ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~


 

FILE1 息苦しい現実から自由な仮想へ

 
前書き
ど~も、マローンです。

本作は更新速度至上主義なので、話の内容的には微妙かも知れませんが、どうか生暖かい目で見守ってくださいませ。 

 
解き放たれたい……この行き詰った世界から!!by立木ナレーション(以下立木ナレ)


※ ※ ※


俺「相変わらず、何時も変わらないなこの山谷は」

俺、小田桐弭間(おだぎりはずま)は地元である東京都台東区山谷の駅のホームから出て、そう呟いていた。俺が生まれてから14年間を過ごしているこの山谷は大阪のあいりん地区、神奈川県横浜市の寿町と並ぶ日本三大ドヤ街として知られている。

町の至る所には一泊2000円前後の安宿が並び、住人の3人~4人が生活保護受給者で、それ以外の連中も日雇い労働者だったり、ホームレスや浮浪者だったり、そんな社会の底辺、はみ出し者達が集う町だった。

俺は買ったばかりのゲームを手に、日本堤の自宅アパートに戻った。

このアパートの一室で暮らしているのは俺の他には祖父と父、ワンルーム10.5畳で家賃6万円の部屋で男三世代の三人暮らしと言う、誰も望まない生活を送っていた。

恭史郎「弭間!オメー朝からどこ行ってやがった?酒が切れたから買いに行かせようと思ってたってのに、肝心な時にいねーじゃねーか!」

帰るなり、汚い声で喚き散らしてきたのは俺の祖父の小田桐恭史郎(おだぎりきょうしろう)だった。名義上はこの部屋の名義人であるが、俺が生まれる前から生活保護で暮らしている男で、毎月精々12万円そこそこ支給される保護費をこの爺さんは酒、煙草、博奕、そしてついに一度のデリヘル嬢に費やすような老人だった。

俺「あんたにそうやって面倒な事頼まれねーように出かけてたんだよ、つうか、未成年に酒を買わせようとするな」

恭史郎「生意気言ってんじゃねー!未成年で酒飲んで、自分で買いに行ってる奴が言う台詞か!」

まぁ、実際に俺も酒は飲むし、タバコも吸うけどな。実際に俺は今も、帰って早々にタバコを一本加えて、部屋にあるライターを使って火を付けて一服していた。

時生「おい、弭間。そのタバコ、今日で4本目とかじゃねーよな?」

俺「まだ2本目だよ、アンタの言い付け守って一日に3本までで我慢してやってんだよ。それと酒も一日に一本までだしな」

今となっては一般家庭では滅多に見なくなったスーパーファミコンのRPGゲームをやっている俺の父の小田桐時生(おだぎりときお)に対して俺はめんどくさそうに答えておいた。

この俺の親父である小田桐時生は生まれてこの方、定職に就いたことが無いらしく、賭け麻雀などで生計を立てている、所謂、雀ゴロもどきと言う奴だった。
それでも年収は辛うじて200万円強で、一応はこの小田桐家では一番の稼ぎ頭となっている。

と言っても、20代のフリーターと大差ないと言われればそれまでだがな。

そして……この小田桐弭間自身も、小学校を卒業して以降は、地元である山谷の日雇いの仕事を気が向いた時にやったりして、生活費を月に取りあえず10万円ほど得て過ごす生活であった!本来であれば……14歳の弭間が仕事に就く事は出来ないわけなのだが……この山谷では日雇い労働者に対する身元確認、年齢確認などが極めて雑である為、弭間の様に年齢を誤魔化して働く少年は弭間だけではなかった!by立木ナレ

俺「そろそろ正式サービス開始時間か、ついに始まるんだな」

俺は自分のプリペイド式のスマホに表示された時刻を確認してそう呟いた。

2022年11月6日。今日は世界初のVRMMORPGである《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始日だった。
フルダイブ型のゲーム機であるナーヴギアを頭に被り、ログインする事でプレイヤーの意識は現実世界から切り離されて、ゲームの中、つまり仮想空間にフルダイブする事が出来る。
俺も手に入れる事が出来た、このソードアート・オンライン、通称SAOの初期出荷数は1万本だったが、それより以前にベータテストが行われており、それに当選したのは僅か1000人で俺も僅かな希望を託して応募してみたが、その希望は呆気なく消え去り、俺はβテスト期間中は気を紛らわすように、めでたくベータテストに当選したテスターが更新しているSAOのブログを眺めて過ごす日々を送っていた。

恭史郎「だー!隣の倉崎の野郎うるせー!何、騒いでやがるんだあの寄生虫野郎!」

小田桐家の隣人である男が部屋から思いっきり漏れる声で騒いているのは俺の耳にも聞こえた、たまらず爺さんが部屋を出て、負けず劣らずやかましく汚い声を張り上げる。

恭史郎「うるせーぞ倉崎ぃ!なにさっきからゲラゲラ喚いてやがるんだ馬鹿垂れ!生ポの爺に寄生してやがる虫けらがぁ!」

倉崎「黙れ生ポ爺鬱陶しい!俺が知らねぇとでも思ってんのか!?テメーが生活保護でデリヘル呼んでるって事くらいお見通しなんだよ!役所にチクるぞテメー!」

恭史郎「上等だコノヤロー!その前にテメェの首根っこ掴んで窒息死させて、東京湾に沈めてやろうじゃねーか!」

時生「おめーら、あんまり騒ぐなっての。ゲームの音が聞こえねーじゃねーか」

全く、飽きもせず毎日毎日大声で喧嘩するのが好きな大人達だ。だが、このやかましい雑音もフルダイブしてしまえば一切聞こえなくなる。
全ての感覚がゲーム世界へと送り込まれるから、現実世界の俺の身体は眠った状態になる。

俺「まさに、現実から解放される瞬間だな……」

フルダイブ型のゲームはSAOが初めてではないが、どれもしょぼいゲームばかりでうんざりしてたところだったが、このSAOは実際にプレイするまでも無く、これまでのゲームにない衝撃を俺に与えてくれるはずだと俺は確信していた。

そして、ついに正式サービス開始時刻の午後1時が訪れる!弭間はナーヴギアを頭に被り『リンク・スタート』と発音すると、その瞬間に彼の意識は現実世界から切り離されて、視覚、聴覚、全ての感覚はゲーム世界へと解き放たれる!小田桐弭間はSAO世界にて、プレイヤーネーム《オズマ》として降り立つのであった!!by立木ナレ


※ ※ ※


俺「そろそろレベルアップも近いなっと!」

俺は鼻息を荒く立てて、突進してくるイノシシ型のモンスターの《ブレンジ―ボア》をソードスキルの片手直剣ソードスキルの《スラント》で斬り倒して、そう呟いた。
フルダイブした直後にゲーム開始時点にすべてのプレイヤーが配置される《始まりの街》に降り立った俺は、まずは(コル)と経験値を稼ぐべく、初期コルで数本のポーションだけをNPCショップで購入し、即座に街を出てフィールドでの狩りを開始していた。
始まりの街の周辺フィールドに出現するモンスターは初期装備でもやり方さえ間違えなければ、単独でも倒せる相手ばかりで、俺はログインしてから数時間の間に片っ端から出現してくるモンスターを倒し続けていた。

ソードスキルとは、魔法が存在しないSAOに設定された最大の攻撃システムであり、予備動作をシステムが検知することで発動する必殺技であった。
ソードと銘打っているが、実際には刀剣類だけでなく斧、投剣、手足といったSAOに存在する様々な武器に対応したスキル系統が無数に存在する。スキル熟練度の上昇に伴い新しいソードスキルを習得し、発動時間が短縮され射程も伸びる。
発動時には武器が発光する「ライトエフェクト」と、攻撃軌道を補正する「システムアシスト」を伴い、通常攻撃を遙かに凌駕する破壊力と攻撃速度を得ることが出来る。その反面、所定の硬直時間と使用間隔が存在する。
それ故に、無計画に乱発するわけにはいかず、使い時を見定めて使いこなす事が重要とされているのであった!!by立木ナレ

それからも俺の狩りは続いた、現時点では誰ともパーティーを組んでいない状態、ソロプレイなので、一度に大人数の群れを成すモンスターは避けて、単独行動、それかせいぜい2体で行動しているモンスターに狙いを絞って狩り続けていた。
そして、現実世界との時間がリンクしているこのSAO内では現実世界での時刻が夕暮れ時になれば、SAO内でも日が暮れるようになる。
そのタイミングで俺は何度かやっている、飛び込みながらの突き攻撃でブレンジ―ボアを倒すと、軽快なBGMが鳴り響き、俺のレベルが1から2にアップした事を伝えてくれた。

俺「そろそろHPが心許ないな……ポーション飲んで、回復してから狩りの再開といくか」

ポーションは使用してから実際にHPが回復するのに時間が掛かる事は、アイテムストレージからヘルプ機能でポーションの説明をウィンドウに表示した際に既に知っていた。
なので俺は、一旦戦闘を止めている状態でポーションを一本飲んで、回復が実行されるのを待ってから狩りを再開する事にした。
この時点で俺は自分の思った以上にSAOにのめり込んでおり、恐らく今日は徹夜までログアウトする事は無いだろうとこの時は思っていた。

「なんだこりゃ。……ログアウトボタンがねぇよ」

それは、俺からある程度離れた場所で狩りをしていた曲刀使いのプレイヤーの言葉だった。

「ボタンがないって……そんなわけないだろ、よく見てみろ」

曲刀使いと組んで狩りをしていたらしい、黒髪の片手剣使いが呆れ声でそう言っていた。おそらく、このゲームを始めたばかり故に、見落としてるだけに違いない。

「やっぱどこにもねぇよ。オメェも見てみろって、キリト」

キリト「だから、んなわけないって……」

既に俺のHPバーが回復した後になっても、2人はそんなやり取りを続けていた。キリトと呼ばれた黒髪のプレイヤーが溜息交じりにレクチャーをしている事から見て、奴は恐らくβテスターでバンダナを付けた曲刀使いが俺と同じ今日初めてログインしたばかりのプレイヤーなのだろう。
取りあえず俺は、その二人に構わず、離れた所で単独行動を取っていたブレンジ―ボア目掛けて攻撃を仕掛けるべく走って行った。

俺の接近に気が付いたブレンジ―ボアがこちらを向き、単調な突進攻撃を仕掛けてきたので、今まで通りのやり方で返り討ちにしてやろうと剣を構えた時だった。

リンゴーン、リンゴーンと言う、鐘のような―――もしくは警告音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響いた。

俺「何だ―――急に!?」

気が付くと、先程までこちらに向かって突進してきていたブレンジ―ボアがピタリと止まって動かなくなっていた。
いったい何が起こった?正式サービスが始まったばかり故のシステムトラブルか?

だが、そんな俺の疑問を他所に、唐突に俺の身体を、青い光の柱が包んだかと思うと、俺の視界から草原の風景が一瞬にして薄れていったのだった。

これはもしかして、βテスターのブログの情報通りならおそらく《|転移(テレポート)》だろう。
だが、俺は転移する為のアイテムを使った覚えもないので、恐らく運営側の強制転移だろうが、何の告知も無しに何なんだ一体……?

そして、青の輝きが薄れ、風景が再び戻る時、そこは既に夕暮れの草原では無かった!広大な石畳。周囲を囲む街路樹、中性な街並み、そしてオズマの正面遠くには黒光りする巨大な宮殿by立木ナレ

俺「始まりの街に強制転移されたのか……?」

そこは、俺がゲームにログインして配置された場所であるはじまりの街の中央広場で間違いはなかった。
当たりを見渡すと、やはり強制転移されたのは俺だけではなかったようで、恐らくは、俺と同じようにSAOにログイン中の1万人ほどのプレイヤー達がここに集められたようだった。

「どうなってるの?」

「これでログアウトできるのか?」

「早くしてくれよ」

などと言う声が耳に聞こえてくる。それにしても、さっきバンダナの曲刀使いと、キリトと呼ばれた俺と同じ片手剣剣士が言っていた、ログアウトが出来ないどうのこうのって話は本当だったらしく。
その話で騒いでいる連中が一人や二人どころではないようだった。

「ふざけんな!」

「GM出てこい」

ざわめきの声が苛立ちの声に代わりはじめたころだった。不意に、それらの声を押しのけて、誰かが叫んだ。

「あっ……上を見ろ!」

俺は反射的に視線を上げると、そこで異様な物を目の当たりにした。百メートルほど上空を真紅の市松模様が染め上げていく。
赤い単語はそれぞれ『Warning』そして『System Announcement』と表記されるが、英語などまるで分らない俺にはそれが何を意味しているのかまるで分からなかった。

だが、次の瞬間に起きた出来事は、そんな疑問を吹き飛ばす予想外の光景だった。上空に出現したのは身長が二メートル以上ありそうな、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人の姿だった。
だが、深く引き下げられたフードの中には顔が無く、少なくとも俺達と同じプレイヤーとは程遠い存在だろう。

「あれ、GM?」

「なんで顔ないの?」

と言うささやきが沸き起こり始めていた。そして、その薄気味悪いロープは、一万人のプレイヤーの頭上で、中身の無い白手袋を左右に広げ、顔の無い何者かが見えない口を開いたと思えた直後、低く落ち着いた、通る男の声が、遥かに高い位置から降り注いだ。

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

この時より、世界初のVRMMORPG、ソードアート・オンラインは変わる!だが、まだプレイヤー達は気が付いていなかった。
自分達がゲームと言う世界の囚人になってしまったと言う悲劇的な事実に!by立木ナレ
 

 

FILE2 始まりを告げるデスゲーム


山谷で素寒貧な生活を送っていた少年、小田桐弭間ことオズマは、世界初のVRMMORPGであるソードアート・オンラインにログインし、仮想空間で剣を振るっていた。
だが、正式サービス当日にログアウトが出来ぬと言うトラブルが発生!全プレイヤーが強制的にはじまりの街に集められ、そして頭上に現れた真紅のローブはこう言った――――by立木ナレ

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

果たしてこの言葉は何を意味するのか!?そして、プレイヤー達はこれからどうなるのか!?by立木ナレ


※ ※ ※


俺「何言ってやがるんだ……あの赤ローブ?」

取りあえず、あの赤ローブが運営サイドのゲームマスターなのはなんとなくわかる。だからと言って改めて私の世界とか言うのも、どうかと思うが、赤ローブは構う事なく、更に言葉を発する。

「私の名前は茅場晶彦(かやばあきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

俺「誰だよ一体……?」

聞いたことの無い名前を名乗るその赤ローブだったが、意外と有名人らしく、一部の連中が『茅場だと!?』とか『なんで茅場晶彦が?』と騒ぎ始めていた。

茅場晶彦とは、数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社に過ぎなかったアーガスが、最大手と呼ばれるほどまでの成長を遂げる原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者であった!
そして彼は、SAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもある!by立木ナレ

茅場「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない、繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」

俺は直接確認したわけではないが、他のプレイヤー達の言葉でそれは既に気が付いていた。だが、それが不具合ではなく本来の仕様と言う言葉を聞き、俺はとてつもない悪意を感じてならなかった。

茅場「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトする事は出来ない」

俺「城って……アインクラッドの事か?」

だが、茅場はそんな俺の疑問に答える事無く、それどころかそんな疑問どころではない言葉を発する事になる。

茅場「……まだ、外部の人間による、ナーブギアの停止あるいは解除も有り得ない、もしそれが試みられた場合――――ナーブギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

なんだそれ?マイクロウェーブとか、信号素子とか、俺の知らない単語がゾロゾロと出てきやがってややこしいことこの上ない―――だが、しかし、否応でも最後の言葉の意味だけは分かった。

俺「それって、死ぬって事だろ……」

だが、ナーヴギアにそんな事が可能なのか?それは、ナーヴギアを単なるゲーム機としてしか見てこなかったこれには、必ずしもそんな事はあり得ないなどと言う根拠は無かった。

オズマが知ることではないが、ナーヴギアは、ヘルメット内部に埋め込まれた無数の信号素子から媚薬な静電気を発生させ、脳細胞その物に疑似的感覚信号を与える。
まさに最先端のウルトラテクノロジーと言えるのであるが、実は原理的には電子レンジと同様であり、充分な出力さえあれば、ナーヴギアは、プレイヤー達の脳細胞中の水分を高速振動させ、摩擦熱によって蒸し焼きにする事が可能なのであった。
そして、ナーヴギアの重さの三割はバッテリセル……すなわち、ナーブギアには、高出力の電磁波を発生させられるバッテリを持ち得ている!!by立木ナレ

茅場「より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み―――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、既に外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果―――残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している」

誰の声だか知らないが、細い悲鳴が上がった。だが周囲のプレイヤーの大多数は、放心していたり、薄い笑みを浮かべたままだった。
俺自身、未だに奴の言葉をすべて受け入れる気になれず、その証拠に奴の話を何時までもボーっと聞き入れているだけだった。
と言うかアイツ、213人のプレイヤーが死んだとか、あっさりと言ってのけやがった……もし奴が本当に茅場で、奴がこの状況を作り出したのなら、既に奴は大量殺戮者だと言うのに。

「信じねぇ……信じねぇぞオレは」

それは、先程キリトと呼ばれた黒髪剣士と行動を共にしていたバンダナの曲刀使いの声だった。奴に限らず、俺を含めた大半は、そんな話は信じたくないのは当然だ。
だが、茅場はあくまでも実務的にアナウンスを続ける。

茅場「諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ている事を含め、苦r帰し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の身体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制の下に置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい」

俺「バカ言ってんじゃねぇぞ!俺達をゲームの世界に閉じ込めて、何を安心して攻略しろだって!?」

淡々と事務的にとんでもない事を言ってのける茅場に対して俺は声を荒げていた。だが、茅場の抑制の薄い声は、俺の声とは正反対に穏やかに告げる。

茅場「しかし、充分に留意してもらいたい、諸君にとってソードアート・オンラインは、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームに於いて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーブギアによって破壊される」

ようするに、このゲームの状況を簡単にまとめるとこう言う事だろう。

このゲームから自発的にログアウトする事は不可能で、ログアウトするにはゲームを完全にクリアするしかない。

そして、このゲーム内でHPが0になれば、現実世界の俺達も命を失う。

問題なのは、ゲームを完全にクリアすると言うのは、具体的にどういう意味なのかであるが、その答えは直ぐに茅場本人の口から告げられた。

茅場「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされる事を保証しよう」

一万人のプレイヤーが沈黙した。やはり、茅場が最初に口にした、城の頂と言うのは、このゲーム世界である巨大浮遊城のアインクラッドそのものであり、第百層までクリアする事を示していたのだった。

俺「出来るのかよ……?確か、βテストでは、二カ月かけて6層しかクリアできなかったはずだよな?」

今はベータテストの10倍の人数である一万人がログインしているとはいえ、その人数で実際に第百層までクリアするのにどれだけの時間が掛かるのかと考えると……俺達が現実世界に帰還できる日はまるで見えてこない。
つまり、俺自身もあの狭いアパートで、隣人同士の喧嘩が絶えず、生活保護の爺さんと、雀ゴロの親父と実際に顔を合わせるのはずっと先―――いや、俺がこのソードアート・オンラインでHPを失ってしまえば俺の死によりそれは永久に訪れなくなる。

茅場「それでは、最後に、諸君らにとってこの世界が唯一の現実であると言う証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」

それを聞くや、自動的に、俺を含むすべてのプレイヤーはアイテムストレージを開いていた。表示された所持品リストの一番上にそれはあった。
アイテム名は『手鏡』。

俺はこんなのが何になるんだと思いながら、その名前をタップして、オブジェクト化のボタンを選択。きらきらっという効果音と共に、小さな四角い鏡が出現した。

俺はそれを手に取るが、何も起こらず、鏡に映っているのは俺がゲーム開始前に作ったこのゲームの世界での仮の姿である、アバターだった。

―――と。

突然、周囲のプレイヤー達、そして俺を白い光が包んだ。視界が白い光で覆われて何も見えなくなったが、数秒後には元の風景が現れて……

俺「誰だよ、こいつら……?」

その変化に俺は瞬時に気が付いた。周囲のプレイヤー達の顔、と言うか容姿が著しく激変していた。俺は直ぐに自分の身に起きた変化も確かめるべく、再び手鏡を覗き込むと、その鏡に映っていたのはゲームの為に作ったアバターではなく、現実世界の俺の顔だった。

俺「灰色の髪の毛だけじゃなくって、身長や体型まで再現されてやがるじゃねぇか」

どう言う仕組みで、身長や体型までもが、そっくりそのまま再現されたのかは分からないが、恐らくすべてのプレイヤーが現実世界の自分と同じ姿になったらしく、よく見てみると男女の比率も大きく変化していた。
プレイヤーの大半は10代~20代の若者で、男女比は大体ではあるが、男が8割弱で、女はせいぜい2割強程度の比率だろう。
茅場晶彦は一体何のためにこんな事までしているんだ?

だが、俺のそんな疑念に対する答えは、すぐに奴自身の口から出てくる。

茅場「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は―――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?これは大規模テロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と――私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのm私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた」

俺「マッドサイエンティストが……!」

おそらく、俺がそう毒づいているのなど気が付いていないか、まるで気にしていないのだろう。無機質なままの茅場の声が更に響く。

茅場「……以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の―――健闘を祈る」

その言葉を最後に、巨大なローブ姿が音も無く上昇し、空を埋めているシステムメッセージに溶け込むように同化していく。
天井一面に並ぶメッセージも同じように消滅していった。

気が付けば、ゲームは本来の姿を取り戻していた。だが、幾つかのルールが、以前とは途方もない程に激変していた!by立木ナレ

「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」

「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」

「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」

「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」

悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして咆哮。わずか数十分の事であった、ゲームプレイヤーから囚人へと変えられた人間達は頭を抱えて蹲り、両手を突き上げて、抱き合い、あるいは罵り合う!
一方でオズマは、そんな無数の叫び声を聞いている者達に対して、冷静で……そして、冷めたような感情を抱いてこう呟いていた。by立木ナレ

俺「喚いてどうする……!こいつら――つくづく救えねぇ!」

俺は何時までも喚き散らしている連中を尻目に、いち早くはじまりの街を出る事を決意していた。このゲームがデスゲーム化した以上、生存率を高める為に他のプレイヤーと手を組むのが有効だとは思ったのも一瞬だった。
とてもすぐに戦える様子ではなく、こいつらが落ち着くのを待っていたらすぐにβテスター達に出し抜かれるのは必須だった。

何故なら、MMORPGは基本的にプレイヤー間のリソースの奪い合いになり易い。はじまりの街の周辺フィールドは短時間で狩り尽くされてしまい、そうして枯渇した場合はモンスターの再沸出を待ち続ける羽目になるし、βテストで一般プレイヤー達よりも効率の良い狩場や、クエストを知っている奴らは、自分達の生存を最優先して、そんな狩場やクエストを独占しようと目論む者が現れるだろう。

ここでモタモタしていたら、そんな事を考えている連中にあっという間に出し抜かれてしまう。

俺「つーか、負けたら死ぬなんて、なにもこのゲームの中だけじゃないしな」

オズマが生まれ育った町、山谷地区はもとより、借金を抱えて破産した者、職も家族も家も失い孤独になった者、そんな者たちが多く集まる街であり、オズマは目の当たりにし続けていた――――負け続けた者達の末路を!負け続けの人生を送って来た者の末路は大抵は悲惨、ある者は路上で酔い潰れたまま凍死、ある者は借金苦に喘ぎ自殺、ある者は端金を巡る金銭トラブルで殺される……ともかくオズマは嫌と言うほど目の当たりにしてきた、負け続ける事によって訪れる無残な末路を!
オズマにとってはこのソードアート・オンラインも、現実世界も、負け続ければ死の世界!故にいち早く覚悟決めて戦う決意を固める!by立木ナレ 

 

FILE3 オズマが出会う両手剣使いの少女

世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》はログアウト不可、ゲーム内での死が現実世界の死へと直結するデスゲームと化してから一週間が経過しようとしていた!
2022年11月12日、オズマはまだ生き延び続けていた!by立木ナレ


※ ※ ※


俺ははじまりの街から南東に走り続けた先にある山岳地帯の村の『ルーベル村』を訪れていた。周辺には一見するとNPCのようだが、実際には山賊のMOBが出現する場所で、あの日から一週間近く俺はこの場所で狩りをし、受けられるクエストは受け続けていた。

俺「ようやく、まともな装備が手に入ったぜ」

NPCの鍛冶屋に必要な合成素材を揃えた俺は、NPCショップでは販売していない製造武器である『フェザーソード』と、同じく様々な素材アイテムを集めてようやく製造できる革製防具の『ダークスカイコート』を製造して装備していた。

山岳地帯の奥に進むには、より強力な装備を整えなくてはならないと思っていたので、この一週間近くを費やして俺は、危険を承知でブレンジ―ボアよりも手ごわい山賊モンスター達を倒し続けていた。

俺「準備も出来た事だし、早速クエストを引き受けるとするか」

確か、この村のNPCクエストで指名手配犯の山賊の一団を討伐する高レベルのクエストがあったはずだ、頭にクエストマークが出ているNPCに片っ端に話し掛けて、俺は一人の壮年の男性NPCに当たりを付ける事になった。

だが、ここで一つ問題が起きた。

俺「なんだよ、パーティー専用クエストだったのか……俺一人のままじゃ受けられねーぞ」

クエストをいざ受けようとした俺だったが、メッセージウインドウには『このクエストはPTを組んでいなければ受注できません』と表記されていた。
どこかから適当なプレイヤーを一人スカウトして、クエストが終わるまで付き合ってもらうべきか?

俺「けど、パーティークエストなんだから、それなりに手強い戦いになるはずだな」

俺が製造したフェザーソードは第一層の時点では片手直剣としてはクエスト限定で入手可能のアニールブレードと並んで高位の武器だと言うのは元βテスターのブログから判明しており、同様にダークスカイコートも防御力は革製品防具としては高位かつ、敏捷性を殆ど落とすことの無い防具だ。
だが、いくら一人の力が強くとも、パーティーを組む事を前提としたクエストである以上、2人だけのパーティーで挑むのならもう一人のメンバーも適当なのではなく、レベルや装備を整えている者であることが望ましい。

俺「どうするっかな~……あ?」

後ろを振り向いた瞬間だった、いつの間にか、そこには人が、他のプレイヤーが立っていた。

「…………」

俺と顔を合わせてもその表情は一切変化する事無く、無表情を貫いていたが、その顔は綺麗に整った、端正な顔立ちだった。
年齢は恐らく俺と同年代の美少女と言える容姿の持ち主だ。薄いピンク色のセミロングヘアと黄色い瞳は俺がこのソードアート・オンラインにフルダイブしてから見てきた、どんな女プレイヤー、女NPCよりも端正に見えていた。
そんな可憐な容貌に反して、装備しているのは軽金属の鎧に、背中には俺の片手直剣を軽く上回るであろう重量の両手剣を背負っていた。
一目でその装備がその辺のNPCショップで購入できる代物ではない事は明らかだった。

俺「さっきから俺の後ろで突っ立ってたのか?」

少女「…………」

少女は言葉を発する事無く、小さく首を縦に振って肯定した。

俺「何でまたんな事してんだよ?」

少女「……このクエストNPCのクエストを受けるつもりだったわ」

俺「なんだ、俺と同じかよ」

だが、先に俺がクエストを受けようとしていたわけだが、俺が中々クエストを受けないので、俺が退くのを待っていたと言うとこだろう。
俺は可憐な表情を一切変化させない、その少女プレイヤーに対して言う。

俺「あのな、このクエストはパーティーを組んでなくちゃ受けられないんだよ」

少女「……そう」

それを聞いた少女は、あっさりと諦めが付いたように引き返そうとするが、それは即座にその肩を掴んで止める。

俺「待て待て待て!言っただろ、パーティーを組めば受けられるんだって!つまりだ――――」

少女「……私と貴方で、パーティーを組んで、このクエストを受ければ良いの?」

俺「ちゃんと分ってんじゃねーか……」

分かっていながら、あっさりと引き返そうとした当たり、相手の方から誘いが無ければPTも組まないタイプなのかもしれない。
まぁ、見た感じ自分から積極的に人に話しかける姿など全く想像も付かないタイプで、どちらかと言うと教室の片隅で何時も一人で過ごしている姿がイメージできる奴だった。

俺「俺にとってもお前にとっても得なクエストだと思うぜ、ここは組める相手がいるうちに組むべきだろ?」

少女「……分かったわ」

あっさりと俺の申し出を受け入れた少女だった。まぁ、この一週間俺は、同年代の女子を抱く機会に全く出会えず、所謂思春期の性衝動を溜め込んだ状態であった事も有り、下心が全くないわけでもなかったが、取りあえずパーティークエストを共にするうえで持って来いの相手が見つかったわけだ。
ひとまず俺がパーティー申請をすると、相手の少女はそれを受けて、右上のHPバーは俺の下に、パーティーメンバーとなった少女のキャラクターネームとHPバーが表記されるようになった。

俺「……この『Reina』ってのは、そのままローマ字読みでレイナで良いのか?」

レイナ「……そうよ」

俺「ああ、なら良かったぜ。後、俺の方もOzumaだからオズマで良いからな」

英語が全く分からない俺にとって、プレイヤーネームにアルファベットしか使用できないSAOは鬼畜極まりなかった。
結局俺は、自分のキャラクターネームを設定する際に、アルファベットで唯一理解できるローマ字でキャラクターネームを決めざるを得なかったわけだ。

レイナ「……クエストNPCの説明では、指名手配犯の山賊一団ははじまりの街に逃げ込んだみたいよ」

俺「また、あそこに戻らなくちゃならねーのか……」

ソードアート・オンラインがデスゲームと化してから、一度も戻っていないはじまりの街だが、流石に既にあのバカ騒ぎは沈静化している頃だろうか?
探すのはNPCのMOBである指名手配の山賊なので、最悪他の一般プレイヤーは無視しても構わないが、はじまりの街に紛れているのならプレイヤー達からの情報収集は重要になる。

俺「まともに話の利ける奴らが、どれくらいいるだろうな」

レイナ「……それは、実際に行かなくては分からないわ」


※ ※ ※


約一週間ぶりに訪れたはじまりの街は意外と騒がしくはなかった。一万人いるプレイヤーの殆どが、未だにここを拠点に留まっているのにもかかわらず窮屈しないで済むのは、このはじまりの街がアインクラッド第一層の他の村や町と比べても比較にならぬ広大な面積を占めている事が最大の理由だろう。

俺「んで、クエストで討伐しなくちゃならない山賊共ははじまりの街に出てくるわけだが、どの時間帯に何時頃出てくるんだろうな?」

この辺りにいる奴らから片っ端に聞いたくらいで、それらしい情報を得る事が出来るかどうか当てがないが、それでも話を聞くしかなく、俺とレイナは片っ端から街にいるプレイヤー達に話を聞いてみる事にした。

そして、話を聞いているうちに、露天商を営んでいる、そばかす顔で茶髪の俺と同年代と思わしき女プレイヤーから有力な話を聞けることになった。
その露天を営んでいる女プレイヤーはリズベットと名乗り、俺達の話を聞いてくれることになった。

リズベット「その手の話なら、情報屋の鼠のアルゴって人に聞けば良いわよ」

レイナ「……情報屋の鼠のアルゴ?」

俺「まずは、そのアルゴって奴の事から聞かせてくれないか?」

リズベット「そうね……」

リズベットは人差し指を口元に立てた状態で少し考えこみ、言葉を選びながら話を再開する。

リズベット「ベータテスターなのよね。その情報屋さん」

俺「まぁ、情報屋をやってるならβテスターの可能性も高いだろうな」

リズベット「アルゴさんが他のベータテスターと違うのは、あの茅場晶彦の演説で皆が混乱してる中で、あの人は一般のプレイヤーを置いていかずに、自分がベータテスターだって事を宣言して、必要最低限の第一層での情報が掛かれたガイドブックを作ってくれたのよね」

俺「ベータテスターにしては随分と殊勝な事してる奴もいるんだな」

リズベット「そうでしょ~、殆どのベータテスターの人達はあの演説の後、自分達がベータテスターだって事を隠したまま、はじまりの街からいなくなっちゃったみたいだけど、アルゴさんだけは敢えて自分が元テスターだって事を宣言して色々としてくれてるのよ、右も左も解らないこっちとしては大助かりだわ」

そう言いながらリズベットが俺達に見せたのは『アルゴの攻略本だよ』と書かれた小さな本だった。リズベットの話によると、その本には第一層でのモンスターの適当な詳細や、はじまりの街で受けられるクエストの事などが掛かれているらしい。


レイナ「……その情報屋にはどこに行けば会えるの?」

リズベット「何処って言われてもね~……あの人って神出鬼没なのよね~」

リズベットはアルゴのいる場所には心当たりが無いのか、左手で頭を抱えながら言い淀んでいた。

俺「まぁ、知らないなら仕方ねぇよ。もう少しばかし聞き込みして、何とか見つけてみるさ――――あ
?」

レイナ「……どうしたの?」

俺は自分の目の前に、いきなり小さなウィンドウメッセージが出現した事に気が付いた。メッセージウインドウには『メールが届きました』と表示されている。

俺「誰かが俺にメッセージ機能を使ってメールを送って来たみたいだ」

レイナ「……誰から?」

俺「今確かめてみる」

だが、俺が今の所フレンド登録をしているのは、さっき初めてパーティーを組んだ相手であるレイナしかいないはずだ。
ギルドメンバーでもなく、フレンド登録すらしてない相手に対してメッセージを送る場合は、キャラクターネームを正確に入力しなくてはならない。(しかも当然アルファベットで)

つまり、俺にメッセージを送ってきた相手は俺のキャラクターネームを知っている事になる。この一週間で他のプレイヤーとあまり接触していない俺だが、一体誰が俺のキャラクターネームを知ったうえでメッセージを送って来たんだと思って確認してみる。
レイナやリズベットにも見えるように可視化しさせる事を忘れずに、メッセージを表示させると、その送り主は俺が求めていた人物だった。


『まっすぐ歩いた先にある宿屋の二階の一番東の部屋においで、部屋の前に来たらノックを4回するんだナbyアルゴより』


俺「……なんだって、アルゴだと?」

レイナ「……なんでアルゴからメッセージが?」

俺「んな事俺が知りてーよ。これからどうやってアルゴを探そうかと思ってた矢先に向こうからメッセージが届くなんて、どうなってやがる?」

俺のそんな疑問に対して一つの意見を出したのは話を聞いていたリズベットだった。

リズベット「もしかしたら、隠匿(ハイディング)スキルで姿を隠して今の話を聞かれてたのかもしれないわね……アルゴさん本人に」

レイナ「……アルゴは隠匿スキルを取ってたのね」

隠匿(ハイディング)スキル。通称『ハイド』とは、その名通り、姿を隠すことができるスキルである。
主にモンスターとの戦闘を回避したい時、他プレイヤーから姿を隠したい時、そう言った際に重宝され、オズマもこのソードアート・オンラインがデスゲーム化した直後に習得した、片手剣スキルに次ぐ二つ目の習得スキルであった by立木ナレ

レイナ「……どうするのオズマ?」

俺「これから会う張本人が、アルゴだとは限らねぇがな……」

もしかしたら、アルゴを名乗る詐欺師染みた奴か、もしくはアルゴが用意した代理人を会う事になる可能性だって0ではない。
だが、他にアルゴに会う当てがあるわけでもないので、このタイミングで届いたメッセージは唯一の当てだった。

俺「ま、いいさ。どのみち街の中は安全圏内で攻撃されたところでHPは減らないからな」

レイナ「……会いに行くのね」

俺「そう言う事だ、それじゃーなリズベット。色々と話をありがとな」

リズベット「はいはい、次は何か買いに来なさいよね~。あ、それとアタシさ、いずれは鍛冶スキルを取って見ようかと思ってるから、もしアタシが鍛冶師になったらアタシの所に来なさいよね~」

そんな商売人としての宣伝行為も忘れないリズベットと俺達はフレンド登録を済ませて、メッセージに指示された通りの宿屋の二階の一番東の部屋を尋ねる事にした。

俺「ノックを4回だったな」

メッセージの内容通り、俺は部屋の扉を4度、コンコンと叩いて音を鳴らす。

声「お、来たな、取りあえず入りナ」

レイナ「……女性の声」

俺「鼠のアルゴは女だったのか」

そして、俺とレイナが宿屋の部屋の中に入ると、そこにいたのは、金褐色の巻き毛でショートヘアーで小柄な女性プレイヤーだった。

俺は当初、これから会う相手が本物のアルゴかどうかを疑っていたが、その顔を見て俺は間違いなくこいつがアルゴだと感じる事になった、何故なら―――――

俺「鼠っぽい髭だな……」

レイナ「……フェイスメイクね」

まるで鼠を思わせるような、頬にネズミのヒゲような三本線が描かれており、まさに鼠のアルゴとはこいつの事で間違いないと思わしめたのだった。

アルゴ「にゃははっ!オレッちがアルゴだよ~。よろしくな、オー坊にレイた~ん」 

 

FILE4 オリジナルキャラクター紹介(アインクラッド編)

 
前書き
オリ主を始めとしたオリジナルキャラクターを紹介していきます。

今後の展開で、追加されていく可能性も有ります。 

 
オズマ(Ozuma) /小田桐弭間(おだぎりはずま)
声 :石〇界人
年齢:14歳(SAO初期)
身長:165㎝(SAO初期)
体重:48㎏(SAO初期)

2008年9月9日生まれ。容姿は目が切れ長の二枚目で、灰色の髪の毛。
東京都台東区山谷地区生まれで、生活保護受給者の祖父と、麻雀で生計を立てる父親との三人暮らし。
怠惰で自堕落、そしてグータラで、現実世界ではダメ人間まっしぐらで、小学校卒業後は学校には一切通っておらず、未成年でありながらゲーム以外の趣味は酒、煙草、博奕、女遊び。
戦闘スタイルはワンパターンかつゴリ押しの傾向が目立つが、ずば抜けた空間認識能力とゲームセンスの持ち主。

SAOでの武器は右手に片手直剣、左手にソードブレイカー、防具は革製品の防具。

レイナ(Reina)
声 :雨〇天
年齢:推定14歳~15歳(SAO初期)
身長:156㎝(SAO初期)
体重:44㎏(SAO初期)

黄色い瞳と、薄いピンク色のセミロングヘアの美少女。
SAOにログインする前の現実世界での記憶を失っており、自らの本名や過去などをすべて忘れている。
記憶喪失の影響からか無表情かつ無感情で、年頃の少女らしい羞恥心なども皆無。
一般教養などに欠けるオズマに比べて知識は比較的豊富で、その都度オズマに対して解説をする事も有る。

SAOでの武器は両手剣、防具に軽金属の鎧。

立木ナレーション
声: 立木文〇

通称、立木ナレ。この物語は基本的にオズマの一人称視点で進むのであるが、時折、立木ナレーションによる第三者としての解説などが入る事が多々ある。
彼によって、物語がよりシリアスに感じ、見る者の不安を煽る展開が強調される。

元ネタはアニメ版カイジシリーズのナレーション



以下追記


ガチャモン
声 - 雨宮〇二子
モックの相棒で体色は右半分が緑色、左半分が灰色で丸い頭、半開きで眠そうな垂れ眼。口元からは前歯が2本飛び出している。自己紹介の決まり文句は「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」。
陽気で人懐っこい振る舞いをしつつも、品性下劣でプレイヤー達の死を嘲笑い、時に残忍なゲームでプレイヤー同士の殺し合いや争いを誘発して、自らはそれを見て楽しみ、悪趣味なコメントを飛ばし、非難や罵倒を受けても詭弁を並べてまともに聞こうとはしない。

身長は165cm、体重は80kgらしく、年齢は自称永遠の五歳の男の子。


モック
声 - 松〇重治
ガチャモンの相棒で体は毛むくじゃらで体色は右半分が赤色、左半分が灰色で球状の目が飛び出ている。黒目部分は眼球の中に黒い玉が入っている。
性格はのんびり屋で慎重派、「○○であります」「○○ですぞ~」と言った口調で話すが、ガチャモン同様やはり品性下劣で彼と共にプレイヤーの不幸を他人事のように見て楽しみ、皮肉めいた言動を平然と口にする。
ガチャモンがパフォーマンスを披露する際には、応援役にまわっている事が多く、プレイヤー達からはガチャモンのバーター呼ばわりされている。
: 身長は185cm、体重は110kgらしく、年齢は自称永遠の五歳の男の子。


ユッチ(Yutchi)
声 :山下〇輝
年齢:13歳(SAO初期)
身長:150㎝(SAO初期)
体重:42㎏(SAO初期)

オズマとレイナが第二層で出会った、ダガー使いの少年で、強化詐欺被害の一人だった。逆立った髪形で、年相応以上に幼い顔つきで、年齢相応以上に子供っぽい短絡的、楽観的な性格。
オズマを慕う一方で悪名名高いベータ―のキリトに対してはアスナを独占している事も有ってか、露骨に毛嫌いしている。

SAOでの武器はダガーナイフで、防具は革製品の防具を使用する。


エルダ(Eruda)
声 :井〇裕香
年齢:15歳(SAO初期)
身長:162㎝(SAO初期)
体重:48㎏(SAO初期)

第五層でオズマ達と出会った細剣使いの少女プレイヤーで、輝くような金髪のロングヘア―で、ユッチ曰く女神のような容姿。
オズマ達と出会った時点ではフロアボス戦未参加ながらも、実力は攻略集団でも即戦力で通用するレベル。
リアルでは高校生で、本人曰く、中学時代は鼻摘み者。

SAOでの武器は右手に細剣で左手に盾。


マオ(mao)
声 :小松未〇子
年齢:14歳(SAO初期)
身長:170㎝(SAO初期)
体重:63㎏(SAO初期)

2007年12月12日生まれ。長身かつ骨太の体形で、顔にはソバカスが目立つ、黒髪の短髪。
SAO開始当初は現実世界で肩身の狭い学校生活を送っていたこともあり、楽園と称し、ベータテスターのコペルにレクチャーを受けてSAOを謳歌していたが、その日の内にSAOがデスゲーム化した上に、コペルは自分を見捨てて行ってしまった事もあり、絶望。
一週間以上もの期間をはじまりの街の宿屋で籠って過ごしていたが、やがて金銭難に陥り、単独で圏外に向かうも、遭遇したモンスターに追い詰められて、窮地に陥っていた所を月夜の黒猫団の助けられて、ギルドの一員となり、穏やかで楽しい日々を謳歌する事になった。
それからしばらくし、下層に降りてきたキリトと出会い、他のギルドメンバーと同様、キリトの本来のレベルを知らないまま、キリトを加えた7人メンバーで行動して、2か月後、ギルドホームを購入する為にリーダーであるケイタと共に仲介人からホームを購入しようとしていた矢先、他ギルドからの強引な介入で困っていた所を、オズマらに助けられ、無事にギルドホームを購入したが、迷宮区に向かっていたメンバーがキリトを除き全滅していた事、キリトが本来のレベルを隠しギルドに加入していた事、そして、全ての真実を知って絶望したケイタが目の前で投身自殺という悲劇により、キリトを憎むようになり彼と袖を分かち、ソロプレイヤーとして1年半の月日を得て、攻略組の一員となった。

SAOでの武器は短剣で軽装の防具。


ミリー(Milly)
声 :南條愛〇
年齢:12歳 (SAO開始時)
身長:142㎝(SAO開始時)
体重: 35㎏(SAO開始時)

ラフィン・コフィンの幹部格の一人で、メンバー最年少の少女。グロテスクなウサギのマスクを被り、気に入った男性プレイヤーの首を斬る事を好む、それをオブジェクト化し、収集する事を好む事から、「首狩りのミリー」の呼び名を持つ。
オズマに対して執着心を露わにし、幾度もその首を狙っていたが、ラフコフ討伐戦で捕らえられた。


ディンゴ(Dingo) / 石田淳平(いしだじゅんぺい)
声 :〇井翔太
年齢:14歳(SAO開始時)
身長:155㎝(SAO開始時)
体重:47㎏ (SAO開始時)

二度に渡るリアルマネーゲームの参加者でメガネを掛けた小柄な少年。勉強も運動も落ちこぼれで、趣味としているゲームもお世辞にも上手いとは言えず、学校では周囲からのび太と言うあだ名を付けられて冷笑や侮蔑の対象になっていた。
4歳下で難病で療養生活を送る弟の淳太がおり、弟を救うために命懸けのリアルマネーゲームに挑むが、第二回リアルマネーゲームでオズマに1000万円の現金となる金の延べ棒を託し、無言で落下、死亡した。 

 

FILE5 情報屋のアルゴ、山賊討伐のクエスト

デスゲーム、ソードアート・オンラインが始まってから約一週間が経過しようとしていた!
オズマとレイナはクエスト達成の為に討伐しなくてはならない山賊のNPCの一団を探す為にはじまりの街へと帰還した。
露天商をしていた少女プレイヤーのリズベットとの会話で元ベータテスターの情報屋である鼠のアルゴの存在を知ったオズマとレイナははじまりの街の宿屋の一室にてアルゴ本人と接触する。 by立木ナレ


※ ※ ※


アルゴ「成程ナ、山岳地帯にある村のパーティー用のクエストを受けて、山賊のNPC達を探してるって事なんだナ」

早速、俺とレイナは情報屋のアルゴにクエストに関する事を説明して、はじまりの街のどの辺りに、そしてどの時間帯に出現するのかを訪ねてみた。

俺「これについては何か知ってる事は無いかと思って、お前を訪ねてみたんだ」

アルゴ「おう、オレッちを頼ったのは正解だったナ」

流石は元ベータテスターの情報屋と言ったところか、多少の俺の不安を振り払うように、アルゴはあっさりと自信ありげにそう答えた。

アルゴ「そのクエストならβテストの頃にもあったからな、クエストの内容がそっくりそのままならオレッちの情報で見つかるはずだぞ」

俺「んで、その情報量は幾らなんだ?」

アルゴ「にゃははっ!良い心がけだナ、オー坊は。ちゃんと、金を払って情報を買うつもりで来たんだナ~」

俺「始まったばかりのゲームでは、知らないことだらけな分、情報の価値が高くつくのはお決まりだからな。だが、クエストの報酬以上の金は当然出せないからな」

今回のクエストで得る事が出来る報酬は(コル)だけでも3000コル(クエストを受けたパーティーに対して)と高額で、俺とレイナは二人だけのパーティーなので山分けで1500コルを得られる上に、更についでにこの第一層では入手手段が極めて限られる結晶アイテムが手に入ると聞いている。
アルゴならば、その事も知っているのでクエストの高報酬を理由に高い情報量を吹っ掛けられないかと考えたが、俺のそんな疑念は直ぐに勘繰り過ぎだと気が付く事になる。

アルゴ「そ~だな。初依頼だしな、今回は二人で600コルで引き受けるぞ」

俺「一人につき300コルか……現時点ではそこそこの額だが、情報の対価としちゃまだ良心的か……」

アルゴ「にゃははっ!おねーさんはゲームクリアのために頑張る連中を情報でサポートするって決めてるからナ。がめつい商売をする気なんて少ししかないぞ」

レイナ「……少しはあるの?」

アルゴのどうでも良い冗談を真に受けたレイナが、首を小さく横に傾げて態々聞き返していた・

俺「んな事よりも、お前も300コル出して情報を買うって事で良いのか?」

レイナ「……それで良いわ」

アルゴ「交渉成立だナ。それじゃ、早速オレッちのマネーストレージにコルを振り込んでくれ。そしたら、教えてあげるからナ。―――オズ坊とレーたんが探してる山賊のNPC達をナ」

結局、俺とレイナはそれぞれ、アルゴに300コルずつを支払って、情報を買う事にした。600コルの支払いを確認したアルゴは早速ベータテスト時代からの経験で得た山賊NPCの一団を討伐するクエストに関する情報を分かり易く教えてくれた。
明確な出現場所、出現時間、敵の人数や攻撃パターンを説明された。
山賊のNPCが出現する時間まで、まだ数時間以上の時間があったので俺とレイナはその日は山賊NPCの出現時間まではじまりの街に戻れる範囲で再び狩りに出る事となった。


※ ※ ※


俺「やっぱり、はじまりの街の周辺はモンスターの出現率がやたら低くなってたな」

レイナ「……当然よ。はじまりの街に未だに留まってるプレイヤー達に狩り尽くされて枯渇してるはずだから」

山賊のNPC達が出現する時間は夜の8時だと聞いた俺達は、一時間前である夜の7時の時点で狩りを切り上げて、はじまりの街に戻っていた。
だが、はじまりの街の周辺ではモンスターの出現率が、ソードアート・オンラインの正式サービス開始時に比べて明らかに減っているのが、目に見えて分かった。
金と経験値を求めて、モンスターの出現待ちをしているプレイヤーの数も少なくなく、連中も効率の良い狩りを本格的に始めたいのであれば、流石にそろそろ活動拠点を移動せざるを得なくなるだろう。

レイナ「……山賊のNPC達は、夜の8時になると北門の近くにある下水道の入口から5人組で出てくるはず」

俺「んで、例のクエストを受注してるパーティーがそいつらに接触すれば、普段なら安全圏内でお互いにダメージを与えられない街の中でも、その辺り一帯だけ安全コードってのが解除されてダメージが与えられるようになるから、そこで山賊達を倒せばいいってわけか」

俺とレイナは歩きながら、改めてクエストの内容を確認し合っていた。最もアルゴ曰く、あくまでベータテスト中の場合はこうだったと言っていたので、正式サービス版である現在のSAOでは、内容が代わっているかもしれないからとも警告受けていた。

ひとまず、腹ごなしに俺とレイナはNPCが出している出店でサンドイッチを買い食いする事にした。

俺「面倒だよな、ゲームの中だってのに食わないと空腹を感じるんだからな」

レイナ「……システム上プレイヤーは生理現象が存在するわ」

俺が何気なく、ゲーム内で感じる、現実世界と遜色ない空腹感に対して軽く愚痴を漏らすと、レイナが隣でサンドイッチを小さな口でかじりながらそんな事を言い出した。

レイナ「……主に、食欲と睡眠欲。食欲の方は例え何も食べずに絶食し続けたとしてもそれでHPが減少したり、餓死する事は無いけど、その状態が続くと、耐え難い空腹感が続くわ」

俺「ああ、それなら俺が見たベータテスターのブログにも書いてあった気がするな。武器とかアイテムに使う金惜しさに、何も食わないで続けてたら、半端じゃねえ空腹でまともに戦えなくなったとかな」

レイナ「……睡眠欲の方は、バーチャルリアリティとはいえ、ゲームを何時間も続けている事には変わりないから、疲労感を感じるわ」

俺「現実世界で座りながらゲームやりっぱなしでも実際に眠くなってくるのと同じってわけか……」

そんな風にレイナと軽く話していて、俺はレイナに対して記憶喪失で現実世界での記憶が無いと言っている一方で、なぜこうもゲームシステムに関しては詳しいんだと言う疑問が湧いていた。

俺「お前、現実世界で何か思いだした事とかってやっぱりないか?」

レイナ「……今の所、なにも思いしてないわ」

レイナは、淡々とした口調のまま、特に自分の事に触れられても不快そうにする事も無くそう答えた。

俺「リアルでの記憶が全くない状態でSAOにフルダイブしてて不安に思う事とかって無いわけ?」

レイナ「……別に、知らない事を気にしても仕方ないし、現実世界の私の事を知るには、ゲームをクリアするしかないから」

俺「そりゃ、随分と合理的で冷静なんだな……」

今のレイナの、このあまりにも感情の起伏に乏しい性格は、記憶を失った事による影響があるのか、もしくは記憶を失う前の、現実世界のレイナも元からこんな性格なのか俺には知る由もないが、少なくとも、俺にとっては、事ある毎に感情的になったり、些細なセクハラや肌を見られたくらいで、露骨に顔を赤くして喚いたり、すぐに泣いたりする女に比べると、一緒にいて気が楽で付き合いやすい相手であるという実感は沸いた。

それは、ほんのひと時のオズマとレイナが共に過ごす休息であった。クエスト完了後、この二人が共に行動を続けると言う保証はなく、下手をすればそれっきりでその後は交流が途絶える可能性も無くはないわけだが、オズマはこのデスゲームと化したソードアート・オンラインで初めてパーティーを組んだ記憶喪失の少女とのこの一時に僅かながらの安らぎを感じていた……by立木ナレ


※ ※ ※


2022年11月12日の午後8時。俺達はアルゴから伝えられた情報にあった場所で、ようやくお目当てのターゲットを発見していた。

俺「ゾロゾロと雁首揃えて出てきやがったな」

山賊の人数は5人組だった。この辺りもアルゴの情報通りで、どうやらこのクエストはベータテスト版の頃と特に変わりが無いようだった。

レイナ「……ダメージを与えるには、イベントを進めないとダメ」

俺「出来ればふいうちで一人倒してから始めたかったが、それは出来ないらしいな」

不意打ち無しの正々堂々とやり合えと言うのなら、お望み通りそうしてやろうか。俺とレイナは下水道から姿を現した5人組の山賊NPCの前に隠れる事無く姿を見せると、NPCの山賊たちは装備していた棍棒やナイフを構えて、「見やがったな!」とか「俺達を捕まえに来やがったか!」と喚き声をあげた後、一斉に襲い掛かって来ていた。

俺「レイナ、スイッチってのは知ってるよな?」

レイナ「……当然」

俺「なら、安心できるかもな!」

スイッチとは攻撃する者が入れ替わることである。SAOでは最大の攻撃システムである、ソードスキルの発動直後は一定の硬直状態に陥る為、これらをカバーする手段として、ソードスキルを発動した直後の仲間を守る為に後列にいたプレイヤーが前列に出て硬直中の仲間を守る事が、両者の生存率を高める事となる! by立木ナレ

クエストで戦う山賊のNPC達はやはり、山岳地帯周辺に登場する山賊たちに比べて戦闘力が高く、一度に複数体を相手にするのは中々厄介な相手だったが、既に装備を整えている俺とレイナはソードスキル→スイッチの繰り返しでお互いをフォローし合い、一体ずつ山賊NPCを倒し続けて、最後に残ったのはリーダー格である大柄で大鉈を構えて、帽子を被った男だった。

山賊「死ねぇ―――!」


俺「うおっと!」

勢いに任せて振り下ろされた大鉈の一撃を、俺は左手のソードブレイカーで受け止めていた。
ソードブレイカーは武器として使える短剣でありながらも、盾の代わりに装備する事も可能な為、俺は右手の片手直剣と併用して、左手にソードブレイカーを持つ事でサブ武器のように使う事にしていた。
だが、通常の盾に比べて防御性能は確実に劣る為、長時間は大鉈の攻撃を耐える事は出来ないのは言うまでもない。
だが、すでに敵は一人となった今、多少の時間を稼ぐだけで充分だ。

山賊「ぐわぁっ!」

レイナ「…………」

隙の出来た山賊に対してレイナが発動した単発上段斬りの両手剣ソードスキルのカスケードが襲った。俺のソードブレイカーと押し合っていた為、全く美味を守る事が出来ぬまま、レイナのソードスキルをまともに食らい、山賊のHPバーが一気に減少してグリーンゾーンからイエローゾーンへ、そして危険域であるレッドゾーンにまで減少していた。
そして、レイナのソードスキルを食らった事で、俺のソードブレイカーとせめぎ合っていた大鉈は奴の手から離れて地面に落下し丸腰となった。
レイナはソードスキル発動直後の硬直ですぐには攻撃出来ないので、ここは必然的に俺が止めを刺す事になる。

俺「こいつでクエスト達成だ!」

山賊「っくそぉ―――――!!」

その山賊の最後の雄叫びは、周辺にいた何人かのプレイヤーが振り向いていた。俺の片手直剣ソードスキルのスラントは単発斜め斬りのソードスキルだった。
右上からの斬り下ろしと左下からの斬り上げの二つのバリエーションがあるのだが、どっちにしろHPがレッドゾーンの敵の止めを刺すには十分で、その一撃でHPを完全に全損した山賊のリーダーはその場に倒れてその身体は青白いポリゴンと化して四散し、消滅していった。

そして、クエストの報告をする為、既に夜遅い時間だったが、俺とレイナは直ぐに山岳地帯の村に戻り、クエストの依頼人であるNPCに依頼完了を報告して報酬を受け取った。
俺とレイナで3000コルを1500コルずつで山分けして、肝心なのはもう一つの報酬である結晶アイテムの《記録結晶》だった。
アイテムウインドウからヘルプを選択し、アイテムの詳細を表示して見ると、このように表記されていた。

『使用回数は3回までで、発動中は周囲の音声を録音可能。録音した音声は任意で削除可能』

俺「こいつが一個だけじゃ、2人で分けっこなんて出来ないわけだが……」

オブジェクト化されて、青白い光を輝く結晶アイテムを見ながら、俺はレイナに対して新しい提案をしようとしていた。
レイナはと言うと、その結晶アイテムに興味が無いのか、興味があっても表に出さないだけなのか、相変わらず表情一つ変える事はない。

俺「こいつの使い道とかもあるし、これからもしばらく組まないか?」

レイナ「……私と貴方で?」

レイナが小さく首を傾げながらそう聞き返した。

俺「他に誰がいるってんだよ」

ぶっちゃけ、この提案の理由の半分くらいは下心が占めている。全てのプレイヤーが現実世界と全く同じ姿となった今のSAOプレイヤー全体の中で、女性プレイヤーの数は恐らく2割強。
更にその中で、俺と同年代で容姿端麗である女性プレイヤーなど、この先何人も出会えると言う保証はない相手だ。
今日俺は、このレイナを含めて三人の女性プレイヤーと関わっていた。情報屋のアルゴも、露店をやっていたリズベットも比較的、容姿は恵まれているとは思うのだが、レイナの美貌はその二人を確実に上回っており、更に都合の良い事に、この三人の中でレイナが俺と共に過ごした時間が長く、この三人の中ではレイナが最も、ここで組む事が出来る可能性が高い。

レイナ「…………」

俺「…………」

数秒間の沈黙が、異様に長く感じた。レイナは俺の心の中を占める下心を読み取っているんじゃないか?
ぶっちゃけ、ゲーム内とは言え、うまい具合に事が進んで、レイナと色んな事が出来るチャンスが巡ってくれば良いなとか思っているのも事実だ。

レイナ「……それで良いわ」

俺「え……?お、オッケー……なのか?」

レイナ「……ええ、オッケーよ。貴方は強いから、一緒に戦う戦力として心強いから」

オズマ、その心中は凄まじく舞い上がっていた!オズマが今まで生きてきた14年間の中でも屈指の美少女と言えるレイナとこの先も行動を共にする事が決定!
オズマは見出したのであった……デスゲームの中での生き甲斐を!食欲、睡眠欲を遥かに凌駕する性欲を満たせるかもしれぬ相手を!……by立木ナレ 

 

FILE6 現れた最悪のマスコットキャラクター

西暦2022年11月16日。既にデスゲームと化したソードアート・オンラインが始まり10日が経過。未だにアインクラッドの第一層すらクリアされる見通しは立っておらず、日に日にプレイヤー達の数は減り続け、明日は我が身に降りかかるかもしれぬ死にプレイヤー達は慄き続ける日々を送っていた! by立木ナレ


※ ※ ※


俺「…………」

レイナ「…………」

早朝の5時、この状慣れてきた俺だったが、毎日のように隣にレイナが無防備に眠る光景を目に焼き付けられる日々がこのまま、いつかSAOがクリアされた後も続けば良いと思うようになっていた。
初めてのパーティークエストをクリアした直後、既に深夜の12時となっていた為、俺とレイナは宿屋で休む事にしたわけだが。
レイナは二人で一つの部屋を使えば、宿代が一部屋分で済むからと言い、何のためらいも無く俺と同室で一晩を明かす事を提案してきたのだった。
その提案は俺としても願ったりだが、まさかレイナの方から申し出てくれるなんてと、内心で舞い上がっていた。
年頃の面倒な娘は、どれだけ金銭難で、例え無人島に放り込まれたとしても、寝床は必ず男女別である事を頑なに通そうとする者だと思っていたわけだが。
この記憶喪失の少女、レイナはまるでそれに当てはまる事無く、柔軟な思考力で自ら宿代の節約の為に二人で一部屋を使う事を提案してきたのだった。


歓喜するオズマ!無論、ゲーム以外の趣味の一つに女遊びを上げるオズマが同じ部屋での睡眠を共にするだけで満足するはずも無く、オズマは既にその先の展開を見据える!
下心、欲望、ここが命を掛けたデスゲームの世界であることに変わりないにもかかわらず……オズマ、目先の欲望に執着!!
だが、その日の朝の8時に届いたメールがそんなオズマの浮かれた気分を吹き飛ばす事にいずれ至るとは、この時のオズマは知る由も無かった! by立木ナレ


※ ※ ※


俺の元に、正確には俺を含めてすべてのプレイヤーの元に届いたのは、送り主不明のメールだった。
朝の8時ごろに、宿屋一階にある食堂で食事をしていた頃に、それはその食堂で俺達と同じように食事を始めていた全てのプレイヤーに届いたようだった。

『おはよう皆~(^^)/ ソードアート・オンラインの正式サービス開始から今日で10日だねぇ~。そろそろ僕たちも君達に挨拶しなくちゃと思ったところだからさ、今日の午後の3時に、生き残っている全プレイヤーの皆を僕たちのゲストルームにご案内しま~す』

そんな訳の分からないメールが全てのプレイヤーの元に送られていたのだった。このメールがいったい何なのか、全プレイヤーに対して同じメールを一斉に送信できるなど、思い当たるのは運営側としか考えられ無いわけだが、運営側が送ってくるメールとしては内容が妙におチャラけているとしか思えず。
結局、俺達は待つしかなかったわけだった。
メールの送り主が指定したその日の午後の3時を……

レイナ「……オズマ、後1分よ」

俺「ようやく分かるのか……?この意味不明なメールが何なのかを」

食堂にいたプレイヤー達の中には、『きっとこれは運営からのメールで、ゲストルームと言う所は、プレイヤー達をログアウトさせるための場所なんだ』などと、あまりにも楽観的な事を口にしだす者もいたわけだが、当然俺はこのメールがそんなおめでたい事だとは微塵も思わなかった。

レイナ「……午後の3時になったわ」

その瞬間、俺達の全身は転移の時に起きる現象と全く同じである白い光に視界を含めて包まれる事になる。
いったいどこに俺達を連れて行くんだと不安を感じながらも、流れに身を任せる。
そして、数秒後に俺の視界が元に戻り、そこははじまりの街でも、俺がこのアインクラッドで一度も訪れたことの無い、まるで――――

「何だここは!?どこの学校の体育館だよ?」

そんな、俺が丁度思っていたことをまるで代弁するかのように、そんな声が響き渡っていた。俺もその場所には見覚えがある。
小学校を卒業してからは一度も訪れていないが、そこは疑いようも無くまさに学校の体育館と呼ぶべき場所であり、一か所に集められた俺たちプレイヤーの正面にはマイクとステージもご丁寧に再現されていた。

俺「ちなみにだが、記憶喪失のレイナは、ここが何か分かるのか?」

レイナ「……学校の体育館だわ」

俺「成程、やっぱり現実世界での知識とかはちゃんと覚えてるままなんだな」

レイナ「……恐らく、一番一般的なエピソード記憶喪失型の記憶喪失だと思うわ」

レイナは自らの状態から、冷静かつ客観的に自分の記憶喪失のタイプを淡々と口にしていた。一方で、唐突にこんなところに集められたプレイヤー達の中からは、早くも騒ぎ声が目立ち始めていた。既に10日間もの間、ゲームからログアウト出来ず、外部からの救助の様子も無いままで、苛立っている者も多いのは言うまでもないわけだ。

だが、そんな騒ぎ声をまるで無視するように、場違いに明るく気楽な声が聞こえてきたのはその直後だった。

「な、なんだあのシルエット!?」

体育館のステージの上に二人分の黒いシルエットが出現した、そして、その二人分のシルエットはマイクの前に立つと、そんな不気味さとは裏腹に、高い明るい声でこう言ったのだった。

ガチャモン「ガチャガチャモンモン、ガチャモンでーす!初めまして、みんなぁ~、僕の名前はガチャモンだよ~」

モック「私はモックですぞぉ―――!!皆さん、私たちの姿がちゃんと見えてますですかなぁ―――?」

俺「着ぐるみじゃねーか……」

黒いシルエットが取りはらわれて、まるで着ぐるみのような姿を露にした、ガチャモンとモックと名乗る二匹を見て、俺は思わずそう言わずにはいられなかった。
ガチャモンは身体の右半分が緑色、左半分が灰色のモノクロの姿をした着ぐるみのような姿のアバターで、モックの方は体の右半分が赤色、左半分がやはり灰色のモノクロの姿をした着ぐるみアバターだった。

ガチャモンは半開きで眠そうな垂れ眼で口元からは前歯が2本飛び出しており、モックは体は毛むくじゃらで球状の目が飛び出ており、黒目部分は眼球の中に黒い玉が入っている姿だった。
まさにどちらも中に誰かが入っているような着ぐるみの姿をしているアバターだった。

ガチャモン「あれあれあれ~?皆どうしちゃったの~?元気の良い返事を期待してたんだけどな~」

モック「ガチャモン、これはきっとあれですよ。憧れのアイドルや俳優とかに、いきなり出会ってテンパっちゃうファンにありがちな反応ですよ~」

俺達が唖然としているのにも構わず、ガチャモンとモックは軽快なテンションで勝手に話を進めて、漫才の様な都合の良い解釈をしていた。

ガチャモン「あ、そっかぁ~、皆して恥ずかしがり屋さんなんだから~、そんなに固くならなくっても良いんだよ。僕たちは君達となるべくフレンドリーな関係を築きたいからね」

奴が何者なのかは全く分からないが、奴の言う事をこのまま鵜呑みにして、はい仲良くしようとか言う奴がいるわけが無く、誰もがガチャモンとモックのやり取りを見て呆けていた。

モック「さ~て皆さん、まずは何から始めましょうか?やっぱり自己紹介ですかね?え~、我々のプロフィールに関してですが~――」

「お、お前らは外部からログインしてる奴なんだろ!?」

ガチャモン「ほえ?」

モック「はい~?」

プレイヤーの集団の一人が、何時までも要領を得ないやり取りを続けているガチャモンとモックに対して、一人のプレイヤーが黙っていられずに、声を張り上げて誰もが聞きたがっていた事を聞いていた。
すると、ガチャモンとモックがそれに答える前に、プレイヤー達の集団から次々と質問の嵐が飛び交う。

「何時になったら出られるんだよ!?アーガスとか警察や政府は何してやがるんだ!?」

「もう大学を一週間も休んでるんだぞ!このままじゃ留年しちまうよ!」

「私達の現実の身体は大丈夫なのよね!?ちゃんとした病院に入れられてるはずなのよね!?」

ガチャモン「…………」

モック「…………」

絶え間なく飛び交う質問に対して、ガチャモンとモックは、さっきまでやかましく騒いでいたのとは一転して、何も答えず黙り込んだまま、両手を後ろに組んだまま全く何も答える様子が無い。

「おい、黙ってるんじゃねーよ!何とか言えよコラァ!」

「どうなんだよ!俺達は何時になったら出られるのか分かるのかよ!?」

「もうウンザリなのよ!一週間になるのよ!早くこの状況を何とかしなさいよ!私たちはどうしたらここから出られるのよ!?」

黙り込んでいるガチャモンとモックに対してプレイヤー達の質問は怒りを孕んだ声へと変わり、罵声や怒声が次々と二人に対して浴びせられていた。
だが、そんなプレイヤー達の喚き声は次のガチャモンの一言で一蹴される事となる。

ガチャモン「FUCK YOU……ぶち殺すぞ、ゴミめら!!」

俺「コイツ……!」

レイナ「…………」

ガチャモンの口調はさっきまでのふざけたような口調から一転して、怒気を孕んだ、威圧感のある口調に変化していた。
表情は全く変わっていないにもかかわらず、殆どのプレイヤーがいつの間にかガチャモンの威圧感によって圧倒されて押し黙っていた。

ガチャモン「お前たちは大きく見誤ってる!!……この世の実態が見えていない!!まるで3歳か4歳の幼児のように、この世を自分中心、求めれば周りが右往左往して世話を焼いてくれる……臆面もなくまだそんな風に考えてやがるんだ!甘えを捨てろ!」

誰も何も反論する事もままならぬまま、ガチャモンの理不尽で支離滅裂な説教はさらに続く。

ガチャモン「そんな事だから、おまえたちは 這って這って這って…… 這い続けてるんだ………… ゴキブリのように…………!!このアインクラッドの最下層を!!―――お前たちの為すべきことはただ一つ、ただクリアする事……このソードアート・オンラインを第100層までクリアする事だ!!」

そして、ガチャモンは表情を全く変えないまま、俺達を見渡してから更に大きな声を荒げる。

ガチャモン「人は勝たねばゴミィ!!勝たなくては!……勝たなくては!……勝たなくては……!!」

モック「あ、あの、ガチャモン……ガチャモ~ン……」

ガチャモンの容赦の無い罵倒を交えた説教を前にプレイヤー達が閉口していると、隣のモックがアタフタとした様子でガチャモンに声を掛けていた。

モック「我々はあくまで、このソードアート・オンラインのコミカルなマスコットキャラ的なポジションと言う設定の存在ですぞ……!そ~んな風に凄んで怖い事ばっかり言ってるから、皆さん怖がっちゃってるじゃないですか~」

ガチャモン「…………あ、しまったぁ!!僕としたことが自分のキャラをすっかり忘れちゃってたよぉ~」

モックに指摘されて、ガチャモンは思い出したように元のおチャラけ多様な喋り方でそう言い始めた。

ガチャモン「皆ゴメンね~、このソードアート・オンラインの事は嫌いになっても、僕の事は嫌いにならないでね~」

俺「一昔前のアイドルの卒業の時の台詞みてーだな……」

最も、元ネタと思わしきアイドルが言った言葉とは前後が真逆になっているわけだが。
と、そう思っていた矢先だった。どのプレイヤーがやったのかまでは気が付かなかったが、誰かが投擲スキルを使用して石を投げ飛ばし、その小さな石ころはステージの上のガチャモンに直撃していた。

モック「あわわ―――!だ、大丈夫ですかガチャモ――ン!?」

ガチャモン「痛いな~、今、石を投げたのは誰なのさぁ~?」

斧使い「て、テメーら……いい加減にしろよさっきから!!チャンと俺達の質問に答えやがれ!!」

すぐにその答えは、石を投げつけた斧使いのプレイヤーが大声で怒鳴り付けた事でハッキリと明らかになった。
その斧使いの表情は、顔中に皺が寄っており、顔は興奮で赤くなっており、既にその怒りが爆発している事が伺えた。

ガチャモン「もぉ、ダメじゃんか~。人に向けて石を投げちゃいけないって大人の人に教わらなかったの~?」

斧使い「黙れ黙れ黙れ!訳の分かんねー事ばっかり言ってんじゃねーぞ!!」

モック「困りましたなぁ~、答えろと言ったり、黙れと言ったり」

斧使いの怒りを受けてもまるで意に介する事無く、ガチャモンとモックは相手を苛立たせるようなやり取りを続ける。

斧使い「テメェらどうせ茅場の共犯者だろ!?ゲーム内の様子を直接フルダイブして確認してくるように言われてきたんだろ!」

その斧使いが怒りに身を任せて発言した言葉も、あながち間違いとは言い切れなかった。茅場晶彦は、今俺達がSAOの世界で右往左往してる有様を現実世界から監視しているのかもしれないが、奴には共犯者となる人間がいて、そいつらが茅場の手によってフルダイブして送り込まれている可能性も十分あり得る。

斧使い「茅場の共犯者だってなら許さねー!ぶち殺す!俺達をここから出さねーって言うのなら今すぐにぶち殺してやらぁ―――――!!」

斧使いはついに斧を両手で持ち上げて、そのままステージの上にいるガチャモンとモックに向かって走り出していた。

モック「殺すですって、あ~んな物騒なこと言っちゃってますけど、どうしますかガチャモ~ン?」

ガチャモン「良いね良いね、嫌いじゃないよ僕は。血気盛んな若者は大好物だよぉ~」

オズマはこの時、瞬間的に悟った、奴らに手を出すような真似をしてはいけなかったと。そして、オズマの最悪の予感は予想を超えた形で的中する事となる! by立木ナレ

 
 

 
後書き
今回登場したガチャモンとモックの元ネタは言うまでも無く、あのフジテレビの教育番組のマスコットキャラですね。 

 

FILE7 悪魔の私刑!オリジナルキャラクター紹介

デスゲームと化したソードアート・オンラインが始まってから一週間が経過した日の午後の3時、全プレイヤーは謎のメールの案内により、まるで学校の体育館を沸騰させる空間に強制転移させられる。
そして、プレイヤー達の前に現れたのはガチャモンとモックと名乗る謎の二体の着ぐるみのようなアバターであった!
その着ぐるみのような姿に似合わず、プレイヤー達の怒声や罵声に対してガチャモンは威圧感のある言動で一括!
尚も反抗的な態度を取り続けて、石を投げつけたプレイヤーが現れるが……by立木ナレ


※ ※ ※


斧使いのプレイヤーは雄叫びを上げながら、ガチャモンに飛び掛かっていた。流石にこれはまずいと、近くにいたプレイヤー達も思ったらしく。

「止せ!行くなぁ!」

「待て、落ち着けって!」

と、制止する者たちが少なからずいたが、斧使いは止まる事無く、ソードスキルの構えを取った状態で、ガチャモンに斬りかかる。

ガチャモン「血気盛んなのは良いけど……自分の力を弁えないのは感心しないね~」

モック「防衛システム発動!コード・オブ・マシンガン!」

斧使い「な、なにっ!?」

斧使いの動きがそこで止まった。ここは剣を武器にプレイヤー達がアインクラッド攻略を目指すゲーム世界にも関わらず、ガチャモンとモックを守るように出現したのは、巨大なマシンガンだった。
既にステージの上まで上がってきた斧使いにに対して、その巨大な銃口は狙いを定めており、その死の瞬間に、あの斧使いが何を思ったのかは俺には分かる由も無かった。
後悔か、怒りか、それとも何も感じる間もなかったのかもしれない。

ガチャモン「あ、それ発射ぁぁぁ―――――――!!」

モック「あ、それそれそれそれぇ――――!!」

斧使い「ぐうわぁぁ―――――!!」


ソードアート・オンラインの世界観にまるで釣り合わないマシンガンが無数の銃弾を嵐の如く勢いで吐き出し、斧使いはそのほぼ全弾を浴びながら、その身体は一瞬に四散していく。
その圧倒的に、悲劇的、そして無残な姿を見ているプレイヤー達の中から、数多くの悲鳴や絶叫が沸き上がる! by立木ナレ


俺「アイツら……!」

レイナ「……多分、彼らに一度でも攻撃を加えたら、私達もああなるわ」

そして、ガチャモンとモックによる私刑が完了した。斧使いのプレイヤーの命を呆気なく奪ったマシンガンの銃口からは煙が漏れ続けていた。

ガチャモン「いや~、流石はブローニングM2重機関銃だね~。1933年に正式採用された古いマシンガンなのに、申し分ない殺傷力で助かるよ~」

モック「何時の日か、銃の世界を舞台にしたVRMMOゲームが作られたら、是非とも採用してもらいたいもんですな~」

人の命を奪った直後にも関わらず、奴らはまるで意に介さぬ、それまでと変わらない楽観的に振舞い続けていた。
そして、目の前で繰り広げられたおぞましい光景を前に、慄いているプレイヤー達の方をガチャモンが振り向き、再び妙な威圧感を感じさせる声を発する。

ガチャモン「分かってくれたかな?僕たちに攻撃を加えると、このようにとんでもない罰ゲームが実行されるって、しっかりと覚えなくちゃダメだよ~」

モック「人は失敗から学ぶ生き物ですからな~。これから先は、くれぐれも我々に対して攻撃を加えないように存分に気を付ける事ですぞ~」

ガチャモン「それじゃ、最後に僕からのプレゼント、フォー・ユー!」

ガチャモンがそう言うと、俺達の目の前に、まるでタブレットのようなアイテムがオブジェクト化していた。
しかし、その裏面を見てみると、そのデザインはガチャモンの姿を模したものとなっており、今の光景を見た後では忌々しいデザインにしか見えないのは言うまでもない。

ガチャモン「これからは、僕からのメッセージや映像はこのガチャパットを通じて送るからね。時々面白い動画とかも配信してたりするから、存分に活用してね~」

モック「ガチャパットですか……デザインと言い、ネーミングと言い、なんでもかんでもガチャモンん中心で、私なんだか、ガチャモンのバーターみたいになってますですな~」

ガチャモン「じゃ、またいつか会おうね皆。皆を元居た場所に強制転移しちゃいま~す」

ガチャモンがそう宣言した直後、俺達の身体を再び白い光が包み込み、再び目を開けるとそこは俺とレイナがさっきまでいた場所に戻っていた。

俺「ややこしいのが現れやがったが、結局奴らの正体や目的は何一つ分からず仕舞いだな……」

レイナ「……何者だろうと関係ないわ」

俺がガチャモンとモックに対して少々苛立ちを感じながら、そう口にすると、レイナが淡々とした―――しかし、何故だか強い意志を感じさせるような声で言った。

レイナ「……私達の目的は変わらない。生き延びる事、そしてアインクラッドを第百層までクリアして、このゲームから脱出する事よ」

そんなレイナの言葉を聞いて、俺も思わず笑みが零れる。

俺「全く持って、おっしゃる通りで――お前はブレないよな」


※ ※ ※


そして、更に時は流れてデスゲーム、ソードアート・オンラインが開始から一ヶ月が経過しようとしていた!
オズマとレイナはあれ以降もコンビを続けて、互いにレベルを上げ、ゲーム攻略を勧めて、最前線のプレイヤーとして活動をし続けて、最近はとある手段を用いた荒稼ぎを実行していた、それは―――by立木ナレ


「じょ、冗談だろ!?持ってる(コル)の9割と、これだけのアイテムを寄こせだなんて!?」

俺「嘘も冗談も無しだ。商談に関しては、真面目なつもりだからな俺は」

「ふ、ふざけんなよ!こ、こんな……こんな無茶な話あってたまるか!」

ここは第一層の迷宮区に最も近い谷あいの街《トールバーナ》の宿屋の一室だった。俺とレイナは目の前の二人のプレイヤーに対してとある秘密をネタにして、金とアイテムを要求していた。
その額は、そのプレイヤーにとっても巨額なために、青ざめた表情で狼狽えるが、奴は俺達の要求を飲まざるを得ないだろう。

レイナ「……貴方達の会話はこの記録結晶に録音されているわ」

俺「こんな会話が不特定多数のプレイヤーに聞かれたりしたら……ロクに外を出歩く事も出来なくなるんじゃないか?」

「うぅっ!」

「くそ……だから口に気を付けろって……」

俺達がこの二人のプレイヤーに対して掴んだ重要な情報、それは目の前のこの二人のプレイヤーがベータテスターであると言う事だった。
俺とレイナは記録結晶と、俺が習得している《聞き耳》スキルと《隠匿》スキル、そしてレイナの《索敵》スキルを利用して、ベータテスター達から奴らがベータテスターであると言う証拠になる会話を記録結晶に録音し、それを当人たちに対する強請のネタとして金とアイテムを請求するやり口を実行していた。

そもそもこんな事が出来るようになったのは、簡単に言えばベータテスター達が一般プレイヤー達から著しく反発と嫌悪を買うようになったからだ。

ソードアート・オンラインが始まってから既に一ヶ月が経過しようとしているが、その僅か1カ月で2000人のプレイヤーが命を落とした。
そして、その最たる原因として真っ先に挙げられるようになったのが、知識と経験で優位性のあるベータテスター達が右も左も解らない一般プレイヤー達を見捨てて、デスゲーム開始宣言直後に早々に始まりの街を出て言った事があげられるようになったからだ。

事実、情報屋のアルゴなどを除けば、テスター連中の大半がその通り、利己的な行動を取っている事は確かなわけで、テスター連中もその事に付いて後ろめたさや背徳感を感じているからこそ、ベータテスターである事を知られる事を、極端に忌避するようになっているわけだ。

俺「ま、そんなに落胆する事も無いさ。確かに今持ってる金と貴重なアイテムの大半は俺達に取られる事になるが、俺達はアンタらのベータテスターとしての知識や経験までは奪えない。だから、またその知識と経験を生かしてたんまりと儲けられるはずだろ―――金もアイテムもな」

目の前のベータテスター達は俺とレイナを殺意すら感じる目付きで睨み付けるが、それでこの状況を変えられるわけでもなく、しぶしぶ俺達の要求を飲んで、要求された金とアイテムを差し出したのだった。

レイナ「……ベータテスター達から恨みを買う方法を思いついたわね」

ベータテスター達が部屋から出て行ったあと、レイナがこの作戦を考え付いた俺に対して、いつもの無表情で淡々とした口調でそう言った。

俺「ベータテスターなんて元々いた1万人中のたったの千人だ、10人に1人しかいない、ベータ出身者共に恨まれたって大した問題じゃないだろ、その逆だったら流石にマズいけどな」

俺はついさっき奴らのアイテムストレージから徴収した嗜好品アイテムであるタバコを口にする。
このSAOではタバコを吸う場合はライターなどで火を付ける必要はなく、ただ吸うだけでタバコに火が付いて、そのまま吸う事が出来るのだ。

俺「それに、恨まれてるのはベータテスターの奴らの方だろ?本当に過激な奴らだったら、目の前にベータテスターがいると分かった途端に、つるし上げに掛かるかもしれないしな」

レイナ「……そんな事しても、何の得にもならないから、オズマはベータテスター達を強請る計画を立てたのね」

俺「アイツら、ベータテスト時代の経験のおかげで、上手い狩場とか、得なクエストで稼いでやがるからな。一回強請るだけでスゲー稼ぎになるんだよ」

生き残る為にも……強くなるためにも……オズマは一般プレイヤー達から嫌悪の対象となったベータテスター達を強請る事で強力なアイテムなどを購入するのに欠かせない(コル)を荒稼ぎ!
次なるターゲットが早急に見つかることを期待して、迷宮宇久の探索と狩りに出る。オズマの目論見では、ベータテスターはその身分が知られないように、ソロプレイ、もしくはせいぜいソロプレイヤー同士の少数パーティーで行動している事が多い事、そして今現在はゲーム攻略の最前線に立っている可能性が高いと見て、迷宮区で出会うプレイヤーの中には、格好のカモであるベータテスターが必ずいると見込んでいた。
そして、オズマがレイナと共にベータテスターへの強請行為を開始した頃、現実世界では…… by立木ナレ


※ ※ ※


NK(ニュースキャスター)「速報です。世界初のVRMMORPGゲーム、ソードアート・オンラインで一万人のプレイヤー達が意識を取り戻さなくなった事件から一ヶ月が経過して、既に犠牲者の数は2000人に達しようとしています!事件の容疑者であるアーガスの茅場晶彦容疑者の行方はいずれ不明、警察による懸命の捜査が行われています!ではここで、事件の被害者のご家族の方達のインタビューをどうぞ」

東京都台東区在住・飲食店経営

「やっと結婚したばかりの夫とお店を始めて、これからって時だったのに……やっぱり私がやるべきだった……」

東京都世田谷区在住・大学教授

「アーガスはどう責任を取ってくれるんですかね?ウチの娘は高校受験を控えているってのに、下らないゲームのせいで一生を棒に振るかもしれないなんて……!」

埼玉県川越市在住・中学生

「ナーヴギアなんかがあるからお兄ちゃんが……!お兄ちゃんを返して!早く茅場って人を捕まえてよ!!」

東京都台東区在住・生活保護受給者

「勝手にカメラ向けてるんじゃねー!俺に取材したければ謝礼寄こしやがれ謝礼!最低で1万円からだ!にしてもアーガスとか言う会社はちゃんと賠償金と慰謝料を出しやがるんだろうな、ああーん!?」


※ ※ ※

オリジナルキャラクター紹介

ガチャモン
声 - 雨宮〇二子
モックの相棒で体色は右半分が緑色、左半分が灰色で丸い頭、半開きで眠そうな垂れ眼。口元からは前歯が2本飛び出している。自己紹介の決まり文句は「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」。
陽気で人懐っこい振る舞いをしつつも、品性下劣でプレイヤー達の死を嘲笑い、時に残忍なゲームでプレイヤー同士の殺し合いや争いを誘発して、自らはそれを見て楽しみ、悪趣味なコメントを飛ばし、非難や罵倒を受けても詭弁を並べてまともに聞こうとはしない。

身長は165cm、体重は80kgらしく、年齢は自称永遠の五歳の男の子。


モック
声 - 松〇重治
ガチャモンの相棒で体は毛むくじゃらで体色は右半分が赤色、左半分が灰色で球状の目が飛び出ている。黒目部分は眼球の中に黒い玉が入っている。
性格はのんびり屋で慎重派、「○○であります」「○○ですぞ~」と言った口調で話すが、ガチャモン同様やはり品性下劣で彼と共にプレイヤーの不幸を他人事のように見て楽しみ、皮肉めいた言動を平然と口にする。
ガチャモンがパフォーマンスを披露する際には、応援役にまわっている事が多く、プレイヤー達からはガチャモンのバーター呼ばわりされている。
: 身長は185cm、体重は110kgらしく、年齢は自称永遠の五歳の男の子。 
 

 
後書き
今回紹介したオリジナルキャラクターは、FILE4にも追記します 

 

FILE8 オズマとキリト、強請る物と強請られる者

 
前書き
今日も更新しました。

感想とか評価とかお気に入り登録をして頂けると継続する意欲が湧きますので、なにとぞよろしくお願いします。 

 
ベータテスター・・・デスゲーム開始直後、多くのベータテスト出身者は自身の生存を優先してテスター時代に培った膨大な知識と経験を独占した利己的な自己強化に走り、ハイレベルプレイヤーとして活動する一方、恐慌する初心者達をほとんど顧みる事は無く……それゆえに多くの一般プレイヤーはベータテスト出身者をひどく毛嫌いしており、ベータテスト出身者達は批判や中傷を恐れ自身の出自を隠して活動する事となる。
そして、この少年剣士、キリトもまたそんなベータテスターの一人であった!


※ ※ ※


アルゴ「妙な女だよナ。すぐにでも死にそうなのに、死なナイ。どう見てもネトゲ素人なのに、技は恐ろしく切れル。何者なのかネ」

語尾に特徴的な鼻音が被さる甲高い声でそう続けるのは決して大柄とは程遠い、俺よりも更に頭一つ以上低い、いかにもすばしっこそうなプレイヤーだった。
防具は俺と同じ全身布と革。武器は左腰に小型のクローと右腰の投げ針だった。

俺「知ってるのか、あのフェンサーの事」

俺が情報屋のアルゴに無意識に尋ねたのは、俺がさっき、迷宮区で助けたフェンサー使いの少女の事だった。―――助けたと言っても、俺が彼女からマッピングデータを貰った後に、彼女が倒れたので、取りあえずこのトールバーナの北門まで連れて来ただけだが。

アルゴは指を五本立てながら言った。

アルゴ「安くしとくヨ。五百コル」

俺「女の子の情報を売り買いするのは気が引けるんで、遠慮しとく」

アルゴ「にひひ、良い心掛けだナ」

ふてぶてしいにもほどがある台詞を吐き、情報屋、通称、鼠のアルゴはけたけたと笑った。

俺「で?今日もまた、本業の取引じゃなくて、何時もの代理交渉か?」

俺がそう聞き返すと、今度はアルゴが渋面になり、ちらちらと通りの左右を見渡すと、俺の背後を指先で押して近くの路地へと移動させた。
ボス攻略会議までまだ二時間あるのでプレイヤーの姿は少ないが、他人にはあまり聞かれたくない話らしい。

アルゴ「まあナ。29800コルまで引き上げるソーダ」

俺「ニーキュッパときたか……悪いけど、何コル積まれても答えは同じだ。売る気はないよ」

俺は苦笑し、肩をすくめてそう答えた。

アルゴ「オレッちも、依頼人にそう言ったんだけどナー」

アルゴの本業は情報屋だが、敏捷力極振りの機動性を生かしてのメッセンジャーの服ぎようも営んでいた。
そして、ここ一週間ほどアルゴ経由で俺に接触してきている何者かは、面倒な依頼人らしい。
その依頼人はなんでも、俺の持つ片手直剣、アニールブレード+6を買い取りたいと言うのだ。

俺「…………そいつが払った口止め料、千コルだっけ?」

俺の質問にアルゴは平然と頷き、言った。

アルゴ「そーだナ。上積みする気になったカ?」

俺「う~ん……1Kか…う―――ん!」

色々と考えたが、ここで俺がイエスと返事をして、次は依頼人の方も金額の上乗せにイエスをしてこれば、最終的に高い金を払った方が相手の名前を知ることが出来るわけだが、その結果、恐ろしい事に俺はこの剣の取引で実質的にお金を減らす羽目になる。
それはどう考えても阿保らしいの極致ではないか。

なので俺はアルゴに対して見上げた商売魂だとブツブツと言った後、アルゴは̪シシシと笑った後、

アルゴ「んじゃ、、依頼人には今度も断られたって伝えとくサ。この交渉は無理筋だ、ともナ」

そう答えて手を振り、去ろうとしたのを俺はまだ話したい事があるので呼び止めた。

俺「なぁ、アルゴ。お前も迷宮区には潜ったんだろ?」

アルゴ「まーな、だけどオレッち一人で迷宮区のモンスターとやりあうのはちょいときついから、戦闘はなるべく避けてけどな」

俺は再度、周囲に他のプレイヤーがいないかを確認してから、小さな声でアルゴに囁くように言った。

俺「お前も気が付いてないか?迷宮区のボス部屋の場所が……ベータの時と変わってる事に?」

アルゴ「キー坊。やっぱりそう思ってたんだナ……だが、それが多分、第一層のクリアに一カ月近くも掛かってる理由の一つだろうさ」

これはベータテスター同士でなくては相談できない話だった。アルゴは他に大多数のベータテスターと違い、デスゲーム開始直後に自らがベータテスターである事を明かしたうえで情報屋を始めている。
なので、俺がこの手の話、取引が出来る相手は必然的に元ベータテスターで、そして向こうも俺の事をベータテスターである事に感づいているだろうアルゴだけだった。

アルゴ「ボス部屋の場所が変わってるせいで、迷宮区内での探索に支障をきたしてる元ベータテスターはきっと他にもいるはずだナ……」

俺「まて、アルゴ!」

アルゴ「…………」

俺が強めの口調でそう叫ぶと、アルゴは察しの良さで、なにも聞かずに口を閉じていた。俺は索敵スキルを再度発動し、隠蔽スキルを使っているであろうそのプレイヤーに対して狙いを絞って一か所を見続ける。
俺の索敵スキルは現時点では最前線のプレイヤー達の索敵スキル習得者の中でも高位であると言い切れるのだが、それを持ってしても、明確に見つけるのにここまで時間が掛かるとなると、奴の隠蔽スキルも相当高められているのだろう。

俺「そんなところで、こそこそ聞いてないで、話に加わりたいなら遠慮なく来ればいいさ、もう俺達の会話をだいぶ盗み聞きしたんだろ?」


※ ※ ※


アニールブレード+6を装備したその剣士、キリトは索敵スキルを使い、隠蔽スキルで姿を隠していた俺に気が付き、俺に出てくるように言って来た。

俺「ま、良いか。重要な会話は既にこの記録結晶に録音済みだしな、レイナ、向こうさんが及びだぞ―――!」

レイナ「……今、良くわ」

俺とレイナはNPCの民家の屋根からキリトと情報屋のアルゴの会話を盗み聞ぎしていた。俺はワザと右手に記録結晶を掴んだ状態で民家の屋根の上から降りてやった。
ベータテスト出身者なら当然、このアイテムがいったい何なのかくらい分かってるはずだからな。

アルゴ「な~んだ。オズ坊とレイたんだったのか~、おねーさんの秘密の会話を盗み聞きなんて感心しないナ~」

俺「別に今回はお前に用があって来たわけじゃねーよ。そっちの利己的なベータテスターさんに取引の話をしたくて来たんだよ」

キリトは俺に対して一定の警戒心を抱いている様子だったが、自分がベータテスターである事を指摘されても慌てて否定したり、狼狽える様子も見せなかった。

キリト「その前に、何故俺がベータテスターである事を知ってた?偶然俺とアルゴの今の会話を聞いたわけじゃないよな?」

そのキリトの指摘は最もだ、俺はキリトと言う名前のプレイヤーがベータテスターである事を事前に知っていた。
だからこそ、こうしてキリトと呼ばれたコイツを、マークしていたんだ。

俺「このゲームの正式サービスの当日―――茅場の奴に呼び出される前に、バンダナ頭の曲刀使いのプレイヤーに色々とレクチャーしてただろ?」

キリト「……まぁな」

キリトは俺の指摘に対してあっさりと認めていた。もはやバレているのなら無理に隠し通すつもりも無いと言った様子だそうだった。

俺「それで、その指南役がベータテスターだって事は容易に想像が付いた。そして、そのバンダナ頭はお前の名前を呼んでいたはずだ――『キリト』ってな。既にあの時見た顔とは違う顔になってるが、同じ名前で同じベータテスターが二人以上もいるとは思えないからな、お前があの時のベータテスターのキリトなんだ。あのバンダナ頭をどうしたのかは知らないがな」

目の前でじっとしているキリトの顔は、どこか幼げで、中性的な女顔に見える顔で、あの時に見た、勇者然とした姿とはまるで別人だった。

キリト「で、そっちの要求は何なんだ?その結晶クリスタルに録音した、俺がベータテスターである事を証明できる会話の内容をタテに強請る気なんだろ?」

俺「理解の速い奴だ、そんじゃ、アイテムストレージとマネーストレージを見せてもらうぞ」

キリトは言われた通り、アイテムストレージとマネーストレージを他プレイヤーにも見えるように、可視化した状態で表示する。

俺「流石はベータ出身者だな。色々と持ってるじゃねーか」

レイナ「……要求するお金は、貴方の所持している総額コルの9割」

俺「それと、これとこれと、このアイテムを要求する。そしたら、お前の目の前でこの録音した会話の内容は直ぐに消去する」

俺の要求を聞いたキリトは深く溜息を付いた後、含み笑いを浮かべながら、感心しているような、呆れているような様子で言った。

キリト「嫌われ者のベータテスター達を利用して強請行為とはね、恐れ入ったよ……アンタさ、詐欺師とか恐喝とか、リアルでもそう言う事やってたりするわけ?」

俺「俺がやってるのは―――義賊だよ」

俺の事を詐欺師とか恐喝とか、呼ぶキリトに対して、俺はキリトがしたよう含み笑いを真似して、言い返していた。

キリト「義賊だって?」

俺「そうさ、鼠小僧とか、ルパンとかがそうだろ?アイツらってやってる事は泥棒で犯罪者のはずなのに、一般の大衆からは英雄扱いされたり、好印象だったりするだろ?」

キリト「まぁ、悪者扱いされてる感じじゃないよな」

キリトの感想を適当に聞き流して、俺は更に話を続ける。アルゴは妙に楽しげな表情で俺とキリトのやり取りを静観し、レイナは相変わらず表情を全く変える事無く、無言を貫いていた。

俺「それは、奴らの狙いが一般の大衆に向けられずに、弱者達からなけなしの金を搾り取って私腹を肥やしてる輩とか、貧しい連中を顧みないで自分達だけで利益を独占してる奴らを狙ってるからだ。だからアイツらは実際には犯罪者だってのに、一般の連中からは慕われる、そこでだ―――」

俺は少し間を置いてから、目つきを鋭くして、キリトとの距離を詰める。

キリト「――――!!」

キリトは一瞬、驚いた様子を顔に出したが、俺がそれ以上何もしてこないのを察して、それ以上の反応を起こすことなく、落ち着きを取り戻していた。

俺「このアインクラッドでは、お前みたいな利己的なベータテスターが、義賊に狙われる、金持ち連中ってわけだよ。仮に俺達がやってる事が一般のプレイヤーに露天したとしてもだ、狙われたのが全員ベータテスターなら、一般のプレイヤー達は『自業自得だ』とか『ベータ―共にはこれくらいの報いは当然だ』とか言うだろうよ」


自らを義賊と自称するオズマ!キリトは思考する、このオズマの要求に対して自分は今、この場でどんな返事をするべきかを――――だが、そんなキリトの思考を遮るように、奴らは唐突に現れる! by立木ナレ


ガチャモン「50Gと銅の剣だけでハーゴンが倒せるかぁ――――!!」

モック「が、ガチャモン!?いきなり出て来て、なにを仰ってるんですか!?」

ガチャモン「いやぁ~、世界を脅かす大神官を倒す旅に出る事を命じられた王子の心情を僕が代弁してみました~」

突如として、俺達の前に姿を現したのは、SAOのマスコットキャラを勝手に自称しているガチャモンとモックだった。
姿を現して早々に、古いゲームをネタにしたやり取りをガチャモンが一人で始めていた。

アルゴ「ああ~、ドラクエⅡだよナ?確かにオレッちもあれは酷な話だと思ったんだ。王様なんだから、一人息子の王子の旅立ちにもっといろいろと持たせてやって欲しいもんだよナ~」

何故かアルゴがガチャモンとモックの会話に自然に加わる。

モック「いやはや、喋れない主人公と言うのは困りものですな~、嫌な事に対してNOと言えないなんて、現代社会に生きるサラリーマンの皆さんみたいじゃないですか~」

俺「ドラクエの話はもう良いんだよ、お前ら何が言いたいんだ一体?」

余計な話に時間を取られたくないので、俺はさっさとガチャモンとモックが何しに現れたのかを聞く。
どうでも良い話だったら、即座にその場でこいつ等にはご退場願いたいもんだ。

ガチャモン「はいはい、21世紀生まれの世代の子達は本当に慌てんぼうなんだから~―――あのね、今日の午後の4時から、この街《トールバーナ》で、第一回ボス攻略会議が行われるから、時間には気を付けてって言いに来たの、ガチャモンの気の利いたお知らせでした~」

まるでいい仕事をしたと言わんばかりの様子のガチャモンに対して、俺は軽く苛立ちを感じながら容赦なくハッキリと言ってやる。

俺「その話ならもう聞いてるぞ」

キリト「ちなみに、俺もその話ならもう知ってるぞ」

アルゴ「にゃはは、実はおれっちも知ってたりしてな~」

レイナ「……迷宮区付近で活動してれば知っていてもおかしくはない」

ガチャモン「…………」

4人のプレイヤー全員が知っていると言い切り、ガチャモンは空回りした事を実感したのか、口を閉じて黙り込んでいた。

モック「あ、あの~、ガチャモン……って消えちゃったじゃないですかぁ!!」

気を使って声を掛けたモックを他所にガチャモンは勝手に一人で転移して姿を消す。だが、俺としてはこれで良い。

モック「あ~もう!アンタ達少しは空気を呼んでくださいですぞ!ガチャモンは一度機嫌損ねると面倒なんですからな―――!」

そして、モックは俺達に対して勝手な愚痴を零しながら、その直後に姿を消すのだった。余計な連中がいなくなった後、キリトは俺の方を向きなおしてから話を切り出す。

キリト「お前のその要求に対する答えだけどさ、第一層のボス戦の後とかまで返事は保留じゃダメか?」

俺「そうだな……」

少し考えて俺は、そのキリトの時間稼ぎに用に思える提案が、俺にとって優位になる事に気が付いた。迷宮区の最奥のボス部屋に出現するフロアボスを倒すと、止めを刺したプレイヤーはラストアタックボーナスを獲得出来る。

フロアボスのラストアタックボーナスである獲得経験値と獲得アイテムは共に雑魚モンスターから獲得するそれとは桁違いの高さの上に、ドロップするアイテムは、ゲーム中で一つしか入手できない、言うならばユニークアイテムと呼ばれるレアアイテムだ。

もしキリトが、ラストアタックボーナスを決めてレアアイテムを手に入れれば、アイテムストレージから、そのレアなユニークアイテムも奴から頂く事が出来る。

俺「ああ、すぐに結論を出せとは言わない。第一層のフロアボス戦の後まで待たせてもらうとするさ」

こうして、キリトに対して強請を掛けたオズマとの交渉は一旦ここは保留となった!ベータテスターに対して強請を擦るオズマは自らを義賊と自称し、その金とアイテムを狙う! by立木ナレ 
 

 
後書き
ここで初めてキリト視点になりました。

オズマとはベータテスターである事をネタに強請られる事になりましたが、この先の展開をお楽しみに。 

 

FILE9 第一層ボス攻略会議

2022年12月2日。既にデスゲーム、ソードアート・オンラインが始まってから一カ月近くが経過していた。既に二千人近い人数のプレイヤーが脱落し、今だ第一層の攻略すら敵わぬと言う絶望的な状況!……そんな中、ようやく第一層の攻略に向けて、フロアボス攻略会議が開かれようとしていた! by立木ナレ


※ ※ ※


攻略会議を呼び掛けたプレイヤーは、この場に集まった四十数人のプレイヤーの一部がちいさくざわめくほどの、男達の目から見ても分かるほどのイケメンの青髪の青年だった。
髪の毛の色は恐らく、髪染めアイテムで染めているんだろうが、少なくとも第一層では店売りしてないので、モンスターからドロップしたのだろう。

ディアベル「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってい人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

噴水近くの一団が、口笛や拍手に混じって『本当は勇者とか言いて―んだろ!』とか言う声が飛んだ。

レイナ「……SAOにはシステム的に(クラス)なんて無いはずなのに……」

俺「その場を和ませたり、盛り上げたりするためのトークだろ」

レイナ「……そうなの?」

俺「そう言う事にしておけ」

記憶喪失で、どこか人間らしい感情も欠落しているようなレイナにはその辺りのユーモアと言うのが理解し難いようだった。

ディアベル「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーの皆に集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……今日、俺達のパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くって事だ。第一層の……ボス部屋に!」

どよどよとプレイヤーがざわめく。俺もこれには感心せざるを得なかった。第一層の迷宮区は二十回建てで、俺とレイナが潜った最深部が19階だったのだが、ディアベルのパーティーは既にその19階をほぼマッピングし終えていると言うわけだ。

ディアベル「一ヶ月。ここまで、一ヶ月も掛かったけど……それでも、オレたちは、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものが何時かクリアできるんだって事を、はじまりの街で待っている皆に伝えなきゃならない。それが、今この場所にいる俺達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

再びの喝采。今度は、ディアベルの仲間たち以外にも手を叩いている者がいた。事実、ディアベルの言っている事は的を射ている。
もし、第一層がクリアされれば、死のリスクを恐れる余り、はじまりの街に籠り続けているプレイヤー達も希望を見出し、戦線に赴き、何れはゲーム攻略に貢献できる戦力にもなり得るはずだ。

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

そんな声が低く発せられたのは、その時だった。歓声が止まり、声が聞こえた方を振り向くと、その先に立っていたのは、小柄な体格の、そして何より特徴的なのは、見事なまでもサボテンの様な頭髪の男だった。

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわへんと、仲間ごっこはでけへんな」

そんな、不躾な乱入に対してもディアベルは表情をほとんど変えずに、余裕に満ちた笑顔のまま手招きして言った。

ディアベル「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

キバオウ「…………フン、ワイはキバオウってもんや」

盛大に鼻を鳴らしてから、サボテン頭はキバオウと名乗った。キバオウは鋭く光る両目で広場のプレイヤーを睥睨した。

キバオウ「こん中に、5人か、10人、わびぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

ディアベル「詫び?誰にだい?」

ディアベルが、様になった仕草で両手を持ち上げると、キバオウはそちらを見る事無く、吐き捨てるように言った。

キバオウ「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった2千人に、や。奴らが何もかも独り占めにしたから1ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」

キバオウが何を言おうとしているのかは、俺に限らず、ほぼ全員が理解してるだろう。その言葉により途端に重苦しい空気が流れた気がした。

ディアベル「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり……元ベータテスターの人達の事、かな?」

キバオウ「決まっとるやろ」

ディアベルが腕を組んだまま、今までで最も厳しい表情で確認すると、キバオウは当たり前だと言った様子で肯定した。

キバオウ「ベータ上がり共は、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左も解らん九千何人のビギナーを見捨てて、な。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽんうなって、その後もずーっと知らんぷりや。……こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる子鶴い奴らが。そいつらに土下座させて、溜め込んだ金やアイテムをこん作戦の為に軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられへんし預かれんと、わいはそう言ってるんや!」

まるでベータテスター達のせいで2000人も死んだと言う、キバオウの言っている事は少々極論な気もするが、一方で奴の言うように、この中にベータテスターが紛れ込んでいるのは間違っていない。
集団から離れた所に、赤いフードで顔を隠したプレイヤーと、その隣に俺が強請のカモとして狙いを定めているキリトと言うベータテスターが既に一人いる。
それに、殆どのベータテスターが上手い狩場やクエストを独占したのもまた、否定できないだろう。

ガチャモン「キバオウのバカ!」

殺伐とし始めた空気をぶち壊すように、乱入したのは攻略会議に参加していたプレイヤーではなく、毎度毎度、唐突に出現するガチャモンだった。

キバオウ「ああん?いきなり勝手に現れおって、なんやねんジブン!?てか、誰がバカや!」

ガチャモン「何よ意気地なしっ!二千人のプレイヤーが死んだのをベータテスターのせいにして!キバオウの甘えん坊!怖がり!意気地なし!どうしてできないのよ そんなことじゃ一生サボテン頭だよっ!それでもいいの!?キバオウの意気地なし!僕もう知らない!キバオウなんかもう知らない!」

モック「いやはや、お騒がせしますですな~。ガチャモンってば最近になって、70年代の名作アニメにドハマりしてるんですよ~。まぁ、どの作品も最終回とその数話前の話しか見ないんですがね。所謂、にわかファンとか言う奴ですなぁ~」

キバオウ「やかましいわ!バーターは黙っとらんかい!」

モック「どえぇ――――!?な、なんですか私に対するその邪険な扱いわ!?」

キバオウは昔のアニメキャラを真似て、自身を罵倒するガチャモンだけでなく、ついでに登場しているモックに対しても感情的に声を荒げて喚き散らしていた。

キバオウ「つーか自分ら!自分らは知っとるんちゃんうか?この中に紛れ込んどるベータテスターどいつか?ホンマは分かっとるんちゃうんか!?知っとること全部喋らんかい!」

それは流石に言うだけ無駄だろうに、と思っていた俺の予想は当然の如く的中する事になる。ガチャモンは両手を後ろに組むと、不敵な笑い声をあげながら言った。

ガチャモン「ふふふ、ベータテスターが誰かだって?――――その情報が知りたければ……300万コルを耳を揃えて持って来い!!」

キバオウ「そんな金持っとるわけあらへんやろうがボケんだらぁ!てか、耳のあらへんれんちゅーに耳を揃えてこいとか言われても滑稽なだけやしな!」

モック「はいぃ―――――――!?ちょ、ちょっとキバオウさん!そ、それは我々の様な耳を持たない者たちに対する身体的な特徴を貶す差別的発言ですぞ!!」

ガチャモンが要求する天文学的な金額のコルに対してキバオウがガチャモンとモックに対して皮肉を交えた言い返しをすると、今度はモックがムキになって喚きだす。

俺「こいつらが話に加わると、毎度毎度、意味不明な方向に話が流れるんだよな……」

俺がキリトを強請ってる時に奴らが出てきた時も、そうだったが、誰かが話の軌道を修正しない限りはキリが無くなる。
そんな、不安を俺か感じていた矢先に、落ち着き払った声がヒートアップしているキバオウを遮るように割り込んだ。

ディアベル「用が無いのなら、ここは消えてもらえないか?我々はこれからのゲーム攻略を左右する重要な話し合いをしていて、遊んでいる場合じゃない事くらいわかるだろ?」

表情こそ穏やかなディアベルだったが、ガチャモンとモックに対するその目付きは、明確な敵意がうっすらと感じされる目付きでもあった。
ディアベルに軽く邪険に扱われたガチャモンとモックはしばらくお互いに顔を見合ってから―――

ガチャモン「ハイハイ……アメリカンジョークが通じないと、心が寒くなるのは寂しいね~」

モック「今回はこのへんにしてあげますけどね!我々は忘れませんぞ!そこのキバオウとか言う人が、我々を辱めるような言葉を口にしたことは絶対に!」

二人とも同時に、その場から姿を消して、再び静寂が訪れた。


「発言、良いか」

そんな時、張りのあるバリトン声、夕暮れの広場に響き渡った。人垣の左端の当たりから立ち上がったその男は、慎重派190㎝ほどもありそうな巨体で、頭は完全なスキンヘッドの上に、肌は全身黒茶色と、日本人離れした、と言うか、見るからに黒人の様な、圧倒的な威圧感と迫力ある外見の大男だった。

エギル「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償城、ということだな?」

キバオウ「そ……そうや」

キバオウは僅かに、気圧されたように片足を引きかけたが、すぐに前傾姿勢を取り戻すと、エギルと名乗る斧使いを睨んで叫んだ。

キバオウ「あいつらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や!しかもただの二千ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったぞ!あほテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにこの十倍の人数……ちゃう、今頃は二層やら三層やらまで突破できとったに違いないんや!!」

二千人の犠牲者の責任が全てベータテスター達にあると言うのはやはり、流石に極論だと俺は思うが、ベータテスター達の積極的な協力があれば、確かに今ほどの状況を招かずに済んだ可能性は高いし、キバオウ以外にも同じように考えている者は決して少なくはないだろう。

エギル「アンタはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

エギルはそう言いながら、大型のポーチから簡易な本アイテムを取り出した、表紙には、丸い耳と左右に三本ずつの髭を図面化した鼠マーク。
あれには、俺も見覚えがあるし、俺も何度か見ている代物だった。

エギル「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカや目鯛の道具屋で無料配布してるんだからな」

エギルの言った通り、あれは情報屋のアルゴが制作し、配布しているエリア別の攻略本だった。詳細な地形から出現モンスター、ドロップアイテム、クエスト解説などが一通り書かれており、表紙下部にでかでかと書いてある【大丈夫。アルゴの攻略本だよ】と言う、どこかで見たようなゲーム雑誌の様なキャッチフレーズまで書かれていた。

キバオウ「―――貰たで。それがなんや」

エギルは攻略本をポーチに戻すと、腕組をしていった。

エギル「このガイドは、オレが新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が速すぎる、とはおもわなかったのかい」

俺「そうか……あの本の情報源はベータテスター達だったわけか」

レイナ「……アルゴ以外にもあの本を作るのに手を貸したテスター達がいたってことね」

そうだ、そいつらは自分たちがテスターである事を明かして、積極的に他のプレイヤーの面倒を見る事はしなかったものの、自らの素性を隠しながらの消極的な情報提供程度ならアルゴを通してと言う形で協力していた奴らの事だろう。

エギル「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランMMOプレイヤーだったからだとオレは考えている。このSAOを、他のタイトルと同じ物差しで測り、退くべきポイントを見誤った。だが、今は、その責任を追及してる場合じゃないだろ。俺たち自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されると、オレは思っているんだがな」

エギルの態度は堂々としたもので、言っている事も真っ当でキバオウも噛みつく隙を見いだせずに黙りこくっていた。
しばらくは忌々しそうにエギルを睨んだが、そこまでで、何も反論が出ないまま、ディアベルがもう一度頷いてから言った。

ディアベル「キバオウさん、君の言う事も理解できるよ。オレだって右も左も分からないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。でも、そこのエギルさんの言う通り、今は前を見るべき時だろ?元ベータテスターだって……いや、元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略の為に必要なものなんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら、何の意味も無いじゃないか」

爽やかな弁舌でキバオウを諭すディアベル。それによって、殺伐とした空気は徐々にだが再び穏やかに落ち着きを取り戻しつつあった。

ディアベル「みんな、それおれ思う所はあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破する為に力を合わせて欲しい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが何よりも大事だからさ」

キバオウ「…………ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリと白黒付けさせてもらで」


こうして、第一層攻略会議は幾度も波乱になりかけたものの、ディアベルのリーダーシップとエギルの弁舌により、無事終了! by立木ナレ 
 

 
後書き
今回はほぼ、原作の分をなぞるような形になってしまいました…… 

 

FILE10 フロアボス戦に向けて、ディアベルからの依頼

第一層ボス攻略会議は、実務的な議論は行われぬままであったが、それでもプレイヤー達の指揮を上げる効果はあった。
第一層迷宮区二十階はかつてない速度でマッピングされ、会議の翌日の十二月三日土曜日の午後にはついにディアベル率いるパーティーがフロアの最奥の巨大な二枚の扉を発見した。

ディアベル一行はその場でボス部屋を確認した後、その日の夕方に再び、トールバーナの噴水広場で開かれた会議でボスの報告を行った。

ボスは身の丈二メートルほどの巨大なコボルトで名前は《イルファング・ザ・コボルドロード》武器は曲刀。取り巻きにハルバードを装備した《ルインズコボルド・センチネル》が三匹との事だった。

そして、会議の最中に同じ広場の隅で店を広げていたNPC露天商にいつの間にか例の攻略本が委託販売されていたのだった。

いうまでも無く会議は一時中断され、参加者全員がNPCから攻略本を貰い中身を読んだ。

俺「相変わらず、見事な情報量だな、これもこの中に紛れ込んでるベータテスターが流したのか?」

レイナ「……ボスの名前以外にも、推定HP、主武装のタルワールの間合いの剣速、ダメージ量、使用ソードスキルの詳細……実際に対峙して見なければここまでの詳細は分からない」

そして、本を閉じた裏表紙には、これまでのアルゴの攻略本には存在しなかった一文が赤いフォトンで並んでいた。

【情報はSAOベータテスト時の物です。現行版では変更されている可能性が有ります】

申し訳程度の注意書きが妙に目立っていた。

俺「ま、この攻略本のおかげで面倒で危険な偵察戦を省略できそうなのはありがたいな」

レイナ「……偵察戦で死人が出るかもしれないから?」

俺「ああ、偵察戦は否応でも初見になるからな……ベータテスターの連中は除いて、な」

一方で、ディアベルは尚も数十秒、何かを考えるように顔を伏せていたが、やがて姿勢を正すと張りのある声で叫んだ。

ディアベル「―――みんな、今は、この情報に感謝しよう!出所はともかく、このガイドのおかげで、二、三日はかかるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、すっげー有難いってオレは思ってる、だって、いちばん死人が出る可能性が有るのが偵察戦だったからさ」

広場のかしこで、色とりどりの頭がうんうんと頷く。

ディアベル「……こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスは、そこまでヤバイ感じじゃない。もしSAOが普通のMMOなら、皆の平均レベルが三……五低くても充分倒せたと思う。だから、きっちり戦術を練って、回復薬いっぱい持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。絶対に死人ゼロにする。それは、俺が棋士の誇りに掛けて約束する!」

ディアベルのリーダーシップは本当に流石な物だった。40人そこそこのパーティーの中にこれだけのカリスマ性とリーダーシップを持ったプレイヤーが一人だけでもいた事はこのデスゲームを進めるうえでの数少ない幸運と言うべきか。

ディアベル「―――それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担も出来ないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」

俺「だってよ、まずは俺達でパーティーを組むのは決まりで良いな?」

レイナ「……そうね」

俺はレイナにパーティー申請をして、レイナがそれを受諾する事で、ひとまずは二人のパーティーになった。
あと4人、早い所パーティーを組んでしまおうと思っていたのだったが、ディアベルが指示を出してから一分足らずで、あっさりと七個の6人パーティーが完成していた。
この場に集まっているのはレイドパーティーの最大上限人数には満たない46人だ。
一つのパーティーが最大で6人で、それを8組まで組めるので、6×8でレイドパーティーの上限人数は48人となる。
つまり、4人だけの未完成なパーティーが一つだけで来てしまうと言うわけで――――

レイナ「……オズマ、あそこに炙れている人が二人だけいるわ」

俺「よりにもよってアイツかよ……」

その炙れている二人の内の一人は、俺が今一番パーティーを組み難い、強請のターゲットとしている相手、キリトだった。
キリトの方も、俺達が二人だけである事に気が付き、俺とレイナがこちらに来るとキリトはバツの悪そうな表情で目を逸らしていた。

俺「パーティー申請をするけど、それでいいな?」

キリト「あ、ああ、分かった」

キリトの隣にいるフードを被ったレイピア使いは俺とキリトの合いで起こっている事を知らないようで、俺の接近に対して特に警戒心などを見せる様子はなかった。
俺はキリトとレイピア使いのカラー・カーソルに触れるとパーティー申請を出した、2人ともOKを推すと、左側視界にやや小さい二つ目のHPケージが出現した。

一本目は【Kirito】それはキリトだと言うのはすぐに分かる。そしてさらにその下には【Asuna】と表記されていた。
ローマ字読みだとしたらキャラクターネームはアスナと言う事になる、名前からして女を思わせるキャラクターネームだが、その顔は赤いフードを深く被っているので、良く見えない。


一方でディアベルは見事な采配と指揮能力で出来上がったパーティーを見分し、最小限の人数の入れ替えだけで、七つのパーティーを目的別の部隊へと編制!
そして、七つの6人パーティーへ作戦や役割を伝えたのち、最後にオズマ達4人だけのパーティーに近づくby 立木ナレ


ディアベル「君達は、取り巻きコボルドの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いして良いかな?」

俺「E隊って、キバオウさんがリーダーのパーティーだっけか?」

ディアベル「ああ、そうだよ」

ようするに、ボス戦の邪魔にならないように後方で大人しくしてくれ、とも取れる指示でもあったが、4人しかいないパーティーではそう言われるのも仕方あるまい。
レイピア使いのアスナが非友好的な反応をしそうになったが、キリトもそれを察して片手で制止て答えた。

キリト「了解。重要な役目だな、任せておいてくれ」

ディアベル「ああ、頼んだよ」

白い前歯を光らせて、ディアベルは噴水の方に戻って行った。途端に、左耳のすぐ近くで剣呑な響きを帯びた声が生じた。

アスナ「……どこが重要な役目よ。ボスに一回も攻撃出来ないまま終わっちゃうじゃない」

俺「やっぱり、そんなこと思ってたのかよ……ディアベルの前だけでは余計な事言って荒波立てなかったのはまぁ、良かったけどな……」

キリト「仕方ないだろ、4人しかいないんだから、6人パーティーに比べてスイッチでPOTローテするにも時間が全然足りないん」

アスナ「……スイッチ?ポット……?」

レイナ「……もしかして、知らないの?」

俺「マジか?」

アスナの訝しそうな呟きを聞いて、俺もレイナもこのレイピア使いは、所謂MMORPGの基本的な専門用語を理解してない、MMORPG初心者だと言う事は、今のやり取りを見る限り疑いようがない事だった。
それで、このボス戦に参加しようと言うのはどういう心境なのかはまるで分らない。

キリト「……あとで、全部詳しく説明する。この場で立ち話じゃとても終わらないから」

レイピア使いのアスナは数秒間の沈黙の後に、微細な動きで頷いた。取りあえず、このアスナと言うレイピア使いの基本的な指南役はキリトが請け負っている様子だった。


そして、二度目のボス攻略会議はA~Gまでナンバリングされた各部隊リーダーの短い挨拶と、ボス戦でドロップした金やアイテムの分配方法を確認して終了となった。
ドロップの分配の方は、コルに関してはレイドを構成する四十四人で自動的等割り、アイテムはゲットした人の物と言う単純なルールが採択された by立木ナレ


午後五時半、攻略会議が解散となり、集団はばらけて酒場やレストランへ飲み込まれていった。俺とレイナも、キリトとアスナ組とはここで何も言う事なく自然に分かれて、どこか適当な場所で食事をしようと思っていた時だった。

ディアベル「オズマ君にレイナさん、少し話を良いかな?」

駆け足で俺達に近づき、声を掛けてきたのは、フロアボス戦のパーティーリーダーも務める事になった騎士ディアベルだった。
ディアベルの表情は、会議の時に見せていた爽やかな表情に比べて、少々険しい、真剣な話をするときの様な顔つきだった。

俺「俺達のパーティーに何か用があるなら、さっきの二人も呼んでくるか?」

ディアベル「いや、この話は彼らを除いた、君たち二人にだけに話しておきたいんだ」

俺「俺達4人パーティーではなく、俺とレイナにだけにか」

ディアベル「正確には、キリト君だけを避けて話したかったんだが、あのフードの人が彼にまだついているから、君たち二人にだけ声を掛ける事にしたんだ」

俺はディアベルが只ならぬ、話をしたそうな様子を感じて、提案してみた。

俺「まずはさ、落ち着いて座って話す場所を決めないか?」

ディアベル「そうだね、話の続きは近くのレストランでするとしよう、付き合ってもらうんだから飯代くらいはオレが奢るよ」

どんな話をするのかは知らないが、飯を奢ってくれると言うのなら、断わる理由はない。俺はレイナに対して、それで良いかと聞いてみるが、レイナの反応は予想通りの物だった。

レイナ「……別に、構わないわ」

ディアベル「話が分かるようで助かるよ。では、行こうか」

ディアベルが選んだのは、トールバーナのレストランでは比較的小さな規模の店だった。ここなら、人も少なく、少なくともキリトがここにいる事は無さそうなので、丁度良いと踏んだのだろう。
席に座って早々にNPCの店員が注文を聞きにやって来た。
俺達は店のメニューから適当に注文を選び、それをNPCの店員に伝えると、NPCの店員は丁寧なお時期と接客態度を取った後、それからすぐに注文したメニューが俺達の元に運ばれてきたのだった。

ディアベル「付き合わせてすまないね、これから君達に相談する話は4人だけのパーティーである君達G隊の本来の目的に関する話なんだ―――あ、話は食事をしながら出構わないよ」

俺「もう、食ってる奴もいるけどな……」

レイナ「……?」

レイナは話が始まる前に、自分のテーブルの前に届けられたトマトソースがたっぷりと掛かったパスタを食べ始めていた。
ディアベルは爽やかな表情で笑顔でレイナを見た後、すぐに真剣味を感じさせる表情を作り直し、話を再開した。

ディアベル「実はね、君達と同じパーティーにいるキリト君についてなんだが、彼は元ベータテスターである事を俺は突き止めたんだ。主に他のベータテスターらしきプレイヤーの会話の内容からね」

俺「へー、良く調べ上げたな、情報屋のアルゴですら誰がベータテスターだとかまでは売らないって話なのに」

キリトがベータテスターである事は俺も既に知っている事だが、話をスムーズに進めたいので、とりあえず今は知らない振りをして進める事にする。

ディアベル「だが、それだけなら何も問題ではない、重要なのはキリト君が―――ベータテスター時代に最もフロアボス戦でラストアタックボーナスを掻っ攫ったプレイヤーとして名前があげられている事なんだよ」

俺「そーなのか?そいつは、他のプレイヤーにとっちゃ面白くない話だな」

それは、俺も聞いたことの無い話だった。ソロで最前線まで来ている事から、かなり腕の立つ奴だとは思っていたが、ベータテスト時代からダントツでフロアボスのLA(ラストアタック)ボーナスを掻っ攫っている奴だったとはな。

レイナ「……どうして、面白くない話なの?」

そこで、今まで黙々とパスタをほおばり続けていたレイナが、初めて口にパスタを含んだまま話に加わってきた。

俺「フロアボスにLAボーナスを決めれば、そのパーティーに莫大な経験値と金が……そんでもって、ゲーム内で一つしか存在しない超レアなアイテムがドロップするってのは前に話しただろ?」

レイナ「……ええ」

俺「そんな美味しいアドバンテージの塊を特定のプレイヤーがそう何度も何度も頻繁に掻っ攫ってたら、他のプレイヤーからして見たら不平等感とかから、いい気はしないって事だ」

レイナ「……そう言うものなのかしら?」

レイナにはあまりピンとこないのか、小首を小さく傾げてキョトンとしていた。この辺りはレイナももしかしたらMMORPGと言うものを、あまり経験したことが無いのかもしれない。
レイナが記憶喪失では、それを確認する術も無いのだが。

ディアベル「俺はね、こんな事を言うと失望を買ってしまうかもしれないが―――これから先、俺がゲーム攻略を進めるうえでのトッププレイヤー達のリーダーを続ける為には、誰よりも明確に強いプレイヤーであると言う事を皆に認識してもらう事も重要だと考えているんだ」

何となくだが、俺はディアベルが言いたいことが見えてきた、つまりディアベルは狙っているのだろう、フロアボスに止めを刺した者が得られるラストアタックボーナスを、特に一つしかないレアアイテムを。

俺「警戒してるんだな、キリトが初っ端からラストアタックボーナスを持って行っちまうのを?だから、俺達に奴がラストアタックボーナスを取れない様に、上手く立ち回れって事か?」

ディアベル「ああ……ズルい男だと思われるかもしれないが、同じパーティーである君達なら、キリト君と近くで戦う事が多いだろうから、つまり、彼を妨害するのに最も打って付けなのは君達なんだ」

ディアベルは自分でも後ろめたい事を頼んでいると言う自覚からか、その声は攻略会議の時のような爽やかで澄んだ声ではなく、微妙に震えや緊張感を感じさせる声になっていた。

ディアベル「無論、ただでこんな事を頼んだりはしないさ、君達が上手く立ち回って、俺がラストアタックボーナスを取れたときには、これを君達に渡そう」

ディアベルがそう言いながらアイテムストレージからオブジェクト化したアイテムは、俺がまだ見たことの無い、妙な文字が刻まれた紙切れのアイテムだった。
アイテムの詳細を見てみるとそのアイテム名は『装備強化奥義書』と書かれていた。

ディアベル「装備を強化する際に、この奥義書を使う事により、強化成功率が100%になるアイテムだ。一度このアイテムを使用して強化した装備はもう二度と奥義書が使えないと言うデメリットはあるけどね」

俺「そりゃ便利なアイテムだな」

武器強化をする場合は、必要な強化素材を揃えて、鍛冶屋のNPCだか、鍛冶スキルを持ったプレイヤーに依頼する事になるわけだが、強化に必要な最低限の素材だけだと強化成功率が不安定な数値になりやすい。
強化の成功率を高める為には、更に多数の強化素材を用意する必要がある。
だが、奥義書を使えば、一つの装備に付き、一度きりではあるが、それらの手間が全て省けて、必要最低限の素材だけで、強化成功率が100%になるのなら、これはかなり便利な代物だ。

レイナ「……どうするのオズマ?」


突如、ディアベルから要請されたキリトのラストアタックボーナス獲得を阻止せよとの依頼!報酬アイテムである装備奥義書を提示されたオズマの返答は……? by立木ナレ


 
 

 
後書き
ようやく10話目になりました。くどいようですが、お気に入り登録と評価をお待ちしています。

それによって作者が気を良くして、作品継続意欲になると思いますので(笑) 

 

FILE11 第一層フロアボス戦開始!コボルドロード!

第一層フロアボス戦の攻略パーティーが組まれた。オズマとレイナはキリトとアスナのコンビを加えた4人んのパーティーになった矢先……レイドパーティーのリーダーのディアベルから呼び出されて、ベータテスト時代にラストアタックボーナスを幾度も掻っ攫ったキリトの妨害の依頼をされたのであった! by立木ナレ





俺「分かった、やれるだけの事はやって見せる」

俺はディアベルの依頼を請け負う事にした。

ディアベル「ありがとうオズマ君!――こんな事を頼んでしまって、失望されるんじゃないかと思ってたけど、ちゃんと聞いてくれた上に、引き受けてくれて感謝する」

俺「気にしなくて良いって、俺もこれから特定の誰かが頭一つ飛びぬけた強さのプレイヤーとしての地位を確立するとしたら、それはソロプレイヤーのキリトよりも、バラバラだったプレイヤー達をまとめ上げたディアベルさんが一番相応しいと思ってるぜ」

実際、これから攻略パーティーのリーダーとして、俺達を先導していくディアベルには、相応のレベル的ステータス、装備による強さが必要不可欠だと考えている。

一方で、俺がディアベルの依頼を二言返事で引き受けたのは、他にも狙いがあるのはまた別の話だ。―――そして、ディアベルは俺とレイナに何度も礼の言葉を述べて(レイナはずっとパスタを食べ続けていただけ)。先にレストランを後にして去って行った。

レイナ「……何が狙いなの?」

俺「目聡いな、レイナは」

ディアベルが店から姿を消した途端に、レイナが俺の別の意図に感づいたように、そう聞く。

俺「俺は当然、ディアベルの依頼を果たせるように尽力するが、今の依頼を引き受けた事で、どっちに転んでも俺が得する事になるんだよ」

レイナ「……ディアベルが無事にラストアタックボーナスを決められれば、依頼の報酬の奥義強化書を貰えて―――そして、キリトがラストアタックボーナスを決めてしまった場合でも、後からキリトが手に入れたレアドロップアイテムを強請で得る事が出来る、から?」

俺「ご名答だ、無論、ディアベルがラストアタックボーナスを決めて、俺達が依頼報酬を受け取った後でも、キリトにはキッチリその後に例の記憶結晶で録音したベータテスターであることの証拠をネタに、金とアイテムを出してもらうわけだがな」

レイナ「……オズマ、凄くエグイ」

無表情のまま、さらりと『エグイ』等と言ってくれるレイナに対して俺は、レストランで注文したビールを飲みながらこう答える。

俺「言ったろ、義賊だよ……一般プレイヤーを顧みないで情報やアドバンテージを独占してるベータテスターを狙うな」



※ ※ ※


12月4日、日曜日。

このデスゲームが開始されたのが、11月6日だったので、既にそろそろ四週間が経過する頃だった。

キバオウ「おい」

俺達4人パーティーの後ろから有効的とは言い難い声を掛けてきたのはキバオウだった。俺達と言うよりは、正確にはキバオウが声を掛けた相手は主にキリトに対して向けられているように俺は感じた。

唖然とするキリトを、睨み付けたキバオウは、いっそう低い声で言った。

キバオウ「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なにゃからな」

キリト「…………」

キリトは何かに驚いているのか、呆気に取られたような顔で黙り込んでいる。キバオウは憎々しげに頬を歪めた顔をもう一段階突き出し、吐き捨てる。

キバオウ「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」

ついでに唾を地面に吐き捨てて、キバオウは身を翻して仲間のEパーティーの方に戻って行った。

アスナ「……何、あれ」

キリト「さ、さあ……。ソロプレイヤーは調子乗んなって事かな……」

俺「キリト……キバオウと何か浅からぬ因縁とかでもあったりしないよな?」

キリト「い、いや……。そもそも今、初めて口を聞いたばっかりだしな……」

キバオウの言動からして、奴はキリトの事で、何かしらの敵意を感じるような、噂か情報を知っているようにも思えてならなかった。
俺とレイナがそうだったように……ディアベルが何かしらの手段でキリトがベータテスターである事を知り得たように、もしかしたらキバオウもキリトがベータテスターであると言う情報を掴み、それでベータテスターに対して、極端な反抗心を抱くキバオウはキリトに突っかかったと考える事も出来る。

ま、全ては想像の範疇に過ぎないのだが。

それから少し時間が経過して、例の噴水の縁に立っていたディアベルが美声を張り上げた。

ディアベル「みんな、いきなりだけど―――ありがとう!たった今、全パーティー46人が一人も掛けずに集まった!!」

途端に、歓声が広場を揺らす。次いで、滝のような拍手の音。

ディアベル「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止にしようって思ってた!でも……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、すげー嬉しいよ……こんな、最高のレイドが組めて……。まあ、人数は上限にちょっと足りないけどさ!」

笑う者、口笛を吹きならす者、ディアベルの様に右手を突き出す者。

俺「流石、大勢のプレイヤーを率いるだけの事はあるよな。利己的で保身主義のプレイヤーにはあんなリーダーシップはまずないもんな」

キリト「ああ……ああ言うのが、人に慕われるんだろうな……」

アスナ「……?いきなり、何の話を始めてるの?」

レイナ「…………」

この中で唯一、俺とレイナがキリトを強請っている事、キリトがベータテスターである事を、恐らくは知らないであろうアスナは、勘ぐるよう声でそう言った。

一方で、皆がひとしきり喚いたところで、ディアベルはようやく両手を掲げて歓声を抑えた。

ディアベル「みんな……もう、オレから言う事はたった一つだ!……勝とうぜ!!」


※ ※ ※


午前十一時、迷宮区到着。 午後十二時半、最上階踏破。

レイナ「……あれが、フロアボスの部屋」

俺「見るからに、お山の大将の根城って感じだな」

集団の後方から俺達は、ついに姿を現した巨大な二枚扉を仰ぎ見る事になった。
灰色の石材表面には、獣頭人身の怪物がレリーフされている。

俺「コボルトと言えば、普通のMMOだと、その辺の雑魚モンスターに過ぎないけど、このSAOじゃ、中々の強敵なんだよな」

レイナ「……このソードアート・オンラインでは、亜人族を含む、人型のモンスター全般が、剣や斧を装備していて、ソードスキルを使用してくるからね」

レイナが俺の方を見ながら、俺の言った事の意味を、的確に答えてくる。

俺「あのクエストの山賊連中もそうだったしな。ソードスキルは、通常の攻撃に比べて威力も、攻撃速度も格段に優れてる」

例え、第一層現在で使われている初等技でも無防備状態でクリティカルを食らえば、それだけでHPケージを著しく失う致命傷になり得る。

キリト「少し良いか?」

俺とレイナがそんな事を話していると、キリトが俺の肩を軽く叩きながら声を掛けてきた。

俺「戦いの前の打ち合わせか?」

キリト「ああ、俺が奴らの長柄斧(ポールアックス)をソードスキルで跳ね上げさせたら、アスナがスイッチで飛び込む手筈になってるんだ」

俺「なるほどね、そっちはそっちで息の合ったコンビで上手くスイッチするから、俺達は俺達でやればいいわけか?」

キリトは無言で首を縦に振った。無論、俺とレイナもこの一ヶ月で何度もソードスキルを使ったスイッチはやっているので、無理にキリトやアスナと合わせるよりはその方が俺達としてもやり易い。

ディアベル「―――行くぞ!」

と、ディアベルは左手を大扉の中央に当てて、短く一言だけ叫び、思い切り押し開けた。

扉の先のボス部屋は、長方形の空間だった。左右の幅はだいたい二十メートル、扉から奥の壁が百メートルと言ったところだった。

ほぼ暗闇に包まれていたボス部屋の左右の壁で、音を立てて松明が燃え上がった。松明は次々に奥へ向かって数を増やしていく。
ボス部屋がだいぶ明るくなってくるにつれて、ひび割れた石床や壁。各所に飾られた大小無数のドクロ。
部屋の最奥部には巨大な玉座が置かれていて、そこに何者かのシルエットがあった。

A隊を筆頭に総勢46人の攻略部隊は一気に大部屋に雪崩込む。A隊が玉座との距離が2メートルを切った途端に、それまで微動だにしなかった巨大なシルエットが高く飛んだ。

空中で一回転し、地響きと共に着地し、そしてそいつは吠えた。

『グルルラアアアアアッ!!』

俺「コイツが……第一層のフロアボスか!」

レイナ「正式名称『イルファング・ザ・コボルドロード』ね」

一応、モンスターの名前はカーソルの下に表記されているのだが、アルファベットで書かれているので俺には読めないが、事前の攻略会議で何と呼べばいいのかは俺でも分かっていた。

コボルドロードは2メートルを軽く超える巨体で、赤金色に輝く隻眼。右手に骨を削って作った斧、みだり手には革を張り合わせたバックラーを携えて、腰の後ろには差し渡し一メートル半ほどの湾刀(タルワール)を差していた。

コボルドロードは、右手の斧を高々と掲げると、A隊リーダーに向けて叩きつけてきた。それを、分厚いヒーターシールドが受け止めて、強烈な衝撃音が響き渡った。

そして、その音を合図にするように、左右の壁の高い所から開いた穴から、三匹の重武装モンスターが、取り巻きのルインコボルド・センチネルが出現した。

こいつらはキバオウ率いるE隊と、それを支援するG隊が三匹に飛び掛かり、タゲを取る。俺達4人パーティーはその取りこぼしを倒せばいいと言うわけだ。


そして、12月4日午後12時40分。ついに最初の対ボスモンスター戦闘が開始された! by立木ナレ


イルファングのHPケージは4段。三段目までは右手の斧と左手の盾を武器にするが、4段目に突入すると、それらを捨てて、腰のタルワールを抜いて、そこから攻撃パターンが変わると言うのが、アルゴの攻略本に掛かれていた情報だった。

E隊とG隊からこぼれてくるセンチネルコボルドの相手をしつつ、俺は一度最前線の様子も確認してみるが、戦術は今の所、狂いが生じている様子はなかった。

レイナ「……あの人たちが気になるの?」

俺「いや、ディアベルに限らず、どいつもこいつも第一層のフロアボスとやり合うには十分なレベルと装備になってるはずだ、心配しなくたってやられやしないだろ」

コボルドロードと戦っているディアベル達に視線を向けている事に気が付いたレイナが、声を掛けてきたので、俺は特に気にしていない事を強調するようにそう答えておいた。


※ ※ ※


コボルドロードとその取り巻きVS46人のプレイヤーの戦いは順調に進んでいった。
ディアベルのC隊が一本目のHPケージを、D隊が二本目のケージを削り、現在はF隊とG隊がメイン火力となって三本目を半減させていた。

今の所はA隊とB隊メンバーが何度かHPをイエローまで減少させた程度で、レッドゾーンの危険域まで減少した者は誰もいない。

俺が背後からの斬り下ろしで弱らせて、さらにレイナが三匹目の獲物に止めのソードスキルで倒したルイコボルド・センチネルはこの場所でしか沸かないレアモンスターでもあり、ボスほどではないが経験値と金を大量に落としてくれる。

金はレイドパーティー全員に均等に分配されるわけだが、経験値の方はそのモンスターを倒すのに共闘したプレイヤー同士だけで分配され、ドロップアイテムは最後の一撃を命中させたレイナがそれを得る事になる。

俺「良い動きだぞ、その調子で、次々に出てくるセンチネルを片っ端から倒してやれ!」

レイナ「……私達が倒すのはあくまで、E隊とG隊の倒し損ねの討伐」

確かに俺が少し調子に乗って、キバオウたちが苦戦しつつも、何とか倒そうとしていたセンチネルにソードスキルを叩き込んで止めを刺した時は、キバオウも口に出しては言わなかったものの、あまり面白くなさそうな顔でこちらを睨んでいたのを俺は覚えている。

流石に何度もそれをやると、『ジブン、でじゃばり過ぎやろうが!!』とか怒鳴り付けてきそうなので、ここは立場を弁えて、従来通りの役割に徹するとしよう。
そもそも俺とレイナのフロアボス戦での最大の役目はキリトがラストアタックボーナスを決めるのを阻止する事にあるのだから。

今思えば、ディアベルがキリトを含む俺達のパーティーを取り巻きのセンチネルの討伐に回したのも、キリトにラストアタックボーナスを取られるのを警戒しての措置だったのかもしれない。

「ウグルゥオオオオオ―――!!」

と、そんな時だった。三段目のHPバーを全損し、ついに最後一本を残すのみとなったコボルドロードが雄叫びを上げたのは。

同時に、壁の穴から最後のセンチネルが三匹飛び出してきた。

俺「アイツら……なにを話してるんだ?」

丁度そんな時、キリトとキバオウが、俺とレイナから離れた場所で何かを話している様子だったが、周囲の戦闘による雑音で、ここからその会話は全く聞こえず、俺も大してそんな事を気にする事なく、取り巻きのセンチネルを迎え撃つ態勢を取るのだった。 

 

FILE12 決着、コボルドロード戦!

 
前書き
今の所、一日で二度のペースで更新していますが、感想もお気に入り登録も新しい評価もなかなか得られず、凹みまくりです。

なにが良くないのでしょうかね? 意見がある方はお待ちしてます。 

 
第一層フロアボス、『イルファング・ザ・コボルドロード』との戦いは、一人の戦死者も出すことなく、ボスの4本のHPバーの内3本を全損させ、最後の一本のHPバーを残すのみとなったコボルドロードは右手の斧と左手の盾を同時に投げ捨て、高らかに吠え、新たなる武器を抜こうとしていた! by立木ナレ


ディアベル「下がれ、オレが行く!」

ボスの無敵モーションが終了し、戦闘が再開されると同時にタゲを取ったディアベルが落ち着いた動作で、単身でボスの初激を捌こうとしていた。

俺「このままいけば、依頼は楽に完了しそうだな」

ここからは、極力ディアベル自身がソードスキルをコボルドロードに浴びせ続けて、より確実にラストアタックボーナスを決める算段なのだろう。

キリト「あ……ああ…………!」

俺「は?」

俺の少し離れた所で、いきなりキリトが喉から、引き連れたような声を漏らしていた。いきなり、なにを言おうとしているんだと俺が思った時だった。

キリト「だ……だめだ、下がれ!!全力で後ろに跳べ―――――――――ッ!!」

俺「ッ!?お前……いきなり何を叫んで―――」

俺はキリトがなぜ叫んでいるのか、ふとキリトがベータテスターである事と、アルゴの攻略本には、コボルドロードに関する情報はあくまでベータ版に則った情報であると注意書きが記されていた事を結び付けて、その理由に目星がついた。

俺「まさか、ベータの時と違うのか!?」

キリト「そうだ!あの武器は俺がベータの時に見たタルワールとは違う!あ……あれは、恐らくは……」

キリトの叫び声はディアベルには届かなかったようで、コボルドロードは垂直に飛んだあと、空中で身体を捻り、タルワールとは明らかに違う刀に威力を込めたかと思うと、落下すると同時に、蓄積されたパワーが、深紅の輝きに形を変えて竜巻の如く放たれた。

ディアベル率いるC隊のプレイヤー6人が、コボルドロードのソードスキルを食らい、HPバーは注意域のイエローゾーンにまで一気に減少した。

俺「範囲攻撃なのに、一撃であそこまでの威力があるってのかよ!?」

レイナ「……それに、スタンしてる」

俺「ああ、あれだな……」

床に倒れ込んだ6人の頭の上を回転する黄色い光は、一時的行動不能状態である、バッドステータス、スタンの証拠だった。

これまでの楽勝ムードから一転して、唐突に訪れた予想外の窮地に、前衛の隊のメンバー達の中で、即座にガバーしに動ける者はおらず、その間にコボルドロードは、大技のソードスキル発動後の硬直から回復していた。

キリト「追撃が……」

俺「間に合わねぇ……」

前衛の方で斧使いのエギル率いる部隊が援護に動こうとしたが間に合わなかった。

コボルドロード「ウグルオッ!!」

再び雄叫びを上げて、両手で握った野太刀のソードスキルで狙われたのは、正面で倒れていたリーダーのディアベルだった。
ディアベルは高く宙に浮くが、ダメージはさほどではなかった。

だが、コボルドロードの動きも止まらない。ディアベルは空中で剣を振りかぶって、反撃のソードスキルを撃とうとしたが―――

俺「ダメだ!動作が不安定でソードスキルが発動しない!」

そして、巨大な野太刀がディアベルを正面から襲った。

レイナ「……ディアベルからの依頼は失敗ね」

俺「…………」

レイナの、感情の籠っていない、冷淡な言葉の意味は、ディアベルがコボルドロードのソードスキルによって止めの一撃を食らい、その身体を青いガラスの欠片へと変えて四散、その命を散らしたことを意味していた。


※ ※ ※


その声は悲鳴なのか……もしくは叫び声なのか……どちらにせよ、ボス中に満ちたのは、レイドパーティーのリーダーであったディアベルが戦死した事による悲劇的な叫び声である事に違いはなく、それはパーティーの崩壊の危機である事を暗示する予兆でもあった! by立木ナレ

レイナ「……理解不能。なぜ、この状況で戦闘態勢を崩す者が現れるの?」

ディアベルの死によって多くの物が、武器を縋るように握りしめて、両眼を見開き、まともに動こうとしなくなる。

逃げるべきか戦うべきかの判断が付かなくなっているのだろうが、レイナはそんな奴らの精神的な混乱による動作の停止も理解不能と一蹴する。

だが―――

俺「お前が正しいな」

レイナ「…………?」

こうなった以上、俺の目的は当初の予定通りだ。フロアボスはここで倒すが、肝心のラストアタックボーナスを決めるのは、ディアベルが死んでしまった以上、キリトにその役目を担ってもらうのが俺にとって一番だ。

そうすれば、キリトが手に入れるレアドロップアイテムは、俺が奴を強請り、大量の金と共に徴収する事が出来るのだから。

そして、そのキリトはと言うと、他のプレイヤー達と共に、膝を突いていたE隊のリーダーであるキバオウの左肩を掴み、無理やり引っ張り上げていた。
そして、キバオウと何か言い合った後、俺は一瞬だけ《聞き耳》スキルを発動し、確かに奴が自分の口からそう宣言するのを聞いた。

キリト「……ボスのLAを取りに行くんだよ」

そうだ、それで良い。こうなった以上、ボスのLAを取るのはお前だ、そしてお前が手に入れた、ゲーム中で一つしか存在しないレアドロップアイテムは後で俺が貰うんだ。


ディアベルの死により、オズマ自身にとっても計画がとん挫したものの、すぐに頭を切り替えて、キリトにLAボーナスを取らせる計画に移行!―――それには是が非でも、ここでボスを倒さなくてはならない! by立木ナレ


レイナ「……キリトがLAを取るのを可能な限りサポートすれば良いのね?」

俺「そうだ、他の奴には極力LAを取らせるな……無論、いっその事俺達がLAを決めるってのもありだが、さっきのコボルドロードがベータの情報と違う武器を使って来たように、アルゴの攻略本の情報にない行動を取って来るパターンが幾らでも考えられるから、リスクは避けられるだけ避けた方が良い」

レイナ「……けど、ボスを倒すのは、私達のパーティーだけでは不可能よ」

無論それは当然だ、この状況下でパーティーのパニック状態を鎮めて、まともな戦闘が出来る状態に戻さなくてはならない。

その時、俺の前を激しくはためくフード付きケープを邪魔そうに掴み、一気に引き剥がしたパーティーメンバーが目の前を走り去った。

俺「あれがアスナか……」

レイナ「……初めて素顔を晒したわね」

長い髪を靡かせて疾駆するアスナの姿は、恐慌状態のプレイヤー達ですら、その美貌に目を奪われて沈黙する程だった。
俺のすぐ隣にいる、薄いピンク色の髪と、黄色い瞳のレイナにも引けを取らない美少女ぶりだった。

キリト「全員、出口方向に十歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

キリトの叫びを合図に、最前線のプレイヤー達が一斉に後方へ動き出していた、それを追うようにコボルドロードも体の向きを変えて並んで走るキリトとアスナと正対していた。

俺「レイナ、アイツらがスイッチで連続でソードスキルを叩き込むはずだ!奴らの相手をしてる所に、まずは可能な限りHPを削れるところまで削るぞ!」

レイナ「……分かった」

前方ではキリトの片手剣基本突進技《レイジングスパイク》の軌道とコボルドロードの野太刀の軌道が交差し合っていた。
キリトとボスはお互いの剣技を相殺させて二メートル以上もノックバックし、そこで生まれタスキをアスナが――――

アスナ「セアアッ!!」

細剣の高速突刺技の《リニアー》でコボルドロードの右腹を撃ち抜いていた。

俺「オラァッ!!」

俺はコボルドロードの背後に回り、Vの字斬りの2連撃技の《バーチカルアーク》を叩き込んだ。このソードスキルは、現時点で俺が唯一、使用する事が出来る連続技のソードスキルで、V時の斬撃がコボルドロードに刻み込まれる。

そして、手筈通りに攻撃は続く。コボルドロードは背後からソードスキルを叩き込んだ俺に狙いを向けるが、すぐにその隙をレイナが狙いを付ける。

レイナ「…………」

レイナが上段ダッシュ技の《アバランシュ》による、突進しながらの斬り下ろしをお見舞いしていた。


ボスモンスターは、その巨体故に複数人で同時攻撃が可能と言うのがプレイヤー側の大きな優位性であった。
それ故にキリトは、出来ればもう数人のアタッカーがいる事でさらに追撃のソードスキルを続けられる事を望んでいたが、背後に下がったA~G隊までのパーティーは殆どがHPを大きく減らしており、ポーションでの回復が済むまで呼ぶわけにはいかず、それ故に、キリト、アスナ、オズマ、レイナの四人でやれるところまでやるしかない! by立木ナレ


キリト「しまっ……!!」

キリトはコボルドロードの攻撃を、自身のアニールブレードで相殺し合うギリギリの綱渡りの打ち合いを続けていたが、それも15回目くらいで途切れていた。

アスナ「あっ……!」

俺「不味い、キリトがやられたら――――」

既に、コボルドロードの真下から跳ね上がった野太刀が、キリトの身体を正面から捉えていた。その鋭い衝撃で俺のウィンドウで常に表示されている、キリトのHPケージは三割以上が減っていた。

吹き飛ばされたキリトの代わりにアスナがコボルドロードに突っ込んでいたが――――

エギル「ぬ……おおおっ!!」

太刀がアスナを襲う寸前、雄叫びを轟かせて、巨大な両手斧ソードスキルのワールウインドが回転する両手斧と激突していた。

エギル「あんたがPOT飲み終えるまで、俺達が支える。ダメージディーラーに何時までも(タンク)やられちゃ、立場無いからな」

キリト「…………すまん、頼む」

キリトは短く答えて、回復ポーションを取り出していた。前進してきたのはエギルだけではなく、エギルのメンバーであるB隊をメインに数名。

俺「傷が浅かった連中から回復し終えて戻って来たのか」

エギル「ああ、こっからは、俺達が壁をやるから、アンタも出来るだけ、HPに余裕があるうちは奴のHPを削るのを続けてくれ」

俺「分かった」

レイナ「…………」

俺は短く返事をして、レイナは無言で首を縦に振った。

キリト「ボスを後ろまで囲むと全包囲攻撃が来るぞ!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!無理にソードスキルで相殺しなくても、盾や武器できっちり守れば大ダメージは食わない!」

エギル「おう!!」

エギル達6人のパーティーは、キリトの指示通りイチかバチかの相殺は挑まずに、盾や大型武器でガードに徹していた。
奴らは元々(タンク)型のビルドのプレイヤー達だからかHPも防御力も高いが、それでもボスの放つソードスキルを0ダメージに抑えるまでには至っていなかった。

そんなエギル達の間を俺とレイナとアスナが、決してボスの正面と後背には回らず、そしてコボルドロードが少しでも硬直すれば、その隙にソードスキルを叩き込むを繰り返す。

それをやっていると、ボスのヘイトが俺達に向けられるが、壁の6人が威嚇(ハウル)などの幾度か使用してターゲットを取り続ける。

そして、ついにボスのHPが残り三割を下回り、最後のゲージが赤く染まった頃、一瞬気が緩んだのか、壁役の一人が脚をもつれさせて、よろめいて、立ち止まったのはコボルドロードの真後ろだった。

俺「そこから動け!」

だが、それは僅かに間に合わなかった。コボルドロードはそれを取り囲まれた状態と認知したのか、キリトが警告した通り、範囲攻撃のソードスキルのモーションに入る。

レイナ「……旋車(つむじぐるま)がくる」

俺「させるかっ!」

俺は残りのHPが辛うじてまだ、5割以上のグリーンゾーンである事を確認して、地面を蹴り付けるように飛び出し、片手剣突進ソードスキル《ソニックリーブ》を使った。
軌道を上空にも向けられるソードスキルだった。

キリト「届……けぇ―――ッ!!」

俺と同じことを考えた奴がもう一人いた、しかもそのキリトはまだHPの回復が全快していないにも関わらず、ジャンプの頂点に達したコボルドロードに向けて、アニールブレードの切っ先をツムジグルマを発動寸前のコボルドロードの左腰を捕らえていた。

そして、丁度俺のソニックリーブはコボルドロードの右の脇を狙っていた所だった。

鋭い斬撃音の次の瞬間、コボルドロードの巨体は空中で傾き、必殺の竜巻を発動しないまま床に叩きつけられていた。あれは、人型モンスターにある、特有のバッドステータスの転倒(たんぶる)状態だった。

俺とキリトは、どうにか倒れる事無く着地し、その直後に大声でキリトが叫ぶ。

キリト「全員―――全力攻撃!!囲んでいい!!」

エギル「お……おおおお!!」

レイナ「…………」

エギル達6人が叫びながら倒れたコボルドロードを取り囲みながら、ソードスキルを同時発動していた。レイナは、そんなエギル達とは対照的にやっぱり、無口で淡々とした表情のまま、ソードスキルを発動していた。

俺「だが―――いくらなんでも目立ち過ぎじゃないのか?」

俺の小さな独り言は、キリトに対して向けられた言葉だったが、それはキリトには聞こえてなかった。ディアベルが死んでからのキリトのパーティーに対する指揮は今の所、的確だと言い切れる。
だが、その的確な指揮は殆ど、コボルドロードが攻略本の情報とは違う技や行動パターンを概ね把握している事を熟知しているならではの命令だ。

これでは流石に――――

俺「俺はベータテスターですって言ってるようなもんじゃないか?」

俺以外のプレイヤーの中からキリトがベータテスターである事に気が付いてしまう者が現れたら、俺がキリトを強請る計画は綻んでしまう。
この計画はキリトがベータテスターである事を知っている者が極力少ない状態であるからこそ意味があるのだから。

キリト「アスナ、最後のリニアー、一緒に頼む!!」

アスナ「了解!!」

そんな俺の懸念に、キリトがどのくらい気が付いているのか分からないが、アスナに指示を飛ばしながら、ボスに向かって走っていた。

ボスの残りHPは僅か3%、レイナとエギル達はソードスキル発動後の硬直で動けない。このままいけば、俺の目論見通りキリトがLAボーナスを決めてくれる可能性はかなり高い。

キリト「お……おおおおッ!!」

俺がコボルドロードに食らわせたソードスキルと同じ、V字の軌道を描く、片手剣二連撃技のバーチカル・アークがコボルドロードの残りのHPゲージの最後を削り切り、ボスの巨体は無数のひびが入ったかと思うと、バラバラの硝子破片と変えて四散したのだった。 
 

 
後書き
ようやく、第一層フロアボス戦の終了です。ですが、次回はまだボス戦後の一騒動になりますね。 

 

FILE13 忌むべき者、ビーター誕生

ボスが消滅すると同時に、後方に残っていたセンチネル達も四散!……その直後、そして、全プレイヤーの視界に同じメッセージが表示される。
それは獲得経験値、分配されたコルの額、そして獲得アイテム。それを見て、その場にいた者たち全員が、ようやく顔に表情を取り戻し、一瞬の溜めの直後に巨大な歓声をあげる!! by立木ナレ



エギル「見事な指揮だったぞ。そしてそれ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はアンタの……あんた達の物だ」

荒らしの様な人影の中から俺とキリトの近くに近づいてきて、そう言いながら右手の握りこぶしを突き出してきたのは両手斧使いのエギルだった。
俺はそれに合わせるように右手の拳を合わせながら言った。

俺「俺達だけで勝てたわけじゃない。これだけの戦力があったからこその勝利さ……んで、コングラチュレーションってなんだ?」

エギル「あ……ああ、それはな……」

俺の質問に対してエギルが妙に困惑したような表情を浮かべていた。大方、何かしらの英語なんだろうが、無論そんなの俺が知っているわけがない。

レイナ「……日本語に訳すと、おめでとう、と言う意味よ」

エギル「あ……ああ、そういう意味だ」

答えてくれたのはレイナだった。そんなやり取りを見ていたキリトが苦笑した後、エギルに拳を合わせようと右手を持ち上げかけた。

その時だった。

「――――なんでだよ!!」

突然、そんな叫び声が後方から弾けたのだった。その叫び声によって、広間の歓声は一瞬で静まり返った。

俺「あのシミター使いって、C隊の……ディアベルの部隊のメンバーだっけか?」

レイナ「……リンドよ」

レイナは、会って二日、三日で、しかも他のパーティーのプレイヤーの名前もしっかりと覚えていたようだった。
そんなレイナの記憶力の良さに感心している場合でもなく、シミター使いは限界までゆがめられた口から更に叫ぶ。

リンド「――――なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

今の言葉で、その叫び声がキリトに向けられたものである事は直ぐに分かった。リンドの背後でも、残りのメンバー4人が顔をくしゃくしゃにして立っていた。
中には泣いている者もいる状態だった。

キリト「見殺し……?」

リンド「そうだろ!!だって……だってアンタは、ボスの使い技を知ってたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

血を吐くような叫びに、残りのレイドメンバー達のざわめきだしていた。そして、そのざわめきは徐々に広がりを見せていく。

て言うか、この状況は不味い。キリトがディアベルに代わって指揮を執っていた時点で、恐らくリンドを始めとした一部の者達は、キリトがあまりにも刀を使った技に関して知っているような事を何度も口走っていたので、それでキリトがベータテスターであると勘づいている者が現れ始めたかもしれない。

俺は心の中でキリトに、『上手く言い逃れろ!』と念じるが、それがキリトに通じるわけも無く、無言のまま強張った表情をしたままだった。

「オレ……オレ知ってる!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」

ついに、俺の懸念していた事態が現実になりつつある。だが、E隊のメンバーのその言葉を聞いても、ディアベルが率いていたC隊のメンバー達の顔に驚きはなかった。

俺「やっぱり、初見のはずの刀スキルを見切ってた時点で確信してやがったか……」

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあったろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」

「そ、それは……」

エギルのメンバーだったメイス使いが冷静な声で右手を上げながらそう言うと、E隊のメンバーは押し黙るが―――

リンド「あの攻略本が嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ。アイツだって元ベータテスターなんだかららタダで本当の事なんか教えるわけなかったんだ」

キリトはいったいこの状況をどうやって言い逃れるつもりなんだ?と言うか、言い逃れてもらわなくちゃ、ここでキリトがベータテスターである事が確定してしまったら。
キリトがベータテスターであると言う証拠の記録結晶を使ってキリトを強請って、キリトが持っている金や、キリトがさっき手に入れたであろうレアドロップアイテムを手に入れる計画が水の泡になってしまう。

エギル「おい、お前……」

アスナ「あなたね……」

沈黙し続けるキリトの背後で、エギルとアスナが同時に口を開いて何かを言おうとした時だった。いきなりキリトは二人を、両手の微妙な動きで制した。

そのまま前に一歩歩み出て、腹立たしい程にふてぶてしい表情でリンドの顔を眺めてから告げた。

キリト「元ベータテスター、だって?……俺を、あんな素人連中と連中にしないで貰いたいな」

リンド「な……なんだと……?」

俺「こ、コイツ……!」

いきなり何を言い出すんだこいつは!?俺のそんな慌てふためきそうな意図に構う事なくキリトは語り続ける。

キリト「SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人の内、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う。ほとんどはレベリングのやり方も知らないニューピーだったよ。今のアンタらの方がまだしもマシさ」

侮蔑極まりないキリトの言葉に、プレイヤー達が一斉に黙り込む。

キリト「―――でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はベータテスト中に、他の誰もが到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知ってたのは、ずっと上の層で刀を使うMobと散々戦ったからだ。他にもいろいろ知ってるぜ、アルゴなんか問題にならないくらいにな」

「…………なんだよ、それ……そんなの……ベータテスターどころじゃねぇじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

周囲から、そうだ、チーターだ、ベータ―のチーターだ、と言う声が幾つも湧き上がる。その言葉が混じり合ううちに、《ビーター》とか言うおかしな単語が響き渡るようになっていた。

キリト「……《ビーター》、良い呼び方だなそれ」

俺「まさか……こいつ!?」

キリトのにやりとした笑いを見て、俺は確信した。キリトの狙いが何なのかを!

キリト「そうだ、俺はビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」

コイツは、自ら情報を独占する汚いビーターとなる事で、他のベータテスター達への憎しみや敵意が向くのを避けると同時に、自分がベータテスターだと言う事を公言したことによって、もう俺がこいつを記録結晶に録音した音声をネタに強請る事も出来なくしやがったんだ!!

そしてキリトは、今まで装備していた革コートの代わりに、先程ボスからドロップしたのだろう、漆黒の革製品のロングコートを装備した。

それは、俺がこのゲームを始めてから一週間近く、色んなモンスターを倒しながら、四苦八苦してようやく集めた素材アイテムで作り上げて、今装備している灰色の防具の『ダーク・スカイコート』の漆黒バージョンと言った感じのデザインだった。

キリト「二層の転移門は、俺が有効化(アクティブベート)しといてやる。この上の出口から主街区まで少しイールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟しとけよ」

ボス部屋の奥にある小さな扉を開けようとするキリトをエギルとアスナがじっと見ていた、あの二人もキリトが自ら憎まれ役を担った事を知っている様子だった。それにキリトが気付いているかどうかは知らないがな。

そしてキリトは、玉座のすぐ後ろの第二層に繋がる扉を押し開ける直前に、俺の方を振り向いて、冷めた目付きで言った。

キリト「例の話だけど、やっぱり交渉は決裂って事で頼むよ。あの記録結晶は好きに使ってくれて構わない。」

俺「そりゃそう言うだろうな……もう隠す必要なんて無いだろうに……」

そして、このボス部屋にいる殆どのプレイヤー達から敵意の籠った視線を背に受けながら、キリトは第二層に続く部屋へと姿を消したのだった。
それから10秒ほどの沈黙が続き、誰かが何か言葉を発するのを、皆待っているような状態が続いたと思った時だった。

モック「アスカさん!23歳の誕生日、おめでとーございますですぞぉ――――――――!!」

ガチャモン「モックったら、相変わらず12月の4日になるとそれで、毎年大騒ぎしちゃうんだから~」

誰かに呼ばれたわけでもなく、重苦しい空気をぶち壊すかのように、場違いに騒がしいテンションで姿を現したのは、SAOの自称マスコットキャラのガチャモンとモックだった。
今回は珍しく、ガチャモンよりもモックの方が目立っているようだったが。

キバオウ「な、なんやジブンら!?なにわけのわからん事ゆーとるんや!?」

キバオウが真っ先に噛みつくように、怒鳴り散らすと。それに対して即座にモックが、キバオウの方を振り向いて―――

モック「訳が分からないのはアンタの髪形の方でしょうが!12月4日と言えばアスカさんの誕生日!!エヴァのファンなら当たり前の事でしょーが!これだから素人は困るんですよ素人は!!」

キバオウ「知らんわボケ!」

まぁ、モックが何に騒いでいるのか、それは俺は大体分かるが、態々そんな事を告げる為にこいつらはボス戦直後の俺達の前に現れたとでも言うのか?

アスナ「用が無いなら帰って!貴方達に構ってる時間なんて一秒たりとも無いわ……!」

アスナがガチャモンとモックを睨み付けながら、鋭利な細剣に劣らず、鋭さを帯びた口調でガチャモンとモックにそう言い放つ。

エギル「そもそも、お前らはいったい何者なんだ?大勢のプレイヤー達が言ってるように茅場晶彦の仲間なのか?それとも―――全く関係の無い外部の者なのか?」

ガチャモン「元ベータテスター、だって?……僕を、あんな素人連中と連中にしないで貰いたいな」

俺「誰もそんな事ねーだろ……」

レイナ「……それに、その台詞はキリトがさっき言った言葉よ」

まるでエギルの質問の答えになっていないガチャモンの返答に対して、プレイヤー達の苛立ちが更に増長し始めているのが、ハッキリと感じされる。

ガチャモン「あれ?もしかして二番煎じだった!?いやぁ~、恥ずかしいな~……キリト君に先を越されちゃったか~」

俺「何をわざとらしく言ってんだよ……どーせ、さっきのやり取りだって聞いてたんだろうが」

大方、こいつらは俺達の側にいようが、いまいが、このゲーム内に存在するプレイヤー達の会話は何時でも自由に聞く事が出来るんだろう。
少なくとも、ゲームのシステムに干渉する権限を――どの程度かは知らないが有してるはずだ。

アスナ「私、ちょっと彼を追います、言いたい事とか沢山あるから」

エギル「なら、伝えてくれ。『二層のボス攻略も一緒にやろう』ってな」

先に第二層に向かったキリトを追おうと、アスナが扉に向かおうとしたところを、エギルが呼び止めて、伝言を伝えていた。

キバオウ「ワイからもええか……?」

アスナ「構わないわ」

意外な事に、キリトに対して露骨に敵意を向けていたと思ったキバオウもアスナに対してキリトへの伝言を頼もうとしていた。

キバオウ「『今日は助けてもろたけど、ジブンの事はやっぱり認められん。ワイは、ワイのやり方でクリアを目指す』やな」

そうか、キバオウも恐らくは、キリトが自ら憎まれ役を買って出た事に気が付いたらしい。アスナは無言で頷くと今度こそ、第二層に続く扉を開けた時だった。

ガチャモン「あ、なんか面白そうだから僕も一緒にお供して良いかな?」

モック「ちょっとちょっと!アスナさんにはこれから始めるアスカさんの23歳の誕生日パーティーに招待するんですから、そんな場合じゃないですぞ――!!」

アスナ「どっちもお断りよ!貴方達は邪魔だからどこかに消えなさい!!」

ボス部屋全体に響き渡る声で、ガチャモンとモックを怒鳴り散らして、アスナはそのまま扉の奥に消えていったのだった。

レイナ「……オズマ、これからどうするの?」

レイナが俺の傍にゆっくりと歩いてきて、普段と変わらない表情のまま、そう聞いてくる。レイナも俺達がキリトを強請る計画が既に失敗している事には気が付いているはずなのだが、そんな事を全く気にするそぶりも見せないほどに、その表情は冷静で焦りの一つも感じさせぬほどだった。

俺「奴のアイテムと金を根こそぎ頂く計画は失敗した……けど、第二層の転移門までにあるアイテムやら金を根こそぎアイツに全部持って行かせるのは癪だからな……」

レイナ「……なら、すぐに行かなくちゃね」

俺とレイナは、ボス部屋でこれからどうするかを決めかねているプレイヤー達の中から先立つ形で、ボス部屋を後にし、第二層を目指すのだった。


オズマのキリトをベータテスターである事をネタにし、キリトから金とアイテムを強請る計画は完全に破綻!!
ディアベルから依頼報酬を受け取る事も、キリトから金とアイテムを得る事も叶わず仕舞いとなってしまった!
そして、キリトは多くのプレイヤー達から忌み嫌われるビーターとして、ソロプレイヤーとしての行動を再開したのであった…… by立木ナレ

 

 

FILE14 SAO初の鍛冶屋

第一層フロアボス『イルファング・ザ・コボルドロード』が討伐され、第二層が解放されてから3日後の、2022年12月7日。
ここは第二層の主街区のウルバス付近のフィールドでの出来事であった! by立木ナレ



レイナ「……オズマ、片手直剣の武器をドロップしたわ」

俺「どんな武器だ?」

レイナ「名称は『ウエイトソード』よ」

俺とレイナはウルバスの比較的近い狩場で、第二層のモンスター達を狩り続けていた時だった。レイナが撃破した、蝗型のモンスターが俺が使用しているカテゴリーの武器である片手直剣をドロップした。

さっそく、見たことの無いその武器をヘルプ機能で詳細を見てみた結果、その片手剣は武器としての性能は俺が今持っている『フェザーソード+6』に比べて大幅に見劣りしており、しかも強化可能可能回数は4回までで、これでは素材アイテムを消費して強化しても結局のところ、今まで通りフェザーソードを使い続けていた方がよっぽど戦力になるわけだが、この武器の特徴は武器としての強さそのものではなかった。

俺「この武器でソードスキルを使ってると、熟練度の上昇値が従来の1.5倍になるのか……これはこれで便利だな」

レイナ「……まだ、第二層周辺のモンスターなら、この『ウエイトソード』でも、ある程度強化すれば問題なく今までの様に倒せると思う」

レイナの言う通り、第一層で安全マージン以上にレベルを上げて、既に俺のレベルは13になっており、ハッキリ言って第二層の雑魚Mob相手には過剰な位の高レベルと言えるくらいなので、武器が今よりも弱い剣になったところで、それで苦戦するような事は殆ど考えられないだろう。

流石にフィールドボスやフロアボス級のモンスターとやり合う場合は、フェザーソード+6で戦わざるを得ないだろうが。


そして、オズマとレイナは早速、手に入ればかりのウエイトソードを強化するべく、ウルバスに戻り、鍛冶屋のNPCに強化を依頼しようと訪ねようとした時だった。
オズマとレイナがNPC鍛冶屋のすぐ近くで見つけたのは、《ベンターズ・カーペット》と言う、街中の路上で広げる事で、そこを簡易的なプレイヤーショップにする事が出来る、それなりに値段の張る、駆け出し商人系プレイヤーには必須アイテムを広げている、一人の小柄なプレイヤーであった。

俺「あれって、プレイヤーの鍛冶屋か?」

レイナ「……看板にもそう書いてある」

第一層では鍛冶スキルを取っているプレイヤーは最前線にも、はじまりの街でも、いなかったようだが、ここにきてようやく鍛冶スキルを習得するプレイヤーが現れたようだった。

一般的に、大抵のMMOでは、NPCの鍛冶屋に比べて、プレイヤーの鍛冶屋の方が強化の成功率は高いので、値段にもよりけりだが、プレイヤーの鍛冶屋に頼めるのだとしたら、その場合はプレイヤーの鍛冶屋に頼んだ方が良いのがセオリーだ。

俺は直ぐに早速プレイヤーの鍛冶屋に頼む事を決めて、オブジェクト化した状態のウエイトソードを鍛冶屋のプレイヤーに差し出した。

俺「強化を頼みたいだけど」

鍛冶屋「では、プロパティを拝見させて頂きます」

俺のウエイトソードを受け取った鍛冶屋は小柄で、年齢も俺とだいたい同年代と思わしきプレイヤーだった。

鍛冶屋「ウエイトソード……試行可能回数は4回ですか。ソードスキルの熟練度の上昇を早めてくれる効果持ちの武器なんですね」

俺「ああ、だけど、このまま使ってると流石に心許ないって言うか……今よりも、雑魚モンスターを倒すにも時間が掛かったりして効率が落ちそうだからな、せめて今よりもプロパティを上げたくてな」

そして、俺は武器強化の内訳を鍛冶屋に説明して、強化に必要な料金も事前に聞いた上で了承した。強化成功率は、今ある素材で85%なので、失敗する可能性はたまにある程度だ。

鍛冶屋「それでは、強化を始めます」

鍛冶屋は左手に握られた剣を、カーペットに並ぶ商品の数センチ上にぶら下げる。そして、鍛冶屋のハンマーがウエイトソードをカァン!カァン!と叩くたびに金属音が広場に響き渡る。

そして―――数秒後には……

鍛冶屋「成功しました。ウエイトソードは+1に強化されましたよ」

俺「良いぞ、その調子でどんどん強化してくれ。次は+2だ、強化素材はちゃんとこっちで用意してあるからな」

まずは+1への強化は当たり前のように成功した。+2、+3と強化の段階が高まるにつれて、強化成功率を高めるのに必要な素材と種類は増えてくるわけだが、第2層が解放されてからの3日間の狩りやクエストで強化素材はかなり溜まっているので、+4くらいまでなら充分足りるだろう。


オズマの考え通り、ウエイトソードの強化は順調に進んだ。ウエイトソードは+1から+2へ、更に+3へと強化され、後はプラス4への強化を残すのみ!
まさに圧倒的絶好調!―――当然、オズマはプラス4への強化も鍛冶屋へと依頼をする! by立木ナレ


鍛冶屋「では、ウエイトソードの最後の強化を実行しますね」

俺「ああ、成功率は相変わらず85%だからな。よっぽど運が悪くない限りは+4になるはずだ」

やはりNPCの鍛冶屋に比べて、強化の成功率は高く。難なく、一度も失敗もする事なく、ウエイトソードは+3までの強化が進んだ。

俺は再び、ウエイトソードの強化を鍛冶屋に頼み、鍛冶屋は再びハンマーを振り上げると、カァン!カァン!と、聞き慣れた金属音を響かせながら、ウエイトソードを叩く。

俺「ウエイトソードが+4になったら、これで周辺のモンスター相手に狩りして、ソードスキルの熟練度を効率よくアップさせてやるか」

レイナ「……オズマが早く新しいソードスキルを覚えれば、私も戦いで助かるわ」

俺「ああ、お前の為にもな……って、そんな冗談はお前には通用しないんだった――――」

気障なセリフを言ってみて、レイナが全く表情を変えないのを見て、俺が苦々しい顔でそう言った矢先だった。
俺とレイナ、そして鍛冶屋の目の前で、俺が強化を依頼したウエイトソードは―――済んだ金属音を放った瞬間、切っ先から柄に至るまでが粉々に砕け散った。

俺「…………」

レイナ「…………」

鍛冶屋「…………」

数秒間、当事者である俺達は突如として起きた、予期せぬ強化中の武器の消滅と言う事態に、何の反応も示せずにいた。
これは、なんだ?システムエラーかなにかか?だったら運営にマスターコールでもすればいいのか――――バカな、そんな事が出来るわけがないんだ。
このデスゲームと化し、外部との一切の連絡が取れなくなったソードアート・オンラインにはな。

鍛冶屋「す……すみません!すみません!手数料は全額お返ししますので……本当にすみません……!」

鍛冶屋はその場で額に頭を擦りつけて、謝罪を連発する。

俺「手数料の返還は勿論だがな、こいつはいったいどう言う事だ?武器の強化に失敗したってのは、だいたい分かるがな、なんでそれで武器が消えるんだ?」

俺が今でも、どうにか覚えている、ベータ版のSAOの公式サイトにあったプレイマニュアルには、強化失敗によるペナルティで武器が消えるなんてのは無かったはずだ。

確か、強化失敗のペナルティは……

レイナ「……強化失敗のペナルティは《素材ロスト》《プロパティチェンジ》《プロパティ減少》その三つだけのはずよ」

俺が強化に失敗した場合のペナルティを思い出そうとしていたら、そこは俺よりもゲームシステムに熟知しているレイナがスムーズに説明をしてくれた。

すると鍛冶屋は頭をペコペコと下げて、視線を下に固定したまま細い声で言った。

鍛冶屋「お、恐らくですけど……正式サービス開始後か……ソードアート・オンラインがデスゲーム化した直後に、第四のペナルティが追加されたのかもしれません……確率はとても低いとは思いますけど……」

俺「そんな、俺等にとって不都合な事が……」

レイナ「……けど、それを否定できる材料も無いわ」

レイナの言う事ももっともだったので、俺もそれ以上、鍛冶屋に何かを問い詰めても無駄だと判断した。
そもそもこいつに何か言ったところで、目の前で消滅したウエイトソードが戻ってくるわけでもないからな。

鍛冶屋「あの……お詫びと言っては何ですが、ウエイトソードは持ち合わせていませんので交換は出来ないんですが……。せめて、第一層のドロップ品にはなりますけど、《ブロードソード》でしたら代わりにどうでしょうか?」

鍛冶屋が言っている、ブロードソードは第一層の迷宮区のモンスターがドロップする事がある、片手直剣だった。
現時点ではドロップ限定の武器なので、店売りしている武器よりかは強力なのは確かだが、それでも俺が装備している製造武器のフェザーソードや、キリトが持っている、クエスト限定武器のアニールブレードに比べれば今一つ見劣りする性能なのは否定できない。

俺「そうだな、それじゃ、手数料の返金と、ブロードソードを受け取る事で、この話はこれで手打ちにするか」

レイナ「……良いの、オズマ?」

俺「仕方ねーだろ。武器失敗のリスクってのは、代行する鍛冶屋じゃなくて、依頼人が負うもんだからな。それに、この店の看板には、ご丁寧に、今のスキル値での成功率がちゃんと書かれてるんだからな」

失敗する確率は確かに低かったとはいえ、その低確率が起こってしまった場合は、その確率で依頼した側が妥協した事による事故として認めるしかない。
確かに、損した気分になるのは仕方ないがな。

レイナ「……オズマがそう言うのなら、分かったわ」

鍛冶屋「……すみません……」

謝罪し続ける鍛冶屋に対して俺は「もう、謝るなって」と言ってから、ブロードソードと手数料を受け取り、店を後にしたのだった。



が、しかし!オズマのウエイトソード消失の一件の翌日の事であった。――同じく、第二層主街区のウルバスの中心部で、それは起こっていたのだった! by立木ナレ



「ふ……ふざっ、ふざけんなよ!!」

俺「誰がふざけてるってぇ~?」

レイナ「……別に、オズマに向けられた言葉じゃない」

俺「知ってるって。ただの冗談だよ……」

レイナにこういう冗談は余り通用しないらしく、何度か同じ様な事をして見たが、尽く真顔で諭されるばかりだった。
こうなると、やっているこっちが恥ずかしくなるだけだった。

「も、戻せ!!元に戻せよ!プラス4だったんだぞ……そ、そこまで戻せよっ!!」

再び叫び声、大方、プレイヤー同士のトラブルだろう。

俺「ま、街の中なら、どんだけ大喧嘩になっても、それで殺し合いにはならないから良いか」

レイナ「……犯罪防止コード圏内だから、絶対にHPは減らないわ」

俺「つーか、さっきから喚き散らしてるあの三本ツノヘルメットのプレイヤーって、ボス戦では見なかったが、第一層のトールバーナで何度か見てるから、それなりに高レベルなプレイヤーだよな?」

レイナ「……確か、仲間達にリュフィオールって呼ばれてた気がする」

俺「よく覚えてたな、そんな他所のパーティーの何気ない会話まで」

レイナ「…………」

そして、レイナ曰く、そのリュフィオールは、剣の切っ先を足元の石畳に叩きつけながら叫び続ける。

リュフィオール「なんだよ4連続で大失敗って!プラスゼロになるとか有り得ねーだろ、これならNPCにやらせたほうがマシじゃねーか!責任取れよクソ鍛冶屋!」

俺「普通、プレイヤーの鍛冶屋の武器強化の成功率は、NPCの鍛冶屋よりかは高いはずだけど、流石に4連続失敗は怒鳴りたくもなるか……」

気持は俺にも分かる、俺も初めてのロト6を試しに一口買って、あっさりとはずした時、納得がいかぬままに更にもう一口、更にもう一口と、当たるまで買い続けた結果、最終的に5等の1000円を当てるまで買い続けて、気が付けば3000円以上を注ぎ込んでいたのは、確かあれは小学校を卒業して学校に行かなくなったばかりの頃だったかな。

レイナ「……まるで、実体験があるみたいな言い方ね」

俺「人の心を読めたとしても、黙って胸の底にしまってくれ」

レイナ「……それと、あの鍛冶屋は、昨日オズマが武器強化を依頼して、大失敗した、あの鍛冶屋みたいよ」

俺「え……アイツか!?」

その割と良心的な鍛冶屋は小柄な身体で、ひたすら頭を床に下げ続けて謝り倒していた。その姿をよく見てみると、確かにそいつは昨日、俺のウエイトソードの強化に+3までは成功したのはよかったが、+4にする際に失敗して、消滅ペナルティを引き起こしてしまった鍛冶屋だった。

俺「アイツ……また大ポカしちまったのかよ。しかも今度は4回連続でプロパティ減少のペナルティとはな……本当に店の看板に書かれてた通りの成功率なのか、もしくは―――よっぽどなんか悪い貧乏神にでも憑りつかれてるんだろうな」

レイナ「アニールブレードの強化試行上限数は8回だから、+4のアニールブレードの強化に4回連続失敗して、+0になった時点で、もう強化する事は出来ない」

無論、これも予期せぬ不運によるトラブルなので、鍛冶屋に責任を押し付けるのはお門違いになるわけだが、こうも理不尽なまでの失敗が起これば、腹が立つのも無理はないだろ。

そして、怒鳴り散らしていたリュフィオールの声が途切れた。見てみれば、奴の仲間二人が駆けつけて、どうにか宥めたようだった。

「ほら、大丈夫だってリュフィオール。また今日からアニブレのクエ手伝ってやるから」

「一週間かんばりゃ取れるんだからさ、今度こそ+8にしようぜ」

なんとも、良心的な仲間達だ。そんな良心的な仲間達の説得で、ようやくリュフィオールも落ち着きを取り戻したようで、肩を落としつつも広場から去ろうとした時だった。

鍛冶屋「あの……、ほんとに、すいませんでした。次は、ほんとに、ほんとに頑張りますんで……あ、もう、ウチに依頼するのはお嫌かもですけど……」

足を止めたリュフィオールは、鍛冶屋を見ると、力の無い声で言った。

リュフィオール「…………アンタのせいじゃねーよ。……色々いまくって、悪かったな」

鍛冶屋「いえ……それも、僕の仕事の内ですから」

そして、鍛冶屋は一歩踏み出して再び頭を深々と下げて言った。

鍛冶屋「あの、こんなことじゃお詫びにはならないと思うんですが……その、ウチの不手際で+0エンドしちゃったアニールブレード、もしよかったらですけど、八千コルで買い取らせてもらえないかと……」

ざわ……と周囲の野次馬がどよめいた。

俺「アイツ、相変わらず失敗した場合の補償に関しちゃ、気前が良いんだな。アニールブレードって血一度も強化してない状態で相場は16000コルとかだろ?」

レイナ「……8000コルは相場の半分だけど、+0のエンド品なら、相場はせいぜい4000以下だから、8000での買取は破格の申し出」

そして、三人はしばらく呆然していたが、やがて顔を合わせて同時に頷いた。

そして一連の騒動が片付くと、野次馬たちの姿が消えていき、俺達もそれ以上その場にいる理由も無いので、一度宿屋で食事をしに行くのだった。


だが、オズマ達はまだ気が付いていなかった―――この強化失敗の裏に隠された、許し難き実態を!! by立木ナレ 

 

FILE15 ダガー使い少年との出会い

第二層の主街区のウルバスの西門付近を中心に出現する飛行Mobのウインドワプスは狩るのが面倒なモンスターだったが、その分経験値効率は良く、俺とレイナはワプス狩りに勤しんでいた。

レイナの索敵スキルのおかげで、遠く離れた場所で出現したワプスも見つけ易いので、レイナが見つけ次第、そちらに突撃。

そして、俺の聞き耳スキルも、遠くで飛んでいるワプスの羽音を聞き取るのに役立つので、それもワプスを狩るのに活用していた。

俺「とどめっ!!」

俺は、こちらに向かって毒針を向けて飛んでくるウインドワプスに向かって、下段突進技の片手剣ソードスキルのレイジスパイクでの突進付きで、撃破した。

レイナ「……あの程度の残りHPなら、ソードスキルを使うまでも無く倒せたと思うわ」

俺「別に良いじゃねーか。もう、近くに他のモンスターはいないんだからよ。硬直中に攻撃されて、お前の手を焼かせるヘマはしないって」

レイナの言う通り、残りのHPが既に危険域(レッドゾーン)だったワプスを相手にソードスキルを食らわせるのは、オーバーキル気味だったが、それも無論――ソードスキル発動直後の硬直中に攻撃される心配がない事を確信しての行動だった。

俺「だけど、結局、あのウエイトソードはあれから一つもドロップしないままか……」

鍛冶屋の武器強化によって消滅してしまったウエイトソードを思い出して、俺はらしくもなく、気の滅入る表情を浮かべていた。

あの剣を使って狩りをやっていれば、今頃もっと、ソードスキルの熟練度は向上していただろうが、手元にないんじゃどうしようもない。

レイナ「……あの剣をドロップするのに、ウルバス周辺での狩りを3日間も続けてようやく一つだったから、そうやすやすと手に入るようなドロップ率じゃないわ」

俺「せめて、他のプレイヤーが露店とかで売ってれば、値段次第じゃ買うんだけどな」

それから更にしばらく狩りを続けて、そうしている間に日が暮れ始めて来て、今日は一旦、ウルバスに戻り、晩飯を食ってから休もうかと思っていた時だった。

レイナ「……他プレイヤーが近くにいるわ」

俺「そりゃいるだろ。俺達みたいに最前線で狩りを従ってる連中とかな」

最前線から遠いプレイヤー達は今でも、安全マージンを最優先して第一層のはじまりの街の周辺で地道な狩りを続けているだろうが。
第一層のフロアボス戦に参加したプレイヤーと、それに近い実力を持つプレイヤー達は既に殆どが、この第二層を狩場に行動しているので、別に他のプレイヤーと遭遇するのは珍しくも何ともない事だ。

レイナ「……ソロプレイヤーで、ウインドワプスの群れに追い詰められて、非効率な行動で更に不利に陥り続けてるわ」

俺「……っ!興味本位でここまで来たわ良いけど、仲間もいない状態なもんで、第一層の敵との違いに対応できなくなって、ヤバくなってるってか―――そこまで案内してくれ!」

レイナ「……こっち」

レイナが索敵スキルで発見したと言うプレイヤーの元に辿り着くまで走り、せいぜい一分かそこらだった。

少年「ひぃぃ―――!し、死にたくないよ!だ、誰か……だ、誰かお助けをぉ―――――!!」

俺「好奇心で、やばい所に入っちまう、典型的な子供だな」

そのプレイヤーは男だったが、身長はせいぜい150㎝そこそこしかなく、年齢は小学生かも知れないと見間違うほどの幼さを感じさせるプレイヤーだった。
右手に持っているダガーを振り回しているが、リーチの短いダガーは、高い位置で飛び続けているウインドワプスにはまるで当たらない。

俺「ワプスは三体か……一匹目は俺が通常攻撃で弱らせるから、その後に大技で止めを頼むぞ!」

レイナ「……分かったわ」

俺は少年プレイヤーに毒針を突き刺そうと迫っていた、ウインドワプスに全速力のダッシュからの斬り払いを食らわせた。
残りの二体が俺に攻撃の対象を変えてきたので、俺は斬り払いを食らわせた後も、走るのを辞めなかった。
これで、二体のワプスはあの少年プレイヤーからも離れたはずだ。

そして、手筈通りレイナのとどめのソードスキルが俺の攻撃でHPを減らしたウインドワプスに回転エネルギーを加え、剣を振り抜く、両手剣ソードスキルのアラウンドが炸裂した。

両手剣ソードスキルの中では比較的動きが速く、ウインドワプスを逃すことなく、一撃で残りのHPを完全に削り切った。

少年「え……?え、えぇ!?――――な、な、なんなに?」

レイナ「……死にたくなかったら、ここから離れて」



そして、オズマとレイナは残りの二体のウインドワプスも撃破!自身が防戦一方に追い詰められていた、ウインドワプスを圧倒するオズマとレイナの実力を目の当たりにした、少年プレイヤーは死の恐怖で泣きじゃくっていた顔から一転、まるで自身の窮地に颯爽と現れたヒーローを見るような、子供らしい済んだ目付きでオズマとレイナを見ていたのだった!

だが、その少年が無邪気に浮かれるのも無理はない―――彼は、リアルでは中学一年生の少年であり、そんな少年の元に、自らの絶体絶命の窮地に現れて、命を救ってくれる者たちは、それが誰なのか、分からずとも、会ったばかりだとしても、少年の目にはヒーローとして映る! by立木ナレ



少年「あ、あ……ありがとうございます!お、お二人のおかげで―――助かったっすよ!!」

ダガー使いの少年プレイヤーは、俺とレイナが三体のウインドワプスを全滅させたのを見るや否や、おぼつかない足取りで、こちらに駆け寄る。
そして、俺の手を一方的に掴んで、感謝の言葉を口にしていた。

俺「助かったのは良いがな、毎度毎度都合よく、誰かが助けに来てくれるとは限らねーんだから、狩りに出る時は自分の身の丈に合ったやり方に気を付けろ」

少年「えへへ、ほ、本当にお世話掛けましたっす……。あ、ああ!ぼ、僕の名前はユッチっす!」

別に名前を聞いてはいないのだが、向こうが先に名乗って来たので、こちらも名前を教えた方が良いかと思い俺とレイナもそれぞれ名前を名乗ると、ユッチは口を限界まで間抜けの様な顔つきで開き、レイナの方を向きながら、ガタガタと震え始めていた。

ユッチ「れ、れ、レイナさん!?こ、この人がレイナさんっすか!?」

レイナ「……そう言った」

レイナの名前を聞いたユッチが、なににそんなに驚いているのかは知らないが、レイナはユッチの動揺っぷりとは対照的に表情や挙動にまるで変化の無い対応をしていた。

俺「お前、レイナの事を知ってるのか?」

もしかしたら、現実(リアル)での記憶喪失になっているレイナの事を何か知っている奴なんじゃないかと、俺は僅かに期待を感じて、ユッチと名乗ったプレイヤーにレイナの事を聞いてみるが、そのユッチの返事は、俺の期待とは大きく外れた返答だった。

ユッチ「勿論っすよ!レイナさんって言ったら、第一層のフロアボス戦に参戦したプレイヤー達の中でも、アスナさんと並ぶ、たった二人の美少女プレイヤーとして、既に名前が知れてるんっすから!一部のファンの間では、既にアスナさん派とレイナさん派でファンクラブでも作ろうかなんて、話も上がってるくらいっす!」

俺が知らぬところで、アスナだけでなく、レイナのファンクラブまで出来ようとしているとは……人気アイドルの常と言う奴だろうか?

そんなアイドル的人気を得ようとしているレイナとコンビを組んでいる俺は、ファンクラブの連中とやらにさぞ、目の敵にされるのも時間の問題だな。

そして、この事をキリトが知っているのかどうかは知った事じゃないが、奴もアスナと行動を共にし続けていれば、何れはファンの連中から嫉妬、嫉み、憎悪を買う事だろう。

そして、ユッチはと言うと、何でも自分が使用しているダガー武器の製造限定品である『ストロングダガー』を製造する為に、第二層でなくては手に入らない、必要な素材アイテムを手に入れる為に、無茶を承知でここまで狩りに来ていたとの事だった。

ユッチ「第一層じゃ、ボス戦どころか、何処のパーティーにも相手にされなかったんすけど。あの、ストロングダガーを手に入れれば、戦力が大幅にアップして、今度こそ最前線で戦えるかもしれないんっすよ!アルゴの攻略本にもストロングダガーの性能はばっちり書いてあったっすからね!」

そう言いながらユッチが腰のポーチから取り出したのは、最近新しく出されたばかりの、アルゴの攻略本だった。

俺「なるほど、その攻略本に書かれてた武器欲しさに、素材集めにここまで来ちまったってわけか」

ユッチ「はい、それで何とか苦労して素材アイテムの採取とか、モンスターを倒さなくちゃならない素材アイテムも、苦労してようやく集めたんっすよ。けど……いざ帰ろうって時になって、ウインドワプスの群れに襲われて、ああなってたってわけっす」

ユッチは、恥ずかしそうに、思い出しながら、はにかんだような表情で頭をポリポリと掻いていた。

俺「取りあえず、製造に必要な素材が集まったんなら、こんなところで何時までも留まってないで、早い所武器を造るべきだろ。そうすれば、狩りも今までに比べて危険度も減るはずだからな」



オズマとレイナは、主街区のウルバスに戻るついでに、ユッチを送り届ける事にした。道中、幾度かウインドワプスを始めとしたモンスターに襲撃を受けるが、オズマとレイナはそれを撃破!討伐!殲滅!殆ど寄せ付ける事無く、倒し続けて、難なくウルバスへ到着した! by立木ナレ



ユッチ「それでは、オズマさんにレイナさん、今日は本当にお世話になりましたっす!良かったら、僕とフレンド登録してくれませんっすか?」

俺「分かった分かった、登録したら早い所武器を作りに行きな」

ユッチ「へへ、よろしくっす~」

ヘラヘラと笑みを浮かべるユッチから、フレンド登録を申請されて、俺とレイナはそのままユッチのペースに巻き込まれるような形だったが、フレンド登録に同意していた。
気のせいか、俺とフレンド登録をした時よりも、レイナとフレンド登録をした時の方がユッチの表情が嬉しそうにニヤニヤと歪んでいるように見えたわけだがな。

レストランに入り、食事を始める事には既に時刻は午後の7時に迫り、フィールドに出ていたプレイヤー達の多くが街に戻ってくる頃だった。

俺「なんか、感じが狂うんだよな」

レイナ「……何が?」

俺はレストランで注文した、サイコロステーキを口に入れながら、そう呟く。

俺「俺が前にプレイしてたMMOだとな、午後の7時くらいの時間帯ってのは、むしろゲームが始まる時間帯って言うか、ログインするプレイヤーが増え始める頃合いなんだよ」

レイナ「……それは、学校や仕事を終える人が多い、時間帯だから?」

俺「だろうな、俺みたいに学校にも行かずに、気が向いた時に、日雇いの仕事や空き缶拾いしてるだけの奴には関係ねーんだがな」

何気に、現実世界での記憶の無いレイナでも、現実世界での常識とか、世界がどうなっているなどについての記憶はやはり失っていないらしいと思いつつ、俺は話を続ける。

俺「けど、このSAOじゃ四六時中、ログアウトも出来ずにゲームに閉じ込められてるもんだから、どいつもこいつも現実世界(リアル)での生活習慣のままの時間帯で活動してるんだなって思っただけだよ」

レイナ「……私は、現実世界でどんな生活をしていたのか、それも覚えてないけど―――あなたと会う前から、大多数のプレイヤーと同じように、活動時間は朝方から、夕方の時間に偏っていたから、もしかしたら私も現実世界では一般的な昼型の生活を送っていたのかもしれないのかしら……?」

俺「お前の見た目の年齢からして、中学生くらいの可能性が高いから、普通に学校に行ってたとしたら、そうなるのは必然なんじゃないか?――――てか、お前もやっぱり、記憶にない現実世界での自分がどうしてたのとか、気になったりするのか?」

俺は、レイナが珍しく、現実世界の自分の事に付いて、僅かにも疑問を感じ、言及したことが珍しく思い、そう入り込んだ事を聞いていたが―――

レイナ「……別に、今の私には、現実世界の私がどうしてたのかなんて、興味ないわ」

レイナは素っ気なく、自分の現実での事に興味が無いと言い切っていた。 

 

FILE16 強化詐欺の実態!

オズマとレイナは、ウインドワプスとの狩りの最中に、ダガー使いの少年プレイヤーのユッチを助ける事となった。
彼を主街区に送り届けた後、レストランで食事をし、平穏な時間を過ごした直後の事であった…… by立木ナレ



そいつは、俺達がレストランを出て、すぐそばの路地裏でメソメソと泣いていた。デスゲーム化したソードアート・オンラインでは、ログアウトが出来ない事や、ゲーム内でHPが0になったら死ぬとか言う、過酷な状況下に悲観して、その辺で泣き崩れている奴を何度も見たわけだが……俺は今までそんなのに一々声を掛けて慰めたり、鼓舞を掛けたりとかした事など一度も無かった。

だが――そいつは、ほんの少し前に、俺とレイナがモンスター達の群れに襲われて窮地に陥っていた所を助けた、ダガー使いのユッチだった。

このSAOでは、感情表現が結構大袈裟に表現されるらしく、ユッチは目から大粒の涙を零し続けるだけではなく、鼻水も目に見えて分かるほど流し、その姿はまるで大切にしていた玩具を亡くしたりでもした子供のような姿だった。

俺「お前……せっかく新しいレア武器を作りに行ってきて、なんで一時間もしない内に号泣なんだよ?」

ユッチ「え……あ、お、オズマさぁん!!」

俺が声を掛けると、ユッチは大袈裟に泣いたまま、俺に気が付き、俺の名前を呼んで泣き叫ぶ。これじゃ、まるで俺がこいつを虐めたように見えちまう……

アルゴ「いーけないんだ、いけないんだ~、オズ坊が年下の子を虐めてるんだナ~」

俺「何時から、そこで高みの見物してたんだよ。ガチャモンとモック並みに神出鬼没なんだよアンタは……」

まるで、俺の懸念を読み取ったかのようなタイミングで、情報屋の鼠のアルゴが姿を現し、そして俺の懸念通り、俺が虐めたなどと、ニタニタした顔で指を指して言いだしていた。

レイナ「……私の索敵スキルでも、見つけられなかった」

アルゴ「にゃはは、オレッちは情報屋だからナ。危険な場所でも安全に行動する為の隠密行動はお手の物なのサ」

自慢げにそう公言するアルゴだったが、今はこいつに用はない、取りあえず俺は泣きじゃくるユッチを一旦レストランの中に連れて行き、一通りの事情を聞く事にした。

どう言うわけか、話の席にはアルゴも勝手に加わるが……取りあえずユッチから一通りの話を聞いた俺は、強烈な不信感を感じる事になった。




俺「ストロングダガーの製造には成功したけど、そいつをプレイヤーの鍛冶師に依頼して強化したら、強化失敗のペナルティで消滅しただって?」

ユッチ「はい……ストロングダガーが出来上がった時は、僕も凄い……嬉しくって嬉しくって……!これで、僕も最前線で戦えると思ったのに!こんなのあんまりっすよぉ―――!!」

自分で思い出しているうちに、また悲しみにが込み上げてきたのはユッチは顔を上げて再び泣きじゃくり始める。
これだと話がなかなか進まず、多少の苛立ちを感じつつも俺は気長にユッチが説明し終えるのを待つのだった。

ユッチの説明によると、ストロングダガーは+4までは順調に強化に成功し、ユッチは残りの強化素材で+5への強化も依頼したのだったが、その5度目の強化は、成功率80%の状態でありながら、運悪く失敗したばかりか、強化失敗時に発生したペナルティが俺のウエイトソードの時と同じく消失ペナルティが発生してしまい、+4まで強化させたストロングダガーは完全に消えてなくなってしまったのだと言う。

レイナ「……昨日のオズマのウエイトソードの時とほとんど同じね」

俺「そうだユッチ、お前が強化を依頼したNPCの鍛冶屋ってどんな奴だった?」

ユッチ「ぐす……えっとぉ、僕よりは大きいっすけど……男にしては割と小柄で、年齢は、お、オズマさんとあんまり変わらないくらいだったと思うっす……」

俺「またアイツかよ……」

俺の脳裏に浮かんだのは、昨日の俺のウエイトソードの強化を失敗して、ウエイトソードを消してしまい、そして今日の真昼間にはリュフィオールのアニールブレードの強化に4回連続で失敗し、+4だったアニールブレードを+0のエンド品にしやがったあの、鍛冶屋の姿だった!

アルゴ「ん?オズ坊はなんか心当たりがあるみたいだナ~」

俺「あるもなにも、そのプレイヤー鍛冶屋が強化失敗で、依頼人の武器を駄目にしちまったのは、俺が知る限りでこれで三度目なんだよ。しかも昨日と今日の出来事でな―――」

俺は自分の身に起きたウエイトソードの消失の一件と、ユッチがほんの少し前に起きた、ストロングダガーの消失。
この二つのケースを、第一層の迷宮区で経験した事のある、とあるモンスターの手口と微妙な近親感を感じ、まさか―――と思い。

俺「ユッチ、お前がウエイトソードを鍛冶屋に託したのって、どれくらい前の話だ?」

ユッチ「え、えっとぉ……」

ユッチは正確な時間は覚えてないかもしれないが、これはおおよその時間でもなんとかなるかもしれない。
ユッチに時計の時刻をチェックさせて、俺はユッチからどれくらい時間が経っているのかを聞き出す。

ユッチ「まだ……一時間も経ってないと思うっす」

俺「なら、まだ間に合うかもしれねーな」

ユッチ「え……ま、間に合うって?」

レイナ「……どういう事?」

俺の言葉の意味を当然だが、すぐには理解できずにユッチは呆けた表情で困惑し、レイナも無表情だが、俺の言っている言葉の意味を計りかねてるのは明らかだ。

俺「すぐに証明してやるから、取りあえずユッチ、俺の言う通りに行動しろ!まずはウインドウを出して可視モードだ!」

ユッチ「え……えっとぉ……」

俺「急げ!」

ユッチ「は、はいっす!」

多少威圧的な口調でそう言うと、ユッチはビクッと身体を震わせながらも、俺の言う通りの動作を続けていく。

俺「最期は全アイテムのオブジェクト化だ!《コンプリートリィ・アイテム・オブジェクタイズ》とか言うのがあるだろ?それを押すんだよ!」

ユッチ「こ、これっすね、分かりましたっす!」

アルゴ「お、オズ坊?それ押したら、この辺り一帯が結構ヤバい事に―――」

珍しく狼狽えたような様子のアルゴだったが、そのアルゴの懸念は直ぐに現実のものとなった。

直後――

ガランゴロン、ドスンガチャン、ボットボト、そんなサウンド音を鳴らしながら、ユッチが持っているアイテムが次々と全て、レストランの床一帯に積み重なっていく。

「な、なんだ!?アイツら一体何おっぱじめてんだよ!?」

「アイテムストレージの全アイテムをオブジェクト化しやがったんだ!」

周辺のプレイヤー達の驚きの声が漏れるが、それに構っている場合ではない。早速オブジェクト化したアイテムの山を俺達は探し回らなくてはならない。

俺は両手をパン、パンと音を鳴らしながら叩いてから、レイナ、アルゴ、ユッチの三人に対してまとめて言う。

俺「おらおら、ボーっとしてんなお前ら!この山の中から探せ探せ!」

レイナ「……何を探せばいいのか分からないけど、分かったわ」

ユッチが訳の分からぬと言った様子のまま、ボーっとしているのに対して、レイナの行動は迅速で早いもんだった。―――もしかしたら、レイナは既に俺の意図に気が付いているんじゃないかと思いたくなるくらいだ。

アルゴ「やれやれ~、オズ坊は人使いが荒いんだナ~……おねーさんをここまで扱き使うからには、何か面白いのを見せてくれなくちゃ割にあわないナ」

俺「お望み通り、面白いのを見せてやる。だから探せ!」

レイナとアルゴが俺の言われた通り、オブジェクト化されたアイテムの山の中を探り探り、一つ一つ確認し始める中、当のユッチ自身は何が何だかわからぬと言った様子で呆けた表情を浮かべたままだった。

俺「さっさと……探せぇ――!!」

ユッチ「は、はいぃ!!」

一秒ほどの為の後に、俺がユッチの耳元で探せと怒鳴ると、ユッチもようやく、硬直していた身体を動かして、アイテムの山を一つ一つ探り始めるのだった。

そして、ユッチの持っていたアイテム、素材アイテム、食材アイテム、その他の雑貨品などを退けながら、アイテムの山を半分以上探したところでだった―――

アルゴ「んん?な、なぁ……ユー坊」

ユッチ「え……それって僕の事――――って、ああっ!そ、それ……それはぁ―――!!」

アルゴがアイテムの山から見つけた、俺が初めて見る、赤い柄のダガーナイフを見たユッチが、目から再び大粒の涙を零しながら、消して広くないレストランで大声を上げる。

ユッチ「ストロングダガーっす!僕が鍛冶屋に依頼したストロングダガーっすよ!プロパティは+4だから間違いないっす!き、消えたと思ってたのに――――ま、まさか、神様の奇跡っすか!?」

俺「んなわけあるか」



急展開!!強化失敗によって消失したと思われていたユッチのストロングダガーが全アイテムオブジェクト化によって、本人の元に復活!
それをユッチは神の奇跡と騒ぎ立てて号泣!―――そして、レイナとアルゴの興味が向くのは当然、なぜ、強化失敗によって消失したストロングダガーが戻ってきたかについてになる! by立木ナレ


※ ※ ※


その後、俺はどうしてこんな事が起きたのかについて、三人に説明する事にした。特に情報屋のアルゴの好奇心を大いに煽ったようで、ニヤニヤとした表情で『高く買うぜ、ダンナ』とか言いながら、肩を叩いてきた。

アルゴ「なるほどナ。これは《クイックチェンジ》を利用したアイテムのすり替えだったんだナ」

俺の説明を一通り聞き終えたアルゴは、多少は感心しあのか、腕を組んで目を細めて、首を縦に何度も降っていた。

俺「ああ、それで他人のアイテムを自分のストレージに入れると、一時的に所有権がそいつの物になるのは知ってるだろ?だが、完全に所有権を得るには、自分のアイテムストレージに入れた状態を一時間以上維持しなくちゃならないんだ」

レイナ「……だから、オズマはユッチのストロングダガーがすり替えられてから一時間が経過していないのに期待して、全アイテムオブジェクト化をやらせたのね。―――そうすれば、所有権を一時的に奪われているストロングダガーも本来の持ち主の目の前でオブジェクト化されるはずだから」

俺はアルゴの攻略本を取り出して、付け加えて説明をする。

俺「第一層の真ん中あたりに湧いて出てくる《スワンプコボルド・トラッパー》ってのがいただろ?あれがSAOで最初の武器落とし(ディスアーム)攻撃をしてくる奴だったわけだが―――お前のこの攻略本にも書いてあったよな?すぐに拾おうとするなって?」

アルゴ「ああ~、慌てて拾おうとすると、そんな事してる間に次の攻撃も的になっちまうから、注意書きしておいたんだけど……結局はあそこで結構被害者が出ちまったらしいナ」

自分の作った攻略本の情報をもってしても、多数の被害を防げなかったことは、アルゴなりに悔やんでいるのか、普段はあっけらかんとした表情が少しだけ曇ったように感じた。

俺「取りあえず、あのスワンプコボルドにドロップさせられた武器を一時間以上放置しても、所有権を失うのと同じ要領で、あの鍛冶屋の手口にピンと来たんだ」

アルゴ「だが、オズ坊さ。ダガーが戻ってきたロジックは大体わかったけどサ。それでだいたい半分ってところなんじゃないのか?」

そのアルゴの疑問には俺も軽く頷いて同意した。

レイナ「……オズマのウエイトソードもそうだったけど、鍛冶屋に渡した武器が消失する瞬間は確かに依頼人が目の前で見てるはず。……あの時に壊れた剣、そしてユッチの目の前で消えたストロングダガーの説明がまだついてない」

レイナの指摘は、当然の疑問だが、それに関しては現時点で俺が何を考えたところで正解に辿り着けそうにはない。

俺「そっちに関してはまだ確かに分からねーが。今の時点で、ハッキリと言えるのは―――俺のウエイトソード、ユッチのストロングダガーは鍛冶屋に渡してから、アンビル状態で消滅する段階で、同種の別アイテムにすり替えられたって事くらいだな」

そして、俺はあの鍛冶屋に対して、今になって無性に腹立たしくなり、自分でも分かる位に怒りの帯びたような声で言った。

俺「あの鍛冶屋は……鍛冶屋の皮を被った詐欺師野郎だったってわけさ!」

俺が履き捨てるようにそう言い放つと、それまで黙って俺の説明を聞いているだけだったユッチが、目に見えて分かるように顔を真っ赤にして怒り心頭と言わんばかりの表情で立ち上がった。

ユッチ「あ、あの詐欺師野郎!強化に失敗して武器が消えた時は、本気で申し訳なさそうに頭下げまくって平謝りしまくって!強化素材アイテムの代金の返金だとか……詫びに代わりの武器だとか、気前の良いこと言ってやがったのに……腹の奥底では『騙されやがってざまーみろ』とか思ってやがったのかよ!!」

レイナ「……最低でもこの詐欺で三人は騙されてる。きっとその詐欺で得られるお金(コル)は莫大な利益になってるはずね」

ユッチ「許せねぇ……!許せねぇ!!」

俺「ばっ!どこ行くんだお前っ!」

俺の目の前で走り出そうとしたユッチを俺は間一髪でその左腕を掴んで止めた。ユッチは目から涙を零して、怒りと悔しさが籠った表情をこちらに向けながら叫び散らす。

ユッチ「決まってるじゃないっすか!あの詐欺師野郎をとっちめてやるんっすよ!あんな事して、お咎めなしなんて冗談じゃないっすよ!」

やっぱり、そんな事を考えてやがったか……頭にくる気持は当然、俺も分かるが、今ユッチが怒りに身を任せてやろうとしている事は、詐欺師にとってむしろまだマシだと言える行動だ。

俺「そんな事したところで、せいぜい騙されたお前一人に対して、何万コルかの口止め料を取る位でお終いだろうな。その程度の額で済むんなら、むしろ詐欺師にとっちゃ安いもんだろ。お前が口止め料を受け取って行ったあとで奴は腹の底でまた『馬鹿な奴』とかほくそ笑むに決まってるんだ」

レイナ「……口止め料以上の金額のコルなんて、詐欺行為で幾らでも取り戻せるはず」

レイナが相変わらず、感情を感じさせない表情と静かな声でそう補足する。

ユッチ「そ、それじゃ……一体どうすりゃいいんっすかぁ~……?」

ユッチが泣きながら項垂れてくるが、ここで暴走されるよりは遥かにマシだ、取りあえず俺の話を聞こうとしているユッチに、これから先、俺が考えている事を手短に説明してやる事にしよう。

俺「そもそもあんな詐欺は何時までも上手く続きはしない、被害者は今の所第二層で狩りをしてる、最前線のプレイヤーか、それに準ずる連中だ。そっちの方が効率よく稼げるんだから、それは当然だろうが、そんな事が続いてれば、最善全のプレイヤー達を中心に、何れ噂が広まるぞ、プレイヤーの詐欺師に強化を依頼したら、武器が消えただの、連続失敗でエンド品になっちまっただのとな――――それで、その時に詐欺師が吊し上げになって、全てを白状した時、奴が一部のプレイヤーに口止め料を払ってた事まで暴露しちまったら、口止め料を貰ったプレイヤーも何かしらの制裁を受けるに決まってるだろ」


そう、オズマが懸念していたのは、詐欺師から口止め料を強請り取る事によって、後々その事がばれた際に被る風評被害! by立木ナレ


俺「そもそも、口止め料で済ませたりとか……その程度の軽いお仕置きで済ませてたら、奴らの様な輩は限界までやりやがる……人様が苦労して得た利益を難なく横から掠めとる悪辣なやり方をな!」


オズマの怒りは、現実世界での山谷の生活を送る中で、無知であるがゆえに、悪徳な企業に賃金をピンハネされている事に気が付かぬ日雇い労働者達や、少ない賃金の中から苦労して溜めた預金をヤクザの詐欺師にあっさりと根こそぎ取られたと泣き喚く老人たちなどと言った、無知ゆえに搾取される者達を見てきたが故の怒り!搾取された経験があるが故の激しい怒りである! by立木ナレ



俺「あのクソ詐欺師に味合わせてやるんだ……最大限の報いを……破滅的な大打撃をな!」

気が付けば、俺達の側からアルゴがいなくなっていたが、詐欺師に対する怒りに燃えていた俺は、そんな事に気を回す事は無かったのだった。 

 

FILE17 フィールドボス戦!そして被害者同盟結成?

アインクラッド各層の圏外フィールドには、フィールドボスと呼ばれる、いわゆる名前付きMobが要所要所に配置され、迷宮区に至る為の関所的役割を担う。
その存在感はまさに、各層の主たるフロアボスの部屋を塞ぐ守護者(ガーディアン)!プレイヤー達は、それらのフィールドボスを倒さずして、各層のフロアボス部屋に辿り着く事は有り得ぬのであった!
そして、このお代にそうは広い北部エリアと狭い南部エリアの二つに分けられ、配置されているフィールドボスは一体のみ、その名は……ブルバス・バウ。その名通り、丸く盛り上がった額で突進攻撃を繰り出す巨大牛であり……その凄まじさは現実世界の日常生活では迫りくる大型トラックの如き恐怖心をプレイヤーに与えるのであった!! by立木ナレ



フィールドボス戦は18人のプレイヤーで行われる事になった。俺とレイナは、ユッチを含めた3人のパーティーで参戦する事になった。
ユッチは第一層のフロアボス戦委は参戦していない新参者で、当初は緑コスチュームのリーダー格のキバオウも青コスチュームのリーダー格のリンドもユッチの参戦を渋る態度を見せたが、俺が面倒を見ると説得して、ユッチも何とかメンバーに加われることになったわけだが――――

キリト「アタッカーはダッシュ回避しろ!」

その叫び声は、このフィールドボス戦に参加していなかったキリトの叫び声だった。ブルバスとの戦いがしばらく続いた後に、青のリンド隊と赤のキバオウ隊が盆地の真ん中でひとかたまりになってジタバタしていた為に、ブルバスはタゲをどちらのパーティーに取っているのか解らなくなり、左右から和牛チャージの軌道に入り込んだ挙句に衝突してしまったらしく、盾持ちのタンクが姿勢を乱して、重装戦士は転倒(タンブル)からの回復に手間取り、防御姿勢を取り損ねたのだった。

キバオウとリンドは右手を振って、俺達を含めた軽装戦士8人が左右に散ろうとしたのだが、僅かに間に合わず――――。

猛り狂うウルバスは、起きたばかりのリンド隊の重装戦士二人に四本の角で襲い掛かる。

重装戦士「―――――ッ!?」

俺「させるかッ!」

俺はその直撃を阻止する為に、真横からブルバスに向かって、約10メートル突進して斬りつける、突進技ソードスキルのソニックリープを発動し、ブルバスへ一撃お見舞いする事で、重装戦士たちへの攻撃を何とか阻止したが、当然ウルバスの狙いの矛先は、ソードスキル発動直後の硬直中の俺に向けられる。

だが―――俺だって自らの危険を考慮せずにこんな事をしたわけじゃない。

俺「おたくらは早く逃げるんだ!それとレイナ、スイッチ!」

レイナ「……了解」

重装戦士「す、済まない!」

俺は倒れていた重装戦士たちに逃げるように指示を飛ばしつつレイナにスイッチを命じる。重装戦士が立ち上がるのと、レイナが動き出すのはほぼ同時だった。
俺にタゲを取ったブルバスに向けて、今度はレイナがショートジャンプからの斬り下ろしを放ち、ウルバスに一定のダメージを与えつつ、更に続けざまにソードスキルを発動する。レイナが発動したソードスキルは剣を振り下ろした後すぐさま振り上げる重い2連撃技のイラプションで、その威力は巨体で重量級のブルバス・バウが軽いノックバックする程だった。

俺「時間稼ぎは……十分みたいだな」

既に体勢を立て直した、キバオウ隊とリンド隊の者達が順次、ウルバスへの攻撃の準備に移っていた。
おかげで、レイナはソードスキル発動直後の硬直中に致命的な攻撃を食らう事無く、後は順調にブルバス・バウのHPを削り続ける事が出来たのだった。


そして、第二層で唯一のフィールドボスのブルバス・バウがその巨体を四散させたのは戦闘開始から約20分後であった!


ユッチ「いや~、流石はオズマさんにレイナさんっすね~!お二人がいれば怖いものなしの百人力っすよぉ~」

俺「俺とレイナだけで倒したわけじゃねーよ。18人パーティーで倒したんだ」

初めてのボス戦とだけあってか、あまり積極的に攻撃に参加できなかったユッチに対して、俺はそう言っておく。
最も、本来であれば1パーティーでも倒せた相手なのかもしれないとも考えらえるのだが。

そして、ブルバスを倒してすぐに、一人の青コスチュームの重装戦士が俺達に近づいてきていた。

重装戦士「さっきは助けてくれてありがとう。ブルバスの角が眼前まで迫ってきた時は、本気でヒヤッとしたもんだよ……」

その重装戦士は転倒していた所を、ブルバスに襲われかけたところを俺がソニックリープで助けた、重装戦士の一人だった。
リンド組のメンバーである象徴の青コスチュームで、メンバーの中でも主力の男だった。名前は確かそうだ――――

俺「シヴァタさん――だったよな?ヤバくなった時はお互い様だろ、少なくとも、同じパーティーで戦ってる間はな」

シヴァタ「それでも、あんな危ない所を助けてくれたんだから、礼を言わなくちゃこっちの気が済まないさ。本当にありがとうなオズマ――それと、レイナさんも助けてくれてありがとう」

改めて、俺とレイナに感謝の言葉を口にするシヴァタだったが、ふと俺が気になったのは、シヴァタがこの戦闘で使っていた剣が、第一層のフロアボス戦で使っていたスタウトブランドと言う、現時点ではアニールブレードやフェザーソードに次ぐ、片手剣としては高位の剣ではなく、更に二グレード程下の既製品である、ブロードソードを使っていた事だった。

俺「あのさ、シヴァタさん。アンタの愛剣のスタウトブランドはどうしたんだよ?あれを使ってりゃ、今回のフィールドボス戦だってもっと楽になっただろ?」

自分でも、少々踏み込み過ぎたかと思ったが、何となく俺は、シヴァタが以前よりも格下の剣を使っている事に付いて、引っかかるところを感じて、敢えて聞いてみる事にした。

シヴァタ「ああ、気が付いてたのか……昨日、不運な事が起きてしまってな―――」

シヴァタは少し暗い表情を浮かべてそう口にした。まさか……シヴァタも俺とユッチと同じかもしれない。

俺「不運ってのはさ、プレイヤーの鍛冶屋にスタウトブランドの強化を依頼したら、何かしらの大失敗で無くしちまったり、使い物にならなくなっちまったとか……だったりするか?」

シヴァタ「え……!ど、どうして?どうして、それを!?」

図星だったようだ、シヴァタは俺がメインの武器を喪失した理由を言い当てた事に驚き、何故それが分かったのだと疑問を感じている。

俺「実はな―――」

ユッチ「僕もなんっすよ!僕も……僕やオズマさんもあのプレイヤーの鍛冶屋に……いや、あの詐欺師野郎に武器を取られたんっすよ!!」

俺が説明する前に、武器を騙し取られた事の悔しさをまたしても思い出して、涙目を浮かべているユッチが、大声で叫んでいた。
だが、このままユッチに詳しい説明まで任せるのは、大いに不安なのでこの先は俺がシヴァタに説明する事にした。
俺はウエイトソードを、ユッチはストロングダガーを鍛冶屋に強化依頼を頼んだ結果、従来の武器消滅ペナルティにはあり得ないはずの、武器消失を引き起こしてしまった事と。
そして、ユッチのストロングダガーは一時間以内に全アイテムオブジェクト化で本人のと元に戻ってきたことを説明したのだった。

俺の説明を全て聞いたシヴァタのその表情は、僅かに険しそうに変化したが、俺達に対しては至って冷静な態度を崩さないまま、話を再開する。

シヴァタ「つまり、俺のスタウトブランドも、実際には強化失敗のペナルティで消滅したんじゃなくて―――あの鍛冶屋にすり替えられてたのが真実だったわけか」

俺「酷な話だが、そう言うわけだ。騙し取られてから60分以内なら、こいつのストロングダガーの時みたいに全アイテムオブジェクト化で取り返せたんだけどな」

聞いた話によると、シヴァタのスタウトブランドが取られたのは既に前日の夜中の出来事だそうで、今となってはシヴァタのスタウトブランドは完全にあの詐欺師の手の中にあり、早ければとっくに金に換えられている頃だろう。

レイナ「……貴方の仲間に、他に強化失敗で武器を失った人はいないの?」

シヴァタ「ああ、いるよ。今回の戦闘には参加してないけど、今は新しい武器を手に入れる為のクエストに出てる仲間が一人いる。それと――確かキバオウ隊のメンバーでも同じようなトラブルで武器を失ったプレイヤーがいると聞いたぞ」

俺「随分と派手に活動してやがるみたいだな……」

だが、最前線のプレイヤーに被害者が多ければ多い程、足が付きやすくなる。俺が狙うのは、最前線のプレイヤー達が最も集まる場所、そうフロアボス戦の時だった。

俺「フロアボス戦の後にでも、この事を話してみようかと思ってる。おそらく、その時が最も詐欺の被害に遭ったプレイヤーが多く集まる可能性が高いだろうからな」

シヴァタ「分かった、出来る事なら俺もスタウトブランドを取り戻したいと思ってる。なにより、そんな事をこれ以上続けさせるわけにもいかない―――こんな事が続けばゲームの攻略に支障が出るばかりだ!」

シヴァタは、自身が被害を被ったこと以上に、詐欺被害が広がる事でゲーム攻略に支障が出る事の方を危篤しているようだった。
その辺りは、大人の考えと言うべきか―――無茶苦茶に泣き喚いて、詐欺師をとっちめてやると騒いでいたユッチとは大違いだ。

ユッチ「ああもう!煩わしいっす!一分一秒でも早くあの詐欺師野郎を半殺しにしてやりたいのに―――!!」

俺「何度も言ってるけど、先走った行動は止めとけよ。奴はお前から盗んだつもりだったストロングダガーがアイテムストレージから消えてるもんだから、お前に対して何かしらの警戒心を抱いてるだろうからな」

レイナ「……けど、ユッチとオズマの繋がりには気が付いていないから、そこを付け入れるかもしれない」

俺「そう言う事だ」

俺とレイナに諭されて、ユッチは深いため息を付いて、多少落ち着きを取り戻してから口を開く。

ユッチ「そんじゃ、せめて二層南部フィールドの一番乗りは頂くとしましょうよ!キバオウさんとリンドさんは補給とメンテの為に、近くの村のマロメに向かった見たいっすけど。僕らは3人だけで回復アイテムもまだまだ余裕だからこのまま行けるっすよ」

俺「そうだな、シヴァタもリンドに付き合って一度マロメに戻るみたいだし、先に新天地を見に行くのも悪くないか―――」

と、俺が言いかけた所に、レイナがザックリと切り伏せるように口を挟んだのはその時だった。

レイナ「もう先に、キリトとアスナがさっき行ったわ」

俺「あいつ等か―――高みの見物だったから、補給も何も気にしなくても良いからな」

まんまと漁夫の利を得やがってと、内心で俺が軽く毒づいていた時だった、もう聞き飽きてきた泣き喚くユッチの声が俺の耳につんざいたのは。

ユッチ「き、キリトの野郎が……アスナさんの二人っきりで抜け駆けっすか!?」

レイナ「……何で抜け駆けと言う表現になるのかは分からないけど、2人で先に行ったのは間違いないわ」

ユッチ「畜生!キリトの野郎チックショ――!!」

ユッチは、まるでキリトを親の仇でもあるかのように、憎々し気に喚きながら、地団太を踏み始めていた。

俺「泣いたり、喚いたり、騒いだり、お前は本当に忙しい奴だな……キリトがそんなに嫌いなのか?」

と言っている、俺も奴の事はあまり好ましくは思っちゃいないがな。だが、ユッチがキリトに対して抱いている感情は俺の比ではなかったようだった。

ユッチ「当たり前っすよ!あの野郎……情報を独占して一般プレイヤーを見下してるビーター野郎の癖に!よ、よりにもよって……」

そこまで言ってから、再びユッチの目からは悔しみを感じさせる涙を零し始めていた。

ユッチ「よりにもよってあの野郎!ビーター野郎の分際で、レイナさんと双璧を為す美少女トッププレイヤーのアスナさんを独占してやがるんっすよ!オズマさんみたいに義に厚い人が、レイナさんと二人で行動してるならともかく、あんな野郎がアスナさんと一緒にいるなんて許しちゃ置けないっすよ!理不尽っす!!」

俺「…………」

レイナ「……理解不能」

ああ、俺も流石に今のユッチの、ここまでの悔しがりようは理解不能だった。

ユッチ「ま、まさか!アスナさんはキリトの野郎に弱みを握られて、仕方なく一緒にいるとか?だ、だったらアスナさんを助けなくちゃいけないっす!」

俺「早く、行こうぜ」

 
 

 
後書き
次回はいよいよ、第二層のフロアボス戦の開始です。 

 

FILE18 第二層フロアボス戦開始!

2022年12月14日、木曜日。

第一層フロアボスが倒されてから十日目、そしてこのデスゲームが開始されてから38日目!オズマとレイナ、そしてユッチを含む《攻略集団》プレイヤー達は、牛男モンスター達がひしめく迷宮区タワーを突破し、ついに第二層フロアボスの広間まで到達していた。 by立木ナレ


俺「今日はパーティーに入れてもらって助かるよシヴァタさん」

シヴァタ「いや、こっちも例の強化詐欺でメインの武器を失ってボス戦への参戦を断念したメンバーが二人もいた所なんだ、もう一人は木曜日限定のクエストにどうしても参加したいって言って、仕方なくだけど」

普段は6人のパーティーを組んでいるリンド組のシヴァタのパーティーだったが。その内の二人はシヴァタと同様に詐欺師の強化詐欺に遭ったようで、メインの武器喪失を理由にボス戦への参戦を断念し、もう一人はクエストの為に辞退。

その結果、俺、レイナ、ユッチの三人がシヴァタのメンバーの開いた人員を埋める形で、そのパーティーに加わる事になった。

レイドの詳細な内訳は、ディアベルの副官だったシミター使いのリンドが指揮する青グループが3パーティー18人。
どして、同数の18人なのが、キバオウ率いる緑グループのメンバー達だった。

これで6パーティーで36人。俺とレイナとユッチは今回、青グループの一員として参加するわけだった。

そしてそこに、第一層のボス戦にも参戦した斧使いのエギルとその仲間3人。そこにキリトとアスナのコンビが加わった6人パーティーで42人。

更に、今回のフロアボス戦から新しく戦いに参加する事になった《レジェンド・ブレイブス》を名乗る集団が5人なので、連中を加えて47人となる。
レイドの上限人数である48人に僅かに一人足りない結果となったが、第一層でディアベルの死にショックを受けて数人が攻略集団から離脱した事も有り、本来であれば減っていてもおかしくないのだが、今回は新たにブレイブスと言う集団が加わった事でレイドの上限により近い人数が加わったわけだ――――ついでにユッチもいるな。

リンド「それじゃ、時間になったのでレイドの編成を始めたいと思う!いちおう自己紹介をしておくと、オレは今回のリーダーに選ばれたリンドだ、みんな、よろしく!」

キバオウ「選ばれたゆうてもコイントスやけどな」

キバオウがリーダーを譲るとは珍しいなと俺が思った矢先に、案の定『ああ、そう言う事かと』納得できる理由をキバオウが零した。
リンドは隣のキバオウを一瞬睨んだが、挑発には乗らずに続ける。

リンド「……こうして、第二層開通からたった十日でボス部屋に到達できたのも、トッププレイヤーである皆の頑張りのおかげだ!その力を俺に預けてくれれば、絶対にボスを倒せる!みんな、今日中に三層まで行こうぜ!」

そして、リンドの指示で改めてパーティー編成の確認を行う事になる。ちなみに、今のリンドは十日前まで茶色だったはずの髪を青に染めてる辺りも含めて、ディアベルの様な振る舞いを見せているが、どちらかと言うと、ディアベルに比べて無理をしてリーダー然として振舞っているようにも見えていた。

ともかく、パーティー編成の確認により、A・B・C隊がリンド組である通称『ドラゴンフリゲーツナイト』。D・E・F隊がキバオウ率いる『アインクラッド解放隊』。G隊がオルランドと言うプレイヤーが率いる、『レジェンド・ブレイブス』。そしてH隊はエギル率いる集団になり、俺達はC隊となった。

役割分担は、A~Fの6パーティーがボス攻撃で、GとHが取り巻きのMobを倒すと言う内容をリンドが伝えようとした矢先だった。

オルランド「ちょっと待ってくれないか」

異議を唱えたのはレジェンド・ブレイブスのリーダーのオルランドだった。

オルランド「我々は、ボスと戦うためにここにいるんだ。ローテーションならともかく、最後まで取り巻きの相手だけしていろと言う指示には納得できない」

そんな大胆不敵な反発を口にした直後、青と緑のプレイヤー達がざわめく、中には「アイツら何様だ」「新参の癖に」とか言う囁きも聞こえてきた。

ユッチ「アイツら、新参者の連中の癖に何勝手なこと言ってやがるんっすかね?」

レイナ「……貴方も、今回がフロアボス戦は初めてよ」

ユッチ「あ、いや~、その……僕はもうフィールドボスと戦ってるっすし」

フィールドボスであるブルバスと戦っただけで既に経験者気取りのユッチに対してレイナの鋭い指摘が冴えていた。
だが、確かにレイドリーダーの指示に異を唱えるのは、流石に横やりも良い所だろ

だが、ささやき以上の怒声や罵声が聞こえない、その理由は恐らく、どんな手段を使って、それらを集める資金を得たのはか知らないが、ブレイブスの5人が全身に纏う強力な装備のある種の迫力……オーラって奴だろう。

俺「アイツら、この第二層の時点でよくもまぁ、あれだけの高価そうな装備を強化したもんだな」

レイナ「……レベルやステータス、スキル熟練度は外見には現れないけど、試行回数の上限近くまで強化された武器と防具は別」

ブレイブスの5人が身に纏っている装備は、元々がどれも高価なレアドロップ品や、製造品である事に加えて、強化もかなりみっちりと施されている影響で、それを示す深みのある輝きを放っていた。

現時点では俺達を含めて、殆どのプレイヤーは外見が代わるほどの強化が出来るのはせいぜいメインの武器や盾位だった。
それ故に、全身の装備が輝きを見せるブレイブスの5人は周囲のプレイヤー達にこいつらが、ただ物じゃないと否応なく認識させてると言ったところか。

リンド「……解った。なら、オルランドさん達のG隊もボス攻撃に加わってもらおう。事前情報では、ボスん取り巻きは一匹だけで再湧出(リポップ)はしない。H隊だけに任せても問題ないか?」

リンドのその質問に対して、H隊のキリトとアスナが目に見えて分かるほどに動揺するが、リーダーのエギルは左手を動かして制し、落ち着いた声と態度で確認する。

エギル「一匹と言うが、雑魚ではなく中ボスクラスのモンスターだと事前情報には書いてあったはずだ。その上、今回も一匹だけと言う確証も無い。ワンパーティーだけでは荷が重いな」

リンド「もちろん、第一層の過ちを繰り返すつもりはない。初回の挑戦で、事前情報と異なるパターンが確認できたらその時点で一度退却、戦略を練り直す。取り巻きがワンパーティーでは対処しきれないようなら、もう一隊回そう。それでいいか?」

エギル「了解した」

そして、続けてボスの攻撃パターンの説明と、各隊ごとの動きの再収穫にな行われ、取定時国である午後2時まであと2分となった。

その直後、キバオウがリンドの作戦を攻略本に頼りきりである事を指摘し、唯一、第二層のボス戦を経験している事が確かなキリトに、意見を求める一幕もあったが―――そのキリトも、ベータ版を参考に作られた攻略本以上の事は分からず、そのままボス戦へ挑む事になった。


※ ※ ※


第二層のフロアボスは《バラン・ザ・ジェネラル・トータス》、通称バラン将軍。そして唯一の取り巻きモンスターは《ナト・ザ・カーネルトーラス》、通称ナト大佐。
ナト大佐はエギル達が率いるH隊の6人に任せて、俺を含めた他の隊のメンバーはバラン将軍との戦いに挑んでいたが―――

リンド「回避!回避―――――ッ!!」

リンドの裏返り気味の絶叫が響き渡った。だが、リンドがテンパるのも無理はないのかもしれない。バラン将軍の携える黄金ハンマーが大きく振り上げられている。

キリトがボス戦前に言った言葉によると、肝心なのはモーションを起こしたらハンマーの一撃目が来るので、それは必ず回避する事。特に大事なのは一発目を食らったときの対処で、高確率で麻痺のデバフを食らい、一定時間動けなくなるが、落ち着いてみれば二発目は避けられると言っていた。
キリトが言っていた通り、バラン将軍のハンマーが黄色いスパークを発生させていた。リンドの回避命令に従い、壁部隊も、攻撃部隊も一斉にバックダッシュする。直後―――

「ヴゥオオオオオオヴゥルァアアアア――――――――!!」

雄叫びを上げながら、バラン将軍は床面を叩いた。衝撃波が発生し、その直後にスパークの渦が広がった。

シヴァタ「不味い、2人が安全圏まで退避し損ねたぞ!」

俺「あれだけで行動不能(スタン)になっちまうぞ……」

ユッチ「あ、あの人達……ど、どうなっちゃうんっすか!?」

シヴァタが声を荒げて叫び、俺が嫌悪を帯びた声でそう言い、ユッチがパニック気味に喚くと、レイナがいつもと全く変わらぬ冷静な口調で答える。

レイナ「フロアボス戦で3秒間の行動不能は致命的、その間に致命的な一撃でHPを著しく失う危険性が高いわ」

そして、3秒がカウントされる寸前、硬直する一人の右手から、片手用ショートスピアが滑り落ちていた。

ユッチ「え、ええ―――!?こ、こんな時に何であんなドジを!?」

俺「いや、あれはドジでしでかしたんじゃない」

レイナ「……スタン中に一定確率で発生する不随効果のファンブルよ」

スタンしていたスピア使いはその直後にスタンから解放されるが、ここがキリトの言っていた、特に気を付けるべきポイントだ。
だが、そのスピア使い、リンド隊の男は慌てて、落とした槍をしゃがんで掴もうとする。

シヴァタ「ま、待て!まだ拾うな!」

シヴァタがそう叫ぶが、間に合わない―――キリトの警告通り、バラン将軍のハンマーの二発目の攻撃『デトネーション』が来た。
ハンマーからまたしても、黄色い稲妻が発生した。

俺「マジで、キリトが警告してた通りになっちまったな……」

レイナ「……あの状況では、事前に警告されても、焦ってああなっても無理もないわ」

槍を拾ったばかりのリンド隊のスピア使いは、拡散した稲妻に飲み込まれて硬直する。その身体を包み込んでいるエフェクトは薄い緑色だった。

俺「あれが、麻痺状態になった印ってわけか……」

実際に、俺はここに至るまで、目の前で麻痺したプレイヤーを見た事が無かったので、始めてみる事になる。

シヴァタ「ヤバいな……麻痺状態は回復するのに、一分くらい掛かるらしいぞ!」

俺「ボス戦で一分間も動けなくなってたら、自然回復する前に十中八九やられるぞ―――!麻痺してまともに動けない身体じゃ、麻痺回復のポーションを飲むのだって一苦労だろ」


オズマ達の目の前で二人のプレイヤーが絶体絶命の窮地に陥る!だが、迂闊にバラン将軍に向かえば、助けに行くことでその分危険が増す事は必然――――自らの生存率を削り、パーティメンバーを救う事。それは、デスゲームと化したソードアート・オンラインにおいて、パーティーを組むのであれば必須ではあるのだが、いざ、真に命を掛けて仲間を救わねばならぬ場面に置かれて、それを実行するには並大抵の度胸では不可能!だが、それも無理はない、何故ならこれはただのゲームではなく、HPが0になる=現実世界での死を意味するゲームであるからだ! by立木ナレ 
 

 
後書き
中途半端な状態ですけど、一旦ここで区切り続きの戦いは次回更新します。 

 

FILE19 窮地のレイドパーティー!招かれざる客の出現!

麻痺したスピア使いにバラン将軍がめざとくタゲを取った。そして右足の踏みつけ攻撃で、その身体を押しつぶそうとする――――

ユッチ「ぼ、僕があ、相手だぁ――――――――!!」

スピア使い「え……?」

―――が、その直前に半泣き状態のユッチが、ダガーナイフでバラン将軍の左足を突き刺し、それによってバラン将軍の攻撃の矛先はユッチに向けられていた。

シヴァタ「良し!彼もやれば出来るじゃないか!」

シヴァタが右手の拳を握り締めてガッツポーズを取った。ユッチには強引な命令ではあったが、バラン少雨軍に単独で攻撃して、奴の注意を引き付けるように指示を出しておいた。
敏捷性に優れたアイツなら、一撃加えた後に離脱でバラン将軍の攻撃から逃げ切れる可能性が高いと踏んで、俺はユッチに問答無用で囮役をやらせたのだった。

俺「レイナ、出番だ。俺とシヴァタでちゃんとフォローはする!」

レイナ「……任せて」

次にレイナを先頭に、続いて俺とシヴァタと、同じパーティーメンバのC隊の二人が続いてバラン将軍に向かって走り出す。
まだ、バラン将軍の憎悪値(ヘイト)はユッチに向けられている今なら間に合うはずだ。

レイナ「……今から離脱するわ」

スピア使い「す、済まねぇ……」

俺達6人のパーティーで最も筋力ステータスが高いのは、両手剣使いのレイナだった。細身で華奢な体躯に似合わず、大の男一人を単身で抱えると、そのままレイナは壁際に向かって離脱を開始する。

シヴァタ「女の子に力仕事を任せるのは、少々気が引けるが―――そんな悠長な事を行ってられる状況でもなさそうだな」

俺「ホントだよ……連中が回復するまで、ここからは俺達が踏ん張らねーとな」

レイナがスピア使いを運んだ先には、既に麻痺で倒れているプレイヤーが8人。自由にならない腕で麻痺回復のポーションを何とか飲もうとしている最中だった。
奴らは皆《二重ナミング》を食らった者達だろう。

ユッチ「お、オズマさん!も、もう……もう限界っすぅ――――!!」

俺「ああ、もう充分だ!後は俺達が引き受けるから、お前は麻痺してる連中に回復POTを飲ませるんだ!」

ユッチ「は、はひぃ――――!!」

ユッチは、幾度もバラン将軍のハンマー攻撃の直撃を食らいそうになりながらも、逃げに徹する事で辛うじて大ダメージは回避し続けて、そのまま俺達の横を駆け抜けて、レイナと麻痺者達がいる壁際に向かって走って逃げおおせた。

丁度その頃、ナト大佐と戦っていたはずのH隊のキリトが、リンドの側に駆け寄って、何かを話しているようだが、今は俺達は俺達のやれることをやるだけだ。

シヴァタ「バラン将軍がハンマーのモーションを取ったぞ!」

俺「手筈通りやれば良いだけだ!一撃目で食らっても、さっきみたいなヘマはしなければ良い!」

稲妻を帯びたハンマーが振り下ろされ、そこから俺達の方に衝撃波が発生した直後に、稲妻の渦が発生していた――――が、バラン将軍がハンマー攻撃のモーションに入った時点で既に離脱していた俺達にその攻撃は当たらない。

無論、二連撃目の攻撃も今度はしっかりと予測していたので、慌てて接近するような真似はせず、バラン将軍の攻撃が終わった直後に、俺達は一斉にバラン将軍への攻撃を開始した。

俺とシヴァタ、他のC隊メンバー2人の計4人だが、ソードスキルでのスイッチを行うには十分な人数で、一人ずつソードスキルを交代で浴びせてを続ける、これだけでバラン将軍に大きなダメージを与え、尚且つ麻痺者の回復の時間稼ぎにもなった。

リンド「よい、E隊、後退用意!G隊、前進用意!次のディレイで交替するぞ!」

そこで、リンドが何かを決断したようで、バラン将軍と戦っているメンバーの入れ替えを指示していた。

シヴァタ「リンド、どうするつもりなんだ?」

俺「キリトの奴と、リンドとキバオウの三人で何か話してたみたいだからな。その話し合いの結論って事だろ……」

そして、そのキリトとキバオウは既に自分の持ち場に戻っていた。



更に戦闘続行!キリト、リンド、キバオウの間では、あと一人麻痺者が増加した場合は、ボス戦からの撤退と言う形で話し合いを終えて、その後はリンドのディレイ交替の指示も功を為し、バラン将軍のHPバーは最後の一本を残すのみとなり、ナト大佐のHPバーも残り半分のイエロー領域まで減少―――第二層フロアボス戦の勝利が見えてきたと思っていた矢先――― by立木ナレ



ごごぉん!

そんな轟音が、フロアボス部屋に木霊した。音が聞こえたのはコロシアムの中央だが、そこには何もない。
ただ、牛のレリーフが施された青黒い石材が敷き詰められてるだけだった……

俺「なんだよ、動いてやがるのか?」

三重の円を描く敷石が、スピードを変えながら反時計回りにスライドする光景を見て、俺はこのフロアボス戦の本番は、まだまだこれからなのではないかと言う、根拠のない不安を感じていた。

ユッチ「ひぃぎゃあぁ――――――!!な、なんなんっすかありゃ――――!?」

俺のそんな当たってほしくない不安が的中すると、ユッチがある意味、さっきの轟音よりも響く大声で喚いていた。

俺「なんてこった……俺達が今まで戦ってたバラン将軍が……本当のフロアボスの取り巻きだったとはな」

俺は半笑いで、思わずそう言葉を濁していた。新たに出現した王冠を被った牛人のボスモンスターは天井に達する程の場所に出現した6段ものHPバー下部の文字列を眺める―――が、アルファベットで書かれているので、事前情報も無かった事も有り、俺は全く読めないのだが、そこはレイナがスグにフォローをしてくれるのだ。

レイナ「……正式名称は《アステリオス・ザ・トーラスキング》よ。アステリオスは雷光を意味するわ」

俺「もう、トーラス王で良いだろ……」

そしてその後、エギル率いるH隊が丁度、ナト大佐を倒したようだったが。トーラス王の出現で事態は好転したとは言い難い状態になってしまっていた。

そして、その直後だった。自分たちの役目をようやく終えたばかりのキリトとアスナが、今度はバラン将軍を倒すと言わんばかりにこちらに走ってきたのは。

レイナ「……私たちはどうする?」

俺「やる事に変わりはない……余裕があるうちにボスを倒す」

幸いにも、俺達のパーティーは未だにHPは全員グリーンの状態だった。レイナとユッチは麻痺者の回復をしている間に、自分達も回復POTを飲んだようで、そのHPバーはフル状態になっていた。

シヴァタ「よし、トーラス王の攻撃パターンに関しては全くの未知数だが、まずは盾持ちのメンバーが前衛に出て、奴らの攻撃を防ぎつつそのパターンを掴む!」

俺「ああ、そう言うのは俺等には不向きだから頼んだぜ!」

だが、トーラス王の主な攻撃方法はブレス攻撃だった。口から吐き出されたブレスは毒でもなく、炎でもなく、雷だった。
それを認識した時には、俺達も、キリトやアスナ、そして20人を超えるプレイヤーは白い閃光に包まれていた。

発射された直後には、既に最大射程距離にまで届いたようで、その攻撃速度の前には、前衛のタンク達が盾を構える暇すらなかった。

そしてその直後、俺の目の前を薄いピンク色のセミロングの髪をなびかせながら、レイナが両手を広げて、俺の前に立ちはだかる―――いや、俺を庇ったのか!?

そして、レイナを含む、トーラス王のブレス攻撃を食らったプレイヤーの殆どは、バーの周囲に水泥色の枠が点滅し、麻痺状態のデバフアイコンが表示される。
だが、レイナによって、ブレス攻撃の直撃を免れた俺は、HPバーが僅かに減少するだけにとどまり、麻痺状態になる事も無かった。

俺「お前……なんで?」

何でこんな真似をした?―――と、聞く前に、レイナが痺れる身体で切れ切れの掠れ声で言った。

レイナ「あの……ままだと。貴方も私も……麻痺していたから、だから」

俺「攻めて俺だけでも麻痺から守ろうと咄嗟に判断したのかよ……」

いつも、無表情で感情を表に出すことなく、何が起こっても冷静で冷淡で一切の動揺を見せ無いレイナが、このSAOの中で知り合ったに過ぎない俺を命懸けで守る事になるなんてな―――いや、現実世界での記憶が無いレイナにとっては、このSAOでの記憶が自分にとってのすべての出来事だからだろうか?

俺「ま、そんな事は今は気にしてる場合じゃねぇだろうな……」

今の攻撃で10人以上が麻痺してしまい、その中にはキリト、アスナ、更にはリンドとキバオウまでもが同様の状態で、リンドとキバオウに至っては、トーラス王に比較的近い場所で動けぬ状態と化してしまっていた。

ユッチ「お、オズマさん!だ、大丈夫っすか!?」

俺「俺は見ての通り何ともない……つか、麻痺してないならとにかく動け!麻痺してる奴の救助とかをな……」

見てみると、麻痺を免れていた30人以上のプレイヤーの多くは、リーダー格のリンドやキバオウが麻痺して、命令する事もままならない事も有り、どう行動すべきか判断が付かない様子だった。

シヴァタ「俺が甘かった、トーラス王のブレス攻撃でこんな事になる事を、想定できなかったとはいえ……行動はもう少し慎重になるべきだったかもしれない」

俺「トーラス王の攻撃を予測できなかったのは俺も同じだよ。だから―――今は反省する前に、やれることをやれるだけやるべきだろ?」

シヴァタ「ああ、済まないな。こんな時だって言うのに……」

とにかく、俺とシヴァタで麻痺しているレイナを安全なボス部屋の出口付近まで運んで、レイナはこれで無事なはずだが。
麻痺状態のプレイヤーは未だに9人、そいつらを今から助けるのは、かなり困難―――と言うか、不可能に近い作業だろう。

果たして一体あの中から、何人を助ける事が出来、何人を犠牲にしてしまうのか、そんな鬱な事を俺が考え始めていた矢先だった。
ハンマーを振り下ろそうとしていたトーラス王の額の王冠に向かって、飛んでいく何かを見たのは。

レイナ「……投擲スキル?」

俺「ボスの王冠を直撃しやがった!?―――けど、何故落下しないんだ?」

通常、投擲スキルで投げられたナイフや石ころは、その場で落下して消滅するはずなのだが、それはまるで何かに引かれるように後方に戻って行った。

ブーメランのような動きで、後方に戻るそれを目で追うと、その先にいたのは、俺達を散々コケにしてくれた……

俺「あ、あの野郎!?」

ユッチ「なんで詐欺師野郎が!?」

俺とユッチだけでなく、ボス部屋に突如現れた48人目のプレイヤーを見て、誰もが驚愕の表情を浮かべていた。
この時すでに、麻痺していたプレイヤー達をエギルとその仲間3人が一人ずつ助け出していたのだったが、それすら視線に入らぬくらいに、プレイヤー達の注目を浴びていたのは、このタイミングで現れるはずの無い詐欺師だった。

レイナ「……あの武器はチャクラムだわ」

回復POTで麻痺から解放されたレイナが、詐欺師の手にある武器を見てそう口にした。チャクラムは確か、投擲スキルの他に、体術スキルを同時習得して使える、ブーメランのような要領で使えるSAOでは数少ない遠距離攻撃の武器だったと覚えている。

俺「体術スキルなんて……どこで習得しやがったんだ?」

それは、俺もベータテスターのブログを見てその存在を知り、自分も是非とも習得してみたいと思っていたが、未だに習得方法が分からず仕舞いで、アルゴの攻略本にも書いていない状態だと言うのに、何故奴が?

シヴァタ「待てよ……一瞬だったが、キリトもそれらしき体術の様な技を使っているのを見た気がする」

シヴァタはあの戦いの中でキリトの戦闘も僅かながら見ていたようで、そう思いだしながら口にするが、ベータテスターであるキリトなら、現時点で習得可能ならば、体術スキルの習得方法を知っていたとしてもおかしくはないだろう。



レイドパーティーの危機に現れたのは、招かれざる客であった!48人目のメンバーとして現れた詐欺師により、次回―――第二層フロアボス戦に決着!? 

 

FILE20 決着、トーラス王戦!

第二層の真のフロアボス、《アステリオス・ザ・トーラスキング》出現! 口から吐き出す雷のブレス攻撃により多数の麻痺者が発生!レイド崩壊の窮地に現れたのは――オズマ、ユッチ、シヴァタなど、多くのプレイヤー達から武器を騙し取った容疑のある鍛冶屋を騙った詐欺師のプレイヤーであった! by立木ナレ



詐欺師「僕がギリギリまでボスを引き付けます!その間に、体勢を立て直してください!」

突然ボス部屋に現れて、詐欺師が毅然と叫んだ。俺はまるで自体が飲み込めなかった。奴の詐欺の被害者が集まるこのボス部屋に奴はいったいなぜ?

シヴァタ「アイツの、チャクラムってレアドロップ品だよな?と言う事はもしかして――」

俺「詐欺で儲けた金で買ったんだろうな」


自身も詐欺の被害者であるシヴァタが、唐突に現れた詐欺師を訝しみ、愈々疑いの目を強めるが、今はそれを問い詰めている場合ではない。

ユッチ「あ、あの野郎!インチキ詐欺師の癖に、いきなり現れて何言ってやがるんだ!!」

一方で、今にも詐欺師に飛び掛かりそうなユッチを、俺は左手を出して制する。

俺「慌てるな!まずはトーラス王を倒すのが先だ!奴を問い詰めるのはボスを倒した後だ!」

ユッチ「う……クソ!」

予想外の事態だが、奴の方から詐欺被害者が大勢集まるこの場に来てくれたのは好都合だ。詐欺被害者達の前で奴が詐欺師である事を証明し、言い逃れ出来ず、周囲が敵だらけの状況を作るチャンスだ―――だが、それを実現するにはまずはこのボス戦を勝ち抜かねばならない。

「避けろ!!」

レイドメンバーの誰かの叫び声だった。おそらく、詐欺師にブレス攻撃を避けるように叫んだのだろう。だが、それよりも一瞬早く、詐欺師は俊敏な動作で左に跳んでいた。

直後に口の中から純白の稲妻が迸るが、詐欺師は比較的余裕を持って回避していた。

レイナ「……今の動き、ブレスの回避タイミングを知っているみたいね」

ユッチ「まさかベータテスターっすか!?」

俺「そうじゃない、そもそもトーラス王はベータ版にはいなかったみてーだから、ベータテスターだったとしても事前情報は何もないはずだ」

―――と、その時に聞こえてきたのは、本来であればこの場にいないはずの者の声だった。

アルゴ「ブレスを吐く直前、ボスの眼が光るンダ」

俺「アルゴ……お前、何か情報を掴んできたのか」

もしかしたら、アルゴは第二層のフロアボスがトーラス王である事と、弱点が王冠である事を、何かしらの手段で知り得て、それを知らせるためここに来たのかもしれない。
何故、詐欺師も一緒なのかはまだ分からぬままだが。



その後、詐欺師の援護により、麻痺したプレイヤー達は救助に成功!アルゴはボスの情報をレイドメンバーに提供――――リンド、キバオウは戦闘の続行を継続し! by立木ナレ



リンド「よし……攻撃、始めるぞ!A隊D隊、前進!」

リンドの指示に従い、重装甲の部隊がトーラス王に突っ込んでいった。体当たりの様な近距離攻撃が脚部分にヒットした事で、トーラス王のタゲが詐欺師から外れていた。

詐欺師「やあっ!」

輝くチャクラムが高々と舞い上がる。大型ハンマーを振りかぶろうとしていたトーラス王の冠に命中する。
再びトーラス王はディレイして、状態を大きく仰け反らせていた。

俺「色々と気に食わないが……この隙を逃すな!」」

ディレイしたトーラス王に俺は2連撃剣技のソードスキル『ホリゾンタル・アーク』を叩き込んだ。左からの斬り、更に右からの斬りでトーラス王のHPバーを削り取る。
そして、その直後にはレイナの両手剣ソードスキルの単発上段斬りである『カスケード』が刻み込まれていた。

そして、そのままアルゴのボスの情報を基に攻略パターンが確立された事も有り、ボスのHPは着実に減り続ける。

シヴァタ「それにしても、ブレイブスの5人は大したもんだな。ナミングをかなりの近距離で食らってるのに、ほとんどスタンしてないなんて……」

この大詰めで特に存在感を放っているG隊のレジェンド・ブレイブスを見て、シヴァタがそうぼやいていた。
シヴァタの言うように、トーラス王がハンマーを垂直に振りかぶった場合、他のパーティーは俺達も含めて、退避を余儀なくされるわけだが、G隊だけは張り付いたまま攻撃を続けられる。

レイナ「……彼らの防具はどれも阻害効果に対して高い抵抗値を持ったレア防具だわ」

俺「その抵抗値も、徹底的な強化でしっかりと引き出されてるからな」

一帯あれだけのレア防具を揃えて、あそこまで強化した状態にするのにどれだけのコルを費やしたんだ?
それも5人も、あの5人の中にベータテスターがいて、そいつが第二層で効率よく金を得る手段を知っていて、それで―――と言ったところだろうか?

リンド「E隊、後退準備!H隊、前進準備!」

リンドの指示が響き渡った。前身の命令を受けたH隊はキリトが含まれるエギルの部隊だった。奴は恐らく、第一層でコボルドロードのLAを取ったことに加えて、ナト大佐、バラン将軍のLAまで取って言える可能性が高い。

俺「そうはいくか……!」

これは恐らく、俺のゲーマーとしてのキリトに対する対抗心だ。同じ、一人のプレイヤーがボス戦での最大の見せ場であるLAを独占し続けるのが気に食わないと言う、譲れない気持ち……!

「ヴォラ―――――――ッ!!」

トーラス王が咆哮と共にハンマーを振り下ろした。

アスナ「せい……りゃあああっ!」

アスナが苛烈な奇声と共に細剣突進技の《シューティングスター》を吐く宇宙発動させていた。

キリト「おおお……らああああっ!!」

続いてキリトが片手剣突進技《ソニックリープ》を発動し、殆ど垂直に近い角度で飛翔しながら、トーラス王の弱点の王冠に―――いや、キリトが狙っていたのはその額だった。

だが―――ブレイブス三人の繰り出したソードスキルの光が立て続けに閃いた直後―――巨大な王冠を額事貫いたのは、キリトでもアスナでもない!

キリト「――――なっ!?」

俺「もう、充分だろ……ビーターさん?」

俺はキリトのアニールブレードが王冠に届くよりも先に、下段突進技のレイジスパイクでトーラス王の王冠を貫き、額を深々と貫いた。

俺はレイナの筋力ステータスを利用し、レイナに投げ飛ばしてもらい、そこから更にレイジスパイクを発動し、キリトよりも先にトーラス王にとどめのソードスキルを突き刺したのだ。

そして、王冠が粉々に砕け散り、更にトーラス王の巨体も爆散して散ったのだった。


※ ※ ※


シヴァタ「お見事だったぜ!あんなやり方でキリトを出し抜いてLAを決めるとは、やっぱり黒のビーターのライバルなのか?」

俺「バカ言え、同じ奴が何度も何度もLAを掻っ攫うのがつまらないと思ったからだよ。アイツ、第一層のフロアボス戦の時に加えて、ナト大佐とバラン将軍までLA決めてやがるんだからな」

キリトのライバルと言う部分は、ハッキリと否定させてもらい。俺はシヴァタと右手をパンっと音を立てて叩き合わせていた。

ユッチ「マジ凄いっすよオズマさん!キリトの野郎の、呆気に取られた間抜け面とか、もう最高っすよ!そう何度も何度も好き勝手させるかって話っすよね!」

俺「だからそんなつもりでやったんじゃねーっての」

まぁ、キリトに対してゲーマーとして対抗心が湧いたのは一概に否定出来ないのも確かだがな。そのキリトはと言うと、アスナを含めた三人で詐欺師と何かを話しているようだった。

レイナ「……あまり、話している時間は無いと思うわ」


勝利の中で沸き立つレイドの中で、レイナは一切騒ぐ事も、舞い上がる事も無く、冷静な眼差しで詐欺師の方を一瞥してから俺にそう言った。

俺「そうだな―――行くか、シヴァタさん?」

シヴァタ「ああ、取り返せる物なら、取り返したいからな」

シヴァタは険しい眼差しで首を縦に振り、了承してくれた。シヴァタ以外にも同じ詐欺の被害に遭ったリンド隊のプレイヤー一人と、キバオウ隊のプレイヤー一人、更に俺とレイナとユッチを加えた6人で、レイド本体から離れて、アスナやキリトと何かを話しているところだった。

俺達が近づくと、ようやくキリトが最初に俺達に気が付いてこちらに目を向ける。俺達が詐欺師を労いに来たわけではない事は、シヴァタ達の険しい表情を見れば流石に分かるだろう。
と言うか、ユッチに至っては、今すぐにでも詐欺師に食って掛からんばかりの怒りを露骨に表情に出し過ぎだった。

シヴァタ「あんた……何日か前まで、ウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな」

詐欺師「……はい」

シヴァタ「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで手に入れて……それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」



気が付けば、勝利に沸いていた他のレイドメンバーも、リンドやキバオウ、やエギル達も沈黙し、事の成り行きを静観!
まさに緊迫した空気が、フロア全体を漂うのであった! by立木ナレ



詐欺師「……僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣と、オズマさんの武器を強化直前にエンド品にすり替えて騙し取りました――――そして、そちらの少年の武器も一度は騙し取りました。」

その言葉を聞いた途端に、ユッチの表情はさらに激しく強張った。左右に立っている二人は暴発寸前の顔つきだが辛うじて自分を抑えている状態。
一方でシヴァタの自制心は見事なもので、眉間に谷を刻んだだけだった。

俺「……お前が俺等から騙し取った武器は、まだ持ってるか?」

今度は俺が肝心な事を問いただすと、床に手を付いたままの詐欺師は、頭を左右に振る。

詐欺師「いえ……。もう、お金に替えてしまいました……」

か細い声が流れた途端、シヴァタは両目をつぶったが、俺と同様にその答えをある程度予期していたらしく、短く「そうか」とだけ言った。

俺「だったら、その金での弁償は出来るのか?俺らの武器を売った金は残ってるのか?」

だが詐欺師は直ぐには答えなかった。沈黙がしばらくの間続き、俺の隣のユッチがついに耐え切れずに、声を張り上げる。

ユッチ「どーなんだよ!払えるのか、払えないのかサッサと答えろよ!!」

小柄な詐欺師は、額を床のタイルに擦りつけながら答えた。

詐欺師「いえ……弁償も、もうできません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとか、高級宿屋とかで残らず遣ってしまいました」

その言葉を詐欺師が口にした途端、今度はシヴァタの隣に立つ、リンド隊のメンバーが堪忍袋の緒を切らした。

「お前…………お前、お前ェェ!!」

そいつは、右足のブーツで何度も床を踏みつけながら叫ぶ。

「お前、解ってるのか!!オレが……オレ達が、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いしたか!!なのに……オレの剣売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?あげくに、残りの金でレア武器買って、ボス戦に刷り込んで、ヒーロー気取りかよ!?」

更に、左だがのキバオウ隊のメンバーも裏返った声で叫ぶ。

「オレだって、剣無くなって、もう前線で戦えないって思ったんだぞ!そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、オレ達だけじゃない、あいつらも……攻略プレイヤーも全員裏切ったんだ!!」

そして、それに続くようにユッチも、はち切れんばかりの怒声をぶつける。

ユッチ「表面上じゃ、申し訳なさそうな顔して『すみません』とか『代わりの武器をどうぞ』とか言っておいて、腹の底じゃ大笑いしてやがったんだろう!このクズやろうが!!」

三人の絶叫を皮切りに、これまで後方で琴の成り行きを見守っていた多くのプレイヤー達が、一斉に爆発した。

―――裏切り者!!

―――自分が何をしたか解ってるのか!!

―――お前のせいで攻略が遅れたんだぞ!!

―――今更謝ったって、何にもならんぇんだよ!!

数十人の叫び声が合わさると、轟音になって部屋を震わせていた。だが、これこそが俺にとって望んでいた展開でもある。

俺「そうだ、これで良いんだ。周囲が一団となって、あの詐欺師の敵になって、誰も奴の味方がいない、誰もが奴を責め立てる、詐欺師が完全に孤立させる必要があったんだ」



そう、これこそがオズマの求めていた状況!!心情的に周囲を味方につける事により、詐欺師がのらりくらりと周囲を言いくるめるような真似をできなくし、詐欺師を完全に無縁孤立のっ状態に追い込み、しかるべき徹底した制裁を下す事がオズマの狙いであった! by立木ナレ 
 

 
後書き
フロアボス戦は終結しましたが、詐欺師への処遇に関するやり取りはもう少し続きます、長くて申し訳ございません…… 

 

FILE21 下される詐欺師への制裁!?

第二層フロアボス戦は辛うじて犠牲者を出すことなく、勝利したものの――直後に始まったのは、詐欺師への追及!
オズマらに問い詰められた詐欺師は自らの罪を自白!詐欺被害者が多く集まるボス部屋は、詐欺師に対する非難の声に包まれるのであった! by立木ナレ




轟音が詐欺師に浴びせられる中、右手を高く掲げながら進み出たのは、レイドのリーダーを務めていたリンドだった。
俺達もリンドに場所を譲ると、ここで一旦、広間を満たしていた怒りの声が収まった。

リンド「まず、名前を教えてくれるか」

ネズハ「…………ネズハ、です」

詐欺師――ネズハが名乗ると、リンドは二度、三度頷く。そして咳ばらいをして、低い声で言う。

リンド「そうか。ネズハ、お前のカーソルはグリーンのままだが……だからこそ、お前の罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったのなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻る事も出来るが、お前の罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償ももうできないと言うなら……他の方法で、償ってもらうしかない」

リンドの言う、他の方法での償いが何か―――まずは聞いて見なくては何とも言えないが、少なくとも命で償えとまでは言わないだろう。

リンド「お前がシヴァタ達から奪ったのは、剣だけじゃない。彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だからお前は―――」

恐らくリンドは、ネズハに、これからのゲーム攻略での貢献と、収入からの徐々に弁済を命じるつもりだろう。
ディアベルだってきっと、その裁決を下すだろうし、俺がリンドの立場でも同じ採決になるだろうから、この辺りが妥当と言ったところか―――

「違う……そいつが奪ったのは時間だけじゃない!」

後方から甲高い声を叫んだそいつは、走り出して前に出る。緑服のキバオウ隊のメンバーだった。
「オレ……オレ知ってる!!そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは、他にも沢山いるんだ!そんで、その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、今までは倒せてたMobに殺されちまったんだ!!」

再び大広間が静まり返った。数秒後、シヴァタの隣の青メンバーが囁く。

「……し……死人が出たんなら……こいつもう、詐欺師じゃねぇだろ……ビッ……ピ……」

その先の言葉を言おうとして言え無さそうな様子だったが、さっき喚いていた緑メンバーが、右手の人差し指を突き出して叫ぶ。

「そうだ!!こいつは、人殺しだ!PKなんだ!!」



Pkとは―――とは、オンラインゲーム、特にMORPGやMMORPGにおいて、他のプレイヤーに対し、何らかの目的で他のプレイヤーを殺す事、あるいは殺す行為を示す言葉であり、その行為をプレイヤーキル (Plaと言い、これをPKと略す。

このソードアート・オンラインにおいては、近年のMMORPGとしては珍しくPKが可能となっており、街中でこそ犯罪防止コードによって守られているが、ひとたび圏外に出る事によって、その恩恵は消える事になる!! 

そして何よりも、ゲーム世界での死が現実での死に直結するデスゲームと化したSAOにおいて、PKは単なるローカルプレイやゲーム内でのマナー違反行為などでは済まされず―――実際の殺人行為に他ならないのである! by立木ナレ

キバオウ隊の痩せたダガー使いは、指を指したまま更に叫ぶ。

「土下座くれーで、PKが許される分けねぇぜ!どんだけ謝ったって、いくら金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ!どーするんだよ!お前、どーやって責任取るんだよ!言ってみろよぉ!」

俺はその甲高い叫び声を聞いているうちに、第一層での事を思い出して、隣でその様子を冷静な眼差しのまま生還しているレイナに話しかける。

俺「確かアイツって、第一層のボス戦の後にキリトの事を『こいつベータテスターだ!』とか騒いでた奴じゃなかったか?」

そして、俺がキリトを強請る計画を破談させてくれた、最大の張本人とも言えなくもない奴だった。レイナは、俺の方を振り返らないまま、小声で――しかし、俺に聞こえるように答える。

レイナ「……オズマの記憶通りよ。名前は―――覚えてないけど、キバオウからはジョーって呼ばれてた気がするわ」

やっぱりそうか、あの時もそうだったが、何かあるたびにこう尽く喚かれると、この先こいつをフロアボス戦に参加させ続ける事に妙な不安を感じる。
だが、そんな俺の杞憂など、どうでもよくなるような招かれざる者たちが現れたのはその直後―――



ガチャモン「フェイフェイ……君が逝ってから、もう28年が経つんだね。毎年こうやって君との別れを思い出すとさ、君が上野動物園のアイドルだった頃を思い出すよ……」

モック「ガチャモン、もうフェイフェイの事は休ませてあげましょうよ……生まれてから12年間もの間、人間の見世物にされてさぞお辛かったですな~……」

緊迫した空気、殺伐とした雰囲気、一瞬触発の状況下にまるで空気を読む事無く、上野動物園に昔いた、ジャイアントパンダの命日を悼んでいるかのような、振る舞いで現れたのはSAOのマスコットを自称しているガチャモンとモックだった。

ガチャモン「さぁ!皆もフェイフェイの命日なんだからお線香をあげてあげて!皆だって好きだったよねフェイフェイ?」

モック「あの~、ガチャモン……この場にいる殆どの方々はおそらく、フェイフェイが無くなった後に生まれた世代の方々ですので、我々の話に付いてこれないのではないでしょうか?どちらかと言えば、彼ら世代にとって上野動物園のジャイアントパンダと言えば双子の赤ちゃんパンダの方じゃないですか?」

ガチャモンが俺達にまで、線香を上げろなどと、バカな事を言い出し、モックがそれを適切な言葉で止めようとすると、ガチャモンは露骨に不貞腐れたような声で言った。

ガチャモン「ちぇ~、これだから平成生まれは全くもぉ~。世代間ギャップを感じさせてくれるんだからさ~」

キバオウ「知らんわ!フェイフェイとか双子パンダとか今はどーでもええわボケ!」

そして、こんな時にガチャモンに対して真っ先に突っかかるのはやはりキバオウだった。流石に冷静さを欠いてガチャモンに攻撃を加えてしまう様な愚行は行わないが、右手の人差し指を突きつけて、さっきのダガー使い以上の喚き声をあげていた。

だが、この時ばかりはまさにキバオウの言う通りだ。フェイフェイとか双子パンダとか正直どうでも良い。
まぁ、双子パンダの方は小学4年生だった2018年に当時の仲間達と共に見に行ったことはあったが、その時に俺が率直に感じた双子の赤ちゃんパンダに対する感想は『ブサイクなパンダだな……』と思わず口に漏らした通りだった。

ともかく、そんな昔の話はどうでもよく、実際に奴らがこの場に現れたのは何なのかだ、前の様に単なる冷やかしならどうでも良いのだが、それ以外に目的があるのだとしたら―――

ガチャモン「年長者として、このSAOのマスコットキャラとして君達に一言アドバイスします!」

アスナ「何なのよ一体……?」

今度はアスナが不快そうに、鋭い眼光でガチャモンを睨みながら呟いていたが、ガチャモンは全く気にする事なく、ノリノリのテンションでトークを開始する。

ガチャモン「え~、ご存知の通り。このSAO内での様子は、現実世界の人達は殆ど把握していません。精々プレイヤーログから、どのプレイヤーがどこで誰と接触しているかをある程度調べるくらいの事が限度だろうね」

キバオウ「それが、何やっちゅうねん!?」

俺はこの時、ガチャモンの心の奥底から―――この騒動に更なる波乱を引き起こそうともくろむような悪意を何故か感じた。
そして、キバオウの叫ぶような問いかけに答えるようにガチャモンは言う。

ガチャモン「よーするに、この世界における法、秩序、掟は全て、君たちプレイヤー達によって決定するって事さ、なにも現実世界の常識やあり方に囚われる事も無いしね」

俺「まさか……こいつ!?」

この世界で行われる事が、現実世界の人間達に知られる事が殆ど無い事を敢えて伝える事によって、俺達が詐欺師に対してどのような制裁を下すようになるのかを試してやがるのか!?
だが、そんな俺達の疑問に当然答えるわけもないであろう連中で、それを証明するようにモックが口を挟む。

モック「そんな事よりもガチャモン!フェイフェイが大活躍していた当時のVHSが手に入りましたから、早速観賞会ですぞ!」

ガチャモン「モックったらナイスだよ~!と言うわけで、僕たちはこれで失礼するね。フェイフェイの大活躍していたVHSの映像はガチャパットでも期間限定で配信するから、是非よろしくね~」

それだけ言い残して、ガチャモンとモックはあっさりとその場から姿を消したのだった。残された俺達は、唖然としている者、険しい顔つきを浮かべる者、薄ら笑いを浮かべる物と多様だが、さっきまで直面していた問題が去ったわけではない。

そして、さっきまでの話を再開させる言葉を口にしたのは、問題の張本人であるネズハ自身だった。

ネズハ「……皆さんの、どんな裁きにも、従います」

ネズハの言う捌きの意味は何か……それは、さっきのガチャモンが言った、『この世界の法、秩序、掟はプレイヤーたち自身によって決められる』と言う言葉を聞いた直後だと、もはや誰が考えても一つしか考えられなくなってしまっていた。

ユッチ「なら、責任取れよ」

ユッチが、どう言う意味で、どんな責任を求めてその言葉を発したのかまでは分からないが、その言葉が切っ掛けに、ボス部屋の大音響が再び全体に広がる事になる。

「そうだ、責任取れ!」

「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」

「PKなら、PKらしく終われ!」

「命で償えよ、詐欺師!」

「死んでケジメを付けろPK野郎!」

「殺せ!クソ詐欺師野郎を殺せ!!」



そのプレイヤー達の叫びは、もはや詐欺師に対する怒りだけではなく、デスゲームに囚われた事に対する理不尽への怒りのはけ口をぶつけるかの如く、恨みの言葉、怨嗟となっていた――――既に、リンドにも、キバオウにも、この状況を収める手立てはなく、完全なる手詰まりと化していた! by立木ナレ


俺「この状況は不味いぞ……」

レイナ「……オズマの本来の目的にそぐわない展開になりそうね」

そうだ、本来であれば詐欺師にきっちりと、どれだけ時間を掛けてでも、俺達詐欺被害者への償いをさせるのが目的であったにもかかわらず、ここで奴を処刑なんて事になったら、補償できる物も保証できなくなってしまう。

この状況をどうやって収められる?俺自身その答えを出せぬまま、事の成り行きを見守り続けていた時だった―――

俺「アイツ、レジェンド。ブレイブスのリーダーの……」

レイナ「……オルランドよ」

オルランドを始めとしたブレイブスの5人が金属音を鳴らしながら、うずくまるネズハの前にたち尽くした。
そして、オルランドは剣の柄を掴むと、それを一気に抜きとった。

俺「アイツ、ネズハを処刑する気か!?」

だが、そんな奴をどうやって止めればいい?今更、『やっぱりこいつには生かしたまま補償をさせろ』とか俺が言ったところで、大半の者達が殺せと叫んだ直後では何の効果も無いのは目に見えている。

だが―――、俺がオルランドの微かに響いた声を聞いた時、俺はこのオルランドが、何者かを―――なぜここまで強力な防具を揃えて、強化まで行えたのか、全ての答えを知ることになった。

オルランド「……ごめんな。……ほんとうにごめんな、ネズオ」

ネズオと言うのはネズハの事だろうか?そんなどうでも良い事を疑問に思う間もなく、オルランドと、その仲間の4人は、ネズハの右隣りに移動すると、一斉に床に膝を突いていた。

オルランド「ネズオ……ネズハは、俺達の仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせていたのは、俺達です」



※ ※ ※



第3層へ続く階段で座り込みながら、嗜好品アイテムであるタバコを加えていると、レイナが無言のまま近づいてきて声を掛けてくる。

レイナ「……ウエイトソードはやっぱりもう無かったけど、ウエイトソードに匹敵するコルを回収する事は出来るみたいよ」

俺「そうか……ボス部屋の方はどうだ?」

レイナ「……まだ、話し合いが終わるのは時間が掛かりそうみたい」

レイナが言った、話し合いと言うのは、キバオウとリンドを中心に話し合われている、詐欺集団であるブレイブスの処遇の話し合いの事だった。
最終的に、ブレイブスの連中が、装備している高価な防具や武器を売り払う事で、弁償が可能となり、それによって、ネズハを処刑しろと騒いでいた連中も、頭が冷えたようで――――ともかく、処刑は行われる事は無かった。

だが、それでも俺の気分は靄が掛かったままのような、大して晴れない気分だった。

俺「キリトの奴――――あいつは、気が付いてたらしいな。ネズハがブレイブスの仲間だったって事に」

レイナ「……それは、私もキリトに直接問いただしたわ。―――キリトは認めた、そして、キリトがネズハにチャクラムを譲った事や、体術スキルの習得方法を紹介した事も」

俺「ったく……また俺はアイツに遅れを取っちまったわけか――――」

第一層で俺はキリトに対してベータテスターである事をネタに強請ろうとしたが、それはキリト自身が悪のビーターを自称する事で破綻した。

そして、今回の第二層でも俺はネズハを無縁孤立させて、奴に破滅的な大打撃を与えようと考えたのだが、それだと、狩りにネズハからの弁償が出来たとしても、主犯であるオルランド達を逃がしてしまうわけだった。

レイナ「……けど、真のフロアボスのLAボーナスはオズマが取ったことに変わりないわ」

俺「ああ、そー言えばそうだっけな―――」

ボス戦直後の騒動で俺は、トーラス王からドロップしたレアアイテムを確認するのを忘れていた。アイテムストレージを開いて、新規獲得順でアイテムを確認してみると、そこには確かに始めてみる、ゲーム内に一つだけであろう、背中に『兆』と書かれている、灰色の防具アイテムが存在していた。

俺「オブジェクト化するぞ」

レイナ「……剣豪の防衣(けんごうのぼうい)(きざし)……凄い、第二層で手に入る防具にしては破格すぎる性能ね」

レイナの言う通り、この灰色の革製の防具は、第二層で装備するにはあり得ないほどのステータスだった。
だが――――

俺「レベル35以上じゃなくちゃ装備出来ない、条件付きだとさ。俺がこれを着れるのはかなり先になりそうだな……」

俺は苦笑いを浮かべながらそうぼやいた。レベルな35なんて、今のレベルの倍以上だった。なので、今の俺は当分は、今装備している《ダークスカイコート》を使い続ける事になりそうだった。 

 

FILE22 第5層開始!親睦会と忘年会?

西暦2022年12月28日。アインクラッドの第五層が解放された翌日の早朝であった。全プレイヤーがガチャモンとモックによって強制的にプレゼントされていた、ガチャパットが強制的にオブジェクト化されると同時に、映像が流れ、それは唐突に始まった! by立木ナレ



くっちゃうぞ くっちゃうぞ

いたずらするこは くっちゃうぞ

バターたっぷり ぬりつけて

おさとうパラパラ ふりかけて

おおきなおおきな くちあけて

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ♪


くっちゃうぞ くっちゃうぞ

おなべでゆでて くっちゃうぞ

あたまのほうから なげこんで

まだかなグラグラ グッツグツ

おいしいスープの できあがり

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ♪


くっちゃうぞ くっちゃうぞ

ねむってるまに くっちゃうぞ

おもちゃだいじに しないこは

こわれたじどうしゃ きしゃかいじゅう

しかえしやってくる ゆめのなか

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ♪


ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ♪


リリース 1975年4月
歌    ガチャモン




ガチャパットから流れるガチャモンの不快な歌を、アインクラッド中のプレイヤー達は朝から聞かされる羽目になった。
ガチャパットに映るガチャモンはマイクを握り、一通り歌い終えるとまるで、やり切ったと言ったばかりに深い息をついていた。

ガチャモン「ふぅ~、久しぶりにこの歌うたってみたんだけどさ、ど~だったかな、僕のスペシャルサプライズ?」

モック「素晴らしいじゃないですかガチャモ~ン!既に50年近くも前の歌ですけど、いやぁ~―――まさに色褪せぬ名曲と言う奴ですなぁ~」

ガチャモン「くすす、モックたら美味いこと言っちゃって♪―――そんなこと言っても大したものは出ないんだからね~」

と、ガチャモンは上機嫌でそう言いながら、懐から黄金の塊を取り出して、それをモックに手渡していた。

モック「おおお――――――!!こ、この金塊は凄い!30万コル相当の価値があるじゃないですか―――――!!よっ、流石はガチャモン先生!アンタが大統領!」

そんな、しょうも無い子芝居を見続ける――見せられ続けるプレイヤー達の苛立ちは当然溜まり、朝食を食べながら、これを見ている食堂のプレイヤー達からの感想はこんな感じだった。

「いい加減に止めろ!鬱陶しいだけじゃねーか!」

「しらねーよ、そんな昔の歌!どーせぱくりなんだろ?」

「朝からうぜーったらありゃしねぇ……」

ものの見事見事に不評なのは当然だった。そこにいるプレイヤー達からは大ブーイングの嵐となり、本来ならのどかな朝食の場である食堂が、ガチャモンとモックに対する罵声、罵倒の言葉で埋め尽くされていた。
が、そんなプレイヤー達の不評に構う事なく、ガチャパットに映るガチャモンとモックは上機嫌のまま勝手に話を続けるのだった。

ガチャモン「さてと、気分上々になってきたところで、さらに追加のスペシャル発表で~す」

その言葉を聞いた途端に、食堂は急に静まり返っていた。

俺「いったい何を始めやがるんだ……?」

レイナ「…………」

俺とレイナも食事を食べるのを一旦止めて、ガチャパットの映像に見入る事になる。奴らの言うスペシャルな発表などと聞かされれば、一体どんなろくでもない事をおっぱじめるのかと、誰もが不安に駆られるのも無理はないだろう。

モック「スペシャルな発表ですか?一体全体、それはなんなんですかね~?」

ガチャモン「はい、本日、12月28日の午後の8時より。プレイヤーの皆との親睦会を兼ねた……忘年会を始めちゃいたいとおもいま―――す!」

ガチャモンが大々的にそう発表したと同時に、ガチャパットの背景は、カラフルな虹色の輝き始めるが。それを見て、わー、きゃーと叫ぶプレイヤーは無論皆無だった。

モック「おお、忘年会ですかガチャモ~ン?いや~、思い返せば2022年も何かと色々とあった年でしたな~」

ガチャモン「はい、プレイヤーの皆とはね、今年一年を振り返りつつ、皆との親睦を深める為にも、今日の午後の8時に全員一斉に僕たちの部屋にご招待しま~す」

それは、恐らく―――このゲームが始まって一週間後に、奴らが初めて俺達を強制邸に呼び出し、奴らが初めて俺達の前に姿を見せたあの体育館のような場所の事を言っているのかもしれない。

モック「はい、皆さん解りましたか?今日の午後の8時ですよ、8時!あ、それ~、も~、い~くつね~ると~、お正月ぅ~」

モックが歌っている最中に、ガチャパットの映像はそこで途切れたのだった。

俺「ったく、一方的な呼び出しとか、迷惑でしかねーよ……」

俺がウンザリ君にそう愚痴っているのと同様に、食堂にいるプレイヤー達も、親睦会だとか、歓迎会だとか、そんなのを真に受けてはしゃいでいる者などおらず、むしろ奴らはいったい自分達を呼び出して何を始めるつもりなのか?

そんな、不安に覆われ重苦しい空気になっていた―――

ユッチ「お、オズマさ――ん!!た、大変っす、大変っすぅ―――!い、今……ガチャパットの映像でアイツらが――――」

俺「知ってるっつーの。いかにも、ガチャパットでようやく起きたばっかりなお前と違って、最初から起きて聞いてたんだよこっちは」

重苦しい空気の食堂に、どたばたと騒々しく駆け込んできたのは、第二層で俺とレイナと出会って以降、どう言うわけか何度も何度も俺達に声を掛けて来たり、街で接触して来たりするユッチだった。

その目的は、ユッチも全く包み隠すことなくこう言った。

『キバオウさんのアインクラッド解放隊、リンドさんのドラゴンフリゲーツナイト、その二大攻略ギルドに次ぐ、第三の攻略ギルドをオズマさんをリーダーにして結成したいんっすよ~』

そんな感じで、このユッチは第二層のクリア以降も、幾度も俺にギルドの結成の話を持ち掛け続けていたわけだった。
俺としても、これから攻略を続けるに当たり、大小さまざまな攻略集団が現れる中で、何時までもどの集団に属さずにいる事で、集団の中での発言力とか、一定の地位などが保てなくなる可能性も考えているので、何れはどこかしらの集団に属するべきだとは考えているが、かと言って自分からギルドを結成して、自分がリーダーとしてまとめるのは―――正直少しばかし面倒だと思ってるので、中々気が進まないのだった。

レイナ「……どちらにしても、8時になるまでは、彼らの介入は無いと見て考えて良いはずだから。その間に狩りやクエスト、迷宮区の攻略、やれる事をやるべきよ」

ユッチ「さ、流石はレイナさんっす……あの連中が何をしてきやがるのか分からないってのに、堂々としてるっすね~」

レイナ「……ただ、論理的に思考して、理に適った行動を提案しただけ」

とは言え、レイナの言う通り。奴らの呼び出しはどうせ全員参加の強制招集。時間になったら否応なく、呼び出される事はもうわかり切っているので、ならばそれまでの時間は有効的に使うと言うレイナの意見は最もだった。

俺「それじゃ、今日は第5層のモンスター達のお披露目もかねて、狩りに出るとするか―――前に習得した例のスキルの練習台にも丁度良いかもしれないしな」

レイナ「……私も、新しいスキルだから、早く使って、慣れた方が良いと思う」

それは、第4層に至っても、体術スキルを未だに取れずに、どうしたもんかと考えていた俺の元に舞い込んできた体術スキルとは別のエクストラスキルの話だった。

エクストラスキルとは、武器スキルにおいて、ただ武器の熟練度、パラメーターを上げただけで出現しないスキルのことであり、何かしらの特定の条件を満たす事で初めて習得可能になるスキルの事だった。

俺が知っている中ではベータテスターのブログでも見た事があり、そして元ベータ―であるキリトが使っている体術スキルがそれに相当したのだったが。

俺は第4層で、体術スキルとは別のエクストラスキル習得のクエストを発見し、それを会得するに至っていた。
また、体術スキルの方だが、最近になってようやく習得方法が近日公開されるのでは?――とか言う噂が囁かれており、もうそうなった場合は、レイナに体術スキルを習得させてみようと俺は考えていた。

なぜ、体術スキルは俺ではなくレイナなのかについては―――ここでは割愛しよう。



そして、アインクラッド中のプレイヤー達が、不安、恐怖、怒り、あらゆる感情を感じながらついに、西暦2022年の12月28日の午後8時を迎える!!
その瞬間、全てのプレイヤー達は白い光に包まれ、瞬く間に第一層の時と同様に、一斉に転移させられるのであった!! by立木ナレ




ユッチ「あ~もう!またこんなところに~……」

ガチャモンとモックの根城である体育館に転移させられた直後に、ユッチが頭を抱えて、怯えを感じさせる声でそう呟いていた。

俺「さて、今度はいったい何をおっぱじめる気だ?」

奴らは親睦会だとか忘年会だとか言ってやがったが、そんな言葉をそのまま鵜呑みにするわけがない。すると、頭を抱えて震えていたユッチが恐怖に震えた声を弾き出すように、叫んだ。

ユッチ「やっぱり嫌だぁ!ぼ、僕は逃げるっす!こんなところにいられるか――――!!」

レイナ「……どこに逃げるの?」

俺「多分この場所は、ガチャモンとモックに転移させられない限り入る事も出る事も出来ない場所なんだろうな」

つまり、俺達がここから出られるのは、ガチャモンとモックの悪ふざけが終わり、奴らが自発的に俺達をここから転移させる時だった。

そして、プレイヤー達が未だに現れないガチャモンとモックに対する苛立ちの声を発し始める。

「おい、こんなところに勝手に呼び出して何時まで待たせるんだ!」

「ワイらはおどれらと違って、暇やあらへんのやで!」

「もー、最悪!今日は大事な商談の予定だったのにどうしてくれるのよ!?」

―――と、そんな時だった。体育館のステージの上に、バカ丸出しの―――某バカ殿様の様なコスプレをしたガチャモンとモックが現れたのは。

モック「いやぁ~、いやいやいや!素晴らしいじゃないですか~。何と全員出席!欠席者ゼロ!やりましたなガチャモ~ン」

ガチャモン「うんうん、僕は嬉しいよ、みんな。なんだかんだで文句言ってる皆だけどさ、ちゃ~んと僕たちの呼びかけには集まってくれるんだからさ~」

よくもまぁ、ぬけぬけと言いやがるもんだな。お前らが勝手に俺達を強制転移で呼び出した癖に。いうまでも無く、ガチャモンとモックに対してプレイヤー達の白い視線が一斉に向けられていた。

ユッチ「一体何なんだよぉ!?もー、お前らと一緒の場所なんてうんざりだぁ!」

そして―――ユッチのそんな、泣きかけの喚き声を皮切りに、プレイヤー達の怒声が弾ける。

「なにが忘年会だテメーら!こっちはオメーらなんぞに用はねぇ―――!」

「ふざけてんのか!?今度はいったい何をしようってんだ!!」

「あんた達は何者なのよ!?いったい何様なのよ!!」

ガチャモンとモックは、プレイヤー達の罵声を浴びせられながらも、愉快そうな態度を崩さず、ガチャモンは急に自分の顔を両手で隠していた。

俺「なにしてやがるんだ……」

ユッチ「もう……いやだ、か、帰りたいっす―――」

相変わらず自分の頭を抑えつつ、ガタガタと恐怖に震えるユッチを尻目に、俺達はガチャモンに対して一斉に視線を向けていた。

そして、ガチャモンは――――

ガチャモン「いない、いない―――」

そう言った直後、ステージの上のガチャモンの姿が―――消えたのだった。一体ガチャモンは何処に消えた?
俺を含めたプレイヤー達が周囲を見渡していた時だった。

ガチャモン「ばぁ―――――!!」

相変わらず姿は見えないままだったが、そんなガチャモンの叫び声が部屋に響き渡っていた。

「うおわぁっ!?」

「だ、大丈夫かクライン!?」

どこかで、そんなプレイヤー達の声が聞こえてきた。

ガチャモン「やーい、やーい!ビビってるビビってる~!」

俺「阿保くせぇ……」

どうやら、ガチャモンは特定のプレイヤーの目の前に転移した直後に、顔を近づけて、そのプレイヤーを驚かせてはしゃいでいるようだった。

これが、奴らの言っていた親睦会か?忘年会か?んなわけあるか――――むしろプレイヤー達からは更に疎まれるだろうし、これでスッキリした気分で新年を迎えろとか、バカも休み休み言え。

ガチャモン「あ、それ!いないいない……バァ――――!!」

キバオウ「おわぁっ!な、なに晒すんじゃおんどれぇ!」

ガチャモン「はい、怒らない怒らない!これはいないいない、バァ―なんだからさ」

どうやら、二度目のターゲットになったのはキバオウのようだった。この濁声と喋り方は、本当に分かり易いもんだな。

ガチャモン「まだまだいっくよ~!いないいない――――」

ユッチ「ひぃっ!?」

俺「ビビるには早いぞ……」

ガチャモンが『いないいない』と言っただけでユッチは短い悲鳴を上げながら、目を閉じていた。だが、未だに8千人近いプレイヤーがいるこの場で、ユッチの目の前に出現する可能性はかなり低く、案の定ガチャモンが目の前に出現した相手はユッチでも、俺でも、レイナでもなかった。

ガチャモン「バァァ――――――――ッ!!」

女性「キャァ――――!!」

悲鳴からして、ガチャモンは女性はプレイヤーの目の前に出現して、盛大に驚かせたようだった。全くこんな、馬鹿馬鹿しい事が何時まで続くんだよ――――

ドンッ!

そんな鈍い音が、俺達の耳にまで聞こえてきたのはその時だった。俺達には音しか聞こえてなかったので、一体何が起きたのかはその時は分からない。

だが―――

「あ、アンタ、なんっつーことを!?」

女性「あ、ち、違う……い、今のはワザとじゃなくって――――だ、だって!こ、こいつが私を驚かすから!!」

ユッチ「え、ええ?な、なにが起きてるんっすか!?」

只ならぬ騒ぎ声を聞いた、ユッチがアタフタと狼狽え始めていた。だが、その騒ぎからして俺は―――おそらく、隣のレイナも何が起きたのかを察する。

俺「突き飛ばしちまったんだ……ガチャモンに驚かされて、その拍子に、な」

レイナ「……だったら、その女性プレイヤーはこれから―――」

レイナがその先の言葉を口にする前に、ガチャモンの威圧感を帯びた声が、他のプレイヤーが何かを言う前に、ボス部屋一体を包む。

ガチャモン「あ~あ……やってくれちゃったねお姉さん」

モック「あらま~、せっかくの忘年会で親睦会だったのに―――」

ガチャモン&モック「「残念ながら、公開処刑の決定でぇ―ス!!」」

女性「いやいやいやいやいや!!嫌ぁ――――!止めて止めてやめてぇ――――――!!」



死を間近に控えた女性プレイヤーの恐怖の叫び声が、部屋中に木霊す。だが、もはや彼女の運命を変える事は誰にも不可能!ガチャモンとモックの残忍極まりない公開処刑―――開始!! by立木ナレ 
 

 
後書き
冒頭のガチャモンの歌は、元ネタのキャラがかつて1975年に歌って、短期間で保護者からのクレーム殺到で、中止になった名曲です^v^ 

 

FILE23 ドラゴンに襲撃されたアキバ

2022年12月28日。ガチャモンとモック曰く、親睦会を兼ねた忘年会により、全プレイヤーは強制的に転移で呼び出される。だが―――そこで始まったのは……あまりにも幼稚!あまりにも滑稽!あまりにも茶番染みた―――ガチャモンの『いないいないばぁ』であった!

オズマを始めとしたプレイヤー達が呆れ果てていたのは言うまでも無かったが。そんな矢先に、ガチャモンに驚かされた一人の女性プレイヤーがガチャモンを突き飛ばしてしまうというトラブルが発生した! by立木ナレ




体育館のステージの中央に出現したのは、砂嵐のような映像が流れている巨大なスクリーンだった。そして、ガチャモンとモックは、ガチャモンを突き飛ばしてしまった女性プレイヤーに対して処刑を宣言する。

ガチャモン「では、僕を突き飛ばしてくれた『サニーナ』さんには―――早速処刑ゲームを始めてもらいま~す!」

サニーナ「止めてぇ――――――――――」

女性プレイヤーのサニーナの叫び声は、彼女自身がこの場から強制転移させられていなくなったことで、一瞬にして途絶えた。
そして、それと同時にスクリーンの映像が切り替わったかと思うと、その映像に映し出されていたのは――俺の記憶にもある、確かに見覚えのある光景だった。

ユッチ「あ、あれ?あ、アキバ……?」

俺「秋葉原だって!?」

ユッチがアキバとこぼしたのを聞いた俺は、ユッチの方を振り向いてそう聞き返すと、ユッチは相変わらず体を震えさせながら、首を何度も縦に振る。

スクリーンの映像がアップになると、とある電化製品店の側に一人たち尽くす女性―――さっき強制転移させられたサニーナの姿があった。

ユッチ「あ、あれ―――?あ、アキバに、あの人がいるって事は……あの人もしかして、現実世界にログアウトしたって事っすか!?」

レイナ「……それはない」

ユッチが自らももしかしたら、ログアウトできる可能性を見出したかのように、そう叫ぶが、その可能性はレイナがハッキリと否定する。

ユッチ「な、何でっすか!?」

俺「ログアウトしてすぐに、アキバの電化製品店の側に突っ立ってるわけないだろ。俺らの現実世界の身体は、今頃病室で寝てる頃だろうからな――――」

それに、俺が感じた違和感はそれだけではなかった。秋葉原と言えば、昼夜を問わず、大勢の人間でごった返しているイメージがあり、現在の時刻はまだ午後の8時を回った程度なので、人通りが多くて当たり前のはずの秋葉原が、どう言うわけかサニーナ以外の人間が誰一人として歩いておらず、異様な静けさを感じさせていた。

サニーナ『だ、誰か……誰かいないんですか―――!?』

スクリーンに映っているサニーナも、現実世界に返ってきたのだと一瞬は思ったのかもしれないが、自分が置かれた異常な事態に困惑して、周囲に向かって叫び散らしていた。
だが、誰からの応答も無く、周囲には他の人間が一切誰一人としていない状態が続く。

俺は、これまでのあのスクリーンに映る光景の様子を見て、流石にそろそろ否応でも理解する事になる。
スクリーンに映っている、一見すると俺が見た事のある秋葉原の光景が実は――――

俺「あの秋葉原も――仮想世界なんだな!」

ユッチ「え?あ、あのアキバがVRゲームの世界って事は―――あの人はまだ……」

レイナ「……ログアウトはしていない、仮想世界の別の場所に転移させられただけ」

そして、そんなレイナの冷淡で的確な指摘を裏付けるように、スクリーンに映し出されている仮想世界の秋葉原にはすぐにその異変が起こった。
最初に叫んだのは誰の声か知らないが、その異変が起きた直後だった。

「お、おい、なんだよありゃ!?なんであんなのが秋葉原に出てくるんだよ!?」

「ど、ドラゴン!?ドラゴンじゃねーかよありゃ!!」

プレイヤー達がその姿を見たのは、秋葉原の上空から一斉に、何十体、何百体もの大群で飛びながら降りてきた、ドラゴンの大群だった。

まさに現実世界の秋葉原では決してあり得ぬ光景、それをまじまじと見た事で、この場にいる者達は誰もが、スクリーンに映し出されている光景が現実世界の秋葉原ではなく、あそこもまた仮想世界なんだと理解されされただろう。

サニーナ「いやぁぁあぁぁぁぁっ!!」

当然、その仮想世界の秋葉原でたった一人のサニーナの恐怖心は限界を超えて、スクリーン越しからでもその恐怖が伝わるほどの叫び声をあげていた。
既に彼女の周囲には、体長が4~5メートル以上はありそうなドラゴンが4体で取り囲んでおり、もはや逃げ場など無い事は目に見えて明らかだった。

サニーナ「たすけ―――――ッ!」

ユッチ「ひえぇ――――――!?」

叫び声が途中で途切れたのは、サニーナがドラゴンの一体に捕食されて、呆気なく飲み込まれたからであった。



スクリーンでその、あまりにも理不尽―――あまりにも残忍―――あまりにも救いようのない処刑に、誰もが言葉を発する事が出来ず、中にはその光景を目の当たりにして涙を浮かべる者すらいた! by立木ナレ




モック「これぞまさにドラゴンの脅威……実際に東京にあれだけのドラゴンが出現でもしたら、人類は己の生存圏を守り切る事が出来るのでしょうかね~?」

ガチャモン「取りあえず、何時ドラゴンが襲来してきても対処できるようにさ、迎撃用のミサイルは常に準備しておいてって感じだよね~」

呆然としているプレイヤー達の代わりに、まるで他人事のようにそんな会話を始めたのは、処刑を実行した張本人たちだった。
そして、ついにプレイヤー達の中の一人がガチャモン達に対して、憎悪の籠った叫び声をあげる事になる。

「この人殺し!テメーら、こんな事してタダで済むと思ってやがるのか―――!?」

「もう止めてくれ!何時まで俺等にこんなことさせれば気が済むんだよ!?」

「誰かアイツらを何とかしてよ!このままじゃ、私達だって危ないじゃない!!」

誰がどう叫んだところで、奴らを消す事も、奴らの間の手から誰かを守る事も、奴らの悪意から逃れる事も出来やしない、誰もがそれを分かり切っているだけに、己の無力感を悲観したかのように、叫びだす者たちが現れ始めていた。

ガチャモン「くすす、何時までこんな事させればだなんて―――早く現実世界に返りたいならさ、さっさとアインクラッドを第百層までクリアすればいいって、何度も言ってるじゃんか、全くもぉ~」

モック「いやはや、困りものですな~。答えが分かり切ってる質問に何度も何度も同じ答えで返答すると言うのも……」



結局、その日の親睦会、忘年会などと称した、単なる理不尽な処刑ショーはそこで終了となり、プレイヤー達は強制転移によって元の場所に戻されたが、彼らの心の奥底には改めて、ガチャモンとモックの脅威、圧倒的な権限による力の差を思い知らされる形となるばかりであった!


※ ※ ※


ガチャモンとモックによる悪魔的な処刑ショーが行われた次の日の12月29日。俺とレイナは、第五層主街区のカルルインにいるNPCから受けたクエストで、遺跡エリアの発掘場を占拠する人型岩石モンスターの討伐を依頼されて、主街区を出発したところだった。

ユッチ「はぁ……僕たち、本当にアインクラッドの第百層をクリアするまで、ログアウト出来ないんっすね……」

俺「んな事は、正式サービスの初日に思い知らされたことだろうが。今更深いため息ついて、凹んでどうするんだよ」

ユッチも、こんな感じで昨日の一件で精神的に打ちのめされつつも、今日のクエストに同行する事になった。
レベル的には俺やレイナとは多少の開きがあり、この第5層での安全マージンは微妙なところがあるのだが、そこはまぁ―――俺とレイナがフォローしてやっている状態だった。

この第五層は今までの横に広がるような階層とは異なり、縦にも広がる階層である事が特徴で、地下基地やら、下に延びる遺跡ダンジョン、地面を掘って作られた街などがある。

そして、しばらく歩き続けて、俺達は遺跡エリアに辿り着き、発掘場を占拠するように仁王立ちしている、2メートル半ほどの巨体の人型だが、全身が岩で出来ているMobを発見した。

俺「アイツが、クエストを受けたパーティーが近づくと出現する、中ボスクラスのモンスターで間違いないみたいだな」

顔には赤い丸く光る眼がこちらをじっと、見据えていた。試しにタゲを取ってみると、モンスターのHPバーの下に『rock・golem・fighter』と言う、アルファベットでモンスターの名前が表記されていた。

俺「レイナ、読んでくれ」

レイナ「……ロック・ゴーレム・ファイターよ―――そのまま、岩の戦士と言う意味で良いと思うわ」

俺「そうか、んじゃ―――早い所片付けるか!」

そう俺は叫んでから、地面を蹴り付けるように、その場からダッシュして―――一気にゴーレムーの眼前に接近した直後に走り抜けながらの横切りの一撃をお見舞いしてやった。

ユッチ「だ、駄目っす!HPバーがほんのちょっとしか減ってないっすよ!」

俺「ほぉ、流石に岩で出来てるだけあって堅いな」

流石に通常攻撃では中ボスクラスのモンスターには大したダメージにはならないようだな。だが、俺の横切りの一撃で奴が俺に攻撃しようとした直後に、今度はレイナのソードスキルが的確にゴーレムを狙い撃つ。

「グガワァッ!!」

口も無い人型岩石モンスターがどこからそんな叫び声をあげているのかは知らないが、レイナの横薙ぎ技のソードスキルのブレイクタイムによって、標的となったゴーレムは守りを大きく崩されて倒れかけていた。

俺「ユッチ、今なら奴にまともなダメージが与えやすいぞ!」

ユッチ「あ、は、ふぁい!!」

ソードスキル発動後の硬直中のレイナに代わり、俺とユッチがそれぞれ、片手剣とダガーでゴーレムに一撃を見舞ってやった。

そして、その後もロック・ゴーレム・ファイターの頑丈で長い腕の打撃に注意しつつ、俺達は着実にロックファイターのHPを削り続けて、ついにゴーレムの残りのHPもレッドゾーンにまで削られたのだった。

「ギィィ―――――!!」

レイナ「……効かないわ」

ロックファイターが岩で出来た両手を組み合わせて、レイナに叩きつけるが、スバ抜けた筋力ステータスを誇るレイナが構える両手剣はその一撃すら防ぎ切り、ゴーレムの振り下ろされた拳を食い止めていた。

ユッチ「さっすがレイナさんっす!覚悟しろよ、石ころ野郎!」

当初は、ゴーレムの威圧感に恐れ戦いていたユッチも、優勢な状態が続くと、あっさりと楽勝ムードになり、強気かつ、調子づいた口調でそう叫びながら、ダガー用の連続攻撃ソードスキルのファッドエッジで、両手がスグには使えないゴーレムの後ろから左足を突きまくっていた時だった。

俺は見た、ゴーレムの首が180度回転し、すぐ後ろのユッチを見下ろした直後に、そのマルク赤い光を放つ一つの眼が、黄色く点滅するのを。

俺「ユッチ、やばいぞ!」

ユッチ「え―――?いったい何が―――ぎゃはぁッ!!」

俺の警告はそもそも、ユッチがソードスキルを発動してしまった時点で間に合わなかっただろう。ゴーレムの黄色く点滅した目からは、一本の光線が発せられて、その車線上にいたユッチを、ちいさな爆撃音と共に吹き飛ばしていたのだった。

レイナ「……遠距離攻撃だわ」

俺「マジかよ、あんな技を使いやがるのかよ……」

今までも、背後からゴーレムへの攻撃は何度もやっているのに、ここに来て初めてこんな事をしてきたのは、おそらくだが、奴のHPバーがレッドゾーンにまで減少した事がトリガーになったのだと俺は思った。

だが、俺がそんな分析をしている矢先に、ユッチの方を向いたままのゴーレムの首は、再び黄色い点滅を一瞬だけはなったのだった。

ユッチ「いてて……あ、あんなのあ、ありなのかよ」

愚痴ってないで逃げろ!――と叫ぼうにも、既にゴーレムの黄色く点滅した目から発せられた光線を止める事は出来ず、二発目がユッチに向かって放たれた直後だった―――

「君、戦闘中にボーっとしない!」

ユッチ「はい……うぐわぁッ!!」

ほんの僅差だった、ユッチの真横から現れた、左手に細剣を、右手に盾を構えた女のプレイヤーがユッチを狙っていた光線を盾で守ってくれたのは。


オズマ達の前に現れた、盾持ちの細剣使いの謎の女性プレイヤーは一体?そして次回、前代未聞の小人数でのフロアボス戦の計画始動!? by立木ナレ

 

 

FILE24 女神登場?女性剣士エルダとの出会い+オリジナルキャラクター紹介

 
前書き
今回の内に、第5層フロアボス戦の話を始めようかと思いましたが、少し話が長引いてしまい次回に持ち越しになります。

申し訳ございません。 

 
オズマ、レイナ、ユッチの三人はクエストモンスターである『ロック・ゴーレム・ファイター』の討伐を実行中、ゴーレムの予期せぬ目からの光線攻撃によってユッチが痛恨のダメージを負う!
一撃目を食らった直後に更に二発目が発せられようとしたその時であった――左手に細剣、右手に盾を構えた謎の少女剣士が援護に現れたのは! by立木ナレ



ユッチ「えっと……女神さまっすか?」

盾持ちの細剣使いの少女に助けられたユッチの第一声は、そんな見当違いで上放れした戯言だった。その少女剣士も自分が助けたガキから唐突に女神呼ばわりされて、呆れ気味の表情を浮かべていた。

細剣使い「君ね……この世界にそんな都合の良い存在があると思ってるわけ?女神じゃなくてプレイヤーよアタシは!」

ユッチを叱りつけた直後、再びユッチと細剣使いを見ているゴーレムの赤い眼が黄色い点滅を放った。また、光線を発する合図だ!

俺「おい、また来るぞ!」

細剣使い「これでいいかしら!?」

細剣使いの少女はゴーレムの方を振り向く事も無く、盾を構えなおし、光線攻撃を完全に正確に防いでいた。

俺「お見事……」

俺は思わずそう呟いていた。――考えてみれば、この最前線の第五層で単独で潜っている時点で腕に自信があるのは必然だろう。

だが、その割には今までのフロアボス戦では見たことの無いプレイヤーでもある。すると、その細剣使いは俺達の方を向きながら、高い声を張り上げて言った。

細剣使い「スレットフル・ロアーを使って、敵の注意を私に向けさせるわ!そしたら、存分にソードスキルで攻撃して!」

俺「すまねぇ!力借りるぜ!」

レイナ「……了解」

細剣使いが言っていた『スレットフル・ロアー』は盾の数少ないソードスキルだが、敵を攻撃する技ではなく、敵の注意を自分に向ける技であり、ボス戦などでもタンク役が仲間を守る為に良く使う技だった。

細剣使いが盾を叩いて音を鳴らし始めると、ゴーレムは早速――細剣使いへ狙いを定めて、光線を発しながらその巨体を歩ませていた。

俺「そのままもうしばらく頼むぞ!」

レイナ「……速攻で決める」

俺がゴーレムに食らわせてやったのは、習得して日の浅いホリゾンタル・スクエアだった。4連撃のソードスキルで、回転して左から斬る、右から左上へ斬ると言う動作で、残り30%程だったゴーレムのHPは15%程までになった。

その直後に今度はレイナの両手剣ソードスキルが炸裂する。2連撃技のカタラクトによって、ゴーレムのHPは更に削り取られるが、僅かに数ドット程度が残ったのか、ゴーレムは未だにその動きを止める事は無い。

細剣使い「今度は攻めに移るわ!」

細剣使いは既にスレットフル・ロアーの硬直から解除された後で、全速力のダッシュからゴーレムの真正面に飛び込み、そして斜め上への突き技のソードスキルのストリークによってゴーレムは完全にHPを消耗しきってその場で崩れ落ちたのであった。



※ ※ ※



細剣使いがゴーレムに止めを刺した場合でも、俺達のクエストは達成したと見なされたようで、クエストは完了状態と化し、後は主街区に戻ってクエストを報告するだけだった。

ユッチ「おねーさんかっけーっす!あのゴーレムの光線も一発も効かないなんて凄いんっすね!!」

戦いが終わると戦闘中―――ゴーレムが光線を出し始めた時は、慌てふためいていたユッチが、大はしゃぎして、浮かれまくった表情で自分を助けてくれた細剣使いの女性プレイヤーを見て、そう言っていた。

まぁ、アスナやレイナのような女性プレイヤーに熱を上げるミーハーなユッチが騒ぐのも無理はないだろう。
左手に細剣を持っているその女性剣士はキリっとした目付きで、長い、輝くような金髪のロングヘア―をなびかせており、スラっとしたスレンダー体型も目を惹く容姿のプレイヤーだった。
年齢は俺やレイナと同い年……いや、若干年上で高校生くらいのようだった。

俺「俺からも礼を言うよ、仲間のピンチに来てくれてありがとな」

細剣使い「ピンチに駆けつけたと言うか、私も別のクエストを終わらせて帰ろうとしてた時に偶然君達を見つけて、そっちの子が大変そうだから少し加勢してみただけよ」

長い髪をバサッとかき上げて、細剣使いはそう清々しい表情で言った。

レイナ「……貴方、腕は立付けど。今までのボス戦や攻略会議では見たことの無い人ね―――名前も知らないわ」

細剣使い「ええ、そうよ。なんたって、HPが0になっちゃうデスゲームだから、いざ一番危険って言われるフロアボス戦に参加してみる科って思った事はあるにはあるんだけど、どうしても躊躇っちゃうのよね~……あ、それとアタシの名前はエルダよ」

エルダと名乗った細剣使いは自分は今まで一度もフロアボス戦に関わったことの無い事を認めてそうあっけらかんとした様子で言った。

そして、俺とレイナとユッチもそれぞれ自分の名前を告げる。

エルダ「へぇ~、君達も最前線組のプレイヤー達だったのね。て言うかオズマとかレイナとかは、何度か名前を聞いた覚えがあるわよ」

ユッチ「エルダさんだって十分ボス戦でやれるっすよ!つーか即戦力っす!キバオウさんが率いてるALS(アインクラッド解放隊)も、リンドさんが率いてるDKB(ドラゴンフリゲーツナイト)のどっちでも即採用間違いない強さですし―――」

とユッチがエルダの実力を嬉々と称賛するが、俺から見てもエルダの腕前は既にフロアボス戦でも文句なしで活躍できるに違いないと言い切れる高さだった。

装備している武器も第5層の武器としては中々の上物であり、それを装備できるレベルでもあると言う事だった。

ユッチ「そーだ!エルダさんもウチのギルドに入ったらどうっすか?」

エルダ「え、君達のギルドって?」

唐突に、ユッチはSAOでは数少ない女性プレイヤーの―――それも美貌と実力を金揃えた希少な女性プレイヤーとお近づきになりたいと言う下心が見え見えの申し出を始めていた。

と言うか、ウチのギルドとか言っているが、俺達はまだギルドに入っても無いし、結成してもいない!

俺「お前な、何時俺達がどこのギルドに所属した?ギルドを結成したんだよ?」

俺は多少きつめの視線で睨み付けながら、ユッチにそう言いながら詰め寄ったが、ユッチはへらへらとした笑顔を浮かべたまま―――

ユッチ「まーまー、オズマさ~ん」

ユッチは両手を広げて、ひらひらと振りながら、浮かれた笑顔のままぺらぺらと言い始める。

ユッチ「善は急げって言うじゃないっすか~、それに、これから新ギルド結成するにあたって、即戦力になる人材をゲットするチャンスは貴重っすよ~」

俺「あくまで、ギルドを結成する場合はな」

だが、ユッチの言っている事も的外れと言うわけではない。キバオウ率いるアインクラッド解放隊と、リンド率いるドラゴンフリゲーツナイトが二大攻略集団の筆頭として名を馳せている現時点では、フロアボス戦で戦力として通用するようなプレイヤーは、その存在が確認され次第どちらかに入れられてしまう可能性が高い。

だが、どうやらこのエルダはどちらのギルドにも勧誘されているわけではなさそうだった。そして、そのエルダは同じ女性プレイヤーのレイナの顔をじっと眺めており、レイナもその視線には当然気が付く。

レイナ「……何か、用なの?」

エルダ「ああ、ごめんなさいね。攻略集団ではアスナさんに並ぶ美少女プレイヤーって聞いてて、どんな子なのか興味あったんだけど、本当に可愛い子なのね。オズマ君の彼女なのかしら?」

レイナ「それは違うわ」

俺「珍しく即答かよ…・・・」

エルダに俺の彼女と、言われたレイナは、何時もよりも瞬時に返事をして―――しかも即答で否定しやがった。

確かに、俺も別に付き合ってるつもりはないが―――せめて、ゲーム内でも良いから、お互いのハラスメント防止コードと言う、邪魔くさいシステムを解除して、何とか体の関係くらいにはなれないものかと、夜な夜な模索しているのは、一切合切秘密だ!


ハラスメント防止コードとは―――プレイヤーによるハラスメント行為を防止するためのシステム。アンチクリミナルコードとは異なり、圏内、圏外を問わず有効な他、NPCにも適用される。そして異性である場合のみ発動する!

異性のプレイヤーやNPCに不適切な接触行為を一定時間繰り返すと警告音と共に電気ショック反発力が発生し、それでも止めぬ不届き者は第1層の「はじまりの街」黒鉄宮にある牢獄エリアに強制転移させられるのである!

だが、このハラスメント防止コードには裏があり、ステータスウインドウのかなり深い階層には『倫理コード解除設定』なる物が存在し、これを利用する事で、そのプレイヤーのハラスメント防止コードが発動しなくなり―――すなわち、男女のプレイヤー同士でお互いにハラスメント防止コードを解除した場合は何と―――13歳以上対象ゲームとされているSAOでは有るまじき、18禁行為が可能となってしまうのであった!!

早い段階でこの事実を突き止めたオズマは、どうにかして、最も身近な女性プレイヤーにして、抜群の容姿に恵まれたレイナのハラスメント防止コードを解除させられぬかと、日々模索質続けているんのである! by立木ナレ


レイナが、きっぱりと俺との関係を否定すると、エルダは意外そうに俺とレイナの顔を交互に見渡して……まるで、俺を訝しむような表情を浮かべていた。

俺「んだよ、その顔は?」

エルダ「あ、ごめんなさいね。君はどちらかと言うと手が速そうな感じがしちゃったから」

俺「初対面の人間相手に無遠慮にズケズケと言いやがって……」

気まずそうに笑いを浮かべるエルダは申し訳程度に謝りながら、俺を宥める。

ユッチ「取りあえず、まずはお友達から―――フレンド登録から始めましょうよ!エルダさんだって攻略集団に加われるならそれに越したことないと思ってるっすよね?だったら、攻略集団でも既に名高い僕らの知り合いって事にして紹介しときますよ!」

エルダ「そうね……私も今の所は、ALSにもDKBにも入る予定は無いから。取りあえず君達の仲間って感じで紹介してもらおうかしらね?」

なにやら、ユッチとエルダの二人で、話がどんどん進んでいるようでならない気がするな。

レイナ「……どうするのオズマ?」

俺「ま、確かに戦力としては申し分ないのは確かだろうからな」

俺達はこうして、細剣使いの女性プレイヤーと知り合ったのだった。そして、この数日後の12月31日に、俺達はエルダを含めた―――正確にはその他数人のプレイヤーを含めた面々と突発的なフロアボス戦に挑む事になるのだった。



オリジナルキャラクター紹介


ユッチ(Yutchi)
声 :山下〇輝
年齢:13歳(SAO初期)
身長:150㎝(SAO初期)
体重:42㎏(SAO初期)

オズマとレイナが第二層で出会った、ダガー使いの少年で、強化詐欺被害の一人だった。逆立った髪形で、年相応以上に幼い顔つきで、年齢相応以上に子供っぽい短絡的、楽観的な性格。
オズマを慕う一方で悪名名高いベータ―のキリトに対してはアスナを独占している事も有ってか、露骨に毛嫌いしている。

SAOでの武器はダガーナイフで、防具は革製品の防具を使用する。


エルダ(Eruda)
声 :井〇裕香
年齢:15歳(SAO初期)
身長:162㎝(SAO初期)
体重:48㎏(SAO初期)

第五層でオズマ達と出会った細剣使いの少女プレイヤーで、輝くような金髪のロングヘア―で、ユッチ曰く女神のような容姿。
オズマ達と出会った時点ではフロアボス戦未参加ながらも、実力は攻略集団でも即戦力で通用するレベル。
リアルでは高校生で、本人曰く、中学時代は鼻摘み者。

SAOでの武器は右手に細剣で左手に盾。防具は軽金属の防具。 
 

 
後書き
今回紹介したオリジナルキャラクターは、FILE4にも追記します。 

 

FILE25 第5層攻略作戦

討伐クエストでオズマはエルダと言う細剣使いの女性プレイヤーと出会った。そして、それから数日後の12月31日の出来事であった! by立木ナレ



ユッチ「エルダさ~ん。お元気でしたっすかぁ~?」

鼻の下を伸ばし、浮かれ呆けた表情のユッチは俺のメールの呼び出しで来てくれた、エルダを見た途端に、はしゃぎながら手を振っていた。

エルダ「超元気だよアタシは、そっちは相変わらずかしら?」

ユッチ「もちのロンっす!そして、エルダさんが来てくれたおかげで更に元気200%アップしたっす!」

さて、そろそろ本題を切り出さなくてはならないな。俺がエルダを呼び出したのは、急遽、色々と想定外のフロアボス戦を始めるかもしれないからだった。

話は遡る事、数十分前になる。



※ ※ ※


俺にメールを寄こしたのは、フロアボス戦を共に戦い続けていた、斧使いプレイヤーのエギルだった。エギルから送られてきたメールには、キリトからの呼び出し――つまり、エギルはキリトからの伝言を伝えてきたわけだった。

俺「っつーわけで、エギルからのメールによるとだ。キリトの奴が第5層フロアボス戦のメンバーを招集したいだそうだ。ALSの抜け駆け防止作戦を阻止するだそうだ」

ユッチ「いやいやいや!キリトの野郎からの招集何て冗談じゃないっすよ!!アイツ、アスナさんを誑かしてる悪のビーターの癖に何様っすか!?」

レイナ「……詳しい説明をお願い」

ユッチは、キリトからの招集と聞いただけで、露骨に拒否反応を露にするが。レイナは一切取り乱すことなく、取りあえずは話を聞く姿勢を見せたので俺はエギルから伝えられた内容を伝えた。

第5層のフロアボスがドロップするレアアイテムは武器のロングスピアに分類されるギルドフラックなのだが、そのギルドフラックは武器としての性能自体はまるで大したことないのだが、そのフラッグを突き立てると、半径20メートル以内にいるギルドメンバー全員、全ステータス上昇のバフが掛かると言う話だった。

レイナ「……それが、本当なら。ALSとDKBのどちらか一方がそのギルドフラッグを手に入れた場合に……両者のパワーバランスが崩れるわね」

俺がエギルから伝えられた話をそのまま話すと、レイナはすぐにそのギルドフラッグがもたらす、多大な影響力と、それによって二大攻略ギルドのただでさえ不安定な関係に更なる亀裂が発生する事を理解していた。

俺「更に厄介な事にな、ALSの奴らがDKBのメンバーを交えた年越しパーティーを企画してるらしいんだが、その裏ではALSの過激派の連中が―――自分達だけでフロアボスを倒しちまおうとか考えてやがるそうだ」

レイナ「……そのALSの計画が実行されたら、ALSがDKBに対して圧倒的優位に立つことになって―――最悪、DKBがALSに吸収されるなんて事も有り得るわね」

俺「もしそうなった場合、ALSに吸収されたDKBの連中は肩身の狭い気分になって、最悪一つの巨大ギルドになった攻略集団は内部分裂何て展開が有り得るから、キリトはそれを阻止する為に一部の中立的な立場のプレイヤーでフロアボスを先に倒そうって事らしいな」

そして、俺達もキリトの言っている、ALS側でもない、DKB側でもない中立の最前線のプレイヤーなので、ひと先ずは今は、俺達のも出来る事なら来てくれと言う話だった。

これだけの説明の後でも、ユッチは顔をつまらなさそうに歪ませて、口を尖らせて不満を口にする。

ユッチ「う~ん……だけどキリトの野郎の招集に応じるのも癪っすよね~……アスナさんを誑かしてるアイツの事っすよ?裏でどんな悪巧みしてやがるか分かったもんじゃないっす!」

俺「エギルによると、そのアスナもやっぱり今回の計画に参加するだとよ」

ユッチ「行きましょうオズマさん!アスナさんが危険を顧みずに、攻略集団の為に戦うって言ってるなら、僕たちもアスナさんの仲間として協力するべきっすよ!」

レイナ「……これで、異論は無くなったわね」

俺「アスナの人徳――様々だよな」



ユッチ、圧倒的手の平返し!!キリトの招集である事に凄まじい反発を抱き、頑なに橋梁を拒む姿勢を取っていたかと思いきや―――アスナが同行すると聞いて、態度を180°急転換!!
ユッチの脳内で、この計画はアスナからの誘いであると言う、脳内変換完了!! by立木ナレ



と、ここまでがレイナとユッチに対する事情説明であり、俺はこの直後にエルダにも一通りの説明を明記したメールを送信しておいた。

エルダには数日前に、次のフロアボス戦に参加する場合は俺達の仲間であると言う紹介で、他の攻略集団に伝える約束をしていたし、なによりも―――エルダの実力は既に即戦力級で、ALS側でもDKB側でもないという好条件だから、今がまさにうってつけのタイミングだと思ったのだ。


※ ※ ※


俺達がキリトに指定されて呼び出された場所はマナナレナ村から少し離れた森の空き地だった。招集を呼び掛けたキリトはまだ、他のプレイヤーを呼びに行っているとかで来ていないようだったが、既にそこにはキリトとアスナの呼びかけで集まったプレイヤーが10人ほど来ていた。

エルダ「それで、攻略組で最も悪名名高い黒のビーターさんはここで集まってくれって言ってたのね?」

俺「ああ、今の内に、先に集まってる連中と挨拶でも済ませてきたらどうだ?」

エルダ「そうね、攻略の最前線で戦ってる先輩達の顔と名前を早く覚えなくちゃだし」

この場にいたのは、アスナの他にも、情報屋のアルゴ、エギルを始めとする4人組のマッチョ男達、DKBからは穏健派のシヴァタ、サブリーダーのハフナー、ALSからは俺も何度か顔を見た事のある、恐らく最年長者のオコタンと、初めて見る全身フルアーマー装備で顔も兜で覆われて伺えない、見るからにタンクプレイヤーと言った者だった。

アスナ「来てくれたのね、オズマ君達も―――」

ユッチ「お待たせしましたっす、アスナさん!アスナさんからのお願いとあれば、断わるわけなんて無いじゃないっすか!!」

アスナが俺達が訪れたのを見て、声を掛けて挨拶をしてくるが、ユッチが早速、気を良くしてアスナの前に飛び出て、そう言っていた。
そんなユッチを見て、アスナは半笑いを浮かべて―――

アスナ「あ、え、ええ……ユ、ユッチ君も来てくれて、あ、ありがとうね」

ユッチ「はい!一緒に頑張りましょうアスナさん!!」

アスナが見るからに困り気味の様子でそう言うと、ユッチは更に舞い上がった様子でアスナの手を握っていた。
そんなやり取りを、豪快な笑い声をあげながら見ていたのはエギルだった。

エギル「さて、そっちの新顔のねーさんが、オズマの言ってた新しい知り合いか?」

俺「ああ、先に伝えてた通りだ。腕は立つし、ALSにもDKBにもほとんど知られてない中立の立場だから打って付けと思ってな」

俺がエギルにそう説明すると、エルダは堂々とした、凛とした表情で俺の前に出て、エギルの顔を見上げる。
その威風堂々とした姿にエギルも僅かに驚いたようで「おっ」と小さな声を上げていた。

エルダ「始めましてエギルさん。私はエルダよ。―――こんな形でも初めての共闘だけど、よろしくね。」

凛々しい顔で、最大限の笑顔を見せたエルダは、細い白腕を前に差し出して握手を求めると、エギルも歯を見せて、迫力感のある笑顔で握手に応じていた。

アスナ「へぇ~、エルダさんも細剣使いなのね―――あ、私アスナって言います。今日は来てくれてありがとう」

エルダ「アスナさんね、噂通り―――レイナに負けず劣らずの美人なのね。しかもアタシと同じ細剣使いなら、学ぶことは色々とありそうじゃない」

同じ細剣使い、同じ女性プレイヤーであるアスナとエルダは、初対面で互いに何か通じ合うものでもあったのか。
エギルの時以上に力強さを感じさせる握手を交わしていた。

ユッチ「いやぁ……眼福っすねオズマさん。美貌の少女剣士二人が揃って手を組む瞬間っすよ~」

俺「そりゃよかったな、この光景を忘れないようにしっかりと目に焼き付けとけよ」

ユッチ「はいっ!未来永劫に僕の美しい思い出にするっす!!」

レイナ「……オズマ、キリトがもう一人を連れてきたみたいよ」

俺「あ、ようやく来やがったか」

眼から感激の涙を流しながらアスナとエルダを眺めているユッチは取りあえず置いておいて、俺達を呼び出した張本人の方を見てみると、そのキリトの隣に付いてきていたのは、俺達にとってはある良い因縁の深い相手だった。

ネズハ「あ、皆さん……どうもです」

ユッチ「ああ―――――――さ、詐欺師野郎!!」

レイナ「……今は、詐欺師じゃないわ」

キリトが連れてきたプレイヤー、元詐欺師のネズハを見た途端に、さっきまで号泣していたユッチが、本人を目の前に詐欺師と叫びながら驚き飛び上がっていた。

ネズハは、俺達に対して数度、ペコペコを頭を下げた後、アスナ達の方に挨拶をしに行っていた。そして、キリトは俺やシヴァタ達に声を掛けてくる。

キリト「遅くなって……」

ハフナー「おう、ブラッキーさんよ」

キリトは恐らく、悪かったとか言おうとしたのだろうが、言い終える前に、DKBサブリーダーのハフナーが、勢いよくキリトのコートの首裾を掴み引き寄せていた。

ハフナー「お前、今回の件にいっこでもウソがあったらぶっ飛ばすからな」

ハフナーがドスの利いた声で囁くと、それに便乗するように、ユッチが得意気な表情でしゃしゃり出る。

ユッチ「そーだ、そーだ!こんなところに呼び出して、実は裏で僕らまで出し抜こうなんて考えてやがったら、どうなるかわかってんだろーな!!」

レイナ「……圏内では犯罪防止コードで阻まれるし、圏外でそれをやったら、オレンジカラーになるわよ」

ハフナーの冗談(それにしては、真に迫った迫力だが)に対して、真面目に律義な警告を口にするレイナを見て、シヴァタは苦笑いをしながらハフナーの肩を掴み、後ろに引き戻しながら言った。

シヴァタ「ハフ、今回は白俺達サイドから出たネタだ。キリトが提供したのはギルドフラックの話だけで、それが嘘だとは思えない。そんな嘘を吐いても、こいつには何のメリットも無いからな」

ハフナー「……まあ、それはそうかもだけどよ。けど、ならどうしてこいつがそんなヤバい作戦を計画するんだよ?ALSがそのフラッグとやらをゲットするのを防いでくれる理由が、こいつにあるのか?


キリト「ちょっと待った」

今度はキリトが右手を挙げて、話に割り込んだ。

キリト「言っておくけど、この作戦は、ALSのギルドフラッグ入手を妨害する事だけが目的じゃないぞ。ドロップしたフラッグは、DKBにも渡すわけにはいかない。どっちか一方が入手したら、もう一方のギルドは崩壊しちゃうかもしれないからな」

俺「ああ、その辺りの懸念は当然だろうな。そんな事になったらこのゲームの攻略に大幅な支障が出るのも目に見えてる」

キリト「そうなんだ……攻略ギルドが二つになっている以上、片方が崩壊する事は、そのまま攻略集団の戦力が半減するも同様なんだ」

ハフナーもそこでようやく、しかめっ面をしながらも黙り込むようになった。そして、今度はキリトが質問をする。

キリト「ハフナーさんこそ、この作戦に参加しても良いのか?手伝ってくれるのは凄く有難いんだけど、サブリーダーのあんたが、ある意味じゃギルドを裏切ることになるんだぞ」

と言われると、ハフナーは長い金髪をかき上げて、唸る声で答えた。

ハフナー「そりゃ俺だって不本意だけど、攻略が第一だからな……。このクソゲーをクリアするには、DKBもALSも、両方必要なんだ。ギルドとリンドさんを裏切ることになっても、下の層に解放されるのを待ってる何千人を裏切るわけにはいかねー。あんたらもそう思ったからこそ、ここに来たんだろ」

どうやら、DKBのサブリーダーは意外と柔軟な考え方をしているようだった。そして、そんなハフナーの最後の一言は、2人のALSメンバーに向けた言葉だった。

背中にハルバートを背負った、この中では誰よりも年上だろう30代に見える男、ALSのオコタンだった。

オコタン「まあ、そう言う事です。ALSの抜け駆け攻略作戦は、一部の強硬派が幹部たちの不安を煽りまくった結果の、暴走みたいなもんだ。キバオウさんもそれは理解してるけど、ギルドが割れるのを防ぐ為に、作戦を承認せざるを得なかった。しかし、仮にギルドフラッグを入手できても、それでDKBとのただでさえ危うい信頼関係が完全に崩れたら何の意味も無い」

そして、オコタンは改めて、自分の名前を名乗り自己紹介、そして自身の役目がリクルート犯の班長である事と、隣のALSのフルアーマープレイヤーである『リーテン』をスカウトした張本人である事を伝えた。 
 

 
後書き
またまた中途半端なところに終わってしまいました…… 

 

FILE26 急造レイドパーティー結成!

第五層フロアボス戦のドロップアイテムは、ベータテスターであるキリトの情報から『ギルドフラッグ』である事が語られた。
そのアイテムは突き立てた時に、半径20メートル以内の全ギルドメンバーの全ステータス上昇のバフが掛かると言う代物であり―――ALSとDKBのどちらか一方が入手すれば、取り損ねたギルドが崩壊する可能性すらあるのであった!!

さらにALSの強硬派が大晦日のパーティーをDKBを交えて行う裏で、自分達のみでフロアボスを倒し、ギルドフラッグを獲得しようと暗躍している事が発覚!それを阻止すべく、キリトの招集で中立のプレイヤー達が集められらのであった!! by立木ナレ


キリトは一通りの挨拶を終えると、その背中をハフナーが叩いた。

ハフナー「ブラッキーさんよ、オレとオコさんはきっちりと動機を説明したぜ。あんたも、どうしてこの作戦を主導しているのか……動いだす前に、まずはそこを皆に説明してくれよ」

キリト「ええー?」

俺「なんだよ、そのええー……は?」

まるで面倒な事でも聞かれたかのような反応のキリトはハフナーから視線を逸らしていたが、いつの間にかアスナやアルゴ、ネズハ、エギル一向らも俺達の側に集まり、キリトの答えを待っていた。

キリト「それは、俺もハフナーさんやオコタンさんと……いや、たぶんここに集まってくれたみんなと同じだよ。最前線で戦い続けているALSとDKBは、攻略集団の両輪だ。ちゃんと車輪でつながってないと集団は前に進まないし、どっちかが欠けたら、その場から動けなくなるから、皆に協力を要請したんだ」

俺「それが、お前がこの作戦を始めた動機の全てなのか?」

キリト「え……そうだけど?」

俺「そうか」

俺は今一つ、キリトの奴が他に何かしらの事情を抱えているようになんとなく思ったが、キリトはあくまでそれが全ての動機と言い切ったので、俺の追及もそこまでだった。

ハフナーも難しい顔をしつつも頷き、一歩下がった時だった。アーメットのバイザーを被っているが故にくぐもって聞こえる、メタリックな声で質問をしてきたのはリーテンだった。

リーテン「あの、キリトさん。前から聞いてみたいと思ってたんですが……そんなに攻略集団の事を考えてくれるのに、どうしてギルドに入らないんですか?キリトさんほどの人なら、どっちのギルドでもすぐにパーティーリーダーくらいにはなれると思うんですが……」

リーテンのその質問からして、こいつはビーターと言う言葉も、キリトの微妙な立場すらも知らない様子が伺えた。
第一層で自ら悪のビーターを自称した事で、攻略集団の中で多くの反感や敵意を買っているキリトは果たしてこの質問に対してどう答える気だ?

キリト「それはだな、リンドとキバオウが、俺とアスナが別々じゃないとギルドに入れないとか言ってるからだ」

途端、一同がざわ……となる。こいつは何故、周囲から誤解を招くような言動をこの場で口走るんだろうな――――

アスナ「い、いきなり何言い出すのよ!」

リーテン「さすがです……感動しました!」

エルダ「なんか、ビーター云々以外でも色々と複雑な事になってるのね」

アスナが喚き、リーテンが感心したように言い、エルダが妙に納得したように首を縦に振ると。エギルがはっはっはっ、アルゴがにゃっはっはと大声で笑った。


そして、アルゴが用意した大量のポーションを分配し、時刻は丁度午後3時となった。ALSの主力がマナナレナ村を出発し、主街区に戻るとみせかけて迷宮区タワーを目指す予定時刻はオコタンによると午後6時であり、キリト一向には3時間のアドバンテージがあった。
道案内はアルゴが担当し、以下の16人が第5層フロアボス戦に挑むメンバーである!! by立木ナレ

1.キリト、レベル18、片手直剣、革防具。
2.オズマ、レベル18、片手直剣、革防具、ソードブレイカーあり。
3.アスナ、レベル17、細剣、軽金属防具。
4.レイナ、レベル17、両手剣、軽金属防具。
5.エルダ、レベル17、細剣、軽金属防具、盾あり。
6.エギル、レベル16、両手斧、軽金属防具。
7.ハフナー、レベル16、両手剣、重金属防具。
8.シヴァタ、レベル15、片手直剣、重金属防具、盾あり。
9.オコタン、レベル15、両手斧槍、軽金属防具。
10.ウルフギャング(エギル組)、レベル15、両手剣、革防具。
11.ローバッカ(エギル組)、レベル15、両手斧、軽金属防具。
12.ナイジャン(エギル組)、レベル14、両手槌、重金属防具。
13.ユッチ、レベル14、ダガー、革防具。
14.リーテン、レベル13、ロングメイス、重金属防具、盾あり。
15.ネズハ、レベル12、チャクラム、軽金属防具。
16.アルゴ、レベル不明、クロー、革防具。


※ ※ ※


第五層迷宮区はフロア北東の隅にそびえ立ち、半径5百メートルの巨大迷路がそれを半円形に取り囲んでいた。つまり、高い石壁の両端は、それぞれのフロアの外周部に接している。
道案内人のアルゴが目指したのは、南東側の橋だった。道から外れたために何度かフィールドMobと遭遇したが、16人もいるので、呆気なく瞬殺できてしまう。
そして、目的地に到着したのは午後3時45分だった。

アルゴ「おつかれサマー、取りあえずフィールドの移動はここで終わりだヨー」

アルゴの声に、一同が足を止める。

ユッチ「これでようやくフィールド移動が終わり……けどこれからボス部屋まで歩かなくちゃならないんっすよね……」

アルゴ「おいおいユー坊。子供は風の子だロ?もっと元気にはしゃごうゼ!」

真っ先にヘタレ始めている最年少のユッチに対してアルゴがそう言いながらにゃははと笑いながら言った。

俺「んで、何処から入るんだ?お前がさっき披露してくれた伝承では、巨大迷宮の中心には古の王国の秘密兵器開発施設とかがあって、迷路には侵入者を防ぐために築かれたんだったな?」

アルゴはライム水を飲んでいて、口元をぬぐってから不敵な笑みを浮かべて、マントの内側から光るものを引っ張り出した。
それは長さが15センチほどある巨大なカギだった。

キリト「おお……それ、ボスクエでゲットしたのか?」

アルゴ「そーゆーコト」

アルゴは何かを探す素振りを見せてから、とある隙間に鍵を突っ込んで、ガチャッと回した。

石壁が震え、幾つかのブロックが奥に十五センチばかり引っ込み―――それで終わりだった。

キリト「え……アルゴ、隠し扉は?」

アルゴ「ないヨ、そんなモン」

アルゴは鍵をポケットにしまって、ブロックが引っ込んで出来た窪みに右手を掛けて、三メートルほどよじ登った。

エルダ「そっか、ブロックが引っ込んだおかげでハシゴみたいになったのね」

エギル「お……おいおい、まさかそこを登るのか?」

エギルの慌て声に、アルゴは壁に片手片足を引っかけた状態で振り向き、にんまりと笑う。

アルゴ「オヤ、フロントランナー一のタフガイさんは、高いトコが苦手なのカナ?」

エギル「そ、そういうわけじゃねーけど……これ、落ちたらただじゃ済まねぇだろ」

と言い返すエギルの心配も最もだった。

俺「そうだな、この石壁の高さって20メートルくらいだよな?天辺付近から落下して、頭からぶつけちまったら、HPの低い奴はそのまま即死しちまいそうだぞ」

レイナ「……命綱くらいは用意した方が良いわね」

レイナがアイテムストレージから命綱として使えるアイテムをオブジェクト化しようとする前に、

アルゴ「しょーがないナ、、特別サービスだゾ」

と、言いながら片目をつぶったアルゴが、ウインドウを開いて巨大な物体を次々とオブジェクト化させた。

ユッチ「これってハウジング関連のショップで売ってる大型クッションっすよ!」

俺「よくこんなにも、アイテムストレージに溜め込んでたもんだな。今の所は、殆どのプレイヤーに問っちゃ、ハウジング関連ショップのアイテムなんて無縁だろうに」

ハシゴの真下に積みあがったクッションの下に、アルゴはその上に背中から落下した。ぼっほーん、と音が響くがダメージを受けた様子はなかった。

アルゴ「オイラは最後のこのクッションを回収するカラ、戦闘はキー坊に譲ってやるヨ」

キリト「え……お、俺?まあ、いいけど……」

そして、キリトを先頭に、次はハフナーが登り、10分ほどかけて全員が登り終えるが、結局落ちた者は一人もいなかった。

石壁上の通路を一列になって移動し、迷宮区タワーの接合部に設けられた小さな望楼で、再び軽く休憩をとった。

アスナ「みなさん、よかったらどうぞ」

そこで、アスナがストレージが取り出したのは、大きなロールケーキだった。それを見た途端に、ユッチが真っ先に反応し、目を輝かせながら声を上げた。

ユッチ「美味そうじゃないっすか!こ、これってアスナさんが料理スキルで作った手作りっすか?いや~、アスナさんの手作りロールケーキ、いただきやす!」

アスナ「あ、そ、そうじゃなくってね。こ、これはその――――」

手作りの料理ではないと言おうとしているのだろうが、俺はその先の事をアスナが言う前に、右手を前に出してアスナを止める。

俺「アンタの手作りって事にしておいてやってくれ、そっち方がこいつは士気の向上になるんだよ」

アスナ「な、なんか心苦しいんだけど……」

取りあえず、アスナに差し出されたロールケーキは好評だったようで、ユッチやエギル一向やハフナーは「うめっ!うんめっ!」と唸りながら手づかみでガツガツと食いまくる一方で、壁際に並んでいるシヴァタとリーテンが仲睦まじそうに食べていて、いつの間にか仲良くなったオコタンとネズハも談笑しながら食べ始めていた。

エルダ「美味しいじゃないこれ!脳を働かせるための、糖分の補給なんてサプリメントか角砂糖くらいで充分だと思ってたけど、考えを少し改めた方が良いかもしれないわね……」

アスナ「そ、そう?喜んでもらえたなら嬉しいわエルダさん。レイナさんはどう?甘い物って好き?」

アスナとレイナは同じ攻略集団の数少ない女性プレイヤー同士でありながら、あまり口を聞く事は無かったが(原因は概ねレイナが無口である事)、今回は普段よりも少数での移動である事も有ってか、今までレイナと話したことの無いような、戦闘や攻略以外の話を振っていた。

レイナ「……食べ物の好き嫌いはないつもりよ、だけど―――このロールケーキは悪くない」

俺「そこは素直に美味いって言っておいてやれ」

そして、一通りケーキを食い終えて、全員が再び集合すると、キリトが咳払いをして数歩前に出る。

キリト「……それじゃみんな、いちおう編成を考えたから聞いてくれ。A隊がハフナー、シヴァタ、オコタン、ローバッカ、ナイジャン、リーテン。B隊が、俺、アスナ、エギル、ウルフギャング、ネズハ、アルゴ、C隊はオズマ、レイナ、ユッチ、エルダ。この分け方で行こうと思うんだけど、どうかな」

どうやら、俺が含まれるC隊だけは何の意図があるかは知らないが4人だけになっているが、そこはおいおいと聞くとしよう。

シヴァタ「……つまり、A隊にタンク、B隊にアタッカーを集めたわけか?」

キリト「そんな感じだ」

俺「俺達C隊だけ4人なのはなんでだ?」

キリト「オズマ達は、エルダを除いて三人は普段から一緒に行動してる事が多いから、その分普段通りの連携を取り易いと思ったんだ」

他にもキリトは、部隊を均等に割らなかったのは、そうするとタンクが足りない事、純粋なタンクであるシヴァタとリーテンを違うパーティーにすると、POTローテが間に合わないことを懸念していると説明した。

キリト「もちろん、最初に俺がボスをじっくり偵察して、想定外の攻撃パターンがないか確かめる。実践が始まってからも、ボスのHPケージが終わるタイミングでは必ず部屋の外に退避できる姿勢を取って、未知の攻撃パターンに備える。たった3パーティーでのボス戦だけど、勝算は充分にあるし、一人の犠牲者も出すつもりはない。――――シヴァタとリーテンが企画してくれたカウントダウンパーティーを成功させるためにも、みんな……力を合わせよう!」

キリトにしては珍しく、周囲を奮い立たせるような演説だった。

エギル「うおっしゃあ!やったろうぜ!!」

そしてエギルがこぶしを突き上げて叫び、それに全員の「おう!」という声が重なった。



2022年12月31日午後4時15分。急造のフロアボス攻略部隊は、鋼鉄の扉を開き、迷宮宇久タワーへと突入! by立木ナレ




 

 

FILE27 正体不明!?第五層フロアボス戦!

ハフナー「おい、あれを見ろ!」

先頭を歩くA隊のリーダーのハフナーの声が飛んできた。薄暗い通路の先に目を凝らすと、その先に見えたのは、幅いっぱいに広がっている大階段だった。
視線を上にあげると、天井には真っ暗な大穴が開いていて、階段はその向こうへと消えていた。

レイナ「……取りあえず、残りの通路にも、階段上にもモンスターはいないと思うわ」

レイナが索敵スキルでそう確認したのであれば、しばらくは戦わずに済みそうだ。

キリト「気を付けて進んでくれ!」

キリトの呼びかけにハフナーが応答して、前方はA隊が担当し、B隊が左右を、俺達C隊が後方を警戒しながら歩くこと数十秒。

A隊が大階段の手前で立ち止まっていて、B隊とC隊もそれに追いついた。

キリト「……横に隙間はないな……」

俺「なら、ここを上るしかないだろ」

ハフナー「座標は、タワーの大体中央だな」

キリト「う~ん……登った先にまた通路と扉があるのか、それともいきなりボス部屋なのか……」

シヴァタ「ベータの時は違ったのか?」

キリト「ああ。前は普通に扉があって、それを開けたらゴーレムボスの部屋だった。まあ、ここまでの構造も殆ど変わってたから、階段への変更に大きな意味は無いのかもだけど……」

俺「にしても、先が暗すぎて全く見通しが利かねぇな……松明でも投げるか?」

なんてことを冗談半分で行ってみた時、隣に進み出てきたアルゴが、左手に持ったランカンを掲げながら言った。

アルゴ「ま、覗いてみるしかないダロ」

キリト「そ、そうだな……。んじゃ、いきなりボス部屋だった時の事を想定して、予定通りまず俺が一人で偵察してくるよ」

キリトがそんな事を言い出したが、今度はアルゴが珍しく真剣な声で言った。

アルゴ「待った、ここはオレッちに任せてクレ」

キリト「え……?」

アルゴ「この階段が気になるんだよナ。もしかしたら、段が床からせり上がって入り口を塞いじまうトラップかもしれナイ―――」

ユッチ「そ、そんなぁ!そ、それじゃーこの先に進めないっすよ!後戻りできないボス戦なんて幾らなんでも鬼畜過ぎるっす!」

アルゴの話を最後まで聞かずに、ユッチが情けない声で鳴きごとを喚きだしていた。だが―――アルゴはそんなユッチを見ても愉快そうに笑いながら―――

アルゴ「だから、そうなっても、オイラなら完全に閉まる前に脱出できル」

そう言いながら、アルゴはつま先で石段を蹴っていた。

エルダ「確かに、段の側面にも子お代文字が浮き彫りで、如何にも何かあり気だけど……キリト君が行くにしても、アルゴさんが行くにしても、偵察とは言え一人だけで行くのは流石にどうかと思うわね」

キリト「……なら、2人で行こう。これは譲れないぞ」

アルゴ「エ~?」

キリト「そんな顔してもダメ!アルゴ程じゃないけど俺だってスピード型なんだからな、階段が動きそうだったらすぐ脱出するくらいの事は出来るよ」

アルゴ「ちぇ、しょーがないナ……」

アルゴも承諾し、キリト達は俺達に階段を見張るように頼んで、先に進む事になった。アルゴが先に階段を上り出し、キリトもそれを追って大階段を上っていくと、やがて二人の姿は暗闇の先に消えていった。

そして、二人の姿が見えなくなってから、とある疑問を口にしたのはエギルだった。

エギル「待てよ、入り口をふさぐトラップから脱するのに必要なのがスピードだって言うなら、そっちのユッチにも向いてるんじゃないか?」

ユッチ「え、ええ!?、な、な、ぼ、僕っすか!?」

エギルの指摘は最もなのだが、自分に白羽の矢が向いた途端にユッチは全身をビクッと震えさせて、狼狽えていた。

ネズハ「ああ、確かにそうですよね?ダガー系の武器は総じて軽量でスピード型のプレイヤーが多いですし、彼も偵察にはうってつけで―――」

ユッチ「うっせぇ!うっせ――――!!」

ネズハ「あ……す、すみませんなんか」

ネズハがエギルの言った事に同意した途端、ユッチは理不尽にただひたすら『うっせー』を連呼してネズハを推し黙らせていた。
詐欺でユッチを騙したネズハとしては、後ろめたさもあるだろうから、ユッチに対しては他の連中よりも押しが弱いのだろう。

実際の所、ユッチの敏捷性だけを見れば、偵察に向かわせて、いざって時は脱出する役には向いてるんだろうが。
ユッチの場合、不測の事態にすぐに混乱したり、慌てふためいたりするので、実際にそうなったら、一歩も動けずに役目を果たせない可能性が高いんだよな。

リーテン「どちらにしても、キリトさんもアルゴさんも大丈夫か心配ですよね……もし二人だけの時に、何か不測の事態が起きたりしたら――」

ボス戦未経験のリーテンがそう、気弱な言葉を口にすると、ネズハがリーテンに対して元気づけるように明るい声で話しかける。

ネズハ「大丈夫ですよリーテンさん。キリトさんは何と言っても、攻略集団の中でも最強の片手直剣使いなんですよ!他の人だと、手に負えない事態でも、キリトさんならきっと―――」

が、そんなネズハの元気づけの言葉に水を差す者がスグに現れる。

ユッチ「ああん!?お前何言ってんだよ!!攻略集団で最強の片手直剣使いって言ったら、オズマさんに決まってんだろうが!」

ネズハ「え……そ、そうですかね?」

俺「んな事で張り合わなくて良いっての……」

ユッチが案の定、ネズハに対しては妙に強気かつ高圧的な口調で、キリト最強説を真っ向から否定し、俺を推奨してきた。
まあ、こうなったところでネズハの方が大人しく引き下がるだろうから、この話で無駄に討論する事も無いだろうが―――

レイナ「……それに関しては、私もオズマの方が強いと考えてる。―――オズマとキリト、2人が一対一でデュエルを行えば、オズマの勝率の方が高いと推測できるわ」

なんでそこでレイナが便乗する!?普段なら全然興味なさそうにして、一言も口出しなんてしないはずだろう……

アスナ「ちょっと待ってよ!何を根拠にキリト君の方が不利だって言うわけよ!?」

さらに今度はアスナがキリトの方が強い派に加勢しやがっただと!?お前ら、今その話題で討論する事に何の意味があると言うんだ?

ユッチ「そ、そんな~……アスナさんはオズマさんよりもキリトの方が強いって言うんっすかぁ~?」

そして当然、アスナがキリトの方を庇うような事を言えば、ユッチが自分とは正反対の意見だと捉えて、すぐに凹む。

エルダ「私は……オズマ君の強さはもうだいぶ分かって来たけど、キリト君に関しては噂は聞く程度で、実際の腕前はまだ見てないから何とも言えないわね~」

ネズハ「あの……僕がキリトさんが片手剣使いとして最強だと思ったのは、キリトさんは体術スキルも高めている点でオズマさんに比べて優位だと思ったんですけど」

ユッチ「ははっ!なんだそんな事かよ!いーか、オズマさんだってな第4層でエクストラ―――」

ユッチがこんなところで、俺が習得してそう長くない、エクストラスキルの事を話そうとした時だった。

アスナ「な、なによこれ!?アルゴさんの身に何が起きたの!?」

エギル「HPの減少が続いてやがる!―――まさか、敵がいきなり出てきたのか!?」

アスナとエギルがほぼ同時に、強張った表情でそう叫んだ。どうやら、アルゴの身に何か起こっているようだった。
ふと見てみると、アルゴと同じB隊のメンバー達がその異変に気が付いているようで、その表情は困惑気味だった。

アルゴと同じB隊の連中はアルゴのHPバーも左上に表示されているはずなので、それで異変に真っ先に気が付いたのだろう。
組んでいるパーティーが違うA隊とC隊の者達も、簡略化されているアルゴのHPバーが減少している事にここで気が付いていた。
B隊の動揺は直ぐにこの場にいる連中に、アルゴの。そして、アルゴに同行しているキリトに何かしらの危機である事がスグに伝わり、これからどうするかが問題になる。

エルダ「キリト君はここで待機するように言ってたど……彼らが戻ってこれなくなってるなら、じっとしてるわけにもいかないわね」

アスナ「当然よ!それに様子を見に行かない事には、どうなってるのか分かりっこないわ!」

アスナはそう叫ぶと、真っ先に大階段に向かって疾走し、スカート装備で色々と見られるかもしれないと言う懸念すら忘れて登り始めていた。

ハフナー「こうなったら、俺達もキリト達の様子を見に行くしかないぞ!皆もそれで良いな?」

シヴァタ「ああ、何か起こってからじゃ遅いからな」

ハフナーが全員にそう確認すると、同じDKBのシヴァタが同意し、他の連中も首を縦に振って、全員でだ階段を上る。

俺達が大階段を上っている間にもアルゴのHPは減少を続けているようで、途中でアスナが1割以上が既に消失した状態になっている事を走りながら伝えてきた。

更にしばらく走り続けていると、ようやくアルゴのHPの減少は止まったらしいが、それで二人が完全に安全になったとは限らないので俺達は階段を上り続けて―――そして、階段を上り切った先にキリトとアルゴの姿を発見した。

ハフナー「――おいっ、大丈夫か!?」

ハフナーを先頭に俺たちは一斉に広間へと駆け上がった。その時俺は、それが何なのか分からないが、足元に青い光のサークルのような物があった事に気が付いた。

レイナ「……あれは!?」

シヴァタ「なんだ、まだボスは出てないのか―――」

レイナが天井に目を向けて何かを言おうとした時、そしてシヴァタが拍子抜けしたような声を出した時、キリトの大ボリュームの絶叫が響き渡った。

キリト「回避!回避――――!!」

俺「――!?こいつのことだな!」

そのキリトの叫び声を聞いて、俺は瞬間的に自分の足許で光っている青のサークルが危険な何かだと察して、大きく飛び退いた。
他のレイドメンバーも同様に、全員が一斉に飛び退いたのだが、狭い範囲にいた14人がバラバラに跳んだ結果、A隊のシヴァタとローバッカが交錯し、バランスを崩してその場に倒れ込んだ。

エルダ「なにか来るわ!!」

二人が倒れた真下に目玉の様な巨大サークルが出現し、それを見たエルダが真っ先に叫んだ。直後に、ゴゴゴ!と轟音が響き渡った。

床から二本の巨大な腕のような物が突き出して、天井から二本の足が降り注いだ。

シヴァタ「ぬああ!?」

ローバッカ「うおおっ」

ユッチ「ひえぇ―――――!!」

巨大な左手が、シヴァタとローバッカをまとめて掴み、高々と空中に運び去ると二人が叫び声をあげて、その光景を見たユッチが、恐怖の叫びをあげていた。

俺「あれじゃ、どう考えても自力脱出は無理だ!」

視界の端で簡略版で表示されている、小さなHPバーが徐々に減少していく。アルゴも恐らくはあの巨大な腕で捕まっていたのだろう。

レイナ「……キリトはどうするつもりなの?」

俺「シヴァタとローバッカが捕まったままじゃ、ここから一旦退散なんて事も出来ないしな」

俺はいっその事あの腕にソードスキルを食らわせてやろうかと思ったが、この狭い場所で複数人がソードスキルを発動すれば、同士討ちが発生してしまいかねない事を考えていた。

キリト「アスナ、腕にパラレル!」

唐突にキリトがそう叫んだ瞬間、アスナは即座に既に抜いていた細剣を構えて、ソードスキル《パラレル・スティング》を発動させた。
同じ細剣使いであるエルダも俺達に何度か披露した技で、高速の二連突きが黒い腕にヒットしていた。

すると拳が開き、シヴァタとローバッカを解放して、十メートルの高さから落下した二人を、リーテンとハフナーが辛うじて受け止めた。

俺「どーやら、あのラインが足元にあると、さっきの腕に捕まっちまうらしいな」

エルダ「一度捕まったら、仲間の助けなしじゃ、まずは逃げられないわね」

そして、緊迫状態はまだ続く。階段のすぐそばに立っているネズハの足許と、その近くのオコタンとナイジャンとユッチの上空に、新しいサークルが出現していた。

アルゴ「もう退避は無理ダ!」

アルゴの判断は最もだろう。床のラインは、外周部が最も隙間が大きく、階段に近い程密になっており、この人数で全員がラインを踏まずに階段を下りられるとは俺も思えなかった。

キリト「―――みんな、最寄りの壁際まで走れ!」

キリトが再び大音量で叫び、俺達は瞬時に全員ダッシュしていた。直後に、階段の側のサークルから手が突き出し、その近くを二つの足が激しく踏みつけていた。

あそこでボーっとしてたら、思い切り踏まれてた所だったな。

キリト「壁まで行ったら、床のラインを踏まないように止まるんだ!!」

俺達はその言葉を聞いて、走りながら足許を見た。こうラインの動きが不規則変動だと、回避し難いな。
ラインの動きが徐々に速度を落とし、確認しやすくなって――――


キリト「――ここだ!!ラインを避けて止まれ!!」

キリトの再びの絶叫に、俺達は動きを止めていく。

レイナ「……ターゲットサークルは出ない……みたいね」

ネズハ「あっ……」

少し離れた所から、そんな細い声が聞こえてきた。キリトの方に走っていたネズハが、片足たち状態で両手をぐるぐる動かしながらバランスを取ろうとしていた。

俺「なにしてるんだアイツ?すぐ近くに結構大きめの隙間があるだろ……」

にも拘らず、宙に浮いている右足をそこに降ろしかねているようだった。

エルダ「まさか彼……FNC?」

俺の近くで、エルダがそんな、聞き慣れない単語を呟いていた時だった。

キリト「もうちょっと頑張れ!」

キリトがネズハに声を掛けて、ラインの隙間だけを踏みながらネズハに近づいていた。床に倒れそうになったネズハが伸ばした左手をキリトがしっかりと掴み、支えた。

キリト「だいじょうぶ、そこに足を降ろせ……真下で良い、そう、OK」

ネズハ「す、すみません……」

そんな、キリトとネズハの妙なやり取りの後はさっきまでの騒動が嘘のように静かになった。どうやら、全員がサークルから足を話した状態になった事で、敵の動きも止まったらしい。

キリト「ダメージを受けた奴は、POTを飲みながら聞いてくれ!とうやらさっきの腕と足がこのフロアのボスみたいだ!」

ユッチ「じゃ、じゃあ……あ、あの、床の青いラインを踏むと、手足に攻撃されるって事!?」

キリト「そうだ!それを踏むと、床と天井のラインがランダムに動き始めて、踏んだ奴の足許か頭上にターゲットサークルが出る!ラインの動きが止まると、床からは腕が生えて掴み攻撃、天井からは足が生えて踏みつけ攻撃をしてくるんだ!」

エギル「ってことはぁ、こうやって線を跨いで止まってる間は、腕も足も攻撃してこねーのかぁ―――!?」

キリト「そう言う事だ!最大で、腕が二本、足が二本、同時に攻撃してくる!腕に掴まれると、10メートルくらい持ち上げられて、HPと防具の耐久度に同時にダメージを受ける!けど、片手武器の二連撃クラスのソードスキルを命中させると、掴まれた奴を解放できる!」

俺たち全員が頷くとキリトの説明はさらに続く。

キリト「足の方は、まだ踏まれてないから攻撃力は分からないけど、多分腕よりダメージはデカいと思う!あと、二層のバラン将軍みたいに、踏んだとところから衝撃波が広がるから、それに足を取られると転ぶ危険があるぞ!」

再び全員が頷く。

キリト「えーと、以上!」

腕と足のみの攻撃を繰り出す謎のボスモンスターの遭遇に、一行は困惑するが、キリトの指示によりひとまずの方針は固まった!――――謎多き、第5層フロアボス戦開始!! by立木ナレ 

 

FILE28 フロアボスの正体判明!虚ろな巨象の正体!

青いターゲットサークルから出現する巨大な手足がレイドぱパーティーを襲撃!その本体を見せる事無く、手と足で攻撃を繰り返してくるモンスターとの戦いが、初めてレイドリーダーを務めるキリトの指揮の元……開始! by立木ナレ



キリトの説明が終わった直後に声を上げたのはアスナだった。

アスナ「じゃあ、このままあこうしてても、ボスは攻撃してこないし、こっちも攻撃出来ないの?」

キリト「そう……だと思う。不幸中の幸いと言うか、フルレイドだったら絶対に全員がライン踏まないで制止なんか出来ないと思うけど、この人数だから何とか……」

俺「取り合えす、わざとラインを踏んで、そこからボス戦を始めるか、それとも一度階段のところまで退避するかどっちか決めたらどうだ?」

キリト「ああ、俺もそのどちらかを、みんなの意見も聞いてから決めて――――」

その時だった。

階段の真上。天井中央部のラインだけが勝手に動き始めた。

ユッチ「な、なんで勝手に動き出してるんだよぉ!僕たち何もしてないのに!」

エルダ「じっくりと話し合ってる時間なんて与えてくれないって事かしらね?」

再び慌て喚くユッチと、微妙に強張った表情で皮肉を口にするエルダだった。その光景を見たところでこちらからは何も出来ず、全員がその光景を見上げていると――――。

ごごん! と重低音を響かせ、天井が複雑な形に出っ張り始めた。やがて突き出した額、落ちくぼんだ眼、四角い鼻と横一直線の口。

俺「また随分とブサイクな造形の顔になりやがって……」

そして、俺達が声も無く見上げる先で、巨大な顔の上部に、6段のHPバーが次々と表示された。一本目だけが少し短いのは、今まで腕にヒットさせたであろうソードスキルのダメージなんだろう。

そして最後に、第五層フロアボスの固有名が、俺にはもちろん読む事が出来ないアルファベットで表記された。

『Fusucus the Vacant Colossus』

キリト「ベータと……名前も全然違う……」

俺「つーか、あれって何て読むんだ?」

レイナ「……フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサスよ」

俺「よし、フスクスって呼ぶか」

そんな楽観的なやり取りの後、洞窟のような口から、迷宮区全体を震わせそうな雄叫びが迸った。それで驚いて、床のラインを踏んだ者はいなかったが、ボスの声が轟いた瞬間、全員のHPバーの下に防御力低下のデバフアイコンが点灯し、それまで静止してた青い線が一斉に動き出したのだった。

エルダ「防御も回避も不可能なデバフだなんて、流石フロアボスはやる事がえげつないわね!」

キリト「散開してラインの動きをしっかり見るんだ!極力避けて、もし踏んじゃったら床と天井を両方見て、サークルが出たら大きく回避!余裕があれば出てきた手足に攻撃!!」

広間のあちらこちらから、キリトの大声に対して応答が上がった。

キリト「壁際は隙間が大きいからラインを避け易い!動きが止まったら、チャクラムでデカ顔のデコの紋章を狙ってくれ!」

ネズハ「り、了解です!」

キリト「俺はワザとラインを踏むから、ソードスキルで攻撃の準備を!」

アルゴ「おいサ!」

アスナ「解った!」

俺「ああ!」

キリトが次々とレイドメンバー達に指示を出していく。そして、黒い床を動き回る無数のラインが、速度を落としていく……。

キリト「……行くぞ!」

その場でキリトは意図的に線を踏んだようだった。その直後、飛びずさったキリトの目の前に、黒腕が通り過ぎていた。

そしてその腕を四方から俺とキリトとアスナとアルゴで取り囲んだ。ここは同士討ちを避ける為に横に攻撃が発生するソードスキルは避けるべきと判断し、一同はキリトが縦二連撃のバーチカル・アークを、アスナは再びパラレル・スティングを、アルゴはクローを使った三連撃技を繰り出した。

俺はと言うと―――剣を鞘に納めたままの状態だったため、他の三人が何をしてるんだ!?と、言いたげな表情を見せるのに構わず、剣を鞘に納めたままの状態でソードスキルを発動した。

それは、蹴りと鞘での殴打を絡めた3連撃のソードスキルの『潜身脚(せんしんきゃく)』だった。

キリト「オズマ……今のはまさか!」

キリトだけでなく、この場にいる、レイナ、ユッチ、エルダ以外がその技を見て驚いた様子だったが、ベータテスターのキリトだけは今のソードスキルに見覚えがあるようだった。

ユッチ「決まったっす!オズマさんのエクストラスキル『納刀術(のうとうじゅつ)』のソードスキルっすね!」

エギル「剣を鞘に納めたまま攻撃出来るエクストラスキルなんてのがあったのかよ!?」

ユッチがまるで自分の事のように得意気に説明すると、エギルと他数名がそのエクストラスキルの存在に驚いていた。

元々、体術スキルを狙っていた俺が、この納刀術スキルに出会ったのは第4層のクエストをクリアしたのが切っ掛けだった。

本来どんな剣も、鞘から抜かなければソードスキルは発動出来ないし、通常攻撃を繰り出したとしても、鞘に収まった状態では攻撃力も激減してしまうのだが。
この納刀術スキルを習得した事によって、剣を鞘に納めたままの状態でも抜いた時と同等のダメージを与えられる事に加えて、納刀状態のときは抜刀している時とは別の――納刀術用のソードスキルが使えるようになり、その一つがさっきの潜身脚(せんしんきゃく)だった。

この納刀術スキルには、習得者は盾を装備出来なくなることと、体術スキルとの併用が不可能と言う、二つのデメリットを抱えているわけだが。
体術スキルを習得しておらず、盾の代わりにソードブレイカーを持っている俺にとっては大きな影響のないデメリットとして割り切って、この納刀術スキルを習得したわけだった。

レイナ「……ライン停止。天井にターゲットサークル出現」

俺の納刀術ソードスキルを見て、呆気に取られる者たちが大勢いたが、レイナがスグにその言葉で現実に引き戻した。

やる事はさっきと同じで良いだろう、ゴーレムの攻撃を回避しつつ、3~4人程度でタイミングを合わせてソードスキルだ。

ハフナー「要領は解った!次は俺達も攻撃してみる!」

エギル「こっちもやるぜ!」

オコタン「我々もやって見ます!」

キリト「任せた!!ぶちかましてやれ!!」



停止する瞬間にわざとラインを踏み、襲ってくる腕や足を回避しつつソードスキルを叩き込む。ボス顔のデバフボイスは、ネズハのチャクラムでキャンセルする。
急造のレイドパーティー達はその動きをパターン化し、三度目以降は危なげなくこなせるようになった!
両手両足へのソードスキル同時攻撃の威力は壮大なもので、一本目、二本目、更に三本目のHPバーが消滅するのにわずか数十分であった!! by立木ナレ



俺のバーチカル・アークで残り半分を過ぎて四本目に突入したが、今の所ボスの行動パターンに変化はなかった。
俺のバーチカル・アークの直後に、キリトも同じソード掬るを発動させた、その瞬間だった。

ネズハ「キリトさん!壁を!!」

ネズハの驚愕に満ちた声を聞いたキリトが、慌てて振り向いていた。俺も何事かと思い、そちらに視線を向けると、これまでは黒い無地だった壁に、床と天井から青いラインが伸びていた。

ユッチ「な、なんっすかこれ!?ま、まるで隙間を埋めるように動いてるっす!」

キリト「―――A隊、B隊、C隊の順に階段から待避!」

ユッチ「え、ええ!?せ、せっかくここまで削ったのにかよ!?」

キリトが咄嗟に指示した全員に対するボス部屋からの退避命令に対して、ユッチがそう叫んだ。ボスのアグロ状態が解除されるとせっかく減らしたHPも急激に全快してしまうのでそれを惜しんでるのだろう。

俺「初見での深追いは禁物だ!良いから走れ!」

ユッチ「は、はい……」

俺はごねるユッチの腕を掴んで無理やり階段まで走らせようとすると、ユッチは渋々と言った様子で走り出していた。

ハフナー「だが……!」

ハフナーがそう叫びかけるが、シヴァタが無言でマントを引っ張っていた。全員がこの場から逃げようとしているのを最後尾のC隊の俺は確認して、そのまま階段まで走り、その異変に気が付いてしまった。

アスナ「……キリト君!」

キリトの名前を叫んだのはアスナだった、アスナはキリトにも見えるように天井を指差していた。そして、キリトもアスナが指さす方を見上げて、その以上に気が付く。

出現以降ずっとそこに張り付いていたはずの巨大な顔が、知らぬ間に消滅していた事に。

エルダ「何なのこれ……?顔はいったいどこに―――」

リーテン「シバ、だめっ!!」

くぐもった声で叫んだのは全身フルメイルのリーテンだった。俺たちは一斉に階段方向に目を向けていた。

そこで俺達が見たのは――――

レイナ「……階段があったはずの場所にボスの顔があるわよ」

ユッチ「本当にもー!さっきから一体どうなってんだよぉ!!」

つーか、問題なのはボスの巨大な口に腰辺りを加えられたシヴァタの方だった。

――下りの階段は何処にも見当たらず、シヴァタはボスに食われかけの状態、ここにきてフロアボス戦は急展開を迎えていた。

いや、下りの階段がどうなってるのかは、目の前で見ていたので俺を含めた数人はもう気が付いてるだろう。

ハフナー「階段が……口になりやがった!!」

ボスの口からシヴァタを引っ張り出そうとしながら、ハフナーが顔をキリトに向けて叫んでいた。

ユッチ「ま、マジで!?唯一の脱出口の下り階段がボスの口になっちゃったら、どうやって逃げりゃいいんだよぉ!!」

レイナ「……そうなったら、脱出は不可能ね」

ユッチ「そんあぁ!!」

俺「今は逃げる事よりも、シヴァタを助けるのが先だろ!」

エギル「そーだぜ……アイツの鎧は耐久値が高いみてーだが。鎧がもし壊されでもしちまったらよ……」

エギルがその懸念を険しい表情を浮かべながら呟いた。当然言うまでも無く、シヴァタの重装鎧が破壊されてしまったら、その瞬間に致命的なダメージが奴を襲うのは容易に想像が付く。

シヴァタ「ちっきしょ、またかよ……!」

序盤にも掴み攻撃を食らってるシヴァタが、両手でボスの口を押し開こうとしながら毒づき、リーテンもそれに協力しているが、巨大な口が緩む気配は全くなかった。

顔の反対側ではエギルが両手斧で、レイナが両手剣で何度も弱点の額を攻撃しているが、まるでビクともしなかった。

俺「どうしたってんだ?天井に張り付いてた時は、ネズハのチャクラムの一発で簡単にディレイしてたってのに……」

ユッチ「こ、こーなったらソードスキルで―――」

エルダ「待って!確かに通常攻撃じゃ大した効果が無いのかもしれないけど、いまあの口にソードスキルを叩き込んだらシヴァタさんまで巻き込んでしまうわ!」

ソードスキルの構えを取ろうとしていたユッチを、エルダが俺も想像していた懸念を理由にして止めていた。
事実、エギルとレイナも、シヴァタを巻き込むのを恐れてソードスキルの仕様を躊躇っているようだった。

エルダ「フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス……まさに名前通りの意味なのね」

俺「あ?どー言う事だよ……」

俺と違って英語もお手の物らしいエルダが、ボスのキャラネームから何かに気が付いたようだった。

エルダ「ヴェイカントは虚ろな、コロッサスは巨象……それはたぶん、この大広間の事よ」

アスナ「そう……部屋そのものが5層のフロアボスなのよ」

アスナもエルダと同じ答えに達したようで、その先の事を口にすると、エルダも首を縦に振って肯定した。

俺「お前らの推測通りなら、俺等16人は……フスクスの内部に閉じ込められちまったわけかよ……」

こんな状況下だと言うのに、俺は思わず不敵に笑ってしまっていた。笑って無くちゃ正気じゃいられねぇ気がしたんだ。

シヴァタ「ダメだ、外れない!」

ハフナー「諦めるな、シヴァタ!!」

リーテン「シバ、いま助けるから!!」

シヴァタが絶望的な叫びをあげて、ハフナーとリーテンが叫ぶが、その声も恐慌を感じているように思えていた。

シヴァタ「もう無理だ……鎧が壊れる!リっちゃん、口から手を離せ!!」

リっちゃんってなんだ?なんて今この状況下においてはどうでも良いツッコミを口にする者など誰もいなかった。
リーテンは激しく被りを振る。

リーテン「いやだ!!絶対……絶対助ける!!」

俺「そうだな……シヴァタのHP自体はフル状態に近いんだ、いっその事、奴の鎧が砕ける前にソードスキルを叩き込むか……」

それで巻き添えになったとしても、今ならまだ即死する事は無いだろう。

キリト「エギル!レイナ!ソードスキルで、額の紋章を攻撃するんだ!」

キリトも同じ考えに至ったようで、エギルとレイナにそう指示を飛ばすが、振り向いたエギルとレイナはエギルが激しく左右に首を振り、レイナは一往復だけ首を左右に振った。

レイナ「……弱点が無いわ」

エギル「ダメだ……こいつ、紋章がねぇんだ!!」

キリト「な…………」

俺「下り階段が口になったかと思ったら、今度は弱点の紋章が消えやがったのかよ!」

俺達の耳に響き渡り続けるのは、断続的に発せられるシヴァタの重装鎧が砕けつつある金属音だった。



脱出不可!弱点消滅!異常事態の連続に行き詰るレイドパーティーの面々!シヴァタの鎧の耐久値は刻一刻と減り続け、死が間近に迫りつつあった! by立木ナレ 

 

FILE29 結束するレイドメンバー達!決着第五層フロアボス戦!

 
前書き
オズマが習得したエクストラスキルの納刀術の元ネタはテイルズオブグレイセスの主人公のアスベルが使う帯刀術です。
ソードスキルも、基本的にアスベルのアーツ技とほぼ同じですね。 

 
第五層フロアボス『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』の正体は、ボス部屋そのものがボスであった!
下り階段はフスクスの口となり、レイドメンバーの一人である、シヴァタを襲い―――必然的に脱出も不可能となってしまったのだった! by立木ナレ



誰もが絶望に囚われ、終わりの時を待つのみかと思われた、その刹那―――。

リーテン「シバを……殺させて、たまるかあぁぁぁ――――ッ!!」

雄叫びを上げて、リーテンはフスクスの顎に飛び乗ると、シヴァタを咥える口の中に躊躇なく飛び込んだのだった。

エルダ「不味いわ、シヴァタさんのアイアンメイルが――――」

リーテンがフスクスの口の中に飛び込んだのと、シヴァタのアイアンメイルが砕け散ったのはほぼ同時だった。
フスクスの口に並ぶ歯は、そのままシヴァタの胴体に食い込んだが、そこで隣に飛び込んだリーテンんおスチールプレートに激突し、強烈な衝撃音と大量の火花を生みながら停止した。

シヴァタ「な……リっちゃん、どうして……!!」

リーテン「だって私、タンクだから!守るのが、仕事だから……!!」

俺「アイツ……」

喋り方かたや一人称からして、俺はこの時リーテンが女性プレイヤーである事を察したが、そんな事よりも、このメンツの中では、攻略集団の新米の部類で、しかもレベルも下の方のリーテンが己の危険も顧みずにタンクの役目を果たそうとしてるなんてな。

俺「少し惜しいが……どっちみち俺には無用の賜物だしな」

俺はアイテムストレージを開き、その中から武器一覧を選択。片手直剣使いである俺には、使い道が無く、他の槍使いのプレイヤーに売って金にしようと考えていた、第5層でドロップした槍の武器をオブジェクト化した。

ユッチ「お、オズマさん?それってレアドロップの槍だから高値で売ろうって言ってたっすよね?」

俺「予定変更だ、石ころで出来たブサイクな人形に食わせてくれる!」

俺は、リーテンとシヴァタを口の中に加え続けている、リーテンのスチールプレートを噛みつき続けているフスクスの口に長い槍を縦に向けた状態で、差し込むように放り込んでやった。

俺「これでしばらくはこの槍が支えになるはずだ!こいつがぶっ壊れる前に助け出してやれ!」

リーテン「はい!必ず役目を果たして見せます!」

シヴァタ「すまないなオズマ……いずれこの借りは返す」

心の中で俺は、楽しみに待たせてもらう。と言っておいた、そして、俺達の行動を見てキリトも何かを決意したように広間の中央に集まっている俺達に向かって叫ぶ。

キリト「みんな、なんとかしてラインを避けてくれ!無理そうだったら、ボスの顔に登れ!」

キリトの指示を聞いた者たちが一斉に頷いた。

装備重量の大きいハフナー、ナイジャン、オコタンがボスの両頬と額によじ登り、エギル、ウルフギャング、ローバッカ、エルダ、レイナ、ユッチは散開して床に集中する。

キリト「アスナ、オズマ、アルゴ、それにネズハ!ラインを踏んで、腕と足を出してくれ!そのどこかに、弱点の紋章があるはずだ!みつけたら、それを全員で攻撃!」

アスナ「了解!」

俺「やってやる!」

アルゴ「わかっタ!」

ネズハ「やってみます!」

4人で同時に応答し、腰を落として身構えた。わざとラインを踏んで、寄り集まった青い線が、足元に同心円を描いていた。

キリトの目の前には、左腕が。アルゴの前には右腕が、アスナの前には左足が、ネズハと俺はお互いに向かい合っている状態で、それぞれの目の前に右足が、ほぼ同時に伸び上がり、或いは降り注いだ。

どこにある?少なくとも俺が見ている側の、右足には見えない……誰も何も声を発しないぞ。もし、見つけられなければ――――

ネズハ「―――ありましたあああッ!!」

俺とは反対側から右足を見ていたネズハが、裏返った声で絶叫していた。俺は急いで右足を避けて回り込み、ネズハの隣でネズハが指を指す先を見てみた。

俺「膝裏だ!膝裏に紋章があるぞ!」

俺は膝裏にあった、紋章を見つけてそう叫んだ。しかしネズハは、紋章探しを優先していた為か、ショックウェーブを回避し損ねて、床に倒れ込んでいた。

攻撃を終えた足が、ごごご……と震えながら上昇し始めるが、逃がすわけがない、今この場であの紋章を攻撃できるのは俺だけだしな!

キリト「行け、オズマぁぁぁ―――――――!!」

俺「デカい声で叫ばなくたった当然だ……!」

その場で俺はジャンプし、直後に長射程の跳躍突進技ソードスキルのソニックリープを発動させようとした時だった。

アルゴ「頭を下げろ、オズ坊!!」

そんなアルゴの叫び声が聞こえて、俺はとっさに状態を丸めた。直後に、俺の右肩に衝撃が加わり、バランスを崩し掛けたが、何とか踏みとどまって、頭を上げると、俺を踏み台にして大ジャンプを決めたアルゴが高々と飛翔していた。

アルゴはジャンプが頂点に達した瞬間、右手のクローから、高速回転しながら弾丸のように加速するクロー系突進技ソードスキルのアキュート・ヴォールトを発動していた。

天井に戻ろうとした足の膝裏を深々と抉り、床に生えていたフスクスの顔が、口を大きく開けて叫んでいた。
そして、シヴァタとリーテンの身体が舞い上がり、並んで落下していた。

俺「レアドロップの槍を使った甲斐があったもんだな……」

既に俺が放り込んだ槍は壊れていて無くなっていた、リーテンのプレートアーマーの損傷は最小限で済んだようで、完全破壊には遠い状態だろう。

ユッチ「野郎、また床に逃げ込みやがったっす!」

レイナ「……今は彼の回復を最優先よ」

そして、一瞬の間を置いて、周囲のプレイヤー達が歓声を上げていた。ハフナーは感極まったようで、シヴァタに飛び掛かり、抱きかかえるように助け起こしていた。
リーテンにはオコタンが手を貸して立ち上がらせた。

俺「最悪の事態は回避できたが……奴との戦いはまだ終わっちゃいないぞ!」

キリト「ああ、みんな!喜ぶのはもうちょっと先だ!」

フスクスの気味の悪い笑い声を聞き流しながら、キリトは剣を振りかざし、叫んだ。

キリト「変化したパターンも解ったから、しばらく戦闘を続けてみよう!ただ、シヴァタは階段で下に降りて、HPを回復してくれ!」

そのキリトの指示は、シヴァタのアイアンメイルが砕かれてしまった事で、戦闘への参加続行が難しいと判断しての事だろう。

シヴァタ「悪いけどその命令だけは拒否させてもらう!ボスを倒すまで、もう絶対にあの階段は降りん!!」

シヴァタは装備フィギュアを開きながら言い返していた。

俺「けど、アンタ、鎧が砕かれちまって……」

シヴァタ「予備位用意してる!まだまだ戦えるさ!」

そう叫ぶと、シャツだけになっていた身体を、新しい鎧が包んでいた。

俺「アイアンメイルよりかは下位の鎧だろうが、俺やキリトが装備してる革製防具なんかよりかはよっぽど堅そうだな」

キリト「……解った、でも無理はするなよ!」

シヴァタはポーションを加えながらサムズアップで応じていた。そして、すぐにまた床のラインが動き始めていた。



それからの戦闘は、パターン安定とは言い難かったのだが、辛うじて重傷者を出すことなく推移した!目的を共有し、共通の強敵に向かい、共に戦う16人のプレイヤー達!中には、普段は穏やかな関係ではない者たちも、ほぼ初対面でお互いの事をまるで知らない者たち同士も、今はただお互いを支え、助け合い、守り合ったのである! 

急造のレイドメンバー達は、見事なコンビネーションで掴まれた者を解放し、踏まれた者を壁際で回復させ、フスクスのHPバーは30分近くを掛けて4本目、5本目が削られて、戦闘開始から約一時間後には、ついに最後の6本目に突入! by立木ナレ




天井のフスクスの顔が大音量の怒声を発し、両目のリングが真紅に変わったのを見た途端にキリトが叫ぶ。

キリト「またパターンが変わるぞ!POTが足りない奴は申告してくれ!」

ハフナー「ちっとあぶねぇ!」

ウルフギャング「ワシもじゃ!」

ユッチ「ぼ、僕も欲しいっす!」

キリトは申告した三人にポーションをオブジェクト化して、三人に渡していた。

キリト「ボスが人型になれば、最初の作戦通りに戦えるぞ!A隊がブロック、B隊とC隊がアタック、ヘイト管理を優先!」

ハフナー「わ……解った!」

ハフナーが集合を掛けて、メンバーを集めていた。同時にB隊とC隊―――俺達を含むメンバーは左右に回り込み、ボスの正面に重装部隊が、側面に軽装部隊が陣取って、それぞれの武器を振りかざす。

キリト「―――ラスト一本、全力で削るぞ!」

「「「おう!!」」」

A隊のメインタンクのシヴァタとリーテンが前に出て、盾を使った挑発技のスレットフル・ロアーを使っていた。
フスクスは移動スピードを上げて、シヴァタとリーテンは巨大なゴーレムを果敢に待ち受ける。

フスクスの攻撃を受けて、流石の二人も2メートル近くも押し戻されるが、なんとかノーダメージで耐えていた。

一瞬動きの止まったフスクスに対してハフナーの両手剣二連撃技のカタラクトが命中した。

俺「俺等もやってやるか……」

レイナ「……何時でも良いわ」

俺が駆け出すと、レイナもそれに続いて走り出した。俺の方が敏捷性は高いので、先に俺がフスクスに辿り着き、納刀術ソードスキルの瞬突(しゅんとつ)を食らわせた。これは単なる鞘を使った殴打に過ぎないが、技発動後の硬直が皆無なので、連続で次のソードスキルに繋げる事が出来る利点がある。

俺「今度はこいつだ!」

続いて俺が発動した納刀術ソードスキルは、右方向へ移動しつつ鞘で敵を殴る水影身(すいえいしん)だった。
攻撃と同時に移動する為、相手の反撃を回避するのに向ている他、真後ろから突撃してきたレイナがスグにソードスキルを叩き込みやすいのだ。

レイナ「…………!」

剣を振り下ろした後すぐさま振り上げる重い両手剣2連撃技のイラプションを発動したレイナだった。更にや済む間もなく、エルダの細剣ソードスキルが続けざまに炸裂していた。

エルダ「フロアボス戦は初めてだけど……ようやくボス戦らしくなってきた感じかしらね!?」

俺「お気に召したようで何よりだ!」

そして、とうとうHPバーは最後の一本が赤い危険域になり、両腕を振り回すフスクスの猛攻撃をA隊の6人が一塊になって耐え凌ぎ、シヴァタがキリトに向けて言った。

シヴァタ「キリト!!LAはくれてやる、最後は派手に決めてくれ!!」

キリト「解った!遠慮なく貰っとくぜ!!」

そう叫び返したキリトは、剣を右肩に乗せて全力で走っていた。

ユッチ「か、壁を真横に走ってるっすよアイツ!!」

俺「多分、あの剣のマジック効果だろ、AGIが高くなってるんだろうな……」

キリトはこれ以上は登れないだろうと言う所でジャンプしていた。

キリト「これで……終わりだあああ―――!!」

それは、俺もつい最近になって習得したばかりの4連撃技のホリゾンタル・スクエアだった。キリトの剣が二重反転ローターの如く回転し、フスクスの額の赤い紋章に4連撃を刻んでいた。

レイナ「……終わったわね」

俺「またキリトの奴にLAをくれてやっちまったが……今回の功労者はアイツだから悪くないもんだろ」



ついに撃破!虚ろなる巨人、フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサスはキリトのソードスキルによって止めを刺されて消滅!
僅か16人と言う急造のレイドメンバーは各々の目的を達したのであった! by立木ナレ 

 

FILE30 ギルドフラッグは誰の手に?新たなる問題発生!

16人のレイドメンバー達を混乱に陥れた第5層フロアボス『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』は、ホリゾンタル・スクエアによって止めを刺されて爆散!

カレラは成し遂げたのであった!―――犠牲者を誰一人出すことなく、16人の急造のレイドメンバーでフロアボス戦を勝ち抜いたのであった! by立木ナレ



シヴァタ「…………終わった」

掠れた声でシヴァタがそう呟いたのを切っ掛けになり――――急造レイドパーティーのメンバーが、一気に完成を爆発させた。

ユッチ「やったすよ!僕たちたったの16人でフロアボスを倒しちまったっす!」

エギル「おう!一時はどうなるかと思ったが、勝ったな俺達!」

エルダ「みんなお疲れ様!流石はボス戦慣れしてるだけあって、良い戦いしてるじゃない!」

ハフナー「何言ってんだよ、アンタだって大したもんじゃねーか!」

メンバー達はお互いを労い、ある者は豪快に笑い合ったりしていた。

レイナ「……オズマ、お疲れ様」

俺「お前もな―――だが、重要なのはドロップしたアイテムだよな」

レイナ「……ギルドフラッグをどうするかね」

無論、それに関してはキリトも解っている事だろう。キリトはと言うと、俺から少し離れた場所で、アスナやネズハと何かを談笑しているようだった。
そこに、シヴァタが俺達に歩み寄って来て、俺の肩を強くパンパンと叩きながら言った。

シヴァタ「オズマ、さっきは本当にマジでありがとうな!―――あの槍、高く売れたのに俺を助ける為に使ってくれるなんてな――」

俺「確かにそれなりに高値で売れそうな武器だったけど、アンタって言う戦力に比べりゃ、安いもんだと思うよ。シヴァタさんはDKBには、欠かせないメンバーだしな」

シヴァタは照れくさそうに苦笑すると、今度はキリトの方に歩み寄り、『おい、やったな!』と笑いながら右手を持ち上げて、キリトとハイタッチを交わしていた。

キリト「……まずはおつかれさま……そしてありがとう。みんなが頑張ってくれたおかげで、ボスを倒す事が出来た。いろいろ予定外の展開、というか偵察がいきなり本番になっちゃったけど、間違いなくこれまでで最強のボス相手に、全員、最高の戦いをしてくれたと思う」

キリトがそこまで言うと、A隊リーダーのハフナーが両手を腰に当てて意外な事を言う。

ハフナー「俺がこんなこと言っちゃうのは立場的にマズいけど……ギミック満載のあのボスを死人ゼロで倒せたのは、16人の少数精鋭パーティーだったから、ってのもあるかもな。フルレイド48人だったら、全員が床のラインを避け続けるのは無理だった気がする」

そこでハフナーは自分の言葉から何か気が付いたかのように、ALSのオコタンに目を向ける。

オコタン「あ……オコさん、もしかしたら、ALSが主力だけでボス討伐を計画したのって、攻略法を掴んだからなのか?」

オコたん「いえいえいえ、まったくの偶然だと思います。それに、私もオフレコでお願いしますけど、ALSの主力3パーティーじゃ死亡者0の攻略は難しかったと思います。うちはメンバーにビルドの指示とかはしないので、しんどいわりに経験値効率の悪いピュアタンクが古参にはいないんですよ。リーテンをスカウト出来て、ようやくタンク事情が改善されると……それこそベア、いえクマの様に活躍してくれると思っていた所です」

リーテン「ちょっとオコさん、熊は酷いですよ」

俺が、熊と言おうとして、なんでベアって言いかけたんだろう?などと言うどうでも良い疑問を抱いていると、リーテンの抗議にオコタンは焦ったような笑みを浮かべて、シヴァタやハフナー、エギルにユッチも声を出して笑った。

他のメンバー達も談笑を始めて、広間に幾度も笑いが広がりかけた時、キリトが右手を挙げてそれを遮った。

キリト「皆、あまり時間が無い。急いで6層に上がりたいけど、その前にひとつ、大事な事を済ませなきゃいけない」

キリトの言葉を聞いて、一同の顔に真剣さが戻った。それが何なのか俺を含めて全員知っているからだ。

キリト「――この作戦のそもそもの目的……ギルドフラッグがフスクスからドロップした人は、いま申告してほしい」

エギル「おお、そういやそうだったな。すっかり忘れてたぜ」

エルダ「エギルさんったら……けど、戦いに夢中になり過ぎて、途中でそれどころじゃなったから無理ないわね」

エギルがそんな言葉を発しながら、自分は違うと両手を広げて、苦笑していたエルダもそれを真似する。

エギルの仲間達も同じように肩をすくめたり、首を横に振ったりし、ALSの二人とDKBの二人も同じような反応を返す。
ユッチもドロップしていないようでへらへらと笑いながらアイテムストレージを確認して「無いみたいっすね」と言っていた。

俺「レイナ、お前ドロップしたか?俺のアイテムストレージには無いみたいだが」

レイナ「……ボスが倒された後に確認済み。だけどなかった」

そして、アスナ、アルゴ、ネズハの三人も違うようだった。

ウルフギャング「当然、キリトも違うんじゃよな?」

キリト「ああ……俺にもドロップしなかった」

ウルフギャング「ってことは、正式サービスの5層ボスは、そのフラッグとやらを持ってなかったっちゅう話かい?」

狼男を思わせる風貌のウルフが呆れたように長い髭をしごくと、華麗状に毛むくじゃらなローバッカが両手を上げて言った。

ローバッカ「なんつう人騒がせな話ったい!オイたちの苦労はなんじゃった……と……」

その言葉が減速して、途切れたのはローバッカも気が付いたんだろう。だが、それは俺もこの場で口にすべきかどうか判断に悩んだ。

厄介な事にだ、この場の誰かが、本当はドロップしたギルドフラッグを申告せずに、アイテムストレージに隠匿してる可能性が有り得るのだ。




勝利後の高騰した空気が跡形も無く霧散していく!ボス戦の間は確かに一つになっていたメンバー達の心―――だが、猜疑心を宿した眼で互いを見合う様子を誰もが感じていた!
一定時間の沈黙が続き、重苦しい空気が続いたその時であった―――奴らがまるで揺さぶりを掛けに来たと言わんばかりに姿を現したのは! by立木ナレ



ガチャモン「いや~、いよいよ2023年が間近に迫って来たね皆~。このアインクラッドにいたんじゃ、年末の特番とかは見れないけどさ。せめて年越しそばくらいは食べて、大掃除も済ませて、新年を新しい気分で始めようじゃないか~」

モック「って、あれ?十六人?十六人しかいないじゃないですか貴方達!――フロアボスが倒されたから、48人のレイドメンバーの方達がいるかと思いきや、一体全体どうなってるですか!?」

ネズハ「うわっ!ガ、ガチャモンとモック!!」

エルダ「こうして、間近で見るのは初めてになるわね……一体貴方達が何の用でここに来てるのかしら?」

アスナ「貴方達に用はないわよ……!」

大体予想通り、ガチャモンとモックが現れて、フロアボス戦の直後でありながら16人しかいない事に、モックが驚いたような素振りを見せるが、どうせ奴らはこの事も最初から分かっていたに決まっている。

ネズハが目の前に現れたガチャモンとモックに怯み、エルダが嫌悪感を感じさせる表情で睨み付けて、アスナはそれ以上に氷のように冷たい視線で二人を睨み付けていた。

ガチャモン「またまたそ~やって、人様を邪魔者扱いするんだから~、仲間外れやシカトは虐めのはじまりだから、皆、気を付けなくちゃダメじゃないか~」

モック「ぐほほっ!実は我々はちゃ~んと分ってますですぞ。ALSの強硬派たちがギルドフラッグを抜け駆けで手に入れようとしていたので、それを阻止する為に少人数でのレイドパーティーでALSに先んじてここに訪れたですな~?」

レイナ「……やっぱり、プレイヤー達の行動は貴方達には全て筒抜けなのね」

エギル「しかも、ベータテスターしか知らねぇ、ギルドフラッグの事まで知ってやがるのか。オメーら本当に茅場の差し金じゃねぇんだろうな?」

最早ガチャモンとモックが、ゲームのシステムにかなり深く干渉できることは明白だ。だが、奴らは今の所自分たちが茅場晶彦の共犯である事は一度たりとも認めておらず、かと言ってそれをハッキリと否定もしないと言う一番ややこしい態度を取り続けていた。

ガチャモン「はいはい、関係ない質問はいいからさ、今の君達にとっては、ここにいる誰がギルドフラッグを手に入れたのかを確認する事―――でしょ?」

そのガチャモンの変わらぬ表情から発せられた言葉を聞いた途端―――俺は、これからこいつがこの場にいる者達の疑心暗鬼を更に煽ろうと企んでるんじゃないかと言う、疑心を感じた。

そして、それは予想を裏切る事無く。

ガチャモン「僕はね、ボランティアがマイブームなんだよ」

ユッチ「お、お前らがボランティア~?だ、だったらさっさと僕らをログアウトさせろよ!お前らにはそれが出来るんだろう!!」

ユッチが、この場でガチャモンとモックに対してログアウトさせろなどと喚き命令するが、当然そんな事が叶うわけがない。

モック「ぐほほ、ガチャモンっては2018年に2歳の女の子を救助したお爺さんのボランティアの人の動画を最近になって見ましてですな、その時のあのお爺さんの人気ぶりを目の当たりにして―――まぁ、目覚めちゃったんですな~」

ハフナー「4年も前の話じゃねーか!それなら俺も見たけど、それで今更ボランティアに目覚めただぁ!?」

リーテン「し、信用できません!余計な事が目的なら消えて下さい!!」

ハフナーが声を荒げて、不信感に満ちた目付きで二人を怒鳴り付けて、リーテンが強気な口調で辛辣な言葉を浴びせるのだが――――

ガチャモン「シャラップ!黙れゴミ共がぁ!!」

ユッチ「ひぃ!す、すみませんでした!!」

リーテン「きゃっ!」

ガチャモンの怒気に満ちた一喝によってリーテンは気圧され、何も言ってなったユッチが一番ビビっていた。

シヴァタ「お、お前ら……!」

ガチャモン「はいはい!ボランティアの内容を発表します!これをどうぞ!」

そう言いながらガチャモンがオブジェクト化したアイテムは――ただの懐中電灯のようなアイテムだった。
そして、俺達がこんなのが何だと思っているのを予想したかのように、モックの説明が始まる。

モック「このアイテムを持っている人は、アイテムの名前を呼んでから、プレイヤーの誰かに光を当てると―――あら不思議!そのアイテムが強制的にオブジェクト化されると言う優れものすぞ――――!!」

その説明を聞いて、俺は直ぐにこいつらが何をしたいのか理解した。

ガチャモン「くすす、まさにアイテムの秘匿行為、何て言う事してやがる、不届き者を炙り出すにはうってつけのアイテムだねぇ~」

モック「これはお得!これは使うっきゃありませんですな~!」

嬉々とした声で、語り合うガチャモンとモック。こいつらは俺達にそのアイテムを使って、ギルドフラッグを秘匿している者を炙り出して、最終的に俺達がそいつにどんな罰を下すのかとか―――そんな事を期待してやがるのか。

ガチャモン「じゃ、僕たちはこれで失礼しま~す。2023年もガチャモンをよろしくね~」

モック「ちょっとちょっと!自分だけですか!?私は仲間外れですか!?ちょっとガチャモン!!」

そんな、バカなやり取りをしながら、ガチャモンとモックは転移でその場から消えたのだった。―――そして、俺達の目の前にはガチャモンとモックが残した、アイテムを強制的にオブジェクト化させるライトが転がっている。

誰もがそれをじっと見ているが、それを拾おうとする者は誰もいない―――

アスナ「キリト……君?」

と、思いきや、キリトが無言でライトにゆっくりと歩み寄り始めていた。キリトは右足がライトのすぐそばまでの距離まで歩くと、その場で停止し、数秒間ライトをじっと見降ろした直後だった。

バキンッ!――と、何かが壊れる音が聞こえたのは、キリトが無言でガチャモンとモックが残したライトを足で踏みつけて破壊したからであった。

ユッチ「え……でぇ―――――!?な、な……何っつー事してるんだよ!!こ、これ無しで、どうやって誰がギルドフラッグを持ってるのか―――んぐ」

俺「少し黙ってろ、キリトがこうしたからには、アイツなりのやり方でこの問題に蹴りを付けるって事だろ」

喚き散らすユッチの口を俺は右手で無理矢理塞いで黙らせておいた。キリトは俺の方を振り向くと、何となくだが―――『助かったよ』と、言っているような視線を送ってきた。

さて、キリトはこのお互いが疑心暗鬼にありつつある状況をどう収めるんだ?キリトがこの状況を解決できないのであれば、最悪無理矢理にでもアイテムストレージを可視化させて確認なんて事も有り得るぞ……


オズマは、この問題の解決のすべてをキリトに託したのであった!ギルドフラッグを巡る騒動、次回完全解決!!
 

 

FILE31 新ギルド結成!

キリトは直立した姿勢から腰を折り、深々と頭を下げた。

低いざわめきが広い広間に流れる。戸惑うプレイヤー達に、キリトは言った。

キリト「まず、最初に、みんなに謝る。ボスを倒した後の、ギルドフラッグの取り扱いについては事前にきちんと話し合っておくべきだった。フラッグがドロップしたらどうするか、しなかったらそれをどうやって確認するか、そういう大事な事を後回しにしてしまったのは俺のミスだ。そのせいで、いまこうして、みんなにお互いを疑わせてしまっている……」

キリトは体を起こすと、今度は俺達の顔をしっかりと見つめていた。今まで、俺と話すときもそうだったが、妙に人の顔から視線を逸らしながら話す事が多かったキリトが……

キリト「……ただ、ALSとDKBが、フラッグを巡って争うような事にはなってほしくない……これからも両ギルドが協力して最前線の攻略を続けてほしい、そう願ったからこそ、みんなはこのレイドパーティーに参加してくれたはずだ。それはボスと戦う前も、そして勝利した今も変わらない……俺はそう信じる」

俺「…………」

俺は当初、目の前の黒衣の剣士キリトを、その他大多数のベータテスター達と同じで、一般プレイヤー達顧みる事無く、美味いクエストや狩場を独占し続けてきた奴らの一人として見なしていた。―――だからこそ、俺は第一層で、躊躇なくキリトに対して、ベータテスターであると言う証拠を掴み、それをネタに強請るような事も平気でやってのけたのだったが。

果たして、今のキリトはどうなんだ?俺が思っていたような利己的で弱者を顧みずに行動していたベータテスターなのか?

俺がキリトに対して、そんな複雑な疑問を抱いていると――腰を折り曲げていた。現合間で頭を低く下げ、その姿勢のまま言葉を発した。

キリト「……ギルドフラッグが誰にドロップしたのかを、システム的に確認する方法は、もうない。だから、どうか、頼む。俺に渡してくれとは言わない……取り扱いを、この場の全員の意思に委ねてほしい。攻略集団の為に……下の層で待っているプレイヤー達の為に……そして、いつか誰かが、このデスゲームをクリアする日の為に」

ざわめきは完全に消えていた。完全な沈黙が僅かな時間の間だが、その場を漂い、そして――鈍い金属音の足音が鳴ると、その足音の主はキリトの傍まで近づくが、キリトは頭を下げたままの姿勢を崩さなかった。

オコタン「顔を上げてください、キリトさん」

キリト「…………」

キリトはゆっくりと顔だけを持ち上げて、目の前の人物が、レイドパーティーで最年長のメンバー、ALSのオコタンである事を確認したのだった。

オコタン「……キリトさん、そして皆さん、本当にすみませんでした。ドロップしたギルドフラッグを申告しなかったのは、私です」

深々と腰を折りながらの謝罪と告白の言葉の直後、後方からくぐもった声が響いた。

リーテン「オコさん……どうして……!?」

一歩前に出たリーテンが、アーメットのバイザーを跳ね上げると、くぐもったエフェクトが消えて、明確に女の声で続ける。

リーテン「あんなに言ってたじゃないですか……攻略集団は力を合わせなきゃならない、二つのギルドでゃり遭ってる場合じゃない、って。なのに……どうして!」

両眼に涙を溜めたリーテンが口を閉じると、オコタンは振り返り――――

ユッチ「どー言う事なんだよ!?ギルドフラッグを隠匿してどうする気だったんだよ!?―――も、もしかしてアンタ……ALSの強硬派のスパぃ――――」

アスナ「ユッチ君、黙りなさい!」

オコタンが何かを言う前に、ユッチが再び切れて、喚きだしたが、最後の言葉を口にする前にアスナが一喝すると、ユッチは全身をビクッとはね上がらせて、それでもう完全に押し黙っていた。

俺「悪い、俺もこいつの口から手を離しちまってたしな……」

アスナに軽く詫びの言葉を口にすると、オコタンはリーテンに向けてもう一度頭を下げた。

オコタン「すまない、リーテン。君の信頼を裏切るような事をしてしまって」

そして、オコタンはアイテムストレージからドロップしたアイテムをオブジェクト化させた。オコタン自身が背中に装備しているハルバートよりも更に長い、長槍(ながやり)だった。

エルダ「全長は3メートルくらいかしら……これだけ長いと、武器として使いこなすのも難しいわね」

レイナ「……それに、穂先は尖ってるけど、やっぱり槍じゃないわ」

レイナの言う通り、上部には純白の三角旗が付けられており、それが確かにフラッグである事を見た目で表現していた。

オコタン「キリトさんは、最初から私一人を見てましたね。どうして解ったのか、教えてくださいますか?」

キリト「あ……はい」

キリトが最初からオコタンに目を付けていて、オコタン自身もそれに感づいていたと言う事に、多少の驚きを感じたが。ここはキリトの説明を聞き続けよう。

キリト「ええと……オコタンさん、ここに来る前は、かなりヘビーなFPSプレイヤーでもあったんじゃないですか?」

オコタン「ええ……一時期はMMOよりもそっちにハマってましたよ」



キリトとオコタンのやり取りの結果、キリトがオコタンが目を付けた理由は、FPSゲームでは、両チームが、一本の旗を奪い合うゲームで、旗を運ぶプレイヤーの事を、英語ではフラッグ・キャリアーやフラッグ・ベアラー、略してベアラーと呼ぶ事から、オコタンがリーテンに対して『リーテンが、それこそベア、いや熊のように活躍してくれる』と言う発言から、それは熊を英語で言ったのではなく、ベアラーと言いかけたのだろうと推測した事―――これからはリーテンが旗持ちとして活躍してくれる……自身のストレージにフラッグがドロップしていなければ、そんな発言は出ないだろうとキリトは考えて、オコタンがフラッグをドロップした張本人であると推測したのであった!! by立木ナレ


オコタン「……こんな事を言える立場じゃないですが……キリトさんも、リーテンも、そして皆さんも……これだけは信じてほしいんです。私は決して最初から、ギルドフラッグをネコババするつもりでこのレイドに参加したわけじゃない。ALS上層部と通じていると言うわけでもないです。最初は、本当に、両ギルドの対立を何とか防ぎたいと……それだけを願っていたんです。でも……このフラッグが私にドロップし、しかも誰もそれに気づいていない、隠そうと思えばこのまま隠せると気付いた瞬間、思ってしまったんです。ギルドフラッグを交渉材料に使えば、二つのギルドを統合できるんじゃないか、と……」

つまり、オコタンはこのフラッグを交渉材料にして、両ギルドをいったん解散、その後新ギルドを発足し、そのギルドにALSとDKBのメンバーを入れる事で収める事を考えたのかもしれない。

オコタン「でも、そんなわけはありませんよね。ギルドフラッグがALS側から出てきたら、今日この場で私がネコババした事は、ハフナーさん達にも解ってしまう。そんなっ状態でまともに交渉なんか成り立つはずがない……。――バカな夢を見ました。私の愚かな行いを、改めて皆さんに謝罪します」

フラッグを持ったまま、オコタンがもう一度頭を下げた。その姿をじっと見ていたハフナーが、一歩前に出ると、両拳を握り締めて叫んだ。

ハフナー「―――確かに、アンタはバカな事をやった!下手したら二つのギルドが戦争になってたかもしれないくらいのな!でも……その夢はバカじゃねえ!!」

ハフナーは、少し声のボリュームを下げて語り続けた。

ハフナー「俺も、さっきの戦闘中に、ちっとだけ夢を見たよ。俺やシヴァタ、アンタやリーテンさんが、初めてのパーティーでもあんなに息を合わせて戦えるなら、いつまでもいがみ合ってる意味はねぇのかも……二つのギルドのメンバーをまぜこぜにして、理想的なパーティー組をした方が良いのかもっ、ってな。俺はその夢を捨てちまう気はねぇ。ギルド統合とまでは、まだ言えねーけど……いつかは、もしかしたら、って思うのはやめねーよ。だから……俺は、アンタを許す!」

唐突に宣言してから、ハフナーは他のメンバー達を見渡した。

ハフナー「オコさんをどうしても許せねぇ、なんかのペナルティを与えるべきだって思う奴、いたら手ぇ挙げてくれ!」

その呼びかけを聞いたエギルが、両手を大きく広げて苦笑する。

エギル「おいおいハフさん、そんないい方されて手ぇ挙げる奴なんかいるわけねーだろ」

エルダ「本当よね、彼を含めて今回の16人―――誰か一人でも欠けていたら、どうなってたか分からないボス戦だったんだもの。今更、この中の誰かにペナルティ何て、考えたくも無いわよ」

エルダがそう付け加えて賛同すると、エギルの仲間達が頷き、アスナやアルゴ、ネズハも軽く笑みを浮かべる。

レイナ「……オズマ、何か面白い事でもあったの?」

俺「ん?ああ、まーな」

俺も――この時ばかりは軽く含み笑いを浮かべていたようで、隣でレイナが目を丸くして、キョトンとした様子で俺の顔をじっと見ていたのだった。


※ ※ ※


その後、第五層のボス部屋には、ギルドフラッグを預かっているキリトだけを残して、俺達は先に螺旋階段を上り第6層を目指す事にしたのだったが――――

ユッチ「あ~あ、アスナさん本当に行っちゃったっすねぇ~」

エギル「ほら、そんなにデカいため息つくなって、まだここには美人さんが三人もいるじゃねーか」

エギルがそう言いながら、レイナ、エルダ、リーテンの方に顔を向けると、リーテンは恥ずかしそうに顔を赤くしてアーメットのバイザーを被り顔を隠し、エルダは愉快そうに笑いながら『おだてても何も出ないわよ』と言い、レイナは相変わらず無反応の無言だった。

アスナはオコタンから、キャラクターネームの由来を聞いた直後に、面白からそれをキリトに伝えるなどと言ってボス部屋に戻ったのだったが、実際は―――

俺「アイツ、キリト一人でALSの連中に対して、上手く説明できるかどうか心配していったんだろーな。バレバレだっての」

オコタン「やっぱり、私もあそこに残るべきだったでしょうか?同じギルドのメンバーとして、キリトさん一人が糾弾されるような事にならない為にも―――」

レイナ「……それは止めた方が良い」

オコタンは、キリトに対する罪悪感がまだ残っているようで、そう言いだしたが、それをレイナが止める。

エギル「オコさん、レイナの言う通り、それは止めた方が良いぜ。キリトは多分……いや、間違いなく今回のボス戦に参加したレイドパーティーのメンバーが誰かなんて、もうすぐボス部屋に来るはずのALSのメンバーには言わねーはずだ」

俺「特にALSメンバーのオコたんさんや、リーテン。それとDKBのハフさんとシヴァタさんだって、今回のボス戦に参加した事がばれたら、それぞれのギルドでの立場が悪くなるはずなんだ」

オコタン「分ってますけど、やはり申し訳ない限りです……」

そんなやり取りの直後だった、ユッチが暗い空気になりそうなのを打ち破るように、明るい声で俺に声を掛けてきたのは。

ユッチ「つーかオズマさ~ん。今回のボス戦で思ったんっすけど、やっぱりギルド作りましょーよ!オズマさんをリーダーにした新ギルド!」

俺「まーた、その話かよ……ただでさえ攻略ギルドが二部化してる状態で、第三の勢力とかややこしくなるだけじゃねーのか?」

が、そんな俺の懸念に対して横槍を入れてきたのは、DKBの二人だった。

シヴァタ「いや、あながちそうとも言えなくはないぞ」

ハフナー「そーだよ!むしろ、二大攻略ギルドが対立してる状況だからこそ、第三の攻略ギルドが現れたら、何かしらのターニングポイントになり得るかもしれねーぜ!」

俺「おいおい、アンタら一体何を言い出して―――」

が、今度はALSの二人が、まるで同調するように、声を上げてくるのだった。

オコたん「そ、そうですよ!ALS側でもない、DKB側でもない、中立の立場の人たちが、それなりの力を持った新しい第三の攻略ギルドを作れば、両ギルドの潤滑油的な存在になり得ることだってあり得ませんか?」

リーテン「オズマさんなら、強いですし、人望もあるみたいですし、是非そうしてみたらどうですか?」

こいつら……いくらなんでも前向きに考え過ぎじゃないのか?俺が少し待てと言おうとした時だった、後ろからエルダが俺の肩を叩いて、楽しげな表情で言った。

エルダ「ギルド結成にアタシも手を貸すわよオズマ君!ユッチ君とレイナさんも良いわね?」

ユッチ「もちのロンっす!」

レイナ「……解った」

俺「お、お前らなぁ……ったく、あんまり色々と期待し過ぎないでくれ」

エギルとその仲間たちがガハハハッと豪快に笑い、アルゴがにゃははと楽しげに笑っているが、それに対して一々何か言い返す気も湧かない俺だった。



オズマ、ついになし崩し的に……あれよあれよと言う間にギルド結成!初期メンバーはリーダーのオズマを始め、レイナ、エルダ、ユッチの4人からのスタートとなった! by立木ナレ 

 

FILE32 召集!プレイヤー達の家族と友人達

デスゲーム、ソードアート・オンラインの攻略は進み、最前線は第14層となっていた!オズマは自信をリーダーとし、第5層で出会った細剣使いの少女、エルダをサブリーダーとしたギルドMBT(未来は僕らの手の中に)を結成していた。

ギルドのメンバーは総勢10人で、その内最前線で活動しているのは初期メンバーであるオズマ、レイナ、エルダ……おっして、辛うじてユッチの四人ながらも、攻略集団の中ではALS、DKBに次ぐ主力ギルドとしてその存在感を示しつつあった!!





ガチャモン「いや~、毎日毎日、狩りに出たり、クエストをこなしたり、迷宮区を探索したりと、プレイヤーの皆さんは精が出ますな~」

モック「皆さん、そんなにゲーム漬けで大丈夫なんですかね?ゲームは一日一時間とか、昔の大人みたいな事を言うつもりはありませんが、やり過ぎは体に毒ですぞ~」

その日、俺達はガチャモンとモックによって、奴らのホームである体育館に召集されて、俺達の前に姿を現してからそうそうに、そんなSAOに囚われているプレイヤーである俺達に対する皮肉とも言えることを言っていた。

「誰のせいでこうなってると思ってんだバカやろ―――!!」

「好きでゲーム漬けの生活してるんじゃないわ!アンタ達のせいなんだからね!!」

「勝手に呼び出しておいて好き勝手言ってやがるんじゃねー!何時になったら俺らを現実世界に帰すんだよ!!」

言うまでも無く、ガチャモンとモックに対して激しい罵声と非難の言葉が飛び交っていた。四方八方から顰蹙を買うガチャモンとモックは、二人揃って耳――(人間でいう所の)がある場所を抑えて、その場でジタバタと体をくねらせているが、実際には丸で何ともないだろうに。

モック「お、落ち着いてください皆さん!こういう時こそ、冷静な対応が必要ですぞ!今から、ガチャモンがとても大事な話を始めますからどうか静粛に!」

モックが狼狽えながら、静まるように声を掛けるが、大して効果は無く、未だに怒りの喚き声をあげる者は後を絶たなかった。

ガチャモン「え~、君達がソードアート・オンラインの世界の住人になってから既に数カ月。その間君達は現実世界での情報を一切得る事が出来ていない状態だよね~?」

そりゃそうだ、この世界ではテレビやラジオなど存在せず、インターネットも無い(このゲームそのものはオンラインゲームなのだが)状況下故に、現実世界での世間がこの一件に関してどう動いているのかとか、現実世界の知人たちがどうしているのかについて、一切知り得る術を持たない状態だった。

――と、その瞬間。目の前に俺のガチャパットが、――いや、全プレイヤーの目の前にそれぞれがアイテムストレージに所持しているガチャパットがオブジェクト化されていた。

ガチャモン「ぷぷぷ~、現実世界の君達のお友達とか、家族とかがさ、今どうしてるのか気になってる人も沢山いると思ってね、僕は慈愛の心でのサプライズをする事に決定しました~」

モック「え~、これより――現実世界での皆さんの家族、友人の方達に関する動画を、これよりガチャパットを通じて流したいと思いますですぞ~」

モックのその言葉を聞いた途端に、さっきまで二人に対して怒りをぶつけていたプレイヤー達が、途端に動揺、狼狽える様子に変化していった。

俺「俺等の現実世界での家族や友人たちがどうしてるね……」

つまり、俺の場合は親父とか爺さんとか、地元の知り合い連中とかがどうしてるかの動画が流れるって事か?

レイナ「……私の家族?友人?」

俺の隣で、ガチャパットを握り締めているレイナが、珍しく、僅かながら動揺しているように思えるような小さな声でそう呟いていた。

そうか、レイナは現実世界の記憶を失っているが、現実世界での自分の家族や友人たちの映像を見れば、何かを思い出すかもしれないんだ。

ガチャモン「では、現実世界での君達の家族や友人たちがあの日以降、、一体どうしているか!動画スタート!」

ガチャモンのその言葉によって、全てのプレイヤー達がガチャパットの視線を向けた直後に、その動画は始まった。

ガチャモン『モック……まさか君と、こんな関係になるなんてね』

モック『い、いけませんぞモック……やっぱりこんな事は間違ってるですぞ……』

ガチャパットに映し出されているのは忌々しいガチャモンとモックだった。二人はダブルベットで横になった状態で並び、なにやら気持ち悪いやり取りをしていた。

ガチャモン「とか言ってるけどさ、もうこれで何度目だよ?僕と君がその、間違った事をするのはさ?」

モック「ああ!わ、私は一体どうすれば良いんでしょう……が、ガチャモンとこ、こんな関係がゆ、許されるわけがないと言うのに……こんな、こんな――――」

そこでガチャパットの映像は途切れていた。一体俺達は何を見せられていたんだ?今の映像のどこが俺達の家族や友人に関する動画なんだ?

ガチャモン「いやいやいや!ゴメンね皆!うっかりミス!うっかりミスで全然関係の無い動画を流しちゃったよ~。今の映像の事は皆、忘れちゃってね~」

ガチャモンがうっかりミスだとか言って、映像を止めたようだが―――

ユッチ「いやいやいや!何がうっかりミスなんだよ!い、今のなんだよ!お前ら何してやがるんだよ!!」

エルダ「どうでも良い間違い映像だって言われても……さ、流石に引くわね」

ユッチが声を荒げて、只ならぬ行動に及んでいたことを示唆するガチャモンとモックの映像に対して、激しくツッコミ、エルダは口を押えて吐き気を催しているようだった。

「ふざけんなテメーら!」

「下らねー動画見せてんじゃねー!」

「気持ち悪いじゃないの!」

再びプレイヤー達が、ガチャモンとモックに対して罵詈雑言の嵐を見舞っていた。周囲の轟音を考慮してか、ガチャモンはマイクをオブジェクト化して、マイクで増幅された声量で再び声を上げる。

ガチャモン「はいはい、静粛に!今度こそちゃーんと皆の家族や友人たちの動画を流すから静かに!」

モック「え~、プライバシーに考慮しまして~、これから流れる動画は、ガチャパットの持ち主にしか見えない状態にしましたので、他人のガチャパットの映像をこの場で覗き見ようとしても無駄ですぞ~」

ガチャモン「では、今度こそスタート!」

そして、ガチャパットの映像は一旦真っ暗になったかと思うと、大きな文字が浮かび上がる。

『オダギリ ハズマ君の身内動画』

小田桐弭間って―――俺の本名だと?奴ら、プレイヤー達の個人情報を調べ上げておいたのか。まあ、俺達の身内動画なんてのが出来ている時点で、俺達の本名が割れていたとしても何の不思議もないが。

そして、ガチャパットに映し出されたのは、色彩が無い、白黒アニメのようなアニメーションだった。しかも、登場人物たちは全員真っ黒なシルエットのような姿になっており、顔が判別できないと言う有様で、かなり手抜きのクオリティーなのが丸わかりだった。

すると、画面の下の方に登場人物の台詞が、テキストウインドウとして表示されていた。どうやら、音声も無いようで、台詞は全てテキストで表記されるようだった。

記者『オダギリさんですね?息子さんが、お孫さんがソードアート・オンライン事件の被害者になったと聞きました!ハズマさんの父として、祖父として何か一言お願いします!』

マイクを持った人物の口元から、小さな吹き出しのマークが出現すると、画面下にそんなテキストウインドウが表示された。
どうやら、俺達がSAOに閉じ込められた後、ウチにもマスコミたちがやって来て、被害者家族としてのインタビューを受けたようだった。
すると、俺の親父らしき人物だろう、黒いシルエットの口元に吹き出しのマークが出現して、

ハズマの父『何か一言とか言われましてもねぇ~』

記者『ハズマさんのお父さんですね?息子さんはどんな少年でしたか?学校ではどんな様子でしたか?』

ハズマの父『どんな息子とか聞かれてもなぁ~、そもそもアイツ……小学校卒業してから一度も学校行ってねぇからな~』

記者『―――え、えっと……』

俺が不登校である事をあっさりと記者たちに親父は話しやがったようだった。まあ、別にそれはどうでも良いんだが、やはり記者たちはあっけらかんとした様子で息子の不登校を口にした父親に唖然としていたようだった。

記者『で、でしたら、今回の事件の主犯とされる、茅場晶彦容疑者に対して何か一言あるでしょうか?』

ハズマの父『茅場晶彦……?誰だそいつ?そいつが一万人をフルダイブゲームに閉じ込めた張本人って事か?だとしたら、随分と大それたことする奴だぜ全く。んな事したところで、金になりやしねーのによ~』

記者『ど、どうするんだこれ?放送して良いのかこんなの……』

俺の親父が、マスコミたちの期待するような反応や言葉を一切口にしない事で、マスコミたちが困惑しているようだった。
これは、黒いシルエットの姿でもハッキリと分かる。

記者『あ、お爺さん!お爺さんは何か一言ありませんか!?ソードアート・オンラインを開発したアーガスに言いたい事などは?』

親父への質問が無駄だと考えたマスコミ連中は今度は爺さんにカメラを向けて、質問をするが、俺が思ってる通りの爺なら、余計に無駄な事になるだろう。

ハズマの祖父『勝手にカメラ向けてるんじゃねー!俺に取材したければ謝礼寄こしやがれ謝礼!最低で1万円からだ!にしてもアーガスとか言う会社はちゃんと賠償金と慰謝料を出しやがるんだろうな、ああーん!?』

全く持って予想通りの爺さんだった。俺がナーブギアを被った状態で、目覚めないと言う一大事に、あの爺さんはマスコミに対して謝礼だとか、アーガスから賠償金だとか、とにかく金の話に余念がない様だ。

そこで、ガチャパットのアニメーションが終わったかと思うと、今度は実写の写真が表示された。いい加減なアニメーションだけでは流石に信憑性が低い事への配慮なのかもしれない。
そして、その証拠写真とでも言うべき画像は、俺の爺さんがマスコミ連中に対して、何かを喚き散らしている現場だった。
おそらく、謝礼がどうのこうのとか言う話をしていたのだろうな。

俺「けど、これがなんだってんだ―――?」

こんなのを見せられたくらいで、今さら何がどうと言うわけでもあるまい。俺は自分の親父や祖父がどんな人間であるか、基本的にロクな大人じゃない事くらいとうの昔に理解しており、今更それを見せつけられたところで奴らを嫌ったり、失望したりなどするわけでもないと言うのに。

「な、なんだよこれ――――こ、こんなのを信じろってのかよ!!」

俺の思考を遮ったのは、遠くから聞こえた、他のプレイヤーの悲観に満ちた叫び声だった。すると、そのプレイヤー以外にも、ガチャパットの動画や写真を見て、かなりのショックを受けた者が少なからずいたようで、次々と悲鳴や叫び声が響き渡った。

「嘘だろ……?内定取り消しってなんだよ!?よ、ようやく決まった、大企業の内定なのに……俺が何時目覚めるか分からないから内定取り消し何てそんな事許せるかよ!!」

「誰だよその男……お、俺が寝てる、びょ、病室のすぐ外で……何してんだよ百合子(ゆりこ)!!俺達、何時か結婚しようって約束したじゃないか!!」

「ど、どうして―――なんで、パパとママが離婚したの!?わ、私のせい?私が原因でパパとママが離婚したって言うの!?」

「ふざけんな!!俺がいなくなって清々しただぁ!?前から嫌いだった!?テメーら……散々俺が奢ってやった事、忘れやがったのかよ!?」

プレイヤー達の中には、ガチャパットで流された動画と写真が、シャレにならない事態であった者も多かったようで、その者達の悲鳴、叫び、絶叫が響き渡り続けていた。

レイナ「…………」

そして、俺の横では記憶喪失のレイナが、ガチャパットの動画と写真を見た後も、表面上は冷静さを保った姿で、ガチャパットに視線をじっと向けていた。

俺「レイナ、今のを見て何か思い出したか?」

レイナ「……別に、なにも思い出さないわ」

レイナは、まるで関心ないと言わんばかりの口調でそう淡々と答えた。

ガチャモン「くすす!どうだったかな皆?君達がこのゲームに囚われた後の、現実世界の君達の家族や友達がどうしてるか分かって少しは安心した?―――それとも、生きるのに絶望しちゃったりして?」

モック「今回ながされた動画と、写真は、各々のガチャパットで何時でも見れますから、気が向いたら幾らでも再生できますですぞ~!あ、ですが次回以降は他のプレイヤーの人達にも普通に動画も写真も見える状態ですので、覗き見にはお気をつけてくださいですぞ~」

ガチャモンとモックの笑い声が10秒ほど、体育館に響き渡った後、俺たちは一斉に奴らの強制転移で、元居た場所に戻されたのだった。

幸いにも俺は、今回の動画と写真を見ても何ともなかったが、中には今回の動画と写真を見た事によって、いち早く生還する為に焦り出す者や、逆に現実世界に悲観し、絶望して生き残る意欲を失ってしまった者もいるかもしれない。

俺「せめて、攻略集団に悪い影響が無ければ良いんだけどな」



ガチャモンとモックがプレイヤー達に見せたのは、現実世界でのプレイヤー達の家族、友人たちの様子だった。
それを見た者達の反応は千差万別!まさに、予測不可能な状況になりつつあった! by立木ナレ 

 

FILE33 リアルのレイナ

プレイヤー達がガチャモンとモックによって見せられたのは、白黒のアニメであった。だが、それはただのアニメではなく。各々のプレイヤー達の家族、友人達が自分達がSAOに囚われて以降、どうしているかについてを描いた内容であった!動画と写真の信憑性は未だに不確定であるが―――それを見た者達の反応は千差万別!ある者は一刻も早く、現実世界に帰らねばと言う焦燥感に駆られる者……ある者は現実世界への失望感に打ちひしがれる者……そしてある者は、特に気にする事も、関心を示す事すらなかった者……そして、プレイヤー達は強制転移される前の場所に戻されたのであった。 by立木ナレ



俺達は丁度、第14層フロアボスの攻略会議の最中であった。今の時点では偵察戦も行われておらず、その内容を決めている最中に、ガチャモンとモックに召集されたので―――戻った時には俺達は攻略集団の面々と再び同じ場所に集まっているのだが、一同の表情は召集前に比べて大きく変わっている者達が溢れていた。

キリト「スグ……ごめんな本当に!俺の……俺の事で」

俺の後ろの方でキリトが、そんな誰かに対しての罪悪感を感じさせる言葉を口にしていた。――だが、独り言を口にしているのはキリトだけではない。

アスナ「母さん……兄さんの、父さんのせいにしてるなんて」

アスナの方は、家族の関係に何か重要な問題が起きたのか、目から微かに涙を浮かべて、歯を食いしばっていた。

ユッチ「あ、あれ?み、皆どうしちゃったんっすかね?あ、あんな、どーでもいい白黒アニメや写真位で―――?」

俺「俺もこっちに戻ってくるまでは、お前と同じこと考えてた―――けど、中には、自分達がSAOに囚われた後に、家族とかダチとかが、かなり厄介な事になってたり、知りたくもねー姿を見ちまった奴もいるみたいだぞ」

俺がそう言うと、ユッチはへつらった表情で苦笑しながら語る。

ユッチ「は、はは……そう考えると、ぼ、僕はまだマシな方かもしれないっすね。クラスの連中が……僕が学校に来なくなった事なんて、ものの数日で誰も話題にしなくなったって事くらいっすから」

俺「そりゃ、確かに大したことねーよな。俺もうちの親父が記者会見で適当な受け答えしてたり、爺さんがマスコミに謝礼要求してたりとか、どーでもいいような内容だったからな」

お互いに、ガチャパットの動画と写真を見ても、特に何も焦る事も、失望する事も無かった俺とユッチは互いに苦笑いを浮かべ合っていた時だった――――

リーテン「は、速くゲームをクリアしなくちゃ!!」

ALSの女タンクで、第5層のフロアボス戦を共にしたリーテンが、アーメットのバイザーを外した状態の地声で、その場のプレイヤー達が思わすビクッと身体を強張らせてしまう様な大声で叫んでいた。

オコタン「リ、リーテン……急にどうしたんだ?」

リーテンをALSにスカウトした、同ギルドの最年長のオコタンが、急に大声をあげたリーテンを心配し声を掛けていた。
リーテンとは個人的に親しいDKBのシヴァタも、そんなリーテンの様子に困惑しているようだった。

リーテン「皆さん!もうフロアボスの部屋は既に分かってるんです!ですから、今すぐにでもボス戦に行きましょう!」

キバオウ「な、なにをゆーとるんやジブン!!んな事ぉ勝手に決めるんやあらへんわぁ!それに先に偵察戦があるやろうが!」

リーテンの無茶な提案に、流石にリーダーのキバオウが大声で咎めるが、リーテンは止まらなかった。

リーテン「偵察戦なんて必要ありません!」

キバオウ「な、なんやって……!?」

リーテン「だって、安全マージンは充分に取れてるじゃないですか!今までのフロアボス戦だって、警戒して戦ってきたけど、なんだかんだで殆ど死者は出さずに済んでますよね?だったら、もっと積極的にペースを速めるべきだと思います!今の攻略速度では、第100層までクリアできるのに何年も掛かってしまうんですよ!そんなに―――そんなに待ってる余裕なんてありません!!」

シヴァタ「リっちゃ―――リーテンさん落ち着くんだ!どうしたって言うんだ?さっきから様子がおかしいじゃないか!!」

リーテン「あッ……」

シヴァタに叱責されて、リーテンはようやく我に返ったのか、周囲を見渡して、アーメットのバイザーを降ろしてから、ゆっくりと無言で後ろず去っていた。

ボス攻略会議の場が、陰険で騒々しさと陰気臭さで漂っている空気の中、手を上げて発言をしたのは、両手斧の使いのエギルだった。

エギル「皆、攻略会議は日を改めて、今日はお開きにしないか?とてもじゃないが、まともな会議が出来るような状態じゃないと思うが―――あんた達はどう思う?」

そう言いながらエギルが順番に視線を向けてきたのは、ALSリーダーのキバオウ、DKBリーダーのリンド、そして最近になってこの二大ギルドに次ぐ、攻略ギルドの主力として見られつつある俺達MBTのリーダーである俺だった。

先に答えたのは、頭を抱えながら深いため息を付いた直後のキバオウだった。

キバオウ「賛成や……あの着ぐるみ共がワイらに見せた動画とか写真が本物かどーかもわからへんし、ともかく今は落ち着かなあかへんやろ」

リンド「俺も、異論は無い―――正直、俺もあれを見てから冷静でいられる自信が無くなってるからな……」

リンドも、どうやら中々ショッキングな動画と写真を見せられたらしく。その表情は冷静さを装えておらず、額から冷や汗を流していた。

俺「こっちのお二方がそう言うなら、俺もそれで構わない。今からボス戦に行ったりでもしたら、手痛い返り討ちに遭いそうだからな」

結局、3つのギルドリーダーの意見が一致し、この日のフロアボス攻略会議は中止となり、そのまま解散となった。

エルダ「じゃ、私は中止になった攻略会議の代わり―――ってわけじゃないけど、少し下層で狩りしてるメンバー達のサポートに行ってくるわね」

ユッチ「僕はアイテムショップでいらないアイテムを売り払い終えて来てから休むっす……何か明日から色々と怖い事が起きそうで寝れるかどうかわからないっすけど……」

俺とレイナは、第14層の宿屋を寝床にしているが、エルダは他メンバーの狩りの手伝いをしに、ユッチはアイテムショップでアイテムストレージの不用品を売り払いに行ったのだった。

俺「行くか……レイナ」

レイナ「……うん」

レイナが無口なのは何時もの事だが、俺も今はどうにも、レイナに何を話せばいいのか分からずに、結果的に無口になってしまっていた。

記憶喪失のレイナはガチャパットで流された動画や写真を見たところで、それを本人は覚えてないんだろうが、それでも、現実世界のレイナの貴重な情報である事には変わりはない。
白黒のアニメーションは幾らでもウソが付けるから信憑性が怪しい所だが、実写の写真の方はその限りではないしな。

レイナ「……気になるの?私のガチャパットに流された動画と写真が」

俺「気にならないな……いや、ほんの僅かばかりどうなのか気になってるかもしれねー」

余り他人の事をことを詮索するのは趣味じゃ無いが、このデスゲームが始まってから最も長い期間を共に行動し、今ではギルドメンバーとなったレイナが現実世界でどうだったのか、そしてレイナの家族や友人は、レイナの事をどう思ってるのか、俺は僅かながら興味が湧いてしまっていた。

そして、そんな俺の些細な気の変化は、レイナには筒抜けだったらしい。

レイナ「……部屋に来て、そこなら他のプレイヤーに見られたりする可能性は低いから」

俺「分かった」

そして、俺とレイナは宿屋の客室で二人きりになった。俺とレイナは小さなベットに隣り合った状態で腰かけて座り、レイナは座ったままアイテムストレージを開くと、そこからガチャパットを選択して、オブジェクト化していた。

俺「随分とあっさりと見せてくれるんだな。覚えてないとはいえ、お前のリアルでのプライベートにかかわる事だろうに」

レイナ「……別に、隠さなくちゃならない事でもなかったから」

そして、レイナはガチャパットを操作して、例のプレイヤー達の現実(リアルの)家族や友人たちがその後どうしているのかを示唆する動画を再生するのだった。

『サワイ レイナさんの身内動画』

サワイ レイナ―――これがレイナの本名。つまり、理由は分からないが、レイナは自分の本名をそのままSAOでのキャラクターネームにしたと言う事になる。

ガチャパットには俺の時と同じ、白黒のアニメが映し出され、相変わらず登場人物は真っ黒のシルエットだった。
映っている人物は4人、病室と思わしきベットで二人並んで寝ている人影と、その近くで何か言い合ってる恐らく男女の二人組だった。

レイナの母『どーして……どうしてレイナまでナーブギアを!!あ、あの子がフルダイブなんて、で、出来るわけがないはずなのに!』

レイナの父『これもそれも全て……あの男などと関わった事がそもそもの間違いだったんだ!!エリカと奴の付き合いをなぜ、今までずっと放置していたんだ!』

レイナの母『ま、待ってよ!貴方だって……エリカがあの人から色々な事を教わったり、研究のお手伝いをさせてもらってる事を為になるだとか、良い影響だとか言って、大歓迎してたじゃない!なのに何で私のせいにするのよ!?』

レイナの父『お前は私よりもずっと、娘たちと過ごす時間も、あの男と会う機会もあっただろう!そのお前がしっかりしてないでどうするんだ!?』

レイナの母『ひ、酷いわ……そんな、そんな……』

レイナの父『エリかもレイナも、下手をしたら二人とも二度と目を覚まさないまま、ゲームの世界で命を落としてしまうなんて事になったら、お前はどう責任を取るつもりなんだ!!』

そこで、動画は終了した。―――次に表示されたのは俺の時と同様、実写の写真で、その写真に写っているのはナーブギアを被った状態で眠っているレイナの側で夫婦喧嘩をしている、レイナの両親らしき人物たちだった。

レイナのとなりのベットで寝ているのは、レイナの姉か妹のエリカとか言う娘だろうが、エリカの姿は父親の後ろに隠れて丁度見えない状態になっていた。

レイナ「……これが、私の動画で、現実世界の私の両親みたい―――けど、記憶の無い、私には知らない夫婦の喧嘩にしか見えないの」

動画と写真を俺に見せ終えたレイナは、いつも以上に輪を掛けて、感情の籠ってないような声と表情でそう言った。

俺「だが、分かった事も少なくないだろ。お前には姉か妹がいて――その姉妹もSAOにログインしてるんだ」

しかも、あの動画の内容からして、レイナの姉妹もデスゲームが始まってすぐに死んだと言うわけではないらしい。

レイナ「……けど、私が姉妹に会っても、顔を覚えてない。それに向こうが会いに来る可能性も低いわね」

俺「まあ、会いに来る気があるのなら、向こうから来ても良いはずだよな……」

レイナはその端正な容姿もあって、攻略集団ではアスナと双璧を為す人気の美少女プレイヤーとして名が上がっている。
中層のプレイヤー達にも知られているのだから、もしレイナの姉妹がレイナと姉妹として会う気があるのなら、とっくに会いに来てもおかしくないはずなのだ。

なので、可能性として考えられるのは―――姉妹としてレイナに合い辛い何か事情があるのか、もしくは既にゲーム内で死亡しており、さっきの動画はレイナの姉妹がまだ生きていた頃の内容であると言う事くらいだった。

俺「俺がもう一つ気になってるのは、母親が言ってた『お前がフルダイブできるわけがない』って言葉だな。ありゃ一体、どういうことなんだかな」

レイナ「……それも、私には思い出せないわ」

レイナがナーブギアを被った状態なのは実写の写真で確認済みだ。つまり、レイナはナーブギアでSAOにフルダイブした事は確かなのだが、母親はレイナにはそれは不可能などと言っている。

結局、これ以上は考えたところで、現時点での情報では推測の域を出ない考えがあがるのみであった。

俺「んじゃ、一方的に見せてもらってばかりだと不公平だよな?俺のもここで見ておいてくれ」

レイナ「……別にどっちでも良いわ」

なら是非とも見てもらう事にした、俺の動画と写真をレイナにも。俺も親父がマスコミの質問に対していらない事を答えたり、適当な受け答えで困惑させたり――爺さんがマスコミに意地汚く謝礼を要求する姿を、レイナにも包み隠さず見てもらう事にしたのだった。

レイナ「……貴方のお父さんと、お爺さんって――一般的な世間体から見て、保護者失格?」

俺「まさにその通りだと思うが―――俺はそもそも奴らを保護者と思って無いから別に良いがな」 

 

FILE34 悪魔的誘惑、ログアウトのチャンス!+アスナ、ユウイチ、エリカの身内動画


ガチャモンとモックがプレイヤー達に悪趣味な『身内動画』を見せてから、そして俺がレイナの現実世界に関する動画を見てから次の日だった。

再びアイツらは、俺達に更なる揺さぶりを掛けるかのようにガチャパットを通して現れたのだった。

ガチャモン「ガチャガチャモンモン、ガチャモンでーす!皆、こんにちわぁ―――!元気にしてるかな?それとも―――意気消沈しちゃってたりして~?」

昨日俺達を散々引っ掻き回した張本人は、何時も通りだった。マイペースでおちゃらけた態度でガチャパットの画像内で喋りまくる。

モック「いやはや、皆さん昨日は色々と思う所があったみたいですな~。特に、あれを見て――いち早く帰らなくてはと焦る人達、もう帰る気力を失いつつある人達も少なくないようですので―――」

ガチャモン「プレイヤーの皆さんに、とっておきのチャンスをプレゼントしに来ちゃいました~」

プレゼント―――そんな言葉を聞いたところで、プレイヤー達が逸れに期待する事は当然無かった。また、昨日の様に俺達を混乱させたりするようなロクでもない事が目的なのはとっくに分かり切ってるんだ。

ガチャモン「え~、今生き残っているプレイヤーの皆の中から、立候補した人たちの中からランダムで20人だけ―――――ログアウトさせてあげちゃうね」



そのガチャモンの最後の一言―――ログアウトと言う単語は、プレイヤー達の聴覚を圧倒的に、悪魔的に魅了する!
その一言により、つい先ほどまで、ガチャパットで流れる映像をまともに聞いていなかったプレイヤーも一斉に釘付けとなった!! by立木ナレ



モック「おっと!ガチャガチャガチャモ~ン。プレイヤーの皆さん方が早速興味津々のご様子ですぞ~!」

ガチャモン「オッケー、オッケー、それじゃ早速説明しちゃうね。これからログアウトを希望する人達はガチャパットに表示される二択の選択肢――『希望する』『希望しない』から、『希望する』を選択してください。ログアウトを希望しない人は言うまでも無く、『希望しない』を選択すれば良いからね。そして、ログアウトを希望するを選択した人が全プレイヤーの内、500人以下だった場合は――その500人の中から抽選で20人を即座にログアウトしちゃいま~す」

ログアウト出来るのは、ログアウト希望をしたのが500人以下だった場合で、その中から抽選で僅か20名がログアウトできる――なら、ログアウト希望者が500人を超えたら?
そんな俺を含む、プレイヤー達の疑問に対してガチャモンは愚弄するように人差し指を振りながら答える。

ガチャモン「はいはい、ど~せ、ログアウト希望者が500人を超えたらどうなるんだって言いたいんでしょ?お答えしましょう。ログアウト希望者が500人を超えた場合、ログアウトは認められず―――ログアウト希望者の中から抽選で一人のプレイヤーをお仕置きの罰ゲームを実行しちゃいま~す」

モック「ぐほほっ!まさにジレンマですな~、このソードアート・オンラインの世界からログアウトしたがってる人達なんてごまんといると言うのに、ログアウト希望者が多すぎると、ログアウトが無効になるどころか、ログアウトを希望した人たちの中から誰かが公開処刑になってしまうんですからな~」

ガチャモン「は~い、それじゃ投票を開始したいと思いま~す。さぁ、ガチャパットの選択肢をタッチしてください!!」

ガチャモンがプレイヤー達に考える時間も、話し合う時間も与える事無く、即座にガチャパットに『希望する』『希望しない』の選択肢が表示され、その上には選択肢を選ぶ制限時間らしいカウントダウンが表示されていた。

カウントは300秒の状態から始まり、一秒おきにその数字は少なくなっていく。

「ろ、ログアウトできるの?希望するを選択すれば―――ログアウトできるのよね!?」

「待てって!ログアウト希望者が500人を超えたら、ログアウトどころか誰か一人が死ぬって奴らが言ってたろ!」

「だ、だけど、500人を超えなければ――その中から20人も!」

俺の周囲のプレイヤー達も突如として舞い降りた、ログアウトのチャンスにどうするべきか動揺していた。
俺とレイナとユッチとエルダの四人は、丁度同じ宿屋で集まり、ギルドの資金を何に使うかで話し合っていた最中での事だったが、この宿屋は第14層では値段の割にサービスが豊富な為か、最前線のプレイヤー以外の、中層以下のプレイヤー達も多く泊まりに来ていた。

レイナ「……どうするの、オズマ?」

俺「昨日の、身内動画とかの影響で、一日でも早くログアウトしたいとか思って焦ってる連中は大勢いるだろうからな。ここで希望するを選択したら、ログアウト候補者になる確率よりも、公開処刑の候補者になると俺は思ってる」

真っ先にレイナが俺の意見を聞いてきたので、俺は自分なりの推測からそう答えた。

エルダ「私も、本音を言えば今すぐにでもログアウトしたいって思ってるわ。だけど、仮にログアウト希望者が500人以下だったとしても、その中からログアウトできるのはたったの20人―――それに、いま私はこのギルドの一員として、無責任に離脱するわけにもいかないわ」

そう言って、エルダは、俺達にガチャパットを見せた状態で、あっさりと希望しないを選択していた。

俺「サブリーダーにそんな責任感溢れること言われたら、リーダーの俺がログアウト希望何て出来ねーよ……」

俺も結局、希望しないを選択した。そして、レイナも小さく首を縦に振ってから、ガチャパットをタッチして決めていた。

ユッチ「やっぱり皆さんMBTのトッププレイヤーっす!お三方がこのゲームからログアウトしちゃったらそれこそ、攻略集団の戦力が下がっちゃいますしね!三人ともその事をよく分かってらっしゃるっす!僕も見習うっす!」

レイナ「……念のため、タイマーが0になる前にどちらかを選んだ方が良いわ」

ユッチ「ああ、そ、そうでしたっす!」

どちらにも選択しなかった場合はどうなるのかについては、ガチャモンとモックは何も言っていないが、念のためにレイナはユッチにそう助言して、ユッチは慌ててガチャパットをタッチしていた。

そして、初期状態で300のカウントがあっという間に0になった。もっと時間的余裕があれば―――例えば一日とか二日とかの時間的猶予があればプレイヤー同士で話し合い、あらかじめログアウト希望をする500人までのプレイヤーを事前に打ち合わせて決められた可能性も僅かながら有ったかもしれないが、この僅か300秒間と言う時間では、話し合う時間など到底あるわけも無かった。

カウントが0になった瞬間、ガチャパットの映像は再びガチャモンとモックが映し出されていた。二人は何故か手を繋いでダンスを踊りながら話し出す。

ガチャモン「はい、時間切れ~。と言うわけで、早速投票結果を発表しちゃいたいと思います」

モック「果たして、ログアウトを希望した人数は―――?投票結果をどうぞぉ―――!!」

モックの叫び声がガチャパット越しに、喧しく響き渡った直後、その投票結果が表示された。ログアウトを希望したプレイヤーは全プレイヤー中―――



1078人



それは、ログアウトが実行される上限人数の倍を超える人数だった。今アインクラッドに残っている全プレイヤー中の1000人以上が、ログアウトできるかもしれないと言う誘惑に抗いきれず、死人が出てしまうリスクを顧みずにログアウト希望をしたのだった。

ガチャモン「はい、残念!なんとログアウト希望者が500人どころか、1000人を超えちゃったのでログアウトは出来ません!そして―――」

モック「お約束通り、1078人の中からお一人……公開処刑の罰ゲーム決定ですな~」

モックのその冷たい言葉が発せられた直後、恐らくこの宿屋の中でログアウト希望をしたであろうプレイヤー達の叫びが響き渡った。

「や、やだ!お、俺は……まさかこんなにも希望者が殺到するなんて思わなかったんだ―――!!」

「だ、大丈夫よ……だ、だって1078人の中の一人なんだからだ、大丈夫に決まってるわ!」

ユッチ「お、お助け――――!!ぼ、僕だけは……せめて僕だけは見逃してくださ――――い!!」

俺、レイナ、エルダの目の前でユッチは頭を抱えてそう叫びながら、床に蹲っていた。多少は予想していたが、ユッチもさっきの投票でログアウトを希望するを選択したようだった。

エルダ「皆、落ち着きなさいよ……騒いだってそれでどうにかなるどころか、逆にそうやってるとガチャモンとモックに目を付けられるかもしれないわよ!」

エルダがユッチを含む、狼狽えて怯えるプレイヤー達を落ち着かせようと呼びかけるが。そんなエルダを見て、ひとりの斧を装備した男が声を上げた。

斧使い「そ、そうだ!あのクソマスコット共の事だ!怖い怖いってビビってると、本当に目を付けられて処刑の対象にされちまうかもしれねー!」

まるで自分にも言い聞かせるような気もしたが、そんな斧使いの言葉を聞いた何人かが、徐々に落ち着きを取り戻しつつもあった。

斧使い「とにかくこのねーちゃんの言う通り、落ち着こうぜ!ガチャモンとモックに目を付けられなきゃ、俺達は絶対に――――」

斧使いの言葉がそこで途切れたのは、彼がその瞬間、目の前から唐突に姿を消したからであった。


※ ※ ※


『ユウキ アスナさんの身内動画』

アスナの母『貴方どうにかならないの!?アーガスに掛け合って、いち早くアスナをなんとか安全に目覚められるように出来ないわけ!?』

アスナの父『無茶を言わないでくれ!被害者の数は1万人なんだぞ!きっと今頃、アーガスは大勢のプレイヤーたち一人一人の家族に対する謝罪や、今後の補償―――何より身内内での責任追及で大変な事になってるはずだ……』

アスナの母『補償ですって!?どうせ大勢の他の被害者家族の人達が口を揃えて喚いてる、慰謝料とか賠償金とかの話でしょ!全く揃いも揃って……アスナは受験生なのよ!このままじゃ高校を受験出来ずに中学浪人なのよ!それもその理由が病気とか怪我とかじゃなくて、訳の分からないゲームのせいだなんて!』

アスナの兄『母さん、落ち着こう……父さんだって何とかしたいって思ってるんだよ!それに今は進路の事よりも、アスナの身体の心配を―――』

アスナの母『そもそもコウイチロウ―――なんで、貴方があんなナーヴギアとか、ソードアート・オンラインとか――下らないゲームを買ってきたの!?』

アスナの兄『そ、それは―――今までゲームとかやった事なかったからさ……世界で初めてのVRMMOゲームがどんなのカ興味があって――』

アスナの母『貴方はもう社会人になったのよ!ゲームだなんて、勉強や仕事を最優先していない……愚かな怠け者たちがやる事だって貴方とアスナには何度も言ったはずよ!それに、貴方があんな物を買ってこなければアスナだって……』

アスナの兄『そ、それは!』

アスナの父『もう止めないか!コウイチロウだってまさか自分が買ってきた物をアスナが使って、それであんなことになるなんて予想出来るわけないだろ?』

アスナの母『じゃあ、どうすれば良いのよ!今までアスナの為に色々な教育をしてきたのに―――こんなところでアスナが道を踏み外すなんて!』


『ミヨシ ユウイチ君の身内動画』

クラスメイトA『大変だ大変だ!ユウイチの奴がソードアート・オンラインでログアウト出来なくなってるってよ!』

クラスメイトB『そうなのか!?先週から学校に来てないから変だと思ったけど……アイツそんなヤバい事になってたのかよ』

クラスメイトC『大丈夫なのかしら……ミヨシ君、何時になったら学校に戻れるのかな?』

クラスメイトD『つーかさ、あのゲームってなんかゲームの中でHPが0になったり、ナーヴギアを無理やり引っこ抜いたら、そいつは死んじまうんだろ……ミヨシの奴……ちゃんとやってけれるのかよ?アイツ、大してゲーム強くなかっただろ……』

クラスメイトE『皆、時間の空いてる人は、今日の放課後にミヨシ君のお見舞いに付いてきてくれない?委員長の私がまずは、ミヨシ君のご家族と病院にも先に連絡してみるから』


一週間後


クラスメイトB『な~、今日のユウイチの見舞いだけどよ~』

クラスメイトA『ああ~、そう言えば最近行ってねぇな。けど、だりーよなぁ~』

クラスメイトB『てか、今だから言えるんだけどよ……俺、アイツの事あんまり好きじゃねーんだよな。てか、軽くムカついてるし』

クラスメイトA『あ、それ俺も思ってた!ユウイチの奴、いっつも調子の良い事ばっかり言ってよ。誰かと喧嘩になりかけてる時だって、強い奴の後ろで口だけは偉そうに振舞っててさ、いざ自分が矢面に立つとすぐに弱腰になったり、遜ったりして、見ててムカつくんだよ……』

クラスメイトC『私もさ、前に見ちゃったんだよね―――ミヨシ君が学園祭のお金をこっそりと……抜き取ってるところ』


一週間後


クラスメイトA『今日放課後、どこ行く~?』

クラスメイトB『俺ゲーセン!』

クラスメイトC『え~、ゲームセンター何て時代遅れじゃな~い、あそこっておじさん達が行くところでしょ~?』


『サワイ エリカの身内動画』

エリカの母『どーして……どうしてレイナまでナーブギアを!!あ、あの子がフルダイブなんて、で、出来るわけがないはずなのに!』

エリカの父『これもそれも全て……あの男などと関わった事がそもそもの間違いだったんだ!!エリカと奴の付き合いをなぜ、今までずっと放置していたんだ!』

エリカの母『ま、待ってよ!貴方だって……エリカがあの人から色々な事を教わったり、研究のお手伝いをさせてもらってる事を為になるだとか、良い影響だとか言って、大歓迎してたじゃない!なのに何で私のせいにするのよ!?』

エリカの父『お前は私よりもずっと、娘たちと過ごす時間も、あの男と会う機会もあっただろう!そのお前がしっかりしてないでどうするんだ!?』

エリカの母『ひ、酷いわ……そんな、そんな……』

エリカの父『エリカもレイナも、下手をしたら二人とも二度と目を覚まさないまま、ゲームの世界で命を落としてしまうなんて事になったら、お前はどう責任を取るつもりなんだ!!』 

 

FILE35 公開処刑!選ばれ死!

 
前書き
今回は公開処刑のやり取りだけなので、短めになっております。 

 


ガチャモンとモックが新たに持ち掛けた悪魔的誘惑!全てのプレイヤー達参加型の投票により、ログアウト希望者が全プレイヤー中の500人以下であった場合は、その中から20人をログアウトすると言う内容であった!

しかし、無論そこは悪魔の罠が存在する!ログアウト希望者が500人を超えた場合は、逆にログアウト希望者の中から一人を公開処刑すると言う条件下の中で、最終的にログアウト希望者は1078人にも及び―――その中から一人が公開処刑の罰ゲームに決定!そして、オズマ達の目の前で斧使いの男性プレイヤーが突如として姿を消したのであった!




目の前で自分を鼓舞するように、『大丈夫だ』と叫んでいた斧使いが消えた直後に、プレイヤー達のガチャパットが強制的にオブジェクト化したのだった。
既にガチャパットの画面にはガチャモンとモックが映っている状態だった。更に――

ユッチ「う、うわぁ!こ、この人……さっきの!さっき消えた人っす!」

エルダ「ええ……さっきまで私達の目の前にいた人よね」

ガチャモンとモックの間には、小さなオリに閉じ込められている斧使いの男がいた。

斧使い「な……なんだよこれ!?お、俺、俺……ここ何処だよ!?」

自分の状況が飲み込めないようだった。だが無理もない、さっきまで第14層の宿屋にいて、他のプレイヤー達に対して大丈夫だと叫んでいた直後、まさか自分が檻の中に強制転移しているなんて――考えれば自分が公開処刑のターゲットに選ばれたと否応でも理解してしまうのだから。

ガチャモン「はいは~い。栄えある公開処刑に選ばれたロックス君です。皆さん、これから華麗な最期を遂げる彼に黙祷!」

ガチャモンはそう言うと、両手をパンパンと叩いてから、首を軽く床に向けて、モックもそれを真似していた。

ロックス「公開処刑……?華麗な最期……う、う、うわあぁぁぁ――――!!や、止めてくれぇ――――――!!し、死にたくねーよ!お、俺はまだ……死にたくねぇんだよぉ―――――!!」

自分がこれからすぐにでも、死を迎えると理解したロックスは、その大柄で強面な姿からは想像の付かないような、泣き顔を晒し、泣き喚き散らし始めていた。

ガチャモン「ま、仕方ないよね。僕たちは最初に全部説明したはずだしね~」

モック「ですなですな、ログアウト希望者が500人を超えたら、その中から一人を公開処刑と予め警告しておきましたですしな~」

ガチャモン「と言うわけで、クレームの受付はしておりません。それでは―――罰ゲーム、開始ぃ――――――!!」

ロックス「嫌だぁぁぁ―――――!!死にたくない、死にたくない、死にたくないよぉ―――――――!!」

そして、檻に入れられたロックスの頭上から、巨大な機械音が響き渡ってきたのは、ガチャパット越しからでも十分に聞こえてきた。

ガチャパットの映像が檻の真上を映し出しすと、その機械音の正体は檻の真上から徐々に地上に向けて降りて来る、巨大なプレス機だった。

ロックス「な、なんだよあれ!?だ、出せ出せ!出せよ!早く出してくれぇ――――――!!」

ガチャモン「はい、圧力10tの油圧プレス機だよ~。不要な大量のごみもあら不思議、あのプレス機で何もかも綺麗にぺしゃんこにして処分出来ちゃいま~す」

モック「え~、プレス機何てソードアート・オンラインの世界観に似つかわしくないとか思っておられる方も多々いると思いますですが~、細かい事はお気になさらず、どうぞゆっくりとご覧くださいな~」

自らの頭上から徐々に迫りつつあるプレス機の恐怖に怯え続けるロックスとは対照的にガチャモンとモックは楽し気に、その様子を少し離れた場所で眺めて、悠長な解説をしていた。

そして、プレス機はついにロックスを閉じ込める檻の僅か数十センチ頭上まで迫り―――そこで急に止まった。

モック「あ、あれ!?ど、どーなってんですかガチャモン!?プレス機が止まっちゃったじゃないですか!!」

ロックス「た、助かった……お、俺、た、助かった……のか?」

急に止まったプレス機を指差してモックが焦りを露にしながら、ガチャモンに対して声を上げて、ロックスは目から涙を流し続けたまま、プレス機が止まった事に気が付き、付かぬ間の生の喜びを実感していた。

ガチャモン「う~ん、ここでマシントラブルだなんて、困っちゃったなぁ~」

モック「困っちゃったって、アンタどうするんですか!?どうせログアウト希望者は500人くらい余裕で超えるから無駄にならないとかアンタが言うから、私が苦労してあれを用意したってのに無駄になっちゃったじゃないですか!!プレス機の最終メンテはガチャモンがやる手はずでしょうが!」

ガチャモン「残念だけど、予定通りにいかないのが世の常って奴だよモック、仕方ないけど、止まっちゃったのは仕方が無いからさ―――」

いつの間にか、ガチャモンの手には何かのコントローラーのような、灰色の四角い形状の物があったのだった。

ガチャモン「リモコンを使ってプレス機を動かすしかないよね」

ロックス「は、はぁ?」

ガチャモン「ぽちっとな」

ガチャモンが、気軽にリモコンのボタンを一つ、一瞬だけ押しただけで、それは始まった―――いや、終わったのだった。

ユッチ「うわぁ――――――!!」

レイナ「……最初から、こうするつもりだったのね」

ロックスが檻ごと、プレス機で潰された光景を目の当たりにしたユッチは、ガチャパットを床に落として叫び声をあげて、レイナはこのやり取りが結局すべて、ガチャモンとモックの手筈通りだと見抜いてそう呟いていた。



静寂!ガチャモンとモックが持ちかけたログアウトのチャンスと言う甘い誘惑に乗せられたが為に、公開処刑によって命を散らした斧使いの姿をガチャパットを通じて見ていたプレイヤー達は言葉を失い、誰もが背筋を冷やす事となった!だが―――一方でロックスと同じように、ログアウトを『希望』したプレイヤー達はこうも思っていた。―――自分達が処刑に選ばれなくて良かった―――他の1077人のプレイヤー達は唯一の犠牲者となった斧使いの末路を見て、生きていられる事への悦びを感じ、死ぬことの怖さを学び、自らの命に勝る命など存在せぬと言う、当然の事を実感したのであった!! by立木ナレ







 

 

FILE36 リズベットからの依頼。襲い掛かるPK集団!

西暦2023年3月某日。ソードアート・オンラインの最前線を戦う攻略集団は第24層に到達していた。そして――総勢10人規模の少数ギルドながらも、攻略集団の一角を担うMBT(未来は僕らの手の中に)のリーダーであるオズマの元に訪れるとある者がいた。



リズベット「だから聞いたのよ!第24層のフィールドの野営地で手に入るのよ、鍛冶屋にとって重要な、アイテムが!情報屋のアルゴさんに聞いた話だから間違いないわ!」

俺の元に訪れたのは、第一層で知り合ったリズベットだった。リズベットは現在鍛冶職を始めたらしく、武器の製造や修理などを生業としており、本人が言うにはこの最善である第23層で、それはそれは鍛冶屋にとっては喉から手が出るほど欲しい鍛冶アイテムがあるそうだった。

俺「へぇ~、それをこれから今から取りに行くのか―――一人で危険だと思うが大丈夫か?」

リズベット「すっとぼけてんじゃないわよ!アタシのレベルで最前線のフィールドを一人で歩くのは危険だから、アンタのギルドに護衛を頼むって言ってんのよ!」

俺が冗談半分で、リズベットの意図を理解してないように振舞うと、リズベットは机を両手で叩き、大きな声を上げていた。

俺「喚かなくたって、ちゃんと分ってるっての。お前が言う野営地はまだ行ったことの無い場所だけど、最近更新された攻略本の情報通りなら、俺とレイナだけで問題なくいけるだろうな」

レイナ「……そうね」

リズベット「流石はMBTのリーダーじゃない!頼りにしてるわよ二人とも、報酬は武器の強化一回分を無料にしておいてあげるわ」

俺「報酬は現金だ」

そんなこんなで、俺とレイナはリズベットの依頼を受けて鍛冶アイテムが眠ると言う野営地を目指したのだった。
道中で出現するMobは攻略本の情報通りで、俺とレイナの二人だけで難なく対処でき、リズベットはあくまで警護される者として、俺やレイナの後方で極力手を出すことなく、安全な場所に陣取ってもらう状態だった。

そして、野営地のMob達を倒しながら探索をひたすら続けて、数時間以上が経過した頃だった―――

リズベット「あ、これ……トレジャーボックスじゃない!」

俺「こんな野営地に初めてだな、トレジャーボックスとか」

リズベットが見つけたのは、赤い大きな宝箱だった。リズベットはようやくこの中に自分が探し求めていたアイテムがあると踏んで、早速トレジャーボックスに接近するが。

レイナ「……待って」

リズベット「え?」

レイナにしては珍しく、大きな声でリズベットを制止していた。流石にリズベットも驚いたようで、その場でピタリと止まりレイナの方を振り返ると、レイナは両手剣を構えてリズベットに―――正確には宝箱に接近してそのまま、

リズベット「ちょっ!な、なにする気なのよ!?」

宝箱に向かって、横薙ぎで剣の重量を標的に叩きつけるソードスキルの《ブレイクタイム》を叩き込んでいた。

「ヒギィ―――――――!!」

リズベット「えぇ!?な、なんなのよこの宝箱……しゃ、喋ったの?」

俺「そうか、こいつは宝箱に擬態したミミック系統のモンスターだったわけか!」

レイナのソードスキルの一撃を叩き込まれた、宝箱に擬態したモンスターはダメージを受けると、甲高い叫び声をあげて、その宝箱が半開きになると、その中からは黄色く光る眼光が一瞬だけ見えていた。そして、箱の中が大きく開くと、何十本もの鋭い牙が現れて、そのまま自分にソードスキルの一撃を食らわせた、レイナに噛みつこうとしていた。

俺「させるか!」

レイナはソードスキル発動後の硬直状態だったので、俺は剣を鞘から抜かないまま、ミミックを殴打していた。
納刀術スキルを習得している俺は、剣を鞘から抜かずとも、鞘から抜いた状態と同等のだめーめじをあが得る事が出来る。
総じて防御力の高いミミックには、通常攻撃の一撃は微々たるダメージに過ぎなかったが、敵の注意を俺に引き付ける事には成功したようだった。

すかさず俺は蹴りと殴打を交えた三連撃の納刀術ソードスキルの刹牙(せつが)を発動し、ミミックよりも先に蹴り→蹴り→鞘での殴打の三連続でのダメージを与えた。

俺「まだまだぁ!」

そこから更に、鞘から剣を抜き放つ納刀術ソードスキルの抜刀(ばっとう)でミミックを居合斬りの要領での一撃を食らわせた。

このソードスキルは発動すると、必然的に剣を鞘から抜いた状態になり、癖の強いソードスキルではあるのだが、直前に発動した納刀術ソードスキルの硬直をキャンセルして、即座に発動できることに加えて、抜刀を発動後の硬直も、他のソードスキルを即座に発動する事でキャンセルし、更に連携につなぐことが出来る――まさに、この抜刀は納刀術ソードスキル→抜刀→片手直剣ソードスキルへとソードスキルの連携を成り立たせる繋ぎとして、俺は習得直後からかなり重宝していた。

抜刀の直後に剣を鞘から抜いた状態になった俺が発動した片手直剣ソードスキルは3連撃のソードスキルのサベージ・フルクラムだ。
右から水平斬り、更に剣を垂直に跳ね上げて斬り割き、最後の一撃で垂直斬り下ろしを食らわせると、ついに頑丈な防御力を誇るミミックも、レイナのソードスキルでダメージを受けていた事もあり、俺の3種類のソードスキルの連続攻撃には耐えきれずに、HPバーをついに完全に喪失していた。
ミミックの身体がバラバラに砕け散ると、直後にリズベットが驚嘆の声を上げていた。

リズベット「な、なんなの今の!?ア、アンタ……今、三種類くらいソードスキルを連続で発動してたわよね!?硬直もしないで、あんなこと出来ちゃうわけ!?」

俺「今の所は、だいたいあれが精一杯だな。抜刀の後に片手直剣のソードスキルを即座に発動できるのは良いんだが、その後は結局はそのソードスキルの硬直は避けられないからな」

だが、そんなソードスキル3種類の連続でミミックを倒したことにより、俺はリズベットからの依頼を果たす事が出来たわけでもある。

俺「アイテムをドロップした。こいつがお求めのアイテムなんじゃないのか?」

俺がそう言いながら、ミミックからドロップしたばかりのアイテムをオブジェクト化すると、リズベットは目を輝かせてそれを即座に手で握っていた。

そのアイテムは一見するとただの木槌の様にしか見えないが、取っ手の部分には『匠』と文字が書かれていた。

リズベット「そ、それ!それよそれ!匠の木槌(たくみのきづち)だわ!金属鎧を製造するのに特化してるのよそれ!」

レイナ「……リズベットが探してた、鍛冶職人の為のアイテムは、ミミックのドロップアイテムだったのね」

リズベットは目を輝かせながら匠の木槌を手に取ると、それを両手でしっかりと握りしめると、その場で高く飛び跳ねまくっていた。

俺「じゃ、依頼はこれで達成って事で良いな?後は主街区に戻るだけだ。主街区に戻るまでは敵が何時襲ってくるか分からねーから、俺達から離れるなよ」

リズベット「分かってるわよ、早く主街区に戻って、この木槌で鎧を造ってみたいわね~」

俺とレイナはリズベットを連れて、主街区に戻る為に野営地を離れる事にした。野営地に出てくるMob達を次々と倒し続ける俺とレイナ。

リズベットはと言うと、俺とレイナの後ろで手に入れたばかりの木槌を大切そうに握りしめていた。すぐにオブジェクト化してアイテムストレージに入れてしまえば良いのだが、アイテムを手に入れた実感を味わいたいのかもしれない。

まあ、その気持ちは俺も分からないわけじゃない。俺も最近になってようやく第二層のフロアボス戦でドロップした皮製の防具の『剣豪の防衣(けんごうのぼうい)(きざし)』を装備するのに必要なレベル35となった時は、初めてこいつを手に入れた実感を感じた事も有って。しばらくはオブジェクト化した状態の『剣豪の防衣』をしっかりと眺めて、改めて自分の物だと言う実感を身に沁み込んでから、今こうして装備している。

レイナ「……止まって」

俺「どうしたレイナ?」

俺のそんな考え事を打ち切ったのは、真剣な声のレイナが制止を促す声だった。レイナがこう言うと言う事は、索敵スキルで何かを発見したのだろう。

リズベット「どうしたのよいきなり。――――早く主街区に戻るんじゃないの?」

レイナ「……プレイヤーが3人、隠れているわ」

俺「へえー、一体何の目的で、プレイヤーが身を隠しながら俺達をじろじろと眺めてるんだろうな~?」

俺はワザと、隠れている三人のプレイヤーに聞こえる声量でそう言った。俺とレイナの後ろのリズベットは、ここで只ならぬ状況にある事を察して、不安そうな表情を浮かべていた。

すると、そんな俺達から姿を隠し続けるのを諦めたのか、三人のプレイヤーが俺達の前に堂々と姿を現した。
そいつらが、ただのプレイヤーであれば、ひとまず俺達は話し合いから始めようと思っただろう―――だが、俺達はそのプレイヤー達の頭上のカーソルの色が一般プレイヤー達と同じグリーンではない、犯罪者プレイヤーの証であるオレンジカーソルである事に気が付き、容易に話が出来る相手ではないと気が付いた。



犯罪者(オレンジ)プレイヤーとは――盗みや傷害、あるいはPK(プレイヤーキル)といったシステム上の犯罪を行ったプレイヤーの通称。犯罪を行ったプレイヤーはカーソルが緑からオレンジに変化するのが特徴である!

オレンジプレイヤーが『圏内』に入った場合、悪魔的な強さを誇るNPCガーディアンに大挙して襲われるため事実上『圏内』へ立ち入ることは不可能。

転移門は『圏内』にのみ設置されているため、オレンジプレイヤーが層を移動する方法は限られる上に、通常のプレイヤーがオレンジプレイヤーを攻撃してもオレンジ化することはないため、オレンジプレイヤーには犯罪者狩りや襲撃した相手の過剰防衛による死のリスクが付きまとってしまうなど、様々なデメリットを背負う事となり、一度カーソルがオレンジになると、カルマを回復するためのクエストをクリアしない限り解除は有り得ぬのである! by立木ナレ



槍使い「おいおい、俺等の隠蔽(ハイド)見破るたぁ、あの女―――相当な索敵スキル持ってやがるぜ」

曲刀使い「良ーんじゃねーの?狩る獲物が強けりゃ、つえー程……狩った時の達成感はデカいんだしさ!」

槍を持った男のプレイヤーがレイナの索敵スキルを警戒するようにそう呟くと、隣の曲刀使いはむしろ上等だと言わんばかりにテンションの高そうな声を上げていた。二人のプレイヤーは声からして男だと言う事は分かるが、どちらも仮面で顔を隠していた。
そして、その二人に比べて明らかに小柄で身長が精々140センチ大半ば程度しかなく、目から赤い血を垂れ流しているような、グロテスクなウサギのマスクを被っていて、小柄な体格と比較すると大きすぎるくらいに見える、(なた)を持っていた。

ウサギマスク「アタシ、女になんて興味な~い。アタシが興味あるのはね、あっちのイケメンのお兄さんだけだから、他の女二人は好きにやっちゃってね~」

リズベット「え……も、もしかして女の子!?それも――アタシ達より年下なんじゃ……?」

ウサギマスクの小さな身体つきと、その幼さを感じさせる声からリズベットは驚嘆に満ちた声を上げていた。
リズベットの言った通り、恐らくあのウサギマスクは俺やレイナ、リズベットよりも間違いなく年下の少女だろう。

そして、この集団が何者なのかはすでに心当たりがあった。第10層を超えた頃からアインクラッドで噂になり始めていた、プレイヤーキルを繰り返す危険な連中―――PK集団とか呼ばれている連中だろう。

俺「PKやりたさに最前線にまで赴いてきやがるなんて、ご苦労なこったな。ここで出会う俺達が、その辺の中層のプレイヤーじゃねーって事くらいはアンタらも分かるだろう?」

曲刀使い「分かってるってばよ。そんな事はな!けど、そーんな強いプレイヤーを殺してこそ、PKってのはやり甲斐があるもじゃねーか!」

俺の警告を含んだ言葉に対しても、曲刀使いは剣を鞘から抜いた状態で、意気揚々とした声色でそう叫んでいた。

リズベット「な、なに言ってんのアイツ?―――こ、この世界で他のプレイヤーのHPをゼロにする……PKするって事はつまり―――こ、殺すって事だってあんた達分からないわけ!?」

リズベットは震える身体で、目の前の殺人集団を前にして、己を奮い立たせるようにそう叫んだが、三人の殺人鬼たちはそんなリズベットの言葉に対して、まるで滑稽な者を見ているかのようにゲラゲラと嘲笑い始めていた。

レイナ「……話し合いの余地――0%ね」

対峙するオズマ達と危険極まりないPK集団!次回、PK集団の殺意がオズマ達に向けられる!オズマ達はどう切り抜けるか!? by立木ナレ 

 

FILE37 レイナのPK

オズマとレイナは鍛冶職となったリズベットからの依頼で、最前線である第24層の野営地にあると言う、鍛冶職人向けのアイテムの獲得のための護衛を引き受けていた。

宝箱に擬態していたモンスターであるミミックを倒し、ドロップアイテムこそがリズベットの求めたいた匠の木槌であり、依頼は無事完了―――が、主街区に戻ろうとした矢先にオズマ達を襲ったのは、数多くのプレイヤー達を襲っているPK集団であった! by立木ナレ



ウサギマスク「それじゃ――いっただきまーす!!」

ウサギマスクの娘が鉈を振り上げると、俺に襲い掛かって来て、次いでレイナに向かって曲刀使いと槍使いが飛び掛かってきた。

リズベットに狙いを定めてる者は今の所居ない―――それに気が付いた俺は、ウサギマスクが振り下ろしてきた鉈を鞘で受け止めてた瞬間に叫んだ。

俺「リズ、こいつらから離れろ!レイナがさっき索敵スキルで3人だって言ったから、他に敵はいないはずだ!」

リズベット「え、は、はいっ!」

ウサギマスク「えへへ……イケメンのおにーさんったら、あのおねーさんが襲われるのが怖いのぉ~?だけど今はさ、大きい剣持ってるお姉ちゃんの心配した方が良いよ~。あの二人ってさ、ただ殺すだけじゃ詰まらないとか言ってさ~―――女のプレイヤーが相手だった場合は殺す前に色々とえっちぃ事とかしちゃうんだよね!!」

ウサギマスクな俊敏な動きで、一旦俺から距離を取ったかと思うと、恐らくあれは軽業(かるわざ)スキルだろう。それで、ショートジャンプからの大ジャンプで俺の背後に回り込むと、振り向きざまに、速攻の4連続攻撃ソードスキルである『ファッド・エッジ』を放っていた。

背中を向けたままの俺が今更振り向いたところで、防御が間に合うはずも無く、そのままソードスキルの4連続攻撃を全てまともに食らう――――なので俺は振り返って防御は諦めて、そのまま真っ直ぐ猛ダッシュしていた。

ウサギマスク「はぁッ!?な、なにいきなり―――あ、しまっ―――」

俺が猛ダッシュで突っ走った先にいたのは、レイナと対峙する槍使いと曲刀使いの二人組だった。連中はレイナが自分達の予想以上に手強い手合いであった為か、苦戦を強いられていて、ウサギマスクと戦っているはずの俺が、よもや自分達に襲い掛かって来るとは思ってもいなかっただろう。

曲刀使い「て、てめっ!な、なんで―――ぐおわぁっ!!」

俺「戦いの構図は思わぬ所で変化するってなっ!!」

俺が曲刀使いに対して食らわせたのは、俺が習得している納刀術ソードスキルで最も一撃の威力が重い単発技の裂震虎砲(れっしんこほう)だった。

鞘を叩きつけると、巨大な獅子の形をした闘気が発生し、曲刀使いに襲い掛かると、その男は大きくノックバックして吹き飛ばされていた。

レイナとの戦いでHPが既に残りHPが6割以下となっていたその男のHPバーはその一撃だけで大幅に減少して残り1割と言う所まで削られていた。

俺「やべ……ギリギリ残ったってところか――」

危うく曲刀使いのHPバーを0にしてしまう所だったが、辛うじてHPバーの減少が止まり、俺は微かに安堵していた。
曲刀使いも、そしてその相棒らしい槍使い、そしてさっきまで俺と対峙していたウサギマスクの娘も、裂震虎砲の一撃の威力に驚愕していたようで、奴らの指揮や戦意を削ることには成功したようだった。

槍使い「お、おい大丈夫かよ!?い、今の―――やべーぞ流石に!!」

ウサギマスク「だいじょーぶぅ~?あのお兄さんったら、攻略集団でちょっとした有名なギルドのリーダーやってるだけの事はあるよね~」

俺「おいおい、俺が何者なのか、分かったうえで襲ってやがったのかよ?相手との力量差とか、少しは気を付けながら襲ったらどうだよ?」

さっきの曲刀使いと言い、この手の輩が考える事はますます分からない。俺にさっき吹き飛ばされたばかりの曲刀使いも未だに戦意を失っていない―――いや、むしろ高騰しているようで、ひしひしと感じる殺意を俺に向けていた。

槍使いの方はまだこの中ではまともなのかもしれないようで、既に俺達と戦う事意志は喪失しているようで、ガタガタと震えて逃げ腰になっていた。

曲刀使い「ざっけんなコラァ――!こんなんで勝ったと思ってんじゃねーぞぉ!!」

喚き散らしながら、曲刀使いは剣を持ち直して立ち上がると、さっきまで戦っていたレイナの横を通り過ぎて、ソードスキルの構えを取りながら俺に斬りかかろうとしたが、それは敵わなかった。

曲刀使い「ぐっ!?」

レイナ「……やらせない」

背後からレイナが、持ち前の筋力ステータスで曲刀使いの防具の首元を掴むとそのまま高く持ち上げていたからだった。
その時の俺はまだ気が付かなかった、レイナがこの時―――目の前の曲刀使いの命を絶とうとしていた事に。

曲刀使い「うわぁ―――――ッ!?」

槍使い「な、なにぃ!?」

更に驚愕だったのは、レイナがそのまま曲刀使いの男を宙に高く、垂直に方向に向けて投げ飛ばした事だった。
5メートル以上の高度まで投げ飛ばされた男は、空中ではまともに身動きが取れずに、両手両足をジタバタと振り回している状態でまさに完全に無防備状態―――そして、レイナのソードスキルの構えを見て、俺は反射的に叫ぼうとした。

俺「よ、止せ!レイナ―――」

レイナ「……終わりよ」

俺の制止は間に合わず、レイナがその場で発動したソードスキルは、両手剣を投げつけて攻撃する、SAOでは数少ない遠距離攻撃技のソードスキルの『スローイングソード』だった。
空中でまるで抵抗が出来ない曲刀使いに向けて、レイナが投げ放った、巨大な両手剣が曲刀使いの胴体を一撃で貫き貫通し、そのダメージは既に残りHPバーが一割を切っていた曲刀使いの息の根を止めるには十分すぎる物だった。

リズベット「レ、レイナ……あ、あんた、な、な、なにして……分かって……」

槍使い「や、やりやがったぁ!こ、こ―――この女ぁ、お、俺等の仲間を殺しやがったぞぉ!!」

離れた所から、戦いを見ていたリズベットがその場で座り込み、目から涙を零しながら、震えた掠れた声を喉から絞り出していた。
槍使いの男はさっきまで自分たちがやろうとしていたPK行為を、自分の仲間達がやられた事で錯乱し、大声で喚きパニック状態になりつつあった。

ウサギマスク「あははっ!あのおねーさんやるぅ!自分の剣を投げ飛ばすなんて~」

槍使い「こんの女ぁ―――――――!!」

槍使いは相棒である曲刀使いが殺されて、再び殺意を燃え上がらせるようにレイナに襲い掛かっていた。レイナが投げ飛ばした両手剣は曲刀使いの胴体を貫き、その命を奪った後は、曲刀使いの身体が四散して消滅したので、床に突き刺さった状態となっていた。

そんな丸腰の状態になっているレイナに槍使いが猪突猛進の直進攻撃を繰り出したのだったが、レイナはスローイングソードを習得した時点で―――あのエクストラスキルを習得していた。

槍使い「なに―――あぐぁっ!!」

レイナが槍使いに対して放ったのは武器を持っていない状態でも使う事が出来る体術スキルだ。単発水平蹴り→中段の回し蹴りを繰り出す体術ソードスキルの水月(すいげつ)によって槍使いは返り討ちにされてしまっていた。

俺「っ――お前ら、死にたくなかったらさっさとどっかに消えろ!」

槍使い「ひ、ひぃっ!」

俺「さっさと走れ!」

このままではレイナがもう一人も―――いや、それどころかウサギマスクの娘までも返り討ちにして殺してしまいかねないと恐れた俺は、大声でPK集団の連中に逃げるように声を荒げたのだった。
俺がそう怒鳴り付けてから数秒後、槍使いは震える足を何とか抑えながら立ち上がると、そのまま脱兎のごとくの勢いで走り去ったのだった。

ウサギマスク「ええ~、逃がしちゃうのぉ~?これから本格的に血で血を洗う抗争になるってところだったのにー!!」

俺「お前も今すぐに消えろ!本当に殺されたくなかったらな!!」

不服そうに足で地団太を踏んでいるウサギマスクの娘のその姿は、駄々を捏ねている子供そのものだった。
だが、ウサギマスクの娘も流石に今の状況下で俺とレイナを相手に単独で戦うほど冷静さに欠けているわけではないようで―――

ウサギマスク「ま、いっか~。アタシもこ~んなところで楽しい楽しいイケメン狩りを終えたくないしね」

本来であればこんな危険な連中は拘束して、第一層の黒檻鉄球にぶち込んでしまうのが丁度良いのだが、俺もレイナも――無論リズベットもこいつらを拘束できるようなアイテムは持ち合わせていなかった。

ウサギマスク「じゃーね、優しいお兄さん。またいつか、遊んでくれると嬉しいな」

等とこの状況下でウサギマスクの娘はふざけてから、俊敏性を生かしたダッシュで走り出し、その場から走り去ったのだった。

レイナ「…………」

俺「止めろ、レイナ!」

俺はレイナが再びスローイングソードの構えを取り、ウサギマスクの娘を貫こうとしていたのを即座に制止したのだった。

リズベット「レ、レイナ……な、なんで、そ、そこまで―――」

レイナ「……どうして止めたの?」

レイナはリズベットの言葉には答えず、自分の行いを止めた俺に視線を一瞥してそう聞き返していた。

俺「当たり前だろう―――あのまま剣を投げつけてたら、その一撃で殺しちまってたかもしれないんだぞ!つーか、もう一人殺しちまってるしな……」

そう、レイナはこの戦いで一人のプレイヤーをPK――すなわち、現実世界でも殺してしまったのだった。
無論、レイナもその事はしっかりと理解したうえで、レイナはあの曲刀使いを殺した。

レイナ「……どうして、殺したらいけないの?」

リズベット「こ、ころしたらいけないの?―――ア、アンタ、な、なに言って……」

レイナは俺とリズベットが殺してはいけないと言うことそのものが、まるで理解出来ない様子で、表情を普段通りのまま、全くの無表情で、ついさっき一人の人間の命を奪ったなどと言う自覚など無いかのように淡々と、そう聞き返してきたのだった。

俺「―――取りあえず、主街区にさっさと戻るぞ。ここに何時までも居座ってると、さっきの連中が仲間を引き連れて戻ってきやがる可能性も有るからな」

レイナ「……了解」

俺はこれ以上レイナに、どんな言葉を用いて、殺しはダメだとか、言ったところで理解させることは不可能だと考えて、この場から退散する事を優先してそう言うと、レイナもそれ以上は俺やリズベットに何も聞く事なく同意したのだった。

リズベットは未だに目から涙を零したままの状態で、レイナに対して悲しみ交じりの視線を向けていた。

俺「お前も、ちゃんと自分で歩けるよな?主街区に送り届けるまでが俺達の依頼だから、そこまでは取りあえずしゃんとしてくれ」

リズベット「え、ええ……ゴメンナサイ。もう、大丈夫だから」

そう言うリズベットだったが、その先の帰り道はレイナから距離を取って歩いていた事は俺もレイナもすぐに気が付いていた。
相手が如何にPK集団の一味とは言え、そいつらの内の一人を手に掛けたレイナを恐れての事だろう。

ひとまず主街区に戻るまで、さっきのPK集団が再び現れる事無く、俺達は無事にリズベットの依頼を果たしたのだった。 

 

FILE38 第24層フロアボス戦前。ニューフェイスたちとの挨拶


レイナがPK集団の一味を返り討ちにして、逆にPKしてしまった一件から数日が経過していた。攻略集団は第24層フロアボスが待ち構えるボス部屋を発見!――偵察戦が行われた結果、ボスモンスターの名前は『ザ ジャンボ スノーマン』通称『巨大な雪ダルマ』である事が判明したのであった。
そこで、攻略集団は改めてボス戦でのパーティーメンバーの編成が行われるのであった! by立木ナレ



エルダ「残りの二人はどうなるかしらね……」

俺「その辺りの事は、キバオウとかリンドが適当に話し合って決めるだろ」

俺達のパーティーメンバー6人中の4人はギルドメンバーである俺、レイナ、エルダ、ユッチでいつも通り決定した。
俺達が結成したギルド『MBT』のメンバーは10人になっていたが、実際にフロアボス戦で余裕を持って戦えるほどの腕前なのは創設時のメンバーである俺達だけ(ユッチは少々危ういが)なので、残りの二人は主にリンド率いるDKB(ドラゴンフリゲーツナイト)やキバオウ率いるALS(アインクラッド解放隊)から、正規の6人メンバーのパーティーから炙れたものを補充していた。

ユッチ「何って言うか、ALSやDKBの炙れ者の面倒を押し付けられるのも癪っすよね~、僕らの所に入れられるのって大抵は新顔だったり、ギルドの中で組む相手がいなかったとかの奴らじゃないっすか~」

両手を後頭部で組んでいるユッチが、半開きの目で欠伸をしながらそんな不平不満を漏らしていた。

エルダ「ユッチ君ったら、そんなこと言うもんじゃないわよ。アタシ達のギルドの中でボス戦に参加できるメンバーが4人だから、足りない分をALSとかDKBが補充してくれてるわけでもあるんだから」

エルダがユッチを軽く注意するが、ユッチは「えー」と幼い子供のようなごね方をする。

ユッチ「ですけどエルダさ~ん。ボス戦に慣れてない奴の世話係を担ってる状態なのも事実っしょ?今回はどんなひよっ子が入って来るのか知らないっすけど、足引っ張られちゃ溜まらな―――ぐへぇっ!!」

ユッチが減らず口を叩き続けていたが、その言葉は途中で横一直線の飛び蹴りにとって遮られたのだった。幸いにも、ここはまだ圏内でどれだけ攻撃を食らってもHPは減少しないのだが――豪快な跳び蹴りを食らったユッチは床に倒れて、ゴロンゴロンと音を立てながら転倒しその身体を転がらせていた。

「誰が足引っ張るんだよ!アンタ見てーなヘタレで虎の威を借りてるような奴に言われたくねーんだよ!」

エルダ「え、女の子……なの?」

たった今、ユッチに跳び蹴りを食らわせたその人物の姿を見てエルダがそう呟いていた。背丈は恐らくユッチと同じくらい小柄で、両手に腰を当てた態勢で、ユッチを怒鳴り付けたのは、生意気そうな目付きで腰まで届くほどのロングストレートの曲刀を装備した小娘だった。

レイナ「……もう一人もいるわ」

と、レイナが言った直後。そのもう一人が大慌てしている様子でこちらに駆け寄り、そして――ユッチを蹴り飛ばした少女にこう言い放った。

「ダメじゃないかカレラ!これからのボス戦でお世話になる人達に対して!すみません失礼な羽目をしてしまって!あの……大丈夫ですか?」

その青年プレイヤーは恐らく、もう一人のパーティーメンバーだろう。年齢はエルダより少し年上の、18歳程のメガネを掛けた穏やかそうな片手直剣を持ったプレイヤーだった。
その青年は仲間が仕出かしたことを即座に詫びると、ユッチを気遣い、安否を確かめていた。

俺「いや、大丈夫だろ。ここは圏内なんだからHPは減っちゃいない」

ユッチ「オズマさ~ん。そういう問題じゃないっすよぉ~」

ユッチはよろよろと立ち上がりながら、そう愚痴った後、自分に対して飛び蹴りを放った娘『カレラ』を睨みつけて喚き声をあげるのだった。

ユッチ「お前、いきなり何様だよ!?人様に向かって急に飛び蹴りしやがって!僕は攻略集団の先輩だぞ!つーか、僕の事をヘタレとか、虎の威を借りてるとか言いやがったな!」

いや、お前にとっては残念ながら、そこは大体割と的を射た発言だったな。

カレラ「うっせーんだよ!いっつもヘラヘラヘラヘラして、そのヤバくなったらそっちの強い奴らにすぐに頼って、アタシ等みたいに新顔のプレイヤーに対してはそうやって上から目線でウザいんだよ!分かってんのかああん!」

ユッチ「ひぃっ!!」

自分と同い年位の少女に恫喝されて、ユッチはあっさりと気圧されて、情けない声を上げていた。

「カレラ、止めなさいって言ってるだろ。それに女の子が何て言葉遣いするんだ!気を付けなくちゃいけないって何度も言ってるじゃないか」

まるで保護者のような振る舞いでカレラを注意する青年プレイヤーだった。するとカレラは不服そうな表情で口を尖らせて言った。

カレラ「だってコイツ、本当は大して強いわけでもねーんだよ。それなのにこっちの3人に便乗してボス戦に参加する常連の一員になっていい気になりやがってムカつくじゃん!」

「はあ……そうやってちょっとでも気に食わないと思った相手にはスグに喧嘩腰になる悪癖は困りものだな~――すみません皆さん、自己紹介がまだでしたね。僕は、ボクスターと言います」

ん?カレラにボクスターって―――こいつらのキャラクターネームの由来はまさか……?

エルダ「カレラちゃんにボクスターさんですね。私達はMBTの主力メンバーよ。今日は同じパーティーメンバーとしてよろしく頼むわね」

俺「ああ、お二人はその恰好からしてALSのメンバーか?」

俺は一旦施行を打ち切って、同じパーティーを組む事になった二人のメンバーに挨拶をする事にした。丁寧に俺達に応対をするのはやはり、ボクスターと名乗った青年プレイヤーだった。

ボクスター「はい、キバオウさんから今回初めて、フロアボス戦への参戦を認められましたけど、同じギルドメンバー同士で入れるパーティーが無くってですね。今回は皆さん4人とご一緒させてもらう形になりました」

カレラ「別に、アタシと兄貴の二人だけのパーティーでもよかったんだけどさ」

礼儀正しく会釈をするボクスターとは対照的にカレラはつまらなさそうな表情でそっけない事を言った。

ボクスター「すみません……カレラはこの通り、初対面の人に対しては余り素直になれないので……」

ユッチ「素直とかの問題じゃなくってさ、目上の人間に対する礼儀の問題じゃないっすかね~?」

カレラ「あーん!!何時テメーが目上の人間になったんだよ!?」

ユッチ「ほらほら!すぐにこんな風に睨み付けて、襲い掛かってきそうな勢いじゃないっすか!」

などとユッチは喚き散らすが、カレラでなくとも、ユッチの物言いだと相手の反感を多かれ少なかれ、買いそうなのも事実だがな。

エルダ「あの、カレラちゃんがボクスターさんの事をアニキって言ってたのは?」

ボクスター「あ、実は僕たち、リアルで兄妹なんですよ」

俺も少し気になっていた事を、エルダが直接訪ねると、ボクスターは眼鏡を左手で軽く整えてから、穏やかな笑みを浮かべながらそう答えた。

俺「だから、このゲームの世界でも一緒に行動して、同じギルドに入ったんだな?」

ボクスター「はい、このソードアート・オンラインが従来通りの普通のゲームであれば、何時までも僕が彼らの傍にいる必要も無かったんですが……今のソードアート・オンラインはただのゲームではありませんからね。兄として、カレラを一人にしておくわけにはいかなくなりました」

多少年齢の離れた兄妹と言うのは、上の方が下の方に対して、保護者代わりになりがちになったりするもんだろうか?
俺にも、一歳年上の姉がいて、親父と母親が離婚するまでは姉貴も同じ山谷のアパートに住んでいたが、確かに姉貴は小言はそれなりに多かったが、別に俺はアイツに世話されてるなんて思った事も、ましてやそれを望んたことなんで一度も無かったからな。

カレラ「別にアタシは一人でも全然余裕だったし!つーか、兄貴はあれこれやる事が消極的過ぎるんだよ。アタシの言う通りにしてれば、もっと早く攻略集団に入って、フロアボス戦に参加できたはずなんだよ!」

ボクスター「カレラはやる事が何もかも危う過ぎるんだよ。君のペースでやってたら、いくら早く強くなれたとしても、何れ足元をすくわれる事になるよ」

カレラ「まーた、そうやって小言言い出しやがるんだから兄貴は……」

カレラとボクスターの兄妹は恐らく現実(リアル)でもやっていそうな妹を心配して世話を焼く兄と、それを鬱陶しがる反抗的な妹のやり取りを始めていた。

エルダ「やっぱり、兄弟、姉妹の下の子ってどこもあんなのかしらね~?」

俺「なんだよ、まるでなんか心当たりでもあるような言い方して」

カレラとボクスターのやり取りを、妙に親近感を感じているかのような目付きのエルダの言葉を聞いて、俺は冗談交じりにそう聞く。

するとエルダは俺の方を振り返り、微妙にはにかんだような表情で答えた。

エルダ「まーね、私も2歳年下の妹がいるんだけど、これが中々言う事を聞かない子なのよね。アタシが姉として何か言って見せると、すぐに人の上げ足取るようなこと言って、アタシが言い返せなくなったり、おととしのクリスマスの時だって―――アタシの方からそっちに行くから大人しく待ってるように言ったのにあの子は……」

レイナ「……何かあったの?」

エルダ「え、れ、レイナちゃん?な、なんで……?」

エルダが現実世界で姉の目覚めを待ち侘びているのだろう、妹の話で僅かながら、しんみりとしていると、俺ではなくレイナが近くに来て、声を掛けてくるのでエルダは多少呆気に取られた様に驚いていた。
俺自身、まさかレイナの方が人の身の上話に興味を示して、自分から何かを聞いてくるような事がある等とは思っていなかった。

なにせ、現実世界での記憶が失われているとは言え。自分を襲ってきた相手を容赦なく返り討ちして、それがなぜダメなのか?と、まるで人の心や感情など分からないような反応をしたレイナだったのに。

エルダ「ああ、ちょっとね。一昨年のクリスマスに、あの子ったら慌てて出かけたもんだから買い物に必要なお財布忘れちゃって―――私が届けに行くって言ったのにあの子ったら『姉ちゃんにそんな事してもらわなくてもいい!』なんて言って自分で態々取りに戻って来るんだから……」

俺「兄弟姉妹の上の方って、どーして頼んでも無いのに、あれこれ言って来たりして来たりしやがるんだろうな。ウチの姉貴も『自分が学校で恥ずかしいから、宿題をやれだの、学校をサボるな』だのとうるさかったんだよな……」

俺はエルダやボクスターの妹に対する、心配性なんじゃないかと疑いたくなるような構いっぷりに、溜息を付いてそう呟いていた。

ボクスター「僕たちとしては、生まれた時から自分の側で守らなくちゃいけない存在だって思いがどうしても勝るんじゃないかと思ってます。確かに、年下と言うだけで、庇護下に置かれるのは下の兄妹の人達にとってはありがたくないのかも知れませんがね……」

ボクスターの言葉に対してエルダが、『全くそうですよね~』と同意した直後に、今回のレイドパーティーのリーダーであるALSリーダーのキバオウのだみ声が辺り一帯に響き渡る。

キバオウ「ほぉなら、そろそろ良くで――!!ちゃんと自分のパーティーで戦うんやで!会議で話しておいた、ボスとの戦い方、忘れたらあかんで――!!」

キバオウの言葉を合図に、攻略集団の各プレイヤー達は、パーティーメンバー毎に次々に移動を開始し始める。
俺達はG隊で、取り巻きのモンスターが出現している間は取り巻きのMob討伐を優先しつつ、取り巻きの数が少なくなったら、ボス本体への攻撃を優先する手筈だった。

レイナ「……兄弟…………・姉妹…………あの、身内動画が本物なら……私には、姉がいるはずだけど……私は知らない、思い出せない」

ユッチ「あの~、なにを独り言言ってるんっすかレイナさ~ん?G隊もそろそろ移動っすよ~」

レイナ「……何でもない、わ」



フロアボス戦前の自己紹介、そして戦闘の手筈などの話し合いはそこで終わり、レイドパーティーは第24層フロアボスが待ち構えるボス部屋へと一直線に進行する!―――レイナは、自らのリアルでの素性に僅かに疑問を感じたものの、自らの今の役目を果たす事を優先し、あらゆる私情を完全に排除!自らを戦闘マシーンであると頭に言い聞かせ、戦闘態勢を取ったのであった! by立木ナレ 
 

 
後書き
今回とこれからしばらくゲストで登場するカレラとボクスターの名前の由来は、とある自動車メーカーの車種から取っています。 

 

FILE39 第24層フロアボス、ザ・ジャンボ・スノーマンとの戦い!

2023年3月某日。第24層フロアボス戦が幕を開けた!フロアボスの固有名は『ザ・ジャンボ・スノーマン』名前の示す通り、全長が3メートルを超す巨大な雪ダルマであり、その巨体と雪で出来た身体を利用した、雪玉の連続投擲攻撃や、転がり攻撃を得意としているボスモンスターであった。

配下には定期的に小柄な雪ダルマ型モンスターの『プリチー・ザ・スノーマン』が出現し、ジャンボ・スノーマンの護衛、援護をするのであった!

部隊の編成は、A~Cがキバオウ率いるALSの部隊、D~Fがリンド率いるDKBの部隊、G隊がオズマ率いる部隊、H隊がエギルを始めとした4人組にキリト、アスナを加えたメンバーとなった! by立木ナレ



キバオウ「出てきおったで雪だるま共が!雑魚に気ぃ付けながら、デカい雪ダルマぶっ壊したれ!けど、転がっとる最中は迂闊に手ぇ出したらあかんでぇ!!」

今回のレイドあパーティーのリーダーを務める事になったキバオウが全プレイヤー達に改めて、大まかな指示を出して、戦闘が開始された。
偵察戦の情報通りであれば、ジャンボ・スノーマンは転がり攻撃をしている最中はこちら側のほぼあらゆる攻撃が通用しない、無敵状態になってしまうのだが、その攻撃が終わった後は一定時間、無防備な状態となるので、その時こそ、ソードスキルを思いっきりぶつけてやる時だろう。

ユッチ「へへ、なんだか弱そうなボスモンスターっすね!さくっとやっちゃいましょうよオズマさん」

俺「さくっと倒せる相手かどうかはまだ分からないだろ、何せ相手はフロアボスなんだからな」

ユッチはジャンボ・スノーマンの外見で大した手合いではないと決めつけて、余裕を見せ始めていた。ジャンボ・スノーマンは全長3メートル以上と、フロアボスらしく巨体ではあるが。
その見てくれは、丸い球体状の胴体の上に同じ様に球体状の顔の上に青いバケツ、適当なマジックで書かれたような眼と眉毛と言う、単なるデカい雪ダルマにしか見えなかった。

そして、ジャンボ・スノーマンの周囲にはボスを守るように複数体のプリチー・スノーマンが現れていた。その姿はそのままジャンボ・スノーマンと瓜二つで、サイズがだいたい三分の一程度になったくらいだった


カレラ「デカい雪ダルマだか何だか知らないけど、上等じゃん!ここでLA決めて、アタシがALSのエースに相応しいって認めさせてやるよ!」

ボクスター「待つんだカレラ、僕たちG隊はあくまで優先して倒すのは取り巻きのプリチー・スノーマンの方なんだよ!」

俺達と同じパーティーに入っているALSからのゲストメンバーのカレラは曲刀を構えて、早速戦意を高めていたが、本来の目的を兄であるボクスターが指摘して、宥めていた。

カレラ「分かってるっての!雑魚どもを始末したら、ボスに好きなだけ攻撃して良いってわけでしょ?だったらさっさと周りのチビ雑魚雪だるま共皆殺しにしてやるぅ!」

そう叫びながら、曲刀のソードスキルの3連続範囲攻撃であるトレブル・サイズでコマのように回転しながら右から左へと3連続斬りを放っていた。
攻撃範囲の広さで近くで固まっていた二体のプリチー・スノーマン二体にいっぺんにダメージを与えていた。

が、その一撃だけではプリチー・スノーマンは倒し切れず、HPを残したプリチー・スノーマンは当然、ソードスキル発動直後のカレラに攻撃の狙いを定めていた。

俺「アッチの二体を倒すぞ!ボクスターさんも頼むぞ!」

ボクスター「分かりました!」

カレラに向かってジャンプしながらの体当たりをしようとしていたプリチー・スノーマンに対してボクスターが片手剣で上段からの斬り下ろしで妨害し、更に俺が突進しながらの突きで止めを刺してやった。

俺「うおらぁっ!」

そして、もう一体のプリチー・スノーマンを、上段突進技ソードスキルのソニックリープで、胴体を突き刺し、HPを削り切ってやった。

そんな俺の傍に、別のプリチー・スノーマンが迫って来ていたのだったが、そいつが俺に攻撃する前に、巨大な両手斧のソードスキルで飛び掛かりながらの2連撃技が、スノーマンを瞬殺していた。

俺「そっか、アンタらもプリチー・スノーマンの討伐優先だったんだなエギル」

俺の傍にいた、プリチー・スノーマンを両手斧のソードスキルで粉砕した巨漢の黒人マッチョのエギルに対して、俺はそう言葉を掛けていた。

エギル「そっちこそ、良いフォローをしてやってたな。プリチー・スノーマンは数が多い上に次々と現れやがるみたいだが、今は12人で何とか抑えるっきゃねーな」

エギルのパーティーメンバーである通称アニキ軍団と、普段は二人で行動しているが、フロアボス戦の度にエギルのパーティーに入っているキリトとアスナも、ボス戦開始直後の時点で少なくとも10体以上はいたであろう、プリチー・スノーマンたちを次々と切り倒していた。

俺「一体一体は、攻撃も防御も大した奴らじゃないさ、プリチー・スノーマンの数が減ってきたら、俺達の隊からも何人かはボスへの攻撃に向かわせるとするか?」

エギル「了解した!お互いに、パーティーリーダー同士、メンバー達の残りのHPは気を付けようぜ!」

俺「分かってる、こっちには扱いに困る奴もパーティーに入ってはいるが……お目付け役も一緒だから何とかなると思うがな」

お互いにそれだけの言葉を交わしたら、俺とエギルは再びそれぞれのパーティーメンバーの元に駆け出し、戦闘を続行する。
俺が懸念している、じゃじゃ馬娘のカレラも、ボクスターの助言はなんだかんだで聞き入れたようで、それ以降はHPがフル状態のプリチー・スノーマンに対しては迂闊にソードスキルを使ったりはせず、ある程度弱らせた相手への止めとして使うようになっていた。

だが、焦りや慢心から、初歩的なミスをしてしまうのはカレラだけではない―――残りのプリチー・スノーマンが1体になった時だった。

ユッチ「最後の一体も、これで止めだ!」

ユッチは、最後に一体だけ残っていたプリチー・スノーマンに対して、中級突進技の『ラビットバイト』を食らわせたのだったが、その時のプリチー・スノーマンのHPはフル状態で、しかもダガーは比較的攻撃力が低めの傾向故に、ソードスキルの一撃と言えど、辛うじてHPを半分程度にまで削った程度だった。

ユッチ「あ、しま――って!」

ソードスキル発動後の硬直中に、プリチー・スノーマンは即座に反撃し、雪で出来た身体で体当たりをお見舞いしていた。
その攻撃を食らったユッチが軽くノックバックし、床に転倒するが、次の攻撃が来る前にレイナの2連撃の両手剣ソードスキルであるカタラクトによって、最後の一体のプリチー・スノーマンが倒されていた。

カレラ「おっしゃっ!今度こそボスをやっちまえる!」

レイナが最後の一体のプリチー・スノーマンを倒すと、真っ先に彼らがフロアボスのジャンボ・スノーマンに向かって走り出し、それをボクスターが追いかけていた。
H隊からも早速、黒の防具のキリトが颯爽と雪玉を広範囲に投げ飛ばし続けるジャンボ・スノーマンに向かって襲い掛かっていた。

俺「俺も、ボスへの攻撃に加わるとするか!」

ジャンボ・スノーマンのHPバーは全部で4本で、その内の一本目は既に半分以下となりイエローゾーンとなっていた。
それまでのA~F隊の36人に加えて、ここからは俺達G隊と、エギル達のH隊も攻撃に加わる為、更にジャンボ・スノーマンのHPは激しい勢いで減少する事になる。

だが――奴もこのまま一方的にやられ続けるわけではなく、残りのHPが2割を下回ったところで、例の発動中は無敵になると言う、身体を完全に球体化させての転がり攻撃を始めてきたのだった。

キバオウ「きおったで!デカ雪だるまの攻撃が終わるまで、全員退避と防御に専念や!迂闊に攻撃するんやないで!」

キバオウのだみ声の命令が、フロアボス中に響き渡ると、プレイヤーたちは一斉にそれぞれ、転がり攻撃を始めるスノーマンから逃げる者、盾を持っている者は防御で身を守るなどしていた。

エルダ「私の盾の後ろに隠れたい人はいる?、正面からの攻撃なら、守ってあげられるかもしれないわ」

ユッチ「はいはいはいっす!エルダさんのご加護にあやからせて頂くっす!」

ボクスター「カレラ、君も僕の盾の後ろに隠れるんだ、急いで!」

カレラ「別にあんなの自力で幾らでも避けられるってのに……」

俺達のG隊で盾を持っているのはエルダとボクスターの二人だ。エルダの後ろにはユッチが嬉々として嬉しそうに隠れて、ボクスターの後ろには、兄によって促されて渋々と言った様子でカレラが隠れていた。

俺「レイナ、俺等は自力で奴の攻撃が終わるまで必死に避け続けるっきゃないみたいだな」

レイナ「……問題ないわ、あの攻撃の持続時間は長くないから」

レイナが言った通り、その辺りも偵察戦で概ね、把握済みの情報通りだった。ジャンボ・スノーマンの転がり攻撃はせいぜい10秒強程度の時間を経て終了し、その直後からジャンボ・スノーマンは元の姿に戻るのだが―――攻撃直後のペナルティのような物のせいで、一定時間は完全に無防備と化し、残りの一本目のHPバーが少ない、ジャンボ・スノーマンにとってはまさに命取りの状況が訪れたわけだった。

キバオウ「今やぁ――――!全員でソードスキルを遠慮なく叩き込んだれぇぇぇ!!」

キバオウの絶叫での命令に応じ、レイドパーティーメンバー達の武器が次々とソードスキルを発動し、眩いまでのライトエフェクトと、効果音が響き渡り続けていた。
フロアボスモンスターであるはずのジャンボ・スノーマンのHPバーが見る見るうちに減り続けていき、瞬く間に数ドットを残すまでになったところで、ようやくジャンボスノーマンの行動不能状態が解除されたのだったが。

キリト「でえやあぁぁぁっ!!」

そこから実際に攻撃行動に移る前に、キリトが放った、垂直4連撃ソードスキルのバーチカル・スクエアが一本目のHPバーを完全に削り切ったのだった。

一本目のHPバーを失ったジャンボ・スノーマンは、その場で巨体をこけしの様にフラフラとさせると、盛大に正面から転倒して、大きな音をボス部屋に響かせたのだった。

アスナ「ナイスキリト君!」

エギル「今日も活かした戦いっぷりだぜブラッキー先生よぉ!」

同じH隊のメンバーであるアスナとエギル、そして、アニキ軍団のメンバーが、一本目のHPバーに止めを刺したキリトの肩を次々と叩いて、その活躍を称賛し、キリトは照れくさそうに苦笑いを浮かべていた。

俺「アイツ、相変わらず良い所で決めるのが得意なんだよな……もはや狙ってやってるとしか思えねぇよ」

ユッチ「あー、クッソ!僕もアスナさんにあんな風に労われたいってのに~!」

キリトがボスのLAを掻っ攫うのが得意なのはベータテスト時代から色々と言われていた事らしいが、それは製品版―――いや、デスゲーム版である、このSAOにおいても変わらずで、今の所全てのボス戦にキリトは参戦しており、一週間ほど前に行われた第23層までのボス戦で最もフロアボスのLAボーナスを決めてるのはキリトである事は確かであり、同時に頭一つ飛びぬけてラストアタックボーナスを決め続けているキリトに対して嫉みを抱く者や、不快感を抱く者も少なからず存在し、キリト自身もその事は分かっているはずなのだが、それでも奴は変わらず、フロアボス戦では積極的にラストアタックボーナスを狙い続けていた。

キバオウ「喜ぶんはまだ早いで!デカ雪だるまはまだまだ襲ってくるでぇ!チビ雪だるま共にも注意せいやぁ!」

一本目のHPバーを大した苦も無く削り切り、軽い高揚感に沸き立っていたレイドパーティーだったが、キバオウの叱責で再び戦闘態勢に戻っていた。

確かに奴の言う通り、既にジャンボ・スノーマンは再び立ち上がり、周囲には再び10体を軽く超える数のプリチー・スノーマンたちが姿を現していたのだった。 

 

FILE40 レイドパーティーの危機!氷漬けになる者たち



西暦2023年3月某日。第24層フロアボス戦は順調そのものであった!レイドパーティーの連携の取れた攻防によって、死者は無論の事、誰一人としてHPをレッドゾーンにまで減少させる事なく滞りなく進み続けて、そして――― by立木ナレ



カレラ「食らいやがれぇぇぇぇっ!!」

曲刀のソードスキル『レイジング・チョッパー』による、一歩踏み込んでからの三連撃からの、突き攻撃によってザ・ジャンボ・スノーマンの3本目のHPバーが完全に底を尽き、ラスト一本のHPバーを残すのみとなった。

キバオウ「ええでええで!ラストスパートや!最後のHPバーになったで!この調子で踏ん張るんや!!」

キバオウのその声も、順調に進んでいるフロアボス戦に気を良くしているように感じた。カレラのソードスキルで3本目のHPバーを損失したジャンボ・スノーマンは今までと同様に一度はその巨体を横転させていたが、再び上体を起こして立ち上がる。

エルダ「ねえ、何か……おかしくない?」

俺「あ、ああ、何時になったら、チビのスノーマンたちは出てくるんだ?」

今まではHPバーを1本削り切るたびに、ジャンボ・スノーマンが起き上がると同時に、周辺一帯に、プリチー・スノーマンが大量に出現していたのだったが、今回に限ってはどう言うわけか一体もプリチー・スノーマンが現れず、ボス部屋の中央でたった一体俺達の前に立ちはだかっているジャンボ・スノーマンは息を吸い続けていた。

俺やエルダが感じが不安は、他のプレイヤー達も一人、また一人とそれを感じてきたようで、殆どの者達は迂闊に攻撃しにいく事なく、その様子を静観していたのだったが―――

カレラ「どいつもこいつも、なにやってんだよ!ボーっとしてる雪だるま相手に!!」

俺「待て!迂闊に攻めるなぁ!」

カレラはそんな警戒心など気にする事なく、単身で曲刀を構えて、ジャンボ・スノーマンの真正面に向かって斬りかかっていた。

だが――その曲刀の攻撃がジャンボ・スノーマンに届く直前に、それまで息を吸い込み続けていたジャンボ・スノーマンは、まるで溜め込んだ空気を体内から吐き出したのだった―――超低温の冷気として。

カレラ「うわぁぁっ!!」

キバオウ「な、なんやぁ―――――――!?」

レイナ「―――――!?」

俺「レイナ!!」

キリト「皆、体勢を低くしろ!すぐにしゃがめぇ――――――!!」

ボス部屋中央に陣取っているジャンボ・スノーマンは胴体の上の顔だけどぐるりと360度回転させながら、口から溜め込んだ空気を超低温の冷気として吐き出し続けていた。
俺自身も冷気を浴びたために、既に下半身が氷漬けになりま共に身動きが取れない状態になっていた。そして俺はまだ自由が利く上半身を動かして周囲を見渡してみると、ジャンボ・スノーマンが吐き出す冷気によって次々と氷漬けになる物が現れていた。

そして、ジャンボ・スノーマンが口から吐き出した冷気の攻撃が終わる事には、全レイドパーティーメンバー達の半分ほどがその身を氷漬けにされており、一切身動きが取れない状態になっていた。

氷漬けにされているプレイヤー達の中にはレイドパーティーのリーダーであるキバオウ、俺と同じパーティーメンバーのユッチ、H隊のパーティーメンバーであるエギルの仲間二人、そして―――

カレラ「あ、兄貴!?な、なんで――――」

カレラを庇ったのだろう、ボクスターは盾を構えるような体勢でカレラの前で氷漬けの状態にされていた。

エルダ「想定外だったわ……盾で防ぎきれない攻撃だったのね」

俺「無事だったんだなエルダ?」

ボクスターと同じ盾持ちのエルダだったが、彼女は氷漬けにはなっていなかったようで、自由の利く身体で俺の方に歩み寄って来てそう言うが、普段から右手に持っている盾が無い状態だった。
恐らく、盾が氷漬けになっていくのを見て、とっさの判断で捨てたのだろう。

エルダ「って言うかオズマ君―――アンタ、下半身が!!」

俺「ああ、見ての通りガチガチの氷漬けだ。仮想世界だってのに、凍るとマジで冷たいもんだよ。こんな冷たいのを感じるくらいなら、いっその事全身氷漬けにされちまった方がマシだったかもな」

俺は氷漬けになり、まるで自由の利かない下半身を見て、そう自嘲するのだった。そして、そんな冗談を口にした俺の横でレイナが、珍しく震えた声を発したのはその時だった。

レイナ「……どうして?オズマ、私を庇ったの……?貴方は冷気を浴びせられそうになった私に飛び掛かって、それで代わりに――――」

俺「さーな、なんだかんだで一番長い間一緒に組んでるからなお前は。少しばかり情が映ったのかもな……」

が、そんな軽口を言い合っている余裕も無い。先程のジャンボ・スノーマンの攻撃でレイドパーティーの半分ほどが氷漬けになりまともに身動きが取れない状態と化してしまった。
幸いにも、プリチー・スノーマンは出現していないが、氷漬けになったプレイヤー達が何時になったら自由になれるかは定かではない。

俺の下半身を含めて、俺から少し離れた場所のユッチなど、氷漬け状態のプレイヤーのカーソルには氷漬けを示すデバフアイコンが表示されているのだが、そのデバフアイコンはこの氷漬けが何時まで続くのか明確なカウント表記がされていなかった。

リンド「焦るな皆!こうなっては氷漬けになった者達を置いてボス部屋から出るなどと言う事は出来ない!今俺達がやらなければならない事は、HPバーが最後の一本になったジャンボ・スノーマンを倒す事だ!恐らくだが―――そうすれば氷漬けになった者達も元に戻ると思う!」

それまでレイドパーティーのリーダーを務めていたキバオウが氷漬け状態になってしまった事も有り、リンドが自ら暫定でリーダーとして残っているメンバー達に声を上げていた。

残っているメンバーにはALSの者達も複数いるが、こうなってしまっては二大攻略ギルドを率いているもう一人のリンドに指揮官を任せるのが適任である事は誰もが認めているようで、リンドの臨時リーダー就任に異を唱える者は誰もいなかった―――と言うか、そんな事で言い争っている余裕など誰にもない事は明白だったのだろう。

俺「とにかくお前ら、氷漬けになってるユッチやボクスターが無防備だからなるべくアイツらが攻撃を受けないように気を付けてくれ!今の状態であのクソ雪だるまが転がり攻撃なんてしてきやがったら、凍ってる連中は致命的だ!」

エルダ「分かったわ!今はとにかく、この窮地を終わらせるためにもボスを倒さなくちゃいけないわね!」

エルダの判断は素早く、俺の意図を汲んで真っ先にボス部屋の中央を陣取り続けて、周囲のプレイヤーに雪玉を投げ続けるジャンボ・スノーマンへの攻撃に向かって走っていた。

レイナ「……けど、けど、オズマがここから動けないわ」

俺「今はまだHPに余裕もあるから大丈夫だ!俺を含めて、凍ってる連中の安全をすぐに確保するには、ボスを倒すのが先決だろ!」

レイナは珍しく、冷静な判断が出来ずに、俺の元から離れようとしなかった。俺がレイナを庇い下半身が氷漬けになって動けなくなっているのを気にしているのか、レイナはボスを倒す事よりも、俺の傍で俺を守る事を最優先するべきだと考えているみたいだが、今この状況下では、そう言うわけにはいかない。
あのままジャンボ・スノーマンを活かし続けて、何度も転がり攻撃をされてしまえば、凍っているプレイヤー達は無抵抗のまま攻撃を食らう事になる。

と言うか、今だってジャンボ・スノーマンが投げつけてくる雪玉を氷漬けになっているプレイヤー達は避けることがままならない状態だ。

凍り付けになったプレイヤー達はポーションを飲む事が出来ず、それはすなわち回復手段すら絶たれている状態であるわけだった。

俺「だから、俺達を助ける為にも―――早くボスを倒す事を優先するんだ!!」

レイナ「…………分かった、絶対にオズマを死なせたりはしないから!」

俺が声を荒げてそう一喝すると、レイナは何時もよりも長く、無言の間を置いてから、そう決心してジャンボ・スノーマンを倒しにに走り出していた。

既にジャンボ・スノーマンを先に倒すことが先決であると判断したエルダやキリト、アスナ、カレラなどのプレイヤー達が先に限られた人数で連携し、投げつけられる雪玉を諸共せずにソードスキルを交互に浴びせ続けていた。

一部の盾持ちのプレイヤーは憎悪値(ヘイト)を自分に向けるスキルで、ジャンボ・スノーマンの攻撃が凍っているプレイヤーへ向けられないように援護をしていた。

リンド「凍っている者達へ攻撃が当たらないように配慮しつつ、ジャンボ・スノーマンへの攻撃を欠かすな!撤退が出来なくなった以上、速やかにボスを倒す事を優先するんだ!!」

再度、リンドの命令がボス部屋に響き渡っていた。48人中、現在動けるのは30人にも満たない状況下で、動ける者達は凍っているプレイヤー達に気をまわしつつ、いち早くジャンボ・スノーマンを倒すべく、絶え間ないソードスキルを交互に浴びせ続けていた。

そして、そんなリンドの指揮のもとのプレイヤー達の奮闘もあり、氷漬けになっている連中は今の所は誰も犠牲になる事無く、ついにジャンボ・スノーマンの残り一本のHPバーが遂に半分を割り込み、イエローゾーンの領域にまで減少した時だった。

キリト「ボスが転がり攻撃をしてくるぞぉ―――――――!!」

キリトの大声が、ボス部屋に響き渡っていた。キリトの言う通り、ついにジャンボ・スノーマンはその身体を完全な球体化させて、ボス部屋を縦横無尽に転がり続ける転がり攻撃のモーションに入っていた。

リンド「防御と回避に徹するんだ!こちらの攻撃は一切通用しないが、転がって来るボスにソードスキルを当てる事で、敵の攻撃の軌道を反らす事は可能だ!」

リンドの言った通り、転がり攻撃をしているジャンボ・スノーマンに対しては一切ダメージを与える事が出来ないのだが、強攻撃、またはソードスキルを当てる事で、転がって来るスノーマンの進行方向を買える事は出来る―――つまり、その要領で凍っているプレイヤー達を守る事も可能だと言う事だ。

辛うじて凍っていないプレイヤーが凍っているプレイヤーを僅かに上回っているので、凍っていないないプレイヤーは凍っている状態のプレイヤーを一人守る事に専念出来そうだった。

カレラ「ごめんな兄貴……アタシのせいで―――だから、ちゃんと守るよ!」

既にカレラは自分を庇い氷漬けになったボクスターの側に陣取っていた。他のプレイヤー達もなるべく自分のパーティーメンバーの凍っている者の側に寄り、守り手が足りないパーティーは人手が余っているパーティーから人を借りる形で守りの態勢が出来ていた。

レイナ「……オズマ、安心して。絶対に守り切るから」

そして、下半身が氷漬けで動けない俺の傍にはレイナが両手剣を構えて、身構えていた――直後にジャンボ・スノーマンは球体化した体を転がり始めていた。

リンド「守り切れぇぇぇ!!絶対に誰も死なせるなぁぁぁ!!」

それからしばらく、転がって来るジャンボ・スノーマンをソードスキルで押し返し、押し返された方向に転がってきたら、今度はそちらにいるプレイヤーがソードスキルで押し返すの繰り返しだった。
氷漬けになっていないプレイヤーはHPが減少してもポーションや回復結晶(回復クリスタル)でまだ、回復可能だが、氷漬けになっている者はそうはいかないので、エギルなど、一部の物は身を挺して氷漬けになっている仲間を守る者すらいた。

そして、今までに比べて長時間の転がり攻撃が続き、カレラのソードスキルが自身とボクスターに向かって転がってきたジャンボ・スノーマンを弾き返した後に、ジャンボ・スノーマンが転がってきた先は俺とレイナがいる方向だった。

俺「とうとう、こっちに気やがった!」

レイナ「……受け止めるわ」

勢いをつけて転がってきたジャンボ・スノーマンの転がりながらの体当たりをレイナの両手剣が受け止めた直後、回転エネルギーを加え、剣を振り抜く両手剣ソードスキルのアラウンドで押し返した直後だった、ついに転がり攻撃が出来る時間を終えたジャンボ・スノーマンは再び元の姿に戻る。

そして―――今までと同様に転がり攻撃を終えた直後のジャンボ・スノーマンは一時的な行動不能状態だった!

カレラ「おっしゃ!今の内に食らえぇぇぇ!!」

カレラが真っ先に曲刀のソードスキルを食らわせたのを皮切りに、次々と行動可能な状態のプレイヤー達がソードスキルを絶え間なく、一斉に浴びせ続けるのだった。

その後も、行動不能状態から回復したジャンボ・スノーマンは遠くのプレイヤーに雪玉を投げ続けつつ、接近してくるプレイヤーに対して体当たりのパターンで攻撃を仕掛けてきたが、転がり攻撃はしてこないまま、HPバーは減り続けてついに残り数ドットを残すのみとなった。

キリト「いっけぇ――――――!!」

早速、キリトがソードスキルの構えでジャンボ・スノーマンのLAを狙うかの如く、猛スピードで走っていた。
ジャンボ・スノーマンの雪投げ攻撃を避けるべく、数秒間程壁を走りながら、瞬く間にその距離を詰めていたのだったが―――

レイナ「……これで終わりよ」

最後の抵抗と言わんばかりに大量の雪玉を縦横無尽に投げ続けるジャンボ・スノーマンに対してレイナがソードスキルの構えを取っていた。
そのソードスキルの構えは、数日前にレイナがPK集団の一味を返り討ちでPKした際に使った技――『スローイングソード』だった。
レイナが愛用の両手剣を投げ飛ばすと、それは巨体であるフロアボスのジャンボ・スノーマン目掛けて一直線に飛んでいき、キリトのソードスキルすらも間に合わず、雪玉の顔面を貫いたのだった。


 

 

FILE41 命の尊さとは・・・

第24層フロアボス『ザ・ジャンボ・スノーマン』が口から吐き出した冷気の攻撃によって、半数近くのレイドメンバーが氷漬けになり、行動不能となった!

オズマも下半身が氷漬け状態となり、身動きが取れないままになったものの、残ったレイドメンバー達の奮闘によりジャンボ・スノーマンを追い詰め―――ついに、レイナのとどめの一撃によりジャンボ・スノーマンは倒されたのであった! by立木ナレ




ジャンボ・スノーマンの身体が四散し、その場から完全に消え去ると、氷漬けになっていたプレイヤー達がその状態から解放されて、自由に動ける身となった。

そして、俺自身も氷漬けになった下半身の氷が消滅して、俺の身も完全に開放された形となった。

ユッチ「いやったぁ―――!!戻った!元に戻ったっす!いやぁ~、ボス部屋で動けなくなるってホント恐ろしかったっすよ~」

氷漬けから解放されたユッチが、解放された事に安堵していた。ユッチ以外の氷漬けになっていた者達も、ボスが倒された事を理解している様子だった。

俺「凍ってる間でも、意識はあったんだな?」

俺はその場で飛び跳ねて喜んでいるユッチに近づいて声を掛けると、ユッチは浮かれた笑顔のまま、こちらを振り向いて答えた。

ユッチ「あ、はい。凍ってからも皆が戦ってるのはちゃんと覚えてるっすよ。いや~、もしあのまま置いてかれたりでもしたら、完全に僕たちボスにやられちゃってましたからね~」

ボクスター「本当に助かりましたよ皆さん。皆さんがあの状況下で私達を守ってくれたおかげです―――カレラもよく頑張ってくれたね」

ボクスターは氷漬けにならずに戦っていたレイナやエルダに頭を下げて礼を言ってから、自分の身を挺して守ったカレラの頭を撫でて、褒めていた。

カレラ「べ、別に……同じパーティーで組んでるんだから……そんなの当たり前だし」

照れくさそうにボクスターの目から視線そそらして、普段の男勝りで粗っぽ性格が嘘のようにしおらしく口にするその姿を見ていると、やっぱりボクスターの妹なんだと俺は思っていた。



それぞれのパーティーがお互いの勝利、奮闘を称え合っていた。ボス部屋全体に勝利の余韻に浸り続けている最中だった―――奴らは約束通り現れるのである! by立木ナレ


ガチャモン「痛い!痛い!挟まっちゃったよモックなんとかしてぇ~!他の皆も何とかしてぇ~!」

モック「ちょっと、ちょっとガチャモン!あ、アンタ、なんで頭にバケツ何て被っちゃってるんですか!?それで完全に挟まって、抜けなくなるって中国の人じゃあるまいし―――あ、み、皆さん!皆さんもガチャモンの頭からバケツを引っこ抜くのを手伝ってくださいですぞ!この人ったら、頭にバケツ被って、完全に挟まって抜け無くなってるんですよ!」

キバオウ「知らんわボケェ!おんどれらだけでアホな事を何時までもやっとれやぁ!!」

まるで中国のニュースとかでよく見る、挟まり事故を演出しながらのガチャモンとモックだった。ガチャモンの頭には、その頭には明らかに小さいバケツが挟まっており、それをモックが引っこ抜こうと引っ張り続けていた。

そんな馬鹿げたやり取りに対してツッコミを入れるのは何時も通りキバオウの役目だった。

アスナ「本当に、馬鹿丸出しね……それで誰かが構ってくれるとか思ってるなら、むしろ哀れみしか感じないわよ」

キリト「ア、アスナさん……中々に厳しいコメントをするようになったな」

アスナがこの上ない軽蔑するような、冷たい目つきをガチャモンとモックに対して向けて、キリトがその鋭いアスナの視線を横目で見ながら、苦笑いをしていた。

モック「あ、アンタ達……まるで他人事じゃないですか!?困った人を助けようと言う精神を今の今まで学んでこなかったんですかね!?」

アスナ「まるで他人事じゃなくて、実際に他人事じゃない!困ってるですって―――どうせそんなのあんた達なら自力でどうにでも出来るんでしょ!?」

モックの糾弾に対して、アスナが猛反発の非難の言葉を送り返していたのだった。相変わらずガチャモンの頭にはバケツが挟まった状態のままで未だに抜ける状態が無かった。

モック「良いですよ良いですよ!もうアンタらの力なんか借りなくたって、私が自力でガチャモンを救って見せますですぞ!この私が―――ガチャモンを救って見せるのですぞぉ――――!!」

俺「救う相手が頭にバケツ挟まった奴じゃなかったら、素直に仲間想いな奴だって思われてたのかもな……」

エギル「てか、ボス部屋の扉が開かねぇみてーだぞ」

エギルが指摘して、俺もここで初めて気が付いた。第25層に続く階段の扉の前にALSやDKBのメンバーが数人集まっているが、ボスを倒した後も未だに開かず仕舞いの様子だった。

俺「まさかとは思うが、アイツらのこのやり取りが終わるまで、開かないとかじゃねーだろうな……?」

アスナ「全く迷惑極まりない話だわ!さっさと終わらせなさいよ!」

ユッチ「そーだそーだ!さっさと扉を開けろよお前ら!!」

アスナが眉間に皺を寄せて、声を荒げると、ユッチはそれに便乗するように同調していた。そして、アスナとユッチ、他にも数人のプレイヤーがガチャモンとモックに対してブーイングの声をぶつける中、モックは―――

モック「ぬおぉ―――!!ファイト、いっぷぁぁぁっつ!!」

モックが大声を上げてバケツを引っ張った時だった。ガチャモンの頭に挟まっていたバケツが、ポンッと間抜けな音を立てて引っこ抜けて、ようやくこれでボス部屋が開くと思った時だった。

ガチャモン?「いやぁ~、おかげさまで助かったでやんす~。興味本位でバケツを深く被って見ちゃったら、ガッチリハマって抜けなくなっちゃって困ってたんでやんすよ~」

俺「………………」

アスナ「………………」

キリト「………………」

ユッチ「って、誰だよお前!?」

そいつは、体型や体色はガチャモンと全く同じであったが、その顔は携帯などに使われる顔文字のような造りになっており、口調からして明らかにガチャモンとは別の誰かだった。

ガチャ之介「あ、オイラ――ガチャ之介(のすけ)って言うでやんす」

モック「ガ、ガチャ之介ですと……?私そんな人は知りませんですぞ!て、テイウカアンタはいったい何者なんですか!ガチャモンは一体全体、何処に行っちゃったんですか!?」

ガチャ之介と名乗るガチャモンの偽物は(ガチャモンもある意味では偽物みたいなもんだが)『いやぁ~』と呟いてから頭を掻きながら答える。

ガチャ之介「ガチャモンさんはリフレッシュ休暇を取って第64層に観光に行っちゃいましたでやんす。だからガチャモンさんが戻ってくるまで、オイラがガチャモンさんの代理人って事でよろしくでやんす~」

モック「ガチャモンがリフレッシュ休暇とか、代理人とか……私に何の一言も知らせないであの人ったら一体何してるんですかね全く……」

唐突に現れたガチャモンの代理人などと自称するガチャ之介の登場だったが、俺達からして見れば、そんな奴が現れた事などはまるでどうでもよかった。

アスナ「なにがリフレッシュ休暇よ……!普段から好き勝手してる癖に!」

エギル「もうコントは終わったんだろ?だったら第25層に続く扉を開けてもらえねーか?」

アスナがこの場にいないガチャモンに対して毒づき、エギルが扉の件で直接開けるように要求していた。

モック「あ、はいはい。もう何時でも開きますので、どーぞご勝手にお進みくださいですぞ~」

ガチャ之介「と言うわけで皆さん、ガチャモンさんがリフレッシュ休暇を終えるまでの間ですけど、
これからよろしくでやんす!」

俺達に挨拶をしてきたガチャ之介を相手にする者は誰もおらず、レイドパーティーのメンバーはそれぞれ、このまま第25層に進む者。一旦第24層の主街区に戻る者に分かれて移動を開始しようとしていた。

ボクスター「皆さん、今回はボス戦をご一緒に戦わせて頂きありがとうございました。僕は最後まで戦う事は叶いませんでしたけど、今回の戦いはこれからのボス戦を戦い抜くための貴重な経験になったと思います」

ボクスターはALSの一員として、一度主街区に戻る事を伝えてから、今回のボス戦の一件でのあいさつを俺達にしてきたのだった。

カレラ「相変わらず、兄貴は堅苦しいっつーの!こいつらがそんな事に気を使う連中じゃないって分かるっしょ?」

カレラがぶっきらぼうな態度でボクスターに対して呆れながらそう言い放つと、ボクスターが動揺しながら俺達に対して『本当にすみません……』とため息を付きながら言ったのだった。
そんなボクスターを見てエルダが微笑ましげに笑いながら最初に口を開いた。

エルダ「ま、それもそうね。これからもまた同じパーティーで戦う機会があるかもしれないからその時はよろしくね」

俺「そうだな、オタクらまだまだALSじゃ新戦力の扱いなんだろ?次の炙れるかもしれないから、その時は遠慮なく入ってくれ」

続けて俺が、軽い皮肉交じりにそう言うと、カレラは予想通りの反抗的な態度で『もー、世話にならねーよ!』と喚き散らしていたのだった。

そして、パーティーはその場で解散し、後はそれぞれ自分で25層に向かうか、主街区に戻るかを決めてから移動しようとしていた時だった。

レイナ「……どうして、あんなことしたの?」

俺「ん、なんだよ藪から棒に?」

俺はポーションでの回復を済ませた後、そのまま第25層に向かおうとしたのだったが、レイナが後ろから俺の防衣を掴んで、何時もに比べて弱々しく感じる声でそう呼び止めたのだった。

レイナ「……オズマはあの時、自分の身を挺して私を守ってくれた―――なんでそこまでするの?あのままだったら、オズマの方がボスにやられていたかもしれないのに」

俺「なんだ、またその話かよ」

それは既に俺の中ではとっくに終わった話――俺がレイナを助けようとして下半身が氷漬けになってしまった話の事だった。

俺「お前だってあのまま完全に凍ってたら、ボスにやられてた可能性が高いはずだろ?そう思ったら、何となく瞬間的になんとかしねーと、って思った程度の事だよ」

実際に、特に何かしら自分もレイナも両方助かる確証があっての行動ではなかった。あの時はとにかく、レイナが冷気を浴びそうになるのだけは理解し、瞬時にそれを自分に出来る方法で防ごうとしたらああなったと言うだけなんだ。

レイナ「……私には――」

レイナは数秒間の間を置いてから、俺の背中に額を押し付けた状態で話を続けた。

レイナ「……私には、人の命の重さ、尊さ、尊厳が分からない。――それが、現実世界での記憶が失われている事が原因なのかどうかは分からないけど……」

俺「やっぱり、記憶が戻ったらいいなとか思ったか?」

レイナ「…………」

俺は振り返らないままそう聞き返す。レイナの顔は見えていなかったが、レイナは無言で肯定したように俺は感じ取ったのだった。

そしてその後、レイナは俺にボスからドロップしたレアアイテムである結晶アイテムの『緊急回復結晶』を見せたのだった。
それは、所有者のHPが0になった時に自動発動し、所有者のHPを0の状態からHPの20%の状態で回復させると言う、HP0=死となるデスゲームのソードアート・オンラインでは一度きりながらも、死を回避させてくれる貴重な命を繋ぐアイテムだった。

レイナは命の尊さを理解していない自分が持っていても仕方ないと言って、俺に渡そうとしたが、俺はそれはレイナの物であると断っておいたのだった。




























西暦2023年3月31日。第25層攻略完了。アインクラッド解放隊は主力メンバーの大半を失う損害により、最前線から姿を消す事となった。

そして―――犠牲者の中の取るに足らない一人として、ボクスターの名前があったのであった……by立木ナレ 

 

FILE42 閑話・現実世界の小田桐家

 
前書き
今回は閑話なので短めです。 

 
西暦2023年4月上旬、デスゲーム、ソードアート・オンラインが開始されてから既に5カ月が経とうとしていた。
現実世界では未だに連日、各メディアがSAO事件と呼ばれるようになったその事件に関する報道を行い続け、警察によるSAO事件の黒幕とされる茅場晶彦の捜索は続いていた。

そして――当然言うまでもないが、茅場晶彦が開発部長を務め、ソードアート・オンラインを発売した企業であるアーガスへの責任追及も行われ続けていた!

事件の黒幕である茅場晶彦の行方が未だに掴めぬ以上、彼が勤めていた企業であるアーガスに対して被害者家族の恨みや怒りが向くのは必然!アーガスは最早ゲームメーカーとしての正常な機能を失いつつある状態であった!

そして――ここ、オズマこと小田切弭間(おだぎりはずま)の故郷である東京都台東区山谷の自宅アパートにて―――



恭史郎(きょうしろう)「ったく、なんだあの女はぁ!19歳だぁ~?―――んなわけあるかクソったれが!あの女はどう見たって30歳手前じゃねーかよ!」

オズマの祖父、小田桐恭史郎は怒り狂っていた!限られた生活保護費を浪費して楽しんでいる一ヶ月に一度のデリヘル嬢を呼んだ恭史郎だったが。新人で年齢が19歳の娘がいる事を知った恭史郎は早速、その女性を呼んだのだったが―――あからさまな年齢詐称であった!この手の水商売は、店側が雇っている女性の年齢を従来よりも低く公表する事はよくある事なのだが、今回恭史郎が呼び寄せた女性は19歳と公表していながら、その外見年齢は30歳手前!恭史郎は久々に未成年の娘を抱く事を楽しみにしていた分、凄まじい喪失感を味わったのであった!

時生(ときお)「俺が帰ってきた時から、そればっかだなエロ親父が。アンタがデリヘル呼ぶたびに家から出される俺―――俺と弭間の身にもなってみやがれっつーの!」

恭史郎「生意気に説教垂れてんじゃねーぞ!つーか、今は弭間は病院だから関係ねーだろうが!―――所でオメー、またハズマの病院に行ってきやがったってか?」

時生「まーな、相変わらずアイツの隣にはデカい黒人の兄さんが寝たきりで、迫力ある構図だったぜ。確か―――去年できたばっかりのダイシーカフェとか言う店のマスターとかだったか?」

時生は、恭史郎が家にデリヘル嬢を呼んでいる間に台東区にある、息子の弭間が入院している病院に見舞いを見に行っていたのだった。

小田桐時生、恭史郎の親子は息子や孫がSAO事件の被害者となり、病院のベットで寝たきりになっているにもかかわらず、病院でギャンブルの話や金の話ばかりので、病院の看護師や医者、そして他の入院患者及びその家族たちからは白眼視されているのである。

そんな時であった、特に理由もなしに付けっぱなしにしていたテレビでとあるニュースの報道がなされるのであった。

NK(ニュースキャスター)「速報です。先ほど、東京都八王子市の八王子駅で、アーガスの社員である男性が刃物を持った少年に襲われる事件が発生しました」

時生と恭史郎は、自分の孫や息子である弭間も関わっているSAO事件のニュースにふと、目を向けるのだった。

NK「事件を起こしたのはSAO事件の被害者を兄に持つ17歳の少年で、少年の兄は2週間前、八王子市の病院内でナーヴギアによって脳を焼かれ死亡し、その事に対する怨恨で事件を起こしたと思われます」

恭史郎「なんだよ、またアーガスの人間が襲われたってか?これで何度目だってんだ」

時生「どーせ、今回襲われたアーガスの社員とか言う奴だって下っ端だろうよ。何せ黒幕の茅場とか言う奴は相変わらず行方知れずで、上層部の連中は体調不良で辞任しただの、入院しただので雲隠れしちまったからな」

恭史郎は胸糞悪そうに、台所に唾を吐き捨てて、口を開く。

恭史郎「ったく、これだから企業ってのは気に食わねー!特に大企業ってのは、何かあるとすぐに下の連中に何もかも押し付けて、自分らは安全なところに逃げ隠れしやがって!なんだってそんな奴らが俺よりも何倍も高い給料もらってやがるんだ、ああーん!!」

時生「アンタが貰ってるのは給料じゃなくって、生活保護費だっつーの」

恭史郎「うるせー!公務員の連中だって国民の税金から給料もらってやがるんだろ?だったら俺らの貰ってる金だって国民の税金なんだから給料で良いんだよ!!」

時生「にしてもだ―――泥棒市で弭間の奴にナーヴギアを格安で売ったとか言う爺さん、何処の何者だ?俺も少しだけ見た気がするが、帽子で顔が隠れててよく見えねー上に、あんな状態の良いナーブギアをよくもまぁ、格安で売ってくれたもんだな」

恭史郎「どーせ、その辺で盗んだ盗難品だろうが!正規の店舗じゃうれねーから、この辺りの連中に売り付けようって考えただけの事だろ?俺だって何度もやった事だっての!!」

時生「察の世話になって20年以上貰ってる生活保護費を打ち切られるなんて事になっても知らねーぞ、俺は……」

 

 

FILE43 変わりゆく攻略集団・・・ガチャモン復帰!

 
前書き
今回は、冒頭の立木ナレの語りがかなり長いです。 

 
西暦2023年3月31日―――この日、第25層フロアボス戦にて、ALS(アインクラッド解放隊)は主力メンバーの半数以上を失う大損害を被ったのだった。

第25層フロアボス戦を前にして、ALSのリーダーであるキバオウは、何者かが流した偽情報に引っ掛かり、1レイドにも満たない40人のギルドメンバーだけで、ボス部屋に先行突入!

結果、解放隊の半分以上が戦死……そこでオズマ、キリト、アスナなど、その他大勢の攻略組の書力が追い付き、こちらも少なからずの死者を出しつつも、どうにか凶悪なフロアボスを討伐したのであった!

が、アインクラッドの4分の1を超えたと言う喜びを、誰一人としてあらわす事は無かった。キバオウの絶叫が、フロアボス部屋中に響き渡ったのであった。
そして、キバオウはそこで攻略組とも袖を分かち、生き残った仲間達を連れて、第一層へと去ったのであった。

これにより、攻略組全体は絶望的な雰囲気に支配されたのであった。だが、それも無理はない事である、何故なら……最前線で戦うプレイヤーの総数が、たった一度のフロアボス戦で3分の2となった上に、その上それが何者かの―――悪意あるプレイヤーの仕業である事が濃厚であったからである!

その後の第26層のフィールドボス攻略会議では、多くのプレイヤー達が暗い表情を浮かべ、既に攻略への意欲を失いつつあったものすら現れる中―――そこに現れたのは新生ギルドのKoB(血盟騎士団)であった!
全プレイヤーが白と赤のカスタム装備で統一され、相当なインパクトを他の攻略プレイヤー達に象徴付けたが……その中でも一際一層の存在感を放っていたのは、集団の先頭に立って現れた血盟騎士団副団長となったアスナであった。

彼女はそれまで、第一層で出会った悪名名高き黒のビーターであるキリトと唯一コンビを組んでいた、変わり者であったのだが、第25層フロアボス戦の直前にキリトとのコンビを解消し、血盟騎士団に入っていたのであった。

だが、そのアスナがよもや、ギルドのナンバー2の座を得ていた事は相棒であるキリトを含めて誰もが予想外の事であった。

アスナはそれまでの地味さを感じさせるフードを被った装備姿から一転、純白ノースリーブの斬至福に真っ赤なミニスカ、さらに白色のニーハイ!その姿をもってして、ある意味では―――バラバラになりつつあった攻略集団の心は一つになったかもしれないのであった!!

そして、攻略集団に起きた変化はそれだけではなかった。そんな血盟騎士団の結成から僅か10日後程から、最前線からそれまで孤島のソロプレイヤーを貫いてきた黒ビーターのキリトが最前線から姿を消すようになり、第一層から全てのフロアボス戦に参加し続けてきたのは嘘のように、一切ボス戦でも姿を現さなくなっていたのであった!

僅か数週間の間に、攻略集団は激変した―――これを進化と呼ぶべきか、もしくは変貌と呼ぶべきか、誰も解らぬまま時は西暦2023年4月21日の出来事であった―――― by立木ナレ




ユッチ「もー!何なんだよまた僕たちをこんなところに呼び出しやがって!フロアボス戦の攻略会議で忙しいってのに、空気読めよな~」

俺「お前は、第25層を最後に、ボス戦には参戦してないよな?」

再び全プレイヤーは、ガチャモンとモック―――もとい、モックとガチャモンの代役のガチャ之介によって、例の体育館に強制転移で呼び出されていた。

ユッチは攻略会議の邪魔をされたと憤っているが、第25層でALSが半壊する惨劇を目の当たりにしたユッチは、その光景に完全に戦意を喪失し、それを機にフロアボス戦の本戦には参加しない意向を示し、偵察戦に回るようになっていた。

元々こいつは、アスナに良い恰好を見せたいと言う理由で、無理をしながら最前線で戦い続け、フロアボス戦も参加し続けていたが、その見栄も、フロアボス戦では何時死ぬかもわからないと言う、本来であれば当たり前のメリットを実感した事でついに、ユッチは最前線で戦う気概を失ってしまったのであった。

最も、当人はそんな本心を決して認める事無く。あくまで自分自身では、自分なりのやり方で攻略集団の中で活躍したいと言い張っていたのだった。

エルダ「出たわよ、私達を呼び出した張本人たちがね……」

ユッチ「あ、出やがったな!」

エルダが体育館のステージを見つめながら、すました口調でそう言った頃には、ガチャ之介とモックが既に姿を見せていた。

俺「って、アイツら携帯ゲームしてやがるぞ!」

しかも、あれはかなり古い携帯ゲーム機だ。俺達が生まれる20年ほど前だろうか?すると、ガチャ之介とモックは同時に、こちらを振り向くのだった。

ガチャ之介「初めて一緒に……街を出た」

モック「新開発、モモトーン液晶画面!」

ガチャ之介のそんな語りから始まり、モックはやはりと言うべきか、携帯ゲーム機を世に広めたと言っても過言ではない名器、ゲームボーイを俺達の方に向けてそう叫んだ。

ガチャ之介「カートリッジ交換で……色んなゲームが楽しめる!」

モック「そして、ステレオ効果サウンド!!」

ガチャ之介「ハンディゲームマシン―――ゲームボーイ!」

モック「君となら……どこまでも……」

そして、ガチャ之介とモックは二人で声を揃えて―――

ガチャ之介&モック「「ゲームボーイ!1989年4月21日発売けって―――――い!!」」

ガチャ之介とモックは、既に34年前に発売された、携帯ゲーム機の宣伝をこの場で高らかに宣言したのだった。
余りにも昔の携帯ゲーム機の発売日決定を高らかに発表した二人に対して、プレイヤー達は一応に『今さら何言ってるんだこいつら?』、『今更誰も買わねーよ』、『世代が違い過ぎる……』と、小声で二人に対する不平不満を漏らし始めていた。

モック「いや~、このゲームボーイこそ、携帯ゲーム機と言うジャンルを世に広めた存在と言っても過言ではありませんですな~ガチャ之介」

ガチャ之介「まさに、携帯ゲーム機の歴史を突き動かしたって感じでやんすね~。一応、ゲームボーイの前にもゲーム&ウォッチとがあったんでやんすけど。ゲーム本体とカートリッジが別々で、カートリッジを交換して遊ぶゲームが代わるってのが斬新でしたやんすね~」

モック「全く、ゲームボーイの一年後に発売されたゲームギアは、タイミングが悪すぎたんですかね~?」

一応、俺の家にも親父が子供の頃に、爺さんが脱税して溜めた金を勝手に使って買ったとか言うゲームボーイがまだ家にあるが、かと言って奴らの懐かしい話に便乗する気には全くなれなかった。

アスナ「いい加減にしなさい!要件があるなら要領を得ない無駄な話題は止めて、さっさと本題に入って!!」

苛立つプレイヤー達を代表するように、ガチャ之介とモックに対してまるで恐れる事無く、果敢に一喝したのは既に血盟騎士団の副団長として知られるようになったアスナだった。

ユッチ「さ、流石はアスナさんっす……僕もアスナさんにガツンと叱られたいな~。あのミニスカ捲ったら、叱ってもらえるっすかね?」

俺「ガツンと叱られるどころか、レイピアでケツの穴を広げられそうだな……」

ユッチ「そ、それは――――それはそれでありかも知れないっすね!」

俺「俺は今、お前をギルドにこのまま入れ続けて本当に良いのか不安に思えて来たぞ……」

エルダ「君達のその不毛なやり取りも、そこで打ち切りにしてもらえないかしらね?」

ユッチだけならまだしも、俺までバカを見るような目で見られたことは不服だが、エルダの言っている事は最もなのでここは静観するとしよう。

アスナがガチャ之介とモックを一括すると、2人の自称マスコットキャラたちはアスナの声が聞こえた方に体勢を向けると、アスナの周囲にいたプレイヤー達が、言われるまでも無くアスナに道を開けるように、一斉にザーッと動き出すのだった。

俺「あっという間にアスナが見えるようになっちまったな……」

レイナ「……どうして、血盟騎士団のプレイヤー以外までアスナに気を利かせるの?」

俺「無言の圧力って奴なのかもな……」

実際に、俺もアスナの近くにいたら、何も言われるまでも無くアスナに道を開けていたかもしれないだろう。
そして、改めてアスナは見通しが良くなった周囲を軽く一瞥した後、ステージの上のガチャ之介とモックを睨み付けて、高い声を上げるのだった。

アスナ「さあ、説明してもらうわよ。貴方達は私達をこんなところにまた呼び出して、何がしたいわけ?」

ガチャ之介「なにがしたい……ですってモックさん」

モック「ぐほほっ!いつもはこんな時に真っ先にうるさいだみ声で喚くのはキバオウさんの役目だったはずなんですが~、そのキバオウさんは一体全体どうしちゃったんですかね~?」

モックはキバオウがなぜ、この場において沈黙を保っている理由を知っているにもかかわらず、挑発するように、まるでキバオウを探すかのように周囲をキョロキョロと見渡し始めていた。

そんなモックの行動に、第25層での一件を生き延びたALSのプレイヤー達が苛立たしげな表情を浮かべ始めるのだったが――

アスナ「今、あんた達と話してるのは私よ!さっさと何なのか答えなさい!」

アスナの鋭い一声によって、その空気は斬り割かれたのだった。ガチャ之介とモックも、それ以上は余計な行動を取る事無く、自分達を相手にまるで緊張も、動揺も、恐怖心も見せないアスナをじっと見据えていた。
やがて、モックが両手を広げて、首を左右に振ると、ため息交じりに言い始めるのだった。

モック「はぁ……アスナさんには我々のユーモアが通じないようで、困ったものですなぁ~。良いですよ良いですよ!それじゃ発表しちゃいましょうじゃないですか!」

ガチャ之介「えっと、モックさん。実はオイラもこれから何が起きるのか分からないんでやんすが……」

「ただいま、みんな~」

ガチャ之介「って、この声は!?」

ガチャ之介がモックに対して、説明を求めようとした矢先に、俺達が聞き慣れた―――聞き慣れてしまった声がどこからともなく、聞こえてきたのであった。

レイナ「……久しぶりのガチャモンね」

俺「もーしばらく、休暇してやがれって感じだがな……」

誰もが聞き覚えのあるガチャモンの声が聞こえて、プレイヤー達は『どこだどこだ!』、『いるなら出てきやがれ!』、『お呼びじゃないわよ!』と声が沸き上がる中、奴は再び、だいたい一カ月ぶりくらいに姿を見せるのだった――――天使のような純白の翼を背に、舞い降りたのだった……

ガチャモン「ただいま、みんなぁ――――!!ガチャガチャモンモン、ガチャモンでーす!」

モック「そう、ガチャモンがリフレッシュ休暇を終えて帰還いたしました!今回はガチャモンの復帰発表でした―――!!」

その瞬間、プレイヤー達が一斉にブーイングをガチャモンに浴びせまくったのは言うまでも無かった。勝手にリフレッシュ休暇を取って、ガチャ之介などと言う代役を置いて、遥か上層を満喫していたガチャモンを歓迎する者は皆無だった。

ガチャ之介「が、ガチャモンさんでやんすか?いや~、オイラ、前々からガチャモンさんにお会いしたかったでやんすよ~」

ガチャ之介が感激しながら、ガチャモンに駆け寄って、そのまま熱い抱擁を交わそうと―――

ガチャモン「あ、ご苦労様バイト君。これ、バイト代だからさ、これ受け取ったらさっさと帰ってね~」

ガチャモンは素っ気ない態度で封筒を一枚、ガチャ之介に手渡したのだった。

ガチャ之介「な、なんか……何もかも期待を一瞬でぶち壊された気分でやんす……憧れのタレントに会えたのは良いけど、思ってたのとは全然違う人物像で、ガッカリしてるファンの気持ちが分かったでやんすよ……」

ガチャ之介は、心底しんみりした様子でその場から姿を消した―――そして、一カ月ぶりに姿を現したガチャモンはプレイヤー達を見渡してこう言うのだった。

ガチャモン「と言うわけで、今日からみんなのアイドルマスコットのガチャモンのふっかーつ!あ、それとガチャ之介君の出番はもう二度とないから、彼の――多分一人もいないファンの人達は残念でした~」

奴に限らず、お前のファンだってこのアインクラッドに誰一人として、いやしないだろうな。だが、ガチャモンはそんな事などお構いなしと言わんばかりに、プレイヤー達に対して、正体の分からぬ悪寒を感じさせた直後にこう言った。

ガチャモン「アインクラッドの恐怖はまだこれからさ―――たったの4分の1そこそこをクリアしたばかりの君達には、想像も付かないような地獄が――――君らを待ってるよ~」

 

 

FILE44 ギルドホームを賭けた話

西暦2023年6月12日。最前線は第29層となり、恐らく数日中にはフロアボス戦が開始されるであろうとの見立てが、攻略集団の中で噂されている中、オズマはレイナ、エルダと共に第一層のはじまりの街を訪れていた。 by立木ナレ



俺「ほら、ご所望の素材アイテム一式だ」

リズベット「は~い、ご苦労様でした~。いや~、これだけあれば高位の防具や武器を造り易くなるから助かるわよ~」

俺達はリズベットから数日前に、最前線でも通用する装備を製造するのに必要な素材アイテムを集めてほしいとの依頼を受けていた。
装備を製造する際に、依頼する側のプレイヤーが素材アイテムを持っている分には良いのだが、鍛冶屋側のプレイヤーが強化素材を持っている場合、依頼する側は素材アイテムを用意する手間が省けるので、高い金を払ってでも良いから、すぐに手に入れたいと思っているプレイヤーも中に入る為、リズベットの様に店側が強化素材をある程度ストックする鍛冶職のプレイヤーは少なくなかった。

リズベット「早速、アインクラッドのニュースに、鍛冶屋のリズベットが強化素材一式入荷って一面に載せてもらわなくちゃね~」

俺「一介の鍛冶屋が強化素材一式入荷したくらいで、一面に載るかよ……」

エルダ「でも、リズの作る装備には私も結構お世話になってるわよ。武器の強化の時も含めてね―――この前作ってくれたこの剣だって、使い勝手は抜群だわ」

俺の横で、エルダが以前にリズベットに製造を依頼して作ってもらったレイピアを握り締めてそうリズベットを褒め称えていた。
ちなみに、リズと言うのはリズベットの通称だった。
エルダがリズの製造したレイピアを褒め称えると、リズも気を良くして、大声で豪快に笑いながら言った。

リズベット「でっしょ~?アンタってやっぱり話が分かるわよエルダ~、アンタみたいに物の価値が分かる人がアタシの武器を使ってくれれば、アタシの鍛冶屋としての名前もあがるから期待してるわよ~」

エルダ「ええ、第28層のフロアボス戦ではこの剣でLAボーナスを決めて見せたから、リズベットの作る武器は凄いな~って、言ってる人もいるかもしれないわね」

リズとエルダは楽しげに笑いながら談笑していた、そんな中――二人の楽しげな談笑を一歩引いたところで、レイナが無言で眺めていた。

俺「ボーっと見てないで、お前もなんか話したらどうだよ?お前のその防具だって、リズベット製なんだろ?」

俺がそうレイナに促すと、レイナは首を小さく横に振って、小さな声で言った。

レイナ「……彼女は多分――私を怖がってると思うから止めておく」

俺「それって――あの事の事か?」

レイナ「…………」

レイナは首を小さく縦に振って頷ていた。以前に俺、レイナ、リズの依頼で、リズが探し求めていた『匠の木槌』を入手しに行った際に、レイナは帰り道で襲ってきたPK集団の一人を返り討ちにして逆にPKした。

確かにあの時のリズはレイナがまさか、襲ってきた相手を返り討ちでPKするなどとは思っておらず、相手がPK集団の一味とは言え、呆気なく相手の命を奪ったレイナに対して恐怖心を感じているように、俺も思えていた。

そして、リズベットがレイナに対して抱いた恐怖心は、そのままレイナに伝わったのは言うまでも無く、レイナはその事を配慮してか、こうして久々に再会したのだが、リズに一言も声を掛けていなかった。

俺「まあ、レイナは普段から自分らあんまり声を掛けたりしないけどな……」

エルダを連れてきたのは幸いだったな。知り合って日の浅い二人だったが、数少ない女性プレイヤー同士と言うだけでなく、比較的コミュ力が高い者同士で、2人はすぐに打ち解けて、会うたびに談笑する仲になってた。

その後、俺達はリズベットから依頼の報酬である結晶アイテムと、ある程度の(コル)を受け取って、はじまりの街から転移門を使って離れようとした時だった。

「ちょっと待ってよ!このホームは私達が前から目を付けてたんだよ!それをいきなり自分達が買うとか、買う権利を掛けてデュエルで決めようとか、そんな勝手許されると思ってるわけ!?」

そんな、女性プレイヤーの怒りを孕んだ様な声が響き渡ってきたのだった。別に俺とレイナだけなら、そんな事は特に気にも留めないのだが、今回は同行者の中にエルダもいたので―――

エルダ「何の騒ぎかしらね?ちょっと様子見に行きましょ」

俺「どーせ、大したことじゃねーだろ。それにここは圏内なんだから――って聞いちゃいねぇ……」

エルダはあっという間に騒ぎが起きたであろう方に走って行ってしまったのだった。仕方なく俺とレイナも後を追い、人込みを掻き分けて、そこに辿り着くと、そこは二組のプレイヤーが対峙しており、その間に他の一人のプレイヤーが困り果てた表情を浮かべていた。

「勘弁してくださいよ~、俺達、このギルドホーム向けのハウスを買う為に苦労してお金を貯め続けて、ようやく目標額まで達したんですよ!それで、ギルドの他の仲間達に家を買って来るから、楽しみに待ってくれって言ったのに―――ここで横取りされちゃったら、仲間達に合わせる顔が無いんですよ」

さっき大声をあげたであろう女性プレイヤーの隣に立っていた、高校生くらいと思わしき棍を武器にしている、少年プレイヤーが対峙する二人の重装備のプレイヤー二人に対して、そう懇願するが、2人の重戦士はそんな身の上話を聞いたくらいで譲らず、苛立たしげな怒声を上げて言い返す。

重戦士A「やかましい!俺等だって最近になって、ここをホームにして活動するって考えた所なんだよ!それに金だってちゃんと用意してるんだ!」

重戦士B「ギルドホームを買うのに必要な金を持ったプレイヤーが二組……同時に同じホームを買いたいって希望してるってんなら、これはもうSAOプレイヤー同士、決闘(デュエル)で蹴り付けるしかねーだろうが!!」

重戦士A「当然の事だな、オメーもそう思うだろ仲介人さんよぉ?」

重戦士はギルドホームの仲介人らしい男に対して、眉間に皺を寄せた、威圧的な表情で、恫喝するようにそう言った。
その迫力に対して仲介人の男は、縮こまった様子で『あ、ええ、ですね……』と押し切られるようにそう口ずさんでいたのだった。

仲介人としては、この場合はオークション形式にして、より高い金額を提示した方にホームを売りたいのだろうが、重戦士二人は、これ以上の金額をあのホームに出す事を惜しんでいるようで、無茶な暴論を押し通して、ホームの購入する権利を決闘(デュエル)の勝敗で決定しようと持ち掛けているわけだ。

つまり、デュエルを要請している重装戦士の二人は、相手側の二人の男女のプレイヤーを相手に勝てる自信があると言う事だろう。

エルダ「いるわよね、ああいう横柄な連中って―――何か取り合いになると、その決め方を自分の得意分野での勝負に持ち込もうとする奴って」

俺「運動の得意な奴は、スポーツでの勝負に持ち込もうとする―――勉強の得意な奴は、勉強での勝負に持ち込もうとするって感じにか?」

俺は、自分の小学校時代での経験上から、エルダの言いたいことを俺なりに予想して、そう聞いてみるとエルダはクスクスと苦笑しながら頷いた。

エルダ「そう、それよ!特に学校なんてのは、勉強とか部活動を重要視してるから、それ以外の特技はあるけど、勉強やスポーツが苦手な子にとっては一方的に不利益ばっかり被るじゃない?」

俺「はは……ほんっとだよな」

俺はエルダの言った事に対して、この上なく共感して、自嘲の意味も込めて笑いながらそう言った。そんな、他愛のない現実(リアル)での出来事の経験を話していた時に、レイナが口を開いた。

レイナ「……あの重装戦士たち、最前線で活動してる小規模ギルドのプレイヤー達だわ」

俺「あ~、やっぱりそうだったか。何度か見た事のある連中だとは思ったがな」

レイナの指摘で俺は、最前線のフィールドで狩りをしている重装戦士たちの集団を何度か目撃している事を思い出していた。

最も、活動場所こそ最前線の層で行われているが、フロアボス戦には参加していないので攻略集団の一員と言うわけでもないが、それでも中層のプレイヤー達に比べれば、レベル的にも技量的にも上回ているのは確かだろう。

エルダ「あっちの男の子と女の子の二人は、見ない子達ね……」

俺「中層のプレイヤー達だろ。重装戦士の奴らだって、相手が最前線のプレイヤーじゃない事くらいは気が付いてるだろ。まともにデュエルでやり合えば、勝てるって分かり切ってるからそんな決め方を持ち込んでやがるってわけだな」

しばらく口論が続くかと思ったが、ギルドホームの仲介人が結局、重装戦士たちに押し切られる形で、購入の権利をデュエルの勝敗で決定する事で了承してしまったので、両陣営は、30分後に、この場所で一対一のデュエルを行う事になったようだった。

レイナ「……話がまとまった―――の?」

俺「かなり強引な形だがな……」

重装戦士たちは自分たちが負けるわけがないと、自負しているだけあって、30分後のデュエルが楽しみだと笑いながら、一時的にその場から立ち去ると。
その光景を見ていた野次馬たちも、もはやデュエルの勝敗は見るまでも無いだろうと考えて、次々と散っていったのだった。

短剣使い少女「アイツら、アタシ達がずっと前から狙ってたホームを横取りしようなんて!そんなにデュエルで決着付けるって言うなら、アタシが倒すわよ!」

棍使い少年「けど、マオ―――僕たちの腕前だと、どう考えたってアイツらには勝てないよ」

マオ「けど、ケイタ!折角必要な資金が溜まって、やっとギルドホームが手に入るところだって言うのに―――こんなところで買い逃しちゃっていいの!?」

ケイタと言う少年プレイヤーに対してマオと呼ばれた少女プレイヤーが、悔しみが籠った声を上げると、ケイタは握り拳を震えさせて、マオ以上に悔しそうな声を上げる。

ケイタ「そりゃ、僕だってこのままじゃ納得できないよ!迷宮区に行ってるテツオ達が帰ってきたら、ギルドホームを見せてやりたいのに―――アイツらにホームが買えなかったなんて報告なんてしたくない!」

その会話からして、2人は中層の小規模なギルドを組んでいて、ギルドホームを買うために金を溜め続けて、ようやく買えるぞってところで、あの最前線の重装戦士たちによってその夢を絶たれようとしてるんだろうな。

レイナ「……オズマ、どうしたの?」

俺「なんでもねぇ、つーか、用はとっくに住んでるんだからもう始まりの街には用はないだろ」

元々リズベットの依頼を果たしに来ただけなのだが、エルダがここの騒ぎを聞きつけて、それでこのやり取りを見ただけに過ぎない。
なので、ここで見た事は記憶の中に留めておくとして、一介の野次馬に過ぎなかった俺達は黙ってこの場を離れるだけ―――

エルダ「突然だけど、そのホーム。私達も買い取りに名乗りを上げさせてもらおうかしらね?」

俺「って、何勝手に名乗り出てるんだお前……!」

エルダが勝手に、仲介人に対してそんな事を申し出ていた。ただでさえややこしい状況下に更に事態をややこしくしに現れたようなエルダの出現に仲介はやはり、動揺するばかりだったが、それに対して当然二人の男女の内の一人が声を荒げる。

マオ「ちょっと何なのよアンタ!?さっきの連中と言い―――アタシ達の邪魔しないで!」

俺「買わねーよ!俺達は別にギルドホーム買う予定何て何時そんな話をしたんだ!?」

俺は即座にエルダを止めて、一瞬触発の状況を止めようとしたが、エルダは右手を広げて俺を制止するような動作を見せてから、楽しげな表情で更に勝手に話を続ける。

エルダ「はいはい、私の話はまだこれから―――それでね、お二人さん。貴方達にはホームの購入権を掛けたデュエルを辞退してもらえるかしら?」

ケイタ「そ、そんな―――」

マオ「冗談じゃないわよ!いきなりしゃしゃり出て来て、辞退しろなんて!」

ケイタが困り果てた表情で動揺し、マオが血管がぶち切れ寸前ではないかと思えるような表情に変貌する。
一方的に割り込んできて、そんな事を言えば、怒りを買うのは当然の事だが、この時俺は何となく―――エルダには俺にとっても悪く無い案があると何となく思ったのだった。

そして――エルダはケイタとマオを交互に見渡して、ニヤッと不敵な笑みを浮かべてから口を開く。

エルダ「ねぇ、君達。アタシらのギルドがデュエルで勝って、ギルドホームを購入したらさ――購入額+何かしらのレアアイテムでホームをアタシ達から買ってくれないかしら?」



エルダの提案を聞かされたケイタとマオは呆気にとられた様に口を開けて呆然とする。そして、オズマもそんなエルダの提案を後ろから聞き、呆れ半分、感心交じりのため息をついていたのであった!by立木ナレ 
 

 
後書き
今回の話は、キリトが月夜の黒猫団に加入し、当時の最前線よりも二層下の迷宮区にケイタ以外のメンバーと共に行っていた頃の裏話的な話でした。 

 

FILE45 デュエル開始!怒涛のソードスキル4コンボ!

オズマは、レイナとエルダを引き連れて、第一層のはじまりの街へに訪れていた。目的はリズベットから依頼されていた素材アイテム一式の進呈であり、目的を為し終えた一行はそのまま始まりの街を後にしようとした矢先―――二組のそれぞれ二人組のプレイヤーが同じホームを購入する権利を巡って争っている場面を目撃した!

最前線付近で活動している重装戦士二人組の強引な提案で一対一の決闘(デュエル)でホームを買う権利を消える事になるが、棍棒使いのケイタと、短剣使いのマオの二人組は、自分達に圧倒的に不利な勝負である事を自覚し、迷宮区へ狩りに行った仲間達に合わせる顔が無いと消沈している中――エルダが勝手に天あんするのであった、自分達のギルドもホームを購入する権利を掛けてデュエルに参加する事を!そして更に、ケイタ、マオの二人にはデュエルを辞退し、自分達が勝利した場合、ホームの購入に掛かった代金+特定のアイテムを幾つかで買い取ると言う提案を……悪魔的な取引を持ち掛ける! by立木ナレ


ケイタ「僕たち、お金はホームをギリギリで買える分しか持っていなくて―――渡せるアイテムと言えばこの程度の結晶アイテム位しかないですけど……」

マオ「アタシはこれくらいかな……」

ケイタがオブジェクト化して提示したのは、緊急脱出などに多用されている転移結晶だった。同じくマオがオブジェクト化したのは、発動と同時に、瞬時にHPを回復できる回復結晶だった。

エルダ「うん、良いじゃない。どっちも攻略集団にとってはクリスタルの中でも重宝してる転移結晶と回復結晶なら文句ないわね」

エルダは今回の事実上のデュエルの代役の実質の報酬となる二つの結晶アイテムを確認して、満足そうに頷きながらそう言った。

ケイタ「それじゃあ、僕たちの代わりにアイツらとデュエルしてくれるのかい?」

エルダ「ええ、任せなさいってば。アイツらも中々の腕前見たいだけど、勝つのはこの―――」

そう言いながら、エルダは俺の方を振り向く。瞬時に嫌な予感を感じ取った俺は、その場からバックステップで距離を取ろうとしたのだったが、僅かに遅く、エルダに肩を叩かれてしまった。

エルダ「勝つのはこの―――オズマ君に決まりよ」

マオ「は……?貴方がデュエルするんじゃないの?」

拍子抜けしたような表情で、エルダに対して訝しむような視線を向けてマオがそう言った。俺も全く同じ感想を抱いていたところだしな。

エルダ「ええ、私達のギルドのリーダーは彼―――オズマ君だから、ここはサブリーダーとしてリーダーの顔を立てておきたいのよね」

俺「都合の良い言い方しやがって、自分で引き受けた荒事を体よく押し付けただけだろうが」

だがまあ、俺なら確実に勝てそうな相手とのデュエルで結晶アイテムを二個も手に入れられるのは、確かに条件としては悪くなかった。

マオ「けど、本当にあんた達、勝てるわけ?もし、ここで負けでもしてくれたら、どうやって責任を――」

ケイタ「止めようマオ。どっちにしろ、僕たちじゃ勝てる可能性はかなり低いんだからさ。それならここは、この人たちに僕らの希望を託すのも選択肢の一つなんだと思うんだ」

マオが俺達の実力に対して不信感を抱き、訝しむが、それをケイタが冷静に沈めて宥めていた。どうやら、ケイタの方がギルドのリーダーらしく、ケイタにそう言われると、マオは渋々と言った様子で大人しくなり、この方針に従うのだった。

そしてその直後、レイナが俺達の視線の奥の方から、ガチャガチャと鎧の音を鳴らしながら歩いてくる二人組に気が付く。

レイナ「……重装戦士たちが戻って来たわ」

俺「ピッタリ本当に30分後に戻ってきやがるとは、時間に正確な連中なんだな」

ウチの爺さんが月一で自宅に呼び出すデリヘル嬢が、毎回のように約束の呼び出し時間に遅れてくるのとは正反対だな。

エルダ「君達は群衆に混じって隠れてなさい。君達はホームの購入を諦めたって言う事になってるんだから」

エルダにそう促されて、ケイタとマオはその辺りの群衆に紛れて姿を隠していた。俺もくだらない思考を打ち切り、仲介人の前に現れた、あの時の二人組の重装戦士たちと対峙する形になる。

重装戦士A「なんだ、お前ら?――さっきのギルドホームを買うだとかほざいてた連中じゃねーじゃねーか」

俺「アイツらは、ホームを購入する権利を放棄したからもうこの場には現れねーよ」

俺がそう言い放つと、重装戦士たちは数秒間無言の後、2人してゲラゲラと下品に、侮辱的な笑い声をあげ始めた。

重装戦士B「なんだそりゃ!見た目通りしょぼい連中だったのかよ!こりゃ、話にならねー!」

重装戦士A「ったく、30分間時間の猶予を与えてやったってのに、結局は敵前逃亡かよ!ま、これで俺達の不戦勝で、ホームを買うのは俺達になったわけだよな、そうだよな仲介人さんよぉ!?」

気を良くした重装戦士たちは笑い尽くした後、仲介人を睨み付けて、恫喝するように大声でそう問いただすが、気弱そうな仲介人はプルプルと震えた手で、俺を指差していた。

だが、その先の言葉がなかなか出てこないようなので、俺が代わりに答えておくことにする。

俺「あの二人組は、購入を諦めたんだけど。俺達が何か、買いたくなっちまったからな。んで――ホームを買う権利を掛けて、俺VSアンタらのどちらかになったわけだな」

俺が飄々とした口調で、そう説明すると、途端に重装戦士たちの機嫌が凄まじく、悪化!怒りを孕んだ大声を上げ始めるのだった。

重装戦士A「オイなんだとコラァ!今まで無関係だった奴らが、しゃしゃり出て来て自分達も買うとか、ざけてんじゃねーぞ!」

重装戦士B「あの二人が棄権した時点で、ホームを買う権利は俺達のもんなんだよ!最初から関係のねー奴らは引っ込んでろ!あのホームは前から俺らが狙ってたんだからよ!」

重装戦士たちは俺に対しても、凄んで喚きだすが、その様子をクスクスと笑みをこぼしながら見ていたエルダが言った。

エルダ「おかしな話よね、後からしゃしゃり出てくるのがダメだって言うのなら。あの二人よりも後からホームを買う事を名乗り出た貴方達だってホームを買う権利なんて最初から無かった事になっちゃうわね」

重装戦士B「はぁ――!?なに、勝手な事抜かしてんだボケェ!」

エルダ「あ、でもぉ~。相手が確実に勝てるかどうか定かじゃないとなると、デュエルで決着付けるのに尻込みしちゃう気持も、そりゃ分からなくはないから仕方ないかもって事かしらね?」

エルダのその挑発的な言葉は、奴らの怒りの臨界点を呆気なく超えさせたのだった。

重装戦士A「上等じゃねーか!テメーら如き、力の違いを見せてやろうじゃねぇか!覚悟しとけぇ!!」

そう喚いた重装戦士は、早速俺に初撃決着モードのデュエルを申請してきていた。

エルダ「良いわよ、良いわよ、上手く引っ張り出せたわね~」

レイナ「……エルダ、なんだか面白そう」

俺はデュエルの申請を受け付けると、早速ウインドウメッセージの上部にカウントダウンの数字が表示され始めていた。
相手の装備は右手が片手斧で左手が大型の盾を装備し、全身は見ての通り重金属の鎧で覆われた装備だった。



オズマと重装戦士はお互いに無言のまま、デュエル開始までのカウントが0になるまで、静観―――そして、カウントが0になった直後に【DUEL!】の文字が弾けて、この瞬間、両プレイヤー間のみ、圏内であれで戦闘でのダメージが発生するようになるのであった!



重装戦士A「おらぁっ!」

早速、重装戦士は左手の盾を前に突き出しながら突進し、片手斧を振り下ろす攻撃を仕掛けてきた。俺迂闊に攻撃を仕掛けずに、素早く飛び退くようにして、斧の攻撃を回避していた。

重装戦士A「ちょこまかしてんじゃねぇ!今度はどうだぁ!」

重装戦士は苛立った声で怒鳴ると、早速ソードスキルの構えを取っていた。奴が発動しようとしているのは水平2連撃技のダブルクリープだった。
結構な至近距離からだったので、俺もこれは無理に避けずにソードスキルで対抗する事にした。

この距離から相手のソードスキルの発動に間に合い、威力を相殺し合える技として発動したのは3連撃ソードスキルのサベージ・フルクラムだった。

まずは右からの水平斬りが、敵の水平で振り回される斧と相打ちし合い、直後にこちらが剣を垂直に跳ね上げるが、それも相手の斧と相打ちになった。本来であれば三連撃目に垂直斬り下ろしがあるのだが、2発目の打ち合いでお互いの剣と斧が弾かれて、ソードスキルはそこで中断となってしまった。

重装戦士A「クソったれが……!手間掛けさせやがって!」

俺「ホント、見た目通りあんたもしぶといもんだな」

俺はそう言いながら、敵から距離を取りつつ、片手直剣を鞘に納める。それを見た重装戦士は訝しそうな表情を浮かべるが、すぐにそれが何なのかに気が付いて不敵に笑った。

重装戦士A「まさか、納刀術スキルって奴か?話には聞いたことあるが、剣を鞘に納めて戦うあれをやって来るとはな……だが、慣れねースキルで戦って大丈夫なのかよ!」

俺「散々使い慣れてるぜ、何せ第4層で習得してからずっとだからな……」

俺は早速、納刀術ソードスキルの瞬突(しゅんとつ)を発動した。技発動後の硬直が皆無のソードスキルではあるが、基本的にただ鞘で殴るだけなので、あっさりと重装戦士の盾によってガードされてしまう。

重装戦士A「効くかよ、そんな技がよぉ!」

俺「それじゃ、この後もその盾で防ぎきれるか!?」

俺が続けて発動したのは3連撃の納刀術ソードスキルの双衝(そうしょう)だった。

重装戦士「ぬおっ!そ、それが何だってんだ!!」

膝蹴りで敵を打ち上げて鞘で殴り落としそのまま鞘で追撃する技だったが。流石の重装戦士は持ち前の分厚い盾でその三連撃すらも何とか耐えきって見せていた。

俺「まだ終わらねーよ!」

重装戦士A「なんだ……と!?」

これで今度こそソードスキルが終わったと思っていた重装戦士には不測の展開だろう。続けて俺が発動したのは、直前に発動した納刀術ソードスキルの硬直をキャンセルして瞬時に発動可能な抜刀(ばっとう)だった。

鞘から剣を居合斬りの要領で引き抜いて一撃を食らわせるソードスキルなので、発動後は当然、鞘から剣を抜いた状態に―――つまり納刀状態ではなくなる癖のある技だったが。このソードスキルもまた、発動直後の硬直を、他のソードスキルを発動する事でキャンセルし、瞬時に繋げて発動する特性を持った技であった。

エルダ「勝負あったわね」

レイナ「……オズマなら当然よ」

既に奴の自慢の分厚い盾は、抜刀の一撃で弾き飛ばされて、手から離れてしまった状態だった。そんな重装戦士に俺は4連続目となる、今度は片手直剣ソードスキルを食らわせる事になるわけで―――

俺「今度はどうするんだろう――なっとぉ!!」

重装戦士A「うぐわぁぁぁっ!!」

垂直4連撃ソードスキルのバーチカル・スクエアを食らった重装戦士は大声を上げて、その4連撃全てをまともに防ぐ事もままならずに食らったのだった。

初撃決着モードのデュエルは強攻撃が一度でもヒットする、あるいはHPバーが半分以下になるのどちらかの条件を満たす事で勝敗が決する為、この時点でこのデュエルは完全に俺の勝利と言う裁定が下されたのだった。

重装戦士B「そ、ソードスキルの硬直を次々とキャンセルして……合計4連続ソードスキルとかあ、あり得ねぇって!」

俺「それが、見ての通りあり得たわけなんだとなこれが」

俺が淡々とそう言うと、重装戦士達は放心した表情と化し、力の抜けた足取りで二人ともトボトボとその場からゆっくりと立ち去って行ったのであった。

いつの間にか、周辺をうろついていたプレイヤー達は俺達のデュエルをじっと見ていたようで、周囲一帯で大きな歓声が沸き起こっていた。

エルダ「お疲れ様リーダー。流石、引き受けたからにはやる男ってわけね!」

俺「勝手に押し付けておいて、何言ってんだお前は……」

白々しく褒め称えるエルダに対して、俺は呆れた目付きを向けながらそう言ってやった。

レイナ「……けど、オズマ、確かに凄かったわ」

ケイタ「ええ、本当に……本当にすごいですよ!」

マオ「アンタ……マジで凄腕だったのね。なんか最初疑ってゴメンね……」

レイナが珍しく素直に褒め称えて、ケイタとマオは群衆の中から駆け寄って来て、俺の戦いを見て心底感激した様子を見せて、マオも軽く詫びの言葉を口にしながら、俺の戦いに驚いた様子を見せたのだったt。 

 

FILE46 再開を誓って――茅場晶彦の旧友?


連続!怒涛!そして―――圧倒的!オズマと重装戦士プレイヤーのデュエルは、オズマのソードスキルを4連続で発動するコンボにより、オズマの完膚なきまでの勝利を収めたのであった!

仲介人が見ている手前。形式上ではあるが、ホームはオズマらが手持ちのコルをはたいて購入。――そして、それをケイタとマオが同額のコルで買い取り、2人はオズマらに転移結晶と回復結晶を提供したのであった!! by立木ナレ



ケイタ「オズマ君だっけ、本当にありがとう。君のおかげで、迷宮区に潜ってる仲間達に最高の報告が出来るよ」

リーダーのケイタは何度も俺に礼の言葉を述べていた。ギルドメンバー全員で金を溜めて、手に入れようとしていたホームとだけあって、是が非でも手に入れたかったのだろう。

マオ「もしかしてさ、オズマ達ってその―――攻略組の一員だったりする?」

俺「ああ、そうだな」

流石にあんな戦いを見せれば、俺達が攻略組である事に気が付くのは無理もないだろう。別に特に隠す必要も無い事なので、俺は即座に認めた。

マオ「やっぱり攻略組って凄いわね、ねーケイタ。この分だと、アタシ達が攻略組に入るって言う目標は、はるか遠いんじゃないの~?」

マオがからかう様に笑いながらケイタの肩を叩くと、ケイタは苦笑しながら『た、確かにな』と言ってから話を続ける。

ケイタ「う~ん。ぶっちゃけ僕も心配になってきちゃったな~……攻略組に入るには、あれくらいの腕前が求められるんだと思うと」

レイナ「……心配し過ぎよ」

攻略組に入るまでの道のりを不安に感じるケイタに対して、初めてレイナの方が、この二人に対して自発的に口を開き、そう言い、更に言葉は続く。

レイナ「……オズマは、攻略組の中でも飛び抜けて強い人だから……普通は幾らなんでもあそこまで強くなるまでも無いわ」

エルダ「だってさ、オズマ君。レイナちゃんがこんなに褒めてくれるなんて、良い事あったじゃない」

妙にエルダがニヤついた笑顔で俺の肩を掴んでじっと見てくる。そのニヤニヤとした笑顔はイラつくが、確かにレイナが人の戦いや実力をこのように称賛するなんて今までなかった事だ―――そして、その異例がまさか俺になったわけだが。

レイナ「……別に、事実だからそう言っただけ」

レイナは素っ気なく目を反らして、そう呟いた。

ケイタ「とにかく、本当にありがとう。僕たちが攻略組に入るのはずっと先になるかもしれないけど、それでも地道に精進しようと思ってるよ。ギルドホームを買うためのお金を仲間たちと一緒に協力して溜め続けたようにね」

ケイタはそう言いながら、ついに我が物になったマイホームを感慨深そうな表情でじっと見上げていた時だった―――

ガチャモン「くすす、ケイタ君ったら手に入れたばかりのマイホームを見て、感傷に浸っちゃってる。本当におじさん臭いな~」

モック「家の内装の事でしたら、内装に軽くハマってる私、コーディネーターモックにお任せくださいですぞ――――!!料金は後払いのローン支払いでも結構ですからな~」

騒々しいテンションで騒がしく現れたのは、SAOの自称マスコットのガチャモンとモックだった。それまでマイホームを手に入れて、感傷に浸っていたケイタは明らかに嫌そうな表情を浮かべ、マオは敵意の籠った視線を向けるのだった。

マオ「な、なによアンタ!ていうか内装とかアンタに頼まないわよ!アンタなんて、見るからに趣味悪そうじゃない!」

モック「し、し、失礼なぁ!私のセンスを先入観でバカにするなんて聞き捨てなりませんぞ!」

モックは内装を考えるコーディネーターを自称していたが、マオから露骨に馬鹿にされて、憤慨して地団太を踏んでいたのだったが――

ガチャモン「ああ、それに関しては僕もぶっちゃけ、向いてないと思うんだよね」

モック「が、ガチャモン!?」

ガチャモン「だってさ、家の玄関の前にサボテンとか、天井にむさ苦しいgiant馬場の上半身裸体のポスターとか貼ってるんだよ~、むしろ迷惑料を取りたくなるくらいだよありゃ~」

モック「とほほ……こ、ここまでボロクソに言われると、もう、本当に内装コーディネーターの看板は下ろそうかと思っちゃうじゃないですか~」

悲し気に床に顔を向けるモックだったが、別に誰も奴の事を内装コーディネーターだなんて思っちゃいない。

ガチャモン「そんな事よりもモック!ついにケイタ君がギルドメンバー達の協力もあって、ギルドホームを買ったんだから、お祝いしてあげなくっちゃ!」

モック「おお、それはおめでたいですな!マイホームのご購入、おめでとうございます!何かコメントはございますでしょうか?」

モックはすぐに立ち直ると、まるで取材でもしているかのように、マイクをケイタに向けるが、ケイタは当然迷惑そうな表情でマイクを押し返していた。

ケイタ「お前たちに祝ってもらっても嬉しくないよ……それとコメントもノーコメントで」

マオ「せっかく最高の気分なんだから邪魔しないで!」

マオからは露骨に嫌悪されて邪険に扱われるガチャモンとモックだったが、2人はまるで楽しそうに、お互いに顔を見合わせると―――

ガチャモン「くすくす、最高の気分だってさモック」

モック「ぐほほ、さぞ清々しい気分でしょうなガチャモ~ン」

気持ち悪くお互いに笑い合いながら、意味の分からない会話を始めていた。そんなガチャモンとモックに対してエルダが訝しむような表情で口を開く。

エルダ「なにが言いたいのかしらね?言いたい事があるなら、勿体ぶってないで言って見せたらどうなのよ?」

ガチャモン「いやいや、本当に喜ばしい事だと思ってるよ僕は。楽しみだよね~、これから迷宮区から戻って来る仲間達に念願のギルドホームが購入できたって報告してさ。買ったばかりのホームにみんなで一緒に入るんだよね~」

モック「いや~、仲間の力を合わせて手に入れた麗しの我が家……お仲間の皆さんが帰って来るのがもう待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ないんじゃないですかね~」

再びガチャモンとモックは『くすす』『ぐほほ』と鬱陶しく笑い合っていた。そして、勝手にしばらくの間笑いあった後、2人とも同時に姿を消したのだった。

ケイタ「やれやれ、折角念願のホームを手に入れて、もうすぐ帰って来る仲間達に最高の報告が出来るってのに、邪魔な横槍が入ったもんだよ」

ケイタが額に手を当てながら、やれやれと言った様子で首を横に振りながらそう言った。

マオ「もう、あんな奴らどうだって良いわよ!そんな事よりも、転移門前で待とうよケイタ。テツオたちにホームを見せて、大騒ぎさせてやりましょう!」

俺「そうしてやれ、仲間たちで協力し合って、手に入れたホームだからな―――仲良くお前らのアジトとして使ってやれ」

俺がそう言うと、ケイタは改めてこちらを振り向くと、改まった表情で綺麗な姿勢で直立し、そして腰を深く下げたのだった。

俺「おいおい……もう、そんな事良いって」

ケイタ「いや、本当に助かったよオズマ。君のおかげで、無事にギルドホームを買う事が出来たんだ。この恩はいずれ帰させてもらうよ」

俺「恩なんてあるかよ、俺等が買ったホームを、アンタらが同額のコルと二つの結晶アイテムで買い取った、それだけの話だ―――だよなエルダ?」

俺はこの話を最初に持ち掛けたエルダの方を向きながらそう聞くと、エルダは片目を閉じて笑みを浮かべて口を開く。

エルダ「そー言う事ね、私達だって得したんだから恩返し何て良いわよ」

ケイタ「けど、それじゃ―――」

俺「もし、恩義に感じてるんなら。いずれ攻略組になって、戦いで貢献してくれ。何時になるか分からないが、フロアボス戦で一緒に戦えるのを待ってるからよ」

少々臭いセリフだったかな―――が、ケイタとマオはそれを聞いて、納得したのか、清々しい表情で頷く。

マオ「本当にサンキューだよ。いつか必ず……アタシらも攻略組に入って、オズマ達と一緒に戦うからさ」

俺「ああ、楽しみに待つとするか」

レイナ「……私も、何時か貴方達が来るって信じるわ」

俺達はケイタ、マオの二人と転移結晶の前で別れる事になった。二人はその場所で、もうすぐ戻って来るだろうギルドの仲間達に真っ先にギルドホームを購入したという報告をする事だろう。

レイナ「……そう言えば、ギルドの名前を聞いてなかった」

俺「あ、そー言えばそうだっけな―――ま、次に会った時に聞けば良いだけだろ」

エルダ「そうね、何れ彼らが攻略組に参加した時にね」




そして、俺達がその後―――マオと再会したのは一年近くが経ってからの事になるのだった。だが、それはギルドとして攻略組に加わったのではなく―――マオは個人として、ソロプレイヤーとして攻略組に加わる事になったのだが、それはまた別の話だ。




一方その頃、現実世界。オズマこと、小田桐弭間の住まいがある、東京都台東区、山谷の事であった 
by立木ナレ


倉崎「オイ、ナマポ爺!テメェま~た、生活保護使ってデリヘル呼んだんだろうが?相変わらず俺らの税金で下らねー事してやがるなくそったれ!」

恭史郎「ナマポ爺に寄生してやがるテメーが何言いやがる!テメェは寄生虫だ!虫けらは虫けららしく地べた這いつくばって、適当なところでくたばりやがれ!!」

オズマの祖父、小田桐恭史郎は隣人である倉崎と馬鹿馬鹿しい喧嘩を今日も繰り広げていた!不毛!無駄!愚行!そんな救いようのない争いごとをこの二人の男達は何年も前から繰り広げていたのであった!

恭史郎「おい時生!テメーもこのクソ寄生虫に何か言ってやれ!なんなら殺虫剤買ってこい!こいつのキタねー面にぶちかましてやれ!」

時生「爺よぉ、殺虫剤買って来るのと、懸賞金ゲットのチャンス、本腰あげるなら、どっちにするよ?」

恭史郎「懸賞金だぁ?どこのどいつを捕まえろってんだよああん!?」

時生「こいつだよ」

時生はスマホの画像を恭史郎とついでに側にいる倉崎にも見せる事になった。その顔を見た――正確には顔と一緒に表記されている名前を見た恭史郎が大声を発する。

恭史郎「茅場晶彦だぁ!?奴がついに賞金首になったってマジなのか!?」

時生「ああ、警察からの正式発表だとよ。これで奴は警察からだけじゃなくて、金目当ての連中からも血眼で追われる事になっちまったわけだ」

時生が他人事のようにそう言い捨てた直後だった、その話を聞き終えた倉崎が大声で笑い始めたのは。

倉崎「だーはっはっはっ!無駄だ無駄だ!警察がどうしようが、金目当てのハイエナ共がどんだけ必死こいたところで、茅場の野郎が捕まるかっての!アイツはそこの知れねー奴だからな!」

時生「んだよ、まるで茅場晶彦を知ってるような口振りじゃねーか」

倉崎「おう、俺と野郎は気に食わねーが、大学時代の同級生だったんだぜ。ま、俺は4年の頃に裏口入学がバレちまって退学になっちまったけどな、わっははははははっ!!」

恭史郎「んな事はどうでもいいんだよ!茅場の野郎を捕まえて懸賞金ったぁおもしれー!弭間の奴の敵討ちも兼ねて、やってやろうじゃねーか!」

時生「孫息子の敵討ちはあくまでついでかよ―――つか、まだ死んでねーよ」 

 

FILE47 ビーストテイマーシリカをスカウト?

西暦2023年7月某日。アインクラッドの最前線は第31層であった!そして、その迷宮区の上層付近の、安全地帯の―――人の目が届かぬ、狭い洞穴の空洞の中で―――by立木ナレ



レイナ「……オズマ、なんだかすごく興奮してるわ」

俺「興奮しない方がおかしいだろ……お前は自覚してないかもしれないけどな。レイナはアインクラッドの数少ない女プレイヤーの中でも相当上玉だからな。つーか、このゲームに閉じ込められてからもう8か月間だぞ!一度も女を抱いてなくてな―――もうウンザリしてたんだよ……我慢し続ける毎日にな」



人の目の無い、そこでは、一糸纏わぬ姿となったオズマが、同じく裸体を晒すレイナを上から押し倒し、オズマらしからぬ興奮をし、息を荒立てながら、レイナのか細い、白肌の肢体を貪り尽くそうとしていた!

その光景はまだに強姦の現場!何も知らぬ第三者がその光景を目の当たりにすれば、間違いなくオズマがレイナを一方的に襲っていると思われかねない光景であったが―――レイナはオズマに対して一切の抵抗をする事なく、オズマのすべてを受け入れる覚悟を決めているのであった!!

なぜ?オズマとレイナがこのような行為に及んでいるのかは1日前に遡る! by立木ナレ




第31層の食堂にユッチが一人の幼い、12歳か13歳程度の短剣を装備したツインテールの小娘と、水色の小さなドラゴンのようなモンスターを連れてきたのは朝っぱらの事だった。

ユッチ「どうっすかオズマさん?今、中層や下層では新たなるアイドルプレイヤーとして人気の高い竜使いのシリカちゃんっす!」

シリカ「あの、ユッチさん―――別にアイドルなんかじゃないですよ……それに注目されてるのはピナですから」

ユッチは自分の隣の席に座っている、その竜使いの少女プレイヤーのシリカを俺に紹介し、心底機嫌の良さそうな表情でそうシリカを称賛しているが、シリカは恥ずかしそうに、謙虚するような言い方をしているが、本人もまんざらではなさそうで、はにかんだ笑顔を浮かべていた。

レイナ「……ビーストテイマー、噂に聞いてたけど、本当にいたのね」

シリカ「はい、ピナと会ったのは今年の2月なので、もう5カ月も一緒なんです!ね、ピナ~」

ピナ「きゅる~」

シリカはピナと名付けている水色の小型のドラゴンモンスター《フェザーリドラ》を軽く撫でながら、微笑ましそうにそう答えた。

レイナが口にしたビーストテイマーとは、モンスターを自らの使い魔にしたプレイヤーの通称であり、システムで規定されたクラスやスキルではない。

本来であれば攻撃的なモンスターが稀にプレイヤーに対して友好的な興味を示してくるイベントが発生する場合がある。
その際に餌を与えるなどして飼い慣らしに成功するとそのモンスターはプレイヤーの使い魔となって、微力ながらもプレイヤーをサポートしてくれるらしいが、俺も実際にビーストテイマーと使い魔を見たのはこの瞬間が初めてだった。

ユッチ「それで、オズマさん。ここからが重大な相談なんですっすよ!」

ユッチは両手で机を軽く叩き、身体を前のめりにして、ニヤッと笑みを浮かべていた。だいたい、ユッチが何を言いたいのかは想像は付くが、とりあえず聞くだけ聞いてみる事にした。

ユッチ「ずばり、このビーストテイマーのシリカちゃんを―――我がギルド、MBTにスカウトしてみたいと思うっす!」

シリカ「ええ―――――――――!?」

全く持って、予想通りの事を言いやがった。俺だけでなく、レイナにとっても完全に想定通りだったようで、眉一つ動かすことなく動じなかったが。
その中で唯一、張本人であるシリカだけは高い声で絶叫を上げて、大いに驚き、目を大きく丸めていた。
この様子からして、この相談はユッチが一人で考えていた事で、シリカはここに至るまで何一つとして知らされていなかったのだろう。

シリカ「ま、待ってくださいユッチさん!そ、そんな―――私なんかがMBTに入るだなんて――」

ユッチ「大丈夫だよシリカちゃん」

シリカ「え……?」

シリカは大慌てで、ユッチに対して、そんな唐突な話を断ろうとしたみたいだったが、ユッチはドヤ顔でサムズアップをして見せて、特に何の根拠も無しに大丈夫などと言ったのだった。

ユッチ「君は何も言わなくても大丈夫。全て僕に任せておいて、僕に任せてくれれば君は今日にでも僕らのギルドの一員だからね」

シリカ「で、ですから―――あのぉ~」

シリカにその気が無いのは明白だが、ユッチは良かれと思ってやっていると言った様子だな。そして、再び俺の方に向き直したユッチは、自身に満ち溢れた表情で言う。

ユッチ「と言うわけで、オズマさん。今日から新メンバーのシリカちゃんをよろしくお願いするっす!無論、シリカちゃんのお世話係はこの僕が―――」

俺「諦めてくれ」

ユッチ「そう、諦め―――てぇぇぇぇぇっ!?」

ユッチが勝手にお世話係だとか言い出したが、俺は途中で単刀直入に諦めるように言うと、ユッチは遅れ気味の反応で、『まさかこんなはずでは!』と、言わんばかりの形相で絶叫したのだった。

そして、その隣ではシリカがほっと溜息をついて安堵の表情を浮かべたのだった。

ユッチ「な、な、なに言ってんっすかオズマさん!?ビーストテイマーのシリカちゃんのギルド加入希望を却下何て、笑えない冗談っすよ!!」

レイナ「……シリカは、まだ一度もギルドに入りたいと一言も言ってない」

まさにレイナの言う通りなのだが、俺が却下した理由はそれだけではない。

俺「ギルドを結成した時にも話したことあっただろ?あんまり規模がデカくなりすぎると、DKBとか、今はもう半壊しちまったALSみたいに舵取りに苦労して面倒だから、メンバーの数は最大で10人までにしようってな」

ユッチ「あ、ええ……確かに言いましたっすね」

それはユッチも当然覚えているようだった。何せギルドを結成する際にコイツもそれで意気揚々と同意していたのだからな。

俺「そして、今のMBTのメンバーは丁度10人――つまり定員いっぱいだからこれ以上は増やせないって事だ」

一人くらいなら良いかと言った感じで、増やし始めると結果的に10人どころか20人、30人と膨れ上がってしまい、ギルドを統制し難くなってしまうのでそこだけは決して譲らないようにしなくちゃならない。

だが、ユッチは何が何でもシリカをギルドに入れたい様子で、食い下がり、こんな提案をしてくるのだった。

ユッチ「じゃ、じゃあ……その~、シリカちゃんを入れた上で、ギルドメンバーがその~、10人になってればいいって事っすよ――ね?」

等と言い出したユッチのその表情は、如何にもふてぶてしい、横着な考えをにじみ出させているかのような表情だった。



そして、そんな予想を裏切る事無く、ユッチが提案したのはまさに身勝手の極み!自らの欲望と自己満足の為に他者を―――ギルドメンバーを蔑ろにする、度し難き提案であった! by立木ナレ



ユッチ「誰か一人を―――抜けさせちゃいますか?」

ユッチは左目をウィンクさせて、まるでささやかな悪戯でも提案してるくらいの気分であるかのようにそんな事を言い出したのだった。

俺「誰か一人を抜けさせるって、お前な……」

ユッチ「そうっすね~、マークとハミルの内のどちらかはどうっすか?アイツらって役割が被ってるから、そろそろどっちか抜けさせても良いと思うんすよね~」

マークとハミルは、どちらもSAOでは珍しく、比較的ゲーム序盤の時点から、馬に乗って走らせることが出来る乗馬スキルの使い手であり、既に馬の後方にもう一人のプレイヤーを乗せた状態でも走れる――いわゆる、2人乗りが出来るほどの熟練度に達したところなので、最近はどちらも長距離移動で乗せてもらう際に重宝していたのだった。

俺「あり得ねぇ、アイツらは長距離のフィールドとかを移動するのに重要な存在だ。二人いても、全然良い位だろ」

実際に二人以上で長距離を移動したいのであれば、マークとハミルの両方の馬にそれぞれ一人ずつ乗らなくてはならないのだから。

俺にそう言い刎ねられるとユッチは、左手を顎に当てて、まるで某探偵漫画の探偵たちが推理や考え事をするときのようなポージングでしばらく考え込んでいた。

ユッチ「では、オズマさん―――ウォルターをクビにするのは如何っすかね?」

俺「ついにストレートにクビと言う単語を使ってきやがったか……」

ユッチ「えへへ、いや~。組織改革にはある程度のリストラもやむ終えないって、実際にこうしてギルドをやってみると痛い位に実感するっすねぇ~」

まるで社会人の何たるかを既に悟ったかのような事を口走るユッチだった。ウォルターは釣りスキルと潜水スキルを高めており、水深深くに行かねば手に入らないアイテムなど、釣りでしか手に入らない魚介類系の食材アイテムを手に入れる事が出来る、唯一のメンバーだった。

俺「却下だ」

ユッチ「そんなぁ~、そ、それじゃあ――だ、誰をクビにすればいいのか僕にはもう、さっぱり分かんないっすよぉ~」



ギルドメンバーの誰をクビにするか?そんな、陰険かつ身勝手な悩みでユッチは半泣き状態となり、机の上でぐったりと項垂れるのであった!
今のユッチの脳内を占めている思考は完全にイカにしてシリカをメンバーに加えるか、ただその事のみなのであった!! by立木ナレ



この時一瞬俺は、冗談半分で、お前をクビにしてシリカを入れるか。などと言おうかと思ったが、その言葉はひとまず保留にして、ユッチを引き下がらせる上手い言葉や、言いくるめ方はないかと考えていた時だった。

シリカ「ユッチさん、お気持ちだけでありがとうございます!ですから、もう止めて下さい!」

シリカが、叫び散らすようにユッチに対して、ありがとうございます、などと言う必要のない感謝の言葉を述べてから、そう制止したのだった。

ユッチ「ああ、シリカちゃん大丈夫だよ!何とかするから!なんとかして、シリカちゃんがギルドに入れるように言いく――説得して見せるから!」

シリカ「ユッチさん……わ、私は、ユッチさんに今のギルドの人達と、仲良く一緒にいてほしいんです!」

ユッチ「ほえ?仲良く一緒に……?」

シリカ「はい、だから他の人達を外して、私を入れるなんて―――そんな事はあっちゃいけない事なんです!」

心の中で俺は、もっと言ってやってくれとシリカに期待したのだった。俺が何を言ってもダメとなると―――ここは張本人であるシリカにハッキリと言ってもらうほかなかったからだ。

ユッチ「あ、あのねシリカちゃん――べ、別にギルドのメンバー全員とそもそも、仲良くしてるわけじゃないって言うか――そ、それにこのギルドを辞めたって、行き先何て探せばあるだろうし――――」

シリカ「私は、皆さんが――MBTが攻略組の主要ギルドで、すごく貢献してくれてる人達だって知ってますよ。ちょっと残念ですけど、今の私にはそんなすごいギルドに入る力や能力何て無いですから」

これは、ギルドに入れられるのを断るための方便だとは思うが、俺としてもシリカにハッキリとギルドに入る意思が無い事を表明してもらう方がユッチを引き下がらせるには都合が良かった。

ユッチ「し、シリカちゃん……ほ、本当にあ、諦めちゃうのかい?君なら絶対に、ウチのギルドでも凄く活躍してくれること間違いなしだと思うのに……」

ユッチは未だに、未練がましくシリカがギルドに入る事を望み続けるが、シリカはそんなユッチの未練を断ち切るように、頭を深く下げて断りの言葉を口にして、俺達に別れの挨拶を丁寧に終えてから、自身のホームがあるらしい第8層へと戻って行ったのだった。

そして、ユッチも意気消沈した様子で、ぐったりと力なく項垂れた様子で、食堂からトボトボと出て行ったのだった。
そして、ユッチがいなくなった直後だった。

レイナ「……オズマは、優しすぎる」

珍しく、妙に辛口に感じられるレイナのそんな言葉が俺の耳を突き抜けたのだった。

俺「んだよ急に?それって、誉め言葉か?」

レイナ「……ユッチは自分の欲求の為にギルドに損害を与えるところだったわ。オズマはギルドのリーダーとして、ユッチを処罰しても良かったと思う」

俺「別にそこまでしなくたっていいだろう。結果的に諦めたんだからな、この段階で処罰しても、後で色々と付き合いが悪くなったりとかあり得そうだから、何事もなく済んだんなら、それで良しとして良いんじゃないか?」

レイナ「……やっぱり、オズマは優しすぎる」

俺「やっぱ、誉め言葉じゃねーんだな……」

そしてそれから間もなく、オズマとレイナは迷宮区への探索へと出発する事になったのであった!! 

 

FILE48 不死の犬!

西暦2023年7月某日。ユッチはビーストテイマーのシリカをどうしてもギルドに入れる為に、オズマに現メンバーを一人、脱退させてでも入れようと懇願してきたのであったが、それをどうにか退ける事に成功。そして、レイナと共に二人で迷宮区の探索へと向かうのであった。 by立木ナレ



俺「レイナ、スイッチ!」

レイナ「……了解」

第31層の迷宮区で出現するモンスターは主に四足歩行の俊敏な動きが特徴の犬型モンスターの『ラビリンスドック』が過半数を占めていた。
如何せん、動きが速いので、その動きを足止めするには素早い攻撃技を命中させて、そこで一時的に動きが止まってから一気に止めを刺すのが得策だった。

レイナの両手剣は威力こそ折り紙付きのダメージを与えるが、全体的にソードスキルも含めて大振りな技が多いので、隙が大きめで、俊敏なラビリンスドックを相手に一撃を与えるのに少々手間取るので、俺がダメージを与えてから、弱ったラビリンスドックに止めの一撃を与えると言うやり方を続けていた。

俺の片手直剣の斬り払いで、軽くノックバックしたラビリンスドックに対してレイナがその隙を付き、両手剣ソードスキルの単発技であるバックラッシュで反時計回りに回転しつつの水平斬りの一撃で止めを刺していた。

だが、ラビリンスドックは後更に二体が俺達と対峙している。俺は自分からラビリンスドックに瞬時に接近すると、鞘に収まったままの剣で殴りつける。
一対一であれば、このまま更にソードスキルに繋げて、倒しきれるだろうが、もう一体のラビリンスドックが俺に攻撃を加えてこれば、それは難しいのだが―――

レイナ「……オズマの邪魔はさせない」

もう一体のラビリンスドックは、レイナがソードスキル発動後の効力が解けると同時に、自ら攻撃を仕掛けて、ラビリンスドックの憎悪値(ヘイト)を向けさせたのだった。
俊敏なラビリンスドックには攻撃を避けられたが、これで俺はもう一体のラビリンスドックを速やかに一対一で始末できるわけだった。



オズマとレイナ、第一層時から共に戦い続けている二人は、洗礼された連携、コンビネーションにより、迷宮区内のMobを次々と討伐しながら上層を目指し続けていた!

そして、道中には自分たち以外の攻略組のパーティーと何度か遭遇したりもしながら、更に一段上に上がる階段を発見し登り終えて、しばらく迷宮区内を探索し続けた所に―――



アスナ「貴方達もここまで来てたのね」

アスナだった。第25層でキリトとのコンビを解散後は、血盟騎士団の副団長となったアスナは純白に赤色の紋章が掛かった、ノースリーブの騎士服を身に纏い、パーティーメンバーである、いずれも自分よりも数歳以上は年上であろう男性プレイヤー達を従えていた。

俺「そっちこそ、流石に速いもんだな、Kob(血盟騎士団)の副団長さんが引っ張ってるとやっぱり大したもんだな」

アスナ「からかわないで、攻略組のギルドとして、ゲームクリアの為に最善を尽くすのは当然の事よ」

別にからかったつもりはないのだが、アスナはこちらからの冗談などまるで聞かないと言わんばかりの雰囲気だった。

血盟騎士団の副団長となり、攻略組の中でも絶大な発言力を得たアスナに対して最近、付けられるとうになった異名に『攻略の鬼』なんてのがあった。

攻略を徹底的に最優先し、効率の良さ、ギルドメンバー全体の強化を徹底的に妥協を許さぬその姿は、身近なプレイヤー達からは畏怖されるようになっていたのだった。

俺「この辺りにはMobは出ないみたいだから、軽く休憩中ってところか?」

アスナ「ええ、今日は早い時間から召集して迷宮区の探索に掛かり切ってるから、流石に疲れた人もいるみたいだから止む終えないわね」

その言い方からして、アスナはまるで本当であればまだまだ攻略に時間を割きたいと言った様子が伺える。

レイナ「……何時頃から、迷宮区で探索をしているの?」

アスナ「今日は朝の6時かね」

俺「6時間ぶっ通しかよ……」

現在時刻は既に正午の12時手前。アスナは自分を含めて6人のパーティーで迷宮区で、それだけの長時間もの間を、迷宮区内での探索に駆り出して、断続的に活動し続けていたのか。
アスナのパーティーメンバー達は皆、その辺りの床で疲れ切ったように項垂れているのだったが、攻略の鬼のアスナはそんなメンバー達の方を振り向くと、凛とした、反論すら許さないような厳しさの籠った声で告げるのだった。

アスナ「皆さん、大変かもしれないけど、後15分休憩したら探索を再開します!HPの回復、武器の耐久値などは問題ないですか?戦闘中の事故やトラブルを減らす為にも、準備は念入りに今の内から済ませて下さい!」

この副団長様の美貌に憧れて、血盟騎士団に入りたがっているプレイヤーも相当数多くいると聞くが、実際にアスナの元に付いたが最後、容赦のない攻略最優先の方針により、休む間もない日々が始まるわけか。

俺がそんな事を考えていると、まるでついさっきまでそこで隠蔽(ハイディング)スキルで姿を隠していたかのように、一人の小柄で丈の長いフード付きマントを着用したプレイヤーが姿を現した。

アルゴ「ほ、本当に大丈夫なんだよナ?こ、ここにはあの犬たちって出てこないんだよナ?」

ガタガタと身体を震わせながら、俺やアスナにそう震えた声で聞いてきたのは、情報屋のアルゴだった。
まるで、中ボスクラスの凶悪なMobにでも追われてきたかのように、周囲を激しく見まわしながら警戒している。

アスナ「え、ええ、ここは大丈夫だけどアルゴさん、どうかしたの?」

俺「この辺に出てくるラビリンスドックくらいなら、お前でも一対一ならどうにでもなる相手なんじゃないか?」

俺が軽い気分でそう言うと、アルゴは瞬時に俺の方を振り返ると、とんでもないと言わんばかりの勢いで言い放った。

アルゴ「オイラは情報屋なんだぞ!無駄な戦いは出来るだけしたくないんだヨ!だいたいアイツらしぶといんだヨ!やたら鼻が利くからかなり遠くまで逃げないと何時までもおってきやがって~。そ、それにあの……全身から禍々しいオーラを放ってる犬はやば過ぎるナ……ありゃ戦っちゃいけない奴だナ」

アスナ「禍々しいオーラを放ってる犬って何なの?」

俺「俺も、今までそんなのは見た事ねーな」

今までに、この迷宮区に見たことの無いMobの情報のようだった、タダでその情報を得られるのなら儲けものだ。

俺とアスナは早速興味を示し、アルゴからどんなモンスターなのかを聞こうとしたが、そこはアルゴもプロの情報屋として気を抜いたりはしなかった。

アルゴ「禍々しいオーラを放ってる犬だよ。無料で話せるのはここまでだナ~」

アルゴはフードの奥の表情を二カッとした笑みを見せる。詳しい情報を聞きたければ、一定量の金を払えと言うわけだそうだが。

俺「実際に戦って見りゃ分かるんだろ?そいつに遭遇したらその時だしな」

アルゴ「相変わらず、オズ坊は行き当たりばったりだナ~。さっきも言ったけど、戦っちゃいけない相手だからナ~」

アスナ「……戦っちゃいけない禍々しいオーラを放ってる犬ね、覚えておいた方が良いわね」

俺とレイナは、血盟騎士団の面々の休憩が終わる前に、その場を素通りし、再びもうしばらくの探索を続けるのだった。

しばらくの探索で俺達が発見したのは、下水路沿いの道だった。

俺「お世辞にも綺麗とは言えねー水が流れてやがるな」

レイナ「……落ちたら、水の流れに巻き込まれて何処かに流されてしまうわね」

俺とレイナは迷宮区の下水路沿いの道を歩きながら、再びラビリンスドックが襲ってこないか、レイナの索敵スキルで視界を利かせつつ、俺の聞き耳スキルで聴覚を働かせつつ、周囲を警戒しながら迷宮区を進み続けていた時だった。

俺「聞こえたぞ、前方から犬っころがハーハーと息してる音がな……」

レイナ「……私の索敵スキルも、犬モンスターの影をさっき見たわ。一匹分の影が―――」

俺の聞き耳スキルと、レイナの索敵スキルが共にラビリンスドックを察知したのだった。だが、レイナの索敵スキルで発見されたラビリンスドックは僅か一匹だけ、通り過ぎるついでにサクッと瞬殺してしまえば良いだけだろうと、この時の俺は楽観視していたのだったが。

レイナ「……あのラビリンスドック、何か違うわ」

俺「ああ、俺も見えたぞ―――あれって、アルゴが言ってた禍々しいオーラを放ってる犬っころか?」

そのラビリンスドックは――いや、あれはラビリンスドックじゃないのだろう。おそらくはアルゴが言っていた似たような別種の犬型モンスターだ。

レイナ「……《カオスフォームドック》だわ」

俺「へぇ~、そう読むんだな」

俺もオーラを放っている犬型モンスターにタゲを取って見ると、カーソルの頭上に固有名が表示されるのだが、無論アルファベットで表記されているので、俺が読めるわけが無かった。

レイナ「……アルゴは戦ったらいけないと言っていたわ」

俺「取りあえず、一発食らわせてやるか」

真正面からこちらに走り寄って来るカオスフォームドックと言う名称の犬型モンスターに対して、俺はダッシュで接近すると、鞘から抜いた状態の片手剣で真正面から突進してくるカオスフォームドックに対して突きを放ったのだったが―――――

俺「―――突き抜けやがっただと!?」

そして、俺はもう突進してきたカオスフォームドックの飛び掛かられて、そのまま勢いで押し倒されたのだった。

レイナ「――――オズマ!」

スグにレイナが俺を押し倒しながら、鋭い牙をむきながら、ぐるぐると唸り声をあげるカオスフォームドックに対して両手剣ソードスキルの上段ダッシュ技、アバランシュを発動し、突進しながらの
斬り下ろしを食らわせたのだったが―――俺が突きを放った時と結果は同じだった。

レイナ「……剣がすり抜けてる」

俺「何だよこいつ……武器がすり抜けちまうのかよ?」

とにかく俺は、力づくで上から押しかかっているカオスフォームドックを押し退けて、何とか立ち上がる事が出来るようになる。

レイナ「……オズマ、大丈夫?」

俺「HPが少しばかし減ったくらいだ……あの犬っころ、普通のラビリンスドックに比べてスピードや攻撃力が高いだけじゃないみたいだな」

レイナ「……アルゴの言っていた、戦っちゃいけないと言うのは―――こういう事だったのかも」

ったく、こんな事ならケチケチせずに金を払ってでもアルゴから事前にカオスフォームドックの情報を買っておくべきだったか?
もしかしたら、アルゴはカオスフォームドックを倒す方法も既に知っているかもしれないしな。

俺「今は倒せないなら、逃げるっきゃねー!」

レイナ「……来た道を戻るのね」

俺「そう言う事だ!」

俺とレイナは来た道を全速力で走り戻る事にする。俊敏性の高い上に、鼻の利くカオスフォームドック相手にのんびりとしていると簡単に追いつかれてしまう、俺達は後ろを振り返る事無く来た道を戻って走っていたが、更にそこで事態は悪くなる。

俺「って、こっちからもかよ!」

レイナ「……ラビリンスドックが三体、どうするの?」

俺「後ろから、あの不死身の犬っころが追ってこなけりゃ、正面のラビリンスドックなんて殲滅しちまえば良いだけなんだがな……」

三体のラビリンスドックを倒し切るまでにはある程度の時間がかかり、倒し切る前に背後から追ってくるカオスフォームドックが襲ってくるだろう。
まさに、俺とレイナは前後から挟み撃ちにされてしまったわけだった。



オズマとレイナはまさに逃げ場を失った獲物!従来、逃げ道を失った非捕食者の末路はほぼ例外なく、捕食者によって食らい尽くされるのが自然界の掟!そして、食物連鎖の避けられぬ現実であった!

が、ここはVR世界ソードアート・オンライン。そして―――オズマとレイナも単なる非捕食者ではなく、自ら思考し、活路を見出す為に可能性を見出す事の出来る人間である!そして、オズマは大雑把で単調なやり方を好む思考力の頭脳で、一つの決断を見出すのであった! by立木ナレ



俺「レイナ、逃げ道はここだ」

レイナ「……本気なの?」

俺が、指差した方角をレイナは確認すると、か細い声でそう聞き返す。

俺「ああ、まさに流れに身を任せろって話だな」

俺が指さした先は、汚い水が勢いよく流れ続ける下水路だった。通路がラビリンスドックとカオスフォームドックによって挟み撃ちになっている以上、この状況を脱するにはここしかない。

俺「俺は今から飛び込むが、レイナは良いか?」

レイナ「……他に選択肢も無さそうだし、オズマに付き合うわ」

俺「話が分かるなお前は本当に―――んじゃ、行くか!」



オズマ、レイナを抱き寄せた状態で水が流れ続ける下水路へとダイブ!果たしてこの選択はオズマとレイナをどう導くか? by立木ナレ 

 

FILE49 決行!倫理コード解除!

第31層迷宮区。―――不死の犬!カオスフォームドックに追われるオズマとレイナ!が、逃げた先には3匹のラビリンスドックが待ち構えており、通り道を完全に断たれた二人は、最後の手段として、通路の隣を流れる下水路の水の中にダイブ!文字通り、流れに身を委ねる事となったのであった! by立木ナレ



俺とレイナは水が勢いよく流れ続ける下水路に飛び込んだ。案の定、潜水スキル等、習得していない俺とレイナは水の勢いに逆らえずに、そのまま瞬く間に流されていくことになった。

そして、俺達が飛び込んで数秒後に、再びバシャーンっと言う音が響き渡って来る。まさかと思い、水に流され続ける身体で何とか音の方を振り向き、俺は目を疑う。

俺「あの犬っころ……気は確かかよ、俺が言えた義理じゃないがな」

カオスフォームドックは俺達を執拗に追い続ける為に、俺達に続いて水の中に飛び込んでいた。一方で他の3匹のラビリンスドックたちは流石にそこまでして追ってくる事無く、既に散り散りになり、その場から去っていくところだった。

レイナ「……せめて、どこかに掴まれれば」

俺「そうしたいところだが、水の流れが思った以上に強すぎて、ロクに動けやしねぇな」

そして、それはカオスフォームドックも同じようで、必死に犬かきをしているようだが、まともに泳げておらず、俺達と同様に水の流れに流され続けている状態だった。
そして、それから数分間、俺とレイナは取りあえず互いにバラバラにならないように、身を寄せ合いながら、水に流され続けて、最終的に流れ着いた先は今まで立ち入ったことの無いエリアだった。

レイナ「……オ、オズマ、は、ハシゴを登りましょう」

俺「ハシゴって……あ、あれの事か!?」

先に立ち上がったレイナが、ハシゴと言い出し、最初は何のことかと思ったが、目を凝らして見ると、確かに長さにして150センチほどの長さの梯子が壁に固定されており、その先は人一人が余裕で入れそうなくらいの大きさの穴が開いていた。

レイナ「……急がないと、カオスフォームドックがもうすぐ来る」

俺「ああ、奴もすぐに流れ着いて来るぞ!」

俺とレイナがただ流されるだけで、ここに来たのだから、同じように流されてきたカオスフォームドックもすぐにこの場所に来るだろう。
俺とレイナは急いで壁際まで走り、壁に固定されている梯子を登り始める。

その時、背後を振り返ると、丁度流れ着いてきたカオスフォームドックが、こちらに向かって走って来るところだった。

俺「急いで登るぞ、四足歩行の犬型Mobなら、ハシゴは登れないはずだ」

レイナ「……分かった」

俺は急いで梯子を登り切り、穴の中に入り込むと、そこはだいたい、部屋の間取りとして見た場合、四畳半程度の広さの空洞だった。

俺「レイナ、足とか噛まれてないか?」

レイナ「……平気よ、カオスフォームドックはハシゴの側に張り付いてるけど」

俺は空洞の穴から顔を出したレイナの手を掴んで、そのまま引っ張り上げる。穴の先からは喧しく、カオスフォームドックの鳴き声がうるさく聞こえてきており、容易に俺達から狙いを外すつもりはなく、まだこの場に留まる事が予想できる状況だった。

俺「取りあえず、この中にいる限り、奴に襲われる心配はないだろうが―――」

レイナ「……ここから出たらすぐに、カオスフォームドックが襲ってくるわね」

レイナの懸念通り、執拗に俺達を追ってきた禍々しいオーラを放つ犬型Mobは空洞の出入り口である穴から出た際に下るのに使用するハシゴの真下で待ち構えており、ここを出たら即座に奴に襲われてしまうと言う状態になっている。

俺「せめて、一定時間経過したら、諦めてどっかに消える仕様なら良いんだがな」

レイナ「……どのみち、あの時はここに逃げ込む以外に選択肢はなかった」

俺「つーか、水に流されてきたから、全身水浸しじゃねーか俺達」

レイナ「……そうだったわね」

さっきまでは、カオスフォームドックから逃げるのでそれどころではなかったが、俺の革製の防具も、レイナの軽金属性の防具も水に濡れた状態でどっぷりと濡れていた。
VRゲームの世界だと言うのに、水に入ったら水が染み込んで濡れると言う妙にリアルな再現までしてくれてるようだった。

レイナ「……装備を解除するわね」

俺「ああ、それでスッキリする―――は?」

今――レイナは何と言った?装備を解除……するだって?SAOの世界で装備を解除する行為はすなわち、衣服を纏っていない状態になるわけでだ。
つまり今、レイナはこの瞬間に――――

レイナ「……このゲームの世界では濡れた状態の装備が乾くのにどれくらい掛かるのかしら?」

俺「さ、さ~な、別にスグに乾かなくても良い様な気もするがな」

レイナ「……?―――早く乾くに越したことはないと思うわ」

レイナは俺の言った言葉に対して首を小さく傾げて頭に疑問符を浮かべてるようだが。少なくとも今に限っては、すぐに乾く必要など無いと断言しよう!
何故なら、装備を全解除したレイナの今の姿は、上下に白い簡素な下着を身に着けているだけの状態!白い素肌を惜しげも無く晒した姿だった!

俺がレイナと会ってから既に半年以上経っているが、ぶっちゃけ初対面の頃から、レイナは飛び抜けた美少女だとは思っていた。
そして、そんな飛び抜けた美少女であるレイナが―――俺の目の前で何のためらいも無く下着姿を披露した?

普通はあれだ。思春期の―――年頃の娘と言う奴は実に面倒な存在で、下着姿どころか、ほんのちょっとスカートが捲れたりした程度でワー、キャーと恥ずかしがって叫び散らし、周囲にいる男達に対して『見たの!?』とか理不尽に怒りを孕んだ声で問い詰めてきやがったりする質の悪い連中が多いもんだ。

俺の地元山谷には、朝っぱらから寝間着姿、下半身下着姿のおばちゃんが、全く周囲の目を気にする事なく、そんな姿のままでゴミを出しに行ったりなんて光景も日常茶飯事だと言うのに―――少しは山谷のおばちゃんを見習えと言ってやりたくなったことも一度や二度じゃない。

だが――――目の前の俺のSAOのパートナーとでも言うべきレイナはどうだ!?俺と同年代、すなわち、年頃の女子でありながら、全身が水浸しになれば、男の俺と二人きりの状況だろうが、効率性を優先して何のためらいも無く、ずぶ濡れの装備を解除して下着姿を晒したじゃないか!

レイナ「……オズマ、何時まで濡れた状態の『剣豪の防衣』を装備し続けてるの?」

俺「あ、そうだよな。取りあえず解除して、適当なところで乾くのを待つのが言いに決まってるしな」

マジでか!?この状況で更に男の俺に対して、装備を解除……お互いに服を脱ぐことを推進してくるだと!?
ともかく俺も、今の状況を冷静に受け入れて、自分の装備を解除してパンツ一丁の姿になった。




オズマ、猛感激!SAO開始から一週間後に出会った、出会った当初から飛び抜けた美少女であると一目でそんな感想を抱き、内心ではレイナを傍に置いておきたいと言う下心もあったが故に彼女と組み続けて、ギルドメンバーにまでなったレイナがあろう事か―――お互いに下着姿!もとより現実世界では、小学校卒業直前にして女遊びを学び、それ以来事ある毎に同年代の、容姿で気に入った少女を何人もキープし、敢えて面倒な交際に発展させる事無く、身体だけの関係の少女を何人も得て、自らの思春期男子の欲求を満たし続けていたオズマにとって―――今のこの状況は、長らく懸命に堪えてきた欲望の扉を開放するに十分過ぎるほどの出来事なのであった! by立木ナレ



そして、俺とレイナはお互いに下着姿のまま小1時間ほどを過ごしていた。ぶっちゃけ、俺の視線は白い肌の下着姿を晒す、レイナから片時も離れる事は無かった。
相変わらず、この空洞の一歩外ではカオスフォームドックが度々吠えており、未だに迂闊に出られぬ状況が続いているにもかかわらず、この状況をSAO始まって以来の圧倒的幸運と捉えていた。

レイナ「……まだ、乾かないみたいね」

俺「ああ、現実と一緒で、日当たりの良し悪しとかが関係あるのかもな……ここは屋内で太陽の日差し何て無縁の場所だからな」

レイナ「……そうかもしれないわね」

今の俺にとってはそんなどうでもいい話の直後、レイナはアイテムストレージを操作すると食材アイテムの中からチリドックを2個オブジェクト化していた。

レイナ「……料理スキルで作ったの。何時までここに籠るか分からないから、食事は必要だと思う」

俺「あ、ああ、美味そうだな」

レイナが少し前から習得した料理スキルで作ったチリドックは確かに見た目からして美味そうで、実際に口にして見たらそれは確かに美味かったのだが、それと同時に俺はレイナの方が遥かに美味そうだなどと、邪な思考が頭の半分以上を埋め尽くした状態だった。

そして、そんな俺の卑猥な視線と思考があっさりと見抜かれるのに、それほど時間は掛からなかったわけで。

レイナ「……さっきから私をじっと見てるのね」

レイナの方から、普段通りの淡々とした冷静な口調で図星を突かれてしまったのだった。

俺「じっと見てるっつーか――――目の前にお前しかいないから、他に見るのが無いと言うか―――」

俺がそんな苦し言い訳をしていると、レイナは更に驚くべきことを口にした。

レイナ「……別に、問題ないわ」

俺「は、問題ない――のか?」

レイナ「……だって、往々にして、オズマの様な――思春期に相当する年齢の男子は、性的好奇心、欲求が最も多感な時期だから。目の前に、自分と同年代の―――自分好みの容姿の女子が下着姿で一対一で対峙すれば、性的興奮を堪えられないのは生理的に必然だと思うわ」

レイナはずかずかと、俺の心理状態を……思春期の男子の自然で必然的な事であるとあっさりと言ってのけたのだった。
ついでに、レイナは自分自身を俺好みであるとまで言い切りやがった!まぁ、それもそれで図星なんだがな。

俺「お前……こういう時、神って呼ぶべきか?」

レイナ「……どうして?」

俺「大抵のお前くらいの年頃の女子何て、男子がそうやってエロいこと考えてたりとか、そう言うのに過剰に嫌悪感出したり、頭ごなしに否定したりと――取りあえず、理解を示す奴の方が圧倒的に少ないってのに、それを生理的な現象化で済ませてくれるって、なかなかお目に掛かれないと思うぞ」

俺は無意識のうちに、レイナに距離を詰めながらそう言った。そして、レイナは俺が目の前まで接近してこようが、逃げる事も、追い払う事も無く、じっとこちらを見たまま冷静さを保ったまま話し続ける。

レイナ「……私は、現実世界での記憶が無くなってる影響で、本来の性格とは著しく変わっているのかもしれないわ」

俺「ああ、そんな事も有るもんか?」

記憶喪失が原因で性格まで変貌するなんて話は、テレビとかで実際にあった出来事として取り上げられたのを何度か見ことがあるが、それなら今の、SAO世界でのレイナも現実でのレイナとは性格が大きく異なっており、現実でのレイナは年齢相応の娘なのかもしれない。

レイナ「……だけど、今の私にとっては―――少なくとも今の私が私自身で、本来の私だから――オズマが私の事をどんな風に見ても……どんな事を妄想してても……それでオズマが喜ばしいと思ったり、精神的に快楽を得られるのなら――――ギルドメンバーとして協力しても構わないから――あっ!!」

俺はレイナのその言葉を、つまり、身体の関係を築いても良いのだと解釈してレイナの手を掴んだ。もう既に俺はこれ以上、辛抱しろだとか、自分を堪えろなどと言う戯言が聞こえたとしても耳を貸す事など無いだろう。
何せレイナ自身から了承があったも当然だ!

俺「確か……ハラスメント防止コードって解除できるんだっけか?」

レイナ「……ステータスウインドウの一番深い階層にあるのを見た事がある。それで倫理コード解除設定をすれば、解除を設定した者同士で―――」

俺「やれるって事か!なら、善は急げだ!とっととそんな邪魔くさいコード何て解除しちまうぞ!」

レイナ「……分かった」

俺は大急ぎでウインドウを操作して、その深い階層で『倫理コード解除設定』と表記されている文面をタッチすると目の前に表示されたのは――

倫理コードを解除しますか? YES or No

と、表記されたので俺は迷うことなくYESをタッチして、レイナも丁度解除を終えたようだった。

俺「おし!早速大丈夫か試してみるぞ!」

レイナ「……オズマ、あ、慌てない――ひゃっ!」

俺がレイナの下着を無理矢理ずらして、胸を直に鷲掴みにすると、レイナは普段であれば絶対にあげないような、可愛らしい年ごろの少女らしい喘ぎ声をあげた。
本来であればこんな事をすれば間違いなくハラスメントコードが発動し、警告と共に電気ショックめいた反発力が発生し、更にそれでも警告を無視して続ければ、第1層の「はじまりの街」黒鉄宮にある牢獄エリアに強制転移させられるはずなのだが―――

俺「成功だ!警告音も、電気ショックも発生してねーぞ!」

俺はハラスメントコードの解除成功に歓喜し、無我夢中でレイナの下着を無理やり取り払い、そのか細い、白い肌を貪るように味わい始めるのだった。




この日を境にオズマ。半年以上を戦いを共にしてきたレイナを相手に、思春期の抑えがたい欲望を発散する事を日常化!
迷宮区の真っ只中の、一歩外に出れば不死の犬モンスターに襲われてしまうと言う、行き詰った状況など忘れレイナの肉体を思うがままに堪能! by立木ナレ
 
 

 
後書き
この作品は18禁ではありませんので、残念ながらオズマがレイナを抱く詳しい詳細は描くわけにはいきませんでした。

ご了承ください。(^^)/ 

 

FILE50 オズマとレイナ救出!再び動き出すガチャモンとモック

オズマ、ついに半年以上もの間、レイナに対して溜め込み続けた劣情を発散!迷宮区の小さな空洞内で、他者の眼が届かぬことを良いことに、幾度も――幾度も――幾度も!!溜め込み続けた欲望を吐き出し続けるオズマ!そして、それをひたすら受け止め続けるレイナ!

繰り返し、繰り返し行われ、既に水に濡れた二人の装備は乾いていたにもかかわらず、オズマはひたすらレイナの白く、か細い肢体を味わい尽くし――――すでに日付も変わり、早朝となった!!



レイナ「…………」

俺「……やり過ぎたか?」

俺は既にとっくに乾いていた装備を身に付け直した状態で、そう呟いた。レイナの方は未だに一糸まとわぬ姿の状態で、床に倒れ込んだままだった。
こんな事でHPバーは減ったりはしないが、流石に疲労感は感じるようで、レイナは息遣いをしながら、普段に比べて格段にゆったりとした動きで、よろよろと起き上がったのだった。

レイナ「……ここまで付き合わされるなんて予想外だわ」

ジト目でレイナは俺を見ながら、呆れ混じりな、そんな事を言って来たのだった。

俺「そう責めるなよ、お前だって了承してくれた上での事だったろ?」

レイナ「……別に、後から文句何て言わない」

そんな、何とも言えない微妙なやり取りの中でも、何度か空洞の外からはカオスフォームドックの鳴き声が聞こえてきた。

俺「おいおい、とっくに日付変わってるってのにまだ、あの犬いやがるのかよ……」

レイナ「……どうあっても、ここから私達から離れる事はないみたいね」

俺「やっぱり、多少の危険は覚悟のうえでここから出るっきゃないかもな」

俺もレイナもHPはポーションで回復済みだった。HPがフルの状態であれば、空洞の穴から出て、ハシゴを伝った直後に襲われたとしても、HPを全損するような事は流石に無いと言える自信はあった。
そうすれば、そのまま逃げ切ると言う選択肢もあり得るのだが―――

レイナ「……空洞の外に出て、どうやって移動して逃げ切るか判断が付き難いわ」

俺「こんなところに来るのは初めてだからな」

ここが既に一度訪れた事のある、マッピング済みのエリアであれば、それを頼りに逃走ルートを事前に確定させた状態で行動できるのだが、ここは始めてくる場所なのでどこに逃げれば良いのかが全く分からない。

俺とレイナと外の犬は下水路を流されてここに初めて辿り着き、その後すぐにハシゴと、その先にある空洞に入れる穴を発見したので、周囲を確認している余裕など無かった。

レイナ「……私の方が防具の強度は高いから、私が先に出て、カオスフォームドックを相手にする」

俺「そりゃ、頼もしいがな。それでそれじゃあ頼むぜって、すんなりと任せるのは――――」

気が引ける、と俺が言う直前だった。外から俺とレイナが同時に聞いたのは、犬型Mobがダメージを受けた時にあげる悲鳴のような鳴き声だった。

俺「なんだ?誰かが来て、カオスフォームドックを攻撃したか?」

俺はそれなら、この上なく助かると思い、そう口走ったが、直後にレイナが――

レイナ「……けど、カオスフォームドックに攻撃は一切効かないはず」

レイナの言う通り、奴にはあらゆる攻撃が効かないはずだった。だとしたらカオスフォームドック以外にもラビリンスドックが湧出(リポップ)して、そいつを攻撃しているかだろうか?

キリト「その中の人、誰かいるんだろ!?もうカオスフォームドックは倒したから、出て来ても大丈夫だ!」

空洞の外から聞こえてきたのは、キリトの声だった。誰かに助けられたのはありがたいが、まさかキリトがこんなところを訪れた事や、こちらの攻撃が一切通用しないカオスフォームドックを倒した事に驚きつつも、俺とレイナはそのまま穴を通り、梯子を下りて空洞から脱出すると、俺達の目の前で待ち構えていたのは、たった一人の黒衣の剣士――キリトだった。

キリト「オズマにレイナ――だったのか?」

俺「見ての通りだよ。取りあえず、助かったぜ。ありがとな」

レイナ「……ありがとう」

俺とレイナがキリトに恐らく初めて、礼の言葉を口にすると、キリトは『別に大したことじゃない』と俯き加減気味にそう答えていた。

今年の4月頃に何の前触れも無く最前線から姿を殆ど見せなくなり、フロアボス戦にも参戦しなくなったキリトだったが、それから2か月後の6月の後半ごろに、またしてもキリトは何の前触れも無く戻ってきた。

何となくだが、キリトの雰囲気は以前と異なり、元々明るい性格でもなければ、活発に人付き合いをするタイプでもなかったキリトだったが、今のキリトは以前にもまして近寄りがたい雰囲気を出しており、以前はキリトとコンビを組んでいたアスナも容易に声を掛け難い状態だった。

キリト「取りあえず、2人とも無事でよかったな……オズマとレイナはMBTの主力で、攻略組に必要なプレイヤーだしな」

俺「実力やレベルを見てそう言うなら、お前もその攻略組に必要なプレイヤーって事だな」

キリト「いや――別に俺なんかは」

キリトは相変わらず、俺に目を合わせないまま妙に自分を卑下するような言葉を口にしていた。そんなキリトに対して、珍しくレイナの方から自発的に口を開いたのはその時だ。

レイナ「……どうやってカオスフォームドックを倒したの?」

俺「ああ、そうだよな。あの犬っころ、どんだけ攻撃しても剣が身体をすり抜けてまるで効きやしねーんだけど、どうやったんだ?」

キリト「ああ、俺のカーソルを見てみろよ、神聖属性のアイコンがあるだろ?」

俺とレイナはキリトのカーソルを確認してみると、確かにそこには神聖属性を現すバフが掛かっているアイコンが表記されていた。

俺「それが、カオスフォームドックを倒すのに必要だって事か?」

キリト「ああ、第31層に教会があっただろ?あそこの神父にそこそこの金を払えば神聖属性のバフを一定時間掛けてもらえるから、その状態ならカオスフォームドックにダメージを与えられるんだよ」

俺「それ、アルゴに金払って買った情報か?」

キリト「ああ、まーな」

その後、キリトにここからは壁際の細い道を伝って出られる事を教えられて、俺とレイナはしばらくはキリトについていき、そこから脱出したのだった。

そして、数日後に攻略組は第31層のフロアボス戦に挑む事になった。道中出現するカオスフォームドックを倒す為に1パーティー6人の内、最低でも一人は教会に依頼をして、神聖属性のバフを得た状態で、カオスフォームドックの討伐を担当する事になったのだった。

同日中に第31層のフロアボスは攻略組の手によって討伐されたのだった。



※ ※ ※


ユッチ「いや~、フロアボス戦お疲れっすオズマさ~ん。それはそうとオズマさん、僕がシリカちゃんを紹介したあの日、ずっと迷宮区に籠ってた見たいっすけど……何かしてたんっすか?」

第31層のフロアボス戦が終了し、第32層の転移門を開放した直後、早速第32層の主街区にやって来たユッチが興味津々に、俺とレイナが初めて如何わしい行為に及んだ、あの日の事を問いただしてきた。

俺「あの、カオスフォームドックってのに追い詰められてて、安全地帯の空洞に籠ってたんだよ。俺もレイナも神聖属性のバフが無かった状態だから手の打ちようが無かったんでな」

レイナ「レイナさんと二人っきりで一晩!?」

ユッチが、鼻の穴をデカくして、大声でそう叫ぶ。言ってから俺は、余計な事を口走ってしまったと軽く後悔した。

ユッチ「一体何があったんすかオズマさん?ここだけの話、僕にだけ二人きりで過ごした一夜を聞かせて下さいっすよ~」

俺「だから丸一日、籠城してただけだっての。つまらねー事で詮索するなっての」

ユッチ「えぇ~、本当に何にもなかったんっすかオズマさ~ん?僕がレイナさんと二人っきりで狭い場所で一晩過ごすなんて事になったら、頭の中パニックになっちゃいそうっすよ~」

その気持ちは俺も分かるつもりだ。今思えば、レイナが俺の目の前で下着姿を晒した時からの俺の思考はかなり平常時とは変貌していたと、今思えばつくづく実感している。

ユッチ「あ~あ、オズマさんにはレイナさんがいて、キリトの野郎には―――認めたくないけどアスナさんがいて!僕の希望はやっぱりシリカちゃんだけじゃないっすか~」

俺「いつシリカがお前の希望になったんだよ」




一方その頃、ガチャモンとモックの二人は、プレイヤー達が決して自発的に立ち入る事の出来ぬ例の体育館にて――― by立木ナレ

ガチャモン「ねー、モック。僕が提案した身内動画part2はちゃんと作ってくれてるんだよね?僕は長々と待ち続けるってのが大嫌いだってモックも知ってるでしょ~?」

モック「はいはい、ちゃんと作ってますですよ。こちとら不眠不休で作業してるって言うのに、アンタて人は何もかも人任せで―――その癖、目立つ場面ではアンタばーっかり持ってくんですから、全く脇役ってのは辛いもんですな~」

ガチャモンはモックに対して全プレイヤー達へ向けた身内動画の第二段の政策を促し、モックはその作業に追われ続けていた。 by立木ナレ

モック「生き残ってる人達も前に比べればある程度減ってるもんですから、作るのも少しは楽になってはいますけどね、何せ身内たちがプレイヤーの人達に対して意外な事を言ったり、信じられないような行動に及んでるネタを掴むのが中々大変でして―――ぬおっ!?」

ガチャモン「もぉ~、急になんなのさモックぅ~。急に変な声上げちゃって、真面目に作業してくれないと、コブラツイスト決めて泣かせちゃうからね!」

モック「いやぁ~……こ、このネタはプレイヤーさんが一人泣く可能性が高いかもしれませんですな~。何せ大切な妹さんがゲーム内の事とは言え、こ、こんな事になっちゃってるんですからな~、下手したら殺意に憑りつかれて血を血で洗う惨劇になっちゃわないか心配ですぞ……」

ガチャモン「おお~、いいねいいねそれ!これだから身内動画は面白いんだよ~。自分達がこのSAOの世界に囚われている間、家族や友人たちに様々な事が起きて、中には取り返しのつかない事態に発展してるケースだってあるってのにさ、プレイヤーの皆は何もできないって言うジレンマが最高なんだよねぇ~」

モック「そ、そうなんですがね―――こればっかりは、プレイヤー当人が直接介入できちゃう問題でもありますからな~……本当にこのネタ使っちゃって大丈夫なのかどうか心配になってきちゃいましたですね~」

ガチャモン「良いの良いの、僕たちの目的はこのソードアート・オンラインの内部データを収集するだけじゃない。プレイヤーの皆に対して精神的な揺さぶりを掛けられるだけかけて―――貴重な実験データも集めなくっちゃいけないからね」

モック「そうですな~、ボスの目的は色々とややこしくて、身の丈に合わない位に壮大ですからな~」 

 

FILE51 身内動画part2 前前前科!

西暦2023年9月26日――アインクラッドでは名の知れた温泉宿でオズマは――by立木ナレ



レイナ「……オズマ、力加減……これくらいで良いの?」

俺「そうだな、お前の筋力ステータスだと、少しばかし強すぎたりしないか心配だったが、問題ないぜ。力加減が上手いんだな」

レイナ「……だって、初めてじゃないから」



オズマ、決して広くはない風呂場で、レイナに自分の体を洗わせる!無論、風呂場である以上、洗われるオズマは勿論、洗う側であるレイナにまで同じ姿をさせるオズマ!

――まさに豪遊!欲望の権化!ギルドメンバーである美少女に自らの身体を隅々まで洗わせて、オズマはその欲求を満たす!――だが、レイナが言った通り既にこれは一度や二度の事ではなかった。第31層での出来事以降、オズマはレイナが自身に対して従順である事を良いことに幾度も、レイナに対してまるで娼婦かソープ嬢の様な真似事を頼み続けていた! by立木ナレ



前々からレイナにやらせてみたいと思っていたソーププレイに俺が愉悦に浸っていた時に、それに水を差す様な展開が起こるのは、本当に唐突であり、その原因となる連中は毎回決まっていた。

レイナ「……ガチャパットがオブジェクト化されたわ」

俺「ほっとけよ、どーせ下らない奴らのコントかなにかだろ」

今の楽しみを邪魔されたくない俺は、オブジェクト化された俺とレイナのガチャパットをそのまま放置しておくように言ったのだったが、ガチャパットは宙に浮いた状態で自動的にその映像が始まるのだった。

ガチャモン『…………』

モック『…………』

が、映像に映し出されたガチャモンとモックは、半分近くが欠けている墓石の前で黒い喪服姿で両手を合わせて、目を閉じていた。

俺「何してんだこいつら……今度は墓参りの真似事かよ」

レイナ「……お墓に名前が書かれてるわね」

俺「ホントだな――って、これって!?」

ガチャパットの映像に移っている墓の名前『アカギの墓』と書かれているのを見て、俺は今日の日付を思い出し、こいつらがやろうとしている事に気が付いたのだった。

ガチャモン『今日で、あの人がいなくなってからもう、24年が経つんだね……』

モック『時が経つのは早いものですなぁ……あの人が無くなったのは1999年9月26日。今日で本当に丁度24年も経ってしまったんですな~』

ガチャモンとモックは上を見上げると、二人揃って、黄昏手いるような雰囲気を漂わせるのだった。

レイナ「……1999年の9月26日に誰か亡くなったのかしら?」

俺「漫画のキャラだよ……俺も知ってる――な」

レイナ「……そう、なの」

そして、ガチャパットに映っているガチャモンとモックはようやくカメラの方を振り向いてから、話を始めるのだった。

ガチャモン「さて、皆。皆は熱い三流を目指してるかな~?」

モック「いや~、あの言葉には本当に私ね、全身に電撃が走ったかのようにビビッと痺れましたですな~」

ガチャモン「うんうん、何か思い出したらすっごく気分が良くなっちゃったからさ。プレイヤーの皆にお待ちかねの―――身内動画part2を提供したいと思いまーす!!」




ガチャモンのその発表の直後、アインクラッド全土をプレイヤー達の不安、恐怖、動揺、これらの感情が一斉に覆いつくしたのであった!

だが、中には少しでも現実世界で待っているであろう家族や友人たちの情報を知りたいが故に、それに希望を見出す者も決して少なくはなく、まさに新たなる身内動画の発表は多くのプレイヤー達の心を揺さぶる事となった! by立木ナレ



レイナ「……また、あれを配信するのね」

俺「別に、俺のはどーせ下らない動画だろうがな……」

重要なのはレイナの方だった。現実世界の記憶を喪失しているレイナにとっては、現実世界の自分自身に繋がる情報を得られる数少ない機会であり、前回の身内動画ではレイナの両親がレイナがSAOに囚われた事で夫婦仲が険悪になっている事、そしてレイナには姉か妹がおり、同じようにSAOに囚われている事が分かったが、その姉妹がレイナに接触してくる気配は全くなく、既に死亡しているか、最初からレイナに会う気が無いかのどちらかであると、既にレイナは結論付けていた。

ガチャモン「今回は強制的に再生はしません。皆のガチャパットにそれぞれ、自分の身内動画を配信しておいたから、見たい時に見ちゃってくれて良いからね~」

モック「おお~、今回は敢えて見ないと言う選択肢もあると言うわけですな!ぐほほ、身内動画の内容が貴方方にとって希望か絶望か、それは見てみるまでは分からないと言うのがまたじれったく感じるんでしょうな~」

何時も通り、俺たちプレイヤー達が自分達の行動によって、狼狽える姿を想像して楽しんでいるのが目に見えて分かるガチャモンとモックだった。

そして、ガチャパットの映像が終了し、オブジェクト化されたままのガチャパットが残されていた。まるで俺達に今すぐにでも身内動画を見ろと促すかのように。

俺「さて、親父か爺さんか、その他の連中か、誰が映るか知らねーが、あれからどーしてやがるのか、見せてもらうとするか」

俺は自分のガチャパットを手に取り、躊躇なく『身内動画part2』を選択し、再生をタップしたのだった。

レイナ「……清々しい位に躊躇ないのね」

俺「見た方がスッキリするとも考えられるしな」

そして、前回と同様に早速、タイトルが表示される。

『オダギリ ハズマの身内動画part2』

相変わらずの、色彩の無い白黒のアニメーションで、登場人物たちは黒いシルエットだった。そして、台詞も全く変わらず、それぞれのキャラクターに吹き出しのマークが出た状態で、画面下に台詞がテキストメッセージの文章で表示されるだけだった。

ハズマの父「お勤めご苦労さん、クソ親父」

ハズマの祖父「ったく、めんどくせーったらありゃしねー!」

俺の自宅アパートの中と思われる場所で、親父と爺さんの二人きりでの会話の場面だった。爺さんはまた何か気に食わない事があったらしく、黒いシルエットの姿でも分かる位に不機嫌さを出していた。

ハズマの祖父「なんで、泥棒市で女子中学生の裏ビデオ売ったくれーで察に捕まらなきゃならねーんだ!毎日毎日、ここじゃそこらじゅうで毎朝やってる事じゃねーか!」

ハズマの父「警察の連中、近頃は大人しくしてやがったと思ったら。久々に大胆に泥棒市を取り締まってきやがったな。ま、逃げ遅れたあんたも迂闊だったってわけだ」

ハズマの祖父「あの警官の態度がムカついてしかたがねー!俺の生活保護を打ち切るだぁ!?バーカ言ってんじゃねーぞ!テメー如きにそんな権限あるわきゃね―だろうが40過ぎの平巡査如きが!出世してから出直してきやがれってんだ!」

ハズマの父「一週間で釈放されたとは言え、これでアンタは前科三犯になったわけか。前前前科ってか?だははははっ!!」

ハズマの祖父「歌の歌詞に例えて笑ってんじゃねーバカ息子が!だいたい国民の税金で給料もらってるのは公務員連中だって同じじゃねーか!なのに何で同じように国民の税金で給料もらってる俺ら生活保護受給者を見下しやがるんだ!こっちから言わせりゃ、同じ税金食い虫でも、テメーらの方が金取ってるだろうが畜生が!」

そこでアニメーションは終了し、その直後に俺の爺さんが警察署から解放される直後と思わしき実写の写真が一枚表示されたのだった。

レイナ「……オズマ、お爺さんが―――」

レイナが俺の事を気遣う様な事を言いかけたが、俺はその言葉がレイナの口から出る前にそれを遮る。

俺「別に気にする事なんて何もねーって。さっきの動画でも言ってたろ?爺さんが何か仕出かして警察の世話になる事なんて、今までにも何回もあった事で、最初の逮捕何て俺が生まれる前だったしな」

確か、埼玉県に行った際に、野球賭博を仲間内で楽しんでいた所を県警に捕まったのが初めての逮捕だとかを、酒に酔った勢いで愚痴っていたのを俺は覚えていた。

桐ケ谷(きりがや)とか言う堅物の警官に口やかましく説教されたとか何とか、愚痴り続けているのを俺は右から左へと聞き流していたのに対して、一歳年上の姉は心底軽蔑するような視線を向けていたのは今でも朧気ながら俺は覚えていた。

レイナ「……オズマが平気だって言うのなら―――大丈夫なのね」

俺「そう言う事だよ、それよりも肝心なのはお前の方だけど―――どうする?」

レイナ「……一緒に見てくれる?」

レイナは俺の顔をじっと見て、微かに、不安を抱いているのではないかと思わせるような表情を浮かべていた。
普段は徹底して冷静で、無表情のレイナだが、ここにきて、自分が失っている記憶に関する情報に触れる事に対して微かに不安と言う感情を感じたのかもしれない。

俺「どっちみち、この風呂場で二人で一緒にいるんだから、お前がここで見るなら、俺も見る事になるって事だ」

レイナ「……ありがとうオズマ」

レイナはガチャパットを操作し始めて、身内動画part2の再生をタップする。


『サワイ レイナの身内動画part2』

映し出された映像に移っているのは、小さな個室と思わしき部屋と、一人の真っ黒な女と思わしきシルエットだった。

レイナの姉「ごめん、ごめんねレイナ……」

テキストウィンドウには台詞の前にハッキリと『レイナの姉』と表記されている。つまり、このゲームにレイナと同じようにフルダイブして、そのまま囚われたレイナの姉妹と言うのは姉の事だったわけだ。

レイナの姉「私が……貴方をソードアート・オンラインにフルダイブさせたばっかりに!」

レイナの姉がレイナをソードアート・オンラインにフルダイブさせた―――それはつまり、レイナの姉がレイナにソードアート・オンラインを勧めて、自身も共にフルダイブしたと言う事なのだろうか?

レイナの姉「私が――私が絶対に貴方を助けて見せるわ!私の考えが正しければ……あの人もきっと、この世界にいるはずだわ。だから―――あの人を探し出せば!」

俺の身内動画に比べて格段に短い再生時間で動画は終了した。その直後にガチャパットの画面に表示されたのは―――

俺「ここって、はじまりの街の宿屋じゃねーか!」

レイナ「……つまり、この身内動画の内容は、現実世界じゃなくって、このソードアート・オンラインの中での出来事だったことになるのね。そして、私の姉がこの世界のどこかに――まだいるかもしれない」

俺「最も、この身内動画が具体的に何時頃なのかが分からないのが厄介だな」

この身内動画が、ソードアート・オンラインがデスゲーム化された直後とかだった場合は、既にこの身内動画に移っているレイナの姉が死んでいると言う可能性も有り得ることになってしまう。
写真に写っている部屋が第一層であるはじまりの街の宿屋であるので猶の事その可能性は高い。

レイナ「……それに、映ってるのは宿屋の風景だけで、肝心な私の姉の姿が足しか映ってない」

俺「この写真じゃ、レイナの姉貴の顔が分からねーな……」

ガチャモンとモックもワザと、ヒントを小出しにしているのではないかと思いたくなるような露骨な隠し方だった。

レイナ「……とにかく、今日はエルダを含めた三人でのクエストだから。それに専念するわ」

俺「ああ、その切り替えの早さは普段のレイナだな」

内心では色々と気にしているのかもしれないが、それを完全に心の奥底にしまえるのであれば、俺としても安心して背中を任せられるってもんだ。

俺「せめて、もう少しばかしここでゆっくりしてたいが、あんまり遅いとエルダが待ちくたびれて先に行っちまいかねないからここで切り上げるとするか」

レイナ「……分かった」

レイナの裸体を見ている時間が終わるのを惜しみつつも、俺達は温泉宿を出て、エルダとの待ち合わせ場所である最前線の転移門まで移動して、そこでエルダを発見した。

少し遠くに見えるエルダはガチャパットをじっと凝視している様子だった。

俺「もしかして、例の身内動画を見てる最中だったか……?」

レイナ「……そうかも」

ともかく、エルダは俺達から見て真横を向いている状態なのでここからエルダの身内動画を見てしまう可能性は低いので俺はレイナを連れてそのままエルダに近づき、声を掛けた直後だった。

エルダ「―――――!!」

俺「……どーした?」

こちらに顔を向けたエルダの表情は今まで一度も見た事が無い位に険しく、まるで許し難い、度し難い光景を目の当たりにでもしたような表情だった。
が、そんな表情も数秒後には瞬時に普段の落ち着いた顔色に戻り――

エルダ「あ、ごめんなさいね。ちょっと、びっくりしててつい……」

レイナ「……さっき配信された身内動画の事?」

レイナにそう聞かれるとエルダは、首を小さく縦に振って肯定した。

エルダ「私にとっても完全に予想外の事だったから――けど、今日のクエストに支障をきたすような事はしないから安心して」

俺「何を見ちまったかは知らねーが、取りあえずよろしくな。どっちみち、なにを見せられたところで、俺達はそれに干渉する事なんて出来ない状態なんだからな」

エルダ「……そうよね」

未だに、影の暗い様子が拭えないエルダだったが、俺達はエルダを含めた三人で予定通りクエストを進めるのだった。
 
 

 
後書き
オズマの祖父が言っていた桐ケ谷と言う警察官と言うのは、キリトの亡くなった元警察官の祖父の事です。

孫たちに剣道を強いるなど、かなり厳しい人だったらしいですからね。 

 

FILE52 クラインの悲哀 カズト・アスナ・エリカの身内動画

 
前書き
今回は久々にキリトの視点の話です。 

 
全プレイヤーに身内動画part2が配信されて、数時間後の出来事であった! by立木ナレ


クライン「ああ~……お、俺はもう、何を希望にゲームクリアを目指せば良いんだろうな~……」

俺「なに、大の男が女々しく泣いてるんだよクライン……ついに攻略組の主力になって、これからバリバリとフロアボス戦に参加するんだろ、お前も、お前のギルドの仲間たちも」

両眼から大粒の涙を流し続けるクラインを俺は呆れ混じりの目でそう言い聞かせていた。俺にとってクラインはアインクラッドで初めて知り合った友人であり、ソードアート・オンラインがデスゲーム化した直後、先を急ぐ俺に対してクラインは仲間達を見捨てておけず、結果的に俺はクラインを見捨てて一人、自己保身的な行動に走ったわけだが―――最近になってクライン自身がリーダーとなって結成したギルド『風林火山(ふうりんかざん)』の仲間たちと共にクラインは攻略組の主力としての地位を固めつつあった。

久々に俺と再会したクラインは昔と何も変わる事無く、俺に対しても気さくに接してくれた。お互いに納得の上とは言え、クラインを見捨ててしまった俺には本来、友人面して付き合う資格など無いはずなのに、クラインはまるでそんな事は気にしていなかったのだ。

クライン「キリトよぉ~、き、聞いてくれよ~」

俺「聞くからさ、とにかく目から溢れ続ける涙を止められないのかよ?」

大の大人の男が目の前で号泣している光景を見続けるのは流石に忍びないので俺は、それだけ言っておいた。
クラインは両手で目の当たりをゴシゴシと拭くが、それでも目の周りには涙が零れているが、このSAOと言うのは感情表現がややオーバー気味に表現されるので、仕方が無いと割り切り、クラインの話を聞く事にする。

クライン「さっきよぉ、あのガチャモンとモックのヤロー共が身内動画のpart2をガチャパットに配信しやがっただろ?」

俺「ああ、そうだけど―――それを見てあんなに泣いてたって事か!?」

俺はクラインがあっさりと自分の身内動画を見た事に対して、驚嘆の声を上げていた。俺は前回の身内動画で、妹の直葉がマスコミから幾度も取材を求められて、半泣き状態で逃げ隠れしている動画と写真を見て、罪悪感を痛感した事もあり、さっき配信された身内動画のpart2はとてもじゃないが、これからも見る気にはなれなかった。

クライン「あ、ああ、part1は別に俺にとっちゃ、大して気にするような事じゃなかったからよぉ。今回もどうせ大したことねーだろって安易に思って見ちまったんだがよぉ……」

俺「大の大人の男のお前が号泣するような、内容だったのか?」

俺は少しだけだが、重苦しさを感じながらそう聞き返した。万が一クラインの家族や友人に重大な事態が起きたと言うのなら、それは決して笑い飛ばしたり、軽口で済ませられる話ではないからだ。

クライン「そ、そうなんだよ!」

クラインは再び両眼から涙を溢れさせて、心からの叫びをあげた。

クライン「このゲームの正式サービスの少し前に、お、俺、合コンに参加してさ―――そこで少し仲良くなって脈ありな気がしてた女の子が身内動画に出てきたんだよ!」

俺「そ、その人が、どうかしたのか?」

俺は固唾を飲んで、クラインの話の続きに耳を傾け続ける。クラインは震える身体を懸命に抑えながら、続きを話すのだった。

クライン「そ、その娘がよぉ―――お、俺の陰口を言ってたんだよぉ!!」

俺「…………は?」

俺は口を開けて、返す言葉が思い当たらず、そのままシステムの不具合とは関係なく、自発的にフリーズ状態と化していた。

クライン「せっかく脈ありだと思ってたのに―――俺の事を二十歳(ハタチ)過ぎにしては老けてるとか、サラリーマンって言ってる割にはニートやフリーターっぽさがするとか、友達付き合い程度ならありだけど、彼氏としてはあり得ないとか―――もう、散々な言われようだったんだぜ!!」

俺「…………」

大粒の涙を零し続けるクラインの、心の底から悲壮感に満ちた叫びを、俺はどこか、虚ろな気分で聞き流すだけだった。

クライン「このゲームをクリアして、現実世界に戻ったら、アタックしまくろうって思ってよぉ、ここまで生き延びて来たってのにそりゃあんまりじゃねーかよ!し、しかもその娘、さ、最近になって――無職のジャマイカ人の男と良い感じってどーなってんだよぉ!!」

クラインはそう叫びながら自分が持っていたガチャパットを俺に見せつけた。その画面に映っていたのは身内動画の後に表示される実写の写真で、その写真にはクラインが言っていた、脈あり――と、クラインだけが思っていた女性が、パンチパーマ頭の黒人と仲良さげに食事を共にしている姿だった。


クライン「無職だぜ無職!?こいつ、ぜってぇにヒモじゃねーか!もしかしてあれか?この娘が好きなのって、所謂、ダメ男か!?だったら俺も無職になっちまえば、この娘と付き合えるってか!?このゲームをクリアしたら再就職しねーで無職の状態でこの娘に告白すりゃ良いってのか――――!?」

俺「お、落ち着けクライン!世界の半分は女なんだぞ!たった一度の失恋くらいで、仕事を投げうってどうする!?」

自棄になり、ダメ人間真っ只中に自ら墜ちようとしかねないクラインを俺は友人として、必死に止めようと説得の言葉を投げかけてみたのだったが―――俺は知らなかった、クラインの失恋がこれが初めてではないと言う事に。

クライン「たった一度の失恋じゃねーよ!幼稚園の頃に初恋が失恋に終わって以来、もー、数え切れねーくらいの失恋の連続で、その度に自分の涙で俺はぁ枕を濡らしてきたんだよぉ!!」

俺「す、済まないクライン……もう俺にはどうすればサッパリだ」

恋愛経験など今の今まで皆無の俺にクラインの悩みをこれ以上聞き続けるのは不可能だった。せめてエギル辺りに相談でもして、クラインの心の傷を癒してもらうとするとしようか……





『キリガヤ カズトの身内動画part2』

カズトの妹「なんなの……それ?嘘だよね、お母さん……?」

カズトの母「いいえ、今話した通りよ、カズトはね――お母さんの姉さんと旦那さんの子なのよ。そう、カズトが生まれてすぐの頃に交通事故で亡くなってしまった姉さんと義兄さんの……」

カズトの妹「そ、それじゃあ!お、お兄ちゃんは本当は私の妹じゃなくって……従兄だったの?」

カズトの母「そうなの、けどあの子は―――カズトはね、10歳の頃に住基ネットを調べて、気付かれちゃってたけど」

カズトの妹「ま、待って!お、お兄ちゃんがじ、自分が養子だって知ってたって事は―――何も知らなかったのは私だけだったの!?」

カズトの母「ごめんなさいスグハ……本当は、貴方がもっと大きくなってから話そうと思ってたんだけど――――」

カズトの妹「なんで――なんで今まで隠してたのよ!!なんで今になってそんな事を話すのよ!!」

カズトの母「ごめんなさいスグハ……カズトがこんな事になってから一ヶ月で、同じ被害者の人達が2000人も亡くなって―――このままだとカズトもどうなるか分からないって聞いたら、せめてカズトが生きてるうちにスグハにも知ってもらわなくちゃって思って」

カズトの妹「勝手すぎるよ!今の今まで私にだけ隠してきたのに!こんな―――こんな時になって全部話すなんて勝手すぎる!もう私、何も知らない!」


『ユウキ アスナの身内動画part2』

アスナの同級生「ねぇ、聞いた~?」

アスナの後輩「はい、何がですか~?」

アスナの同級生「ユウキさんの事!アンタいっつも同じ電車に乗ってるじゃない」

アスナの後輩「あ、はい。ユウキ先輩ですね、最近学校をお休みしてるみたいなんですけど、怪我でもしちゃったんですかね~?私、心配です~」

アスナの同級生「ははっ!怪我なんてもんじゃないわよ!ユウキさんったら傑作なのよ!あの世界初のVRなんとかって言うゲームの事なんだけど―――」

アスナの後輩「あ~、ソードアート・オンラインの事ですね。私もほんのちょっとだけ興味あったんですけど、ユウキ先輩にその話したら、ゲームなんて時間の無駄だとか、私に対してもそんなのは早く卒業しなさいとか叱られちゃったです~」

アスナの同級生「なにそれ?傑作なんだけど!」

アスナの後輩「傑作ですか?」

アスナの同級生「そーよ!良い、ここだけの話なんだけど……ユウキさんったらね!そのソードアート・オンラインていう変なゲームやっちゃったらしいわよ―――!!」

アスナの後輩「えええ―――――――!?ユウキ先輩がソードアート・オンラインをですか!?あ、あんなにゲームの事もゲームやってる人たちの事も馬鹿にしてたユウキ先輩がですか――――!?」

アスナの同級生「ちょっとアンタ、声が大きいわよ。ここだけの話って言ったじゃな~い」

アスナの後輩「いやいや、そう言う先輩の方こそ、結構大きい声で大発表しちゃってましたよ……」

アスナの同級生「けどさ、実際に傑作でしょ?ウチの学園で屈指の優等生でお嬢様のユウキさんが最新型のゲームに手を出してたなんて!ユウキさんって実はオタクだったわけ?」

アスナの後輩「なるほど~、学校に最近来ないのは、他のSAO被害者の人達と同じで、ゲームの世界に閉じ込められちゃってるんですね~。ゲームの中で死んじゃったら、本物のプレイヤーの人達も死んじゃうって聞いてますけど、ユウキ先輩大丈夫ですかね~?」

アスナの同級生「あははっ!まー長く持たないんじゃない?だってユウキさんってゲーム嫌いで全然やった事ないんでしょ?きっとあと一カ月もする頃には―――」

アスナの友人「そこまでにしておいたら?」

アスナの同級生「あ……モリモトさん」

アスナの後輩「はわっ!モ、モリモト先輩って―――テストで常に学年次席のモリモト先輩ですか!?」

モリモト「貴方達、何時もはユウキさんと如何にも親しそうに、友好的に振舞っておいて、いざ彼女が学校に来なくなった途端に陰口だなんて随分と陰険なのね、まるでユウキさんの心配何てしてないのかしら?」

アスナの同級生「い、いや……別に心配はしてるつもりなんだけど―――あ、今度お見舞いに行こうかしら?」

アスナの後輩「わ、私も行きます!」

モリモト「止めなさい、心の奥底で陰険な事を思ってる人たちが行っても、ユウキさんは歓迎しないと思うわよ」

アスナの同級生「……そ、そうね」

アスナの後輩「反省です……」

モリモト「それじゃ、私、テスト勉強しなくちゃいけないから失礼するわ」


――数日後、期末テストの順位発表――


アスナの同級生「モリモトさん凄いわ!初めての学年主席おめでとう!」

アスナの同級生「今回のテストにはユウキさんが参加してないからもしかしたらと思ったけど――やっぱり繰り上げでモリモトさんが学年主席になったわね~」

モリモト「ありがとう皆――けど、私少しトイレに行きたいから失礼させてもらうわね」


――誰もいない学校の屋外で一人になるモリモト――


モリモト「ふふ……はははっ!!やったわ!ついに――ついに私が学年主席になったわ!あーっははっ!――――私に主席の座を譲ってくれてありがとうユウキさん。誰もいないこの場だから言える事だけど、私、ユウキさんの事だーい嫌いだったのよね!生まれた時から恵まれた生活が如何にも当たり前のように!親が会社の重役と大学教授のエリート家系でお金持ちでさぞ昔から最高の英才教育を受けられたみたいね!こっちは、母さんが離婚するまで、麻雀でお金稼いでるクズ親父と、生活保護を給料だとか言って受給し続けてるクズ爺と、ロクに勉強もしないでゲームばっかりしてるクズ弟と一緒に暮らしてたせいでロクな学習環境じゃなかったわよ!!―――何よアイツ……『モリモトさんって小学生の頃はどうしてたの?』ですって!山谷って言うダメ人間の巣窟みたいな町で、クズ男達と同じ屋根の下で暮らしてたなんて、この学校の人達に……アンタなんかに言えるわけないじゃないのよ!!全くいなくなってくれて清々したわ!所詮、私とアンタじゃ、積み上げてきた苦労の重みが違うんだから!!」


『サワイ エリカの身内動画』


レイナ「……オ、オズマ、は、激しすぎる」

オズマ「そりゃ、お前みたいな筋金入りのアイドルクラスの女が全裸で股開いて、俺に身体を差し出してれば、俺じゃなくたって誰だって興奮しまくるに決まってるからな!お前はどんな気分だ?少なくとも、記憶の上ではこういう事って初めてだろうが、どんな感じだ?」

レイナ「……そ、それは、こ、こんなの初めてで―――うぅっ!!」

オズマ「俺は最高に気持ちいいし、それに新鮮だな。お前のこんな初心な反応が見れてるんだからな」

レイナ「……オズマが、こ、こんな事するから、おかしくなってる……んだわ」

オズマ「これから何度でもやらせてくれるよな?―――いや、絶対にやるぞ!何度でも、何十回でもな!!」 

 

FILE53 神聖剣を持つ騎士団長

西暦2023年11月某日。――ついにデスゲーム、ソードアート・オンラインが始まり、全プレイヤー達がゲームの囚人と化してから一年以上の月日が経過していた!

だが、未だに最前線は第47層!アインクラッドの半分にも満たぬ状況!しかしながら、最初の第一層をクリアするのに約2000人の犠牲者と、一カ月の月日を要した事を考えれば、攻略のペース、及び生存率は向上しているのは確かであり、プレイヤー達の中にも僅かながら、このゲーム世界からの解放を現実的におぼろげながらも見えるようになってきていたのであった! by立木ナレ



俺達攻略組のプレイヤー達は第47層の転移門広場に集められていた。招集を掛けたのは、今となってはアインクラッドの中でも最強と称される攻略ギルドの血盟騎士団だった。

結成そのものは第25層フロアボス戦直後と、DKB(ドラゴンフリゲーツナイト)……今は他のギルドを吸収合併し、聖竜連合(せいりゅうれんごう)と呼ばれるようになった元DKBはおろか、俺達のギルドMBTなど、攻略初期の時点から結成されていた古参のギルドを差し置いて、攻略の主導権を最も強く握るギルドと化していた。

クライン「聞いたかオズの字よぉ」

俺「ああ、聞いたぞ。アンタがまたNPCの女に下手な事仕出かして、黒鉄宮送りになりかけたって事だよな?」

クライン「て、てきとーなこと言ってんじゃねーよ!つーかまだ、俺の話も聞いてねーじゃねーか!」

俺「テキトーな事を言われた割には、随分な慌てようだな」

俺に陽気に声を掛けてきたのは、ギルド『風林火山(ふうりんかざん)』のリーダーのクラインだった。無精ひげを生やした侍風の装備に身を纏い、頭に悪趣味なバンダナを捲きつけているこの男は、ソードアート・オンラインがデスゲーム化する前の時点で、ベータテスターのキリトにレクチャーを頼んだ男だった。

風林火山はKobよりも更に遅めの、攻略組参加ながらも、刀使いであるリーダーのクラインの実力は既に攻略組の中でも第一線級で、攻略組の一角を担うギルドになりつつあったのだった。

クライン「いやなぁ、俺が言いてーのはよぉ、今回のボス攻略会議の招集を掛けたのはKob――結盟騎士団なんだがよ。普段は副団長のアスナが呼び掛けてるから、俺等も大喜びで集まるわけなんだが―――」

俺「そこで、俺も同列扱いするな……」

クラインも、血盟騎士団の副団長で、アインクラッドではトップクラスのアイドル的人気を誇るアスナのファンの一人であり、前に俺はクラインがユッチと共に、アスナの魅力について嬉々として語り合っているのを見てしまったのを、一日でも早く記憶の中から消し去ろうと奮闘している最中でもあった。

クライン「今回は、ちげぇみてーでよ。―――なんと、あの騎士団長様からの直々の呼びかけだそうだぜ」

俺「へぇ~、確かにあのヒースクリフ騎士団長殿が直々とは、珍しい事も有るもんだな」

血盟騎士団団長のヒースクリフは、アスナを始めとした精鋭クラスのプレイヤー達を中心に構成される最強ギルドを結成した男だ。

そのカリスマ性もさることながら、ヒースクリフは全てのプレイヤーの中でたった一人、奴しか所有していない―――ユニークスキルと呼ばれる、スキルの『神聖剣』を習得したプレイヤーであった。
それによりヒースクリフは有り得ないほどに高い防御力を獲得しており、聖騎士ヒースクリフはアインクラッド最強の名を欲しいままにする存在となっていた。

最も、ヒースクリフ自身は戦闘外では静観している事が多く、ギルドの運営や作戦指揮は主に副団長のアスナが務めているとの事なので、こうしてヒースクリフから攻略組を招集するのは確かに珍しい事だった。

レイナ「……その騎士団長が来たみたい」

俺「ああ、相変わらず、歩いてるだけで存在感出しまくりだな」

転移門広場の前に真紅の騎士鎧を身に纏い姿を現したのは、血盟騎士団の団長のヒースクリフは、灰色の髪を後ろでくくり、真紅のロープを身に包んだ、20代半ばから後半程度の年齢の男だった。

クライン「おおっ!アスナさんもついに現れたか!相変わらず見女麗しゅうっ!!」

が、刀を腰に携えたバンダナ男は、ヒースクリフの一歩後ろを歩く副団長のアスナを見て、目を輝かせていた。

俺「あんましジロジロと見てると、他の血盟騎士団の連中に睨まれちまうぞ」

クライン「んなこと言われてもよぉ~、ただでさえSAOはよぉ、プレイヤーの7割以上が男のむさ苦しい世界なんだぜ!攻略組に至っちゃ、十何人かに一人くれーしかいねぇんだぜ!普段からレイナちゃんとエルダさんを侍らせてるオメーには分からねーかもしれねーがよぉ!」

俺「デカい声で、自分の惨めさを叫んでると、変に悪目立ちしちまうぞ」

と言うか既に、攻略会議の場に集まったプレイヤーの何人かがクラインに対して奇異の視線を向けていたり、微笑ましい生き物を見るような視線を向けていた。

クライン「キリの字よぉ……オメーはアスナさんとそれなりに付き合いがあるんだろ?今度俺をアスナさんに紹介して、少しばかしで良いからお喋りする機会とかつくってくれよ~」

キリト「……え?あ、えっとぉ―――」

クラインは、自分のすぐ前にいたキリトの肩を掴み、声を掛けたが、キリトはいきなり声を掛けたらたことで、とっさにどんな反応をしていいのか分からないと言った様子で狼狽えていた。
そして、そのキリトの視線は、かつてのコンビのパートナーであり、今では自分とは全く違う立場となったアスナに向けられている気がした。

ヒースクリフ「さて、待たせてすまないね諸君」

転移門広場の中心にヒースクリフと、アスナを始めとした数人の血盟騎士団のプレイヤーが集まり、ヒースクリフが声を上げると、途端に静寂が辺り一帯を覆ったのだった。
さっきまで騒いでいたクラインも、この時ばかりは口を閉じて、静寂を保つ。

ヒースクリフは周囲のプレイヤー達が自分の話を聞く体勢が出来ている事を目で見ながら確認すると、落ち着いた物腰のまま話を再開する。

ヒースクリフ「本日、我ら血盟騎士団のパーティーは、第47層の迷宮区の最上階の階段を発見した」

そのヒースクリフの発表を聞いて、攻略会議の場に集まっているプレイヤー達の多くが息を呑んだり、『おお~』と言った、驚嘆の声を上げていた。

複雑な構図の第47層の迷宮区は多くのプレイヤー達が先に進むのを拒み、この調子ではボス部屋の発見はおろか、最上階に辿り着くのも当分先かと思われていただけに、ヒースクリフを筆頭とした血盟騎士団がまたしても功績をあげた事に何度も感心させられているのだった。

ヒースクリフ「我々のパーティーは明日の朝にでも18人のパーティーを結成し、最上段に必ず存在するフロアボス部屋を探し出し、発見次第出来ればそのまま偵察戦も行う計画も立てている。―――最も、偵察戦はボスの情報を事前に入手する為の重要な戦いでもあるが故に、各ギルド、是非自分のギルドからも参加させたいプレイヤーがいると言う希望は必ず出ると思うので、今のうちに希望を聞かせてもらいたいと思い、諸君らをここに呼んだわけだ」

それであれば、俺達のギルドからは、フロアボス戦の本戦からは既に遠退いているユッチと他数名のメンバーを送り込み、そいつらから直接フロアボス戦の話を聞かせてもらうと、俺にとっても好都合だ。




そして、攻略会議はヒースクリフ主導の元、順調に進み続けた。それぞれのギルドが明日の第47層迷宮区の最上階探索のメンバー、および、偵察戦に参戦させるメンバーを決定し、その日の攻略会議は終了となったのだった。 by立木ナレ



俺もレイナ、エルダを伴い、そのまま各自自由行動にしようとしていた矢先だった。今日の攻略会議を開いた血盟騎士団の団長から声を掛けられたのは。

ヒースクリフ「MBTの諸君。たまにはボス攻略戦以外の――私的な立ち話でもどうだろうか?」

俺「俺等みたいな、小規模ギルドと他愛のない会話で、騎士団長さんの身に役立つ話が出来るかどうか保証は出来ないんだけど―――」

俺としては別に、どちらでも構わない誘いなので、無難に適当な返事を返すと、ヒースクリフは僅かに苦笑してから言葉を返してくる。

ヒースクリフ「身に役立つかどうかは、この際は重要視する必要はないさ。同じ最前線に身を置く者同士として、たまには他愛のない会話で相手の事を少しでも知るのも悪くはないと思うのだがね」

エルダ「ええ、おっしゃる通りですね」

ヒースクリフの言葉に対してエルダが俺に対しては、絶対に見せることの無いような礼儀正しい言葉遣いと、気品に満ちた笑顔でそう答えた。

ヒースクリフ「そう言ってくれると嬉しいよ、なにせMBTは現攻略ギルドの中では聖竜連合に次ぐ古参ギルド、我々Kobにとっても先駆者に当たるからね。失礼のない様にしたいところだが、君達はギルドのリーダーであるオズマ君。サブリーダーのエルダ君―――そして、リーダーであるオズマ君の右腕とでも言うべきレイナ君と言う、3トップの君達は堅苦しい上下関係などに囚われない柔軟な若者たちのようだからね」

俺「先駆者だとか関係ねーよ。と言うか、実力に関して言えば、攻略組の中でも唯一のユニークスキル持ちの騎士団長さんに勝てる奴なんていないだろうしな」

おそらく、俺が納刀術スキルと片手直剣のスキルを臨機応変に使い分け、ソードスキルの4連続コンボを全て決めたとしても。
攻略組で群を抜いた防御力を誇るヒースクリフの鉄壁のガードを崩せる可能性は低いだろう。

ソロプレイヤーながら、攻略組最強格のキリトも以前に、あのユニークスキルはゲームバランスすら超えたスペックを秘めており、奴を超えるプレイヤーが現れるとしたら、十中八九、同じユニークスキルを持った者が、新たに現れない限りはあり得ないだろうと言っていた。
更に言えば、仮に他にユニークスキルを得たプレイヤーが現れたとしても、ヒースクリフはこのSAOと言うゲームに関して他のプレイヤー達と比較しても、極めて抜きんでた情報量、知識を有している為、その差を埋めて上回るのは至難の業だろうとも言っていたのを俺は覚えている。

レイナ「……どうして、どうやって、貴方はそのユニークスキルの『神聖剣』を獲得したの?」

ヒースクリフ「ふむ、なかなか難しい事を聞いて来るね君は……」

誰もが気になっている事だが、相手が血盟騎士団の団長であるヒースクリフと言う事も有り、中々恐れ多くて聞けない質問を、レイナは躊躇う事無く、ストレートに尋ねたのだった。

ヒースクリフは自身の最大の象徴であるユニークスキルの事を不躾に聞かれたにもかかわらず、まるで嫌な顔一つする事なく、腕を組み、数秒間の沈黙の後に口を開いた。

ヒースクリフ「私自身――なぜ私にだけこのスキルが得られたのかは分からない。血盟騎士団が結成されてからしばらくした後に、身に覚えのないままにこのスキルが獲得スキルの一覧に加わっていたから、私は空のあったスキルスロットにこれを習得させた結果、今に至るわけさ」

レイナ「……そんな事が、あり得るの?」

俺「まるで、神様の贈り物なんて――そんなおとぎ話染みた話だな」

ヒースクリフ「ふむ、実際に私も話していて、おかしなことを口走っているような気になるが、これが実際にあり得た話だからね」

そう言い切られれば、ヒースクリフの説明に対して、どこがどうこうで矛盾しているなどと俺達に指摘できるわけがない。
何せユニークスキルは今の時点ではヒースクリフが習得している神聖剣一種類だけであり、正規の習得方法など一切分かっていないのだから。

ヒースクリフ「オズマ君は、スキルスロットは現時点ではすでに全て使用済みの状態かな?」

俺「いや、最近になってレベルアップでスキルスロット欄が一個増えて、その空きにまだ何も習得させてない状態だな」

なので、俺はそろそろ新しく増えたスキルスロットにどんなスキルを習得させるべきかを決めようとしているところだった。
一度習得したスキルを外してしまった場合、スキルの熟練度は0になるが、習得したばかりで熟練度が0に近いスキルであれば、別に外すのも惜しくないので、物は試しと言う感じで、色々と代わり代わりに習得してみるのだって全然ありだった。

ヒースクリフ「オズマ君、君は攻略組の中でも最高峰の空間認識能力を持っているのではないかと私は考えていてね―――それを生かしたスキルを習得してみてはどうかと、思ってみたりもするんだよ」

俺「それはよく言われるんだが―――それを生かしたスキルは果たしてどれが適任なんだろうな」

エルダ「確かにオズマ君の空間認識能力は私も見てて、何度も驚かされたわよ。相手の攻撃の距離感を完璧に掴んで、ワザとギリギリの距離で回避して、即座に反撃とか――――何度も見せつけられてるわね~」

結局、気が付けばヒースクリフとの会話は攻略関係の話になりつつあったが、特に気にする事は無く、しばらくの間そんな話を続けたのち、ヒースクリフの方から、ギルドメンバーからの呼び出しを理由に立ち去ったのであった―――そして、俺の元にあのユニークスキルが出現したのはそれから程なくした時の事だった。 

 

FILE54 第47層フロアボス戦開始直前!・小田桐家を訪れた女

西暦2023年某日。第47層フロアボス『ライトニング・ザ・デーモン』はその名通り、雷撃攻撃を得意とした悪魔であった!
更に、身の回りに常に電撃波を放ち続けており、プレイヤー達は満足に近づく事すら敵わぬ状態であったのだったが―――by立木ナレ


俺「これが……『補足転移(ほそくてんい)』のソードスキルだっ!」

アスナ「し、瞬間移動ですって!?」

レイナ「……あれが、オズマのユニークスキル」


フロアボス戦で起きた、プレイヤー達の度肝を抜かせたのは、ヒースクリフに次ぐ第二のユニークスキルの使い手となったオズマであった!
その場から姿を消したかと思った瞬間、即座にライトニングデーモンの頭上に転移したと同時に連続の剣技を繰り出したのであった! by立木ナレ


ヒースクリフ「お見事だ――やはり、第二のユニークスキルの使い手となったのは君だったか。オズマ君……」


そして、この出来事をまるで必然と言わんばかりに、血盟騎士団の騎士団長のヒースクリフは笑みを浮かべて、そう口にしたのであった。
そして、ここに至るまでの経緯はその日の朝、フロアボス戦の前に遡るのであった! by立木ナレ



ユッチ「と言うわけで、今日のお昼にオズマさん達はフロアボス戦の本戦っすね」

前日に、迷宮区のフロアボスを発見し、偵察戦を行ったメンバーの一人だったユッチは得意気な表情でそう口にした。

俺「ああ、その通達は昨日の攻略会議でもう知らされてるしな。それに第47層のフロアボスの『ライトニング・ザ・デーモン』との戦いもな」

ユッチ「いやはや、アイツはやばいっすよオズマさ~ん。取り巻きの『フォロワー・デーモン』達は、大したことなかったんすけどね~。ボスのライトニング・ザ・デーモンってのがね、ボス部屋の天井から雷落としまくるわ、迂闊に近づくと電撃派で感電させてくるわで、攻撃を食らわせるのに苦労したっすね~。ま、それでもHPバーを一本は削ったっすけどね~」

エルダ「ええ、お疲れ様。ユッチ君は主に、その大したことの無いフォロワー・デーモンたちを引き付ける役割だったのよね?」

自分が大活躍したと言わんばかりに得意気な表情をしているユッチに対して、エルダはアルゴから聞いた、偵察戦の内容を思い出して、皮肉っぽくそう言った。

ユッチ「いや~……まぁ、あれっすね。フォロワー・デーモンたちは別に大したことの無い連中ですけど、アイツらがウロウロとしてやがると、ボスに攻撃し難いっすからね~」

ユッチはあくまで自分は偵察戦で貢献したと言い張りたいようだったので、俺もエルダもそれ以上はユッチに対して何も言わずにそう言う事にしておいた。

それに、今の俺が気になっているのは、偵察戦の事ではなく、今日の朝、ウインドウ画面を見ていると、いつの間にか、特に習得した覚えのないスキルの事だった。

ひとまず、ぶっつけ本番でフロアボス戦で使うわけにはいかないので、俺はその使い勝手を確かめるべく、少し前まで、47層の周辺のフィールドのMob相手に、この当たらに習得した謎のスキルを試してみた所だった。

レイナ「……フロアボス戦までまだ時間があるけど、これからどうするの?」

俺「今日は、それまで各自、自由行動で良いだろ?つっても、ボス戦が控えてるから、アイテムとかは極力消耗しないで置いた方が良いけどな」

エルダ「決まりね。私はギルドのメンバーがクエストでちょっと苦戦してるって聞いたから、手を貸してくるわ」

俺「相変わらず面倒見がいいな」

迷宮区に午後の13時00分に集合となっているので、それまで俺は再び、適当なところで、新しく習得したスキルの練習をやっておくことにしたのだった。


※ ※ ※


午後の13時00分になったと同時に、迷宮区で集合した攻略組のプレイヤー達はマッピングされたフロアボスの部屋まで一直線に突き進み続けた。
道中に出現するモンスター達はこの大人数なので、全く問題にならなかった。
そして、初めて目の当たりにする第47層迷宮区の最上階に存在していたフロアボスの部屋に辿り着き、今回のレイドのパーティーリーダーを務めるヒースクリフがこの場にいるプレイヤー達を見渡して言った。

ヒースクリフ「それでは、今日も手筈通りに行こう。各パーティー編成は既にこれで問題はないか、各人何か意見はないだろうか?」

ヒースクリフの問いかけに対して、異論を口にする者は誰もいなかった。俺達の今回の6人のパーティーは俺、レイナ、エルダのMBTの主力組に加えて、ソロプレイヤーのキリト、そして風林火山のメンバーの中からフロアボス戦を戦い抜くに既に十分な実力であると判断されたリーダーのクラインと、大型の盾を構えて、全身を重装備で固めた(タンク)役のトーラスと言う青年プレイヤーだった。

アスナ「団長、緊急時の撤退のタイミングについてよろしいでしょうか?」

そんなとき、ヒースクリフに対して手を上げて、意見を口にしたのは同じギルドで副団長のアスナだった。

ヒースクリフ「うむ、言ってみたまえ」

アスナ「事前の偵察戦で得た情報から、昨日の攻略会議で決定した緊急時の撤退のタイミングは、パアーティーメンバーの内の3分の1のプレイヤーがHPがイエロー領域になってからとなりましたが――安全マージンは現段階では十分とれていると思われるので、緊急時の撤退のタイミングは条件を緩和してもいいのではないかと思います」

アスナの申し出に対して、一部のプレイヤー達が驚嘆の声を漏らすと同時に、恐れを感じる物も中にはいただろう。
血盟騎士団の副団長となったアスナは、その全労力を攻略にのみ注ぎ続けて、攻略より優先される物は人命の安全のみと言う主義の元、ひたすら最前線を戦い続ける様は『狂戦士』または『攻略の鬼』とまで評されており、アスナはアインクラッドではトップ中のトップのアイドルクラスのプレイヤーであると同時に、その戦いっぷりと攻略に対するすさまじい執念で畏怖される存在にもなっていたのだった。

まさに、血盟騎士団の団長であるヒースクリフにそのような、多少の危険を冒してでも攻略のペースを落とすべきではないと言うような意見を言えるのは攻略の鬼の異名を持つアスナだけであった。

直属の部下から意見を出されたヒースクリフは、微動だに表情を変化させる事も無かった。これが聖竜連合のリーダーであるリンドだった場合は微かに眉を顰めるくらいの事はしそうだし、かつてアインクラッド解放隊のリーダーとして攻略組のトップにいたキバオウだったら、『なんでや!』などと喚き散らしそうなのだが、このヒースクリフが持つ、リーダーとしての適性は、第一層のフロアボス戦を率いていたディアベルにも勝り、常に冷静沈着、激情を決して表に出す様な男ではなかった。

ヒースクリフ「そうか……では、万が一、実際にパーティーメンバーの3人に1人のプレイヤーのHPがイエロー領域になった際に、アスナ君―――君自身が先頭を続行するべきか否かをその場の判断で決定してくれたまえ」



ボス部屋の前に集まったプレイヤー達の間に、緊張の糸が走った!―――血盟騎士団の2トップによる、フロアボス攻略戦の方針を巡る意見のぶつかり合い!
もはや誰もがアスナとヒースクリフの話に口を挟む事など不可!全員沈黙――――口チャック!!by立木ナレ



アスナ「分かりました、可能な限りその事態は起きない事に越したことはありませんが、もし実際にレイドメンバーの三分の一がそのような状況になった場合は、私の判断で戦闘を続行するか、撤退するかを決定させて頂きます。―――無論、レイドメンバーの半分がHPイエローの状態となれば、その時は私も迷わずに撤退する事に同意します」

ヒースクリフ「うむ、これで話は決まったと見て言いようだね。他に意見のある者は誰かいないかな?」

結局、アスナ以外に意見を述べる物は誰もおらず、レイドパーティーの面々はフロアボス戦を始める事となった。
先頭のヒースクリフが猛然とプレイヤー達を待ち構えるボス部屋の扉を開けて―――フロアボス戦開始!!



※ ※ ※


攻略組の面々による第47層フロアボス戦が始まろうとしていた頃、現実世界にて―――by立木ナレ


時生「久々に尋ねてきやがったと思ったら、アーガスからの賠償金は取れたのかとか、辛気臭い話は止めにしねーか元俺の妻よ」

小田桐家に訪れたのは小田桐時生(おだぎりときお)の離婚した妻である小田桐(かおる)、すなわち、オズマの母親であった!
オズマの母である薫は元夫である時生に対して、不快そうな表情を向けながら口を開く。

薫「辛気臭い話だなんて……息子が、弭間が変なゲームで意識不明なんでしょ!?アーガスにちゃんと責任を取らせるのは親として当然でしょう!弭間の親権は貴方にあるんだからしっかりして頂戴!!」

苛立ちを露わにして、声を上げる元妻の薫に対して、元夫の時生は指で耳をほじりながら欠伸をしながら答える。

時生「それなら金の亡者の親父が散々アーガスとか言う、会社に怒鳴り込んでっつーの!だが、何せ被害者が多すぎる上に、死人も既に出ちまってる状況下だから、一人一人に対して手が回らねーんだとよ」

薫「しっかりしてよね!だいたい貴方がもっとしっかりと弭間のやる事を親として管理してればこんな事にはならなかったんじゃないの!?」

時生「無茶言ってんじゃねーつーの。ありゃフルダイブ機器だったか?まさかあんなのに脳を焼き焦がす機能だとか、一度始めちまったら止められなくなっちまうゲームとか、予想出来るわけね―じゃねーか」

のらりくらりとした態度の元夫に対して薫の苛立ちはさらに募る。そんな元妻のヒステリックになり気味の表情を見た時生は、薫の真意を見抜き言った。

時生「なーんで、そこまでオメーが必死になって賠償金の話で熱くなるんだよ?オメーが守ってやんなきゃならねー桃華(ももか)に関係のある話か?」

薫「な、なにが言いたいって言うの?」

薫が引き取った、オズマの一歳年上である姉の桃華の名前を引き出されて、薫は痛い所を突かれた様に眉をひそめて、表情を険しく変化させる。

時生「苦労してるよな、オメーもそんなに稼げる身じゃねーってのに桃華を私立の進学校に通わせたり、塾に行かせたりと教育費が掛かっちまってしょうがねぇだろ?その辺、弭間は手が掛からねー息子だぜ。中学も行ってなかったからな~、学費もまぁ……それを理由に踏み倒してやったし、塾だの家庭教師だとかもいらねーから、教育費なんて掛からずに済んで、孝行息子だよ」

薫「だから―――何が言いたいって言うのよ!?」

時生は会話の最中にタバコを一服してから、少しの間を置いた後に口を開き、元妻の真意をズバリと貫く!

時生「賠償金が出たら、そのいくらかをコッチにも寄こせって言いて―んだろ?桃華を私立の学校だとか、塾だとかに通わせるための金のためにな」

まさに―――言葉の矢!本心を的確に射貫くその言葉は百発百中の弓矢!

薫「こ、子供の教育の為にお金を注ぎ込むのは当然よ!貴方達と一緒にしないで頂戴!」

結局、薫はそれで逃げ出すように自らもかつて住んでいた山谷のアパートから出て行ったのであった。

時生「ったく……昔は俺とそれなりに気の合う女だったってのによぉ~。なんで女ってのは、結婚してガキが出来ると変わっちまうのかね~?」

 

 

FILE55 第47層フロアボス戦!不殺のソードスキル

第47層フロアボス、『ライトニング・ザ・デーモン』のその顔は巨大な二本の角を頭部から生やした、禍々しい紫色の悪魔そのものであったが、首より下の胴体は完全なる骨と言う、そのアンバランスな構造が不気味さを引き立たせているフロアボスであった!

そして、配下のモンスターは6体の『フォロワー・デーモン』達であった。基本的に近接攻撃の出来ぬライトニング・ザ・デーモンをサポートする為か、全員がサーベルを装備しており、ソードスキルによる攻撃に注意しながら戦う事を推奨されるモンスター達であった!by立木ナレ




クライン「おっしゃ―――!一本目のHPバーは貰いぃっ!!」

ボス戦が開始してから精々10分にも満たない間に5本のHPバーの内の最初の一本目に止めを刺したクラインが刀を掲げて声高々に叫ぶが、すぐに次の戦いのモーションが発動する。

クライン「うおっ!フォロワー・デーモンが復活しやがったぜ!?」

エルダ「クラインさん、勝ち誇るのはいいけど、まだ一本目だから手短に済ませてよ!」

エルダに注意されてクラインは大慌てで、すぐそばで出現した新たなるフォロワー・デーモンたちの側から離れて、俺達の近くまで一時撤退する。

キリト「これも事前の偵察戦で分かってた事だけど―――ボスのHPバーを一本削るたびに、既存の生き残ってるフォロワー・デーモンは消滅して、新たにHPがフル状態のフォロワー・デーモンがボスの周辺に6体召喚されるから。ボスに止めを刺したなら即撤退を忘れないようにしよう」

レイナ「……今のは流石に迂闊」

クライン「は、はい、しゅみませんでした~……」

キリトから詳しい説明を織り交ぜた上での注意と、レイナからの単刀直入な注意を受けてクラインは、さっきまでのテンションから一転して、しょげた顔になったのだった。

俺「クラインイジメはその辺にしておいてやれ、俺達の本来の役目は基本的に取り巻きのフォロワー・デーモン共の対処だからな」

エルダ「そうね、だけど、ライトニング・ザ・デーモンからの攻撃にも相変わらず注意しないといけないわよね」

エルダの言う通りだ、ライトニング・ザ・デーモンの攻撃の中で特に厄介なのが天井から落下させて来る雷攻撃で、あの攻撃はボスからどれだけ距離が離れていようが関係なく命中するので、フォロワー・デーモンの相手をしている俺達も不意に食らう可能性は充分高い。

エルダ「私やトーラスさんの盾も、真上から落ちて来る雷に対しては、あまり役に立たないのよね……」

レイナ「……盾を使って天井からの雷攻撃を防ぐには、盾を頭の上に掲げる必要がある」

キリト「けど、そんな事してたら、フォロワー・デーモンたちに格好の的だもんな……」

とは言え、盾を使ったプレイヤーが今回のフロアボス戦でも重要である事には違いない。

俺「とにかく、フォロワー・デーモン共をコッチに引き付けようぜ。そうすりゃ、ライトニング・ザ・デーモンと戦う部隊の連中もやりやすくなるはずだからな!」

エルダ「そうね、早速ソードスキルを使うわ!」

クライン「俺達、風林火山も忘れられちゃ困るぜぇ!頼んだぜ、トーラス!」

俺達のパーティーメンバーで盾を装備しているエルダと、風林火山のトーラスが同時に盾の数少ないソードスキルである挑発技の『スレットフル・ロアー』を一斉に発動すると、フォロワー・デーモンたちの注意はそのプレイヤー達に引き付けられて、一斉にこちらに向かってくる。

もう一つの取り巻きモンスターの討伐部隊である結盟騎士団のゴドフリーが率いる部隊からも、同じように盾持ちのプレイヤーが同じスキルを発動していた。

キリト「来たぞ―――戦い方はさっきと同じ手筈で良いはずだ!」

俺「ああ、分かってるから、よそ見してねーで取り巻き狩りに専念させてもらうとするか!」

今俺が言った言葉は、ライトニング・ザ・デーモンを相手に勇猛果敢に戦い続けているアスナに対して視線が向いていたキリトに対して言った言葉でもあったが、キリトはそれに気が付かなかったのか、或いは気が付いていない振りをしているだけか。
真っ先に駆け出して、単独でフォロワー・デーモンが放ったソードスキルを自身もソードスキルで迎え撃っていたのだった。

その姿はまるで自分の死など何とでも思っていないかのような、むしろ死に場所を求めて戦う、狂戦士の如く戦いぶりだった。

俺のパーティーとゴドフリーのパーティーで計12人のフォロワー・デーモン討伐部隊は、瞬く間に、一体、また一体と数を減らしていった。

クライン「おっしゃっ!これで、5体目のフォロワー・デーモンを撃破っ!―――って、向こうは二本目のHPバーがまだ結構残ってるじゃねーかよ」

クラインの刀ソードスキルの緋扇(ひおうぎ)が、上下の連撃から一拍溜めて突きの計3連撃の技で5体目のフォロワー・デーモンを倒したのだったが、すぐにボスの二本目のHPバーがようやくイエローになったところなのを見て、少々困ったかのようにそう言った。

エルダ「どうしましょうかね?また、クラインさんが出しゃばって一本目のHPバーに止めを刺したみたいに、ボスに攻撃しに行ってみる?」

エルダがクラインの先程の行動を皮肉るようにそう言うと、クラインは苦々しい表情で苦笑いを浮かべていた。

レイナ「……フォロワー・デーモンを全滅させちゃいけないのは――めんどくさい」

キリト「仕方ないさ、全滅させてしまえば、即座にその場でまた6体のフォロワー・デーモンが召喚されるんだ――当然、ボスの周囲一帯にな」

キリトが今説明した通り、フォロワー・デーモンが新たに6体召喚される条件は、ボスのHPバーを一本削り切ること以外にも、6体全てを倒し切った場合にも満たされる。

なので今、残り一体となり、HPバーもイエロー領域にまで減っているフォロワー・デーモンに対して俺達は迂闊に手が出せないのであった。

その最期の一体のフォロワー・デーモンはゴドフリーの部隊の血盟騎士団の片手直剣使いのメンバーと盾持ちの女性メンバーが大ダメージを与えぬように、交互にガードと、弱攻撃の繰り返しで時間稼ぎをしている状態だったが、そのローテーションを維持し続けられるのは、あくまで、横槍が入るまでの事だった。

キリト「不味い!天井からの雷だ―――」

キリトが瞬間的にそう叫んだのは、雷が落下する直前に落下地点の頭上が光を放ったからだった。だが、その地点にいるプレイヤーは、丁度フォロワー・デーモンへの対応でそれに気が付かずに、雷の直撃をまともに浴びてしまっていた。

ゴドフリー「ア、アギトォ!?」

パーティーリーダーのゴドフリーが麻痺状態となった片手直剣使いのプレイヤーのアギトに駆け寄り、麻痺を回復させるポーションを飲ませようとするが、その間にもフォロワー・デーモンのサーベルは容赦なく振り回されており、ローテを崩された盾持ちの女性メンバーは動揺から、強力なソードスキルで迎え討とうとしていた。

ゴドフリー「ま、待て!今そいつを倒してしまえば―――」

ゴドフリーの危篤していた事態は、防がれた。なぜなら俺が猛ダッシュでフォロワー・デーモンに駆け寄り、盾持ちの女性メンバーのソードスキルが発動するよりも先に、納刀術ソードスキルの最大で6連撃の乱撃技、『不殺蓮千撃(ふさつれっせんげき)』を食らわせていたからだった。

無論、結局ソードスキルを――しかも6連撃技などをまともに食らわせれば、HPがイエローとなっていたフォロワー・デーモンは倒されてしまい、再び新たな6体が出現してしまうと、ゴドフリー達も思っていたのだろうが。

ゴドフリー「た、倒されてないだと!?」

クライン「しかも麻痺してんじゃねーか!おいおい、なんだよ今のはなんだってんだよオズの字よぉ!?」

ゴドフリーが驚嘆の声を共に、目を丸めて呆然としていた。クラインも同様に驚きつつも、それ以上に興奮した様子で俺の肩を叩き、今の技の事を興味あり気に聞いてくるのだった。

レイナ「……納刀術ソードスキル『不殺蓮千撃』は、6連撃の一撃一撃に、一定確率で麻痺状態にさせる阻害(デバフ)効果を持っていると同時に、HPがレッドゾーンの状態にまでなっている相手に対しては一切ダメージを与えられない技よ」

クラインのそんな質問に答えたのは、レイナだった。

俺「本来、HPがレッドゾーンにまで減った相手にダメージが与えられなくなる効果は、デメリット効果になるんだが、こんなところで役に立つのは想定外だな」

キリト「その、デメリット効果が無しで、6連撃の上に、麻痺させる効果だけだったら、流石にゲームバランス的にチート級のソードスキルになりかねないからな」

エルダ「ともかく、これでこのフォロワー・デーモンはしばらくは襲ってこないから安心って事ね、貴方達もこれで大丈夫だわ」

エルダは血盟騎士団のメンバー達の方を向きながらそう言うと、麻痺から回復したアギトは『助かった、この借りはこれからの戦いで返す』と礼を言ったのだった。

そして、俺達も直後にボスへの攻撃に加勢するが、その時点で既にボスの二本目のHPバーは既にレッドゾーンの状態にまで減っていた状態だったので、大して攻撃する事も無く、2本目のHPバーが全損。
再び新たに現れた、6体のフォロワー・デーモンの討伐に回る事になったのだった。

そして、それを繰り返し続けて、3本目のHPバーも、4本目のHPバーも削り切り、ついに第47層フロアボス、『ライトニング・ザ・デーモン』のHPバーは最後の一本を残すのみとなった。
そして、そうなってからだった。ボスのモーションに新たなる変化が訪れたのは。

アスナ「なっ―――こ、こんなことって!?」

ヒースクリフ「ほぉ……ここにきて更に守りを固めるとはね」

アスナがその光景を見た瞬間に、鋭い目つきで、叫んだ。ヒースクリフの方はその落ち着き払った表情と立ち振る舞いを未だに変える事は無い、奴からして見てもこの状況は好ましくない変化だと言うのに、それを微塵も感じさせなかった。

レイナ「……なんだか、綺麗」

キリト「おいおい、感心してる場合じゃないぞ――と言いたいが、幻想的な光景に見えるのは確かかもな……」

ライトニング・ザ・デーモンの巨体の周りに無数に出現したのは宙を浮きながらふわふわと漂う、電撃を帯びた球体の数々だった。

キリトはアイテムストレージから投擲用のナイフを出現させると、それを投擲スキルを使い、比較的地上に近い距離を漂っている球体に向かって投げつけたのだったが―――投擲ナイフが球体に触れた瞬間に、凄まじいスパーク音を響かせて、投擲ナイフが朽ちて消えたのだった。

クライン「うおっ!?な、なんだありゃっ!?あれ、ぜってー触っちゃいけねーのじゃねーか!?」

エルダ「本当に、厄介な事してくれたわね……あれじゃ、私達がフォロワー・デーモンたちの相手をしていても、ボスへの攻撃部隊の人達は今までに比べて攻撃を当てるのが難しいままだわ」

俺「しかも、さっきの様子だとこっちから攻撃をして消す事すら出来そうにないみたいだな。今までのフロアボスもそうだったけど、やっぱりHPバーが最後の一本になって追い詰められたころに奥の手を出してきやがるんだよな」

基本的に、偵察戦ではそこまでボスと戦う事は無いので、フロアボスの最後の奥の手は大抵は本番のフロアボス戦で初めて見る事になる。
そして、今回のフロアボスの奥の手は、無数に漂い、ボスへの攻撃を妨げる電撃を帯びた無数の球体だたわけだ。


終局を迎えたフロアボス戦!果たして、攻略組はこのままフロアボスを倒し切る事が出来るのか!?by立木ナレ 

 

FILE56 補足転移発動!オズマ、瞬間移動!

 
前書き
なんか、メルトダウンの影響でしばらく更新が滞ってしまいました。

ようやく投稿出来て、一安心です。 

 
第47層フロアボス、『ライトニング・ザ・デーモン』のHPバーがついにラスト一本となった。フロアボスは自らの周囲一帯に電撃を帯びた球体を無数に出現させて、ボスへの攻撃部隊のプレイヤー達は攻撃を執拗に阻まれて苦しむのであった! by立木ナレ




エルダ「こっちは、今までと変わらないけど―――向こうはやっぱり苦戦してるわね」

エルダは細剣ソードスキルの5連突き技のニュートロンを配下モンスターであるフォロワー・デーモンに浴びせながらそう言っていた。

そして、更に今度はキリトが、同じフォロワー・デーモンに対して7連撃技のデッドリー・シンズによって、フォロワー・デーモンを倒していた。

俺「あの宙を漂ってやがる球体がマジで厄介なんだよな、あれを避けながらボスに接近して、攻撃を食らわせなくちゃならねーんだからな」

クライン「ったく、こーいう時って、SAOの遠距離攻撃手段の乏しさってのが困りものだぜっ!」

クラインはフォロワー・デーモンの攻撃を刀で弾き返しながらそう愚痴るのだった。事実、この6人のパーティーメンバーの中でも、遠距離攻撃が出来るのは、せいぜいキリトの投擲スキル程度で、それも本格的なダメージ源にはなり得ず、あくまで敵へのけん制、注意を引き付けるのに使われる程度だった。



そして、それからもフォロワー・デーモンへの攻撃部隊はそれまで通り順調にフォロワー・デーモンを倒し続けるのとは対照的に、ライトニング・ザ・デーモンへの攻撃部隊は苦戦を強いられ続けるのであった!
懸命に一部の攻撃部隊のプレイヤーが辛うじてボスに接近して攻撃に成功したとしても、まるでそこから追い払う様に、電撃を帯びた球体が近づいてくるので、長時間同じ場所に偽る事は不可能に近く、断続的なダメージを与えるのが困難なのであった! by立木ナレ



一方で、俺達の取り巻きモンスターであるフォロワー・デーモンの狩りは続いた。俺が不殺蓮千撃で麻痺させつつ、HPバーをレッドゾーンの状態にまで削ったフォロワー・デーモンに対してレイナがとどめのソードスキルを放つために急接近―――

レイナ「……ソードスキル発動」

デモリショ・ウィールドは両手剣ソードスキルの中でも爆発的な威力を誇る3連撃技である一方、隙が大きいのが弱点だが、麻痺している相手に対してはその隙は殆ど問題にならず、圧倒的なダメージによってフォロワー・デーモンを倒し、この時点で残りのフォロワー・デーモンは2体となった。

エルダ「向こうはまだ最後の一本のHPバーを半分も削れてない―――それどころか、HPがイエロー領域になった人たちの回復で攻撃の手が不足してるようにも見えるわね」

キリト「あの球体、触れたときのダメージは結構デカいみたいだな」

俺「この調子だとジリ貧か……」

ボスの眼前ではアスナやヒースクリフなど、攻略部隊の中の一部の者達が懸命に攻撃を加えるが、決定的なダメージ源となるソードスキルの発動を躊躇っている様子だった。
だが、それも無理もないだろう。ボスの周囲にあの球体の電撃が漂っているせいで、ソードスキルでダメージを与えれば、硬直中に周囲の球体が接近してきて、逃げ場を失いそのまま触れて感電なんて事になりかねない。

俺「後でアスナから、なんで勝手にボスの攻撃に加わったの!?とか言われるのは正直勘弁願いたいところだけどな……」

キリト「何か有効な手立てでもあるのか?―――まあ、残りのフォロワー・デーモンは少ないから、オズマ一人がここから抜けても大丈夫だとは思うけど」

これは、俺自身も、今日になって初めて習得したスキルだ。その辺のフィールドの雑魚のMobに対して何度か練習がてら使ってみたに過ぎず、フロアボス戦で使うには少々、早いんじゃないかともおもうが、このジリ貧な状況を打破する可能性もある。

俺「それじゃ、取り巻き共の相手は任せるぞ」

そう言いながら俺は、鞘に収まったままだった剣を引き抜き、周囲を漂う球体に守られたライトニング・ザ・デーモンに対してタゲを取った。
すると、まるで奴は俺がこれからやろうとしている事を察したかのように、俺の頭上に雷攻撃の初動モーションである黄色い光を迸らせていた。

クライン「オ、オズマ、雷が――――」

スグに雷が落ちる音と同時に、俺が立っていた場所に雷が落下するが、その雷は俺に当たる事は無かった。

クライン「あ、あれ―――あ、アイツ、どこ行っちまいやがった?」

レイナ「……あそこ」

キリト「――!?いつのまに……」

その光景に、俺のパーティーメンバーだけでなく、フロアボスの部屋で戦っている全プレイヤーが共通の驚愕を感じているのは俺にも感じされた。

俺「これが……『補足転移(ほそくてんい)』のソードスキルだっ!」

アスナ「し、瞬間移動ですって!?」

レイナ「……あれが、オズマのユニークスキル?」

結論から言うと、俺はボスから遥かに離れた場所から、瞬時にボスの頭上にまで瞬間移動していた。そして、下突き、切り、突き、切り上げと連続攻撃を加えて、元の位置に瞬間移動したのだった。

今のが、俺のユニークスキルである補足転移で今の所、習得している二つのソードスキルの内の一つである『ラウンジ』だった。
この補足転移は、タゲを取ったモンスター、プレイヤー、その他のオブジェクトの前に瞬時に瞬間移動する事が出来る能力を与えるスキルで、また、この補足転移を習得している場合に使えるソードスキルも幾つかあったのだった。
瞬間移動するには、タゲを取っている相手が自分の目に見えている状態である事が条件である為、見えない相手の目の前に瞬間移動する事は不可能が、この補足転移スキルを使う事で、超遠距離を一瞬で移動するなど、単純な移動、奇襲にも大いに役立つスキルだった。

クライン「おいおいおいおいおぉいっ!!オズの字よぉ!こ、今度は一体何だってんだよそりゃ!?オ、オメー、い、今―――瞬間移動したじゃねーか!テレポートか!?超能力かよ!?」

俺「テレポートに似たようなもんかもしれないが、超能力じゃなくてユニークスキルだよ」

俺の肩をガシっと掴み、クラインが凄まじく驚いたような声で問いただしてくるので俺は端的に答えたのだった。

と言うか、レイナが先にもっと的確に説明をしたはずなんだがな。

アスナ「ちょっと、貴方!!」

俺「あ、はい……なにか?」

クラインが騒いでいた矢先に、いつの間にかアスナが、締まりのある表情でこちらにやってきて俺に声を掛けてくる。
まさか、俺が勝手にボスへの攻撃に加わった事に対して、『私の許可なく勝手な事をするのは控えて下さい!』とか、叱り付けて来るんじゃないかと思い、軽く欝な気分になりかけた時だった。

アスナ「今のが貴方のユニークスキルなのね?さっきので、もう一度、ボスの目の前に瞬間移動して攻撃出来ないかしら?出来ればノックバックさせてくれると助かるわ」

アスナは真剣な表情で、そう問いかけてきたのだった。

キリト「そうか、オズマがライトニング・ザ・デーモンに対してノックバックさせられる位の一撃のソードスキルを食らわせれば―――」

エルダ「ボスに隙が出来るわ!」

アスナのやろうと考えている事をキリトが、そしてエルダも察して、続けてそう発言すると、アスナは首を縦に振って肯定した。
そして、俺の方を再び振り向いてから、三度問いかける。

アスナ「出来るかしら?」

俺「やってみる価値は十分ありそうだな、補足転移のソードスキルを使う場合は、剣を鞘から抜いた状態じゃなくちゃ使えないが―――ただ、瞬間移動するだけなら、納刀状態でも問題ないから、瞬間移動の直後にあのソードスキルを食らわせればな―――」

そう言いながら、俺はライトニング・ザ・デーモンの方に視線を向ける。相変わらず、奴の周辺には無数の球体が電撃を帯びたまま、漂っている。
あれでは、攻撃部隊のプレイヤー達も満足に接近して攻撃出来ないのは無理もない。

レイナ「……オズマなら出来るわ」

クライン「おうっ!やってくれや、オズの字!」

俺「そんじゃ、ご期待に添えられるようにちょっとばかし行ってくるか――――」

俺は剣を鞘に納めると、再びライトニング・ザ・デーモンにタゲを取り、今度は補足転移を発動する。

エルダ「また、消えたわっ!」

俺はその場から姿を消して、タゲを取った相手であるライトニング・ザ・デーモンの目の前に瞬間移動した。

俺「出来れば―――そのグロい顔を間近で見たくはなかったがなっ!」

俺の剣の鞘に闘気が集まり、獅子の形と化し、俺はそれを敵に叩きつける。納刀術ソードスキルの『裂震虎砲(れっしんこほう)』だった。
単発のソードスキルだが、強力な一撃でもあるこのソードスキルは高確率でノックバックさせられる技であり、それを顔に叩きつけられたライトニング・ザ・デーモンの巨体は一時的にではあるが傾き、その直立した体制を崩していた。

俺「やれることはやったぞぉっ!これでどーだっ!?」

アスナ「充分だわっ!皆、今のうちにボスに接近!今なら球体が動かないわっ!」

俺が大声で叫ぶと、アスナが返事をしつつ、レイドパーティーのプレイヤー達に指示を出す。アスナの見立てではボスによって制御されている電撃を帯びた球体は、ボスがノックバックなどによって一時的に行動不能になれば、その間は動かないと推測したようだった。そして――その推測は見事に的中し、アスナの作戦通り、ノックバックしたデーモンに攻撃部隊のプレイヤー達が一斉に急接近して、次々とソードスキルを浴びせ続けたのだった。

そして、俺はと言うと、裂震虎砲の直後に、抜刀を瞬時に発動する事も可能で、そうすればさらに今度は片手直剣のソードスキルに繋げる事も可能なのだったが、敢えてそれはしなかった。

何故なら俺はただいま絶賛落下中だった。ソードスキルを連携で発動して行けば、何れは地上付近で俺はソードスキル発動後の硬直で動けない状態になってしまい、そうなれば高所からの落下で大きなダメージを食らう事になる。

それを回避する為に俺は、裂震虎砲の発動後は何もせずに落下しながら、ソードスキル発動後の硬直が終了するのを待った。そして―――

俺「ただいまっとっ!」

レイナ「……お帰り」

エルダ「見事な活躍だったわね――ま、副団長さんの作戦でもあるけどね」

俺は地上に落下する前に、レイナにタゲを取り、再び補足転移を発動して、レイナの目の前まで安全に瞬間移動する事で、落下ダメージを回避したのだった。

キリト「けど、これで活路は開けたな、アスナの合図があるたびに、オズマが補足転移からのソードスキルで隙を作れば、行けるはずだ!」

レイナ「けど、勿論……私達はフォロワー・ワーゲンを抑えるのも忘れてはいけない」

レイナの言う通り、残り一体になったフォロワー・ワーゲンを倒してしまえば、再び新たに6体のフォロワー・ワーゲンが出現してしまうので、そうなるとまた攻撃部隊のプレイヤー達にとっての障害になるので、それは避けなくてはならなかった。

アスナ「オズマ君、もう一度、今のをやって下さい!」

俺「早速、ご指示が出たな。もう一回行ってくるか!」




そして、アスナの指揮と、オズマのユニークスキルの補足転移により、ライトニング・ザ・デーモンは順調に追い詰められていき、最終的に体制を崩したフロアボスはアスナの6連突きの細剣ソードスキルのクルーシフィクションによって、十字を描く様に突きを食らい、最後の一本であったHPバーを完全に散らしたのであった!

第47層フロアボス――ライトニング・ザ・デーモン、完全撃破っ!事前の話し合いでアスナが危篤していた、全プレイヤーの3分の1のHPがイエロー領域になる事態も発生する事無く、フロアボスは余裕を持ったまま倒されたのであった!! by立木ナレ



※ ※ ※



フロアボスを倒して、一通りレイドパーティーの面々が勝利に沸き立っていた中。小さな拍手をしながら一人の男が、感心したような表情で近づいてきていた。

ヒースクリフ「お見事だったよオズマ君。君もユニークスキルの使い手になっていたとはね」

血盟騎士団の団長であり、俺よりも先にユニークスキルの所有者になっていたヒースクリフだった。ボス戦ではライトニング・ザ・デーモンが放ち続ける雷撃や雷攻撃を諸共せずに、一本の回復結晶もポーションも使う事無く、HPをグリーンの状態を保ち続けたその聖騎士は、ボス戦直後の疲れなどまるで感じさせない様子だった。

俺「ほんの今朝になって、何でか知らないが使えるようになってたもんでな。まさか初日からフロアボス戦に試す事になるとは思っちゃいなかったが、最強ギルドのお役に立てたのならこっちとしても光栄だよ」

ヒースクリフ「むしろ今回は、君のその力のおかげで終盤は順調に戦い抜けたと言っても過言ではないさ、そして―――」

ヒースクリフはほんの一瞬、既に俺達のパーティーから離れたところで一人で座り込んでいるキリトの方に視線を一瞥したように感じたが、すぐに俺の方に視線を向けなおして口を開いた。

ヒースクリフ「オズマ君の次にユニークスキルを獲得するのはいったい誰なのか―――二人目のユニークスキル使いの出現によって、それも十分にあり得る事だと考えると、楽しみになって来たよ」

確かに、既にユニークスキルの使い手は今日、俺が補足転移を得た事で二人目になった。ヒースクリフが神聖剣と言う、唯一のユニークスキルの習得者であった頃は、他にユニークスキルの所有者が現れるなど、あまり現実味に感じない話だったが。
こうして、俺が第二のユニークスキル習得者になったのだとしたら、神聖剣でも、補足転移でもない三人目のユニークスキルの習得者が現れても不思議ではなくなってきたかもしれなかった。



その後、ガチャモンとモックがお決まりの様に姿を見せたが、プレイヤー達には大して相手にされず、ガチャモンとモックも特にこれと言った行動を起こす事も無く、第47層フロアボス戦は無事に完了し、攻略組の面々は48層へ向かう者と、47層の主街区に戻る者で別れたのであった! by立木ナレ 

 

FILE57 蘇生アイテムの噂

西暦2023年12月。SAO開始から一年と一ヶ月。二度目のクリスマスを目前と控え、アインクラッド中ををある一つの噂話が駆け巡っていた。
一月ほど前から、各層のNPCが、こぞって同じクエストの情報を口にするようになっていた。

曰く、ヒイラギの月―――すなわち十二月二十四日夜二十四時ちょうど、どこかの森にあるモミの巨木の下に、背教者ニコラスなる伝説の怪物が出現する。

そして、もしそれを倒す事が出来れば、怪物が背中に担いだ大袋の中にたっぷりとつまった財宝が手に入るだろう―――。

普段であれば、迷宮区の踏破にしか興味の示さぬ攻略組の有力ギルドも、今回ばかりは色めき立っていた。財宝とやらが巨額のコルにせよ、レアアイテムにせよ。フロアボス攻略の大いなる助けになるのは明らかであったから出る。

ギルドMBTを率いるオズマも、当初はその噂に興味を示し、来たる12月24日に備えて、討伐の計画を考えていたのであった。――――だが、そんなオズマの興味をそぐようなNPCからの情報が広まったのは二週間ほど前であった!

ユッチ「オズマさぁ~ん。本当にクリスマスイベントのボス戦は中止しちゃうんっすか~?」

俺「ああ、止めだ止めだ。あんな噂を聞いたおかげで一気に胡散臭くなりやがった……」

そのNPC情報を知っても、尚も背教者ニコラス討伐を惜しむユッチに対して、俺はあくまで、討伐から手を引くと言う意見を変えずにそう言い放った。

レイナ「……私も、あの話は流石に信憑性に欠けると思う」

ユッチ「そんな、レイナさんまでぇ~。もっと夢を見たっていいじゃないっすかぁ~」

ユッチは未練がましさを感じさせる表情で、レイナの方を見ながら情けない声を上げるが、レイナは無表情のままユッチの方を向いて、容赦なく言い放つ。

レイナ「……私は、あの蘇生アイテムの噂に夢なんて感じない」

俺「全くだ、このデスゲームで過去に死んだプレイヤーを生き返らせるアイテムなんざ―――あるかそんな話!」

それは、NPC達の会話によってもたらされた情報だった。『ニコラスの大袋の中には、命尽きたものの魂を呼び戻す神器さえもが隠されている』。俺を含めて多くのプレイヤーは、それをがセネタとして見なし、それまでクリスマスイベントに興味を惹かれていた攻略ギルドの者達も、その噂を聞いたのを機に、俺と同様に手を引く者たちが後を絶たなくなっていた。

レイナ「……多分、SAOが大元の、普通のVRMMOとして開発されてた時に組み込まれていたNPCの台詞が、デスゲーム化した後もそのまま残ったと考えるのが妥当」

俺「だよな。そもそも本来のSAOは死んでも、デスペナルティを払ってはじまりの街から復活できる仕様だったんだ。そんでもって、噂の蘇生アイテムとか言うのは、そのデスペナルティを免除して復活させてくれるアイテムだったとかだな」

デスゲームと化したこのSAOでのデスペナルティは言うまでも無く、プレイヤー自身の命そのものだ。現実世界で死んでいる以上、ゲーム内で生き返らせることなどあり得ないのだが、ユッチはなおも食い下がるように一つの仮説?を口にしてきたのだった。

ユッチ「け、けどオズマさん……この世界で死んだら、その後実際にどうなるのかなんて、知ってる奴なんてここには一人もいないじゃないっすか!だから、もしかしたら―――」

俺「もしかしたら、実際にゲーム内で死んだら、現実世界で目覚めて、実は悪質なドッキリだったなんてオチか?」

ユッチ「そー、それっす!もしかしたらそんなこともあるんじゃないかと―――」

ユッチの考えそうなことは俺にも簡単に予想が付く。そして、それが見当はずれな考えである事も分かり切っていた。

俺「だったら、死んだ連中がそれを現実世界ですぐに知らせて、今頃は直ぐにプレイヤー全員のナーブギアを剥がしてSAOからみんな仲良くおさらばしてるはずだろ?」

ユッチ「そ、それは―――」



ユッチもオズマの的確な指摘に反論の言葉を見出す事は出来なかった!まさに八方塞がり!事実、死んだプレイヤーはその直後に現実世界で目覚めると言うのであれば、一年以上もの間、オズマ達生き残っているプレイヤー達が未だにアインクラッドの攻略に勤しんでいる事などあり得ぬ話!現実世界の者達がプレイヤー達の頭から強制的にナーヴギアを剥がさぬと言う事、それはすなわち―――ゲーム内で死んだ者たちが、現実世界でも実際に死んでいると言う事を示している他ならないのであった!! by立木ナレ



結局、ユッチはこの話を諦めたようで、トボトボと歩いて去って行ったのだった。だが、俺の元にまたしてもクリスマスイベントの話を持ち掛けられてきたのは、その僅か2日後だった。


※ ※ ※



俺「その依頼、達成できる見込み0としか思えねーんだよな……ミリオン」

ミリオン「そんなの、依頼してきた子だって分かった上での事よ。ただ、どうしても僅かな望みに賭けたいのかしらね?」

俺の前で椅子に腰かけながら話しているのは、同じMBTのギルドメンバーのミリオンだった。目が常に半開きで眠たそうにしている女性プレイヤーのミリオンは、ギルド内では主に行商や、他のギルドやプレイヤーからの依頼の仲介を担う存在だった。
そして、この日、ミリオンは俺の元にレイのクリスマスイベントで得られると噂される蘇生アイテムを代わりに入手するようにとの依頼を預かってきたのだった。

ミリオン「せめて、蘇生アイテムの真偽だけでも確かめたいそうよ。蘇生アイテムが本物だったら手に入れて自分の元に届ける事。やっぱりガセネタだったんなら、蘇生アイテムは諦めるそうで、結果がどっちになったとしても、報酬はちゃんと払うと向こうは言ってるわ」

レイナ「……報酬は何?」

肝心な報酬の話をレイナが問うと、ミリオンは半開き状態の目を少し大きく開いて、口元をニヤリとさせて、アイテムストレージからその依頼品として預かっているアイテムをオブジェクト化させた。

そのアイテムを見て俺は、目を一瞬疑ってしまった。

俺「回廊結晶……だと!?」

ミリオン「どう、やる気出たんじゃない?」

回廊結晶は集団を任意のポイントに移動させることができる唯一のアイテムだった。これは、1フロアを攻略する間に、攻略組全体で一つドロップするかどうかと言う超希少アイテムで、大手のギルドの殆どは最重要物資としてストックする程の代物だった。

俺「何者なんだ、その依頼人?」

ミリオン「単なるソロプレイヤーね。実力的には中層のプレイヤーとしてはハイレベルだけど――攻略組連中には及ばないってところだわ」

回廊結晶と言えば、攻略ギルドからして見ても、最重要アイテムだってのに、中層の、それもソロプレイヤーにとっちゃこの回廊結晶は途轍もない、途方もない価値の宝物だ。

俺「こいつを売り飛ばせば、かなりの金になって、高値の装備を買いそろえられるかもしれないって程なのに、それをみすみす手放してまで、何であんな胡散くさい蘇生アイテムが必要だと思ったんだろうな?」

レイナ「……どうするの?」

正直、俺にとってはかなり得な依頼だった。正直俺は、蘇生アイテムの噂何て信じちゃいないが、依頼人は蘇生アイテムがガセだったとしても、その事実を確かめるだけでも報酬をくれると言っている。回廊結晶と言う、結晶アイテムの中でもダントツで最高の値打ちを誇るアイテムを。

俺「んじゃ、俺にとってのクリスマスイベントのお宝は、いっその事その回廊結晶だと思って、引き受けてみるとするか」

ミリオン「分かったわ、依頼人に報告しに行くわね」

俺が依頼を引き受けることを了承すると、ミリオンは依頼人にメッセージを送信していた。俺がこの依頼を引き受けた事を知らせたのだろう。
ミリオンはそれだけ済ませると、行商に向かったのだった。



※ ※ ※


依頼を引き受けてから数日が経過していた。ここは現在のアインクラッド最前線である第49層よりも三階層下で、大アリのモンスター達が出現する洞穴だった。

そして、俺の目の前で大顎で襲い掛かってきた、二体の大型のアリモンスター二匹のHPを同時に0にしていた。

俺がつい先日習得した片手直剣のソードスキル『ヴォーパルストライク』は片手直剣スキルの熟練度が950に達した際に剣技リストに出現した新たな単発重攻撃ソードスキルだった。
技後の硬直時間がやや長いのがネックだが、それはパーティーメンバーとのスイッチで十分カバー可能で、刀身の倍以上のリーチと、高い威力はかなりの使い勝手だった。

俺が倒した大アリの抜け殻が四散するのを、横目で見ていると、すぐに後方に構えていた大型のアリモンスターに対してエルダが細剣ソードスキルの『スター・スプラッシュ』を発動していた。
中段3連突き、下段切り払い攻撃を往復、斜めに斬り上げ、上段2連突きの計8連撃を誇るこのソードスキルも、現在エルダが習得している細剣ソードスキルの中でも最強の技として使われていた。

僅かにHPを残している大アリはレイナが巨大な両手剣をすぐさま大胆に振り下ろして、止めを刺していた。

俺達が今、狩りをしているこの穴場は、現在知られている中では最も経験値稼ぎの効率が高い人気スポットだった。
周囲のガケに幾つも開いている巣穴から次々と湧き出す巨大なアリたちは攻撃力は高いがHPも防御力も低いと言う、典型的な攻撃一辺倒のモンスターで、敵の攻撃を上手く避け続ければ短時間で何体も倒す事が出来る。
前述通り人気スポットであるがゆえに、1パーティーにつき一時間までと言う協定が貼られている。

エルダ「オズマ君、後1分になったわよ」

俺「早いもんだな、そろそろ次のパーティーと交代しなくちゃな―――と言っても、ソロプレイヤーだがな」

俺は巨大アリ達を狩るのを順番待ちしているパーティーの行列を見て、次の自分の番を待っているソロプレイヤーを見て、そう呟いた。
決してソロ向きとは言い難い、この狩場にソロでたった一人並んでいるのは、攻略組でも一匹狼者の黒の剣士、キリトだった。

時間になり俺、レイナ、エルダは狩場から切り上げて、すぐに交替で狩場にやって来たキリトと入れ違いですれ違う。
お互いに軽く目を合わせた程度で特に会話は無く、そのままキリトはすぐさまソロでのアリ狩りに入っていた。

エルダ「嘲笑が嫌悪に変わった……わね」

俺「集団行動第一の最強ギルドの連中からは『最強馬鹿』とか『はぐれビーター』とか、すっかり笑者扱いだなアイツ」

このまえ、クライン率いる風林火山の連中と会った際に、リーダーのクラインから聞いた話に寄るよ、キリトもまた蘇生アイテムの噂に便乗し、背教者ニコラスを倒してそのアイテムを得る事を狙っているのだと言う。
しかも、その背教者ニコラスとの戦闘すら確実に自分自身が蘇生アイテムを手に入れる為に、ソロで挑むのだと言う。

アルゴ「やれやれ、全く無茶な事ばっかりしてるなアイツは~、絶対に早死にするタイプだナ」

俺「んでもって、相変わらず神出鬼没だなアインクラッド一の情報屋さんは」

どうせまた、隠匿スキルで身を隠していたのだろう。情報屋のアルゴは唐突に俺達の背後から姿を現した直後に、キリトの危険な戦いぶりを見て、他人事のような言い方をしたのだった。

アルゴ「にゃはは、これくらい出来なくちゃ情報屋は務まらないんだナ。それよりもオズ坊。ニコラスが出て来るっていう第35層の迷いの森のモミの巨木までのルートが記されたマッピングデータが手に入ったゼ」

俺「間に合ったか、仕事が速くて助かる」

背教者ニコラスが出現する第35層の迷いの森は、一つのエリアに踏み込んでから一分経つと東西南北の隣接エリアへの連結がランダムに入れ替わってしまう設定故に、俺はそこが最前線だった時は、脱出するのに散々苦労させられて、第35層のクリア後は一切あの場所には踏み入れていない、あまりいい思い出の無い場所だった。

アルゴ「さてと、もう一人の依頼人にも同じのを私に来たんだけどナ。丁度オズ坊達と入れ違いだったか。こりゃここで1時間待ちぼうけだな~」

そう言いながらアルゴはその場で床にぺたんと座り込んだ。

レイナ「……もう一人のマッピングデータを欲しがってる依頼人はキリトだったのね」

エルダ「12月24日当日は、彼と蘇生アイテムの奪い合いになるかもしれないわね」

俺「ま、そんな事になる事はまずないだろ。それ以前に、その噂の蘇生アイテムとやらで、過去に死んだプレイヤーを生き返らせられる可能性すら0なんだ」 

 

FILE58 蘇生アイテムを巡る騒乱!

蘇生アイテム!――!それは、デスゲームと化したSAOでは決してあり得ぬ存在であるはずであった。だが、2023年12月24日、第35層の迷いの森に出現すると噂される背教者ニコラスを倒す事によって得られると噂される蘇生アイテムの存在を巡り、プレイヤー達の思惑が渦巻いていた! by立木ナレ

俺「それじゃ、そろそろ出発するか」

俺はギルドメンバー6人のパーティーを組み、第35層の転移門広場の前で待ち合わせたメンバー達にそう告げた。
今回集めた6人のメンバーは初期メンバーである、俺、レイナ、ユッチ、エルダに加えて、乗馬スキルを習得しているマークとハミルの二人加えた構成となっていた。

ユッチ「他のギルドやプレイヤーを出し抜いて、蘇生アイテムをゲットっすね!」

エルダ「正確には、その真偽をハッキリさせる事ね。もし本当に蘇生アイテムがあるんなら、それを手に入れる、無かったならそれを伝えれば、回廊結晶は私達の物になるわね」

そんな会話をしながら、ゲートから出ると、前線とはまるで違い、広場は静まり返っていた。

ユッチ「他に誰もいないんっすかね?」

レイナ「……ここは中層プレイヤーの主戦場からも少しずれてる上に、主街区自体も見所が無いからだと思うわ」

レイナの言う通り、農村風の造りだからか、プレイヤー達を引き付ける物に乏しいのだろう。街区から出ると、すぐに俺達は時折周辺に湧出する雑魚モンスター達の相手に時間を割く事無く、マークとハミルが操縦する馬車に乗って、スピーディーに移動し続けた。

この周辺一帯に湧出する程度の雑魚モンスターであれば馬車での体当たりで難なく撃退可能なレベルだった。
マークが操る馬車に俺とレイナが乗り、ハミルが操る馬車にエルダとユッチが乗り、ほんの数分程度で迷いの森の入口に到達していた。

俺「ここから先は、俺がアルゴから買った地図アイテムを基にしたマッピングデータでナビをするから、先頭はマークで、後ろからハミルで目的地まで向かうぞ」

このフィールド・ダンジョンは屋外なので馬で走る事はまだ可能だが、無数の四角いエリアに区切られており、それ俺を結ぶポイントがランダムで入れ替わるので、地図を確認しなくては踏破は非常に困難だった。

俺「……レイナ、やっぱり代わりにナビゲートしてくれないか?」

レイナ「……分かった、難しいものね」

俺はレイナに地図を渡して、レイナにその役目を託した。マーカーを付けてある区画を起点にし、そこに至る経路を逆に辿ればいいのだろうが、その作業が俺にとってはややこしく、レイナに任せた方が確実に一直線に辿り付けると判断しての行動だった。

そして、レイナの的確なナビのおかげでワープポイントを的確に移動して、最後のワープポイントに入り、転移してすぐに、複数人のプレイヤーが前方に集まっている光景を目の当たりにした。

レイナ「……風林火山のメンバーとキリトだわ」

俺「出遅れたみたいだな……」

当然、向こうも馬車で俺達が接近すれば、すぐにこちらに気が付いて振り返っていた。クラインが真っ先に馬車から降りた俺達に駆け寄って声を掛けてくる。

クライン「おう、オズマ!オメーもキリトを止めてくれ!」

俺「話が見えねーよ、キリトが何を仕出かそうってんだ?」

と、俺は一応聞いてみるが、クラインの返答はおおよそ俺の予想通りだった。キリトは確実にニコラスがドロップするアイテムを手に入れる為にソロで挑もうとしている事。
そして、クラインはそんな無謀な事を挑もうとしていたキリトに対して自分達と合同パーティーを組む事を要請しているとの事だった。

エルダ「キリト君、貴方……一時、最前線から離れてたわよね?」

クラインの話を聞き終えた後、無言で俯いていたキリトに対してエルダが声を掛ける。

エルダ「その間に、何かあったのだとしても、やっぱり単独でなんて自殺行為だって分かり切ってるわよね?」

そう言ってから今度は俺の方に振り替える。

エルダ「オズマ君、依頼人の人は蘇生アイテムが本物だったら、絶対に手に入れてほしいって言ってたみたいだけど。オズマ君自身は蘇生アイテムの存在を信じてないのよね?」

俺「ああ、少なくとも――とっくの昔に死んだ奴を生き返らせるような代物なわけがない。現実世界の人間が死んでる状態で、ゲーム内のプレイヤーだけが生き返ったりするかよ」

エルダ「そう思ってるんなら、ここでキリト君や風林火山の人達と合同パーティーを組んでも―――」

レイナ「……まってエルダ」

エルダが俺に対してここで、合同パーティーを組む事を提案しようとした矢先に、レイナがその先の言葉を制した直後だった。
このエリアに、新たなる侵入者が姿を見せたのはその瞬間だった。

ユッチ「うわうわっ!なんかゾロゾロと出て来たっすよ!」

ユッチの言う通り、10人とか6人程度の連中ではなく、ざっと見た感じ30人以上はいる大集団だった。

キリト「お前らも尾けられたな、クラインか、オズマか知らないが」

クライン「……ああ、そうみてぇだな……」

俺「しかも、なるべく大っぴらに対立したくない奴らっぽいな」

50メートルほど離れたエリアの端から、俺達を無言で見つめる集団の中に、何人も見知った顔を俺は見ていた。

レイナ「……聖竜連合みたいね」

ユッチ「げっ!フラグボスの為なら一時的にオレンジになる事もお構いなしの奴らっすか!?」

聖竜連合はリンドがリーダーを務める、DKBが他のギルドを吸収合併をした結果誕生した血盟騎士団に次ぐ名声を誇る、攻略組最大のギルドだった。

ユッチ「アイツら、数の力でドロップアイテムを掻っ攫うつもりっすよ!」

俺「言われなくても解る事を大声で言うな」

そんな下らない会話の直後、クラインの叫び声が響き渡った。

クライン「くそっ!くそったれがっ!!」

クラインは腰の武器を抜き放つと、背中を向けたまま怒鳴った。

クライン「行けッ!キリト!ここはオレらが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ェ!俺の前で死んだら許さねェぞ、ぜってぇ許さねェぞ!!」

キリト「…………」

エルダ「クラインさん……本気で言ってるの?」

だが、時間はもうほとんど残っておらず、すぐにでもニコラスが出現する時間が迫っていた。キリトは無言のまま背を向けると、そのまま最後のワープポイントへと足を踏み入れたのだった。

そしてすぐに、リンドを筆頭とした聖竜連合の面々たちが俺達の前に並ぶ。

リンド「ニコラスがドロップするアイテムは攻略のために役立てるべきなんだ。ソロプレイヤーに独占させて言い訳が無い!」

俺「まあ、オタクらも、ここに来るまでに何人も犠牲を出して、生き返らせたい奴はキリトなんかよりもよっぽど大勢いるんだろうけどさ……」

俺がその先を口にする前に、クラインが左手で俺を制して言った。

クライン「オズマ、ここは俺に任せてくれねーか?」

俺「一人であの集団とやり合うとか、それこそたった今、ニコラスに一人で挑みに言ったキリトと同じくらいの自殺行為だな」

が、クラインは首を横に振った。流石に、一人で聖竜連合のプレイヤー達に斬りかかる等と言う愚行に出る事は無いようだった。

まあ、一人でも斬ってしまえば、その時点でクラインはオレンジプレイヤーと化してしまい、他の聖竜連合のプレイヤーに取り押さえられて、第一層の黒鉄宮にぶち込まれてしまう。
小規模とは言え、ギルドのリーダーとして流石にそんな無責任な事は出来ないだろう。

エルダ「どうする気なの?」

クライン「へ、決まってんだろそんな―――特にトッププレイヤー同士の意見が分かれた時に決着をつける方法なんてよぉ」

クラインは、強気な笑みを浮かべてそう言ったのだった。



その後、クラインは聖竜連合側のリーダーであるリンドと一対一のデュエルを申請!リンドも流石に数の力でグリーンのプレイヤー達である風林火山のメンバー達を攻撃して強行突破する事は躊躇い、そのデュエルでの決着に同意!
激しい死闘……凄まじき決闘……そんなデュエルを最終的に制したのはクラインだった!―――最も、そのクラインも大ギルドのリーダーであるリンドと一対一でやり合い、余裕など残すはずもなく、大幅に消耗したうえでの辛勝となった! by立木ナレ



※ ※ ※



クラインとリンドのデュエルが終わって早々に、聖竜連合の面々はその場から去って行った。そして、それからキリトが戻ってきたのは、更にしばらく事件が経過してからだった。

そのキリトの姿を見て、マシに声を掛けたのは、地面に座り込んでいたクラインだった。クラインは一瞬ホッとしたように顔を緩めたが、キリトの喪失感を感じさせる表情を見て、すぐに口元を強張らせた。

と言うか、クラインに限らず、そのキリトの表情を見れば、手に入れたアイテムは、キリトが望むような代物ではなかった事は明白だった。

クライン「……キリト……」

割れた声で囁いたクラインの膝の上に、キリトは卵ほどの大きさの、七色に輝く宝石を放った。

エルダ「これが……蘇生アイテムなの?」

キリト「ああ、だけどオズマが考え縦通り、過去に死んだ奴には使えなかった。次にお前の目の前で死んだ奴に使ってやってくれ」

キリトはそれだけ言い、出口に向かおうとしたところを、クラインがキリトのコートを掴んだ。

クライン「キリト……キリトよぉ……」

無精ひげが生えた頬に二筋の涙が伝っていた。

クライン「キリト……お前ぇは……お前ぇは生きろよ……もしお前ぇ以外の全員が死んでも、お前ぇは最後まで生きろよぉ……」

泣きながら、何度も生きろと繰り返すクラインの手から、キリトはコートの裾を引き抜き、

キリト「じゃあな」

それだけ言って、去って行ったのだった。キリトが姿を消した直後、レイナが座り込んでいるクラインに歩み寄って声を掛ける。

レイナ「……こんな時だけど、そのアイテムのヘルプを選択してもらえるかしら?」

クライン「あ、ああ……お前らも蘇生アイテム目当てだったんだっけな?待っててくれ―――」

クラインはポップアップメニューを他プレイヤーにも可視化した状態にし、ヘルプを選択すると簡素な説明文が記された。

【このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して《蘇生:プレイヤー名》と発音する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させる事が出来ます】

ユッチ「は?たったの十秒以内……なの?」

俺「過去に死んだ奴は生き返らせられないわけだな」

エルダ「恐らく、この10秒って言うのは、プレイヤーのHPが0になって、アバターが消滅してからナーヴギアがマイクロウェーブを発生させて、現実世界のプレイヤーの脳を破壊するまでの時間の事ね」

クライン「クソったれが!こんなもんの為に……クソっ!」

俺はメッセージウインドウを開いて、ミリオンに事の詳細を伝えておいた。するとすぐにミリオンから返信が来た。

ミリオンからの返信メッセージには依頼人が了承した事――つまり、これで俺達の依頼が完了したことを知らせる内容だった。
結局、蘇生アイテム『還魂の聖晶石(かいこんのせいしょうせき)』はクラインが預かる事となった。


※ ※ ※


ミリオン「と言うわけで、蘇生アイテムは確かにドロップされたけど、蘇生できるのは、実際に死んじゃってから10秒以内って事みたいね」

依頼人「そう……最初からあまり期待してなかったし、それならそれで良いわ。報酬の回廊結晶は彼らに渡してちょうだい」

ミリオン「了解、だけど何で血盟騎士団とかの有力ギルドじゃなくて、ウチに依頼を頼んだの?」

依頼人「それは、貴方達のギルドの……特にあのオズマなら、ボスモンスター相手にも負ける事はないって分かってたからよ」

ミリオン「そーなの、随分とウチのリーダーの腕前を買ってくれてるのね」

依頼人「最も、仮に過去に死んだプレイヤーを生き返らせるアイテムだったとしても……私には選べないわね。あの日、死んでしまった5人の仲間達の中から誰か一人だけを生き返らせるなんて―――」

ミリオン「余り、依頼人の詳しい内情には聞かない事にしておくわね。そう言えば、貴方もだいぶレベルが攻略組のプレイヤーに近づいてる見たいよね?いずれは、ボス攻略会議の場でオズマ達に顔を合わせる事になるかもしれないわね」

依頼人「そうかもしれないわね、彼らとはもう一度会いたいと思ってるけど―――攻略組にはアイツも、キリトがいるんだと思うと、腸が煮えくり返るわね」 

 

FILE59 リアルマネーゲーム!100万円のチャンス!

西暦2024年1月1日の事であった―――アインクラッド全土に向けて、殺人ギルド「ラフィン・コフィン」の結成が宣言された!
この宣言をした張本人は、以前からPK集団の中心的人物と見なされていた黒ポンチョ姿の謎のプレイヤー、POH(プー)。快楽殺人を愉悦とするこのアインクラッド最悪の殺人ギルドは全プレイヤー達にとっての脅威、恐怖の象徴となった!

それから数日が経過し、第50層のフロアボスは攻略組に多大な犠牲を出しつつも何とか討伐完了!アインクラッドはついに、全100層の内の半分を踏破されたのであった!

そして、2024年1月30日――― by立木ナレ



ガチャパットが強制的にオブジェクト化されたのは、俺がレイナと共に、格安のギルドホームを購入した先の、第50層の主街区、アルゲードでの出来事だった。

ガチャモン「ガチャガチャモンモン、ガチャモンでーす!皆、明けましておめでとぉ~。略して、アケオメ!」

モック「あのぉ~、ガチャモン?もう既に1月も終わりになりかけなので、明けましておめでとうは流石に遅いんじゃないんですかね~?」

モックが的確な指摘をすると、ガチャモンは無言のままガチャモンの方を振り向き、口を大きく開けて―――そこから、巨大なボクシンググローブが飛び出てモックを殴り飛ばしたのだった!

モック「ぐほぉっ!!あ、あ、アンタ!ちょっとガチャモン!な、なに、特殊なパンチを繰り出してくれてんですか!?て言うか、なんでまともな事を言った私が殴られなきゃならないんですかねぇ!?」

ガチャモン「さてと、全プレイヤーの皆さんに、僕たちから取ってもハッピーで素敵なお知らせを発表をしたいと思います!」

モック「あーもう。この人ったら相変わらず、こうなると私の話なんて聞きやしないんですからな~……」

ガチャモンとモックからの素敵はお知らせなどと言われて、不安を感じないプレイヤーの方が圧倒的に少数派だろう。
そして、ガチャモンはガチャパットの画面にその顔面を間近にまで近づけて宣言した。

ガチャモン「リアルマネーゲーム。『パックハント・ドライブ』の開催を決定しましたぁ――――――!!」

モック「いえーい!いえぇぇい!!」

リアルマネーゲーム。ガチャモンが言ったその言葉が、一体何を意味するのか、この時点ではまだ、詳しい詳細は話されていない。

ガチャモン「あれあれ?皆もしかして……リアルマネーゲームって言葉を聞いて、何かを期待しちゃってたりして?」

まるでガチャモンがプレイヤー達の心の底を読み取ったように、楽しげにそう言った。

モック「ガチャモン、詳しい内容の説明をお願いしますですぞ~」

ガチャモン「は~い。なんと、今回行われる、ゲームで得られる賞金はゲーム内のお金であるコルじゃありません!現実世界への帰還後に得る権利が与えられるお金――つまり日本円です!」

モック「え、円!え、円ですって!?マジで現実世界で使えるお金をくれちゃうってんですかガチャモン!?」


現実世界への帰還後に100万円を贈与される権利。そんな、突拍子の無い商品を提示したガチャモンとモックの発表に対して、ガチャパットを見ていたプレイヤー達の間に衝撃、動揺、疑念、様々な思惑や感情が渦巻くのは必然! by立木ナレ


ガチャモン「そして、驚くなかれ。このゲームでは100万円の賞金を三分割に分けて進呈しちゃいます!」

モック「おお!と、と言う事は3人の参加者がそれぞれ100万円ずつ獲得する事もあれば、たった一人の参加者が300万円を独占してしまう事もあり得ると言う事ですなぁ――!?」

俺「100万円だって!?」

レイナ「……オズマ?」

その金額を聞いた俺は、事の真偽に対して疑いを持ちつつも、凄まじい金銭欲を刺激された事も嘘ではなかった。
100万円――それは俺みたいに、気が向いた時にだけ山谷の日雇いの仕事や、短期の訳の分からないバイトをやっているだけの様な者が稼ぐには、少なくとも半年以上は掛かる金額だった。

そんな高額な金を、下手をすれば単独で200万円、300万円などと言う大金を得られる事まで有り得ると言うのか?

ガチャモン「くすす、分かる分かるよぉ~。100万円以上なんて言う大金ゲットのチャンスを出されて、興味津々になってる人が何人もいるってねぇ~」

モック「ええー、では早速これから参加者を立候補形式で決定しますとしますか?」

ガチャモン「うんうん、善は急げだしね~」



またしても全プレイヤー達に動揺が広がる!唐突に発表された100万円以上の大金獲得のチャンスなどと口ずさむガチャモンとモックの発表でただでさえその真偽、そして万が一、失敗した場合の処遇などに関して様々な疑問が渦巻いている中での、参加者を即座に立候補形式で決めるなどと言うガチャモンとモック!
じっくりと思考する時間など与えられるままの参加者を決定させられるのであった!by立木ナレ



俺「ゆっくりと考えさせる時間すら与えねーってか」

ガチャパットの映像が切り替わると、そこには画面上部に『リアルマネーゲームに参加しますか?』と言うメッセージが表記されており、その下にYes、Noの二択が表示されていた。
そして、ガチャパットの映像が切り替わらないまま、ガチャモンの声のみがガチャパットから流される。

ガチャモン「これから、しばらくしたらね、ガチャパットの画面に『スタート!』って表示されるはずだから、そうしたら立候補が出来るようになります。そして、先着でYesを選択した人が20人になった時点で締め切り決定!その20人を参加者にしちゃいます!」

俺はまだこの時は、迷いが強く残っていた。ハッキリ言えば大金は欲しい。俺みたいに怠惰な生活を好み、面倒な労働は可能な限り避けたいと思っている俺にとっては、100万円なんて大金がたったの一日で手に入るチャンスなんて願ったり叶ったりだ。

だが、仮に賞金ゲットのチャンスを得たとしてもそれはこのSAO世界ではまるで意味をなさず、現実世界に帰還して初めて使える金であり――すなわち、賞金ゲットの権利を獲得したとしても、ゲームクリアまで生存していなかった場合は、その権利も無駄に終わるわけだ。



オズマ、圧倒的な二択!オズマにとっては、100万円は大金!労働意欲の低いオズマにとっては、金を稼ぐのは至難!なぜならオズマは怠惰だから―――金を得るための勉学、勤労、その為に時間を費やし、多忙な生活を強いられる事を嫌い、結果的にそれならば金は諦めてしまおうと、怠惰、自堕落に傾倒するのであった! 

そして、その時はついに訪れる―――ガチャパットに『スタート!』の文字が唐突に、何の前触れもなく表示される。
この瞬間、先着でYesを選択した20名がリアルマネーゲームの参加者となる! by立木ナレ



俺「始まりやがったっ!」

ガチャパットにスタートのマークが表示された瞬間、俺はほとんど、反射的にYesをタッチしていたのだった。
果たして、俺は先着20人以内に入ってるのだろうか?―――と言うか、実際に参加して、俺は賞金を得る権利を獲得できるのか?
これからどんなゲームが行われるかもわからぬ状況で、例えば、リアルマネーゲームの内容が俺にはまず何一つ分かるはずもない、中学・高校のテスト問題とかで、上位3名に賞金が与えられるとか、だったら俺は賞金を手に入れられる可能性など皆無だろう。

それどころから、このゲームを主宰しているのがガチャモンとモックである以上、ゲームの結果次第ではペナルティを―――最悪、死の制裁なんて事も十分考えられる。

レイナ「……オズマ、Yesを選択してしまったの?」

俺「ああ、前にも話したことあるけどよ。俺って昔っから、金に困っててな――ぶっちゃけ買いたい物は幾らでもあるさ、だけど、高い物を買うために必死になって働く気も無ければ、こつこつ毎月金を貯金するような忍耐も無い、ようするに俺は先々を見据えて努力するなんて事が全く出来ないんでな。俺が高い買い物する為の―――大金を得るには、こういうチャンスに賭けて、一発当てて勝つっきゃねーんだよ」

レイナ「……それじゃあ、せめて私も―――」

ガチャモン「はい、締めきりでーす!凄いねぇ~、なんだかんだでさ、皆この話の真偽とか、狩りに勝ったとしても、SAOから生還しなくちゃお金が手に入らないとか、色々と考えてる割には、先着20名が決定は速攻だったね~」

モック「ぐほほっ!やっぱり金の魔力には誰も叶わぬと言うわけですなぁ~、さてさて、それではガチャモン。金の欲望に惑わされ、真っ先にYesを選択してしまった先着20名を発表します!」

レイナが参加を示そうとしたが、ガチャモンはその直前に締め切りを発表し、モック共々、俺達を嘲笑う様な言葉を口にしながら、ガチャパットの画像が更に切り替わり、上から順番にリアルマネーゲームの参加者となった20人のプレイヤーの名前が表記されていく。

上から順番に表記されていくキャラクターネームを次々と確認していく、その殆どが知らない名前である中、何人か知っている名前も見つかる―――そして、名前の発表も終盤となり、18番目の参加者の名前がガチャパットに表記された。


№18-オズマ


レイナ「……オズマが参加者に?」

俺「こうなったらもう、何をやらせれるか知らねーが、勝つつもりで行ってくるしかねーよ」

奴らの開催するリアルマネーゲーム、勝てば大金の権利を得られる一方で敗者がどうなるか、それはまだ分からないが、最悪、死と言う事があり得る事は想定しておいた方が良いだろう。

ガチャモン「はい、以上の20名のプレイヤーが先着20番以内にYesを選択し、見事に参加の権利を得た人達でーす!」

モック「それでは、早速20人の参加者たちをゲームステージに転移しますですぞー!あ、それと参加者以外の方々も、ゲームの様子をこれからガチャパットで観戦可能ですので、金を巡る醜い争いを見たいお方、そうでないお方もどーぞどーぞ、しっかりと見てくださいですな~」

ガチャモン「それじゃ、前置きはここまでにしておいて、転移開始!」

ガチャモンがそう叫んだ直後、俺の身体は白い光に包まれたと思うと、次の瞬間には視界が暗闇に覆われて、更に次の瞬間に俺の視界に入ってきた光景は、今までこのSAOの世界では見たことの無いような広大な広々とした車道だった。
そして、俺の周りには同じく参加者であろうプレイヤー達が一箇所に集められていた。俺を含めて、全てのプレイヤーは服に番号の掛かれたゼッケンが貼られていた。そして、俺の防衣である『剣豪の防衣・(かく)』にも、俺の参加者番号だった18の数字が掛かれたゼッケンが貼られていた。

キバオウ「な、なんやねんここはぁ!?ワイら、どこに転移させられたんやぁ!?」

そんな参加者たちの集団の中で、真っ先にそんな聞き覚えのある、どこか懐かしさを感じる関西弁の濁声が口やかましく喚き声をあげていた。

そのサボテン頭の男の名前はキバオウだった。初期の攻略組に於いて、DKBと双璧を為す最前線のギルドだったALS(アインクラッド解放隊)―――現・ALF(アインクラッド解放軍)のリーダーのキバオウだった。

モック「おおっ!見て下さいよガチャモ~ン。何やら懐かしい顔の人がいますですなぁ~」

ガチャモン「くすす、何の目的でこのリアルマネーゲームに参加したかは知らないけどさ、ちゃんと説明させてもらうよ。これから君達に何をしてもらうか―――君達が喉から手が出るほど欲しがってる100万円を手に入れる為にはどうすれば良いかをね」

言い知れぬ威圧感を孕んだガチャモンの言葉にプレイヤー達の大半が無意識に後ろず去りしていた。そんな俺達を見てガチャモンは満足そうに首を何度か縦に振ってから再び話を再開する。

ガチャモン「最初に言ったはずだよね?リアルマネーゲーム。『パックハント・ドライブ』の開催を決定したってさ―――文字通り、プレイヤーの皆には、車を運転して、ターゲットをやっつけるゲームをしてもらっちゃいまーす!」

モック「ぐほほっ!なんと車の運転技術が問われるゲームでした~!車の運転免許の無い型、VRレーシングゲームやアーケードのレーシングゲームの経験が無い方はさー大変!お金欲しさに参加したはいいけど、全くノウハウが無いんじゃ打つ手なしですかな~?」

ゲームの内容を発表して、騒ぎまくるガチャモンとモック、恐らく車の免許を持っていない者、VRやアーケードのレーシングゲームの経験が無いであろう一部の者達が慄いたような表情を浮かべる中、俺はまだ自分がツキに見放されていないと考えた。

俺「まあ、免許の方は年齢的に持っちゃいねーが―――レーシングゲームならアーケードゲームでもVRゲームでもたっぷりとやり込んでるんでな……」


次回、ガチャモンとモックによる、リアルマネーゲーム、『パックハント・ドライブ』の詳細、ルール説明が発表される!
果たして、参加者たちが求めている100万円を得るにはどうすればいいのか……? by立木ナレ 

 

FILE60 詳細説明、パックハント・ドライブ

 
前書き
予告なしで済みませんが、小説のタイトルを『ソードアート・オンライン 人生黙示録』から『ソードアート・オンライン 遊戯黙示録』に変更しました。 

 
ガチャモンとモックにより急遽開催が決定したリアルマネーゲーム、『パックハント・ドライブ』……!現時点で判明している詳細は、プレイヤー達は車を運転する事、そして……獲得賞金は100万円!その100万円を最大で3度獲得のチャンスがあると言う――― by立木ナレ



20人の参加者たちは道路のど真ん中の一箇所に集められて、同じように俺達と正面を向き合っているガチャモンとモックが更にゲームの詳細説明を続ける。
が、その詳細説明の直前に一人のプレイヤーの叫び声が、その場にいた者達を一瞬にして凍り付かせるのだった。

「お、オレンジプレイヤーだ!こ、こ、コイツ……あ、赤眼のザザじゃねーか!?」

キバオウ「なんやてぇ!?」

キバオウがそう叫びながら、声がした方を振り向き、俺を含めた他のプレイヤー達も一斉にそちらを振り向くと―――その先には髑髏を模したマスクで顔を隠し、赤くカスタマイズされた髪と眼、そして、まるで血盟騎士団のイメージカラーと紋章を揶揄するような、赤の逆十字を彩ったフードマントを纏ったエストック使いの姿があった。

俺「ラフィン・コフィンの赤眼のザザまで参加してやがったとはな……」

ザザ「それが……どうした?金に釣られて……のこのこ誘われてきやがったのはここにいる連中……全員一緒だろう」

殺人ギルドのラフィン・コフィン。今月の元旦の日にアインクラッド全土に正式に結成を宣告された殺人ギルドの幹部格のプレイヤーの赤眼のザザは、ラフコフがギルドになる前の単なるPK集団時代から恐れられていた男だった。

キバオウ「おうおんどれらぁ!どーゆうこっちゃ一体!?」

この場にザザがいる事に気が付いたキバオウがガチャモンとモックを指差して大声で怒鳴り付けるが、それに対してガチャモンとモックは二人揃って首を横に90度傾げて―――

ガチャモン「はて?どーゆうこっちゃ一体とは?この人は一体何が言いたいんだろーねモック?」

モック「さてはて、切羽詰まってる人と言うのは、時折訳の分からない事を叫ぶことがありますですからな~」

キバオウ「とぼけとるんちゃうわボケェんだらぁ!!なんで、殺人ギルドのオレンジ(もん)が、この場におるんやねん!!」

どうせ、ガチャモンとモックもキバオウが言いたい事に気が付いてるのだろうが、ワザと恍けて、キバオウを愚弄するような言動でキバオウの怒りに火を注いでいた。

が、そんなキバオウの問いかけに対してガチャモンとモックは答える必要などまるでないと言わんばかりに華麗にスルーして詳細説明を再開する。

ガチャモン「それじゃ、今から参加者の皆には、自分が運転する車を選んでいただきまーす」

モック「車マニアの方にとっては嬉しビックリかもしれませんですな~、なにせ、現実世界で流通している、あるいは過去に流通した事のあるあらゆる車を選択して、このゲーム中の自身の愛車に出来るんですからな~」

キバオウ「話、聞かんかワレェ!!」

キバオウは自分を無視し続けた二人に対してなおも喚き怒鳴り付けるが、俺としては今に限っては、キバオウの話を無視してドンドン説明を続けてくれて構わない気分だった。

俺としてもここにザザがいようがいまいが、全く関係の無い事と割り切っていたからだった。そして、俺達の目の前にウインドウ画面が表示される。
どうやら、ここから車種、年代、メーカー、などから車を検索して、自分がこのゲームで運転する車を選択するようだった。

ガチャモン「あ、このゲームではどんな車を選んでも、基本性能はそれも一緒だから安心してね。ミッションも自分のお好みに合わせてATかMTを選べるからね~」

モック「とは言え、今の若い人達でMTを運転した事のある人なんて殆どいないでしょうがな~」

俺はこの時点でガチャモンとモックの説明を適当に聞き流しながら、迷うことなく、検索エンジンから愛車にしたい車を検索していた。

俺「あったぜ……ユーノス・ロードスターJリミテッド!」

それは、俺が小学生の頃から一目見て、何時か手に入れて見せたいと思っていたマツダの参加ブランドであったユーノスのライトウェイトスポーツカーだった。
1989年から1997年にかけて生産されたこの車は、実質の初代マツダ・ロードスターでNA・ロードスターとも呼ばれている。
ユーノス・ロードスターは後進のロードスターに比べて様々な限定モデルが開発された事でも知られている。このJリミテッドもロードスター初の限定車で91年に限定800台で生産され、Jリミテッド限定のサンバーストイエロー食が人気を博し、注文殺到で後日抽選となった代物だ。

俺「奴ら言ってやがったな、100万円ゲットのチャンスが計3回だとか……」

その言葉通りなら、俺が万が一、上手くやって100万円程度では流石に厳しいだろうが200万円以上をゲットすれば、現実世界に帰還後に大金を得れば―――

俺「200万円あれば確か足りるはずだ……それなりに状態の良い中古品のJリミテッドが買えるはずだ……」

俺はそんな淡い、夢のような期待を思い描きながら、ユーノス・ロードスターJリミテッドを選択し、カラーリングを当然イエローに、同色のリアウィングを設定して、ミッションをMTに選択して、このリアルマネーゲームでの愛車を決定した。

そして、俺に遅れて他の者達も続々、操縦する車を選択して、ガチャモンとモックの説明は次のステップに進む。

ガチャモン「はい、車が決まったところで、お次は君達が車を使ってやってもらう事を説明しまーす」

モック「プレイヤーの皆さん、あちらをご覧ください!」

モックがそう言いながら南の方角を指差すと、俺達も一斉にそちらを振り向くと、次の瞬間にはその場所に巨大な黄色い、直径250㎝ほどの大きさの球体のモンスターが出現していた。
その目はデフォルメ化された棒線状で、コミカルさを感じさせ、巨大な口を開けてこちらをじっと見ていた。

ガチャモン「これが、君達がこのゲームで倒すべきモンスターのパックちゃんでーす!」

モック「皆さんには、ご自身が選択したお車を運転して、車体の正面からパックちゃんに体当たりして、パックちゃんをやっつければ、見事!100万円の権利を獲得ですぞ―――!!」

ガチャモン「パックちゃんは計3回出現するからね、最初に言った通り、上手く一人で三体全てを倒しちゃうなんてファインプレーを実行すれば、単独で300万円ゲットだってあり得る話なんだよね~」

やっぱりそうか!確率的には圧倒的に、天文学的に少ない確率だろうが……それでも僅かながらあり得るかもしれない、俺が300万円を獲得しえる可能性が!

ガチャモン「けど、ここで注意しなくちゃいけないのが、パックちゃんを倒すには、必ず車の正面から体当たりする事、それと―――パックちゃんの口にぶつかったら、問答無用で木っ端みじんに粉砕されちゃうって事だね―――車も、そして人も……ね」

そのガチャモンの最後の言葉を聞いた途端に、俺達は瞬時に察した。やはりこのゲーム、下手をすれば命を落とすリスクも有り得ると言う事に!
こちらを見ながら大きく口を開け続けているパックちゃんとか言うあのモンスター。奴の口に捕まってしまえば、車は木っ端微塵になり、乗っているプレイヤーもその巻き添えとなれば、それはつまり―――搭乗者が死ぬと言う意味で間違いないだろう。

モック「では、これにて説明を終了と言う事でよろしいですかな~?」

19番「ま、待ってくれ!!」

モック「はい~?」

モックが説明を終えようとした矢先、19番のゼッケンを付けている男性プレイヤーが震えた声をあげながら、手を上げていた。

19番「そ、そんな、失敗したら死ぬかもしれないなんて―――お、俺は聞いてない……聞いてないぞ!!」

ガチャモン「うん、そりゃま~、言ってなかったからね」

19番は死のリスクがあるとは、参加が決定する前まで想定していなかったようで、怒りを孕んだ叫び声で抗議するが、ガチャモンは全く悪びれる事無く平然と言ってのけた。

19番「ば、バカヤロー!そ、そういう事はちゃんと先に説明するのが当然だろ!こ、こんな危険なリスクのあるゲームなんてや、やってられるか!中止だ中止!」

19番が死の危険性を理由に中止を要求すると、さらに数人の参加者たちがそれに便乗するように喚きだす。

6番「そ、そうだそうだ!金のために命懸けのゲームなんて冗談じゃない!中止しろ!」

11番「その通りだわ!他の皆もそれで良いわよね?こんな事に付き合う義理なんてないんだから!」



自分達のみならず、他の参加者たちに対してもボイコットを呼びかける者達!それはまさに、自分達だけでは歯向かう勇気が無いが故に、他者を巻き込み、自分達の行動に付き合わせようとする矮小な考えの現れであった!
しかし、そんな筋の通らない喚きや戯言は次の瞬間、思わぬ者たちの出現と罵声により、呆気なく鎮静化する! by立木ナレ



「クーズ!何が中止だクズ共がぁ―――!!」

19番「な、なんだ……こいつら!?」

俺「何時の間に……NPCかこいつら?」

いつの間にか、この車道ステージの障害物となっている無数のちいさな建物の屋上の上に、至る所にSAOの世界観に不釣り合いな、スーツ姿だったり、タキシード姿だったり、ドレス姿だったりと、まるで現実世界の、成金や金持ち連中がパーティーや仕事の場で来ていそうな服装の連中が大勢姿を現していた。

そして、その連中は呆気にとられている俺達参加者に向かって、更に容赦のない罵詈雑言をお見舞いしてくるのだった。

「うだうだ言ってねーでさっさと始めやがれ――!!」

「自分で金欲しさに参加したんだろーが!今更中止も、ボイコットもあるわけねーだろクズ共が!!」

主に、さっきまで中止を要求していた連中に対して、建物の屋上のNPC達は徹底的に罵倒の言葉を次々と言い放つ。

キバオウ「な、なんやこの連中は!?演出やからって、趣味悪すぎるわ!」

ガチャモン「くすす、やっぱりさ、お客さんが実際にゲーム現場にいる方が盛り上がると思ったからさ、こっちで便宜を計っちゃいました~」

モック「それでは、お客様方がとても待ち侘びておりますので、今度こそ始めましょう!全員転移ぃ―――!!」

モックがそう叫ぶと、俺達は一斉にバラバラの場所に強制転移させられた。周囲を見渡すと、他にも何人かの参加者が視界内にいるようだったが、全員のすぐそばに、俺達が事前に選択したこのゲームでの車がすでに用意されているようだった。
そして、その車にも俺達のゼッケンに貼られているナンバーと同じ番号のプレートナンバーが貼られていた。

俺「Jリミテッド……」

俺が選択したイエローのユーノス・ロードスターJリミテッドは、ネットや車屋で見たそれと寸分違わぬ姿で再現されていた。
だが、これはあくまで仮想世界のポリゴンで作られたオブジェクトに過ぎない。

俺「200万円以上……単独で手に入れば現実世界で……買える!」

中古品とは言え、限定品であるユーノス・ロードスターJリミテッドは状態の良い品を買おうとするのなら100万円以上は少なくとも支払う事になるだろう。俺みたいな素寒貧で、金を稼ぐために死に物狂いで働こうなんて気概も、長い年月をかけてコツコツと貯金を溜めようなんて忍耐力も皆無の俺にとっては、一生に一度あるかないかのチャンスであるには変わりなかった。

俺がそう意気込んでいると、アナウンスを通したガチャモンの声が再び響き渡る。

ガチャモン「最後にナビマップの説明をするから、皆一度車に乗ってね~」

言われるがままに、俺は車に乗り込んでいた。ユーノス・ロードスターJリミテッドはオープンカー故にドアを開けるまでも無く、車高の低いドアを跨いで、運転席に乗り込める。

俺「これが、ナビマップだな」

それは本来のJリミテッドには付いているはずの無い、カーナビの様な機械だった。試しに画面に触れてみると、死文がいる場所の周辺一帯を上から映し、それを8ビットの画像にしたような映像が映し出されていた。

ガチャモン「はい、そのナビマップには車の位置から半径10メートル以内の位置情報が表示されます。青い車のマークが君達の車の位置で、今は映ってないと思うけど、パックちゃんは黄色い丸いマークで表示されるから、ナビマップにパックちゃんが映ったら、それを全身全霊で追っちゃいなよぉ~」

モック「ちなみに、ナビマップには他の車は表示されませんので、くれぐれも接触事故にはお気をつけてくださいですぞぉ~」

むしろ、プレイヤーの運転する車同士での事故から発生するトラブルをまるで期待しているかのような楽し気な口調のモックだった。

ガチャモン「では、カウントダウン開始!ゲーム開始まで60秒前ぇぇぇ!」

遂に始まるリアルマネーゲーム、パックハント・ドライブ!オズマは現実世界で仮想の存在ではない、Jリミテッドを欲し、これをまたとないチャンスと見て、200万円以上の単独ゲットを目論む!果たしてオズマ、大金獲得なるか!? by立木ナレ 
 

 
後書き
今回説明したパックハント・ドライブは2015年公開の映画のピクセルでもあった、車でパックマンを追い詰めるゲームを参考に考えました~。 

 

FILE61 ゲーム開始・・・チャンスからピンチへ!

開始まで60秒前となったリアルマネーゲーム、パックハント・ドライブ!オズマはサンバーストイエローのユーノス・ロードスターJリミテッドを選択し、車の中でカウントダウンが0になるのを待つ。
カウントダウンが刻一刻と進む中、全ての参加者たちは大金への魅惑、そして―――ゲームの経過次第では死の危険性すら有り得ると言う恐怖感が精神を圧迫!
このゲームはただ運転技術だけで決するゲームではない、死への恐怖との戦い、途方もない大金への執着、これらを踏まえ、勝者と敗者の命運は決する! by立木ナレ



車のナビマップに表記されたカウントダウンの数字が刻一刻と減り続けて、ついにその数字が0となった。

ガチャモン「ゲームスタート!一体目のパックちゃんがステージ上に出現しましたぁ――!!」

俺はガチャモンのゲーム開始宣言を聞くと同時に、アクセルを踏み込み、スピードがあげて、すぐに変速ギアを1から2に、そして更に2から3に変更する。
今の所、俺のナビマップには黄色マークが表示されない、つまり半径10メートル以内にパックちゃんはいない事だが、既に数台の他の車とすれ違っていた。

キバオウ「どこやっ!あんのぉ、きーろいアホ面はどこなんやぁ!?」

そんなキバオウの濁声が俺の後方から響き渡っていた。バックミラーで背後を確認すると、サイドガラスを開けた状態でプレートナンバー2のキバオウが、赤いエスティマの中から喚き散らしているようだった。

俺「けど、本と何処にいやがるんだ……?」

かなり広大で障害物が多く曲がり道も多い、この車道のステージでナビマップに表示されるのは自車から半径10メートル以内の情報のみだ、そこに一瞬でもパックちゃんが表示されれば、それを見失わないように追跡し続ければ良いのだが、パックちゃんがナビマップに移らない内は本当に手探り、あちこち車で色んな所を探し回る羽目になる、更に厄介な事にこのナビマップには他の車が表示されないので、迂闊にナビマップばかり見ていると、正面から来た他の車と衝突なんて事もあり得る。

俺は正面衝突、そして障害物による死角からの車の衝突に気を付けて、一度停止させる。MT車ゆえに一度止まると変速ギアは1に手動で変更し、そして走り出し、再び速度を出したところだった。

19番「わぁぁぁ―――――!く、来るなぁ――――!」

その絶叫は、ゲームの中止を訴えていた19番の叫び声だった。その声からして、俺はその声の方にパックちゃんが出現し、19番は運転を誤ったりして、窮地に陥ったのだと判断、つまりそこにパックちゃんがいるのだと睨んで、アクセルを踏み込んだ。
曲がり角を何度も曲がり、直線コースで俺はそれを見た、恐らくパックちゃんの正面の口に噛まれたのだろう、車体の後部が無くなった白いセダンタイプの車、やはりナンバープレートは19番だった―――だが、俺はその車の運転手である、19番のプレイヤーが破損した車の後ろで座り込みながら、頭を抱えている姿を発見、車こそ失い、賞金獲得の可能性は失ったようだが、命拾いした当たり不幸中の幸いのようだった。

俺は元々オープンになっているJリミテッドから身体を少し乗り出し、可能な限りの発声量で問い詰めた。

俺「どこだ!あの黄色のボール野郎はどこ行ったんだ―――!?」

19番「あ、えっと―――あ、あっちだ!あっち!」

俺が大声で問いかけると、19番の男は、一瞬ビクッと身体を震わせながらも、すぐにパックちゃんが言った方角を指差す、どうやら直進コースをそのまま真っ直ぐと向かったようだが、その先左右のどちらに曲がったかまではこいつも見ていなかったようだ。

俺「分かった、助かった!」

俺は再びアクセルを踏み込んで、走り出しと同時にギアを変速させる。直進コースを70キロほどのスピードで走り抜けて、左右に分かれた壁の付近までに接近し、一体どちらの方向に奴は逃げたかと迷っていた矢先だった。

「くっそぉっ!こっちを向くんじゃねぇ―――――!!」

俺「こっちか!」

左側からプレイヤーの叫び声が響き渡ってきた。こういう時、オープンカーは周囲の音を聞き取り易いので好都合だ。
俺は再度アクセルを踏みこんで、叫び声のした方にJリミテッドを走らせる。そして、その声のした方に走っていると、俺が見たのは僅かにタイヤやサイドミラーなどの車の残骸が残された車の成れの果てだった、運転手の姿は近くには見当たらなかったが、俺はそこで止まるわけにはいかず、周囲を見渡しながら車を走らせている矢先だった。

ガチャモン「決まりましたぁ―――!!パックちゃん一体目が№15のストール君によって倒されました―――!!」

俺「――――なんだって……!?」



オズマ……急ブレーキ!これからパックちゃんを自らのJリミテッドで倒し、まずは100万円の権利を得ようとして意気込んでいた矢先に、突如としてガチャモンから発表されたのは最初の一体目が他のプレイヤーによって倒されたと言う知らせにオズマは、自らの耳を疑わずにはいられなかった! by立木ナレ


「いおっしゃ――――!!やった、やったぞぉ――ッ!!」

俺「本当に――一最初の一体目を倒されちまったってのかよ?姿も見る事無く倒されちまったのか……」

呆気なく、俺の目論見は外れてしまった。単独で300万円を獲得し、現実世界に帰還後に実物のJリミテッドのレプリカを買おうと考えていたのに――――1体目のパックちゃんを俺は発見する事も出来ないまま逃してしまった!

だが、それを嘆いている余裕などない。すぐに二体目のパックちゃんが出現するはずだ。それを逃せがまたしても俺が得る賞金の額は減ってしまう。

ガチャモン「はーい、ステージ内に二体目のパックちゃんを出現させました~!さぁ、探せ探せ―――!!百万円が欲しければ探して倒せぇ―――!!」

俺「言われるまでも無く、当然だっ!」

俺はアクセルを踏み込み加速を付けて、変速ギアを1から2へ、2から3へと次々と上げていく。ナビマックの確認をさっき以上に怠らず、そして他の車との衝突にも注意しながら俺はJリミテッドで走り続けていた矢先だった。
俺に向けて、何度も聞き慣れた関西弁の濁声が響き渡ったのは。

キバオウ「退かんかアホんだらぁ―――!!」

俺「アホはどっちだ!?」

その声の主、キバオウは赤いエスティマを80キロスピードで爆走させながら、真横から俺に向かって突撃してきたのだった。
このままだと衝突されるのと俺は判断し、衝突を回避する為に俺は、その場でドリフトを決める。Jリミテッドは円を描く様にその場で回るが、何とか障害物の建物や、キバオウのエスティマへの衝突は避けられたようだった。

キバオウ「逃がさへんでぇ―――!!」

キバオウは大声で喚きながら、エスティマで速度を保ちながら、爆走し続けていた。

俺「アイツ、なにを叫んで爆走しやがって―――そうか!」

俺は急いで車体の向きを変更してキバオウのエスティマが向かった方角にJリミテッドを走らせる。すると、徐々に他の車も同じ方向に向かって走っている事に気が付いた。
更に走り続けて、俺のナビマップについに、黄色い点滅したマークが表示された。それは、俺のJリミテッドの周囲10メートル以内の範囲にターゲットであるパックちゃんがいると言う証拠だ!

俺「って、流石に他の車が!」

俺以外にもこの場所を嗅ぎつけて、集まってきた参加者たちが運転する車がゾロゾロと走り続けているので、お互いにパックちゃんを狙いつつも衝突には最善の注意を払いながら運転を強いられる事になる。
車同士で衝突し、乗っている車が大破して走れなくなってしまえば、どちらもその時点で賞金を得られる可能性は皆無となり、車道ステージを動き回るパックちゃんに怯えるばかりになる。

俺「見えたぞ、丁度ケツについてやったぜ!」

他にもパックちゃんを狙う参加者たちの車がパックちゃんを背後から狙って走ってくる。こいつらに抜かれる事無く、真っ先にパックちゃんに正面ライトから口以外にぶつかってやれば100万円が俺の手に!

俺「――な、なんだあのマークは?」

そのマークは、8ビット絵なので分かり難いが、まるでクッキーの様に見えた。そして、パックちゃんはそのクッキーに向かって一直線に走り続けている。

そう、まるで俺達をわざと引き寄せるかのようにだ……


オズマの中に、悪質な罠の可能性が芽生える!それは、あともう一歩で大金を得られると言う、希望を得たかに思えたプレイヤー達を、チャンスから一転、一気に命の危機へと追いやる為の罠の可能性を――! by立木ナレ


そして、パックちゃんがそのクッキーの様なマークと接触した途端、黄色いマークで表示されているパックちゃんが赤く点滅し、俺の視界に移る巨大なパックちゃんも赤く光りを放ち始めていた。

俺「まさか――――!?」

俺は異変を感じて急ブレーキで止まった。

キバオウ「あ、危ないやないか自分!」

俺の丁度後ろのキバオウは俺が急ブレーキで止まったのに瞬時に気が付き、同じように止まったので衝突はしなかった。
だが、俺の隣の車線で先頭を走っていたハスラーは、パックちゃんの様子がおかしい事に気が付かず、そのまま猛スピードで向かっていた。

「貰ったぁ―――――!!」

既にほかの参加者たちもそのパックちゃんの異変に気が付き、その場にいた車が全て止まっている中で、そのたった一台だけが赤色になったパックちゃんに向かって、パックちゃんの背後に衝突し―――呆気なくハスラーは大破し、中にいた参加者のプレイヤーごと木っ端みじんに砕けていた。

キバオウ「な、なんでや!?なんで……なんでなんや!?ちゃんと、正面ライトで口以外の場所にぶつかったんやで!」

ガチャモン「おっとぉ!こりゃ大変だ!パワーエサをゲットして無敵状態になったパックちゃんに自ら衝突して返り討ちだぁ――――!!」

俺「そう言う事を今になってから――!!」

つまり、さっきまでナビマックに表示されていたマークはパックちゃんが手に入れた場合、一定時間パックちゃんが無敵になり、その時間中はどう接触しても車側が返り討ちにされてしまうわけだった。

そして、赤く光を放ち続けているパックちゃんがこちらを振り向き、奴は今こそ逆襲の時と言わんばかりにこちらに向かってくるのだった。

俺「バックだ!早くバックで逃げろぉ――――――――!」

キバオウ「どうなっとんねん!こんな事聞いてへんわぁ―――!」



先程まで背後からパックちゃんを追い詰めていた全車が一斉にバックでパックちゃんからの逃走を図る!
まさに大金獲得の大チャンスから一転!彼らは無抵抗に逃げるしかなく、命の危機へと陥ってしまう者達であった! by立木ナレ 

 

FILE62 訪れしラストチャンス

悪魔的なトラップ!本来、参加者たちの操縦する車によって追われる側であるはずのパックちゃんは、餌をゲットした事により一定時間無敵!―――追われる側から追う側となり、参加者たちに襲い掛かった!曲がり角で散り散りになる、参加者たちの車たち!そんな中、パックちゃんにまるでマークされているかの如く、執拗に追われたのはサンバーストイエローのユーノス・ロードスターJリミテッド……オズマだった! by立木ナレ



俺「くそ……もう無敵時間は終わったってのに、背後から付かれてるんじゃ、逃げるしかねーよ」

巨大な口をパクパクとさせながら、俺が疾走させるJリミテッドを追い続けるパックちゃん。あの口で食らい付かれれば、車は瞬く間に大破する。
それだけならまだしも、乗っている俺も脱出が遅れれば、巻き添えで命を散らす羽目になる!

俺は一度ナビマックを確認し、次の右側の曲がり角をスルーして、更にもう5メートルほど先にある左右上下の分かれ道の内の左側に曲がり、更に曲がった先で右のカーブに入り込んで、パックちゃんの視界から身を隠そうと考えた。

俺「まずは、あそこを突破するぞ!」

変速機のギアを4に上げた俺は、アクセルを限界にまで踏み込み、各車が発する事が出来る最大スピードを目指して加速させる。
あっという間に右側の曲がり角をスルーしたその瞬間、俺は右側に一瞬、青いシボレーの姿を垣間見た次の瞬間だった。

俺「まさか―――俺を利用して!!」

俺を追い続けていたパックちゃんは、右側の曲がり角で待機していた蒼いシボレーの急発進による横からの体当たりを食らい、四散し消滅したのだった。

その直後に、青いシボレーの運転席から、歓喜に満ちた叫び声がここまで聞こえてくることになった。

「うおっしゃ―――――――!やった、成功だ!上手くやったぜぇ―――――!!」

ガチャモン「おめでとぉ~!№18のオズマ君を追っていたパックちゃんでしたけど、横から№7のシボレット君が文字通り横から掻っ攫う形でパックちゃんを撃破!見事に100万円の権利獲得でーす!」

俺「―――――!!」

俺は無言のまま、ハンドルを握る手に力を込めていた。


オズマ、またしても失敗!そればかりか、自らが必死になり逃げ続けているのを、まるで狡猾に利用される形で、横からの体当たりにより目の前でパックちゃんが撃破される事態!
当初の単独で200万以上を獲得すると言う願望は既に破綻!残るパックちゃんはあと1体となり、オズマはこれを自力で倒さねば、このゲームで一銭も得る事が出来ぬまま終わりを迎えてしまうのである!


勝ちたい―――金が欲しい―――だが、そんなオズマを嘲笑うかのように、まるで、オズマには敢えて何も渡すまいと言わんばかりに、オズマは尽く逃し続ける―――大金獲得のチャンスを!by立木ナレ


ガチャモン「は~い、3体目のパックちゃんが出現しました!相変わらず食欲旺盛に道路を爆走してるから、食われないように気を付けてねぇ~」

俺「今度こそ……今度こそ俺が――――!」

何処かに出現したパックちゃんを今度こそ俺が、倒すべく、再びギアを上げてアクセルを踏み込む俺。これがラストチャンス!ここで、勝たねば、俺はまたしても何も得る事無く終わる事になる。

俺はそれからしばらく、Jリミテッドを走らせ続けて、いろんな場所をしらみつぶしに探し回るが、一方にパックちゃんを発見する事も、ナビマップに表示すらされず、他のプレイヤーが発見して追跡している様子も伺えない状態だった。

一体どこに―――奴は何処にいるんだ?そんな焦燥感を身に感じながらも、俺はその直後の轟音を無視する事までは出来なかった。

ズガッシャン!!と、思いっきり車と車がぶつかったかのような音が響き渡り、俺はその音が比較的近い場所からだと思い、パックちゃんと関係がある事故かもしれない事に希望を託して、その場所に全速力で向かったのだったが、そこで俺が見たのは俺にとっては望むような結果ではなかった。

キバオウ「ボケェ――!邪魔しおってからに!どーしてくれんるんじゃ自分はのぉ!?」

それは、キバオウの赤いエスティマが№20のプレートナンバーを付けた軽自動車のコペンに真横から衝突、そのまま壁に突っ込んだのであろう事故の有様だった。

そして、突っ込んだ張本人と思わしき、キバオウはと言うと、怒りの矛先を事故の巻き添えになった№20の参加者でコペンの運転手にぶつけていたのだった。

№20「そ、そんなぁ~、僕は何度もクラクションを鳴らして、危ないから止まるようにって意味で伝えたって言うのに―――」

キバオウ「おどれが邪魔やっちゅんじゃ!なんではよー避けへんかったんや!?」

関西弁の濁声で喚き散らすキバオウに対して、相手のコペンの運転手は眼鏡をかけた童顔で、俺と同年代と思わしき男のプレイヤーだった。
キバオウの気圧に完全に押され気味で、アタフタとしている様子だったが、今は他のプレイヤー同士の争いごとなんかに口出ししている場合じゃない。
結局、ここは外れだったようで、一体どこにパックちゃんがいるのか、探さなければならない時だ。

再びナビマップを確認するが、相変わらず位置情報に表示されているのは俺のJリミテッドの位置だけで、何処にいるのかと途方に暮れかけた時だった。

№20「き、きた……きたぁ!!」

キバオウ「ああん!?わけわからへんことゆーとるんちやうでジブン!」

俺「違う……マジで来やがったんだ――――」

俺がそう口にすると、キバオウも怒りで真っ赤に染まったままの顔を№20のプレイヤーが指さす方を振り返ると、その真っ赤な顔が一瞬にして青ざめた表情に変化していた。
無理もない、車を大破してしまったこのタイミングで、パックちゃんが狙いすましたように大口をパクパクとさせながら真正面から向かってきたのだから。

俺「誰か追ってやがるのか!?」



パックちゃんをすぐ後ろから追う車の№は1!それは赤眼のザザが運転する車であった。そして、その車はオズマの車ユーノスメーカーエンブレムの親会社であるマツダのであったが、オズマのユーノスロードスターような、四半世紀以上も前に生産終了となった旧車とは違う。

1997年に生産が終了したユーノス・ロードスターの後継機であるマツダ・ロードスターでも最新機として知られている2015年に生産された4代目――通称、ND・ロードスターの改良機とも言える……ロードスターRFであった! by立木ナレ



キバオウ「じょ、冗談やあらへん!このままやと食われてもーてまうわ!!」

キバオウはザザが運転するRFに追われてこちらに向かってくるパックちゃんが迫ってくる前に、大慌てで大破して動かないエスティマから降りて、その場から疾走して逃げる、だが――もう一人のコペンの運転手である№20はそうはいかなかった。

№20「そ、そんな……で、出られない……出られないよぉ!!」

そう、真横からキバオウのエスティマに突っ込まれた上に、その勢いで壁に突っ込まれたコペンは両サイドのドアを完全に塞がれた状態となってしまい、このままでは無抵抗に車ごとパックちゃんにやられてしまう可能性が高いのだ。

俺「…………」

俺の目の前で間近に迫りつつある死への恐怖に泣き、怯える、№20の少年参加者、そして赤眼のザザのRFに追われる最後の一体のパックちゃん。
あれを逃してしまえば、俺はこのゲームで本当に何も得られないまま終わってしまう、元の目標が300万円だったと言うのに、獲得賞金は0と言う結果になる。

「ぎゃははっ!アイツもう終わりだなぁ!どーしようもねー人生だったな№20よぉ!!」

「たかだか数百万円如きの賞金に命を掛けられるクズの末路なんて所詮あの程度って事かしらね~?」

「せめて死ぬ前に車に乗れてよかったなぁ?仮想世界の車だけどよぉ!!」

俺「ったく―――とんだ二択じゃねーか!」

死を間近にして怯える、№20の姿を見て、まるでNPCとは思えぬような、侮蔑の視線、言葉を次々とぶつける、建物の屋上の上の連中を見た俺は、何かが吹っ切れるような――激しい激情に駆られたかのように自分でも、馬鹿げてるとしか思えないような行動を実行するのだった。

俺はJリミテッドをバックさせて、距離を取り、既にパックちゃんが俺のナビマップに表示されているのを一瞬目の当たりにしたが、構わずそのままアクセル全開、変速ギアを4速の状態で突っ走った。

俺が突っ走る先には運転手を閉じ込めているコペン――に突っ込んだままの状態の、キバオウの赤いエスティマだった。

俺「これで、結局何もかもパーだ!」

俺は自分のバカな行動に対して自分で毒づきながら、キバオウのエスティマに突っ込んだ。そして、エスティマを勢いに任せて押し進んだまま、衝突したのはさっきまで№20を嘲笑っていた連中が屋上にこぞって突っ立っていた建物だった。

「うわあぁぁ――――――!!」

「た、助けてくれぇ――――!!」

NPC達はまるで、感情の籠った人間であるかのような、恐怖心を剥き出しにしたような情けない喚き声をあげて、その内の2人が、衝撃に耐えきれずに屋上から落下していたが、俺は構わず、コペンに閉じ込められていた№20に向かって大声で叫んだ。

俺「逃げろ!今なら出られるだろ!さっさと逃げろぉ―――!!」

俺の声にはっと気が付いたのか、コペンの中に閉じ込められていた№20は、さっきまでキバオウのエスティマによって塞がれていた扉をこじ開けると、そこから死に物狂いの脱出を果たし、直後にパックちゃんが操縦車のいなくなったコペンを木っ端微塵に粉砕していた。

ザザ「俺の……勝ちだ!」

そして、パックちゃんが角を曲がる為に方向転換をしていた矢先に、背後から追跡し続けていたザザのロードスターRFがパックちゃんを倒し、ついに最後のパックちゃんが消えて、三人目の賞金獲得の権利者が決定したのだった。

俺「……あの連中、どうなった?」

ふと俺は、さっきまでバカ騒ぎしていた、NPC連中がいつの間にか全員、忽然と消滅し、それによって車道フィールドが急に静かになっている事に気が付いたのだった。

ガチャモン「決定しましたぁ――――!三体目のパックちゃんを撃破して、見事100万円の権利を得たのはザザ君でーす!」

モック「いやぁ~、エンジンの音が響き渡る、リアルマネーゲーム、パックハント・ドライブ!白熱のサバイバルレースとまさにこの事ですな~」

そんな俺の疑問を他所に、ガチャモンとモックが嬉々とした声で、ゲームの終了を知らせるアナウンスをし始めていた。
奴らの場違いに明るい声を聞いていると、俺はその時になってようやく、自分が最終的に最後のチャンスをフイにしてしまった事を痛感し始めていた。

今となっては後の祭りだが、あの時俺は№20を助ける事を諦めて、パックちゃんへの追跡を優先していれば、ザザではなく、俺が100万円の権利を得ていた可能性もまだあり得たと言うのに―――気が付けば、俺はそれを自ら放棄していた。
生粋の甘さの他にも、人が死ぬ光景を嬉々として眺めている、単なるNPC共に対する言い知れぬ苛立ちから、冷静さを欠いた行動でチャンスを捨てる結果となったのだった。

№20「あ、ありがとう!本当にありがとうございます!あ、貴方が―――貴方が助けてくれたおかげで、ぼ、僕は命拾いしました!!」

気が付くと、俺の側でさっき助けた№20の、同年代と思わしき少年参加者が目から大粒の涙をこぼしながら、俺に対してただひたすら、繰り返すように感謝と礼の言葉をひたすら述べ続けていた。

俺「ああ、もー、馬鹿なゲームで命を粗末にするなよな……」

№20「はいっ!貴方のおかげで助かったこの命を――無駄には決してしません!」

今のは、俺が最後のチャンスを逃す結果となったコイツに対する多少の皮肉も込めて言ったつもりだったが、№20はそんな俺の言葉を受け止めて、相変わらず頭を下げ続けていたのだった。



結局、三名の100万円獲得者の中に、オズマは入る事無く、オズマの獲得賞金は――0円!さらに、今回参加した20名中の8人はゲーム中にパックちゃんによって捕食!
永遠にこのアインクラッドからも、そして現実世界からも帰らぬ存在となったのであった! by立木ナレ 

 

FILE63 オズマとレイナの身内動画まとめ・ガチャモンとモックの企み

 
前書き
オズマとレイナの身内動画をここでまとめて掲載します、もしかしたら重要な伏線を発見できるかもしれませんよ。

まあ、今回は手抜きです(笑)毎日二度の更新は何かと大変ですからご容赦ください(-_-;) 

 



『オダギリ ハズマ君の身内動画』

小田桐弭間って―――俺の本名だと?奴ら、プレイヤー達の個人情報を調べ上げておいたのか。まあ、俺達の身内動画なんてのが出来ている時点で、俺達の本名が割れていたとしても何の不思議もないが。

そして、ガチャパットに映し出されたのは、色彩が無い、白黒アニメのようなアニメーションだった。しかも、登場人物たちは全員真っ黒なシルエットのような姿になっており、顔が判別できないと言う有様で、かなり手抜きのクオリティーなのが丸わかりだった。

すると、画面の下の方に登場人物の台詞が、テキストウインドウとして表示されていた。どうやら、音声も無いようで、台詞は全てテキストで表記されるようだった。

記者『オダギリさんですね?息子さんが、お孫さんがソードアート・オンライン事件の被害者になったと聞きました!ハズマさんの父として、祖父として何か一言お願いします!』

マイクを持った人物の口元から、小さな吹き出しのマークが出現すると、画面下にそんなテキストウインドウが表示された。
どうやら、俺達がSAOに閉じ込められた後、ウチにもマスコミたちがやって来て、被害者家族としてのインタビューを受けたようだった。
すると、俺の親父らしき人物だろう、黒いシルエットの口元に吹き出しのマークが出現して、

ハズマの父『何か一言とか言われましてもねぇ~』

記者『ハズマさんのお父さんですね?息子さんはどんな少年でしたか?学校ではどんな様子でしたか?』

ハズマの父『どんな息子とか聞かれてもなぁ~、そもそもアイツ……小学校卒業してから一度も学校行ってねぇからな~』

記者『―――え、えっと……』

俺が不登校である事をあっさりと記者たちに親父は話しやがったようだった。まあ、別にそれはどうでも良いんだが、やはり記者たちはあっけらかんとした様子で息子の不登校を口にした父親に唖然としていたようだった。

記者『で、でしたら、今回の事件の主犯とされる、茅場晶彦容疑者に対して何か一言あるでしょうか?』

ハズマの父『茅場晶彦……?誰だそいつ?そいつが一万人をフルダイブゲームに閉じ込めた張本人って事か?だとしたら、随分と大それたことする奴だぜ全く。んな事したところで、金になりやしねーのによ~』

記者『ど、どうするんだこれ?放送して良いのかこんなの……』

俺の親父が、マスコミたちの期待するような反応や言葉を一切口にしない事で、マスコミたちが困惑しているようだった。
これは、黒いシルエットの姿でもハッキリと分かる。

記者『あ、お爺さん!お爺さんは何か一言ありませんか!?ソードアート・オンラインを開発したアーガスに言いたい事などは?』

親父への質問が無駄だと考えたマスコミ連中は今度は爺さんにカメラを向けて、質問をするが、俺が思ってる通りの爺なら、余計に無駄な事になるだろう。

ハズマの祖父『勝手にカメラ向けてるんじゃねー!俺に取材したければ謝礼寄こしやがれ謝礼!最低で1万円からだ!にしてもアーガスとか言う会社はちゃんと賠償金と慰謝料を出しやがるんだろうな、ああーん!?』


『サワイ レイナさんの身内動画』

サワイ レイナ―――これがレイナの本名。つまり、理由は分からないが、レイナは自分の本名をそのままSAOでのキャラクターネームにしたと言う事になる。

ガチャパットには俺の時と同じ、白黒のアニメが映し出され、相変わらず登場人物は真っ黒のシルエットだった。
映っている人物は4人、病室と思わしきベットで二人並んで寝ている人影と、その近くで何か言い合ってる恐らく男女の二人組だった。

レイナの母『どーして……どうしてレイナまでナーブギアを!!あ、あの子がフルダイブなんて、で、出来るわけがないはずなのに!』

レイナの父『これもそれも全て……あの男などと関わった事がそもそもの間違いだったんだ!!エリカと奴の付き合いをなぜ、今までずっと放置していたんだ!』

レイナの母『ま、待ってよ!貴方だって……エリカがあの人から色々な事を教わったり、研究のお手伝いをさせてもらってる事を為になるだとか、良い影響だとか言って、大歓迎してたじゃない!なのに何で私のせいにするのよ!?』

レイナの父『お前は私よりもずっと、娘たちと過ごす時間も、あの男と会う機会もあっただろう!そのお前がしっかりしてないでどうするんだ!?』

レイナの母『ひ、酷いわ……そんな、そんな……』

レイナの父『エリかもレイナも、下手をしたら二人とも二度と目を覚まさないまま、ゲームの世界で命を落としてしまうなんて事になったら、お前はどう責任を取るつもりなんだ!!』


『オダギリ ハズマの身内動画part2』

相変わらずの、色彩の無い白黒のアニメーションで、登場人物たちは黒いシルエットだった。そして、台詞も全く変わらず、それぞれのキャラクターに吹き出しのマークが出た状態で、画面下に台詞がテキストメッセージの文章で表示されるだけだった。

ハズマの父「お勤めご苦労さん、クソ親父」

ハズマの祖父「ったく、めんどくせーったらありゃしねー!」

俺の自宅アパートの中と思われる場所で、親父と爺さんの二人きりでの会話の場面だった。爺さんはまた何か気に食わない事があったらしく、黒いシルエットの姿でも分かる位に不機嫌さを出していた。

ハズマの祖父「なんで、泥棒市で女子中学生の裏ビデオ売ったくれーで察に捕まらなきゃならねーんだ!毎日毎日、ここじゃそこらじゅうで毎朝やってる事じゃねーか!」

ハズマの父「警察の連中、近頃は大人しくしてやがったと思ったら。久々に大胆に泥棒市を取り締まってきやがったな。ま、逃げ遅れたあんたも迂闊だったってわけだ」

ハズマの祖父「あの警官の態度がムカついてしかたがねー!俺の生活保護を打ち切るだぁ!?バーカ言ってんじゃねーぞ!テメー如きにそんな権限あるわきゃね―だろうが40過ぎの平巡査如きが!出世してから出直してきやがれってんだ!」

ハズマの父「一週間で釈放されたとは言え、これでアンタは前科三犯になったわけか。前前前科ってか?だははははっ!!」

ハズマの祖父「歌の歌詞に例えて笑ってんじゃねーバカ息子が!だいたい国民の税金で給料もらってるのは公務員連中だって同じじゃねーか!なのに何で同じように国民の税金で給料もらってる俺ら生活保護受給者を見下しやがるんだ!こっちから言わせりゃ、同じ税金食い虫でも、テメーらの方が金取ってるだろうが畜生が!」


『サワイ レイナの身内動画part2』

映し出された映像に移っているのは、小さな個室と思わしき部屋と、一人の真っ黒な女と思わしきシルエットだった。

レイナの姉「ごめん、ごめんねレイナ……」

テキストウィンドウには台詞の前にハッキリと『レイナの姉』と表記されている。つまり、このゲームにレイナと同じようにフルダイブして、そのまま囚われたレイナの姉妹と言うのは姉の事だったわけだ。

レイナの姉「私が……貴方をソードアート・オンラインにフルダイブさせたばっかりに!」

レイナの姉がレイナをソードアート・オンラインにフルダイブさせた―――それはつまり、レイナの姉がレイナにソードアート・オンラインを勧めて、自身も共にフルダイブしたと言う事なのだろうか?

レイナの姉「私が――私が絶対に貴方を助けて見せるわ!私の考えが正しければ……あの人もきっと、この世界にいるはずだわ。だから―――あの人を探し出せば!」



※ ※ ※



ガチャモンとモック……SAOのマスコットキャラクターを自称しながら、様々なイベントなどをプレイヤー達に仕掛け、その精神を惑わし、翻弄、そして時に苦しめる存在であった!

そんなガチャモンとモックは彼ら二人の巣窟である体育館にて、モックはパソコンの操作で何かの作業に没頭!――そんなモックを尻目にガチャモンはソファーにぞんぶり返るように寛いでいた! by立木ナレ

ガチャモン「いや~、盛りがったねモック~。リアルマネーゲーム、パックハント・ドライブは実に盛り上がったよぉ~。成金の人達も実に楽しんでくれてたみたいだしね~」

モック「全く、アンタは楽観的ですなガチャモン!こっちはあの時内心でヒヤッとしてたんですぞ!」

ガチャモン「ヒヤッとしたって何時さ?何時何分何秒、地球が何週回った時なんだよ!」

モック「昔の子供みたいな屁理屈捏ねないで下さいよ全くもぉ!決まってるじゃないですか!オズマさんがユーノス・ロードスターでキバオウさんのエスティマに突っ込んで、壁に激突!そしてその建物の屋上の成金の人達が何人か落下した時ですよ!」

ガチャモン「ああ~、そんなハプニングもあったんけね。まあでもさ、そー言う、ハプニングもあってこそのリアルマネーゲーム!プレイヤー達がお金の為に他人を押し退け合って、蹴落とし合って、大金を奪い合う姿が引き起こす予測不可能なハプニングも見てて悦なんだよこれが」

モック「そうは言いますけどねガチャモン。うっかりあの人たちがパニックになった拍子に、アミュスフィアを使ってログインしてるとか、そんな余計な事を口走った日には、バレちゃうじゃないですか!我々が現実世界の人達を独自のネットワークとハッキングシステムを通じて、短時間ながらログインさせていた事が!」

ガチャモン「はいはい、モックてば心配性だなぁ~。そうならないように、オズマ君があのハプニングを起こした時に、僕が即座にあの成金たちをログアウトさせたんじゃないの―――まさに、ナイスファイインプレ―!」

モック「はいはい、自画自賛の腕前は一丁前ですなアンタは!まーでも、賞金を総額で300万円も支払う事になりましたが、あの成金の方々から徴収したお金で元はほぼ取れましたですし―――なにより、またしても貴重なデータが集まったですぞぉ~」

ガチャモン「良いね良いね~、ボスの計画を実行に移すその時に備えて―――SAOの内部データの解析も勿論だけどさ、プレイヤー達の適正値もちゃんと調べ尽くさないとね~。」

モック「けど、カーディナルに検知されないように我々も細心の注意を払わなくてはなりませんですな~。いくら我々が高度なステルス能力を保持しているとはいえ、相手はカーディナルですからな、感知されてしまったら一溜りもありませんですぞ~」

ガチャモン「ま、そこは気を付けつつも、計画を遅れさせないようにやろうじゃないの。SAOはようやく半分がクリアされた程度だからね、まだまだ時間はたっぷりあるよ」

モック「ぐほほっ!ガチャモ~ン。それはそうとYUIはどうなってるんですかね?相変わらずカーディナルによってプレイヤーへの接触を禁じされてるんでしょうかね?」

ガチャモン「そうみたいだね、僕たちとしてもさ、そっちの方が好都合ってもんじゃんか。折角僕たちがプレイヤーの皆に素敵なイベントや公開処刑で精神的な変動を与えまくってるってのにさ、YUIが出てきたりした日には、余計なメンタルケアとかしてきて台無しになっちゃうよ~」

モック「やれやれ、我々の計画も何かと不確定要素が多くて厄介ですな~。それはそうとガチャモン、リアルマネーゲーム。早くも次の計画が持ち上がってるらしいですな?」

ガチャモン「モチのロンだよ!しかも次回はその規模も注目度も今回の比じゃないさ、きっと人間達の醜くて汚い本性を―――たっぷりと堪能できそうで楽しみだよ!くすすすすすすすっ!!」

モック「ぐっほほほほほほっ!そりゃ、待ち遠しい限りですなぁ――――!!」 

 

FILE64 キリトとアスナの対立・アルゴからの誘い

西暦2024年3月6日。第56層のフィールドボス攻略会議が行われていた。血盟騎士団、聖竜連合、天穹師団といった、攻略組を代表する3大有名ギルドの他、クライン率いる風林火山、オズマ率いるMBTなどと言った小規模ながらも有力な攻略ギルド、そして――その他一部のソロプレイヤーが集まり、フィールドボスをどのようにして討伐するかの話し合い。

そんな中、今回の作戦の指揮を執る、血盟騎士団の副団長アスナが、机を手で叩きながら発言!by立木ナレ


アスナ「フィールドボスを村の中に誘い込みます!」


アスナのその作戦案を聞いた、攻略組の一同が一斉に騒然とし始める。アスナが考案したフィールドボスを村の中に誘い込むと言う作戦―――それはすなわち、村の中にいる、NPCの村人たちを生贄にすると言う事だった。
だが、その作戦に息を呑む者や緊張感を孕んだ表情を浮かべる者は大勢いれど、表立ってアスナに対して意見をする者は誰もいなかった。

俺「まあ、当然だわな」

この場には血盟騎士団の団長であるヒースクリフがいない事もあり、実質的に血盟騎士団の副団長であるアスナが最もこの中で高い発言力を持った存在だった。
ただでさえ攻略の鬼として名高いアスナに対して異を唱える事など、恐れ多い事である上に、アスナが今回の作戦の指揮を預かっている以上、アスナの指示に従うと言うのが暗黙の了解と言う奴であり、俺も特にアスナの作戦に対して異を唱えるつもりなど皆無で、このまま話は進むかと思った時だった。

キリト「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんな事をしたら村の人達が……」

アスナとかつてコンビを組んでいたキリトが、唯一アスナの作戦に対して異論を唱えようとしたのだったが、そんなキリトの異論など最後まで聞く事無く、アスナは凛とした厳しい表情で言った。

アスナ「それが狙いです。ボスがNPCを殺している間に、ボスを攻撃、殲滅します!」

キリト「NPCは岩や木みたいなオブジェクトとは違う!彼らは―――」

アスナ「生きている――とでも?」

キリト「…………」

キリトの意見をアスナは再び一蹴するかのように、そう聞き返すと、キリトは言葉を失い、小さな声を上げるのみだった。

アスナ「あれは単なるオブジェクトです。何度殺されても、またリポップするのだから」

これまでのキリトとアスナの言い合いを見て――俺がどちらの意見に同意するかと言われれば、それはもう迷うことなく分かり切っている。

エルダ「さて、NPCをオブジェクトして割り切って、ボス攻略のために利用するアスナさんと、NPCを生きた存在として見なして、無碍に殺す事に反対するキリト君―――正しいのはどっちかしら?」

俺「んなもん、100%アスナだろ」

妙に楽し気にエルダが俺の意見を聞きたいと言わんばかりに、そう聞いてくるが、俺は迷うことなく瞬時にアスナの言っている事の方が正しいと言い切った。

エルダ「あら、どうしてかしら?」

俺「説明何て、さっきアスナが全部言った通りだろ――現実世界で間違いなく生きてる俺達プレイヤーの命と―――単なるゲームの中のプログラムで、幾らでもリポップするし、代わりなんてどうにでもなる、生き物ですらないNPC、どっちを優先しなくちゃならないかなんて、ずば抜けた馬鹿でも分かる話だ。てか、お前だって分かってて聞いてるんだろ?」

俺がエルダにそう言い返すと、エルダはくすっと微笑を浮かべてから言った。

エルダ「ホント、アスナさんの言う通りだし、オズマ君が今言った事も私も全面的にその通りだと思うんだけどね―――大勢の集団の中においては、一人か二人位はいるもんなのよね、その当然、当たり前から外れた事を言いだす人が」

レイナ「……キリト、ね」

エルダがそう指摘したのは、レイナが口にするまでも無くキリトの事だった。ただでさえはぐれ者のソロプレイヤーで、血盟騎士団の副団長であるアスナとは、比較にならぬほどの人望の差、この攻略会議の場に限らず、圧倒的アウェーな立場になるキリトは、首を横に振り、アスナの至極真っ当な正論に対して反論する。

キリト「俺は……その考えには従えない」

アスナ「今回の作戦は、この私、血盟騎士団の副団長のアスナが指揮を執る事になっています――私の言う事には従ってもらいます」


キリトとアスナ、圧倒的衝突!!だが、その対立は互角とは程遠いものであった!―――攻略会議の場に集まったプレイヤー達の殆どは、オズマを含めてアスナの意見を支持する者達が圧倒的大多数!それ以外は、どちらにも肩入れしない中立派がそこそこの人数である位で――キリトに全面的に同意する者はまさしく皆無!
元より人望でアスナに遥か劣るキリトが、アスナの命令を覆す事など許される事であった! by立木ナレ


しばらくして、血盟騎士団のプレイヤーの一部の者達が、キリトの意見を聞いているうちに滑稽に感じたのだろう、クスクスと失笑し始める者達が現れていた。
だが、中には全く笑えないどころか、キリトに対して憎悪の籠った目付きで睨み付けている者も中にいる。

レイナ「……結局、どうなるの?」

俺「どうなるもこうなるも、作戦の指揮を執ってるアスナの指示である以上、キリトの意見なんざ最初っから通る見込みなんてあるわけが―――」

ガチャモン「ファイッ!」

モック「さー、始まりました。血盟騎士団副団長のアスナさんVSキリトさんのフィールドボス討伐作戦を巡るトークバトル!レフェリーを勤めますのは、かの悪名名高い阿部シローをも超えると言われている悪徳レフェリーのガチャモン!そして、実況解説は―――この私、モックが務めさせていただきますですぞ――!!」

緊張感に満ちた攻略会議の場で、気の抜けたやり取りをしながら割り込んできたのは自称SAOのマスコットキャラクターのガチャモンとモック。
まるで、格闘技の試合でも取り仕切るかのようなテンションで現れた奴らに対して、その場にいた者達の白い眼が一斉に向けられていた。

ガチャモン「…………あれ?トークバトルはやらないの?僕がレフェリーをやる限りは、お金次第で判定を幾らでも覆してあげるから安心して良いから、やったいなよYOU!」

モック「金ぇぇぇ!!初っ端から賄賂貰う気全開じゃないですかガチャモン!全くアンタって人は、レフェリーになってますますインチキ臭くなっちゃったじゃないですか!」

クライン「インチキくせーのは元からどっちもだろうが!」

「すっこんでろポンコツカスコットが!」

「話の邪魔なんだよぉ!」

クラインを筆頭に、ガチャモンとモックに対するブーイングが恒例の様に浴びせられるのだった。アスナも、奴らの出現で興が冷めたようで、一旦フィールドボスの攻略会議は翌日に持ち越しとなり、その場は解散となった。

そしてその日―――全くの予想外だったのは、フィールドボスの攻略方針を巡って対立していたキリトとアスナが、どう言うわけかデュエルで決着をつける事になった事だった。



※ ※ ※



そして、キリトとアスナがデュエルを行った翌日、情報屋のアルゴからの呼び出しで、俺達は56層よりも2層下の第54層の主街区に来ていたのだったが―――

アルゴ「おっしゃ、ちゃんと集合時間に遅れずに間に合ったなオズ坊もキー坊も!おねーさんは時間を守る子は好きだゾ」

キリト「え……なんで、オズマとレイナが?」

俺「こっちも、まさかお前まで呼ばれてるなんて全く聞いちゃいなかったぞ。説明してもらおうかアルゴ?」

取りあえず、アルゴは今回の依頼とやらに関して、俺とレイナ、そしてキリトの二重契約でもしたわけで、アルゴはそれを早々にネタ明かししてくれたわけだった。

アルゴ「慌てナイ、慌てナイ、おねーさんがこれから手取り足取り丁寧に説明してやるから、よーく聞くんだゾ」

取りあえず、俺達は一旦口を閉じて、アルゴの話に耳を傾ける事にした。アルゴは、俺たち全員が話を聞く姿勢になっている事を確認すると、ヘラヘラとした表情が若干締まった表情になる。

アルゴ「実はナ、ラフィン・コフィンの一部のメンバーがこの第55層のフィールドで活動してるって情報が入ったんダ」

キリト「ラフィン・コフィンだと!?」

俺「随分と最前線付近で動いてるみたいだな……」

そのギルドの名を聞いて、俺達はアルゴの話がかなり真面目な内容である事を瞬時に察した。
殺人ギルドのラフィン・コフィンが結成が宣言されてから既に2カ月以上。奴らによる犠牲者の報告は、日を追うごとに増えていく一方だった。

犠牲者は今の所は、中層のプレイヤー達に偏っている状態だが、普段は迷宮区の攻略に切磋琢磨している攻略組でも、その不安は広がっており、そろそろ本格的に奴らのアジトを探す事にも本腰を上げるプレイヤー達も少なくなかったが、今の所奴らの所在に関する情報はまるで皆無なのが現状だった。

アルゴ「連中が何しに来てるのかまでは分からないが、確かにその一団は奴らのギルドのマークが、薄気味悪く笑ってるようなマークがあったのをオレッちが確認してるんだ」

キリト「だったら、奴らがここにいるうちに、こっちから接触して、生かして捉えたままアジトの場所を吐かせるって事か?」

俺「この層で活動してるのが精々数人程度なら、俺達で制圧するのは充分いけるかもな……」

既に奴らにとって結構な数の犠牲者が出ている以上、早急にメンバーの下っ端とは言え、確保できるチャンスがあるのだとしたら、それを逃す手はないだろう。
ラフコフの連中も、数十人ほどいるとされているメンバーの内、攻略組の手練れと互角以上にやり合えるのはボスであるPoHを含めて数人程度で、後の連中は中層のプレイヤー達からして見れば強いが、攻略組のプレイヤーほどの腕前ではない、いわゆるミドルゾーンに相当するプレイヤー達だろうと目されている。
そいつらが数人だけであれば、俺とキリト、レイナで問題なく生活はだと言い切れる。

レイナ「……具体的に第54層のどの当たりにラフコフはいたの?」

アルゴ「オレッちが奴らを見つけたのは―――《亡者の密林》だったんダ」

レイナ「……アンデット系モンスター達の巣窟ね」

また奴らも、随分と薄気味悪い場所で活動してやがるな。だが――そこはそこで、利点が無いわけではない。

キリト「亡者の密林か……あそこだとアスナの協力は仰げないな」

アスナ「そーなんだよナ。オレッちもさ、アーちゃんには無理だな~、って思ったから声掛けるのを止めておいたんだよナ」

この通り、アスナはやたらホラー系が苦手なようで、アンデット系やスピリット系のモンスターが出現する場所に近寄るのを極力避ける傾向にあった。

俺「まさに、血盟騎士団副団長にして、攻略の鬼の介入を回避するにはうってつけの場所で動いていたわけだ」

キリト「あれでも、アスナは隠してるつもりなんだよな……」

キリトはつい先日、フィールドボスの攻略方針を巡り派手に対立し、デュエルにまで発展した相手の意外な弱点を真っ先に知った者ゆえか、頭を額に当てて、少々嘆かわし気な表情を浮かべるのだった。

アルゴ「そもそも、奴らは少数で移動してるけど間違いなく、転移結晶を持ってるはずダ。迂闊に大勢で動いて捕まえようとしたら、こっちの動きを気取られて全員逃がしちゃう可能性が高いから、今回の作戦は極力秘密裏に、少数のメンツでやるのが良いと思ったんダ」

キリト「それについては俺も賛成だ、最低でも一人……奴らの内の一人でも確保できれば、何か重要な情報を得られるかもしれないんだ。」

俺「んで、結構は何時だ?」

アルゴ「オズ坊、早いうちに捕まえるに越したことはないって言ったけど、焦りは禁物ダ。亡者の密林に近づいたら、まずはオレッちが単独で中を探ってみるつもりダ。オレッちは隠蔽(ハイディング)スキルの他にも忍び足(スニーキング)スキルも高めてるし、索敵スキルも聞き耳スキルもあるから、隠密行動や、偵察はオレッち一人でやるのが一番成功率が高いからナ」

レイナ「……つまり、貴方がラフコフを発見したら、私達が―――」

アルゴ「ああ、すぐに呼ぶサ」

俺もキリトも、アルゴが最も危険を背負う作戦である事は百も承知だったが、同時にこれが最も成功する可能性が高い事も間違いなかったので、アルゴの作戦に乗る事にしたのだった。

結成から僅か2カ月でアインクラッド全土に恐怖の殺人ギルドとして等轟かせている奴らを―――どうにかして早急に壊滅させるための突発的に近い作戦が始まろうとしていた。

 

 

FILE65 ラフコフ制圧作戦

アインクラッドの現在の最前線に近い第54層のフィールド地帯の亡者の密林!ここは、アンデット系、スピリット系のモンスターが出没する、ホラーモンスター達の巣窟として名高かった。
そして情報屋のアルゴは、この辺り一帯で殺人ギルドラフィン・コフィンのメンバーの一部が活動しているとの情報を掴んでいたのだった。

少数精鋭での行動の為、アルゴはオズマ、レイナ、キリトの三人のみを協力者として同行……偵察と隠密行動に特化した自らが先行し、ラフコフのメンバー達を捜索を開始……! by立木ナレ



アルゴ「んじゃ、行ってくるナ~」

キリト「ああ、気を付けろよアルゴ」

まるでどっかに遊びに行くようなつもりの声で密林の中に入って行った。隠匿スキルで身を隠しつつ、忍び足スキルで足音や物音も抑えているアルゴを未然に発見するのは相当難しい事だろう。

俺「後は、俺達がこっちで派手な事仕出かして、奴らに気取られないようにしねーとな」

キリト「まあ、ここら一体はモンスターが湧出(リポップ)しない、安全地帯だから、ここで戦闘になって、奴らに気付かれる事はないとは思うけど――万が一、モンスターと遭遇する事があったとしても、迂闊に戦うのは止めておこう」

レイナ「……今、一番難しい任務をこなしてるのはアルゴ」

俺達はひたすら待ち続けた、アルゴが奴らに捕まって、その場で始末されてるなんて事には――流石に早々にはないだろうが、万が一アルゴが人質にでも取られるような事があったとしたら、攻略組にとって今後、奴らを積極的に捜索、討伐するにあたって大きな障害になってしまう。



待機……!圧倒的待機!今頃アルゴはどうしているのだろうか……?すでに敵に捕まってしまい、連絡すら取れない状況下にあるのだろうか……?オズマもキリトも、時間が経つにつれ、その心中の、不安は膨れ上がり続ける……まさに大膨張! by立木ナレ



レイナ「……30分が経ったわ」

アルゴが亡者の密林に入ってから、経過した時間を淡々と、焦りや、苛立ちなどを感じさせない声でレイナはそう告げた。

キリト「流石に、これ以上待ち続けるのは限界かもな」

俺「どーするかねー、もし連中がアルゴを捕まえちまって、人質にでもしてやがるんなら、何れは無効から攻略組に向けて何かしらの知らせがあるとは思うが――」

既にこれ以上待ち続けるのは現実的ではないと、俺達が共通の認識を抱き、どうすべきかを模索しようとしていた矢先だった。
それは唐突に、起こった。

キリト「ア、アルゴからのメッセージだ!」

俺「どーやら、まだ死んだわけじゃねーみたいだな……」

だが、アルゴからメッセージが届いたから、奴が安全な状況にあるとは言い切れない。既に奴らの手の中にあり、自らが生きている事だけを証明させるために、ラフコフの連中がメッセージを送らせているのかもしれない。

レイナ「……アルゴはなんて?」

キリト「メッセージには、マッピングデータの位置情報が付いてる。その位置情報に表示された場所に来てくれ~―――だとさ」

だとしたら、アルゴはラフコフの連中を発見して、奴らを制圧する為に俺達をそこに呼び出そうとしているって事だろうか?
だとしたら、俺達はすぐにでもそこに急がねばならない。

レイナ「……ラフコフに脅迫されていて、私達を逆に誘き寄せる事に協力させられてる可能性は?」

キリト「いや、このメッセージの送信主がアルゴである以上、それは無いはずだ」

レイナが罠の可能性を疑い、そう口を挟むが、キリトはその可能性を真っ向から無いと言い切り、更に言葉を続ける。

キリト「アルゴが敵に捕まってる事自体、考えにくい事だが。万が一奴らの手の内に落ちたとしても、アイツはあれでプロ意識って奴かな?――とにかく、そう言うのは人一倍強い奴だから、自分の失態で敵に捕まったんだから、それで脅されたからと言って、奴らの言われるがままにそんな事をするとは、少なくとも俺は思えないんだ」

俺「どっちにしろ、決断するならすぐだ。アルゴがラフコフの連中を発見したのにしても、ラフコフの連中に捕まってるにしても、だ。」

ひとまず、行ってみない事には結局、何も分からないので、俺達はアルゴがキリトに送ったメッセージのマッピングデータの位置情報に記された場所に向かって走った。

途中で数体のアンデットモンスターに遭遇したが、そいつらを片っ端からスルーして、キリトを戦闘に走った、そして―――

キリト「あ、アルゴだ!」

そこで俺達が発見したのは、こちらを向きながら、体勢を低くしているアルゴだった。あっさりと見つけられたと言う事は、今は俺達に自分の存在を知らせる為に敢えて隠蔽スキルを解除していたんだろう。

キリト「マッピングデータの位置情報に記されたマークは――丁度アルゴのいるところだ」

俺「つまり、すぐにここまで来いって事だったんだな」

俺達はアルゴと同じように体勢を屈めて、そのまま物音に気を付けてアルゴに接近した、アルゴがここで一人で待機し続けていたと言う事は―――恐らくラフコフの連中も比較的近場にいるんだろう。

アルゴ「おお、待ち侘びたぞ皆~、おねーさん一人で待ち惚けで怖かったんだナ~」

かなり精密な作業をこなしているとは思えないほどに、アルゴは普段と何ら変わらぬ振る舞いを見せる余裕ぶりだった。

俺「お前にしちゃ、随分と長かったみたいだが、何かあったのか?」

30分以上も連絡が無かった事で、俺が事の経緯を尋ねると、アルゴはバツの悪そうな表情を浮かべて、小さな声で呟くように――

アルゴ「いやそのサ……アンデット犬がおっかない――そ、そんな事よりもあれをみるんダ!」

俺の質問に答えかけたアルゴだったが、無理矢理話を切り替えて、アルゴは北西の方角を指差した。

アルゴ「結構遠いから、索敵スキルを使わないと見難いかもナ」

レイナ「……いたわ」

キリト「ああ、全部で4人いるのか」

俺「え、そうなの……か?あ、ああ!み、見えた見えた!」

俺も一応、索敵スキルは習得している事には違いないが、この場にいる面々の中では熟練度が最も劣るようで、キリトやレイナに比べて一歩遅れてラフコフの連中の姿を発見するに至った。

顔はハッキリと見えず、持っている武器も解り難く、キリトが言う様に、人数が4人である事は分かる程度だ。

俺「間違いなく、ラフィン・コフィンの奴らなんだよな?」

アルゴ「その辺は確認済みサ。オレッちはもっと近くまで忍び寄って、そこで確認したんだ――4人の中の一人が、グロくてキモイ、オレッちよりも小さい身体のウサギマスクを被ってる奴だったってナ」

俺「そ、そいつがいるって事は間違いない……!」

そのグロテスクなウサギマスクは俺も以前に一度対峙した事がある相手だ、今ではそれなりに名前は知られる存在となっている。

奴は執拗にプレイヤーの首を切り落とす事に固執し、切り落とした首は、四散して消滅する前に、特殊なアイテムである『カダヴァ