ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)
プロローグ
前書き
『八神はやては舞い降りた』のプロトタイプになりますが、設定などが結構変わっています。
最終話まで書いてあるので、完結までお付き合いいただければ嬉しいです。
『明日は、僕の9歳の誕生日。
お父さんとお母さんと、久しぶりに、皆で朝早くからお出かけして、夜は一緒にケーキを食べるんだ。
お母さんと一緒にお夕飯を食べて、お風呂に入って、歯磨きしたら、「明日は早いからもう寝てなさい」ってお母さんに言われました。
まだ眠くなかったから「お父さんが帰ってくるまで起きてる!」って言ったんだ。そうしたら「お父さんは帰りが遅くなるから、お手紙を出したらどうかしら」ってお母さんに言われたの。
僕は、元気よく返事して、お手紙を書いたら、
眠たくなって、お母さんにおやすみのあいさつをした後、日記を書いています。
明日が早くこないかな。
わくわくして眠れるか心配だったけど、
わくわくしすぎて、眠っちゃいそう。
お父さんの好きな言葉を書いたら眠ります。
おやすみなさい。
世界が平和でありますように』
(「199X年6月3日」誰かの日記帳より)
◇
――――5歳くらいだっただろうか。
頭のなかに「誰かの記憶」が湧いて出てくることに気付いたのは。
誰かの記憶を思い出そうとすると、頭にもやがかかったようになって、――顔も名前も家族も個人情報に関する全てを――うまく思い出せない。
その癖、知らない知識が泉のように湧いて出てきて、知識の使い方や、知識を得る方法など色々なことが「わかった」。
普通、いきなり他人の記憶をみせられたら混乱すると思うが、なぜだか「当たり前のように」馴染むのだ。まるで、前から知っていたかのように、平然としていた。
なんとなく、これが「前世の記憶」なのか、と納得したり感心したり(今思えば、ずいぶんのんびりとした性格だったと苦笑してしまう)。
前世の記憶は、一度に全てが蘇るわけではなく、断片的にゆっくりと浮かび上がってきた。これも、頭が混乱しなかった理由だと思われる。
おかげで、「僕」は、周りから「ちょっと大人びた子ども」と認識され、自由に振る舞うことが出来た。
ただ、困ったこともあった。前世の「僕」は、「俺」という言葉を使っていたようで、前世の知識を使って考え事をしているときは、つい「俺」口調になってしまう。
俺俺言いまくっていたら、お母さんに泣かれたので、なんとか改めたが。それでも、思考中では、やっぱり「俺」だった。
きっと前世のボクは、男だったのだろう。――けれども、身体とのギャップだけには、なかなか慣れることが出来なかった(割り切った今でも、たまに戸惑うことがある)。
困りごとは、もうひとつある。「僕」はなんと、複数の物事を同時に処理することができた。至極自然とできていたために当時は気づかなかったが、異常な才能だったと、今なら分かる。
複数の物事を処理する――マルチタスクというらしい――とき、「僕」はではなく、「わたし」で考えることが多かった(ちなみに、前世の知識を用いる場合、「俺」と「わたし」の両方を使っていた)。
「わたし」と言う分には、「僕」と「わたし」のどちらを使うのか迷ってるのねぇ、と、お母さんに微笑ましく思われていたようだ。そんなこんなで、「僕」「俺」「わたし」の境はとても曖昧で、複数の人格が存在するわけでもなく。
頭を切り替えるときに自然と口調が変わってしまう程度で、日常生活において特に支障はなかった。
前世の知識とやら便利なものだ。それが、当時の「僕」の認識だった。
――そう。あの日までは。
『6月3日から6月4日――「僕」9歳の誕生日――へと日付が変わる午前0時』
――――この時を境に、「わたし」と「俺」は「ボク」になった。
「僕」はこの日を忘れない。生涯忘れることはないだろう。
当たり前の日常が一瞬にして崩れ落ち、非日常の餌食になった日を。
父と母が死に、ボクだけが生き残った日を。
大事な家族を失うと同時に新しい家族を得た日を。
「僕」は知ったのだ。知るしかなかった。
当たり前と思っていた日常が、如何に尊いかを。
非日常おいては、弱者は、強者の気まぐれで、時に庇護され時に蹂躙されるしかないことを。
そんな「僕」がひたすらに力を求めたのは、必然だったといえよう。
大切な日常を守りたい。理由はそれだけ――だったはず。
この日、「ボク」こと八神はやては、動き出す。
前世では、「ハイスクールD×D」と呼ばれていた物語の世界で、「リリカルなのは」の世界で畏怖されたロストロギア『夜天の書』のマスターとして生きていく決意をした。
家族と一緒に幸せに暮らせれば、他に何もいらなかったのに。
ボクはただ、日常を取り戻したかっただけなのに。
けれども、僕の最初の願いは――――だった。
もちろん、「ボク」は独りで戦ってきたわけではない。愛する家族――ヴォルケンリッターとリインフォースを合わせた5人――で力を合わせて、頑張って来たんだ。
原作なんかに負けない!
◆
『天が夜空で満ちるとき
地は雲で覆われ
人中に担い手立たん』
(とあるベルカの「預言者の著書」より)
これから語る話は、直向きに平穏な日常を願う少女と家族たちの物語。
ありふれた喜劇。
ありふれた悲劇。
たとえば、そんなファンタジー
――――それは、夜天の王「八神はやて」と家族たちの奮闘記。
後書き
一度完結させているので、更新ペースは速いと思います。よろしくお願い申し上げます。
第1話 決意の日、決断の日
前書き
次は明日更新します。
はぐれ悪魔の襲撃によって親を失い、新たな家族を得た「ボク」は、一家の大黒柱として――当時は、守られてばかりの無力な小娘に過ぎないが――この世界で家族とともに、幸せに暮らしていく決意をした。
同時に、「ボク」は切り札足り得る知識を得た。
――――それは「原作知識」と呼ばれる。
使い方次第で、エースにもジョーカーにもなれるカードだった。
使い方を間違えれば、死神になるかもしれないが。
驚くべきことに、「ボク」こと「八神はやて」は、前世では「リリカルなのは」と呼ばれる作品の登場人物――主人公の一人なのに微妙に人気がなくてショック――に酷似していて、『夜天の書』――破壊を撒き散らす『闇の書』に成り果てていたが――も、存在していた。
都合のいいことに、『闇の書』と呼ばれる原因となっていた防衛プログラムのバグは修正されており、デメリットなしで、フルスペックの『夜天の書』のマスター――「ボク」は「夜天の王」という響きが気に入っているけれど――になった。
都合のいいことに、「ボク」には魔法の才能があって、リインフォースにヴォルケンリッターという心強い味方が傍にいた。魔力も多すぎて測定不能らしいし、身体能力にも自信がある。
ところが、環境は全く異なっており、「海鳴市」は存在すらしておらず、「ボク」の住む町は「駒王町」という名前だった。
ピンと来た方、ご想像の通りだと思う。
この世界は、なんと「ハイスクールD×D」という作品の世界だったのである!
この衝撃の事実に、当初は酷く取り乱してしまったが、前世持ちの特権か、大人の余裕を以て、すぐに落ち着くことが出来た(リインフォースに抱きしめられるという素敵体験…いや、不幸な事故も発生したが)。
「神様転生」「オリ主(オリジナル主人公の略称)」「TS(英略、性転換を指す)」というキーワードを、瞬時に思い浮かべた「ボク」は、もうダメかもしれない。――――やっぱり、「前世のボク」(つまり、「俺」)はオタクだったようだ。
まあ、「ハイスクールD×D」という作品は、バトルものの皮を被ったラブコメであり、ハーレムとおっぱい成分が90%くらい占めていたように思う――あくまで、おっぱい好きだった「俺」……「ボク」の認識では――ので、あまり心配はいらないだろう。
ただし、三大勢力と呼ばれる、天使・堕天使・悪魔陣営がドンパチやっているので、油断はできない。現に、「ボク」の両親は、はぐれ悪魔に殺されたのだから。今でも、思い返す度に、腸が煮えたぎりそうになる……!!!
原作に積極的に関わらなければ、自衛程度の戦闘で済むはずなので、原作とは距離を置いた方がいいかもしれない。
しかしながら、「夜天の書」をつけ狙う不届き者が現れる可能性は、残念ながら非常に高いた。あえて、原作に関わることで、予期せぬ事態を避けられるかもしれない。
つまり、日常を守るために、強くなろうと思ったら、非日常との関わりは避けられないということだ。
前述した通り、強い力に惹かれて、利用しようとして、あるいは潰そうとして、厄介事は向こうからやってくるだろうから。
原作主人公の「兵頭一誠」と「ボク」は、同い年なので、まだ7年前後時間がある。判断は保留でいいだろう。
事件の後始末に協力してくれたサーゼクスさん――いきなり原作の登場人物。しかも魔王――と相談したうえで、駒王町に在住する間、お詫びとして、グレモリー家の庇護を受けられることになった。生活の目途がたち、原作開始までの貴重な時間を自由に使えるようになったことは、非常にありがたい。
――この日より、「ボク」こと「八神はやて」は、動き出す。
前世では、「ハイスクールD×D」と呼ばれていた物語の世界――けれども、確固たる「現実」として、「ボク」は認識できていた――で、この世界の住人として、生き抜くと決めたのである。
未来情報ともいえる「原作知識」――アドバンテージになる半面、囚われ過ぎると命取りになりうる――を片手に、望む未来へと歩き始めた。
「リリカルなのは」の世界で畏怖されたロストロギア『夜天の書』のマスター――夜天の王――として、相応しい人物になれるように、理不尽に負けないように、強くなろうと決意したのであった。
全て打倒し、何人たりとも手出しできないくらい強くなることが、「ボク」の目標である。危険が潜む、非日常に飛び込む決断を「ボク」はしたのだった。
矛盾しているようだが、世の中というやつは、世知辛いものである。とにかく、くじけぬことが肝要だ。「僕」は、及び腰になりそうな「ボク」を叱咤した――何度も何度も繰り返しながら。
――――あれ?「僕」は、もっとのんびりした性格だったはずなのに。やはり、人生を変える事件に巻き込まれたことが原因だろうか。あるいは、「ボク」がうまれた影響で、性格まで変わってしまったのだろうか。
後から振り返ってみれば、この決断が、「八神はやて」の運命を決める分水嶺だったのかもしれない――――もっとも、当時の「ボク」は知る由もなかったが。
◆
こうして、ボクは決意と決断をするに至った。しかしながら、もっとも大きな――九死に一生を得られた――判断は、サーゼクスさんと相対してすぐ、互いに自己紹介したときだろう。つまり、夜天の王になって直後、まだ現状を把握することができずに、混乱していたときである。
サーゼクスさんから、夜天の書について、当然、追求されたが、素直に「分からない」とだけ、答えておいた。まあ、ボク自身なぜ手元にロストロギアがあるのか、全くわからないのだから、嘘ではないはずだ。
――――問題は、どうやって「夜天の書」を説明するかである。
なぜなら、ここは、ロストロギアという概念すら存在しない世界だからだ。「異世界から来た」なんて、馬鹿正直に答えても――言動の真偽に関わらず――ボクたちの状況は、悪化したに違いない。
強力な力を有しているのならば、なおさらである。うかつに情報を公開するべきではないのである。
とりあえず、有無を言わさずに、その場では、守護騎士たちに、記憶喪失を装ってもらった。サーゼクスさんが現れてから、自己紹介までの前の短い時間で、頼めたのは、本当に幸運だったと思う。
というのも、リインフォース――名前がないと申告されたので、後で原作通りに名付けた――に尋ねたところ、転生機能によって、ボクのもとに見知らぬ次元世界へ転移してきただけだと、彼女たちは、認識していたからである。
したがって、話をややこしくする前に、ボクに話を合わせるように、念話で頼み――念話は、すぐに使えるようになった――リアルタイムで、堂々とバレずに打ち合わせができたのは、僥倖だった。
どうにか、平静と取り繕うことができたおかげで、その場での追及は、避けられたようだ。もちろん、不審な点は多かっただろうが、疑問を後まわしにしてくれた。
――――おかげで、カバーストーリーをでっちあげる時間を得られた。本当に運が良かったと思う。当時のボクを賞賛してやりたい。ボクの機転は、結果的に大正解だった。
サーゼクスさんたちは、夜天の書を、「いままで確認されていなかった珍しい神器」であり、強力な力をもっている。と、誤解してくれたからだ。
むろん、怪しい点は大量にあったが――未知の神器。規格外の力。神器にもかかわらず感じる魔力。強力な魔力を有する稀有な人間などなど――親が殺された幼い少女ということで、見逃してくれたようだった。
敵対する可能性が低かったのも一因だろう。悪魔陣営の領地に住む以上、監視をかねて保護ができる。と、同時に恩を売ることもできて、一石二鳥――だと、考えたのかもしれない。
異世界――夜天の書にとって――で活動する基盤を、手に入れた瞬間だった。いろいろと設定を煮詰めることで、ボクたちは「家族」なり、新たな門出を迎えたのである。
◆
「ヴィータお姉ちゃん」とよんだときの、ヴィータの喜びようは、今でも鮮明に思い出せる。今でも、お姉さんとして振る舞う姿は、微笑ましい。が、同時に、確かに、ボクの姉だと強く認識することができる。
いろいろと辛酸も舐めてきたが、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そしてリインフォースの5人は、いつもボクの傍にいてくれた。間違いなくボク幸せ者だ。
◆
『お父さん。お母さん。新しい家族ができてから、もう10年近く経ちました。いろいろなことがありました。楽しいこともあれば、辛いこともありました。
そのたびに、家族がいれば、喜びはもっと大きくなり、悲しみはずっと小さくなりました。ボクは今、幸せです。どうか心配しないでください。けれども、お父さんとお母さんとの思い出、いっしょに暮した幸せな日々は、決して忘れません。
ボクは、貴方たちに与えられ、教えられたいろいろなモノ。大切なコト。を、これからも、ボクの家族たちと、いっしょにつくりあげ、分かち合っていくでしょう。
これから、原作と呼ばれる物語が、故郷の駒王町ではじまります。きっと、さまざまな出会いと別れがあることでしょう。どうか、天国からボクたち家族を見守っていてください。まだ、原作までもう少し』
(200X年3月20日 誰かの日記より)
◇
けれども、心の中の焦燥感は、日増しにふえてきている。正体を確かめなくてはならないのに、思い出した瞬間、ボクはボクではなくなる気がする。そう、原作まであと少し。
ボクの未来を――――たちの未来を踏み出そう。きっと、――の果てには、幸せな暮らしが、待っている筈だから。それなのに、胸騒ぎが止まない。不安が大きくなるのはなぜだろう。ああ、原作までもう少し。
◆
『お父さん。お母さん。天国で、安らかに暮らされていますか。余計なお世話かもしれませんが、僕は心配です。
天界が存在しているのにおかしな話です。人の魂が存在しない、偽物。人の世に害をなす存在。天を詐称する、天使の名を騙る異形ども。
――あいつらは、報いを受けるときがきました。
必ず仇をうってみせます。待っていてください。もう少し、もう少しで、僕の願いは叶います。ボクが必ず叶えてくれます。さあ、原作までもう少し』
(200X年3月20日 誰かの日記より――裏面)
◆
聖書の神とともに旧魔王たちが倒れ、なし崩し的に私は魔王になってしまった。旧魔王を信奉し、私を認めない者たちがいた。自らが魔王たらんとし、打倒サーゼクス――私のことだ――を掲げる者たちもいた。
おかげで、悪魔社会は混乱の最中にあり、同時に、天使や堕天使連中を牽制し、少子化問題など山のように仕事が舞い込んできた。
すっかり疲労した私は、生き抜きを兼ねた視察と称して、かわいい妹のリアス・グレモリーが将来領有することになる駒王町の視察にきていた。
幸か不幸か、視察を終え帰る間際に、はぐれ悪魔の出現情報が舞い込んできた。ちょうどよいから――懇意にしているグレモリー家の領主には止められたが――見回りと称してこの町を練り歩きながら、はぐれ悪魔を捜索することにした。
都合のよいことに、真夜中の少し前――人間に姿を目撃されづらい、悪魔の活動時間である――だった。頭上の満月が美しかった、と、記憶している。
探し始めて、数分いや十数分過ぎた頃だろうか。突如、悲鳴が鳴り響き、発生源から、はぐれ悪魔の気配を感知した。急行する途中、悲鳴が途切れ、
――間に合わなかった。
と、自責の念にとらわれた瞬間。はぐれ悪魔の気配がする一軒家から、強い力の波動が溢れだし、唐突にはぐれ悪魔の気配が消えた。少しでも情報を得るため、とりあえず確認した時間は――――午前0時。
ほどなくして、現場につくと、はぐれ悪魔は既に討伐されていた。なぜならば、妹のリアスと同世代だろう幼い少女が、両親と思われる遺体に泣きながらすがりつき。傍らには、無造作にはぐれ悪魔の残骸が放置されていたのだから。
これで、懸念の一つが解消されたわけだが、いままさに、別の問題――しかも、はぐれ悪魔とは比べ物にならないほどに、厄介な代物――に直面している。
――すすり泣く幼い少女
――彼女を守るように傍に控える4人の人物
――浮遊する本
目の前には、とても奇妙な光景が広がっていた。ところが、ちぐはぐな組合せにみえるのに、とても自然で、とても荘厳で、とても尊い集まり――まるで、童話に出てくる、お姫様と、彼女に仕える騎士たちのようだ――であった。場違いな感想を、私は抱いていたが――――のちに、私の考えが的中していたことに驚愕することになる。
しかしながら、少女を含む全員から、強い力を感じるため、素直に感動する暇はない。 感じる力は、悪魔が使う魔法の力に近く、人間のもつ神器とは異なる点が不可解だったが、考える暇はないと一旦保留することにした。
一切の油断は許されないと、私は緊張とともに――敵意がないことを示しながら――彼女たちの前に降り立った。
近くで観察してみると、少女からは、強い力を感じるものの、泣きじゃくる様は演技ではないようにみえた。おそらく、力を持つだけの、一般人だろう。しかしながら、傍の4人と本――魔道書の類だろう――は、別格だ。
――仮にも魔王たる私が、気押されるほどの力を放っていたのだから。
とりあえず、簡単な自己紹介のあと、少女――八神はやて――の両親の亡骸とはぐれ悪魔の残骸の後処理を提案。私が、魔王だと名乗ると、一気に場が緊張したが、すぐに、サーゼクスという一人の悪魔として相対することを宣言して、収めることに成功した。
はやて嬢が、うなずいたことで、傍らの4人――八神はやてに仕える守護騎士「ヴォルケンリッター」と名乗り、私への警戒を怠る様子はない――も協力することになった。ただし、魔道書――夜天の書――は、はやて嬢を守るように彼女の周囲を浮遊していたが。
あわただしく、遺体をグレモリー家の息のかかった病院へと運び込み、家の片づけをした後。一息ついたところで、本格的な話し合いに入ることになった。はやて嬢は、眠そうにしていていたが、強く希望し、同席していた。
話し合いの結果、悪魔側の管理不行届きが事件の原因だと私が認めることで、はやて嬢
への支援と後見人となることを約束した。
ただし、基本的に金銭支援のみにとどめ、生活は守護騎士たちとともに送ることを約束させられた。もちろん、守護騎士たちの戸籍も、こちらで用意することになる。
庇護するためと言い張り、はやて嬢と魔道書、守護騎士たちの強力な力を、あわよくば悪魔陣営へ引き込みたかったが、断固として拒否された。
「強すぎる力は災いを招きかねない」と反論したものの、はぐれ悪魔に親を殺され上に奴隷扱いは許容できない。と、見た目からは想像もつかないほどの、怒声を浴びせられた。
さすがの私も、彼女たちを悪魔陣営に引き込むことは、諦めるしかなかった。妥協案として、駒王町に居る限りグレモリー家の客人として庇護を受け、対価として、拒否権つきの依頼をこなしてもらうことになった。
――夜天の王「八神はやて」
――雲の騎士「ヴォルケンリッター」
――魔道書がもつ意思の具現、管制人格「リインフォース」
これが、将来世界を震撼させる彼女たちとの、出会い。終りの始まりの日。誰にも気づかれず、ゆっくりと運命の歯車は、回り始めたのだった。
◆
暴走した闇の書を防ぐため、ギル・グレアム提督は、同僚のクライド・ハラオウンごとアルカンシェルで消滅させるという苦渋の決断をせざるを得なった。
己の非力さを嘆きつつ、震える声で、アルカンシェルを放つよう命令し、史上最悪のロストロギアである闇の書を――――永遠に葬り去ることに成功したのだった。
しかし。一番驚いた人物は、グレアム提督本人だっただろう。――当時は、無限転生機能によって、闇の書は新たな宿主にもとへ転移したものと、誰もが思っていた。
その後。闇の書が次元世界より、姿を消したと確信できたとき、彼は、英雄としてはやしたてられた。クライドを殺した自分が、英雄として賞賛されることに、彼は苦悩し続けた。闇の書事件の解決で結果的にクライドの仇をうった自身を自嘲した。
――彼は、どこまでも実直で、真面目すぎたのだ。
グレアムは、自責の念を増していき、めっきりと老けこみ、やがて隠棲してしまった。時を経て、英雄として次元世界の歴史に名を残したギル・グレアム提督。彼の心中と、晩年を知る者は死に絶え、名声だけが残った。
ありえた歴史――本来の物語――とは異なる最期を迎えた「英雄」ギル・グレアム。
悲願だった闇の書事件を解決した結末は皮肉なものだった。史実では、救済される筈だった彼は、事件解決の代償として、自らの手で道を閉ざした。望まぬ賞賛は、生涯彼を苦しめ続けるのだった。
『英雄は異なる運命を強制され
英雄に虚構の奇跡を強制する
英雄は望まぬ賞賛を強制され
英雄に虚像の真実を強制する
英雄は仮定の未来を強制され
英雄に孤独な懺悔を強制する』
(とある姉妹の手記――造られた英雄の詩)
ここで語られた話は、あったかもしれないIFの話。終わってしまった物語。
つくられた悲劇
つくられた喜劇
たとえば、そんなヒストリー
――――それは、英雄「ギル・グレアム」と愛娘たちの回顧録。
――――英雄に成り果ててしまった回顧録。
――中を知る者は、もういない。
◆
「闇の書」は、アルカンシェルを浴び、消滅しようとしていた。が、すぐに無限転生機能が発動した―――――瞬間に、異質な力の干渉を受け、エラーが発生した。
イレギュラーの発生で、第97管理外世界「地球」の所有者に転移するはずの闇の書は、
次元世界の壁ではなく、三千世界の壁を乗り越えた。不可能な筈の「異世界」への旅路の中で、何者かに導かれるように、運命に流されるように、「異世界の地球」に転移した。
「世界」を越えた影響か、異質な力によってか、奇跡のように防衛プログラムの
バグが修復された。復活した「夜天の書」――闇の書の正式名称――は、この世界で1人しか存在しない主に相応しい少女
――「八神はやて」の元に転移した。
幾年かの時を経て魔力の充填が終り、起動する寸前。主の危機を察知した書は、主を守るために力を発動した。駆けつけた守護騎士たちは、たちまち敵を打ち倒し、少女の嗚咽と慟哭が響く中、出会い――――家族になった。
この日、少女――八神はやて――は、夜天の王となる。
世界の異分子にして異端。少女と騎士たちの前に、如何なる運命が待ち受けているのだろうか。
後書き
リリカルなのは世界の八神はやてはどうなるのでしょうか?
第2話 はじまりは突然に
「主はやて、おはようございます」
「おはよう、シグナム」
――此の世に生まれてから、およそ17年。
この世界で生き抜くと決めてから、およそ8年。
思い返せば、色々なことがあったように思う。
具体的には、単行本5冊ぐらい。
「はやて、おはよう。お?いいにおいする」
「おはよう、ヴィータ姉。今日は、シグナムの要望に答えて和食にしてみた」
「私のためとは。かたじけない」
「はやての飯は、ギガウマだからな。毎日楽しみだぜ」
ボクの名前は、八神はやて。駒王学園2年生、ぴちぴちの17才――の皮を被ったナニカ。
前世の記憶があったり。魔法を使えたり。魔道書(しかも、ロストロギア)の持ち主だったり。悪魔と知り合いだったり――するだけで、どこにでもいる普通の女の子。
「シャマルもおはよう」
「おはようございます。はやてちゃん。いつもありがとうございます。
お礼を込めて、明日は、わたしに朝食をつくらせてください」
「やめてッ!!」
「主はやての身を害するつもりか?」
「オイ、ゼッテーヤメロ」
「――うぅ……みんな酷い」
――んなわけねえ。
何を隠そう、ボクは転生者なのだ!
しかも、転生先は、創作物の世界らしい。
・ボクは、リリカルなのはというアニメの登場人物と酷似している。
・この世界は、ハイスクールD×Dという小説に酷似していている。
以上から、前世の(オタ)知識から、ある結論を導きだした。
すなわち――
(チートTS転生オリ主ktkr!テンプレ二次創作乙!)
「湖の騎士よ。己の胸に手を当てて思い返すと良い」
「あ、リインフォースもおはよう。――ザフィーラはどこだろう」
説明しよう。
テンプレ二次創作とは、以下の流れを指す。
1. 現実で死亡
(死因は、「トラックによる轢死」が堂々の第1位)
2. 神は言う。まだ死ぬ定めではない、と。
(意訳「間違って殺しちゃった、テヘ☆」)
3. 神「異世界に転生する権利をやろう」
(意訳「寿命残っているから、お詫びに転生できるよ。やったね!」)
4.「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない」
(意訳「転生特典くれてやる」「チート能力くれよ」)
5. 転生
(パターン1.赤ちゃんプレイで黒歴史。パターン2. 成長してから記憶覚醒)
6. チート能力使って無双乱舞
(例)原作ブレイク。ハーレム。俺TUEEEEなどなど。
「主よ。私はここにずっといたぞ」
「――ああ!ごめんごめん。わんこモードが馴染みすぎて気づかなかったよ」
「わ、わんこモード…!?」
上述した通過儀礼を経たツワモノが、「オリ主」と呼ばれる転生者である。
二次創作界では、――俗に「神様転生」「異世界転生もの」と呼ばれるジャンルとして――大勢力を築いている
「あははは!ザフィーラにぴったしじゃねえか。なあ、シグナム」
「私の口からは、何も」
「わたしは、ザフィーラを応援していますよ」
「フォローになっていないぞ。マスターも酷なことをいいなさる」
「ごめんよザフィーラ」
「む、むう。主が気になさることはない。愛称をもらえるとは、盾の守護獣の誉である」
((それはそれでどうなんだろう))
――っていう認識をボクはしている。
まあ、だいたいこんな感じである。たぶん。きっと。
つまるところ、ボクは、転生モノの例にもれず、ハイスクールD×Dという作品の世界に転生したのだろう。
ただ、そのわりには、前世のプロフィールは思い出せない――なぜか、オタ知識はある――ことは、不可解だ。
死ぬ間際の記憶も。神様とあった記憶も。どんな転生特典を頼んだのかも――全く覚えていないのである。
転生先や、転生特典を選べるパターンが主流にも関わらず、だ。
まあ、テンプレはあくまでテンプレであるから、そこまで気にする必要はないだろう。
「それじゃ、これで皆そろったね」
推測になるが、夜天の書は、転生特典で得たのではないだろうか。
それならば、説明がつく――ボクが、「八神はやて」なのも。バグが修復されているのも。無尽蔵の魔力も。
なにはともあれ。昨日、クラスメイトの兵頭一誠――彼こそが、原作主人公様である――が、他校の美人さんに、告白されたという話を聞いた。
原作に描写されていた一幕である。
つまりは――――そういうこと。
「では、いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
2度目の人生。
――2回目の現世における家族。
2度目の高校生活。
――2年目の高校における新生活。
ボクは、すべてひっくるめて、いまの生活が気に入っている。
けれども、ボクの学校――駒王学園――が、原作と呼ばれる物語の舞台であり、台風の目になることを「知っている」。
だからこそ、出来る限りの準備をしてきたのだ。あの日、決意し、決断した日からずっと――待ち続けてきた。
さあ、今日もいい天気だ。学校へ行くとしよう。
「いってきます」
――――大切な家族と暮らしていくために。
◆
「とうとう『原作』とやらが始まるのですね」
わたしは、長らく破壊の権化として、次元世界に災厄をもたらしてきた。
もはや、思い返すことが億劫なほどの昔から、最悪のロストロギア「闇の書」として、恐れられてきた。
管理局と相対し、アルカンシェルに撃たれた時も、諦めの境地にいた――また同じことを繰り返すのか、と。
しかし、何の因果か、わたしは『夜天の書』として、いまここにいる。
起動したときは――マスターは殺される寸前で――混乱したものだ。
けれども、何よりも忘れ難い記憶は……
『なるほど。管制人格とは、魔道書の意思。人工知能――AIみたいなものなのかな』
――その認識でおおむね合っています。わたしは、マスターを補助するために存在ですので
『名前――そう、名前はあるの?』
――いいえ
『名前がないと不便じゃない?ボクから名前を贈りたいんだけれど……どう?』
――構いません
『――っよし!夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース』
「――フォース。聞いているか、リインフォース」
「ん?すみません。少々物思いに耽っていました。烈火の将は何用ですか?」
「いや、かまわん。――――不安か?」
「そう見えますか?……そうなのかもしれません。マスターは、わたしにとっての全てだから」
烈火の将には、わたしの内面を見抜かれていたようです。
先頭に立ち、率いる将だからこそ、周囲のケアも万全というわけですか。
――普段の姿(バトルマニア)から、想像もつきません。
「何か失礼なことを考えていないか?」
「いいえ、気のせいですよ」
「おいおい、リインフォース。はやては、あたしたちが守る。何も心配もいらねえよ」
「うふふ、ヴィータちゃんの言う通りね。はやてちゃんに立ちふさがる障害は、わたしたちが全て排除すればいいだけの話」
「そうだ。私という盾がいる限り、主には指一本触れさせん。」
「主はやても、当初からは想像もつかないほどに強くなられた。我々は、やれるだけの準備はしてきた。過ぎた不安は、身を滅ぼすぞ?」
守護騎士たちに励まされるとは。管制人格失格ですね。
けれども、昔を知るわたしからすれば、信じられない光景です。
感情をもち、ともに笑い、苦労し、こうして励まし合う。
すべてマスターはやてが与えてくれた、幸せ。
「うむ。主はやてが我々に与えてくれた恩に、いまこそ報いるときが来たのだ」
「そうですね。マスターと私たちは、『原作』がもたらす波乱に、対抗するために必要な力をつけてきました。マスター本人も、必死に努力してこられた。だから――だからあとは、マスターのデバイスとして責務を果たすのみ」
「その通りだぜ。はやてだって、いつも通りに振る舞ってんだ。あたしたちは唯、はやての信頼に応えればいい」
鉄槌の騎士は、その姿からは想像もつかないほど、鋭い発言をすることがありますね。おかげで、迷いが晴れました。
「オイ、喧嘩売ってんのか?」
――気のせいですよ。
いまだに、マスターに姉と呼ばせている姿が、
背伸びしている子どものようで微笑ましいなど、全く思っていませんよ?
「やっぱり、喧嘩売っているだろ!?」
第3話 終りの始まり
ボクが使用する魔法――行使できる魔法は、リリカルなのは世界の魔法だけだが――の中に、
探査魔法というものがある。
サーチャーという情報収集用の小型スフィアを通じて、
映像を術者に届けるという、使い勝手のいい優れた魔法である。
原作が始まったからと言って、学校がなくなるわけではない。
いつも通り授業が終了し、放課後の教室で、クラスメイトと雑談していた。
一見、雑談に興じているだけに思えるだろう。
だがしかし、実際は、サーチャーから送信されてくる映像を
マルチタスクを使って覗いていた。
今は、兵頭一誠と天野夕麻――堕天使レイナーレの変装した姿だ――が、
笑顔で会話する映像が流れている。
(主よ。対象は、女子高生に扮した堕天使と合流したようだ)
(ありがとう、ザフィーラ。こっちでも確認したよ)
狼形態のザフィーラにも、兵頭一誠の尾行をさせてある。
彼とも、念話でリアルタイムに会話できていた。
つまり、クラスメイトとの雑談。サーチャーによる監視。ザフィーラとの念話通信。
最低でも3種類の行為を同時並行して、行っているのである。
マルチタスクとは、つくづく便利である。
(それにしても、兵頭君は、張り切っているなあ)
(フン。エロ魔人のあいつのことだ。いまごろ頭の中は桃色一色だろうよ。下心が見え見えだぜ)
(まあまあ、落ち着いてヴィータちゃん。エロ魔人には同意するけれど)
他のメンバーは自宅で待機している。
彼女たちも、サーチャーの映像をみながら、不測の事態に備えている――はずだ。
(いつも私の胸をじろじろ見てくるからな。主はやてに止められなければ、とっくにレヴァンテインの錆にしている)
(あはは、彼は、おっぱい星人だもんね)
(――マスターも人のことを言えないと思いますよ)
(ケッ)
この世界では、「魔法」とは、悪魔が行使する技術を指すことが多い。
人間にも魔法使いはいるが、悪魔式の魔法を人間用に改良して行使しているにすぎない。
したがって、異世界の魔法体系など思いもよらないだろう。
(あらあら、気に病まないでヴィータちゃん。女は胸の大きさじゃないわよ?)
(シャマル。おまえ後で覚えていろよ)
(ヴィータには、ヴィータのよさがある。気にしてはだめだよ)
(――とかいって、はやてもあたしの仲間じゃねーか)
(な、なんのことかな?いまのボクは、ナイスバディでございますことよ)
聡いものならば、サーチャーに、感づかれる可能性はある。
しかしながら、未知の魔法に対して常に身構えることは、難しい。
すなわち、ボクたちが秘匿する限りにおいて、魔法――便宜的に、以後リリカル魔法と呼称――は、重要なファクターとなりえる。
(おい、それくらいにしておけ。我々が為すべきことを忘れるな)
(先ほどから、盾の守護獣が、居心地悪そうにしていますね)
(……気にするな)
さて、原作通りなら、兵頭一誠は、このまま神器狩りに巻き込まれるはずだ。
デートの帰り、神器を狙うレイナーレに攻撃され、彼は瀕死の状態になる。
死にかけながら、偶然にも悪魔契約用のチラシを握りしめ――――召喚されたリアス・グレモリーに救出され、悪魔に転生する。
(他人のデートを覗きみるなんて、われながら趣味が悪いよな)
と、内心つぶやきつつ監視を続ける。
うらやましくない。と、いえば嘘になる。
正体を知っているとはいえ、天野夕麻は美人である。
美人とデートする男を羨ましい、と、いうボクは悪いだろうか?いや、悪くない。
――もちろん、相手が堕天使でさえなければ、だが。
「――さま、明日のご予定は空いていらっしゃいますか?」
「ん?ああ、明日の予定だったか。ちょっと、これから忙しくなりそうなんだ。しばらくは付き合えなくなると思う。ごめんね」
(原作が始まって忙しくなるだろうし)
(主はやてが自ら動かずとも、私たちにお任せくだされば――)
(ううん、いいんだ。これはボクなりのけじめだから)
(承知しました。我ら守護騎士一同、ヴォルケンリッターの名にかけて、主はやてに尽くします)
(期待しているよ、我が騎士たち――もちろん、リインフォースも、ね)
(ハッ。マスターのお望みのままに)
話は変わるが、ボクの通う私立駒王学園は、そこそこ偏差値の高い女子高「だった」。
つまり、昨今の少子化の流れに逆らえず、数年前から共学化したのである。
とはいえ、なまじ地元では知名度があるせいで、「駒王学園=女子高」という認識を、
覆すことは困難だった。
あの手この手で――入試でさえ男子を優遇した――やっと、現在男子が3割近くを占めるに至る。
とはいえ、やはり男子の肩身はせまい。
「そうでしたか。もし、ご都合がよろしい日があれば教えてくださいね。いいお店を見つけたんですよ。ねえ?」
「うん。イタリアンでね。洒落た感じで料理もおいしいんだけれど、値段がすごく安いんだよ!」
「そうなんだ。楽しみにしているね」
女性になってしまったボクは、毎日こうして綺麗どころに囲まれた日々を過ごしている。
学校では友人、後輩たちと。自宅では、リインフォースたちと。
前世のボクでは考えられない生活を送っている。
もっとも、美人と逢引したところで、健全なデートといえるのか甚だ疑問であるけれども。
そんなボクの最近の悩みは――――
「はい!わたしたちも、楽しみに待っていますからね!!」
「みんな大げさだなあ」
「とんでもないです!駒王学園『三大』お姉さまとご一緒できる機会なんて、滅多にありませんから」
――――『三大お姉さま』という称号である。
原作では、リアス・グレモリーと姫島朱乃の二人が、駒王学園の二大お姉さまを構成していた。
しかし、この世界では、八神はやてが、ちゃっかりと加わっている。
ボクは、特別なことをした覚えはない。……ないのだが、
『凛々しい』
『かっこいい』
『男らしい』
といった風評が、中学校時代には既に流れていた。
いつの間にか『お姉さま』と呼ばれ、当時は生徒会長を務めていた。
駒王学園に入り、一時は鳴りを潜めたものの進級したことで、再燃したようである。
――困ったことに、同級生にまで、お姉さまと慕われているようなのだ。
たしかに、前世の性別やら年齢やらを考えれば、妥当な評価なのかもしれないが……。
と、まあ、益体もないことを考えつつも、
兵頭一誠とレイナーレのデートを覗き続けていたら――――
(結局、原作通りになったか)
(そのようです。リアス・グレモリーに感づかれる前に、帰宅します)
(ありがとう、ザフィーラ)
「――――よし。これで一安心だな」
「はやてお姉さま、何が一安心なんですか?」
「ん?ああ、冷蔵庫の中身を思い出していてね。今晩は、豪華にしようと思っているんだよ」
「まあ、そうでしたの。お姉さまの料理は絶品ですものね」
(ククク。人気だな、お・姉・さ・ま)
(からかわないでくれよ、ヴィータ姉)
◆
――守護騎士とは、主に仕える騎士である
主を守り、主と戦い、主のために死ぬ。
このことに、疑問を持つことはなかったし、いまでも思いは同じだ。
――しかし、仕えるに値する主であるか否かを考えたことはなかった
主を盲信し、敵はすべて薙ぎ払い、感情を殺し命令に従う。
忠義といえば聞こえはいいが、自ら考えることを放棄し、
感情のない機械の如く言われた通りに動く。
――まるで、道具のようだった
たしかに、歴代の主達の多くは、我々を道具として扱った。
しかし、全ての主が、初めから我々を、道具としてみなしていたわけではない。
むしろ、我々の方が、機械であろう、道具であろうと頑なになっていたのではないか。
永遠ともいえる期間、仕える主を選ぶことができなかった我々は、
ときに、理不尽な命令をうけた。
ときに、モノとして、扱われた。
――だからこそ、感情を廃し、「道具」たらんとしていたのではないか
心優しい主と出会い、感情を思い出した現在だからこそ、そのように思うのだ。
我々は、主はやてと出会い変わった。
しかし、本当は、「変わった」のではなく、「戻った」というのが正しいのかもしれない。
守護騎士は、仕える主を選ぶことはできなかった。
けれども、運命は、私が真に忠義を捧げるべき主と巡り合わせてくれた。
主はやて――幼い身でありながら、誰よりも強い輝きをもつ少女――を守ることこそ、我々守護騎士の、ヴォルケンリッターの使命である。
と、誇りを持って私は誓おう。
――烈火の将の名にかけて
後書き
週1くらいで更新していきます。
第4話 魔法少女はじめました
前書き
次回は来週更新します。
兵藤一誠が転生悪魔となってから、数日が経った。
その間、サーチャーを使って彼のことを監視していたが、目立った動きはなかった。
……いや、まあ、悪魔見習いの活動はある意味すごかったが。
ダンディなおっさんの魔法少女コスチューム姿なんか、誰が好き好んで見たいと思うのだろうか?
というか、リアル魔法少女――現在の姿、年齢を考えると「少女」は微妙かもしれない――として、文句の一つもいいたいところだ。
兵藤一誠には、心底同情してしまう。
秘密裏に監視しているので直接慰めることはできないが。
前もって、原作知識で知っていたボクでさえ、大きなトラウマを残したのだ。
ヴィータは、睡眠中、苦しげにうなされていたし、リインフォースなんか、その場で気絶していた。
ただ、シャマルだけは、目が輝いていたのは、なぜだろうか。
――――気にしてはいけないな、うん。
(毎日のように、男性の行動を監視するとは――まるで、恋する乙女みたいだな)
と、内心つぶやいたことに気付いた瞬間、総身に鳥肌がたった。
一誠ハーレムの中に入るなんて、とんでもない。むしろ、ボクがハーレムをつくりたいくらいである。
――クッ。さすがは、原作主人公。ボクも餌食にならないように気をつけねば……!家族たちにも言い含めておこう。
彼のことは嫌いではないが、堂々とハーレム宣言するやつなど願い下げだ。
性別うんぬん以前の問題である。
ハーレムラブコメは、創作物だからこそ許される―――とボクは思う。
(いや、どちらかというと悪質なストーカーだな)
自嘲しつつも止めるわけにはいかない。そんなストーカー生活が日常になりつつある今日この頃。
今日も今日とて、サーチャーごしに、兵藤一誠の映像を垂れ流していたら、外国人の美少女が、彼に道を尋ねていた。一瞬頭を悩ませ、すぐに答えが出た。
彼女の名は、「アーシア・アルジェント」という。
――――近い将来、一誠ハーレムの構成員の一人になる予定の少女である
傷を癒す神器(トワイライト・ヒーリング)の持ち主であり、心優しい少女である。
彼女は幼いころから、教会で、傷を癒す奇跡を起こす聖女として、祭り上げられてきた。
ところが、ある日、悪魔の傷を癒したことで教会から追い出されてしまう。
行くあてのなくなったアーシアは、堕天使に保護――という名のもとに利用される――ことになった。
――――レイナーレが、彼女の身柄を拘束し、とある目的のために生贄にしようと目論んでいるはずだ
……原作通りなら、という注釈がつくが。
現在、彼女と兵藤一誠は、英語で流暢に会話している光景が、サーチャー越しに映っている。
言っては悪いが、彼の頭の出来はあまり良くない。もちろん、英会話などできるわけない。
にもかかわらず、彼が英語で会話できる理由は、一重に悪魔化した恩恵ゆえにだ。音声限定とはいえ、自動翻訳能力を悪魔は備えており、転生悪魔も同様の能力をもっている。
――――ボクの場合、前世の知識という反則技のおかげで、英語は得意だから必要ないかもしれないけれども
後日、悪魔がもつ自動翻訳能力の理不尽さを愚痴ったところ、リインフォースに翻訳魔法の存在を教えられた。魔法も大概反則技であると、改めて認識した出来ごとであった。
さて、彼女も今後の鍵を握る原作キャラクターの一人ということで、サーチャーをつけることにした。行動を監視するという意味もあるが、堕天使に虐待されないか見守り、もしものときに保護するためでもある。
いくら原作で彼女が助かるということを知っていても、手の届く限りにおいて、見捨てるという選択は許容できない。
しつこいようだが、ボクは、いまを「現実」として認識しているし、この世界の住人も同様である。
そもそも、ボクという存在がいる時点で、原作知識は絶対ではない。あくまで、参考程度にとどめるべきだろう。むろん、重要な価値があることに変わりはないが。
物思いに耽っている間に、アーシアが教会――悪魔の領地内にも関わらず、堕天使が不法占拠している――――の前まで、兵藤一誠に案内され、お礼をいっているようだ。
彼と別れ、教会の入り口に向かう彼女の顔は、先ほどとは打って変って、痛々しい表情をしている。
いまのところ、堕天使に著しく不当な扱いはうけていないようだ。
もっとも、丁重にもてなされているわけでもなさそうだが。
◇
アーシアを発見した日の夕方、リアス・グレモリーから、はぐれ悪魔――名前は、原作通りバイサーだった――が出現した、との報告を受けた。
普段とは違い、協力要請はなかったものの――こちらから協力を申し出ると、一瞬怪訝な顔をした後、了承された。
おそらく、彼女としては、兵藤一誠の赤龍帝としての力をみたいのであろう。
まだ、彼が神器を所有していることを、ボクたちは、知らないことになっている。
したがって、「偶然」彼女たちと遭遇し、彼の力を観察することにした。
「二人だけで、戦場に赴くと言うのですか!?」
「そうだよ。理由はこれから説明するけれど――」
偶然を演出するのならば、八神一家が勢ぞろいしていてはまずいだろう。
どうみても、スタンバイしていたことがばれてしまう。
ばれてしまえば、どうやって場所とタイミングを合わせたのか追求されることになる。
下手すれば、サーチャーの存在に勘付かれるおそれすらある。
「――と、いうわけで、ボクとリインフォースの二人で現場に向かうことにするよ。
買い物帰りを装えば、本当に偶然遭遇したのかを疑いはしても、断定することはできないだろうからね」
「理由については納得しました。しかし、危険ではありませんか?」
「ううん。所詮は、はぐれ悪魔だ。『原作』で最初の敵だけあって、素人の兵藤君にすら倒されるほどだよ」
「たしかに、いままで討伐してきたはぐれ悪魔の戦闘力と原作知識とやらを考えれば、問題ないかもしれません」
「そうだろう?だったら――」
「しかしながら、あえて主はやての身を危険にさらす行為には、賛同しかねます」
「シグナムの言う通りですよ。わたしも、少し心配かな。もしものときのために、回復役がいた方がいいのではないかしら」
「私としては、主の盾として傍に控えさせていただきたい」
旗色が悪くなってきた。いまのところ、シグナム、シャマル、ザフィーラは反対の立場をとっている。
リインフォースは、一緒についてくるから除外するとして、残るはヴィータのみ、か。
「うーん。賛同者はなし、か。ヴィータはどう思う?」
「あたしは賛成するぜ。どうせ、これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる。それに、リインフォースがついているんだ。滅多なことにはならないだろうさ」
「マスターの身を、必ず守ることを約束します。鉄槌の騎士の言う通り、これからマスターは戦いに身を投じていくことになりますから。早いうちに、慣れておいて損はないはずです」
「うんうん。ヴィータ姉の言う通りだよ。ボクがしてきた修行の成果は知っているでしょ?」
「わかりました。たしかに、ヴィータとリインフォースの言う通りだ。主はやてに従うことにする。皆も異存はないな?」
――――ふぅ。シグナムたちを、なんとか説得することが出来た。
皆、ボクの身の案じていることが伝わってきて、ちょっとばかり、こそばゆい。
特に、ヴィータの援護射撃には感激してしまった。
「ヴィータ姉」と呼んでいるのは、決してからかいの気持ちからだけではない(少しはあるが)。
ボクは、彼女を本当の姉のように思っている――口に出すのは恥ずかしいけれど。
だから、姉に認められたようで嬉しく、そして誇らしかった。
所詮バイサーは、序盤のヤラレ役に過ぎない。この程度の相手に苦戦するようならば、今後の計画を大幅に軌道修正する必要があるだろう。
――――それに、原作で描写されていた光景を、この目で確かめたいのだ
原作という色眼鏡を通すことで、空想と現実が混同しないだろうか。
架空の登場人物と目の前の人物を切り離して考えられるだろうか。
原作知識に振り回されて現実を軽視しないだろうか。
いろいろと心配の種があるとはいえ、あまり緊張はしていない。
ボクには頼もしい家族がいる。これから赴く戦場にも、リインフィースという心強い味方がいるのだから。
「ありがとう、シグナム、みんな。さあ、未来に向けての第一歩をいっしょに踏み出そう――――と、いうわけで、今日の晩御飯は何がいい?偽装に気づかれないためにも、いつも通り晩御飯の買い物にいかないとね」
◆
「――ヴィータはどう思う?」
はやてが、あたしに尋ねてくる。眼をみれば、行く気まんまんだということが丸分かりだ。
あいつは、意外と頑固なところがある。この問いかけも、家族の理解が欲しいからであって、確認に過ぎないのだろう。だから、あたしは迷わず賛同した。なぜなら――――
「――――これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる」
あたしを含むヴォルケンリッターが、はやてと出会ったのは、あいつの誕生日の日付に変わったとき――――もっと早く駆けつけられなかったのかと、いまだに悔んでいる。
第一印象は、両親を殺され泣きじゃくる年相応のか弱い女の子。
主の身を守り、命令に従うのが守護騎士の役目だから、助けた。
いつものことであり、特別な感情を抱いてはいなかった。
しかし、その後すぐに考えを改めることになる。
嗚咽をこらえながらも、突然現れたあたしたちに、毅然とした態度であいつは接した。
ほどなく駆けつけた魔王とやらには、状況がよくわかっていないあたしたちに代わって、彼女が主導して話を合わせた。
――――前世の記憶やら、原作知識やらのおかげだよ
と、はやては、どこか自重しながら謙遜していた。
しかし、年相応に振る舞う姿は、決して演技にはみえなかった。
ここが異世界だとしても、関係ない。
どのような事情があろうと、あたしは「八神はやて」という少女が大好きなのだから。
『ヴィータってお姉ちゃんみたい。ヴィータお姉ちゃんって呼んでもいい?』
当時、9歳になったばかりのはやてと、外見年齢が8歳~9歳相当のあたしは、背格好が同じくらいだった。一見すると、姉妹にみえないこともない―――もちろん、姉はあたしだ。
外見年齢が近いからだろうか。大人びているように見えて、実は、寂しがりで甘えたがりなあいつは、とりわけあたしに懐いていた。
『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と連呼しながら、後をついてくるはやて。あたしは、実の妹のように可愛がっていたし――――はやても、あたしを実の姉のように慕っていた、と思う。
あいつが、10歳の誕生日に、「家族になってから1周年記念日」だといいながら、渡してくれたプレゼント――「のろいうさぎ」という名前のぬいぐるみ――は、いまでもあたしの宝物だ。
――――原作の「ヴィータ」が好きだったぬいぐるみを参考にした手作りらしいが、あたしの嗜好にぴったりだった。
うぬぼれでなければ、一番近くであいつの成長を見守ってきたのは、姉貴分のあたしだろう。
――――だから、あたしだけは、はやてがしてきた努力とその成果を認めてやらなくてはならない
あいつが一人で立ち上がれるように背中を押し、危なくなったら助ける。
過剰に甘えさせれば、成長して独り立ちしたとき苦労するのは、はやて自身だ。
したがって、適度な距離を保ちながら、接しなければならない。
嬉しそうにこちらを見つめる姿には、苦笑してしまう。
「晩飯は任せる。その代わり、デザートにアイスをつけてくれ」
「はいはい、わかったよ。えっと、ヴィータ姉は、どのアイスが好きだったっけ――」
――――やれやれ、手のかかる妹だぜ
◇
『シュベルトクロイツ、セットアップ』
――『Jawohl』
リインフォースとともに夕飯の買い物に行った帰り道。バイサー討伐の場面で、うまくグレモリー眷属と居合わせることができた。
すぐさま、騎士甲冑――防護服(バリアジャケット)のベルカ版――を展開し、援護に回る。そこで見た光景は、衝撃的だった。
戦いには全く素人であるはずの兵藤一誠が、パンチ一発で、決して弱くないバイサーをのしてしまったのだから。
援護といっても、シールドくらいしか使わなかった。
ボクとリインフォースも支援要員として、最低限の活躍はできたと思いたい。
ちなみに、ボクのデバイスは、原作アニメにでてきた騎士杖と同じだ。ボクの身長をやや超えるくらいの短槍に、十字の穂先がついている。
名前がつけられていなかったので、原作通りに「シュベルトクロイツ」と名付けた。
『すげえ、銀髪ボインのお姉さんがいるだと!?』
『ボクの家族を厭らしい目でみないでくれないかね?』
『え……どうしてここに八神さんが――もしかして、八神さんも悪魔だったのか』
『それは違うな、兵藤君』
『一誠君。彼女はワケありでね。詳細は明日の放課後でもいいかしら?』
『……先輩がそういうのなら』
『構わないさ。ボクも早く帰って、夕飯の支度をしたいからね』
騎士甲冑も、これまたほぼ原作通りだ。
白い大きめのキャスケットとオーバーコートを着込み、背中に4対の小さな翼が生えている。
相違点としては、太もも丸出しの丈の短いタイトスカートが、スラックスに変更されている点がまずひとつ。
もうひとつは、天使や堕天使連中と区別するために、背中の翼を、黒から赤に変えてある点だ。赤色にした理由は、ヴィータ姉の騎士甲冑の色に合わせたからだが、秘密にしている。
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの騎士甲冑は原作と変化なし。
先入観というやつは、そう簡単になくなるものではない。ボク自身も、原作通りの格好が、彼女たちに一番似合うと思っている。
――――リインフォースだけは、露出の激しすぎるパンクなファッションを、おとなし目に変更したが。
あの格好は目に毒である。
他の男――兵藤一誠も含めて――なんぞに見せてたまるか。
さて、明日詳しい説明をすることになった。いよいよ、本格的に原作と関わり合うことになるだろう。
目的の戦場見学と顔合わせも済んだことだし、愛しの我が家に帰るとしますか。
腹ペコたちが首を長くして待っているはず。
心配させたお詫びに、今日のパエリアは、腕によりをかけてつくろう。
――――リインフィースも手伝ってくれる?
――――もちろんです、マスター。とびっきりの料理をつくりましょう
◆
――ここ数日は、驚愕につぐ驚愕の連続だった
――兵藤一誠という人間が過ごしてきた17年間で、もっとも濃い時間だったと思う
かわいい女の子に、人生で初めて告白されたと思ったら、殺されかける。
リアス先輩にお呼ばれされたと思ったら、悪魔になっていた。しかも、俺は最強の神器を宿す赤龍帝――らしい。
先輩の下僕――眷属悪魔というらしい――になって、ハーレム王(上級悪魔)を目指し見習い悪魔稼業に静を出す。
極めつけに、今日は、はぐれ悪魔との戦いに赴いた。
「先輩たちは、八神さんの事情を知っているんですか?」
「ええ。はぐれ悪魔討伐では、よく手を貸してもらっていてね。けれども、家の事情に関しては、私しか知らないわ」
バイサーとかいうはぐれ悪魔との戦いは、荒事とは無縁の人生を送っていた俺に強い衝撃を与えるに十分だった。しかし、先輩たちの援護と赤龍帝の籠手によって、初めてにもかかわらず有利に戦えていた。
そのせいだろうか。うかつにも、調子に乗ってしまった俺は、窮地に陥る。近くにいた木場がフォローに回ろうと急ぐが、間に合わない―――そのときだった。
『危ないよ。パンツァーシルト』
――『Panzerschild』
どこかで聞いたことのある透き通ったソプラノボイスと、渋めの機械音声が響き、バイザーの攻撃をはじいた。
――大きくよろめくバイサー
その隙を突き、いまできる最大のブーストをかけてがらあきの腹部を殴り飛ばした。
結局、この一撃が止めとなり、初の実戦は終了した。
気になる声の正体は、クラスメイトにして、駒王学園三大お姉さまの一人である「八神はやて」だった。機械音声は、手に持っている杖?槍?とにかく、十字をつけた長柄の武器から発生しているようだ。シュベルトクロイツというらしい。
「八神さんの事情については、教えてもらえないんですか?」
「ごめんなさいね。本人のいないところで言うべきではないわ」
「いえ。それなら仕方ありませんよ。明日、直接尋ねてみます」
「そうしてもらえると、助かるわ」
いろいろと尋ねたいこと――とくに銀髪巨乳のお姉さんのこととか――があったが、明日纏めて話すと約束して、この日は解散した。
後書き
ご意見ご感想をお待ちしております。
第5話 悪魔のような聖女
前書き
次回は明日更新します。
アーシア・アルジェントにとって、心が休まるのは、教会の外を歩き回るときだけだった。
もともと、彼女は、教会つまり天使陣営に所属していた。
癒しの奇跡を起こし、聖女として相応しい振る舞いを幼いころから強いられてきた。
しかし、とある日。傷ついた悪魔が、彼女の前に現れる。
心優しき彼女は、その悪魔を治療してしまう。
杓子定規な天界(異界にある天使陣営の大地)のシステム――地上の信仰・奇跡を司り、破門も行う――は、彼女を破門した。
破門された彼女は、掌を返したかのように、教会関係者から「悪魔」と非難された。
――悪魔のような聖女
聖女でありながら悪魔を助けた彼女を揶揄した言葉である。
結果的に、教会から追放されてしまったが、悪魔を治療したことを彼女は後悔していない。
信仰を否定しているわけではない。
彼女は『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という神器をもって生まれた。
日夜、人を癒してきた彼女にとって、患者の出自はどうでもよいことなのだ。
彼女は、彼女なりの信仰と信念をもっていた。
それが、たまたま、教会の教義と相容れなかったに過ぎない。
その証拠に、彼女はいまでも、教会で祈りをささげている。
行くあてのない自分を、保護してくれている堕天使たち。
彼らが自分を利用して何かしようとしていることには、気づいている。
――気づいてはいるが、どうすることもできない。
(わたしは、とても弱い)
内心で嘆息する。
(わたしがもっと強い心をもっていれば、教会の庇護をうけられなくても、人を癒すことができたかもしれない)
しかしながら、教会の中での生活しか知らないアーシアにとって、外の世界は全くの未知であった。
一人暮らしなどとてもできず――――利用されるとは知りながらも、堕天使に保護されざるを得なかった。
(怪我で苦しむ人たちを助けたい。わたしの願いはただそれだけ。主よ、どうかわたしの願いをききいれてください)
過酷な環境の中でも、彼女は祈りを止めない。
――祈り、癒す。
それが、彼女の全てであった。
ふと、昨日会った青年のことを思いだす。
たしか、兵藤一誠という名前だっただろうか。
日本語での会話に不自由している彼女にとって、久々の会話は、とても楽しかった。
人の温かさに触れあうことで、思わず助けを求めたくなるほどに。
(――でも、彼を巻き込むわけには行けない)
転生悪魔のようだったが、荒事が得意なようにはみえなかった。
優しい彼は、きっと自分を助けようとして――死んでしまうだろう。
そんなときだった――
『おや?お嬢さん。日本は初めてなのかい?
あてどなく彷徨っているようだが、ボクが町を案内してあげよう。
なあに。ずっとこの町に住んできたんだ。安心するがいい』
悪魔言語ではない、本物の英語で声をかけられた。
振り返ってみると、亜麻色をした肩にかかるくらいのショートカットの女性
――彼女はどうみても日本人だ――が、話しかけていた。
付き添いという名の監視役の堕天使が、止めようとするが、
あっという間に、観光することになってしまった。
なんだかんだで、その堕天使も退屈していたらしく、楽しんでいたようだ。
アーシアも、つかの間の幸福を味わうことができた。
こちらに人懐こい笑みを浮かべる少女
――八神はやては、再開の約束までして、去って行った。
◇
アーシア発見。
やはり、顔色はすぐれないようだ。
深呼吸して、突撃。ナンパに成功。
張り付いていた堕天使も、話のわかるヤツで、いっしょに町を見て回った。
帰り際には、少しだけ元気がでたようにみえたが、
沈んだ顔をした理由を尋ねたボクに対して、
――『ありがとうございます。もう、私は大丈夫です』
と、綺麗な笑顔で返答した。
明らかに、嘘だとわかった。
が、他人を巻き込みたくない、彼女なりの気遣いだと分かる。
それは、とても優しい嘘だろう。
――彼女は、自分自身よりも他人を優先するのだから
それは、とても残酷な嘘だろう。
――彼女は、頼れる人がどこにもいないのだから
なんとかしてやりたい。と、ボクは改めて思う。
『僕は、理不尽な非日常に苦しめられる人たちを救いたい』
『天使だの堕天使だのといった存在は、僕たちが住む人の世とは相容れない』
アーシアは必ず救う。救ってみせる。
だから、もうすこしだけ待っていてほしい。
きっと、兵藤一誠たちが助けてくれる。もちろん、ボクたちも。
……とはいえ、待つだけでは退屈だろうから、お姉さんが傍にいてあげよう。
――明日は、ゲームセンターに連れて行ってあげよう。
――なに、遠慮することはない。費用は、お姉さんもちだから。
――そこの付き添いの方も、いっしょに如何かな?
◇
その後、数日の間、アーシア(おまけで堕天使)と、遊んで回った。
短い期間だったが、お互いの距離はだいぶ近づいたように思う。
ボクも、「遊んであげる」のではなく「いっしょに遊ぶ」ことで、楽しんでいた。
八神家では、末っ子だったからだろうか。
お姉さん風を吹かせるのは、存外よいものだった。
――ヴィータに言ったところ、姉の心得とやらを3時間近く語られて大変だったが
そして、先ほど、サーチャーから重要な情報が送られてきた。
アーシアを利用しようとしている堕天使陣営のエクソシスト――フリード・ゼルセンが、行動を起こしたのだ。
過激な異端視問を問題視され、教会から追放された彼は、血に飢えた性格破綻者だ。
サーチャー越しでさえ、ひしひしと感じられた。
そんな彼が、契約するために悪魔を召喚しようとした人間を嗅ぎ付けた。
後は簡単、召喚主を殺そうと動くだけだ。
(ザフィーラ、頼んだよ)
(お任せください)
行動の予想は簡単だったので、フリード・ゼルセンをザフィーラに追わせている。
召喚主は、兵藤一誠を呼ぼうとしているようだ。
たしか原作では、彼は現場について、惨殺死体をみてしまう。
硬直した無防備な彼を、フリード・ゼルセンが攻撃し、止めをさそうとする。
その直前にアーシアが登場し、兵藤一誠の助命を嘆願する。
しばし対峙するが、リアス・グレモリーたちが、魔法陣を使い転移してくる。
不利を悟ったフリード・ゼルセンは、アーシアとともに逃亡。
堕天使の気配が接近してきており、リアス・グレモリーたちも撤退する
――という流れだったはずだ。
ボクは、召喚主の殺害を防ぐべくザフィーラを向かわせたのだ。
現に、いまザフィーラが、シールドを展開して召喚主を守っている。
しばらく、にらみ合いが続いていたが、そこに兵藤一誠が到着。
ザフィーラを知らない兵藤一誠は、うかつに動けず、三つ巴になっている。
(リアス・グレモリーが異常に気付いた。すぐに、転移してくるから備えておいて)
(了解した)
すぐに、魔法陣が輝いて、リアス・グレモリーが登場。
フリード・ゼルセンとしばし問答が続き、アーシアが彼の背後から現れる。
兵藤一誠は、こちらに来るように呼び掛けるが、彼女は拒否した。
複数の堕天使が接近してくる気配に気づいたリアス・グレモリーは、撤退を決意
――そのまま、魔法陣で転移し、兵藤一誠は、ザフィーラが抱えて退いた。
(兵藤一誠を部室に届けてきた。このまま帰還してもよいだろうか)
(お疲れ、ザフィーラ。今日のポトフは自信作なんだ。早く帰ってきておいで)
――――かくして、アーシア・アルジェントを巡る物語は加速していく
第6話 旅は道連れ、世は情け容赦してくれない
バイサーを倒した翌日。
兵藤一誠は、木場祐斗、八神はやての傍にいた。
約束通りオカルト研の部室で、昨日の説明してもらうために、だ。
ところが――
――――放課後の教室は異様な熱気に包まれていた
(……どうしてこうなった!?)
◆
話は少し前にさかのぼる。
帰りのHR(ホームルーム)が終わり、クラスメイトたちは、そそくさと席から離れていこうとする――その最中、廊下から呼び声がかかった。
どうやら、先にHRが終わっていたようで、彼は教室の扉の前で待っていたらしい。
とくに、珍しい光景ではなかったといえる。ありふれた日常だ。
「やあ、二人とも。待っていたよ」
――――その声の主が、女生徒に人気のイケメン男子でなければだが。
しかも、声がかかった人物も大問題だった。
なにせ、駒王学園の三大お姉さまとして名高い女生徒と、悪名高い変態だったのだから。
浮いた噂を聞かない美男美女の二人に、変態を加えた3人組。
奇妙な組合せを前にして、クラスメイトたちが面喰らうのも仕方がないといえよう。
木場祐斗は、その容姿や言動から、クール系なイケメンとして女生徒に支持されている。
しかしながら、女性に興味を示さないとして有名だった。数多の女生徒が撃沈している。
八神はやては、三大お姉さまの一人である。
ボーイッシュな性格、女性に優しく、凛々しい姿。
一部の百合百合しい女生徒に熱狂的な信者をもつのも道理だろう。
さらに、男性に興味がない、と本人が公言している。
とはいえ、特定の女生徒と親しいわけでもなかった。
兵藤一誠は、エロ魔人であり、変態として、女生徒から嫌悪されている。
おっぱい紳士を自称するオープンな変態である。
男子生徒には妙な人望があるが、女生徒からは、倦厭されていた。
つい先日も、他校の女子に告白されたと騒いでいたが、振られたと噂されていた。
――――最近、木場祐斗と兵藤一誠が一緒にいる姿が、よく目撃されるようになったらしい
掛け算好きな女生徒の間では、攻守のポジションについて、熱い議論が交わされている――――なお、木場祐斗は、寒気を感じるようになったという。
その話題の人物たちが、ボーイッシュな性格で有名なお姉さまと接触した。
しかも、イケメン王子こと木場祐斗が、女生徒の帰りを待つなど、入学以来初めてに違いない。
変態紳士こと兵藤一誠にしても、八神はやてはからは、避けられている節があった。
三大お姉さまこと八神はやてに至っては、いつも女生徒に囲まれ、木場祐斗と兵藤一誠とは、絡みが一切ない。
――実は、接点がない理由は、原作への影響を恐れて、木場祐斗や兵藤一誠といった原作キャラとの接触を、八神はやてが、控えていたことに起因している。
だが、周囲からは、「面識のない男女3人が、急にお近づきになった」という事実しか分からない。
―――以上が、教室で渦巻く異様な熱気の正体である。
「ここは『今来たところだよ』というのが、男子のあるべき姿ではないかな?」
「それはすまなかった。僕はそういった男女の機微には疎いものだからね」
他人なんて知ったことねえ、と無視しているのか。
あるいは、注目をうけることに慣れているのか。
廊下で待つイケメン男子こと木場祐斗。彼と相対する三大お姉さまこと八神はやて。
お似合い――ルックスや学内の評判という意味で――の二人は、気にした様子もなく会話を続ける。
そんな彼らの傍らで、変態こと兵藤一誠は――周囲から向けられる好奇の視線にさらされ――戦慄していた。
事情を知らぬ人間がみれば、なんとも不可思議な光景だった。
「ふむ。ならば、なぜ迎えに来たんだい?それともまさかデートのお誘いなどと、言い出さないだろうね?」
「面白いことを言うね。もし、ここで『実は、デートの誘いに来た』といったら、どうするつもりだい?」
――――なぜ、平気な顔をしながら、地雷のような会話にいそしむことが出来るのか
兵藤一誠としては、すぐさまオカルト研の部室に向かいたいところだった。
だがしかし、せめて要らぬ誤解や邪推をなんとかしないと、大変なことになるだろう
――――主に彼自身が。
教室には緊迫した空気が漂っている。誰もかれもが疑問をもてど、とても口を挟める状況ではない。
必然的に、皆が彼らの会話に意識を集中することになる。
「兵藤くんと三人でデートかい?なんとも、不健全なお付き合いだな。兵藤くんはどう思う?」
(おい、なんてこと言いだすんだ!)
今の今まで、除け者にされていたはずなのに、最悪のタイミングで話題を振られて固まる。
彼は、いつもの明るさが見る影もなく冷や汗をかいていた。
クラスメイトたちから向けられる、様々な感情――興味、嫉妬、敵意など――は、見えない重荷となって、彼を押し潰さんとしている。
特に、エロ仲間たちからの視線は、憎悪どころか殺意まで感じられるありさまだった。
「い、いやあそうですネ。八神さんのような女性なら大歓迎デスヨ?」
彼は、無難に返答した――つもりだが、まったく状況は好転していない。
とにかく、居心地の悪さをどうにかしてほしい気持ちで一杯だった。
「そうかい?まあ、冗談は置いといて――」
(ってオイ、冗談なのかよ!?)
「――木場くんが、誘いに来るとはね。グレモリー先輩に気を使わせてしまったかな?」
「ああ。一応、旧校舎は一般生徒が立ち入りできないからね。僕が案内役を仰せつかったのさ」
「なるほどね。では、喜んでエスコートされるとしようか。だが、兵藤くんについていけば、済む話ではないかな?」
「僕もそう言ったんだけどね。部長曰く『ゴシップを避けるために必要な措置』らしい」
なんとか弁明しようにも、雰囲気が許してくれそうにない。
彼にできることはただ、嵐が過ぎ去ることを祈りながら、待つだけであった。
――普段ならば、美人と会話する木場に対して呪詛の一つでも送るところだったが。
『グレモリー先輩に頼まれた木場裕斗が、兵藤一誠と八神はやてを迎えに来た』
すでに、事実が明らかになっているにも関わらず、好奇の視線は霧散しない。
滅多にない組み合わせに興味津津なのだ。
(い、生きた心地がしねえッ…!)
「――なるほど。確かに得心がいったよ。現に、クラスメイト達は噂話に忙しいようだしね」
「オカルト研究会の部室に誘うだけだと言うのに、大げさすぎるとは思うけどね」
「まあ、ゴシップ云々を置いておいても、キミがボクを誘う構図は、とても珍しい。仕方ないさ」
「そうかもね――」
その後、しばしの間、歓談する二人。
ときおり、兵藤一誠のほうにも話題が振られるが、彼は生返事しかできなかった。
なんというか、もういっぱいいっぱいだった。
盛り上がる二人の会話。
比例して高まる教室の緊張。
それぞれが、ピークに達したそのとき――――
「――おっと、少々話し込んでしまったようだ。早く行こう。ついてきてくれ」
「ああ。キミとの会話はなかなか楽しかった。つい話し込んでしまったよ。兵藤くんには、すまないことをした」
「い、いや、いいんだ。八神さんと俺は、グレモリー先輩に頼まれた木場に迎えに来てもらった『だけ』なんだからな!!」
渦中の一人、兵藤一誠は、ようやく解放されると喜んだ。
と同時に、釘をさす発言も忘れない。
かくして、残念そうな、安心したような、ゆるんだ空気が教室を漂い
――ようやく彼は安堵することが出来たのであった。
(ハーレムを目指すなら、これくらいの注目は流せるようにならないとな。嫉妬されるのは間違いないだろうし)
なんだかんだで、平常運転な彼だった。
少々の苦難では、へこたれない姿は、まさに「漢」であった
――とは、クラスメイトの一人(変態)が後にした証言である。
◇
部室なう。
――ってわけで、やってきたオカルト研の部室。
魔法陣やらシャワールームやら、目を引くものが多々ある魔窟であった。
いま、お互いの自己紹介をしているところである。
「じゃあ、まずはボクからいこうか。ボクは神器もちで、名前は『夜天の書』というんだ。
昨日使って見せた魔法もその一種だよ」
「へえ、すごいな。悪魔しか魔法は使えないと思っていた」
「あら。一誠君は知らないようだけれど、人間にも魔法使いはいるわよ?
彼らは、悪魔の魔法を下地にして、人間用に改良しているの。
わたしの眷属として活動していれば、そのうち出会うこともあるかもね」
兵藤一誠は、ボクが悪魔でもないのに魔法を使えると聞いて、非常に驚いていた。
だが、そういう神器だと言われて納得したようだ。
他のグレモリー眷属は、異質な神器に少なからず疑問をもっているようだがね。
どのみち、原作に関わっていく以上、隠している力を解放することになるだろう。
――――リリカルなのはの魔法や夜天の書は、様々な意味で、この世界では「異常」である
「それで、どんな魔法が使えるんだ?」
「それについても説明する。他にもいろいろと機能があって、たとえば――」
まず、人間が扱える魔法。
歴とした科学として成立しているプログラミングで成り立つ魔法技術。
騎士甲冑は、オートガードとして優秀だし、飛行魔法で自由に飛びまわることができる。
非殺傷設定なんて、概念すらないだろうし、プログラム体であるボクたちは、半不老不死といえる。
サーチゃーで気づかれずに監視出来、自由自在に個人で転移出来ると聞いたらどうなることか。
とりあえず、ここでは適当にごまかしておく。
「――といった具合かな」
「なるほどねえ。わたしも知っていたとはいえ、あらためて聴くと、デタラメな性能よね。
あなた達が使う魔法は、他人が行使することはできないのかしら」
「以前に、申し上げたとおりです。ボクとボクの家族だけですよ」
次に、夜天の書。
元の世界ですらロストロギア認定された破格の性能をもつ魔道書である。
守護騎士や管制人格の実力は非常に高い。
ボクを含めた皆が、夜天の書に記載されている魔法を扱うこともできる。
加えて、夜天の書内の防衛プログラムが正常化したことで、主であるボクは保護下におかれている。
すなわち、プログラム体になり、防衛プログラムに本来搭載されていた修復機能の恩恵を受けることができるのである。
「ん?家族が使えるのなら、他の人間も使えるってことじゃないのか?」
「鋭いね。ボクには5人の家族がいるんだけど。彼女たちは皆、夜天の書に付属した存在なのさ。
昨日、兵藤くんは、現場で銀髪の女性をみただろう?彼女もその一人なんだ」
「マジかよ。あの巨乳さんは、人間じゃないのか。今度、是非紹介してください」
「だが断る」
――まあ、弊害として成長できないのはご愛敬だ。
おかげで、ヴィータといっしょに、永遠の9歳児に仲間入りしてしまった。
実は、普段の姿は、変身魔法を使っている。
原作にもでてきた「大人モード」を参考に、成長した姿をイメージ化した。
アニメ第三期の「八神はやて」といえば、近いだろうか。
「さて、ボクの自己紹介は、こんなところだ。次は、誰にする?」
「そうねえ。一誠君以外とは面識があるのだし、彼が自己紹介すればいいわよね」
「おう。俺の番だな。俺も神器もちだ。最近、発現したばかりで、まだ扱いこなせていないんだが――」
最後に、ボク自身。
無尽蔵の魔力に、夜天の書の主という立場。
希少技能である「蒐集行使」を何故か所持しており、単独でも戦える。
「蒐集行使」とは、夜天の書にある魔法を、管制人格の補助なしで行使できる希少技能である。
原作では、リインフォースが託した贈り物だったはずだ。
彼女は、自身の消滅に伴い、「八神はやて」に夜天の書のデータを託した。
その結果、希少技能が備わることになった――少なくともボクがもつ知識では。
――――こちらのリインフォースは健在であるが、別行動しても大丈夫なのは、有難い限りだ
しかしながら、リインフォースとユニゾンしたときこそ、ボクは真価を発揮する。
駒王町をまとめて消し飛ばせる広域せん滅魔法を連射できるといえば、その凄さがわかるだろうか。
ゆえに、ユニゾンは奥の手として、ぎりぎりまで隠すことにしている。
ユニゾンすると、変身魔法が解かれ、幼女姿を曝すことになることも理由のひとつではある――――もちろん、周囲には秘密だ。
「――っていうわけなんだ。正直、実感がわかないけれど、上級悪魔目指して頑張るつもりだ」
「『上級悪魔』ね。領地を手に入れて、女性の眷属でも手に入れようってのかい?」
「うぐッ」
「さすが、八神先輩です。一発で見抜くとは」
「簡単なことだよ、塔城さん。これでも一応クラスメイトだし、彼はわかりやすい性格をしているしね」
「つまり、単純ってことですね。兵藤先輩にもっと言ってやってください」
そんな本心を隠しつつも、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の説明を聞いて、
さも、はじめて知ったかのように驚いてみせた。
ドヤ顔の兵藤一誠が若干ウザかった。が、なにせ伝説の装備を手に入れたのだ。
少しぐらい有頂天になったとしても、仕方がないかもしれない。
ボクだって、夜天の書をもっているのだから、人のことはいえないだろう。
「さて、自己紹介はこれでお終りね。
さっきも説明したけれど、はやてと家族たちには、はぐれ悪魔の討伐などで協力することが多いのよ。後日でいいから、他の人たちと顔合わせしたほうがいいわね」
「そうだね。ボクたち家族は、グレモリー家の客人扱いになっている。
だから、厳密には悪魔陣営とはいえないけれど、基本的には共闘関係にあると思っていい。
今後、家族に会う機会もあるだろうから、会った時にでも紹介するよ」
その後、いくつかの決まりごとや他愛もない雑談をしてから、お開きになった。
教会を監視しているサーチャーからは、アーシアの様子が送られてきている。
やはりというか。あまり扱いはよくないようだ。
なんとかしてやりたいが、グレモリー家の客人であるボクでは、
堕天使に干渉して、戦争のきっかけをつくることになりかねない。
原作知識のとおりなら、堕天使の総督であるアザゼルは戦争否定派だ。
が、コカビエルのような戦争狂もいる。迂闊に動くことはできない。
――――偽善かもしれないが、ボクは、ボクにできる限りのことをしようか
後書き
明日も更新します!
第7話 見習い悪魔は赤龍帝の夢をみるか?
翌日の放課後、俺は真っ直ぐにオカルト研の部室へ向かった。
思いがけず再会を果たした彼女――アーシア・アルジェントを救うために。
いざ決意を胸に秘めて、部室の扉をあけ――――固まった。
目の前には、いつものメンバーのほかに、見慣れない面々がいる。
その内の一人は、昨日、助けてくれた青年だった。
がっしりとした体つきをしていた、浅黒い肌に短い銀髪が映える。
いや、問題はそこではない。
そう問題なのは――
――――存在を激しく自己主張している「犬耳としっぽ」だった。
「って、男の犬耳とか誰特だよッ!」
混乱しながら叫んだ俺は悪くないだろう。
男――ザフィーラと呼ばれていた――は、気にした風でもなく
「昨日あれから、大丈夫だったか?」と、身を案じてきた。
ようやく我に返って慌てて礼を言う。
「って、すみません!昨日は、本当に助かりました。碌にお礼もいえず、申し訳ないです」
「気にしないでよい。当然のことをしたまでのこと。怪我がないのならよかった」
――と、笑顔で応じてくれた。
顔も性格も態度もイケメンな好青年に、珍しく好感をもった。
――やっぱり、犬耳しっぽをつけたままだが。
真面目な話をしているのに、思わず脱力してしまう。
いつものように嫉妬できないのも、それが理由だろう。
「ザフィーラさんとは、昨日も会ったわね。こちらの二人は知っているかしら?」
「ええ、知っていますよ先輩。まさか、美人と名高いお二人と部室で会えるなんて」
あらためて、周囲を見渡せば、まだ二人闖入者が残っている。
この二人は、俺も知っている。
どちらも、学園で見かけることがあった。
剣道部で臨時顧問をしている巨乳ポニーテールの女性が、シグナム
臨時保険医をしているおっとりとした雰囲気の女性が、シャマル
――だったと思う。
駒王学園に入学した直後、美人の新任がきたということで、話題になっていた。
俺自身、何度も会っている間柄だ。
まあ、学内でみかけると、思わず胸元に目をやってしまう間柄だな。
一方的に知っているだけ、ともいうが。
「『八神シグナム』だ。お前の話は主はやてから聞いている――お前の要件も、な」
「わたしも、あなたのことはよく知っているわよ。
人目もはばからずジロジロみてくるものだから、顔を覚えてしまったわ――要注意人物としてだけど」
「うえ!?す、すみません――」
げ。バレバレだったとは……。
なんとか釈明しようと、しどろもどろになりながら、言葉を探すが――
「――シャマル、あまり遊ぶな」
「あらあら、ごめんなさいね。『八神シャマル』です。よろしくね」
シグナムさんのおかげで、どうにかなった。
しかし、間近でみると、本当に美人だよな。
とくに、胸のあたり。
思わぬ幸運にしばし茫然として――
「って、そんな場合じゃないんだよ!早くアーシアを助けにいかないと!」
「ああ、そのことね」
「『そのことね』って部長!のんきに構えている暇なんてないはずです。
たとえ、俺一人だけでも助けに行きます!」
本当は心細いし、恐ろしい――けれども、アーシアはもっと恐ろしい思いをしているだろう。
ここで見捨てることはできない。
「――へえ。あなた一人だけで、ねえ。たぶん死ぬと思うけれど、いいのかしら?」
シャマルさんが、見たこともないような怜悧な視線をこちらに向けてきた。
一瞬、怖気づくが、すぐに取り繕う。
「救える力があって、助けを求める人がいる。理由はそれだけで充分だ――」
――――なぜなら、俺は「赤龍帝」だから
よほど俺の言葉が意外だったのだろうか。
彼女は目を丸くして――いや、険しい目つきでこちらを睨んでいたシグナムも驚いたような表情をしている。
「そうよ、ね。言葉にするには簡単だけれど、実行できる人はどれだけいるのかしら。
あなたは、『実行できる人』のようね。――試すようなことをいって、ごめんなさい」
「いえ、俺こそ生意気なことを言ってしまいました」
真剣な表情で謝られて、こそばゆくなった俺は急いで取り繕う。
もういちど、アーシア奪還に向かうと宣言しようとして――
「さすがは、赤龍帝ということかしらね。いえ、一誠君だからこそ、なのかな。
ともかく、よく言えたわ!あなたの主として、誇らしいわよ」
「見直しました、先輩」
「僕は、兵藤君のことを誤解していたのかもしれない」
「あら?私は初めから、彼の意思の強さには気づいていたわよ?」
「ええー。本当ですか姫島先輩」
――――なんだか、盛り上がっていた。
「――兵藤一誠」
「はい?シグナムさん、どうしましたか?」
呆気にとられた隙に、小さいが力強い言葉をかけられる。
「アーシア・アルジェントを何があっても助けたいか?」
「ええ。当然です」
「たとえ、死ぬ危険性があってもか?」
「死ぬつもりはないですよ。俺が死んだら彼女は気に病むでしょうし。
必ずアーシアを助けて生きて戻ってくる。俺がやるべきは、それだけです」
「――そうか」
なぜいまさらになって、そのような質問をするのか。
疑問が顔に出ていたのだろう。
少し苦笑したシグナムは――
「アーシア・アルジェントの奪還には、我々も協力する。
安心するとよい――むろん、お前の決意の程もみさせてもらうぞ?」
と、力強く言った。
――その姿は、歴戦の戦士のようでとても心強かった
◆
「ここが、堕天使が占拠している教会――と、一誠君の情報通りね」
「――では、まずは結界を張らないとね。シャマル、頼んだよ」
リアス・グレモリーの言葉に応じて、シャマルに封鎖領域の展開を頼む。
いまボクたちは、問題の教会前にいる。
兵藤一誠の決意を聞いたグレモリー眷属は、転移魔法陣でこちらにきた。
続いて、シグナムたち3人も、転移魔法陣を利用したふりをして転移してきた。
まあ、あの魔法陣は、悪魔専用なので小細工がどこまで通じるかは不明だが。
「ええ、任せてはやてちゃん――クラールヴィント!」
『Gefangnis der Magie』
本当は、放課後部室で、アーシアの救出を主張する兵藤一誠対して、グレモリー家の立場から戦争になりかねない、と、一度断る。一人だけでも突入しようと焦る兵藤一誠の頬を一発叩くと言葉を続けるのだ。「リアス・グレモリー」個人として、全員でアーシア奪還に向かう、と。これが本来の原作の流れだった。
「よし、これでいくら暴れても、現実世界には何の影響もなくなる。存分に暴れてこい、兵藤くん」
しかしながら、原作とは異なり、ボクたち八神一家がいる。ボクがアーシアと親しくしていることは、予めリアス・グレモリーに伝えておいた。彼女の様子も詳細に伝えておいたから、少なくともアーシア個人に非がないことはわかる。さらに、アーシアの性格や堕天使が彼女を利用して何か企んでいるとわかれば、情の深いグレモリー眷属なら助けに行くだろうと踏んでいた。
「うし。任せてといてくれ。いくぜッ!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
突入していく兵藤一誠。並走する木場祐斗に続いて、シグナムとザフィーラが続く。
教会の周りを、残ったリアス・グレモリー、姫島朱乃と護衛の塔城子猫が囲んでいる。
ボクとシャマルも彼女たち傍で控えている。
「――堕天使たちの増援は心配しなくていいのね?」
「封鎖領域で遮断しましたから、外部との連絡はとれないはずです。結界自体の強度も挙げてあります。侵入者も感知できますよ」
「パーフェクトだ、シャマル」
「でたらめね。あなたたち」
リアス・グレモリーは、驚きともあきれともつかない嘆息とともに吐いた呟きが聞こえる。
そんなに褒められると照れるじゃないか。
やはり、家族が褒められると、八神家の家長としては嬉しいね。
――――今回、八神家一同も全面協力している。
リアス・グレモリーが突入する決意を固められたのは、ボクたちの存在も大きいはずだ。
充分な戦力があり、堕天使の連絡を断ち増援を防ぐ手立てもある。
あとは、兵藤一誠の決意を聞きたいとボクがいい、リアス・グレモリーも賛同したことで、放課後の部室でのやりとりが行われたということだ。
普段の変態ぶりが嘘のような兵藤一誠の姿に、『確かに、彼ならば物語の主人公といわれても、納得できるな』と、妙に感心してしまった。
教会前では、ボクとシャマルが、出待ちしており、彼らと合流――あとは、囲んで結界を張って突入、という筋書きだ。
はぐれ悪魔討伐を手伝うとき、いつもこちらは1~3人程度だから、6人全員での実戦は初めてかもしれない。
(まあ、ヴィータとリインフォースは「極秘任務」についているので、この場にいるのは残りの4人なのだがね)
別働隊については、グレモリー眷属に伏せてある。後の布石と言う奴だ。
「さて。わたしたちは堕天使たちを外に逃さないように網を張るわよ――朱乃、大丈夫ね?」
「お任せください。リアス・グレモリーの女王として、上空を監視します。子猫もリアスの警護を頼むわよ」
「はいっ!部長には指一本触れさせません」
だが、基本的には、リアス・グレモリーたちが対処することになっている。
グレモリー家の領地で起こった問題を、客人とはいえ部外者が解決しては体裁が悪かろう。
そこで、ボクたち八神家の面々は、補助に徹することにした。
(聞こえるかヴィータ姉。いま兵藤くんたちが乗り込んだ――アーシアは無事かい?)
(ああ、無事だぜ。連中、突然結界が貼られてオタオタしてやがるな。
アーシアはもう救出してある。今は、転移魔法で、教会の裏手に隠れているぜ)
(彼女と鉄槌の騎士には、探知防壁をかけてあります。見つかる可能性は低いでしょう)
実は、ヴィータに変身魔法を使わせ、予め教会に潜入してもらっていた――夜天の書つきで。
アーシアのお目付け役の堕天使とこっそり入れ替わっておいたのだが、バレずにすんだようだ。
リインフォースが待機している夜天の書をヴィータが持っているため、滅多なことはおこらないだろう。
ボクだって何も考えずに、彼女と遊びまわっていたわけではないのだ。
――――まさに、計画通り
本当だよ?
まあ、少しばかり羽目をはずして遊びまわったこともなきにしもあらずだが。
(魔法ですり替えた『身代わり』はどう?うまくいっているかな)
(ええ。もうしばらくは大丈夫です。夜天の書に登録されていた強力な幻術魔法をかけていますから)
いまごろ、『アーシアだと思い込んでいる別人』を生贄にしようとしている最中だろう。
レイナーレたち堕天使の目的は、アーシアが持つ癒しの神器『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を奪うことだ。
しかしながら、本物のアーシアはヴィータが助け出している。
いまごろ、連中は儀式がうまくいかずに、さぞ混乱していることだろう。
(そうそう。アーシアの『身代わり』は、あのフリードとかいうイカレ神父にしといたぜ。
あの野郎。アーシアを十字架に貼りつけようとかいいやがった)
(――ほう)
(で、ムカついたから『身代わり』にしてやった。身をもって貼りつけを体験できたんだから感謝して欲しいくらいだ)
(――パーフェクトだ、ヴィータ姉。どのみちフリード・ゼルセンは生かしておけないと思っていたんだ。逃さずにすんでよかったよ)
ドガアアアアアアアアッッッッッッ
教会の地上部から物凄い音が聞こえてくる。
兵藤一誠が、一発ぶちかましたようだ。
――――あれが、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の力
世の中には、数多の神器があれど、『赤龍帝の籠手』は別格中の別格だ。
かつて、二天龍という暴れ龍がいた。
災厄を撒き散らすかれらを憂慮した全盛期の三大勢力が、同盟してまで、やっと神器に封印した。
その二天龍のひとつを封印した神器が、『赤龍帝の籠手』だという。
その効果は、ずばり「倍加」である。
つまり、力を倍に増やし続けることが出来るという、単純にして強力な力だ。
完全に使いこなせば、たった1の力でも、無限に増やすことすら可能だろう。
――――教会内の陥没した地面がその証拠だ。
一方で、木場祐斗は、彼と即席とは思えないほど見事な連携をみせている。
確実に、ひとりひとり手早く仕留めていく彼の姿からは、たゆまぬ修練の跡が垣間見える。
――偉そうな講評を垂れることができるのは、ボクもシグナムたちに絞られたからだ。
が、いまはそんなことはどうでもいいな。
もうすぐ、地上は一掃できそうだ。
(――もうじき彼らが、地下へ向かうようだ)
(わかっているさ。混乱にまぎれて地下へ戻って、偽物と本物を再びすり替えておくんだな?)
(そこが問題なんだよね。本物のアーシアを兵藤くんたちに「救出」してもらわないと。
気づかれずにすり替えるタイミングがあるかどうか)
(マスター、ご心配なく。ステルス魔法を使用しているので、混乱している中ならば、まず気づかれないはずです)
(リインフォースがいうなら安心だね)
(魔法は私が行使するので、すり替えのタイミングは鉄槌の騎士次第です)
(わかっているさ。あたしに任せとけ)
――――さて。あとは、悲劇の聖女を救う勇者さんを待つだけ
――――はやくしたまえよ、兵藤くん
◆
木場祐斗は、嫌な予感がしていた。
堕天使が占拠する教会に切り込み、兵藤一誠と即席ながら見事な連携で敵を圧倒した。
シグナムとザフィーラのサポートもあり、事は万事順調だった。
いや、「順調すぎた」。
(さっきから嫌な予感する。どこかでしっぺ返しが来るような気がしてならない)
地下礼拝堂にはいた敵は、およそ30人ほどだろうか。
地上にいた連中とあわせれば、50人近いだろう。
「――団体さんで、グレモリーの領地に堂々と侵入するなんてね」
木場が呆れたようにつぶやくと、ようやく向こうは、こちらに気づいたようだ。
何故か判らないが、彼らはひどく混乱しているようだ。
こちらを警戒しながらも、「はやくしろ」「なぜうまくいかないんだ」など怒号が飛び交っている。
最奥に目を向けると、そこには――――
驚き硬直する彼を置いてきぼりにして、瞬時に前へと兵藤一誠が躍り出た。
彼は、普段からは想像もつかないような激しい怒りの声をあげる。
「おまえらああああああああ!!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
「まて、迂闊に飛び出すな兵藤くん!」
思わず声をかけるも、聞き入れられるとは思っていなかった。
彼自身、堕天使たちの所業に憤っているのだから。
だが、その憤りを吹き飛ばすような光景が眼前で繰り広げられた。
――――何が起きようとしている!?
抉るように大きく地面を陥没させた兵藤一誠は、堕天使の女と何事か話していた。
激情に歪んだ表情は、次第に冷静になっていき、無表情になった。
一方で、身にまとう雰囲気は、窒息しそうなほど重苦しいものになっていく。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
突如、咆哮のような、慟哭のような叫び声があがり、兵藤一誠を中心に爆風が渦巻いた。
思わず瞑ってしまった目を開いき、粉じんの中から現れた姿をみたとき、
――――彼は禍々しい力を放つ赤い鎧に身を包んでいた。