がぁあ!?」

 右側頭部に衝撃と共に、気がつけば地面に叩きつけられていた。でも――
 
「……やっぱり……かっ!」
 
 その程度の砲撃は聞かないと言わんばかりに、アンノウンは散弾を拳で相殺していく。
 直ぐに立ち上がって……くっ、まだ二打しか受けてないのに、足が震える! 身体強化で無理やり足を動かして、踏み込んでアンノウン目掛けて突っ込む。

「アーク!」

[了解! ブレードフレームオープン!]

 銃口に刃を展開し思いっきり、今も相殺しているアンノウン目掛けて突き刺す。
 
「……ふむ、まぁいいか」
 
 勿論シールドで阻まれたけど。それでも。

「発射ぁっ!」

 シールドがあってもなくても。ゼロ距離から砲撃を撃ち放てば、何の問題もない。赤黒い魔力光に包まれながら、空へと昇る。
 が、途中でそれが止まるのを見て……いや、それ以上に。

「……な!?」

「……本当に効かないのか、これは良き物だ」

 砲撃はまだ続いている。なのに、対象は……アンノウンは――

「なん……で?」

 砲撃を物ともせず、その中から、コチラに右手を伸ばしてアークの……ブレードフレームを、まるでガラスの様に砕いて、

「あまり、暇つぶしにならんか……チッ、やはり簡易結界ではこの程度か。まぁ、良い。今日は調整だ」

 銃口を塞がれ、砲撃も止められた上に、逆流した砲撃でカートリッジが弾けた。
 
(―――! ―――!!)

 念話にノイズが走る。これは外と繋がったということだ。
 助けを求める? 否、他もアンノウンが来てる可能性がある。
 皆さんが居る方へ逃げる? 否、ガジェットと同時処理になってしまう。
 銃を手放す? 駄目、アークは……アークは!

[マスター!!]

 アンノウンはアークを自分の元へ引き寄せるように、同時に私はアンノウンへ引き寄せられて。

 私の左腕目掛けて、アンノウンが膝をかち上げると共に鈍い痛みが走る。手放しそうになる。でも、そうすると切り返しが出来ない。
 まだ、まだ、まだ!

「貫手というのも試しておくか」

 そう言って、左手の貫手がまっすぐ私に向かって走る。
 これは……不味い。
 そう思った瞬間。体を捻って躱そうとするけど。

「ぁ……っ、ぐ、ぅ!?」

[マスター!?]

 間に合わず左の脇腹突き刺さる。致命傷は避けられた。だが――
 
「ふふ、なるほど。筋肉――いや、内蔵とはこういう触感か、面白い」

「あ、ぎ……がぁぁ!?」

 突き刺した左の貫手で、そのまま内蔵を触れられる。
 不思議と痛くなく、ただ熱い。鉄をそのまま押し付けられるような、そんな熱だ。

「ふむ……話と違うが……まぁいい」

「ぅ、ッ!?」

「置き土産だ。そのまま死ね」

 私に突き刺さった拳を一気に引きぬく。瞬間。私の内でスフィアが爆発。私の内から血が飛び散って――

――side震離――

 眼の前が揺れる。殴られた? 誰に? 何故気づかなかった?
 
 いや、それよりも。

「流は?!」

[叶望一等空士!? 無事でしたか!]

「え、あぁ、うん。ってか、このシールドは?」

 なんか私の前に流のデバイスが落ちてて、それを中心にバリアが張られてるけど。そう思って空を見上げて、探して……見つけた。

「あ、流……え?」

[マスター!?]

 見えたと思った瞬間。ローブの奴が流に腕を突き刺してて。後ろから見える流の姿は。黒い防護服なのに、左の脇腹辺りから血が流れててどす黒く変色してて、そのまま腕を抜かれたと思ったら。血が勢い良く吹き出して――

「あぁあああああああああああ!!!!!!!!!!」

 近くにいた流のデバイスをつかみとって、左の自分の杖も持って。手持ちのカートリッジを全部使って。真っ直ぐローブに向かって跳んだ。

「力貸して!」

 瞬間的に踏み込む。ここには居ない人を思い出しながら、2つの剣を構える。

「ほう、もう目覚めたか。どれ、遊んでやろう」

 魔力刃を杖とギルにありったけの魔力を込めて、展開させてローブに叩きつける。

「悪くない。だが」

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
 無我夢中で、全力でローブ目がけて、両手の剣を叩きつける。だけど。

「届かない?!」

「力不足だな」

 磁石が反発するかのように、刃が直撃寸前で浮いて止まる。
 わずかに見える口元が笑ってる。それが私を余計に熱くさせる。イラつかせる。腹ただしいほど。ムカツクほどに。

「なん……で?!」

 敵はノーガードなのに、攻撃が通らない。

(スターズ5、スターズ6? 応答を!)

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

 こいつをどうにかしないと、流を下がらせることも、何も出来ない! なのに、なのにぃぃいい!!!
 
「うわぁぁあああああ!!」

 なんで……こんなにも、遠いんだ!

 右のギルで袈裟斬りを打ち込もうとした瞬間、それまでノーガードだったローブが僅かに左手を、拳を打ち出す。
 その先は、刃ではなく。ギルの持ち手。私の右手甲目掛けて走ってきた。
 鈍い痛みと共に、ギルが投げ出される。隙かさず左の魔力刃を横一線に振り抜こうとするが、これも右手で止められて。
 
「さぁて。次はどう墜とすかな?」
 
 左手が腰だめに戻されてるのが見える。だから気づく。次は避けきれない。そして私よりも早く相手の攻撃が私を貫くと。躱せない。迎撃も間に合わない……! 

「さぁ――」





「―――退け、震離」







「……っ!? うん!」

「何?」

 静かに声が聞こえたとほぼ同時に、魔力刃を解除、そのまま急降下して。反転すると

「今度はなん……がぁああ!?」

 突然現れた人は、ローブの胸に刀をもったままの右拳を添えたと同時に。衝撃を徹して(・・・)、相手を吹っ飛ばす。

 ――あぁ、あぁ!

「響!」

 ありがとうって言葉を伝えるよりも先に。

「震離。流を連れて、シャマル先生の元へ。速く!」

「でも!?」

「大丈夫。一応手持ちの武装じゃきついけど、ギルも拾った。時間を稼ぐ! 行け!」

「……ぅん!」

 その言葉を告げると共に、響は左手に大剣をもってローブへと斬りかかる。
 ……ごめん、弱くて……何も出来なくて……!

 直ぐに地上へ。流の堕ちた位置に行くと。蒸せ返る程の血の匂い。既に赤く染まった地面と、服の上からでも分かるほどの出血量。
 そして、か細い呼吸の音。認識するよりも先に、飛びつくように側へと行った。

「……ッ! アーク、流の状態は!?」

[……脈がどんどん弱くなっていっています。このままだと]

「わかった、アーク! 全力で止血してて、私が連れてくから!」

[お願いします。マスター……どうかマスターを助けて下さい……お願いします]

 願いを聞いて。私は流を打き抱えて、空へと上がる。こうやって抱いてる状態でもどんどん血が溢れて。もう私の手は流の血で赤く染まってる。流の顔を見ても。真っ白で文字通り血の気が無い。私が……私が気さえ失わなければ……! 少なくても流にここまで怪我させなかったのに……ッ!

「……ぅ……ぁ」

「ッ!」

 そんなこと考えてる場合じゃない。今は。今は! シャマル先生の元へ! 急がないと! できるだけ揺らさないように、それでいて全力で空を駆ける。死なないで。死なないで死なないで死なないでお願いだから……っ!
 
「スターズ6より、ロングアーチへ! アンノウン襲来によりスターズ5が撃墜されました。ライトニング5が現在交戦中。救援を求む!」

 こんなことしか出来ない自分が……何も出来ない自分が、ただ悔しい……!



――side響――

 震離が流を連れて、後退していくのを確認する。さて。

「おい手前ぇ、覚悟決めてんだろうな?」

「……フフフ」

 笑ってやがる。まぁ、説得に応じるとは思えないしな。

「痛い。痛い痛い。これが痛み!」

「あ?」

「礼を言う!」

「あぁ?」

 何だこいつ? 胸抑えて震えてると思ったら、今度は笑ってやがる。何だ?
 
 というか、ローブのせいでわからんが、こいつ……女か。ボイスチェンジャー使ってんのか知らんがノイズ混じりで性別わからんかったが……マジか。

「誰も、愚作共ですら私に痛みを与えることも出来なかったのに、よもや、まさか、こんな所で!」

 ……何いってんだこいつ?

「あは、あははははははははは! あははははははははははは! 良いわ良いわ! 最高よ貴方ァ!」

「……知らねぇよ」

 とりあえず。なんだコイツ――

「遊びましょう?」

 一瞬で懐まで踏み込まれた。でも。

「そう言われて――」

 間合いを詰められたが、即座に右手の刀をそのまま上に上げ斬りかかる。しかし、この一撃を無視して、刃を掴まれた。
 即座に、右の刀から手を離して、体の各部を連動して。右手をもう一度胸目掛けて走らせて。
 
「――わかりましたって言うかよ」

 衝撃を叩き込む。
 
 だが、こいつ。わざと受けに来やがった……!

 直情型だと思ったがいやに冷静だ。反対に俺は熱くなりすぎてた。嫌になる。
 お蔭でダメージの程度を測られた……! 悪手だったか。

 震離の攻撃度合いを少し見てたからわかるが、こいつ……なんだ?

 衝撃を徹さないとダメージが与えられない。いや、もっと高出力、高威力の攻撃、砲撃ならわからんが……普通には攻撃は通らない。

 刀は全部無い。だが、流の剣ならある。まだ戦える……が。

「……あぁ、もう! 仕事が早いのも考えものね……せっかくのテストが! もう!」

 迎撃姿勢を取ったと同時に、フードの足元がまた紫色に輝きだした。
 
「あぁ、あぁ、あぁ! ヒビキと言っていたわね! ヒビキ、ヒビキ!! 次も私と遊びましょう!!」
 
 そして、一際光が強くなった瞬間、奴の右目が見えたが直ぐに消えた。周辺の確認をした後、ギルを逆手に持って深く息を吐く。けれど。

「……クソ」

 周りに誰もいないのを確認して地上に降りてから呟く。隊長陣に意見して俺か奏の何方かを流と震離の側に置いておけば良かった。いや、ティアナ達の援護に付けとけば、俺や奏が遊撃に回れた。だけど、結果は出てしまった。もう戻れない結果だ。もう少し警戒を広げておけば。遊撃の手筈を整えておけば。もう少し結果が変わっていたはずだ。

[緋凰様。救援感謝致します]

「……救援になったかね」

[えぇ。叶望様と貴方がいてくださったから、マスターの助かる確率は大きく上がりました。感謝しかありませんとも]

「……そう言ってくれると救われるよ。ありがと」

 ため息が漏れる。
 頭の中じゃ分かってるよ、分かってる。だけど心は違う。

 あぁ……俺じゃ時間稼ぎ程度しか出来ないことが、悔しい。


――side震離――

 ……参った。本当……本当に。だけどシャマル先生に見せる前に流の体を触診だけしてみた限りだと。外見よりも大丈夫そうだった。だけど、あの出血量は危ない。流の体は小さいから。エリオやキャロよりも少し大きくても、子供として括られる程小さい。それでも。

「……何やってんだろ」

 本当にその一言に尽きる。いいところを見せようと、張り切って自分の背後を疎かにして。気を失わされて。私は……私はッ!

「震離」

 少し離れた場所から、声を掛けられる。その声の主を確認して、直ぐに俯く。

「……奏、どうしたの?」

「ん、ちょっと、様子が気になってね」

 私の隣に奏が座り込む。一応ガジェットの調査とかしてるけど。さっきから流の事で頭が一杯で。正直今は誰とも会いたくないし。話したくない。

「……こっちもあっちも大変だから、とりあえず、さ。誰も見てないから泣きなよ」

「……何いってんの?」

 奏がよく分からないこと言いながら私の真ん前に立つ。うつむいてても、奏が底にいるのが分かるから、視線を横に流すけど、奏は口を止めない。

「……震離、私達とは付き合い長いからあなたの事を知ってる。けど、ティアナ達はあなたの明るい部分しか知らないよね?」

「……」

「せめて、皆の前じゃ笑ってなさい。そうしないと皆不安がる。FW組は今、大変な状態になってきたから」

「……」

「大丈夫」

「……ッ! ……私、何も何にも出来なかったぁぁぁぁ……何一つ通すことも、何も……何も出来……ゥゥゥゥウウッ!」

 奏の胸に顔をうずめて、声を殺す。正直誰かが見たら情けないって思われるかもしれないけど。だけど、たくさん泣いて、泣いて、少し心が軽くなった。



――side響――

 ……よし、動こう。そう思ったと同時に空へと上がり、ホテルを目指す。同時に機動六課へと回線を繋ぎモニタを開く。そして繋いだ先にいたのは。

『どうした響?』

「すまん優夜。少し調べてほしいことが出来た」

『あいよ』

「とりあえず黒い服に黒い陣羽織、そして頭がすっぽり隠れるほどの仮面と、身の丈ほどの刀、そして赤い銃を持った人間で、管理局に敵対してる奴。それと、右目が緑で、攻撃が通らないローブの奴を調べてくれ」

『なんだそいつ? まぁ、調べるけど時間掛かるぜ?』

「いいさ、あと帰ったらみんなに……いや、四人に見せたいものがあるから俺の部屋に、夜に来てくれ」

『……了解、すぐに調べるけどあまり期待するなよ? じゃ』

 そう言ってモニタが閉じる。さて、あいつらの元に戻って――
 
「緋凰」

 不意に声をかけられ、そちらに目をやると。
 
「……シグナム副隊長」
 
 直ぐに今回の件、交戦した二人のアンノウンの報告と、シグナム副隊長達の状況も確認。
 予想はしてたが、あちらにはⅢ型を中心に大量のガジェットが向けられていたらしい。それをシグナムさん、ザフィーラさんで迎撃、ヴィータさんを一端ティアナ達の方へ向かわせてたらしい。
 その上で、震離達の方へ向かう手筈だったとのこと。
 わかってる。行かなかった訳じゃない。イレギュラーが重なった結果、メインの守りを抜かれないように立ち回った結果なんだと。
 なのはさん達が出てこれなかったのも、ホテル・アグスタにトライアングルエースが居るという事実だけで近寄りがたくしていたのと、万が一抜けた後に襲われた時のリスクを取ったという事。
 わかってる。襲われて、各社の重役と、教会のお偉いさん。そして無限書庫の司書長に何かあった場合を考えれば仕方がない事だ。
 
 あー……くっそ。襲われる確率の高さなんて解ってた筈だ。
 駄目だ、せっかくクールダウンしたのに、すぐぶり返す。
 
「……なぁ緋凰?」

「はい、何でしょうか?」
  
 事情が事情だからシグナムさんも悔しそうだが……いや、どこか怪訝そうな顔を。
 
「……一つ聞きたい。昔、どこかで――」

「ありません。そういった筈ですが?」

「……そうだな。すまない。二人目のアンノウンに打ち込んでた攻撃に……どこか見覚えがあってな」

 ……あー。やっぱ、意図的に忘れてる……訳じゃなさそうだが。微妙だな。変に取られても困るし。
 ちょっと質問……いや。やめよう。そんな気分じゃねぇ。
 
「シグナム副隊長。すぐ戻ってきますし、叶望……スターズ二人の分も動きますので、一度様子を見に行っても?」

「あぁ。二人分と言わなくとも、交替部隊も居るし問題はない。様子を見に行ってこい」

「ありがとうございます。では」
 
 一礼してからホテル目指して往く、ふと森の中をなのはさんとティアナが歩いてた。だけどどうにも二人の表情は暗くて、特にティアナなんて本当に暗い。

「……何かあったと見るべきか。けど」

 なのはさんが話をしているから多分大丈夫だろう。それよりも速く行こう。
 本当に無事でいてほしい。
 到着して、俺が居なかった間の情報……特にティアナ関係で何かあったのかと奏から聞く。
 
――――

「ミスショット、ね」

「スバル曰く。初めてだって、さ」

 初めて、ね。なんとなく察してたけど、やはり完璧主義か。だけど、少し変だな。スバルがミスした時は、ティアナはツッコミを入れるはず。厳しい言い方かもしれないけど。

「ちなみにスバルはその時全く見えてなかった、そして、ティアナ自身もテンパってた……かな」

 奏がデバイスを点検しながら教えてくれる。
 その後も色々話を聞くと、エリオ達が疲弊して、後方へ下げ、ティアナとスバルが前に出てのコンビネーション。ここまでは悪くない。このスイッチは悪くはないが。
 だが、この後、ティアナがミスショットしてしまい、前に出ていたスバルを撃ちかけた。それを守ったのがヴィータさん。同時に前線からさげられた、と。

 結論からいうと、おそらく奏も近くにいたろうし、この時点の最適解は隊長陣に来てもらうべきだし、何よりも進撃する必要はなく、護りに徹すれば問題なかった。
 エリオを下げるんじゃなくて、いっその事ワンブロック分下がって、一度キャロのブーストを受ける余裕があった筈。
 加えて、おそらくこの時スバルはまだ余裕があったと思う。だからこそ前で戦い続けられてたわけだしな。そのせいでこう考えてしまった。
 私もまだ余裕、ティアナも大丈夫だろう、と。
 けれど、ティアナにそんな余裕はなく、結果ミスショットに発展。こんなところかな? だったら尚の事。

「なぜティアナが無理したか、だよな」

「……うん、無茶……というか思い切りの良い作戦は考えるけれど、無理な作戦を実行するタイプじゃないと思うんだけどなぁ」

 ティアナの戦術の組み方を見てると本当にそう思う。ただ、やっぱり思うのが、まだ俺たちには会話が足りないなぁ。エリオやキャロとは割と話すが、それは同じ分隊だから。加えて最近俺がフェイトさんと話すからであって、俺はティアナ達とはあまり話さない。正確には、話す。でもどこか距離がある。そんな感じだ。

 正直な所。悠長に構えすぎた。
 
 それも大切だけど。
 
「……流は?」

 一瞬目を伏せる。けど、直ぐに目を合わせてくれて。

「左側腹部に穴とそこからの出血多量、左腕若木骨折。震離も拳に罅入ってたらしいけど、まぁなんとかなるってさ。
 幸い、六課で見れるってさ。というかまぁ……流がグレーだから六課で見るってのがあるんだろうけど」
 
「……だろうな」

 頭が痛くなってくる。
 
 倒すため、じゃなくて嬲る為の戦闘。
 ……あぁ、くそ……この借りは必ず返す。
 
 今日は色々ありすぎて、全体的にぎこちなかったし、反省点も多すぎる。震離のケアもしないと。基本は奏に任せるとしても、暫くは流を動かせないからそれの穴も埋めないといけない。やることは多すぎる。

 その後は、奏と一緒にガジェットの残骸調査を行なう。特に新たな発見はないが、それでも小さな変化を見逃さないように、破壊したガジェットを一つ一つ見て回る。そのまま森の方から調査を行なったため、気が付くとホテル周辺まで戻っていた。
 あらかた終わった後、報告を受ける。今回の残骸からは今の所、特に変わったことはないとのこと。俺の対応した部分は特に変化はなかったが、他のポイントでは突然動きが変化したとのこと。リィンさん曰く、召喚虫を出されたらしい。おそらくそれが要因となり、ガジェットの動きが変化したんだろう。だけど、その残骸はまだ発見されていない。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第10話 信じる理由



――side響――

「……はい? 怪我?」

「そう。あれだけ(・・・・)血を出してたら、響も辛いでしょう?」

「……いや、あの……え?」

 残骸調査中にヘリのカーゴで待機してるシャマル先生に呼び出されたかと思えば、開口一番、怪我をしたんならちゃんと治療をしないと! となんか怒られてる。
 
 確かに。怪我……というか、自傷というか……拳握ってたら血が出たのは事実だけど。
 ほんの少し……流とかに比べると無いようなもんだし。
 
「確かに怪我……は、まぁしてますが。そんな大したもんじゃないですし」

「嘘よ。だって、地下駐車場(・・・・・)に貴方の血があったのよ?」

「……はい? 地下駐車場なんて、最初に行ったっきり、行ってませんよ?」

「え?」

 シャマル先生と顔を見合わせて首を傾げる。
 アグスタに到着して、最初にエリオとキャロとで下見をした。どこに通路があって、逃走経路予想とか立てたりいろいろしたが……。
 
 地下に俺の血? なんで? は? それ以前に。
 
「なんで俺の血って……あぁ、簡易血液検査というかデータと一致したんですか?」

「……えぇまぁ。だけど……どうして? そこそこ出血量だったわよ?」

「そこそこ出血してたら、そもそも残骸調査になんか出ませんよ?」

「……そう、よねぇ」 
 
 えー……まぁ、アグスタ側の監視カメラのデータもらうか。適当に理由つけて……どストレートに、ホテル側に提出してたこちらの警備分布図が漏れたからとか理由つけるか。

 あ、そうだ。
 
「そういや、ロングアーチと、シグナムさんから聞いたんスけど。震離達を隔離してた結界割れた時、なんか変な反応があったって聞きましたけど」

「えっとぉ。2つあったの。1つはレリックに酷似した反応が一瞬全域に出ていたというのと、繰り返し起きてた転移反応。でもこれは――」

距離瞬間移動(ショートジャンプ)だったんですよね? アンノウンが使ってましたね」

「断続的に起きてたから、おそらくはーって。ただ、あの一瞬、結界が破壊した瞬間、監視カメラも何もかもが一瞬飛んだみたい」

「……へー」

 ……そういやマスクマンがなんか言ってたなぁ。目的は果たしたって。
 最悪、裏取引があったと考えて動くのもありかな。
 だが、それを狙って取引したっていうのは無理だろうなー。流も分かってて結界を壊したっていうならいざ知らず、タイミングが読めない以上無理だろ。
 
「とりあえずまぁ戻りますね」

「えぇ。私も気になることがあるから調べてみるわ」

「了解です。それでは」

 一礼してから、外に出た階段使って下りながら思うことは一つ。
 
 ……地下駐車場に俺の血? しかも決して少なくない量が? え、なにそれ怖いし。それ以上にさ。
 
 確実になんか疑われる……というか、少なからず思われるよね?
 
 なんて考えてると気がつきゃホテルのロビーまで来てて、ふと流されてたニュースが目に入って。
 
 ――あぁ、やっぱ何かがあったんだなぁと。
 
 目眩がするほど頭が痛くなりました。
 
 

――sideはやて――

「……そんなん。冗談じゃない!!!」

 本局の上層部から通信が来たかと思えば、とんでもない事を言い出しおった。
 
 ホテル・アグスタが襲撃された事件は、無人兵器を使用されたが、その場を警備していた機動六課の手により、無事に(・・・)鎮圧処理されたということにする、と。
 
「現に重体一人、重症一人を出しているんです! アンノウンはガジェットと共に出てきた以上それは!」

『……聞き分け給え八神君。それ以上に教会のガルサ氏は無事で、カレドヴルフ・テクニクス、ヴァンデイン・コーポレーション。無限書庫のスクライア司書長にも怪我がなく、他のゲストも無傷である以上……無事に(・・・)鎮圧処理されたで良いではないか』

「それは!」

『それとも。圧倒的な敵がおり、エース・オブ・エース(高町なのは)が所属する機動六課は辛くも勝利しこれを処理。とでもマスコミに流せば君は満足なのかい?』

「……ッ!?」

『それに君たちというカードがあったからこそ。敵はホテルまで来なかった。だから引き下がったと解釈することも出来る。違うかい?』

「それは結果論です! あの時、出撃出来ていれば……」

『とにかく。あまり世間に……ミッドに不安な情報を流したくないのだ。ただでさえゲイズ中将と仲が悪いのだから。
 この話はこれで終わりだ。失礼する』

 一方的に通信が切られ、個室には痛いほどの静寂が包まれる。
 
 本局の上層部が決めたこと。それは流と震離が敗北したという事実の隠蔽。
 オークション会場を襲撃こそされたが、何の問題もなく。管理局は強いという事実のみを全面に押し出すことにしたということ。

 意味は分かる。自身の固有戦力(・・)以外にも、教導隊の若きエース(なのは)若手執務官のエース(フェイト)が居る以上、そういう役割を背負わされると。
 
 そして、それは既に……管理局にいいように捩曲げられた捏造情報を公開されているという事を……二人は切り捨てたということを。
 
 分かっている。
 それが組織で、これが現状なのだと。既に決定は下され、もう覆らないと分かっていても。
 
「……あんまりやないかぁっ!」

 白いものでも黒と言えば、それは黒になる。それが組織であり、今の管理局である。
 
 本当は二人を出撃させてやりたかった。だが、お偉いさんが居る会場を空けてはいけないと、命令が来た時点で先手を打たれてしまった。
 だから、フルメンバーで出てきた。隠し札として置いているザフィーラも前に出したというのに。
 結果、二人……うち一人は嬲り者にされ重症に。教会御用達の病院で治療を受けたが、直ぐに六課に戻されるという事に。
 理由は単純、マスコミに嗅ぎ付かれる恐れがあるからと。本局から持っていった医療設備もあるだろうと。
 そんな理由で、完全な治療を受けさせる事も出来ないそんな自分が、たまらなく悔しく、情けない。
 
 そんな現状を変えたくて、だから機動六課(夢の部隊)を作ったというのに。 
 
 こんなのって……!
 
――side響――

「なるほど。途中からガジェットが強化ね……それでも抜かれなかったのは流石」

「……そんな事……ない」

「……ティアさんのフォロー出来なかった」

 なんとか時間を作って、残骸調査を終えて、エリオとキャロに話を聞いているけれど……まぁ、分かりやすくショックを受けてる。
 もちろんガジェットの対応が出来なかったこともあるが、それ以上に……。
 
 ――ティアナの事で完全に歯車が狂ってるな、と。
 
 本当は最初にティアナとスバルと接触しようと思っていたが、どうにも見つからない。奏なら見つけられると思うが、アグスタ内の治療室に居る震離に着いてもらってるからそれも出来ない。
 ま、結果的にエリオ達から話を聞けて良かった。まだ……まだ10歳なのに、ここまでへこませるなんて相当なことだし。
 
 ……ちょっと聞きたいこともあったが、今は無理だなー。そして、それが……予想通りだとしたら、結構不味いぜこの問題。
 
「……さて、ちょっと切り替えて行こうか。今回ぶっちゃけ俺ら戦術的敗北したけど。俺としてはエリオ達が踏ん張ってくれたから、完全敗北には繋がらなかったと思う」

「「……え?」」

「なんで? って思うかもしれないけど、一番ガジェットが……I型みたいな機動力で攻めてくるのが集中してたのは皆の所。もし、早い段階で抜かれたり瓦解してたら、それをフォローするために、俺もそこに行ってた。
 でも、その連絡が無かったから俺は震離達が居るであろう場所へ足を進めることが出来て……結果論になるけど、殺されるのを防ぐことが出来た」
 
 ポカンとする二人の頭を撫でながら続ける。
 
「……ぶっちゃけな。多分結界が割れたっていう事もあるけど……震離だけなら、おそらく負けてた。俺も相対したけど勝てる目は無かった。
 皆が頑張ってくれたから、俺はあの一瞬に割り込めて、震離が流連れて撤退出来て……結果流は死なずに済んだ。
 それだけって思うけど、人命護れたって大金星よ? ……まぁ、その金星貰ったの作戦上俺なんだけどゴメンな」
 
「そんな事無い! ……だってティアさん」

「震離さん達の反応が無くなってから余裕が……」

 ……おっと? そうすると、俺の考え間違ってたか? そうすると、無理したのはそれが原因? だから、自分も前に出てツートップにしたのかな?
 
 というか……。
 
「……そうだよなぁ。味方の反応途絶して冷静な奴のがどうかしてるよな。
 ゴメンな。当たり前の事を忘れてた」
 
 そうだよな。ティアナとスバルからすれば、同じコール名の奴に何かあったと思えば、それは焦るよな。
 ……やべ、考え方がまだあっち側だった。
 
「……そう言えばお兄ちゃん?」

「ん? どうしたキャロ?」

「怪我は大丈夫なの?」

「……あー」
 
 また答えづらい所を。実際問題怪我してねぇからな、何ていうかな。
 や、正直に言うか。

「……その件なー。全く以て預かり知らぬ事というか、なんで地下駐車場に俺の血落ちてんの? いろいろ無いこと無いこと言われるから困るんだよね……」

 思わず溜息が漏れる向こうで、エリオとキャロが不思議そうに顔を見合わせてる。
 スッとキャロが手を上げて。

「最初に行った時怪我したとか?」

「そしたら俺間抜けな人になっちゃうなー。」

 続いてエリオが手を上げて。
 
「……襲撃があった時地下駐車場に居たとか?」

「奏と一緒にいたし、オークション会場前だったからそれはないなぁ。
 冷静に考えなくても怖ぇよ。なんで地下に俺の血が……」
 
 やばい。嫌な冷や汗が止まらない。何だよ。ホラーか何かかよ……恐かねぇよ。怖くねぇよ。

 ま、それは置いといてだ。
 
「さ、さっさと仕事終わらせて。流の見舞いに行かねぇと。もうひと踏ん張りするぞー」

「……うん!」

「頑張ります!」

 もう一度二人の頭を撫でてながら、その場を離れてもう一組を探しに出る。
 
 でも、六課に帰るその時まで会うことは出来ずじまいだった。

―――

 機動六課に帰還後、シャーリーさんに連絡を入れて、震離と流のデバイスよりマスクマンとローブの映像を頂く。理由を聞かれたときには次に戦闘になっても良いように研究したいと伝えた。実際はそれだけじゃないんだけどな。

 エリオとキャロにはスバル達の側に居るように伝える。今はなるべく側においておこう、今日の反省とか色々あるかもしれないし。奏は震離の側に。ある程度落ち着いたみたいだけど、まだ不安定だ。あいつ、血を見るのは慣れてるけど、近しい人の血を見るのは昔から変わらない。気に掛けてる子なら尚の事。そうでなくても、目の前で斬られたんだ。冷静でいられないわな。
 皆の報告書を纏めながらメールの受信に気づく。二通入っていた。一つは前の部隊長――ティレットさんからの連絡、内容は近状に関して。向こうは俺達3人が抜けて大変だとの事。煌達4人が元気かの確認。
 そして、もう一つを見て。心底嫌になった――

 六課の状態を報告されたし

 たった一言。だけど、すぐに返信用のメッセージを作成する。万が一六課の人間にバレても問題ないよう細工を仕込んで。

 機動六課に上層部から情報操作あり。引き続き調査を続ける。

 下手に隠しても仕方ない、おそらくこれくらいの事アイツも気づいてるだろう。メールをそれぞれ出し終えて、どっちのメールも削除する。

 大きくため息を吐く。そして、思い返すはこの前の事。フェイトさんの告白について。おそらく内容について――人造魔導師の事については本当の事だろう。あんなになってまで、重いことを教えてくれたんだ。嘘だと断じる事は出来ない。それに仕事モードならともかく、素の状態で言ってくれたんだ。疑いたくないのが本音だ。

 だからこそ、何故あのタイミングでそれを教えてくれたのかがわからない。人造魔導師の事だって言っちゃなんだが、告白しなくても良いはずだ。

 詰まる所、何がいいたいかというと。どうしてフェイトさんはあのタイミングでその手札を切ったか? 何故切らなきゃいけなかったのか?

 考えすぎ、かも知れない。疑われてる、かも知れない。だけど、おそらく後者の方だろう。だけど、何故疑われてるのか、それがわからん。だからこそフェイトさんとはやてさんで俺と一緒に仕事をするように手を回したのか?
 
 いかん。頭が茹だって考えがまとまらん。今日は色々ありすぎたとは言え、ダメだネガティブな事しか考えつかん。だめだこりゃ。

 報告書を纏め終えて、ため息が漏れた。さて、ちょっと流の様子を見に行くかね。


 ―――――――――
 
 医務室の前まで来て、少し悩む。というか、向かい出した半ば辺りになんか気まずくなってきた。流に合うのは全然かまわないんだけど、医務室の主であるシャマル先生。
 正直あの人は苦手な部類。おっとりとした人というか、完全に毒が無いっていうのか、そういう人は苦手。まぁ、俺自身真っ黒だから、苦手意識を持ってるんだろう多分。
 コホン、と咳払いを一つ。いざ。

「失礼します」

 ブザーを鳴らして応答を待つ……が、返事がない。もう一度鳴らしてみるが、返事がない。出直そうかな……とか思いつつ、扉の操作パネルを触る。開いた……。という事はシャマル先生はいらっしゃらない? 
 とりあえず、空いたわけだし、医務室の中へ入ると、シャマル先生の作業スペースは電気が消えてる。代わりにベッドの一つがカーテンで閉められている。
 
「あー……流? 入っても……いいか?」
 
「……」

 返事はない。だけど人の気配はある。ちょっと失礼してカーテンを開けて中に入ると、そこには静かに眠る流がいた。
 輸血パック、点滴の管が繋がれ一定間隔で落ちているのが分かる。
 布団で見えない部分は、多分きっとあの中包帯でぐるぐるなんだろうな。突き刺されて内部から爆発。普通は死んでてもおかしくはない……けど。
 
「……ゴメンな」

 眠る流の頭を撫でながら、ポツリと漏れる。
 
 後悔はある。でも……俺では時間稼ぎが関の山だった。まだちゃんと見てないけれど、震離の攻撃をあんなに……魔力刃と、実体剣を叩き込んでいたのに特に反応もないまま冷静に迎撃された。
 多分非殺傷とは思うが、それでもだ。がむしゃらな猛撃を涼しい顔で耐えられたのは、怖かっただろうなぁ……。
 流だってそうだ。震離が剣を持ってたということは、多分……銃だけで戦っていたんだろう。それでも通らなくて……。

 あーため息しか出ねぇ。
 結果的に流はまだ生きてるとはいえ、だ。
 
 流も含めてこの隊は小さいのが3人もいるから、負傷には注意しないと。同じ小さい人……こと、ヴィータさん。いや。ヴォルケンの皆さんに対しては割と心配はしてない。もちろん怪我したらとか思う所は色々あるけれど。昔聞いたことを思い出してからは、そんなもんなんだと思って流してる。
 
 守護騎士システム。元々は夜天の魔導書の担い手と、管制プログラムを守る守護プログラム。その体はプラグラムで構成されており、人格は基本的には無く、そして不老。その気になれば即時回復を行なって再度戦闘可能。
 
 なかなか凄いよなぁ。シグナムさんと初めて出会った時もかなり悲しそうにしてたし。
 
 ゆっくりと流を撫でていた手を離して、医務室を後に。
 そのまま寮の自分の部屋に戻って少し経った後。

「とりあえず。震離と流のデバイスから引き抜いたローブのアンノウンの映像がこれだ。そして、これが俺が撮ってたマスクマンの。ちなみに隊長たちに渡した奴と同じな」

「はーい」

 とりあえず煌、優夜、時雨の3人を俺の部屋に集める。震離と奏はまた後日で、紗雪は別件で。何はともあれ一通り見せるか。話はそれからだ。

 ―――数分後。

「で、全部見たし皆に聞きたい。何か気づいたことは?」

 部屋に座る皆を見渡しながら質問を投げかける。皆手を上げやがった。

「じゃ、一番端に居る時雨からどうぞ」

「はい、そんな質問をする響はどう思ってるの?」

「え、俺?」

 ……なんか見渡すと皆そんな目で俺見てくるし。んだよ。まぁいいや。

「多分皆思ったんだろうけども。これじゃそれほど情報を得るのは難しい。だけど。この動きに俺は、いや、俺ら(・・)は心あたりがあるはず」

「あぁ、あるな。マスクマンの移動技に、流に接近した術に俺も心あたりがある。ただ、な」

 あぁ、そうだな煌。だけど皆まで言わなくていい。そう目で制す。分かってくれたのか頷いてくれた。本当こういう時は助かる。

「正直こんなことで皆を呼んだのは正直申し訳ないと思ってる。だけど、俺だけじゃ決められない」

「だが響?」

「どうした優夜?」

 優夜の声に皆の視線が集まる。その顔はどこか冷たい。その意味は分かっているけど……。

「……正直可能性としてはかなり低いぜ。それでもか? それでもお前はその可能性を見出したのか?」

「あぁ、それでもだ。ちょうど背格好もアイツと同じくらいだ。それに」

 うん、分かってるもしかするとアイツは全く違う奴かもしれない。背格好が似てるだけの奴かもしれない。

「だから、皆に聞きたい。こいつは「リュウキ・ハザマ」かもしれないと思ってるのは何人くらいいるか」

 これが俺の質問の内容だ。

 ―――――――――

 皆が帰った後、ホテル・アグスタから頂いたホテル側(・・・・)の警備図と、参加者リストと、監視カメラの映像を見合わせて。
 
「……はぁ?」

 変な声が漏れた。
 襲撃前に流がよくわからん第三者と接触、親しそうに会話していた事からおそらく親族になるのか? 会話まで聞こえないからわからん。目が覚めた時にそれとなく聞いてみるかな。
 そして、こっち。その流と老婆の会話を離れた所から見てる震離……なんだけど、何だ? なんか一人で驚いたり、なんか過呼吸になったり……まるで誰かがそこに居るような……駄目だこっちもわからん。
 
 で、地下駐車場の映像を見ると、俺の血が落ちてたという場所はカメラの死角だったらしく見えない。
 しかし、結界が割れたその後に、明らかに居なかったはずの人物が駐車場からホテルへ上がり、そのまま外へ出ていくのが確認された。
 しかもよく見なければ分からない、それもカメラの死角をつくように、なるべく映らないようにしているのは明らかに妙だが。
 体のシルエットから、女性のようにも見える。キャスケット帽を後頭部までしっかり被ってるせいで髪の色は分からないし、色付きのメガネで目の色も分からない。
 シルエットで分かるのは、執事服のような格好をしていたが、それ以上に……なんというか胸が出てて……うん。多分きっと、女性なんだろうな-と。
 
 でも妙だ。いつ其処に降りたのか分からないし、ホテルの方に転移反応とかそういった類の反応は無かったはず。あったとすればなのはさん……いや、フェイトさんが動いたはず。それ以外にも護衛で、かの有名なアコース査察官も居ただろうから……誰か反応しただろう。
 だからこの人は前日にはいた事になるが、その割には挙動不審……と言うより、戸惑ってるようにも見える。
 だけど、地下から真っ直ぐ外へ出ていった辺り……何かを盗んだ? でもそういった報告は受けてないしな……駄目だわからん。
 
 えー……アンノウン二人に対して、アグスタには不明な人が女性と、戦闘中に地下に現れてそのまま出てった女性の計二人。
 
 わー……何だよこれ? 不明な人が二人も中に居たって結構大事なんだけど。考えられることが多すぎて絞れないなー。
 前者はまだ……まだ希望的観測として、流の知り合いかもしれないけど。後者は完全に敵の可能性のほうが高い。
 しかもこの女性が出てきた方面って、俺の血が落ちてたって場所。考えられるのはこの女性が俺の血をぶち撒けた? 何のために? ますます意味が分からん。

 仕方ない。ちょっと調べてもらうかね。そのための書式と、データをチップに移して……後は受け取ってもらえるようにメールとばして、と。
 
 ……やべぇな。なにかした……といえば、したけど。それをする前から疑われるであろうこの状況って何だ?
 
 
――sideフェイト――
 
「どう見るテスタロッサ? 私にはどうにも腑に落ちない」
 
 シグナムから渡されたアグスタの地下監視カメラの映像を目を通して違和感を持つ。
 
「……映像だけではなんとも。目的が読めない」

 映像に映るのは黒いキャスケット帽に、きちっとした黒い執事服を纏う女性。
 しかし、よくよく見れば。何かが濡れたように一部の布が濃くなっている様にも見える。
 
「……怪我を隠してる? この人の血? いや、でも……」

「そう。そうすると、この人物は緋凰になる。だが」 
 
「……あの時、響は外にいて、アンノウンの一人と交戦。その後、震離達の所でも二人目のアンノウンと交戦していた。そんな余裕は無い筈」 
 
 ……なのに、地下に響の血が落ちてた。それも決して少なくない量が。
 
 もしかすると……いや、でも。
 
「……可能性を考慮しても良いと考える。私も緋凰には既視感がある。どう転ぶかわからないが……私は――疑う。場合によっては、実力行使も辞さない」
 
「っ、シグナム! それは……!」
 
「……良い奴なのだろう。だが、事前にこちらの警備図を知り、布陣の穴を知っていた。何より二人のアンノウンと接触したのは前線組の中では緋凰だけだ。何故血をと言われればその狙いは分からない」

 確かに。だけど……でも。
 
「……お前が何を持って緋凰に肩入れしているのかは分からない。しかし、現状最も疑わしいのは……風鈴よりも、緋凰だということを頭に入れておけ」

「……でも」

 シグナムの言う通りだけど……でもそれは。
 
「それは結果論です。その理屈ならば奏と震離、流も警備の穴を教えることは出来る。
 あの局面で、誰かが不利益になる何かをしたとは……私は思わない。
 何より。確定するその時までは……疑わしいだけは、罪ではありません」
 
 これが私の今の答え。
 
 シグナムの表情は真剣そのもの。シグナムの言うこともわかる。
 だけど……少なくとも、あの時点の響にそれはないと断言だけは出来る。それ以前に。
 
「シグナム。一つ言っておきます。響は――()は中立ですよ」
 
「……は?」

 そう。あの日言っていた響の言葉の通りなら……。
 
 
 ―――――――――
 
 ―――アナタの本気に返すには、こう返すしかなかった。安心……はまだ出来ないでしょうけど。

 あの日、響に私とエリオの秘密を告げた時に言われた。
 
「……俺は、まだ……あなた方の味方にはなり得ない」

「……え?」

 今の今まで、気恥ずかしそうに笑みを浮かべていたのに……一転して辛く苦しそうにしている。
 どうして? 何があったの? と声を掛ける前に。
 
「……フェイトさん。俺……も、出来るならそちら側に立ちたいです。だって同郷で、決して知らない人たちじゃないんですから。
 まさか、味方側だから善だと、敵側だから悪だと――分からない貴女じゃあるまいでしょうに」 

 ……意図的に言わないでいる。おそらく、詳細を伝えればきっとこちらに何らかの被害が来ると考えてる。それは響にも言えることだ。
 
 だとすれば。
 
「ねぇ響。もし君を――縛るものを解いたその時は。もう一度。ちゃんと話してくれる?」

「……えぇ。その時は是非。あぁそうだ、今回の事、聞かなかったことにします」

「フフ、そうしてくれると嬉しいな。まだ、あっち側なんだしね」

「ははは、えぇ、えぇ。まだフェイトさん達から見れば、俺は敵ですし」

 くつくつと笑う響を見て、私も笑う。だけどね響?
 
「ううん。敵じゃない。まだ、中立でしょう?」

 一転して目を丸める姿は……うん、しっかり年下だね。
 
 ―――――――――
 
「……お前は。結果的に緋凰が良い奴だったから良かったものの。下手をすれば!」

「わかってる。でもね、その後に、響の……いや、あの子達の名前を出した時真っ先に動いたのは。お兄ちゃん(・・・・・)だったって言ったら、どう取る?」

「……まさか」

 驚くシグナムを尻目に、話を続ける。

「うん。その事を伝えた時、ハッキリ言われたよ。彼ら(・・)は現時点では中立だと。ただ、それはどこからなのかは調べてるけれど、と」

「……だとすると、やはり風鈴が?」

「それはわからない。でもねシグナム。訓練の度に、誰かが上手くできたのを見た時に人知れず嬉しそうに笑って、新しいことが出来るようになったら喜んでる子が……そんな事すると思う?」

 今度こそ、シグナムの目が丸くなって。一拍置いて……呆れたような視線を向けてきたかと思えば。
 
「お前は……全く!」

「ちょ……シグナ……いたたたたたた!」

 ガシガシと両手でワシャワシャと撫でられる……あの、ちょっと痛い……。
 
「……よし決めた。すまないがテスタロッサ?」

「な、なんですシグナム? わーボサボサ……」
 
「私はまだ、緋凰を信じきれん。かつてどこかで会ったかもしれないという可能性があるからな」

「……や、どこかで会ったかもしれないって、それは武装隊で見たかもしれないって自分で……」

「……あぁ。その筈だと思っていた、が。今日のあの打ち込みを見て、確実に言える。私はアレを受けた事がある。二発も」

「……えっ?」

 待って、打ち込みって……多分二人目のアンノウンに対して響が打ったアレのことだよね……? それを二発も受けたのに覚えて無い? 模擬戦で戦ったとかじゃなくて?
 
「……ま、今から確かめに行ってくる。ではな。応じるであろう手札もあるしな」

「え、ちょ、シグナム!? 待っ……あ、早い!?」

 ブリーフィングルームから出たと同時に走っていったけど。珍しい……いや、そうじゃなくて!
 不味い……色んな意味で。探り合いになる以上、シグナムならきっと大丈夫と思っていたのに。裏目に出て……あ、連絡……え、つながらない。なんで?
 
 
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第11話 想い

――side響――

 夜風に当たりたくて、六課の空間シミュレーターの側にあるベンチに座してぼーっとしてる。

 ホテル・アグスタで居た流と接触した女性に、俺の血を落としたであろう女性の目的が分からなさすぎて、思考が纏まらない。
 戦闘したアンノウンの関係者と考えるのが筋なんだろうけど……俺の血を落とすメリットって何だ? 
 もしかすると、密輸品の受け渡しに俺を使うとかそういう理由? でも、それなら指紋を付けた何かを落とせばいい。血である必要性は皆無だ。
 わかりやすく俺がそこに居たという事実を作り出すため? でも、俺は前線に出てて、なおかつアンノウンと交戦。しかも俺が設置したマスクマンのサーチャー以外にも、震離と流のデバイスに映像は残っている以上、俺がそこに居た事実はある。
 もしかすると、分身という手段もあるが……俺使えねぇしな。それに……だったら、地下の映像に俺が映る筈なのに、それもない。
 
 駄目だ、これ以上はアグスタの被害報告待ちだなぁ。裏取引とかだったら絶対上がらないはずだけど。
 
「……ヘックション!」

 ……5月も半ばだけど。やはり海沿い冷えるな。ぼちぼち帰りましょうか……って。
 
「もう戻るのか?」
 
「……シグナム副隊長」

 敬礼しようとするが、首を横に降ってきた。ということは、何かあるのかな? ……個人的にはあまり会話したくないんだけど。

「なぁ緋凰」

 ピリッと、空気に緊張が走る。
 これはちょっとお話をとかそういう訳じゃない……バレたか? そうすると最悪だな。俺に不利な札が多すぎる。

「私は聞いたな。どこかで会ったことが無いかと。初めて会ったあの日に、そして今日にも」

「……えぇ。そして、ありません。そう応えた筈ですが?」

「……あぁ。だが、私には覚えがある。管理局に入ってからは滅多に見なくなったあの一打を、何より、障壁(・・)越しに打ち込めるあの技を。
 薄っすらとだが覚えている。髪の長い奴だったと覚えがあるのだから」

 ――わぁ、最悪。
 
「答えろ。あの技術をどこで覚えたのか。そして、もし私の思う時期と一致したのなら――目的を聞かせろ」

 炎が煌めくと共に、その手に(つるぎ)が現れた。
 あの日(・・・)と違うのは、最初から抜かれて居るという事。 
 そして、それは……もう隠せないという事を。

「……限界、早かったなぁ――あぁ。でも丁度こちらも用が有りましたので」

 さぁ、どこまで行けるかな?
 
 ―――
 
 ――sideティアナ――

 ――集団戦での、私やティアナのポジションは、前後左右、全部が味方なんだから。
 
 一人では戦えない。それは……結局アタシ一人じゃ何も出来ない。そう思われているんだ。
 魔力が足りないから、力が足りないから……支えてくれる人も、特殊な能力も無いから……仲間の反応が無くなっても、助けに行くことも出来ない。
 結局、あの時救援にいけたのは響だけ……本人は偶然いけたって言ってたらしいけど、現れたアンノウンと渡り合ったというだけでも十分だ。
 
 ――その意味と今回のミスの理由、ちゃんと考えて、同じ事を二度と繰り返さないって、約束できる?

 言われなくても、2度とあんなミスはしない。
 アタシには力は無いけど、何もないけど。
 
 また、一つ一つ積み上げて、もっと強くなって、証明しなくてはならない(・・・・)んだ。


「ティアナ、そこまでにしとけ」

 パンパンと手を叩きながら駆け足でやってきたのは。
 
「ヴァイス、陸、曹?」

「ミスショットが悔しいのは分かるけどよ。精密射撃なんざ、そうホイホイうまくじゃあない……それに、一端やめとけ。隊長達が来る、庇うのは今回きりだからな」

 茂みに隠れるように膝をついて座る陸曹につられて私も姿勢を低くする。
 
「……いつっ」

 たった数時間の訓練で足に疲労が溜まっていたらしく、ヘタリと座り込んでしまった。
 そんな事じゃ……まだ。
 
「あんのバカ野郎。なんでよりにもよって……バカ野郎が」

 ? なんのことだろう? そう思って、足を引きずりながら陸曹の側まで行き、その見ている方を見る。
 
「……火花? ……何?」

 遠くで火花が散っていて、誰かと誰かが戦って……あの動きは剣を振ってる動きで、ぶつかっているんだ。
 じゃあ誰が? そう思ってよく見る……いや、六課で剣を使うのは二人しか居ない。そして、それは――
 
「……なんで、シグナムさんと響が?」

 意味が分からない。なんで……あの二人があんな所で……なんで剣で戦っているのか。
 しかも……響は怒ってる様にも見える。でも何に?
 
「ヘリの整備中、スコープでちらちらと見てた。ミスショットが悔しいのは……しかもそれが親友に、仲間に当たりそうになったってなら尚の事な。
 そしたら、その脇であの馬鹿野郎が剣抜いて切りかかりやがったのを見ちまった。ふざけんじゃねぇよ。ったく」

「……なんで。どうして?」

「……たまたまシミュの側で戦ってるから、慌てて遠隔でコンソール起こして話が聞いた。ちょうどいいから腕試しと、文句があるんだとよ……くだらねぇ」

 文句がある? 腕試し? 駄目だ……話が全く見えない。でも……。
 
 ギュウっと手に、拳に力が入るのがわかる。
 馬鹿なことをしてんじゃないとか、勝てるわけがないとか。そういうことじゃなくて。
 
「……やっぱり、強いじゃない……っ」

 シグナムさんと対等に……いや、二本持っているせいか、若干響が押しているようにも見える。あのシグナムさんを。
 
「……はぁ? あの馬鹿たれ……シグナム姐さんの気も知らずに! クソが!」

 地面に拳を叩きつけながら、陸曹が怒りを込めてつぶやく。
 もしかして聞こえてる?
 
「ヴァイス陸曹。アタシも聞いても?」
 
「あん? あぁ……待ってろ。ストームレイダー。ティアナのデバイスにも飛ばしてくれ」

 一拍置いた後、クロスミラージュが点滅して。

[Thank you.]
 
 受信完了したらしく、直ぐに私にもあの二人の会話が聞こえてくる。
 
『……っ、てめぇがあん時、流ん所にまっすぐいけば、被害はもっと少なく済んでただろうが!』

『……その程度の戦略眼しか無いのかお前は!』

『はぁ? 音に聞いたヴォルケンの名が泣くじゃねぇかよおい! 盾の騎士がいて抜かれる心配でもしてたのか、ああ!?』

『話にならん……な!』

 ……え? だって、シグナムさんはあの時Ⅲ型の処理をメインにしてたはずで、あの時私達が前に出ていければ……いや、違う……響には、私達は……私はそもそも眼中に無かった? 私なんかじゃ助けられないって見切られてた? 何よ……それ?
 クロスミラージュを持つ手に力が入る。悔しい……と! ただ、その思いだけが溢れてくる。
 シグナムさんに――強い人に頼るのは当たり前だ。だけど……それでも。
 
 私はそもそも要らなかったと、響は言っている?
 
『シグナム二尉! 緋凰空曹! 何をしてるんですか!』

「……なのはさん達が来たな。ティアナ。今日はこの程度にしておけ。あと先輩……なのはさんが昔言ってたことを一つ。
 無理や詰め込みで、ヘンな癖つけるのもよくねェぞ」
 
 静かに陸曹が離れていくのにつられて、私も着いていく。
 
「……それでも、詰め込んで練習しないと……うまくならないんです。 凡人なもので」
 
「凡人、か。俺からすりゃあ、お前は十分に優秀なんだがなぁ。 羨ましいくらいだ……ま、邪魔する気はねェけどよ。お前等は体が資本なんだ。体調には気を使えよ」
 
 ……気遣ってくれてるのはわかる。でも、お礼を言う気力すら無かった。
 
 もっと……強くならなくちゃ。もっと、少しでも無理をしないと。少しでも詰め込まないと、追いつけない。だから、あの時(・・・)から決めたんだ
 そうしないと……アタシに……価値なんて無い。六課に居場所なんてないんだ。
 
 
  ―――
 
 ――side響――
 
 昨日、シグナム副隊長と刀……というか鞘持って、やり合った結果。懲罰房4日が言い渡されました。
 具体的な軍規違反は、上官侮辱と、まぁですよねっていう結果。
 真っ暗で、一畳程度の部屋なもんで正直暇。
 
「……何してんのバカ」

 不意に聞こえた声に、笑ってしまいそうになるのを堪えて。

「……接触は禁止されてんぞー、速く離れろよ震離」
 
「……うるさい、バカ。バカバカバーカ」

 ……バカバカ言いすぎだろうに。というよりまだ落ち込んでんな。外でちゃんとしてればいいんだが……まぁ、奏居るし問題ないかな。
 
「……すぐに離れるよ。流が起きたってだけ伝えに来た」

「マジで! あぁ……良かったぁ」

 震離の言葉に心から安堵する……って、え? あの怪我で……昨日の今日で? すげぇなおい。
 
「それだけ。あとシグナムさんと戦った理由聞いたけど?」

「え? あぁ、マジよマジ。それだけだ」

 ……表情は見えないが、ちょっとだけ何時もに近い声に。
 そして、一拍置いて。
 
 トントンと、何回かノック音と壁をなぞるような音が聞こえて……その意味を理解して直ぐに答える。
 
「……あぁ。あ、そだ。流によろしくな」

「うん……じゃあねばぁか」

 ……捨てセリフ吐いて行きやがった。
 
 しっかし、バレるのすっげぇ早かったなぁ。なんでだ? あれは見てたから走ってきたんだろうってレベルだったし。
 あー、それにしてもこっから出たくねぇなー。絶対なー睨まれまくるだろうし、ヴィータ副隊長からはわかりやすく圧掛けられるだろうし……怖いわ-。
 
 
 ―――4日後。
 
 ……わかってた。わかってたけど。ヴォルケンリッターの皆さんや、八神部隊長、高町隊長からの視線が超痛い。
 いやまぁ、やらかしたことを思い返せば全然温情。普通だったら左遷コースだし仕方ない。エリオとキャロはぎこちなくも接してくれてるのが癒やしだよ……ライトニング小隊はいい人ばっかだわぁ。
 
 とりあえず。流の傷の表面はほぼ回復して、見た目はなんとも無いらしい。内臓のほうにまだダメージが残っているらしく、シャマル先生と震離のせいで医務室で軽く監禁状態になっている。心配した時の震離は異常に強いからな。あらゆる手段使っておとなしくさせるし。まぁ、けが人がおとなしくするのは当然だし、出て行く流を脅せる手段もあれば、なんとかなるだろう。

 それよりも、問題が一つ。というよりさっき知ったんだけどね。

「なぁ、奏?」

「ん、どうしたの響? なんか疲れてる顔してるけど? 丸四日休みがあったんだから元気でしょ。さ、頑張れ」

 食堂の向かいの席に座る奏に話しかける。うん、軽いことでも心配してくれてありがとう! その後のトゲがあるのは流すけど。

「ティアナのこと。奏はどう思う?」

「はぁ、無茶したらいけないよって言ったのになぁ」

 ため息吐きながら紅茶を飲む奏。儚い感じで絵になる。あ、現実逃避に入ってた。まぁ、話は聞いてるからだいたい分かるんだけど。それでもな。

「……俺リアルタイムで居なかったしなぁ」

「……バーカ。それに目の敵にされてるってわかってるでしょ?」

「……あぁ、こっち見る視線に怒りを込めてるから分かるよ」

 そう、何よりもティアナからの視線が超痛い。同じく若干ましだけどスバルからも睨まれてる。
 なんかしたっけなぁ。
 
「……それよりも反省文、終わんねー」

「自業自得でしょう? 頑張って」

「……めっちゃ頑張る」

 奏のこれまでの話から、どうもティアナは、ミスショットしたあの日からずっと自主練をしてるらしい。どの程度無茶なことをと質問すれば、何時間もずっと続けてるらしい。一日の訓練後に、昨日からは朝練の前にスバルと自主練してるらしいし。
 奏曰く、それに気づいたのは今日との事。
 
 話を聞きたいけれど……今の俺じゃ話は聞けない。それどころか、避けられてるし。
 
 さて!
 
「……息抜きにちょっと流見てくる」

「はいはい、いってらっしゃい。ちなみにシャマル先生は留守だよ」

「……ありがとさん」

 くっそ、気まずいってわかってるせいで、奏の悪どい笑みが嫌に映るわぁ……。

 一通り移動して、医務室入ると、相変わらず流のいる場所はカーテンで閉められてる。気配から察するに、流一人っぽいな。
 
「あー……流か? 入っても……いいか?」

「……緋凰さん。どうぞ」

 良かった。万が一拒否られてたら嫌だなーとか思いつつ、カーテンを開けて中に入る。そこに居たのは入院着を着た流。ただ、いつもと? 違うのはメガネを掛けて読書してた。

「具合。大丈夫か?」

「……えぇ、緋凰さんと叶望さんが助けてくれたおかげで」

「そうか、復帰はいつ頃になりそうとか、聞いた?」

「いえ、その辺りは全く。暫くは安静にするように、と」

 心なしか沈んでる様にも見えるけど、今一表現が薄いというか、なんというか。雰囲気で察しないといけないから大変だ。
 
「……映像見たよ。デバイス……いや、アークもしばらくは修理だってな」

「……はい。私が動揺した結果、無茶をさせました」

「いやぁ。砲撃食らって涼しい顔で手を伸ばしてきたら動揺もするさ、それよりも命があって何よりだ。
 まぁ、もっと速く来てくださいって思ってんだろうけど」
 
「いえ、そん……痛たた」

 否定の言葉を述べようとして、お腹に力が入ったのか前のめりになってる。
 ふと、流の足元の部分がやけに膨らんでるのが見えて捲ってみると。
 
「……こいつは」

 スースーと寝息を立ててる震離の姿が。若干疲れた様子なのはずっと流を見てたんだろう。こいつも手が完治してないのに。
 
「……ずっと居て下さってるんです。おかげでお手洗い行くのも一苦労です」

 くすりと、苦笑を浮かべる流。それはどこか申し訳なさそうにも見え……いや、絶対思ってる。
 
「そっか、でも。ありがとうな。震離を守ってくれて」

「……いえ、()のミスです。接近に気づいていればもっと」

「ストップ。そこまでだ。仮定はどうあれ、結果守れた、それを大事にしよう」
 
 申し訳なさそうに目を伏せた流の頭を撫でる。やっぱりこの子は……小さいな。あの怪我に、出血の量。無事だったと、手放しでは喜んではいけない。
 
「あの、その、緋凰さん? 恥ずかしいのですが……?」

「ん、あぁ、悪い」

 撫でていた手を止める。いかん、考え込んでた。

「さて、そろそろ俺は行くよ。安静にな?」

「……」

 戻る用意をしながら様子を見ると、なんか俯いてる。恥ずかしすぎたかな。少し悪いことしたなーなんて思いながら背を向けると。

「今日は聞かないんですね。どこから来たって」

 カーテンを開けようとしてた手が止まる。なるほど、やっぱり。

「……身を挺して守ってくれた奴を疑うほど、黒いつもりは無いんだけどな。それに」

「……それに?」 

「今疑われてるかもしれないのは俺達……いや、俺だけかもしれない……お互い抱えてる事が多いよな。また来る」

 カーテンをあけて、部屋を出る。正直、流がどちら側かはわからない。だけど、この子はスパイじゃなければいいなってただ思う。今ので、流も俺達の事をある程度知っている、そう捉えたほうがいいだろう。深く考えすぎかもしれない。

 さて! 切り替えて行こう!

 ……ティアナの自主練の問題って、そう言えば隊長陣は気づいているのか? いや、俺とシグナムさんのドンパチに直ぐに気づいて駆けつけた以上、直ぐに分かるはずだ。だとすれば、泳がしてる?
 
 でもまぁ。
 
 「教導官」で「隊長」やってる人が居るんだ。どうにかするだろう。
 
 それでも、どうにもならなかったら……その時は動く。
 今度こそ。重い処分が下されるかもしれんが……まぁ、そんな展開は無いだろ。
 
 ……無いって、信じたい。
 
 間違いなく今行っても、話して貰えないだろう。隊長たちの様子を伺おうとしても、今後の展開は多分聞き出すのは難しいだろう。
 
 あーぁ。ミスったなぁ。まさか預かり知らぬ所でこんなになってるなんて……ミスったなぁ。
 
 
 ――side震離――
 
 昨日、ようやっと響がお仕置き部屋から出てきた。ほんと、バーカとしか言えない。何してんのよバカ。
 太陽が昇るよりも先に、屋上に上がって深呼吸。朝方ということもあって空気が冷たくて頭が冴える。
 デバイスに入れてる数式図を展開させて、演算、修正、実行を繰り返す。
 それはこの前のアンノウンが使っていた防御の再現。一応磁石の反発のようなモノの疑似再現は出来たが、防御に使えるかと言えば駄目なもの。発動に時間が掛かるし、展開時間もほんの僅かだ。
 だから、その辺りを実践に使える様に調整すれば……次あった時防御を抜けるだろう。
 
 ただ、砲撃の中を飛ばされる事無くその場に待機していたのは別のからくり、違う術式だと思うが……パッシブで展開されてる防御を先に攻略しないと。今後困る。
 
 でも。
 
「……怖い」

 正直あの日以来、少し流を避けてる。話しをしたら嫌われていそうで、軽蔑されそうで、言葉を掛けてくれ無さそうで。けど、私はそれくらいのことを失態を犯した。それは間違いはない。
 そりゃシャマル先生に言われて流が訓練に戻ろうとするのを止めるけど、一言二言言葉を交わす程度で、会話には程遠い。ていうか私が「戻らないと、本気で止めるよ」って半分脅しをかけてる点もあるし。あぁ。
 
「駄目だなぁ。本当に」

 本当にそう思う。今日は各分隊でタッグでの模擬戦。私や響、奏は既にある程度の部分までいけてるから問題ないって事で、今回は見学に回るけど。見学に回ろうが回らないが私は参加できない。相方に近い流が今動けないし。うん、私のせいで……ヤバい、涙出てきた。

 それに気がつけば、太陽も頭を出し始めて、辺りが少しずつ明るくなってきた。そういえば朝起きたときにはもう奏は居なかったけど。何処に行ったんだろう? 何時もは起こされる側なのに。
 やっぱり、探したほうが……なんて、考えると盛大に腹の音が鳴った。誰もいないとは言え、コレは凄く……恥ずかしい。とりあえず、ご飯食べよう。そうしようそしたら少しは気分が紛れるだろうし。だけど、現時刻はまだ早朝という事は。

「……空いてるかな」

 実際その通りで、この時間から食堂って開いてたかな? 空いてても誰も居なかったらなにも食べられないし。私は料理出来ないし。どうしよう。なんて考えているうちに。食堂の前に到着。うん。分かってたよ電気が付いてないからまだ食堂の方達まだ来てないのは分かるよ。だけど、だけど!

「誰か居ますよーにっ」

 小さく呟きながら、食堂の扉を少しだけ開けて、中を確認。まず最初に厨房の方の電気が付いてて、美味しそうな匂いが鼻をくすぐるから……良し、居るな! そう思って勢い良く開けると。

「……あれ?」

 正直に言おう、今一番ってか気まずくて会えない人がそこにいた。うん、もう分かると思うけど。

「……叶望さん? こんな時間にどうかしましたか?」
 
 うん、流? 今医務室に居なきゃだめだよね? って言葉が言えなかった。だって、普通にエプロン付けて料理してるんだよ? 一瞬思った何処のお母さん? と。……それよりも、流が凄く変な顔してるから思わず笑いそうになる。私の前でもこんな顔してくれるんだって分かって。それが嬉しくて。

「そういう流こそ、何でここにいるの?」

「え、あ、その、なかなか寝付けなかったので、しばらく起きていたのですが……」

「そう、つまり流もお腹が空いたって事なの?」

「……ぅ、はい」

 なんか雰囲気的に小さくなった気がする。最初の頃の固い雰囲気じゃなくて、全体的に少し柔らかくなった感じがする。うん、普通に料理してるってことは。普通に作れるってことだから……よし。

「そう、えっと、その。お願いがあるんだけど?」

 プライドなんて投げ捨てる!って思って話しかけるけど。正直やっぱり気恥ずかしいもので。自然と目線が泳ぐ。でも言いたいことは言い難くて……どうしようかと思ってたら。

「いいですよ。そこで座って待ってて下さいね」

 そう言って私の思ってることは既に見ぬかれてた。そのまま厨房の道具をいろいろ使いながら料理を再会するけど。その前、流が移動する前に一瞬だけ。一瞬だけ優しい顔つきになったのを私は見逃さなかった。そして思う。

 凄く可愛い。と!

 うん。本当に可愛い! あぁ、私も料理……辞めとこ。響達に怒られる。絶対に。なんて思って待つこと数十分。私と流はそれぞれ目の前の席に座って、俗にいう相席だ。で。

「……」

「……どうかしましたか、叶望さん?」

「……」

「……もしかして口にあいませんでしたか……?」

 目の前でどことなく不安そうな顔をしている流。ちなみに流が作ったご飯は、ご飯とわかめ入りのお味噌汁。それに玉子焼きという。日本の一般的な朝御飯で。多分、私に気を使ってくれたと思う。確信はないけど。
 だけど流が作ったご飯を一口食べて、今の状況なんだけど。なんだけど。本気で全力で思ったことを言おう。というか心に浮かんだ言葉を言おう。

「流?」

「……何でしょうか?」

「結婚しよ?」

「……ぇ?」

 ……うん、何いってんだろう私。心に浮かんだ言葉をそのまま口に出したら、私の口はなんか馬鹿な事を吐き出しましたよ? あぁ、あぁ、あぁ。顔がどんどん熱くなってくるのが分かる。視線が泳ぐけど、なんとか流を捉えるけど。その流もなんか私を見たまま固まってて。あぁ。あぁ!

「え、あ、そ、その! 今の間違いだから! そのご飯美味しくて、つい口からなんかポロって! だから、気にしないで! 間違いだから気にしないで! ね!」

 生まれて初めてここまで恥ずかしいと思ったことはない。目の前にあったご飯を何時もの倍以上のスピードで食べ進めて。慌てて自分の食べた分を片付けて。

「ぜ、ぜ、ぜっちゃい、き、気にしにゃいでにぇ!?」

 もう自分でもなに言ってるか分からない言葉を吐きながら、本気でその場から離れる。そして、思う。もう修復不可能かな……と。うぅ、泣きそうです。ちなみにその後、自室に戻って、ベット入って、布団をかぶって。ずっと左右に転がってました。
 
 ……そう言えば、流普通にご飯食べてたけど。お腹大丈夫なのかな? 


――side響――


「……来ちまったよ、今日が」

「そうだね。そして私たちは見学。間違いがあったら言ってくれたら助かるって」

「マジかぁ……あの二人……ティアナとスバルの動き。奏はどう思う?」

「……本音を言うと、あの二人の動き。悪いとは思えない。でもあれは突撃じゃない、特攻だよね」

 視線の先に、正確には木々の隙間から少しだけ観える二人の姿を観察する。じっくり見れば木があっても問題ない。普通に大体の動きがわかればいいしね。

「あぁ、そうだな。だけど今回のは模擬戦だ。どんな事言っても本質は変わらないよ」

「……うんでも、なのはさんは練習だって」

「あぁ」

 でもさ、奏よ。

「……仇でも無いのに、毎回攻め方変えてくれてんのに……今、なのはさんだけ(・・)を倒す練習したって意味がないのに」

「……うん」

「……そんなの、なんの意味がある? そうじゃないだろう」

「うん。でも、どうなんだろうね。難しいよ……」

 本当そう思うよな。俺もそう思うし、思ってることは多分正解じゃない。でも多分間違いじゃない。それはなのはさんとて同じ。あの人の考えも正解じゃないかもしれない。でも間違いじゃない。だけど今回のティアナ達の動きは。正直いうと正しくとも間違いでもない。何れ仮想的じゃなくて、なのはさんとして戦う時も来るだろう。
 でも、それはまだ早いことだ。だから。なのはさんが……いや、高町隊長がどうやってあの二人を叱るのかただそれだけが気になる。それは「隊長」として叱るのか、それとも「教導官」として叱るのか、ということを。
 
 だから。

「何もなく普通に終わればいいんだけどなぁ」

「うん、そうだね」

 朝日がどんどん登ってく、模擬戦まで後少しだ。


 ――――――――


 心の中じゃ何処か信じていたかもしれない。「教導官」であるよりも「隊長」であるよりも、一人の「人」として、分かってあげているのかもしれないと。俺はこの時は本気でそう思ってしまった。

「少し、頭ひやそうか……」

 隊長の指から走る光弾はティアナを撃ち抜き

「ティアー!! っバインド!?」

「今日の模擬戦は二人とも撃墜されて終了」

 多分最悪に近い形で、それ問題となって現れた。正直この光景を見て、俺は本気で驚いた。
 そして、ティアナが落ちそうになった瞬間。ティアナの落下ポイントを見て、唖然とする。直ぐに落ちた所まで行って、ティアナを抱き抱える。

「響、ティアは」

「大丈夫、気絶だ。医務室に運ぶ」

 何時も震離と同じくらいに笑っているはずのスバルは、何時もの笑顔がなく。なのはさんも俺に目を合わせなかった。

 とにかく。シャマル先生のもとへ連れて行くか。正直、ここにいると何するかわからん。ここが教導隊なら何も思わないで済んだはずなのに。

 きっとティアナと話すと思ってた。全部終わった時に、このコンビネーションの問題を指摘すると。その上で話をするんだ、と。
 
 だけど、そんな考えとは正反対に、話すどころか、気絶までさせるのはさすがにやりすぎではないのかと。現に話すことさえ出来ない。正直この事に怒りを……いや、呆れを感じた。
 だがあんなに頭の切れるティアナが取り乱して、なにより疲労も溜まっていたので、気絶してしまっても仕方ないと何とか納得する。
 何にしてもこれでなのはさんもティアナのこともわかっただろうし、後で二人で話し合って丸く収まるのを待つばかりだ。だけど、俺が一番気になったのは、ティアナを撃つときのなのは隊長の目が気になった。あれは悲しみと悔しさ……そして怒りだった。

 直ぐにティアナを医務室に運び、そっと寝かした。簡単な診察の結果は一応大丈夫らしい。シャマル先生の話だと明日以降にはダメージが残らないように設定されていて、それでいて強力である。シャマル先生の診察に安堵するスバル達、他の隊長達はなのは隊長のところ。震離と奏は俺が言って、煌達の元に行ってくれと頼んだ。この後のことを話すために。ちょっと俺の方で動きが合ったことを伝えるために。
 下手をすれば、しばらく接触できなくなるかも知れないから、と。

 そして、今回の問題はここにあるんだ。

 なのは隊長が。いや高町隊長がティアナにやったことは「教導官」としては満点。いや、それ以上の事だ。それだけ上手いんだからな。

 だけど、今、医務室に居る隊長組はシャマル先生しかいない。流も居るし、倒れたティアナも居るからな。そりゃそうだろう。
 でも、全員が全員知り合いを優先したんだ。他の隊長陣は、高町隊長の技量を信じているから、ティアナは大丈夫と、特に後遺症は無いって思っている。だから、隊長のメンタルケアを上位においた。

 うん、友人関係としては満点だ。普通にいい友情で、関係の深さがよくわかる。だけど「隊長」として。上司としては……考えられる限りの最悪だ。

 ……まぁ、いいかもな。俺も人のこと言えないけど若いんだし。あの人もちゃんと人だもん。何でもかんでもできるわけ無いし。早い話がまた同じこと繰り返さなきゃいいんだ。
 
 ……今までの教導でも、こんな事あったろうに。

 とりあえず、スバル達三人を椅子に座らせて、お茶を買ってきて飲ませて落ち着かせる。うん、ある程度は落ち着いたな。だけどそれでも一番落ち込んでるのはスバルだなやっぱり。
 まぁ、恐らくあれだけ練習したのにって落ち込みだなこりゃ、開始直前は興奮気味だったしな。さて。

「で、スバル達はどうしたい?」

 うん、返事がない。いきなりだとわかんないだろうしな。

「……わかんない」

 小さくエリオが呟くと、他の二人も小さく頷く。まぁ。

「エリオにキャロ。そして、スバル。なんでティアナがあんな行動とったか分かるか?」

 そう言って皆の顔を見る。だけど、誰もわからないと言った様子だ。まぁ、人間、分かり合うなんてそうそうできるものじゃない。簡単にできたら誰も苦労しないよ。

「……ティアは、ティアは」

「……勝って自分達は強いって価値を、想定を超えてるって所を見せたかった?」

 ……分かるよ。そう見せたいって、ちゃんと力をつけてるよって。

「……うん」

 うん、こんだけややこしくなってしまった以上。ティアナからも直接話しを聞いた方がいいな。スバルも自分の感情に整理をつける時間だろう。皆も、そして俺自身も。ここに居てもよろしくないと、そう思って移動する。
 


「で、柄にもなくイライラしてるわけ、か」

 若干日が沈みかけた頃、屋上で皆で集まる。さっきまで顔には出さなかったけど、ここに来てから正直隠すのが面倒になって顔に出してる。何時もはケラケラ笑ってる煌も今回ばかりは普通に真顔だ。まぁ、今回の件結構深いし。幼馴染の皆で集まって、普通にお茶飲みながら。奏がポツリと。

「だけど、壁が出来てるなぁとは思ってたけど、まさかここまで来てると思わなかった」

「ん、だね、私や紗雪、煌に優夜はFW組とはほぼ喋ったこと無いけど、それだけは分かる。FWの子達は4人で派閥を作ってるし……だけど、それは仕方ないと思う」

 うん、時雨の言うとおり。この前のアグスタ以降軽い冷戦気味になったなとは思ってたし、なんとかなると思ってた結果がこれだ。その上ティアナ達は四人で派閥作ってるし。早い話が隊員同士と隊長達で組が出来ちまってるんだ。
 何より……。
 
「努力してきた。仲間のために必死でがんばった。その思いだけは間違ってはいない。ただ、やり方が間違っていただけだで、それを正すのがなのはさんだと……あの叫びを聞いてなにかすると思ってた」

 わかってる。きっとなのはさんはこう考えた。違う、そう言ってた。訓練を受けたふりをして、本番で違うことしたら意味がない、と。
 
 ティアナのミスショットの原因の一端が分かってる以上、他に理由がないかを考えるが……くっそ、余計な事して房に入ってる場合じゃなかったクソが。

「で、どうすんだ。俺ら事務組はそっちの面々あまり知らないからお節介は出来ねぇぞ」

「……出来る限り修正できそうならしてみる。無理なら必要悪を建てる。というか立ち掛けてる」

 空気に緊張が走る。シグナムさんに吐いた言葉はおそらく大体の人の耳に入っただろう。別にこれでいいんだが、タイミングが悪すぎる。
 しかし、常々感じてた問題がこうして出てきたのもタイミングが悪い。スバル達と隊長達の見えなくて自覚出来ない壁が原因だ。
 スバルは特に、なのはさんに憧れの感情が強いせいで、下手に突っ込んだ会話が出来ない。ティアナも、どこか距離を取って……いや、普通に上官である以上それが正しい。
 その上、隊長達の付き合いは十年という長年の知り合いという名の厚い壁。結果的に派閥になってる。
 
 完全に、全部が全部裏目った。
 
 色々と思い出して、頭痛がしてくる。が、突然目の前にモニタが開いたと思ったと同時に警報が鳴り響く。空を見上げると既に暗くなっていて星が見えてて……正直面倒事は一度に来られると大変なんだけどなと思った時だった。
 
 直後に屋上に集合ということで、俺と奏、震離はそこでそのまま待機だったんだけども。今の今まで。俺ら6人揃っていたせいで、煌達まだそこにいるんだよなぁ、存在を殺してるだけで。
 で、ぼちぼち皆揃ったなぁと思った隊長達とスバル達が集まってきて、ティアナが起きてるところを見ると大丈夫と思ったが。どうも落ち込んでるみたいな表情で、少し心配……かと思ったらなんか睨まれてんだけどなんで?
 
「今回は空中戦だから私やフェイト隊長、ヴィータ副隊長。そして響と奏だけで行くからみんなは待機ね」

 って全員揃ったのを確認してから、なのはさんがそう言う。またかよって思うよりも先に……ある程度折り合いを付けたか? まぁ、これで後はちゃんと二人で話しあえば……とりあえず今回は終わりそうだけど……絶対にないよなぁ。
 そして、俺必要ないよね? 震離も出動は出来るって言われてるらしいし。なんで俺?
 
「今回ティアナは待機から外れておこうか」

 この言葉を聞いた時、別の事が頭に浮かんだが、思ったとおりなら何の問題もない。
 
 そう思って、ティアナを見て……しまったと後悔した。

「え、ちょ、響?」

 ヘリの影に高町隊長を連れて行く。ヴィータさんがなんか言ってけど、そんなの後回しだ。それよりも、それよりもだ!

「何を言ったのかわかってるんですか、高町隊長……ッ! 上官にそこまでする義務はないと知っています。だが、あのティアナの状態で、それを言うか……ッ!? 役立たずって捉えられるって考えなかったか……ッ!?」

 ここまで伝えてようやくその意味が伝わり。サッと顔が青くなった。
 
「違う、そんなつもりは!!」

 徐々に敬語が抜けていく。同時にどんどん腹が立っていく。この人達は何がしたいんだと。
 いや、分かってるメンタルのケアなんて必要ないって、普通の部隊ならそんなの小隊長のやるべきことだと。尉官がすることじゃねぇって知ってる。
 でも……心を折る場所かどうかくらい、あの叫びを聞いた上での言葉じゃないだろう? 
 だけど、俺の考えなんて二の次だ。問題はティアナだ。視線をティアナに戻す。
 だけどやっぱり。さっきのあの言葉で顔面蒼白で、多分俺らの会話なんて聞いてないんだろう。下手すりゃ、ティアナの中でさっきのあの言葉は懸念していた意味で捉えているかもしれない。それを見たのか高町隊長はティアナの側に行くが……もう遅い。

「言うことを聞かない奴は……使えないって事ですか」

 懸念したとおりだった。何時も気丈なティアナから漏れる悔しさ。本当なら当然だと返す。でも、今それをしたら……間違いなくティアナは折れる。
 そうなってしまえば、今までような前線組の動きは期待できない。
 
 でも……まだ。
 
「待ったティアナ。落ち着け」
 
 違うよという事を伝えようとする。
 
「何でアンタが……!! そうね、アンタなら分かるでしょう? 私なんか……いくらだって代わりがいる事を! あの時、二人の反応が消えて、私に何の期待もしてなかったアンタなら!?」

 ……は? あの時? 二人の反応が消えて? 何の期待もしてない? 俺が? なんで、そうなってる?
 いや、違う。まずは落ち着かせないと……。
 
「……あたしは、あんたみたいに、シグナム副隊長と渡り合えないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも無い。少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ強くなんかならないのよ!?」

 ……ティアナ、お前……いや、そうだ。当然の帰結だ。あの日から特訓をしていたのなら、六課周辺のどこかに居たはずだ。
 シグナム副隊長と戦ったのは伏せられてること、でもそれを知ってることはあの日……近くに居たのか。
 よりにもよって、それを……聞いてしまったのか。
 
 だからティアナは俺に対してあんな目を、スバルもそれを聞いて……。
 
 違う、今は俺のことはどうでもいい。
 ティアナの心からの叫びを聞いて、潰されそうになる、痛いほど、死にたくなるほど分かる。自分の技を、射撃を突き通したいって言う気持ちが、これだけは負けないってものを磨いているこの子の気持ちが。
 諦めてる(・・・・)俺と違って上に……もっと高くいけるのに!
 でも、どうして……誰も動かない? 
 
 なら、俺は。
 
「震離」

「え、あ、はい!?」

 静かな声で、震離を呼ぶ。シグナム副隊長が動こうとしたけど俺の発言で止まった。

「持ってけ」

「え、あ!?」

 俺のデバイスをアイツに投げ渡す。早い話が。

「震離、俺の代わりにやってくれ? どうせ奴さんは、くっだら無い事調べようとしてるみたいだし」

「え、あ、でも」

「あぁー大丈夫だー変態はかせさー、多分ガジェットが威力偵察、ま、データ取りに来てるはずなんだよ、だから俺よりもお前がいったほうが楽だろう。比較的ガジェットを知ってるお前なら、わからないように破壊することも出来るだろ?」

「ちょ、お前!?」

 震離とそんな会話をしていると隣からヴィータ副隊長の怒号が聞こえる。ちょうどいいやカマかけよう。

「作戦通りにっ!」

「……ならばなぜ、俺と奏なんですか? 戦力としては、接近戦しかできん俺よりも、震離の方が優秀で貴女がたの予想したであろう戦力調査としては最適ですよ。それに同じ分隊から出すとかおかしいでしょう? そして、何より俺が何もない空で戦えるはず無いでしょう?」

「ッ!? それは……」

 この反応、まさか。

「それは? それはなんですか? それとも、俺と奏じゃなきゃいけない理由ってあります?
 こういう問題が起きてる時に側に居ないと何しでかすかわからないから、そばに置きたいんですか? ああ、なるほど。そっちに近いのか」

「ちがっ……そうじゃない」

 ……そうか。フェイトさんのその反応で十分ですよ。俺と奏の評価を。もう大体理解したから。
 なるほど、やはり疑われてたわけか。まぁ中立って言ってるし。そりゃそうさ。当然の帰結だよ。
 そう考えると、いや、既に俺の視線は一人の人へと向けた。
 
「ちがう、響。ちがうんだ」

 フェイトさんがそれに気づいたらしく、側に来る。けれど、その前に背を向ける。分かってますよ。でもね。

「高町隊長、ハラオウン隊長。早く行ったらどうですか?」

「え?」

「え、じゃなくて出動でしょう。越権行為、命令違反、上官侮辱の処罰については皆さんが戻ってから受けます」

 そう言ってから、なんかハラオウン隊長が後ろで何か言ってるけど、聞こえない。聞きたくない。奏が震離を引っ張り連れてヘリに乗って隊長達もヘリに乗ってそのまま飛んでいった。そして。
 
「何もなければ、部屋に帰ってとりあえず休め。完全にダメージ取れてないだろ? 少なくとも今日はもう……威力偵察もこれ以上は無いし、地上に配置するにしても余計に警戒強めるだけにつながるからな。
 きっと……大丈夫だ。だからちゃんと休んで明日からまた、ちゃんと話を聞いていけばいいよ」
 
 静かに立ち尽くすティアナに声を掛ける。びっくりするくらい静かに声が出たが……もう俺じゃ届かんな。
 てっきりヴィータさん辺りから後で顔貸せって言われるかと思ったが、無い辺り思う所有りか、何かあったか。
 いつの間にかスバルがティアナの側に来てて。

「命令違反は、絶対に駄目だよ……さっきのティアの言葉とか。確かに私も駄目だと思う!」

「……」

「けど、自分なりに強くなろうとすることとか! 大変なときに、頑張っちゃいけないの!?」

「……」

「自分なりに努力するとか、やっちゃだめなの!?」

 うん、分かるよ。分かる。でもね、そうじゃないんだよスバル。だけど、って言葉を言おうとしたけど。

「自主練習はいいことだし、強くなるための努力もすごくいいことだよ」

 不意にこの場にいないはずの人の声がして、俺たちは声の方を向いて、そこにいたのは、とても辛そうな顔をしたシャーリーがいた。

「持ち場はどうした?」

 シグナムさんの言葉に、まっすぐこちらを見据えて。

「メインオペレートはリィン曹長が居てくれますから。……なんかもう、みんな不器用で……見てられなくて。みんなロビーに集まって、私が説明するから」


 そう言われて、皆でロビーに集まる。そして、なのはさんの教導の意味を伝えると言って映されたのは、なのは隊長の魔法との出会いと戦い。そして敗北。シャマル先生とシグナム副隊長の解説の元知らされた。知らない隊長達の歴史が、この場にいたFW5人に伝えられた―――



 ―――だけど。



「なのはさんはみんなが怪我をしないように」

「そこまで」

 そこで止めた。
 だって……。

「……関係ない話だろう。無理をした、だから撃墜されても仕方なかったって、馬鹿でも分かる話でもしたいのか」

 キッと俺を睨みつけるように。

「私はなのはさんがどんなに必死なのかを」

「バリアジャケット見りゃ、嫌でも分かるよ。あぁ、この子らは期待を……じゃないな、本当に可愛がられてるんだなって。羨ましいほどに。そんな人達に出会ったことは……一度しかなかったから。
 フィニーノさん(・・・・・・・)さんよ。隊長達の個人デバイスに囲まれて感覚麻痺った? 一部隊が主力前線メンバーに、個人専用のデバイスを用意するなんて、俺は5年勤めてて初めて聞いたよ」

「な、そんな事!」

「……無いとは言うなよ。ま、逸れたから戻すぞ。隊長陣に分担して教えてても、必ずコメント残す程度に、六課に入ってからレベル上がったって、熱心に励んでる事くらい分かってるよ。
 それでも、自分の事で一杯一杯だったからこうなったんだよ。
 だから当ててやるよ。高町隊長は悪くない。あの人の人格は完璧だって。だから、ティアナのことを考えてるんだってアピールしたかったのかもしれないけどよ」

「ち、ちが!」

「第一だ、怪我してリハビリを遂げたっていう情報だけで良かったろ……たった9歳でエリオやキャロとそう変わらない年で、魔法を覚えたばかりの人の、今の(・・)ティアナ達に出来ない芸当を見せて、どう思うか考えなかったのか?」

 あの圧倒的な光景を目の前にティアナは絶望……こそしなかったかもしれないだが、確実に何か思うことがあるだろう。
 ……少なくとも。

「正直俺はこう思ったよ。魔力量、レアスキル、それ等に恵まれなくとも弛まぬ努力でカバーできるなんて、そんなのは口先だけのことで、才能こそ必要だ、と。
 でもね、どっちも腹割って話をしてたら、そもそも回避できた問題だ。高町隊長だって、訓練の先を示せば良かった。ティアナだって、それを知っていたら切れる手札も変わったはずだ。
 ……ただ、これは……俺の失言も切欠の一つだがな」
 
「緋凰。それは!」

 睨みつけるようにシグナムさんを制し、苦々しくも止まってくれた。
 ま、今はもう思っちゃいないけど……少なくとも昔は考えたよな。さて。
 
「……ティアナ。空戦の最低ランクがどれに指定されてるか、分かるよな?」

「……え、ぁ……Aラン……く」

 完全に頭が冷えてるんだろ。どこか怯えたような声だけど……それでもこれは話しておこう。

「そう。Aランク。そして、俺はA-。理由はいくつかあるが、まぁ何だ。一番は……魔力が少ないから、Aランクに見合った……硬さがない。速さがない。中距離択がない。
 だから、フロントアタッカーとして満足に機能出来ない。ガードウイングとして、素早く処理を、遊撃できない。センターガードとして、中距離支援が出来ない。でも、空は飛んでるからA-だと。
 そしてな。ティアナが見たシグナムさんとの勝負。あれ半分本当で半分嘘なんだよ」
 
「え?」

 不思議そうに皆の視線が……シグナムさん以外の視線が集まるのが分かる。
 
「魔力なしの勝負だから……拮抗してたんだよ。前に訓練で高町隊長とシグナムさんの同時の訓練あったろ? あの時も俺はマッチアップどころか、震離と流に対応してもらってやり過ごしたけど……アレ単純に速度も火力も空戦機動も勝てないって分かってたから変わってもらったしね」

「……ぁ」

 思い出したようにティアナの目が開いた。裏を返せば……そうか、いつかの優夜とシグナムさんの勝負の時点でそう考えてたんだなぁ。
 もっとちゃんと話すべきだった。馬鹿みたいに警戒して壁作ってる場合じゃなかった。

「……そして、多分あの日の言葉を聞いたって言うなら……被害が少なくなったの部分にはティアナ達も含まれてるんだよ。
 別にアレは勝手な俺の怒りで八つ当たり、そうじゃないって知ってるし、戦力分布も知ってた。ヴォルケンリッターの皆さんを侮辱したかったわけじゃない。まぁ、吐いちまった以上何言ってるんだって事になるけどね」

 ふと、遠くからヘリの音が聞こえて、止まったと思えば。息を切らせて走りこんで来たのは、まず高町隊長。直ぐに場の空気を察して、呼吸を整える。そして、後からやってきたフェイトさんにヴィータ副隊長に奏と震離。そしてまた静かになった。

「ティアナ、正直に。否定なんて絶対にしない……だから、ティアナの思ったことを話して?」

 なのはさんの言葉は、いつもの優しい声で紡がれた。それを聞いて、一瞬ティアナの目が潤んだが、堪えて。
 
「……私、は………凡人……だから、もっと、強くなり、たかった、兄さんは役立たずなんかじゃない、ランスターの魔法は負けないって」

 そうして語る過去の話、兄が殉職した、そして上司はそれを無能とメディアで断じた。だから証明する、兄の夢の執務官を、兄の得意だった魔法でたどり着くことで証明しようとしてた。

 正直うらやましい。俺は受け継いだものを諦めなきゃいけなかったから。ティアナみたいに磨いても、どうしようも出来ないって、実践に落とし込めるか分からないって、わかったから。
 だけどティアナは急いでしまった、努力しなきゃ、無茶をしなくちゃ、夢はかなえられない、と。
 何より、ずっと一緒に居たスバルと並べるように、と。
 ……でも、皆と同じようにやったって夢を叶えられる保証はない。特に周りの急成長と比べて伸びてないと感じてしまえばそれは重く辛く感じるだろう。
 自分だけ、取り残されている……と。
 
 それはとても辛い。置いていかれることも、それが出来ない自分への絶望も……割り切ってしまえばいい。でも……割り切るなんて、ギリギリまでしてからじゃないと、それでも出来ないって知らないと……割り切れない。
 
「……言葉足らずでごめんねティアナ。だから私も……正直に話すよ。
 私はティアナの指揮能力に甘えてた。同時に、ティアナならきっと大丈夫だってそう信じてた……だからね。ティアナがどうしてそうしたのか分かっていないのに、八つ当たり紛いな事をしてしまった……苦しんでいる事、追いつめられている事に気づかなかった事に……分かってあげられなかった」

「ちが……わた、私は……私が」
 
 唖然とした後に感極まったみたいに泣き出した。
 
 ……そうだよな。尊敬してる人にそんな事言われりゃ感極まるよな。
 
「これからはティアナを、皆をちゃんと見る。悩んでもちゃんと一緒に答えを探していこう。苦しんでも手を差し伸べる。挫けそうになったら立ち止まって一緒に考える。これからなんだ。私も、ティアナも」
 
 うん、この問題は、これで終わりだな。やっと。さて、あんまり泣いてるところに居るわけには行かないし。黙ってさっさと席をたつ。出来るだけ気配を殺して行ったし、皆は高町隊長と、ティアナを見てるから多分問題ない。

 ――すぐに確認をとろう。

 そう思って隊舎を出て、海沿いのテーブル付きのベンチに座ってると。そこから優夜と煌が黙どかっと座って、時雨と奏、震離が向かいの席に座った。離れた場所にあの場から遅れて付いてきたもう一人が居るけれどそれは置いといて、さて。

「正直に聞く。感づかれたって気づいたのは?」

 そう言って、手を上げたのは震離だけだ。まぁ、そうだな。それは仕方ない。

「……そうか。じゃあ今回の件全員聞いたな?」

「……」

 皆にそう聞くと、無言で首を縦に振った。

「じゃあ、まだ仮定だけど。今回の件。既に「アイツ」が動いてたと思う。そして俺が情報を流してることに、六課陣営が気づいたと思うんだ。最近送ってこいって催促されて、実行したしな」

 皆の目が鋭くなる。俺も皆に見せないように拳に力が入るのが分かる。
 
「はい。それは響が上官侮辱して明けだったからという線はない?」

「それもあるが、だったら何故俺だ? 奏だけでも……俺だけでも良かった。前者なら何も思わないし、後者なら疑問をいだいて質問した。
 もっと言えばだ。上官に文句垂れた奴を連れて行くとは思えないんだよな。命令を効かない恐れがあると判断されて。
 少なくとも俺だったら、そいつは今日は使わない。士気に関わるからな」
 
 考えられることは沢山あるが、それなら震離も含まれててもおかしくないのに、割と放任気味だ。対して、俺と奏の配置はニコイチの上に、大体奥まった場所だった。よくよく考えれば妙なところだ。
 セット扱いかと思えば、今までもどちらかと言えば奏と震離でペアを組ませて、俺は指示をっていうのが多かったのにここに来てからだ。奏とタッグを組むことが多いのは。
 
「……ちなみに聞くが響よ? アレ、大丈夫なの?」

 と、優夜が指差すのは、あの場から付いてきた人が居るであろう場所。

「まぁ、大丈夫。俺ら……や、俺以外は中立だって認識してる人だし」

 一瞬間を置いて、全員の顔が青くなった。
 まぁだよね、としか。

 現状で話せることを、ちゃんとあの人にも聞こえるように皆に話して同時に伝える。
 下手をすると……いや、俺が六課から異動の可能性も大いに有りだと。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第12話 話をしよう。全力で



 ――side響――

 例の一件以来、訓練は更に厳しさを増した。けれどその中で一番ティアナが輝いてた。理由は言うまでもなく悩みと凡人発言が無くなったからだ。元々潜在能力は高い方だった、周りの成長に焦ってただけで、本来はこれぐらい出来る子だし。
 加えて、指揮官適正。更には実戦で指揮を取れる実績、まだまだ伸びると思うと舌を巻く。そして、間違いなく同世代の中でも上の方に居ると思う。実戦経験の差がでかい、らしい。
 
 特に変わったと思うのが、なのはさんだ。最近はよく皆と話すようになったと。更には自身の戦術の細かい説明、何より隊長と部下ではなく、一人の先輩として話すようになった。これは本当に良い変化だと思う。友達ってわけじゃないけど、こういう付き合いも大事だと思う。色んな事を知っていると、次に出来ることが増えていくから。

 で、あれから2日でこの変化を連絡で聞いた。その中で俺はと言うと。

「暇だな」

 滅多に帰らない。それどころ数年ぶりに戻ってきたミッドチルダの家で謹慎というか待機してます。機動六課……もとい、本局から辞令連絡が来るのを待ちながら暇を持て余してる。
 まぁいいんだけど、隊長陣の顔見なくて済むし……だけど、帰ってこないかもというのは、流石に気が引けて、謹慎で暫く空けるってエリオとキャロに伝えたら凄く悲しそうさせてしまった事。ちょっとそれが気になる。
 しかし、よくよく考えると現場凄いよなと思う。俺が自宅待機、流が負傷により待機。2つも穴が空いてる。こんな時に出動が……やめよう。縁起でもない。

 さて、やること無い。寝……るのはやめよう。だったらやることは一つ。部屋に置いてある鞘付きの木刀を二本持って、家の外へと出る。
 周りが林……と言うより、森に囲まれてるここは、ザンクト・ヒルデ魔法学院から少し離れた山にある小さな旧孤児院、もといアパート。実言うとここには俺以外にも6人。あいつらが各部屋に住んでいる。ただ、ここ最近は俺と奏、震離は帰っていなかった。

 まぁ、それはさておき、水の入ったペットボトルを何本か持って表へ出ていく、出る間に両腰に一本づつ木刀を差して、適当な場所で止まり。水の入ったボトルを少し離れた場所へ置き、その中の一本を頭上に持って思いっきり投げる。もちろん中身は入ったままだ。投げたボトルが頂点につき、落ちて来るまでに腰を落として、刀に手を当て、居合(・・)の構えを取る。

 そして――

 ――sideヴィータ――

 初めて響を見た時、筋がいい。いい感じの指揮が出来るけど、ちょっと弱そうだと思ってた。他の部隊から援軍要請が出た時にFWの奴らが戦ってる所を見たって言ってるのを聞いて、実際に戦ってる所を見ると素直にすげぇと思った。もっと言っちまえば、シグナムとバトったって聞いた時、あそこまで動けて戦えるやつなんだとも認識が変わった。
 同時に思ってた以上に馬鹿だったっていうのも出来たけど。

 それ以前にだ。

 響達がスパイかも知れない、と。情報を提供してくれたアヤ三佐にはあまり会ったこと無い。だけど、六課の隊舎を提供してくれた人。陰ながらはやてを支援してくれてる人。その人からの情報で、皆固まった。だけど、その中でシグナムだけは。

 ――実際そうかもしれない、だが、まだ様子を見ましょう。

 そう言ってた。どこかで会った事がある筈とか言ってたせいか、かなり信用してたみたいだ。それでも一応警戒しないと、とか思っていたら。今度はエリオとキャロに懐かれて、それに嫉妬したフェイトにボコられてた。その後はガタガタしながら六課まで戻ってきて、普通に報告書作成してて、根性があんなと思った。

 次の日になると、はやてから響達に対する新しい情報。だけど、事務にいるあの4人の事も入れて考えると、怪しいと言えば怪しい、でもそうでもないと言えばそうでもない。実際響達はまだ来て日が浅いし。その日はそれで終わった。

 訓練の時。いつもエリオやキャロのフォローに入るし、分隊同士の模擬戦では、わざとティアナの作戦に乗っかって迎撃したり、アイツなりにFWを鍛えるための手伝いをしてる。事務作業も、まだ慣れねぇライトニングの2人の仕事をやってみせたりしてるみたいで、良い教育係になってる。スターズと違って、ライトニングはフェイトがよく別件で外行くし、シグナムも外回りで忙しいからな。良い感じだ。なのはが響にFWの評価を聞いたのって、この辺りだった筈。
 そして、驚くほどよく見てるってすげぇ喜んで、その後なんかブチ切れてて怖かった……。

 で、それからは暫くあたしも外回り。戻ってきたときにはシグナムが凄く喜んでて、少し引いた。あのおっぱい魔人がわかりやすく喜んでるとか本当に怖い。後ではやてやシャマルに聞いたら、事務組の中に骨のあるやつが居たんだと聞いて、ちょっと興味を持った。
 あのおっぱい魔人ほどじゃないけど、そこまで喜ぶってことはかなり強いんだろう。今度あたしもやってみよう。

 あたしもここまで見てて、あいつらがスパイかもってことは完全に忘れてた。それほどまで貢献してたし、変な動きも見せてなかったから。

 変な動きというか、響が報告に上がったアンノウンと戦闘した事は知っている。そいつが流を墜として、重症を負わせた。そして、その後は響が割り込んで、撤退していった――が、響からの報告だ。だけど、アイツはすぐに報告を返すことはしなかった。ある程度時間を置いてから合流。

 言いたくないけど、正直これで疑惑は深まった。不明戦力と会話をしてたみたいだけど、それが何なのかわからない。
 
 加えて、シグナムに文句垂れて、割と騒ぎになってしばらく懲罰房入りに。
 そこまでする必要は無いと思った。でも、既に本局の中では、機動六課がギリギリ勝利したという情報が流れているらしい。
 表向きは上層部の奴らが、それを捻じ曲げてたのにそれが伝わっているということは……誰かが情報を流したということ。
 
 そして、それをした可能性が高いのは響だったということ。
 早計かもしれない、でも……アタシもわからないのが。最初に行ったっきりの地下駐車場の不自然な出血痕。それも決して軽くない程の出血量で、そのDNAは響だったということ。
 下手をすれば、何らかの手段で戦闘中に響が何かを地下で行ったという可能性がある。
 
 おかしい、という点しか無いんだ。
 
 この時から、ティアナの様子が変なことに気づいてなかったといえば嘘になる。だけど、それはなのはがなんとかするだろうと思ってた。話し合いも、訓練も全力全開なアイツなら、問題ねぇって。絶対なのはの気持ちはあいつらに伝わってるんだって。
 でも、起きちまった。あの模擬戦が。目の前で無茶してなのはに墜とされて、初めはこう思った。ちゃんと言うこと聞いとけばこうはならなったのにって。あの2人の模擬戦を見てる時、響が呟いたことがずっと頭に残ってる。

 ――違う。そうじゃないでしょう、なのはさん。
 
 模擬戦が進むに連れて、どんどん顔が青くなってた。ティアナが落とされた直後には、落下地点に行って直ぐに連れてった。ティアナを医務室へ連れて行く時、なのはに向けた目が忘れられない。あれは失望した目だった。あたしはすぐになのはの所へ、FW組はティアナの元へそれぞれ向かった。

 落ち込んでるなのはに、あたしは間違ってない。ティアナが無茶しすぎた、とありきたりの事しか言えなかった。
 そして、夜になった時、警報がなって、出動が決まった。ヘリポートへ向かいながら、メンバーを相談、そして、決まったのがあたしとフェイト、なのは。そして……目の離せない響と奏の5人。おそらく今回ガジェットは、新しい機能の確認か、もしくはあたしらの戦力確認だと予想して決めた。

 屋上につく頃には、FW陣が全員揃う。ティアナもそこに居たから心配がなくなった、やっぱりなのはの加減は上手いとさえ、思ってしまった。その場に全員がいることを確認した後は、移動してる間に決めたメンバーをなのはが発表。そして、ティアナに休めと伝えた。

 伝えた瞬間、響が前に出てきて、なのはをヘリの影に連れて行った。止めようと声を掛けるけど、聞こえてなかったみたいだ。二、三言葉を交わしたと思ったら突然。

 ――役立たずって捉えられるって考えなかったか……ッ!?
 
 はっきり聞こえた、違うと否定しようとなのはの側へ行こうとするけど、なのはと響の言い争いは続いてる。すると慌ててなのはがティアナの側へと駆け寄った。
 そして、ティアナの独白を聞いた。こんなに思い詰めてたんだと、気がつくのが遅かった。だけど、今更なんて声を掛ければいいのか分からくて、ただ見てることしか出来なかった。すると突然。響が震離にデバイスを投げ渡したかと思ったら、代わりに行けといいだした。

 何言ってんだこいつ、そんなの作戦の通りに動けって言おうと思ったらはっきり反論されて、止まった。確かに響をそばに置くのは疑っているから側にというのがあった。だけど、目立って縛ってたわけじゃない。警戒はしてるかもしれないが、まだ気づかれてないと思ってた。

 だけど、そんな事分かってたと言わんばかりに納得しちまった。いや、させちまった。あたしにはそれを否定する材料はない、疑ってるわけじゃないって言えなかった。フェイトが何か言いたそうに響の側へ行ったけど、背を向けられた。早く行って下さいとまで言われた。

 その後は、5人でヘリに乗り込んだけど、最悪な空気だった。でも不自然な程に、奏と震離は何時も通りにデバイスの確認と作戦の概要を確認してた。なのはも座ってる間、ずっと拳を握って俯いてた。その中でフェイトだけが小さな声で。

 ――違うんだ。響はそんなことしない、絶対にしないんだ

 って、苦しそうに呟いてた。なんでそこまで信用してるのかは、あたしはわからない。だけど、それに答えるように、小さくなのはが頷いたのが見えた。そのまま現場へ着いて、ガジェットを墜とした後も、ヘリの空気は重苦しく。到着する直前にアルト達から、ロビーで皆集まってると聞いて、屋上へ着陸した瞬間、真っ先になのはが走っていった。それを追いかけて、ロビーに着いたときには、シグナムと響以外、全員俯いてた。

 そして、静かにティアナの告白を聞く。経歴は知ってた。アイツの兄がなくなって、地上の奴らは無能だって叩いたって。だから、教えてもらった魔法で戦うんだって。ティアナの想いを聞いた。正直そこまでの思い入れがあったことに今更ながら気づいた事。

 それが嫌になる。あたしはこいつらの事を上辺でしか判断してなかったんだって。

 次になのはの告白が始まった。ティアナのことを、能力だけで、ティアナ自身を見てなかったって。あたしは、いや、はやてやフェイト、皆がよく知ってる。なのはがどんな思い出あいつらを鍛えよう、育てようとしてたかなんて。だけど、思ってるだけじゃ駄目なんだ。それをしっかり伝えないと、結局伝わらないし、危ない道へ送ってしまう。

 やっと、なのはとティアナが分かり合えた、そう思ったときには既に響と奏、震離。後はシグナムがその場から居なくなってた。探しに行くかどうか悩んで、でも今後の事を考えて、そのままなのはの講習会参加して、FW全員の今後を簡単に説明してた。あたしもそれに付き合った。で、次の日の朝一番。はやてに呼び出された響は、命令無視と越権行為、上官侮辱で、自宅謹慎が言い渡された。

 ただ、変だなと思ったのが、朝食の時に、響達なら大丈夫っておっぱい魔人がはやてに伝えてたこと。あいつらの事何かわかったのか? でもいつ分かったんだ? 

 だけど、訓練開始してから思うのが、全体的に空気が死んでる。そりゃそうだ。でもやってる内に、どんどん集中し始めて、最終的にはいつも通りのあいつらになった。

 特にティアナの顔が、昨日とは比べもんにならねーくらい、イキイキしてる。それにつられてスバルの調子もどんどん上がってていい感じだ。やっぱり、昨日話しを聞いて良かった。目指すべき先を見据えるっていうが大事なんだと、あたしも実感した。

 まぁ、訓練終わったらまた空気が死んだのは、不味いと思ったけどな。あ、フェイトが追いかけてった。

 
 ――sideフェイト――

 あああ、せっかく訓練中にいい感じだったのに、終わって反省会が済んだら、また皆の雰囲気がなんとも言えない感じに。
 でも、分からない訳じゃない。私も昨日の事を考えたら正直思うところがある。奏も震離も普通にしてたけど、何も思わないわけは無いと思う。だけど、少なくとも今は……。
 あ、そうだ。なのはは言わなかったけど、あのことを聞いてみようかな。

「ねぇ、皆。技術が優れてて、華麗で優秀に戦える魔導師をエースって呼ぶでしょ? その他にも、優秀な魔導師を表す呼び名があるって知ってる?」

 私は隊舎に向かう途中で、そんな問題を皆に出してみた。奏と震離はすぐにわかったみたいで、お互いに口に人差し指を当てて黙っててくれるみたい。私とも目が合って笑ってくれた。

「え、うーーん?」

 4人が顔を見合わせている。答えが出てこないみたいだね。このあたりで答えを出そうかな。皆の前に出て、一人一人の顔を見る。

「正解はね。その人がいれば、困難な状況を打破できる。どんな厳しい状況でも突破できる。そういう信頼をもって呼ばれる名前――ストライカー」

 答えを見ると皆が、あって顔をする。やっぱり聞いたことあるみたいだね。エースは象徴的な意味合いを持つけど、ストライカーはもっと現実的な感じかな? それにあまりエースって呼ばれることよりも二つ名とかで呼ばれることも多いかな。

「なのはは、訓練を始めてすぐの頃から言ってた。うちの4人は……ううん、最近はずっと言ってた。全員、一流のストライカーになれる筈だって」

 ここ最近の――ううん、少し前のなのはを思い返す。響達が来てから、良い影響を与えあってる。皆もっと伸びるって、目を輝かせてそう言ってきたなのは。凄く嬉しそうに話していた。

「だから、うんと厳しく、だけど大切に、丁寧に育てるんだって」

 みんな真剣に耳を傾けている。4人の後ろに居る奏と震離も小さく頷いてる……けど、最近どうも元気がないようにも見えるけど?

「なのはさん、本当にアタシ達の事を思ってくれてるんだね」

 ティアナの言葉に、スバル、エリオ、キャロが頷いている。良かった……しっかりと伝わった。なのはの想いが。いろいろあったけど、最後には分かってくれたんだ。だけど、それは昨日響が話し合いまで持っていってくれたおかげだ。
 あとから聞いて、凄く驚いた。私達と同じくらい、皆の事を大切に思ってたことを。だからこそ、響の底にあるコンプレックスが何か分かった。

 けど、今は置いておこう。

「じゃあ、私たちはストライカーズだね!」

 満面の笑みでスバルがそう言う。うん、凄くいい。皆で助け合って、勇気を持って進む機動六課のフォワードにピッタリだ。皆も嬉しそうに笑ってる。

「よし!じゃあご飯食べに行こう!」

 いいのかなそれ? コケそうになるのをこらえてると、スバルが先頭を切って走り出す。

「「「おう!」」」

 ティアナ達も遅れまいとそれに続いた。後ろにいた2人は私に向かって小さく頭を下げた後、4人を追いかけてった。うん。元気いっぱいだ。でも…。ううん、だけど、その前に誤解をとかないと。

 少し前、私は響に自分の生まれの事を言った。そして、その返事は間違いなく本気の返事だった。だからなんだろう。昨日のあの目は。響自身気づいてないかもしれないし、私の見間違いかもしれない。

 ヘリポートで私を見た時。気にしないで、と。言ってるように見えた。
 あの一件で、私達に対する響の態度は180度変わった。優しそうな顔で、今まで下の名前で呼んでいたのが突然名字に変わった。シャーリーでさえも、名字で呼ばれるようになって少し落ち込んでた。

 私達に対しては――ううん、特に私にはわかりやすい拒絶、いや距離を取った。多分響はこう考えた、私のあの告白は自分をスパイかどうか試したんだと。
 今朝、はやてから自宅待機にすると言われて真っ先に反論した。必要はないと。だけど、命令無視に越権行為、事情が事情だけど、適当には済ませられないと言われた。もっと言えば、その報告自体を響自身がはやてに伝えていた。逃げ場を自分から断っていたんだ。

 そうして謹慎が決まって、響が外へ行く時、見送りに行ったんだけど、目も合わせてくれなかった。静かに私に頭をさげた後、六課を出ていちゃったんだ……。


 ――sideなのは――

「で、皆は響が謹慎なのに。どうして普通にしていられるの?」
 
 目の前で食事を取る事務の日本人4人を見て、ため息が漏れる。特に深い意味は無い。一番近くの席に座ってる優夜が、

「普通……と言われましても、アイツがやったことですし、どうしようも出来ないですし。煌、醤油くれ」

「ほれ、で、間違ってんなら怒鳴り込みますけど、命令違反、越権行為と来たら、ザマーとしか思わないです。時雨、ティッシュ一枚頂戴」

「はい、どうぞー。珍しく響も熱くなったみたいですし、いいんじゃないですか? 紗雪、ちゃんと食べて。あと醤油は使う?」

「……んーん、いらない」

 ……あれ? 紗雪ってこんなにぽやっとしてたっけ……? もう少ししっかりしてたような……?

 朝食セット和食A、ご飯に、お味噌汁。おかずには目玉焼きとウィンナー、サラダのセットと。日本出身の人に取っては馴染みの深いご飯だ。一つ隣のテーブルではスバルとエリオの山盛りパスタが見えるけど、今となってはもう慣れた……。
 で、今日は珍しく事務組4人のご飯を食べてる。ヴィータちゃんは、はやてちゃん達と食べてて、奏と震離の2人は医務室に食事を持っていきながら、向こうで食べるみたい。そして、フェイトちゃんは朝から外回りともう一つ要件があって先に行った。

 ううん、これは、あれかな。自分たちも疑われてる、そう考えてるからこういう態度なのかな? 響と違って拒絶じゃない分、付き合いやすいけど。これは……どことなく冷たい気がするのは、気のせいじゃないよね……でも、そうだよね。疑われてるって分かって普通にしていられるなんて、そうそう出来ないよね……。

「あ、そうだなのはさん。いつかのデバイスの件。一人分ならなんとか絞り出せそうですよ」

「え、本当!」

 思わず伏せてた顔を上げて、煌の顔を見る。

「えぇ、だって、あれからシャーリーさんが、時間空く度にデバイスがー、だの。色々考えたかったのにー、だの。呪詛の様に言ってたので、なんとか予算を詰めて詰めて、なんとか一人分なら作れんじゃね? って位絞りました。褒めて下さい!」

 イエーイと、両腕を上げて、ガッツポーズを取る煌を見て思わず小さく拍手を送る。多分ここにいる4人で本当に頑張ったんだろうな。でも、その割にシャーリーは変わりないように見えたけど……。

「ちなみにまだシャーリーさんには言ってないです。誰の分を作成するのかまだ決まってないでしょうし、とりあえずなのはさんに報告しとこうと」

「なるほど、皆は誰に必要だと思う?」

「「「さぁ?」」」

 間髪入れずに、と言うより考える時間すら無かったと思うんだけど……。
 コホン、咳払いを一つ。

「さぁ……って、何か理由ってある?」

「個人の戦力の底上げって言っても、六課は基本的に金銭面は結構カツカツなので、使わず置いておくのがベストかと」

 煌が応えると、皆頷いた。
 なるほど……個人的には、ここに居ない響用にデバイスを組む相談をしたかったんだけどなぁ。隠しても仕方ないからハッキリ聞こうかな。

「い、一応聞くけど、響のデバイスを作るとして、刀に何かこだわりあったりする?」

 ふと思ったことを口に出したんだけど、その瞬間皆の食事の手が止まり、視線をずらしたり、口元に手を持っていったりして、考え込んだ。何か変なこと言ったかな?

「……有る無しでいうと、間違いなくあります。ただ」

 すっごい気まずそうに優夜が言う。ただ……なんだろう?

「だから、アイツの刀はアレでいいって流れになったかと。それに……まぁ、うん」

 そう優夜が言うと、煌が小さくそうだったって言いながら項垂れた。そんなに不味いことかな? だけど、よくよく考えるとたしかにこれは面倒な事になる。響のデバイス……正確にはバリアジャケットと一部の武装を内蔵したストレージデバイス。
 カスタムはされているけれど、別に大きなカスタムではない些細な物。だけどその機能で一番驚いたのが、響の武装には刀が無い。
 正確にはそれに近い武装はあるけど、刀と呼ばれるものはなかった。これには私もシャーリーも驚いた。どこに刀が入っているんだろうと調べた結果、バリアジャケットの一部として登録されていた。
 更に詳しく調べると、一応刀の形をしているけれど、機能としてはそのままバリアジャケットだった。

 一応ジャケット生成される時に使われる金属パーツを使って刀身が形作られてるけど、攻撃力はかなり低い。
 だけど、調べていてわかったのが、必要に応じて刀身をリアクターパージすれば自然と攻撃力も上がるし、何より、刀をバリアジャケットにすれば魔力保有量の低い響でも再生し何度でも刀を使える。
 紛失してもバリアジャケットだから消す事もできる。そして、一番不思議だったのが、響のジャケットで一番防御力があるのが()当たる部分だった。こればっかりはいくら考えてもわからない。

 多分何か理由があっての事なんだけど、体に纏い、守ってもらう物よりも、武装に比重を置いてるのはどうにも変だ。別にそういう人も割と居るけれど、響の様なタイプは初めて。でも、それはデバイスを作れば解決できるかもしれない問題だから一旦置いとく。

「そう言えば、優夜以外の皆は何か武道してたりするの?」

 空気を変えようと、露骨な話題変更、苦しいなぁと思うけれど、同時に気になってることでも有る。すると皆、顔を見合わせて、まずは紗雪が小さく手を上げて。

「皆何かやってたみたいですけど、私は特にー」

 あら、目論見が最初っから外れちゃった。それに気づいたのか、苦笑を浮かべちゃった、ごめんね紗雪。次に時雨が手を上げて。

「私は実家が弓道……と言うより、弓術の家系だったので、弓をしてました。と言っても本家からは遠いので術と呼ぶには遠すぎますけど」

 あはは、と笑いながら言うけど、普段の皆を見てるせいかどうしても何か出来そうと思ってしまう。今度時間ある時お願いして見せてもらおう。最後に……

「俺は優夜の家の流派、槍術と震離の実家の剣術をベースに我流ですね。つってもまだまだ足元にも届かないですけど」

 ほうほう、我流……なるほど……って。

「えっ、震離の家も剣術やってるの? あまり剣として戦ってる所は見ないけど」

「えぇ。ただ震離は基礎は知ってても剣術としては全然ですよ。それこそ護身用位です」

 ……納得は出来ないけど、何となく分かる。私自身も実家の剣術全然駄目だしね……ちょっとだけ、震離に親近感湧いちゃった。あれ? ということは。

「奏は何もしてないの?」

「奏は……あぁ、唯一響の母さんから直接指導受けてたなー、羨ましかったー」

「羨ましかったって、なんで?」

 煌がいいなぁって呟きながら頬杖してる。でも、なんで? 

「そのまんまですよ。どういうわけか、奏が二丁拳銃使うって分かってた様に、直接教えてたんですよ。俺らには体術しか教えてくれなかったのに」

「門外不出的なことじゃなくて?」

「そういう事なんですかね……? 一応オープンで教えてくれたんですけど。結局響の流派というか名前すらも分かってないですし、そもそもアイツもわからんって言ってるし。一番謎な流派です。体術以外にも暗器とかも使用してますしね」
 
 謎って……でも、そうなると響と奏は同じ流派になるってことは、奏も接近戦ができるかな? 今度試してみよう。後は響だね。響が技を色々見せてくれたらありがたいけど……。今のままじゃ絶対に頼んでも断られるなぁ……。
 なんとかしないと。

「さて、なのはさん。ここらで俺らは失礼しますねー。デバイスの件は、震離か奏に回したほうがいいですよ」

 ガタガタと、椅子から立ち上がって食器トレイを片し始める。もうそんな時間だと思って片付けようと思ったら、時雨が私のトレイも集めて片してくれた。そして、そのまま事務の方面へ。
 さて、今回の話せたことで色々情報が入ったのと、デバイス作成の目処が出来たこと。だけど、暫くは武装よりジャケットの作成を先行させよう。刀は響との問題が解決した時に改めて話し合って決めていこう。暫くは関係を元に戻さないと、話はそれからだ。
 でも、響さ。あなたが思い出させてくれたんだよ。ちゃんと向き合って話し合うって、それが一番なんだって。


 ――sideフェイト――

 今日で謹慎3日目。六課の中では気まずい雰囲気も、徐々に薄くなってきた。はやてもどうしようかと考えてるけど、きっと皆変わらず受け入れてくれると思う。
 だけど、響自身、私達に壁を――いや、拒絶しているかもしれない。大げさかもしれないけれど、響からしたら、私たちは信じていないと言われたような事だ。もちろんそんなつもりはない。でも実際そうなってしまった。
 私はあの日の告白で響が悪い人……っていうのも変だな。スパイのような事をする人ではないと信じてる。
 逆に私はその情報を提供してくれたアヤ三佐が怪しく見える。あまりにもピンポイントだったから、一応はやてには伏せて動いている。六課の隊舎を提供してくれて、色々サポートしてくれている方だもの。それを調べると言えば良い気はしない。
 だけど、少し調べてただけど、変な感じだ。あまりにも何もない。アヤさんには何もなさすぎる(・・・・・・・)。だけど、一つ気になる点が、アヤ三佐の旦那さんが亡くなった時から、突然上がり始めたし、上がるタイミングで、管理局員関連の事件が不自然に起きている。だから、もう少し調べてみよう。

 車の中でその資料のデータを見た後、一つ深呼吸。よし。
 今、私がいる場所は。ミッドから少し離れた場所、少し行った先にはザンクト・ヒルデ魔法学院がある、近くに車を停めて、車を出る。目の前に広がるのは小さな孤児院のような建物。
 そう、響が住んでるっていう家に私は来ました。

 だけど、一つ問題が、響の住所とお部屋の番号はもらったけれど、肝心の番号が建物に振られてないのと、アパートような建物なのに、各部屋の玄関に一つもインターホンが付いてない。201号室だというのはわかってるけれど、2階のお部屋の前に行ってもどこにも番号が振られてない。インターホンもない。どうしよう。一旦下に降りて響に連絡入れようかな? でも、そうしたら拒否されないかな? なんて考えてると、突然目の前の扉が空いて

「……何してるんですか? フェイトさん」

「ひゃい!」
 
 部屋着っぽい和服を着た響がいた。私を見た後、ため息を吐いて。

「ここ、あんまり使わない出入り口なので、下に回って下さい。大きな扉があるので、あっちが玄関なので」

「う、うん」

 そう言って扉を締めて、鍵をかける音が聞こえた。あんまりにも突然のことだったからびっくりした。そして、言われた場所へ行くと、たしかに外から明かりも見えるし、玄関のようにも見える。……緊張してたんだね、私。

「どうぞ、入って下さい」

「……お邪魔します」

 いそいそと中へ入る。洋風な建物とは打って変わって部屋の中は座敷の匂い。なんというか、旅館のような匂いがした。
 玄関で靴を脱いだ後、部屋へと入る。そのまま客間のようなお部屋に通してもらい机を挟んで座布団が二枚。机の上にはミカンと急須と湯呑みが置いてあった。奥の方へどうぞと言われて、奥の座布団に正座で座る。響も私が座ったのを見てから正座で座った。
 そのまま湯呑みにお茶を注いでもらう。お茶の入った湯呑みをもらって、一口飲む。久しぶりに日本のお茶を飲むけど、やっぱりホッとする味で美味しい。さて、と。

「で、どうしたんですか、こんな所まで?」

 エリオやキャロに見せるいつものような顔に、ちょっとホッとする。

「響。聞いて、私たちは別に」

「知ってますよ。ただまぁ……現状どうしたって俺は真っ黒な方の灰色。何かしら証拠が出てきた時点でアウトですし」

 たはは、と苦笑を浮かべる。でも……!
 
「……正直参ったなと思ったのがホテル・アグスタの……地下に落ちてた血。その一点がどうしても足を引っ張る。
 アレが原因で、何かしら言われても……回避ができない。なぜなら、俺はそこに行ったという証拠になり得るんですから」
 
「……それは、もしかしたら響の――」

「どうでしょうね。俺なんかの血を用いた所でたかが知れていますしね」

 私の言葉に被せるように、左右に首を振りながら響は言う。
 嫌な沈黙が続く。謹慎解除がどれだけなのかわからないし、どうしていいのか分からない。でも、何か言葉を――
 
「……しかし、まさかフェイトさんだけ来るとは思いませんでした。もう六課に広まってるんですね」

「……へ?」

 何が? と声を掛ける前に。
 
「本局から転属要請があったんですよ。人手の足りない無人世界の軌道拘置所に転属しないか、と。
 あ、これその辞令書です」

「……は?」

 どうぞと、データが渡された映し出されるのは、転属要請を告げる書類データ。
 何……これ? 待って、既にはやてはそこまで手を回した? どうして?
 
「で、丁度いいというか。まぁいいかなと。元々武装隊に居た頃から、後ろに――あぁ、後方支援か、事務方に回ったほうがいいとは言われてましたしね。
 遅かれ早かれ……まぁ、いいかなと。明後日に返事というか本局に来いと言われてるんで、その時に返事――」
 
「待って」

 伝えないといけない。

「……響。シグナムに言ったあの言葉は嘘だよね? だって、報告書に書いてあった。事細かく、あの量のガジェットを抑えられていたのはシグナムとザフィーラのお陰で、その結果ヴィータをティアナ達の元に送り出せて、ミスショットによる負傷を防げたんだろうって」

「……」

 困ったように苦笑を浮かべてる。でも、続ける。

「……なのはに止められたあの晩。シグナムと何を話して、どうしてそうなったの? 私にはそれが分からない。
 少なくとも、そんな理由で……剣を交える二人じゃない、でしょう?」

「……」

 困ったような目で私を見る。
 
「買い被りすぎですよ。どう転んでも暴言を吐いたのは俺ですし。何か思うところはありましたし」

 ……駄目だ。言葉が足りない……! どう止めていいのか……もしかして奏達は既に知ってる?
 不味い、今日は教会で会合の日だから……そんなに長くは居れない。はやてに確認を取っても、今の時点で話をつけれない以上……。
 
 いや待った。明後日返事をするってことは……まだ、まだ時間はある。なら!

「響。私と勝負しよう。明日の朝一番に。もちろんタダでとは言わない」

「……え!?」

 丁度お茶を啜ろうとしてたタイミングだったらしく、持ったまま固まっちゃった。

「響が勝ったら、好きなようにしていい。必要なことや、調べるものがあったら私に頼ってくれて構わない。というより、拘置所関係ならそれくらいしか私には出来ないし。
 でも、私が勝ったら……その話待って。その上で話をしよう。今度こそ、心から話を」

 そこまで言って、静かに目を閉じる。そして、大きく深呼吸。もう一度目を開け。

「じゃあ、響。今日はこれで失礼するね」

 そう言って席を立つ。言い逃げのようだけど……一旦止まってくれたら。その間に響は目を閉じた。そして、机をまわって、客間の扉に手をかけようとした時。

「フェイトさん……俺を置くメリット、デメリットをちゃんと理解していますか? ま、自分が勝った後なんてどうでもいい。ですが、明日あいつらにも見せたことのない、俺の全てで貴女を倒します。
 そうすれば、今後六課で何か不都合な事が起きても、俺が残したと言い張れば……ほら、丁度いいカードになりますし」

 顔は見えない。でも、拒絶でも何でもない、いつものように優しい声で呼んでくれた。
 
「私も負けないよ。それに……そんな切り方を私達は望まないよ。
 流の負傷が隠された時、誰よりも怒ったのははやてだもの。それじゃ、また明日ね」

 そのまま扉を空けて、靴を履いて外へ。最後は見送ってくれなかった、だけど、今はそれでいい。明日本気でぶつかり合う。なのはみたいに上手く行くとは思わない、だけど、私も全力でぶつかって、話をしよう。今までのことや、これからの事を。沢山――。
 
 
 ――sideはやて――
 
 ……やっぱりや。やっぱり、誰かが情報を漏らしてる。そして、それは響達やない。
 思いたくなかったけど、やっぱりロングアーチの誰かということになる。
 けど、誰が、何の目的で情報を流しとる? そして何を……調べてるんや?
 
 なんて考えてると眼の前に通信ウィンドウが開いて、出てきたのは――
 
『はやて。ちょっと話があるんだけど?』
 
「ど、どないしたん? フェ……テスタロッサ・ハラオウン執務官?」 
 
 何時になく真剣な……いや、これは何かに……私に怒っとる? 何かあったんかと思い名前ではなく役職呼びに。
 
『どうもこうもない。響の件だよ』

「へ? あぁ。平気やよー?」

 正直聞いた上で返事すればよかったと思った。私の言葉を聞いた瞬間、カッと目を見開いて。
 
『あくまで謹慎だと聞いてたし、異動の相談は私の――ライトニング小隊の隊長、副隊長の一報入れてくれないと困るし、出来ない様にしてたよね?
 なんで……まだ、確定しても居ないのに、響を飛ばそうとするの?』
 
 ……は?
 
「……何の事?」

『……とぼけないで。響に本局から異動要請が下って、響もそれを受けようとしてる。
 今は待ってほしいってお願いしたから留まってくれたと思うけど』 
 
 ……異動要請……? 響に? は? はぁ!?
 
「何やそれ知らへん!? 私に何の連絡も……なんでや!?」

『え? はやては知って……本局関係だから直接行った? いや、でもそれを出来るのは佐官以上の権限を持つ人……でも誰が?』

「……分からへん。フェイトちゃん。いま近くに誰も居らへんよね?」

『うん。私の車の中で、教会から戻る所』

「……そう。なら、ちょっとわかったことがあるんやけど――」

 ―――
 
『……それは本当?』

「うん。ホテル・アグスタの私達の警備分布流出から始まり。表に出してない筈のシグナムと響の件。あの時の報告書には、口論した結果侮辱という風に纏めていたはずやのに。
 既に上の何名かはデバイスの不正使用に、私闘という情報を得てるらしいんよ。
 この事実を知ってるんは、ごく限られて、情報も公開していないのに」
 
 ロッサからその情報を聞いたときには心臓が飛び出るかと思ったわ……それくらい驚いたし。
 
『……でも、既に時間も経ってるし。それは』

「まだ断定は出来へん。でもな? 響がなのはちゃんをヘリの影に連れてった時。何もしてない筈やろ? 
 なのはちゃんを指して、怪我はしてませんか? と連絡が来よった。まるでそれを見ていた誰かから聞いたように」
 
 ここまで聞いてフェイトちゃんの目が大きく見開かれる。
 
『……はやて。大丈夫?』

 この言葉の意味を直ぐに察して

「平気……とは言えへん。でもな、居るとは考えてた。私をよう思ってない人は多いし」

 気丈に笑ってみせる。予想と違ったけれど、それでもある程度絞れ始めているというのは事実や。なら行ける。
 
 でもその前に。
 
「響の件。こっちからも本局に確認をとってみるけど、要請やからなぁ……本人の希望が優先される以上、難しいんよね」

『……うん。だから待ってほしいって伝えた』

「……ほんまゴメンなぁ。ちなみにどうやって止める予定なん?」

 ……おや? フェイトちゃんが露骨に目を逸したよ? どうしたん?

『……怒らないでね?』

「怒るわけ無いやん。むしろ待ったを掛けてもらって感謝するくらいや」

『……模擬戦して私が勝ったら待ってって言った』

 ……一瞬間を置きまして。深呼吸してから。

「ら、ランク差考えーや! フェイトちゃん制限あるけど、それでもS+、2.5ランク落としてもAA!あっちはA-やよ!? しょ、勝負になるわけ……あ、だからか」

 自分で言って納得。なんや、そういうことならフェイトちゃんも人が悪いなー。
 
『……や、その場の勢いで』

 ……ちょっとぉ!? 
 
 
 ――sideなのは――
 
「……はやてちゃん?」

「ちゃうよちゃうよ! 異動要請や、私より上の……人事部からの直接の! 私やってフェイトちゃんから聞いて初めて知ったんよ」

 ……目の前で深くため息を吐いてるはやてちゃんを横目に、ズキズキと頭が痛くなってくる。
 逆になるほどと納得できる自分もいて、嫌になってくる。
 だから事務の子達は響関係の話はあまりしないで、奏達もどことなく距離を取っているんだと。響が居なくなる……いや、前向きに検討してるのを知ってたんだね。
 
「……それで明日の朝一番にフェイトちゃん対響っていうカードが組まれたんだね? しかも響が勝ったら異動っていうルールで」

「せや。多分フェイトちゃんが勝つと思うけど。実際の所危なげなく勝てそうなん?」

 ……うーん。
 
「分からない。フェイトちゃんも強い。だけど、響も底を見せてないもん。
 それに観察しててよーく考えてたんだけど。響は現時点でA相当の動きは見せてないんだよ」

「へ? そうなん? ……ゴメンななのはちゃん。いまいちA-……というより、それ相応の動きっていうんが分からへん」

 んー……そうだよねぇ。私達がランク取得した時よりも状況は変わってるし。

「具体的には、Aランクって、その気になれば単独で一小隊を制圧ないし、高々度高速飛行出来るか否かという問題なんだけど……正直響にそれが出来るかと言われれば……魔力的に難しいんだよね」

「へ? 出来るからそうなんちゃうん?」

「ううん。極端に言えば飛行だけなら出来るBランクの子たちは多いよ。でも、空間把握や、飛ぶために常時展開する各種安全装置に、それを維持するための魔力とかいろいろ必要なんだけど。
 響の場合は、後者が出来てない。というより、出来ないんだ」
 
 はやてちゃんの目が丸くなるのを見てちょっぴり苦笑。そのまま話を続行。

「……空間把握は凄いよ。でも、本来必要な安全装置に回す魔力リソースは無いし、身体強化の派生で空を飛んでる。
 底を見せてないっていうのもあるけど……保有魔力量から察すると、私は出来ないって判断を下すよ」
 
 響たちの育成計画を立てて、改めてデータを取った時に驚いたなぁ。なんでこの魔力量で空を飛んでいられるんだろうっていう。
 魔力保有量はギリギリCに掛かる程度で、保有容量はSランクっていうアンバランスなリンカーコア。
 その上身体強化に魔力を回している関係で、あまり射撃戦も、身を護る盾も展開し辛い……ううん。ほぼ出来ないと言っても過言ではない。
 だから奏や震離よりも先にデバイスを優先して回そうと思ってたけど。
 
 なるほど、これは……頭が痛い。

 でもなぁ……。
 
「だからって模擬戦と言うか、実質決闘じゃない。
 ……これ皆にどう説明するの?」

「それなぁ……FWメンバーには伝えててもらってもええ?」

 うーん……。
 
「わかった。なんとか話しとくけど……これ。勝てなかったら、不味いよ?」

「……ぅん」

 ズーンと黒い影を纏うはやてちゃんの頭を撫でる。
 部隊運用に、この前の件で一番しんどいだろうに……。
 

 ――side震離――
 
 ――試合するって聞いたけど?
 
 ベットに入りながら響に向けてチャットを飛ばす。
 今、響からデバイスを預かったまま返してない関係と、それに応じてもしかすると(・・・・・・)なんて考えて。
 
 ――する。だけど、勝ちに行く。だからお願い。外してたシステムと、簡易カートリッジを用意してくれると嬉しい。
 
 ズキリと、胸が痛む。スバルやティアナ達にも知らされた時に、フェイトさんが勝つから大丈夫だと言っていたが……。
 響は本気で勝ちに行くつもりだ。
 正直言うと、行ってほしくないから、お願いは聞きたくない。でも……それがあの人の望みならば。
 
 ――わかった。バカ。
 
 ――ゴメンな。
 
 ――おやすみ。バカ。
 
 ――うん、おやすみなさい。
 
 響との連絡を切って、部屋の設置されてる机の小電気をつけて、響と私のデバイスの内部データを展開。加えて、いざという時用に持ってる簡易カートリッジシステムを使うための、二発装填出来るのデリンジャーにカートリッジを入れる。
 その作業をしていると少しずつ目の前が歪んできて。
 
「……そんなに辛いなら、組込まなきゃいいじゃない。私だって……行ってほしくないし」

 後ろから奏の声が聞こえて、目元を拭って。

「……お願いされたら奏もやるでしょ」

「……うん」

 振り返らずに話しをする。その間に作業は続ける。
 
 時雨から響に届いた要請依頼を聞いた時、もう駄目だったかと諦めた。もうそこまで疑いの目を向けられては、部隊にとってもよろしくないのは誰の目から見ても明らかだ。
 特に実働部隊に居ては、と。
 
 分かってる。だけど、頭じゃ理解してても……心は追いつかなくて。少し距離を取ってた。
 
 分かってる……ここで響が事実上の左遷を受ければ、響を不穏分子として処理という実績。糸を引いてる人は出せないけど、機動六課に何かあっても押し付けることが出来る上に、在籍して情報を流したとか言えば一時的にでもヘイトを集められる。

 でも……。
 
「……頼る事はしても、お願いは滅多にしない人がしてきたんだもん。負けてほしいけど、勝ってもほしい……難しいよね」

「……うん。でも、ティアナに言ってた手前で、これだよ?」

 奏の懸念も最もだ。だけど……。
 
「むちゃするとこうなるよーっていう……加えて、スバルもやるんだったら被弾上等じゃなくてこれくらいやってみせろっていうか……まぁ、無理無茶は良くないって分かると思うよ」

 私のデバイスに逃して、分散させてたプログラムを組み上げて。響のデバイスに入力して……と。

「……出来た」

「……手は抜いた?」

「……まさか」

「……そっか。あぁ……勝ってほしいなぁフェイトさんに」

 振り返って、寂しそうにつぶやく奏を見て。
 
「大丈夫だよ。何があっても響は――」

 きっと、大丈夫だと。
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第13話 想いを伝える。全開で



 ――side響――

 数日明けてた関係で、何となく久しぶりな六課隊舎。
 正直な所、まさか勝負しようと言われるなんて思ってなかったし。そんな言葉を聞ける日が来るとは正直思ってなかった。

 はやてさん関係だろうと思ってたが、どうにも違うらしい。優夜達から話を聞けば、既に六課内には広まってると思ってたら、勘違いだったと聞いた。
 加えて、人事部からの直接連絡……何か思惑があるのか、はたまた呼び出すための口実か。
 基本的にあんまり本局なんて行かないからなぁ。
 
 ……さて、いい加減切り替えるか。
 
 行きたくないなーと思う半面、行ったらしばらく動けないが、それでも遠くからでも手を差し伸べることは出来る。
 それに――
 
「おはよう。ばーか」

 朝靄の中から聞こえた声はよーく見知った声で、気配は一つ。
 やっぱり奏は起きれなかったんだなぁ、なんて考えながら。
 
「おはよ。震離」

 眼の前でぶすっとしてる■に何時ものように声を掛けた。
 
 
 ――sideなのは――

 フェイトちゃんに頼まれて、朝一番にシミュレーターを起動してセットしておく。加えて朝早くということもあって騒音対策もしっかりしている。
 既にフェイトちゃんはシミュレーターに展開されたビルの上で待機している。私もコンソールの側のベンチでそれを見守っている。
 
 予想では……いや、間違いなく言えるのはフェイトちゃんが勝つ。それは揺るがないけれど……だけど、それは。
 
「何分持つと思います?」

 ふわり、とした声と共にやって来たのは。
 
「おはよう時雨。今日は早いんだね」

「おはようございますなのはさん。えぇ、だって親友の分かれ道ですし、気にしない訳ないじゃないですか」

「うん、そうだよね」

 何時も通りの雰囲気な時雨に対して、苦笑を浮かべてる優夜。何時もと違って眉間にシワが寄ってる煌に……アレ? 紗雪が居ない? ……まだこっちに来てないだけかな?
 最近どうにも雰囲気が違うけど、どこか調子が悪いのかな? ……そこまで親しいかと言われればなんとも言えないけど。
 
「……フェイトさんが、響に付き合わずに居たら問題なく勝てるんですけどね」
 
「……うん、やっぱりそうなるよね」

 ポツリと呟く優夜の言葉に同意する。
 確かに響はまだ底を見せて無くて、加えて全力機動も何も見せてない。だけど、その片鱗は掴んでる。
 響の基本は、フェイトちゃんやエリオと同じく、スピードタイプでもその本質は違う。二人が速度に振ってるのに対して響は加速(・・)減速(・・)に振ってる。
 訓練の時は出してないけど、アンノウンに一撃……一打を徹した時にそれは見て取れた。踏み込んで急停止からの一打。それをするだけで威力の桁は大きく異なる。
 いつかスバルにも出来るようになってほしい技術だけど、アレ程の加速減速の俊敏性とシューティングアーツ(SA)との相性は微妙な所。
 それは今後の課題としてと。
 
 フェイトちゃんが響に付き合わなければ(・・・・・・・・)問題なく勝てる。
 ただし、付き合ってしまえば……いくらフェイトちゃんでも取られる可能性はある。
 
 それにしても。
 
「皆、やけに詳しいけど……やっぱり魔力戦に――空に戻りたい(・・・・)?」

 空気に緊張が走ったのが分かる。
 でもね、私もいろんな人をずっと……ずぅっと、見てきたから言えるんだよ。
 
 皆、空を飛んで戦ってたよね? って。
 
 指揮官をしたことのある人は空戦を立体的な盤面でしか捉えられないけれど、実際に空を飛んで空戦をしたことのある人は違う。
 立体的に見えてる、分かることを把握してることが大きく違っててるのに、この子達はそれを知ってる。
 あまり積極的に話してくれないけれど、ふとした時に空戦をしてる響達の映像を見てて、ハッキリと指摘出来るのは空を知ってるからだ。それも、教科書通りの回答ではない、その人に合わせた空戦機動を。
 
「さぁ? 何のことでしょ。親友が相談してきたのを答えてたら。いつの間にやら詳しくなっただけですよ」 
 
 フッと笑う優夜の言葉と共に緊張がなくなる。気がついたら、紗雪も合流して……なんだか眠そうだね。
 
「そういえば、奏も来るかと思ってたけど……どうしたの?」

「FWの皆で食堂で見るって言ってましたよ。震離は……まぁ多分医務室で見るんじゃないかなーと」
 
「そうなんだ」

 で、4人はここで見るのかな? てっきり皆と見るものだと考えてたけど。
 
「……下手すりゃ最後の見納めになるかもしれないので、生で見ておこうと」

「……まさか。まだ続けてもらうよ。だって依頼出しちゃったもん。響のデバイスの作成を」

 だから、負けてもらわないと。せっかくのデバイスが持ち手不在のままになっちゃうから。 
 
 
 ――side奏――
 
「……別にティアナのせいじゃないでしょうよー」

「……でも結果的にあの時私が馬鹿しなければ、ここまで発展しなかったじゃない」

「結果論でしょ。どっちにしろ異動要請自体は来てただろうし、この勝負自体は行われてたと思うよ」

 机に突っ伏したままのティアナを横目に見つつ、モニターに映るフェイトさんを見る。
 誰もフェイトさんが負けるとは思ってない。むしろ、響の方を心配してる。
 それは怪我とかそういう意味ではなく、本人の意思を蔑ろにするのはどうなんだろうという意味で。
 特にこれにショックを受けているのは。
 
「……お兄ちゃん。六課から離れたいのかな?」

「……それはない。だけど、必要だからそう決めて、待ったが掛かった」

「でもそれは……残って欲しいのは僕たちのワガママなんじゃないかなって」

「それは違うよ。響も居てもらわないと困るから、フェイトさんは待ったを掛けたんだよ」

 響対フェイトさんの勝負と、それに至った経緯を聞いて一番驚いて、不安定になったのはエリオとキャロの二人。
 ティアナも自責の念に駆られてるけど……それも違うんだよ。
 
 響の想いを大切にしたい反面、行ってほしくないから……あぁ駄目だ。気持ちが纏まらない。
 
 勝ってほしい。あの人がそう決めたんだから。
 
 負けてほしい。皆揃ったんだ。まだ一緒に在りたい。
 
 勝ってほしい。悩んで苦しんで出した結論なのだから。
 
 負けてほしい。そうしないとあの人は――
 
「……ねぇ奏」

 思考の海に漂ってる所を、スバルの一声で引き戻された。
 
「響が、ね。この前さ。魔力量、レアスキル、それ等に恵まれなくとも弛まぬ努力でカバーできるなんて、そんなのは口先だけのことで、才能こそ必要だって。それと、硬さがない。速さがない。中距離択がないって……やっぱり何かあったの?」
 
 ……あぁ、それか。そうだねぇ……。
 
「……有るよ。そうだ。いい機会だから話しておこっか。
 そうだよ。響ってぶっちゃけ前線に出すには脆いし、遅いし、火力も遠くの敵を攻撃する手段もない。
 なんで前に出ているんだってタイプの……狂人だよ」
 
「……でも現に私達に勝ってるじゃない。しかも私の策に乗った上で、ひっくり返すし」

 頬杖をしながらぶすっとティアナが言う。何時も悔しいって言っては、響から、なのはさんからそれぞれ指摘されてたもんね。  
 
「……よぉく考えて。ちゃんと響が戦闘を、正面から戦ったのって……実は初めて模擬戦をした時だけだよ」

「……そう言えばそうね。基本は震離と連携か、流に合わせて裏取りが……あ」

 そこまで言って、ようやく気づいたらしくティアナの目が丸くなる。
 
「……もしかして、響はバリアを抜く事が出来ない?」

「そ、正確にはちょっと違うけど、概ね正解」

 ……まぁ、模擬戦だし仲間だからって考えてるから、打撃の徹しも全力の打ち込みもしないんだけどね。

「正確には、響には非殺傷設定ってつけれないんだよ。それを発動、維持できるだけの魔力リソースが無いから。
 だから、基本的には響は対人戦闘で刃を向けたりしたがらないんだよ。万が一でも怪我させたくないから。
 ま、最近は皆の防御がだいぶ硬くなってるから、使ったとしても歯が立たないじゃないかなーって思ってたりするけど」
 
 しかも、打撃の徹しも本当に痛いし、当たりどころによっては不味いことになりそうだから余計に使う気無いみたいだし。
  
「でもまぁ……勝ってほしいなぁ」

 どちらにも。


 ――sideフェイト――

 昨日の晩。なのはに響と勝負すると伝えた。驚いてたけど、事情を知ってて今回だけだからね許可を来れた。
 響と向き合って全力でぶつかって。私達の想いを伝える。なのはが教えてくれた様に、あの子達のお兄ちゃんになってくれた人を、ちゃんと見て、私も全力でぶつかって話をしよう。
 その考えを伝えたらなのはも納得してくれた。きっと響が勝っても、私が勝っても、全てを吐き出してはくれないと思う。でも、少しでも溜め込んできた想いに触れることが出来たら。
 一番意外だったのがシグナムだった。響の事を否定することなく。ただ。

 ―――アイツらが抱えてるもの、その一握りでも掴んでこい。

 ただそう言った。私とは違って、一瞬とは言えシグナムは響と本気の勝負をしたからなのか、どちらかと言うと向こう側に立っている様に思える。
 なんとなく予想してたけれど。何かしらの情報をシグナムは持っているんだろう。だけど、はやてがそれを知らないということは、きっと誰が聞いても響達から話してくれるまで口を割ってはくれない。シグナムはそういう人なんだ。

 そして、迎えた今日。訓練スペースを起動してもらって市街地エリアにしてもらう。その中の適当なビルの屋上でジャケットを展開して響を待つ。既に昨日の内に伝えてある、六課に付いたらまっすぐここに来てと。
 あと、皆には離れて見るようにお願いした。隠すわけじゃない。だけど響自身皆に会いづらい……事は無いだろうけど、次に皆の前に響と行くときにはいつもの様子……とは言わないけど、少しでも前の様になってほしい。そう考えて今私一人でここにいる。

 あの日の夜の響の態度の変わり方を皆見て、特にティアナは私達と響の間に溝を作ってしまったって気にしてた。エリオもキャロもあんなに冷たい態度を取るのは初めてで、どこか落ち込んでるように見えた。

 情報があった。だけど、その時点ではまだ可能性だった……はやての夢の部隊。その設立はとても長い時間と、苦労。なにより妨害があった。
 無意識に私たちは響を――あの子達を疑ってしまった。そして、その結果、皆の関係を悪くしてしまった。知らなければ今頃こうはならなかった。隠し事がある事くらい分かってあげれた。

 でも。

「……来たね、響」

 一つ隣のビルの屋上に響が降り立った。話した通りまっすぐ来てくれた。ジャケットを纏って、刀を腰に二本つけていつでも戦えるようになってる。

 遠くに居るけどはっきりと分かる。伝わる。まっすぐこちらを見ていることを。大きく息を吸って、静かに吐く。
 そこから静かにバルディッシュを構えた瞬間。熱のようなプレッシャーが来た。
 
 ふと、昨日の言葉が頭をよぎる―――全てで私を倒すと、その言葉を。

 示し合わせたわけでも、開始の合図が聞こえたわけでもない。ブリッツアクションを発動、まっすぐ響の居るであろう場所へ飛ぶ―――が、私の目の前に既に響が居た。
 瞬間、バルディッシュと刀が苛烈な響きを上げて交錯。互いの武器が弾かれる。その一瞬にバルディッシュをハーケンフォームへ、その変形の一瞬の間にもう一度踏み込まれ、もう一度刀を振り下ろされる。
 
 もう一度ブリッツアクションを使って、響の背後に回り、その勢いのままバルディッシュを横に振り抜く。だけど、一際高い金属の音が響く、背中を向けたまま刀を盾にこれを防がれた。

 一旦距離を取ろうと、後ろに下がる。瞬間、背中を見せてた響の姿が揺らいだと思えば、そのまま消え、突然目の前に現れた。既に反転は済まされ二本の刀が光る。隙間がないと思う程の幾つもの斬撃。咄嗟にシールドを張ったけど、その気迫に圧倒されそうになる。
 斬撃がつながり、止まらない。押して、押して、押して行く。私が少し下がればその分詰めて、止まらない。
 今までの訓練の時も。刀が折れるから、優秀な前衛が居ると前に出る機会も少ない、力押しされたら敵わない、と言っていた。けれど、本当の全力の響の斬撃はシールドに阻まれながらも、脆い刀を折ることも、欠けることもなく使いこなしている。
 だけど。それにも限界があるはずだ。以前デバイスの情報を観覧した時、長期戦は出来ないというのを把握している。ならば。

「……強い盾を置けばいい、と、思っているんでしょう? そんなもん分かってますよ」

 そう聞こえた瞬間、再び響の姿が揺らいだと思いきや、全方位から斬撃を浴びせられる。
 
 たまらず、空へと逃げる。咄嗟にバルディッシュが全方位のバリアで守ってくれなければ、今のは危なかった……と考えたとほぼ同時に、目の前に響の刀が一本舞い上がる。視線の端に映る響は、左手に刀は持ってるけど、もう片方の手に有るはずの刀がなく、腰にも刺さってない、なら、この刀は?

「ッ、バルディッシュ!」

[Yes, sir.]

 その刀を遮るように盾を張る。それよりも先に刀が爆発した。爆風に飛ばされ道路へ堕ちる。
 怪我こそ無いけれど、ダメージが有る。体制を立て直して、ビルの屋上を見ると。刀を持った響がこちらを見下ろしていた。

 すぐに今の攻撃を整理する。そして、直ぐに答えへ行き着く。おそらく今のはリアクターパージ。あの刀自体がバリアジャケットの響ならではの技だ、と。
 だけど、これは……この技術は武装局員としてではなく、おそらく対人を想定した技だ。もっと言えば――いや、まだだ。

「まだ、決めつけるには早い」

 改めてバルディッシュを構えて思う。あの日の晩の響の言葉を。

 ――魔力量、レアスキル、それ等に恵まれなくとも弛まぬ努力でカバーできる。そんなのは口先だけのことだ、と。

 対人に置いて凄まじい技量が有るのはわかった。響のスピードの事もわかった。だけど、結果はこれだ。響には、盾を撃ち抜く力がない。
 にも関わらず、私は押されている。いつもの響を考えれば、大人しく下がって何か手を打つと思う。だけど、今の響はこちらの動きを伺っている。下がって体制を整えるわけでもなく、そのまま戦闘を継続しようとしている。

 だからこそ思うよ。凄いって、そんな子が一緒に戦ってくれる、それだけで力をもらえるって!

「私も全力でいくよ。バルディッシュ、サードフォーム!」

[Zanber Form.]

 バルディッシュのサードフォーム。本来なら限定解除の時にしか使えないけど、昨日の夜の内に調整をしておいた。
 正直直前まで使うかどうか悩んだ、限定解除してないと魔力効率が悪くて、稼働時間が短い。
 だけど、そんなことはどうでも良い。この短い打ち合いの中でもわかった。あの言葉の通り、全力なんだって! そんな人に手を抜かれた、なんて、そんなこと思われたくない。

 大剣を、バルディッシュを構えて、もう一度見上げる。相変わらずこちらを見下ろしてるけれど、自然体で隙がない。気がつけば両手に刀を持っている。

 響がこちらに斬り込まないのは、私より遅い(・・)からだ、正確に言えば、響の速さの秘密は、加速にある。響のトップスピードは現在のエリオより少し早い。だけど、それ以上に加速と減速が凄まじい。一瞬で最高速を出したかと思えば、いきなり停止、その緩急が凄い。響が動く時、揺らいだように見えたのがそうだ。
 予備動作無しで、瞬時に最高速で視界の外へ行き、あえて目の前に現れる。スピードに自信はある。あくまでそれは最高速、平均速度といった事で、加速減速を極めているのは初めてだ。私もある程度なら出来る。
 けど、予備動作無しであそこまでの事は出来ない。

 なら、対応は出来る。後はそれに響が乗ってくれるかどうか。

 サードフォームに切り替えてから、睨み合いが続く。屋上の攻防と違って、地上と屋上。踏み込むには遠い、かと言って下手に射撃を使えば、その瞬間突っ込んできそうだ。
 仮に射撃を撃つ際、防御魔法を使っても、下手をすると間に合わない可能性もあるし、何より響には鎧通しを使った重い一撃がある。
 今でこそしっかりとジャケットを来ているとは言え、重い一撃をもらうとこの後の機動に影響が出るかもしれない。
 でも。

「シューター、セット!」

 周囲に雷を纏った、スフィアを左右に2機づつ、背後に2機、展開。瞬間、屋上に居る響の姿が揺らぐ、同時にバルディッシュを掲げカートリッジを全てロード。それと並行して展開したスフィアが膨張する。そして――

「ッ!」

 瞬時に眼前に現れた響、同時に周囲のスフィアが自壊。小規模な爆風が来る。私を見るその表情はどことなく悔しそうだ。そして、真っ直ぐこちらへ向かってくる。

「ジェット……ザンバー!」

[Jet Zamber.]
 
 振り下ろすと同時に極光が奔る。目の前にあったビルが吹き飛び、爆風が広がる。ふぅとため息が漏れた。


 ――sideなのは――

「……勝負」

 有り、と続けようとした瞬間。
 
「……あのバカ。いや……まだ、システムに委ねてるだけマシか」

 煌が苦々しく呟いた。
 システムに委ねてる? 何を? そこまで考えて、ふと思い出す。
 
 ――全てで倒す。

 まさか……まだ、何か?
 
 
 ――sideティアナ――
 
 決まった! フェイトさんの切り札の一つを引き出させて、その上で斬撃魔法を撃たせるなんて……やっぱり強い。
 だけど、やはり順当にというか、こうなるという結果だった。
 
「……いつもの手段だ。気を抜かないで下さいフェイトさん」

 苦しそうに呟く奏を見て直ぐに悟る。
 
 まだ、終わってないと。 
 
 
 ――sideフェイト――

 ――――背筋に走る、ぞわりとした感覚。反射的に身を捻り、爆煙を貫いた何か(・・)を躱す。更にもう一度風を斬る音が聞こえ、音が聞こえた方を薙ぎ払う。
 爆煙で見えないが何かを弾いた手応えを感じた。薙ぎ払ったと同時に目の前の爆煙が晴れる。が、もう一度背筋に、ぞわりとした感覚が走り、振り返る勢いでバルディッシュを薙ぎ払う。

 しかし、硬い何かに阻まれ、途中で止まる。振りかぶった風圧だけが残り爆煙が吹き飛ぶ。

 煙が晴れ、そこに居たのは、ジャケットの右上半身が吹き飛び、震える右手で刀を持ち、左手に鞘を持ってザンバーを受け止める響の姿があった。
 
 何より驚いたのは。
 
 紅い目、それは私とは正反対。瞳が紅い私に対して、響の目は白目が赤く染まっている。

 一瞬の膠着。先に動いたのは――いや、動かさざる得なかったのは響。煙が晴れた時点で、響の持つ鞘は既に罅が入っていた。そして、響が揺らぎ消えたと同時に、砕け落ち、バルディッシュが空を斬る。
 
 一瞬下がったと思えば、既にこちらの左前に踏み込まれていた。それはバルディッシュが振り抜かれた後の場所。背中を見せ、腰は落とされてる。
 分からない――でも、不味いのは確かだ。眼の前で響が回転し、振り向こうとした瞬間。
 
[Jacket Purge.]

 それよりも早く。バルディッシュがオーバーコートをパージ、衝撃で響が弾き飛ぶのが見える。
 助かったと思う半面、上手い……いや、それ以上に。明らかに加速した。こちらが思う最高速度を塗り替えて――違う、それよりも。
 
「響! 出血が……ッ!?」

 再び揺らぎ消えたと思えば、背後に回り込まれる。頬に感じる動きは、響が移動した際に発生した大気の揺れ。
 その揺れは早い。だが。
 
[Thunder Arm.]

 左腕を盾の様に立てた瞬間。
 
「……ッ!!」

 鞘で斬りかかってきた響に電撃が流れ込んだのが分かる。後はこれでバインドさえ、と考えるけど。
 私の左腕を取った瞬間世界が反転。
 
[Sonic Move.]

 投げられたと感じるよりも先に、ソニックムーブを使いこれを離脱。
 次はどう攻めてくるかという事よりも、まず考えるのは。それ以上に感じる違和感。電撃を流し込んだというのに、それを無視して行動した事。何より明らかに出血して白目が赤く染まってる目。
 
 分からない。何が起きたの?
 
 いや、それよりも。痛みを感じてないし、私の動きを完全に見切っている? 
 
 だったら、と。
 地へ降りたと同時に、再び背後から風を感じる。首だけ振り向けば、鞘を刀に見立てて背後からの横一閃を放とうとしている。
 素直に上手いと思うし、こちらの動きを見きった一手。明らかに実践の剣術だけど、
 
「バルディッシュ」

[Yes.]

 もう一度オーバーコートを展開して、そのまま背後へバックステップ。
 踏み込んでの一打に合わせて、こちらは防護服に魔力を込めて盾とする。
 加えてバックステップのタイミングに、ソニックムーブを使えば横一閃よりも早く行ける。
 
 しかし、黒い髪が流れるのが見えて。もう一度離れられたのを理解した。
 
 そこで気づく。足から出血しているらしく、ズボンが黒く滲んでいるのがわかった。
 踏み込んでいたのに、それとは正反対な挙動をしたから足に負荷が掛かったんだろう。でも、痛みを感じていないように、挙動を続けている。
 
 ここでようやく気づいた。
 響は――
 
 
 ――sideなのは――
 
「……なるほど。これは……勝っても負けても、お話しないとね」 
  
 フェイトちゃんと響の攻防の間に、ジェットザンバーの直後の映像を展開して響が何をしたのかようやく理解した。
 なんてことはない。
 身体強化だった。
 ただし、カートリッジを二発用いてなにかのシステムを展開と同時に、白目が赤く、心拍は200を超えて動いている。
 加えて、激痛が走っているにも関わらず、動けているのは……痛覚を切ってるんだろう。
 
 でも、そんなシステムは響のデバイスには入ってなかったはず。皆からデバイスを預かった時にシャーリーが気づかない筈がない。ということは……外から入れた?
 
 いや、そんな事を気にしてる場合じゃない。
 
 見るからに速度は鋭さを増しているのに、前より増して響はフェイトちゃんの動きを完全に見きって対応して見せてる。速度が上がれば対応する手数は減るのに、逆に上がってるということは……思考の加速も出来ていると言うこと。
 
 ということは、響が今している身体強化は、五感と思考加速、心臓機能強化に全てを振って可動してるということになる。
 確かに驚異だ。普通の隊員ならば容易く倒されてしまう。
 確かに早い、後出しで対応を変えて撃破出来るんだから。
 
 だからこそ……。
 
「……だから諦めたんだ」

 泣けてくる。
 無理無茶を通すために、これを開発したんだろう。少しでもその匙加減を間違えれば取り返しのつかなくなるのに、それをギリギリの所で押し留めている。
 
 だけど、それでも……。 
 
「……勝てないんだ」

 おそらく思考速度でフェイトちゃんを圧倒してる。でも、フェイトちゃんは一人じゃなくて、バルディッシュと二人で戦っている。
 それが勝因を分ける。
 
 どんな思いで、アレを組み上げ、実戦に使えるようになるまでしたんだろう?
 どんな思いで、そこまで突き詰める事にしたんだろう?
 どんな思いで、今、戦ってるんだろう。
 
 きっと、やればやるほど嫌になるほど痛感しているんだろう。
 
 勝てないという事に。
 
 
 ――sideフェイト――
 
 右目の端に影が映る。アレだけ見せられたんだ。もうその速度には慣れた(・・・)
 瞬時に判断し、右を払いつつ、その勢いのまま反対へ切り抜くためにバルディッシュを横一線に薙ぎ払う。
 
 早く終わらせるために、早く医務室へ連れて行くために。

 振り抜く直前、背後から肉薄するために、再度踏み込んでくる。ザンバーを、バルディッシュを恐れずただ真直に。

 完璧に捉えた、筈だった。だけど、当然そう来ると言わんばかりに震える右手に鞘を前に突き出し、バルディッシュをほんの僅かにずらした(・・・・)

 その刹那――響の目が煌めく。けど、それ以上に口元が自然と微笑んでる。

 体を地面すれすれへ屈ませながら、魔力刃の下へ踏み込む。右手の鞘へ刀を収め、踏み込んだ勢いはそのまま、真直私へ向かい――
 
 ――斬られた。
 
 そう認識した瞬間腹部に激痛が走る。ジャケットを纏っているのに、殴られた(・・・・)ような痛みが奔った。そのダメージをこらえつつ、振り向き今一度バルディッシュを構える。

 少し離れた場所に響は立っていた。右手に鞘を持ち、左手には中ほどから折れた刀を持って。静かにこちらを向いていた。

「……やはり俺……では……これが限界……か。意地を張るのは……もう……やめ……」

 倒れる。そう思った瞬間、残った魔力を使い、正面から支える。既に半分意識が無いようだ。

 そして、悲しげに。

「……あぁ、悔しい……もっと魔力が……あれば……もっと力が……あれば……。もっと……いろんなことが……出来る……のに……なぁ」 

 そこで意識を手放した。だけど、何処か憑き物が落ち、いつか見た柔らかい笑みを浮かべた響がそこに居た。

 結果だけ見れば、私が勝った。だけど、私のワガママでサードフォームを出した。にも関わらず、その中身は正直勝ったといえる内容ではない。

 何度も激突。その殆どの主導を取られて、1度は読み勝った。けど、もし――響に魔力があったなら、最後の激突は、おそらく私が倒れていた。腹部にある痛みがそれを証明している。

 
 さぁ、響が起きた時、彼の内情は話してもらえたら良いけど、少しでも話ができたらいいなって。
 
 


――sideなのは――

 医務室で眠る響に夕日が差す、それを見ながら、深い溜め息が漏れる。たった十数分の模擬戦。FWの皆は普段あまり見られない、フェイトちゃんの戦闘と、響の全力を見て盛り上がって……というか、ドン引きしてた。
 理由は言わずもがな、あんな無茶を通そうとしてたんだから……そりゃあねぇ。
 あと裏でヴァイスくんが落ち込んでいたから裏では賭けとかあったんだろうきっと。まぁ、それは置いておいて。
 問題……と言うより、一つ気になることが。あの模擬戦の最後に見せた居合の一閃。形こそ違うけれど、まさしくアレは。

 ――御神(みかみ)流奥義、虎切(こせつ)

 鞘走りを使った、神速ともいえる踏み込み。そこから繰り出される斬撃。昔、家の道場でお兄ちゃんとお姉ちゃんが模擬戦をしている使ってた技。

 まさか、こんな所で見るなんて。夢にも思わなかった。私はあまり詳しいことを聞かされていないけれど、間違いなく表に出る技術ではない。まして、たまたま習ったわけでもないだろう。

 だけど、そうすると以前に煌達が言っていたことに矛盾ができちゃう。自身でも流派を把握してない、と。
 細かく聞いてみたいけど、基本的に手を隠していたいタイプだから、素直に答えてくれるか……。あ、だからかな? この前の出張任務、ここなんか居ませんかって言ってたの。
 あれ、お父さんやお姉ちゃんを警戒してたのかな? また戻った時にもう少し御神流ついて聞いてみよう。

 それはさておき、模擬戦が終わった時、皆すごかったなー。特にシグナムさん。引きつったような、凄く楽しそうに笑ってた。そろそろ模擬戦を止めること出来そうにないなー。
 ただ、ティアナだけは少し落ち込んだように見えて、少しお話を。だけど、思っていたものとは違う返事だった。

 ――あんなに強いのに、評価されないなんて、おかしい。と。

 それは私も思う。あれ程の機動。加速減速。そして、多分揺らいで消えたように見えたのも、おそらく何かしら歩行術の応用だろう。
 だけど。いつか響が言っていたことをティアナに、皆に伝える。魔力保有量故の限界。ティアナ達と違い、ある意味では響は既に「完成」されている。
 これから先、技を覚えても。基本的な戦術は変わらないだろうし、下手すると今日のような全力はもう出さないかもしれない。というか出さないでほしい、見てるこっちが心配する。
 間違いなく技術は最高値。だけど、見られれば見られるほど対策は出来る。
 実際私はどうやって響を捕まえるか、と考えればシールドバインドや、アクセルシューターで回避に集中させて、攻撃をさせない、こちらに向かわせないという戦い方が出来る。
 それ以前に、もしもあのモードになったら防御に集中して自滅を狙うのがベストだろうなぁ。
 知らなかったらこんな徹底した事は考えなかった。そして、完成故にこれから先、能力が上がっても、根底にある実力は上がらない。
 以前にシグナムさんと優夜が手合わせをした時、今と似たような状況があった。だけど、決定的に違うのは、優夜は受け流した。対して響はあの一瞬。完全にフェイトちゃんの攻撃を見切って虎切を叩き込んだ。今更ながら打撃の徹しも、御神流の技である徹では無いかと思う。
 もしも刀がちゃんとしたものなら――。こまで考えて、試合の流れが変わったあの一手を思い出す。刀を投げ、爆発させた。刀をバリアジャケットとして使用している響ならではの一手。
 そして、ザンバーを受け止めた鞘も、自身のバリアジャケット並に硬度を誇るものだ。そう考えると、あの試合の結末はなるべくしてなったと思うなきゃいけない。ちゃんとした武装なら、おそらく今とは全く違う試合展開になってただろうし。

 だけど、こんなにも色んなことを考えてる。私もそれまでは興奮していたんだと自覚する。

 でも、あの身体強化は頂けないというか許さない。あの後優夜たちに話を聞こうとしたら逃げられたし。

 同時に思う、こんな子が、一緒に戦ってくれる。これほど心強いことはない、と。
 あれから、ここに運び込まれた。フェイトちゃんはシャーリーにデバイスの変更を伝えてなかった件で怒られてた。
 フェイトちゃんと一緒に医務室まで響を連れてきた奏はというと、そのうち目が覚めるでしょうし、心配はしてないですよって笑ってたけど、あのシステムの事聞いたら知りませんって目をそらされた。

 ただ、ただだよ。この時私は表情に出さなかったけど、些細な変化を見逃さなかった。奏をジト目で、悔しそうな表情をしているのが見えた。
 これには私も驚いた。というよりも、ただひとつ思ったのが、恋する女の子……とは言わないけど、やっとフェイトちゃんにもそういう気があるんだと、喜んじゃった。

 思い出すだけでも珍しくて、なんていうか、なんていうか。可愛くて、もどかしいような、なんとも言えない気持ちになる。

「……何してるんですかなのはさん?」

「え!?」

 気がつけば、起き上がってこちらを見ている響。どことなく、呆れたような顔をしてるのはなんでかな?

「いや、あの、なんか顔を押さえてウロウロしてたので、どうしたのかな、と」

「はっ……いや、なんでもないよ!」

 あはは、と乾いた笑い声が出るけど、本音はあまり笑えない……、恥ずかしい所を見られた。わざとらしく、コホンと咳払いを一つ。さて。視線を響へ向けると、右肩を押さえながらぐるぐると腕を回してる。

「効いた?」

「……えぇ」

 短く言葉を交わす。いろんな事を言いたい。あの日の夜の事とか。色んな話を。だけど、それは私の役目じゃない。いろいろと整理がついたんだろう。
 
 でもね。
 
「……ねぇ響。あのシステム……なぁに?」

「え、あぁ……あれ……は」

 バチッと私と目があって、視線が泳ぎ始める。
 あぁよかった。これでなんでもないですよなんて言おうものなら、ちょっと考えが有りました。

 一応、足とか怪我してると思ってたけれど……急激な血圧上昇により、色んな所から血が出てきていただけらしい。事実シャマル先生も最初は慌ててたけど、実際の怪我は少ないと言ってた。
 加えて、目が赤くなってたのは血圧で目が圧迫されてたかららしく、こちらも休んでたら戻っていた。
 
「……身体強化というか、なのはさんなら知ってると思うんですけど。エクセリオンモードの試作システムを、ベルカ式に作り変えて無理やり魔力の供給、それで五感の強化と、心臓の負荷軽減、思考の高速化に当てた物です」

 ……やっぱり……って。
 
「エクセリオンモード!? なんで!? しかもベルカ式に当てたって……現行のエクセリオンモードはまだ対応してないでしょう?」

「へー現行のエクセリオンモードなんて有るんすね。知らなかった。
 まぁ、ちょっとそれますが昔とある筋から渡されたんですよ。その試作品。もっと言えばなのはさんらに組み込まれた奴と同じシステムが」
 
「……え!?」

 絶句。とはこういうものなんだなーって冷静に捕らえる私と、意味が分からない私が居た。

「ま、これ以上は流石にもう言えませんけど」

「駄目。ちゃんと話して」

「言えませんって、だって……まだそちら側(・・・・)に立てないですもん。なのはさんなら口は堅そうなのでいいましたけど、なんで流れたとかは調べないでくださいね。
 戻れなくなりますよ?」

 困ったように笑うけど、言葉が進むに連れてその目は笑っていない。
 
 ふいに扉が開く音が聞こえて、視線を向けると、はやてちゃんとフェイトちゃんが入ってきた。うむむ……もう少し聞きたいことがあったけど。今はこれっきりかな。

 はやてちゃんを確認と同時に、ベッドから降りようとするのをはやてちゃんが手で制する。代わりにベッドの上に座りながら敬礼をして。

「緋凰響空曹。謹慎から戻りました。以後任務へ戻ります。勝手な行動をし、申し訳ございませんでした」

 言い切ると同時に、頭を下げる。 

「はい、今後はこんな事無いようにしてや」 

「ありがとうございます」
 
 そこまで言って頭をあげる。いつもの顔に戻っていた。とりあえず医務室の椅子を3つベッドの側へと移動して座る。
 隣のベッドには流が居たんだけど、気を使わせてしまうから、と席を外してる。
 うーん、流とも話をしなきゃいけないんだけど、なんというか真面目でいい子で、あまり関わろうとしないから、なんとも接しにくい。さて、それは後に回すとして。

「さて、響」

「はい」

 真剣さを帯びているはやてちゃんの言葉に、自然と皆姿勢を正す。大きく息を吸って、ふーっと息を吐く。そして。

「響。あなたはスパイか?」

 空気が張り詰めるような感覚に落ちる。

「はい。俺はスパイです、ですが、情報を流すつもりはありません。六課へ来ることになったのは、俺に情報を流せと言った人とは違う思惑でここに来ました。
 ですが、俺は……いいえ、俺()は不利になるような事は伝えません。申し訳ないですが、誰に、というのも言えません」

「……そうかぁ」

 空気が解けていく。分かってた。このことは事前に予想していた。もし響が素直に言っても、六課には100%の情報は渡さないだろう、と。
 視線が自然とフェイトちゃんを追っていた。私の視線に気づいたのか、小さく頷く。そして、目を見ると、何を伝えたいのか分かる。

 ――大丈夫、この人は、と。

 フェイトちゃんは知らない。いつか、響と仕事をしたあの日。生まれの事を告白したことを、私達が知っていることを。フェイトちゃんはこの時には既に響を信じていた。
 私達もそれを見ていたのに、それでも何処か疑う素振りを続けてしまった。
 結果、仲違いになった。響が居ない間、FWの四人。特にエリオとキャロは落ち込んでいた。
 響も……ううん響達ももう立派な六課の一員で、先輩を務めているんだ。やり直す……というよりも、響達との信頼を築き直そう。

 さて、と

「なぁ、響? なんでそんな実力持ってるのに、そのランク帯なん?」

 はやてちゃんの見えない所でズッコケそうになる。近くに居たフェイトちゃん、ベッドから見ている響の目が丸くなる。いや本当に、気にしないでください。
 ちょっと、聞きたいことがあったんだけど……。いつか言ってたことだけど、はやてちゃんは知らなかったのかな?

「どうもこうもこれが適正だって、その当時の人に言われたんですよ。加えて……空を飛びたいからなんとしてでも取りたかったですし」

「……そっか。あと、シグナムと響はどこで出会ったん? それが割れたからシグナムは響を信頼したと思うし、ずっと気になってるんよ」

 と、はやてちゃんの質問に対して腕を組んで考えて。ちらりと視線を横に流してから。
 
「……深い意味は無いですし、別にマイナスに捉えている訳ではないと理解してくださいね」

「? うん、わかったー」

 よく分かってないけどはやてちゃんの返事で、軽く深呼吸して。一言。
 
「10年前、シグナムさんに魔力を持っていかれました。俺も夜天の書の被害者です」 

 瞬間、はやてちゃんが頭を下げた。
 
 慌てて響が気にしてませんからって、何度何度も伝えてようやく頭を上げてもらって。

「そう……か。なぁ響? 響は闇の書事件の事……本当に恨んでないん? 私やヴォルケンリッターの皆を、シグナムを恨んでないん?」 

 伝えられた事実に動揺を隠せないままはやてちゃんは言葉を続ける。
 苦しそうに俯くはやてちゃんを見て、響は……なんかすっごく気まずそうにしてる。

「顔を上げて下さい。はやてさん。言った通り気にしてません。それに夜天の魔導書(・・・・・・ )そういうもの(・・・・・・ )だからと言われて……あ」

 瞬間空気が凍る。明らかに今不自然なことを言った。響もそれを察したのか、徐々に視線が泳いでいく。はやてちゃんも理解が追いついていないのか、微妙な顔を。

「……なぁ、響? それ、誰から聞いたん?」

「……やぁー……あのー……まぁ、調べた結果と言うか」

「……響、はっきり言うんよ?」

 はやてちゃんが笑顔で響に詰め寄る。数十秒の間。そして、ため息を吐いて。

「ほんっとうに詳しく聞いてないですし、言ってたのを聞いただけなので、これ以上はわかりません。うちの母がそう言ってたんです」

「響の……お母さんが?」

 これまた、不思議なことを。いやでも、響に魔法を教えた人物? になるのかな、そういうことならある程度詳しいかもしれない。だけど、響達がシグナムさんに会った時、まだ夜天の魔導書とは呼ばれてなかった……はず。

「えぇ、夜天の魔導書はいろんな魔法を記憶して、保管。研究するための本。制御するための機能(ユニゾンデバイス)がいるけど、その砲身に足る人(・・・・・・)が居ない。だけど、こうして集めてるってことはそれに会えた、そして、烈火の将があんなに穏やかだから、問題ないって。
 当時は本当に、何言ってるんだろうと思ったんですよ、これ以上は本当に知らないです」

 これを聞いて、唖然とする。だって、響のお母さんは、闇の書ではなく、夜天の魔導書として知っていたという事。この情報は当時のユーノ君が必死で無限書庫で探し当てた情報だ。

「で、管理局に入って、同郷の人がいるって聞いて、その事件を調べて闇の書事件を見つけたんですが、名前違うし、当時はまだ情報がそこまで細かくのって無くて、それで……流してたんです」

 ……多分響が知っているのはここまでだろう。だけど、ちょっと待って。

「……じゃあ響が教えてもらった魔法って」

「訓練校に入っても、俺自身魔法陣を展開することが極端に少なかったのでバレてませんが。一応系統としては古代ベルカ式になります。
 母との約束……ってわけではないですが、言うと面倒と教えられて、入隊を果たしてその意味を実感したので、誤魔化してました」

 頭が痛くなる。古代ベルカ式。はやてちゃんとヴォルケンリッターの皆、聖王教会のカリムさんが使う系統。使い手は稀少とされ、今では立派な希少技能>(レアスキル)に認定されている。だからといって、劇的に強いわけでもない。
 近代ベルカ式と違って、ミッド式と併用するのは難しいし、響自身あまり射撃も使わない、そもそも魔力量が少ないからあまり魔法を使えないから、今までばれなかった……のかな?

 響達の疑惑がなくなったと思ったら、今度は響のお母さんが怪しくなった。

「お母さんの名前、聞いてもいい?」

 一応、事情を知らない体で質問する。本人からはまだ聞いてないからね。

「えぇ、母の名前は、緋凰琴歌(ことか)です。ただ、その……母は俺が10歳を迎えた日に亡くなっていますので、これ以上の情報は……」

 申し訳なさそうに肩を落とす。緋凰琴歌さん……響には悪いけど、ちょっと調べてみよう。
 
 しかし、このやり取りだけで、凄く疲れた……。と言うより、情報量が凄まじい……あ、これシャーリーにも言わなきゃ……響用のデバイス、近代ベルカ式で作ってたもん。修正しないと。
 だけど、この微妙な空気というか、これをどうにかしなきゃ……何か、話題を変えれる話無いかなー。

「あ、そうだ。響のお家、和室だったし、客間があったけど、いい感じだったね」

 すっごくたどたどしく話題を変えようと頑張るフェイトちゃん。

「え、まぁ、客間ですし。あんなんですよ」

「あれ? 響の履歴書にはアパートに住んでるって書いてるけど?」

「そうですよ。アパートの名称そのまま引っ張ってきただけなんで、中身は全然アパートじゃないですよ。だって、俺らの家ですし」

 あぁ……俺らって言った瞬間フェイトちゃんが固まった。

「俺らって?」

「あぁ! って違う違う。そのまんまです、同郷7人で買ったお家です。1階は4部屋ぶち抜いた広いリビングルームと客間。2階3階はそれぞれ自室です。
 一応自室で待機してたんですけど、外で人がウロウロしてると思って出たら、フェイトさんがいて驚きました」

 あら、ホッとしたら、今度は赤くなった。なんかあったのかな? なんて考えてたら。はやてちゃんの口からフフフという笑い声が。

「なるほどなるほど、7人のシェアハウス、ちょうどええ……」

 背中からゴゴゴって効果音が聞こえそうなくらい凄みのある声でいう。流石に響もちょっと引いてる。もちろん私達も引いてる。

「時雨達がFWと接点がないって嘆いてて、どないしようって思ってたんよ。響のお母さんの情報もほしい。だから! 明日は皆で響達の家にいくで!」

 言われた瞬間、すっごい微妙そうな顔の響と、盛り上がるはやてちゃん。別の意味で盛り上がってるフェイトちゃんを見て、思わずため息が漏れちゃった。 
 
「あ、でも明日本局行くんで。自分は無理ですよ」

「……そうやった」

 あ、一気に落ち込んだ。最近ずっと忙しいと言うか、いろいろしてたみたいだから。やっと息が抜けるって思ってたんだろうな。

「私が勝ったんだから、ちゃんと断ってね? 所で……あの魔法はなあに?」

「……いやぁ、まぁ……はい」

 ……あ、フェイトちゃんもやっぱり怒ってたんだね。
 
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

幕間 二幕 無限書庫

 
前書き
本筋に関係有ると言えばありますが、現段階では後のための伏線だけですが、読み飛ばしても全然問題ないです。 

 


 ――side紗雪――

 なかなか妙な事になって……ということが、最近の悩みの種です。
 
 空気の薄い方の事務員、紗雪(さゆき)です。ぶいっ。あ、いりません? 
 さて、訳あっていろいろ調べ事をしているんですが、なかなか大変な事に。わざわざ世間が夜になろうとしてる中で面倒なことを。
 
 ……具体的には。

『やはり、あの小娘には厄災しか集まらないではないか!』

『しかし……実際問題デバイス屋を守ることは出来ていたが、裏で何かをしていたのではないか?』

『部隊員の血痕が地下に落ちてた。加えて詳細不明なあの女! なにかしていたに違いない! やはり闇の書は――』

 下らなーと思う半面と、響が言っていた例の女性は……管理局側ではないのがわかった。文字通りのアンノウン。
 しまったなー、その場にいることが出来たら追う事も出来たろうに……まぁ仕方ない。
 
 それにしても、やはり本局の中でも六課は特殊な立ち位置なんだなーと改めて思い知る。

 本局の幹部と呼ばれる中核を成す人たち。というより……過激派と言える人たちが会議を行っているのを、盗聴しているのだけど。
 
 出るわ出るわ。聖王教会は解体スべきだの、ミッドチルダに戦力を割くのは勿体無いだの、そんな地上に何故エースオブエースを置いているのかだの。
 下らないわー。しかもどいつもこいつも油まみれの……文字通り権力に取り憑かれた人たちという印象。
 散々大口叩いてる割には、上に立っても現状維持もできなさそうな人たち。見てて滑稽だ。
 
 しかし、やっぱり妙だ。この膿はどうしようも出来ない問題だし、一旦置いとくしか出来ないが……そうすると、ホテル・アグスタの響の血は何のためだ?
 加えてアグスタの人たちに話を聞いてわからないのが一つ。あの場にはシスターが一人来ていたという証言を得たけど、どこにも写っていなかった。
 でも確かにホテル関係者は彼女を目撃しているのに、白昼夢という事は無いだろう。
 そして、流と接触した老婆もおかしい。管理局のデータベースに一致する物が無いという結果が出た。
 この時点で、三人ホテル・アグスタに招待されてない人が居たということ。でも、どれも管理局の関係者ではないということに現状ではなる。
 もう少し詰めたいけれど、これ以上はちょっと……ん?
 
『ところで、無限書庫の若造はどうなった?』

『確か今日であったはずだよ。なぁに、まだ整理されてない区画だ。人員がそこに集中していても。不慮の事故なぞ、突拍子もなく起きるものだよ』

 ……おや?
 
『次の司書長には、貴方様のご子息が――』

 ……うわぁ、マジかぁ……行こうかぁ。
 
 ノーマークだった場所だけど、直ぐに予定を調べて……その区画の捜査は二時間後か。表立って動けないけど……事情が事情だ。動こうか。
 だけど()の私だけだと時間稼ぎしか出来ないから……そうだな。とりあえず、片っ端から……でも六課の人に依頼を飛ばせば不味い。間違いなくあの油まみれの一党が難癖つけてくる。
 ……一人というか、多分動くであろう人を知ってるけど。接点作りたくないんだよね。あちらの式神というか、ワンコロ一団に匂いを覚えられかねないし。
 ダメ元で犬避け対策しておいて、適当な端末でメッセージとさっきの音声を送りつけまして、と。
 
 さ、行こうか。
 
『管理局の未来は明るいですな! ハッハッハッ!』

 ……あんたらが上に立ったらお先真っ暗だよ下衆共が。 
 
 
 ――― 
 
 無限書庫……わぁ、何時見ても、本当に本で本と本の塔だ。何考えてんだろ私。
 
 さてさて、開始時刻まで30分。ここまで時間掛かったな。書庫員は今回は未開の区画の捜査、対して司書長は司書長室でお仕事と。しかもおあつらえ向きに緊急依頼だからと、部屋に籠もってお調べ中。
 だけど唯一接触が許されてるのは、最近赴任してきたとかいう秘書資格を持つ紫色の髪が綺麗なソーンさんとか言う人のみ。前任の秘書さんは、一身上の都合により退職。今ではご実家で料亭をしていたけど、衛生管理を怠ったと多額の借金苦により自殺された、と。
 
 ……あからさますぎて笑えやしない。
 さて、ソーンさんとやらも捜査に組み込まれているのに、どういうわけか司書長室の前まで来てる。
 あまり考えたくなかったが、大当たり。しかも……これから殺すと決めてるんだろう。不気味に笑ってらっしゃいますね。
 
 なるほどなるほど……うん、二流だわ。
 
「失礼します」

「あれ? ソーンさんどうしたんだい? 何かわからない所でもあった?」

「いえ、そういうわけではなくて……司書長はどこまでお調べになりましたか?」

「? あぁ、この依頼なら順調だよ。何時も無茶ぶりしてくる艦長に比べたら全然さ」

 作業の合間に、なるべく視線を向けて会話をしようとする司書長に対して、ソーンさんとやらはニコリと笑って。

「そうですか。そうですわ司書長。つかぬ事をお願いします――」

 ほんの一瞬で、司書長の元まで踏み込んで。

「――どうか死んで下さい」
 
 ……ホント、つまらない。よくある方法、よくある手段。つまらないったらありゃしない。
 
「やった……いや、何だこれ!?」

「ソーン!? 何を……いや、何だこれ!?」

 貫手が司書長さんに届く前に、その動きが止まるが、ギリギリと僅かに、しかし確実に貫手は前へと進んでいる。
 でも。 
   
「はぁい三流のアサシン……さん。ご機嫌……いか……が!?」

 こんの……馬鹿じゃないの力強すぎ!
 鋼線を使って、場合によっては五体満足じゃ済ませないと思ってたのに……! こいつ、ほんとに人!?
  
「司書長さん! もう持たないからそこ避けて、早く!」

「う、うん!」

 貫手の射線上からどいたのを確認した瞬間、縛り付けてた鋼線を緩めると同時に壁に貫手が突き刺さった。
 即座に、二人の間に割って入って司書長さんの腕を掴んで距離を取る。
 
「そこの三流。一つ聞きたい、お前どこの回し者だ?」

「……それを言うと思って?」

 不敵な笑みを浮かべる三流。肩まで伸びた紫の髪が揺れている。

「……悲しい話。内部の回し者は事前に対策を打ってあった教会の騎士が同行という対策が。でも、アンタの襲来は全く別問題だ。
 お前、違う枠から依頼受けただろ?」  
  
 ここに来て予定データを見てると、既に対策が成されていた。名将クロノ・ハラオウンの依頼で、教会から騎士としても活動してるシスターが何人か同行すると今日発表された。
 おそらく何らかの方法で事前に知って対策したんだろう。
 ならば余計なことをしたなと考えてたけど……妙なタイミングで緊急依頼が入り、対応に回った。
 まさかまさかと考えてたら……案の定だよ全く!
  
 ここで退いて来れたら御の字だけ、ど。
 
「だったら……気持ち悪い仮面ごと、ユーノ・スクライアを殺しましょう」

「あら、般若面知らない? でも、まぁ……やってみな」

 右手に爪状の武器。親指、人差し指、中指に三本の刺突、切裂く事が出来るであろう爪が装着されたのが分かる。一応顔隠すために般若面被ってるけど、見づらいが……そんな事言ってる場合じゃない。
 多分あれ……こっちの鋼線位なら容易く切り落とせる。
 
「君、僕はいいから。直ぐに逃げなさい!」

「……いや、狙われてる人置いて逃げるわけないじゃないですか」

 一応ここに来るまで仕込みは済ませてある、なるべく情報を引き出すか。
  
「貴女も、ユーノ・スクライアも逃がすと思って?」

 そう言って左手をかざした瞬間、唯一の出入り口からガチャリと鍵が掛かる音が。わかりやすい逃がす気はないという意思表示。
 ……ごちゃごちゃしてないでさっさと殺さないから三流ってんだ全く。でも、丁度いい。
 
「……参ったなぁぁ、こんなのが来るなんて聞いてない。冥土の土産に、なんで殺すか教えてくんない?」

「……言うと思って?」

 ですよね。どちらにしろ、この人の身辺調査は行われるだろうから一旦置いておいても後に調べればいい。
 
「さて、後はもう殺すだけ? 遺言残すのも駄目?」

「時間は有限ですから――死ね」

 腰を低くしたのを目にしたと同時に。
 
「えぇ、お互いに。あと」

 もう一度司書長さんの腕を強く掴んで。
 
「……殺すと決めたらさっさと殺すんだよ、愚図が」

 跳んだ。
  
  
 ――sideユーノ―― 
  
 驚いた。今まで転移魔法は使って来たけど、こんなに何も感じずに飛んだのは初めてだった。
 
 しかも三度連続でそれは起きた。最初は無限書庫の職員通路。次は倉庫らしい場所から、最後は小さな面談室と、三回跳んだのが分かる。
 その上この面談室、よくアコース査察官と会う時に使ってる場所だ。
 
「……しんどい。やっぱ……二人は……ギリギリだ」

 白い般若面を被った女の子が離れた場所で呼吸を整えている。こちらから見えないように仮面を上げて呼吸してる。髪も頭巾をしてるせいで分からない。
 
 だけど、これだけは分かる。
 
 この子はクロノからの応援じゃないと。
 
 事前にクロノから言われていた。管理局内部できな臭い動きがある、しかもそれは僕を狙った事だと。だから、事前に教会から騎士をお借りして、今日の捜査の護衛を依頼したのだけど……この依頼は予想外だった。
 だけど、僕も考えが甘かった。まさかこんな直接来るなんて……。
 
「……は、やっと落ち着いた。あー……もー……仕方ないと割り切るか」
  
 向こうで顔を手で覆ったと思ったら今度は背伸び。全然行動が読めない……そうだ。
 
「ごめんね。君のお蔭で助かったよ。名前は……」

「……聞いてしまったから助けただけです。後は……昔友達がお世話になったというか、入り浸ってたらしいので、勝手なお返しです」

 仮面を付けてこちらを振り向く少女。管理局の制服を着てるとは言え、多分外部の人……だと思う。
 ……しかし、この言葉の訛り方と、その仮面から察するに……地球出身の子かな?
 それにしても無限書庫に入り浸ってた子が友達……誰だろう?
 
 ふと、廊下の方から誰かの駆けてくる足音が聞こえた。
 まさかと思って身構えるけれど、お面の子は。
 
「流石……ドンピシャ。情報流して来なかったらどうしようかと思った。それじゃあ司書長さんこれでお暇しますね。あと、ちゃんと護衛付けてください。こんなに大事になった以上次はもう無いですよ」

「あ、ちょ……待って!」

 言い切るよりも先に、お面の子が消えて無くなった。それと同時に扉があいて。
 
「ユーノ先生!」

 と勢いよく入ってきたのは。
 
「アコース査察官! どうしてこちらに?」

「どうもこうも。君をここで殺すと連絡があったからさ。直ぐにここから離れよう。僕が護衛を請け負う。クロノ君も既に動いている」

「待った、丁度今無限書庫から逃げてきたんだ。そこに僕を殺そうとした人が来たから」

「な……! いや……え!?」 
   
 事情を聞けば、アコース査察官とクロノの元にそれぞれ連絡が行ったと、アコース査察官にはここの地図と、僕がここで殺されるという連絡。クロノの元には――
 
「……そうか。しばらく本局内部も混乱するね」

「いや、当然さ。元々時間を掛けて行くつもりだったが、証拠音声も取れたし、何より実行犯も捕まえられた。
 クロノ君が本気で怒ったからね、これくらいは直ぐさ」
 
 クロノいわく、僕の駒に手を出すとはいい度胸だとのこと。
 駒って……もっとこう……何か……くそう。
 
「それにしても、先生を救ったお面の子……ね。まさか僕対策もしてるとは思わなかった」

「……匂いは辿れないだっけ?」

 苦笑いを浮かべるアコース査察官。彼の持つレアスキル、ウンエントリヒ・ヤークト (無限の猟犬)は彼に変わって探査、捜索を行えるという召喚型のスキル。
 精製時に込められた魔力が尽きるその時まで、自立行動を行い続けることが可能で、セキュリティ・障害物を越えての建造物への侵入、コンピュータにアクセスしての情報収集を行えるという優れもの。
 だけど……猟犬だけど、匂いまでは追えないというのが今回仇となった。
 
 僕を助けてくれた女の子を追うことが出来なくなってしまった。当然ソーンも既に消えていた。一応両者共関係は有るんじゃないかという可能性も有るけれど……。
 
「……なるほど、日本系の訛り。先生が言うならそうなんだろう。一応その周りを調べてみるけどね」

「うん、お願いするよ」

「僕もお礼がいいたいからね。それに存外はやて達の側にいるかも知れない」

「……どうだろう」
   
 ここに居ない皆を思い出す。この前のオークションで少しだけ話をしたけれど、もみ消された事実に皆苦しんでいた。
 クロノもその件については、歯がゆそうにしてたっけ。当てつけみたいに面倒な依頼出してきたけど。 
   
 うーん……暗殺未遂があったってなのは達に言うかな……?
 
 気がつけば時刻は夜中に。しばらくは大人しく、でも調査は進めなくちゃ。レリックの事について、もっと細かく。
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第14話 遠くから願う者達



 ――side響――

「え? 時雨と紗雪休みなのか、珍しい」

「おぉ、優夜はホテル・アグスタの周辺の保険対応に出てる。つっても直接的な被害は無いからすぐ戻れるってさ」

 食堂で朝食を食べてると、珍しく煌が一人でやって来て一緒に飯を食うことに。
 本来なら早朝訓練の時間帯だけど、大事を取って俺は休みに。加えて食事を終えたら朝一で本局へ異動要請を断りに行かないといけないし。
 
 それとなく周囲を見渡して、誰もこちらに意識を向けてないのを確認してから。
 
「……なんかあったんか?」

「多分、紗雪がかなり弱ってたから、やっぱなんかあったんだろ」

 溜息混じりに話す煌の姿を見て、心配になってくる。
 それと同時に、朝からニュースが騒がしい。主に管理局関連の。
 本局の有名所の部隊長様が辞職、管理官が異動を申請、士官学校校長が退職等など。いろいろ起きてるが……。
 
「逆にこれで連絡来てたら不味かったが、連絡来ないってことはまだ元気って捉えていいと思う。昔からそうだろ?」

 パンをちぎって口に放り投げながら煌に視線を向けると、あからさまに怒ってるのが分かる。
 
「おめーみたく、割り切りよくねーよ」

「だって本当の事だろ。これで連絡きてみろ、それこそ不味いし、自分の尾を見られたら不味いって自覚してるんだから連絡は基本的に少なくしてるし。
 ま、それとなく探り入れてみるけど」
 
「……あーぁ。もう少し自由が効いたらねぇ、良かったんだが」

 ……。
 
「……悪い。あと、お前のせいじゃねーよ響。それじゃあ俺は仕事してくるわ。優夜帰ってくるまで大変だしな」

「おう、またな」

「ちゃんと断ってこいよ、じゃあな」

 後ろ手を振りながら行く煌を見送って、こちらも食事の手を進める。
 
 ……しかし本局の動きも妙だな。昨日までは特にそれらしい動きもなかったのに……しかも、今回対象となってる人らは、どいつもこいつも何かしら裏がある人達。
 粛清が始まった? それとも別の派閥の誰かか……無いとは思うが、本局行ったら突然拘束とかされないかね俺は。
 ただでさえ、昨日ティアナやエリオ、キャロから明日絶対話しましょうねってめっちゃ言われてるし、フェイトさんなんか私も行こうか!? とか言い出してたし。負けたんだし異動しないって言っても信用してくれないし……。
 なのはさんが宥めてくれたからなんとかなったけど、あのままだとヤバかった。
 
 しかし、俺に下されたこの異動要請。出処がわからないんだよな。確かに人事を通されているが、この時期にこれは正直ありえない。
 それこそはやてさんから人事へ連絡が行っていたなら説明はつくが、その線も切れたし。
 
 ……鬼が出るか蛇が出るか。行ってみてからだな。
 
「ごちそうさまでした!」

 食べ終わった食事トレイを片付けて、いざ本局へ!
 
 
 
 ――side??――
 
「うわぁ、動き早いと言うかなんというか。凄いですね」

「そりゃあそうでしょう。なんだってうちの元たいちょう(・・・・・・ )と、ハラオウンさんの所の若手艦長が怒ったんだから。これくらい当然よ。
 ほら、開店までもう時間無いわよぉ~。
 今日もSmileを大切に、Happyをモットーに、Fightよ私達!」
 
「はいはい」

 真っ白なホワイトプリムを頭に乗せて、黒いパフスリーブに赤い蝶ネクタイ。桜の花びらの刺繍を施した胸当てエプロンをキチンと着けるゴリゴリのマッチョな男性……もとい、この喫茶店S.H.Fの店長が声を張る。
 
 見た目はトンデモナイけど、人格者なこの人キャデラック店長には何時も頭が上がらない。
 
「そう言えば、サト(・・)ちゃん?」

「なんですか? 今日のパフェとかアイスの仕込みは終わってますよー」

「いや、そっちじゃなくて……たいちょうが言ってたんだけど。今日人と会うんですって」

 ガタガタとテラスに机と椅子を並べながら涼しそうな顔な店長。身体強化もなしであれだもんなぁ凄いなー。
 と言うより……なんでそれを此方(こなた)に言うかな?

「へー……そりゃまぁ。大変な役職ですし、会うだけでもお仕事でしょうし」

「ううん。空曹に会うんですって、第97管理外世界出身の男の子」

 思わずカウンターを拭く手が止まりそうになる。でもすぐに続行して。
 
「へぇ、そりゃ相手の方は驚いてんでしょうね。だって、普通会えない階級の人の訳だし」

「いやぁ、そうでもないわよん。だって機動六課……って言っても分からないか。若手筆頭の可愛い子たち、エースオブエースの高町なのはちゃんや、ハラオウンさんの娘のフェイトちゃんに、夜天の騎士の八神はやてちゃんたちの部隊に居るもの、肝は据わってるんじゃないかしら?」

「まだ良く会う尉官と佐官、でも今回会う人はもっと格上ですよ? 普通に驚く方に一票」

 ……たらたらと冷や汗が凄まじい。関係ないのに勝手に冷や汗が流てくる。と言うよりいたたまれない。
 ならば、と。
 
「そういや、昨日殺されかけた(・・・・・・)司書長はどうなるんですか? 仕事出来なくないですか?」

「しばらくは教会のシスター……それも騎士の称号を持ってる人が護衛と秘書を兼ねるんですって」 

「へー。それはまた凄いですね」

「いや、そうでもないわ。アンノウン、それも派閥争いのクソ……あらやだ、ゴミムシから依頼された者ではない第三の人と、それを救った第四の人、なんでも角の生えたお面を被ってたみたいよ」

 ……店長、クソもゴミムシもあんまり変わらない気がするんですが?
 
「しかも何方も跡形もなく、痕跡も残さないで消えたみたいで本局の面目丸つぶれね。平和が続いて気が緩んでた証拠よ。
 現実問題、事前に察知してたハラオウン君に、それと志を同じくする教会の子たちだけよ、警戒を怠っていなかったのは」
 
 ……本当にこの人、どこまで知ってるんだろうか。まじ怖い。
 
「……だからねサト? いつかあなたの抱えてるものをちゃんと話してちょうだいね?」

「……親なし身元不明の此方(こなた)を働かせて頂いて感謝していますよ。でも……あ」

 こちらを心配そうに見るキャディラック店長を遠目で見ながら、うちの喫茶店の割引クーポンを持った女性が数名見えた。

「店長。お客様が見えましたので対応しますね。いらっしゃいませお嬢様方。何名ですかー?」

 店長の脇を通った時、悲しそうな視線だったのが印象に残った。 
 ……いろいろ思うところは有るけれど、話していいのか正直まだ悩むところだ。

「……あ、の。写真とってもいいです……か?」

 ……わー、まただよ。
 
「申し訳ございませんお嬢様。当店そういった事は受けつけておりません。
 ですが、誠心誠意真心込めて接客いたしますので、どうかご容赦下さいませ」
 
 ……こうか!?
 そう思いながら、横目で店長に視線を送れば。
 
 両手で頭上に丸を作って……ナイスよって言わんばかりにウィンクしてる。
 よしよしよし、大分慣れて……ん?
 
 あれ? なんか小さく震えてるし、なんかギャラリー増えて……。 
 
「きゃー! お姉さまって呼ばせてください!!!」
 
「私、ファンになります!!」

「私の執事になってー!」

 ウォぉおおお!? 人が! なんか津波みたいに!? 
 
「てん……店長!!」 
 
「頑張るのよサト、それを捌き、お嬢様達を満足させたら……あなたはきっとミッドでトップの執事になれるわ!」

「なりたくないです! あ、ちょ……おじょ……さ……ま、アッー!」

 ……7月も近いのに、此方の心は冷え切ってました……。


 ――side響――

「へゅ……くしょい!」

 ……何だ、急に悪寒が。やがて7月になるってのに寒いって事はないんだがなぁ。冷房効きすぎてるのかな?
 
 ま、それはどうでもいいんだが……本局のロビーに来て早くも2時間弱。受付済ませて異動要請を出したっていうフリートウッド事務官? という人からの呼び出し待ちなんだが一向に来ない。
 
 でもそれ以上に気になるのが……何時もどこか大人しいと言うより厳格な雰囲気な本局が……どことなく慌てているようにも見える。
 俺らのような下っ端はまだ普通に業務にあたっている様子だけど、階級章をジャラジャラつけてる人が来たかと思えば、早歩きで奥へと消えていくのが分かる。
 しかも何かありましたと言わんばかりに顔は真っ青だし……やはり何かあったな。それもニュースに……マスコミに流せないような何かが。
 
 ……それにしてもまぁ、はやてさん達に情報が流れてないのは、何か事情があるのか、それとも関係者が巻き込まれたか……現時点じゃまだわからんな。
 単純にいる場所が地上だから、慎重になってるだけかもしらんし。隠されているし、これ以上はわからんか。

「緋凰空曹」

 ……アレ? 放送で呼び出されるかと思っていたが、なんか普通……じゃないな、秘書官の腕章つけてる。
 しかもめっちゃ出来ますよって感じの女性だ。

「はい、えーっと、フリートウッド事務官の?」

「えぇ。秘書官の……いえ。緋凰空曹こちらに」

 ……あん? 名乗らない? 秘書官クラスが? ……あっれぇ? あまり自分を立てない人……なのかな?
 
「……全く、なぜ空曹程度が」

 ……あ、うん。絶対違うわ。
 
 ――――
 
「では、粗相の無い様。くれぐれもお気をつけて下さい」

「あっはーい」

 明らかに場違いなほどの応接室に通されて、ここで待つように言われてた。
 ……人事の事務官なんかじゃないっていうのが、死ぬほど伝わってくる。
 やべぇ、冷や汗が……冷や汗が凄まじい。というか、俺の正体ばれてる? そうすると、ここに呼び出されたのはお前クビからの拘束ルート?
 あ、やっべ。それはそれで困る。仕込み……は出来ているが。ここまで突然事態が動くとなると……不味いっていう感想しか出てこない。
 
「フォッフォッフォッ、お邪魔するぞい」

 ノックと共に扉が開かれ、同時に立ち上がって敬礼を……は!?

「すまんのぉ、わざわざ呼び出してしまって。そうじゃ、そちらの世界のお菓子を……どら焼きというたかの。持ってきたんじゃ。一緒に食べよう」

「……ハイ」

「ホレホレ、立って食べるもんじゃないんじゃ、もっと気楽にの?」

「……シツレイシマス」

 ある程度の階級の人が来ると分かっていた。下手すりゃ将官クラス。だけど、基本的には佐官が関の山だと思っていた。
 それなのに……。
 
「……あの、は、発言しても……良いでしょうか?」

「フォッフォッフォッ。わしと君しか居らなんだ。許可を求めることなどしなくて良い」

「では、閣下(・・)。何故、私を?」

 なるべく平静を装ってるけど、考えが一向に纏まらない。
 眼の前に居るのは、管理局の代表としている御仁。しかも空曹ごときが会って、それも目の前でお茶なんてして良いはずのない階級の人。
 
 時空管理局武装隊栄誉元帥、ラルゴ・キール閣下。
 
 武装隊ではその名を知らなきゃ殺されると言っても過言ではない人、もっと言えば、教導隊員を顎で使っても誰も文句も言えない権力者。
 
 なんで……そんな大物が……はぁ!? 意味わかんねぇ。
 
「……何故ってそりゃあ。お茶を一緒にしたかっただけじゃよ」

「……エッ?」

「異動要請ならのぉ、直ぐにこっちに断りを入れに来るじゃろと思っとったら、なかなか来んでの。心配しとったわい」

「……ヤ、アノ……ちょっとその時、私が命令違反等などしておりまして、申し訳ございません」

 ……閣下のお言葉を信じるならば、マジで俺なんかとお茶をしたい? なんで俺?
 
「……フォッフォッフォッ。そうか、シェイアの弟子らしいのぉ」
 
「……どなたの事でしょう? 今まで出会った部隊にはそのような方は見受けられませんでしたが?」
 
 ……まじ? いや、冷静に考えりゃそうか。歳が近いですもんね。一回もそういう事聞いたことございませんでしたが。
 ……しかし。
 
「……そう、じゃったな。今のは口が滑った、流してくれ」 
 
「流すも何も、わからないことですので」

 ……そっか、ある程度こちらの事情を知っておられるんですね。
 申し訳ございません。今、それについて話すのは……リスクが大きすぎる。
 
 もしやそれを確認するために呼び出した? いや、そんな回りくどいことをする人か? 

 そう言えば、前の上司が言ってたっけなぁ。なんか六課の設立に閣下も関わってるって。その上で、俺を呼び出した意図は何だ? 今のリアクションと、閣下の言葉から俺の素性は知って、現状の把握もしてるだろう。
 ただし超希望的観測での話だけど。

「ふむ、お主……お主は何のためにここに来たんじゃ? 魔法という文化もない、無理やり接点を作らないと来れないこの世界に。何を成すために来た?」

 ピリッと肌が粟立つ。
 確かにいろんな事をしたし、諦めもした。だけど、根底に有る想いは唯一つ。
 
「幼き頃は……ただ、空を高く翔びたいと。今は少し変わりました」

「ほう?」

 瞳を閉じれば、初めて皆と空を往ったのを思い出す。
 でも、それは……出来ないことを知った。それをするには俺には足りないものが多すぎる。
 
 だから。
 
「親友や、敬愛する人たち、後輩を見守れたらなと、果てなき道を往く皆の手助けが出来れば良い。そう願い、必要ならば私個人の全てで助けられればと考えております」

「……ほう。儂は平和になればと願っているが、お主は違うのか?」

 更に圧が強くなる。だから、きちんと伝える。

「そうあれかしと願うのは同じです。だからこそ果てなき道を歩む者へ、時には手助けを。時には壁となり、時には託し残せる様に。
 そう願いながら私はここまで来ました」
 
 ビリビリと圧が凄まじい。気を抜けば呼吸すら……いや、殺されかねない。それほどまでのプレッシャー。
 なるほど、これが伝説。伊達ではないというのがよく分かる。
 
 だけど、そんなプレッシャーもフッと消えて。
 
「フォッフォッフォッ……ファーハッハッハッハッハ!」

 ……お?
 
「確かに、そうだ! そうだな! そうですな! クックックックックッ……」

 やべぇ、めっちゃ笑ってる。大丈夫かな? そうだの三段活用なんて初めて見ました。
 
「そうあれかしと、だれもかも願うが、どれも極端なことしか口にしない。平和であればいい、誰もそうだ。だが、平和とは一人で作られるものではない。
 そうじゃそうじゃ。なるほどのう……さて、()? それは何年前からそう考えた?」
 
「……3年前のあの日から、そう考え、そうでありたいと願っています。
 でも、一度は折れそうになりました。でも、立ち直されました。だから今度こそ、ちゃんと見守れたらなと、そうあれかしと願って今を生きてます」
 
 ……温和な顔とは打って変わって、まるで鉄火場に居るかのように悪い笑みを浮かべる閣下。
 
「……今の若い子らを見てると昔を思い出す。あの頃は楽しかった、儂らがペンタゴンと呼ばれてた時期が懐かしいのお。
 レジー坊達がヘクサゴンと呼ばれてたのは昨日の様に思い出せるのに、そうか……しっかりと育っておるのじゃな」
 
 ……あれ? 五角形(ペンタゴン)ってことは、後二人? シェイアさんも含むと仮定しても、あと一人は……誰だ? 
 それにレジー……? しかもこの人がレジー坊って言うことは、弟子とかそういうポジションかな? だけど、六角形(ヘクサゴン)ってことは、6人居るって事になるが……全然わからんな。
 
「そうか……またなのは達も招いて、話をしたいものじゃ」

 わぁー……普通に呼び捨てしてらっしゃる。多分次元世界において、完全に上からエース・オブ・エース(なのはさん)を呼び捨てに出来る人って数える程度しか居ないよなぁ。
 
「さて、響。儂はそろそろ面倒な会合に行かなくてはならん。すまんがお開きじゃ」

「あ、はい。わかりました」

 面倒って言ったぞこの人。

「わざわざここに呼び出して、なにもないというのもアレじゃろ。カテラ! この前買った氷菓子があったじゃろ。土産に持たせい!」

 そう言った瞬間、ガチャリとドアが開けば。

「はっ!」

 さっきの秘書官が、なんか箱2つ持って現れました。しかも見るからに冷たそうだし……何だ?
 
「それじゃあの、また話を聞かせてくれい。ではの」

 黙って秘書官から箱2つ持たされて、そのまま閣下に着いていく秘書官さん。 
 なんか、さっきと打って変わって優しそうな笑み浮かべてくれたし、閣下から見えない所で手を振ってくれたから……なんとか改善されたかな!?
 最初というか、移動してる間小さくずっと文句言ってたしね!
 
 さて、もらった箱の中身を確認して……あ、冷却魔法掛かってるから大分保つし……うぉ?! すげぇ、ゴリゴリ君セレブだ! 懐かし……え、うわすげぇ。最近のやつってチョコミントとか、チョコチップとか有るんだ……へー、ガキの頃ソーダしか見たことねぇのに。
 
 まぁいいや。帰ろ。
 
 ……しっかし、今日の事話すべきかねぇ。どうするかねぇ……面倒なことになったなぁ。
 
 
 ――sideカテラ―― 
 
「……珍しいですね、閣下が気に入るなんて」

「盟友の弟子じゃ、気にしておったが……フォッフォッフォッ。もっと早くにあって話すべきじゃったのぉ」

「たかが空曹と思った私はまだ未熟でした。申し訳ございません」

「フォッフォッフォッ、はやて嬢とは違ったタイプの子じゃ、弱く見せておいてというのは総じてそんなもんじゃよ」

 珍しいと思えるほど大きく笑ってらっしゃる。かつては管理局の最強の一角と謳われた人にはとても見えない。
 
「そういえば、親父のところに珍しく新人が来たそうじゃの。どんな子じゃ?」

「あぁ……あのカマ……いえ、父の所の人はよくわからないです。なんでも、私から私の頼みなら断れないわよねぇと、キモく……いえ、意味深な事を言っていたので」

「……相変わらず親父には酷いの。しかし、そうか……今度会いにいってみるかのぉ」

「……閣下。不用意な外出はお控え下さい。ただでさえ暗殺未遂があったばかりですのに」

 頭が痛くなってくる。表沙汰には出来ないせいで表立った警戒も出来やしない。
 
「暗殺なぞより、もっと大変な事が起きそうじゃし、そうなったら儂は間違いなく死ぬよ。そのためにいろいろ手を回しておるんじゃ」

「……そうですが。どうせいけませんと言っても行くんですよね? ならば近くまでお供します」

「フォッフォッフォッ、親父の作るパフェは美味しいぞ? 食べんのか?」

「……知ってます。昔からずっと! さ、閣下。急ぎますよ、スケジュールは詰まっているんですから!」

「少し遅れた程度なら問題……いや、レオのやつがやかましく言ってくるか。あやつは三人の時にしか言ってこんが、長いからのぉ……」

「そうですよ。さ、参りましょう閣下?」

「わかったわかった、押すでない……」

 最近ずっと面倒事が重なってたけど、今回の緋凰君とのお話は本当に良かった。閣下のストレス発散になったのは本当に助かった。
 
 さぁ、本日のスケジュールもきちんと片付けましょう。

  
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第15話 距離を詰め直してみたり

 ――side震離――

 訓練のレポートや、訓練で使用したカートリッジの報告、加えて割り振られている仕事――書類整理や、単純な事務職等などやることは多い。
 でも、正直この時間は嫌いじゃない。何も考えずに処理出来るのは頭の整理に繋げられるし、気持ち的にも楽なところだ。
 
「……はー……見れば見るほど分からない……何このブーストシステム……なんでこんな……もう」

 近くでシャーリーさんが頭を抱えているのさえ無ければ。
 普段はデバイスルームでの作業なのだけれど、フェイトさんの補佐官でもある以上、そちらの仕事もしなければならない。
 
 でも。
 
 それ以上に昨日の響の使ったブースト……10年前に組まれたエクセリオンモードの試作の更に改良を施したシステムに頭を悩ませている。
 理由は単純、現在シャーリーさん達もエクセリオンモードの改良をしているが、それはミッド式ではなく、近代ベルカ式に合わせるための改良プラン。
 それを組み立てている最中だと言うのに、形は違うけれど既に存在するという衝撃と、その使用方法が本当に身体強化にのみ振られている事に頭を悩ませていた。
 それが唯の強化ですめばよかったけれど、あいにく、響のは心臓の強化、それに伴う血圧上昇に耐えれるだけの強化と、五感の強化に極振りされている。
 その上、オリジナルからかけ離れているからこそ、これをモデルにするわけにはいかない。
 しかし、基礎位なら使えるんじゃないかと思ったら全然使えない、むしろなんでここまで強化しているんだと余計に頭を抱えている。 

 理由はシンプル、なんでこんな無茶なシステムを組んだんだ、と。
 そしてそれは、割と結構な頻度で口から漏れてるので……。
 
「……そうしないと、あのバカは自力でそれをやりかねないから、システムという枷、セーフティを作ったんだよ」

「……え? えぇ?! なんでぇ!? だって、そうしないと戦えないから組んだんでしょう!?」

「シャーリーさん静かに。皆見てます」

 向かい側で叫ぶシャーリーさんを制しつつ、周りを見れば皆見てる。だけど、特に何事も無いように戻っていくあたり慣れているなぁと。
 というのも最初期の頃、事務の育成として、煌や時雨達が頑張っていたせいで慣れたらしい。
 まぁそれはさておき。

「だ、だって。切り札だから無茶してるシステムなんでしょう?」

「うん。無茶なことするから、だからそれ以上出来ないように、システムで制御するようにしたんだよ」

 ……この問題はちょっと根深いんだよね。
 
「もっと言えば……あのバカは。カートリッジさえあれば、手動でアレと同じことが出来る可能性があったから。その前にそれと同じで、それ以上強化されないものがあのシステム」 

「……あ。そういう……え、でも、普段使えないようになってたのは」

「私が預かってたからだよ。簡易カートリッジシステムの銃と一緒に、システムのベースは響のデバイスに、その起動データは私の所に仕込んでたし。
 ……それくらい厳重にしてたんだけどね」
 
 普通にやっては……手には届かないモノに、触れようとするための力。
 まぁ……。
 
「良くも悪くも最後だって決めてたから、あのタイミングで使ったんだろうけどね」

「……うん、本当に最初っから勝ちに来てたら、あれ使ってたよね」

「あはは、違うよ」

 思い返すのは、響が思い描く理想形。叶わない願いの事。
 
「使う気なんて無かったんだよ。申し込まれてから一日掛けて、フェイトさんに勝つシミュレーションしたけど。何しても勝てないって分かっちゃって。
 でも、切り札(ザンバー)を使われた時に、全部を使って勝ちたいって願っちゃったんだよ」
 
 あの日、朝一番に顔を合わせた時に言っていた。
 
 ――駄目だ、逆立ちしたって勝てないってわかった。だから使わないと思うよ多分。
 
 だから、カートリッジシステムを要らないと言ったけれど、あればきっと使うだろうと私が持たせた。 
 そして案の定、ザンバーからの一打をギリギリ躱して、でも掠って動けなくなった時点で発動させて……皆心配したけど。その時の響の顔で察してくれた。
 
 だってさ。昔言ってた自分では絶対に叶わない、理想形そのものと全力で手合わせ出来るんだもん。そりゃ本気でやるよね。
 
「……あんな無茶なシステムを使ってるのを見て、私がやろうとしたのって間違いだったのかな」

「そんな事無いよ。シャーリーさんが皆を想ってやろうとしたの間違いではない。
 私もそれを知ってたら同じことしてたかもしれないし、今回の場合はあっちも思うところがあったんだしさ」

 あらら……何時も明るいシャーリーさんがわかりやすく落ち込んでるなぁ。
 そう言えば、私らが出てる間に響がなんか言ったらしいからそれでなんだろうなぁ。
 
 あの時のティアナは、強さを求めた。でもそれは今ある武器じゃなくて、わかりやすく付け焼き刃の強さを求めちゃった。
 まぁ、そこからそれを実践できるだけのスキルを即席で作って、まだ完全じゃないのにそれを実行して……空回っちゃった。

「……まぁ指揮を取る人ってちゃんと出来てるのかって自覚し辛いし、自分が味方の負担になってるんじゃないかって悩むし、このタイミングでティアナがそうなって、大丈夫なんだって自覚出来たのは良かったと思うよ」

 ……響だってそうなった時があったもんなぁ。
 だから、私達は――
 
「……震離が、なんか頭良さそうなこと言ってる……」

「あ、フィニーノさん、もう話しかけないでくださいね?」

「冗談だよぉおお! 待ってぇええ!」 

 失礼しちゃうわー。バカだと思うけど、決して阿呆なんかじゃないし。

 で。
 
「所でさぁ……なんで震離達は私のことさん付けで呼ぶの……同い年なのに……シャーリーさんって」

「そりゃ呼びやすいからだよ。しかたなし」

「……響からは名字だし……いろいろ話聞かないといけないのになぁ」

 まぁ、響はそのうち元に戻すだろうけど、いろいろ話をっていうのはなんだろう?
 そう言えば、なんで響のあのシステムを見ていたのかな?
 
 あ、もしかして……。
 
「響用にデバイス組んでたり……する?」

 今までこちらを見てたシャーリーさんが、ゆっくり自分の席について。

「……イヤ?」

「下手くそかな? まぁそれはいいとしても、あのシステム別に積まなくていいと思うよ。元々殆ど使ってなかったし、本人もしんどいからって封印してたような物だし」

「……だよね。でもなぁシグナムさん次第なんだよぉ……なかなか話が決まらないみたいで、難航してるし。ついにはフェイトさんとの試合データ持ってったし」

「……何してるんですか?」 

 まぁ、それはあっちの領分だから触らないで置こう。デバイスマイスターの資格は持ってないし、その上でシステムを組んだことを細かく問い詰められたら困るし。
 
「それにしても。連絡おっそいなぁ」

 そろそろ響から何か来る頃合いなのになー。
 
 
 ――sideティアナ――
 
「……え? 響があのブーストを作った理由?」

 スバルがなのはさんに質問をして、奏がエリオとキャロの面倒というか、仕事の手伝いを終えたタイミングで気になってた事を質問してみる。
 当人に聞いたら早いんだろうけど、多分躱されてしまう。それに、その事以外で話をしたいし。
 
「……へぇ」

 ニヤリと笑みを浮かべられた。やっぱり駄目かな? 

「まぁ、それは冗談としてさ……同じだよ。あの人もティアナと同じ様に悩んで、力がない事を悔やんで、望んだ場所には行けないって諦めたくないから、付け焼き刃を求めた」

 ……響も私と同じ様に。よく考えたらそうよね。震離とかいう、気がついたら魔法を真似てる人に、奏っていう近距離も戦える中距離職。その中で接近しか……あれ?
 
 役割がぜんぜん違うのに悩んだ? 幼馴染と比べてランクを上げれない事を恥じた? いや、そういうタイプに、Aーという事を不名誉だと考えてる?
 
「フフ、ティアナが思ってるのは多分違うかなー。別に私らと比べてって訳じゃないよ。シンプルに求めた。
 響は……ううん、響も欲しがった、全てをねじ伏せるシンプルな強さが欲しいって」
 
 どことなく寂しそうに、悲しそうに言う。
 
 確かに……私もそう在りたいと思ったことは有る。
 
「でもね。あのプロトタイプと言うか、それを使っても……響は基準を満たすことが出来なかった。
 デメリットアタッカーでも、身体強化の延長線だもの。
 だけど、それでも諦めきれなくて、全てを賭けても……ある程度の相手、六課だと……よくてキャロを正面から倒せるかどうかってレベルだからねぇ」
 
 は?
 
「ま、待って。それは話が通らないわ。だってアイツは」

「それはまだ響の弱点に気づいてないからだよ。まぁ、味方だから使わない手段があるけど。響はとある事をされたら間違いなく詰むよ。
 言ったでしょ、防御が大分固くなってるから歯がたたないと思うって」
 
 ……そこまで言われて気づいた。いやハッキリわかった。
 
「……ただ、硬い防御を維持した上で戦えるなら、それだけで勝てる……?」

 寂しそうに少し笑って。
 
「そう。どこまで言っても火力は上げられない以上、響は今が限界値。特別なことをしなくても響に負けない戦闘なんて沢山あるもの。だから、諦めて指揮の方向を磨くようになった」  

 ……そう、なんだ。
 
「ま、完全に敵と認識して、殺すつもりなら話は変わってくるけど……模擬戦でそれはないしね」

「……あ、確かアンノウンに一撃食らわせたあれ?」

 あの映像見せてもらった時、震離も流も凄かった。でもダメージどころか顔色も変えることが出来なかったのに、響が打ち込んでようやくダメージを与えてた。
 スバル曰く、衝撃を打ち込んだと思うって言ってたけど。そう言えばあれを模擬戦でやってる所を見たことがなかった。 
 
「うん。しかも響の場合は特に痛いから尚の事ね」 

「そうなんだ……あれ?」

 場合はって事は、奏も震離も使える……? 

「ま、ティアナは……皆はちゃんとなのはさんから聞いたんでしょ? 将来の完成形というか到達点はこうだよーって」

「……うん。クロスレンジはもう少ししたら教えようってしてて、でも出動は今すぐあるかもしれないから、今あるものを磨いて、確実になったらって」

「うん。響や震離はどう捉えてるかは知らないけど。私はティアナを見てて素直に思ったのは……なのはさんの後継者だなーって」

「……えっ?」

 まって奏。後継者? 私が? なのはさんの? え……。
 
「……何の冗談?」 

「いやいや。ティアナは知らない? なのはさんって、センターガード志望の子にいろいろ教えるけど、今みたいに徹底して動くな(・・・)とは教えてないんだよね。
 視野を広く持ち、咄嗟の判断で正確な弾丸をぶつけるのが重要って、私には出来ないし」
 
 ……やばい。いろいろこみ上げて来る。
 いや、でも待って。
 
「奏だって、いろいろ教わってるじゃない」

「うん。速射出来る直射型と、単発のバレットを中心にね。あんまり展開して誘導制御は得意じゃないし……命中率も高くないしね。だから数撃って当てるタイプ。しかもカートリッジを使った高威力の一撃を早打ち乱射かな。
 もっと言えば、私達側にはセンター出来る人が居ないから私が代理してるけど、どっちかって言うと志望はウィングバックだしね」

「えー……じゃあ、チョット待って。もしかして前の部隊じゃ三人で作戦ってあんまり……?」

「うん。良くしてたのは震離と私とで前後張るって言うのが多かったかな。響は後方指揮みたいなことしてたし」

 ……うーわー……少し前の私なら絶対信じなかったけど、今なら分かる。それがベストなんだって。
 今は指揮を取れる人間がいるから、一応前に出てるだけで。本来は本当に下がる事しか出来なかったんだ。
 ということは、私達と初めて会ったあの時は、模擬戦の監修をしてたから単騎で動かざるを得なかったんだ。

 頭痛くなってくる。でもそうよね。そうなるわと納得できる。

「……きっとDSAAにでも出たら、少しはマシなんだろうけど、私達って参加資格は取れないからね」

「え? でもそれはデバイスの問題で……」

「ううん。そもそもとして管理外世界出身だからね。だから出られないし」

「あ……」

 なんというか、聞けば聞くほど申し訳なくなってくる。
 でも……ならなんで。
 
「どうして、この世界に来ることを選んだの?」

 なのはさん達は、程度は違えど魔法と出会ったからこの世界に来ることを選んだ。でも、奏達は……。
 
「え? ()空を飛ぶのに魅せられたから」 

 あ、はい。
 そんなまっすぐに言われたらどうしようも出来ない。
 
「まぁ。こっちの世界に籍移す時、うちの親を説得するのが大変だったなぁ」

「そりゃそうでしょ。籍を移すって結構なことじゃない。奏達は普通に両親がいるんでしょ?」

「うんまぁ……私のところが一番普通の家だから、だからこそ魔法の存在とそれに伴う守秘義務とかで手間取ったなぁ」

 あまり想像は出来ないけれど、大変だったんだろうなーと。私は一人で親戚もあまり強くは反対しなかったし、スバルはワガママというか、空港火災で助けられてから一気に学んで訓練校に入ったって言ってたし。
 エリオとキャロは……まぁ、私が言えることじゃない。
 
 ……あれ? そうすると、事務の4人はどうだ? 奏の言い方だと……皆に含まれるのは響と震離以外も居る筈。それがあの4人? でも前にシグナムさんと戦ってた優夜さんだっけ? あの人はあまり魔力が無いって。
 
 ……まだ何か有る? でも、それを隠す理由って何?
 
『おーい、皆どこに居るんでーすかー?』

「ん? あ、響だ。もっと早くに連絡来ると思ってたのに。はいはいこちら奏、どーぞー」

 ……軽いなー。響の声から察するにちゃんと断ってきたと思う。サウンドオンリーだから表情は分からないけど。
 
『や、訓練してるんだろーなーと思ったら誰も居ねーって、で連絡入れた』

「今日は午前だけで、午後から事務整理。あ、明日から流復帰だってよ」

『早くねぇー? まぁいいかー。あ、誰かいる?』

 誰かって曖昧ね。
 
「え? あぁ、フェイトさん外回り、シグナムさんとヴィータさんが、他の部隊からの要請で外出てて……なのはさんとはやてさんなら居るはずよ」

 それで分かるんかい!
 
『あー、はやてさんに渡せばまぁいいかー。すまんがティアナ達にさー声かけて休憩室に来てって伝えてくれるかー? いろいろあってアイスもらってきたんだわ。
 あ、でも地球産だけど食うかね?』
 
 確認を取るように私の顔を覗き込む奏に、首を縦に振る。
 
「問題ないって」

『了解。一応択としては、食うか食わないか、もしくは二種類食べるか。さぁどれだって聞いておいて』

「へー、ちなみに何味?」

『チョコチップとチョコミント、帰りあんまり暑いから一本食べたけど美味かったよ』

 へー、そう言えば他の世界のアイスなんてあんまり食べたこと無いわね。
 
「へーまぁいいや。了解、そっち行くよ。そんなに無いでしょ?」

『や、箱でもらったから、FW組に配ったら事務に投げようかと。FWだけよ、二種類食えるかどうかって選択肢あるの』

 え、箱!?
 
「箱!? ま、まぁ……うん、とりあえず行くよ。じゃ、また」

『あい、また』 

 ……おかしい。ただ断りに行ったはずなのに、なんでアイスを……しかも箱で貰うって、何してんのよ。
 
「じゃ、いこっかティアナ?」

 グーッと背伸びして、私の方を見る。
 
 本当に不思議だなと思う。
 階級は上で、歳上なのにあまりそれを感じさせないようにしてるし。グイグイと来るスバルや、ギンガさんとはまた違うタイプの人。
 
「ティアで良いわよ。さ、行きましょ」

 ……言ってて恥ずかしくなってきた。
 奏の横を通った時、一瞬驚いたような顔をしてて、
 
「うん。私チョコチップ食べるけど、ティアはどうするの?」  
 
「んー……私はチョコミント食べようかなって」

「どっちも食べたいけど、カロリーがねぇ……」

「気にしないでも良いんじゃない? 十分細いでしょ?」

 こんな会話……本当に久しぶりだな。
 
「……や、食べたら身になるタイプで……特にお腹とかに」

「あぁ……何をどうしたら胸に行くとかわからないわよね」

「……ホントよ。私の周りには、なんか胸に行く魔人と、鍛え抜かれてスレンダーで最強な人と、バランスに振ってんのかなって言う子が居るのよね……辛いわぁ」

 ふふふと、黒い影をまとう奏を横目に、言われた人を思い返す。バランスに振ってる子は、震離だろうけど……先の二人は誰だろうって。
 
 胸に行く魔人……は、多分事務の幼馴染だって言う時雨さんと、スレンダーなのは紗雪さん……? あまり話したこと無いのよね。 
 
 ……今度話を聞いてみようかな?
 
 
 
 ――sideなのは――
 
「……え!? 閣下と……会った……? なんで?」

「さぁ? 正直クビが飛ぶかと思いました。本局の空気なんか最悪でしたし、そんな中で閣下と面会、死んだなと思いましたし」

 ……だよねぇ。
 私も閣下とは何度かお会いしたこと有るけど、未だに勝てる気がしない。
 閣下からは儂を超えたなってお言葉を頂いたけれど、それは瞬間的な出力とかの話だと思う。経験値で言えば、まだ足元にも及ばないもの。
 
 それにしても……わざわざ響と会うなんて……やる気がないとは言え、スパイと言うことが割れた? いや、はやてちゃんも警戒はしているけどそれを上に報告はしてないはず。
 強いていえば、密告してきたアヤさんという線も有るけど……その線も薄いと思いたい。
 
 その上。
 
「そして、地球産のアイスを箱で頂けるなんて……恐れ多いなぁ」

「もう気にしないで食べて下さい。少なくとも自分は食べました。暑かったし、お土産って言うならもう好きに食べようって」

 ……まぁ、深く考えたら食べれなくなるもんね。
 
「あ、この事皆に伏せてね?」

「えぇもちろん」  
 
 それにしても……よくよく考えれば本当に不思議な子だなと思う。
 響からスパイだと聞いた後で、シグナムさんから話を聞けば、私が止めに入った時にそれを知らされたらしい。
 ただし、あの時の響は警戒してたし、何より本人もそれを理解してる上で、シグナムさんから問われてそれに応じたとのこと。
 その上で言われたと、これを言えば間違いなく疑うでしょう、そんな筈は無いと言うでしょうと何度も伝えた上で、自身も闇の書事件の被害者の一人だと伝えたって。
 響いわく、自分という灰色に成ってしまった上に、それを信用させるだけの手札が無いと加えて言われたと。
 実際シグナムさんにとって見れば、響が恨んでいないと言っても、完全に信用は出来ない。加えてシグナムさんが響から魔力を……リンカーコアを抜いた以上、恨まれて仕方ないと考えた。
 それが原因で、魔力容量は大きいのに、回復とその限界値が低くなってしまったと考えられても仕方がないと。
 
 でも、シグナムさんの言う通り、手合わせをして、少しでも信用を得られるのであれば喜んでやりましょうとお互いに了承。ほんの短い手合わせでも、もし見つかった時のために響から挑んだようにしますと言われて、あの暴言に繋がったらしい。
 しかも、よくよく聞けば全ての暴言を反転させると、響が言っていたのは唯一つ。あの時、ザフィーラさんとシグナムさんが抑えてくれたお陰で、大分被害が少なくなりましたと言われてて少し照れたらしい。
 
 だけど、思ってた以上に私が早く来てしまったことで手合わせは中断。シグナムさんは、責任を被った響に借りが出来たと笑ってた。
 私も……シグナムさんが誰かと戦ってるって整備の子たちが報告したのを聞いて慌てて行っただけだしなぁ。
 
 それにしても、改めて考えると……響とシグナムさんの邂逅って不思議なところが多い。一つは響が記憶してたことに対して、シグナムさんは朧げにしか憶えていないこと。
 あの事件のとき、きちんと謝罪して回っていたのに響の所だけには行かなかったのはおかしい。加えて当時の響はまだ7歳で、行かない理由が無い。おそらく記憶操作魔法を使われたんじゃないかと……シグナムさんも響も考えているって。
 しかも最後にあったと思われるのが響のお母さん。こっちもこっちで分からないんだよね……フェイトちゃんがこっそり調べてるらしいけど素性すら掴めないって困ってた。
 何より、響以外の2人が魔力を持っていると管理局に確認されたのが7年前というのも違和感が有る。突然魔力を持ったというのなら、分からなくもないけれど、その可能性は少ない。
 でも、確かに7年前まで確認が取れなかったという事実は有る。それも海鳴からあまり往来は無いけれど山を挟んで向こう側。しかもミッド地球支部があるにも関わらずだ。
 
 うーん、まだ隠してますっていうのが分かるけど、なんでだろうね。それに響を含めて7人も同じ場所から来たというのは何か有るはずだし、どうして事務の4人が、事務というか裏方に専念してるかも分からない。
 
「……はさん。なのはさん?」

「……え? あっ」

 気がついたら皆揃ってアイスを食べてた。滅多に……あまり異世界のお菓子を食べたことが無いみたいで、スバルはもちろん、ティアナも美味しいと食べてた。エリオとキャロはフェイトちゃん関係か、割と慣れてる様子。
 
「じゃあ、俺ロングアーチとか、事務の人らに配ってきますね」

「うん、ありがと。そのままはやてちゃんに報告?」

「えぇ。何もありませんでしたよーって」

 あははと苦笑いを浮かべてるけど、呼び出してきた人のこと言わないといけないから大変そう……。 
 スバル達に見えないようにエリオとキャロに追加で3本渡してるけど……あ、フェイトちゃんと一緒に食べてねっていう事ね。
 
 明日からやっと響と流も復帰、ただし響はともかく流は微妙な所。怪我は治ってはいるけど……私としてはまだ早いと考えてる。
 シャマル先生も治りが早すぎるって言ってたし、本人も昔からですって言ってはいたけど……まだ、武装の修復が間に合ってないんだよね。
 加えて、響のデバイスも基礎システムは完成してるけど、肝心の武装がまだ届いていない。
 シグナムさんが心当たりがあるって言ってたけど、なかなか上手く事が進まないらしい。
 後は……奏と震離のデバイスもなんとか工面してあげたくて、システムを組み始めてるけど……予算がなー、後二人分を引っ張り出そうとしたら結構無茶するんだよねーと。
 
 あぁ、このアイス美味しいなー。こういうの実はあんまり食べたこと無いもんなー。
 

 ――sideはやて――
 
「……なんやもー、驚きや無くてもー呆れてくるわー」

「そーですよーもー」

 シャキシャキと、ゴリゴリ君を噛じる中で、リインと響もアイスを食べてる。丁度アウトフレームを最大にしてて良かったわぁ。小さいと食べにくいし。
 
「それはそうと、なんか本局で動きってあったんですか? 大分空気悪かったですけど?」

「んー……特に私のところには連絡来てへんね。朝のニュースの大異動は知ってるんやけど、それ以上はまだや」

「そうなんですかー」 
 
 んー……深く考えすぎ……とは思わんけど、明らかに叩いたらホコリまみれの人たちがこぞって異動とかしてるから、なんか有るんだろうけど。私ん所には何の連絡も来てへんのよね。
 
 眼の前で普通にアイス食べてる響を見ながら思う。
 
「……ホンマに気にしてへんの?」

 くどいと言われそうやけど、それでも聞いてしまう。魔力を奪った事を。
 響の場合、リンカーコアがアンバランスということ、そしてそれは魔力を奪ったからという可能性もある。
 だからこそ、ずっと気にしているんや。 

「……10年も前のことですし、何より魔法に出会う切欠でしたから。それに……」

 シャキシャキと残ったアイスを食べ終えて、 
 
「最初からおかしいって言われてましたから、あんまり気にしてないですよ。
 まぁ、一番落ち込んでた時期に出会ってたら多分恨み辛み言ってましたよ。時期が良かった」
 
 あっはっはと笑う響を見て、冷や汗が流れる。
 やっぱり一時期とは言えあったんやね。
 
「……響は……や、響のお母さんはもう?」
 
 知らないふりをして、あえて聞いてみる。何か情報を引き出せないかと。
 
「……えぇ、7年前に亡くなってます」

「やっぱり厳しかった?」   
 
「魔法と、戦う術を教えるときだけは。あなたは弱いんだから、この程度で泣くならばその道を選ぶのはやめなさいと。
 今思えば、行ってほしくなかったんでしょうね」
 
「へーちなみにどれくらい厳しかったん?」

 あれ? 空気が凍った? リインも気になるみたいやけど、それ以上にアイス食べて頭がキーンとなってるし。

「……怖かったですね……恐かったですね」
 
 ……二度言った。ホンマに恐かったんやな。心なしか若干震えてるみたいやし。
 
「まぁ、それは置いといてや……裏で糸引いてる人、教えては……貰えへん?」

「や、無理ですね。俺ら以外に何されるか分かったもんじゃないですし」

 ……うーん、やっぱり無理か。響達以外にって言うのは引っかかるけど、それ以上は聞かないでって事やろうし。
 
「ま、何にせよ。何か本局での事分かったら教えるよ」

「それは……まぁ、助かりますが。良いんですか? 空曹ですよ?」

「ええよ。だって、お互いに口は堅いやろ?」

 なるべく笑顔で言ってみると、豆鉄砲を食ったように目を丸くしてから。
 
「えぇ、まぁ。でも自分の口は軽いですよ」

「その辺の分別はついてるやろ?」

「……意地が悪いですね」

「……お互い様や」 
  
 いろいろと、な。
 あ、せやせや。
 
「響。ほんま申し訳ないと思うんやけど。明日明後日なー、ちょお行ってほしいところが有るんやけど?」

「出張ですか?」

「や、日帰りやから外回り扱いやね。手当はつけれへんのは申し訳ないんやけど」

 えーって顔してるんがちょっとおもしろい。ほんまは手当をつけて上げたかったんやけど、行ってもらうのは2つ理由があって。
 
「まぁお願いする内容は、とある人物にデバイスをアップデートしたのを渡してほしいのと、そのままそこでちょっと捜査のお手伝いやね」

「はぁ……まぁ、良いんですか? 懲罰房と自宅謹慎を計1週間食らった人間外に出して? 無いこと無いこと囁かれますよ?」

「平気やよ。だって行ってもらう所は私の師匠筋。なんか最近変な所でガジェット出てきてるらしいから、ちょっと手伝ってほしいんやって」

「あ、なるほど。フェイトさんが別件で動かせないからとか?」

「そうそう。あとは協力要請依頼してる所やからね、手伝える時は手伝おうって決めとるんよ」  
 もしかすると別視点を持ってる人なら、あっちの捜査も進展するかもしれへんしね。
 
「了解です。そしたら自分はこの辺りで。明日出発前にそのデバイスとか渡されるんですよね?」

「そや。響のメールに一応の概要送っとくから」

「わかりました。それでは失礼しました」

 退室する響を見送りながら、手元の――かつて響たちが卒業したという訓練校の資料を展開。
 
「はやてちゃん、それ……」

「うん、現時点での資料。響達三人は警邏隊へ、事務の四人はそれぞれ二人組に別れて行った」

 でも、もう一つ。ロッサに頼んで調べてもらった消されたデータを展開して。
 
「……七人、いや八人(・・)全員九ヶ月で途中中退。その後三ヶ月の短期プログラムを受講後消息不明、二年前に経歴が現在に書き換えられた、と」

「……なんでここまでしたのか分からないです。そして、短期プログラムを受けた後の三年はどこにいたんでしょう?」   
 
「何かトラブルに巻き込まれた、としか分からへん。この情報は一旦私とリインだけで預かるよ」

「……はいです」

 展開されたモニターには、全員Bランクだったのがそれぞれ消えていた。
 この情報も真偽は不明やとロッサは言うとった。管理局のデータベースやなくて、断片データを集めてようやく出てきた情報やと。
 唯の空曹や一士にする処置やないんやけど。それをされるだけの何かがあったか……。
 
「ま、もうちょっと様子見や。調べないとあかん事は山ほどあるし、明日は教会から一人お使いで来るみたいやし」

「あ、シスターシャッハの後輩さんなんですよね?」

「せや。そのシスターアーチェが明日来るんよ。カリムからの依頼を持って。もしかしたらレリックかもしれへんし、そうじゃなくても行かないといけへんし」
  
「そうですねー。やることは多いですぅ……」

「せやなぁ。頑張ろうなー」

 その任務を受けるまでに、流のデバイスの修復と、響のデバイスの完成が間に合ったらええんやけど……難しいやろなー。
    
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第16話 2つの出逢い

――side響――
 
 あんまり考えたくないけど、良くない流れって言うのは間違いなく有る。
 例えば、朝一で出会った上司のハンマーが俺の鳩尾を打ち抜いたり、それがアイス取っとけよとかいう理不尽極まりない事だった。
 更には移動に使ったリニアレールが突然止まって一時間食われたかと思えば、降りて地下鉄に乗ろうとしたらなんか丸い機械が動いてたという話を聞いて、場所を照らし合わせればそこは廃棄区画がすぐそこの場所だったりで。

「……面倒くせぇなぁ」

 少ない魔力を使って、電灯代わりにサーチャーを展開させて、丸い機械とやらが居た場所まで移動してきたわけだけど。
 分かってた通り広くて全然わかんねぇ。
 一応、六課と108部隊にはそれぞれ連絡入れているけど、帰ってきた回答は一応確認してきてという、まぁですよねといった内容。
 
 ま、愚痴ばかり考えてないでお仕事するか。デバイスを渡すっていうお使いも頼まれてるし。
 
 さて、一応地下鉄会社に問い合わせた結果、最近導入された自動巡回無人機とやらを導入したけれど、それは円柱型にちょっとしたアーム付きの機械で、ぱっと見ただけでは丸……と言うより、棒だなという印象を受けるもの。
 加えて近くには地下高速も走ってる。何かが潜む……いや、入り込むには打って付けの場所では有るんだよな。少し移動すれば廃棄区画。地下鉄会社でも、交通管理局でもない管轄の場所……正確にはどっちか取ってるんだろうが、取り合いの関係で空白に成ってそうな場所だ。
 
『ロングアーチより、ライトニング5へ』

「こちらライトニング5。どうされましたか?」

 音声通信でロングアーチより連絡が入る。この声は……シャーリーさんか。
 
『連絡を受けて調べたんだけど、その辺りで妙な問い合わせがいくつか入ってるね』

「妙な問い合わせ? 例えば?」

『サバトが行われているかもしれないって』

「……えーっと、悪魔崇拝とかそういう感じの人が目撃されたんですか?」

『そ。時折ローブにフードの人が高速に乗った人が目撃したり、電車の中で見たりとか偶に有るみたい』
 
 ……ローブかぁ。個人的に思いつくのはホテル・アグスタで襲撃してきた敵を思い出す。

「何か指示は預かってますか?」

『はい。その調査は108部隊が引き継ぐそうで、しばし待機を』

「……あぁ108が……え、俺ここで待機? マジで?」

 嘘だろ。割と暗くて嫌なんだけど。この状態で襲われて……いや、それ以上に。
 
 なんか出たら……やだなー。

『まぁまぁ。あ、昨日のアイスありがとうね。皆美味しいって言ってたよ』

「え? あぁ。そりゃ良かった。朝っぱらから食べれなかったって八つ当たりされたのは驚いたけど」

『あはは、ヴィータさんってアイスが好きな人だからねぇ。珍しく地球産の……それも日本のアイスだったから食べたかったんじゃないかな?』

「いや知らんがな。それよりも……」

 遠くから何かが装填されるような音が聞こえた。
 
「……なんか反応ある?」 
 
『ううん。でもハッキリ音は入った。この感じはカートリッジかな? とにかく気をつけて下さい!』

 直ぐにお仕事モードに入ると同時に、こちらもデバイスを展開して臨戦態勢へ。
 コツコツと足音は聞こえてくるし、ハッキリこちらへ向かってきているのも分かる。
 
『うん? あれ……これって』 
  
「接敵まで数秒、打って出ます」

『え? あ、ちょ』

 通信越しでシャーリーさんが何か言っているけど、それ以上に。あちらも敵意を出してるのが分かる。
 多分遠目で、俺の明かりが見えたから来たんだろう。サバト関係者ならとりあえず話を聞けばいい。
 なにかされる前に、牽制を掛ける!
 
 そう考えて踏み込んで突っ込む瞬間、まず聞こえたのは、足音ではなくローラー音。
 それもよく聞く音に限りなく酷似した音。
 次に聞こえたのは。気合を込める声と、それに合わせて魔力光が煌めいた。
 
「ナックル……!」

 明らかな女性の声と共に、左拳を構えてまっすぐこちらに向かう長髪の女性。
 ぱっと見た印象は、長髪でおとなしそうなスバル。加えて見覚えの有る構えだが、唯一の違いは左だということ。
 
 そう言えば、朝言ってたな。スバルが!
 
 ――うちのお父さんとお姉ちゃんによろしくね!
 
 って。つまり……この人は。
 
『響、その人味方!』

「バンカー!」

 シャーリーさんの言葉とほぼ同時に後方に飛ぶ、がそれでも距離を詰められる。

 ですよね! と体を捻るよりも先に、間合いに踏み込まれ腹部に一撃を叩き込まれて、そこで意識が飛んだ。 
 
 


――sideティアナ――

 もーそろそろ向こうでは響とギンガさんがあってる頃なのかしら? バカスバルが、フェイトさん対響の試合の内容話しちゃってたのよねー。
 お蔭で興味持たれてたし……今頃トーキングモードに入ってるんだろうなー。
 
「おつかれティア。はいこれ」

「ありがと」

 奏からスポドリをもらって口に含むと、冷たくて美味しいわー。
 ……さて。
 
「……調子悪そうだわ」

「……そうだねぇ」 

 眼の前で行われているのは、スバル対流。多分、怪我する前ならスバルは勝てなかったと思う。でも、今までのなのはさんや、ヴィータさんの教導のお陰か、いい動きをしているのに対して、流の動きは一手足りない。
 いや、どれか一方しか出来ていないというのが正しいのかしら?
 よく見れば、ミドルレンジでは大剣を振り回して迎撃してる。でも、僅かに見切って懐に入り込まれても一瞬大剣のまま対応しようとする。そのまま対応していると、思い出したかのように空いた手で格闘を捌き、クロスレンジでスバルと格闘で渡り合う……いや、僅かに押されてる。
 切り替えがもっとスムーズに出来れば、スバルと対等……ううん、文字通りランク相応の実力が発揮出来るだろうに、それが上手く出来ていない。
 長銃が無いから? と思ったけど、あったとしても、切り替えが上手くいかない以上、押されてたと思う。
 しかも、どことなく見覚えが有るような、無いような……そのせいも有るんだろう。スバルが見切って、カウンター気味に攻撃出来ているのは。
 
 ……まぁ、アグスタでしたあの突撃とかされたら分からないけど。
 
「なのはさんも困った顔してるねー」

「うん。一つ一つの動作は普通に上手いと思えるのに、どうしてそれが上手く切り替えれないんだろ?
 ……いやほんと、あの時の模擬戦後で良かったわ。多分あの時期に見てたらいろいろ文句言ってたわ」
 
 それこそ流への当たりが強くなってたかもしれない。

「まぁ、黒歴史の1つや2つあっても仕方ないよ」

「……うん、まぁ……うん」 
 
 それにしても……。
 なんだろう? 流を見てると、なにか足りないような……そんな気がするけど、
 
「……それがわからないから、上手く言えないのよね」

 スバルと違って、オールレンジ対応出来るっていうのは、その分複雑化してるということなんだろうけど、そういう次元じゃなくて、駄目だ。上手く考えが纏まらない。
 
『震離! てめぇ、弾幕置くなら迎撃と、読み撃ち以外にも置きやがれ!』  
 
『はい! すいません!』 
 
 違うフィールドに目を向ければ、ヴィータさんにどやされてる震離の姿が。
 杖に魔力刃を展開して、鍔迫り合いしてるのはちょっと凄い反面、フェイトさんみたいだなーと。いや、どっちかって言うと、短剣型のスフィア展開からの誘導操作がメインだから、今のほうがイレギュラーか?
 
「ねぇ奏? 震離のあれって威力はどっちが出るの?」

「ん? 弾幕と直接殴るって話? そりゃもちろん後者だよ。杖に魔力を直接込めれる分、威力もそうだけどそもそもの出力を常に上げれるからね。
 まぁ本人は展開、射出、操作のほうが強いけど……最近は流がやってたやつを真似て、高速射出と自動ロックオンもつけれるようになったらしいけど」
 
「……それはまた面倒ね」

 しかし、こうしてみるとやっぱり不思議なチーム編成よね。
 奏は射撃メインでも近接寄りだと言っている。震離は剣を使えるけど中距離。でも実際のチーム編成は、震離が前で奏が後ろ、響は指揮をという編成だった。
 やっぱ何かを隠してるのか、それとも変わるためにその編成なのかは分からないけど。もっと本音を引き出せたらなー。
 
 いや、それ以前に。
 
「……もっと流とも話してやんなよ」

「……心でも読んだの? 今丁度思ったけど」

 あ、震離落とされた。あ、流が負けたわ。
 
 そういえば。
 
「ねぇ奏。震離って実は大人しい人だったりする?」

「……さぁ? 何を見てそう思ったの?」

「それを聞く? まぁいいけど……スバルもそうだからよ。さて、次ヴィータさんのところで近接対応だけど、奏は?」

「私はフェイトさんの所で機動チェック、エリオとキャロと入れ違いになるねー」

 一瞬だけ、目が鋭くなった。ということはやっぱり震離も根っこは大人しい人なのね。スバルとそっくりだわ。 
 
「ま、人見知りする子だけど。別にティア達がきらいだからーとかそういう事は無いから安心してよ」

「……奏がそう言うなら信用出来るわ。それじゃまた」

「うん、頑張ってヴィータさんを凌いでね」

「……頑張るわ」

 ヴィータさん……最近ある程度捌けるようになったの見越して、本来の力押しも入れてきたから対処し辛いのよね。
 隊長陣という壁もそうだけど、同じ分隊に居る人達も強いしまだまだ大変だわ。
 
 よし、頑張ろう!
 
 
 ――sideシグナム――
 
 知り合いの刀匠との交渉がようやく実を結んだ。
 正確には実力もない者にくれてやる刀は無いと突っぱねられていた。実力はあると伝えてもなかなか……いや、完全に話を聞いてはくれなかった。
 理由はいくつか有るのだろうが、一番の理由は天瞳流御用達の刀匠ということも在り、少々厳しいところが有る。
 特に天瞳流にはDSAAランカーの1人が居ることもあって人気のある流派だ。
 
 それにあやかり、刀を欲する者も後は絶えない。真似をして自身のデバイスの武装とするものが多く、慣れていない故に怪我をする者、刀を剣の様に扱い折れてしまうと苦情を入れてくる者の対応をしていった結果が今なのだ。
 
 だが……テスタロッサと緋凰の勝負を見せたのは正解だった。
 これを見せても変わらないというのなら、諦めるしかないと考えていた。
 
 流石は天瞳流が贔屓にする刀匠。即座に緋凰が刀とは呼べないものを使っていた理由に気づき、最後の一打も。ちゃんとした1品ならば勝っていたと断言していた。
 その上でもう一度依頼を出した。どうかこの者の為に刀を打っては頂けないかと頼んだ結果。
 
 1本ならば制作に取り掛かると言ってくれた。そして、もう1本は既に作られていた刀を譲り受けた。
 なんでも、きちんと刀を扱える人を……天瞳流の師範代になった子と少ししか変わらないのに、こんなに扱えてる人は久しぶりに見たからと、そう言って取り出された1本。
 管理局が定めた刀工の制作規約を躱す為に作られた無銘の刀、ただし、誠意を込めて打った代物。
それを取引に出され、経費で落とすことに。
 
 非常に良い取引が出来たと思う。第一……なのはや、シャーリーからまだですか? 交渉上手く出来てますか? 違う所に行ったほうがいいのでは? と言われていた時には居心地が悪かった。
 
 何はともあれ良かった。
 
 ……そう考えていたが。
 
「……緋凰?」

 ミッドの海沿いを車で走っている最中に、緋凰らしき人物の後ろ姿が見えた。
 いや、正確にはよく似た体重移動する者が居た。しかもスーツのような黒い格好をしてビルとビルの隙間に消えていくのを見た。
 奴の予定は108部隊に行く予定だというのは聞いてはいたが、何故管理局の制服ではなくスーツを?
 
 ふと、考えたのが……緋凰達を使う者。糸を引く者に会うのではないかと考える。
 そのためにあえて、目立つ管理局の制服を着ていないのは分かる。
 だが……ここは六課隊舎から、そう離れていない場所だぞ? そんな近くで落ち合う? 緋凰達に指示を出せる以上、管理局員だということは分かる。しかしこんな所で会うとすれば……地上の者か?
 たまたまとは言え、公に外に出る機会を与えられたからこそ会いに行った? いや、謹慎の最中にも会おうと思えば会えたはずだが……その時期には情報は漏れてないと主は言っていた。
 なら、このタイミングで会えば……特に違和感もなく情報を流せる。本人にその意志は無いと言えども、会うということだけでもリスクはある。
 
 ……今追いかければ、更に事情を聞ける……か?

 そう考え、車を路上パーキングに停めて直ぐに追いかけて――
 
「待て、緋凰!」

「はぇ?!」

 角を曲がった先に、ビルの反対側に出た瞬間捕まえた、が。
 
 ……銀髪? いや、体幹の動きは緋凰のものと……おや? 
 
「え……あ、シグ……ナムさん?」

「む? 何故、名前を知っている?」

 眼の前で固まる人物……よく見れば、女性だというのが分かる。ゆっくりとこちらの方に振り向けば、尚の事分かる。いろんな食材の入った紙袋を抱えるように持つがそれ以上に目立つそれなりの胸がある。
 
 だが。
 
「え、いや、あの」

 しどろもどろになる女性の手首を取って。
 
「墓穴をほったな。貴様、緋凰だろう?」

 万が一……というより、人目をごまかすために女装をしたというのなら分からなくもない。だが、それでも緋凰の癖となる動きをしていれば、間違えるはずがない。
 
「……いいえ、あの……手」

 銀色の瞳が不規則に揺れ、動揺しているのが分かる。テスタロッサの様に纏めた髪が揺れているが……私としたことがそれすらも見落としていたか。
 ただし、裏を返せばそれほどまでに動きが同一だということになるのだが……。
 変身魔法を扱えるだけの魔力をアイツは持っていたか? という疑念も生まれ始めてきた。
 
「や、だって。シグ……ヴォル……ケンリッターさんって、皆さん有名じゃないですか。それで、あの」

 ……おや? 何故か今度は顔が赤くなってきたぞ? いや、待て待て……そんな筈は。
 
 なんて考えていると、不意に私に影が掛かり、振り返って見れば。
 
「ごめんなさいね、遅くなったわ。さて、ヴォルケンの騎士様。うちの従業員に何用で?」  

「……は?」
   
 ドスの利いた声、背の高い男性……カイゼル髭に、ガッチリとしたビルダーらしい体の……メイドがそこに居た。
 

 ――――
 
 結論から言えば。勘違いだということがわかった。
 一つは、六課に確認を取れば、緋凰は現在108部隊のギンガと共に居る事がわかった。
 そして、もう一つは――
 
「あははははは、気にしないでください。そんなに似てるなら一度お会いしてみたいです」

「ぅむ……本当に申し訳ない」

 現在私は、喫茶店S.H.F.にてお茶を頂いている。
 一悶着……いや、ここの店長とやり合う直前まで行きかけたが、その前に緋凰と間違えた……店員Sさんとやらが、全力で止められた。
 その上で、私の名前を知っていたのは、昔の戦技披露会で見かけたからという事と、単にファンだと言われた……正直後者は気恥ずかしい。
 
「それにしても驚いたわー。少し目を離した隙に絡まれてるんですもの。しかも夜天の騎士に。大真面目な顔で」

「……申し訳ない。同僚にどうしても似ていて……そんな趣味が、と」

「いえいえ、そんなに似てるなら。仲良くなれそう……いや、一周回って相性最悪かもしれませんね。
 シグナムさん、おかわりはどうですか?」
 
 ティーポットを見せて来る。一瞬どうしようかと考えたが……主の淹れてくださるお茶とはまた違った美味しさに魅入られて、  
 
「……頂こう」

「はい、どうぞ」

 ふむ、本当に不思議だ。特に何の代わりのない紅茶だと言うのに、ここまで美味しいとは。
 
「ごめんなさい。本当はいろいろおもてなしをしたかったんですが、丁度材料切れて、仕込み直す所だったんですよねぇ」

「そうねぇ、ごめんなさいねシグナムちゃん(・・・)

「ブッ!?」

 店員Sさんはともかく、ここの店長キャディさんの言葉で吹き出してしまう。
 
「わー……店長、それでこの前学生さんを笑い殺そうとしたのに、なんで学ばないんですかー?」 

「女の子にちゃんをつけてはイケナイというルールは無いのよ? 本人が嫌がるならやめるけどね」

 こちらに確認を取るように視線を向けられるのを感じるが、俯いてそれどころではない。それでもやめてほしいという事だけは伝えようと、意思表示として手だけを上げて横にふる。 
 
「あら残念。女の子にさせちゃいけないことをしたお詫びで……アイスは如何?」

「ケホ……いや、しかし」

「貰って下さいシグナムさん。制服にちょっと掛かってしまった以上、これでチャラにして頂けると当店嬉しいですし」

「む?」

 店員Sさんの視線の先を見れば、スカートの一端に吹き出した時についたであろう跡がついていた。この程度ならばクリーニングで消えるし、何よりそこまで気を使わずとも。
 
「もっと言えば、リピーターになってほしいんですよ。割と六課は近くにあるというのになかなか来ないので、何よりこうして知り合えたのも嬉しいですし」

 申し訳なさそうに笑う店員Sさん。
 事の発端は、私の勘違いだというのに……何か有るのかと考えるが、こんな掛け合いをしていて、それはないだろうと思いたい。
 
「あぁ。そういうことなら頂きます」

「ありがとうございます。店長此方(こなた)は何を?」

「大丈夫よー。私だけで足りるわ。三人で食べましょうか。今日はもうお店はお休みにして」

 ……しかし不思議な喫茶店だな。店員はSさんと店長の2人だと言っていたし、ハウスルールとして名前を聞くことは出来ないと。
 キャディ店長も、諢名らしいし、Sさんは決まってないからとりあえずらしい。
 写真も取れないようにそういうジャミングを入れているとのこと。店長いわく以前そのせいでアルバイトの子たちが盗撮された結果やめていったらしい。その対策として導入していると。 
 
 そういえば、昔のテスタロッサや、なのはも学生の時は困ったと言っていた気がする。シャマル辺りはそれは喜んでいいのよと言い、主はなんで私にはと悔しがっていたのは少し懐かしい。
 
 ほんの短い時間だったが、頂いたアイスもまた格別に美味しく、また来るということを伝えた。その時は一報入れてくれれば空けてくれるとも。
 非常に有り難い。
 
 今度手隙の者を連れてくるのも良いだろう――
 
 
 ――と、考え、六課に戻って最初に会ったヴィータにそれを伝えると。
 
「て、てめぇ!? 喫茶店S.H.F.はな!! アイスパフェがギガ美味で有名な……超行列店だぞ!? なん……お前、はぁあああ?!」

 と、理不尽に怒り狂われた……何故だ? 
  
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第17話 優しい人

――side響――

 気がつけば、見覚えの有る天井……ではなく、薄暗い場所。
 耳をすませば車が走る音と、誰かが話す声。それは、何かの密談ではなく……。
 
『や、大丈夫だと思うよ。朝ヴィータさんに殴られてたし』

「いえ、あの、それでも、不意打ちで……本当に申し訳ないです」

『心配しすぎだよ。きっと大丈夫だよ。それよりもブリッツの調整内容何だけど――』

 ……シャーリーさんめ、人を何だと思ってるんだ。若干疲れてるような声をしてるが。
 それよりもブリッツって事は……俺が預かってきたデバイスの持ち主さん、もっと言えばスバルのお姉さんか。 

 ゆっくりと体を起こせば、明らかに一回り小さい陸士の上着が掛けられてるのと、ズキズキと鳩尾が痛い。
 そう言えば朝っぱらからしばかれた時もここだったもんなー。あの一瞬でピンポイントで狙える辺り凄いなーなんて考えながら、掛けられた制服のホコリを払って畳んで。
 
「あー……今割って入ってもいい?」

「あ……あ! 本当にすいません!」『あ、おはよう響』

 うわーい、すごく対照的な反応。片や一瞬で顔青くなってるし。
 
「大丈夫。世の中私の分のアイスがねぇってデバイスで殴る上司も居るくらいですし。
 こんな場所でよくわからないのが居れば警戒するし、仕方ないですよ」 
 
「いや、あの……でも」

 とりあえず畳んで制服を手渡しながら、懐からデバイスを取り出して。
 
「これの持ち主さんですよね。どうぞ」 
 
「あ、ありがとうございます。ブリッツを持ってきて下さって……あの、申し訳ないです」

 うーわー……すごく気に病んでらっしゃるー。あ、
 
「そうだ。シャーリーさんから聞いてるんだろうけど改めて。自分は機動六課所属、緋凰響空曹です。
 この度は誤解を招く行動をしてしまい申し訳ございません」  
 
「え、あ、こちらこそ。私は陸士108部隊所属の、ギンガ・ナカジマ陸曹です。
 緋凰空曹、今回の件大変申し訳無――」
 
「同じ階級で、歳もそれほど離れてませんし……タメで話してもいい?」 
 
 謝罪を遮るように割り込むと同時に、手を伸ばして握手の構え。
 こちらにも非は有るし、別に殴られたことだって気にしてない。多分シャーリーさんの声色が若干疲れてた様に聞こえたのは、ずっと謝ってたからだろうし。
 
「いえ……それでは」

「歳は……あぁ、聞くならこちらからか、俺は17です。もう少ししたら18になりますけど」
 
「え? あ、私も同い年……です」

「マジか。なら、尚の事気にしないでくれ。同い年で同階級。違いは空か陸かってだけだし……あ、もしかして魔道士ランクAだったり?」

「はい。……ということは、緋凰さんも?」

「呼び捨てでいいよ。俺もギンガって呼ぶから。あ、俺はAーです。空飛べるだけだから」

「あ、スバルから聞きました……あ! 響さ……響はフェイトさんと渡り合ったんですよね? スバルから聞きました!」

 パッと目が輝き出した。この問題はこれで終わりだなーと。
 ……それよりもレスポンス早いなー。打てば直ぐに返ってくるし。最初はスバルと似てるのは見た目だけかなーと思ってたけど、やはり姉妹。よく似てるなー。
 
 ……いや、それよりも。
 
 ――そう。他には何か面白いことあった?
 
 一瞬姿がダブった。懐かしいと思える反面、髪型が似てるんだと結論づけて。
 
「いやいや、渡り合えてないですよ。ダメージ通せてないし」

「それでも先手を取り続けたんですよね? いろいろお話したいと思ってたんです!」

「……あんまり参考にならんぜ? まぁ、それより……移動しません? 108へ行かないと流石にそろそろ怒られる」

「はい! 案内するよ。その間聞かせてね?」

「はいはい。そう言えばそのローラーシューズって、デバイスの無いのにどうしたの?」

「簡易デバイスで、足だけ展開出来るようにしてたんです。リボルバーナックルが無いとやっぱり威力は落ちますが……何処からでも狙えるんで」

 シュッと軽くシャドウをするギンガを見て関心。
 利き手は左っぽいけど、その気になれば何処からでも狙えるタイプ。スバルとは正反対の技術寄りだなと直ぐに気づく。
 
 ……ちょっと待てよ。そうすると、あまり考えたくないけど。ヤダこの子かなり優秀な部類やんけ……。
 
 ……そうなると、だ。陸曹クラスが問答無用で攻撃したって事は、ここでサバトとやらをしてる奴らは、結構危険な存在?
 本局がガタガタしてるのを陸が気づいてない訳がないから、なにかするタイミングとしては丁度良いが、そうするとそれなりのバックが居る事になる。
 
 ちょっと確認取りたいが……。
 
「響は投げとか、指揮が凄いんですよね? 私指揮適正がちょっと低いので教えてくれないかなって?」
 
「えー、そりゃチェスとかすりゃ勝手に鍛えられるよ。後は王道の指揮を理解してから自分ならって落とし込むように」

 せっかくこんなにキラキラしてるのに、また落ち込ませるのは申し訳ないしな。
 
 ――――
 
「なるほど。あの青狸が寄越すわけだ、中々な手前だ。俺も同じ考えだ」

「ありがとうございます!」

 ……108部隊まで案内されて、地下鉄での証言と潜った際にギンガと一触即発になりかけた事を伝えて、その上でこちらの考えを伝えると、笑って同意された。
 
 渋く笑って居るが、さすがは部隊長歴が長い方。
 陸士でも珍しい、指揮だけで成り上がった人、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。
 なるほど……はやてさんが師匠筋と言うだけの事はあるな。少し話しただけでいろいろ含んでるのがよく分かるし、それを表に出さずにのらりくらりで躱せる。

「しかし、よくギンガを説得できたな。頭固いだろ?」

「お父……部隊長!」

「……まぁ、ナカジマ二士……スバルさんから父と姉に宜しくと言われていたので」

 なるほど、と笑うナカジマ三佐に対し、スバルにさん付けしたらギンガが信じられないといった様子でこっち見てくるし。
 一応上官、しかも娘さんを呼び捨てにしたら嫌な感情持たれるだろう。察してくれ。
 
「気楽にしてくれ。スバルから呼び捨てにされてるんだろ。何時も通りで良い」

「助かります。それで……調べる場所というのは?」

「あぁ、さっきの場所だ。わかりやすいだろ」

 ……嘘ぉ。 
 
 
 ――sideスバル――
 
 きょ、今日のヴィータさんの機嫌がすごく悪い……。
 
「スバル! 防御はちゃんと使い分けろって毎っ回言ってンだろうが!」 

「はい……っ! 気をつけます!」

「オゥラァッ!!」

 鉄の伯爵グラーフアイゼンの一撃以外にも、鉄球をいろんな角度から飛ばしてくるから、本当に対処し辛い。
 加えて、撹乱からの重い一撃――っ!?
 
「ラケーテン……ッ!」

「こんっ……のぉおおお!!」 

 ――――

「……ダメだ~また落とされた~」

 気がついたら、木陰の下で横になってた。
 最後に見えたのは、グラーフアイゼンの槌の頭部が、眼前に迫ってきた光景。
 
 駄目だなー、やっぱ強いなー……せっかく。
 
「もう少しで逸して一撃を加えることが出来たと思うんですけどね」

「うん、そうなんだよー……小さくウィングロード展開してマッハキャリバーを振り抜けて逸らせそうだった……ん、だけ、ど」 

 ズズズっと、思わず少しだけ離れてしまった。
 割と追加組や……ロングアーチのアルトやルキノと仲良いし、割と人と仲良く……やれてると思う。
 エリオやキャロみたいに礼儀の中にもちゃんと年頃っぽい感情を出す子とも仲良く出来てると思う。ちゃんとカバーとかフォローできてるかは別として。
 
 最近割と苦手なんだなーって言うのが。
 
「申し訳ないです。自分の意見は的外れですね……ごめんなさい」

「え、や。そんな事無いよ?! 私もおんなじこと考えてたし!」 

 この、ふわふわというか、何考えてるかわからない一個下の男の娘……。
 
 ん? 今なんか間違えたような……?
 
「いえ、大丈夫ですよ。元気そうですし、次はハラオウン隊長の所なので自分は戻りますね」

「う、うん! ごめんね。ありがとう?」

 ペコっと会釈を一つして離れていくのを見送って……。見えなくなってから。
 
「……んー息が詰まるなー……もー……あー……あれ?」
 
 そう言えばここって、シミューレーターの中じゃなくて、ちゃんと実物の木の下。
 あれ? ということは私はここに運ばれた訳だ。でも……あ、ヴィータさんかな? あとでごめんなさいって言わないと。
 そう言えば、仕事も合間合間に片付けないとなー……ティアが手伝ってくれてるのか、大分減ってはいるけど。
 ぬあー……もー、結局誰かに頼りっぱなしだーもー。
 
 ……ちゃんと見てなかったんだなぁ。
 
 ティアなら大丈夫、ティアならきっと答えを見つける、ティアならって。
 昔というか、ずっと一緒に居たのに、私には分からなくて寄り添う……いや、依存しかしてなかったんだなぁ。
 そう言えば、訓練校の時にもあったっけ。偏差値で総合三位位に上がった頃に陰口言われたなー、何だそんな事かっていう反面、パートナー(ティア)のプライドを守るために実力を見せて……証明するんだってなったっけ。

 あー……まだまだ遠いなぁ。
 
 そんな事考えながら、次の訓練場所へ行こうと立ち上がった瞬間。 
 
「どの面下げて私に声を掛けた?」

 遠くからそんな声と共に乾いた音が響いた。
 
 
 ――sideなのは――
 
 今日は教会にも所属していて、はやてちゃんの友人にもあたる騎士カリム。その人からの依頼を持ってシスターさんが1人来るっていうのは聞いてた。
 それがカリムさんの秘書を兼ねている人の後輩にあたる人だと言うことを。
 だから、1つ依頼を出していた。それは機動六課自慢のFWメンバーと対戦をして頂けませんか、と。
 向こうの反応は良かったらしく、依頼を届けたらこっちに来るようにしてくれていて……はやてちゃんからもそっちに向かったよと連絡を受けた。
 
 でもまさか――
 
「奏!?」

「だ、大丈夫です。元気そうで良かったよアーチェ」

 頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる奏に対して、手の甲で振り抜く様なビンタをしたシスターアーチェ。 
 まさか私に挨拶して、その直後に出会った奏に驚いた素振りからビンタするとは思わなかった。
 
「……高町教導官。申し訳ないですが、対戦の件はなかったことに。アタシは――」

 一際強く奏を睨みつけた後に、背中を向けて。
 
「そんな奴らと、戦いたくないです。それでは」

 私に向かって一礼して、その場から離れようとした瞬間。何かを思い出したように奏の方を見て。懐からハンカチを取って。
 
「突然悪かった。嫌いだけど、それ冷やして顔に当てな」   
 
「……ありがと。気をつけてね」

「……フン」

 ぶんと、投げるけどかるすぎるのか途中で落ちた。お礼をいいながら奏はそれを拾って。
 
 一瞬目が細くなった。でも、直ぐにふにゃっと笑ってアーチェさんを見つめながら。
 
「……またね」

 と、返事もすること無くそのままアーチェさんは行った。
 
 ……で。
 
「……奏。シスターアーチェとの関係って聞いても?」

「昔とある事でちょっと。個人的な事ですが……上官命令でしたらお話しますよ?」 

 それは遠回しな拒絶。私には部下に手を上げられたと教会に……抗議する理由は出来たけど。
 果たしてそれは正しいことなのかな? 何かを隠してる奏達と関係しているだろうし……うーん。
 
「奏! 大丈夫?」

「あ、スバル。あはは……かっこ悪い所見せたね。大丈夫だよ」
 
「かっこ悪いって……なんで、怒らないの?! だって、あんな……」 

「いいからいいから」

 あははと笑っているけれど、スバルの言うことだって分かるよ。
 
「……天雅空曹。本当に大丈夫なんですね?」

「えぇ、個人のいざこざです。申し訳ございません」

 サッサと倒れた時についたホコリを払ってると、午前の部を終えた他の皆が次々とやってくる。そして、最後にやって来た震離と奏が目を合わせて。
 
「今さっき、アーチェが来てたよ」

「……そっか」

 特に何も話すこと無く2人は別れて……。なんというか不思議な感覚だった。 

 ――――
 
「はぁ? アーチェが? 奏を? なんで?」

「わかんない。本人は個人的ないざこざだーって」

「……ますますわかんねぇ。今まで何度か会ったことあるけど、そんな奴じゃねーぞ?」

 バクバクと食堂のデザートを食べるヴィータちゃんに、午前の部で起きたことを伝えた。
 隣で、なんだか疲れた表情のシグナムさんも話を聞いて、不思議そうに首を傾げてる。
 本当はフェイトちゃんも居るはずだったんだけど、シスターアーチェの持ってきた依頼の為に色々申請したりしないと行けないらしく、直ぐに行っちゃった。帰ってきたら色々聞かせてねって言い残して……。
 
「……基本的に礼儀正しく、シスターらしからぬ所もあるが、ザンクト・ヒルデ魔法学院を中心に子供からの人気のあるシスターだ。
 後は、全体的に天然だな」
 
「お前が言うなおっぱい魔人」

「……まだ怒っているのか。いい加減機嫌を直せ」

「あぁん? 滅多に食べれないアイスで有名なお店に行ったやつに言われたかねぇー」

 ……うわぁ、ものすごーく機嫌が悪い。 
 ちらっとシグナムさんに視線を向ければ、申し訳なさそうに肩を竦めて苦笑を浮かべてる。
 なんとか一度、話題を……あ。
 
「なのは。緋凰のデバイスの件。なんとかなった」

「え……あ、本当ですか?」

「あぁ。シャーリーに渡した。既にベースは出来ているから今日中には一端組み上がるそうだ」

「な、長かったぁ……! もう、響のデバイスのデータ流用して、今の強化版で行こっかって話してたんですよ」 
 
 ……あ。
 
「す、すまない……交渉に手間取って。まだ1本残ってるんだ」

 ……まっずーい。シグナムさんが凹んだー。そしてヴィータちゃんってばざまーみろみたいな顔しないで欲しいなー。
 シャーリーとは元々段取りは決めてるし、今は1本でも追加兵装として足せば良い様にしてあるけど。 
 
 やっと完成まで漕ぎ着けたー……長かったなー。
 
 あとは、奏と震離のデバイスも作ってあげたいけど……どうにかしないといけないなぁ。
 
 ……二歳年下って、こんなに遠いとは思わなかったなぁ。
 
 
 
 
 
――side響――

 ギンガと捜索を開始して、早数時間。間違いなく俺たち以外の誰かが居たっていう痕跡は有るが、若干古い足跡だったりで今一歩進まない。

 丸い機械という奴も作業用工事車両だったりで、もしかすると見間違えたかなっていう線が強い。
 
 まぁ、こういう捜査って。
 
「……つまんないですよね?」

「んぉ?」

 申し訳なさそうにしてるギンガと考えてたことが一致したもんだからちょっとびっくり。
 ただまぁ、知ってるというか、空振りばっかりだからなー。
 だから返す言葉は。
 
「つまんないけど、お仕事だからなー」

「まぁね。ふふ、フェイトさんと渡り合ったっていうから、すごい人だと思ったら、もっとずっと近い人で安心した」

「そりゃ、俺ってそうでもない人だからな。変に色眼鏡で見られても困るし」  

「でも渡り合えたんなら……」

「相性の問題もあったよ。力押しで来られたら勝負にならなかったし。魔力にモノを言わせたなぎ払いではなく、速さと技術で来たから勝負もどきが出来た。
 フェイトさんって広域魔法も、収束砲撃、範囲砲撃、何なら天候操作……あぁ、儀式魔法だっけかな。あれも出来たはず。
 だから、勝負になった(・・・)じゃなくて、勝負に付き合って(・・・・・)くれたが正しいんだよ」

 そこまで話して、しん……と静かになって言い過ぎたというの自覚。いや、ゲンヤさんが言ってたな。スバルはなのはさんに、ギンガはフェイトさんにそれぞれ憧れてるんだーって。
 だから、フェイトさんがすげーって話して問題ないはずなんだが……。

「私は見てないからなんとも言えないけど。そんな人がザンバーフォームっていう奥の手を一つ使わせたなんて、普通に凄いと思うよ?」

 あら? 想定してた回答と違ったわ。
 ……まぁ、立て直したということでいっか。

「あ、そう言えば響?」

「んー? なんかみっかった?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。この2日の調査云々でさ、お父さ……隊長から言われてる事が有るんだけど」

「おー」

「私も機動六課に出向するんだー」

「へー……え? マジ?」

「うん。訓練しながら捜査してーって感じかな。私ももっと強くなりたいって考えてたし。
 だから、しばらくはよろしくね?」
 
「あぁ、うん……うん?」

 なんか、意味合いが違うように聞こえたが。ま、人が増えることは良い事よ。 

 ――――

 あの後、特に見つけることは出来ずにそのまま飯を奢って軽く地獄を見て。また明日ねと別れて六課に戻ってきたわけですが……。
 
 なんか、お通夜みたいな空気、これ何事よ?
 
 とりあえず事情を聞いて、なんか訓練中にちょっといざこざがあったと。そして、それは……。
 
「そうか。アーチェが来たのか。そっか」

 ただ、そう答える事しか出来なかった。 

 フェイトさんが説明を求めるみたいな視線を向けてたけど、あえて知らぬ存ぜぬを通して。
 奏に会って、ただ一言だけ言われたのは。
 
 ――相変わらず優しいね、と。
 
 それだけだった。
 
 
――sideはやて――

『そう。本局で動きがあったとは思ってたけど、まさかそんな……ごめんなさい何も出来なくて』

「いえいえそんな」

 突然の通信連絡に驚きながらも、ホッと一息。
 まさか地上本部勤務の……アヤさんからだとは、継いで来れたシャーリーも人が悪い。いや、分かってたからちょっとはにかんで回してくれたんだろう。

『あれから変わりはない? 何か不都合な事とか無い?』

「えぇ。今の所は」

『……風のうわさで聞いたのだけど、なのはさんが少し間違えた。そう聞いたけど、それは本当……?』

 空気が変わった。アヤさんがどういう意図でそれを言ったかは分からへん。
 でもやっぱりそれは……。

「初めての……一年通しての教導ということもあって、色々試してるそうです。間違えた、と言っても、それは思いの外成長して、教導官としては嬉しくて熱が入ってしまったようです」

『そう。なら良かった』

 ……その情報は一部にしか回してへんのよね。クロノくんとカリムにはもしかしたら変な飛び火の仕方をするかもしれないとは言ったし、機動六課の本来の目的を知ってるあの2人を疑いたくはない。
 
 情報の出所を聞きたいけれど……。
 
『……はやてさん? どうかした?』

 ……機動六課の隊舎を紹介してくれたアヤさんを疑うのも嫌や。 
 
「いえ、最近の教導官は楽しそうやって思い出しちゃって」

『……そう。何か困ったことは無いかしら? 私で良ければ力になるわ』

「あはは、今の所はなんとか出来てますよ」

 ……ほんま、響達とは違う情報のリーク者を探すのも上手く行かへんねって。
 今日はいろいろあったしなぁ。カリムからのお使いでやって来たシスター。アーチェ・ノヴァクさん。シスターシャッハの後輩に当たるらしくて、カリムも割と可愛がってる子。
 実際いい子やし、特に問題起こすタイプじゃない筈なのに……まさか、奏……というか、多分あの7人と因縁持ちだとは知らなかった。
 
『はやてさんの……六課の状況、隠していたい情報を流しているのはおそらく彼らだと思います。
 何か対策を取れたらいいんですが……証拠を掴めない以上難しいですよね』
 
 悔しそうに眉間に皺を寄せてアヤさんは言う。けど……、
 
「はい。なので一つ対策を取ろうかと、まだ高町教導官とハラオウン執務官には伝えてないですが」

『あら? それは私は聞いても?』 

「秘密裏に行うことですので、流石に話せませんが……上手くいけば証拠を掴めます」

 そう、響達という見せ札で隠れてる人を見つけ出すことが。



 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第18話 不安とデバイスと



 遠くで、膝をつき、天を仰いでる人がいる。

「ぁあああぁぁあぁ!!!」

 またこの夢かと、直ぐに気づく。何度目になるかわからないこの夢を。弱くて何も知らなかった頃の私を。

 豪雨の降り注ぐ森林の中で、むせ返るほどの血と、強い土の匂いがあたりに漂う。
 
 周囲には沢山の人――いいえ、人だったものが倒れてる。

 その中で、私は女性を抱きかかえて泣いている。大きな声で泣いてる私から視線をずらせば、そこには名前はわからないけれど、見知った皆さんが倒れている。

 苦痛に歪んだ顔をしていれば、私のせいで、と納得できるのに。皆の顔を見ると、ただ安堵の表情を浮かべている。

 絶命する直前、間違いなく激痛が、苦痛が襲ったはずなのに、この方々は何故――?

 一年前、皆さんが何度も何度も裏を取って、確認して、調べ上げたスカリエッティの戦闘機人のプラント。皆さんだけの情報では心もとない。ならば今は亡き、「本局特殊部隊第13艦隊」の最後の情報をベースに調査した結果。プラントだとか確証を得た。

 そして、沢山の下準備を施し、作戦決行。プラントがあった土地は、木々に覆われ、皆さん曰く御誂え向きの場所だと笑っていた。

 皆さん――本当は名前を教えてもらいたかった。名前で皆さんを呼びたかった。

 だけど、皆さんは決まって口をそろえてこう言う。

 私たちはもういない人だから、呼んじゃだめだよ――と。

 曰く、裏に生きてるから名前は捨てた、と。曰く、死んでも何も残しちゃいけないんだ、と。

 この時、酷く悲しくなって、泣いた思い出がある。思えばこの頃の私はよく泣いていた気がする。誰かがケガして帰ってきたときも、喧嘩した訳ではないが、言い争ってるのを見た時も、泣いていた。
 そのたびに皆さんがそばにいた。勝手に泣いている私が悪いのに。

 その頃の私は、拾われて(・・・・)まだ、1年目だった。私が評価されたのは、同時に情報を処理できること、それを送ることが出来るということ。それを買われて、隊長からも評価を受けて、皆さんの任務に同行することとなった。

 初めて……というわけではない。後方部隊で、いろいろ支援を行ったりしていた。誰かに教わったわけではないけど、自然と武器を取って戦うことが出来た。剣を銃を使って戦闘出来た。皆さんにどうやって覚えたのと聞かれれたけれど、私もわからない。だけど、体が自然と動く。覚えてると、そう伝えた時には皆さんすごく驚いていた。

 そうして、隊長(・・)が私を連れてきたときに、私が持っていたアームドデバイスを改良。AIをつけて最適化した2つのデバイス。「ギルガメッシュ」「アークジャベリン」の2つを頂いた。マスターと呼んでくれるこの2つ……いえ、この子達を見て、凄く嬉しかった。

 防護服は、真っ白に黒い縁取りがされたオーバーコートに、隊の皆さんが着ていた、黒いインナーだった。白いジャケットに思わず文句を言う。目立ちすぎると。

 けど、皆さんは、私たちとは違う道をいってほしいという願いを込めた、と言ってた。見知った皆さんにそれぞれ文句を伝えると、同じ回答だった。こんな汚れたことをしなくていいように、暖かい場所へ行けるように、と。

 今でも思う。この時の皆さんは気を使っていってくれたと。弱い私はいらないと、言っていたんだと。

 事実、任務同行を申請しても皆さんは受けてくれなかった。自分の力が十全に役に立つとは思っていない。いつもお世話になっている皆さんに対して、何か返せたらいいって、それだけを考えてた。
 それを察してくれたのか、隊長が作戦の同行許可をしてくれた。とても喜んだ事を覚えてる。だからこそ気づかなかった。「力になりたい」が、「皆さんと一緒に任務に参加する」に切り替わっていた事を。

 そして、私を含めた12人でプラントを攻め込む為、夜中に作戦が開始された――。

 はずだった。突然の豪雨に紛れ、何者かの接敵。瞬間的に気づく。情報が漏れていたことに。
 目の前――いや、周囲にいたのは大量の人間に似たもの。それらは揃って青を基調としたスーツを着ているが、皆が皆、同じ顔だった。口が開く様子もなく、感情も感じられない。そして何より、この視界の悪さの中で、文字通り、その眼が赤く光っていた。
 視線を上げれば、雨と木々で見えにくいが、確かにもう一人そこにいる。フード付きのマントを着ているが、腰にあたる部分に剣……いや、大きな鎌を所持していた。

 情報が洩れている以上、一時撤退をすべき。小隊長が判断を下し、皆従う。撤退しつつ後退を開始する。

 周囲を囲んでいたアンノウンを薙ぎ払い、転移ポートを設置した場所を目指す。だが、ある程度進んだ時に、前方からもアンノウンが攻めてくる。ここまで進んでくるまでに、かなり消耗した。アンノウンにもAMFが内蔵されているのか、魔力をうまく廻す事が出来ない。ならば、と一番の先輩格の男性が空へと上がる。
 
 次の瞬間、空から雨以外の生暖かいモノが降ってきた。木々の隙間から見えるフード付きは相変わらず一定の距離でこちらを追っている。なら、空へ上がったあの人は?
 交戦しながら視線を下へずらす。暗くてわかりにくいが、明らかに地面が変色している。大きく下がった際に、自分のコートが目に入る。泥や雨で汚れているとはいえ、つい先ほどまでまだ(・・)、白かった。それが今では、赤い斑点が所々についている。
 突然何か(・・)に躓き、体制を崩す。躓いたモノを見て、理解してしまう。今そこで空へと上がった人の下半身だけがそこにあった。
 緊張が走る、全力で撤退せよ。そう声が聞こえたと同時に、何かが私の目の前を覆った、瞬間、轟音と衝撃に襲われる。
 


 ――――


「……はぁ」

 ため息が漏れる。また、この夢だ。機動六課に来て何度目になるか分からない。

 備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取った。ふと、ベッドに視線をずらすと、寝汗で人の形になっていた。ミネラルウォーターを口に含む。冷たくて美味しい。

 時計を見ると朝の訓練まで、まだ時間はある、だけど、二度寝をするには少ない。汗でぬれた衣服を着替えて、ベッドのシーツを取り換える。不意に涙がこぼれた。
 あの日のことを思い出す、その度に涙が溢れる。大きな失態を犯した私を……、あの日生き残ってしまった自分を許せない。

 弱いのは嫌だ、誰かが傷つくのは嫌だ。そう考えて自分は前に出る事を決めたのに。
 ホテル・アグスタで自分は敗けた。六課の足を引っ張った。挙句の果てにはしばらく医務室で缶詰にされて何もできなかった。身を案じてくれたんだろう。だけど、それはきっと――

「もっと、強く……でも、どうすればいい?」

 緋凰さんの様な……いまだ全力を出していないあの二人のような、機動を自分はできない。ランスターさんの様な、指揮や予測を自分はできない。ナカジマさんのようなタフネスもない。モンディアルさんの様な速度も、ルシエさんのブーストの強さも生かせない。

 今の自分は、体が覚えてる(・・・・・・)事をなぞっているだけの不完全な状態。その結果があの敗北だ。
 研究所にいたという過去を思い出せない。だからこそ、自分は何なのか、いまだにわからない。

 加えてここ最近は変だ。私の知らない情報が溢れてくる。知るはずない場所から湧き上がる。
 緋凰さんとハラオウン隊長の戦いを見た時も、思った。最後のあの激突の時に使用された居合術。私はあの太刀筋を、その流派を知っている。

 ――御神流。私の流派の根っこの名前。

 どこからかそう聞こえた。知らない女性の声で。だけど、酷く懐かしくて。それが何なのかわからないから、怖い。

 ふと視線を窓へとむけると、朝日が差し始めた。そろそろ訓練の時間だ。そう考えて、休止状態のギルを起こす。本当はアークも側に置いておきたいけれど、まだ修復に時間が掛るそうだ。
 さぁ、今日も足を引っ張らないようにしないと――――

 


――side響――

 108部隊……というより、ギンガと共同捜査をする前は何時もの朝練に参加。
 ここ最近の訓練が、徐々にしんどくなってきたらしく、最近ティア達4人が毎回毎回屍みたいになっている。まぁ、なんとなーく予想はつく。特にティアがなんとなくでも……いや、無いな。最近の訓練の量で思考が死んでる。多分そんなこと考えてる余裕はない。二週間……いや、一週間以内に、第二段階クリアのテストが入るだろう。
 だからこそ、それに向けての訓練量アップ……なんだが、大丈夫かこいつら。

 さて、と。視線を少しずらすと、肩で呼吸をしている流の姿。病み上がりで中々ついてきてるけど、やっぱりしんどそう。というか、それ以前に。目元が若干暗い。寝不足かな?
 どーするかなと、考えてると。

「流ー最近眠れてる?」

 震離(KY)が行った。ふと奏と、目がある。

 ――KY古い? 空気読めないの略語だけど、古い? 

 ――うん、それ死語だよ

 ――まじかよ。

 アイコンタクトで会話が成立して、ふらつきそうになる。まじかー、古いかー。最近はなんて言われるんだろうか。

「いえ、自分(・・)は大丈夫です」

 ……おっと、震離が固まる。最近ずっと流の一人称が私になってたのに、ここに来て自分に逆戻り。なんかあったかな?
 その時、なのはさんの声が聞こえる。

「はーい、整列!」

 FW8人がなのはさんの前に集まる。

「さて、今日も皆、いい動きだったって、いいたいんだけど……」

 少し困った顔しながら、とある人物へ視線を向ける。向けられた相手はもちろん。

「……申し訳ありません。気をつけます」

 自分でも思い当たる節があるらしく、名前を言われるよりも先に謝罪する。ここ最近、流も復帰して訓練に参加しているけれど、何処と無く動きが良くない。凄く悪いわけでもない、これと言ったミスもしてないし。だけど、なんか最近少しずつ、ずれているような感じがする。具体的にどこが悪いって指摘できない分、質が悪い。
 しかも流も自覚しているし、震離もそれに気づいてフォローしてるけど、今一な感じ。更に最近4対4をするようになったけど、勝ててはいる。だが、その内容は困ったときの流ワントップ、3人でフォローという自他ともに認める糞手。いや、色々あるんだけど、いかんせん下手に流のスタイルをいじるのもどうかと思うし、その辺はなのはさんと相談済み。

 ここで一度流のスタイルを纏めると、非常に珍しいタイプ。剣を使った接近戦、体術を使った密着戦も出来て、銃を使った射撃砲撃もこなせる。種類は散弾、自動追尾弾、砲撃増強と、凄いラインナップ。
 正直な感想を言うと、本当に理想論を纏めたようなやつ。ベルカ&ミッドハイブリットなんてそうそういないのに、この子は普通にやってのけてる。しかもオーバーコートのバリアジャケットに大体の防御を回しているから、基本的に硬い。ものすごく硬い。
 更にぶっちゃけると、多分コートを剥いだら、早くなる可能性が高い。今でも普通に早いけど、それがもっと早くなるわけで。
 つまり、馬鹿でかい大砲を持って、接近戦も出来て、いざとなれば高速戦も出来る。どこの完璧超人だお前。しかも、ベルカ式の斬撃魔法撃ったと思ったら、即ミッド式の砲撃を撃ったりしてる。このことから並列処理も中々凄い事がわかる。デバイスに任せてる部分があるんだろうけど、それを差し引いても、マルチタスクが自然にできてるということだから、尚の事凄い。
 
 でも、それはカタログスペックでのお話。実際は、それの切り替えがどうも上手くいってない感じだ。

 なのはさんと相談してこんだけ情報が出て、2人して頭を抱えた。調子が悪いのも少し待ってみようかって話で一旦終わった。

「コホン。さて、今日訓練なんですが。さて、緋凰空曹?」

「……えっ、あ、はい」

 思わず声が漏れる、苦笑を浮かべながら皆がこっちを見る。スルーしていいんだよ。
 突然名字を呼ばれてちょっと口ごもる。

「深い意味は無いから安心して。響は後でデバイスルームへ行くこと、それだけだよ」

「はぁ……デバイスルームですか。なんでまた?」

 はて、デバイスルームなんて行く用事なんて無いはずなんだが。

「響用のデバイスが完成したの、それの受け取りだね」

 そう言うや否や、俺と少しへこんでる流以外の皆が歓声を上げる。するとなのはさんが俺の表情に気づいたのか。
 
「ちょ、なんでそんな微妙な顔してるの?」

「え、いやだって。良いデバイスってそれだけ、運用が大変というか。発動が大変なやつの補助というのが大きいじゃないですか。俺自身対して困ってないというか、勝手に判断して盾はられても困るというか」

 実際そうだ。勝手に盾はられたりすると、すぐにガス欠になっちまう。この前の対フェイトさんも。刀一本修復させるのにかなり持って行かれたし、その後バリアジャケット直さなかったのも、余裕が無いからだったし。
 
「フフフ、でもね響。そう言うだろうと思って、いくつか機能を用意しておいたんだよ。その為にはやてちゃんやヴォルケンリッター総出で手伝ってくれたし」

 フラッと立ちくらみに襲われそうになる。なんですかそれ? 視線を横にずらすと嬉しそうに奏と震離がサムズアップしてるし、スバルやエリオ、キャロは目をキラキラさせながらこっち見てる。ティアもなんかニコニコしてるし。とりあえず、疑問をぶつけよう。

「あのー俺だけですか?」

「うん、今回は響だけ、奏と震離も様子を見て作っていうつもり。だから待っててね?」

「「はい」」

 うわぁ……正直俺なんかよりも、先に二人分作っても良かったと思うんだけどなー。ソッチのほうが単純に戦力上がりますよー。とかいい出したかったけど、雰囲気的にもうだめだったから諦める。

「じゃあ、これで午前は解散。皆しっかりと休むように!」

 そうして、解散となって、皆で隊舎まで戻る間に凄くいじられた。特にティアからはこれで逃げ隠れしなくて、ガチンコできるわけだからいいじゃないと煽る煽る。少し前にティアと話をした。特になんて事無い他愛もない話。ふと言われたのが、ちびっこ達もそう呼んでるから同じでいいと言われて、それからはティアって呼ぶようになった。それからは割とオープン。色々相談も受けるようになったし、接近戦での見切りとかも教えるようになった。良い流れ何だということは分かる。だけど、事あるごとに煽るのは良くないと思うんだ。

 そうこうしている内にデバイスルームへ。で、だよ。

「なんでお前ら居るんだよ」

 後ろを振り向くと、流と震離以外の全員がそこにいる。なのはさんは分かるよ。色々仕様聞いてるんだろうし。だけど、お前ら5人だよ。なんでいんだよ。
 
「えー私も見たーい」

「お兄ちゃんのデバイス見てみたいです!」

「エリオ君と同じく」

「どんなふうになるか気になって。で、文句ある?」

 上からスバル、エリオ、キャロ、ティアの順。なんだよ、ちくしょう。とりあえず扉を開けて皆で中に入る。

「あ、待ってたよー響ー」

 凄く上機嫌なシャーリーさんがそこにいる。ニコニコ笑顔を浮かべながら手招きまでしてる。
 ここまで来たら、素直に受け取るか。

「で、俺のデバイスはなんでしょ?」

 周囲を見渡すけど、それらしきものが見当たらない。

「ああ、そこにあるでしょ、待機状態になってるから」

 シャーリーさんがメンテナンスポッドの中に浮かぶ待機状態のデバイスを指さす。視線の先には、小さな鈴が浮かんでいた。

「……ふーん」

 正面に立ってこれを眺める。なんかよくばあちゃんとかが財布につける鈴みたいで、ちょっと可愛い。銀色でこれと言った装飾もない。いいね、好感が持てる。

[よろしくお願いします。我が主、響]

 瞬間固まる。おいおいまじかよ。シャーリーさんに視線を向けると、ニヤリと笑って。

「響のもインテリジェンスデバイスだよ。ティアナ達もインテリジェンスデバイスなのに、簡易デバイスなわけ無いじゃない」

 おいおいまじかよ。ため息が自然と漏れる。いやだって、俺の魔力量じゃこの子を十全……8割も使いこなせそうにないんだけどなー。

[主。私では不服でしょうか?]

「ん、いや全然。むしろ俺ががっかりさせないか心配だ。名前は?」

 鈴を手に取りながら名前を聞く。コミュニケーションは大事だ。

[いいえ、まだありません]

 思わずシャーリーさんを見る。多分めっちゃ怪訝な顔してたと思う。そして、視線をそらされる。代わりににゃははと笑うなのはさんが。

「それはね。響が名前をつけさせようって皆で話し合ったの」

「なるほど……展開しても?」

「うん、いいよ」

 許可も出たことだし、鈴を手に持って……何ていうかな。展開、じゃ、味気ないし。そうだ。

「今から言う言葉をセットアップとする。いいか?」

[はい]

「ありがとう。なら、結べ」

[了]

 瞬間、六課の制服から赤い和服が目に入る。黒いインナーに、カーゴパンツの上に赤い和服。腰には帯、そして刀が一本出現した。やはり、か。鈴が一つの時点でなんとなく察してた。そして、刀を抜く。白塗りの鞘に、桜の花びらを散らしたきれいな鞘。合口拵えの刀。刀身には波紋がある。
 少しそれを眺めた後、鞘に収める。スッと顔の前に持ってきて、少し刀を抜き、もう一度刀身を見る。

 決めた。

「名は花霞(はながすみ)

[はい。花霞(はながすみ)……ですか?]

「ああ。意味はゆっくり教える。これからよろしくな花霞?」

[全身全霊を持って、あなたに御使えいたします。どうかこの身が朽ち果てるその時までお使いくださいますよう。よろしくお願いします]

 
――sideなのは――

 無事に名前をつけ終えて、私とシャーリーからの説明を受けてる。インテリジェンスデバイスの説明をした後、本命の刀身の説明。

 この刀には色々と機能を組み込んでいる。刀身はミッドに存在するシグナムさんの知り合いの居合道場の協力を得て出された刀がこれ。
 シグナムさんが言うには、鍛冶屋の人曰く、天瞳流の子以外に久しく良い子を見たと喜ばれたらしい。ただ、もう一本はすぐには出せない上に、今から作るから時間が掛るそうで。
 仕方ない、という事じゃないけど。それならば後に追加出来るようスロットを空けておこうということで話は纏めていた。そして、問題の刀身の機能ははやてちゃん達が監修して作った。
 魔力収束機能。私が使う収束系魔法(ブレイカー)とはちょっと違う。私の場合、攻撃を行うために魔力を集めるけれど、この子の場合は、魔力を還元、又は利用するために常時行われる。
 響自身魔力量が少ない、だからこそ出来る幅が少ない。ならば違う場所から魔力を持ってこようと考えた結果がこれ。

 この機能について説明した時、素直に驚いてた。けど、同時にまだ問題がある。この子は、花霞は、まだ生まれたばかりの子。完全に響とはまだ同期されていない事。使い込めば使い込むほど、効率よく魔力が還元されることを伝えた。

 次に、前のデバイスとはそもそも違う点として、バリアジャケットと刀身は完全に別物。つまり、以前使った刀をリアクターパージすることは出来ないと、改めて伝えた。一応内部には暗器も仕込んであるけど、それらも別の物ということ。
 
「以上。わからない事があったら聞いてね」

 一通りの説明を終えたので、そう聞いてみると、響の表情は何やら曇ってる感じ。後ろに居るスバルたちは機能を言うたびにはしゃいでたけれど、本人はそうじゃないみたいだね。

「みんなにも言ったんですけど、この子は生まれたばかりです。大事に、でも限界まで育ててあげてね?」

 シャーリーがニコニコしながら伝える。そう、色々あったけれど、響に渡したデバイスはまだ生まれたばかりの赤ん坊と一緒。だから、これから響と一緒に成長していくものなんだ。そういう意味を込めて伝えた……はずなんだけど、更に表情が曇った。後ろに居た奏がそれに気づいたのか苦笑を浮かべてる。

「……そしたら、今回は起動はないな」

「え!?」

 奏以外の、全員が驚きの声を上げた。

[私では不服……という事でしょうか?]

「違う。そうじゃない。機能がただの刀なら運用していた、だけど特殊機能が入っていて且つ、まだ同期されていないのなら、まだ使用するには早いって事だ」

[……私ならば、貴方に合わせることが可能です。その為にデータを頂きました]

 掌に置いた花霞が食い下がる。うん、早速感情が出てきて喜ぶ所なんだけど……。

「確かにデータも大事だ。でもな花霞? 俺はまだ出してない手だっていっぱいある」

 ふにゃっと、力が抜けそうになる。いっぱいあるって……。いいきっちゃった。

[……ですが]

「信用してないわけじゃない。近くで見ないとわからないこともあるって話。そもそも今日の予定は、俺はこれから調査任務だし、そもそも出番は無いよ。大丈夫。やばいと思ったら頼るさ」
  
 多分、これが訓練だったらすぐに使ってたと思う。だけど、調査とは言え、使い慣れてないものを持ち込むのはどうかと考えてる。何より響のスタイルを見ていると、余計にそう思う。
 きっと、自動防御とかされたりすると困るんだと思う。私達には普通だけど、響にとっては戦闘が継続出来るかどうかの問題になる。
 ふいに響がこっちを見た。何だろ?

「この待機状態はどうしたらいいでしょ?」

 ん? どうしたらって……、あぁ、なるほど。そう考えてると、すすすっと奏が響の側に行き……。

「こうしたらいいんだよ。少し借りるね」

 鈴を手に取り、赤い小さな巾着袋に入れる。そして、それを響の手に返した。

「本当は髪縛りの紐の装飾にしたら映えると思うけど、それはいやでしょ?」

「それは流石に。恥ずかしいし」

 確かに、響の髪って長いし、キレイなんだよね。ワンポイントでそれが入るだけでもいいかもしれない。
 っと、時間を確認して、さて。

「皆、長話もいいけど、御飯食べないと今日も大変だよ?」

 はい! と、今日も元気よく返事が聞こえる。気が付かなかったけれど、この場に流と震離が居ない。てっきり一緒についてきたかと思ったけど……。うーん、これは近いうちに本格的に話を聞いてみないといけないなー。


――side響――

 結論から言うと、もう一つの調査場所も外れ……だけど、わりかし有力な証言が得られた。
 最近若い女性が出入りしてる廃棄区画があると、そこに住む人達から話を聞くことが出来た。
 
 ローブを纏っているが明らかに若い女性の声に、大きすぎる荷物だったり、そんな所に入るには怪しい大きな車両。
 お礼として、色々食料を渡して、他に何か分かったらここに連絡をと、捨てアドレスの連絡先を教えて、これ以上の収穫は無いと判断してギンガと一緒に108へ戻る用意をしていると。
 
「あの……なんで、あんな人達に話を聞いたんですか?」

 おや?
 
「あー……ホームレスの人達にって事?」

「う、うん……私が単独の時、あまり話どころかすごく睨まれたのに」

「そりゃそうだよ。俺だって睨まれてたし。だから交渉して、食料という報酬渡すからどうですかって聞いたんだよ」

 実際、すげー目で睨まれたし、まぁ分からなくないけれど。
 
「や、そう……じゃなくて」

「……? あーそういう事か。あの人達も人で、守る対象で。だから普通に接したんだよ。当然だろ?」

「……」

 ギンガが言わんとしてることは分からなくはない。あんまり関わりたくないだろうしなー。だけど、
 
「そういう区別してたら、いざって時に困るのは自分達だしねー」 
 
 基本的に守るものを区別したら……いや、そもそもだ、
 
「守るものを選ぶなんて……どんだけ、俺達は偉いんだよって話にもなるし」

 
 
――sideギンガ――
 
「守るものを選ぶなんて……どんだけ、俺達は偉いんだよって話にもなるし」

 正直、ああいう人達って、割と苦手な部分な人達だ。捜査に協力してくださいと伝えても、適当な情報を渡して、信じてそこに行ったと知ればせせら笑う。
 そんな人達ばっかりだった。
 
 今回の件だって、何処まで本当なのか分からないし、あまり信憑性もない。
 
 きっと響も半分嘘が混じってるだろうと気づいてると思う。
 
 でも、そういった彼の瞳は、ひどく悲しく見えた。

「それに、こういう捜査ってやっぱり足で回って探さないと行けないし、真偽は別として連絡があったのなら行かなきゃね。
 ま、情報提供のお礼をしても変わらなかったから、ある程度は本気だと思うよ」
 
 さっきと変わって落ち着いた目をしてケラケラと笑ってる。
 それこそ見間違いだと思うほどに。
 
「まぁ、今日は終業時間な訳だし、これは次だな。なんかご飯食べに行こうぜ」

「う、うん」

 手を頭の後ろで組んで先に進む響を追おうとしたと同時に。
 
[You've Got Mail.]

 ブリッツにメールが届いて足が止まる。待ってもらおうと視線を響に向ければ、待ってるから大丈夫と言わんばかりにこちらを向いて止まってる。
 すぐに済ませようと内容を確認して。

 ちょっと笑ってしまう。そのまま響の方を見れば、丁度あくびをしようとしていて、
 
「響。明日からよろしくね?」

「んぁ?」 

「明日の出張任務から、私も六課に出向だから」

「……マジで?」

 久しぶりにスバルとティアナに会える事と、この人がどういう風に動くのか生で見られるのがちょっと楽しみになった。
 
 さぁ、明日から頑張ろー!
 
 ……その前にカルタスさんに今日の報告と、情報を提供しないと……。
 
 
 ――――
 
「そう言えば、六課でスバルってどう? 大丈夫?」

「ん? それはどっちの意味? 仕事? 魔導師? どっち?」

 ズーッとおうどんを食べながらお互いに会話を、ちょっとはしたないかなと思う半面、閉店間際のようでお客さんも少なくて助かる。

「……仕事の方。ティアナに迷惑掛けてないかなーって」

 あの子、主席で卒業した割に事務処理は苦手だから。
 
「んー……ぶっちゃけるとあんま良くない。今事務処理が上手く回ってる理由に気づいてないし」 

「……そう。でもティアナの事だから。ある程度は自分でやりなさいってするかと思ったのに……、あ、うどんのおかわり下さーい」

「……相変わらずすげーな。や、ティアはある程度突き放してるよ。ヴィータさんの方針も有るし、それ以外の要因で上手く行ってて、ティアはそれに気づいてるよ。
 だから、割と話すようになってきてるし。
 あ、すいません、天ぷらの盛り合わせって……あ、もう無い? あ、はーい」
 
 ズーッとうどんを食べながらそんな話をする。その要因って……もしかして。
 
「ホテル・アグスタで大怪我した流くん? さん? だっけ?」

「くんだな。そ、アイツが時間有る時に代理で処理しても問題ない奴全部片付けてくれてたんだよ。
 スバルから、ティアがちょっとミスった件って聞いた?」
 
 響の言うミスというのはきっとあの件だ。スバルから連絡を受けた時驚いたのもあるけれど、そこまで思い悩んでいた事に何も手助け出来なかったのが歯がゆかった。 

「……うん。だからすごく驚いたけど。それにも関係あるの?」

「直接的にはない。だけど、動きやすいように医務室ベットで仕事片付けてたってさ。スターズの事務処理は流が居たから上手く回って、スバルの所に仕事が溜まってないからなぁ」

「そう……なんだ。あれ? ということは待って。スバルはそれに気づいてない……?」

 その可能性に気づいた時、スーッと背筋が冷える。
 中々負担を強いているのに、まだ何も返してないということ、そして、そういうことって不満が溜まりやすく、積もり積もって……不味い。
 
「気づいてないけど、流も前線メンバーに穴空けたって気にしてるから、プラマイゼロだよ。それより問題なのは、割と明るい子だと思ってたスバルが流に苦手意識持ってる気がするって事だよ。
 ……ごちそうさまでした」 

「そう、なんだ……あの子、内気な所もあるから。
 あれ? もう食べないの?」
 
「……君ら基準で物言うな。天ぷらうどんと、肉うどんでお腹いっぱいです」 
 
 それにしても響の紹介した、このおうどん屋さんってすごく美味しい。
 今度お父さんや、スバルも連れてこよう。
 
「そうだ。さっきの連絡に書いてあったんだけど、明日の任務ってシスターさんも同行するみたいね。
 私も今日はそんなだし、ごちそうさまでした」

「……エ? マジで? ……名前って分かる?」

「確か……シスターアーチェさん。あ、アヤさんって方の推薦みたい」

「……へぇ」

 一瞬空気が変わる。なんだろうって、視線を響に向ければ……。
 
「さて、なら明日も早いし帰るかね」

 そう言って注文票を手にスタスタと歩いてく。値段の確認が……。

「え、や、待って自分の分は自分で」

「いいよ。誘っておいて払わせるのはどうかと思うし。すいませんお勘定……また来ちゃ駄目ですかね? あ、事前連絡……はい、わかりましたー。あ、カードで……ごちそうさまでした。
 よっしゃ、ギンガ行くぞー」

「あ、うん。ごちそうさまでした」

 響に続いてお礼を告げてから、店外へ出て。
 
「じゃ、また明日な」

「う、うん。明日、よろしくね」

「こちらこそ。じゃおやすみ」

 そのまま歩いていくのを見送りながら、あの空気の変わり方で、何かあったのは確かなんだけど。
 駄目だ、シスターアーチェさんの名前を出した頃からだから、よく分からない……。
 
 シスターアーチェの事はわからないけれど、アヤさんって確か、はやてさんに隊舎を紹介したり色々手伝いをしてくれた人だった筈。
 私は直接会ったことは無いけど、確かお父さんが何度か会った筈だし、ちょっと聞いてみようかな。
 
 明日はちょっと楽しみ。管理局に勤めて知り合いの多い任務に関われるんだもの、すごく楽しみだ。
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第19話 調査任務と、宣戦布告と。


 今日も同じ夢を見た。連日連夜だ。忘れられない事とはいえ、こうも続くと辛い。
 加えて……。
 
 私が拾われた日の事も思い出すようになってきた。 
 寒い雪の日の……あの日の事を。
 
「……は」

 笑えやしない。今日行くのはそれとは真逆の世界だと言うのに、そんな事を思い出してしまう自分が情けない。
 ただでさえ、最近は足を引っ張るばかりで何も出来ていない。
 それどころか出撃して堕ちて禄に貢献も出来ていない。隊長に言われた事一つ守れていないというのに。
 一体何をしているのか、自分は。
 
 こんなにも情けないのに、涙一つ出やしない……。
 
 ……フィニーノさんに無理を言って、まだ修復の終わっていないアークを引き取って持っていくことが出来る。
 銃としての機能は無くとも、カートリッジが使えなくとも……居るだけで心強い、何より使える魔法の幅は広がる。
 
 価値を……自分はここに居ても良いんだと、証明しないと。 


――side響――

 朝食を食べ終えて、皆より少しだけ準備が早く済んで一足はやく集合場所で待機。
 
 本当はもう少しゆっくりしたかったんだけど……。
 
[主、私と同調しなくて良いのですか? まだ起動したことありませんよね?]

「訓練でなら動かすけど、それ以外は基本的に待機なー」

[……畏まりました]

 こんな感じで、持ち主以上にデバイス……花霞のテンションが高くて、早くに起こされた。
 固有デバイスなんて持ったこと無いし、そもそも高性能なAI積んでるやつなんて初めて見るわけじゃないけど、こんなに騒がしいものなのかね?
 
 ……まぁ、ゆっくり付き合っていくとして、と。
 
「で、さっきから何してるんですかー、ヴァイス陸曹?」

「ぐ、何時から気づいてやがった?」

「最初っから、なんでそんな所で待ってるんだろうって思ってましたけど?」

 ガサガサと茂みの中から出てくるのは、ヘリパイロットのヴァイス・グランセニックさん。何度か他愛もない会話をしたこと有るけど、こうしてお互い1人ってこと無かったんだよなぁ。
 
 それ以上に最近なんか避けられて……や、俺がそもそも居なかったりとかで会えて無かったし。
 
「タバコ、良いか?」

「そんなん女子いる時に聞くことでしょうに。どうぞ、俺は気にしないんで」  

「すまねぇな」

 ライターに火が灯る音がして、タバコを吸う音と静寂が包む。
 まだ女性陣は時間かかるだろうし、エリオもあっちを待ってるからまだ来ないだろし。
 
「なぁ、緋凰?」

「なんすか陸曹?」

「……すまなかった。なのはさんにチクったというか、そうなるようにしたの俺なんだよ」 

 ……おっと? ということは……。
 
「ま、まさか割と自由そうな陸曹が、上官にチクるタイプだったなんて……マジかぁ」

「ち、違うわ! あれは、あんときはなぁ!」

「知ってます、冗談です。あん時近くにティアが居たからでしょう? 逆の立場なら、俺もそうしたかも知れませんし。
 あの時あそこでドンパチした俺たちをそのうち止めに来るなのはさん達が来る前に、そうするように仕向けて、ティアを一端止めたんですよね?」 

「……気づいてたのか?」

「状況的にそうだろうと思ってました。ただ、誰が主導したのか分からなかったんですが、陸曹なら納得です。あの時は俺も周りを見えてませんでしたからねー」

 鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとする陸曹を他所に、軽く背伸びを一つして。
 
「別に良いと思いますよ。俺は何処まで行っても灰色なんで……しかも黒寄りの」

「んなこたーないと思うがなぁ。あの姐さんが普通に信頼置くなんてすげーことだぜ?」

「語彙力死んでますよー」

「ほっとけ。そういう奴は六課のファンクラブに入れてやんねーぞー」

「そんなんあんのこの部隊!? 働けよ!?」

「馬鹿野郎! お前これを見てみろ!」

 そう言って懐から取り出すは……可愛らしい女の子、じゃなくて。いつか地球であった事故の……。
 
「流の写真じゃねーか。なんで流通してるんスか!?」 

「何だお前、可愛いは正義だという言葉を知らねぇのか?」

「知りたくなかったそんな正義」

「ま、気が向いたら言えよ。入れてやる」

「頼まれたって入らねぇ……何だ、話せる人だったんですね」

「……お互いにな」

 くつくつとお互いに一頻り笑って、
 
「今日は俺もパイロットで行くから宜しくな」

「こちらこそ。今日は大人数ですしねー、大変そうだ」

「そういやよ。昨日教会のシスターに殴られて、その人が今日付いてくるんだろ? 大丈夫なのか?」

 あー……そっか、そういやそうだったなー。
 
「ま、その辺りはぼちぼちと。向こうも仕事って分かってるでしょうし。
 ただ、後ろにはおけないので、コックピット側に俺と一緒に置くかなーと。後ろにおいて全体の士気下げるのもどうかと思いますし」 
 
「うへぇ、そりゃこっちの空気が悪くなるなー。下手な会話も出来ねぇな」

「まぁ、その辺りはこちらのせいですし、申し訳ないなーと」

 色々事情があるんですよねー、と繋げようとしたけど。
 
「ま、いろんな事情在りきの奴が多い部隊だからなー。頑張るしかねぇか」

「そっすねぇ」

「じゃ、ちょっくら機材の確認してくるわ、またな」

「了解です」

 あまり深く踏み込まないのはこちらとしても有り難いな。
 
 それにしても、今日のメンツやべーな。外から研修がてらのギンガの参戦に、教会の使者の参戦。超ヤベェ。
 
 なんて考えてたら。
 
「響」

「ん? あぁおはよう震離」

 ……なんか少し見ないうちに、震離も疲れたような表情をしてるなぁ。
 自分のことでこうなるタイプじゃないし、多分。
 
「ごめん。今日、さ。出来るなら流と一緒に動きたくて時間取れたら2人で話したいんだけど……駄目かな?」

「……あー、まぁ、それは状況次第だな。深くは聞かないけど、なんとかなりそうなの?」

 突然の無茶なお願いに悩むけれど。珍しいこの子がこういうってことは、本当に不味いことになってるのか、はたまた……いや。
 
「わかんない。でも、最近何かずっとから回ってると言うか、なんだろう……ティアナのときとは違う意味で焦ってるように見えて、その……」

 ……そういや、最近寝れてないのか目元が若干黒かったしな。訓練もあまり見れてないし、結構まずいか?
 
「わかった。なるべくそうなるようにさ、してみるけど……相談してくれよ?」

「……うん。ある程度落ち着いたらね」

「……あぁ」

 申し訳なさそうに笑う震離の頭を撫でて、そのまま反転させて背中をぽんと叩いて。
 
「ほら、どうせ流んとこに行くんだろ? 行ってこいよ」

「うん、行ってくるよ。ちょっとでも話してくる」

 そのまま見送って、あくびを一つ。もう初夏だということもあって日は高い。  
   
 ――――  

 あれから皆が集まって、転移ポートを使い移動。そして、現在無人世界をヘリで移動中。今見える面子が両隊長とFWの皆だが、副隊長達は聖王教会からの依頼を受けて違う任務へ。今回ははやてさんもロングアーチとして六課待機。
 パイロット席側に、操縦者のヴァイスさんに、後ろに席が無く、気まずいから前に来た俺と、教会からやって来たアーチェの三人がいるんだけど……空気は最悪。
 対して、後ろの席はギンガの自己紹介等などで、大盛り上がり。まぁだよねぇと。ちゃんとお姉ちゃんをしてる人が来て、ちゃんと世話もサポートも出来る人だし。
 そもそもスバルや、ティアには頼れる先輩でお姉ちゃん。エリオとキャロも、スバルから常々聞いてたらしく、初対面で大分仲良しに。
 驚いたのが、普通に奏と震離も同い年ということもあって普通に仲良く話をしてて……何がいいたいかと言うと、後ろの席超楽しそうということ。
 いやまぁ、事情あっての今だから仕方ないんだけどね。
 ある程度進んだ後、各員の前にモニターが展開される。

 今回の調査する管理外世界、古代ベルカ時代に関係があったらしいと近年明らかになったけど、未だ世界名称も明らかになっていない。遺跡も所々あるらしいが、砂と岩で出来た世界故、生物もほとんど存在しない、死の世界。
 そんな世界の遺跡で、レリックに似た反応が出たとのこと。だが、微弱な反応だが、それが複数あるように出たらしい。今回はそれの調査、保護が目的となる。

 映像を見る限りだと、反応があったのは崖を利用して作られたであろう石窟寺院。ざっと見ただけでも凄く古いというのが分かる。
 はやてさん曰く、最近の研究でここは聖王の騎士団が使ってたかもしれない建物かもしれないとのこと。一応、聖王教会からあまり手荒な事はしないようにと、釘を差されてると追加で言われる。ただし、アーチェいわくアンノウンがいる場合が有るし壊れても仕方ないと言ってはいる。
 そして、今回の編成が、いつもの編成に、ティア達の方になのはさんとアーチェ。俺たちの方にフェイトさんとギンガがつくことになった。なお、作戦中航空戦力が現れた場合は、この2人が迎撃に当たることになる。
 一応小隊を組んでいるけど、反応がある地点までは皆で移動。古い遺跡とは言え、何があるかわからない。

 言い訳になるけど、管理局の管理外世界の殆どがこういう無人世界だったりする。人がいる世界なら船を派遣したりして様子を見たりするけど、世界に人が居ないと確認された大体定期調査だけで、滅多に見ない。だから、あまり遺跡の解析も進まない。人手がいれば調べられるんだろうけど、この世界がベルカと関係があるってわかったのも無限書庫からの情報でわかったことらしいしね。

「なのはさん、もう間もなく着きますぜ」

 ヘリを操縦してるヴァイスさんからの連絡、それを聞いて皆の顔が一段と引き締ま……ってたらいいなぁと。

――――
 

 さて、今まさに、石窟寺院の前に居ます! いや、ホント、目の前が崖っつーか、石窟寺院で、振り向きゃ地平線の先まで砂漠が広がってますよ。
 向こうでティアがブチ切れてる。はしゃいでるスバルに注意してるから、エリオとキャロが若干フラフラしてる……のを、ギンガがフォローしてる。
 まぁ、こんな糞暑い中でその格好は熱いわな。俺は今までの方のジャケットを着ている。で、一番あつそうな流は、不安そうな顔してるけど、なんとか立て直したみたいだな。さて。

「で、偵察で先行します?」

「一応ね、既にサーチャーを飛ばしてあるから暫くは大丈夫。さて、行こうか!」

 さすがの手際の良さです。なのはさん……いつの間にサーチャーなんて飛ばしてたんだろうか?

 なのはさんの案内にそって、遺跡の中へと入る。情報があった通り、ここには古代ベルカの剣十字のような模様の装飾が多々ある。そのまま奥へと進むと、広い講堂のような場所へ行き止まる。

 ふむ、移動してきて思ったのは、こんだけデカイ遺跡の割に、階段も何も無かった。ということは外に隠し道があるのか、もしくはここになにかあるか、あるいはここに来る途中の廊下に何かあったか。
 だめだ、こういうのはわからんね。

 しかし、この遺跡……

「凄く涼しいね、エリオ君」

「……うん、外と全然違う」

 純粋に驚いてる2人が微笑ましい。ふと、視線をギンガに向ければ同じ様に思ってるらしく微笑んでる。

「きっと、砂漠の風を取り込んで循環させる工夫がされてると思う。2人はやっぱりこういう遺跡は初めて?」

「はい! 管理局のデータで見たっきりです」

「私も昔聞いたことはあったんですが、こうしてみるのは初めてです!」

 ……めっちゃギンガお姉さんって言うより、先生っぽいんだけど。

 目の前でそんな微笑ましい会話が始まってちょっとほっこり。見渡すと、俺らが講堂の奥の方、その近くに震離と流、その少し奥にフェイトさんと奏。講堂入口にはスバルとティアが、廊下の方をなのはさんが、壁の剣十字の装飾の所をアーチェが眺めて、それぞれ調査を始めてる。

 さて、俺も探し始めるか……そう思った、瞬間。


 

 どこからか、ブレーカーを落としたような音が聞こえる。

 同時に、体に張り巡らせていた魔力が上手く扱えなくなる。なんとか身体強化を継続。目の前に居る2人を抱えて。

「ギンガ! 頼んだ!」

「うん!」

 力の限り、2人を投げ渡す。エリオとキャロは突然のことに反応できなかったのか、ただ驚いた表情で俺を見る。そして、前を見据え、後4人、そう考えた、が――。

 足元から轟音と共に崩れる落ちる。

「――――! ―――!」

 落ちながらも、どこからか声が聞こえるけど、何を言っているか聞こえない、いつの間にか声が聞こえなくなる。落下しながら周囲を見渡すけれど、誰かいる様子はない。
 あの一瞬で見えたのは、フェイトさんが奏を捕まえて、震離が流を捕まえているのを確認した……ということは、だ。

「あれ、俺ぼっち?」

『私が居ます』

 間髪入れずに通信で反応入れてくれる。ありがとう花霞。寂しすぎて死にたくなるところだったよ。さて。

「AMFは?」

『既に圏外に。ですが、この状況どうするおつもりで?』

「それな、周囲のスキャンを。同時に空洞があるならそこを教えてくれ」

『畏まりました』

 落ちながら振り返る。視線の先には瓦礫の雪崩の様に迫る。既にAMFの圏外とういう事を聞いて、いつでも飛べる用意をしておく。それまでは自由落下を維持する。

『主、この真下、底の正面部分に出口があります』

「お、サンキュ。ありがと」

 もう一度振り向いて、落下する先を注意して見る。底が見える。同時に花霞の言う出口も見えた。
 確認と同時に、視線を後ろへ向けると、もうそこまで瓦礫が来ている。適当に足場になる瓦礫のある所へ移動し、そして。

 全力で踏み込む。弾かれるように底へと落ちる。着地の勢いのまま体をバネのように縮ませ、もう一度踏み込む。着地の衝撃が体を抜ける。死ぬほど痛いが、それをこらえて出口をくぐり抜けた。

 一瞬遅れて瓦礫が落ちる音が聞こえる。それを確認し、止まろう。そう思った瞬間、衝撃に襲われた――――

 
――sideなのは――

「皆撤退! 急いで!」

 ティアナを抱えながら、出口を目指して飛ぶ。その少し後を、キャロを背負ったスバルと、ストラーダを使って並走するエリオが居る。
 
 あの一瞬、ギンガがエリオとキャロを抱えていたけど、間に合わないと悟って2人をスバルの元へ。そのまま崩落に巻き込まれたけれど……シスターアーチェがそれを追うように落ちていった。
 あの7人が落ちて、瓦礫で蓋をされた後、直ぐに高濃度のAMFが切れる同時に、左右の壁際に灰色のベルカ式(・・・・)の魔法陣が展開。そこからガジェットドローンが現れた。相変わらずAMFがついているけど、あの一瞬に比べたら遥かにマシだ。
 中で交戦しても良かった。だけど、また高濃度のAMFに当てられてしまっては戦えなくなってしまう。何より、あそこで戦闘行為を行なって、下に居る皆の被害を大きくするわけにはいかなかった。

「ティアナ、ヴァイス君に現状報告」

「了解です」

「キャロは下に落ちた皆とつながるか試して」 

「はい!」

「スバルとエリオ、全力で離脱。その後反撃に出るよ!」

「「了解!」」

 ちらりと後ろを見ると、ざっと三十機居る。本音を言うと、あの場に残って、殲滅したかった。あの一瞬を動けなくて、7人が落ちるのを見ているだけで、何も出来なくて悔しくなる。
 少し後ろを走るスバルを見ると、悔しそうにしている。皆そうだ。エリオとキャロは特に悔しそうにしてる。目の前で助けてくれた人達が、穴に落ちたのを見てるだけだったから。

 だけど、今は。

「皆、戦闘体制用意! 外に出たらガジェットの迎撃。その後、皆を助けに行くよ!」

「はい!」

 出口が見える。さぁ、反撃開始と行こうか!
  
 
――――
 


「アクセルシューター!」

 20発のシューターを縦横無尽に操作、周囲に居るガジェットの撃墜。1機につき2発づつ貫く。これで10機。合計20機目になる。

「内部からの増援は以上です!」

 後ろに居るキャロからの報告を受けて、少し焦り始める。この時点で既に15分経過している。万が一中の皆が生き埋めになっていたら、すぐに救助を行わないといけない。だけど、ヴァイス君にもつながらないのは妙なんだけど、ここで戦闘を行なった以上、何かしら気づいてくれるかもしれない。

「皆、もう一度突入。救助に入るよ!」

「はい!」

 離脱する時の様に、ティアナを抱える。スバルがキャロとフリードを連れてもう一度突入。ガジェットが現れてもいいように、周囲にスフィアを展開、追従させておく。

「……フェイトさんとお兄ちゃん達。大丈夫かな?」

 ふいにキャロが呟く。同時にエリオの表情も沈む。あの時響が動いたからこの2人は助けられた。同時に落ちていく姿も間近で見てしまった。

「まだ返事がないけど。きっと大丈夫よ」

 2人を励ますようにティアナが声を掛ける。確かに皆心配だけど、きっと何かしらの方法で無事だと思う。あの一瞬で強いAMFに当てられたけれど、数秒もしない内にその効果は無くなった。だからきっと、落ちた5人もそれぞれ防御手段をとっているだろうし。

「それに響だったら、そこからひょっこり出てきそうだし。ギン姉もきっと大丈夫。フェイトさんはもっと大丈夫だし、心配するのは4人だよ」

 なにげに酷いこと言うねスバル……。だけど、その一言が効いたのか、エリオとキャロの顔が少し和らいだ。だけど、スバルの言うとおり、響だったら、そこから現れそうなんだよね……。最近は無いけど、最初の頃フェイトちゃんに一方的に襲われても、普通に仕事してたし、最近の模擬戦のせいで余計にそう思える。

 さて、そろそろ……。そう考えて皆の顔をもう一度見る。講堂の入口が見え始めて、皆の顔に緊張が走る。ここまでガジェットと遭遇はしていない、だけど、講堂に待ち構えていないという保証は無い。いつでもスフィアを撃てるように用意。そして――




『お、帰ってきた。おかえり』

「ッ!」

 フードを深く被った、知らない人がそこに居た。反射的にスフィアを放つけど、寸の所で止まる。この人、いつの間に……? エコーがかかった声で性別はわからない。浮いてるように見えるから、正確な身長もわからない。

『いい反応。表の戦闘見てたけど、いいね。いやー、ホントすまんな。せっかく人が来たのに、饗さないで。寝坊してしまった』

 眼前にあるスフィアに驚くこと無く、自分の事を話す……。殺意が無いことを見抜かれたのか、もしくは眼中に無いのか……。スフィアを相手の周りに散布する。ティアナ達も一定の距離を起きつつ取り囲む。

「……私達は管理局員です。あなたのお名前と、なぜここに居るんですか? 説明をして下さい」

『……へぇ、管理局員。こんな所にまでご苦労な事で。で、何しにここに来た?』

「質問しているのはコチラ側です。答えなさい」

 レイジングハートを向ける。だけど、飄々と肩を竦めて、聞こえるようにため息を吐く。

『……かなり下に7人落ちた。1人は脱出の際に自爆して気を失ってる。2人は瓦礫の僅かな隙間に居る。もう2人は現在移動中で、2人は……なんかでかい鉄球出してそれで瓦礫を抑えて隙間作ったのかすごいね』

 空中でハンモックに横になるような姿勢で、何事もないように言う。

「……なぜ分かるんですか?」

『そりゃ、まぁ、ここに長いこと居るんだ。何処に何があるか。そんなことはすぐ分かる。今すぐ……とは言わないが、7人をここに転移させることも可能だ』

 何事も内容に話をすすめる。転移が可能って……ここに来るまでそんな装置や、そもそも魔力を感じられなかった……。ならばどうやって。

『転移はサービスだ。最近の困りごとを解決してもらったしな。だが、助けるかどうかはこれからの交渉次第……といいたいが、君ら相手に強引な手段を取りたくない。だから話を聞いてほしい。俺からはそれだけだ。どうだ?』

 つまり、今この人はあの五人をどうにか出来る術がある。ここは従っておくのがベストか……。

 私の表情に気づいたのか、ムクリと起き上がり、私の方を見ながら

『言い方が悪かった。信じてくれるかはわからんが、俺の目的は約束の時(・・・・)が来るまでここに居ること。同時にここにあるとあるモノを無闇矢鱈に持ち出させないこと。そして、叶うことなら……ここにあまり人をよこさないでくれ、それだけだ』

「……それを信じろ、と? アナタの名前がわからない。そっとしておいてくれでは、話が通らないと思うんですが?」

 そう言うと今度は腕を組み、空中で胡座をかくように浮かぶ。

『だよ、なー……、あー。うん。しまったな、そのうち来るって、この前メイドさんに言われたのに、それがまさか今日来る(・・・・)とは考えてなかった。うーん。俺が言うことじゃないだろうし、どうするかな』

 うんうん、と悩み始める。すると……

(なのはさん……この方、ホログラムです)

 ティアナより念話を聞いて、やっぱり、と思う。スフィアの散布を少し広めに設定。何処で本体がコチラを見ているかわからない以上、警戒を強める。

(私が抑えるから、皆で下に降りれないか探してくれる?)

(了解)

 そう言って、皆この人を警戒しつつ、周辺の捜査へ。すると。

『あー、残念なことだが。下への出入り口は2年前(・・・)に壊れて行き来できなくなった。とある科学者夫妻がここに来て、その帰りにな』

「……なら、アナタはここの何処に住んでいると? 長い事居るならそれくらい分かるはず」

『無い無い、出入り口はその一つ。下の装置があった場所もさっきの崩落で完全に死んだろうし、その空間が生きてたら良かったんだが、崩落で完全に埋まったし』

 下にあった装置……? ここには何かまずいものでも? いやでも、フェイトちゃんに連絡が通じたら、試してもらいたいことが。

「……中から撃ち抜く……という手段は?」

『……うわぁ物騒なこと言うなぁ。ここ一応シェルターみたいなモノだからな。その辺に落ちてる瓦礫ですら魔力耐性高い。内部を構成してるやつはもっと硬いし、何より抜けなくはないけど、その場合加減の調整が出来るとは思えないが?』

 なるほど、道理で……風化でボロボロになって入るけど、何か力が加わって壊れた部分は異様に少なかったのはそのせいか。

『うーん。俺が君らから信用を得ないと進まないな、これ』

 あっはっはと目の前で笑う人物を見て、頭が痛くなる……何を思って信用を得ようとしたのだろうか?

『まぁ、いいか。ここに来たしまった以上。避けては通れないし。ただで帰そうとは思ってないし』

「……何の話をしているの?」

『今にわかるさ』

 そういって、地面に降りる。身長は私よりも低く、エリオよりも少し高い。フードに手を当ててそれを持ち上げる。そして……。

『二年前。ここからとあるものが運び出され、同時に俺が目覚めた。だけど、運び出す人の名前を聞いて納得できて、お願いした』

 フードを取る。所々立たせた茶髪の髪に、女の子のような顔立ち。話し方で男というのがかろうじて分かる。だけど……。

『……ウィンドベル(・・・・・・)、そう名乗った。そして、俺は彼らに託して、待った。いつかここにその子を来るように、と』

「……そんな」

 顔を見て、驚く。もちろんティアナ達も驚いてる。

『……名は訳あって名乗れない。だけど、俺はずっと待っていた。フロウ・ウィンドベルを。いや、風鈴流を』

 目の前に立つ人物の顔が、流と全く同じだったからから……。



――sideフェイト――

「駄目です、下に落ちたと思う皆と連絡が取れないです」

 少し落ち込んだ声で、ため息が漏れてる。私もさっきから上に通信を飛ばしているけれどノイズが酷くてつながらない。外にいるヴァイス君にももちろんつながらない。
 私達が居るのは、真っ暗な瓦礫の隙間の中。たまたま出来たと思われる隙間の空間に現在閉じ込められている。私と奏の2人でスフィアを使い明かりの代わりにしているけれど、どこにも繋がっている様子は無い。

「さて、どうしようか。少し待ってみるしか出来ないけれど」

 適当な瓦礫の上に二人して座っている。初めは奏に座らせようかなと思って進めたけど、奏も私に座ってもらおうと考えていたみたいで、二人して勧め合いになって、最終的には背中合わせで座ろうって事で、落ち着いた。

「下から2人合わせて岩盤を砲撃で抜きます?」

「それは……ちょっとやめとこ?」

 冗談っぽくいうけれど、私はあまり笑えなかった。だって、昔なのはがそれをしていたのを知ってるから……。

「冗談です。とは言っても、正真正銘、その字の通り八方塞がり。万事休すですねー」

「……うん。私達を外から見つけてもらえたら一番だけどね」

「……不幸中の幸いか、あの一瞬、私はフェイトさんに助けられたけど、流は震離が、響は一人で落ちたみたいですしね。個人的には流と震離が大丈夫かなって」

 常時通信を掛けながら、小さく呟く。けど、震離と流がって……?

「あの2人は仲が悪いの?」

「……そんなことは無いと思います。流が治療されている間も、震離はコミュニケーションを図ろうとしてましたし。ただ……ここ数日、流はまた殻に篭もる様な感じになってます。震離はそういう変化を苦手とする子なので、どうかなって」

「人付き合いが苦手な子には見えないけれど?」

 そう言うと、クスッと笑う声が聞こえた。

「苦手ですよ。とっても苦手。私達には素の部分。割とぶっこんだ事をいいます。ですが、あの子の本質は演技派な人見知り。訓練が終わると、いつも話を聞きます。今日も上手く出来てたかな、嫌われてないかなって」

 初めて聞く震離の様子に驚いた。いつも明るくて、スバルとも仲がいい。ロングアーチのスタッフとも普通に接していると思ってた。

「以前聞きました。あの子はこういいました。人が怖い。だけど私達と一緒に行きたい。でも怖い。嫌われるのが、拒絶されるのが、怖いって。初めて出会った時、私あの子と話出来ませんでしたし」

 あはは、と苦笑しているけど、何処か悲しそうに聞こえる。

「この世界に来て、ようやく明るく接すればなんとかなると分かって、ずっとあの明るい震離を演じています。だからなんでしょうね。自分と何処か似ている子がいる。なんとかしないとって、無意識ながらそう考えてるのかもしれません」

「……そうなんだ」 

 響に告白したあの日、そう言えば言っていた。

 ――大好きな人から言われました。化物、と。

 もしかしなくても、これが震離になるのかな……? 知らなくていいことかもしれないけれど、こうして考えると、全然響達の事を知らないなって改めて痛感する。

「……フェイトさん?」

「うん、どうかした?」

「……今、響達の事知らないなって、考えませんでした?」

「……っ」

 瞬間、顔が赤くなる。いやいやいやいや、考えたけれど、別に変な意味は無いよ? おかしなこと言うね奏っていいたいけど、口が回らない。あと何か変な汗が出て来るけど、別にそんな。

「……やっぱり」

 いやいや、やっぱりってそんなこと無いよ。別に意識してるわけじゃないし。

「……フェイトさん。見てたら分かるし。正直に」

 ……ぅううぅう。顔から湯気が出そう。顔こそ見られてないけれど、これはきっと……いやいやでも、そんな……。

「なら、宣戦布告を。私は好きですよ。響の事」

「え、あ、いや。あの、その」

 いやいやいやいや、落ち着いてフェイト。ほら、スッと目を閉じれば母さんや、リニス。アリシアお姉ちゃんが……なんで、サムズアップしてるの!?
 なんで? 母さんは涙流してるし、リニスとアリシアお姉ちゃんは頑張れって垂れ幕持ってるし、どうして? いや、待って待って。まだ、好きの意味も違うかもしれないし……。

「もちろん。Likeじゃないです。まだ、恥ずかしくて言い出せないし、一緒にいるほうが心地いいから甘えてしまうけど」

 ポツリポツリと話す奏の言葉に耳を傾ける。よく考えればそうだ。小さい頃から一緒に居るもんね。子供時代の写真を見た時7人で居た、それから今まで大体の期間を一緒に居るんだ……。
 私は……、どうなんだろう? 確かに響の事は……気になる。それは本当。だけど、それは何なのかわからない。

 告白した日から、見る目が変わった。なのはとティアナの件の時、信じられてたからあんなに失望させてしまって、溝が出来た。そして、本気でぶつかった。
 まだ話は出来てない、けど本気でぶつかってあの人は私達に対して悪いことをしないと、更に確信を持った。隠してることはある。だけど、それは今は言えない……もしかすると、これからも言えないのかもしれない。
 それでも、彼は言ってくれた。私たちの邪魔をするような事はしない、と。言葉だけを見たらまだ疑われてしまうけど、私達からはもう疑わない。
 今まで、クロノやユーノ、アコース査察官といった男の人とは話をした、だけど、響の様な人と話をしたことはあんまりない。初めてあって、勝手に嫉妬しても、普通に接してくれた。皆をちゃんと見ていてくれた。だけど、最近は少し気になっていた……。

 そこまで考えて、気づく。彼の信頼の一番に居るのは奏達なんだと、私はそれに嫉妬しているんだと。

 隊長だから、頼ってほしい訳じゃない。年上だからってわけでもない。私にも相談してほしい……そう考えてるんだ、私は。そのポジションがどういう意味があるのか、それも理解して。

「……うん、分かった。奏?」

「はい」

 背中合わせで座ってるけど、その声で分かる。

「負けないよ?」

「……コチラこそ、負けません。唐変木というわけじゃないけど、必ず振り向かせます」

「私こそ、振り向かせるよ」

 さっきまで気づかなかったけれど、背中が熱い。きっと、奏もこういうことを言うのは凄く恥ずかしかったんだと思う。だけど、六課だと誰か聞いてるかわからないし、こういう場で言うことじゃないけど、話せてよかった。

「さぁ、奏。別の周波数を使って皆に連絡を入れようか!」

「はい!」

 さぁ、ここから出るために頑張ろう!
 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第20話 続・調査任務と、お話、そして強制終了

――sideギンガ――

 響から、エリオとキャロを渡される中で、崩落に巻き込まれていくのを見ているだけだった。
 その事に悔しさは有るけど、まずは2人を安全なところへ、ブリッツを起動して駆け抜けようとした。
 でも、足りない。崩落のほうが早いことを察して、直ぐに2人をスバルとティアナの方へ投げ渡した瞬間、足元から崩れ落ちる感覚に包まれた。

 どうするか、と。落ちながらさっきまで居た場所を睨めば。
 
「ミーティア。チェーンセット、限界まで!」

[あいよ。お嬢、迎撃しようと思ってんなら流石に無理でっせ。質量が大きすぎるのと、AMF圏外だ]

「最悪。わかった、ギンガさん。掴まって!」

 そんなやり取りを目の前で行うのは、会ってそうそう人を叩いて、あまりスバル達からは良い印象の無いシスターアーチェ。
 
 苦手だなとか、色々思うよりも先に。どうしようもないから頼るしか無いと、こちらに向かってくるシスターアーチェの左手を取った瞬間。
 
「ありがと。落ちるよミーティア!」

[あいよお嬢! その名のごとく! フレームオープン!]

 そう言うと、右手と両足首から鎖が伸びて、その先端に鉄球が生成され、
 
「シールド、オン!」

 鮮やかな琥珀色の魔力を煌めかせて――
   


――sideなのは――

「……待っていたって、流を?」

 自然とレイジングハートを持つ手に力が入る。見れば見るほど流と同じ顔、同じ瞳。違うとすれば雰囲気で男だというのが分かるって言う事。
 ……いや別に流が女の子っぽいとかそういうわけじゃないよ? 本当だよ?

『あぁ、待ってた。まぁ、こんなタイミングで来るとは思わなかったし、人数多いしで驚いてるけど』

「……はぁ」

 自然と深い溜め息が漏れた。もうなんか疲れた。聞ける範囲だけ聞こう……。

「……では、まずガジェットを出したのはなぜ?」

『俺が出した訳じゃない。あの丸っこいやつなら、だいぶ前から適当なタイミングでここに入ってきては、お仕置き部屋に拘束してって言うのを繰り返してたら……中から壊そうとしやがって。あの一瞬で拘束解けてしまったんだ、悪いな』

「アナタの意思ではない、と?」

『そうだ。大体あいつら放置してたら壊されるかもしれないから困る。だけど、今の俺にあいつらを壊す事が出来ない以上、ああするしか無かった。以上』

 ひらひらと手を振りながら話しているこの人物に、不信感しか沸かない。なんというか、違うことに誘導させようとしているような……。違う、今は情報を集めないと。

「では、ここ数日の間に、この遺跡から微弱ながら、何かの反応が出ています。それはあなたが言うあるモノ《・・》なんですか?」

『……反応? あぁ、だから君ら()ここに来たのか。なるほど。答えはNOだ。それとは違う』

 君ら、は……? さっきも、今日来るとは考えてなかったとも言っていた……。もしかして。

「今、この遺跡に居るのは私達10人と、貴方以外に誰か居ますか?」

『……その根拠は?』

「直感」

『なるほど。答えはYesだ。俺の古い友人がここに来ている。勿論下に居る』

 やっぱり、少し思ったことだけど。本当に居るんだ。だけど、現在戻る道は無いと言ったのに。

「……では、その人はどうやって戻ってくるつもり?」

『この場所をちゃんと知っているやつだからな、短距離瞬間移動(ショートジャンプ)を使って、決めた場所を移動している。だから下に降りれる』

 なるほど、座標移動だから出来る事だ。私のサーチャーを先行させることができれば、出来なくはない。下にいる誰かと連絡を取れれば救助も可能。だけど。

「その人が敵ではないという保証は?」

『無いって、言いたい』

 言いたいって……。なんだろう、今一話がわからないなぁ。

『まぁ、大丈夫だろう。あーいや、大丈夫だ。頼んでいたものも片方見つけて……。あん? え、興味があるって、お前……まぁ、うん、分かった』

 突然話し方が変わる、これは……。

「通信機能を使ってるわけじゃなさそうだけど、一体何を?」

『うん? あぁ、悪いな。こんな状態だからな、意識を分割して、もう一人に着いてたんだが、事情説明したら会ってみたいって言い出した』

「流に会って何をするつもり?」

『さぁ? あと、会うのは流じゃないよ。ただ誰かは知らん聞いても回答してくれないんだ。わからんよ』

 両腕を組みながら首を傾げている。どこまでが本当かわからないけれど……。今は判断出来ない。こればかりは下に居る皆に任せなきゃいけないかな……。その前に。

「では、貴方と流の関係を教えてください」

 視線の端にエリオの顔が見えた、顔色が悪い、おそらく予想がついてしまったから。自分と同じ人造魔導師なのかもしれないって考えてるかも知れない。私もその可能性があると思う。ホログラムとはいえ、流と同じ顔……何もない訳がない。

『関係……か。なんて言えばいいんだろうな。まず流は、作られた人格(・・)って訳ではないと思う。体も俺の体をそのまま使ってるから、後付ってわけでもないと思う』

「……貴方の話が本当だとして。なら貴方は体を取り戻そうという気持ちは無いんですか?」

『無い。あの体はもう流の物だ』

 少し寂しそうな表情でそう断言した。流の表情が大きく変わったのって、いつかの出張の時位しか見たこと無いから、少し驚く。だとしたら、ますますわからない。じゃあ流は一体……?

『……一つ昔話を。初めて流とあった時。俺は驚いた。同じ体がそこに居て、親しそうに俺の名前を呼んで。嬉しそうに噛みしめるように俺と戦って、最後に話をして……。
 その後、俺達がしたことは無駄じゃないってわかった。いや、教えてもらった。そして約束をしたんだ、次に会う時は、私は貴方を疑うだろうけど、もう一度色々教えてほしいって』

「……その約束が、今だと?」

『……さぁ、そうだと思うが……どうだろ。この前来た白いのは違うって言ってたけどな』

「……白いの? それはどういう人?」

『さぁ? 突然やって来て人の名前をズバリ言い当てるわ、俺たちしか知らないことをバラバラ言うわで不思議な子だったよ。
 シュレ……なんちゃらの如く、まだわからないって言ってたが』

 周囲に展開していたシューターを解除する。皆が心配そうに私の方を見るのが分かる。軽く息を吸って、吐いて……。

「わかりました。全てを信じることは出来ませんし、後で報告も行います。ですが助けて頂けるなら、なるべく要求に従いましょう」

 彼の目を見て言う。すると、私の前まで脚をすすめる。すると、片膝をついて跪く。

『礼を言う。約束しよう。必ず転送する事を約束しよう』

 そう言って、彼は消えていった……。少しの間が空く。果たしてこの判断が正しいのかどうか、まだわからない。だけど、ここまでの情報を聞いて、全てが嘘だとは思えない。

「なのはさん……あの」

「大丈夫。きっと下で色んなことがあるけど、きっと流の事情も分かると思う。もし酷い結果になってもエリオも居る、フェイトちゃんも居る。響も居るんだ。きっと大丈夫」

 皆が揃った時にもう一度話し合いをしないと、ね……。


――side震離――


 振動を感じた瞬間、調べようと屈んでいた流を抱きかかえる。同時に足元が崩れた、その連鎖でAMFが発動。そのせいで空を飛ぶという手段が無くなった。落ちていく中、周囲の壁が崩れ落ちる。

「叶望さん!? あの……!」

「舌噛むよ」

 崩落具合からみて、おそらく巻き込まれたのは私と流、少し離れた所に居た奏とフェイトさん。そして、響と……。いや、ここまでが巻き込まれたはず。響の事だ、ギンガさんに任せて、エリオとキャロは逃しただろうし。
 崩落の音の反響を聞いて、まだ下まで時間があるのを確認。魔力が廻る感覚が戻る。これでAMFの範囲は抜けた、が。
 次の問題だ。目の前には私達を押しつぶそうと瓦礫が迫ってきている。とりあえず、身体強化と、いつでも飛べる用意を施す。空中で落下する方向へ振り向く、音の反響具合からして、もう底が見え始めた。
 一気に加速し地面へ向けて急速落下。落下する途中に落ちようとしていた瓦礫を追い抜き、それより先に着地。衝撃が体を突き抜ける、だが問題ない。周囲を見渡す、左前方に扉を発見。加速、接近す。その間にも、頭上より瓦礫が降り注ぐ、神経を研ぎ澄ます、圧がない場所を、大きくかわさないで通れる道を探す。
 わずか数秒にも満たないかもしれない、途中顔のすぐ横を瓦礫が落ちるけど、当たらないなら無視。ひたすら移動と回避を繰り返して、そのまま、扉に射撃を撃ち、破壊する。
 咄嗟の事で手加減は出来ず、扉全体が砕け散る。そのまま扉を潜り抜けて、廊下に着地。間髪入れずに瓦礫が落ちる音と、振動が響く。それを確認して、ほっとする。さて。

「怪我はない?」

「え、あ、はい」

 やー、良かったー。危ねー。久しぶりに本気出したよ、本当に危なかったー。AMFがついてなければもう少し安心できたのになぁ。さて、抱えた流の表情を見ると……ああぁあ、なんかすっごく沈んでる。アレかな、余計な事したかな?

「叶望さん、あの、顔に……傷が」

「うん?」

 流をおろして、両手で顔を触る、そして右手にぬるりと嫌な感触。手を離して見ると、あら血だ。

「あー、別にいいよ。心配しなくて」

 あんまり痛くないし、これくらい問題ないしね。でも、それは私の問題であって、流の表情はどんどん暗くなる。不味い。あんまり口数が減ったら私も不味いんだけど……ここは年上として頑張ってみようかな!

「けど、自分(・・)のせいで……うぷっ」

「それ以上は聞かないよ」

 咄嗟に流の口に手を当て、それ以上言わせないようにする。

「今のは誰のせいでもないし、私が勝手にしたこと。でもさ、もし気にしてるんなら、自分なんて呼ばずに、もう少し気楽にしてよ、ね?」

 出来る限り明るく、出来る限り笑う様にする。イメージするのは響を、奏を、皆を。あの日笑いかけてくれた笑顔を。視線の先の流の表情が安らいだのを確認、ほっとする。

「……わかりました。叶望さん。ありがとうございます。また助けられましたね」

「うん、それでいいよ」

 相変わらず表情は硬いけれど、目に見えて雰囲気が和らいだ。さて、次は……。

「とりあえず、皆に通信が出来るか試そうか。流は響達を、私はなのはさん達に」

「はい」

 すぐに取り掛かる。可能な限りいろんな周波数で通信を飛ばすけど、中々つながらない。そもそも引っかかる気配もない。物理的な距離もあるとは言え、この遺跡思ってる以上に深い。上の礼拝堂っぽい場所を見た時、ただの昔の人の集会所というか、隠れて礼拝(ミサ)をしている場所だと思った。
 でも、今はどうだろう。とある大きな部屋に落ちて、そこから脱出、廊下のような通路へ出たけど、この時点で分かる。ここは多分……。

「流」

「えぇ、何か……居ます」

 手を止めて即座に応戦出来るように整える。少し離れた所の扉が少し開いている。

「……あそこ、だよね?」

 そう言うと、無言で頷く。あそこに何かが居るのは分かるが、どうにも変な感じだ。まるで敵意が無いような、戦う気はないと言っているようでなんか変だ。自然と脚がそこへ向かう。最大限の警戒をして、いつでも動ける様にして。扉を開け放つ。同時に、杖を、銃を中へ向ける。
 人の気配は無い。代わりに、中には少しホコリを被った大きな机と、ボロボロになった椅子が4脚。どれも年季が入って座れそうにない。壁際には本の入っていない本棚が敷き詰められている。机の奥には、管理局で使われるような転移ポートとそれを操作するであろうコンソールがホコリを被っている。

「なんだろう、ここ?」

「さぁ、あの機械を調べてみます」

「うん、お願いね?」

 そう言ってコンソールに近づく。ふと、ホコリで見えにくいが机の上に何か小さな物が置いてあるが分かった。それに手を伸ばす。

『よぉ、待ってたよ』

 瞬間、デバイスを構え、入ってきた扉の方へ向ける。先程まで居なかった、だが気がつけばそこにフードを被った人が立っている。フードで見えにくいが、口元は何やら笑みを浮かべてるようだ。

「何者?」

 スフィアを展開し、その人物の周りを包囲する。私の後ろに居る流も、いつでも動けるように剣を構えてる。

『いつかここに来るって聞いてたけど、今日は大人数だな。初めまして流、そして震離。歓迎するよ』

 そう言って、目の前の人物はフードを上げる。徐々に露わになる顔は、よく見知った顔で、強いて違う点が髪を立たせてる具合。そして、何より雰囲気が違う。

『待ってたよ』

 流と同じ顔がそこに居たんだ。

「……ぇ、ぁ」

 後ろで何かが落ちる音が聞こえる。だが、それ以上になぜ、この人は私と流の名前を知っている? 

『ただ、こんなに大人数で来るとは思わなかった。上にいる面子を含めたら12人、驚いたよ』

「止まれ」

 一瞬コチラに近づこうとする目の前の人を止める。それを見て、困ったように苦笑を浮かべてる。

『まぁ、突然現れて信じろ、は難しいよな。さて、流? 質問だ、君はどこからどこまで覚えてる?』

 一瞬コチラを見たと思ったら、直ぐに視線を流へ戻す。眼中に無いというわけじゃなさそうだけど、なんだろうこの人。敵意が無いのに、隙がない。

「……どこから、どこ……まで?」

 声が震えてるのが分かる。振り返って大丈夫だと言ってあげたい、けど、目の前のこいつがどう動くかわからない以上、下手な事は出来ない。

『……ウィンドベル夫婦は分かるか?』

「……ッ、なぜ、その名を……あれは、私の……まさか、私は、いや、私も人造――」

『それは違う』

 瞬間、その場から消えた。振り返ると膝をついて呆然とする流の前に、その人が跪いていた。一瞬そいつの手が流の頭に伸びたけど、寸の所で止まり、また戻る。

『震離。机の上にある物を流に』

 杖をこいつに向けながら、机の埃を払う、そこには小さなロザリオが置いてあり、それを手にとって、側に行き流の手の上に置く。

『流、ゆっくりでいい。お前が覚えてることを教えてくれ。大丈夫、ここには俺と震離しか居ない』

 自然とこいつと目が合う、ふと、懐かしい様な、安心するような気持ちになる。この目を私は知ってる。だけど、これは。

「な、にが……待っていた……、その……名は……その人達は」

『……流、おい?』

 流を中心に風が吹き荒れる。赤黒い魔力の奔流が辺りを包む。

「私を捨てた(・・・)人達だあああああ!!!!!!」

『チィッ!』

 瞬間、足元から浮き上がる感覚に襲われる。場面が切り替わる、狭い部屋ではなく、広い大きな部屋へ。

「なぜ、今になって……その名を出す! あの人達は私を失敗作だと断じて捨てた人達だ!!!!!!」

 部屋の中心で、魔力が渦を巻いている。同時に、声が震えている、飛ばされる直前、あの子は泣いていた。

「へい、そこのコンパチ?」

『コンパチっていうな。どうした?』

 気がつくと、隣に立っているこいつに声を掛ける、色々言いたいことはあるけど、とりあえず。

「これも予想通りなの?」

 腕を組み、首を傾げている。

『いや、予想外。ウィンドベル夫婦に託したんだが、そんなことしたのかっていう状況。聞いてた話だと、流を逃したっていうのは聞いてたんだが、どうも食い違ってる』

 苦々しい表情で流を見る。敵意ではなく、心配する目で……。

「一つ。私が、流を止めたら。全部話してくれる? なんで私を知っているのか、そういうことも全部」

『……全部は無理だ。だが、流を知ってるって言うことくらいなら話すよ。信じるかどうかは別として、な』

「もう一つ。……戦える?」

 そう質問すると、にやりと笑う。同時に、魔力の奔流が止まる。

『……今は無理だ、頼めるか?』

「……知ってたよ!」

 瞬間、弾丸の様に流がアイツ目掛けて突っ込んで来たのを、割り込むように私も行く。
 

――sideギンガ――

 地下……と、言うより、遺跡の底というべき場所に、シスターアーチェと二人っきりで居ます。
 
 でも。
 
「……はぁー……最悪。あんまり壊すなーって言われてたんだけどぬー」

[お嬢、シスターというメッキが外れますよ。あと変に語尾を伸ばさないで下さい]

 ……気まずい、というよりも。なんだか聞いてたイメージと全然違うことに拍子抜けをしています。
 スバル曰く、奏の顔を見た瞬間無言で近づいて殴ったって言っていたのに、今いるシスターアーチェは、年頃の女の子のようなラフさだ。
 ただ、同時進行で、瓦礫に押しつぶされないようにデバイスにシールドを纏わせているのはさすが騎士の二つ名持ちだと思う。
 しかも……珍しい形のデバイス。両手足首に繋がられた鉄球を扱って、今みたいに身を護る盾にするなんて初めて見た。
 
「ごめんねギンガさん。本当はなんとかして帰りたいんだけど、しばらく私と2人になっちゃって」

「いえ、その……大丈夫です」

 ほんっとうに調子が狂っちゃう。朝見かけた時の響達を睨みつけていた人にはとてもじゃないけれど見えない。

 聞いてみようかな?
 
「その、シスターアーチェ?」

「んぁ? シスターなんて堅苦しいので止めてくださいな。アーチェでも、ノヴァクでも何方でも良いですよ」

 ニパッと笑ってくれるけれど、本当にイメージと全然違いすぎて戸惑うくらいだ。
 コホンと咳をして、整えて。

「どうして、ひ……あの人達と仲が悪いの?」

「……はぁ?」

 その質問をした瞬間、今度は正反対の……刺すような視線を向けられる。
 でも、直ぐに視線を逸して、何か考え込むように目を閉じたと思ったら眉間に皺が寄った。
 
「……こんなところにまで目は来るわけない、かな。それに……ギンガさんって今日外から……出向で来たんですよね?」 

「へ? あ、うん。今日から暫く六課になるかな」

 今度はうんうんと唸りながら、悩んでいるようにも見える。
 パッと顔を上げたと思えば、やっぱりまだ仏頂面で……正直見てて面白い。
 
「リュウキっていう、私、の幼馴染が、居たんですよ。昔。あ、私達孤児院出身の親なしでして」

「ど、どうしたの? すごくなんかたどたどしいよ?」

「ごめんなさい。何にも考えないで喋ったら駄目だこれ。うん。
 まぁ、そのリュウキと響達って昔小隊組んでて色々任務をこなしてたんですが」
 
 ……それを聞いて、しまったと後悔が半分。そして――
 
「とある1件で死んじゃったんです。リュウキ。だから私はあの人達が嫌いで、」 

 そうなんだ、と。見る目が少し変わった。

 同時に思う、そんな重いモノを背負っているんだ、と。


-

――side震離――

 小さい頃、魔法なんてあるわけ無いと思っていた。いや、今使う魔法とはまた違うと思う。
 ミッドチルダ式、近代ベルカ式、古代ベルカ式。おそらくきっと、もっといろんな魔法式があるのだろう。

 ベルカ式を取り入れたのは、ただの興味。身体強化という点で優れていたし、偶然か、必然か、名前の由来の通り「雷」の魔力変換を持っていた。
 何より私が興味を持ったのは、ミッド式の数式に私は興味をいだいた。

 10年前、たしかに声は聞いた。だけど、空耳だろうと流したし、相談したら頭が変になったんじゃないかって心配されそうだったし。
 だけど、ある時。響達3人が私に黙って別の特訓をやり始めた。それまでは体運びとかを重点的に行なっていたのに。だけど気にはしなかった。お父さんに相談したら、男は隠れて強くなりたがるって言われて、その時はそうなんだとしか思わなかった。
 そして、2年後。奏達と出会ってようやく私はその意味に気づいた。いつも私達が集まる山の中の広場で、響達男3人。奏達女の子3人で、言い争いが始まった。初めは何を話しているんだろうと思っていたけれど。6人の口から出てきた言葉を聞いて、その後の言葉で、私は驚いた。

 空を飛ぶには魔力コントロールか、魔力量か、と。数式はミッドのほうが細かい、と。

 それが私が、魔法と出会った切っ掛けだ。

 ま、その当時はなにそれとしか思わなくて、本当に出会ったのはもう少し後だけどね。









 ――いけない。そんなこと考えてる場合じゃないのに。

 目の前で泣きながら剣と、銃……いや、()を振る少年を見据える。そう言えばいつか響が言ってた。流のスタイルは理想論で出来てるよなーと。
 確かに、剣も、槍も、銃も、体術もやろうとしている。いや、それをなぞっている(・・・・・・)。でも、その完成度は高いし、流も依存している。だけど、ね。

 眼前に銃口が、いや槍先が迫る。それを難なく回避。

 驚く流の顔が見えた。きっと、目の前でこんなこと考えてる私は最低なんだろうけどね。かれこれ5分ほどクロスレンジで攻撃を捌いている。初めの方こそ攻撃を受けたり流したりしていた。だけど、法則を見つけてしまえば後は避けれる。

 同時に身体強化の派生を維持する。瞳に強化を継続。これをしておくと流の動きが手に取るように分かる。

 ――ロレンチーニ。鮫が保有する感覚器。100万分の1ボルトという極わずかな電位差を感知することが出来る器官のこと。

 だけど、生憎私たちは人。筋肉が発する微弱な電流を感知することは出来ない、代わりに瞳を強化すると見える。おそらく電気系統の魔力変換を持っている子なら出来ると思う。ただし、強化しすぎると一時的に目が見えなくなったりするけれど。ひどい場合は魔力が暴発、失明とかもあり得るんじゃないかな?
 
 ま、慣れてるし平気なんだけど、今の私は流の内に走る電流の動きを読んで、戦闘を、いや、回避を組み立てている。

 だけど、それくらいしないと、きっと私は――

「どいて下さい!!」

 いつの間にか流の目から涙が溢れている。話をしないといけないと思ってた。同じ分隊として、同じ日に入った人として。今は少ないけれどこの先2人でタッグを組む時もあるだろう。六課が解散したら組むことは無いかもしれないけど、数少ない出会いなんだから。

「話を聞こう?」

「必要ない!!」

 槍と大剣のコンビネーション。槍で体制を崩し、大剣で仕留める。一人で完結する良いコンビネーション。だけど。大剣を振り始め(・・・・)に止めてしまえばいい。
 槍の間合いに踏み込み、バインドで剣を固定する。すると、一瞬流の体ががら空きになる。



――side響――



 小さい頃の夢を見た。まだ、あいつらに合う前の夢を。母さんと爺ちゃんが居る時の夢を。望月爺ちゃん……家に居た爺ちゃんの名前だ。その人も5歳になる頃には亡くなったけれど。名前と国籍違うじゃんと思ったのは内緒だ。間違いなく日本人じゃなかったけれど、良い爺ちゃんだった。母さんも凄く嬉しそうにしてたし……今となっては別の意味があったのかなと、思えてしまうけど。

 だけど、ある時。赤髪? 金髪? どっちかよくわからない髪で、凄く白い肌の人が家を訪ねてきた。昔過ぎて覚えていないけど、とにかく母さんと爺ちゃんが凄く驚いてた。襖を小さく開けて覗いた先では母さんが泣いて抱きついてたのを酷く覚えてる。

 結局誰だかわからなかったけれど、覗いてたなんて、ばれたら怒られるから、聞かなかった。

 でも、なんでこんな夢を……

「――」

 目が開く、けど眩しい……。

「――? ――――?」

 遠くで声が聞こえる、なんかやかましいけど、なんだろうか? 意識がはっきりしてくる。

「いやいや、ここは私が」

「いえいえ、幼馴染の私が」

 何だこの会話? ゆっくり目を開ける。そして、

 人の頭の上で言い争いしてる2人。奏とフェイトさんだ。まぁいい、無視だ無視。体を、上半身を起こす。

「「あ、起きた」」

 残念そうな声を上げてるけれど、何だよ? 起きたはいいけど、まだ、考えが纏まらない。
 ふと、気づく。なんか脱出した場所と違う気がする。なんだ? それよりも。

「無事だったんですね。良かった」

「うん…‥っていいたいけど、私達もさっき転送されたの」

 転送……うん? 転送?

「転送?」

「「うん」」

 二人して頷く。どういうことだ? 確か、俺は…… 

「あ、うん。私達、瓦礫の中に居たんだけど、突然ここに転送されて、そしたら、そこに響が壁に寄りかかって(・・・・・・・・)気絶してたの。なんかに襲われた?」

 壁に寄りかかって気絶……? はて、俺脱出した時、突っ込んだ勢いのまま頭をぶつけて、無様に気絶したもんだと思ったけど。

『主も転移されたのですが、その直後不可解なジャマーを探知、暫く状況がわかりませんでした』

 俺の疑問に応えるように花霞が教えてくれる。ということは、その間に何かあった……? というか。

「瓦礫の中って、大丈夫かよ?」

「え、まぁ、うん」

「ちょっと話をしただけ」
 
 一瞬顔を赤くするフェイトさんと、ニコニコとしてる奏。なんとなく怖いと思ったのは気のせいかな? 無事ならいいんだけど、あまり突っ込まないようにしよう。うん、そうしよう……。

「……流と震離は?」

 静かにそう質問を投げると、2人して首を横に振る。あの一瞬で、震離が助けたのは見えたけど、奏達でさえ瓦礫に飲まれたのなら、2人が心配になる。

「2人にも、上にも通信が繋がらない。多分ここには通信を妨害出来るようなもので出来てると思う」

「そう、ですか」

 少し目を伏せながらいうフェイトさん。多分、上に居るに居るエリオ達の事も心配なんだろうな。とても大切にしてる2人だから尚の事。
 ふいにフェイトさんから手を伸ばさる。その手を取ってゆっくりと立ち上がる。

「ありがとうございます。さて、どうしましょう?」

 この場の一番の上官はフェイトさんだ。指示を仰ぐ。だけど、答えは勿論。

「うん、2人を探そう」

「「はい!」」

 すぐに行動に移る。ふと、迷いなく進む2人に疑問が。大丈夫かな、方向音痴じゃないよね?


――side震離――

 がら空きになった流に正面から抱きつく。勿論全力で抵抗される。私と流を縛るようにバインドをもう一度発動する。

「離して下さい!」

「それは出来ないよ」

 ちょうどいい身長差なのか、私の胸の辺りに流の顔がある。本気で抵抗するなら、拘束から逃れようとするのなら、きっと私に攻撃するはずなのに……。

「だって、流さ。こうしていても私を殴らないじゃない」

「……それ、は……それは!」

 信頼……って思いたい、だけど、これはきっと。あの日私の代わりに戦って負けたことを今も悔やんでるからだと思う。思った通り、この子は優しい人だ。きっと普通なら流側について行動すべきなんだろうけど、私にはそれは出来ない理由がある。

「それにさ、流。私は一つわからないのがあるんだ」

 顔は見えない。だけど、振りほどこうとしている。

「……ウィンドベル夫婦。私は知ってるよ。2年前とある研究所に努めていた2人に私は会った事がある」

 流の体が固まる。それに伴って、動きが止まる。

「違法な研究をしてたのも後に公開されたけれど、あの2人は凄く優しい人だよ」

「……ちが、う」

 優しそうなおじさんとおばさんのような2人を思い出す。あの2人の主な研究は生物……もっと言えば、人を治すための研究。

「……とある事でその2人を調べていた。非人道的な研究の疑い、違法薬物、罪状はたくさんあった。だから、直接訪ねた」

「……」

 思い出すのは2年と少し前、これだけ疑いがある以上、直接訪ねたほうがいいと、当時の私は考えた。礼状を持って雪と氷に包まれた管理外世界に赴いた。

「確かに違法薬物は合った。でもそれは誰かが罪を被せるために。戦闘機人と呼ばれる人のデータも合った。誰かが送りつけたものだけど」

「……ッ」

 あの日、私は沢山調べた。大量のデータを、書籍を片っ端から全て。でも、調べれば調べるほどあの人達は。

「びっくりするくらい何もなかった。強いてあげれば、プロジェクトF。それの派生を作ろうとしていた。いや作らされようとしていたくらいだった」

 生命操作技術、プロジェクトF.A.T.E。だけど、人の体を作ることは出来ても、魂を作ることは出来ない。けど、その人達は。

「そのプロジェクトFをベースに何をしてたと思う? びっくりするよ。子供を作れないお母さんの為に不妊治療にあてるんだって」

 並外れた技術に、他の追随を許さない頭脳とまで言われていた2人。きっとその気になれば人を作り出せたかもしれないのに、その人達はしなかった。
 理由を聞いて驚いたなぁ。同一の人を作れるわけがない。心まで複製出来たらそれは神様だけだって。だから、私たちはそれを断り続ける。これからも、ずっと、と。

 もう一度最初から、この2人の経歴を調べ尽くした。するとどうだ? なんてことはない、同じ研究員からの嫉妬や妬み、優秀なのに、それ以上を目指せるのになぜしないんだって当てつけにされた。

 その日から私はこの夫婦と連絡を取り合うようになった。そして、ある日に聞いた話が、遺跡で子供がポッドに入っていた、それを救助したと、連絡が来た。

 だけど、コチラの事情でそれ以降連絡を取れなくなった。

 そして、1年前、2人を訪ねようと思って調べたけど――

「……もう居なくなっていた。私があの2人の無実を証明するはずだったのにおそすぎた。そして、気づかなかった私もバカだった」

 ウィンドベルと風鈴。こんなにわかりやすい言葉遊びに私は気づかなかった、あまりにも安直すぎるんだ、今更ながら違和感すら持たなかった自分に腹が立つ。

「だから、流。私にアナタの事を聞かせてほしい。私にはあの人達の無実を証明しなきゃいけない訳がある」

 完全に力が抜けたのを確認する。これで話し合いの体制は整えられたのかな。

 と言うか、後ろでガン見してるアイツは何一つ助け舟を出さなかったことに腹が立つ。流と同じ顔なのにこうも違うとは。
 
「……わ、たし……は」

 ポツリポツリとゆっくりと話し始める。さぁ、これが終わったら私のことも言わないと……一介の武装隊員がなぜそんなことを調べたのか、説明がつかないから――



――side流――

 物心……と言うより、最初に目が覚めた時。私は知らない所で眠っていた。ぼやけて見える天井と、暖かいベット。目だけで周りを見渡すけれど、ぼやけて何だかわからない。
 代わりに耳をすませば、パチパチと何かが弾ける音と、どこから香る良い匂い。心地よい音と香りを感じていると、自然と意識が遠のいていった。

 次に目を覚ました時、私は倒れていました。薄暗い場所で地に伏せていた。起き上がろうとするけれど体に激痛が奔る。至る所に痛みが、胸を中心に激痛が奔る。
 だけど、何処か穴が空いたようにも感じた。
 
 ボヤける視界で、情報を集める。そこは小さな洞窟で、私には何かが掛けられていた。息を吐くと白くなる。体を引きずりながら、洞窟の外を覗いてみると雪で染められていた。
 ふと、嫌な匂いが鼻につく。何かが焼けたような匂いが遠くから漂う。同時に奥から何かが近づく音が。

 ――離れなくては。
 
 そう考えても、体が言うことを聞かない。僅かな距離を移動しようにも、立つこともままならない。それよりもこの痛みはなんだ?

「やっと見つけたわ! 良かった!」

 洞窟の奥より誰かの声が響く、首だけでも振り返ると、そこには初老の女性が居た。手には杖を持ち、服には何か黒い液体がついてるように見えるけれど、暗くてよく見えない。
 倒れる私の側に駆け寄る女性。拒否をしようにも、口すらまともに動かせない。地に伏せてる私を仰向けにし、横抱きにして抱えられる。その際に奔った激痛が奔り、再び意識を落とした。

 
 そして、もう一度目が覚める。薄暗い部屋だった。前に目覚めた時と違って何も音もしない。代わりに体に奔っていた痛みが和らいでいた。辺りを見渡すと窓も何も無く、扉の様な物しか無い、独房のような部屋。
 ゆっくりとそこに近づく、取手も何も無く、近づいても反応がない。戻ってベットに腰をかける。これまでの情報を整理しようと思い返す……。

 そして気づく、私は誰だろう、と。だけど何も思い出せない。代わりに何か抜け落ちたような、そんな気持ちで一杯になる。

 すると空気の抜ける音と共に、扉らしき物が開いた。視線をそこに向けると、洞窟で会った初老の女性がそこに居た。

「初めましてフロウ君。私はライザ。ここの責任者よ」

 ニコリと笑う女性を――ライザさんを見る。そして、何処か不信感をこの時持ってしまったけれど。何も覚えてないからだと思った。

 そして、説明を聞いて驚いた……と言うより、納得できた。

 生命操作技術、プロジェクトF.A.T.E。その素体になりそうだったと。その為に私の記憶を消したのだと。
 それを聞いても、私は何処か他人事の様に思えた。記憶がないと言われても、そうなんだとしか思えなかった。
 次に、私を素体にしようとした人達の名前はウィンドベル夫婦。男性はサイ・ウィンドベル。女性はキャシー・ウィンドベルだと。これについても、どちらかと言えばそうなんだと、名前を聞いたときには思った。
 この2人が私の記憶を奪い、尚且つ、自分たちの作品(・・)として、名前をつけられたと。そして、その名前はフロウ・ウィンドベル。それが私の名前だと。

 だが、素体としては不十分だったらしく、適当な場所へ捨てられた挙句、何らかの実験の影響で私の瞳が片方紅くなってしまったとのこと。

 ここまで聞いても、私としては何も思わなかった、けど、何か(・・)に触れたらしく、自然と涙が溢れていた。

 後になってこの時流した涙は、勝手に攫った私を捨てた事に対する怒りというか、悔しさというか、悲しいといった感情が混ざって流した物だと結論づけた。


 ――side震離――

 ゆっくりと言葉を紡いでいる、それに静かに耳を傾ける。
 
 さて、全てが事実だとして話を統括するとだ。

 まず流の体はこの遺跡のポッドに入っていましたが、それをウィンドベルさん家が回収しました。そして、それは流のそっくりさんの許可を得ていると。そこからウィンドベルさんは実は実験素体にするつもりで、何らかの事情で流を移動しました。おそらくのそのあたりで夫妻は……。で、流は前の部隊の隊長に拾われたけれど、ここで一つ疑問が。
 間違いなく普通の部隊長じゃない……じゃあ、普通の地上の部隊で保護した子を局員に登録は出来ない。嘱託魔導師として働いてその功績次第で管理局に正式に登録される。流ほどの実力ならば分からなくはない。でも、それでもだ。早すぎるし、こんなに低い階級な訳がない。最低でも准尉からスタートするはずだ。

 そして、何よりも流はわざとなのか部隊の情報を言っていない。これが一番不自然だ。こんな局面でまで誤魔化してるのか、はたまた……。

 ダメだ、やめだやめ。幸い名前は得た。顔も見て覚えた。ならやりようは幾らでもある。時間が掛かろうとも。私なら、出来るはずだ。

 次に、流が目を覚ました場所だ。おそらく最初に目覚めたのはウィンドベルさんの家……と言うか研究所。次に目が覚めた場所はおそらく外の何処か。そこで助けられて、前の部隊の場所であろう部屋で目を覚ました。
 
 おそらくこの間に何かあったんだろう。けど情報が圧倒的に足りない。だが、なぜライザさんは、そんな情報を流に伝えた? 重い事実なら隠せばいい、分かっていたなら時期を見て話せばいい。なのになぜ最初にそれを伝えた?

 だけど、こう考えたらどうだ? ライザさんは、流がそこに運ばれたことを知っていて、何らかの理由で必要となった。結果ウィンドベルさんの研究所が襲われている間に、流を救助、そのまま一緒に居た。
 だけど、そうするとライザさんは襲撃を知っていたということになる。ましては襲う理由も……あったのかもしれないけど、襲ってもメリットはない。

 私と関わってる時は仮面を被っていたとしたら一方的に話が終わる。だが、ライザさんも何か手を下したとしたら……。

 ダメだ。これではピースが足りない。結論を出すには……圧倒的に足りなさすぎる。
 
 でも。

「……流、いいよ。大丈夫」

 私の胸で泣く流を今一度抱きしめる。一瞬体が震えたけど、それを受け入れてくれた。顔には出さないけれど、自分が最低だなと思う。口では大丈夫と優しく嘯いてるくせに、お腹の中では誰が怪しいかって。
 胸の中で、私を見上げる流の表情が目に見えて変わった。そこでようやく気づいた。

 あぁ、この子は誰かに依存して生きてるんだ、と。

 その生き方を否定するつもりは無いし、権利もない。だって私もそうだから。私も皆に依存して生きてるから。
 胸の奥が、心がズキンと痛む。軋む音が聞こえる。そんな目をしないで流? 私は、そんな目を向けられるほど真っ当な人じゃないんだよ? 

『……すまない』

 ふいに後ろから声を掛けられる。表情は見えないけれど声のトーンが何処か沈んでいるのが分かる。

『上の面子には説明すると言ったが、間違いなく今、教えることじゃなかった』

「待った、上の面子……ということはなのはさん達に会ったの?」

 さらっと重要な事を言い出しやがったよこいつ。

『あぁ。それで言ってしまった。約束の時は今だと思うって』

「……間違いなく今ではないよ。誰のせいでこうなったと思うの?」

 おそらく流にとって触れられたくない部分、それを表に出して……こいつは一体何がしたかったんだ? 

『俺の責任だ。そして、タイミングを見誤った。そして、間違いなく余計なことを言ってしまった。すまない』

 思わず殺気を放ってしまう。誰のせいでこうなったか自覚している事でも腹が立つ。

 だけど、なんだろうか。こいつを見てると何処かこう考えてしまう。敵ではない、と。根拠は無い、理屈もない、説得出来るほどの理由もない。

 それ以上に、この感じ。昔何処かであったんだけど……なんだろう。思い出せない。まぁ、それは置いておこう。

「で、責任とってくれんの?」

『ん、あぁ、じゃあこれをやろう』

 そう言うと、私の目の前……つまるところ、流の頭の上に光が集まって……一つの赤い結晶体が現れた。
 
「って、これレリックじゃん!」

『おぉ、そうだよー。それがあったら言い訳になるだろう。それから、流にはこれを』

 そう言うと、今度は流の左手に光が集まって、何かが現れる。それを持ち上げて……

「「……ロザリオ?」」

 黒地に、白く縁取りされ、十字の中心にワンポイントで赤いダイヤが埋め込まれている。

『あぁ。別に置いておいていいんだが、流には選択肢を与えておこうと思って』

 全てのバインドを解除して、流を庇うようにアイツを睨みつける。選択肢を与えるって。

『今回はここまでだ、余計なことをしてしまったからな』

 瞬間足元から浮き上がるような感覚に包まれる。何を?

『悪かった、今回は俺の不徳の致すところだ。最近よく人に会って舞い上がってしまった。だからこそ言おう。流、好きに生きろ。これが最後だとしてもそれに悔いは無い。だけど、もし、どうしようも無くなったらそれに祈れ。大丈夫だと思ったのならそれを捨てろ』

「ちょっと!?」「え、な!?」

 体が完全に浮き上がる、飛行魔法を使おうにもバランスが取れない。

『あぁ、後は……、これは全員に聞こえるだろう。この遺跡は今回を持って完全に閉鎖致しますので、ご了承下さいませ、それでは』

 目の前のアイツが手を合わせた瞬間、画面が切り替わった。次の瞬間にはヴァイスさんが待機している場所に転移されていた。周りを見渡すと上に居たなのはさんや、ティア達。下で逸れた響達5人。そして、私と流。
 すぐに視線を遺跡に向ける、同時に崩落が始まった。
 
 この後、流には念話を伝えた。私はウィンドベル夫婦についてのことは伏せてほしいと、と。その後は皆で遺跡の調査を行うも完全に崩落、内部はどうなってるかわからなくなっていた。
 流に渡されたロザリオも特に変わった機能はついておらず、そのまま流に持たせておくという判断が下る。そして、私に教えてくれた流の過去を皆が聞くことになった――。
 
 ただ、その前に。
 
「……騎士カリムになんてご報告したら……なん、こんな……最悪だ」

「まぁまぁ、今度何か奢るから、ね?」

 ……知らないうちにギンガさんと、アーチェの距離がすごく近づいていたのはちょっと面白いと思ってしまった。
 
 
 
――side?――

 轟音と共に入口が崩れていく。先程まで居た、白いお嬢さん方の場所も崩落した。流と会った場所に移動すれば、転送した人とは違う黒いシスター服の女性がそこに居た。閉じた傘を机に置いて、椅子に座り頬杖をついている。口元は隠れて見えないが、雰囲気で察する、笑っていることに。

『探し物、見つけてくれてありがと』

「いいえ、たまたま遊びに来たらまさかばれてるとは、ね。次からもう少し気をつけないと」

『そう言えば、会って話したのか?』

 気になってた事を質問する。するとクスクスと笑い、そして。

「ううん、気絶してたから移動しただけ」

 あぁ、結局気絶しっぱなしだったんだな、響は。

「でも、懐かしかった。小さい頃を見ただけだったからね」

『……それだよ。そんなことしたから今回イレギュラーに繋がったんじゃねーか?』

「流石に違うでしょ? でも、間違いないの。流が言ってたことって」

『……間違いないらしいが、どうも話がずれてる気がする。まぁ、もしなんかあったら祈るだろう』

 そう言うと複雑そうに唸る。

「で、謀反(・・)を起こした人に悲報ー。聖王様の完成品が出来てしまったっぽい」

『……そうか』

「もっと言うと、模造品……じゃないけれど、オリヴィエ(・・・・・)様以外にも遺伝子が持ち運ばれた、ヴィヴィアン(・・・・・・)様のが」

 それを聞いて、無い頭が痛くなる錯覚を覚える。

「……ゆりかごは押さえられてるし、どうする?」

『どうもしない。流次第だ。既に賽は投げられたんだ。俺達みたいな過去に、化物に頼る必要はないかもしれない。でも、もし必要になったら――』

 ゆっくりと彼女を見つめて

『その時は俺と流。これでも足りないからな、その時は、お前の力を借りるよ真祖の吸血鬼(ハイデライト・ウォーカー)

 はい、と、そう聞こえたときには、彼女はもう居なくなっていた。
 
 それにしても不思議なもんだ。本当に来たが、来るなら約束の日だろうって思い込んでた俺に非があったな。
 
 ――確実に今日ではないし、余計なことをすれば、悪い方向に確定するかも知れませんよ?
 
 つい先日ここを訪れたメイド服の女性を思い出す。突然この奥深くまでやって来たと思えば、色々言ってきたなーと。
 挙句の果てには俺とアイツの名前をピンポイントで言い当てるだけじゃなくて、面白い物を見せてきたし……。
 
 いや待てよ。アイツがアレを……レリックを体に仕込んでいたのを外に……俺に見せたから彼女らがここに来たんじゃないのか?
 
 ……やめよ。それはもうタラレバの話だ考えても意味がない。
 
 さ、次の訪問まで待つか。なぁに、待つのは慣れてるさ。

 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  

 

第21話 ちゃんと強くなってる事を




――sideはやて――

「――以上が、遺跡で起こった事です」

 なのはちゃん――いや、高町隊長と、ハラオウン隊長の報告を聞いて頭が痛くなる。彼女らの後ろにはスターズから叶望、ライトニングから緋凰が居る。

 遺跡にあった反応は、そこに居た誰かの反応……つまり管理局の監視システムで「人」とは判断されない程の人物。だが、実際にレリックの一つを回収したことで表向きはこれにすることが出来る。
 その上、ガジェットも居たということからスカリエッティが狙っていた遺跡とも解釈できるが、既に崩落しており調べることは不可能。うん。

 ――最悪や、これ。

 とてもじゃないが、流と同じ顔の人物の報告は出来ない。その人の言葉を鵜呑みにすれば、流の体の持ち主だった人。つまり流はどうしても、何らかの人体実験を受けた、もしくはその結果なのかもしれない。この事を管理局、地上には報告できない。いや、表沙汰にすることは出来ない。

 緋凰……いや、響達の疑惑は晴れた……わけではない。彼らが情報を流している相手はおそらく私が知っている人間。きっとそれを彼らは知っているから、それを暴露しないのだろう。もしくはもっとキツイ何かを握られているから言わないのかもしれない。
 形なりにもそれが終わった後に、これだ。流の前の部隊に問い合わせるも帰ってくる回答は、普通の管理局員。普通の武装隊員。つまり向こうも流のことを知らないし、そう言わざるを得ない状況であるということ。これ以上の情報は望めない。

 つまり、現時点で一番不味い立場となってしまったのが流である。彼が普通の人ではないということは任務に当たっていた皆が聞いている。だが、流と震離の報告から、彼から話はあまり聞けなかったという事。そして、お詫びとしてレリックを渡されたという事。

 完全に掻き回されただけや……。

 一応……というか、任務から帰ってきて流の口から聞いた話は見元引受人に出会うまでの過程を聞いた、が。おそらくこの身元引受人はおそらく鍵を握っているだろう。

 ライザ・ジャイブという人物。そして、サイ・ウィンドベルとキャシー・ウィンドベル。

 これがキーワードや。前者は恐らく管理局員に関係しているやろうし、後者2人はプロジェクトFに関わっていたのなら恐らく調べれば名前が出るはず。
 皆の前でこそ表情にだなかったけれど、恐らくフェイトちゃんとエリオのショックは大きいやろう。自分たち以外にもそうして生まれてきたかもしれない、もしくはその素体。下手すればそれ以上のことが流には行われているかもしれへんから……。

 さて。

「後ろの2人は、ウィンドベル夫妻と、ライザさんに心当たりは無い?」

 隊長陣の後ろで休めの姿勢をとっている2人に声を掛ける。

「いえ、俺は心当たりは……。震離は?」

「んーん。知らない。私もアイツからの話聞いたけど、要領得なかったし、結局何がいいたいのかわからなかった」

 なのはちゃんからの報告も聞いて、尚の事わからなくなる。流と同じ顔をした人物曰く、約束の時。あの遺跡にあるモノ。そして、その人物曰く、流と会った事があり、いつか来ることを聞いていた。

 うん、まったくもって分からへん……。

 だけど、収穫はあった。あの遺跡は古代ベルカ時代のモノ。加えて、灰色の古代ベルカ式の魔法陣を確認されたこと。この辺を中心に無限書庫に、ユーノ君に依頼を出せば……、何かしらの情報、そしてあの人物の事が分かるかもしれない。

「……部隊長。流は?」

「……憔悴しとった。せやから今日は帰って休め、そう伝えたよ」

 響からの質問に応える。皆に自身のことを伝えた流は、ただ静かに泣いていた。泣きじゃくる訳でもなく、声をあげて泣くわけでもなく。ただ静かに。過去の事を話す流の姿は見ていて痛々しかった。静かに話すその様子は何処か他人事のようで、人形のようにも見えた。
 この場にいる皆……いや、震離以外は流が特殊な生まれであってもきっと受け入れられる。響に関してはフェイトちゃんの告白を受けた実績がある。けど、震離は……。
 
「震離、流の事どう思う?」

 部屋に集まった皆の視線が震離に集まる。その中で一つ咳払いをして、そして。

「どうもしません。仲間だからとかそういう在り来りな事ではなく。私はその人を見ます。故にその程度で見方が分かることはありません」

 視線の端で響の目が鋭くなったのが見えた。恐らく流と二人きりの時に何かあったのだろうけれど……。うん。

「高町隊長。ハラオウン隊長、スターズとライトニングの様子は?」

「スターズ分隊も、特殊な事情を聞いたからと言って見方が変わることはありません」

「ライトニングも問題ありません」

 両隊長とも力強くはっきり言ってくれた。まぁ、流に限らずいろんな事情を抱えた子が多い部隊やよね……本当に。

「なら、この件は一時保留とします。緋凰と叶望は下がってよし」

「「失礼しました」」

 敬礼をした後部屋から出ていく2人を見送る。さて。

「なのはちゃんも、フェイトちゃんも、今回はお疲れ様や」

「ううん、大丈夫だけど。今回の件、なんとかなりそう?」

「うん、幸い。レリック(結果)もある。その為のガジェット(問題)もあった。調査任務としてはいくらでもなんとかなるよ」

 はははと乾いた笑い声が口から漏れる。任務としてはこれで締める事が出来る。それは本当だ。せやけど。

「……六課の情報を得ようとしている人物に、流を何の意図があってここに送った理由、そしてその人物。この2つが暫く問題や」

「はやて、ウィンドベルさんについては私が調べるよ」

「ありがとうなフェイトちゃん、お願いするわ」

 情報の面はこれで問題ない。私の方でも色んなつてを使って調べてるけど、今一収穫がない。

「なのはちゃんも」

「勿論。私の方も色々お話してみるよ」

 グッと小さくガッツポーズをするなのはちゃんと見て、お手柔らかになといいたかったけど、やめとく。ちょっと燃えてると言うか、なんというか。下手なことを言うと私の方まで巻き込まれそうや……。SLBとかな。
 
 そういや、カリムに遺跡が壊れたわって報告したけど、特にお咎めというか言われなかったのが恐かったわぁ……。
 一応というか、しばらくアーチェを捜査手伝いとして六課に貸し出してくれるのは有り難いんやけど……響たちと相性悪くてどうしようか。
 幸い、明日は休みだって言ってたし、それまでになんとかせなあかんなぁ。
 
 ……出来るか?


――side響―― 

「……で、震離よ。ウィンドベルさんとお前の関係は?」

 隣を何気もなく歩くこいつに、ストレートに質問する。

「や、別に。私も流から聞いたくらいの事しか知らないよ」

 ニコニコと笑っては居るけれど、その目は冷たい。底冷えするような目をしている。そういや初めて会った時もこんな目をしてたっけな。

「……はぁ。まぁ、何か考えがあっての事だからな。深くは聞かないよ。でも何かあったら頼れよ、じゃおやすみ」

 男子寮と女子寮に分ける廊下で別れる。こいつ、普段の演技はもう手慣れてるもんだけど、デカイ事に当たった時の演技の下手さは昔から変わらない。
 ……正直今回、俺たちは蚊帳の外だった。俺に至っては気絶して何もしてなかったしな。流のそっくりさんも会ってないからどう判断していいのかわからなかった。
 実際に会ってたら見極めもついたんだろうけど、完全に知らん人相手だとわからないし。

 流の話を聞いて、重い物を抱えてることは分かってた。だけど、間違いなくまだなにかある。でも、それはきっとはやてさんも気づいてるだろうし、下手に詮索するのも良くない。

 だが、まぁ。いい機会かもな。ライザさんとやら。名前を聞けたのは良いことだ。後はこれを調べれば、何かわかると良いな。


――side震離―― 

「……はぁ。まぁ、何か考えがあっての事だからな。深くは聞かないよ。でも何かあったら頼れよ、じゃおやすみ」 

 そう言って後ろ手に手を振りながら男子寮の自分の部屋に向かっていった。うぅむ、バレてる。下手なことしたつもりは無いんだけどなぁ。

 さて、もう一度流の話を聞いた時、微妙に話の内容が変わっていた。前の部隊の隊長から、見元引受人に変わっていたこと。それにともなって、フルネームに切り替えていた。ライザ・ジャイブ。偽名の可能性もあるし、これが本名で、偽名を使ってる可能性もある。多分、名前だけで調べても恐らくあまり引っかからないだろう。

 だが、顔は覚えてるし、顔のデータがほしいならホテル・アグスタの時の監視カメラの映像を入手すればいい。そこから詮索することも可能。

「……ハッ」

 思わず自嘲するような薄笑いが溢れた。
 ……情けない。
 流の為とかいいつつ、実際にこれは流を疑っていますと言っている様な物だ。情けなくて涙も溢れない。
 まぁいい、私も動く用意をしないと。響達程じゃないけれど、私にも色んな貸しがある。
 皆にバレないように、それを調べるか、それを誰かに伝えるか……。いや、やめとこ、私は単独で動くことが多かったし、それを誰かの協力を得るのは汚れてくれと言っている様なもんだ。

 気がつくと、自分の部屋に、私と奏の部屋に着いてた。

 さて。切り替えよう。さぁ。

「ただいまー」

「「「おかえりー」」」「あら、おかえり」

 わぁお、皆さんお揃いで。そしてティアナ? なんでワンテンポずらしたのかな? 奏とキャロとスバルは揃えてくれたのに。と言うか、お菓子パーティー中なのね。

「わ、皆お疲れー。いつもなら泥のように寝てんのに、珍しいねー」

 適当に空いた場所に座り、皆の中心に置いてあるポテチを一枚パクリ。塩が効いてて美味しいね。で、なんで皆そんなに微妙そうな顔してんのさ?

「はやてさんになんか言われた?」

「うん? いいや、特に。私も流と一緒に居たけど、同じことしか聞いてないよ。あ、キャロありがとー」

 奏に聞かれて返事をしながら、チョコ付きのプリッツェルを一本。口に加えながら話をする。途中でキャロがジュースをついでくれた。で、だ。

「どうしたの皆、集まってさ?」

 とりあえず率直な疑問をぶつける。相変わらず奏以外微妙な顔してんね。

「う、今回あんな事があったじゃない。それで……その」

 何処か落ち込んだような感じのスバル。そして、心配そうにそれを見てるティアナを見てると、なんとなく察しがつく。きっとスバルも何か抱えてるんだろうけど……。

「……奏も言ったかもしんないけど、私も同じ意見だよ。今は言うことじゃないかもよ?」

「……でも」

「きっとそれはとても大事なことかもしれないけれど、さ。それは少なくとも今ではないよ。流の事だってアレ事故みたいなもんだし」

 実際今日、あんなことになるなんて誰が予想したよ? 正直今日のメインイベントは響の新デバイスのデビューかと思ったら違ったし。

「それに、実はスバルが超ドSで、人を人とも思ってませんとか言われたら見る目変わるけどさ、そういう事だよ」

「……うん。わかった、また今度話すよ」

 相変わらず苦笑いだけど、雰囲気が和らいだ。で、だ。

「……奏?」

「うん?」

 突然呼ばれて、不思議そうに首をかしげる奏。男じゃないけど絵になるよね。でも、さ。

「フェイトさんとなんかあった?」

「ぅぇ、いや、別に」

 ちょっと、リアクションがおかしいけど、さ。親友としてはいい加減気になることも有りまして。

「そう、じゃ、響とどこまで進んだ? よく2人でいるけどキスとかしたの?」

「え゛!?」

「「えぇ!」」「へー」

 一気に奏の顔が赤くなる。こりゃまだしてないけれど……間違いなく場のスイッチは入った。

「奏さんはお兄ちゃんの何処がいいんですか!」「ねぇねぇねぇ、告白された? ねぇねぇねぇ!」

 キャロとスバルの女子スイッチが入ったのを確認。ティアナも興味があるみたいでニヤニヤとそれを眺めてる。渦中の奏はいつものような冷静さを捨てて、完全に対応が追いついてない。
 いやいや、初々しいなぁ……。

 ――いいなぁ。

 私が一番響と付き合いが長い。初めての同い年の異性……何だけど、何処か遠い存在に感じてた。隣に居るのに居ない。遙か先へそして、気がついたときには奏が側に……ううん、少し後ろで追いかけてるように見えた。

 最近はもう一人現れたけれど、それは置いといて……。エリオとキャロが響を兄の様に慕っている、けど、それは私も同じだ。初めて私を外へ連れ出してくれた人。箱庭から見える空じゃなくて、広い場所から空を見せてくれた人。
 
 優夜も煌も魅力のある人だけど、あの2人も遠くに居る。そして、既に気持ちを通じ合わせ掛けてる人がいる。会う度に距離が縮んで、今年中に引っ付くと良いなって。響は……どうだろうね。唐変木ではないし、奏からの好意に間違いなく気づいてるけど、それに気づかないふりをしているのか、わざと無視しているのか……。

 何にせよ、誰とひっついても全力で祝福しよう。そして、琴さんに報告するんだ。誰と引っ付くか見守ってと言われたから、お願いねと言われたから。
 
 あれ? そういえば……。
 
「ねぇティアナー? ギンガさんはどうしたの?」

「荷物持ってきてないし、明日はそもそも休みだからって帰ったわよ。
 ……それにしても妙だなーって言うのが一つあって、シスターアーチェと仲良くなってたのよね。何かあったのかしら?」 
 
「あー……」

 ……そういやアーチェの動向見れてなかったけど、ギンガさんと仲良く……もしかすると。

 いや。
 
「さー? 私はギンガさんをよく知らないし、シスターアーチェもあんまりだしわかんないねー」

 パリパリとポテチを貰って食べて、視線をティアナに戻せば。
 
「……す、すごい目だけど、どうしたの?」

「……はー、もー……面倒ねーほんっとうに」

 すっと両手を伸ばしてきたと思ったら、私の頬を掴んで。

「アンタも奏も、もー!」

「いひゃいいひゃい! なに!?」

 なんかティアナから怒られた。なんで?  


 ――――


――side響――

 さて、突然ですが。俺ら……と言うか、FW組、8名揃って海上訓練場に来ております。
 本当なら、アーチェとギンガも居てくれたら良かったけど、あいにく2人は本日お休み。元々割り振られてたお休みだし仕方ない。 
 さて、午前中は普通の訓練だったんだが、午後からは、なのはさんは教導隊からの呼出しにつき外出。フェイトさんは外回り、副隊長達は任務に当たってもらってる。つまり、今現在自主練……というわけなんだけど。

 それじゃあ勿体無いということもあって、なのはさんからの許可を貰って午後はミーティングと言うか、話し合いの時間に変更してもらった。
 本当ならば、色々違う話をしたかった。昨日からの今日だし。だけど、流の様子は、ある意味いつも通りで、それを取り巻く皆も何時も通りに振る舞おうとしているのは流石というべきか。
 ただ、時折ティアナの目が鋭いと言うか、何か含んだ視線を俺や奏に向けてくるのは不思議だったけど。
 
 つまるところ、完全に切り替えがついた、もしくはしたという事。けれど、流からすれば、もう過去のことには触れるなと拒否の姿勢でもある。特に……いや、無意識だろうな、皆から離れるような感じにも見える。
 情けない……という気持ちもある。だけど、この問題ばかりはちょっとやそっとでどうにか出来る問題じゃないしな。

 さて、と。森林スペースにして、8人で円を組む様に座る。ってか。

「エリオ、キャロ。別に堅苦しくしなくていいよ。気楽でいいさ」

「う、はい」「……はい」

 何だかカチコチと緊張してる2人に声を掛けとく。実際説教とかそういうわけじゃないからね。

「今日はせっかく時間空いたしな。さて、ティアナ達に質問。最近死ぬほど厳しいと思った人。はい、挙手」

 瞬間真っ先にティア、ついでスバルとエリオ、最後にキャロの順で上がった。意外と思われるのは勿論……。

「……まぁ、ティアはそうだよな。最近たまーになのはさんとタイマンという名の集中攻撃食らってるし」

「ぅう」

 膝を抱えながら、思い出したかのように震えてる。最近はその通りで、よくなのはさんとタイマンをしている。一応傍から見てると理由は分かるんだけど、受けてる本人からしたら堪ったもんじゃないだろう。
 だけど、限りなく実戦に近いせいで、目に見えて射撃の精度、捌き方を学んでいる。

「次に、スバルとエリオは……若干本気のヴィータさんに、毎回吹き飛ばされてるよな。キャロは単純に複数の射撃管制が大変だな」

「「面目ないです」」「難しいです」

 3人の沈んだ顔を見て、思わず苦笑が出る。ちなみに俺ら4人は単にフォーメーションの強化。もっと言えば4人だけで独立した動きをメインに強化していこうという感じ。更に砕いて言えば、流の為に連携をしていこうって話。
 一応奏と震離はそれぞれやりたいことを強化しているけれど、流は未だ保留。切り替えがスムーズに行かないという点を除けば、何させてもある程度出来るし、少し悩んでる。俺は指揮官として指揮の勉強。あるいは甘い点を無くしていくようにしている。

 なのはさん……周りからは、相変わらず勿体無いって言われてるけど、俺の限界点は既に迎えている。これ以上を目指せば、完全に殺人術にシフトするし、俺はこれでいい。
 その旨を皆さんに告げた。勿論強さに憧れはある。でも、この時代にそれが必要かと聞かれれば、今が最大値でいいと思う。それに、だ。

「まぁ、それぞれ方向性を見極めた上での訓練だからな。それに、多分だけど、速くて明日、もしくは明後日の訓練。特に気合入れてやんなよ」

「? なんでまた?」

 4人を代表するようにティアナが質問する。他の4人も首を傾げている。

「そりゃ徐々に一本取れそうになってきてるだろう。しっかり経験値を積んでる以上、上手くいけば答えが分かるからさ」

「毎日続けてたらね……でも、取れたら嬉しいけど、それが何になるのよ?」

「確固たる自信に繋がるだろう?」

 そう言うとポカーンと目を丸くしたと思ったら、瞬時に目の奥が燃えてるように見えた。まぁ、本来の目的は他所にあるんだろうけど、それはカンニングをやらせてるみたいで嫌になるから、やらない。
 逆にわかりきったことかもしれないけど、このタイミングで言うのもちゃんと意味がある。直接それぞれ褒められてるつっても、やっぱり負けまくってる以上、何処か落ち込む場所もあるわけで、こうやって実績があって、ちゃんと答えを言ってやると、人間だもん。気合入るよね。

「で、だ。俺が聞きたいことはそこにはなくて……。皆に質問だけど、いいか?」

 改めて4人をじっと見る。皆何処と無く嬉しそうだ。

「俺とタイマンを張ったとして。どう戦う?」

 そう言った後、数秒間が空き、皆の表情が一つになる。

 ――この人何言ってんだろう?

 乾いた笑いが漏れながらも、とりあえず、だ。

「多分というか、確実にこう思ったろ。言うわけ無いやんって。だけどよく考えなよ? 多分もう俺とタイマン張る機会は今後無いぞ?」

「いや、それは……あ、なるほど」

 それは無いでしょと言いたそうにしたティアナだけど、その理由を察してくれた。けど、他3人はまだ気付いてない。ティアナに目配せをして答えを言わないように。他3人に考えさせる様にする。不思議そうにしてるけど、冷静に考えなよ? 
 小さくキャロが手を挙げる。

「はい、キャロ」

「お兄ちゃんのあの速さと、一撃を見てると見切れる自信が……」

 キャロの発言に同意するかのようにスバルとエリオも首を振る。ティアナは奏に答え合わせをしたからか、ニヤニヤしてる。
 しかし、この発想で止まってるとは……、なのはさんが居たら訓練がもっと厳しくなると思うんだが……良かったよ。今日居なくて。

「よりにもよってキャロがそれを言うかー。もっとシンプルに考えようか? エリオもスバルもさ」

 すると、キャロの表情がパッと明るくなった。足元に居たフリードを嬉しそうに抱き上げた。さて、キャロも気づいた所で……。

「エリオとスバルはまだか-?」

「「うぅ」」

 なんか今にも煙吹きそうな感じで頭抱えてるけど、こいつら本当に大丈夫かね? まぁ、これ以上ぼやかしても意味が無いな、さて。

「じゃあ、俺から質問な。なんで君ら俺が動いた想定で考えてるの? しかもよりもよって最終手段で戦う事を」

「え、だって……ぁ、ああ!」

 パッとスバルとエリオが互いを見合う。さすがツートップを張ってるだけあるね。

「気づいた所で、答え合わせ。あくまで俺が優位を取れるのは先手を取り続けて、取りまくった結果だ。だけど、それをさせない戦い方が皆にはあるだろう?」

 悪い意味で俺対フェイトさんの試合のイメージが頭に残ってる。
 つまるところ、皆が俺に勝てないと思ってたのは、俺の土俵……つまり、得意分野を受ける想定、もしくはどうやって対処するかって事だ。戦闘に置いて絶対は無いけれど、受け身になってばっかりだと意味がない。
 これも最近の訓練の悪影響だと思う。どうやってあの人達の攻撃を捌き切るかって、最近ずっと考えていたからだと思う。その結果俺に勝てないと、そういう判断に至った。

「フェイトさんと戦った時、俺が動かさないようにしたからだ。だからそういうふうに見えた。きっと、もう一回ってやったら……もう攻撃は当たらんだろうよ。
 いつだったか、なのはさんにも言ったけど、皆それぞれ得意分野がある。戦闘は決闘じゃない。ルールはない。だから、勝利条件なんてその場その場で変わっていく。
 そして、俺に勝つなんてそれは初歩の中の初歩。自分の得意分野で押して勝つ。それだけだよ」

 訓練を積んでると、案外このことが頭から抜け落ちる。基礎が出来て、技術がついて、応用するようになると。自然と難しいことをしようとする。いつも通りとかいいつつ、難しいことをするのはやっぱり出来ない事だ。

「確かに、魔力なしの技術、体術は負けない自信はある。だけど、戦闘にはルールがない。わざわざそれに従う理由は無いんだよ。
 だから、ティアナは射撃と幻術を使って俺を近づかせなければ勝てる、スバルはしっかり防御を張って俺の攻撃を弾いて重い一撃を、エリオはスピードと電撃を用いて撹乱させればいい。キャロはフリードと射撃を使えばしっかり対応できる。そういうことさね」

 パァッと表情が明るくなる。いい傾向だ。って……

「なんで落ち込む!?」

 ティアナ以外の3人が目に見えて落ち込み出した。ティアナも何処か思う所があるのか、視線が少し下を向く。まだ、言葉が足りなかったかな?

「まぁ、でもあれだあれ。あくまで対人というか、無傷(・・)で抑えるってことを目標にしたら俺は勝てない。でもな。端的に言うと殺す(・・)、もしくは全てを以て戦うと決めたら話は変わる。けど、それで模擬戦なんて絶対しないし、そんな場合は来ないといいけどね」

 今度はスーッと青くなる。忙しいなオイ。

「得意分野を、誰にも負けないものを作り上げるって大変な事だ。同じ道を歩いてるようでも、行き先は全然違うかもしれないし」

 ふと、隣に座る流の顔が目に入った。相変わらず無表情というか、能面というか……。でもこれは流にも言える。

「自分が信じるこれは負けないってものを大切にしようって話だ。そういう意味じゃティアナは一歩先にいるよな」

「フフン、当然。兄さんの、私の……なのはさんから教わってる魔法は負けないわ」

 即答。それも凄く嬉しそうに。多分ティアナ気づいてないかもしれんけど、完全にアレだよ? 陸戦型なのはさんの後継者の道をアナタ進んでるのよ? やだわ-怖いわー。そのうち絶対収束砲を物にして、残像と組み合わせて使うぞこの子。

 しっかし、ティアナのポテンシャルって相当すさまじいよな。本当の意味での大器晩成の人。だからこそなのはさんも丁寧に育てようとした。けど、周りがメキメキと成長しているのを見て、焦って亀裂が出来た。
 だけど、今は完全に修復して、よくなのはさんと話すようになった。第二のなのはさんって訳じゃない。だけど、なのはさんが自分と同じ戦い方を教えるってことの重さ、ちゃんと感じてるといいんだけどな。

 まぁ、それはなのはさんの仕事だから、知らんけどね! というか俺、ライトニングだし! 

「お兄ちゃん。僕さ、優夜さんと戦ってみたい」

 エリオの言葉に全員の視線がそこへ向かう。俺としては正直予想外。良い変化だと思う。だけど……。

「それは何故?」

「どこまで通じるか試してみたい」

 それは最近ヴィータさんにぶっ叩かれて成長した事を実感したいことなんだろう……だけどな。

「はっきり言うよエリオ。電撃とカートリッジを使わない限り勝てない。それでもか?」

「……ぅ」

 恐らくエ