僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜


 

桜兎 緋奈のプロローグ

 
前書き
なんとなくの投稿! 自己満だよ! 

 
英雄(ヒーロー)が嫌いだ、とそう思ったのは中学時代に起こったある出来事だった。別に殺したいや死んでしまえばいい、とは思っていない。ただ、嫌いだった。

英雄(ヒーロー)に憧れる人間が。

英雄(ヒーロー)を生業にする人間が。

そして--平和の象徴と呼ばれる英雄(ヒーロー)が。

これはヒーローを嫌う少年が、ヒーローに憧れ、最高のヒーローになるまでの物語だ。



4月。それは学生にとって新生活が始まる季節。小学生は中学生に、中学生は高校生に、高校生は大学生に、大学生は社会人に。そしてその中で夢を叶える一歩となるのが高校だ。高校の選び方次第で、将来なりたい存在になれるかなれないかが決まる。

「はぁ、今日は高校の入試日か」

左右非対称の白黒(モノクロ)の髪に紅色と空色の左右対称の瞳。 端正な顔立ち。 外見は細くも太くもない丁度いい体格。灰色の制服を身につけ、薄っぺらい片手鞄を手にとある建造物の前に立っていた。

【国立雄英高等学校】

平和の象徴と呼ばれる『オールマイト』を始めとした現在活躍する沢山のヒーローを生み出したヒーロー育成校。

ヒーロー科のほかにも普通科やサポート科、経営科が各3クラス有り、
一学年11クラス構成のマンモス校である。

広大な敷地面積を有し、学内にはさまざまな施設がある。

「しっかし、人が多いな。 僕、人混み嫌いなんだよなぁ」

この少年と同じように、雄英高校の入試会場へと向かっていく人達を見ながら、呟いた。と、その中に見慣れた黒髪ポニーテルの少女を視界に捉えた。

「あれ・・・って、八百万?」

ぽつりとそう呟くと、その声が聞こえたのか、八百万(?)がこちらを振り返った。八百万(?)は不思議そうに周囲に視線を動かし、やがて視線が白黒の髪に紅色の瞳をした少年を捉える。それに伴い、パァァ、と八百万(?)の顔が明るくなり、こちらに走ってきた。

「お久しぶりですわ。 緋奈さん」

八百万(?)は緋奈と呼ばれる少年の手を握った。それに対し、

「久しぶり、八百万」

緋奈は微笑んだ。

手を握る彼女の名前は、八百万(やおよろず) (もも)。 小さい頃に緋奈が住んでいた家の隣の豪邸のお嬢様だ。昔はお互いの両親の仲が良く、必然的に彼女と遊んでいた。だが、小学生に上がる頃に、緋奈の方が引っ越し、それっきり会うことは無かった。

「緋奈さんもヒーロー志望ですの?」

「あー、うん。 まぁ、そんな所かな」

苦笑いを浮かべて答える。緋奈は別にヒーローになりたくてきた訳では無い。緋奈の両親はプロヒーローだから、自分もヒーローにならなければならないという伝統があるからという家庭の理由だけである。

「とりあえず、入試会場に行こうよ」

「ええ、そうですわね」

緋奈と八百万は離れてからの小中での出来事や昔の思い出話をしながら、入試会場に入った。

中に入ると、既に何百人もの生徒が席に座っていた。

「これって僕達、最後の方?」

「そのようです。早く座りませんと」

「そうだね。 あそこにしようか」

「ええ」

緋奈と八百万は、前髪の両端が長い茶髪のショートボブの少女の隣に腰を下ろした。

そして--入試の説明が始まった。



『俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

舞台に立つ、サングラスとトサカのように逆立った金髪が特徴の男性がハイテンションで叫んだ。

しかし、それに返す生徒は誰もいない。

寧ろ、引いていた。 因みに、緋奈はと言えば、

「…zzz」

「ひ、緋奈さん!? ち、近いですわ!」

八百万の肩に頭を乗せて熟睡していた。

『こいつはシヴィーー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?』

実技試験の内容は10分間の『模擬市街地演習』を行う。
持ち込みは自由。各自指定A、B、C、D、E、F、Gの演出会場に移動。
 
演習場には『仮想敵(かそうヴィラン)』が三種・多数配置されている。

それぞれの「攻略難易度」に応じて、
ポイントを設けてある。

各々なりの『個性』で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが目的だ。

最後にプレゼントマイクから雄英の『校訓』をプレゼントされる。

かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と。
 
――― 更に向こうへ Plus Ultra(プルス ウルトラ)!!
 
『それでは皆、良い受難を!!』
 
 

 
後書き
連続投稿するよ! 

 

入試

 
前書き
連続投稿‼︎ 

 
実技試験の会場はバスでの移動。暫くして、演習場Aに到着し、ゾロゾロと生徒達がバスを降りる。 皆、能力にあったスポーツウェアを身につけていた。かくいう、緋奈も白に黒のラインが入った上下のウインドブレーカーを着込んでいた。ただし、緋奈の場合は能力関係なしでデザイン性を求めただけである。

「さーて、いっちょやりますかね」

軽く準備運動をして、いつでも動けるように構える。と、

『ハイ、スタート―!』

モニタに大きく映し出されているプレゼント・マイクが試験開始の合図をかける。その声に咄嗟に反応できたのは数名。その中には緋奈も含まれていた。

「【風】」

と、地を踏み抜くとと共に呟いた瞬間、文字通り、加速した。メキャッと床を踏み砕く音が炸裂し、一瞬にして数十メートル以上の距離まで辿り着く。

これが桜兎 緋奈の個性【言霊】。 言葉にした事象を現実に表せる効果を持つ。因みにこれは一つ目の使い方の『自然干渉』だ。持続時間は五分。

『どうしたあ!? 実践じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れ!! 既に一人走ってたぞ!そいつに続け!!続け!!賽は投げられてんぞ!!?』

プレゼント・マイクの余計なお節介が響き渡る。

限られた時間の中、広大な敷地で状況をいち早く把握する為の情報力。
遅れて登場じゃ話にならない機動力。どんなに状況でも冷静でいられるか判断力。
そして……純然たる戦闘力。

(・・・ほっときゃいいのに)

優しいな。と呆れながら緋奈は更に言葉を紡ぐ。

「【翼】」

すると、ウインドブレーカーを突き破り、背中から翼が現れた。

これが【言霊】二つ目の使い方、『具現化』だ。一度覚えた物を言霊を使って具現化させる。 持続時間は制限無し。

そして、ビル群のうち、まぁまぁ高いビルの上に降り立つ。上空から見渡せるということは戦場を支配したも同然だ。

「すぅ・・・はぁー。」

翼を消し、心を落ち着かせるように息を吸い吐く。そして、右手でピストルの形を作る。それを仮装敵と呼ばれるロボットに向け、

「【爆発(こわれろ)】」

そう呟いた。 瞬間、下の方で生徒を探して動き回っていた仮装敵が爆発した。まるで砲撃を食らったかのように。

さらに続けて、左右で駆動する仮装敵二名の方に両手を向け、

「【重力(つぶれろ)】」

そう告げる。 それに伴い、見えない力で押しつぶされるかのごとく、仮装敵がひしゃげた。

「これで7P(ポイント)。 できれば目立たない中間ぐらいの順位になりたいから、もうちょい稼ごうかな!」

指を鳴らし、槍を投げるような投擲モーションに入る。 そして、

「【槍】」

告げる。すると、

ドズン!

と鈍い音をあげて横っ腹を穿たれた仮装敵がビルに激突し、撃沈した。窓ガラスが割れ、パラパラと地面に降り注ぐ。

「これで10P!」

緋奈はガッツポーズを決めた。


彼の【言霊】は使い方次第で最強の個性かもしれないが、絶対的力に弱点はある。

それは--『順序』と『頭痛』だ。『自然干渉』を使ったら次は『具現化』→『自然干渉』→『自然干渉』→『具現化』という並びが大事だ。 さらに、使用する度に、頭痛が起こり、その痛みは『軽く小突かれる痛み』→『掌で叩かれる痛み』→『拳で殴られる痛み』→『針で脳を貫かれたような痛み』→『指で脳をこねくり回される痛み』→『失神するほどの痛み』の順に使用者に襲いかかってくる。

現在の【言霊】使用回数は5回。頭痛レベルは『掌で叩かれる痛み』だ。5回毎に頭痛レベルが上昇する仕組みになっている。なので頭を使って戦わなければならない。

「次はアイツらかな」

緋奈はそう呟いて、ビルから飛び降りると共に、

「【暴風(吹き荒れろ)】!」

と叫んだ。 それと同時に道あたりを蠢く仮装敵六体を風の刃で切り裂き破壊する。これで、22P。最低で百近くの方がいいかもしれないと考え、更に先ほど干渉した暴風を指で操り、続けざまに仮装敵を10体倒す。そこからは暴風のみで仮装敵を蹴散らしていく。やがて5分が経ち、暴風が消える。だが、ポイントは97ポイントまで到達した。

「ふぅ。まぁ、こんなもんかな」

額の汗を拭って、緋奈は大きく伸びをした。と、突然、背後の方から大きな音がした。

「ん? 地震?」

呑気そうに背後に顔を向けると、そこにいたのは--巨大な仮装敵だった。なんと表せばいいのか、言葉にするのも難しいフォルムをしたロボット。確か、0ポイントの仮装敵だった筈だ。緋奈は自分には関係ないという表情で、こちら側へと逃げてくる受験生達の邪魔にならないように左側のビルの割れている窓から中へと侵入する。その間にもズンズンと0P仮装敵が前進する。しかも音の発生源はここだけではなく、他の場所からも響いてくる。どうやら0p仮装敵は数体存在するらしい。

試験時間は残り5分。このまま身を隠して待機していれば、余裕で合格ラインに達する。チラッと外の様子を確認し、

「・・・ここで待機してよ・・・」

うかな、と最後まで言葉が続かず、緋奈は無意識にビルから飛び出していた。

なぜなら--0P仮装敵のせいで倒壊したであろうビルの向かいの傍の道路。そこに、足を挟まれて身動きの出来ない、前髪の両端が長い茶髪のショートボブの少女がいた。

「人助けなんて柄じゃないんだよ、僕は!」

と、誰かに八つ当たりするような叫んで、緋奈は瓦礫の下に足を挟まれている少女の元に駆け寄り、声をかける。

「君、大丈夫?」

「え・・・? だ、誰?」

「それは後でいいかな? 今からアレ倒してくるから」

緋奈は足以外に怪我した部分はないかを瞬時に確認し、そう声をかけて、立ち上がる。

「これは禁じ手なんだけど、そんなこと言ってられないかな」

緋奈はそう呟き、手ぶらの状態で0P仮装敵に向かっていく。個性を使わず、無謀だと避難した受験生達が叫ぶ中、緋奈は歩くのをやめた。徐々に近づいてくる0P仮装敵の巨大な足。やがて、数メートルの差になり、次、0P仮装敵が一歩進んだら、緋奈は潰され死ぬ。そして--足を上がり、緋奈を踏みつぶ--

「【後ろに下がれ】」

さなかった。 更に驚くことに、0P仮装敵が前に出した足を止め、ゆっくりとした動きで後ろに下がった。

「【自分を殴れ】」

緋奈がそう言葉を紡ぐと、0P仮装敵は、自身の巨大な機械の拳を、動くために必要な動力源のある顔にぶつけた。しかもフルスイングでだ。ドデカイ衝撃が生じ、0P仮装敵はビルを巻き込んで倒れ込み、撃沈した。

これが【言霊】最後の使い方、『対象物の操作』。 対象者を言葉で操る禁じ手。普段使わないのはリスクを伴うからだ。

そのリスクというのが、

「あ・・・やば」

意識の喪失。グラッと緋奈の身体が揺れ、地面に倒れる。そして、意識が喪失する瞬間、試験終了の合図がなり響いたのだった。 
 

 
後書き
連続投稿します 

 

担任とクラスメイト

入試試験で意識を失った緋奈は目覚めた時に仮眠室にいた。その後、家に帰宅し、次の日に合格発表を受けて、見事に合格した。ただ、目立たないように中間を狙ったわけなのだが、0P仮装敵からあの少女を助けたことにより救済ポイント60Pが入ってしまい、討伐ポイントと合わせて157Pになり、上位に入ってしまった。まぁ、今更後悔しても遅いからと、諦めた訳だが。

そして、今日から雄英高校の授業が始まる。

「行ってきます」

真新しいまだ着慣れない制服を着て、片手鞄を手に、そう声をかける。 しかし、どれだけ待っても返ってくる声はない。昔から朝と夜は一人だ。両親はプロヒーローで朝が早く、夜も遅い。朝食も夕飯も一人で食べて、風呂に入り、歯を磨いて、寝る。『おはよう』も『行ってらっしゃい』も『おかえり』も『おやすみ』も返ってきたことは無い。小さい頃から一人で、それがいつしか慣れてしまって、気づけば日常になっていた。ただ、一度も悲しいなんて思ったことは無い。

昔から親が嫌いだったから。

ヒーローなんてなりたくない。本当は保育士になりたかった。 でも、親はそんな息子のお願い一つ許してくれなかった。親に叱られ、殴られる事が多かった。だから、夢というものを諦めて、ヒーローを目指す事にした。 そうすれば、親に叱られることも殴られることもなく、優しくしてくれるから。朝起きると、机の上に一ヶ月分の生活費が置いてあって、それで一ヶ月生活する手段を親から貰えるようになった。感謝しているし、もう帰ってこなくていいとも思っている。これがヒーロー嫌いになった幾つもある理由の一つだ。

「はぁ。まだ前月の生活費も残ってるから、ちょっと申し訳なくなるなぁ」

財布の中身を見てため息をついた。片手鞄の中に財布を戻して、雄英高校へと向かう。しばらく歩いていると、視界の端に桜の木を捉えた。空に散る桜の花は綺麗で、新入生達を歓迎するような紙吹雪みたいだった。その道を歩いて、やがて、雄英高校に辿り着く。目の前には、自分よりも先に登校してきた新入生達が、希望に満ちた表情で大きな校門をくぐり抜けていく。この中の大半がヒーロー志望と考えると、嫌気がさす。自分を含めて。

「えーと、確か『1-A』だっけ? 知り合いと同じだといいんだけど」

廊下に貼られた校内案内板で自分がこれから世話になる教室のある方向に向けられた矢印通りに進んで行くこと、数分。 『1-A』と記された教室の扉の前にたどり着く。

「こんなにでかい意味なんてあるの?」

あまりにもデカすぎる扉の取っ手に疑問を抱くが、まぁ、いいや。 と深く考えないことにして視線を前に移す。扉の取っ手に触れ、この中にヒーロー目指す同年代の人達がいると思うと、帰りたくて仕方ない。昔から人と関わることは好きだったが、ヒーローの話は嫌いだった。 聞きたくもない『ヒーロー』という単語。だけど、ここに入った以上は周りに合わせなければならない。人に合わせるのは昔から得意だ。親のおかげで身についたから。

「・・・すぅ。 ・・・はぁー」

一度、深呼吸して、覚悟を決めて扉を開ける。ガララと音がなり、教室内の様子が視界に映される。

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないとは思わんのか!」

「思わねぇよ!テメーどこ中だよ?端役が!!」

つんつん頭のヤンキー(?)と、メガネをかけた優等生が何やら言い合っていた。他にも、透明人間女子やカエルみたいな女子に、トサカ頭の赤髪ヤンキー(?)や、金髪チャラ男(?)等とキャラの強すぎる人達ばかり。

緋奈は、普通の人もいないのか?と周囲を見渡し、やがて、黒髪ポニテの少女、八百万を視界に捉えた。

(良かったぁ、知り合いがいて)

少し安堵しながら、八百万の元に向かおうとすると、進路方向を塞ぐように、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子が現れた。

「おう、久しぶりだな! 緋奈!!」

「おはよぉー! 私のこと覚えてるー? 緋奈ちゃん」

「・・・・お、おはよう。(誰ですか? この人達は!?)」

緋奈は、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子のテンションに気圧されながら、とりあえず挨拶を返す。そして進路変更して、違う道から八百万の元へ向かおうとするが、

「おいおい。 待てって、緋奈! 俺だよ、俺。 切島鋭児郎。 覚えてないか?」

「私は芦戸三奈だよ!忘れてるなんてひどいよ、緋奈ちゃん!」

切島鋭児郎と名乗る赤髪ヤンキーと、芦戸三奈と名乗るピンク色のモンスターに再び進路方向を塞がれた。

「・・・(切島鋭児郎・・・芦戸三奈。 ・・・あ!)」

頭の中で名乗られた二人の名前を反芻して、そうえばそんな友達が小学校時代にいたなということを思い出す。小学校卒業後、違う中学に入学したため、忘れていた。

「もしかして、小学生時代によく遊んでたキリ君とミーちゃん?」

念の為にそう尋ねると、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子は嬉しそうに笑って、頷いた。

「そうえば、席順は知ってっか?」

「ううん、今来たところだからね」

「お前は・・・俺の二席後ろだな」

「あぁ、なるほど。 五十音順なんだね。やれやれ、八百万とは席が遠いなぁ」

残念そうに呟いて、自身の机に片手鞄を置いて、八百万の元に行き、声をかける。

「おはよう。 同じクラスだね、八百万」

「おはようございます。 緋奈さんと同じクラスになれてとても嬉しいですわ」

「僕も同じだよ」

とてつもない程に嬉しさが伝わってくる八百万に笑顔を浮かべて、同意する。

「所で、今日は授業あるのかなぁ?」

「おそらくあると思います。なんせ、ここは雄英高校ですもの」

「はぁー。 初日から授業ってのはやる気起きないなー」

大きなため息をついて、八百万の机に右頬をベタりと乗せる。すると、再び扉が開き、縮れ毛の少年と、少し遅れて、前髪の両端が長い茶髪のショートボブの少女が入ってきた。

「あっ!白黒の人だ!入試のときは助けてくれてありがとね!おんなじクラスだったんだー!」

茶髪ショートボブ少女が、八百万の机に顔をのせて脱力している緋奈に手を振って駆け寄ってきた。

「あ、うん。 そうえば、名前聞いてなかったし名乗ってなかったね」

「あっ! そうえばそうだった! 私は麗日お茶子!」

「僕は、桜兎(さくらと) 緋奈(ひな)。 女の子っぽい名前だけど、歴っとした男だよ。 よろしくね、麗日さん」

「うん! こちらこそよろしく!緋奈ちゃん!!」

「・・・緋奈ちゃん?」

麗日の言葉に、緋奈は首を傾げる。 男と名乗ったはずなのだが、なぜ『君』ではなく『ちゃん』なのか。

「えーと、緋奈君って呼んでくれた方が嬉しいような」

「え? 緋奈君よりも緋奈ちゃんの方が呼びやすいし可愛くて好きだ、私!」

「・・・それでいいよ」

緋奈は、あぁ、この子に何言っても無駄だ。と悟り、呼び方については諦めた。

「今日って式とかガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね。 緊張するよね」

「八百万曰く・・・あ、八百万ってのは、この女の子の名前で、八百万 百って言うんだよ」

「よろしくお願いしますわ。 麗日さん」

「うん! こちらこそよろしくね、八百万さん!」

麗日に、八百万を紹介しつつ、

「雄英だから授業あると思うだってさ」

「えー! 入学式は!? ガイダンスは!?」

そう答えると、麗日は驚いた顔で叫んだ。と、その時だ。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

怠そうな男性の声が響いた。少し身を乗り出して、廊下の方に視線を向けると、廊下で寝袋に入りながら横たわり、ゼリー飲料を一瞬で呑み干す男性がいた。ボサボサの髪、無造作に生えている無精髭、そしてくたびれた服。

「なに?・・・あれ」

緋奈は見慣れないホームレスっぽい男性を見て、首をかしげた。雄英高校はホームレスが寝泊まりできるほどにセキュリティが弱いのか?と疑ってしまう。

それから寝袋を脱いで教壇に立つ男性は、充血した瞳で教室を見渡した後、

「ハイ。 静かになるまで8秒かかりました。 時間は有限。 君たちは合理性に欠くね」

という言葉を言い放つ。

 そして―――。
 
「担任の相澤消太だ.よろしくね。 早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

相澤はそう指示したあと、一足先にグラウンドへと向かっていった。

「朝からヘビーだ」

相澤がいなくなった後、体操服を手にしたまま、緋奈はげんなりした顔でそう呟いた。 

 

雄英式『体力測定』

「朝から体育なんてハードすぎる〜」

八百万の腰辺りにしがみついて項垂れる緋奈。それに対し、八百万は母親的視点で、

「一緒にがんばりましょう、緋奈さん」

頭を撫でる。その光景を、高校生とは思えない程小柄な体格とブドウのような頭が特徴の男子生徒、峰田実が『クソ。 オイラも女子に抱きつきてぇ!!』と嫉妬の声を漏らしていたが、緋奈と八百万に聞こえることは無かった。 暫くして、測定器を手にした相澤が全員を集合させ、これから何をやるのか説明し始めた。

「と、その前に・・・実技試験トップは緋奈だったな。中学の時、ソフトボール投げ、何mだった?」

「えーと、76mです」

緋奈がそう答え返す。その時に、後ろの方で、つんつん頭のヤンキー(?)が驚いたような顔をしていたが、関わるのも面倒臭いのでスルーする。

「じゃあ『個性』を使ってやってみろ。 円からでなきゃ、何してもいい」

と、相澤はいって、恐らく記録を図る測定器でも埋め込まれているであろうボールを、緋奈に手渡す。少し気は引けるが、やれと言われてやらない訳にはいかない。

(ってか、上位入ってるのは分かってたけど、トップなのは知らなかった)

手の中でボールを転がしながら、円に入り、失敗したと落ち込む。

「どうした? 早く投げろ」

「あ、はい!」

相澤の催促する声に慌てて返事をし、

「【暴風(吹き荒れろ)】!」

球威に風を乗せるようにしてソフトボールを投擲する。 ボールは放物線を描きながら、霞むほどに広大なグラウンドの奥の方を超え、更に学校の壁も超えて・・・未だに結果が出ない。

「お前の測定結果は5分後に分かる。 それまで、他の生徒の測定に入る。 それと最下位のやつは除籍処分だ」

相澤は名簿にある緋奈の名前の隣に『保留』と書いて、一番の生徒から順に投げるように指示する。誰もが『除籍処分』に驚き、動かない。 相澤は『早くしろ。時間は有限って言ったばかりだろ』と微かに威圧の入った声で促す。しぶしぶと言った感じでソフトボール投げを始める生徒達。 どんどんと測定が終わり、保留の緋奈以外の測定が終了する。 すでに5分以上経っているため、最初の測定器の方に記録が映し出されていた。相澤はそれを見て、

「桜兎 緋奈。 記録は『1.000』mだ」

結果を告げる。 その結果に、つんつん頭のヤンキー(?)が『俺より・・・上? ・・・っざけんな!』と後ろの方で元から吊り上がっている目を更に吊り上がらせて苛立ちの声を上げた。 そして、

「ぶっ殺す!」

爆発音が炸裂し、つんつん頭のヤンキー(?)が突撃してきた。その行動に切島達クラスメイトが、「緋奈! 避けろ!」と、その場から動かない緋奈に忠告する。が、その声に緋奈は反応しない。やがて、つんつん頭のヤンキー(?)の拳が、緋奈の後頭部に振り抜かれる瞬間、

バシュッ!

と何かを吐き出す音がし、

「ンムグッ!?」

すぐ後ろから苦しそうな声が聞こえた。緋奈は、なんだろう?と背後を振り返ると、至近距離に、包帯を顔に巻かれたつんつん頭のヤンキー(?)がいた。

「・・・・(ひぃぃ!なんでこの人、僕の真後ろにいたの!?)」

ヤンキーの怖さというより、真後ろにいたという怖さの方が緋奈の心を占め、危うく、禁じ手を使ってないのに、意識を失いかけた。因みに包帯の出処というのは、A組担任の相澤からだった。しかも目が赤い。

確か、聞いたことがある。個性を消す個性を持ったヒーローがいると。 名前は覚えていないが、すごい人には変わらない。ただ、緋奈にとってはヒーローという点で好きになれないが。一応、助けられたことに感謝しつつ、次の競技へと移った。

二種目目『50m走』。 次々と測定していき、緋奈の番。 一緒に走るのは、タラコ唇で厳つい風貌の男。

「お互い頑張ろうね、えーと、ごめん。 名前教えて?」

「俺は砂糖力道。 よろしくな、桜兎」

「あれ? なんで僕の名前・・・。 あ、そうえば席順表に書いてあったね」

「お前がどんな個性か知らないけど、負けないからな」

「うん、僕も負けないよ」

タラコ唇で厳つい風貌の少年、力道にそう返し、準備運動を済ませ、走る構えをとる。2人が準備したのを確認して、相澤がスタートの合図を鳴らした。それと同時に一斉スタート。

「【石】!【風】!」

先に『具現化』を消費し、その後に『自然干渉』で風を身に纏わせ、加速した。結果、タイムは3秒ジャストを叩きだし、3秒54という結果を見せた一位候補の優等生眼鏡を抜き、トップとなった。

三種目目は『握力測定』。 各自でグループを作り、握力を測るとの事で、緋奈は迷わず、女子グループ(八百万、カエル女子、ミーちゃん、麗日、透明人間女子)の輪へと向かった。

「八百万〜、僕も入れてー!」

手をブンブンと振りながら、八百万に声をかける。

「ええ、いいですわ。 みなさんもよろしいでしょうか?」

八百万は駆け寄ってきた緋奈を抱きとめて、他の女子メンバーに尋ねる。

「私はいいよ!」

「私も〜!」

「ええ、私もいいわよ」

「全然オッケーだよ!」

全員からの承諾を得て、握力測定を始める。

「まずは僕からやるね」

測定器を握りながら、

「そうえば麗日さんと八百万、ミーちゃん以外は初めましてだね。 僕は、桜兎 緋奈。 苗字でも名前でも好きに呼んでね」

「私の名前は蛙吹梅雨よ。 梅雨ちゃんって呼んで」

「私は、葉隠透! よろしくね、緋奈ちゃん!!」

と自己紹介を交わしながら、測定する。結果は、両方とも74キロ。

(これはいい方だね)

中間順位を目指す緋奈は満足満足と頷く。そのあとも芦戸→蛙吹→麗日→葉隠→八百万という順番で握力を測定する。楽しそうに女子グループの中で談笑している緋奈を見て、金髪チャラ男と峰田が嫉妬していたのは知るよしもなかった。

四種目目『立ち幅跳び』。 男子が最初で、女子が最後という順番に測定する。

「これは得意分野かな」

緋奈は、相澤からの説明を受けながら告げる。と、その隣に並んでいた金髪チャラ男(?)が、

「確かにお前の個性、凄かったもんなー!」

話しかけてきた。

「・・・あの、どなたですか?」

「あぁ、わりぃ。 まだ名乗ってなかったな! 俺は上鳴電気。 個性は『帯電』だ」

「そっかぁ。 よろしくね、上鳴君」

「おう、よろしくな! 桜兎」

ただのチャラ男かと思っていたが意外と話の通じるタイプで良かった。 徐々に測定が終わっていき、測定が終了。結果は緋奈が『自然干渉』で風を使用し一位。二位が蛙吹となった。

五種目目『反復横跳び』。 各自二人組を作って、行う競技。 片方が先に測定し、もう片方はそれを数える。緋奈は相変わらず八百万とペアを組む。

「んじゃ、最初にやる奴は準備しろ」

ストップウォッチを手にした相澤の指示に全員が位置につく。 それを確認した後、

「では、始め!」

スタートの合図を告げた。二十秒間、足を止めずに左右に動き続ける。これにはかなりの体力と俊敏性がとわれる競技だ。八百万は体力はある方で俊敏性もまぁまぁあるが、それは同年代の同性と勝負した場合の話だ。暫くして、笛の音がなり、測定が終了する。

「お疲れ様、八百万」

帰ってきた八百万にタオルを渡しながら声をかける。

「ええ、ありがとうございます。 緋奈さんも頑張ってくださいね」

「うん!頑張ってくるよ!」

んしょ、と起き上がり、軽く伸びをした後、準備位置に立つ。自分の前には峰田が立っている。そして、相澤の声がなり、測定が開始する。

(これも個性はいらないかな)

息を乱れさせることなく、自分のペースで無駄な動きを最小限まで抑え、ブヨブヨとした玉(?)の集合体で左右に動きまくる峰田に次ぐ、二位となった。


六種目目『上体起こし』。 これも各自二人組で行う競技。相変わらずの緋奈&八百万ペア。交互に測定し、A組トップは、細目で地味な顔立ちをした尾白猿夫。 最下位は緋奈となった。 というのも、緋奈は昔から上体起こしがとても苦手なのだ。

七種目目『持久走』。 A組全員で同時に測定する。全員がスタート位置につき、相澤がスタートの合図を鳴らす。それと同時に大半の生徒が各々の個性を使い走り始める。勿論、その中には緋奈も含まれている。

「【風】からの、【バイク】!!」

これまで温存していた個性【言霊】で『自然干渉』からの『具現化』を使い、バイクに跨るとともに、風を収束させ、加速する。 五分後には風は消えるが、バイクの方は持続時間無しのため、持久走が終わるまで乗り続けることが出来る。それに、『具現化』の次は『自然干渉』がまた使える。結果的に、バイクで走り続けた緋奈と原付で走り続けた八百万が一位と二位となった。

最終種目『長座体前屈』。 まず男子が測り、次に女子とやっていく。ただ結果は、蛙吹の圧勝勝ち。緋奈は『具現化』しか使えないため、どうしようもなく、頑張ってみたが、中間らへんだった。

「ふぃー、終わった〜」

八百万の腰辺りにしがみついて全てやりきった表情で緋奈は言葉を漏らした。

「じゃあ、最後に成績発表だ」

そう言って、相澤が成績順位表を空中に映し出した。そこには、一位が八百万でその下に緋奈。 その後は、轟焦凍→爆豪勝己で、最下位が緑谷出久と書かれていた。

「あぁ、後、除籍処分ってのは嘘だ。 合理的虚偽ってやつだよ」

最後の最後にそう告げて、相澤は校舎へと戻っていった。 ちなみに緋奈はと言うと、『除籍処分』という言葉よりも、成績順位が二位になった事で、つんつん頭のヤンキーこと、爆豪勝己に目をつけられてしまったことに心の底から落ち込んでいたのだった。 

 

ヒーロー基礎学

体力測定を終えたA組生徒達は、制服に着替え直して教室で、先程の体力測定の際に使用した各々の個性紹介と共に自己紹介等をして友人作りに奮闘していた。因みに緋奈は、八百万の膝枕で睡眠に耽っていた。というのも、個性を使用することで頭痛が起こるため、使用後は休憩しなければ体と頭がもたない。 結局、強くても使い方が不便なら意味が無い。自分の個性は両親2人が持つ【言霊】の劣化版。頭痛は起きないし、『対象の操作』を使用しても意識を失わない完璧な個性。

「・・・zzZ」

「緋奈ちゃん、八百万さん! 一緒にかえ・・・」

リュックを背負った麗日がそう声をかけようとして、眠っている緋奈を見て、言葉を押し殺した。

「ふぅ。 緋奈ちゃん、寝てたんやね。危うく、起こすとこだったよ〜」

「いえ、お気になさらなくて構いませんわ。緋奈さん、運動後に睡眠をとらないと身体が持たないんです」

「へー。 八百万さん、緋奈ちゃんのこと凄く詳しいんだねー? もしかして付き合ってるとか?」

「い、いえ! わ、私達は、小さい頃にお隣同士でよく遊んでいただけです!」

八百万は顔を真っ赤にして、両手をあたふたさせる。それに対し、麗日は自身の口元に手を当てニヤニヤしていた。

「・・・ぅん?」

瞼を閉じたまま、うるさいなぁ、みたいな幼い子供のような表情を浮かべる緋奈。

「どうやら、うるさかったみたいだね。 私達」

「ええ、そのようですわ。ただ、緋奈さんには申し訳ないですが、早く帰らなければ先生に怒られてしまいます」

「そうえばそうやった!じゃあ、八百万さんが緋奈ちゃんをおんぶしてあげればいいんじゃないかな? 荷物は私達が持ってあげるから」

両拳を作りガッツポーズ的な事をして言う麗日。

「私達・・・ですか? 麗日さんの他にも一緒に帰る人がいるのですか?」

「うん! 梅雨ちゃんと、三奈ちゃん。 それに、葉隠ちゃん! もう少ししたら戻ってくるよ」

八百万の疑問に答えを返して、麗日は、んしょ、と緋奈の片手鞄を手に取った。

「三人とも、待たせたわね」

「遅れてごめんねー!」

「早く帰ろー!」

蛙吹と芦戸、葉隠の三人が鞄を手に教室に戻ってきた。彼女達三人は数分前にトイレに行っていたのだ。全員揃ったので、まずは八百万の膝枕で睡眠をとる緋奈をどかすために、麗日の個性【無重力(ゼロ・グラビティ)】で緋奈を浮かし、解放された八百万が、浮いた状態の緋奈を背負い、個性を解除する。これで、帰る準備は整った。

「じゃあ、帰りましょうか」

「ありがとうございます。 麗日さんに、葉隠さん」

八百万は、自分の荷物と緋奈の荷物を持ってくれている麗日と葉隠にお礼の言葉をかける。そして、八百万達五人(緋奈は除く)は談笑しながら家に帰った。



翌日の早朝。誰もいないリビングで一人、朝食を摂る緋奈。 テレビのニュース番組のアナウンサーの声とパンを咀嚼する音、味噌汁をすする音、牛乳を飲み込む音、そして、食器の音だけが桜兎家の日常の音。他の家のように、母親が朝食を作り、家族みんなで食事をする。 そんな普通はなくて、いつも一人で朝食を作って、一人で食べる。これが緋奈にとっての普通。

「・・・もぐもぐ」

残り少しとなったパンを口に放り、牛乳で流し込む。そして、食器を片付けようとすると、

ピロン♪

と通知の音が机に置かれた携帯から鳴った。緋奈は携帯を手に取り、液晶画面に表示されたメッセージに目を通す。

『お母さん:洗濯物干しといて』

緋奈はそのメッセージに、

「実の息子におはようもなしか」

そう呟き、返信せずに携帯を机に戻す。そして、食器を片付けて洗面所に向かい、歯を磨き髪を整え、顔を洗う。

「また怖い顔してる」

鏡に映る自分の顔を見て、ため息をつく。あの様なメッセージが来る度に、不機嫌な顔になってしまう。

「まぁ、いつもの事だ。 忘れよう、あんな人達」

緋奈は頭を振って、2階に続く階段を上り、『緋奈ちゃん♡の部屋』と自分が生まれた頃に母親が書いてくれた小さなブラックボードが掛けられた扉を開けて、中に入る。

壁にはかつてポスターが貼ってあった跡が残っている。まだ4歳の頃はヒーローに憧れていた。 ゴミ箱にはヒーローコスチュームを身に着けた父親と母親の映ったポスターがグシャグシャに丸めて捨ててある。他にもヒーロー雑誌やグッズなどのヒーロー関連の物は全て捨てた。だから、部屋に置いてあるのは、本棚とクローゼット、ベッドと勉強机のみ。本棚には辞書や推理小説等のヒーローと全く関係の無いジャンルだけ。 勉強机の棚にも、雄英高校の教科書だけしか置いていない。 それは15歳の少年の部屋にしては殺風景だった。

「そうえば、今日からヒーロー基礎学だったっけ?」

クローゼットから雄英高校の制服を取り出し、ベッドに置いて、パジャマを脱ぎながら、壁に画鋲で留められた時間割表を確認する。

「となると、コスチュームは今日届くってことかな。 まぁ・・・僕にとってはどうでもいい事だけど」

緋奈は興味なさげに呟いて、片手鞄に必要な教材を詰め込み、しっかりと制服を整え、自室を出る。階段を降りて、2階の廊下の電気を消し、リビングに戻る。 時計を見てまだ登校時間には早いのを確認して、テレビリモコンを操作して、他のニュース番組に切り替えて、ソファに寝転がる。先程から、机に置きっぱの携帯の通知がうるさいが、どうせ親からだし、と無視を決め込んで耳を両手で押さえる。しばらくそうしていると、

ピンポーン♪

とインターホンを誰かが押したのを知らせる音が鳴った。緋奈は、『こんな時間から誰だよ?』と不機嫌な表情で呟き、外の様子を見やる。そこには--玄関の前で心配そうに立っている八百万がいた。

「・・・なんで八百万が?」

緋奈は突然の来訪者に疑問を抱く。とりあえず黙っておくのも気が引けるので、

「ちょっとそこで待ってて」

と一声かけて、玄関に向かう。廊下を歩き、玄関に辿り着くと、鍵を開け、ドアノブを回す。ガチャと扉を開き、

「おはよう。 どうしたの? 八百万」

目の前に立つ八百万に尋ねる。それに対し、

「忘れたんですの? 昨日の帰りに、お迎えに行きますと約束したはずですわよ?」

と答える。

「・・・昨日?」

「ええ、そうですわ。ただ、あの時の緋奈さんは寝起きでしたので忘れていても仕方ないですわね」

「・・・なんかごめん」

「いえ、大丈夫です。それよりも早く行きましょう。 麗日さん達が待っていますわ」

八百万はお嬢様よろしく鞄を両手で持って、告げる。

「あ、うん。 すぐ荷物持ってくるから待ってて!」

緋奈はそう言って、家に戻る。 そして、ソファに置いた片手鞄と携帯を手に、リビングの電気を消し、玄関を出て、鍵を閉めた。

「これでよしっと。 行こっか、八百万」

「はい、行きましょうか」

緋奈と八百万は談笑しながら通学路を歩き、集合場所の公園で待っていた麗日、蛙吹、葉隠、芦戸と共に学校へと向かった。



午前の普通科目が終わり、午後の授業。 ヒーロー科にとって1番大切な科目。

『ヒーロー基礎学』

その名の通り、ヒーローに必要な基礎を学ぶ授業。 今年から教師として赴任した平和の象徴・オールマイトによって行われる。

本日の授業内容は『BATTLE』。 要するに戦闘訓練だ。 それに伴い、生徒達には各々が注文したコスチュームが渡される。勿論、緋奈もだ。そして、更衣室に入り、コスチュームに着替えて、オールマイトに指定されたグラウンドβに集まる。

「はぁ、やる気起きない」

緋奈はため息をつく。 彼が身につけるコスチュームは、ごつくもなくかっこよくもなく、というかヒーローコスチュームっぽくない衣装だ。

多少の細工はされてはいるが、伸縮性と通気性や耐火性、そして首の後ろを冷やすための冷却機能等の災害時や戦闘時に役立つ機能を追加しただけのスポーツ用品店で売ってるような紅いラインの入った口元を隠すほどの長さをした黒色のウインドブレーカー。 そのウインドブレーカーでいうところの首辺り、緋奈の口がちょうどある位置部分には、普通であればチャックのある場所だが、そこには小型のスピーカーが埋め込まれており、その数三センチ下にチャックが付けられている。私服としても使いたかったから好都合だ。

「あれ? 緋奈ちゃん、ヒーローコスチュームじゃないの?」

「ううん、これも一応コスチュームだよ。僕の個性はどんなコスチュームでも問題ないからね。 ただ、頭痛を起こしちゃうからそれを抑制する為の冷却機能。 それと声を響かせるための小型のスピーカーを搭載してもらったんだ」

「そうなんだ。 私なんて要望ちゃんと書いてなかったから、パツパツスーツんなった。 はずかしい・・・」

そう言う麗日のヒーローコスチュームは確かにパツパツだった。 15歳の男子高校生達には刺激が強すぎる。というのも、完全に体のラインが浮き出ているのだ。その他はヒーローコスチュームと言うより宇宙服に似ている。頭をすっぽりと覆うメットに、首や手首に細工でもしてあるのか少しごつい機械が取り付けられていた。

「それにしても初日から戦闘訓練かぁ」

ひどく面倒くさそうに呟いて、緋奈はため息をつく。

「緋奈ちゃ〜ん! 麗日〜!」

背後から、声が聞こえて緋奈と麗日はそちらに振り返ると、ヒーローコスチュームに身を包んだ芦戸、蛙吹、葉隠、八百万が駆け寄ってきた。

「みんな、衣装凄いよね〜!」

と、芦戸が感想を零す。 かくいう彼女のヒーローコスチュームは、まだら模様のコンビネゾンに袖なしのダウンジャケットというラフな格好をしていた。

「あら、緋奈ちゃんのコスチュームは普通ね」

と、緑を基調とした水中戦確定のボディスーツに、大きめのグローブとゴーグルを着用した蛙吹が緋奈のコスチュームを見て率直な感想を零す。彼女も彼女で体のラインが出ていて緋奈にとっては目に毒だが、口に出さないでおく。

「そうえば透ちゃんのコスチュームって、その手袋とブーツだけなの?」

蛙吹と芦戸の後ろにいる手袋とブーツが浮いている状態にしか見えない葉隠に声をかける。昨日から気になっていたのだが、彼女はずっと透明化しており、顔を見たことがない。なので身につけているもので判断するしかないのだが、どう見ても手袋とブーツしか身につけていない。

「うん!そうだよ!」

葉隠はテンション高い声で頷く。

「じゃあ、全r--あふっ!?」

気になることはとことん気になってしまう緋奈が率直な疑問を投げかけようとすると、蛙吹が伸ばしてきた長い舌が鞭のような速さで緋奈の頬を叩いた。

「デリカシーがないのはどうかと思うわ、緋奈ちゃん」

「・・・すみませんでした」

蛙吹にそう注意されて緋奈は反省する。

「皆さん、そろそろ授業が始まりますわよ」

談笑する緋奈達に八百万が声をかけてきた。

「八百万。 そのコスチューム露出高くない? ミッドナイト並みにエロいよ?というか、はしたない?」

緋奈は駆け寄って開口一発にそんな感想を告げた。八百万の身につけるコスチュームは、胸元がぱっくりと開いたデザインをしていた。ただでさえ発育がいいというのに。

「・・・は、はしたない」

ズーン、と緋奈の言葉が心にクリティカルヒットした八百万はしゃがみこんで地面を指でなぞりながら呟き始めた。

「八百万? どうかし--あばっ!?」

シュル、っと伸びてきた蛙吹の舌が再び、緋奈の頬を叩いた。

「・・・緋奈ちゃん?」

凄い剣幕で緋奈の名前を呼ぶ蛙吹に二度目の説教を受け、八百万と同じようにしゃがみこんで地面を指でなぞりながら肩を落とす。そんな光景に先行き不安のまま、オールマイトは授業の説明をしていく。

今回行うのは屋内での対人格闘訓練。

敵退治を目にすることが多いのは屋外であるが、統計で言えば、屋内の方が凶悪敵出現率は高いという話は両親から聞かされて知っている。
 
 これもまた、超常社会においてヒーローという職業が人気を博し、果てには『ヒーロー飽和社会』と呼ばれるほどにヒーローの数が増えたのが原因だ。それはつまり、犯罪に目を光らす者達が増えたと言う事。

そのような状況の中で、わざわざ人目に着く場所で罪を犯す馬鹿は居ない。よって、賢しい敵は光の目が届かぬ屋内に免れるということだ。

君らにはこれから『(ヴィラン)組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知る為の訓練さ! ただし今度は、ブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
 
 蛙吹の質問に、溌剌とした声で答えるオールマイト。
 
だが、
 
「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

「帰りた〜い」

「あとすこしの辛抱ですから、頑張りましょう、緋奈さん」
 
「んんん~~~、聖徳太子ィィ!!!」

次々と投げかけられる質問に、拳を握って悶える姿は得も言えない初々しさがある。
 
 その後、小さい紙切れのようなカンペを、肩を竦めるような体勢で読み上げるオールマイト。

・『敵』がアジトに核兵器を隠している。

 ・『ヒーロー』がそれを処理しようとしている。

 ・『ヒーロー』の勝利条件は、『敵』を二人とも捕縛するか、『核兵器』を回収すること。

 ・『敵』の勝利条件は、同じく『ヒーロー』を二人とも捕縛するか、制限時間まで『核兵器』を守り切ること。

 ・捕縛に用いるのは事前に配布された『確保テープ』。これを相手に巻きつければ、捕えたことになる。
 
・制限時間は15分。

分かりやすくシンプルなルール。

「それじゃあ、各々、くじを引いてくれ。そこに書かれた番号と同じ人がペアだ」

オールマイトはくじ引きのBOXを手にして、生徒達に指示する。それに群がって一人一人とくじを引き、結果はこうなった。

A:『桜兎 緋奈』・『葉隠 透』

B:『砂糖 力道』・『蛙吹 梅雨』

C:『緑谷 出久』・『麗日 お茶子』

D:『瀬呂 範太』・『上鳴 電気』

E:『峰田 実』・『耳郎 響香』

F:『轟 焦凍』・『八百万 百』

G:『爆豪 勝己』・『切島 鋭児郎』

H:『尾白 猿尾』・『常闇 踏陰』

I:『芦戸 三奈』・『飯田 天哉』

J:『障子 目蔵』・『口田 甲司』

「よかった〜!透ちゃんとだ〜!」

「一緒に頑張ろうね! 緋奈ちゃん!」

緋奈と葉隠がそう喜びあっていると、

「続いて、最初の対戦相手はこいつらだ!! Fコンビが『ヒーロー』!! Aコンビが『(ヴィラン)』だ!」

アルファベットが書かれているボールをオールマイトが高々と掲げる。

「うへぇ。 推薦組と勝負なんて」

「ぜ、絶対勝とうね! 緋奈ちゃん!」

緋奈と葉隠は、推薦組二人と戦うことに不安を感じながら、準備についた。 

 

屋内対人戦

オールマイト手作りのくじ引きでFコンビニなった緋奈と葉隠は『(ヴィラン)』チームとして戦闘訓練に挑むことになる。対する相手チームは『轟&八百万』という推薦組コンビ。真っ向からぶつかって勝てる可能性は低い。現在はお互いに五分間の作戦タイム中。

「さて、轟君の個性が分からない以上、真っ向からぶつかるのは危険というわけなので、ここに篭もりましょうか!」

ウインドブレーカーを着用している緋奈は、名案と言わんばかりに親指をグッと立てる。

4階立てのビルの最上階が緋奈達『(ヴィラン)』チームのスタート位置の為、『ヒーロー』チームは真正面の扉から来るしかない。という事はその扉を封鎖すればこちらの勝ちとなる。

「そもそも倒さなくてもいいんだよ。 僕達はこの核兵器(ハリボテ)を守ればいいんだからね」

バンバンと核兵器(ハリボテ)を叩いて、告げる。ちなみにこれがハリボテだからまだいいが、本物だったら先程のように叩けば危険である。

「というわけで扉に確保テープを貼り付けてっと。 よし、これで完璧! 後は僕の個性で核兵器(ハリボテ)をもう一つ具現化させる。失敗した時は透ちゃんの不意打ちに期待ということで!」

「なんかやり方が(ヴィラン)みたいだね」

「え? 僕達いま(ヴィラン)じゃん。卑怯なことやってなんぼでしょ」

緋奈は、何言ってんのさぁ。と笑い、核兵器(ハリボテ)を具現化する。材質も調べた為、本物の核兵器(ハリボテ)と瓜二つの偽物を横に置く。

『そろそろ五分経つぞ。準備はいいかい?』

と、耳に取り付けられた小型無線機からオールマイトの声が聞こえる。それに全員が返事をすると、

『戦闘訓練 開始!』

訓練開始の合図が鳴った。

「さてさて、ヒーローチームが来るまで暇だし寝てようかなぁ」

「寝ちゃダメだよ! 一応、授業中なんだから!」

「そんなこと言ったって、眠いもんは眠いし・・・ねぇ、あの扉って最初から凍ってたっけ?」

大きな欠伸をして葉隠に返事をしようとして、チラッと視界の端に見えたこの階に1つしかない扉を指さして尋ねる。それに対し、葉隠は

「ううん。 凍ってなかったよ?」

「ふぅん。って事は個性かな。でも八百万に氷は作り出せないし・・・となると轟君のだね」

緋奈は徐々にフロアを侵食していく氷を見て、呑気に答える。

「んじゃま、透ちゃん。 僕の後ろにいてね」

「う、うん! 分かった!」

姿が見えないため、小型無線機で見つけるしかないため、背後に隠れたのをしっかり確認してから、半分以上を凍らせていく氷に向かって、掌をかざし、

「【(爆発)】」

【言霊】を発動し、氷の波を爆発で食い止める。そして、

「透ちゃん! ちょっと失礼!」

「え? ちょ、嘘でしょ!? 緋奈ちゃん!」

「いいから早く乗って!」

「う、うん!」

慌てふためく葉隠にそうお願いして、緋奈は肩車体勢に入る。 葉隠は、んしょ、と緋奈の両肩に座る。 それを確認した緋奈は葉隠が落ちないように支えながら立ち上がる。柔らかい太股が直に掌などに伝わりなんというかイケナイコトをしている気になってしまうが、今はそんなこと言っていられない。

「何とか、氷は防げれたし、こっちも攻めようかな? (ヴィラン)なりのやり方で!」

緋奈はそう叫んで、扉を蹴破った。そして、恐らく、階段を上ってきているであろう轟の元へと向かった。



凍りついた4階立てビルの1階入口。

白のカッターシャツに白のズボンというシンプルな戦闘服に白のブーツ。 背中には背負うような形で板状のアーマーのようなものがついている。また、左半身が氷で覆われたかのようなアーマーを覆っている轟焦凍は、壁に当てていた右手を離し、先程、爆発音のした天井の方を見上げ、

「防がれたか。 さすが、成績トップ。 そう、簡単に負けてくれないか」

動揺することなく、呟いた。

(となれば、一人じゃ攻略は無理か)

轟はそう考え、外で待機させている八百万に声をかける。

「・・・おい、八百万。 お前の個性はなんだ?」

「わ、私のですか?」

「あぁ、そうだ。 出来れば手短に頼む」

轟は時間を気にしながら、八百万に声をかける。

「わ、分かりました。私の個性・・・」

そう言って、八百万は個性の説明を始めた。


個性【創造】。

あらゆる物を自分の体内(脂肪)で創り出し、取り出す事が出来る能力。

創り出せる物は衣服、ネット、絶縁シート、刀剣など多岐に渡り、物体の分子構造まで把握する彼女の膨大な知識量がそれを可能にしている。

ただし、生物は創ることが出来ない。

「というわけですわ」

「そうか。因みに俺の個性は【半冷半燃】。左で凍らし、右で燃やすことが出来る」

轟は交互に氷、炎と出して説明する。

「恐らくだが、俺一人じゃどうすることも出来ない。それにどうやら、お前は桜兎と知り合いみたいだし、あいつの個性に弱点も分かるだろ?」

「ええ、緋奈さんの個性は【言霊】。 言葉にした事象を現実に表す事が出来る強力な個性であり、大きなリスクを伴う個性でもありますわ」

「・・・大きなリスク?」

轟の問いかけに、八百万は頷く。

「彼女の個性は使用する度に、頭痛が起こります」

「・・・頭痛? それのどこが大きなリスクなんだ?」

「ただの頭痛じゃありませんわ。彼女が【言霊】を五回使う度に頭痛のレベルがあがります。そのレベルは六段階で、最初は軽く小突かれるほどの痛みで済むようですが、六段階目は失神するほどの痛みを伴うとのことですわ」

「という事は、三~四段階目でもかなりの痛みを伴うってことだな?」

二度目の質問に、八百万は首肯した。

「それで弱点というのは?」

「弱点はないですわ。 ただ、頭痛が起きるタイミングに一瞬ですが動きが鈍ります。その隙を狙うしか緋奈さんを倒せるチャンスはありませんわ」

「時間にするとどれくらいだ?」

「・・・3秒」

それはあまりにも短すぎる隙。だがその隙を狙わなければ、緋奈には勝てない。轟は、やるしかねえか。と胸中で呟いた。

「葉隠の方は脅威にはならなねぇ。二人で桜兎を倒すぞ」

「は、はい!」

轟と八百万はそう作戦を立てて、ビルの階段を上がっていく。

戦闘訓練終了までの残り時間、後9分。



「うわーうわー! 緋奈ちゃんよく避けたよねー! 」

「だよなー! よく避けたよな緋奈!普段やる気ないくせに!」

数分前の緋奈による轟の発動させた氷結をたやすく防いだ光景に芦戸と切島は興奮気味に感想を零す。今、モニターに映っているのは、葉隠を肩車した緋奈が部屋に置かれている木箱に立っている姿。 そしてもうひとつのモニターには、轟と八百万が4階に向かって階段を上っている姿。

(緋奈少年か。入試試験で見てはいたが、強力な個性だ。ただ、あの二人の息子にしては何かが違う。 ヒーローに必要な『何か』が足りない)

成績簿を手にオールマイトは胸中で呟いた。

「・・・残り7分か」

ストップウォッチを見て、

「2チーム共、残り7分だ! 時間いっぱい頑張りたまえ!」

ビル内で訓練中の緋奈、葉隠、轟、八百万の四人の小型無線にそう声をかけた。

『了解で〜す!』

『は〜い!』

『分かった』

『わかりました』

各々がそれぞれ返答する。 それを聞いた後、オールマイトは、

「うむ! いい返事だ!」

満足げに頷いた。

そしてその掛け合いの間に、ビル内での戦況が変わった。

「オールマイト! 轟君と八百万さんが核兵器のある部屋に辿り着きました!」

と、出久がモニターを指さして叫んだ。その言葉に全員がモニターに視線を戻す。

そこでは、4階の核兵器(ハリボテ)が置かれた部屋の前に辿り着いた轟と八百万の姿があった。



扉の前。一度氷結させていたため、ドアノブが凍りつき、開けることが出来ない。その為、八百万の個性で巨大なハンマーを作り、凍りついた扉を破壊する。

バゴッ!

と破砕音が鳴り、扉が吹き飛んだ。

「よし、行くぞ!」

「ええ!」

轟と八百万はすぐさま扉が破壊された部屋へと飛び込み、個性を発動する。氷で床を凍らせ、その氷を飛んで躱すのを想定し、創造した防刃性ネットを投げる。完璧な連携。

だが--

「【(爆発)】からの【壁】!」

もくもくと立ち込める煙の中から、個性を発動する緋奈の声が響き渡る。それと同時に、床を侵食していた氷が砕け散り、創造で作られた防刃性ネットが具現化された壁にぶつかりポトっと落ちた。

「ちっ。 もう一度だ」

轟は舌打ちして地面に足を叩きつけた。 するとそこから地面が冷やされていき氷の槍が襲いかかる。 そこから更に、

「八百万!」

「はいですわ! 轟さん!」

声をかけられた八百万は、数秒前に大量に創っておいたマトリョーシカ型煙爆弾を上空に向かって投げた。それが同時に爆発し、4階の部屋を灰色の煙が覆い尽くした。これであちらからこちらの姿は見えない。対する轟轟八百万には、生物の熱を確認できるセンサー付きゴーグルを掛けている為、緋奈達がどこにいるか分かる。

「そこだ!」

轟は確保テープを手に、周囲をキョロキョロと見渡す緋奈を視界に捉えて捕縛にかかる。やがて、緋奈の後ろ姿を完全に捉え、確保テープを伸ばした瞬間、

「轟君! 確保ー!」

真横からそんな明るい声が聞こえ、振り向いた瞬間、そこに確保テープが浮いていた。否、葉隠がそこにはいた。

「ちっ!」

轟は葉隠の持つ確保テープから逃れる為に、右手をかざし氷壁を作り出す。が、それが過ちだ。 一瞬の隙。気を1度、緋奈から葉隠に逸らしたことでチャンスを与えてしまった。

「ほいっ、と!」

シュルーッと素早く伸びた白いテープが、葉隠の方に伸ばした右腕に巻きつき、流れるような動きで轟の右腕の関節を極め行動不能にする。

「轟さん!」

「俺の事はいい。 それよりも核兵器を奪え!」

捕縛された轟が叫んだ。しかし、八百万は動かない。否、動けないのだ。というのも、彼女は判断ができない。最善の方法を思いつくことが出来ないのだ。これが実戦ではなく、筆記であれば彼女は正しい答えを即座に見つけ出すだろう。 しかし、今回の訓練は戦闘。それも実践に近い訓練。轟の考えた策は尽きた。自分で考えようにも、何が正しいのか判断出来ない。

「どうした、八百万! いいから核兵器を確保しろ!」

轟がさらに叫ぶと、

「は、はい!」

慌てて返事をして八百万は核兵器(ハリボテ)に向かって走り始めた。ただ、その行動はあまりにも遅すぎた。

「悪いけど、行かせないよ。 八百万」

「ごめんねー、八百万さん!」

「くっ。 緋奈さん。 それに葉隠さんも!」

八百万の前に立ちはだかる緋奈と確保テープを手にした葉隠。 二対一の局面。不利なのは八百万。

「ハッハッハ! 覚悟したまえよ、ヒーロー!」

「そうだよー! 覚悟してねー、ヒーローちゃん!」

完全に(ヴィラン)役になりきっている緋奈と葉隠がジリジリと八百万に近づいていく。

「ぼさっとするな!残り時間もすくねえんだぞ」

縛られて動けない轟が、額に汗を浮かばせ判断に迷う八百万をさらに焦らせる。

「す、すみません!」

八百万は轟に謝って、個性を発動させようとする。だが、焦るばかりで、いま創造すべきものが何か思いつかない。その間にも刻一刻と緋奈と葉隠が捕獲せんと近づいてくる。

「諦めてお縄につきな、ヒーロー」

「痛くしないからねー、ヒーローちゃん」

(ヴィラン)役を楽しんでいる緋奈と葉隠。

「おい、オールマイト。 捕縛されてるやつを助けるのはアリなのか?」

轟は小型無線機で別室にいるオールマイトに質問する。

『もちろんオーケーだ! 実践ではほかのヒーローを救出して協力することもあるからな!』

その返事を聞いた後、

「八百万! お前の個性でナイフを作って、俺のテープを解け! そうすれば俺が何とかする!」

硬直する八百万に向かって轟が叫んだ。

「は、はい!」

その声に硬直していた思考と体が動き、即座にマトリョーシカ型煙爆弾で目くらましをし、ナイフを創造して轟に駆け寄り、確保テープを切り裂く。

「ふぅ。桜兎、葉隠。 第2ラウンドだ」

確保テープから解放された轟はそう告げた。 

 

決着とその後

「ちょっ、そんなのありなんですかァァァ!? オールマイト先生ぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

せっかく、確保テープで轟を無力化したというのに、なんて酷いことを。緋奈は、悲鳴にも似た大声で、オールマイトに訴えかける。

『ハッハッハ! もちろん、オーケーだとも!』

「ふざけんなよぉぉぉ!? 筋肉ダルマァァァ!!」

緋奈は、轟の仕掛けてくる氷の波と、八百万が創り出した幾つもの確保テープを避けながら、オールマイトの悪口を言う。

『筋肉ダル・・・マ。 フッ、ハッハッハ!おじさん、その程度じゃへこたれないぞ! 桜兎少年!!』

「覚えてろよ! 筋肉ハゲ・・・っ!!」

緋奈はそう言い放って、小型無線機を放り投げた。そして、個性を発動する。

「【(爆発)】からの【やr--いっ!?」

氷の波を破壊し、続けて【槍】を具現化させようとしたが、そのタイミングで緋奈の頭を痛みが襲った。 別に大した痛みではないが、一瞬、痛いと感じるのは仕方の無いことだ。

一瞬の隙。普通であれば気づくことのないような少しだけ動きが鈍る緋奈の様子。

ただ、轟と八百万はその頭痛を待っていた。たった3秒の隙。その隙をずっと待っていたのだ。

「この隙を待っていたぞ、桜兎!」

轟は氷の波を左右を塞ぐように放出させ、

「私達の勝ちですわ! 緋奈さん!」

八百万が数十本もの確保テープを放った。

シュルーと伸びた確保テープが、頭痛に意識を持っていかれた緋奈の身体へと向かい、巻きつ--かなかった。 否、その手前で止まった。

「え?」

「は?」

勝ったと思っていた轟と八百万が間抜けな声を上げた。

「だ、大丈夫だった? 緋奈ちゃん!」

と、確保テープが止まった位置から、葉隠の声がした。

「う、うん。 ありがとう、透ちゃ・・・ん。 っていたの!?」

「うん! ずっと緋奈ちゃんの後ろにいたよ!まぁ、小型無線も外したから完全に私のこと轟君たちには見えないからね!」


「という事は、つまり全裸と?」

「うん、そうだよ! ちなみに私は確保認定されてるから、頑張ってね!」

葉隠はそう言って、おそらく親指を立てて、緋奈を応援する。 ちなみに、緋奈は裸に確保テープはなんかイケナイ気がと邪な事を考えそうになったが、後で蛙吹に怒られると思い、思考を切り替える。

「ちっ。 予定が狂ったが、あとは桜兎だけだ。 八百万、もう一度行くぞ!」

「分かりましたわ! 轟さん!」

轟が再び、床につけた足を中心に氷の波を放出させ、八百万が確保テープを放つ。先ほどと同じ戦法。

「2度も同じ手は食らわないよ!」

トン、と床から足を離し、右の掌を確保テープに向け、

「【|《爆発》】&【ロープ】!」

個性を発動する。 それに伴い、両の掌から爆炎が噴出し、確保テープを燃やし尽くす。 さらに同時に出していたロープを八百万に伸ばすとともに、

「まだ終わらないよ! 【重力(止まれ)】!!」

重力の力を八百万と轟に集中させ、動きを完全に封じる。

「ぐっ、・・・動けねぇ」

「や、やられましたわ」

重力によって自由を奪われ、轟と八百万が悔しさに表情を歪める。それに対し、完全に主導権を握った緋奈は、(ヴィラン)顔負けの嘲笑を口元に刻んで、確保テープをビィーと伸ばす。

「へっへっへ。 残念だったね、ヒーロー! これで僕達の勝ちだよ。 フハハハハ!!」

勝ち誇った笑みを浮かべて、轟と八百万の身体に確保テープを巻いた。そしてそれを終えた後に、指パッチンして、二人にかけられていた重力の効果を消す。 そのタイミングで、

『・・・(ヴィラン)チーム、WIIIIIN』

勝利を報せるオールマイトのどこかテンションの低い声が響き渡り、緊張が解けた緋奈はどさりと床に尻餅をつき、

「・・・ち、ちびるかと思った」

勝者にしては情けのないセリフを吐いたのだった。



FコンビとAコンビの屋内対人戦が終わった後、先程まで緋奈達の戦闘が映し出されていたモニターがたくさん置かている待機室に戻った緋奈達が見たのは、隅の方で筋肉の塊こと、オールマイトがしゃがみこんで指で床をなぞっている姿と、それを宥める生徒達の姿だった。

「・・・どういう状況?」

緋奈はそんなおかしな光景に若干、戸惑い気味の表情で呟く。と、背後の方から、

「お前が、オールマイトに言ったことを思い出してみろ」

負けたのにすまし顔の轟がそう告げて、部屋の隅に向かう。

「・・・? なんの話してんの、あの半分君」

緋奈は、意味がわからない。と両手を広げ首を横に振った。

「緋奈ちゃん!多分、筋肉ダルマとか、筋肉ハゲの事じゃないかな?」

確保テープを解いて、手袋とブーツを履いた葉隠が、緋奈の肩をトントンと優しく叩いて、轟の言いたかった答えを教える。

「あぁ、そんなこと。 やれやれ、平和の象徴のくせにメンタルは脆いなんて情けない」

緋奈は、呆れたようにため息をついて、

「オールマイト先生〜! 次に進んでくれませんか〜? 相澤先生に、合理性に欠けるって言われますよ〜! プロヒーローなら時間守らないと〜!!」

絶賛落ち込み中のオールマイトに、早く次に進め。と催促する。その態度に更にダメージを受けてオールマイトは表情を曇らせた。

「ば、バカ! あんまオールマイトのこと弄るなって。図体の割に繊細なんだから!」

切島が緋奈の頭を叩いて、そう告げる。

「チェ。 キリ君がそう言うなら」

ふてくれされた表情で呟いて、オールマイトに謝罪する。

「う、うむ。ぜんぜん気にしなくてオーケーだ! 私は最初から傷ついていなかったからね!そう! あれは君を欺くための演技さ!」

謝ってもらえたことで、いつもの調子に戻るオールマイト。生徒達は、『言い訳おそっ!!』と胸中でツッコミを入れた。

「さて、講評といこう!! それじゃあ、今戦のベストはどっちか分かる人居るかな!?」

「緋奈じゃないんですか?」

切島がそう答えると、

「残念だが、外れだよ、切島少年。 確かに桜兎少年はヒーローから核兵器(ハリボテ)を守りきった。しかし、所々で気を緩める部分が見て取れた。実践では一瞬の気の緩みが生死を分けることもある」

オールマイトは首を振って、そして話を続ける。

「次に八百万少女は、判断力とそれを行動に移すまでの時間が遅すぎる。オマケに作戦通りに動くのはいいが、アドリブに弱い。実践では常に打開策を即座に考え行動しなければならない。逆に轟少年は、判断力やそれを行動に移すまでの時間が早い。ただその分、八百万少女との連携が取れていない。オマケに焦りすぎでもある」

その言葉に、八百万と轟は顔を俯かせた。

「最後に、葉隠少女。 君は自身の個性を上手く使い、奇襲や仲間の救出、そしてその行動に移るまでの判断力と行動力は素晴らしいものだった。初戦のMVPは葉隠少女。 君だ!!」

「え? わ、私!?」

MVPにされると思っていなかった葉隠は、嘘でしょ?、という感じで自分を指さす。

「すげぇな! 葉隠!」

「すごいね! 葉隠ちゃん!」

「おめでとう、透ちゃん」

各々感想を言うA組生徒達。 その中で、爆豪はつまらなさそうな表情で舌打ちしていた。

「この調子で次に行ってみようか!」

オールマイトはそう言って、次の二チームによる屋内対人戦が始まった。



「ふぃ〜。 疲れた〜」

「お疲れ! 緋奈ちゃん!」

「お前の個性凄いよな!!」

「桜兎も爆豪達と同じで才能マンかよ」

屋内対人戦が終わった後、緋奈達は教室で、戦闘訓練の反省や談笑をしていた。

「君達! 折角こうして反省会を開いているのだから、真面目に議論を交わし合い、次につなげるような有意義なものにするべきだ!」

と、独特な手の動きを入れながら制止しようとするのは、眼鏡優等生の飯田天哉だ。

「嫌だなぁ、メガネ君。僕達はまだお互いのこと全く知らないんだからさ、親睦を深めないと。それにヒーローは協力が大切、でしょ?」

「メガ--俺は飯田天哉だ! メガネ君じゃない! だが、緋奈君の言葉も一理あるな。確かに立派なヒーローになる為には、お互いの個性や得意な戦闘スタイル、信頼関係が大切だ。 成程、流石は成績トップ! ありがとう、緋奈君」

「あ、うん(そこまで考えてなかったんだけど、いっか)」

緋奈は若干、引きつった笑みを浮かべて頷く。

その時、遠慮気味に開かれた扉から、指と足に包帯をグルグルと巻き、松葉づえで歩行する出久の姿が皆の目に入ってきた。
 すると、席に着いていた者、立って話をしていた者問わず、一斉に彼の下へ駆け寄っていく。

「おお、緑谷来た!!! お疲れ!! 実技一位とよくやり合ったな!! あ、俺は切島鋭児郎!!」

「私、芦戸三奈! 凄かったよー、緑くん!!」

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺、砂藤!」
 
「わわ……」
 
 突然押し寄せるクラスメイトに戸惑う出久。彼はこういった体験が皆無のため、嬉しそうに頬を緩める。

「確かに君の個性凄かったよねー」

緋奈はそう言って、みんなの輪の中に入る。彼は、家でいつも一人の為、人が集まるところに入るのが癖になっていた。

「あ、ありがとう。 え、えーと、桜兎・・・君?」

「うん、そうだよ! よろしくねー、出久君」

緋奈は笑って、出久に握手を求める。 それに対し、出久も差し伸べられた手を握り、握手を交わす。

「あ、連絡先交換しよー。 あとは、君と爆発君、半分君と、メガネ君だけなんだー」

「え? もうそんなに交換したの? 早くない!?」

「へへん! こう見えてコミュ力高いですから! って事で、OK?」

「う、うん。いいよ」

出久に携帯を借り、連絡先を交換する。

「ほい、っと。ありがとねー」

緋奈はそうお礼をして、

「連絡先交換しよー! メガ--飯田君!」

「いま、メガネ君と言いかけなかったか?」

「あはは。 気のせいだよ、メガ--飯田君」

「また言いかけなかったか!?」

「それよりも連絡先教えてよー!」

独特な手の動きでそう尋ねてくる飯田に、頼み込む。

「あぁ、構わない。 俺もクラスメイトとは仲良くしたいと思っているからな」

「ありがと〜! メガネ君!!」

「メガネ君と言ってるじゃないか!?」

緋奈は飯田から携帯を拝借して連絡先の交換のために操作する。背後の方から飯田のツッコミが聞こえてるが無視して連絡先の交換の手続きをする。

「これで終わりっと」

連絡先交換を終えて飯田に携帯を返す。

「あとは、爆発君と半分君だけだね。 明日、教えてもらおーっと!」

緋奈はそう決意する。 そして、数十分ほどクラスメイト達と談笑した後昨日と同じ女子グループと共に帰路についた。 
 

 
後書き
またね。 

 

影に潜む悪意

屋内対人戦という初めての訓練を終えた翌日。相変わらず一人で朝食をとる緋奈。 テレビではプロヒーローの特集がやっている。ヒーローを目指す者なら憧れて当たり前のヒーローだが、緋奈にとっては嫌悪の対象だ。

「・・・どの番組も同じか」

チャンネルを転がしてみるが、どの番組も同じ内容のニュースや特集ばかり。仕方ない、と最初につけていた番組に戻すと、そこには自分が1番嫌う対象が映っていた。

黒い髪の毛に、空色の瞳。そして、口元をガスマスクのような形をしたスピーカーで覆っており、上下は黒地に白い線が走るウインドブレーカーを纏う細マッチョの美男性(イケメン)

その隣には、

白いショートの髪に、緋色の瞳。同じく口元をガスマスクのような形をしたスピーカーで覆っており、下の方が少し破れたデザインの白シャツの上から裏地が青で表が白のジャージに、紺色のスポーツ系の長ズボンを履いた細身のスレンダー体型の美女。


その美男美女がインタビューを受けていた。

「オールマイトについてどう思いますか? 言霊ヒーローのアトノアさんとカグヤさん」

「彼は私達プロヒーローの憧れですよ。彼の活躍ぶりは凄いもので、高校時代は同級生だったので、尚更、頑張らなきゃって思いましたね」

緋奈の父親で『言霊』で具現化と対象操作を得意とするプロヒーロー『アトノア』こと、桜兎 霊帆。

彼は昔を思い出すかのようにインタビューに答える。緋奈には見せたことのない微笑で。

「言葉さんはどう思いますか?」

「何も言うことはありません。 オールマイトに興味ありませんので」

緋奈の母親で『言霊』で自然干渉と対象操作を得意とするプロヒーロー『カグヤ』こと、桜兎 言葉。

彼女は冷めきった絶対零度の瞳で、マイクを向けてきたリポーターに遠慮もクソもない心の底から思っている気持ちを吐き出した。相変わらず思ったことは口にする厄介な質だ。

「父さんは相変わらず外面いいし、母さんは家と全く変わらない。 なんでヒーローなんてやってんだか」

朝食を終え、汚れた食器を洗いながら呟く。

「そうえば、お二人の息子さんが雄英高校に入学したと聞いたのですが、本当でしょうか?」

「ええ、親として誇らしく思っています。あの子がヒーローを目指すと言ってくれた時は嬉しくて一日中号泣しましたからね」

「と霊帆さんは言っておりますが、言葉さんの方はどう思っていらっしゃるんですか?」

「あの子には5歳の頃からヒーローになる為の教育をしてきたので雄英入学は当然の結果。入学できないということはその程度の子だったというだけですから」

霊帆と違い、辛辣なことを言う言葉。 リポーターは若干、引きつった笑みを浮かべて、

「お、お忙しいところインタビューありがとうございました。 では、失礼します」

お礼を言い、立ち去った。 それと同時に、CMに入った。

「受かって・・・当然か」

緋奈は声のトーンを少し落として、呟いた。昔からテスト満点は当たり前、全スポーツで一位を取るのは当たり前だと、何度何度も言われてきた呪いの言葉。どんな事でもナンバー1になってもらわなければ納得しない母親と、人がいる所では緋奈を褒めているが、実際は緋奈に興味なんてない父親。 そんな二人の元に生まれたことを緋奈はずっと後悔していた。何故、自分はここに生まれてしまったのかと。無個性だったら、あんなに厳しい教育はされなかったのだろうか? 優しくしてくれるのだろうか?

「・・・なわけないよね」

万が一、自分が無個性だったら見捨てるに決まってる。勝手にしろ、と空気扱いが死ぬまで続くはずだ。

「早く着替えないと、八百万達を待たせる事になるし、準備しよ」

食器を洗い終え、いつものように自分の部屋にある制服に着替え、身だしなみを整えてと必要なことをすべて済ませて、ソファに座り込む。数分経ち、インターホンを押す音が聞こえ、覗いてみると予想通り、八百万達だった。

「今、行くから待ってて」

そう声をかけて、片手鞄と携帯、家の鍵を持って家を出る。もちろん、行ってきますとだけ言っておく。返ってくることは無いが。

「おはよう、みんな」

「おはようございます、緋奈さん」

「おはよぉー! 緋奈ちゃん」

「けろっ。 おはよう。桜兎ちゃん」

「朝からねむそーだねー! 緋奈ちゃん!」

「おはよーう! ひーなーちゃん!」

朝の挨拶を交わし、緋奈は女子グループと共に学校へと向かった。



雄英高校の校門前に差し掛かると、緋奈達の視界に報道陣を捉える。校門をくぐっていく生徒を見つければ、誰これ構わず質問を投げかけている。人によっては断って振り切ることもできず、そのまま何分も絶え間ない質問で拘束されるなど、生徒からすれば良い迷惑だ。

「はてさて、なんなのやらこれは?」

緋奈は現状が理解出来ず首を傾げる。こうも報道陣が集まるほどのビッグニュースなんて雄英高校にあっただろうか?

「恐らく、オールマイト先生が講師として雄英にやってきたからじゃないでしょうか?」

いち早く現状を理解した八百万が、困惑する緋奈達に説明する。

「それにしても報道陣も馬鹿だね。 僕達がオールマイトの秘密なんて知ってるわけないのに」

「うんうん! 緋奈ちゃんの言う通り!」

緋奈の言葉に葉隠が同意する。ただこのまま校門を潜らずにここにいると遅刻になってしまう。それだけは避けたい。

「丁重に取材をお断りして校舎内に入りましょう」

「それが一番だね。報道陣は校舎内に許可なく入れない仕組みになっているからね」

八百万の言葉に緋奈達は同意して、報道陣が屯する校門に向かう。 その足音と気配に気づいた報道陣達が一斉に緋奈達の方に振り返り、マイクを手に声をかけてくる。

「すみません。雄英にオールマイトが教師として就いたことについて、少しお話を伺いたいでのすが……」

「あのー僕達急いでるんで、あなた達に構ってる暇は1秒もございません。ですので、さっさと荷物まとめてお帰りください」

緋奈は遠回しに、『お前らに構ってる暇ないから、さっさと帰れ』と丁重(?)にお断りして八百万達と校門を潜っていく。

「はぁー、ドキドキしたー」

「緋奈ちゃん凄いね! よくあんなふうに言えるよね!」

「ありがとね、桜兎ちゃん」

「おかげで助かりましたわ。 緋奈さん」

「あの報道陣達の顔みたー? すっごい間抜けな顔してたよ!」

下駄箱で室内シューズに履き替えながら、緋奈にお礼を言う八百万達。 それに対し、大したことのないような表情で、

「慣れてるからね。 報道陣を黙らせる方法も断る方法も」

そう答える。緋奈にとって、報道陣を退けることは赤子の手をひねるのに等しい。昔から両親のことを報道陣に聞かれる度に断ってきたから。長年の嫌な経験がこういう時に発揮されたのだから、案外捨てたもんではない。

「それよりも、みんなは英語の課題やってきた?」

教室に続く廊下を歩きながら、緋奈は尋ねる。その質問に、芦戸以外の全員が頷く。

「みんな、真面目だねー。 僕まだ白紙だよ。だから、八百万! み・せ・て?」

お願い!と顔の前で両手を合わせて言う。

「ええ、構いませんわ。ただ、今度からはしっかりと忘れずにやってきてくださいね」

「うん! 前向きに頑張ってみる!」

「・・・心配ですわ」

笑顔で不安なことを言う緋奈に、八百万は不安を抱きながらため息をついた。その後も、色々と談笑しながら廊下を歩き、やがて教室に辿り着く。

「みんな、おはよぉー!」

扉を開けると同時に大声で挨拶をする緋奈。 その声に既に教室に着いていたクラスメイト達の視線が緋奈に集まった。

「おう! おはよう! 緋奈!」

「今日も女子と一緒かよ! 羨ましいぜ、桜兎!」

と、緋奈の肩に腕を回しながら挨拶を返す切島と、冗談半分皮肉半分の言葉を投げかける上鳴。 切島とは小学校からの友達で、上鳴とは一昨日の個性把握テストの時に知り合った。二人共とは話しが合い、よく休み時間は共に過ごしている。

「よお、桜兎」

「ん? どうしたの、峰田君?」

クイクイと小柄というかかなりチビなブドウ頭の峰田が、緋奈のズボンを引っ張り声をかけてきた。

「お前、いつも女子達と登校したり帰ってるけど、もうヤッたのか?」

かがみ込んで耳を寄せた緋奈に耳打ちするように意味のわからない質問を小声で尋ねてきた峰田。

「ヤッた? なにを?」

「バッカ! 決まってんだろ。 S○Xだよ!S○X!!」

「・・・セッ・・・何言ってるんだよ!そんな事してないよ!峰田君は僕をどんな人だと思ってたの!?」

「ハーレムクソリア充だと思ってるよ!お前はオイラが持っていないイケてる要素の塊だ! イケメンなんて死ね!」

と、何ともひどい言葉を浴びせてくるブドウ頭の変態少年、峰田。 一昨日、連絡先を交換した際に軽く話してみたが、かなりというかとてつもないほどに性欲に飢えた変態だった。 見た目は可愛ほうだというのに性格がそれを台無しにしている為、昔から女子にモテたことがないという残念な人生を送っている。

それから数分間ほど、クラスメイト達と談笑していると、始業のチャイムが鳴り、担任の相澤が教室に入ってくる。緋奈達は急いで各々の席に腰を下ろした。それを確認したあとに、威圧的な雰囲気を纏わせて、

「今日はお前達に学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」


また個性把握テストのような抜き打ちテストがあるのかと思ったがあまりにも普通すぎる内容に安堵すると共に拍子抜けしてしまう。

普通の学校であれば、委員長何ていう雑務仕事をやりたがるような生徒はいない。ただ、ヒーロー科を目指す者達にとっては逆だ。集団を引っ張る係=トップヒーローの素質がある生徒という肩書きを手にすることが出来る。その為、ヒーロー科の生徒達にとても人気な役職だ。

「委員長!! やりたいです、ソレ俺!!」
 
「ウチもやりたいス」

「リーダー!! やるやるー!!」
 
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」
 
皆、良い返事をして手を上げ主張する。

(みんな、真面目だねー)

緋奈はそんなクラスメイト達を眺めながら、興味無さそうに心の中で呟いた。

「静粛にしたまえ!! 多をけん引する責任重大な仕事だぞ…! やりたい者がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」
 
「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!!!」
 
そう発案する飯田の手はそびえ立っており、誰もが心の中でツッコミを入れていた。

「せんせー、僕、委員長なる気ないんで抜けていいですかー?」

寝袋に入り睡眠体勢に入っている相澤に、緋奈が尋ねる。

「好きにしろ」

「ありがとーございまーす!」

そうお礼を言い、

「みんな、互いに知ってることも少ないんだからさ、多数決で決めた方がいんじゃない?僕が黒板に書くから、みんな、メモ用紙にクラスメイトの名前を書いて教壇に持ってきてよ」

と提案する。

「まぁ、それなら皆、公平か」

騒いでいた生徒達はそう納得して、それぞれ配られたメモ用紙にクラスメイトの名前を書きはじめた。暫くして全員が提出し終わり、緋奈はその紙を一枚一枚確認して、黒板に名前と投票数を書いていく。

結果はこうだ。

桜兎 緋奈:4票

緑谷 出久:4票

八百万 百:3票

爆豪 勝己:1票

その他:1票

「・・・僕に入れた人、怒らないから素直に挙手」

緋奈は投票結果を黒板に書き写したあとに、クラスメイト達にそう声をかける。 と、その中の四名が視線を逸らした。そのメンバーというのが、切島・上鳴・芦戸・葉隠(視線が見えないので微かな制服の動きで判断)。

「キリ君とミーちゃんは委員長やりたいとか言ってたのに、なんで自分に入れなかったの!?」

「いや、その。よく良く考えたら、お前って小学校ん時、委員長やってたろ? だから、お前の方が向いてる気がしてよ」

「うんうん!緋奈ちゃん、とても頼もしかったからね!」

「昨日の戦闘訓練、凄く頼もしかったよ!」

「俺はお前になら任せられると思ってな」

切島達は意外と理由があって投票したらしい。ふざけた訳では無いということを理解した緋奈は溜息をつき、

「まぁ、僕の投票は無効になるから意味無いけど」

結果は委員長は出久、副委員長は八百万になった。

ちなみに出久に入れた生徒は飯田・麗日・蛙吹・尾白の四名。

八百万に入れた生徒は、緋奈・轟・八百万の3名。

結果を熟睡する相澤に伝え、HRが終わった。その数分後に、英語の課題をやっていないことを思い出し、プレゼントマイクに反省文を渡されたのだった。



午前の授業が終わり、昼食の時間帯。 大半の生徒は食堂に向かった。いつもは弁当で済ます緋奈だが、今日はあのニュース番組のせいで弁当を作り忘れた為、出久・飯田・麗日の三名と食堂にいた。

「初めて来たけど、結構混んでるねー」

緋奈はクックヒーロー『ランチラッシュ』が取り仕切る『LUNCH RUSHのメシ処』の利用者の数を見て、素直な感想を告げる。

「そうえば、緋奈君は食堂の利用は初めてだったな」

「そうなんだよねー。だから注文とかどうすればいいのかわかんないんだよー」

飯田の言葉に頷いて、首を左右に振る。

「あぁ、それなら簡単さ。 この列の先頭にある食券売り場で食券を購入してランチラッシュに渡すんだ。その後は注文が出来次第、受け取っていく流れだ」

「ふむふむ。 定食屋さんと同じ感じってことだね」

「あぁ、そうだ」

「ありがとー、飯田君」

丁寧な説明をしてくれた飯田にお礼を言い、緋奈は順番を待つ。やがて自分達の番が来て、食券を買い、ランチラッシュに渡す。そしてその数分後に頼んだ料理が出てきて、それが載ったトレイを手に、空いている席に腰を下ろす。

緋奈が頼んだのは、ハヤシライス。 一番の大好物だ。

「・・・もぐもぐ」

ハヤシライスを口一杯に頬張る。 と、向かいに座る麗日が口を開いた。

「そうえば、みんな、兄弟とかいるん?」

若干、方言混じりだが、そこも可愛いなぁ。と心の中で思う出久と緋奈。

「うーん。 僕は一人っ子だよ。でも4歳ぐらいの頃は、血が繋がってない高校生のお義姉(ねえ)ちゃんが一人いたけど、もう結婚してるからここ11年ほど会ってないかな」

「・・・なんかごめん」

「ううん、別にいいよ。 それよりも飯田君は兄弟とかいるの?」


シュンと落ち込んだ麗日にそう声をかけ、飯田に尋ねる。

「あぁ。 ターボヒーロー『インゲニウム』を知ってるかい?」

「事務所に六十五人もの相棒を雇ってるとかいう『インゲニウム』?」

「それが、俺の兄さ!」

「ええ!? すごいよ、飯田君!!」

飯田の兄が『インゲニウム』だということを知り、ヒーローオタクの出久は興奮したように大声をあげた。

「なんかアレだね。前々から思ってたけど出久君ってヒーローオタクだよね〜」

緋奈はハヤシライスを平らげ、コップに注がれた水を1口含んで、告げた。

「う、うん。なんか自分でも分かってたけど、ほかの人に言われるとなんか恥ずかしい」

「そうかな? 私はデクくんすごいと思うよ」

「あぁ、麗日君の言う通りだ。 緑谷君」

「恥ずかしがることなんてないって。ほら、あそこ見てみなよ」

恥ずかしがる出久に、緋奈は背後の方を指さす。 そちらに出久達が視線を移すとそこには--


「うひょー!! 一・二・三年生の女子がいるとかよりどりみどりかよ!!」

「やべぇーって! こりゃナンパするしかないっしょ!!」

ヤバげな事を大声で恥ずかしげもなく叫ぶ峰田と、女子の多さに興奮する上鳴が居た。 周囲から絶対零度の視線を送られていることに気づかない辺りはある意味、才能だ。

「あ、あはは。確かにあれよりは恥ずかしくない、かな」

「あの二人は公衆の面前でなんという発言を!」

「まぁまぁ、落ち着こう、飯田君」

「あんなに痴態を晒しといて平気な顔をしてる二人を見た後だと、大抵の事が恥ずかしくなくなるよね」

そんな事を呟き、もう一度コップに口をつけた。と、そのタイミングで、けたたましい警報の音が鳴り始めた。
 
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ批難して下さい』
 
警報と共に流れる放送に、食堂は不穏な空気が波紋となって広がっていく。
緋奈達も意味がわからず狼狽する中、飯田は隣に座っていた3年生に事情を聞いていた。

「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ! 三年間でこんなの初めてだ!! 君らも早く!!」
 
 そう言って避難を催促してくれた上級生の指示に従い、四人も非常口から出ようとするが、瞬く間に人混みに呑まれてしまった。

(・・・うーん、ヴィランにしては大胆すぎるよなぁ)

人にもみくちゃにされながら、緋奈はそんなことを考える。

(とりあえず、窓の方に)

んしょ、とゆっくりゆっくりと人と人との隙間を潜り抜けて窓に辿り着く。と、視界に映ったのは、校門をくぐり抜け進軍する報道陣の姿だ。

(・・・報道陣か。 でも、あのセキュリティを突破できるもんなのか? ただの報道陣が、わざわざそんな策を講じるか?)

緋奈は、おかしいと疑問を抱く。報道陣だって警察に捕まるようなことはしたくないはずだ。そう考えれば雄英のセキュリティを破壊したのは報道陣ではなく別の誰か。しかも強力な個性持ちの。

と、そんなことを考えていると、

「大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰に相応しい行動をとりましょう!!」

非常口の方から飯田の声が聞こえてきた。それと共に、混乱に陥っていた生徒達の動きが止まった。緋奈は声のした方に視線を移すと、非常口の上にある人型のシルエットと同じような体勢で壁に張り付いた飯田の姿があった。

「・・・・」

緋奈は訳の分からない表情で、非常口の上にいる飯田を眺める。と、下の方で個性を使っていたらしき麗日が飯田を地面に優しく下ろしていた。既にほかの生徒達は各々、昼放課を過ごすために食堂に戻ったり、教室に戻っていた。

それから数分後に昼放課も終わり。帰りのHRで、委員長の出久が、飯田に委員長の座を譲った。

(・・・報道陣をそそのかした誰かがいる)

そんな事を考えるが、

(・・・まぁ、そんなこと教師陣も把握してるし、任せよう)

雄英が誇るプロヒーローの教師達がその事に気づかないわけがないと、判断し、緋奈は考えるのをやめた。



この時彼等は知らなかった。 影に潜む悪意が自分達の懐まで忍び寄っていたことに。 

 

散り散りの卵

日を跨いだ午後のヒーロー基礎学の授業。 前回は戦闘訓練だったが今回は『人命救助訓練』。 雄英の広大な敷地内には、その人命救助訓練を行うことのできる施設が造られているのだが、徒歩では時間が掛かり過ぎる距離の場所にあるのだ。その為、バスで行くに事になる。 A組の生徒達は各々、ヒーローコスチュームに着替え、バスに乗り込む。席順は決まっていないので、自由に座る。後ろ側は左右2席ずつでその中心に通路がある。前側は両サイドに向かい合うように設置されている。目的地に到着するまで、数分かかるらしいので、生徒達は各々、交友を深める。爆豪が蛙吹や上鳴に弄られたり、出久の個性について蛙吹が『オールマイトに似てる』と率直な質問を投げかけ切島がそれを否定したり、緋奈が昼食の食いすぎで吐きそうになったりと。

そして--


「すっげ―――!! USJかよ!!?」

 誰かが叫んでしまうほど、施設内に入った彼らが目にした光景は圧巻だった。広大な敷地に存在する、広大な水場、燃え盛るような街、切り立った崖に、盛り上がる土砂の山……etc。 ただ、某テーマパークの様にアトラクションは存在しない。というのもここが、

「水難事故。土砂災害。火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も、ウソの(U)災害や(S)事故(J)ルーム!!」

((( USJだった!!!!)))

災害救助でめざましい活躍を見せるスペースヒーロー『13号』が口にした施設名に、緋奈と爆豪・轟・八百万を除いたA組生徒達は心の中でツッコミを入れた。その後、引率として来ていた担任、相澤は、本来今日来るはずのオールマイトの事を13号に尋ねる。その質問に、13号は何やら小声で喋りながら、三本指を立てていた。

(・・・吐きそう)

周りが興奮している中、緋奈は顔を青くし、口元を押さえていた。

「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……」

相澤と話を終えた13号が指を一つ二つと立てていく。小言というわりには多すぎないだろうか? と生徒達は思った。

「僕の個性は『ブラックホール』。 何でも吸い込むことが出来る。それは逆に、人を殺すこともできるということ。僕達、ヒーローの力は人を傷付けるものではなく、誰かを救う為にある。 君達はそれを十分理解して、ヒーローを目指してください」

そう説く13号に、誰もが尊敬の眼差しと共に賞賛の拍手を送った。
 彼の小言が終わったのを見計らい、相澤がセントラル広場の方へと視線をやると--

「一かたまりになって動くな!!
13号!! 生徒を守れ!!」」

目の色を変え、大声で13号に指示を仰ぐ。

蠢く黒い靄。 その黒は小規模なものから徐々に大きく広がっていき、教師陣やプロヒーローにも見えない怪しげな者達が這い出てきた。普通ならば、何かの抜き打ちテスト的なものと思うかもしれないが、今回のこれがそんなものでは無いことは、ヒーローの卵である緋奈達でも理解出来た。危険な何かだということも。

「動くな。 あれは--(ヴィラン)だ!!」

相澤は生徒達にもう一度動かないよう声をかけ、ゴーグルをかける。普段、大声を出さないからこそ、その言葉には信憑性があった。

すると、蠢く黒い靄の中心に立っている男が生徒達の方を見上げた。

「ひぃっ!?」

誰かがその男の顔を見て短い悲鳴を上げた。ただ、それは無理もなかった。

何故なら、生徒達を見上げる男の顔には手首から上しかない手が張り付き、その手はあらゆる部位にもあったからだ。不気味としかいいようのない姿。

「平和の象徴……いないなんて……子どもを殺せば来るのかな?」

と、不安定な震えた声で、悍ましい言葉を不気味な男は発した。

黒い靄から湧き出る数多くの(ヴィラン)。 これだけの侵入にも関わらず、各所に設置されているセンサーが反応していない。恐らく、センサーを阻害する個性を持った(ヴィラン)があの中にいるのだろう。

「校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割・・・バカだがアホじゃねえ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

と、生徒達が知りたがっているであろう疑問に轟が答えた。

計画的な犯行。

そう判断するしかない目の前の光景。どんな馬鹿でも理解できる。

校舎から遠い隔離施設にA組生徒達が行く日。

ヒーロー基礎学開始の時刻。

そして--人数。

全てが読まれていた。

ただ、それを知る事が出来るのは雄英の教師陣だけだ。それ以外の者に知られる事は無いはず。しかし、情報が漏れている。そこから導き出される答えは、雄英高校の中に(ヴィラン)の内通者がいるということ。

(・・・それよりも今は生徒の安全が一大事だ)

相澤は思考を切り替え、生徒達の安全を優先する。 その為に、自身の武器である包帯を靡かせて、(ヴィラン)の群れへと飛び込んでいく。その際に出久が、相澤の戦闘スタイルは多対一人には向いていないと口走っていたが、『一芸だけじよヒーローは務まらん』と一蹴していた。

その言葉通り、相澤は無駄ひとつない軽快な動きで(ヴィラン)に迫り、【抹消】で個性を消し、包帯で無力化、または撃破していく。

しかし、【抹消】が1度消えるタイミングで、その隙を突くように、黒い靄状の(ヴィラン)が、生徒達と13号の背後へ現れた。

「初めまして、我々は(ヴィラン)連合。 僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは―――

平和の象徴『オールマイト』に、息絶えて頂きたいと思ってのことでして。

本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ・・・ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ・・・それとは関係なく・・・」

黒い靄状の(ヴィラン)が揺らめいた瞬間、13号が臨戦態勢に入る。

「私の役目はこれ--」

黒い靄が徐々に広がり、13号と生徒達を飲み込もうとするそのタイミングで、爆豪と切島が攻撃をかました。だがその攻撃は黒い靄をなびかせる程度で終わる。

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」

個性『硬化』を発動した切島が構えたまま、叫んだ。

「危ない危ない・・・。 そう・・・生徒といえど優秀な金の卵・・・」

「ダメだ、どきなさい! 二人とも!!」

飛び出した二人に下がるよう指示するが、それよりも早く、黒い靄がA組生徒がいる空間を呑み込んだ。

そして--黒い靄のドームが消えた後、そこに残っていたのは13号とA組生徒六人だけだった。 

 

USJ in 山岳ゾーン

「うぅわ!!!」

「・・・んぐ!?」

黒い背景に白い稲妻が走るヒーローコスチュームに、『特製電子変換無線』を右耳につけた上鳴と、口元あたりにスピーカーの取り付けられた長めのウインドブレーカーを着込む緋奈は、(ヴィラン)達から逃げていた。

「コエー!! マジ!! 今、見えた!! 三途見えたマジ!! なんなんだよ、コイツらは!! どうなってんだよォ!!!?」

「やばっ、マジ。 お、ぅえ。 あ、吐きそう」

(ヴィラン)の攻撃にビビる上鳴と、違う意味でヤバい緋奈は、模造の小剣と、細長い鉄の棒を各々手に、応戦する耳郎と八百万の近くへと避難する。

「そういうの後にしよ」

「ええ、そうですわ。この数を早く何とかしなければ、緋奈さんが吐いてしまいますわ」

「いや、あいつもうリバってんぞ!?」

「「え?」」

上鳴の言葉に緋奈の方を向くと、

「」

床に四つん這いになって、昼に食べた物を全て吐き出す緋奈の姿があった。

「ちょ、アンタ何こんな時に吐いてんの!?」

「ひ、緋奈さん!?」

「リバってる場合じゃねえぞ! 桜兎!!」

八百万達は緋奈にそう声をかけるが、絶賛嘔吐中の緋奈は言葉を返すことが出来ない。ただ、そんな彼らを待ってくれるはずもなく、

「へへへ! 今がチャンスだ!」

「よそ見してんなよ、イヤフォン女!!」

「テメェもだぜ、ゲロ吐き中の兄ちゃんよォ?」

(ヴィラン)達が襲いかかる。

「緋奈さんはやらせませんわ!」

「マジあとでなんか奢れよ! 桜兎!!」

「こんな時に面倒事増やさないでよ!」

八百万達はそう叫んで、(ヴィラン)達の攻撃をあらゆる手段を使って凌いでいく。ただ、集団相手に四名(一人嘔吐中)では勝ち目がない。どれだけ凌いでも、時間が過ぎていく度に八百万達のスタミナが減っていくだけで、伸ばせば伸ばすほど勝ち目が薄れていく。

「つーか、あんた電気男じゃん。 バリバリっとやっちゃってよ!」

「あのな、俺の個性はそんな便利なもんじゃねえんだよ!? 電気を纏うだけだ俺は!
放電できるだけど、操れるわけじゃねーから、3人とも、巻き込んじまうの!あれだ!轟と一緒よ!? つーか、俺にも武器くれ! それに救けを呼ぼうにも特製電子変換無線(こいつ)、今ジャミングヤベぇしさ。 いいか!? 二人とも! 今、俺と緋奈は頼りになんねー!!頼りにしてるぜ!!」

長々と言葉を並べる上鳴。

「男のくせにウダウダと・・・じゃあさ、人間スタンガン!!」

「マジかバカ!!!」

情けない上鳴に呆れる耳郎は名案とばかりに、上鳴の背中を蹴った。 そしてその方向には、(ヴィラン)がいた。

「へへへ、自分から死にに来8t--ぐわああああ!?」

(ヴィラン)が拳を振りかぶった瞬間、帯電状態の上鳴が身体に触れ、電気が迸った。

「あ、通用するわコレ! 俺強え!!」

バチバチと全身で(ヴィラン)を痺れさせる上鳴。

「ふざけんなよ、ガキィ!!!」

と、上鳴めがけ(ヴィラン)が二人、襲いかかる。 テレビほどの大きさの岩が振り下ろされ、直撃する瞬間、上鳴を守るように風が生じた。その風は増殖し、的確に(ヴィラン)だけを切り裂いていく。真っ赤な血が風に溶け込み、真紅の風と化す。それを起こしたのは、先程までリバースしていた緋奈だ。

「うっぷ。 ・・・気持ち悪い」

顔色の悪いまま、両手で風を操り続ける。五分間ほど風を操り、やがて効果が消える。その頃には全身に無数の切り傷を刻まれた(ヴィラン)だけが地面に倒れていた。中には、目を切り裂かれた者や耳を裂かれた者、身体の一部に深い切り傷を刻まれた者がいた。ただ、数人ほど、風を凌いだ(ヴィラン)がいたようだ。

「う・・・おぇぇぇぇ!!」

再び嘔吐感に襲われた緋奈は、リバースを再開する。

「あの野郎! ぶっ殺してやる!」

「死にやがれ、クソガキィ!!」

「ヒャッハー!!」

同胞をやられた怒りというより、子供に付けられた小さな傷に怒りを示した(ヴィラン)達がリバース中の緋奈の背中めがけて、ナイフや拳、鞭に爪、といったあらゆる攻撃手段を振り下ろす瞬間、

「出来た!!」

八百万がそう叫んで、緋奈に襲いかかる(ヴィラン)達を鉄の棒で振り払った。 そして、耳郎と緋奈が近くにいるのを確認し、

「時間がかかってしまいますの。 大きなものを創造(つく)るのは」

ムクムクと背中の服の素材が形を変え、大きなシートが形成された。そして、それに隠れる八百万は、

「厚さ100ミリメートルの絶縁シートです。 上鳴さん」

隙間から上鳴にそう声をかける。

「・・・なるほど」

ニヤリと上鳴は笑い、

「これなら俺は・・・クソ強え!!!」

全ての電気を身体から外へと放出させた。その電気は絶縁シートにより安全な八百万達を除いた(ヴィラン)だけに感電した。バタバタと(ヴィラン)が倒れ、無力化に成功する。

「さて・・・他の方々が心配・・・合流を急ぎましょう」

「それもそう・・・ごぶァ!?」

「なにこっち見ようとしてるの!? バカ!!」

八百万の方に視線を移そうとしたタイミングで、視界に耳郎の拳が見えたと思ったら、視界一面に肌色が見え、それと共に強烈な痛みが顔面を襲った。

「な、何するのさ、響香ちゃん?」

「わ、わぁ!? 今、ほんと見ちゃダメだから!あれだから! 服がちょうパンクだから! 発育の暴力だから!」

「あたふたと手を忙しなく動かす耳郎によって八百万の様子が見えない緋奈は殴られた顔を押さえながら、口を尖らせる。ちなみに、最後の最後に大活躍をした上鳴はというと、

「うェ〜〜い」

アホそうな顔で両親指を立てていた。 

 

USJ in 山岳ゾーン⑵

「中身ぶちまけたから、逆に気持ち悪い」


屍のように倒れふす(ヴィラン)達を縛りながら、緋奈は土気色の顔で呟いた。

「今度からは、バスに乗る前に酔い止めの薬を飲むように心がけてくださいね。緋奈さん」

同じく(ヴィラン)を縛る八百万が心がけるように念押しする。

「ほんとそうしなよ。今回みたいに面倒事増やされるの嫌だからね」

「め・・・面目ない」

耳郎の言葉に、緋奈はシュンとする。確かに、実践時にリバったり、気を抜いたりするのはいけない。 それを分かっていながら、行動に移せないのが緋奈の欠点でもある。

「さて、皆さんとの通信手段を見つけませんと」

「あ。 それなら上鳴の・・・って、ジャミングされてるんだっけ」

「そういう上鳴君は何処に・・・」

「おい、お前らが探してんのコイツだろ?」

緋奈達の背後からそんな声がかけられた。そちらに視線を向けると、

「手ぇ上げろ。 個性は禁止だ。 使えばコイツを殺す」

片方の手から電気を迸らぜながら、もう片方の手で、あほ面の上鳴を掴んだ(ヴィラン)がそこにはいた。

「上鳴さん・・・!!」

「やられた・・・!!完全に油断してた・・・」

「せっかく、気分よくなってきたのに」

(ヴィラン)の言葉に緋奈達は両手を上げて、無抵抗の意を表す。

「同じ電気系個性としては、殺したくはないがしょうがないよな」

「ウェ・・・。 ウェ〜〜〜イ・・・」

「全滅させたと思わせてからの伏兵・・・。 こんな事も想定できていなかったなんて・・・」

「電気系・・・! 恐らく轟さんの言っていた通信妨害してる奴ね・・・!」

「あのー、は、吐いても構いませんか? ・・・うぷっ」

土気色の顔で(ヴィラン)に懇願する緋奈。 ヒーローの卵であろうものが、(ヴィラン)に懇願など恥ずかしいことかもしれないが、緋奈にとってそんな薄いプライドはない。吐きたい時は吐く。寝たい時は寝る。食べたい時は食べる。そういった事をするのに、プライドはなんの役にも立たない。プライドで飯は食えないし、排泄も出来ないし、吐き気も治らない。

「駄目だ。適当な事言って、何かするに決まっている。 あまり俺を舐めるな、ガキ」

「マジお願いしま・・・うぇっ、おうぇ……ッ」

(ヴィラン)に拒否られると共に、限界に達した緋奈は本日三度目のリバースを始めた。もう既に食ったものは吐き出し尽くしたため、胃液だけが吐き出される。

「ちっ。緊張感のねえガキだな。まぁ、いい。 そっちへ行く。 決して動くなよ」

不快そうに表情を歪め、緋奈達にそう命令する。

「・・・上鳴もだけどさ・・・電気系ってさ、『生まれながらの勝ち組』じゃん?」

「何を・・・」

唐突に喋り始めた耳郎に八百万は困惑する。

「だってヒーローでなくても、色んな仕事あるし引く手数多じゃん。 いや、純粋な疑問ね? なんで(ヴィラン)なんかやってんのかなって・・・・」

耳郎は自身の体で隠すようにプラグをスピーカー内蔵ブーツに繋ごうと試みる。が、

「気づかれないとでも思ったか?」

「ウェイ!?」

バチバチと電気を迸らせた手を上鳴の顔に突きつけて、(ヴィラン)は告げた。

「くっ!!」

「子供の浅知恵など馬鹿な大人しか通じないさ。 ヒーローの卵が人質を軽視するなよ。 お前達が抵抗しなければ、このアホは見逃してやるぜ?」

(ヴィラン)は殺意の篭った瞳で、緋奈達を睨み、

「他人の命か、自分らの命か・・・! さぁ・・・動くなよ・・・」

告げた。 それは、実践を経験したことのない卵達にとって、どうしようも無いほどに重圧のかかった言葉だった。 最善の選択を選ぶ勇気も覚悟も薄れ消えゆく。最初から(ヴィラン)に勝てると思っていたのが間違いだった。勘違いしていた。雑魚ばかりだと調子に乗った結果がコレだ。

「【人質を離せ】」

凍りついた空気の中、その声は聞こえた。

「は? 何言っ・・・ぐぅ? 手、手が勝手に・・・!?」

先程まで上鳴を掴んでいた手が離れる。(ヴィラン)が自らの意思で外した訳ではなく、意思に関係なく外されたのだ。(ヴィラン)がそれに驚くのは仕方の無いことだ。何故なら、緋奈が見せたのは風を操るということだけで、別にそれ以外は何も出来ないとは言っていない。

「あまり潜入感に囚われすぎると、足元をすくわれるよ、(ヴィラン)

緋奈はそう言って、

「【そのまま抵抗するな】」

再び禁じ手である『対象の操作』を使用する。

「ちっ。 最初から騙されていたのはお前らじゃなく俺だったって訳か。訂正だ。 さすがはヒーロー志望のガキ共だ」

(ヴィラン)は緋奈が具現化したロープで捕縛される中、そう賞賛の声を口にした。

「は・・・はは。要望で冷却機能付けといて正解だったね。これなかったら、意識飛んでたよ」

緋奈は弱々しい笑みを浮かべて、山壁に背中を預け座り込んだ。吐きすぎたことによる疲労感と禁じ手使用による副作用で、スタミナをごっそりと持っていかれたため、動く事もままならない。

「た、助かりましたわ、緋奈さん」

「ちょっと、アンタ大丈夫!?」

「ウェ・・・。 ウェ〜〜〜イ・・・」

緋奈に駆け寄り声をかけてくる八百万達。

「う、うん。 そ、それよりも早くみんなと合流しないと・・・」

フラフラとした足取りで立ち上がろうとするが、起き上がることが出来ない。すると、

「私が背負いますわ。 乗ってください、緋奈さん」

「私達がアンタを守ってあげるから、行こう」

「ウェ〜〜〜イ」

八百万がかがみ、緋奈を背負った。そして、あほ面の上鳴を支えながら耳郎が音を振動させる小剣を手に告げる。

「う、うん。 ありがとう、皆」

緋奈はそうお礼を言い、瞼を閉じた。 

 

ヒーローは遅れてやってくる

USJ山岳ゾーンの出口付近。

「まず、13号先生の元に合流しませんと」

疲労で眠っている緋奈を背負う八百万が次の目的を口にする。

「合流するって言ってもさ、広場には大量の(ヴィラン)相手に相澤先生が戦ってんだよ? 私達がそんなとこ通ったりしたら、先生に迷惑かかっちゃうよ」

「耳郎の言う通りだぜ、八百万。 俺たちがいたら、相澤先生が本気で戦えねえだろ?」

と、耳郎の言葉に同意する上鳴(アホ化完治)。

2人が言う通り、八百万達が13号の元に向かう為には、セントラル広場を通らなければならない。しかし、そこは激戦区。そんなところに行けば、生徒達を守るために単身戦う相澤の奮闘が無駄になってしまう。だが、合流出来る道はそこだけだ。

八百万達の選択肢は三つ。

①13号と相澤を信じて安全圏で待機。

②外部からの救援を信じて待機。

(ヴィラン)だらけのセントラル広場を突破し、13号の元に合流。

ただどの選択肢も絶対に安全とは言えない。

①の選択肢は、他力本願。 要するに13号と相澤が倒れれば終わり。 リスクしかない策。

②の選択肢は、神頼み。 外部の救援が必ず来るかは不明。来るとしても、その前に全滅という可能性が大きい。リスクが①よりは小さい。

③の選択肢は、運頼み。 運が良ければ生、運が悪ければ死。①と②よりもリスクが高いが、逆に1番生還できる策でもある。


「突破するって言ってもよ、桜兎は疲労で動けねえんだろ? それに八百万もその状態だしよ」

上鳴がそう告げる。確かに彼らの現在の状態では③の選択肢を行動に移すのは無謀だ。自殺行為に等しい。

「そうかもしんないけど、それしかないんだからやるしかないでしょ」

「足でまといになるのはわたくし自身が理解しておりますわ。それに、緋奈さんを置いていくことは絶対にできません」

「まぁ、そりゃそうだけどよぉ。誰だってこんなところで死にたくねえーじゃんか。 それに、ほら! 相澤先生も言ってたじゃねえか、動くなってさ! 俺達が広場に向かえば一秒ももたずにお陀仏だぜ?」

俺は行かねえからな、と上鳴は告げ、足を止めた。それに対し、耳郎と八百万は困ったような表情を浮かべる。

確かに上鳴の言うことは正しい。例え、自分達が、広場に向かった所で相澤先生の足を引っ張り、全滅すると言うことを。それでも、ここで黙って指をくわえている間にも、13号と相澤が(ヴィラン)連合相手に戦っているのだ。たった二人で数十人以上と。更に、飛ばされたクラスメイト達もきっと合流しようと動いている筈だ。それなのに自分達だけがここで安全にしているなんてことはできない。

「あーもう! ウダウダとイライラする!アンタもヒーロー目指す為に雄英に来たんでしょ? 確かに(ヴィラン)と戦うのは怖いけどさ、ヒーローになってもアンタはさっきみたいな事言って逃げるの? わたしはそんなヒーロー(やつ)に守ってもらいたいとは思わない!」

情けないことばかり言う上鳴の胸ぐらを掴み、耳郎が怒声を上げる。

「・・・んな事、バカな俺でも分かってんだよ」

「--なら」

「それでも、怖いもんは怖えんだよ!なんで俺達がこんな目に遭わなきゃなんねえんだ!こんな事がおこんなら、こんな学校くんじゃなかった!!」

耳郎の手を振り払い、上鳴は叫んだ。震える両足で立ち、恐怖に押しつぶされそうな表情で。

「そう。 なら、アンタはここで膝抱えて震えてなよ」

耳郎は冷めきった瞳で突き放すように上鳴に告げ、『行こう、八百万』と声をかけ歩き始めた。

「・・・上鳴さん」

「行けよ、八百万」

心配そうな表情でコチラに振り返る八百万に、上鳴は顔を背けて告げる。

「・・・すみません」

「・・・・」

八百万の言葉に、上鳴はギリッと下唇を噛み締めた。

(情けねえことぐらい自分(てめぇ)が一番分かってんだ。俺だってヒーローになりたい。そう思っても身体が動かねえんだから仕方ねえだろ)

自分の行動を正当化しようと言い聞かせるように反芻する。

「・・・何してんだよ、俺」

上鳴は髪の毛をクシャッと握り、地面に座り込む。そして、顔を上げるも、そこに八百万達の姿はもうなかった。



セントラル広場。

「・・・え?」

「・・・う、嘘でしょ」

山岳ゾーンを抜け出して数分後、セントラル広場付近に辿り着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

筋骨隆々で黒い肌に頭部は脳味噌が丸見えの(ヴィラン)に組み伏せられている血まみれの相澤の姿。掴まれている右腕は有り得ない方向に曲がっており、トレードマークでもあるゴーグルも無造作に地に落ちており、勝敗は誰が見ても明らかであった。

『抹消』と呼ばれる個性持ちにとって難敵とも言える相澤を圧倒するということは、本来の身体能力が高いということになる。恐らく、オールマイトを殺す『策』は、脳が丸見えの気味悪い(ヴィラン)で間違いないだろう。

「八百万! アイツら、水難ゾーンに!!」

「あれは・・・緑谷さん達!!」

「え? ヤバくない!? 早く助けないと!」

「ですが、ここからアソコまで数メートルの距離がありますわ。今からじゃ間に合わない!」

水辺の淵に茫然と佇んでいた生徒と思しき三人―――緑谷、蛙吹、峰田の下へ向かう脳味噌剥き出しの(ヴィラン)と、無数の掌を貼り付けた(ヴィラン)を視界に捉え、助けようと駆け出すが速さが足りない。手を伸ばしても余裕で届かない距離。やがて、蛙吹の顔に掌を貼り付けた(ヴィラン)の掌が触れ--なかった。

「・・・は?」

掌を貼り付けた(ヴィラン)は、身体が動けなくなるほどに重くなった事に声を漏らした。その隣では脳味噌剥き出しの(ヴィラン)が全身を地面に埋まる寸前の体勢になっていた。

掌を貼り付けた(ヴィラン)は周囲をぐるりと見渡し、そして見つける。こちらに手をかざす白黒髪の少年と、その少年を支えるイヤフォン少女とポニーテール少女の姿を。

「ちっ。どいつもこいつも邪魔しやがって。脳無。 そんなもん早く解いて、あいつらを殺せ」

掌を貼り付けた(ヴィラン)がそう吐き捨てると、グググと自身にのしかかる重力を容易く無効にした脳味噌剥き出しの(ヴィラン)、脳無。

「う、うそ。これで50%の重力なんだけど!見た目だけじゃなく全てがバケモンなの!?」

ズキズキとした頭痛に襲われる緋奈は、叫んだ。

「八百万と耳郎ちゃん! ごめん!」

即座にそう叫んで、風を発動し、八百万と耳郎を自分から遠ざける。そして、自分も退避しようとするが、それよりも早く黒い巨大な拳が放たれた。その拳は容赦なく、緋奈の左肩を砕いた。

その瞬間--緋奈の全身を失神しかねないほどの激痛が襲った。

「----ァァァァ!?」

声にならない苦鳴がUSJに響き渡る。 両足から力が抜け、うまく受け身も取れずに前のめりに倒れる。逃げることも出来ない。動くことも出来ない。ただ、痛みに全てを支配された。

「殺れ、脳無」

掌を貼り付けた(ヴィラン)がそう告げた瞬間、気味悪い叫び声をあげ、拳を緋奈の頭部めがけて振り下ろ--

『―――死ねぇ!!! クソ()ンン!!!』

『マジか、爆豪!? この勢いだと緋奈を巻き込んじまうぞ!?』

『んなこたァ知るかボケェェェ!!』

『知るかじゃねぇエエエエ!!』

少し遠くから響いてくる爆豪と切島の声。
刹那、眩い光がカッと閃いた。 その光は、緋奈を殺そうとしていた脳無の巨体を包み込み、爆発した。 鼓膜が壊れそうなほどの轟音が響き渡り、灰色の煙がモクモクとたちこめる。

「ハッハァ!! 大したこたァねえなぁ!! あァ? クソ(ヴィラン)共!!」

「ばっ、馬鹿野郎! 緋奈ごと爆破させてどうすんだよ!? 気が触れてんじゃねえか、爆豪!?」

「うるせぇッ! あの白黒野郎に当ててねえだろうが!!」

「だとしてもありゃあねえよ!?」

脳無に大威力の爆発を喰らわせた爆豪に、切島が訴える。 と、灰色の煙の中から、

「安心して、切島ちゃん。 緋奈ちゃんなら無事よ」

蛙吹の声が聞こえた。

「どうだ!あァ!? 俺の言った通り無事だっただろうが!!」

「お前が言うことじゃねえからな!? お前は緋奈を助けてくれた蛙吹にもっと感謝しろ!」

爆豪がそう叫ぶと、切島は即座に否定した。

「おぉおぉぉおい緑谷! これなら助け来るまで持つかもしんねえぞぉ!!?」

「う、うん……いや、待って!?」

歓喜の涙を流す峰田に縋りつかれる緑谷は、ふと灰色の煙の中からおぞましい殺気を感じとった。

「かっちゃん、切島君!! そこから離れて!!」

即座に爆豪と切島にそう避難を促すが、

「選択は良かったが、遅かったなぁ? ヒーロー」

灰色の煙からそんな声が聞こえ、脳無の一撃が切島の顔面に振り抜かれた。が、そのタイミングで個性【硬化】を発動させ、顔へのダメージを防ぐがその代わりに、最強の盾となる【硬化】で硬くした両腕が小枝のように容易く叩きおられた。

「・・・・ギィ・・・ァァァァァァ!?」

「切島君!?」

「今度こそ仕留めろ、脳無」

掌を貼り付けた(ヴィラン)がそう指示すると、脳無が拳で追撃しようとする。が、今度はそう上手くいかない。

「舌噛むんじゃねぇぇぞ!!」

両腕をへし折られた切島のコスチュームを掴み、爆破で右へと緊急回避する爆豪。 そして、追撃をしようと振り抜かれた脳無の拳は地面にめり込んだ。

「何してんだよ、脳無! なにガキ相手に翻弄されてんだ!」

掌を貼り付けた(ヴィラン)は怒声を上げた。

「み、皆さん、無事ですか!?」

「みんな、無事!?」

少し離れた噴水まで風で避難させていた八百万と耳郎がこちらへと駆け寄ってきた。それを緋奈達が確認するより早く、掌を貼り付けた(ヴィラン)が視界に捉える。

「二人とも、逃げて!?」

緋奈がそう叫ぶがもう遅い。

「オイ、黒霧」

「はい、死柄木弔」

掌を貼り付けた(ヴィラン)、死柄木がそう声をかけると、八百万と耳郎の背後に大規模な黒い靄を作り出した黒霧があらわれた。

「あなた方には死んでもらいます」

黒霧が八百万と耳郎を飲み込もうとする瞬間、全身を震わせるほどの寒気が全員を襲った。そして、それと同時に、黒霧の身体が凍りついた。

「何してんだよ、黒霧! お前の個性がそれじゃなきゃ殺してるぞ」

死柄木は首筋をガリガリとかいて先程以上に苛立ちを見せる。

「ふぅ。 何とか間に合ったみてぇだな」

「みんな、大丈夫だった!?」

左側から轟と葉隠の声が聞こえた。

「ぞろぞろぞろぞろと羽虫みたいに増えやがって。 ヒーローが少数相手に集団とか、それでもヒーロー志望かよ」

死柄木は、自分を囲むように位置する緋奈達を見て、そう吐き捨てた。

10対3。 (ヴィラン)側にとっては不利に近い。ただ、それがチンピラ並みの強さであればだが。

「まぁ、俺達からしたら好都合だ。脳無、ガキ共を嬲り殺せ」

地面に拳をめり込ませた状態で固まる脳無に指示を仰ぐ。 それに対し、脳無は拳を引き抜き、近くにいた緋奈達の元へと駆け出した。そして、緋奈達が気づいた頃には、黒い巨大な拳が視界に映っていた。

「無視してんじゃねえぞォ!! 脳味噌野郎!!」

「爆豪の言う通りだ」

「私達も手伝いますわ!」

「援護するよ!!」

「わ、わたしも!!」

爆豪、轟、八百万、耳郎、葉隠(除く)が各々『個性』を発動させる瞬間、いつの間にか轟の氷結から脱していた黒霧と死柄木が道を遮り立ちはだかる。

「邪魔すんじゃねえ! クソ(ヴィラン)ンン!!」

「邪魔だ」

「力づくで通らせてもらいますわ!」

「全力で行くよ!」

「わたしもがんばるよ!」

爆豪達は道を遮る死柄木と黒霧に臆することなく、攻撃を始めた。

その背後では、脳無の拳が緋奈達に届く寸前だった。瞬きした瞬間に、拳が激突する。そうすれば死ぬ。

緋奈達の脳を支配したのは『死』。 それ以外の事が考えられない。避けなければならないのに避けるという思考がない。

やがて、拳が緋奈を支える蛙吹の顔面に届く瞬間、

「--やらせるかよ!!」

バヂィっと、眩いほどの電撃が脳無の全身に直撃した。そしてそれをやってのけたのは--

「ヒーローは遅れてやってくるってな!!」

と冷や汗を浮かべ、無理して余裕そうな笑みを口元に刻む上鳴だった。 

 

USJ事件 終幕

「上鳴君! どうして君が!?」

緋奈達を脳無から助け出した上鳴に叫んだ。それに対し、

「決まってんだろ。 ダチを救ける為だ!」

上鳴はそう言って、両手の間で電気をバチバチさせ、臨戦態勢をとる。まだ、終わっていないと、気づいているのだ。

「おいおい。 またガキが増えやがった」

「どうします? 死柄木弔」

「決まってんだろ。 皆殺しだ」

「わかりました」

死柄木の言葉に頷き、黒霧が個性を発動し、爆豪達を呑み込むために襲いかかる。 そして、そちらに気を取られているうちに死柄木は、耳郎へと手を伸ばした。

「えっ!?」

「警戒が足りないなぁ。 ヒーロー」

伸ばされた手は耳郎の首を鷲掴みにした。

(やばっ! 絞められ・・・)

耳郎はそう予想したが、違った。 首を絞められた時の痛みの倍以上の痛みが、突如、首を襲ってきた。じわりじわりと浸透していく痛み。

「かぁ・・・!」

「ははは、痛い?苦しい?」

掌が貼り付いた顔を狂笑に変えながら、死柄木は個性を発動し続ける。

「耳郎さん!今助けますわ!!」

黒霧の靄の範囲から脱した八百万が死柄木と耳郎の元に駆け出す。手には個性によって作り出された、イレイザーヘッドの捕縛武器(劣化版)。

「黒霧!!」

「わかっています、死柄木弔」

黒霧は即座に狙いを八百万に切り替えるが、

「無視してんじゃねえぞ! モヤモブ!!」

「目を離すなんて余裕だな、(ヴィラン)

「が、頑張れー! 二人ともー!!」

爆豪と轟に妨害される。因みに葉隠は、二人の邪魔にならないよう離れた位置で応援していた。

「お二人共、助かりましたわ!」

八百万は爆豪と轟にお礼を言い、死柄木の腕に捕縛布を放ち、耳郎の首をつかむ方の腕を引っ張った。

「おいおい、その程度でどうにかできるとで--」

刹那、死柄木の身体が噴水まで吹き飛んだ。それをやってのけたのは、耳郎だ。ただし、一人でできた訳では無い。脳無によって戦闘不能に陥られた相澤が【抹消】を発動し、死柄木の個性が消えたタイミングで、スピーカー内蔵の靴のプラグに耳たぶのイヤフォンを挿し、音の塊をぶつけたのだ。

「脳無ぅ!そいつの目を潰せ!!」

死柄木が大声でそう指示を仰ぐ。しかし、

「おい! 聞いてんのか、脳無! そいつの目を--」

声に反応のない脳無の方へと視線を移すと、

「なんで埋まってんだ、脳無!!」

地面に上半身をめり込ませた脳無の藻掻く姿に叫んだ。と、その疑問に答える声が死柄木の耳に入ってきた。

「お・・・しえて・・・あげ・・る。あの・・・(ヴィラン)は・・私の個性で・・・埋めたんだ」

蛙吹に担がれた状態で両手(左腕は緑谷に支えてもらい)を脳無にかざす緋奈が意識が朦朧とする中で言葉を紡ぐ。

「なんだよそれ」

ガリガリと首筋を掻きむしりながら、死柄木はイライラしげに言葉を漏らす。

「まぁ、いいや。 お前から殺せば--」

と、頭を切り替えて緋奈に狙いを変更した死柄木。 その瞬間、入口の方から爆音にも似た轟音が響き、厚い鉄製の扉が砂塵を巻き上げながら吹き飛んだ。

「もう大丈夫」

USJ全域にハッキリと響き渡る声。それは生徒達にとっては憧れの存在。(ヴィラン)と緋奈にとっては嫌悪の存在。

平和の象徴と呼ばれ、(ヴィラン)から人々を笑顔で守るNo.1ヒーロー、

「--私が来た!!」

オールマイトが、そう言い放った。



威風堂々とした佇まい。 人々は歓喜に打ち震え、(ヴィラン)は恐怖に支配される。それが平和の象徴と呼ばれるオールマイト。

緋奈がこの世で三番目に嫌いなヒーロー。一番と二番は父親と母親。

ヒーローに救われる事が緋奈にとっては嫌で嫌で仕方がなかった。まるで自分は一人じゃ何も守ることの出来ない惨めな人間に思えてきて、それがとても悔しくて嫌だった。

オールマイトに助けられたのはこれで二度目。

一度目は中学生の時だ。あの時の事は思い出したくもない。語りたくもない。

あの時、オールマイトが救けに来なければ--■■■は死なずにすんだ。

唯一、緋奈に優しくしてくれたヒーロー。

唯一、緋奈を見てくれたヒーロー。

唯一、緋奈を愛してくれたヒーロー。

そして、認めてくれた最高のヒーロー。

だから、緋奈は、ヒーローも、オールマイトも嫌いになった。

「・・・また・・・僕は・・・」

救けられた、という言葉を残し、緋奈の意識は闇の底へと沈んでいった。



「ん・・・」

眩い陽の光が、窓から差し込んでいる。 薬品独特の匂いが充満する広い部屋。天井は真っ白で、緋奈は、自分がいま病院のベッドに横たわっていることに気づく。寝た姿勢のまま、周囲を見渡すと、左側のテーブルに大量のフルーツが入ったバスケットと、手紙が1枚添えられていた。

「誰からだろう?」

手紙を取ろうと手を伸ばそうとする。 しかし、固定されているのか、腕が上がらない。チラッと視線を下に向けると、

「そういうこと」

と呟いた。視界に映る、左肩を固定している器具。それがどういう理由でつけられたのかも理解している。

「おや、起きたみたいだね」

と、女性の声が聞こえた。緋奈は視線を声のした方に向けると、そこには、白衣を着た小柄な婆さんが杖で体を支えながら、立っていた。

「あー、えーと、あなたは?」

見覚えのない婆さんに名前を尋ねる。

「そうえば、こうやって面と向かって会うのは初めてだったね。私は怪我をした生徒達の治癒を任されている修善寺 治与。 ヒーロー名はリカバリーガールと言えば、君も分かるかい?」

「・・・リカバリーガール」

聞いたことのあるヒーロー名。 確か、対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒させる個性を持つプロヒーローだ。

「それで、もう痛い所や気持ち悪い所はないかい?」

「あ、はい。 もう大丈夫です」

緋奈は頷き、身体を起こす。どうやら、先程まで病院と思っていたが、仮眠室だったらしい。

「あの、今何時ですか?」

「朝の7時だよ。 それがどうかしたのかい?」

「・・・って事は、一日経ったってことですか!?」

「まぁ、そういう事になるねぇ」

のんびりとした口調で、リカバリーガールは答える。ただ、緋奈にとっては一大事だ。7時ということは、もうそろ学校の時間だ。準備も昨日のままだし、弁当箱も洗っていない。それに洗濯物や食器を洗わなくてはならない。慌てて、鞄から携帯を取り出し、画面をつけると、予想通り、

『お母さん:洗濯物と食器洗いお願い』

という内容のメールが入っていた。

「ありがとうございました。リカバリーガール」

「もう行くのかい?」

「ええ、やることがあるので」

緋奈はベッドから降り、鞄に携帯を押し込み、テーブルに置かれた手紙とフルーツの盛られたバスケットを手に仮眠室を出ようとする。その時に、

「そうえば、今日は学校休みだから、家で安静にしてるんだよ」

背中にかけられた声に、扉に触れていた手を離し、振り返る。

「・・・休み?」

「昨日、授業中に(ヴィラン)に襲われた件があるからねぇ。他の生徒達も今頃は家で安静にしてる頃だろうねぇ」

「僕みたいに怪我した人いました?」

「両腕骨折の子と、指の怪我をした子、後は首を個性で傷つけられた子がいたけど、治癒した後すぐに帰っていったよ。

話を聞く限り、切島と緑谷、耳郎の三人だと気づく。ただ全員無事ということもあり、緋奈は安堵のため息を吐いた。

「これで失礼します」

「これからは怪我しないよう気をつけるんだよ」

「善処します」

と言葉を返し、緋奈は仮眠室を出る。

「さて、帰ろ」

大きく欠伸をして、帰路へとついた。



自宅について、すぐに洗濯物を干し、食器を洗い終えた緋奈は、制服を洗濯機にぶち込み、ダボッとしたシャツに短パンという部屋着スタイルでソファに仰向けで寝転がっていた。左手は未だ固定されており、右手で携帯の画面をつけ、未読のメッセージがたくさん送られてきている事に気づき、トークアプリを開く。そして、新着順に上から一人一人に、お礼の言葉と安否を伝えていく。 そして、手紙を取り、中の紙を取り出す。そこにはオールマイトからのメッセージが記されていた。

『桜兎少年。 君が脳無を足止めしてくれていたと緑谷少年達から聞いた。屋内対人戦の時、君には『人を助ける意志』が足りないと思っていたが私の勘違いみたいだった。本当にすまない。これからも精進するといい』

緋奈は読み終わった後、迷うことなくゴミ箱に捨てた。そして、不機嫌な表情でリモコンを操り、テレビをつける。大半のチャンネルが、USJ事件のニュースばかりで、唯一やっていたのは再放送のバラエティ番組。

「・・・退屈」

そう呟き、携帯を再びいじる為に画面をつけると、そのタイミングで麗日からメッセージが送られてきた。緋奈は、お餅のアイコンである麗日のトーク画面をタップし、メッセージを確認する。

『おはよう、緋奈ちゃん。今、大丈夫?』

『うん、大丈夫だよ。 どうしたの? 麗日さん』

そうメッセージを返すと、数秒後にピコンと音がなり、

『ほんと!! いまから家に行ってもいい?』

というメッセージと、『ガッツポーズを取る女の子』のスタンプが送られてきた。

『大したもんとかないよ? 僕の家』

『ううん、大丈夫! それじゃいまから行くね!!』

『うん、待ってるね』

そう返信して、緋奈は携帯を横の机に置く。

「部屋着じゃなんだし、着替えてこよ」

ソファから起き上がり、二階の自室に入る。クローゼットからシャツとズボンを引っ張りだし、着替える。

「よし、麗日さんが来る前に選択機に入れた制服干しておこう」

階段を降り、選択機の中から制服を出して、階段を上がり、ベランダの物干し竿に、ハンガーを通した制服をかける。

「あとは、外出分の所持金があるかを確認して、髪を整えてっと」

ブツブツ呟きながら、鞄から財布を取り出し、十分にお金があるのを確認し、洗面所で寝癖を直し、髪を整える。後は歯を磨いて、顔を洗う。そして、リビングに戻るタイミングでインターホンが鳴った。

「麗日さんだ」

緋奈は顔をタオルで拭き、玄関に向かう。靴を履いて、扉を開ける。と、予想通り、

「おはよう!緋奈ちゃん!」

満面な笑顔で挨拶する麗日が鞄を手に立っていた。

「うん、おはよう。 麗日さん」

と、扉を完全に開けて、挨拶する。その時、必然的に、固定されている左肩が見え、麗日の表情が曇る。

「その怪我、大丈夫?」

「これぐらいなんてことないって。それよりも珍しいね、麗日さんが僕の家に来るなんて」

「うん。 今日は学校休みだから、デク君達と遊びに行こうかなって思って」

「それで僕も誘おうかなって?」

表情を曇らせた状態で両指を絡めたり解いたりする麗日に、緋奈がそう尋ねる。それに対し、小さく頷く。

「・・・そっか。 じゃあちょっと待ってて」

「・・・え?」

「ちょうど、退屈だったから僕も行くよ」

緋奈はそう声をかけて、一度部屋に戻る。そして、リビングの電気を消し、財布と携帯、家の鍵をカバンに突っ込み、玄関に戻る。

「それじゃあ、行こっか。麗日さん」

「え、へ!?」

表情を暗くしていた麗日の手を掴み、緋奈は、集合場所の駅前に走り始めた。 

 

遊びは全力が大事

駅前。会社員や大学生が駅にぞろぞろと入ったり出ていく中、高校生男女合計10人だけは駅に入ることもなく、邪魔にならない付近にいた。

「よォ、桜兎。 怪我大丈夫か?」

「いきなり倒れて、心配したんですのよ」

「お前、マジやばかったからな!オールマイトが来てくれたから助かったけど、少しでも助けが遅かったらあのデカい(ヴィラン)にオイラ達殺されてたからな!?」

「結果、皆無事だったんだから桜兎を責めるのはやめなよ」

「耳郎ちゃんの言う通りよ、峰田ちゃん」

「そ、それに、桜兎君があの(ヴィラン)を足止めしてくれたおかげで、外部からの救援が間に合ったんだしさ!」

「そうだぜ、峰田! 俺はあの一発で両腕へし折られてダウンしちまったけど、緋奈が頑張ってる姿を見てた。 あれはマジで男らしくてかっこよかった!」

「うんうん! 緋奈ちゃんは頼りになるからね!」

「さっすが、緋奈ちゃん!」

と、麗日を除く全員が緋奈に各々言葉をかける。それに対し、困ったような笑みを浮かべる緋奈。

「そ、それよりもさ、早く遊びに行こうよ」

即座に話を切り替えて、上鳴達を促す。

「まぁ、それもそうだな。こっからはUSJの事なんて忘れて、楽しもうぜ!」

上鳴のハイテンションな声に、ハイテンションで返し、木椰区ショッピングモールへと向かうことにした。

『木椰区ショッピングモール』とは、いろんな人達の要望に対応できるように最先端の店舗や技術を兼ね備えた何でもござれの県内最大のショッピングモール。 10時頃という事もあり、多くの客が行き交っていた。

「お前ら、朝飯食ってきたか?」

先頭を歩く上鳴が顔を後ろに回して尋ねる。その問に対し、首肯したのは五名。横に振ったのは四名。

「それならちょうど良かった」

上鳴は、何故かガッツポーズをとり、スタスタと歩いていく。 緋奈達はとりあえずその後を追う。暫くすると、オシャレなカフェに辿り着いた。

「このカフェ、なんだけどよ。なんと言霊ヒーローのカグヤがおすすめしてるパンケーキが美味いらしいんだよ!」

「ええ!? あ、あの、カグヤが!?」

上鳴の言葉に、緑谷が驚く。その驚きは他のメンバーにも伝染した。ちなみに、緋奈にとっては驚くようなことでもない。むしろ、嫌悪感が募るだけだ。

カグヤこと、桜兎(さくらと) 言葉(ことは)は、人に対してあまり関心を持たずあまり笑顔を見せないプロヒーローと思われるが、実は大のスイーツ好きだ。特にパンケーキが大好物で、パンケーキ特集の番組には必ず出ているほどにパンケーキ好きなのだ。緋奈も昔は観ていたが、両親を嫌いになってからは観ていない。

「あんま驚かねえんだな、桜兎」

「あ、ううん! お、驚きすぎて顔に出なかっただけだよ!」

緋奈は慌てて言い訳する。

「んだよ、それ! 面白すぎだろ!」

上鳴はゲラゲラ笑って、緋奈の肩に腕を回した。

(合わせないと。 周りに)

緋奈は心の中で自分に何度も言い聞かせて、笑った。ヒーローが嫌いだと、ヒーローを志す上鳴達にバレてはいけない。この秘密は、卒業するまで隠し通さなければならない。卒業した後は、両親の元で働けばいい。相棒(サイドキック)も沢山いるって聞くし、自分の出番は来ないはずだ。

「んじゃ、入ろうぜ」

「こういったお店は初めてですので、ドキドキしますわ」

「あはは、そんな緊張しんでもええよ。八百万さん」

「プロヒーローおすすめって聞くと気になってくるな!」

「そ、そうだね、切島君!」

「けろっ。 久しぶりのパンケーキ楽しみだわ」

「まぁ、みんなが食べるなら」

「オイラも」

「お腹すいてきたー!」

「早く入ろー!」

口々にそんなことを言いながらカフェに入り、店員に案内された席に腰を下ろし、飲み物とパンケーキを頼む。因みにテーブルは二つ。

一つめのテーブルには、麗日、緋奈、八百万と向かいの席に、蛙吹、緑谷、切島。

二つめのテーブルには、峰田、上鳴と向かいの席に、芦戸、耳郎、葉隠。

「そうえば、桜兎」

「ん?どうしたの、上鳴君?」

「いや、何度見てもお前の両親がアトノアとカグヤなんて信じられなくてさ」

上鳴がそう答えると、緑谷と峰田が、

「やっぱりそうだったの!? 桜兎君!」

「そ、そんな話、オイラ聞いてねえぞ!? 桜兎!!」

各々の違う感想を大声で叫んだ。その後に、店員から注意され、峰田と緑谷は頭を下げた。

「っで、それ本当なのかよ? 桜兎」

「なんだ峰田、お前知らなかったのか?」

切島が首を傾げると、

「逆に何でお前らは知ってんだよ!!」

机を叩くブドウ頭。

「はぁ? てか俺達だけじゃないと思うぞ? それ知ってんの」

「そうよ、峰田ちゃん。 緋奈ちゃんのご両親の簡易的なプロフィールは、ヒーロー名鑑に載っているわ」

上鳴の言葉に、蛙吹が答える。確かにヒーロー名鑑には、緋奈のご両親が載っている。大半のプロヒーローは本名は載せたりしないのだが、あの二人は載せている。なぜそうしたのかよく分からないが、こちらに迷惑のかかるようなことはやめて欲しい。小中と友達や先生に『言霊ヒーローの息子』だと言われてきたからうんざりだ。

「ま、まぁ、隠すようなことでもないしね」

緋奈は、あはは、と笑う。

「どおりで個性が似ていると思ったんだ。でもアトノアとカグヤは、対象の操作で気絶することはない。多分、桜兎君はまだうまく制御できていないということ・・・ブツブツブツ」

「やめて、怖いわ。 緑谷ちゃん」

「ある意味、才能やね」

緑谷のブツブツモードに、蛙吹と麗日が言葉をかける。 それに緋奈達は同意するように、うんうん、と首を縦に振る。やがて、注文したパンケーキと飲み物が運ばれてきた。

「ほら、緑谷。 パンケーキ来たから食えって」

「ご、ごめん!」

ブツブツモードの緑谷の背中を切島が軽く叩いて、食うように促す。既に他のメンバーは食事を開始していた。

「んだこれ、クソうめぇ!!」

「さすが、プロヒーローおすすめのお店ですわね」

「けろっ♪」

「うんまーい!!」

「こんなうめえぇのかよ!このパンケーキ!!」

「なにこれ! 普通にうまい」

「こんな美味いパンケーキ初めて食べたよ」

メープルシロップたっぷりのパンケーキに、ホイップクリームをつけて口に含む度に、緋奈達は幸せそうな笑みを浮かべる。その後は、黙々とパンケーキを食していき、

「ふぅ〜、食った食ったぁ!」

「じゃあ、次行くか」

「うん、そうだね!」

お腹いっぱいになった緋奈達は、お会計を済ませてカフェを出る。

「なぁ、上鳴。 つぎどこ行くんだ?」

「あー、とりあえずゲーセン?」

切島に上鳴はそう答える。そして、ゲーセンまでの道先を、他愛のない会話をしながら歩くのだった。



ショッピングモール3Fのゲームセンター前。

「ここのゲーセン、リニューアルされてんじゃん!!」

上鳴が興奮したように、入口前の上に掛けられた『更に進化したNewゲームセンター!!』という看板を見て大声を上げた。かくいう、緋奈も興奮していた。というのも、彼は台のゲーム好きだ。家には昔のゲーム機から最新のゲーム機まで揃っている。どれもこれも親から貰った生活費とお年玉を貯めて買ったものだ。

「まずどれやるー?」

「そーだなぁ。全員でやれるもんっつうとなぁ」

「おい、お前ら! アレとかどうだ!? アレなら全員で出来るぞ!!」

ゲームセンター内で歩き回っていると、峰田が大声を張り上げて、とある場所を指差した。 緋奈達はそちらの方に視線を送ると、

「巨大な車?」

上鳴がそんな言葉を零した。確かに彼の言っている事は合っている。峰田が指差したゲーム機器は、巨大な車の窓やら扉などに真っ赤な血と手形の付着したデザインのホラー系VRゲームだ。

「ほら、ここに12人までOKって書いてあるしよ! やろうぜ、このゲーム!」

「いいけど、峰田は俺らと同じ席な」

一人鼻息荒く興奮している峰田に、切島が緑谷と自分を指さした後、そう言い放つ。その瞬間、

「何でカフェん時といい、ゲームといい、男同士で座んなきゃなんねえんだよ!? オイラだって、女の子の脇チラやへそチラ、うっかり見えるパンチラ、運がよけりゃあ、横ち--」

「それ以上はやめろ」

とんでもない変態発言をつらつら並べる峰田の頭を、切島が叩いて止めさせる。そして、

「ほら早くいこーぜ」

「あ、あぁ。 悪ぃな、緑谷」

「う、うん。 僕は気にしてないから大丈夫だよ」

切島は緑谷に謝って、ホラー系VRゲームの巨大な車に乗り込む。 席順は、

最前席を、切島、峰田、緑谷。

中央席に、上鳴、耳郎、芦戸、蛙吹。

後部座席に、八百万、緋奈、葉隠、麗日。

「くぅ!? 桜兎のクソリア充め!イケメンなんて滅びやがれ!!そうすれば必然的にオイラがイケメンになるのに!!」

「少しは黙ってろよ、お前」

「お、落ち着いて、峰田君」

最前席は落ち着きがなく、

「ちょーやべぇ! ホラゲとかぜってぇおもし--ちょ、待っ!? 耳郎! おまっ、つねんなって! いた、いただだ!?」

「う、うるさい! い、イヤフォン目にぶっ刺すよ!?」

「響香ちゃん、怖いの苦手ー?」

「落ちいて、耳郎ちゃん」

中央席は、上鳴がホラゲが終わるまで生きているか心配で、

「怖いのは苦手ですが、ヒーローたるもの幽霊程度に恐怖してはいけませんわ」

「ワクワクドキドキ!!」

「うー! 早く始まんないかなー!」

「う、うち、怖いの苦手」

温度差の激しい後部座席。


ホラー系VRゲーム『ゾントピア』。 巨大な車のデザインをしたボックスの中で、それぞれの席にあるVRゴーグルを利用して行う大人気ゲームだ。 タイトルが変なのは気にしない様にしている。ストーリー設定は、『プレイヤーが探検家となり、『理想郷』と呼ばれる廃都市に突如現れた化物の謎を解く』というものだ。 人数分の百円玉を入れる事でプレイができる。

「全員、お金入れたか?」

最前席の切島が後ろを振り返り尋ねる。

「ちょっと待ってくれ。 ほら、さっさと金入れろって、耳郎!」

「う、うるさい! バカ! ちょ、か、勝手に手を動かさないでよ!? い、いや、まっ--」

投入口にお金を入れたくない耳郎に殴られながら、上鳴は無理矢理、手を動かし投入口に金を入れ、強引にVRゴーグルをかけさせた。

「よ、よし。 俺らはもう準備おっけーだ」

「そ、そうか」

「さりげなく腕を触るなんて羨ましすぎんだろ!? オイラなんて、オイラなんて・・・どう頑張ってもむさ苦しい男どもの腕しか触れねえんだぞ!!」

「いちいち叫ぶな、峰田」

上鳴と耳郎の取っ組み合いに食いつく峰田の頭をチョップして黙らせる切島。 そんな騒がしい最前席と中央席と違い、後部座席では、

「明かりが欲しいですわ」

「真っ暗ってどいう言うこと!?」

「真っ暗だー!」

「まだ真っ暗やん」

既にVRゴーグルをかけて準備万端の緋奈達。最前席と中央席に座る切島達はそんな彼らを見て、なんというか申し訳ない気持ちになり、無言でVRゴーグルをかけ、最前席に設置されている視点変更と移動操作と選択を押すためのコントローラーを真ん中の峰田が掴み、スタートのボタンを押した。

そして、短めのオープニングが流れた後に、ゲームが始まった。

廃都市の中を自由に歩き回ることが出来、時折、謎かけがあり、それを解くことでこの先に進むのに役立つアイテムを獲得することが出来る。

「おお! アイテム落ちてんぞ!!」

「おい、峰田。 拾ってみろよ!」

切島と上鳴に促され、峰田は、コントローラーを使って床に落ちているアイテムを拾う。なんかテッテレテーとか変なBGMが流れた後に、視界にアイテムの詳細と名前が現れた。

『錆びたピッケル』・・・一回使用したら壊れる。 ダメージ1を与える。


「・・・雑魚じゃねえか!?」

「あわっ、お、落ち着いて、峰田君! ああーっ!?」

コントローラーを使って、錆びたピッケルをぶん投げた峰田に、緑谷が、何でそんなことを、みたいな声を上げた。と暫くして、飛んでいった錆びたピッケルの方向から、獣の唸るような声が響いてきた。

「な、何かこ、声、聞こえない?」

「いっ、痛い痛い! つねんな!」

「大丈夫よ。 落ちいて、耳郎ちゃん」

「犬でしょうか?」

「いやいや、あれは狼だね」

「そ、そんな冷静に声当てようとしなくていいから!?」

耳郎に二の腕をつねられる上鳴と、それを宥める蛙吹、冷静な態度で獣の唸り声が何なのかを当てようとする八百万と緋奈、そんな二人にツッコミを入れる麗日。

「ね、ねぇ。 これ逃げたほうが--」

「何言ってんだよ、緑谷! 男なら立ち向かうべき場面だろ!! って事で進め、峰田!」

「うっせえんだよ、ムサいがぐり!? オイラは逃げるぞ! わざわざ死ににいく馬鹿と心中なんてごめんじゃボケが!?」

「誰が、ムサいがぐりだ!? ド変態ブドウ頭!?」

切島と峰田は罵倒しながらコントローラーをガチャガチャと動かす。 それに伴い、視点が色んなところに移動して気持ち悪くなってくる。特に緋奈はすぐに酔うため、絶賛、青ざめた表情をしていた。

「あっ、ちょ。 まじ・・・吐きそう」

「お、お二人共! コントローラーを離してください!」

「ひ、緋奈ちゃんが吐いちゃうよ!?」

「ひ、緋奈ちゃん、大丈夫!?」

その二人の声にいち早く反応した緑谷が

「切島君! 峰田君! 落ち着いて!!」

二人に向かって大声を張り上げた。

「あ、あぁ。 悪ぃ、つい熱くなっちまった」

「んだよ、緑谷。オイラの邪魔すん--」

「落ち着け、峰田」

クールダウンした切島と違いヒートアップ状態の峰田を黙らせるために、上鳴が頭を叩いた。 そして視点が戻り、吐き気が回復した緋奈は八百万の肩に頭を預けて休憩していた。

「おっし。 気を取り直してすす--」

切島がそう言ってコントローラーを握り、背後を振り返った瞬間、

『GU...GURRRRRUUUAAAAA--』

頭に錆びたピッケルが突き刺さり、腐った肉に包まれた屍人が、涎だらだらのギザギザの牙を光らせて、獣の唸るような声を上げていた。しかも超至近距離。

「い、いやあああぁぁぁぁああああ!!」

「ぐえっ!? ちょ、首しまっ--」

「お、落ちいて、耳郎ちゃん!?」

世界の終わりのような悲鳴を上げた耳郎に首をホールドされる上鳴を助けようと、止めに入る芦戸。 因みにその混沌は後部座席でも起こっていた。

「あ、あんなおぞましいもの、は、初めて見ましたわ」

「むぐっ!? んっ、んんッ!? 」

「・・・ひゃんっ!? ひ、緋奈ちゃん!?」

「もう、うち無理」

怯える八百万に正面から抱きしめられ顔が胸に埋まり悶える緋奈と、その緋奈の動かす手が運悪く胸に触れ声を上げる葉隠、そして顔を真っ青にした麗日。 どちらかと言うと混沌いうより楽園かもしれないが、緋奈にとっては混沌に近い。

結局、屍人に殺され、ゲームオーバーで、幕を閉じた。

「あー、まじビビったな、最後!」

「し、死ぬかと思った」

「はぁ・・・はぁ・・・」

「意外と怖かったわ」

各々感想を零しながら、ゲーセンを出る。

「んじゃ、疲れたし解散にするか?」

「うん、そうしよっか。 明日から学校だしね」

上鳴の解散に同意する。

「じゃ、俺はこっちだから」

「俺達はこっちだから、ここで解散だな」

「オイラも」

「僕も」

切島、上鳴、峰田、緑谷はそう言って、帰っていく。途中まで同じ帰り道の、緋奈、八百万、芦戸、葉隠、麗日も、楽しく話をしながら家に帰るのだった。 

 

迫る雄英体育祭!!

臨時休校を終えた翌日の朝。 USJ事件の事を頭の片隅から放り出した緋奈は、いつも通りの雰囲気と態度で、女子メンバーと共に下駄箱で靴を履き替え、廊下を歩いていた。

「昨日は楽しかったねー」

「ええ、有意義な時間でしたわ」

「またみんなで行けたらええね」

「今度は怖いのがない所にね」

新しく登校&下校メンバーに加入した耳郎の言葉に、緋奈達は癒しを得た。

「響香ちゃんって、ロックな感じで怖いもの知らず、なんて思ってたけど、ホラー苦手なんて、予想外すぎて可愛い!!」

「私も緋奈ちゃんと同じよ」

「私もー!!」

「耳郎ちゃん、可愛い!!」

緋奈の言葉に、蛙吹、芦戸、葉隠が同意する。

「か、かわい・・・」

皆に可愛いと言われ、耳郎は顔だけでなく、耳まで真っ赤になった。ましてや、男に可愛いと言われたのは初めてだ。

「べ、別に嬉しくないし」

顔を背け、耳郎は呟く。 ただ、その行動と態度が照れ隠しなのは確かめなくても理解出来た緋奈と八百万を除く女性陣がニヤニヤと笑っていた。

暫くして、1-Aの教室前に辿り着き、扉を開ければ、(ヴィラン)連合の襲撃を切り抜けたクラスメイト達が出迎えてくれる。 ただ、誰一人、(ヴィラン)の恐怖に怯え、ヒーローを辞めるという生徒は存在しなかった。

「やあ、おはよう! 緋奈君、それに皆も!」

電車ごっこでもしてたの?という感じに腕を曲げた飯田が挨拶してきた。

「う、うん。 おはよう、飯田君」

そう挨拶を返すと、

「もう肩の怪我は大丈夫なのかい?」

固定器具を外している緋奈に飯田が尋ねてくる。

「うん、もう大丈夫だよ。 リカバリーガールに1日安静にしてれば治るって言われたからね」

と、左肩を回して、完治アピールする緋奈。 その姿に、納得した飯田は、自分が救援を呼ぶのが遅かった点について謝罪をした。 どうやら、ほかの生徒達にもこうやって謝罪していたらしい。 流石は真面目委員長。 こういう人間が、プロで活躍するのだろうと、緋奈は思った。

「まぁ、怪我したのは僕が油断した結果だし、飯田君はあの黒霧って(ヴィラン)から逃れて救援に行ってくれたわけだしね。だから、謝らないでよ」

「しかし、俺は--」

「そういうのいいって。 別に誰も君に対して怒る人はいないと思うよ?」

緋奈がそう言うと、

「そうだよ、飯田君! 緋奈ちゃんの言う通り!」

「そうだよ、委員長!!」

「ああ、そうだぜ、飯田!!」

「お前が呼びに行っていなかったら、俺達は全滅していた」

飯田をUSJから外へと生かせるために黒霧相手に奮闘した麗日達が賞賛の声を上げた。それに対し、号泣し始める飯田。 と、背後の扉が開き、

「おい、お前ら。 席につけ」

相澤の声が聞こえた。緋奈達はその声にゴクリと唾を飲み込み、脱兎のごとく駆け、席へと着席する。が、号泣中の飯田は相澤に気づいていないらしく、自分の世界に浸っていた。

「おい、飯田。 顔洗ってこい」

「すみません」

相澤に肩を叩かれ気づいた飯田は、言われた通りにトイレへと向かった。それから数分して、飯田が教室に戻り、席に座る。 そして周囲をぐるりと見渡し、欠席者がいないのを確認して、

「全員、出席しているみたいだな」

出席簿を机に置いて告げた。

「相澤せんせーい! その包帯ぐるぐるは重体じゃないですか?」

気になって仕方のなかった緋奈は、我慢出来ず、手を挙げて尋ねる。その行動に、クラスメイト達は、驚いていた。 それもそのはず。 クラスメイト達は聞いていいのか?分からなかったから言葉にしなかったのだ。

「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

「戦い?」

「まさか……」

「まだ敵が―――!!?」

「1抜けた」

意味深な匂いを漂わせる発言に、誰もが『戦い』とは何を意味するのか思慮を巡らし、ある者は怯え、ある者はやる気満々の態度をとる。 それと違い緋奈はと言うと、怯えるわけでもやる気を出すわけでもなく、誰よりも早く離脱する意思の言葉を告げた。

そんな空気の中、相澤が続けた言葉は―――。

「雄英体育祭が迫っている!」

『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』

「・・・?」

誰もが大声をあげる中、体育祭ぐらいで盛り上がる状況に理解出来ず、緋奈は首を傾げる。昔から体育祭は嫌いなのだ。 別に運動音痴なわけでも協力するのが苦手な訳では無い。ただ、足が速いからってリレー選手に勝手にされ、スタミナがあるからって2回走れと言われ、断れば、のけ者扱い。そういう謎ルールが大嫌いなのだ。

「各自、体育祭に向けて準備しておけ」

相澤はそう言い残して、教室を出ていった。



形骸化したオリンピックに代わり、現在日本のオリンピックの代わりともなっているのが、この雄英高校で開かれる雄英体育祭。 数多のプロヒーローがスカウト目的で訪れるこの体育祭は、生徒にとっては相棒(サイドキック)候補にしてもらえる可能性の高い催しだ。 チャンスは一年に一回。 この一回を棒に振るか、振らないかで卒業後の未来が決まる。誰もが、そのビッグチャンスを勝ち取るためにやる気に満ち溢れる中、緋奈はというと、午前中の授業を全て睡眠に費やし、気づけば昼休みになっていた。

「みんな〜!昼ごはんたーべよ!」

机をドッキングしている八百万、耳郎、葉隠、蛙吹、芦戸に声をかけると共に、自身の机をドッキングする緋奈。 勿論、八百万の隣という安定ポジションに。

「んじゃ、食べようか」

緋奈はそう言って弁当箱を開ける。すると、

「うわっ、あんたの弁当凄いね」

「ねぇねぇ、私にこの卵焼きちょーだーい!!」

弁当箱の中身を見て、耳郎と葉隠が大声をあげた。

「相変わらず、緋奈さんのお弁当は美味しそうですわね」

「ホントだよねー! しかも弁当作ってるのが、お母さんじゃなくて緋奈ちゃんなんだもんねー!!」

「意外な特技ね、緋奈ちゃん」

八百万、芦戸、蛙吹は、葉隠に誘導してもらいながら、彼女の口へと卵焼きを運んでいく緋奈に賞賛の声を上げる。

「もうちょい下。 そうそう、そこ!」

やがて、葉隠の静止の声がしたタイミングで、卵焼きを掴む箸を止める。そして、卵焼きが消える。

「そう? 昔から料理は好きだったから、そう褒められると照れちゃうよ」

もぐもぐと白米を頬張りながら、頬を赤くする緋奈。

「話は変わるけど、体育祭ってそんな盛り上がるもの?」

その質問に、八百万達は驚いた。

(・・・変な事言ったかなぁ、僕)

雄英体育祭について多少は知っている。両親の出ていた雄英体育祭の映像を見せられたことがある。 ただ、両親に関するヒーロー事情は忘れるようにしていたため、うろ覚えでしかなく、というか、その映像を見てテンションが上がった記憶が無い。

「盛り上がるに決まってんじゃん! プロが私たちを見てんだよ!? どうかしてんじゃないの、あんた!」

「おかしいですわね? 昔は一緒に見ていたじゃありませんか」

耳郎が大声を上げ、八百万が小首を傾げた。

「しっかし珍しいもんだねー。雄英体育祭で盛り上がらないなんて」

「緋奈ちゃんは、ヒーローになりたいんちゃうの?」

芦戸の言葉に頷いて、麗日が疑問を投げかける。 緋奈にとっては答えずらい疑問。

『ヒーローになんてならないよ』

そう言えれば楽なのに。言ってしまったら、この関係が終わる気がして。だから--

「勿論、なりたいよ。 昔、僕を助けてくれたヒーローの様に凄い人になりたいからね」

嘘と真実を入り混ぜて答える。ヒーローに助けられた事と尊敬していた事は真実で、ヒーローになりたいのは嘘。

「ならない、って言われたらどういう反応したらいいのか分からんかったよ」

安堵の溜息をついた麗日は笑った。緋奈もそれにならって、微笑んだ。嘘をつくのは本当に疲れる。でも、雄英体育祭で恥をかけば、プロにスカウトされることもないはずだから、必然的にヒーローの道は閉ざされる筈だ。

(・・・個性使わずにやればいいや)

緋奈がやる気ゼロ宣言を胸中で呟いたタイミングで、カバンに入れていた携帯が振動した。どうやら、電源を消すのを忘れていたらしい。

「それにしても、こんな時間に誰が・・・?」

鞄から携帯を取り出し、画面をつける。すると、そこには、

『お母さん:雄英体育祭で優勝しなさい。私達も見に行くから、恥をかかせないで』

『お父さん:母さんに言われたから、仕方なく見に行くがお前には期待していない』

両親からの圧力の言葉が送られてきていた。その内容は、親が息子に投げかけるような言葉ではない。

(息子にかける言葉がそれかよ)

緋奈は携帯の画面を消し、懐に押し込んだ。しかし、また携帯が振動する。

(・・・またか)

胸中でイラッとしながら、携帯を取り出し、画面をつける。 だが、今度は母でも父でもなく、

『お義姉ちゃん』

しかも着信だ。

「ちょっと、ごめん!」

緋奈はすぐに、席を立ち上がりトイレへ駆け込む。個室に入り、通話ボタンを押す。と、

『もしもし、緋奈ちゃん?』

若い女性の声が聞こえた。 数年ぶりに聞いた義姉の声。いつも優しくて、自分を愛してくれた唯一の家族とも言える存在。緋奈は嬉しくて、声音が上がっているのだろうが、本人は気づいていない。

「うん、緋奈だよ。 久しぶり、お義姉ちゃん」

『久しぶりね。 遅くなったけど、雄英合格おめでとう、緋奈ちゃん』

その言葉は、両親から言われても嬉しくなかったのに、義姉に言われると嬉しくてたまらなかった。

「これぐらい余裕だって、お義姉ちゃん!」

『うふふ。 昔より成長したね。 お義姉ちゃん鼻が高い!』

と嬉しそうに声を上げる義姉。 緋奈は、相変わらずの義姉の声と態度に、クスっ、と笑う。それが聞こえたのか、

『あ。 今、緋奈ちゃん、お義姉ちゃんのこと笑ったでしょ?』

と、恐らくムスッとした表情を浮かべているであろう状態の義姉が訴えてきた。

「ごめん、お義姉ちゃん。 久しぶりに声が聞こえたから嬉しくて、つい・・・」

『ジョーダンよ、ジョーダン♪ お義姉ちゃんが一度でも、緋奈ちゃんを怒ったことがある?』

「ううん、無いよ。 もう、怖がらせないでよ、お義姉ちゃん!」

『うふふ、ごめんなさいね。 それより、雄英って体育祭が始まる時期でしょう?』

と、義姉が話を切り替える。

「うん、そうだけど」

『その日はちょうど休みがとれたから、家族みんなで応援に行くね、緋奈ちゃん』

義姉のいう家族とは、結婚した旦那と娘二人の事だ。初めて会うからドキドキする。

『それじゃあ、雄英体育祭の時に会うの楽しみにしてるね。 バイバイ、緋奈ちゃん』

「う、うん! またね、お義姉ちゃん」

その言葉を最後に通話が切れる。 緋奈は携帯の電源を消し、懐に押し込んだ。そして、用をたした後、手を洗い、教室に戻る。と共に、

「皆! 雄英体育祭、僕は優勝します!」

クラスメイト達に向かってそう宣言した。 

 

開幕!! 雄英体育祭!!

クラスメイトに優勝宣言してから二日が経った放課後。緋奈は珍しく一人で雄英にあるトレーニングルームにいた。というのも、今回の体育祭は全員がライバルだからだ。

「よし、やりますか!」

更衣室で、ジャージに着替え軽く準備した後、携帯に書き記してあるトレーニングメニューに目を通す。

「えーと、まずは個性の弱点が何のかを探すことから始めようかな」

まずは、『自然干渉』。 『風』に干渉する。 持続時間は5分。 威力の調整は問題なし。

「けど、使用時は無防備になる、か」

個性を消して、緋奈は呟いた。

「次は『具現化』を試そう」

頭の中で『木刀』を思い浮かべ、『具現化』させる。作製時間は5秒。強度も構造も完璧。 軽く振ったり、壁に叩きつけても、折れたり消えたりしない。

「『具現化』は問題無しっと」

木刀を壁に立てかけて、緋奈は呟く。

「あとは『対象の操作』だけど、今はやめとこう。それに、体育祭という舞台で試したいこともあるしね」

緋奈はウンウンと一人納得する。

「さて、弱点となると、個性無視の殴り合いかな。 正直、個性頼りも限界がある。普段は、近づかずに敵の動きを封じる方法で戦ってきたから、爆豪くんや出久君みたいな近接特化型にはキツいんだよなぁ。 近づかれたら、ワンパンされちゃうね」

緋奈にとって一番の弱点は『近接』。 彼の個性、『言霊』は中遠距離を保って戦う事で本来の力を発揮する。 その為、爆豪や出久、切島のような近接向き個性の相手は天敵となる。だからこそ、近づかせないようにしているわけなのだが、戦闘センスが高い者には無駄なことだ。 多少の時間稼ぎにしかならず、『言霊』にも欠点はある。 頭痛というデメリット。 毎5回に頭痛が起こるのは不便といえば不便だ。

だが、今回の雄英体育祭は個性と個性のぶつかり合い。全員が敵で味方はゼロ。それに、万が一、一対一のトーナメント戦などがあったら、嫌でも近接戦闘になる可能性が高い。

『個性』発動ですぐ終わればありがたいのだが、そうそう上手くいかないことぐらい、馬鹿でもわかる。

「仕方ない。本当は嫌だけど、父さんと母さんの戦闘スタイルでも真似するかな」

緋奈は心底嫌そうに呟いて、動画サイトで、両親が(ヴィラン)と戦っている映像を見ることにした。暫くして、動画を見終えた緋奈は、

「ちぇ。両親としては最悪だけど、戦闘スタイルや個性の使い方は凄いとしか言いようがない」

悔しげに呟く。

「うっし。 動画チェックで見た事だし、早速練習と行こうかな!」

ゴキゴキと拳を鳴らした後、大きく伸びをして、緋奈は近接戦闘の練習を始めた。



雄英生徒達が各々体育祭に向けて個性を鍛えたり、肉体を鍛えたりと鍛錬を重ねる日々はあっという間にすぎて、

雄英高校にあるいくつもある大きな行事(イベント)の一つ、

雄英体育祭が幕を開けた!



満点の青空の下。広大な敷地には数多くの露店も立ち並び、数々のヒーローグッズ等も販売されているが、ここに訪れる者達は、いずれこの露店の商品棚にも並ぶほどのトップヒーローの原石が現れることを期待している。

そんな体育祭だが、今回は前回と違い警備の数が5倍になった。本来なら中止すべきかもしれないが、ヒーローの卵達がプロにスカウトされるかもしれない大チャンスを潰すことは出来ない。雄英の講師陣も苦渋の決断だったはずだ。

警備には、教師であるオールマイトを含めたNo.2ヒーローから、若手のヒーロー達があたっている。

更には、入場検査も前回より厳重になっており、マスコミの行列が出来ていた。 その光景に、

「久しぶりに雄英来たけど、私達の時よりも厳重になってるみたいね」

「ああ、そうみたいだ。まぁ、俺達には関係の無い事だ」

警備の仕事で雄英に来ていた言霊ヒーローのアトノアとカグヤは周囲を警戒しながら歩いていた。 どこもかしこもお祭り騒ぎで心底不快になる二人。

この二人、目立つ仕事に付いていながら、目立つのが大嫌いである。アトノアの方は外面を良くすることは可能だが、カグヤの方は人に関心を持たないため、興味ないことには全く興味なしという態度をとる。

「今回の体育祭で緋奈はトップとれるかしらね」

「知らん。 緋奈の事はお前に任せると言ったはずだ。俺はあいつがどうなろうと興味はない」

「心配しなくていいわね。私達の息子なんだから一位は当たり前よね。できないならその程度の子だったって訳だし」

「そういう事だ。 行くぞ、言葉(ことは)

と、息子に全く興味を持たないアトノアと、期待しているというより1位をとるのが当たり前だと思い込んでいるカグヤは、見回りに戻っていった。



一年A組の更衣室。 誰しもが、やる気と緊張が入り交じった面持ちの中、そこに緋奈の姿はない。

「皆!準備は出来てるか!?もうじき入場--ん? 緋奈君の姿がないが、どこに行ったんだ?」

「アイツなら、もうそろ帰ってくんじゃねえの?」

扉を勢いよく開けて入ってきた委員長の飯田に、上鳴がそう答える。

「帰ってくる? それはどこから?」

「トイレから」

「トイレか。 先程も行ってなかったか?」

「あー、あいつ、緊張で腹が痛いんだと」

「一応聞くが俺がここにいない数分の間、緋奈君は何度トイレに行ったか分かるかい?」

飯田がそう一応と、尋ねる。 というのも、彼がいる時にも緋奈はトイレに行っている。しかも、5回ほど。 オマケに、3分に1回はトイレに行くという負のスパイラルに陥っていた。 一応、腹痛の薬は飲んでいたが、全く効果はなかった。

「今で10回目だな」

「そんなに!? それでは身がもたないではないか!!」

上鳴の言葉に、飯田は驚く。と、そのタイミングで、ガチャ、と扉が開き、生気を感じさせない顔色の緋奈が更衣室に入ってきた。ヨボヨボのお爺さんかと思わせるほどに、両足を震わせ、お腹を押さえながら。

「緋奈君! お腹まだ痛いのかい?」

独特な手の動きを混じえながら飯田が心配そうに尋ねてくる。 それに対し、

「う、うん。 もち、だいじょ・・・うぷっ!?」

もう大丈夫だとアピールしようとしたら、今度は気持ち悪くなり吐きそうになる。どうやら、緊張が最大許容量を超えたらしい。

「ちょ、ちょっと悪いんだけど・・・僕の鞄から酔い止めの薬と水を持ってきてくれる?」

「あ、ああ! 任せてくれ」

飯田は即座に、緋奈の鞄を漁り、酔い止めの薬と水のペットボトルを取り出し、手渡してくれる。

「んはー! これでなんとかなる!」

酔い止めの薬をの水で流し込んだ緋奈は、先程までの様子が嘘かのように元気ハツラツになる。

「では、緋奈君も元気になった事だし、会場へ向かおう!」

飯田の指示にA組生徒達は素直に従い、会場へと向かった。



体育祭で最も注目の的となる学年はと問われれば、大抵はラストチャンスに懸ける熱と経験値からなる戦略等で『三年』という答えが多いのであるが、今年は違った。
 本来、もっと先に味わう敵という恐怖を覚え、それでも尚―――否、だからこそヒーローになるべく乗り越えてきたクラスが居る学年。
 
 場所は一年ステージ。
 
 例年以上に活気に溢れる観客席は、彼らの登場を今や今やと待ちかねている。
 
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
 
 一年ステージの実況を務めるプレゼント・マイクが、普段より五割増のテンションでマイク目がけて声を発した。流石、教師兼プロヒーローであるにも拘わらず、毎週金曜深夜一時から五時までぶっ続けでラジオをしているだけの声量はある。
 彼の煽りを受けて盛り上がる観客。
 
 そして、轟く歓声に迎え入れられながら入場してくるのは、
 
『ヒーロー科!! 一年!!! A組だろぉぉ!!?』

一斉に湧き上がる歓声に、A組の面々はそれぞれ違った反応を見せる。 その中で緋奈はというと、

「はぅ!? 気持ち悪いのと腹痛のダブルコンボが来た・・・」

「今回は吐くなよ、桜兎。俺達が恥ずかしいからよ」

緋奈の隣を歩く上鳴がそう忠告するが、

「と言われても、吐きたいものは仕方な・・・う・・・おぇぇぇぇ!!」

「うわぁぁぁああああ!?」

返事を返すタイミングで思い切り、リバースする。耐えきれないものは仕方ない。 その後、開会式が始まる前、雄英講師のセメントスに直してもらい、綺麗な床に元通りとなったという話を小耳に挟み、申し訳なく思った緋奈。

そして、表彰式。

朝礼台には、ボンテージにタイツの18禁ヒーロー、ミッドナイト。

「18禁なのに高校に居てもいいものか」

「いい」

「今更じゃない?」

「静かにしなさい!!」

ざわめく生徒たちを静かにするべく、右手に携えていた鞭を撓らせるミッドナイト。
 
「選手代表!! 1-A、桜兎 緋奈!!」
 
 すると、静かになったのを見測らい、ミッドナイトが宣誓を行う生徒の名を声高々に呼んだ。

「やっぱり、緋奈かぁ。 残念だったな、爆豪!」

「うるせぇ!ぶっ殺すぞ、クソ髪!!」

「二人とも静かにしたまえ!緋奈の折角の晴れ舞台なんだぞ! 少しは応援したり・・・って、緋奈君!? 顔色が前よりひどいぞ!」

「あー、うん。平気平気。 できるだけ、汚さないようにするから」

口元を押さえながら、諦めモード全開の緋奈。 彼の背を見送りながら小さな声で呟くA組の面々は、得も言えない不安が胸の内に込み上げてくる。
 なんだか嫌な予感がする―――誰もがそう思っていたのだ。

「宣誓、我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々と全力を出し切って戦う事を誓います。 選手代表、桜兎 ひ・・・おぇぇぇぇ!!」

最後まで言えると思った矢先、本日二度目のキラキラを床にぶちまけた。因みにミッドナイトはというと、即座に退避していた。 流石はプロヒーロー。

「おい、あいつ本当に(ヴィラン)の襲撃から逃れたのかよ?」

「ハッ、どうせ隠れてたんだろ。 震えながらよ(笑)」

「んだよそれ、A組ってそんなやつもいんのかよ! 全国に吐いてるところ、見られてるなんてネタかよ!! まじ笑えるわ!」

他のクラスの人たちが好き勝手に、緋奈をからかう。 それに対し本人はというと、気にした様子もなく、自分のクラスへと戻って言った。 その後、本日二度目のセメントスの個性で朝礼台を綺麗にしてもらい、ミッドナイトが再び立つ。

「さっきは些細なアクシデントがあったけど、これからが雄英体育祭本番よ!気を引き締めていきなさい!」

と告げ、鞭を床に叩きつける。それにより、弛んでいた雰囲気がガラッと変わった。

「じゃあ、競技の発表をするわよ! 第1種目は--」

ミッドナイトの声に合わせて、電子掲示板が起動し、デカデカと競技名が映し出される。

「『障害物競走』!! 計11クラスの総当りレースよ!コースは、スタジアムから外周約4km!!」

ミッドナイトが興奮した様子で話を続ける。

「我が校は自由が売り文句! ウフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

それで説明が終わり、生徒達はスタート位置に立つ。 計11クラスということもあり、人混みがすごい。要するにもみくちゃ状態だ。

「まぁ、僕には関係ないけど」

すべてを吐き出してスッキリ状態の緋奈は、完全復活した様子で、声を張り上げた。

そして--全クラスが準備した後、

「スタート!!!!」

ミッドナイトの合図と共に、地面が一斉に凍りつき、

「がぶっ!?」

緋奈は情けない声を上げ、盛大にこけた。
 

 

一位を狙え! 障害物競争!!

スタートの合図が鳴り響いた後、凍りついた地面に足をとられ、何人もの競技者達がコケる中、流石はA組というべきか、あらかじめこうなることも想定していたようで、易々と氷の床を突破していくクラスメイト達。

『おおっと! 流石はA組だァ!! 次々と脱落していく中でA組のヤツらがどんどんと突破し--』

「痛かっんだけど! ねえ、酷くないですか!? 謝ってよ! 轟君!」

実況するプレゼント・マイクの声が一瞬止まった。 というのも、鼻血をダラダラと垂れ流しながら、鬼のような表情を浮かべた緋奈が、ただでさえ滑る氷の床を全力疾走する姿を目にしたからだ。しかも、個性を使っていないというのに、爆破を利用する爆豪を追い抜き、轟と並走している。

『さぁ、謝って!! 怪我させてすみませんって! 君が謝るまで僕は君から離れないからね!!」

「--転んだのはお前の不注意だろ、桜兎」

大声を張り上げる緋奈に、冷静な返しをする轟。

「オイラを忘れてもらっちゃ困るぜ! 轟に、リア充ハーレム野郎!!」

と、背後から峰田が自身の頭のブドウを投げる構えをしながら叫ぶ声が聞こえた。 それに対し、

「今君に構ってるほど暇じゃないんだよ!!ブドウもぎとるよ!?」

とブチギレる緋奈が後ろを振り返った瞬間、

「グレーp・・・!?」

峰田が突然現れたロボによって吹き飛ばされた。

「ホワイッ!?」

思わず英語になってしまうほどに驚いた。

『さぁ、いきなり障害物だ!! まずは手始め・・・ 第一関門【ロボ・インフェルノ】!!」

プレゼント・マイクがハイテンションで実況する。 だが、競技者達はテンションだだ下がりだ。第一関門から0p(ヴィラン)は鬼畜すぎる。

「一般入試用の仮装敵ってやつか」

「んなのいいから、謝ってよ!! ねぇ!!」

競技者達が大量の0p敵に驚く中、緋奈は相変わらず轟に謝罪を求めていた。そんな彼に対し、

「そこあぶねえぞ、桜兎」

轟は忠告し、自身の個性を発動する。

「・・・え?」

忠告を受けた緋奈は、寒気を感じ右に飛んだ。途端、緋奈が先程までいた場所に0p敵の装甲で包まれた拳が振り下ろされていた。

「いたたた・・・擦りむいちゃった。クソっ、さすがの僕も怒ったぞ!」

ガバッと起き上がり、個性を発動しようとするが、それより先に轟の個性が0p敵を氷結で氷漬けにしていた。それによって生み出された細道を行こうとする他クラスの生徒達だが、

「やめとけ。 不安定な体勢ん時に凍らしたから・・・倒れるぞ」

という言葉通り、0p敵が倒れふした。そんな派手なことをすれば、観客が盛り上がるのは当たり前。

『1-A 轟!! 攻略と妨害を1度に! こいつぁシヴィー!! すげぇな!! 1抜けだ! あれだな、もうなんか・・・ズリぃな!!』

『馬鹿、よく見ろ。一抜けは緋奈だ』

『は? いやいや、一位はとどろ・・・ってマジで桜兎だァァァ!! え、何、なんでアイツ羽生えてんの? ってか(はえ)ぇぇ!!』

相澤の声に、プレゼント・マイクがカメラで捉えた光景を見て叫んだ。それは無理もない。現在の緋奈は、背中から翼を生やし、全身に風を纏っている状態だ。風の放出を調整し、加速しているのだ。

「ハッハッハ!! 轟君が謝らないってなら、一位とって土下座しろって命令してやる!!」

やけくそ気味に叫びながら、くだらないことを決意する緋奈は、ドンドンと轟達を突き放していく。 暫く飛んでいると、風の効果が消え、加速が止まる。

「・・・もう一度『風』使お」

再び個性を使用し、加速する。因みに、

『第二関門【ザ・フォール】・・!! まさかの完・全・無・視!? フライのままゴーイングなんてありかよ!? 見せ場見せてくれよ、ボーイ!!』

プレゼント・マイクがそんなことを嘆いているが、緋奈にとってはどうでもいい。 勝てればそれでいい。観客が盛り上がらないって?知りませんよ、そんな事。

「結局、結果が全て!!」

『確かにそうだけどォオ!? せっかくの体育祭なんだしよ、少しは楽しもーぜ、ボーイ!!』

なんか可哀想に思えてきてしまった。 やれやれ、と緋奈は溜息をつき、

「ここ抜けたら、降りますよ」

第二関門はそのままスルーする。そして、突破した後、地面に降りる。もちろん、翼は消していない。

「んじゃ、ここから走ろうかな」

緋奈がそう言って走り始めると、

「待ちやがれぇぇぇ! 白黒野郎!!」

「追いついたぞ、桜兎」

背後から爆豪と轟の声が聞こえた。どうやら、緋奈が飛んでいる間に、少し遅れて第二関門に挑んでいたらしい。

「待ってって言われて待つ人いないから!!って爆豪君怖いんだけど!?」

ヒィー!と悲鳴をあげながら、風を足に纏わせ、駆けていく緋奈。 その後ろを爆豪達が追いかけてくる。

「あーもう! 来ないでよ!」

と、緋奈が風を足裏から放出、空に向かって飛んだ瞬間、地面が爆発した。灰色の煙が黙々と立ち込める。その現象に、爆豪達は一瞬、驚く。 そんな彼らに説明するように、

『早くも最終関門!! かくしてその実態は--・・・一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!っていうか、まぁた空飛んだなぁ!ボーイ!!』

プレゼント・マイクが緋奈に向かって、話が違うじゃんと叫んでくる。 しかし、仕方ない。アクシデントだから、仕方がない。

「だから行かせねぇって言ってんだろうがっ! 白黒野郎!!」

「逃がすか!」

爆破を利用して緋奈の隣まで飛んできた爆豪と、真下で氷の床を作り走る轟が同時に叫んだ。

「ちょ、翼もごうとしないで!? これ、痛いんだからね!?」

「黙ってろ! 怪我なんかァ、後でリカバリーガールにでも治しといてもらえや!?」

「そういう問題じゃないんだってえの!!」

翼をむしり取ろうとする爆豪の手を引き剥がそうとする緋奈。 上空での攻防戦。両者1歩も引かない掴み合い。 それは、爆豪でも緋奈でもない第三者により終了する。 突如、女樹に落下していく二人と走る轟の上に影が差した。

「あァ?」

「へ?」

「・・・っ?」

緋奈と爆豪、轟がその影を視線で追うと、そこには、仮想敵の装甲に腹を乗せて前へと飛んでいく緑谷の姿があった。 それに即座に反応したのは、彼の幼馴染、爆豪だ。

「デクぁ!! 俺の前を行くんじゃねえ!!」

緋奈の翼から手を離し、爆破で加速し、緑谷に迫る。もちろん、緋奈と轟も緑谷をやることは同じだ。

『元・先頭の三人、足の引っ張り合いを止め、緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば、人は争いをやめる!! 争いはなくならないがな!!』

『何言ってんだ、お前』

プレゼント・マイクがハイテンションで実況する。 それに対して、相変わらず相澤は冷静だ。

「お前にだけは前は行かせえねぇ!!」

「行かせないよ、出久君!!」

「悪ぃな、緑谷」

抜かれた三人は全速力で緑谷を追いかける。それに対し、緑谷は、

(くっそ! 抜かれる! だけど、この一瞬のチャンス!! 掴んで離すな! 追い越し無理なら--抜かれちゃダメだ!!)

そう胸中で決意し、装甲を地雷めがけて振り下ろした。刹那、大量の地雷が起動し、爆発した。 それに伴い、爆豪、轟、緋奈が衝撃に巻き込まれ、緑谷は前に吹き飛ぶ。これにより、現在一位は緑谷。数分遅れて、地雷の爆発から難を脱した緋奈はすぐに緑谷を追いかけようとするが、時すでに遅し。

『さァさァ、序盤の展開から誰が予想できた!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男は--緑谷出久の存在を!!』

緑谷の1位が決まってしまった。

「あぁもう!! 爆豪君と轟君のせいで!」

緋奈はイライラしながら、全力疾走して、ゴールに駆け込み、その数秒後に爆豪、轟という順にゴールにした。

そして、その後もぞろぞろと生徒達が帰ってきて、第一種目は終わりを告げた。 

 

第2種目 『騎馬戦』 開始前

「さーて第二種目よ!! 私はもう知ってるけど~~~……何かしら!?」
 
 彼女の背後のモニターからドラムロールのような音を鳴ったかと思えば、『騎馬戦』の文字が表示された。

「…騎馬戦。サボっていいかなぁ」

「緋奈さん、何言ってますの。そんなこと無理に決まってますわ」

「…だよね〜。 はぁ…」

ぽそりと呟いた言葉に、隣に立っている八百万が答える。ご最もすぎて、緋奈はがくりと肩を落とす。そんな彼の態度を気にも止めずか、そもそも気づいてないかのどちらかだろうが、ミッドナイトは説明を続ける。

「参加者は2人から4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じだけど、一つ違うのが先程の結果にしたがい各自にポイントが振り当てられる事!!」

ミッドナイトは、背後にあるモニターを指す。すると、オールマイトを担ぐプレゼントマイクと13号、スナイプの図が映し出された。

「与えられるポイントは下から5つずつ!そして、1位に与えられるポイントは--1000万!!」


「いっ!?」

一位の保持ポイントを聞いた生徒達の中、障害物競走で一位を獲得した出久が1番の驚きをみせる。そして、それと共に全生徒(緋奈を除く)が最優先目標を出久へと補足された。

「そう……この騎馬戦は上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバル!! 上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞ、Plus Ultra!」

「…一位が1000万。らしいけど、2位は200pt。え?これ、全くサボれなくない??」

緋奈はミッドナイトの説明に更に肩を落とす。その後も色々と騎馬戦の説明がされていたが、直視したくもない現実を叩きつけられた彼にその説明は何ひとつ聞こえていない。その間にも説明が続いていき、気づけば終わっていた。

「サボれない…サボれない…サボれない…サボれない…ブツブツブツブツ」

ミッドナイトの説明が終わってもなお、と言うよりもそもそも説明を途中から聞いてない為、ブツブツと同じことばかりを呟く緋奈。そしてそんな彼以外の周囲の生徒達はどんどんと騎馬戦のチームを組んでいく。何度も言うが話を聞いてない以上、チーム決めもくそもない。ましてや、ずっと一人でブツブツと呟いていれば不気味すぎて好き好んで誰かが近づいてくるわけが無い。それでも寄ってくる者は物好きか、彼の知り合い位だろう。

「--さん。--奈さん」

「サボれない…サボれない…サボれない…サボれない…ブツブツ」

「緋奈さん!聞こえてますか?!」

「サボフェア!?」

大きな声に意識を強制的に引っ張られて、緋奈はビックリした声を上げる。

「あ、え…。 や、八百万?」

「もう!やっと気づきましたの! それで、どうしますの?」

プリプリと頬を膨らまして怒る八百万に質問されるが、緋奈は何のことかわからず首を傾げる。その様子に、何となくわかってましたわ、と額に手を当てる八百万。そして、ビシッと人差し指を緋奈に向けて、

「1度しか言いませんから、ちゃんと聞いてください!いいですわね? 緋奈さん」

そう圧をかける。それに対し、緋奈は首を縦にブンブンと振った。

「では、説明しますわ」

八百万はそう言って説明を始めた。

制限時間が15分。騎手はそのチームの合計ポイントの表示されたハチマキを着けてそれを奪い合う。
 0ポイントでもアウトにはならないらしいので、かなりの混戦が予想できる。
 個性もありらしいが、あくまでも騎馬戦なので悪質な崩し目的なのは一発退場。

「とまぁ、こんな感じですわ。ちゃんと覚えましたか? 緋奈さん」

「要するに、適度にハチマキとって適度にサボればいいってことだね!!」

「ひ、緋奈さん!サボるのはダメですわ!プロの方々が見てますのよ!」

凄い圧をかけられた。と緋奈は引きつった笑みを浮かべる。

「ま、まぁ、ルールはなんとなーく把握したし、強個性持ち艦隊(サボれる)編成作らなきゃっと」

「ひぃなぁさぁん? 注意した傍から本音が隠しきれてないですわ?」

「…さ、さー!気を取り直してサボれ…じゃなくて、1位取れる仲間を探すぞ〜!! って事で、一人目は八百万!! あ〜と〜は〜、あの二人でいいや」

「あ、へ? わ、私もですの?」

「はいはい、驚いてないで、さっさとあの二人を迎えに行くよ〜ん♪」

ワタワタとしてるのがめちゃくちゃ可愛い八百万の背を押しながら、緋奈はこのチームに必須な二人を勧誘しに向かった。