魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。


 

第1話 第一魔法刑務所

 時は二〇九四年。
 世界は戦乱の時代を乗り越え、今日もまた動き出そうとしている。

 戦乱の時代に生み出された"魔法"。
 それは、争いのために発見され、日々研究された。

 だが、平和になった今では、その使い道は無くなった。

 そこで、一部の人間は魔法を悪用し始めたのだ。
 すぐに警察や政府が動き、魔法を取り締まり始めたのは言うまでもない。

 魔法を使う受刑者は、危険故に、世界に九つある"魔法刑務所"に収監された。

 その魔法刑務所の位置は、公にはされておらず、分かるのは"普通の刑務所とは段違いの警備のレベルを誇る事"と、"九つある事"。


 そして、"魔法犯罪が始まり魔法刑務所が建てられてから、一度も脱獄に成功した者がいない"と言う事。


 だが―――


「貴様等、何度注意したら分かる!!」

 この第一魔法刑務所の主任看守部長を務める、私"黒華琴葉"は、目の前で正座をして並ぶ、四人の囚人の鳩尾に、蹴りを一発喰らわせる。

「ぐっは……琴葉ちゃーん、それは無いって~」
「黙れこの"極悪脱獄囚"がっ!!」

 目の前で蹲りつつも、顔を上げて苦笑いを浮かべている囚人共。此奴等は先程、一人に言った様に、"極悪脱獄囚"として第一魔法刑務所に送られてきた囚人だ。

 そもそも、魔法刑務所と言うのは、第一魔法刑務所から第九魔法刑務所まで存在している。
 先ず魔法犯罪―――魔法を用いた犯罪の事だ―――を犯した受刑者は、魔法刑務所の中で一番下の、第九魔法刑務所へ送られる。が、其処で問題を起こすと第八魔法刑務所へ。また起こすと第七へと、段々と第一魔法刑務所へ近付いていく。
 魔法刑務所の看守は、皆魔法を使用する事が出来る。そうでなければ、魔法を使う囚人を大人しくさせておくことなど、出来やしない。魔法の知識も豊富だ。
 第一魔法刑務所は、魔法刑務所の中で"最強の刑務所"の称号を得ている。なので、勿論此処に収監される程の囚人は、"極悪"の称号に恥じない行い事を繰り返しているのである。

「うわっ! 琴葉ちゃん、ひっどー。そんなキツイ事言ってると、男達逃げちゃうよー? 折角可愛いんだしぃ、もーちょっと優しくしても良いんじゃないかなぁ?」
「さっきから煩い、九〇四番!」

 黒髪の蓬髪に、金色の猫目。黒い半袖シャツに、白いベスト、黒いスラックスと言う、刑務所に相応しくない恰好をしているのが、囚人番号九〇四番。周りからは"グレース"と呼ばれて居る様だ。が、呼ぶ気にはならない。

「ねーねー、グレースくんって変態だよね? あーゆーのが、変態ってヤツだよね~」
「ん? そうだけど?」
「ええええぇぇぇえ!? 琴葉ちゃん、何吹きこんでんの!?」

 白い肩まで伸ばした髪に、睫毛が長い女子の様な赤い瞳。服装は黒い、無地のツナギと言う囚人らしい服装。チャックを首を隠すまで閉めているため、一見女子なのだが、実際は男であるのが囚人番号八九番。通称"ハク"。此方も呼んだことは無いし、呼ぶ予定も無い。

「おい看守。さっさと僕を図書室に連れて行け」
「手前は如何してそんな偉そうなんだ……!!」

 後ろで細く束ねられた深い青の髪に、エメラルドの瞳。白いカッターシャツに、紺色のベスト、宝石が埋め込まれたループタイに、黒いスラックス。そして、極めつけの黒い眼鏡。何処かのお坊ちゃんを思わせる格好をしたのが、囚人番号四番。通称"シン"。呼んだ事も予定も無い。

 此処までは普通に、クソが付く程ウザイ極悪脱獄囚で、自分の中で整理を付ける事が出来なくもないのだが―――


「……"レン"」
「…………なんだよ」

 黒に赤いグラデーションが掛かった髪に、グレーの瞳。ボロボロの囚人服を着た彼は、囚人―――では無い。
 他の囚人や大半の看守には、"囚人番号一〇〇番"として通っている。が、実際はただ単に此の第一魔法刑務所で"保護"している少年なのだ。囚人では無いため、名前で呼んでいる。

「御前は医務室に行くから、着いてこい」
「……分かった」

 フラフラとした足取りで此方へ向かってくるレン。九〇四番、八九番、四番は、それを何時も通り眺めている。三人はもしかすると気付いているのかも知れない。レンが、囚人では無いこと。
 如何にか此方へ辿り着いたレンだが、着いた途端に私にもたれ掛かる。

「御前等、大人しくしてろよな」

 レンを背負いつつ、房の扉を閉める。

 静まった房内は、暫く沈黙に包まれていた。
 

 

第2話 被検体

 レンを第一魔法刑務所が保護する理由。
 それは、一〇年前に起こった"第三次世界大戦"が原因である。

 第三次世界大戦が起こった理由は、誰にも分からない。何故なら、大戦の始めの時点で、大戦に関わっていた者達が、全て死んだから。
 ただ、其処で魔法が発見されたことは分かっている。何度も研究が繰り返され、その研究に人間が利用されていたことも。

 魔法の研究は現在も続いている。今では、魔法学院が設立され、魔法を使用する者が増えていると聞く。魔法は使える者と、使えない者がいるが、その区別を無くす魔法も開発されてしまっている。

 御陰で、私"達"がこうやって匿うヤツが増えているのだ。

「……失礼します。翁、レンを連れて来た」

 "医務室"と書かれた看板の下にあるドアを開き、その中で本を読んでいた老人に声を掛ける。白衣を纏った其奴は医者である。

「オウ、琴葉か。奥に連れてっとけ」

 本から少し目を逸らし、そう命令する老人、七瀬―――名前は知らないので、翁と呼んでいる―――は、レンを見てから本に目を戻す。素っ気ない態度に、私は溜息を吐き、医務室の奥の部屋へ繋がるドアを開ける。

 その中にあるのは白いベッドと点滴、そして心拍数等を示すモニターだけだった。
 少し濁った水色に壁と床が統一された医務室とは変わり、純白が視界を満たすこの部屋のベッドには、既に六人の子供が寝息を立てていた。

 空いているベッドにレンを下ろし、隣に腰を掛ける。今、この部屋は内側から鍵を掛けている状態なので、誰も入って来れない。

「大丈夫か? レン」

 この部屋で眠る六人とレンは、第三次世界大戦の時―――

 魔法開発のための人体実験に使われていた、"被検体"なのである。

「俺は大丈夫……アンタは早く仕事に戻んなよ。忙しいんでしょ」

 被検体は魔法開発のために、とある組織に捕まり、其処で日々実験を受けていたらしい。それは、身を焼かれたり、体の一部を切断されたり、殺されたりと、過酷な物だったそうだ。
 私が知っている被検体は、感情や記憶を失っている。此れまで、何十人もの被検体を見てきたが、感情を全て失い、刃物で刺されても「痛い」とも、炎に包まれても「熱い」とも言わなかった者も居た。記憶を全て失い、まるで生まれたばかりの赤ん坊の様になった者も居た。

 レンは被検体の中でも特別。組織から奪うのが早かったこともあり、記憶も、感情も、それなりには残っている様だ。だから、こうやって私と会話が出来て、体を動かして、皆と共に此処で囚人のフリをしながら生きる事が出来る。

 だって、残っていないのなら―――


「いや、私は忙しくなんてないさ。御前が落ち着くまで、居てやる」
「て、何言ってんだ主任看守部長が。さっさと仕事に戻りやがれクソが。昨日だって仕事終わらずに徹夜してやがった馬鹿が何言ってんだい」

 扉が開き、ひょこっと翁が顔を出す。一発殴ってやりたいのだが、その怒りは後で上手く処理しよう。
 横を向くと、案の定レンが心配した様な表情で、私の顔を覗き込んでいるが、この際どうでもいい。


 今はただ、レンが生きられるのならば、何でも良い。


「……御前さんも、無理はすんなよ。打っ倒れられたら、流石に俺一人じゃ看病できないかんな」
 翁が溜息混じりの声を出す。どうやら、私の真剣な表情を見て、折れた様だ。

「大丈夫だ。此奴が倒れたら、今度は俺が看病する」

 と、此処で爆弾発言。

 翁も、恐らく私も、目を一杯に見開いて、レンを見詰める。レンが不思議そうな顔をするが、其れに負けないくらい不思議そうな表情を、数秒遅れて翁が浮かべる。

「……何か、おかしいこと言ったか?」
「「………………………………言ってない」」

 将来、レンが天然タラシになりそうで怖い。

 

 

第3話 本当はギャグなんです!!

 ―――初めから、真面目な話が続いたのだが。


「手前等、一日に何回脱獄すれば気が済むんだクソ!!」


 この刑務所の日常を物語の様にしたら、恐らく"ギャグ"と分類される物だろう。"シリアス"にはならないのだ。

「あははは~!! また琴葉ちゃんに捕まっちゃったぁ♡」
「『捕まっちゃったぁ♡』じゃないわボケ!! 九〇四番は取り敢えず、鼻凍って死ね!!」
「待って言ってることがサッパリ理解できん」

 朝、レンを医務室の奥の部屋へ運ぶ前、私が叫んでいた理由は―――

「にしても、琴葉ちゃん、毎回単純な鍵を用意して、まるで『脱獄してください』って言ってるようなものだよ?」
「看守、少し僕達をナメすぎじゃないか?」
「そーだよー! オレ達が悪い訳じゃないしーだ!」

 此奴等が、"魔法犯罪が始まり魔法刑務所が建てられてから、一度も脱獄に成功した者がいない"がウリの刑務所で、小さな脱獄を繰り返すからだった。

 でも、此ればかりは私も諦めているのだ。


「だって、魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん」


 小声でボソッと呟く。
 が、三人の囚人達は、一斉に此方を見て、パァという効果音が付きそうな程、表情を明るくさせ、叫び始める。

「ねぇねぇねぇ今さ、琴葉ちゃん負けを認めたよっ!? 流石オレ達、皆で力を合わせれば琴葉ちゃんにも勝っちゃうんだねぇ!!」
「琴葉ちゃんに勝った~! 賭け事ではイカサマしてるグレース君に、イカサマも何も使わずに全部勝っちゃうし、ゲームだってチート使ってるグレース君に、チートを使わずに勝っちゃうし、じゃんけんでも運が上がる魔法とか未来を読む魔法を使ってるグレース君に、何も使わずに勝っちゃうし、他にも~」
「オイやめろ! やめてくれ!!」
「ふっ、看守がこの僕に叶う訳がないだろう! たかが女一人に、僕が負ける訳がな」
「オイちがーう!! "オレ達"か"僕達"!!」
「「グレース(君)は入ってないけど?」」
「何だそれッッッ!?!?」

 八九番も、四番も、言うときはしっかりと言うヤツで良かった。
 だが、"私に勝った"と言うのは気に入らない。

 だって、しょうがないじゃないか。

 第一魔法刑務所に入ってくるのは、魔法犯罪を起こしまくり、第九魔法刑務所でも、第八魔法刑務所でも、第七でも、第六でも、第五でも、第四でも、第三でも、第二でも手に負えなくなった様な、可笑しなヤツ等しかいないのだ。
 魔法の知識では負けなくても、魔法の応用で負けるのもしょうがないじゃないか。
 一対一の勝負では勝っても、人数が集まって襲ってこられたら、負けるのもしょうがないじゃないか。
 鍵だって、刑務所で統一されてるんだよ。バレない程度に毎回形を変えるけど、それ以上変えるとバレるんだけど。
 明らかに看守が不利な状況で、魔法も使えるんだから、しょうがないじゃん。

「おーい、琴葉ちゃーん?」

 ……"魔法も使えるんだから"?
 魔法が使えなかったらどうなる?

「琴葉ちゃー」
「それだッッッ!!!!」
「ぐはっ」

 ずっと下を向いて考えていたため、顔を上げた際に、九〇四番の顎に、私の頭突きがクリーンヒットした様だ。

「貴様等、もう魔法を使うなっ!!」
「「「嫌だ」」」
「ふふふ……言うと思ったぞ! だから、此れをくれてやるっ!! 《魔法無効化》!!」

 此の房の周りを囲う様に、魔法を無効化するバリアを、魔法を使って張る。このバリア内だったら、魔法を使う事は出来ない。

 魔法には様々な使い方があり、此れは"魔法を無効化する"と言う"結果"を生み出すモノを、バリアの様な形にして、部屋を囲うと言う使い方だ。

 魔法は、あくまで"結果"として世界に現れるモノだ。一度現れた結果を曲げることは難しい。

「あ、ズリーぞ!!」
「こっちだって!」

 それは無理である。
 なぜなら、私の方が強いからである。

「ふっ……此処でやりあっても、唯の時間の無駄だ。精々、足掻くといいさ。生憎と、私は中学男子の様なくだらない喧嘩に、興味は……」
「へー、逃げるんだぁ」

 踵を返してすぐに、九〇四番のへらへらとした声。如何もイラつきが収まらず、私はもう一度九〇四番に向き直り、房の鉄格子を思い切り掴んだ。

「あ"? 誰に口聞いてんだ手前殴るぞあ"あ?」
「ハッ! 殴れるモンなら殴ってみればぁ? このイケメン担当の俺の顔を傷付…………ぶぇふ!!」

 思い切り鉄格子の間から腕を伸ばし、九〇四番の顔面に拳を入れる。後ろで八九番と四番が俯きながら肩を震わせ、耳まで赤くなっていることから、大爆笑するのを堪えているのだろう。

 ついでに、九〇四番はイケメン担当では無い。
 何故ならこの房には、女囚人共が寄って集る、"ミステリアスイケメン(レン)"と、"俺(僕)様系イケメン(四番)"が居るのだから。因みに、九〇四番は"残念イケメン"らしい。一番興味は無いが。
 なので、この房にイケメン担当を付けるとしたら、レンか四番のどちらかになる。

「看守。この房のイケメン担当は僕かレンだと思わないか? あと、ハクは癒し担当で、グレースは変態担当」
「え? ボク癒し担当?」
「変態担当って何!? シンってば酷くない!?」
「鼻血出してる中学生男子並みの喧嘩をするヤツがイケメン担当とか有り得無くないか?」
「クッソ」

 ―――まぁ、これがこの房日常である。


 三度の飯より脱獄、それ以外の時間は馬鹿騒ぎ。


 これが極悪脱獄囚でいいのか…………?

 

 

第4話 小ネタ詰め

◆ 誰がモテる? ◆

 昼頃。昼食の時間が終わり、囚人達は房に戻っていた。

「ねぇ、琴葉ちゃん」

 巡回の途中、九〇四番に声を掛けられ、脚を止める。

「…………何だクソ野郎」
「酷くない? まぁ、それは置いておいて、俺達四人の中で、誰が一番モテると思う? やっぱり俺だよねっ?」
「無いな」
「即答!?!?」

 そんなくだらないことで私の仕事を邪魔すんなとツッコみたいが、少し待ってやる。ここで答えを出しておけば、少しの間話の種を見付けられず、静かになるのでは無いかと思ったからだ。
 此奴等のことだから、きっと誰が一番モテるかで揉めて、女である私に聞こうと思ったのだろう。

「誰が一番かと言ったら、レンじゃ無いの? イケメン担当(仮)の二人のどちらかだったら、レン。四番はあれだ、『御前は僕の下僕だ。一生僕に仕えろ』とか言うだろ?」
「貶しているのか? 褒めているのか?」
「知らない」

 四番のツッコミを捌いて、すぐに踵を返す。まだ仕事は途中なのだ。
 後ろでぎゃいぎゃい騒いでいる声が聞こえたが、暫くして収まったので、気にしないでおこう。

904「レンー、今のどう思ったー?」
100「……嬉しいけど」
4「何だ? 照れてるのか?」
89「レンくんかわいー!」
100「…………何言ってんだよ」
904「……俺、気付いたわ」
89「なになにー!?」
904「レンと、琴葉ちゃんって、両想いじゃね?」
4「いや、恋まで発展している訳が無いだろうが」
89「ねー。流石変態担当、妄想の度が違う」
100「あー確かに」
904「ひどくね……?」



◆ クリスマスの準備 ◆

 私が納める(?)この一舎は、毎年恒例行事の真っ最中である。

「おらー、囚人共ー! さっさと飾り付けしろー」
「「「はーい」」」

 一二月二五日、クリスマスの準備だ。
 一舎では、クリスマスツリーの飾り付けを、(面倒臭いから)囚人達にやらせているのだ。モミの木が飾ってある広場の飾り付けもセットで行っている。

「赤いのはこっちー。黄色いのがそっちー。あ、その青いのもうチョット右にしてー。あ、おっけー」

 飾り付けの仕方を説明しよう。
 まずは飾り製作班。ツリーの下辺りで、魔法を駆使して飾りを製作。赤、青、黄色の球体の飾りや、綿の様なふわふわした飾り、ツリーに巻き付けるような飾りを作っている。
 次に飾り付け班。魔法を使って、飾り製作班が作った飾りを浮かせ、上手くモミの木に飾る。配色もしっかりと考えているようで、流石魔法を使いつつ作業する、その集中力や頭の回転は流石だなぁと感心する。
 最後に最終チェック班。飾り付け班が付けた飾りの位置を、魔法によって微調整する。御陰で、人の数十倍もの大きさをしたモミの木が、市販の小さなクリスマスツリー並みの精度で仕上がりつつあった。

 因みに巨大モミの木は、第一魔法刑務所の阿呆が買い、苗から魔法によって一瞬で育てたモノである。


「……ここまでは順調…………って、オイ!!」

 モミの木の上の方を見て、私は絶句した。
 やはり間違いだったか…………!

「レン、下りろ!」

 木の天辺付近に、巨大な星を抱えたレンが居た。
 魔法は使っておらず、滑ったら真っ逆さまに落ちていき、地面に頭からぶつかって、確実に死ぬ。

 取り敢えず、この作業を九〇四番、八九番、四番、レンに任せたのが間違いだった。飾りの製作も、飾り付けも、飾りの微調整も出来ないだろうと考え、一番単純なクリスマスツリーの、あの天辺の星を付けろと指示したのが悪かった。

 少しすると、やはりレンは脚を滑らせ、飾りを抱えたまま落下してくる。
 周りの囚人が悲鳴を上げる中、咄嗟にレンの落下地点付近まで走る。脚を一瞬だけ魔法で強化し、地面を強く蹴る。そして、レンを俗に言う"お姫様抱っこ"して、地面に着地。すぐに九〇四番達が近寄ってきて、レンを心配し始める。そんなんだったら自分で行けやボケ。

「……ありがとな、琴葉」

 レンがお礼を言ってくる。こうやって面と向かって言われると、何というか小っ恥ずかしい気がしてくる。

「囚人を守ることは私の仕事なんだけど?」

 照れ隠しでは無い。自然と出て来た言葉で返す。が。

「ツンデレかー琴葉ちゃんはー」
「照れてるー」
「素直に『どういたしまして』で良いんじゃ無いのか?」

「煩いぞ九〇四番、八九番、四番!!」

 暫くの間九〇四番と睨み合った後、申し訳なさそうに星の形をした飾りを抱えているレンに気付く。
 
 仕方が無いので、レンの膝と背中に腕を回し、再度"お姫様抱っこ"の状態にする。レンが慌て始めるが、気にせずに飛行魔法を使い、騒ぎの間に完成したクリスマスツリーの天辺まで上昇する。

「ほら。付けなよ」

 クリスマスツリーの近くまで寄ると、レンは星の飾りを天辺に付けた。すると、下の方で拍手が起こる。かなりの距離があるのに聞こえると言う事は、相当な音量なのだろう。


「イケメン死ねええええええええええええ!!!!!!」
「九〇四番!! 御前一回黙れぶっ殺す!!!!」


 変態担当は、何時だって、ぶれない。

 

 

第5話 小ネタ詰め2

◆ 楽しみなのはやっぱりプレゼント ◆

904「御前等、クリスマスプレゼントって何頼むんだ?」
89「日本の"OCTAZUKE"が食べられるセット」
4「日本の"NINZYA"についての本」
904「俺はパソコンかなー」
89・4「「空気読めなさすぎじゃん」」
904「ヒドイ……って、レンは? 何頼むの?」
100「………………………………………………………………」

89「決まってないんだ! じゃあ、レンくんのプレゼント、みんなで考えよー」
4「そうだね。どう言う物が欲しいとかあるのか?」
100「……あー」

 巡回が終了し、気分で房を覗きに来る。
 すると、まーた何かで盛り上がっているようだ。

「また何か話してんの?」
「あ、丁度良い所に! 琴葉ちゃんも相談に乗ってやってよー!」

 また九〇四番。…………まぁ、暇だから相手をしてやろう。書類等は、全て仕上げてきたからな。

「良いけど、何があったんだ」

 それがねー? と話し始める四〇九番が話し始める。レンのクリスマスプレゼントを皆で悩んでいるようだな。

「うーん……私の話になるが、最近コップが割れてね。本土に戻るのも面倒臭くて、買いに行く暇が無くて困ってる。アマ○ンでポチってするか、頑張って買いに行くか悩んでる」
「………………………………」

 レンがじーっと此方を見ているのだが……流石通称(?)ミステリアスイケメン、レンの考えは読めないなぁ。

「ん? あ。琴葉ちゃん、ありがとー」
「は……? まぁ、役に立ったのなら良いが…………相談に乗ってやったんだから、脱獄はするなよ」
「「「はーい」」」

 よく分からないまま、私はまた暇になっ―――


「よーし脱獄だぁっ!!」
「九〇四番、貴様ぁぁぁぁあああああ!!!!」


 る事は無いらしい。



◆ 勝負 ◆

 …………脱獄した四人を捕まえて並べてシバいた後、房内はすぐに賑わっていた。

904「ねー、レンー」
100「……何だ?」
904「じゃんけんぽん!!(パー)」
100「(グー)……俺の負けか」
904「もう一回! じゃんけんぽん!(グー)」
100「(チョキ)…………何故勝てない」
904「ははははっ! もう一回! じゃんけんぽん!(グー)」
100「(チョキ)……………………」
904「ありがとねー!」
100「待て……勝ち逃げさせて堪るか。次は俺が勝つから」

89「あれ、レンくんが珍しくやる気出してる」
4「何か、プレゼントを決めたことで吹っ切れたんだろう」

100「じゃんけんぽん!(パー)」
904「(グー)なっ……!! 勝ち逃げしないでね!? じゃんけんぽん!!(チョキ)」
100「(パー)ぐっ……」

 これが続いた。そろそろ三十戦はしたのではないだろうか。見ている私、八九番、四番は完全に飽きて、三人で話を始める事になってしまった。

89「これさー、横から『エクスプロージョン』!! って行けば終わるかなぁ?」
4「終わらないだろうな」
「だろうな」
89「えー? じゃあ、『ハハッ! ぼく、ミッ○」
「アウトォォォオオオオ!!!!」
89「『ぼく、ド○エ」
4「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ」
89「『○ムロ」
「だぁぁぁぁぁああああああ!!」
89「『ぼく、アン○」
4「ストップストップストップストップストップ」

 が、じゃんけんよりこっちの方が疲れるらしい。
 と言うか、何で囚人と喋っているんだ……主任看守部長としての恥…………


 …………伏せ字と消音は常備しておこう。


 

 

第6話 副主任看守登場!!

 看守室。此処は一舎の看守が事務仕事をする部屋。

 ―――なのだが。

「……何で御前が居るんだ!!」
「いてっ」

 九〇四番が看守室内をぐるぐるぐるぐると歩いて居た。
 反射的に手錠を掛け、何となく近くにあった縄で縛り上げる。このまま房に放り投げても良いのでは、と言う考えになったが、面倒臭いので、廊下に置いていこうかなと考える。

 この部屋に置いてある物には、全て硬化魔法―――物体を硬くする魔法―――、固定魔法―――物体が置いてある場所の座標を決め、其処の座標に物体を固定する魔法―――を掛けてあるため、破壊も出来ないし、動かすことも出来ない。魔法を掛けた人が許した者以外には、だが。

「で、何か収穫はあったの?」
「……抑も、どの引き出しも開かないんだけど」

 なので、九〇四番がどれだけ引き出しをガタガタしても、引き出しは絶対に開かないのだ。
 勝ち誇った笑みを浮かべていると、いきなり目の前に居る九〇四番の顔が引き攣る。……変顔の披露をしてとは誰も言っていないのだが。

「どうした?」

 問うが、答えない。口の端がピクピクと痙攣していて、何かに怯えているのだろうか? 怯えるモノ何て、置いていない筈なのだが。

 すると、ふっと視界に影が入り込み、直後首に腕が回される。
 看守服……と言う事は、看守か。

「琴葉ぁ?」

 甘ったるい声と甘い息が、右耳に掛けられる。…………マズいマズいマズい!! 九〇四番に耳が弱いのがバレたら終わる!!

「そこの囚人くんにした特殊プレイを、僕にもしてくれるかなぁ?」
「ヒッ……ぁ………」

 …………あ。九〇四番が此方をガン見している。顔に熱が集まっていくのも分かる。おかしな声が出たのも分かる。
 右を向くと、其処にはニヤニヤと笑う、一舎の副主任看守・黒崎要(くろさきかなめ)が居た。
 …………サァと音を立てそうなくらいの勢いで、顔に集まった熱が何処かへ消える。多分、今は真っ青な顔をしていると思う。

「……や、止めろ! この変態! マゾヒスト!」
「それも嬉しいけど~? 琴葉に対しては、サディストで居るの、忘れないでね?」
「~~~~~~!!!! やっ、やめろ! 離せ!! ……ひゃっ!?」
「囚人くーん、チョット貰うね~」
「やめっ、はなせっ!! …………え、あ、何処触って……わあああぁぁぁぁぁあああ!?!?」
「そんな反応もすっごく可愛いよ。食べてしまいたいくらい」
「へっ!? や、だめ…………あああぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


[暫くお待ち下さい]


 疲れたな。クソ変態め、後で打っ殺してやる。

「琴葉ちゃんも、大変なんだね」
「同情するな!!」


  ◆ ◆ ◆


 全く、朝から散々だったな。
 巡回中、また九〇四番達が盛り上がっていた。だが、何時もと違い、房の前に要がいる。

「でねでね? 琴葉はすっごく甘えん坊で、泣き虫で、可愛いんだよ~!」
100「マジか……」
904「琴葉ちゃん、彼氏とかいるの?」
「いない!」
4「へぇ。良いことを聞いたな」
89「イケメン担当と変態担当、琴葉ちゃんに手は出しちゃ駄目だよと言うかヘンな事しちゃ駄目だよ」
904「何を疑わてるのかな? 俺達」
89「……………………」
「で、其処に居るのはバレているんだよぉ? 琴葉ぁ?」

 ゲ、バレたし。
 咄嗟に通路の角に隠れたが、そう言えば黒崎家は魔法で有名な家だと思い出す。索敵魔法等が、世界最先端レベルの実力があるらしい。"黒崎家の御陰で、ストーカー被害が格段と減りました!"とニュースで見た気がする。

「何……?」通路の角から頭を少し出しながら反応する。
 すると、ニヤリと要は笑みを浮かべ、

「琴葉って、身長の割に胸あるよね」

 …………顔に熱が集まる。次の瞬間には要との間を駆け抜け、ヤツの鳩尾を蹴っていた。

「御前、マジ最低ッ! セクハラで訴えてやる!! クズ! クズ要!! ……って、貴様等もまじまじと見るな変態!!」

 こんなに要がいらないと思った日は無い。

「クズメ!! セクハラ(じじい)!! クソ看守!! 死ね!!」

 "身長が小さい"だったら、「御前より小さいだけだ!」で終わりにしたのに。…………って、一般的に見て一六三センチって小さいのか?
 要改めクズメをゲシゲシと踏み付けていると、私を見詰めて黙っている事に気付く。思わず脚を止め、何だ? と小首を傾げる。

 すると、クズメはすぐにニヤリと笑い、

「黒なんだぁ」

 と言った。

 看守服のズボンが乾かなかったからと言う普通の理由で、久し振りにスカートを穿いたのが間違えだった。反射的にスカートの裾を抑え、声にならない叫びを上げる。

「へぇ……大人っぽーい」
「大人の女性って感じだねー」
「誘っているのか?」
「…………エロ琴葉」

 囚人共はこんな事を言い始める。
 確かに此奴等は一八から二〇歳と言う、色々してみたい時期なのだろう。だが、だが…………!!


「『エクスプロージョン』」

 
 ―――房内は木っ端微塵に破壊された。


 
 

 
後書き
[数分後の看守室]
琴葉「…………」ムスッ
看守A「……どうしました?」
琴葉「…………」ムスッ
看守B「……あの、主任?」
琴葉「…………」ムスッ
看守A「……そろそろ、無言で副主任の写真に釘を刺して、金槌で打つの、止めません?」
琴葉「…………」ムスッ
看守B「……って、いけません主任! それ、囚人の資料です!!」
要「(今入るのは止めておこーっと)」 

 

第7話 囚人目線って言うモノ

 
前書き
レンside

初囚人視点は、レンくんでした!! 

 
 朝。それは俺にとって、とても憂鬱な時間だった。
 俺は、朝起きたら"原因不明の"頭痛や熱があることがあって、その度に琴葉に医務室に運ばれている。
 誰よりも時間や予定を守る琴葉の時間を朝から奪い、予定を狂わせる。それは嫌だ。

 今日は起きられるかな。


「起床! 点呼を取るぞ」

 何時も通り、琴葉が起こしに来てくれる。
 グレースは、"肌のケアをする"と言って早く起きているため、すぐに鉄格子の前に来る―――訳は無く、暫くして琴葉が催促して、ようやく来る。
 シンは、早く起きて脱獄し、看守に秘密で魔法の鍛錬をしているらしく、毎朝琴葉に首根っこを掴まれて、起床時間前に房に戻される。
 ハクは、琴葉が来ると大抵の場合起きる。が、起きない時もあり、その時はグレースとシンが叩き起こしている。

 俺は―――今日も起きられない。
 意識はある。けど、体が動かなかった。でも、全くと言う訳では無いから、金縛り等では無い。

「九〇四番」
「はーい」

「八九番」
「ふぁ~い」

「四番……はいいや」
「僕を呼ばないとは良い度胸をしているね?」

「レン。……レン?」

 声が出せなかった。辛い。苦しい。嫌だ。

「レン、起きてるか? ……ちょっと、九〇四番確認して」

 グレースが近付いてくるのが分かる。
 まだ体が動かせない。声が出ない。


「……やっぱいい。ちょっと入る」


 鉄格子が開く音が聞こえる。
 視界の横に琴葉の姿が見える。……房内に琴葉が入っている?

 すると、布団が剥がされ、冬の冷たい空気が肌に伝わってくる。が、次にはごわごわとした布と、温かい手に体を支えられ、ひょいと持ち上げられる。


 ―――また迷惑を掛けた。


 鉄格子に再度鍵が掛けられ、俺は琴葉の背中で縮こまる。琴葉の黒いサラサラの髪がとてもくすぐったい。
 俺に負担を掛けないようにか、ゆっくりと医務室まで向かっているのが分かる。


「レン。反応しなくて良いから、聞いてくれ。……御前、あんまり溜め込まない様にしてよね? 体調崩しやすいんだからさ。沢山会う時間だってあるんだからさ、何でも私に言いな? 嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと……何でもいい。私は、御前等囚人を守る事も仕事なんだよ。私を利用して生きても良い。とにかく、一人で抱え込まないで、私、九〇四番、八九番、四番とかに相談して? ね」


 ……………………。
 顔をグリグリと琴葉の首に押し付ける。照れ隠し……と言うモノだろうか。久し振りに顔が熱くなった。

「なに。レン、照れてんの?」
「……るさい」
「はいはい」

 小さく笑う声がして、何故か悔しくなる。馬鹿にされたようで、でもくすぐったい。よく分からない感情が、心の中をグルグルと渦巻く。

「琴葉……今相談して良いか?」
「ん? いーけど」


「琴葉は……俺の事、どう思ってる?」


 すると、琴葉がピタリと脚を止める。…………おかし事を聞いた事は自覚している。が、答えてくれるのが琴葉だ。
 数十秒の静寂の後、琴葉は小さく言った。


「守らねばならない者」


 その言葉の意味が分からず、医務室までの間、その言葉の意味を悩み続けた。


  ◆琴葉side◆


 一瞬、耳を疑った。

"琴葉は……俺の事、どう思ってる?"

 どの様な答えを求めていて、どう答えればいいのか、分からなかったからだ。

 レンは恋愛感情を、実験によって失っている。だから、恋愛系の答えを返すべきでは無いとは思った。違う答えを返してあげるのが正解で、望んでいる事なんだ。

 だから、"守らねばならない者"と答えた。

 私にとって、彼は"彼の実験"の被害に遭った、守るべき者だったから。


「…………い、おい! 聞いてんのか琴葉!」
「ん、おあっ!? って、翁か。驚かすな」

 顔を上げた目の前に、翁の顔があった。額に青筋を浮かべていて、かなり苛立っている事が分かる。

「"驚かすな"じゃねぇ! 何回も呼んだわボケ! 御前さんも一度診察してやろうか!?」
「おいぃぃぃい、止めろー? 翁よ、落ち着けー?」
「落ち着いとるわボケ!!」

 何処が落ち着いてんだよ、ボケ。
 レンを医務室の奥に置いて来て寝かせてから数分。私は翁と相談をしていたのだが、ぼうっとしてた様だ。それが翁の癪に障ったらしい。

「……御前、最近感情が薄くなってきてないか?」
 翁の不審そうな言葉に、
「な訳ないだろ。私が感情薄れてきてるとなったら、今頃此の刑務所は既に木っ端微塵だ」
 と、冗談交じりに言葉を返す。

「……御前だって、"奴等"と同じなんだ。少しは休め、仕事馬鹿」
「仕事馬鹿? なんだそれ」
「御前にピッタリなあだ名だろ」

 …………返事がしにくい。
 これで肯定したら、私は「仕事に熱心なの! 真面目で良い子でしょ?」みたいな事を言ってるのと一緒。だが否定したら、翁が怒る。
 如何すれば良い…………


「あ、そっすね…………」


 翁の眼力に負けて、言ってしまった。

 これで私は、自分で"いい子ちゃんぶってる子"認定した事となってしまった。


 

 

第8話 今更だけど

 
前書き
レンside 

 
 夜。その中でも、他の囚人達が寝静まった頃。


『―――囚人四名が脱獄した! 確保しろッ!!』


 グレースとハク、シンと俺の、脱獄の時間がやってくる。

「ようやく気付いたみたいだねー! 琴葉ちゃん」
「今頃、看守室のモニターがいくつ壊れてるんだろうね?」
「副主任に抑え付けられているに一票だ」
「…………大声出すと、すぐ見つかるぞ」

 房の鍵は、魔法が効かないようになっている。と言うか、既に房内で魔法が使え無くされてしまった。
 なので、昔ながらの"ピッキング"で鍵を開け、房を抜けてきた。因みに、ピンはグレースが琴葉のポケットから盗んだもので、シンがそれを使って開けた。二人とも器用で、憧れる。

 房は出口の扉から、一番遠いところにある。そのため、普通に走って行けば、途中で看守に捕まってしまう。なので、脱獄対策に作られた通路を進むのが常識なのだが―――


「『エクスプロージョン』ッ!!」


 ハクの爆裂魔法が、通路の壁を貫く。一直線に穴が開き、出口までのショートカットになる。
 魔法が使える世界で脱獄を防ぐなど、出来る訳が無いのだ。

 魔力を一気に使ったハクは、力が抜けてふにゃりと地面に寝っ転がる。が、すぐにグレースが背中に乗せ、出来た道を突っ切っていく。シンと共に、その後を続く。


『第五区画だ! 囲め囲め!!』


 指示を出しているのは琴葉だ。そこら中に仕掛けられた防犯カメラの映像を、モニターで見ているからな。既に一つくらいモニターを破壊しているかもしれない。

 優しいところもあるが、馬鹿なところもあるからな。


 通路を出ると、其処には大勢の看守が、銃を構えて並んでいた。その銃には―――


「その銃は魔法だ! 気にしなくていい」

 俺が声を出すと、シンが一歩前に出て、不敵に笑った。

「ハハハ……! レンに魔法での脅しが効くと思うな!!」

 すると、次の瞬間には看守達は通路の床に倒れていた。
 シンが、魔法によって時間を操作し、自分以外の時間を遅くし、自分だけが普通に動ける世界にした後、で看守を一撃で無力化したのだ。遅くなっている方からすれば、時が止まり、でもシンは動くことが出来る、と言う風に見えるだろう。
 シンのヤツ、また腕を上げた。

「ねーねー、グレースくん! 魔力分けてよー」
「えー? 俺、自分の魔力あげたくない……って、丁度良いとこに供給源が~」

 グレースがハクと看守の手を握る。すると、ハクの顔色が段々と良くなっていき、逆に看守の顔色が悪くなり、段々と痩せてくる。魔力を吸収する魔法『ドレイン』で得た魔力を、そのままハクに流しているのだ。
 …………俺の活躍は?

「にしても、よくあれが魔法だと分かったな、レン」
「いや、普通に見たら分かる…………」
「んな訳あるかこのっ」
「あいてっ」

 シンと話していると、急にグレースが後頭部を叩いてくる。…………地味に痛い。
 頭を抑えながらグレースを睨むと、グレースはビシッと人差し指を立てながら言った。

「どっかのちっちゃい看守は別として、あれが魔法だって気付くのは、魔力を感じることが出来るレンだけだからね? 俺達、完全に銃だと思ってたし。ホント、あの小っちゃい看守もキミも、羨ましいぁ」

 後ろでハクとシンがうんうんと頷いて―――


「それはどうもありがとうだが"小っちゃい看守"とは誰のことかなぁ? えぇ?」


 いたが、後ろから何者かに頭を掴まれ、動かせなくなったようだ。
 二人とも真っ青な顔をして、絶えず冷や汗を流している。

 声の主は、間違えなく―――


「打っ殺す。特に九〇四番」


 琴葉だった。


「「「「ギャァァァアアアアアアアア!!!!」」」」


  ◆ ◆ ◆


「はっ、早く逃げろぉおお!!」
「グレースくん、顔面崩壊してる!!」
「おい、看守!! 止まれ!」
「……………………助けて」

「貴様等マジ許さん!!」

 現在、通路に沿って逃走中。
 何度も罠が発動されるが、グレースとシンがそれを破壊しつつ、どうにか逃げている。
 鬼との距離、十メートル。

「貴様等、この修理にどんだけ時間掛かると思ってんだ! 三分だぞ三分!! 要をシバくのに十分な時間だぞ!! カップラーメン作れるんだぞ!!」
「三分で何が出来るって聞かれた時、琴葉ちゃんがカップラーメン出すとは思わなかった!! ってか、要ちゃんシバくてどゆこと!?!?」
「黙れ九〇四番!! 御前の声を聞くと苛ついてしょうがない!!」
「ひど……い…………」

 鬼との距離、八メートル。

「逃げるな馬鹿! 囚人なんだから大人しくしていろ! どうせ、ロクな理由も無く脱獄したんだから!!」
「勘違いしちゃ駄目だよ、琴葉ちゃん!」
「じゃあ理由を言ってみろ!!」
「琴葉ちゃんと鬼ごっこするため!」
「幼稚! くだらない!! ドヤ顔するな!!」

 鬼との距離、六メートル。

「くそっ、もう諦めろ!! もう打開策なんて考えられないくらい追い込まれてんだろ!!」
「看守は僕達を甘く見すぎだ! 殺すぞ!!」
「囚人が看守に"殺す"と脅すのか? 良い度胸してんじゃねぇかその腐った性格叩き直してやる!!」
「腐った……せい、かく…………」

 鬼との距離、四メートル。

「…………疲れた、死ぬ」
「おおぅ!? 休めよレン!」
「や、置いて行かれる……」
「いや、知らねぇから房から出んなよ」

 鬼との距離、二メートル。

「わぁぁぁあああ追い付かれるぅぅううう!!」
「琴葉ちゃんとまってぇぇぇぇええ!!」
「…………って、行き止まりだぞ!?」
「ぶつかる……!」

 鬼との距離、一メートル。


 ―――壁との距離、ゼロメートル。


 壁に思い切りぶつかり、ヒビが入った。
 顔がとても痛い。鼻血出てるパターン……

 フラッと四人揃って後ろに倒れ込むと、琴葉は呆れた様な表情で俺達を見下ろしていた。"何やってんだ此奴等"と言いたいのがとても分かる。
 そして、琴葉は口を開いた。


「……………………だっさ」
「「「「うるせぇぇぇえええええ!!!!」」」」

 

 

第9話 新キャラ登場!?

 
前書き
琴葉side 

 
 鼻血を出して、仰向けに倒れる囚人共。笑いが抑えられなかった。

 腹を抱えて笑うのだけはどうにか堪え、四人の手に手錠を掛ける。これは看守室の物と同じ様に、破壊出来ない様にし、歩かなければいけないので、水平移動しか出来ない仕様にした。
 後は手錠を鎖で繋いで、引っ張っていけば良かったのだが―――

 ドガン!と、私の横の壁に拳が叩き付けられた。
 …………どうして、こんなに野蛮なヤツが多いんだ、この舎は!! 私もそうかもしれないけども!!


「チッ……外したか」


 後ろでドミノ倒しの様に倒れる囚人共に巻き込まれる―――のを回避し、声の主から距離をとる。そして、目を疑った。

 其処に居たのは二人の男。一般的に見て、どちらともイケメンの部類に入るものだろう。殴りかかってきた方は、いかにも性格が荒そうな感じをしている。もう一人の方は落ち着いていて、争いごとが好きじゃなさそうな顔をしている。
 髪は暗い紫。若干赤みが掛かっていて、綺麗な髪色だなぁと、いきなり殴りかかってこられると言う状況でも思ってしまう。
 瞳も透き通るような緑。女性が十人居たとして、十人は羨ましがるような、宝石のような瞳。因みに、私は黒が一番しっくり来るので、強いて言うなら綺麗だなぁ程度にしか思わない。

 ここまでは一般的なイケメンと同じだ。

 だが、問題は服。
 二人の男はロングの"メイド服"を着ているのだ。
 …………世の中には、こんな変わった趣……コホン、個性的な人もいるんだなぁ。


「……何だ? 御前等」
 私が問うと、荒そうなヤツの方が、
「言う必要なんてねぇだろ。言葉遣いの荒い女だな」
 と言う。…………あ、そういえば。

「あ! 御前等、今日私を暗殺しに来た奴等か!!」
「「「「は?」」」」

 後ろで重ねるように倒れた囚人共が、素っ頓狂な声を出す。そんなに驚くことだったか? 私は、一週間に最低でも四回は暗殺者に、命を狙われているのだが…………

「そうと決まれば捕まえるしか無いな! わざわざ警備を薄くしたのが無駄になる!」
「「「「はぁ!?」」」」

 今日此奴等を捕まえに来たのは、警備を薄くしてあって、もし一舎の外壁の近くまで来て爆裂魔法をぶっ放されたら、とんでもないことになってしまうからだった。

「と言う訳で暗殺者共、危険だから手錠掛けるから。安心しろ、此奴等と同じ房にぶち込むだけだ、安心しろ」
「「「「はぁぁぁああああ!!?」」」」

 囚人共が騒ぐ。

「いやいやいや、琴葉ちゃん!? こんな危なそうな奴等と一緒にしないで!?」
「○○○○れて、体を○○○○にされちゃうよぉ!!」
「○○を○○して、○○○○○○○○されるのは勘弁してくれ!」
「…………止めてくれ」

 そう言えば、席替え前の中学生って、○○くん、○○さんの隣はヤダァァァアア!! 先生、変えてよぉぉおおお!! とか言うんだよな……? 喧嘩も中学生レベルだし、此奴等の精神年齢、低くないか?

「ま、冗談だ。取り敢えず、其奴等を捕まえてから―――」


 頬を拳が掠める。…………こっわ。

「避けんのは得意みてぇだな」
「…………御前等、何処のヤツなのか、もう検討はついてるんだ。さっさと大人しくしろ。最近徹夜続きで眠いんだ」

 九〇四番共が、毎晩毎晩毎晩毎晩脱獄するから、と心の中で付け足す。

 このメイド男は過去、会ったことがある。向こうが覚えているとは、到底思えないが。

 取り敢えず、此奴等は危険だ。私にとってはただの餓鬼でしか無いのだが。ただの餓鬼でしか無いのだが。

 確か、此奴等は兄弟で、上が荒そうな方で、大人しそうな方が下。ある組織に所属する殺し屋。かなり裏社会に名が通っていた筈だ。
 そんな奴等は、上が素手での戦闘、下が武器を使った戦闘を得意としている。

 今回は気を引き締めた方がよさそ―――


 と思ってやめた。


「オラッ!!」

 横にずれて回避…………しない。

「……ラァッ!!」

 しゃがんで回避…………しない。


「……もしかして、君攻撃当たらないん? さっきから攻撃がスカばっかり……」
「うるせぇぇぇえええええ!!」


 図星か。


「ちょっと退いて」

 下の方がバズーカを構える。これは……魔法か。炎は出るっぽいが。

 トリガーを引く。…………が。


 出たのは小さな炎。十年前、赤ん坊が使っていたレベル。


「…………君達、何でそれで名の通った殺し屋になれたんだ?」
「……うるさい」


  ◆ ◆ ◆


 取り敢えず囚人共を房に戻してから、兄弟と房の前で話しをする。何故此処で話しをするかと言うと、囚人共が気になって寝れない! と騒ぐからである。

「……で、如何すれば良いの? 君達は」
「解放しろ」
「無理。馬鹿じゃん」

 此奴等は十年前の戦争で、一番魔法開発を進めた組織に所属する殺し屋。魔法開発のための実験を多く行っていて、私が保護している被検体は、全てその組織での実験に使われた被検体だ。
 レンに会わせたらとんでもないことになる。そんな事は一切無い。レンは実験に関する記憶を全て失っているからだ。

「御前等の目的は、私を殺すことと、其処の四人の内二人を回収すること、そして残りの六人の被検体の回収だな?」
「なっ……如何為て実験について…………」
「質問に答えろ。それ以外喋るな。拷問されたいなら催促はしないが?」

 口の端を持ち上げながら言うと、前から短い悲鳴が響く。……カスか。
 また、後ろからは、

「おおおぉぉぉお二人さん!? 琴葉ちゃんの拷問、受けない方が良い! 命のためにも!!」
「メイドさん、メイドさん! 死ぬ前に"お帰りなさいませご主人様♡"ってやって!?」
「一生僕に尽くしても良いぞ」
「…………早く言った方が楽だぞ」

 と言う声が。八九番については不明すぎる。

「内蔵破壊されたり、蛙を体内に詰め込まれたり、耳にムカデを入れられたり、ナイフを全身に刺されたり、ハエにたかられたり、汚い男共にたかられたりするんだよ!? それに、例え死んでも生き返らされて、その後も精神崩壊するまで死んで生き返ってを繰り返すんだよ!? やめた方が良いやめた方が良い!!」

 九〇四番め、余計なことを……
 私の拷問方法は、自分がされたら嫌な事をし続けるだけだからな。やっていることが完全にアウトだが、どっちにしろ生き返るし、怪我しても元に戻されるし、拷問で精神崩壊しても、終わったら戻るし。

「そうだよ。……さっき、君は僕達が"何でそれで名の通った殺し屋になれたんだ?"って聞いた。それについては……」

 下の方が話し始めたが、それを遮って上の方が怒鳴る。

「御前、何を仕組みやがった!」

 バレたか。
 後ろで"何言ってんだ此奴等"みたいな、微妙な表情をしている囚人共にも聞こえるように、私は言う。

「ちょーっと、操作してみたんだ。そしたら、簡単に気合いとパワーだけで、攻撃はスカばかりのカスメイドと、魔力スカスカの、ショボメイドになったって訳さ。プフッ!」
「クッソうぜええええええぇぇぇぇえええ!!」

 カスメイドが突っ掛かってくる。こうやって見ると、背高いな。体付きも良いし、パシリにぴったり―――

「今失礼なこと考えただろ?」
「知らん」

 これは失礼なことと言うのか?


 さて、此奴等如何為よう。
 ま、もう夜だし、私より弱いことは確定したから、適当に隣の房―――誰も使っていない―――に突っ込んでおこうっと。報告は明日で良いだろ。爆裂魔法で打ち開けられた穴も直さなきゃいけないし。

 私が踵を返して、隣の房の鉄格子を開けようとすると、後ろから殺気が。カスメイドの方だ。

 案の定私目掛けて振りかざされていた拳を受け流し、その勢いを利用して一回転させ、床に打ち付ける。床にヒビが入るが、もう知らない。

 房の中で、九〇四番達が揃って「あーあ」と言っていたところから、何かしたら殴られるのは当たり前の様な意識でも芽生えてきたのだろうか。そうだとしたら、脱獄しないでくれ。

 
 

 
後書き
なんか、ネタが思い浮かばな……
メイド服男子、現実で見てみたいです。 

 

第10話 メイドの使い方+Merry Christmas

 
前書き
レンside 

 
「ねー、メイド。紅茶を淹れて」
「畏まりました」

 …………ん?

「メイド。ソコの書類、ファイルに入れて三番の棚へ」
「畏まりました」

 ……………………は?

「御主人様、最高級の茶葉を使った紅茶が入りました」
「ありがとう。じゃ、次は看守室周辺の掃除をしといて」
「「畏まりました」」


 ………………………………何があったんだ?


  ◆ ◆ ◆


 今日は一二月二五日。起きたら枕元にプレゼントがある日であり、"リア充"と呼ばれる者達が街をうろつく日であり、予定が埋まらなかった、仕事が入ってしまった人にとっては苦痛の日である。
 囚人にはそんな事は関係ないので、ただ起きて、何時も通り仕事をする日だ。

「わあああああああ!! サンタさん(琴葉ちゃん)からプレゼントだぁっ!」
「こっちもだ。流石だな、サンタ(看守)は」
「やったぁぁあぁぁああああ!! ノートパソコン!」

 うるさい。
 寝ていたのだが、三人の大声に起こされて、渋々体を起こす。

 枕元を確認するが―――そこにプレゼントらしき物は無かった。

 ……あれ?


「レンのプレゼント、無くない?」
「え? ボク達のはあるのに……」
「看守室に行くか?」

 ……心配してくれてるのだろうが、俺はプレゼントを貰ったりすることは無いので、全くと言って良い程何も思わない、感じない。

「一人で行く」

 でも、琴葉だから、それは無いと思い、俺は看守室へ向かった。


 ―――そして、話は冒頭に戻る。


 偶然、看守室の前に要が居て、即手錠を掛けられた。報告のために、看守室は目の前だしそのまま入っちゃうかーの様なノリで入ったら、其処には昨日琴葉を暗殺しようとした、頭のおかしいメイド服の兄弟が、琴葉の専属メイドの様にこき使われていたのだ。

 勿論、俺と要は、入り口でそれを見ているだけである。


「んー! ……あ、何でレンがいるん? 要と一緒に何してるん?」
「「こっちのセリフだ!!」」

 要と一緒にツッコむ。すると、メイド二人がハッと目を見開き、掃除をする手を止める。そして、琴葉の方に向き直って言う。

「何で俺達は御前のメイドをさせられているんだ!?」
「なんで?」

 メイド二人は無意識だったようだ。
 咄嗟に持っていた雑巾を床に投げ捨て、琴葉を睨み付ける。……まさか。


「ご主人様からの命令だ。回収する」


 ……名前が分からないし、呼びにくいので、上をメイ、下をイドって呼んでおこう。

 メイがいきなり琴葉に殴り掛かる。やっぱり始めやがった。

「わ、やべっ」

 昨日とは変わり、琴葉はそう声を漏らすと、腕を自分の前で交差させて、防御の態勢を取る。昨日はそんな事しなかったのだが、如何為たのだろう。


 すると、メイの拳が琴葉の腕に"当たる"。


 看守室の壁に打ち付けられた琴葉が、血を吐き出す。昨日はスカだった攻撃が当たる様になっている?

「……はー、怖い怖い。どんな怪力メイドだよ」
「……おわっ」

 ……と、其処で、俺は要に抱えられて、琴葉の近くまで移動させられる。琴葉でさえとんでもないピンチなのに、え、俺も巻き添い? 要、頭狂ってんのか?

「要は九〇四番を医務室へ。翁に『奥に通して』って伝えて。もしメイドが襲ってきたら、すぐに連絡。分かったんならさっさと行け」
「はいはい……人使いが荒いなぁ」

 要は一人で看守室を出て行く。自分だけ逃げたようにも見えなくは無いが、グレースを守ろうとしているのかな? 一応。

 琴葉を見てみると、腕が真っ赤に染まっていて、大量の血が流れたんだと気付く。
 いきなり襲ってくる恐怖で、足が震える。

 ……此処で死ぬのか?

「……って、レン。何に怯えてんのさ」
「はっ?」

 琴葉が振り返って、淡々と言う。
 そのすぐ後ろに、イドの姿。

 刀を構えたイドは、確実に琴葉の首を斬るつもりだ。


 ―――実際、イドは琴葉の首を斬った。


「…………え?」


 頬に生暖かいモノが当たる。

 琴葉の体が傾き、こちらに倒れてくる。

 後ろでメイが口の端を吊り上げて、笑っている。

 イドが刀に着いた血を拭いている。


 まさか、本当に死―――


「レンの心配性」


 琴葉の声。……幻聴?

 そう疑うが、次の瞬間にドガン! と物凄い音が、刑務所内に鳴り響く。


「私が殺されたくらいで死ぬわけ無いじゃん」


 音の先には、血塗れの琴葉が。

 その前に…………誰だか分からなくなるほどまでぐちゃぐちゃになった……メイとイドの顔。

 琴葉がニヤリと笑ったのを見て、思わず―――


「ぎゃああああぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 と叫び、看守室を飛び出した。

 
 

 
後書き
おまけ1
〔その後の琴葉〕
「紅茶冷めたあああぁぁぁあああ!!!! 書類が血塗れだよどうしよおおおおぉぉぉぉおおおお!?!?」
 何があったとしても、茶と仕事は大事。

おまけ2
〔要とグレース〕
要「やあやあ九〇四番くん。実は、君にお願いがあるんだ」
904「ん、なに?」
要「キャラが被ってる感じがするからキャラ変えて」
904「マゾと一緒にしないでくれるかな?」
89「どっちも変態じゃん」
要・904「「………………………………」」

おまけ3
〔要side〕
 このメイド、がたいも良いし、性格も荒そうだな。
 …………おお! 琴葉があんなにダメージを!!
 これはかなりの上物!
 是非痛めつけてく(略
 そういえば、今日クリスマスなのになんでこう喧嘩してんのかな。
 取り敢えず、読者の皆様、Merry Christmas!! 

 

第11話 チート?な訳ないだろうが

 
前書き
琴葉side 

 
 看守室で暴れやがってクソメイ……言葉遣いが悪いな、メイド兄弟。
 躾がなってねぇなぁ、まったく。

「さて、問題は―――」

 誰かが来る前に証拠隠滅することである。
 取り敢えず、出来ることは全てやろう。

 まずは、このカスメイ…………ごほん、メイド兄弟の治療だ。完全に治癒じゃ間に合わないので、魔法によって再生させる。すると、さすがに血は残ったままだが、壁に叩き付ける前の状態に戻る。
 次は服を直すか。服は面倒くさいので、魔法によって数分前の状態に戻す。血が付く前の状態に戻ったため、これで私がこのメイド兄弟に何かやったことはバレない。
 魔法を使った跡も、魔法で完全に消して、隠滅。

 次は看守室を直さなければ。
 まずはごっちゃごちゃになった床の上。血塗れの書類が散乱していて、もう誰かに見られたらひとたまりも無い。
 机もぐちゃぐちゃで、倒れている棚もある。壁にヒビは入っているし、血は付いているしで、かなり白熱していた事が分かる。……一擊で終わったが。

 何処から片付けるかなぁと考えていると―――


「おい琴葉。九〇四番は…………は?」
「あ」


 看守室に翁が入ってきて、絶句した様子だ。

 マ・ズ・イ。


「オイ琴葉。こりゃ如何言うことだい?」
「あっ、えっと、あの……あっ、あっ、話すんで、無言でアインアンクローはっ……あっ、あああああああぁぁぁああああ!!!!」


  ◆ ◆ ◆


「頭割れた」
「琴葉ちゃんってそんな事言うキャラだっけ」
「うっさい黙れクソ九〇四番死ねや死んで私の機嫌を取れやコラ殴んぞボケクズ死ね」
「酷くない?」

 看守帽を脇に抱えつつ、頭を抱える。本当に頭が割れたのだと思っていた。翁、握力巫山戯てんじゃねぇの? まだ全然若いじゃねぇかよ……"翁"じゃないじゃん。

「ところで、如何為てそんなことになったの?」

 九〇四番が聞いてくる。今回は真面目に心配しているそうなので、唇を噛みながら話してやる。


「メイド兄弟が暴れ出したから打っ飛ばした。正当防衛じゃねぇか、クソ。どーして私が怒られなきゃいけないんだよ。自分の身を守ることの、何が悪いんだ。相手は暗殺者なんだ、殺しても良いじゃねぇか殺してないけど。全部治療したし、許せよクソ(じじい)
「あ"? 俺に文句があんのか?」
「ヒッ!」

 油の切れた機械のように、ギギギと音を立てそうな感じで振り向く。

 ―――其処には、完全にキレた御様子の、翁が仁王立ちしていた。


「ぎゃああぁぁあああああ!!!! 痛い痛い痛い! ねぇ割れちゃう! 頭割れちゃうからぁぁぁあああああ!!!! ああああぁぁぁあああ! 今ピキッて聞こえた! 今絶対何かあったからあああああああぁぁぁああああ!?」
「うるせぇ!! 御前、首切断され掛けてたじゃねぇか! 腕は完全に終わってただろうが!! それに加え、あの奇妙な兄弟の頭破壊しやがって!! 手前、客に対して何してんだ!!」
「だああああぁぁあああ!? 待って待って待って、あのメイドは私を殺すために来た殺し屋であってぇぇえええええ!? ねぇやめて割れる、割れるぅううう!!!!」
「一々大袈裟だ阿呆!! これだけで割れると思うなボケェ! 最悪割れたら再生しろ!!」
「やあぁぁぁぁああああめぇぇええええろおおおおおお!!!!」

 後ろで囚人共に同情されてるのが分かる。凄く苛つく。

「ねええええ!! メイド達は他の舎に預けるからぁぁあああ!! 今日は誰も引き取ってくれなかったからこき使ってただけ……ぎゃあぁぁああああ!! やめてやめてぇぇぇええええ!!」
「何自分を殺そうとしたヤツをこき使ってんだボケ! 阿呆か!!」
「しょうがないじゃん引き取って貰えなかったんだもん! 正月に向けて、どの舎も準備してんのぉおお! 明日にはどっかの舎に送り付けるから許してぇえ! 明日は私、大人しくしてる!! 誰もシバいたりしないからぁぁあああ!! この手を離してぇぇええええ!!!!」

 …………数秒後、翁は諦めたように手を離した。そして、私を睨んで一度舌打ちをしてから言った。


「次はねぇぞ」
「すいませんでしたー!!」


 翁が去って一息吐くと、また後ろから。


「「「「琴葉」」」」
「ヒッ……」
「「「「そんなキャラだっけ」」」」
「殴るぞオラ、さっさと並べや」

「さっき次はねぇって宣言したばかりだろうが!!」
「ギャーッ!? 翁まだ居たん!? ……じゃなくてぇあああああああ!? すみませんッッッ!!!」


 あの、そろそろ頭割れる気がするんで、止めて下さいませんか?


 
 

 
後書き
謎のアイアンクロー回。 

 

第12話 その後

 
前書き
レンside 

 
 現在、グレースと一緒に、あの医務室の奥の部屋に入れられている。
 目の前に、琴葉。

「九〇四番は奴等のこと、よく"覚えてる"だろ? レンは"覚えてない"と思うけど」

 グレースが、周りで寝ている六人から、琴葉の言葉に意識を向ける。ピクリと眉が動いた所から、図星のようだ。
 でも、殺し屋とグレースが繋がっているって、如何言うことなのだろう。
 それに、俺は覚えてないって?

「二人とも、奴等が来た目的は聞いたよな?」
「うん。俺とレン、そして琴葉ちゃんを回収するためだよね」

 グレースの方を見ると、いつになく真剣な様子で話している。
 琴葉も、先程のように騒ぐこと無く、落ち着いて話している。

「そ。九〇四番は分かるだろ? その理由」
「……まぁね。でも、何で俺が分かるって事を知ってるのかな?」
「自分が管理する囚人の過去を調べるのは当たり前だろ」
「琴葉ちゃんっぽいね。でも、どれだけ探しても俺の情報は出て来ない。覚えていただけだろう?」
「まぁね」

 …………話に着いていけない。
 多分、グレースも琴葉も、肝心な部分は言わないで、隠し通すと思う。どれだけ追い詰めたとしても、気付かぬうちに答えから遠ざけられる。

 もっと、色々なことを知っておけば良かった?


「…………レン。一つ言っておくと、あのメイドが所属する組織で、九〇四番……グレースは"裏切り者"、レンは"被検体"、私は"裏切り者"、"被検体"、"人殺し"って呼ばれてる」
「…………は?」


 グレースが裏切り者? つまり、メイド兄弟と同じ組織に居たってことか?
 俺は被検体? 何かの実験に使われたのか?
 琴葉は裏切り者? 被検体? 人殺し? メイド兄弟と同じ組織で、何かの実験に使われて、誰かを殺した?

 分からない。分からなすぎて、頭が鈍器で殴られるような感覚に襲われる。

「やっぱり、琴葉ちゃんはあの子だったんだ」
「恐らく、御前の言う"あの子"だよ。"人殺しを繰り返した後、友達と、一緒に心中しようと思って組織を逃げ出した挙げ句、その友達を殺して、組織を抜けた"、あの悪餓鬼だ」

 琴葉はそう言いながら笑う。だけど、"心からは笑っていない"。


 気付けば、琴葉を引き寄せて、抱き締めていた。


「……え、ちょ……レン?」
「えっ、あ、これは……琴葉、泣いてたから…………」


 切なそうな笑顔の奥に隠れていたのは、やはり涙だった。
 悲しそうな笑顔で琴葉が笑ったのが証拠だ。

「レンには何でもお見通しか」
「流石だね。同じ事をしてきただけある」

 グレースも言うが、やっぱり意味が分からない。

 琴葉とグレースは、俺が覚えていなくて、だけど俺は知っている事を、覚えていて、知っているのだ。


「ところで、琴葉ちゃん。幹部サマに此処の存在を教えちゃっていいの? 二人に言うかもしれないよ?」

 グレースが満面の笑みを浮かべて問う。対して、琴葉は一瞬動きを止めた後、笑い出した。

「アハハハ! そんな事心配してると思ってるのか? 御前は裏切り者だぞ? 魔法の会合が開かれた時、必ず組織で、そのためだけに雇ったヤツを参加させるような、非常に用心深い組織が、裏切り者の言葉なんか信じるわけ無いだろ。例え御前があの二人に言ったとしても、あの二人は信じない」
「ハハッ、そうだね」


 間。


「って、何で話したんだっけ!?!? この変態を信じるとか、マジ無理なんですけどー!?」
「ねぇ酷くない!? 何で変態!? イケメン枠だよ、俺!」
「はぁっ!? 顔面偏差値二三点が何言ってんの!?!?」
「ひっく!! 絶対低くしてるでしょ!」
「自惚れんな! イケメンは自他共にイケメンと認め、イケメンではないヤツに、『イケメン死ね!!』とか言われて、イケメンオーラを放つことが出来るようなヤツを言ってんだぞ!? 御前、一回でもイケメン死ねとか言われたことあんのか!?」
「…………ない」
「だろぉ!? 御前がイケメン枠な訳ないんだ! 御前、いつも四番とレンにイケメン死ねとか言ってんじゃねぇか! もう一舎のイケメン担当は四番とグレースって決まってんだ!!」
「でも変態は酷いって!」
「ピッタリじゃねぇか! この前だって、房の前に悪戯で置いてみたえっちな本に一番最初に食いついてたじゃねぇか!」
「ぐっ……それは男として仕方な」
「仕方ない訳あるか! 目の前を通った女性看守を、舐め回す様な視線で追いやがって。反省しろ、変態担当!!」
「………………………………すいませんでした」

「ゴラ"ァ!! 医務室で騒ぐなボケェ!!」
「ぎゃぁあああああ! ギブ、ギブゥウウ!! 首絞まってるからぁあああ!!!! たすっ、助けてぇぇええええ!!!!」
「だから、静かにしろっつってんだろうが! レンみてぇに大人しくしやがれ!!」
「翁もうるさいじゃ……痛い痛い痛い痛い!! ストップ、これ以上は死んじゃ」
「うるせぇ!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああ…………」

 ―――シリアスを返せ。
 

 

第13話 メイド兄弟と琴葉

 
前書き
琴葉side 

 
 あの後、レンに紅茶をいれて、クリスマスプレゼントであるマグカップを贈った。


 そして、次は―――

「オイ! 離しやがれ」
「随分と躾のなってないメイドねぇ……ご主人様の曲がった性格の所為かしら?」
「……ご主人様を馬鹿にするな。殺すぞ」
「まぁ! 殺すなんて、言葉遣いが悪いですわ? うふふふ」

 仮の拷問室に繋いであるメイド兄弟だ。

 首、手首、足首に枷を取り付け、それを壁に鎖で繋ぐ。魔法で壁や床まで破壊不能にし、どれだけ暴れようとしても、逃げられないように工夫してやった。自害用なのか、口の中に毒が仕込んであったので、すぐに外してやった。九〇四番共の房にやったように、魔法も使えないようにした。

 準備は完璧だ。

「で、君達は日本で活動する、魔法実験を行い続ける、非合法組織の殺し屋であり幹部。相手が痛みに悶えるところを、そのカタチが無くなるまで痛め続ける、狂った使用人と、様々な武器を使い、一擊で相手を仕留める、冷静沈着な使用人と言う、メイド服を纏ったおかしな兄弟。裏社会では、"闇月(やみづき)兄弟"と呼ばれている、生きた伝説の殺し屋。……ここまで、間違いは無い?」
「……無い。情報は全て消したのに、如何為てソコまで知ってるの?」

 分かっているのに聞くなとツッコんでやりたい。だが、そう言うことを言うべきタイミングでは無いため、溜息交じりの声で返す。


「知ってるだろうけど、私は君達の組織の元幹部」

 ―――ある所に、小さな女の子がいた。両親はとある組織に属し、日本のために魔法を研究していた。戦争のまっただ中、少女は組織で育っていった。

「それも、最年少で幹部に就いた、組織内の殺しと魔法研究で、一番の成果を出した、狂ったヤツ」

 ―――少女が幹部の座に就いた時、二人の補佐が付いた。

「そして、君達の元上司」

 ―――その補佐も着々と成果を挙げていった。だが、空いていたもう一つの幹部の座に就いたのは、違う人だった。彼は"グレース"と名乗った。

「で、組織の裏切り者」

 ―――その少女は、同年代のとある少年と少女に出会う。その二人は、ずっと魔法研究の被検体に使われていた。それを見て、少女は上に言ったのだ。"これは間違っている"と。組織は、これを"裏切り行為"と見なし、少女を幹部から下ろし、実験の被検体にした。

「君達の、初めての実験台」

 ―――少女は何回も実験を受けた。補佐だった二人は幹部に成り、少女を使って実験をした。

「君達に仲間を殺され、君達の仲間を殺した」

 ―――少女は幹部だったときに出会った二人と親しくなった。が、ある日少年が元補佐の一人に殺され、もう一人の少女は実験に携わっていた研究員を殺した。その事実から逃げるために、二人の少女は組織を逃げ出した。が、生きる手段が無くなりかけた頃に追い付かれ、殺人犯となった少女は頭を撃って自殺した。そのショックで、少女は組織の人間の大半を殺し、組織から再度逃亡する。

「君達が何年掛かっても殺せない、唯一の敵」

 ―――少女はとある医者に拾われた。その数ヶ月後、その組織や少女等は、戦場で会うことになった。何度も勝負を繰り返すが、少女は実験に因って生まれた強大な力で、組織の力をねじ伏せた。

「邪魔者を排除する、便利な道具として扱われた」

 ―――少女は襲ってきた敵を相手し続けた。数回ほど命を落とした。が、魔法で蘇生され、道具のように何度も何度も、壊れては修理されて、使い続けられた。

「ただの狂った"化物"だ」

 ―――だが、そんな少女はいつも血の雨を浴びたように、服を真っ赤に染め、髪から死を滴らせ、ただただ、嫌だと叫ぶことも無く―――


 ――――――笑っていたという。


 裏社会では有名な話だ。まぁ、その組織はかなり大きなもので、そこの最年少幹部が色々やらかしたのだから、有名になるのもおかしくない。
 私の元部下の兄弟の兄・(きょう)と、弟・(じん)が、こちらを睨む。が、非合法組織に居たようなヤツが、こんな事で怯む訳が無いのだ。

「ハハッ! 御前等、そう言えばいつも私の事、何て呼んでたっけ? "琴葉様"だっけ? それが、今では睨んでくるし、殴り掛かってもくるしで、私がどんだけ苦労して御前等を育ててやったのか、考えたことある?」

 響の前に立ち、片方の手を壁に付ける。"壁ドン"というヤツだ。座った状態で拘束しているため、此奴等より身長の低い私でも、普通に見下すことが出来る。

「御前等、ずっとご主人様ご主人様って言ってさ? 首領(ボス)にひたすら媚びを売りまくるから、大変だったんだよ。人が殺しの仕方とか、魔法で人を殺す方法を教えてやってんのに、自己流を貫くしさ。カタチが無くなるまで痛め付ける? そんな面倒臭いこと、するなって"教育"したよね? 如何為て師匠の言うことも聞けないの? 君はそんな駄目なメイドだっけ」

 響が私を殴ろうと拳を振り上げようとするが、枷が固定されているため、腕を上げることすら出来ない。
 その様子をじっくりと楽しんでから、仁の前に移動する。

「剣だったり銃だったり、刀だったり爆弾だったり、使い方を教えてやったのは私だよ? 君に武器の使い方を教えてやったのに、如何為てそれを私に使うの? 恩を仇で返すのが君達のやり方なの? 最悪だね。どうせ、これまでにも何回も依頼を断られてんだろうね。私の"教育"を忘れてしまうようなヤツだからねぇ」

 悔しそうな顔をして黙り込む仁。響が隣で騒ぐが、全然と言って良い程気にならない。
 自然と表情が緩んできて、笑顔になる。

「じゃあ、明日別の看守が引き取りに来るから。素直に着いていって、悪さをしないのが一番の手だ。じゃあね」

 そう残して、私は部屋を出た。

 
 

 
後書き
おまけ
〔その後の琴葉〕
琴葉「んふふふふふふふ」
要「琴葉、怖いんだけど」
琴葉「えへへへへへ」
要「……おーい」
琴葉「ふへへへへへ」
要「…………気でも狂ったか」 

 

第14話 小話詰め

 
前書き
レンside or 琴葉side 

 
◆ オセロしよう ◆

904「オセロやろー!」
89「でも、オセロなんてなくない?」
904「だいじょーぶ! ちょっと待ってねー」

 ……何だ? "オセロ"とは。

琴葉「……おい、持ってきてやったんだ大人しくしろよ」
904「ありがとー!」
琴葉「…………翁が居なければ、全力で殴って終わりに出来たのに」

 …………おい、報告するぞ。

4「でも、いきなりオセロなんて、如何為たんだ?」
904「実は、要ちゃんが『琴葉ちゃんにゲームで勝ったことが無い』って聞いて、俺もゲームがしたくなったんだよね。で、思い付いたのがオセロだったと」
89「琴葉ちゃん、すっごくゲーム強いんだね」
琴葉「……一時期はギャンブルで稼いでたからなぁ」

 ………………今なんて?

89「ん? 琴葉ちゃん、何か言った?」
琴葉「いや、何でも無い……」
4「"一時期はギャンブルで稼いでた"って言ったな。如何言うことだ」

 よく言った。

琴葉「……………………いや、チョット金が足りなかったんだ」
904「思いっ切り依存してたのに、何言ってんだろーなー」

 看守がそれでいいのだろうか。

琴葉「うぐっ……まぁ、それは私の私物だから、壊さない限り好きに使え」
「「「「はーい」」」」

 ……まぁ、いいか。

 トーナメント戦の様なものをした結果、一位はグレース、二位はシン、三位はハクだった。俺はルールが分からないので、参加していない。



◆ 狂ったメイドと狂った看守 ◆

琴葉「さぁて、御前等賭け事するぞー」
響・仁「「は?」」
琴葉「ナニ? ゴ主人様ノ命令モ聞ケナイノ?」
響・仁「「……仕方ない」」

 ふふふ、流石。私の教育を思い出したっぽいな。
 断ったり失敗したり手を抜いたりしたら、それ相当の罰を与える私は、当時、組織で一番恐れられていた。まだ可愛い少女なのに、何でかな?

琴葉「昔はよく、任務でも、プライベートでも、裏カジノに出入りして、大儲けしまくったからなぁ! 御前等、まだ私に勝ったことないよね」
響「……イカサマ師が」
琴葉「その場で見破れないんだから仕方ない! それに、今時イカサマしないヤツの方が少ないさ」

 魔法が使えるこの世界では、カードの柄を変えることなど、寝るより簡単だ。なので、私がそれにハマってた頃は、それを見破る魔法を見付ける魔法を研究していたくらいだ。
 それを一番最初に見付けた私は、それを使ってイカサマを見破り、自分がした時の対処法を考え、それを相手にされた時の対処法を……と考えていった。結局、私の全ての策を出すことはなく、まだ数百程対処法が余っている状態である。それをどうにか消化しようと思って、こうしてメイド兄弟とまた賭け事をしようと思ったのだ。

仁「黒華さん。看守がこう言うことしても良いの?」
琴葉「昔のように、"命を賭ける"とかじゃないから大丈夫だろ。御前等無一文だから、金を賭ける事とかもしない。腕を掛けたりとかもしてやんないから、安心しろ」
響「じゃあ、何を賭けるんだよ」

 意味分かんね、とでも言いたげな顔をする響と、不思議そうな顔をする仁に、私は強く宣言した。


琴葉「私が負けたら、御前等を解放してやる!」


響・仁「「は……?」」

 こう言う事を勝手に決めても良いのかって? 勝てるから良いんだよ。

琴葉「私が勝ったら、探し物の情報を教えて貰うからな」
仁「……探し物? 何それ」

 "解放"という言葉に反応して、気分がハイになってきた二人が食いついてくる。これは、確実にイケる。

琴葉「私が勝ってからのお楽しみだ。ホラ、やるぞ」


 ―――結果。


琴葉「ほら、負けを認めろ」
響「クソッ……いつイカサマしやがった」
琴葉「イカサマなんてしてませんー」
仁「はぁ……」

 今日も勝ち。

仁「で、探し物って?」
響「答えられねぇモノだったら答えねぇからな」

 諦めきれず、不機嫌そうな響だが、仁はしっかりと区切りをつけたようで、落ち着いていた。
 まぁ、この兄弟だったら今後も殺し屋を続けるんだろうな。

 そして、私は言った。



 ―――私は、死んだ友達の死体を探しているんだ。何処にあるか、知ってる?



 
 

 
後書き
看守がこれで良いのか。 

 

第15話 主任看守会議だよっ! 全員集合っ!!

 
前書き
琴葉side 

 
 次の日、メイド兄弟は四舎に送られた。
 だが、メイド兄弟を引き渡す時―――

「痛いいい……」

 また翁に叱られた。殴られた。
 現在、看守室で頭を抱えながら机に突っ伏している。もう何もやる気が出な―――

「琴葉! 主任看守会議だって!! 他の主任看守にも、もう連絡は回ってるよ!」
「それは本当か!? 窓閉めといてね!」

 かったのだが、窓を開けて、窓枠に足を掛ける。目の前には海。落ちたら面倒臭いことになる。が、今はそんな事を気にしている時では無い。
 壁に手を置きながら窓枠に立ち、体を半回転させる。この辺りで魔法を使っても面倒臭いことになるので、自分の力だけで跳ぶ。
 手を伸ばして、どうにか一舎の屋根を掴む。そして、勢いを付けて屋根に飛び乗ると、そのまま目の前に聳える、豪華な"塔"へ向けて疾走する。

 間に合え―――

「あ-! この刑務所はデカいんだよオラァァァアアア!!」

 数分走って、ようやく塔の近くまで到達する。そこで、再度全力で跳び、窓の縁に掴まる。それを数回繰り返すと、頂点付近に到達する。最後は勢いで窓を割り、中へ入る。

「えっ……」

 中に居た看守が、なんだコイツみたいな表情でこちらを見てくる。これでも主任看守部長だこのヤロ―――


「オラァァアアアア!!!!」
「あぶしっ」


 背中に強い衝撃。力を抜いていたため、ドミノ倒しの様に床に顔面を強打する。絶対出血して―――


「ダァァァアアアアア!!!!」
「へぶっ」


 全身に鈍い痛み。……何かに轢かれたんですけど。絶対床にめり込んで―――


「貴様等、何をしているのだ」
「あでっ」


 背中に重さ。……踏まれたんですけど!? てか、上で止まるな!!


「いってぇなクソがぁあああああ!!!!」


 何故蹴られて、轢かれて、踏まれなきゃいけないんだ。私は主任看守部長だぞ!?

 窓の方を見ると、そこには主任看守が三人、澄ました顔で立っていた。


「手前が其処に突っ立ってたのが悪ィんだろうが。オレは注意したぜ?」
「ガラス越しに聞こえるか!」

 赤朽葉色の、長めの髪を横に垂らしたヤツは、前髪の奥から覗くサファイアの様な瞳を爛々と輝かせ、こちらを見る。黒い長外套を肩に掛けたそいつは、二舎の主任看守・橙条(とうじょう)雅人(まさと)


「"まーさん"、そんなに挑発するなって! なっ!? "こっちゃん"もそんなピリピリすんなよ!」
「いだっ……背中叩くな馬鹿力!」

 青い、ツーブロックリバースショート―――本人がそう言わないと怒るのだ―――に整えられた髪に、琥珀色の瞳をしたヤツが、バシバシと私の背中を叩く。橙条の事を"まーさん"と呼び、私の事は"こっちゃん"と呼んでくるコイツは、三舎の主任看守・青藍(せいらん)海斗(かいと)


「黙れ愚者共。窓を破壊して侵入するなど、看守としてあってはならない。青藍については、壁を破壊してきたのだ。早く直せ」
「……くっそ正論過ぎてイラつくんですけど殴っていいねぇ殴って良いよね?」

 白い、程よく伸ばされた、クセ一つ無い髪に、ダークレッドの瞳。白い糸で彼岸花の刺繍が施された黒いマントを羽織ったそいつは、四舎の主任看守・神白(こうじろ)冬也(とうや)

「何だ、その恩を仇で返すような事は」

 メイド兄弟を預かって貰ったのは四舎である。理由としては、看守が負けなさそうで、一番遠かったのが四舎だったから。

「……まぁ、それは置いておいて、御前等どうして私を蹴った、轢いた、踏み付けた」

 すると橙条が、
「邪魔だったから」
 青藍が、
「そこに居たから」
 神白が、
「気付かなかった」
 と順に言っていった。

 勿論、思うことは"御前等打っ殺す"の一つだけ。


 ……まぁ、会議に間に合っただけ良いとしよう。

「……ま、全員急いでたんだろ。次は無いからな。会議は何時からなんだ?」

 私と橙条は窓を、青藍は壁をぶち破ってくるくらいなのだから、そろそろ始まってしまうのだろう。
 そう言えば、要に時間聞くの忘れたなぁと考えていると、


「あと四時間後だ」
「「「嘘だろ!?!?」」」


 神白が言ったところに、三人でツッコむ。

「はぁ!? 本当なのかよ!」
「嗚呼。御前等の場合、時間を聞かずに飛び出してきたのだろう。予想はしていたが」

「えー? こーちゃんマジで?」
「マジだ。一舎の副主任に言われたぞ」

「え、要から聞いてないんだけど」
「今頃、御前に呆れているだろうな……ん? 貴様等、如何かしたのか?」


 三人の主任看守には、「クソがぁあああああ」と叫ぶ気力さえ残っていなかった。

 
 

 
後書き
おまけ1
〔お仕事だよ! 要ちゃん!〕
――― Pi Pi Pi
要「もしもし-。一舎副主任、黒崎です」
看守長『あー、要ちゃん? やっほー』
要「こんにちは。本日はどの様な御用件でー?」
看守長『一八時から主任看守会議するー。皆に伝えといてー』
要「わっかりましたー! 失礼しまーす!! ……看守長、今日はテンション低いな」


おまけ2
〔その時の要ちゃん〕
要「あーあ……行っちゃったよ~。まだ四時間もあんのにー……取り敢えず、寒いから窓閉めよー」

 間。

要「屋根蔦って行くとか馬鹿だよねー……どんだけ看守長恐れてんのー? あー、暇だー。どーせ帰ってくるだろうし、書類進めとこーっと! 馬鹿な上司の分もねー」 

 

第16話 大晦日の第一魔法刑務所

 
前書き
レンside(途中から琴葉side) 

 
 今日は大晦日。
 現在、房の掃除中。

「……メイド兄弟、何処に行ったのかなぁ」

 雑巾を持ちながら、グレースが呟く。絶対に、メイド兄弟が全部掃除すりゃ良いじゃんみたいな考えをしている。…………駄目人間の鑑か。
 逆にハクとシンは、かなり楽しそうに掃除をしている。新聞紙で窓硝子を拭いたり、鉄格子を磨いたり。

「違う舎に行ったんだから、会える訳ない」
「うーん、そうなんだよねぇ……」

 要曰く、琴葉も仕事でいないらしいし、自分達で真面目にやるしかないのだ。

 そもそも、誰かに頼ること自体間違っているのである。

「でも、メイドさん達にやって貰いたいことがあったのになー」
「ハク、奇遇だな。僕もだ」

 ……あ、嫌な予感がする。

「ん? なになに~?」
「「『お帰りなさいませご主人様』ってやって貰いたかった」」

 ちなみに、これを言っている時の二人は、真顔だった。


 大掃除は、その後一時間近く続いた。
 その後は、一舎の囚人全員で、食堂で蕎麦を食べた。


  ◆ 琴葉side ◆


 ―――四時間は長かった。

 看守長の御部屋を掃除し、ついでに看守達の休憩室も掃除する。橙条と廊下の雑巾掛けで勝負し、華麗に勝利。青藍がソファを持ち上げてるところを拭き、神白と窓を拭く。
 その間、常に看守達から変な視線を送られていた。

 なぜなら―――


「はぁ!? メイドに掃除やらせなくてどうすんの!?」
「囚人に頼るわけが無いだろう!」
「そしたらメイドの存在意義は!? ミスをしたらご主人様に"御仕置き"としてあんなことやこんな事をして、失敗したら鞭で打たれ、ぼろぼろになっているのに掃除や洗濯をひたすらし続け、最終的にご主人様に体の関係を迫られ、『あぁ! ご主人様には逆らえませんわ!!』と言いながらご主人様と一線を越えてしまうのがメイドの宿命でしょ!?」
「どんな知識だ! これだから子供は……」
「あ"ぁ!? 背が小さいだけで、子供じゃ無いんですけどぉ!?」
「十分に子供だ! 一々騒ぐな、迷惑だ!」
「御前の方が声大きいだろ! 御前も黙れ!!」

「おい、青藍! 机壊すんじゃねぇ! 何個目だ、クソッ!!」
「あはは~、まぁそう怒るなって! 皺が増えるぜ?」
「誰がジジイだ馬鹿野郎!!」
「ジジイなんて言ってないんだけど」
「うるせぇ!! さっさと黙って仕事しろッ!! 力加減も考えろよなッ!?」
「あはははーはーはっ!! 橙条クン、顔面崩壊してるよぉ? おっもしろーい!!」
「うるせぇぞ黒華!! 何御前までこっちこっち来てんだ、さっさと自分の持ち場に戻れッ!!」
「はいはい、無駄口叩いてないで掃除してっ! 無言清掃だよっ」
「何が無言清掃だ殺すぞ!!」
「おー怖い怖い! 皺増えるよー! 老化が早まるよー! 白髪ジジイになるぞー!」
「青藍手前……ッ!!」
「御前等煩いぞ! 主任看守として、恥ずかしくないのか」
「はァ!? 知るか! 兎に角、コイツ等シバかないと気が済まねェ!」
「おこちゃまー! おこちゃまー橙条ー!!」
「中学男子の喧嘩ー! 低レベルすぎるー!!」
「手前等ァァアアアア!!」


 と、四人で喧嘩をしていたからである。

 現在は落ち着いて会議が始まっていた。


「今日アナタ達を呼んだのは、明日のコトと、先日一舎主任看守、黒華を襲撃した二人の殺し屋についてよ」

 上座に座った"ロリっ子"が、思い切り私を見ながら言ってくる。

「……あの、"看守長"。私は大丈夫なのですが……」

 私は、看守長を見ながら言う。


 そう、看守長は―――


「ダメよ! コトハが殺されそうになったんだから!!」


 見た目はロリっ子、中身は立派な看守長・赤司(あかし)紅葉(くれは)だ。
 小柄な体型に、横髪を少し伸ばしたショートボブの赤髪、金の様な瞳。幼さしかないその見た目故、大抵の人にロリと間違えられる。だが、実際はこの第一魔法刑務所の看守長である。"合法ロリ"と言うヤツだ。

「あの、看守長……私は殺されてないですし、殺されそうにもなっていませんよ?」
「そうじゃないの! コトハは少し黙ってて」
「あ、ハイ…………」

 隣で橙条が肩を震わせている。笑うなら大声で笑えそして退場しろ。

「とにかく、あのメイド兄弟は四舎に居るのよね? 暴れたりはしてないかしら」

 適当な理由で四舎に送った私にとって、そこが一番気になるところだ。何かあれば、少なくて六割は私の責任にされる。
 だが、神白は「異常ありません」とだけ答えた。それなら良いのだ。

「ならいいわ。今後も四舎で様子を見ましょう」

 ほっと息を吐くと、青藍に不審そうな目で見られる。私が妙に焦っていたのがバレたか。だが、今発言する事は出来ないので、スルーする事にしよう。

 その後、"明日について"の話し合いが続いた。
 
 

 
後書き
段々雑になってる気がするのですが……
明日から気合いを入れ直して、本気で頑張ります……
それでは、また二時間と五五分後に番外編を出しますので、そちらもよろしくお願いします。 

 

番外編 おかしな第一魔法刑務所

 
前書き
要とグレースが賭け事をしていたら、琴葉がマジギレして―――
第一魔法刑務所の看守、囚人がおかしくなりました。
その一日後のお話らしいです。
○○の場合の、○○の部分のキャラ視点です。
・グロ注意
・キャラ崩壊警報発令中
それらが苦手な方は、一つ前に戻ることをおすすめします。
大晦日にこんな重い番外編ですいません!! 

 
◆ 黒華琴葉の場合 ◆

 ふふふ。何時もみたいに、レンが寝ている。
 幼い子供みたいに、可愛い寝顔をして、寝ている。

 こんな表情、私以外に見せないでよ。
 私だけが見ていいの。

 誰もあげない。
 誰にも渡したくない。

 君が居るから生きてられる。

 だけど、レンは嫌がるんだものね。


「えへへ……」


 腕から血が滴る。
 手には血が滴る包丁。

 血がレンの顔に落ちる。


「一生わたしだけのモノ。誰にも渡さない。だれにもあげない。レンは私を愛してくれるよね?」


 医務室の奥。
 何時もは純白に包まれた部屋だが、今日は真っ赤に染まっている。

 翁もいなくて、他の六人の被検体もいない。


 この真っ赤な部屋で、一緒に暮らそう?

 愛してるよ、レン。

 絶対に離さないから。



◆ 闇月響の場合 ◆

 神白さんに許可を貰い、仁と共に一舎へ向かう。

 目指すはあの人の元。

 一舎の看守室の扉をノックして、静かに中に入る。

 やっぱり居る。


「ご主人様。お早う御座います」


 ご主人様―――琴葉様が目を見開いて此方を見ている。
 今日も、美しい。


「……お早う。あ、丁度良いわ。ねぇ、響、仁」
「何でしょう、ご主人様」

 光のない目が、昔そっくりで、とても愛おしい。

「ちょっと、この傷を治療してくれるかしら」

 ご主人様が袖を捲ると、そこは血塗れで、何十本も深い傷が走っている。
 魔法で隠していたらしく、魔法を切ると、顔にも傷があって、血が流れている。


「「畏まりました、ご主人様」」


 魔法を使って治療するのではなく、昔と同じ様に包帯を巻いておく。


 壊れかけのご主人様を、丁寧に丁寧に直していく。

 それが俺達の役目だ。


「何時までも、俺達はご主人様に尽くします」



◆ グレースの場合 ◆

 ハクと一緒に房に居るよ。
 シンは昨日からおかしいから、医務室に居る。

904「暇だ……」
89「え?」
904「暇なんだよー!!」
89「それ、ボクに頼ることー?」
904「……琴葉んトコ行くしかない!!」

 房を抜け出し、看守室に向かう。
 扉の前に誰も居なそうなので、そのまま扉を蹴破って中に入る。

 中にはメイド兄弟と、琴葉が居た。

904「琴葉ちゃぁぁああん!! ……って、メイド二人は如何為ているの? てか、如何為て琴葉ちゃんはミイラみたいになってんの!?」
琴葉「黙れ(レンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたい)」
響「ご主人様に気安く話し掛けるな、クズ」
904「え!? ご主人様? どーなってんの!? でもそんなの如何でも良いから、琴葉ちゃんかまってよ!」
89「え?」

904「かまってちょーだい! かまってよ!! かまちょだよ!!!! かまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょ」
琴葉「うるせぇ!! (レンに会わなきゃレンに会わなきゃレンに会わなきゃレンに会わなきゃレンに会わなきゃレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会いたいレンに会わなきゃ死んじゃうレンに会わなきゃ死んじゃうレンに会わなきゃ死んじゃうレンに会わなきゃ死んじゃうレンに会わなきゃ死んじゃうレンに会わなきゃ死んじゃうレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってるレンが待ってる)」
904「かまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょ」

89「カオスだ……」



◆ シンの場合 ◆

 今、医務室の横にある房に閉じ込められている。

 腕や脚を固定され、何も動かせない。

「……大人しくしていろ、四番」

 翁が声を掛けてくる。が、それは房の外からだ。


「煩い……!! もっと血を見せてくれ、死んだモノを見せてくれ!!」


 想像しただけでにやけてくる。

 昨日、俺を抑えるために看守―――琴葉が来た。
 彼女は、俺が持っていた刃物で腕を切りつけた。


 その血が美しかった。


 本人は俺を落ち着かせる為だと言っていた。
 だが、その後レンが琴葉に駆け寄って、心配しているのを見て、彼女は笑っていた。
 彼女はレンに振り向いて貰う為に、腕を切りつけたのだ。


 それでも、もう一度あの血が見たい。

 どんな目的で流した血でも良い。

 あの人の血が手に入るなら、なんだってする。

 ……嗚呼、そうだ。

 あの人が死んだら、きっと、もっと美しくなる。

 残ったその体を、一生愛でてやろうか。


「黒華琴葉を連れて来てくれないか…………?」



◆ 神白冬也の場合 ◆

 仕事にやる気が出なくなった。

 と言うか、何事にもやる気が出ない。

 看守室のソファに寝転がり、唯々惰眠を貪っている。
 昨日までの自分には全く考えられなかった事だ。


 何かを欲しいとも思わない。

 だから食事は取っていない。

 水も飲んでいない。


 何もしようと思わない。

 出勤はしたが、仕事をする気にはならない。

 部下へ指示することも、書類を仕上げることも。


 何もしようと思わないし、何も要らない。

 それなのに、生きる意味なんてあるのだろうか。


 私は近くにあった刃物に手を伸ばした。



◆ 橙条雅人の場合 ◆

 何故かは知らんが、なんとなく一舎に向かっている。

 もやもやと広がる、よく分からねぇ不安が気持ち悪ィ。


「あークソ……何だよ」


 何をすれば良いのか分かんねぇ……

 持っていたカッターを腕に持って行く。

 そして―――


「あー……何してんだ、オレ」

 仕方が無いので、魔法で傷を隠し、一舎の看守室へと向かう。


 …………まァ着いたのだ。

 着いたのだが。


「レンに会わせて!! はぁっ!? 四番が呼んでる!? 御前が来ないと四番が死んでしまう!? そんなの知るかっ!! レンに会わせろ! レンに会わなきゃなんだ!! レンが待ってる、レンが呼んでる……レンのトコに行くんだ!!!! 離せクソッ!! 響、仁! 此奴等の足止めをしろ!!」
「「畏まりました、ご主人様」」
「琴葉ちゃぁぁああん、暇なんだよぉおおお!!!! かまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょかまちょ!! 琴葉ちゃんがいないと死んじゃう! ねぇ、かまってよ!! ねぇ!! 行っちゃヤダよ!! ねぇ、琴葉ちゃん!!!!」


 カオスだ……

 黒華が看守室から出てくる。


「橙条ッ……!! 退いてよ!」
「お、オイ、待てよ!!」
「なにッ!? 私はレンに会いたいの! 退かないんだったら殺すよ!!」

 …………何だ……これ。
 意味分かんねぇよ。

 嗚呼、これから如何成るんだ?
 如何すれば良いんだ?

 如何すればこの不安は解消される?
 そもそも、解消しても、また戻ってしまう?

 気付いたら腕から血が出ていた。
 もう片方の手にカッターを握っていて、黒華と囚人番号四番、八九番、そしてメイド兄弟が静かになったことから、自分が何をしたのか分かった。


「ハハ……もう、何すりゃ良いんだよ…………」



◆ レンの場合 ◆

 …………………………………………どうしよう。

「えへへへへへへへへ」

 どうすればいい。

「うふふ、愛してる」

 マズイ。

「ねぇ、レン。愛してるから、キミも私を愛してくれないかなぁ?」

 頬に生暖かいモノが落ちる。血だ。

「愛してる。このまま、一緒にここに居よう? わたしだけのレン」

 怖いんですけど。

 琴葉が怖いんですけど。

「レン、ほら。キミが愛してくれないから、たくさん傷をつくっちゃった」

 巻かれていた包帯は解け、間から隙間もなく開いた傷が覗いている。
 普通に怖い!!

「えへへ、レンが止めてくれないからだよ? レンは私が傷付いても良いの?」

 怖い怖い怖い!!

「ねぇ、返事してよ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ」

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

「私は愛してあげているのに、如何為てレンは私を愛してくれないの?」

 反応したいが……反応しにくい。

「レンは私が嫌いなの? ねぇ、反応してよ。起きてるんでしょ? ねぇ、ねぇ!!」
「……俺は、琴葉のこと、好きだよ」

 別に、寝ているフリをしていた訳ではないのだ。
 答えてもいいかなと思った。

「―――だったら、それを証明して」

 琴葉が俺の背中に腕を回す。

「ねぇ、私を愛して?」

 俺をベッドに押し倒し、琴葉は自分の服に手を掛ける。

「愛してる。レン」


 ―――どうやら、ここで俺はひとつ大人になってしまうらしい。



◆ レンの後日 ◆

琴葉「おーい、起床ー! 点呼を取るぞー」
904「…………ふぁ~あ。おはよー、琴葉ちゃぁん」
4「オイ、服を掴むな。看守」
響「あー、何で俺はここに呼ばれたんだっつーの」
冬也「煩いぞ。静かにしていろ」
雅人「てか、何で呼ばれたんだっけな」
琴葉「私呼んでない。要じゃね?」

要「あ! おっはよーございまーす!! 主任看守のお二人とメイドくんと囚人二人と琴葉ー!」
琴葉「オイ何故私を主任看守に混ぜなかったのか聞こうじゃないか」

要「それより、昨日と一昨日は大丈夫でしたかー? ムショの中で、貴方達六人が特にヤバかったらしいっすよー?」
冬也「? 如何言うことだ? それは」
響「なにかおかしかったか?」
904「と言うか、昨日と一昨日のこと覚えて無いんだけど」
4「ぼんやりとなら覚えてるけどな」

琴葉「何したんだっけーここ二日間。朝起きたらすっごく腰が痛かったんだけど」
雅人「歳じゃね?」
琴葉「んだとゴラアア!!」

904「ホントに、何してたんだっけー……って、レンは何でそんなガタガタしてんの? ハクも」
100「え……あ、あの…………琴葉さん、大丈夫ですか? その…………体調とか……あの…………その……」
琴葉「ん? 私は普通だけど」
100「ちょっと来てくれませんか……」
89「あ、グレースくんとか、シンくんとか、メイドさんとか、看守さんとかも……」

100「あの、琴葉さん。昨日と一昨日は……ずっと俺の隣に居ましたよ」
琴葉「え"」
100「非常に言いにくいんですけど…………」
琴葉「ふむふむ……え、ぇ? ぁ、え……うそ…………? え……ホントに?」
100「あ、ハイ……………………」
琴葉「ごめ……御前の大切なものを……事実改変を、事実改変をすれば…………」
100「い、いやっ! あの、ええと……嬉しかったので………………」
琴葉「え? 今、なんて…………」
100「いや、なんでもないです!!」

89「メイドさんは、琴葉ちゃんのメイドになってたね。"ご主人様"って言ってたよ。グレースくんはかまちょだった。シンくんは、血とか死体とかが見たいってずっと暴れてた。白い看守さんは、なんか自殺しようとしてたって聞いたよ? オレンジ色の看守さんは、腕切ってたー」
響「はぁ!? なんだそれ!!」
904「え、マジ?」
冬也「……………………」
雅人「……………………」

要「まぁ、昨日は皆病んでたですよ!! 一番重症は琴葉ですかね?」
琴葉「…………そんなに酷かった?」

要「え、酷かったどこじゃないよー! レンくんが寝ている横で『えへへ』とか、『うふふ』とか呟いてたし、『一生わたしだけのモノ。誰にも渡さない。だれにもあげない。レンは私を愛してくれるよね?』とか言ってたし。おいおい大丈夫かーと思ってたら、急に腕切るし。立ったと思えば看守室に行って仕事始めて。メイドくんはご主人様ご主人様って。暫くしてかまちょグレースくんが来たら、グレースくんが『かまちょかまちょかまちょかまちょ』言い始めて、それに対して琴葉は『レンに会わせて!! レンに会わせろ! レンに会わなきゃなんだ!! レンが待ってる、レンが呼んでる……レンのトコに行くんだ!!!!』って必死になって、看守室飛び出したら橙条主任が腕切り始めて、落ち着いたから治療でもするのかなぁと思ったら突き飛ばして、そのままレンくんのとこまでダッシュして。その間、響くんが橙条主任の治療して、仁くんは舎に戻った。したら神白主任が自殺しようとしてて、それを止めて。シンはシンで、琴葉の血が見たいとか、死体が見たいとか騒いでて、房に閉じ込められてたよ! 一方琴葉はレンを見て『ねぇ、レン。愛してるから、キミも私を愛してくれないかなぁ?』、『愛してる。このまま、一緒にここに居よう? わたしだけのレン』、『レン、ほら。キミが愛してくれないから、たくさん傷をつくっちゃった』、『えへへ、レンが止めてくれないからだよ? レンは私が傷付いても良いの?』、『ねぇ、返事してよ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ』、『私は愛してあげているのに、如何為てレンは私を愛してくれないの?』、『レンは私が嫌いなの? ねぇ、反応してよ。起きてるんでしょ? ねぇ、ねぇ!』」、俺も好きだよと答えたレンに『だったら、それを証明して』、『ねぇ、私を愛して?』、『愛してる。レン』と言い、ここからは察したと思います」

琴葉「…………………………………………」

要「ちなみに、この変化は、心の奥に秘めているモノを引っ張り出してきただけで、どこかからポッと出て来たわけではありませんー。我慢している人ほど効果がよく出る魔法らしいですよー。今回、特に効果が強かった皆さんは、とても欲求不満であるって事ですね」

響「………………………………」

要「大丈夫ですよ! 都合の良いように事実と記憶は変えておきましたから! 皆さん、一つも傷が残ってないでしょう?」

904「……………………」

要「皆さんがあれだけ騒いでいたことも、もう関係者以外誰も覚えてませんし!」

4「………………」

要「安心して下さい! 誰も皆さんがホントは欲求不満ってこと、知りませんから!」

冬也「…………」

要「なんで、その手を下ろして貰えません? ねぇ、あの、すいません、ちょっと」

雅人「……」

要「え、あちょっとぉおお!!」

琴葉「(被検体の六人を別室に移動させておいて良かったぁ)…………あれ」


 看守三人が要に触れた瞬間、五人が急に静かになり―――


琴葉「へへ……えへへ。レンだ~」
響「ご主人様、お早う御座います」
904「ねぇ、琴葉ちゃん? かまってよ。いいでしょ? ねぇ」
4「……琴葉、その腕を切って、僕に血を見せてくれないかな」
冬也「嗚呼、如何為よう……呼吸さえ…………私が為る必要はあるのか?」
雅人「嗚呼、クソッ……気持ち悪ィ、モヤモヤする…………嗚呼!」

100「病んだぁぁぁああああ!!!!」


仁「…………これで良いの?」
要「おー、メイドくん! 丁度良いところに」


琴葉「昨日、すっごく気持ち良かったよぅ? また、もう一回シよっか? 私のレン……わたしだけのレン」
100「えっ、あ、あの……」
琴葉「遠慮なんてしなくていいの。欲望のまま、私を愛して」
100「え、あっ、…………」
904「ねぇ琴葉ちゃん無視しないで! かまってよ!! かまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまって」
4「傷付けて良いか? なぁいいだろ? 少し痛いだけだから、すぐ楽にしてやる」
琴葉「……邪魔しないで。響、此奴等を押さえて」
響「畏まりました、ご主人様」
冬也「はは……私は死んだ方が良いんだ…………」
雅人「嗚呼、怖ェよ……助けてくれ……裏切らないでくれ…………!」


仁「もう手遅れじゃない?」
要「んー、そーかも」
仁「要さんはそれで良かったの?」
要「ん? どうして」

仁「要さん、本当は、黒華さんを束縛して、ずっと独占していたいんでしょ?」

要「……さぁね」
仁「図星みたいだね。黒華さんの場合、孤立に誘導していくのが効果的。続けている内に、精神が崩壊する」
要「えげつないね……」
仁「そう? 黒華さんは、そこで攻めればすぐ落ちると思わない?」

要「…………正直に言うと、琴葉を誰にも見せたくない。誰とも話さないで欲しい。琴葉を知っている人を、関係のある人を、琴葉が知っている全ての人を消して、二人だけになりたい。僕だけのモノにして、僕だけの色に染めてやりたい……って、おかしいね」
仁「…………いや、おかしくは無いと思う。その気持ち、早く解消した方が良いよ。黒華さんがレンのモノになる前に(もうレンのモノっぽい感じもするけど)」

要「……………………そうだね」
 
 

 
後書き
黒華琴葉→独占、依存、自傷、執着
闇月響→従順な狗、執着、崇拝
グレース→かまってちょうだい
シン→ヘマトフィリア、ネクロフィリア、執着
神白冬也→鬱
橙条雅人→極度の心配性、自傷

レン→被害者
闇月仁→策略家

黒崎要→執着?、束縛?


…………皆、ホントは病んでたんだね。
皆、しっかりと休んでね。
他人のことを考えたり、第三者の視点から自分を見てみたりするといいですよ。
病み期真っ最中の作者が思っている事を皆さんにやって貰いました。
作者に恋人が出来たら大変なんだろうなぁ……
まだ考えたこと無いんですけどね。

明日は午前七時と、午後九時に更新します。
明日から皆が本気出します。

それでは皆様、来年もよろしくお願いします!! 

 

第17-1話 新年魔法大会【開幕】

 
前書き
あけましておめでとうございます!
どうしても投稿したかったので、何回かに分けます!
また不具合が直ったら元のカタチに戻しますので、よろしくお願いします!!

レンside 

 
「オラ、起床!! さっさと並べ、仕度しろ! 一分後、御前等を房から出す!」
「「「「マジで!?」」」」

 新年一発目の会話がこれだ。
 もうちょっと、「あけましておめでとうございます」とか言ってくれないのだろうか。

 皆が急いで顔を洗ったりして、"脱獄の"準備をしている。が、琴葉はそれが分かるわけも無く、ただ腕時計をじっくりと眺めているだけだった。

「ほら、一分経ったぞ。全員、房から出ろ」
「「「「はーい!」」」」

 俺達が全員房から出て、琴葉が房の扉に再度鍵を掛けようと、振り返った瞬間を狙って、俺達は走り出す―――

「『転移(マタスタシス)』」
「「「「えええぇぇぇぇえええええ!?!?」」」」

 事は無く、琴葉の転移魔法によって闘技場の様な所へ転移させられてしまった。
 グレースは衝撃的すぎて固まっている様だ。対して、ハクとシンは転移魔法に興味津々で、もう脱獄に関しては気にしていない様だ。


「ほら、"開幕式"が始まるからさっさと並べ」

 開幕式……?
 何の?と聞こうとしたが、琴葉に腕を掴まれて、所定の位置らしき所まで連れて行かれる。そして、並んだ時に一つの放送が流れた。


『全舎の主任看守、副主任看守、また"代表の囚人"は揃いましたか』

「……御前等、絶対黙ってろよ? 喋ったら腕切り落とすから、喋って良いって言うまで喋らないで」

 琴葉がコソコソと耳打ちをしてくる。かなり巫山戯ているのかなと思うが、もう表情が真剣そのもので、本当に喋ったら腕が飛んでしまいそうだった。
 上の方を見ると、黒いマントを羽織った白髪の看守が、マイクらしきモノを持っていた。


『では、これから"新年魔法大会"、開幕式を開催します。看守長の御言葉です』

 看守が一歩下がると、赤髪のロリっ子が出て来て、マイクを持つ。……あのロリっ子が、看守長なのか? だとしたら、琴葉が喋るなと言ったのは、"看守長に失礼なことを言うかもしれないから黙っていろ"と言うことか。
 グレースは絶対に耐えられないだろうなぁと思い、俺はグレースの口を塞いでおく。

『看守、囚人の皆。あけましておめでとう。今年も君達にとっていい年になるよう願っているよ」
「…………!!」

 案の定グレースが叫びそうになっていたので、思いっ切り首を絞める。

『早速だけど、新年を祝して魔法刑務所の伝統行事を開催したいと思う!」

 伝統行事?


『"新年魔法大会"を「開宴」する!!』


 …………え?


『ありがとうございました。次に、主任看守部長、黒華琴葉による説明』

 白髪の看守が言うと、その場所に琴葉が出て来る。いつの間に転移していたのか。
 何時も通りの澄ました顔で、何時もと変わらない声で言ってくる。完全に仕事モードだったが。

『参加するのは主任看守、副主任看守と、主任看守が選んだ囚人。看守と囚人が協力して、一位を目指しなさい。この大会は、魔法刑務所内のモニターに映し出され、代表に選ばれなかった囚人も見ることになります。また、世界中にも放送されています。魔法を操る者達よ、看守と囚人の壁を越えて協力し合い、一位を目指しなさい』


 

 

第17-2話 新年魔法大会【開幕】

 一舎の選手に割り当てられた席に向かうと、その途中、オレンジ色の髪をした看守が話し掛けてきた。

「よォ、黒華。其奴等が代表なんて、一舎も堕ちたもんだなァ」
「は? 御前の目は腐ったのか? 橙条」
「何……?」

 両者の視線の間に火花が散る。
 そのため、俺達が気まずそうにしていることに、琴葉が気付いていない。

 と、次は青い髪の看守が来て。

「よー! こっちゃん!!」
「……うるさい。青藍。こっちはこの阿呆の相手に忙しいんだ」
「ンだと!?」

 喧嘩するほど仲が良いという言葉があるが、此奴等は絶対無いなと確信する。
 これ、放っておいて大丈夫なのか?

 と、また白髪の看守が来る。朝の開幕式の司会をやっていた人だ。

「貴様等、うるさいぞ。もう競技が始まるのだ。早く準備をしろ」
「あ"ー!? 御前、リーダー気取りかゴラアア!!」
「まーさんうるさっ」

 四人の看守の間で、早速火花が散っている。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるが、この四人の場合、仲が良いと言う事は無いだろう。

「今年はぜってェ負けねェ」
「はぁ? 御前、この中で最弱だろうが」
「そーだそーだー! まーさん一番弱いでしょー」
「そうだな。貴様が私達に勝つなど、千年早い」
「なんだそれッ!? 今年は勝つんだよ!」
「「「無理だな」」」
「クソが……!!」

 グレース達にそっと目配せをして、出場者席に向かおうと伝える。三人も同じ気持ちだった様で、呆れた様な顔をしながら頷く。
 音を立てない様に静かに看守の後ろを通り過ぎようとすると、突然腕を掴まれた。

 後ろを見ると、白髪の看守が真剣そうな顔で、こちらを見ていた。その後ろで他の三人が喧嘩している。


「貴様等は今日の大会で、苦渋の決断を強いられることになるだろう。今の内に、自分の命か、黒華の命、どちらを救うか、決めておく事だな」


 ―――その言葉の意味を理解するまで、あと五時間。


 
 

 
後書き
今日はもう一話投稿します! 

 

第18-1話 新年魔法大会【書き初め】

 
前書き
レンside 

 
「いぇーい! 御前等のアイドルッ! MI☆O☆Uだぜぇぇええいッ!!」

 出場者席に着いたと思えばこれだ。
 開幕式の時に白髪の看守が居た場所で、マイクを持った女が叫んでいた。

「今回の大会は、局長に代わり、副局長のあたしが司会をするぜぇぇええいッ!! よろしくなぁぁぁあああ!!」
「うるさっ……」

 フリルが多い、女性アイドルが着るような衣装を着たそいつがパチンと指を鳴らすと、闘技場を囲む様にある観客席の、最前列にある出場者席の後ろに、映像が映し出される。そこには、一般人や、看守、白衣を着たヤツが映っていた。
 シンがそれを目を輝かせながら眺める中、"ミオウ"と名乗った司会が叫ぶ。

「今回はこんなたくさんのお客様が見てくれるぜい! 死ぬくらい頑張れよなぁ、御前等ぁぁああああ!! ミオウちゃん、期待してるぜぃ!」

 すると、ワッと会場が盛り上がったような声が、映像から聞こえてくる。どうやら、この映像の向こう側が相当盛り上がっている様だ。
 これは、頑張らないといけないな。


「この大会で優勝した舎には、何でも好きなモノをあげるぜ!!」
「「「「なにぃぃいいいいい!?!?」」」」

 ……好きなモノ?
 隣を見ると、グレースやハクが鼻息を荒くしていた。シンは、「魔道書(グリモワール)魔道書(グリモワール)魔道書(グリモワール)……」と呟いていた。

「俺、熱血系じゃないけど優勝するぞぉぉおお!!」
「おおおぉぉおおおおお!!!!」

 グレースとハクが叫ぶ中、それに負けないくらいの声量で、

「おお、一舎熱いねぇ! 琴葉センパイ、頑張れぇぇぇええええ!!」

 と、ミオウも叫んだ。それにマイクもあったため、グレース達の数倍の音が出て、思わず耳を塞ぐ。
 ここのヤツは皆騒がしいな……


「それじゃあ行くぜ! 第一種目は『書き初め』だぁぁああああッ!! 半紙は主任看守に渡したモノを使って貰うぜいッ!! 選手は全員参加だぁッ! さっさと下に下りやがれ、選手共ぉおおおッ!!」

 四人で階段を下りて、琴葉の元へ向かう。
 着いたときには、琴葉は既に半紙と筆、墨を持って、要と共に仁王立ちしていた。

「……全員下りたなぁ!? 今回書くのは『謹賀新年』だぜッ! 半紙を宙に魔法で固定しつつ、筆を器用に、魔法で操れぇぇい!! ここで最下位の舎は脱楽だぜい! あたしが見惚れるような作品が出来ることを期待してるぜぇぇぇええええ!!」

 琴葉は黙って半紙と筆、墨を俺達に押し付け、自分はこれまで見たことが無いくらいの殺気を放ちながら、自分の半紙を持つ。あの後、色々挑発されたようだった。

 琴葉は半紙をピンと広げ、空中に置くように手を動かす。手を離すと、半紙が宙に浮き、その位置に固定された。

「……え」

 そのまま墨池の蓋を開け、筆を持つ。が、すぐにその筆を手放す。

「は……」

 が、筆は浮き、琴葉が腕を振ると、操られたように動き出す。墨を付けられた筆は、そのまま半紙の前まで移動した。

「ウソん……」

 そして、素早く腕を振り下ろすと、筆が「謹賀新年」という文字を書いた。
 同じ様な流れで、小筆で「一舎 黒華琴葉」とも書いた。

 とても綺麗な字だったのが、少し苛つく様で、シンが舌打ちをする。


「オラ……さっさとやりやがれ。コツは文字をイメージすること。何をしたいのか、しっかりと想像することだ。分かってんだろ、さっさとやれやボケ。打っ殺すぞ」

 振り返った琴葉が、鋭い視線で俺達を睨み付けてくる。その横で要が苦笑を浮かべていた。既に書き終えているようで、後ろに綺麗な文字が書かれた半紙が浮かんでいる。

「看守達と喧嘩して、挑発されて、相当頭にきたっぽいよ? 暫くは大人しくした方が良いと思うー」

 ……でも、やり方が上手く理解できないんだよなぁ。

 浮遊魔法で浮かせて、固定魔法で位置を固定して、操作魔法で筆を操り、複製魔法で手本の字を複製して、その通りに筆が動くように操作すれば良いのか……?
 

 

第18-2話 新年魔法大会【書き初め】

「フン……こんなこと、簡単だろう」

 シンが魔法を発動する。俺が考えたやり方と同じ順番で文字を書いていくと、琴葉や要には劣るものの、綺麗な字だった。

 それに続いてグレースとハクもやると、途中で魔法の制御に失敗したのか、小さい爆発が起こっていた。
 俺はと言うと、もう書ける気がしなかったので、一人でコソコソと書いて、すぐに隠し―――


「ド下手だ」

 後ろからグレースに見られ、急いで折り畳む。グレース達と同じ……くらいじゃないかよ! 嘘だが。

 まぁ、上手い作品を二枚提出すれば良いんだ。俺の何か必要ない。


  ◆ ◆ ◆


「結果発表だぜぇぇええ!! 一位は僅差で一舎だぁッ! 二位は四舎、三位は三舎、四位は二舎―――」

 一位通過か……良かったなぁ。
 スクリーンから見えないところで、また看守四人が喧嘩をしていた事は、言うまでも無いだろう。

 
 

 
後書き
【MI☆O☆Uの次回予告だぜッ!!】
 やっほー! ミオウ、見ッ参!!
 どーもー、第一魔法刑務所放送局副局長、虹村(にじむら)美桜(みおう)でーっす!!
 御仕事はお昼の放送と局長のサポート、局長が別の仕事をしなきゃいけないときの穴埋めだぜッ!
 まぁ自己紹介は終わりにしてぇ、次回予告、行っちゃうよー?
 次の種目では、疲れを吹っ飛ばすようなサービスがあるヨッ!
 看守共ー! さっさと着替えて競技の準備しろぉおおう!!
 琴葉センパイと海斗センパイの活躍を待っとけぇぇぇえええ!!
 次回! 「第19話 新年魔法大会【スピードボード 其の一】」!!
 また明日、待ってるぜぇぇぇええええ!!!!



おまけ
〔喧嘩する男子中g((主任看守〕
琴葉「オラァァァア! クソ橙条! カス橙条!!」
海斗「ホントにまーさん口だけなんだけど!」
雅人「……………………」
冬也「阿呆だからな。カス橙条」
雅人「御前もそんな事言うな!!」
琴葉「次の競技だって私が勝つしーだ」
海斗「いやいや、オレが得意な競技だからー」
冬也「次こそ負けない」
雅人「俺だって……!」
三人「「「御前/貴様は論外」」」
雅人「ンだとゴラアア!!」


◆これからは火曜日と金曜日の、週2回の投稿となります。また21:00に投稿します。よろしくお願いします。 

 

第19-1話 新年魔法大会【スピードボード 其の一】

 
前書き
レンside 

 
ー第19話ー

「第二種目は『スピードボード』だぜッ!! ステージキャモォォォオオン!!!!」

 ミオウがそう叫ぶと、舞台の上に壁のようなモノが生成される。くねくねと曲がった感じになっていたり、直線になっていたり、坂になっていたりしている。そこに、ミオウが水を生成する。が、それは途轍もない量で、一度でその壁の内側に水が流れた。
 一周一キロ、深さ三メートルくらいの広さなのに、一度魔法を発動しただけでそれを埋めるとは……ミオウ、やばくね?

「この競技のルールはシンプルだぜぃ! 一番早く五周したヤツが一番だぁあッ!! 一位から百ポイントで、一位とのタイムの差で減点されていくぜ? 減点は一秒一ポイントだッ!! あと、試合中の最高速度もポイントに加算されるぜ! 速度については、一番が五十ポイントで、二番が四十ポイントと続いていくぜぇええええ!! つまり、六、七、八番目のヤツは、速度によるポイント加算はない事になるぜ! タイムで一番にならなくても、最高速度次第で一番になれるかもしれないから、出場するヤツはがーんばってねー!! 合計点が低い二つの舎がここで試合終了だぞっ! 水に落ちたら失格だから、そこも気を付けてよなっ?」

 相変わらず大声で、テンションが高いミオウに、先程の書き初めで、ごっそりとテンションを持って行かれた俺は溜息を吐くことしか出来ない。ただただうるさい……
 だが、グレースとハクはうるさいとは思っていないらしく、目をキラキラと輝かせながら、ミオウを見ていた。グレースの場合は、琴葉以外の女を見たから、ハクの場合は、ミオウがアニメのキャラクターの様な衣装―――本当はアイドルだが―――を着ているからだろう。
 シンについては、まだ「魔道書(グリモワール)魔道書(グリモワール)……」と呟いている。

「参加するのは各舎の看守だぜぃッ! 既に準備はしてあるから、登場して貰うぜー! 全員、ティッシュとカメラを用意しろぉぉおお!! 鼻血と連写タイムだぜぇええ!! それでは紹介していくぜ! 第一試合一位通過! 書き初めでは最高得点を叩き出した、第一魔法刑務所最高の美人看守!! そのエロエロボディで男共を悩殺しちゃうぞっ☆ 一舎代表は、第一魔法刑務所主任看守部長、そして一舎主任看守の黒華琴葉だぁぁあああ!!」
「美桜ちゃん……その紹介は止めよう?」

 ミオウが司会をしている横に―――

「んー! 琴葉センパイ、黒色ビキニなんて、エロすぎ! カーディガン着て隠してるつもりだけど、隠せてないッスよ!!」
「うるさいッ!」

 黒いサーフボードを抱え、水着の上に、半透明なノースリーブのカーディガンを羽織った琴葉が出て来る。
 すると―――


「「「「おおおぉぉぉおおおお!!!!」」」」


 映像の向こうが盛り上がる。シャッター音が絶え間なく聞こえてくる。
 近くでも聞こえるなぁと思い、後ろを振り返ったら、そこで要とグレースが、真顔で連写していた。


「続いて第一試合二位通過! 第一魔法刑務所一番のイケメンとして、女性からの黄色い歓声が絶えない! 連写も止まないよっ! でお馴染みかは知らないけど、第一魔法刑務所主任看守副部長、四舎主任看守の神白冬也でぇぇええっす!!」

 次は白いサーフボードに、パーカー、サーフパンツという格好の白髪の看守改め、神白さんが出て来る。
 今度は、女性からの黄色い歓声が響く。グレースと要は、微妙な表情で耳を塞いでいた。

「じゃんじゃん行くぜぇぇえええ!! 第一試合三位通過! この競技はコイツのためにあるようなモンじゃね!? ってほどこの競技に合った男!! 第一魔法刑務所三舎主任看守の青嵐海斗だぜえぇぇええええ!!」

 青いサーフボードを抱えて出て来たのは、青髪の看守改め、青嵐さん。もう段々よく分からなくなってきたな。

 

 

第19-2話 新年魔法大会【スピードボード 其の一】

「第一試合四位通過! 琴葉センパイと冬也センパイと海斗センパイとくっそ仲良し! くぅぅ! 羨ましぃぃい!! 第一魔法刑務所冬也センパイに次ぐイケメン看守!! 第一魔法刑務所二舎主任看守、橙条雅人ぉぉおおおお!!」

 橙条さんはオレンジ色のサーフボードを抱えている。
 ……ってか、ミオウは今喧嘩しかしてないあの四人の看守を「くっそ仲良し」って……基準おかしいだろ。

「第一試合五位通過! 元気一杯!! 運も絶好調!! だけど琴葉センパイはチートだから劣ってしまう、残念副主任看守ッ!! 琴葉センパイチートすぎるよぉぉおおお!! 第一魔法刑務所七舎副主任看守、桃瀬(ももせ)(はる)ッッッ!!」

 初めて見る看守だ。桃色のサーフボードを……って、この看守達頭カラフルだな!!
 黒、白、青、橙、ピンク、看守長は赤で、まだ増えるだろう。もう、ボードの色も髪と揃えているっぽいし、段々と目がチカチカしてくる。
 そう言えば、要の苗字は"黒崎"だったか。舎毎に、テーマカラーの様なモノが決まっているのかも知れないな。

「第一試合六位通過! なになに、落ち込んでんじゃねぇええ!? って見えるけど、ホントは心の中盛り上がってるぅぅううう!! 根暗、病弱そうに見えるのはただの演技!? でお馴染みかは知らないけど、第一魔法刑務所五舎主任看守、柴田(しばた)(ゆう)だぜぇぇええっ!!」

 次は紫。下を向いて、体調が悪そうだが、ミオウの紹介から行くと、これは演技……上手すぎだろ!!
 紹介長いなぁと思いつつ、ミオウの方に視線を戻す。

「第一試合七位通過! そう言えば、クリスマスの時ツリーのてっぺんに立ってなかったぁああ!? 春っちと対になってる気がしなくも無いほどずぅぅぅうううっと一緒に居る仲良しなヤツ!! 第一魔法刑務所九舎副主任看守、黄瀬(きせ)(ひかる)ぅぅうう!!」

 次は黄。早速桃瀬さんと絡んでいる。喧嘩をしていることは無く、笑顔で話している。これが本当の"仲良し"だ。

「最後だぜぇええ!! 第一試合八位通過! 動物と会話できんの!? 動物と喋ってるけど、ぼっちなの!? でもめっちゃ夕っちと仲良いよね!! ぼっち疑惑はあたしが晴らしたぞおぉぉおおお!! 第一魔法刑務所六舎主任看守、緑山(みどりやま)(よう)だぁぁああ!! 第一試合九位の八舎は脱落だぜぃ!」

 最後は緑。全員水着だが、本当に寒くは無いのだろうか……


「それじゃあ早速始めるぜぇええ!! 位置についてぇええええ!!」


 って、冬にプールで競争とかおかしいだろ! 絶対寒いって。
 看守達が台の先端に立つ。


「よぉぉおおおいッ!!」


 映像の向こうがシンと静まり返る。
 少しの静寂の後―――


「どんッッッッ!!!!」


 映像の向こうがワッと盛り上がり、看守達は台を蹴って十メートル程下のプールに向けて飛び出した。

 
 

 
後書き
【MI☆O☆Uの次回予告だぜッ!!】
 やっほー! ミオウだぜっ!!
 看守いっぱい登場して、全然名前覚えられないだろぉお?
 でも頑張って着いてこいよ、御前等ぁぁああああ!!
 スピードボードで優勝するのは一体誰だぁああ!?!?
 次回! 「第20話 新年魔法大会【スピードボード 其の二】」!!
 何か事件が起きる予感ッ!?
 また明日、待ってるぜぇぇぇええええ!!!! 

 

第20-1話 新年魔法大会【スピードボード 其の二】

 
前書き
レンside 

 
ー第20話ー

 台から飛び降りる看守は皆笑って居た。寒いことを隠すためか、本当に楽しいのか。
 ただ、それの所為でシャッター音と黄色い歓声が、耳を劈く様な音量で響き渡っている。

 水面に近付くと、看守達はボードを水面に投げ、上手くそこに着地する。ボードを水面に固定して、一瞬だけ地面のようにしている。

 そして、着地した瞬間、水飛沫が舞った。

「熱い戦いが始まるぜぇええええ!!」


 水飛沫の中から素早く飛び出してきたのは、琴葉と青藍さんだけだった。


「ここで一位候補の二人が一気に飛び出たぁぁあああ!!」

 物凄いスピードで、最初の直線コースを抜ける。
 後ろでは、続々と他の看守達も水飛沫から飛び出して、二人を追っている。が、その間は二十メートル程開いてしまっている。


「まず最初の難関! 五連続カーブだぜぇぇえ!!」

 琴葉と青藍さんが若干速度を落として、カーブを曲がっていく。インサイドとアウトサイドを交代しながら、五連続カーブを軽々と、ミス無く抜けていく。
 琴葉も青藍さんも、ボードと脚を固定し、それを操作魔法と上半身で、上手く操作しているのだろう。前に進んだり、曲がったりする動きを、全て操作魔法のみでやっているとしたら、上手くカーブして、前に速く進む事も出来るはずだ。

「琴葉センパイも、海斗センパイも、難なく抜けたぜぇええ! くぅぅうう! かっこいいぜッ!!」

 琴葉も青藍さんも、綺麗な笑みを浮かべていて、その周りにはキラキラと光を反射する水がある。まるで、絵に描いたような感じ。
 チクリと胸が痛むが、それはスッと消えていった。

 すると、ジャンプ台の様なところの手前まで来る。
 そこで、琴葉と青嵐さんは一瞬、お互いを見た。


「負けないからッ!!」
「負けないかんな!!」


 二人の声が高らかに響き、二人はジャンプ台から飛び降りる。それにより歓声は音量を増す。コースの中で一番盛り上がる所なのだろう。
 特に特別なこと無く着水した二人は、速度を更に上げつつ二周目に入る。

「二周目、四周目は少しコースが変わるぜ! 最初の直線コースに、谷が現れるから、気を付けろよなぁぁぁあああ!!」

 全ての看守がジャンプ台を越えたとき、既に二人は谷の前に差し掛かっていた。
 だが―――


「簡単に抜けさせると思うなよ!!」

 橙条さんが二人に向かって魔法を発動させる。他の看守も同じ様に魔法を発動させる。
 動きを縛るための固定魔法を、しっかりと回避して、飛ばされてきた氷の刃や、風の刃を、プールの水を操り、障壁にして撃ち落とす。

 そして、二人は谷を越える。

「おぉぉおおお!! 阻害を受けながらも簡単に難関を越えていくぅううう!! 超cool!!」

 そう言えば、これは魔法の大会。こうやって魔法で戦う事が、本当の戦い方なのだろう。

 勢いに乗った二人は、更にスピードを上げ、五連続カーブへ突っ込んで行く。
 が―――


「っしゃあ!!」


 琴葉はその直前で壁に少しだけボードを乗せ、勢いのまま前に進む。上手く操作魔法を掛けたのか、ボードと琴葉は宙を舞い、カーブを全てショートカットしていく。
 会場がシンと静まり返り、そして一瞬で盛り上がった。
 ……チートだ。普通に跳んだだけでは、いくら直線コースからカーブに入るところと、カーブから出た後の直線コースが、見えるところにあったとしても、絶対に届かない。固定魔法で、ボードを体の一部として、操作魔法で、自分の体を操作すれば、もしかしたら行けるかもしれないが、少なくとも二十メートルはある。……チートだ。

「みっ、水についてないからセーフだぁぁああ!! 琴葉センパイすげぇぇええええ!!!!」

 琴葉が先頭に出ると、後ろに居る看守が、一斉に琴葉に魔法の照準を合わせる。
 次の瞬間には、実に様々な魔法が、琴葉の前に迫っていた。

 が、流石琴葉と言ったところか、無意識の内に水で障壁を作っていたのか、魔法は全て撃ち落とされた。
 その後も、何度も魔法は撃ち込まれるが、全て防ぎきり、琴葉は三周目に入っていた。


 

 

第20-2話 新年魔法大会【スピードボード 其の二】

「こっちゃん! 俺も負けないかんなぁああ!!」

 ジャンプ台を二番目に飛び降りた青藍さんが叫ぶ。後ろに腕を伸ばすと、掌に水が生成される。すると、それが後ろに向かって一気に放出される。
 その推進力と勢いで、青藍さんはまた琴葉の横に並んだ。
 どうやら、ここの看守は皆魔法の扱いが通常の五倍くらいらしい。俺から見て、だが。


 そのまま三周目、四周目と、琴葉と青嵐さんは並んだままで、後ろの看守達と大差を付けながら回る。

 そして、五周目の五連続カーブに来たときだった。

 他の周と同じ様に、魔法で阻害される。それを障壁で撃ち落とす―――はずだった。

「……はッ!?」


 魔法が発動される。が、桃瀬さんと柴田さん、黄瀬さんが放った魔法が融合し、それが青藍さんの近くの水面に落ちる。

 ―――それの所為で、完全に青藍さんがボードの操作が効かなくなった様に見えた。

 
 

 
後書き
【MI☆O☆Uの次回予告だぜッ!!】
 やっほー! ミオウだよっ!!
 海斗センパイの運命は!?
 海斗センパイィィイイイイイ!!!!
 みんな、応援してくれ!!
 海斗センパイ! 海斗センパイ!
 スピードボードで優勝するのは一体誰だぁああ!?!?
 次回! 「第21話 新年魔法大会【スピードボード 其の三】」!!
 でも私は琴葉センパイを一番尊敬してまぁあああああっす!!!!
 また明日、待ってるぜぇぇぇええええ!!!! 

 

第21-1話 新年魔法大会【スピードボード 其の三】

 
前書き
レンside 

 
「こっちゃん避けてッ!!」


 青藍さんの鋭い叫びに、琴葉が後ろを振り返り、即座に魔法を放った。固定魔法を無効化する魔法だ。
 それにより、青藍さんの脚とボードは離れ、ボードは壁にぶつかって勢いを止める。青藍さんは、勢いのまま琴葉に突っ込んだ。
 琴葉の方も固定魔法を解除したようで、ボードだけが水面に残っている。


 会場がシンと静まり返った。
 が、看守達は苦しそうな表情をしながらも、前進を続けた。きっと、止まっては行けないのだろう。


 ミオウですらもマイクを持つ手に力が入らないようで、マイクを落とす。


 今、何が…………琴葉は? 青藍さんはどうなった―――


「…………ってぇ……」
「……あー、びっくりした」


 小さくそんな声が聞こえて、会場は一瞬で盛り上がりを取り戻した。
 次の時には、琴葉と青藍さんが、壁に腰を掛けていた。

 だが、そのタイミングで看守達がゴールしていた。


「あー……ごめんねー、こっちゃん。俺のせいで」
「いや、別に大丈夫。まだ負けたわけじゃ無いじゃん?」

 青藍さんが目を丸くする中、琴葉がニヤリと笑うと、青藍さんの手を取って、ボードの近くに寄る。


「最高速度で勝ってやるよ」


 琴葉は素早くボードに乗る。

「美桜ちゃーん! 水に浸かってないからセーフだよねー?」
「せ、セーフでぇえええええす!!」
「じゃあ、青藍……海斗! 先に行ってるから!!」

 悪戯っ子の様に笑った琴葉は、高らかに叫んだ。


「『エクスプロージョン』ッッッッ!!!!」


  ◆ ◆ ◆


「第二種目結果は、一位は四舎、神白冬也!! 二位は二舎、橙条雅人!! 三位は一舎、黒華琴葉!! 四位は三舎、青藍海斗!! 五位は六舎、緑山葉!! 六位は五舎、柴田夕!! 七位は九舎、黄瀬輝!! 八位は七舎、桃瀬春となったぜッ!! っつーことで、現在合計得点七位、八位の九舎と七舎はここで脱落だぜ! ゴメンねぇええ!!」

 ミオウも元のテンションを取り戻し、会場も元―――より高いかもしれないくらい―――のテンションに包まれていた。

「現在合計得点順は、第二種目結果と全く一緒だぜっ!」

 だが、一舎の選手はそんな事は無かった。


「ごめん……順位落としちゃった」

 目の前には申し訳なさそうに俯いている琴葉。まだボードも持った状態だ。
 俺達がかなり燃えていたことを知っていて、かなり真剣に謝っているのだろう。

 だが、その雰囲気は―――


「琴葉ちゃん、顔上げてよ」


 グレースに全て持って行かれた。

「琴葉ちゃんはあの三舎の看守さんを助けただけじゃん。悪いことはしてないんだから、自分を責める必要無いよ。琴葉ちゃんが居なかったら、あの青藍って人、死んでたかも知れないんだし」

 泣きそうになっている琴葉に、グレースは視線を合わせて笑いかけた。……変態担当が、イケメンして―――

「……ありがと。でも、子供扱いするな」
「あはは、可愛いねぇ! 照れ隠しぃ!? ごっふぁ」
「ううううるさい! 雰囲気ぶち壊しだわ!!」
「……待って、なんで殴ったの…………」

 た時期があった。今は琴葉に脇腹を殴られて、脇腹を抑えながら蹲っている。
 要が一度苦笑を浮かべてから、ポケットを漁る。そして、取り出したのは絆創膏だった。

「ココ、血でてる」

 琴葉の二の腕を指しながら、要は琴葉の腕を持ち上げて、血が出ている箇所に絆創膏を貼る。そして、躊躇いも無くその上にキスをした。

「なっ!」
「よく頑張ったね、琴葉」

 そして、軽く頭を撫でた。琴葉は林檎のように顔を赤くして照れている。
 琴葉、そんな顔も出来るんだな。

 

 

第21-2話 新年魔法大会【スピードボード 其の三】

「あ、いた……こっちゃん!」

 すると、会場へ向かう反対の方向から、青藍さんが走ってくる。少し息が上がっていると言う事は、琴葉を探し回っていたのだろう。
 どうしたの? と優しく問う琴葉の肩に両腕を置き、青藍さんは深く頭を下げた。勿論、全員目を見開いて驚いている。

「ごめんんん!! 俺の所為でぇええ……」
「いやいやいや! あれは魔法がおかしな結果を生み出しちゃったんだから、しょうがない! 避けなかったのは私なんだし、気にしないで!!」
「こっちゃぁぁあん……」

 反射的になのか、青藍さんはそのまま琴葉を抱き締めた。勿論、全員顔を紅潮させて、目を見開いている。
 琴葉はと言うと、少し背伸びをしながら青藍さんの頭を撫でていた。……大人め。

 青藍さんが着替えのため、更衣室の方へ去って行ったのを確認すると、琴葉が勢い良く振り向く。が、一言目を発する前に、今回の事故の原因になった三人の看守がやって来て、バッと頭を下げた。

「「「黒華さん、すいませんでしたぁぁああああ!!!!」」」
「おぉう!? あれは君達だって真剣だったって事だろ! ちょっと魔力を込め過ぎちゃっただけだからさっ!? その余った魔力がお互いを引き寄せ合って、結局魔法が融合したっていう、不慮の事故だからさっ!? 気にしちゃダメだって! 青藍は怪我してないし、私だって擦り傷だけだし!!」
「「「すいませんでしたぁぁあああ黒華さんんんんん!!!!」」」

 嵐の様にやって来た三人は、嵐の様に謝罪をして、嵐の様に去って行った。俺達は、終始真顔のままだった。
 第二種目はこれで幕を閉じ―――


「ねぇ、そう言えば、水着似合ってるかな? 美桜ちゃんが用意してたっぽいんだけど」
「「「「「めっちゃ似合ってる」」」」」
「あ、そう……」


 た。

 
 

 
後書き
【MI☆O☆Uの次回予告だぜッ!!】
 ひゃほーい! ミオウだぁあああ!!
 正直、琴葉センパイと海斗センパイってイイわぁ。
 琴葉センパイが毒舌を忘れる……ッだとぉおおお!?
 ちょっと教えてくれぇええ、海斗パイセンンンン!!
 春っちと夕っち、輝っちも召☆喚!!
 次回! 「第22話 新年魔法大会【ショットダウン 其の一】」!!
 あたしの実況は全部「迷」実況だぜ!!
 ……って、文字ぃぃいいいいいい!!
 あああ明日、待ってるぜぇぇぇええええ!!!!