人徳?いいえモフ徳です。


 

一匹め

 
前書き
オリジナルじゃおらぁー。 

 
「えー。天草四郎というのは江戸時代初期のキリシタンでー。
島原の乱のー。最高指導者でしてー」

土曜補習、しかも歴史の授業。

ただただひたすら眠い。

だが、今は補習六コマ目。

しかももう少しで終わる…

きーんこーんかーんこーん…

うっし!

「おや…時間ですか。ふむ…今日はここまで」

学級委員長が号令をかけ、補習が終わる。

「おーい不知火。カラオケ行こうぜー」

友人の長門に声をかけられた。

「悪いな長門。今日は水泳のレッスンがあるんだ」

子供の時から続けてもう十年になる。

「あー…土曜日か…」

「おう…」

くぁ…とあくびが出てしまう。

「なんだ眠いのか?」

「うん…最近夜に眠れないんだ…
今朝だって4時まで起きてたし…」

本当に何故だろうか。

近頃夜は眠くないし昼は眠いし…

「4時ぃ!?」

「叫ぶな頭にひびく…」

「おまえな…そんなだから高校生にもなって身長が130しかないんだぞ」

「余計なお世話だ」

まったく人が気にしている事を…

「眠れなくなったのはつい最近だよ」

「どれくらいだ?」

どれくらい…?

あぁ、そう言えば、あのあまり眠れなくなった夜は月が綺麗だった…

「今日が満月だから…つい一月前からだ」

「ふーん…病院行った方がいいんじゃないか?」

「考えとく…」

長門は他の奴を誘ってカラオケに行った。

俺も学校を出て近くの市営プールへ向かう。

エントランスの受付のおばさんに会員カードを渡す。

カウンターに背が届かない…

「おばさん、カード」

「あら不知火ちゃん。ちっちゃくて気付かなかったわぁ…」

にゃろう…

「あらあらごめんなさいね」

更衣室に向かって、水着を引っ張り出す。

ロッカーに鞄を突っ込み、水着を着ていると、後から入ってきたおじさんに声をかけられた。

「うん?坊や、お父さんはどうしたんだい?」

「これから水泳のレッスンです」

「おぉ!偉いねぇ」

うぜぇ…

ロッカーの鍵を閉め、プールサイドに出る。

「コーチ。きたよ」

プールサイドで監視員をしていたコーチに声をかける。

「不知火か。アップしといてくれ」

そういってレッスンメニューを渡された。

「ん。わかった」

準備体操をして、プールに入る。

温水プールなので寒くはない。

「んん…? 体が重い…?」

なんとなくだけど、何時もより体が動かしにくかった。

寝不足のせいだ…。

だるいけど、がんばるか…












寝不足のせいか何時も以上にきつかったレッスンを終え、帰路につく。

「あ"あ"あ"…つかれた…」

やっぱりちゃんと寝ないとな…

でも何故か最近夜になるとテンション上がるんだよな…

そのせいで眠れないし…

くそっ…睡眠薬でも処方してもらおうかな…

ふと上を見ると、未だ低いながらも月が昇っていた。

満月だ。

「綺麗な満月だなぁ」

ふと呟いたこと。

「ええ、そうね。堕ちた聖人の末裔さん」

「!?」

後ろから声が聞こえ、振り返った。

「今晩は。天草不知火くん」

女だった。

黒いスーツに身をつつみ、その手には長い棒を持っている。

「うーん。『天草』に『不知火』かぁ。
出来すぎな名前だねぇ」

おっとりとした声。

「その身長から考えて先祖返りかな?
はー。吸血なしでもここまで大きくなるんだねー…」

女は左手に持った棒に右手を添えた。

「だ、誰だよあんた?」

「んー?私?」

刹那。女が右手を振り抜いた。

月明かりに照らされて、何かが煌めいたような気がした。

「私は陰陽師さ。君に恨みはないけど、仕事なんだ。
ごめんね吸血鬼君」

急に体から力が抜けた。

熱い。

体がとてつもなく熱い。

「流石は不知火検校の末裔。聖剣でも滅っせないとは」

熱い…でも、寒い…

「かわいそうに、下手に力があるから苦しむんだね」

心臓が…寒い…冷たい…

「一思いに殺ってあげよう」

足音が、聞こえる。

見上げる満月をバックに、さっきの女が俺を覗き込んでいた。

その手に握られていたのは、刀だった。

「君の来世が人外じゃないことを願っているよ」

女が、その刀を、振り下ろした。
 
 

 
後書き
前にビショップ(ハーメルンで活動中のリアルでの友人)に頼まれてファンタジー用に作った設定の使い回しです。 

 

二匹め

その世界は異質だった。

まず球形でない。

否。天球の中の杯。

その杯には水が注がれ、その上に環状の大地が浮かんでいた。

環状世界フローティア。

円環の女神サークリオンの造り出した世界。

その管理者スペース……通称神域。

「おや…おやおや」

女神サークリオンは自らが作り上げた世界に異物が紛れ込んだのを察知した。

「ふむ…ゴースト…いや魂だけですか」

今にも壊れそうな、否壊れかけた魂。

サークリオンは手を伸ばし、その魂を神域に掬い上げた。

「ふむ。この魂のパターンはヤハウェの所の子供ですね。
それも吸血鬼ですかぁ…」

ヤハウェは道を外れた子供を救済しない。

「おやまぁ、なんとも…覚醒前に殺されるとは運がない」

手の上にのせた魂は今もなお壊れつつある。

「ヤハウェの円環から弾かれたのですね…」

それは円環の女神たるサークリオンからすれば許しがたい事である。

その怒りがむく先は迷い混んだ魂ではない。

かの神の暴虐に怒っているのだ。

全知全能や愛を謳いながら、自分に背いた物を悪と断じる悪辣の神に。

「いいでしょう。私の世界に迷い混んだ以上この子は私の子です」

サークリオンはその壊れかけた魂を修復し、近く生まれてくる赤子に宿らせる事にした。

「おや…? あの子は…」

サークリオンが下界に目を向けたとき、ちょうど一人の女が見えた。

ピンととがった耳、ふさふさの一本の尻尾。

「あの子はたしか…彼女の…」

サークリオンはほんの数千年前の事を思い出す。

その時も魂が迷い込んできていた。

そしてその魂を自らの円環へと受け入れ…

サークリオンはその女を見つめた。

その魂の半分は、やはりサークリオンが転生させた者から分け与えられた物だ。

「タマモの娘…彼女なら…」

サークリオンの手の中の魂が泡に包まれる。

女神はその泡をそっと、下界へ落とした。












フライハイト王国、その王都の一等地。

そこでは赤子の鳴き声が響いていた。

大きな屋敷の中の一室で新たな命が生まれたのだ。

小さく儚いその命は大声で泣き、その存在を世界に知らしめる。

「シェルム。お前の子供だ」

九つの尾をもつ女が赤子を抱いている女へ声をかけた。

女にも耳と尻尾があるがその身長は一本だけだ。

言うまでもなく、彼女の腕の中の赤子にも狐の耳と尻尾がある。

「はい…。お母様」

九尾を母と呼んだ女の名はシェルム・フォン・シュリッセル。

この国の宮廷魔術師を率いる魔術師。

この国の国防の要であり魔法学の権威だ。

「シェルム。ところでお前の夫は何をしておるのだ?」

対する九尾の名はタマモ。

中国皇帝をたらしこみ、日ノ本へ渡り殺生石として封印された白面金毛九尾乃前…玉藻御前そのものである。

「ブライは、国王陛下の命にて邪龍討伐に赴いております」

「ちっ…あの小童あとで絞める」

なお国王はすでに60を迎えようとしている。

それを小童呼ばわりできる玉藻の年はもう本人ですら覚えていない。

「では円環の儀式といこうか」

円環の儀式とは生まれたばかりの赤子に名を与え、ステータスプレートを作ることだ。

その時に円環の女神サークリオンの加護が与えられる故に円環の儀式と呼ばれる。

「シェルム。この子の名は?」

「シラヌイ」

「ほう『不知火』か。懐かしい響きだ。
それに、相応しき名でもある。
まぁよい。シラヌイじゃな?」

タマモが赤子を受け取り、魔方陣の上に置く。

その額に空白のステータスプレートを置き…

「神よ。新たなる生を円環へ受け入れ給へ。
かの名はシラヌイ。円環の加護を新な子に与え給へ」

ステータスプレートが発光し、文字が浮かび上がる。

名 シラヌイ・シュリッセル
性別 男
種族 ルナール
年齢 0
クラス 未定
level 1
スキル エナジードレイン 円環の祝福
リインカーネイター(封印)

それを見たタマモは、クスリと笑った。

「よもや…儂を除いてサークリオンに会った魂がおるとはのぅ…
して封印という事はまだ目覚めておらぬのか」

「お母様?」

「なんでもない」





シェルムは出産の疲れで眠っている。

その傍らでタマモはシラヌイを抱いていた。

「シラヌイ」

「あー?うー?」

「儂の言葉がわかるか?」

「うー?」

「だめか…まぁよい」

タマモがシラヌイの額に指を当てた。

「魂橋」

タマモの意識が落ちる。落ちる。落ちる。

そうして、タマモは真っ白い空間に立っていた。

その空間には、一本の木がはえている。

その木だけは幹は茶色く、葉は青く、色があった。

そして、その木には一人の人間が埋め込まれていた。

小さな男児で、その目は閉じられている。

「シラヌイ。聞こえておるかの?」

だが、木と同化した男の子は起きない、答えない、眼をあけない。

タマモがその木の周りをぐるりと一周する。

「ん?なんじゃこれは?」

幹に、文字が書いてあった。

不知火の反対側の幹だった。

その文字はタマモが現在生きている世界の文字ではなかった。

漢字。彼女の前世の世界の文字だった。

『タマモへ。貴女の事です、きっとここに来ていることでしょう。
彼は吸血鬼の幼子でしたが、目覚める前に殺められ、ヤハウェの救済を受けずにフローティアにやってきました。
その精神を修復し、貴女の娘の子供に宿らせました。
諸々の理由で現在は眠らせています。
五歳になったら目覚めるはずですから、その時には彼にいろいろ説明してあげてください。
サークリオンより
追伸。食べちゃダメですよ?』

「くく…サークリオンらしいのぅ…。
まぁよい。主神様の言い付け。
守るしかあるまいな」

タマモはその意識をシラヌイの中から引き上げた。

「さて、五年後が楽しみじゃのぅ…」
 

 

三匹め

「………知ってる天井だ」

「おお!起きたか!この日を待っておったぞシラヌイ!」

ベッドの脇には、ピンと立った狐耳ともっふもふの九本のしっぽを持った幼女がたっている。

「お婆様…俺…僕…おれ…は…」

「案ずるな全て知っておる。お主が転生者という事も、その他も」

「あの、その、えっと…記憶が混乱してるんで、説明していただけないでしょうか…」

「うむ!よいぞ!」

お婆様が言うには、『俺』は殺されてこっちの世界に来たらしい。

━━最期の記憶は殺された所だ━━

そして、この世界の神様が『俺』の記憶を封印し、五歳になった今日その封印が解かれたのだという。

「ところで、ここ五年間の記憶はちゃんとあるかのぅ?」

「はい…しっかりと」

この世界は円環の女神サークリオンが作った世界であり、ここは環状世界フローティアという。

僕のお母様はシェルムで宮廷魔術師。

お父様の名前はブライで王国の騎士。

お婆様はこの国の相談役。

そして僕の名前はシラヌイ。

偶然か必然か前世の『俺』の名と同じだ。

「ならば問題はあるまい!
さぁ!今日はお主の誕生日パーティー故急ぐのじゃ!」

神様。目の前に居るのじゃロリ狐娘のテンションについていけません。

ひるふぇ…。








お主の事はシェルムとブライには黙っておいてやろう!くははははははは!

と高笑いしながら、タマモはシラヌイの手を引いて食堂へ向かう。

タマモはシラヌイよりは背が高いが、それでも小さい部類だ。

「なんじゃキョロキョロしおって。記憶はあるのじゃろう?」

「無茶を言わないでくださいお婆様。記憶が統合されたとはいえ、僕…いえ、『俺』がこの世界を直に見るのは初めてなんですから」

「そういう物かのぅ?」

「ええ…そういう物です…」

「あとその話し方はどうにかならんのか?
すぐにバレてしまうぞ?」

「そう…ですね…」

「さっきから元気ないのぅ?」

「そりゃ…!そりゃ殺されて目が覚めたら異世界で…!なんかよくわかんない記憶があるんですよ…!」

シラヌイは今にも泣きそうな、否、泣きながら叫んだ。

「まぁ、そう悲観するでない。お主は生きておる、それでよいではないか」

「僕は…まだそこまで割りきれません…」

タマモがシラヌイを抱き寄せた。

「その内慣れよう。案ずるな、何かあれば、儂が話を聞いてやる」

「はい…お婆様…」






タマモが食堂のドアを開けた。

「シラヌイを連れてきたぞ!」

「あらあら、シラヌイはお寝坊さんね」

「そう言うてやるなシェルムよ。どうも夢見が悪かったらしくての、ちと儂があやしておったのだ」

「何!大丈夫かシラヌイ!怖い夢を見たのか!?」

「ブライ、落ち着いてください。メイドが笑っていますよ」

食堂にはシェルムとブライ…シラヌイの今生の両親が先に座っていた。

シェルムは腰まで伸ばした金髪に狐耳、一本の尻尾、スタイルは抜群で金の目はたれ目で柔らかな印象だ。

ブライは金髪でイケメンだが、どちらかと言えば童顔。

それもそのはずでブライの耳は細く尖っている。

「お父様。ご心配をおかけしました」

「いや、かまわん!子を心配するのが親の務めだからな!」

「貴方は心配しすぎなんですよブライ」

なおブライは親バカである。

「シラヌイ。早くお座りなさい。朝ごはんですよ」

「はい。お母様」

シラヌイが席に座ると執事が朝食を用意した。

シラヌイがサンドイッチをもきゅもきゅしているのを、シェルム、ブライ、タマモが温かく見守っていた。

「ぅゆ?」

「なんでもありませんよシラヌイ」

「ぅゆ!」

シラヌイが食べ終わるとシェルムがシラヌイに尋ねた。

「シラヌイ、誕生日プレゼントは何がほしいですか?」

つい昨日まで魔法を教えてほしくてウズウズしていたなぁ、とシラヌイは思い出した。

「魔法を教えてほしいです」

「……………」

「……………」

シェルムとブライが黙り込む。

「どうされました?」

「うーむ…魔法か…」

「どうしましょうか…」

「?」

シラヌイが首を傾げていると、タマモが説明した。

「魔法は危険じゃからのぅ…」

「ですがお婆様」

「わかっておるよ」

タマモが二人をみて、言った。

「やらせてみれば良かろう。危険なら、止めれば良いだけじゃ」

「そう…ですね」

「安心しろシラヌイ!お前は俺とシェルムの息子だ!きっと偉大な大魔導師になれるぞ!」

「ブライ…落ち着いてください」

「そうだなぁ、まずは基本の属性魔法を、次は…中級の前に初級魔法の応用を…」

「落ち着けと行っているのです!」

シェルムがティーポッドから角砂糖を取りだしブライの額へ弾いた。

「へぎゅっ!?」

ブライは仰け反った勢いで椅子ごと後ろに倒れ……頭を打って気絶した。

「シラヌイ。今日は私の仕事場においでなさい」

シェルムは宮廷魔術師である。

と、なればその仕事場とは勿論王宮である。

「そうじゃの。儂も久々にアル坊に会いにいくかの」

シェルムとタマモが席を立ち、シラヌイを連れて退出する。

「お父様は?」

「放って置けば眼を醒ましますよ。ブライは熱くなるとああですから」

「しかし遅刻させる訳にもいくまい?」

「それもそうですね…クリエイト・アクア」

シェルムが倒れたブライに手を向けると、少量の水が精製され、ブライの顔に落ちた。

「うをぉぉぉぉ!?冷たっ!?」

ブライが飛び起き、テーブルに頭をぶつける音を聞きながら、シラヌイは食堂を後にした。

 

 

四匹め

「シラヌイよ。これをどう思う」

「すごく…大きいです」

僕はいま王宮に来ていた。

「お早うございます!宮廷魔術師筆頭殿!
王宮付き相談役殿!」

門を潜ろうとすると衛兵がお母様とお婆様に挨拶をした。

「おお!ひさしいのぅ!なんじゃいお主未だに門番なんぞやっとるのか?」

「いえ、案外楽しい物ですよ。給料もいいですしね。
ところでそちらはもしや…」

衛兵が僕の方に眼をむけた。

「ええ、私とブライの息子です」

「これはこれは…」

「ほれ挨拶せぃ」

お婆様が僕に目配せした。

「はじめまして。僕の名前はシラヌイです」

「はじめまして。俺はレオン。見ての通りこの城の衛兵だ」

レオンはつり目で強面の男だった。

衛兵らしいといえば衛兵らしい。

「レオ坊。多分シラヌイはこの城に度々来るであろうから、頼むぞ」

「相談役の言い付けとあらば。
よろしくなシラヌイ!俺の事ぁ呼び捨てでいいぜ!」

「わかったよレオン」

「では、いきましょうか」

「じゃあね、レオン!」

「おう!」

side out









王宮を歩くシラヌイは興味の視線にさらされていた。

特にメイド達からだ。

ピンと立った狐耳。

もふもふの尻尾。

母親譲りのたれ目。

キョロキョロと辺りを見回す仕草。

そして時折こてんと首を傾げる。

「かっ…かわいい!持ってかえりたい…!」

「やめときなって。あれ宮廷魔術師筆頭様の息子よ?」

「えぇー…お話くらい…」

「宮廷魔術師筆頭様の夫は王都第三師団隊長よ?従来貴族じゃぁないけど、手を出したら王室付暗殺者が動きかねないわぁ…」

「大丈夫。たまたま出会って話すくらいならね!」

「一応いっておくけどあの隣に居るの王宮付き相談役だからね?あの二人が居ない時になさいよ?」

「まずは…餌付けよね…」

「もう好きになさいよ…」






side in

お母様が宮廷魔術師として与えられている部屋に来た。

「シラヌイ、私は少し用事があります。
一時間程で戻るので本を読んで待っていてください」

「わかりましたお母様」

お母様に渡されたのは、『猫でもわかる魔法基礎』という本だった。

あの、僕は狐なんですが…。

お母様が退室してすぐにお婆様も出ていった。

王様に会いに行くらしい。

なので僕はソファーに座って本を読む事にした。

『魔法を扱うには、まずこの世界の仕組みをしるべきである。
はじめに、物が燃えるとは、物質の中の燃素が』

読むのをやめた。爆笑した。

「燃素!マジかよ!この世界フロギストン説で科学してんのかよ!あっはっはっはっはっは!腹いてぇ!」

成る程この世界には酸素説がないのか。

まぁ、フロギストン説も科学的根拠が無い訳じゃぁない。

事実フロギストン説で酸化還元反応は説明できる。

爆笑してても始まらないのでパラパラと読み進めると、この本はほとんどが簡単な化学と物理(中世くらい)の内容だった。

この世界は科学が十分に発達していない。

代わりに魔法で代用しているようだ。

とは言え化学は中世レベルには至っているらしい。

錬金術のおかげだろう。

そうして、本当に後半の方に魔法を発動させる方法があった。

『この世のすべての人間は魔力を持っている。
魔力は物理的なエネルギーを持つのでそのまま打ち出す事も可能である。
そして、魔力は魔法を発動させる対価でもあり、魔力を消費しながら事象を想像すれば、簡単な事象ならば起こす事ができる。
そしてその事象をより詳しく想像することで、魔力の消費は押さえられる。
反対に漠然としたイメージでは、魔力の消費が大きくなる。
呪文は初級魔法では無くてもよい。
無くてもよいがあった方がイメージしやすいので、自分が事象をイメージしやすい呪文を考えるのが良い』

成る程だから化学と物理の知識が要るのか…

でもこのレベルの科学知識じゃぁ魔力めっちゃ持っていかれると思うけど…

『つまり、初級魔法は想像すればできる!
さぁこの本を読んでいる子猫ちゃん達!
レッツトライ!』

「この本の作者頭沸いてるんじゃ無いのか?」

『ブライ・フォン・シュリッセル著』

「俺は何にも見てない。断じてお父様の名前なんて見ていない…」

『猫でもわかる魔法基礎』を隣におく。

「水を想像する…クリエイトアクア!」

ばっしゃぁん!

「…………………」

成功した。成功してしまった。

ただし、ソファー周りがびちゃびちゃ…

「………ぃやらかしたぁぁぁぁ!?」
 
 

 
後書き
先週の土日、進研マーク模試。
今日、GTEC。明日、県下一斉模試。
ぅわーいやすみなしでしかもらいしゅうからてすときかんだうれしーなー(錯乱)。 

 

五匹め

「ありがとうございます。ルルさん」

黒髪黒目のメイドさんにお礼を言う。

「いえいえ。これがメイドの仕事ですから!」

あの後、ソファー周りをびちゃびちゃにしてしまった僕は雑巾を探していた。

その途中で王宮付きメイドのルルさんと会って、掃除を手伝って貰っていたのだ。

「ところでシラヌイ君。どうしてこんな事に?」

「えっと…」

辛うじて濡れなかった『猫でもわかる魔法基礎』を見せた。

「魔法を試したらこうなっちゃいました…」

するとルルさんがまぁ!と手を叩いた。

「シラヌイ君は魔法が使えるんですね!」

「ルルさんは?」

「私は使えないんですよねぇ…」

「魔法って誰でも使えるんじゃないんですか?」

「うーん…魔力はあるから魔力弾は打てるんだけど、どうも魔法の仕組みがねぇ…」

ふーん…

「シラヌイ君はその本の内容わかるの?」

「わかりますけど…この本所々まちがってるんです」

「ふーん…難しい事はわかんないや」

あ、そう…

「ねぇねぇシラヌイ君。ちょっとお庭に行ってみない?」

「庭?」

「お庭なら魔法の練習できるよ?」

「わかった!行く!」

side out












王宮内庭(修練場)

学校のグラウンドのような場所に、シラヌイとルルは来ていた。

「クリエイトウィンド!」

シラヌイの手のひらの上に小さな竜巻が生まれた。

それは無論シラヌイが竜巻をイメージしたからだ。

「エアブレイド!」

シラヌイは鎌鼬をイメージした。

すると風の刃が地面に傷を着けた。

「クリエイトファイア!」

シラヌイの手の上に焔の球が生まれ、それを投げると地面が僅かにこげた。

「わぁ!すごいですねシラヌイ君!」

「え?いやぁ…あはは…」

「他には何かできますか?」

「うーん…クリエイトアクア」

シラヌイの手の上に、水球ができる。

本来クリエイトアクアは水球を生む魔法だ。

しかし先ほどシラヌイは成功した驚きで制御を手放してしまったのだ。

「シェイプシフト」

水球がシラヌイのイメージ通りに形を変えた。

「鳩…ですか?」

「うん!鳩!」

水は鳩の形を取っていた。

「なかなか疲れるけど、面白いかも…」

「でもその鳩さんって水だから持てませんねぇ…」

「凍らせてみようかな…」

「えぇ!?氷結魔法は中級魔法ですよ!?」

氷結魔法が中級魔法である所以は、この世界では『凍る』事の理論がないからだ。

ただ漠然と『凍る』事をイメージするのでは、必要な魔力が大きくなってしまう。

だが、もし『凍る』事を理解していたら?

「フェイズトランストゥソリッド!」

ピキッ!と音をたて、水の鳩は氷の鳩と化した。

氷結とは即ち水の状態変化。

そして固体化するには、冷却すればよい。

冷却するには、分子運動を抑制すればよい。

シラヌイは、それを知っていた。

「すごいですよシラヌイ君!」

「あ…でもめちゃめちゃ冷たい…」

「あそこの木陰にでも置いておきましょうか」

「うん」

シラヌイは庭の木の根元に氷の鳩を置いた。

「すごいですねぇシラヌイ君はぁ~」

「あはは…」

そしてシラヌイとルルが木陰のベンチに腰をおろした。

「んー…土いけるかな…」

シラヌイは手の上に土を想像した。

「クリエイトソイル!」

が、何も起きなかった。

「うーん…やっぱり無理かぁ…」

「どうしたんですかシラヌイ君?」

「土は作れないみたいです」

「魔法を勉強し始めた初日で中級魔法を使えれば十分ですよ」

シラヌイが地面に手をぺたっと着けた。

「物質創造は無理……物質変換…いけるか…いや…危ないか…」

ぶつぶつと何かを呟くシラヌイをルルは不思議そうに見ていた。

「シラヌイ君?」

「いや…まずは…
クリエイトソイルキューブ」

土が盛り上がり、キューブが生まれた。

それを手に取ったシラヌイは満足げだった。

「クリエイトソイルスフィア」

土でできた真球。完全な真球をシラヌイは作って見せた。

シラヌイがイメージしたのは『真球の定義』である。

即ち、『三次元空間で原点から等しい軌跡の集合体』。

「なるほど…定義想像でここまで行けるか…」

シラヌイは四つん這いになって辺りからあるものを探し始めた。

「シラヌイ君?なにしてるんですかぁ?」

「石英をさがしてる」

「せきえー?」

「ちょっと待っててルルさん」

シラヌイは片手いっぱいの石英を探し出した。

再びルルの隣に座った。

「砂利…ですか?」

「うん。ちょっと試したいんですよ」

片手に砂利…石英を乗せたシラヌイは、呪文を口にした。

「リゾルブクォーツ!クリエイトクリスタル!」

シラヌイの手の中で石英が砕け、一瞬にして集束した。

そして、手の中には真球水晶が乗っていた。

「ぐっ…結構…持って…いかれた…」

シラヌイは何かがごっそり抜け落ちた事を感じ、それが魔力だと悟った。

「三…いや…四割くらいか…」

息が上がっているシラヌイに、ルルが心配そうに尋ねた。

「大丈夫ですかシラヌイ君?」

「大丈夫…なんとも…ないよ…」

そしてシラヌイは、真球水晶を掲げた。

「魔法ってすごいなぁ…」

「それ、もしかしてガラスですか?」

ルルが真球を指差して言った。

「ガラス?いいや、ガラスじゃないよ。
これは水晶。さっきの砂利からつくったんだ!」

シラヌイが褒めて褒めて!と水晶をルルに見せた。

「水晶…って宝石!?」

「そう!宝石!砂利から宝石が創れちゃうんだ!皆には内緒だよ!」

「はぁ~…キレイですねぇ…」

「よかったらルルさんにあげるよ!」

「へ?」

「掃除手伝って貰ったお礼だよ」

「も、貰えないよ!」

「いいよ。どうせタダだし」

ルルがシラヌイに水晶を返そうとすると、シラヌイがそれを止めた。

「いいって」

「でも…いくらタダでもシラヌイ君は疲れてますし…」

「だから掃除のお礼だよ。僕一人だったら、この水晶を創るより疲れてただろうからね」

「………なら…貰っておきます」

「うん!」

シラヌイのニコッとした笑みに、ルルは顔を赤く染めた。
 
 

 
後書き
休日登校なう。 

 

六匹め

「うにぃぃ~…」

「はぅあぁ!?」

水晶を作って疲れたシラヌイに、ルルは膝枕をしていた。

(やばい!なにこの子可愛いすぎる!)

頭をそっと撫でてやると気持ちよさそうに鳴くのだ。

「ふみゅぅ…」

「はぁ…この子大人になったら絶対女泣かせになるわね…」

いっそ唾付けとこうかしら、とルルが呟いた。

だが、その幸せな時間は長くは続かなかった。

「おい。そこのメイド」

「は、はい!」

ルルが顔をあげると、そこには小肥りの男がいた。

「だ、ダマオ様…」

その男の名前はダマオ。この国の第一王子だった。

「おい、お前。俺様の相手をしろ」

「へ?」

「聞こえなかったのか?俺とヤれ」

「えと…」

「早く来い!」

ダマオの大声で、シラヌイが眼を醒ました。

「うみゅ?」

「おい女ぁ!いいから来い!」

ダマオがルルの手を取り、無理やり引っ張った。

「ふみゅっ!?」

その勢いでシラヌイがベンチから落ちた。

「し、シラヌイ君!」

「みゅぅ…いてて…ん?ルルさんこれどんな状況?」

「えと…」

「おいガキ、俺様は今からこの女としっぽりヤッてくるんだ。お前はそこで寝てろ」

シラヌイはどういう状況か、ざっくりと理解した。

「やめろよ。ルルさんが嫌がってるだろう」

「あん?ガキぃ…俺様が誰だかわかってんのかぁ?」

「知らん。だがただひとつわかるののは、女性と無理やり行為に及ぼうとしているクズだって事だ!」

思春期の若い正義感が、シラヌイの口を動かす。

「お前がなんて知らねぇよ!でもそんな事して恥ずかしくないのかよ!
王宮に居るってんならお前は王族貴族だろうが!だったら女を無理やり抱くなんてダサい事すんじゃねぇよ!」

「ガキ…お前どうやら死にてぇらしいな…」

ダマオがルルの手を放した。

「いいぜぇ…なら決闘しようぜクソガキ!
てめえが勝てばこの女を好きにしろ!俺が勝ったらこの女を犯す!」

「わかった…負けても泣くなよクズ男」

「勝負は十分後にここだ。魔法だろうが剣だろうが持ってこい!お前に扱えるならな!」

ぎゃははははは!と笑いながらダマオは去っていった。

「面倒だな…取り敢えずシバくか…」

「あ、あのぅ…シラヌイ君?」

「どしたの?」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

ルルと話ながら、シラヌイは勝つ方法を考えていた。

シラヌイに使えるのは初級魔法だけ。

それでいかにして勝つかを、考えていた。

「シラヌイ君…あの人が誰だかわかってる?」

「知らなくていい。シバき倒したあと本人から聞く」

(あ、これ言わない方がいいかな…)

「ルルさんは知ってるの?」

「一応知ってるけど…」

「あの人魔法使える?」

「使えない」

「はい。勝ち決定」

シラヌイは勝つ方法を決めた。















十分後

「よう!逃げずにきたなぁ動物風情が!」

庭にダマオが入ってきた。

フルプレートメイルに長剣を腰に帯びている。

「こっちのセリフだ!俺たちはずっとここにいたぜ。
ぞろぞろとお仲間を連れてきたお前と違ってな!」

ダマオは十数人の男達を連れてきた。

全員が悪どい笑みを浮かべていた。

「へへ…大勢の前でお前の首を跳ねてやる!
おい女ぁ!このガキの首の前で犯してやるからな!ぎゃははははは!」

「品のない奴だ…」

「あぁん?まだ嘗めた口がきけるようだなぁ」

ダマオが腰の剣を抜いた。

「さぁ!決闘開始だ!」

ダマオがシラヌイに突進する。

「クリエイトウィンド!エアブレイド!」

シラヌイが手を向けて放った風の刃だったが、金属鎧に傷をつける事はできなかった。

「ぎゃはは!効かねぇよバァカ!」

「哀れな…そんなものを着ていなければお前にも勝機があったと言うのに…」

ダマオが振り下ろした剣をシラヌイが避ける。

「ちぃっ!ちょこまかと!」

ガシャガシャと喧しい音をたてながら、ダマオは剣を振るが、身軽なシラヌイには一太刀も当たらない。

「クリエイトアクア!」

ダマオの頭上に大きな水球が生じる。

ばしゃ!とダマオが水浸しになる。

「殺す!絶対に殺すぞクソガキャァ!」

ダマオが叫んだのと同時。

「フェイズトランストゥソリッド!」

パキン!と鎧諸ともダマオが氷漬けになった。

「俺の勝ちだな。さ、降参しろ」

シラヌイの声にダマオがニヤァと笑った。

「殺っちまえお前らぁ!」

ダマオが連れてきた十数人が剣を抜いた。

「そうか…お前はそういう事をするのか…」

シラヌイは、使わないはずだった作戦を決行した。

「クリエイトアクア!リゾルブアクア!」

魔法で生み出した水を即座に分解する。

そして、ルルのところまで全力で走った。

「クリエイトホール!」

ルルの目の前の地面に数人が入れそうな穴を作った。

「入って口を開けて耳をふさげ!」

有無を言わせぬ命令口調にルルが従った。

「クリエイトファイア!」

シラヌイは産み出した焔をダマオ達へ投げつけ、自身もルルと同じように穴に入った。

刹那。

バッガアアアァァァァン!

城中に爆音が轟いた。
 

 

七匹め

「ふぅ…もう出ていいよルルさん」

ルルさんの肩を叩く。

「し、シラヌイ君…いま…のは?」

「隠し玉だよ。ルルさんにも秘密ね」

僕がやったのは水素爆鳴気だ。

学校の実験でやる水素と酸素の爆発。

それを大規模でやったにすぎない。

穴から出ると、ダマオ達は倒れて眼を回していた。

「今度こそ勝ちだな」

ルルさんと一緒に穴から出ると、土だらけだった。

「何事か!」

衛兵と思われる人達がやって来た。

「これはお前達の仕業か!」

「はい。でも…」

衛兵が僕たちに剣をむけた。

「拘束する!」

はぁ!?悪いのは明らかにあっちだろうが!

「なんでだよ!こいつらが先に仕掛けてきたんだぞ!」

「それでもだ!」

ちっ…しょうがない…

「クリエイトアクア!
フェイズトランストゥソリッド!」

大量の水を生み、凍らせて障壁にする。

厚さは30センチで、高さは二メートル。

俺たちを中心に半径二メートルの円だ。

「はぁっ…はぁっ…やべ…マジで…魔力が…」

「シラヌイ君!」

フラッときたところをルルさんが受け止めてくれた。

激しい眠気に意識が落ちる最中、お婆様の声を聞いた気がした。

side out









「お主ら!何をしておるか!」

庭にタマモと国王アルフレッドが足を踏み入れた。

「相談役殿!?国王陛下!?」

「何事か」

と国王が尋ねた。

「は!ダマオ王子殿下が倒れていらしたので、その犯人と思われる者を追い詰めた所、氷の障壁によって阻まれています」

「ほう?ダマオをか?して敵はどんな奴じゃ?言うてみぃ。儂直々に出ようではないか」

「城のメイドと金髪の獣人の子供です!」

「なんじゃと!?」

タマモは即座に大ジャンプし、氷の障壁の内側に飛び込んだ。

そしてメイドが抱かれている孫を見つけた。

「シラヌイ!シラヌイ!無事かシラヌイ!」

タマモはメイドに眼をむけた。

「何があったか全て話せぃ!」

「はい!」

ルルがダマオが来てからの事を全てを話すと、タマモはプルプルと肩を震わせた。

「ルルと言うたか…お主には罪はない」

「……」

「シラヌイが守ろうとしたお主を儂が傷つけはせんよ…」

タマモが氷の障壁を叩き割った。

「おいアルフレッド」

「どうしたタマモ」

「此度の件。どうやらダマオが原因らしいのじゃが…」

「そうか。きつく言っておく。詳しくは後でそのメイドに聞こう」

タマモがルルからシラヌイを受け取り、歩きだした。

「ダマオ達は地下牢に繋いでおけ」

「ですが…」

「国王アルフレッドが命ずる。行け」

「はっ!」

衛兵がダマオ達を抱えて地下牢へ向かった。












シェルムに与えられている部屋には、アルフレッド、タマモ、シェルム、ルル、そしてソファーで寝ているシラヌイがいた。

ルルは三人に、この部屋の掃除から全てを話した。

「そうですか…ルルさん。災難でしたね…」

「いえ!シラヌイ様に守っていただけなければ私は…」

「言わなくてもいいですよ」

シェルムが優しくルルを止めた。

「アルフレッド」

「ああ、そうだな…。ダマオはこれで王位継承権剥奪だな」

「継承権をどう迂回させるか揉めておったからの…ま、丁度よいわい」

「タマモ。それより孫は大丈夫なのか?」

「ただの魔力切れじゃ。寝れば治る」

「魔力切れ…ですか…」

シェルムがぽつんと呟いた。

「流石はお主とブライの息子じゃのぅ。
あれだけの魔法を乱発して魔力切れで済むとは」

「ええ…そうですね…。ルルさん」

シェルムがルルに呼び掛けた。

「は、はい!」

「見た目だけでいいのでシラヌイが使った魔法を教えてください」

ルルが魔法の見た目を説明した。

「それと…その…」

「どうしたルルよ?まだ何かあるのか?」

「ダマオ様と戦う前に、シラヌイ様はこれをお造りになりました」

ルルが真球水晶を取り出した。

「なんじゃそれは。ガラス玉か?」

「私もはじめはそう思ったのですが、シラヌイ様は『砂利から造った水晶』と仰りました」

「なんと!錬金術までつかうとは!」

ルルがタマモに水晶を手渡した。

「ほー…よく出来ておるわ…」

シェルム、アルフレッドも水晶を見た後、タマモはルルに水晶を返した。

「それはシラヌイがお主に渡した物。
大事にとっておれ」

「はい!」

「もう行ってよいぞ」

「失礼しました」

ルルが退室し、部屋にはタマモ、アルフレッド、シェルムだけとなった。

「ふぅ…すごいのぅ…シラヌイは…」

「お母様」

「なんじゃシェルム」

「お母様は何か知っているのですか?」

シェルムの目は真剣だった。

「くく…シラヌイめ…自分からバラすような真似しおってからに…」

「お母様。話していただけますね?」

「おお、わかっておるわかっておる」

タマモはシラヌイが転生した者だと、シェルムに告げた。

「シェルム。確かにシラヌイには前世の記憶がある。しかしシラヌイは確かに昨日までのシラヌイでもあるのじゃ」

「ええ…例え前世の記憶があってもシラヌイは私とブライの息子ですから」

「よい。それでよい」

じゃが、とタマモは続けた。

「今のシラヌイは危うい。若い正義感と子供の好奇心と大人顔負けの知識を持っておる。
落ち着くまではあまり眼を離せんのぅ…」

そこでアルフレッドが案を出した。

「ならば毎日この城に連れてくればいいではないか。そして先のメイドをつければよい」

「「…………」」

「ダメか?いい案だとおもったんだがなぁ…」

「まぁ…やってみるかの…」

「そうですね…」

「そもそも私が聞いてよかったのかタマモ?」

「うん?面白いから良いはないか?
のぅ?アルフレッド?」

タマモはあっけらかんと言った。

「変わらんなぁ、タマモは」

「抜かせ。建国の時から儂は変わっておらぬわ」

「そうですねぇ…お母様は昔からこうですからねぇ…」

「俺18代国王だからな?お前らの言う『昔』って百年単位だからな?」

「アル坊。口調崩れておるぞ」

「おっと…」

「確かに、私もブライも長命種ですからねぇ~。あと千年は生きますし、シラヌイはもっと生きるでしょうねぇ~」

アルフレッドが、しみじみと呟いた。

「九尾の娘に家出したハイエルフか…。
さらにその息子…この国は当分…私の四代先までは安泰だな…」 

 

八匹め

小鳥の囀りが聞こえる中、シラヌイは眼を覚ました。

「知らない天井だ」

「自分の部屋じゃろうがアホかお主は」

「あ、おばあさ………何してるんですか」

シラヌイの右腕にタマモが抱きついていた……裸で。

「添い寝じゃが?」

「そうですか…」

タマモがシラヌイに絡ませていた手足を解き、ベッドから出た。

「さて、昨日の事は覚えとるかのバカ孫?」

「衛兵に無実の罪で捕らえられそうになったので障壁を張った所までは。
あと服を着てください」

シラヌイがサッと目を反らす。

「確りと覚えとるではないか」

タマモの居ない方を向きながら、シラヌイがぽつんと言った。

「ルルさんは無事でしたか?」

「無事じゃ。あのメイドには何の怪我もないわい」

「なら、よかったです」

タマモがシラヌイの頬をつねって、自分の方を向かせた。

「シラヌイ。お主記憶が戻った初日にやらかしおったな?」

「ふぁい…」

「仕方ないのでシェルムとブライには話したぞ」

シラヌイは黙り込んでしまった。

「そうですか…」

「シェルムは言っておったぞたとえ…」

「そうですか…」

「はぁ…」

一向に目を合わせないシラヌイに、タマモはため息をついた。

「お前の両親は、お主に前世の記憶があったとしても自分達の子供だと言うておったぞ」

「それは、ありがたい話ですね」

「朝食まではあと一時間ほどあるからの。
ま、落ち着いたら下りてくるといい」

タマモが部屋に掛けてあるアーティファクトを指差して言った。

「わかりました」

「では服を着てくるでな。すぐ戻る」








シラヌイの部屋から出たタマモは、久しく感じていなかった疲労感に意識を向けた。

「エナジードレイン…成る程名前通りじゃな」

タマモが裸で添い寝をしていた理由は、肌の接触面を増やす為。

「はてさて、シラヌイはあれを使いこなせるのかのぅ…」

シラヌイが生まれたその日に、タマモはシラヌイに封印を掛けた。

エナジードレインというスキルに対してだ。

昨日その封印を解き、シラヌイに触れると魔力を奪われる事をタマモは確認した。

それを使い、シラヌイに魔力を供給していたのだった。

タマモが裸で屋敷を彷徨いていると、ブライと出くわした。

「うわっ!?お義母さん!服!服!」

ブライは顔を背けた。

その長い耳は真っ赤になっている。

「なんじゃこんな体にそんな顔を赤くしおってからに。
お主ら親子揃って免疫無さすぎじゃろ」

「い、いいから服着てくださいよお義母さん!」

「持っとらん。今から取りに行く所じゃ」

「そうですか…。ちょっとシラヌイの所行ってきます」

「大丈夫かの?」

「シラヌイはシラヌイです。俺たちの息子である事に変わりありません」

「良いこと言うておるが、顔背けて赤らめたままでは格好つかんぞ」

「貴方のせいでしょうが…」

ブライと別れたタマモが自分の部屋へ行き、『今の』身長にアジャストした服を着た所で、部屋のドアが思い切り開け放たれた。

「お、お義母さん!シラヌイが!」

「どうしたブライ?」

「シラヌイが家出しました!」

「………………はぁ?」









部屋に一人きりになったシラヌイは、両親の事を考えていた。

「気持ち悪い…よね…」

現在のシラヌイは五歳までのシラヌイと天草不知火の人格が混じりあい、ひとつに統合されていた。

その精神は幼く、しかし知識は大人と同等。

故に、短絡的に答えを出してしまった。

「よし。居なくなろう」

シラヌイは自室の窓を開けた。

「クリエイトウィンド」

自身に風を纏わせ、二階の自室の窓から飛び降りたのだ。

「王都…か…」

シラヌイが済むこの国の名前はフライハイト王国。

自由の名を関するこの国には多種多様な種族が住む。

だが、シラヌイは知識で知っていても実際に見た事は無かった。

故に、多少ワクワクしていた。

先程までの暗い気持ちなど何処かへ消えていた。

精神が子供なのだから、仕方ない事ではある。

「あ、しくった。靴…」

地面に足を着けた所で気付いたが、今さら戻るのは面倒だと思ったシラヌイは、前世の記憶を得る以前、タマモに教わった力を使う事にした。

「獣化!」

シラヌイの骨格が組み変わる。

それは変身であると同時に、本来の姿への回帰でもあった。

白面金毛九尾御前の孫。

その本質は『妖獣』である。

「きゅぅー!」

と一声上げたシラヌイは、街の喧騒へ駆けて行った。
 
 

 
後書き
はは…!明日まで明日まで学校に行けば休みだ!
1日も休みがある…!
はは…ははは…はぁ…。 

 

九匹め

シュリッセル家の屋敷は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

なんとシュリッセル家の一人息子が家出したのだ。

昨日五歳になったばかりなのにと使用人達は驚いていた。

「メッサー!」

「はっ!シェルム様!」

「ちょっと王宮にこの手紙を届けてきて下さい。貴方が着く頃にはアルフレッドは庭で散歩しているはずです。直接渡してください」

シェルムは王に直接手紙を渡せと執事長へ言った。

「かしこまりました」

だが、そのような事を言うのは初めてではない。

また、そのような無理を『通せる』程の力をシュリッセル家は持っている。

執事長メッサー・フォルモントはシェルムに渡された手紙を王に届けるべく屋敷を飛び出した。

「あー…落ち着けシェルムよ。シラヌイの事じゃ。直ぐに見つかろう」

欠席届をわざわざ王に直接出すという暴挙を働いた娘を見てタマモは呆れながらに行った。

「そうですね…。王都からは出ていないでしょう」

「ブライ。お主はその貧乏揺すりをやめろ。
仮にもお主ハイエルフの…」

「はい止めます止めましただから言わないでください」

「じゃ、探しに行くかのぅ…」

タマモとシェルムの体が縮み、骨格が変化し、全身に毛が生える。

前傾姿勢になり、手を床につける。

『では儂らは行くでな。ブライ、お主は人の道を探せ』

『頼みましたよブライ』

狐の姿となった二人は、窓から飛び出して行った。

「あー…えと…」

ブライの後ろには指示を待つ使用人達。

「必要最低限の人員を残してシラヌイを探してこい!」

かしこまりました、と使用人達が声を揃えた。

そしてブライ自身も探しに行くべくドアを開けた。

「あ、そうだ。もしシラヌイを見つけたらお仕置きとして好きなだけモフッていいから」

それだけ言い残してブライは屋敷を出た。

この後、シラヌイを探しに行く人員を決めるために盛大なジャンケン大会が開かれたのは言うまでもない。













使用人達に血眼で探されているとは露知らず、シラヌイは王都を満喫していた。

「きゅー!」

初めて見る王都は広く、賑わっていた。

一等地では朝だからか、貴族達が王宮へ行こうと往来を繰り広げていた。

それを横目に見ながら、シラヌイは下町へと掛けていく。

目的地は冒険者ギルドだ。

存在を知っていても場所を知らないので、シラヌイは探しながら王都を見て廻る事にした。

市場に行くと、そこはシラヌイが知る正化日本のように賑わっていた。

八百屋では野菜や果物が所狭しと並んでいる。

魚屋では店主が取れたての魚や干物を見せている。

そして鍛冶屋が軒を並べ、鎚を振る。

宝石の類いを扱う怪しげな店の店主が客を手招きしている。

吟遊詩人が朗々と唱う隣では、大道芸人がジャグリングをしていた。

(わぁー…すごいなぁ…)

喧騒を見上げながら、シラヌイは呟いた。

もっともシラヌイでは「きゅー」という鳴き声しか出せないのだが。

「およ?狐だ。めずらしい」

後ろでそんな声を聞いたシラヌイは振り向いた。

「きゅー?」

そこにはローブをまとった茶髪の小柄で童顔の女がいた。

だがその豊満さはローブの上からもはっきりとわかるほどだ。

「きゅー(魔女だ)…」

「どうした?道にでも迷ったのかい?」

「きゅー…」

「じゃ、一緒に歩こうぜ?」

「きゅぅ!」

魔女はしゃがんで片手を下に向け、シラヌイに差し出した。

「きゅ?」

「肩にでも乗っておくれよ」

「きゅ!」

トントンっと手を伝って、シラヌイは魔女の肩に乗った。

足を肩の前後にたらし、腹這いの姿勢だ。

「アタシはボーデン。見ての通り魔女だ。
アンタは? ってわかるはずないか!」

「きゅ!」

シラヌイは前足を前方につき出した。

「きゅぅぅぅぅ…………きゅ!」

水が生まれ、その水は文字を形造る。

「し・ら・ぬ・い……シラヌイっていうのか?」

「きゅ!」

「よろしくなシラヌイ!」

「きゅぅぅ!」

そこでボーデン気づく。

「シラヌイ。おまえ人間か?」

「きゅ!」

「なんでこうなってるんだ?」

「きゅぅぅ…」

「んー…家出?」

「きゅ!」

「そか。なら好きにしたらいい。かく言う私も家出中みたいな物だしな」

シラヌイに邪気がないと感じたボーデンはこのまま歩く事にした。




それを近くの屋根から見下ろす別の狐が二匹。

「きゅー」

「きゅー。きゅぅー?」

「きゅぅ」

「きゅい」

何かを相談しているようだったが、それを見ていた者はカラスだけだった。
 

 

十匹め

「ここがアタシの店だぜ」

カランカランとドアを開け、ボーデンが自分の店に入る。

店の中には小瓶が並んだ棚がある。

「きゅー?」

「ああ、アタシは錬金術師でね。主にポーションの類いを製作販売してるんだ。
体力回復から媚薬までなんでもござれだ」

「きゅー」

シラヌイが責めるようにボーデンの頭を尻尾でぺちぺち叩く。

「おいおいそんな悪人を見るような顔すんなって!お得意様にしか卸してないよ『そういう薬』はさ」

「きゅっ!」

「所でアンタ、獣化は解かないのかい?」

「きゅぅ?」

シラヌイが首を傾げる。

「いや、アンタがそのままでいいならそれで構わないんだけどね?」

「きゅぅー」

「そうかい。すきにしな」

ボーデンが毛並みに逆らわないよう優しくシラヌイを撫でる。

「きゅぅぅん…」

ボーデンはシラヌイを肩にのせたまま店の奥へ。

「きゅ?」

そこにはフラスコや試験管、蒸留器などが置いてあった。

「ああ、今から幾つかポーションを造るんだ。
お前にも少し教えてやろうか?」

「きゅぅ!」

ボーデンは幾つかの材料と器具を持ってきて、準備を始めた。

「先ずは薬草類だ。ヨモギやらゼンマイやらの野草だな。他には塩とか」

材料の説明の後、器具の説明に入った。

「これが液体燃素ランプ、そして三角台と…」

そこでシラヌイがボーデンの頬をつついた。

「どうしたシラヌイ?」

「きゅぅ。きゅー」

「えーと?」

何かを言いたげなシラヌイだったが、ボーデンにはわからなかった。

シラヌイがスルリとボーデンの肩から降りた。

「きゅぅー!」

と一声鳴くと、シラヌイの体が膨張した。

そして…

「燃素なんて物は存在しないよ。ボーデン」

ピンと立った耳とモフモフの尻尾はそのままに、人の姿となったシラヌイがボーデンの後ろに立っていた。

ボーデンは振り向いて、その姿を確認した。

「シラヌイ……か?」

「うん」

「…………えぇ…まぁじでぇ…?」

「?」

ボーデンの視線が耳と尻尾に集まる。

「シラヌイ、お前のお母様ってシェルム先生だろ」

「なんでわかったの?」

「まぁ、いいや、家出中なんだったな。
ちょっとした知り合いだよ」

「ふーん…」

ボーデンがシラヌイを上から下まで見る。

「ボーデン?」

「むふふ…美味しそうな獣耳ショタ…」

「?」

「あぁ、なんでもないぞシラヌイ」

なおも首を傾げるシラヌイにボーデンは手招きした。

ボーデンはシラヌイを横抱きにして膝の上にのせる。

「ぅゆ?」

「さっきアンタが言ってた燃素なんて存在しないってどういう意味だ?」

シラヌイがボーデンを見上げる。

「実験してみる?」

「実験?」

「物が灰と燃素で出来てるなら物を燃やせば灰は軽くなる…それを確かめるんだよ」

「はぁ?当たり前だろう?」

「燃素が存在するならね」

シラヌイは広げられた材料と器具を整理し、必要な物を集めた。

天秤、皿、そして燃やす物だが…

「ボーデン、鉄粉か銅粉あるよね?」

「あるが…どうするんだ?」

「CuOかFe2O3が分かりやすいからね」

「?」

ボーデンは面白そうだったので銅粉を手渡した。

「ん。ちゃんとCuOとかCuS2じゃなくてCuだね…」

シラヌイが天秤に皿を載せ、片方に銅粉を、片方に錘をのせた。

「さぁ、燃素説をひっくり返そうか」

悪戯小僧のような笑みを浮かべるシラヌイを、ボーデンはニヤニヤと見ていた。











十数分後。

ボーデンは頭を抱えていた。

悩みの種は勿論ボーデンの膝で腹這いになっている狐だ。

実験を終えたシラヌイはボーデンにドヤ顔をしたあと即座に獣化し、ボーデンの膝の上で腹這いになって眠り始めた。

まるで答えは自分で考えろと言わんばかりの行動だ。

「何故だ…何故重くなる…。燃素が出ていったんだから軽くなるはずだろう…」

ボーデンは実験で得られた『金属灰』の皿を手に取る。

「シラヌイが魔法で何かを入れた…?」

だがボーデンはその考えを即座に打ち消した。

「いや…シラヌイは魔法を使っていなかった…使っていたらアタシが気付かないはずねぇし…」

ボーデンはうんうんと考え続けていた。

そこでカランカランと店のベルが鳴った。

仕方なくボーデンはシラヌイを抱き抱え、店に出た。

そこには最も会いたくない人がいた。

「うげ…シェルム先生…」

ぴこんと立った耳に和らげな顔つき、女性にしては高い身長にグラマスな体とモフモフの尻尾。

「久し振りですねボーデン・フォン・パナセオ国家錬金術師筆頭兼宮廷魔導師第八位殿」

「ぇあー…何の御用でしょうかシェルム・フォン・シュリッセル宮廷魔導師第一位兼魔導師団長兼魔導学院名誉院長殿」

シェルムはピッとボーデンの腕の中で眠るシラヌイを指差した。

「シラヌイが落ち着くまで預かっていて欲しいのですよ」

「………んん?」

「聞こえませんでしたか?全く貴方は学院にいた頃からそうでしたね…」

「あー…えっと…『ウチの子を返せー』とかでなく?」

「はい」

「……………正気かよ先生?」

「はい。今のシラヌイは少し私達と離れた方がいいとお母様が仰る物ですから」

ボーデンは腕の中に抱くシラヌイとシェルムに視線を往復させた。

「他ならぬ先生の頼みだ。引き受けますよ」

「では当面の生活費とシラヌイのステータスプレートを置いていきますね」

シェルムが数枚のコインとカードをカウンターに置いた。

「では、頼みましたよボーデン」

シェルムは踵を返し、店から出ていった。

しかし再びドアが開いた。

「いい忘れてましたけど傷物にしたら貴女には宮廷魔導師筆頭の所以を見せる必要が出てきますから気をつけてくださいね?」

今度こそシェルムはボーデンの店を後にした。

「こわ…。変わってねぇなシェルム先生」

そしてボーデンはコインに目をおろした。

「てかミスリルコインかよ…両替めんどくさ…。
これ絶対八つ当たりだよちくしょー…」

ミスリルコイン一枚は日本円にして百万円となる。

「つか溺愛しすぎだろ…まぁいいや…」

ボーデンはくぅくぅと眠る子狐を抱きながら、店の奥へと戻って行った。 

 

十一匹め

シェルムの来訪をやり過ごし、シラヌイがやった実験結果を考察しつつ時折来る客に対応している内に、昼になった。

「しらぬいー。おきろー。おーい」

ボーデンが膝の上で寝ているシラヌイに呼び掛ける。

「きゅぅ…?………くぅ…くぅ…」

「二度寝すんな起きろ」

「きゅあぁ~っ…」

と伸びをしたシラヌイが再びぐでぇっとなる。

そして、十秒ほどするとボーデンの膝から降りた。

「メシにするぞシラヌイ」

「ごはん?」

獣化を解いたシラヌイが聞き返した。

「おう」

「いらないよ。じゃあね、ボーデン」

そのまま裸足でペタペタと店の表に出ようとするシラヌイをボーデンが引き留めた。

「待てコラ。どうする気だ?」

「適当に錬成した物売ってからなにか買うよ」

シラヌイは昨日と同じように、水晶を造るつもりだった。

「却下だここで食え」

「迷惑でしょ?」

「じゃぁお前も手伝え」

「んー。わかった」

ボーデンに手招きされてシラヌイはキッチンへ通された。

「ボーデン。どんな材料がある?」

「大抵の物はあるぞ」

「じゃぁなんか適当につくるよ」




side in

現在、アタシは目の前の狐耳ショタの行動を注意深く観察していた。

このショタは『何か』を知っている。

さっきの燃素説否定実験もそうだが、妙に大人びている気がする。

「ボーデン。こむぎこ、しお、たまご、さとう、ぎゅうにゅう、もくたんってある?」

テーブルに座ったシラヌイがアタシに尋ねた。

「あるぞ」

「つかっていい?」

「おう」

「やった!」

でもなぁ…。この笑顔なんだよなぁ…。

この純真無垢で屈託の無い子供の笑顔。

こんな子供がいったい何を知っているんだって話だよ。

言われた材料をボウルと一緒に渡すと、何やら魔法を使い出した。

「くりえいと!えぬえーえいちしーおーすりー!」

塩と木炭と水から白い粉末を錬成した。

「シラヌイ、その粉は?」

「できてからのひみつ!」

ほら、また私の知らない物だ。

シラヌイはなんと言った?

『エヌエーエイチシーオースリー』?

そんな物質は聞いた事がない。

その間にもシラヌイは塩、砂糖、小麦粉、『エヌエーエイチシーオースリー』を混ぜた。

そこに牛乳と卵を割って入れた。

シェルム先生の息子って事だから箱入り息子で料理経験皆無と思っていたが、なかなかに器用な奴だ。

「ボーデン。あわだてきある?」

「あー…あるけど薬品用だな」

「つかえねー」

「おい今なんつったコラ」

「じゃぁふぉーくちょーだい」

「遠慮無くなってきたなお前」

アタシこれでもエリクサー作れる唯一の錬金術師なんだけどなー…

フォークを渡すとカチャカチャとボウルの中身を混ぜ始める。

「何作る気だよお前」

「ほっとけーき」

ホットケーキ?なんだそれは?

「よーするに、あまいぱんだよ」

「へー…。シェルム先生に習ったのか?」

「んーん。ひみつ。いつかボーデンにもはなせるひがきたらいいなっておもうよ」

一瞬だけ、そうほんの一瞬だけシラヌイが遠い目をした。

大人のような、諦めた目だ。

「ボーデン、ふらいぱん」

「はいはいっと」

すこし小さいフライパンを渡してみた。

シラヌイが何をするのか見てみたいのだ。

「くりえいとふぁいあー」

ての上に焔を灯してフライパンを温め始めた。

「あ、ばたーわすれてた………。
くりえいと…」

「ちょっと待てバター錬成する気かお前は。
無茶だろ。ちょっと待ってろ」

急いでバターを持ってきた。

「どのくらいだ?」

「ちょっとでいいよ」

バターを一欠片フライパンに落とす。

ジュッと音がして溶け始めたバターをシラヌイはフライパンを動かして全体に回す。

「おたま…あ、そだ…
くりえいとあくあ。しぇいぷしふと。
ふぇいずとらんすとぅそりっど」

お玉を持って来ようとした時、シラヌイは産み出した水を凍らせてお玉を作った。

あり得ねぇ!いくらシェルム先生の息子でも氷結魔法だなんて!

シラヌイは作ったお玉に尻尾を巻き付けて、ボウルの中身を三割ほどフライパンに垂らした。

確かに両手はクリエイトファイアとフライパンで塞がってるけど…

「なぁシラヌイ。それどこで覚えた」

「おもいつき」

さて、こいつは天才かそれともバカか…。

シラヌイはフライ返しも使わずに茶色い板状の物をひっくり返した。

「ボーデン。おさら」

「ほれ」

シラヌイの目の前に皿を置くと、フライパンの中身を皿に置いた。

「いがいとできた」

シラヌイはボウルの残り七割も同じようにして作った。

「かんせい!」

手の上の焔を消して、言った。

「で、この丸いのは何なんだ?」

「ほっとけーき、もしくはぱんけーきっていうたべもの。
ほんのり甘くて美味しい…はず」

はずって。はずってお前なぁ…。

「はちみつかめーぷるしろっぷをかけてたべてもおいしいよ」

「蜂蜜ならあるが」

「じゃぁそうしよう」

使った調理器具を流しに置いて、テーブルに座る。

「「いただきます」」

ホットケーキとやらに蜂蜜をかける。

ナイフで切って、口に運ぶ。

「………………うまい」

side out







「………………うまい」

呟かれたボーデンの一言にシラヌイはニヤリと笑った。

「どう?」

「なんで発酵させてないのにフワッとしてるんだよ…」

「重曹入れたからねー…」

「『ジューソー』?さっきの『エヌエーエイチシーオースリー』とやらか?」

「そうだよ。あれ入れると二酸……燃素が出て来てふっくらするんだ」

「燃素? お前さっき燃素なんて無いって…」

「はぐはぐ…」

「ごまかすな。いや可愛いけどさぁ…」

「みゅ?」

「素か。素なんだな?」

「なにが?」

「なんでもねぇよ…」

ほんのり甘い、優しい時間が流れる昼時だった。 

 

十二匹め

 
前書き
期末考査期間なう。 

 
昼食後。

「よしシラヌイ、お前ここに住め」

「…………可哀想に。錬金術のやり過ぎで水銀を過剰摂取しちゃったんだね…。
大丈夫。頭に水銀が回ってボーデンがくるくるパッパッパーのお馬鹿さんになっても僕は変わらず接してあげるよ」

「お前は一々罵倒しないと話せねぇのか!?」

「え…? じゃぁボーデンってショタコン?
貞操の危機を感じるからやめとくよ…」

「だっ誰がショタコンだ!」

「じゃぁケモナー? 流石にひくよ?」

「ズーフィリアではない!」

なおこの国は狐を聖獣としており狐を傷つければ最悪死刑である。

「いや、お前家出中なんだろ?だったらここに住めよ」

「あ、なるほどさっきのパンケーキで餌付けされちゃったんだねボーデンちゃん。
男口調なのに意外と可愛いところあるんだね」

「ちっ、ちげーし!」

「図星乙~」

ころころと笑う子狐にボーデンは調子を崩されっぱなしだった。

「じゃぁ、何日かお世話になろうかな。
よろしくね、ボーデン」

「お、おう」

「なにキョドってんの?僕に惚れた?」

「寝言は寝て言え」

「そ、おやすみなさい」

シラヌイは獣化し、椅子の上でくぅくぅと眠り始めた。

「いや…食って寝るとか…子供かよ…
ってまだ子供か…」

ボーデンはポケットからシラヌイのステータスプレートを取り出した。

名 シラヌイ・シュリッセル
性別 男
種族 ルナール
年齢 5
クラス 未定
level 1
スキル エナジードレイン
円環の祝福
リインカーネイター
フォクシネイト
ケミカリスト

「何なんだろーなぁ…このスキル群…。
『リインカーネイター』とか『ケミカリスト』とか聞いた事ねぇスキルだ…
つか『円環の祝福』とか神官しかもってねぇ筈なんだが…」

ボーデンはシラヌイのステータスプレートをしばらく眺めてから、席を立った。

「さて…片付けるか…」




食器を片付け終えたボーデンは寝ているシラヌイを抱き抱え、アトリエへ。

膝の上にシラヌイを載せて、撫で回しながらポーションを製作し始めた。

「はぁ…なんか乗らねぇなぁ…」

この女、金は腐るほどあるのだ。

それをなぜポーションなんて売っているかと言えば、完全な趣味である。

「…………寝るか」

ボーデンは片手にシラヌイを抱えて、アトリエの奥の自室へと向かった。

ガチャリとドアを開けて、ベッドへ。

そっとシラヌイを下ろし、着ていたローブを脱ぐ。

「あー…これ着るのやめよっかなぁ…」

ローブの左胸の辺りには刺繍がある。

国家錬金術師の象徴だ。

「ま…いいや…」

ボーデンは着ていた物を脱いで、ベッドに入った。

「うぉー…モフモフだぁ…」

ボーデンは子狐を抱き枕にして、昼寝を始めたのだった。











side in

目が覚めるとボーデンに抱き枕にされていた。

こいつやっぱりショタコンなのかな?

それともケモナーの方かな?

「きゅー! きゅー!」

起きないな…ていうかやっぱり狐の姿じゃ発音できない…

「きゅぅ!」

「んん…どーしたー…しらぬい…」

いや、おきてよ。

「トイレなら部屋を出た突き当たりだぞ」

おきてんじゃん…

まぁ、いいやトイレ行っとこう。

するりとベッドから出て獣化を解く。

ふと、壁にかけられたボーデンのローブが目にはいる。

胸の辺りにキメラの刺繍のあるローブだ。

「キメラ…そうか…実在すんのか…」

前世で大好きだった漫画を思い出した。

その漫画には人語を解するキメラが出てくる。

そして、そのキメラの材料は…

「どうしたぁ~?しらぬい…?」

「いやなんでもないよ」

部屋から出ようと足を踏み出した瞬間、何かを踏んだ。

目を下に向け……

「ふむ…」

俺はベッドにかけよって、中に手を突っ込んだ。

ふにょん…とした感触が伝わってくるが…うん、気にしないでおこうか。

「クリエイトアクア!フェイズトランストゥソリッド!」

「ひにゃぁぁぁぁぁ!?」

ベッドの上でのたうち回るボーデンをおいて、トイレへ向かった。

「はぁ…」

用を済ませて部屋に戻るとボーデンが毛布にくるまっていた。

「毛布にくるまる位なら服着ようよ」

「お前いきなり凍らすヤツがあるか!?
心臓が止まるかとおもったぞ!?」

「そんな心臓止まってしまえ」

「なにぃ!?」

「なんで裸なのさ!痴女なの?バカなの?死ぬの?」

「仕方ないだろう!お前のその極上の毛布のようにモフモフとした毛並みを全身で感じるにはこうするしかないのだからなぁ!」

「威張っていう事じゃないでしょ…ていうかまったく格好ついてないよ」

まぁ、お母様とかお婆様の尻尾モフモフするのは……あぁ、いいや。

「じゃ、僕は出てるから早く着替えたら?」

「ん?アタシは別に子供に見られようと気にしねぇけど?」

「あっそ」

獣化して、ベッドに乗る。

そして下着が脱ぎ散らかしてある方と反対を向いて寝転ぶ。

「きゅー」

早く着替えろ、と催促してみた。

「わかったよ…。あーアタシのたわわな果実が凍傷なってたらどーしよ…」

フリーズドライで萎ませてやろうか。

のそのそとベッドから降りたボーデンが着替え始めた。

「おい美女の生着替えだぞ興奮しねぇのか?」

獣化解除。

「ボーデン。五歳児に何を見せるつもりなの?」

「お前が五歳児ぃ?バカ言え、前世の記憶とかあるクチだろおまえ」

目の前が真っ暗になった。

side out






「なんで…なんでわかったの…ボーデン」

シラヌイの声が、震えている。

どうやらアタシは特大の地雷を踏み抜いたらしい。

「あー…なんかお前って妙に大人びてるからな」

「そう」

シラヌイが立ち上がった。

「じゃ、またいつか会おうよボーデン」

そう言ってシラヌイは窓に飛びついたけど、甘いぜ。

「クリエイトアクア。フリーズ」

窓を氷で覆えば、シラヌイは出られない。

「シラヌイ。おちつけ」

「………」

「話をしよう。なんで逃げるんだよ?」

シラヌイが凍った窓から手を離して、座り込んだ。

膝を抱えて、世界を遠ざけるかのようだ。

「拒絶されると思ったから…」

「なんでだ?なぜアタシがお前を拒絶する?」

「だって、気持ち悪いでしょ?」

気持ち悪い?何が?どうして?

「お前の言ってる意味がわからん。何も気持ち悪くないぞ」

「だって、僕の中身は大人なんだよ?」

大人?お前が?

「お前のどこが大人だ。大人なら逃げねぇよ。
お前はお子ちゃまだ」

「……」

「お前に前世の記憶があるのは、まぁそうなんだろう。
でもよ、大人なのは記憶だけだろ。
今のお前は悪戯がバレた子供と同じだ」

後ろからシラヌイに近づいて、抱き上げる。

一緒にボスっとベッドに倒れ込む。

「アタシはお前を拒絶しねぇよ」

「ほんとう?」

「ああ。本当だ」

手の中の子狐をうんとだきしめてやる。

「だから、安心していいぜ、シラヌイ」

「うゅ」

「もう少し、こうしてようぜ」

「うん」

その金糸のように輝く髪を手櫛ですく。

「うみゅぅ」

「もう少し、寝てていいぞ」

「うみゅ!」

やがてくぅくぅと寝息が聞こえてきた。

「やっぱ子供じゃねぇか」
 

 

十三匹め

「んぅ………ん?」

目を覚ましたボーデンは手の中の暖かみが消えている事に気づいた。

「シラヌイ!」

ベッドから出てドタドタと部屋を後にする。

家中を探して、キッチンに行き着いた。

「あれ?起きたのボーデン?さっきからドタバタしてたけどどうしたの?黒光するGでも見つけた?」

シラヌイは台に乗って料理をしていた。

「はぁー…心配させやがって…」

「うゅー?」

「なんでもねぇよ…」

「ならいいけど…」

ボーデンがシラヌイの後ろに立ち、手元を覗いた。

鍋の中でスープが煮えていた。

「なに作ってるんだ?」

「肉じゃがを作ろうとしてビーフシチューになってトマトを入れすぎて最早トマトスープになった何か」

「は?」

「とりあえず使ったのは肉、玉ねぎ、人参、ジャガイモ、トマト。あとワイン」

「まぁ…いいけど。って待て!なんで酒の在処を…!?」

「酒精の匂いがぷんぷんしてたから。
僕って結構鼻が効くんだよ」

「ふぁっく」

「こらこら、若い女の子がはしたないよ」

「アタシはもう47だ!」

「ボーデン。まだ寝ぼけてるの?
逆サバを読むにしてもその顔つきで47はないでしょ。
せいぜい27って所かな」

「じゃぁもうそれでいいよ…」

シラヌイは夕飯を作り終え、振り返った。

「もう食べる?」

「もう少し後でいいぜ」

「そ。わかった」

シラヌイは踏み台から下りて、台を隅に置いた。

「それどうしたんだ?」

綺麗な木箱だった。

釘もきちんと打ってある。

「ちょっと裏庭の薪もらったよ」

「工具は?」

「土と石から錬成した。釘も一緒」

「魔力足りてんのか?」

「足りてなかったら倒れてるよ」

ボーデンはシラヌイを抱き上げて、ソファーに座った。

そして膝の上でシラヌイを腹這いにさせた。

「ふぁぁぁぁ…尻尾モフモフ…」

「モフるのはいいけどさ、優しくしてよね」

「おう…わかってるぞ…」

尻尾を撫で回すボーデンだったが、次第に根元辺りを触り始め…

「クリエイトアクア!
フェイズトランストゥソリッド!」

ボーデンの服の中に手を突っ込んだシラヌイは、その柔肌に手を押し付けて呪文を口にした。

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

シラヌイは即座に獣化し、シュタッと床に下りた。

「きゅー!」

と抗議の声を上げるシラヌイを他所に、ボーデンは服を捲り上げ、自分の体に張り付いた氷を割っていた。

横は脇腹辺りまで、縦は腹部から鳩尾あたりまでが氷に覆われている。

「つめたっ!おいシラヌイ!アタシの瑞々しい御肌が凍傷になったらどうする気だ!」

「きゅぅ!」

シラヌイはプイッと顔を背けた。

「あぁ…もう…」

パリパリと氷を剥がしたあとのボーデンの腹は赤くなっていた。

ボーデンはソファーから立ち、戸棚から小瓶を取り出した。

中身は薄い赤で、仄かに光る液体だった。

中身を少し出して手に馴染ませ、患部へ塗る。

「おぉ…きくぅ…」

塗られた場所の赤みが急速に薄れる。

「きゅー?」

「ああ、これか?」

振り返ったボーデンがちゃぷちゃぷと小瓶の中身を揺らす。

「100倍希釈のエリクシールだ。ポーション変わりに丁度いいんだぜ」

「きゅぅ!?」

驚いた声を上げるシラヌイにボーデンが返答した。

「だって普通のポーションだと用途別でやんねぇといけねぇからよ。
だったらまだエリクシール作って薄めた方が楽って訳さ」

「きゅー…」

「大丈夫だって!どうせ自作だし!」

「きゅぅー?」

「おい、その目はなんだ。これでも国家錬金術師筆頭だぞ」

「……………きゅ?」

「嘘だろ、じゃねぇよ。アトリエにダース単位でおいてあるっつーの」

「…きゅっ」

「明日の朝お前の鼻からエリクシールの原液突っ込んで起こしてやる。キクぞぉー」

とボーデンがアホな事を言い、それを鼻で笑ったシラヌイは獣化を解いた。

「晩御飯にするよ」

と言ってキッチンへ。

「うーい」

「お皿どこー?」

「あー。ちょっと待ってな」

ボーデンが皿を鍋の横に置いた。

「ボーデン、パンあるなら切っといて」

「あいよ」

シラヌイは台に乗って、氷で作ったお玉杓子でスープを皿によそった。

その皿を少しよたつきながらテーブルへ。

「食べよう。ボーデン」

「おう」

ボーデンが切ったバゲットを皿に乗せ、テーブルに置いた。

二人は向き合うように座った。

「「いただきます」」

ボーデンはスプーンでトマトスープを掬った。

くんくんと匂いを嗅ぐ。

「ちゃんとアルコールは飛ばしてあるよ」

「おう、そうか」

「食えない物もいれてないよ」

「………………」

「おいボーデン。その信用できないみたいな顔はなんだ?」

「だってお前訳のわからん粉入れてたし…」

「あれは…ただ膨らむだけだよ。今回は魔法で煮込んだけどヤバイのは入れてないし」

「ふーん…何を使ったんだ?」

「風属性で疑似圧力鍋。仕組みはこんど話すけど、煮込みの時間を短縮できる。
まぁ、加減間違えて具材全部溶けたけど」

ボーデンは自分が食べているスープを改めて見た。

そしてスプーンで掬う。

スープだけだ。具がない。

「シラヌイ、ここまでやるなら、二日か三日はかかるはずなんだが」

「だからそれをショートカットしたのさ。
大丈夫。ヤバイものは入ってないし、ヤバイ魔法も使ってないよ」

「そうか…」

シラヌイはフンスッとドヤ顔をした。

「さ、たーんとお食べ、ボーデンちゃん」

「後で覚えてろよ…」

などと言いつつも、ボーデンはシラヌイの作ったスープをひどく気に入るのだった。
 
 

 
後書き
あぁ…テストおわったぁ…
終わったなのかオワタなのかはともかくとして…
最近衝動的にこのすばを書いてます。
例のごとく主人公は男の娘。
ヒロインは安楽少女。
気が向いたら投稿します。 

 

十四匹め

「よし、風呂入るぞシラヌイ」

「ん。さきいーよ」

「何を言ってる?一緒にはいるんだぞ?」

「うきゅぅ?」


ボーデンに手を引かれてシラヌイは脱衣場に来ていた。

「ボーデン。僕には前世で14まで生きた記憶があるんだ。意味、わかるよね?」

「ん?気にしないが?」

「僕が気にするんだよ…」

「ま、諦めろ」

「しゃーない…家主にはしたがおう」

ボーデンもシラヌイも服を脱ぐ。

「ボーデンって所謂ロリ巨乳だね」

「誰が童顔だ!」

「あ、気にしてるの? 大丈夫、僕のお父さんもっと童顔だから」

「だろうな」

ボーデンは嘗てブライを見た事があった。

身長や体格はかろうじて大人と取れなくはないが、顔つきは幼かった。

「つーかロリ巨乳ってなんだよロリ巨乳って…せめてトランジスタグラマーと言え」

「いや、ボーデンの年って絶対に十代後半から廿代だろうし…」

「……………」

「うゅ?」

ボーデンはガラリと戸を開け、風呂場に足を踏み入れた。

「檜…?」

「よくわかったな」

そこにあったのは檜の大きな湯船だった。

「ボーデン。いい趣味だね」

「だろ?」

ボーデンは風呂椅子を出してシラヌイを座らせた。

「洗ってやるよ」

「ん! 優しくしてくれよ」

「お、おぉぅ!?」

「……………変態」

「へっ、変態じゃねーし‼」

「じゃぁ今何を、いやナニを考えたか言ってごらんボーデンちゃん」

「うるせぇ!」

劣勢に陥ったボーデンは風呂桶に酌んだ湯をシラヌイにぶっかけた。

「ふやぁ!?」

「そら頭洗うぞ」

「ゅうー…」

ボーデンが小瓶から取り出した液体を手に馴染ませ、泡立て始める。

そっと白い手がシラヌイの耳に触れた。

「ひゃぅっ…」

「…………ょし」

ボーデンの十本の指がシラヌイの髪をかき回す。

「すげぇ…お前の髪サラッサラだなシラヌイ」

「ゅ!」

「何時も自分でやってたのか?」

「お婆様に洗ってもらってたよ」

「おば………タマモ様…?」

「うん」

ボーデンが一瞬静止した。

「嘘だろ……あの九尾がだと…?」

「どうしたのボーデン?」

「お婆様とは仲がいいのか?」

「………………………」

「おっと…聞いてはいけない事だったな」

「ん、ありがと。お婆様は最初から僕の事を知ってたみたい。
それでもお婆様は僕とずっと一緒に居てくれたし、僕が『俺』を思い出した時に、その日の朝に色々教えてくれたよ」

「そうか」

「そう言えば、何時もお婆様と居たなぁ…」

「ああ…成る程。シェルム先生は仕事があるからな…。
ふふ、相談役とお前ならちょうど親子に見えていたことだろうな」

そこでシラヌイは首をかしげた。

「お婆様の見た目は僕より少し大きいくらいの女の子だよ?」

「は?」

シラヌイが振り向いてボーデンと顔を見合わせる。

「タマモ様といえば豊満な肉体に太陽のような金髪と体を覆う程の九つの尾だろ?」

「えぇ…誰それぇ…」

シラヌイの中でのタマモは、テンションの高いモフモフ幼女だ。

「お婆様ってハイテンションモフモフロリババァだよ?」

「………………………………誰だそれは」

二人して首をかしげる。

「えと…お婆様って…」

「少なくともシェルム先生よりはエロい」

ふむ、と考え込むシラヌイ。

「変化………九尾…妖獣…玉藻御前…」

シラヌイがぶつぶつと考え始めた。

「おいシラヌイ。シラヌイ。おーい?」

ボーデンの呼び掛けにも答えず完全な熟考。

「まぁ、いいや。勝手に洗うぞ」

シラヌイの髪を洗っていると、どうしてもその耳に触れてしまう。

わしゃわしゃ……ふにふに……

わしゃわしゃわしゃ…ふにふに…

わしゃわしゃ…ふにふにふに…

ふにふにふにふに…







side in

気づいたらボーデンにおっぱい枕されてた。

「おぉ~水中では尻尾はこうなるのか…」

「ねぇボーデン僕訳がわからないんだけど」

「お前が考え事してる間に頭と体と尻尾を洗って湯船に浸かってるって次第だぞ」

「ふーん」

僕の尻尾が股間を通って目の前でボーデンに弄られている。

「あとでブラッシングしてやるよ」

「ん。よろしく」

「ところで考え事は済んだのか?」

ん?お婆様のこと?

「お婆様の姿は狐の方が本質と考えれば辻褄があうんだ」

「九尾の狐か?」

「うん。白面金毛九尾御前、幾多の国々を滅ぼした狐。お婆様が伝承通りの存在ならその本質は狐であり人の姿は仮初めだ」

「はく…何?」

あ、そっか。

「僕の前世の世界でのおとぎ話。傾国の美女玉藻が国を滅ぼしては追われ、最後には高名なプリーストに倒される話さ」

「ふーん…。そんなおとぎ話がねぇ…」

「僕の前世の世界では、子供でも皆知ってる大妖怪だよ」

「ヨーカイってなんだ?」

「モンスターの事さ。人の形をとる者から異形まで、人に害をなす者から見方するものまで。
まぁ、妖怪は零落した神々って説もあるしね」

「ふーん。お前らの世界って面白いんだな」

「さぁ、どうだろう。僕はいきなり斬り殺されたし、わかんない」

ふわっと、ボーデンに抱き締められていた。

「いや、べつに同情してほしくて言ったんじゃないんだけど」

首筋にふにゅっとした感覚が…

「ああ、お前がそんな器用な奴だとも思えん」

「あのー。そろそろ僕の中の獣が爆発しちゃうから離して」

まぁ、爆発する獣もないんだけどね。

「え?マジで?やべぇシェルム先生に消される…」

母さんは学生時代のボーデンにいったい何をどうしたんだろうか…

「じゃ、そろそろ上がるとするかシラヌイ」

「ん。わかった」

湯船からあがって、脱衣場へ。

支配者のポーズ。からの…

「クリエイトウィンド」

創り出した竜巻を纏い、水をおとす。

「ふぅ」

「魔法の無駄遣いするな」

「えー? 魔法は生活に役立ててこそでしょ」

するとボーデンが頭を抱えた。

「そうだけどっ…そうなんだけども…!」

体を拭いたボーデンは下着姿のまま僕を抱えてリビングに行き、ソファーに座った。

「ほら、ブラッシングしてやるよ。さっきあんな適当したから尻尾ボサボサだぞ」

あ、本当だ。

膝の上に腹這いになると、ボーデンが尻尾をとかしてくれた。

「ふみゅぅ~」

悔しい!でも感じちゃうっ(笑)。

「きもちいなら、そのまま寝てていいぞ」

「ぅゆー」

じゃ、お休みなさい。ボーデン。

 
 

 
後書き
本日学期末球技大会…なぜが先生がダイオウグソクムシのぬいぐるみをだいている… 

 

十五匹め

 
前書き
暁よ!私は帰って来た! 

 
そこそこの部屋のそこそこのベッドの上に二人の人影があった。

片方はトランジスタグラマーな女でもう一人は狐の男の子。

そこから女がそっと抜け出した。

部屋の戸棚から紅く朱く赤く輝く液体の入った小瓶を2つ取り出した。

女の親指ほどの小さな瓶だった。

きゅぽん、と瓶を開けた女はニヤニヤしながら男の子に近づく。

そして小瓶を男の子の顔に近づけ…

ずぼっ!

「ふぎゃ!? けふっ!ふぐっ!」

小瓶とその中身の液体を鼻に突っ込まれた男の子が飛び起きた。

「にゃにしゅゆのしゃぼーでぇん!」

「ん?昨日鼻にエリクシールを突っ込んで起こすって言っただろう」

「エリクシール…?」

男の子は鼻から垂れる液体を手で拭って見た。

「…………もったいねぇ!?」

「まぁ、こんな事ができるのは実際に作ってるからなんだがな」

言外に昨日の発言を取り消せと要求していた。

「わーすごーいぼーでんほんとうにえりくしーるつくれるんだねあたまはざんねんだけど」

「誰の頭が残念だって…?」

「ほら早く服着なよ。僕も裸って事には目を瞑ったげるから朝御飯にしよーよ」

「待て。ブラッシング中に寝たお前をモフりながら寝ていただけだ」

「ギルティ」







side in

「で、今日はどうすんだシラヌイ?」

ご飯を食べ終わるとボーデンにきかれた。

「ん?んー…ギルドに行きたい」

「ギルドぉ?」

「昨日はボーデンに拉致監禁されたけど本当はギルド行く予定だったんだ」

「まてアタシは拉致監禁などしていないぜ」

「ま、冗談はともかく」

「冗談は時と場合を考えろ」

「ちーっす」

「……………ぷっ」

「おいボーデン今の笑いはどういう意味だ」

「似合わないぜシラヌイ…」

「あっそ」

「で、なんでギルドなんだ?」

なぜって?

「え?御約束じゃん?」

「いや何の御約束だよ…」

「んー…ま、御約束なのさ」

「じゃぁもうそれでいいや…」










「なんでワンピースなの?」

ギルドへの道を歩きながらボーデンに尋ねる。

「それしか服がないからだ。お前が着てたの寝間着だろ?」

裾をあげる。

うん…

「すーすーする」

「我慢しろ」

「へーい」

まぁ、仕方ないか。

「それで?ギルドのどの部門に入るんだ?
製作か?討伐か?採集か?」

ん?部門?

「よくわかんないけどモンスターぶったぎれる所」

「じゃぁ討伐だな。だがお前戦えるのか?」

「ん? この前お城でメイドにちょっかいかけてた豚の一味を倒したばっかりだよ。
たしか…ダマオだっけ?」

「………………………………はぁ!?」

うわっ!? いきなり大声出してどうしたのさボーデン?

「ダマオってこの国の第一皇子だぞ!」

「まっさかぁ? あんな豚がこの国の皇子?
ないでしょ。」

「あぁ、そうだな(今頃タマモ様達はダマオを追い落とす口実ができて大喜びか…)」

ぶつぶつ言ってるボーデンは無視だ。

とりとめのない話をしていると、やがて大きな建物についた。

「ここ?」

「おう。フライハイト王国ギルド本部だ」

手を引かれてギルドに入る。

朝早いと言うのに賑わっていた。

いや、朝早くだからこそ賑わっているのか。

「シラヌイ、まずはギルドカードの発行からだ」

「おお!異世界っぽい!」

「異世界…? ああ、お前前世云々って完全な別世界から着たのか?輪廻転生の輪じゃなくて?」

この世界では輪廻転生が信じられている。

なんせ創造主と崇められるのが円環の女神サークリオンだからだ。

「らしいよ。兎に角登録でしょ?はやくしようよ」

「それもそうだな。あ、全盛期の話は今夜聞かせてくれ」

「うん。わかった」

カウンターの方へ歩いていく途中、絡まれた。

「おいおい、ねーちゃん。ギルドに子供連れとはどういう事だい?旦那はどうした?」

それなりに整った顔立ちの青年だった。

「ん?今日はこの子の登録に着たんだ。邪魔だ、通せ」

「はっ! こんなおこちゃまをか?
はははははは!笑えるねぇ。
こんな子供そこらに預けて俺らとどうよ?
天にも昇る心地だぜ?」

うん…なんか、こう、あれだ。

テンプレ乙wwwwwww!

「ねぇ、ボーデン。ボーデンの知名度って…」

「市井の人が全員アタシを知っている訳じゃない。特にアタシは後方要員で研究生産職でここ十数年武勲をたててないからな…」

あ、なるほど。国家錬金術師筆頭って要するに生産職のトップだもんね。

しかもエリクシール作れるような能力があるなら前線には絶対に出ないもんね。

「おーい。無視すんなよねーちゃーん?」

「ねぇギルドってこんな感じなの?」

「こういうのが時折居るが、まぁ、面白い所だ。こういうイベントがあると正当防衛の名の下にある程度好き勝手できる」

うわっ…ギルドの闇だ…。

「え。何?俺を倒す気?やめときなって。
おれこれでも銅級なんだけど?」

「銅ってどんくらい?」

「下から三番目だが、まぁ、それなりに強いはずだ」

ふーん。

「ねぇ?無視?無視なの?」

「喧しいなコイツ…。シラヌイ、ちょうどいいからコイツぶっ飛ばしてみるか?
上手く行けば銅級から始められるぜ」

マジで!? やるやる!

「おいおいねーちゃん。子供に戦闘任せるってどうなのよ。一応保護「お兄さん!ちょっと僕のために氷漬けになって!」

殺したら不味いからね!

「おい坊や。あんまり大人をバカにしちゃ…」

「クリエイトアクア!フェイズトランストゥソリッド!」

お兄さんを包み込むように創り出した一変がお兄さんの脚から胸元くらいまでの立方体の水を直ぐに凍らせる。

「ぐおぉぉぉぉぉ!?」

「あ、ごめん。一気に凍らせたから体積増えて締め付けちゃった」

「いだいいだい!?なんだこれ寒い!痛い!狭い!苦しい!」

「ほぉ。やるなシラヌイ。さ、ではカードの発行をすませよう」

あ、それが本題だったな。

「ん。わかった」

「ちょっと待って!絡んだのあやまるからこれどうにかしてお願いしますたすけてー!」

バカは放ってカウンターへ。

「この子のギルドカードの発行を頼む」

「畏まりました。ステータスプレートはございますか?」

「これだ」

と何事も無かったかのように受付嬢が対応する。

ってあれ…?

「ねぇボーデン。なんで僕のステータスプレート持ってるの?」

「ん?お前が昨日寝ている間にシェルム先生が持ってきたぞ」

マジか。

「まぁ、お前が落ち着くまでって事でな。
折り合い着けたらちゃんと家に帰れよ」

「ああ、うん…善処します」

ステータスプレートを受け取った受付嬢が何故か顔をひきつらせていた。

いったいどうしたのだろうか。

「えーと、坊や」

「なに?お姉さん?」

「君の名前、シラヌイ・シュリッセルで合ってるかな?」

「うん。あってるけど?」

どうしてきくんだろうか?

「ああ、君。コイツの名字は『気にしないで』くれ」

「か、畏まりました。少々お待ち下さい」

なんだろうか。ボーデンはやけに『気にしないで』の所を強調してたけど…

「シラヌイ。貴族がギルドに登録する時は名字を隠すのが普通だ。覚えておくといいぜ」

あ、なるほどそういうことか。

「ところで銅級からどうのこうのってどうなるの?」

「ん?昇級試験を受けるだけだぞ」

「筆記?」

「いや。お前は討伐だからシルバーの試験まで筆記は無しだ。
基本的に戦闘試験になるな」

後ろを振り返るとさっきのバカが仲間と思われる人達に氷を割って貰っていた。

しかし魔法で作られた氷なので少々苦戦しているようだった。

「アレはカウントに入る?」

「さぁなぁ…。ギルドの判断次第だ」

「えぇー…」

「どうせたいして魔力減ってないんだろう?」

「うん」

今回は考える(想像する)時間が十分に有ったから水の創造も氷結も少ない魔力で済んだ。

話していると、カウンターの奥から受付嬢が戻ってきた。

そして僕に紙を渡した。

「こちらが現状のギルドカードの内容となります。このままで発行いたしますか?
昇級試験を受けますか?」

書類には僕の名前とレベルが書いてあった。

「ん?ストーンから…?」

「はい。昇級試験の勝利条件は相手の意識を奪う事もしくは戦闘不能にする、または審判が有効攻撃と見なした時ですので…」

つまり拘束しただけじゃダメ?

「だそうだシラヌイ。あそこで全身氷漬けにすれば少なくともアイアンからだった筈だぜ。
中途半端に首までにするから…」

「えー?殺したらダメなんでしょ?」

「あー…そうだったなぁ…」

まぁ、そういうことだ。

「じゃぁ昇級試験受けます」

「畏まりました。案内いたします」

side out











「寒い寒い!早く割ってくれぇ!」

「だから待てって!今割ってるから!」

「仕方ない、デューク、ウイスキー買ってこい」

デュークと呼ばれた少年は14.5歳くらいだ。

「了解っす!」

ギルドの中央では氷漬けの青年━名をレンという━を仲間の三人が救出しようとしていた。

「そもそもお前らのせいだろうが!」

「ゲームに負けたお前が悪い!」

そう、この青年ゲームに負けたペナルティとしてナンパしていたのだ。

「くっそ、なかなか割れねぇぞこの氷!
どうすんだローク!」

その仲間の一人、トルンがメイスで氷を叩くがなかなか割れない。

「魔法製の氷だ、普通の氷の数倍は硬いぞ」

「どーでもいーからぁ!早く割ってくれよぉ!」

と、そこへ少年が戻ってきた。

「ロークさん!ウイスキー買ってきました!」

「よし!貸せ!」

ロークと呼ばれた音はデューク少年から受け取ったウイスキーをレンの口に近づける。

「飲んだら暖かくなるが、飲むか?」

「聞く必要ないだろ!」

と口を開けるレンの口にロークはウイスキーを突っ込んだ。

「ぷはっ!」

二口三口飲んだ所でロークがボトルを離した。

「っかー!喉が焼けるぜ!」

「デューク、お前はポメルでトルンと氷を割れ」

「了解っす」

「俺はちょっと火ぃ貰ってくる」

ロークがその場を離れ、トルンとデュークが氷をせっせと割る。

二人が氷をわり、レンが動けるようになった辺りでようやくロークが戻ってきた。

「おっせぇぞローク!」

「あ、すまん。ちょっとさっきの子の昇級試験見てた」

「なにぃ!?」

「アイアンを余裕でKOしてたぞ」

それをきいたレンは、三人を置いて駆け出すのだった。
 
 

 
後書き
学習合宿おわってモチベーション上がらなくて… 

 

十六匹め

「これよりシラヌイ様の鉄級昇級試験を執り行います。
ジャッジは私、レナ・マルクスが務めます。
試験管は王立学院のドルス教官に務めていただきます」

アイアンへの昇級試験の為に通されたのはギルドの裏にあるフィールドだった。

テニスコート三面ほどのグラウンドがあり、そこにサッカーグラウンドのようなラインが引いてある。

サッカーグラウンドってーか某携帯ケモノ育てゲーのアニメのバトルフィールドって感じ。

審判はさっきの受付嬢。

試験管はスキンヘッドの厳ついオッサンだった。

身長は2メートル近くで縦にも横にも大きい。

角があって脚が動物のそれ…ミノタウロス族の方だろうか。

「なぁ坊っちゃん」

ドスの効いた声で話しかけられた。

「なんですか?」

「坊っちゃん、名前隠してるって事は貴族だろう?
事情は聞かないけど、おじちゃんは大人しく帰った方がいいと思うな」

声に反して物腰は柔らかい人だ。

「いえ、大丈夫です。僕は一応魔法使いですから」

「だから坊っちゃんは武器を持ってないって訳かい?」

「うん。僕の体格じゃギルドの武器は使えないからね」

武器は借りていない。

だが、幾つか借りた物がある。

革製の籠手と脚甲だ。

革製なのでキツく締めれば使える。

ひらひらしたワンピースにこれは完全なミスマッチだろう。

「坊っちゃん。手加減はするが俺だって本気でやる。でなけりゃ試験にならねぇ。
頼むから怪我はしないでくれよ」

「わかったよ。お兄さん」

お兄さんが刃引きした長剣を構える。

いや、お兄さんが持つから長剣に見えるが普通に大剣クラスの武器だ。

「試験、開始!」

その合図と共に、僕は駆け出した。

「なっ!?」

魔法使いと言った手前、前に出てくるとは思っていなかったのだろう。

近づいて、大きく飛び上がる。

亜人の身体能力はヒューマンのそれを易々と越える。

ルナール…小動物系の亜人は筋力こそヒューマンと大して変わらないが敏捷性などはその傾向が激しい。

逆にミノタウロス族等は敏捷性がヒューマンと変わらないが膂力が凄まじい。

お兄さんの頭上に達し、大きく手を振り上げる。

「ジェネレート!ウォータライトクロー!」

クリエイトウォーター、シェイプシフト、フェイズトランストゥソリッドは省略。

生み出した水を瞬時に籠手に纏わせ、巨大な手を造り出す。

手のひらだけで約一メートル厚さ二十センチの大きな手だ。

無論、そのツメも長く太い。

「嘘だろ坊っちゃん」

と呟き、防御姿勢を取るお兄さん。

直後、ツメと長剣が衝突した。

ガァン!という激しい音。

手にビリビリと衝撃が走る。

「メルト! 」

パシャっと氷が溶け、手がフリーになる。

そして直ぐ様バックステップで後退。

距離を十分に取ってお兄さんを見ると、剣を持っている方の肩を押さえ、うずくまっていた。

まぁ、百キロを越える衝撃を片手に持った剣で受け止め、しかもその全ての水を被ったとなれば、かなりのダメージだろう。

「なぁ坊っちゃん…マジで何者だよ」

「ただの狐だよ」

「はは…狐…狐か…。恐ろしい限りだ…」

次で『トドメ』だ。

「クリエイトアクア」

お兄さんの頭上に水球を作る。

上空20メートルの位置だ。

大きさは直径十メートル。

体積5×5×3.14×10×2/3…

えーと…25かける10かける2…

だいたい500立法メートル。

チラリと受付嬢を見るが、まだジャッジは出ない。

「シェイプシフト」

それを槍状に形成。

まだ出ない。

「フェイズトランストゥソリッド」

まだ出ない。

「じゅーう。きゅーう。はーち。なーな。
ろーく。ごー。よーん。さーん。
にーい。いーち」

まだ。でない。

「ゼロ。神のつ「そこまで!」

落下を始めた氷杭。

「メルト フェイズトランストゥフォッグ」

バシュッ!と辺りが水蒸気に包まれる。

だが次の瞬間には水が凍り、深い霧に包まれる。

そう、世界に命じた。

で、ふとおもったのだが、攻撃魔法って水属性魔法しか使ってない気がする。

だからまぁ、事後処理くらいは他の属性を使おう。

「クリエイト…いや…
ジェネレート・ダストデビル」

つむじ風を起こし、霧を上空へ散らす。

「試験終了とします。合否を協議しますので暫くお待ち下さい」

「坊っちゃん…協議するまでもなく合格なんだが、仕様なんだ…我慢してくれや」

「ん。わかったよお兄さん」

スタッフと思われる人がお兄さんに肩を貸し、ギルド屋内へ戻っていく。

そしてお兄さんと入れ違いに、さっきのバカが入ってきた。

「おぉぅこらてめーえ!チョーしこいてんじゃねーぞこらぁあ?」

なお今のセリフに強弱をつけると『おぉぅ↑こら↓てめーえ↑!チョー↑しこい↑てんじゃねー↑ぞこらぁあ↓?』となる。

要するに、酔っぱらいだ。

多分氷が割れるまで寒かったので酒を飲ませてもらったとかそんな感じだろう。

足取りも若干怪しい。

「おーい。ボーデーン。アイツやっちゃっていい?いいよね?」

「いいんじゃねぇの?」

「どこまでやっていい?」

「即死じゃなけりゃアタシがなんとかするけど?」

とボーデンがローブを叩く。

多分エリクシールを持ってるんだと思う。

「おっけー」

さて、じゃぁ…やるか。

「へいへーい!そこの酔っぱらいのバカ!
ガキにコケにされて怒ってんだろ?
来いよ!来てみろよ!ほらどうした来いっていってんだよ!
なんだ?また氷付けにされるのが怖いか?
それでよく冒険者やってられるな?
怖いならさっさとお家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな。
え?俺の母ちゃんもう出ない?おしゃぶりしゃぶってろばぁぁか。
ほらどうした?帰らないのか?それとも帰る道をわすれちゃったか?
迷子か?迷子センターまで送っていこうか?
あ、この世界迷子センターねぇわ。
じゃぁ衛兵の詰所行こうよ詰所。
そこでママが来るの待つんだよ。まぁ、不振がられて牢屋に入れられて本当にママに来てもらうってのはダサいが目的は果たせる。よしこれでいこう」

「うるっせぇぇぇぇぇんだよこんのガキィィィィィィィィィ!」

大剣を振り上げながら走って来るバカ。

「クリエイトアクア フェイズトランストゥソリッド」

今度は直径5センチ程。

それを何処に置くかといえば…

「ふごっ!?」

バカの足元だ。

ずっこけたアホの手から大剣が離れる。

「野郎!」

アホが取り落とした大剣を取ろうとする。

「クリエイトアクア フェイズトランストゥソリッド」

大剣を氷で包む。

「ちくしょう!」

立ち上がって、素手で殴りかかってくる。

「ジェネレート レイヤードアーマー」

バカの拳がとぷん…とぷん…と水の層を通過する。

「フェイズトランストゥソリッド」

その拳は僕の目の前で落ちた。

腕もろとも。氷の重さで地面に縫い付けられる。

「クリエイトアクア」

作り出した冷水をバカの頭にかける。

「酔いは覚めましたか?」

「……………………………」

「このまま脳天カチ割りますよ?
死んで治るくらいならバカも案外悪い病気じゃない…。
そんなバカな事を言った人を僕は知ってますが試してみましょうか?」

氷の槍を創り、首筋に突き付ける。

返しのついたエグい形の奴だ。

「10、9、8…」

「待ってくれ君!」

なにやら三人組が走ってきた。

「待ってくれ少年!」

三人組はバカの横に並んでしゃがみこんだ。

膝立ちで片手の拳を地面につける。

なおこの姿勢、地球…というか日本の土下座に当たる。

「コイツは俺らの仲間なんです。
コイツを殺すのは待ってくれませんか?」

そう言ったのは茶髪につり目の男だ。

リーダーだろうか?

「……別に、殺すつもりはありません。
事情は知りませんが、以後こういった事の無いよう気を付けてください」

「寛大な処置感謝いたします」

メルト、と呟くとバカの腕を包んでいた氷が溶け落ちた。

「では行ってください」

「有り難うございますっ…!」

リーダーがバカを立たせ、ギルド屋内へ引き摺って行った。

「いいのかよシラヌイ。あのまま行かせて」

「何かする必要ある?」

振り返るとボーデンに抱き上げられた。

「慰謝料の請求とか…?」

「いや、ヤクザじゃないんだから」

「くくっ…アイツらも命拾いしたみたいだな。
お前以外の貴族だったらもっとひどい事になってたはずだぜ」

それであんなに畏まってたのか…

「あっそ。どうでもいいね。
いや、どうでもよくない。何さらっと横抱きにしてんだよボーデン。当たってるんだよ」

「当ててるんだぜ」

「………………ボーデンが童顔じゃなかったら爆笑してたかも」

「何気に酷いなお前」

この後なんだかんだで銅級になった。
 
 

 
後書き
俺「神崎エルザのアルバム買ったわー」
友「ロリコン」
俺「何ゆえ…」
友「言わなきゃわからんか?」
俺「待て。俺がここで『八九寺真宵』と答えていたならその不名誉な称号を受け入れようだが神崎エルザは成人だ…つまりロリじゃない!アルティメットロンパリオン」
友「神崎エルザは合法ロリだろうが!お前ぜんぜんわかってねぇな!」
俺「お前がロリコンだったか…」 

 

十七匹め

 
前書き
筆がノッて気付けば4000文字…。 

 
「よーし!スロータークエ開始!」

「テンション高いな、お前」

ギルドへの登録を終えたシラヌイとボーデンは王都城壁の外に出ていた。

フライハイト王国王都リベレーソ周辺は、王都を囲むように畑や牧場が配置されている。

「だって初クエストだよ!」

そのはしゃぎ様は年相応で、ボーデンはクスリと笑った。

「さて、じゃぁスライム討伐いこっか」

「本当ならとめるんだがなぁ…。
お前相手だとスライムの方が可哀想で仕方ないぜ」

ボーデンの目に映るシラヌイは丸腰だ。

ひらひらと風に揺れるワンピース。

戦いなんて考えてない可愛らしい靴。

一切の防具も武器も持っていない。

「ボーデン。スライムってどこら辺に出るの?」

「知らないで来たのかよ…」

「知識としては知ってるけど、僕お屋敷から出たこと無いんだよね」

「過保護すぎる…」

「だから出現ポイントまで連れてって?」

「はいはい…」

歩きだしたボーデンの後を、シラヌイは狐の姿となって追いかける。

シラヌイは初めての城壁外に興味深々だった。

ボーデンが足元できゅーきゅー言っている狐に目を向ける。

「……………」

ボーデンはシラヌイをヒョイと抱き上げ、その豊満な胸元にスポッと入れた。

「きゅー?」

「いいから。お前放っといたらどっか行くだろ」

「きゅー…?」

「お前は歩かなくていい。私はお前のもふもふを感じられる。
win-winってやつだ」

「きゅ…………きゅぃ?」

「おう。下着つけてねぇぞ」

「きゅ」

「誰が痴女だコラ」

「きゅー。きゅ。きゅー?」

「うるせー。おとなしくアタシのたわわな胸を堪能してろ」

「きゅぁ…………きゅぅ」

「怖い事言うなよ。お前がシェルム先生に言わなけりゃいいだけじゃねぇか」

「きゅぅー…」

「ま、おとなしくしとけ」

ボーデンはシラヌイを胸元に入れたまま歩きだした。

ボーデンの部下の錬金術師連中が見たら嫉妬心でダイナマイトを開発しかねない状況である。

四半刻ほど歩き農業エリアを抜けると、ボーデンが一度足を止めた。

「シラヌイ。見えるか?」

「きゅ」

ボーデンの指差す方にはうねうね動く一メートル程で不定形のナニカ。

某龍探しのような可愛らしい姿などではない。

目も口もない青い液体。

「あれがスライムだ。体は粘液でできていて、まとわりつかれると窒息しかねん。
あと粘液は酸だったり毒だったり媚薬だったりするからそこも気を付けろ。
弱点はスライム・コア。ソコを破壊すればすぐに形をうしなう。
あとコアは高値で売れるから余裕があるならコアだけ抜き取ってみるといい」

「きゅぃ」

ボーデンが胸元からシラヌイを抜き、地面におろす。

獣化を解いたシラヌイは50メートルほど先にいるスライムを見据える。

「あれってさわったらマズイんでしょ?」

「まぁ、青は基本的にただの水だから問題ないが…
まとわりつかれたら死ぬぞ?」

「え?ただの水?」

「スライムは液体に自分の魔力を通して動かしてるからな」

「じゃぁスライム・コアって…」

「スライムの本体だ。上手く躾れば役に立つからな」

「へぇー…。じゃぁちょっとやってみるか…」

シラヌイがスライムへ歩きだし、その後ろをボーデンがついていく。

「なんかあればアタシがどうにかする。
お前は安心していいぞ」

「安心感のある冒険って何なんだろうね」

「冒険?これが? くく、御坊っちゃまにとっては城壁から出るだけで冒険か」

「ばかにしないでくれ…」

「そう怒るなって…帰りもぱふぱふしてやるから」

「なんで異世界にぱふぱふがあるんだよ…
いやオノマトペだからあり得なくはないけどさ…」

シラヌイとスライムの距離が縮まった。

シラヌイの正面にスライムがいる。

自分に近付く存在を察知したスライムが、エサを求めて動き出す。

にゅぅぅ~ん…と触腕を伸ばす。

シラヌイは何もせずつったっている。

スライムの触手がシラヌイに迫るッ!

「シラヌイ!」

「よっしゃきたぁ!」

ボーデンの心配する声を他所に、シラヌイは触手を掴んだ。

とぷぅん…とシラヌイの腕が粘液…魔力を含んだ水に沈む。

「これでも喰らいなぁ!」

シラヌイはスライムの触手に対し、魔力を流した。

スライムの魔力が抵抗となるが、直ぐに押し負け、スライムの全身にシラヌイの魔力が回る。

まるで毒のように浸透したシラヌイの魔力は、スライムの魔力を断ち切り……その形を崩壊せしめた。

パシャッ…と水が崩れ、コロコロとスライム・コアが転がる。

シラヌイはそのゴルフボールほどの球状の物体を天高くかかげ…

「スライム・コア!獲ったどー!」

「アホかお前は!?」

ボーデンがペシッとシラヌイの頭を叩く。

「なに?」

「なに? じゃねぇよ!危ない事すんなよ!」

「え?でもなんかあったらボーデンが助けてくれるんでしょ?」

「そうだけど…そうだけども!」

「…?」

コテン、と首を傾げるシラヌイに頭を抱えるボーデン。

「次からスライムに直接触れるのはナシだ」

「わかった」

「ほら、コアわたせ」

「はい」

ボーデンは受け取ったコアをローブのポケットに入れた。

シラヌイは辺りを見回して、スライムを探す。

近くにはあと二匹ほどいる。

「ねぇ、ここらってスライムしか居ないの?」

「ああ、ある程度知性があればこんな真っ昼間にここら辺までは寄ってくる事はない。
この時間帯にいるのは知性のないスライムとか一部のモンスターだけだぜ」

「ふーん…」

「そうだな…あと3キロ進めばスライム以外も居るぞ」

「いーよ。面倒くさいし。今日はスライムだけで我慢しとくよ」

そう言うとシラヌイは口笛を吹き始めた。

シラヌイの前世ではオタクなら誰もが知っている曲。

あるゲームシリーズのリメイク版第一作の裏ボスのテーマ曲だ。

吸血鬼少女をテーマにした曲で、タイトルに某有名ミステリーの黒幕の名前が入っているやつである。

「おいシラヌイ。わかっててやってるんだろうが一応言っておくと口笛吹いたりするとモンスター寄ってくるからな」

シラヌイは口笛を吹きながらグッドサインをした。

「ならいいけどよ…」

二人に近付く二匹のスライム。

より近い方へ、シラヌイは歩きだした。

少しずつ歩を早め、やがて駆け足へ。

そして…

「ジェネレート!アイスソード!」

氷で剣を作り、それを弓を引くように、肩に担いで引き絞る。

スライムが触手を伸ばすよりずっとはやく…

「でやあああぁぁぁぁぁぁ!」

トプッと剣をスライムに突き刺す。

「バースト!」

今度は剣を道にして、スライムに魔力を流す。

「凍れ!」

シラヌイがやりたいのはスライムを凍らせてから叩き割るという倒し方だ。

既にある液体を凍らせる場合、液体に魔力を通さなければいけない。

つまり水の支配権を奪う必要がある。

魔力を浸透させるだけでいいのだが、それをすればどうなるかというと…

パシャっ……………。

スライムの形を保つ魔力が吹き飛んでこうなる。

「だぁぁぁぁぁぁ!もうっ!なんで凍らないんだよ脆すぎるぞスライム!」

「いや、そもそもそんな倒し方を考え付くのはお前だけだ。
普通は素直にスライム・コアぶちぬくぞ」

「ほら!食器とか叩き割ったら気持ちいいじゃん!
あれやりたいんだよアレ!」

「お前、そういう感性は子供なんだな」

「だー!もうっ!次行こっ!次っ!」

氷剣を放り投げ、再び駆け出したシラヌイ。

「フツーはこんな出来のいい氷剣を使い捨てないんだがなぁ…」

コアを回収し、シラヌイを後ろから追いかけるボーデン。

彼女の視線の先では、シラヌイがスライムに氷剣を突き刺していた。

「凍れ!」

刹那、シラヌイから大量の魔力が溢れ出す。

そんな余剰魔力が出るほどの魔力を、シラヌイはスライムに注いでいた。

ただひたすら、凍れと念じながら。

やがてスライムが突き刺された氷剣から凍っていく。

ジワジワとその身が動かなく恐怖を、果たして知性なきモンスターは感じるのだろうか?

最後には、スライムはその形を保ったまま氷像と化した。

「やったぜ!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜びを顕わにするシラヌイにボーデンが一言。

「で、どうやって割るんだ?氷同士でやるのか?」

「………………………………」

跳ねるのをやめるシラヌイ。

そしてうつむきぶつぶつと呟きだした。

「ダイヤ……二酸化炭素…空気…環境汚染…異世界…濃度…非現実的……氷…硬度…低温…」

「あー…長考入ったなこいつ」

一分ほどしてシラヌイが顔を上げた。

「試しにやってみよう」

シラヌイは両手で空気を握り、振り上げた。

「ジェネレート!ウォータライトハンマー!」

そしてシラヌイよりも大きいハンマーが生成され…重力に従ってスライムに振り下ろされた。

途中衝撃で柄がポッキリ行った物の、スライムは見事に粉々となった。

「きもちー!」

「なんでハンマーが砕けてないんだよ…」

「氷って温度が低いほど硬くなるんだよ」

「へー」

「むぅ…そっちから聞いておいて…」

そこまで言うと、シラヌイがハンマーの柄を投げ捨てた。

「ボーデン、手、かして」

「?」

ボーデンが手を差し出すと、シラヌイがその手をぎゅっと握った。

「冷たっ!?」

「あぁ~ボーデンの手あったかーい…」

「おまっ!こんなに冷えて…!凍傷になるぞ!」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと直ぐに手放してるから」

「それであんなポイポイ捨ててたのか…
あの氷剣水晶製って騙して売れるレベルだったぞ」

「?」

「まぁ、いいや、ちょっと待ってろ」

ボーデンが空いた方の手をローブの内側へ入れる。

仄かに光るピンクの液体。

希釈エリクシールだ。

「ほら、一応塗っとけ」

「ゅ!」

シラヌイが両手を広げ、その上にピンクの液体が数滴落ちる。

シラヌイはそれを手のひらに馴染ませるように両手をこする。

「ふぁぁぁ…あったかいよぉ………」

エリクシールは万能の霊薬であり、凍傷の部分に塗ると暖かくなる。

「おい、あんまりその顔人前ですんなよ。
襲われるぞ」

「?」

「まぁ…九尾の孫に手を出すバカはいないだろうが…」

ボーデンは周りを見て、これ以上スライムが居ないかを確認した。

「よし、じゃぁ帰るぞシラヌイ」

「え?なんで?」

「昼飯買ってねぇし」

「あぁー…」

シラヌイはボーデンに背を向け、砕け散ったスライムの欠片を漁り始めた。

「砕けたんじゃねぇの?」

「わかんないけど、ほっといたら復活するんでしょ?」

「よくわかったな」

やがてシラヌイは一つの氷塊をみつけた。

「あった」

スライム・コアの半分を被う氷。

シラヌイは氷をひっぺがし、ボーデンに渡した。

「かえろ、ボーデン」

「おう」

ボーデンがシラヌイの脇に手を入れると、シラヌイは何も言わず狐になった。

それを来たときと同じように胸元に入れる。

「なぁ、シラヌイ、このままぎゅってしていいか?」

「きゅー」

「いや、潰れねぇだろ」

「きゅぃ」

「おいおい、お前が漏らしたらアタシが漏らしたみたいになるじゃねぇか止めろよ」

「きゅぅ」

「はいはい、このままかえるよ…」

なんだかんだ言いつつ、ぱふぱふを堪能できてご満悦のシラヌイだった。
 

 

十八匹め

スライムを倒した二人は王都リベレーソに戻り、ギルドに報告しに来ていた。

「おねーさん」

「いらっしゃいませシラヌイ様。此度はどのようなご用件でしょうか」

シラヌイの身長が身長なので、受付嬢はカウンターから身を乗り出すようにして問いかける。

「スライム三匹倒したからほーしゅーちょうだい」

そう言ってワンピースのポケットからスライム・コアを3つ取り出し、カウンターに置いた。

なおボーデンはギルドの入り口で背伸びしながらコアをカウンターに置くシラヌイを見てにやついている。

「スライム…貴方がやったのですか?」

「うん!」

受付嬢がボーデンに目を向けると手を振られただけだった。

「あの、参考までにどのようになさったのか…」

「おもいっきり魔力流し込んだらただの水にもどったよ。
あとねあとね!氷剣ぶっ刺して凍らせてから氷鎚でぶっ叩いたらキレイに割れたよ!」

褒めて褒めてー! と言わんばかりに尻尾を振って笑顔を見せるシラヌイ。

受付嬢はそのはしゃぎ様からどうやら本当らしいとさとった。

「わかりました。報酬ですね?
…コアの色は………へ?」

「どしたのそんなすっとんきょうな声あげて」

「失礼ながらシラヌイ様。貴方が討伐したスライムの粘液は何でしたか?」

「ボーデンはただの水っていってたよ?」

受付嬢が手に取ったスライム・コアの色は白だった。

「おかしいですね…青いスライムのコアは透明なはずですが…」

「そうなの?」

「はい。白いコアは見たことがありません…」

「えー…じゃぁ報酬は?」

しゅん、と尻尾と耳をしおれさせるシラヌイに、受付嬢はすこしたじろぐ。

「いえ、通常のスライム討伐報酬は支給します」

「一匹幾らなの?」

「スライム一匹につき銀貨一枚です。
コアの買い取り価格は一つ銀貨二枚です」

なお銀貨一枚は日本円で1000円に相当する。

「討伐報酬とコアの買い取りって別?」

「はい。スライムはペットになり得ますから」

「ふーん…家にはいなかったな…」

「上手く育てれば部屋を勝手に掃除してくれますよ。
スライム・コア、どうされますか?」

「んー…なんか珍しいっぽいし、持って帰るよ」

「わかりました。ギルドカードをいただけますか?」

「ん!」

ギルドカードを差し出したシラヌイはドヤ顔だった。

ムフー、といった感じだ。

受付嬢にギルドカードを渡し、すこし待つ。

すると受付嬢はギルドカードと銀貨の入った封筒、加えて領収書をシラヌイに渡した。

「こちら、報酬と領収書となります」

「ありがとっ! おねーさん!」

「またのお越しをお待ちしております」

「うん!またくるねー!」

とてとて、と入り口で待つボーデンの所へ走っていくシラヌイ。

「よ、シラヌイ。どうだった?」

ボーデンがシラヌイの頭を撫でる。

「銀貨三枚だって」

「しょっぺぇ…」

「そう?スライム一匹なら妥当じゃない?
むしろもっと安いと思ってたもん」

「お前からすればそうだろうが、ありゃ魔法が使えない奴にはキツい相手だぞ」

「ふーん…?」

「ま、兎に角飯だ飯」

「どこいくの?」

「アタシの行き付け」

ボーデンはシラヌイの手を握り、ギルドをあとにした。







「ボーデンの行き付けってここ?」

「おう。メディオセ食堂だ」

ボーデンがシラヌイを連れてきたのはそれなりに大きな食堂だった。

王都のメインストリートというかなりいい立地条件である。

「安くて早くて旨い。忙しい商人とかに人気の店だぜ」

「商人…ね」

浮かない顔をするシラヌイ。

「ん?どうしたんだシラヌイ?」

「いや、なんでもない。杞憂さ」

シラヌイの懸念した事は、確率の低い事であり、そう起こりうる事ではない。

「ま、入ろうぜシラヌイ」

「ゅ」

こうして二人は昼食にありつくのだった。
 
 

 
後書き
次回!新キャラ登場! 

 

十九匹め

「ゅー…」

シラヌイは食堂のメニューを見ながらうなっていた。

「まだ決まらねぇのか?」

「ゅ。どんな料理かわからない」

「じゃぁもうパスタにしとけ」

「うん…」

シラヌイはパスタのページを開いてクスリと笑った。

「ボーデン、決めたよ」

「おう。何にするんだ?」

「ナポリタンっていうのを食べてみたいかな」

「ナポリタンな。すいませーん。注文いいですかー」

店員が注文を取りに来た。

「ナポリタンとカルボナーラをたのむ」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

店員が注文をメモした紙を持って厨房へ。

「でよ、シラヌイ」

「なに?」

「おまえいつ帰るんだ?」

「はて何時になるやら」

「六歳になるまでには帰れよ」

「学校?」

「おう」

フライハイトは比較的教育が充実している。

中流階級の子供なら学校にやれる程だ。

シュリッセル家ほどの財力があれば王立学院に通う事もできる。

「学校ねぇ…。行かなくても支障はないかなぁ…」

「卒業資格さえ貰えれば、って顔だな」

「だって前世の記憶あるし。前世じゃこの世界よりすすんでたからねー…」

「例えば?」

「星の世界に飛び立つ船。世界の果て同士でも話せる道具。数億冊の本を封じ込めた手のひらサイズの箱」

順にロケット、携帯電話、電子辞書である。

「ほぅ?」

「あ、でも魔法のない世界だったからなぁ。
薬学や医術は進んでてもエリクシールみたいな薬はなかったね」

「へぇ…。もっと聞かせてくれよ」

「ん。いーよ」

シラヌイはボーデンに前世の…現代日本の技術や文化をざっくりと話す。

そうしている間に料理が運ばれてきた。

「わ、本当にナポリタンだ」

「どんなのを想像してたんだおまえは…」

「まぁまぁ」

シラヌイはフォークをとるとクルクルとナポリタンを巻き付けた。

「はぐはぐ……んきゅ…おいし」

「そか。そりゃよかった」

はぐはぐ……もくもきゅもきゅ…ごくん。

「ボーデン。たべないの?」

「食べるさ」

互いに無言になり、パスタを頬張っていた。

だがそこに介入する者がいた。

ソイツはとんとん、とシラヌイの肩を叩いた。

「うゅ?」

振り向いたシラヌイの頬に人差し指がささる。

そのままソイツはシラヌイの頬をぷにぷにとつつく。

「あらあら。またひっかかりましたね、シラヌイさん」

「やほー。ぬいちゃん」

シラヌイの視線の先には二人のデミヒューマン。

身長差があり、顔はそっくり…母娘であった。

小さい方は腰まで伸びる純白の髪。

その髪はウェーブがかかり、実際よりもボリュームがあるように見える。

首もとや腕や脚…顔と手以外の服から露出している部分は全て白い毛に覆われている。

そして無表情でぽやぽや…というかぽやー…っとした雰囲気を醸し出している。

大きい方は小さい方をそのまま大人にしたような感じだ。

バストは豊満で腰は括れている。

そして、二人とも頭に角があり、裸足…否足先が蹄である。

サテュロスと呼ばれる羊のデミヒューマンだ。

そして…

「お、お久しぶりですねセンマリカさん、メリーちゃん」

シラヌイの知り合いであった。







side in

『杞憂』というのは要するに『天が落ちてくる訳ねーだろバーカ』という古代中国の故事からできている言葉だ。

宇宙世紀の人なら『いや、天(コロニー)は落ちる』と言うだろうがここは異世界。

コロニーどころか人工衛星すらない。

だが、まぁ、その、なんだ…

天って落ちてくるんだな…。

「ねぇシラヌイさん。今日はお母様はどうしたの?」

「えーと…その…」

家出中ですっ! とは言えないよな…

「えーとですね…その…お母様は今日忙しいらしいので、お母様の知り合いに預けられてるんですよ、はい」

センマリカがボーデンに視線をやる。

「あら、ボーデンちゃん。元気だったかしら?」

「………………」

ボーデンはなんか、嫌な奴に会ったって顔だ。

「何の用だセンマリカ」

「あらやだ怖いわ~。同じベッドで寝た仲じゃないの~」

マジかよボーデン…。レズだったのか…

「ああ!同じベッドで寝たなぁ!学院の二段ベッドで!」

「あら~。ネタばらしが早いわよ~」

「そのネタはガキには通じんだろうが」

僕は通じるけどね。

「ところでシラヌイさん」

「なんですかセンマリカさん?」

「貴方。そんなに話せましたっけ?」

………………ヤバい。

「先ほどから受け答えが流暢ですね。
まるで、そう。まるで他者が乗り移ったか、もしくは」

センマリカさんは何故か僕の耳に口を近づけた。

「前世でも思い出したかのようですね」

「!?」

思わず椅子から降りて構えてしまった。

無意識に氷のナイフを握っていた。

「あらあら、そう怯えなくてもいいですわ。
貴方のお母様から聞いておりますもの」

なに?

「息子が前世の記憶を思い出して家出したから様子を見てきてくれ、とシェルム先生に頼まれましたの」

バラしたのか、お母様は。

俺の秘密をっ…!?

「安心していいですよ。前世の記憶があっても貴方は貴方なのでしょう?」

「…………………ええ、まぁ」

「半信半疑でしたけど、実際に話して理解しましたわ。
それに面白そうじゃないですか」

そっすか。

「ではシラヌイさんの無事も確認したことですし、シェルム先生に報告してきますわ」

「おう帰れ帰れ」

なんか、ボーデンとセンマリカさんって物凄く仲よさそう。

「あぁ、そうだシラヌイさん」

「なんですか…?」

「すこし娘を預かっていただけませんか?」

「は?」

「中身は成人なのでしょう?ならば安心できます。頼みましたよ」

そう言ってセンマリカさんは本当にどっか行った。

メリーちゃんを残して。

「えと、メリーちゃん?」

「ぬいちゃん。しっぽもふもふさせて」

メリーちゃんが抑揚の少ない声で言った。

「うん。それはいいけど何かセンマリカさんから聞いてない?」

「ぬいちゃんは本当は年上だからおもいっきり甘えていいっていってたよ」

「やべぇあの人が某最弱無敗の学園長に見えてきた」

商会のボスだし。巨乳だし。マイペースだし。

メリーちゃんが無表情キャラだから特にそう見えてしまう。

「メリーちゃん。とりあえず座ったら?」

座っていた椅子の隣の椅子を引いてから、元の椅子に座る。

「そうする」

隣の席にメリーちゃんが座った。

「ナポリタン。少し食べる?」

「たべる」

フォークにナポリタンを巻き付け、メリーちゃんに差し出す。

「かんせつきす」

「あ、ごめん。嫌だよね。新しいフォーク持ってくるから…」

「ぁむ……………おいひぃ」

「え?」

「んく…私はきにしない。むしろしてほしい。
きせいじじつ」

待て、何の既成事実だ。

「既成事実って誰に教わった?」

「おかーさん」

五歳の娘に何を教えてるんだあの人は。

「あー」

と口をあけるメリーちゃんにナポリタンをまいたフォークを差し出す。

「ぁむ……むぐむぐ………んく」

あ、これ楽しい。

それを何度か繰り返し、自分の腹もみたしつつメリーちゃんを餌付け(?)した。

「ぬいちゃん。しっぽ」

「はい」

メリーちゃんに尻尾を差し出すとぎゅっと抱き締められた。

「もふもふ…ぬいちゃんの尻尾もふもふ…」

メリーちゃんは僕が前世の記憶を思い出す前にも度々家に来ていた。

尻尾をさわられるのは初めてではない。

それで、メリーちゃんのどこが可愛いかっていうと…

「もふもふ…もふもふ…」

僕の尻尾をもふってる時にうっすらと浮かべる笑みだ。

普段無表情…というか眠そうなメリーちゃんがこの時だけは笑うのだ。

もうね!かわいくてしょうがないですはい!

「ぬいちゃんも、わたしをもふもふしていいよ」

「え?いいの?」

「………? いつもしてたじゃん」

いや、いつも互いにもふりあってたけど…

「いいんじゃねぇの? センマリカも何も言わねぇって事はいつも通りでさ。
お前のこと信用してる証拠じゃねぇか」

「ボーデン…」

「ま、もふりあうのはいいが、ここじゃ他の客の邪魔になる。出るぞ」

「ん。わかったよボーデン」

「もふもふ…いい…」

side out
 
 

 
後書き
もふもふがもふもふをもふもふしてもふもふされる光景ってもふもふじゃない?(錯乱) 

 

二十匹め

王都の中心から少しだけずれた所に噴水のある広場がある。

三人はそこに来ていた。

否、二人と一匹だ。

メリーとボーデンは噴水の縁に腰かけていた。

シラヌイは獣化し、メリーの腕のなかだ。

「きゅ~…」

尻尾をもふられ、さらにはメリーの羊毛に包まれたシラヌイは気持ちよさそうな鳴き声をはっする。

「ぬいちゃん、きもちい?」

「きゅぅぅぅ……」

「よかった。わたしだけきもちよくなってたらわるいから」

セリフだけ聞くとナニをしてるんだと言いたくなるようなセリフだった。

ボーデンは隣でもふりもふられるメリーとシラヌイを見ていた。

「なんですか、ボーデンさん?」

「お前、シラヌイの事すきか?」

「すき、だよ?」

「なら、それでいい。シラヌイをもふって、もふられて、それでいい」

「?」

無表情でこてん…と首を傾げるメリー。

「まぁ、なんでもねぇよ。ん…寝たっぽいな」

もふもふの羊毛の上で撫でられていたシラヌイは…

「くぅ……くぅ……くぅ……」

いつの間にか寝息を発てていた。

「ぬいちゃん、かわいい…」

ともふり続けるメリー。

異変が起こったのは、一時間ほどした時だろうか。

「はぁ…はぁ………………?」

メリーの息が上がり始めた。

「メリー?」

「ん…?」

ボーデンに名前を呼ばれ、首を傾げるメリーの顔は心なしやつれているように見えた。

ボーデンはその症状を知っている。

魔力切れだ。

「メリー!シラヌイを寄越せ!」

ボーデンがメリーからシラヌイをひったくる。

「あー…もふもふ…」

「そんな場合じゃねぇよバカ!」

ボーデンはシラヌイの持つスキルの一つを思い出していた。

<エナジードレイン>

「くっそ…昨日は何もなかったが…
あぁ…戦闘で魔力使ったからか…」

ボーデンはシラヌイの脇に手を入れて持ち上げながら、自分の魔力が吸われていくのを認識した。

「パッシブ……いや無意識か…」

「ボーデンさん?」

「ああ…もうめんどくせー…」

ボーデンはローブを脱ぎ、それでシラヌイを包み込んだ。

「わお。ボーデンさんナイスバディー」

「うっせ」

ローブを脱いだボーデンは白いカッターシャツにブレザーのような…国家錬金術師の制服を着ている。

だがその豊満な体がカッターシャツとブレザーを押し上げている。

「からまれるよ?」

「いや、国家錬金術師に絡むバカは居ないだろ」

シラヌイが起きていれば『フラグ乙』と言いそうなセリフである。

「いつ頃からキツくなった?」

「ついさっき」

「私がコイツを取り上げるまでどれくらいだ?」

「んー…一分くらい?」

一分、とボーデンは呟く。

「お前の魔力ランクは?」

「C」

「そうか…」

Cランクはエルフなどを除く人型種族では高い方である。

「メリー。寝ているシラヌイには余り触るな。
色々持っていかれるぞ」

「いろいろ?」

「魔力、精神力、生命力…まぁ、色々だ」

魔力は余剰生命力に過ぎない。

であるならば魔力を吸い尽くされればその次は生命力を奪われるという理屈だ。

「自分はもふもふしてるのに…」

「アタシはいいんだよ。少なくともお前の十倍はあるから」

「よのふじょーり…」

魔力ランクC以上は10の乗数で増える。

ランクBのボーデンは『少なくとも』メリーの十倍は魔力があるのだ。

なおシラヌイの魔力ランクは未測定だ。

ステータスプレートに記載されていないのがその証拠だ。

なぜならステータスプレートには魔力ランクの測定結果を記載する義務があるからだ。

ボーデンがシラヌイを包んでから暫くすると、センマリカが戻ってきた。

「よう。早かったなセンマリカ」

「城からとんぼ返りよ。ところで、どうしてシラヌイさんは獣化しているの?」

「獣化はコイツが気を回した結果だ。
流石に女児を能動的に触るのはどうかと思ったんだろうな」

「ああ…それで…」

「で、アタシのローブでくるんでるのは、コイツのパッシブスキルのせいだ。
エナジードレイン。Cランクの魔力を一分で吸い尽くす強力なスキルだ」

「あらあら、じゃぁウチの子が眠そうなのはそのせい?」

「ああ、アタシが気付かなかったらヤバかったぜ」

「ふーん」

「軽いな…」

「タマモ様から聞いてたわ」

「何て言ってた?」

「『シラヌイなら直ぐにでも制御を覚えるじゃろう』だそうよ」

「だろうな」

センマリカがメリーを抱き上げる。

「あー…もふもふ……」

「大丈夫よ。また今度シラヌイさんの家には行くから」

「うー…わかった…。じゃーね、ぬいちゃん」

「きゅー……」

ねぼけまなこで挨拶をするシラヌイ。

一声鳴くと再び眠り始めた。

「じゃぁ、アタシらも帰るか…」

ボーデンはローブに包まれたシラヌイを抱き上げ、広場を後にした。
 
 

 
後書き
途中で『幼女につつまれる』方が変態っぽい…と思った。 

 

二十一匹め

「シラヌイ。話がある」

「どったのボーデン?」

風呂から上がると、ボーデンがシリアスな顔をしていた。

「お前のスキルの事だ」

ボーデンはバスローブのまま、僕にステータスプレートを手渡した。

「そこのスキル欄。<エナジードレイン>ってあるだろ?」

エナジードレイン?

ステータスプレートを確認すると確かにそう書いてある。

「知ってたか?」

「全然」

「だろうな。それ、タマモ様が封印していたスキルらしいぜ」

「そうなの?」

「お前の記憶が解放されたのと同時に解かれたそうだ」

なるほどー。

「理由は、危険なスキルだからだ」

「魔力の過剰供給とか?」

「いや、無意識に発動する場合だ」

「これってパッシブスキルなの?」

「半パッシブスキルだ」

半…。

「恐らく、お前が望めば様々なエネルギーを吸いとれる。
それは別にいい。問題は、無意識に他者の魔力を吸うことだ」

まるで某猫委員長だなぁ。

「正確には、お前の魔力が不足している場合、触れた者の魔力を急速にすいとる」

「へ━━」

「真面目に聞け。もう少しでメリーが昏睡する所だったんだぜ」

え……? 今なんて言った? メリーちゃんが昏睡?

「どういう事ボーデン!?」

気付けばボーデンに掴みかかっていた。

「落ち着け。話を聞け」

ボーデンの手が僕の手に重なる。

「まぁ、ただの魔力切れで済んだから大事にはなってない」

「そっか…よかった…」

「だから明日王宮に行くぜ。タマモ様に会おう」

お婆様か…うん…お婆様なら…。

「わかった…。行くよ。事は重大だね…」

「ああ…重大だ…。なんせこのままではお前をモフれない」

うん…僕をもふ……………

「ってやっぱそっちかよ‼ 僕のシリアスをかえせ!」

「滅茶苦茶シリアスだろうが! このままじゃお前を抱いて寝るだけで衰弱死だぞ!」

「抱くなよ!」

「 私をこんな体にしといてよく言えるなシラヌイ!」

「どんな体にしたって言うんだ!」

「モフモフがないと眠れない体にっ…!」

「死ねよお前! ケモナーでショタコンとか救い様のない変態じゃないか!」

もうやだコイツ!

「今日は抱き枕にしないが明日は必ずっ…!」

決めた。明日は寝る前に何か宝石でも錬成しよう。

「ぜったいさせないもん」

今日もなんか造っとこう。

うん……窓は開いてるね。

詠唱どうしようかなぁ…。

かっこよくて、それでいて分かりやすくて、手順が想像しやすくて…

いやそもそも何を作ろう?

「ボーデン。ダイアモンド錬成できる?」

「あん? できなくはねぇが……」

そっか、ダイアモンドは作って大丈夫なんだね。

じゃぁ、つくっちゃおうかな。

素手はあぶないから…

近くにあった皿を持つ。

「集え、集え、人の息。重なれ重なれ大気の灰」

ヒュゥッと風が吹いている。

吹き込んだ風が、お皿の上に集まる。

「集え、集まれ、姿を顕せ」

風魔法で二酸化炭素を集めて、液体化させる。

「重なり、結べ、形を成せ。
ジェネレート! ディアマント・ナイフ!」

液体二酸化炭素から炭素原子だけが引っ張られ、形を為す。

色々ごっそり持っていかれたけど、楽しい。

イメージを絶やさず、集中を途切れさせないよう注意を払う。

分子の強制分離とかに魔力を持っていかれているのがわかる。

さらには無理矢理ダイアモンドの分子構造を作っていくのも…

「鋭く、硬く、全てを切り裂く金剛の刃」

最後に、キンッ…と音がして、形が固定された。

刃渡り15センチ程の、純粋ダイアモンド製ナイフ。

液体酸素の入った皿を置き、隣にダイアモンドナイフを置く。

体のあらゆる物が消失した感覚だ。

ああ…コレが魔力切れなんだね…。

「お休みなさい。ボーデン」

その気だるさに身を任せ、僕は体から力を抜いた。
 

 

二十二匹め

「きゅぅ」

「じっとしてるんだぜ?」

「きゅ!」

ボーデンはシラヌイを胸の谷間に入れたまま、王宮に来ていた。

振り向く侍女や役人が何度も振り向く。

「きゅー…」

「大丈夫。シェルム先生はこっちの方には来ないから」

ボーデンが向かう先は、自分が与えられた研究室だ。

十名の国家錬金術師と十名の宮廷魔導師は王宮内に研究室を与えられる。

錬金術と魔導研究の成果は生産と軍事…国力に直結する。

国家がなんとしても守るべき物だ。

嘗てフライハイト建国のはるか昔、環状大陸フローティア統一を目指したある国は、たった一人の魔導師の裏切りによって滅亡したのだ。

その魔導師の名は、今も英雄として語り継がれている。

そして王候貴族はそのような事が起こらぬよう、気がけている。

「そら、着いたぞ」

ボーデンが入った部屋は、おどろおどろしい部屋だった。

動物の首や臓物が液体に入れられ、カプセルの中に浮いている。

「気持ち悪いなら目を瞑っておけ」

「きゅぅー……」

刺激が強かったようで、シラヌイはガックリと項垂れていた。

「ま、全部エリクシールの材料だ。熊の肝、蛇の毒…その他諸々のちょっと言えない物」

ボーデンが実験室の奥の扉を開けた。

そこは普通の書斎だった。

一つだけあるソファーに、シラヌイを置く。

「タマモ様を呼んでくる待ってろ」

「きゅー…」



少ししてボーデンがタマモと共に戻って来た。

「きゅ?」

シラヌイはボーデンと共に入ってきたドレスの女に疑問符を浮かべた。

「この姿かの?」

「きゅ!」

「コレが儂本来の姿じゃ」

そう言い放ったタマモの姿は『傾国』と形容すべき物だ。

金糸を束ねたような金髪。

少し鋭さを覚える美しい顔立ち。

男の欲望と女の理想を詰め込んだような体つき。

そして背後に見える巨大な九本の尻尾。

「お主と過ごすには童の姿が都合がよかったのでな」

「きゅー」

対するシラヌイの視線が注がれるのはは豊満な胸でもドレスから覗く生足でもない。

「なんじゃ。きになるのか?」

「きゅ!」

「ちこう寄れ」

シラヌイはソファーから飛び降り、タマモの尻尾に飛び込んだ。

「お主は本に好きじゃのう」

「きゅー…」

尻尾の中からくぐもった鳴き声が聞こえてきた。

「タマモ様」

見かねたボーデンがタマモを呼ぶ。

「おお、忘れておった。エナジードレインの件じゃったな」

「はい」

「心配は要らぬ。シラヌイならば直ぐに制御を覚えよう」

「え? 封印するんじゃ……」

「してどうする? 練習させねば覚えぬではないか」

タマモが踵を返す。

「どちらへ?」

「中庭じゃ」





王宮中庭(練兵場)

「何をするんですかお婆様?」

「エナジードレインの練習に決まっておろう」

タマモが対面するシラヌイの手を握る。

「?」

「ゆくぞ」

シラヌイは自分の中から何かが流れ出ていくのを感じ取った。

だが、それは僅かな物だ。

「?」

「お主ほどの魔力量ならば、この程度のエナジードレインでは動じもせんか」

「お婆様も使えるの?」

「儂は『九尾』じゃぞ?
もっとも儂の場合は房中術の応用じゃが」

「なるほど…房中術…」

それをよくわからない顔で見つめるボーデン。

「タマモ様。シラヌイの魔力量ってどんくらいなんです?」

「そうじゃのぅ…中級魔力測定器で測定不能じゃったから……最低でもB。
もしかしたらAの大台に乗っておるやもしれん」

「A……通りでディアマンタイト製ナイフなんて錬成できるわけだ…」

ボーデンはローブの裏地に着けたナイフに手を伸ばした。

「話を戻すぞ。シラヌイ、エナジードレインされる感覚はわかったな?」

「はいお婆様」

「ではその逆の事象を思え。それでエナジードレインが発動する」

「そんな簡単なの?」

「うむ。 そんな簡単だ」

シラヌイが目を瞑る。

(流れ出る感覚…流れ出させる感覚?
栓を抜く? それとも吸い出す?
ポンプで吸い出す。これで行こう)

瞬間、タマモからシラヌイへ力が流れる。

「お? お? おぉー?」

「ちゃんと発動できたな」

「はい。なんか、手が暖かいです」

「強めれば熱くなるぞ」

(もっとあつく…『熱く』と言えば…
もっと、熱くなれよぉおおおおおおおお!!!)

タマモと繋がれたシラヌイの手が光を放つ。

刹那。

ピッ!と音がした。

「よすんじゃシラヌイ!」

「え?」

小さな手が、白魚のような手が、真っ赤に爆ぜた。

「━━━━━━━━━━っ!?」

シラヌイは咄嗟に手を離したが…

ゴポ…と口から血が溢れた。

「げほっ…!? がっ!」

そのままクラリとバランスを崩し……

「シラヌイ!」

その体が崩れ落ちた。
 

 

二十三匹め

「ぅきゅ?」

パチ、とシラヌイが目を開けた。

体を起こすとパサと毛布が落ちる。

「ソファーの上…? どこだろここ…?」

シラヌイは辺りを見回した。

目が合った。

「シラヌイ!」

金髪金眼の少女じみた容姿の女がシラヌイに駆け寄り、ギュッと抱き締めた。

「心配したんですよ!」

「………ごめんなさい。おか……シェルムさん」

シェルム・フォン・シュリッセル、シラヌイの母だった。

「『母』とは、呼んでくれないのですか?」

抱擁を解いたシェルムがシラヌイと目を合わせる。

「…………………」

「お母様から聞いています。貴方には前世の記憶があると」

「はい。だから、僕はもう貴方の息子では居られないんです」

「それでも貴方にはあるのでしょう!この五年の記憶が!」

「でも…でも…僕…には…」

シラヌイがうつむく。

「なら! どうして貴方はそんなに辛そうなのです!」

「僕には貴方の息子だって記憶がある!
でも!もう僕は貴方の知る僕じゃない!」

そう捲し立てた。

「それでいいではないですか! 貴方はいったい何を恐れて私を母と呼ばぬのですか!」

「貴方が僕を!俺を嫌わないって証拠がどこにある! いつか貴方が僕を嫌って僕を殺さないって確証が!どこにあるんだ!」

シラヌイが頑なにシェルムを母と呼ばないのは、嫌われたくないからだ。

嫌われて、殺されたくないからだ。

「どこに息子を殺す母が居ますか!」

「だから僕はもう貴方の息子じゃないんだ! 僕はもう貴方が知ってるシラヌイとは別人だ!」

それがトドメだった。

「…………………ぅう」

「?」

「ふぇぇぇ…」

(お母様が泣いた!?)

「どうして私はだめなんですかぁ~! お母様やボーデンだけずるいです~!
私のこともお母様ってよんでください~!」

「えぇ…?」

突然駄々っ子のように泣き出したシェルムに呆然とするシラヌイだった。








所変わってシェルムの部屋。の扉の前。

そこでは四人の人間が聞き耳を立てていた。

「筆頭の駄々っ子モードだと…!?」

「あ、あんなシェルム見たことない…」

「マジかよシェルム先生」

「あ、あれが宮廷魔導師筆頭…?」

「おー…。五百年ぶりかのー…」

上からアルフレッド、ブライ、ボーデン、ルル、タマモ。

もしくは国王、師団長、国家錬金術師筆頭、宮廷付侍女、王宮相談役である。

「シェルムの奴そうとうキテおるな…」

「お義母さん、シラヌイは何故ああもシェルムを拒絶するのですか?」

「そーじゃのー…。考えられる理由はシラヌイの前世の死因かのぅ?」

「お義母さんは知っているのですか?」

「知らん」

「そうですか…」

「じゃが察するに何かしらの悪意によって殺められたのじゃろう。
さっきそのような事を言うておったからの」

『お、落ち着いてくださいシェルムさん』

『ぅぅぅうう……びえぇぇ~ん! 名前で呼ばないでくださ~い! 他人みたいでいやです~!』

『お、お母様…おちついて…。ほ、ほら、ね?』

『ぅぅ…………これからもお母様って呼んできれますか……?』

『はい。お母様』

『帰って来て、くれますか?』

『……………はい』

『ふえぇぇ~! しらぬい~!』

「勝ったのぅ」

「シラヌイ君根負け…」

「ちょっと今のシェルムの顔見てみたいかも…」

「ブライ君。君いい趣味してるね」

「シェルム先生に殴られるに一票」

「うわー…男って…」

「カカカカ! 変わらぬのぅ!」

タマモはそういいながら、ガチャ! と扉を開けた。

「おー。タマモ! 仲直りできたかのー?」

「「!?」」

いきなりの事で驚くシラヌイとシェルム。

「では今後の事をさっさと話すぞ。
ほれ、お前たちはよう入れ」





シェルムはむすぅっとしたままシラヌイを腕の中に抱き込みソファーに座っている。

ロの字型のソファーの奥にシラヌイとシェルム。

右手にブライとアルフレッド。

左にボーデンとルル。

タマモはテーブルを挟んでシェルムの正面だ。

「さーてではウチの娘と孫が仲直りした事じゃし今後の事を話すとしよう」

と切り出した。

「まず。シラヌイはシュリッセル家に帰るということで良いな?」

「はい。お婆様」

「ボーデン、お主も良いか?」

「構いません」

ボーデンが頷く。

「して次じゃ。シラヌイはこれから儂かシェルムかブライと必ず行動を共にする事」

「なんでですかー?」

「お主この数日で何回死にかけとるんじゃ。
さっきも魔力の吸いすぎで暴走しておったではないか。
ボーデンのエリクシールがなければ一月はベッドの上じゃぞ」

「………ごめんなさい」

「儂らがつけぬ時はボーデン、ルル。頼むぞ」

「「はい」」

そして最後にタマモはアルフレッドを見た。

「という事でシラヌイを王宮に連れてくるが良いか?国王」

「私に拒否権があるとでも?」

「じゃな」

シラヌイはタマモと国王の間で視線を往復させる。

「え? こくお…え?」

「そういえば会うのは初めてか。私が国王のアルフレッドだ」

「よっ宜しくおねがいしまひゅっ!」

「こんな老いぼれに固くならなくてもいい。
私なぞただの傀ら」

そこでタマモがアルフレッドの頭をはたいた。

「要らんことを言うなこのたわけっ!」

「ちょっ! お婆様そのひと王さま…!」

「はは。いいのだよ。フライハイトの実権を握るのは私ではなくタマモだからな」

「へ?」

「勘違いするなシラヌイ。このバカの戯言じゃ」

「まぁ、そういう事にしておこう。改めて、私がこの国の王だ! 頭がたかぁい!控えろぉぉ!」

「調子に乗るなうつけ!」

はたいた。二度目だ。

「と、まぁ、私とタマモはこのような関係だ」

「は、はぁ…そうですか」

シラヌイが生返事をする。

「では決まりじゃの。他に意見のある者は? 居らぬな? では終いじゃ!」

こうしてシラヌイの今後に関する事が決まった。
 

 

二十四匹目

お帰りなさいませ、シラヌイ様。

シラヌイがシュリッセル家の門を潜ると、使用人が総出で出迎えた。

シラヌイから向かって右に執事一人と続くメイド20人。

同じく左にメイド20人。

「あ、ありがとっ! みんな! 心配かけてごめんなさい!」

シラヌイがバッと頭を下げる。

「シラヌイ、早く頭をあげて皆に顔を見せよ。
それにお主が頭を下げたままでは誰も頭をあげられぬじゃろうが」

「はい、お婆様」

シラヌイが頭を上げ、一拍置いて使用人が頭を上げた。

「さーて、ではシラヌイには家出の仕置きとしてメイド連中の玩具になってもらおうかのぅ」

「What?」

「エリザー! エリザ・エルバキー!」

「はいタマモ様」

シュッ…といつの間にかタマモの隣、シラヌイの背後に少女が立っていた。

燃えるような赤髪。

ピンとたった三角耳。

ゆらゆら揺れる細長い尻尾。

逆関節の脚。

シュリッセル家メイド長、ケットシーのエリザ・エルバキーだ。

「シラヌイで遊んでこい。命令じゃ」

「畏まりました。アリエーソ商会からのプレゼントは使っても?」

「構わん」

エリザ、と呼ばれた猫耳少女がヒョイとシラヌイを横抱きにした。

「さぁさぁ! メイドのみんな! このメイド長エリザが命じるわ! シラヌイ様をとびきり可愛くしなさい!」

はい、メイド長! とメイド連中がバタバタと部屋に入っていく。

「ではタマモ様、シェルム様、ブライ様。
シラヌイ様をお借りします」

コツコツとエリザが玄関に歩いていく。

「ちょっ!? お婆様どういう事!? 離せメイド長!」

「いったじゃろー。仕置きじゃ」

「暴れないでくださいシラヌイ様。おっぱいプレスで締め落としますよ?」

エリザがニコッと微笑む。

男なら一度はされてみたいシチュエーションだが、シラヌイは…

「ぅきゅっ!?」

タマを縮ませていた。

シラヌイは咄嗟にエリザから目を反らす。

(なっななな何今の!? 怖っ!? え!? メイド長って本当にこんななの!? 何それ知らないんだけど!?)

ほぼ全ての日常をタマモと過ごしていたシラヌイはあまり使用人達と接点が無かった。

屋敷ですれ違ったりする事はあれど、あまり話す事は無かった。

当然メイド長や執事長など顔と名前は知っていても詳しくは知らなかったりする。

「さぁさぁ先ずはお風呂です。ピッカピカにしてあげますよ」

「僕は壺か何かか!?」

「大丈夫ですよー。ちゃんとシェルム様の専属メイドが尻尾から耳まで洗ってあげますから」

「へ、変な所触ったら氷漬けだからな!」

「変な所ってどこですかぁ~?」

「い、言うわけないだろ!?」

「まるで生娘ですね」

エリザがクスリと笑った。

「だっ誰が生娘か!? 僕は男だ! 何なら今すぐ襲ってやろうか!?」

売り言葉に買い言葉。

余計な事を口走ったシラヌイは……。

「ほら、ぎゅー! ですよシラヌイ様」

「うきゅぅ……」

案の定エリザに締め落とされた。







「良いのですかシェルム様」

「心配しすぎですよ、メッサー」

「エリザの事だ、ちゃんと落としただろう」

「ブライ様まで…」

使用人の黒一点、執事メッサー・フォルモントはエリザの後ろ姿を見ていた。

「心配しなくてもちゃんと貴方にもシラヌイをもふもふさせてあげますよ」

「いえそういう訳では…」

「あら? ではもふもふしなくていいのですか?」

「是非ともさせてくださいっ!」

「ええ、構わないわ。それと、これからはシラヌイと仲良くしてあげてね。
あの子、男の子の友達いないから」

シェルムがそう言うと、メッサーは微妙な顔をした。

「………畏まりました、シェルム様」

「どうかしたのですかメッサー?」

「シェルム。メッサーは『男の子』と言われたのが気に障ったようだ」

「いえ、そのようなことは…」

「まぁまぁ、お前を責めてる訳じゃないんだメッサー」

とメッサーを制したブライが言った。

「シェルム、男の心理を分かれとは言わないけど、気は使ってやってくれ」

「そうなんですね…。すいませんメッサー」

「あ、謝らないでくださいシェルム様」

それを見ていたタマモは…

「おいお主らいつまでやっておる。はよう入るぞ」

呆れていた。
 
 

 
後書き
うぁ…受験生きつい……。高三クソだな…労基違反乙…。 

 

二十五匹目

シュリッセル邸の風呂はとてつもなく大きい。

何故か? と問われたらこの家の主、つまり白面金毛九尾御前または玉藻御前と呼ばれていた転生者が無類の風呂好きだからだろう。

それ故か住み着いているヴァンニクも多く、広さと清潔さを両立している。

「シラヌイ様、かゆい所ないですか?」

「はふぅ……」

その風呂で、シラヌイは溶けていた。

周りにはメイドが三人。と風呂妖精が数人。

メイド長エリザとシェルムの専属メイド二人だ。

メイド二人はシラヌイの左右に密着して体を……特に尻尾と耳を洗っている。

エリザはシラヌイの正面でそれを見守っている。

「うきゅぅぅ……ふゃ……」

尻尾と耳を丹念に洗われ、シラヌイは完全にリラックスしている。

「貴女達、もう少し優しくしてあげた方が……。
シラヌイ様のお顔が少々危険な感じに…」

「大丈夫ですメイド長。シェルム様から許可を頂いてます」

「タマモ様が玩具にしていいと」

メイド二人はドヤ顔で答えた後、再びシラヌイを啼かせ始めた。

「メイド長もシラヌイ様を触りたいんですか?」

「やってみますか?」

「いえ…私は…」

とエリザが言った所でメイドの一人がシラヌイの尻尾から背中にかけてにツゥーッと指を這わせた。

「んひゃっ!?」

シラヌイの中をゾクゾクとした感覚が駆け抜ける。

その感覚に耐えようとするシラヌイの顔は……エロかった。

「あっ貴女達!」

「とか言いつつメイド長もやりたいんでしょ~?」

「うっ…!」

「今ならお風呂のお世話の名の下にやりたい放題ですよー?」

「うっ…くっ……!」

メイド長、陥落寸前である。

エリザがそっと手を伸ばし、シラヌイのピンとたった耳に触れる。

「んぅっ……ん……」

ゴクリ、とエリザが生唾を飲む。

「んゅ……えりざぁ……」

「はっ!? 私は何を!?」

「「チッ…もう少しだったのに…」」

この後もシラヌイはメイド二人によって弄ばれた。










なんとなく肌が艶々した三人とぐったりとしたシラヌイが風呂場から出てきた。

「あ、危なかった…もう少しでタマモ様から首を跳ねられる所だった…」

「メイド長、シラヌイ様の股間ガン見でしたよね?」

「もしかしてそういう趣味ですか?」

「違うっ!」

エリザはシラヌイの体を拭いてやりながら否定する。

「へぇー…まぁ、いいですけど」

「私達はこれからずーっとシラヌイ様の体を触り放題ですしね」

エリザはシラヌイに素早くバスローブを着せると、手を引いて脱衣場を後にした。

トテトテと手を引かれてシラヌイが向かったのは、ドレスルームだ。

「わはぁ~! 御坊っちゃまかわいぃ~!」

ドレスルームに待機していたメイド達はバスローブ姿のシラヌイを見て目を輝かせた。

「さぁさぁ!御坊っちゃま! お着替えしましょうねぇ…!」

明らかにヤバげな顔のメイド達がドレスやら網タイツやら…まともな衣服半分いかがわしい服半分を持ってくる。

「なんで全部女物なのさ?」

「御坊っちゃまの誕生日にアリエーソ商会から贈られてきたプレゼントです」

「チクショウ…あの時センマリカに一発入れとくべきだったか」

どうにもなりそうにないと悟ったシラヌイは、メイドに進められるままにドレスを着た。

「…………網タイツの必要あるのか?」

まず着せられたのは黒いドレスだ。

「大変似合っておりますよシラヌイ様」

と後ろに立つエリザが言った。

「あっそ……」

そこでメイドが一人出てきた。

網タイツを持ってきたメイドだ。

「しっシラヌイ様」

「なに? 君はだれ?」

そのメイドの頭にはふさふさとした長い耳がはえている。

「ラビット・ピープルのアリシア・ミラージュです!」

「で、どうかしたのアリシア?」

シラヌイが尋ねた。

「わ、私を踏んでくださいっ!」

アリシアは整った顔立ちに綺麗な茶髪で、スタイルもいい。

だがシラヌイはと言うと……。

「却下。そこで見てろ雌豚」

と養豚場の豚を見る目で言った。

「んんはっぁん!? やばい…いけない扉開いちゃうっ!」

「もう開いてんだろうが」

「んんっ………! ふぅ……」

明らかに明らかなその様子を見たシラヌイは…

「…このマゾヒストが」

「んんんっ…!?…………はぁ…はぁ…」

そこでいい加減見かねたのか他のメイドがアリシアを連れて行った。

「なんだったんだアイツは……」

エリザがシラヌイの服を脱がせ、他のドレスを着せた。

「なぁ、女物しかないのは仕方ないとしてさ、これはどうなのよ?」

次に着せられたのは真っ赤なワンピース。

ただし、その背中が大きく裂け、背中が露になっている。

「つーかもうお尻見えてない?」

「ええ、獣人用の物ですから。あとは翼人の方も着れるそうですよ」

「なるほどねぇ……」

シラヌイがふりふりと尻尾を動かす。

「うん。いいねコレ」

エリザは目の前で尻尾を振る狐ショタを見ていた。

その染み一つないシルクのような背中が露になっている。

エリザは指先に魔力を集め……

シラヌイの尻尾の付け根にあてがった。

ツゥーッ……………。

「あひゃぅんっ!?」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

力が抜け、ぺたんと座り込むシラヌイ。

シラヌイは座ったままエリザを睨み付けた。

「ぅー…うー…」

メイド一同はサッと目を反らした。

そらさねば自分が何をしてしまうか解らない、と。

「ぅー…」

「も、申し訳ありませんシラヌイ様…」

「ぅー……次やったら家出するからねっ!」


結局、シラヌイの服はフリッフリの白ロリになった。
 
 

 
後書き
エリザ・エルバキー
種族 ケットシー
シュリッセル家メイド長。
タマモの腹心の部下。
シェルムとも仲がいい。
元アサシン。
獲物は鋼糸で土属性魔術師。


メッサー・フォルモント
種族 ヒューマン
シュリッセル家唯一の執事。
シェルムの腹心。
過去にシェルムに助けられた恩がありシェルムを崇拝している節がある。
恋愛感情は一切持っていない。
ブライの事も慕っている。
獲物は投げナイフなどの投擲系と暗器。
土属性魔術師で瞬間錬成のプロ。



精霊種族
精神が主体の種族。
基本的に女性型を取る。
寿命と知性はピンキリ。
概念を司る物もある。
デミヒューマンとの境界が曖昧な者も多い。


ヴァンニク
風呂やサウナに住み着く妖精。
大きさは30センチほど。
風呂やサウナを勝手に使う代わりに掃除や管理を手伝ってくれる。
シルキーの亜種とされている。
『教育に悪い』と追い出す家もあるがシュリッセル家は気にしていなかったりする。 

 

二十六匹目

コツ…コツ…

シラヌイが一歩歩く度に、靴と廊下が音を発てる。

コツ…コツ…

シラヌイが扉の前に立つと、後ろに控えていたエリザが前に出て、扉を開けた。

スッと食堂の光が漏れる。

完全に扉が開くと、シラヌイはスカートの端を摘まんで一礼した。

そして顔をあげた第一声は…

「ねえ、あしたセンマリカさん殴りに行っていいですかねお母様」

「あー…………いいですよ」

「いやダメでしょシェルム」

「似合っておるし殴らずともよかろう」

カツカツと靴を鳴らした後、シラヌイが席に着く。

「ふぅ…」

「どうしたシラヌイ。かように疲れた顔をしおって」

「んー? なんか…なんか…うん…色々、ね…」

遠い目をするシラヌイ。

タマモ、シェルム、ブライがエリザに目を向ける。

「一部のメイドが暴走しまして…」

「背中触ったのはお前だろうが」

「うぐっ…」

「まぁ、よいよい。シラヌイにはいい仕置きになったじゃろうて」

「僕がよかねーですよ」

「そうカッカするなシラヌイよ」

ムスッとしていたシラヌイだったが、メインディッシュが運ばれくると目を輝かせた。

「シラヌイ様。こちらアイスドラゴンロードのステーキになります」

運んで来たのはメッサーだ。

「ドラゴンの肉は本来固くて食べられませんが、こちらは長くブランデーに漬け込んでいますので柔らかくなっております」

その分厚い肉にナイフを入れるとスッと切れた。

「あーむ……はぐ………♪」

嬉しそうにドラゴンのステーキを頬張るシラヌイを見たブライは満足げだった。

「ふぅ…狩ってきた甲斐があったよ」

「ぅゆ? お父様がとったの?」

「ああ。戦闘は簡単だったけど道中がね…」

ブライは遠い目をしながら言った。

「ゆー…?」

「お前が気にする事じゃないよシラヌイ」

「ぅゆ!」

その時のブライの瞳には、僅かな憎しみが浮かんでいた。

それに気付いたのは、メッサーただ一人だけだった。







食事が終わると、シラヌイは玉藻に尻尾を触らせて欲しいと頼み込んだ。

ロリモードよりも一回り大きくなった尻尾をモフりたいのだ。

「ん?かまわぬぞ」

「ひゃっふー!」

ソファーにうつ伏せに寝転んだ玉藻の腰の上に乗ったシラヌイがその大きな尻尾をモフり始めた。

「ふぁぁぁ……お婆様もふもふ……」

幸せそうに九本の尻尾に埋もれるシラヌイ。

「アニマライズ」

シラヌイの手足と体が縮み、鼻が伸び全身が毛に覆われる。

「きゅぅー」

獣化したシラヌイが玉藻の尻尾に潜り込む。

「うきゅぅぅぅ………❤」

「気持ちの良さそうな声を出しおってからに…」

と、それを悔しそうに見ているのが一人。

「むぅ…お母様ばっかり狡いです」

「なんじゃシェルム? シラヌイの尻尾をさわりたいのかのぅ?」

無言で頷くシェルム。

「儂の背中に座るといい」

「宜しいのですか?」

「構わぬ、お主一人支えられぬような鍛え方はしておらんわ」

「では失礼して」

シェルムは玉藻の背中に座り、玉藻の尻尾の中から一つ小さな尻尾を探し出した。

シラヌイの尻尾だ。

「ああ…シラヌイの尻尾…もふもふしてて最高ですね……」

息子の尻尾をモフり、シェルムは気持ち良さそうにタレ目を細めた。

「あんまりやり過ぎるとブライが妬くぞ」

「その時はあの長耳を一晩中なぶるだけですよ」

「やめてやれ……」

「うきゅぅ…?」

そこでシラヌイは自分がモフられている事に気付いた。

「うふふ…シラヌイももうこんなに立派な尻尾を持つようになったんですね」

「我らの尾の大きさは力の証じゃ。シラヌイ程であればこの大きさは妥当じゃろう。
体とのバランスはちとわるいがのぅ」

シラヌイの尾は獣化した時には体より長く、通常でも身長の半分以上ある。

「ぅきゅー?」

シェルムがシラヌイの頭を撫でると、くしくしとシェルムの手に顔を擦り付ける。

「きゅぁぁ~ん…❤」

「うふふ…今日はシラヌイを抱き枕にして寝ましょう、そうしましょう」










「ああ…シラヌイの尻尾もシェルムのようにもふもふになったんだなぁ…」

ブライはシェルムと獣化したシラヌイを挟むようにしてベッドに入っていた。

「お母様は、自分の身長の半分も尾があれば一人前の尾獣と言っておりましたが、シラヌイはまだまだ子供ですね」

シェルムがシラヌイの顎の下を撫でると、気持ち良さそうに声をあげる。

「それは……そうだろうな…。俺とシェルムの子だ。魔力が規格外なのは当然だ」

「うふふ、なんせエイルヴァイオン皇太子と九尾の娘の子ですものね」

ソレを言うと、ブライ…本名ブーミ・ライトニング・マクリリン・エイルヴァイオンはそっぽを向いた。

「拗ねないでくださいよブーミ・ライトニング・マクリリン・エイルヴァイオン皇太子陛下殿?」

「うるさい」

「ふふ…そういう子供っぽい所、120年前に会った時から変わってませんね」

「Zzzzzz」

「狸寝入りが下手なのもね」

するとブライは手に魔力を集め、自分に魔法を投射した。

催眠魔法だ。

「あらあら…。さ、私達も寝ましょう? シラヌイ」

「うきゅ」












(エイルヴァイオン皇太子…? ブーミ・ライトニング・マクリリン・エイルヴァイオン…?
エイルヴァイオンって隣国のエルフの国…。
え? お父様ってまさか……
いや、何も聞かなかったことにして寝よう…そうしよう)
 
 

 
後書き
次回! 新たなもふもふヒロイン登場! 

 

二十七匹目

僕がシュリッセル家に戻って少し経った。

「お義母様、少し宜しいでしょうか?」

朝食を終えると、お父様がお婆様に話を切り出した。

「なんじゃ?」

「件の宴なのですが…」

「おお、もうそのような時期か。良かろう、許可する」

何の話だ…? 宴?

「お婆様、何のお話ですか?」

「ん? ああ、お主は知らぬのか。あのときはお主が生まれたばかりで遠慮してもろうたからな」

生まれたばかり? 五年前って事?

「ブライの役職を知っておるか?」

「王都防衛師団群の第三師団長ですよね?」

「うむ。王都防衛師団群は第五まである。その師団長が毎年持ち回りで宴を開くのじゃ」

「なるほど。五年に一回って訳ですね?」

「うむ。それが今年という訳じゃ」

なるほどー。

「ブライよ、日時は決めておるのか?」

「一月以内にとは思うのですが無理は言いません。お義母様のご都合の良い時で…」

「構わぬ儂がお主に会わせよう。宴を開くのははお主の役目。それこそ儂に伺いなど立てずともよい」

「ですが…」

「ブライ、貴方は婿養子とはいえしょうしょう遠慮が過ぎますよ」

「そうは言ってもシェルム、お義母様にもご予定があるだろう」

はぁ…、とお婆様がため息をつく。

「では…そうじゃな、二週間後のバラクの日でどうじゃ?」

バラクの日、というのは近代日本の土曜日に当たる曜日だ。

「わかりました。伝えておきます」












あれから二週間がたった。

今日はパーティーだ。

「お坊っちゃま、楽しみですか?」

「そりゃぁ楽しみだよ。初めてのパーティーだもん」

僕の後ろで椅子に腰かけるアリシアに答える。

そう、今日の監視役はいつぞやのマゾウサギだ。

「ところでお坊っちゃま、今は何をお作りになっているのですか?」

「ん? 媚薬」

左手で持ったフラスコを左手に灯した火で熱する。

「びっ媚薬ですか?」

「うん。ボーデンからの宿題」

ここ数週間、僕はボーデンからポーションの作り方を教わっている。

今作っているのは媚薬だ。

「それって誰かに使ったりとかは…」

「無い無い。ボーデンに提出するやつだし」

「私に使ってもいいんですよお坊っちゃま?」

「使ってもいいけどその時は縛り上げてから飲ませる事にするよ」

「あはぁ……タマモ様よりお坊っちゃまに仕えたいですぅ」

「俺じゃなくてお婆様に言う事だな」

それはそれとして…

「お前はパーティーの準備しなくていいのか?」

「私はお坊っちゃまの監視役ですから。今はタマモ様もシェルム様もノリノリで料理つくってますからね」

それって主としていいのかなぁ…?

「二人とも作ってるのは激辛ルーレットですけどね」

「おいおい…今日のパーティーって軍のお偉方まで来るのにそんな事していいのか…?」

「タマモ様が一番偉いから大丈夫じゃないんですか?」

ああ…なるほどそういう…

「因みに激辛に当たった幸運な人には景品があるそうですよ」

「余興込みって訳ね……」

フラスコからポンっと煙がたち中身の色がピンクに変化した。

「円環よ、我に見透す事を許したまえ。
<アナライズ>」

ボーデンに教わった魔法を使うと、しっかり媚薬だと鑑定結果が出た。

「よし、できた」

コルクを嵌めて、棚に置く。

「お坊っちゃま~、その媚薬ちょっともらっていいですか?」

「却下」

絶対ろくな事にならねぇ。

「えー……」

「つーかこのくらいの媚薬ならそこらの怪しい店で金貨二枚出せば買えるっつーの」

「私の月給の半分じゃないですか!?」

ってことはこのマゾの月給って日本円で40万? 住み込みメイドで衣食住は提供されるから……すげぇ高給取だな。

「そりゃぁお前、これの材料はそこら辺の薬草とハーブだけども色々と魔法を使う工程が入ってくるし魔力量も居るんだもん。
高くてあたりまえじゃん」

「えぇ…そんな高いの誰が買うんですか?」

「バカだなぁアリシアは。手が掛かるから高いんじゃないんだよ。
手間が掛かるけど高く売れるから作るんだよ」

地球では古今東西媚薬は不死の薬と同じくらい求められてきたものだ。

いや、不死の薬は権力者しか欲しがらないのを思えば媚薬の方が求められていたかもしれない。

媚薬、といえば『エッチ』だとか『キメセク』みたいなワードを浮かべる人もいるだろうが、媚薬を<惚れ薬>と言い換えたらどうだろうか?

男も女も、一度は欲しがるはずだ。

かの妖精王オベイロンも妖精姫タイタニアをてに入れようと媚薬を用いた。

あ、オベイロンつってもペロリストの方じゃないよ。

そんな事をアリシアに説いていると、部屋のドアがノックされた。

「失礼しますお坊っちゃま」

「あ、エリザ。どうしたの?」

「そろそろお着替えの時間です」

日を見ると、まだ高い…二時くらいだろうか。

パーティーが始まるのは夕方のはずだけど…

「もうじき早い方は来られますので」

ああ、なるほど。

パーティー開始前から飲みたい人も居るんだね。

「わかったよ、直ぐに着替える」













「御初にお目にかかります。私はシラヌイともうします」

シラヌイは礼服に身を包み、父の隣でお辞儀をしていた。

パーティーが本格的に始まって、まだそう時間が経っていないというのに、シラヌイには疲れが見える。

「初めましてシラヌイ君」

シラヌイが今挨拶した人物は、ヒトの手足と背中に羽を持つ翼人の男だった。

「私はファルコ・アーグロ。君のお父さんとの同僚のような者だ」

ファルコがシラヌイの頭を撫でる。

「うむ。いい毛並みだ。だが私の娘には及ばぬな」

「シラヌイ。この鳥頭が王都守備空戦隊である第五師団の師団長だ」

「誰が鳥頭だ耳長野郎」

「お前だよ。お前の娘より俺の息子の方がもふもふなんだよこの野郎」

もふもふの子供を持つ者同士、メンチを切り合う。

シラヌイはその間であたふたしていた。

「はいはい、そこまでですよブライ」

「バカやってんじゃないぞファルコ」

と、そこへそれぞれの妻がやって来た。

「シラヌイ。この人たちは会うたびこうだから焦らなくていいですよ」

「そうなのですか?」

「そうよ。まったく…うちの鳥頭がすまなかったなシラヌイ君。
私はホルル。このバカの妻だ」

ファルコの妻は、キリッとした容姿の背の高いハーピーだ。

その後ろに、少女が一人隠れている。

その少女は、ホルルの後ろからじっとシラヌイを覗き込んでいる。

「シャクティ、挨拶するんだ」

ホルルの後ろからでてきた少女は、シラヌイより頭二つ分ほど背が高い翼人だった。

所々白い毛並みの入った茶髪で、ホルル似の、目付きのキツイ女だ。

「シャクティ・アーグロという。よろしく」

シャクティの手を、シラヌイが握り返す。

「僕はシラヌイ。よろしくね、シャクティお姉さん」

そこでファルコが笑った。

「くく…シャクティはまだ君と同じ五歳だよ」

「五歳!? このタッパで!?」

「アタシは鷹で夫が隼だからね…成長も早いのさ」

「猛禽界のサラブレッド……」

シラヌイがポツリと呟く。

「さら……なんだ?」

シャクティがこてんと首をかしげる。

「いや、なんでもないよ。シャクティ」

「?」

首を傾げたまま、ジーっとシラヌイを見つめるシャクティ。

「だいいちしだんちょーどの」

ブライに一切目を向けず、シャクティはブライを呼んだ。

「む、なんだいシャクティちゃん?」

「あなたのむすこさんのしっぽさわってもいいだろうか」

ファルコがシャクティを咎めるより先に、ブライが動いた。

「いいよ。客室で好きなだけもふもふしてくるといい」

速攻でメイドを呼び出したブライは、メイドにシラヌイを抱えさせ、シャクティを客室に案内させた。

「ふははははは! ファルコよ!貴様も我が息子のもふもふの虜にしてくれ…ひでぶっ!?」

シェルムがブライを思い切りどついた。

「ふぅ…。家の主人がすいません」

「宮廷魔導師筆頭殿、アタシらは気にしてないから大丈夫だ」

「あらそう?」

「いつもの事ですし」

事実、ブライとファルコは酒が入ると狐毛と羽毛どちらがよいかを周りそっちのけで始めるのだ。

師団長主宰の宴ではすでに見慣れた光景となっていた。

なお五年前までは娘息子のではなく互いの妻の毛並みを熱く語っていた。

なぜソレをシェルムが知らないかと言えば、シェルムは基本的にこの宴には参加しないからだ。

「ぐふ…くふふ…勝ったぞ…ふぁる…こ」

かふ…、と遺言のような事を言って気絶したブライ。

が、直ぐにシェルムの雷魔法で叩き起こされるのだった。
 

 

二十八匹目

客室のソファー、シャクティは膝にシラヌイを乗せ、翼でくるんでいた。

「きつねくん……しっぽもふもふだな」

「シャクティの羽毛ももふもふだよ~」

シャクティは包み込んだシラヌイの尻尾を、シラヌイは自分を包むシャクティの羽毛を、それぞれもふもふしていた。

「はわぁ~…しゃくてぃのつばさもふもふぅ~」

シャクティもシラヌイも、互いにもふりあってリラックスしている。

「きつねくん、耳をさわってもいいかい?」

「敏感だから、やさしくしてね」

父がエルフであるシラヌイは素の魔法的聴覚が母や祖母より高いが、比例するように耳は敏感だ。

「むろんだ」

シャクティは翼に力を込め、シラヌイを膝の上に固定し、両手でシラヌイの狐耳を触り始めた。

「ふさふさ…ふにふに……すごいな」

「んぅ……んゅ……んにゅゃ…」

次第にシラヌイから理性が剥がれ落ち、幼さが露出する。

シラヌイはシャクティの羽に包まれながら、寝息をたて始めた。

シャクティは次に、シラヌイの髪を手櫛ですき始めた。

男にしては少し眺めの髪は、真っ直ぐのストレートでありながら柔らかく、ふわっとしていた。

すんすん、とシャクティはシラヌイの匂いを嗅ぎ始めた。

「甘いにおい………?」

微かだが、ふわりと甘い匂いを感じたシャクティ。

「こーすい?」

すんすん……すんすん……。

「このにおい…すき……だなぁ」

欲しい。シャクティの中に、欲望が生まれた。

「きつねくん………」

シラヌイをぎゅっと抱き締めながら、シャクティは、眠りに落ちていった。









会場ではシュリッセル夫妻、アーグロ夫妻共に妻夫は別れ、話し合っていた。

夫同士は最近の情勢がどうだとか、次の王は誰になるかなどを話していた。

「やぁ、第三師団長殿、第五師団長どの」

「これはこれはアーネスト皇太子。如何なされましたか?」

現れたのは、金髪の美丈夫だ。

名をアーネスト。姓はフライハイト。

アルフレッドの次男、皇太子だ。

「ふふ、にあってないぞブライ」

「お前こそな、アーネスト」

アーネストとブライが顔を見合せ笑う。

ブライはアーネストが子供の頃から知っており、アーネストもブライを兄貴分のように思っている。

が、ファルコはそうも行かない。

「第五師団長、君もそう固くならなくともいい」

「は、ですが…」

「私などただのヒューマンだ。君達翼人が畏まるような存在ではないよ」

アーネストは自嘲気味に言った。

「どうしたアーネスト? お前らしくもない」

「そうかい?」

「ま、話くらいは聞こう。お前も付き合えファルコ」

「あ、あぁ」








一方妻達は子育てや家事について話していた。

「それでですね、シラヌイの尻尾のもふもふ具合ときたらお母様にも負けず劣らずでしてね」

シェルムが年頃の少女のような笑顔で息子を自慢する。

子供自慢からいつの間にかもふもふ自慢になる辺り、シェルムもブライをバカにできないのである。

「確かに筆頭のご子息の尻尾は触り心地がよさそうだ」

「あとで触って見てください! 絶対気に入りますから!」

「は、はい」

周辺諸国が恐れるリーサルウェポンの二つ名とニコニコと純真無垢な少女のような笑顔の間のギャップに、ホルルは困惑していた。

「ホルルさん、ところでシャクティちゃんの翼はどうなのですか? もふもふですか?」

「もふもふだな。それに大きい。
きっとご子息くらいならば包み込めるだろう」

「なるほど、今頃シラヌイはシャクティちゃんの翼の中ですか」

「だろうな」

「ふむ……」

シェルムが考える素振りを見せる。

「筆頭?」

「ホルルさん」

「なにか?」

「今日ここに泊まっていきません?」











「私に娘がいるのは知っているだろうか?」

「知っているとも。私の叔父上の孫だからな」

アーネストが浮かない顔で切り出し、ブライが応える。

「トレーネは私の三倍は生きている。きっとクーコも長く生きるのだろう」

「ふむ……ハーフエルフの2世代目位まではエルフと寿命がかわらないからな…」

「私はきっと、娘と妻に見送られて死ぬのだろうな……」

アーネストが悲しげに、憂うように言った。

「殿下。エリクシールを使えば良いのではないですか?」

「私はあの薬をあまり好きになれないんだ…。
命を伸ばす薬……それは円環の理に反しはしないか?」

「アーネスト、たかが人間一人が長生きしたところでサークリオン様は何も言わん。
それも含めて運命の円環だ」

「そうなのだろうか…」

「アルフレッドとツェツィーリアだって使っているだろう」

「うむ…しかし…」

そこでファルコが発言した。

「殿下」

「ん、なんだ第五師団長」

「貴方が為したいように成せばいいのです。
貴方が円環に従いたくば、エリクシールを飲まない。
妻子と同じ時を歩みたいならば、飲めばいい…。
まだ時間はあるのです。今の段階でそう悲観する事もないでしょう」

「………そうだな」

結論を先延ばしにし、話が断たれた。

短い沈黙の後、道化役を買ってでたのはブライだった。

「暗い話はここまでだ! 今日は飲もうじゃないかアーネスト! ファルコ!」











客室

「んみゅぅ……もふ…もふぅ……」

「きつねくん………もふもふ………」

結局パーティーが終わっても、シラヌイとシャクティは目を覚まさなかった。 

 

二十九匹目

 
前書き
パーティーの翌日の話です。 

 
ソファーに座ったシャクティの膝の上に腹這いになって尻尾をもふられていると、ガチャとドアが開いた。

入ってきたのはメリーちゃんだった。

ミニスカートから露出した脚がとてももふもふしている。

「ぬいちゃんだれこのおんな」

「わたし? きつねくんのかいぬしだが?」

お婆様、もふもふなのにぎすぎすです。ひるふぇ…。

「っていうか待ってよシャクティ飼い主ってなにさ!?」

「きつねくんはかわいいからな。かいたくなった」

「飼うって何さ飼うって!?」

「それよりきつねくん。この羊はだれ? 」

「私はメリー・アリエーソ。ぬいちゃんのふぃあんせ」

「何時から僕は君の婚約者になったんだよ!?」

メリーちゃんがシャクティの右隣に…僕の頭のある方に座った。

僕の上半身を持ち上げ、メリーちゃんがずりずりとシャクティの横につく。

「まだまだだね、とりおんな。ぬいちゃんは耳をせめた方が可愛い声でなく」

「知っているとも。だが尻尾の付け根もなかなかに…」

「おい。なんの話だ」

「ぬいちゃんを啼かせる方法」

「きつねくんを啼かせる方法だが?」

「もう勝手にしてくれ……アニマライズ」

手足と体が縮んで、鼻が突き出る。

「ぅきゅー…」

side out










パーティーの翌日の午前、シュリッセル家応接室ではロリが狐をもふっていた。

「ぬいちゃん、ここがいいの?」

「きゅー……」

メリーがシラヌイの耳をふにふにと揉むと、シラヌイは目を細めて鳴く。

「シラヌイ、ここはどうだ?」

シャクティが尻尾の付け根辺りを触ると、一瞬擽ったそうにするが、直ぐに体を弛緩させる。

「うきゅ……きゅぁぁぁぁ………❤」

「ふふ…ぬいちゃんかわいい…」

メリーがシラヌイの顎の下を撫でると、くるくると喉をならした。

「きゅぁぁん…」

シラヌイがメリーのもふもふの太ももに体を擦り付ける。

「ぬいちゃんも私をもふもふしていいよ」

「ぅきゅっ……うきゅぅぅぅぅぅぅぅ……」

ソレを見ていたシャクティはと言えば……

「むぅ……」

むくれていた。

シャクティは片翼を広げ、シラヌイの体に被せた。

「暖かいだろうシラヌイ?」

「きゅぅー…」

と嬉しそうに一鳴きしたシラヌイはくぅくぅと寝息をたて始めた。

「ねちゃった?」

「ねたな」

二人は顔を見合せると、いっそう激しくシラヌイをもふり始めた。

「ふぁぁ……ぬいちゃんもふもふ……ずっとこーしてたい……」

「もふもふ…ほしい……」

「あきゅぅぅん…きゅゃっ…」

シラヌイが擽ったさから逃れるように身をよじる。

「にがさないぞシラヌイ」

が、シャクティの翼にもふっと抑え込まれ、逃れる事ができない。

「ないす、しゃくてぃー」

「だろう? めりー」












目を覚ますと、ベッドの上だった。

「ぅきゅー……?」

よく見るとメリーちゃんとシャクティが両隣に寝ている。

僕をもふりながら寝落ちしたのだろうか。

「あら、起きたんですねシラヌイさん」

後ろから声が聞こえた。

ヒューマライズ。

「センマリカ…………さん」

うつ伏せのまま、背後の声に応える。

「お義母様って呼んでもいいんですよ?」

「女物のドレスを送るような人を母とは仰ぎませんよ?」

「あら手厳しい」

ベッドから出ようとして、シャクティとメリーちゃんにホールドされていると気づく。

正確にはヒューマライズしたので抜け出せなくなったようだ。

アニマライズ。

獣化して、二人の間から抜け出す。

センマリカさんの目の前まで行って、問いかける。

「きゅぃ?」

「私とホルル副将軍の娘が獣にならないように見張ってたんですよ」

「きゅぅ」

「わかりませんよ? シラヌイさんはそこらの女より可愛いですからね」

「きゅー」

「いえ、外見と中身のギャップに愛らしさを感じるのは男も女も同じですから。
むしろ背伸びしてるみたいで可愛らしいですわ」

「うきゅ」

「そう拗ねないでくださいよ」

拗ねてねーし。

センマリカさんに背を向け、ベッドに乗る。

二人の間…というかシャクティの翼の下に潜り込む。

「きゅー」

「はいはい。おやすみなさいシラヌイさん」

side out










結局、三人が目を覚ましたのは昼頃だった。

まずシャクティが目を覚ました。

体をお越し、キョロキョロと辺りを見る。

「ひっとうどの?」

「あら、起きたのねシャクティちゃん。
家の子の抱き心地はどうだった?」

「もふもふできもちよかった」

「でしょう? シラヌイをもふりたくなったら何時でも来ていいわ。
なんなら毎日でもいいわよ」

「かんがえておこう」

「うんうん。それがいいわ」

次に起きたのはメリーだ。

「んぅ………」

身をお越し、メリーがシェルムに挨拶をする。

「おはようございます、シェルムさん」

「おはよう、メリーちゃん」

くぁ…とあくびをして、メリーがシラヌイを抱き上げた。

「ぬいちゃん。おきて……ぬいちゃん」

「きゅぁぁん…………」

うっすらとシラヌイが目を開けた。

「ぅきゅ…」

「ずいぶんとお寝坊ですねシラヌイ」

「きゅ?」

メリーの腕の中から、シラヌイがシェルムを見た。

「きゅぁ」

「もうお昼過ぎですよ?」

「きゅゃぁぁん……」

「いえ、特に怒ってはいませんが、夜眠れなくなりますよ?」

「ぅきゅぅ」

「うーん…それは睡眠ではなく昏睡なのでは…?」

「きゅー、きゅー」

「ああ…あのときのディアマント製ナイフがそうなんですね…」

「きゅ!」

「だめですよ。健康にわるいですから」

「うきゅぅ……」

シラヌイが僅かに首をすくめる。

「とりあえず、ご飯にしましょう?」

「きゅー!」








客室から出たシラヌイが、四つ足で自室へ向かう。

「おお、ようやっと起きおったかこの寝坊助め」

「きゅぁ~ん」

その途中、タマモと会った。

タマモはシラヌイを抱き抱えると、胸元にスポッとシラヌイをつっこんだ。

「うきゅ?」

「ボーデンがやっておるのを見てやりたくなったのじゃ。うむ…温くていいのぅ」

「うきゅ」

「なんじゃ着替えたいのか? なら儂が用意してやろう」

タマモがシラヌイの頭に触れる。

「クロスチェンジ」

シラヌイの体をゾワゾワとした感触が駆け抜ける。

「これでよいかの。さ、ゆくぞ」

タマモはシラヌイの部屋とは真反対へ、食堂へ向かった。

食堂へ入ると、メリーとシャクティが既に席についていた。

親達はおらず、二人と給仕のメイドだけだ。

「ぬいちゃんぱふぱふ?」

「でかいな…」

タマモは胸元からシラヌイを引き抜き、椅子に置いた。

「うきゅぁー」

シラヌイの手足が伸び、鼻が低くなる。

「ってなにこれぇ!?」

シラヌイが来ていたのはレースがふんだんにあしらわれた白いふりふりのドレスだ。

「今朝センマリカが持ってきた物じゃ」

「僕の礼服は!?」

「儂の魔法袋の中じゃが?」

「あっそ……」

シラヌイは諦めたような顔をした。

「ぬいちゃん。かわいいから元気だして?」

「そうだぞシラヌイ」

「カカカカ! モテるのぅ! 我が孫は結婚相手に困らずとも良さそうじゃのぅ!」

ニヤニヤとしたままタマモがパン!と手を叩く。

「では儂は出ておるよ」

タマモと入れ違いにメイド達が食事を持って現れた。

「お、カツサンド」

「「?」」

三人の前にカツサンドの盛られた皿が置かれる。

「シラヌイお坊っちゃまが考案された物です」

「いや、僕が考えた訳じゃないけどね?」

取り敢えず、と三人が手を合わせる。

「「「いただきます」」」

円環への感謝の言葉を唱え、三人がカツサンドを手に取る。

「あ、おいしい」

「旨いな」

「気に入ってくれて何より」

シラヌイは両手でカツサンドを持って頬張る。

もきゅもきゅ…もきゅもきゅ…

「ぬいちゃん」

「んゅ?」

きょとん、と首を傾げる。

無害そうな、小動物チックな動作だった。

「「……………」」

もきゅもきゅ…ごくん…

「どうかした?」

「「なんでもない」」

「?」

二人が顔を見合わせる。

「シャクティ」

「メリー」

コクン、と無言で頷き会う。

「ねぇ、女って五歳でもそんな視線だけで話せるの?」

「安心しろ」

「ぬいちゃんは」

「「私達が守るから」」

しばらくシラヌイはその意味を考え…





「わけがわからないよ」

と結論を出すのだった。
 

 

三十匹目

 
前書き
これで初期案のヒロインは全員出たかな… 

 
「うきゅぁぁぁぁぁん…」

「気持ちいいかシラヌイ君?」

「きゅぁぁん」

王宮の中庭のベンチで、シラヌイは国王アルフレッドの膝の上で撫でられていた。

許可を貰ったシラヌイがルルの監視下で魔法の練習をしていた所、息子の眼を掻い潜り仕事を抜け出したアルフレッドが見つけたという次第だ。

「うむ…タマモに勝るとも劣らぬよい毛並みだ」

「きゅぁぁ…」

ところで、とアルフレッドがベンチの後ろに控えるルルに声をかける。

「座ったらどうかね?」

「いえ、私のような侍女が国王様と席を同じにするなど…」

「とは言うが君だって貴族の出だろう」

王宮に使えるメイドの大半は貴族子女だ。

早い話が花嫁修業だ。

「いえ、私など辺境伯の四女ですし…」

「気にする事は無いとおもうんだがなぁ…。
面倒だなぁ…。いっそフライハイトも共和制にでもするか…。
そうすれば儂もすぐに引た」

ごすっ!

「ぁっー…!?」

「アホな事言うんじゃありませんよアナタ」

三人が振り向くと、そこには三人の美女がいた。

「ツェ…ツェツィーリア………」

そのうち、杖をアルフレッドの頭に振り下ろした魔女風のいでだちの美熟女こそ女王ツェツィーリアだ。

その隣に立つのは褐色の肌と銀髪を揺らす美少女、トレーネ・S・フライハイト。

第二皇子アーネストの妻で、隣国スヴァルティアの姫だ。

二人につれられているやや薄い褐色と銀髪に金髪のメッシュの幼女の名前はクーコ。

アーネストとトレーネの娘だ。

「おはようございますおじーさま」

「お、おお……君のおばあちゃんにおじいちゃんをどつくなと言っておくれ…」

「私とて貴方が真面目に共和制について考えているなら止めません。
でもアナタは仕事が面倒なだけでしょう」

「うぐ…」

「このダメ国王が」

「儂そろそろ泣くぞ!?」

ツェツィーリアがシラヌイを取り上げる。

「さっさと仕事に戻りなさい」

「いや、でもな…」

「も ど り な さ い」

「ぁい…」

アルフレッドは妻に気圧され、とぼとぼと城内へ戻っていく。

「こんにちは、シラヌイ君」

ツェツィーリアがシラヌイを目の前に持ってきてあいさつをした。

「うきゅ」

「私はツェツィーリア・フライハイト。あの愚王の妻よ」

「きゅ」

「いいのよ。おだてると直ぐに調子にのるんだもの」

そこで、別の腕がシラヌイに伸びる。

「きゅぁ……?」

後ろから伸びたその腕が、ツェツィーリアからシラヌイを取り上げる。

「はわぁ~もふもふですねぇ~」

「きゅあー?」

「トレーネ。ちゃんとシラヌイ君の眼を見てあいさつなさい」

「わかりました~お義母様~」

クルリとシラヌイが回される。

銀髪で、褐色で、耳が長くて、スタイル抜群だ。

「うきゅー?」

「はい~。私はダークエルフですよ~」

「うきゅぁー?」

「はい~。スヴァルティアの出です~。
私のお父様は~、貴方のお父様の従兄弟にあたる人なのですよ~」

「きゅぅん?」

「私のお爺様が~、貴方のお爺様と仲違いしてできたのがスヴァルティアなのですよ~」

「うきゅ? きゅぁあー?」

「きいてないのですか~?」

「きゅ」

「どうせ学院で習いますから~、その時にお勉強してくださいね~」

教えてくれねぇのかよ…、とシラヌイは思った。

そこでキュッとシラヌイのしっぽが引っ張られた。

「うきゃぅっ!?」

「あ、だめですよ~くーちゃん。狐さんに乱暴したらダメって法律にあるんですよ~」

「お母様。私も狐さんを触りたい」

「ちゃんと優しくするんですよ~?」

クーコがシラヌイを抱く。

胴に手を回している様子は、お気に入りの人形を抱いているようだった。

よろよろとしながら、かろうじてベンチに腰掛けたクーコ。

「クーよ」

「なんですかおばあさま?」

「私達は城内に戻る。しばらくシラヌイ君と遊んでいなさい」

「わかりました」

ツェツィーリアとトレーネがルルを連れて城内へ戻ったのを確認した後、クーコは大きなため息を吐いた。

「あ━━━━━っ! もうっ! めんどくさい━!」

「うきゅうっ!?」

「あ、ごめん狐さん。でもちょっと私のぐちに付き合いなさいな」

「きゅー?」

「ほんっと…、何で私は王族なんて面倒な家にうまれてしまったのかしら」

「きゅぅん?」

「マナーとか勉強とか、本当に面倒。庶民で私くらいの年なら周りの子供と遊んでるっていうのに」

クーコの表情は子供にしては大人びていて、それでいて疲れた様子だった。

シラヌイは水魔法で文字を描いた。

〔お友達が欲しいの?〕

「貴方話せるの?」

〔うん。今はこの姿だけど、僕は君と同じ人形種族だよ〕

「へぇー…。まるで建国の神獣タマモみたいね」

「きゅ?」

コテンと首を傾げるシラヌイ。

「まぁ、それは置いておくとして…。
友達が欲しいのかって聞いたわよね?」

「うきゅっ!」

「はい、って答えたら?」

〔僕が友達になってあげる!〕

「いいえ、って言ったら?」

〔僕が悲しくなる〕

「ふふ…貴方面白いのね…」

クーコは、その顔をほころばせた。

「私の友達に、なってくれる?」

ピョイっとクーコの膝から降りるシラヌイ。

刹那、シラヌイが獣化を解く。

「うん! 今日からよろしく!僕はシラヌイ!
君の名前をおしえて?」
 

 

三十一匹目

「我が手に集え空の水 クリエイトアクア」

シラヌイの手に水球が現れる。

「水よ、我が声を聞け シェイプシフトトゥクロウ」

水は形を変え、大きなカラスとなる。

「水よその姿を現せ フェイズトランストゥソリッド」

ピキィ! と水が凍り、氷烏となった。

「凄いわ! どうやったらそんな風にできるの!?」

「まだまだだよ。凍てつく鳥に命を与う」

シラヌイが氷烏を上へ投げると、シャリシャリと羽ばたき、滞空する。

「わぁ………」

修練場をぐるりと一周した氷烏は、シラヌイの肩に止まった。

「シラヌイ! アナタすごいわ!」

「むふー」

クーコにおだてられ、シラヌイはドヤ顔だ。

「私にも魔法を教えて!」

「おっけー! 氷魔法の正体まで教えてあげよう!」

気を良くしたシラヌイはクーコに色々な事を教えた。

教えてしまった。

「やったわ! みてみてシラヌイ! 氷のお花よ!」

「おー…すごい…。まさかここまでとは…」

「シラヌイの教え方がよかったのよ! 私の魔法の先生なんて全然だもの。
私が魔法を失敗したら『エルフのくせにどうしてこの程度もできないのか』なんて言うのよ!?
アンタの教え方が悪いのよあんの耄碌ジジィ!」

「耄碌ジジィ? だれそれ?」

「宮廷魔導師次席よ。ほんっとやな奴なのよ」

「へー…。じゃ僕が教えてあげるよ。これでも中級魔法まではお母様とボーデンに習ってるんだ。
ついでだから錬金術も教えてあげる」

シラヌイは魔法で両手いっぱいの砂利を集めた。

「今なら、あのときより上手にできるかな」

すぅ、とシラヌイが深呼吸する。

「リゾルブクォーツ。シェイプシフトトゥバングル。
ストラクチャートランストゥクリスタル」

シラヌイの手の中の砂利…石英は形を失い光に溶けた後にリング状に成形された。

光が収まると、そこには複雑な紋様が描かれた透明な腕輪があった。

それも、二つ。

「はいこれ」

「?」

「プレゼント兼錬金術の見本。これを自分で作れるくらいまでなら僕が教えてあげられるよ。
どうする?」

「やってみたいけど、お母様が良いって言うかしら…」

「大丈夫じゃないかな? 言い訳としては僕と一緒に宮廷魔導師と国家錬金術師の授業を受けるって名目にしときなよ。
なんなら僕がお婆様に言っとこうか?」

「大丈夫なの?」

「さぁ?」

「さぁって…曖昧ね」

「曖昧さは大事だよ。まぁ、お婆様経由で国王陛下に言ってみよう。
どうやら僕の家はかなり偉いらしいからね」

シラヌイがクーコの手を取り、バングルをつける。

「うん。似合ってる似合ってる。じゃ、いこっかクーちゃん」

シラヌイはバングルを着けた後、クーコの手を引いて歩き出した。

「あぅ…………」

同年代の異性に手を握られ、クーコは顔を赤くする。

ませている、というよりは母と祖母の教育のせいであろう。

シラヌイは迷う事なく中庭からタマモの執務室までたどり着いた。

途中会った使用人や貴族達はクーコの姿とシラヌイの黄金の耳と尻尾を見るなり最敬礼をし、咎める者は居なかった。

シラヌイがドアを指で叩く、ドアノッカーはあるが、シラヌイでは手が届かないのだ。

「お婆様、シラヌイです。一つお願いがあって参りました」

「おお! シラヌイ! はよう入れ!」

シラヌイが背を伸ばし、ドアノブを捻る。

そこは西洋式の城には似合わぬ和室だった。

タマモはその中央に卓を置き、座布団に正座して書類を処理していた。

「おや、クー、どうしたのじゃ?」

タマモはシラヌイの後ろのクーコを見て尋ねた。

「お婆様、僕の魔法の勉強にクーちゃんも加えてあげたいんです」

「ふむ…儂は構わんが……。ツェツィーリアとトレーネに聞いてみるかのぅ…。
待っておれ、儂が聞いてくるでな」

タマモが立ち上がり、豊満な胸と飛び込みたくなる尻尾が揺れる。

「書類には触るなよシラヌイ、クー。あとクー、この部屋に入るなら靴を脱ぐんじゃ」

「はい、タマモ様」

二人が靴を脱いで和室に入る。

「座布団はそこの押し入れに入っておる。使うなら勝手に出せ」

そう言ってタマモは二人を部屋に残して出ていった。

「シラヌイ、尻尾触らせてちょうだい」

「んー…クッション出すから待って」

シラヌイは指示された押し入れを開け、座布団を取り出す。

「変わったクッションね」

「コレは座布団っていう物で、この畳の部屋専用のクッションだよ。
あとウィットに富んだ発言で数が増えて十枚集めると景品があるよ」

「?」

「遠い国の祭りのイベントだよ」

シラヌイは座布団を二つ並べて置いた。

「アニマ……あれ、フォクシネイトだっけ? まぁどっちでもいいや。アニマライズ」

シラヌイは座布団の上で子狐になり丸くなった。

「きゅー」

「触ってもいいのよね?」

「きゅ!」

クーコは隣の座布団に座ると、シラヌイの大きな尻尾を触り始めた。

モフモフモフモフモフモフモフモフ……。

















四半刻程でタマモが戻ってきた。

「シラヌイー、クー。ツェツィーリアとトレーネに話をつけて……なんじゃ寝ておるのか」

タマモが眠る二人の傍に腰をおろす。

「小さいのぅ…」

クーコはシラヌイを抱くようにして、座布団二枚の上に寝ていた。

タマモの手がクーコの銀髪をすく。

「ふむ……」

タマモがシラヌイの額を指でトンと突いた。

シラヌイの獣化が強制解除され、クーコの腕の中に収まる。

「うむ。これはこれでいいのぅ」

銀髪と金髪。

褐色と純白。

揃えたように対照的だ。

「ふむ…」

タマモがシラヌイとクーコの耳に触れる。

ケモミミとエルフ耳だ。

「うきゅぅ………」

「んぅ……」

「無防備よなぁ…」

そう言いながら、タマモは優しく微笑んでいた。





その顔は、かつて傾国と謳われた『女』のそれではなかった。

もっと、優しく、慈しむような。

そう、それはまるで……。 

 

三十二匹目

 
前書き
 

 
どうやら僕は魔法関連で言えばサラブレッドらしい。

お父様はハイエルフという魔法に特化した種族だ。

お母様は妖仙玉藻の娘で仙術など自然系魔法の素養が高い。

そんな二人の間に生まれた僕が魔法が苦手な訳ない!

で、そんな僕が今何をしているかと言えば…

「その調子です御坊っちゃま。大分当たるようになりましたね」

ナイフを投げていた。

執事のメッサーがナイフ投げをしているのを見掛けたので、教えて貰っていたのだ。

「ところ御坊っちゃま。どうしてナイフ投げを教えて欲しい等と?」

「ん? ナイフたくさん持ってるからね」

魔力というのは使えば使うほど総量が増える。

まるで筋肉のように。

だから僕は魔力に余裕がある日は寝る前にディアマンタイトナイフを錬成する事にした。

さいきんはほぼ毎日錬成しているので、かなりの本数になっている。

そして、ディアマンタイトナイフ一本でだいたい僕の魔力は空になる。

魔力を空にし、ベッドに潜り込めば翌日には全快している。

子供の回復力ってすごいって改めて思う。

「そうなのですか?」

「うん。寝る前に錬成するの」

的になっている木に向かってナイフを投げた。

今投げているのはメッサーから借りた物だ。

「すごく今さらだけど、木にナイフ投げていいの?」

「タマモ様とブライ様から許可は頂いております。この木は随分昔に枯れた物の、退かすのも面倒との事です」

言われてみればもう夏だというのに葉がない。

ナイフを投げるとトスッと木に刺さった。

昔…前世の頃から物覚えはいい方だったけど、この体は以前にも増して物覚えがいい。

もはやチートだ。

投げたナイフを回収して、投擲位置に戻る。

「メッサー、これ返すね」

「もう宜しいのですか?」

メッサーがちょっとだけ寂しそうな顔をした。

「んーん。コツは掴んだからさ。自分で創ったナイフでやってみようかなって思ったんだ」

「ほう。御坊っちゃまの魔法を視れるとは」

「そんな大した物じゃないよ。
ジェネレートアイスナイフ」

氷のナイフを生成し、木に投げる。

木に当たりはしたけどパキャン…と音を発てて割れた。

「んー………」

「御坊っちゃま? 如何されましたか?」

「んー…。なんでもない」

今度はもっと力を込めてナイフを作ろう。

「ジェネレートウォータライトナイフ」

温度もかなり低い。氷は温度が低ければ低いほど結合力が強い。

まぁ、これは物質全般に言える事なんだけどね。

「いけっ!」

今度は刺さった。

「メルト」

投げたナイフを構成する水への支配権を行使して、氷を融かす。

これで的が空いた。

「ジェネレートウォータライトナイフ」

二本目を創って投げる。

金属のナイフとの違いはだいたい掴めたと思う。

あとは距離と正確性を伸ばせばいい。

毎日練習したら上手くなれるかな…?








「ジェネレートウォータライトスター」

暫く氷鉱短剣を投げる練習をしたあと手裏剣を創ってみた。

十字のでっぱりを斜めに切ったアレである。

「変わった形のブーメランですね」

メッサーが面白い物を見る目をしている。

「スローイングスターっていうんだ」

鋒の一つを持ち、縦に構える。

スナップを利かせて手裏剣を打ってみると、木に刺さりはしたが根元の方に刺さった。

「うーん……」

二枚目を打つと、横のズレはないけれども今度は上の方にささる。

「御坊っちゃま、少々離れて投げてみては?」

「うん…その方が軌道がわかるかもね」

十歩下がって構えてみる。

氷鉱手裏剣を投げると、それは微妙なカーブを描いて木に到達した。

「これは当たらないわけだ」

そう、さっきメッサーもブーメランって言ってたじゃないか。

じゃぁ曲がり方でも調べようかな。

その後何枚も何枚も氷鉱手裏剣を打って、100枚を越えた頃には好きところに打てるようになった。

手裏剣は曲がりはするけど、回転によって安定するからスローイングナイフよりは簡単だ。

でも氷ばかりで手が痛くなったので、水晶で手裏剣を創ってみようと思う。

材料は足元にたくさんある。

土から水晶を錬成するのはもう僕の十八番と言ってもいいんじゃないかってくらいやった。

家に貴族のお客さん(だいたいお婆様に用事)が来たときに見せるとウケがいい。

前は分解/整形/結合など数ステップの詠唱が必要だったけど、今ではジェネレートの詠唱だけで一発錬成できる。

「ジェネレートクリスタルスター」

水晶手裏剣を投げると、キラキラと陽光を反射して、本物の流星みたいに綺麗な画になった。

本来の暗器としては使えない気がするけど、パフォーマンスとしてはいいかもしれない。

やってるこっちも綺麗だって思えるし。

「ジェネレートトリプルクリスタルスター」

三枚創って指の間に挟む。

「トライスターショット!」

カカカ! と三枚とも木に刺さる。

「よっし!」

本当に忍者みたいだ!

あ、いや、これじゃ忍者じゃなくてNINJAか。

本物の忍者ってもっと地味だったはず。

でもいいよね! NINJA格好いいよねNINJA!

「ジェネレート! ジャイアントクリスタルスター!」

直径一メートルくらいの水晶手裏剣を創ってみた。

創ったはいいが問題が一つ。

「メッサー。これどうやってなげよう」

地面にデン! と置かれたでっかい手裏剣。

「私に聞かれましても…」

しょうがない。刃を潰そう。

一ヶ所刃を潰して、ソコを両手で持つ。

「ふぬぬぬ………うきゅ…おもい……。魔力強化」

全身に魔力を行き渡らせて無理矢理筋力を上げる。

「御坊っちゃま。無理をなされない方が…」

「大丈夫余裕余裕」

両手で大型手裏剣をぶん投げた。

が、重さで斜めになってしまった。

「あ、まずい!」

あらぬ方向へ飛んでいく手裏剣。

このままではお婆様の盆栽が!

と思った瞬間だった。

「これ、はしゃぎすぎじゃ阿呆」

という声が後ろから聞こえた。

パチン! と指パッチンの軽い音がしたかと思えば、お婆様が手裏剣を掴んで僕の後ろに立っていた。

「お、お婆様? い、いつから?」

気配はまったくしなかったのに!

「お主が手裏剣ではしゃぎ始めたときからかのぅ」

かなり最初じゃん‼

「まったく…盆栽の近くで暴れおってからに…。
儂が盆栽を心配していたら案の定じゃったな」

「タマモ様がご心配されていたのはおぼっ…あだだだだ!?いたっ痛いですタマモ様っ! っていうか当たってます当たってます!」

何か言いかけたメッサーがお婆様にヘッドロックされている。

うらやまけしからん。

あ、でもお婆様だったら胸より尻尾かも。

「ええい! お主もお主じゃメッサー! 何で止めぬのじゃ!」

「タマモ様照れ隠しならやめっ…」

「シラヌイ!」

「は、はい!」

「手裏剣をやるのは良いがきちんとコントロールしろ! よいな!」

「はい!」

お婆様はメッサーをヘッドロックしながら何処かへつれていった。

「……………寝よ」

side out















シラヌイが昼寝から起き、廊下に出るとメッサーとばったりあった。

「やくとくだったなメッサー!」

「酷い眼にあいました…」

「エナジードレイン?」

「ええ…まぁ…」

「ヘッドロックのまま?」

「はい…」

「んー…。でも精力は増えたでしょ?」

「御坊っちゃま!」

「メッサーがおこったー! きゃははは!」

とたとたとたとた、とシラヌイが駆けていく。

メッサーはシラヌイの言った事を思い出した。

「…………………………………………やわらかかった」 
 

 
後書き
手裏剣を書きたかった。
オチは二分で考えた。 

 

三十三匹目

お姫様抱っこしていたクーちゃんをおろす。

「んー…! 広々してて気持ちいいわ!」

原っぱを踏みしめたお姫様の第一声はそれだった。

「く、くーちゃんいいの?」

「いいのよ。シラヌイがなんとかしてくれるんでしょ?」

いくら僕でも出来ることと出来ないことがある。

「私リベレーソの外に出るの初めてなのよねー」

クーちゃんはリベレーソを覆う城壁を遠目に言った。

「僕もこの前までは出たことなかったよ。
っていうか僕だって二度めだよ」

くーちゃんと会ってから2月くらい経った。

で、今日はお母様もお婆様もボーデンも会議があるらしくて授業が無かった。

そんな中、クーちゃんが唐突に城を抜け出したいなんて言い出したのだ。

えっと、はい。モンスターを倒したいそうです。

クーちゃんをお姫様抱っこして風魔法で城から翔んできました。

僕と一緒に色々な魔法を習っていると、当然攻撃魔法にも触れる。

クーちゃんはそれを試したいそうだ。

城の中庭でやる模擬戦とは違う。

全力での魔法行使。

気持ちはわかる。

それにお姫様のご命令だ。

ボクハサカラエナイ。ホントダヨー。

一応自分に追跡魔法をかけて媒体の水晶と書き置きをお婆様の部屋に置いてきた。

「クーちゃん。いくら風魔法で空を翔べるからって、直ぐには帰れないからね?
少し魔法を試したら直ぐに帰るよ」

「わかってるわよっ…もうっシラヌイは心配性なんだから…」

会議が終わる前までには帰らないといけない。

時間的には二時間くらい。

スライムを数匹狩っても余裕の時間だ。

「あ、ほら、あそこにスライムがいるよ」

ふにょふにょしてる青いヤツを指差す。

「先手必勝よ!」

クーちゃんが手を正面にかざす。

「集え世界の吐息! ホリゾンタルサイクロン!」

クーちゃんの魔法でスライムの粘液が吹き飛ばされる。

と同時にかなりの土砂が巻き上げられた。

「クーちゃん。やりすぎじゃない?」

明らかに威力過剰だ。

「気持ちいいからいいのよ!」

さいですか…。

スライムが小さくなったところで、クーちゃんは懐からナイフを出した。

僕が毎晩作っているディアマンタイト(ダイアモンド)製ナイフだ。

「切り裂け! 風の刃! クロススラッシュ!」

クーちゃんがナイフを右左と切り下げると、十字の風の刃がスライムを分割した。

「あーあ…核砕いちゃったね…」

「あ、そうだったね。討伐証明どうしましょうか?」

「欠片でも拾っていこうか」

スライムのところまで歩いて砕けた核を寄せ集める。

「ま、こんな物でしょ」

「ねぇシラヌイ。今度はシラヌイが倒してみて?」

「いいよ」

少し離れたところのスライムが眼に入った。

「ジェネレート エアリアルカノン!」

風魔法でスライムまで真空の道を作る。

そしてその筒の中に、氷の弾を作る。

大きさは直径10センチだ。

「轟け大気の咆哮!」

筒の後ろ側を解放すると、そこから空気が流入して氷の弾を押し出す。

高速で飛翔した弾がスライムにめり込んだ。

作り出した弾に、支配権をもつ水に意識を集中する。

「バースト!」

ボッ!と音がした。

氷が一気に気体になったのだ。

球の体積と重さは半径三乗の四倍。

125×4…つまり500グラム。

水は1molで18グラム。

20としてやく25mol。

そして、1molの気体の体積は22L。

これも20と考えて500L。

体内の小さな球がいきなり500倍以上に膨らみ、スライムは粉々に飛び散った。

「わ…すごい…」

クーちゃんがキラキラした眼でこちらを見ていた。

すごく照れる。

「みにいこっか」

爆発した地点までいくと、核が地面にめり込んでいた。

「回収回収」

めりこんだ核を取り出したあと、追加で10匹くらい狩った。

昨日の雨で増えたのだろうか?

全ての核を回収し終えると、クーちゃんがうしろから寄りかかった。

「シラヌイ~つかれたー…」

そんな事だろうと思ったよ…。

クーちゃんをお姫様抱っこする。

かなり軽い。

「じゃぁ、翔ばすからね」

背中にロボットアニメみたいなスラスターをイメージする。

「風よ風よ。地の束縛に抗う力を我に与えよ、我に空の翼を授けたまえ」











ギルドで討伐報告をした後アップルパイを買って部屋に戻るとお婆様がいた。

ミッチリ一時間正座でお説教だった。

「ツェツィーリアやトレーネには黙っておいてやろう。じゃが、もう二度と勝手に出ていくでないぞ。言えば連れていってやるゆえな」

こうして僕らは週一くらい、多いときは三回、リベレーソの外でスライム狩りをする事になった。

side out













説教がおわって。

「っく…この正座って姿勢とっても脚が痛いわ」

「でしょ?」

シラヌイは後ろに回り込むと、クーコの脚をつつき始めた。

「ぴぃっ!?」

「それそれー」

「や、やめっ! やめなさいシラヌイ! ぴぃっ!?」

「シラヌイよ。程々にするんじゃぞー」

「タマモ!?」

結局シラヌイは引き際を見誤りクーコを泣かせてしまった。

結果シラヌイのアップルパイはクーコの御腹に収まったのだった。

「肥るよ?」

「シラヌイのバカー!」

「懲りんのぅ……」
 

 

三十四匹目

「ボーデン」

「ん? どうしたシラヌイ?」

「スライムってペットになるんだよね?」

「ああ。王宮でもたまに見かけるだろう?」

たまにっていうか結構頻繁に見かける。

ル〇バみたいな使い方をされている。

「あれ、僕も欲しいんだけどさ、育て方教えてよ。核はあるからさ」

「ペットか? まぁ、いいが…」

ボーデンは僕に一冊の本を渡してくれた。

タイトルはそのまま[スライムの育て方]。

「こんど見せにくるね」











家に帰ると早速スライムを蘇らせる。

本の通り桶に水を張ってそこにスライムコアを落とす。

「あ、しまった。これあの時のコアだ」

ふと幾つかの中から適当に取り、落としたコアは白かった。

「ま、いっか」

スライムコアが魔力を周りの水に浸透させる。

じわぁ~…って全て水に魔力が浸透すると、水が中央に集まりちっこいスライムになった。

「調教開始だ!」

side out
















わたしは、はじめはただのそんざいだった。

でもあのとき、わたしはきょうふした。

えものだとおもっていたやつが、ほんとうはわたしをくらうものだった。

やつ、いや、ごしゅじんさまはわたしのからだをぐちゃぐちゃにおかした。

わたしはからだのしはいけんをうばわれていった。

それだけなら、まだよかった。

そそぎこまれたちからがわたしのからだをこおらせはじめたのだ。

わたしはからだをすてたらうごけない。

そして、わたしはこおりにとざされた。

でもすぐにこおりのそとにでることができた。

そのときだった。わたしはなぜかごしゅじんさまのいっていることをりかいできていた。

なんでだろう?

ごしゅじんさまはそれからいろいろあって、このいえにかえってきた。

わたしはへやのすみで、ずっとごしゅじんさまをみていた。

わたしはきづいた。

わたしとごしゅじんさまとのあいだのつながりを。

あのときごしゅじんさまがそそいでくださったのは、ごしゅじんさまじしんのいのちのかけら。

そのかけらは、わたしにちせいとりせいをもたらした。

だから、ごしゅじんさま。

このみくちはてるまで、わたしはあなたにつかえます。

side out










ぷにぷにした感触で眼が覚めた。

ぷにぷにしててひんやりしてる。

「んゅぅ…………」

「おきて、おきてくださいごしゅじんさま」

んー……誰だろ…女の声だ…。

こんなメイドいたかな………。

うっすらと目をあけると、

青い女が僕を覗き込んでいた。

なぜか裸で、しかもロリ巨乳。

「おはようございます。ごしゅじんさま」

んー……………………………誰?

「てぃあ。わたしはてぃあ。ごしゅじんさまがつけてくださった名まえですよ?」

ティア? えーっと…そう、スライムにつけた名前だ。

スライムは始め白痴で善悪を持たないと書いてあったからイノセンティア(純粋な者)とティア(水滴)からとったのだ。

ん? 待てよ? スライム?

「ごしゅじんさま?」

僕を覗き込む女…少女は青く、それでいてかすかに透けている。

眼窩にはまる瞳に瞳孔はなく、ビー玉のようにキラキラと耀いていた。

「お前ティアか!? スライムの!?」

「やっと気づいてくれましたねごしゅじんさま」

うっそだろう!?

「ティア。取り敢えず整理するから待って」

この透明美少女がティア?

昨日のスライム?

なんで? どうして? 美少女スライムなんて生まれてこのかた見たことない。

「ティア。どうして人の形を? なんで話せるんだ?」

そう。スライムは白痴のはずだ。

「ごしゅじんさまがわたしに命のかけらをそそいでくださったからですよ。
覚えてないんですか?」

命の欠片?

そうか! あの時そそいだ魔力!

「ちなみにこの体はごしゅじんさまのこのみ………のはずです」

「そのロリ巨乳が?」

「柔らかくてほうようりょくはあってほしいけれどじぶんより背がたかいのはいや、というごしゅじんさまの本心を」

「僕の心丸裸にしないでくれる!?」

「本当はもふもふがいいのでしょうけど、だいたいあんとしてのきょにゅーです」

「あ、うん…もう勝手にして」













「なるほどのー。ま、よかろう。ちゃんとそだてるんじゃぞー」

「んななげやりな…」

お婆様は面白がっているのでお母様とお父様に視線を向ける。

「そうですねぇ……。まず服を創ってあげるところから始めたらどうですか?」

「ペットはちゃんと育てるんだぞシラヌイ」

ダメだ。家の大人が頼りにならない。

仕方ないので朝食のあと(ティアは僕の後ろに控えていた)部屋に戻った。

机に座り、改めて立っているティアを見る。

うん…かわいい。

ん?

「ティア。その目はどうしたの?」

「これはすらいむこあです。部屋のすみにおいてあったので目にしました」

「大丈夫なのか? そもそも別の存在だろう?」

「私はごしゅじんさまがそそいでくださった命があるので他のこよりつよいんです。
だからわたしがとり込めば私の一部になるんです」

へー…それは面白い。

なら、全部あげてみようかな。

「ティア、コアが増える利点は?」

「あたまが良くなります」

「欠点は?」

「魔力のしょうひがふえます」

なんだそれだけか。

「どれくらい?」

「いっこにつきいち割ほどです」

ふむ…今あるスライムコアは50くらい…。

「ティア。僕の魔力でティアはどれくらい動ける?」

「ごしゅじんさまの魔力量ならかたてまで一月ほどは」

けっこう燃費いいんだなスライム。

じゃぁ50個プラスすれば今の六倍…30割る六…だいたい一週間か。

「わかった。じゃぁ毎日魔力を注いでやろう。スライムコア全部食っていいぞ」

部屋の角にある麻袋を指差す。

「いいんですか?」

「頭が良くなるんでしょ?」

「はい」

「あ、でも僕に刃向かうとかやめてね全力で抵抗するから」

「逆らいませんよ。だってわたしに知性と理性をくださったのはごしゅじんさまですから」

ティアは麻袋に手をいれるとスライムコアを吸収しはじめた。

ティアの透明な体の中に球体がたくさん透けて見える。

「どうだ? ティア?」

「すこぶる快調です。ご主人様」

さっきまで少し舌足らずな話し方だったが、流暢に話す。

「んーと……32割る4は?」

「八」

「144割る3」

「48」

「5のマイナス二分の一」

「ルート5分の一」

「ルート7の整数部分は?」

「2」

おー…。すごいな。

「ぐっじょぶ」

これは有能な助手が着いたと思った方がいいかもしれないな。

さて、そんな助手にいつまでも裸で居られるのは困る。

「ティア。服を作ろう」

本棚からこの前書いた魔導書を引っ張り出す。

魔法の媒体になる特別な紙とインクで書かれている。

選んだページに書いてあるのは錬金術。

ポリエチレンの錬成式だ。

ティアには不定形状態になってもらい、一緒に薪炭材置き場に向かう。

好都合な事に向かった先には誰も居なかった。

水を錬成した桶に入れて、大量の木炭をぶちこむ。

これでOK。エチレンは二個の炭素と四つの水素からできていて、ポリエチレンはそれの重合物でしかない。

ページを開く。

有機化合物系の錬成は細心の注意が必要だ。

ミスったら有毒ガスが発生しかねない。

「女神サークリオンよ。円環への道を我に示し給まえ。
ジェネレート・ポリエチレンクロス!」

本に魔力を注ぎ、錬金術を発動させる。

木炭と水が形を失い、融けていく。

やがて少しずつ少しずつ形ができていく。

白く濁ったワンピースが形を表す。

「できたよ。ティア」

分厚めにつくったワンピースにティアが触手を延ばす。

すぐにちゅるんと潜り込んで人形になった。

「どう?」

「嬉しいです」

ニッコリ笑ったティアはとっても可愛い。

「えーと…あとは……。あ、パンツとか要る?」

「いえ、これで十分です。具もありませんし」

有るけどな。機能はないけど。

「ご主人様が必要であれば付けますが」

「要らん要らん。あと僕の心を読むな」

「御意」



こうして僕の日常に有能な助手ができた。 
 

 
後書き
「ご主人様、コアを幾つか腸内にいれれば腸内を清潔に保てますよ」
「?」
「ご主人様の大きい方を無理矢理栄養と水に分解します」
「そんな事できるの?」
「はい」
「じゃぁ、宜しく」
この時腸内にコアを入れた事を後悔するのは随分と先の事だった。 

 

三十五匹目

「お早う御座いますご主人様」

目を覚ますと、ティアと眼があった。

最近暑いのでひやっこいティアを抱き枕にしている。

「んー…おはよ、ティア」

先ずはティアに魔力を注ぐ。

50数個のコア一つ一つが魔力の貯蔵庫になっているらしい。

本当は週一でいいんだけど、僕は魔力にかなり余裕がある。

「んー……」

起きたくない…眠い……。

ティアのひやっこい体を抱き寄せる。

「ご主人様? 起きないと怒られますよ?」

「んー……それはやだ……」

体を起こす。

ティアは不定形でチュルンとベッドから下りて人形になった。

寝間着から着替え、ドアを開ける。

昨日大量に創ったアクリル系の服を着たティアがベッド脇でお辞儀をした。

「ではお待ちしておりますので」

「うん。今日は王宮にいくから」

朝食を済ませると、お婆様に準備するよう言われた。

今日王宮に行くのは僕とお婆様。

お母様はアカデミーに行くし、お父様は騎士団の詰所だ。

部屋に戻ってローブを来て、内側のポケットに諸々の薬品を入れる。

四割が媚薬、四割が魔法系傷薬、残り二割が魔力回復薬だ。

「ティア、行くよ」

「はい」

今日は馬車でいく気分らしい。

だいたい徒歩と馬車と七三くらいの割合だ。

それくらい、王宮と僕の家は近い。

ティアは不定形で僕の膝の上だ。

「気持ちよさそうじゃの、シラヌイ」

「はい。ひやっこくてきもちいですよ」

「どれ…」

お婆様がティアの表面に手を当てる。

「おお、これは夏場にはよいかもしれんのぅ」

「でしょ?」

ティアで遊んでいると、直ぐに王宮についた。

ティアが服のなかに潜り込んで、人型になった。

「ゆくぞ、シラヌイ、ティア」

お婆様のあとを二人でついていく。

衛兵はティアを見ても何も言わなかった。

お婆様と一緒なら大丈夫とでも思われたのだろうか。

お婆様すげぇ…。




お婆様と別れてボーデンの所に行くと、目を丸くしていた。

「や、ボーデン。これ僕のペット」

「ティアと申します。以後、お見知りおきを」

「スライム………………?」

「うん」

「待て待て待て待て…何をどうしたらこうなるんだ!? また訳のわからん異世界知識か!?」

「いや。これはそっち系じゃなくて、なんか、凍らせた時の俺の魔力で自我が芽生えたんだってさ」

「はい。ご主人様の仰る通りです」

「はぁ…まぁ、タマモ様がいいって言ってるならいいんだろうけどよ…」

「じゃぁそういう事で。あ、クーちゃん呼んでくるよ」

「おー」

シラヌイが出ていき、ボーデンとティアが残された。

「で、ティアって言ったか?」

「はい」

「シラヌイに何かしてみろ。コアごと火山にぶちこむからな」

「貴女こそご主人様をキズモノにしてみろ骨まで溶かすぞ」

「それが素か?」

「ご主人様の素でもありますが」

「へぇー…。なるほどそういう意味か…。ま、シラヌイにはちょうどいいお目付け役だな」

ボーデンとティアがシラヌイの話をしていると、シラヌイがクーコを連れて戻って来た。

「へー…本当に人形のスライムなんて居るのね」

クーコがぎゅっとシラヌイの腕を掴む。

「宜しく、スライムさん。私はクーコ」

「初めまして王女殿下。そこまでしなくてもご主人様をとったりしないのでご安心を」

「ちっちがうわよぉっ!」

「?」

はてなマークを浮かべるシラヌイ。

「ティア。僕とクーちゃんはそんなんじゃないよ。それに僕じゃクーちゃんの夫にはなれないかなー。もっと相応しい人が居ると思うよ」

「シラヌイー。いっとくけど貴族連中全員お前狙ってるからぜー。痴女には気を付けろよー?」

「何ソレこわい…」

事実、シラヌイの身分は王族ではないが王族よりも価値がある。

「まー。姫様達が見張ってるし大丈夫だろうけどな」

クーコがぎゅっとシラヌイの腕を抱く力を強める。

「シラヌイは私のよ!」

「それ絶対にシャクティと同じニュアンスじゃん…やっぱり僕はペット枠…はぁ…」













「ねぇ、シラヌイ。シャクティって、だぁれ?」
 
 

 
後書き
推薦の書類審査落ちた…。勝負すらさせてもらえないとか…。 

 

三十六匹目

シラヌイが王城にティアを連れていった翌日。

「ふぬぬぬ……」

「きゅあぁぁん………」

「ふっ………」

「何だこの図超おもしれー」

「大人なら止めた方がいいかと」

王宮の一室。

ボーデンの私室にてクーコとシャクティが火花を散らしていた。

シャクティの翼の中には気持ち良さそうな子狐。

「たとえ王族が相手でもきつね君の飼い主の座は譲らない」

「はぁ!? シラヌイはこのクーコ・フライハイトのペットよ!」

そこでニヤニヤしながらボーデンが口を出す。

「おーい。シラヌイはうちの居候だぞー」

「貴女は黙ってて!」

「うるさい。錬金術師筆頭」

「な!?」

「ふっ…。ザマァですねボーデン様」

ボーデンの横で見ていたティアが毒を吐く。

「なぁおいお前ら。二人だけじゃ話がつかんだろ。メリーはどうしたメリーは」

「メリーならお昼から来る。その前にわがまま女王をぶちのめしてメリーとのイニシアティブ争いを征する」

とシャクティ。

「お前ら五歳児だよな?」

「ボーデンくらい年とってたら子供なんてみんな子供でしょ?」

とクーコ。

「暗に私の年を弄るな」

「うきゅー! きゅー!」

「黙れ毛玉。アタシの心は30代だ」

「きゅー」

「ケツの穴に媚薬突っ込むぞテメェ」

「きゅぅあっ!?」

シラヌイがシャクティの翼に潜り込む。

「ボーデン。貴女なんでシラヌイの言うことわかるの?」

「愛の力だが?」

「きゅー! きゅー! うきゅー!」

「黙れショタコン土に還れ。だそうです」

「ちっ…」

「私はご主人様と魂で繋がっております。そこのニワカと同じにしないでいただきたい」

「お? 喧嘩売ってるのかスライム?」

「ご主人様が望みません故」











昼になってメリーが参戦した。

「ぬいちゃん。どう?」

「きゅあぁぁぁ………」

「「ぬぐぐぐぐぐ……」」

「お、二人に増えた」

今度はメリーに抱かれたシラヌイが気持ち良さそうに鳴き声をあげる。

メリーがスッと手を動かす度に、シラヌイのまぶたが落ちて行く。

やがてクゥクゥと寝息を発て始めた。

「ふん。お前達がぬいちゃんをどうしようとお前たちの勝手。でも、ぬいちゃんの隣に居るのはわたし。
貴女たちが上であらそっている間に、私はぬいちゃんとイチャイチャする」

無表情で、いや、口元に薄い笑みを浮かべてメリーが言った。

正妻の余裕とでも言うべき落ち着きようだった。

「メリー。年誤魔化してるなら早めに白状しとけよー。シラヌイみたいに拗れさすなよー」

「なに言ってるの? ボーデンさん?」

そういいながらもシラヌイを撫でる手は止めない。

「ふふん…。わたしの一人勝ち」










シラヌイが家に帰ろうという時になり、ようやく真打ちが登場した。

「シラヌイー。帰るぞー。早う準備せぇ」

「あ! お婆様!」

シラヌイが玉藻の尻尾に抱きつく。

「嬉しそうに抱きつきおってからに…見られとるぞ? 恥ずかしくないのか?」

「お婆様の尻尾の前にはそんなの無意味…」

「「「ッ………(ギリィ)」」」

「ぷっくく…ぶはは! ひゃは!はははは! もう無理‼ 面白すぎっ…! はは…! 腹っ! 腹捩れるっ!」

「どうしたのじゃボーデン。かようにわらって」

ボーデンが玉藻に今日1日の事を話すと、玉藻がクツクツと笑いだした。

「くだらんのぅ…」

ひとしきり笑うと、玉藻がシラヌイを抱き上げた。

「孫は儂の物じゃ。やらんぞ」

「「「「な!?」」」」

「うきゅー? おばーさまー?」

「ではな」

そのまま、勝ち誇ったかのように玉藻が出ていった。











「という事があったんじゃがちと悪乗りしすぎたかのぅ?」

と夕食の席で玉藻がシェルムとブライに話をした。

「いえ、私は構わないと思いますよ?」

「ふーむ…メリーちゃんに第五師団長の娘に姫様に国家錬金術師筆頭か…。うむ、我が息子は嫁を選び放題だな!」

「結局僕がペット扱いされてるだけなんだけどね…」

不貞腐れたようにシラヌイが呟く。

「ご安心くださいご主人様。私は命尽きるまでご主人様のペットであり続けますので」

「あー、うん。あんがとティア」


その晩シラヌイは久々に獣化した玉藻と眠るのだった。

「こゃぁーん……」

(嬉しそうな声を出しおって……) 

 

三十七匹目

王都リベレーソから20キロの位置には大きな森がある。

「キツネ君! えんご!」

「ジェネレート・エアリアルカノン! 轟け大気の咆哮!」

風、水(氷)複合魔法エアリアルカノン。

シャクティの前方の狼に向けて放たれた散弾氷球が狼達の胴体を貫き、絶命させた。

「シャクティ! 後退!」

僕達は狼の群れに囲まれていた。

なんでこんな事になってるかと言えば、それは少し遡る。








同日 朝

今日はシャクティの家族と一緒に遠出をして魔物を狩る予定だ。

アーグロ家の伝統らしい。

獣人種族は動物扱いされるのはとっても嫌いだけど、虎や鷹の獣人は種族に誇りを持っていて、動物に倣う事もあるらしい。

それでシャクティが狩りデビューする事になった。

第五師団長さんはやってもやらなくてもいいって言ってたけれど、シャクティがやりたがったらしい。

どうやらクーちゃんの話を聞いて魔物を狩りたくなったようだ。

「キツネ君。キツネ君は剣は使えるのか?」

行きの馬車でシャクティに聞かれた。

「うんお父様から習ったよ」

魔法を覚えて直ぐにお父様から剣術を教わった。

お父様の我流…というか魔法剣士の戦いかただ。

「魔法と剣の複合技術だよ」

「でもキツネ君、剣持ってないだろう?」

「それは大丈夫。いくらでも造れるから」

革製の籠手を着けた手を開く。

「ジェネレート、ウォータライトソード」

氷の剣を作り、握る。

「この氷。そこら辺の鉄より硬いから」

そう、この氷普通に鉄を断てる。

お婆様に聞いてみると、ここが異世界なんだと改めて思った。

魔法で作った氷には、魔力が含まれる。

その魔力が意志を伝達して、氷の強度をあげるそうだ。

「おお…鍛冶師要らすだな」

「魔法で作った氷なら意識し続ける限り溶けないしね」

氷を溶かし水球に戻してから魔力に還元する。

「きつねくん。おいで」

シャクティに手招きされ、体を乗り出すと抱き抱えられた。

とってもいい匂いがする。

「きつねくん」

シャクティの言葉に含まれたニュアンス。

要するに愛でさせろってことだ。

シャクティは口数が少ないが、一言一言にはきちんと感情が乗っている。

その期待に応えるため、獣化する。

この姿になるとシャクティはいつもモフモフの翼で包み込んでくれる。

そのままのんびりしていると、馬車が止まった。

御者の席に座っていた第五師団長が顔を覗かせる。

「シャクティ、シラヌイ君着いたよ」

なぜ爵位を持っている第五師団長殿が御者をしてるかと言えば、それも伝統だからだ。

家の事は家の中だけで済ませるのだそうだ。

馬車から降りると森の近くだった。

「これから二人には森に入ってもらう。危なくなったら空に逃げなさい。直ぐに迎えにいくから」

あ、シャクティがムッとなった。

奥さんがアイサインを送ってきた。

手綱握れってか。













森に入る。

背の高い木々が並んでいて、下には草が生えている。

腰のホルスターに入れている魔方陣を刻んだディアマンタイトナイフを確認する。

うん…大丈夫。

問題は…。

「シャクティ」

「なに? キツネ君」

ご機嫌のシャクティだ。

「シャクティまさか一緒に散歩したかっただけ?」

「そうだが?」

マジかよオイ。

「ここにはあのお転婆姫も毛玉もこない…キツネ君を独り占め…!」

「シャクティならいつでも来ていいと思うよ? たぶん、クーちゃんもOKするでしょ」

「そうなのか?」

「たぶん」

「では聞いてみるとしよう」

そんな風にシャクティとまったり森を散歩している時だった。

ピン…、と魔力が震えた気がした。

「シャクティ。戦闘用意」

革の籠手の上から氷のツメを纏う。

遥か前方に、黒い影。

四足歩行で、体高は一メートルはあるだろう。

「フォレストウルフだな」

シャクティが呟く。

その狼が唐突に遠吠えする。

「シャクティ。仲間呼んだみたいだけどどうする?」

「きつね君とのデートを邪魔したケダモノをぶっころす」

物騒だな…。

「シャクティって前衛?後衛?」

「前衛だ」

シャクティが剣を抜く。

なんとカタナだ。

「振れるの?」

「この剣なら、振れる。これは切り裂く事に特化してるからな」

「そ」

前方に狼が布陣する。

その他にも回り込んで包囲しようとしている。

以外と頭がいいのかな?

「とりあえず、先手を撃とう」

脚から地面へ魔力を流す。

そして流した魔力を自分を中心に半径15メートル程のサークル状に循環させる。

「ウォータライト・ピルム・ムーリアリス」

地下十数センチで円環していた魔力が形を無し、斜めに突き出た剣山のサークルを作る。

感覚は30センチ、長さは1メートルほど。

そしてピルム・ムーリアリスの内側にも魔力を流しておく。

「なにしたの?」

「即席トラップ」

狼が駆けてくる。

後ろからも、魔力の揺らぎが来る。

ピルム・ムーリアリスを避けようと、狼がジャンプした。

「アゥフォーフ!」

ピルムムーリアリスの内側流した魔力を具現化し、上に氷鉱槍を突き上げる。

『キャィンッ!?』

今ので十体くらい死んだ。

「これで帰っては……くれないっぽいね」

「そうだな。ここからは私がやろう」

ピルム・ムーリアリスと突き上げた氷鉱槍を折り、狼がサークル内部に侵入する。

「一応ポーションとかあるから、即死じゃないかぎり大丈夫だから」

「わかった」

シャクティが駆け出す。

飛びかかる狼に対し六歳とは思えないその長身で刀を振るう。

その一撃は狼を文字通り一刀両断した。

「うそん」

「きつね君が魔法の練習してるのと同じさ」

シャクティの剣は一振りで狼を割り、首を落とし、臓腑を裂く。

シャクティの周囲に数匹の死骸が横たわる。

が、狼もバカじゃない。

サークル内に入って、シャクティを半包囲し始めた。

「キツネ君! えんご!」

「ジェネレート・エアリアルカノン! 」

シャクティの隣に砲を作る。

「轟け大気の咆哮!」

数千発の子弾によって狼がミンチになった。

「シャクティ! 後退!」

シャクティがバックステップで戻ってくる。

狼の上に氷の槍を作り、落とす。

「シャクティ。何匹か狼の尻尾取ったら逃げるよ」

「む。納得いかないが」

「僕なら全部倒せるけど、シャクティは嫌でしょ?」

「言ったな」

シャクティが刀を構え直す。

「しょうがないなー。今回だけだよ」

さっきまでと同じようにシャクティを援護しつつ、サークル外部の狼も狙う。

更には魔法攻撃を抜けてきた狼にはウォータライトクローを振り下ろす。

十数分程で、狼は後退した。

作り出した氷を可能な限り魔力に還元し、ピルムムーリアリスを消すと、周囲には狼の骸が無惨に横たわっている。

「じゃぁ討伐証明部位の回収しようか」

「しっぽ?」

「そうそう」

シャクティが腰の後ろに着けたディアマンタイトのナイフを抜く。

「きつね君。このナイフ使うぞ」

「べつにいいよ? そのナイフくらいなら1日二本作れるから」

「規格外……」

「一応褒められてると受け取っとくよ」

尻尾を回収すると、50本近くあった。

俺とシャクティのスコアは5:3くらい。

「じゃぁ帰ろっか」








森から出ると、第五師団長殿と奥さんが待っていた。

「ただいま。おとーさん」

「おかえり。狼の遠吠えが聞こえたが大丈夫だったか?」

「なんともなかった」

「そうか…。シラヌイ君」

「ゅ? うゅー…」

第五師団長の大きな手で撫でられる。

ごつごつした、戦士の手だ。

お父様? あの人基本魔法使いだから。

「むー…」

気づくとシャクティに後ろに引かれていた。

ふわり、とシャクティの漆黒の翼に包まれる。

「きつね君は私のもの」

「そんなに妬くなシャクティ。俺はシラヌイ君を取ったりしないから」

「第五師団長殿。狼の死体は放置でいいですか?」

「構わない。他の獣が食べるだろう」

さっきからシャクティが尻尾をモフモフしてる。

狐になれって急かされているようだ。

獣化してシャクティの腕の中で丸くなる。

「では、リベレーソに帰るとするか」

「きゅ!」











リベレーソに戻り、ギルドに顔を出す。

「こんにちはシラヌイ君」

「おねーさんおねーさん。この子の冒険者登録をしたいんだけどいいかな?」

「ええ、いいわよ」

シャクティはギルドに登録してなかったらしいので、登録を済ませる。

「シラヌイ君。この子の昇級試験はどうする?」

「また今度でいいや。あ、あと狼の尻尾を引き取ってもらえる?」

「はい大丈夫ですよ」

ドサッと狼の尻尾を出すとお姉さんの顔がひきつった。

「自分でやったの?」

「僕とシャクティだよ」

「そ、そう。すぐに換金するわ」

お姉さんからお金と証明書を貰い、ギルドを出……………………られなかった。

「おいそこのガキ」

ギルドの扉の前で道を塞ぐ巨漢。

「何でしょうか」

まぁ、”何時ものこと”だ。

「どうやってあんな量のウルフを狩った」

「僕が魔法使いだから」

「お前が? ぎゃははははは!」

何こいつ面倒くさい。

「邪魔。ジェネレートウォータライトキューブプリズン」

顔だけ出して氷のキューブに閉じ込める。

キューブの横を通って外に出ると、第五師団長殿が待っていた。

「見事な物だな」

「あれが一番簡単なんですよ」

「そうか。では送っていこう」

家に着くまでシャクティのモフモフの翼に包まれながらモフモフされてた。






「ではな、きつね君」

「ばいばい。シャクティ」 

 

三十八匹目

「アイテムボックス?」

僕とクーちゃんの魔法の勉強にメリーちゃんとシャクティが参加しはじめてしばらくたった。

季節はもう秋も終盤。

「うむ。お主らならおそらく使えよう」

アイテムボックスというのは無属性魔法で、簡単に言えばゲームなどの道具袋やストレージだ。

広さは魔力に依存するらしい。

なお……上級魔法に分類される。

「玉藻様、アイテムボックス…は、上級…ですよ?」

「うむ。メリーの言うとおりじゃが、まぁ、シラヌイがどうにかするじゃろ」

丸投げかい。

「ではシラヌイ、こっちにこい」

お婆様に呼ばれる。

僕が教わって、それを噛み砕いてから三人に教える形だ。

「ではアイテムボックスのやり方じゃ」

とお婆様が説明を始めた。

まず指先に魔力を集める。

次に空間を切り裂くイメージと共に指をスライドさせる。

空間の裂け目ができるのでそこにアイテムを入れる。

念じれば裂け目は消える。

アイテムを出す時は同じように裂け目を作る。

というのが手順だ。

うん…雑。

「さぁやってみよ」

無茶振りですねお婆様。

刀印を結んで魔力を込め、振る。

振る。

振る……。

「むぅ……」

できる気がしねぇ……。

「あー…やっぱりまだ早かったかのぅ?」

「ちょっと練習します」

お婆様がクーちゃん達にアイテムボックスを教えてる横で試行錯誤を繰り返す。

空間を裂くイメージをより明確にする。

ビシュッ!

「ぁ……」

思い切り指を振ると、指先から魔力刃が飛んで畳を切り裂いた。

「あー……ごめんなさいお婆様」

「よいよい。気にするな」

アプローチが間違ってるのだろうか…。

空間…そう空間。

お婆様の話し方では、既にある別の空間に干渉し穴を開けてそこをアイテムボックスにしている。

既にある空間。

そこに繋がらない。

ならば空間を創ればいい。

目を瞑る。

虚空に球を想像する。

明確に想像する。

魔力を込めて、手を伸ばす。

真っ直ぐに。

想像した球と手の間には壁一枚。

球が接する面に、手で触れるイメージ。

手を、僅かにつき出す。

パリン、と音がして目を開ける。

「できた」

ガラスが割れたように空間に穴が開いていた。

「これがアイテムボックスか…」

懐からディアマンタイトナイフを出して、入れてみる。

【構成素材:炭素100%】

【状態 共有結合結晶】

【硬度━━━━】

【透明度━━━━】

【重量━━━━━━】

そんな感じの大量の情報が頭に流れ込んできた。

「うぁっ……!?」

思わず声が出てしまった。

「どうしたのじゃシラヌイ?」

「い、いえなんでもありません」

試しにポーションを入れると、全ての素材と分量の情報が流れ込んできた。

「お婆様ー。アイテムボックスに入れた物の情報が頭に流れ込んできたのですが」

「何を言うとるんじゃお主は? そんな訳無いじゃろ」

あ、これ失敗ですかね。

「どれどれ…」

お婆様が俺のアイテムボックスに手を翳す。

「ん?」

お婆様が顔をしかめる。

「シラヌイよ。どういう手順をつこうた?」

「えーとですね」

お婆様にさっきの手順を説明する。

「おいシラヌイよ」

「はいお婆様」

「この異空間、お主の精神空間じゃぞ」

精神空間? なにそれ?

「つまりこの空間はお主の想像の中にある空間という訳じゃ」

「え? これアイテムボックスじゃないんですか?」

「アイテムボックスではないのぅ」

「そうですか…」

アイテムボックスではないのか…。

「でも効果は同じですよね?」

「おそらくな…」

ならいいのでは?

「じゃが情報が多い物じゃとお主が持たぬ」

「気をつけます」

「うむ」

お婆様によってアストラルポーチと名付けられたこの魔法を三人に教えた。

全員使えるようにはなったが、はっきり言って不評だ。

収納時の情報量が多いと頭痛が起こるのだ。

でも、物の鑑定には役立つ。

鑑定魔法以上の精度だ。

「まぁ、使えるならよかろう」

お婆様のこの一言が結論なのだった。








結局アストラルポーチの要領で全員アイテムボックスを使えるようになった。

めでたしめでたし。 
 

 
後書き
この話は後の布石です。 

 

三十九匹目

 
前書き
そういえば設定作って使ったけど王族の設定を出していなかった。


フライハイト王国
千年以上の歴史を誇る王国。
国旗は青空に遠吠えする九尾の狐。
フローティアの覇権国家で、現在最も栄えている。
王族はヒューマンだが、多民族国家であり種族間の争いはほぼ無い。
王族は一応ヒューマンだが、周辺諸国併合時などの政略結構などもあり様々な種族の血が交じっており、一人一人髪の色が違ったりするのは当たり前だったりする。
流れるどの血が覚醒するかで個々人で能力が大きく異なる。
代々エリクシールを服用しており、子供ができにくい血筋。とは言え長命なので子供は生まれる。
狐を聖獣としており、狐を殺す事は重罪となる。
夫婦別姓可。
王族は基本的に名・姓(フライハイト)だけ。




アルフレッド・フライハイト
115歳
茶髪 緑眼
シラヌイが生まれた時の国王。
自身が王になった時に継承権をめぐって内戦が起きたので妻を一人しか取らなかった(その時の内戦ではタマモは静観)。
エリクシールを定期的に服用している。
見た目は40代。
フライハイト家にしては珍しく子沢山。

ツェツィーリア・フライハイト
98歳
B級
赤毛 碧眼
アルフレッドの唯一の妻。女王。
見た目は未だに40代

ダマオ・フライハイト
49歳。
第一王子。無能。現在は地下牢。

クリスティナ・フライハイト
45歳。
見た目は30代前半。
第一王女。有能。美熟女。独身。

アーネスト・フライハイト
43歳
金髪の超イケメン。
第二王子。有能。
ブライの親友。
剣の達人。

リオネ・フライハイト
18歳
B級
第二王女。
わがまま姫。
末っ子。

トレーネ・S・フライハイト
132歳。
A級
アーネストの妻。
隣国(スヴァルティア)の姫。
おっとり系褐色銀髪お姉さん。
シラヌイの祖父の従兄弟の孫。

クーコ・フライハイト
A級
6歳(シラヌイとタメ)。
アーネストとトレーネの娘。
肌の色は褐色。銀髪に所々金髪のメッシュのロリ。
シラヌイによって魔改造中。

 

 
十一月初旬。

月末はクーちゃんの誕生日だ。

王族の誕生日なのでもちろんパーティーが開かれる。

「プレゼントどうしよう」

もちろんシュリッセル家からのプレゼントはお婆様達が用意している。

今悩んでいるのは僕個人からのプレゼントだ。

ブレスレット…はもうあげたからな…。

指輪…却下。

イヤリング…エルフに耳系のアクセサリーって特別な意味があるから却下。

これが単に友人同士のやり取りなら花束とかが一番だ。

なぜなら花言葉という形でメッセージを込められるから。

ん? 花束?

そうだ! “朽ちぬ花束”を贈ればいいじゃないか!

よし、お婆様に頼んで王宮の図書館と植物園に行こう!










十一月下旬。

クーちゃんの誕生日当日。

お父様とお母様に連れられて来たのは王宮の謁見の間だ。

数段高い所に国王様と王妃様。

その一段下にロイヤルファミリーズだ。

なおロイヤルファミリーズの真ん中にクーちゃんが座り、両隣に皇太子アーネスト様と皇太子妃トレーネ様、その更に外側に女性が二人。

そして空席が一つ。

ダマオの席だ。

あの豚は王族の一員だが素行が悪く、数ヶ月前の一件で国王様(っていうかお婆様)がキレたらしい。

で、ダマオは現在軟禁中だとか。

ダマオの話は置いておくとして……。

クーちゃんが滅茶苦茶不機嫌だ。

王族だから表には出していないが目がヤバい。

貴族達の御世辞にうんざりしているのだろう。

公爵家、侯爵家の謁見が終わり、宮廷魔導師団の順が回ってきた。

お母様と一緒にクーちゃんの前に出ていく。

なおお父様は師団長として、お婆様は相談役として出席しているのでそれぞれ別行動だ。

一歩前に出たお母様が定型句と共に贈り物の目録を渡した後。

「我が息子が姫様にどうしても贈り物をしたかったそうです」

お母様が一歩下がったので、僕が一歩出る。

「姫様の未来に栄光がありますよう願っております」

アイテムボックスからプレゼントを出す。

造花の花束だ。

周囲から感嘆の声があがる。

当然だ。

僕の全力を以て造った、<宝石の花束>だ。

カキツバタ、スイセン、スノーフレーク、タチアオイ、ネモフィラ、ケマンソウ、クンシラン、キンレンカ、セキチク、ジャスミン。

全て花言葉に意味を持たせてある。

その花束をクーちゃんに渡す。

「うむ。見事である」

幼い声で、クーちゃんが(きちんと)偉そうにコメントした。

一歩下がり、お母様と礼をして下がる。

「待ちなさい」

声をかけたのは、トレーネ様(クーちゃんのママで皇太子妃様)の隣に座っていた女性。

国王様と王妃様の末子、リオネ様だった。

「スイセンの花言葉には『我欲』や『自惚れ』もあるわ。
この場で渡すには不適切でなくて?」

お母様に視線で聞くとコクンと頷いた。

回れ右して膝を突く。

「リオネ様のご指摘通り、スイセンにはそのような意味もございます。
ですが、我欲無くして人とは呼べません。
自惚れずして上位者たりえません。
自尊せずして王族たりえません」

そして、僕がスイセンに込めた最も大事な意味。

「そして何より、自己愛なくして、己を愛せずしてどうして他者を、民を愛せましょうか」

沈黙が流れる。

静寂を破ったのは笑い声だった。

ひざまづいたままだが、この声は王妃様の物だ。

「一本取られたな、リオネ」

見えないけど、リオネ様今頃むくれてるんだろうな。

「ふんっ…シラヌイ・シュリッセル」

「はっ、なんで御座いましょうか」

「私にも一本作ってみなさい」

無茶振りきたなぁ…。

「かしこまりました」

アストラルポーチ内部の植物図鑑を閲覧。

作る花はデンドロビウム。

花言葉は…うん。

アイテムボックスから鉱石を取り出す。

「ジェネレート。ジュエリー・フラワー」

鉱石を分解する。

アストラルポーチ内部のデンドロビウムの色味をイメージに焼き付け、それを強く意識しながら錬成する。

錬成する宝石はディアマンタイト。

それも色味を分けてだ。

錬成したカラーディアマンタイト製デンドロビウムをリオネ様に渡す。

「花言葉は『思いやり』、『天性の華やかさ』です」

あえて言ってないのが『わがままな美人』。

で、だ。

ここでリオネ様にしか渡さなかったら後で問題になるんだよなー。

一歩横にずれ、トレーネ様にも花を錬成する。

作る花はディモルフォセカ。

錬成し、手渡す。

「花言葉は、『すこやかな人』『ほのかな喜び』です」

「あらぁ~、ありがとねぇ~」

あと、『無邪気』。

アーネスト様(クーちゃんのパパで皇太子様)にはルドベキア。

花言葉は『公正』『正義』。

アーネスト様のお隣。

国王様と王妃様の長女、クリスティナ様。

失礼だけど、めっちゃエロティックな人。

渡した花はカイドウ。

花言葉は『温和』『美徳』、そして妖艶。

その横一列の王族に渡した後、国王様(実は王族の中でクーちゃんの次に親しかったりする)に視線で尋ねると手招きされた。

失礼を承知でさきに王妃様に花を作って渡す。

カトレア。花言葉は『優美な貴婦人』『成熟した大人の魅力』『魅惑的』。

そして国王様にキングプロテア。

花言葉はまさしく『王者の風格』。

「国王様、最後にこの国にこの花を捧げます。
スイセンノウ。花言葉は『強国』です」

国王様の前で一礼。

「見事! 見事であったぞシラヌイ・シュリッセルよ! その幼さでこれほど精巧な宝石の花を作る才能誠に見事である!」

と威厳ある声で長々と誉められた。

近くに居るからわかるけど…国王様目が笑ってる。

恥ずかしがる俺を見てたのしんでいるのだ。

隣の王妃様も国王様に若干あきれている。

無事王族全員に宝石の花を渡し、魔力枯渇寸前でふらつく体に鞭打ってお母様と戻る。

(シラヌイ、シラヌイ)

お母様に小声で呼び掛けられた。

(ひとまず私の魔力を吸っておきなさい)

お母様に握られた手からエナジー・ドレインで魔力を回復する。

(お疲れ様です。シラヌイ)

「うきゅぅ………」











式典が終わり、場所を移してパーティーが始まる。

「くゃー……」

クーちゃんに呼び出された俺は獣化しておとなしく膝の上で撫でられていた。

曰く、ストレスがたまったからちょっと膝の上でおとなしくしていなさい、だそうだ。

「きつね君、お疲れのようだな」

「くゅー」

ドレス姿のシャクティがやって来た。

「あらシャクティ」

「姫様、本日は…」

「いいわよ、いつも通りで」

「ですが…」

「私より先にシラヌイに声をかけた時点で何をしても一緒よ」

「そうか、わかったよクーコ」

暫くクーちゃんとシャクティが話していると、クリスティナ様が来た。

シャクティが礼をする。

「面をあげなさいアーグロ嬢。わたくしは姪の友人にどうこう言うつもりはありませんよ」

「は」

シャクティが礼をやめる。

僕はどうしたらいいだろうか。

「こんばんは、シラヌイ様」

そう言って、クリスティナ様が僕に手を伸ばす。

頭を撫でられた。

「うーん…いい毛並みですね。抱き枕にしたいくらいです」

「くゅー…」

「ああ、立つ必要は無いですよ。堅苦しいのは先の式典で終わりです」

尻尾をもふもふしながらクリスティナ様が続ける。

「それに、表面上はともかくとして貴方の方が立場は上なんですよシラヌイ様」

「うきゅー?」

どういうことなの?

僕が王族より立場が上?

ここはフライハイト王国。

なのにフライハイト家より上?

「不思議ですか? 建国の英雄にして千年王国フライハイトの主であるタマモ様のお孫さんなのですから」

建国の英雄? 千年王国フライハイト?

「これ、クリスティナ。余計な事を儂の孫に吹き込むな」

いつの間にかクリスティナ様の背後にお婆様が居た。

「儂にはそんな権力など無い」

「お戯れを……。元老院は貴女の部下でしょうに」

「相談役じゃからな。国政への助言機関である元老院を統率するのは至極真っ当じゃろ」

クリスティナ様がくすりと笑った。

「シラヌイ様。貴方が国を欲したならば、いつでも協力いたしますよ」

そう言って、クリスティナ様は歩いていった。

「くゅーん?」

「ああ…。あれは王族嫌いの王族の典型じゃな」

「きゅー?」

「王族故に、かのぅ。じゃからクリスティナは未だに未婚じゃしな」

そんな物か…。

「クーよ、お主はああなるでないぞ」

「大丈夫です。私にはシラヌイが居ますから」

「さよけ…」

お婆様は国王様の所へ行った。

暫くするとメリーちゃんとセンマリカさんがクーちゃんに挨拶しに来た。

センマリカさんが会長を務めるアリエーソ商会はフライハイト王国最大手の服飾ブランドだ。

貴族向けの高級品や一般向けの量産品。

果ては金属鎧のインナーなどの布製軍需製品や官品、布製中間製品まで。

故にセンマリカさんがここにいるのはおかしくないのだ。

いやマジで恐ろしい話だ。

もしセンマリカさんの機嫌を損ねればフライハイト王国のさまざまな産業が頓挫しかねないのだから。

「むぅ……今日は、譲っておいてあげる。オヒメサマ」

「フン…。シラヌイは誰の物でも無いぞ」

俺の頭の上でクーちゃんとメリーちゃんがバチバチしてる……。

「おいおい。そこら辺にしといてやれよお前ら。シラヌイが困ってるぞ」

「きゅぅー」

仲裁に入ってくれたのはボーデンだった。

シャクティは止めなかったかって?

隙を見て俺をぶん盗るつもりだったっぽい。

ガチな目付きでクーちゃんとメリーちゃんの隙を窺っていた。

あんまりもマジだったから衛兵が構えようかどうしようか迷っていた。

ボーデンが俺を抱き上げる。

「くゃー…」

「面倒くせぇなぁ……。もう全員嫁にしちまえよ。そしたら解決すんだろ」

「うきゅ!」

「なぁに。お前の方が偉いんだから大丈夫大丈夫。不敬罪なんてかけられやしねぇよ」

ボーデンまで……。

ここはフライハイト『王国』なんだから。

その後はボーデンも含めて五人でだらだらと話していた。

どうもクーちゃんに貴族避けに使われてる気もしたが、無事にパーティーを終えた。










「シラヌイ様。この後お母様主催のサロンが開かれるのだけど来てみない?」

嘘ですよねクリスティナ様?
 

 

四十匹目

王宮の温室に円卓が置かれている。

「なかなかの抱き心地…。クーが気に入るのもわかるな」

「くゅーん」

サロンに招待(というかほぼ強制さんか)された俺はツェツィーリア様…女王様の膝の上に置かれた。

集まったのはツェツィーリア様、クリスティナ様、トレーネ様、お婆様、お母様、ボーデン、センマリカさん、あと公爵家の婦人が三人だ。

要するに、この国における女性権力者達だ。

いったいどんな企みをするんだと言いたくなる。

「今日は色々話す予定だったが、可愛い子狐が居ることだし全力で愛でようじゃないか」

それでいいんですかツェツィーリア様!?

話す予定の内容ってかなり重要な事なんじゃないの!?

つか愛でるって何!?

きゅーきゅーと抗議したが、ツェツィーリア様には伝わらなかった。

なのでお母様達に言ってみるがニコニコ顔で無視された。

ボーデンなんて肩を震わせて笑っている。

酷い奴だ!

「くゅーん…」

仕方無いので大人しくしておく。

で、お茶会なのだが、マジで雑談だった。

どこのお茶が美味しいだとかどこのアクセサリーが綺麗だとか。

「そういえば、狐さんは先程宝石の花をつくってらしたけど、アクセサリーも作れるのかしら?」

そういったのは公爵三家のうち最大の勢力を持つピスト家の婦人だ。

「きゅー!」

もちろんできるとも。

円卓に片手を乗せ、アイテムボックスから出したディアマンタイトと亜鉛と鉄を円卓の上に置く。

まず事前に作例として作っておいたアストラルポーチに入れたボールチェーンを複製する。

その周りに細工を施したカラーディアマンタイトの数珠玉(直径2センチ)を錬成。

完成だ。

毎晩ディアマンタイト製の物を作っているので物凄く効率化されている。

アストラルポーチの効果も大きい。

「きゅー!」

その腕輪をツェツィーリア様に捧げる。

「ほう。見事な出来だな。アルフレッドが絶賛する訳だ」

ツェツィーリア様が腕輪を魔力灯の明かりにかざす。

「この紋様も素晴らしい。簡易的な術式補助具になっている。
これだけで三等地に豪邸が建つな」

え?マジで?

三等地つったら平民が買える土地の最上位だよ?

「玉藻。少しは孫に常識を教えたらどうだ?」

「学園にやれば勝手に覚えるじゃろ」

「こんなものをポンポン作られてたまるか。クー達が持っているナイフや腕輪もそうだ」

「きゅー……」

まずかったのかな?

もしかして賄賂とか思われてたり…?

ちょっとヤバいかも…。

「ツェツィーリア。それに関しては今度シラヌイに教えておくわ」

「頼むぞシェルム」

それはそれとして。公爵三家の人が物欲しそうにしてるんだよなー…。

でもここでツェツィーリア様と同じものを渡すのはまずい。

「うきゅ」

ツェツィーリア様の膝から降りる。

獣化を解除して人型になる。

「ピスト様、アンタレス様、ベテルギウス様」

「あら、どうしました狐さん?」

お三方の席の後ろへ回る。

まず硝子製のトレイを錬成。

トレイの上に先と同じものを、材質をカラーディアマンタイトからルビー、サファイア、エメラルドの三色に変えて錬成する。

色にも意味があるので本当はトパーズとかも使いたかったけど、四大宝石のうち三つを選んだ。

全て色の順列、数珠の大きさは均一だ。

「材質はルビー、サファイア、エメラルドです」

ひざまずき、トレイを捧げる。

「いいの?」

「綺麗ですね」

「ドワーフ製にも劣りませんね…」

お三方が数珠を手に取ったのでトレイをアイテムボックスに収納する。

「お近づきの印です」

礼をして獣化し、ツェツィーリア様の元へ行こうとしたら、隣のクリスティナ様に捕まってしまった。

そのまま膝の上に乗せられた。

「癒されますねぇ…」

「シラヌイ君はぁ~クーのお気に入りですからぁ~」

さらにその隣のトレーネ様も手を伸ばして僕をもふる。

「こゃぁ~ん……」

お腹に手を回されてもふもふされる。

「シラヌイの弱点は耳じゃぞー」

お婆様!?

「エルフの血が流れていますからシラヌイの耳は敏感ですよ」

お母様まで!?

「それはいいことを聞きましたわ」

「ですねぇ~」

ヤバい!

クリスティナ様の膝から飛び降り、ツェツィーリア様の椅子の下を駆けてお婆様の膝に乗る。

「きゅー! きゅー!」

前足で叩いて抗議する。

「おお、すまんすまん」

最後の一押しにエナジードレインを仕掛ける。

が、効果無し。

まぁわかってはいたよ…。

僕とお婆様じゃ太陽と地球ほど力の差があるってさ…。

side out











「お? 寝とるのかシラヌイ?」

「くぅ……」

「もう夜中ですからね」

シェルムがタマモの膝の上のシラヌイをそっと撫でた。

「あら、独り占めはよくありませんわよシェルム様、タマモ様」

アンタレス家の婦人が不満そうに言った。

「それもそうじゃの」

タマモが丸くなって眠るシラヌイを円卓に乗せた。

冬毛でもふもふのシラヌイが円卓の上でスライムのようにぐでぇっとなる。

くぅくぅと寝息を立てて体を上下させる。

暫く眺めた後、タマモがボーデンを呼んだ。

「ボーデン、シラヌイをクーコの所へ連れていってやれ。そのまま帰ってよいぞ」

「いいのですかタマモ様?」

「よい」

ボーデンが至極嬉しそうにシラヌイを抱き上げ、退室した。

「では本題に入ろう」

ツェツィーリアが切り出す。

「話の内容は、さっきまでそこに居た子狐の事だ」

ツェツィーリアが腕輪を掲げる。

「ドワーフにも劣らぬ…否、ドワーフを凌駕する宝石の加工技術だけを取っても彼の者の価値がわかるだろう」

その数珠の魔法陣はひとつひとつの『内部』に『多層的に』描かれている。

「これだけの事ができる奴を私は他に知らぬ」

公爵三家の婦人が有色透明の数珠を見る。

「故に言っておく、シラヌイ・シュリッセルに手を出すな」

「シラヌイはクーコちゃんのお友達ですものね。
氷の女王ツェツィーリアも婆バカですね」

「茶化すなシェルム。お前の息子の事を言っているのだぞ」

「大丈夫ですよ。私は息子を信じてますから」

ツェツィーリアが額に手を当てる。

「これだからシュリッセルは……」

「なんじゃ。儂に文句か?」

「言いたい事は山のように有るが…。手を出すというのは物理的な物だけではない。
ピスト、アンタレス、ベテルギウス。シラヌイを陥れよう等と考えるなと、夫達に伝えておけ」

公爵婦人達が首を縦に振る。

「質問宜しいですか女王陛下」

「どうしたベテルギウス」

「正当な報酬を以て宝石細工を依頼する分には構いませんね?」

「そうだな……ではそれを話し合うとするか」













「遅いわよボーデン!」

「無茶言うなよ姫様」

ボーデンがシラヌイを連れていったのはクーコの私室だった。

「姫様だってサロンの事はしってるだろう?」

「むぅ……そもそもサロンは男性禁制よ」

「それを言ったらここだってそうだろう。いくら子供とはいえ王族の、それ以前に女の私室に男を通すなんてどう取られるかわかってるだろ?」

「ごちゃごちゃうるさいわねー…。さっさとシラヌイを渡しなさい」

「えー……」

「さっきまでシラヌイと居たんでしょ? 今日は私の誕生日なんだから私にシラヌイを独占させなさい」

「しょーがねぇなぁ…」

ボーデンが胸に抱くシラヌイをクーコに渡した。

「じゃぁアタシは帰るぜ」

「泊まって行ってもいいのよ?」

「首が飛ぶっつーの…。シラヌイはシュリッセルだから許されるのであって只の錬金術師にはそんな権利ねーよ」

ひらひらと手を振りながら、ボーデンが出ていった。

その晩クーコはシラヌイを抱き枕にして眠るのだった。 

 

四十一匹目

2月初旬。

僕はお母様に連れられて装飾店に来ていた。

なぜこんな事をしているかと言えば、僕が宝石の価値をわかっていなかったからだ。

クーちゃんの誕生日のサロンで言っていたやつだ。

それがなぜ三ヶ月もたっているかと言えば、色々予定が詰まっていたからだ。

円環祭(新年祭)の準備や片付け。

更には新年が始まってからはお婆様とお母様は神官として儀式などを行っていた。

それ故、今こうしているのだ。

僕としては、自分が錬金術で作れる宝石にあまり価値を見出だせない。

でもお母様やお婆様、女王陛下達が言うには、僕が作っている物にはかなりの価値があるらしい。

僕が宝石を作れる要因には原子論がある。

この世界の魔法はより鮮明かつ詳細かつ確信的に過程を知っているほど発動しやすくなる。

つまりディアマンタイト等の組成や構造を知っていることによる魔力の大幅削減がある。

お母様とお父様から継いだ莫大な魔力も要因だろう。

ボーデンが言うには物質の構造変換、それも宝石類などはとても難しい物なんだそうだ。

ボーデン自身、真球ディアマンタイトは作れないって言ってた。

「シラヌイ、よく値段を覚えておきなさい」

目の前に置かれている指輪。

小指の先にも充たないトパーズを銀の台座にのせている。

その値段は金貨一枚、一万フル(=約十万円)。

「お母様、この値段は宝石由来ですか? それとも銀細工由来ですか?」

「これはどちらかと言えば銀細工由来かしら?」

そっかー、なら僕には真似できないかな。

僕絵心とか芸術的センスあんまり無いんだよね。

僕が刻める紋様とか柄って全部魔法関連だし。

外形も真球とか立方体とかが多い。

そうじゃないのもあるけど、そういうのはほとんどアストラルポーチ内部にある形をトレースしてるだけ。

僕には圧倒的に創造性とか創作力っていうのが欠けている。

でも、作例さえあれば話は別。

コピーに関してはアストラルポーチを持ってる僕に並ぶ奴はいない(と思いたい)。

「全部宝石でいけるかな…」

目の前のリングを観察する。

植物の蔦のようなリング本体に葉っぱの装飾、そして花の中心にトパーズ。

ポケットに手を入れて、鉄と銅を中に出す。

鉄で見たリング本体を真似る。

勿論アストラルポーチにいれてないから完コピではない。

葉っぱなどはアストラルポーチ内部の本物の葉っぱを小さくしてトレース。

花びらも同じようにして、真ん中にカットされたトパーズを真似た銅を填める。

握った拳を僅かに出して、開く。

うん…だいたいできた。

作例としては十分なできだとおもう…。

「はぁ…貴方も懲りませんねシラヌイ」

「ゅ?」

「そのリング、コピーするんですか?」

「流石に銀が無いので無理ですお母様。僕は材料があればディアマンタイトだってつくれるけれど、鉄を銀にはできません」

僕は現代日本の知識を、科学知識を知っている。

だから僕は魔法を他者より効率良く使えるし、魔法の応用も思い付く。

でも、僕は現代科学に助けられている反面、現代科学に縛られている。

例えば無から有は作れない。

例えば原子は他の原子にならないし増えない。

だから僕は0から1を作れない。

1を2にできない。

石や岩から宝石を作れても貴金属は産み出せない。

「貴方ならその解決法もあるのでしょう?」

「代わりに全てを宝石で作ります。石はそのままでリング本体をターコイズなどの不透明な物で代用します」

「それがどれ程の価値があるか、貴方はわかっているのですか?」

ターコイズはそれほど高価な石ではないし…。

「せいぜい、この指輪と同程度では?」

「やっぱりわかってませんね。金属ではなく全て石で創ったならば、その価値はこのリングの最低でも三倍にはなりますよ」

「なぜですか? ターコイズは銀より安価ですよ?」

「例えそうだとしても、銀細工と同じ精度で鉱石を加工できたならば、材料の有無に関わらず芸術的価値などが付随します」

ふーん…そんな物なんだ……。

試しに、というか興味が沸いただけだが、ポケットに手を入れて、アイテムボックスから握った拳の中に石灰(カルシウム)、木炭(炭素)、氷(水)、その他少量の砂(硫黄等)と石英を出す。

そして、カルシウムとタンパク質の積層構造で先と同じ蔦状のリング本体を作り、周囲を無色の水晶で薄くコーティングしたうえで中央にアメシストを填める。

「ならこれは高いですよね?」

カルシウムとタンパク質。

つまりは真珠と同じ構造だ。

わざわざ水晶でコーティングしたのは、真珠は汗等で容易に溶ける(ドロドロに溶ける訳じゃないけど輝きがなくなる)からだ。

「ツェツィーリアも言っていましたが、そんな物を思い付きで作らないでください…」

やっぱり高いんだ…。

「そうですね……。材質はそう高価ではありませんが、技術的な価値を含めた工芸価値を考えれば………他国の王族へ献上すれば、多少は領地が貰える程度、と言えばわかりますか?」

「はい」

よくわかんないけど、めっちゃ高価ってことでおk?

「シラヌイ、もう少し、奥へ行きましょうか」

「はい」

今のリングは、銀とトパーズという比較的安価な物だった。

奥へ行けば、もっと高価なものもあるかもしれない。

メインの売り場はだいたい店の中央にあった。

そこで色々な宝石をあしらった金細工や白金細工の装飾品を見て値段を確認した。

やっぱり四大宝石は高い。

他とは値段の桁が違う。

それも、手の爪程度の大きさでだ。

ちょっと冷や汗出た。

パーティーで王族に贈ったディアマンタイトの花とかツェツィーリア様に贈った腕輪とか公爵婦人達に贈った腕輪とか……。

っていうか前にクーちゃん達に贈ったディアマンタイトのナックルダスターやら何やらの護身用武具だけでもかなりの………。

いや、考えるのはやめよう。

ろくなことにならない。

一通りメインの商品を見た後、お母様が店員を呼んだ。

二言三言話した後、店の奥に通された。

そこは空気が違った。

気品、確かにそれも要因だろう。

だけど、それ以上に、魔力の揺らぎがあった。

僕はお父様とお母様から耳の感度も受け継いでいる。

魔力を感じる器官としての耳を。

「シラヌイ、ここにあるものは全て、マジックアイテムとしてのアクセサリーです」

目の前のネックレスを見る。

値段がおかしい。

八十万フル(=八百万円)。

見た目の材質は銀だが、魔力を纏っている。

「お母様、これはなんですか?」

「ミスリル。魔力合金ですよ」

魔力合金? なにそれ?

「それはどういった物ですか?」

「ドワーフだけが精製できる金属です。魔力を纏い、魔力をよく通します」

ドワーフ…。会った事ないなぁ…。

よくエルフの対として描かれるけど…。

「ドワーフの国であるフィアニアはエイルヴァイオンと仲が悪いので、フライハイトを挟んで南に位置しています。
フライハイトとは国交があるのでこういった装飾品も多く入ってくるのです」

フライハイト王国はこの環状大陸フローティアのマイナス30度からプラス30度(大まかには)、つまりはフローティアの六分の一を占めている。

僕はこの世界の地理をそれしか知らない。

確かフライハイトの北にエルフの国エイルヴァイオンとそこから独立したダークエルフの国スヴァルティアがあったはずだ。

フィアニアは……どうなんだろう…?

それにしてもドワーフかぁ……。

オリハルコンとかアダマスとかヒヒイロカネとかあるのかな…。

「お母様、魔力合金ってどうつくるのですか?」

「さぁ…? ドワーフの秘伝と言われていますから私にはわかりませんよ。お婆様なら知っているかも知れませんが、簡単ではないでしょう」

そっかぁ……。

ショーウィンドウのアクセサリーの全てが魔法的な力を纏っている。

僕が作ったアクセサリーみたいな術式補助具、つまりは魔力を『流す』ことで発動する簡易グリモワールとは違って、ここにあるものは魔法を『封じ込めて』いる。

いったいどうすればそんな事ができるんだろうか。

魔力はエネルギーだ。

放っておけば均一化しようとする。

それを固定しておくなんてほぼ不可能と言ってもいいだろう。

このアクセサリーをアストラルポーチに入れればあるいは……。

ダメか。

しばらく魔力合金製のアクセサリーを見て廻った。

「ここにあるものは、真似できないとは思いますけど、貴方の術式補助具もかなりの価値を持ちます。
よく考えて作るようにしなさい。作っても、簡単に世に出さないようになさい」

「はい。わかりましたお母様」











考え無しに渡したアクセサリーが後でちょっとしたトラブルになるが、このときはまだそんな事は思ってもいなかった。 

 

四十二匹目

3月末。

「こゃ~ん……」

「シラヌイ君。もうすぐ学園だが、どうするのかね?」

「くゅ~ん……」

「なぁに心配は要らない。ここはツェツィーリアにはバレていない場所だからな」

シラヌイは現在国王アルフレッドの膝の上でもふられていた。

「シラヌイ君」

「きゅぅ?」

「学園ではクーコを守ってはくれまいか?」

「くゅーん」

「そうかそうか。君にとってクーコを守るのは当たり前のことなのか」

「うきゅぅ」

「そうか。では頼んだぞ」

シラヌイが国王とまったりしていると…。

「見つけましたぞ父上ぇッッ‼」

「あ、アーネスト!?」

高貴なオーラを纏った青年がアルフレッドとシラヌイの居る場所…城の屋根の上に現れた。

「なぜここがわかった!?」

「私のワイバーンが教えてくれましたよ」

「むぅ…」

アルフレッドは仕方なくシラヌイをアーネストに渡した。

「それじゃぁシラヌイ君をよろしく」

「え?」

「ではの」

「ちょ!? 父上!?」

アーネストはどうしたら良いかわからず、とりあえず屋根に腰をおろした。

「くぅ……くぅ……」

(この子がシラヌイ君か…)

アーネストにとっては、娘の友人であり友人の息子だ。

おそるおそる、シラヌイを撫でる。

「くゅ~ん……」

撫でられて、シラヌイが嬉しそうな声を出す。

(クーコが気に入るわけだ…)

「くゅ……うきゅぅ?」

目を覚ましたシラヌイがアーネストを見上げ、首を傾げる。

「やぁはじめましてシラヌイ君。何時もクーコがお世話になっているね」

シラヌイがアーネストの腕から出て礼をする。

「とんだご無れ……ゅ?」

謝罪するシラヌイをアーネストが膝の上に乗せる。

「今は私と君しかいない。堅苦しいのは無しにしよう」

「いえ、ですが……こゃ~ん……」

言いかけるが、顎を撫でられてシラヌイは沈黙した。

(かわいい……)

「シラヌイ君。クーコの事を聞かせてくれないか?」











side in

「御心のままに」

アーネスト様もお父さんなんだなぁ…。

「それで、どうだ、クーコは」

「どう、とは?」

「………………………」

(えぇ…?)

「クーコは、可愛いか?」

「少々お転婆ですが、可愛いですよ」

「そうなのか?」

「はい。ストレスが多いのか、時々城壁の外で魔法をぶっぱなしてますよ」

「なに? リベレーソの外に出てるのか?」

「必ずお婆様が付き添ってますので」

「タマモ様が一緒なら……まぁ……」

お婆様強ぇ…。

「ん? 魔法? クーコはあまり魔法が得意ではなかったと思うが」

「教師が悪かったのでしょうね、お婆様に教わるようになってからは上達しました。流石はエルフの血と言いましょうか、クーコ様は魔導師団とならばやりあっても勝てましょう」

この世界の魔法は過程をより詳しく知っていれば発動しやすくなる。

しかし科学がそこまで発展していないこの世界では、何れだけの人数がそれをできるだろうか。

クーちゃんには俺がある程度の科学を教えた。

ハーフエルフの魔力量で、かつ明確な知識によってもたらされる低燃費と高威力。

もはやチートだ。

宮廷魔導師の弟子の集まりに過ぎない魔導師団なぞ敵ではないだろう。

「君はどうなんだ?」

「どう、とは?」

「君は宮廷魔導師麾下の者と戦い、勝てるのか?」

「どのような手を使っても宜しいのであれば」

「ほう?」

勝てと言われたら、まぁ…頑張れば勝てるんじゃね? って感じだ。

空気を抜くなり巨大な氷柱を落とすなり色々思いつきはする。

この世界には瞬間移動魔法は無いらしいのでそう簡単に避けられる事はないだろう。

その上の人、つまり魔導師団を従える宮廷魔導師、その中でも戦闘系の魔導師には敵わないだろう。

まず母さんには勝てないだろう。

確実だ。

ボーデンは……わからない。

武勲を立てたらしいが、誰も教えてくれないのだ。

「随分と自信家なんだな、君は」

「自己評価は正確なつもりです」

(前にブライが言っていたな…。謙遜も虚言も言わないと)

「そうか。では学園では存分に力を振るうといい」

「ゅ? 僕が全力出したら大惨事ですよ? あとクーコ様にも学園では自重するようアーネスト様からもいってください」

「おぼえていたらな」

「いやいや、クーコ様が本気出したら学園が竜巻で吹き飛びますよ? いいんですか?」

数秒の沈黙の後、アーネスト様が顔を青くして呟いた。

「………筆頭殿のリンチだな」

お母様何したんだよ……。

「それはそれとしてだな…。学園ではクーを護って欲しい」

アーネスト様のセリフにクスリと笑ってしまった。

「ふふふ…親子なんですね…。国王様も同じ事を言っていましたよ」

「そうか」

それからは会話は無く、二人でまったり過ごしていた。

side out








「見つけましたわ父上!」

「クー?」

アーネストが声のした方を見ると、クーコが空中に立っていた。

「クーコ!? どうやって飛んで…!?」

「シラヌイに教わった風の翼という魔法です」

トッ…とクーコが屋根に降り立った。

「父上? こんな所で仕事をサボって何をしておられるのですか?」

「あ、や、これはだな、御父上が…」

「父上がここでシラヌイとサボっていると教えてくれたのはそのお爺様ですよ?」

アーネストがため息をつく。

「父上、それでなぜ父上はシラヌイを抱いているのですか?」

スッと辺りの雰囲気が冷たくなる。

「わかったわかった…。仕事に戻ろう…。シラヌイ君を頼んだ」

父親と同じようにして、アーネストも屋根の上から去っていった。

「シラヌイ、父親と何を話していたの?」

「学園ではクーちゃんを護ってはくれまいか、って国王様とアーネスト様に言われた」

クーコがシラヌイの首筋を撫で回す。

「くゅ~ん……」

「シラヌイ、貴方私を護れる?」

「こゃぁん……もちろん……くゅ~……」

「そう。なら貴方は私の騎士よ。拒否権はないわ」

「うゅー?」

「ふふ…貴方はそれでいいわ…。私の可愛いナイトさん」

遂に耐えきれなくなり、シラヌイが獣化した。

「幸せなナイトね、主に撫でてもらえるなんて」

からかうような口調で、笑顔を浮かべながらクーコが言った。
 

 

四十三匹目

四月初旬。

今日は王立学園の入学式だ。

始まるのは十時半から。

そう、時間がはっきり決まってるのだ。

この学園には至る所に時計が置いてある。

アーティファクトと呼ばれる道具群で、時計と同じ動きをする物もある。

だがこれはとても高価だ。

数を揃えられるのはそれこそ公爵家クラスだけだ。

え? シュリッセル家? ほとんどの部屋にありますが何か?

ていうか作ってるのお母様だし。

それを言えばお母様が理事長を務める王立魔導学院の下位互換と呼べる王立学園に時計が配備されていても不思議ではない。

そして現在時刻は9時ちょい過ぎ。

「くゅ~ん…」

「どうしたのシラヌイ?」

僕はクーちゃんの腕に抱かれている。

そしてクーちゃんの取り巻きのようにメリーちゃんとシャクティが控えている。

高位貴族は側近をつけるのが習わしなんだそうだ。

で、クーちゃんが選んだ側近がメリーちゃんとシャクティ。

そして僕。

クーちゃんは僕のもふもふを独占する気らしい。

要するにペット枠だ。

せっかく騎士になったのに!

扱いが変わってない!

「ぬいちゃんどうしたの?」

「くゅー……」

「お姫様の腕のなかなんて、普通の人じゃ無理だろうし、役得と思えば、いいんじゃない?」

「そうだぞ。それに騎士なら私も居るしな」

シャクティが腰の刀を叩く。

うん。騎士って僕だけじゃないんだよね。

ちなみにメリーちゃんは一応参謀らしい。

クーちゃんが適当に側近を決めたのは置いとくとして…。

「くゆーん…」

「ダメよ。もうしばらく狐でいなさい」

主の命令っていう強権でさっきから延々もふられている。

ぼくは狐としても大きい方だけど、魔力強化で無理やり持ち上げられている。

「いい強化の練習になるのよねー」

僕はダンベルか何かか。

暫く学園内を探索した後、講堂へ向かった。

特にこれと言った事はなく割りとすんなりと入学式は終わった。

流石に式のときはちゃんと人型だった。

式の間はアストラル・ポーチ内の本をよんでいた。

そして案内された教室は、日本の学校に似ていた。

たぶん、大勢に教えるのにはこのスタイルが一番なのだろう。

席は、事前に決まっている。

まぁ、貴族様(僕もだけど)の学校だし。

だいたい教室の真ん中辺り。

僕の右隣にクーちゃん。

後ろにメリーちゃん。

クーちゃんの後ろにシャクティだ。

「シラヌイ、ちょっとこっち来なさい」

「?」

クーちゃんに呼ばれた。

「椅子ごとね」

クーちゃんの隣に椅子を持っていく。

「私に背を向けて座りなさい」

なるほど尻尾もふらせろって訳か。

「むぅ…王女ずるい」

「私の翼でももふるか?」

「それでいいや……」

メリーちゃんが不満っぽい。

「あらあら、このくにの王女様はぶかに慕われてませんのね」

隣に女の子が立っていた。

人間の女の子だ。

その後ろに二人引き連れている。

「ん? シラヌイ、彼女らは?」

「僕に聞かないで」

「私もしらない」

「知らんな」

クーちゃんが臣下(要するに僕ら)に聞くが誰も知らなかった。

だって知らないんだもん。

「はっ! この私を知らないなんて聞いて呆れますね! わたしはミズガリア王国のパシフィア公爵家が長女、マーガレット・O・パシフィアでしてよ!」

留学生さんらしい。

クーちゃんが臣下を手招き。

顔を付き合わせる。

「知ってる人挙手」

「お婆様が国外貴族の家名とか教えてくれるわけないじゃん」

「ミズガリアには色々卸してるけど国外貴族はあんまりしらない」

「これと言って武勲ある家ではないな」

「それより長女にしては若くないかしら?」

「代替わりしたばっかりなんじゃない?」

「ぬいちゃんの言うとおりだと思う」

と話していると…。

「ちょっとぉ! わたしを無視しないでくださいな!」

クーちゃんが解散のハンドサインをした。

「あー。すまないなマーガレット。君の事はあまり知らない」

「はっ! 所詮奴隷種族の娘ですね!」

「おいお前今何て言った?」

ダークエルフは、エイルヴァイオンにおいて奴隷種族として虐げられてきた。

それを見て正義を成したのが、クーちゃんの曾お爺さん。

トレーネ様のお爺さん。

つまり現スヴァルティア国王。

そしてミズガリアは、スヴァルティアとは国交を結ばず、事実上エイルヴァイオンの属国だ。

マーガレットに開いた手を向ける。

マーガレットの首の周囲に、氷の短槍を作る。

「貴様、この国でその言葉が何を意味するか解っているのか?」

ゆっくりと、手を閉じていく。

それに合わせるように、氷の槍を首に近づける。

「貴様ミズガリアの貴族と言ったな」

ミズガリアは、人間の国だ。

"忌々しい人間達"の国だ。

「エルフやダークエルフに魔力で劣り我ら獣人種族に肉体で劣る人間風情がよくもまぁ」

「シラヌイ。そこまでにしておきなさい」

「わかったよ…クーちゃん」

手を握る。

氷を散らす。

「この国が気にくわないなら今すぐ帰って祖国で仲良しこよししていろ」

「まぁ、そういう事だマーガレット。
私はシラヌイの尻尾をもふるので忙しい。
文句があるなら魔法実技で捩じ伏せてやるからそのときまで待っていろ。
気に食わんならお仲間を連れてきても構わんぞ」

マーガレットは泣きながら教室から出ていった。

「あー…やり過ぎたかな?」

「私は嬉しかったわよシラヌイ」

「シラヌイがやってなかったら私が剣を抜いていただろうしな」

「僕が動いて正解だったね…」

「ちゃんと峰打ちだぞ?」

「このアホカラス風刃抜刀構えてた」

「「おい」」

僕とクーちゃんににらまれてシャクティが顔を背けた。

殺る気満々じゃん……。

暫くして担任の先生が入ってきた。

「あれ?」

入ってきたのは担任と副担任。

担任の方はたぶんヒューマンの女性。

でも副担任は……。

「ドルス教官……?」

ギルドの昇級試験で戦った人だ。

たしかこの人王立魔導学院の教官じゃなかったっけ?

「皆さんこんにちは、私は皆さんの担任のレイ・デンドロビアです」

「副担任の、ドルス・バルバリンだ。あー…こんな顔だが小心者でな、泣かれると困る」

担任、副担任の挨拶のあと簡単なSHRがあり解散だった。

まぁ、初日はこんな物だろう。

「シラヌイ君はすこしのこってください」

「はい」

皆が帰ったあと、教室にはレイ先生とドルス教官とくーちゃんと臣下が残った。

「あー、久しぶりですシュリッセル様」

「畏まらないでくださいドルス教官。それはそうとなぜこちらに?」

「シェルム様の命です」

「それはどのような?」

「……………………………………」

あれ? なんで黙るの?

「いえ、そのー、えっとー……」

「ぬいちゃんと我儘姫のお目付け役」

メリーちゃんがボソッと呟いた。

ドルス教官が冷や汗を流している。

「あー……心中御察ししますドルス教官」

そっかー…ドルス教官からすれば僕は上司の息子っていう非常にやりにくい相手な訳か。

「えっとー……僕の事はシュリッセルとかそういう家柄とか考えず、一生徒として扱って頂ければ」

「すいません無理です」

「えぇー……」

どゆこと………。

ドルス教官が壁に手をついてぶつぶつ呟きだした。

内容を纏めると、自分より強い奴のお目付け役とか嫌だ的な。

「こ、氷が…氷が降ってくる……!」

終いにはカタカタ震えだした。

なんか、例のバトルがトラウマになってるらしい。

「えっと……レイ先生」

「はいわかりましたシラヌイ君。後は私がどうにかしておくので、帰っていいですよ」

「アッハイ」











家に帰ってお母様にドルス教官の事を話してみた。

「やはりですか、まったくドルスときたら学院生時代からのチキンぶりが再発してますね。
学生時代私が直々に叩き直したはずなんですけどねぇ……」

「えー…なんでそんな人を僕らのお目付け役にしたの?」

「荒治療のつもりですよ。まぁ、数日もすればドルスも慣れるでしょう」

お、鬼だ! 鬼がいるッッッ!?」

「誰がオーガですって?」

耳元でしっとりと囁かれた。

「きゅぴぃっ!?」

「これこれ、シェルム。あまりシラヌイを虐めるでない」

「そうですね」

ぱっとお母様がはなれた。

「はっはっは。シェルムは変わらないなぁ」

「ブライ? 貴方もたしか耳が弱点でしたよね?」

「え? あ、えっと、その……」

お父様弱っ!?




翌朝、お父様が何故かげっそりしていた。

お母様は艶々してたのでナニがあったかは一目瞭然だった。 
 

 
後書き
ドルス教官のイメージ? 勿論宇宙攻撃軍の中将閣下ですよ。まぁ、あの人ほど豪胆ではありませんが。
閣下いいですよねぇ。 

 

四十四匹目

 
前書き
チート物のおやくそくを書きたかった。
反省も後悔もしていない。 

 
学校二日目。

「では今日は皆さんがどれくらい魔法が使えるか見てみたいと思いまーす。
魔法訓練場に向かってくださーい」

というレイ先生の指示でぞろぞろと訓練場へ向かう。

「ぬいちゃん、我儘姫」

「狐君、姫様」

「「自重」」

くーちゃんとめをあわせる。

「「善処する」」

side out



「シラヌイ、私達と比べてしょぼくない? っていうか一発でヘロヘロじゃない」

「そう言わないの。僕らほど科学知識を知らない上で魔力でゴリ押ししてるんだからあたりまえだよ」

「というか詠唱長すぎよ」

「一応言っとくと無詠唱呪文って高等技術だからね?」

「見なさいよアレ、あんなファイアストーム手で払うだけで消えるわよ?」

「たしかにそうだけども…」

「時々玉藻様がやってるキセルにつけるくらい?」

「いや料理くらいには……ってあの継続時間じゃ無理か」

「そもそも標的まで届いてないじゃない。やる気あるのあの子達?」

「いやこれたぶん魔導師試験基準だよ。ほら、術者と標的の岩の距離見てよ」

「ふーん……。ねぇシラヌイ、あの岩を粉々にすればいいのかしら?」

「綺麗に等分してテクニックを見せつけるのはどう?」

「それならむしろ岩を壊さないで周りだけ抉るのはどうかしら?」

「シンデレラハイヒールで作った硝子像にやらせるっていうのも面白いかも」

「貴方はエアリアルカノン使えばいいじゃない」

「えー…あれ地味じゃん」

「そんな事言ったら私なんてどうすればいいのよ? 見映えのいい魔法なんて持ってないわよ」

「サンダーランスは?」

「反れたら危ないじゃない」

「心配しすぎじゃない?」

他の一年生が魔法を撃ってる様子を見ながら物騒な話を続けるシラヌイとクーコ。

二人の肩をシャクティとメリーが叩く。

「「自重自重」」

真面目な顔で言われ、クーコが不満げに返す。

「だってここで見せつけとけば面倒な輩が減るじゃない」

「むしろ近づいてくるのでは…」

「その時の為に貴女がいるんじゃないメリー」

「人使いの荒い主だ…」

やれやれ、とメリーがジェスチャーをする。

「それに、見せつけるのであれば私があれを風刃抜刀で切ればいいだけではないか」

シャクティがカタナをポンと叩く。

学園には武器の持ち込みが許される。

大抵は杖などの魔法の補助具等だが、剣を持ち込む者も少なくない。

「それじゃぁつまらないじゃない」

どうしても全力を出して遊びたいクーコに臣下二人がげんなりする。

「あとで怒られるの参謀のわたしなんだけど」

「大丈夫よ。シラヌイが怒られてくれるわ」

「うきゅっ!?」

「それもそうか」

そうしていよいよクーコ一味の番が回ってくる。

というかドルスの采配で最後だ。

「とりあえず…一番しょぼいわたしから」

メリーが所定の位置に着く。

「………ぬいちゃん。なにすればいい?」

「クアッドエレメンツバーストは?」

「それでいいや……」

メリーが岩を正面に捉える。

右手を上にかかげ、指を鳴らす。

右、左、下と計四回鳴らした。

一回鳴らす度、魔方陣が現れる。

「ばーすと」

胸の前で五度目を鳴らした。

炎が、雹が、石礫が、風刃が、岩を襲う。

四属性魔法。

それも水ではなく氷。

明らかに上級魔法だ。

だが威力はさほどでもなく、岩に傷はつかなかった。

「ぶい」

無表情でピースサインをするメリー。

「では次は私だな」

シャクティが揚々として位置につく。

「シャクティ・アーグロ、参る」

スッと居合いの構えを取る。

カタナに魔力を流す。

「魔剣技、風刃抜刀!」

振り抜かれた無色透明のディアマンタイトのカタナ。

斬撃の延長線上の地面が裂けた。

その不可視の一撃は岩に深い傷をつけた。

「さて、身分的には次は狐君だが、さきに姫様がやった方がいいな」

「そうね、標的を壊されたら堪らないもの」

「それは僕も言いたいんだけど?」

クーコが嬉々として位置に着く。

「さて、私の実力を見せる時ね!」

クーコがチラリとマーガレットを見る。

「集え水よ我が手の中に! 形を表し敵を撃ち抜け!」

クーコの手に集められた水が凍りつき、シラヌイが教えた銃弾の形を取った。

その銃弾が高速で打ち出された後。

「第二の刃が放たれる」

クーコがドヤ顔でパチンと指を鳴らすと同時。

目も眩むような閃光と轟音が響いた。

「ら………雷撃魔法……?」

ドルスが腰を抜かし、へたり込んでいた。

「やったわシラヌイ! 岩が真っ二つよ!」

「僕このあとどうすんのさ」

やれやれ、と言いながらシラヌイが位置に立った。

「出でよ! 土塊より生まれし煌めきの巨人よ! クリエイト・ジャイアント!」

シラヌイが右手を地面に叩きつける。

次の瞬間。

地面から巨人が現れた。

太陽光をキラキラ反射し透過する身の丈五メートルのガラスの巨人。

その姿や関節は、シラヌイが前世で作っていた美少女プラモデルを参考にした物で、フローティアのゴーレムとは全く別のものだった。

「鉄槌を下せ!」

女性型の巨人が、岩に拳を叩きつけた。

ガッシャァンッッッ!!!という大音量。

巨人は、その腕を粉々に砕きながら、停止していた。

シラヌイが振り向くと………。

「「「自重しろ!」」」

と、三人の怒鳴り声が響くのだった。
 

 

四十五匹目

僕とくーちゃんはレイ先生にやんわりと注意された。

ドルス教官? うん…顔真っ青だった。

そして二コマ目。

フライハイトの建国史の授業だった。

頭が痛くなった。

この国は1500年以上前に初代国王が起こした国なんだそうだ。

初代国王は近隣諸国を支配し圧政を敷いていた帝国を打倒。

フライハイト初代国王となったそうだ。

そしてその男の隣には、常に金髪で九つの尾を持つ狐が居たそうだ。

故に、フライハイト王国の国旗は青空に吠える九尾の狐なのだそうだ。

うん…要するにお婆様だ。

ようやくわかった。

ボーデン達が、時折シュリッセルの名をフライハイトより上に置く理由が。

なんせ、直系だ。

それもたった四人。

血は薄まっていない。

「ぬいちゃん知らなかったの?」

「お婆様一回もそんなこと教えてくれなかった」

「恥ずかしかったのではないか? ほら、若気の至りって言うだろう?」

「だとしたらこの国はお婆様の若気の至りの結果なんだけど?」

あと、環状大陸フローティアの正式な概略図。

造物主でもあるフローティア様は几帳面なお方だったらしい。

フローティアは何重もの大きさの違うリング状の大陸で出来ている。

中央には、水が溢れる五十万メートル級の山(というかもはや柱?)がある。

その火山のような山の火口部分(溢れるのは水だが)にはフローティア様の居城があるとされているが真偽は不明。

その中央島の周りに八重の環状大陸が並ぶ。

内側から順に第一大陸、第二大陸となる。

そして全ての大陸は中心へ向かうほど一段毎に少しずつ高くなり、第八大陸と第一大陸の高低差は2000メートルにもなるとか。

各大陸は舵輪のような水路が三十度毎に横切っている。

その水路に乗れば外洋まで出られるが、外洋の果ては奈落になっているらしい。

フライハイト王国は第一~第八大陸のマイナス30度からプラス30度くらいを納めていて、現状フローティアで一番大きな国だそうだ。

ちなみに第一から第八全てを領地に納めてるのもフライハイトだけらしい。

「せんせー、ここって第何大陸なんですかー?」

と誰かが聞いた。

「ここは第二大陸中心付近ですよ。第一大陸は聖域として立ち入りが禁止されてますから」

第一大陸フライハイト領には神殿があるらしい。

年始にお母様とお婆様はそこに行っていたとか。

「なお、第一大陸に入れるのは円環の祝福を持った神官や巫女だけです」

「シラヌイ持ってたわよね?」

なんで言っちゃうかなぁ?

教室がざわつく。

「モッテナイヨ。ボクシンカンジャナイモン」

「「「「「「「「………」」」」」」」」

周囲の視線が痛い…。

レイ先生がなんとかまとめてくれたあと、お昼休みになった。

終わる時間は結構アバウト。

タイムスケジュール的には大学に近いのかもしれない。

「おひるどうするのぬいちゃん?」

「学食行ってみようか。今日食べてみてそのクオリティ次第で明日から学食にするか弁当にするか決めよう」

ノートや羽ペン、インクをアイテムボックスに入れて席を立つ。

周囲がざわつく。

「「?」」

「狐君、姫様、普通はアイテムボックスなんて覚えてないぞ、私達の年では」

「「そういえば…」」

なんかもう使えて当たり前みたいな感じだしシャクティとメリーちゃんも使ってるから忘れていた。

「ぬいちゃん、我儘姫、自重」

「クアッドエレメンツバースト撃てる人が何言ってるのよ」

「あれでも自重した。その気になれば風刃じゃなくて雷撃できる」

「やればよかったじゃない。私に遠慮なんてしなくていいのよ?」

「そうもいかない。周りはあなたを見ている」

「面倒ねぇ…。どうせお祖父様の跡を御父様が継いでも私の王位継承権なんてそうそう上がらないわよ。
リオネ御姉様の子供辺りが継ぐと思うわ」

「リオネ様って結婚の予定とか有るの?」

「さぁ? 聞いたことないけど。フライハイト家は長命だから私には王位は廻ってこないわよ」

あっけらかんとくーちゃんが言った。

「そんな意識の低さでよくもまぁ王族が勤まりますね」

と外野のマーガレットが口を挟む。

「くーちゃん」

ハンドサインで指示を仰ぐ。

「落ち着きなさいシラヌイ。気にしてないわ」

と、くーちゃんは言うけど、もし次にマーガレットがくーちゃんや王家を侮辱すれば次はあんなのでは済まさない。

「マーガレット。私はなりたくて王族になったのではない。
勤まる? 違うぞ、勤めねばならんのだ。
こんな立場、捨てれる物なら捨ててしまいたいがな」

くーちゃんがハンドサインで臣下に指示を出した。

黙ってついてこい、だそうだ。

くーちゃんを先導するようにシャクティが先に教室を出る。

僕は最後だ。

教室から出る間際、マーガレットが呟いた。

くーちゃんを侮辱する言葉をだ。

「懲りないなぁ、君も」

氷の手裏剣を作り、マーガレットの目の前を通らせる。

「僕からすれば、君達の国なんてエルフの属国にすぎないよ」

動けないマーガレットに一言言って教室を出る。

「シラヌイ、私は聞こえてなかったから別に放っておいてもよかったのよ?」

「そうもいかないでしょくーちゃん」

「あんなの気にするだけ無駄よ。何か言われる度に反応してたらキリがないわよ?」

「わかったよ…」

次からは気付かれないようにしよう。

具体的には帰り道に猫に襲わせよう。

街の野良猫の一部を配下に加えている。

「ほら、早く学食行くわよ」

「あ、うん」


猫と学食で猫カフェが思い浮かんだ。

今度お婆様か国王様に言ってみようかな…。
 

 

四十六匹目

「「「「……………まずい」」」」

丸テーブルに座る僕達四人の声が揃った。

学食の料理は不味かった。

無料だしこんな物かな…。

「明日からは弁当だね…。僕が持ってくるよ」

シュリッセルのシェフが一番料理が上手い。

「いいの?」

「うん。問題ないよ」

少しこの世界の食事情を説明しよう。

フライハイトの食事は、中世料理にほんの少し和食のエッセンスを加えたような物だ。

例えば白米だったり、旨味の概念だったり。

あと食器として箸も存在している。

お婆様が色々やったんだろうな、と考察している。

で、今目の前にあるのは魚のスープとパンだ。

スープは出汁取れてないし、野菜の火の通りはまちまちだし、魚の臭みが残ってるし。

パンは硬いし…。

ここ貴族の学校ならもうちょい食事に力いれようよ…。

「取り敢えず食べちゃおう」

硬いパンを塩辛いスープでふやかしながら食べる。

「シラヌイ、これ美味しくする物持ってない?」

「えぇー……なにその無茶振り…」

「貴方ならなんとかしそうだもの」

メリーちゃんとシャクティも頷いていた。

ふーむ…このスープを美味しくする何か、ねぇ…?

「今度探しとくよ」

ハーブで臭みを消すとかね。

こんど旨味調味料でも錬成してみようかな。

「ぬいちゃん、デザートない?」

食べ終わるとメリーちゃんに口直しの食べ物を求められた。

僕は青い狸じゃないぞ。

「ない。あ、いや……」

果実水があったはず……。

「果実水ならあるけど。アイスにでもする?」

アイテムボックスに手を突っ込んで果実水の一升瓶を引っ張り出す。

濃縮してある。

水で5倍に薄めてちょうどいいくらいだ。

つーかもはやシロップだ。

「くーちゃんとシャクティも食べるでしょ?」

「「食べる」」

アイテムボックスから木材を出して平たく長い棒を四本作る。

で、鉄を出して錬金術で細長いコップ状にしてシロップを注ぐ。

棒をぶっ指して氷魔法で凍らせて、はい完成。

「はい、取り敢えずくーちゃんから」

「メリーからでいいわよ。最初に言ったのはメリーだもの」

「ん…ありがと」

メリーちゃんがアイスを抜く。

次にくーちゃん、シャクティに渡す。

自分のを作ってから、鉄のコップと一升瓶をアイテムボックスに放り込む。

「私も果実水持ち歩こうかしら」

「いいんじゃない? アイテムボックスって質量じゃなくて体積だし。
くーちゃんのアイテムボックスなら体積辺りの重量が大きい液体とか金属でも問題なく入るでしょ」

某VRMMORPG小説では逆で重量で決まってたりする。

「あ、そうだ。この果実水かけたらさっきのパン美味しくなるんじゃないかしら?」

「無いよりマシだろうね…」

アイス(っていうか味つきの氷)をポリポリしながら駄弁ったあと、教室に戻る。

「次の算術ねてていい…?」

「私も眠いぞ」

「良いわけないでしょメリー、シャクティ。
まぁ…気持ちはわかるけども」

「だって算術だよ? 四則演算ですらないんだよ? 足し算と引き算だよ?」

「私だって帰りたいの。シラヌイの尻尾をモフモフしてたいの。
名目上とはいえ主が我慢してるんだから貴方も我慢なさい」

「えー…」

メリーちゃんめっちゃダルそう。

「そんなに暇なら魔法陣作図でもやってなさいな」

「爆発させていい?」

「良いわけないでしょ? 貴方バカなの?」

13時になりレイ先生とドルス教官が教室に入る。

「はーい。じゃぁ今から皆さんがどれくらい算術ができるかテストしまーす。
べつにできても出来なくても構いませんけど真面目にやってくださいねー。
制限時間は30分でーす」

配られたプリントには加減の問題が30問。

簡単で五分程で全て解けた。

暇になったのでプリントをひっくり返して落書きする。

書くのは雷撃魔法を放つくーちゃん。

記憶の中のくーちゃんと雷撃魔法を描く。

それはあくまでも記憶の中の像をうつしているのであって、創造性は皆無だ。

ああ…芸術的センスが欲しい。

ちょっと時間が余ったのでデフォルメしたシャクティとメリーちゃんと狐を一匹描く。

なんかバトルマンガの表紙みたいになった。

かわいいからいっか。

「はい、時間です。後ろから回してきてくださいねー」

後ろからまわってきたメリーちゃんのプリントの裏には問題が書いてあった。

何故か回転体の体積を求める問題だ。

チョイスが不明すぎる。

しかも『教員ならこのくらい解けますよね?』とか煽ってる。

そうとう暇だったんだろうなぁ。

シャクティは寝てたし、くーちゃんは裏に魔方陣書いてた。

くーちゃんの魔方陣は魔力流したら静電気でバチってくる悪戯用の陣。

やめたげてよ……。

「はーい、では今日はここまででーす。帰っていいですよー」

という訳で大人しく帰った。

例の魔方陣が発動したかはわからない。
 

 

四十七匹目

「お婆様、家畜の餌用の乾燥トウモロコシが欲しいです」

「何に使うんじゃ?」

「乾燥トウモロコシを加工したお菓子を作ります」

「ふむ……よかろ。清潔なものを用意させよう。暫く待て」

「あ、皮の分厚い種類でお願いします」

というのが去年の秋ごろの話。

正直僕もお婆様も忘れていた。

が、シュリッセルが支援している商人はきちんとモノを揃えて来てくれた。

今はもう4月も後半。

学校にはそれなりに慣れてきた頃だ。

帰宅するとお婆様にパントリーに案内され、木箱の中身を見せられた。

今日届いたらしい。

「ふーむ…本当にこんな物で菓子なんぞ作れるのか?」

一辺一メートルの木箱にギッチリ詰まった乾燥トウモロコシの種。

ちゃんと芯から外されている。

一辺一メートルなので一立方メートル、かなり重い。

で、僕の一言でこんなに大量のトウモロコシの実が届くのは、安いからだ。

この分量でしか取引されない。

何故かと言えば、トウモロコシは基本的に飼料用だからだ。

箱から一粒取り出す。

「お、ちゃんと爆裂種だ」

「爆裂…? 物騒じゃのう」

「僕の時代ではかなりポピュラーなお菓子の材料なんですよ」

「ふーん……それは皇紀何年の事じゃ?」

「皇紀? すいません…その数えは習ってないんです。
お婆様がこっちに来たのがえーと……江戸の終わりごろでしたよね?」

「うむ。殺生石の封印を破る時にちと力を込めすぎての」

「えーと…お婆様が転移してからだいたい…………150年くらいあとですね」

「さよけ。まぁ、よいわ。取り敢えず作ってみせよ」

「はい」

アイテムボックスから瓶と漏斗を取り出して種を詰める。

「最初はこれだけあればいいでしょう」

その瓶を持って厨房へ。

「おやタマモ様、シラヌイ様、どうされましたか?」

「あれ? 今日はこっちなんだねエリザ」

厨房にはコックを兼任するメイドが五人とエリザが居た。

「はい。今日は色々面倒……失礼、手間のかかる食材がありますので」

「そうなの?」

「あー、面倒かけるなエリザ」

「いえいえ」

お婆様が例の商人に何か頼んでたのだろうか?

「今日はどのようなご用で?」

「シラヌイが菓子を作りたいそうじゃ」

「深めの鍋と蓋、あと油ちょうだい」

「畏まりました」

エリザが鍋を魔力コンロにセットした。

それなりに大きい鍋だ。

「私がやります、ご指示を」

「いいよ、僕がやる」

「いえ…危ないので…」

「よいよい、やらせてみよ。それに危ないと言うのなら魔法の練習の方がよっぽどじゃ」

「ですがシラヌイ様の身長では……」

「大丈夫」

踏み台を出す。

空の木箱だ。

そこに乗る。

「油」

「えーと……」

「その瓶のままでいいよ」

エリザが持ってるのはビール瓶くらいの物だ。

中身は油。

それを受け取って鍋の底一面に垂らす。

「こんな物かな…」

エリザに油の瓶を返す。

で、アイテムボックスから種の瓶を出して、中身をザラザラと鍋の中へ。

「シラヌイ様。それは家畜の餌では…?」

「普通そう思うよねー。これ考えたメキシコ人頭どうかしてるよ」

まぁトウモロコシが家畜の飼料なのは主にヨーロッパだったけどね。

「めき…?」

鍋の底一面にばらまく。

油の量もちょうどいい。

蓋をして、魔力コンロを着火する。

「あとは待つだけだよー」

「えーと……シラヌイ様?」

「なに?」

「魔法の実験ですか?」

「いや、お菓子だよ。ポップコーンっていうの」

「ポップコーン……ですか?」

「皮の分厚いトウモロコシを熱したら爆発するんだけど、それを使ったお菓子」

「はぁ…、お菓子……ですか」

エリザはまったく信じてないな。

「ふっふっふ……ジャンクフードの定番だよー。売り出せばバカ売れ間違いなしさ。材料費も安いしね」

この世界にポップコーンがないのは調査済みだ。

と、話している合間に鍋から音がし始めた。

「お、鳴ってる鳴ってる。成功だね」

ポンポン音がしなくなった所で蓋を開けると、白い見慣れた物。

「どうだいこの食欲をそそる香ばしい匂い!」

エリザが持ってきたボウルにお玉で掬ってうつす。

結構な量だ。ボウル約二杯分。

「これに塩をかければ完成だよ」

メイドに塩を持ってこさせ、ポップコーンに振る。

「ん」

お婆様とエリザに差し出す。

二人がサクサクとポップコーンを食べる。

「ふむ。面白い食感じゃのう。この香りもクセになる」

「かける物で味を変えられそうですね」

「鋭いねエリザ。ポップコーンは元の味がほとんど無いからいくらでも味をつけられるんだ。
甘い、辛い、しょっぱい、なんでもね」

「しかし喉が渇きそうな食べ物じゃな」

「果実水とかビールとか合うよ」

アイテムボックスから果実水の濃縮液を出す。

「そこの! これ人数分五倍に薄めて!」

メイドを呼びつけて果実水の瓶を渡す。

「いいのですか?」

「君らも気になるでしょ?」

そのメイドは八個のコップに果実水を入れて、水魔法で薄めて持ってきた。

「えっと…」

「食べていーよ。っていうか食べろ」

遠慮してる風だったメイド達にポップコーンを食べさせる。

サクサクサクサクサクサクサクサク……。

「ふむ…果実水と別で売り出せば…」

「そうそう、そう言うこと」

「これトウモロコシなら原材料費はタダも同然ですよ」

「そういえばお婆様、あの木箱いっぱいで幾らしたの?」

「そうじゃのー……だいたい700フルくらいかのー」

日本円換算で7000円? あれだけあって?

たぶん小分けしたらあの木箱でかなりの数に……。

「でものー。これを商売にした所でのー…」

「そうかな? 僕は成功すると思うよ?」

「成功はするじゃろうな。じゃがシュリッセルはそういった方面をやっておらん故、売る人手がないんじゃよ。
シュリッセルの名前があるゆえの弊害というか…」

「それなりの人間を雇う必要があるということですねお婆様」

「うむ…」

「んー…。ではタマモ様、このポップコーンは当面身内で楽しむ訳ですね?」

「なんじゃ。エリザお主気に入ったのか?」

「ええ、はい」

取り敢えず身内にファンげっと。

「ま、よかろ。追加発注はしておこう」

お婆様は果実水を煽って出ていく。

「エリザ、パントリーにあるのはシラヌイの持ち物じゃからなー」

と言って出ていった。

「エリザ、食べたかったら好きなだけ作っていいよ。ぼくだけじゃ食べきれないし」

「いいのですか?」

「エリザも見た通り、ポップコーンは膨らむんだ。
パントリーの木箱の種全部をポップコーンにしたらパントリーが埋まるくらいの量にはなるよ」

「な、なるほど」

「だから好きにしていいよ。作ったら少し僕の所に持ってきてくれればいいから」

僕も果実水を飲んで部屋にもど…。

「あ、いい忘れてたけどさ。いくら食感が軽いからって食べ過ぎたら太るから気をつけてね?」









その日の晩酌。

サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク……。

なんか喋りなよ。

「貴方、食べ過ぎじゃない?」

お父様がポップコーンを食べてはビールを飲んでのエンドレス。

「お父様、食べ過ぎたら喉渇くよ?」

「う、うむ、そうだな。ところでシラヌイ。これの原材料は?」

「トウモロコシ。家畜の餌」

「え……」

お父様の手からポップコーンが落ちる。

まぁ、あとでティアが処理……ああ…もうやってるね。

ん? あれ? ティア後ろに…。

あ、分裂しても遠隔操作できるのね。

「………………………」

「どうしたのお父様?」

「これ……姉上に送りつけてからネタバラシしたらどうなるかな」

お父様がボソリと呟いた。

「やめい。下らんことで戦争にする気かたわけ者」

姉上? お父様の姉上って僕の叔母さん?

ん?お父様ってエイルヴァイオンの……。

いや、考えるのはよそう。

「これ……家畜の餌かぁ……」

「売ればかなりの儲け出ますよね?」

「貴族が買ったら怒るぞ?」

「庶民にしか売り出すつもりはありませんし、言い訳は考えてますよ」

考えてない訳がない。

貴族っていうのは面倒だからな。

「『例え家畜と同じものを食べようとも味わえるように手を加える。これこそが我々知性ある者の特権である。
それこそが、我々と家畜との差なのである』。
それでも嫌ならば食べなければ良いのです」

ガバガバだけどね。

「この匂いを目の前にしてそれを言われれば、まぁ、黙るだろうな」

「そも食物とは巡るもの。それが家畜を巡ろうと、我々を巡ろうと、全ては土へ還るのです。
その巡りを妨げる事は、女神サークリオンへの反抗です」

サークリオンを信奉するこの国でならば、通用しよう。

「まぁ、どのみち売り出す事は無いでしょうけど」





あーあ、どっかに人件費安くて勤勉に働いてくれる奴いねーかなー。

まぁ、そんな奴居るわけないけどな。 

 

四十八匹目

『人件費が安い』『勤勉』。

確実に相反するであろうこの二つ。

が、その二つを持つ存在は居なくもない。

我ながらゲスな思考だとは思う。

が、しかし『これ』は昭和平成令和と続く近代日本でも取られた手法。

「なぁ、お前達。ローリスク・ローリターンだがローリスク・ハイリターンに化けるかも知れない仕事があるんだが、一口乗らないか?
なに、安心しろ。お前達が生きるのに必要な金くらい、直ぐに集まる」

現在地、繁華街路地裏の倉庫。

目の前には倒れている『僕とそう年の変わらないであろう』子供達。

僕の現在の状況。

『拐われたからアジトで暴れた』

「ああ、断ってくれても構わないが、その場合君達は死刑だ。
さぁ、どうするかね?」

side out






五月の初旬。

その日シラヌイは王都リベレーソの外に出ていた。

スライムコアを集めるためだ。

風魔法でジャンプしながらスライムを探し、近付いては手を突っ込んでコアを引き抜く。

否、引き抜いてはいない。

シラヌイの手は、スライムに触れていないのだから。

シラヌイの手は小さな竜巻を纏っている。

そんな手がスライムコアを掴めばどうなるか。

コアが周囲から切り離される。

制御を失った水は、パシャンと形を失う。

「これくらいにしとこうか……」

シラヌイがアイテムボックスにスライムコアを放り込む。

合計30。

「さて、これだけあればティアの子機もじゅうぶんだろ…」

シラヌイが風魔法で翔ぶ。

跳躍ではない。飛行だ。

シラヌイはリベレーソをグルリと囲む城壁の門を通ると、ギルドへ向かった。

換金のためだ。

近頃ようやく絡まれなくなったシラヌイは手早く換金を終え、代金と領収書を受けとる。

「帰りに串焼きでも買おうかな……」

貴族街へ向かう大通りを歩きながら、串焼やらジュースやらを購入する。

買った物を食べながら、シラヌイが貴族街へ歩いていると……。

ドン! と誰かがシラヌイを突き飛ばした。

「うきゅっ!?」

シラヌイが持っていたジュースと串焼が地面に落ちる。

「うっきゅぅー……」

シラヌイが目を開けると、路地裏だった。

ちょうど建物と建物の間。

「よし! 急げお前ら!」

「うきゅー!?」

シラヌイの頭に紙袋が被せられた。

(あ、いい匂い。これ蜂蜜パイ入れてたのかな?)

シラヌイはあっという間に手足を縛られ、奥へ奥へと運ばれていった。

しかし当のシラヌイはと言えば。

(わー…誘拐だ)

呑気なものだった。

(あ、違う。暴力的な身柄の確保だから略取なのかな?)

紙袋越しに聞こえる足音や会話から、シラヌイは犯人に目星をつけた。

(幼い声、狭い歩幅……ストリートチルドレンか。
目的はたぶん身代金なんだろうけど……)

数分ほどすると、シラヌイは中途半端な柔らかさの何かの上に置かれた。

(藁に布を被せてるのかな…?)

そこでバッと紙袋が取られた。

「よう。貴族様」

シラヌイの目の前には、そう年の変わらないであろう少女がいた。

ボサボサの髪に痩せこけた体。

ピンとたった猫耳に鋭い牙。

その少女の後ろに、彼女よりやや小さい子供達が十数名。

全員が猫耳だ。

(野良猫の群かな…? それにしては男が居ないような…?)

「やぁお嬢さん。一応義務的に言っとくよ『こんなことしたら僕の家がだまってないぞ』ってね」

「さぁどうだろうな? 誘拐されたなんざ貴族の恥。大人しく身代金を払うんじゃないか?」

「はっはっはっはっは! そんなのお婆様が気にする物か。
お婆様なら僕が拐われた事すら気にしないさ」

「ほう? お前さん、貴族の三男辺りか?」

「おいおい僕の事も知らずに拐ったのかい?
命知らずにも程があると思ったが、それなら仕方ないかな」

「あ?」

シラヌイが有らん限り偉そうに言った。

「今すぐ僕を解放しろ。そうすれば、僕は何も見なかった事にしよう」

「立場がわかってねぇようだな、貴族様よ」

シラヌイの手足は縛られ、数的不利は一目瞭然。

「ちょっと痛い目見た方がいいんじゃぁねぇのか!」

少女の足がシラヌイの腹を蹴ろうとした寸前。

「ゲート・オープン」

シラヌイがボソリと呟いた瞬間。

シラヌイの姿が消えた。

少女の足が空を切る。

「なっ!? 消えた!? 幻影か!?」

子供達が辺りを見渡す。

数秒の後、彼らの中心にシラヌイが現れた。

「やー、アイテムボックスの中に自分を入れるなんて事考えるのは僕だけだろうね」

子供達がシラヌイに殴りかかる。

が、しかし。

「パラライズ」

バチィ! と閃光がはぜた。

瞬間、子供達が倒れる。

「なぁ、お前達。ローリスク・ローリターンだがローリスク・ハイリターンに化けるかも知れない仕事があるんだが、一口乗らないか?
なに、安心しろ。お前達が生きるのに必要な金くらい、直ぐに集まる」

子供達は答えない、答えられない。

「ああ、断ってくれても構わないが、その場合君達は死刑だ。
さぁ、どうするかね?」

勝負は、決した。
 
 

 
後書き
短距離ワープ
自身をアイテムボックス(世界の裏側)に入れて出てくる魔法。
その性質上アイテムボックスの広さ内でしか移動できない。
シラヌイなら最大で100メートル(現状)。 

 

四十九匹目

カシャッ、と音を立てて机にガラスの少女が降り立った。

身の丈20センチ程の、ガラスの人形。

その手には手紙が握られていた。

見ようによっては杖のようにも見える丸められた手紙。

椅子に座り家の書類を処理していたタマモが顔をあげる。

「凝った式神じゃのぅ…」

タマモが差し出された手紙を読む。

「また面倒事を持ってきおって…」

そう言いながら、タマモは笑っていた。

「エリザー」

「はいこちらに」

部屋で控えていたエリザが即座に応える。

「倉庫にテントは幾つある?」

「40はあったかと」

「うむ。よかろ」

ふぅ、とタマモがため息をつく。

「さてと…、甘ちょろい孫の面倒を見るのもババァの務めじゃな」

タマモが席を立つ。

「馬車を五台用意せよ。メインストリートに行くぞ」













「お、お婆様!?」

「なんじゃ、儂が来たらいかんのか?」

「あ、いえ、そうではなくてですね…」

シラヌイは突然倉庫に入ってきたタマモに驚いていた。

「で? こやつらか?」

タマモがシラヌイの周りで未だに痺れて動けない子供達を見渡す。

「こやつらは儂の孫を拐った下手人じゃ! 引っ捕らえい!」

「ちょっとぉ!?」

「ふむ…こやつがリーダーか」

件の少女をタマモが脇に抱える。

「ほれ、行くぞシラヌイ」

「あー……はい」

倉庫から出て、路地裏を通りメインストリートへ出ると、そこにはシュリッセル家の馬車があった。

正確には人馬車、ケンタウルスが引いている。

「やぁ坊っちゃん、久し振りですねぇ」

「久し振り、リィン」

装具だけをつけた女性ケンタウルスがシラヌイに声をかける。

シラヌイは応えるが、その視線は他の馬車に向いている。

「坊っちゃんが心配せずとも、彼らを処したりはしませんぜ。
ですよね、御当主」

「そこら辺は中で話す。ほれ、はよう乗らんか」

シラヌイが馬車に乗り込む。

「出せ、リィン」

「あいよー」

馬車がガタガタと揺れる。

「さて、では話そうかの」

タマモはその言葉自分の隣に座らせた少女にも向ける。

「まずこやつらじゃが、家の庭のテントで暮らしてもらう」

「いいのですか?」

「うむ。監視できた方がいいじゃろう」

「わかりました…」

「食費は儂が出そう。読み書き計算も暇なメイドに教えさせよう」

「かなりの好待遇ですね」

「なぁに、先行投資じゃ。それにポップコーンの金の計算程度なら3日あれば覚えるじゃろ」

シラヌイの当初の計画では子供達にポップコーンを売らせ、その売上の一部をシュリッセル家に、一部を彼らの生活費に当てさせる予定だった。

「さて、少女よ」

「………ぁ……い」

「拒否権は無いぞ。儂の孫を拐った代償としてこきつかってやるから覚悟せぃ」

「あのー、お婆様。僕の計画じゃだめだったんですか?」

「お主は詰めが甘い。お主の計画ではこやつらが売上を他のアホに奪われて終いじゃ」

「そうですか…」

「シラヌイ、帰ったら仕事じゃぞ」

「まず何を?」

「屋台作りかのー」

「五基あればじゅうぶんですかね」

「そうじゃな」











side in

「………炭素製でいいか」

アイテムボックスから大量に取り出した木やら炭やらを取り出す。

例え生木でも構成元素の半分は炭素だ。

錬金術で木を水と炭素に分ける。

「ジェネレート」

炭素パイプで基本フレームを作る。

五基一気にだ。

「疲れるなぁ……ディアマンタイトよりマシか…」

次に車輪だ。

これもホイールを炭素で作る。

問題はチューブとかだけど…。

めんどいし全部ゴムでいいや。

フレームに軸と車輪をつけて基礎は完成。

後は布を被せればいい。

熱硬化性樹脂製の天幕を作って魔法で被せる。

それを紐で固定して……。

「よし、完成」

後はポップコーンの素となるトウモロコシを入れる籠と魔力コンロと鍋と金庫をつければ完璧だな。

天幕に広告やらイラストやらを描いていると、周りに子供達が集まっていた。

身なりが綺麗になっているし、服も清潔だ。

お風呂に入れられてたのかな?

「えーと……これ君らの屋台なんだけど、ちゃんと引けるかちょっと試してみて」

何人か呼んで、屋台を引かせてみる。

「どう?」

子供達はコクコクと頷く。

どうも怖がられているらしい。

「シラヌイ様」

「エリザ」

エリザがリーダー格の女の子を連れている。

「自己紹介を」

エリザが言うと、女の子が膝をついた。

「この身を御身に捧げます」

彼女の目の前に行って、顔を覗き込む。

「そういうのいいから名前教えて」

「ルイス…だ……です」

ちょっときつめだけど、茶髪の可愛い女の子。

あ、耳ふにふにしてる。

かわいい。

「んみゃぁぁぁ………」

喉を擽ってみる。

ごろごろ言ってる。どうやってるんだろ?

「シラヌイ様、そこら辺に」

「えー……」

仕方ない。

ルイスを可愛がるのをやめて、立ち上がる。

「で、何すればいいのエリザ?」

「シラヌイから彼女等へ挨拶せよ、とタマモ様が仰っておりました」

挨拶?

「これから貴方が彼女等の主なのですから」

そうか、そうなっちゃうのか。

当初の計画での『雇用主』ではなく『主』か。

うん、しかたない。

「僕はシラヌイ・シュリッセル。君達の主だ。
これからよろしく」
 
 

 
後書き
リィン・ホース
タマモの騎士をしているケンタウルス(♀)。
戦闘ではランスとバスターソードを持ち、鎧を纏って突撃する。
 

 

五十匹目

「ストリートチルドレンを大量に捕縛したそうね、何があったの?」

ルイス達を迎え入れた翌日、登校するとくーちゃんにきかれた。

「秘密だよ、秘密」

「ふーん……」

「まぁ、そのうちわかるさ」

「そ」

この会話の間、くーちゃんはずっと僕の尻尾をもふもふしていた。

「「………………………」」

臣下二人が睨んでいる。

「くっ…なぜぬいちゃんは私の膝に来てくれないの…?」

「こうなれば狐君を奪って翼に隠すしか…」

「ふっ、わたしがそれをさせると思って? シャクティ」

「はいはい、教室で暴れないの」



その日も突っ掛かってくる猿をあしらいつつ授業を終えた。

で、放課後。

三人が家に来た。

「おー……見事に猫ばっかりだな」

シャクティが子供達を見て感想を漏らした。

「お、お帰りなさいませ、ごしゅ、じん様」

何故かメイド服を着たルイスが出迎えた。

「む…ぬいちゃんを狙うライバルが増えた」

「ちっこくて可愛いわね」

くーちゃんがルイスの頭をぽふぽふと撫でた。

「言っとくけど、ルイスって僕らの2倍は生きてるからね」

そう、実はルイスは年上だったのだ。

というかあの路地裏で生活していた面々の四割は僕らより年上だ。

たぶんスコティッシュフォールドに近い猫の獣人で、かつ栄養状態が悪かったからだろう。

中には母子までいたからな。

びっくりだよ。

え? スコティッシュフォールドは交配種だって?

知ってるよ。

「さてと。じゃぁ応接室行こっか」

三人を応接室に案内する。

その途中、厨房に寄ってポップコーンを四人分作って持ってくるように言っておく。

「僕が彼女らに何をさせたいかって言うとだね」

三人にポップコーン計画を話す。

「んー…シラヌイの言いたい事はわかるけど…そのポップコーンって美味しいの?」

「美味しいよ。それに単価も安い。なんせ家畜の餌みたいな物だ」

「そんなものを売って大丈夫なのか? 狐君の家に悪評が立つのでは?」

悪評ねぇ? 今さらな気もするけどね。

「大丈夫大丈夫」

ポップコーンを売る際の紙袋を取り出す。

そこには文が書いてある。

「『この実をこうして食う者知恵有るものなり』?」

「そう。つまりトウモロコシをこうして食べる事が出来るのは僕ら人型種族の特権なのさ」

そこでコンコンと応接室のドアがノックされた。

「持ってきたようだね」

メイドが皿に盛ったポップコーンを持ってきた。

「かなり強烈な匂いでしょ?」

作りたてのポップコーンの特徴。

それは匂いだ。

別に臭い訳ではない。

が、食欲をそそるような匂いを発するのだ。

「食べてみなよ」

三人がサクサクとポップコーンを食べる。

「美味しいわね」

「これの素が家畜の餌……?」

「だが喉が乾きそうだな」

「そう。そこなんだよシャクティ」

シャクティのセリフに応えた後、アイテムボックスから果実水を取り出す。

「ポップコーンと一緒に果実水を売るのさ。少し高めでね。
そうすれば客は二回目以降にポップコーンを買うときは必ず果実水も一緒に買うようになるだろうからね」

くっくっくっくっく、と笑ってみる。

「ぬいちゃん…悪い顔できてないよ。悪ぶってて可愛いだけだよ」

「うるせっ」








その週末。

ポップコーンを売り出した。
 

 

五十一匹目

「にゃーにゃー、この屋台引く意味あるのかにゃー?」

「さー?」

「アイテムボックスあるのにねー」

「でもこれないとポップコーンつくれにゃいよー?」

その日、王都のメインストリートに数台の屋台が解き放たれた。

屋台を引くのは背の低い子供だ。

一台の屋台を四人一組で運んでいる。

「うにゃ? あんまり人いにゃいにゃー」

「でもご主人様の指示だし」

「ほら、早くやるわよ」

「その通りだにゃ」

三人が屋台の準備をしていると、まばらだった足が増えてきた。

通勤時間だ。

「じゃぁご主人様の指示どおり作ろう」

「そーだにゃ」

四人のうち二人が屋台に備え付けられた装置に魔力を流す。

魔力コンロと鉄板と透明なシリンダーで出来た簡単な装置だ。

シリンダーの底部辺りに油とコーンを入れる票線があり、そこまで油とコーンを入れた。

「このあいだご主人様が悪ぶってたの可愛かったにゃー」

「『くはは。民は家畜なのだ。餌と水をくれてやるのだ』ってやつ?」

「おっかにゃいなー」

「でもあのクズ貴族よりマシだよ。シラヌイ様の家はちゃんと家畜番してるもん」

やがてポンポンとコーンが弾け始める。

何事かとよってくる人達。

「お嬢ちゃん方、何を売ってるんだい?」

「ポップコーンっていうお菓子だにゃ」

シリンダーが弾けたポップコーンでいっぱいになる。

火を止め、塩をふって袋につめる。

その過程で広がるポップコーンの香ばしい匂い。

「ポップコーン買いませんかー? 一袋で大銅貨一枚ですよー。たったの10フル(百円)ですよー」

「果実水もありますよー。こっちは15フルですよー」

そこで一人の男がポップコーンと果実水を買っていった。

それを皮切りにだんだんと売れ始める。

「増産するにゃ」

ザラザラとコーンを装置に入れると客が驚いた。

「バカな…これが家畜の餌だと…?」

「うにゃ、ご主人様が考えたらしーです」

「そのご主人様って誰だい?」

客が聞くと売り子が屋台の屋根の端とポップコーンの袋を見せた。

【狐の知恵の実】という店名と共に描かれている紋章。

「………………………………うそだろ?」

「うみゃ?」

「き、君はタマモ様の部下なのかい?」

「私達のご主人様ははシラヌイ様だにゃ」

「タマモ様はシラヌイ様のお婆ちゃんだにゃ」

「シラヌイ様はめちゃくちゃ強くて可愛いですよ」

「私達は第三班で、他の通りに一から五班までが居ますよ。
ほら、この地図の場所です」

暫くして、客足が少し落ち着いた。

「けっこう売れたにゃ」

「ご主人様が言ってた黒字ラインを早々に超えてたにゃ」

「まだ売れそうだから早めに袋詰めするにゃ」

テキパキと働いている四人の元に雇い主が来た。

ケンタウルスに乗り、腰に剣を挿している。

「や、頑張ってる?」

トン、とシラヌイが降りる。

その時シラヌイを乗せていたケンタウルスのリィンが少し残念そうな顔をした。

「シラヌイ様ー!」

「ご主人様!」

「売れてますー」

「黒字だにゃー」

シラヌイは四人それぞれの頭を撫でる。

「そうかそうか」

そこで売り子の一人が気づく。

「ご主人様、血の匂いがします」

「ああ、これはさっきあっちの通りの屋台で騒ぎを起こしたバカ共が居てね。
僕が少し懲らしめたんだよ」

シラヌイが服についた血を見せた。

「私がやると言っても聞かなかったんです。坊っちゃんはやんちゃですねぇ」

リィンがやれやれ、とジェスチャーをする。

「僕の部下が怖がってたんだから僕がやるべきだろう」

「まー、それが道理ではあるんですが。それでも私はタマモ様の騎士として坊っちゃんを護るよう言われてましてね?
私にも私の道理があったんですよ」

「わるかったよ…」

バツの悪そうな顔でシラヌイが謝った。

シラヌイが猫っ娘達に向き直る。

「じゃ、残りの屋台も見回ってくるよ」

「「「「いってらっしゃいませ、ご主人様」」」」

シラヌイがトン、とリィンの背に乗る。

「あ、そうだ」

シラヌイがアイテムボックスから筒を取り出した。

「お前達。水魔法使えるよな?」

「使えますよ」

「ないとこまるもん」

「ならこれを渡しておく」

シラヌイが投げた筒には、球が縦に三つ入っている。

スライム・コアだ。

「ティアが調伏したスライム・コアだ。もし何かあったならばこのガラスの筒を割って中のスライム・コアに水をあげるといい。
そうすれば心強いガーディアンが助けてくれる」

「ありがとうございます!」

と四人のうちの班長が礼を言う。

「なに、防犯は義務だよ。よし、出してくれ、リィン」

「だしまーす」

カツカツとリィンの蹄が石畳を叩く。

売り子四人が見送った。










四半刻前、別の通りにて。

「おいガキィ。誰に断ってここで商売してやがんだ!」

「ひゃっ!? お、御役所の書類ならご主人様がもってます!」

「ほー? ご主人様なぁ? 役所だぁ? ああ、そうだな。役所の書類は大事だ。
でもよぉ、ここら一帯を治めてる俺様に挨拶もねぇたぁどういう事だ?」

シラヌイが作った屋台でポップコーンを売っていた第二班はガラのわるい連中に絡まれていた。

ここはスラムが近く、他の場所と比べて治安が悪い。

「あ、あの、えっと、私達は…」

売り子が紙袋に刻印された家紋を見せるが、男は見もせずに破り捨てた。

「貴族だろーが何だろーが、知った事じゃぁねぇんだよ!」

男が売り子を殴った。

ガシャンと屋台につっこむ。

並べられていたポップコーンやジュースが散乱する。

「ショバ代も払わねぇよーな奴等が商売なんざしてんじゃねぇよ」

男が剣を抜き、屋台を壊そうと剣を振るった。

が、しかし。

キィン! と剣が支柱に弾かれた。

「んだコレ!? 堅!?」

男の配下も屋台の支柱を切ろうとしたが、そちらは剣が半ばから折れた。

「当たり前だろう。分子結合魔方陣を仕込んだカーボンナノチューブを幾億にも重ねた炭素棒だ。お前達の粗末な剣では欠けもすまい」

声変わり前の、男か女かわからないような声。

男達が振り向くと、そこには狐の獣人の子供がケンタウルスにまたがっていた。


「で、その屋台僕の物なんだけど、何か用かな?」

「そうかいそうかい…貴族様の道楽って訳だ………」

「んー。なんかもう、テンプレ乙っていうかやられ役っていうか…。
うーん……。まぁいいや。とりあえず王国の騎士には年齢に関わらず平時でも逮捕件があるから傷害罪と営業妨害と器物損壊の罪で現行犯ね」

トン、とシラヌイがリィンの背から降りる。

「おい聞いたか! 騎士だとよ!」

シラヌイを見て嗤う男達。

「嘘つきなガキにはお仕置きしないとなぁ!」

「まぁ騎士っていうのが嘘だとしても貴族特権で罰する事ができるけど……」

男はさすがにまずいと思ったのか、納刀して殴りかかった。

「レイヤードウォール」

男の拳の全面に幾層もの水の壁が現れる。

一枚一枚では拳など防げようもない壁だ。

「凍れ」

ピシィ! と水が氷に変わる。

男の手に層状にまとわりつく氷の枷。

体積が増えたそれが男の手に食い込み、皮膚を突き破った。

じわりと血が滲んだのと同時に、男は氷の重さで倒れた。

「メルト」

塞がれていた傷口が解放され、鮮血が溢れる。

「お坊っちゃま? 後は私が」

「いや、僕がやる」

シラヌイが倒れた男を氷で地面に縫い付ける。

そして人差し指を上に向ける。

「クリエイト・アクア」

シラヌイの真上に現れる巨大な水球。

「全員逮捕だ」

水球から伸びる水の触手。

スライムの緩慢なそれとは違い、一瞬の事だった。

巻き付き、絡み付く。

ギチギチと締め付ける水が凍り、いっそうきつく締め上げる。

「あとは巡回の兵にでも任せればいいかな」

シラヌイは売り子に治癒魔法をかけて労うと、アイテムボックスからスライムコアを取り出した。

「クリエイト・アクア」

水を得て、スライムが復活する。

「ティア。護衛を頼みたい」

「仰せのままに。ですが戦闘であればあと2つほどコアをいただきたく」

「わかった」

シラヌイがコアを追加で2つ放り込む。

「はい、服」

ティアが渡された防水服を着る。

「あとを任せる」

「はい」







【狐の知恵の実】は開店初日にして莫大な利益とリピーターを手にいれた。 

 

五十二匹目

ポップコーンを売り始めて二月ほど経った。

中々に売れ、貴族や商人にも広まったらしい。

が、それ以上に庶民に売れている。

まぁ、安いしね。

なので最近では人を雇ってもいる。

「で、どうなの? シュリッセル家は?」

「特に変わりなく、かな」

学園の食堂で、昼食を取りながら近況を話し合う。

「そうよねぇ。シュリッセル家って浪費しないものね」

「寧ろ余りすぎてすり寄ってくるアホに困ってる始末ってお婆様が言ってた」

「で、そのお金を更に増やしつつあるお坊っちゃまはどうなの?」

「それってお金の使い道聞いてる?」

「そうよ」

「うーん………」

特に使い道があるわけじゃないしなー。

宝石は錬金してるし、これと言って食べ物に執着が有るわけでもない。

美容とかどうでもいいし、服なんて機能重視だ。

「狐君。金を溜めるだけでは不健全だぞ」

「シャクティに賛成。経済はお金を回してこそ。
ぬいちゃんがずっと持ってても意味がない」

「はっきり言うね……」

でも本当に使い道ないんだよなぁ。

「僕お小遣いもらってないし」

「え? でもぬいちゃんお金結構もってるよね?」

「シラヌイが普段使ってるお金は全部スライム狩りの分よ」

くーちゃんの言うとおり普段使うお金って殆どスライムの討伐報酬だし。

それでも子供のお小遣いにしては結構な額なんだけどさ。

ま、まぁ…貴族子女としては少ない方なんだろうけどね。

「ポップコーンの利益はどうしたのよ?」

「お婆様はポップコーンの利益は僕のだって言ってるけど、あれは家に納める気だったからねぇ。
そういうくーちゃん達はどうなの?」

「私に使われるお金は多いのだけど、私はあまり使ってないわ。
中身の無い話なら貴方達としてるほうがいいからお茶会もしないし、わざわざ自分からドレスを買ったりもしないわ。
お父様やお祖父様には少し心配されてるけど」

「メリーちゃんは?」

「私も同じ。あ、でも本は買う」

「私もあまり使わないぞ! 金のかかる趣味はもってないからな!
それに剣なら狐君がくれたこれがあるしな!」

とシャクティが腰に下げた刀を叩く。

この間刀身を最新型と入れ換えた。

「ほら、みんな同じじゃないか」

「「「持ってる桁が違う!」」」

「え━━…………」











その日の昼過ぎ。

放課後に王宮に来ていた。

「という訳なのよボーデン。シラヌイに何かしらお金を使わせる方法は無いかしら?」

「いや言いたいことはわかるが…」

王宮の中の、ボーデンの執務室。

そこのソファーに四人で座っている。

「そもそもシラヌイは金のかかる宝石やら武具やらは自分で作っちまうからなぁ」

「僕もそう言ったんだけどねー」

「ふーむ……。金のかかる趣味…。娼館はシェルム先生が許さねぇだろうしなぁ」

「行くわけ無いじゃん」

「だよなー。じゃぁ土地を買うとか…。いや待て。シラヌイ、お前どれくらい金持ってる?」

「さぁ? ポップコーンの売り上げはお婆様が管理してるし。そもそも僕もそのお金は家に納めるつもりだったから把握してない」

「なら先にタマモ様に聞いてこい」

何故か乗り気なくーちゃんに連れられて、今度はお婆様の執務室へ向かう。

「おー? 何じゃお主等? テンションの差有りすぎじゃが?」

要するにくーちゃん達三人が僕をつれ回しているので女子三人と僕のテンションに差がある。

「タマモ様、シラヌイって幾ら持ってるの?」

「んー? なでそんな事を聞くんじゃクーよ」

「今日のお昼にお金の使い道の話をしたから、さっきボーデンの所に行ったのよ。
そしたらボーデンがシラヌイが幾ら持ってるのかを確認してこいって」

「ふむ………確かにのぅ……」

お婆様が俺をジーっと見つめる。

「浪費はいかんが若い内から節約し過ぎるのものぅ……」

「ですがお婆様。僕は現状で満足してますよ?
研究費だって実質ゼロですし」

僕がやってる魔法の研究は金のかかる物ではない。

「そーじゃのぅ……」

お婆様が持っていた羽ペンを置き、腕を組んで考え始めた。

「シラヌイ」

「はい」

「お主の金じゃが、現状なら事業一つくらいならできなくも無さそうな程はある」

「いや、僕まだ六歳ですよ?」

「前世含めればもう成人じゃろ」

「そうではありますけど…」

「三日やろう。何か面白い物を考えておくのじゃ。
失敗してもよい。何かやって見せよ」

「はい」

お婆様の執務室を出て一言。



「いつの間にか趣味から事業の話に変わってたんだけど?」

「「「たしかに‼」」」
 

 

五十三匹目

シュリッセル家のお婆様の部屋。

そこで僕はお婆様にプレゼンをしていた。

「という訳で新しい事業として『猫カフェ』というのを考えました。
衛生面とかそこら辺は魔法でどうにかするので問題ないかと」

「うむ。よかろ」

いろいろ考えた結果、新しい事業は猫カフェに決まった。

「してその猫はどこから持ってくる?」

「僕が街で手懐けた猫を使います」

「ほう」

「まぁ、話のわかるいいやつらです」

「そうか……では近日中に連れてくるのじゃ。
それまでに土地は買うておこう」

「はい。お婆様」





翌日、俺は話をつけていた街のボス猫の下を訪れた。

貴族街の路地裏にある空白。

そこには猫の楽園があるのだ。

「こゃーん!(来たよー!)」

猫の衛兵に案内され、王座のように一段高くなった場所の前へ。

「にゃぅ(あら、お早いお着きね。ご主人様)」

そこに寝そべる大きな猫。

前に色々あって調伏した猫だ。

「きゅぅん(お婆様があっさりとOK出したからね)」

「にゃぁ?(あのタマモ様が?)」

「きゅ?(知ってるの?)」

「にー(だって……いえ。その内わかるわ)」

「うきゅー?(どういうことー?)」

「うにゃ、にゃ?(それはそうと、用件は?)」

「きゅぁー(お婆様が君に会いたいってさ)」

「ふにゃ……にゃぁ(そう…わかったわ)」

「きゅーん?(いつこれる?)」

「にゃー(いまからでもいいわよ)」

「うきゅ!(なら決まりだね!)」








お婆様の下に猫を連れてきた。

「ほぅ? これはまた………」

お婆様がボス猫を見て目を細めた。

「久しいのぅ、バースト?」

「ええ、まぁ。貴方の孫は面白いわねタマモ。ところで私の娘は元気?」

「ぴんぴんしとるぞ」

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

「本当面白いわね」

「いや、え? うそ? 話せたの君?」

「いつから話せにゃいと錯覚していたの?」

「なんっ…だとっ…!?」

次の瞬間、猫が立った。

後ろ足で。

「え? え? 何? どゆこと? え?」

「こやつはケットシー。精霊種の一種じゃよ。純血のな」

「精霊?」

「肉体ではなく精神を主体とする生命体じゃよ」

「聞いたことあるようなないような…?」

「まぁ、第一環から滅多に出てこんからのぅ。例外は…そうじゃの、風呂に居るヴァンニクとかかのぅ」

「へ~」

「こやつが統轄する猫であれば、問題ないじゃろ」

「宜しく頼むわよご主人様」








夏休み前に、お婆様に買ってもらった(お金は僕がポップコーンで稼いだけど手続きとかをしてくれたのはお婆様だ)土地で着工した。

王族や貴族の方々には猫好きが多いらしく、国王様もこの猫カフェ計画には賛同してくれた。

使う建材の一部は僕自身の魔法研究の成果である分子結合多重魔方陣素材(Multiple Magical Molecular bond Material)ことクォドム(4M)を使っている。

まだ目標には届いていないけど、それでも普通の建材よりも頑強だ。

ちなみに今シャクティが使ってる刀のディアマンタイトはこのクォドムだ。

「っていう話を定期試験前にしてていいの貴方?」

「え? だってしくじるような内容じゃないでしょ?」

今日から期末試験。

もうすぐ夏休みだ。

点が悪いと宿題が増える。

補習は無いらしい。

「とりあえず、上級生になるまではそんなに忙しくないだろうし、いくらでも魔法研究できるよ」

「そ。で、お父様達の協力は取り付けたの? さっきは『賛同』って言ってたけどもう少し詳しく聞きたいわ」

「国王様が国営化しようとしてツェツィーリア様に殴られてた」

「あー………」

「仕方ないから店の裏にシークレットルーム作ってる」

「ふーん……」

「あと上手く行けば貴族専用の店舗も作って欲しいとか…。その場合は国王様が全額持つとか言ってまた殴られてた」

「お祖父様どれだけ癒しに飢えてるのよ…」

「ちなみに今作ってる1号店は貴族も平民も平等だよ。
癒しを求める者に貴賎なし、ってね。
まぁ、さすがに王族は裏から通さないと不味いんだけどね」

「いっそ出張営業でもしたら?」

「いいね、それ。会員制にでもするかな。あー…でもなぁ、『貴賤なし』だもんなぁ」

「んー……いっそお婆様も説得して国営化するのは?」

「考えとくよ」

駄弁っていると俺達の番になった。

え? 場所?

魔法実技の試験会場…要するに運動場だよ。

「シラヌイ。貴方から行きなさい」

どうやら順序は俺かららしい。

「あ、ちょっとまってくださいシラヌイ君」

「「ん?」」

何故かレイ先生に止められた。

「お姫様と臣下は魔法実技は免除です」

「え?」

後ろを振り返ってくーちゃんとメリーちゃんとシャクティに視線で尋ねるが首を振る。

聞いてないようだ。

「いやー、試験の度に校庭壊されると困……げふんげふん。お姫様達は既に十分な練度ですから免除されます」

おい、本音漏れてっぞ。

「あ、そうですか。じゃぁ端っこであそんでまーす」

なんか免除らしいので、既に試験が終わっているグループの方に向かう。

で、地面に両手を触れる。

「錬成」

地面からズズズズズ…とベンチがせり上がる。

「どうぞお座りくださいお姫様」

「あらありがとう」

くーちゃんが座ると、直ぐに隣に座って尻尾を差し出す。

「はぁ…。拍子抜けね」

といいながらくーちゃんは僕の尻尾をもふもふする。

「仕方なかろう。私やメリーはともかく姫様と狐君は………うん……まぁ……」

「シャクティにさんせい。ぬいちゃんと姫様はもはや……うん…」

「はっきり言いなさいな」

「「人外レベルだとおもう」」

僕とくーちゃんが顔を見合わせる。

「「いや…人間じゃないし…」」

そういう事じゃねーよ、と言いたげな視線は無視する。

っていうか。

「異議あり!」

と僕が言うとくーちゃんが乗ってくれた。

「被告人どうぞ」

「メリーちゃんとシャクティも十分人外だと思います!」

と言うと二人が顔を見合わせた後にこそこそと小声で話始めた。

『どう思う?』

『確かに普通よりはできるけど、ぬいちゃんと姫様には劣る』

『同意見だ』

『私ガラスのゴーレムなんて作れないよ?』

『私も姫様のような戦略兵器染みた魔法は無理だ』

「聞こえてんぞー。おーい?」

狐耳だぞ。獣人だぞ。そんなひそひそ話聞こえないはず無いだろう。

「聞こえてるならわかるよね?」

とメリーちゃんに聞かれた。

「まぁ、そうなんだけども…」

なんか納得いかないなぁ。

「アンタ達二人も免除されてるって時点でわかりなさい。シャクティ、メリー」

「「えー……」」








僕達四人は無事に試験に合格した。

なお、『ほぼ』満点だった。
 

 

五十四匹目

期末試験も終わり、夏休みになった。

「くゅ~」

「ふにゃぁ…ごろごろ…あるじしゃまぁ…」

「くゅ~ん」

学校に行くようになってからあまり外に出ていなかったので、森へ狩りに行くことになった。

………………………くーちゃんの音頭で。

流石に子供だけではダメ…というか王族が護衛もつけずに出るのはアウトなので、お目付け役って事でボーデンとリィンが同行する。

あとなぜかルイスも。

という訳で、俺はルイスの膝の上に座っている。

尻尾でルイスの顎を撫でながら。

いやぁ………責める側って楽しいよね!

普段僕はモフられる側だから。

それも悪くはないけどたまには責めたい。

まぁ、コの字型に鳴ってる馬車の席の対面に居るくーちゃん達がちょっと不機嫌だけど。

なおボーデンはそんなくーちゃん達を見て面白そうにしている。

ルイスを擽っている内に森の入口に着いた。

まぁ、飛べばすぐに着く距離ではあるしな。

「さーて、思いっきりやるわよー!」

真っ先に馬車から駆け出そうとしたのはくーちゃんだ。

「まぁ、待て姫様」

そこをシャクティが抑える。

「こう言うときは私達臣下から先に降りるのが慣わしだと知っているだろう?」

「むぅ…」

くーちゃんは不満げだけどこれは重要な事だ。

という訳でルイスの膝から降りて、馬車から降りるタイミングで獣化を解く。

今日の服装は戦闘を考慮して魔導師のローブ風の物を皆に配っている。

勿論クォドムだ。

しかもセンマリカさんの所の職人さんと共同開発。

僕のやつは裏にポーション系を刺してきている。

辺りを見渡し耳を澄ませる。

両手に魔力を込めて柏手を打つ。

キィーン…と魔力が辺りに広がる。

うん。特に脅威は無いね。

でも一応何時でも魔法が使えるようにしておく。

僕の後にメリーちゃんとシャクティが続く。

その後はボーデンとルイスが出て来て最後にくーちゃんだ。

「バカねぇ。そんなに警戒しなくてもいいわよ。
私に大した価値なんて無いわけだし」

「そうは言うけどね、くーちゃんが拐われたら僕はいったい何を仕出かすかわからないよ?
それはシャクティやメリーちゃんも同じ事。
それに皇太子殿下が黙ってない」

「面倒ねぇ…」

やれやれ、といったジェスチャーを見せるくーちゃん。

「ま、いいわ。さっさと森に入りましょ」

「じゃ、アタシらはここで待ってるから子供は楽しんできな」

とボーデンが無責任な事を言う。

「おいボーデン」

「大丈夫大丈夫。お前がついてるだろ」

たしかにエリクシールは受け取ったけど…。

「それにアタシらが着いていくと邪魔だからな」

「それはどういう…?」

「アタシはあんま機動力ないし、リィンは見てわかるように大柄だし、ルイスはたぶんお前達の足を引っ張る」

あー……なるほどね。

「つー訳で、たまには四人で思い切り魔法ぶっぱなして来い」

「ん。わかった」

既に森へ入って行っているくーちゃん達を追う。












暫く進むと、やけに大きな蝶を見つけた。

「何かしら、あれ?」

相対距離は十メートルあるかないかで大きさは1メートルほど。

形は蝶そのもだ。

アストラル・ポーチの図鑑を捲るまでもなく、その名前は知っている。

「ビッグ・バタフライ。安直なネーミングだけどれっきとしたモンスターだよ」

モンスターは簡単に言えば魔力が集まって自然発生するか魔力で既存の生物が変異したナニカだ。

要するに、よく分からないモノだ。

そしてビッグ・バタフライは主に後者だ。

蝶や蛾が魔力で変異したモノとされている。

「ふむ。つまり狩って討伐部位を持っていけば小遣い稼ぎになるという事か?」

「まぁそんな所」

「では私の出番だな!」

とシャクティが前に出て刀に手をかける。

「そう。姫様とかぬいちゃんがやると消し飛ぶ」

「威力調整くらいできるわよ」

「僕だって投げナイフ使えば消し飛ばす事なんかないよ」

ん? というか…

「メリーちゃんは?」

「え?………………………面倒くさい」

うん、メリーちゃんらしい。

「では斬るぞ」

シャクティが居合いの構えを取る。

「風刃抜刀!」

一瞬で振り抜かれた無色透明の刃。

そしてその刃と同じく無色透明の、空間の揺らぎのような三日月状の斬撃。

その真空の刃はビッグ・バタフライに吸い込まれるように向かっていく。

そして一瞬の後、ビッグ・バタフライは振り抜かれた刀の軌道に沿い、斜めに切り裂かれた。

そしてパサリと地に落ちた。

「さて、回収しようではないか」

「ああ、待ってシャクティ」

アイテムボックスからトングを出す。

「ビッグ・バタフライは元になった蝶や蛾によっては鱗粉に毒がある。
触るならこれを使うんだ」

「おお、感謝するぞ狐君」

シャクティは空間にサッと手を振ってアイテムボックスの入口をつくると、トングでビッグ・バタフライの死骸を入れた。

「さっさと奥に行きましょう。私が吹き飛ばしても大丈夫なくらい大きいのが居るところまでね」

と言いながら何やら魔法を待機させている。

「ん。わかった。でも姫様が全力出したら森がふっとぶ」

「さすがの私もそれは無理よ。シラヌイならともかく」

「僕をなんだと思ってるんだ」

アイテムボックスから手裏剣の束を出してズボンのベルトに引っ掻けておく。


血の気の多い二人がどんどん先へ進んでいく。

僕とメリーちゃんはそれを追う形だ。

「やー、元気だねぇ」

「ジジ臭い」

「失礼な。僕は前世を含めてもまだ23だ」

「にじゅうさん……」

何故かメリーちゃんが頬を膨らませた。

「どうかした?」

「………………」

メリーちゃんがじっと僕を見る。

「…………………………見えない」

「そりゃぁ肉体はまだ六歳児だからね」

「なかみも」

「おい…」

そんな話をしていると、前方で大きな音がした。

ドォン! という落雷の音。

「くーちゃん…?」

前の方を見ると、くーちゃんが手を前に向けていた。

その延長線上には緑や青の小さな人型モンスター。

「お、ゴブリンだ。珍しいな」

ゴブリン。

主に霊長類が変異したモンスターだ。

…………エロ同人みたいなノリは無い。

無いったら無い。

彼らとて同族とまぐわいたいのである。

姫騎士とオークのくっ殺なんてない。

………………………少なくとも現実には。

「ひぃ…ふぅ…みぃ………五匹…いや八匹か」

立っているのが五匹。今の雷撃で倒れたらしいのが三匹だ。

「ん…」

メリーちゃんがたった一音と共に振り上げた手を振り下ろす。

キラリと、煌めきがゴブリン達を包んだ。

上空に作られた氷柱がゴブリン達を貫き、絶命させた。

「メリー! 私の獲物よ!」

「ふっ…早い者勝ち」

「むぅ…」

物騒な話だ…。

普通この年頃の貴族子女が取り合う物って言ったら服やアクセサリーなのでは?

少なくとも狩のスコアでは無いだろう…。

「ところでだが、狐君はまだスコア0ではないか?」

「え? 僕?」

メリーちゃんとくーちゃんの視線もこっちへ向けられた。

「僕は別にいいよ」

「ダメよ。貴方も働きなさい」

…………えー?

さっきまでスコア争いしてたじゃーん。

まぁ、いいんだけどね。

「わかったよ。じゃぁ次に出てきた獲物は僕の者って事で」

では獲物を探すとしようかな。

体の隅々まで魔力を巡らせる。

身体強化術だ。

そして、特に耳に重点的に魔力を籠める。

聴覚が、知覚が拡大する。

鳥の囀ずりや木々のざわめき。

さらには三人の心音までも知覚に入れる。

拡大した知覚の中で、足音が聞こえた。

四足歩行の獣だ。

一匹だからたぶん狼ではないだろう。

猪とかかな?

もう少し情報が欲しいな……。

息を吸い、胸部と喉に魔力を集中。

「━━━━━━━━━━━━━…………」

周囲に反響する音から、大まかな情報を得る。

「…………………ん?」

なんか、やけに遠くないか?

それでこの足音…。

音のした方に目を向ける。

多分結構なデカさのやつ。

「なんかでっかいの来そうなんだけど、退く?」

「あら、貴方の獲物よ? 貴方が決めなさいシラヌイ」

「うーん………多分大丈夫だと思うんだよね。大きい猪とかだと思うんだけど…」

地面に両手をつけて、周囲の地面に魔力を籠める。

獣数秒後、木々の間からぬっと現れたのは大きな蜥蜴だった。

軽自動車くらいの高さで、尻尾も含めると数メートルありそうな体長。

「ドラゴン…なの?」

「ドラゴン・レプリカだね。要するに大きいだけの蜥蜴のモンスター」

見た目は恐ろしいが、魔法攻撃をしてくるわけでもブレスを吐くわけでもない。

だけどこの大きさだ。

ドラゴン・レプリカが僕達にギョロりと目を向ける。

「あ、こっち来る」

まぁ、ドラゴン・レプリカの居るのは風下だし視認するまでも無かったんだろうけど。

「キシャアアァァァァァァッ!」

「きもちわるい……」

ぼそりとメリーちゃんが呟く。

「大地よ、我が敵を阻め! ピルム・ムーリアリス」

地面から斜めに突き出した槍がドラゴン・レプリカを貫く。

ドスドスと四つ足と尻尾を動かして逃げようとするドラゴン・レプリカ。

もがくドラゴン・レプリカに駆け出す。

途中、地面からはえる槍を一本抜き。

「とりゃっ!」

獣人種族の身軽さをいかし、飛び上がる。

ドラゴン・レプリカの真上で、風魔法で軌道を変えて落下。

「せあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

僕の体重を乗せた一撃がドラゴン・レプリカの頭を貫いた。

ガクリと崩れ落ちるドラゴン・レプリカ。

「スコア1」

このままギルドに持っていけばいい値段になるだろう。

直ぐにドラゴン・レプリカの骸をアイテムボックスに入れる。

「これで皆スコアが最低でも1ね」

「そうだね。じゃんじゃん狩ろうか」

僕達は森の奥へ奥へと進んで行った。











もう日が沈みかけだという時間にリベレーソに戻ってきた。

「じゃぁ、ギルドで換金しましょ」

「そうだね」

四人でぞろぞろとギルドに入る。

僕達を見る人は怪訝な目をする者と目を見開く者に別れていた。

「おねーさん」

カウンターで受付嬢に声をかける。

「お久しぶりですシラヌイ様。最近見かけませんでしたが…」

「うん。学校に入ったからね」

「なるほど。御学友との親睦会は狩猟ですか」

「ちょっと物騒だけどね」

「本日はどのようなご用件で?」

「うん。狩ってきたモンスターの買い取りをお願いしたい」

「かしこまりました。では」

とお姉さんがトレイを出そうとする。

「あ、今日はスライムじゃないんです。広い場所はありますか?」

僕がギルドで換金していたのは主にスライムだ。

ティアの為のスライムコアを集めていたからで、そのせいでスライム・スレイヤーなんて二つ名までついていた程だ。

「では裏の修練場にお越し下さい」

三人を連れて、ギルドの裏手の広場へ。

「じゃ、出しまーす」

僕はドラゴン・レプリカを、くーちゃん達もそれぞれ狩った大物を出す。

例えばオークだったり、オーガだったり、イビルサーペントだったり。

それぞれ数匹の大物を狩ったのだ。

普通なら持ち帰れないような量だが、全員広いアイテムボックスを持っている。

僕らの中では一番魔力の低いシャクティですら倉庫くらいの広さはあるのだから。

その後換金した結果、一番稼いだのはくーちゃんだった。

やっぱりオークの群れを狩ったのが大きかったようだ。

豚がモンスター化し、さらに時間を得て二足歩行するようになったとされるオークはそれなりに手強い相手とされる。

魔法がなければ。

くーちゃんは遠距離から大火力で一方的にオークを狩った。

さらに言えばオークの肉は精力がつくので高く売れるし睾丸とかもろ精力剤とか媚薬の材料(僕もボーデンからの宿題で扱った)だ。

しかも牙は子沢山と安産祈願の御守りだ。

僕が狩ったドラゴン・レプリカもまぁまぁ高く売れたけどオークの群れには及ばなかった。

馬車の中で。

「ふふん。このお金で猫カフェに入り浸ってやるわ!」

「サービスしとくよ」

猫カフェ。近日開店だ。