神? ああ、こっちで倒しておいたぞ


 

暦(こよみ)はここから刻まれた

 
前書き
話が進められなくなったら消します。

まあ打ち切りになってしまった原作一巻分で話が終わりますし、一話に使う文字数も出来るだけ少なくするつもり。

私の文章は目が滑るかもしれませんが読み終わるのは結構早いと思いますよ。 

 
『過去は変えられない』っていう言葉はみんな知ってるよな? その誰かさんが吹いた格言が俺の世界じゃあ過去のものになったんだ。

人類が()る出来事を切っ掛けにして【時間】を操る(すべ)と力を手に入れたせいさ。

まあ限定的にだけどな……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


1718年のある日、【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】という未曾有(みぞう)の大災害が起きて、俺たち人間の世界に『時空獣(バタフライ)』なんて招かれざる怪物がやって来た。

けど、それと同時に一部の人間だけだが【神血(イコル)】っていう力を得て、【神祝(ブレス)】の時間現象を起こせるようになったんだよ。


加速(アクセル)

減速(ストール)

過去(トレース)

未来(フェイト)

停止(フリーズ)


この五つに区分された神祝を(もっ)て初めての時空獣を見事に撃退したわけだ。

それ以降も時空獣ことバタフライは地球のあちこちに現れては人間を無に帰してきたけど神祝(ブレス)の使い手となった家系の人間は『血』を継ぎ繋ぎ、力を絶やさずに対抗している。

けどそれだけじゃないんだよ。

時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】がもたらしたのは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時空の変異遷が発生してから数十年に一度のペースで起きるようになった【大磁界】って言うのが有るんだが、この時期には特にヤバい時空獣が出てくる危険が多い。

しかしそれは『過去を改変できる好機』でもあったからそりゃあ余計に大変だ。

どういう理屈なのかは知らないが、大磁界は現在の人間を一時的に過去へと送り込めることが証明されて以来、それぞれの思惑が有った各国は協力と敵対を繰り返しながら過去の悲劇を『無かったこと』にしてきたんだよ。

二度の世界大戦や数え切れない程の死者を出した疫病の世界的大流行なんかを始め、悉く修正された結果として今の現代史では存在しない、起こらなかった出来事として処理されてしまっているわけだ。

ただ、同じ過ちを犯さない為に改変された多くの出来事について、外史としてだけだが詳細な記録はきちんと残っている。

そして大磁界が起きる度に過去を改変する権利を得る国際大会【大神暦の福音祭(アイオーン・エヴァンジェル)】が開催されるようになった。

まあ今回は開けるかどうか判らないし、開けても最期の大会になってしまうんだろうけどな。


え? なになに何だよ? さっきから長々と喋ってるお前は一体どこの誰なのかって?

そういや名乗って無かったっけ。


来栖拓未(くるすたくみ)


一応この話の主人公だよ。

他にも主人公が居るはずだけどな。 
 

 
後書き
拓未は原作主人公です。

性格変わってますけど。 

 

時の守護者

 
前書き
_〆(。。)カキカキ 

 
約10年ほど前になるだろうか。

まだ幼い頃の《来栖拓未(くるすたくみ)》が見詰める先には炎を噴き出す体を持った[時空獣(バタフライ)]が軽やかに躍動していた。

その容貌は鷹をベースにしたような形状(フォルム)で危険度は『グレードスリー』と言われ、日本の都道府県を一つ単独で落とせるくらいの強さ。

そいつは轟々と身を包む炎で自分をも焼くようにして眼下の街を蹂躙していく。

悠々と飛翔する姿は燃え盛る火の鳥として伝説で有名なフェニックスそのもの。

家屋は倒壊し、道は寸断、山は数千の火柱を(そび)え立たせ丸ごと赤くなり、時空獣の炎が次から次へと燃え移ったことで街全体が炎の渦に巻かれて一面埋め尽くされている。

そんな最中(さなか)の街に幼い拓未は茫然(ぼうぜん)としながらまともに声を挙げることはおろか、逃げることも出来ずにただただ突っ立っているしか出来なかった。

拓未の前にフェニックスが降り立つ。

(くちばし)を開いて雄叫びを挙げる。

その翼が羽撃(はばた)けば灰と化すであろうことを解る拓未は(すく)んで動くことが出来ない。

フェニックスの獰猛(どうもう)な足が振り上げられ鋭い爪の狙いが付くと、拓未に向かって落下し幼い子供の薄い皮膚を切り裂き(やわ)い肉にめり込む。

来栖拓未は一度そこで死んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


《フェニックス》の爪を喰らい吹き飛んだ拓未に向かって人影が飛び出し彼を抱え込む。

そして重症化とダメージを時間停止した。


「しっかりして、死んじゃ駄目よ」


幼い拓未を抱いたままの女性は己の指先を切って血を(こぼ)し、拓未の傷口に(したた)らせる。

するとたちまち拓未の体力が戻り、負っていた傷も跡形無く綺麗に塞がってしまった。

それに体の底から力が溢れてくる。

抑えるのが大変なほどだ。

それを見て微笑む女性の背後からフェニックスの爪が迫っていた。拓未が声を出そうとするが間に合わない。万事休すかと思われたその時フェニックスの脚がクルクルと宙を回転しながら明後日の方へ飛んでいく。

長身の男性が両刃の剣で切り上げていたのだが、目の前で起きた出来事にも係わらず、拓未には彼が何時現れたのか全く判らなかった。


「やれやれ。【アイオーン】を倒した直後だって言うのにこれか。堪ったもんじゃないな」


ついつい男性は溜息を()らしてしまう。


「まあこれで漸く全員を始末できたんだから別に良いと思うわよ。もう少し時間が掛かってたらこの子を救えなかったもの」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


《来栖拓未》が安堵したのも束の間。

《フェニックス》が切り飛ばされた足を炎の中から元通りに復活させて見せた。


「やはりあの程度では止められないか」


男性は両手で剣を構え向かい合う。


「普段なら楽勝なのだけどね。アイオーンに力を使い過ぎたせいか効きが悪い」


女性は拓未を抱えながらフェニックスから距離を取り、男性の背中を見詰めている。

そんな三者を前にしてフェニックスは両翼を広げた。膨大な熱量と強大な炎を纏っている。まとめて薙ぎ払おうと言うのだろう。

其処へ新たな乱入者が現れた。

途端にフェニックスが動きを止める。

いや、フェニックスだけではない。

拓未の視界に映る全ての炎が凍り付いたように僅かな揺らぎも起こさず静寂に伏す。


「い、一体何が……?」


そんな拓未の疑問に答えるかの如く乱入者が女性と男性へと気軽に呼び掛ける。


「父さん、母さん、大丈夫?」


乱入者は一人の少年だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


少年は拓未と変わらずあまり離れていない、まだ10才にも満たない年頃のようだ。


「助かった。ありがとうルレシオ」


父親だった男性が礼を言う。


「その歳でもうこんな事が出来るなんて」


母親だった女性も拓未を抱えたままで周囲を気にせずルレシオという少年に話しかける。

フェニックスや街を燃やす炎は停止して沈黙しており気を払う必要すら無いのだろう。

色々なことを考えている拓未の元へとその華奢で美形な少年が近付いてきた。

街を焼く炎が鎮火していく。


「父さん。その鳥は任せたよ」


ルレシオの言葉に男性はフェニックスの体を斬り刻み、(ちり)も残さず消してしまう。


「相当疲れているはずなんだけどあっさりと倒しちゃったな。流石は父さん。まだまだ追い付けそうにない。もっと頑張らないと」


拓未の前でルレシオが嬉しそうに笑う。


「さて、後はこっちの方を終わらせよう。俺の名前は《ルレシオ・ジン・シェイリアス》。君の名前を教えてくれないか?」


思えばこの時からだ。

来栖拓未が[クルセイダー]と呼称される『時の守護者』へ興味を抱いたのは。

そして自分を助けてくれたシェイリアス家との長きに渡る交流が始まったのは。
 
 

 
後書き
今作はこの段階で黒幕全員死亡。

原作は黒幕の存在を匂わせて終わってます。

原作だとこの時に過去を変えたいと拓未は思うようになります。助けてくれた人も女性ということ以外は全く情報が不明のままですしね。

伏線は張っていたんでしょうけど1巻で打ち切りになったせいで全く先が予想できない。

お陰で改変し放題ですが。
(*`・ω・)ゞ 

 

登校中

 
前書き
この話を書き始めてから文章が短いと書くのが楽だということを改めて実感しています。

 

 
「いきなり遭遇か。幸先(さいさき)が良いか悪いか判らないが、この場合は一体どうしたものかな」


左手に学生鞄を()げ、右手をポケットに突っ込んだままの少年がこの状況にはてさて自分は一体どうするべきかと悩んでいた。

来栖拓未(くるすたくみ)》は中学の卒業が迫った学生であり、日本の平均的な中3男子と比べ平均身長は周りよりも有る方だとは思う。

しかし彼の前に佇むのは車2台が並んで通行可能な道を塞ぐ一匹の巨大な[(あり)]だ。

5mを優に越し、鋼鉄を思わせるように黒光りする如何にも頑丈そうな巨躯(きょく)

[正史]どころか[外史]にすらも存在していないそれは【磁界】という現象によってこの世界に現れるという【時空獣(バタフライ)】だ。

通常兵器では傷一つ付けること叶わぬ人類の敵であり、約300年も前から天災と同様に扱われる時空の外から来た異端の怪物達。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そう言えば【繰刻環(クロック)】は預けたままなんだったっけな? 別にこれと言って要らないから忘れてたや。まあ()ろうと思えば幾らでも何とかなる程度の相手だしどうでも良いか」


のん気に構えている拓未に巨大蟻の時空獣が前脚を槍のように伸ばして風切り音を立てる。


「ほい」


しかし拓未は何の気なしに体を半身だけ逸らし、紙一重で前脚を通過させていく。その表情に焦りは見えず、心も揺るがない。

彼にはまるで、今からうたた寝でも出来そうなほどあからさまな余裕が有った。

拓未を外した巨蟻の前肢は車が浮き上がるような風圧を起こし、そこそこ太さの有る街路樹の幹を容易くへし折ってしまう。

そして勢いそのままに地面へ突き刺さると舗装されたアスファルトが無残に砕け散る。


(一般車のボディなら普通に穴が空いちまう位の威力が有るみたいだなこりゃあ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


拓未は思う。

入学する為の手続きをしに来ただけで何でこんな目に遇わなきゃいけないのか。


「そう思ったら何かだんだんと腹が立ってきたぞ。普通に片付けてやろうかな」


出来るだけ力を隠しておきたいのだが、それを差し置いて(いら)つきが先に来る。思考を別のことに割きながらも拓未の体は最小限に抑えた動作で悉く蟻の攻撃を(かわ)し続けていた。

鍛え抜いた反射神経と反応速度に冴え渡る六感、そして大嫌いな父と拓未が憧れて止まないシェイリアス家の人達との研鑽を積み上げた武術の経験が加わり彼の血肉となっているが故に可能な挙動だろう。

蟻の前肢が振るわれる度、拓未の視界に映る光景は物言わぬ瓦礫の山と化していく。

これ以上街を壊されるのを黙って見ているのも問題なので()む無く攻撃に移ろうとポケットに入れていた右手を抜こうとした時だった。

まさにその瞬間である。

唐突に警報音(サイレン)(うな)り、けたたましい騒音を上げながら周囲へ鳴り響いていく。

どうやらやっとのことで近くに在る学園が時空獣(バタフライ)のことを感知したらしい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はぁ~……今になって漸く気付いたかよ。俺が時間稼いでなきゃ遅すぎるんだってーの」


拓未がそう言うのも無理は無い。

彼が来る少し前から居たということは、この巨蟻が現界して暴れ出してから最低でも数分は経過しているということなのだから。


(この警報音、俺が行く学園のやつで間違いないんだろうけど、期待はできないな。あの二人以外にまともな生徒か教師が居れば良いけど)


拓未は元々からして今向かっている学園に興味も行く気も無かったのだがシェイリアス家の子供である二人が通っていると聞いて行くことを決めたのだ。


(そうでなきゃあ誰があんな学校に行くものかよ。自分の姉妹や幼なじみが在籍しているとは言え話題に登るのは真っ平御免だからな)


人類の為というのは理解しているが、嫌悪の対象である父の目論見に乗って人生のレールを決められるつもりなど拓未には更々無かった。


「俺が学園でパートナーに選ぶ生徒が居るのならば、彼か彼女だけだ。もしそれ以外に居るとしたらあの救世主二人しか居ないだろう。他の人間と組むのは考えられないよ」


それ以外は彼の選択肢に存在していない。
 
 

 
後書き
この話だと拓未のパートナー選択基準がオリキャラなので他は眼中に入らないですね。

まあペアを組みたかったとしてもオリジナル設定の都合で選ぶことは出来ませんが。 

 

登校中2

 
前書き
どれくらいで終われるかな。 

 
「【時空獣(バタフライ)】だっ!」

「早く学園(こっち)へ!」

「落ち着いて下さい!」


来栖拓未(くるすたくみ)》の向かっていた学園ではまだ住民の避難が終わっていないようだ。

入学受付で人が集まっていたせいも有るだろうがそこに一般市民も駆け込んでてんやわんやのお祭り騒ぎ。まるで統制が取れていない。

わざわざ拓未が時間を稼ぎ、警報が鳴るまで一人で粘っていたと言うのに。


「むぅ……今俺が逃げたらちょっと危ないかな。主に向こうの方がなんだけどさ」


父親いわく『落ちこぼれ』であったせいも有って普通に入学するより3年ほど遅れはしたものの、[クルセイダー]を目指している身としては彼等を見捨てるわけにもいかないだろう。


「まあ春休みではあっても学園は全寮制。あしらっていれば誰か来る筈だ。……たぶん」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


黒光りする巨大な蟻の時空獣は前肢と中肢の合わせて四本を振る。突き、払い、踏み、かち上げをその大きさからは想像も出来ないほど速く連続して繰り出す。

拓未は兎に角この巨大な相手を引き付けて学園から離れようとしていた。その間に沢山の人が学園の敷地へと避難していく。


(避難訓練の成果が出ているのか? 思っていたよりもスムーズな行動だ。これならあまり頑張らなくとも良さそうだな)


そんなことを考えていると、拓未の前に居る巨蟻の様子がおかしくなっていく。

目は真紅に変わり、口から(よだれ)(こぼ)しながら明らかな興奮と苛立ちに身を包む。

その唾液が落ちてコンクリートの地面に触れると鼻を突く白煙を立ち(のぼ)らせる。


「この刺激臭……酸か。それも強性の」


拓未の見ている部分がドロリと溶けた。

逃走など最初(はな)から考えていない。

何せ今日訪れたばかりの街だ。

土地勘も無いし地の利も得られないだろう。


(なら時の運か人の和か)


それとも誰か来ない内に倒すかの選択だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「伏せなさいッ!」


巨蟻の時空獣(バタフライ)を見据える《来栖拓未(くるすたくみ)》に何処かから凛とした声が掛かる。

彼は膝を曲げ気味に(かが)み込む。

風を切りながら圧と共に拓未の頭上を通り過ぎるものが有り、まるで硬質の金属が(ひしゃ)げてしまったような激しい衝突音が鳴った。

拓未は屈んだ状態から体を浮き上がらせるようにしながら後方へバックステップして跳ぶ。

頭を上げた視界の先に有ったのは拓未の背丈くらい長く大きな斧のハルバード。

その()には鋭い穂先が付いており、根方の口金には見事に赤く染め上げられた二本の紐が意匠のように(くく)り付けられている。

最も印象深く残る三日月のような刃先が備わっている斧頭(ふとう)には薄っすらと紋様が浮かぶ。


(機械式時計の歯車を模した紋章……。【時空神(アイオーン)】の加護を示すんだったな)


拓未は斧と巨蟻を見比べる。


「お見事」


鋼鉄を超える強度を持った時空獣の外皮を貫く程の力で投擲(とうてき)されたらしい。


(クルセイダーの養成学校に通う普通(・・)の『学生』が持つ力としては、だがな)


彼は《ルレシオ・ジン・シェイリアス》や彼の妹《ルミア・シャル・シェイリアス》のことを考えながら自分を助けに来た人物の方へ振り返る。


「大丈夫!? 動ける!?」


其処に居たのは学園の制服を着た、金髪を(なび)かせて、エメラルドのような翠眼で焦りを見せながら、心配そうに拓未を見詰める華奢ながらも力強い、安心させるような背中の気品立つ美少女だった。


「……」


拓未は判らないよう少女を観察して有している力を値踏みし学園のレベルを測ろうとする。


(この娘がこの学園のトップクラスかな? それとも中堅辺りだったりするのか。もし彼女の力で下位に甘んじていると言うのなら、俺が思うより学園の生徒も捨てたものじゃあないんだが)


自身の姉妹も通うクルセイダーの学校へ立ち寄ったことも無く、強さの基準が規格外しか居ないシェイリアスの拓未では少女のことをどう判断して良いものか解らない。

が、判ることも有る。


(3年前……いや、下手をすれば5年前の俺よりも弱いか。まあ当然かもな。あの四人とクソ親父を相手に10年は()り合ってきたわけなんだし、もし負けてたりしたら困る)
 
 

 
後書き
カットしようと思えば大量にシナリオを省けるんですが味気無くなってしまうので。 

 

登校中3

 
前書き
やはり文字数が無いと話が進まないな。

100話を超えるか。 

 
「クルセイダー・《天崎小夜(あまさきさや)》、行きます!」


来栖拓未(くるすたくみ)》と巨大な蟻の【時空獣(バタフライ)】の戦いに加わったのは細身でスレンダー且つ、しなやか、顔立ちも整い深窓の令嬢を連想してしまうか弱そうな少女。

規格外である拓未にすれば自分より頭一つ背が低い彼女は全然頼り甲斐が無い存在だ。

しかし日の光が照り返す金色(こんじき)の髪と揺るぎ無い意志を閉じ込め結晶にしたような翠緑の美しい瞳を携え威風堂々と立つその姿は儚さを感じさせない。


(【クルセイダー】──『時の守護者』とも言われ、時空獣がもたらす災厄から世界を300年近く守っている武人達。その最高峰が俺の目指しているあの四人だ。最もルレシオさんとルミアさんは資格を持っていないからカウントされていないみたいなんだが……)


シェイリアス家の四人は誰もが、特に他のクルセイダーが認めざるを得ない、そして二度と達成されることの無い奇跡の大偉業を成し遂げている。


(お陰で世界中の政府や俺の親父からは怨まれてはいるが、そのお陰で時空獣は激減したし、【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】から数が一定していた【神血(イコル)】の持ち主も減った)


クルセイダーが減ったのは仕方がない。

それはそうなるであろう。

現在シェイリアス家以外のクルセイダーが持つ神血の根源となる存在をシェイリアス家であらゆる時空から跡形も無く綺麗さっぱりと消滅させてしまったのだから。

時空獣が少なくなればクルセイダーが戦力として必要とされる需要も少なくなるのは当然。

まあ元からして時空獣が地球に現れたのもその存在が原因だったので仕方ない。


(やはり本来は人間が時間を(いじ)くろうなんて言うのが(ことわり)に反してるんだろうな)


ちなみにシェイリアス家の人々は[時空の変異遷]が起きるより千年以上も前から代々に渡って[神血(イコル)]の恩恵無しで何らかの時間能力を扱えていたので関係が無い。

そして現シェイリアス家の四人から血を受けた拓未も五人目の例外になっている。

例え他の人類が神血を喪失してしまおうと彼等だけは変わらず力を行使するだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


話が逸れた。今はまだ目の前で起きている戦いに注意しなければならない。

天崎小夜が右腕を空に伸ばすと中指に()められた銀色に輝くリング、彼女の【繰刻環(クロック)】が共鳴を起こして時計のように複雑に、そして精密に内部へ組み込まれた小さな歯車の群れが連動し音を立て、時を刻み出す。

指輪のギアが稼働すると共に光を放ち、大きく膨張しながら変様して形状を整える。


神器投影(アドベント)・メテオハルバード」


彼女が名を呼び光が飛び散った後に現れたのは巨蟻に突き刺さっていた紋章付きの長大な斧。

拓未が時空獣をチラリと確認すると、今あそこに出てきた斧に連動して巨蟻に深々とめり込んでいたはずのハルバードが消え去っている。


(もしや彼女は五種有る時間の【神祝(ブレス)】であれ(・・)を使うのかな? それにしても体格や身体能力に釣り合って無さそうな武器だ)


しかし小夜は彼の考えなど知りもせず、その細い右手のみで楽々と(かつ)ぎながら膝を曲げる。


「行くわよっ!」


彼女は深く沈んだ体勢から反発する撥条(ばね)の如く跳躍し、巨蟻の背丈より高度を取りながら両腕でメテオハルバードを上段に構えた。

そして重力に押され、引力に引かれて落下する慣性と速度、自身の体重と力の乗せ方による衝撃の増大も利用して巨蟻のまるで黒い鋼鉄のような頭頂部を目掛けてハルバードをこれでもかと言うように勢い良く振り下ろす。

すると小夜の攻撃を避けることが出来なかった時空獣(バタフライ)は御自慢の巨躯(きょく)をまるで軽く(まき)でも割るかのように一刀両断となってしまった。
 
 

 
後書き
オリジナル設定の紹介する機会有るかな? 

 

登校中4

 
前書き
φ(゜゜)ノ゜ 

 
如何に【時空獣(バタフライ)】とは言っても体が真っ二つになってしまっては生きていくことが不可能である。

ましてやこの巨大な蟻は危険度の指標である[グレード]がかなり低い方の筈だ。

戦いを観察している《来栖拓未(くるすたくみ)》は時空獣の強さからそう判断していたのだがどうやらコイツは珍しいタイプだったらしい。

肉体が分割された巨蟻は切断された片割れ同士が求めるように動き、雑な形で接合されていく。再生しきれていないのか動きが遅くはなっているものの普通の人間を相手取るには十分。


「自己修復? 生意気にもこのレベルで結合因子を持つのかしらね、腹立たしい」


天崎小夜(あまさきさや)》は武器の[メテオハルバード]を振るい、今度は縦にでなく、横の水平方向へと撫で斬りにし、上下に割ってやったが巨蟻は先程と同じように修復していった。


「このっ……しつこいわよっ!」


彼女の斧による斬撃は次々と巨蟻を切り裂くものの結合による自己修復が留まることは無い。

動きを封じる為に肢を落とせばそれが繋がり数を増していく有り様になっていた。

元の形へ戻ることを考慮しない雑な肉体再生のせいで、もはや時空獣は蟻としての様相からはかけ離れたものになってしまっている。


(彼女の攻撃が苛烈で手加減していない分、それが顕著に現れてるな。さて、俺はどうするべきなのかな? 協力して時空獣を倒すか、彼女を置いて一人で逃げるか、それとも二人で学園に避難するか、はたまた気付かれないよう俺が一人でさっさと片付けちまうか……)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まったくもう。学園(ウチ)の戦力が出払ってる時に限ってこんなのが来るなんて。個体としての危険度(グレード)は低いみたいだけど、結合修復の勢いが想像以上に厄介。正直こいつを倒すのは私一人の単独(ソロ)じゃあ辛いかも……!」


しつこく自身に向かって来る巨蟻の[時空獣(バタフライ)]を相手に嫌な予感が頭を(よぎ)った時、《天崎小夜》は自分達から距離を取って後方の物陰に隠れながら戦闘を覗いている《来栖拓未》へと、半分だけ顔を振り向かせた。


「行ける!?」


小夜の顔には甘さが無かった。


(実戦経験は積んでるみたいだな。顔の幼さと表情が行動に一致してない。年上なのかも。俺より弱いが一般(・・)の学生クルセイダーとしてはマシな部類なんだろ)

「再来月から入学する予定なんですよ」


拓未は正直に答えておいた。


「編入生か……。なら()れるわよね。今は人が足りてないの。気を逸らすだけでも良いから貴方の力を貸して!」


拓未から見て小夜は自分と時空獣との戦力差・戦闘状況を正確に判断できている。

彼女には自分のプライドを捨てて他人(ひと)を頼り、出来るだけ早く困難な事態を打開しようという合理性に加え、全く知らない誰かとでも力を合わせられる協調性が有った。

ただ強い奴は己の力を過信して油断したり(かたく)なに一人で戦うことに固執(こしつ)することも少なくないが、本当に強い奴は譲れない(こだわ)りや曲げられない信念と共に割り切りや柔軟性を持っている。

小夜のそういうところは拓未にとってクルセイダーを目指す者として好意的に取れる部分だ。


「すみません。実を言うと今日は学園の方に自分の【操刻環(クロック)】を預けていまして」

(普通の【時の守護者(クルセイダー)】には無理なんだが俺は無くても時空獣と戦えるんだよな)


その答えに彼女は顔をしかめた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「間が悪いわね……。実を言うと今は私以外のクルセイダーが学園に居ないの。こうなったら仕方ない。兎に角やってみるしかないわ」


小夜は迫り来る巨蟻の肢を容赦なく斬り飛ばしてから自分のポケットに手を入れると指輪を取り出して拓未の方へ向かって投げ寄越す。


「それを使って頂戴。私が常に用意している予備の【操刻環(クロック)】なの。大丈夫、誰でも使えるように調整されてるから心配は要らないわ!」

(準備良いなおい。まあ何の意味も無く俺の力がバレるよりはマシだからな。やるか)


拓未は困ったように苦笑いをしながら右手の中指を彼女から受け取った指輪に通す。

それを確認した小夜はまるで躊躇(ためら)うことも無く、ごく自然に手を差し出してきた。


(やっぱりこうなるのかぁ~。まあこれしか手は無いよなあ。彼女の実力だと)

「握って!」


拓未は仕方なく手を掴んだ。


「エンゲージメント!!」


小夜が叫ぶと二人の付けたリングが光った。

まるで車のギアが入れ替わり、走行する為の速度域が上がるように、操刻環に内蔵された歯車がカチリと鳴って勢い良く回り出す。

小夜が操刻環を起動してメテオハルバードを出した時よりも歯車が高速で回転し、同期した二つの指輪からは光が伸びていった。

光は二人の腕に渦を巻いて絡み付く。


(ああー……死なないと良いなあこの娘)


もしクルセイダーとしての鍛練を父の教育でしか学んでいなければ死にかけていたのは自分の方であることを拓未は理解できているのだ。

つまりこの後で小夜の身に何が起きるのか拓未には察しが付いていた。だが彼女があの巨蟻を倒すまでの時間は持ってくれるだろう。


「リング・ザ・エンゲージ!!」


指輪が光の放出を終えて小夜が唱えると両者の腕を覆った光が一際強く輝いた。

更に膨れ上がった光は二人の腕を包み込む。


「こ、これは一体……!? いえ、今はそんなことどうでも良いわね。それよりも貴方の【神血(イコル)】を使わせてもらったわよ!」
 
 

 
後書き
久し振りに一日で二話書きました。

一話が短いですけど。 

 

登校中5

 
前書き
φ(-ω- ) 

 
来栖拓未(くるすたくみ)》が《天崎小夜(あまさきさや)》に渡された指輪の【操刻環(クロック)】に力を流すと内蔵された歯車が回り出し光を放つ。


「そんじゃ加勢しますか、神器投影(アドベント)


光が膨張して罅割(ひびわ)れると刃渡りの短いナイフが拓未の手元に現れ握られていた。


「一本が限度か。仕方ないな」

(俺の持ってる相性はシェイリアスの人達以外とは悪いからなぁー……。その分のステータスは一人で戦う方に割り振られてるみたいだから問題ないんだけど)

「ふーん、初めて見たわ。ナイフを使う【クルセイダー】なんて珍しいわね。【時空獣(バタフライ)】だとあまり効きそうにないのに。まあ良いか。それじゃあ行くわよ!」


小夜は言うと同時、[メテオハルバード]で巨蟻の肢を割けるチーズのように切り裂いてしまう。

彼女に続いて拓未も躍りかかると頭の外皮を破り、再生の繰り返しで関節が増え、触手のようになってしまった肢をバラバラにする。


「良し、間が空いた。喰らえッ!」


小夜が力任せにハルバードを投げ付け巨蟻を斜めに寸断するが攻撃は終わらない。

修復を始める前に刺さった武器を抜いて再び投げつけるも今度は地面に突き刺さってしまう。

相変わらず巨蟻は修復を続け反撃を行おうと藻掻(もが)くが小夜は攻撃を避けては武器を拾い、狙いも付けずにひたすら投げるだけだった。

もちろん攻撃が当たることも有ったが全て命中しているわけではないので巨蟻の持つ自己修復の度合いに対して上回らないくらいの頻度(ひんど)に留まっていては足止めにしかならない。


(生命活動を奪う為ではないこの一見無駄とも取れる彼女の動き。やはりあの【神祝(ブレス)】を使って戦うと見た。ならばもう俺の出番が回って来ることは無いんだろうな)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


暫くして天崎小夜はハルバードを投げるのを止めると巨蟻の方を睨んでいた。

どうやら仕込みは終わったらしい。


(そりゃまあ、あれだけ念入りに準備すりゃあ躱すも修復も関係無いだろうよ。この時空獣(バタフライ)は恐らく一番弱い『グレードファイブ』に相当する。その割にはしつこい再生持ちだったが彼女が先刻(さっき)まで用意した攻撃ならば確実にあの蟻を殺し切れる規模になるだろう)


小夜が右手を上げると操刻環(クロック)の歯車が順次軋みを上げて回り出す。そして最後の歯車が音を立てると手に持つメテオハルバードが消失した。


「さあメテオハルバード。因果を超えて招来なさい。[ヴァイスセレナータ]!!」


叫ぶと巨蟻の背後から現れ両断する。

そして直ぐに姿を消す。

また別の場所から出て切り刻む。


(あのハルバードが出現する位置、飛ぶ角度や速さは決して不規則じゃない。先刻までの彼女が投げていたものとまるで同じものだ)


メテオハルバードは小夜の投げた軌道を再生して挙動を起こしているらしい。

彼女は『過去』から武器を持ってきた。

何度も武器を巨蟻に向け、狙いも付けずひたすら投げ続けていたのはこの為だ。

あの時外れても今当たれば問題無し。

これが小夜の必殺技[ヴァイスセレナータ]


「人類の一部が大災厄・【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】によって得ることになった【神血(イコル)】の力によって発現する五つに大別される【神祝(ブレス)】の一つ」


過去(トレース)


それが小夜の持つ神祝だ。
 
 

 
後書き
原作だとかなり特殊な存在以外はブレスを一種類しか使うことが出来ません。

二種類使えるキャラも原作の日本では確認できる限り主人公である拓未の姉一人だけ。

だから今作の拓未とシェイリアスの人間が設定で異常になっているんですけども。 

 

登校中6

 
前書き
何時もよりは少し長い。 

 
天崎小夜(あまさきさや)》の攻撃によって巨大な蟻の【時空獣(バタフライ)】が為す(すべ)も無く崩壊していく。

倒すのは間近と確信した時、《来栖拓未(くるすたくみ)》はこちら側にもう一匹、同じタイプの時空獣が迫っていることに気付いた。

小夜は必殺技の[ヴァイスセレナータ]で自分の武器である長斧の『メテオハルバード』を飛ばす為に時間を操作しており気付いていない。


「ちょっと行ってくる」


拓未は一足跳びで此方(こちら)に向かってくるもう一体の巨蟻と間合いを詰め、【操刻環(クロック)】で作り出したナイフ一本で素早く重いハンマーのような肢による攻撃を、いとも容易く捌き切る。

そのせいでバランスを崩した巨蟻がグラついたのを見逃さず、驚異的なステップとフットワークによって周囲を駆け、或いは跳び、時に幻惑しながら巨大な体をみるみるなます切りにしていく。

拓未が遊んでいる間に小夜は巨蟻の頭へとメテオハルバードを落とし、動きを止める。

どうやら彼女の方は決着が付いたようだ。

再生能力の限界を超えた時空獣は灰と化して空に舞い、風に流され消えていく。

そして彼女は拓未の方へと振り返るもそこで信じられないものを目撃することになった。


「何よアレ……。一体何なのよアレは? 幾ら【クルセイダー】とは言え人間が時空獣に対してどうしてあんな真似が出来るのよッ!?」

(いや、そんなことを言われてもなあ。俺は自分に出来ること(・・・・・)しかしてないんだよ。普通じゃないことは重々承知の上なんだけどさ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


小夜がその目に映したのは拓未が巨蟻の肢を事も無げに左手一本で跳ね()けている光景。

ナイフは右手に有るので素手だ。

しかも拓未が肢を払う度、少しずつ巨蟻の方が体を揺らがせながら下がっていた。

小夜はこの応酬に覚えが有る。


「まるで体格・体重・技術に圧倒的どころじゃない実力と格の差が付いているような。それこそ関取も顔負けの体で武の才能にも恵まれた達人を只の赤ん坊とじゃれ合わせてる感じにも取れてしまう。体格と体重はあのデカい蟻が桁違いに上なのに」


実際、拓未は巨蟻の一撃を赤子のハイタッチくらいにしか思えなかった。技術うんぬんと言うより質量が違い過ぎてまるで響かない。

ボクシングでは細かく体重が設定され階級も多く別けられているが、その比では無かった。


「悲しいなぁ。散々に【神祝(ブレス)】が無い人間を追い回しておいて挙げ句の果てがこれか。この木偶(でく)の坊が……調子に乗るのも大概にしろよ? お前ごとき俺の眼中に無いどころか道を歩いてる時に踏んでも気付かない程度の砂粒みたいな存在なんだから大人しく寝てろ」


彼は巨蟻へと歩を進め、前肢を一本左手で掴むとそのまま肢の根元から雑草でも抜き取るように豪快な力任せで引き千切ってしまった。

人間の身体能力と技術ではどうやっても絶対に不可能であり、有り得ない芸当だ。

拓未は小夜の驚愕を気にせず更に踏み込むと、腹の下に潜り込んでジャンプしながら垂直に真上へとストレートパンチを繰り出し胴を叩く。

すると体重が20トンを優に超す巨蟻のボディが紙風船でも飛ばすように浮き上がる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



(ホント……何なのよ彼。実は人間の形をした【時空獣(バタフライ)】か飼い主だったりしないわよね?)


《天崎小夜》は嫌な汗が止まらない。

目前で無双している少年が敵で襲ってきたら絶対に勝てないことが解るから。

自分の[過去(トレース)]では相性が悪すぎる。

遥か上空、それこそ雲の辺りまで巨蟻を打ち上げた《来栖拓未》は一旦着地すると、相手が落下し始めたタイミングで跳躍し、グングンと近付いていく。

その脅威に感付いた巨蟻は(あご)を開き酸性の液体を吐き出して抵抗してきた。

普通に考えれば拓未には躱せないだろう。

しかし彼が慌てることは微塵(みじん)も無かった。


「悪いな。その程度の攻撃しか出来ないなら俺に回避する必要なんか無いんだよ」


それは拓未自身が《セルビア・シュール・シェイリアス》に血を与えられ、再び命を宿すよりも以前、生まれ付き持っていた【神祝】の種類に依るもの。

酸が大気に広がり雨のように降り注ぐ。

これには拓未のことを地表から眺めることしか出来ない小夜も思わず肝を冷やす。

彼が負ければまた修復する巨蟻と一人で戦わなければならない状況に追い込まれるから。

だがその心配は無用。

空中で酸の雨粒が球体のまま止まる。

拓未は固定された無数の酸雨を足場として宙を蹴り上がり、落下してくる相手の勢いも利用してカウンターのようにナイフで真っ二つに斬り裂く。

信じ難いことに拓未は短いナイフの刃で届かない巨体の奥深くを剣圧で切断したのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「今の神祝(ブレス)は、まさか……!」


小夜が勝利を見届けた瞬間だった。

急に彼女の体が重くなり頭も回らない。

そして耐えられず膝を着いてしまう。

落下する拓未はそれを見て悟る。


嗚呼(ああ)ー……やはりそうなったか。俺の【神血(イコル)】を使って[エンゲージ]するのは不可能なんだよ。あの人達を除いてな。基本的に出力が低い方から持ってかれる筈なんだがシェイリアスの神血は性質が特殊らしい」

(まあ低出力でも高威力を発揮することが出来る超低燃費で高効率な省エネ型だから対人相手の長期戦や手数、一撃の強さでは反則になってしまうほど有利っていう点も有るんだよな)


拓未は地面に着地すると倒れていた小夜に肩を貸して学園の方へと歩き出す。


「もうこんな時間か。俺が入学してからのトラブルじゃなくて本当に助かったよ。授業を半分もサボってられないからね。別に無許可で【クルセイダー】の活動して問題無いならあんまり来ないだろうけど」


学園の校舎、その最上に備えられた時計は丁度12時を指すように針が重なる。


「ねぇ、貴方の神祝って───」

「ノーコメント。今はね」
 
 

 
後書き
原作の世界観設定だと、只の素手による戦闘方法を以て時空獣を相手取るような人間キャラクターは絶対に存在していないんでしょうね。

次から学園入学です。 

 

編入

 
前書き
さてどれだけ原作を削るか。

 

 
時空獣(バタフライ)】との戦闘から二ヶ月が経過した。

今日は四月七日。

普通の学校なら入学式をしている頃。

来栖拓未(くるすたくみ)》の入った【九曜学園】でも第一講堂では式の真っ最中。

しかし今年から来た拓未は第二講堂で在校生と共に始業式を受けている。


(編入してきたのは俺の他に四人だけか。判っちゃいたけど俺みたいのは少ないな)


時の守護者である【クルセイダー】を養成する為の学園において入学式は中学に進む年令と同じ12才で入ってきた生徒に限られるらしい。

拓未のように中学を出て15になってから入学する人間はかなり少なく3つも年下の中に混じって入学式を行うのは酷でもあるだろう。

学園としても、【遅刻延者(ストレンジャー)】と蔑称(べっしょう)揶揄(やゆ)されるような中途編入者を一般入学生と共に扱うのは問題になってしまうだろうと考えている。


(入学生を省けば全11クラスの245名。この中にあの二人が居るはずなんだが見えるところには居ないのか。ていうか俺は気にしないけど他の編入生4人は可哀想だ)


拓未と彼等は体育館の壇上から最も離れた隅で固められており、遠慮無く此方(こちら)を見てくる在校生の視線に(さら)されてしまう。


(早く終わんないかな)


拓未は校長の長話を右から左に受け流しながらぼーっと退屈を紛らわせていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なあ、此処に座ってるってことはアンタも編入生ってことなんだよな?」


拓未の肩を隣の生徒がつつく。


「あっしは星野、宜しくな」

「俺は来栖拓未。そういや俺達のクラスを聞いてないんだよな。いきなり上位は有り得ないだろうが一体何処に……」

「Eクラスだろ」


星野は少し気落ちして答える。

九曜学園は学年や年令ではなく評価によってクラスが分かれ、15才からの編入生は総じて漏れ無くEクラス行き。


「最上位のAクラスが一つ。Bクラスも一つ。Cクラスで二つ。Dクラスも二つ。最下位のEクラスが三つ。そんでもって新入生のクラスが二つという構成になっとるらしいで」


星野は憂鬱な顔をしているが無理もない。

普通の神経ならそうだ。


「中途編入者は遅刻延者(ストレンジャー)と言われ(さげす)まれるんだったな。折角受けている授業の進行を遅らせてしまう落ちこぼれだと」


しかし拓未にとって周囲の学生や教師から受ける評価などどうでも良い。クルセイダーになれれさえすれば構わないのだから。

それが叶うなら後はシェイリアスの二人と競い合いながらチームを組むことのみ


(あの二人だと強くとも【神血(イコル)】の諸事情でEクラスに居るかもしれないな。俺としては有り難いことではあるんだが)

「学園の考えとしたら、あっしら程度の奴は辞めても構わん。サボりたいなら別に良いし、怠けたけりゃ好きにしろだし」


星野は現実を見て受け止めている。

もしかすると気が合うかもしれない。

拓未はそう思った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「中途覚醒組の意地を見したるわ」


そう言って背中を叩く星野に拓未は苦笑しながら本当のことを話し始める。


「実を言うと中途覚醒じゃないんだよ俺」

「ファッ!? そうなん!?」


[中途覚醒]は中学に入学するより後で『神血(イコル)』の力に目覚めた者のことで、小さい頃から扱えていた者とは違い、総じて発揮できる力が弱く、クルセイダーにまで這い上がって来られるのは極僅かしか居ない。


「一応は12の時にギリギリで受かれるだけの数値は出てたんだけど、クソ親父が都合で入学すんなってほざきやがったんだ。でまあそれ以降もずっと修業してた。中卒になったのを機にやっとOKを出したってわけさ」

「えろうけったいな父親なんやな。はぁ~まったく難儀なことや。何考えてんねや来栖の親父さんは。嫌がらせかな?」


拓未がシェイリアスの方へ家族を放り出すくらい懐いているので嫉妬かもしれない。


(いや無いわ。親父(あれ)がそんなこと思ってるなんて考えただけで鳥肌が立つ。もしそうだったら引くわ。マジで吐き気を(もよお)す。母さんは普通だったし姉妹はウザいくらい過干渉だったけど)

「ぶっちゃけ親父との修業で神血の値は全く伸びてないんだからな。だからずうっと才能が無い没個性って言われてきた。まあ他の人、4人に限定してだけど相手をしてもらったお陰でメチャクチャ伸びたんだよ。もし親父の修業だけこなしてたらまだ中途覚醒の方がAクラスに上がる確率で上だったと思う」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


星野はうーんと悩みながら()べる。


「強いに越したことは無いんやけども、力は持ち主の扱い次第やからなぁ。あんさんにも何かしら『変えたい過去』が有るから九曜(ここ)に入ってきたんとちゃうん?」

「いや、そんな過去は無い。俺は階級が低くても良いからクルセイダーの資格が欲しかっただけだ。はっきり言えば海外の方でも構わなかったんだが此処(ここ)が一番近かったから来た」


拓未の意外な返答に星野は言葉に詰まる。

クルセイダーになろうと思う人間は何かしら過去を変えたいはずなのだ。そういう人間が集まってくるのが九曜学園のような場所。

だからこそ拓未は異端に映る。


「……そうなんか。まあ後悔が無い人生遅れてるんやったら良えと思うで? もし同じクラスに入ってしもたんなら宜しゅうしてや」


その内につつがなく始業式が終わり、在校生も自分達の教室へと戻っていく。

編入生は集められ、それぞれが各々の所属するクラスが何処なのか伝えられる。

Eクラスは3つ。

二人・二人・一人で別れた。


「そっちのクラスの編入生は拓未が一人だけになってもうたか。災難やな。せやけど気ぃ落とさんでも大丈夫や。また合同授業で会えるからそん時は頼むで」


拓未は自身のクラスにルミアとルレシオが居ることを願い、四人の編入者と共に第二講堂を後にすると本校舎に向かった。
 
 

 
後書き
この辺りで設定を出した方が良いかなあ。 

 

自己紹介

 
前書き
ああ~原作キャラ省きたい。 

 
「ふうん……此処が俺のクラスか」


来栖拓未(くるすたくみ)》は【九曜学園】の本校舎一階に在る3つのクラスで一番奥の9組に到着する。

他の中途編入者4名は7組と8組に別れ、9組と同じEクラスの教室へ入っていった。


「それじゃあ御登場だ。入って良いぞ」


扉の向こうから声が掛かる。

どうやら担任は女性らしい。

教室へと足を踏み入れた拓未は然り気無く24人のクラスメイト達を確認していく。

其処には幼馴染みと捜していたシェイリアスのルミア、ルレシオ兄妹の両名が居た。


(良し! これで条件は整った。後は俺が予定していた通りに行動するのみ)


そのまま教壇に上がった拓未に女性教師は鋭い目をしながら白いチョークを渡す。何やら砂時計を持ったまま黒板を小突いているが、名前を書けということであろう。


(世界最先端を行く学園の一つなんだから、こう、もうちょっとさあ、やりようが有るだろ。はあ~本当に日本って変なところで懐古な手法を取ってくれるよなあ……)


拓未は名前を書いて名乗る。

好奇に見下し興味無し。

実に値踏みする視線だ。

しかし三人だけは違う。

二人の女子生徒は薄っすら笑みを浮かべ、一人の男子生徒はアイコンタクトを送ってきた。


「さて、自己紹介も終わったことだし誰か来栖に質問が有るやつは居るか?」

「はい!」


女教師の言葉に一人の男子が手を挙げた。


「名字が『来栖』ということは……もしかしてあの(・・)[名物三姉妹]と何らかの関わりが有ったりなんかしたりするんですか!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


実を言うと拓未は正直この質問が来るであろうことを以前から予想していた。ルレシオとルミアには、あの3人が学園で一体どういう状況に有るのかを聞いていたから。


「その三姉妹って美凪(みなぎ)姉さんと蛍火(けいか)紗雪(さゆき)のことで良いんだよね? でなければ赤の他人になってしまうわけだし」

「ああ! その3人のことだよ!」


まあ仕方がないのだろう。身内が有名人なのも色々と困りものだが三姉妹に対して何らかの悪意が有るというわけでも無さそうだ。


「家族だよ。俺よりもずっと優秀だろ? あの3人は両親に褒められて育ってきてるけど、それもまあしょうがないなあと納得してしまうくらいの才能が有ったわけだからな」


教室の全体から『おー』と聞こえる。


「そうそう、そうなんだよ! 全員が1組でトップのAクラスでさ! 【三神一体(トリムルティ)】なんて異名でも呼ばれてるエリートなんだ!」


シェイリアス家と拓未の足下にも届かないとは言え、九家をも凌ぐと言われた三人の才能と成長、そして【神血(イコル)】の力を見てきたから拓未も彼女達の力を理解している。

もし拓未が10年前の事件で死なず、シェイリアスの血を受けて蘇生しなければ、普通(・・)に拓未の父が鍛えてくれていたとしても、かなり手子摺(てこず)らされる存在になっていただろうことは想像に難くない。


(今は俺の方がレベルで上回り過ぎて全く勝負にならんしどうしたものか。ルミアさんやルレシオさんが上のクラスに行けるなら、さっさとAクラスに上がってしまっても良いんだが……)


姉妹に関しての疑問は解けたのか男子生徒が座ると今度は別の生徒から質問が飛ぶ。


「12才で合格できた筈なのに今年まで入学を許可されなかったと聞いてるんだけど」


拓未にとっては耳が痛い話だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「へーよく知ってるね」


何処から話が漏れたのか。


「美凪さんが言ってたんだ」


おのれ姉め。


「うん、『拓未くんは私なんかより、とってもとっても強いんだから!』って」


余計なことを吹き込んでくれたな。


「あの人の口癖になってるし」

「Oh……」


来栖拓未(くるすたくみ)》は他でもない自分の姉のことでありながらも思わず頭を抱える。

本来の彼が元から持っていた【神祝(ブレス)】でしか戦ったことは無いし、他の姉妹二人にもバレないよう慎重に周到に手を抜いてきた。

気付かれる筈が無い。

何故そんなにも拓未を信じているのか。

どうやら9組に居る24人の内、20人は美凪の言葉に期待を持っているらしい。


(いず)れ見せることになるとは言えいきなりか。後でバラすと追及が凄そうだ。ならば全てではなく、見せても問題が無いだろう手札を(さら)しておく。此処に居るあの二人とシリウスさん、セルビアさんしか見せたことが無い切り札や奥の手は隠して温存といこう)


拓未は少しの間にそう結論付けた。


「俺は親父に入学中止された12才になってからこれまでの3年間、根本から鍛え直して地力を上げる為に基礎しかやってないからみんなの期待に応えられるほど強いかは解らないよ?」

「どの神祝なの? やっぱり三姉妹のものと同じで【加速(アクセル)】か【減速(ストール)】だったり?」

「美凪さんは両方を使えるんだよなあー」

「もしかして来栖君もその二つを使えるのか? 美凪さんが彼は自分なんかよりとってもとっても強いと強調して評価するくらいだし」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一気に何人からも話をされる拓未だが、彼にとってそれよりも問題なのは三姉妹だ。拓未が勝っていたのはせいぜい7才くらいまでのこと。


(まあシェイリアス家との修業で強くなってからはひたすら負けるようにしておいたんだが)

「俺の力は確かに珍しい。だが稀少かと言われればそうでもないと思う。俺の力と言うよりは俺自身の方がちょっと異質なんだけどな」

「おいお前ら。質問タイムは終わりだ」


女教師が手を叩くと全員席に戻った。


「来栖、お前の席はあそこだ。白髪の女子が居るだろう? 窓際の列の隣の列で、つまり空峰の右でシェイリアス兄の後ろだ」


女子の後ろにはルミアが座っている。

拓未にとってベストな席の配置。

彼が席に着いて一息吐()くと教壇では女教師が今日の連絡事項を伝え出す。


「元気だった? たっくん」


教室一番端に有る窓際の列、拓未の左に座る色素が抜けたような白髪が肩まで伸びた少女。

近くに居るだけでほんわかする柔和な笑顔は九曜学園に入学してから送られてくるムービーレターで見ていたがレターが届く度に体つきが変わっていたのを思い出す。

特に胸は同世代平均より一回り大きい。


「久し振り。髪が一気に白くなってたんでちょっと誰か判らなくなってたよ」

「前のムービーレターに映っている私は全部の髪の毛が黒かったもんね~」


この娘は拓未と幼稚園の時から小学校卒業まで一緒に過ごした現在唯一の友人、いや、親友と言っても過言でない関係だろう《空峰朝陽(そらみねあさひ)》だ。


「考えは変わらないの? たっくん」

「ああ。俺はルレシオさんやルミアさんと競い、時には力を合わせて強くなる。だから朝陽や三姉妹とはあまり仲良くする暇が無い。あんまり余裕無くてごめんな」
 
 

 
後書き
というわけで先ずは朝陽さんのヒロインフラグが綺麗に折られて出番が減っています。信頼が有るから友達としては中良いんですけどね。 

 

一時間目

 
前書き
キャラの修正をしていたら遅くなりました。でも仕事が溜まってるんだよなあ。

早く進めたいのに。 

 
来栖拓未(くるすたくみ)》が【九曜学園】に入って先ず最初に受けた授業は【神祝(ブレス)】の理論。

《ルレシオ・ジン・シェイリアス》と《ルミア・シャル・シェイリアス》は目立たないよう大人しく空気になっていた。

女教師、拓未達9組の担任が説明しだす。


「神祝の発生は300年以上前の西暦1718年。正式名称は[神的火花]だ。手軽に調べたいのならば、Wikipediaでも見たら良い。同年には幾つか影響を受けた出来事が起きている」


彼女が指摘しているのは南極での異常な磁界である【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】のことだ。

原因は現在も不明だが、学会では起きた原因について[未来からの干渉]が定説。

但し学園でそこに触れることは無い。

原因不明だと教えている。

一般には知られないよう制限を掛けられている情報も存在するが、拓未は父に学会や研究の知識などと触れ合う機会を作られていた。

しかし歴史を知っても戦闘に強くはなれないので軽視している生徒は少なくない。


(幾らわざととは言え、親父にだけは落ちこぼれだと言われるのは悔しかったからな。神祝に関してはシェイリアスの力を借りて分野を問わずに情報を調べあげておいたぞ)

「それじゃあ【時空の変異遷】が起きてからの影響についてだ。大きく別けて3つ有る。それでは順番に一つずつ説明してみろ。先ずはルレシオから答えるんだ」


指名をされたルレシオは選ばれたことに対して特に何の感慨も無く立ち上がった。

彼は拓未より一つ年上だが学年は年令でなく実力主義なので同じクラスになっているのだ。

拓未にとっては好都合である。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「【刻福音(ゴスペル)】とは【神祝(ブレス)】の力を持つ人間が生まれるようになったこと」


さらりと言ってルレシオが座る。


「次、ルミア」


彼女は拓未の一つ年下でルレシオの妹。


「【時空獣(バタフライ)】。異常な磁界の発生が定期的に起きて時空獣という怪物が地球上のあちこちに場所を選ばず現れるようになりました」


ルミアも難なく答えて見せる。


「では来栖」

「【一世代間の災厄(ワンジェネレーション)】とは時空獣の出てくる磁界でも特に大きなものが30年毎に発生するようになった出来事です」


拓未の答えに担任が頷く。


「神祝は『時を操る能力』のことだ。さて、ここから世界がどうなったのかを話すぞ」


世界は時空獣の脅威に(さら)される。

人類はこれに対し神祝で対抗。

各国が協力しながら神祝の発現者を集め【クルセイダー】として養成していく。

そして時空獣が現れた時には世界中へと彼等を派遣するようになっていった。

この機関が学園を卒業した世界中のクルセイダーが所属する【フォーマジェスティ】であり、五つ有る日本支部の内の一つが拓未達の通うこの【九曜学園】なのだ。


「さて、世界はもう一つの変化を起こした。それが先程の[一世代間の災厄]に大きく関わってくる。文字通り人類史をやり直すレベルで」


一世代間の災厄に発生する大磁界のエネルギーは『30年前まで』の過去へと渡り、歴史を変えてしまうことが可能という超常的なもの。

1784年にはその力を巡って世界中で国同士が泥沼の戦争を起こす切っ掛けになる。

しかしその手が付けられない事態を[陛下]と言われる一人の人物が止めたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


陛下は各国に協力を訴え[過去に戻れる力]を平和利用する流れに決めさせる。

この年以来、小競合いや国内紛争などは有っても『世界を巻き込んだ大戦』というものは今の正式な歴史である、[正史]の中には何処にも存在していない。


「平和へ利用する為に【一世代間の災厄(ワンジェネレーション)】には色々な取り決めが生まれ、最終的には学生同士の戦いによって過去を改変する権利を決定する形に落ち着いた。この大会が現在も開催されている【大神暦の福音祭(アイオーン・エヴァンジェル)】 というわけだ」


担任の女教師は真面目な顔で9組全体を見渡しながらクラスの生徒に告げる。


「このぐらいは覚えて頭に入れておくんだぞ。知識はそれだけだと戦いに使えんし、強さには繋がらんものだが紛れもない力だ。純粋な戦闘能力だけで上がれる舞台は限られている! 知識を頭に記憶して(ほこり)を被らせておくものだなんて(あなど)るな? 手に入れた知識をどう扱うのかは人間の知恵であり、地球上に於いて試行錯誤で人間を上回る種族は存在しない。これは自惚れではなく厳然たる事実だ。力を力として振るうだけの本能で生きる野生の獣ではなく知的生物として命を授かったのだと自覚しろ」


彼女が言い終えると誰かが忙しなく廊下から9組の方へ走る音が響いてくる。


「チッ、全力疾走ときたか。人が良いこと言った直後に何処のどいつだ非常識な」


女性担任がドアに教室の向かおうとした時その前でドアが横に開きスライドしていく。


(あれは確か……)


ドアの直ぐ前に立っていたのは拓未の記憶に残っている一人の金髪少女だった。 
 

 
後書き
書く時間と気力が欲しい。 

 

再会

 
前書き
さて、少し展開を早めるか。 

 
9組に押し掛けてきた少女はAクラスの人間だけ、つまり1組の生徒のみが着られる純白に金刺繍(ししゅう)が入った制服に身を包む。

金髪と翠緑の瞳を持つ容姿に似合っており、まるで専用に(あつら)えたかのように思わされるほど。

しかし何故Eクラスしか居ない9組に足を運んだのかは未だに判らない。

来栖拓未(くるすたくみ)》を除いて。


(2カ月前一緒にハルバードを振り回しながら【時空獣(バタフライ)】を倒した子じゃないか。確か名前を《天崎小夜(あまさきさや)》と名乗っていたはず)

「何してる天崎。Aクラスは特殊科目の参加を選べるが他のクラスの授業に乱入するなんぞ、いくら優秀でも頭がイカれてる所業だぞ」


女教師が威圧するも小夜は気にせず教室を眺め、そして目が合ってしまった。


(あ、絶対に面倒なやつだ)

「入学おめでとう、来栖拓未君!」


名指しだ、逃げられそうにない。誤魔化しても効いてくれるような感じでもない。


「そう言えば拓未はあのかしましい女と知り合いだったんだったな。ご苦労さん」


《ルレシオ・ジン・シェイリアス》は後ろを向いて拓未に意地悪くニヤける。


「今すぐ消えたい。あの娘は親父が指定した条件に当てはまってるからなあ」


其処へ小夜が近寄り腕を掴むと遠慮なく何処かに向かって引っ張っていく。


「さあ行くわよ」

「授業が~」


そのまま教室の外へ連れていかれた。


「頑張って下さいねー」


《ルミア・シャル・シェイリアス》は良い笑顔で手を振りながら二人を見送る。


「悪いな来栖。一時間目は早退だ」


女担任は問答無用で出欠簿をチェックした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【九曜学園】

本校舎五階・相互結索室


「先生! 居ますか!」


小夜が扉を開くと白衣の女性。

20代前半くらいだろうか。肌は年令より若い。髪はボサボサで適当に纏めていた。


(くま)が有るな。寝不足か?)


保健室の先生に見えるが拓未がチラリと目をやると色々な機材が置かれており、その様相は研究や実験をする為の部屋に思えた。


「はぁー……小夜、今は授業中だぞ」


女性は肩を落として溜め息を()く。


「Aクラスの生徒は一部以外の授業は受講を免除されてますので問題ありません!」

(問題あるわ!)

(そういうことじゃないんだよなあ~)


自信たっぷりに宣言する小夜を拓未は殴りそうになり女性は脱力感に襲われる。


「まあ良い。Aクラスエリートの小夜が未だに『パートナー』を持たないのは日本支部のメンツも有るから重要項目だが……。君は彼女が少し前から言っていた来栖拓未で良いのかい?」

「はい」

「私は《簾藤雲莉(すどうくもり)》、初めまして。九曜学園の技術スタッフでね。【エンゲージシステム】が専門だ。主に【神血(イコル)】の対比研究と血液成分の相互知見研究だが他にも手広くやってるよ。まあ研究者だな」


拓未は思わず顔を引き()らせる。


「お前の親父さんは有名人だからな。説明することにしよう。エンゲージシステムと[パートナー]について。長くなるかもしれないが、そこのお姫さんだけが理解していても仕方がないし。それに日本で【クルセイダー】として活躍するのなら知っておくべきことだからな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雲莉が告げた最初の言葉。


「エンゲージシステムというものは二人が良きパートナーとして、【研鑽するであろう可能性】を引き出すもの。もっと簡単に言えば二人が【未来で得るであろう力】を前借りして宿すシステムだ。パートナーになる者同士の神血(イコル)を利用して未来の可能性を開く」


神祝(ブレス)】を扱える者には必ず神血の存在が有り、それが力の源となっている。


「神祝は12から20才までしか使えない。当然これは知ってるよな? 知らないと困るんだが」


拓未は笑みを浮かべて返す。


「神祝の行使に神血は必須。しかし『量』は兎も角として、力を引き出すための『出力』が20才以降は急速に失われていきますから」


雲莉が頷いて話を続ける。


「筋肉で言うと、量はスタミナで出力は瞬発力に該当するものだ。両方とも若い間は上げていけるが出力は20才を境にどんどん衰えていく」


20才になると神血の出力を妨げる成分が内臓から分泌されるようになるらしい。

出力が無くなると学園は卒業だ。

その後は教師になって後進を育成したり、雲莉のような学園スタッフや経験を活かした研究者になったり、【大神暦の福音祭(アイオーン・エヴァンジェル)】のため、様々な分野に関わる。


(俺とシェイリアスの人達は力の年令制限とか存在しないから別に心配の必要ないんだけどな。神祝無しでも基本の戦闘能力が違いすぎて比較にならないわけだし)


そうでなくとも拓未の体質ではシェイリアスの人間しかパートナーになれないのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな拓未の内心も知らずに《簾藤雲莉(すどうくもり)》は【エンゲージシステム】の話を進める。


「神血の出力減退は世界的な問題だった。しかし日本だけは一時的な解消法を作り上げる。神血を媒体として【未来の可能性】を引き出し今の肉体で量と出力を成長させる技術をな」


そう、『未来』のだ。


「若いままで2年、3年先の実力を、一時的にだが得られるわけだな。年令による老化は無いわけだから出力を減らしてしまう成分である[パニシュリン]も分泌されん」


このシステムのお陰でクルセイダーが一人なら平均は世界最弱とされる力の日本だが、コンビなら世界最強の一角にまで食い込む。

エンゲージシステムは様々な分野の技術で外国に追い抜かれていた日本の意地が生んだ賜物(たまもの)


「可能性は一人や三人でも引き出せるんだが二人での効率が高い。理由は解らんが親友や恋人といった『絆』が鍵とも言われている」


拓未は小夜の方を見るが所詮は緊急時に初めて出逢い、一度組んだだけの他人。

ただ『知っている』だけの関係であり、知り合いの範疇にすら入ることは無い。

それだけに過ぎなかった。


「事実、孤独を好むタイプは一人であっても多少は力を引き出せる。しかし二人には敵わん。非論理的に『愛の力』と言う者も居るな。科学的には一笑に付す答えだが否定するだけの証拠も無い。『信頼』というものが大きく関わる重要な要素だというのは確かだしね」

「それが俺と彼女の使っていたエンゲージシステムの中身であり根幹というわけですか。何やら妙な感じはしていましたけど」

「が、簡単には使えん。人には相性が有り、それがコンビでないと強くなれないからな。そこで【ユニオン指数】という血液の相性を調べておく必要が有るわけだ。まあ今までパートナーが居ない小夜の経験からして期待半分しかしないようにしているんだが」
 
 

 
後書き
どれくらい省こうかな。

書かなくて良い場面は幾つか有るし。 

 

相性

 
前書き
さあフラグ折るぞー。 

 
簾藤雲莉(すどうくもり)》は説明を終えると椅子を回して《天崎小夜(あまさきさや)》の方へと向く。


「さて今度は其処に居る『行き遅れ』になっているお姫様についてだが───」

「言うなああああああああああーー!!!」

「ああ良い反応だ。やはりお前のNGワードを言うのは楽しい。だが脊髄反射で窓ガラスを震わすほど叫ぶのはいただけないな」


そこは《来栖拓未(くるすたくみ)》も同意。


「エンゲージは小夜の苛烈な性格で相性が下がってるんじゃないのか?」

「性格まで考慮して【ユニオン指数】に入れるマシンが悪いんです! 血で絶対的な比較をすれば良いはずなんですから!」


雲莉の話によると小夜はAクラスなのに[パートナー]が居ないらしい。

他のAクラスに所属する生徒には相性60%程度の人間が一人は存在している。


(ふむ……シェイリアスに関係なくそれか)

「先輩の最高値は幾らで?」


拓未の言に小夜が不機嫌な顔をした。


「私は先輩じゃなく貴方と同じ15才だから上に見るのは禁止! なんで私に敬語を使ってるのかと思っていたらそういうこと!?」

「俺より3年も早く九曜に入ってるんだから別に構わないでしょう?」


雲莉は何故か腹を押さえていた。


(なに)か調子悪いのかな?」

「ああすまん。来栖、小夜の叩き出した最高ユニオン指数は12%だ。うむ、まさに論外と言って問題ないレベルだな。未来の力を引き出すどころか過去に戻ってしまいそうな勢いだ」


小夜が撃沈すると雲莉は落ち着いた二人から一滴の血を採取してガジェットを弄り出す。

ディスプレイに映っていたグラフには文字や記号が表示されて次々と変化していく。

そしてデバイスが音を鳴らした。

どうやら計測は完了したようだ。


「おいおい……幾ら何でも有り得るのか? 冗談も大概にしといてくれよ……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


弾き出された拓未と小夜のユニオン指数は推定で何と驚きの『0%』だった。

結果が悪いことを最初から判っていた拓未の予想を上回る結果の悪さに口が聞けない。

有り得ない。

幾ら相性が悪いという言っても程がある。

簾藤雲莉(すどうくもり)》によると【神血(イコル)】が原因で起きるようなものではないそうだ。

天文学的な確率で相性が終わっている。

ガックリと(うずくま)ってしまった小夜の肩をポンポンと叩いて雲莉が励ます。


「なあ来栖、以前にエンゲージした時には何らかの異常が無かったか?」

「俺は特に変わり有りませんでしたが天崎さんは力が上がってましたね。但しその後でかなり調子が悪く(だる)そうにしてはいましたけど」


その答えに雲莉は頭上に疑問符を浮かべる。


「はて、神血の出力は来栖の方が遥か下なんだが。普通は逆だぞその場合。しかも来栖はまともに力を振るえない状態になってしまう」


(いわ)く、前回のエンゲージで小夜は死んでもおかしくない状況だったらしい。

エンゲージは互いの血液を媒体にして二人の神血を同じだけ使うのだが片方の出力が極端に低いとそちらの出力が間に合わなくなってしまう。

そこで低い方は神血が出力する場所以外からも神血が出ていくことになるのだ。


「なるほど。彼女は注射器で血管に開けた一つの穴から採決したのでなく、血管がズタボロになるくらい穴だらけの状態にして出力を追い付かせたわけですね」


血管破裂に近い状態で血を噴くどころか爆散して飛び散るレベルで神血を出したという。

ユニオン指数が高いと神血の消費も早いがなぜ逆のことが起きたかは雲莉にも解らない。


「まあ元気出せ小夜。何時かお前にもちゃんとしたパートナーの一人ぐらい出来るはずだ」


気不味い空気を残したまま拓未は二人を置いてその場を後にするのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


拓未は歩きながらパートナーを考える。

学園に通う生徒は『世間からだと』クルセイダーとして見られているが学内は違う。

AとB以下のクラスは候補生であり危険を犯してまで【時空獣(バタフライ)】と戦う必要は無い。

AとBのみが【クルセイダー】なのだ。


(男女のパートナーは恋人になることも多い。遺伝子レベルの相性保証だからな。だが俺にそういうのはまだまだ先で良い。あの4人の誰かに追い付かなきゃならないんだ。(わずら)わしいものは排除しとくに限る)


能力を絶やさぬ為に【神祝(ブレス)】を使う者は同じく神祝持ちと結婚することを決められていたが拓未には邪魔なことでしかなかった。


(能力を継がせる為に学園での縁で結婚するケースだって別に珍しくない。多いほうだ)


大神暦の福音祭(アイオーン・エヴァンジェル)】では学園内の6人でパーティーを組み、そのメンバーで各国の選ばれた代表チームと戦っていく。

海外のクルセイダーに比べ地力で大きく劣り、個人では最下位の日本が小夜のパートナーを欲していたが拓未には知ったことではない。

そもそも大会が有るか判らないのだ。


「まあ仮に有ったところで俺・ルレシオさん・ルミアさんの誰か一人が入れば余裕で優勝なんだけどな。あの二人はシリウスさんとセルビアさん以外の歴代全てのクルセイダーが束になって掛かっていったとしても取るに足らないような存在なんだから」


それにもうすぐクルセイダーも時空獣も地球上からは居なくなってしまう。

『時を操る能力』は自分を含めて5人だけになってしまうのだから争う必要が一切無い。

拓未が教室に戻ると一時間目が終わり、チャイムが響いたところだった。


「二時間目はサボるなよ来栖」

「俺のせいじゃない」
 
 

 
後書き
小夜は原作のメインヒロインですが、この話ではもう殆ど関わってくることは有りません。 

 

気に入らない

 
前書き
原作の流れをごっそりカットします

さっさと話を進めたいので。 

 
「次は授業を受けられると良いなあ」


来栖拓未(くるすたくみ)》は9組へ戻りくつろいでいた。


「《天崎小夜(あまさきさや)》は普通の奴には話し掛け難いオーラが有る。俺達Eクラスには見向きもしないからな。エリート思考っていうのか」


《ルレシオ・ジン・シェイリアス》によると、あんな小夜を見たのは初めてのことらしい。


「ルレシオさんとルミアさんをEクラスへ置いとくような学園に何も期待はしてませんよ。実力的に言えば貴方達のどちらかが天崎さんのパートナーに選ばれていないとおかしいんですから。Aですらないとは」


拓未はそう言うが彼等もまた特定の人間以外とは【ユニオン指数】が低い。

日本ではコンビの強さを重視されるので個人の力が圧倒的でも上に行きにくいのだろう。

それだけでなくシェイリアス家自体がクルセイダーを管轄する【フォーマジェスティ】や世界各国のトップからも恨みを買っているからだ。

なんとでも出来るが余計な火種を生む必要も無いので二人とも大人しくしていた。


「この9組では彼処(あそこ)の二人を気にした方が良いです。私達が相手をするような強さでは有りませんが今の九曜ではトップクラスです」


《ルミア・シャル・シェイリアス》が指摘した方には長身で細身だが、体幹が安定した周囲を威圧する隼のような鋭い目をした男子生徒。

顔立ちは整っている。

そして彼より頭二つ小さな女子生徒には腰まで伸びた絹のような髪が見える。物憂げな視線を浮かべ仕草の一つを取っても慎ましい。

男子の秘書にも思える雰囲気。


「男は《海成 現(うみなりうつつ)》で女は《冥月七星(めいげつななせ)》だ。二人ともAクラスだったがやらかしてEクラスに落ちてきたんだよ」

「絡んでくるとしたらあの人達なので拓未さんも気を付けて下さいね。まあ実力を考えれば心配する必要も無い方々なんですけど」

(九曜に来てから会った生徒の中では強いだろうが気にするような連中じゃないな)


取り敢えず拓未は二人のことを覚えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そう言えば拓未ってさ、自分の姉妹とは相性の測定をしてたんだっけ?」

「ユニオン指数は美凪(みなぎ)姉さんが1、蛍火(けいか)が2、紗雪(さゆき)が3ですね。まさか三人を下回る天崎さんが居るとは思わなかったけど」


拓未があっけらかんと笑いながら返す答えにルレシオは目をつぶって考える。


「私のユニオン指数は拓未さんと97で兄さんは98ですからね。他に選択肢が有るとしたら父さんと母さんくらいのものですよ」


ルミアの言う通り、拓未は《セルビア・シュール・シェイリアス》の血で復活したことによってシェイリアスではない人間と【エンゲージ】してもまともに力を引き出すことが出来ない体質になってしまっている。


「そう言えばさっきの海成君と冥月さんは何故AからEに来たんですか?」


ルレシオが語った。

それは拓未にとって下らない理由。

昨年の国内大会においてあの二人は九曜学園の代表に入っていたのだが、面子が丸潰れになる程の酷い戦いをしたことで降格したそうだ。


「馬鹿みたいでしょう? 【クルセイダー】にとって最大の仕事は【時空獣(バタフライ)】を倒すことであり人を守ることなのに、エリートであるAクラスの数をわざわざ減らすなんて」


ルミアは今のクルセイダーや世界中に在る学園の考え方が気に食わない。無論だがクルセイダーを統括する【フォーマジェスティ】もだ。


「更には【繰刻環(クロック)】の制限まで受けているからな。俺達にとっては有無の意味など無いが、あいつらは繰刻環の武器と【神祝(ブレス)】でしか時空獣にダメージを与えられない。学園はあの二人を弱体化させただけでなく殺す気かよ」


ちなみにルミアとルレシオは繰刻環が要らないため存在しないので、まともに実技を受けさせてもらえず模擬戦にも参加したことが無い。

やる必要が無いからでもあるが。 
 

 
後書き
あと少しで原作の半分くらい。 

 

見学に行く次いでの話

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
【九曜学園】は広い。日本帝国陸軍の東富士演習場を利用している。普通に全部回ろうとすれば一週間はかかってしまうほどだった。

敷地内には[模擬棟]と言われ10階建てのビルに見える建物が幾つか在り、その中には整備された試合場が作られているのだ。

別の所では水中戦の場や市街地を作ったり、山を丸ごと利用したりしている。

国は本当に金を掛けているのだ。


来栖拓未(くるすたくみ)

《ルレシオ・ジン・シェイリアス》

《ルミア・シャル・シェイリアス》


彼等三人は他生徒の様子を見に来ていた。


【クルセイダー】の使う時間能力・【神祝(ブレス)】には五種類が有り、それぞれのことを

加速(アクセル)

減速(ストール)

過去(トレース)

未来(フェイト)

停止(フリーズ)

という風に呼ぶ。


九曜の加速と減速でトップ3は拓未の姉妹であり、物質や自身の体の速度を変えられる。

長女で姉の《来栖美凪(くるすみなぎ)》は両方を使える稀有な者で、次女で妹の《来栖蛍火(くるすけいか)》は加速、三女の《来栖紗雪(くるすさゆき)》は減速。

Aクラスで1組のエリート《天崎小夜(あまさきさや)》と、拓未と同じ9組でEクラスに居る幼馴染である《空峰朝陽(そらみねあさひ)》は過去。

拓未自身は元々が停止だったがシェイリアスの血を受け訓練したことで、今はルレシオ達シェイリアスと同じく五つの全てを扱えるようになった。

ルミア等は五階に上がり一つの試合場に入ると観覧用に設置された客席に座る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


過去(トレース)】の神祝(ブレス)は物体を過去から呼んだり体を回復して元通りに出来る。

どれくらいまで過去へ遡って時間に介入できるか、そして過去の状態に戻したものがどれだけ元に戻っているのかが実力の指標。

小夜は物体のエネルギーまで時間を越えて過去から呼び寄せることが可能だ。


未来(フェイト)】は名前を聞いたことが有る者も多いだろう[予知]が主であり、どれだけ先の時間が見えるかで実力が問われる。

これは相手の動きを先読みすることが初歩であり、自分が選んだ行動による未来の分岐なども同時に多重並行して観測できれば一人前だという。

拓未にとって命の恩人であり、文字通り『血』を分けてくれた《セルビア・シュール・シェイリアス》は現シェイリアスの四人の中でも特に未来に精通している。

彼女は[確定予知]という未来の神祝の中でも極致とされる御業を代名詞のように扱う。

これは事象の原因・過程・結果を強制的に執行し実現させてしまうチート。

まあセルビアや彼女の力を強く引き継いだルミアには他の【クルセイダー】が抱えるような制限は無いので比べ物にならないのだが。


そして五つの中で最も人数が少なく、この10年で極端に数を減らしてしまったのが現在の九曜で拓未・ルミア・ルレシオの三名しか使えない【停止(フリーズ)】である。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


停止は範囲内空間の停止であり、其処に在るありとあらゆるものが止まる。

そして範囲が広いほど強い。

つまり自分の周囲を止めてしまう形だ。

停止を使った者だけは停止の影響を受けずに停止した範囲を動くことが出来る。しかし止まったものに干渉できるかは実力次第だ。

故に普通の停止使いは停止の効果を切ってから攻撃する場合が多い。

ちなみに停止空間の中へと新たに【神血(イコル)】を持った人間が入ると停止された状態を維持させることが難しくなってしまう。

それは【神祝(ブレス)】を有した人間が神祝を利用する権利、【支配権(ドミニオン)】が接触するから。

これは支配領域とも言われる。

物体を操るにはそれが無いと出来ない。

支配権を得る為には物体か空間へ自らが持つ神血の力を流し込むことが必須であり、普通の人間なら触れた瞬間に止まるが神血を有する者は[反抗防壁]を働かせて打ち破ってしまう。

停止の対象になるものが多いことは利点だが、イレギュラーが一つ混ざれば矛盾・パラドックスによって意図も容易く停止空間は崩壊する。

これを防ぐには神血の出力で上回るのみ。

五つの神祝で停止だけは他と違う。

過去・未来・加速・減速は基本的に物体への干渉で素粒子であろうと存在するなら構わない。

しかし停止は空間のみ。

例外は自身の神血を通した【繰刻環(クロック)】で生成した武器くらいになるだろうか。


(そんなもん知ったことじゃないがな。俺やシェイリアスの人は神血の力を持ってはいるが、それとは別に持ってる時間能力は根本的に仕組みが違うんだから)
 
 

 
後書き
さあバリバリ話を飛ばすぞ。 

 

迫る戦い

 
前書き
そろそろラストを考えないと。 

 
来栖拓未(くるすたくみ)》が【九曜学園】に入学してからあと一週間でちょうど一月となる。

この頃になると教室の皆はやけに慌ただしくなり緊張したような顔が目立つ。

一週間後に【昇格戦】が有るからだ。

これは下位クラスの勝利数で上位3組まで入ったコンビと上位クラスの勝利数で下位3組に入ったコンビによるリーグ戦形式で行う。

拓未はEクラスの9組なのでDクラスの5組か6組と戦うことになるはずで、勝てば晴れて上のクラスへと昇格出来るという仕組み。

しかし昇格戦に出場する代表コンビ3組に入る為には今の9組同士で組んだコンビで戦う昇格戦の予選である【選抜戦】を勝っていかなければならない。


「問題は俺がコンビを組める相手が二人しか居ないことなんだよな。個人(ソロ)で決めるというのなら3位は確定している話なんだが」


日本は二人で力を高める【エンゲージシステム】を【時空獣(バタフライ)】だけでなく、対外試合でも正式に採用しているので仕方ない。

拓未は《ルレシオ・ジン・シェイリアス》か《ルミア・シャル・シェイリアス》とコンビを組むしかないが、そうすると二人の内どちらかが余ってしまうことになる。


「そのはずだったんだがな」


ルミアは何と拓未の幼馴染《空峰朝陽(そらみねあさひ)》をパートナーに選んだのだ。

聞けば朝陽の髪が黒から白に変わったのはルミアの血を使って助けたかららしい。

お陰で救われた彼女であるが、【神血(イコル)】の出力が落ちてEクラスになってしまった。

しかもルレシオからも血を貰い、以前とは比べ物にならないほど強くなっているらしい。


「俺が四人に血を貰ったのと同じか。これは三組中、二組を頂いたも同然だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それにしても一月毎に昇格戦が有るってのは理解できんな。俺達は普通の【クルセイダー】と違って20才を過ぎようと一生涯に渡って時間能力を使える。神血の出力を落とさず【神祝(ブレス)】に頼ることも無く」


大神暦の福音祭(アイオーン・エヴァンジェル)】に出場する為には日本国内の代表戦も勝ち抜かなければならないのだが、拓未にとってそれは別に良い。

彼の中には過去を変える為に誰かと戦ってまで叶えたい願いなど無いから。

叶えたい願いは未来にしか存在しない。

それにどの道、【大神暦の福音祭】が行われることが無いだろう。金輪際永久に。

《シリウス・ゼル・シェイリアス》

《セルビア・シュール・シェイリアス》

二人から(しら)せが届いた。

近日中に世界中で時空獣が現れ全てが解決した後に全てのクルセイダーが力を失う。


「仮に力が有ったとしても俺やシェイリアスの四人にしか対抗できないレベルの敵らしいからな。差し当たって問題はこいつらだ」


拓未には自分とルレシオのコンビが戦う相手が記載された資料のデータが届いている。

予選である選抜戦は5回行う。

実力的に全員合わせたところで歯牙にも掛からなければ目端に入ることすら無い。


「勝つのは楽なものなんだが性格めんどくさそうだしなあアイツ等って。出来るだけ穏便に済ませたいところではあるんだが」


五回戦目の相手はルミアとルレシオが絡まれることを気にしていた《海成 現(うみなりうつつ)》と《冥月七星(めいげつななせ)》の二人だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


拓未が寮に帰ろうと昇降口へ向かうと其処で《海成 現》から声を掛けられる。

傍には何時も通り《冥月七星》


(来たよ)


冥月は兎も角として海成の方はどうでも良い用事が有りそうな雰囲気だ。


「選抜戦では邪魔をするな。オレは早くAクラスに戻らなければならないんだ。Eで留まっているのは時間の無駄でしかないからな。せいぜい此方(こちら)の手を(わずら)わせるような真似だけはしないでくれよ?」


拓未は九曜での勝敗はどうでも良い。


「そうですか」

「何なら不戦敗でも構わん。誰も文句を言わないし納得してくれるぞ」


現は拓未を(あざけ)っているわけではない。

Eクラスを馬鹿にしているのだ。

目にはAクラスしか映っていない。

実際に彼の言っていることは九曜だと特に間違っていなかったりする。

現は七星とコンビでAクラスの1組に居た頃にルレシオとルミアを除いて九曜学園でも限りなく最強に近い位置にまで登り詰めた実力者。

大口を叩くだけの実績は有る。


(別に俺は勝たせてやっても良いんだが、ルレシオさんに悪いからな。それにこいつは一度自分より下に見ている相手に負けた方が為になりそうだ。精神的に見てあまりにも危うい)


如何(いか)に【九家】のエリートとは言えど、昨年の国内大会以外では九曜でも同格以上のメンバーにしか負けたことが無いので彼等は恐らく考えたことすらも一度として無いのだろう。

今の考えは足下を救うことになると。


「気を使ってもらったけど断るよ。パートナーに悪い。あの人は気にしないだろうけどね」


現はここで話を終えるべきだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


かつて【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】では【神血(イコル)】の力を得て【神祝(ブレス)】を扱う者が現れた。

日本では9人。

その日本で最初だった神祝の発現者達から連綿と続く九つの家系は現在だと日本クルセイダーの中心となり、日本を支えているエリートと言って差し(つか)えが無い。

彼等は国に保護された遺伝子を受け継ぐ。

[水鮫/みずさめ]

[金禅/きんぜん]

[地閃/ちせん]

[火燕/かえん]

[木華/もっか]

[土影/どえい]

[天崎/あまさき]

そして七星(ななせ)の[冥月/めいげつ]と(うつつ)の[海成/うみなり]で九家。

そんな場所に生を受けて産まれ落ちたエリートの二人には当然だったのだろう。

殆どの神祝使いは自分達より弱く下の存在であると思って生きてきてしまった。


「来栖のパートナーと言えばルレシオか。お前もとんだ災難を引いたものだな。【繰刻環(クロック)】が無いだけではなく、九曜学園に入学して以来ずっと万年Eクラスで実技の授業にすら出られない奴と組まなければならないとは」


拓未に対し余計なことを言ったのだと現も、傍に居た七星も気付いていない。

そのまま二人は去っていった。

拓未は予定を変える。


「ハァー……身の程知らず共が。才能の有無だけで全てが決まると思ってるなら未熟も良いとこだぞ? これは(かつ)を入れて現実を知ってもらわないといけませんねぇ……」


負かしてやるだけのつもりだったが暫く立ち直れないくらいあっさり倒してやろう。

拓未はそう考えた。
 
 

 
後書き
瞬殺です。 

 

終局

 
前書き
何時もの如く雑になってきました。 

 
来栖拓未(くるすたくみ)》が《海成 現(うみなりうつつ)》に絡まれた一週間後の【選抜戦】で、拓未は《ルレシオ・ジン・シェイリアス》に手を出させること無く5連勝で完封した。

神祝(ブレス)】を使うこともせず、五試合とも全て素手の一撃で仕止めてしまったのだ。

現の使う神祝の種類は[未来(フェイト)]であり、『1秒先』の出来事が見える。

繰刻環(クロック)】を制限されているので本来の力は出せないが、それでも1秒以内の思考と動作で相手を倒し4連勝してきた。

実力で言えばBクラス。

しかし[グレードファイブ]の【時空獣(バタフライ)】を軽々と倒してしまう拓未の身体能力と運動性能は仮に力の制限無しだったとしてもBクラス程度の【クルセイダー】に何とか出来るようなものではない。

案の定、拳圧で吹き飛ばされてしまう。

現と組む《冥月七星(めいげつななせ)》は[減速(ストール)]の使い手で【神血(イコル)】による『反抗防壁』が上手く出来なければ体の動きまで遅くする。

しかし遅くなっても拓未の速さは七星が捉えられるものではなく、彼女は拓未に何も出来ないまま呆気なく失神させられてしまう。

しかし拓未の予想と違ったことが有る。

それは現が素直に拓未の力と強さを認め、潔く自身の敗北を受け入れたこと。

心を折るつもりで瞬殺したのだが、現は必ず拓未を追い越してみせるという気概を見せた。


(どうやら俺が考えていたよりもましな精神構造をしてたみたいだな。さーて、これで【昇格戦】になるわけだが、今朝は【磁界】が起きてたみたいだし大丈夫か?)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


実を言うと、現在は新潟で[グレードスリー]の【時空獣(バタフライ)】が発生しているらしく、【九曜学園】のAクラスクルセイダーはパートナーが居ない《天崎小夜(あまさきさや)》を残して全員が出払い教職員も半分が新潟に向かっていた。

グレードスリーと言えば過去に拓未が殺されたものと同じ都道府県一つ落とせる強さ。

ただ倒せば良いというものではなく、市民と財産、都市を守ることも【クルセイダー】の仕事なのでそれなりの人数が必要だ。

その為に学園の運営費は国庫から出されており、生徒や職員は命を懸ける義務を負う。

しかしCクラス以下の生徒はあまり戦場に立つことは無く頼られることも少ない。

DとEは足手まとい扱いだ。

クラス全体での連係が授業になるのはCクラスからなので大規模戦闘では使えないのだろう。

拓未がそう考えていた時だ。学園の隅々へと[緊急警報/エマージェンシー]が響く。


「全校生徒に向けての放送か。これは面倒な奴が来てくれそうだぞ拓未」


ルレシオは座ったまま耳を傾ける。


『学園内に【大磁界】を観測しました。反応の規模からして[グレードワン]と思われます。並びに世界各地でも大磁界が発生し、グレードスリーが100万。[グレードツー]が10万。グレードワンが1万現れた模様』


グレードツーの強さは州レベル。

日本だと複数の府県を一つの大きな地域とした関東や九州、四国といった地域を落とす。

グレードワンは単身で国を滅ぼしてしまう時空獣の中でも最高峰の強大さだ。


「やれやれ、早くもシリウスさんとセルビアさんが言ってた事態が起きてしまったわけか。それじゃあ俺もやる気を見せざるを得ないよね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


以前グレードワンが現界したのは拓未が生まれるより10年以上も昔だったはず。

当時戦ったクルセイダーの全員が40才近いので【神血(イコル)】の出力は出来ず当てに出来ない。

そもそも前回の来襲でも直接相対したメンバーの大半は死んでおり、犠牲になったクルセイダーのお陰でやっと倒すことができ、消滅を免れたに過ぎない。

現在グレードワンに単身で対抗できるのは拓未とシェイリアスの四人を足した5人だけ。

天崎小夜(あまさきさや)》は唯一学園に残ったAクラスとして前線に立っているそうだ。

拓未がルレシオ達と行う作戦で世界中の時空獣を一気に倒すことで全てを終わらせる。


「じゃあ後は任せたぞ拓未」


そう言ったルレシオ、そして

《ルミア・シャル・シェイリアス》

《シリウス・ゼル・シェイリアス》

《セルビア・シュール・シェイリアス》

四人は世界中で出現した時空獣と周囲の時空を停止させて動きを封じ込めた。

本来なら一人でも地球の時間を停止させられる彼等だが今回現れた時空獣は【時空の変異遷(アイオーン・バガリー)】によって過去の歴史を変えられるようになった世界と人類の在り方に関わっている。

改変された歴史、本来人類が歩み経るはずの外史から続く未来へと導く為に【神血(イコル)】と【神祝(ブレス)】の起源である八柱の時間神【アイオーン】がシリウスとセルビアに倒される瞬間に残した置き土産。

地球には【原書】という予言の書物が伝わっており、その一部にはこう書かれていた。

『未来に世界を守る救世主たちは我らの未来を救うだろう。何時かあらゆる神祝を扱う救世主が現れ全ての未来を救うであろう』

救世主が必要な事態は訪れた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


拓未は小夜の元まで時間跳躍を行うと彼女に迫っていた【時空獣(バタフライ)】をワンパンで粉砕する。

グレードスリーとグレードツーだ。


「拓未!? 来たのね! 私の力だとエンゲージ無しじゃ一生掛かってもグレードワンには敵わないわ。単独で倒せたクルセイダーなんて人間が神祝を得た300年前から《陛下》くらいよ。でも入学前に見て思った。グレードワンを倒せるとしたら貴方だけだって」

「そのつもりだ。けどグレードワンを倒せるのは俺だけじゃなく他にも4人居る。でも今は他の時空獣を止めている最中だからな。核になっているコイツを倒してバタフライ効果を世界中に広げ殲滅する」


歴史上で初、無数の時空獣と繋がった[軍団(レギオン)]というタイプの時空獣は人類に対して最終決戦を仕掛けてきた。

勝っても負けても泣いても笑っても、結果がどうなろうとこの一戦で全てが決まる。


「じゃあ行こうか金獅子様」


拓未は黄金に輝く巨大なライオンの姿をした時空獣に向かって足を踏み出した。
 
 

 
後書き
話が浮かばないと次で終わり。

オリジナル設定の軍団型ですが、ライオンを倒すと他の時空獣を倒すことが出来ますが、このライオンが倒せないと他の時空獣は死なないようになっています。 

 

獅子

 
前書き
もうちょっと書きます。 

 
巨大な黄金の獅子と言えば良いのか。

まるでギリシャ神話に登場する《ヘラクレス》に退治された[ネメアの獅子]だ。

拓未は恐れること無く近寄る。

そしてネメアの前脚が届く範囲まで迫ると周りの全てを[停止(フリーズ)]の【神祝(ブレス)】で時間停止させた。

出来る限り拓未とネメアだけにしか戦闘の影響を与えない為の配慮である。

そして両者は腕と前脚をぶつけた。

物凄い衝撃だ。

核兵器ほどではないが、一撃で都市の中枢を機能停止にまで追い込む強烈な威力。


「生意気だな、【時空獣(バタフライ)】の癖に」


一合だけで判った。

こいつは【神血(イコル)】を持っている。

拓未は[加速(アクセル)]を使って自身の動きを高速化した上で[エフェクト]まで入れて拳を叩き込んだのでネメアくらいの質量なら簡単に転がせるはず。

加速にエフェクトを使うと速度に対して軌道がおかしいと判断された場合、速度に応じたエネルギーが発生するように因果が調律される。

拓未はあくまでも神祝による加速をしただけに過ぎず本人は虫を払う程度に腕を振っただけ。

しかしそれでも時空獣に攻撃を防がれたの拓未にとって初めての経験だった。


(どうやら事象と結果に矛盾が出るような攻撃じゃ駄目みたいだな。それじゃあ此処からは普通に相手をして普通に戦わせてもらいますかね) 


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神血を持った時空獣は拓未が想像していたよりも遥かに厄介な存在だった。

グレードが高い時空獣は神祝が効かない部位を持つ個体も存在するが、ネメアは一定以上の実力者が使う神祝かシェイリアスの時間能力でないと受け付けない。

未来(フェイト)]で行動を先読みしながら回避する拓未は大気中の粒子を加速させて高熱を生み、更に酸素や水素を個別に動かし爆発を起こす。

ネメアは爆発に飲み込まれた。


「まあこんなもので倒せないだろうっていうのはこっちも解ってるわけだからな。さっさと出てこいよデカブツ」


ネメアは拓未の言葉を理解しているのか炎の中から地響きを上げて姿を現す。

所々焦げてはいるが既に治り始めていた。


「再生持ちか。まあ当然だろうな。時間の神が残した最強の時空獣なんだし」


拓未がそう言った直後に霜が下りて急激に空気が冷え込んでいく。息も白く湯気を上げた。

大気中に有る無数の粒子速度を[減速(ストール)]で一気に低下させ急速に冷却したのだ。

ネメアの体はどんどん凍結して氷が張られ、一面を極寒へと変貌させていく。


「どうやら直接的な方法で神血の力を流し込んでやるのが一番効きそうだな。問題はどれくらいやれば死んでくれるのかなんだが」


その時だった。

ネメアの(たてがみ)が生物のような毛ではなく、まるで硬質な針のようになって(とが)る。

筋肉の形も変わり、まるで全身装備の鎧を身に付けたような重厚感に満ちた容姿と化す。


「それが本気の状態か」


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ネメアが変わったのは見た目だけではない。


「更に【神祝(ブレス)】が効き難くなってる」


拓未の攻撃が中々ネメアの防御と時間耐性を抜くことが出来なくなった。

結構な力を持たせればダメージを与えられるが以前に《天崎小夜(あまさきさや)》と共に倒した蟻の【時空獣(バタフライ)】より格段に再生力で上回っているので焼け石に水。

どうにかして再生を間に合わせず再生できないダメージを与えなければならない。

神祝一つだけでは拓未が最大の一撃を喰らわせたとしても正直倒すことは難しいだろう。

大量の手数を用意する必要が有る。

だがそれを実行可能でも、決められる状況に持っていくことが困難なのだ。


「この見た目になってからいきなりスペックが上がり過ぎなんだよこの糞ライオン!」


ネメアが変様してから体に電撃を帯びるようになり身体能力を大幅に増してきた。

感覚も鋭くなり、拓未の攻撃へ即座に反応して迎撃・防御・回避などを的確に行う。

攻撃の性質も変わり始めており、拓未とシェイリアスの4人にしか干渉できない時間停止させた物体にさえ徐々にだが傷を付け始めている。

取り敢えず[過去(トレース)]を試して小夜のように今まで出した攻撃と軌道を再現し、連続で攻撃を加えてみたが倒し切れなかった。


「普通のグレードワンなら今ので倒せる。やはり【神血(イコル)】の時間耐性だけでなく、アイオーン神の力を受け継いだことが大きい。一体どうすればあれを倒せる?」
 
 

 
後書き
次で終われるかなあ。 

 

新時代

 
前書き
強引に終わります。

長く書けない。 

 
「おいこらちょっと待て! そりゃあ幾ら何でも反則が過ぎるだろ!?」


来栖拓未(くるすたくみ)》は巨大な黄金の獅子を模した【時空獣(バタフライ)】の《ネメア》と戦い続けていたが、いきなりネメアの戦い方が変わる。


(今俺の後ろに回り込めたのは明らかに【加速(アクセル)】の【神祝(ブレス)】を使ったからだ。時空獣が神祝を使えるなんて有りかよ……!)


ネメアは自分の【神血(イコル)】を用いて神祝による時間能力を発動させるようになった。

生物としての戦闘力で比べた場合、時空獣と人間では勝負になることすら無い。

[グレードスリー]の個体でさえAクラスの【クルセイダー】が40人は必要とされる。

数だけではなく個人の力に集団の連係、神祝の時間能力に【繰刻環(クロック)】で生み出した武器。

そして幸運が重なって漸く全員が無事に帰ってくることが出来るほどの差。

拓未が今まで一人でも時空獣を圧倒できたのは超人的な肉体と戦闘技術・経験・並みのクルセイダーでは数万人がかりでも敵わない逸脱した神祝が大半の理由を占める。

そのアドバンテージをネメアは埋めた。

明確な差が失われた以上、再生を持ち自爆覚悟で突っ込めるネメアの方が有利。

拓未はネメアの突進を[減速(ストール)]と[過去(トレース)]で抑えながら受け止め投げ飛ばす。


「こうなったら仕方ない。シェイリアスの力も使って戦わせてもらうぞ」


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危険を感じ取ったネメアが急いで起き上がり拓未の頭上から勢いよく飛び掛かる。もう加速や[停止(フリーズ)]を使っても逃げ切れない。ネメアの鋭く獰猛な爪は拓未の体を易々と引き裂いて肉片と化してしまった。


「せい」


ネメアの背中に何かが刺さる。それは左腕を肘までネメアの肉に(うず)めた拓未。


過去(トレース)を使ってな。この戦いが始まってから移動した場所に自分を呼び出したんだ」


過去から物体を持ってこれる過去の神祝なのだがその効果は一時的なもの。

しかし拓未の体が消えることは無い。ネメアが殺したはずの拓未は死体が消えている。


「時間の逆行による再生と時間を跳ぶ時間跳躍の合わせ技だ。神祝(ブレス)の力だけだと使い手が別の時間に行くことが出来ないからな」


時間逆行による再生は過去(トレース)でも可能だが時間の移動は五つの神祝どれを使っても不可能。

故に30年毎に発生する【大磁界】を利用した過去改変の権利で世界の国々が争う。

シェイリアスが世界中の神祝使いから嫌われ脅威とされる最も大きな原因だ。

最もシェイリアスの人間は時間能力を得て以来一度も歴史を変えたことが無い。

基本的に時間の流れを操り歴史を修正しようという考えを好ましく思っていないからだ。

それでも彼等が歴史を変えようとする時は必要なことだと思った時のみに限られている。

せずとも誰かがしてくれている時代なので表に出る必要も無いのだが、一部の人間がうるさいので監視できる所に身を置いて安心させているに過ぎない。


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拓未がネメアの背中から【神血(イコル)】を流し込み強制的に体の時間を止めていく。

そして自身とネメアを中心とする空間にも神血の力を満たして空間も万物も停止させる。


「【停止(フリーズ)】の神祝は世界の因果を無視し空間内の時間を止める。本来は力の対象になった空間に在るものに対して使うものなんだが───」


拓未は停止空間に【過去(トレース)】を使う。

更に【加速(アクセル)】で時間の逆行を早め【未来(フェイト)】の確定予知でネメアに結果を刻む。

そして【減速(ストール)】を用いて命を衰退させていく。

停止させた状態で使われた過去はネメアを空間ごと巻き戻しながら崩壊を促す。


「悪いがまだ終わりじゃない。過去と停止の神祝を合わせてやればこんなことすらも可能になるんだ。完全に沈黙させてやるぞ」


停止は世界の因果を無視して空間内の時間を止めるだけの力ではない。停止させた世界の内側に『因果の外』を作り出す。

死者の蘇生すらも可能だ。


「デュアルブレス。これがルレシオさん達と過ごした中で手に入れた力。ブレスの同時使用」


ネメアの周囲を無数の拓未が囲う。

この戦いで起こした全ての行動過程から過去の拓未が現れ拓未が複数存在するという事象の矛盾すら因果を超えて強引に成立させる。


「この未来(さき)時空獣(おまえら)は要らない」


無数の拓未による渾身の一撃がネメアの居た痕跡すら遺さず歴史から消滅させた。


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拓未がネメアを倒してから数日後、拓未を含めた全ての人間から【神血(イコル)】が喪失し、神祝も使えなくなってしまった。


「これでシェイリアス由来の時間能力しか使えなくなったわけか。まあこっちの方が神祝の時間能力よりも出来ることが多いしね」


拓未が《シリウス・ゼル・シェイリアス》に聞いた話によれば、シェイリアスの先祖が時間能力を得たのはシリウス達が倒した8柱の【アイオーン】より下に位置する《ソフィア》が堕落してきた時に与えられたのだという。

その後も彼女の分身《アカモート》、そしてアカモートが生み出した造物主の《デミウルゴス》にも力を与えられたことで強さを増した。

ソフィアは自分を追い落とした8柱のアイオーンと仲が悪かったらしく、後にアカモート、デミウルゴスと共に打ち倒されることになる。

その時に三柱の神はシェイリアスへ

能力の遺伝的継続性

世代を超えた永続性

シェイリアス一族の血を引き継ぐ者は必ず時間能力を発現する普遍性を残す。


「だから俺は神祝を五つとも使えてシェイリアスの血で時間能力を持っているわけだ」


拓未の幼なじみ《空峰朝陽(そらみねあさひ)》も首肯く。


「朝陽はルミアさんとルレシオさんに血を貰ったのね。チートも良いところだわ」

「大変済まないんだが小夜にシェイリアスの血をあげるわけにはいかないぞ」

「良いわよ別に。これで漸く私も家の役目から解放されるわけだし楽をさせてもらうわ」


この(のち)、拓未と朝陽は世界中を飛び回り、影で人々を支え、巨悪を倒し、人類に貢献した。

二人の名は歴史に刻まれることになる。


「朝陽、何してるんだ?」

「ううん、何も」

(未来を見てたとは言えない)
 
 

 
後書き
話が思い付かないというのと早くヒロアカの二次書きたいのも有ってこうなりました。

暫く書けないんですけど。

アイオーンについて知りたい場合には、Wikipediaの方を見た方が早いです。