虹にのらなかった男


 

P1

 
前書き
さて、主人公は誰に憑依したでしょう?
※原作より若いです。ショタスタートです。偽名です。 

 
0079 七月上旬 サイド7 格納庫

「素晴らしい!素晴らしいよ!アベル君!このガンダムが完成したのは君のおかげだ!」

俺の背中をバンバンと叩くのはこのサイドセブン1バンチ秘密工場所長のジョン・イシカワ大佐だ。

俺が13歳なのでかなりの身長差だ。

「ありがとうございます大佐」

目の前にはトリコロールの巨人。

「これでガンダム、ガンキャノン、ガンタンク、ガンファイターが揃いましたね」

「ああ!この四機が量産されればジオンなぞ敵ではない!」

そう四機。史実におけるV作戦の開発MSは三機。

「ええ、でもまぁ、どうせ量産はガンダム主軸でしょうけどねー」

「うむ……君の言うとおりだ。この四機の中でガンタンク、ガンキャノンはガンダムの換装で補えてしまう…」

「ガンファイターは例外ですか…」

「それは君が上告して造らせた物だろう。
わざわざ高官連中にプレゼンまでして。
というかガンファイターは技術的にはガンダムより進んでいると言えなくもない。
ガンダムにもフィードバックされているがマグネットコーティングシステムは素晴らしい!」

マグネットコーティングが施されるのは本来終戦間近。

俺はやり過ぎたのかもしれない。

「というかガンファイターなんて味気ない呼び方嫌なんですよねぇ…」

「<アブルホール>だったか?」

「ええ。空戦時にアンバックを行う事で従来の航空機では追従不可能な機動性を実現する革新的MSです」

とは言え技術的問題で原作のアブルホールよりやや大型化してしまった。

その分武装が多少強力になっているのでプラスマイナスゼロと言えるだろう。

「ところで、MSが出来たのはいいが肝心の母艦は出来ているんですかね」

「はて…ここ一月かかりきりでそちらの情報はないな」

「俺の方にも来てません。ジャブローは何をしているんだか…」

ぶっちゃけるとWBには来て欲しくない。

だってあれでしょ?シャア来ちゃうんでしょ?

そんな事を考えていると、トタトタという足音が聞こえた。

「お兄ちゃん、でんわだよ」

「ありがと、ローザ」

受け取ったデバイスのウィンドウには軍服姿の男が写っていた。

「ヴェルツか。どうしたんだ?」

ヴェルツ大尉、ガンダムのテストパイロットだ。

『たった今通信が入った。俺達の迎えの船が完成したらしい』

ホワイトベースが『完成』?

史実通りだ。史実通りだが…

「おそい…」

『あ、アベル?』

「遅すぎる!ビンソン計画とV作戦発令から四ヶ月だぞ!
ジャブローの連中ここまで時間をかけたんだ!
さぞかし性能のいい船なんだろうな!」

俺が!ある程度のヒントを渡しておいたというのに!

原作と同じじゃねーか!

『お、おいおいアベル。俺に当たるなよ…』

「あ、あぁ…すまんなヴェルツ…」

『で、やっぱりお前WBにも関わってたのか?』

「当たり前だ。本来のWBはかなり脆弱な艦だった。その改良案を…」

ん?もしかして原作通りなのって俺の改良案のせいだったりするのか…?

『おい、どうしたアベル?』

「いや、なんでもない。それとアベル、俺達からも朗報だ。ガンダムが組上がったぞ」

『本当か!?』

「あぁ、近くテストを行う」

『やっとシュミレーターとおさらばだぜ!』

「バカ。まだ実機とシュミレーター交えてだよ」

『えぇ…もうヤなんだけど…』

「ローザに勝てないからか?」

『ぅぐっ…』

「大丈夫、実機には軍規で乗せられないから」

まぁ、原作通りに進めばローザも乗るかもしれんが…

『……お前は乗れるだろうが』

「技術中尉だし」

そう、俺は一応軍籍を持っているのだ。

テムレイ大尉の助手として、MS開発セクションのNo2として。

「大佐、ヴェルツに何か言っておく事ありますか?」

「………本当に彼にやらせるのかね?」

「らしいぜヴェルツ」

『想像通りだな』

まぁ、正規パイロットの中で一番上手いのはヴェルツだし。

「ま、実機テスト楽しみにしとけや」
 
 

 
後書き
アベル・ルセーブル(0079 十三歳)
転生者であり、ほぼ全ての宇宙世紀技術知識を特典として持っている。
〇〇〇〇〇〇に見切りをつけ早々に家出。
テム・レイを探しだしV作戦に介入する。
連邦軍に入る時には偽名を使った。

ロザミア・ルセーブル(0079 十歳)
孤児であり、強姦されそうになっていたロザミアをアベルが助け、以後行動を共にしている。
コロニー落としのトラウマは無いがアベルを「お兄ちゃん」と呼ぶ。
アベルの本名を知っている者の一人。 

 

P2

『うわっ!? なんだっ!?これぇっ!?
ガンキャノンよりっ…!』

「ヴェルツ大尉!ヴェルツ落ち着け!」

モニターではガンダムがはちゃめちゃな動きをしている。

一歩歩いては止まり、手を振り上げ顔を動かし…

『反応が早すぎる!レバーが敏感すぎる!』

「こちらルセーブル中尉!実験中断を許可します!レバーから手を離すんだヴェルツ!」

するとピタリとガンダムが動きを止めた。

「ハッチを開けて出てこい。レバーにはさわるなよ?」

『りょ、了解です技術中尉殿…』

コックピットハッチが開き、ウインチでヴェルツが降りてくる。

そこでモニターが切られた。

切ったのはイシカワ大佐だ。

「……………ルセーブル君。どう見る?」

「マグネットコーティングの反応性にパイロットがついていけてませんね」

マグネットコーティングを施してあるのはガンダムとアブルホールだけだ。

「ふむ…君ならできるかね?」

「コアブロックをコアファイターからコアボックスtype-Cに換装すればローザだってできますよ」

コアボックスというのはコアブロック形態のコアファイターと同じ形のユニットだ。

コアファイターの小型核エンジンを抜いたスペースに観測機材等を積み込んだ実験用のコアユニット。

type-CのCはチルドレンの略で、要するに俺がテストするときのためにレバーやペダルの位置をアジャストしてある。

俺とローザの身長はほぼ同じだからローザも乗れるはずだ。

「では少し行ってガンダムを格納庫に戻してきてくれ」

「了解」

モニター室を出るとローザが待っていた。

「お兄ちゃん、ガンダムうごいた?」

「動きはしたがヴェルツは扱えなかった。
マグネットコーティング対応のシュミレーターか機体のリミッターを早くつくらないとな…」

「お兄ちゃんは動かせるの?」

「お前でもできるよ、ローザ」

MS開発セクションの部下にジープを出してもらってガンダムの元へ向かう。

助手席にすわり、膝の上にローザを乗せる。

「やっぱ副所長とロザミィちゃんは仲良しっすね」

運転するのは女性技術者のアオ・タバラだ。

「まぁ、な」

「えっとぉ…一ついいっすか?」

「なんだアオ」

「二人って本当の兄妹じゃぁ…」

ま、髪と瞳の色違うしな。

「アオ」

「はいっ!すいませんっ!」

「ならばいい」

「どーしたのお兄ちゃん?」

「何でもないよローザ」

「…?」

ガンダムの足元についた。

「じゃ、ガンダム戻してくる」

とジープから降りるとアオにきかれた。

「トレーラーはどうしたんっすか副所長?」

「実験の邪魔っつってどっかやった」

あらら、とアオが言った。

「じゃ、ローザを頼んだぞアオ」

「うっす!」

ジープが出る。

ローザが後ろを向いて手を振っているので振り返してやる。

「さて、ガンダムをもどさねぇとな」

ウインチを掴み、二度引っ張るとうぃぃ~と巻き上げられる。

上まで上がり、コックピットに入ってハッチを閉める。

「ルセーブル中尉、これよりガンダムを格納庫へ戻します。開けておいてください」

『了解』

四本のレバーと六つのペダル、その他十数のボタンやトリガー。

それらを操り鋼の巨人を動かす。

『なぁ、アベル』

モニターにヴェルツの顔が出た。

どうやら観測室に居るらしい。

「ヴェルツか。どうした?」

『お前よく動かせるよな』

「子供だからな。覚えも早いのさ」

ローザだってMSの操縦簡単に覚えたし。

『………大人としてのプライドがぁ…』

「ま、がんばれや」

その日はガンダムを格納庫に戻し、ミーティングをしてタスク終了だった。










翌日

『ゲートオープン。発進タイミングをルセーブル中尉に譲渡っす』

「了解。アベル・ルセーブル、ガンファイター出ます」

MS形態のアブルホールを格納庫から出す。

ガションガションと音を発てて戦闘機が歩く光景はさぞ面白いことだろう。

ゲート、つまりは格納庫から出たので脚部スラスターを起動させる。

「ホバーテストに移る」

『了解っす』

爆音と共にアブルホールが浮き上がる。

「ホバリング成功。機動に移る」

レバーを動かしアブルホールを動かす。

縦に横に、後ろに。

「データどうか?」

『数値異常ないっす』

ふむ、MS形態での動作テストよし。

「武装のテストに移る。標的用意」

『標的バルーン射出っす』

数百メートル先に複数のバルーンが射出された。

それに合わせレティクルが表示される。

ロックオンし、トリガーに指をかける。

「フロントヘッドバルカン掃射」

トリガーを引くと二条の光弾が吐き出される。

バルーンは全て割ったがそれで終わりではない。

「銃身温度異常無し。フロントヘッドセンサー異常無し。そちらはどうか?」

『アブルホール、異常無しっす』

よし。次だ。

「ビームサーベルのテストを行う。
仮想ザクを出せ」

『仮想ザクっすか?』

「ああ、予定通りだし問題無い筈だが?」

仮想ザクというのはザクを元に造られたガワだけの人形だ。

とは言え中身は空洞ではなくきちんと装甲強度が再現されている。

なお結構な御値段だ。

アオが聞き返したのも、まぁ、わからなくはない。

『えーと………はいっ。イシカワ大佐の許可もいただいたっす。
第三搬入ゲートに出します。斬る時には気をつけて欲しいっす』

近くの地面が割れ、ゲートが開く。

そこからザクがせり上がってくる。

動かない人形ではあるが、やはり大きい。

「ビームサーベル展開」

フロントアーマーのサブアームからピンクの光がほとばしる。

紫電を纏うそれでザクの胸をつつく。

結果、装甲は融解し、何の抵抗もなくズブズブと光の槍はザクに沈む。

『予想抵抗値より低いっすね…恐ろしい限りっすよ。
ビーム兵器ってものは』

今度はサブアームを振り上げ、切り下ろす。

ザクの右肩口から右腰にかけてがドロドロに溶け、ゴゴンッ!と腕が落ちた。

「ザクの装甲を一瞬だものな。
だがそれ故にビームサーベルとザクのヒートホークどちらが優秀かと聞かれると甲乙つけがたい」

『え?なんでっすか?』

あー…面倒だな…。

よし、こうしよう。

「ビームサーベルとヒートホークの講義を聞きたい奴はフタマルマルマルに第三会議室な」

『了解っす』

一通りの内蔵武装のテストは終了した。

あとは変形テストとテールユニットテストだが、それは場所も資材もまだない。

重力下変形テストはこんな狭い機密ブロックじゃできないし無重力下変形テストもアブルホールを無重力エリアまで持っていかなければいけないが機密ブロックから出すなというお達しだ。

テールユニットはガワはあってもミサイルやビームのエネルギーが入ってない。

つまりテストは終わりだ。

あとは帰ってテストの報告書の制作と、さっき言った講義の資料を簡単につくるだけ。

「あー…報告書だるいなぁ…」

『はっはっは!君でも書類仕事は苦手かねルセーブル君』

やっべ…通信切ってねぇ…大佐に聞かれてた…

「ええ、どうも椅子が低いんです。
こればかりは牛乳を飲むしか無さそうですが」

『ははは!他の農業コロニーからの定期便が来るまで待ってほしい物だ』

現状サイド7はイチバンチのここが建造途中。

他の農業コロニーも平行して作ってはいるがそれも外壁だけだ。

現状このコロニーの食料は他のサイドから送られてくる物資に依存している。

「そうですねぇ…」

『ではきちんと食事を取ってくれたまえルセーブル君』

「了解。帰投します」

ホバリングして格納庫へ。

『ルセーブル中尉帰投!
進路あけろ。邪魔だ!』

オペレーターの声が響き、慌ただしくなる。

ガション…ガション…と格納庫内を歩く。

組上がったガンダムの隣にアブルホールをつける。

メインジェネレーターを落とし、機体のシステムを切る。

ハッチを開けると目の前にちょうど足場が来た所だった。

「よう。見事なMS裁きだったぜアベル」

「ヴェルツ。お前暇なのか?」

こちらへ差し出されたヴェルツの手を取り、機体から出る。

「暇じゃぁねぇさ。俺は付き添い」

「付き添い?」

誰の? と聞く前に背中から飛び付かれた。

「お兄ちゃん!」

「おー…ローザ。いきなりだな」

「アブルホールかっこよかったよ!」

「ありがとう。ローザ。お兄ちゃんはまだ仕事があるから、あとでな」

「うん!」

さて、急いで報告書を書かねば… 

 

P3

 
前書き
なおタイトリングの『P』はページのPです。 

 
『ホワイトベース入港!ホワイトベース入港!』

『総員位置につけ!』

『搬入準備急がせろ!』

「きたか」

周囲がいっそう慌ただしくなる。

「ガンキャノンとガンタンクの用意急げ!
ガンダムは後回しでいい!
ガンファイターの弾薬積み込みはどうか!」

レイ大尉の代理である俺はRXシリーズのホワイトベースへの搬入準備を進めていた。

「副所長!搬送準備終わったっす!
後は運び込むだけっすよ!」

格納庫の中にはパーツを纏めたトラック。

組上がったMSをのせたトレーラー。

「わかった…」

「それで、この後はどうされますか?」

さてと…原作どおりかどうかだ。

コロニー外壁にはファルメルの砲撃がくる。

コロニー内部にはザクが来る。

安全地帯などない。

あるとすればそれはコロニー内部ではなく…

「アオ」

「は、はいっす」

「アブルホールの宙戦機動テストは予定どおりホワイトベースの護衛を兼ねる。
ローザを連れて隔壁内からホワイトベースへ向かえ」

コロニー内部ではなく、隔壁の内側。

そこなら安全な筈だ。

「は、はぁ、隔壁っすか?」

「ルート384だ。ヴェルツも連れていけ。
命令だ」

「で、ですがヴェルツ大尉は指揮系統が…。
それに彼はガンダムの…」

「今の責任者は俺だ。イシカワ大佐は現在ドッキングベイだ」

大佐はホワイトベースに向かった。

だから俺が搬入の指揮を取っているというのもある。

「いいか。何があっても足を止めるな。
戻ってくるな。ホワイトベースに着いたら一歩も出るな。いいな?」

「ちゅ、中尉、何か起こるんっすか?」

「え?あー…その…」

なんと説明すべきか…

「連邦の最新鋭強襲揚陸艦。ジオンが放置しておくと思うか?
連邦にもジオンにもスパイはいるんだぞ」

「わ、わかったっす」

「よし。行け」

「ラジャー」

と言ってアオが格納庫を後にしようとする。

「ああ、待てアオ。コイツを持っていけ。あとヴェルツにはこの鍵を渡しておいてくれ」

アオに拳銃と鍵を渡しておく。

弾薬庫…武器庫の鍵だ。

「ふ、副所長…本当に何が起こるんっすか?」

「ホワイトベースに着く頃にはわかる」

「信じるっすよ。副所長」

「ありがとう」

今度こそアオが格納庫を出ていった。

「これで、いい」

MSの運び込みを初めて十数分。

ズガァン!という爆発音が辺りに響き渡った。

「きたっ…!」

side out










「こちらRX計画副長ルセーブル中尉!
ホワイトベース!スクランブル求む!」

アベルは秘密工場のモニター室兼指令室でWBとの直通通信を開いていた。

『不可能だ!現有戦力でどうにかしたまえ!』

「では好きにやらせてもらう!」

アベルは受話器を叩きつけた。

そしてインカムに対して怒鳴った。

「きいた通りだ!MSの搬入は一時中止!
技術士官は地下に避難!
戦闘要員の第一第二小隊は技術士官の避難を援護!
それ以外の者で応戦できる者は応戦!
しかし直ぐに引け!無駄死にはするな!
俺もアブルホールで出る!」

「副長!無茶ですよ!」

「MSにはMSだ!アブルホール出撃用意急げ!」

アベルにはアムロがガンダムに乗るタイミングがわからない。

アムロは主人公だ。きっとガンダムにたどり着くだろう、そんな確信がアベルにはある。

「でも、人死には減らさないとな…」

アベルは格納庫まで走った。

「アブルホールどうか!」

「出れます!ですが武装がバルカンとサーベルしか…」

「十分だ!」

現在アブルホールはファイター形態。

アベルはタラップを上り、コックピットに飛び込んだ。

「ここからは一人でやる!お前達は地下からホワイトベースに逃げろ!副長命令だ!」

周囲がラジャーと返し、御武運をと駆けていく。

アベルは周囲から人が居なくなった事を確認し、レバーを握る。

「アベル・ルセーブル!アブルホール出る!」

ペダルが踏み込まれ、バーニアが火を吹いた。

一拍置き、アブルホールは格納庫の屋根を突き破りその姿を表した。

「居たっ!」

アベルは直ぐ様二機のザクを目視。

低空飛行しながらバルカンをばらまいた。

だがそれでザクが落ちる事はなかった。

代わりにその体にはべったりと塗料が付着していた。

「くっそ!模擬弾じゃねぇか!間違えやがったなあいつら!?」

実際は宙戦機動テスト用の模擬弾を積み替えていないのだが、先の混乱では誰もが誰も責めようがない。

仕方なくアベルは機体を立て、垂直に飛び上がり一時離脱した。

そこをザクがマシンガンで狙って来るがアブルホールは二条の火線の間を縫うように距離を取った。

「ちぃっ!模擬弾でもできる事はある!」

変形せず弧を画くように旋回したアブルホールが再び二機のザクへ突撃した。

アベルがコックピット内で十字のレティクルをザクのモノアイに合わせる。

「そこっ!」

マズルフラッシュと共に吐き出された模擬弾が片方のザクのフェイスを直撃、モノアイ…メインカメラとその周辺機器を潰した。

「さて…これで離脱してくれりゃぁいいんだがなぁ…」

サブカメラは潰れてない。

まだ離脱できる筈だ。

とアベルがそこまで考えた所で動きがあった。

動いたのだ。ガンダムが。

「ったく…おせーよ主人公」

立ち上がったガンダムに対して、モノアイが無事な方のザクがマシンガンを勢射。

「ははっ!120ミリじゃ穴も開かないぜ…!」

ガンダムに気を取られている間に、無事な方のモノアイも潰そうとバルカンを撃つ。

怯んだザクへガンダムがバルカンを撃つ。

こちらは実弾だった。

後退する二機のザク。

それににじり寄るガンダム。

アベルはアブルホールを飛行させたままガンダムの隣に着けた。

「ガンダムのパイロット。聞こえるか」

通信回線が開かれ、アブルホールのモニターにアムロ・レイの顔が写し出される。

『は、はい聞こえます!』

「君は民間人だな? ああ、責める気はない。
アドバイスをしにきたんだ」

アベルは威圧しないよう心掛けて言った。

まぁ、13歳のアベルが凄んだ所で威圧感なぞたかが知れているのだが。

「ザクの主機はMY反応炉。核だ。
ザクを倒す時にはコックピットだけを狙え、でなければコロニーに穴が空くぞ」

『ぼ、僕にやれっていうんですか!』

「君は何故民間人でありながらそのガンダム乗った!
守りたい人がいるんだろう?」

アムロははっとした。

『そうだ…僕は…!』

覚悟を決めたようなアムロに、アベルは続けた。

「ビームサーベルを使え。それならザクを一撃で倒せる」

『わかりました!』

ガンダムがビームサーベルを抜いた。

ブゥン…という音と共にメガ粒子の刃が生成された。

その鋒をザクに向けたガンダムが走り出す。

『う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

アベルはアブルホールの中でアムロの雄叫びを聞いていた。

「英雄の誕生だ!」

対するザクはヒートホークを振り上げる。

だがアブルホールから放たれた模擬弾がヒートホークを握るザクの手を直撃。

熱戦斧を取り落とした。

そしてがら空きになった腹部に、ビームサーベルが突き刺さる。

爆発は………しなかった。

『やった…のか…?』

「ああ、君の手柄だ。英雄君」

そこでアベルの視界の端で光る物があった。

ザクのバーニアだ。

『逃がすか!』

ガンダムがジャンプしようとした。

「待て!アムロ君!
逃げる敵を無理に追う必要はない!」

だがそれをアベルが止めた。

『だけど…!』

「足元を見てごらん。MS戦の余波っていうのは人を簡単に巻き込んでしまう。
避難民がまだ居るなかでの戦闘は可能な限り避けた方がいい」

『すいません…僕…何にも考えてなくて…』

アムロは本当に申し訳なさそうだった。

それも当然だ。

幼馴染の家族が、まさにその戦闘の余波で命を落としたのだから。

「仕方無いよ。さ、避難のサポートをしよう。
道路や待避カプセル近くの岩を退かすんだ」

『了解しました』

これが後に語られる【連邦の白い悪魔】誕生の時だった。
 

 

P4

アブルホールをMS形態に変形させて避難の補助をしていると不意に通信が入った。

母艦…ホワイトベースからの直通だ。

ガンダムとも繋がっているらしい。

『サイド7に残ったガンダムの部品は破壊しろ!』

『なぜです?まだ三機分くらいは…』

『ジオンに機密を渡せと言うのか!』

どうやら残った部品をどうするかで揉めているらしい。

「待て!ブライト少尉!技術士官としてそれを認める訳にはいかない!
アレはこれから必要になる!」

『ガンファイターにも…!
子供が口出しするな!』

んだと?軍歴6ヶ月のひよっこめ…!

「私はV作戦RX計画副長アベル・ルセーブル技術中尉!貴様より階級も軍歴も上だバカ!
ガンキャノンとガンタンクの部品は最悪捨てていい!ガンダムとあぶ…ガンファイターの部品だけは回収しろ!」

『なんだと…!?』

「命令だノア少尉」

『くっ…了解した』

「カシアス中佐もよろしいですか?」

カシアス中佐とは、以前会って話した事がある。

ホワイトベースの艦長は、V作戦の要と言える人物であり、RX計画とも深く関わるからだ。

『君が…言うのなら、そうしたまえ…うぅ…!?』

「カシアス中佐!」

くそっ…。

「アムロ君。積み込み急ぐぞ!」

『はい!わかりました』

side out











時は少し遡り、コロニー隔壁内部第384通路内では三人の人影が駆けていた。

ズンッという振動が三人を襲う。

「ぐっ…ローザちゃん、大丈夫かい?
アオちゃんは?」

「だ、大丈夫でしゅ…」

「問題ないっすよ」

アオはアベルに言われた通り、ローザとヴェルツを捕まえ、384通路からホワイトベースへ向かっていた。

「ジオンの攻撃…アベルは何か知っていたのか…?」

「ヴェルツ大尉?」

「アベルの態度…ジオンの攻撃タイミング…まさか…アベルの奴スパ…」

ヴェルツは最後まで続ける事が出来なかった。

叩かれたからだ。

パイロットスーツのうえから、腰の辺りを叩かれた。

叩いたのは、ローザだった。

「お兄ちゃんはスパイなんかじゃないもん!
お兄ちゃんはガンダムとアブルホールつくったもん!
ジオンをやっつけるんだもん!」

「ああ、えっと、ごめんよローザちゃん。
俺もこの状況で頭がおかしくなってたみたいだ」

「ちがうもん…お兄ちゃんはれんぽうの士官だもん…」

「ああ、そうだな」

「ま、私は副長がスパイじゃないって確信あるっすけどね」

「「?」」

「副長のロザミィちゃんを思う気持ちは絶対に本物っすよ。
だから、あの人がロザミィちゃんの身に危険が及ぶような事、するわけないじゃないっすか」

その言葉は、ヴェルツの心にストンと落ちた。

仲睦まじい義兄妹の愛情を見てきたからだ。

「よし、じゃぁお兄ちゃんを信じて頑張ろうローザちゃん。
ホワイトベースまであと少しよ!」

「うんっ!」

再び三人が走り出す。

ここで一つ思い出すべきはサイド7は最も新しいサイドであり現在この1バンチですら建設途中という事だ。

そこらじゅうに建設途中のエリアや重機がある。

ズンッ…という振動が辺りに響く。

ピシッと音がした。

小さな音だった。

だが、それは予兆だったのだ。

「伏せろ!」

ヴェルツが叫びながら、二人に覆い被さった…










side in

「アベル・ルセーブル。着艦します」

飛行形態のアブルホールをホワイトベースに着艦させる。

アムロはスーパーナパームで本当にどうしようもなく壊れた部品を焼き払いに行った。

アブルホールもウェポンコンテナにスーパーナパームを搭載できるがデフォルトで装備できるガンダムの方がいいだろう。

「こちらルセーブル。ブリッジ、技術士官は収用しているか?」

出たのはノア少尉だった。

『収用しています。現在は怪我人の手当てを…』

あ…そっか。そっちか。

「数人でいいからこっちに回してくれ。ガンダムとガンファイターに弾薬を積み込む」

『では五人ほど』

「頼んだ」

通信を切る前のノア少尉のしかめっ面は、年下に命令される屈辱だろうか。

アブルホールから降りて取り敢えず一人で準備していると、アオを初めとした技術士官がやって来た。

「無事だったかアオ。ローザも無事だな?」

「はいっす…でもヴェルツ大尉が…」

「ヴェルツになにかあったのか!?」

「私とロザミィちゃんをかばって腕と肋骨を…。
でも命に別状は無いらしいっす」

ああ…よかった…。

よくはないが、不幸中の幸いだ。

「えと。じゃぁ先ずはアブルホールに実砲を込めてくれ。今度はくれぐれも模擬弾なんて入れるなよ」

「うぇ?副長模擬弾で出撃したんっすか?」

「おう。ザクのメインカメラ潰してガンダムのサポートしてたぜ」

「…………」

あれ、技術屋連中が黙った。

「副長殿。貴方はお若い。無理をなされるな」

年寄りくさい口調で俺をなしなめるのはRX計画の技術者で最年長、御年76歳のレンフレッド・スミス教授だ。

元は大学の教授で定年退職していたそうだがテムさんと知り合いだったらしく彼が連れてきたのだ。

「若いから無理できるんですよ教授」

「おお、およしください副長。私に畏まってはいけませぬぞ」

「いやぁなんか教授の口調で言われると、ねぇ?」

と残りの奴らに聞くとウンウンと同意した。

「おや、私がアウェーですな」

「まぁ、この話は後でじっくりしよう。
アオは俺とアブルホールの給弾。
残りはガンダムの装備の準備をしておけ」

「「「「「了解!」」」」」

全員がテキパキと動いてくれる。

楽でいい。

だが問題が一つ。

「なぁ、アオ」

「どうしたんっすか?」

「実砲どこよ」

先の騒ぎで急いで搬入したせいかどこに何があるか全くわからん…。

「しょうがない。WB備え付けの物を少し失敬しよう」

WBの機銃は二種類。

対MS用60ミリ、対人対空防御35ミリ。

アブルホールのバルカンはガンダムと同じ60ミリ。

「了解。許可は…」

「あとでいい」

緊急時だ。問題ないだろう。

ブリッジには伝えず機銃用の60ミリを拝借する。

アブルホールへの給弾をしつつ、ガンダムに給弾するためのコンテナを用意。

「副長。ウェポンコンテナどうするんっすか?」

「ウェポンコンテナ?あるのか?」

これはウェポンコンテナがあるか否かではなくコンテナの中身についてだ。

ミサイル、機雷、ビームキャノン…

バリエーションはいくつかあるがだいたいこの3つだ。

「ビームキャノンは有志の技術士官が搬入して直ぐに用意してたっす」

マジか!?

「よし!ビームキャノンもってこい!
アブルホールに接続するぞ!」

「了解っす!」

技術屋連中はガンダムの給弾コンテナを用意し終えると、直ぐ様アブルホールのコンテナを用意し初めた。

ビームキャノンのウェポンコンテナはコンテナ本体がジェネレータ内臓ユニットでその上に二門のビーム砲…Gパーツのアレが乗っているデザインだ。

飛行形態のアブルホールの後ろにユニットが置かれ、その間隔は50センチ。

接続の直前だ。

『副長。有線回路接続したっす』

「確認した」

コックピット内のモニターで確認。

現在はウェポンコンテナから伸ばしたケーブルをアブルホールに繋げた状態だ。

コンソールを操作する。

カチッとアブルホールの後方のツメが開いた。

「接続してくれ」

『了解』

ガチャン…という音がした。

「ロック」

ツメがウェポンコンテナをロックした。

「教授!異常ないですか?」

『ありませんぞ』

アブルホールの換装を済ませたタイミングで辺りが騒がしくなった。

『ジオン兵が侵入!ホワイトベース全隔壁閉鎖!』

シャアが来たようだ。

となればガンダムが直ぐに帰投する。

案の定唯一閉じなかった第一カタパルトからガンダムが戻ってきた。

そして直ぐにカタパルトハッチが閉まる。

「アムロ君!ガンダムにバルカンの給弾を行う!ガンダムをこっちに持ってきてくれ!」

『わかりました!』

ガション…ガション…とガンダムが歩いてきて、所定の位置に着いた。

技術屋連中が即座にバルカンの弾倉部を開け、マガジンを入れ換える。

更にはビームライフルを持ってきてガンダムに持たせた。

この間僅か一分半。

やっぱうちの連中頭おかしいわ…

『副長が一番頭おかしいっすけどね』

「アオってニュータイプ?」

『違うっすよ。ま、女の感って奴っすよ』

わーこわーい。

そこで艦内放送が響いた。

出港だ。

「総員!気密室へ!」

『ハッチオープン!ガンダム!ガンファイター出撃用意!』

「バカか貴様!気密チェックしたのか作業員まだ居るんだぞ!」

『…………』

モニターの中のノア少尉がすごい顔で睨んでくる。

『副所長!技術士官及び作業員気密ブロックに待避しました!』

「ブリッジ!ハッチ開けろ!」

『ハッチオープン!ガンダム、ガンファイターはホワイトベースの左右に展開!』

「了解」

正面のハッチが開く。

ハッチが開いた先でベイのゲートが開いていく。

「アムロ君。俺が先に出る」

『お願いします。えっと…』

「アベル。アベル・ルセーブル中尉だ」

『わかりましたアベル中尉』

アムロ君との通信を切る。

「アベル・ルセーブル!アブルホール出るぞ!」
 

 

P5

『高熱源体急速接近!』

ホワイトベースが回避行動を取るが、遅い。

「ミス・ヤシマ。そう慌てなさんなって」

接近中のミサイルをバルカンとビームキャノンで打ち落とすというのは言うだけなら簡単だがやるのは難しい。

対策をしてなければだが…

「ビームキャノン モード変更 拡散モード。
ビームシャワー 3…2…1…ファイア」

二門のビームキャノンからシャワーないしスプレーのようにビームが広がる。

それを三連計六発。

全てのミサイルがメガ粒子に触れて爆発を起こした。

そのタイミングでガンダムが射出された。

「アムロ君。敵のMSが直ぐにでも出てくるだろう。
宇宙でならどれだけ爆発させてもいい。
遠慮なくやりたまえ」

『わかりました』

そこでブリッジから通信が入る。

『ルセーブル中尉。宜しいですか』

『どうした、ノア少尉?』

『貴方のガンファイターならばムサイを沈める事ができますか?』

いや、無理だろ。

宇宙戦闘機一機で宇宙巡洋艦一隻とか。

でも、まぁ、ムサイに一撃当てる事はできる。

「たしかに、確かにアブルホールのスペックならばムサイに一撃入れる事もできる。
だが一撃当てる以上は厳禁だ」

『なぜです。ガンファイターの回避性能ならば直援のザクを振り切り弾幕を突破できるのでしょう!
そこでビームキャノンを叩き込めば…!』

「落とせ、と言うのか、ノア少尉。
仮にムサイを落としたとしよう。で?」

『で? とはどういう事でしょうか?』

「母艦を失った敵MS隊はどう出る?」

『撤退するのでは?』

「どこに? 母艦もないのに?
死に物狂いの敵を素人の集団でどう対処するのか聞かせてもらおうかブライト・ノア少尉?」

『…………失言でした』

さーてと、じゃぁムサイに一発入れるとするかね。

「アムロ…ちょっと耐えてくれよ」

機首を下に向け、全速力航行。

あまりデブリの無いサイド7宙域だからできる事だ。

ザーン、ハッテ、ルウム、ムーアではこうはいかない。

コロニーと艦の残骸でデブリだらけだ。

そんな所で戦いたくはない。

だがムーア…サイド4宙域は激戦区と聞く。

あそこはアバオアクーへの補給経路が近いため仕方ない事ではある。

噂によればジオンのスナイパーMSが脅威となっているらしい。

それさえ突破出来ればアバオアクーへの活路が開けるのだが…

「って…今は目の前のムサイに集中しねぇと」

落としてはいけない。

撤退するだけの力は残しつつ…撤退せざるを得ないダメージを与える。

モニターを見ると、ムサイまで始点から半分の位置だ。

ホワイトベースからムサイの下方10キロへ向かって飛んでいる。

「ビームキャノン モード変更 収束モード。
チャージ開始」

そうして、ムサイから見て正面マイナス70度。

機首を上げる。

ゆっくりと。

「ぐっ…これでもっ…Gがけっこう…!」

ムサイの真下に入る。

全速力航行のまま、ムサイの真下から近づき…

「ファイア!」

ムサイの左エンジンブロックを射抜く。

一瞬すれ違い様にメガ粒子砲がこちらを向いたが掠める事もなく離脱できた。

後方で爆発の光が瞬くのを見ながら、慣性飛行に切り替え、機首をホワイトベースの方へ向ける。

「ノア少尉。ムサイのエンジンを片方潰した。直ぐに撤退するだろう」

『了解。それまでガンダムの援護を頼みます』

「ラジャー」

戦域に機首を向けるとちょうど一つ大きな火球が見えた。

爆発の規模からザクだろう。

ガンダムは高出力ジェネレータと多量の燃料を積んでいる。

ガンダムが爆発すればあの1.5倍はいくだろう。

「加勢するぞガンダム!」

ガンダムから離れた所でバズーカを構えるザクに対してビームキャノンを射つ。

かなりの距離がある。が、あれだけガンダムから離れていれば誤射もあるまい。

五回トリガーを引き、ようやく当たる。

ザクが新たな火球と化した。

戦域と距離が縮まる。

次の目標はシャアザクを援護する奴だ。

原作では二機だがさっきコロニーから逃げるザクを見逃したので三機要るようだ。

とは言えザクが一機増えた所で、それがシャアやガトーのような熟練パイロットでない限りガンダムの敵ではない。

「アムロ君!聞こえるか!」

『はい!中尉さん!』

「ザクは俺がやる!君はシャアに集中しろ!」

『や、やってみます!』

ザクの直上に付き、スラスター全開。

コンソールを弄ってサブアームを起動する。

ビームサーベルを伸ばし……すれ違う。

遅れて爆発の光が見えた。

ガンダムとシャアザクの戦いの方は、シャアがガンダムに蹴りを入れ、その反動でムサイの方へ飛んでいくという結末だった。

『はぁ…! はぁ…! はぁ…!』

アムロの荒い息が通信機ごしに聞こえる。

「アムロ君。よくやった。シャアを追い払えたのはガンダムの性能だけじゃない。
性能を使いこなした君自身の腕と、シャアに向かって行った君の勇気だ。
誇りたまえ、少年」

『ありがとう…ございます』

「さぁ、ホワイトベースに帰ろう。
君の友達も、待ってくれているはずだ」

『はい!』
 
 

 
後書き
基本的に劇場版の流れでいきますが所々オリキャラやオリ展開やジオリジンが入ります。 

 

P6

「あ、お前ら?聞こえてる?」

『お前ら、で私達って通じるのは私達だけっすよ副所長』

「あ、きこえてるね」

ホワイトベースに着艦して直ぐにアオ達に連絡を取る。

外はまだ気密チェックが終わっていないのでノーマルスーツを着ていない俺とアムロ君はコックピットから出られない。

普通ならコックピットに備え付けてある予備のノーマルスーツも載ってない。

「お前らちゃんとアムロ君に礼言えよ?
彼がシャアを追い払ったんだからな」

『わかってるっすよ。でも副所長だってムサイに一撃いれたんっすよね?』

「まぁ、な」

とは言え俺は命の危険なんて無かったし、どうなるかを知っていた。

だがアムロはそれを知らず、強敵と戦わされた。

どちらを功労者とするかは一目瞭然だろう。

「ガンダムの整備が最優先だ。
MS同士の格闘戦をやったんだからな。
データもちゃんと解析しとけよ」

『ええ、所長が興奮してたっすよ。
足折れてるのに杖ついてこっち来てたっす』

所長…?

「テムさん無事なのか!?」

『そうっすよ』

テムさんが…無事…!

ホワイトベース強化フラグきた!

と、そこで艦内放送が入る。

気密チェックが終わったとの事。

俺はコックピットから出て、ガンダムの方へ跳んだ。

ちょうどガンダムのコックピットが開いた所だ。

アブルホール以外は全てコアブロックシステムなので登場口がコックピットハッチとコアファイターのキャノピーで二重になっている。

「やぁ少年!よくがんばったね!」

と中を除き込んで言うと、アムロ君が首を傾げた。

「……ルセーブル中尉さんの弟君?」

は?何言ってるんだこいつ…?

「いや、俺がアベルだけど」

「…………………えぇ!?」

いやカメラで見てただろう。

「とりあえず降りるといい」

アムロ君がシートベルトをはずしてガンダムから出る。

「改めて自己紹介だ。俺はアベル・ルセーブル中尉。
連邦の技術士官で君のパパの部下だ」

「父さんの…?」

とアムロ君が呟く。

なのでちょっと下を指差す。

ソコにはノーマルスーツの上から添え木をしたのが一人。

「アレ、君のパパ」

「………………………………」

アムロ君がとても微妙な顔をしてテムさんを見ているのを横から眺める。

「どうする?テムさんと話す?
それともブリッジ行く?」

「………………ブリッジでお願いします」

「OK、案内しよう」

ガンダムのコックピットハッチを蹴り、艦内への通路へ飛ぶ。

アムロ君は無重力に慣れてないのか恐る恐るだった。

艦内通路をふよふよと浮きながら、ブリッジへ。

「アムロ君。お父さんとは不仲なのかい?」

「不仲っていうか…不仲にもなりようがないくらい、家に帰らない人でした」

「ふーん…アムロ君から見てテムさんはそんな人なのか…」

「中尉さん。僕の事呼び捨てでいいです。
貴方は僕より年下ですけど、偉い人なんですよね?」

「まぁ、それなり、かな?
連邦の試作MS開発計画のNo2さ」

「それって物凄くえらいですよね…」

「んじゃ、まぁ、改めて宜しく、アムロ」

手を差し出すと…

「宜しくお願いします」

と握り返してくれた。

「アムロ、君はテムさんがどうしてガンダムを作ったか知ってるか?」

「楽しいから、じゃないんですか?」

「それもあるだろう。でもテムさんがガンダムを作った理由には少なからず君への愛がある」

「愛…」

「テムさんは言っていたよ『ガンダムが量産されれば少年兵が戦う必要が無くなる』とね」

「は、はぁ…?」

ま、ずっと家に居なかった父親に関して愛だの何だのって言ってもわからないか。

「だが、テムさんの望みは断たれた。
奇しくも君は父親であるテムさんの作ったガンダムに乗り込み、才能を示してしまった。
今のホワイトベースは君を戦火に放り込まざるを得ない。
許せとは言わないし、軍を恨んでくれていい」

「………………」

「きっと同じ事を色々な人に言われるだろうけど、気にする事はない」

正面にエレベーターが見えた。

ブリッジへの直通だ。

「さぁ、ここを上ればブリッジだ。行こう」










「ガンダムでの戦いはもっと有効に行うべきだ。
プロトタイプには余分なパーツは用意されていないんだぞ。
無駄な消耗は許されない」

ノア少尉はアムロを見るなり言った。

面食らうアムロに続けて口撃。

「初めての操縦だとでも言いたいのか!
甘ったれるな!
ガンダムを任されたからには君がパイロットだ!
この船を護る義務がある!」

「……言ったな」

「こう言わざるを得ないのが我々の状況だ…
嫌なら、今からでもサイド7に帰れ!」

さて、そろそろだな。

「少尉。アムロ君に八つ当たりはやめたまえ」

「…!」

キッと睨まれる。

「子供に指示されるのが気に食わんのはわかるが、我々はアムロ君に助けられた。
その言い方はあんまりではないかね?
連邦軍人たるまえにまず人であれ、とね」

するとノア少尉はアムロに背を向けた。

「アムロと言ったか。私を憎んでくれていい。
それで君がホワイトベースを守ってくれるのであれば、安い物だ。
話は以上だ。いきたまえ」

俺はアムロの袖を引っ張り、ブリッジを後にした。

エレベーターに乗ったアムロは、浮かない顔だ。

その気持ちはよくわかる。

「一応、ノア少尉のフォローもしておくとしよう。
彼は軍歴たったの6ヶ月だ。
そんな彼が艦長を勤めるほど、この船は切迫している。
彼もかなり追い詰められているようだ。
あまり彼を責めないでやってくれ」

アムロからの返答は以外な物だった。

「…アベル中尉に先に言われてなかったら、僕もショックを受けてたと思います」

「そうかい?」

「はい」

あれ…? アムロってこんなに素直なキャラだっけ…?

まぁ、鬱ぎ込まれるよりいいかな。

「あ、アムロ。ガンダムの整備、参加するか?」

「いいんですか?最高機密ですよね?」

「機密もクソもあるか。責任はシャアに尻を狙われたまま入港したアホどもが死後の階級でとってくれる。
しかも君はカシアス中佐のお墨付きだ。
今さら君を整備に参加させた所で問題ない。
それにサイド7の技術士官は全員この艦に乗っている。君は少し手伝うだけでいい。
とにかく機体への理解を深めるんだ」

「わかりました」

MSデッキに行くと、テムさんに呼ばれた。

テムさんはガンダムの膝部関節のチェックをしている所だった。

「ご無事で何よりですテムさん」

「君こそよく無事で」

互いに握手をする。

「息子さん。素晴らしい腕ですね。
リミッター有りとはいえ、ガンダムをあそこまで…」

「私も驚いているよ」

テムさんが遠い目をする。

「ホワイトベースの中より、ガンダムの中の方が安全だとは思わんかね、アベル君」

ガンダムを見上げる。

「ええ、ルナチタニウム製の多重装甲と同じくルナチタニウム製の脱出ユニット。
RXシリーズのコックピット以上に安全な場所など戦場にはありますまい」

「…こんな筈ではなかったのだがなぁ」

子を持たない俺には、その悲痛な声は理解できない。

「整備には息子さんも参加させます。機体への理解を深めるべきだと判断しました」

「正しい判断だ。アレなら余計な事もしないだろう」

機械オタクだしな。

「では私はガンファイターの整備に行きますので」

「ああ、少し待ってくれアベル君」

「なんでしょうか?」

「タバラ軍曹達に指示を出してきてくれ」

「タバラ軍曹達に、でありますか?」

「ああ、どうやら私は邪魔者扱いらしくてね。
指示の通りが良くない上に医務室を薦められたよ」

いや、貴方が怪我人だからだと思います…

「怪我人だからでは? 今の貴方を見れば私だって医務室を薦めます。
足、折れてるんですよね?」

「なに、鎮痛剤を打ってある。たいした事はない」

「麻酔打って作業ってどうなんですか?」

するとテムさんがピタリと手を止めた。

「そのせいかっ…!」

どう考えてもソレだろうが。

「はいはい。後はタバラ軍曹に引き継ぐので医務室行きましょうね。
貴方にこんな所で体壊される訳にはいかないんですから」

テムさんのノーマルスーツのメット部分に指を引っ掻けて医務室へ。

「アベル君。もう少し優しく運んでくれないかね?」

「数少ない医療スタッフの制止を押しきってデッキまで行った人へのお仕置きです」

「なぜそれを…」

予想くらいつくっつーの。

医務室へ向かう通路、ある地点を境に臭いが強くなる。

薬品の臭い。

それと、鉄の臭い。

無重力故に、医務室周辺は地獄絵図だった。

血と包帯が浮いている。

怪我人が天井やら壁やらに寄り添うようにしており、ベッドから呻き声が上がる。

ふと端の方に袋が見えた。

人一人くらいなら入りそうな袋が幾つも幾つも…

見なかった、事にしよう。

「酷い物ですね…。これが戦争…ですか」

「『前線の後方』という物だよ。最前線と違って味方の死しかない、地獄さ。
アベル君。よく、目に焼き付けておくんだ」

「そう…ですね」

これが現実なのだと、本物の戦争なんだと、改めて実感した。

ゲームやアニメじゃない、本物の…。

この世界は現実だが、戦争という物にあまり実感がなかった。

でも…。

「アムロには…見せない方がいいだろうな…」

追い詰めてしまうだろうから。

「よう…英雄。生きてたか」

そう声をかけられた。

振り向いた先には…

「ヴェルツ!」

「わり、ドジった」

苦笑いを浮かべる俺の親友が居た。
 
 

 
後書き
そりゃぁ自分よりも小さい子が頑張ってたらアムロだってがんばるさ。
だって彼、『善人』だもの。 

 

P7

「場所を移そう。邪魔になる」

ヴェルツがそう言い、それについていく。

「あ、テムさんはここで大人しくしててください」

ヴェルツに連れられて来たのはMSデッキ…

「おい怪我人。あんまり出歩くな」

「ここは宇宙だ。腕一本あれば移動できる」

「そうか…わるかったな」

ヴェルツの怪我は、俺の指示のせいでもある。

「おいおい、女子二人守っての怪我なら一生じまんできるんだぜ?
それに、もしお前があの指示を出してなけりゃ、俺は今頃サイド7で肉片になってるさ」

「そう言って貰えると、ずいぶんと楽だ」

「お前はまだ子供なんだから。気にすんなよ」

そうはいかない。

年は13だが立場というものがある。

「でも、俺は連邦の技術士官だ」

「なに、責任はイシカワ大佐が取るさ」

あれ?そういえばイシカワ大佐は…?

「そういえば大佐は?」

「死んではいないが重症だ。医学生のお嬢ちゃんが言うには全治七ヶ月だとよ」

七ヶ月…ギリギリ戦争は終わってるな。

「お前はどうなんだ?」

「全治四ヶ月。肋骨二本と腕の粉砕骨折」

「粉砕骨折!? おまっ…!?」

「安心しろ。モルヒネ打ってもらった」

「お前もテムさんの隣で大人しくしてろ!」

ぐいぐいとヴェルツを医務室へ押し戻し、デッキへ戻る。

まったく、軍人ってのはこれだから…

アブルホールの整備をしようと思い、機体にとりつく。

「あ、副所長」

「どうしたアオ?」

「ちょっとウェポンコンテナの事で問題があるっす」

ふむ?

ウェポンコンテナ:ビームキャノンは現在アブルホールから外されている。

アオに言われてビームキャノンが置いてある場所まで行く。

数人の技術士官がビームキャノンを整備していた。

「なんだ?壊れたか?」

「いえ、壊れてはないっす、でも砲身の劣化が理論値より大くて…」

「撃てないのか?」

「いえ…でも拡散モードの使用は避けて欲しいっす」

ふむ…拡散モードねぇ…。

「普通に撃つだけならいいのか?」

「はい」

これは困った事になった。

拡散モードはミサイルの迎撃用として作ったのだが…

「じゃぁ俺ってマニューバでミサイル避けなきゃいけないの?」

「お気持ち察するっす」

心の中で中指を立てる。

「チャフで対応するしかないか…」

ただチャフだと熱源探知以外を欺けない。

まぁ、今の時代熱源探知いがいほぼ使われてないからいいが…不安だ。

「あ、それとアブルホールもう一機くらいは組めそうっすけどどうしますか?」

「なに?無事なのか?」

「ええ、アブルホール『だけは』四機分と予備パーツ全て回収できたっす」

ふむ…アブルホール四機…

「一機だけ組んでおいてくれ」

「了解っす。でも一機だけっすか?」

「ああ、アブルホールを扱える奴が居るかどうか不安でな」

「ロザミィちゃんくらいしかのれないっすよ?」

「うん。ロザミィを乗せる」

ホワイトベースは脆い。

まだアブルホールに乗っている方が安全だ。

「うぇ…?」

「どうしたアオ?」

「いえ…副所長今ロザミィちゃんを乗せるって…」

「ああ、最悪ローザだけでも逃がす」

「逃がすって…」

「まぁ、そう簡単にホワイトベースが沈むとは思えんが、万一さ」

「でもロザミィちゃんって一応民間人じゃ…」

「ガンダムにアムロが乗ってるんだ。もうこの際構ってられん」

「……わかったっす。コックピットはロザミィちゃんの身長でアジャストしとくっす」

「頼んだ」

あ、そういえば…

「アムロどうしてる?」

「アムロ君っすか? ガンダムの整備手伝ってるっすよ。
いやぁ、凄いっすねあの子。MSの電装部品の配線全く間違えないっすよ」

「そうか…」

原作ではアムロが中心になって整備してたからな…

それに何よりも…

「死にたくないんだろうな…」

「そっすね…」

この後の戦闘は……ん?待てよ…

この世界は『どれ』だ?

テレビ版か? 劇場版か? それともオリジン?

いや、待て、ジャブローはアマゾンにあった。

ならばオリジンではない…はず。

この世界がテレビ版なら、この後の戦闘はルナツーでの補給妨害だ。

劇場版なら大気圏突入…。

はてさてどうなることやら…。 

 

P8

「RX-VF-1 アブルホール一号機
アベル・ルセーブル出る!」

『あーるえっくすぶいえふわんせかんど。
ロザミア・バダ…ルセーブル でます!』

ペダルを踏み込み、アブルホールを発艦させる。

Gを感じ、視界が真っ暗になる。

星の世界だ。

横を見るとローザの二号機も発艦したようだ。

「ローザ。Gキツくないか?」

『まだ大丈夫だよお兄ちゃん』

「ならいい。直にホワイトベースとは連絡が付かなくなる。
短距離レーザー通信を途切れさせるなよ」

『らじゃー!』

後続のガンキャノンとガンタンクも発艦したようだ。

ガンタンクはそのまま底部スラスターで軟着陸したのだが…

ダンッダァンッ! ズゴシャァッ!

真空中なのにそんな音が聞こえそうなくらいの勢いでガンキャノンがずっこけた。

「カイ君。ここがルナ《ツー》で良かったな。
月だったら大破炎上だぞ。
あと俺達技術士官の仕事を増やすな」

『す、すいましぇぇぇん…』

ガンキャノンが立ち上がり歩行を始める。

「ローザ。ガンキャノンとガンタンクに歩調を合わせる。変形だ」

『ん!』

コンソールのスイッチを切り替え、MS形態に変形する。

ホバーを最低出力で起動し、ふわりとルナツーの地表に降り立つ。

カイ達が発艦するのを待ち、アブルホールを歩かせる。

時折ジャンプも交えつつ、パプアとムサイのランデブーポイントへ向かう。

「はぁ…結局アニメ版か…」

とまぁ、御察しの通りルナツー攻防戦である。

大筋はアニメと変わらなかったが、一つ面白かったのはガンダムの出撃を反対したのがテムさんを始めとする技術士官連中ということだ。

意外にもアムロはやる気だった。

おかしい。原作では反対だったのに。

ま、原作より戦力は多いし大丈夫でしょ。

アブルホール二機あれば結構違う。

なおローザのアブルホールのテールユニットはビールキャノンを、俺のはミサイルランチャーを装備している。

この後の事を考えている合間に、目標のクレーターまでの距離が縮まっていた。

「WB、クレーター視認まであと僅か。
傍受されないためレーザー通信を切る。
よろしいかノア少尉?」

『了解しました。ルセーブル中尉。
御武運を』

WBとのレーザー回線を切る。

「各機。作戦通りだ行くぞ」

『リュウ・ホセイ了解』

『はっハヤト・コバヤシ了解』

『カイ・シデン了解よっと』

『ん。お兄ちゃん』

やがて、クレーターに到達した。

パプアとムサイがベルトコンベアで物資の受け渡し中。

ムサイのエンジンはユニット式らしく、新しい物と交換したようで無傷だ。

アブルホール二号機はここに残す。

ローザにはこの場所で砲台になってもらう。

無論事前に何かあれば逃げるよう言い含めてある。

「よし…これでハヤトが撃てば作戦開始だ…」

直ぐにパプアから火が上がった。

作戦開始だ。

アブルホールを飛び立たせる。

クレーター内部はガンキャノンガンタンクの実弾砲撃とアブルホールのビームで地獄絵図だ。

特にパプアは上面が広いため当たりやすい。

「クレーター内で作業するのは間違いだったようだぞシャア。
戦いを読み間違えたようだな」

アブルホールを急上昇させる。

下からメガ粒子砲が飛んで来ないのを見るにムサイのエンジンはまだ入ってないか入れたばかりだろう。

十分な高度を確保。

スイッチを切り替え、変形。

脚を前に向け減速。

「ぐぁっ!? 」

Gで内臓が押し潰されそうになるのに耐え、機体を反転。機首を下…パプアへ。

「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇ!」

脚部を収納。

スラスターを吹かしてパプアへ急降下。

どんどんパプアが大きくなる。

コンソールを弄り、テールユニット下部のハッチを開き、中身をユニット外にアームで固定。

「ファイア」

トリガーを引き、アームを解放。

直ぐ様MS形態に変形し、スラスターを下に向ける。

急制動で下方へのGに押し潰されそうだ。

パプアの上面すれすれで垂直方向のベクトルがゼロに。

パプアの艦体を蹴り、勢いを着けて離脱する。

十分に距離を取り、後方の様子をモニターで確認する。

大破炎上。もしくは轟沈寸前。

そんな言葉の似合いそうな状況だ。

なお先程切り離したのはバンカークラスター。

バンカーバスターの散弾版のような兵器だ。

ミサイルランチャーユニットは上下で違う物を入れられる。

なお、上方のミサイルは一切使っていない。

そうこうしている間にムサイが浮上を開始した。

爆炎の中を逃げるように上昇する。

「よーし。沈むとは思わんが取り敢えず食らっとけや」

ウェポンコンテナ上部ハッチ全面解放。

「たらふく食いな。全部連邦の奢りだぜ」

トリガーをカチッと鳴らす。

ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ…!

12×2門のミサイルランチャーのフルバースト。

中破くらいするだろう。

シャアの事だ。どのみち地球には降りるだろうが、ここでムサイが傷つけば大気圏突入間近での戦闘は仕掛けまい。

だが、その期待は裏切られた。

迎撃されたのだ。

ムサイからではない。

横合いから放たれたメガ粒子砲やミサイル、機銃など。

ジオンの増援でもない。

ムサイより明るい緑。

無重力下に居るにも関わらず水上艦のようなシルエット。

「マゼラン…っ!」

ルナツー防備隊の艦だった。
 
 

 
後書き
ガンダムに登場する小物達の気持ちがわかるようになって自分の成長を実感した今日この日。 

 

P9

「撃て撃て撃てぇ‼ジオンを一歩も通すな!」

ホワイトベースの格納庫。

そこでは下士官がジオンの特殊部隊と交戦していた。

ガンダムの格闘戦データの解析やそれに伴うオーバーホール。

ルナツーにおいて拘束されなかった技術士官がそれらの作業を行っている時だ。

ルナツー司令の命令で━━反抗を防ぐ為かは定かではないのだが━━開放していた片側のMSデッキにジオン兵が侵入しようとしたのだ。

始めに気付いたのはガンダムのコックピットで制御系を弄っていたアオだ。

彼女は優秀だった。

『皆。驚かず、手を止めずに聞いて欲しいっす。
私は今ガンダムのコックピットで制御系の整備中なんすけど。
ジオン兵が侵入しているのをガンダムのカメラがとらえてるっす。
開放されたハッチの300メートル先。
潜入部隊みたいっす。
たぶん直ぐにはこないはず』

技術士官達は冷静に聞いていた。

『誰か武器を持ってきてほしいっす』

それに数人の技術士官がMSデッキ備え付けの武器庫からライフルを取り出す。

ルナツーの士官は反抗か、と顔を青くした。

彼らは事情もわからずエアロックに押し込まれた。

各々が整備を続ける━━━振りをしながら何時でも機体やパーツの影に隠れられるように構えていた。

開戦の狼煙は、ジオン兵が撃ったスモークグレネードだ。

下士官達が物陰に飛び込む。

斯くして、ホワイトベースMSデッキにおいて銃撃戦が繰り広げられる。

あるものは銃を手に取り、またあるものは工具を投げる。

交戦はマゼランが座礁するまで続いた。










side in

『なぁ中尉さんよ。俺達どうなるんだ?』

事前に渡されていたルナツーのゲートに向かう途中、カイ君に聞かれた。

「どう、とはどういう事だカイ君?」

『さっきからホワイトベースから全く返信ないけどよ、まさかあのマゼランに沈められてるんじゃないだろうな?
帰ったら味方の艦砲射撃でお出迎えってのぁゴメンだぜ?』

「それはないよ。流石に新鋭強襲揚陸艦を沈めはしないさ。
どうしても帰りたくないってんならサイド7に帰るかい?」

『そりゃ勘弁』

『お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?』

「ああ、でも恐らくホワイトベースは拘留。
士官はAAA級戦犯で全員拘禁。
動けるのは下士官だけって所か…」

『な、なんでそんな事がわかるんだ』

とリュウが言った。

「第一に最高機密の試作機を実戦投入。
更にはその試作機には民間人の素人。
加えてルナツー宙域でCPに無断交戦。
何よりいらだたしいのはルナツーの事なかれ主義のアホ共からすれば最後が一番罪が重いって所だ」

『なんでボク達が悪者なんですか!
あと一歩で、中尉さんのミサイルを打ち落としたのはあのマゼランでしょう!
利敵行為をしたのはあっちですよ!』

ハヤトもかなりご立腹だ。

気持ちはわかる。

俺だって事前に『こう』なると知らなければ当たり散らしていただろう。

「ハヤト君。君は地政学というのを知っているかね?
地理と政治と書いて地政学だ」

『知ってますよそれくらい』

「で、地政学的に考えるとこのルナツーは連邦にとっては重要な場所な訳だけどもジオンにとっては戦略的価値皆無の拠点。
月と地球を挟んでジオンに最も遠い場所。
だが赤い彗星が沈んだとなればジオンはルナツーを重要視してここを攻めてくる。
連邦としてはルナツーには置物であって貰わないと困るんだよ」

『中尉さんは、納得してるんですか?』

「納得は出来ないがあのまま続けてたらマゼランに撃たれていた。
流石に味方の艦を沈めて宇宙海賊になるのは嫌なのでね」

やがて、光が見えた。

この真空の虚無の中、光は星か人工灯のどちらか。

太陽はルナツーの影であり、見えるのは当然文明の光だ。

ただ、その光が煙に乱反射しているとなれば、近付きたくはなくなる。

『なんだありゃ!? マゼランが港で沈んでやがる!』

ルナツーのゲートを覗き込んだカイ君の第一声はそれだった。

ああ…間に合わなかったか…

「ふむ…出港直後にミサイルかメガ粒子砲でも食らったか……それとも工作員が侵入したか…」

『工作員だって!? ルセーブル中尉!俺達はどうしたらいいんだ?』

「リュウ。とにかく全方位で呼び掛け続けろ。
俺はマゼランを見てくる」

『了解!』

side out






リュウとカイはアベルに言われた通り、ゲートの縁で母艦へのコールを続けていた。

『こちらホワイトベース』

『ありゃ、やっと繋がった……。
顔怖いよブライトさん』

『大至急戻ってこい。大仕事が待っているぞ』

アベルはソレを聞きながら、マゼランの検分を進めていた。

「メガ粒子砲…ミサイルの着弾はナシ…。
やっぱりジオンの工作員か…」

MS形態に変形させたアブルホールを座礁したマゼランの艦底に近付ける。

「めり込んではいないのか…」

『中尉さーん。帰投命令だぜ』

アベルはスピーカーから聞こえたカイの声に、検分を一時中断した。

「了解。ホワイトベースに帰投する」

アベルとローザがホワイトベースに着艦しようとすると、管制官…セイラに止められた。

『ルセーブル中尉。そちらのMSデッキはジオンの兵と白兵戦を行ったあとです。
後部デッキにはいってください』

「白兵戦!? ホワイトベースで!?
セイラさん俺の部下は無事なのか!?」

『軽傷者はいますが死者は出ていません』

「了解」

アベルはアブルホールを後部デッキに押し込んだ後、直ぐ様前方のデッキに走った。

前部デッキでは技術士官が器材の点検をしていた。

「あ!副所長!」

「アオ!何があった!」

「あ、ジオンの工作員と一戦交えて今は器材の点検中っす」

ケロッと答えるアオにアベルは若干冷静になった。

「いや…そうじゃなくてだな…」

「大丈夫っす。軽傷者はいますけど全員生きてるっすよ」

「や、だからさ…」

「いやぁ、びびったすよ。ガンダムのコックピットの配線弄ってたらモニターにジオン兵が写ってましたからね」

「もういいや…。なんも無いなら俺はマゼランの解体に行くけど?」

「あ、引き留めてすいません。どうぞ行ってくださいっす」











その後は忙しかった。

まずマゼランの解体。

座礁したマゼランをアブルホールのビームサーベルで解体してジェネレータをいただいたり無事だった艦砲を回収したりした。

その後はアムロ達をMSに乗せた件についての書類に追われた。

だがまぁ、それなりの結果が返ってきたのでよしとしよう。

自室の机の上。

そこに広げられた複数枚の書類。

アムロ達の仮入隊証だ。

日時が多少遡っている。

SEEDでマリューがやってた奴である。

本人達にも伝えていない。

俺とカシアス中佐とイシカワ大佐とワッケイン司令だけが知る書類。

何かしら問題が起こった時の保険で、問題がおこらなければこの部屋の金庫で終戦を迎える。

「保険は、かけた」

使う事の無いよう願おう。

そこで呼び出しのブザーが鳴った。

備え付けの直通回線を取る。

「はいルセーブル」

呼び出したのはセイラさんだった。

うん。すっげー美人。

『ルセーブル中尉。艦長がお呼びです。
今後の事でお話があると』

「了解。すぐいく」

書類を纏め、金庫に放り込んで士官服に着替える。

「お兄ちゃん。よびだし?」

ベッドで寝ていたローザが起き上がった。

「ああ、呼び出しだ。で、お前なんで裸なの?」

「シデンさんがこうしたらお兄ちゃんが喜ぶって言ってた」

「あのバカ後で絞める。ローザ服ちゃんと着とけよ」

「はーい」










「ルセーブル出頭しました」

「お呼びだてしてすいませんルセーブル中尉」

なんだろう彼に畏まられると変な気分だ。

「ノア中尉。ため口でいいよ?」

「いえ、技術士官とはいえ貴方は中尉、私は少尉ですので」

お堅いなぁ。

「いや命令系統違うでしょ?
アンタは指揮のプロ。俺は戦闘できるけど本来は技術のプロ。
あと艦長が敬語って示しつかないじゃん」

「そうではありますが…」

「じゃぁ命令。ため口で話せブライト」

「わかりまし…わかったルセーブル技術中尉」

ブリッジには床のモニターを囲むようにブライト少尉テムさんそして俺。

テムさんベッドにいなくていいの? とも思うが現在のホワイトベースの正規士官は俺達だけだ。

その士官三人の内二人が技術士官というどうしようもない状況だ。

タムラさん? あの人コックだし。

まぁ、他のオペレーターもいるけどそっちはそっちで忙しそうだ。

「では地球降下についてのミーティングを行いたいと思います」

モニターにルナツーから地球までの航路、更には降下予定ポイントが書かれている。

「我々はジャブローに向かいます。
降下は問題無いでしょうが、問題は地球ルナツー間で襲撃される可能性が有ることです」

「ブライト。降下こそが鬼門だと俺は考える」

「なぜだルセーブル技術中尉」

あ、その呼び方で固定なのね。

ブライトから指し棒を受けとる。

「えーと。まずジャブローは南米のアマゾン川流域」

ジャブローを示す光点を差す。

「でも北米はジオンの本拠地だ。仮にシャアが大気圏突入間近に攻めてきたら?
俺達は降下角度を曲げられ、北米に降りるかもしれない」

「バカな! 大気圏突入間近に攻めてくるなんてあり得ない!」

「アベル君。ザクに大気圏突入能力はない。
君も知っているだろう?」

ブライト、テムさん両名が否定する。

「ホワイトベースに一当てするくらいならできるでしょう?
その後はムサイに戻るなりコムサイに拾ってもらうなりすればいい」

「正気かルセーブル技術中尉?」

「正気? バカか。戦争だぞ? 戦争は人を狂気に陥れる。
それにシャアも今頃怒り心頭だろうよ。
なんせ三回もホワイトベースを取り逃がしているからな」

「そうか…」

「案としてはこちらから攻める、逃げ切る、と色々ありはする」

「逃げ切れるのか?」

「絶対とは言わんが。あとは、そうだな、大気圏突入しながらの戦闘も悪くはないだろう」

原作と同じように。

「そんな事出来る筈がない!」

「テムさん。ガンダムとガンキャノン三機、あとアブルホール二機。
いけるよね?」

「アブルホールは大気圏突入運用試験をやったが他はやってないだろうアベル君」

「なっ…MSでの大気圏突入が可能なのですか?」

「ああ、ガンダムのシールドがあればな。
あれは予備があったはずだ。
ガンキャノンに装備させれば単騎突入出来る。
君は何故ホワイトベースが『強襲揚陸艦』なのか知らないのかブライト」

「……………」

「最悪はホワイトベースの上部甲板に張り付けばいい。
いいかブライト。MSでの単騎突入。これはザクにはできない。
俺達の強みはそこだ」

「……わかった。その方向で対応策を考えよう」

斯くして、人類史上初の大気圏突入戦闘作戦案が組み上げられた。
 
 

 
後書き
取り敢えず、パオロ艦長やヴェルツ大尉などの負傷兵はルナツーでおろします。 

 

P10

『ガンダム!アブルホール二号機発進!
続いてアブルホール一号機!』

「了解。ルセーブル、後部ハッチより出ます」

アベルがペダルを踏み込み、アブルホールが宙に吐き出された。

射出されたアブルホールが上下360度回転。

「ああ…地球だ。『青く眠る水の星』だ」

『続いてガンキャノン!カイ、ハヤト、リュウ、ホワイトベース上部甲板へ!』

『りょーかい』

『了解だ』

『わかりました』

ホワイトベースの甲板にガンキャノンズが乗ったのを確認したアベルが、ガンダムの隣につける。

「アムロ、ザクを迎え撃つ」

『わかりましたルセーブル中尉』

「アブルホールに掴まれ!こっちから攻める!
ローザ!ホワイトベースから離れるなよ!」

『うん!』

「総員!重力の井戸に落ちるなよ!
あと!作戦の都合上地球を『下』とする!
空間戦闘であることに留意!」

ガンダムのマニュピレーターがアブルホールを掴む。

「いくぞ!」

アブルホールのスラスターが火を吹く。

広大すぎる宇宙では、進んでいる実感はGだけ。

アブルホールとガンダムのコックピット内では二人が歯を食い縛る。

「接敵まで10秒!」

正面からザクマシンガンの弾幕が迫る。

アムロはガンダムを操作し、盾を構える。

アブルホールは被弾面積の関係で無傷だ。

ガンダムがビームサーベルに右手を伸ばす。

「五秒! 三!二!」

ブゥン…とビームサーベルが起動。

「一!」

六機のザクが散会し始める。

アベルは操縦桿を傾け…

「 今!」

光刃一閃。

散会し遅れたザク一機が両断された。

「急速ターン!振り落とされるなよ!」

アブルホールが変形し、進行方向と直角…地球にスラスターを向ける。

そこからU字を描き、ザクの編隊と二キロの距離を保つ。

凄まじいGの中、ガンダムはビームサーベルをラックに直し、腰のビームライフルを手に取る。

ソレを下方に三発。

ビームがザクを掠める。

「アムロ!このまま等速戦闘!砲撃戦!
ライフルの残弾に注意!」

アベルもテールユニットのビームキャノンをザクの編隊に向ける。

ピシュゥン!ピシュゥン!と実弾より軽い発砲音を響かせながら、ザクの編隊をホワイトベースに近付けないよにしている。

デルタ陣形の五機のザク、その最右翼のザクがビームキャノンの餌食になった。

しかしシャアは速度を落とす事なく、ホワイトベースに一直線に進む。

『中尉さん!このままじゃホワイトベースについてしまいます!』

「構うな!自分の出来る事を心掛けろ!
はっきり言ってシャアが攻めてきた時点でジャブローへの降下コースからずれる!
負けは確定しているんだ!
今は負けを大きくしないために!これ以上被害を出さないために戦え!」

『わかりました』

唐突に、彼らの背からビームが撃たれた。

艦砲…ムサイ級軽巡洋艦ファルメルのメガ粒子砲がホワイトベースを狙う。

「ああ…もうだめだ。艦砲射撃でホワイトベースを北米に押し出す気だ」

ホワイトベースは回避行動を取り、紙一重でメガ粒子砲を避ける。

否、避けさせられた。

『ムサイを叩くんですか?』

「いや、間に合わない。今出来る事はホワイトベースの被害を最小限にする事だけだ。
兎に角撃ち続けろ。ザクをホワイトベースに取り付かせるな。直ぐにカイ達が砲撃支援をしてくれる」

アベルの言った通り、ガンキャノンの砲撃とホワイトベースの艦砲がザクに降り注ぐ。

内一機が、ホワイトベースのメガ粒子砲に貫かれ、火の玉と化した。

「これで後はシャアも含め一個小隊だけだが、どうするアムロ。
シャアを叩くかい?」

『中尉さんが援護してくれるなら、ボクはやります』

「頼もしいな。では一つ聞かせてくれ。
君は何故戦う?」

『中尉さんやローザさんが戦ってるのに、年上のボクが出ない訳にはいかないでしょう』

「くく…そうか。なるほど。君は優しいな」

『臆病な、だけです』

「いいや君は勇敢だ。なんせ今からシャアを叩こうというのだから」

アベルが操縦桿を傾ける。

「行くぞアムロ!上手く行けばここでシャアを叩ける」

もう、ホワイトベースのいる宙域。

味方の援護の中、アムロとアベルがザクの小隊に突っ込む。

赤いザクがヒートホークを振り上げる。

アブルホールを蹴り、ガンダムがそれに突っ込む。

「アムロ、シャアはたのんだ」

残りのザクが通り過ぎるアブルホールにマシンガンを浴びせる。

横ロールで間を抜い、ソレをギリギリで避けるアブルホール。

距離を取ったアブルホールが変形し、二機のザクを中心に円運動を始める。

ザクが予測射撃で狙うが、当たらない。

アブルホールはMSと宇宙戦闘機の利点のみを組み合わせた機体。

この世界におけるRXシリーズ最速の機体。

ザクでは追従することができない。

フロントヘッドを展開したアブルホールが一方的に60ミリバルカンを浴びせる。

『中尉!アムロ!タイムアップよ!
戻ってください!』

『この状況で出来ると思うんですかセイラさん!』

「戻れアムロ君!後は俺がやる!」

アベルはザクにバルカンを浴びせるのをやめ、赤いザクに突っ込む。

ガガガガン!と激しい振動がアベルを襲う。

アブルホールがサブアームを伸ばす。

『ええい!離れろこの戦闘機擬きめ!』

接触回線でシャアの声がアブルホールに伝わる。

「ああ離れてやるとも!」

『こっ…子供だと!?』

アブルホールが赤いザクを蹴りつけた。

赤いザクはそのままコムサイに戻った。

だが、二機の通常機の内一機は、ガンダムに取りついて戻らない。

『アムロ!タイムアップよ!アムロ!』

「しょうがぁねぇなぁ!」

アベルはアブルホールをガンダムとザクに近づける。

アブルホールの蹴りを食らったザクが体勢を崩す。

「アムロ!ホワイトベースに戻れ!最悪は大気圏突入モード!説明しただろう!」

『わかりました!』

アムロはガンダムをホワイトベースの上部甲板につけた。

ハッチは既に閉まっている。

『少佐!シャア少佐!助けてください!シャア少佐ぁぁぁぁぁぁ!』

オープン回線でザクのパイロットの絶叫が響く。

「あぁぁ!もうっ!軍人だろうがそんな声でわめくなジオン兵!」

アベルが機体を燃え行くザクの真下につける。

やがてゴン…と音がアブルホールのコクピットに響く。

「胸糞わりぃから助けてやんよジオン野郎」

アブルホールの機体下部とテールユニットから冷却ガスが噴出される。

ガタガタと揺れるコクピットの中、ジオン軍所属のクラウン上等兵は困惑の最中だった。

何故、敵である自分を助けるのかと。

やがて、揺れが治まった。

『おい、生きてるかジオン野郎』

「ど、どうして助けたんだ」

『あぁん? ちょうどザクのジェネレータが欲しかったんだよ』

ぐらりとザクが揺れた。

アブルホールがホワイトベースへ近付いたのだ。

『ホワイトベース。ハッチ開けてくれ。
オマケ付きで帰還だぜ』

『第一、第二ハッチ解放。アブルホールは第一ハッチへ、ガンダムは第二ハッチへ』

今後、救われたクラウンの忠誠心がいったい何に向けられるか、それはまだ、誰も知らない。
 

 

P11

「さてクラウン上等兵。質問に答えてもらおう」

「答えられる事ならば、いくらでも話そう」

WBの尋問室。

ドロドロに融けたザクの前面装甲をレーザーカッターでこじ開け、外に連れ出されたクラウンは尋問室に連行されていた。

この場に居るのは黒いパイロットスーツを着たままのアベルとライフルを持った数名の下士官、そしてクラウンだ。

「まず一つ目。先の戦闘の目的は?」

「木馬の侵入コースをずらすこと。
可能なら、沈めること。
白いMSと灰色の大型戦闘機の鹵獲」

「それだけ?」

「俺が聞かされていた限りは…」

ふむ、とアベルが頷いて見せる。

「では次。君はサイド7襲撃の時からムサイに乗っていたか?それともパプアの補給人員か?」

「後者だ」

アベルはメモ帳にサラサラと書き込む。

「マゼランをやったのはやっぱりシャア?」

「大佐と、歩兵隊」

「君はその時何してた?」

「ザクの中で待機していた」

「なるほどねぇ…」

それからアベルは幾つかの質問をした。

シャアの今後の進路、ジオンの内情…

以外にもクラウンは素直に尋問に応じた。

尋問官が子供だった、というのもあるだろう。

尋問室ではカリカリというペンの音だけが聞こえる。

「えーと…じゃぁさ」

と前置きをしたアベルが尋ねた。

「大気圏に突っ込んだ時怖かった?」

「…………ああ」

クラウンが重々しく頷く。

「じゃぁ、最後の質問」

アベルがクラウンの正面に立った。

「シャアの事、どう思う?」











「くく…『くたばれ、さっさと燃え尽きろ』か」

アベルはクラウンの尋問を終え、独房に放り込んだ後、アブルホールとガンダムの整備をしていた。

「どうしたんすか副所長?」

「ザクのパイロットの尋問でさ、『シャアの事どう思う』かって聞いたんだよ」

「はぁ」

「そしたらあのクラウンってジオン兵すげぇ顔で言ったのさ『くたばれ、さっさと燃え尽きろ』ってな」

「ああ…彗星だから」

「そ、なかなかユーモアあるよね。
更に言えば、大気圏突入で燃え付きそうになった自分を助けなかったシャアへの当て付け、かな」

クスクスと笑いながら、アブルホールのパーツ交換を済ませるアベル。

赤いザクへの突進や大気圏突入など、普通の宇宙戦闘機なら何度塵と化していることか。

「はぁ、本当ならオーバーホールしたいけど、いつジオンが攻めて来るかわからないもんな…」

「そっすね…」

それは技術士官全員の意見でもあった。

「まー…一応異常無いから戦えはするんだろうけど…」

「中身はバラさないとわからない事も多いっすからねぇ…」

「取り敢えずビームキャノンだけでもオーバーホールしといて。
あれは予備があるから大丈夫でしょ」

「つってもビームキャノンも組上がってるの二基しか無いっすよ?」

「片方ありゃ十分だろ。俺はミサイルでいいしな」

「やっぱりビームキャノンをロザミィちゃんに譲る気なんすね」

「当たり前だろう。ビームキャノンならアウトレンジから撃てる上重量もミサイルコンテナより軽い。
撃ち尽くす事が基本無いからデッドウェイトにもなりにくいしな」

ビームキャノンのコンテナにはジェネレータが内蔵されている。

パワーダウンがあるものの、ガンダムのビームライフルとは違い基本弾切しない。

「副所長」

隣で作業していたアオが、アベルの小さな体を後ろから抱き締めた。

「副所長がロザミィちゃんの事を一番に考えるのは、別にいいんです。
でも、もしそれで副所長に何かあったら、ロザミィちゃんが一番かなしむんです。
そこら辺、わかっていますか?」

アオが何時もの後輩口調をやめ、アベルに語りかける。

「なんだよいきなりセンチだな」

「副所長、大気圏突入の後、ロザミィちゃんに会いました?」

「まだ。クラウン上等兵の護送が合ったから部屋に戻らせて出ないよう言ってあるが…」

「ロザミィちゃん、めちゃくちゃ心配してたんですよ」

「そうか…。早く行ってやらねぇとな…」

アベルがぼそりと呟いた。

「副所長…私も…いえ、私達も心配してたんですよ?」

アオの声は、震えていた。

「おいおい、そこはお前達の整備した機体を信じてやれよ」

アオが、いっそうつよくアベルを抱く。

「もし…もし整備不良があったらって…!
ずっと気が気じゃなくて…!」

「えー…泣かれても対応にこまる…」

泣き出したアオにアベルは戸惑う。

「泣く事ないじゃないか…。現に俺は生きてる訳だしな」

アベルがまわされた手を握る。

「俺は生きてる。お前達が整備してくれたコイツのおかげでさ」

そこで、けたたましいアラームが鳴り響いた。

「敵襲…ですか」

「ああ、中で待機する」

アオが抱擁をとく。

「ありがとう。アオ。俺みたいな奴の事、心配してくれて」

「当然っすよ…だって……いえ…何でもないっす」

「そうか」

アベルはパイロットルーム(更衣室兼控え室)へ向かった。










ホワイトベースのブリッジでは、ブライトとリードが言い争っていた。

内容は、ガンダムを出撃させるかどうかだ。

「ですから! ガンダムを出撃させてこの包囲網を突破しない限りはジャブローに着くこともできんのです!」

「ガンファイターを出せばいい!
どうせ航空機主体のガウ編隊だ!
あの双子ならやってくれる!」

「彼等は子供です! たとえルセーブル技術中尉が軍人でも、かれは技術士官です!」

「好都合じゃないか!彼等が死んでも私や君の責任ではない!」

そこで痺れを切らした男が一人。

その男はリードにツカツカと歩み寄る。

そうして、大きく振り上げた拳を、リードの頬に叩き込んだ。

「ぐあぁっ!?」

「いい加減にしてください!」

「なっ……アムロ!?」

ブライトが驚きの声をあげた。

殴ったのは、白いパイロットスーツを纏ったアムロだ。

「なっ…何をするか小僧っ! 銃殺されたいかっ!」

「銃殺だろうがなんだろうがお好きにどうぞ!貴方にそれができるなら!」

「な、なにぃ…!」

「さっきから聞いていれば、アベル中尉達が死んでもとか、守って貰っていてその言い方は無いんじゃないんですか!」

「黙れ小僧!」

「貴方はいいですね、そうやって守られながら喚き散らしていればいいんですから」

アムロは、リードを見下していた。

「あの双子がホワイトベースを守るのは当たり前だ!
この艦がおちれば!あの双子とて帰る場所はないのだからな!」

立ち上がったリードが、アムロに拳を振るう。

だが怪我人の拳なぞ、アムロでも避けられた。

その上足を引っかけられ、リードはもんどり打って転んだ。

「……そんなだから…貴方達大人がそんなだから! 大人が不甲斐ないからアベル中尉みたいな子供が戦ってるってわからないんですか!」

「ノア中尉! この子供を独房に入れろ!」

「できません」

「貴様まで逆らうのか!」

「貴方にホワイトベースの指揮権はありませんし、アムロ君は軍人ではありません。
彼を独房に入れる事は、できませんよリード大尉」

「私は大尉だぞ!」

「ワッケイン指令は貴方にホワイトベースの指揮を命じたのですか?」

「ぐっ…!」

倒れたリードを放って、アムロはエレベーターへ向かう。

「アムロ君、どこへ行く」

「ガンダムで待機します。いいですかブライトさん」

「ああ、構わない。
誰か!リード大尉を医務室へ!」












「お兄ちゃん!」

パイロットルームに入ったアベルを待っていたのはローザだった。

アベルの予備パイロットスーツを着ている。

唐突に抱き付かれたアベルはバランスを崩しかけたが、なんとか踏み止まる。

「心配、かけたみたいだな」

「本当に、心配、したんだよ?」

「すまない。だが、俺は必ず帰ってくる。
こんな戦争なんかで死にはせん」

アベルがローザの頭を撫でる。

「信じていいんだね? お兄ちゃん」

「ああ、信じろ。必ず生きて戻って来よう。
お前も、絶対に死ぬな。
逃げることは恥じゃない。生きていれば『次』があるんだから」

「ん。私も、絶対死なない。約束する」

血の繋がらない兄妹は誓いを交わす。

『パイロット各員に通達。MSで待機してください』

セイラが艦内放送で呼び掛ける。

「さぁ、先ずは目の前の敵だ」

「そうだね」

抱擁が解ける。

「勝つぞ」

「うん!」
 
 

 
後書き
殴られるアムロから殴るアムロへ。
もしかしたら居るかもしれないリード大尉のファンの方にはさーせん。