魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話


 

第一話

「ふぅ、この島にもようやくまともなコンビニができたな」

とある離島の川岸に一人の青年が耳にイヤホンを差して歩いていた。

「この前までは夜中に腹が減ったら我慢するしかなかったからなぁ」

彼の住む島は離島でまともなコンビニなんてあるハズもなく、どこの店舗も夜の11時には閉まってしまう。

「さっさとアイス買って魔法科のSSでも読むか」

すると青年の後ろから一台の車が来た。

もし、青年がイヤホンをつけていなければ未来は変わったのかもしれない。

「結局あれは妹エンドなのかn」

ドンッ‼

「あ、が…」

そうして青年の記憶は途絶えた。









えーっと、ここはいったいどこなのだろうか、どこを向いても白一色だ、俺何してたっけ?

「確か…」

「近くにできたコンビニに行こうとして酔っぱらいの運転する車に轢かれた」

振り向くと男とも女とも取れる容姿をした誰かが居た。

……………ファ?!

「いや、誰?!え、何?俺死んだの?じゃぁ何?ここあの世?!」

「聞くこと多いね、まぁ、気持ちは判るけど。ここは…まぁ、あの世と言えばあの世かな、」

…………

「ウゾダドンドコドーン!」

「轢かれた割には元気だね君」

「いや、こうしてないとやってらんない、スパイダーマンと一緒。
でアンタは天使か何かか?で俺はどこ行くの?天国?煉獄?地獄はやだなぁ、できれば辺獄で、俺一応仏教徒なんで」

「詳しいね、君はアレかい、中二病ってヤツかい。あと僕は一応神だよ下級だけどね」

「お勤めご苦労様です」

「ホント、あのクソ神め書類にコーラ溢したとかそれで死んだヤツに謝ってこいとか望むなら転生させてやれとか全部アイツのせいだろチキショウなんで俺がこんなことしなきゃならんのだ」

「……………」

「ああ、悪いねちょっと上司がクズでね、でどこに転生したい?特典はあのクソ野郎の被害者のよしみでいくらでもいいよ、好きな世界でチートしなよ」

「いや、いきなりそんなん言われても…」

「いくらでも待つからゆっくり考えな」

「わかった」


数分後

「決まったかい?」

「ああ、とりあえず決めた。
転生先はインフィニット・ストラトス。
特典はCADやら術具無しで魔法科高校の劣等生の魔法を使えるようにしてほしい。
あと魔法の知識それと機体は俺が造ったプラモデル、RX0000GNカンヘルにしてほしい。
もちろん自分で造りたいからそのために必要な知識も、こんな物かな」

「オーケー、君が望むならそうしよう、にしてもチートだね」

「で、いつ転生すんの?」

「ん?今からだよ、いってらっさ~い」

何か嫌な予感がしたので飛び退いたが…

「そう来ると思ってたよ、残念でした」

なんと俺が飛び退いた先に穴があった…

「今度こそ、いってらっしゃい、良い人生を」

そうして俺の意識は、落ちていった…
 

 

第二話

やぁみんな、転生して目が覚めた。

状況からして俺はどうやら赤ん坊になっているらしい。

手足が自由に動かせないのがその証拠だ。

あとなんか色のついた玉がフヨフヨ漂っている。

たぶん魔法科に出てきた精霊-スピリチュアルビーイングってヤツだと思う。

精霊を視れるのは原作では霊子放射光過敏症の柴田美月だけだったはず。

なら俺も何かしらの目を持っているのだろうか?

まぁ面倒だし後で考えよう。

俺は今誰かは判らんがたぶん新しい母親であろう女性に話しかけられていた。

意識が戻って初めて見るがなかなかに美人さんだ。

俺が転生してから数分が経った。

何かよくテレビとかで見る保育機?の中に居た所を抱き上げられた。

「イチカ、私の、私達の愛しい子。
元気に育ってね、もうすぐ退院だから、もう少しだけ待っていてちょうだい」

彼女は微笑みながらとても優しい目でそう言った……。

だが、少し待って欲しい、イチカ?俺が?天然ジゴロで鈍感でハーレムキングなのに純粋で素直で激情家でヒーローって言葉が似合うあの一夏?冗談はよしてくれよママ殿。

「これでチフユもお姉ちゃんか、これを機に剣道以外にも目を向けてくれるといいのだけれど…」

チフユ……千冬?あのブリュンヒルデ?ファーストインフィニット・ストラトス白騎士で数千のミサイルを叩き落とし、モンドグロッソで無双して引退後鬼教官と呼ばれた織斑千冬がお姉ちゃん?

うぇーい、どうやら俺は本当にイチカ、いや織斑一夏らしい。

ならこの美人さんが一夏と千冬の母親ってことか、なるほど二人が美形になる訳だ。

しかしそうであるならば困った。

ひじょぉ~に困った身の振り方とかその他もろもろ。

なぜかって?だって俺が一夏なら周りには姉の千冬、そしてかの大天災篠ノ乃束といった勘のいい者が多い。

つまり俺がカンヘルを造ろうとしたら、それ以前に俺が何かおかしいことがすぐにバレるのである。

いや俺が剣道をやらなければ、篠ノ乃神社の道場に通わなければ、篠ノ乃箒との繋がりを作らなければ、そうすれば篠ノ乃束だって友人の弟というだけの子どもに興味を抱かないのでは無いだろうか?

「一夏もお姉ちゃんと一緒に篠ノ乃神社の道場に行かせようかしら、この間箒ちゃんも産まれたことだし、いいお友達になれそうね」

なに?俺の考えてること読んでんの?

確かに原作一夏もヒロインズに思考を読まれてはシバかれてたけどさ。

その上この人…いや母さんはきっと失踪するのだろう、夫と共に、原作でそうだったように、俺と姉を置いて…

「さて、そろそろお腹が空く頃かしら?」

確かに空腹感を覚えるが…

「さぁ、いっぱい飲んで早く大きくなるのよ」

と言って胸をさらけ出すが特に何も感じなかった。

転生前は…俺の中ではつい数時間、前までは性欲とかもろもろあったけどなにも感じなかった。

飲み終わると背中をトントンと叩かれげっぷをしたら急激に眠くなった。

飲んだ感想?甘かったよ、他に無いかって?

言わせんな恥ずかしい。

そうして俺は眠りについた。
 

 

第三話

翌日、精霊を見て暇を潰していたら姉と父が母さんと一緒に来たのが視えた。

姉は一言で言うなら『可愛い』。

え?他に無いかって?あるけど最初に浮かんだのが『可愛い』なんだよ。

原作では一夏に『真面目な狼』なんて言われてたけどすげぇ可愛い。

当たり前だがまず原作に有ったような近寄りがたい雰囲気がまだない。

次に若干つり目っぽいけどそこがまたチャームポイントになっている。

最後にこっちに向いているにこにこと純粋で無垢な笑顔がとても美しい。

某最強ゲーマーの兄曰く、
『可愛いは、この世で唯一不変の正義』
その意味を理解した今日この日。

例え、正しさが人の物差しで変わり、大人にも分からない幻想だとしても、この事実は変わらないだろう。

それと姉さんの周りには光球がいくつかついて回っている。

精霊に意思は無いはずなので魔法の適正が有るのだろうか?

父は一言で言うなら色男、イケメンで瞳に何か強い意思と優しい光を宿しそれがより魅力的に見せる無精髭が似合う三十代ぐらいの男。

え?わらない?要するに真面目で短髪の加持さんだよ。

母さんとこの父さんから産まれたんなら美形だよな。

この人も俺達の前から居なくなるのだろうか?

原作ではその存在以外の一切が描かれてない二人だが、こんなにも優しい目をした人達がどうして自分の子を…

これは今考えても仕方の無いことだ、いつか分かるだろう。

願わくば、その時は…

二人が俺に話しかけてきた。

「一夏、大きくなれよ。お前は母さんと俺の子供だからイケメンだろうなぁ、今から楽しみだ。」

「もう、貴方ったら」

父さんは腕を組んで笑いながら言って母さんは照れた様子で微笑んでいる…ウワーアツイナー(棒)。

「いちか、げんき?おねえちゃんだよ。
ねぇ、おかあさん いちかだっこしていい?」

初めて聞く姉の声は凛として透き通った鈴のような声だった。

姉さんは俺を抱っこしたいようで母さんに尋ねた。

「ええ、良いわよ。ちょっと待ってね、……はい気を付けて、落としちゃダメよ」

俺は母さんに抱き上げられた後、姉さんの腕の中におさまった。

「ふふ、いーちか!」

姉さんはご満悦のようでニコニコしている、頼むから落とさないでくれよ。

にしても慣れてるな、ああそうか、篠ノ乃箒を抱っこしたことがあるのかもな。

それと気になることがいくつかある。

まず初めに姉さんの周りに暖色系の光球が集まっていることだ。

最初は精霊かと思ったが姉さんが俺を抱っこしてから増えていた、つまり姉さんのテンションが上がってからである。

きっとこの光球はプシオンでは無いのだろうか?

原作では思考や魔法の行使そのものに関わる素粒子であるサイオンと比べて不明な点が多く出番も少なかったが、アレは確か感情に関わるものだったはずだ。

次に姉さんと父さんが入って来たのが視えた事と視野がやけに広い事、俺はベッドに寝ているというのに…

考えられるのは俺が霊子放射光過敏症以外にもマルチサイトやエレメンタルサイトのような特別な視力を持っているということ。

それに赤ん坊の目は見えていないと聞いたことがあるが俺ははっきりと見えて、いや視えている。

それはつまり俺は無意識に知覚系魔法を行使しているということだ、転生特典で魔法を使えるようにしてあるので不思議ではないが想子の量は大丈夫なのだろうか…

「はい、おかあさん」

そう言って姉さんは俺を母さんに渡した、たぶん満足したか腕が疲れたのだろう。

「千冬、貴女はお姉さんなんだから私達が居ない時は一夏の面倒を見るのよ?」

「うんっわかった!」

元気に返事をする姉だが、両親は共働きなのだろうか?それとも今の言葉は【私達が居なくなったら】なのでは無いだろうか。

もしそうなら、俺が姉さんを守らねばならない。

姉とはいえ女性に護られるのも癪だし彼女には無理をさせてしまうだろう。

そしてなにより俺は姉さんの笑顔を護ってやりたい。

だから俺は強くならねばならない

しかしここで問題なのは篠ノ乃神社に行くべきか否か…つまり篠ノ乃箒と関わり篠ノ乃束からして友人の弟以上の存在になるべきか…

いや、ここは行っておこう。

そしてなんとか篠ノ乃束の興味を引いておこう。

そうすれば彼女は俺を排除することもないだろう。

それに俺には現代魔法というジョーカーがあるがいつでも使える訳でもない、というかほぼ使えないだろうから剣道をやっておいて損はないだろう。

そうして俺はこの世界での身の振り方を考え初めた。


 

 

第四話

俺は今家にいる、たぶん原作で一夏と千冬が住んでいたであろう家にだ。

父さんと姉さんが見舞に来た翌日、つまり今日の朝に退院した。

俺はまず能力、特に視力について考える事にした。

昨日姉さん達が来たときに死角に居た姉さん達が視えたので、たぶん魔法科高校の劣等生に登場した十師族七草家の長女【七草真由美】の固有魔法マルチサイトと同じような目を持っているのだろう。

さらに精霊やプシオンを視ることができるので同じく魔法科高校の劣等生に登場した主人公グループの一人、【柴田美月】の持つ霊子放射光過敏症のような目も持っているはずだ。

そして魔法科高校の劣等生で特別な視力と言えば劣等生(笑)でチートなオニイサマの主人公【司波達也】のエレメンタルサイトだが…

たぶん似たようなのは持っている。

しかしコレは使い方が解らん。

転生特典で知識はあるが感覚までは解らなかった。

まぁ、使って行けばそのうち理解出来るようになるだろう。

それにしても視力だけでもこの【インフィニット・ストラトス】の世界でなら十分にチートだよなぁ。

だってマルチサイトとエレメンタルサイトで周囲360度を視ることができればある程度の攻撃は防げる。

ISにも360度を視ることができるハイパーセンサーというのが装備されているが日常で使わないので真後ろは意識の死角になってしまう。

原作でも織斑千冬がそう言っていた気がする。

だから今の内から慣れておこうと思う。
つーわけで視力を使った……


なんか真後ろが見えるって気持ち悪いな…慣れるまで我慢しよう。

そうだ、この目に名前を付けよう、理由?呼びにくいからさ。

けして作者が書きにくいとか作者が中二病とかじゃない。

ん?俺は何をいってんだ?電波でもひろったかなぁ?

まぁいいやとにかく名前だ名前。















幼児考案中…

















決めた!目の名前はメティス、メティスサイト。

メティスというのはギリシャ神話における知恵の女神の名前であり、【思慮】の意味を持つ言葉でもある。

彼女はゼウスの妻にして戦神アテナの母親だ。

またその夫ゼウスをして『すべての人間と神とを合わせたよりも多くの事を知っていた』と言われるほどの女神だという。
ね?ピッタリでしょう?

さらにメティスはゼウスの頭の中に住みゼウスの行動に助言する役割も持つ女神だ、つまり正しく生きたいという俺の意思でもある。

次に俺は魔法の練習…ではなくまず目を扱えるようにしないとなぁ。

マルチサイトは展開してるからエレメンタルサイトの掌握と霊子放射光過敏症の制御かな。

とりあえずこの二つを使ってみる。

ああ、精霊とかプシオンの光とかいろいろあるなぁ。

え?精霊とプシオン光の見分け方?

サイオンを含むのが精霊で含まないのがプシオン光だよ。

イデアとかその中のエイドスとかはまだぼやっとしか見えないし使うと頭痛がするけど物質世界にある独立情報体である精霊は視ることができる。

あ、精霊とプシオン光に混じってなんか…幽霊?みたいなのが居る、たぶんアレは猫だと思う

この世界って幽霊とか居るんだ…俺って元の世界で霊感とかそこら辺全く無かったからなぁ

ああ、めんどくさい。

エレメンタルサイト+霊子放射光過敏症ーああもうメティスサイトでいいかーで幽霊が視えるなんて…

一応この猫の幽霊も精霊みたいなもの、というかたぶんだが【魔法科高校の劣等生】の原作の来訪者編に登場した【PARANORMAL PARASITEー超常的な寄生生物ー】に似たようなものだろう。

コイツはパラサイトと違い寄生してないがサイオンを核にしてプシオンで活動しているみたいなので同じようなものだろう。

さて、この幽霊どうしようか?たぶん原作のパラサイトみたいに拒絶の意思の下で放たれる術式解体である徹甲想子弾で跡形もなく消し飛ばせるはずだが…

いいや、こちらに危害を加えない限り放置しよう。

もちろん何かあれば文字どうり消し飛ばすけどな。

そうだ!いいこと考えた!コイツを式にしよう!

原作の14巻古都内乱(上)に登場した管狐の要領でやろう。

だがあれには少し問題があるんだよな。

原作の管狐は『動物を殺す瞬間に情報体を抜き出し、その情報体を同種の動物の幼体に埋め込む』ことで造られるが…

俺はそこまで鬼畜じゃないからな。

取り敢えず忠誠術式を掛けてプシオンだのサイオンだのを与えれば良いだろう。

ああ、コイツの名前も決めないと。

『名は命なり』とも言うし『名前』は『命前』と書くことができ『命の前で導く言葉』という意味も持つ
そうだなぁこの猫の名前は…













幼児考案中…













よし、橙(ちぇん)にしよう。

え?聞いたことがあるって?

もちろんあの式神から取りましたが何か?
よし、じゃぁ始めようか。















幼児式神制作中…















よっし、成功したな。

さっきの猫の幽霊-橙がすり寄って来た。
式神にする前は他の精霊と同じように光球だったが今は猫の形になっている、てか俺がそういうふうに造った。

ああ可愛いなぁ。

こうして俺は最高のペッt…式神を手に入れた。

この後めちゃくちゃ愛でた。


 

 

第五話

最近少しずつ体が動くようになった俺の日課は橙を愛でた後に魔法の練習をする事だ。

母さんや姉さんが居ない時に限るが、セルフマリオネットで動かしたりもしている。

まぁ、ベッドの上でできることしかしないが、最近はセンチ単位で区切ってインフェルノを練習している。

橙は俺がサイオンとプシオンを与え続けて試しに精霊を食わ(吸収さ)せたりしてたらなんというか…『格』とでも言うべきものがほんの少し上がったようで、与え初めて数日で既に人語を解し一部の単一工程の低難易度魔法をも行使できるようになっていた。

このまま行けば龍神(魔法科高校の劣等生原作における水の循環に関する超大規模独立情報体、精霊だが意識を持っていることを仄めかす描写がある)には及ばずともかなり高位の存在に成れるかもしれない。

え?魔法師でもプシオンはそうそう扱えないって?収束魔法で集めたら橙が勝手に吸収してましたが何か?

あと、今の橙は体(幽体)を障壁で覆っているため一応物理的に触れられる。

ちなみにファランクスで覆ってさらに仮装行列(パレード)も掛けている、魔法科の原作において十文字と九島の十師族二家の秘術クラスだが練習にちょうどいいし。

そして俺自信の事だがメティスサイトはほぼ掌握したと言ってもいい。

課題だったエレメンタルサイトのイデアへの接続についてのコツを掴んだからだ。

イデアへの接続のコツは一度自分の心の奥に潜ったら掴めた。

具体的には意識の最下層かつ無意識の最上層『ルート』に潜ったのだ。

さすがに如何なる魔法を持ってしても『自分の』無意識には干渉出来なかったが意識の最下層でもあるルートにはなんとか干渉できた。

そしてルートにあるイデアへの門『ゲート』からイデアへ接続してみると…

あら不思議この世界の一部が視えるじゃありませんか…と調子に乗ってたら情報過多で知恵熱起こしました。

まぁ今は慣れて要らん情報は取らんようにしたがな。

生後2週間でコレってチートじゃね?


…………気にしたら負けだな。







そんなこんなで魔法の練習をしていたら篠ノ乃束はやって来た。

ドタドタと階段を上る足音が二つ聞こえてきた。

急いでインフェルノを解除して橙のパレードの内容を変更し障壁の上から光湾曲迷彩とかありったけの隠蔽タイプの魔法を掛けたからバレてないはず。

橙には一応ベッドの下に潜ってもらっている。

ガチャ!

勢いよくドアが開けられて一人の少女が入ってきて続いて姉さんが入ってきた

「へ~ここが一夏君の……ッ!?」

少女は部屋に入った瞬間なぜか目を見開いてフリーズした、どうしたのだろうか?

「こら、束、一夏が寝てたらどうするんだ? ん?どうしたんだ束?」

その声にハッとしたようにベッドに歩いて来た

「い、いや、なんでもないよ」

やはりこの少女が後の大天災、篠ノ乃束のようだ。

やっぱりまだウサミミは着けてないようだ。

その表情は原作のようにタレ目でおっとりとした印象を受けるが、その瞳の奥には、ほんの僅かではあるが、あえていうなら…そう、『狂気』とでも言うべきものを宿していた、そしてなぜか『怯えて』いた。

「へ~この子が一夏君?ちーちゃんそっくりだね」

「そうだろう?ほら一夏、コイツは私の親友の束だ。挨拶できるか?」

できるわけねぇだろ、まぁなんか言っとくか。

「あ~う~?」

ああ、早く喋れるようになりたい。

いや、確かに振動系魔法でなんとかなるにはなるけどさぁ、さすがに不味いし。

「どうだ、束?可愛いだろう?」

「そうだねぇ、箒ちゃんほどじゃ無いけどね」

「お前が家族以外で初対面の者を認めるとは…熱でもあるのか?」

どうやらこの頃から他人に興味が無かったみたいだ。

「あ、ああ、うん、ごめんけど今日は朝から少し気分が悪いんだ、もう帰るよ…じゃあね、ちーちゃん」

「大丈夫なのか?すまない、無理やり連れ出してしまって…家まで送るぞ」

「大丈夫だよちーちゃん、弟君に、いっ君に着いててあげて」

「ふむ、そうだな、だが玄関までは送らせろ。一夏すぐに戻ってくる。行くぞ束」

「うん、ちーちゃん、じゃあねいっ君」

そう言って二人は出ていこうとした。

が束ねーちゃんの口が微かに動いていた

「………とう、しゃ、かい……れつ…………ぜん…」ボソッ

アレは九字法か…?

まさか橙がバレたのか?そんなバカな!?

パレードを始めとしたありったけの隠蔽魔法をかけたんだぞ!

そうだ!橙は!?

大丈夫のようだ、よかった、九字の呪文は場を浄めたり低級の霊を滅す程度でしかないがそのままの橙なら俺の式と言えど滅されてたかもしれん。

「ッ!?……ちーちゃん、少し急げる?」

「そんなにか?仕方がない背負ってやる、一夏少し出てくるぞ」

束ねーちゃんはかなり焦った様子だ、まぁ自分の術が効かなかったのを理解したのだろうか?

しかし、なぜ気付かれたんだ?コレは早急に考える必要があるなぁ。

side out





side束

今日は私の親友であるちーちゃんのおうちに来ている、そして今日はちーちゃんの弟の一夏君に会わせてくれるらしい。

だが、なぜだろう?今日ちーちゃんの家に入ってから頭の中で何かが囁く。

私には霊感がある、とても非科学的だけど感じるものは感じるのだ。

私が神社の…巫女の家系であるのが関わってるのかもしれない。

階段を上り始めた時からさらに強まった違和感を知りたいという気持ちと一夏君に会いたいという気持ちで私は走っていた。

そして私が一夏君が居る部屋のドアに手を触れた時、今まで感じてた違和感がぼやけた感覚を覚えた。

「へ~ここが一夏君の…」

私はドアを開けた。

ゴオォッ!

そんな音を聞いた気がした、部屋に入った瞬間何かしらのプレッシャーのようにようなものを感じたのだ。

ぼやけていてもこんなにも威圧されれば気付く、何かがこの部屋に居る。

私はそのプレッシャーに圧され立ち止まってしまった

「こら、束、一夏が寝てたらどうするんだ?ん?どうしたんだ束?」

「い、いやなんでもないよ」

ちーちゃんは勘はとても鋭いけれど霊感の類いはない。

部屋にはベビーベッドが置いてあった、私はそのベッドに近づいた…

ベッドに近づく度にプレッシャーが大きくなっていく、なぜだろう?この子には何か憑いてるのだろうか?

ベッドの前まで来た、寝ている赤ん坊は目や顔立ちがどことなくちーちゃんににていた。

だが私は、ただの赤ん坊である一夏君と目を合わせた時、覗かれたような、見透かされたような感覚を覚えた…

「へ~この子が一夏君?ちーちゃんそっくりだね」

そんな事を言いつつも私は早くこの場を離れたかった。

「そうだろう?ほら一夏、コイツは私の親友の束だ。挨拶できるか?」

「あ~う~?」

「どうだ?束?可愛いだろう?」

そう、ちーちゃんが聞いてきた、確かに可愛いけど箒ちゃんほどじゃ無いかな。

「そうだねぇ、箒ちゃんほどじゃ無いけどね」

そう言うとちーちゃんは不思議そうに言った。

「お前が家族以外で初対面の者を認めるとは…熱でもあるのか?」

私ってそんなイメージなのかー…
そーなのかー…

でも、これでこの場を離れられるかもしれない。

「あ、ああ、うん、ごめんけど今日は朝から少し気分が悪いんだ、もう帰るよ…じゃあね、ちーちゃん」

そう言って出て行こうとした。

「大丈夫なのか?すまない、無理やり連れ出してしまって…家まで送るぞ」

ちーちゃんは優しいなぁ。

「大丈夫だよちーちゃん、弟君に、いっ君に着いててあげて」

よし、これから一夏君の事はいっ君と呼ぼう。

「ふむ、そうだな、だが玄関までは送らせろ。一夏すぐに戻ってくる。行くぞ束」

「うん、ちーちゃん、じゃあねいっ君」

私は小声でお母さんに教えてもらった呪文を唱えた、この呪文はいい霊には効かないけど悪い霊には効くらしい。

「りん、ぴょう、とう、しゃ、かい、じん、れつ、ざい、ぜん」

「………ッ!?」

ゴウッ!という音が再び聞こえプレッシャーが強まる、効かないからきっと守護霊だとは思う、でも、怒らせてしまったかもしれない。

「ちーちゃん、少し急げる?」

「そんなにか?仕方がない背負ってやる、一夏少し出てくるぞ」

そして私はいっ君の部屋を出た、いっ君はかなり強い何かに守られているようだ。

「束、大丈夫か?少し待っていろ」

ちーちゃんはたぶんちーちゃんのママを呼びに言ったと思う、ほら戻って来た。

「行くぞ、一夏はお母さんが見ててくれるから心配は要らんぞ」

そう言ってちーちゃんはしゃがんだ。

「少しマシになったから歩くよ」

「そうか、でも家まではおくるぞ」

「ありがとう、ちーちゃん」

私はちーちゃんの家から出た。

次に来たらいっ君の守護霊に謝らないとなぁ…
 

 

第六話



篠ノ野之束が家に来てから三日ほどたった

今日は姉さんの剣道の迎えに行くのに連れて行ってくれるらしい、今は母さんの運転する車のチャイルドシートの上だ。

つまり俺はこれから篠ノ之神社へ行くということだ。

できれば篠ノ之束とは会いたくにない。

だってこの前いきなり使い魔を祓われかけたんだぜ?

まぁ、この前の九字法もよく考えればパレードを展開してたんだから印もないあんな小声で怯え混じりの呪い(まじない)で橙が祓われる訳もないんだが…

最悪の場合は俺自身の事を話せば興味を持ってくれるだろう。

彼女の今の性格がどうかは知らないが彼女は橙の気配を感じていたはずだ。

そうでなければ九字法なんて使わないはず。

それはつまり篠ノ之束がプシオンを感知できるということだ。

魔法科高校の劣等生の世界においてもプシオンを感知できるのは霊子放射光過敏症…一部の古式流派で水晶眼という目を持つ者だけだった…

ならば彼女には少なからず呪術的才能があるはずだ。

彼女をこちらがわに引き込めればかなりの力になるだろう。

しかし、もし、もしも彼女が魔法を持った状態で敵対したら?

彼女の頭脳で魔法を使われたらかなりの脅威になるだろう…最悪ゲートキーパーを使えばなんとかなるだろうが…

なんて考えてたら着いちゃったよ篠ノ野神社。






「一夏ここがお姉ちゃんの通ってる篠ノ野神社よ裏に大きな道場があってそこで剣道を教えてるの。大きくなったら一夏も通ってみる?」

母さんはそう言いながら俺の顔を覗きこんだ。

「もう稽古が終わる頃ね、いきましょ」

門を通り、中に入ると彼女がいた。

「!?…こ、こんばんは、おばさんちーちゃんのお迎え?」

どうやら俺が居ることに驚いて…怯えてるようだ、俺じゃなくてたぶん橙に。


「ええ、そうよ千冬はまだ道場?」


「え、え~とたぶん今着替えてるとおもいますよ?」


「あら、そう、なら稽古はもう終わったののね?
柳韻さんと少し話したいことが有るから千冬が来るまで一夏を見ていてもらってもいい?」


「……はい、解りました、あっ、え~と箒ちゃんに会わせてあげても良いですか?」


「ええ、いいわよ。じゃあ一夏のことお願いね」


そう言って母さんは歩いて行った。


「行ったね…さてと、いっくん少し待っててもらっていいかい?少し用が有るんだ」


なんだろうか?


「すぐに戻るよ」


束ねーちゃんは俺を境内の賽銭箱の前に置いて走って行った…篠ノ野箒を連れて来るのだろうか?


あ、戻ってきた、手に持ってるのは…饅頭?何故に?


「お~い、いっくんの守護霊さーんこの前は悪かったよ、お供え物あるから出てきておくれ」


やはり篠ノ野束…いや、束ねーちゃんは霊感、それもかなり強力なものが有るようだ。


さて、どうしようか?ここで橙を出すか…出したとして俺の事を明かすか…


とりあえず橙を出そう。


『パレード解除』


これで束ねーちゃなら橙を認識できるだろう。


「やぁ、君がいっくんの守護霊だね?この前はいきなり悪かったね、これはお詫びだよ」


『橙、食っていいぞ』


橙は饅頭に噛みついた、だが橙は物理的に食べた訳じゃない霊的に食べたのだ。
たぶん俺達があの饅頭を食べても何か物足りない感じがするだろう


「ところで君はいっくんから力を引いているのかい?さっき君に呼びかけたときいっくんの方で霊力がゆらいだけど」


霊力…想子のことか?そんなところまで解るとは…


すると橙がコクッと頷いた、で、俺に魔法を掛けろという旨の念を送って来た。


パレード、キャスト。


これでもう橙を認識できないだろう。


「あれ?消えちゃった、でもお詫びできたからいいや。いっくん、待たせちゃったね、箒ちゃんの所いこっか」







境内の裏の道場と隣接して篠ノ野家の自宅がある。


俺は今その家の中のベビーベッドの前にいる、ベビーベッドの中には赤ん坊が一人いる、たぶん篠ノ野箒だろう。


「箒ちゃん、いっくん連れて来たよ~」


やっぱり篠ノ野箒だった、目はくりくりっとしてて可愛い、身長は俺の1.2倍くらいか?コイツの誕生日って確か七夕だったよな…


こんな天使みたいな娘があんなツンデレ脳筋少女になるのか…どうにかしないとなぁ


「ふふん、どうだい?いっくん箒ちゃんは可愛いでしょ?」


ああ、可愛いな。


ところで篠ノ野箒には霊感は有るのだろうか?


試しに橙のパレード解いてみるか…


『パレード、解除』


「うわっ!ビックリしたぁ、いきなり出てきたら驚くじゃないか守護霊君」


『橙、篠ノ野箒が知覚できる距離まで近づいてくれ』


橙が篠ノ野箒の目の前に浮かんでいる、篠ノ野箒に霊感があるならば何か反応するはずだ…


「?…あ~う~?きゃぁ、う~」


反応した!やはり篠ノ野箒も霊感を持っていた!


「箒ちゃんもいっくんの守護霊君が見えるの?…おかぁさんに言っとかないと」


篠ノ野柳韻の奥さんって確か原作には出てこなかったよな…


徐霊とかできるのかなぁ?


橙は篠ノ野箒の周りを回ってる篠ノ野箒はそれが面白いのか笑っている、泣かれないでよかった。


ん?誰かが部屋に向かってきてるな誰だろうか?


とりあえず橙にはパレードを掛けないとな。


『パレード、キャスト』


ガチャ、とおとがして女性が入ってきた。
たぶん束ねーちゃんのお母さん、目元が似ている、原作の篠ノ野箒は父親似なのかな?


「束、千冬ちゃんもう帰るそうよ、一夏君を呼びに来たのだけれど、寝ちゃったかしら?」


「あ、おかぁさん、いや、起きてるよ、すぐに行くよ。ああ、箒ちゃんも連れて行っていいかな?」


「ええ、私が連れて行くわ、一夏君を連れてきて」


「いっくん行こっか」


束ねーちゃんと彼女のお母さんは今廊下を歩いている。


「ところで束、一夏君の守護霊にちゃんとお詫びしたのかい?」


「うん、ちゃんとやったよ、あとおかぁさんが言ってた喚起法やらなくても出てきてくれたよ?」


彼女のお母さんは立ち止まって俺の方を向いた。


「一夏君、君はかなり高位の霊に護られてるみたいね。普通の守護霊が喚起の法もなしに顕現することはそうそうないわ。君がその守護霊を感じられるかわからないけど、もし感じられるなら、大切にしてあげてね」


言われなくたって大切にするさ…


「待たせちゃ悪いし、行こっか」








「束ちゃん、一夏の面倒見てくれてありがとう、またいつでも来てね」


母さんがそういうと束ねーちゃんのお母さん(名前知らんし)が。


「この間は娘がすいませんでした」


「いえいえ、最近は冷え込みますから、束ちゃん、健康には気を付けてね」


あ~そか、母さんは霊感無いからな、まぁ普通に考えればそうだよな。


(※一夏の誕生日は十月です)


「ああ、晩御飯の仕度しなきゃ、それでは」


「じゃぁね、ちーちゃん、また明日」


「ああ、また明日」


さて、帰ったらまた魔法の練習でもしようかな…
 

 

第七話

今日から道場に通うことができる。


基本の知識はある、時々姉さんの迎えついでに見学していたからだ。


いや~魔法科系の呪術的視力って便利だねぇ。

ぶっちゃけ剣道に慣れれば動きはほぼマスターできるだろうなぁ。


…………まぁ、最悪でもセルフマリオネット使えば同格相手には負けないだろう、たぶん、おそらく、めいびー…


そうそう、橙の事だが今や人語を介すどころか単独でヒトに化成できるようになった。


練習もかねて普段から化成した状態でパレードを自己展開している。


もちろん猫耳猫尻尾、一対の猫耳に二本の尻尾…


そう、二本の尻尾である、本人曰く『気づいたらなんか増えてた』とのこと。


ちなみに身長は80センチくらいだ。


オイ、今ロリコンって言ったヤツ出てこいトライデントぶちかますぞァァ?


俺が90センチくらいだから並べば、もしかすると双子に見えるかもしれない。


ときどき篠ノ之神社に行くがあそこでは橙はあまりパレードを解かない。
その上ときどき解く時も猫の状態だから束ねーちゃんは橙が化成できる事を知らない……はず、てか知ってたら恐い。


ブルルン、と車のエンジンが掛かる音が聞こえた。


「一夏、そろそろ行くぞ、準備しろ」


姉さんはすでに防具袋と竹刀袋を持っていた。
俺も竹刀袋を持って母さんの車に乗る。


俺の竹刀は柳韻さんが作ってくれた。

俺と箒はまだ体が小さいので普通の竹刀なんて振れない。

なので普通の竹刀を切り詰めて作ってもらった。

箒の竹刀も同じらしい。


「一夏、竹刀は持っているな?まぁ最初の内は体力作りだけだがな」


知ってる、見学してると時々入門希望者が来るのだ。

まず初めに礼儀作法と体力作り。

ある程度体力が付いてようやく素振りだ。



篠ノ之道場


「さて、一夏君、箒、君達にはまず礼節を教える。
二人はよく見学してたから基本の礼などは知っているだろうが、これをやらないと何にもならんからな。
そのあとは体力作りだ。
竹刀を握るのは二週間は先だな」


ふむ、確かに基本の礼や正座の仕方はある程度知っている。

だがこの篠ノ之道場の門下生は姉さんしか居なかったから年功序列の作法は判らない。


え?入門希望者が居ただろうって?


どこかの戦乙女に心を折られて辞めていったよ。


束ねーちゃん?知らん。


「千冬ちゃんはとりあえず素振りをしていてくれ。
まずは……………」


俺と箒は柳韻さんの話を静かに聞いていた。










「まぁ、こんなものか」


なんというか、昔からの日本の年功序列と礼儀って感じだったな。


「さて次は体力作りだ、少し待っていてくれ」


そういうと柳韻さんは素振りをしている姉さんを連れてきた。


「初日だから今日は千冬ちゃんを付けるよ。
千冬ちゃん、ムリしてたり、危ないと思ったら止めてあげてね。
はい一応このメニューなら四歳の二人でも出来ると思うから」


「解りました、先生、一夏、箒、行くぞ」


「「はい!」」


メニューを書いた紙を受け取った姉さんは嬉しそうにしていた。

て言うか門下生が自分一人だけだったから嬉しいんだろうな。













最初のメニューは篠ノ之神社にある階段で階段ダッシュだった。


「はぁ…はぁ…箒…お前…はぁ…今日…始めた…はぁ…はぁ…ばっかりだろう…何で…そんな…平気なんだよ…はぁ…はぁ…」


「いちかのたいりょくがないだけでしょ」


箒………チクショウ、同年代の幼女に負けるなんて…


ああ、そういえば俺ってあんまり、というか一切外で遊んだ事ないな。


この四年間、殆どの時間を魔法力、処理速度の向上、メティスサイトの範囲拡大に費やしてたな。



「そうだぞ一夏、だがお前は私の弟だ、すぐに体力も着くさ」


ああ、何が"慣れればマスターできる"だまずは体力付けないとなぁ。


「一夏、まだやれるか?もうやめとくか?」


「いや、まだ…はぁ…はぁやれるよ…」


「そうか、無理はするな。体を壊してはどうにもならん」


「うん」


「箒もだぞ、一夏より体力はあるようだが、今の事はお前にも言えるからな」


「はい!千冬おねーちゃん!」


「よし、次のメニューは…………」











篠ノ之神社:境内


「よし、メニューは以上だ、よく頑張ったな、一夏、箒」


俺は境内の本殿の前で大の字で倒れている。


「はぁ…はぁ…」


「いちか、いきてる?」


生きとるっつーの、あと木の枝でつつくのをやめなさい。


「柳韻さんはメニューをこなしたら終わっていいと言っていたが、どうする?
私は柳韻さんの所に報告に行くが」


「わかった、きがえてくる。
いちかはどうするの?」


「はぁ…はぁ…少し…休んだら…はぁ…はぁ…着替えるよ…」


俺は立ち上がり、賽銭箱の前に腰かけた。


「そうか、風邪を引かないようにな」


「あい…」













ああ、疲れた、俺がまともに運動したのって初めてじゃね?


『ますたー、体力ないね、部屋に引きこもってるからだよ』

「橙、うるさい」


橙は俺の事をますたーって呼ぶ、幼女にますたーなんて言われると……いや、何でもないです、はい。


『ますたー、またへんなこと考えてる、パレード、ディキャスト』


ポンッと音がして橙が人型で現れた


「よしよし、ますたーは頑張った」


「おいコラ、頭を撫でるな」


俺は今境内の本殿に上がる階段の一番上に腰かけてる、正面から頭を撫でようとすると、橙は背伸びしなきゃならんわけで……


うん、めっちゃ可愛い。


「橙、こっちこい」


俺は自分の膝を叩いて橙を呼んだ、橙を愛でて回復しよう。
フィジカルはともかくマインドは回復するはず…


「ん、わかった」


そう言って橙は俺の膝の上に乗ったが…


「ちょっと、橙さん、何故に向かい合ってんのでせうか。
普通おんなじ方向をむ……
近い近い、近いよ」


何故かむかいあっている。

しかも俺の顔から五センチくらいの所に橙の顔がある。

何?キスでもすんの?いや、待て、待ってくれ…


「ん、ますたーの匂い、」


橙は俺の首筋に顔を当てて俺の匂いをかいでる。


ペロッ


「ひゃぁう!?」


この猫舐めやがった‼


「にゃ、にゃにをする!?」


「くくっフフフあはっはっはっは!
ますたー、『にゃ、にゃにをする!?』ってくくっ、
わたしでもそんな事言わないよ…ふふっ」


この猫どうしてくれようか。


「うっさい!いきなり舐めるお前が悪い‼」


「え~だってますたーいい匂いするし」


「それは舐めたことと関係ないだろ‼」


「え~いいじゃん別に。
で、それよりもそんなに大声出しちゃっていいの?
疲れ過ぎて眼も使ってないみたいだし」


「誰のせいだ誰の‼」


「ますたー、せっかく言ってあげたのに、あ~あ…
ま、いっかこれから楽になりそうだし」


「は?それはどういういm…」
















「いっくん、何してるの?あとその子はだぁれ?」


「んな!?」




本殿の裏、つまり篠ノ之家の方から声がして…




振り向くとそこには…




束ねーちゃんが居た………

 

 

第八話

「いっくん、何してるの?あとその子はだぁれ?」


「んな!?」


振り向くと、束ねーちゃんが居た。







「た、束ねーちゃん、な、なんでここに?」


「ね?だから言ったじゃん、ますたーはドジだなぁ」


ウッそ…だろ…一番わかってくれそうだが、一番厄介な相手に見られた。


「え~と、ですね…え~その、なんと言いましょうか」


「いっくん、質問に答えて、どうしてその女の子から、いっくんの守護霊と同じ気配がするのかなぁ?」


クソッ、霊感もってるから誤魔化しきれないか…


「ほら、早くしなよますたー、遅いと嫌われるよ?早いのもアレだけど」


「やかましい‼こんな時に下ネタをぶっこむな‼」


ホント、こんな時にナニ言ってんだこの猫は!


「遅い?早い?確かにいっくんて足遅そうだもんね」


……うわぁ、純粋だなぁこの子…


「おぉう…ピュアっピュアな言葉が俺の汚さを浮き立たせるなぁ」


「ますたーのスケベ」


「話を振ったお前が言うな‼」


「でもソレの意味を理解できる四歳児って…プフッ」


こんのネコぉ…


「うるさい‼こちとら正真正銘 体は子供、頭脳は大人の20歳ソウルだぞ!」


「何を言ってるの?いっくんは正真正銘四歳の子供でしょ?それとも『生まれ変わった』とでも言うのかな?」


あははは~……墓穴ほった…どうしよう。


「ひゅ、ひゅー、ひゅー」フイッ


「そうだよ、ますたーには前世の記憶が有るよ」


「………」


「………」


「………」


「ちぇぇぇぇぇん!お前は!いったい!なんて事を!暴露してるんだァァァァァァ!」


言ったァァァァァァー! 僕が必死に隠そうとしていた真実を!包み隠さず言ったァァァァァァー!


「ふぅ~ん、その子"ちぇん"って言うんだ、で、"ちぇん"ちゃんの事も含めて、その前世の記憶って言うのを聞かせてもらおうか、いっくん。
いや、一夏おにぃちゃんの方が良いかなぁ?」


なんか、ものっそいイイ笑顔でこっちを見ている。


『目が笑ってない笑顔』って初めて見たぜ。







「さて、何処から話そうか…まず、俺は魔法が存在する世界から来た」


『ますたーの嘘つき』


『こっちの方が都合が良いんだよ』


「それってRPGみたいな世界?」

「あ~、いや、そうじゃなくて、何て言うか、『魔法という名の科学』って感じだね」


「?魔法の反対が科学でしょ?」


「え~と、俺達が居た世界はたぶん、この世界と分岐した世界だ。
分岐点は西暦2000年のある日。
俺達の世界ではその日、アメリカで核テロが起ころうとしたんだ。
だがたった一人の警官が超能力でそれを未然に防いだ。
そこから俺達の世界では魔法の研究がすすめられたんだ。
つまり俺達の魔法は普遍化された超能力なんだ」


「2000年が分岐なら、君はその世界の西暦何年から来たの?」


「2096年。第三次世界大戦から四半世紀以上たち、魔法の発見から百年近くがたった時代から来たんだ」


「え!?そんなに未来から来たの?未来ってどんな感じ?未来都市みたいなの?それともファンタジーな街?人類って宇宙に進出した?」


「いや、今とあんまり変わらないよ。
家電が多少進歩したくらい。
理由は何処の国家も魔法の研究に力を割いてたから。
あといくら研究が進んでいても、俺達の時代では魔法が使えるのは1000人に1人くらいだったよ」


「何故だい?魔法なんて言う凄い力が有れば宇宙なんて直ぐそこでしょ?」


「………束ねーちゃん、いや、束さん、俺もそう思うよ。
他にも同じ事を考えてる人はたくさんいたと思う」


「じゃぁなんで?」


「俺達の世界の魔法は、物理法則には逆らえない、万能じゃないんだ。
無から有は作れず、一を二にする事はできない。
そして何よりも、どの国家も魔法を兵器として考え、研究していたんだ」


そう、例えば。


「ある魔法は人間の体内の液体を気化し紅き花を咲かせる。
ある魔法は気体を強制的にプラズマ化し灼熱を作る。
ある魔法は全ての物質から熱を奪い絶対零度を作りだす。
ある魔法は重金属プラズマを爆心地から放射し幾千の敵兵を殺す。
ある魔法は海面を数キロにわたって陥没させ、敵艦隊を海中に引きずり込む。
ある魔法はアステロイドベルトの隕石を引き寄せ地上を破壊する。
ある魔法は有りとあらゆる物質を変換率100%でエネルギーに変換しその熱で全てを焼き、その爆風で全てを凪ぎ払う。
また、ある魔法はこの世の全てを塵に帰す。
確かに『暖気フィールド』『防音障壁』みたいな普段の生活でも使える物はある。
でもインデックス…魔法大全に乗っている魔法の半分以上は人を害する為の物なんだ」


「じゃぁ、第三次世界大戦って…」


「うん、束さんが思ってる通りだよ。
まぁ、さっき言ったような、高等魔法や、戦略級魔法っていう類いの魔法は普通の魔法師じゃぁ使えないから、そこまでの蹂躙は起こらなかったらしい。
でもさっき言ったような魔法を使える魔法師が一人でも居れば戦況は一変する」


「たった一人で…そんな、何万人も殺せるなんて、そんなの……」


「そんなの、人じゃないって?俺だって人に使った事はないけど使えるんだけどなぁ」


「え、いや、その」

束ねーちゃんがたじろいだ。


「落ち着いて、責めはしないよ。
確かにたった一人で、たった一回の魔法でそんなにたくさん、人を殺せるのは異常と言ってもいい。
でもね、彼らも、世界に十三人しか居ない、十三使徒と言われた彼らや、その他にも大規模領域魔法を使えた彼らも、そして俺も人間なんだよ」


「そ、そうだね、ごめんなさい」


「別にいいさ、俺達の世界でも、魔法を使えない人は、いや、魔法が使えても、一般の魔法師達はそう思って居ただろうからね」


「…………………」


「…………………」


「しんみりしちゃったね、次は橙の説明にしよう」


「うん、それを聞きたかったんだよ」


「ますたー、話長い。眠くなる」


「お前の説明なんだら起きとけ」


「あい」


「まず、橙は守護霊じゃなくて使い魔、もしくは式神と呼ばれる物だ」


「使い魔?式神?守護霊じゃないなら憑かれてるんじゃないの?」


「え~、長くなるからはしょって説明すると、魔法はいろんな分け方があるんだ。
今回は『古式魔法』『現代魔法』の二つに分けるよ」


「現代?古式?どんな分け方なの?」


「さっき言った警官が超能力で核テロを防いだ事件のあと、つまり魔法と言うものが認知されたあとに現代科学に従って開発されたのが現代魔法。
古式魔法っていうのはその事件以前からある魔法で、俗に『まじない』『のろい』『忍術』『祓魔術』と呼ばれる物の事さ。
現代魔法は基本的に事象に干渉する事に長けている。
一方で古式魔法は精神や霊的存在に干渉する事に長けている。
それぞれ例外はあるけどね。
橙みたいなのは古式魔法だね」


「その古式魔法で式神にしたの?どうやって?」


「家に居たら動物霊がなついたから鈴を着けたのさ」


「鈴?」


「忠誠術式。対象の精神に干渉して逆らえなくする魔法だよ」


「え?………………それは……」


「引かないでよ、橙には『術者に危害を加えない』ってやつしか掛けてないよ。
なー橙」


「ますたーは私を逆らえなくして夜な夜なあんなことやそんなことを…」


「え…………うわぁ………」


「待てやコラ、こんなガキの体でどないせいっつーの。
性欲の『せ』の字もねぇよ。
つーか、俺が元の体でもてめぇみたいなガキに欲情するかバァーカ」


「チッ」


「橙?橙さん?今舌打ちしなかった!?
なに?術者の人望下げるのは危害じゃないの!?」


「ますたーがヒキニートゲーマーみたいなこと言ってる」


「『 』の兄の方ってか?そいつぁ光栄だなぁ」


「ますたーは魔法を使える、つまり出し抜かれる方」


「黙れ、俺がその気になれば一人で透視、透かしやり放題だ」


「負けフラグ乙」


「てめぇ……」



プッと、吹き出すような笑い声が聞こえた。



「あははははは!君達、本当に仲が良いんだね」


「そりゃぁ」


「ますたーとはもう四年になるし」


「そう…一方的じゃなくて君は彼を慕っているんだね」


「そうだよ」


「あ、そうだ、俺の事は今まで通り、『いっくん』でいいよ、俺は『束さん』って呼ぶから。
さっきから俺の名前を呼ばないのって、なんて呼べばいいのか解らなかったからでしょ?
確かに、俺は中身は二十歳でも体は只の四歳児なんだ、対等に行こうよ、ね?『束さん』」


「うん、そうだね、わかったよ、『いっくん』」


「じゃぁ、そろそろ着替えないといけないから行くよ。
今日、話した内容は誰にも言わないでね」


「ちーちゃんにも?」


「うん、まだ早いかな」


「わかったよ。その代わり、また今度一緒に話そうよ」


「わかった、じゃ、行くから」


「バイバイ、いっくん、ちぇーちゃん」


「じゃぁね、束さん」


「束、バイバイ」


なんとか、協力者を作れたな。






物語が、動き出す。
 

 

第九話

俺が剣道を初めて数ヶ月が経った、体力はそれなりについて竹刀も振れる。


そしてただいまの時刻は4時半、学校が終わって生徒が下校し、家が近い子なら家に着く時刻だ。


何故いきなりこんな事を言うかと言えば、姉さんが一度帰って来て俺と篠ノ之道場へ向かうからだ。


今日は、その、なんというか、はい、
姉さんがキレておりますです。


怖えよ姉さん、少なくとも小学六年生が纏ってていい雰囲気じゃぁないってレベルだ。


「おい一夏!急げ、さっさと行くぞ!」


おお、怖い怖い。


『なぁ橙、何が有ったと思う?』


『知らない、ますたーが直接聞きなよ』


「竹刀とってくるよ」


「要らん!さっさと来い!」


え?何?今日って筋トレ?まぁ一応持っていこう。


「は~い」


と、言って玄関から出て母さんの車に乗る。


………空気が重い!


「千冬?何かあったの?怖い顔してるわよ」


ちふゆ の こわいかお ! いちか の すばやさ が がくっと さがった!


『ますたー、ばかでしょ』


……馬鹿なの?じゃなくて確定かよ


「嫌な事があったんだ。
クラスの男子と少し、な」


色恋沙汰かな?小六ならまぁ、あり得るのかな?


「そう、なら聞かないでおくわ」


「何か盛大に勘違いされてる気がする」







篠ノ之神社


「一夏、今日は稽古はしなくてもいい。その代わり束の所に行け」


は?あの姉さんが『稽古はしなくてもいい』だと?それに束さんの所って…まぁいいや。


「ん、わかったよ」












篠ノ之束・私室前


「え~と、ここでいいのかな?中に気配があるから良いとは思うけど…」


今現在、俺は束さんの私室の前にいる。
姉さんから言われた通り来たのだが、入ってもいいのだろうか?


「橙、どう思う?」


『そんなに気になるならさっさと入るか覗いて視なよ』


覗くのは何かアレだし…入るか


コンコン


「束さん?一夏です、入りますよ?」


ガチャ


「う~…………いっくん?」


中では束さんがベッドの上で泣いていた。


「どうしたの?束さん?」


俺はベッドの上の彼女に歩み寄った、すると。


「いっくぅん…いっくぅ~ん、うう~」


抱き付かれてベッドの中に引っ張られた。
え?なにこの状況?


「どうしたの?何があったの?俺でいいなら聴くから」


訳が判らなかったがとりあえず話を聞こうと思った。


「本当に?」


「うん」


「笑わない?」


「もちろん」


「………あのね……………」


Side out














篠ノ之道場


「おや、千冬ちゃん、一夏くんはどうしたんだい?」


「一夏は今、束の所に行かせています。
勝手なことをしてしまってすいません」


「ふむ、確かにそれは勝手な事だな。
だがそれは束が泣きながら帰って来た事に関係があるんだろう?」


「はい」


「何があったのかね?箒から束が泣きながら帰って来たとは聞いたが、それも今聞いたばかりでな」


「実は………」


Side out














私達は今年の春に六年生になった。
つまりはもうすぐ小学校を卒業するのだ。


そうなると多少は将来の事を考えなければならない。


というか学校が無理矢理考えさせるのだ。
早い話『将来の夢』なんて言う作文を書かされたのだ。


まぁ今回の作文の内容は将来の夢もしくは中学校で頑張りたいことだったのだが。


私は将来の夢なんてものはまだ無かったので中学校に入ったら剣道部に入りたいと書いた。


そして束は私の唯一の友人は、六時間目の陽の当たる教室の中ではっきりと明確に自分の夢を語った。


「……私は、今ある方法とは別の方法で宇宙にいきたいです……………
ロケットやスペースシャトルではなく、もちろん今現在計画されている宇宙エレベーターでもない方法で…………
私は宇宙にいきたいです……………………」


束の夢は宇宙に行きたいという物だったそれも『宇宙飛行士になりたい』というありふれたものではなく、自分の力で行きたいという物だった。


私は束ほど頭は良くない、しかし私にできることがあるなら手伝いたいと思った。


だが、それを笑う奴が居た。


ソイツはいつも成績が二番だった。
一番は言わなくても判るだろう、そう、束だ。


ソイツは束が居たからいつも成績が二番だった。
いや、違うな、束が悪いんじゃない、もっと努力しなかったソイツが悪いんだ。


ソイツはここぞとばかりに束の夢を笑い、扱き下ろした。


私は束の方を見た、束は泣きそうになっていた、ソイツはそれを見て、また笑った。


私の中で何かが切れる音がした。


気付いたら私は席を立ってソイツの襟を掴んでいた。


そして殴ろうとした、しかし寸での所で担任教師に止められた。


その後、結局は私は殴らなかったし全面的にソイツが悪いということで私の方の説教は短くすんだ。


放課後、まだ少しグズってる束の元へ行った、すると束はこう言ったのだ。


「いっくんなら、いっくんなら絶対に解ってくれるはずなんだ、いっくんなら……」


その後は一緒に下校した、私の家と篠ノ之神社との分かれ道から自分の家まで急いで帰った。


早く、束に一夏を会わせてやるために……


Side out













篠ノ之束・私室


「………って事があったんだよ」


ふむ、それで泣いてたのか。


「束さん、僕は聖人君子でもなければアニメの主人公でもないから、貴女を励ますセリフなんて自分じゃ思い付かない。
だから僕は束さんが笑われた事に対しては『気にするな』としか言えないよ」


「でも……」


「束さんの夢は笑われたくらいで諦められる夢?」


「そんなわけ無い‼私は、私は宇宙に行く!必要な物も考えてる!
でも、でも、それでも悔しいじゃないか…」


「知ってる?飛行機を創ったライト兄弟も最初は馬鹿にされていたんだ『そんなこと出来る筈がない』ってさ。
でも彼らはそれをやってのけた。
そして彼らが創った『飛行機』は百年の歳月をかけて、やがて宇宙まで届いた。
だから、束さんの夢を理解できない有象無象の言葉なんて、無視してしまえばいいのさ。
束さんには俺が生まれ変わった人間で、前世があるって言ったよね?」


「うん」


「僕は昔からそうしてきたんだ。
前世での友人には呆れられたけど、それを表に出さなければいいんだよ」


「…有象無象……無視……」


もしかしたら、ここでこんな事を言えば、篠ノ之束という人間を歪めてしまうかもしれない。


「そう、だね、そんな奴等は、無視すれば、いい、よね……」


「ああ、そうだよ」


でも、今の俺には目の前で泣いている女の子を励ます事の方が大切だ。


「ねぇ、いっくん」


「何?束さん」


「私の夢、宇宙に行くって夢、いっくんは手伝ってくれる?」


「もちろんだよ」


「良かった、私の、私といっくんの、夢の翼、一緒に創ろう?」


「わかったよ、ところでその翼の名前は決まっているの?」


俺はその答えを知っている、それでも聞いた。


「うん、翼の名前は『無限の成層圏』、『インフィニット・ストラトス』」


「いい名前だね」


「そう………でしょ………」


泣き疲れて寝てしまったようだ、すうすうと穏やかな寝息をたてている。


きっと自身の夢を肯定してほしかったのだろう。


ところで、今の俺は束さんの抱き枕なんだが…
どうしようか、この状況?
 

 

第十話

今現在、俺は自宅から篠ノ之神社までの道を走っていた。


今日は三月十日、昨日は姉さんの卒業式だった。

卒業式『だ』ではなく『だった』、そう既に終わったことだ。


昨日の卒業式には父さん母さんも俺を連れて出席していた、昨日の時点では。


おかしいと思ったのは今日の朝だ。

いつも俺を起こしに来る姉さんが来なかった。

まぁそれはいい、俺も前世では卒業式の翌日で早起きなんてしなかった。


自分で起きたのが8時半、俺は幼稚園も保育所も行って無かったが姉さんに合わせて7時に起きていた。


そのあとリビングへ行くと姉さんが膝を抱えて泣いていた。

俺が『どうしたの?』と聞いても姉さんは『何でもない』の一点張りだった。


そこで俺はふと気づいた『母さんがいない』と。

父さんは8時に家を出るから8時半現在居なくてもおかしくはない。


しかし、いつもこの時間はリビングの前の庭で洗濯物を干しているはずの母さんがいない。


俺は悟った母さんと父さんは失踪したのだと。


俺は姉さんに問いかけた『母さんはどこ?』と。


姉さんは顔を上げて言った『…母さん達は…いなくなったよ…私達を…捨てたんだ…』と、その後はまたうずくまって泣いていた。


俺はどうしていいか判らなかった。
どうしてこのタイミングなのか?
何故あの二人は失踪したのか?


テーブルの上に紙が置いてあった。

母さんの筆跡で書かれていた、どうやら二人からの置き手紙らしい。


その内容は以下の通りだった。
[千冬へ、この手紙を読んでいるということは、既に私達は発った後だと思います。
私達はある事情で此所を離れなければなりません。
あなた達を置いていく事はとても心苦しいのですが、それでもあなた達を危険に晒す訳にはいきません。
柳韻さんに話はつけてあります、後の事は柳韻さんに頼ってください。
最期に貴女の晴れ姿を見ることができて本当に良かった。
一夏の成長を見守れないのが少々心残りですが、それは貴女に任せます。
二度と会うことは叶わないでしょう。
どうか自由に正しく生きてください。
母より]


俺は取り敢えずこの事を知っているのであろう柳韻さんにこの事を伝えるべく、篠ノ之神社へ向け家を出た。













「HAHAHA!四歳児の足でこれはきついなチキショウ!」


『まだ半分じゃないか、普段の稽古よりマシでしょ』


確かにそうである、しかし…


「おいおい、何をいうのかね?いくら転生者といえど、失踪する事が判ってたとしても、育ての親がいきなり失踪してなおかつ死んだともなればかなりショックなんだよ?」

さっきから無理やりテンションをあげようとする度、母さん達の顔が、姉さんの泣いた顔が、浮かぶのだ。


『死んじゃってるの?』


「ああ、たぶん、いや、間違いなくな。
クソッ、こんなことも解ってしまうなんて、この目も考えものだな」


さっき、家を出る前、俺は父さんと母さんの情報を追った。


もしかしたらまだ近くに居るかもしれないと……


しかし現実は非情だった。

父さんと母さんの情報を見つける事はできたが、そのエイドスを視た俺は言い様の無い感覚に襲われた。


エイドスの情報が、〔生〕から〔死〕に書き変わっていたからだ。

『二人が家から出たとき気づかなかったの?』


『俺の目はいまのところは意識がある状態でしか知覚できない』


俺は自己修復術式だって使えるが、それだって魔法科主人公と違いアクティブトリガーだ。

彼のように反射的に発動することは不可能だ。


『そう、ならしょうがないね』


「お前は気づかなかったのか、橙?」


『私も寝てた、ますたーに合わせてる』


「そうか」


「……………」


「……………」


その後は互いに無言だった。



















篠ノ之神社・篠ノ之家玄関前


「柳韻さーん!いますかー!?柳韻さーん!」


「はーい!」


束さんの声だがしてドタドタと足音が近づいてきた。


ガラガラと音をたてて玄関が開いた。


「やっぱりいっくんだ!どうしたの遊びに………何が有ったの?」


焦った俺の顔を見て束さんが聞いてきたが…ここで答えるべきか否か…答えよう、束さんには隠し事は通じないだろう。


「父さんと母さんがいなくなったんだ!柳韻さんを呼んで!」


「!、わかった。すぐに呼んでくる!」


束さんは驚いた顔をして家の中へ走っていった。


三十秒ほどして柳韻さんが出てきた。


「一夏君、君のお父さんとお母さんが居なくなったっていうのは本当かい?」


「うん、朝起きたら姉さんが泣いてて『母さん達は居なくなった』って言ってテーブルの上にも手紙が在って……」


「わかった、ここで…いや、束、一夏君をと部屋で待っていなさい。
私は千冬ちゃんを連れてくる!…………(何故だ !?早すぎる!)」


最後に何と言ったかは判らなかったが柳韻さんは車で走っていった。


「いっくん、中に入ろうか」


「………うん」



















篠ノ之束・自室


「いっくん、いったい何があったんだい?」


「さっき…言った通り…両親が失踪した」


「ふぅ~ん、そんなに焦ることなの?いっくんにはメティスサイトが有るでしょ?」


束さんには既に魔法の前提知識はある程度教えている。


「……………はぁ、無駄だよ無駄、もうやったあとさ」


「いっくんの目って距離も如何なる防壁もすり抜けるんじゃないの?」


「そうじゃない、探したって無駄なんだよ、だって……もう、死んでるんだもん」


「え…………そんな、そんな事って……」


「事実、なんだよ。エイドスの生死の情報が、〔死〕に、なってたんだよ……二人は、もう………いないんだ」


俺は泣きそうになりながらも答えた。


「じゃあ…二人の亡骸は?ちゃんと、弔ってあげないと……」


「もう…それも無理だよ……二人を構成する肉体の…座標情報がバラバラの座標を示している」


「なんで、なんであの二人が……犯人は…わからないの?」


「無理…だよ、俺の目も万能じゃないんだ…犯人の残したものが在れば判るかも知れないけど…それも…もう無理だよ…無理なんだよ!
クソッ!なんで!なんでこんなことになってるんだ!
この目が…この目と魔法が有りながら…俺は…俺は!」


話したら楽になる?違う、いっそう現実を突きつけられるだけだ。


「いっくん………」


俺は束さんの腕に抱かれていた。


「束…さん?」


「いっくんは前に自分はもう二十歳だって言った、きっと今のいっくんは、ちーちゃんを守らないといけないとか、いろいろ考えてると思う。
だけど、悲しい時は泣いていいんだよ。
私もお祖父ちゃんがいなくなったとき、とっても悲しかった。
だから、泣いたって、いいんだよ」


「たばねさん……」


俺はそのあと泣き疲れて寝てしまった。


Side out
















「寝ちゃったか…」


いっくんは前世の記憶が有るって言うし、ときどき大人っぽい所を見せるけど
寝顔とかは年相応だなぁ。


「束、ますたーの事でちょっといい?」


空気から溶け出たかのように人型の輪郭が現れた。


「どうしたの橙ちゃん?」


この娘は橙ちゃん。
いっくんの式神らしい、元は動物霊らしいけど、今は可愛いネコミミ幼女にしかみえないんだよねぇ。


「ますたーは今、精神的にとても弱っている。
私が全力で抗えば術を壊せるくらい。
ますたーは大人だけど、大人だからこそ弱ってる。
千冬と違って、両親の死を知っているのも大きい。
だから、ますたーを気にかけてあげて、もちろん千冬も」


「うん、わかった、橙ちゃんはいっくんの事が大切なんだね」


「ますたーが居るから、私が居る。
ますたーは私の存在意義で、ますたーは私の存在の前提、だから…」


「大丈夫だよ、いっくんもちーちゃんも私が元気づけてあげないとね」


「まかせた」


橙ちゃんはそう言って今度は空気に溶けるように姿を消した。


もうすぐお父さんがちーちゃんを連れてくると思うし、二人を支えてあげなきゃね!

 

 

第十一話

あの日、父さんと母さんがいなくなって数ヶ月が経った。


俺と姉さんは今篠ノ之家でお世話になっている。

そのおかげか姉さんはある程度は回復しているようだ。


だが俺はそういうわけでもない。

姉さんは知らないが俺は二人の死を識っているから。

今の俺は延々とISの理論をまとめたり、箒の相手をしたりして、なにもしない時間を作らないようにしている。

そうやって悲しさを誤魔化しているのだ。


一応、姉さんの前では何も知らない振りをしていて、束さんも協力してくれている。


そろそろ3時くらい。

箒が幼稚園から帰って来る頃だ。

俺は通ってない、というかこの近くの幼稚園や保育所は今いっぱいいっぱいらしい。
要するに待機児童って事だ。

幸い柳韻さんの奥さんと妹さんの雪子さんが居るからそこまででもない。


ガラガラと音がした、箒が帰って来たようだ。


「いちかーかえったよー!」


「お帰りー箒」


いやぁ、園児服の箒、かわいいなぁ…


『ますたーって『ロ』から始まって『ン』で終わる人種なの?』


『橙、何を言っているんだ?『可愛い』は唯一絶対不変の正義だぞ』


『あっそ』


「いちか、どうしたの?おなかいたいの?」


おっと、橙と念話してたらマイラブリーエンジェルに心配を掛けちまったZE!


「んーん、なんでもないよ」


「ねぇねぇ!きょうはなにする!?うの?じんせいげーむ?」


箒は姉に似て優秀だ。

この前やったゲームもちゃんとルールを理解してた、しかし…


「それ二人でやって面白いかなぁ?」


UNOは二人でやるとガチの読みあいになるし、人生ゲームは論外だ。


「じゃぁなにする?」


「う~ん……そうだ!束さんの部屋にトランプゲームの本があったと思うんだ」


「かってにかりておこられない?」


ああ、この娘はなんて真っ直ぐなんだ!だが俺は敢えてこう言おう!


「箒ちゃん…」


「なに?いちか?」


「バレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ…」


「?」


さすがにまだ判らないか。


「バレなきゃ大丈夫ってこと、じゃ、取ってくるよ」


「わかった」









幼児窃盗中…









「箒、持ってきたよ」


何か犯罪者扱いされたような気がするが気にしない気にしない。


「どれが面白そう?」


俺が箒に本を渡すとページをパラパラとめくりだした。


「ん~…………………これ!はなふだみたいでたのしそう!」


そう言いながら箒が俺に見せたのは…


「……そう来たかぁ……よりにもよって『ポーカー』かよ…」


まぁ、確かに花札とポーカーは役を揃え、より強い役を揃えた方の勝ち、という点など共通点が多いが…


つーかこの本イカサマのやり方まで書いてやがる。

作者は何がしたいんだ?


「う~ん…これやりたいの?」


「だめ?」


………この顔を見て駄目って言える奴はこの世に居るのだろうか?


「いいよ…そうだ!箒、ゲームをするときのルールを決めよう!」


俺は箒にそう言った。

何故かって?ポーカーと聞いて某最強ゲーマーが浮かんだからだ。


「るーる?」


「そう、ルール、あるお伽噺の神様が決めたルールで〔十の盟約〕っていうんだ。

【一つ】この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる。

【二つ】争いは全てゲームにおける勝敗で解決するものとする。

【三つ】ゲームには、相互が対等と判断したものを賭けて行われる。

【四つ】゛三゛に反しない限り、ゲーム内容、賭けるものは一切を問わない。

【五つ】ゲーム内容は、挑まれた方が決定権を有する。

【六つ】゛盟約に誓って゛行われた賭けは、絶対遵守される。

【七つ】集団における争いは、全件代理者をたてるものとする。

【八つ】ゲーム中の不正発覚は、敗北と見なす。

【九つ】以上をもって神の名のもと絶対不変のルールとする。

【十】みんななかよくプレイしましょう 。

ってね」


俺は言いながら紙に書き出した。


「どういういみ?」


「んーとね、簡単に言うと喧嘩したら駄目ですよ。
喧嘩じゃなくてゲームで決めましょう。
ゲームでずるをしてバレたら負けですよってことだよ。
盟約その3、4、5、6、7、9は無視していいよ」


さすがに賭けはマズイしな。


「わかったー!」


「じゃぁ本を見ながら一回やって見よう、簡易ルールでいいか?」


「うん!」


よし、やるか。あ、忘れてた。


「おっと、その前に一つ、この十の盟約の中でゲームをするときは掛け声をいうんだ『盟約に誓って』ていうふうに」


「あっしぇんて?」


あ、くっそ可愛い。


「そうそう、じゃぁゲームを始めよう。
盟約に誓って!」


「あっしぇんて!」


「親どうする?ジャンケンする?」


「いちかでいーよー」


「じゃぁカードくばるぞ」


俺と箒の前にカードを五枚ずつ配る。


「どうだ?役はあるか?」


俺は5のワンペアだ。


「ん~とねぇ…あった!」


「どうだ?変えるか?」


「このままでいーよー」


ワンペアかな?ツーペアかな?


「じゃぁ……オープン」


俺のカードは
スペード5
ハート5
ダイヤ3
ダイヤ2
クローバー9だ。


一方、箒のカードは
ハートA
ハートK
ハートQ
ハートJ
ハート10である。


……………は?


「むふー」ドヤァ


「うそだぁ……ロイヤルストレートフラッシュって……1/640000の確率だろ…」


「わたしのかちー!」


楽しそうだしいいか。


「ねーねーいちかー!もっとやろー!」


「ああ、いいよ」


そのあと俺達一時間半ぐらいポーカーを続けたのだが……箒が強すぎる。

なんなの?『奇跡を起こす程度の能力』でも持ってんの?一応は神社の血筋だし…


「むふー」


ああ、ドヤ顔の箒も可愛いなぁ(泣)。


チキショウ、俺の勝率五分っておかしいだろ?五割じゃないぞ?五分だぞ?5%だぞ?なんで勝てねぇんだよ全部が全部ツーペア以上の役とかおかしいだろ!


ガラガラっと音がした、姉さんと束さんが帰って来たようだ。


「一夏、帰ったぞ……どうした?」


「箒ちゃん、いっくん、帰ったよ………どうしたの?いっくん?」


負け続けの俺はorz状態だ。


「いちかってねーぽーかーすっごくよわいんだよー!」


「お前がつよすぎるんだよぉ…」


と言うと二人の雰囲気が少し変わった、と言っても姉さんはあまり変わってないが。


「いっくん、ちょっとこっちに来ようか」


「束、任せるぞ」


え?なにこの空気?



















篠ノ之束・私室


部屋に入るなり壁ドンされた、わざわざしゃがんで、え?なに?


「いっくん、何してんの?いや、別に私の部屋からあの本を持っていったのは構わないよ。
いっくんには部屋の本を好きにしていいって言ったからね。
でもさ、箒ちゃんになに仕込んでんの?
て言うかあの机の上の紙はなに?
アレで何を要求したの?変態なの?」


「ち、違いますよ!そんなことするわけ無いじゃないですか!あの本を持っていったのは俺ですけど、その中からポーカーを選んだのは箒です!」


「本当に?」


「本当ですよ!」


「そう、ならいいけど」


「それに箒つよいですし」


「意外だね」


「いや、もう、ホントそうですよなんなんですかあいつのひきのよさありえないでしょぜんぶツーペアいじょうのやくとかマジでありえないしかもあいついちじかんはんのあいだにロイヤルストレートフラッシュさんかいストレートフラッシュよんかいフォー・オブ・アカインドごかいとかありえないロイヤルストレートフラッシュにいたってはろくじゅうよんまんぶんのいちなんですよ?わかりますかたばねさんならわかりますよねぇ!!」


「お、おぉう、く、悔しいのはよく判ったよ、いっくん」


あ、忘れてた。


「束さん、昨日考案した理論纏めときました、見ますか?」


「あ~アレね…他の案も考えてみたんだけどさ【~~~~~~~~~~~】。
要約するとこんな感じなんだけど、どうだい?」


「いや、そこって結局【ーーーーーーー】って事でしょ?
ならこっちの方が【::::::::::::::::】だから【===========】でいいと思うんですが。
て言うかいいんですか?学校でそんなこと考えてて?」


俺はふと思った事を聞いた。


「ふふふ、いっくん、私を誰だと思っているんだい?
そこら辺の有象無象とは違うのだよ」


ああ、そうだ彼女はかの天才篠ノ之束なんだった。


「それにもう少しでISの基礎理論は完成するじゃないか。
いっくんのお陰だよ、いっくんが居てくれたからこそ此処までこれたんだ」


「ISの基礎理論の殆どを考えたのは束さんだよ」


「ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


と言って抱きついて来た、束さんは抱き付き癖があるのだろうか?


ガララ!


大きな音を立てて部屋の引き戸が開けられた。


「おい、貴様、何をしているんだ?
いつまで経っても戻って来ないと思えば、こんな暗い部屋で、私の弟に抱きついて…」


サムライが居た、そしてその背後には般若ががががががががgagagagagag…


「おい、聞いているのか?束?まぁ、いい。
一夏、直ぐに終わるからな、待っていてくれ」


束さんの後ろ襟をムンズと掴んで、ものすごくイイ笑顔で姉さんはそう言った。


「え、ちょっ、まっ、待ってよちーちゃん、これには深い訳がっ、い、いっくぅん!助けて!いっくぅん!ああ!」


ピシャァン!と勢いよくドアが閉められた。


ガララ!と別の部屋の戸が開けられてまたピシャァン!と閉まった………


ああっ!ちーちゃん!やめて!お願いだから!ちぃー!ちゃぁぁぁぁーん!


うるさぁい!人の弟に貴様はぁ!


聞こえない聞こえない、俺には何も聞こえない………


よし、箒の所に行こう。









幼児移動中











「箒、待たせたな」


「さっきからなにかきこえるけどなにかあったの?」


「いや、何もなかったよ、まだポーカーする?」


「うん!」


ああ、やっぱり箒は可愛いなぁ!俺の癒しだよ。


この後のポーカーも箒の圧勝だったロイヤルストレートフラッシュのニ連続は絶対におかしいと思うんだ…


【俺の幼なじみがポーカーが強すぎる件について】ってタイトルでラノベ出せそうだよ… 

 

第十二話

箒とポーカーをした日から二週間が経った日曜日、アレから箒はギャンブル系のゲームをいろいろやっているが…強すぎる、将来はギャンブラーになりそうで怖い。
ヤベェ、束さんに殺される。

ああ、そうだった、ISの基礎理論が完成したんだった、まぁ俺がこの家に来た時点で七割は完成していたのだが…

残りの三割をUCやら00やらSEEDやらアルペジオやらの知識で埋めて(『必要な知識』と曖昧な事を言ったせいでMY反応炉からメテオールまでしっちゃかめっちゃかな事になっている)完成した。

今日の朝はいよいよ大詰めだったそのせいで徹夜だ、現在時刻朝八時。

という訳で束さんの所に行こうかな。










幼児移動中











コンコン

「束さん、居ますか?」

………………………気配があるのに返事がない、寝てんのか?

「束さん?入りますよ?」

ガラガラ

引き戸を開けると案の定寝てた。

まぁ昨日は遅くまで何かやってたみたいだし、駄菓子菓子‼

こっちは徹夜だぞコラァ!?

ゆさゆさ…

「束さん、起きてください、昨日話してた所纏めましたよ、束さん?」

ゆさゆさ…

「おーきーてーくーだーさーいー!」

ゆさゆさ…

全然おきねぇ…イタズラしようかな。

プニプニ…

あ、ほっぺたやわらけぇ。

プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ…

「うぅ~ん」

起きたかな?

ゴロン…

寝返り打ってまた寝だした…

「どうしてくれようか」

アスタリスクの大艦巨砲主義娘みたいに鼻つまんだら起きるかな?

ムニ。

さぁこれで起きるかなぁ……………………

「ん~う~ん………………ん?」

パチッ

あ、起きた。

「ようやく起きましたか束さn………」

「あ~いっくんだ~いっく~ん」

ガバッ!

ベッドに引っ張り込まれた、何かデジャヴ…じゃなくて!

「束さん!起きてください!」

「ん~あと七二時間…」

「三日も寝る気かアンタ!?」

「いっくんの抱き心地さいこぉ~スゥスゥ」

「寝るなぁ!起きろぉ!」

「うるさいなぁ、あと五分…」

「ですから!ISの基礎理論が完成したんです!」

「ん~………ん?今何て言った?」

「ISの基礎理論が完成しました」

「え?」

あ、束さんのこの顔めっさおもろい。

「ほら、早く起きてください、穴がないか確認してください」

「ん、判ったよ」

ところで…

「さっさと離れて貰えませんかね?」

「おやおや、いっくん、私の中学生ぼでぃに悩殺されちゃった?」

「今の俺には性欲はありませんよ、魂と体が密接に結び付いている証拠です」

「なら、もうちょっと…」

「今は朝の八時すぎ、姉さんたちもそろそろ起きてきますよ?姉さんに見られたらぬっ殺されますよ?」

「…………………」ガクガクブルブル

おぉう…あの件はすっかりトラウマのようで。

「いっくん、三途の川って見たことあるかい?」

「あいにく俺は渡らずこっちに来ましたので」

「ああ、そうだったね」

「ほら、離れて」

「はぁーい」

束さんはもぞもぞとベッドから出て大きな伸びをした。

「ん~!んっ!」

「早く朝ごはん食べましょう」

「着替えるからちょっとまってぇ~」

「先に行きますよ」

「いっくんなら見ててもいいのに」

「アンタは俺をなんだと思ってるんだ…」

「かわいいかわいい共犯者?」

ああ、そうかよ。

「じゃぁ箒は?」

「私の天使!」

それは解る。

「姉さんは?」

「私の嫁!」

だめだこのひとはやくなんとかしないと。

「あげませんよ」

「いっくん、それって『娘はやらんぞ!』ってやつ?」

「どちらかと言うと妹?」

「なかなかに面白いことを言うね」

と言いながら束さんは服を脱ぎ初め…

「待て待て、脱ぐな脱ぐな、もうちょっと恥じらいを持ちなさいよ貴女」

「いっくんならいいって言ったのに…」

「先いきますからね」

「いっくんのイケズ」

「やかまし!」

ピシャァン!

ふう、ナニ考えてるんだあのひと。

ふむ、姉さんと箒も起こそうかな。

部屋の並びは箒、束さん、俺、姉さんになっている。

ちなみに篠ノ之家はアホみたいに広い。
俺と姉さんに一つずつ部屋を渡してもまだ余っている。

しかも道場の隣にまた別の建物がある。
こっちは昔門下生が住んでたとかどうとか。

もしかして神社ってのはカムフラージュで此処って武士か何かが住んでたんじゃね?

たしか女性用の実用刀も無かったっけ?

そのうえ隣の山には旧日本軍の物とおぼしき地下空間まである始末…本当にどうなってんのかねぇ?

ガラガラ…

なんて考えてると姉さんの部屋が開いた。

「おはよう…一夏」

眠そうに目を擦る姉さんも可愛いなぁ。

「ん、おはよう、姉さん。箒起こして来るよ」

「束は…?」

「たぶんもう起きてる」

「そうか…先行くぞ、ふぁぁ」

「うん」

姉さんが起きてるなら後は箒だな、起こすか。


コンコン…

「箒?起きてる?箒?」

こっちはまだ寝てるみたいだ。

「箒、入るよ」

ガラガラ…

うん、寝てる、この前は開けた瞬間『ばぁ!』ってやられたからな。

ゆさゆさ…

「箒、朝だよ、起きて」

「ん~わかった」

箒は寝起きはいいんだよね。

「きがえさせて~」

「はいはい」

でも起こすと着替えを手伝わされる、可愛いからいいけどね。

まず上着を脱がせる。

「手上げて」

「んー」

で、パジャマを脱がせたら別の服を着せる。

「はい、下ろしていーよ」

「ん」

んで、パジャマのズボンを脱がせて。

「ズボン脱いでー」

「んー」

で、別のズボンをはかせる。

「んっ!」

で、終わり。

『ますたーってホモ?』

いきなりだなこいつ。

『なんでだよ』

『淡々としてる』

『ガキは範囲外だし性欲ねぇし』

『ふぅーん』

「箒、行くぞ」

「んー」

箒はまだ眠いのかさっきから『ん』しか言ってない。

ガラガラ…

開けっ放しだった箒の部屋から出ると同時に隣の部屋が開いた。

束さんと目があった。

「いっくん、変なことしてないよね?」

「もちろんです」

「ならいいや」

ふう、少しビビったぜ。

「おはよう箒ちゃん」

「んー、おはようお姉ちゃん」

「早くいきますよ」

「解ってるよいっくん」

「ん」

そのあと俺達は篠ノ之家の居間で朝食を食べた。

















篠ノ之束・私室

「はい、これ昨日の分です、これで理論上はISが造れます、まぁ一切の実証実験をしてないので造るのには相当のトライ&エラーが必要ですが」

「おお、さすがはいっくんだ」

「で、これどうします?あまりお薦めできませんが発表しますか?」

「う~ん………………どうしよう?」

「俺としてはこのまま二人でやりたいのですが…まぁ試しに大学にでも送りますか?たぶんパクられますが」

「そうだよねぇ、私達にはバックがないからねぇ、場所もないし」

「場所ならありますよ」

「え!?どこに!?」

まぁ、知るわけないよな。

「隣の山の地下に旧日本軍の物と思われる施設がありますよ」

「本当かい!?」

「ええ、規模から考えると工場の類いでしょう。
何十年も昔の物なので機材は期待できませんがスペースは十分なはずですよ」

「じゃぁ、行ってみるかい?」

「ええ、行きましょう、ですが姉さんと箒をどうするか…」

「大丈夫、なんとかなるって」

「そうですかね?」

「私が先に行くから二十分後に…どこにしようか?」

「じゃあこの山のふもとで」

「はいはーい」

まぁ神社の下から隠し通路があるけど先ずは正規ルートだよね。

さぁて!面白くなってきたぜ! 

 

第十三話

「………束さん、開けますよ?」

「大丈夫?トラップとかない?」

俺達は今、例の旧日本軍の工場の扉の前に居た。

「確かにそうですね、ちょっと待ってください」

俺はメティスサイトで工場内を見た、トラップは…たぶん無い。

「トラップはたぶんありません、橙を先行させますか?」

「ん~時間がないし橙ちゃんに悪いよ」

「了解、この鉄の扉は錆び付いてるので破壊します、後で魔法でなんとかするので心配はありませんよ」

さてどうやって破壊しようかな?ドアに高周波ブレード掛けるか、圧切で破るか…高周波ブレードでいいか。

「束さん、ドアに高周波ブレードを掛けて錆びと蝶番を外すので耳を塞いで下さい」

「わかった」

よし塞いだな…

高周波ブレード、キャスト。

キュイィィィィィィィィン

と耳障りな音がして扉が振動し初めた

扉の回りに障壁を張ったので扉が沈むことはない。

パキィィン…

という音がした、蝶番はずれたかな?

「いっくん…まだかい?」

かなりキテるようだ。

「たぶん、外れました」

よし、じゃぁ後は移動魔法で…

ズズズズズ…

よし開いたな。

「束さん入りましょう」

「あ、灯り忘れちゃったよ」

「魔法でなんとかしますよ」

「ルーモス?」

「そんなものじゃなくて光を屈折させて照らすんです」

「ふぅ~ん便利だね」

「魔法は万能じゃぁありませんよ」

「俺が先に入ります」

ファランクス、キャスト。

「バリアーかい?」

「ええ、ファランクス、究極の障壁魔法とも言われています。
防御という観点では他にも肉体不壊化魔法ジークフリート等もありますが、今はファランクスの方がいいでしょう。
ジークフリートは体力を大きく消耗するので」

「そうかい」

緩い坂になっている通路を下へ下へと歩いていると不意に大きな空間に出た。

「お、おお!すごい!すごいよいっくん!」

「これは、また……凄いものを見つけたなぁ」

目の前には戦闘機があった。

かの有名な、日本人であれば誰もが一度は聞いたことがあるであろう戦闘機。


三菱重工業、零式艦上戦闘機
通称『零戦』

やはりここは旧日本軍の施設だったようだ。

部屋は百メートル四方で高さ四十メートル、六面を鉄筋コンクリートで補強されており下に同様の空間が三つその下に……地底湖?の五階層だ。

しかも地底湖以外の四階層はエレベーターらしきシャフトを中心に螺旋階段のように配置され崩れ落ちるのを防いでいる。

隠し工場にしてはかなり大がかりな方、というか通常の工場でも此処まではしない。

いや、できない、明らかにオーバーテクノロジーじみている。

さらに他にも多くの戦闘機があった。

紫電、紫電改、烈風、一式戦闘機、雷電、疾風などの旧日本軍の戦闘機を初め何故かF-2やらF-15Jイーグル、F-3等があった。

どういう事だ?此処は旧日本軍の施設じゃないのか?

何故いまの自衛隊の機体が在るんだ?

しかもF-3に至っては最新鋭機だぞ?

そんな事を考えていると束さんがいなかった。

「おお~い!いっくん!事務室見つけたから来て~!」

事務室か、何か判るかもな。

「今いきまぁーす!」
















事務室

「いっくん、見て見て!戦闘機とかの設計図だよこれ!」

束さんが渡してきたファイルには確かに戦闘機の設計図だった。

「あ!こっちは戦艦だよ!」

と言って渡されたファイルは戦艦の図面だった。

まぁそれはいい、だが問題はそのファイルのタイトルだった。

ファイルNo_XX戦艦アイオワ

………は?ますます解らないこの施設はなんなんだ?

思考を巡らせる俺とはうってかわって束さんはファイルを引っ張り出していた。

「いっくん!これ!見て!」

次に束さんに渡されたファイルのタイトルは…
【兵器研究報告書その十】

内容は連合国と枢軸国の兵器を比べ、更に枢軸国側の兵器の改良点と連合国側兵器の欠点を纏めた物だった。

「いっくん手記があったよ」

「なんて書いてあります?」

「この手記から判るのは…ええ!?嘘でしょ!」

かなり驚いた様子だ。

「どうしたの?」

「ええっとね、この手帳は私のお爺ちゃんの物らしいんだ」

「は?」

「この施設は第二次世界大戦以前からある施設で主に兵器の研究をしていたらしいんだ。
そして世界大戦以降も旧日本軍残党が研究を続けてたみたい。
そしてこの施設の最後の管理者が…私のお爺ちゃんだったみたい」

何?旧日本軍残党だと?

「お爺ちゃんが亡くなられたのはいつ?」

「えっと、五年前」

「その手帳の最後の日付は?」

「……………五年前」

「死因は?」

「えっと、確か、急性心筋梗塞」

つまり五年前、束さんのお爺ちゃんが死の間際まで此所を管理してたのか。

「どうするの?束さん?」

「どうもしないよ。それに五年前までここに来てたなら機材を使えるかもしれないじゃないか!」

「わかった。まずはこの施設の探索…と言いたいが一応ここである程度情報を集めてからにしようか」

「何故だい?いっくん」

「生物兵器、細菌兵器があったら不味いでしょう?」

「ああ、確かに。もしあったら?」

「ムスペルヘイムを使います」

「魔法?」

「ええ、気体を強制的にプラズマ化して高熱を作り出す魔法です」

ヒャッハァ!汚物は消毒だぁぁ!!!

「その時はお願いね」

「ええ、任せて下さい」

そのあと俺達は手帳を調べ、ファイルを調べ、ここで一切NBC兵器を研究していないと確信が持てたので地下に行くことにした。

地下へは階段とエレベーターと大型エレベーターがあったが、後ろ二つは電源がなく使えないと判断し階段で降りる事にした。

階段は入り口の向かい側にあり戦闘機の合間を百メートル進んだ所にあった。

途中でF-35AやらMQ-1プレデター等の最新機があって少しビビった。













地下二階

…………………なんでさ。

「なんでここにメーヴェが在るんだよ!?」

メーヴェ、この名前だと解らない人が九割以上、というか『コレ』の正式名称知ってる奴なんて1%にも満たないかもしれない。

なんせ劇中で一回しか名称が出てこないのだ。

「メーヴェ?」

「ああ、コレの正式名称はメーヴェ。
束さんは見たことない?」

メーヴェ、解りやすく言うと【『風の谷のナウシカ』でナウシカが乗ってた『アレ』】である。

さて皆さん、もうお分かりだろう。
俺の目の前にある物体がどんな形をしているのか!

手摺のついたエンジンブロック!
そこから左右に伸びるグライダーのような一対の翼!

それが目の前に翼を折り畳んだ状態で階段横に百均のラックみたいな格納庫に縦に五機、それが六列、合計三十機…なんでやねん。

「風の谷のナウシカが乗ってるやつだよ」

「うーん…あんまり覚えてないなぁ…。
どうやって使うの?」

「エンジンブロックの上に乗る、それだけ」

「は?パイロット剥き出しだよ?」

「コレはそういう物なんだよ」

お、近くに資料が置いてある、なになに…

〔試作動力空挺機【雪華】〕

しさくどうりょくくうていき………せっか…でいいのか?

〔開発目的フィリピン進攻用、技術提供ナチスドイツ〕

なるほどなるほど、ナチスの変態兵器か…

〔しかし軍上層部が進攻を早めたため、生産間に合わず〕

うん、よかった、子供達の夢が人殺しに使われなくて。

まぁ、時系列的に言えば、雪華を知っていた誰かがメーヴェのデザインに関与したか、まったくの偶然だろうけどな。

階段横のメーヴェに気をとられたが地下二階は開発エリアみたいだ、機材がたくさんある。

「束さん、機材のチェックは後回しだよ」

目を輝かせる束さんに注意する

「はぁーい」

「降りるよ」





















地下三階

「ここも開発エリアか?」

「そうみたいだね」

地下三階は二階とあまり変わらなかった、メーヴェみたいな変態兵器も置いてない。

「つまんないの」

それを言っちゃぁいけない。

「降りましょうか」

「そだね、いっくん」























地下四階

………………はぁ

地下四階は戦車が置いてあった、それはいい、だがその中に異彩を放つ物があった。

こう言った俺は悪くない。

「いい加減にしろや旧軍の変態共がァァァァァァァァァァァ!!」

「うわっ!どうしたんだよいっくん!?」

「束さんにはアレが見えないんですか!」

そう言って俺はある戦車を指差した。

「おお~おっきい戦車だねぇ、アレがどうかしたのかい?」

まぁ、普通しらんわな。

「あのデカイ戦車の名前はP1000。
コードネームはラーテ。
意味はドブネズミ。ナチスドイツが設計した超重戦車です。
陸上戦艦、ランドクルーザーとも呼ばれています。
重量は1000トン、全長35メートル、全幅14メートル、全高11メートル、装甲厚23センチ、主砲はシャルンホルスト級巡洋戦艦の主砲に使われていた280ミリ三連装砲。
車内に偵察用オートバイ2機、武器庫、パントリー、医務室、トイレまで完備するまさに陸上戦艦」

「へぇーかなり強かったんだね」

「強かった?ラーテが?アレは製作段階になって不可能とされた物ですよ」

ヒトラーはこんな物にGOサインをだしたらしい、アホだな。

「ならなんでここにあるの?」

「………どうせ旧軍の変態が何処から図面持ってきて造ったんでしょうね、一応アレは戦後の技術力であれば造れなくもない代物ですしね」

「あ、それで叫んでたんだ」

「まぁそういうことです」

「さて、最下層まで来たし、今日はもう帰ろうか?」

「何言ってんですか?地底湖までいきますよ」

「地底湖?そんなのあったっけ?」

「ええ、この施設の図面には在りませんでしたが、確かにこの下には地底湖が在ります、それにほら、階段はまだ続いています」

「ふぅ、疲れるなぁ、薄暗いし、いっくんは平気なの?」

「え?あ、あぁ、うん、平気だよ」

言えない、絶対に言えない、暗いのをいいことに飛行魔法使ってるなんて」

「へぇ、私に黙って自分だけ魔法使って楽してるんだ、へぇ」

「ますたー、バカじゃないの?」

「……………声、出てた?」

「出てたよ」

「出てた」

「あ、そうですか、て言うか橙、いつから居た?」

「ますたーが叫んだ辺りから」

「ああ、そう。じゃぁ橙は束さんを浮かせて」

「いっくん、誤魔化すの辞めようか~」

あ、目が笑ってない。

「まぁまぁ~お叱りは後で受けますので、さぁ行きましょう!」

よし!三十六計逃げるに如かず!

「逃げるないっくん!橙ちゃん!よろしく!」

「わかった」

フワッ

「おお~浮いた~」

「操作はわたしだけどね」

「いいよ!早く追って!」

「らじゃー」


























地底湖

…………なんの冗談だ?ありえない!

「やっと追い付いたよいっくん!……どうしたの?…………………船?」

嘘だ!ありえない!

「いっくん!いっくん!どうしたの?あの船は何?」

そうアレは船だ。

ただし、海中を進み、艦載機により米国沿岸部を火の海に変える責務を負いながら、完成が間に合わなかったあの艦は。

「イ号四〇〇型巡航潜水艦…!!」

アレはイ号四〇〇、イ号四〇一、イ号四〇二の三隻しか造られ………!

まさか!造ったのか!?今目の前にあるイ号四〇〇型は、『この施設で造られた』とでも言うのか!?

俺は目の前にあるイ号四〇〇型と思われる艦に近づき、そのまま飛び乗った。

「いっくん!待って!」

「ますたー!」

二人が追ってきた。

「ああ、ゴメン、束さん、橙、俺もさすがにコレを造れるほどとは思わなくってさ」

「この船はなんなの?さっき物凄く驚いてたけど」

「たぶん、イ号四〇〇型巡航潜水艦っていう潜水艦…と思うけど…本当にイ号四〇〇型かは解らない。
上にラーテがあったし、外側だけで中身は全くの別物かもしれない」

お?晴嵐(せいらん)のハッチに何か書いてある。

【イ号四〇〇型改〔初〕】

やはり外側だけで中身は旧軍の変態共がいろいろやってるようだ。

おそらく晴嵐も弄られているだろう。

「いっくん、『いよんひゃくがた、かい、しょ』でいいの?」

「たぶんそれであってるよ束さん」

「ねーねー束ーますたー」

「なんだ?橙?」

「どうしたの?橙ちゃん?」

「帰らなくていいの?お昼ご飯は?」

「………………」

「………………」

「束さん、時計、ある?今何時?」

「一大事」

「真面目に」

「二時半」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「姉さんに殺される!」

「ちーちゃんに殺される!」

「千冬に言ったらどうなるかな?」

「「やめてください!死んでしまいます!」」

「二人とも早く帰りなよ」

「急ぐよ束さん!」

「わかったいっくん!」

「橙!束さんを頼む!」

「わかった」

え~と大型エレベーターは…よし!ここにある!

「束さん!橙!シャフト突っ切るよ!」

「え?」

「わかった!」

俺は大型エレベーターの上まで飛んだ、そしてボタンを押すことなくそのまま上へ飛んだ。

後ろから橙と束さんが来ている。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

後ろから束さんの悲鳴が…後で怒られるかな?

まぁ、一部屋40×4メートルと床(天井)の厚さに地底湖の80メートルの計240メートル以上をハイスピードで垂直上昇だからな。

よしっ!出た!

「きゃあぁぁぁぁ!………やっと終わった…」

束さんも追い付いたな、じゃぁ…

「束さん!まだ終わってない!このまま行くよ!」

「え、ちょっと、休ませt……あぁぁぁぁぁ!」

「姉さんに殺されるよりマシでしょ!」

戦闘機の間を突っ切る!

「ひゃぁぁぁぁぁぁ~!コレ怖い!コレ怖いぃ!」

そら、相対的に戦闘機が迫ってくるように感じるもんな。

よしっ!施設側のゲートについた!

「橙!束さんにオプチカルカモ!」

「了解!ますたー!」

橙もノリノリだ。

「あと遮音フィールド!このまま通路を出て境内まで!俺はドアを戻す!」

「え!?何?何を言ってるの?!あ!いっくんが消えた!?どこ?いっくn…私の体がきえてくぅぅ!」

初めの通路を………出た!

俺はすぐに通路の直線上から逸れた、後ろから束さんと橙が出てそのまま隣の山の篠ノ之神社の境内へ一直線、慣性制御はされてるから平気なはず。

「さぁて、ドアを戻しますか、」

<イデアへ接続>

<エイドス閲覧>

<エイドス・データ、リード>

<魔法式ロード>

<キャスト>

ズズズズズとさっきとは逆再生のようにドアがゲートに嵌まった。

よし、終了、だめ押しに硬化魔法を掛けて~完成!

急がないと!たぶん地底湖から五分も経ったないと思うけど…

俺は再び飛び立ち神社の境内へ向かった。





着いた!束さん達は…居た、廻りに人は…居ない、メティスサイトで確認したから絶対だ。

「橙、もういいぞ」

スウゥッと束さんが空気から溶け出た。

「はぁ…はぁ…怖かった…怖かったよいっくぅん!」

と大声で泣きながら抱き付いてきた。

遮音フィールド、キャスト…

「はいはい、ごめんね束さん」

と頭を撫でていると落ち着いてきたようだ。

「う~」

ぷふっカリスマブレイク……

「にゃにわらってるの!?なにわらってるの!?」

「ゴメン、ゴメン」

「むぅ~」

「じゃぁ……帰ろうか……」

「………ああ………うん………」

遮音フィールド、ディキャスト。

この後俺達は姉さんにめちゃくちゃ怒られた、正座で。

『隣の山に探検に行ってきた』と言い訳した、間違ったことは一つも言ってない。

説教が終っても一時間ぐらい正座させられた。

さて、またあそこに行って機材の確認しなきゃいけないなぁ。

ああ!箒!足をツンツンするんじゃない!

ああ!箒ちゃん!足をつつかないで!

「「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」 

 

第十四話

今日は俺と箒の入学式だ。

ちなみに俺のランドセルは姉さんのお下がりだ。

買ってもらうのは悪いと思うし、姉さんのランドセルの色は青みがかった黒でカッコいいし。

一応、父さんと母さんが居なくなった後『教育費、生活費etc.』と書かれた箱が送られてきた。

中身は現金だったらしい。

差出人は書かれてなかったがあれは父さんの字だった。

姉さんと束さんは中学校が在るためこっちには来ない。

ただし例の工場で造った超ハイスペックステルスドローンで録画すると言っていた。

ちなみに俺はこのドローンに材質以外関わっていない。

俺は地下三階でGNドライヴの生成に必要なレーザー装置のパーツを組んでいた。

束さんは二階で何かやってたからISのパーツ組んでるのかな?と思ってたらあのドローンを造っていた。

俺が苦労してIS用に精製したEカーボンを使って…

あの時はマジで呆れた。

妹の入学式を盗撮するためだけにEカーボンだけでなくISに使う予定のステルスシステムを使っていたのだから。

しかも俺が六歳ということは原作における白騎士事件まで四年を切っている。

ホント何やってんだかあの人は。

「いってきます」

「行ってくるよ箒ちゃん、いっくん!」

姉さんと束さんが家を出た俺達は9時半までに行けばいいし、柳韻さんの車で行くからまだゆっくりできる。

「いってらっしゃい!」にぱっ!

「いってらっしゃい!」ドヤァ!

「………」ム~

ガラガラ

玄関の引き戸が閉まる寸前の束さんの悔しそうな顔に俺はどや顔を返した。

俺が頑張ってた時に趣味に走ってた意趣返しだ。

「そろそろ準備しておくれ、境内で写真を撮ろう」

「はい、柳韻さん」

「うん!」

準備と行ってもねぇ…子供用の礼服着て空のランドセル背負うだけじゃん。

写真撮るにしても出るまであと三十分くらいあるけどねぇ。

まぁ、とにかく着替えますか。

俺は自分の部屋に移動して子供用の礼服を着る。

小学校は制服が無いのでこういった服を着ることは卒業までないだろう。

俺が着替え終わると箒の声が聞こえてきた。

「いちか~てつだってぇ~!」

まぁ、そうなるわな。

柳韻さんは洗車中、奥さんはカメラを探してて雪子さんは境内の掃除中。

いや、あんたら箒が自分で礼服着れないだろうって解ってるだろ!?

「いちか~はやくぅ~」

ああ、もうっ!

「はいはい、今行くから」

そのあと俺は箒に礼服を着せて部屋を出た。

「全く、箒はもう小学生なんだから一人で着替えろよ」

「はぁ~い」

「柳韻さんの所いくよ」

「うん」

さて柳韻さんは駐車場かな?










「柳韻さん、着替えてきました」

「きがえたよー!」

お前は『着替えさせてもらった』だろうに…

「おお、なら本殿の前で待っていてくれ」

「「はーい!」」

五分後、指スマでも何故か勝てずに若干落ち込んでると、柳韻さん、奥さん、雪子さんがカメラを持ってきた。

「よし、まずは二人だけで撮ろう」

「はい」

「うん!」

神社の本殿をバックに俺と箒が並ぶ。

「はい、チーズ」

パシャッ!

「お~よく撮れてるよく撮れてる、もう一枚いこうか」

「箒ちゃ~ん、一夏君に抱きついちゃいなさい」

「は?」

「うん!わかった!」

箒が俺の腕に抱き付いてきた……ちょっとまてぇ!

「何言ってんですか雪子さん!?」

「あら~一夏君ったら照れちゃって~」

いや!いくら箒でも抱き付かれたら恥ずかしいから!

「撮るぞー」

「ちょっ!まっ!」アセアセ

「えへへ~」ニコッ!

パシャッ!

「うん、いいカンジだ。一夏君、お似合いじゃないか」ニヤニヤ

柳韻さんそのにやけ顔をやめていただけませんかねぇ。

ああ、俺の黒歴史が増えていく…

「よ~し、じゃぁ全員で撮るぞ~」

俺と箒の後ろに奥さんと雪子さんが並ぶ。

「え~と、タイマーは…………よし」

「箒、そろそろ離れて」

「やだっ!」

「やだってあーたねぇ」

「いいじゃないか、ほら前向いて」

走ってきた柳韻さんがそう言ってるけどその優しげな視線はなんなんですかねぇ…

パシャッ!

「ちゃんと撮れてるね」

「あら~いいじゃな~い」

「いいわね~」

はぁ、なんか疲れた。

「よ~し、じゃぁ行こうか」

柳韻さんがカメラを三脚から外しながら車の方へ歩いて行った。

後ろから何かが近づいてきた!
まぁ件のドローンだけど。

ホントに音が全くしない、その上見えない。

「ん?空を見上げてどうしたんだい?」

おっと、ドローンがある方向を見ていると柳韻さんが気づいた。

「入学式の日が晴れでよかったなぁと」

「そうだなぁ、雲一つ無い快晴だ」

そのあと俺は柳韻さんの運転する車で小学校へ向かった。









小学校・下駄箱

柳韻さんは校門前で写真を撮りたかったようだが箒が走っていったためできなかった。

クラス分けは……お!箒と一緒だ。

「箒!よかったな、おんなじクラスだ!」

「うん!」にぱっ!

あ~癒される~束さんがEカーボン使ってまでドローン造った気持ちがわからなくもないな。

「ほう、よかったな箒、一夏君」

柳韻さんも嬉しそうだ。

「箒、教室行こうか」

「うん!たのしみだな~!」

後ろから柳韻さんと奥さんがついてくる。
新一年生の教室は保護者の待合室も兼ねている。






教室

教室に入ると机の上に平仮名のネームプレートが置いてあった。

縦六席、横五席、計三十席。俺は端っこの前から三番目、出席番号三番だ。

どうやらこの学校の出席番号は男女混合らしい、前世ではずっと男女別々だったなぁ。

あと、なんか明らかにヒトのものじゃないカンジの娘が居る。

いや、不自然な程ヒトらしすぎるのだ。

どこか見覚えがあるが…まぁ、今は置いておこう。

あと箒の出席番号は確か十一番だから…

「箒の席は二列目の最後から二番目だよ」

俺はさっさと自分の席にランドセルを置いて箒を案内した。

「ほら、ここだよ」

「ありがとっ!いちか!」

「いーよ、これくらい。それにしても後ろから二番目の席か…いいなぁ箒は」

「なんでいちばんうしろのせきがいいの?」

え?それはもちろん…

「後ろの席なら寝れるじゃないか」

「いちかいねむりしちゃだめだよ」

「そうだぞ、一夏君。まぁでも一年生の授業なんて寝てても大丈夫か」

ですよね!柳韻さん!

「はぁ、アナタときたら。一夏君、小学校一年生ではこれから人と生きていくために大切な事を勉強します。寝てはいけませんよ」

おくさん の アルティメットロンパリオン !
いちか は ひるんで 動けない !

『はぁ…………』

ちょっと、橙さん?ため息だけっていうのも案外きくんですが?
『………………』

わぁ!式神が冷たいなぁ!

「聞いていますか一夏君?」

「安心してください!聞いてますよ!」

「そうですか、箒、貴女も寝てはいけませんよ」

「うん!」

ああ、癒される~

と、こんなカンジに駄弁っていたら時間になり、担任の先生が引率して体育館へ向かった。










体育館

『「新入生、入場」』

パチパチパチパチパチパチ……

長い拍手と共に入場する。

列が席へと向かい…………担任の合図で腰を降ろす。

で、入学式の長くはないが短くもないそれはそれは有難いお話が始まる。

その後は名前を呼ばれたら返事をして立つ…ああ暇だ、こんな【とある地方都市】とはいえ新一年生はそれなりにいる、ああ退屈だ。

はぁ、GNドライヴどうしよう?アレがないとカンヘルはその半分しか性能を発揮できない。

否、最大出力時『理論値の1%も性能を発揮できない』だろう。

にしてもTDブランケットがなぁ、まぁ劇場版で二年で二基造れたようにまぁ出来なくもないが…束さんにバレるよな~しかも一基ずつって訳にもいかんしな。

最悪の場合一基ずつ使うしかないけど、出来ることなら同調させたいし。

試しに毒性が改善されている二期のGNドライヴ〔T〕造って実験…

いや、だめか、ツインドライヴシステムの『二基のGNドライヴの同調』が安定しないのはGNドライヴの根幹たるTDブランケットが同調しなかったからだ

それを搭載してないGNドライヴ〔T〕を同調させたところで意味はないか…

え?リボーンズガンダム?

アストレア系が好きですが何か?

「一年…組………あ…ら…つ……」

「はぁい!」

結局は造るしかないな。

「はぁい!」

おっと考え事をしていたら隣の奴が立ったな次はおれか。

「織斑一夏」

「はい!」

どうだ!元高校生の返事は!まぁ中学生でもできるっちゃできるが。

「はぁい!」

まぁ小学生の返事なんて間延びしてて当たり前だよな。


なんて考えていたら箒の番だ。

「篠ノ乃箒」

「はぁい!」

あ~可愛い、マルチスコープ使えてよかったぁ~

その後は特にこれと言ってなかった、入学式は無事に終わり教室へ戻る。









教室

「さて皆さん、私は………」

担任がなんか話しているが無視だ無視。

「では自己紹介しましょう‼」

いきなりか、原作一夏みたいなことにはならんだろ。

「出席番号一番の人からお願いします」

出席番号一番は…お?あの人外娘だ。

一応いっておくが彼女の見た目も雰囲気もヒトそのものだ。

情報次元でも間違いなくヒトである。

しかし、しつこいようだが、全てのパラメーターが平均的すぎる。

「あららぎつきひですよろしくおねがいします」

ふ~んあの人外娘の名前は『あららぎつきひ』ねぇ……

ん?あららぎつきひ?

阿良々木月火!?嘘だろオイ!?

ここはISの世界じゃないのかよ!?

なんで物語シリーズの主人公の妹が居るんだよ!?

なんて考えてる内に二番さんは終わって俺の番。

「織斑一夏です、一年間よろしくお願いします」

ああ、危ない危ない、ヘマするとこだった。

「ごたんだだんですよろしくおねがいします」

ああ髪の色でわかってたよ。

で箒の番。

「しのののほうきですよろしくおねがいします」

ふはははははは!束さんのドローンといえど教室には入れなかったようだ!これは俺だけのファイルに保存だな!

そして箒の後ろの席の気弱そうな娘。

「せ、せんごくなでこですよろしくおねがいします」

…うん、もう驚かねぇ。にしても千石撫子か…こんな可愛い娘が『オイ!有象無象!』とか言うようになるのか…

その後は何の面白みもなく終わった。

そして下校、いやぁ小学校は楽でいいね。

中学高校になると入学式初日からテストなんて珍しくもないしな








車内

「箒、一夏君、入学式はどうだった?」

「たのしかった!」

「ぶっちゃけ暇でした」

取り繕ってもどうにもならんので正直に言った。

「そうかそうか!暇だったか!」

「いちか、ねてないよね?」

「勿論」

「二人とも、入学式撮ってたけど見るかい?」

「うん!」

「見たいです」

「え~と確かバックに入ってたと思うから出してくれ」

バックは俺の横にある、え~とどこだ?

「お?これかな?……うん、これだ」

「操作解るかい?」

「はい、わかります」

「一夏君は賢いわね~」

雪子さんに怪しまれたか?

「束さんがパソコンやってるのをカッコいいと思って…」

と言い訳してみる。

「あら、束ちゃんにおそわったのね~」

納得してくれたかな?

「え~と、電源を入れて…メニューを…4月…日のは……これだな」

俺はビデオカメラを持って箒にも見えるようにした。

最初からなので入場からだ。

「はやおくりして~」

退屈だしな。

「はいはい、早送りは…うん……ここら辺かな」

ちょうど俺達のクラスのところで止まった。

「あ!いちかだ!」

はずいな。

「一夏君、いい返事だったよ、剣道のお陰かな?」

次は箒だけど。

「なんかはずかしいね」

「箒もちゃんとできていたと思いますよ?ねアナタ?」

「ああ、ちゃんとできていたぞ」

「ほんと?いちかは?」

「ちゃんとできてたよ」

「かえったらおねえちゃんとちふゆおねえちゃんにもみせるー!」

いや、ステルスドローンで撮ってると思うけど、まぁいいか。

篠ノ乃家

「ただいま帰りました」

「ただいまー!箒ちゃん!いっくん!」

「「おかえりなさい!」」

束さんはめちゃくちゃハイテンションだ。

「束、落ち着け、柳韻さんはちゃんと撮っているはずだ」

「あのね!おねーちゃんくるまのなかでみたけどわたしちゃんとへんじできたよー!」

と箒が束さんを居間へ引っ張って行った。

「一夏、入学式どうだった?」

「退屈だった」

「まぁお前ならそうだろうな。
お前は精神年齢は他より少し高いが、たまにはバカなこともやってみるものだぞ?
お前にはまだ難しかったか?」

「わかるよーなわからないよーな」

「そのうちわかるさ、私もそうだったからな」

ええ、現在進行形でバカなことやってる最中さ、世界をひっくり返す計画なんて、バカな事をね。

「いちか~!ちふゆおねえちゃ~ん!はやくぅ~!」

「行こっか姉さん」

「ああ」






白騎士事件まで後………………四年 

 

第十五話

「「「「いってきます!」」」」

小学校生活二日目、今日から姉さんと束さんと一緒に家を出る。

途中で中学と小学校で道が別れるけどそこまでは一緒だ。

「今日から授業か、うん、寝よう」

「いっくんなら大丈夫か」

束さんは賛成。

「そうだな、寝るならうまくやれよ」

姉さんも賛成か、成績いいもんね、二人とも。

「はいはーい」

「む~ねたらだめだよいちか」

確かに寝てはいけないだろうがだとしても。

「もしも俺が寝たとしても退屈な授業しか出来ない学校側が悪い」

この一言に尽きるな。

「いやー、一年生の授業内容でいっくんが面白いと思うのは……アサガオを育てるくらいかなぁ?」

「あー…たしかに不確定要素がある分多少は面白だろうし」

ぶっちゃけ機械に関しては大学レベル以上の知識が…というか宇宙人に侵略を『仕掛けることができる』程度にはある。

「あさがおそだてるの?」

「そうだよ箒ちゃん、一年生はみんなアサガオを育てるんだ」

「姉さんや束さんもやってる所謂『お約束』って奴さ」

「ねーねーどうやったらうまくできるのー?」

「えーとね…ちーちゃんに聞くといいよ。
たしか一番綺麗に咲かせたのはちーちゃんだったから」

「わ、私に振るのか!?」

へ~以外だな、姉さんなら枯らしそうだけど。

「ほらほら、ちーちゃん、可愛い可愛い後輩が君を見てるぜ~」

「ええっと…だな…教科書どうりにやればいいんじゃないか?」

「それをやって私は枯らしちゃったんだけどなー」

逆に束さんは枯らしたのか…面白いな。

「いや、まぁ、適当にやったらいいんじゃないか?」

「姉さんって運はいいもんね」

「やかましい」

コツンと拳固を落とされた、若干痛い…

「痛いよ姉さん」

「お前が悪い」

「だって事実だろ、ポーカーの時も箒の次に強いし」

「いちかー!学校着いたらポーカーしよう!」

「箒ちゃん、それは………まぁいいか」

「いや、反論しろよアンタ」

「別に賭ける訳じゃないならいいだろう」

「姉さんまで…」

「けってー!」

「わかったわかった」











学校・教室

俺達のクラスは半分くらいは来てるな。

ランドセルを置いて、箒のところへ。

「いちかー!やろ!」

千石は…来てない、席借りるか。

「はいはい、ポーカーでいいのか?」

「うん!うしろのせきのひとがくるまでね!」

「賭ける?」

「きょうのおやつ!」

「まぁいいか他には?」

「ないよー」

「じゃぁ」

「うん」

「アッシェンテ!」

「あっしぇんて!」

お、クラスの奴等がこっち向いたな、まぁこんだけ大声で叫べばな。

「親は?」

「いちかから、こうたいでいいよ」

ゲームになると箒は雰囲気が変わるまるで鞘から刀を抜くように。

カードを配る………

箒は…くそっ!きっちりポーカーフェイスしてやがる。

俺の札は…
ハート5
スペード5
ダイヤJ
クローバーA
ダイヤK

ワンペアか…せめてツーペアはほしいな…イカサマしてみるか。

「じゃぁ俺は二枚変える」

俺はイカサマをしてクローバーAをクローバーKに変えた…が。

「ず、ずるはだ、だめだよ」

振り替えると、千石が居た。

「いちか?どうするの?まけを認める?
わたしはのーかうんとでもういっかいでもいいけど」

「いや、俺の敗けだ。
【十の盟約】その八『ゲーム中の不正発覚は敗北と見なす』だろ?」

「なんかなっとくがいかない」

確かに箒が見破った訳じゃないからな。

「じゃぁこのゲーム自体をノーカウントにするか?」

「うん」

俺は席を立ち。

「悪いな千石、勝手に椅子つかっちまって」

「ううん、べつにいいよ、でもずるはだめだよ」

「違うぞ千石、俺は確かにズルをしたがあれはイカサマだチートじゃない。
イカサマはバレたら敗けとルールに記された勝率を上げる方法。
チートは絶対に勝てるルール外の方法」

【十の盟約】その八とはつまりそういう事なのだ。

「?」

「要するにだ、仮にテストの問題を事前に知る、これがイカサマ。
チートっていうのはテストの問題そのものを変えてしまうこと…かな」

「で、でも…ほうきちゃんはいいの?」

「いいよ、【じゅうのめいやく】はばれたらまけってかいてあるけどつかったらだめとはかいてないんだよ」

「じゅうのめいやく?」

まぁそこからだよな。

「【十の盟約】っていうのはあるおとぎ話の神様が決めた約束だよ」

「?」

「箒、教えてあげて」

「うん!えっとね、けんかしたらだめですよ、けんかじゃなくてげーむできめましょう、げーむちゅうにずるがばれたらまけですよ。ってことだよ」

「?」

「まぁ、千石もそのうちわかるさ」

「う~ん?」

「みなさーん!席に着いて下さーい!」

担任が来たな。

「じゃ、ここら辺で」

「うん!」

俺は席に着いた。

「皆さん、おはようございます」

担任が挨拶をすると。

「「「「「「「「おぁはぁよぉごぉざぁいます」」」」」」」」

なんとも間延びした返事だ。

まぁそれに合わせた俺が言えた事ではないが。

「今日は朝の時間と一時間目と二時間目でレクリエーションをします」

なにすんのかなー?

「先ずはジャンケン列車です!」

「はぁ」

ジャンケン列車、ある意味では社会の縮図と言ってもいい遊びである。

始めに負ければその後はゲームに参加できない。

勝ち続けても負ければそこで終わり、やり直しのチャンスなどなく。

勝てば勝つほど周囲の期待は高まり。

最後に負ければ今までの苦労も栄光も全ての水の泡。

なんて残酷極まりないゲームだろうか?

とかなんとか言いつつ結局は箒が勝つんだろうななんて考えている。

俺?どうでもいい。
て言うかできるなら早めに負けておきたい。

「では皆さん立ってくださーい!」

担任の声で皆が立った。

「机を下げてくださーい!」

机を下げ皆だいたいの場所に着いた

「では皆さん歌いましょう!」

持ってきていたカセットテープをセットしスイッチを押すと懐かしいあの曲が流れてきた。

さて、どうしようか?

「「「「貨物列車、シュッシュッシュッ、いそーげいそげシュッシュッシュッ、
今度の駅でシュッシュッシュッ、つもうよ荷物、ガッシャン!」」」」

相手は……千石?席遠くね?……ああ流されてきたのか…

「千石?」

「えっ?あ、う、うん、いいよ」

「そうか、最初はグー!ジャンケンポン!」

「………………………」

いや、お前もなんか言えよ……え~と
俺、グー
千石、パー
ま、いいか。

「ほら、お前の勝ちだ、後ろ向け」

「お、おりむらくんがまえでいいよ」

「駄目だお前は勝ったんだから勝った人の役目がある。
それにお前が言っている事はルールをねじ曲げる行為だ、チートと変わらん」

「でも……」

しつこいな、この頃からこうだったのか…

「ええい、面倒くさい、ほら次の曲が始まるんだから、ほら」

「きゃっ!」

え?なにしたかって?千石を回して肩に手を置いただけだよ。

その後は千石が二回勝って他の奴に負けたので後ろに付いた。

最後に笑ったのはやっぱり箒だった。

その後も二回ジャンケン列車をやった、三回中二回も箒が勝った…ワースゴイナー。




「次は椅子取りゲームです!」

ゲームの選択に弱冠の悪意を感じるのは俺だけか?俺だけだろうな。

椅子取りゲーム、決められた数の席をその席より一人多い人数で取り合うゲーム。

他人より早く動けば反則になり。

他人より遅ければ弾かれ、以降のゲームから除外される。

除外されたら続行者がやっているのを見ているだけ。


それを続けて最後に勝ち上がるのはやはり一人だけ。

ジャンケン列車と同じく社会を縮小した残酷極まりないゲーム。

「椅子を出してくださーい!」

クラスメイトが下げた机に群がり…わちゃわちゃしてる。

静観してるのは俺、箒、あと千石、でも千石はどうしていいか解らずあたふたしてるようだった。

で、なんとか全員分の椅子が用意された。

「今回は先生も参加しまーす!」

カチッとスイッチが押されさっきとは別の音楽が流れる。

円状の椅子の周りをぐるぐる回る、そして音楽が途絶え…

俺は座らなかった。だってめんどいし。

椅子が一つ吐き出され再び音楽が鳴る。

俺は吐き出された椅子に座ってのんびりしようとしてたら…

なんか箒にめっちゃ睨まれた、しかも非難の色を滲ませて。

そんなに俺が手を抜いたのが気に入らんのかねぇ?

まぁ、これも何回かやるだろうし、次からは本気出そうかな。

今回箒は一位を取れなかったようだ。



そして二回戦

俺はかなり本気でやっていた。

え?大人げない?いいんだよ。むしろ此処で手を抜いたら後で箒になんて言われるか。

二回戦ラスト、一つの椅子を挟んでいるのは俺と箒。

音楽が始まる。

俺は音楽のペースに合わせて歩いていた。

音楽が鳴り止んだときに俺が椅子の正面に居るように。

しかし箒も同じ事を考えているのか上手くいかない。

そして音楽が途絶え、最後に座っていたのは……俺だ。

「次で椅子取りゲームは最後です、もう一回椅子を準備してください!」

椅子から立った俺に箒は。

「つぎもてをぬいちゃだめだからね」

「もちろんさ」


三回戦………ラスト

え?早い?だって俺と箒の敵じゃねーもん。

そして音楽が鳴る。

さっきとほぼ同じような駆け引きがあり。

最後に座っていたのは……箒だ。

今度は箒の勝ちだ、途中で一瞬止まったときはびびったな。

「箒、おめでと」

「ちがう、いちかはさいしょてをぬいてた、ひきわけ」

「オーケェー、じゃぁ次も本気で」

「うん!」

まぁ嬉しそうな顔だこと、ヤベェな箒が勝負好きになってる。

束さんに殺されたらどうしよう。

その後もゲームを続けたが周りが面白くなさそうだったので途中で辞めた。











そして放課後。

一年生は最初の内は半ドンだし三、四時間目はそれぞれ国語と算数だった。

内容はひらがなの読みと書き方、数の数え方だった、居眠りしていた俺が起こされた以外は何もなかった。

「いちか、ねちゃだめだっていったでしょ!」

箒ちゃんがおこです。

「いやいや、だって暇じゃん。
俺も箒もある程度の漢字はよめるし、四則計算はこの前束さんが教えてくれたじゃないか」

「む~、そうだけど~」

箒は九九を暗記しているから乗除は既にできるはずだ。

加減に関してはゲームの中で自然に覚えたらしい。

そんな訳でここにハイスペック幼女が居る訳だ。

「お前はよく眠らずにいられるなどっちもだいたい四十五分の内の最初の五分と起こされてからの十分ぐらいしか記憶がねぇ」

「せんごくちゃんにおしえたりしてたの」

「そうか、お前は俺以外にも友達作れよ?」

「いちかもね」

「俺はいいよ『友達と居ると人間強度が下がるから』」

あの不死鳥娘が居るならその兄である鬼いちゃんも居るんだろうな。

今は不死鳥娘の年から推測するに物語シリーズ原作開始五年前ってところだから…まだ歪んでない阿良々木少年に会えるかも。

「なにいってるの?ばかじゃないの?」

箒…そんな真顔で言われたらかなりクルんだけど。

「わたしはいちかのともだちじゃないの?」

あ、そういうことか。

「箒は『友達』じゃなくて『家族』だもっと言うなら妹?」

「いちかととしおなじだし、わたしのほうがはやくうまれてるんだからわたしのほうがおねえちゃんだよっ!」

突っ込みどころはそこかよ。

「自分で着替えられるようになってから言えっつーの」

「むぅ」

さぁてとぉ!帰ってメシ食ったら、昨日の続きといくか!

このままいけば明日にはGNドライヴ生成用のレーザー装置が完成しそうだ。

「いちかーきょうのおひるごはんなにかなー?」

「さぁ?昨日のカレーの残りだろ」

「やったぁ!」

さて、他にも『要人保護プログラム』とかどうしようか…最悪の場合は政府高官を脅すか?

箒と束さんの絆を引き裂かせやしない、カンヘルを造っても、それができなきゃ無意味だ。

この箒の太陽のような笑顔と。

束さんの慈愛の微笑みを護るためなら。

俺は……… 

 

第十六話

「明日から夏休みです、休みだからといって夜更かししないようにしてください」

「すぅ…すぅ」

「一夏君!聞いてますか!?」

んぁ?……………なんだ帰りのSHRか。

「一夏君!」

「安眠妨害でうったえますよぉ………ふぁぁ」

「貴方だけ宿題増やしますよ!?」

またか………

「どーぞお好きに………どーせまた漢字練習プリントでしょ………おやすみなさい」

「~!」

うるさいなぁ…

「はいはい、起きます起きますから、ふぁぁ」

あ、ねむい。

「はぁ。明日から夏休みです、休みですがが規則正しい生活をしましょう」

そして夏休みの宿題の一部が配られる。

授業中に配られたのはもう終わらせたけど……これの他に登校日にも追加で配られるんだよなぁ…

『夏休みのしおり』、あ~日記どうしよう?

正直言って今年の夏はサイコフレームを造りたいのだが…

いや、でもなぁ、GNドライヴ無しでやっても…いっそエイハヴ・リアクターでも造るか?

エイハヴ・ウェーブ?キニスンナ!

うん、結局書けない内容だな。

まぁ適当にでっち上げるか…そうだなぁ………

どうやら日記の内容を考えている内に話は終わったようだ。

日直が教壇に立っている。

「きりぃつ、きおつけぇ、れぇい」

「「「「「「「「「「「さぁよぉうなぁら!」」」」」」」」」」」

さーて、帰るか。

「いちかはねてばっかりだね」

「じゅぎょうはちゃんとうけなきゃだめだよいちかくん」

「千石、俺より成績上げてから言うんだな」

「うう…」

あ、そうそう、小学校から篠ノ乃神社までの道に千石の家があるから一緒に帰るようになったんだ。

「ほうきちゃんはなつやすみなにするの?」

「どうする?いちか?」

「どうしようかねぇ」

本当にどうしよう、コイツらを工場(アレはもはやラボだ)に連れて行くわけにもいかんし。

ん?待てよ、そうだ!

「なぁなぁ二人とも、夏休みはこの町の神社全部回ろうぜ」

理由?ちょっと確認したいことが有るからだよ。

いや、確認できるか、知覚出来るかは全く判らないが。

「じんじゃ?ほうきちゃんたちのおうち?」

「なんでわざわざじんじゃにいくの?わたしたちのおうちでいいじゃん」

「え?面白そうだからさ。暑い時は心霊スポットに行くべきだろう?」

そう、千石が存在する世界なら、もしこの世界が物語シリーズの世界なら、あの神社にはもう居るはずだ。

「おもしろそう!いこう!いちか!」

「え、えっと、その、わたし、こわいのは…」

対照的だな。

「姉さん達も誘ってみようよ」

「さんせー!」

「千石は?」

「えっと…」

「まぁ、今決めなくてもいい」

「うん」

「まずどこにいくのー?」

決まっているじゃないか。

かの吸血鬼が主人公を眷族にしていない今現在唯一の眷族である彼のもとへ。

初代怪異殺しが居るかもしれない場所へ。

「明日にでも、まずは【北白蛇神社】だ」










篠ノ乃家

「「ただいまー!」」

「お帰りなさい、ご飯出来てるわよ」

「おひるごはんなにー?」

「チキンライスよ」

「わぁーい!」

「お前はまず手を洗え」



「「ごちそうさまでした」」

え?キンクリしましたが何か?

「いちかー、なんで【きたしらへびじんじゃ】なの?」

「あそこの神社は潰れてからかなり経ってるんだ。胆試しには丁度いいだろ」

「そーなのかー」

なぜお前がそのネタを知っている?

「ただいまー!」

「おかえりなさい!おねえちゃん!」

「お帰りなさい束さん」

「あ、そうだ、ちーちゃん今日は早めに終わるって言ってたよ」

「解りましたー」

姉さんは剣道部に入ってて毎日稽古がある、束さんは勿論帰宅部だ。

「あ、束さん、今度一緒に神社巡りしません?」

「神社巡り?急にどうしたんだい?」

「夏休みの日記のネタが欲しいんですよ(ラボの事を書く訳にはいかないでしょう?)」

「う~ん、どうしようかねぇ」

「おねえちゃん!いっしょにいこっ!」

「まぁいいか」

納得は…してないみたいだな。

「暇な時だけでいいですよ」

「あのねあのね、なでこちゃんもいっしょにいくの!」

「へ~ほ~ふぅ~ん……いっくん、ちょっとこっちこようか」

なんだ?ISの事か?

篠ノ乃束・私室

「さて、いっくん、どういうつもりかな?
撫子ちゃんってこの前家に来た子だよね?
まさか人気の無い神社でコトに及ぼうって訳じゃないよね?」

「束さん」

「なんだい?いっくん?」

「貴女は俺を何だと思ってるんですか!?」

「ん~変態?」

「何故に!?」

「だってラボで毎回毎回嗤いながら何か訳の判らない物を造ってるじゃないか。
端から見れば変質者だよ?」

「ニヤニヤしながらIS造ってるアンタの言うことか!
それに俺だってちゃんとIS造るの手伝ってるじゃん!」

「え~最初の十五分くらいはずっと別の事してるじゃん」

「だから!アレはGNドライヴの生成を管理してるんです!」

正確にはTDブランケットだが

「あ~アレね………大丈夫なの?」

「ええ、勿論。まぁオリジナルの設計図とは少々異なりますが」

手っ取り早くいうとTDブランケットを外せるようにしただけだ。

具体的には外した後に再生を使って元に戻すのだが…

途中でハンマーで叩き割ってから再生してもいいんじゃないかと思ったのは秘密である。

「いや、ほら確か粒子の毒性がどうとか」

「そのための装置を造ってるんです。
GN粒子の毒性を無視して永久機関として造らなければGNドライヴはそこまで難しい物じゃありません」

「そう、話を戻すけど、神社巡りの理由は?」

「さっき言いましたよ?」

「それは建前でしょ?本音は?」

やっぱりバレてるか、さてと、言い訳は…

「いやぁ、神って実在するのかなぁと思いまして。
気になりません?」

「……………まぁ、そういう事にしておくよ。
ただし、箒ちゃん達を危ない目に遇わせちゃ駄目だからね」

バレてるのか?

「じゃぁ戻ろうか、箒ちゃんが待ってるしね。
ああ、それと、私は神を信じるよ、神社の娘だし、何より幽霊が存在するって判ってるんだ、神様だって居るよ。
勿論、妖怪もね」

あ~バレてるな。

さて、今年の夏は忙しくなるな。

サイコフレームの鍛造に神社巡り、なかなかに充実しそうだ。 

 

第十七話

「はぁ、はぁ、まってよほうきちゃん…いちかくん、はやいよ~」

「箒、少し待ってやれ」

「は~い」

さて、俺達は今北白蛇神社の階段を登っている。

北白蛇神社は山の上に在る。

一応階段が在るものの普通の小学一年生の足にはかなりきつい物だ。

俺と箒は剣道で鍛えているから問題ないが千石は何も運動をしていないのでこんな状況である

同行者が束さんならラボに初めて行った帰りみたいにすればいいが今日は俺、箒、千
石の三人だ。

千石は箒の家に遊びに行くと言って家を出てきたらしい。

北白蛇神社は負のパワースポットなので一応、箒、千石には霊的(情報的)防御をこっそり掛けている。

「千石、もうすぐで頂上だ、頑張ってくれ」

「う、うん」

「ねーねーいちかー、なんでこんなにたかいやまのうえにあるの?わたしたちのおうちはやまのまんなかにあるのに」

「ほうきちゃんのいうとおりだよ」

あ~確かあの…なんだっけ?なんでも知ってる人…え~と…まぁいいか、あの人が何か言ってたよな…

「え~と、この神社は最初は別の場所に在ったんだけど、この街でお化けとかが悪いことをしないよう見張るためにこの場所に引っ越して来たんだ」

表の理由ってこんな内容だったよな?

「へ~」

「いちかくん、じゃぁこのじんじゃはおばけはいないの?」

「さぁ?どうだろう?神社って言うのはあくまで神様がすむ家でしかないから、神様が居なくなってたらお化けが住み着いてもおかしくはないよ。
むしろ整備されてた分居心地がいいかもね」



















北白蛇神社・境内

「やはりか」

「壊れてる」

「い、いやなかんじがするからかえろうよ~」

あ~うん、なんかいるっていうか在る。

何て言うか幽霊、特に悪霊と呼ぶべき物の欠片、つまり負の感情のプシオンと呪い一歩手前の状態のサイオン。

「もう少し見てから帰ろう」

さてと…でもって初代怪異殺しは……

あ…居た、いや、欠片か?

眠ってるのか?

反応が弱々しい、人間程度の力すらないようだ。

ザッザッザッザ

ん?誰か来た?

「やーやー、そこの君達、こんな潰れた神社で何をしてるんだい?」



「この神社は霊的に負の気を持っている、って言っても解らないか。
え~と、ここは本当にお化けが出るから早めに帰ったほうがいいよ、坊やたち」

ああ、この人だ…

「あの、貴女は?」

「ん~?私かい?私は臥煙伊豆子、ただの通りすがりのお姉さんだよ」

あぁ、そうそう、この人そんな名前だったな。

「ところで君達の名前は?」

「えっとねーわたしは……むぐっ!」

箒が名乗ろうとしたので口を塞いで止めた。

彼女は妖怪変化や呪術の世界に連なる存在だ、名前なんて教えたらどうなることか。

「怪しい人には名乗るなと教えられてまして。
で、臥煙さんは何故この北白蛇神社に?」

一応前に出て箒と千石を守れる位置へ。

初代怪異殺しを見に来たのか?
神社の様子見か?まぁ警戒するにこしたことはない。

「おーおー、そんなに警戒しなさんなって。
君達いくつ?子供は子供らしく無いとね」

「いやいや、警戒しますよ、心霊スポット巡りをしてたら知らない人に声をかけられたんですから。
お化けかと思いまして、名乗った瞬間あの世行きなんてごめんですよ」

「ひっ!」

千石、俺を盾にするんじゃない。

「いや、本当、君達いくつよ?」

「ことしからいちねんせーなのー!」

「おお、そうかい、学校は楽しいかい?」

「うん!」

なんか箒と臥煙さんが久々に会った親戚に見えてきた。

「君もかい?」

「ええ、そうですが何か?」

「何故そんなに警戒するのかなぁ?
臥煙お姉さんに教えてちょうだい?」

「だったらその不審者っぽいファッションをどうにかしてください」

「ふふ、君は面白いねぇ。ところで君達はお化けを信じるかい?」

いきなりなんだ?

「あの、おばけってほんとにいるんですか?」

千石がめっちゃ不安そうに尋ねた

「質問を質問で返すのはよくないよ」

「はい、すみません…」

「お化けが居るかだろう?お化けは」

「居ると思いますよ。勿論、神や妖怪も」

「何故そう思うんだい?あと人のセリフを遮るのも…
いや、君の場合はわざとか…」

「霊感ありますもん、俺」

「ん?なら君に憑いてる……いや、なんでもないよ」

橙の事バレてるのか?諸々の術式で隠してるのだが…

「そういう事を聞くってことは貴女は信じているのでしょう?臥煙さん?」

「ああ、そうだよ、君の言うとおり妖怪や神もね。
さぁ、もう十分この神社を見ただろう?
私は少し此処で仕事が有るんだ。
邪魔になると思うからもう帰りな」

やっぱり神社の様子見のようだ。

ここの御神体は封印されていたが、例の札はもうあるのだろうか?

今のところ持っていないようだが、単に持っていないのか、置いてきたのか…

「ええ、解りました、ああ、それと、この神社の御神体ってなんなんでしょうね?
石なのか、そこにある木が御神木なのか、それとも…蛇の骸だったりして」

「さぁ?私に聞かないでおくれ」

「ヘェ~貴女って『なんでも知っている』ようにみえますけどね」

「どうだろうね?」

「「あははははははははは!」」

乾いた笑い声だこと。

「「………」」

あ~箒も千石も黙り込んじゃってるよ。

「では俺達はここら辺で。帰るぞ二人とも」

「う、うん」

「はい…」

元気ないな。

「さようなら臥煙さん、また会いましょう」

「ああ、さようなら。結局最後まで名前を教えてくれなかったね」

「俺の名前は織斑一夏、『まだら』を『おる』に『一つ』の『夏』です」

「そうかそうか、いい名前だ。
また会おう織斑一夏君」

「ええ、たぶんもうあわないでしょうがね」















「いちか、あのひとってわるいひとなの?」

「何故そう思うんだ?」

「さっきのいちかこわかった、いつものいちかじゃないみたいだった」

「そうか、悪かったな箒。千石はあの場所で何か感じたか?」

「いやなかんじがしたよ」

それだけか?

「本当にそれだけ?蛇を見たりしなかったか?」

「ううん、なんにもいなかったよ」

「そうか、なら良かった」

蛇切縄の一件が起きてなくとも千石にはそういった存在が見える可能性も有ったが大丈夫なようだ。

「な、なんでそんなこときくの?いちかくん…」

あら、こわがらせちゃったかな。

「さぁ?何故でしょう?」

「こ、こわいこといわないでよぉ…」

「いちか~」

箒がジト目だ。

「悪いな千石、お前の反応が面白くってな」

「むぅ~」

「悪かったって、さぁ、早くおりようぜ。
今日中にあと二つか三つは行きたいからな」

「まだいくの?」

「もうつかれたよ~」

「大丈夫、残りは殆ど街中だから」

「なら…いいです」

山中なら駄目なのかよ…

「よーし、行くぞー!」

「おー」

「おー」

テンション低いなー、まぁいいか


その後は街に戻って街中の神社を回った、日記のネタには十分だろう。


明日はラボに行かなければいけないが明後日にでもまた行くかな。



夏休みは始まったばかりだ!
 

 

第十八話

今日は8月9日、長崎県に原子爆弾が落ちた日だ。

俺は前世では長崎に住んでいた、よって8月9日には平和集会なるものがあり十一時二分には黙祷を捧げる…のだが。

今生では関東在住なのでそんなものはない、せいぜいN〇Kで平和公園で行われる平和式典の中継がある程度。

たぶん長崎では今現在どのチャンネルでも式典の様子が映されていることだろう。

きっと関東の人は既に忘れているのだろう学校で必ず習ったはずの数字を。

8月6日、8月9日の意味を。

まぁそれは仕方がないのかもしれない。

原子爆弾の被害など、平和学習で調べない限りただ学校で習った大きな数字でしかないし、8月6日、8月9日もただの日付だろう。

しかしだな…いくら何でもこれはどうかと思う。

現在地、デパート屋上。現時刻十一時一分。

束さん、姉さん、箒、俺で来ているが…まぁ賑わってる賑わってる誰も何も知らない顔をしている。

「えーと、長崎県は西南西だから…あっちか」

俺はフェンスの前まで進んだ。

ぴ、ぴ、ぴ、ぴー

ラジオに繋いだイヤホンからブザーが聞こえた。

『黙祷』

俺は直立不動で黙祷を捧げた。

『黙祷、やめ』

顔を上げる。

「いっくん、探したよ、何をしていたんだい?」

束さんだ。

「束さんは今日が何の日か知っていますか?」

「8月9日、長崎県に原子爆弾が落とされた日、で合ってるかい?」

やっぱり、知っていた。

「ええ、そうです。黙祷を捧げていたんです、ただの自己満足ですけど」

「たしか十一時二分だったかい?」

「そう、8月9日十一時二分、見た限り誰もなにもしない、知りもしない、俺って前世じゃぁ長崎在住だったんです。
8月9日って登校日なんですよ、そして宿題提出したら平和集会なんて物があって…」

「へ~そんなのがあるんだ」

「子供の頃は鬱陶しくて仕方が有りませんでした。
でもね中学に上がった辺りから当たり前になって…長崎の人にとって8月9日は大切な日なんですよ」

「そっか、それは知らなかったな」

「でも、この街では皆そんな事は知らないんですね。
少し悲しいような気がします」

高校の先生も言ってたな、8月9日に東京に行ったけどいつもと変わらない1日で、そんな日に生徒の学習発表会があって、引率していた生徒と会場を出て黙祷したって。

「そうかい、ん~そろそろ帰るかい?」

「いえ、大丈夫です、姉さんたちは?ゲーセンですか?」

「うん、二人とも結構やる方だったよ…」

「二人はどんなゲームしてました?」

「ちーちゃんはレースゲームとガンシューティング。
箒ちゃんは電子麻雀とかのギャンブル系…」

「なんか…予想通りというか…どんなカンジでした?」

「ちーちゃんは…そうだね…動体視力のゴリ押しかな、箒ちゃんはいつも通りだったね」

「あ~、その様子がよく想像できますね」

「いっくんは何が得意なんだい?」

「ゲームは苦手ですね、飽きっぽいんで、束さんは?」

やり込み要素?エンドコンテンツ?なにソレおいしいの?

「あんまりやったことないからわかんないなぁ」

「そうですか…」

「さて、そろそろちーちゃんが気づく頃だから、戻ろっか」

「はい」

そのあとは少し早めの昼食を取って帰宅した。



















翌日、ラボ

ようやくだ、ようやく完成した…

「束さん…」

「いっくん…」

「「いやったぁぁぁぁぁ!」」

「ようやく、ようやく完成しましたね」

「ああ、ようやくだよ…ISコア!」

俺達の前には【’IS’COREpt0000】と彫られた球体がある。

「やりましたね束さん、コレでISを造れる…」

「ああ、ようやくスタートラインだよ」

「起動してみますか?」

「うん!」

束さんが音声コードを入力する。

「ISコアプロトタイプ0000起動」

その声に反応してコアの上に一枚のホロウィンドウが開く。

『’IS’COREpt0000.start up stanndby…』

という文字が浮かんだ。

『Please master’s PSYON…』

俺は素早くISコアにサイオンを流す…

『Authentication……』

『’IS’COREpt0000 start up…』

『start up sequence ended…』

バッと複数枚のホロウィンドウが開いた、が、何も書かれていない物が殆どだ。

「早くボディを造ってあげなきゃね」

「そうですね」

すると目の前の空間が歪んだ。

そして空気から溶け出るように橙が現れた。

「ねぇねぇますたー」

「どうした橙?」

「どったのちぇーちゃん?」

橙はいきなりこんな事を言い出した。

「このコア、私の体にしてもいい?」

……………は?それってあれか?
魔法科のピクシーみたいな?

「え~っと…流石にソレは…」

流石にマズイとおもったのだが…

「う~ん…ちぇーちゃんならいいよ」

は?

「いいんですか束さん?」

「うん!いいよ!ちぇーちゃんも体が無いと不便だからね」

「ありがとう束!」

橙も嬉しそうだ。

「でも、そんな事出来るのか?」

「出来なかったら言わないよ、ますたー、束、見てて」

そういって橙は再び姿を消し…否、仮初めの体を創っていた魔法を解除し…

ISコアに入っていった…

橙の霊体がコアの中で蠢いているのがよくわかる…

やがてホロウィンドウの一枚に文字が浮かんだ。

『マスター、束、上手く行ったよ』と

「そうか、良かったな、橙」

と言ったらホロウィンドウの文字ではなく橙のいつもの声でこう返された。

「でも、音声出せないから当分は声は魔法だね」

「そっかぁ、なら先ずはちぇーちゃんのボディだね。
次にISコアの量産かな?」

と束さんが言ったが俺は少し思う所があったので言った。

「量産の前にオミットできる所はやりましょう。
pt0000は持てる全てをつぎ込みましたがこれをそのままで量産するのはマズイ。
もっと簡略化できるはずです」

「そうだね…でももう少しこのままのが欲しいかな?」

「あ~わかりました、先行量産型って訳ですか」

「そういう事さ、流石いっくん」

何はともあれ…

「先ずは橙のボディですね」

「そうだね…ちぇーちゃんは何かリクエストある?」

「いえ、ますたーを護れればそれで」

確かに橙がボディを得たら俺達の護衛が任務だよな…なら…

「よし、わかった、とびきり強いボディを仕立ててやるよ」

「ますたー、頼んだ」

さて、いっちょやりますか! 

 

第十九話

始業式が終わった教室。

学活、もしくはLHRの時間だ。

「皆さん!おはようございます!夏休みはいかがでしたか?」

あ~夏休み終わっちまったなぁ…橙のボディが…

「たのしかったー!」「うみいったの!」

とかまぁ煩いこと煩いこと…

「さて皆さん!二学期には何がありますかー?」

「「「「うんどーかーい!」」」」

9月の最終週の日曜だ。

教室に掲示してあるプリントには『運動会種目その他決定』とある。

ああ、やりたくねぇな…

「では今からどの種目に出たいか選んでくださーい!」

「「「「「はーい!」」」」」

えーと、出られるのは…
徒競走(全員)
学年リレー(全員)
パン食い競争(希望者)
借り物競争(希望者)
障害物競争(希望者)

の五つか…上級生になるともうちょっと増えるのだがまぁ一年生ならこんな物か。

ああ、面倒臭い。

今は一年生だからまだいいけどさぁ、全員参加のチーム系競技って失敗したらめっちゃキレる奴居るよね。

リレーとかバトン落としたり抜かれたりしたら責任押し付けて来るクズ共な。

テメー等調子乗ってんじゃねーぞ誰が毎回毎回テストの平均点上げてやってると思ってんだ…すまない、ちょっとしたトラウマがな…

まぁこの競技内容ならどれも同じ様な物か…余った奴でいいか。

おやすみなさ~い…Zzz…


んぁ?余ってる競技は…借り物競争か…

「誰か借り物競争に出る人いませんか?」

担任も困ってるなぁ…助けてやりますか。

「ふぁい、俺がでま…ふぁぁ…」

あ、ねむ…

「はぁ…一夏君また寝てましたね?」

「いいじゃないっすか…ちゃんと宿題は出してるしテストだって満点取ってるじゃないですか…いったい!何が問題だというのですか!?」

どうだ!この完全なジョジョ立ち!

「居眠りを辞めなさい!あとその変なポーズも!」

くそう!この先生ジョジョ知らないのか!名作なのに!名作なのに!

「ええ、確かにそうですね…居眠りはいけないことです…」

「わかってるじゃないですか、そうすれば成績も上がりますよ」

「だが断る、この織斑一夏の最も得意とすることは自分が圧倒的優位にあると思っている奴に『NO』と言ってやることだ…」

どやぁ…

「あ、あ、あ、…」

どしたの?

「貴方はまたそうやってぇ!」

あ…やべぇ、そうじゃんこの先生って新任だったなぁ…

「廊下に立ってなさぁぁぁい!」

涙目だし…

「はーい、出てまーす。あ、種目は借り物競争で~」

ガララ、ガララ

え?ピッシャーン!ってやらないのかって?ソレやったらたぶんあの人今度こそ泣くんじゃね?

はぁ…廊下に出たけど…暇だな、橙のコアは置いて来たし…まぁ、寝るか。

Zzz…Zzz…

『ねぇ…ますたーってバカなの?死ぬの?』

「んぁ?橙?なんでいんの?」

たしかコアはラボに置いてきたはずなんだが…

『じゃぁ逆に聞くけど…私達に物理的距離が障害になると思ってるの?』

「ああ、うん、そうだったね。
で、なんか用?ボディなら来年の四月迄には仕上げられるぞ」

『いや、これと言って用はないけどさ、新任の女性教師泣かすって…鬼畜だね』

「いや、まさかあれで泣くとは…」

『あの教師がノイローゼになっても知らないよ』

「ああ、うん、そうだね、以後気を付ける、はぁ…コレからは多少まともに授業受けようかね…」

うん、そうしよう、俺が前世で特進クラスだった時に担任が来なくなったりしたもんな…結局理由はわからなかったけど…女子はなんか知ってたっぽいけど…

『ところでさぁなんでボディ二つも造ってんの?』

「ボディ?ああ、あれか…束さんと話し合ってISコア先行量産型を俺と束さんで分け合うって決めてな。
俺が次に貰う予定のコアのボディも作っとこうと思ってな」

『今造ってるコアの?』

「いや、今造ってるのは束さんの分だよ、その次が俺、お前にpt0000をやったから俺の分が偶数ナンバー、束さんのが奇数ナンバーになるだろうな、といっても造ってせいぜい五つか六つだろうがな」

『そう』











同日、ラボ

「なるほど、運動会かぁ…懐かしいな…はんだ鏝ちょーだい」

はんだ鏝…あった。

「はい、中学の運動会はどんな感じなんです?」

「中学のは運動会じゃなくて体育祭だね、もう暑苦しくて暑苦しくて…」

「姉さんは?あと、図面」

「張り切ってるよ…はい」

「いつ頃あるんですか?」

「10月半ばだよ」

ああ、想像できる…

「ところで表現は何をするんだい?」

「さぁ?何をするんですかね?ソーラン節なら今でもできますよ、翌日の筋肉痛を無視すれば…」

「ソーラン節は毎年中学年の表現。
上級生は男子の組体操を女子が囲んでよさこいだよ。
下級生は学年主任の好みだね、あ、ドライバー取って」

ドライバー?

「そっちにあるとおもうけど…」

「ああ、ゴメンゴメン」

しっかりしてくれよ…

「学年主任…ああ、あの婆さんか…」

「え?あの人まだ居たの?もう定年でしょ?」

「今年いっぱいらしいですからね…ナイフあります?」

「どれ?」

「十徳」

「はい、あ~それで張り切ってたりして…」

「さぁ?でも表現なんて覚えるだけですし、徒競走も平均くらいは出せますし…」

「錘は外さないの?」

「目立ちたくないので」

「今何G?」

「1.……4?」

「いいの?成長期でしょ?」

「あ…そろそろやめときます、運動会は…1.2で」

二割減らしただけでもかなり早くなるだろうな。

「にしても魔方ってそんな事もできるんだねー重力まで操れるなんて…」

「貴女に渡したEカーボンも魔法を使って無重力状態にして精製した物ですよ」

それを盗撮用ドローンなんぞに使いおって…

「ふぅん…でさぁ、さっきから何造ってんの?ソレ本当にちぇーちゃんのボディに組み込む気?」

勿論さ。

「最高のボディを仕立てるって約束しましたからね」

だから乗せるに決まってるじゃないですか…

エイハヴ・リアクター

GNドライヴは流石にまずいのでね…

「いや、ソレって一番マズイ奴じゃないの?確か妨害電波出してたよね?」

問題ナッシング!

「波であれば魔法で簡単に消せますので」

「ああ、うん、そうだったね…」

ん?今何時だ?……マズイかも

「そろそろ戻りません?バレますよ?」

「あ~うん、もうそんな時間かぁ…ここまでやったら戻ろう」

「はい」

そのあと家に帰ったがなんとかバレずに済んだ…ああ、よかった。 

 

第二十話

「うぐぅ!く、苦しいよ…ちーちゃん…」

姉さんが束さんの襟首を掴んで壁に押し付けている。

「ならば吐け!いったいここで何をしていた!一夏といったい何をしていたんだ!」

俺が仕組んだ事ではあるが…そろそろ止めないとマズイか…

「待てよ姉さん!束さんにそんな事をしても何も分からないよ!」

「お前は黙っていろ!おい束!貴様一夏をこんな所に連れ込んでナニをするつもりだったんだ!さぁ、吐け!」

この駄姉ぶん殴ってもいいかな?




さて初っぱなからすまない。
何故こんなことになっているかと言うと、そろそろ姉さんに知って貰いたかったからだ。

今日は土曜日、ゆとり云々言ってたが未だに週休2日だ。

俺と束さんは何時も通りにラボへ向かった。

今日は本殿の近くで柳韻さんが何かやっていたので隠し通路を使えなかったのだ。

まず俺が家を出て十五分後に束さんが家を出る手筈だった。

俺は予定通りに家を出て扉を解放した上で扉のホログラムのスイッチを入れた。

コレは隠し扉を解放した状態でもバレないように造った物だ。

扉を解放してスイッチを入れた俺は先に作業を開始しようとした。

何時も通りに作業を始める前に限界までメティス・サイトを展開する。

そこで俺は気付いたのだ。

このラボへ向かってくる存在が『二つ』。

束さんとその後ろを着いてくる姉さんだ。

本来こういう時のため俺が先行している。

以前にも姉さんは俺を尾行していた時期が有ったしな。

しかしそろそろ姉さんにもISを知って貰おう。

そう思った俺は橙を束さんの元へ向かわせず放置した。

俺は橙のボディを造っているエリアを出て通路へ向かった。

「あれ?いっくん?待っててくれたの?
それとも何か問題が起きたのかい?」

束さんが不思議そうに聞いてくる。

「いえいえ、客を案内するのは家主の役目でしょ?」

と、答えると。

「何か変な本でも読んだの?」

「まさか、そろそろお客様が来ますよ」

気付かないな~

「客?………まさか!」

もう遅いよ。

「おい、束、どういうつもりだ?」

「うげぇ!ちーちゃん!?」

斯くして冒頭へ。



本当にこの駄姉は何を言っているのだろうか、いきなりシリアスブレイク…

「ち、ちがっ、そんな事するわけないじゃないか!」

「ええい黙れ!こんな所に年下の男を連れ込んでコトに及ぼうとしたんだ!言い訳出来ると思うなよ!」

「いや!だから!ちょっ!まっ!いっくん!助けて!」

はぁ…

俺はある魔法を放った。

左手を空に掲げ、虚空をつかむ。

幻想の弓が姿を現す。

右手を掲げ幻想の弦をつまむ。

そして俺は手を放した…

ピィィィィン………

幻想の音色は空気ではなく情動を司る粒子を振るわせた。

情動干渉魔法『梓弓』

「姉さん、少しは落ち着いた?」

「あ、ああ……今のはお前か?一夏」

「そうだよ、その前に一つ、姉さんが思ってる事は全くの的外れだよ。
ここはラボ。俺達の夢の出発地」

束さんは…大丈夫そうだね

「勿論、付けて来たんだから姉さんにも協力して貰うよ」

「ラボ?夢?何の事だ?」

それもそうか、ここはまだ通路だもんね。

「奥に進めば分かるよ。安心して、ヤリ部屋なんてないからさ」

タッタッタッタ…と姉さんは奥に走って行った。

「束さん、大丈夫ですか?」

と手を差し出す。

「うん、ありがと、大丈夫だよ」

「それは良かった」

「で、どういうつもりかな?いっくん?」

怒ってるなー…

「そろそろ姉さん相手に誤魔化すのは限界でした、最近かなり見られてましたので」

「限界って…何処まで話すつもりだい?」

やっぱりソコなんだよな…

「父さんと母さんの事以外は全て話したいと思っています」

「それはいっくんの事も含めてかい?」

「はい、何時かは話さなければいけないことです、ここで全部纏めて話します」

「なるほど、覚悟決めたんだね、私はまだちーちゃんを巻き込む覚悟を決めてないよ」

覚悟…かぁ…

「覚悟、そんな高尚なものじゃありませんよ、ただただ話して楽に成りたい。
今日、束さんが付けられてるのに気付いて、其処からは勢い任せですよ」

「なら、私もその勢いに乗せて貰おうかな…」

「大丈夫ですよ、世の中案外上手くいく物ですよ」

俺はそう言ってラボに向かった。




ラボ…というか第一層のファイタールーム(戦闘機が大量に置いて有るため、もしくは単に一階)では姉さんが戦闘機をまじまじと見ていた。

時々コンコンと叩いたりしていた

「どうだい姉さん、凄い物だろう?世界中の傑作戦闘機が集められてるんだ」

「一夏、ここはなんだ?この大量の戦闘機がお前と束の夢なのか?」

「その礎、かな」

「……………」

「束、さっきから何を黙っている、お前達はここでいったい何をしようとしてるんだ」

「まぁ、束さんはまだ覚悟を決めてないんだ、まず、俺の話を聞いて欲しい」

「いいだろう」

スゥ…ハァ…

「まず、俺には前世の記憶がある」

よし!言った、言ったんだ。

「……………少し疲れてるようだ…
もう一度言って欲しい」

「俺には、前世の記憶がある、いや、俺は生まれ変わった存在だ」

「それは……本当…なのか?」

「ああ、本当さ、俺は高校生の時に死んだのさ。
そして生まれ変わった、『織斑一夏』という存在に」

俺のカミングアウトはこれでほぼ終わり。
言ってみると案外そうでもなかったな…

「と、年上?」

「そうなるね、『姉さん』」

「……………………」

あぁ、姉さんが頭を抱えてうずくまった…

「そんな、弟だと思っていたのに…精神年齢が私より上…わたしの…姉の威厳が…」

と、ぶつぶついい始めた。

「そうだ、思えばむかしから…」

あ~駄目だこりゃ。

束さんは…まだ考えてるな。

「束さん?覚悟なんてしなくていいんですよ。
勢いに任せましょう。なに、姉さんの事です、後五分もあれば回復しますよ」

「そ、そうだよね、私の話なんていっくんのに比べたらね…」

なんて話しているうちに姉さんが復活した。

「よし、理解した、一夏、お前は何があろうと私の弟だ、コレは絶対に変わらん」

分かってくれたみたいだ。

「ありがとう、姉さん」

「あ~それとだな、うん、まぁ、束との事だが、ヤるなとは言わんから…」

……………………………………

「ちげぇっつってんだろ!この駄姉!脳味噌御花畑かテメェ!」

「誰が脳味噌御花畑だ!」

「あんただよ!思春期か!?ああ、思春期でしたねぇ!」

「こ、こんな所に二人きりで入ればそうも思うだろ!」

「だから!それを今から説明すんの!」

「「ハァハァハァハァ…」」

「落ち着いた?」

「さっさと姉さんに説明してあげてください」

「え~呼んだのはいっくんでしょ~」

は?

「アンタの事を手伝ってんだろうが!
さぁ、主犯の口から自白しろ!」

「主犯って…」

主犯だろ、まぁ、俺も共犯者だがな。

「分かったよ。ちーちゃん、私の夢を知ってる?」

「既存の方法以外で宇宙に行きたい、だったか」

「そう、スペースシャトルやロケット以外で宇宙に行く。
此処ではそのために必要なものを創ってるんだ」

「こんな所でか?」

「此所は旧日本軍残党が残した兵器開発工場さ」

「旧日本軍の工場?何故こんな所にそんな物が…」

「私のお祖父ちゃんかひいお祖父ちゃんが関わってるんだと思う。
初めてこの工場に入った時にお祖父ちゃんの手帳が有ったから」

「そうか…此所にはそれが出来る設備が有るんだな?」

「うん、いっくんにも手伝って貰ってるんだ。
この工場を見つけたのはいっくんだし、いっくんが居なかったら私の夢は叶わなかったよ」

「そうか…いつ頃見つけたんだ?」

「俺らがこっちに来るより前。
実際に行ったのはこっちにきてからだけどね」

「こんな所に有るのにか?私は稽古の時以外でお前から目を離した事は無かったぞ。
それに箒も何も言わなかったしな」

「あ~その事なんだけどさ、俺ってその、オカルトの類いの力を使えたりするんだよね」

「オカルトだと?本当なのか?束?」

そっちに確認とるのか…

「うん!いっくんは別世界から来た魔法使いなんだよ」

……………………

「をいぃぃぃ!俺がオカルトってぼかしたのに暴露すんなー!」

「…………………」

また姉さんがフリーズしてる…

「あ、ゴメンゴメン、でも何時かはバレるっていってたじゃん。
それに全部バラすとも」

言ったけど!言ったけど!

「時間をかけてゆっくり説明する気だったんです!」

「この際全部バラしちゃおうZE!」

ZE!じゃねー!

「姉さん、この際全部言うよ。
俺は歴史が分岐した世界の2095年からきた。
その世界では諸々の理由で魔法が存在し俺は魔法が使える。
この施設は千里眼や透視のような力で見つけた」

「……………三行でたのむ」

ふむ、三行か…

「俺は未来から来た。
俺は魔法使いである。
この施設は魔法で見つけた。
おうどんたべたい」

こんな所だな。

「分かった、だが四行目はなんだ…」

「わかってないなー。
『三行で頼む』と言われたら関係ない四行目を入れるのが嗜みって奴さ」

これぞニャル子さんクオリティ

「そうか…うん、そうなのか。
少し休ませてくれ」

「じゃぁ事務室で休んでて。
其所に色々な事が書かれたファイルが有るから」

そのあと姉さんを事務室に置いて開発エリアへ向かった。

姉さんを回収した時、最初より疲れたような顔をしていた。

まぁ、関係ないが。

さて、姉さんを引き込めた?し、これかもっとやり易くなるな。

早く橙のボディを造ってやらないと… 

 

第二十一話

「『我々!選手一同は!正々堂々と!全力を尽くし!』」

「『力の限りを出しきると!此所に誓います!』」

「『20XX年!』」

「『赤組団長〇〇〇〇!』」

「『白組団長●●●●!』」

各組の団長の宣誓が終わり拍手が上がる。
そう今日は運動会だ。

「『準備体操』」

たんたたたんたたたたんたたたたた…と、あの音楽が流れラジオ体操第一をやる。

そーいや前世でミリオタの友人にやらされた『自衛隊体操』はキツかった…

「『選手退場、回れ右』」

と、そんな事を考えている内に準備体操も終わり退場だ。

それにしても退場ってあっさりしてるよね…どうせなら行進でやればいいのに…

「いちか、がんだろうねっ!」

「ああ!勿論さ!」

勝利の栄光を君に!………あ、これダメなやつだった…まぁ、いいか。

「四年生は入場口に集まってくださーい!」

お、四年生の招集だ、ってあの招集係の人って阿良々木暦じゃね?うわぁ、超真面目そう…

「いちかくんどうしたの?」

と千石に言われてしまった。

「いや、なんでもない」

あんな真面目そうな人がひねくれるのか…

四年生の競技がプログラムNo.1、一年生の競技はプログラムNo.4の徒競走が最初だ。

観客席に座って四年生の競技を見ていると一年生に招集が掛かった。

「おーい!一年生!入場口に集まってくれー!」

よし、行きますか、錘は…面倒だな、全部外そう。

「箒、千石、行こうか」

「「うん!」」

俺達は入場門手前の集合場所へと向かった。

先生が全員居るかを確認してグラウンドに座る。

ヒュン!ヒュン!………こういう時さぁ、小石投げてくる奴絶対居るよね…

こいしちゃんなら大歓迎だけどさぁ小石はお呼びじゃないんだよね。

別に俺だって何時も防御している訳じゃない。

学校生活で何かが落ちてきてバレたりしたら目も当てられないからだ。

使うのはせいぜい正規ルートでラボに行くため山を突っ切る時ぐらいだ。

イテッ!おい!お前さっきから俺を狙うんじゃねぇ!後ろからならバレないとおもったか!?

バカめ!俺には分かr…イテッ!

『なぁ、橙』

『なに?ますたー?』

『やっちゃってもいいよね?』

『………ほどほどにね』

うしっ!反撃開始!先ずは~適当な小石を拾って~

次に~親指の爪が人差し指に隠れるようににぎって~

出来た窪みに小石をおいて~

窪みを肩から後ろにむけて~

最後に疑似瞬間移動(超弱め)を展開して…

ファイア!

ズビシ!

「うわっ!?」

と声を上げてターゲットが額を押さえる。

ざまぁwww。

しかも自分から仕掛けてきてるから先生にも言えないという…

『ますたー、大人げない』

『うぐぅ!?』

『や、やられたらやり返す、倍返しだ!』

『あ、そう』

最近俺の式神がつめたい…

「『次は一年生の徒競走です、今年入学した…………』」

「はーい、立ってくださーい!」

お、入場だ。

俺達は入場してグラウンドに座る。

本部(放送席、教員席、来賓席が集まってるところ)前を内側のスタートラインとするセパレートなので先頭をそこに会わせて座る。

「よーい……」パァン!

第一組がスタートした、俺は第三組だ。

よし!そこ!あとちょっと!うっし!

俺達の組の選手が一等を取った、やったぜ!

続いて第二走者が走るが…ああ、ぬかされた…

今度は取れなかった、しかも下位で固まってるし…

そして俺のターン!ドロー!
マナチャージ!

コスト3を払ってコッコルピアを召喚!

ターンエンド!

………アカン、終わってもうた…

『何してんの?始まるよ?』

『はいはい』

俺は自分に掛けていた魔法を解いた。

うわ!体がめっちゃ軽い!

「位置について、よーい」

俺は半身になり右足を下げる。

そして前傾姿勢になり右腕を引く。

左腕は脱力状態。

イメージは弓弦を引いた弓。

これが俺が前世で使ってたスタートのフォーム。

猫背だった俺が中学生の時我流で編み出した最も早く反応できるフォームだ。

俺は前世では余り反応速度がよくなかったので、普通のフォームだといちいち反動を付けなければ動けなかった。

『なら最初から反動を付けた姿勢にしておけばいいのでは?』と思ったのだ。

当時は一応テニス部の末席にあったため短距離走だけは多少速くなった。

その時に考え付いたのだ。

パァン!とピストルが鳴り、俺は引き絞った弓弦を離したかのように飛び出した。

あははははは!体が軽い!どこまでも走れそうだ!

そんな事を思っている内にコーナーだ。

俺はスピードを緩めず内側に体を倒して曲がり切った。

あはははははははは!最高にハイってやつだ!

なんて思ってる内にゴール、勿論一等だ!

その後は箒と千石が走った。

箒は一等を取った。

千石は残念ながら後ろから数えた方がいい順位だった…

勿論応援したよ、あと束さんがめっちゃ応援してた。

あとな~んか上空に居るんだよね…

というか例のドローンの改良型…

また下らん事に時間と資材を使いおってからに…

「いちか!いちか!いちばんとったよ!」

と、箒がきたので頭を撫でて上げた。

「えへへ~」

尻尾があったらめっちゃ振ってるんじゃないかってくらいご機嫌だ。

「はぁ……」

「お前も頑張ったな、千石」

と、落ち込んでいた千石の頭も撫でる…

「ひゃ!?」

おっと…おどろかせちゃったかな…

「そう落ち込むな、そのうち速くなるさ」

「うん!」

その後は上級生の競技を見たりしていた、そして…

「借り物競争に参加する人は入場門に集合してくださーい!」

お、出番だな。

俺が門に行くと他学年の生徒が多く集まっていた。

借り物競争は全学年混合なのだ。

俺の組は三年生二人、六年生一人、一年生二人だ。

入場してグラウンドに座る。

前の人を見ると少し走ってからカードを取りグラウンドに置いてあるボックスへと向かう。

ボックスの中に指定された物がない場合、客席等に行っているようだ。

そして俺のターン!

ドロー!マナチャージ!

コスト5を払ってボルメテウスホワイトドラゴンを召喚!

ターンエンド!

『………天丼、て言うか続ける気?』

『うっさい』

パァン!とピストルが鳴る。
今回は速く走る必要は無いので普通にスタートする。

さてさてカードのお題は……『シスコン』。

これ書いたの誰だよ…まぁ別にいいけどさ…

俺は急いで観客席に向かった。

もうお分かりだろう。

「束さん!来て!」

「分かったよ!いっくん!」

そう、シスコンを呼びに行ったのだ。

シスコンの手を握ってゴールに走る。

どうやら俺達が一番のようだ。

「『ゴール!一番にゴールしたのは織斑一夏君です!』」

と放送が入った。

「やったねいっくん!ところでカードのお題は何だったの?」

さて…ここで正直に答えるかどうか…よし。

「当校の卒業生ってお題ですよ。
ほら、だから束さんを連れてきても誰も文句言わないでしょう?」

先生方は俺と束さん、て言うか束さんを暖かーい目でみていた。

本当はこの人が小学生時代から妹の自慢ばかりしてたから先生方は皆知ってるってだけだ。

「そっかー、でもそれってちーちゃんでもいいんじゃない?」

うぐぅ…それを言われると…

「た、たまたま束さんが近かったからですよ」

「ふぅ~ん、まぁいっか」

お、納得してくれたかな?

「借り物競争に参加した生徒は係の人にカードを返してください」

と呼び掛けが掛かった。

「じゃぁカードもどしてきまs…」

そこで風が吹いた、カードが飛び…束さんがキャッチした…

「ねぇいっくん」

「ナ、ナニカナータバネサン」

「さっきさぁ、カードのお題は『当校の卒業生』って言ったよね」

そこでニッコリと笑って。

「じゃぁこのカードは何なのかなぁ?」

え、笑顔なのに目が笑ってねぇ!?

「アハハハハ、オッカシーナー、タシカニ『当校の卒業生』ッテカイテアッタノニナー」

「…………………………」

「…………………………」

先生方は暖かーい目で見ている。

「………………」

「覚悟ぉ!」

「ヤベェ!?」

束さんが追ってきた!しかも速ぇ!ふと後ろを向く…

「ホバーシューズなんぞ使ってんじゃねぇ!」

束さんが浮いていた。

確かあれはPICのテストに試作した物だったはず…何故今履いている!?

しかもソレに推進力は無い筈なのに!

って、スラスターまで展開してんじゃねぇか!

俺は急いで自分と束さんに認識阻害を掛けた。

魔法とISを知っている人、つまりは姉さん以外に俺達はみえていない。

俺も飛行術式を展開して逃げる。

飛び上がらずホバー状態でだ。

ギューン!と逃げ回っていると突然束さんが止まった。

後ろを向くと。

「おい、貴様、あれだけ私に念を押しておきながら何をしている?」

「ち、ちーちゃん!痛い痛い!」

姉さんが束さんにアイアンクローをかましていた。

「一夏、コイツの事は任せろ、早くクラスの席に戻れ、怪しまれるぞ」

「はーい」

「え、ちょ、まってよいっくん!」

ナニモキコエナイナー

その後はクラスの席に戻って観戦していた。

一年生の表現は午前にあり完璧に決めてやった。演目?恋ダ〇スでしたが?

そして午前の部が終わり俺と箒は姉さん達の居る観客席へ向かった。
 

 

第二十二話

「箒!一夏くん!かけっこで一番とはなかなかやるじゃないか!ほら、こっちおいで!」

と、柳韻さんが赤い顔で手招きをする…呑んでる?

「貴方は少し自重してください、全く昼間から呑んで…」

「いいんだよ…それに言うじゃないか『あな醜く、賢しらをすと』……あれ…?」

ああ、大伴旅人の歌か、つか言うなら暗記しときなよ…

「『あな醜く
賢しらをすと
酒呑まぬ
人をよく見ば
猿にかも似む』
大伴旅人の和歌ですね」

「おお!一夏君、よくしってるねぇ」

「でもこうも言います
『酒一杯にして人酒を呑み
酒二杯にして酒酒を呑み
酒三杯にして酒人を呑む』」

「う、ぐぅ…」

「あらあら、一本取られましたね」

と夫婦のやり取りをしている。

「いっ君、よく知ってるねぇ…まさか体験談?」

「………………」

「おい、お前…前世でも二十はいってないだろう?」

ね、姉さんと束さんの目が!笑ってるのに笑ってない!

「い、いやぁ、前世で読んだ漫画にね?」

茨華仙に修行(性的)つけて貰いたいなぁ…

三月精に悪戯(性的)されたいなぁ…

ああ、箒が?浮かべてこっち見てる…

「そっかー」

「ふむ、そうか…」

ふぅなんとか誤魔化せ…

「「で、本当のところは?」」

てない…

「さ、サイダーの代わりにスパークリングワインを…」

「絶対に呑ませんからな!」

「わ、分かってるって…」

たぶん姉さんの事だ、呑んだら直ぐにバレるだろう。

「ねーねーいちか、さっきのってなに?」

箒がこっち来てた、今の話は…

『聞かれてないよ』

あ、よかった

「さっきの歌は昔の人が作ったもので最初のは…そうだな…『お酒を呑まない人の方がバカだ』って言ってるんだ。
二つ目のは『お酒を飲み過ぎたらダメ』ですよって意味さ」

曲解って言われそうな説明だが大筋は合ってる筈だ。

「へ~」

その後は特に何もなかった。

あ…酔った柳韻さんが絡んで来ては奥さんに怒られてたな…










そして午後の部、一年生に残っているのはリレーだけだ。

各クラスで二チーム、一応紅白戦だけどね。

こういう時って片方に早い奴集めれば確実に一位取れるよね…

面白くないのはわかるけど効率はどう考えてもそっちが…

「がんばれぇー!」「もうちょい!」「あ!ぬいた!」

ただいま競技中…一学年全員が叫んでてやかましい。

「いちかくん、次!」

ん?ああ、俺の番か…モブAちゃん、教えてくれてありがとう。

俺の前の走者?千石だがなにか?

「千石!ここまでこい!」

と俺はバトンパスエリアの一番前に立つ。

「はぁはぁ!はい!いちかくん!」

パシッ!っとバトンを受け取り走り出す、前方には三人…

先ずはスタートダッシュからの数メートルで一人抜かす!

次にコーナリングで一人抜かして内側に!

そして最後の一人!…がバトンを渡した。

「箒ぃ!頼むぜぇ!」

そう、俺の次の走者は箒だ

結果は……………












「いやぁ…まさかアンカーが転けるとは…」

ただいまの時刻4時…もちろん午後

現在地……車内?帰路?

「そうだねー、わたしたちのときにはいちいだったのにねー」

あのあと箒はトップに踊り出たがその次のアンカーがずっこけたのだ。

「でもいっくん本当に速かったね」

「そりゃ剣道で足腰鍛えてるからね」

錘も外したし。

「まぁ、小学生ならそんなものだろう。
一年生では部活には入れないからな」

俺達の学校では一年生は部活に入れない。
入れるのは二年生からだ。

「一夏君、部活に入るの?」

と奥さんに聞かれた。

「いえ、部活には入りません」

放課後はラボに行きたい、それに部活は色々と金が掛かるのだ。

「あら、遠慮しなくてもいいのよ?」

「放課後はゆっくりしたいので」

「…………」ジトー

何故か箒がジト目だ、何故だろうか?

「あら、そう?」

と奥さん。

「いっくんは剣道してるしね…」

と束さんが言うと姉さんはこう言った。

「そうだな、自分より弱い相手にへりくだるのはな…」

うわぁ…確かにそれは嫌だなぁ…

「それって実体験?」

「ああ、入部してから3日ぐらいか…
先輩と打ち合って叩き潰したら目を付けられてな…」

「へぇ…なんかされた?されたんなら言ってよ…そうすれば…」

ノロッテヤルカラサァ…

「ん?いや、そういったことは無いがしつこくリベンジしてきてな…手を抜くのは失礼だとおもって全力でやったら退部されてな…」

「うわぁ…」

それは…また…

「まぁ、何かされれば相応の対応を取るさ」

『相応の対応』ね…その時は俺も動くか

「流石はちーちゃん、格好いいねぇ。男子よりモテる訳だよ」

まじか。

「な!そっ!それを言うな!」

「えー?いいじゃんいいじゃん」

「そうそう、姉さんがどこの馬の骨とも知らん男と付き合うくらいならいっそ百合の方が…」

「………………」カオマッカ

うわぁ…めっちゃ照れてる…

「い、一夏はどうなんだ!?」

「ははっ!俺みたいなのがモテる訳無いじゃん」

だって、俺は原作の一夏じゃないのだから。

「はぁ…」

と箒がため息を付いた。

「箒ちゃん、帰ったら女子会しよ」

「うん」

「じゃぁ俺は寝るから」

「…………」ジトー

だから何故にジト目?

「はぁ…全く私の弟ときたら…」

「だって疲れたし」

「まぁまぁ、ちーちゃん、いいじゃないか。
女子の秘密を探ろうって訳じゃないんだし」

「俺はそんな事しねえっつの」

「じゃぁ帰ったら女子会で確定だね」

その後俺は本当に寝た。

よって女子会の内容は知らない。

まぁ、橙なら何か知っているかも知れないが…











そしてこの後は何も無かった。

俺が一年生である内は…

そう、事が起こったのは小学二年の春だった。

場所は体育館、そしてその時俺が纏っていたのは胴着で、手に竹刀を持っていた。 

 

第二十三話

「あっれぇ?おっかしいですねぇ…」

静まり返った体育館に俺の声が響く。

「竹刀なのに斬れちゃいましたよ…」

俺の目の前に座り込んむ上級生の胴には、夢でも幻覚でもなく、刀傷がある。

「おやおや、どうされました?先輩方?濡れてますよ、凄い汗ですね…」

とおどけてみる。

「そちらさんも胴にヒビが入っちゃいましたね…」

と箒の正面に座り込んだ上級生の胴には蜘蛛の巣のようなヒビ。

「良かったですね…」

目の前の上級生の顎に竹刀を当てる。

「俺の手に有ったのが竹刀じゃなくて」

そのまま上を向かせる。

「真剣だったら」

箒の前の上級生を一瞥し。

「御二人とも」

ニコリと微笑む。

「死んでましたよ?」

「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

と叫び声を上げて俺の目の前の上級生は気絶した。

箒の前の上級生は気絶はしてないがガタガタと震えている。

何故こうなったかというと…少し時間を巻き戻す。











今日は始業式の翌日、小学二年生二日目である。

四月一日から身分上は二年生だという意見は却下するのであしからず。

俺達の学校は二年生から部活動が解禁される。

別に必ず部活に入らなければいけないという訳ではないが、二年生初めのLHRは上級生が来ての部活動説明会だ。

俺は部活興味が無いので机に突っ伏していた。

「次は剣道部です!」

と担任が言うと剣道着を来た上級生が入ってきた。

「剣道部部長の〇〇です!」

「剣道部副部長の◇◇です!」

はっきり言って名前なんて覚える気はない。

そして剣道部の説明があった。

最後に上級生が…

「今現在剣道をしている人はいますかー!」

と言うと…

「はい」

と、箒。そう、そうなんだ。

今年も箒と同じクラスなんだよ。

俺は目立ちたくないので突っ伏してたんだが…

「一夏もでしょ!」

はぁ…しょうがないな…

「はい…」

とまぁ、こんな感じで顔を上げて手も上げたんだが…

その二人の上級生になんというか…見覚えが有るというか…だが思い出せない、だれだ?こいつら?

そして、その上級生二人が俺と箒を見る目がなんというか…怨みの籠った目なのだ。

え?なんで?俺等なんかしたっけ?

「え~と…そこの女の子、名前は?」

「篠ノ之箒です」

目線が強まった…箒は…気付いてねーなありゃ。

「そっちの君は?」

「織斑一夏です」

む、箒よりも強い恨みだな…

え?マジで俺等何もしてねーよ?

どこぞのファイヤーシスターズじゃぁあるまいし…

そうそう、千石は別のクラスだった。

下駄箱の前でとても残念そうにしていた。

「篠ノ之ちゃん、織斑君、君達が来るのを待ってるよ」

行ったらそのまま体育館裏に連行されそうな感じだ。

「はい」

「うす…」

と、取り敢えず返事をする。

その後は剣道部の上級生二人は退出した。

多分他のクラスに行ったと思う。

そしてLHRの最後に担任が…

「今日から部活動の見学ができますので興味があれば行ってみてください」

うん、ぜってー行かねぇ。

「では…出席番号一番織斑くん、挨拶を」

なーんで俺の前に誰も居ないんですかねぇ…

「きぃーつ!きょつけ!礼!」

とやった結果は…

「「「「「「「………」」」」」」」

あ、しまった。高校の時の癖でやっちまった…

「はぁ…きりーつ、きをつけー、これで〇時間目の授業を終わります…れーい…」

「「「「「終わりまーす」」」」」

やっぱ締まらねぇな…

「ねね!一夏!放課後剣道部行こう!」

「やだよ、めんどくさい、放課後はラボに…じゃなくてゆっくりしたいの」

それに行ったらめんどくさそうだし。

つーかあの二人って部長、副部長だろ?俺と箒でも頑張れば勝てるぞ?

※箒もどこぞのワンサマーの手で魔改造済みです。

「見学くらいいいでしょ」

こんな顔されて断れる?俺は無理だ。

「わーったよ、わーったから、行けばいいんだろう?」

「うん!」










とまぁ、そんな訳で放課後に剣道部の見学に行った。

剣道部には俺達を含めて五人くらいが見学に来ていた。

「え~っと顧問の□□です、この中で剣道をやっている子はいるかな」

「はい」

「はい」

やはり俺達だけか。

「名前は?」

「篠ノ之箒です」

「織斑一夏です」

と言うと顧問の先生は驚いたようにいった。

「君は千冬君の弟かい?」

「はい、箒も同門です」

「なるほど…柳韻君の弟子か…」

どうやら柳韻さんとは交流があるようだ。

「柳韻君にはどこまでおそわったのかね?」

え~っと…まだ古武術はやってないから…

「剣道のみです」

「?」

そか、普通は剣術なんて習わんわな。

「ああ、えっとですね…」

と説明をする。

「箒ちゃんも同じかね?」

「はい」

「では…うん、二人は練習に混ざってもいいよ。
ごめんけど、私は少し校長先生に呼ばれていてね。
少し離れるから、二人以外は自由見学してて」

「あ、いや、俺は入部は…」

「一夏、いくよ!」

「あ、ちょ、おまっ、待て!」

と引っ張られていった。

「すみませーん、先生に混ざって良いって言われたんですけど更衣室ってどこですかー?
あと籠手だけでもいいのであまってますかー?」

ちょっ、箒コミュ力高過ぎ!原作じゃそうでもないのに!

なんて思っていると六年生の女子児童…先輩が来て。

「あら、□□先生が良いって言ったなら経験者なのね?
防具は授業用のがいくつかあるけど剣道着はないわ」

「そうですか…ん…体操服でもいいですか?
明日からは持ってきますので」

おいおい…入部する気満々かよ。

「仕方ないわ、まぁ…いいでしょう」

「お、おい、箒」

俺はあの上級生二人と関わりたく無いんだよ!なんか面倒な事になりそうだし…

「ほら、いくよ!一夏!」

と、ずんずん進んで行く箒だが…

「おい!バカ野郎!俺を女子更衣室に連れ込む気か?」

「気にしないよ」

「他に誰か居たらどうすんだ!?」

「じゃぁ、待ってるから体操服に着替えて来て」

「はいはい」

仕方ないので俺は男子更衣室…がわからなかったので近くのトイレで着替えてきた。

「おそかったね、一夏」

「普通男女逆じゃね?」

「ほら」

と手をつかみ引っ張られる。

「はいはい…」

その後は体操服に籠手だけというものすごく『あり得ない』格好で一部練習に参加した。

そして練習が一段落して休憩がかかった。

壁際に行くのも面倒臭くて籠手を外した時、事は起こった。

「きぇあぁぁぁぁぁぁぁぁー!」

と上級生が箒に襲いかかった、箒は竹刀を置いて丸腰なのにだ。

「箒ぃ!」

「!?」

俺は慌てて持っていた竹刀を箒に投げた。

加速を掛け、移動魔法でコースを制御。

箒の手にたどり着く前に減速。

そして箒が握り込む瞬間に停止。

カァン!と受け取った竹刀で箒が防ぐ

よしっ!間に合っ…ッチィッ!

俺は振り向き右手を掲げる。

「剛気功!」

カァァァァァン…

「な、なにぃ!?」

俺の、体操服から露出し、籠手を外した右腕とあたった筈の上級生の竹刀は、甲高い音を立てて弾かれた。

「チッ…箒!SS!突け!胸だ!」

俺と箒だけがわかる符号で叫んだ指示に、箒は従った。

鍔競り合いをしていた箒は上級生を受け流し、態勢が崩れた隙にバックステップ、そして。

「いやあぁぁぁぁ!」

肩に引き絞った竹刀を…突き出した。

ガッ!…ピシィ…

「ぐをぁ!」

片手直剣上位剣技ヴォーパルストライク…冬休みに箒に仕込んだ物だ。

魔弾タスラムの応用で竹刀そのものが加速された突き。

それも上級生の胴にヒビが入る程の…

「一夏!」

ヴォーパルストライクを放った箒はすぐさま俺に竹刀を投げる。

箒が投げると同時に先程と同様の魔法をかけ、受け取る。

「さ、先輩殿…殺ろうか?」

「なぁぁぁぁぁめるなぁぁぁぁ!」

体操服に竹刀の俺とフル装備の上級生が相対し、あちらから仕掛けて来た。

「きぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

カァン!カァン!カァン!…と打ち合い…

カァァァァン!と大きく弾く…いやぁ本当は巻き上げをやりたかったんだが…難しいねぇ…

「クソッ!」

こっちのセリフだよっ!

弾かれた態勢の上級生に対して俺は、上段に構えた竹刀を振り下ろす。

上級生の面ではなく、胴をかするように…

俺の気迫に圧されたのか座り込んだ上級生。

そして上級生はふと自らの胴を見た。

先程振り下ろした時、胴に当たった筈なのに、一切の音がしなかった事に気付いたのだろう…

斯くして冒頭へ…










ったく…なんだったんだコイツら?

俺達が何かしたわけじゃぁ…あ、思い出した、コイツら篠ノ之道場の元門下生じゃないか?

確か態度が悪くて叩き出された…

成る程、原因は姉さんか…

いや、姉さんは悪くないのか…

「箒、ちょっと変われ」

箒の方の上級生の前に向かいながら、箒を退かせる。

「ん」

へたり込んだ上級生を見る箒の目は…ゴミを見る目だった。

「おい、テメェ…」

「は、はいっ!」

「どういうつもりだ?」

と言うと同時に竹刀を首筋に当てる。

さっき切り付けた時は"圧し切り"を使ったが今回はもちろん使っていない。

「や、えっと、あの、その、えと…」

ハッ!気圧されて下級生の質問にも答えらんねぇのか?

「テメェ等が篠ノ之道場の兄弟子なのは知ってんだよ」

「う…」

「理由は…そうさな…姉さんへの恨みって所か。
まぁ、いい、貴様等ごとき何度来ようと一緒だからな…」

そんな風に上級生を詰問しているとさっきの女の先輩がやって来た。

「あ、あの…」

「ああ、お騒がせしてすいません」

と満面の笑みをうかべる。

「ああ、えっとぉ…」

「直ぐに帰りますので…箒、帰るぞ」

「………」コクリ

俺は箒の手を掴んで剣道部部室に向かう。

「おや、一夏君…だったかな?どうしたのかね?」

部室に向かう途中で顧問の先生に会った。

「今日は家の手伝いをしなきゃいけないんです。
すいませんが今日は帰ります」

「おお、家の手伝いかね?
偉いねぇ…箒ちゃんもかい?」

「………」コクリ

「じゃぁ先生さようなら」

「ああ、また来てくれ、入部待ってるよ」

「はい」

まぁ、絶対にあり得ないけどな。

パタン…と戸を締める。

「一夏…ごめんなさい」

「ん?何が?」

竹刀や籠手を直しつつ答える。

「私が…無理矢理連れて行ったから」

「ああ?問題ねぇよ、事実撃退できたしな」

「えっと…腕…大丈夫?なの?」

「平気だ、ホレ」

と腕を見せる。

「ほんとだ…」

「気合い入れりゃぁなんともない、さ、この話はしまいだ、帰るぞ」

「うん」

その後は何も起こる事なく帰宅した…

いやいや、本当に何も無い訳がない。

帰宅して少し経った後、学校から電話があった。

もうわかるだろう?はぁ…面倒臭い…

いや、俺達が悪くないのは柳韻さんもわかってくれておとがめ無しだったんだけど

明日の放課後は俺達と相手、あちらの保護者、教員、柳韻さん、そして…何故か姉さんで話し合うんだと。

ああ、明日学校行きたくねぇ。
 

 

第二十四話

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「(どうしてこうなった?)」

ある部屋に小学生が二人…どちらも男子児童で片方は二年生、片方は六年生。

そして沈黙が流れるこの場所は…

阿良々木家、それも長男阿良々木暦の自室である。

「(いや、本当、どうしてこうなったんだっけ?)」

と阿良々木暦は考える。

この部屋の主たる阿良々木暦の目の前にいるのは…

"女装した"後輩だが、阿良々木暦は気付いていない…
















今日は剣道場でクソ二人を締めて二日後、昨日の話し合いで出た結論は『上級生二名の停学』と『顧問の減俸』だった。

うん、顧問の先生には悪いことをしたな…もうちょっと穏便に…は無理だな。

あの状況で穏便に済ます方法は無い。

だって俺等は襲われた側で咄嗟の対応しか取れなかった。

あと、上級生二人の防具のダメージはなんかそれらしい理由でなぁなぁになった。

まぁ…姉さんと束さんにはバレてたけど…

「ねぇねぇ一夏」

「どうした?」

「今日の放課後撫子ちゃんと遊びに行こ」

「はぁ?どこに?」

「えっと…アララギ ツキヒちゃんのお家」

「………………は?」

アララギ ツキヒ?

「いやいや、まさか…誰の家って?」

「アララギ ツキヒちゃんの」

「アララギか…ふぅむ…」

一年生の時は全く呼ばれなかったのに?でもまぁ…いいか。

「あぁ、いいよ」

「よしっ!」

あ、でも…

「一回帰るのか?直か?」

「ん…どうする?」

「………公衆電話で連絡入れるか」

いつでも十円入れればどこへでも掛けられる。

スマホやら何やらが普及しても無くならないんだよな。

「一夏お金持ってるの?」

「ああ、いざって時のために三十円ほど」

これは何と言うか、前世からの癖のような物だ。

束さんにも伝えとくか…

俺は視覚投影ウィンドウを開き視線ポインタで束さんにメールを打った。

「キョロキョロしてどうしたの?」

「いや、なんでもないよ」



放課後

「よう、千石。そっちのクラスはどうだ?」

「まだ、なんとも…」

「そうか」

「行こ」

「ああ、わかってるよ箒。で、千石、アララギは?」

「先に帰ったよ」

「は?」

何の説明も無し?

「月日ちゃんは友達を呼ぶ時は早く帰って準備するんだって」

なるほどね、ホストとしてのマナーは弁えてるのか…いやいや、訳も言わず誘ってる時点でそれは無いか。

「わかった、じゃぁ、行こうか」

「「うん」」










その後は途中にあった公衆電話で家に電話を掛けてアララギの家に行った。

「ほー、ここがアララギの家か」

アララギの家はまだ建てて時間が経ってないのかきれいだった。

「えと…入っていいんだよな?」

「いいんじゃない?」

「いいと思うよ」

「ほいじゃ…」

ピンポーン…

「…………」

「…………」

「…………」

「もっかい押すか?」

「…………」コクン

ピンポーン…

「『はーい!』」

と声がしてドタドタと足音が聞こえた。

がちゃり…

「ごめんねー!準備してて遅くなっちゃった」

「いや、別に構わないが…親は?」

「仕事。今日は……多分帰って来ない」

「いやいや、俺等呼んでいいのかよ?」

「いいんじゃない?」

うわ、適当…

「さぁさぁ!入って入って!」

と腕を掴まれて引っ張られた。

「あ、ああ、うん…」

「……」ムッ

あら?なんか箒の機嫌が悪いんだが…

アララギに引っ張られて家に入った。

そしてリビングに案内された。

部屋には菓子とジュースが用意されていた、其処まではいい、問題は…

「箒……帰っていい?」

「なんで?」

と、訳が判らない様子の箒の代わりにアララギが答えた。

「駄目だよー織斑君、箒ちゃんだけじゃなくて織斑君も呼んだんだから」

ああ、そうかいそうかい……ざけんな!

「テメェ!ちったぁ考えやがれ!男女比おかしいだろ!」

現在男女比1:5だ。

「えー?だって剣道場で大立周りした二人組の様子が見たくてねー」

ミーハーかよ…

「だからってこの男女比はおかしいだろ!
ていうか!そこの二人とは初対面なんだが!?」

そう、アララギが俺達の他に呼んだ二人とは面識が無い、名前は……まぁいいか。

「え?織斑さんって男の子なの?」

「そんなに可愛いのに織斑さんじゃなくて織斑君なの??」

「ぐはぁ!?」

なんだコイツら…初対面なのに人が気にしてる事を…

「そうだね、一夏君って髪伸ばしてるもんね」

と千石、その言葉通り、俺の髪は背中の半分位までに伸びた物をヘアゴムで縛っている。

「千石……俺だって好きで伸ばしてる訳じゃ無いんだぞ?」

「そうなの?箒ちゃん?」

そして千石…なぜ俺じゃなく箒に確認を取るんだ…

「うん、お姉ちゃんと千冬お姉ちゃんが一夏に切ったら駄目って言ってるの」

「そうだねー、織斑君こんなに可愛い顔だもんねー」

「アララギ……人が気にしてる事をズケズケといわないで欲しいな…」

チキショウ!原作一夏って超イケメンなんだろう!?なんで俺は女顔なんだよ!?

「じゃぁが女の子が一人増えれば女の子が六人になって解決だね」

アララギがニィと笑って言った。

「は?」

女子が増えたら7人だろ……じゃなくて、これ以上増えたら敵わん。

アララギは席を立ち何処かへ走って行った。

「アイツ遂に逝かれたか?」

待つこと二分、ドタドタと足音を発ててアララギが戻って来た。

バタン!とドアが開いた。

「さぁ皆!織斑君を脱がしちゃえ!」

「は?」

何を言ってるんだコイツは、そう言おうとしたが遅かった、一瞬惚けてしまったが故に反応できなかった。

「わぷ!?」

いきなり襲いかかられたのだ。

「あ、お、おい!何をする!?」

「一夏君、諦めて」

「ドンマイ一夏」

「千石ゥ!箒ィ!お前らまでか!?」

「さぁ、観念しろ織斑君!そんなに可愛い顔をしてるんだから可愛い格好しないとね!」

そう言うアララギの手には女物の服が…

「待て待て!アララギ!ヤメロ!止めてくれ!」

「いやでーす!」

「ちぇーん!助けてー!」

『あ、束がボディの件で話が有るって』

「橙!?」

橙がツイーっと何処かへ飛んで行った…

チキショウ!マジでどっか行きやがった!

「安心しなよ!さすがに鎖なんて無いからさ!」

そっちじゃねぇよ!てか有って溜まるか!

くそう!女子と言えど五人がかりでやられるとマズイ!

え?エクスプローダー?エクスプロージョン?あんな物使えるか!全員重症だっつーの!

十分後

「う、うう……」

「か、可愛い!可愛いよ一夏君!」

と千石。

「私より可愛い……」

と箒。

「わー、わー、まさかここまでだなんて」

とアララギ

「可愛いねー」

「ねー」

と他二人。

「うう……」

俺は冗談みたいに短いワンピースのスカート部分を手で抑えている。

カシャッ!

「おい、アララギ、なんだそれは」

「えー?せっかく可愛い娘が居るんだから撮らないと損だよ」

「消せ」

「インスタントだから消せませーん」

こんの野郎…

俺は部屋に有った鉛筆を手に取った。

「OKならこうすればいい」

シュッ!ガシャン!

俺が投げた鉛筆がフィルム部分を突き破り、驚いたアララギが取り落とした。

「あー!買ったばっかりなのに!まだ一枚しか撮ってなかったのに!」

じゃぁいいじゃん。

「よくない!全くよくない!」

「あれ?俺って今声だした?」

と問うと箒が。

「"じゃぁいいじゃん"って顔してたよ」

「エ!?マジで!?」

「どーしてくれんのよ!」

ガクガクとアララギに揺すられる。

「ハッハー!元気いいねアララギ、何か良いことでもあったのかな?」

アロハのおっさんの口調これでよかったっけ?

「無いわよバカ!」

なんてやってると一人の男子が顔を覗かせた。

「おーい、月日ちゃん、帰っ……邪魔したな」

………いやいや!助けろよ!アイツ後でぶっ飛ばす!主人公?知らん!




十分後

「すぅすぅ……」

「寝ちゃったね…」

「いや、ヒス起こして疲れたら寝るとか…自由すぎねぇか?コイツ」

「さぁね。でも一夏、似合ってるよ」

「喧しい」

あれから、カメラを壊された事でキレたアララギを宥めてたら寝た……俺の膝で。

「箒、取り敢えずさぁ、コイツの兄貴殴って来るから変わってくんねぇか?」

「えー?せっかく絵に成ってるのにもったいないよ。ね、箒ちゃん」

「うん、姉妹みたい」

千石と箒がそう言うので俺は答えた。

「俺に妹は居ねぇよ」

まぁ、メティス・サイトで父さんと母さんの情報を見ても俺と姉さん以外への繋がりは無かったから、コレは確定事項だ。

「………」ムスー

また箒の機嫌が悪くなった…何故だ…

「千石、お前でもいい、代わってくれ」

「しょーがないなー一夏君は」

と言って千石が隣に来る、アララギを起こさないよう気を配りながら千石の膝の上に移す。

「じゃぁコイツの兄貴殴って来る。箒、俺が戻って来なかったら回収よろしく」

「うん」

俺は箒の返事を聞き阿良々木暦のもとへ向かう…

勝手に階段上がってるけど…まぁ許せ。

フム、ここだな。中に…居た

さて、蹴破る訳にはいかんし…うん、普通に開けるか。

ガチャリ

中には一人の男の子が机に向かっていた。

「ん?どうしたんだ月日ちゃn…」

「阿良々木暦ぃ!テメェざっけんなよ!助けろよ!
つーかもっと早く帰って来いよ!ぶっ飛ばすぞテメェ!」

「!?」

「………」

「………」

斯くして冒頭へ。






「えーっと……月日ちゃんの友達でいいの?
駄目だぞ、目上の人には敬語を使わないと。
それに女の子がそんな汚い言葉をつかっちゃ駄目だろ」

カッチーン…

「俺は男だ!ぶん殴るぞクソ野郎!」

「ははっ、あまり上手い冗談じゃないな。で、名前は?」

「織斑一夏だ」

「えーっと、じゃぁ一夏ちゃん」

「OK、わかったぶっ飛ばす」

「わー!待て待て!一夏君!何があったんだ?」

「テメェさっきはよくも放置してくれたな?」

「女の子同士の喧嘩はほっと…」

「だから!俺は男だ!この服は無理矢理着せられたんだ!
どうしてもっと早く帰って来ないんだよ!
男のプライドがズタズタだよっ!」

「あ、あぁ…うん……なんか…妹がゴメン」

「という訳で一発殴らせろ」

「なんでだよ!」

「さっき放置されたこと、テメェが遅かったせいで女装させられたこと」

「いやいや!関係無いだろう!」

「問答無用!」

俺は阿良々木暦に殴りかかった、ドアの前に立ったまま。

「いってぁ!え!?何!?何が起こった!?」

おー上手くいった上手くいった。
こういうのって対象が居ないと意味無いからなー。
この手の奴は使ったこと無かったけど…ちゃんとつかえるな。

「ダイレクト・ペイン」

「え?」

「阿良々木暦」

「いや、だから呼び捨ては…」

「忠告だ」

「忠告?」

「これから貴方には色々な受難が待っている」

「は?」

「俺はハッピーエンド主義だ」

「う、うん?」

「女の子は自分から歩み寄った方がいい。
いや、違うな…その女の子を虚道に突き落としたくなければ彼女を気に掛けてやれ」

そうすれば、彼女は彼等に心を開くかもしれない。

「き、君は何を言ってるんだ?」

「あの娘に…彼女に限って言えば、"鏡の世界"があるべき姿だ。
これは俺の独善と偽善だ。
それでも、俺は貴方に彼女を救ってやって欲しい」

だって、そうじゃないと報われないから。

これは俺の勝手な判断だ、だけど俺があの世界で一番気に食わなかっのは…彼女に関してだ。

最後には、きっと幸せになるのだろう。

だが、あんな青春時代を送らざるを得ないのは、酷すぎる。

「じゃぁ、俺等は下で遊んでるから。勉強頑張ってください。暦さん」

「あ、ちょっとまっt…」

バタン

「なんだったんだ?」










「おーい、箒。そろそろ帰るぞ」

「はーい」

暦さんの部屋から戻った俺はすぐさま服を奪還して着替えた。

「にしてもアララギの奴起きねぇな…ま、書き置きすればいいか」










帰宅後

束 私室

「いっくん!女装して!」

「やですよ」

「いいじゃんいいじゃん!あんなに可愛かったんだから!」

「いやです!俺はかっこよくなりt……"あんなに"?」

「あ、やば」

「おい」

「な、なにかな?いっくん」

「箒に仕掛けた【インターセプター(仮)】を外せ、今すぐに」

「な、なんでそれを…」

「あの状況で俺の姿を見れるのはインターセプター(仮)だけだ」

「い、いや…その」

「安心してください箒は俺が見てますから」

「えー」

「外さないなら考えがありますよ」

「ほー、なんだねいっくん」

「ふふふふふふ…」

「ちょ、ちょっと!その手をワキワキさせてるのはな…イヤァァァ!」

「あはははははは!ここですか!ここがいいんですか!魔法で敏感になってるでしょう!」

「やめてぇぇぇ!」

「外すと言えば止めますよ」

「わ、わかった!止める!止めるからやめてぇぇぇ!」

「えー?よく聞こえませんねぇ」

「ああ!そこだけはらめぇぇぇ!外す!外します!」

「はいはい…わかりましたやめます」

「はぁはぁはぁ…」

「おやおや、もっとして欲しいんですか?束さんってマゾですかー?」

「ちっ違うもん!」

バァン!とドアが開いて姉さんが入って来た。

「お前ら!こんなところでナニしてるんだ!」

束さんに股がる俺。

息も絶え絶えな束さん。

はだけた衣服…

「え?何って?束さんをくすぐってただけだよ」


終われ。 

 

第二十五話

 
前書き
オリジナル魔法解説
【ヘロンの牢獄】
精神干渉系魔法。相手の全ての感覚を奪う魔法。
対象は主観時間で48時間以内に発狂する。 

 
「正気か束!?それはお前が一番危惧していた事ではないのか!?」

「ああ、そうだよ、でもねちーちゃん…奴等にめにものみせてやらないと気が済まないのさ」

「しかしだな…」

「解ってるよ…『ISの兵器としての有用性』、いっ君とさんざん話し合ったからね…」

「しかし…一夏はいいのか?」

「姉さん、これは俺と束さんが決めた事なんだ」

「そうそう、ISを世に知らしめるにはコレが一番なんだよ…私達の夢はまずISを知って貰わないと始まらないんだ」

「解った…いいだろう」

俺が三年生になり、束さんがISの基礎理論を発表した一ヶ月後の事であった。











俺は三年生になった。

つまり満九歳、原作から割り出した白騎士事件まで約一年だ。

二年生の時はなんと言うか…波乱万丈?と言っていいのか…まぁ…いろいろあった。

例えば…アララギが学校の屋上から飛び下りたりとか…

何でも姉のアララギ カレンがクラスのガキ大将とその一味を相手取って大立周りしたんだと…

その時授業中だったんだが校内放送で教師が全員召集されたから、『これは何か合ったな…』と思って探って見ると校舎の屋上で喧嘩があったのだ。

その上隣のクラスから特徴的なコア・エイドスの持ち主が出ていったのだ。

アララギのコア・エイドス・プログラムはエイドスを視ることが出来れば直ぐに気づく、不自然な程に人間らしいからだ。

で、アララギが向かった先は屋上。
姉の下へ向かったのだ。

いやいや、授業中に何故屋上に居るんだ…仕事しろよ教師…屋上の鍵くらい閉めとけよ…

いや、それよりもさっきの放送で姉が関わってると解るアララギも恐いけど…

等と思っている間にアララギが屋上に到達し、教師陣とガキ大将とその一味の眼を潜り抜け姉の隣に…

いやいや、待てやお前、確かにそのルートなら死角だが何故立ち入り禁止の屋上の構造を把握してるんだお前は…

その後、アララギと姉は屋上からダイブ…

いくら下に幌付きのトラックが有ったからって俺が減速魔法と慣性制御してなかったら二人とも大怪我だったハズだ。

しかし、何をどうすれば屋上から飛び降りるという思考にいたったのだろうか…

その後、アララギ姉は教師陣と親と暦さんに大目玉だったらしい。

アララギ…事あるごとに俺や箒を巻き込むな…

部活動勧誘の時の件もあるから俺等って教師や上級生に少し眼ぇ付けられてるんだよな…

あと暦さん、俺がアンタ等の家に行った時に部屋に連行して愚痴るの止めてくれませんかね?

俺だって愚痴りたいんですけど?



そうそう、阿良々木家といえば家族が増えたそうだ。

『お盛んですね』?バッきゃろー、そんなんじゃねぇよ。

老倉育だよ。暦さんは、彼女に歩み寄ったようだ…

いやぁ…あの時は疲れたよ…

アレから何度か阿良々木家に呼ばれたんだが、いつの間にか彼女が居たんだよ。

しかもさぁ、よく視たら負のプシオンをまるでコートでも着るように纏ってたんだ。

これじゃぁ、何を言われても、何を見ても、悪い方向にしか思考が向かない…。

仕方がないので負のプシオンを散らしたりしていたのだ。

それでも<眼>を放したらまた負のプシオンが寄って来たりしてたので橙を張り付かせたりしたのだ。

陰鬱な空気を散らしたり、歩み寄る人が居たり…彼女は少しずつだが心を開いて行っているようだ。

彼女の未来に幸多からん事を…

あと、驚くことに橙が実体を持ったのだ…なんだ?格が上がったのか?

あ、ボディ無駄になったかな?と思ったが任意で霊体に成れるとか…

今の橙の分類ってなんなんだろうか?幽霊?亡霊?化猫?

デウス・エクス・マキナ<ご都合主義の神>よありがとう!

あ、最近橙を抱き枕にして寝てます、暖かいんだよね…

今舌打ちした奴後で体育館裏ね。

そんなこんなで二年生を無事に終えた俺達だった。










そして三年生になった時。

「いっ君、今年中にISを発表しよう」

と、束さんが言ったのだ。

俺と束さんはその発表に向けて資料を作ったり、その後の効果的なデモンストレーションも考えた。



「ねぇ、いっ君。ISのデモンストレーション…どうしたらいいと思う?」

「ん…」

俺は悩んだ、ここで原作通りに白騎士事件を起こすか、それとも別の手を考えるか…

「月に旗を立ててみる?」

俺が選んだのは、後者だった。

「う~ん…でもそれじゃぁ弱いんだよね、もっとこう実用的かつ魅力的な…」

その後は出来そうな事から出来そうにない事まで、宇宙開発に関するあらゆるデモンストレーションを考えた。

「もう、だいたい出尽くしたかな?いっ君は他に何か有るかい?」

ある、だがそれは…正史に於ける方法で、彼女を不幸にした方法。

彼女の正史に於ける、唯一の過ち。

「言うだけならなんでもいいよ」

「だったら、言うけど、これはあまり良いやり方じゃないんだ」

「言ってみてくれ、いっ君」

すぅと息を吸い込み、言う。

「戦争に介入したりして…ISの…兵器としての有用性を全面に押し出す……そうすれば、少なくとも、ISの名は…」

「…………それは」

「言ってみただけだから…」

「それは…うん…最終手段…かな」

ああ、そうだろうとも。

それに、やっぱり束さんは天才だ…そうすれば大人達が動かざるをえないと、あの一瞬で理解したのだ。





そして俺と束は各機関や研究者に対して招待状を送った、タイトルは。

【宇宙開発用強化外骨格インフィニット・ストラトスに関する技術発表会】

百五十近い数を出したが来たのは三十名程だった、近くのホールを借りたが椅子がかなり余ったのを覚えている。

発表会は酷い物だった…束さんと俺が作った資料や内容に不備は無かった…しかしオーディエンスがな…

ヤジが酷かったよ…途中で遮音フィールド使ったりしたけど、途中で誰も居なくなったんだ。

こんな下らない妄想に付き合わせおって、と言われたのだ。

いやぁ…キレたね。

橙が止めてくれてなかったら全員に≪ミストディスパージョン≫か≪ヘロンの牢獄≫を使っていたかも知れない。

いや、確実に使っただろう。

まぁ、でもサイオンパターン全員覚えたし、そのうち呪詛でも送ろうか…いや、霊体(サイオン体)をかき乱して不能にしてやろうか…

ラボでホロウィンドウを弄りながら考えていると束さんがやって来た。

「いっ君、話があるんだ」

そして、俺と束さんは、計画を立てた。

この世界を、覆す計画を。

世界を変える計画を。

世界に喧嘩を売る計画を。

俺達を嗤う者を、見返す為の計画を。

幾つも幾つも、考えられる限りの方法を。

「でも、本当にこれでいいのか、もう一回考えてみて」

「もう、十分に考えたよ…考えて、これなんだよ…だから」

「うん…なら、そのためにも準備をしないとね…」

『準備』、計画の為の…

「先ずは、どの計画を選ぶにしても…武装…かな」

俺が今造っている機体は、一切の火器を搭載しない予定だった。

転生したばかりの数年は、ISでの戦闘に心引かれていた。

転生特典として得た知識をその為の機体に使うつもりだった。

しかし、束さんとISを造り始めてからは、ISで戦うのはあまり気が進まなかった。

昔の自分がとても、醜く思える程に。

GNドライヴやエイハヴリアクターだって、火器の動力ではなく、宇宙開発用永久機関のつもりで造った。

いや、俺は心の何処かで、こうなる事を望んでいたのかもしれない。

圧倒的な力を行使して敵を薙ぎ倒す事を…

「束さん…」

「なんだい?いっ君?」

「俺は…こうなる事を望んでたのかもしれない」

「え?」

「IS、俺にはISは兵器に見えた。
鋼の鎧を纏って、敵を薙ぎ倒す、絶対無敵のパワードスーツ…」

「………」

「始めの頃、俺はISをそう見ていた」

「………」

「束さんと研究していくと、そういう気持ちは無くなって、そう考えていた自分を醜く思うようになった」

「もう、いいよ…」

「でも、俺は心の片隅で…」

「もう、いいよ…いっ君、大丈夫だから。
例え、いっ君がそう考えていても私は責めないから」

「…………どうして?」

「いっ君だって男の子でしょ?男の子ってそういう物に憧れるって聞いたから」

「……」

「大丈夫、私はいっ君を嫌ったりしないから」

「でも」

「ふふ、いっ君に初めて見せたISの構想図、あれを視たら、誰だってそう思うよ」

「だけど…」

「聞いて?あの構想図さ、鎧をイメージしたのは間違ってないんだ」

「………」

「宇宙に行こうって考えた時にね、ちーちゃんが剣道の防具を着けてるのを見たんだ。
そして、『服みたいな宇宙船』を考え付いた。
だから、ISは剣道の防具を…もっと言えば鎧武者をモデルにしたんだ」

「……」

「だから、さ。いっ君が自分を責める事は無いよ」

「束さん…」

「だからさ、今まで通りで良いんだ、私にとっていっ君はいっ君だから」

「ありがとう…束さん」










嗚呼、彼女ハ、ナンテ優シイノダロウカ。










コンナ彼女ノ夢ヲ嗤ッタ奴ハ。










後悔サセテヤラナイトナァ…
 

 

第二十六話

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすコロスコロスコロスコロスコロスコロス…

コロシテヤル…











「一夏、箒、学校で必要な物はあるか?」

「んー?……じゃぁ…百均でスティック糊を買おうかな」

「私もー」

「フム…金を渡すから買ってこい、食料品は私と束で買ってくるから。
終わったら…あそこの噴水前で待っててくれ」

「ん、わかった」

「はーい」

夏休みが始まり数日が経った。

俺と姉さんがISのシュミレーションを初めて二ヶ月と少しだ。

今日は姉さんの部活が休みなので、せっかくだからとショッピングモールに来ている。

「一夏」

ジャラ、と姉さんに小銭を渡された。

「ん?…って多くない?」

「少しかかるからな、アイスでも食べて待ってろ」

「ん…わかった」

「無駄使いするなよ」

いや、子供じゃあるまいし…って、子供か。

「はいはい、わかってるよ…箒、終わったらアイス買って良いって」

「やったぁ!」

「先に糊買ってからな、ほら、いくぞ」

「うん!」





「えっと…あったあった。箒、行くよ」

「ん」

「以上で220円となります」

「丁度で」

「ありがとうございましたー」

「一夏!早く行こ!」

「あー、待て待て、アイスは逃げん」




「えーっと…残金は1000円ちょいか…結構あるな…箒どうする?俺はト〇プルポップにするけど?」

安いし、3つの味を少しずつ楽しめる…俺は〇リプルポップが一番好きだ。

「じゃぁ私もトリプルポ〇プ!」

「なら、3つ選べよ」

「一夏はどうするの?」

「んー、クリームソーダ、ポッピングシャワー、キャラメルリボンだな」

「じゃぁ半分こしよ?私は…メロンとイチゴと…抹茶?」

「抹茶とか渋いな」

「お姉ちゃんが時々食べてたよ」

ああ、なるほど…

「じゃぁ注文しよっか」





「んー!おいしー!」

「ああ、旨いな…抹茶くれ」

「はい、あーん、クリームソーダちょーだい」

「ん、むぐ、ほれ」

「ん、おいし」

噴水の縁に座って箒とアイスを交換しながら食べている。

「ねぇ、私の味した?」

「ぶふぉぁ!?箒!お前何処でそんな台詞覚えたんだ!」

んのヤロウ…思わず吹いちまったじゃねぇか。

ニコニコしやがって…周りの人も何事かと見てるじゃねぇか。

「月日ちゃんが貸してくれた漫画」

「アララギィィィ!またお前かぁ…!」

俺がそれを知らないってことは…暦さんの愚痴を聞いてた時か…今度暦さんを殴ろう。

「はぁ…まぁ、いいか。
箒、他の人には絶対やるなよ、男相手ならなおさらだ」

「大丈夫、月日ちゃんも好きな人以外にはしちゃダメだって言ってたし」

それって…つまり…

「え、あ、お…おぅ…そ、そうか…ならいい…」

あ、ヤバい、すげードキッとした…すげー可愛いな。

「どうしたの一夏?」

「な、何でもないよ、うん、なんでもないんだ」

「ふーん、で、私のあ「なに!?」な、なに?」

俺は常に三つのコアエイドスプログラムを追尾している。

その内二つのエイドスの状態が、変化した。

姉さんと束さんが傷を負った!?どうして!?

「い、一夏?」

「箒、ちょっとトイレ行ってくる…俺のアイス食っていいぞ」

「お腹痛いの?」

「まぁそんな所、ちょっと長くなるから」

俺は駆け出した、束さんと姉さんの下へ。


「………トイレ…あっちだけど…一夏何処に行ったのかな?」







「ちーちゃん、こんなものかな?」

「ああ、買い物リストはコレで全てだな…煎餅でも買っておくか?」

「そうだね…あといっくんのビスケットもね」

表には出さないけど最近のいっくんは例の計画の準備とシュミレーションでかなり疲弊しているはずだからね。

「ああ、そうだな」

「ちーちゃんも自分へのご褒美が有ってもいいんじゃない?」

もちろんちーちゃんだってがんばってる。

「私は、そんな物は要らないし。
お前が何かを寄越しても受け取らない」

「ちーちゃんはストイックだね」

私の一番の親友はこういう所が少し心配だ。

「ストイック?違うぞ束、私は一夏には遠く及ばないからな。
そんな物を受け取る資格がないのさ」

やっぱりちーちゃんはブラコンだなぁ。

「そっか…いっくんか…」

「うん?どうしたんだ束?」

「ISの…七割はいっくんが造ったような物なんだよね」

私は、本当に三割くらいしかやっていない。

「む?一夏は全く逆の事を言っていたが?」

それはそうだ、だって…

「いっくんが言ってるのは進捗率だよ、でも重要度で言えばいっくんが七割なのさ」

最後の30%を完成させたのは、いっ君だ。

「そうか…凄いな、一夏は。
例え、前世の記憶が有っても…あの小さな体で…」

ああ、なるほど。

「いっくんに勝てなくて悔しいのかい?」

「そういう気持ちも…ある。
だが、それよりも、私は一夏を尊敬しているんだ。
父さんと母さんが居なくなってから、一夏は私を慰めてくれたしな」

「そっか…ちーちゃんにとって、いっくんは弟であり兄なんだね」

「ああ、そう…「キャァァァァァ!」

ちーちゃんの声を遮り、背後から悲鳴が聞こえた。

「なんだ!?」

「な、なに!?」

私達が振り向いた刹那…

「死ネェェェ!オォリムラァァァ!シノノノォォォォォォ!」

隣から、鈍い音が響いた。

誰かを突き飛ばしたような音が。

更に、布を引き裂くような音も。

「あ、な、なに…」

ちーちゃんの脇腹辺りに、男が両手を突きつけていた。

「ちー、ちゃん?」

そしてそこからは、紅い赤い血が流れていた。

「たば…ね、に…げろ…ぐぅ…!」

「ヒャハハハハハハ!次ハオ前ダァ!シノノノォォォォォォ!」

ちーちゃんが刺されて、気が動転していた私の首筋に紅い刃が吸い込まれた。










走る、人混みの中を、流れに逆らって。

「チクショウ!通り魔かよ!早く!早く束さんの所に!」

姉さんは、急所だったけど、腹なら、少しは持つだろう。でも、束さんは…

普段なら一分とかからない道を二分近くかけて駆け抜ける。

「はぁはぁ!束さん!姉さん!」

倒れている姉さん達を見つけた。

束さんは…まだ生きてる!

「束さん!今助けます!」

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!ソイツァモウ死ヌンダヨ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

包丁を持った男が嗤いながら言う。

「うるせぇよ!テメェは黙ってろ!」

俺は男に右手をかざした。

「虚無に沈め!」

行使した術は【ヘロンの牢獄】、相手の五感の全てを奪う魔法だ。

男が崩れ落ちるのを確認するまでもなく束さんの方を向く。

「束さん!」

エイドスの変更履歴の遡及をぉ…

「うぅ!アァァ!」

痛い!今まで受けた何よりも!でも…それでも!

復元時点…確認!

復元開始!

束さんの体が光に包まれ、傷が消えた。

次は姉さんだ。

「姉さん!」

エイドスの変更履歴…遡及…

「ア、ア"ア"ア"ア"ア”!」

復元時点…確認完了。

「再生!」

姉さんの傷が消えた。

「束さん!姉さん!目を覚ましてくれ!」

「う、あ…いち…か?」

「い…くん…」

ああ、よカった…無事ダッタ…コれで…

「ディキャスト…」

「あ、あ”あ”!?テメェ!何なんだよ!今何をした!?何故そいつ等の傷が消えている!」

俺が『何』かって?

「俺は織斑一夏…魔法師だ」

 

 

第二十七話

「俺は織斑一夏…魔法師だ」

「オリムラぁ?ヒャハハ!お前ソイツの弟か!ならお前も殺してやんよ!」

嗤い声を上げながら、男が包丁を振り下ろす。

カキィィン!

振り下ろされた包丁を掴み取る、血は…流れない。

「お前、俺を殺すと言ったな…殺されるのは…お前だ!」

ゴウッ!と音がしたような気がした。

俺の中から聞こえたような気もするし、周りの空間が歪んだような気もした。

パキン!と包丁を握り潰す。

「ヒ!ヒィィィィィィィ!化物めぇ!」

「化物ぉ!?テメェの方がよっぽど化物だろうが!」

飛行術式、セルフ・マリオネット…キャスト。

「オラァ!!」

飛行術式で浮き上がり、セルフ・マリオットを使う。

剛気功で硬化された脚が男の側頭部を蹴飛ばす。

男は吹き飛ばされ商品棚に激突した。

「あ…がはっ!」

男に近付きズドン!と頭を踏みつける。

「ぐぅ…」

「おイ、お前、俺の家族を刺シタんだ、楽に死ねるト思うナよ」

ガツッ!っと男の頭を蹴りマウント・ポジションで殴る。

剛気功の拳だ、 鋼で殴打されているも同じだが、構わず殴る。

殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る…

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」

暗い暗い、何者をも染め上げる暗い感情に任せ、俺を殴り続けた…

「おイおい、モうくたバッたか?楽にハ死なセんぞ」

俺は男に電流を流し、意識を無理矢理呼び戻した。

「あ…あ…うぅ…」

「これ以上は死ぬかな…なら…精神を殺ればいい」

ダイレクト・ペイン

「アハハハハ!痛いか!?痛いよなぁ!?心を直接殴ってるんだからな」

そうして再び、男をいたぶり続けた。

数分後

「こひゅー…こひゅー…」

「はは、まぁこれくらい勘弁してやるよ…」

その言葉と共に五指を揃える。

圧斬…キャスト。

「死ね」

男の首に圧斬を纏わせた爪を振り下ろ…せなかった。

「一夏、そこまでだ。コイツごときでお前の手を汚す事は無い」

俺の振り上げた腕を掴んだのは姉さんだった。

「姉さん」

「すまない…一夏…こんな事に巻き込んでしまって…」

「どういう、意味?」

「話は後だ…直ぐにここから離れた方がいい」

「………わかった…インビジブル、キャスト」

「む?何かしたか?」

「姉さんを見えなくした。
束さんは俺が運ぶから、箒の所に行ってあげて。
今警備員に連れられて外に居る筈だから。
あと認識阻害も掛けておくけど…
気付かれないよう気を付けてね」

「わかった」

姉さんが歩いて行く、見えないけど視える。

「束さん、束さん…」

「う…うう…」

ダメだ、起きない。ショックで気絶してるような状態か…

「よっと…」

束さんを横抱きした。

「あ…あが…」

男は未だにうめき声を上げている…

「お前は俺から逃げられない…絶対にな」

とはいえ、もう殺るつもりは無い。

姉さんが何か知ってるみたいだしな。

「束さん、箒の所に行こう」

慣性制御などを使って束さんが起きないように気を付けながら飛ぶ。

もちろん隠蔽魔法は使っている。

店内は来たとき同様誰も居なかった、とても変な気分だ。

何時もは賑わっている場所が閑散としていて、そこら辺に買い物途中の商品や籠やカートが放置されている。

まるで人間だけが消えたように。

まぁ、通り魔が居たんだ、皆逃げるよな。

「う…うぅん…」

「束さん、気が付いた?」

「あ、あれ…私…何をして…」

思い出そうとする束さんだったけど、アレは思い出さない方が良いかも知れない。

俺ならこの記憶を消せる。

だけどそれはしたくない、辛い記憶だろうと、他人の精神を好きにするのは倫理に反するだろう。

しかし姉さんと束さんがこの件でPTSDを患う、なんて事になれば全力を持って記憶を消す。

だけどそれは今じゃない。

「束さん」

「いっくん?」

「もう少し、寝てていいよ」

束さんの瞳を見つめ…眼を使う。

「う…ん…わかった……」

束さんは再び眠った。

夢も見ないような、深い深い眠りに。

梓弓を何時でも使えるよう、準備しておこう。

たぶん起きたらパニックを起こすから。









その後、俺達は認識阻害を掛けて家に帰った。

姉さんと束さんが刺されたのは、たぶん大勢に目撃されているだろうからな。

そして、姉さんがあの男の事を話してくれた。

奴は全国トップクラスの成績を持っていた、だが絶対に一番には成れなかった。

何時もトップは束さんだったそうだ。

そして奴は思い詰め、不登校になり、引きこもりになった。

姉さんが知ってたのはそこまでだ。

たぶん、怨恨だろう。

奴の得物の包丁はキッチンコーナーの物だった。

偶然束さんを見掛けて犯行に及んだのだろう。

再び殺意が湧いたが姉さんに止められた、どうやら俺はキレると想子が滅茶滅茶に放出されるらしい。





篠ノ乃束・自室

「う、うぅん?」

「束さん、起きた?」

「うん、おはよう、いっくん…」

束さんはキョロキョロと辺りを見回し。

「今何時?」

「八時だよ」

「八時?………えっと…」

束さんが眠る前の事を思い出そうとする、直ぐに梓弓を使えるよう準備する。

「えっと…買い物に行って…そ…れ…か…ら、あぁ!」

束さんが首筋を抑える、数時間前に傷が有った場所へ。

俺は梓弓を使った。

「はぁ…はぁ…ふぅ…あり…がと…いっくん」

「落ち着いた?」

「うん」

俺は気付くと束さんを抱きしめていた。

「いっ…くん?」

「ごめん、束さん…ごめん、」

「どうして、いっくんが謝るの?」

「俺が、俺の力があれば今回の件は回避出来たと思う…だから」

例えば俺の身内全員に常に障壁を張ったり、橙をあちらに憑けたり。

「ふふ、大丈夫だよ、いっくんはちゃんと私達を助けてくれた。
いっくんは自分の出来る事をしたんだよ」

「束さん…」

「私は、私は大丈夫だから、いっくんも元気出して」

「うん」











俺は、決めた。



決意した。



敵には絶対に容赦しない。



俺の家族に手を出した奴



出そうとした奴は



絶対に許さない。



個人でも、社会でも、国でも、世界だろうと



敵は敵なのだから。



ISでも、魔法でも、俺は行使する。



敵を屠る為に。



俺達を否定する者を否定する為に。
 
 

 
後書き
ハーメルンでも書きましたが、この話は一夏が力を使う事に躊躇わなくなるための通過儀礼的な話となっています。 

 

第二十八話

某日明朝、俺と姉さんは金属製の筒の中に居た。

『いっくん、ちーちゃん。準備はいい?』

「こちら一夏、ISコアメインシステム及びCADシステムオールグリーン。」

「こちら千冬、ISコアメインシステム及びCADシステムオールグリーン」

「ちぇーちゃん、あーちゃん、大丈夫?」

『橙、オールグリーン』

『ALICE、システムオールグリーン』

『じゃぁ、作戦の再確認をしよう。
今回ハッキングしたのは各国の軍事コンピューター。
東京に向けてミサイルを撃つようにセッティングしてある』

語られるは世界を覆す計画。

『いっくんが日本海側、ちーちゃんが太平洋側で迎撃。
トレイターは東京湾に。OK?』

この配置にはきちんと意味がある。

北の某国が騒ぎに乗じて核を撃つ可能性を考慮しての物だ。

その場合は俺が止める。ミスったら死ぬ。
でも…

「OK」

束さんの為に死ぬなら悪くない。
無論死ぬ気は無いが。

「了解だ」

『わかった』

『了承しました』

『なら…いくよ?これから私達は世界に喧嘩を売る。覚悟はいい?』

「束さんの為なら、この世の全ての国家すら墜として見せます」

「束、今更そんな事を聞くな」

『わかった…ファースト・フェイズ開始!
コア・クラウドシステム起動!
コード!DESTROY・THE・WORLD!』

その言葉はコア・クラウドに出される最初の命令。

世界を恐怖に陥れる始まりの言葉。

きっと、今の命令で数千のミサイルが東京に向け放たれたことだろう。

そして…

『出撃用意!』

束さんの号令で艦が動き出す。

『トレイター浮上!』

機関音が響き、伊400型改<初>…識別コード[トレイター]が浮上を開始した。

『水深100……90……80……70……60……
50……40……30……浮上停止!アップトリム45!』

束さんがカウントを切り上げ艦を静止させた。

『いっくん、ちーちゃん』

「いつでも出れるよ!」

「一夏に同じく」

そして…

『ナイトヘーレ開門!』

俺の目の前のハッチが開いた。

水深30メートル、普通なら水が流入する。

「スーパーキャビテーション異常無し!」

『射出タイミング、いっくんに譲渡!』

機体をロックしていたアームが解除され、ホロウィンドウにアンロックドの文字が浮かぶ。

「織斑一夏、ナイト・オブ・トレイター出撃る!」

ナイト・オブ・トレイター…俺がカンヘルの試作機として造ったIS。

フレームはそのままカンヘルに使うが、外装がRX00ではなくシナンジュベースであり、主動力は四基のGNドライヴだ。

簡単に言えば背部スラスターにGNドライヴを四基仕込んだシナンジュ・スタインだ。

NTD?機体が吹っ飛ぶから装甲が開かないようシナンジュの外装なのだ。

俺はスラスターに推力を注ぎ、海中へ飛び出した。

そのままスーパーキャビテーション状態で浮上する。

水面にたゆたう月光めがけて…飛び出した。

「ポイントアルファへ向かう!」

後ろからバシャァン!と音がして白騎士…姉さんが出てきた。

『ポイントベータへ向かう!一夏、そっちは頼むぞ』

「わかった、姉さんもね」

『二人とも頑張ってね!トレイター!潜航用意!』

束さんの号令を聞きながら俺はポイントアルファ…佐渡島西南西40キロ地点へ向かった。

後続の姉さんは新潟、群馬、埼玉、東京を抜けて太平洋上へ。

『ますたー、ロシアからの通常巡航ミサイル到達まで三分。
中国ミサイル到達まで二分だよ』

「わかった……黒炉の魔剣<セルベレスタ>起動!」

俺は一つの武装一体型CADを起動した。

魔法、及びCADの名称は黒炉の魔剣、某学戦都市の主人公の剣だ。

もちろんこの世界にはウルム・マナダイトどころかマナダイトすら無いので魔法で代用だ。

魔法の効果は任意のエリアに熱を封じ込めブレードにすると言うもの。

更に周囲から熱を奪い続ける。

なのでエリア内(ブレードその物)は超高温だがその周囲は熱を奪われ超低温になるのだ。

簡単に言えば、インフェルノの高温部分をブレード状に整形しているのだ。

更にその性質上爆発等の中に放り込むと威力(温度)が上がる。

ミサイルを斬りまくるような今回の件にはピッタリだ。

信管だけ斬れって?それじゃぁインパクトが無いだろう?

今回は可能な限り派手にやらないと。

『ますたー』

「ハイハイ、見えてるよ…セカンド・フェイズ開始!」

丁度正面から迫る鋼の槍。

亜音速で飛来するそれらを…

一薙ぎで叩き落とす。

そして一瞬遅れて大音響が鳴り響いた。

「ん~今ので何発落とした?」

『30くらい?』

そして先とは別の方向からもミサイルが飛んで来る。

「さぁて!今度はコイツだぁ!」

黒炉の魔剣を握ったまま、左手に量子展開したのは。

「ハッハァー!これでも喰らえやぁ!」

フィィィィィィィン……

とモーターが回るような音がして銃口、否、砲口と呼ぶべき物の前に莫大なエネルギーが集束される。

「ギロチン……バースト!」

目も眩むような光の奔流がミサイルを呑み込んだ。

『いきなりGNバスターライフル使って良いの?』

「大丈夫、ストック分の1%も使ってねぇよ」

『あっそ』

そして俺は迫り来るミサイルを全て撃ち落とすべくISを駈り続けた。

時に黒炉の魔剣で時にGNバスターライフルで。

既に数百を落としただろうか?

『ますたー、戦域から離れたコース来たよ』

打ち合わせ通りだ。

俺はライフルを量子化して次なる得物を取り出す。

それは立方体に細長い長方形を着けたような形状だった。

ガチャン!

と立方体をした機関部の後方とサイドアーマーのアタッチメントプラグが接続された。

そしてホロウィンドウにレティクルが表示された。

そこにはレティクルの他に赤い線が有った。

「橙、この角度でいいか?」

『右に30』

「ここ?」

『うん』

俺はその武装をアクティブモードに移行させた。

バチバチバチバチバチ!

機関部後方のパーツが回転を始めた。

砲身に三重の魔法円が現れる。

「主機直結型超電磁砲verGNDwithCAD…
試し撃ちすらしてないが…まぁいいか」

これはオルフェンズのダインスレイヴを参考にしたレールガンだ。

流石に本家ダインスレイヴみたいに長いレアアロイなんて装填しない、普通より少し大きい位のEカーボンの弾丸だ。

何故エイハヴ・リアクターではなくGNドライヴを使うかと言うと、この疑似ダインスレイヴが思い付きで乗せた物だからだ。

エイハヴ・リアクターで出来るならGNドライヴで出来ねぇかな?ってだけだ。

利点はGN粒子の効果によって弾丸の重さを二倍もしくは半分に出来ることだ。

更に魔法により様々なアシストができる。

考えていると砲身が紫電を纏いだした。

紫電が迸る砲身とホロウィンドウの充填率を見つめる。

<ENERGY FULL CHARGE>

ホロウィンドウに映った文字を見てトリガーを引いた。

音速の十数倍の弾丸が一直線に飛び出した。

そして弾丸の先に吸い込まれるようにミサイルが飛来し、撃ち抜かれた。

Eカーボンの弾丸はミサイルを突き破っても飛び続けた。

「おいおい…何処まで飛ぶんだよ…うん、ダインスレイヴは封印だな…威力が有りすぎるな…」

結局Eカーボンの弾丸はそのまま飛んで言って衛星軌道に乗った……

「ありえねー…」

『事実でしょ、しかも魔法でブースト掛けたんだからこうなるよ』

それもそうか、CADは無しでいいか…

『いっくん、そっちはどう?』

「え~っと…カウントは…二千超えてるね」

ホロウィンドウの撃墜スコアは2254を示していた。

「姉さんの方は?」

『ちーちゃんは後少しで1000かな?』

「で、各軍の動きは?」

『米、露、中、韓に加えて自衛隊とオセアニア各国も出て来てるよ』

「到着までは?」

『空自が五分、韓国が七分、その後は逐次かな』

「俺と姉さんどっちに来てる?」

『ポジション的にはいっくんの方が多く来るよ』

「了解」

俺は大陸側に向けていた体を反転させた。

「視えた」

こちらに近づく数機の機体。

『貴機は現在日本国領空を侵犯している。即刻領空外へ退去せよ。
退去しなければ実力行使を行う』

ま、自国内でドンパチされちゃ敵わんか…

だが、これはISの御披露目だ。

「怨みは無いけど…斬らせて貰う」

俺はスラスターを全開にして空自の戦闘機に向かう。

戦闘機がどんどん迫って来る、相対速度なので本来の数倍で迫り来る戦闘機。

数百メートルを切った。

黒炉の魔剣とビームサーベルを構え…

戦闘機の主翼を溶断した。

すぐさまパイロットはベイルアウトした。

即座に反転し残りを追う。

コンバットマニューバで振り切ろうとしているが、無駄だ。

「GN粒子、PIC、慣性制御魔法を使ってるんだ…
コンバットマニューバで振りきれるかよ…」

インビンジブル…キャスト。

魔法で姿を消す。

空自の機体は俺を探しているがGN粒子でレーダーは無効化されている。

その上視覚的にも発見不可能。

今は編隊の上空百メートルに着けている。

「橙、ブレードビットいける?」

ブレードビットとか言ってるけどぶっちゃけ大きめのファングだ。

『問題無いよ』

腰背部にビットコンテナを量子展開する。

「いけ!ビット!」

コンテナからビットが飛び出す。

「悪いけどデモンストレーションと試作装備の実験に付き合ってくれ」

俺は眼下を飛ぶ機体にビットを向かわせる。

ビットが戦闘機を切り裂く。

きっとパイロットは何をされたか理解出来ずにいるだろう。

そして一機を残して全て撃墜した。

無論、パイロットが安全にベイルアウト出来るようにバイタルパートは狙っていない。

残った一機、俺インビンジブルを解きキャノピーの真横に着けた。

そして機体の前に出る。

反転してコックピットの中を覗く。

パイロットと目があったような気がした。

そして。

ズガガガガガガガガガガガガ!!

頭部GNバルカンで機体を蜂の巣にして離脱した。

パイロットが全員無事なのを確認して、韓国軍の機体のいる方へ向く。

「It’s show time !」

某殺人鬼の口癖を口にしながら韓国軍機と後続機へ向かった。



















数時間後、日本海は文字通り火の海と化していた。

「束さん…スコア」

『空母四、巡洋艦十六、戦闘機数百。
ちーちゃんのも含めたら倍近くなるよ』

「日の出は?」

『もうすぐだよ』

「エクストラ・フェイズは?」

『多分、無いね』

エクストラ・フェイズ…核ミサイル阻止フェイズだ。

「そっか、なら帰投していい?」

『うん、かまわな………あ、あぁ…はぁ…』

なーんか凄く嫌そうなため息が聞こえたぞ?

「どうしたの?」

『いやぁ…その…』

『フラグ回収乙』

え?それってつまり…

「おい、橙、マジか?」

『マジだよ、ますたー』

マジかエクストラ・フェイズ開始かよ…

「束さん、アレ使いますよ」

『はぁ…わかったよ…ったくあの国はろくな事しないんだから…今度滅ぼそうかな…』

「やめたげてよぉ…」

貴女が本気になったらガチで世界征服できるんだからさ…

『じゃぁ…コードTHE GULTTINY!』

束さんのコールと共に一枚のホロウィンドウが展開した。

<LOCKED.PLEASE MASTER'S PSYON.>

俺は機体にサイオンを流した。

<UNLOCKED.>

ロック解除の文字が表示され、量子格納庫の封印が一つ解かれた。

「侵食弾頭弾!展開!」

腰背部のコネクターからアームが展開した。

その先にはミサイルポッドがあった。

「橙!弾道予測寄越せ!」

『わかった』

ホロウィンドウに二筋の赤い線が有った。

「どういう事だ?何故弾道予測が二本ある?」

『それはターゲット候補が2つだからだよ、東京と…今いっくんがいる所』

クソッ!なら弾道が別れる前に落とさないと面倒だ…

あっちには姉さんがいるがナイト・オブ・トレイターとちがい白騎士には侵食弾頭弾は搭載されていない…

「束さん!弾道設定とバックアップ頼みます!」

『はいはーい!わかったよいっくん』

「侵食弾頭弾!発射ぁ!」

ドシュドシュドシュドシュ!

と数発のミサイルが発射された。

それは弾道予測線を遡って行った。

『いっくん!奴等ここで核を全部使う気だよ!核ミサイル更に三十三!』

嘘だろう!

「奴等の核は十発以下じゃないのかよ!」

何処に隠していやがった!ええい!しょうがない!

「束さん!トレイター浮上させて!」

『わかってるよ!急速浮上!』

ナイト・オブ・トレイターの侵食弾頭弾の残弾は四十発。

十分に見えるかもしれないが数発纏めて撃たないと当たらないかもしれないから足りない。

『トレイター浮上!』

後方に浮上したトレイターが視えた。

『コード!カーニバル!全門勢射!』

トレイターから数十発の侵食弾頭弾が放たれた。

それに続いて俺も勢射した。

やがて、核ミサイルに夥しい数のミサイルが群がった。

着弾と同時に暗い闇が生じた。

ベキ…ベキ…バキッ…バキン…

その闇は空間を食い荒らして行った。

やがて…

バシュゥン!

と闇が消えた。

そこには何もなかった…

『いっくん、全弾消滅。放射性物質も全部ね』

「そう…わかった…エクストラ・フェイズ及びファイナル・フェイズ終了。帰投する」

俺は浮上しているトレイターの元へ向かった。

トレイターの上空には姉さんが居た。

「一夏、早く戻ろう。束が待ってる」

俺と姉さんはトレイターの甲板に降り立った。

『いっくん、ちーちゃん、お疲れ様。さぁ、私達の家に帰ろうよ』

「わかったよ」

「ああ、そうだな」

東から、日が登っていた。

「ああ、綺麗だ。人を照す太陽はこんなにも綺麗なのに、人は醜い…」


白騎士事件

<空母八隻、巡洋艦二十七隻、戦闘機二百九十七機、ミサイル三千七百四十八以上、核ミサイル三十四(未確定)>

ISが究極の兵器として、世界中に知られる事となった一夜だった。 
 

 
後書き
この話を書いた当時は某国に関しては今ほど緊迫していなかったと、誤字訂正をしていて思いました。 

 

第二十九話

「それにしても大変だったね一夏君。
何か困った事は在るかい?力になるよ?」

「暦さんにどうにか出来る類いの物は無いよ」

「そ、そうなのか…それにしても…君は何か聞いてなかったのかい?」

「いや、ぜーんぜん。朝叩き起こされたらニュースで束さんの事やっててびっくりしたよ」

「へー、篠ノ乃博士とは連絡取れるの?」

「音沙汰無し、いきなり家を飛び出してなーにやってんだか」

やれやれ、といったジェスチャーをしておく。

白騎士事件から二週間、俺は阿良々木家の暦さんの部屋に居た。


あれから…トレイターに帰投した俺達は海底洞窟を伝ってラボの地底湖まで戻った。

俺と姉さんは家に戻り、束さんはラボに残った。

朝のニュースは白騎士事件の事でいっぱいだった。

学校も臨時休校だったし。

その昼頃、束さんは出航した。

当分は直接会えないだろう。

まぁ、俺にはコアナンバー0000が姉さんにはコアナンバー0010があるから通信出来るしあんまり寂しくない。

問題は箒だ。

箒を此方に引き込む訳には行かないのだ。

俺と姉さん、千石や月日(巻き込まれて一緒に行動する内に名前で呼ぶことになった)でなんとか慰めたのだった。

箒と言えば例の要人保護プログラムが施行される事は無かった。

束さんがいろいろやったらしい。

俺はあの日以来ISに乗ってない…訳でもない。

白騎士事件数日後、米韓合同軍が某国に侵攻。

俺がこっそり侵食弾頭弾やその他諸々をぶち込んだおかげで某国は僅か五時間で降伏した。


脱出を図ったトップは側近に暗殺されたらしい。

某最強ゲーマーの片割れの言葉通りの最後だ。

しかも奴等首都直下に核を隠していやがった。

もしやと思いメティス・サイトで調べたら地下施設があり、そこに隠してあった。

せっかくなので貰っておいた。
そのうち束さんと合流してトレイターに搭載しよう。

ああ、それと技術発表会の時の学者が掌を返すようにいろいろ言っていたが、発表会の録画を公表したら社会的に叩かれたらしい。

ざまぁ…

「まぁそのお陰で北の某国が消えたしね。
束さん様々だよ」

「あぁ…白騎士が核ミサイルを止めたって話だな…う~ん…本当なんだろうか?」

「暦さんはどう思ってる訳?」

エクストラ・フェイズ…核ミサイルの発射の有無は世界中でも意見が別れている。

なぜなら

「僕か?僕はアメリカが某国を潰すために流したデマだと思うよ。
だって残骸は見つかってないって話だしね」

証拠が無いからだ。

核物質もミサイルの破片も全て、侵食弾頭によって時空の歪みに引きずり込まれた。

「裏切った某国高官は発射したって言ってたけど…見栄を張ってるだけじゃないか?」

「なるほど、暦さんはそう思うんだね」

「ああ、中露も探したが見つからないとなれば無いだろうね」

ふーん…

「暦さんが思うならそうなんだろうね」

暦さんは鋭い人だ、彼がたどり着けないなら大半の人間は気付かないだろう。

まぁまだ会った事は無いが、羽川翼とかならたどり着くかもしれない…でも侵食弾頭の事なんて誰も知らんか。

「育さんは元気?」

「あぁ、元気だよ。」

「チッ…」

このハーレム野郎め。

「いやいや、今の舌打ちはなに!?」

「黙っててくださいこのリア充野郎」

「それを君が言うのか!?」

「何を言ってるんですか、さっき答えた時に貴方ニヤけてましたよ育さんとは仲良くやってんでしょ爆発しろ」

「君には篠ノ乃ちゃんや千石がいるだろう!」

「貴方バカですね箒は妹みたいな存在だし千石は貴方に気が有るでしょう」

俺にNTR趣味は無い。

「あ、うん、そうなんだ、じゃぁそうなんだろうね」

「そうですよ」

そんな風に話しているとドタドタと階段を登る音が聞こえた。

「おい!一夏!いい加減戻ってこいよ!
何で俺がアイツらの相手しなきゃならないんだ!」

「麗しい女性と居られるんだから喜べよ」

「できるか!?俺はお前みたいにモテないんだよ!」

はぁ?

「モテる?俺が?バカも休み休み言え、弾」

入って来た赤髪の少年の名前は五反田弾。

お馴染みの原作一夏君の親友君だ。

ぶっちゃけるとコイツは妹バカだ。

小学生なのに妹を庇い、ボコられそうになっていたのだ。
ったく…大声で助けを呼べばいいものを…

その高校生?俺の手で逆にボコった上で交番前に放置しましたが何か?

「またお前は…はぁ…とにかく降りてこい一夏。
あと出来れば暦さんも」

「今行く」

「わかったよ」

俺と弾と暦さんが階段を降りてリビングに行くとそこには絶世の美少女達がいた。

先ずは俺の天使、箒。

次に原作とは違い、前髪を伸ばしてない千石。

和服を纏った月日。

白髪ショートの育さん。

そして弾の妹の五反田蘭。

ちなみに火燐さんは道場らしい。

「一夏ー!遅いよ」

「暦!待ってたんだよー!」

最初が箒、次が育さんだ。

「すいません育さん。俺が暦さんにいろいろ相談があったので…」

「ああ、そんなに謝らなくてもいいよ、一夏君」

笑顔で言ってくれた育さんの瞳にはすでに闇は無い。

始めの頃は暦さんにしか心を開かなかったけど、今はこうして皆と話したり遊んだりする事が出来る。

育さんの両親?父親の方はヘロn……っんっん…離婚のショックで廃人になったらしい。

今は夫婦揃って児童虐待の罪で投獄中だ。

「あ、あの…一夏さん…」

「どうした蘭ちゃん?」

「あ、いえ、なんでもないです…」

蘭ちゃんはずっとこの調子だ。

たぶん俺に怯えてる。

と言うのも…その…なんだ…この子の前で高校生をボコったからな…。

怖がられて当然というか…。

「はぁ…」

「どうした一夏?」

「いや…どうもお前の妹がな…俺に怯えてて…はぁ…」

「あぁ、うん、その内慣れるだろ」

弾とそんなやり取りをしていると月日からクレームがきた。

「あーもう!織斑君も早く入ってよ!
箒ちゃんが強すぎてゲームにならないよ!」

だそうだ。

まぁ…箒だしな…

「箒、ちゃんと手加減してやれよ」

「してるよ?イカサマも読心術もつかってないよ?」

ならいいか…

「ていうか月日。俺が入ったら俺と箒がツートップになるぞ?」

「う……う~ん…どうしよう?」

月日が悩んでいると。

「じゃ、じゃぁ…アレやろうよ…」

と千石が口を開いた。

「あれ?」

ってなに?

「ツイスターゲーム……」

ふぅん……

「却下」

と切り捨てる。

「アホか、男女でツイスターゲームなんざラノベの主人公くらいしかやらんだろ」

「むぅ……」

そうだな…

「人生ゲームはどうだ?それなら運が絡むからお前らもワンチャンあるぞ?」

「う~ん…そうだね…そうしようか!」

と育さん。

「箒~こっちゃこいこい…」

と箒を手招きする。

壁際に箒を連れてきて今からの勝負の内容を話す。

「俺は暦さんを一抜けさせるが…お前はどうする?」

「じゃぁ…私は育さんで…」

と箒は見とれるような悪い顔で応えてくれた。

「じゃぁ…それで行こう」

その後俺と箒は他のゲームでも指定したプレイヤーを一抜けさせる為にプレイした。

しかしまぁ…他人を影ながら操るのは難しい。

俺と箒がツーワーストになって怪しがられたが、結局誰も気付かなかった。

勝率は互いに二割で、残りの六割は非指定プレイヤーが勝ち抜けた。

そして御開きになり帰路にあるのだが…

『ますたー?』

『わかってるよ、つけられてる。それも公安じゃないな…』

ここ一月で俺達…俺、姉さん、篠ノ之一家についた護衛…恐らく公安の者。

そして今つけてるのは多分…MSS、中国国家安全部。

その遥か後方に…CIAか?

CIAは見張ってるだけだが…

MSSの配置は完全に拉致目的だな…

ふむ…少しおちょくってみるか…。

遮音フィールド…キャスト

「箒」

「なに?一夏?」

「暗くなって来たから走って帰ろうぜ」

「?うんわかった」

そして俺と箒は走り出す。

「わっ!まってよ一夏!」

そして前に見えた路地に入る。

「一夏!そっちじゃないよ!」

いいんだよ!これで!

そして再び路地を曲がる。

そして何時もとは違うけど正しいルートで家に帰る。

で、ここからが大事。

俺と箒が二つ目の路地に『入らずに』進んでるようにみせる。

簡単にいえば光波振動系魔法で蜃気楼を見せる。

そして幻影を『CIAの居る方向』へ向かわせる。

CIAとMSSの間に認識干渉をかけて…

MSSが幻影を確保しようとしたところで認識干渉を…

解く!

さらに幻影を消せばあら大変!

CIAとMSSが銃撃戦をおっ始めました!

「フフっ…」

「どうしたの一夏?」

「いや、何でもないよ」

さて…せいぜい箒に手を出そうとしたことを悔いるんだな…

これが、今の俺の役目。

束さんの夢を手伝った次は…

箒の護衛。

某御兄様みたいにはいかないかも知れないけれど。

全力を持って、箒のガーディアンを務めよう。 

 

第三十話

「ファ、凰鈴音デス!中国カラキマシタ!宜シクオネガイシマス!」

さて、いきなり少女の自己紹介からですまない。

今日は五年生の始業式…が終わった後のHR…まぁそういう訳だ。

「えーっと、皆さん仲良くしてあげてください」

と担任の御約束のような言葉。

「席は…うん、織斑くんの隣ですね」

待てやコラ。

明らかに出席番号無視してんじゃねぇか。

「織斑くん、頼みましたよ。」

なんで名指しかねぇ…

「じゃないと貴方寝るじゃないですか」

え?俺声に出してた?

「顔で解りますよ顔で。何年貴方と居ると思ってるんですか」

そうなんだよな…この人俺が一年の時の担任なんだよな…

俺(と月日とか箒)が何かやらかす度にこの人がいろいろやっている。

身内除いたら一番付き合い長いかも…

て言うか普通人事異動で五年も居るとかあり得なくない?

「私が言いたいですよ。凰さん、織斑くんはいろいろ規格外なのでおもいっきり頼っても大丈夫ですよ。」

「ハ、ハイ!」

こっちに投げんなや、教育委員会に訴えるぞ。

「はいはい、じゃぁ凰さんは織斑くんの隣に座ってください。」

おいコラいきなり無視か……

はぁ…しょうがないか…

戸惑っている中華娘に手招きする。

「<こんにちは。凰鈴音、俺は織斑一夏。
慣れない日本の学校で苦労するだろう、その時は俺達を頼って欲しい。>」

「<アナタ…中国語話せるの?>」

「<今話してるじゃないか>」

中検準二嘗めんな

「<授業でわからない事があれば聞いてくれ。
日本語はどれくらい話せる?>」

「<日常会話くらいなら…なんとか…>」

「<それだけ出来れば十分か?…まぁその内覚えるだろう>」

さて…

「で、先生、そんなにニタニタしてどうされました?
ついに逝きましたか?頭が?」

「いや、別にぃ」

パンパン!と先生が手を叩く、呆けていたクラスメイトが先生の方を向き…

「さて、凰さんの事は織斑くんに任せて係を決めましょうか」

ヲイ。

「良いじゃないですか、織斑くん女の子みたいな顔ですし。
それに女の子の扱いはこの学校で一番上手いじゃないですか」

「酷い中傷をうけたぞ!?」

「事実女の子と遊ぶ方が多いんじゃないですか?」

「だーん!助けて!」

と桂馬飛びで前にいる弾に助けを求めるも…

「事実じゃね?お前俺以外に同性の友達居ないじゃん」

「<え?アナタ男なの?その顔で?>」

「<いきなり酷い事を言うねお嬢ちゃん!>」

と中華娘に言うと箒が弾に尋ねた。

「弾、一夏は何を言われたんだ?」

あ、そういえば最近箒が姉さんの口調を真似し始めたんだよ。

「お前…まだその口調なのかよ…まぁ大方その顔で男かとでも言われたんだろ」

よくわかったなおい!

「ふむ…弾、一夏の顔を見るに正解らしいぞ」

「そいつぁ良かった」

よくねぇよ、俺はサトラレじゃねぇんだよ。

「なら表情隠せよ…」

いいだろう…

真顔!からの硬化魔法!

「…………めっちゃドヤァ!な雰囲気が来るな…一夏、諦めろ」

Orz…

で、そんなこんなで係決め…

学級委員長 阿良々木月日

副長 篠ノ之箒、五反田弾

連絡係 千石撫子

……うん一つ言おう…

「月日、お前はこの学級を牛耳るつもりか!?
先生もそれでいいのか!?」

そう、この学級…

「その方がいろいろ動きやすいじゃん」

「良いじゃないですか、問題児を集めたクラスなんですから。
纏めてくれるなら嬉しいですよ」

俺達(俺、月日、箒、弾、千石)を一纏めにしているのだ!

ぼくらシリーズじゃあるまいし…

「<どうしたの?>」

あぁ、彼女はこんな猛獣の檻に突っ込まれたのか…

「<凰鈴音…強く生きろ…>」

「<?>」

中華娘が?マークを浮かべていると…

「じゃぁこれで行きましょうか」

まじか…本当にこれで決めやがったよこの担任…

どう考えても俺が抑え役じゃねぇか…

まぁやるしかないか…

どうやら今年は忙しくなりそうだ… 

 

第三十一話

五年生になってから二ヶ月程経った。

その間に起こった事といえば、国際IS委員会が設立された事だ。

そして日本政府にコアナンバー001(ガチガチにリミッターを掛けて機能の99.6%を封印)をふくむコア・マスプロダクトモデル(以下コア)が十個とISの基礎理論のレポートが届けられた。

日本政府はコレを使い世界に仕掛ける事も出来ただろう。

しかし日本政府はそれをしなかった。

国連の要請…つまりはコアの情報と実物の供与、レポートのコピー、IS操縦者育成機関設立などに対し日本政府は条件付きで受け入れた。

その内容は以下の通りだった。

一つ、国連が全力を以て日本の国土問題等を解決する事。

二つ、日本の領土を不当に占拠する国は速やかに返還する事。
受け入れなければコア及びレポートの情報の一切を提供しない。

三つ、日本の文化財を不当に所持する国は速やかに返還する事。
受け入れなければ上記と同じく対応する。

その他にも幾つかの条件を着けた。

各国はその条件を飲み…否、飲むしかなく今現在日本に十数個、先進主要国に一つづつ配られている。

それとISの研究の為の施設が東京湾の人工島に建設中だ。

恐らく後のIS学園だろう。

そうそう、つい先日日本政府主導のIS開発計画の起動実験があったらしい。

その結果、女性にしか動かせない事がわかった。

コアを量産するときにベースにしたのが白騎士、つまりは姉さんのデータだったからだろう。

束さんが言うには俺は起動できるらしい。

たぶん父さんも出来た筈と言っていた。

ISはゲノミックスキャンによって個人を特定するのでその影響だろう。

まぁ、ぶっちゃけると『どうでもいい』。

今の世界情勢なんてのは俺には関係ない。

さしあたって今の問題と言えば…

「あぁん!?なんだその目は!嘗めてんのかガキィ!?」

目の前のマフィアっぽい男達だ。

恐らく狙いは箒だろうなぁ…

下校途中の道で待ち伏せされてたらしい。

取り敢えず箒、弾、鈴、千石、月日の五人には橙を着けてにがした。

問題は…

「おっちゃん達何者だ?アタシとやろうってのか?」

この人だ…阿良々木火燐…月日の姉だ。

「威勢のいいガキだな…」

はぁ…めんどくさ…

「テメェ等…付いてこい、来ないと…明日テメェ等の学校に乗り込む」

うーん、俺としてはそっちの方が楽なんだがなぁ…

つか学校に乗り込んでどうすんのさ?

「ふっざけんなぁ!ああいいぜ!行ってやるぜ!」

はぁ…この脳筋…

どう考えても俺等を人質にして箒を要求するだろうが。

「<じゃぁ俺も行かせて貰おうか…ロシアンマフィア気取りのロシア諜報員の諸君?>」

流暢な英語で話し掛ける。

ロシア語じゃないのかって?

だってロシア語知らねぇし。

「!?」

ヒット…今現在俺が調べられない事はネットに繋がっていない事のみ…

つまりはネットに繋がっている事ならほとんど全て調べられる…

「<さぁ、早く行こうぜ…
ロシアンマフィアの皆々様?>」










薄暗い廃工場の中。

「さぁて…じゃぁ、お前からやれ…オリムラ・イチカ」

いかにもな場所で俺はリボルバーを受け取る。

カチリ…

撃鉄を起こし、こめかみに銃口を押し当てる…

淀みない動作でそれを行う、ラボでさんざんやった動作だ。

引き金を…引く…

銃口から弾丸が吐き出される事は無く、カチン、という音と共に撃鉄が動いただけだった。

「くくっ…運のいい奴だ」

何をしているか?ロシアンルーレットだ。

何故しているかって?開放の条件がロシアンルーレットで勝つ事というよう言いくるめたからだ。

実弾を当てた方の負け、ただし実弾が入ってると思ったら天井に向けていい。

天井に向けた場合、負けるが死なない。

逆に天井に向けて空撃ちしたら負け。

「<次はアンタだぜ、ヴィッサリオン・アルシャーヴィンさんよ>」

ヴィッサリオン・アルシャーヴィン、コイツらの隊長格だ。

「<その年で迷い無く引き金を引くか…この国は平和ボケしてるんじゃねぇのかよ…>」

彼は話しながらも銃の操作をしている。

「<お生憎、俺はちとハードな人生送ってるんでな。
そこの脳筋と一緒にされちゃ困るぜ>」

火燐さんは工場の入った瞬間に奴等に仕掛けようとしたので当て身をかました。

あと、共鳴も使ったので数分は立てないだろう…

「<まったく…末恐ろしいな>」

ヴィッサリオンが銃口を当て、引き金を引いた。

カチン…

今回も外れ。

六発入りだから俺が有利だ。









そして五回目、つまりは俺の最後のターン。

カチリ…

撃鉄を起こす、中に弾が無いのは確認済み。

そして銃口を…火燐さんに向けて、引き金を引く。

カチン…と撃鉄が空を切る。

「<入っていたらどうするつもりだったんだ?
彼女は友人ではないのかね?>」

「<命掛けてるんだ、彼女も掛けないと不公平だろ。
さぁ…アンタの番だぜ>」

最後の…つまりは実弾が入った弾装しか残ってないリボルバーを渡す。

「<最後か…>」

彼は撃鉄を起こし…こめかみに当てた。

「<あばよ、オリムラ・イチカ>」

そういって引き金を引いた。

パァン!

銃口から一発の弾丸が吐き出された。

しかしヴィッサリオンが死ぬ事はなかった。

何故なら…

カラン!

「<死なせねぇよ、テメェ等には利用価値があるからな>」

俺が銃を蹴飛ばしたからだ。

「<ぐっ…利用価値…だと?>」

蹴られた手首を抑えながらヴィッサリオンが問い掛ける。

俺は両手を広げ、芝居染みた口調で言った。

「<そうだ、アンタ等はプロフェッサー・タバネの妹の誘拐を画策。
しかーし!それに気付いたプロフェッサー・タバネはISを一機派遣!
誘拐犯は善戦虚しく全員死亡!
どうだ?仕事と金と隠れ家は用意するぜ>」

「<我々が何者か、知っていて言うのか?>」

「<お前さん、国と妻子、どっちが大事だ?>」

「<貴様!>」

「<さぁ、選べ。国に付くか俺達に付くか。
アンタの部隊の忠誠心は国じゃなくアンタに向かっている。
部下にいい暮らしさせたいだろ?>」

たぶん、この部下は非正規諜報員だ。

彼に拾われた孤児とかなのだろう。

「<いいだろう…お前達に付く。しかし妻と娘には…>」

「<わかってるって、全力で護るさ>」

「<一つ聞こう。お前は何者だ…?>」

「<さぁな、でもまぁ、今日の所は帰りな。
隠れ家の場所は追って連絡する>」

「<いいだろう>」

ヴィッサリオンは部下を引き連れて廃工場から出ていった。

さてと…

「火燐さん起こさないとな…」

その後火燐さんを起こして家まで送った。

阿良々木家に行くと箒達が待っていた。

「ようお前ら、無事だったか?」

「一夏ぁ!」

「おっと…」

急に箒に抱き付かれた。

「おー?どうした?」

「お前なぁ…箒ちゃんの気持ちも考えろよ」

と弾に言われてしまった。

「大丈夫だって、少しあのお兄さん達と遊んでただけさ」

ちょっと過激なルーレットでね。

「そうかよ」

「さ、帰ろうぜ箒」

「うん!」

箒を護る為の手駒は、少しでも多い方がいい。

彼には、働いてもらおう。
 

 

第三十二話

箒、私室。

「箒ー起きろー」

「うぅん…いちかぁ…まだねむいのぉ…」

ゆっさゆっさと箒を揺するが起きない。

にしても『ねむいのぉ…』か…

「ふふっ…」

姉さんの真似してるけど、素はやっぱりこっちか。

「箒、おきろー起きないと襲っちまうぞ」

「うにぃ…いちかならいーよ?」

「ふぁ!?」

な、な、何を言ってるんだ!?

いやいや、待て待て、そうだ、箒はそっち系に疎いんだきっと。

だから俺の言葉の意味が解らなかっただけだ。

うん!そうだ、そうに違いない!

と自己完結していると箒が起きたようだ。

「あー、いちかー…」

やっと起きたか…

と思った矢先。

グイッ!

「うぇ!?」

ぎゅー!

「いーちか!ふふふふふー…」

寝惚けた箒にベッドに引っ張り込まれた。

「ブルータス…お前もか…」

見れば解るが箒には抱き付き癖がある。

姉と同じくね…

一日に何回か抱き付かれるのだ。

「おい、箒、起きてくれ、朝飯食う時間無くなるぞ」

「ふぁーい」

と言って箒は俺を解放して着替え始める。

「あのなぁ、俺だって男なんだが?」

「何時も一緒に風呂に入っているのに今更何を言う?
それに一夏なら大丈夫だろう?」

ぐはぁ!?…ソレは俺が男らしくないって言いたいのか!?

お前に襲う勇気なんて無いだろヘタレ…そう言いたいのか箒!?

何故だぁ!顔か!?やっぱりこの女顔なのか!?

俺がorz状態になっている間に箒が着替え終わったようだ。

「どうしたのだ一夏?行くぞ」

マジで箒△…






学校にて。

「という事があった…何故だ!?」

箒がどっかに行ったので弾に今朝の事を相談した。

「取り敢えずリア充爆発しろ」

「なんでだよ!?あぁもう!弾!」

「なんだよ?」

「男らしくなる方法を教えろ!」

もしくはモテる方法!

「筋肉つけろ」

はぁ!?

俺は着ていたシャツを捲って腹を見せる。

キャァ!と女子の声が聞こえたがそんな事はどうだっていい。

「見ろ!この綺麗に割れた腹筋を!何故だ!何故筋肉が有るのにモテない!?」

「いや、割れ過ぎだろ…むしろどうやったらそこまで割れるんだよ?」

重力十倍で腹筋だ!

「腹筋を毎日百回してたらこうなった!」

あと同じ条件で腕立て伏せとかスクワットとかもしている。

「そうか、うん、諦めろ」

ちくしょうめ!

「何の話シてるノ?」

と鈴が入って来た。

もともと日常会話程度は出来ていたので時折イントネーションがおかしい以外は日本語を流暢に話せるようになった。

「鈴か、いや、一夏がn…ムグゥ!」

「いや、なんでもない、何でもないぞ鈴」

「そうなの?」

「そうなの」

「ふーん…」

鈴がジトーっとした目で俺達を見ている。

「なんだよ?」

「いや、べつに…」

すると鈴はチラリとあらぬ方向を向いた…

そちらを向くと…

「ぐふふふふ…一×弾キタァァァァ!」

といかにも腐ってそうな集団がこちらを見ていた。

「ひぃ!?」

なんかすっごく怖い!

思わず弾を盾にしてしまった。

「む?どうしたのだ一夏?」

ヤバッ!箒が戻って来た!

「い、いいいや、なな何でもないぞ!?」

「なら良いのだが…」

キーンコーンカーンコーン!

あ、本鈴だ。

「はいはーい!皆さーん席に着いてくださーい!」

担任が入って来て皆が席に着き、話は御開きになった。







給食

今日のメニューはご飯、味噌汁、焼き魚、おひたし…これぞ和食!みたいなメニューだ。

「あ…むぅ…」

「ああ、もう、箸貸せ」

箒が上手く魚を身と骨とに分けられないのを見ていてもどかしくなってしまった。

魚の『骨』を対象にしてコンマ秒以下の僅かな時間だけ高周波ブレードを使う。

そのあとちょいちょいと分ける。

魔法の無駄遣い?他人を傷付けるよりは有意義な使い方だろ。

「ほれ」

「ん、ありがと」

「おう」

ん?

「なんだよ弾?」

「なんでもねぇよ」

あっそ。





放課後

「箒ー帰ろうぜ」

「うん!」

「弾、お前等は?」

「一緒に行くぞ」

「アタシも行くわ」

「わたしもー」

「わた、わたしも…」

その後蘭ちゃんも入れて7人で帰る事になった。

「あ、そーいえば一夏君」

「なんだよ月日?」

「この前厳ついオジサンに絡まれてたじゃん?」

「それがどうかしたのか?」

「あの時リボルバーでロシアンルーレットしたって本当?」

え?

「お、おい、一夏?」

と弾が目を見開いて言った。

箒と千石と蘭ちゃんはわかってないようだった。

「一夏?どうイう事なの?」

鈴…

「月日、何故知っている?」

「お姉ちゃんに聞いたよ」

チッ…魔法使っとくべきだったな…

「月日、弾、鈴、ちょっと来い。箒、お前達は少し待ってろ」

三人を引っ張って行く。

「一夏、話してくれるんだろうな?」

「ああ…話すよ」

仕方がない…

「確かにこの間、俺はアイツ等とリボルバーでロシアンルーレットをした」

「………………殺った……のか?」

「いや、殺ってない。確かに俺が勝った。
だが相手が最後の一発でチキッてくれてな」

コレは嘘だ。

ヴィッサリオンは敗けを認め引き金を引いた。

「そう…か…」

「で…相手は何者だったの?」

その月日の問に俺はこう答えた。

「観光に来てたイタリアンマフィアだよ」

ヴィッサリオンとの会話は全て英語で行っていた為、火燐さんは真実を知らないのだ。

「さぁ話は終いだ。戻るぞ」

弾と月日は素直に戻って行った。

「どうした鈴?」

「さっきの話、嘘よね?」

「いやいや、本当だとも」

「ふぅん…あの先頭に居た男…軍人だったわ」

え?

「私のお父さんが退役軍人なの。
時々お父さんの戦友が家に来てたんだけど…人を殺した事のある軍人の雰囲気って案外解る物なのよ?」

おっと…こいつぁぬかったぜ…

「さぁ?どうだろうな?」

「ねぇ…一夏」

「なんだよ?」

「一夏が箒を守る理由は何?」

「何の事だ?」

「アイツ等…狙いは箒でしょ?
理由は…タバネ博士の妹だから」

はぁ…

「ああ、そうだよ。奴等はロシアの諜報部員さ…まぁ、今は俺と束さんの側に付いてるよ」

「そう…方法は聞かないでおくわ」

「賢明だ…
それと、俺が箒を守る理由は、それが俺の使命だからだ」

「使命…ね…わかったわ」

その後、鈴と共に戻ってそれぞれ帰路に着いた。






「痒い所無いか?」

「無いぞ」

「じゃぁ流すから目ぇ瞑れ」

「ん」

今は箒と風呂に入っている。

五年生にもなってコレは不味くないかとも思うけど、柳韻さん達は何も言わないし姉さんは何か言う所か時々乱入してくる。

ザバーっと箒の頭についた泡を流してやり、湯船に入る。

「ねぇ…一夏」

「なんだ?」

「危ない事しちゃ、だめだよ?」

「大丈夫だ、心配するな」

俺は死なないさ…

「今日言ってたのって、本物の鉄砲でロシアンルーレットしたって事だよね」

あれ…わかってたのか…

「まぁ、な」

グイッっと引っ張られ、箒に抱きしめられる。

「一夏…一夏に、何か不思議な力が有るのは知ってる。
だけど、それで何とかなるとしても、無茶、してほしくないよ」

「バレてたのか?」

「うん、時々、一夏が光ったり、手から光るリング出してたから…」

サイオンとか魔法式の事か…

あぁ、そうか…つまり箒には…

「見えてたんだな」

「うん、一夏が時々、私を守ってくれてる事もみんな知ってるよ」

そう…だったのか…

これは、もう、色々バレてるんだろうな…

「箒」

「何?」

「今から、今から俺の、織斑一夏の話を聞いて欲しい」

「うん、いいよ」

そして俺は、前世の記憶が有る事を、魔法が使える事を、橙の事を、怪異の存在の事を、ISに関わっていた事を、白騎士事件の事を、束さんの失踪の事を…

全て、話した。

「そっか、一夏」

あぁ、嫌われたかな…

「もしも、一夏に前世があっても、今の一夏は今の一夏だよ。
私が知ってる一夏は、今ここに居る一夏だよ。
だから、私は一夏の事、嫌いになんてならないよ」

そっか…

「ありがと…箒」

「ん」

箒に対して、隠し事をしていた後ろめたさが無くなって、とても楽になった。

風呂からあがって部屋に戻る途中。

「ねぇ…一夏…」

「なんだ?」

「今日…一緒に寝よ?」

「ああ、いいぞ…」

そうだ、忘れてた…

「さっき言った事は、誰にも言ったらダメだぞ」

「わかってる、絶対誰にも言わない」

オースは使わない。

俺は、箒を信じる。

そしてその夜、俺は始めて箒と一緒に寝た。
 
 

 
後書き
一応言っておきますが最後の一文に関して。
ヤッてないですからね?まだ五年生ですからね?
まぁ、その内一夏の初体験を書きます、というか書いています。
そこまでストーリーが進んだらR18番外編集シリーズを立ち上げます。 

 

第三十三話

パチリと目が覚める。

目の前には俺の天s…ゲフンゲフン、箒の顔がある。

「箒、起きろ、箒」

「あー、いちかーおはよー」

今日は素直に起きたな…

「早く着替えろ」

と言うと。

「んー」

は?

「脱がせて」

「懐かしいなオイ…」

ソレはまだ箒が一年生だったころの話だ。

「しょうがない、今日だけだぞ」

「うん!」

バンザイしている箒のパジャマの上着を脱がせて昨夜用意しておいた物を着せる。

下も同じようにしてズボンを履かせる。

箒を着替えさせて居間に向かう。

「…………おい、一夏」

「…………何?姉さん?」

「いや、何も言うまい…」

いや言えよ!

昨日より箒が近い!

(話したのか?)

(うん)

(どこまで?)

(全部)

(そうか…)

以上、姉弟のアイコンタクト…




学校にて

「ふふふふふふ…」ニコニコ

「…………」ムスー

何故か箒の膝の上に座らされて抱かれてる俺だ…

この構図でわかると思うが今は箒の方が背が高い。

前世の経験からしても小学生の内は女子の方が体が大きい。

女子は小学校高学年の時、男子は中学生の時に一番背が伸びるのだ。

「一夏…」

「待て、鈴、言いたい事はわかる」

「死ねリア充」

グハァ!?

鈴…いつの間にそんなスラングを覚えた…

鈴の学習能力高過ぎ…

そして朝の本鈴が鳴り、担任が入って来た。

「………」

「………」

「………」

「なんか言ってよ」

「………」

「………」

互いに沈黙を続けた後、先生はものすごくイイ笑顔で言った。

「箒さん、妹さんですか?」

「ぶん殴るぞクソ教師ぃ!」

「ブフォァ!?」

弾と鈴と月日が吹き出した。

千石も肩を震わせている。

その他の奴等は…うん、スゲーひきつった顔をしている。

うん、別に笑ったからって君らをボコったりしないよ。

「箒、そろそろ放してくれ」

「ん、わかったぞ」

やっと解放されたので自分の席に戻る。

「さて、ではそこのリア充は放っといて挨拶しましょう、日直さん御願いします」

「オイこら」

今日の日直は弾なのだが…

「きりー…ブフォァ!…く、くく…気を付け、礼…ぷふっ…」

「「「「「「「お、オハヨーゴザイマスー」」」」」」」

「弾!テメェ!?」

「ちゃくせーき」

ガタガタと皆無言で席に着く…一部を除いて…

いつめん(いつものメンバー)はニヤニヤしている。

いや、うん、気にしなければいい…俺はそうしてきた、うん。






昼休み

「やっぱ無理!オイテメェ等!ニヤニヤしてんじゃねぇぞコラァ!?」

「いやぁ、だって…ねぇ?」

「ああ」

「そうね」

「そうだね」

「「「「休み時間毎に抱きつかれてたら…ねぇ?」」」」

「おい…箒…恥ずかしいからやめてくれよ…」

「ん?ソレは『嫌よ嫌よも好きの内』というやつか?」

「断じて違う!」

「ふふふ…良いではないか良いではないか…」

「ソレは普通男のセリフだ!
そして何故それを知っている!?」

「この前千冬さんと見た時代劇でな…」

姉さん!?

「それに一夏は何時まで経っても…いや、何も言うまい…」

「いや、なんだよ?」

すると千石に肩を叩かれた。

「ねぇねぇ一夏君」

「なんだよ?」

「ヘタレ」

「グホァ!?」

ヘタレって言われた…それも千石に…

「いやいやいやいや…箒は妹だし…」

「ほう…そうか…」

箒はいっそう強く俺を抱きしめた。

「お兄ちゃん」

と耳元で囁かれた。

「なんでだよ!?」

「んー?私は妹なのだろう?
ならばそう呼んでも支障はあるまい?」

チクショウ墓穴掘った!?

その後いつめんに弄られまくった。







六時間目の終鈴が鳴り、俺は目を覚ました。

「起きたか一夏?」

「うにぃ…?ほーき?」

「もう六時間も終わったぞ。掃除の時間だ」

あー…そか、机下げないと…

奴等の視線がうざったいので五時間目から寝る事にしたのだが…ふぁぁ…

「くぁ~…」

立ち上がって伸びをする。

なぜか女子がキャーキャー言ってる…また弾がパンツ一丁にでもなったのか?

「おい!捏造ヤメロ!」

なんか聞こえたが無視だ無視…

椅子を机の上に乗せて教室の後ろへ持っていく…

さて…掃除するか…

俺は何と言うか…他人と価値観がズレているらしい。

他人と手を抜く場所が違う…と前世の友人には言われた。

そして俺は掃除に関しては絶対に手を抜かないのだ。

用具入れからバケツをとって手洗い場に行く。

ジャーっと水を入れて教室に戻り自分の雑巾を取る。

何故か俺以外の教室掃除担当が動かないので声をかける。

「おい…お前等もやれよ」

「あ、ああ」

「う、うん、わかった」

とモブ太郎君とモブ子ちゃん(どっちも名前覚えてない)が雑巾掛けをする。

雑巾掛けをしているとき、何か引っかかるような気がしたが…よく解らなかった。

で、掃除が終わって帰りの会(SHR)なのだが…

何故かクラスメイトがこちらをチラ見してくる。

「?」

まぁ、後で箒にでも聞こう。




そして放課後…

俺達の学校のトイレは男子トイレと女子トイレが隣接している。

そして男子トイレ入り口と女子トイレ入り口の間に姿見があるのだ。

で、その姿見の前を通った時…

「なんじゃこりゃ!?」

俺が姿見に自分を写した時、俺の頭に猫耳があったのだ。

髪を結って作られた猫耳が…

「おい…コレやったの誰だ?」

「私だが?」

箒…

「理由は?」

「面白そうだったからだ」

はぁ…なんでこんな快楽主義者に…って俺のせいか…

俺はシュルシュルと結われた髪を解いた。

「むぅ…お前を起こさぬよう結うのは大変だったんだぞ?」

「それ以前にやるな」

「むぅ…」

ったく…それでクラスの奴等が見てたのか…

「あぁ、もう!さっさと帰るぞ!」


コレが俺達の日常。

でも、この日常は泡沫。

いつかは割れて消える物。

だけど、少しくらい、その時間を引き伸ばしたって、文句は無いだろう?
 

 

第三十四話

「束さん?」

「『なんだいいっ君?』」

「箒に諸々バラしたから箒の専用機造るの手伝って」

「『ふぁ!?』」

と言うのがつい昨日の事。

現在時刻7時。

「箒ちゃん!」

「姉さん!」

ラボの地底湖で束さんと箒が抱き合っている。

「ごめんね…箒ちゃん…」

「いいんだ、また会えたから…」

俺と姉さんは黙って見ている。

二人の邪魔をするほど野暮じゃないからね。

やがて二人がこっちへ来た。

「いっ君、先ずは箒ちゃんにISの基礎理論を教えたいんだけど…」

すると束さんに引っ張られた。

そして内緒話の体勢になる。

「わかってますよ、"オリジナル・コア"と"マスプロダクト・コア"…どっちにするかって話でしょ?」

No.0000からNo.0010までの11のコア…つまり"オリジナル・コア"には本来の…原作に於けるコアには無い機能、つまり異世界技術を扱う機能がある。

"マスプロダクト・コア"には『一部』を除いて異世界技術は搭載されておらず、普通の…原作通りのコアとなっている。

「どうしようか?」

「取り敢えずマスプロダクト・コアでいいでしょう。NTDやゼロの説明はナシで」

パイロット保護のために多少は異世界技術を搭載したのだ。

「そうだね…それで行こうか」

よし、決まったな…

「箒」

「なんだ?」

「取り敢えず、ISの基礎理論とか諸々教えたいんだけど…いいか?」

「いいぞ」

その後は詳しいコトは省いて概要を説明した。

「詳しくは追々やっていく。いいか?」

「ああ」

あ、そうだ…

「束さん束さん」

「なんだい?」

「箒に式を付けようと思うんだけど箒に呪術も仕込んでいい?」

「君は私の妹をいったい何にしたいんだい…」

それもそうか…

「じゃぁこの話また今度」

「そうだね」

その後、三時間程して束さんは再びトレイターでどこかへ旅立った。

そして数ヶ月、俺と姉さんで箒にISの事を教えた。

その間、俺は束さんと通信して箒の機体コンセプトを詰めたり実際に造ったりした。

そして俺達が六年生になる前の春休み。

箒の機体が完成した。

機体コード ウカノミタマ。

仕様コアは結局オリジナルコアNo.0003、束さんが持っていたコアだ。

武装とボディを一切持たない代わりにパイロットをエネルギーシールドによって如何なる状況でも護る機体だ。

コンセプトは後の黒鍵に近いかもしれない。

待機状態は鈴の付いたリボンだ。

そして…

「稲荷、調子はどうだ?」

「問題ありません、一夏様」

コイツは稲荷。

妖狐だ。

橙と同じ方法で式にして権限を箒に移譲した。

今は化成して童女の姿だ。

白い髪に紅い瞳、モフモフの耳と尻尾。

「箒、ISに稲荷を入れる。いいな」

「わかった」

稲荷が化成を解き、霊体になる。

そしてウカノミタマの待機状態のリボンに入る。

「箒」

「なんだ?」

「これでウカノミタマは名実共にお前の物だ。
だが忘れるな、ISは全てのリミッターを外せば単騎で国家を墜とせる、オリジナル・コアは特にな」

「わかってる、この子は危ない時以外使わない」

「よし、それでいい」

これで最低限の自衛はできる…

「箒ちゃん」

「お姉ちゃん」

「その子の事、大事にしてあげてね」

「うん!」

さて…俺が何故こんなにも急いで箒にISを持たせたか…

それは…

「ちーちゃん、訓練はどう?」

「まぁ、ぼちぼちだな…」

姉さんが右手薬指に付けた桜色のリング…

そう、日本政府の国家プロジェクトで作られた第一世代IS…

暮桜。

ISが世に出てもうすぐ二年…

そして…









第一回モンド・グロッソ

それが今年の夏、首都東京で行われるのだ。 

 

第三十五話

男性パイロットによる生体融合型IS起動実験。

EU主導で行われたその実験は世界規模で電波に乗せられ…

EUはその信頼を失った。








「束さん、今回の件、黙認してたでしょ?」

「『何の事だい?そんな実験があるなんて私は全く知らなかったよ?』」

とホロウィンドウの向こうで束さんがシラを切る。

はぁ…

半分本当、半分嘘って所か…

「そう…で、コアの量産はどうなってるの?」

「そうだねー…今作ってる娘で113かな?」

だいぶ進んだな…

マスプロダクト・コアにはハード面の異世界技術が使われてない…つまりは束さん単独で製造出来るのだ。

ぶっちゃけると俺は束さんが何を造っても干渉しないし、束さんは俺が何を造っても干渉しない…

KoT(ナイト・オブ・トレイター)の建造に束さんはあまり関わって無いし、白騎士の建造に俺はあまり関わって無い。

俺達はそれぞれの機体で手一杯だったからだ。

つーか魔法無しでパイロットの肉体再生とか訳解らん…

って言ったら束さんに

GNドライヴ?エイハヴリアクター?どんな仕組みで動いてるかさっぱりなんだけど…

って言われた。

「『いまから仕上げだから切るよー?』」

「はいはい、姉さんには何か言っとく事ある?」

「『暮桜のグレードアップなら何時でも呼んでくれていいって言っといてくれるかな?』」

「はいはい…」

まぁ、姉さんは受けないだろうな…

そう思いながらウィンドウを閉じた。

「束は何て言ってた?」

「どうでも良さげだったよ、まぁ、上手く行ったなら御の字程度だったろうね」

「そうか…」

男性パイロットによる生体融合型IS起動実験…

ソレは失敗に終わった。

それも最悪な形で…

数十分前。

テレビには何処かの空軍基地が写し出されていた。

ユーロ空軍の基地らしい。

そしてテレビに写し出された男性。

レポーターが彼の経歴を説明する。

どうやらユーロ空軍のエースで今回の実験に志願したらしい。

やがて彼は着ていた軍服を脱いだ。

その下にはウェットスーツのような物を着ていた。

それこそが今回の実験で起動させる生体融合型ISだ。

よく見るとソレから伸びたケーブルが一部露出した彼の肌に刺さっていた。

そう、EUはインプラントでISの起動を行おうとしているのだ…

エヴァのプラグスーツのようなソレの背中にはバックパックがあり、その中心には穴があった。

どうやらそこにコア嵌め込み、起動させるらしい。

やがてその時はやって来た。

彼は機材に繋がれて立っていた。

スタッフが持ってきたアタッシュケース、そこから取り出されたのは鈍く光る…ISコア。

そしてそのコアが背中に嵌め込まれ、カバーをかけられた。

「皆さん、俺はこれからISを起動させます!
さぁ!世紀の瞬間をご覧あれ!」

そう、言った彼はとても嬉しそうだった。

やがてカウントダウンが行われ…

ISが起動した。

「皆さん!これで俺は!この身一つで大空を…」

しかし、次の瞬間、彼の顔は激痛に歪んだ。

「あ!がぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ…!」

突然胸を抑え、彼は苦しみだした。

「あ!がぁ!ぎゃぁぁぁ!」

ゴプッ!

嫌な音がして彼は血を吐いた。

空軍基地に怒号が飛び交う。

プシッ!

皮膚が裂け、血が噴き出す

やがて、彼は…

「あ!がぁ!ガハッ!ぎぁ…」

その場で体を弓形に反らし…

「ぎ!ギャァァァァァァァ!」

パァン!

最後の悲鳴上げ、木端微塵に吹っ飛んだ。

そこでようやく、中継がスタジオに戻された…







「一夏…」

「なんだい姉さん?」

「何故…失敗したのか…お前にはわかるのか?」

失敗した理由ねぇ…

「恐らくだけど…強度不足だろうな…アレじゃぁ…誰がやろうと粉々に吹っ飛ぶ…
そもそもISのエネルギーをインプラント程度で抑えようってのが無茶だったんだ」

インプラントに使われる素材は人体との相性を優先させるため、金属等は余り使われない。

恐らくだがあのケーブルはエネルギー伝導ケーブルをインプラント素材で覆った物だろう。

だとしても本来はもっと頑丈な素材を使う。

「だから箒には見せなかったのか?」

今、ココに箒は居ない。

現在時刻、23時33分。

あちら側はまだ昼だがこちら側はもう夜だ。

箒は先に寝かしてある。

「まぁ…そもそもマスプロダクト・コアを男が動かせないのは当たり前さ…」

「そうか…」

姉さんの顔はまだ少し青白い

「姉さん」

「なんだ?」

「今日一緒に寝る?」

「な、な、な、いきなり何を!?」

うーわ、すげー狼狽えてるんだけど…

わー…すっげぇ可愛い」

「にゃ!?」

ん?どうかしたのかな?

「いや、あんなグロ映像見せられたら夜眠れないでしょ?
姉さんって幽霊の類いあんまり…」

「い、いや!大丈夫だぞっ!?」

うーん…苛めたくなってきたな…

あ、そだ。

「そう、なら俺はもう寝るよ」

「そ、そうかっ!」

「お休み、姉さん」

「あ、ああ」

さーてと…

『ますたー、何考えてるの?』

『ちょっとしたイタズラさ』

メティス・サイトを展開する。

姉さんはまだ居間にいる。

ちょっと脅かしてみようか。

その後魔法でポルターガイスト擬きをやったりして姉さんをおちょくった。

すると…

バタン!

とドアが開けられ…

「おい…一夏…!」

あ…
『しーらないっと…』

「お前の仕業だな?」

「えーと…その…ハイ」

ツカツカと(実際はそんな音はしていないが何故か聞こえた)姉さんが歩いて来て…

ガシッ!ギチギチギチギチ!

「ぎぃやぁぁ!割れる!頭が割れる!」

痛い!マジで割れる!

「一夏…」

「ハイ!」

その低い声に反射的に返事をしてしまった。

「私はあの手のイタズラは嫌いだ」

「ふぁい!」

「もうするなよ?」

「ハイ!」

「ならばよし」

と言って姉さんは俺を解放しスタスタと部屋から出ていった。

ふぁぁ…今度こそ寝よ

そして数分後。

ガチャリ

スタスタスタスタ

ボフン…ぎゅぅ!

ふぇ?

何故か姉さんが俺のベッド入って来て俺を抱き締めている。

「イタズラした罰だ。今晩は私の抱き枕になれ」

ふふっ…なんだかんだで怖かったんだね…

まったくしょうがないな…

「罰じゃなくっても何時でも抱き枕にしてくれていいよ?」

「……///」

あれ…?

「ばか…」

う…わ…!

ヤベェ!今のすげぇ可愛い!

姉さんが照れてるのってめっちゃ久しぶりに見たぞ!?

これって超貴重じゃね!?

等と考えていたが…

ふぁぁ…

やがて睡魔に襲われた…

「おやすみなさい、姉さん」

「お休み、一夏」
 
 

 
後書き
この話を書く直前にIS11を読んで後の計画が全て吹っ飛んだのはいい思い出です。
まぁ、もうIS11のエクスカリバーの下りは無視しようかなとか思っているのですが。 

 

第三十六話

姉さんが家から出ていった…

いや、べつに失踪した訳じゃないよ?

ただ単に神社から出ていって元の家に戻っただけだ。

姉さんは今現在国家代表なのだ。

かなりイイ給料貰ってるらしい。

しかしその分帰りが遅くなったりする。

それで迷惑が掛かるからと出ていったのだ。

まだ話してないが俺も中学に上がったら元の家に戻ろうかと思っている。

で、今日は休日なのだが…

「姉さん!何をどうしたら一週間でこんなに散らかるのさ!?」

「しょうがないだろ…片付ける暇も無いんだから…」

姉さんの部屋を掃除してるのだがソレはもう散らかっていた。

服は脱ぎっぱなしだし、枕元にビールの缶は置いてあるし…

下着が散らばってるのは妙齢の女性としてどうにかならんのかねぇ?

キッチンはあまり汚れていない、と言うか使った形跡が無い。

ゴミ箱の様子を見るに多分毎食コンビニ弁当だろう。

冷蔵庫の中にはビールと冷凍食品しかなかった…

アンタは何処の葛城一佐だ…

動線上以外は全く汚れてない。

まぁ、遅くまで頑張ってるのだろう…

取り敢えず姉さんの部屋を片付ける。

ゴミは分別してゴミ箱に、衣服は洗濯機の中に放り込む。

そして諸々を片付け終え…

「姉さん、買い物行くよー」

「冷蔵庫にあるだろ」

アホか。

「冷凍食品しかないだろうが!」

「べつに構わんが…」

「俺が構うわ!」

てな訳で二人で買い物に行く事になった。


スーパーにて。

「で、何が食べたい?」

「何でもいいぞ」

「漫画じゃあるまいし…まさかこのセリフを言われて困る日が来るとは…」

「お前が作る物ならなんでもいいぞ」

「姉さん、それ普通は男が女に言うセリフだからね?」

暗に料理を覚えろと言ってみる。

「鏡を見てから言う事だな」

「だとしても姉さんが料理できない事実は変わらないよ」

「う…ぐぅ…」

「さて…どうしようかなぁ…」

何作ろう?

ふとホットケーキミックスが目に入った。

ホットケーキか…いや、姉さん結構食うしな…足りんだろうな…

あ、いや、でも…

なんだかんだでホットケーキミックスをカゴに入れる。

あとは…生クリームと…

その後諸々の材料を買って店を出た。

「ん」

ん?

姉さんが手を差し出した。

「荷物、持つぞ?」

「大丈夫」

こう…魔法でちょいちょいっと…

あー…魔法科の世界だとこんだけでしょっぴかれるんだっけ?

サイオンセンサー無くて本当よかったわー…




家に帰って調理開始。

テーブルの上で……

目の前には姉さんがいる。

「おい、一夏、何をするつもりだ?」

「え?ナポリタンつくるだけだよ」

作るのはナポリタンだ。

え?ホットケーキミックス使わないのかって?

後で使うよ。

先ずはナポリタンだ…ただし調理器具は使わない。

ただし水を張ったボウルは用意した。

具材と食器以外はそれだけだ。

先ずは魔法で玉葱とかの材料を浮遊させる。

次に茹でてないパスタを一本取る。

圧切…キャスト

圧切をかけたパスタで皮を剥いたり切ったりする。

切った野菜をそのまま浮遊させておく。

次は水を浮かせ…振動系で沸騰させる。

それと同時に具材を集め、ゆっくりと熱していく。

水が沸騰したのでパスタを突っ込む。

具材がいい感じになってきたのでケチャップをかける。

群体制御で具材にケチャップを絡ませる。

パスタが茹で騰がったのでパスタを熱湯から取り出す。

残った熱湯はボウルへ。

そしてパスタと具材を混ぜ合わせる。

十分絡んだら俺と姉さん、それぞれの食器へ…

「はい、完成」

「お前はマジシャンか?」

「魔法師ですが?」

「ああ、うん、そうだったな…」

『ますたーって暇なの?』

『なんで?』

『今のってもろに暇潰しじゃん』

と言われてしまった…

『「魔法調理」…細かい制御の練習にはちょうどいいんだけどな…』

『ふぅん…』

「お、旨いな…」

「そりゃ(柳韻さんの)奥さんに仕込まれたからね」

俺と箒は奥さんに結構料理を習っている。

理由?束さんも姉さんも料理出来ないからね…

あと俺は柳韻さんに、箒は雪子さん(箒の叔母さん)にそれぞれ神主と巫女の仕事やしきたりを習っている…

ヤベェよ…箒が超廃スペック小学生になっちまった…

「そう言えば…お前、今年もやらないのか?」

「何を?」

「巫女神楽」

「ぶふぉっ!げぇっほげっほ!」

突然の姉さんの言葉にむせてしまった。

「そんなに驚く事か?」

「いや、おかしいだろ」

「そうか?お前の舞は綺麗なんだがなぁ…」

俺は柳韻さんに神主としての教育を受けている…

しかし一方で雪子さんに巫女としての教育も受けている…

何故だ!?

「しょうがないだろう?お前から神楽を教わりたいと言ったのがきっかけなのだからな」

くそぅ…あんな事言わなきゃよかった…

篠ノ之神社の巫女神楽…それは神々に捧げる舞であると同時に…

篠ノ之流『剣術』の武舞だ。

一刀一扇…それが篠ノ之神社の巫女神楽、しかし本来は扇ではなく短刀などを持つ。

左手の得物で相手の攻撃を弾き、右手の刀で斬り伏せる。

剣道ではなく、剣術。

剣を操る術、人を殺める術…

俺は強く為りたかった。

いざ、魔法が使えない状況になっても切り抜けられるように…

だから俺は柳韻さんに剣術を習った。

そしてせっかくなので雪子さんに武舞を習った…のだが…

「まさかお前があんなにも化けるとはなぁ…」

白騎士事件以前、俺は雪子さんに言われて試験の名目で巫女神楽を舞った…フル装備で…

刀と扇は勿論、装束を着て化粧をして髪を結ってだ。

『試験』は無論、合格だった…

しかしそれ以来篠ノ之神社の祭りが近くなると雪子さんに躍らないのかと聞かれるのだ。

もう6月だ、そろそろ何か言われる時期だ…

「まぁ、雪子さんも何も言わないし…まだ気にする事じゃないよ。
それより目下の心配事は…」

ジーっと姉さんを見る。

「な、なんだ?」

「いやー…あの白騎士様が生活力皆無とはねぇ…」

「べ、別に関係ないだろう」

プイッとそっぽを向く姉さん。

もう二十歳だというのにこういう仕草の一つ一つが可愛かったりするのだ。

「な、なんだ一夏?」

「いやー?べつにー…」

そう言って食器を下げる。

さて…次は…

「姉さん、デザート食べる?」

「ん?ああ、貰おう」

はいはい…

冷蔵庫から材料を取り出しテーブルに並べる。

「今から作るよ」

先ず卵を数個割って中身を浮遊させる。

卵をときつつ牛乳を多めに入れ更にホットケーキミックスを入れて混ぜていく。

「一夏、何を作るんだ?そんな緩い生地ではホットケーキは作れんぞ?」

「まぁ、見てなって」

次に生クリームを出しこちらも浮かべる。

空気を含ませつつかき混ぜホイップクリームにする。

あぁ、結構疲れるなコレ。

今空中にあるのは滅茶苦茶緩いホットケーキの生地とホイップクリーム。

そして生地を数十に分割する。

そして分割した生地を全て同じ大きさの円にし…焼き上げる。

焼き上がった生地を冷却。

更にホイップクリームも同じ数に分割し少し小さめの円にする。

それらを交互に重ね合わせ…

大皿に乗せる。

この間約三分…普通なら生地を焼くのに十倍以上掛かる。

「はい…ミルクレープ完成…はぁ…疲れた…」

今までは魔法の『威力』ばかりを高めていたが…

今回は繊細な調整が求められた。

ナポリタンはパスタと具材が生煮えだったり焦げたりしないよう、ゆっくりと温度を上げないといけなかった。

ミルクレープは生地を焦がさないよう、最低限の熱のみを発生させなければいけなかった。

うん、疲れたけどいい練習になったな…

切り分けて小皿に乗せる。

「召し上がれ」

「ああ」

ぶっきらぼうだけど頬が僅かに緩んでいた。

ったく…本当にかわいいんだから…

フォークで切り取って口に運んだ。

「どう?美味しい?」

「ああ、旨いな…」

パクパクとミルクレープを食べる姉さん。

やっぱり姉さんも女の子だねぇ…

そう思いながら俺もミルクレープを食べる。

うん、旨い。

その後、他愛ない会話をしたりしてゆっくりしていた。

「姉さん、そろそろ帰るよ」

「そうか…」

あぁ、もう、そんな捨てられた子犬みたいな顔しちゃって…

「また来週もくるよ」

「ああ、待ってるぞ」

うーん…

あ、そうだ!

あー…でもな…ま、いいか…

「姉さん」

「なんだ?」

「姉さんがモンド・グロッソで優勝したら…」







「姉さんの為だけに巫女神楽舞ってあげる」
 

 

第三十七話

[シールドエネルギー・エンプティー。勝者織斑千冬]

機械音声のアナウンスが流れる。

[予選ブロック第一試合!勝者は織斑選手だぁぁぁ!]

ワァー!っとオリンピックスタジアムに歓声が上がる。

かつて、スポーツの英雄達が凌ぎを削った舞台。

その中心に居るのは…



俺の姉だ。








7月31日

俺達は明日からのモンド・グロッソを観戦するため、東京に来ていた。

「っはー…ここが東京か…」

天高くそびえる摩天楼、遠くに見える二本の塔、その足元を行き交う人々…

「人が多いな…」

「そりゃそーだ、日本のGDPの内大半を占めるし東京だけで小国のそれを上回る…東京を一国と見なせばそのGDPはトップ20に食い込む。
無論、それに見合うだけの人が暮らすのさ…」

「詳しいね、一夏くん」

と柳韻さん。

今回は篠ノ之家と俺で来ている。

姉さんは選手団の所に居る。

イデアから束さんも東京に居るとわかっている。

あとなるべく会いたくないけど会わないといけなさそうな人も…

もしも今東京でテロが起こったら…

テロリストの身を心配しないといけないようなメンツが揃っている。

俺、姉さん、束さんを除いても今現在この都市には数十のISが運び込まれている。

どれだけのスペックが有るかはわからないが…

少なくとも大国の軍を壊滅させるだけの戦力は在るだろう…

現在、各国のISの研究はそれほど(俺と束さんから見て)進んでいない。

ISの基本機能…PICやシールド、量子展開などは実際に使われている。

しかしその奥…段階的に行ったロックは一切解かれていない。

『基本機能』…『アーキタイプ』…例えそれだけでも軍隊を単騎で相手取れる…

ISとは、そういう物なのだ。

「じゃぁ、ホテルに荷物を置いて観光といこうか…」

「柳韻さん、計画はあるんですか?」

「特に無いよ、一夏君はどこに行きたいんだい?」

「そうですね、これと言って特には…」

「父さん。一夏と二人で回ってきていいですか?」

「うん?うーん…」

「いいですよ。一夏君、携帯貸しておきますから何か有ったら電話してね」

と言って奥さんに携帯を渡された。

「お、おいお前…」

「大丈夫ですよ、一夏君はしっかりしてますし、二人はもう六年生ですよ?
ねぇ、雪子さん」

「そうですよ、リュウ。いつまでも二人を子供扱いしてはいけません」

「むぅ…」

嫁と姉に言われてむくれる柳韻さん…

「わかった…二人共、何か有ったら電話しなさい。絶対だ。
いいね?」

「「はい」」

そしてお小遣いを貰って柳韻さん達と別れる。

「なぁ、箒」

「なんだ?」

「すこーし一人で会いたい人が居るんだが…いいか?」

「ああ、構わんぞ」

「ありがとう」

「ところで誰に会うんだ?」

「んー…箒も会った事あるよ」

そして箒と近くのデパートに行く。

箒には本屋に居てもらおう。

『橙、稲荷、箒を頼む』

『了解、ますたー』

『わかりました一夏様』

さて、これで箒は大丈夫っと…

さて…

俺はそのデパートのカフェに向かった。

そのカフェの一角に座る女性、その正面の席に座る。

「やぁ、少年。会いたかったよ」

「俺は会いたくはなかったですよ…臥煙伊豆湖さん…」

俺が会いたくないけど会わないといけない人だ。
 

 

第三十八話

「やぁ、少年。会いたかったよ」

「俺は会いたくはなかったですよ…臥煙伊豆湖さん…」

そしてその横に座る女性…

「臥煙さん、こん子誰なん?」

「紹介するよ、彼女は影縫余弦…私の後輩だ。
余弦、この子が例の男の子だ…」

「ほーん…私は影縫余弦っちゅーんや。おおきに」

ふーん…この人が暴力陰陽師か…

いや、そんな事はどうでもいいか…

「どうも、織斑一夏です。宜しく御願いします」

「礼儀正しい子やなー」

すると臥煙さんが笑いだした。

「どないしたん?」

「いやいや、礼儀正しいねぇ…初対面の時は物凄く警戒されたものだよ…それに今も私を警戒しているね?」

あったりめぇだバァカ。

「へー?そうですかそうですか…結構な割合で式を打ってくるストーカーを警戒しないはずないでしょ?」

一応、式を打たれたと思ったら破壊するし、ラボ周辺は結界がある。

あそこ一帯に何か有るとわかっていてもそれ以上はわからない筈…

「ちょい待ちぃ、臥煙さん、アンタそないな事しとったんかいな?」

「おや?やっぱりバレてたんだねぇ…」

「白々しいぞ、ったく…毎度毎度式の組み方変えやがって…」

暇人かっつーの。

「いやはや…私が使える最高の式を壊された時は驚いたよ…
あれを組むのに2日かかったんだよ?」

「知ったこっちゃねぇよストーカー女。
そんな事に時間かけるな、妖怪退治でもやってろ」

「ほう?」

ん?

「なんですか影縫さん?」

「一夏君って…怪異の事知っとるんかいな?」

「ええ、知ってますよ。じゃなけりゃこのストーカーの式なんて壊せませんしね」

「ほーん…」

「俺の要求は一つ、俺に…いや、俺達に対して探るのをヤメロ」

「いいよー」

「その言葉に偽りは無いな?」

「ああ、勿論だとも」

「そうか…」

そして俺は席を…

「ああ、そうだ…」

立てなかった。

「白騎士に宜しく頼むよ」

なに?

「何言ってんだ?」

「えー?だって…君のおねーさん…白…」

遮音フィールドキャスト。
異相変動キャスト。


「な、なんやコレ…アンタがやったんか?」

影縫余弦の事は無視。

影縫余弦も遮音フィールドで覆って置いた。

「おい、テメェ…何が目的だ?」

「いやいや、日本を救った英雄には感謝を贈らないとね…
そうだ!君にも感謝しないと行けなかった!
日本を救ってくれて感謝するよ…白騎士の片割れ君?」

圧切キャスト。

「いいから答えろ。お前の目的はなんだ?」

爪を起点とした圧切を臥煙伊豆湖の首筋に当てる。

「いやいや、他意は無いとも」

信用できない…

「安心してくれ、君達に敵対する気は無いよ。
私だってISには敵わないからね」

「白々しい…」

「いやいや、本当さ」

「そうか…いいだろう。ここは一旦信用しよう…あぁ、そうだ…」

誓約を使おう。

「臥煙伊豆湖」

「なんだい?」

誓約…キャスト。

「俺達の事を口外しないと…誓うか?」

「コレは…成る程、悪魔の契約書かい…
いいとも、君達の事を口外しないと誓おう」

解除の鍵は…俺の手の甲へのキスでいいか…

絶対やらんだろうしな…

彼女のゲート…意識と無意識の境界に働きかけ、行動を制限する。

誓約…完了。



コレで臥煙伊豆湖は俺達の事を話せない…

遮音フィールド、異相変動、ディキャスト。

「あ…おい、一夏君…さっきの…魔術かいな?」

「だとしたら?」

「あぁ、いや、なんでもあらへんよ…」

「じゃぁ、俺はこの辺で」

今度こそ席を立つ。

「何か食べて行かないのかい?」

「待たせてる奴が居るんでな…」

席から離れ、カフェを出る。

「コレで心配事が一つ減った…いや、かえって目をつけられただろうが…まぁいい。
その時は…」





消すだけだ。 
 

 
後書き
この話で一夏が臥煙さんに敵対も辞さない対応をする理由。
臥煙さんは北白蛇神社で一夏を見てからスカウトを考え、暇潰しに式を使って様子を見ていたら式を消されました。
その後試験のつもりで式を打っていたら嫌われました。 

 

第三十九話

「『もしもし、一夏君かね?』」

「はい、今から戻ります。どこで落ち合いますか?」

「『うーん…ホテルに戻って来れるかい?』」

「わかりました」

ピ…と、通話終了のボタンを押す。

「箒、聞いてたか?」

「ホテルに戻るのだろう?」

「そうそう」

さて、じゃぁ戻りますか…

あ、そうだ。

「箒、ちょっと電話かけていいか?」

「構わんぞ」

ポケットの中にスマホ(made by ST&OIのワンオフ品)を量子展開する。

街中で量子展開なんてしたら目立つからな。

スマホを取り出してサイオンを流す。

指紋やパスワードよりもサイオンセンサーの方が信頼できる。

俺と束さん、姉さん、箒しかサイオンの存在を知らないし、三人が敵になることはあり得ない。

アクティブモードになったスマホの通話アイコンを押す。

選ぶのは…

「もしもし、俺だ」

「『若、どうした?』」

「だからその若と言うのを…いや、もういいか…
俺達はホテルに戻る。
俺達がホテルに入ったら離れていいぞ
ヴィッサリオン」

「『安心しろ若、俺もそのホテルに部屋を取っている』」

俺の事を"若"と呼びつつタメ口の男、何を隠そう、いつぞやの諜報部員だ。

「そうか、高かっただろう?こっちで出そうか?」

「『いや、既に十分な額を貰ってる。
これ以上若に貰ってたらフィーネに叱られちまう』」

フィーネ?ああ、ヴィッサリオンの嫁さんの名前だったな。

「なんだ?嫁さんの尻に敷かれてるのか?」

「『まぁ、そんな所だ』」

成る程ねぇ…

「『あ!おい!フィーネ!』」

突然ヴィッサリオンが焦ったような声を上げた。

「どうしたヴィッサリオン!?何かあったのか!」

「『こんにちは…いつも夫が世話になってるね』」

聞こえて来たのは女の声だった。

「『私はフィグネリア、ヴィッサリオンの妻だ』」

妻…ロシアに居た筈だが…となると娘二人も日本に来てるのか?

「ふーん…ヴィッサリオンのねぇ…
俺は織斑一夏、一応ヴィッサリオンの雇い主だ」

「『へぇ…会ってみたいもんだね』」

「ヴィッサリオンに聞いてくれ」

「『そうかい、じゃぁそうさせてもらうよ……
ほら、あんた』」

「『若…俺の嫁がすまん…』」

「気にするな。で、どうするんだ?
なんならホテルのロビーで会うか?」

「『あー…娘も一緒でいいか?』」

「ああ、いいぞ。
他に何か有るか?箒を待たせてるんだが」

「『特に無いな、姫に宜しく言っといてくれ』」

「あいよ」

ピ…通話終了アイコンを押してポケットに入れて量子格納する。

「誰にかけてたんだ?」

「ん?護衛だよ、例の元諜報部員」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だ…たぶん…おそらく…きっと…」

「……………」ジトー

箒がジト目です…

「ヴィッサリオンは俺を信用してるしアイツの部下はヴィッサリオンを信頼してる。
何も問題はない」

「どうだかな…」

厳しいっすね…箒さん…

「取り敢えず…帰ろうぜ」

「わかった…」

途中途中ある雑貨屋を冷やかしながらホテルへむかった。

 

 

第四十話

20:53

さてと…

行こうか…

「一夏、どこへ行く?」

「ヴィッサリオンの所」

「………………私も行く」

まぁ…別に構わんが…

「ならさっさと着替えろ、その格好で行く気か?
つーかいい加減風呂上がりに下着だけで過ごすのやめろ」

「別に構わんだろ」

「あのねぇ、俺も男なの?わかる?」

「一緒に風呂に入ってるのに今更何を言う?」

「それはそうだが…」

「それともお前はロリコンなのか?」

「誰がテメェの貧相な体に欲情するか!」

俺の好みはボンキュッボンな…

「不能?」

「ちっがぁぁぁぁう!こっちは魔法とか色々使って色々抑えてんの!
特に性欲とか性欲とか性欲とか!」

『性欲はあれど淫楽の欲求は生じない』司波達也のモノローグにそんな物がある。

それとは別だけど似たような方法で欲求を封じ込めている。

あと血流操…なんでもない…

「ふむ…精神干渉系か?」

「ああ、取り敢えず着替えろ」

「うむ、わかった…」

箒が着替え終え、ドアを開け…

「あ、そうだ…箒」

「なんだ?」

「ちょっと魔法使うぜ」

「?」

魔法を使ったあと、部屋を後にする。

向かう先はエントランスにある喫茶店だ。

「部屋に行かないのか?」

「一応プライベートスペースだからな」

喫茶店に着くと中には一組のファミリーが居た。

父親らしき男は見覚えが…と言うかヴィッサリオンなので隣の女性が奥さんだろうか…?

うわ…すっげー美人…

あと娘二人も結構可愛い、身長からみて就学前だろう…

カランカラン…

「ヴィッサリオン」

「若…か?…そっちは姫か?」

ヴィッサリオンは俺と箒を見て驚いている。

「ああ。で、そっちも家族連れか?」

「俺の嫁と娘だ。可愛いだろ?」

「そうだな」

片方は金髪碧眼、もう片方は銀髪紅眼だ。

「おねーさんたちだれ?」

銀髪の子に聞かれた。

「君のお父さんの友達さ」

「ふーん…」

で…

「こんばんは、レディ」

「ふーん…アンタが織斑一夏ねぇ…」

「どうかしたか?俺の顔に何か付いてるか?」

「そうさね…じゃぁ先ずはその仮面を外して貰おうじゃないか。
それと靴も脱ぎな」

へぇ…

「くくっ…はははは!そうかそうか…アンタは判る人なのか…
いやはや…いい嫁さんを持ったなヴィッサリオン」

「まぁ…な…」

さてと…

位相変動、キャスト

「さて、まだ十二時じゃないんだけどな…
少しくらい早く鐘を鳴らそうか
"響く十二時の御告げ"」

パレード、ディキャスト。

その瞬間、俺と箒にかかっていた魔法が解かれた。

「ちょっとした手品だ。まぁ、からかった事は謝ろう」

「手品…ねぇ…」

きっとヴィッサリオン達の目には、"20くらいの女二人"が突然縮んだように見えただろう。

「すごいすごーい!いまのどうやったの!?」

「ちょっとした手品だよ銀髪ちゃん」

「えれんだもん!ぎんぱつじゃないもん!」

「おー、そうかそうか、エレンちゃん」

「二人とも、若に挨拶しろ」

「えれおのーらあるさーびん!えれんってよんで!」

「りむありーしゃ…」

金髪ちゃんはリムアリーシャか…

二人を見ると、なんというか…対象的だ。

金と銀、紅と碧、静と動…

んー…にしてもエレオノーラとリムアリーシャか…どっかで聞いたことあるような…

ま、いいか。

「エレオノーラとリムアリーシャか、いい名前だ」

「いい…ですか?」

とリムアリーシャちゃんに聞かれた。

「ああ、名前っていうのは命その者だ。
"汝名付けよ、さすれば命与えられん"
いい名前はいい人生を作るのさ」

「一夏…まだわからんと思うぞ」

箒の言う事ももっともだな…

「わからないならお父さんかお母さんに聞きな」

さてと…

「で、さっきから何?て言うか会いたかった理由は?」

さっきから視線を送ってくるフィグネリアに尋ねた。

「取り敢えず座りな」

そう言われて、俺と箒は彼等の反対側に座った。

「まぁ、色々聞きたい事はあるけどねぇ…」

娘二人を見ながら言った。

確かに汚い話も出てくるだろうな…

んー…

「一夏」

「なんだ?」

「私が二人の面倒見るというのはどうだ?」

ふむ…それなら…

「そっちはそれでいいか?」

「ああ、かまわない…リム、エレン、お姉ちゃんと行ってきなさい」

箒が席を立ち、エレンちゃんとリムアリーシャちゃんがそれに着いていった。

「さ、話を始めようじゃないか、織斑一夏」
 

 

第四十一話

「で、何を聞きたいんだ?大丈夫、アンタの夫はちゃんと仕事してるぜ。
間違っても不倫なんざしてねぇから安心しろ」

「おい!」

「まずは…そうだね…アンタがヴィッサリオンの雇い主って聞いてたけど…
その金はいったい何処から出てるんだい?」

ふーん…

「夫婦に娘二人、アンタら家族が不自由無く暮らせるだけの金は払ってるぜ。
なんせ箒の護衛は今現在一番危ねぇ仕事だしな…」

「そうだねぇ、でも私達が使ってる金が汚い物かってのは気になるのさ」

汚い金?

まぁ…確かに多少汚いが…

「大丈夫、ちゃぁんと綺麗に洗った金さ」

「どういう事か聞かせて貰おうか」

「んー…」

どうしようか…まぁ、いいか…

「北の某国ってあっただろ?
まぁ、今は亡国だけどね」

「吐け」

おぉう、怖い怖い…

「で、その亡国の将軍ファミリーってスイス銀行とか友好国とかの銀行に亡命資金用意してたんだけど……
束さん…プロフェッサー・タバネがそれをパチッてきました」

「は?」

「北のファミリーが預けてた数百億ドルの内の70億ドル。その一部が箒の護衛費用…つまりアンタの夫とその部下の給料に使われてんのさ」

俺の言葉に二人は驚いている。

「安心していいよ、カジノで洗ってきたから」

「余計安心出来なくなっちまったよ…」

まぁ、フィグネリアの言いたい事もわからなくもない…

「プロフェッサー・タバネはその内の一億をベガスのカジノで増やしたぜーって自慢してた」

「そんな事は聞いてないよ…」

うん、知ってる。

「それに箒の護衛もペーパーカンパニーの警備って事になってるから…
なぁ、シルヴヴァインの社長サマ?」

「ああ、だから心配する必要はないぞフィーネ」

「そうかい…」

「で、他にはある?」

「そうさねぇ…なら…白騎士の正体は?」

そうきたか…

「それは言えないなぁ…というか…その質問をするって事は予想はついてんだろ?」

「ああ、アンタとアンタの姉だろ?」

「ご想像にお任せするよ」

「そうかい」

「で、他には?」

「いや、特にないね」

「そう」

「これから夫共々宜しく頼むよ」

さてと…

「じゃぁ、そろそろ御開にする?」

「そうだな…姫を呼んでくる」

「その必要は無いぞ」

例のスマホを取り出し、箒にかける。

「もしもし箒?」

「『どうした?』」

「話は終わったから戻ってきてくれ」

「『わかった』」

「じゃ、切るぜ」

プツッ

「すぐ戻ってくるぜ」

一分ほどして箒が戻って来た。

「一夏、話はついたのか?」

「いや、そもそもつける話も何もねぇよ」

「む?そうなのか?」

それはそうと…

「随分となつかれたな」

エレンちゃんとリムアリーシャちゃんが箒の手を握っていた。

「まぁ…な」

いやぁ…癒されるわぁ…

「ヴィッサリオン、そろそろ戻った方がいい」

箒をはさんでいる二人はどことなく眠そうだった。

「そうだな…エレン、リム、フィーネ戻るぞ」

「んー…」

「はい…」

二人が眠そうに返事をしてフィグネリアはそれを見て笑っていた。

「じゃ、俺と箒も戻るから」

位相変動をディキャストしてカフェを後にする。

「一夏、何を話していたのだ?」

「ヴィッサリオンの勤務態度とか?」

「そうか」

と箒はぶっきらぼうに答えた。

「意外に素直だな」

「あの二人の両親が悪人とは思えん」

「それもそうだ」

箒も間接的とはいえシルヴヴァインを信用したようだ。

護衛と対象の信頼関係は大切だ。

ああ、護衛といえば…

「明日アイツどうすんだろ?」

「明日?」

「ヴィッサリオンだよ」

「さぁ?」

ま、いいか。アイツの事だ。上手くやるだろ。

それにしても…

「明日が姉さんの晴れ舞台か」

「楽しみか?」

「もちろん」

「シスコンめ」

「褒め言葉として受け取っておこう」

さて…何も起こらなければいいのだが… 

 

第四十二話

バキィ!と目の前の男をぶん殴る。

「テメェに!テメェに親に捨てられた子供の気持ちがわかるか!?」

男は答えない。

「答えろよ!十六代目更識楯無!」

俺が殴り飛ばした男。

男の名は更識楯無といった。





[シールドエネルギー・エンプティ。勝者織斑千冬]

[予選ブロック第一試合!勝者は織斑選手だぁぁぁ!]

姉さんが敵ISのシールドエネルギーを削りきり、機械音声と実況の声が鳴り響いた。

「んー…もう少し早く反応…いや、暮桜じゃアレが限界か…」

「どーしたの一夏おねーちゃん?」

と膝にのせたエレンが言った。

「だからおねーちゃんではないと…まぁいい…
いま姉さんが使ってるISがあるだろ?」

「うん」

「あのISじゃぁ姉さんについていけないんだよ」

「?」

「まぁ、姉さんはすごいって話さ」

うーん…まぁ…姉さんならテクニックだけで勝てるか…

試合が終わり、ちらほらと席を立つ人が出てきた。

この後の試合は…

うん、見なくてもいいかな。

「どうする?メシ食いに行くか?」

「行くー!」

「行きます」

エレンとリムが答える。

「箒は?」

「構わんぞ」

「じゃぁ行くか」

別行動の柳韻さんとヴィッサリオン達に連絡し、席を離れる。

で、スタジアムから出た所で気付いた。

あれ?護衛(更識)は?

今現在、箒には更識家の護衛がついている…筈なのだが。

今はノーガードだ。

うぅむ…何かあったか?

メティス・サイトで周囲を探ると…

「ん?なんだ?」

「どうした一夏?」

「いや…なんか…トラブルっぽい…いま箒についている筈の護衛が居ない。
しかも更識家…えっと…箒の護衛を政府公認でしてる暗部が一室に集まってる」

「「「?」」」

「取り敢えず何かあった事は確定だな…」

スマホを取りだし…

「ヴィッサリオン」

「『どうした若』」

「何かあったらしい。少し見てくるから箒に付け」

「『わかった』」

数分待つとヴィッサリオンが来た。

「嫁さんは?」

「さぁ?」

「さぁ?って…まぁいいや、箒の護衛宜しく」

「任せろ」

さてと…

スタジアムに戻る。

パレードを使い身長170ほどの金髪の男に化ける。

向かう先はスタジアム地下だ。

そこに更識に与えられた部屋がある。

更識家は現在日本代表チームの警備をかねているのだ。

部屋に向かっていると人が来た。

ん?更識の人?もう解決したのか?

正面から更識家の人間が歩いて来るが…

誰も俺に気付かない。

認識阻害をかけているから当たり前ではあるが…

やがて部屋についた。

中で誰かが言い争っていた。

女の子と成人男性の声だ。

まぁ、入ってみるか…

ドアを開けようと手をかけ…

「じゃぁお父様は簪ちゃんを見捨てるの!?」

「仕方あるまい!私は楯無なんだ!」

「お父様なんてだいっ嫌い!」

ガチャリとドアが開けられた。

目の前には蒼い髪に紅い瞳の少女が居た。

「貴方…だれ?」

と警戒の色を滲ませて俺を見る。

けど、そんなことは今はいい。

少女を押し退け、部屋に入る。

問題は…

「おい、そこのオッサン、あんた更識楯無か?」

「誰だ?」

「質問に答えろ」

「ああ、私が十六代目更識楯無だ」

「そうか…」

先の会話…

「何があった?」

「貴様に関係あるまい」

チッ…

「更識簪が誘拐されたか?」

楯無の顔が歪む。

当たりか…

「当たりのようだな…何を要求された?」

「…………」

答えないか…

「暮桜のスペックデータ!それと日本のIS研究の全情報!」

少女が答えた。

「刀奈!」

男が少女を叱る…が。

「機密事項!?知ったことじゃないわ!
簪ちゃんを見捨てるなんて!こんな家だいっ嫌いよ!」

そうか…そうかそうか…

「仕方ないだろう!国益の為だ!」

あぁ…もう…ダメだ…

「おい、オッサン」

「なんだ坊主」

もう…限界だ!

「歯ぁ食いしばれ!」

気付けば、目の前の男を殴っていた。


斯くして冒頭へ。

「国益だぁ!?知った事か!テメェの娘だろうが!
なぜそうも簡単に見捨てられんだよ!」

あぁ…クソッ…!

スマホを取りだし…

「ヴィッサリオン、人を寄越せ。
更識家の令嬢が誘拐された」

「『なんだと?更識家は動かないのか?』」

「ああ、そうだ。いいから人員寄越せ」

「『……………了解、スタジアム西口に向かわせる』」

「わかった」

プツッ

盾無に背を向け、部屋を出る。

「待って!」

少女に呼び止められた。

「なんだ?」

「簪ちゃんを助けてくれるの!?」

「ああ」

「私も連れてって!」

ふぅむ…

「却下だ。足手まといはいらん」

「私は更識刀奈!足手まといにはならないわ!」

ふぅん…やっぱりか…素人よりはマシ…

何かの役に立つか?

「勝手にしろ」

通路を歩いて行く…

前から人が走ってきた。

ソイツは更識刀奈の前で一礼した。

「お嬢様!」

「今度は何よ!?」

「日本代表のデータが奪われました!」

はぁ!?

「さっきの騒動で警備が薄くなったスキを突かれ…」

チッ…更識簪を拐ったのはブラフか…

「おい!更識刀奈!急ぐぞ!」

「ええ!」

更識刀奈を連れて走り出した。 

 

第四十三話

スタジアム西口

「若…で合ってるかい?」

ん?

「こっちさね」

声がした方には…

「フィグネリアさん」

「今はアンタの駒だ、さん付けじゃなくていい」

「わかった…で…そう言うことか?」

「あぁ…そう言うことさね。で…そっちは?」

「このガキは更識刀奈。誘拐された更識簪の姉だ」

というと

「ふふっ…」

「何よ!?何がおかしいのよ!」

「あぁ、すまんね、君を笑った訳じゃないんだ。若…ガキって言っても…ねぇ…?」

あぁ、はいはい。俺の方が年下だって言いたいんだろ?

今はパレードで身長、体格、人相、声、その他諸々を誤魔化している。

「わかってる…車の中で解くさ」

「じゃぁ…急ごうか」

俺と更識刀奈はフィグネリアに連れられミニバスに乗った。

運転手はヴィッサリオンの部下で俺達は後ろに乗る。

ミニバスの中には機材やら武装やらがある。

分かりやすく言うなら一昔前のスパイ映画の移動拠点。

「若、どうするんだい?」

んー…幾つか考えたけど…

「更識」

「何?」

「今から見ることを他言しないと誓うか?」

「それで、簪ちゃんが助かるなら…」

「OK」

パレード、ディキャスト。

「え!?あれ!?縮んだ!?女の子!?」

「はぁ…」

「ん…?織斑一夏……君?」

はぁ…

「ま、しょうがないよ若。その顔と髪型じゃぁねぇ…」

「ああ、俺は織斑一夏。日本代表織斑千冬の弟だ」

「何故…貴方が?」

「事情があんだよ事情が」

えーっと…先ずは…

「更識。血を寄越せ」

「は?」

「血だよ血、血液」

「………………」

更識刀奈は無言で後ずさった。

「別に髪の毛でも構わんが…出来れば血をくれ」

「どうして?」

「テメェの妹を探すんだよ」

「?」

あれ?おっかしいなぁ…

「フィグネリア、お前はオカルトを信じるか?」

「信じたも何も若の変装だってオカルトだろう?」

ふぅん…フィグネリアはわかってる…

けど更識刀奈はわかってないようだ。

「更識家って暗部だろ?呪いとかやんないの?」

それに対し更識刀奈は首を横に振った。

そうか…

「アンタの血を使って呪術的に更識簪を探す。OK?」

「…………」

ジト目だ…

まぁ、たしかにこんな切羽詰まってる時にこんな事言われたらなぁ…

まぁ…最悪は無くてもいいが面倒だ。

「わかった…じゃぁ…血で」

フィグネリアがポケットからバタフライナイフを取り出した。

それを受け取った更識刀奈は指先を少し切り…

「じゃぁこのハンカチに付けろ」

と白ハンカチを差し出す。

更識刀奈が白ハンカチに指を滑らせ紅い点がついた。

「やるか…」

更識刀奈の血のエイドスを閲覧。

遺伝子情報…発見。

類似する遺伝子情報…発見。

類似する遺伝子情報…複数。

高類似率の遺伝子情報…三つ。

各エイドスを閲覧…

12歳、女…あった。

当該エイドスの物理座標を閲覧。

なるほど…ここか…

どうやら臨海部のビルの中らしい。

見張りが…1…2…3……………18人…多いな…

まぁ、大した事はあるまい…

「フィグネリア」

「わかったのかい?」

「ああ…場所は…臨海部再開発エリアB地区のビルだ」

フィグネリアに場所を伝え、そこに向かって貰う。

「んー?どうした更識」

「別に…」

「まぁ、信じられないのはわかるが…信じろ。
姉さんの優勝がかかってるんだ。
俺にはふざけている暇はない」

さぁてと…

更識簪を誘拐したのは誰だか知らんが…

地獄を見せてやらないとなぁ… 

 

第四十四話

「フィグネリア、俺が突入する…後ろを任せたい」

「あいよ」

ミニバスの更衣室でムーバルスーツ(フィグネリアはCAD無しVer)を纏い、武装を持つ。

と言っても街中であからさまに武装を持つのはまずいのでムーバルスーツと武装の上からコートを纏う。

真夏にコートはどうかと思うがどうせ突入したら脱ぐ。

「更識、お前も着とけ」

「?」

「今から敵地に乗り込む。死にたくなけりゃ着とくんだな」

とミニバスの中のメカニカルなロッカーを指差す。

「………」

「このスーツはパワーアシスト、防弾防火防寒対斬防毒…ISを相手にしない限り生き残れる」

「………貴方達…何者?」

うーん…何者…ねぇ…

どう答えるか考えていると…

「私達はシルヴミーティオ。プロフェッサー・タバネの妹君を守る為だけの組織さね」

おいおい…まぁ…間違っちゃいないが…

てかシルヴミーティオって何?シルヴヴァインじゃないの?

「そんなの…聞いてないわよ…?」

「だろうな…俺達は束さんの用意した機材を使っている。
そうそう見つかりはせんよ」

ちなみにシルヴヴァインの事は束さんも認めている。

有象無象に興味は無いが、妹を守ってくれている存在には一応敬意を払っているようだ。

実際にシルヴヴァインの機材、武装、etcはmade by ST&OIだ。

このミニバスだってISの技術がふんだんに使われ、鉄壁の防御を誇る。

ミサイルでも穴が開く事は無いだろう。

他にも光学迷彩スーツとか…パスワードブレイカーとか、テーザーガンとか…

たぶんCIAに喧嘩売れる。

「そう…」

と言って更識刀奈は更衣室に入っていった。

一分ほどして…

「ねぇ!これどうやって着るのよ!?」

あー…

「はいはい、今いくよ。若、覗いたらぶっ殺すよ」

「はいはい、覗かねぇよ」

フィグネリアが更衣室へ向かった…

ん?

そう言えばなんでフィグネリアはムーバルスーツの着方知ってたんだ?

まぁ、いいか。

数分してフィグネリアと更識刀奈が出てきた。

「うーん…エロい」

どこぞのクノイチみたいだ。

「何言ってんのよ!?」

「あっはっはっはっは!」

更識刀奈は体を隠し、フィグネリアは爆笑していた。

「いや、実際女子がムーバルスーツだけってエロくね?」

「貴方…もしかしてその為にモンド・グロッソに来たの?」

ん?あぁ…そう言うことか…ISスーツってエロいもんね…

「いや、単に姉さんの応援だな。それにエロいっていうのは客観であって主観じゃない。
そも俺に性欲は無い」

「は?」

「まぁ、なんだ…そういう呪い(まじない)があるんだ」

うわ、ジト目だ。

「いやこれほんと、一夏嘘つかない」

「…………」

するとミニバスの運転席からヴィッサリオンの部下が顔を覗かせ…

「姐さん!そろそろです!」

「はいはーい、わかったよ」

フィグネリアって姐さんって呼ばれてんのか…似合うな。

「若?行けるかい?」

「無論だ…更識」

「ええ、私も大丈夫よ」

やがてミニバスが目的地の前に着いた。

「いいか、ビルに入ったらフェイスクローズ。いいな?」

二人が頷く。

「一応人が来ないようにするが発砲はあまりするなよ。
まぁ、お前らが戦う事はほぼ無いがな」

あとは…

「橙、バックアップ」

「『了解!』」

コアに繋いだインカムから橙の声が聞こえた。

そして…

ガラッ!

ドアを開け

「突入!」

俺達はミニバスから飛び出した。
 

 

第四十五話

突入した俺達を出迎えたのは弾丸の雨だった。

直ぐ様ダブル・バウンドで弾丸を跳ね返す。

やがて弾丸が止んだ。

少し進むと大破した千鳥先生が置いてあった。

「セントリーガンか…なるほど…若、コイツらISと殺り合う事を想定してるみたいだ…どうするんだい?」

対ISか…千鳥先生じゃぁ足留めにもならん…が。

上を視ると敵が銃を取り、守りを固めようとしていた。

「フィグネリア、更識、絶対に前に出るなよ?」

奴等…

「アンチマテリアルライフルまで持ち出してやがる…」

どうやって運び込んだ?

いや…わかりきってるな…

今の東京には、大軍を屠れる量と質の兵器がある…

おそらくはISの武装として運び込んだのだろう…

「ほう…それは…欲しいね」

おいおい…

「ぶん取る気か?」

「若なら出来るだろう?」

「それはそうだが…」

「じゃぁ…今回の一件の臨時収入が欲しいね」

はいはい…

「ったく…とんだ臨時報酬だ…まぁ、アンチマテリアルライフル程度じゃぁ死なんか」

はぁ…アンチマテリアルライフルを鹵獲してこいとか…

そう思いつつ歩をすすめる。

「更識、お前の妹は2階だ…」

このビルは2階建なので階段を昇る必要があるのだが…

階段を昇る敵というのは格好の餌食となる…

やがて階段に着いた。

「二人共絶対に離れるなよ」

真上に面を向け、対物障壁を展開する。


階段に足をかけた。

その瞬間上から銃弾が降り注いだ。

アンチマテリアルライフルは無い、おそらくはアサルトライフルだろう…

「若、いけるのかい?」

「このくらいなら心配ねぇよ」

階段は吹き抜け、踊場で180度方向が変わる。

後ろ歩きで階段を昇る

幸い踊場には敵が居ないので弾をしのぎつつ踊場に向かう。

踊場で、障壁がほぼ斜めになった。

「フィグネリア、撃てるか?」

「このバリアーを解けばね」

「安心しろコイツは一方向からの攻撃しか防がない…
できるか?できないか?」

「まぁ、出来なくはないよ…で、どれを使うんだい?テーザーかい?麻酔弾かい?」

「あそこに居るのは三下だろう、殺して構わん。
こんなに銃声が鳴ってるんだ。
もう自重する必要は無い」

「了解!」

フィグネリアが腰に提げていたP90を取り…

フルバーストで50発撃ち尽くした。

「若、まだ殺るのかい?」

「いや、今ので後退したようだ…進むぞ」

「了解!」

踊場から階段を駆け上がる。

その脇には敵の死体があった。

生きてる敵が居ないのは眼で確認済だ。

そのまま進み、やがてある部屋の前に到達した。

「この中だな…お前らは下がっていろ」

フィグネリア達に告げる。

二人がドア脇に隠れる。

「さて…」

ドアを開けた、次の瞬間。

バガァァン!ガキィン!

今までとは違う銃声が響き渡り、対物障壁に弾丸がぶつかった。

奴等…遂に持ち出しやがったな…

「貴様等が盗んだデータと更識簪を奪還しに来た。
大人しく渡せば命だけは保証しよう」

最初で最後の通告に対し…

帰って来たのは弾丸だった。

対物障壁が防ぐ。

更識簪は…いた。

奴等の真後ろだ。

拘束されて…気絶してるな。

なら…大丈夫だな。

「橙、障壁代われ」

「『OK』」

その言葉と共に俺の障壁の前方に、一枚の障壁が張られた。

対物障壁を解除し…

「最後通告を無視しなければ、こんな最期を迎えなかったものを…」

憐れみと共に放つのは…

分解だ。

カラン…と纏っていた装備や銃が落ちる。

カラン…カラン…カラン…

一人、また一人と消えていく。

そして…

「お前がリーダーだな?」

最後に残った男に問う。

「く、来るなぁぁぁぁ!こ、この娘がどうなってもいいのか!?」

と更識簪にナイフを突きつける…しかし。

「残念」

ナイフが塵と化した。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」

あーあ…そんな情けない顔しちゃって…

「おい、データの在処を教えろ」

姉さんの邪魔はさせん…

「は、はは!バカめ!既にネットに広まったさ!遅かったな!はははははっは!」

「チッ」

あぁ…もう…面倒だ…

「塵と化せ」

奴の肉体が光り、焔をだして消えた。

これで…終わりか…

「フィグネリアー!終わったから出て来ていいぞ!更識ぃ!妹は無事だ!」

するとドア脇に隠れていた二人がやって来た。

「簪ちゃん!簪ちゃん!」

と妹を揺すっていた。

「落ち着け、あとフェイスオープンしとけ。
そのマスクで会う気か?」

ムーバルスーツのフェイスマスクはかなり不気味だ。

カシュッ!という音がして更識のフェイスマスクが開いた。

カシュッカシュッ…

俺とフィグネリアもそれに続く。

「フィグネリア、ナイフあるか?」

「ああ…私がやるよ」

フィグネリアが更識簪を縛っていたロープを切った。

「フィグネリア、更識。その女を見とけ」

俺は更に奥の部屋に進んだ。

中には電子機器やら何やらがあった。

その奥の一つのディスプレイ。

そこには日本代表のデータが乗っていた。

しかも、ネットに繋がれた状態で…

「面倒だ…」

まぁ、いいか…

どうせ姉さんならそれでも勝てる。

そして近くにあったファイルや机の引き出しを調べる。

あった…依頼書だ。

内容は日本代表のデータ流出か…

クライアントは…中国の企業か…

で…受けたのが…アメリカ系PMCか…

取り敢えずどちらも潰そう、中国は政府が関係していれば関係した議員を殺ろう…国家ぐるみなら…公表しよう。

後の計画を立て、元の部屋に戻ると更識姉妹が抱き合っていた。

「ふむ、目覚めたか」

全員がこちらを向いた。

「あなた…は?」

と更識簪に問われた。

「俺は織斑一夏。アンタの家の護衛対象さ」

そう言ったら彼女は目を見開いた。

「あんた、若に感謝するんだね。あんたをほぼ一人で救ったからねぇ」

フィグネリア…余計な事を…

「あなたが…助けてくれたの?」

更識簪の瞳には憧れが浮かんでいた。

あぁ…そう言えば…そんな設定あったなぁ…

「ああ、確かに俺はアンタを助けた。
だけど、俺はヒーローじゃない」

「え?」

「アンタを助けたのは姉さんの優勝がかかってるからだ。
ついでに過ぎない。
それに…」

俺はアンタを救うため、十数人の命を奪った…

そう言おうとして口をつぐんだ。

あぁ…そうだ…

部屋の外に、階段にある死体を分解する。

これで、証拠は何も無い…

彼女がショックを受ける事も無い。

ついでに壊れていた千鳥先生などの装備も再生しておく。

あとでシルヴヴァインに回収させよう。

今できる処理を終わらせ…

「さぁ…戻るぞ」

そう言って部屋を出る。

後ろから三人が着いてくる。

一件落着だな…

俺はその事に安堵し、息をついたのだった。
 

 

第四十六話

スタジアムへ戻るミニバスの中。

「更識刀奈、ムーバルスーツを脱いでこい」

「?」

「何言ってんのって顔してんじゃねぇよ。
着て帰る気か?」

「ダメ?」

「わざわざ情報渡す訳ねぇだろ…それとも無理矢理脱がそうか?」

しかも更識が着てるのは箒の予備を調整したもの…つまりCAD装備タイプだ。

魔法は…現代魔法は今のこの世界には早すぎる。

「はいはい、脱ぎますよー脱げばいいんでショー」

と更衣室に入っていった。

「ねぇ…」

「どうした更識簪?」

彼女はミニバスの内装を見て…

「貴方達…何者?」

お前もか…

「そうだな…シルヴミーティオと名乗っておこうか」

「シルヴミーティオ?」

「なに、ただの警備会社さ」

うわ…ジト目だ…姉そっくり…

「ただの警備会社があの人数を制圧するのは不可能。それに…」

と開いたガンクローゼットを指差す。

「まぁ、そこは裏技って事で」

裏技-魔法と裏技-ラボだ。

「ねぇ…あなたは私を助けたのはついでって言った」

「ああ」

「じゃぁ、もしも貴方のお姉さんのデータが流出してなかったら私を助けなかったの?」

うーん…どうだろうか?

結局の所、今回の件は俺の勝手だ。

それにデータが盗まれたと知ったのは更識簪を助けると決めた後。

「いや、姉さんのデータに関わらず助けただろうな」

「どうして?」

どうして…か…

「見過ごせなかったから…かなぁ…」

「どうして?」

「アンタが…俺の手が届く範囲に居たから…かな」

「手が届く範囲?」

「うん…いつの間にか俺達についてた更識家の人が居なくなってて、おかしいと思って、アンタらの部屋に行ったら、アンタが拐われたって知って…」

だから繕わず言えば…

「偽善…自己満足…」

俺は彼女を助け、矮小な心を満たしたに過ぎない。

こんなの自慰と一緒だ。

「結局は、アンタを助けて、自分の心を満足させてるだけ…」

だから…

「俺はヒーローじゃないし、ヒーローにはなれない…」

おれは、原作の一夏みたいな善人じゃない。

皆を救う、そんな心意気も無い。

だけど、手が届くならばなんとかしたい…

そんな我儘な人間だ。

「そう…でも貴方が私を救ってくれた事に…変わりはないの」

そう言って彼女は俺の腕に抱き付いた。

「怖かったの…いきなり襲われて…」

それから彼女は泣き出してしまった。

やがて更識刀奈が戻って来て…

「あら…」

「shiii」

と口に指を当てる。

更識簪は俺の頭に頭を乗せ、眠っている。

「随分なつかれたわね」

そうだな…

「心細かったんだろうな…」

「それもあるけど…簪ちゃんにとって貴方ヒーローそのものなのよ」

「いや、それは…」

「貴方がどれだけ否定しても、簪ちゃんには貴方はヒーローに見えたのよ」

ヒーローねぇ…

「随分ちっさいヒーローだこって」

更識簪が俺の頭に頭を乗せている、イコール彼女の身長は俺以上な訳だ。

そこは普通肩にのせるだろとか、痛くないのかとか言いたい事はあるけど…うん…背ぇ伸びないかなぁ…

「そんなのは些細な事よ。大切なのは貴方が簪ちゃんを助けたということ」

そんな物かねぇ…

そして更識刀奈は座った…俺の隣に…

「どうした更識?」

「刀奈でいいわ。名字で呼ばないで」

………………………………

「刀奈?」

「よろしい」

それで…

「おい、フィグネリア。さっきから何ニヤついてやがる?」

フィグネリアは俺等の正面に座ってニヤニヤしている。

「いやぁ…べつにぃ」

はぁ…

「何を勘違いしてるかは予想がつくが…
更識簪は単にヒーローに憧れてただけだ」

「そうかい」

そも俺はヒーローになれるような人間じゃない。

ヒーローらしい思いも、葛藤も、正義感もないのだから。

十数分後、俺達は元のスタジアムに戻ってきた。

俺とフィグネリアはムーバルスーツの上から普段着を着る。

フィグネリアが更識簪をおぶってミニバスをおりる。

ミニバスはヴィッサリオンの部下どこかへ止めに行くらしい。

「一夏君」

「いつから名前で呼び合う仲にになったのか聞きたい物だな」

名前で呼ばれたのでそう返した。

「いいじゃないの別に。それで…さっき簪ちゃんに言ってた事だけど…」

そこで刀奈はいい淀んだ。

「なんだ?はっきり言え」

刀奈は言いにくそうに口を拓いた。

「貴方が簪ちゃんを助けたのは、自分に重ねたから?」

…………………………

「気を悪くしたなら謝るわ、でも…」

あぁ…そう…だな…まぁ…でも…

「確かに、両親の事は確かにあった。でも…」

そう、確かに父さんと母さんが居なくなって…その時の事を思い出しもした。

だが…

「重なったのは俺と更識簪じゃないんだ…重なったのは姉さんとアンタだ」

「え?」

「あの時、両親が居なくなって…一番泣いてたのは姉さんだ。
俺と束さんと箒で、姉さんを慰めたのを覚えてる」

「貴方は…悲しまなかったの?」

今の言葉には少しムッと来た。

でも、今の言い方ならそう思われても仕方ないかもしれない…

「あぁ…俺はまだ小さくて、姉さんが泣いてた理由がわからなかったのさ」

そう咄嗟に嘘をついた。

「わかったわ…」

だから

「だから助けた。姉さんの悲しそうな顔を覚えてるから…
大切な人と離れ離れになった女の子の顔を覚えてるから…
もう父さんにも母さんにも絶対に会えない所に行ったから…」

もうそんな顔を見たくないから…

「貴方の両親は失踪したんじゃなかったの?」

おっと…余計な事言ったなぁ…

「例の呪い…かしら?」

あぁ…やっぱりやるんじゃなかった…

「ああ…でも姉さんはこの事を知らない…黙っててくれよ…」

さっきの嘘と少し辻褄が合わないかも知れないけど…

まぁ…いいや…

取り敢えず…

「楯無の所行こうか」
 

 

第四十七話

「ね、ねぇ…」

「どうした刀奈?」

「なんでさっきから皆素通りしてるの?」

「そういう術だ」

「………………」

「別にフィグネリアがISを使ってるって設定でもいいぜ…なぁフィグネリア?」

「そうだねぇ…このスーツはISスーツの上位互換みたいな物だからねぇ…」

俺達は今、スタジアム地下の部屋に向かっていた。

認識阻害をかけているので誰も俺達に気付かない。

やがて俺達は更識家の待機室に着いた。

「開けるぞ」

刀奈に問いかける。

「わかったわ…」

彼女が答え…俺はドアを開けた。

「失礼するぞ、更識楯無」

ドアを開ける。

楯無は『コ』の字型のソファーの最奥…ドアの正面奥に座っていた。

チャキ…

「おいおい、愛娘の恩人にいきなり銃を突き付けるたぁどういう了見か聞かせてもらおうじゃねぇの…
十六代目更識楯無様よ」

ドア脇に立っていた黒服の男が俺に銃を突き付ける。

カチン…撃鉄を起こす音がした。

そして俺の後ろから刀奈とフィグネリアが現れた。

「銃を下ろしなさい。彼は簪ちゃんを助けてくれた…敵ではないわ」

刀奈の言葉に男は盾無の方を向いた。

その隙に制圧しても良かったが面倒なのでしない。

「銃をおろせ」

と楯無が言って、男は銃をおろした。

「フィグネリア…更識簪を」

「了解」

フィグネリアが前に出て、おぶっていた更識簪をソファーに下ろした。

「どういうつもりだ?」

と楯無が言った。

「どういうつもり…とは?」

「何が狙いだ?金か?日本政府の弱みか?」

……

「お父様!彼は!」

刀奈が何か言おうとしたがそれを手で制す。

「いや、いい…当たり前の反応だ…」

そう、対暗部専門暗部更識の党首の…

「そうだね…狙い…か…うーん…」

ちょっとムカついたからおちょくってみよう。

「娘を誘拐された事に気を取られて代表のデータを盗まれた間抜けの顔を拝みに来た…というのはどうだ?更識楯無」

「言うじゃねぇか…坊主…」

その言葉と共に、盾無からプレッシャーが放たれた。

おぉ…コイツぁクルねぇ…

それに…随分な挨拶だ…

マナーとして…

「こっちも答えないとなぁ…フィグネリア、下がれ」

「いいのかい?」

「ああ、ちょっと挨拶するから…さっ!」

サイオンを解放する。

攻撃の意志を含んだソレが、部屋に溢れる。

「ふむ…ただの坊主ではないようだな…」

「まぁね」

楯無と睨み合う。

パチッ…パキッ…

「なんだいこりゃぁ…」

フィグネリアの声が聞こえた。

気付くと部屋の中の環境がぐちゃぐちゃになっていた。

一部では紫電が迸り、一部では氷点下に、一部では高温になったりしていた。

解放していた物を再び押さえ込む。

「少し度が過ぎたようだ」

まさか全解放したらこうなるとは…

これからはやらないようにしよう。

と思っていると…

ヴヴ…ヴォ…ヴォ…

という音と共に、幻影にノイズが走った。

あぁ…パレードも解けかかってる…

うーん…パレードはグラムデモリッションとかの影響は受けないタイプだったと思うんだが…

まぁ…いいか…とにかく今は

「とにかく、更識簪は送り届けた。俺達はここで引かせてもらう」

ここを離れよう。

ヴォ…

エイドスを見るとパレードの術式は崩壊寸前で外見の情報のみかろうじて残っていた。

「若」

「おう」

俺とフィグネリアはドア脇の男を無視して外に出た…が

「あらぁ…これは…」

ドアを開けるとそこには数人の黒服が居た。

おそらく更識の者だろう。

俺の予定だと部屋から出て即刻ドアを閉める筈だったんだが…

「あー…フィグネリア。もう持ちそうにない。ちょっと面倒かも」

「なに、その時はその時さね」

ヴィゥン!

幻影に一際大きいノイズが走り…

「な、こ、子供だと!?」

パレードが崩壊した。 

 

第四十八話

スタジアム地下、例の更識の待機部屋。

「あ、もしもし姉さん?」

「『一夏か?どうした?』」

「ちょっと面倒な事になったから来てくんない?」

「『今…いろいろあって少し忙しいのでな…30分後でいいか?』」

例の流出の件か…

「うん、いいよ。じゃぁ終わったら護衛の人に聞いて」

「『護衛?更識か?』」

「そうそう」

「『何があった?』」

「安心して、大したことじゃないから。そこまで急ぎでもないし、そっちが終わってからでいいよ」

「『…………なるべく早く終わるよう努力しよう』」

「はいはい、頑張ってね」

「『うむ。他にあるか?』」

「ないよ…切るよ?」

「『ああ』」

「じゃ、頑張ってね姉さん」

ピ…

さてと…

「なんか時間かかるっぽいから帰っていい?帰っていいよね?ていうか帰らせろクソジジィ」

「だが断る」

くそっ!こっちが子供だとわかったとたんにコレだ…

それに…

「帰っちゃうの?」

だぁぁ!もう!

「帰らねぇからそんな顔するな簪」

俺の右に座る簪に言う。

はぁ…

「いやぁ…若はモテるねぇ…」

「おいそこニヤついてんじゃねぇぞコラァ!」

フィグネリアを咎める。

「つーかお前戻らなくていいのかよ?」

「なぁに、ヴィッサリオンと姫がいりゃぁ大丈夫さね」

はぁ…

「あの年頃が一番好奇心旺盛だろうに…」

「結構な事じゃないか」

俺が座っているソファーの背もたれに腰掛けるフィグネリアに言う。

はぁ…

「おりむぅ~さっきから溜息ばっかりだよぉ~」

はぁ…

「なに、面倒な事になったと思っただけだ」

俺の左隣の布仏本音に言う。

はぁ…

「あら?こんなに沢山の女の子に囲まれて嬉しくないのかしら?
嘘ちゃんはどう思う?」

「私に振るんですか?
でも…織斑くんの身辺調査を見ると…女性の扱いは上手だと思いますよ」

俺の対面に座る刀奈と布仏嘘が言う。

はぁ…

「ねぇ、俺にプライバシーって無いの?」

「すみません、これも仕事ですので」

あぁ…だるい…

楯無は無言だし、フィグネリアはニヤニヤしてるし、簪は仔猫みたいになってるし、布仏本音はポヤポヤしてるし、刀奈はからかってくるし、布仏嘘は申し訳なさそうにしている。

つーか俺が女子の扱いが上手いってなんだよ?

いや、まぁ、確かに女子との交遊関係の方が多いけどさぁ…

つーかマジで何なのこの状況?めっちゃ逃げたい。

でもフィグネリアはサイオン見えるし、簪は俺に触れてるし、布仏本音はのほほんとしてるようで警戒解いてないし…

要するに魔法使って逃げようとすればバレるのだ。

ここまで俺に注意が向いていてはどんなに認識阻害をかけても効果が無い。

あぁ…もう…面倒だ…

箒にも言っておこう…

「(箒、聞こえるか?)」

『(む?お前が量子通信とは珍しいな…トラブルは解決したのか?)』

「(あぁ、だがその後で少々面倒な事になった)」

『(…手伝う事はあるか?)』

「(いや、特にない。ただ遅くなりそうだったから連絡を入れただけだ)」

『(そうか…フィグネリアさんはそっちに居るのか?)』

「(あぁ、俺の後ろに座ってるぞ)」

『(リムとエレンが心配してたと言っておいてくれ)』

「(了解…切るぞ)」

『(わかった)』

箒との通信を終える。

「いきなり黙り込んでどうしたのかしら?」

「なんでもねぇよ」

そして二十分後…

「すまん!一夏!遅れ…」

ドアを開け、入って来た姉さんの声が途絶えた。

「おー…姉さん遅かったね…どったの?」

フリーズから回復した姉さんの一言目は…

「一夏が…弟がタラシのクズになってる…だと!?」

「ちげぇわ!この駄姉がぁぁぁぁぁ!」 

 

第四十九話

「事情はわかりました…で…」

姉さんは俺とフィグネリアを見て言った。

「おい一夏!その女は誰だ!?」

「私?私は…そうさねぇ…若の護衛?」

「一夏…どういう事か説明して貰えるんだろうな?」

「い、いえすまむ…」

姉さん…怖いよ…

あの後、姉さんが来てから楯無が事情を説明した。

めっちゃ心配された、『俺が死ぬ訳がないだろ?』って言ったらめっちゃ怒られた。

いやいやお姉様よ、剛気功とファランクスと再生があれば大抵生き残れるんだけど…

その上魔法だけじゃなくてISもあるし…

ぶっちゃけ宇宙に放り出されてもコールドスリープで生き残れそうなんだが…

「あぁ、私は既婚者だから若をたぶらかすような真似はしないから安心してくれて構わないよヴァナディース」

ヴァナディース…って…姉さんが戦姫かよ…

ん?戦姫?……………

「あ!」

「どうした一夏?」

「どうしたんだい若?」

「どしたの~おりむ~?」

そうじゃん!エレオノーラ、リムアリーシャ、フィグネリア、ヴィッサリオンって"魔弾の王と戦姫"じゃん!

なんで気付かなかったんだろう…

あ、そうだ、こんどエレンとフィグネリアに魔法使わせてみよう。

もしかしたら面白い事になるかも…

「若?若!」

ん?

「どうしたフィグネリア?」

「若がいきなり大声上げて黙り込むからさね」

あ、あぁ…成る程…

「いや、少し考え事をしててな」

「そうかい……戦闘中はやめて欲しいね」

「戦闘中?やらんやらん。さすがに戦場で考え事するほどバカじゃない。
俺は死ななくとも周りに迷惑だからな」

「はぁ…若。若に"力"があるのは知ってるけどね、だからって死なない訳じゃないんだよ」

だから死なねぇっつの。

「ああ、心に留めておくよ」

言い返すと面倒臭そうなのでそのように答えた。

でだ…

「楯無、わざわざ姉さんを呼んだ用はなんだ?姉さんは忙しいんだぞ…アンタらのせいでな」

「あぁ、そうだったな…我々は礼がしたいのだ。
何か望みはあるかね?」

礼ねぇ…ケジメってヤツか?ヤクザかよ…

にしても望みかぁ…ぶっちゃけ無いな…

金…ある。

女…いらん。

権力…何ソレおいしいの?

「だそうだけど、姉さんは何かある?」

「……………無い。というか私はソレを受ける理由は無い。一夏、お前が決めろ」

えぇー…

「今のところは…」

あぁ…いや…ある。

「両親を…父さんと母さんを探して欲しい。
もしも、二人が既に亡いなら、殺った奴を探して欲しい」

「………いいだろう」

二人が既に亡いのは知っている。

だけど下手人が誰かは知らない。

メティス・サイトはあらゆる物を知覚できる。

大気や水の流れ、果ては他人の心すらも…

しかしその眼はけして万能でも全能でもないのだ。

二人を殺した人間のエイドス…そんなもの探しようが無い。

もし、ソイツが見付かったなら俺が直々に手を下そう。

惨たらしく、残酷に、凄惨に…

「娘を救って貰った礼だ…全力を上げて探しだそう」

と楯無は言った。

俺は刀奈にアイコンタクトを取った。

彼女はコクンと頷いた。

もう、二人が居ないことを伝えてくれるだろう。

「話は以上だ」

「そうか、でが帰らせて貰おう…姉さん、フィグネリア行くよ」

「あいよ、若」

フィグネリアが先に立ち、ドアを開けた

「姉さん?」

「あ、あぁ…」

上の空の姉さんに声を掛け、三人で部屋を出る。

「な、なぁ、一夏…父さん達の事だが…」

「姉さん」

姉さんが二人を恨んでるのは知っている。

俺だって二人を許せるとは言わない。

だけど二人にもそうする理由があったと、俺は知っている。

だから

「姉さん、二人を恨むなとはいわないけど、二人にも事情があったかもしれない。
俺はその事情が知りたいんだ」

きっとその事情というのは二人が殺された事に関係してる。

「…………そうかならば何も言うまい」

そう言った姉さんは、どこか悲しそうだった。 

 

第五十話

はぁ…

第一回モンド・グロッソ二日目夕方

俺達はVIP席で観戦していた、のだが…

「ねーねー一夏おねーちゃん、トイレいきたーい」

「はいはい、ったく、さっき行っとけって言っただろ」

「うむ、ならば私が連れていこう…エレン」

「はーい」

「一夏君、席立つなら飲み物買ってきてー」

「自分で買って来い、ていうか行かねぇよ」

「お嬢様、それくらいご自分でなさってください」

「え?一夏ちゃん行かないの?」

「ぶっ飛ばすぞこの野郎」

「一夏一夏、イギリス機のさっきのヤツビームストリームに似てた」

「ビームじゃなくてレーザーだがな」

「むぅ…」

「ますたー、稼働プログラムの最適化していい?」

「勝手にやれ」

「ZZZ…」

「おい、のほほん、寝るな」

ていうか…

「自由すぎるぞ貴様等ぁぁぁぁぁ!」

今朝からずっとこの調子だ。

今の面子は俺、箒、橙(化成)、エレン、リム、刀奈、簪、虚、本音の九人(ただし今は箒とエレンがトイレに行ってて7人)だ。

「てゆーか!なんで保護者がついてねぇんだよ!?」

この場に居るのは九人だけ、子供九人だけなのだ。

『箒を頼むよ一夏君』

『じゃ、俺とフィグネリアは離れた所からみてるぜ若』

『おい坊主、刀奈と簪を頼むぞ。あと虚と本音もな』

上から柳韻さん、ヴィッサリオン、楯無だ。

今ここに居る最年長は布仏虚(14)だ。

ちなみに最年少はエレン(4)だ。

ちなみに精神年齢なら俺(29)だ。

橙はヴィッサリオンの親戚の子という設定だ。

「こんなに女の子に囲まれてるんだから喜べばいいじゃないの」

「黙れフリーダム筆頭。朝から散々はっちゃけやがって」

「更識家次期当主って疲れるものなのよ?」

「だからって俺でストレスを発散させるな」

俺は虚さんに視線を向ける。

「ねぇ、ちゃんとこのバカの手綱握っててくれませんかね?」

「……………可能な限りやってるつもりなのですが…はぁ…」

あぁ、うん。貴女も苦労してんですね…

「なによぉ、私が悪いって訳ぇ?」

「おや、自覚があったんですねお嬢様」

「なんだ、自覚があったのかお前」

俺と虚さんの言葉が刀奈に突き刺さった。

「簪ちゃ~ん!従者と弟がつめたいの~!」

と刀奈が隣にいた簪に抱き付く

「お姉ちゃん…ウザイ」

簪の絶対零度の視線が刀奈を貫き…

「おい、誰が弟だこのアバズレ」

俺の養豚場の豚を見るような視線が刀奈の心を抉る。

「ごふぁ!」

あ、落ちた。

「ま、このアホウは放っておこう。次は姉さんの試合だからな」

「そうね…」

箒とエレンが戻ってきた。

そして、姉さんの試合が始まった。

試合は…10秒で決した。

え?わからない?うーん、簡単に言うと…

キィィン…ドシュン!ズバァン!

という訳だ。

益々わからないって?

瞬時加速で近付いて斬ったのだ。

相手の選手は反応する暇もなくシールドエネルギーを空にした。

例えスペックデータが漏れても、姉さんの圧倒的技量のまえでは意味を為さないという訳だ。

ちなみに…姉さんは雪片を使ってない…つまり暮桜はセカンドシフトしていない。

「まったく…姉さんは恐ろしい」

「千冬さんがか?」

「あぁ、暮桜ははっきりいって不良品だ」

「あら?アレは一応日本が総力を上げて作った物よ?」

と刀奈が言った。

たしかに日本の国家プロジェクトと言うのは知っている…

だけど…

「姉さんの動きについていけてない時点で不良品だ…
だけど姉さんはそんな機体で勝った…まったく…」

もう、俺じゃ敵わないかもな…

次は…準決勝か…

まぁ…姉さんなら例えスペックが割れてても勝てるか…

「おーいお前ら夜飯どうする?」

「イタリアンがいいわ」

と刀奈

「すしー!」

とエレン

「ラーメン…激辛」

と簪

「あ~オデンがたべた~い」

と本音

「ますたー…クレープ食べたい」

と橙

「蕎麦が食いたいな」

と箒

「パンケーキ…」

とリム

「私はなんでもいいです」

と虚さん

「自由過ぎる…!?」

全員見事にバラバラ…

「もう面倒くさいからファミレスね」

という訳で俺達はスタジアム近くのファミレスへ向かうのだった。

 
 

 
後書き
テスト最終日…
現在通学バスから投稿中。 

 

第五十一話

「ここは私が持つから好きなもの頼んでいいわよ」

「俺が出すさ、金はあるからな」

それこそ小国のGDP並には…

「いいわよ、年上だし」

「男だし」

「………」

「………」

「………」

「………」

「「男気ジャンケン!ジャンケンポン!」」

俺、グー
刀奈、チョキ

「うーし、お前ら好きなもん頼んでいいぞー!」

「…………一夏、お姉ちゃん…何この茶番?」





そんなこんなで俺達は近くのファミレスに来ていた。

さすがに八人(橙はボディをクローズした、皆には帰ったと言ってある)座れるテーブルは無いので通路を挟んで四人ずつ座っている。

こちらには俺、箒、刀奈、虚さんだ。

通路を挟んで向かい側にエレン、リム、簪、のほほん。

「えーっと…じゃぁ俺は…ステーキセットにしようかな…」

「あら?それ美味しそうね…私もそれにしようかしら…」

「イタリアンじゃなかったのかよ…」

「何の事かしら?」

「…………ふっ…」

「鼻で嗤われた!?虚ちゃん!私鼻で嗤われたんだけど!?」

「………ふっ…」

「虚ちゃんまで!?」

「私は…ざるそばでいいか」

「虚さんは?」

「そうですね…シーフードピラフにします」

「そっちは決まったのか?」

「は~い!私オデン!」

「…………そうか…うん、好きにしたらいいと思うよ」

「私はラーメン。でもあんまり辛くなさそう…タバスコでも入れようかな…」

「ねーねー!一夏おねーちゃん!このお寿司おもしろそう!ご飯が外側ー!」

「ご飯が外側?あぁ、キャリフォルニアロールか…え?マジでソレ食うの?寿司の中でもイロモノだぞ?」

「私は…ハニートーストがいいです」

「そっちのテーブル…リムが一番まともじゃねぇか…」

うん…今皆が言ったメニューがテーブルに並ぶ様を思い浮かべる…

こちらはステーキ、ざるそば、ピラフ…まだマトモだ。

あっちはオデン、キャリフォルニアロール、ラーメン(タバスコ入り)、ハニートースト…

あっちのテーブルがカオスすぎる!?

「じゃぁ、それでいくか…」

テーブルのブザーを鳴らす。

「こっちも押すよ」

「私が押すー!」

ちっさい子ってああいうの押したがるよね…

数十秒程で店員が注文を取りに来た。

その時俺が『そっちのテーブルとお会計一緒で』と言ったら店員に苦笑された…

『苦労しますねって』顔だ。

「あ、ビール追加で」

「かしこまりました」

お、ちゃんと効いてるな…

こっちのテーブルの面子はポカンとした顔をしていた。

一番最初に復活したのは箒だった。

「一夏…こんなくだらない事の為に仮装行列を使ったのか?」

「逆だ逆。ビール頼んだのは確認だ。
それに仮装行列じゃねぇよ。認識阻害だ。
今の面子は俺だとわかってるから俺に見えるが他の奴等には青髪でダンディな中年に見えてる筈だぜ」

青髪にした理由は…御察しの通りだ。

どちらのテーブルにも青髪が居るのだから誘拐犯扱いはされまい。

「まったく器用な事だ」

「え?なに?どういう事?」

刀奈は訳がわからなそうにしていて虚さんはそもそも何の話かわかってないようだ。

「その内話すさ」

十分と少しで料理が届いた。

「さて…いただきます」

と言ってジョッキを掴んで喉に流し込む。

「っかァァー!」

旨い!12年ぶりだけど旨い!

「お、おい一夏」

「だぁいじょぶだって!箒も呑むか?」

グイと箒にジョッキを差し出す。

「……………」

箒は少し悩み…

「貰おう」

ジョッキをぶんどってイッキし始め…ヤバ!

"俺達"に関して認識阻害をかけ、ジョッキ内のアルコールを"分解"する。

「ほ、箒ちゃん!?」

と刀奈が叫び、虚さんは驚いている。

「んぐ…んぐ…ぷはっ………おい、一夏」

「んだよ?」

「"消した"な?」

「ったりめーだバカ」

アルコールを分解した理由?

急性アル中防止…等ではなく…

「この衆人環視の中でキ…」

「言うな!」

箒に口を塞がれた…

「その事は誰にも言うなよ…イイナ?」

「アッハイ」

そう、あれは去年の雛祭り…

その日は…

甘酒(アルコール)を呑んだ箒にキスされまくった…

なぜだ…ラムレーズンは平気なのか…?

保護者組(姉さん含む)はニヤニヤしながら見てたし…

そんな事になればこの猫座の青髪が弄らない訳無いのだ…

「さて、食おうぜ」












「ごちそうさまでした」

こっちのテーブルは皆食べ終わったな…

あっちは…

あぁ…もう…オデンなんて頼むから…

本音がアツアツオデンに苦戦していた。

今の時間は…6時過ぎか…

あの様子だとまだかかりそうだな…

「箒」

「なんだ?」

本音のオデンを指差す。

「できるか?」

「?」

「冷ませるか?」

「凍らせていいなら」

「あー…うん…やっぱいいや」

箒には今現在魔法を仕込んでいる最中だ。

まったく箒のチートスペックには驚かされる…

特殊な魔法は無いが莫大なサイオン量、底知れぬ演算領域…

高難度魔法を余裕で発動できる才能…

今は細かい制御を教えている最中だ。

例え制御が覚束なくとも、今現在この世界でタイマンで箒に"勝てる"のは100人も居ないだろう…

本音のオデンに対して手を翳す。

振動系統魔法で分子の振動を操作して温度を下げる。

「あれ?ひえた~?」

「本音、さっさと食え」

「は~い。わかったよおりむ~」

十分ほどして本音が食べ終わった。

そのあと少し雑談をしてファミレスを後にした…

ホテルへ向かう帰り道。

洒落た店が並ぶ歩道…

「おい、一夏」

「あぁ…わかってる…つけられてるな」

背後から、何者かが迫っていた…
 

 

第五十二話

背後から"ナニカ"が追って来る。

「え?誰もつけて来てない筈なんだけど…」

と刀奈が言った。

そう。確かに"誰も"ついてきてない。

なぜなら…

"ヒトじゃないナニカ"に追われているのだから。

形の無い、不定形の黒いモヤ…

怪異と呼べないような、負の集合体…

まさに"穢れ"や"淀み"と呼ぶべきモノ…

大きさは…二メートルほど…

道行く人々を"すり抜けながら"追ってくる。

きっとアレに触れられるのはチャンネルが合う者だけだろう…

この面子で確実にチャンネルを持ってるのは俺と箒、残りの面子も持ってる可能性はある。

「一夏。なんなのだアレは?あんなモノ初めて見たぞ」

「ああ。俺もだ…まさか東京が魑魅魍魎が跋扈する街だとは…」

俺達の街ではあんなモノは居ない…

いや、少し違う。

『あんなモノは存在するが俺達の目に見える範囲には居ない』と言うべきだ。

俺は、以前にアレになる前の物を視たことがある…

そう。北白蛇神社に集まっていた負のプシオンや呪い一歩手前のサイオンなどの負の霊的エネルギー…

つまり初代怪異殺しがエネルギーとしていた物だ。

何が言いたいかって言うと…

俺達の街では"穢れ"や"淀み"になる前に初代怪異殺しによって浄化されるのだ。

目覚めさえしなければ役に立つんだが…

なるほど…負の霊的エネルギーを放置すると集まって形を為すのか…

「刀奈」

「何?」

刀奈に近づき、耳打ちする。

「俺達は今化物に追われている」

「なんですって?」

「箒についてここから離れろ。俺の式神もつける」

「貴方は?」

「ちょっとあの化物を倒して来る」

「出来るの?」

「昨日の突入より簡単だ」

刀奈から離れ、箒の方へ行く。

「箒。橙をつける。皆を連れてホテルへ戻れ」

幸い、階は違えどここの面子は全員同じホテルに宿泊している。

それに、あまり好ましくはないが、暴力陰陽師も同じホテルだ。

まぁ…臥煙伊豆湖は別のホテルだがな…

そして、ウカノミタマに暴力陰陽師の部屋番号を送る。

「なんだこれは?」

「一応この部屋に行け。俺の名前を出せば話くらいは聞いてくれる筈だ」

「了解した…勝てるんだよな?」

「無論だ」

「わかった」

箒は、エレンとリムの手を取り、刀奈は更識の者を連れて、ホテルへ向かった。

俺は、箒達とは逆の方向へ…普段押さえているサイオンを少し垂れ流しつつ、歩を進めた。

ナニカとの距離が20メートル程になった所で路地に入る。

ナニカは俺を追って進路を変えた。

「よし…そうだ…そのまま着いてこい…」

なんとか人の居ない所まで誘導しないと…

暗く狭い裏路地を、おぞましき"物"に追われながら駆ける。

やがて、空地に出た。

だいたい30メートル四方くらい…空地の隅にある建材と重機から工事間近なのだろう。

空地の真ん中に位置取る。

「さぁ来やがれ。俺が現代魔法だけじゃねぇって教えてやんよ」

さっき通った路地から、ユラリと顕れた黒いモヤ…

「あ"…あ"…う"う"…う"ぁ"…」

意味の無い呻き声を上げながら、モヤの形が定まって行く。

「う"…あ"あ"あ"あ"あ"!」

「あー…なんか…めんどくさそうになったな…」

そのモヤのとった形はヒトガタだった。

しかも背格好は俺と似通っていた…

「まぁ…いいか…」

さて、おそらくこのナニカに物理攻撃は通じないだろう。

それ以前に出来るだけ触りたくない。

正直な所を言えば分解系で吹き飛ばしたいけれど、それをやったとしても負の霊的エネルギーが霧散するだけだ。

時間が経てばまた集結してしまう。

面倒だが"祓う"しかない。

「どうしようか…取り敢えず…」

祝詞かなぁ…

「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を。神集へに集へ給ひ……」

「う"う"う"う"う"う"!」

大祓詞を唱え始めると、ナニカは苦しみだした。

「ヲヲヲヲヲ!」

ナニカが、こちらへ迫って来た。

ユラユラとした手を、ナニカが持ち上げ…

ドシュゥン!

その手が、棘か槍のように、俺の心臓を貫いた。

ゴプリと、血が溢れる。

「ゴファッ!グファッ!」

あぁ…痛い…痛いなぁ…

痛みで意識が飛びそうだ…

手を…手を伸ばす。

手刀を作り、サイオンで覆う。

その手刀を掲げ…

ザシュ!

俺を貫く槍を断ち切る。

移動魔法でナニカから距離を取り、槍を引き抜く。

「がっ!げふっ!ざい…ぜい…!」

再生により、俺の体は貫かれる以前の状態へ巻き戻された。

サァァ…と、ナニカから切り離された槍は霧散した。

しかし、それはゆっくりとナニカへ向かっいき、再びナニカの一部となった。

「はぁ…はぁ…マジかよ…ブレイン・バースト、キャスト」

キィィィィィィィン!

世界が、静止する。

精神干渉系概念拡張加速魔法ブレイン・バースト。

自身の思考を数千倍に加速する魔法だ。

名前は…まぁ…某ラノベの技術から取った。

ふむ…どうすべきか…

空を飛んでいいならばあんな攻撃は避けられる。

しかし、こんな街中で飛ぶ訳には行くまい。

認識阻害は万能ではないのだ。

と言う訳で…

「ミストディスパージョンで散らしてから祓うか…」

ブレイン・バースト、ディキャスト。

キウゥゥゥゥゥン…

世界が、動き出す。

目の前で、再び俺を貫こうとするナニカ…

「去ね!穢れた者よ!」

ナニカに、掌を向ける。

ミストディスパージョン…キャスト…

一切情報強化が無かったナニカは、抵抗すらなく分解された。

今の内に!

「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を…」












「今日の夕日の降の大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を諸々聞食せと宣る!」

パァン!と音がして、負の霊的エネルギーが消滅した。

ふぅ…

バタン!と後ろ向きに倒れる。

「あぁぁぁぁぁぁぁ…疲れたぁぁぁ…」

倦怠感と達成感の中、空地に大の字になっていると、風切り音が聞こえた。

ガッシャァァァン!

土煙が発ち、轟音が鳴り響き、建材が宙を舞った。

「なんや、いきなり"たすけてー"って部屋に突撃されたからきてみたけど…
もう、終わっとるやないか」

この人か…

「御手数掛けてすいません、影縫さん」

土煙の中から現れたのは、建材の上に乗った長身の女性だった。

「いや、ええよ。小さい子供助けるんは大人の役目やからね」

ははっ…

「カッコいいですね」

「一夏君の方がカッコええよ。女の子逃がして残ったんやからな」

「アレをどうにか出来るのは俺だけでしたから…」

「せやなぁ…でも、女の子に心配かけたのはアカンなぁ」

「大丈夫です。俺はそうそう死にませんから」

「ほう?」

一瞬、影縫さんの視線が鋭くなった。

俺は彼女…いや、彼女達が対不死身専門なのを思いだした。

「俺は箒を任されてますから」

「ほうか、なら心配あらへんな。
箒ちゃんも心配しとったさかい、はよ戻らんと」

「わかりました」













「よう、箒。戻ったぜ」

皆は、ホテルのロビーで待っていた。

ロビーに入ると、箒が駆け寄って来た。

箒の方が頭一つ分大きいので、覆い被さるように抱き付かれた。

箒が抱擁を解き…

俺は突然、キスをされた。

それも唇同士で。

「心配したんだからな」

「俺は死なないよ。お前も知ってるだろう?」

「だとしてもだ。あんなのと戦おうなんて…」

「ごめん…かなり心配掛けたみたいだ」

箒は何も言わず、再び俺に抱き付いた。

箒の背中に腕を回し、撫でてやる。

それはそうと…

「おい刀奈。そのカメラはなんだ?」

「えー、いいじゃない」

「却下だ」

刀奈の手のインスタントカメラを"分解"する。

「あぁ!?」

「そのフィルムはもうダメだな」

「むぅ…」

子供っぽく頬を膨らます刀奈を虚さんが引っ張っていった。

簪とのほほんはエレンとリムの目を手で隠していた。

「おい、箒。結構目立ってるんだけど…」

と俺に抱き付いたままの箒に言った。

「もう少し、このままでいさせてくれ」

「はいはい」

その夜、俺は大人しく箒の抱き枕になるのだった。
 

 

第五十三話

第一回モンド・グロッソ決勝。

俺達は例のVIP席にいた。

今日のメンバーは俺、箒、刀奈、簪、虚さん、本音だ。

アルシャーヴィン姉妹はフィグネリアと一緒らしい。

ヴィッサリオン?野郎の動向なんぞ知るか。

「コレはもう姉さんの勝ちで決定だな…」

三時間前の準決勝にて、暮桜はセカンドシフトを果たした。

言わずともわかるだろうが…零落白夜が発現したのだ。

「そうだな。暮桜…いや千冬さんにバリア無効化能力…
まさに鬼に金棒だな…」

箒の言うとおりだ。

「対戦相手涙目……でも……ざまぁ」

と簪。その口角は上がっており眼鏡に光が反射して不気味だった。

「いや、確かにあの選手の言動は看過し難い物が有るが…
いやーほんときのどくだなー(棒)」

「貴方たち似てるわねー…簪ちゃんも一夏君も」

「だが刀奈さん、皆同じ事を思っているはずですよ」

「そうねぇ…箒ちゃんの言うとおりかしら…」

今も、相手選手は姉さんに対し、挑発を繰り返していた。

ISのデザインも少し悪魔っぽいし、ヒールキャラを演じるのは解るのだが…

「姉さんガチギレしてるっぽいんだけど。
相手選手殺さないよな…?」

一応零落白夜も視野に入れてあらゆる安全機構は組み込んだ。

束さんもそこら辺は一切オミットしてないっていってたし…

大丈夫とは思うけど…

隣に座っていた箒が、ぐいと俺を引っ張り、耳打ちした。

「安心しろ一夏。ISを作ったのは、お前と姉さんだろう?お前がISを信じなくてどうする」

確かに、その通りだな。



そうこうしている内に、試合が始まった。

相手選手は火器類を複数持ち、それを切り換えながら姉さんと一定の距離を保っていた。

姉さんが近付けば離れ、離れれば近付く…

後に"砂漠の逃げ水-ミラージュ ザ デザート"と呼ばれるようになる戦法だ。

今回の相手はマウントした武装を切り替えて戦っているが、
おそらく"高速切り替え-ラピッドスイッチ"の原型と呼べる戦法だろう。

第一回モンド・グロッソでは、後のISの戦法の原型やアイデアソースとなるような戦法がちらほらみられた。

予選で射撃型同士が当たった時、"円状制御飛行-サークル・ロンド"らしき物も見受けられた。

暮桜には一切の飛び道具が無い…そろそろ姉さんが痺れを切らす頃だな…

「今までの試合を見るに、そろそろ千冬さんが仕掛けるな…」

「そうですね。あぁ、織斑選手がキメにかかりました」

虚さんの言う通り、姉さんが暮桜で地面を踏み締めた。

イグニッション・ブーストの予備動作だ。

だが、姉さんと相手選手の距離はほぼスタジアムの端と端。

決勝まで上がってきた相手だ、恐らくかわされるだろう。

姉さんがどうするか、見物だな…

相手選手は指先を動かし挑発していた。

姉さんは、地面を踏み締めたまま、動かない。

今までならば、背部ブースターを解放し、突撃している筈だが…

そう思っていたが、あることに気付いた。

背部ブースターに、火が入っていない。

どころか、機体の動力の半分近くを切っている。

「姉さんは何をするつもりだ…?」

刹那、姉さんの持つ刀から、目映い光が溢れだした。

「あれは…準決勝での…?」

刀奈が、目を細めながら、雪片を見ていた。

光の剣と化した雪片を、まるで居合いの如くかまえた。

「姉さん…?まさか!」

そして姉さんが一歩踏み出し…

ズッ……ヴォン!

横薙ぎに振り抜かれた雪片。

そして、放たれた斬撃は雪片から離れ、相手選手に吸い込まれた。

「ギガスラッシュ……マジかよ…」

確かに、零落白夜はエネルギー質の攻撃だ。

しかし、それを斬撃として飛ばすとは…

相手選手の絶対防御が発動し、シールドエネルギーがゼロへ…

試合終了の合図が鳴り響いた。

「『決まったァァー!決勝戦の勝者は織斑千冬選手!
第一回モンド・グロッソ優勝は!我らが織斑千冬選手だァァァー!』」

歓声が響き渡り、数日に及んだ祭りは、その幕閉じた。
 

 

第五十四話

モンド・グロッソも終わり、地元に帰って来た。

しかし俺はゆっくりする暇などなく、その翌日にナイト・オブ・トレイターで中国に飛んだ。

例のスペックデータ流出事件の後始末だ。

指示を出した中国政府高官は精神干渉魔法で逝ってもらった。

更に引き受けた米系PMCの方は束さんが担当、本社ビルごと消滅したらしい。

大陸まで飛び、高官を探しだし、バレないように殺して、また日本に戻る。

これをたった1日で終わらせた。

この高官の死はあまり大きく報道されなかった。

死因不明というのもあるが、どうやらかなり恨まれてたらしい。

その後はラボにこもったり弾達と遊んだりした。

で…だ…

「なんで俺が舞装束を着るハメになってるんだろうな」

控え室で呟いた。

今日は神社の祭りだ。

先日、姉さんの前で巫女神楽を披露したのだが、色々あって祭りでも舞う事になってしまったのだ。

「いいじゃないの、似合ってるわよ一夏君」

「雪子さん…」

控え室に入ってきたのは雪子さんだった。

その手には扇と宝刀…舞で使う物だ。

まぁ…態々俺の舞を見に来るような物好きも居まい。












と、思っていたのだが…

「テメェ等揃いも揃って何してやがんだ!」

神楽が終わり、装束を脱ぎ、甚平に着替え、外に出た俺の目の前に居たのは、俺の知り合い達だった。

弾、蘭ちゃん、鈴、暦さん、育さん、火燐さん、月日、撫子、刀奈、簪、虚さん、本音、ヴィッサリオン、フィグネリア、エレン、リム…

俺の知り合いが勢揃いだった。

「何故って…今朝私が伝えたからな」

そういって歩いて来たのは、浴衣姿の箒だった。

「テメェの仕業か!」

つーか更識と連絡取れたのかよ…

で、更識は更識で態々こんな地方都市まで来たのかよ…

「一夏君、とっても可愛かったわよ。
ね、簪ちゃん」

「うん…何て言うか…負けた気がする…」

「勝っても嬉しくねぇよ…」

するとヴィッサリオンが出て来て…

「若、姫、エレンとリムの面倒を頼む。
じゃ、護衛と警備に戻るぜ~」

と言ってエレンとリムを俺に押し付けてフィグネリア共々何処かへ消えた。

「一夏、その子達は?」

と鈴に聞かれた。

「えーっと…さっきの夫婦が束さんが雇った箒の護衛。
でこの二人はアイツ等の娘だ。
ほら、二人とも挨拶できるか?」

「リムアリーシャ・アルシャーヴィン…です」

「えれおのーらあるしゃーう"ぃんです!」

「おー、よくできました」

ぽふぽふと頭を撫でてやると二人とも嬉しそうに微笑んだ。

「………ロリコン?」

「ヘイ中華娘娘!どこでそんな言葉覚えたんだ!?
お兄さん怒らないから言ってごらん!」

すると鈴はクルリと振り返り…

「弾が言ってたわよ。"一夏はホモかロリコンか熟女好き"だって」

そう言って弾を指差した。

「おい!鈴!それは秘密って言っただろ!」

「お兄…サイアク」

「バカじゃないの弾君?」

「うぐぅ!?」

蘭ちゃんと月日の二人からの攻撃にたじろぐ弾。

「弾…弁明を聞こうか」

「だってお前女子に興味なさそうじゃねぇか!
と、なればホモか範囲外って事だから…」

弾が最後まで言い終わらない内に、零拍子で弾の目の前へ…そして…

グァシ!

弾の顔面を、掴む。

「弾……落ちろ」

毒蜂…キャスト。

ギリギリギリギリギリギリィィ…!

「ギャァー!頭が!頭が割れる!お前どこにそんな力が!あぁ!痛い痛い痛い!出る!なんか出るから!」

「安心しろ。思ったほど締め付けてはいない」

俺の手の大きさでは、弾のコメカミに指が辛うじて届く程度だ。

なので毒蜂を使い、アイアンクローの痛みを増幅させる。

「ま、こんな物か」

と指を離す。

「頭がぁぁぁぁぁ…」

「いいか、もう鈴に変な言葉教えるなよ」

「あい…もうしましぇん…」

ふぅ…これにて一件落着…ん?

「なんだよお前ら?」

いつめん達がこっちを見てニヤニヤしていた。

「いやぁ…なんでもないよ。ね?撫子ちゃん?」

「そうだね、月日ちゃんの言うとおりなんでもないよ、うん、なんでもない」

なんだよ…気になるな…

「一夏君はフェミニストだね、暦も見習ったら?」

フェミニスト?俺が?なんで?

「育、一夏君は気付いてないみたいだぜ」

「そうだね…うーん…暦といい一夏君といい、女たらしだね」

えーっと、育さん?貴女何言ってるの?

「全く訳がわからんぞ」

「ねーねー、ふぇみにすとってなに?」

とエレンに尋ねられた。

「フェミニストっていうのは…そうさなぁ…女の子に優しい人…かな?」

そう教えると、エレンは何かを思いついたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

「あー!わかった!たしかに一夏おねーちゃんはふぇみにすとだね!」

ブルータス、お前もか…

「あのねあのね、さっきのはね、一夏おねーちゃんがじぶんのわるくちじゃなくてそこのおねーちゃんにわるくちをおしえたことにおこったからだよ!
一夏おねーちゃんはじぶんよりもそこのおねーちゃんがだいじなんだね!」

「………………………」

やべぇ…なんか…めっちゃ恥ずかしい…

「一夏おねーちゃんはやさしいね!」

「エレン、その話はもういいから、ね?」

「ん!わかった!」

「テメェ等もいつまでもニヤついてんじゃねぞ!」

きっと今、俺の顔は赤いのだろうな…

そんな事を思いながら、祭囃子の鳴る方へ、歩を進めた。
 

 

第五十五話

屋台を巡っていると、見知った顔が見えた。

「いよう坊主!いや、姫と呼んだ方がいいか?がっはっはっは!」

「久しぶり、組長。姫はやめて欲しいなぁ…。
あと焼そば……五つ頂戴」

「おう!嫁と見てたがさっきの舞はよかったぜ!」

そういいながらシャッシャっと手際よく、格好よく焼そばを作るスキンヘッドのおっさん…

実はヤクザの組長だったりする。

ヤクザ、とは言っても普段は気のいいおっさんだし、ちゃんと表でやっていけるような商売をしている。

暴力団みたいな訳のわからない連中とは違い、義理と人情を大切にする人だ。

「へい!焼そば五つ!」

「ありがと」

そう言って代金を払おうとしたのだが、おっさんに止められた。

「?」

「さっきの神楽の礼だよ」

そういう事らしい、けど…

「そういう訳にはいかないよ。おっさんの焼そばには金を払う価値があるんだから払うんだよ」

「はっはっは!コイツぁ一本とられたな!」

代金を渡して、焼そばを受けとる。

「それにしてもよぉ…やっとこさこの街も安定してきたじゃねぇの」

安定…ISが世に発表され、束さんの身内である箒を浚おうとしたり、亡き者にしようとする輩が大勢いた。

その一部は俺やシルヴヴァインや政府の機関が撃退したりもしたが、その大半は彼らが撃退してくれたのだった。

「なぁ、坊主」

「なに?」

グイとおっさんに引っ張られた。

「お前さん、白騎士だろ?」

そう、耳元で問われた。

「安心しろ、バラしゃしねぇ。
だがよ、力があるなら嬢ちゃんを守れ。
街を裏から守るのが俺達の仕事だが、俺達じゃぁ手が回らねぇ事もある。
そん時、嬢ちゃんの一番近くに居るのは坊主だろ?」

前々から気になってる事がある。

「どうしておっさん達は箒を守ってくれるんだ?」

「俺等みてぇなヤクザを祭に呼んでくれんのはリュウの兄貴くらいのもんよ。
だからよ、こりゃぁ恩返しな訳よ」

ふーん…ん?

「『リュウの兄貴』って柳韻さんの事?」

「おお、そうよ、リュウの兄貴は俺の学生時代の先輩でな。
今でも頭が上がらんのよ。
リュウの兄貴も昔はブイブイ言わせてたんだぜ」

へぇ…そうだったんだ…

「おい、坊主。嬢ちゃんが待ってるぜ。早く行きな」

と言われて、箒達の方を指した。

「わかった。じゃぁね、おっさん」

「おう」





「ほれ、箒、鈴、リム、蘭ちゃん。焼そば買ってきたぞ」

焼そば所望した四人(リムはエレンと分けるらしい)に買ってきた焼そばを渡す。

「あれ?俺のは?」

と弾が言う。

「野郎に奢る金は持ってねぇよ」

「チッ…これだからタラシは…」

「何か言ったか?ん?もう一回いっとくか?」

弾に対して手を握ったり開いたりする。

「いや!なんでもないぞ!」

と弾が焦ったように応えた。

ふふふ…と笑い声が聞こえた。

「どうした簪?いきなり笑い出して」

「弾さん…調教済み…くふふ…」

「一夏君……さすがの私も引くなぁ…」

「待て月日!誤解だ!簪もろくでもねぇ事言ってんじゃねぇよ!」

「そうだそうだ!俺はどうせならグラマスなねーちゃんに調教されたい!」

「「「「「「「うわ…引くわ…」」」」」」」

「何故だ!暦さんはわかってくれますよね!?」

「いや…弾君、さすがの僕も少し引くよ」

「一夏お前ならわかってくれるよな!?」

と肩を掴まれ前後に揺さぶられた。

ふむ…おちょくろう。

「いや!近付かないで変態!」

裏声を使い、迫真の演技でそう言い放ち、箒の後ろに隠れる。

「おい、弾。貴様私の一夏を怯えさせるとはどういう了見だ?」

箒の後ろからヒョコっと顔をだし…中指を立てる。

「待て!箒!後ろ!」

おっと…箒が後ろを向く前に、また隠れる。

あ、弾が逃げた。

お?鈴に捕まった。

「さぁ!弾!日頃の恨みよ!」

「あ!待て鈴!箒ちゃんも!



ア、アァァァァーーーーー!」

弾…ザマァ…

「ちょ!一夏!暦さん!助け…ギャァァァァァァ!」
 

 

第五十六話

「ひどい目にあった…」

「普段の行いが悪いからだ」

「へーへー、そうかよ」

箒と鈴のOHANASIから解放された弾は五分くらいで復活した。

今は皆で車座で座って食事をしている。

さっき買った焼そばやらたこ焼きやらだ。

あ、暦さんと育さんは二人でどこかへ行った。

デバガメしようとしたファイヤーシスターズを俺と箒と鈴で引き留めたりした。

あと簪と本音と撫子は三人で屋台を回ると言っていた。

本音は簪の付き人だから分かるが…なぜあの二人なのだろうか…

「んー…ねぇ一夏君」

「どうした刀菜?」

対面に座っていた刀菜に声をかけられた。

「ちょっと腕見せて」

「?」

よくわからないけど…

とりあえず甚平の袖を捲り、刀菜に見せる。

「どうしたんだよいきなり?普通の腕じゃないか。
別に何かが封印されてるって訳でも刺青がある訳でもない」

「そうじゃないわよ………貴女の腕…白過ぎない?」

「あ!それ私も前から思ってたぜ!一夏君っていっつも私達と一緒に居るのに全く焼けてねぇんだよなー
まったく羨ましい限りだぜ」

と火燐さんが同意し、自分の腕を見せた。

いつも走ったりしているからだろう、火燐さんの腕は結構日に焼けていた。

「確かに一夏って男にしちゃ白いよなー」

「男っていうか…日本人…モンゴロイドとしても白すぎね。
よく"雪のような"って言うけど。
一夏はまさにそれね」

弾と鈴が立て続けに言い、各々腕を見せた。

「羨ましいわねー…何か秘訣でもあるのかしら?」

刀菜の問には、答えられない…否、刀菜に対しては答えられるが、この場では答えられない。

なぜなら、魔法の副産物だからだ。

俺は常に魔法力向上のため、ISコアのCADシステムで多重魔法障壁を展開している。

多重魔法障壁とは言っても、ファランクスのような物ではなく、対ガスなど数枚だ。

その障壁の中に、対光学障壁がある。

その障壁が弾く対象は、"可視光以外と太陽光以上の光量の光"だ。

つまり赤外線や紫外線やレーザーを受けないのだ。

そんな訳で俺は一切日焼けしない。

日焼けするよう設定し直す事もできるが面倒だ。

「一夏おねーちゃんってしろくて美人だよね!」

「私も…一夏さんはきれいだと思います…」

「ふむ、エレンとリムの言う事ももっともだな。というか下手したらエレンより白いのではないか?」

アルシャーヴィン姉妹に箒が同意する。

「ぶふっ!一夏…アンタ"おねーちゃん"って呼ばれてるのね…」

「鈴、黙れ」

「そうよねぇ…一夏って男にもモテるものねぇ…」

「それ以上言うな」

「鈴ちゃん!その話おねーさんに教えてちょうだい!」

「刀菜、お前も黙れ。それとも無理矢理黙らせてやろうか?」

「その時は唇で…だ、ま、ら、せ、て☆」

「唇食いちぎるぞ」

「その前に舌を入れてあげるわ」

「OKその時は思い切り噛んでやんよ」

と言ったら隣から甚平の袖をクイクイと引っ張られた。

「むぅ…」

見ると箒が頬を膨らませていた。

「あら、ごめんなさい。大丈夫よ箒ちゃん。貴女の旦那は取らないわよ」

すると何故か、箒は悲しそうな顔をした。

「あ、さっきの話なんですけど。一学期の…」

「おい!鈴!やめろ話を戻すな!」

「終業式に後輩の男子に告られたんですよねー」

「それでそれで!」

「一夏はどうしたんだっけー?」

「振ったわ!振るに決まってるだろ!むしろどうやったら受けると思うんだよ!」

「でもその後輩結構イケメンだったじゃない」

「そもそも男同士だろうが!」

「え?」

「"え?"じゃねぇよ!」

「ゴメン一夏…アンタの事女だと思ってたわ…」

「そのやり取りはお前が転校してきた初日にやっただろ!
それも中国語で!」

「ワタシチュウゴクゴワカラナイ」

「お前の母国はどこだぁぁぁぁぁぁ!」

「アタシの心の母国は日本よ」

「喧しいわ!」







突然箒がすっくと立ち上がった。

「刀菜さん。ちょっといいですか?」

「いいわよ」

「鈴も、いいか?」

「わかったわ」

「では少し席を外す」

そして箒、鈴、刀菜はどこかへ行った。

「おい一夏いいのか?」

「弾。女子には女子の話が有るって事だ」

男が居る所で話しにくい事を話に行ったのだろう。

「一夏君。一つだけ聞いていいかな?」

「なんだ月日?」

すぅ…と息を吸い、こちらを真っ直ぐ見据え、月日は口を開いた。

「一夏君は、箒ちゃんの事を、どう思っているの?」
 

 

第五十七話

「一夏君は、箒ちゃんの事を、どう思っているの?」

「…………………」

「黙らないで。真面目に答えて」

俺を真っ直ぐに見据える月日の顔は、真剣その物だった。

「箒は………妹みたいな奴だよ」

「本当に?」

「ああ」

「箒ちゃんの事、好き?」

「ああ、だけどそれは…」

「異性としてじゃない?」

「うん。俺にとってさ、箒は妹みたいな奴で、護るべき人で…」

「そう…うん。わかった」

月日が、何故こんな事を聞いたか。

わかっている。

箒が俺を好いていると。

それは箒からの過激なスキンシップを見れば、火を見るより明らかで…

箒は、俺を異性として好いている。

だけど、俺からすれば箒は護らねばならない存在だ。

どうしても、妹のように、いや…娘のように思ってしまう。

「一夏君は、わかって言っているんだよね?」

「何をだ?」

「刺すよ?」

怖!?

月日が持っていた割り箸が、俺の眼球三センチの位置に。

「わかっているよ…だけど、箒を異性としては見てない」

否、見てはいけないと思っている。

だって…俺には…

「じゃぁ、一夏君には好きな人は居るの?」

「居るよ。勿論」

「「「「え?」」」」

おいおい…そこまで驚く事かよ?

「そんなに驚くなよ。俺にも恋人くらい……あ」

やべ

「「「恋人!?」」」

「ちょっとトイレ行ってくる!」

ガチで尋問されそうな雰囲気だったので逃走する事にした。











「刀奈さん。一夏に私を意識させたいのだがどうしたらよいでしょうか?」

私の、年の離れた兄のような、思い人…

優しくて、強くて、だけど弱い所もあって…

「うーん…難しいわね…」

「鈴はどう思う?」

「あそこまで過激にスキンシップしてもダメなら無理じゃないかしら?」

そうなのだ、一夏は私がどれだけ誘惑しようと素面なのだ。

「過激って?」

「あぁ、刀奈さんは知らないんですね。
この二人ことある毎にイチャイチャしてるんですよ。
あと……一緒にお風呂入ってるんだって?」

「ああ。それでも一切赤面しないのだ」

理由は…まぁ…魔法だろうな。

一夏が教えてくれた四系統八種及び系統外の魔法…

恐らくは精神干渉系魔法でそういった感情を押さえているのだろう。

「はぁ!?それで赤面しないって…どんな小学生よ…?
12歳ならもうそういうのに興味ある年頃でしょう?」

この二人になら、話してもいいだろう。

たしか刀奈さんは知っているのだったな…

問題は鈴か…

まぁ…いいだろう。

「二人共、少し、話を聞いて欲しい」

そして、私は一夏が魔法使いであること、前世の記憶が有る事を話した。

「信じられない…って訳でもないわね…一夏のあの落ち着きようは…」

「一夏君が魔法使いなのは知っていたけれど…まさか前世の記憶があるなんて…」

「一夏からしたら、私は娘のような物なのかもしれない。
だけど、それでも私は一夏、少しでも私を意識してほしいのだ」

一夏の心は、あの人の物。

だけど、私を見向きもしてくれないのは、堪える…

「ねぇ、箒。アンタさっきから"意識してほしい"って言ってるけど、付き合いたいんじゃないの?」

「それは無理だ。既に一夏の心はあの人の物だからな」

「「え!?」」

私は、ゲスな事を言っているだろう…だが…

「それでも、それでも、少しくらい此方を見てほしい…
私はべつに一夏の心が欲しい訳ではない…だけど…」

気付けば、涙が溢れていた。

「だけ、ど…私は…一夏の…側にいたい…」

ふわり、と二人に抱き締められた。

「箒。アンタが泣く事は無いわ。好きな人の側に居たいって望むのは当たり前なんだから」

「そうよ。貴女は悪ないわ」

二人の優しさが、嬉しい…

「あり…がとう…」






「もう、大丈夫です」

二人に抱き締められて、数分、ようやく、落ち着いた。

「ね、ねぇ、箒」

「どうした鈴?」

「えっと…今の流れで聞くのは酷かもしれないけれど…
一夏の恋人…アンタの恋敵って、誰?」

一夏の思い人。一夏の心を持っている人。

それは…

「私の恋敵の名前は…















篠ノ之束……私の姉だ」
 

 

第五十八話

「いっくぅぅぅぅぅぅぅぅん!」

「わぷ!?」

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『俺は屋台の間を通っていたと思ったら柔らかい何かが背中に押し付けられた』

な… 何を言っているのか わからねーと思うが…

おれも 何をされたのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… 

クッションだとかお餅だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ…

もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ…

っていうか束さん帰ってたんだ…

「わー!二月ぶりのいっ君だぁ!」

「わ、ちょ、束さん!ここ人前ですって!」

束さんは、それを聞いてか、俺から少し離れた。

振り向いた俺は、絶句した。

「………きれいだ」

月とウサギをあしらった古風な浴衣。

そしてそれを着こなす神秘的な女性。

「て、照れるなぁ…」

「でも、その浴衣似合ってますよ」

「ありがとう、いっ君。
いっ君もその甚平似合ってるよ」

「ありがとう束さん」

やはり、恋人に褒められると言うのは嬉しい物だ。

「んー…でも…」

あ、なんか嫌な予感…

「うん!こうしよう!」

そういって束さんは俺に口付けした。

「んむぅ!?」

ここでやるか!?

慌てて認識阻害を全力で行使する。

ピチャピチャと、水音が響く。

束さんは一度唇を離して、言った。

「久しぶりに会ったんだからいいじゃないか。
それに、誰も気付いていないよ」

そうして、俺達は人混みの中で数分キスをしていた。











束さんが唇を離し、一歩下がる。

「はぁ…はぁ……ん…はぁ…」

俺は息も絶え絶えで、束さんの肩にしがみついていた。

束さんが一歩下がったので前のめりになったが、なんとか体勢を立て直す。

「うん!やっぱりいっ君はこっちの方が似合うね!」

「?」

似合う?こっち?何のこ…と…

「ふぁ!?」

自分の格好が、変わっていた。

「なんですかこれ!」

「え?見てわからない?振袖だよ」

青と紺の、月と夜空をモチーフにした振袖だった。

「おかしいだろ!」

こんなくだらん事にISの量子格納機能使ったのか…

「いいじゃんいいじゃん!似合ってるよ!」

「よかねぇよ!」

しかし…

「うにゅ!?」

束さんに正面から抱き付かれた。

「そーれパフパフ~」

「あ、や、ちょ、今は、まずいですって!」

俺が自らに掛けている精神干渉魔法"アマノハゴロモ"の解除条件は二つ。

一つは俺自身が解除する事。

1日に何度か解除するのだ。

でないと、心が平坦になり、下手をすれば感情が無くなってしまう可能すらある。

詳しくはGATEの番外編でも読んでくれ。

ん?何か今電波を受信したような…ま、いいか…

二つ目は……

「そうだねー!私とキスしちゃったもんね!
封印は溶けちゃったもんねー!」

束さんとのキスだ。

束さんに頼まれてこんな解除条件を設定した。

魔法科のオースみたいな物だ。

原作内でのオースは魔法力を抑えていたが、俺が使っているのは感情を抑える物だ。

そして魔法とは超常の力であって万能の力ではないのだ。

勿論、この魔法にもデメリットがある。

「いや!本当にヤバイんですって!」

そのデメリットとは感情を抑えていた分、解除した後に感受性が高まるという物だ。

つまり、ドキドキするのが隠せない。

「そうだよねー。いっつも性欲とか諸々押さえてるんだもんねぇ…
反動が来ちゃうよねぇ」

わかってるならやめて!

「でもやーめない。
だってその時のいっ君かわいいんだもん!」

そう言いながら、腕で俺を胸に押し付けながら、束さんは俺の髪の毛を弄っていた。

「うん!出来た!これで完璧だよ!」

メティス・サイトで見ると、見事なアップにセットされていた。

「さぁ!これで誰もいっ君とは気付かないよ!さぁ!二人でまわろう!」










二人で一通り屋台を回った俺と束さんは、人気の無い雑木林でキスをしていた。

「はぁ…はぁ…まだ…するんです…か?」

もう、何て言うか、脳が溶けそう。

「まだまだするよ。だって毎晩ディスプレイ越しには話してるけどさー、その時は触れ合えないじゃないか」

確かに、その通りだ…

だったら…

今度は、こちら側からキスをする。

「んむ!……ん…ふ…んっ…ぷは…いっ君も、ノって来たね…」

今度は束さんから…

お互いが溶けそうで、ずっとそっちに意識を割いていたから。

俺達は気付けなかった。

俺の肩に誰かが手を置いた。

その誰かに、ぐるんと振り向かされ、唇を奪われた。

「んぐ!?」

相手は、箒だった。

そのキスは、蹂躙するように激しい物で、俺はその場にへたり込んでしまった。

唇が離れ、箒は言った。

「こんな所で何をしていたんだ?一夏、姉さん?」 

 

第五十九話

刀奈さんと鈴と別れた私は、一人になりたくて祭会場を一人歩いていた。

その時、見知った顔が見えたような気がした。

「姉さん?」

もう一度そちらを見ると、姉さんらしき浴衣の女性が誰かと歩いていた。

そしてその"誰か"とは……

「一夏………だよな?」

見事な振袖を纏った誰か…というか身長から見て恐らくは一夏だろう…

大方姉さんがISを使って無理矢理着せたのだろうが…

ふむ…様になっているな。

まぁ、あの舞装束を着こなせるならばこれも道理か…

一夏と姉さんの二人は、祭会場を堂々と歩き、注目を集めていた。

二人を追ってどんどん神社の外れの方へ向かう。

普通なら一夏はこちらに気付いているだろう。

しかし、今回はそんな事が起こる事は無かった。

皆無だった。

それどころか一夏が多少そわそわしている風に見える。

あぁ…なるほど…魔法を解いたのか…

一夏が、自らを律する為に常時展開している魔法。

感情を抑制し、常に冷静であり、欲望を封じる魔法。

精神干渉系情動抑制魔法アマノハゴロモ。

愛しの姉さんと話すのだ、楽しみたい、ありのままの自分で居たいと思っても不思議ではあるまい。

やがて二人は雑木林の方へ入って行った。

「む…暗くてよく見えんな…」

さて…どうすべきか…?

いや、待て…今の一夏は枷を外した状態だ。

つまり普通の事に動揺する状態である。

で、あるならば…今は好機ではないのか?

今、一夏に私の思いの丈をぶつければ、少しは私を異性として意識してくれるのではないか?

早くもこのような好機が訪れるとは…

いや、しかし姉さんと一夏の邪魔をするのも……

≪箒ちゃん、遠慮は無用よ。一夏君が好きなんでしょ?
だったら、お姉さんに遠慮しちゃダメ。
恋はね、強欲なくらいで丁度いいのよ≫

さっき、別れ際に刀奈さんが言っていた。

「よし…」

先ずは…

「ウカノミタマ、起動…」

ウカノミタマを起動し、ハイパーセンサーを使用する。

「な!?」

二人は、雑木林の中で、濃厚な口付けを交わしていた。

「わ、わ、わ……」

『御主人もいつもあんな風じゃないか』

「い、稲荷!?」

『静かに!一夏様達にバレちゃうよ!』

そ、そう…だな…

それにしても…

「エロいな…」

浴衣と振袖の二人が雑木林の中で情を交わしている光景は、倒錯的で、背徳的で、妖艶な空気を醸し出していた。

その名画のような光景に、私は見惚れていた。

唇を離した二人の間に銀の梯川が掛かる。

一夏は、顔を赤くして、息を荒げていた。

「あぁ…今の一夏を組伏せて滅茶苦茶にしたい…」

『御主人もなかなかにアレだよね』

うるさい、私は遠慮はしないと決めたのだ。

『そう、だったら、箒の心のままに、欲望のままにすればいいよ。
私は式神として、主人を応援するからさ』

では、そうさせて貰おう…

私も雑木林に踏み入り、二人の下へ。

そして、一夏を無理矢理振り向かせ、唇を
奪う。

「んぐ!?」

そのまま一夏の中を蹂躙する。

ガクガクと足を震わせ、遂にはへたり込む一夏。

「はぁ…はぁ…」

そこらの女子よりも艶やかな息づかいの一夏を、押し倒したい衝動を抑えて、二人に言った。

「こんな所で何をしていたんだ?一夏、姉さん?」 

 

第六十話

「こんな所で何をしていたんだ?一夏、姉さん?」

「ほぉ…きぃ…?」

あ…れ?なんで…箒が…こんな…所…に?

「それはねー、久しぶりに会ったから二人でイチャイチャしていたのさ!」

そんな風に言う束さんの声が、まるで別世界の事のようだった。

フラフラと覚束無い思考で、箒がここにいる理由を考える。

あぁ…だ…め…考え…まとまら…な…い…

「わー…いっ君凄い顔だねぇ…アへ顔って奴?」

「姉さん、流石にその言い方はどうかと思うぞ。
せめてトロ顔と言うべきではないのか?」

「おぉー!箒ちゃんの言う通りだねぇ」

なん…の…はな…し………?

「あー…ダメだねコレ…箒ちゃん。ちょっと手伝って。
話はその後だね」

「そうですね、姉さん」









そのあと、気付けば自室のベッドに寝かされていた。

まだ祭の音が聞こえているから、大して時間は経っていないだろう。

「あれ…?なんでこんな事に?」

そう、たしか…

月日の前で口を滑らせて…

そこから尋問されそうだったから逃げ出して…

束さんに会って…一緒に屋台を廻って…

雑木林で……

「あ」

そうだ、箒に不意討ちされて…

カァーっと顔が赤くなる。

えーっと、そうだ、うん、魔法、魔法を使おう。

まずは…えーっと…あれ?

そ、そうだ!血流操作で…

うん、コレでいい!

顔は赤くないな。うん。

えーっと…次は、そう!アマノハゴロモを…

「おお、一夏起きたか」

「ぴゃぁぁーー!?」

いきなり戸を開けた箒に驚いて、おかしな声を上げてしまった。

「その反応を見るに枷は外しているようだな」

後ろ手で戸を閉めて、箒が歩いてくる。

「まって!今魔法使うからこっち来るな!」

今箒と話してたら何を口走るか分かったもんじゃない!

しかし、箒は依然としてこちらへ歩みを進める。

「一夏…」

そして、俺は、箒に押し倒された格好になっていた。

「一夏…今は"枷"をはずしているんだろう?」

「あ、あぁ、そう…だが」

「よかった」

へ?よかった?何が?どうして?

というか、この状況は何?

「一夏」

「な、なんだ箒?」

「私は、お前が好きだ。異性として、好きだ」

え?え?な、いきなり、何を…?

「気付いていたのだろう?私がお前を好いていると」

知って…いた…だけど、それは…

「無論、お前と姉さんが恋人同士なのは知っていた」

あれ…結構上手く隠してた筈なんだが…

「お前は顔に出やすいからな。お前が姉さんの話をするとき、いつも優しい微笑みを浮かべていた」

あぁ…そうなの…か…

「でも…だったら何故?」

「お前にとって、私は妹のような、下手をすれば娘のような存在なのかもしれない」

確かに、その通りだ。

俺にとって、箒は護るべき対象で…

「だがな、思い人に見向きもされないのは、中々に辛い物だ。
だから、お前が枷を外している今ならば、お前も私の事を見てくれると思ったのだ」

なるほど…あのキスは、そういう理由だったのか。

「私は、お前を愛しているのだ。
家族愛ではなく、無論、それもあるが、何よりも異性としてお前を愛している」

箒の、ありったけの"想い"。

だけど、俺はその想いには応えてはいけない。

「ゴメン、箒。俺は、束さんが…」

好きだから、そう言おうとする前に、再び戸が開かれた。

「私が、どうかしたのかい?」

「束さん……」
 

 

第六十一話

「私が、どうかしたのかい?」

「束さん……」

入って来たのは、箒の姉で、俺の恋人で…

ベッドの脇まで来た束さんは、ベッドそっと腰掛けた。

ふわりと頭を撫でられるのが、気持ちいい。

「いっ君」

「はい」

「いっ君はさ、きっと私が居るから、箒ちゃんを選ばないんでしょ?」

「はい」

だって、そうしないと、誠実じゃないから。

"正しく"ないから。

「いっ君のその想いは、一人の女として、とっても嬉しいよ。
だけどね、いっ君。それと同じように、一人の姉として、悲しいな」

「え?」

それって、どういう…?

「ねぇ、いっ君。私と箒ちゃん…両方を取る事の、何がいけないの?」

"何が"だって?何故ならそれは、不誠実だ。

「いっ君は、きっと心の中に明確な"正しさ"があるんだと思う。
だけど、"間違って"何が悪いの?」

「何を…言って?"間違い"は悪い事だから…」

「それで?"間違って"、誰が困るの?」

誰?誰ってそれは…あれ?

「私は、姉として、女として…一人の、篠ノ之束という人間として、箒ちゃんを拒まないよ?」

話の展開が、見えないのだが…

「お前が倒れている間に、姉さんと話したのだ」

「そうそう。つまり……そういう事だよ!」

「あー…とっても解りやすい説明をありがとう…」

ようやく一連の事の真相が見えてきた…

ようするに…

「よかったねいっ君!姉妹丼だよ!」

「一回黙れ」

外堀は既に埋められたのか…

「ぶぅ~」

「姉妹丼?なんだそれは?そんな丼物あったか?」

「お前は知らんでいい」

あぁ、シリアスが霧散したよ…

「ねぇ、いっ君。私はね、両者が納得してれば重婚もハーレムも咎めないんだよ」

「待て待て。急にどうした?」

「や、だってさぁ、いっ君と恋人同士になったけど橙ちゃんには筒抜だしさー」

う…ぐ…ソレを言われると…

「いっ君は、箒ちゃんが嫌い?」

束さんはコロコロと話題を変えてくる。

それはきっと、俺に考える時間を与えさせない為だと思う。

俺が理論武装する前に、俺の本心を聞く為なのだろう。

「嫌いな訳ないでしょ」

「よかったね箒ちゃん!」

「う…うむ…」

嫌いだったら、護ったりしねぇよ…

「いっ君は、異性として箒ちゃんを見てるの?」

「見ないように、してた…。
うっかりしてると、箒を意識してしまいそうで…。
束さんに悪いし…俺の魂はもう大人だし」

だから、アマノハゴロモを開発した。

箒を見る為に…感情を抑え冷静であれば箒を護れると思って…

「そっか、そうだね…。
だけどさいっ君。いっ君は本当に大人?」

「大人です…もう29ですよ?」

前世で、十七歳で死んだ。

今生で、十二年生きた。

「いっ君は、まだまだ子供だよ。
子供らしく笑えるし、子供らしく泣けるじゃないか」

子供らしくか…

「精神は…体に引っ張られるんですね…」

「そうだよ。だからさ、このモラトリアムを楽しもうよ」

モラトリアム…猶予か…

「一夏」

俺に覆い被さったままの箒が、俺の名前を呼ぶ。

「箒…」

「お前は、私を好く努力をしてくれるか?」

「ああ、努力する必要もなく、お前を好きになるさ。
お前こそ、こんな男でいいのか?」

「お前じゃないとダメなんだ」

「嬉しい事を言ってくれる…」

不意に箒が唇を重ねる。

こんどは蹂躙するようなそれではなく、慈しみ、癒し、包み込むようなキスだった。

「愛してる、一夏」

「俺もだよ、箒」
 

 

第六十二話

二学期が始まって少し経った辺りに、その出来事は起こった。

「一夏君!」

「どうした月日?」

登校してきた俺と箒を出迎えたのは月日だった。

「お兄ちゃんが!」

教室の前で、焦ったようにまくし立てる。

「お、おぅ、どうした?落ち着いてゆっくり話せ」

「お兄ちゃんが担任の先生を殴って退学になったの!」

は?

「月日、どういう事なのだ?
私はあの暦さんがそんな事をするとは考えにくいのだが…」

暦さんが、担任を殴った…?

何故?あの温厚な暦さんがそんな事をするとは考えにくい。

暦さんは正義に従う人だが…

正義?

待てよ、暦さんの正義とは何だ?

一般道徳、それと…

『大切な人を傷つけられた時』

大切な人。

暦さんの大切な人。

家族。

両親。

妹の月日と火燐さん。

そして、育さん。

育さん…?

育さんは改変によって原作の呪詛の塊のような人ではない。

待てよ?原作?リドル…ロスト…。

フォーミュラ。

「月日。暦さんは何か言っていたか?
例えばテストの点や学級会についてだ」

おうぎフォーミュラ。

彼女の名前がタイトリングされていないものの、彼女に関する三つの話の始まり。

暦さんの後悔が形を為した怪異の副産物である教室。

その『後悔』『自己批判』の原因。

学級会…

詳しい時系列は覚えていないが、ちょうど今辺りだろう。

「一夏君どうして知ってるの!?」

やはりか…

こうなれば俺は動かざるを得ない。

育さんは幸せになった。

だけど今、暦さんが不幸になっている。

改変を考え、実行した者として、その責任を果たそう。

「月日。今日の放課後にお前の家に行く。
暦さんと話がしたい」

「わ、わかった」

あ、そうだ。

「育さんはどうしている?」

「お姉ちゃんも学校休んでるよ」

ふむ…。

「月日」

「なに?一夏君」

「今、暦さんは悪としてみられている」

「………」

「だが安心しろ。暦さんは直ぐにでもヒーローになる」

「本当に?」

「本当だ」

ぽふぽふと月日の頭を撫でてやる。

そして…

「箒」

「何だ?」

「今回の一件。動くのは俺だけだ」

「何故だ?私は足手まといなのか?」

悲しそうな顔で、責めるように箒は言った。

「いや、そうじゃない。
今回の一件は少しばかり面倒なのでな」

「では尚更…」

「だからこそだ。
今回は中学という俺達とは別の閉鎖コミュニティが対象だ。
その上、暦さんの行動を正当化させるなら中学の担任を…教員を相手取る事になる可能性がある」

直接相手取る事もないのだが、間接的だろうと、大人を相手取るのだ。

「……暦さんとは私も会うからな」

と箒に言われた。

「それくらいは構わない。
あぁ、いや、言い方が悪かったな。
最終的に教員を相手取るのは俺一人でやる。
途中まではお前にも手伝ってもらう」

「わかった」

事前の役割はこれでいいだろう。

「さ、早く入らねぇとSHRはじまるぜ」

例の担任には少しばかり地獄を見て貰おうか。
 

 

第六十三話

「邪魔するぜ」

「失礼する」

「うん、入って」

その日の放課後、俺と箒は月日の家を訪れた。

「暦さんは?」

「部屋だよ」

「OK。箒、お前は育さんから話を聞いて来てくれ」

「承知した」

二階に上がり、二手に別れる。

俺は暦さんの部屋に、箒は育さんの部屋に。

「ノックしてもしもーし。
暦さん?一夏だけど。
少し話聞かせて欲しいから開けてくれ。
まぁ開けるけど」

ガチャリとドアを開けて部屋に入ると、暦さんはベッドに寝そべってマンガを読んでいた。

「あぁ…一夏君か…。どうぞ…」

「元気ないね」

「あー…なんか…正しさって何なのだろうって思ってさぁ…」

「へぇ…まぁ概要は月日から聞いてるよ」

「そうかい…」

「という訳で話を聞かせてくれ暦さん。
何があったのか。どうして貴方が教員を殴るなんて蛮行に出たのか…」

「いいよ。つまらない話だけど、まぁ…聞いてくれ」











事の発端は二ヶ月程遡る。

暦さんの高校…直江津高校の一学期末考査に於いての話。

テスト対策としてクラスメイトが集まり学習会を開いたそうだ。

そして、その学習会に参加した生徒の得点が異常に高かったらしい。

暦さんと育さんはそれを怪しいと思ったが、偶然として処理したそうだ。

一回目だったから。

『一回目』

つまり、『二回目』があったという事だ。

それが二学期中間考査の数学のテスト。

一学期末と同じように、"学習会で教え合った問題"が最終問題として出題されたという次第だ。

誰かがテストの問題をリークした。

二人はそう考えて調査を始め、最終的に学級会を開いたという。

そして、学級会で結論が出ないまま、時間は流れ…

誰かが言ったそうだ。

いっそ多数決で犯人を決めればいい、と。

二人はそれに反対した。

そんな事をして何の意味があるんだ、と。

しかしクラスメイトはその意見に賛同、出席番号一番から名前を読み上げ、犯人だと思った人間の時に手を挙げる。

そして、出席番号二番である暦さんの名前が呼ばれた時、数人が手を挙げたそうだ。

そして、出席番号六番、育さんの時、全員残った全員が手を挙げた。

一人残らず、"担任"さえも。

それを見た暦さんは激昂、担任の胸ぐらを掴んで一発殴った。

その後、学級会の解散を言い渡し、育さんを連れて帰宅した。

そしてその夜、高校から暦さんが担任を殴ったという電話が入ったらしい。

それが昨日の事だとか。











「んー…」

原作とは少し違うけど…だいたい同じかぁ…

世界の修正力ってヤツかねぇ?

「暦さん」

「なんだい一夏君」

「担任の担当教科は何だったんです?」

「数学だよ」

そこは同じなのか…

なら真相も同じだろうなぁ…

「だったら話は早い。犯人は担任で決まりだ」

「へ?」

「だーかーら!テスト問題流出の犯人は担任ですよ」

俺が知る真相。

それを伝えた時の暦さんの顔には、思わず笑ってしまった。
 

 

第六十四話

「さて暦さん、今回の一件で得をするのはどなたでしょう?」

「誰って…」

暦さんが考え込むが、答えは出ない。

「そう。誰も得をしない。
自分の点だけではなく周りの点も同時に上げたら意味がない」

「あ、あぁ」

「ただし、それは生徒に限っての事。
担当教員からすれば、テストの点が高いというのは自らの指導力を示す事」

それも直江津高校は進学校だ。

「つまり、今回の件で得をするのは誰か?
と考えた場合、犯人は担任しかあり得ない」

「そうか…!」

暦さんが、その拳を握りしめる。

「暦さん、今回の一件俺に任せて欲しい」

「え?」

「例の担任にはそれ相応の報いを受けて貰おう。
あぁ、安心してほしい。殺しはしない」

「……具体的には?」

具体的…?

そうさなぁ…悪夢を見せて心を殺すとか、町中にばらして社会的に殺すとかかな…

「さっきの話を纏めた文書を直江津高校の教員全員とPTA役員に送りつける」

「僕に手伝える事はあるか?」

「あー…無いね。だって文書送るだけだし、1日で終わるよ」

「そうか…」

「もしかしたら退学取り消しになるかも知れないから」

「ごめん、一夏君」

「いやいや、これくらい何て事無いよ。
じゃ、箒の方もそろそろ終わってるだろうから見てくるよ」

「箒ちゃんは育の所かい?」

「ええ、まぁ」

「本当、迷惑かけてごめん」

「そう何度も謝る事じゃない…
あぁ、そうだ暦さん」

「なんだい?」

「暦さんは暦さんの正義に従って行動したんだ。
それを責める事は誰にもできない。
暦さん、例え世界に絶望しても、どうかその正義を持ち続けてほしい。
あと、貴方は善人すぎる。
大切な誰かを守りたいなら、手段を選んでいてはいけない。
例え、無関係な他人を蹴落としてでも」

それだけ言い残して、俺は暦さんの部屋を出た。

「ははっ…言われるまでもないよ」

ドアを閉める間際、そんな呟きが聞こえた気がした。








直江津高校全教員及びPTA役員に差出人不明の文書が送られた。

その内容は直江津高校一年三組担任鉄条径が行った不正行為の真相だった。

そして文書には、『一年三組阿良々木暦の退学取り消しを要求する、従わない場合地元の新聞社とローカルテレビ局にこの一件をリークする』という内容も記されていた。

それを受け、直江津高校の理事と校長が阿良々木家に謝罪。

阿良々木暦の退学取り消しを言い渡した。

なお鉄条径は懲戒解雇となった。

というのが昨日の話。

今日学校へ行くと月日が満面の笑みで出迎えてくれた。

「一夏君!お兄ちゃんまた学校行けるって!」

「おう、そうか良かったな」

「うん!」

これで、悲劇は回避された。

世界は、改変されたままで進んで行く。

デウス・エクス・マキナ…機械仕掛けの神、御都合主義の神、見えざる物語の語り部…

そんな存在が在るのなら俺は彼の存在に祈ろう。

そして、バッドエンドこそ至高だと、皆が幸せになるのが許せないという神がいるならば、俺は彼の存在に唾を吐こう。

バッドエンドなんてくそ食らえと。

ハッピーエンドこそトゥルーエンドだと。

だから俺は、俺の周りに居る人は救う。

手の届く範囲でなら手を差し伸べよう。

この考えが傲慢だと言うのなら、そんな身勝手を許さないと言うのなら、そんな世界はくそ食らえ。



俺は俺の世界を、何が有ろうと守り通す。



例え相手が世界その物であろうとも。
 
 

 
後書き
この一連の…原作おうぎフォーミュラでの学級会の内容はハーメルン時代に一周年記念に書いた話でした。
ある意味で、一つの区切りです。 

 

第六十五話

「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁ…」

「おい一夏」

「はぁ…はぁ…んだよ箒?」

「何故いきなり走ろうだなんて言い出したのだ?」

「お前が正月太りが気になるって言うから…でゅっ!?」

「次に言ったら張り倒すからな」

「あい…」

一月五日、俺と箒は街中をランニングしていた。

「それにしても一夏、お前は少し疲れすぎではないのか?」

疲れすぎ?

「はぁ…はぁ…そうか?」

「まだ一キロと少しだと言うのにそんなに汗をかいて」

あぁ…そういう事か…

「はぁっはぁっ…箒、耐えろよ」

「む?」

トゥワイス・グラビティ、キャスト。

「ぐぅ!?」

箒の歩みが止まった。

「なんだ…!これは…?」

「加重系魔法トゥワイス・グラビティ。
本来は拘束用だがトレーニングにも使える魔法だ」

「お前はこんな状態ではしっていたのか?」

「そうだけど?」

「………………………人外」

人外って…

「束さん程じゃぁないさ」

「姉さんがどうかしたのか?」

「あの人ナノマシンで全身強化済みだぞ」

「………は?」

箒がぽかんとした顔をした。

「骨の内外はEカーボンで補強済み、筋繊維ではナノマシンが疲労物質を即時分解。
大半の臓器も強化してるうえ、血中に酵素の数倍の効率のナノマシン流してるからスピリタスでイッキできるぞあの人」

「…………………私の周りには人外しかいないのか?」

「お前の勝負運も十分人外だがな」

トゥワイス・グラビティ、ディキャスト。

「さ、取り合えずここら一帯を一週しようぜ」

「あ、あぁ…」








「おーい!箒、あんまり先行するなー!」

「魔法を解けばいいだろう!」

箒が振り替えってバックステップで答える。

「おいバカ!後ろ!」

「え?」

案の定箒は誰かにぶつかって、お互い盛大に弾いた。

「言わんこっちゃない…」

箒のコア・エイドスプログラムを閲覧…

うん、大したケガじゃないな。

箒を起こし、ぶつかった人に手を伸ばす。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ…大丈夫よ、心配無いわ」

箒とぶつかったのは中高生の女子だった。

彼女は俺の差し出された手を掴もうとして、直前で止まった。

気になりはしたが、その止まった手を掴んで、立たせようと引っ張った。

「あれ?」

俺は彼女を立たせたが、彼女は勢いのままに俺に倒れかかった。

何故か?

解は簡単だ。

彼女が軽すぎた。

だから彼女の軽い体は、俺が引っ張った勢いに負けて、俺に倒れた。

「あのー?」

「ごめんなさいね、すぐに離れるわ」

中高生の女子…そしてその後ろには…

「なにかしら?」

いやいや、待て、待つんだ俺。

「あー…えー…その…」

あっれれー?おっかしーぞー?

いや、コナンの真似してる場合じゃねぇな…

目の前にいる中高生の女子、その後ろに居る"何か"…

「一つ聞いてもいいですか」

「………どうしたのかしら?」

「貴方の御名前を教えてください」

すると、後ろからプレッシャーが放たれた。

「おい、一夏…私という者がありながらその眼前で堂々とナンパとはどういうつもりだ?」

あー…たしかにそう取られても仕方がないようなシチュエーションと質問だったな…

首だけを箒に向け、諌める。

「箒、今少し真面目な話だから」

「………………いいだろう」

再び、中高生の女子に向き合う。

「どうして私の名前を知りたいのかしら?」

「貴方に似た顔を新聞でみたからですよ」

「そう。なら私の名前くらいわかってるんじゃないのかしら?」

そうきたか。

「では単刀直入に。貴女、戦場ヶ原ひたぎさんですよね?」

「…………ええ、そうよ」

「はぁー…」

やっぱりかぁ…

「なによその反応。いきなり溜息付かれると傷つくのだけれど」

「ああ、すいません。貴方に対しての溜息ではなくこのシチュエーションにたいしての溜息ですから」

「…………」

さてと…どうした物かねぇ…?

まず、ここで戦場ヶ原ひたぎという存在は物語シリーズの正ヒロインであるという前提で話を進める。

俺がここで取れる選択肢は幾つか有るが、大まかには二つだ。

彼女の後ろに居る"何か"を排除するかしないかだ。

まず排除した場合、物語シリーズの大幅な原作ブレイクが起き、先が全く見えなくなる。

排除しなかった場合、彼女は更なる不幸に見舞われる。

「なによ黙り込んで。もしかして私に見とれてるのかしら?
女みたいな顔して随分ませてるじゃない」

うわ、うぜぇ…

一瞬こんな奴不幸になれとか思ってしまった。

だけど、そんな事をすれば後味悪いしたぶん後悔する。

「戦場ヶ原ひたぎさん」

「なによ?」

「貴女は、今の状態から抜け出したいか?」

「…………何を言っているのかしら?」

「質問を変えよう。貴女は自分の"重み"を取り返したいか?」

「!?」

彼女が、初めて表情を見せた。

「言っておくと、俺には原因が見えているし、どうにかする事もできる」

「…に」

ん?

「貴方に…何がわかるというの!?」

「とりあえずアンタをどうにかする方法はわかるぜ」

「嘘臭いわね」

「おいおい、俺は貝木泥舟とは違うぞ」

「!?なぜ貴方がその名前を知っているのかしら…?」

よし!食いついた!

「答える義理は無いね。
というか早く決めろ。アンタの後ろの"蟹"をどうにかしたいかどうかを」

「………………」

「まぁ子供のお遊びと思って騙されてみなよ。
大丈夫、金は一切取らない」

「信じられると思ってるのかしら?」

「さぁ?まぁ、でも信じられるならば、清潔な服で今日の…そうだな…夜中の2時に篠ノ之神社に来い」

すると彼女は何も言わずに振り返って、歩いて行った。

「一夏、説明して貰えるか?」

「ああ、帰りながら話そう」

そうして、儀式に必要な物を思い浮かべながら、箒に事情を説明しつつ、ランニングを続けた。

 

 

第六十六話

草木も眠る丑三つ時、なんて言い回しがある。

草木すらも静まりかえり、魑魅魍魎が跳梁跋扈し、丑の刻参りの白装束が往来する時間。

"魔"が動く時間。

篠ノ之神社本殿前、そこで俺は箒を待っていた。

やがて、暗闇の中に二つの人影が見えてきた。

「おお箒、戦場ヶ原ひたぎさんは来たか?」

「ああ、連れてきた」

「説明は?」

「一通りやったぞ」

暗闇から、巫女服の箒と白い私服の戦場ヶ原ひたぎさんが現れた。

「貴方…神主なのかしら?」

「いや、神主じゃない。免許すら無いしこの神社の血族でもない。
この神社の居候で神主見習いだよ」

「…………」

「ただし箒はこの神社の正当な後継者だ」

「そんな話は聞いてないのだが…」

「うん、誰も言ってない。だけど血筋的にはそうなる」

さーてと…

「出来ればさっさと終わらせたいし、やろう。
本殿の中に"場"をつくって結界をはってあるから入ろうか」

二人を本殿の中に入れる。

一応柳韻さんに習った通り、本殿の神棚に正式の装飾を施し、床にも場を浄める陣を書いておいた。

「さて、ここからは神前だ。
箒はわかっているだろうが目を伏せて低姿勢で居て欲しい」

二人が結界に足を踏み入れたのを確認して、戦場ヶ原ひたぎさんに御猪口を差し出す。

「舐めるだけでいいから」

彼女が、御猪口を受け取った。

「一夏、私は…」

「お前は飲むな、口すら付けるな」

箒に飲ませたらどうなる事か…

彼女が御猪口の日本酒を舐める。

「飲んだね? じゃぁリラックスしようか。
目を閉じて。いまから質問するから答えていって」

名前や生年月日など必要な質問とどうでもいい質問を織り交ぜて、20程質問をした後、本題に入る。

「今までで、一番辛かった事は?」

「……………」

「どうした?一番辛かった出来事だよ」

沈黙。

答えたくないという意志。

だけど彼女は、勇気を振り絞って、言葉を紡いだ。

「お母さんが、悪い宗教に…嵌まったこと…」

「日本では宗教の自由が認められてるぜ?
それだけじゃぁないんだろう?」

「………」

「そのあと。そのあとに何があった?」

「浄化…だと言って…幹部の人が、私を犯そうとしたわ」

「"犯そうと"、っつーことは未遂だったのか?」

「近くにあったスパイクで殴ってやったわ」

「ああ、陸上部だもんな…。
で?」

「私は助かった…けれど…」

「けれど?」

「お母さんは、私を助けなかった…
どころか、私を詰ったわ…」

「アンタが幹部を殴ったから?」

「そう、その上…」

「アンタの母親はペナルティを負った…と?」

「!?」

驚いているようだが、これくらい誰だって予想できる。

特に、こういうケースの場合は…

「それで?当の母親はどうしてる?」

「知らない」

「予想くらいできるだろう?」

「たぶん、まだ信仰を続けているわ。
懲りもせずにね…」

悲しみと哀しみを滲ませる声色。

「そうか。で、どうだ?清々したか?
離婚は成立し、母親は更に絞り取られる。
アンタとしては万々歳、母親も本望だろう?」

「ちがう!」

彼女は大声で、強い声で、それを否定した。

「じゃぁ何か?辛いか?」

「ええ、そうよ…」

「どうして?もう赤の他人だろう?」


「考えてしまうの…あのとき、わたしが、うけいれていたら…すくなくとも、こうはならなかったって…」

「それが本心?」

彼女は言葉に出さず、コクンと頷いた。

「OK、OK、よく聞かせてもらった。
アンタがそう思うなら、その"思い"はアンタ自身の物だ。
さぁ…今まで目を背けていた物と対面しよう。
目を開けて、受け入れよう」

そうして、彼女はその瞼を開き…

「あ!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

大声を上げた。

頭を下げてはいるが、その表情は驚愕をたたえていた。

「さぁ、何が見える?」

「か、蟹が、あのときの、蟹がみえる…!」

よし、ここまでは成功だな。

「蟹?箒、何か見えるか?」

「いや、見えない。見えないが、何か"居る"」

なるほど…

「今目の前に居るのが、アンタが捨てたいと思った重みを預かってくれている存在だ」

「預かってくれている存在…」

「さぁ、言うべき事があるはずだ」

「言うべき…事…」

その時、緊張が解けたのか、彼女は顔を上げてしまった。

「チッ…!ファランクス!」

急いで彼女と蟹の間に右手を向けた。

突如、鐘を叩いたような轟音が鳴り響いた。

だけど、その音は俺達にしか聞こえない。

その音が、サイオンとサイオンとがぶつかった、幻想の音だったからだ。

「一夏?」

「箒、緋宵(あけよい)の"真打"取って。ソコに置いてあるヤツ」

視線と右手を蟹に向けたまま、左手で柱に立て掛けてある聖柄の刀を指差す。

「いいのか?相手は神だろう?」

「話が通じないなら力で捻伏せるしかないだろう?」

箒が刀の鞘を握り、柄をこちらに向けて差し出した。

その柄を握り、刀身を引き抜く。

刀身にサイオンを纏わせ、左手を上段に構える。

"緋宵真打"を振り下ろそうとした刹那。

「待って!
待って、織斑君」

「へぇ?何を?」

「さっきは、驚いただけ。ちゃんと、自分でできるから」

そして彼女は、正座を組み、蟹に頭を下げた。

神に土下座した。

「ごめんなさい。
それから、ありがとうございました。
ですが、もう、いいんです。
それは、私が背負うべき重みだから…。
無くしちゃいけない物ですから…」

そしてこう続けた。

「どうかお母さんを…私に返してください」

フッと、ファランクスにかかっていた圧力が消えた。

「おめでとう、戦場ヶ原ひたぎさん。
アンタは、過去と向き合い、過去を背負うと決めた。
覚悟を決めた」

その覚悟は、何の意味も持たない。

彼女の"おもし"になるだけの覚悟。

だけど。

「その覚悟を決めたアンタを、俺は心から尊敬するよ」

俺は、割り切れなかったから。

彼女みたいに切る事も向き合う事も出来なかったから。

記憶を風化させて目を反らしたから。

だから、向き合う覚悟を持った彼女を、心の底から尊敬する。

「さぁ、もう遅いから早く帰りな」

「…………」

「ん?どうした?」

「こんな夜中にか弱い女の子を一人で帰らせるのかしら?」

言われてみればそうだな。

「橙、頼んだ」

橙が、空気から溶け出したかのように現れた。

「りょーかい、ますたー」

「………………」

何故か、彼女は冷やかな眼でこちらを見ていた。

「どうしたのおねーさん?私が送っていくよ」

「そいつ俺の式神だから普通の人間じゃまず勝てない。
安心して夜道を帰ってくれ」

「そう……」

彼女はそれだけ言って、出ていった。

「さ、片付けようぜ箒。柳韻さん達が起きる前に終わらせないとな」

「あぁ…そうだな」
 

 

第六十七話

「あら。焔のワイルドカード様じゃない」

世間一般よりも大幅に長い冬休みを終えた後の始業式。

の放課後。

俺は頭が痛くなるような二つ名で、呼び止められた。

「その呼び方やめてくんない?
戦場ヶ原ひたぎさん」

振り返って、俺を呼び止めたJKを咎める。

「あら?ファイヤーシスターズ、ワイルドカード、リーサルウェポン。
この街の中高生なら誰もが知ってるわ」

そうそう、最近火燐さんと月日が遂にファイヤーシスターズの異名を獲得した。

あと、俺と暦さんも…

火燐さんと月日が問題に首を突っ込み、アイツらでどうにも出来ない場合、俺と暦さんが出る。

だからワイルドカードとリーサルウェポン。

前者が俺、後者が暦さんである。

「おい、一夏、このおねーさん誰だ?」

と弾に聞かれた。

見れば鈴や月日も同じように疑問を浮かべていた。

「箒、先帰ってろ」

「どれくらいかかる?」

「十分もあれば」

「わかった」

箒が皆を黙らせつつ、先に帰る。

「で?」

「で?って何よ?」

「いや、何か用があったんだろ?」

「用?特に無いわ」

「あっそ」

「何よ、用がなかったら話しかけてはいけないのかしら?」

「んなこと言ってねぇよ」

「ならいいじゃない」

まぁ、別に構わんが。

「それで、体調の方はどうだ?何か変わった事は?」

「特に無いわね」

「そいつぁ良かった」

"眼"を使い、彼女のエイドスを閲覧。

体重を含めた全てのステータスがおおよそ健康な物であった。

「何よ」

「何よって何が?」

「今失礼な事考えたでしょ」

おぉう…やっぱ女子ってそういうのわかるんだな…

「ああ、主にアンタの体重について」

「次に変な事を考えたらその目玉を抉り取るわよ」

怖ぇ!?何この女怖いんだけど!?

「やれる物ならやってみろ。アンタ程度じゃぁ掠り傷も付けられんよ」

「あら、言うじゃないの…」

すると彼女は、常人なら見失うような速さでポケットに手を突っ込み、"なにか"を取り出した。

その"なにか"を、手の中で一回転させ…

ピタリと、俺の首に押し当てた。

「どうかしら?」

「Oh…crazy…」

「失礼ね、か弱い女子高生がたまたまポケットに入っていた文房具を取り出しただけよ」

「取り出した文房具がカッターナイフで、それを他人の首に押し当てて居なかったらな」

キチキチと刃を仕舞い、カッターナイフをスカートの中に戻した。

「貴方、なかなか肝が座ってるのね」

今更女子高生のカッターナイフくらいじゃねぇ…

バルカンやらファランクスやらミサイルやらの照準ほどのプレッシャーも無ければ、刀のような鋭さもない。

剛気功やらジークフリートを使えば肌が露出していようと鉄壁の防御を誇る。

仮にそれらを貫通したとしても瞬時に再生できる。

「カッターナイフ程度じゃぁ死なんよ。
そうさなぁ…核でも使わない限り俺は死なん」

「不死身の吸血鬼だとでも言うのかしら?」

「おあいにく、俺の"肉体"は人間だよ」

「含みのありそうな答えね」

「さぁ?どうだろうね?」

「…………」

ジーっと見つめられ、嫌な汗が吹き出る。

「な、何?」

「いえ、今日は先日のお礼を言おうと思ったのよ」

「今から礼を言おうって相手の首筋にカッターナイフ当てるか普通?」

「それはそれ、これはこれよ」

「礼ねぇ…」

礼…何に対してだろうか?

彼女が"おもしかに"から『重み』を取り返す手伝いをした事だろうか?

だけど、それは俺の自己満足だ。

本来なら暦さんが背負う義務を掠め取ったような物である。

「礼はいらんよ。俺の自己満足だから。
俺はアンタを憐れみで助けたに過ぎない」

「そうかしら?」

「そうだよ」

「なら私のお礼も受け取っておきなさい。
私の自己満足だから」

「はは、一本取られたな」



「それで、お礼がしたいのだけれど、私は何をすればいいかしら?」

「は?」

「毎朝裸エプロンで起こしてあげましょうか?」

「せんでいいせんでいい」

ったく…

「あら?一本取られたのだから何か要求しなさい」

「なぜ上から目線…」

にしても…礼ねぇ…特に欲しい物は…

「あ」

そうだ。彼女なら持っている筈だ。

「じゃぁ、貝木泥舟のアドレスと番号を教えてくれ。
それで十分だ」

「……………」

彼女は、とても不満そうに携帯電話を取り出した。

「あの詐欺師の番号なんてどうするのかしら?」

携帯電話を差し出しながら問われた。

「うーん?少し詐欺の依頼をするだけさ」

掴もうとした携帯電話がヒョイと逃げた。

「んだよ。こちとら敵が多いんだから少しくらいは裏の力も欲しいんだよ」

「敵?学生相手に随分と過剰戦力ね」

「学生?そんなチャチな物じゃねぇよ。
女性権利団体のアホ共さ。
奴等にとって、俺はブリュンヒルデの汚点でしかないからな。
つい先日も暴力団を差し向けられたばっかりさ」

「本当かしら?」

「だったら今度四ツ葉興業の事務所行ってみな。
地下に暴力団の鉄砲玉が捕らえてあるぜ」

「何故知ってるのかしら?」

「そいつァ言えねぇなぁー…」

五秒程の間、彼女と視線を交わし、やがて彼女の方が折れた。

「そう、好きになさい」

渡された携帯電話のアドレス帳には、『貝木』の文字。

「うっし…貝木の番号ゲッツ…」

「他に何かして欲しい事はあるかしら?」

「無いよ。この番号で十分さ」

「そう無欲なのね」

「まー…ねぇ…
じゃ、俺はもう帰らせてもらうよ」

「わかったわ…じゃぁ、また会いましょう」

俺と彼女は、真反対の方向へ歩き出した。

今入れたばかりの番号にコールする。

「もしもし、私ジョン・ドゥと申します。
貝木泥舟さんでしょーか?」

「『……………………だれだ』」

「戦場ヶ原さんから紹介を頂きました。
詐欺の依頼はこちらでよろしいでしょうか?」

「『切るぞ』」

「成功報酬500万でどう?」

「『…………………前金で200。成功300』」

「OK、ビジネスの話をしよう…」
 

 

第六十八話

「火燐ちゃんと一夏くんってどっちが強いの?」

という月日の何気無い一言から、俺と火燐さんは殴り会う事になった。

卒業式を間近に控えたある日。

「あーあ。卒業かぁ…バラバラになっちまうなぁ…」

と弾の一言で、俺達の出会いについての話題が上がった。

「弾とつるみ出したのは…
あぁ…このバカがボコられてるのを助けた時以来か…」

「その話はやめてくれ」

「いやいや、かっこよかったぞ?
なんだったっけ…?
『妹を守るのは兄の義務なんだよぉぉぉ!』
だったか?」

「「「ぷっ…!」」」

鈴、月日、撫子が吹き出した。

「そう笑ってやるな。
兄姉は妹弟をからかう権利と守る義務を持って生まれてくる物だ」

「千冬さんもか?」

「今俺が生きていられるのは色々な意味で姉さんのお陰さ…
姉さんが手を回してなかったら、俺は女性権利団体に殺されてるよ」

何度か電車で痴漢冤罪を吹っ掛けられた事があった。

その時は右手に買い物袋、左手は箒と繋いでいたので、証拠が無いとして形式上の注意だけだった。

その後も何度かそういった事があった。

煩わしくなって、アバズレ共を調べたら女性権利団体の人間だったので、貝木に金と情報を渡し、潰してもらった。

問題はその後で、暴力団に襲われたのだ。

無事撃退し、四ツ葉組(焼きそば屋のおっちゃん)の事務所で尋問させて貰うと、例の女性権利団体の残党が噛んでいた。

流石の俺も我慢ならず、関わった残党の預金を………おっと、これ以上は…ね?

「姉が優秀だと苦労するわねぇ…」

と鈴が優しげな声で言った。

「まー…そうだな」

「偉大な姉と言えば…箒はどうなのよ?」

「ん?何がだ?」

箒の声が、耳元で聞こえた。

「アンタねぇ…一夏を愛でるのはいいけどちゃんと話を聞いときなさいよ…」

「む、すまない」

「アンタは、姉関連で何かあった?」

「ふむ…あったと言えばあった、無かったと言えば無かったな」

「ん?訳わかんねーぜ?」

箒の曖昧な答えに弾が疑問を呈した。

「そんな事実は無かったって事さ。
箒を拉致するのは不可能、殺害も不可能だ」

「ああ、いざとなればお前が護ってくれるのだろう?」

首を反らし、横を向き、いわゆるシャフ度で箒と目を合わせる。

「俺が居る限りお前には指一本弾丸一発たりとも触れさせやしない」

「ああ、護ってくれ」

と箒がはにかんだ。

「ちょっと!二人の世界作るの禁止!」

「そうだよ!それに箒ちゃんばっかり一夏くんを独占してずるいよ!
一夏くん独占禁止法に抵触するよ!」

おい千石、その訳のわからん法はなんだ?

「っていうか…ねぇ一夏。
アンタさっきからずっと箒の膝の上だけど…」

「言ったぁぁぁ!!僕が必死に目を逸らしていた真実を包み隠さず言ったぁぁぁぁ!!」

と、ネタに走っていると…

フゥッ…

「ひゃぁぁん!?」

箒が俺の耳に息を吹き掛けた。

ゾクゾクした感覚が全身を迸り、思わず変な声を上げてしまった。

っておい、そこの男子。なぜ前のめりになった?オジサン怒らないから言ってごらん?

あと固まってる女子。怖いからその肉食動物みたいな目をやめろ。いや、マジで。

「良いではないか?物語でも姫は王子の物だろう?
ならば一夏が私の物でも問題あるまい?」

「おい」

マジでやめてくれ…

「いいじゃない。様になってるわよ?」

「うっせ!」

胸のあるイケメンって言葉がある。

要するに、カッコいい女性の事だ。

あと、男子としては不名誉だが、胸の無い美少女って言葉もある。

「一夏=胸の無いお姫様…
箒ちゃん=胸のある王子様…
考えた奴はかなりのセンスあるよなぁ…
なぁ?」

「そうだね…私もそう思うよ…。
月日ちゃんもそう思うよね?」

「うーん…私からすれば、箒ちゃんは王子様って言うより侍かな。
祭りの時の一夏くんの巫女姿を見るとなおさらね」

こいつ等ぁ…!

「うるさいぞお前ら!人が気にしてる事をさっきから何度もひゃぅぅぅっ!?」

「わ、わわ…箒ちゃん…大胆過ぎるよぉ…」

「あ!バカ!何してッ…!ひぅ!?」

箒が俺の耳を口に含み、耳たぶを舐め回す。

「ちょ!箒!流石にそれはマズイわよ!」

「それもそうだな。……ふぅっ」

「ひゅぅ!?」

「はぁ…まったく…アンタ達ときたら…」







「ねぇ一夏君」

「んだよ月日」

「さっき弾君を助けてからって言ったよね?」

「おう」

「相手は?」

「高校生十数名かなぁ…?」

「へぇ……」

「ねぇ一夏君」

「今度はなんだ?」

「火燐ちゃんと一夏くんってどっちが強いの?」

 

 

第六十九話

「じゃぁ、ルールはセメント。
ただし生命に関わるような攻撃は無しで」

「オッケー!アタシはいつでもいいぜ!」

「では、良いか?
両者構えて…

始め!」

火燐さんの通う道場。

師範の立ち会いの下、俺と火燐さんの手合わせが始まった。

余人を交えず…というリクエストの通り、ここには俺達二人と師範しかいない

互いに構えた状態で睨み合う。

始まりが告げられても、火燐さんは動かない。

こちらのスキを窺っているようで、こちらから目を離さない。

こちらにのみ注意が向いている…

好都合だ。

火燐さんから、わざと目を離し、隙を見せる。

好機と思ったか、半身の火燐さんが後ろ足に力を込める。

恐らくはフェイントと気付かれては居るだろう。

それを正面から撃ち破り、ペースを掴む算段の筈だ。

一歩、二歩と近付いて来た。

火燐さんの息遣いが、手に取るようにわかる。

火燐さんの意識の合間、そこを狙い、此方も一歩足を出す。

零拍子と言って、相手の意識の隙間を突く篠ノ乃流の奥義の一つだ。

篠ノ乃流は女性の為の剣術だ。

蝶のように攻撃をいなし、蜂のように隙を突く。

意表を突かれた彼女は、攻勢から防御に転じようとするが、遅い。

体重をのせた正拳突きを放つ。

彼女の中途半端なクロスガードが、俺の拳によって崩れた。

体勢が崩れた彼女へ、インファイトを仕掛ける。

右フック、エルボー、ジャブ、アッパー…

続いて廻し蹴り、からの踵落とし…

しかし最後の踵落としを、掴まれてしまった。

「嘗めんな!」

マズイ!

掴まれた足を振り回され、スイングされ、投げ棄てられた。

だが、それがどうした?

空中で体勢を立て直し、道場の壁を蹴り、彼女の上へ。

「ゼアアアアァァァァァァァ!!」

前へ回転し、その勢いのまま、空中から踵落としを放つ。

俺の足と彼女のガードがぶつかり、轟音が響きわたる。

「っぐ…!」

彼女の本気のガードは破れず、宙返りで離脱する。

スタート時と同じ間合いまで、離脱し、再び構える。

「いってーなー!」

「ガードしといてよく言うぜ…」

互いに、ほぼ無傷、ノーダメージ…

「おい、一夏君、まだ本気じゃねーんだろ?」

「そっちもね」

「じゃぁ…お互い本気で行こうぜ!」

「OK!」

彼女が構え、此方を誘って来る。

「やってやろうじゃねぇか…剛気功!」

剛気功は、正確に言えば魔法ではない。

ヒトが誰しも持つ生体エネルギー。

それこそが気や魔力だ。

「へぇ…"気"ってヤツか?」

「ご明察」

火燐さんの蹴りを、腕一本でガードする。

「くっ…なるほど…硬い…」

「ええ、俺の素の耐久力なんて貴女の半分以下ですから」

「だったらこっちも本気で行くぜ!」

彼女は突然逆立ちし、カポエラキックを繰り出した。

回転から産み出される蹴りを、気を纏った腕で受け流す。

数回目の蹴りの後、彼女の両足が、俺を捕らえた。

「しくった!?」

そのまま、ひねりを加えた動きで、地に足を着けず、俺を放り投げた。

「ちぃっ!」

今度は三角跳びをし、彼女へ跳び蹴りを放つ。

接触の瞬間、あろうことか彼女は拳で蹴りを受け止めた。

「まじかよ……」

まさか今のを拳で受け、競り負けないとは……

「そこまで!」

そこで、師範が止めに入った。

「師匠!?」

「彼には、お前ではまだ勝てない」

「まだ決着がついてないんだからわかんねーじゃん!」

すると師範が、此方を向いた。

「少年、わかるな?」

きっと師範が聞いているのは、止めた理由だろう。

「ええ。きっと続けても互いに勝ちも負けもしないでしょうね。
彼女には技が、俺には気があり、総合力では火燐さんが上ですが、俺の守りを抜けはしないでしょう」

火燐さんは攻性特化、対して気を纏った俺は防御特化。

「彼の言う通りだ」

「はい…わかりましたよ師匠…」

火燐さんが渋々引き分けを認めた。

「一夏君!いつかぜってー勝つからな!」

「はい、俺も再戦を待っています」

こうして、月日のちょっとした疑問から始まった出来事は、その幕を閉じた。

 

 

第七十話

「これで、終わりかぁ…」

「なに、引っ越す訳でもあるまい。そう悲観するな月日」

「そうだね箒ちゃん!」

卒業式が終わり、教室に戻って、仲間同士で話す。

前世じゃぁ、この時間を煩わしく思い、早く帰りたいと思っていたが…

なるほど、悪くない。

保護者はだいたい後ろの方で談笑中。

姉さんと柳韻さん達も後ろで話している。

たぶん、俺が神社から出ていくって言ったから、その話だろう…。

「むー…皆はいいよね、同じ中学でさ」

「そうか?家が近い訳なんだから土日は遊べるし通学路も途中まで同じだろ?」

頬を膨らませる千石を宥める。

俺、箒、鈴、弾の四人は同じ中学へ、月日と千石はそれぞれ別の中学へ進学する。

そこら辺家の都合などもあるから、あまり口出しはできない。

「まぁ、そう悲観するなよ。そうだ!卒業祝いにどっかでパーっとやろうぜ。
金は俺がだすからよ、暦さん達も呼んでさ」

「一夏君それ採用!」

と月日が言って、鈴や千石も賛成した。

「うーん…でも姫×王子が見れないのはなぁ…」

ボソッと千石が言った事が耳に入った。

「まだ引っ張るか、まだ引っ張るか?」

「だってさー…漫画の元ネタが無くなるんだよ?」

千石は、漫画を書いていて、それをオープンにしている。

「知るか」

「今度逆レ物書いて出版社に送ってやる…」

「勝手にしろ」

「無論一夏君が箒ちゃんに……ね?」

「やめろ、マジでやめろ。冗談にならないからやめてくれ」

「へー…ねぇ、一夏、どう"冗談にならない"のかしら?」

「鈴、黙れ」

「箒?何か知ってる?」

「あぁ、この前姉さんが一夏の水筒に媚薬をだな…」

「卒業の日までこんな生々しい話すんなや!
弾がさっきから無言じゃねーか!」

と、苦笑いを浮かべるイケメンに目をやる。

「いや、一夏、お前凄いよ。
こんな日まで箒ちゃんの膝の上だな」

言うなよ…

「………………………」

「おーい、顔赤いぞー?」

と目の前であからさまに煽ってくる弾がうざいので…

「ふん!」

「ぎゃぱ!?」

ギチギチギチギチギチギチ……

「ぎゃぁぁぁぁ!頭が!」

「ちょっと、だまってろ」

「イエス!マム!」

「こ、これが簪ちゃんが言ってたBLSMプレイ…」

いま物凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「千石?ちょっとその話詳しく頼む」

「撫子ちゃん、私にもkwsk!」

「お前は黙ってろ」

いつも通りの、何気無い話に花を咲かせる。

だって、違う学校に進んでも離ればなれにはならないのだから。

そうして時間が過ぎて、解散になった。

桜が舞う校門から、校舎を眺める。

前世では、虐められてて、忘れたくて、忘れた記憶。

だけど、二度目の小学生というのは、中々に輝いた思い出だった。

ファイアーシスターズのピンチを暦さんと打破したり…

弾と下らない事で盛り上がったり…

千石の漫画を手伝わされたり…

アイツ等とは、離ればなれにはならない。

だけど。

「先生」

「なんですか一夏君?」

この人には、言っておこう。

「今まで、お世話になりました」

この六年、御都合主義かよと言いたくなるような謎人事で、ずっと担任だった女性。

「本当ですよ…貴方達が問題を起こす度に火消しに回ってたんですからね!」

「やー…俺もどっちかと言えば消してる方なんですけどねぇ…」

特に月日とか火燐さんとか月日とか月日とか…

「止めなかった時点で同罪です」

「厳しいですね」

「居眠りばっかりしてるからですよ」

「でも鈴が来てからは、アイツの世話で寝る暇ありませんでしたよ?」

「そう言えばそうでしたね」

遠くで、箒が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「呼んでいますよ?」

「そうですね。ではこれで」

「はい。また何時か。織斑一夏君」

「ええ、また会いましょう。愛宕先生」

緑がかった長髪の女性に別れを告げ、箒の下へと向かった。 

 

第七十一話

『速報。IS開発者篠ノ之博士失踪』

今朝、IS学園(今年から生徒の受け入れ開始)から束さんが消えたらしい。

その事で世界中大騒ぎだ。

ズズ…と味噌汁を飲みながら、正面に座るウサ耳に問いかける。

「いいの?なんか大騒ぎになってるけど」

「別にいいのさ。世界各国に回せるだけのコアは造ったしね」

織斑家 08:36

春休み初日、俺は世界を騒がす天災と共に朝食を取っていた。

「いっ君、今日の予定は?」

「え…?いや…特には。今日はカンヘルのOSに手をつけようかと…」

RX0000GN-CANHEL

俺がまだ織斑一夏じゃなかった頃に造った一つのプラモデル。

外見は、両肩部、背部、後腰部にGNドライヴを、サイドウェストにSEED系レールガンを供えた銀色のフェネクスだ。

細かい所を言えば、アームドアーマーDEにGN粒子コンテナが付いていたり、ブレードアンテナが龍の角の意匠だったりする。

昔考えた設定では、同調させた四基のGNドライヴとサイコフレームの共鳴を使い量子ワープする星系間航行用MSだった。

身も蓋もなく言えば『ぼくのかんがえたさいきょうのもびるすーつ』という奴である。

え?お前ニュータイプじゃないだろうだって?

そこはサイオン波でなんとかできるし、その内イノベイターになるだろうと予想しているから問題無しだ。

しかしいざ造ろうと思えば、十数年前の自分を殴りたくなる。

何故か?

機体が持たないのだ。

トランザムとNT-Dはどちらも機体に莫大な負荷を掛けるシステムだ。

その上GN粒子とサイコフレームの相乗効果の予想がつかない。

サイコフレームは星をも動かすエネルギーを放出する事ができる(無論、集団無意識という意志の一点集中があればこそだが)。

GNドライヴはその動力元がトポロジカルディフェクト…時空の歪みである。

こんな超科学の産物を二つも混ぜればどうなるか解った物ではない。

いや、まぁ、結局造るんだけどね。

っていうか既にハード…フレームとGNドライヴは完成しており、Knight of Traitorに使われている。

結局問題は制御OSの方なのだ。

通常時、サイコフレームは核となるサイコミュの力を増幅させる。

つまりそちら側をうまく弄ればいいのだ。

なお現在KoTにはサイコミュシステムを搭載していない。

なのでシールドファンネルは使えないし、NT-Dも発動しない(はず)。

それと、もう一つの課題をあげると、GNドライヴの四基同調が難しい。

製造した全てのGNドライヴでツインドライヴ用マッチングは80をキープしている。

しかしそこから先は見当もつかないのが現状だ。

「ふーん…あ、このお魚おいしい…(ま、負けた…)」

「まぁ、急ぎじゃないし」

「だったら…ちぇーちゃん、居る?」

と、束さんはなぜか橙を呼んだ。

『いるけど、どうかした?」

虚空から現れながら、橙が答えた。

「ねぇねぇ、ここにさ、マタタビ植えていい?」

「「は?」」

「いやー、猫屋敷って憧れない?」

猫屋敷ねぇ…

どうやら束さんは癒しが欲しいようだ。

まぁ、ずっと頭の硬いアホを相手にしていたのだから仕方がないだろうけど…

「でもマタタビって猫にとって麻薬とか媚薬みたいな物じゃなかったっけ??」

「そうなの?」

おいおい…

「そうだよ。お酒みたいな物だね」

と橙が答えた。

「うーん…じゃぁどうしようか…」

「どうって、まぁ、猫好きだからいいけど…」

「ますたー、いい方法があるよ」

何?

「私が猫を集めればいいんだよ。
30匹くらいなら、直ぐにでも集められるよ」

「「え?」」

「私の眷族。この近くの猫なら全員言うこと聞かせられるよ」

い、いつのまに…?

「影ながら箒の護衛してもらってるよ」

え?何それ知らないんだけど。

「いくらますたーと言えども、箒との物理的距離が有ると難しいでしょ?」

「ま、まぁ、一応箒のエイドスは常に追ってるけど…」

そこ!ストーカーとか言うんじゃない!

「この町の、神社から学校までの区画の数百匹は全部私の眷族」

「え?でもさっきは30匹って言わなかったかい?」

「それはこの近くに居て直ぐに集まれる数だよ」

わぁお…即応で30かよ…

「ちなみに神社周辺は数十匹単位で護衛してるよ」

マジかよ。

メティス・サイトを使い、神社周辺を視ると、確かに小動物のエイドスがかなりの密度でみられる。

「猫と戯れたいなら家に帰った方がいいっぽいけど?」

「うーん…今更どの面下げてって感じだね…」

違い無い…

「で、どうするの?私の眷族集めようか?」

「んーそれはまた今度。今日はいっ君とイチャイチャしようかな~」

「媚薬持ち出したら反撃しますからね?
魔法で感度倍増させてくすぐりますからね?」

「はっはっはっはー!ナンノコトカナー?」

じゃぁそのポケットの中身は何だよ?

「右のポケットの小瓶」

「ギクゥ!?」

自分で言うなや自分で。

「橙」

「OK、ますたー」

橙が束さんのポケットから媚薬の小瓶を取り出す。

「え!?ちぇーちゃん今のどうやったの!?」

「橙はそこそこ高位の怪異だし、物質透過は余裕らしいよ。
つー訳で橙、それ束さんによろしく」

束さんに向けて右手を向け…

「ペトリフィカス・トタルス!」

「え!?ちょ!?体が!?」

ペトリフィカス・トタルスとはハリーポッターに登場する石化呪文だ。

まぁ、今のは全身に硬化魔法を掛けて拘束したんだけどね。

「さぁー、観念してください」

動けない束さんの背後に、橙が歩み寄る。

媚薬の小瓶の蓋を開け…

「ゴメンね束、ますたーには逆らえないから」

束さんの口に流し込んだ。

どーせナノマシンで分解されるだろうけど、まぁ、ちょっとした意趣返しだ。

この前水筒に媚薬仕込まれたからな!

「フィニート」

"呪文よ終われ"と言って拘束を解く。

「ふふ…ふふ…ふふふふ…」

な、なんだ!?

「私に媚薬を飲ませたって事はバッチコイって事だよね!?」

「えぇ…?」

いやぁ…この前の仕返しのつもりだったんだが…

「さぁ!ベッドへGOだよいっ君!春休み中は毎日愛を育もうじゃないか!」

ガタン!と席を立った束さんが、テーブルのこちら側に来た。

「さぁさぁ!」

ハイテンションな束さんは、玄関のドアが開いた音には、気付かなかったようだ。

ゴスッ‼

「も"っ!?」

「春休み中、一夏とどうすると?姉さん?」

束さんの後ろには、鞘に入った刀を振り下ろした、箒が居た。 

 

第七十二話

ゴスッ‼

「も"っ!?」

「春休み中、一夏とどうすると?姉さん?」

束さんの後ろで"イイ笑顔"を浮かべた箒が、束さんに尋ねた。

「い、いやぁ、そろそろいっ君のハジメテを貰おうかt…ぷぎゃ!?」

今度は鐺(こじり、日本刀の鞘の鯉口とは反対側の先端)でどついた。

うわ…容赦ねぇな…

「処女が何を言ってるんだ姉さん?」

「な!なぜそれを!?」

「姉さんの事だからハジメテは一夏とヤりたいと予想できる。
そもそも一夏には"眼"があるから姉さんが処女だと隠しても無駄だぞ」

いや、まぁ確かにそうではあるけど…

「ぐ、ぐぅ…!」

お、珍しく束さんが言い負かされてる。

「(私とて一夏を組伏せてあんな事やこんな事をしたいと言うのに…)
一夏」

「お、おぅ、なんだ?」

「さっさと姉さんの体内の薬を分解しろ」

「OK」

束さんのコア・エイドスプログラムを閲覧。

異物により興奮状態。

異物のエイドスを閲覧。

分解、キャスト。

「さ、これで薬は抜けた筈だ」

「ぶぅ~いっ君のいけずぅ~」

「はいはい」

「何か言ったか姉さん?」

今度は刀を1センチ抜いて、井形を浮かべながらだった。

「箒、落ち着け」

チン…と鯉口を鳴らし、日本刀をクローズした。

「お前が言うのなら…」

箒はソファーに腰を下ろした。

「一夏、今日予定は有るか?」

「特に無い。さっきまであったけど、今日は家でゴロゴロする」

「そうか…明後日はパーティーだから忘れるなよ?」

「わかってるさ」

俺達の俺達による俺達の為の卒業パーティーだからな。

「あ…」

「どうしたのいっ君?」

「パーティーの材料買わねぇと」

結局パーティーの会場はここ、織斑家である。

当然ながら俺が料理を作るので、材料が必要なのだ。

仕込みがあるので明日では間に合わない。

「じゃぁ買い物行くかい?」

「うん。二人は?」

「いくよ」

「無論、私もな」

つー訳で買い物デートです。




「なぁ、おい」

「なんだ?」

「どうしたの?」

「手ぇ離してくんない?」

「「嫌」」

ちくせう…

束さんと箒に挟まれて、手を繋がれている。

しかも、格好が白のワンピース。

家を出た瞬間束さんに肩を叩かれ…

気付いたら服が変わっていた。

夏祭りでやられたヤツである。

しかも何が屈辱的かと言えば、この並びだと俺が年下に見えるって事だ…!

『男でその身長だともっと年下に見えるよ?』

『そういう話じゃねぇんだよ橙』

『いいじゃん。涼しいでしょ?』

『はぁ!?下半身の防御力0じゃねぇかこの格好!』

『アホ見たいに魔法障壁張ってて何言ってんの?』

『…………………』

『ま、諦めなよ』

「はぁ…」

「諦めろ、一夏」

何故わかったし?

「稲荷が教えてくれた。お前と稲荷のパスは繋がったままだからな」

『忘れてたんですか?酷いですよ一夏様』

『はいはい、忘れてないよ、稲荷』

『ならいいです』

「ぶぅー!束さんだけ仲間外れ?」

「まぁまぁ、落ち着け姉さん」

「ま、別にいいけどね」

あ、いいんだ…

そんなとりとめの無い事を話していると、スーパーに着いた。

「何を作るんだ?」

「軽食とスイーツだな。だから…とりあえずフルーツとホットケーキミックスと生クリームとチョコレート。
あと…パスタとかいる?」

「ふむ…暦さんや火燐さんはそれなりに食べると思うが、どうだろうか?」

「そうだな…じゃぁ、一応作ろう。余ったら俺が食うか」

箒と相談していると、束さんに肩を叩かれた。

「ねぇいっ君、箒ちゃん、ちぇーちゃんといーちゃんに話があるんだけどいいかい?」

橙と稲荷に?

「箒、いいか?」

「別に構わないが…」

「じゃぁちょっと来て」

認識阻害、キャスト。

『橙、稲荷、行ってこい』

ゆらりと空気から溶け出た二人と束さんは人混みに消えて行った。






俺は、この時の判断を後々後悔する事になるのだった。

約三時間後くらいに…
 

 

第七十三話

買い物から帰って来て、昼食を取り、三人でまったりしていた。

束さんはテーブルでコーヒーを、箒はソファーにすわり、俺は箒の膝の上だ。

しかし、その平穏は一瞬で破られた。

「さぁ!ちぇーちゃん!いーちゃん!今だ!」

『了解、束』

『わかったよおねーちゃん』

「「え?」」

橙と稲荷がこちらへ向かって来て……

「「うわぁ!?」」

side out













む…?どうなったのだ?

ピコピコ…

「ん?」

ピコピコ…

な…な、な!

私は絶句した!

何故なら、そこに猫耳の一夏が居たからだ!

「う…?にゃぅ?」

「はうぁ!?」

変な声を上げた姉さんは放置だ。

「お、おい一夏?」

「にー?箒?」

振り向いた一夏は不思議そうな顔をした。

「ほーき、みみついてる」

耳?

頭に手をやると、たしかに何かがあった。

「一夏、お前にも付いてるぞ」

「にゃ?……ほんとだ…」

猫耳の一夏……アリだ!

一夏の頭を撫でてやると、今までに無いくらい気持ち良さそうな声を上げる。

「にー…」

こ、こ、これは…!

ちょっとした悪戯心が芽生え、一夏の顎を擽ってやると…

「あ…にゃぁ…ほーきぃ…」

ん…?腰の辺りに違和感が…

そう思って少し腰を浮かすと、案の定尻尾があった。

狐の尻尾である。

「…………」

一夏にも有るのではないだろうか?

そう思った私は一夏の脇を持って抱えあげ、一夏を腹這いにして膝の上に載せた。

すると一夏のワンピースの裾からスルリと尻尾が出てきた。

………………

きゅっ!

「にゃあぁぁぁぁん…!」

尻尾を握ると、一夏が喘ぎ声を上げた。

しかも涙目でこちらを睨んで来る。

「ああ…すまなかった」

「ほーきのしっぽもふもふさせてくれたらゆるす」

「ほら」

一夏の目の前に尻尾をやると、子供のように笑った。

「もふもふだぁ!」

一夏が私のしっぽを弄っている間、頭を撫でてやる。

時々可愛い声を上げたりする。

凄く、襲いたい。

「ね、ねぇ箒ちゃん?」

「なんですか姉さん?」

「私も撫でていい?」

「………気を付けてくださいね」

姉さんが一夏の顎を撫で…

「にゃぁぁぁ…たばねさん?」

「はあぁん!?」

姉さんは話を押さえてテーブルへ。

ティッシュを鼻に詰め込んでいるようだ。

気を付けてと言ったのだがなぁ…

一夏の尻尾を優しく撫でると、時々体を震わせる。

そして少し強めに握ると…

「やぁー…つよくしちゃやぁー…」

「ふふふ…そんな顔をするお前が悪いのだぞ?」

「やぁー…しっぽやぁー」

「はいはい」

一夏の目の前で尻尾を振ると、それを掴もうと手を伸ばす。

そこで尻尾を引くと一生懸命手を伸ばすのが癒される。

「やぁー…いぢわるしないでぇ…」

「ふふ…ふふ…誘ってるのか?誘ってるんだな?」

その後、一夏の服を剥いて………



















織斑家 20:17

「おい…貴様等…よくも一夏を汚してくれたな!」

帰って来た千冬さんに、姉さんと二人揃ってアイアンクローされる事になった……


裸で…。
 
 

 
後書き
この時のエロシーンは番外編として投稿します。 

 

第七十四話

「にぁぁぁぁぁぁぁ…………」

えーと…昨日は確か…

あぁ…そうだ…二人に搾り取られて倒れたのか…

頭を触るとまだ耳がある。

「橙、そろそろ離れていいんじゃないのか?」

『それもそうだね』

胸の辺りから光球が出て来て、やがて人の形を取った。

?……いつもより橙の輪郭が薄いような?

「束さんと箒は?」

「昨日帰って来た千冬にボロボロにされてた」

「あっそ……………ん!?」

姉さん!?

「姉さん帰って来てんの!?二三日家開けるって言ってたのに!?」

「千冬曰く嫌な予感がしたんだって」

Oh…

「ヤベェ…姉さんに殺される…!」

「大丈夫だと思うよ?だからまぁ…早めに下りたら?」

「そうだな…悪い事は早く済ませるに限る…」

そう思い、服を着て部屋から出る。

そして階段を降りると…

「うわぁ…」

リビングに、下着姿でボロボロになった束さんと箒が転がされていた。

二人の傍らにしゃがんで、揺すってみる。

「おーい?二人とも生きてる?」

「当たり前だろう。死なない程度に殺したからな」

……………………

背中を冷たい汗が流れた。

ガシッと襟を捕まれた。

そのまま猫みたいにぷらーんと持ち上げられた。

「みゃおぉぉん…」

姉さん…その笑顔は恫喝の笑顔だよ…

「安心しろ。お前が無実…襲われた側なのは知っている」

ホッ…

「だがまぁ…一発くらい殴らせろ!」

「うにゃ!?」

レバー…!?

その後ポイッとソファーに投げられた。

「ふぅ…スッキリした…。
一夏、責任は取れよ。では出てくる」

そう言って玄関から出ていった。

「…………」

取り敢えず……箒をモフろう。

あ、その前に…

二人の下腹部に手を当て…

分解、キャスト。

え?何を分解したかって?俺の遺伝子情報ですが何か?

だって責任取れないし。

おい今ゲスって言ったヤツ出てこいヘロンの牢獄で発狂させてやっから。

後は…換気だな。

あー…リビングでヤルんじゃなかった…

窓を開け、魔法も使って空気を入れ換える。

さて…やる事やったし…

「さて、昨日散々搾られたからな。モフってやるぜ!」

箒の尻尾は撫で心地はサラサラしてて、掴むとモフっとしている。

「モフモフ~!」

うん!気持ちいいな。

あぁ~幸せ~

あと、時々『んぅ…』とか言うのが可愛い。

狐耳をふにふにすると、気持ち良さそうに笑みを浮かべる。

尻尾をギュッと抱きしめると柔らかい反発がある…抱き枕にしたい…

よし、寝るか。

side out









side Tabane

「こ、これは…!」

ちーちゃんにお仕置き(ガチ)された後、目が覚めるとそこはヘヴンだった!

あ、いや、ヘヴンだけど死んでないよ?

束さんは不死身なのだぁ!

…………隣に本物の不死身が居るから止めとこう。

それよりも!なんと猫耳いっ君が狐耳箒ちゃんの尻尾を抱き締めて寝てるじゃないか!

「これだけで百年は戦えるよちーちゃん…!」

ぷにぷにっといっ君の頬っぺたをつつく。

「ん…にゃあ……」

うっ…ふぅ…

やばいよ賢者になれるよ…

今なら世界を敵に回しても勝てる気がするよ…

さて…次は…

箒ちゃんの耳をふにふにしてみる。

「ん…ん…」

ぐっ…ふぅ…

賢者を通り越して神になれそう…

んー…次は…

ふと、二人の唇に目が行った。

そーっと触ると…

「「ふぁ…んぁ…」」

ヤ バ イ !

本当にやばいよ鼻から愛が溢れそうだよ…!

パクっ

ん?ぱくっ?

いっ君の方に差し出した指先に違和感が…

………………………………

指先を見たい! けど見たらイケナイ気がする…!

だけど!ここで見るのが束さんくおりちー!

そーっと、視線を下ろす…

「……………」

あ、もうダメかも。

だっていっ君が私の人差し指をちゅぱちゅぱ舐めてるんだもん…

そうだ、ちーちゃんにも見せてあげよう。

IS-0001-INNOCENT起動!カメラオン!

いっ君の顔をアップで写す。

ニュルッと指を抜く。

刀印を組んで…

再びいっ君の口元へ。

ぱくっ!

お、おぉぉぉぉ!? 今のちゃんと撮れてるよね!?

いっ君が吸い付いている指を少しだけ押し込み、舌を挟む。

「ふぁ…ぁ…」

にゅるにゅる…

「ん…んぁぁ…」

そ、そんな声聞いたら、聞いたら…

束さん昂っちゃうよ!?

「いっ君…エロすぎ…」

あー…もうダメ…

「寝てるいっ君を無理矢理っていうのもなかなかに乙かもしれ…」

シャキーン!

………………………

私の首に、尖った物が押し付けられた。

「姉さん。そこまでだ」

揃った五指と鋭い爪…

箒ちゃんはいっ君に尻尾を抱かせたまま、器用に起き上がっていた。

「いつから起きてたの?」

「姉さんが私の唇を触り始めた位から」

「あちゃー…起こしちゃったかぁ…」

箒ちゃんの爪が、首から離れた。

「で、姉さん、これ以上は不味いと思うのだが…?」

「うーん…それもそうだね」

いっ君の口から指を抜く。

「私とて我慢しているのだ。年上である姉さんも我慢すべきだろう」

そうだよねぇ…そう言われたら…ん?

「箒ちゃんもシたいの?」

「当たり前だろう」

うーわぁ…素面で言っちゃったよこの子…

「寝ている一夏の口に指を突っ込んでいる姉さんの言えた事か?」

「なんで考えてる事わかったの?」

「貴方の妹だぞ?」

あ…やばい、今のドキッときちゃった…

「うん。箒ちゃんはやっぱりイケメンだね。
女子の人気もちーちゃんくらい有るんじゃないかな?」

「私は百合ではない。私の全てはこいつの物だ」

そう言いながらいっ君の頭を撫でる姿は、母親のようにも見えた。

「おぉ…これがバブみ…」

イケメン要素と母性…箒ちゃんって最強なんじゃないかなぁ?

「誰が母親かだれが」

「今の箒ちゃんの慈愛に満ちた顔を見たら誰でもそう思うよ?」

「そうか…だが私はこいつの母にはなれない。
こいつにとっての母は、きっと千冬さんだからな…」

それは…そうだね…

「私達の王子様の母親は戦女神かぁ…
死にそうにないね」

「違いない」

「んゆぅ…にゃぁぁ…?」

あれ?

「一夏、起きたか?」

「ほーき?たばねさん?」

どうやらいっ君を起こしちゃったみたいだ。

side out











話し声が聞こえて目をあけると、箒と束さんが話していた。

「一夏、起きたか?」

「箒?束さん?」

「あ、起こしちゃってごめんねいっ君」

「や、別にいいよ」

時計を見ると11時半。

そう言えば朝を食べてない。

それどころか昨日は晩御飯も食べてない…

「メシにしよう」

「ん、わかった」

すると箒が俺の頭に手を伸ばした。

ん?あれ?まだ耳がある?

「橙?」

『ごめん、ますたー。それあと二日くらい治らないみたい」

…………

「な「ナイス!ちぇーちゃん!」

なんだってー、と言おうとした上に、束さんのセリフが重なった。

「あと二日もケモミミの二人を堪能できるなんて!」

「束さん!?明日パーティーあるんだよ!?」

「そうだぞ姉さん!」

「あー、そこら辺はホラ、兎印のお薬を飲んだって設定で…」

あり得なく無いから何とも言えんなぁ…

「仕方あるまい…それで行くか」

以外にも箒は納得していた。

「俺はいいが…箒、いいのか?」

「ああ、それにこっちの方がウケもいいかもしれんぞ?」

「べつにそんなのは求めてないんだけどなぁ…」

斯くして、俺達はケモミミ状態のまま、パーティーを迎える事となった。

side out









同日夜 某所の居酒屋

そこではブリュンヒルデが後輩に愚痴を垂れ流していた。

「ひっく…」

「もぉ~!先輩飲み過ぎですよぉ!」

「うるしゃい!なんれ私より弟がしゃきに大人になっひぇるんだ!」

「大人…ですか…?」

「きのう…かえったら、おとーとがかのじょとはだかでねてた…」

「ふぇ…///」

「私まだしょじょなのに…しょじょなのに!」

「貴女はなんてカミングアウトをしてるんですか!?
すみませーん!お水くださーい!」

後輩は店員が持ってきた水を急いで飲ませたが、時既に遅し。

「ちくしょー!ほーきに至ってはおとといそつぎょーしたばっかりだろう!」

「あれ?箒ちゃんって…」

後輩は、ブリュンヒルデが以前話していた妹分の事を思い出した。

ついでに、ブリュンヒルデの弟の年齢も…

「まだ小学生じゃないですか!?
不純異性交遊どころの話じゃありませんよ!?」

「しかもあいつのはなしをきくにほーきがしゅはん…
どうしてわたしはしょうがくせいにぬかれてるんだ!」

「え、えーと、先輩なら直ぐにいい人見つかりますよ」

「ふっ…」

「先輩…?」

ブリュンヒルデはゴン!と音を発て、テーブルに突っ伏した。

「こんなおんなにおとこができるわけないよな…
かじできないし、かわいくないし…
おとこよりつよいし…
それにくらべていちかときたら…
かじはかんぺき、しかもかわいい…
そりゃぁ…おんなのひとりやふたり…しまいどんもできるよな…」

後輩は眉間を抑え、如何にも『聞きたくない事を聞いてしまった』顔をした。

「えーと…先輩。一夏くんってもしかして二股…」

「しかもしまいどんときた…」

「えぇぇ…」

後輩は、訳あってブリュンヒルデの弟の話を、ブリュンヒルデ以外の者から聞く機会があった。

「にじゅうよんの女とじゅうにのロリがあいてだ…」

「うわぁ…ゲスですね…」

次の瞬間。

「わたしのおとうとをぶじょくするにゃぁぁぁぁ!」

ガバッ!と起き上がったブリュンヒルデが叫んだ。

「いちかはげすじゃない!ちゃんとふたりともあいせるかいしょうがある!」

後輩は思った。

「(もうこの人弟と結婚すればいいのに)」

急に動いて酔ったのか、またもや机に突っ伏すブリュンヒルデ。

「たばねはいいよな…いちかみたいなおとこをつかまえられて…」

「先輩、今なんて言いました…?タバネ…?
もしかして一夏くんの彼女って…」

「おまえもよくしっているしのののたばねとそのいもーとだが…?」

「え?じゃぁ昨日の事って…」

「じご…さんぴー…」

「うわぁ///…うわぁ///」

後輩は顔を酔い以外で真っ赤にした。

「あ、でも一夏くんって女の子みたいですから百合に見えそうですね」

「ゆり?ないない。
あれはケダモノだよ…
それに…あいつのにくたいはすごいからなぁ…
ぬげばおとこだ」

ブリュンヒルデはごそごそとポケットからスマホ(Made by ST&OI)を取り出した。

フォトアプリを呼び出し、後輩に突きつける。

そこに表示されていたのは…

「ひゃぁっ!?」

「うぶだなぁ…おまえも…」

「え!いや!だってこれ…」

風呂上がり、タオル一枚の一夏である。

「どうだ?わたしのおとーとは?」

「わぁ…すごい…腹筋バキバキじゃないですか…」

「……きんにくふぇちかおまえ」

「ちっちがいますよぅ…」

「ちなみに…したもすごいらしいぞ?」

「した?」

ブリュンヒルデは親指を人差し指と中指に突っ込むジェスチャーを見せた。

「さくばんきいたかぎりは…すごいらしい」

「はわわわわわわ…」

「あーあ…いっそいちかにわたしのはじめてくれてやろうかな…」

「せんぱい…流石にそれはどうかと…」

「わたしよりつよいおとこなぞ…いちかいがいいまい。
あいつなら…わたしをおして…ちからでくっぷくさせられる」

「まっさかぁ…そんなわけないじゃないですか先輩…先輩?」

「すぅすぅ…」

「ええぇぇぇぇ………?」

ブリュンヒルデは最後の最後に爆弾を残して寝落ちした。

後輩は疑問に思いながらも、ブリュンヒルデと寮に帰った。

「一夏くんって…何者なんでだろう…?」
 

 

第七十五話

10:17

「いらっしゃーい」

「一夏…!その格好どうしたのよ!?」

「天災兎印のヤバイ薬」

「OK把握」

「お前以外は全員来てるぞ、鈴」

パーティー当日。

昨晩に引き続き搾られ、少し怠い中、俺はパーティーに参加するメンバーを出迎えていた。

玄関で出迎えた鈴を連れて、リビングに行こうとした時…

きゅっ!

「にゃぁぁん!?」

「あ、ごめん。そんなに敏感だとは思わなかったわ…」

鈴に尻尾を捕まれた。

「さっき千石にもやられたんだが?
なに?女子って猫の尻尾好きなの?」

「(猫じゃなくてアンタの尻尾がいいのよ)」

「まぁ、お察しの通り尻尾と耳は少し敏感でな。
出来れば触らないで欲しい」

「善処するわ」

リビングに入ると、皆が話していた。

束さんと育さんが話している光景は超絶レアだと思う。

弾と暦さんは隅で猥談している。

ファイヤーシスターズと千石と蘭ちゃんは箒の尻尾をモフモフしていた。

「カオスだろ?」

「ええ、カオスね。
箒も憑依させてるのかしら?」

何故わかったしー…

「憑依?何の話だ?天災兎印のヤバイ薬だぞ?」

「そうだったわね。でも狐と猫って偶然にも程があるわねー」

「それもそうだねー(棒)」

「今ので解ったわよ…」

「おまえみたいにかんのいいがきはきらいだよー(棒)」

「私より小さいくせに何言ってるのよ?」

ぐっはぁ…!

「お前…俺が気にしていて、尚且つ一切触れなかった事を言及するんじゃない…!」

「散々箒の膝の上でイチャついておいて本当に今更ね」

「るせっ!」

すると皆もこちらに気付いたようだ。

「あ!鈴ちゃん!こっちおいでよ!一夏君と箒ちゃんを愛でようよ!」

と千石。

「おい一夏!お前の好みってグラマスでいいんだよな?」

と弾。

しかし弾は女子勢の視線に縮こまってしまった。

「一夏の好みは貧乳よ」

「「「「「「「「「「は!?」」」」」」」」」」

俺も含めて鈴を除く全員の声が一致した。

「あら?違うのかしら?合体したいほど好きなんでしょ?」

今ので俺、箒、束さんは橙の事を指していると理解できた。

しかし…

「おい一夏テメェ合体とはどういう意味だ!?」

「箒ちゃんがいながら何してるんだ一夏君?」

弾と火燐さんに詰め寄られた。

「あら、冗談よ?」

鈴の一言で退いてくれる、と思いきや…

「火燐さん、お願いします」

「わかってるぜ弾君」

火燐さんに後ろを取られ、抱き抱えられ、直ぐに俺を弾に渡した。

「みゃー……なんだよ」

「箒ちゃんをモフる訳にもいかないしな。
という訳で少し耳とか触らせろ」

「ちょっとだけだぞ」

弾の膝の上にのせられ、耳や尻尾を弄られた。

「あー、僕もいいかい?」

「ん?暦さん?いいよ」

「じゃ、どうぞ暦さん」

今度は脇に手を入れられ、暦さんの膝の上に乗せられた。

「へー、なるほど。こうなってるのか…。
耳さわるよ」

「優しくして下さいね?」

「お、おう」

すると突然千石がこっちを向き…

「暦×一夏…いや一夏×暦もアリ…?」

「おいそこの。不穏な事を言うな」

「あれ?聞こえてた?」

「そりゃ耳が四つ有るからな。
つーか俺を元にBLを書くな!」

「いや…やっぱり弾×一夏からの暦×一夏のNTR…」

「マジでやめろよ!弾と暦さんも引いてるじゃねーか!」

「そうかな?一夏君相手なら別にいいんじゃないかな?
見た目も声も身長も匂いもほぼ女の子だし」

「身長までは認めるが"匂い"ってなんだよ!?」

「んー…メスの匂い?」

「やめろやめろ!こっちはR18タグついてねぇんだぞ!」

「タグ?何言ってるの?電波でも拾った?」

と千石のツッコミが入った。

「撫子、お前が一夏を題材にした漫画を描くのは自由だが……
一夏は私と姉さんの物だからな」

刹那、空気が凍りついた。

そして今度こそ本気で首を掴まれた。

「にゃおん…」

「説明してもらおうじゃねーの一夏君」

ぷらーんと持上げられ、火燐さんに詰問される。

「どうもこうも…気付けば外濠も埋められ、城内で反乱が起こった次第というか…」

そこで箒から援護射撃…

「鈴は既に知っている事だが、そもそも一夏と付き合っていたのは姉さんだ。
私がそこに割り込んだような物だな」

と思ったら誤射した挙げ句俺にダメージ…

「えー?だって愛しい彼氏と妹と一緒に居れたら幸せじゃないか。
私は別に箒ちゃんとならいっ君を共有してもいいかなーって」

束さんから何とも言えない弁明が入った。

「という次第でいつの間にか逃げ道無くなってました。
まぁ、全員納得してるので…」

無言。

静寂という言葉が似合うような無音の空間が出来上がった。

「私達が納得し満足しているんだ。
言い方は悪いが周りにとやかく言われたくはない」

結局、最後の箒のセリフが決め手となり、この話は終いとなった。











11:53

「そろそろメシか…」

丁度ババ抜きで一抜けして時計を見ると、そろそろ昼食だ。

「ふむ、そうだな…上がりだ」

箒が二位だ。

この後は育さんに俺、蘭ちゃんに箒が賭けている。

え?束さん?

束さんはポーカーフェイスできないし。

「あ、これで上がりです」

三位は蘭ちゃん。

グッバイ俺の480円。

結局ババを最後まで持っていたのは弾だった。

「おーい、パーティー用に料理作ってあるから少し待っとけ」

「本当に?一夏君の手作り?」

と月日に聞かれた。

「おう」

「やたっ!一夏君の料理が食べられる!」

「ん?月日ちゃんは一夏君の料理を食べた事があるのかよ?」

「うん。調理実習の時にね」

暦さんの問に月日が答えた通り、調理実習の時に月日、撫子、弾、鈴には手料理を振る舞った事がある。

「んじゃ、持ってくるぜ」

箒と束さんを連れて席を立ち、台所からパーティプレートを持ってくる。

数度往復し、テーブルに全ての料理を出し切った。

「おお!旨そうだぜ!」

「ま、負けた…?」

テーブルに置かれた料理を見て、火燐さんは普通に喜んでくれたが、育さんは少し凹んでいた。

「まー、奥さん…箒のお母さんに散々仕込まれましたからね」

だから、俺と箒の料理の味付けは似ているのだ。

束さんと姉さん?

二人はまぁ、製作(機械系)と戦闘(タイマン)にスキルポイント全振りしてるから…

「くぅ~!美少女と同居!しかも姉も超美人とかなんて羨ましい!」

「もう神社から出てここで暮らしてるけどな。
それに美少女って事なら蘭ちゃんも可愛だろ」

え?ジゴロ? 大丈夫。俺は蘭ちゃんに好かれてないから。

すると弾がおもむろに立ち上がり…

「一夏テメェ何家の妹口説いてんだオラァ!」

殴り掛かって来た。

が、しかし。

「重心移動が成ってない。体の捻りが無い。
その上見え見え過ぎる。
つか美少女と同居なら暦さんもだろうが」

向かってきた弾をソファーに投げる。

獣化してほんの少し上がった筋力と重心移動で弾を軽々と投げる。

「ふぎゃ!?」

潰された蛙みたいな声を上げて弾が落下した。

ちゃんとソファーの上に落ちたから無傷だ。

「さー、あのアホは放っといて食おうか」

いただきます、と唱和し、皆が料理に口をつけた。

「………どうだ?結構上手く出来たと思うんだが」

「一夏君」

「何ですか暦さん?」

「君、料理屋開けるよ」

「うん…暦の言うとおりね…。
ただ女としては少し悔しいけどね」

どうやら育さんは暦さんが俺の料理を褒めた事を気にしてるらしい。

「大丈夫ですよ。俺はホモじゃないので貴女の暦さんを取ったり何てしませんよ?」

「「「「「な!?」」」」」

暦さん、育さん、火燐さん、月日さん、千石が固まった。

「ち、ちが!私はべつに暦の事なんて…」

「兄は妹の物だろ兄ちゃん!」

「そーだそーだ!」

「暦お兄ちゃんは私の物だよ!」

ほほーう? 面白くなってきたじゃん?

「なるほど…火燐さんと月日は重度のブラコン、育さんと千石が暦さんに恋心か…
ふむ、千石、ここは自分の恋を漫画化してはどうだろうか?」

千石が原作よりもはっきり意思表示出来るようになっている。

うん。これでスネークもメデューサも回避確定だな。

『ますたー、それフラグ』

うっせ。

「さーて、じゃぁここは暦さんに恋心を寄せる四人の話を肴にしようじゃないか。
丁度ここに姉さんが買い込んでたノンアルコールビールもあるしな」








二時間後

暦さんの背後に周り、小声で囁く。

「さぁ…どうする暦さん?
選んじゃうの?誰かを取るの…?」

そうして天使の声色で悪魔の選択を提示する。

「それとも全員愛しちゃう?」

あの後、関係する者…暦さん、育さん、火燐さん、月日、千石にちょっとしたおまじないを掛けて話を聞かせてもらった。

「みーんな、暦さんの事が好きなんだよ…?
さぁ…どうする?誰かを選んで誰かを傷つけて"誠実"に生きちゃう?
それとも、皆が笑顔になれる不誠実な生き方を選んじゃう…?」

弾、鈴、蘭ちゃんは無関係なのでニヤニヤしながらこちらを見ている。

「さぁ?どうしちゃうんですか?暦さん」

『正しさ』に従って生きてきた暦さんには少し意地の悪い問だったかな?

「ぼ、ぼ、僕…は…ぼ…く…は…」

うわぁ…そのうちディルディル言いそう…

ヒョイ、と脇に手を入れられ、持上げられた。

「みゃおー…なんだよ箒。今良い所だったのに…」

俺を持ち上げたのは箒だった。

「そこら辺にしてやれ…
暦さん。焦る事は無い。落ち行いて、その選択をすればいい。
まぁ、暦さんには是非とも男としての器量を見せて欲しい所ではあるがな」

「恨むぜ、一夏君」

「おや、俺は選択を与えただけですよ?」

「君はまるでファルファタールだ」

「だれが破滅の悪女か。
アンタを誘惑してねぇし、そも俺は男だ」

「ふむ、違いない。これまでその美貌で幾多の男を惚れさせ、挙げ句絶望させた男だからな」

「ブルータス…」

「おや、私は事実を述べただけだぞ?」

『それに、精神干渉魔法を使うのもやり過ぎだ』

は?

突然、頭の中に箒の声が響いた。

『稲荷を通してチャンネルを開いただけだ』

また器用な事を…

そして箒が椅子に座り、必然的に俺はその膝の上に。

あ、箒が俺の前に尻尾出してくれた。

モフモフ~!

「育さん達も、そう焦らずアピールしていくと良いのではないだろうか?
あぁ、その場合撫子が不利だな…」

「大丈夫!その分一回一回を濃密にするから!」

なら、良いのかな?

それにしてもやっぱり箒の尻尾はいいなぁ…

「あ、暦お兄ちゃんは好きなシチュエーションある?
あるなら私が書いてあげちゃうよ?」

「「「アウト!」」」

他の三人が立ち上がり千石を連れて廊下に出た。

「えっと…放っといて大丈夫なのかな?」

と暦さんが不安そうに言う。

「んー…」

話の内容を聞く限り暦さん争奪戦のルール制定の話し合いだな…

「放っといて大丈夫だよ。
今は暦さんをどう落とすか話し合ってるだけだから」

「僕の周りが着々と埋められているだと…!?」

「諦めなよ。暦さんはもう恋の罠に囚われてるんだから」

「怖いこと言わないでくれよ…」

怖いこと?いやいや、貴方はこれからもっと怖い物、者、事と対峙する事になる。

これくらいで音を上げて貰っては困るのだ。

「暦さん。劇的な人生を送る人と送らない人の差は、その人に主人公の素質があるかどうかだ。
暦さんは少なくともソレを持っているんだ。
だから、暦さんの物語を紡いでいってくれ。
取り敢えず、この恋をどうするかだね」





暦さんはこの世界の主人公だ。

俺のような偽物とは違う、本物の主人公。

だけど、俺は、彼から責任を一つ奪った。

奪ってしまったのだ。

後悔はない。

だって、それでその人は救われたのだから。

だから、見落としてしまっていた。

その責任は、それだけでは果たせないという事を…

side out













4月某日

「戦場ヶ原先輩…」

なぜ、なぜ、なぜ!

「なぜ、私じゃないんだ…!」

視線の先には、小さな少女と戯れる、愛しいあの人…!

「アイツが…アイツが私の戦場ヶ原先輩を…!」

アイツサエ…居ナケレバ…

ソコニ居たのはワタシダッタノニ…!
 
 

 
後書き
撫子の一夏と暦に対する感情。
一夏へはペットやぬいぐるみに対する「好き」。
暦には明確な恋愛感情を以てして「好き」となります。 

 

第七十六話

side???

今日から中学生。

親友がやる新入生代表の言葉を聴く為だけに眠い入学式を耐える。

「『いじょうで、しんにゅうせいだいひょうのことばとさせていただきます』」

壇上の親友は、舌足らずな感じで新入生代表の言葉を締め括った。

どこからどう見ても背伸びしている小学生だ。

小さな体躯、後ろで束ねた長髪、くりくりした可愛らしい瞳…

どう見てもロリだがアレでも自分と同い年の男、それも格闘家にタイマンで勝てる漢なのである。

その後、教室に案内され、自己紹介やオリエンテーションがあり、放課後となった。

親友と、その恋人と親友の愛人(仮)に呼ばれ、共に下校しようとした時。

「君!少し待ってくれ!」

後ろから声が聞こえ、振り向くと、見知らぬ男子が親友の手を握っていた。

「?」

親友がコテンと首を傾げる。

こういった仕草の一つ一つが女っぽくて、愛らしい。

すると、その男子生徒は思いもよらぬ事を叫んだ。

「君に惚れた!俺の女になれ!」

俺と親友の恋人と親友の愛人(仮)は、男子生徒の言った事の意味がわからなかった。

親友は、ふるふると体を震わせ…

「おれはおとこだばかやろー‼」

男子生徒の手を振りほどき、リバーブローをかまして、踵を返した。

「かえるぞ!箒!弾!鈴!」

お、おう…




中学校生活二日目、SHR前。

「君が男でも構わない!付き合ってくれ!」

「ホモはかえれ!」

親友のアッパーによって、ホモは撃沈した。



身体測定

今日は全学年合同で身体測定だ。

この学校は体育館が2つあり、午前は第一で身長体重視力を、第二でシャトルランと50メートル走を除くスポーツテスト、運動場で50メートル走、午後に両体育館でシャトルランだ。

更衣室へ向かおうと、教室を出ようとした時…

「「弾」」

女子二名のシンクロした声に、振り向いた。

「どうしたんだ二人共?」

箒ちゃんと鈴、親友の恋人と愛人(仮)だ。

箒ちゃんは親友にぞっこんラブだし、鈴も親友に好意を寄せている(気付いてないのは本人達だけである)。

「弾、一夏を頼む。
一夏に何かあれば…」

すぅっと箒ちゃんの目が薄くなり、プレッシャーが放たれる。

「あの御手洗って奴が一夏に何かしようとしたら手足折ってでも止めなさいよ」

こちらはプレッシャーこそ無いが、随分過激だ。

「お、おぅ」






箒ちゃんと鈴に引き留められ、少し遅れて更衣室に入ると、バン! と大きな音が聞こえた。

何事かと思い、中に入ると…

「なぁ…いいだろ…?」

「ふぇぇ…」

壁ドンである。

少女マンガでお馴染み、女子がして欲しい行為ランキングの上位である"ソレ"。

問題があるとすれば、ここが男子更衣室であると言うこと。

そして…

「テメェェェッ!!!
俺の一夏に何してんだオラァァァァァッ!!!」

壁ドンされているのがっ!『俺の親友』だと言うことだ!

右腕を引き絞り!スリーステップで現場へ急行!

加害者の頬を…!

「どおぉぉりゃぁぁぁぁっ!!!」

ぶん殴る…!

バキィッ! と気持ちのいい音がして、ホモが吹き飛んだ。

「はぁ…! はぁ…!」

ホモはぶっ倒れて、ピクピクと痙攣している。

「一夏!無事か!?」

ロッカーにもたれかかっている一夏の肩を揺らす。

「だん…?」

「大丈夫か!?何もされてないか!?」

「だぁぁん!」

涙声の一夏に抱き付かれる。

その体は、俺の胸の辺りまでしかないくらい小さい。

筋肉質なのに柔らかいその体を優しく抱きしめる。

「おー、よしよし怖かったな…」

頭を撫でてやると少し落ち着いたようだ。

「だん…。て…」

そう言いながら、俺から離れた。

「ん?」

一夏が、ホモを殴った拳を掴んだ。

ジンジンと痛む…ヒビでも入ったか…?

すると、その拳が白魚のように華奢な手のひらで包まれた。

「ありがとな、弾。
すぐに、なおしてやるよ」

何を? と思う暇もなく、拳の傷が癒えていた、時を戻したように、始めから無かったかのように…

まるで、魔法のように。

「一夏…?」

「みんなには、ひみつだからな」

「お、おぅ」

「ちなみに、箒はこのことしってるし、鈴もたぶんしってる」

へぇ…

「大丈夫、俺はお前の事怖がったりしないからよ」

「ん…ありがと」

その後俺達は素早く着替え、身体測定へ向かった。

ホモに関しては風紀委員と保健委員が保健室へ連れて行った。

「………………弾?」

「アンタ…まさか…」

「待て!誤解だ!」

不安そうな一夏を落ち着かせる為、手を繋いでいたら、女子に在らぬ疑いを掛けられてしまった。

「これには事情があんだよ」

「ではその事情とやらを話して貰おうか」

ソレについては構わないが…今の一夏を一人にするのはなぁ…あ、そうだ。

「おい、鈴。少し一夏を見とけ。
箒ちゃんに事情説明してくるからよ」

「はいはーい。いってらっさーい」

鈴に一夏を預け、箒ちゃんと体育館の隅へ向かう。

「何かあったのか?」

「御手洗の奴が一夏に迫ってな。
怯えてたから御手洗を殴ってきた」

「奴は?」

箒ちゃんから殺気が滲む。

その手は固く握られ、怒りに震えていた。

「風紀保健両委員が保健室に連行したよ」

「そうか…」

「済まない、さっき言われたばかりだと言うのに」

「私達が止めたせいでもある」

あぁ、そうだ、あの事を聞こう。

「なぁ箒ちゃん。
一夏って超能力者か何かか?」

箒ちゃんの眉が少しだけ動いた。

「何故そう思った?」

「さっき、奴を殴った拳を、アイツが治してくれた。
皆には秘密と言ってたけど、箒ちゃんと鈴は知ってるとも言っていた」

「………一夏が明かしたなら、いいか…。
弾、これから聞く事は他言無用だ言えば…わかるな?」

「勿論だ」

「一夏は魔法使いだ。
それも別世界から転生して来た存在だ…。
解りやすい例で言えば、この前のパーティーの時、私と一夏に耳と尻尾があったのは、姉さんの薬ではなく魔法で使い魔にした動物を憑依させていたからだ」

「は…?」

魔法使い…? 転生…?使い魔…?憑依…?

なんだそれ? ファンタジー以外で聞いたことないぞ。

「弾、中学に入ってからの、昨日今日の一夏、少しおかしくなかったか?」

そういえば…そうだ。

女と間違われても、直ぐに手を出すような奴じゃない。

それに、男に壁ドンされて泣く程ヤワでもない…

「一夏は、魔法で自らの精神を律して来た。
ここ数年、ずっとな」

魔法で精神を律する…?

それってつまり自分の心を縛っていたって事か…?

「だが、中学に上がって、魔法に頼らず自分を律しようとしているらしい」

「あぁ、少し待ってくれ、自分を律するって具体的にはどうしてたんだ?」

「精神干渉系情動抑制魔法アマノハゴロモ…感情を押さえる魔法を使っていた。
だが、今まで魔法で押さえていた分…今の一夏は自分の感情を御しきれていない。
アイツは、確かに私達よりも長く生きた経験を持っているが、それ故の弱さとてあるのだ」

「つまり今のアイツは小学生並みの感受性だと?」

「ああ、そうだ」

成る程…道理で冷静沈着なアイツらしくない訳だ…。

感情が揺れやすい中、いきなり自分より大きな相手に詰め寄られたらなぁ…

「魔法を使っている間なら、感情よりも理性が優先され、どんな状況も打破できるが、今の一夏は焦りや恐怖で容易く崩される」

「幼児退行を起こす程にか?」

「……ああ」

そうか…なら俺がすべき事は…

「OK、アイツが感情を御せるようになるまで、俺が一夏を守ろう。
アイツには、借りがある」

「頼んだぞ…弾」












「よう…はずかしいところみせたな…」

「一夏…? お前………あぁ…そういう事か…」

「うん、箒からきいたんだろ?」

戻った俺を待っていたのは、"いつも通り"の親友だった。

「まぁ、すこしむぼうだったな。
ちょっとずつなれていくから、そのときはたのむぜ、弾」

「おうよ」

その後の身体測定では、身長体重以外において、一夏は超ハイスペックチートな身体能力を見せた。

曰く、枷を外したとか…

聞くところによれば、一夏は常に魔法で重力二倍、低酸素状態の世界を作り、生活しているらしい。

俺なら逆の事をするだろう。

そうまでして鍛える理由は…きっと、箒ちゃんを守る為だろう。

「ふふ…」

守られてるのは、騎士の方か…

「どうしたんだ?」

「いや、なんでもねーよ。
さ、帰ろうぜ、一夏。
箒ちゃんと鈴呼んでこい」

「ん、わかった」

トコトコと二人の元へ駆けていく親友を見ながら、想った。

「強くなりてぇなぁ…」
 
 

 
後書き
一夏のセリフが平仮名多めなのは、子供っぽさを表したかったからです。 

 

第七十七話

「修学旅行?」

「うん。五泊六日でアメリカに行くんだ」

「へー…。やっぱり育さんと行くの?」

「まぁね。ただ羽川翼っていう天才と戦場ヶ原っていう病弱な子ともだよ」

「へぇ…ハーレムじゃん」

「いや、これが何というか。
僕と育と戦場ヶ原って子はなんか除け者扱いでさ。
羽川に引き取られたみたいな物なんだ」

「ああ、病弱っ子と教師を殴った不良か…」

「でさ、何かお土産の希望ある?」

「じゃぁ、ザ・ソース」

「?」

「世界一辛いソースだよ。
日本じゃ売ってないんだ」

「そんな物でいいのかい?」

「うん」

「わかった。買ってくるよ」

というのが数日前の会話である。





放課後、道場で稽古をした後の帰路。

四月も半ばで暖かいが、この時間はもう暗い。

さて、突拍子もない話題を振るが、『撲殺天使ドクロちゃん』というラノベを知っているだろうか?

え?知らない?

うん。ぶっちゃけ俺も概要しか知らん。

だがまぁ、簡単に言えばロリコンの主人公がロリ天使に撲殺されては蘇生するという内容だ。

先程までウィルバー・ナインを模して造ったバイク(ちゃんと変形するヨ!戦うヨ!)に乗っていた俺がどうしていきなりこんな話をしているかと言えば…

【頭蓋骨陥没/頸部切断】

【自己修復術式起動】

【魔法式ロード】

【コア・エイドスデータ バックアップよりリード】

【修復開始】



【完了】

対物障壁割られた挙げ句、正面から顔面ど真ん中をぶん殴られて頸が千切れたからだ。

障壁が破られた、っつー事はさっきの一撃は単純な物理的貫通力で対物ライフルを裕に越える。

「あー…、そっか、そっか…忘れてたよ」

ウィルバー・ナインを停め、降車。

後ろを向いた十数メートル先には…

「神原駿河……レイニー・デヴィル!」

雨合羽を着て、ケモノの腕を晒した異形。

『ひたぎクラブ』と『するがモンキー』。

この二つはセットで成り立つ物語だ。

前者が無ければ後者は起こらないのだ。

そして、俺は前者のメインとも言える目的…

『戦場ヶ原ひたぎからおもしかにを祓う』

を達成していた。

だが待って欲しい。

何故俺が殴られる?

俺とひたぎさんは恋仲ではないし、そのようなフラグも一切無い。

そもそも『するがモンキー』の発端は神原駿河の阿良々木暦への嫉妬心である。

暦さんがひたぎさんと無関係なのは三日前の口振りから確定だ。

だが、そんな事を考えている暇は本来なら無いのだ。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

この世の物とは思えぬ雄叫びと共に、レイニー・デヴィルが駆ける。

「ファランクス」

今度は破られる事は無かった。

ガクィン!という轟音と共に、その拳がファランクスに阻まれる。

「ウォォォォォ…!」

防がれ、激怒するレイニー・デヴィル。

「どうした物か…」

ガキンガキンとファランクスを殴り続けるレイニー・デヴィルだが、逐次展開され、情報障壁も兼ねるファランクスを破るのは不可能のようだ。

常時展開していたのは、精々アンチマテリアルライフルくらいしか防げない。

それ以上の強度を持たせると、別の魔法に差し支える。

まぁ、先の一撃は恐らく魔法的…情報的な強化もあったのだろう。

視れば、案の定レイニー・デヴィルには強固な情報強化が、拳には貫通力高の情報が付加されていた。

『ますたー、反撃しないの?』

無理だ。神原駿河を傷付ける訳にはいかん。

『登場人物だから?』

それもあるが、何よりもコイツの叔母が面倒極まりない。

奴ならオースの穴を抜ける方法を持ってる可能性がある。

あぁ、あと付け加えると、ひたぎさんに何されるかわからん。

『で、どうするの?』

レイニー・デヴィルが満足…いや、諦めるまで障壁を殴らせる他あるまい。

そうして、一分程ファランクスを殴り続けたレイニー・デヴィルは、突破不可能という事を悟ったのか、突如攻撃の手を止め、後退した。

「諦めた…のか?」

距離を取ったレイニー・デヴィルは俺を強く睨み付け…

反転し、闇夜に消えていった。

「…………………………」

あぁ、面倒だ。

面倒極まりない。







メティス・サイトで周囲を警戒しながら、なんとか家に帰り着く。

「どうした物か…」

彼女を殺す、腕を切り落とす、というのは却下だ。

あと原作の手は使えない。

そもそも俺が殴られる理由が原作とは違うからだ。

原作では要するに色恋沙汰。

だが俺の場合は?

どうしようもない。

理由がわからないのだから。

「結局原作の『阿良々木暦』がやろうとした方法しかないのか…?」

つまり、レイニー・デヴィルに俺の抹殺を断念させる。

奴の攻撃を防げるのは先の攻防で解った。

「幸いなのはレイニー・デヴィルが夜しか動かないって事か…」

これが昼だったら、俺は衆人環視の中で魔法を使う事になる。

まぁ、よーするに…

「なんとかなるでしょ」
 

 

第七十八話

「一夏、昨日の帰りに何かあったのか?」

「ん?」

通学路で合流した箒に質問された。

「特に何も無かったぞ」

「嘘だな。お前は嘘を吐く時決まってサイオンが乱れる」

「うっそぉ!?」

「無論嘘だ。で、何があった?」

「箒!謀ったな!箒!」

まさか箒がこんな駆け引きを…、等と思ったが、箒のゲームの強さは運だけでなくこういったブラフやハッタリも含まれる。

「それで?命の危険があったのだろう?」

「いや、待て。俺の質問に答えろ。
何故解った?」

「お前が道場を出て少しして、お前からの視線が減ったからな」

視線…? 視線だと?

「メティス・サイトのか?」

「うむ」

「え?わかるの?」

「一夏。他者を見るという事は他者に見られるという事だ。
ニーチェの言葉にもあるだろう。
『お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を見つめ返すのだ』とな」

えー…マジかよ…

「成る程…ん? 姉さん達も気付いてるのかな?」

俺は常時自分以外の三人のエイドスを追っている。

箒、姉さん、そして束さん。

初めの頃はきつかったが、今では三人のエイドスを追いつつ、他の魔法を複数使用する事も可能だ。

「感じてはいるだろうな。
お前が私達のエイドスを見ている時は、離れていてもお前を感じるのだ」

「ふーん…」

「そしてお前の気配が弱まった…つまりメティス・サイトのリソースを私から別の物に割り振ったのは、お前自身への危機を回避するため。
相違ないか?」

全て正解だ。

すごいな…たったあれだけの情報でそこまで導き出すとは…

「ああ、相違無い。
昨日の帰りに怪異に襲われた。
無事撃退したから心配はいらん」

「撃退…か」

「そう。だから心配は「祓った訳ではないのだな?」

ぇあ?

「一度退けはしたものの、根本的な解決はしていないのだろう?」

あれ…なんか、さっきからずっと言い当てられてるんだけども…

「理由は…そうだな、お前や私が知る人物の関係者が怪異と化した…といった所か」

なんで判るんだよ…?

「十年近く共に居れば自ずとわかる。
お前とてそうだろう?」

「うーん…そうかな?」

俺は箒の考えてる事とかあんまりわかんないけど…

『食事中に名前呼ぶだけで何を取って欲しいのか判るのは、普通は長年連れ添った夫婦だけだし、それが出来る二人は十分互いを解ってると思うけど?」

「うむ。全く以てその通りなのだがな」

「待てや、橙がいきなり会話に入ってきたのは無視か?」

途中で橙が実体化し、隣に並んだ。

『いいじゃないですか一夏様」

稲荷まで…

「お前ら…見られたらどうするんだ?
耳と尻尾も隠してねーじゃねーか」

「束の造った薬って事にすればいいよ」

「コスプレの方がいいですよ一夏様」

どっちでもいいが、どっちも面倒だ。

「はぁ…」

取り敢えず認識阻害を使っておく。

四人で話ながら歩いていると、弾と鈴が合流した。

「ふーん…成る程…その二人がアンタ達の使い魔なのね?」

「使い魔?あぁ、この間のパーティーの時憑依させてたってヤツか?」

「おう。コイツは橙。俺の使い魔。
こっちは稲荷。箒の使い魔だ」

弾と鈴に橙と稲荷を紹介すると、弾が使い魔二人を撫で始めた。

「「ふぁ…」」

と気持ち良さそうな声を出して大人しく撫でられていた。

弾のお兄ちゃんスキル発動だ。

ちくしょー…俺も撫でポが欲しいぜ…

「やっぱり弾って撫でるの上手いのね…」

「ん?まぁ、蘭をあやす時とかで鍛えられたしな」

「時折弾が一夏を撫でているのを見ていたが…
一夏も気持ち良さそうにしていたしな」

「待てやコラ」

俺は断じて気持ち良さそうに等していない。

そもそも男に撫でられて気持ち良くなんて…

「おー、そうかそうか。じゃぁこれをしても平気なんだな?」

「ふぇ?」

弾は二人を撫でるのを止め、俺の頭に手をのばした。

「………」

き、気持ち良くなんて…

「………ぅ…」

気持ち良く……なんて…

「うぅ………………」

気持ち良く………

「ふぁ…ぁ……やー………っ!?」

五人がニマニマしながらこちらを見ていた。

「いや!き、気持ち良くなんかないからな!」

「お前がそう思うのならばそうなのだろうな。
お前のなかではな」

と箒。

「カメラ持って来てたらよかったわ…」

と鈴。

「実は御主人視点のスクショが…」

と稲荷。

「束に送るからデータ頂戴」

と橙。

「大丈夫!もう送った!」

「待てやお前らァァァァァ!
何勝手にスクショ撮ってんだ!
しかも送るなバカ野郎!」

しかし稲荷と橙は臆する事なく言った。

「「何時もの事だし?」」

は?何時もの事?

「どういう意味だ?」

その問いには箒が答えた。

「うむ。姉さんから頼まれててな。
お前の写真を1日数枚以上送っているのだ」

「聞いてないよ俺!?」

「言ってないからな」

「そんな事でISの機能使ってんじゃねぇよ!」

「実を言うとウカノミタマは写真撮影特化型だ」

「はぁ!?」

「姉さんが担当したエリアにその手のソフトとハードがギチギチだ」

「何してんのあの人!?」

「あと量子格納庫にステルスドローンが…」

「まだ持ってやがったのかよ!?」

「あとサダルスードという物を参考にしたとか…」

「マジで何してんのあの人!?」











衝撃の事実が発覚し、式神二人が姿を消し、もう少しで学校だという所で、俺は猛烈に帰りたくなった。

何故なら、一番会いたくない人が、学校の校門前に陣取っていたからだ。

「神原駿河…?」

何故ここに?

「一夏、知り合いか?」

「知り合い…と言っていいのか微妙だな…」

互いに、知っている。

彼女は俺を殺そうとし、俺は彼女に殺されかけた。

「箒、俺ちょっと忘れ物したんだけど…」

「ほう?量子格納庫に全部突っ込んでいたのではないか?」

うげ…

「あー、いや、その、スティック糊を買い忘れてな。今から買って来ようかと…」

「購買で買えばいい。それに糊くらいなら貸してやるが?」

あー、ちくしょー…

「で、お前のその態度はあそこで待ち構えている高校生が原因か?
見た所、暦さんやひたぎさんと同じ高校に思われるが…」

「ああ、そうだよ。彼女は神原駿河。
ヴァルハラコンビ位聞いたことあるだろ?
彼女はその片割れだ。
で、もう一人がひたぎさん」

「ふむ……なるほど…。
昨夜の下手人はあの女か…」

「!?」

何故わかった…!?

「ふむ……よし私が行こう。
案ずるな。いざとなれば宵闇を抜くまでだ」

と言ってスタスタと歩いていった。

「待て待て待て!案ずるよ!めっちゃ案ずるよ!
こんな所で真剣を抜くなー!」

side out











「何だかんだで箒ってIS持ってるのね…」

「そりゃあの束博士の妹だしな。
それよりも問題は…」

「あの口振りからして一夏も使えるっぽいわね」

「まぁ、ありゃ胸とナニ以外女みたいな物だろ」

「デリカシーが無いわよ弾。
でもそれに関しては賛成ね…。
一夏ってそこらの女よりも美人よねぇ…。
女として負けてる気がするわ…」

「ああ、俺の中の美少女ランキングでもお前は三位タイだ」

「一位と二位は?」

「一位は蘭、二位が一夏、同率三位がお前と箒ちゃん。
ついでに言えば五位が撫子ちゃん。六位が育さん」

「ファイヤーシスターズとか千冬さんとかは?」

「恐ろしいからランク外」

「あ、なんか箒が高校生に殺気出してるわよ」

「おー、本当だ…。
つか殺気を感知できるとか…俺等も大概だな…」

「千冬さん仕込みよ」

「あの人怒ったら怖いからなー…
ん?どうやら話は終わったようだぞ」

「そうね、じゃぁ、行きましょうか」

 
 

 
後書き
宵闇
箒が持つ刀で柄にCADが仕込まれている逆刃刀。
材質はナイト・オブ・トレイターのフレームと同じもの。 

 

第七十九話

「其所の方。少し宜しいだろうか?」

「うん?………君は?」

「私は篠ノ之箒………昨夜貴方が手を掛けようとした者の恋人だ」

ゥヲイ!?

「何の事だかさっぱりだよ子猫ちゃん?」

「そうですか。しらばっくれるんですね。
まぁ、良いでしょう。
どうせ貴女では一夏の足元にも及びませんから」

神原駿河へ向かって行った箒が、挑発を繰り返していた。

「そうか。だけどね、用が有るのは君へではないんだ。
私が用があるのは…」

箒から外された視線が、その後ろにいた俺に突き刺さる。

「君だよ。織斑一夏君」

憎悪と嫉妬を孕んだその瞳は、二つが混じり合い、狂気のようだった。

箒を避け、彼女は俺の正面に立った。

「ええ、そうでしょうね。
神原駿河さん。貴女の事は戦場ヶ原さんからよく聞いていますよ」

『戦場ヶ原』という名字を出した瞬間、彼女から怒りが溢れた。

やはり、ひたぎさんに関わる事らしい。

しかし、恋愛面は除外するとして…なんだ?

もしかして、俺が彼女に取り憑いた怪異を祓ったからか?

本来なら自分が、みたいな事なのか…?

「君は、戦場ヶ原先輩とどういう関係なんだ?」

「そうですね…彼女が困っていたので、その問題の解決の為に少し手を貸しただけですよ」

「………そうか」

すると彼女はポケットから一枚の紙を取り出した。

それを俺の学生服の胸ポケットに突っ込み…

「私の住所だ。今日の放課後、待っている」

は?

俺が呆けている間に、彼女は振り返り、俺達の中学校から離れるように歩き出した。

しかし…

「待て。神原駿河」

それを箒が呼び止めた。

「年上には敬語を使わないとダメだぞ?」

と再び振り返った彼女が言った。

「いや、年上年下関係無く、一人の女として貴様には言っておくべき事がある」

箒から、拒絶と嫌悪と殺意が込められた想子…殺気が放たれた。

右手を水平に掲げ…

その手の中に、宵闇の柄"だけ"を量子展開した。

「貴様が一夏を殺めたならば、私はこの身と持てる全てを賭して、貴様の全てを奪い尽くす」

箒が、柄を彼女へ向けた。

柄だけの剣を。

刃のない刀を。

そんな事は一目見れば解る。

端から見れば、中学生が高校生の前で玩具のマイクでも掲げているだけのように見えるかもしれない。

だけど、"見える"者からしてみれば、今の状況は切迫した物となる。

「怪異を宿す貴様なら見えている筈だ。
貴様が一夏に敵う事は万一にもないだろうが…」

その柄から、淡く光る刀身が伸びていた。

煌めく刃が"視える"。

想子で形作られた刃が…

<無系統魔法『切陰』>と呼ばれる不可視にして不可避の刃。

肉体を一切傷付けず、精神を斬る魔法。

それが、紙一重の距離で、神原駿河の首に当てられていた。

「警告はしたぞ。神原駿河」

フッと切陰が消え、箒が柄をクローズした。

そして、神原駿河は、俺達から離れていった。

「お、おい箒?」

「どうした一夏?」

「いや、どうしたもこうしたも…」

「なに、私の自己満足だ気にするな」

拝啓、あの世の両親へ。

箒がバイオレンスです…











箒が神原駿河に呪詛を呟き、それを分解しているといつの間にか放課後だった。

ていうか途中から俺の分解速度越えようと躍起になっていた。

呪詛を送るのはどうかと思わなくも無いが、手段と目的を取り違えてませんかね?

あ、あと途中で箒がホモに向けた呪詛は放置した。

で、だ…

「よう、来てやったぞ」

「ああ、あがってくれ」

そうして彼女の私室に通されたのだが…

「コレで良いのか直江津高校のスター…」

「散らかっていて済まないな」

「なぁおい、全部焼き払っていいか?
安心しろ家には一切傷を付けん」

「それは困る」

「じゃぁ俺に30分寄越せ。話はそれからだ」

ゴミを全て分別してゴミ袋に突っ込み、散らばっている本(BL)を部屋の隅に積み上げ、衣類を全て洗濯篭に押し込め、漸く床が見えた。

その後群体制御で集めたホコリを燃やした。

「さぁて、話を聞こうか。被告人」

座布団に座り、彼女と向かい合う。

「……そうだな。
何処から話した物か…」

その後は、彼女に腕を見せてもらい、左手に宿る怪異の話を聞いた。

そして、俺から、一つ質問をした。

「アンタの左手に宿った怪異についてはわかった。
だが、何故俺を襲う?
俺は別にひたぎさんと恋仲ではないぞ。
アンタに嫉妬される理由がまるでわからん」

彼女の答えは、それはそれは真っ当かつ不当な物だった。

「ああ、そうだな…君は戦場ヶ原先輩とは、そういう関係ではない。
それは、知っている。知っているが…」

と、そこで区切り…

「それを知ったのは、既に私がこの腕に願った後だった」

なんと単純だろうか。

要するに、ただの勘違いだったという事だ。

「私は、納得した。納得したんだ。
だけど、それでも…」

彼女は言った。

「感情は、どうにもならなかった」

「そうか…そうかそうか」

なるほど…


「はっはっはっはっは!コレは傑作だ!」

そんな事かよ! 今まで考え込んでいた俺がアホみたいだ! 勘違い? その可能性は考えていなかった!

「いやぁ、一月分程笑わせて貰ったよ」

「その…責めないのか?」

「うん?まぁ、昨日のは確かに痛かったが、どうせ俺は不死身みたいな物だからな」

「ふじみ?」

「ああ、昨日ウィルバーナインに乗っていた時に食らったパンチ。
普通なら死んでるぞ」

「そう…だな…」

「おいおい。そんなに落ち込むなよ。
結果として俺は死んでいないんだから」

「しかし!」

立ち上がろうとする彼女を、手で制する。

「『理屈で宥めてくれたって、綺麗事の暴論だよ』」

「っ!…」

「俺が好きな歌の歌詞だよ。
だから、まぁ、俺を殺したいなら何時でもどうぞ。
今のアンタの精神は、怪異の干渉で、激しい負の情動が渦巻いてる。
だから、俺はアンタを責めない。
アンタに宿る怪異が、持ち主の願いを叶えられずに消えるその時まで。
俺は幾らでもアンタの襲撃をはね除けてやるよ。
それに、アンタは[敵]じゃないからな」

すると彼女は、そのまま、深々と腰を折り…

「っ…済まない!」

土下座をした。

その謝罪は、嗚咽混じりの、声。

「頭を上げてくれ。そんな事する必要は無いよ」

顔を上げた彼女は、案の定泣いていた。

あー…えーっと…

「じゃぁ、俺はこの辺で」

「…………」

「…………」

「…………」

「…えー…まだなんかある?」

「……君は案外酷い奴だな。
目の前で女が泣いているのだぞ?」

「いや、特段親しい訳じゃないし。
そっとしとくのがベストだろ」

「それも、そう…だな。
うん。済まない。帰って構わないぞ」

「そう、じゃぁ帰るよ」

彼女の部屋から出る







前に。

「レイニーデヴィル。雨合羽の悪魔」

「何の話だ?」

「ん?まぁ、取り敢えず…













ググれカス」
 
 

 
後書き
最後の「ググれカス」を書きたかった。 

 

第八十話

神原駿河と相対してから、三日目の朝。

今日はゴールデンウィーク前日。

抑圧された学生達が解放を目指して最も頑張る1日だ。

「それで、昨夜は?」

「ん?昨日も〔ヤツ〕は来たぞ。
撃退したがな」

「……………」

隣を歩く箒から、昨日のレイニーデヴィル戦について訊かれた。

「昨日も同じようにファランクスで攻撃を受け止めていたら数分で帰ったぞ。
まぁ、そろそろレイニーデヴィルも契約の履行が不可能だと解る頃だろう」

「だといいのだが…」

「なに、心配する事はない。俺には再生があるからな」

すると、箒が俺の肩に手を置いた。

「一夏。お前が簡単には死なない上、超常の力を操る事を私達は知っている。
だが、だがそれでも、目の前でお前が傷付くのを見ているのは辛いのだぞ?
よく『遺される者の事を考えろ』というが、お前は『見ている者の事を考えろ』」

「コレは手厳しい」












神社で稽古をした後、神社からの帰り道を歩いていると…

「一夏」

「どうしたほう…」

「今日はお前の家に泊めて貰うからな」

いきなりだなぁおい…

「荷物は?」

「ウカノミタマに入っている。
と、言うよりもお前の部屋に置いてあるだろ」

「あのねぇ、普通異性の部屋に服を置かないの。
少しは恥じらいを持て」

「今更だな」

「アマノハゴロモが無いんだからさ、俺だって魔が差すんだぞ?」

「それでもお前はそうしないだろう?」

「お前の厚い信頼に涙が出そうだよ」

「なに、あの女との戦いで疲れたお前を癒してやろうと思ってな」

「いやかえって疲れる気がする」

「ほう?」

あ、だめなやつだこれ…

搾られる…あ、でも束さんがいないから…

「橙。やれ」

『はいはーい』

「え?」

ドン!という衝撃が精神を揺さぶった。

「ぐあ!」

まさかレイニーデヴィル!?

と思ったが、周りには箒のエイドスしかなく、日もまだ沈んでいない。

そして、箒をみるが…

「おい箒テメェ!」

箒の頭に狐の耳があった。

それに腰の辺りに違和感が…

「なぁに、ゴールデンウィーク中には元に戻る」

「いやぁ…だってさぁ…」

狐モードのお前…色々凄いじゃん…

いや、まぁ、俺もだけど。

「大丈夫だ。千冬さんのOKは取っている。
『いっそ木乃伊にしてしまえ』とな」

「姉さぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

「それにな、一夏。今のお前は、獣化しておくべきだ。
命を狙われているのだ。少しでも強化しておけ」

『そうだよ。本当なら三日前からますたーに憑依しときたかったんだよ?」

ああ、そうだな…

「橙の言うことも最もだ…逃げろ箒!
ファランクス!」

side out











「ちぇんのいうことももっともだ…にげろほうき!
はらんくす!」

住宅街に差し掛かり、一夏が叫ぶと共に、サイオンが溢れ出した。

「橙!手筈通りだ!一夏のサポートとあの女の足止めを頼む!
五分で戻る!」

「わかったよほうき!
ますたー!れいにーでびるを縫い付けて!」

「もどる!?いやにげろよ!」

「行くぞ稲荷!」

『うん!箒!』

飛行術式キャスト!

待ってろ一夏…! 今日でケリを付けさせてやる!

side out














「行くぞ稲荷!」

そのまま戻ってくるなよ…!

しかし、そんな思考は、ファランクスが破られた事で、放棄せざるを得ない。

「ファランクスが破られた!?
バカな!?」

『ますたー!怪異を舐めすぎ!』

くそ…!

ヤツの拳を視ると、先日からあった貫通力高の情報強化だけではなく、グラムディスパージョンに類似した術式すら纏っていた。

「う…そだろ!?神原駿河の願いの為に術式を組んだってのか!?」

つまり昨日までのは対抗術式の為の布石…!

ニィ…とレイニーデヴィルが笑みを浮かべた。

そして、ヤツが、一歩踏み出した。

マズイ…!

「剛気功!」

レイニーデヴィルの拳と、剛気功のクロスガードが激突し、爆音を轟かせた。

「ぐぁ!?」

だが、体格差故に、俺が押し負けてしまう。

数メートル吹っ飛ばされた。

飛行術式を展開。

その勢いのまま、空中に逃げる。

「はぁっ…はぁっ…!」

剛気功は、正確には魔法ではない。

その上、術式の性質上ファランクスには組み込めない。

だから、剛気功の対抗術式をヤツは持っていない。

「ヤツは空中なら追ってこれない…
最悪朝までこのままだが…まぁ、いい」

だけど、その考えすらも甘かったと思い知らされた。

ヤツが屈伸したかと思うと。

目の前に、ヤツがいた。

「!?」

「ヒャァァァァァァァ!」

「ガッ……!ハッ…!」

ゴプリ、と血が喉の奥から溢れてきた。

視線を、自らの胸に向ける。

ヤツの、腕が、胸を、貫いていた。

「この高さをかっ…!?」

神原駿河の十八番は、ダンクシュート。

必要とされる跳躍力は、必然的に大きな物となり、それを怪異によって強化された彼女の脚力は…

地上十数メートルの俺の胸を貫く程のエネルギーを産み出していた。

「えぐず…ぷろー…じょん」

俺を中心にし、今度はレイニーデヴィルが吹っ飛んだ。

【胸骨破砕/心臓破損/各血管断線】

【自己修復術式起動】

【魔法式ロード】

【コア・エイドスデータ バックアップよりリード】

【修復開始】



【完了】

「くそ…」

レイニーデヴィルは、地面に足を付け、此方を見上げ、にらみつけていた。

「レイニーデヴィル!
俺は死なん!神原駿河との契約の履行は不可能だ!」

だけど、ヤツはそんな事関係ないと言わんばかりに、呪詛を撒き散らす。

「イ…ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニ……」

狂気を孕んだ呪詛。

しかしその呪詛は、途中でぷっつりと途切れた。

それを途切れさせたのは、この場に最も似つかわしくなく、それでいてこの場に最も相応しい人だった。

「あら、いったい誰の事が憎いのかしら?
修学旅行から帰って来たと思ったら、随分と物騒じゃない、神原?」

ひたぎ…さん…?

「待たせたな、一夏。
これで、ケリが付く」

そう言って箒が俺の隣に浮遊している。

「お前…まさか…」

「うむ。ひたぎさんの家まで一っ飛びして来た。
さぁ、大人しく彼女等の再開を喜ぼう」

ほんっと。イケメンだよな。お前は…

地上へ意識を向けると、こんな会話をしていた。

「神原。私は貴方をそんな風に育てた覚えは無いわよ」

「戦場ヶ原先輩…」

「彼は、私の恩人よ。そんな彼を殺そうなんて、随分と偉くなったわね神原。
私は貸し借りだけはきちんとする人間よ。
もしも貴方が彼を傷付けたなら、私は貴方に同等の報復をするわよ?」

「…………」

ひたぎさんがレイニーデヴィル…いや、神原駿河へ歩み寄り、そのフードを脱がせた。

「本当。バカな子。
直ぐに私の処に来てくれていたら。
私は貴方を受け入れて、また一緒に居ようと言ったのにね」

「戦場ヶ原先輩…今でも、一緒に居ようって、いってくれますか?」

神原駿河の涙声に、ひたぎさんは、しっかりとした、慈愛に満ちた声で答えた。

「勿論よ神原貴方は、私の、たいせつな…」



「箒、これ以上は野暮だろ」

「そうだな」

こうして、ここ数日にわたる騒動は、幕を閉じた。












翌日 阿良々木家。

「はい一夏くん。これ注文のヤツだよ」

「わざわざすいません暦さん」

「でもこれ本当に使うの?
買うとき誓約書書かされたんだけど?」

「試してみます?」

「いいのかい?」

「ええ、勿論です」

数十秒後、阿良々木家には、長男の悶絶する声が響きわたるのだった。
 
 

 
後書き
そろそろストックが切れます。 

 

第八十一話

ゴールデンウィーク真っ只中。

「神原駿河だ!職業は一夏君のエロ奴隷だ!」

「帰れ変質者!」

「あひゅん!?」

玄関を開けた先に居た変質者にサイオン弾を撃ち込み、玄関を閉じた。

居間に戻ると箒がソファーで毛繕いしていた。

「どうしたのだ一夏?」

「いや、単に変質者を追い払っただけだ」

パレード ディキャスト。

隠していた耳と尻尾を顕す。

「つか、毛繕いって…」

「うむ、洗浄魔法を使えば一発なのだがな。
たまには自分の尻尾を詳しく見てみようかと思っただけだ」

「で、感想は?」

「こんな掃除道具があったら家が綺麗になると思う」

そんな特に意味の無い話をしていると、再びチャイムが鳴った。

「ふむ、今度は私が出よう」

「よろしく~」

箒が居間から出ていった。

「あ~」

『どうしたの?そんな声上げて』

腰が痛いんだよ…

『それ普通女子のセリフだよ?』

いや…まさかあんなことやそんなことをされるとは…

『本当にね…』

玄関のドアが閉まる音と共に、足音が三つ聞こえた。

「一夏。客だ」

「失礼するわ、一夏君」

「失礼するぞ」

箒に連れられて入ってきたのはヴァルハラコンビだった。

神原駿河へ向けてジト眼を向ける。

「先日の事で謝罪に来たのだけれど、ごめんなさいね。
この子をこんな風にしてしまった私にも責任の一端があるわ」

「今後の教育に期待します。
出来ればそこでハァハァしてる変質者をどうにかしてください」

「だって!本物の猫耳ショタと狐耳ロリがいるのだぞ!?
興奮しないわけ無いではないか!」

「ギルティ」

「ギルティ」

「ギルティよ神原」

「ジーザス…!」

取り敢えず二人を座らせる。

「で?」

「うむ。先日の事を詫びる為には体を差し出すべきだと思い至ったのだ」

「玄関はあちらです」

「連れないなぁ、君は」

「ひたぎさん、この変質者をどうにかしてください」

「あら?私も神原に賛成なのだけれど?
今ならオプションで私も付いてくるかもしれないわよ?」

「玄関はあちらです。どうぞお帰りくださりやがれビッチ共」

「大丈夫。私まだ処女だから」

「無論わたしもだ!」

恥ずかしいカミングアウトをするな。

「そうか、なら帰れ生娘共。
私達の間に入ってくるな」

……………箒?

「お、おい箒?」

「一夏、少し黙ってろ」

「あっはい」

「あと少し席を…いや、部屋を一つ借りたい。
その間はラボに居てくれると助かる」

「お、おう。二階の奥が空いてるぞ。
というかお前の部屋だが…」

本来この家にはそのような部屋も空間も無いのだが、そこはまぁ、ST&OIの技術は世界一ィィィィィィ!的な。

「おい生娘二人。ついてこい」

「おーい。箒さん。
マジで何する気?」

「奴隷志望の女を調きょ…教育してくるだけだ」

いま調教って言ったかコイツ?

「手加減しろよ?」

「うむ。全力を尽くそう」

取り敢えず二人には合掌しておこう…

side out











一時間後

「どうした?もう終わりか?」

ふむ、毒蜂の転用実験は成功だな。

多少やり過ぎた感は否めんが…

「まぁ、いいか」

あとは名前を…

side out










ホロキーボードを叩く。

『ますたー、顔紅いよ』

「しょうがねぇだろ。箒のエイドス追っ掛けてたら今アイツがナニしてるか解るんだから」

とまぁ、その悶々とした気持ちを全部画面にぶつけている次第だ。

それでカンヘルのOSの組み上げが捗っているのだから何とも言い難い。

『覗き魔』

「エイドスしか追っ掛けてねーっつの。
心拍とかそこら辺だけだ。
しかもサイオンが揺らいでるしな」

『あそこまであからさまに毒蜂使ってたらねー』

「あの二人死んでないよな?」

『女もテクノブレイクってするの?』

「俺が知る訳ねーだろ…
まぁ、出産の痛みとかオーガズムとか、女のそれらは男が感じたら死ぬとも言われてるな。
だからまぁ、男よりは耐性あんじゃない?」

『最悪ますたーが再生すれば良くない?』

「俺がテクノブレイクするっつーの」

『ますたーってテクノブレイクしたらどうなるの?
再生で生き返れるの?』

「あー?多分大丈夫。
要するに心臓ショックだろ?」

そんな実に下らない話をしていると箒から通信が来た。

「昨夜はお楽しみでしたね、とでも言ってやろうか?」

「『ああ、実に愉しかったぞ』」

字がおかしい気がする。

「で、何の用だ?」

「『毒蜂をアレンジしたのだ。
<淫魔の口付け-リリムキッス>と名付けたいのだが』」

通信オフ。

「なにしてんのアイツ?」

『私に聞かれても』




その晩。

結局あの二人は例の部屋に泊まる事になった。

曰く起き上がる気力が無いとか。

箒ェ…

「さて、では今晩も愉しもうではないか」

「おい待て!バカ!寄せ!」

「なに、天にも昇る心地をくれてやろう」

「マジで昇天させる気か!?」

あ!ちょ!ま!っあ…











淫魔の口付けダメゼッタイ。
 

 

第八十二話

「お邪魔していますブリュンヒルデ。
戦場ヶ原ひたぎといいます」

「お邪魔している!私は神原駿河!
貴女の弟のエロ奴隷だ!」

取り敢えず目の前の痴女をどうにかしよう。

side out








朝起きて、キッチンへ行くと、雌豚二匹が千冬さんの前で正座させられていた。

裸エプロンで…

「箒、どういう事か説明しろ」

「先日、そちらの包帯を巻いている方の雌ぶ…女が怪異に取り憑かれ、ソレを一夏が解決しました。
そして彼女等はその謝罪の為に昨日この家に来ました。
そして謝罪として体を差し出すと言ったので調き…教い…説得して止めました」

「箒」

「はい」

「お前のせいかぁぁぁぁぁぁぁ!」

千冬さんの右手が私の顔を掴み………

side out












ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

「うを!?」

誰かの叫び声で目が覚めた。

「なんだなんだ!?」

視覚を広げると、箒が姉さんにアイアンクローされてるのが見えた。

その後ろには裸エプロンの二人。

えーと…

「どういう状況だ…?」

まぁ、大方の予想はつくけど…

「取り敢えず、降りよう…」

体を起こそうとして…

「うあー…起きたくねぇ…」

『そりゃぁ、五回も心臓止まったもんね…
ヌカロクとはいかずとも五回って…』

喧しいわ。

リリムキッスは封印指定だよまったく…



部屋を出て、階段を下り、リビングへ。

「姉さん、何事?」

「む、一夏か。
その台詞は私が言いたいのだが」

箒の頭を掴んで持ち上げた状態で、姉さんは答えた。

「あー、取り敢えずそこの痴女二人は謝罪の為に家に来て、詫びとして俺に体を差し出すとか言ったから拒否った」

「それで?」

「箒が二人を部屋に連れて行ってにゃんにゃんしてた。
俺はその間ラボでカンヘルのOS組んでた」

「止めなかったのか?」

「止めれると思う?」

「それもそうだな…」











そうして、賑やかな食事が始まった。

まぁ、大抵神原と箒がはなしてるんだけどな…

「あ、そうだ、ひたぎさん」

「なんでしょうかご主人様」

「「……………………」」

俺と姉さんは、絶句した。

「なぁ、おい箒、お前マジで何したの?」

「すこし"教育"をな…」

あぁ、もういいや。

「最近暦さんと育さんってどんな感じなの?」

するとひたぎさんは一瞬考え…

「もうラブラブよ。事あるごとに老倉さんが阿良々木君にアタックしてるわ。
特に昼に弁当を『あーん』するのはホッチキスで口を閉じたくなるからやめて欲しいわ」

「ほう、あの二人の噂は聞いていたが、そんな事になっていたのだな…
よし!戦場ヶ原先輩!我々もあーんしようではないか!」

と神原がひたぎさんの口に箸を持っていくと、大人しくパクりと食べた。

「ひたぎさんって案外素直だねぇ…」

ニヤニヤしながら彼女を見つめていると、顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。

「よしでは私も…」

と姉さんが箸を差し出す…

え?俺?

「あむ…むぐむぐ…」

しかし、姉さんが俺から視線を外し、その後ろ、箒へ目を向けたかと思うと…

「えぁ!?」

俺の服が、変わっていた。

「ふむ…なかなかいいな」

と箒。

「は、はだ、裸ワイシャツの猫耳ショタ…!
………………………がふ…」

あ、変態が逝った。

いや、マジで鼻血が忠誠心の如く吹き出してる…

「なにこれ?」

「千冬さんのワイシャツだが?
因みに下着はウカノミタマの中だ」

「んな事ぁわかってるんだよ!
家事は全部俺がやってるからな!
姉さん家事できないし!」

ビシッと姉さんを指差すが、萌え袖になってしまっていて、締まらない…

「つーか!パンツ返せ!」

俺と姉さんの身長差がかなり大きいので、シャツがワンピースみたいになってるのが救いだが…

「断る」

くっそぉ…セルピヌス・システム使うぞコノヤロー…

「っ…」

「おい戦場ヶ原ひたぎさん、今何で鼻を摘まんだ?
お兄さん怒らないから言ってごらん?」

「いえ…その…私の鼻から貴女への"カワイイ"が溢れそうなのよ」

「お前ら二人共失血死してしまえ」

「……………///」ビクンビクン

「罵倒されて顔を赤らめるな!
いよいよ末期じゃねーかヴァルハラコンビ!」

「「//////」」

「一夏、逆効果だぞ」

「箒の言うとおりだな…」

その後、復活したヴァルハラコンビと朝食を食べ終え、二人が帰った。

のだが…

「神原駿河だ!」

「…………」

「私が昔来ていた服を持ってきたぞ!」

「持って帰れ」

「君に着せる為に持ってきたのだが」

「洗ってんのか?」

「そこは問題ない。お婆ちゃんが管理してた服だからな」

「そうか、なら帰れ。
お婆ちゃんに感謝して大事に保管しとけ」

玄関を閉めようとしたその時…

「まぁ、待て一夏」

姉さんに止められた。

「なんだよ姉さん」

「せっかくの好意だし、受け取っておこうではないか」

……………………

「FU ZA KE RU NA ☆」

しかし…

「うむ、ちゃんと来たか雌豚二号」

「箒!?」

今コイツなんて言った!?

「うむ、ちゃんと持ってきたぞ」

「おいこら箒お前の差し金か!?」

「「さぁ、一夏。こっちへ来い」」

「おいバカやめろ!あ!おい!」

その後、神原と姉さんの御下がりの服を滅茶苦茶着せられた。

あと途中でひたぎさんも戻ってくるし、束さんも乱入してきて地獄だった。

「不幸だー‼」

「あら、女の子に囲まれてるのだから愉しみさいよご主人様」

「うむ、君はもう少し悦ぶべきだ」

「俺は女装して愉悦に浸る趣味は無い!」

「「「「「私達が楽しい!」」」」」

「喧しいわ!」
 

 

第八十三話

 
前書き
※この話はネタ集から引っ張って来てるので最初の方は少し時系列が遡ります。
あと今回出てくる体育教官は男です。 

 
小学校六年生春 登校路

「今さらだけどこの学校ってなんでプール無いんだろうな」

「本当に今さらだな…雪国だし海が無いからだろうな」

そんな理由なのか…?

「それに年に数回は近くの市民プールで授業があるではないか。
何が不満なのだ?」

「その回数の少なさだよ。
水泳ならある程度本気出しても大丈夫だしさぁ」

しかもそのせいでスク水が無く、各々が自分の水着で参加だ。

「まぁ、私は少なくていいと思うぞ」

「箒って泳ぐの嫌いなのか…?」

水泳の授業を見る限りそうではないはずなんだが…

「そうではないが…男子連中…特に弾の苦労を思えばな…」

「はて?」





同年 夏 水泳授業初日 市民プール 更衣室

「おい一夏、ラッシュガード」

ロッカーを閉めようとすると、弾に止められた。

「だから要らねぇっつの」

「いいから!千冬さんが折角買ってくれたんだろう?」

「それもそうか…」

そう言われてしまうと、反論しずらい。

ロッカーからラッシュガードを取り出して着る。

気付けば更衣室には俺と弾だけだった。

まぁ、俺達が入ってきた時には皆もう出ようとしていたからな…

屋内プールのサイドを歩き、列に並ぶ。

点呼と準備体操が終わりった後、初日なので自由練習と言われた。

なので自己流…というか前世で通っていたスイミングスクールのアップを始めようと思う。

「一夏」

「どうした箒?俺これからSKP300なんだけど?」

「なんだそれは…」

「ん?300メートル」

スイム100、キック100、プル100、計300。

プルっていうのは早い話足を動かさずに手だけで泳ぐメニューだ(各水泳教室やコーチによって呼び方の差異アリ)。

すると箒が眉間を抑えた。

「普通アップで300も泳がない」

「そうなの?普通だよ?
これから2キロ泳ぐし」

トゥワイス・グラビティ、ディキャスト。

「んじゃお先」

「ハーフ・オキシジェンは切らなくていいのか?」

「急に酸素分圧上がったら流石に体調崩すんだが」

「そうか」

プールの縁に親指を引っ掻けて、飛び込む。

あぁ、本気出せるっていいなぁ…




授業後、弾に泳ぐ時のコツを教えて欲しいと言われて教えていると、結構遅くなってしまい、更衣室にはもう誰も居なかった。

「一夏、急いで着替えるぞ」

「ん。わかった」
















中学校一年生 春

「中学はプールあるのか…」

「よかったな。全力で泳げるぞ」

「っし!」

「(プールが血で染まらなければいいのだが…)」

「何か言ったか?」

「いや、なんでもない」

side out





夏 更衣室

「んしょ…んしょ」

一夏がその長い髪を団子状に纏め、スイミングキャップの中に入れる。

「髪長いと大変だなぁお前も…」

学校の男子更衣室で、一夏と弾が着替えていた。

弾はもう慣れた物だが、周りの生徒はそうもいかない。

女みたいな顔の奴が上裸なのだ。

一夏が一番奥、その隣に弾が立ち、一夏を隠そうとするが、チラチラとした視線が止まる事はない。

「いつ見てもすげぇ筋肉だよなお前」

「まぁね」

一夏の肉体は無駄な脂肪は無く、しなやかな筋肉で覆われている。

しかしその筋肉の付き方は服を着ていると全くわからないようになっている。

焔のワイルドカードを見た目で嘗めてかかって痛い目を見た奴は多い。

「よし、きがえおわった。
いくぞ、弾」

「おう」

プールサイドに出るとき、弾が一夏を隠すように出たにも関わらず…

「あぁ、やっぱりか…」

「どうした弾?」

弾の視線の先には、鼻を抑えてあらぬ方向を向く数名の女子達。

「いや、なんでもないさ。
熱中症には気を付けろよ」

「ん、わかった」

一夏はペタペタと箒の方へ歩いて行った。

「こりゃ熱中症続出だな」

弾の呟いた言葉は、夏の熱気に溶けて消えた。




side in

「よう、箒。エロいな」

「お前もな」

はて?

「一夏、アンタすごい体してるわね…」

振り向くと鈴がいた。

「そうか?」

鈴の手が、俺の腹筋を撫でる。

「くすぐったいのだが…」

「いいじゃない。減る物でもないし」

「まぁ…別に構わんが…」

「カチカチね…
ねぇ、一発殴ってみていいかしら?」

鈴はニヤニヤしながら言う。

「なぜ男子高校生みたいなノリなんだお前は…
まぁ、いいや。そら、こい」

腹筋に力を入れて、仁王立ち。

「んじゃ、行くわよ」

引き絞った拳が、俺の腹に吸い込まれ…

「いったぁぁぁぁぁい!?
なによこれ鉄板でも仕込んでんの!?」

殴った鈴の方がダメージを受けていた。

「鈴、一夏は火燐さんと引き分ける程だぞ?
お前や私のパンチ程度でどうにかなる筈もなかろう」

「あー…そういやそうだったわね…」

「お前ら火燐さんをドラゴンか何かだと思ってないか?」

「「あの人ならドラゴンくらい倒せる」」

「裏ボスかよ…」

そんな話をしていると招集がかかった。

先ずは、全員が何れだけ泳げるか試すそうだ。

よし…ふざける以外ないな!

準備体操が終わると、出席番号順で泳ぎ出す。

俺は結構最初の方。

「一夏、何を泳ぐんだ?」

「え?バサロ25」

「「「………………」」」

なんで三人共黙るんですかねぇ…

「死ぬぞ?ハーフ・オキシジェンは解いていないのだろう?」

「この状態でもう何年も居るんだし、その気になれば50まで行ける。
勿論魔法無しで」

「ジンガイ」

「なぁ、鈴。俺の親友がジンガイなんだが」

「ええ、私の親友の恋人がジンガイね」

「酷いなお前ら」

そんな話をしている合間に俺の順番だ。

「次、織斑」

「はい」

今までの奴が飛び込み台を使っていたにも関わらず、俺はプールの中に入り、台の下部のバーを掴む。

「む…?織斑は背泳ぎか…?
まぁ、いい。用意…始め」

体育教官の掛け声に合わせ、大きく上体を反らす。

そのままトプン…と水に浸かる。

両手を頭の後ろで組み、両足を揃えドルフィンキックを打つ。

と、まぁ、そこまではいい。

だが…ふざけた罰が下ったのだろうか…

これ、めっちゃ眩しい…

『アホだ…ここに正真正銘のアホがいる…』

『黙ってろFa■k』

『口悪いよ』

等と話ながらも十数秒でゴール。

ここからターンしてもいいんだけど、後がつかえている。

「ぷはっ」

水から出て、プールサイドを歩いて箒達の所へ戻る。

「ね?」

と言えば。

「お前なぁ…まぁ、いいや。次は俺か…」

と言いながら弾に撫でられた。

「お前は何を泳ぐんだ?」

「クロールでいいだろ。箒ちゃんと鈴は?」

「ふむ…私もクロールだな」

「私もクロールにしておこうかしら」

「え~?お前ら四泳法できるじゃん…
バタフライやろうぜ」

「「「やらん」」」

面白くないなぁ…

「ま、いいや。がんばれよ弾。
女子勢に良いとこ見せてやれ」

「(お前の後じゃぁなぁ…)」

「なんか言ったか?」

「いや、まぁ、行ってくるさ」

弾が飛び込み台へ向かう。

「弾ってカッコいいよなぁ…」

体格はいいし、顔は凛々しいし。

声も低い、何より身長が高い。

「いいじゃない。アンタは可愛いんだから」

「『可愛い』より『格好いい』と言われたいのが男の性なの」

「私は小さいお前が好きだぞ?
膝の上に乗せられるしな」

「俺の膝の上に乗せたかった…!」

「はいはい。ご馳走さま」

最近鈴が冷たい…

もしや反抗期…?

「なんでそうなるのよ。
アンタ達ののろけ話聞いてたら誰だって思うわよ」

「む?姉さんはもっと凄いぞ」

「聞きたくなかったわ…」

鈴が俺の内心にツッコミを入れたのはスルーか。

俺ってそんなに分かりやすいか…?

side out









side 鈴

「(箒、箒、一夏の気を引いてちょうだい)」

箒にアイコンタクトを送ると小さく頷いてくれた。

一夏が箒と話している内に、ゆっくりと背後に回り込む。

一夏の肌は、白い。

絹のように白い。

病気のような不健康さは皆無。

ただただ白く、美しい。

その、白い背中の、中心に走る一本の線…

そこを、下から…

つーっ…

「ひゃぁぁぁんっ!?」

体を震わせ、一夏がへたり込む。

そうして、一夏が振り向き…

「うぅ…」

涙目で睨まれて、もう…うん…ヤバイ。

視界の端で女子が数人倒れてるし…

「なにしやがる…」

「何って…悪戯?」

「かんべんしてくれよ…」

「そうだぞ。一夏は腰から背中にかけてが敏感だからな。
まぁ…責めるなら場所は間違っては…」

「おれのかんじるところをかみんぐあうとするな」

これはいいことを聞いたわ…

side out






「うーむ…熱中症で三割がダウンか…
今日はそれほど暑くなかったはずなんだが…」

「どうしたんですか先生?」

「今日のお前達のクラスの授業で熱中症が多かっただろう?
理由がわからなくてな…。
織斑は何か心当たりはあるか?」

「いえ…特には…」

「「「(お前のせいだバカ)」」」
 
 

 
後書き
ぶっちゃけ最後の方の『エロい一夏』、『熱中症』の二つを書きたかった。
あ、英検二級合格しました。
ストックはまだありますが、次回からは2ndMGなので、キリがいいここで区切ります。
2ndMG編はまだ終わってないので途中から逐次更新になります。 

 

第八十四話

成田空港ロビー 七月後半。

ドイツで行われる第二回モンドグロッソ。

昨年同様姉さんの応援をするため、篠ノ之一家とドイツへ行くのだ。

え?部活は無いのかって?

いや、スカウトはあったけど全部断った。

俺達は、まぁ、自分で言うのも何だが、オーバースペックも甚だしい。

上級生に目をつけられたくないのだ。

剣道部からのスカウトは丁重にお断りさせてもらった。

俺達は確かに剣道をしている。

が、それと同時に剣術も修めつつある。

それが何を示すかと言えば、俺達は人を殺せるのだ。

殺せてしまうのだ。

だから、部活はしない。

多分、火燐さんの所の道場も似たような理由で部活禁止だったはずだ。

と、まぁ、そんな訳で終業式翌日にこうして成田に来ている。

「一夏君」

「よう、刀奈。一年ぶりかな?」

「ええ、夏祭り以来だものね」

そして、またしても箒を護衛すべく、更識家が動いている。

先程合流した所、俺だけ隅の方へ連れてこられた。

簪は箒とはなしてるっぽい。

「元気してた?」

「ああ、十回以上死んでも生き返るくらい元気」

まず神原の件で二回。

リリムキッスで……十回以上…

「あら、そんなジョークが言えるなら大丈夫そうね」

まぁ、普通はジョークだよな…

「そういう事だ」

「んもう、生意気ね!」

と言って刀奈が俺に抱きつく。

そして、俺のポケットに手を突っ込んだ。

「例の調査結果よ」

と耳元で囁かれた。

「わかったのか?」

「ええ…。
貴方、自分の親の仕事知ってる?」

「いや…どうしても調べきれなかった…
役所にハッキング仕掛けても普通の会社員としか出てこなくてな。
だから…何かあって消されたってわかるんだが…」

「ええ、苦労したわ。ほとんどが全て物理媒体だったもの。
そこら辺も纏めたから、機内ででも読んでちょうだい」

「ああ、わかった」

刀奈が抱擁を解き…

「だけど」

と俺の眼を見据え…

「覚悟は、しといてね」








刀奈が簪を呼び、何処かへ連れていった。

「刀奈さんとは何を話していたんだ?」

「前に頼んでた調べ物の結果をな」

「……………両親の事か?」

「……………よくわかったな…」

「お前の事は…そうだな…六割くらいはわかる。
お前はわかりやすいからな」

六割って…

「私は、私はお前の両親については何も聞かん。
お前がいつか話したくなったら話せ」

「カッコいいよ。お前はさ。
俺が女だったら、お前になら処女をくれてやってもいいとか思ってるんだろうな…」

「それは男冥利に尽きるな」

本当、カッコいいよ…










手荷物とかその他諸々、特に預ける物は無い。

せいぜい機内持ち込みの荷物程度だ。

キャリーバッグとかは全部ウカノミタマに入れてある。

柳韻さん達は苦笑いしてたけどね。

搭乗から二時間が経ち、篠ノ之一家は皆寝ている。

さてと、それじゃぁ…

アマノハゴロモ、キャスト。

「メモリ・オープン」

さっきもらったUSBの中身を閲覧する。

<織斑夫妻失踪事件に関する報告書>

そんなファイルが、入っていた。

<織斑夫妻の足取りを…………>

と、文を読む。

こちらは状況に関するレポートのようだ。

<……………結論として織斑夫妻を殺害したのは亡国機業と思われる>

…………亡国機業、か。

原作五巻から姿を表した『謎の組織』。

俺が死んだ時での現行巻ではまだその正体が明かされていなかった組織だ。

俺もこの世界に生まれ落ち、ISを作る前に、亡国機業に関する情報を探してネットの海へ潜ったことがあった。

だが、都市伝説以上の内容はなかった。

世間での扱いは前世におけるフリーメイソンやイルミナティと同じか少し知名度が低いってレベル。

その実スコールやオータムといった手練れとゴールデン・ドーンやアラクネ、サイレント・ゼフィルスと言ったISを保持する組織…

そして…織斑マドカ。

途中で登場した三人目の『織斑』。

黒騎士を纏う、『一夏』の対極の存在…

ん?ファイルがもう一つある?

<ジャパン・ゲノミクスに関する報告書>

ジャパン・ゲノミクス? なんだそれは?

<織斑夫妻は日本国機密指定国営企業ジャパン・ゲノミクスに所属し、主任及び副主任研究員だったとされている……………>

父さんと母さんの仕事場?

<ジャパン・ゲノミクスは14年前に解散されている>

14年…俺が生まれる一年前だ。

<……………………解散直前のジャパン・ゲノミクスは遺伝子強化素体開発計画【プロジェクト・メシア】を遂行中だった。
本計画は緊迫する諸外国事情を鑑み、政治、軍事の為、より能力の高いデザインベイビーを製造する事であり…………………>

遺伝子強化素体?原作のラウラみたいな奴か…?

いや…政治もって事はアルペジオの

<亡国機業はジャパン・ゲノミクスの技術を目的とし、織斑夫妻を襲撃したと見られる………………………>

成る程…父さんと母さんは、亡国機業の襲撃から姉さんと俺を守る為に…

更に読み進めようとして…

<これ以上の閲覧はパスコードが必要です>

ふむ、パスコードね…

パスワードブレイカー<金の鍵>起動。

ブレイク。

えーと、なになに…?

<強化素体試作十一型一号 PMP1000及び
強化素体完成型一号 PM-0001に関する報告>

へぇ…そこまで調べ上げられたのか…

凄いな更識。

<プロジェクト・メシアにおいて製造が成功したのは試作十一型一号、完成型一号のみとされている>

ふーん…会ってみたいな…

その試作十一型一号さんと完成型一号さんには。

父さんと母さんが造ったのなら、俺らの兄弟みたいな物だしな。

<試作十一型一号は人工子宮での育成が、完成型一号は母胎での育成がされた>

SEEDとは逆なんだな…

<その後、試作十一型一号は織斑夫妻が引き取り、完成型一号は織斑婦人の母胎にて育成>

「は?」











<結論として、試作十一型一号は織斑千冬。
完成型一号は織斑一夏であると推測される> 

 

第八十五話

ドイツ ホテル・ヴァルハラ2635号室

「……か、………ち…………一夏!」

「あ、あぁ、箒か…」

ベッドに腰かけていると、箒に呼ばれた。

「どうしたのだ一夏?飛行機から降りてから少しおかしいぞ?」

「あぁ、いや、大した事じゃぁないんだ。
本当に」

嘘だ。

アマノハゴロモが無ければ間違いなく取り乱していただろう。

俺と、姉さんが、デザインベイビー?

別に、俺はその人道性を問うてはいない。

父さんと母さんの向けてくれた愛を、少しも疑ってなどいない。

驚きはしたが、自分の出生に悩んでもいない。

悩みの種は………姉さんだ。

きっと、きっとこの事は姉さんには言わない方がいい。

父さんと母さんの死についても、亡国機業についても、ジャパン・ゲノミクスやプロジェクト・メシアの事すらも。

特に、モンドグロッソを控えた今は…

それに、俺達が造られた人間だと知られれば、間違いなく排斥されるだろう。

だから、この事は『なかった』。

更識に頼んだ事の結末は『不明』。

それで、いい。

それで、いいんだ。

刀奈にも、言っておこう。

だけど、そのままじゃ姉さんは父さんと母さんを恨んだままだ。

そうだな…もしも姉さんが引退する事があれば、その時に話そう。

あぁ…姉さんの引退と言えば2ndモンドグロッソでは誘拐事件が起きたはずだ。

姉さんには是非とも優勝してほしい。

だが、誘拐は亡国機業の仕業。

なら、何か掴めるかもしれない。

姉さんには、俺が誘拐されたと聞いても俺を追わないよう言っておこう。

あと、箒にも。

「箒。今回のモンドグロッソも大変な事になりそうだ。
だけど、俺を心配しないでいてくれ」

「また危険な事をするのか?」

「ああ、父さんと母さんに関して何かわかるかもしれない。
だから、俺の動きは無視していてくれ」

「…………………」

「大丈夫、お前から眼は離さないし、更識やシルヴヴァインがお前を護るさ」

ヴィッサリオン達は一日前にドイツ入りしていて、今もこのホテルにいる。

「私は、私はお前の心配をしているのだぞ?」

「大丈夫、俺は死なn…」

黙らされた。

唇で。

しかも押し倒されてる。

こういうのは暦さんがやりそうなことだけど…

箒はイタリア女? あ、胸のあるイケメンだからイタリア男でいいのか…

箒の唇が離れる。

「一夏。私は神原の時にも言ったぞ。
無限に甦るといえど、痛いのだろう?」

「ああ」

「なら、少しは自分の心配をしろ」

あぁ、また心配をかけてしまった…

「悪いな…心配ばっかりかけて…」

「心配くらい、させろ。
あと、何でもかんでも背負い込むな。
私はいつでもお前の話を聞く。
私に話せないなら、姉さん達に言うといい」

「ん…ありがと」

箒や、束さんにも、話さないといけないな… 

 

第八十六話

第二回モンドグロッソ、七日目昼。

この三日間、姉さんは暮桜を使い、各部門で全ての敵を撃破していた。

そして、明日は決勝戦。

原作において、『織斑一夏』が誘拐される日だ。

俺は、不謹慎にも楽しみだった。

刀奈にもらったデータ。

もしかすると、それ以上の情報が手に入るかもしれない。

「とゆー訳です束さん」

「つまりわざと誘拐されて情報を得よう…って事?」

「うん」

「大丈夫なの?」

「俺は死にませんよ。いざとなればISも魔法もある」

「……わかった。だけど」

と束さんは俺を…いや、正確には俺と同化しているIScore0000を指差した。

「コアの位置はモニターさせてもらうよ」

「願ってもないことですよ」



昼食を束さんと食べた後は、いつぞやの面子でベルリンをブラついていた。

今回は楯無のジジィとアルシャーヴィン夫婦も一緒だ。

なお篠ノ之夫妻は夫婦水入らずでドイツ観光。

「おい保護者共。自分の子供の面倒くらい見やがれ」

と後ろを向くが…

「ボウズが振り回されてるのをみてるのは愉しいから却下だ」

「周辺警戒中でな。悪いがリムとエレンを頼む」

「旦那に同じく。あと若になついてるから安心さね」

「ジーザス…!」

すると袖がくいと引っ張られた。

「私達といるのは…いや…ですか?」

「そんな事は無いから安心しろリム。
お前は俺の癒しだよ」

「あらぁ?じゃぁ貴女の心労の理由は何なのかしらねぇ~」

「お前だよアバズレ」

「なっ…!アバっ…!?」

「自分の心に聞いてみれば?
刀奈おねーちゃん☆」

「うざい…! でもカワイイ…!」

「簪、お前の姉ちゃんどうにかならない?」

「一夏が可愛いのが悪い」

「ブルータス…!?」

「おぉ…?これがおりむー?猫耳…?」

「いちかおねーちゃんキレイだね…」

「うむ。先日知り合いが服を大量に持ってきてな…」

「そこぉ! 俺の女装写真で盛り上がるんじゃない!」

「箒さん。私にも一枚…」

「虚さぁん!?アンタがそっちいったらダメだろ!?」

と、まぁ、こんな感じである。












「ヴィッサリオン、ジジィ話がある」

晩飯を食った後、ヴィッサリオンと楯無だけを連れてレストランを出る。

「若?」

とフィグネリアが俺に問いかける。

「フィグネリア、刀奈。箒達を連れて先に帰れ」

「…………ちゃんと戻ってくるんだろうねぇ?」

「勿論だ。アンタの旦那もちゃんと返すさ」

「そうかい」

「おい、一夏。
よもやまた…」

と箒が殺気を滲ませる。

「そうじゃねぇよ。俺等は別につけられちゃいない。
本当に、二人と話すだけだ。
だが、ベルリンにもその手の輩は居るだろう。
霊的防御は任せる」

「わかった」

二人と外に出て、パレードで変装する。

「じゃぁ、適当な酒場に入ろうか」

「っはー…すげぇな…それが魔法か?」

「ISでもおんなじ事できるけどね」

ちょうど向かいの通りに飲み屋が見えたので、そこへ入る。

ちょうど奥まった席が開いていたので、その席を選ぶ。

「三人。ビール一杯ずつとツマミを適当にお願い」

「かしこまりました~」

直ぐにビールが運ばれてきて、遅れてソーセージが運ばれてきた。

運ばれてきたビールを煽る。

「いやぁ…本場のビールを飲んでみたかったんだよねぇ」

「若…アンタまだ13だろ?」

「そう言いなさんな。いい飲みっぷりじゃねぇかボウズ。
お前さん日頃から飲んでやがるな?」

「あ、バレた? 姉さんには内緒ね」

「なんだ?尻に敷かれてるのか?」

「そこの元ロシア諜報員よかマシさ」

「なに…?」

楯無がヴィッサリオンをジロリと睨む。

「いやぁ、こいつとロシアンルーレットしたのが懐かしいよ。
そういやあのときのリボルバー今も持ってんの?」

と聞けば。

「ああ、ここにな」

と胸の辺りを叩いた。

ああ、確かにあの時のリボルバーだ。

「そう殺気を飛ばすなよ楯無。
簪を助ける時に使ったのはコイツの部下達だぞ」

「……………そう、だな」

楯無の殺気が消えた。

「さて、それじゃぁ詳しい話をしよう」

二人の雰囲気が一瞬で変わった。

「実は明日『織斑一夏』を誘拐する計画がある」

「「……」」

「そこで頼みたいのは………動くな」

「「は?」」

おー、二人が面白い顔してる…

すかさず開いた口にソーセージを突っ込んだ。

「楯無。俺の出自に関わる事でな。
誘拐を企んでるのはファントムタスク。
ここまで言えばわかるな?」

楯無はコクコクと首を動かした。

「ヴィッサリオン。シルヴヴァインの任務は引き続き箒の護衛だ。
俺の誘拐の一報が入っても取り合うな。
これは楯無も同じだ。
日本選手団にも知らせるないいな?」

「「おう」」








酒を飲んで、店を出ると10:30だった。

二人と別れて、一人ベルリンの夜道を歩く。

金。

裏路地の横を通りすがった時、視界の端に金色が煌めいた。

「?」

数歩引き返して裏路地を覗くと、少女…否、幼女が倒れていた。

その服は乱れていたが、質の良い物で、ストリートチルドレンでは無さそうだった。

こういう時、放って置けないあたり、俺は随分な御人好しだ。

彼女に駆け寄る。

「おい!おい!大丈夫か!おい!」

揺さぶっても、彼女は目を覚まさない。

緊急時なので、自分に課した『赤の他人にメティス・サイトを使わない』というルールを一時破棄。

俺が彼女のエイドスを覗こうとした時…











彼女が飛び起き、俺に襲いかかった。 

 

第八十七話

「なんだ!?」

後方へ大きく飛び退く。

大通りから、路地裏の奥を見る。

先程まで倒れていた幼女が、腕を…その鋭く尖った爪を俺めがけて突き出したのだ。

「橙、認識結界」

『もうやってる』

幼女が、ユラリと立ち上がった。

エイドスを覗こうとすると、霞みがかかったように、あやふやにしか見えない。

「おい、テメェ何者だ?」

情報次元で、何度も霞みを突破しようと試みるが、その都度阻まれる。

術式ではない…筈だ。

だとすれば、必ず式が見える。

怪異にもエイドスはある。

おもしかに然り、レイニーデヴィル然り。

それらを分解しなかったのは、理由がある。

前者は、ひたぎさんが過去と向き合う為に必要だったから。

後者は、レイニーデヴィルを分解すれば、神原の腕諸とも消えるから。

それらのエイドスは見ることが出来た。

それが不可能って事は…

コイツは高位の怪異だって事だ。

「はは」ははは」はははは」はははははははは!」

その幼女は、年相応の高い声で、不相応な笑い声を上げた。

彼は、その笑い方に聞き覚えがあった。

「キスショット…?」

いや…現段階でのキスショットは見た目27くらいのはず…

よもやバタフライエフェクトか?

金色の髪に、金色の瞳。

「ほう?貴様アセロラ姫…キスショットを知ってるのか?」

アセロラ姫?

それは、キスショットがまだ人間だった頃の、語られない、語る者がいない童話…『残酷童話うつくし姫』の頃の名だ。

うつくし姫?

うつくし姫には、その後に続編が存在する。

その噺のタイトルは…『あせろらボナペティ』

そう、そうだ。

居た。

居たのだ。

一人だけ…居るのだ。

語られぬ童話を知りうる、語りうる者が。

語り部になりうる怪異が。

かつて暴虐の王が、死体で築いた城。

その死者達の怨念と恐怖と未練の集合体。

「勘違いしている所悪いがよ、俺様はキスショットじゃねぇ」

その怪異の名は…

「俺様は決死にして必死にして万死の吸血鬼」

そう、この、女の名は…

「「デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター」」

アセロラ姫を殺して、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを産んだ者。

高貴故の罪から、アセロラ姫を解き放った者。

「なんだ…俺様の名前を知ってるのか」

「ああ、そうだな」

救いは二つある、まず彼女はグルメで自分が決めた相手しか食わない。

次に彼女は極度に力を失っている。

彼女は、アセロラ姫の血を飲んだ故に、もうそれしか飲まないというような怪異だ。

アセロラ姫はもう居ない。

彼女は無害だ。

「スーサイドマスター。提案だ。
ここは互いに引こう。俺達が戦う理由はない。
そうだろう?」

「ああ…そうだな…確かに、そうだ。
お前が普通の人間ならな」

なに?

「なんでだろうなぁ、俺様の中の何かが、お前を食らえと叫んでる」

クソッ…何が奴の琴線に触れた?

大千本槍部分展開。

両腕が、蒼く輝く装甲に包まれる。

IS大千本槍。

カンヘルの…ユニコーン系列のフレームに、蒼いガーベラテトラの装甲を被せたISだ。

なおモノアイではなくマスクタイプ複合センサーとなっている。

カンヘルの外部装甲には時間がかかるため、このような措置を取っている。

「ほう?ISとかってぇ鎧か?
それは、女しか纏えないってぇ話だが…」

ヨイヤミ展開。

大千本槍の腕ごしに、日本刀型ISブレード<ヨイヤミ>を握る。

「おもしろそうじゃねぇの!」

言い終わる直前、彼女が跳ねた。

「パンツァー!」

彼女の爪と、ヨイヤミが交差する。

「……ただの剣じゃねぇな…それに…貴様魔法使いか?」

「魔法師だ……エクスプロージョン!」

俺を中心に、同心円上にある物を…スーサイドマスターを吹き飛ばす。

路地裏の闇に紛れるスーサイドマスター。

すかさず腕のGNバルカンで追撃するが、全て避けられた。

「街中でなんて物使いやがる」

彼女との距離は10メートルほど。

「吸血鬼相手なんだ。コイツでも足りねぇよ」

腕だけだったのを、今度はフルスキンに変更する。

「闇の刃よ全てを退け、以て万物を断て」

ヨイヤミが、闇を…圧切をまとった。

「TRANS-AM ‼」

両肩、背中、腰のGNドライヴが唸りを上げる。

蒼い装甲にラインが走り、紅く染まる。

「アクセルワールド」

思考が加速する。

無音の世界で、一歩踏み出す。

体が重い。

まるで水中みたいだ。

それでも、魔法と想子操身法とISで、突進しつずける。

視線の先の彼女は、ほんの少しずつしか動いていなかった。

彼女に肉薄して、ヨイヤミを振り下ろす。

「バーチカル・アーク」

まずは右肩を。

返す刀で左肩を。

流れるように両足を。

「バーストアウト」

世界が、音を取り戻す。

「っぐ…!?」

全身に、弾けそうな痛みが走る。

「再生」

さっきの高速移動でかかったGで潰れた内臓が元に戻る。

「TRANS-AM Ended」

機体に走るラインと、紅い輝きが失われた。

「気分はどうだ。デストピア」

「ここまで派手にやられたのは、アセロラ姫以来だ。
もっともその時は自殺だったらしいがな」

目の前の幼女は、四肢を切り落とされ、血に沈んでいた。

ぱちん! と指を鳴らし、デストピアの四肢を燃やす。

傷口が焼ける音と共に塞がった。

「貴様…何のつもりだ?」

「何のつもりだと?」

全身を覆う蒼を、霧散させる。

「こういうつもりさ」

その右の拳を…

ガス!

「ぐっ…はぁ!?」

「怪異相手なら…何したっていいよなぁ!」

side out








路地裏に、肉を殴打する音が響く。

彼が、彼女を殴っていた。

彼女の首を掴み、路地裏の壁に押し付け、その腹を執拗に殴っていた。

下腹部…子宮の真上に、拳が叩き込まれた。

「い"っ!?」

「ほらほらどうしたもっといいこえあげろよデストピア!」

がっ!

「いぎぃ!?」

彼女の顔は苦悶に歪んでいた。

今度は、みぞおちに狙いを定めた。

ガス!

「っ…かはっ!?」

目が大きく見開かれ、ぱくぱくと口が動く。

「ひひ…ひひひ…」

彼の瞳には、狂気が宿り、その口元は裂けるように歪んでいた。

彼は自らの出自を知った。

その生まれが、人とは違うと。

彼は、もはや人間ではない。

近しい者達は、『人間ではない』という事を否定し、お前は人間だと言ってくれるだろう。

だが、彼にはそんな余裕は無かった。

ここ数日、彼は悪夢に魘されていた。

近しい者が、己の出自を知り、一人、また一人と離れて行く。

最後に残った、唯一無二の同族たる姉さえも、自らが転生者であると、離れていく。

彼は、限界だった。

彼は孤独だった。

それに加え、彼はその身に度々己以外を宿していた。

自然と、彼の意識の奥底にはもう一人の彼が生まれていった。

言うなれば、そう、変性意識…シナジュティック・コード。

その隠された意識の本質は…破壊。

彼には世界を滅ぼす力が、比喩ではなく、文字通り世界を破滅させられるだけの力がある。

彼の自重。

変性意識はその反動でもあるのかもしれない。

過度のストレスは、彼の表裏の境界を薄くしていた。

そんな折りにデストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターが彼の前に現れた。

彼は、魔法とISを用いてコレを無力化。

四肢を断たれ、抵抗できない彼女を見て……


彼は、爆発した。

目の前に、自らの衝動を押し付ける相手を見つけてしまったのだ。

恋人達に、性欲をぶつける事はあったが、それとは別の…変性意識がもたらす破壊衝動を満たす機会は無かった。

弱者を責め立てるのは、彼の良心が許さなかった。

しかし、今。

目の前の無抵抗な『強者』を、いたぶる機会を、見つけたのだ。

「くひ…ひひ…ひひひ…」

「化物め…!」

「くひ…しょうしんしょうめいばけもののおまえがいうのか?」

ごす!

「っぐぁ…!」

彼女のみぞおちに、彼の拳が突きささる。

彼が、再び弓のように拳を…否、抜き手を引き絞った。

「しゅぺーあ」

彼がドイツ語で『槍』と唱えた。

水音がした。

「ひ…ひひ…ひひひ!」

彼の手が、彼女の肉を裂き、その体内に侵入した。

「ふしのいんしって…かんぞうにあつまるんだったよなぁ?」

「てめぇっ…」

彼の手が彼女の中でうごめく。

みぞおちを貫いた手が、何かをつかんだ。

「みぃつけたぁ…」

ズボッと音と共に拳が…彼女の肝臓を握り締めた手が、体内から出てきた。

ブチブチと血管が千切れ、血がしたたる。

「きゅうけつきのればー…」

彼は、それを、食らった。

ぐちゅり…ぐちゃ…くちゅ…ぐちゅ…

「おいおい…俺様を食っていいのは俺様だけだぜ?」

しかし、彼女の声も聞こえない様子で、彼は肉塊を貪る。

その口元は、血にまみれ、可愛らしい少女のような顔が、かえって恐ろしかった。

やがて、肉塊を全て飲み込んだ彼は、先の穴から手を突っ込み、今度は彼女の下腹部をまさぐった。

「おいおい…それは、流石の俺様もドン引きだぜ?」

次に、彼が引き摺り出したのは、彼女の子宮だった。

ぐちゃぐちゃと音をたて鶏卵より少し小さい塊を咀嚼する。

彼が、塊を飲み込んだ。

再び、彼女を食らおうとした刹那。

「いっ君。流石にこれ以上は見ていられないよ」

彼が、崩れ落ちた。

「やぁ、見ていたよ。デストピアだったかな?」

「ほう?お前さん、確かプロフェッサー・タバネだったか?」

「おお、怪異にも知ってもらえてて光栄だよ」

彼が崩れ落ちたと同時に、地面へ落ちた彼女と束の問答は、長くは続かなかった。

「取り敢えず、君には一時消滅してもらおう」

束の片腕が、物々しくも流麗な装甲に包まれる。

「っは…俺様も地に落ちた物だな…」

「そうだね、暫く灰になって漂え」

束は彼女の首を掴んで、空へ放り投げた。

そこへ…

「さよなら、絶望郷で己が死を奏でし吸血鬼」

装甲を纏った腕からの光が、彼女を消した。

「さぁ、帰ろう。いっ君」

束は、彼を横抱きにして、大通りを歩き始めた。
 
 

 
後書き
これって全年齢で大丈夫かな…? 

 

第八十八話

暗い暗い場所に、少年がいた。

髪は長く、体は細く、顔は少女のようだった。

少年の回りには、人だかりがあった。

それは、少年に近しい者達だった。

とぷん…と少年が液体の中に放り込まれた。

何か大きなシリンダーのような容器の中に、明らかに水ではない液体の中に。

それを、見た者達が、少年から離れていく。

液体中で少年がもがくけれど、シリンダーに阻まれた彼には何も出来なかった。

やがて、人だかりは消え、そこには二人の少女がたっていた。

黒い髪を後ろで纏め佩刀した少女と、紫がかったストレートをカチューシャで抑えた少女。

最後まで残っていた彼女達も、少年から離れていった。

全てに絶望した少年だったが、隣に、もう一つシリンダーがあることに気付いた。

そのなかには、一人の女が…少年の姉が入っていた。

ガシャン! と音をたて、二つのシリンダーが砕ける。

シリンダーから這い出してへたりこむ少年を、姉が見下ろしていた。

そして、その姉すらも少年をおいていく。

少年は、姉を追おうと、立ち上がる。

だが、少年の足を何者かが掴んだ。

振り向くと、一人の男が、少年の足を握っていた。

その男の顔立ちは、少年によく似ていた。

目元が、口元が…

少年を男らしくすれば、その男のようになるだろう。

少年の口から、『織斑一夏』と、少年自身の名が…否、その男の名が漏れた。

その男は立ち上がると、今度は少年の首を掴んだ。

ギリギリと締め上げる。

少年は、抵抗するようにその男を蹴りつける。

怯んだその男は、少年の首から手を離した。

少年が五指を揃えると、その手を闇が包んだ。

その手刀は、何の抵抗もなく、その男を貫いた。

だが、次の瞬間、その男の姿が少年に変わった。

少年だった人物は、少年でもなく、男でもない誰かへと姿を変えた。

誰かは、さっきまで人物だった物を貫いている手を抜き、後ずさった。

そこで、誰かは、何かに躓いた。

誰かが、何に躓いたのかを確認すると、それはシリンダーの破片だった。

そして、シリンダーの破片に映った誰かの顔は…

目も、鼻も、口も、耳も、髪も…いや、それどころか輪郭すらない、霞みだった。









side ICHIKA

「……………朝か」

目を開けると、ホテルの一室のようだった。

昨日までのホテルと違う…箒がいない…?

「やぁ、おはよういっ君」

「束さん?」

首を動かすと、隣で束さんが頬杖をついて、俺を見ていた。

体を起こすと、束さんもその隣に、俺にぴったりとくっついて腰をおろした。

「昨日、何があったか覚えてるかい?」

昨日…?

昨日は…束さんと食事して…アイツ等とベルリンを歩いて…楯無とヴィッサリオンと飲んで…

そこまで考えて、頭の片隅がズキンと疼いた。

「っぐ…!」

その後…その後…

頭の中で、金色に煌めく髪と瞳がちらついた。

「そうだ…スーサイドマスター。
スーサイドマスターと戦って…戦って…
戦って?」

そこから、記憶に靄がかかったように思い出せない。

「戦って…奴の四肢を切った…そのあと…
その……あ……と……?」

「そのあと、いっ君はデストピアをGNカノンで消し飛ばしたんだよ」

スーサイドマスターを…?

「そう…なんですか?」

「うん。そのあと倒れたいっ君を、ここに運んだんだ。
気になるならコアの映像ログを見るといいよ」

目の前にホロウィンドウを呼び出し、ログを漁ると、確かに俺はGNカノンでスーサイドマスターを消し炭にしていた。

「デストピアは灰になった。
だから、そうそう復活しない筈だよ」

「そう…ですか」

ホロウィンドウの中でスーサイドマスターを消し飛ばした俺に、多少違和感を覚えたが、些末な事だ。

きっと飛んでいた記憶の断片がそうさせるのだろう。

映像だけでなく、機体その物のログにも、GNカノンの使用履歴がある。

「いかんな…記憶が飛ぶとは…」

「いっ君は…いっ君は一人で色々抱えすぎなんだよ」

「そうですかね?」

「いっ君が何を悩んでるかは知らないけどさ、話してみない?」

話す…? 話して、どうする…?

話して…拒絶されたら…?

あの、悪夢のように、俺達…いや、俺から離れていったら…?

束さんが、俺を包み込むように抱き締めた。

「いっ君…何に怯えてるの?」

図星をつかれた俺は、体を強張らせてしまった。

「いっ君、さっき、怯えてた。
何もかもが怖いって顔してたよ」

「そんな顔を…してましたか?」

「うん」

「束さんは、何があっても俺達姉弟を、拒絶しませんか?」

「どうして私がいっ君とちーちゃんを拒絶するの?」

「本当に…俺達を見捨てないでいてくれますか?」

「うん。私の、私の夢に誓って」

束さんの瞳が、俺の瞳を真っ直ぐに見据えている。

「束さん。俺は…俺達姉弟は…
作られた人間なんです。
日本政府主導の、プロジェクト・メシア。
その計画で作られた遺伝子強化素体【メシア】。
それが俺達なんです」

たったそれだけの、短い告白。

それに対する答えも、そっけない物だった。

「ふーん…だから、何?」

「え?」

「例えいっ君とちーちゃんが人造人間だろうとロボットだろうと、いっ君はいっ君だし、ちーちゃんはちーちゃんだよ。
出自がどーとか、生まれがどーとか、関係ないよ。
今まで一緒にいた時間が、二人を二人たらしめるんだから」

だから、と束さんは続けた。

「私が…私と箒ちゃんが、いっ君とちーちゃんを見捨てる訳無いじゃないか」

例え、と続いた。

「世界中が二人を否定するなら、私は世界を滅ぼす。
奴らがISに望んだ通りの力で以てしてね」
 

 

第八十九話

認識阻害をかけて、街を歩く。

今使っているのは、いつもより弱い物だ。

俺を知らない一般市民俺を知覚できないが、ファントム・タスクの、俺を誘拐しようとしている奴等には、知覚されているだろう。

目を離せば見つけるのに苦労するだろうけどな。

とは言えずっとピッタリくっついて来てる奴が居るから大丈夫だろう。

少しだけ、人通りが少ない方へ歩く。

そちらの方は土産物店などが置いてあるエリアなので、おかしくはない。

そして、案の定乱暴にハイエースされました。

この前深夜テンションでシルヴミーティオのハイエースを魔改造したバチが当たったのだろうか。

頭を打った。

うおぉ…絶対たんこぶできてるぅ…

「<お、おい、大丈夫かお前?>」

車内で頭を抑えていると、英語で声をかけられた。

女の声だ。

「<おい…誘拐犯…人質は丁重にあつかいやがれっ…!>」

「<す、すまん…>」

「<オータム、貴女何をやってるのよ?>」

「<しょうがないだろスコール…そもそも誘拐なんて私達の仕事じゃないんだし…>」

「<仕方ないでしょ?プロフェッサー・タバネの雇った護衛が近くに居たのだから>」

「<それだって付いてるのはホウキ・シノノノにだろ?>」

「<バカねぇ、そこの彼とホウキ・シノノノは一緒に住んでいた時があったのよ?
プロフェッサー・タバネが彼の護衛も依頼している可能性だってあったのよ>」

「<ま、まぁ、筋は通っちゃいるが…>」

マジかよ…

「<モノクローム・アバターのお出ましとは…
ファントムタスクも思いきった事をするじゃねぇか>」

押さえていた頭から手を離し、隣にいた女を見る。

茶髪を腰まで伸ばした、少し目付きの悪い美人。

運転席に座る女は、淡く光る金髪。

ファントムタスクの実働部隊のモノクローム・アバターだ。

「<あら、私達の事を知っていたのね坊や>」

「<アンタ等は結構有名だぜ?>」

「<お、おいスコール…どうすんだ?>」

「<坊や、取り敢えず大人しくしておいてくれるかしら?>」

「<ああ、いいぜ。どうせ『丸腰の』俺じゃぁアンタ等には勝てそうもない。
逆らう気なんて更々無いよ>」

「<あら、お利口さんね>」

「<それで?俺ぁ何処に連れて行かれるんだ?>」

アニメでは何処かの廃墟だったような…

「<そうね、私達の研究所に来て貰うわ>」

「<研究所?>」

「<ええ、貴方やブリュンヒルデは知らない事でしょうけど、貴方は達はデザインベイビーなのよ>」

「I know. So what ?」

知ってるよ、で? と返す。

「「Really?」」

「<それくらいしっている。まったく、大人ときたら子供は無知で純真だと決めつけやがる。
子供だって何でもは知らなくとも、知っている事はあるんだぜ?>」

「<あら、そう>」

「<なぁ、一つ質問。アンタ等日本に行ったことあるか?>」

「Japan?」

「<ああ、それも八年前に>」

「<日本には…三年前に行ったが…
三年前で合ってるよなスコール?>」

「<ええ、貴女がTokyoのHarajukuではしゃいでたのを覚えてるわ>」

「<わすれろよ!>」

しかも旅行かよ…

「<坊や、貴方は私達が貴方の両親を殺したんじゃないかと思ってるみたいだけど、私達の中にも色々なチームがあるの。
私達モノクローム・アバターは正面戦闘が任務。
暗殺や誘拐は私達とは管轄が違うのよ。
今回ばかりは銀の流星群とかサラシキとかがついていたから特例ね>」

さっきもそんな話をしていたな…

「<本当に?嘘だったらアンタ等に死ぬより恐ろしい目に会わせるよ?>」

「<丸腰で何言ってるんだ?>」

「<そうねぇ…それは怖いわ。
まぁ、貴方程敏い子供ならわかるんじゃないかしら?>」

まぁ…さっきからメティス・サイトで見てるけど、嘘はついてないみたいだ。

「<あぁ…そのようだな>」

「<お、おい坊主>」

「<どうしたミス・オータム?
俺に何か用?>」

「<お前の両親って…>」

とオータムがおかしな顔で聞いてくる。

だけど、それをスコールが止めた。

「<やめておきなさい、オータム。
いい加減、割り切れるようになりなさい>」

「<で、でもよぅ…>」

ん…?なんかおかしな話になってきたぞ…?

「<オータム、さっさと坊やを縛って後ろで寝ときなさい>」

「<うん…>」

オータムが座席の下からロープを取り出した。

「<わりぃな…坊主>」

「<はいはい、憐れな子供は誘拐犯に従うしかないからね>」

両手両足をロープで縛られる。

この時、認識阻害をフル活用し、ロープをたわませた箇所から視線を外す。

なぜか、オータムが俺に耳打ちした。

「<まぁ…なるべく『緩く』しばってやるよ…>」

「<……?>」

そのあと、本当に緩く…細工をしていなかったら抜け出せないギリギリで縛られた。

つまり、『細工をしていれば』簡単に抜け出せるのだ。

なんだ…? 何かおかしいぞ…?
 
 

 
後書き
優しいオータムってどうですかね? 

 

第九十話

「<坊主、飯だ>」

「<ん、あんがとオータム>」

あれから、ハイエースは何処かの地下施設に入った。

そして、車から降りた俺は地下牢のような所に突っ込まれた。

「オリムラ・イチカ、なんで逃げなかった?」

「あれ?日本語話せたの?」

「ああ…まぁな。
お前、ロープに細工したのに何故逃げなかったんだ?」

「なんでだと思う?」

「わかんねぇから聞いてんだよ」

「まぁ、その内わかるよ」

メシ(何故か日本の缶詰と炭酸水だった)を食い終わると、オータムが空缶を持って何処かへ行った。

「ふぅ…」

一息つき、メティス・サイト施設のマップを確認しながら、情報を得る方法を考える。

まぁ、既にいくつかの手はうってあるのだが、やはり自分で動きたい物である。

あと、とても気になる物も見つけた。

考えていると、今度はスコールが来た。

「<坊や>」

「今度はあんたか、SQUALL」

鉄格子の向こう側のスコールを見据える。

「あら、やっぱり寝てなかったのね」

ん…?

「まぁ…いいわ…。
で…?貴方があっさりと私達に捕まった理由。
そろそろ教えてくれないかしら?」

「オータムも同じ事言ってたぞ?
なに?逃げて欲しい訳?」

「ええ、端的に言えばそうよ」

「はぁ…?」

訳がわからん。

「私はどうでもいいのだけれど、オータムはそう思っているわ」

「はぁ…?」

「私達にも色々あるのよ。
例えば、この施設のトップが気に入らないとか、そもそもこの研究所自体私達の派閥じゃないとかね」

「う…うん…?」

「それでなんだけど、私の予想ではそろそろプロフェッサー・タバネが雇ったシルヴミーティオが貴方を助けに来るとおもうのだけれど?」

「ふふふ…」

「あら?間違ってたかしら?」

「今回シルヴミーティオは動かない。
無論更識も、プロフェッサー・タバネも、ブリュンヒルデすらも」

「あら?貴方一人で脱出する気かしら?」

「さぁ?どうでしょう?」

「そう。なら、私達は殺さないように、その助けに来る誰かに言っておいてちょうだい」

「ああ、伝えておこう」

スコールが、元来た方へと戻って行った。

その数分後。

「一夏。調べてきました」

「おつかれ、轟雷」

鉄格子の隙間を通って来たのは、身長15センチほどの女の子。

FAG轟雷。

元ネタはブキヤのFAGだ。

最初の11のコアとも、束さんが世界中にばらまいた量産コアとも違う俺が一人で作ったコア…番外コアを中核としている。

さらにコアには俺達のソウルアーキタイプを搭載しており、魔法も使えるようにしてある。

他にもスティレット、迅雷などイノセンティアまでの機体は作ってある。

「接触回線でデータを送りたいのですが」

「ん?あぁ、わかった。他の娘は?」

「さぁ?途中でバーゼラルドとすれ違いましたが、まだ調べる事があると言っていました」

そう言って轟雷が腰をこっちに向けた。

「なぁ、おい。やっぱ無線で良くないか?
量子暗号通信だったら別に傍受される心配ないだろ?」

「ですが確実性に欠けます」

「チクショウメ…」

仕方なく伸ばしたコードを轟雷の腰に挿す。

「あっ…///」

「ねぇ、マジでそのリアクションどこから拾ってきたの?」

「女性は男性に棒を突っ込まれるとこのような声が出ると束が言っていました」

「またか…またなのか…」

とりあえずその事は今は置いておこう…

目の前のARウィンドウに、轟雷が拾ってきたデータが写し出される。

「ふむ…なるほど…」

どうやらここはファントムタスクのラボの中でも遺伝子工学などを扱っている所らしい。

「やはりか…」

轟雷が持ってきたデータの中で最も目を引かれたデータ。

それは…

「PMI-00M…プロジェクト・メシア・イミテーション零号…エム…」

この地下牢よりも下の階層にいる、俺の妹。

文面から察するに、遺伝子工学を使って、父さんと母さんの遺伝子を受精卵にぶちこんだ個体だろうか。

「妹なのですか?」

「ああ…そうさ…」

それと、もう一つ…

「コイツが下手人のトップか…」

この施設の主任研究員…ヴィーティング。

おそらくは偽名かコードネームだろう。

あと…ソイツの子飼いの女性私兵団…

さて…どうしてくれようか!

嗚呼…嗚呼…嗚呼…!

ついに、ついにこの日が来た!

「く…くく…くくく…くくくく…!」

まずインフィニティ・モーメントで体感時間を引き伸ばして、それから少しずつ…指先から潰して…

「あらあら、ご主人様が怖い顔をしているわぁ…」

「本当ね…でも…ステキな顔…」

ん…?

「マテリアか」

「「それで、いったいどんな楽しい事を考えていたの?」」

「うん?魔法を全力行使しての処刑だよ」

「「私達も混ざっていいかしら?」」

「悪いが今回ばかりは俺一人でやりたいんだ。
悪いな」

「「あら、残念」」

その後、残りの子が全員帰って来たので情報を纏める。

一つ、このラボにはマドカがいる。

二つ、現在地は地下三階。

三つ、マドカが居るのは地下七階。

四つ、この施設の主任が父さんと母さんを殺った下手人を纏めている。

五つ、主任と子飼いの私兵は今日は研究所に居ない。

六つ、『オルコット家』とヴィーティングの取引…

「さーて…情報は手にはいったし、脱出するか…」

あ、でも一回下ってマドカを救出しねーと…

あと、マドカは調整中らしいからそれをどうにかしないとな…

しゃーない、束さんを呼ぶか。

ホロウィンドウを呼び出し、束さんにコールする。

「もしもし束さん?」

「『なんだいいっ君。侵食弾頭弾を使う用意ならできてるよ』」

「そうじゃなくてですね、妹を見つけたのでどうにかしたいんです。
今資料送りますね」

「『え?は?妹…?』」

そして、少しの沈黙の後…

「『わかったよ、調整すればいいんだね?』」

「はい」

「『じゃぁ、轟雷ちゃん達とマリオネット・アーキテクトをその【マドカ】って子の調整ができるコンソールの所に行かせて。
後は私がやるからさ』」

「ありがとうございます。
あぁ、それと…轟雷達にプラグを挿した時の反応についてお話があるのですが?」

「『さぁさぁ!そんな事は後にしていっ君とちーちゃんの可愛い可愛い妹を助けようじゃないか!』」

逃げたな…まぁ、確かにそれは後回しだ。

「聞いてたかお前ら?」

目の前のFAG達に呼び掛けると、元気のいい返事が返ってきた。

「じゃぁ、聞いてた通りだ、行ってこい」

FAG達を向かわせた後は、暇になった。

調整には半日ほどかかるらしい。

長いとは思わない。

ずっと研究してきたファントムタスクが出来なかった事をたった半日でできる束さんは、本当にすごいと思う。






そうして、夜になった。

ネットニュースで『織斑千冬モンドグロッソ二冠!』の記事を読んでいる最中だった。

ゴン!と施設がゆれた。
 

 

第九十一話

ゴンッ…!

「ん…地震か?」

ウィンドウを閉じ、メティス・サイトを展開する。

そうして、見つけたのは…

「うそだろ…?」

天井を、その先に居る奴を睨み付ける。

「スーサイドマスター…!」

なんだ…?俺を追ってきたのか?

くそ…奴の食指が動くとは…メシアだからか、転生者だからか…

まぁ、今はどうでもいい。

とにかく…地下のマドカと調整作業中のFAG達を守らねば…

鉄格子を分解して、外に出る。

大千本槍起動。

邪魔な奴を消しながら、階上へ向かう。

地下二階の一本道で、奴と相対した。

「スーサイドマスター」

「おお…出迎えてくれるとはありがたいねぇ…」

スーサイドマスターは、1本の錆びた大剣を担いでいた。

「昨日の借りを返しに来たぜ、ブリュンヒルデの弟」

「昨日と同じように吹っ飛ばしてやるよ」

すると、スーサイドマスターは声高々に笑い始めた。

「なんだ?お前もしかして覚えてねぇのか?」

「何をだ?」

「覚えてねぇなら別に構わねぇよ」

そう言って、スーサイドマスターが剣を構える。

こちらも、それに対応すべく、武器を構える。

カレトヴルッフ・フェーダー。

奴が突っ込んでくる。

それをカレトヴルッフで受け止める。

「闇の刃よ全てを斥け以て万物を絶て」

カレトヴルッフが、闇の刃を纏う。

「残念」

なに?奴の剣が切れないだと…?

「この剣は全てを切り、絶対に折れない。
まぁ、美しくないから俺様は使いたくねぇが…テメェを食う為なら、仕方ねぇ」

全てを切り絶対に折れない…か…

尚且つ錆びているとなれば…

「くそッ…キスショットの心渡と同じか…」

おそらく、物質創造能力で剣を再現している。

その元となる剣はおそらく…

「スクレップ…」

面倒な物持ち出しやがって…!

「エクスプローダー!」

圧切で鍔迫り合いは不利なのでスーサイドマスターを弾き飛ばす。

その一瞬で圧切からパンツァーに切り替える。

更には表面にファランクスを纏わせ、スーサイドマスターに突撃。


奴が受け太刀した瞬間に左手を離し、GNバルカンを撃つ。

だが…

バッと、目の前が真っ暗になった。

いや、違う…

目の前のスーサイドマスターが、コウモリに変化した。

そして…

ガガガガガガガガ!

「なっ…!?」

大千本槍の後頭部に集中攻撃を食らい、ムーバルスーツが露になってしまった。

「ジークフリート!」

全身を硬化し、奴の牙を拒む。

しかし…

「っぐあ!?」

首筋に、鋭い痛みが走る。

「な……ぜ…?」

どうして…?ジークフリートは確かに発動したはず…!

「甘めぇんだよ…これくらい、俺様が突破できねぇとでも思ったか?」

くっそ…! レイニーデヴィルの時と同じか…!

力が、抜けていく。

体の奥で、快楽と苦痛がぐちゃぐちゃになる。

「ああ…やっぱりだ…こんなのは、アセロラ姫以来だ…」

「くっそ…!」

五指を揃え、圧切を使おうとするが、力が入らない…

そして…だんだんと、意識が薄れてきた…

死ぬのかな…?

死ぬ?

束さんと箒を残して…?

もし俺がしんだら、姉さんは、一人ぼっちだ。

本当に、死ぬのか?

消えるのか?

それだけは…

嫌だ…!

「す…どます…たー…お…れ…は…






死ね…ないん…だよぉ!」

残った力を振り絞って、大千本槍を動かし、スーサイドマスターをはね除ける。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「チッ…眷属にしたかったんだがなぁ…」

「橙…俺、今どのくらい吸血鬼?」

『だいたい、九割くらい。
たぶん、残りの一割で完全に眷属になってたと思う』

九割かぁ…

『じゃぁさぁ、かなり無茶できるよね』

『え…?』

「アマノハゴロモ起動。
TRANS-AM BOOST…n_i_t_r_o」

機体の、出力系統のリミッターを全て解除する。

肩、腰、背中のGNドライブが唸りをあげる。

機体が、赤く、紅く、朱く、染まる。

緑の粒子と蒼い焔が機体を包み込む。

「パンツァー」

カレトヴルッフを再び硬化。

そうして、真っ直ぐに、ただひたすら真っ直ぐに、奴へ向かって突進する。

「っぐ…!」

内臓がいくらか潰れたな…

「ゼアアアアアアァァァァァァァァァ!」

スクレップと、カレトヴルッフが激突した。

そこから、連撃を仕掛ける。

奴は防戦一方だ。

そして…フィニッシュ。

壁まで追い詰めたスーサイドマスターにトドメの一撃。

カレトヴルッフを、奴の腹に突き刺す。

「はぁ…はぁ…」

「あぁ…またこうなるのか…
やっぱ…何人か食っとくべきだったなぁ…」

カレトヴルッフを抜き、スーサイドマスターの首筋に、かぶりつく。

奴の血を飲めば、俺は人間に戻れる筈だ…

再生はたぶん使えない。

ジークフリートを突破出来るってことは、吸血鬼スキルは現代魔法よりも世界への干渉力が強いということだ。

そうして、スーサイドマスターの血を飲んでいくと、少しずつ、彼女が縮んでいく。

スーサイドマスターが、だいたい三歳児くらいの大きさになった所で、血を吸うのを止める。

「何故止めた?」

何故?

「ここでお前を殺したら後味が悪いから…?
あと利用価値があるから」

アマノハゴロモにより、感情を排し、実利のみを求める。

「………」

「俺は必要に応じて吸血鬼になり、お前は俺の血を得る。
winwinの関係だ」

「毎日だ」

「なに?」

「毎日血を寄越せ」

「コップにうつして、少しなら構わん」

「まぁ…それでいい…」

ふむ、これで怪異に対する切り札が増えたかな。

「そうだ、スーサイドマスター」

「なんだ?」

「お前に名前をくれてやる」

「はぁ?」

「デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターは死んだ。
今のお前は無力な三歳児だ」

「………」

「だから、新しい名前をやろう」

「ほう?俺様に名前をつけるだと?
随分と傲慢だな」

「なんとでも言え。
名は命なり、汝名付けよ、さすれば命与えられん…」

彼女の、名は。

お前の、名は。

「奏。織斑奏」

「カナデ…か…くく…」

「いい名前だろう?」

「まぁ…今は、納得しといてやるよ。
お前が血を差し出す限りはな」

どうやらこの女、旨い血のためならプライドを捨てるらしい。

まぁ、アレほどアセロラ姫に執着していたし、納得できない事もない。

「じゃぁ早速、俺の妹を救って貰おうか。
対価の血はくれてやろう」
 

 

第九十二話

「奏、俺の影に入れるか?」

「出来るぜ」

奏が俺の影に沈んで行った。

『へぇ…中々に居心地がいいな…』

『そいつぁ上々』

地下に降りようとした時…

『ますたー』

『どうした橙?奏が影に入って何かあったか?』

『それはないけど…目が…』

『ん?』

『ますたーの目、吸血鬼の時のままだよ』

『そうか』

「パレード、キャスト」

目の色を、黒に見せるようにする。

「これでいいだろ…」

下に右手を向ける。

飛行術式 キャスト。

「ミスト・ディスパージョン」

足元が分解され、砂となった。

「さて、降りるか…」

そうやって、垂直に研究所を下っていき…

地下七階へ到達した。

「ようバーゼ。作業の進捗は?」

ドアの前で見張りをしていたバーゼに声をかける。

「あのねー、さっきの地震でちょっと危ないって束がいってたよー!」

「そうか」

『俺様のせいだとでも言いたそうだな』

『お前のせいだろ』

じゃぁ、入りますか。

ドアを開け、中に入ると、大きな水槽があり、その中に女の子が浮かんでいた。

「なぁるほど…姉さんそっくりだ…」

水槽の回りのコンソールには、バーゼ以外のFAGが陣取っており、作業をしていた。

「お前ら!撤収だ!」

「撤収!?何故だ!まだ調整は…!」

「迅雷、別の方法を見つけて来た」

とゆーわけで、FAG達を量子格納庫へ収納する。

「『いっ君。何するつもり?』」

と束さんから通信が入った。

「スーサイドマスターと取引しました。
いまは織斑奏ですけどね」

「『言ってる意味がわからないよ!』」

「束さん今どこです?」

「『研究所から西に一キロの所に居るよ』」

「じゃぁそこに行きますね。
では」

ウィンドウを閉じる。

「奏」

照明に照され、長く伸びた影から、奏が出てくる。

「今からマドカを水槽から出す。
そのあと、お前の血をかけろ」

「前払いだ」

「OK」

奏を抱えあげ、首筋を差し出す。

腕の中で、奏が少し大きくなった。

「ぷはっ」

「じゃぁ、やるぞ」

奏を降ろし、水槽へ右手を向ける。

「塵と化せ」

強化ガラスの水槽が消え、中の溶液が足元へ溢れる。

そうして、硬化魔法で固定していたマドカが、中に取り残された。

ゆっくりと、水槽の底におろす。

「奏」

奏がマドカが横たわる側に立ち、自らの腕を引きちぎった。

鮮紅が、マドカに降り注ぐ。

「もういいぞ」

「後払い分も後でな」

「聞いてないぞ」

「言ってねぇし」

ちっ…しょうがねぇ…

量子格納庫から毛布を出し、マドカにかける。

そのまま抱き抱え、飛行術式でホバー移動して部屋を出る。

「パレード、キャスト」

一応見た目を変えておく。

奏が来たと思われる破壊と血飛沫の中を通って、外に出る。

そこは森だった。

「こんな所の地下に作るとは…上空からの発見は困難か…」

上空へ飛び上がり、束さんの下へ向かう。

二分程で視認できる距離になった。

「いっ君!」

「ただいま、束さん」

ふわりと着地する。

「その子がいっ君の妹?」

「うん俺と、姉さんの家族」

「可愛いっ!小さいころのちーちゃんそっくり!」

「うん。姉さんにも早く合わせてあげないとね」

すると束さんの顔が無表情になった。

「いっ君」

「何?」

「ちーちゃんがガチギレしてるよ」

…………………………

「うわぁ…戻りたくねぇ…
マドカ見せたら機嫌治さないかな…」

と思っていると、通信が入った。

「『戻ってこい話は一発殴ってからだ』」

それだけ言って、ブツン!と切れた。

「「………」」

沈黙。

「とりあえず、帰りましょう。束さん」

「わかったよ」









ベルリンの、姉さんの所へ行くと、まず殴られた。

その後に、抱き締められた。

「ただいま姉さん。あと、優勝おめでとう」

「バカ…心配かけるんじゃない…」

「うん…でも、父さん達の事が少しわかった。
明日……いや、きょう話すよ」

そこで、マドカを抱いた束さんが入ってきた。

「ちーちゃん」

「む、束か…その子か?」

「うん。ちーちゃんといっ君の妹」

「名前は?」

と姉さんが言ったので、俺が答える。

「円香。織斑円香。それが、俺達の妹の名前」

姉さんが、俺の抱擁を時解き、束さんに抱えられた円香に近づいた。

円香の頭を撫でる姿は、とても、美しかった。

女性は強く、美しいと、改めて、感じた。 

 

第九十三話

モンドグロッソ翌日。

「はぁ!?ドイツに残るぅ!?」

「更識もシルヴヴァインも動かなかったからな。
ドイツ軍に動いてもらった。無駄だったがな」

「あー…なんかゴメン」

今は、ホテルの一室を借りて、今後の予定を話していた。

この場には俺と姉さんと束さんと箒と刀奈とヴィッサリオンが居る。

円香? まだ目覚めてないからフィグネリアと柳韻さん達についてもらってる。

「それで?若は日本に帰るのか?」

「いや、ちょっとイギリス行ってくる」

「「「「は?」」」」

「昨晩、ファントムタスクのコンピュータに侵入。
父さんと母さんをころした奴の情報を見つけた」

「なんだと!?」

「だから、そいつ等を殺しに行く。
止めても無駄だよ。
奏の力を借りてでも行くから」

「奏とは誰だ?」

と箒が言った。

ふむ…ここに居るメンツにならいいか…

「奏、出てこい」

影から、スルリと幼女が出てくる。

血を飲ませてあるからだいたい五歳くらい。

「紹介するよ。彼女は織斑奏。
元々吸血鬼だったのを打ち負かして名前で縛ってある」

「よう、俺様はカナデ。
そこのウサギは既に知ってるだろうがな」

「吸血鬼…?」

と刀奈が目を丸くしていた。

「安心しろ。こいつは俺の血しか飲まん」

「そういうこった」

それだけ言うと、奏はまた影の中に入っていった。

「「「「「まてまてまてまて」」」」」

「んだよ皆して?」

「吸血鬼!?」

と姉さんが驚いた声をあげる。

「うん、そうだよ。
ちなみにオレも今はダンピールだよ」

今朝、昨日の後払い分を飲ませたからな。

パレード、ディキャスト。

今朝、起きて直ぐに展開したパレードを解除する。

「ほらね」

目の色が違うハズだ。

たぶん、紅か金。

「いっ君。自分の目は見た?」

「紅か金でしょ?」

すると箒がウカノミタマの量子格納庫から手鏡を取り出した。

それを受け取り………

「うそん」

金色の瞳、まぁ、それはいい。

問題は、瞳孔が黒のままであること。

そして…

虹彩に電子基盤のような紋様が浮かんでいる事。

「吸血鬼にコーディネーターにイノベイター!?
どんだけ属性盛るんだよ!?
それとも何か!?カミサマは俺を戦争の火種にでもする気か!?」

いや、まぁ、イノベイターにはその内なるだろうとは思っていたけど…

「戦争ですって?」

戦争というワードに刀奈が反応した。

「いや、まぁ、戦争は言い過ぎたな。
せいぜい俺が排斥される程度だ」

ガタン! と音を発て、姉さんが立ち上がった。

「一夏、どういう事か説明しろ」

えー…

「まず吸血鬼だ。人類の敵だ。
次にこの瞳だけど、これは、まぁ…なんて言うか……人類進化の可能性?」

「続けろ」

「GN粒子を多量に浴びた影響で、テロメアの劣化速度が減速したり、同族…同じ瞳を持つ物同士でテレパシーを使えたりする…
ね?排斥されるでしょ?」

「コーディネーターというのは?」

……………………

ふぅむ…………

「話せない」

「なに?」

「コーディネーターに関しては話せない。
この場では。
父さんと母さんに関する事だし、俺達…俺と姉さんと円香の出生に関わる事だ」

「コーディネーター?メシアじゃなくて?」

「刀奈、その話はするな」

「わかったわ…確かに、私達部外者が関わって良いことではなさそうね」

「更識は知っているのか?」

「ええ、昨年のモンドグロッソで簪ちゃんを助けてくれたときの『対価』の件ですから」

「そうか…あのときの…」

姉さんも納得が行ったようだ。

「話してくれるんだろうな?」

「ああ、部屋に戻ったら教えるよ、姉さん」

姉さんが、椅子に座り、腕を組む。

「それで?イギリスに行くのか?」

「うん。行くよ」

「………殺す為にか?」

「勿論。証拠も残さない完全犯罪を実現して見せるさ」

「そうか…私は止めん。
ただし、私もついていこう」

「邪魔だけはしないでね」

他のメンツも止めない。

「じゃぁ、決定。俺と姉さんはイギリスに行く。
シルヴヴァインは篠ノ之家の帰国を護衛。
刀奈、更識はどうする?」

「私もイギリスに行こうかしら。
それと……少なくともあと三人着いていきそうよ?」

刀奈が視線を向けた先は…箒と、束さんとヴィッサリオンだ。

「私も行こう」

「もちろん、私もいっ君の計画を手伝うよ」

「つー事は俺達も若と姫に着いていかないとな…」

どうやらこの場に居るメンツは全員イギリスに行くらしい。

「この人数なら移動はユーロスターになるわね。
ベルリンからフランクフルトまで行って、パリ経由ロンドン行きね」

「フランクフルトってベルリンと真反対じゃん…」

と言えば。

「どうせ一日かからないよ」

あっけらかんと束さんが言った。

まぁ…そうなんだけど…

「とりあえず一旦解散しようよ。
ちーちゃんはいっ君とよく話し合いなよ。
また、今日の夜、ホテルで集まろう」

そうして解散になって、俺と姉さんとヴィッサリオンは一昨日奏…スーサイドマスターと戦った後に束さんに運び込まれたホテルに向かった。




ホテル・フォルクヴァング

現在、束さんが泊まっているホテルに円香を寝かせ、フィグネリアをつけていた。

ノックするとフィグネリアが出てきた。

「若、ヴァナディース。眠り姫はまだ目覚めてない」

「そうか…」

するとエレンとリムが出て来た。

「いちかおねーちゃん!
おひめさまはおうじさまのちゅーでおきるんだよ!」

「わ、私も…そうおもいます…」

ジーザス…

「フィグネリア、ヴィッサリオン。
エレンとリムを連れて少し離れてくれ」

「わかったよ、若」

アルシャーヴィンファミリーが何処かへ行き、俺と姉さんが部屋に入る。

ベッドに寝かされている円香は規則正しい寝息をたて、未だ眠っている。

ツインのベッドの内、片方に円香が寝ているので、もう一つのベッドに二人で座る。

「さぁ…話をしようよ。
俺達三人の生まれの話を…」
 

 

第九十四話

「さぁ…話をしようよ。
俺達三人の生まれの話を…」

隣で、姉さんがコクンと頷いた。

「まず、謝らないといけないことが二つあるんだ。
父さんと母さんが死んだこと、二人が死んだその日からずっと、八年前から知っていたんだ」

「………そうか」

あっさりとした返しの奥の感情が、隠せていない。

「ごめんね、姉さん」

唐突に、姉さんの膝の上に乗せられた。

俺を包み込むように抱いて、手を組んでいた。

「お前は、それをずっと抱えていたのか?」

「束さんには、話した。
隠せなかったから。
のけ者にしちゃって、ごめん」

「いいんだ。それを聞いて、全てに合点がいった。
あの頃のお前の必死さは、それを忘れるためだったとな…」

「はは…覚えてたの?」

「私はお前の姉だぞ?」

「うん。姉さんは、俺の、姉さんだもんね」

「お前は私の弟だし、円香は私の妹だ」

「父さんと母さんの事がひとつめ。
もう一つ…この話をしたら姉さんは傷つくと思う。
けど」

「円香の話をするのに必要なのだろう?」

「うん。円香の話の前に、俺達の話だ。
ALICE」

暮桜の…ISコア0010に話しかける。

『イチカ…?』

「今から暮桜にデータを送る」

『ん…わかった』

「姉さん」

「ああ」

姉さんがホロウィンドウを展開したのを確認し、量子暗号通信でジャパンゲノミクスやメシアに関する報告書を送る。

「姉さん。僕らは人造人間…デザインベイビーだ」

「そうか…」

「遺伝子強化素体メシア。
それを創るプロジェクト・メシア。
プロジェクトを遂行していたジャパンゲノミクス…」

暮桜とリンクしたホロウィンドウに、人のシルエットを浮かべる。

「メシアっていうのが要するに俺達だ。
父さんと母さんはジャパンゲノミクスで、プロジェクト・メシアの主任研究員だった。
だけど、14年前…俺が生まれる前に計画は破棄された」

振り向いて、姉さんの瞳を覗く。

「そして、計画破棄前に成功したのが姉さんだ」

「…………」

「その後、研究途中だった受精卵を、体外受精の要領で母さんの子宮に入れ、そうやって生まれたのが俺」

「…っ」

「父さんと母さんは、できる限り、データを消した。
だけど、プロジェクト・メシアのメンバーの中に、ファントムタスクと繋がっている奴が居た」

ウィンドウに、データを写し出す。

日本人の女だ。

「今は、ファントムタスクでヴィーティングってコードネームを与えられてる女さ」

姉さんの手が硬く握られる。

「こいつが…父さんと母さんを…!」

「二人は、きっと何らかの方法でこいつの襲撃を知った。
それで……俺達を巻き込まないよう、失踪した」

「そう…か…そう…だった…のか…」

「円香は、その時の父さんと母さんのDNAで造られたデザインベイビーで…
こういう言い方はしたくないけど、俺達の劣化コピーだ。
だから、諸々の身体機能が正常に働いて居なかった」

「ん…?今は、大丈夫なのか?」

「裏技を使ったから大丈夫」

裏技とは無論奏の血の事だ。

「これで、俺達三人の産まれの話はおしまいだよ。
何か気になる事はある?」

「いや…ない」

「そっ…ならいいんだ」

姉さんの膝から降りて、円香の眠るベッドに腰かけ、姉さんと向き合う。

「父さんと母さんが死んだから、今の円香が…
そんな事は考えたって仕方がない。
それは俺達の預かり知らぬ所での出来事だ。
だから…」

だから。

「円香を、俺達の妹を恨まないでくれ」

姉さんが、はっとした表情を見せた。

「その恨みを向ける相手は、別に居るんだから」

「っ…気付いていたのか?」

「俺は姉さんの弟だよ?」

さっき、言われたセリフを返す。

「ふふ…そうだな…」

「私とて、円香を恨んでなどいない。
しかし…」

「割り切れない?」

姉さんは静かに頷いた。

「父さんと母さんの忘れ形見…か…」

その後でポツリと呟いた。

「そう。二人の忘れ形見。
俺達が護るべき…妹」

円香の髪を手櫛ですく。

「見れば見るほど、姉さんにそっくりだ」

「お前にもな」

まぁ…ねぇ…

「ところで、何故円香の方がお前より大きいのだ?」

「おい人が折角言わなかった事を言うな」

「しかしだな…」

実際、円香の方が俺よりも大きい。

年…というか製造されたのは俺の方が先だが、円香の肉体は薬物で成長が促進されている。

「簡単に言えばコンセプトだよ」

暮桜に三つのデータを送る。

二つは刀奈から貰ったデータ、一つは昨晩盗んだデータ。

姉さんと俺と円香の理想スペックだ。

「姉さんのデータがフィードバックされた俺の肉体は、二つのプランがあった」

要するに。

「体格を大きくして格闘で優位に立つか、小さくして銃撃戦での被弾面積を減らすかだ。
どうも俺は後者で、円香は前者らしい」

小さかろうと大きかろうと、筋肉の密度が同じならほぼおなじ膂力を出せる。

「【メシア】が軍事にも関わるデザインベイビーというコンセプトだったときの名残さ」

「ふむ…」

「姉さんの体格は多少大きめらしいよ。
詳しくはその資料読めばわかるよ」

姉さんが諸々の資料に目を通している間、ずっと円香を見ていた。

俺達の末の…いや、末かどうかは、まだわからない。

だけど、こいつが、俺達の妹である事に変わりはない。

『ニンゲンってぇのはわからねぇなぁ…
血が繋がってるって訳じゃぁねぇんだろう?』

奏か…

『ああ、でも、円香は…それに、まだあった事のない二人も、妹だよ』

『それはますたーと同じデザインベイビーだから?』

『ああ、橙の言うとおりさ』

『ほぅ?そういう物なのか?』

『そういう物らしいよ。私は奏と違ってますたーの記憶を覗いたことあるから』

『そうか…まぁ、暇な時にでも聞かせてくれや』

『ん、わかったよ奏』

まぁ…二人が仲良くなるのはいいのだが、途中から俺そっちのけで話してやがる…

『ますたー』

『なんだ?』

『ますたーは、自分の肉体についてどう思ってるの?』

どう?

『お前なら、知っているだろう。
態々聞くな』

お前なら、俺が一昨日見た夢も知っているんだろ?

『知ってるさ。でも、千冬もショックだと思うんだけど?』

『わかってる。でも、円香の話をするなら、メシアの事は言わなきゃいけないだろう』

『そうか?お前なら、上手く誤魔化す事もできたんじゃねぇの?』

『うるさい…
おれは、お前達が思っているほど有能じゃないんだ』

「んぅ…」

ん?

「何か言ったか姉さん?」

「私ではない」

っつーことは…

円香の顔を除き込む。

「やぁ、おはよう。俺達の妹」

「………」

そっと目を開けた円香は、何も言わない。

「言葉は、わかる?」

「………?」

そこからか…

「ー…ぁ…」

お?話せるのか?

「ぁー…」

んー…ダメか。

円香は、ムクリと体を起こし、辺りを見回した。

「ぁー…あ…?」

しょうがない…

「姉さん」

「な、なんだ一夏?」

なんでキョドってるんだよ…

「束さん…あー…あと柳韻さん達に連絡御願い」

「あ、あぁ構わんが…」

「じゃぁ、俺今から寝るから」

「は?」

「ちょっと円香と話してくる」

パレード、ディキャスト。

フォールド・リング、オープン。

瞳を金色に、指には人工フォールド・クォーツをあしらったサイコ・Eカーボン製のリングを。

「は、話すってどうやって…」

「大丈夫。概念伝達は出来るだろうから」

「がい…精神ダイブか?」

「そう言うこと」

円香をゆっくりと、寝かせる。

俺の方を向いて、不思議そうにしている。

「大丈夫大丈夫、今から少し話すだけだから」

円香の隣に寝転ぶ。

その細い手を、リングを付けた右手で握り…

「橙、頼む」

『りょーかい、ますたー』
 

 

第九十五話

アストラル・サイド

「やぁ、円香。気分はどう?」

「……………」

虚無…ではないな…

うーん…まぁ、何て言うか…精神空間に、俺と円香が浮かんでいる。

「気分はどう?」

と問えば、明確な言葉ではないが、『不快ではない』といったイメージが帰って来た。

「それは良かった」

自分を指差し…

「俺は織斑一夏。君の兄だ」

「……」

「そして、君は円香。織斑円香。俺の妹だ」

するとイメージが帰ってくる。

ある程度の知識はあるようだ。

問題は、『言葉を知らない』事だ。

「君は、円香」

「ま…か…?」

「まどか」

「まど……か…?」

「そうそう」

「ま…どか…わ…た…の…な…」

「そう。君の名前だ」

「まどか…」

よし…じゃぁ次は…

「俺は一夏」

「いち…か…?」

「そう」

円香は俺を指差し…

「いちか…」

「そうそう」

と、まぁ、そんな風に円香に言葉を教え…

side out






ドアが開き、ヴィッサリオンが入室した。

「若はまだ起きないか…」

「ああ…」

入ってきたヴィッサリオンに答えたのは楯無だった。

「こうして見ると、若はやっぱりカワイイねぇ…」

この場に居るのは千冬、フィグネリア、ヴィッサリオン、楯無…大人だけだ。

「坊主を叩き起こすのはまずいのか?」

楯無の問には、千冬が答えた。

「通常のVRダイブならそれで良いだろう…
だが、今は精神を直結している。
干渉するのは愚策だ」

「すげぇなIS…」

「普通の…いや、ISでは無理だ。
今一夏がつけているリングが核となっている」

全員の目が、一夏の左手に嵌まったリングを…淡い光を放つリングに集まる。

「フォールド・リング。地球外生命体の体内でのみ精製されるフォールド・クォーツという鉱石を人工精製した物を組み込んだリング…だそうだ」

「「「「………………」」」」

「魔法があるんだ。地球外生命体が居てもおかしくはない」

「そ、そうだな。うん。若ならもう何でもありだ。
ワープやタイムトラベルもできそうだしな」

「できるらしいぞ」

即答する千冬に、ヴィッサリオンが凍りついた。

「もうなにも言いなさんなアンタ」

ピシリと固まったヴィッサリオンの肩を、フィグネリアが叩いた。

「おう」




「俺を人外扱いしてんじゃねーよ」

「「「!」」」

「起きたか一夏!」

「あぁ、おきたよ。円香もな」

一夏と円香が起き上がる。

すると円香がぎゅっと一夏に抱きついた。

「んー?どした?」

「ひと…おおい…」

「あぁ…そっか…姉さん以外取り敢えず出て行って。
悪いね、こっちから呼んどいて」

「いや、構わんぞ坊主。家族水入らずで話してくれ。
ほら、二人とも行くぞ」

楯無がアルシャーヴィン夫妻を連れて部屋を出て行った。

「一夏」

「何?姉さん」

「えっと…」

「あぁ、円香はある程度話せるようになったよ。
ほら、円香。挨拶」

一夏にぴったりくっついている円香に呼び掛けると、おずおずと離れた。

「はじめまして、おねーちゃん」

「は、はじめまして…?」

円香に挨拶された千冬は、どう返したら良いかわからず、とりあえず同じ言葉を返した。

「何故姉さんが疑問形?」

すると一夏は円香を抱き上げ、千冬の膝の上に乗せた。

「「?」」

「じゃぁ俺は束さん達に報告してくるから」

そう言って、一夏は部屋を出て行った。








side in

「やぁ、いっ君。どうだった?」

「どう、とは?」

「いや、だからまーちゃんだよ。
いらん洗脳とかされてなかった?」

束さんは心配性だなぁ…

左人差指に嵌めたリングを見せる。

「心配ないよ。
フォールド・リングまで使って精神ダイブしたんだから。
何かあったら気付いてる」

「それもそうだね」

「箒達は?」

「観光中だよ。えーちゃんとりーちゃんも一緒。
更識と布仏の姉妹もついてるから心配ないよ」

確かに箒達のエイドスの位置情報が同じ場所に集まっているな。

「ならいいや。じゃ、俺達は俺達でベルリンデートと行こうか」

「うん。わかった」
 

 

第九十六話

「おにーちゃんあれは?」

「あれ?」

「あれ」

「あれは列車だよ。
今からあれに乗ってパリまで行くんだ」

「ぱり?」

「そうそう」

俺達はイギリスへ行くため、ひとまずベルリンの駅から列車に乗ることになった。

これからパリまで行って、観光して、そのあとイギリスへ行って、そして…

「一夏をとられた…」

「まぁまぁ、元気出してよ箒ちゃん。
いっ君はお兄ちゃんぶりたいんだから。
温かく見守ってあげようよ」

「取られてねーよ。俺は誰のもんでもねーよ。
あとぶってねぇよ正真正銘兄だよ」

「一夏は私の物だ」

「いっ君私と箒ちゃんの物~」

「戯け、弟は姉の物だ」

仲いいな。

「おにーちゃんはわたしのなの!」

「わぷ!」

円香に真正面からぎゅっと抱き締められる。

兄なのに…兄なのに…。

「ほうほう。モテるじゃないか一夏君」

円香の肩越しにすぐ後ろには生暖かい目の柳韻さんや楯無やヴィッサリオン。

「束も嬉しそうだ。だがあれの結婚相手は苦労するぞ一夏君」

「すでにしてますよ。でもまぁ、惚れた弱みって事で」

「箒の事も頼むわよ一夏君」

奥さんまで…

「おい坊主。お前もしかして…」

と楯無が俺と束さんと箒を見る。

しかし直後。

「はいはいお父さん。馬に蹴られる前にやめとこうね」

「楯無様、不粋です」

「待て刀奈!虚!…引っ張るな二人とも!」

刀奈と虚さんに引っ張られて楯無が何処かへ連れて行かれた。

「一夏…いいの? 放っておいて?」

簪指差した方では三つ巴…あぁ、いや、織斑篠ノ之両姉妹でバチバチしてた。

「円香ちゃんの腕の中なんだからきづこうよ」

そだねー。

「かんざしー、どうやったらとめられそう?」

「取り敢えず『自分は蚊帳の外です』って感じで私と話すのを止めたらいいとおもう」

「具体的に」

「試しに可愛い子ぶって媚びてみたら?」

「えー…」

「開き直ったら?楽になれるよ」

そーなのかー…

「じゃぁやってみるよ」

「へ?」

円香の腕の中でぐるんと体を回す。

「おにーちゃん?」

円香には効かんだろうが、後の三人には効くはず…

「ねぇ!」

四人の視線があつまる。

なるべく上目遣いで。

「俺の…ため…に…争っちゃ…やだ…よ…?」

「「「ぐはっ!?」」」

あ、鼻血だした。

「おにーちゃーん!」

円香もにもいっそう強く抱き締められる。

「恥ずかしいなこれ。もう二度とやらん」

すると簪が近寄って来た。

「今日のオカズにするね」

取り敢えず想子弾を目の前で弾けさせる。

「ふやぁ!?な、なに!?」

「円香の前でそういう話をするんじゃない」

「そーゆーはなし?」

ほらみろ…

「なんでもない。お前にはまだ早い」

「無知シチュ…」

もう一発。

「ふゆぅ!?」

そこで一両の列車がホームに入ってきた。

「ほら、俺達が乗る便だ。邪魔になるからさっさと乗るぞ」












「マジか」

車内に入ると、個室に別れていた。

「ホグワーツ特急みたいだ」

「ハリー・ポッター?」

隣の簪が俺の呟きに応えた。

「うん」

えーっと、一つのコンパートメントに…六人か。

俺、簪、刀奈、箒、束さん、姉さん、円香、本音、虚さん、エレン、リム、ヴィッサリオン、フィグネリア、柳韻さん、奥さん、楯無。

計十六人。

「一夏、入ろ」

「ん。わかった」

簪、本音、箒、円香、エレン、リムと同じコンパートメントに入る。

「もう一人行けそうね」

と刀奈が乱入してきて、八人になった。

「いや、六人だぞ」

すると窓際にエレンとリム、隣に簪と本音、対面の窓際に円香、隣に箒、刀奈が座った。

「ほら満杯じゃねーか」

とコンパートメントを出ていこうとした時…

ガシッと刀奈に腕を掴まれ、後ろに引っ張られた。

そのままぽすんと刀奈の膝に乗ってしまう。

「ほら、入ったでしょ?」

ジーザス。

汽笛が鳴り、列車が発進した。

「にしても軽いわねー…っていうか軽すぎない?
ちゃんと食べてるのかしら?」

と刀奈が俺の体をまさぐる。

「おい手付きがアウトだ」

「んー?こんなに筋肉があって軽い筈は…」

トゥワイス・グラビティ、ディキャスト。

飛行術式、ディキャスト。

「あら?」

「お前がさっき引っ張った時咄嗟に飛行術式を使ったんだ」

「魔法かしら?」

「そう言うこと」

「おねーちゃん魔法使えるの?」

と斜め前からエレンが質問した。

「できるよ」

片手をエレン達へ掌を向けて掲げる。

「水よ、世界を舞う水よ。我の前に姿を顕せ」

手の上に徐々に水が発生する…ように見える。

やがて水は大きめのビー玉程の大きさになった。

「すごいすごーい!」

とエレンは目を輝かせ、リムは無言で水の珠を見ていた。

「水よ、その形を顕せ」

水が少しずつ少しずつ凍っていき、やがて氷の真球となった。

ソレをふよふよとエレンの方へ向かわせる。

「エレン、手を出せ」

エレンが手をお椀の形にしたので、その上にゆっくりとおろす。

「わっ…つめたい…」

エレン、リム、円香は興味津々で氷の珠で遊び始めた。

残りは箒を除いて無言だった。

「一夏、今のどうやったの?」

「今のは何も無いところから水を生んだ訳じゃない。
このコンパートメントに漂う水蒸気をかき集めただけだ。
箒、窓開けて、触らずにね。CADは使っていいよ」

箒が窓に手を向けると、窓が独りでにあいた。

「わ~…もっぴぃもサイキッカーなの?」

「もっぴぃと言うのをやめろ。
あとサイキックではなくこれも魔法だ。
まぁ、サイキックと言っても間違いではないのだがな」

「一夏君。説明おねがい」

はいはい。

「俺達が使う魔法は、超能力研究の終着に位置する科学だ。
超能力を万人に使えるように体系化したのが俺や箒が使う魔法。
だから俺達がやる事は科学的に筋が通っているんだ」

「でも水を集めるにはエネルギーが必要なはず。
その運動エネルギーはどこからきたの?」

さすが簪、鋭い。

「俺達の魔法は、情報を書き換える事で発動する。
俺達が住む物質界とはべつの情報世界イデア。
そこにある個々の物体の情報体エイドスを書き換える事で、その情報と物質の相互作用で俺達は任意の現象を引き起こす。
さっきのもそうやって水を集めたのさ」

「「「?」」」

「お前ら重力の空間モデルは知ってるか?」

ポケットからハンカチを出し、広げ、空中に四隅を座標固定して浮かせる。

「これが宇宙な」

そして、開いた窓から入ってくる空気の水蒸気を集め、球を複数創る。

「これが星とかの物体」

一番大きい球をハンカチの上に置く。

するとそこを中心にへこんだ。

「この凹みが重力…つまり質量による空間の歪みだだ」

そこへ小球を転がすと、凹みへ向かっていく。

「コレが重力の仕組みだ。
一方俺達がやっていることを簡単に再現するとだな」

全ての球を浮かせる。

「ようするにこういう事だ」

中心を裏から引っ張る。

球を落とせばもちろん引っ張った所へ。

「コレが俺達だやったことさ」

ハンカチをしまい、作った水珠を凍らせて、エレン達へ渡す。

「ようするに、俺達はアカシックレコードの現象に関する欄を好きなように書き換えられるって事さ」

「おりむぅ、日本語話してよぉ…」

「これは口で行っても伝わらんからなぁ…
あぁ、そうだ。例えば『このエリアに入った物を減速させる』っていう風に空間の情報を書き換えたらバリアになるぞ」

「む?そんな面倒な事などせずに対物障壁を…」

「分かりやすく説明してんだから静かに」

「むぅ…」

箒が重力制御をつかい、俺を持ち上げ、自分の膝の上にのせた。

「今のは重力を制御したんだ。
情報を書き換えて重力エネルギーを別のエネルギーに変換して俺を一時的に軽くしたって訳。
魔法はエネルギーの収支が釣り合っていないと失敗しやすくなる。
世界を欺けないんだ。」

そうだな…

「ドライミーティアっていう魔法がある。
空気中の二酸化炭素をドライアイスにして打ち出す魔法だが、この魔法は気温が高いほど威力が上がる」

「なぜ?ドライアイスが溶けてしまうはず」

「エネルギーの収支。
つまり熱エネルギーを運動エネルギーに変換するんだ」

「なるほど」

あとは…

こんな事もできる。

パレードキャスト。

「え?私?」

「いま、俺は自分の外見情報を書き換えて、簪と同じ姿に『見せている』」

パレードディキャスト。

「一夏、古式の説明はいいのか?」

「めんどいからパス」

「古式って何かしら?」

「ようするに祓魔とか陰陽道とかさ」

「一夏」

「なんだ?」

箒の方を向くと、唐突にキスされた。

しかもディープキス。

途中で、ドン!という衝撃を感じた。

覚えのある衝撃だった。

箒が唇を離す。

案の定、箒には耳があった。

獣の、狐の耳が。

「ふぅ。古式魔法はこういった、いわば『怪異』を使役する術式も含まれる。
そうだろう?一夏」

「問答無用で耳を生やすな」

氷球で遊ぶ三人は気付いて居ないようだったが、更識姉妹と本音は目を丸くしていた。 

 

第九十七話

パレードキャスト。

耳と尾を隠す。

「ふむ…世界のヴェールよ我らを隠し、匿いたまへ」

何故か箒が認識阻害の式句を詠唱した。

「ねぇ二人とも、さっきから言ってるのって呪文?」

「詠唱は無くてもいいけど、イメージがはっきりしやすいんだ。
さっき水珠造ったとき何もいわなかっただろ?
あと、最初に見せたのはサービスだよ」

「そうだな。あとは…」

箒の手が俺の猫耳に伸びる。

「今の一夏は猫耳が無いように『見せている』だけだ。
つまり、見えないけど触れられる」

「んっ…」

箒に耳をふにふにされる。

けどこっちも箒のしっぽをもふもふする。

「おりむぅに耳と尻尾があるの?」

「うむ。触ってみるか?」

「おい、俺の耳と尻尾だぞ。
お前がかってに…
ひぅっ!?」

突然尻尾を掴まれた。

「刀奈…」

「あら…本当にあるのね…」

「急に触るな。びっくりするだろう」

「刀奈さん。一夏は尻尾を責められるといい声で啼きますよ」

「本当?」

「本当です」

「止めろ。小さい子もいるんだぞ」

と円香達を指差す。

円香と箒、リムと簪の間に、情報的隔絶があった。

「何の為の認識阻害だと思っている?」

「まさかお前…」

「これで三人にバレずにお前を愛でられる」

そんな事の為に認識阻害かけたのか!?

「お前こそ自分に掛けている全ての魔法を解いたらどうだ?
先程からエレン達の氷球の維持にもリソースを割いているだろう?」

そりゃこんなの見られたくないからな。

現在、三人が氷球で遊んでいられるよう、氷球の温度維持をしている。

「響く12時の御告げ」

パレードディキャスト。

耳と尻尾が現れ、瞳が金色に染まる。

「おぉ…感激」

「おりむぅ…かわいい」

「箒ちゃん、抱っこさせて」

箒が俺の脇の下に手を入れ、刀奈の膝の上に置いた。

「おいこら」

「嫌なら抵抗すればいいじゃない。
しないって事はOKって事よね?」

「できたら苦労しねーよ」

今の膂力どんだけあると思ってんだ。

お前のせいだからな奏。

『俺様のせいってか?』

あーあ…円香助けたあと問答無用で叩き切れば良かった。

「あー、もう好きにしてくれ。寝る」

side out











「あー、もう好きにしてくれ。寝る」

一夏は目を瞑り、全身の力を抜いた。

「くぅ…くぅ…」

「寝るの早!?箒ちゃん、いつもこうなの?」

「だいたいこうですね。あと一夏は一回寝たらほぼ起きないので悪戯し放題ですよ」

「いた…ずら…?」

と簪が目を輝かせる。

「エロ方面は無しだがな」

刀奈が一夏の腹の前で手をくむ。

「おぉ…なんというフィット感…
箒ちゃんの気持ちがわかるよ…」

刀奈が、おもむろに一夏の首筋に顔を寄せる。

「お姉ちゃん…何してるの…」

「なんか、一夏君っていい匂いするのよね…
この前空港で抱きついたときもそうだったし…」

すんすんと首筋の匂いを嗅ぐ姉に、簪が低温の視線を向ける。

「お姉ちゃん…匂いフェチ?」

「違うわよ…簪ちゃんもやってみる?」

簪が席を立ち、刀奈の抱き抱える一夏の首筋に顔を近づける。

「ふぁぁぁ…」

うっとりとした顔を見せて、自分の席に座った簪を見た箒の内心は…

「(簪も堕ちたか…)」

「わあぁ~かんちゃんがエッチな顔してる~」

と本音も確かめようと席を立った。

「いいですか?」

「ええ、良いわよ本音」

本音が一夏の首筋の匂いを嗅ぐ。

「わ~…なんかえっちな匂いがするぅ…」

ペロッ…

「うみゅぅ…」

「ほ、本音!貴女なにしてるの!?」

簪が従者の暴挙を咎める。

「え~だってだってあんなにいい匂いなんだから味もどうかな~って…」

刀奈も同意見なのか、一夏の首筋を舐めようとして…

「あら…?」

刀奈がピタリと止まった。

「どうしました刀奈さん?」

「いえ…この傷…」

刀奈の視線の先には、二つの穴と歯形。

「ねぇ、箒ちゃん。これってもしかして…」

「はい…おそらくは…」

それは、一夏がニンゲンをヤメタ証し。

刀奈が、一夏の首筋、傷口に吸い付く。

「これでよし」

「良いわけないでしょお姉ちゃん。
なんでキスマークつけてるの」

「ちょっとした当て付けよ」

そこで、ピシリと音がした。

物理的な音ではなく、術式が崩壊した音だ。

「あー!おねーちゃんに耳がはえてるー!」

箒の認識阻害が切れたのだ。

一夏が眠った事で解除された氷球の維持。

そうして、氷球が溶け始め、エレンが一夏を見やった。

認識阻害とは注意を逸らす術であり、隠蔽の術ではないのだ。

「む、突破されたか」

三人が席を立ち、一夏を抱えた刀奈の前に集まる。

「さわってみる?」

「いいんですか?」

「構わんぞリム。好きにしていいという言質は取ってある」

箒が一夏を持ち上げ、刀奈と自らの膝の上に腹這いで乗せた。

するとリムが一夏の猫耳を触り始めた。

「わぁ…」

くすぐったそうに耳がぴこぴこ動く。

「わぁ…おねーちゃんの頬っぺたぷにぷに…」

エレンが頬をつつくと処女雪のように白く、絹のように滑らかな肌がへこむ。

ある程度つついていると…

「にぃ…」

と煩わしそうに寝返りを打ち、体を丸めた。

「おっと…」

膝の上から落ちそうになったのを箒が対物障壁で支える。

箒が窓際の席へ移動し、空いた箒と刀奈の間の席に一夏を下ろす。

「おりむぅって赤ちゃんみたいだね」

「赤子と言うよりは仔猫だな」

本音と箒の言うとおり、一夏が体を丸めて眠る姿には庇護欲がそそられる。

このコンパートメントの中心は、間違いなく一夏だった。

『一夏を好く者は多い方がいい』

箒はソレを見ながら、そんな事を思っていた。

『なにかあった時。一夏を繋ぎ止める鎖』

それこそ、一夏を最も近くで見てきた箒が求める物だ。

一夏は、箒の目の前で、預り知らぬ所で、幾度となく死しては甦っていた。

一夏は、箒や千冬や束には、気づかれていないと思っている。

だが…

『お前のメティス・サイトが弱まる時。
私達は、どうしようもなく不安になる…』

その小さい体の持ち主の異能。

それが弱まるとはすなわち…

「一夏……私達を置いていくなよ…」

その一言を聞いていたのは、猫座の少女だけだった。
 

 

第九十八話

「おい、一夏昼食だ。起きろ一夏」

箒が一夏を揺すって起こそうとする。

「起きないわね…」

「あれだけ弄られて起きないなら、このくらいじゃおきない」

ベルリン発パリ行き。

朝9時から乗って現在12時37分。

約三時間の間、全身を弄られながらも一夏は目を覚まさなかった。

「仕方ない…」

箒が手にサイオンが集める。

「箒…なにしてる…の?」

「一夏を起こすだけだ」

箒の手…親指と中指に圧縮されたサイオン。

その右手を一夏の顔の前へ持っていき……

パチン! と指を鳴らした。

物理的な音は、軽い指パッチン。

しかし、コンパートメントにいる全員が咄嗟に耳をふさいだ。

そして眠り続けていた一夏も…

「ふみゃぁっ!?」

飛び起きた。

一夏がまるで猫が毛を逆立てるように背を丸める。

「ふーっ!」

そしてキョロキョロと周りを見渡す。

周りが耳をふさぐなか、箒だけが悠然と立っていた。

「ようやく起きたか一夏。昼食の時間だぞ」

「サイオン込めた指パッチンはダメだろ…」

「だがこれが確実だろう?」

想子を籠めた行動は、術式の意志がエイドスに焼き付き、概念的に強化される。

想子を籠めて殴れば、貫通力や衝撃が概念的に大きくなる。

指パッチンのように、音を発てる行動なら、音が概念的に大きくなり、音波と同様にサイオン波が広がる。

魔法の適性がある者ならば、今のサイオン波を擬似的な音と感知する。

「まぁ…いいや…パレードキャスト」

一夏がパレードで耳と尻尾を消す。

「おにーちゃん、なんでかくすの?」

「普通のニンゲンに猫耳ははえてないの。
今から降りて弁当を買うからな」

しかし、一夏が寝ている合間にずっと弄っていたので、円香は一夏の耳の位置を覚えていた。

「えい」

ふにふにふにふに…

「んっ…」

簪が一夏の顎に手をのばした。

「ふにぃ…」

そこで箒がウカノミタマを使い術式を編み始めた。

式の内容はパレード。

ただし一夏が隠した耳と尾が存在する姿への変更。

箒が一夏へ魔法をかけると、一夏の姿がぶれた。

やがて、定義破綻を引き起こし、どちらの術式も崩壊、一夏の耳と尾が現れた。

「稲荷、認識結界。私達全員の認識を楔にしろ」

『はいはー…あ、橙が式くれた』

「やってくれ」

ウカノミタマから箒の魔法演算領域へ式が送られる。

その式がゲートを通過し…

「これで問題あるまい」

「おりむぅ本当の猫みたいだ~」

そこで箒が悪い笑みを浮かべた。

箒が自分の狐の尾を一夏の前に出す。

ふりふり…ふりふり…

一夏がそれに手を伸ばす。

掴もうというタイミングでスルリと抜ける。

「あ…」

と一夏が声をあげ、箒を睨む。

再び箒が尾を出し、一夏がつかみ損ねる。

「むぅ…」

それを見て、エレンが口を開く。

「にゃんこだ…」

「はっ…!」

それを聞いた一夏がハッとした顔をして、湯気が出るほど顔を赤くした。

「や、これはその…えっと…」

「仕方あるまい。獣としての本能がそうさせているのだろう?
私とて、この獣の欲には逆らえん」

箒が自分の耳と尻尾を示しながら言った。

「狐って性欲強い動物だったっけか…?」

一夏の呟きは尽く無視された。

そして他の者が一夏を撫で回し、一夏がうっとりとした顔を見せる。

そして、ガラリとコンパートメントのドアが開かれた。

「若、昼はどうするんだ…………ぃぃ?」

入ってきたのはフィグネリア・アルシャーヴィン。

エレンとリムの母親だった。

「………なんで姫に耳と尻尾が…?」

「「「「「「??」」」」」」

箒と一夏以外が、クエスチョンマークを浮かべた。

何故箒だけに言及するのかと。

「そういう術だ気にするな」

と箒が答えた。

それはフィグネリアへの回答でも、このコンパートメントの中の全員への回答でもあった。

「あ、あぁ、そうかい。ならいいや…
あー…えと、昼はどうするんだい?」

停車時間は15分。

その間に弁当を買うなり何なりしなければいけない。

「弁当を買うつもりだ。千冬さん達はどうすると言っている?」

「ヴァナディース達も駅で弁当を買うと言っていた」

「そうか…行くぞ一夏。
ほらみんなも、一夏を弄るのはそこら辺にして」

「えー…おにーちゃんの耳と尻尾…」

円香が名残惜しそうに箒を見つめる。

「後で幾らでもできるだろう?
ほら、時間がないんだ」

「はーい…」

円香が渋々うなずいた。

箒が一夏を抱き上げ、コンパートメントを出る。

それに続いて後の面子も続く。

同時に隣のコンパートメントから千冬達が出てきた。

「む…何故お前達はケモミミをだしている」

二人にケモミミが有ることを知っている者には、認識結界は作用しない。

「いろいろあったんだよ姉さん。触れないで」

「そうか」

列車から降り、購買…と言うには大きい店に集まる。

「で、何食べる?」

一夏が聞いた。

全員がゲテモノでなければ何でもいいと答えた。

「じゃぁ全員並ぶのは不味いから買って来るぞ」

と一夏が箒の腕から出た。

しかし今度は千冬が抱き抱えた。

「なんだよ」

「たば……あぁ…いや…ヴィッサリオン、頼めるか?」

千冬が束の名を呼びかけ、止め、ヴィッサリオンの名を呼んだ。

「ああ、それが無難だな。フィーネ、手伝ってくれ」

「はいよ」

アルシャーヴィン夫婦が購買に並ぶ。

「いっ君の身長じゃぁ、十六人分は持てないでしょ?
いま身長いくつ?125ないでしょ?」

束がIScore0001INNOCENTで図った一夏の身長は…121.72センチ。

日本の平均的な『小学二年生』の『女子』の身長である。

一夏は幼い顔つきや腰近くまで伸ばした髪故に、本当に小二女子に見える。

なお円香の身長は一夏より頭一つ分大きい。

「うるせぇ…」

「ふむ、エレオノーラ、リムアリーシャ、今身長いくつか教えてくれないか?」

千冬が二人に尋ねた。

「ひゃくじゅうご」

「百十六です」

「やめろぉぉぉぉっ!?俺が必死に言及しなかった事を言うな!」

「あと数年でぬかれそうだな…
エレン、リム。もうすぐ一夏の身長を抜けるぞ」

「一夏お姉ちゃんを、抱っこ、できますか?」

「ああ、すぐになるだろう。箒は…小三あたりから一夏を膝の上に抱いていただろう?」

「ええ、だいたいその頃からですね」

「やめろ言うんじゃない!」

千冬の腕の中でジタバタする一夏は、駄々を捏ねる子供のようだった。

「でもいっ君って筋肉質だから見た目よりかなり重いよ?」

「30キロ強くらいかな…?」

と抱えている千冬が答えた。

121.72で30強。

一夏の体型から考えると明らかに異常な比率だ。

ムスッと膨れる一夏の頬を、両側から篠ノ之姉妹がつついた。

ぷしゅ、と空気が漏れて、いっそう一夏が不機嫌そうな顔になった。

「一夏くん、そんな顔しても可愛いだけよ?」

「うるさいぞ刀奈」

刀奈が一夏を撫でようとして…

「ふしゃー!」

威嚇された。

「もう、ツレないわね…」

一夏を中心にぎゃぁぎゃぁ騒いでいるとヴィッサリオンとフィグネリアが戻って来た。

「とりあえずハンバーガーでよかったか?」

「構わんだろ」

「あー、若はいいだろうが、ブリュンヒルデ達はカロリーとか大丈夫か?」

「ヴィッサリオン、お前フィグネリアの尻にしかれすぎだ。
まぁ、気にするな。ここには普通の女子の方が少ないからな。
成人男性より要求カロリー大きい輩ばっかりだぞ」

千冬が抱き締める腕をキツくした。

「ふぎゅ!」

「一夏。少し黙っていろ。いいな?」

「事実だろ…姉さんとか筋肉率よんじゅ…うきゅ!?」

尚も文句を言う一夏を自分の胸に押し付け黙らせた。

「む~!む~!」

「じゃぁ、ヴァナディース。若を連れて戻ってくれ。
私たちが配るから」

「うむ。わかった」

フィグネリアの呼び掛けで、全員が車内へ戻って行った。 

 

第九十九話

 
前書き
部活動紹介のデモンストレーションで使うペットボトルロケットに『テポの夜明け』って書いたら顧問に怒られた件について。 

 
窓際に箒、隣に円香、更に隣に千冬。

対岸の窓際にエレン続いてリム、束が座った。

一夏は千冬の膝の上…というか胸の中だ。

「ぷはっ…」

ようやく抜け出した一夏が千冬を睨む(上目遣い)。

「私の胸はどうだ?」

『箒、今晩姉さんを頼む』

「いいのか?」

と箒が目を輝かせた。

『欲求不満らしい…宜しく』

『あぁ…たのしみだ…』

『リリムキッス使っていいから』

『わかった』

「おい、私は除け者か」

「はいはい」

「ちーちゃん、小さい子の前なんだからさ…」

「……………」

ガラリとコンパートメントの扉が開く。

「若、失礼するぞ」

ヴィッサリオンとフィグネリアが入って来て、弁当の箱を箒に渡した。

二人はアルシャーヴィン姉妹を抱えあげ、椅子に座り、姉妹を膝の上に乗せた。

「姫、適当に配ってくれ」

「うむ」

一人一つ、ただしアルシャーヴィン姉妹は二人で一つ、弁当の箱が配られる。

「若とヴァナディースは食べにくくないか?」

千冬の上に座った一夏の膝の上に、箱が2つ置いてある。

「姉さん、俺の頭に溢したらぶん殴るよ」

「試しにこぼしてみるか…」

「やってみろや」

一夏が箱を開けると、ハンバーガーの包みとパックのジュース、ゼリーが入っていた。

「特におかしい物は入ってないよ」

「呪術的にも異常ナシだな」

と束と一夏が言った。

それに周りは呆れた顔をした。

「さて、食うか」

一夏が包みを開け、ハンバーガーにかぶりつく。

口が小さいので少しずつしか食えないが…

「おにーちゃん。これあけてー」

「みゅ?んく…」

包みの開けかたがわからない円香から、一夏がハンバーガーを受け取り、あけて手渡した。

「あんまり溢すなよ。まぁ、最悪は俺が魔法で綺麗にするけど」

「わかった、おにーちゃん」

「エレン、リム、ハンバーガー分けるからこっちにわたせ」

と箒がアルシャーヴィン姉妹に言った。

「わかりました」

リムが渡したハンバーガーを箒が受け取り、包みを開け、手の上に乗せた。

人差し指を立て…

「闇の刃よ全てを斥け、以て万物を絶て」

圧切でハンバーガーを綺麗に二等分する。

「ほら、エレン、リム」

「ありがとうございます」

「ほーきおねーちゃんありがとー!」

弁当の箱を開けた束は、悪い笑みを浮かべた。

「ねぇ、いっくん」

「ふみゅ?」

もきゅもきゅしながら一夏が応えた。

「私のジュース、キウイなんだけどさ、ちょっと苦手なんだよね。
いっ君のグレープジュースと交換しない?」

「一夏、姉さんに従っておけ、ネコにブドウは厳禁の筈だ」

「タマネギ食って死んでないんだからブドウも食えるわ。
つかブドウは犬科のお前も同じだろうが」

「私のはアップルジュースだから問題ない」

「まぁ…いいや…はい、束さん」

一夏と束がジュースを交換する。

「ありがと、いっ君」












十数分後

「うみゃー…みゃう…うにゅぅ…」

「えっと…若?」

「みゃー…?」

フィグネリアの声に応えた一夏の目は、トロンとしており、頬は上気していた。

「みゃー…」

現在は千冬と円香の膝の上で腹這いになり、撫でられていた。

「うみゅー…」

「あー…束博士」

「なんだいヴィッサリオン君?」

「キウイってたしかマタタビ科じゃぁなかったか?」

「おぉ、よく知っていたね」

「束…ナイスだ」

「でっしょー?
でもあんまりやると私と箒ちゃんの抑えが効かなくなっちゃうからねぇ…」

「変態だな…」

「いっ君が可愛いのがいけないんだよ」

エレンとリムが、一夏の顎を撫でた。

「あ…ふにゃぁ…」

二人がゴクリと唾を飲む。

「「……………」」

そのルビーとサファイアのような瞳に妖しい光がチラつく。

「ストップ」

フィグネリアが二人を止めた。

「ウチの子がイケナイ事に目覚める前に若をどうにかしてくれ」

「わかった…姉さん、一夏を空いてるコンパートメントに連れていこう」

「はいはーい。わかったよ箒ちゃん」

束が一夏を抱き上げ、箒を連れてコンパートメントから出ていった。

「はぁ…色ボケ共め…」

千冬の呟きに、フィグネリアとヴィッサリオンは苦笑し、円香とアルシャーヴィン姉妹はクエスチョンマークを浮かべた。
 

 

第百話

 
前書き
遂に百話…あぁ…長かった。 

 
列車がパリに到着したのは、もう暗くなった頃だった。

千冬達が列車から降りると、眠る一夏を抱いた束と箒が先に降りていた。

千冬が見たとき篠ノ之姉妹の肌は艶々としていた。

「案の定か貴様ら」

「いやぁ…凄かったよ。うん、本当に凄かった。
いっ君にキウイ食べさせたら駄目だね。
こっちが殺されちゃうよ」

「ダンピールの膂力で押さえつけられては抵抗のしようがないな…」

箒が束の腕の中で眠る一夏を見やる。

「そう言えば今日は大人しく撫でられていたが…
気を使っていたのか…?」

吸血鬼の膂力とは凄まじく、ゴリラを遥かに越えるエネルギーを産み出せる。

気功を使う一夏であれば、更にそれを越える腕力を秘めている。

「わぁ…わぁ…一夏、ヤったんだ…わぁ…」

と簪がやり取りを聞いて顔を赤くしていた。

「ねね、箒ちゃん、一夏君と何れくらいシタの?どんなだった?」

刀奈が箒の脇腹をつつく。

箒は肩より一回り大きい体をかがめ、刀奈の耳元に口を寄せた。

箒がリリムキッスを発動させ…

「御自分で確かめますか?」

その言葉の後、刀奈の耳にフゥッと息を吹き掛けた。

「ひゃぅ!?」

力が抜け、倒れそうになった刀奈を箒が支える。

その反応から、箒は刀奈が生娘だと察した。

「刀奈さん。私女の子同士もいけ…」

そこで箒の頭に拳骨が落ちた。

「か、母さん…」

「よその子に悪いこと教えないの。
貴女には一夏君がいるでしょう?」

箒が渋々刀奈を放し、リリムキッスを解除する。

「千冬ちゃん」

「なんですか奥さん?」

「この後の予定はどうするの?」

全員の視線が一夏へ向く。

が、当の一夏はすやすやと眠っている。

「箒、橙に聞いてくれるか?」

「わかりました…橙」

『はいはい、この後の予定でしょ?
ウカノミタマにスケジュール送るから参考にして』














side in

「ふにゃぁぁぁぅ…」

「起きたか」

「ずっと寝てたねいっ君」

体を起こすと右に箒が、左に束さんが寝ていた。

コンパートメントではなく、どこかホテルの一室のようだった。

「あぁ…ついたのか…」

ホテル・ロンスヴァル、予約していたホテルだ。

「昼食を食べてからの事は覚えているか?」

昼食……たしか…あれ?

「なんか…ぼんやりしてる…」

二人とヤった…ような…

「いっ君はアルコールには強くてもマタタビは駄目みたいだね…」

マタタビ?

「どういう事?俺いつの間にマタタビなんて飲んだの?」

「知らない?キウイってマタタビ科なんだよ?」

キウイ…

「知ってて渡しやがったな…」

「うん、死ぬかと思った」

「稲荷と橙に人払いを頼んでいなければまずい事になっていたな」

「酔わせて襲うとか…なんか、もう…うん」

性欲強すぎない?

「えー?でもいっ君だってこっちが何言っても聞かなかったじゃん」

「姉さんの言うとおりだ」

「人の正気を失わせて何を言うのやら…」

それにしても…

「腹へった」

ホテルについてるって事は橙がスケジュールを渡したって事だ。

で、スケジュール通りならもう皆夕飯は食べた後だろう。

えーっと…現在時刻は…

「……………,…」

ホロウィンドウを出して確認した時刻は零時半。

「ちょっとメシ食ってくる」

「こんな時間にか?」

「居酒屋くらいなら開いてるだろ。二人は寝てていいよ」

束さんと箒は目を見合せ…

「じゃぁ、そうさせて貰おうかな。いい加減眠いし」

「腰も痛いしな」

「そう、御休みなさい」

それだけ言って、ベッドから降り、普段着を量子展開する。

この時間帯だと補導や誘拐される事もあるし耳と尻尾を隠さないといけないのでパレードと認識阻害を使う。

身長180位の目付きの悪い金髪の男に化ける。

「行ってきます」




ホテルから出ると、街灯に照らされて長く伸びた影から奏が出て来た。

まぁ、今日は一人だし、いいか。

「あぁ…さしぶりのシャバだぜ」

「適当な店に入るか」

っと…その前に…

パレードを解除し、今度は同じくらいの身長で、顔にトライバルタトゥーを入れた女に化ける。

「何してんだお前?」

「お前といたらさっきの格好じゃしょっぴかれるの。
今はただでさえ女尊男卑の世の中なんだから」

直江津ではそうでもなかったが、パリのような首都、つまり政治の中枢に近い地域では女尊男卑の傾向が強い。

とは言え昨年東京に行ったときは容姿が容姿なだけに可笑しな連中には絡まれなかった。

女顔で唯一得をしてる事があるならそこだろう。

「面倒くせぇなぁ…人間の男女で優劣なんざねぇだろ。
ISだってその気になりゃぁぶっ壊せるしな」

事実、奏には大千本槍の頸部装甲を破られた。

きっと俺でなければ、オリジナルコアでなければ遅れを取っていただろう。

数百年生きた怪異は伊達ではないらしい。

「仕方ないさ。002以降は姉さんのコアのコピーなんだから。
女にしか反応しないし。今の軍事バランスは女が握ってるのさ」

「ふーん…逆行だな…」

「逆行?」

「今の…『科学』の鉄砲ぶっぱなす戦いじゃねぇ…
たった一人の人間が戦況を変えちまう、英雄時代の一騎当千の戦によぉ」

面白い意見だ。

人間の科学の発展に追いやられ、それを間近で見ていた『人ならざる者』が語る戦争への見解。

「ちょっとメモするから待って」

ホロウィンドウを呼び出しさっきの話をメモする。

「お前なぁ…」

「面白いんだからいいじゃん」

「あっそ…」



適当な居酒屋を見つけて入る。

静かな店だ。

奏とカウンターに座ると店主に声をかけられた。

「おいおい姉ちゃん。こんな時間に子供連れかい?」

「いやぁ、ちょいと昼寝させ過ぎちゃってさぁ。
寝付けないってんで夜の散歩って訳さ。
そしたら今度は腹が減ったらしくてよ」

奏の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「っかー…子育てはたいへんだねぇ…
旦那は?」

「旦那?」

えーと…どう答えようか…

「はは、旦那はジャパンだよ。モンドグロッソを見たついでの観光なんだ。
旦那はモンドグロッソなんてきらいだーって来なかったんだよ」

「おや、どうして?」

「どうも勤め先の社長が女尊男卑派らしくてねぇ」

「よく結婚できたな…」

「親友の紹介でね。あ、牛肉のタルタルと適当なパン、後は白ワインと…クレームキャラメルを二つ頼む」

「太るぞ?」

「大丈夫、太りにくい体質なのさ」

料理が出されて店主と談笑していると、銃声が聞こえた。

「店主?」

「いつもの事さ。最近物騒なんだ」

「仮にも首都だろ?警察は何してる?」

「さっきアンタも言ってたが、今は女尊男卑の世の中だ。
警察も女からの通報じゃなきゃこんな真夜中に即応しないのさ」

店主の言うには現在パリでは女性権利団体と旧来の男性派閥が衝突しているらしい。

しかもどちらのバックにもマフィアやギャングのような非合法な物を扱う輩がついており、ソードオフショットガンやアンチマテリアルライフルを持っている奴もいるらしい。

「へぇ…」

「その上警察内部にも男女の亀裂があってな。
動けないんだ」

「それでいいのかよ国家権力…」

「ジャパンはどうなんだ?」

「あぁ、ジャパンの警察は基本的に男性社会だからね。
こういうのは起きないよ。ただ若いバカ共が痴漢冤罪吹っ掛けて遊んでるのはいただけない」

「そいつぁ勘弁」

唐突に服を引っ張られた。

奏が俺の服をクイクイと引いている。

「あぁ、店主、どうやらおねむみたいだ。
会計を頼む」

「あいよ」

金を払って、店を出る。

「なんだよ奏?」

「なぁんか面倒事の予感がしたんだよ」

「いや、こんな銃声の中で外に出る方が面倒事になるだろ」

そう、例えば…

なんかこっちに逃げてくるフード被った女の子とかさ。

「な、俺様の言った通りだろ?」

「お前が呼び込んだような物だろうが…」

奏が影の中に潜る。

「奏の奴逃げやがったな…」

取り敢えず…

「お嬢ちゃん。助けてあげよう」

すれ違い様に囁く。

ふむ、お嬢ちゃんを追っているのは…五人か。

「鬼門遁甲」

術を発動させると、追っ手は折り返し、走っていった。

後ろを向くと、お嬢ちゃんが突っ立っていた。

「ま、魔法使い…?」

「まぁ、そんなところ。お嬢ちゃんの名前は?」

と聞くと、お嬢ちゃんはフードをはずしながら名前を教えてくれた。

月明かりに照らされて煌めくブロンド。

アメジストのように妖しい光を灯す瞳。

「助けていただきありがとうございます。
私の名前は、シャルロットです。
ファミリーネームは訳あって言えません」





「Oh……Are you serious…?」
 
 

 
後書き
百話記念にR18を投稿します。 

 

第百一話

「お嬢ちゃん。とりあえずここは危ない。
どこか話せる場所に…」

「なら私の家に来てください魔法使いさん!」

お嬢ちゃんが俺の手を掴もうとしたのでサッと手を引っ込める。

パレードはあくまで外観と情報を改竄するのであり肉体はそのまま…

というか原則として現代魔法で物質変換はできない。

「お嬢ちゃん。私には触れない方がいい。
呪いの塊だからね」

「そうですか…」

誤魔化せたかな…

「それに、知らない人を家に誘うのは良くないよ」

「あはは…えっと…」

お嬢ちゃんは、突然真面目な顔をした。

「魔法使いさん」

「なんだいお嬢ちゃん?」

「私のお母さんを助けていただけませんか?」

ふむ…お母さんねぇ…

「話を聞こうか」

お嬢ちゃんと自分に認識阻害をかける。

お嬢ちゃんの肩の高さに浮遊して、ついていく。

「今、私達を認識できるのは私と同等以上の術者だけだ。
ゆっくり行こうか」

「はい」

そうして、パリ郊外にあるというお嬢ちゃん…シャルロットの家へ向かう。

シャルロットが言うには、母親が病気らしいのだ。

しかし病院に行こうとも原因は不明。

仕方なく街の薬師から定期的に薬を貰っているという。

その薬も一時的な物に過ぎないそうだ。

「それで私を頼ったのかい?」

「はい…」

「ふむ。わかった。一応見る事としよう」

ISもメティス・サイトもある。

最悪はまた奏に頼むか…

『ますたー。束達には伝える?』

あぁ、そうだな…

ホロウィンドウを呼び出し、メールを打ち、送信する。

『っていうかいいの?ますたー?
今のますたーはシャルロットに都合よく使われてるだけだよ?』

いいんだ。

これは偽善。俺の自己満足。

後は、そうだな…母親の為に魔法使いを騙そうとする強かさと健気さに心を打たれた…という事にしといてくれ。

『あぁ、なるほど。ますたーは優しいね。
でも、親を無くすかもしれない子全てを救うつもり?』

目に入ったなら、そうする。

後悔したくないから。

『後悔…ね』

「シャルロット。お母さんは大きな病院には行ったのかい?」

「はい…でもわからないそうです…」

「何年前からなの?」

「五年前くらいから…」

五年? 結構長いな…

「五年前と比べて悪化している?」

「いえ…」

それだけ長く治らず、かつ死ぬような病でもなく悪化してないなら…土地や食べ物や水の問題か?

だがその手のやつは体内に溜まった毒で悪化していくハズだし…

それとも致死量に達していないだけか…?

いや、だとすればシャルロットや、ここら一帯の人間も同じく病に伏せるはずだ…

シャルロットの隣を浮遊しながらパリ周辺での水質データなどを各機関のデータベースに不正アクセスして調べたりしたが白…

「魔法使いさん。もうすぐつきます」

「ん。わかったよシャルロット」

シャルロットに案内されて到着したのは立派な一軒家だった。

母娘が暮らすには少し大きいが、家族が住む家としては相応しい大きさだ。

「シャルロット。君の家に入ってもいいかい?」

「かまいませんけど…?
どうぞ。お母さんを診てください」

深夜と早朝の境界で、俺はシャルロットの家に足を踏み入れた。

「こっちです」

シャルロットに案内された部屋には、一人の女性がベッドで寝ていた。

だが枕は氷枕だし、額には解熱シートが貼ってあり、呼吸も荒い。

「じゃぁ、診察しようか」

ベッドの脇で、シャルロットの母親を『視る』。

イデアへ接続。

コア・エイドスデータ 閲覧。

身体的損傷及び各種病状を確認できず。

霊体の損傷を確認。

外部からの干渉を確認。

術式を確認。

術者の存在を確認。

術者の現在地を確認。

「なるほど…」

さて…こうなってしまえば聞かない訳にはいかない。

憶測を確信にしなければいけない。

ここが『物語』ではなく『現実』だと認識せねばならない。

「シャルロット」

「は、はい」

「君はファミリーネームを明かせないと言ったね?」

「そ、そうです」

はぁ…あんまり聞きたくないなぁ…

こんな悲しそうな顔をした少女の隠し事なんて…





「しかし敢えて聞こう。君のファミリーネームは『デュノア』で合っているか?」
 

 

第百二話

 
前書き
現在の一夏はSAOオルタナティブGGOのピトフーイをモデルにしてパレードしています。 

 
「しかし敢えて聞こう。君のファミリーネームは『デュノア』で合っているか?」

「な…なんで…それ…を…!?」

「そんなに驚くなよなぁ…」

「うるさいっ! なんで知ってる!?」

シャルロットが腰のホルスターから拳銃を抜く。

女性用の小型オートマチックだ。

さすが西欧。

こんな子供まで銃を持っているとは…

「魔法使いを嘗めるなと言っておこう」

『ますたーの嘘つき』

魔法で調べた、とは言ってないからセーフ。

叙述トリックだよ。

「実を言えば君がデュノアだと最初からわかってはいたんだ。
だがまぁ、君がデュノアかどうかはその時は関係なかった」

そう、その時は。

「君のお母さんは呪いが掛けられている。
質の悪い呪いだ。人間のスピリチュアルな部分に干渉して体調を乱す呪いだ」

具体的には霊圧…つまり霊体の中のエネルギーが外へ出ようとする力が弱まっている。

魔法科原作で吸血鬼にレオが襲われたのと同じ症例だ。

とは言え動けない程ではなく、風邪のようなだるさや発熱を起こす程度。

術者の力量は低いようだ。

「君のお母さんはまだ体力に余裕がある年齢だからこんな風邪みたいな症状だけで済んでいるようだ」

「それと『デュノア』に何の関係がある…!」

関係なけりゃこんな話はしないさ…

だから撃鉄を起こすな。

「術者がデュノア社にいるから」

「…!?」

「アンタがデュノアの隠し子とかだろうけど、とりあえず術者はシャルロットの存在は知っていても名前は知らないみたいだ」

名前を知られているならば、シャルロットも呪いを受けている筈だ…

「銃をおろしてくれ。私は君と母親に危害は加えない」

シャルロットがゆっくりと銃をおろす。

「でだ…呪いを返すけどいいか?」

「返す…?」

「ジャパンの言葉に『人を呪わば穴二つ』という言葉がある。
これは他者を呪えば、反動が帰ってくるという意味だ。
本来はそんな事は起きないが、呪いを跳ね返されれば容易に死にうる。
死の呪いを返されるのだから」

なお、呪いを返されなくとも式神を使役する魔法の発動中に式神を破壊されても死に至る。

発動直後に術と術者を切り離す現代魔法と違い、古式魔法はリンクを維持することで継続的に魔法を発動させる事ができるからだ。

そのリンクによって精神に情報が逆流すれば、即座に死にうる。

「死の…呪い…?」

「君のお母さんのはそんなに強い呪いじゃないけどね」

では、返そう…というか術者を消そう。

術者のエイドスを認識。

目標設定。

あ…詠唱した方がいいかな…?

『如何にも魔法使いらしいからやった方がいいと思うよ』

オッケー…

「我夏を冠する者。世界を翔る我等が隣人達よどうか力を貸して欲しい。
地脈の支配者よ、我が願いを届けたまえ」

爆裂、キャスト。

メティス・サイトが、術者が血の飛沫と化したのを捉えた。

「これでいいはずだ。だが油断はできない。
また別の術者が魔法をかけたら繰り返しだ」

呪術に対する耐性をあげる必要がある。

「奏」

『なんだよ』

「血をよこせ」

『一夏。お前は俺様の血を万能薬か何かと勘違いしてねぇか?
だがまぁ、お前の血を貰えるってんならやってもいいぜ』

交渉成立。

プログレッシブナイフを取りだし、腕に突き立てる。

流れる血を影に落とす。

「わが影よ。幾百の時を死せる吸血鬼よ。
無情の世界で己が死を奏で続ける怨念の主よ。
我が血に応えよ」

side out









まず、魔法使いの瞳が黄金に輝いた。

その虹彩は電子基盤のようなラインが絶えず走っていた。

それから魔法使いの影が輝いた。

黒い光だった。

そうして、その輝く影から少女が出てくる。

「おん…なのこ?」

「私の使い魔だよ」

魔法使いが試験管を一本取り出す。

その試験管と腕から抜いたナイフを少女に渡した。

「奏」

「ん」

少女がその腕にナイフを突き刺した。

流れる血は試験管に溜まっていく。

やがて試験管の八割ほど溜まり、ナイフをぬいた。

その傷は瞬く間に癒えてゆく。

「もういいぞ」

「………」

少女が無言で影に沈んだ。

魔法使いはその試験管をシャルロットに見せる。

「これは吸血鬼の血液だ。
吸血鬼が人の血を飲めば人は吸血鬼になるが、人が吸血鬼の血を飲めば如何なる傷も病もたちどころに癒える」

「そう…なの?」

「そして副産物として、呪術への耐性があがる」

「お母さんが吸血鬼になったりはしないの?」

その質問に魔法使いは淡々と答える。

「ならない。ただ、例えば銀や茨の棘に触れたりすれば一時的には内包する吸血鬼の力が抵抗をしめし、その特徴や異能が現れる。
だが飲んだ血液の分の力を使い果たせば元に戻る。
もちろん、呪術への耐性も元通りだ」

原作の羽川翼は内に眠るキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの力で吸血鬼を退けた。

しかしその力を乱用したが故に、数ヶ月で力を失った。

「じゃぁ、お母さんは銀や薔薇や十字架に触れない方がいいの?」

「そうだ。できるだけ触れないほうがいい」

「わかった…」

「お母さんを起こしてくれないか?
今は術を断っただけで君のお母さんの霊体はまだ治っていない。
早くこの血を飲ませて楽にさせてあげよう」

シャルロットが母親の隣に行き、目を覚まさせる。

「お母さん。起きて。お母さん」

「…しゃる…ろっと…?」

母親がうっすらと目を開ける。

シャルロットが母親の背中とベッドの間に手を入れて、体を起こすのを手伝う。

「こんばんは、マダム」

「……あなた…は…?」

魔法使いが声をかけると、母親は彼の方へ視線を向けた。

「私は魔法使いです。娘さんに頼まれて貴方の病を診ました」

「魔法使い…? 病…?」

「はい。貴方の病は原因不明と診断されていたそうですが、無理はありません。
貴方の不調の原因は呪いでしたから」

「呪い…ですか?」

母親は不思議そうに尋ねた。

「はい。すでに呪いは解きましたが、再び術をかけられる可能性があります。
ですので此方を」

魔法使いは母親に奏の血液を見せる。

「吸血鬼の血液です。如何なる傷も病もたちどころに治す万能薬となり、呪いへの抵抗力を高めます」

そしてどこからともなくコップを出し、中に水を産み出した。

魔法使いがそのコップと試験管をさしだすと、母親はゆっくりと受け取った。

「それを飲んでも吸血鬼になる事はありませんが、アンチ・ヴァンパイアのアイテムに触れると吸血鬼の力が現れます。
なので茨や銀製品や十字架にはあまり触れないでください」

母親はコクンと頷いて試験管を煽り、水で流し込んだ。

すると母親の顔から苦悶が消えた。

「シャルロット。君も残った血を舐めておくといい」

魔法使いが母親が持つ試験管を、今度はシャルロットに渡す。

そしてまた一つコップを出し、水を生んだ。

「ほら」

シャルロットが試験管に残った血を舐め、水を飲む。

「これでよし。君達親子は例え呪いを受けようとある程度はレジストできる」

そう言うと魔法使いは部屋の出口へ向かった。

「あ、あの!」

「どうしましたマダム?」

「た、対価は!対価は何を支払えばいいですか!」

等価交換。

悪魔や魔女が持ちかける契約は、代償を必要とするのがお伽噺の常だ。

「対価は、いらない。これは私の自己満足。
だから対価はいらない。
強いて言えば、貴方の為に魔法使いと知った上で私を騙そうとした娘さんの強かさ、そして勇気に心を打たれたのです」

そこで魔法使いが、一対のイヤリングを取り出した。

「シャルロット、このイヤリングを耳に着けて強く念じれば私に届く。
もしも、魔法や呪い関連で何かあったら、私を頼れ」

魔法使いがイヤリングを放り投げ、シャルロットが受け取った。

彼女はそのイヤリングをつまんで、デザインを確認した。

「その石、君の瞳みたいだろう?」

イヤリングは三センチ程で雫の形をしており、上部は金属で、そこへ紫の石を嵌め込んだようなデザインだった。

石と金属との間に隙間はなく、その合わさった形状は完全な水滴だ。

「ま、魔法使いさん!こんな高価なものいただけませ………あれ?」

シャルロットがイヤリングから目を離し、魔法使いに目を向けた時、そこにはもう、誰も居なかった。













パリ郊外某所

『いいの?あれってフォールド・アクセサリーの試作品でしょ?』

「そうだよ。もういらないからね」

『要らないって…あれだけでコア抜きのIS5機に匹敵するよ?』

「いいんだ。あれは兵器に使うには大き過ぎるし純度が高い。
コストがかかるとはいえフォールド・クォーツの作り方もある程度簡略化の目処がたっている。
それに束さんや箒や姉さんにはもっと純度の高いヤツで作るさ」

『ふーん…』

「それにノリで作ったけど、イヤリングはだめだ。
姉さんは動く時の邪魔になるし、束さんと箒には【指輪】を渡したいからね」

『結局のろけなんだね。
シャルロットに渡したのは死蔵するよりマシってこと?』

「そういうこと。さっさとホテルに戻ろう。
そろそろ夜が明けちまう」

魔法使いの姿が一瞬ぶれると、そこにはプライマリースクールに入ったばかりくらいの女の子が佇んでいた。

女の子がトンっと地面を蹴る。

女の子は落ちる事なく高度をあげ、やがてその姿を消した。
 
 

 
後書き
一夏が撃たれてその血がマダムの口に入って終わりの予定だったんですが短すぎるのでボツにしました。
なのでシャルロットにフォールド・アクセサリーを渡す予定も皆無でした。
はてさてこれからどうなる事やら… 

 

第百三話

 
前書き
前書きで設定どーん!

オリジナル(1st)・コア
一夏と束が初めにつくったコアのフルスペックコピー。
なおDNAコンピューターであり四進法。
塩基はルーンで表され、魔法的な力も持つ。
0010以降のコアとは演算力が桁違いであり、1stコア搭載機が量産コアに負ける確率はゼロに等しい。
量子格納庫も広大であり、何でも入れることができる。
実際に0000の中には大量の試作武装が量子化されているし、0001の中にはトレイターが格納されている。
全てのコアがライトキューブを持っているため自我を初めから持っているが、基本的に一夏は関わらない(それぞれの成長に任せている)。
0010以降のコアは束が一人でつくっているため、異世界技術があまり使われていない。
なおコアの自我の名前によらず、全員が女性。

1stコア・ネットワーク(カンファレンス)
0000~0010のコアのみが参加できるネットワーク。
もしもこのネットワークがその気になれば三日で世界を滅ぼせる。
なお橙や稲荷、アリスは呼ばれない限りここに入り浸っている。
並列処理により様々なシュミレーションをしている。
GNドライヴとフォールド・クォーツの量産に貢献している。
また一夏の持つ異世界技術の組み合わせのシュミレーションもしている。
メインタスクは一夏と束の考案した設計図のシュミレーションなどだが、結構遊んでいる。
有事の際は複数のコアがミハシラ・システムのサポートもする。
時々下位端末を勝手に生成して世界を見て回ったり、一夏達をつけている。
一夏と束は基本的にカンファレンスが何をしても無干渉。

ミハシラ(三柱)・システム
0007、0008、0009のコアを接続し、合議制を取らせるシステム。
ヴェーダを越えるコンピューターでマギシステムを行う、というコンセプトで作られているためカンファレンスの議長的な側面も持つ。

0000 橙
使用者 一夏
〔IS〕K・O・T/大千本槍/カンヘル
0001 イザナギ
使用者 束
〔IS〕INNOCENT /トレイター管制
0002 カグツチ
ラボ(神社)管理システム
0003 稲荷
使用者 箒
〔IS〕ウカノミタマ/緋桜
0004 トヨタマ
ラボ管理/織斑家防衛システム
0005 イヅノメ
篠ノ之家防衛システム
0006 カムイ
ラボ(神社)管理システム
0007 アマテラス
トレイター管制 (サブ)
0008 スサノオ
トレイター管制 (サブ)
0009 ツクヨミ
トレイター管制 (サブ)
0010 アリス
使用者 千冬
〔IS〕白騎士/暮桜  

 
「おかえり、いっ君」

「あれ?起きてたんだ束さん」

ホテルに戻り、部屋のドアを開けると束さんが起きていた。

「起きてたって、もう7時だよ?
箒ちゃんは今シャワーあびてるよ」

それもそうか。

「ところで…」

なんだろうか?

束さんが俺に近づき、匂いを嗅ぐ。

「知らない女の匂いがするんだけど?」

怖っ!?

「えっと、あの、その…メール見た?」

「見たよー。女の子助けて来るって話だったね。
で、何があったの?」

何……か……。

「えっと…女の子が銃持った男に追われてたからたすけて…
その女の子に家によばれて…
詳しく聞いたらその母親が病気で…
ほっとけなくて家まで行ったらその母親が呪われてて…
関わったからにはって事で解呪してきました…」

「で、吸血鬼性については?」

「わかるの?」

「もちろん」

しかたない…

「解呪してもまた掛けられたら同じだから奏の血を飲ませた。
その時奏への対価に自分の血を飲ませたからかな」

「いっ君がなんでそんな事をしたのかはちぇーちゃんから追加説明のメールきたからいいけど…
あんまり無茶しないでね」

「わかってるよ」

ん…?

「橙から聞いたならわざわざ聞く必要ないんじゃ…?」

「ちぇーちゃんからのメッセージはいっ君がパリ市街地を出たあとの一回だけだったからね。
そのあとどうなったかは知らないんだよ」

「あぁ、そういう…」

要するに束さんは俺がどこに居るかはわかっても何をしているかはわからなかったわけだ。

ん?なぜ場所がわかるかって?

束さんが俺の位置情報をモニターしてないはずがないだろう。

「あ、いっ君、ちょっとこっちきて」

束さんに連れられてベッドに行くと、引っ張られた。

ベッドの上で正面から束さんに抱きつかれる。

「なに?」

「んー?今日か明日には元に戻っちゃうからいっ君の猫耳と尻尾を堪能したくてね」

束さんに頭を撫でられると、ふわふわしてくる。

「いっ君。体力回復してる?」

「してない。搾られてから気絶して、昨日出てから全く寝てないからね…
でも奏に血を飲ませたから、回復力も上がってるはず…」

「いっ君眠いの?」

「んー…?別に…」

眠くはないけど…疲れた。

「んー…じゃぁ、深呼吸して」

大きく息を吸うと、束さんの匂いで少しクラっときた。

女の匂いってやつだ。

とりあえず息を吐く。

「はい、吸ってー…………吐いてー………」

何度か繰り返すと、リラックスと束さんの雌の匂いで頭がフラフラしてきた…

「いっ君は3カウントでねむっちゃうよー」

かう…んと…?

「いち、にの…………さん」

あ…なんか…だめ…

side out




「うわ…いっ君本当に寝ちゃった…」

頭を撫でる時に耳に触れると擽ったそうに身じろぎする。

さっきのはカウントアップで眠りに落とす初級催眠術だ。

いっ君は私や箒ちゃんやちーちゃんの腕の中ではとても無防備だ。

今だったほら、くしくしと私の胸に額を擦り付けている。

「甘えん坊さんだなぁ、いっ君は…」

いっ君は私に甘えてくれる。

だけど、きっといっ君の背負う物は、私と箒ちゃんだけが背負うには大きすぎる。

箒ちゃんはそれをわかってる。

私は理解はできても納得はできない。

箒ちゃんプロデュース、いっ君のハーレム計画。

昨日いっ君が出ていったあと、箒ちゃんが語った計画。

箒ちゃんには、私やちーちゃんを遥かに越え、いっ君に匹敵しうる魔法力を持っている。

だから、いっ君とのつながりに敏感なんだ。

『お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を見つめ返す』とはニーチェの言葉の一説だ。

少し意味合いが違ってくるが、『見る者は見られる』のだ。

私が意識しなければ感じる事ができないいっ君の魔法的視線を、箒ちゃんは敏感に感じとる。

いっ君の命の危機を、何度も感じていたんだろう。

昨日、箒ちゃんはいっ君を現世に止めるための『鎖』が必要だと言った。

「いっ君を誰かに渡すのは嫌だけど…
いっ君が遠くに行っちゃうのはもっとやだなぁ…」

『然らば王を囲い込めば良い。
幸い王の周囲には優秀かつ権力のある者も居る』

声が頭に響いた。

「イザナギ? 珍しいね、君が私に話しかけるなんて」

IScore0001の人格、イザナギだ。

イザナギという名前だが、その精神は女だ。

『そうだろうか。私は女王と姫の対立を見たくないだけである』

「対立する気はないんだよね。
でも、そう簡単に納得もできない」

『私にその気持ちはわからない。
だが、どちらも正しいのであろう』

「うん。箒ちゃんが正しいのはわかってるんだよ」

『王の言葉の一つに【理屈で宥めたって綺麗事の暴論】という言葉がある』

「あぁ、うん。まさにそれだよ」

『なお、我々カンファレンスの中でも意見が割れている。
橙と稲荷と私は姫に賛成だが、アリスを始めとする残りの面々は女王についている』

「なるほどね…」

どうやら、私が間違っているらしい。

『女王よ。王を囲む者は何も他人ではないのだ。
その全員が女王が知っている人間であり、女王が少なからず「認めている」人間だ』

「うん…そうだね…。少し考えてみるよ…
参考までにいっ君のハーレムの候補は何人?」

『女王と姫をのぞいて現在は千冬様、円香様。鈴、蘭、エレオノーラ、リムアリーシャ、刀奈、簪、虚、本音、ひたぎ、駿河、シャルロットの十三名。
これから増える可能性もある』

あれ…以外と悪くない…?

「ん?シャルロットって誰?」

『王が今朝助けた少女だ』

「あー…なるほど…」

じゃぁ、その子は除くとして…

『なお王はシャルロットにフォールド・アクセサリーをわたしている』

「へ?なんで!?」

私ですら貰ってないのに!?

『助けたからには最後まで、というのが橙の言う王の考えだ。
女王と姫に渡す物の試作品のイヤリングを渡したようだ。
なお女王と姫には指輪を贈るそうだ』

「え?本当?それって確定情報?」

『是。カンファレンスでフォールド・クォーツの量産方法の検討を行っている』

フォールド・クォーツの…?

あれって確か大量のGNドライヴを全力稼働させて空間を歪ませる必要があったような…

『王はフォールド・クォーツを使いカンヘルを完成させる計画も持っている。
不思議ではない』

「そっか。いっ君もがんばってるんだね…」

『女王よ。王を囲う者の中で年の低い者は、女王自ら教育すればよい』

「洗脳?」

『サブリミナルだ』

どっちも一緒だよ…

ガチャ、と音が聞こえた。

箒ちゃんがシャワーを終えたらしい。

「あ、箒ちゃん。いっ君帰ってきたよ」

「知っている。声がしたからな」

バスローブを纏った箒ちゃんは、格好良かった。

でもチラチラみえる尻尾とピンと尖った耳が可愛らしくもある。

「イザナギと何を話していたんだ姉さん?」

「んー?いっ君のハーレムについて。
よく考えたらそんなに悪くないかもって。
だって知らない人は居ないし」

「問題はまだ増えそうという事だがな」

そうなんだよねぇ…

これからイギリス行くけど、そこでまた誰か堕としそうな気がするんだよねぇ…

「イザナギ。例の件、カンファレンスで検討できたか?」

と箒ちゃんがイザナギに聞いた。

『困難であると結論が出た。王の持つ視力の再現は不可能である』

「何の話?」

「一夏のメティス・サイトを再現できないかという事だ」

なるほど…いっ君の視力か…

あれは確かイデアへ接続しないといけなかったはずだけど…

『イデアへの常時接続は情報の逆流の可能性があり危険である。
そもそもイデアへ意識的に接続する方法も不明である』

へぇ…1stコアでもわからない事があるんだ…

私には1stコアの全ては理解できない。

できるのはいっ君だけ。

異世界のあらゆる知識を籠めて作られた11のコア。

その並列稼働でもシュミレーション不可能な物があるなんて、それをいっ君が常に使っているなんて…

『魔法的存在である我等カンファレンスですらイデアへの能動的接続は不可能である』

「わかった。すまなかったな」

『我々は使われる為にある』

「そう言うな。いつの日か、お前たちISコアも肉体を持つ日が来ると一夏は言っていたぞ」

『…………』

「肉体を持てば一夏をもふもふできるぞ」

『それは……魅力的ではあるが………』

なんだかんだでイザナギもいっ君の事好きなんだね…

「お前達ならば有機素体を組み上げる事もできるだろう?」

『是。しかし有機素体は脆弱である』

「んー…別に有機素体じゃなくてもいいんじゃない?
ちぇーちゃんのボディみたいにさ。
どうせあれもカンファレンスでシュミレーション続けてるんでしょ?」

『是。王からは別のボディのデートもわたされている』

あぁ、アルディとリムシィのデータか…

『む……カムイに呼ばれたので失礼する』

「ん。いっていいよ」

ふっとイザナギの気配が消えた。

コアにはクオリアがあるから、私達から興味が離れて内側に潜ったとなんとなくわかるんだよね。

「さて…では私も…」

箒ちゃんがベッドに転がって、いっ君を後ろから抱きしめた。

んー…ここは譲ってあげよう。

「じゃぁ、私もシャワー浴びてくるから。
そのあと朝ごはん行くよ」

「ん。わかった」

ベッドから下り、バスルームへ…

っとその前に…

振り返って、ベッドの上の光景をパシャリ。

うん。今日もいい1日になるといいな。
 

 

第百四話

一夏達がパリを一通り回った翌日。

彼等はユーロスターの車内にいた。

かたんかたんと揺れる中で一夏は窓の外へ目を向けている。

パリとロンドンを結ぶ路線の車窓を。

この二つの都市の距離はちょうど東京大阪間と同じくらいであり、二時間半もすれば着く。

ユーロスターが発車して一時間ほど。

だが、周囲の人間…刀奈やリム、更には千冬と束すら一夏に話しかけない。

話しかけることすら憚られる。

今の一夏はそんな、凶悪な笑みを浮かべていた。

その上ブツブツと物騒な事を呟いていた。

「……毒蜂…いや…俊殺はダメだ…気絶しないギリギリ…インフィニティモーメントで………治療用ナノマシンを………生き埋め………くく…くくく…」

その言葉の全てを理解できたのは二人掛けシートの隣に座る箒だけだった。

今の一夏は視線こそ外を見ていたが、両の手は別々のホロキーボードを叩いていた。

片方では強力な医療用ナノマシンの精製プログラムを。

片方では毒蜂やリリムキッスと同系列の…痛覚や苦痛を増大させる術式を。

「一夏」

「どうした箒」

箒は、すでに答えを察していたが、確かめるように尋ねた。

「そのナノマシンと術式をどう使うつもりだ?」

「お前が想像している通りだ」

すなわち、体感時間を加速させる術式をかけた上で痛覚を増大させ、いためつけては高性能医療用ナノマシンで治し、最後には生き埋めにする。

それは人を発狂させるに十分な苦痛を与える。

呼吸が出来なければ人は三分ほどで死に至る。

その苦しみは、自分の命が尽きる苦しみ。

体感時間加速術式インフィニティモーメントにより窒息するまでの体感時間を引き伸ばされたならば、確実に発狂するだろう。

「なぁ一夏」

「言うな。箒」

一夏はこれまで、守る為に力を使ってきた。

防御や反撃の為に。

だが今回は復讐のために力を使おうとしていた。

一夏が箒に魔法を仕込むとき、始めに言った事を一夏は破ろうとしていた。

「今から準備しても直ぐには使わないだろう?」

「ああ、3日…いや四日後かな。
オルコット家とヴィーティングが何かしらの取引をするらしい」

「そのオルコット家というのはなんだ?」

「イギリスの名門貴族さ」

一夏は、そこに居るかもしれない少女の事を思う。

彼はISの原作の10巻までしか知らないのだ。

「この取引のあと、オルコット夫妻は消される可能性がある。
そうなってしまうとオルコット家の一人娘が不幸になる」

「家族構成までしらべたのか?」

「ファントムタスクのコンピューターにな」

「そうか…」

「だから、この取引を潰す。そしてヴィーティングと小飼の私兵には、地獄ですら生温い苦痛を味わってもらう。
俺の持てる全てを睹してな」

箒が、一夏の肩を叩き、自分の方を向かせる。

「一夏。少しやすめ」

箒の瞳が明滅する。

光波振動系催眠魔法ヒュプノアイ。

箒は一夏がそれで落ちるとは思っていない。

だが、その光パターンは一夏の精神をある程度鎮静化させた。

「落ち着いたか?」

「…すまん。天上の羽衣よ我を覆え」

ゲートから現れた情報の鎖が一夏の精神を縛る。

「すこし、正気じゃなかったようだ」

「円香達の教育に悪い」

すると一夏はククっと笑った。

「まるで母親だな」

箒は臆面もなく応えた。

「いつか、お前の子供を産むのだからな」

「そうかい」



このセリフを聞いていた刀奈達は顔を赤くしてしたことを追記する。
 
 

 
後書き
現在R18を執筆中。その内上げます。 

 

第百五話

「おぉー…すげぇ。ハリポタっぽい」

ユーロスターから降り、旅程を確認する。

「取り敢えず荷物をホテルに置いてから観光しよう」

「ホテルの場所は?」

「ホテル・アヴァロン。ここの近くだよ」

すると俺の両隣にリムとエレンがきて、俺の手に抱き付いた。

「どうした二人とも?」

「でんしゃの中では、一緒にいられなかったので…」

「一夏おねーちゃんといちゃいちゃするの!」

後ろから抱きつかれた。

「わたしもおにーちゃんといちゃいちゃする!」

円香まで…

チラと見れば、アルシャーヴィン夫婦と姉さんが上手く行ったという顔をしていた。

なるほど、たしかにコレでは俺も復讐の準備ができない。

やられたな。

「若。ウチの子をたのんだぞ」

「お前らは?」

「姫の護衛だが?」

「ならお前らも俺と来るだろうが」

「確かにそうだが俺たちゃ狙撃やら何やら警戒しなきゃいけないんだよ」

あぁ…なるほど…

「わかったよ…」

姉さんに目を向けると無言でニヤリと笑った。

箒が俺の頭に手を置いた。

「一夏。幼女ハーレムだな」

「やめろ。そんな外聞の悪い呼称をするな」

すすすす…と簪が目の前に来てしゃがんだ。

「一夏ちゃんの百合幼女ハーレム」

イラッときた。

「喧しい」

しゃがんだ簪の額にデコピンをかます。

「ふやっ!?」

「幼女ハーレムは仕方ない。だが百合だけは認めないからな」

「あっれれぇ~?ハーレムなのはみとめるんだぁ?」

刀奈が中腰で俺に視線を合わせて、ニヤニヤしていた。

「今度はお前か更識姉」

「ねぇねぇハーレムって認めるのぉ?
全員めとっちゃう?」

「リム。エレン」

「「ん」」

リムとエレンが俺の手から離れる。

右手を刀奈の後頭部に回し、引き寄せる。

そして左手に障壁をはり…

ずぼっ!

左の人差し指と中指を刀奈の鼻に突っ込む。

「ひょ!ひょっひょ!何すゆのよ!?」

「うるせぇ」

突っ込んだ指で刀奈を突き上げる。

指がぬけ、刀奈が大きくのけ反ったあと、うずくまった。

「はっはにゃがぁ!?」

と叫ぶ刀奈を見下ろす。

「大丈夫大丈夫。障壁で被ってたから爪でお前の鼻の中は傷ついてないし、お前のきたねぇ鼻水も俺の指についてねぇし」

「最悪ね!?簪ちゃんと対応違いすぎない!?」

「お前には前科があんだろうが。あぁん?」

「くっそぉぅ…!」

「円香、リム、エレン。こういう大人になっちゃだめだぞ?いいな?」

「「うん!わかった」」

「わかりました」

「お姉ちゃん…哀れ…」

「お嬢様……いえ…なんでもございません」

「お嬢様の没落~」

「ねぇみんな酷くない!?」

すると何を思ったか箒が刀奈の側に寄り添った。

そして、耳元で何かを囁いた。

すると見ていてわかる程顔を赤くした刀奈が飛び上がり、束さんの後ろに隠れた。

「あっ貴女の妹でしょ!?どっどどどうにかしてください束博士!」

「んー? 面白いからこのままでー」

「姉妹揃って鬼ですか!?」

「更識姉。言っても無駄だ。その二人は基本的に快楽主義者だからな」

ニヤニヤしている箒を見やる。

「何言ったんだお前?」

「うん?」

箒がエレン、リム、円香を見て…

「ちょっと言えない事だ」

「あぁ…なるほど…」

要するにあからさまなエロ台詞でも言ったのだろう。

そのあとも少しギャイギャイやってたのだが。

「ガキ共。おふざけはこれくらいにしてホテルに向かうぞ」

という姉さんの一言でホテルに向かう事になった。

移動は徒歩だ。

駅の近くだし人数が人数だ。

「一夏。少しこっちに来い」

駅から出ると箒に手招きされた。

「どうした?」

近づくと、箒しゃがみ、鼻同士がピタッとくっついた。

「箒?」

だが直ぐに箒がやめ、無言で歩き出した。

「なんだったんだ?」

箒の行動を不思議に思いつつ、幼女三人娘と話していると、すぐにホテルに到着した。

ホテルのロビーにて。

「若。部屋はリム、エレン、円香ちゃんと同じにしといた」

「おい。色々おい」

「ヴァナディースと姫からの要望だ。
まさか若がリム達に手を出すとも思えんしな」

姉さん…箒…

「わかったよ。わかったわかった。
なんでかって理由も予想はついているが、俺は止まらないからな。
絶対にやりとげるぞ」

「そうか。俺は若を止めない。それに殺人を否定しない。今度はただ従っただけだ」

優しいな。お前は。

「ありがとよ。ヴィッサリオン」

「なんて事はない。ただ、男の覚悟を踏みにじるような事はしたくないだけだ。
たとえその覚悟が憎悪にまみれた復讐でも」







荷物をホテルに預けた後はベーカー街へ行ってみた。

ホームズ縁の地だ。

簪に肩をたたかれた。

「あんまり楽しくなさそうだね、一夏」

俺はミステリーはあまり読まない。

途中で俺ならこうしている、とか思ってしまうからだ。

殺しの方法も、犯人を見つける方法も。

生前…前世ではミステリーもそれなりに読んでいたけど、転生してからは、読まなくなった。

傲慢だと自覚しているが、俺は現実にミステリーのような事件が起こったなら、トリックも、動機も全てを見通せる目を持っているのだ。

「俺達は、ミステリーの登場人物にはなれないな」

「あら?どうしてかしら?」

と刀奈に尋ねられた。

「完全犯罪もできるし、サイコメトリクスやテレパシーも使える。
ノックスの十戒に反しすぎている」

完全犯罪では話が始まらない。

犯人の心を読めばそこで話が終わる。

「でも、最近はそういうミステリーもあったわよ?
超能力を暴く系ミステリー」

あぁ…スペックか…。

「懐かしいな…」

こっちでも存在する物語だが、こっちでは見ていない。

だから、おれからすれば十数年ほど前だ。

「一夏はどんなスペック?」

「ん?それは魔法とか全部込みでか?」

「うん」

スペックかぁ…俺の能力をスペックで現すと?

いや…大抵の事はできるからなぁ…。

時間操作は流石にできないが、空間跳躍はまだできないけど目処が立ってるし…

「取り敢えず、死者蘇生と時空間操作以外なら大抵できるぞ」

「国を滅ぼすのも?」

「十分あればできる」

「地球を壊すのも?」

「がんばればできる」

「宇宙を壊すのは?」

「やり方を知らない」

更識姉妹がうわぁ…みたいな顔をした。

「言っとくが同じ事できる奴他にもいるからな?」

例えばキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

彼女がその気になれば、世界は滅ぶ。

死屍累生死郎が復活すれば、さらに一人。

束さんもその気になれば全てのISコアにアドミニストレイションコールして人類を駆逐できる。

セルピヌスコードで縛っているが、カンファレンスに命令すれば3日で世界を滅ぼせる。

あと、お前もできるだろう?なぁ奏。

『今は出来ねぇがな』

「へぇ…生身の一夏とISが戦ったら?」

生身かぁ…

「世代は?」

「へ?」

「だから、世代だよ。第一と第二には絶対勝てる。
だけど第零…世間で言うところの二つの白騎士には生身じゃ難しい。
あと第三…いや第四か第五辺りからたぶん勝てなくなる」

白騎士は、束さんの最高傑作…

ナイト・オブ・トレイターはカンヘルの試作機…

両機の基本フレームはサイコEカーボン…

ナイト・オブ・トレイターは俺しか扱えないが、ISを纏った方が戦える。

第三世代は思考操作兵装を搭載し始める。

恐らくここまでなら確実に勝てる。

だが、第四世代…マルチロールハイスペックを相手にするのはキツイかもしれない。

そんな事を考えていると、簪が不思議そうな顔をした。

「一夏。ISは最近第二世代がロールアウトしたばっかり」

しくった…

「それに、どうして一夏が白騎士に勝てないって断定するのかがわからない。
あと世間で言うところの、って事は世間で言わない呼称を知ってるってこと」

んん…? あれ? もしかして刀奈って簪に言ってない?

刀奈に目を向けると、そっぽを向いていた。

「ねぇ、一夏。一夏ってもしかして…」

簪の口に人差し指を近付ける。

「簪、そこまでだ。そこから先はいけない。
知っていても、察していても、口に出してはいけない」

すると簪がコクンと頷いた。

だが素直に引く気はないらしい。

耳元に口を近づけたかと思えば…

「後で詳しく教えてね。私白騎士好きだから」

「あー…機会があれば」

「じゃぁ、今日か明日にでも」

「あっはい」






昼食は各々買い食いする事にした。

広場に屋台や出店が沢山出ていたのでそこで昼食を取る。

俺達は全員で十六人いる。

レストランとか空いてないのでこの方法だ。

「フィッシュアンドチップスでも食うかな…」

ちょうど屋台を見かけたので食べたくなった。

「イギリス名物だな」

「そそ。白身魚のフライとフライドポテトの盛り合わせ。
イギリス料理は不味いとか言うけど最近は美味しいらしいししな」

箒の呟きに答える。

「私もそれにしよう」

「おにーちゃん。ふぃっしゅあんどちっぷすってなぁに?」

と俺の後ろをついて来ていた円香に尋ねられた。

「円香も食うか?」

「うん!」

「そこの金銀も食べるか?」

「食べる!」

「たべます」

売店に行ってフィッシュアンドチップスのパックを注文する。

「<お姉さん。フィッシュアンドチップス四つちょうだい>」

俺、箒、円香、リム、エレンの分だ。

幼女三人は三人で二パックでいいだろう。

多かったらこっちで食えばいいし。

「<嬢ちゃん。そんなに持てるのかい?>」

「<こんな成りだけどもうジュニアハイだよ>」

「<ほぉ?小さいな。よっしゃ嬢ちゃん!
沢山食って大きくなりな!>」

というやり取りの結果おまけで一パック貰った。

箒達がベンチに座っていたのでそこへパックを持っていく。

「おいロリs。多かったら本音辺りに餌付けしてくるといいぞ。
あと刀奈を太らせたいなら止めはしない」

「わかった。本音おねーちゃんに持っていく」

「じゃぁ私は刀奈おねーちゃんに」

「えと…えと…」

刹那。俺の米神に向かってピックが放たれた。

ミストディスパージョンで分解し、飛んできた方を見る。

十メートルほど先で刀奈が本音の袖に片手手を突っ込んで、もう片方の手を俺に向けていた。

「棒手裏剣とか…更識って本当に忍なのかな…」

「一夏。刀奈さんで遊ぶのはそろそろやめてやれ…」

「えぇー…面白いのに…」

「棒手裏剣を投げられるほどキレているようだが…」

「やっぱ体重の話はタブーかぁ…」

「私は気にしていないが気にする者は気にするのだ」

「お前体重何キロ?」

「ふむ…そろそろ70キロだな」

「俺の倍じゃん…」

だがそれでもメリハリのあるボディなんだよなぁ…

足もウエストも細いし…

「ま、取り敢えず食べようや」

ベンチに座ってパックを開ける。

中にフォークとソースのカップが入っていた。

ソースはタルタルソースだ。

白身魚のフライをフォークに刺して、ディップする。

口に運ぶとフライがホロホロと崩れる。

ソースも美味しい。

「うん。いいな。こんど家でもやってみよう」

結局三人が食べきれなかった分は俺と箒で食べる事にした。

刀奈に持っていっても面白そうだったが流石に自重した。

次はデリンジャーが出てきそうだ。

トコトコと簪が歩いてきた。

「箒。そんなに食べて大丈夫?」

「問題ない。太りにくい体質でな」

「ずるい…」

という会話をしていた。

「簪。箒の握力知ってるか?」

「知らない。いや知ってたらむしろ怖いとおもう」

「箒の握力な。80前後なんだ」

この前試しに林檎潰させたからだいたいそのくらいのはず。

「魔法?」

「魔法とは別のオカルト。『気功』ってやつだ。
気功は肉体由来のエネルギーで代償は食事量だ」

「ふぅん…気功…ね。こんど私にも教えて」

「えー…」

これ以上体格の大きい女子がいたら俺の心が折れそうなんだけど。

「あ、第二次成長期が終わって体がしっかりしてきたらいいよ」

箒は第二次成長期…小学生高学年で気功を使いまくっていたので身長がものすごく伸びた…と俺は予想している。

俺は『素』で肉体を鍛えたかったので気功はあまり使っていなかった。

そのせいで身長が低かったのだろうか…

いや、そんな事はないか…

「ん。わかった」

簪が刀奈達の所へ戻って行った。

視線を感じたのでそちらを見ると、円香達だった。

「おにーちゃん。わたしも『きこー』ってやってみたい」

「えぇ…」

見ればアルシャーヴィン姉妹も同じように興味があるような顔をしていた。




この時箒がニヤニヤしていたのを見逃した事を後に後悔するのだが、この時は気づけなかった。
 
 

 
後書き
書きたかったもの。
『箒と一夏の鼻キス』『ノックスの十戒』
『気功の説明』『幼女三人の強化フラグ』
の四つです。  

 

第百六話

ホテルに戻り、円香、リム、エレンと同じ部屋に入る。

「おにーちゃん!シャワーあびたい!」

「おお…円香…元気だな…」

「「お風呂…」」

「ブルータス…」

リムとエレンもか…ってお風呂?

「つってもなぁ…ここイギリスだぞ?
せいぜい小せぇバスタブが…」

ガチャ…とバスルームのドアを開けると、何故か日本式の『YUBUNE』だった。

おぉ…コレがISによるジャパニズムの拡散か…

あれ?でもヨーロッパの水って硬水で肌に刺激が強いってきくけどな…

まぁ、最悪魔法でどうにかしよう。

「あー…取り敢えず髪くらい洗ってやるから荷物置こうか」

でだ、奥…つまりはベッドルームなんだが…

「なんでキング一つなんだよ!?
ヴィッサリオンのやつ部屋変えやがったな!?」

今回イギリスに来たのは俺がヴィーティングを殺すためだったので、旅費やらホテルの予約は全部俺がやった。

俺はキングサイズベッドの部屋なぞ予約してない…つまりヴィッサリオンが受付でやらかしやがったって事だ。

「おっきいベッドですね…四人で眠れそうです」

「ちょっとヴィッサリオンに電話してくる」

ベッドにダイブする円香とエレン、それに引っ張られるリムをよそに、部屋の入り口の方へ行く。

ホロウィンドウを開く。

「コール・S1」

数秒の呼び出し音の後、ヴィッサリオンが出た。

『お、若。ロリハーレムを満喫中か?』

「三分の二はお前の娘だろうが。
それよりなぜキングサイズベッドなんだ?」

『うん?姫の発案だが?』

「はぁ…金は?」

『ヴァナディースから貰った』

「あ、そう…」

『俺は無駄だって言ったんだ。
若なら三人を寝かし付けて悠々と部屋を抜け出せるって二人には説明したんだがフィーネが悪ノリしてな…』

『なんだい。いいじゃないか』

とフィグネリアの声が聞こえた。

『あっ!おいフィーネ!』

どうやら、スマホを取られたらしい。

『若。うちの子に手をだしたら逸物をぶったぎるよ』

こえぇよフィグネリア。

「出さねぇよ。つかそんな事言うならさっさと引き取りに来い」

『お断りだね。今日は久々に旦那とMake Loveさせてもらうよ』

「なんで俺がお前ら夫婦の夜の話を聞かないといけないんだ」

『女とエロトーク出来ないとモテないよ?』

「ヴィッサリオンとやれ」

『旦那以外とのエロトークも楽しい物でね』

もうやだこいつら。

『あ、忘れてたエレンだけど…』

ん?

『やっぱりやめておくよ。じゃ、うちの子を頼んだよ。
風呂に入れてやるのはいいけど必要以上にさわっちゃダメだから』

「めんどくせぇ。もうお前らがやれよ」

『だから断るって言ってるだろう?』

「わかったよ…切るからな」

Call off

アルシャーヴィン夫婦へ文句を言い終え、ベッドルームに戻ると、テレビがついていた。

ベッドに三人で寝転がり、テレビを眺めている。

内容は旅番組で、円香は?マークを浮かべていたが、アルシャーヴィン姉妹は興味深く見ていた。

「<リム、エレン。お前ら英語話せるのか?>」

「<できるよ>」

「<はい、できます>」

英語で尋ねると、英語で返事をされた。

「<その旅番組の内容理解してるか?>」

「<よゆう!>」

「<かんたんです>」

ふむ…

「〔ロシア語は話せるんだよな?〕」

「〔もちろん!〕」

「〔すんでいたので〕」

ロシア語もできるのか…

「{中国語は? あと他に話せる言語は?}」

「「?」」

あ、さすがに中国語はだめか…

「日本語と英語とロシア語以外で話せる言語はあるか?」

「ないよ」

「3つだけです」

いや、3つ使えりゃ十分だろ。

「なぁ、二人とも、暇なときにでも円香に英語を教えてやってくれ」

「わかった!」

「はい!」

「?」

「円香。二人に英語を教わるといい」

「ん。わかった」

「じゃぁちょっと風呂を見てくる。
あ、お前ら湯船に浸かりたいか?
それともシャワーだけで済ますか?」

「「お風呂!」」

とアルシャーヴィン姉妹がリクエストした。

はいはい、湯船ね…

ベッドに寝転がる三人をおいて、バスルームへ。

ちゃんとトイレとバスルームが別れていた。

「ここを作った奴は日本好きなのか…?」

試しに風呂の蛇口をひねってみると、でてきたのはやはり硬水だった。

「これもう蒸留していいよな…」

量子格納庫から適当なホースやらなんやらの道具を取り出す。

湯船の外へ向けた蛇口を捻って勢い良く水を出し、でてきた水を装置にそそぎ、即座に蒸発させる。

その蒸気を冷やし、湯船に入れる。

回りくどいが蒸留水なんてこの方法が一番だしこの装置の改良も面倒なのでかなり長く使っている。

魔法でもできるがその場合ずっと付いておく必要が出てくる。

まぁ、俺ならテレビ見ながらでもこの方法で風呂を溜められるが、面倒なのだ。

「一応言っておくか…」

ホロウィンドウを呼び出し、全員に入浴はお勧めしないというメールを打った。

するとピコん、と返信がきた。

刀奈からで、もう入った後だとか。

取り敢えずスキンケアを念入りにと返しておく。

湯船の水はあとで魔法で沸かすので、ベッドルームへいく。

ベッドルームではリムとエレンが円香に番組の解説をしてあげていた。

仲が良くて何よりだ。

「あと十分くらいで風呂貯まるからな」

はーい、と返事が聞こえた。

風呂が貯まるまで数分、今後の事を考える事にした。

この三人の中では、肉体は円香が最も成長しているが、精神は別だ。

ここで問題なのは、学校だ。

円香の戸籍はどうとでもなる。

円香の身長はだいたい小学校高学年ほど。

エレンとリムは来年から小学生だ。

はてさて、円香の年をどうしよう。

一応『八歳』なんだよなぁ…

そのあとつらつらと考えていると、タイマーがなった。

風呂が貯まったらしい。

バスルームに確認しに行くと、ちゃんとたまっていた。

「モレキュール・アクセラレーション」

水分子を振動させる魔法で水温をあげる。

適温になったので、ベッドルームへ。

「風呂貯まったぞ」

「やった!」

「久々のおふろ…」

「おふろ?」

ん?もしかして円香って風呂入るの初めてか?

まぁ、いいか。

部屋の角に置いてあるアルシャーヴィン姉妹のバッグをリムに渡す。

「リム。お前とエレンのパジャマ出しといて」

「わかりました」

で、円香のだが、サイズがなぁ…

円香が昨日着てたパジャマあるけど、綺麗でも同じのは嫌だろうし…

『ますたー。いっそ作ったら?』

『じゃぁ、頼む』

『わかった。ISスーツくらい頑丈に作る』

『橙よ…普通のパジャマで十分だ』

ISは形態変化の際に、量子格納庫内部で部品を組み立てる。

それは超精巧な3Dプリンターと等しい。

ダイアモンドのナイフだって作れる。

その要領で服を作るのだ。

「円香のは後で出すから」

「わかった」

リムが二人分の着替えを出した。

「じゃ、風呂だ風呂」

「ふろー!」

とエレンが服を脱ぎ散らかしてバスルームへ。

そのあとどぽんという水音が聞こえた。

「リム…苦労してるな…」

「はい…」

五歳のテンションじゃねぇな。

じゃ、俺らもいこうか。

円香とリムも服を脱いでバスルームへ。

俺は水着を着ている。

「リム、取り敢えずエレンと湯船に浸かっておいてくれ。
円香から洗うから」

「はい」

円香を風呂椅子に座らせ、頭からシャワーをかける。

「円香。昨日一昨年は姉さんに洗って貰ってたのか?」

「うん。お姉ちゃんに洗ってもらったよ」

「そか」

手にシャンプーをつける。

流石にシャワーは硬水のままだ。

ヨーロッパのシャンプーやボディソープは硬水に調整されているので部屋に備え付けの物を使う。

「洗っていくぞ」

よく箒の髪を洗っているので、他人の髪を洗うのは慣れた。

改めて考えると、この場に居るのって全員長髪だな…

「お兄ちゃん、洗うの上手いね」

「そうか?」

「お姉ちゃん下手だった」

あぁ…なるほどねぇ…。

「姉さんには言うなよ?凹むから」

「んー…わかったー」

髪を洗い、続いて体を洗っていると、円香が気持ち良さそうにしていた。

「んー…ぽかぽかするー…」

「マッサージも兼ねてるからな」

具体的には気の巡りを促進している。

「寝るなよ?」

「ねないよー…」

円香にお湯を掛けて、リムと交代させる。

「一夏おねーちゃん私はー?」

「お前は最後だエレン。湯船に飛び込んだ罰だ」

「ぶぅー」

湯船の中から文句をいうエレンを無視して、リムの髪を洗う。

「綺麗な金髪だな…ヴィッサリオン譲りか」

「はい」

ヴィッサリオンもフィグネリアも美形だからなぁ…

そら娘二人も美形だよ。

「リムは、静かな月だな」

「月、ですか?」

「ああ、満月のように輝く金髪で、落ち着きがある。
将来はきっといいお嫁さんになれるぞ」

「………そうですか」

「それにそのサファイアみたいな蒼い瞳も綺麗だぞ」

金髪碧眼っていうのはヨーロッパではオーソドックスなタイプだ。

だがリムはその中でも一段と輝いている。

母親譲りのキリッとした顔立ちだ。

将来は格好いい系の美人になるだろう。

「お兄さんは、私を綺麗って思いますか?」

「ん?いや、今のリムはまだ『キューティー』かな。あと十年くらいしたら『ビューティー』になるよ」

「…嬉しいです」

リムの髪と体を洗い終え、エレンの番だ。

湯船から出たエレンだが、風呂椅子に座らない。

「どうしたエレン?」

「んー…? ん~?」

するとエレンが俺の水着をずり下ろした。

「をい!?」

「あ、一夏おねーちゃんって本当に男の人だったんだ…」

「今まで女と思ってたの!?もう会って一年だよ!?」

エレンが本気で俺を女と思っていた事にかなりショックを受けた。

いや、まぁ、たしかに俺は女顔だし髪も長いけどさぁ…

「口調とかでわかるだろ…」

水着を元に戻しながら言う。

「だって箒おねーちゃんや千冬おねーちゃんの方がおとこっぽいしゃべり方だもん」

あぁ…言われてみればだな…

「以後こういう事はするな。いいな?」

「はーい」

エレンを座らせる。

「一夏おねーちゃん」

「『おねーちゃん』ってのはかわらないんだな…」

「さっきリムの髪とか誉めてたけど私はー?」

俺の抗議は無視する方向なんだな…

エレンの髪?

「綺麗だと思ってるよ。リムが静かな月なら、エレンが燃える太陽だ」

本当に正反対な二人だ。

双子でなく年子らしいが、こうも正反対とは…

まんま小説の人物って訳じゃないのはわかってるけど、因果って奴なのかな。

「真夏の太陽みたいに白く輝く銀髪が示すように、お前の元気さはきっと人を導くだろう」

リムが母親似ならエレンは父親似で、元気っ子というのが当てはまる顔立ちだ。

「リムとは真反対だが、それゆえにリムとは違う魅力がある」

リムの方にも目をむける。

「お前たち姉妹は、きっと大人になったらさぞかしモテるぞ」

金と銀。蒼玉と紅玉。

まるで一揃いのビスクドールのように、完成された『美』。

「エレン、目ぇつむれ」

泡を落としてやり、体を洗ってやる。

そしてようやく俺の番だ。

ぱぱっと髪と体を洗う。

野郎の入浴シーンとか要らねぇだろ。

ん?今なにか電波を拾ったような…

まぁいいか。

俺も湯船に浸かる。

四人入ってもまだ余裕がある。

ここを作った奴はいい趣味をしているな。

円香が、俺の膝の上に座った。

「おにーちゃん。私は?」

円香?

「私の髪は?」

「夜天のようなお前の髪も、オニキスみたいに深い黒の瞳も、綺麗だとおもってるぞ。
その『黒』はお前が姉さんの妹って証さ。
羨ましいよ」

「どうして?おにーちゃんも黒だよ?」

俺の黒い瞳は偽りだからなぁ…

「この黒目な、本当の色じゃないんだよ」

パレード ディキャスト。

瞳が黄金に。虹彩にラインが走る。

「この金色の目が俺の本当の目だ」

「わぁ…一夏おねーちゃんの目、綺麗…」

「ありがとう。エレン。この瞳は気に入ってるけど、隠しとかないといけないのが面倒でな」

「どうして隠すんですか?綺麗な瞳なのに」

「ほら、目立っちゃうだろ?」

「なるほどー」

すると円香がクルッと体を回して、俺と向き合う。

「私もおにーちゃんみたいな目になれる?」

円香には、イノベイターになってほしい。

今は奏の血でどうにかしているが、それが切れたならばどうなる?

だから、円香にはイノベイターとして、人類を超え、強く健康な体を会得して欲しい。

「ああ。なれるよ。がんばったらね」





幼女三人と風呂に入ったあとは、就寝だ。

歯を磨いて三人をベッドに入れる。

「じゃ、俺はソファーで寝るから」

ソファーで横になろうとすると、三人がベッドから出て来て、俺をベッドに引っ張る。

「な、なに?」

「箒お姉ちゃんがおにーちゃんと寝るようにって言ってた」

「おかーさんが一夏おねーちゃんに抱きついてねなさいって言ってたの!」

「わ、私もお兄さんと一緒に寝たいです…」

そこまでするのか…

仕方なくベッドに入る。

「お休み。円香、リム、エレン」

「「「お休みなさい!」」」










午前0時。三人が寝静まった。

「SA-16スティレット オープン」

フレームアームズ・スティレットを量子展開する。

「ダイブ・トゥ・スティレット」

フッと意識が遠退き、目を開けると、自分と三人娘が見えた。

意識をスティレットに移したのだ。

体を動かせないのならば別の体を用意すればいい。

【さて。朝になる前にオルコット家を探って来るとしようか】
 
 

 
後書き
世界滅びないかなぁー… 

 

第百七話

イギリス滞在二日目。

ホテル・アヴァロン外壁 06:57

とりあえずFA十数機を投入して調べた結果ISコアの取引をする事がわかった。

オルコット家の使用人の娘が心臓に大病を患っているとか。

その治療のため、ペースメーカーの代わりにISコアを使おうとしているようだ。

オルコット伯爵はその娘をセシリア・オルコットを守るための『剣』とするつもりらしい。

EUの生体融合実験機の改良発展型と推測しているのだが、実態は不明だ。

ISコアをどういう風に活用するのか興味をそそられるのだが、それはまた別の話だ。

なお、コアの譲渡はIS協定に反する。

人類がどう扱おうが知ったことではないし、ISの使用に関する法律も無視しまくってるが、ヴィーティングが絡むなら別だ。

ホテルの窓から部屋に入り、『自分』の上へ。

【ダイヴ・エンデッド】

肉体に意識が戻り、スティレットの動力が切れる。

SA-16 スティレット クローズ。

目を開けると、天井が見える。

右からエレンに足を絡められていた。

左手はリムが抱きついていた。

で、腹の上に円香が乗ってた。

「重くはないが動けん…」

『ますたーますたー。「タイトル・幼女ハーレムver事後」』

喧しい。

『ますたーがオルコット家を探ってる合間に写真撮って皆に送っといたよ!』

余計な真似を…

『皆から返信あったけど読む?』

読まないよバカ。

「んぅ…」

声が聞こえた。

「リム…?」

「んー…ぅみゅぅ…」

左から抱きついているリムが、くしくしと俺に頭を擦り付ける。

リムってクーデレだよね。

『落ち着いてるよねぇー』

でも時々甘えてくれるのがね!可愛いよな!

『お巡りさんこいつです』

おいバカやめろ。

『ここイギリスだしライフル抱えた衛兵が来るかもしれないよ?』

リアリティーあるからやめろ。

30分ほど三人の寝顔に癒されていると、円香が目を覚ました。

「みゅー…おにーちゃん…おはよ…」

「お早う円香」

「おにーちゃん…おはよーのちゅーして…」

「はいはい」

円香の額に唇をつける。

円香も俺の額にキスを落とす。

「むー…なんで箒おねーちゃんたちにするみたいにしてくれないの?」

えーと…箒とするみたいにって…

「つまりお前俺と唇同士のキスしたいの?」

「うん」

「お子様にはまだ早いよ」

くっそ昨日見られてたのか…まぁ、束さんの指金だろうが…

と、まぁ、こんな事をしていたのでアルシャーヴィン姉妹も起きたようだ。

「一夏おねーちゃん…ちゅー…」

「わたしも…キスしてください…」

エレンとリムの頬にキスを落とす。

『三人からせがんでくるとはいえどうなのさ?
責任取れるの?』

責任?なんで?円香達が俺に恋心を抱いてるとでも?

無いだろ。

『朴念仁』

いや朴念仁とかじゃなくてさ、単になつかれてるだけだって。

しかも円香は妹だぜ?

『二股してんでしょ?いまさら近親相姦に関して抵抗があるって言うの?
言っとくけど千冬が言う結婚相手の条件…要するに千冬より強い男ってますたーしか居ないからね?』

いや、流石にそりゃだめだろ。

仮に姉さんに手を出したら俺マザーファッカーと同じくらいクズだからね?

『(ますたーって読心魔法だけは使わないからなー)』

何か言ったか?

『いや何も』

起きてからいっそう俺にくっつく三人に声をかける。

「ほらー。三人とも顔洗ってこい。
8時から朝御飯だぞー」

「「「ふぁーい…」」」













朝食を食べ終え、ホテルを出る。

今日はロンドンを回ろうと考えている。

「で、別れる? 全員で行く?」

と尋ねると、別れる事になった。

こっちは俺、姉さん、円香だ。

織斑家で家族団欒という訳だ。

他も今日は家族単位で動くらしい。

エレンとリムが俺と来たいと言ってヴィッサリオンがへこんでいたが、野郎の泣き顔とかどうでもいいので割愛する。

「いこ、姉さん、円香」

「そうだな」

「うん!」

三人で街を歩いていると、フッと目の前を何かが横切った。

「Fairy…?」

翼の生えた十数センチ程の子供。

羽毛と髪は緑で、足先が鳥のそれだ。

妖精は、俺の呟きを聞き、振り返った。

《あらん。貴方見えるのね?》

「よもや妖精に会えようとは。流石はイギリスと言ったところかな」

手の甲を上にして、手を伸ばすと、その上にふわりと着地した。

《へぇ…あんた面白いわね。こんなに強いヤツに憑かれてるのにピンピンしてるなんて》

「橙も奏も大事なファミリアさ」

《ふぅん…ケットシーとヴァンパイアがファミリアねぇ…》

妖精と話していると、後ろから円香が覗き込んでいた。

「こびと?」

「妖精だよ。フェアリー」

「よーせー?」

「大自然の権現であり、俺達の隣人」

振り返って、円香の目の前に妖精を掲げる。

《ハァイ、貴方、このダンピールの妹?》

「うん!わたしはまどか!」

あ…名前言っちゃったよ円香…

ま、まぁ…害意はなさそうだし大丈夫か…

《アタシはエアリエルよ。よろしく、マドカ》

エアリエル…気精か。

気づけば、姉さんが怪訝な顔をしていた。

「姉さん。もしかして『見えてない』?」

「あ、あぁ。お前のての上に何か気配は感じるが見えないんだ」

指先を少し裂き、血を滲ませる。

その指を姉さんに向ける。

「見たいなら、この血を嘗めて。ただ、イギリスには妖精が多い…チャンネルを合わせると面倒臭いよ」

姉さんは迷わず俺の指を嘗めた。

「ん…ちゅぴ…ちゅぷ……」

うん…何て言うかさ…

「ねーさーん?」

「んゆ?」

「くすぐったいからそろそろやめて」

不満そうな顔で姉さんが俺の指を放した。

「もう、見えるでしょ?」

とエアリエルを指差す。

「ほう。これが妖精か。精霊とは違うのか?」

「意思を持った精霊さ。どっちかと言えば怪異寄り」

エアリエルがふわりと翔び、姉さんの目の前に飛び出た。

《アンタ、ブリュンヒルデね?》

「妖精でも知ってるのか?」

《だって暇なんだもん。この間ニンゲン達がテレビにかじりついて見てたのを端からみてたのよ》

なるほどなるほど。

《ブリュンヒルデ。一つ忠告よ》

エアリエルが真面目そうに続けた。

《カルタフィルスに気を付けて》

カルタフィルス? 聖書の人物が何故?

《言いたい事はそれだけよ》

ビュゥっと一瞬だけの突風が吹いた。

その一瞬の内にエアリエルは何処かへ消えてしまった。

「おにーちゃん。『かるたふぃるす』ってなに?」

「不死身の祝福を掛けられた男さ」

祝福は呪縛。祈りは呪い。

カルタフィルス…聖書の登場人物としては知っている。

だが、エアリエルの口振りでは、まるで実在するかのようではないか。

それとも名を騙る誰かか?

だがエアリエルが伝えるならば人ではあるまい。

何かしらの怪異なのか…?

いや、カルタフィルスが実在の存在か名を騙る何者かはこの際置いておこう。

問題は姉さんを狙う理由だ。

姉さんが狙われる理由…ブリュンヒルデ?

だめだ理由が少なすぎる…

ポン、と肩に手を置かれた。

姉さんの手だ。

いつの間にか長考に陥っていたようだ。

ここからはカンファレンスに引き継ごう。

「カンファレンスへ通達する。
『カルタフィルス』に関連する『全て』を調べろ。
プライオリティは最優先だ」

『了解。ますたー』

『おっけー。一夏』

『王よ。期限を』

「俺が呼ぶまでだ」

『『『『『『『『了解』』』』』』』』

橙とアリスの気配が消失した。

「情報がなければ何もできない。
カンファレンスに情報収集させてるから、俺達はロンドンを楽しもうぜ」






その日はキューガーデンへ行った。

キューガーデンは王立(国立)植物園であり、外では季節の花々が、温室では南国の植物が生い茂る。

とりあえず、円香のはしゃぎ様が凄かった。

まだ目覚めて数日。

コトバを教えたとはいえ、周囲のあらゆる物に興味がある時期なのだろう。

可愛いからいいけどね。

そのあとは少し市街地をぶらついて、ホテルへ戻った。

戻ったらいきなりアルシャーヴィン姉妹に抱きつかれたのは驚いた。

あと箒、そんな慈しむ目を向けるな。

少し皆と別れ、カンファレンスに呼び掛ける。

カンファレンスのスペックで半日。

スカイネットだって落とせる規模だ。

「橙。情報」

『了解。「カルタフィルス」について調べた結果と関係ありそうな項目をピックアップするよ』

ホロウィンドウに表示された情報を読み進める。

「カルタフィルス……ヨーロッパを放浪する本物の不死者…か…」

どうやら、本物、ご本人らしい。

情報源は………ブリティッシュ・マギ・アカデミー…?

『それ、魔法使いの教育機関らしいよ』

へぇ…ホグワーツ的な?

『どっちかと言えば魔法使いの互助組織だね。
魔法使いが自分の研究を断たせない為にいろんな研究結果を収集してるんだって』

なるほどねぇ…

『ちなみにそこのファイアウォール、ペンタゴンより硬いから』

まじで?

「つまりこの情報は正しいんだな?」

『どうかな?学内でも眉唾物っぽいよ。
現在の魔法では不死には至ってないんだって』

ふぅん…吸血鬼とか調べればいけそうな…

あぁ、いや、本当に不死クラスの吸血鬼はほんの一部か…

「カルタフィルス…最近はキメラを使う様子が目撃されている…?
キメラ? 実在するのか…?」

別のウィンドウにキメラに関する文献が表示される。

「そうか…。この世界の魔法って『魔法』なのかぁ…」

俺は絶対やらないな。だってキメラとか絶対キモいし。

「カルタフィルスの現在の容姿は銀髪…『現在の』?」

『それ以上はオンラインデータベースにはなかったよ』

なら仕方ない。

「アリス、稲荷」

『なに?一夏?』

『どうしました一夏様?』

「全機能解放。襲撃に備えろ」

吸血鬼クラスでも、オリジナルコアならいい勝負ができるだろう。

その間に俺が駆けつけられれば御の字だ。

『『了解!』』

できることは、やった。

願わくば、これが杞憂であればいいのだが…
 

 

第百八話

イギリス滞在四日目夜。

「すぅ…すぅ…」

「くぅ…くぅ…」

「うにゅ…」

『で、ますたーはこの幼女ハーレムからどうやって抜け出すつもりなの?』

普通に抜け出すよ。

上に乗ってるエレンを浮かせ、リムと円香に抱きつかれている両腕を解く。

そのあとでエレンを下ろせば、はい終わり。

ほらな?

『でも、円香が起きちゃったみたいだよ?』

それくらいどうとでもなるさ。

『俺』だぞ?

「おにーちゃん……?」

「少しトイレに行くだけだよ」

【邪眼】解放。

「だからさ、寝てていいよ」

カクン、と円香が意識を失って、再び静かな寝息をたて始めた。

『ますたーが「身内」に邪眼を使うなんてね。
それも光波振動じゃなくて、「本物」の邪眼を』

制御はできてる。何の問題もない。

『よう…一夏。ずいぶんと面白ぇ物持ってるじゃねぇか』

奏…起きてたのか。

『あたりめぇだろうが。先輩殿が今日は寝るなとうるさいんでね』

『ますたーに何かあったら奏も困るでしょ』

『まぁ、そうなんだがよ』

さて、つぎは…

「奏。出てこい」

影からスッと奏が出てくる。

首を傾け、奏に差し出す。

「血をくれてやる。『好きなだけ』飲め」

「正気か?」

「ああ。正気だ」

奏が俺に抱きつき、首筋に牙を突き刺す。

体から血が抜かれていく脱力感とは真逆に、体の奥底から力が溢れ出す。

やがて、奏の背が高くなり150センチ程になった所で牙が抜かれた。

「ここら辺にしとくぜ。あんまり吸うと、存在力まで奪っちまいそうだ」

奏が抱擁を解く。

どうやら今のコンディションが奏と俺がそれぞれの最高値らしい。

奏が再び影の中へ潜る。

「じゃぁ、行くか。オルコット城へ」

side out







オルコット城 地下

そこでは一人の気の弱そうな男が複数人の女性と話していた。

男の目の前には白衣を来た女が立っており、その後ろに武装した十数名の女達が控えていた。

「ヴィーティング殿。本日は誠にありがとうございます」

「いえ、我々も仕事ですから」

ファントムタスクのヴィーティングは、とある手術を行う為にイギリスのオルコット城へ来ていた。

ヴィーティングというのは魔剣の名前でありあらゆる傷を癒す剣だ。

そしてそのコードネームを与えられたこの女は元医師の、科学者だった。

その専門は遺伝子工学から機械工学まで多岐に渡る。

「我々も。新世代ISの可能性をみたいのですよオルコット卿」

「それでエクシアが助かるなら。願ってもないことです」

今回彼女は心臓に大病を患った少女を『治療』するために来ていた。

(治療とは名ばかりの『人体実験』ですが、組織が全面バックアップしてくれるなんてついてますね)

「ところで、そのエクシアという少女は何処に?」

「こちらです」

オルコット卿がヴィーティング達を案内したのは、オペ室のような部屋だった。

その部屋のベッドの上には病衣をまとい、コードに繋がれた少女が横たわっていた。

「ほう。彼女が…」

「はい!ヴィーティング殿!どうかエクシアを救って頂きたいのです!
彼女はオルコット家に永年支えた男の忘れ形見なのです!」

「ええ、全力をつくします」

ヴィーティングがオペの準備を始めた。

「オルコット卿。出ていてください」

「うむ。邪魔をするのは良くないな」

「それと朝には終わっていますのでご安心を」

「期待してますヴィーティング殿」

オルコット卿が手術室から退室した。

「レナ。貴女達は部屋の前で警護をしてください」

「イエス、マスター」

レナと呼ばれた女が部屋の外へ出る。

残ったのは、ヴィーティングと残り二人。

「スコール、オータム。貴女達は門の前ですよ」

「はぁ?ふざけんななんでアタシらが外なんだよ?
頭湧いてんのか?」

「オータムの意見に賛成ね。常識的に考えてISを持っている私達が最終防衛ラインを持った方がいいわ。
完全展開できずとも部分展開とエネルギーシールドは展開できるもの」

「私のラボを一つ潰された挙げ句検体をうばわれたのをお忘れですか?
コードネーム持ちが聞いて呆れます」

「それはテメェの所の研究員が反乱防止とか抜かして全部没収したからだろうが!」

「言っても無駄よオータム。この女は誰も信用してないもの。
さぞかし悲しい過去があったのでしょうね」

すると丁寧な口調で話していたヴィーティングがスコールをにらみつけた。

「黙れ…!」

「あら怖いわ。いきましょオータム。こんな危ない女のヒステリーに付き合ってられないわ」

スコールがオータムの手を握って部屋の外へ出ようとした時、ヴィーティングがメスを投げつけた。

しかしそれはエネルギーシールドに弾かれ、スコールとオータムに届きはしなかった。

「テメェ…!」

「いいのよオータム。ガキの癇癪に付き合っていたら疲れるだけよ」

そうして、部屋にはヴィーティングだけが残された。




side in

部屋から出ると、銃口を向けられた。

「撃ちたいならどうぞ? 跳弾で仲間を殺したいならね」

オータムの手を引いて、地上への階段を昇る。

「気に入らねぇ…あの女」

オータムは、元は大企業の令嬢。

だけど、ライバル社の雇った暗殺者に親を殺された…

親を失う悲しみを、家族を引き裂かれる苦しみも痛みも知っている。

オータムとヴィーティングは、相容れないでしょうね…

オータムには未だに『良識』が残っている。

だから、あのときヴィーティングのラボではオリムラ・イチカへ食事を持っていくとき、研究員から渡された筋弛緩剤入りの食事と持ち込んだ缶詰と炭酸水を入れ換えた。

それ以前に、オリムラ・イチカを拉致した時しっかりと縛らなかった。

オータムが言うにはオリムラ・イチカは細工をしていたのに逃げなかったらしい。

研究所へ行くのが目的だとでも言うかのように…

そうして、『検体』つまりオリムラ・イチカは奪われた。

私達が駆けつけた時には戦闘は終了していた。

あんな真似ができるのは、それこそISの産みの親たるプロフェッサー・タバネだけだろう。

ただ、気になるのは地下深くまで空いた穴と、『IS同士が戦った』ような跡だ。

まるで何かを運び出す為に開けたような大穴…

考え事をしていると、階段を登り終え、城の一階に出ていた。

「やぁスコールさん。警備ですか?」

オルコット卿が階段脇の椅子に座っていた。

余程あのエクシアという少女を心配しているらしい。

いい城主様ね…

「ええ、そうですオルコット卿」

「お仕事お疲れ様です」

オルコット卿に答えたのは、オータムだった。

「仕事だからな」

『仕事だから』、それは割り切るための言葉。

オータムも最近はある程度割りきれるようになっている。

でも、それでも不安はかわりないのよね…

「いくわよオータム」

「おう」

外に…城門の前に陣取る。

「オータム」

「んだよ?」

「敵が来る前に逃げましょう」

「はぁ?」

「いい?私達は既にブリュンヒルデとレニユリオンの怒りに触れているの」

オリムラ・イチカを奪還したのは恐らくあの二人。

そして、仮にヴィーティングを急襲するとしたら、彼女達以外にありえない。

あの二人に勝てるはずがないわ…

「そう…だな」

「だから、敵が来る前に……ッ!?」

気温がガクッと下がったような気がした。

「おい…スコール」

「ええ、おそかったようね…」

圧倒的な威圧感。大切な物を握られているかのような恐怖感。

その根元は、闇だった。

月明かりをの中を悠々と進む闇。

シルエットがはっきりしない、かろうじて人型とわかる黒々とした闇。

ただ、闇の中に二つの光が見える。

それはまるで、瞳のようだった。

「もう…逃げられないわ」

「ああ…戦うしかねぇみてぇだな…」

「「ラファール!」」

ISを纏い、ガトリングを『敵』に向ける。

「なっ!?ロック出来ねぇだと!?」

普通なら出る筈のレティクルが出ない。

「故障!?こんな時にかよ!?」

「オータム!目測でいいから牽制!」

射撃を始めたが、効果があるように見えない。

弾は当たっている筈なのに、闇はうろたえない。

こちらへ近づいてくる一方。

まるで弾がすり抜けているか、当たる直前で消えているような…

刹那、とてつもない衝撃を受けた。

あちらが反撃してきたのだ。

その衝撃はエネルギーシールドに阻まれたものの、城門に叩きつけられた。

「スコール!?」

望遠モードでハイパーセンサーを使うと、闇がこちらを睨んでいた。

「っ!?」

全てを見透かされたような、全てを貫かれたような…そんな感覚。

目の前に大きな物…ラファールがたっていた。

オータムが私の盾になるように立っている。

「なにしてるのオータム!逃げなさい!」

「やだね!お前を置いて逃げれるかよ!」

「<すばらしい愛だな。オータム》}

声が響いた。

くぐもったようで、機械音声のようで、澄んでいるようで、男のようで、女のようで、よく通る不思議な声。

ハイパーセンサーの視界から、闇が消えた。

「な!どこ行きやがった!?」

〔【ここだよ》〉

気づけば、闇が目の前…私とオータムの間にたっていた。

「テメェいつの間に!?」

オータムが振り返り、闇にガトリングを突きつける。

≪〔一つ問う。お前達は望んでここにいるのか?それとも上の命令でか?」>

「上からの命令よ…でなければあんな女の警備なんてしないわ」

〔(そうか。なら…お前達はファントムタスクに忠誠心はあるか?
ないのなら、俺の下僕になれ。そうすれば命だけはたすけよう]』

オータムが私をじっと見つめる。

転落したオータムを助けたのは…私。

きっとオータムは組織への忠誠ではなく、私に対する信頼で組織にいる。

私は…組織に恩義がある。

でも…そんな物はオータムにくらべれば…

「ある。でもオータムの為ならいいわ」

闇がかき消えた。

月光を吸い込む漆黒の髪。

宝石よりも輝く黄金の瞳。

「これで契約は成された!俺の駒になれ!
モノクローム・アバター!」

「お…オリムラ・イチカ……!?」
 
 

 
後書き
次回はR18(グロ)の予定なのでR18の方へ投稿します。 

 

設定集(百九話現在公開可能)

 
前書き
本編第百九話はちょっとグロいので本作品のR18パート集である『憑依転生男の娘一夏がイチャラブエッチする話』の方へ投稿しています。
R18検索から探せますのでよろしくお願いいたします。 

 
キャラクター設定

織斑一夏
専用コア IScore0000
使用IS K・O・T、大千本槍、カンヘル。
身長121センチ。
使い魔 橙 稲荷(稲荷は箒と共同) 織斑奏
本作主人公で転生者。
外見は黒髪ロングのロリッ子。
しかしカレンにタイマンで引き分ける。
体脂肪率7%、辛うじて水に浮く。
服を着ていると筋肉質には見えないが、脱ぐとすごい(とは言え身長が身長である)。
気功によって見た目以上の膂力を持つ。
常時展開の障壁魔法によって紫外線をカットしているため、肌が白い。
転生特典による魔法的視力『メティス・サイト』を所有する。
ファイヤーシスターズとは長い付き合いであり、時折ファイヤーシスターズの手に終えない場合に暦と共に参戦するので『焔のワイルドカード』と呼ばれている。
橙を憑依させ獣化すると瞬発力があがり、五感が鋭敏になる。
獣化の影響で非獣化状態でも五感が鋭い。
なおネコと同じく尻尾の付け根が性感帯。
獣化時はキウイで酔っぱらう。
デザインベイビー。
2ndMGの時に吸血鬼になっており、それ以降、力の制御が外れる可能性があるので余程の事がない限り、無抵抗に愛でられる。
また吸血鬼になった事をきっかけとして、イノベイターに覚醒した。
覚醒以降は魔法やカラーコンタクトで瞳を隠している。
瞳を『顕す』と能力が上がる。
箒や千冬の真っ直ぐさ、束の夢を諦めない姿勢にコンプレックスを抱いている。
それ故、自分の全力を以てして、完全な人間を演じようとしている。
そしてその能力故に、完全な人間を演じきれてしまえる。

メティス・サイト
一夏が転生特典で選んだ『魔法』によってもたらされる異能。
『目』や『視力』に関する能力であり、【精霊の瞳】【霊子放射光過敏症】【マルチスコープ】【邪眼】などの能力を合わせ持つ。
吸血鬼化して【邪眼】を解放すると常時ルナマジック発動状態になる。



織斑 奏(おりむら かなで)
旧デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター。
ロリ 俺っ娘。
2ndモンドグロッソの最中、一夏と交戦し、調伏された吸血鬼。
その力は最盛期には遠く及ばないものの、IS大千本槍と互角の戦いを見せた。
現在は一夏の影の中にすんでいる。

スクレップ
デストピア(奏)の持つ大剣
錆びた外見とは裏腹に、凄まじい切れ味と頑強さを誇る。




篠ノ之束
専用コア IScore0001
IS INNOCENT
身長170センチ。
本作メインヒロイン。
IS開発者だが肝心な部分は一夏のサポートを受けた。
夢を笑われた時に励ましてくれた一夏に心を奪われた。
巨乳。
重度の変態。



篠ノ之箒
専用コア IScore0003
IS ウカノミタマ 緋桜
身長165センチ
使い魔 稲荷
本作メインヒロイン
幼少期の大半を一夏と共に過ごした。
原作と違い、ずっと一夏と一緒に居た。
一緒じゃないのはトイレと寝るときと着替える時だけ。
その頃から一夏より背が高かった(一夏が低かった)。
ギャンブルクイーン、豪運。
一夏の事を兄のように慕っていると同時に恋心を抱いており、六年生の夏祭りで告白した。
小五から一夏に魔法を習っており、その実力は一夏に匹敵する。
稲荷を通じてイデアを覗く事が可能。
気功術の影響でかなりの高身長。



織斑千冬
専用コア IScore0010
IS 白騎士 暮桜
身長178センチ
一夏の唯一無二の肉親。
とてつもないブラコンであり、一夏を異性として見ている。
なお千冬の提示する結婚相手の条件に合致するのは一夏のみである。
なお現代魔法をある程度使えるが、オカルト系は殴ってどうにかできないので苦手。



織斑夫妻
遺伝子工学の専門家。
ジャパン・ゲノミクスの主任研究員。
二人を守るため可能な限り資料を処分し失踪。
しかし亡国企業に殺される。



プロジェクト・メシア
ジャパン・ゲノミクスが遂行していた優秀なデザインベイビーに国政や軍務を任せるという計画。
成功は
強化素体試作一号 PMP1000(千冬)
強化素体完成型一号 PM-0001(一夏)
の二例のみ。

織斑円香
亡国企業が作った千冬の劣化コピー。
2ndモンドグロッソの時、一夏が施設から連れ出した。
開発コードはPMI-00M(Project Messiah Imitation-00M)。



ヴィッサリオン・アルシャーヴィン
身長 184
元ロシア諜報部員。
現在は一夏に忠誠を誓っている。
部下や家族にいい暮らしをさせてやれている。
御守りとして『あの時の』リボルバーを持っている。
警備会社シルヴヴァインの社長。



フィグネリア・アルシャーヴィン
身長 168
ヴィッサリオンの妻。
元傭兵。
専業主婦だが時折夫を手伝う。



リムアリーシャ・アルシャーヴィン
ヴィッサリオンとフィグネリアの娘。
割りとしっかりしている。
金髪碧眼。
愛称はリム。
俗に言う『クーデレ』である。



エレオノーラ・アルシャーヴィン
リムアリーシャの妹(年子)でやんちゃ。
アルビノだが一夏と束の作った装置(バリアシステム、ナノマシン注射)で外を出歩ける。
このバリアシステムはアルシャーヴィン夫婦が一夏に従う理由(恩義)でもある。
愛称はエレン。



シャルロット・デュノア
デュノアの隠し子。
原作と違い、デュノアの子と知っている。
かつて母親を魔法使いに助けてもらった事がある。
その時魔法使いが置いていったコップを大切に使っている。
魔法使いにもらったイヤリングをお守りとして肌身離さず持っている。



一夏(13) 身長 121.72センチ(猫耳除く)
千冬身長 178センチ
箒(13)165センチ (狐耳除く)
束170センチ(兎耳除く)
一夏は吸血鬼になったのでこの身長体重で固定。
千冬と箒は気功術の結果身長が激増。
箒が大きいのは第二次成長期に気功を使っていたから。
一夏の身長が伸びないのは、遺伝子操作の結果もあるが、深層心理で箒や千冬や束の膝の上を気に入ってるおり、それが魔法師の事象改変として現れているから(一夏の干渉力は素で吸血鬼クラス)




魔法/怪異系設定

魔法力(現代魔法総合)
??>箒+稲荷+橙≧一夏>箒>橙>稲荷>エレン>リム>円香>フィーネ>束>千冬>
千冬はエリカクラス。
束はリーナクラス。
一夏と箒は格別。
エレン、リム、フィグネリアはそれぞれ『風』と『焔』に関する魔法に限れば一夏に匹敵する。
千冬は剣術においてのみ一夏に匹敵する。



気功術
気/霊力/マナ/プラーナ/魔力と呼ばれる生体エネルギーを操作する技術。
特に体の表面に気を纏わせる技術を剛気功(ガンシコン)といい、一夏が好んで使う。
なお体の内側で気を巡らせれば健康体に近付く。
筋力の底上げも可能で、本人の筋肉量で本来出せる筋力の数倍の膂力を生み出せる。
気功術を使い続けると身長が伸びたり、精力が強まったり、プロポーションがよくなったりする。
※魔法科に『気』や『生体エネルギー』というワードが、物語シリーズに『霊力』というワードが登場する。


詠唱
CADなしで魔法を扱う場合にイメージを固定するための言葉。
一夏や箒は無詠唱かつCADなしで魔法を使えるがあった方がやりやすい。
本作品では魔法科原作とは違い、より『詠唱』らしくしている。

例1 ドライミーティア(原作 七草真由美)
「セット:エントロピー減少・密度操作・相転移・凝結・エネルギー形体変換・加速・昇華:エントリー!事象改変実行!
魔法名『ドライミーティア』!」

例2 圧切(おちょくる話 一夏 箒)
「闇の刃よ全てを斥け、以て万物を絶て」

例3 認識阻害術式(おちょくる話 箒)
「世界のヴェールよ我らを隠し、匿いたまへ」



怪異について
一夏や暦が住む都市では生死郎の力によって怪異以下の存在は吸収される。
東京では、"魔法使いの嫁"の淀みなどのように怪異以下の不定形の者がいる。



吸血鬼の血
あらゆる傷や病を直すエリクシールとなり、魔法に対する適性と耐性を高めるというメリットがある。
反面そのエネルギーは強大かつ本質は闇の力であり、与えられた者の精神状態によっては闇に染まったり怪異を産み出しかねない。







オリジナル魔法設定


ヘロンの牢獄
精神干渉系魔法、対象の五感の一切を奪う。
対象は主観的48時間以内に幻覚、幻聴を訴える。
ヘロンの精神実験より。
作者のオリジナル魔法第一号。



精神加速魔法インフィニティ・モーメント
対象者(自分以外)の精神を加速させる。
加速率は上限無し。



精神加速魔法ブレイン・バースト
自身の精神を加速する。
IS戦闘に使う場合は10~100倍程度。
それ以上は機体が追随できない。



トワイライト・エタニティ
ヘロンの牢獄、インフィニティ・モーメントの合わせ技。
確実に相手の精神を崩壊させる。



シルヴァー・グローリー
家や学校などの建造物に硬化魔法をかけ、化学変化や物理攻撃防ぐ魔法。
言うなれば建造物版ジークフリート。



フォーマルハウト
平方キロメートル単位で放つ叫喚地獄。



セル・ベレスタ-黒炉の魔剣
空間指定熱量移動魔法
指定エリアに周囲の熱を凝縮する魔法とそれを発動するための専用CADの総称。
エリア内は灼熱、エリア外は極寒となる。
インフェルノとの差は、灼熱エリアの方が狭く、その回りを極寒エリアが取り囲む構図になること。
本来は灼熱エリアをブレード状にして使い、ブレードその物は超高温、ブレード周辺は極低温となる。




テアリング・ティアー(切り裂く涙)
圧切を纏わせたドライミーティア。



シルヴァー・クロウ
攻防飛を兼ねる魔法。
背部に翼状の障壁を展開する。
飛:風を操り揚力を得る、安定翼とする。
若しくはシルバークロウのフィンのようにウィングを高速振動させ空気を叩いて進む。
防:ウィングで自分や周りを包み込み、防御する。
攻:ウィングを鍵爪のように変型させ、攻撃する。




技術/アイテム系設定

ラボ
神社の隣の山の地下に築かれていた旧日本軍の施設を束と一夏が改修した物。
戦時中の兵器データや一部実物がある。
最下層の地底湖は海に繋がっている。



オリジナル(1st)・コア
一夏と束が初めにつくったコアのフルスペックコピー。
なおDNA量子コンピューターであり四進法。
塩基はルーンで表され、魔法的な力も持つ。
002以降のコアとは演算力が桁違いであり、1stコア搭載機が量産コアに負ける確率はゼロに等しい。
量子格納庫も広大であり、何でも入れることができる。
実際に0000の中には大量の試作武装が量子化されているし、0001の中にはトレイターが格納されている。
全てのコアがライトキューブを持っているため自我を初めから持っているが、基本的に一夏は関わらない(それぞれの成長に任せている)。
002以降のコアは束が一人でつくっているため、異世界技術があまり使われていない。
コアはCADとしても機能する。
なおコアの自我の名前によらず、全員が女性。

1stコア・ネットワーク(カンファレンス)
0000~0010のコアのみが参加できるネットワーク。
もしもこのネットワークがその気になれば三日で世界を滅ぼせる。
なお橙や稲荷、アリスは呼ばれない限りここに入り浸っている。
並列処理により様々なシュミレーションをしている。
GNドライヴとフォールド・クォーツの量産に貢献している。
また一夏の持つ異世界技術の組み合わせのシュミレーションもしている。
メインタスクは一夏と束の考案した設計図のシュミレーションなどだが、結構遊んでいる。
有事の際は複数のコアがミハシラ・システムのサポートもする。
時々下位端末を勝手に生成して世界を見て回ったり、一夏達をつけている。
一夏と束は基本的にカンファレンスが何をしても無干渉。


ミハシラ(三柱)・システム
0007、0008、0009のコアを独立して接続し、合議制を取らせるシステム。
ヴェーダを越えるコンピューターでマギシステムを行う、というコンセプトで作られているためカンファレンスの議長的な側面も持つ。




0000 橙
使用者 一夏
〔IS〕K・O・T/大千本槍/カンヘル

0001 イザナギ
使用者 束
〔IS〕INNOCENT /トレイター管制

0002 カグツチ
ラボ(神社)管理システム

0003 イナリ(稲荷)
使用者 箒
〔IS〕ウカノミタマ/緋桜

0004 トヨタマ
ラボ管理/織斑家防衛システム

0005 イヅノメ
篠ノ之家防衛システム

0006 カムイ
ラボ(神社)管理システム

0007 アマテラス
トレイター管制(サブ) 三柱システム

0008 スサノオ
トレイター管制(サブ) 三柱システム

0009 ツクヨミ
トレイター管制(サブ) 三柱システム

0010 アリス
使用者 千冬
〔IS〕白騎士/暮桜



量産(2nd)コア
オリジナルコアの機能をオミットした上でリミッターをかけたコア。
各コアには自我がある。



イレギュラーコア
一夏が製造したコアの総称であり、それぞれで性能が大きく異なる。
FA:Gなどに搭載されている。



3rdコア
詳細不明。



4thコア
詳細不明。



GNドライヴ
魔法と他の異世界技術によって純正GNドライヴの量産に成功し、数百個生産した。
そのGNドライヴはトレイターやラボの主機となっている。
また織斑家や神社の電力も賄っている。
またGN粒子は高濃度圧縮粒子状態でGNコンデンサに保存されており、カンファレンス各機の量子格納庫に収納されている。



サイコ・Eカーボン
サイコフレームの役割を果たす素材。
感応波チップをEカーボンに埋め込んである。
ガンダリウムよりもEカーボンの方が軽いため、Eカーボンをベースにしている。
なお高耐火反応剤も含まれており、かなり高価。
素粒子レベルで制御されており、現状人類の技術では万一にも、一夏達が使うサイコ・Eカーボンと同レベルの物は製造不可能。



マルチプル・コントラクション・アーマー
装甲とフレームと電子機器を兼ねる構造。
サイコフレームが元祖。



宵闇
箒が持つ刀で、緋宵を模して鍛たれた逆刃刀。
材質はサイコ・Eカーボンで見た目ほど重くない。
柄にCADを内蔵しており、各種近接魔法を使用できる。
材質上、よくサイオンや気を通し、その刀身自体が魔法の増幅装置として機能する。
鏡肌、直刃→素材が均一なため、鏡面の輝きを持ち、刃紋は一直線。



ヨイヤミ(宵闇ウツスナリ)
宵闇と同じ寸分でIS(GNドライヴ搭載機)用に作られた刀。
ただしこちらは逆刃刀ではない。



フォールド・クォーツ
マクロスシリーズに登場する紫色の鉱物で、時空間をねじ曲げたり、サイキックじみた力を発揮する。
大量のGNドライブを全力稼働させ空間を歪めて生成する。
純度の低い物はフォールド・カーボンと呼ばれ、フォールド・カーボンでさえ高価である。



フォールド・アクセサリー
フォールド・クォーツを使った装飾品類で、魔法やサイコウェーブ(脳量子波、感応波など)の増幅装置となる



フォールド・リング
人工フォールド・クォーツをあしらったサイコ・Eカーボン製のリング。
魔法やサイコウェーブ(フィールド)のブースターとして働く。
デザインは環状のフォールド・クォーツをサイコEカーボンで挟み、一部のみ半球のクォーツが埋め込まれているようになっている。



ISC(Inertia Store Converter)
慣性蓄積コンバーターという意味であり、機体にかかる慣性エネルギーをフォールドクォーツに溜め込み、徐々に発散する事で高速戦闘を可能とするシステム。




イナーシャルブースターシステム
高速戦闘時にISCに慣性エネルギーを保存し、陸津波などの慣性増加術式の際に増幅解放、威力を増加させる。




FA:G フレームアームズ・ガール
一夏が造った小型バイオロイド。
量子格納庫を持ち、その中にアーマーや武装を収納している。
一夏が自重を半分ほど止めた時に造ったので異世界技術の塊であり、単機でも強力な兵器となりうる。
一機で量産コア搭載機を凌ぐ。
内部にライトキューブを持つためクオリアを持ち、魔法も使える。
轟雷
スティレット
バーゼラルド
迅雷
マテリアW
マテリアB
アーキテクト
フレズヴェルク
フレズヴェルクアーテル
イノセンティア


フレームアームズ
フレームアームズ・ガールとは別に、一夏が調査用に作った全長十五センチ程のロボット。
人格はなく、精神ダイブで操作する。
イメージインターフェースで操作される。
一夏のお気に入りは空戦可能なスティレットとバーゼラルド。



トレイター
地底湖に安置されていた伊四◯◯改<初>を改造した艦。
内部には居住スペースやラボがある。
艦内から格納庫へは直通。
格納庫はIS専用スーパーキャピテーションカタパルト(ナイトヘーレ)となっている。
武装は侵食弾頭弾や各種ビーム。
主機は重力子機関やGNドライヴやエイハヴリアクター等の異世界永久機関。
ディメンジョン・マスカーにより如何なる場所でも亜光速航行ができる。
基本的に束が乗り回している。
武装(攻性兵装/防御兵装)
侵食弾頭兵器
下位安定式プラズマ砲。
GNビームカノン
GNミサイル
液化プリズム式大出力パレットレーザー砲
重力子砲(超重力砲)
ディメンジョン・マスカー
クラインフィールド



ディメンジョン・マスカー
トレイターに搭載されているシステム。
艦体を時空断層で包み込み、究極の防御性を実現し亜光速航行を可能とする。
GNドライヴのトポロジカルディフェクトをOTM(Over Technology of Macross)で増幅し、位相欠陥(空間の歪み)で艦体を被う。
トレイターなどの大型艦にしか装備できない。
カンヘルにも装備できなくはないが演算領域を圧迫してしまう。





IS各機設定

ナイト・オブ・トレイター
白騎士事件時に一夏が使っていたIS。
背部スラスターが肥大化したシナンジュ・スタイン。
スラスターにはGNドライヴが搭載されている。
内部フレームにサイコ・Eカーボンが使用されている。
手はバルバトス・ルプス・レクスのように鋭利な爪となっており、手の甲までがナックルガードのごとく攻性装甲に覆われているため徒手空拳での戦闘でも大きな脅威となる。
また掌底部にはビーム砲を備える。
武装
ドラゴン・クロー
パルマフィオキーナ
頭部GNバルカン
腕部GNビームサーベル
GNバスターライフル
セルベレスタ
主機直結型超電磁砲verGNDwithCAD
侵食弾頭兵器
etc




大千本槍
白騎士事件以降一夏が使っているIS。
待機状態 不定(流体金属状で一夏の全身を巡っている)
見た目は蒼いガーベラ・テトラ。
内部フレームはKoTと共通。
両肩部、背部、腰部にGNドライヴを搭載。
武装もほぼ共通。


カンヘル
一夏が転生前に考案した『ぼくがかんがえたさいきょうのもびるすーつ』。
純銀のRX00にGNドライブやアームドアーマーDE等を装備した機体。
フレーム自体は白騎士事件時には完成していたがOSなどが完成せず、KoTや大千本槍を使っている。



暮桜
千冬の愛機。
リミッターこそ有れど、有事の際はワンコマンドでリミッターを解除し、オリジナルコア0010としてのスペックを発揮する。
またリミッター解除時は外殻を白騎士の物へ換装できる。




白騎士
1stコア0010に収納されている機体。
GNドライヴこそ無いが、数々の異世界技術で日々自己進化を続けている。
千冬の好みで武装は刀剣類が多いが、射撃兵装、誘導弾、思考操作兵装も多く収納する。
東京湾で活動したため、撃破数はカンヘルに劣るが知名度は高い。



INNOCENT
見た目はスカイブルーのゼロファフナーでフルスキン。
束が使うISだが、戦闘にはほぼ使っていない。
唯一使ったのはドイツでスーサイドマスターを消し飛ばした時だが、その時も両腕の部分展開のみ。
スペック的には白騎士を僅かに上回る。



ウカノミタマ
一夏と束が箒の為に作ったIS。
ボディを持たない代わりに絶対的な防御力を持っている。
量子格納庫には宵闇などの武装が収納されている。










作品コンセプト。
本当にはじめはタイトル通りのコンセプトで始めたが書く内に話が肥大しまくって現在に至る。
50話くらいで『いっそ清々しい程のメアリー・スー』を目指そう、と思ったが最近では主人公が本作品にも登場する某ロリコン吸血鬼と同じ事をしているんじゃないかと思っている。
 

 

第百十話

「やぁ少年、久しぶりだねぇ。元気してたかい?」

ヴィーティングを処刑してホテルに戻って来たらなぜかホテルが火事になっていてしかも面倒な女が居た。

「何の用だ臥煙」

「おや?泊まっていたホテルが火事になっているのに家族や恋人の心配はしないのかい?」

「無事なのはわかりきっている」

イギリスに来ている俺以外のメンバーのエイドスの位置情報を探ると、ここからそう遠くない別のホテルに居る。

「そうかい」

「で、何があったんだ臥煙」

「呼び捨てか…。まぁ…君に何を言っても無駄だし…それでいいか…。
説明するからついてきてくれ。後ろの二人も一緒に来るかい?」

と後ろのスコールとオータムを指差した。

「どうするの坊や? 席を外しましょうか?」

「面倒だ。来い」











臥煙に連れられて来たのは、バーだった。

パレードで外見を誤魔化して入る。

個室に通されたので、遮音フィールドを張る。

無論スコールとオータムも一緒だ。

「じゃぁ、説明しようか。あの火事は端的に言えばブリュンヒルデがカルタフィルスの襲撃を退けた副産物だ」

「カルタフィルス…やっぱり実在したのか…」

襲撃を退けたって事は魔法とISをつかったという事か。

「おいおい。もうちょっと驚いてくれないと説明のしがいが無いじゃないか少年」

「カルタフィルスの襲撃は事前に可能性を知っていたし、備えもしていた。
それにあの程度の火事、箒がいれば逃げられる」

ホテルの火事は中層…俺達が泊まっていた改装だけのようだった。

上層、下層には燃え広がっていなかった所を見るに、箒がフリーズフレイムで火力を抑えたのだろう。

「どうして可能性を知っていたんだい?」

「エアリアルに聞いた。カルタフィルスの存在は英国魔法学院にハッキングして調べた」

「あれは君だったか…。知り合いの事務員が嘆いていたよ」

「しらんな」

それよりも気になる事がある。

「何故カルタフィルスが姉さんを襲うのかを教えてくれ」

それだけがわからなかった。

「簡単だ。カルタフィルスはキメラの材料を欲しがっている」

「キメラ?人を材料にか?ハガレンみたいに?」

「そう。まさしくマンガのようにね」

「ふーん…」

「カルタフィルスは強力なキメラを作る為に、必要な材料を探している…と私は推測している」

「それで人類最強である姉さんの肉体を欲しがっているとでも?」

「そうらしい」

臥煙と話していて、感じた事がある。

「さっきからなんか曖昧な答えばっかりだな」

『私は何でも知っている』とか言ってたけど、あれはハッタリなのだろうか?

「当たり前だろう。カルタフィルスは全てが謎なんだよ。
経歴も、年も出身も…。
キメラの材料を探しているというのもここ数年のカルタフィルスの行動から推測しているにすぎない」

「会った事はないのか?」

「さっきブリュンヒルデに助太刀した時遠目に見ただけだね」

「逃したのか」

「今は後輩の式神に追わせているよ」

あぁ…式神童女か…。

「他に聞きたい事はあるかい一夏君?」

「無いな」

「そうかい。じゃ、本題に入ろう」

カルタフィルスの件が本題じゃなかったのか。

臥煙が本題と言うのなら、それは本題以外の何物でもないのだろう。

そして怪異退治の専門家の元締めが本題に据える程の事となれば一つ。

「君の事だ。その黄金の瞳についてだよ。
デストピアの眷属」

臥煙が俺を指差す。

心臓を指差す。

まるで銀のナイフを突きつけるように。

「退治するか? 全力で抵抗させてもらうが」

「いや、私達では君を殺す事も封印することもできない。
君は吸血鬼でなくとも十分に強く、かつ君を敵に回すのはかの束博士を敵に回すこと」

そうだろうな。ブリュンヒルデとレニユリオンを敵に回せばいかにこの元締めと言えど苦戦は免れないだろう。

「だから、一つ提案…いや、取引がしたい」

「どんな?」

「織斑一夏君。怪異退治の専門家にならないかい?」

そうきたか。

「対価は無害認定?」

「それに加えて怪異に巻き込まれた場合はバックアップしよう」

さて、メリットはいろいろあるだろうけど…

「面倒だからやだ。こっちはあんた等が何もしなけりゃ何もしない。
それでいいじゃないか」

臥煙がため息をついた。

「やっぱりこうなるか」

「なんだ予想してたのか。ならいいだろう」

「名前だけでも入って貰わないと困る。
君がこちら側でなければ無害認定を無視する輩が当然出てくるだろう」

「要するに俺とかな…デストピアが人類に敵対しないっていう確証が欲しい訳?」

「その通りだよ」

「確約しかねる」

なぜか?だって人類が束さんを殺そうとしたら全力を…吸血鬼の力さえ使って報復するからだ。

「どうしてもかい?」

「どうしてもだ。俺はあんたの下にはつかない」

「やれやれ、強情だねぇ」

「だって、名前だけでも入れたらなんだかんだ言いつつ仕事押し付けてくるだろう?」

「まぁ無いとは言えない。君がこちらへ来れば、正面戦闘の最高戦力はおそらく君だろうからね」

そらみろ面倒極まりない。

「なら外部協力者でどうかな? それなら私には直接の命令権は存在しない」

「どうしてもか」

「ああ」

仕方ない。そこで妥協するかな…

「わかった。ただし仕事は受けないからな」

そのあと一通り話し合った。

「最後に」

まだ何かあるのか…?

「最後にデストピアに会わせてくれ」

はいはい…

「奏」

照明に照らされてできた影から、奏が出てくる。

電気を消した暗い部屋ではわからなかったが、その金髪は金糸のように輝いている。

バーの薄暗い照明の中だが、いやだからこそ光を受けるブロンドが美しくはえる。

「お初にお目にかかる。デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター」

「そうか。で、俺様に何の用だ?」

奏は臥煙をどうでも良さそうに見ている。

まぁ、奏からすれば俺やアセロラ姫以外の人間は『不味い物』扱いだろうけど…。

「一つ聞きたい。何故今になって君のような怪異が顕れた?
デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスター。決死にして必死にして万死の吸血鬼と呼ばれながら数世紀の間沈黙を保っておいて何故?」

「俺様は旨い血がのめればそれでいい。
だから、お前達に敵対する気もなけりゃ不味い血を飲む事もねぇ」

「そうかい」

臥煙安心したような顔を見せた。

「ただし、俺様の大事な食料に手を出したら…殺すぞ」

それだけ言うと、奏は俺の影の中へと沈んで行った。

「そういう事だ。俺達は帰らせて貰うぞ臥煙」

最後にスマホのプライベートナンバーを書いた紙を置き、バーを後にした。












「一夏!」

姉さん達が移ったホテルへ向かうと、姉さんに抱きつかれた。

「おっとと…」

「心配っ…したんだからなっ…」

「ごめん、姉さん。
でも、全部終わらせて来たよ」

ヴィーティングを殺した。

その子飼いの私兵もろとも。

「父さんと母さんの仇を取ってきたよ…」

「そう……か……」

それよりも。

「カルタフィルスに襲われたって本当?」

「ああ。だが、あれしきの事はなんともない」

「そう…よかったよ」

姉さんなら、不死の聖人でも倒せるだろう。

「大丈夫。俺は姉さん達から絶対に『眼』を離さない。だから、安心して」

どれだけ離れていようと、どれだけ壁があろうと、メティス・サイトは全てを見抜く。

万能に限り無く近い瞳。

「一夏。お前の瞳をみせてくれ」

「いいよ。パレード ディキャスト」

術を解き、瞳を顕す。

「綺麗…だな。綺麗で…頼もしい」

「ありがと。姉さん」

「叶うなら、叶うならば、その眼を隠さないでくれ。お前がその目を隠さなければいけないなんて、私が気に食わん」

「ん。わかった」

周りへの言い訳なら、どうとでもつく。

常時パレードを使うのもどうかと思っていたところだ。

それに、眼を顕せば眼の力は向上する。

「誰かがお前の瞳を笑うなら、私がぶっ飛ばす」

「うれしいよ。姉さん」

「もし、その瞳が戦争の火種になりうるなら、なったなら、全ての敵を一刀のもとに切り伏せよう」

「わかった。その時はおねがいね。姉さん」

「ああ。任せろ」

side out









同ホテル 某室

「ふー…」

「どうした?姉さん」

ツーベッドルームの片方のベッドで寝転がる束のため息に、もう片方で手枕をしている箒が尋ねた。

「んー…ちーちゃんって『護られてる』なぁっとおもってさぁ~」

「護られてる? それは私と姉さん…」

箒が目の前で眠る少女に眼を向けた。

「そして円香も同じだ。アイツの瞳は何時だって私達を見ている。何時だってアイツはすぐ側にいる」

「そうじゃない。そういう意味じゃないんだよ箒ちゃん」

「?」

「ちーちゃんは、『処女』のままだ」

「それが…?」

箒は、義姉の葛藤を知っていた。

自ら肉親へ、家族愛とは異なる愛を向けてしまった義姉の葛藤を。

「あー…さっきから回りくどい言い方してごめんね箒ちゃん…。寝てても、あんまり小さい子に聞かせる話じゃないからね…」

束はそこで言葉を区切った。

『ちーちゃんは、未だに人を殺した事がないんだ』

ISによる量子通信で、続けた。

『普通そうだろう…? 私も、その意味でなら「処女」だ』

『「普通」はね…。いっ君は、親の仇を撃つのにちーちゃんを動向させなかった。
いっ君なら、ちーちゃんの胸の内を、殺意を、怒りを、知っているはずなのに』

束は橙が送信した『処刑映像』を見ながら、自身が初めて『ニンゲン』を殺した時の事を思い出す。

『兎も角私もいっ君も、ちーちゃんと箒ちゃんの手を汚させる事はしないよ。
だから、安心して』

事実、カルタフィルスとの戦闘では、束は箒に攻性魔法を撃たせず、防御魔法だけを使わせた。

『もし、そんな事が有ったなら、私は迷わず人を殺める。それだけの力を持っている。その力の責任は取らなければいけない』

それは一夏が教えた事だが、千冬も似たような事を常々言ったいた。

一夏は、現代魔法の汎用性故に人を殺めうる危険性を。

千冬は刀の重さを例えに、他者を傷付ける事の責任を。

『若いね…箒ちゃんは』

どことなく寂しそうに言った束に、箒は何も返さなかった。

『今日さ、ちーちゃんは初めて「人」を斬ったんだ』

カルタフィルスの片腕を…

『だから、一夏を千冬さんに譲ったと?』

『そう…だね。余計なお世話かもしれないけど、いっ君ならどうにかしてくれるよ。
だって…』






『私達の、白銀の王子様なんだからさ!』
 
 

 
後書き
千冬と箒に実戦をさせたくてカルタフィルスを出しましたが、復讐編が長くなりすぎたのでカットです。 

 

第百十一話

 
前書き
物凄く今さらですが、一夏のいる世界にはガンダムという作品は存在しません。でも似たような別の作品があります。
この作品に出てくる兵装の元ネタになった作品は存在しないという設定です。
なのでガンダム、マクロス、アルペジオ、へヴィーオブジェクトなどは存在しません。
ただしジブリ作品と宇宙戦艦ヤマトは存在します。 

 
その日の英国新聞の一面記事は<吸血鬼あらわる>だった。

<明朝、警察に通報があり現場に警官がトラファルガー広場へ駆けつけると、そこには惨殺された女性の遺体があった。
手足を何かで押し潰したような後があり、心臓を棒で貫かれていたという。
現場には『聖剣は砕かれた』との血文字が被害者の血液で大きく書かれており、犯人からのメッセージと考えて警察は操作を続けている………>

写真は、新聞には載っていなかったが、物好きが望遠レンズで撮影した写真がネット上へアップされた。

その写真はSNSなどで瞬く間に世界中へ広まったという。

「…………何よ…これ…」

刀奈は英国新聞とネットにアップされていた画像を見て唖然とした。

『聖剣は砕かれた』

その血文字は、この惨殺された女が『聖剣』であることを示していた。

「ヴィーティング……」

彼女が知っているある姉弟の両親を殺したという科学者。

そして昨夜、唐突に姿を消した男の子。

「彼が…やったというの…?」

小さな体躯と愛らしい顔つき。

黒く艶のある長いストレートの、少女のような男の子。

だがその内側には敵対者を絶対に仕留めるという冷酷さとそれを成し得る万能の力を持っている事を、刀奈は知っていた。

何故ならば、彼と初めて顔を合わせた時が、当に敵対者を殺した時だったのだから。

刀奈は、新聞をめくる。

そして、またも彼が関わった事件について…オルコット城襲撃事件の記事があった。

<昨日未明、オルコット伯爵の居城であるオルコット城が何者かに襲撃を受けた。
通報があり警官が駆けつけた時には、使用人全員が意識不明の状態だったという。
また使用人達は武装しており、城門にはISを使って開けられたと思われる大穴があった……>

更には昨夜まで泊まっていたホテルの火災についてもだ。

<昨日、ホテル・アヴァロンで火災が発生した。しかし中層のワンフロアだけで収まり、負傷者は出なかったとされている。
一部では現在行方不明となっているプロフェッサー・タバネを見たという証言も出ており、該当フロアにはレーザーで何かを焼き斬った後があった事から、有力な情報として警察は捜査を開始している。
またオルコット城襲撃事件と女性惨殺事件との関連を示唆する声もあがっており………>

刀奈は直ぐにネットで情報を集め始めた。

「お姉ちゃん。どうしたの?」

後ろのベッドから、簪が呼び掛けた。

「少し調べ物よ」

「一夏のこと?」

「ええ。計画を話してはくれなかったけれど、一夏君の口振りからしてこの惨殺事件は彼の仕業ね。
もしかしたらオルコット城の一件にも絡んでいるかもしれないわ」

「……………」

簪は、自分を救ってくれたヒーローを思う。

強く、可憐で、凛々しく、容赦がない。

「その女は…。大切な物を一夏からうばった…その報いをうけた…ということ?」

「そうね…。彼の両親を殺したのがこの女らしいわ」

「なら、しかたないんじゃない?」

簪は何でもないかのように、さも当たり前であるかのように言った。

「簪ちゃん?」

「もし、私の大切な人が殺されたら、私は刺し違えてでも相手を殺すよ?
私は『楯無』にはなれない。なれないけど、わたしだって『更識』なんだから」

簪は次期当主足り得ない。

だが、それは簪に技術が無いからではない。

簪は純粋な人間だ。海千山千の敵と渡り合うには向いていない。

ただ『それだけ』のことである。

「お姉ちゃんだって、そうでしょ?」

「そう…ね」

それが彼等彼女等にとっての普通なのだ。

力ある者の、裏を知る者の。










同ホテル 別室

「うみゅぅ…」

「ふふ…」

戦女神は、その腕の中に愛しい弟を抱いてベッドに寝ていた。

二人ともとても整った顔立ちをしていて、よく似ている。

戦女神は眼を細め、自身に抱きついて寝ている弟を抱き寄せる。

「うみゅぅ…?……みゅー…」

彼女は弟を想っているが、こうして同じベッドで寝る事は少ない。

自分の気持ちを隠すためだ。

「一夏…愛してるぞ…」

「うみゅ…」

うっすらと、弟が眼を開けた。

「ねーさん…。おれも…すき…だよ…」

そう返し、ふにゃっと笑った。

その油断した顔で返答され、戦女神は顔を赤くした。

「ばっ…バカかお前は…」

「ぅゆ?」

まだ寝ぼけているのか、黄金の眼はトロンとしていた。

「あー。わすれてた」

と弟が言った。

千冬が疑問に思っていると、弟が戦女神の額に唇を落とした。

「にゃっにゃにを!?」

「おはようのちゅー…」

ここ数日の日課のような物だったので、弟は寝ぼけた状態で戦女神にキスをしたのだ。

「………そうか」

「?」

戦女神は思わず弟から眼を反らした。

「お、お前はこういう事をいつもしてるのか?」

「まどかがやってほしいっていってたからー…」

「……………」

「どしたのー?」

「い、いや、なんでもない。そろそろ起きよう。か、顔を洗ってくる」

戦女神は恥ずかしさに耐えきれず、ベッドから逃げ出した。

『ますたー。起きてよますたー』

「うみゅぅ?ちぇん…?」

『ああ、もう何でこの男はこう無防備なのかな。千冬が羨ま…不憫すぎる…』

「みゅー?」

『身内しか居ないからギア入れてないのはわかるけどさぁ…』

ここ数日はアルシャーヴィン姉妹と寝ていた故、起きて直ぐにギアを入れていた一夏だが、今は身内、それも姉しか居なかったのでまだスリープモードだ。

『まぁいいや…どうせ後で悶えるのはますたーだしねぇ』











side in

「よーし。じゃぁ日本に帰るぞ」

「一夏。なぜ私達はこんな森に来ているんだ?」

隣に立つ箒に尋ねられた。

「トレイターで帰るからだが」

現在地は深い深い森の奥だ。

「私が知る限りトレイターは『潜水艦』じゃなかったか?」

「はいはーい!じゃぁいっちょやっちゃうよー!」

束さんがイザナギを思い切り上空へぶん投げた。

目映い光が降り注ぐ。

全員が咄嗟に眼をつぶった。

「箒、上を見てみろ」

光が途絶え、箒が上を見上げた。

「冗談だろ?」

「いや、見た通りさ」

上空には、トレイターが悠々と浮遊していた。

「さぁさぁ!皆乗っちゃって!日本に帰るよー!」

 

 

第百十二話

クラインフィールド製の階段を登り、トレイターの甲板へ。

皆驚いていた。

柳韻さんとかポカーンとしてたもん。

奥さんはなんか…束さんだし的な事を柳韻さんに言っていた。

「じゃ、艦内に案内するよー!」

束さんを先頭に艦内へ。

「若。これ衛星画像には…」

「俺が写させてない」

「あ、そう…」

ヴィッサリオンが化物を見るような眼をしていた。

まぁ!化物(吸血鬼)なんだけどね!

「あ、いっ君。私はミハシラをセットしてくるから案内よろしくね~」

「あいよ」

取り敢えず全員を客室(ゲスト)に案内し終えると、機関室へ向かった。

機関室の入り口は二重扉になっている。

一つめの扉と二つ目の扉の間の小部屋のコンソールに手を触れて、サイオンを流す。

二つ目の扉が開き、機関室に足を踏み入れる。

その部屋は、煌めく粒子が舞っていた。

埃などではない。

GN粒子と呼ばれる、特殊粒子だ。

そして、目の前には大量の円筒がある。

IS用GNドライブを直列同調させたツインドライブの入った筒。

それが二十本。このトレイターの心臓部。

俺の努力の結晶だ。

『ますたーが自重をやめた証拠だね』

やめろ。苦労したんだぞ。

『で?ここに来たのはどうして?』

すこし、空調を弄ろうかとね。

『で?GN粒子を誰の部屋に流すの?』

そんな毒を流すみたいに言うなよ。

『濃度次第じゃ猛毒でしょ?』

この部屋の空気くらいの濃度じゃ致死性皆無だっつぅの。

俺と円香の部屋に流すんだよ。

『ああ。なるほど。この前言ってたね』

そうそう。イノベイターになれば老化は減速して健康体に近づく。

奏の血は応急措置にすぎない。

だから、どうにかして円香にはイノベイターに進化してほしい。

「まぁ、俺のエゴなんだけどね」

「ほう? そのエゴとやらは何だ?」

「姉さん…」

何で居るのさ…

姉さんは直ぐに俺を抱き抱え、機関室を後にした。

そして姉さんの部屋(クルー)へ。

「どしたの姉さん?」

「……………」

姉さんはベッドの上で胡座をかき、その上に俺をのせていた。

両手を俺のお腹の前で組んでホールドしている。

「私は、日本で記者会見をした後、直ぐにドイツへ向かう」

「え? あ、うん?」

「だいたい一週間だ」

まぁ、妥当だな。

「家に居られるのは、2日くらいだろう」

そりゃぁ、そうだろう。

ん…? 要するに姉さんは…

「さみしいの?」

「………………………………………うん」

抱きしめる力が少しだけ強くなった。

「あと、世間では私は失踪した事になっている」

「なんか…ごめん」

「いや、仇を取ってくれたんだ。謝るような事ではない」

「いや、そのせいで会見とかが遅れてるんだろ?」

「まぁ、そうなんだが…。そこは、ヒカルノが上手く言い訳してくれている」

ヒカルノ…? 誰だっけそれ?

「どうやら私は束を脅して協力させ、弟誘拐の犯人をイギリスまでしばきに行っているらしい」

『ネットの噂だね…。ブリュンヒルデの失踪。イギリスでの連続不可解事件、束の目撃情報…。そこに千冬と束が知り合いっていう情報を加えて考察すれば、可能性の一つとしては出てくるかもね』

かなり無理やりだな。

だが微妙に合ってるのが如何とも言い難い。

「姉さん」

「なんだ」

「今夜は円香と三人で寝ようよ」

「……ばか」







姉さんにはちょっと部屋に居て貰って、俺は客室に来ていた。

「スコール。今いいか?」

「拒否権なんてないでしょう?」

「まぁ、そうなんだが」

スコールとオータムがベッドに座り、俺はドアに寄っ掛かる。

「じゃ、仕事の話だ」

「私達は何をすればいいのかしら?」

「ん?円香の護衛よろしく」

「円香…貴女の妹ね。でも、一つ聞いていいかしら」

「どうぞ」

まぁ、何を聞きたいかはわかっている。

「貴方には妹なんて居なかったはずなのだけれど、どういう事か聞かせてくれるかしら?」

ほら、やっぱり。

「生き別れた妹…って事じゃ当然納得しないだろう?」

「するわけないでしょう」

スコールの瞳に射抜かれた。

「円香は、姉さんのデッドコピーだ」

「へぇ…」

「お前たち本当にヴィーティングと不仲だったらしいな」

ヴィーティングの名前を出した所でオータムがビクッと震えた。

あらら、トラウマになっちゃってるよ。

「お前たちが俺を拉致したあの施設の地下、円香は彼処にいた。
ガラス管の中に、溶液といっしょにな」

「そう…あの大穴はそういう事だったのね…」

「まさか妹が居たとは、俺も驚いた物だ。
情報を得るため捕まってみれば色々と面白い事もわかったしな」

「わざとだったの?」

「わざとじゃなかったら捕まってないだろ」

するとスコールが笑い始めた。

「ええ…そう…そういう事…。全部貴方の手の上だったのね」

「そういう事だ。残念だったな。モノクローム・アバター」

笑ってやると、オータムがスコールにしがみついて震えだした。

「坊や、私のオータムを怖がらせないでくれる?」

「こんなに怖がられるとこっちとしても多少傷つくんだが」

「よく言うわ…早く出ていってくれない?」

「はいはい」

子供見たいにスコールにすがりつくオータムをからかおうと思ったが後が怖いのでやめておく。

部屋を出るとフィグネリアと刀奈がドアの両脇に控えていた。

「何してんのお前ら?」

「若がモノクローム・アバターをこの船に載せてる理由を知りたくてね」

「フィグネリアさんに同じく、よ」

なるほど。この二人なら知っていてもおかしくはあるまい。

片や元傭兵。片や暗部の後継者。

「なに、すこし〔メアリー・スー〕になりたくてね。あの二人には円香の護衛をしてもらう」

「「は?」」

「あの二人は恐怖で縛ってあるから信用できる」

ヴィーティングの最期を見て、俺達家族に手を出そうと言うのならそいつはバカだ。

「やっぱり、『聖剣』を『砕いた』のは貴方なのね?一夏君」

Holy sword was broken .

「ああ、俺が砕いた。父さんと母さんを殺した剣だ。砕いて何が悪い」

「はぁ…ブリュンヒルデの策は突破されたようだね。ま、ウチの子も若と一緒の部屋の泊まれて満足気だし、いいか…」

フィグネリアはそれだけ言って、部屋へ戻って行った。

「一夏君」

「なんだ?俺が怖いか刀奈?」

「……………そうよ」

ふふ…はは…あはは…

「ははははは!お前には、わかるまい。
親を殺された者の気持ちは」

父さんと母さんは、転生者だった俺に愛情を向けてくれた。

それを、奴は奪った。

「お前には、わかるまい。家族が悲しみに泣く悲しみを」

姉さんから、父さんと母さんを奪った。

姉さんは、泣いていた。

「風化させたはずの悲しみと憎しみが心の中で再構築される音が聞こえたよ」

だから。

「いまでも、もっと痛めつけて殺せばよかったって、思ってるよ」

まだ、苦痛を与える手段は残っていた。

奴のフラクトライトをコピーして拷問しつづけても良かったかもしれない。

あのまま烏に啄ませても良かった。

「そう…。わかったわ。私には、貴方の心はわからない。でも…」

首筋に、ナイフが当てられる。

「その残虐性がすこしでも簪ちゃんに向いたら、私は持てる全てを以て貴方を消滅させるわ」





「それは頼もしい。もし俺が奏の甘言に惑わされたなら、その時は頼むぞ刀奈」

 

 

第百十三話

 
前書き
トレイターは現在大西洋を潜航中です。
ディメンジョン・マスカーを使えば半日で喜望峰ルートで日本まで帰れますが急ぎの用が無いのでゆっくりです。
とは言え2日か3日で着きます。 

 
トレイター 通路

「ん?一夏?」

「お?どうした簪?」

「どこ行くの?」

「んー?ちょぉっとラボにな」

「?」

「面白い事しよーぜぇ…」






トレイター内部 IS用ハンガー

「一夏、なにするの…?
はっ!?もしかして私に厭らしいことを!
エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

しねぇよバカかお前は。

「簪、今からお前に面白い物を見せてやろう」

「えっちなアイテム…?」

「そうそう。って違う! いや、まぁその手のアイテムも有りはするけど今は別のやつね。
アマテラス、ファイル名【MS】オープン」

『了解、主上』

いくつものホロウィンドウを開き、その中にいくつものワイヤーフレームを表示する。

「なに…これ…?」

「『ガンダム』だよ」

簪はアニヲタだからな。

きっとわかるだろう。

「ロボット…?」

「俺の前世の世界で最も有名だったロボットアニメの機体達だ。
CGで再現している」

「ガンダム…」

簪の目の前にウィンドウをスライドさせる。

その中に表示してあるのはX105…ストライクだ。

「その機体はオプションの変更で様々な戦況に対応するマルチロール機だ」

各ストライカーの詳細なデータも表示する。

「一夏は、私にこれを見せてどうしたいの?」

「んー?簪が好きそうだったから呼んだのさ。
そして本題は…」

ポケットから2つの金属球を取り出して簪に見せつける。

そこには三桁のコードが書いてある。

「…まさか!?」

「そう、これはさっきいた金髪と茶髪が持ってたISコアだ。
アイツ等は俺の傘下に入った…」

「つまり?」

「つまり!とびきりの厨機体をアイツ等に渡して影で爆笑してやるのさ!」

どうだ!完璧な計画だろう!

「えと…あの二人に恨みでもあるの?」

あっるぇ…?

「えと…聞いてない?」

「聞いてない。あと前世云々も」

「簪。聞かなかったことに」

「できると思う?」

「ですよねぇー」

という訳で転生云々と誘拐云々の話を聞かせる。

「へー」

「リアクション薄!?」

「むしろ何かリアクションの仕方を知ってるなら教えてほしい」

「いや…しらねぇけど…」

「ならいいじゃん」

「ならいいか」

よし、この話終わり。

「じゃ、気に入ったり面白いと思った機体があったら言ってくれ」

「一夏は?」

「俺か?」

ウィンドウを操作してカンヘルのワイヤーフレームを見せる。

別に見られてもコピーできるような代物じゃないしな。

「コイツのOSを組むのさ」

「…………一夏の機体?」

「おう!理論上最強の機体だ!」

「ねぇ、言っていい?」

「どうした?」

「一夏の機体が一番厨機体だと思う」

side out




side in

「ぐっはぁぁ!?」

目の前で一夏が崩れ落ちた。

「大丈夫? 一夏?」

「ぜひゅー…ぜひゅー…ぜひゅー…」

一夏わざとらしい息をしながら心臓を抑えていた。

「厨機体…だと…?」

「どこからどう見ても、厨機体。どうせ一夏の事だから、完全に使いこなして見せるんだろうけど…」

「げふぁぇ…!」

「ハイパーモード三つとか…バカなの?」

「かはっ!?」

「…て言うかこのナイトロってシステム一夏には不要でしょ?」

ナイトロっていうのはどうやら空間認識能力を無理やり引き上げるシステムらしいけど…一夏より空間認識能力が高い人間なんて居ないと思う。

「おぉう…簪そこに気づくとはΩ高い」

いま絶対Ωって言った。

「ナイトロは、まぁ、見た目がカッコいいからな」

うずくまったまま私を見上げる一夏の黄金の瞳がいっそう輝いて見える。

「頭沸いてるの…?」

「嗚呼!簪!そんな純真無垢な瞳でそんな事を言わないでおくれ!」

今絶対楽しんでる…。

「まぁ…強いなら、それでいいけど…」

「少なくとも、白騎士よりは強い」

あ、戻った。

「その気になれば隕石を押し返せる程の機体さ」

「隕石?」

「がんばればね」

隕石…。詳しく読むとサイコEカーボンっていう素材を使っているらしい。

そしてこういう一文があった。

『サイコEカーボンとGN粒子の相乗効果が期待されるが、その実態は未だ不明であり想定外のエネルギーが生じる可能性も何も起きない可能性も考えられる』

「このサイコEカーボンとかGN粒子って何?」

「サイコEカーボンってのは、炭素素材に感脳波チップを混ぜた素材で白騎士にも使われているんだ。
GN粒子ってのは光子を重力崩壊させて得られる特殊粒子だ。
でな、この2つは他者の意志や感情を増幅する力がある」

意志や感情を増幅…

「元来GN粒子っていうのが意思の伝達に関する物理的素粒子でな。
それをサイコEカーボンで増幅すれば色々できそうだろう?」

まぁ…言葉の上ではそうだけど…

「実験……したの?」

「してない。しようにもまだOSが完成してない」

「OSは…?」

「本体はもうできてるんだ」

「……え?」

『本体は』…?

「インナーフレームは白騎士の時からずっと使ってるんだ。
でもシステムの方はどうもダメでさ」

「そうなの?」

一夏ならそれくらい余裕でやってのけそうだけど…

「あぁ、いや再現だけならできてるんだ。でもハイパーモードの両立の為のシステムが難航しててさ」

納得だ。

「まー。トランザムはともかくNT-Dは不確定要素が強すぎる…」

「よくわかんないけど…とりあえず…どっちもオリジナルで、やってみたら?」

「…………………そうだな。帰ったらやるか」

あ、しくった……のかもしれない。

スペック表の簡易解説を見るにこの機体は星間航行用らしい。

その為のシステムを色々積んでるみたいだけど…

ハイパーモードの同時使用は危険…お約束だし。

「あぶなくは、ないの?」

「んー?最近吸血鬼になったしそもそも再生魔法あるし、ま、死なんだろ」

今吸血鬼とか再生魔法とか言ってたけど、聞かなかった事にしよう。

うん。そうした方がいい…はず。

一夏は立ち上がって近くの椅子に座った。

「ウィンドウの操作権限を簪へ譲渡」

『この女にですか?』

「そうだ」

『了解』

一夏と私以外の声。きっとこの艦の制御AIの声だ。

『更識簪にファイル名【MS】のウィンドウの操作権限を譲渡します』

「簪、さっき言った通りだ。ま、期待してるぜ」

side out







一夏はコアの制御システムのウィンドウを開いた。

「カイザーコールNT-Dシステム封印解除。
サイオンセンサー起動」

PsyonSensor activated.
Please master’s Psyon.

「進化の扉と真理の扉。
希望の鍵は我が手の中に」

NT-DriveSystem Unlockede .

「一夏…厨二臭いよ…」

「うっせ!パスワードでロックしてたんだよ!
ロマンだロマン!」

「………………ふっ」

「鼻で笑われたぁ!?」

その後は一夏がカンヘルの装甲のチューニングをデータ上で行い、簪はそれを眺めつつスコールとオータムのISを考えていた。

「一夏、バススロットとかは気にしなくていいの?」

「いいよ。円香の護衛だしそこら辺のリミッターはある程度解除するから」

ISコアには各国に配られた時にはリミッターが付いている。

それは開発者である一夏と束しか知らない事だった。

「ふーん…」

簪は一夏に情報戦を仕掛けてみようかとも思ったが、面倒な事になりそうだと断念した。

「動力も気にしなくていいから」

「ん。わかった」

一夏が調律を終えた頃、簪が三枚のウィンドウを開いていた。

「お?決まったのか?」

「うん。決まったよ」

簪が三枚のウィンドウを一夏に見せる。

「くっ!はは!ははは!はははは!コイツはいいや!簪!ナイスセンスだ!」

簪が一夏に見せたウィンドウ。

その中には……。
 

 

第百十四話

「お手を拝借」

「「締めるな」」

「いただきます」

トレイター内部時間で十三時。

要するに昼時だ。

食堂に円卓を出してそこに料理を並べる。

二十人分は流石に疲れたが、まぁ、どうにかなったな。

「ねぇねぇ一夏君。これ全部作ったの?」

「そうだよ」

なおメニューはチキンライスとトマトスープだ。

「一人で?」

「いや、式神に手伝ってもらった。ほら、そこにいる奴」

橙と稲荷を指差す。

「ますたーの式神の橙です。よろしく」

「一夏様と箒の式神の稲荷です。よろしく」

猫耳と狐耳を見て刀奈達は察したようだ。

「坊や、あの吸血鬼は出さないの?」

「奏にはさっきマグカップ半杯の血を与えたからだいじょ……どうした皆?」

何故か皆が顔をしかめた。

「一夏」

簪がトマトスープを指差した。

ああ、成る程そういう事か。

「ああ、すまんな。嫌だったら残していいぞ」

「もったいないからぁ~のこさないけどぉ~おりむぅはもうちょっと考えようねぇ~」

一番何も考えていなさそうな奴に言われてしまった…

「オータム、残していいわよ」

「ああ、そうす……いや、飯いらね。
すまん部屋もどる」

と顔を青くしたオータムが席を立った。

「坊や。わざと?」

「いや、偶然。配慮が足りなかったな」

「かまわないわ。私もいらないわ。オータムを部屋に連れていくから誰か食べておいてちょうだい」

モノクローム・アバターの二人が出ていっておかしな空気になった。

「一夏…お前はあの二人にいったい何をしたんだ?」

隣の箒に小声で聞かれた。

「ちょっとヴィーティングの処刑に同行させただけだ」

「そうか…」

ヤバイなぁ。オータムガチでトラウマになってるじゃん…

赤はダメだな…ISの色も塗り替えないと…

「はいはーい!皆とにかく食べちゃおうよ!」

と束さんの一言で皆が手をつけ始める。

「あ…おいしい…」

「一夏君、家でコックやらない?」

「やらねぇよ」

「リューイン、お前の息子すごいな」

「ああ、一夏君は俺がそだてた!」

「バカな事言わないでください貴方。
搾りますよ」

「ひぃ!?」

「ねぇねぇ一夏おねーちゃん、あれ何のお話?」

「お前にゃまだ早いよ」

「……………エッチなこと?」

「なんで知ってる」

「おかーさんがエッチなことはまだ早いって言ってたから」

「おいフィグネリア」

「なんだい若。誤魔化したらかえって知りたがるのが子供って物だろう?」

「いやまぁ、そうではあるが…」

「だいたい若と姫だって中学生なのに…おっと…これ以上は…」

「箒?」

「いや、その…なんだ。うん。ちょっとフィーネにテクニックを教わろうかとな…」

「ヴィッサリオン、嫁の手綱は握っといてくれよ」

「無茶言わないでくれ若…」

「ん…?ねぇねぇおりむぅ。なんか身長高くなってない?」

「あぁ、一夏は単に高い椅子を使ってるだけだ」

「姉さん…言わないでくれ…」

「一夏君…今度ファミレス行かない?
今度は変装魔法無しで」

「トレイターから放り出すぞ刀奈」

「やめてよ。深海なんかに放り出されたら私ぺしゃんこになっちゃうわ」

「は?ミステリアスレイディ……あぁ…そうか…まだ持ってないのか…」

「ミステリアスレイディ…?」

「何でもねぇよ。忘れろ」

「そう、覚えておくわ」

「天の邪鬼め」

「貴方にだけは言われたくないわ、ツンデレ男の娘君?」

「よし喧嘩売ってるんだな?OK後でボコる」

「一夏、やり過ぎるなよ。刀奈さんでは三秒も持たんぞ」

「大丈夫。五分くらいはレッツパーリーしとくから」

「一夏…具体的…には?」

「体感時間引き延ばしからの腕ひしぎ」

「ふふん、そのちっさな体でできるのかしら?」

「OK泣きたいようだな」

という訳で食後の運動と称した組手で刀奈がガチ泣きする事になった。

side out










一夏が刀奈を泣かせている頃、箒はロリ三人組を自分の部屋に招いていた。

三人は円香、リム、エレンの順でベッドに腰掛け、その正面に箒が立っている。

「どーしたの箒おねーちゃん?」

「どうしたんですか?」

「?」

エレン、リム、円香が疑問を浮かべる。

「集まって貰ったのは他でもない、お前たちに『気功』を教えようかと思ってな」

箒の顔はニヤニヤしていた。

「きこー?」

円香が不思議そうに聞き返す。

「そう。気功。この前言ってたやつだ。
身長が伸びる…一夏を抱っこできるぞ」

「やる!」

「やります!」

アルシャーヴィン姉妹が即答し…

「わたしも!」

円香が続いた。

「なら話は早い。早速はじめよう」

箒の指示で三人はベッドの上に、箒も同じく上がる。

「まずは年長のリムからだ」

「はい」

箒が両手を差し出す。

「リム、握ってくれ」

箒の両手が、差し出されたリムの小さな手を包み込む。

「いくぞ」

箒の心臓に力が集まる。

全身に薄く広がっていた力が一度心臓に集束し、腕を伝ってリムに流れ込む。

少しずつ、ゆっくりと。

「リム、温かいのがわかるか?」

「ぽかぽかします」

「そう、それでいい。これが『気』だ」

「このあったかいのが…」

箒は自分が一夏にして貰ったように、事を進める。

「じゃぁ、すこし『廻す』ぞ苦しくなったら言ってくれ、すぐにやめる」

今度は箒の右手からのみ、力が流れる。

「リム、流れを自分で速くすることを考えろ」

「はい」

リムの体内を箒の『気』が巡る。

注がれる『気』に無理矢理押されての流れだが、リムはその流れを自覚した。

「その感覚が気を廻らす感覚だ」

箒が手を離した。

「その感覚をイメージし続けろ。その内勝手自分のに気が練り上がる。
目を瞑ると集中できるぞ」

箒の言葉通り、リムは注がれた気に意識を集め、『気』を全身に回し始めた。

その姿は瞑想しているかのようだった。

「じゃぁ、次はエレンだな」

箒はエレンにも同じように気を注いだ。




「よし、お前の順だ」

エレンへの指導を終えた箒が、円香とも同じように手を繋ぐ。

「いくぞ」

円香の手に向かって、箒の気が流れ…

バチン‼ と音が鳴り、箒の手が弾かれ、その皮膚が裂けた。

鮮血が散り、円香の頬にも箒の血が飛び散った。

「ぐぁ!?」

手を放した箒は、その手を抱えてうずくまる。

「箒おねーちゃん!?」

「ぐ…」

箒の手は掌が焼け焦げ、指先から肘にかけて数本の裂傷が走っていた。

「大丈夫だ…この程度どうとでもなる…」

箒は真っ赤に染まった手の中に一振りの日本刀を量子展開した。

サイコEカーボン製ブレード宵闇。

そして、その刃を僅かに抜く。

「稲荷、『再生』」

『りょうかい』

【コアエイドスデータの遡及開始】

【変更点確認】

【コアエイドスデータフルコピー】

【自己修復術式発動-修復完了】

鯉口から眩い光が溢れ、次の瞬間には箒の腕は傷も血も消え、元に戻っていた。

『箒、一夏様がこっちに来てるよ』

『わかっている…』

『説教確実だね』

シュッと箒の部屋のドアが開いた。

「……箒」

入ってきたのは一夏だ。

顔はにこやかだが、その黄金の瞳は笑っていなかった。

「正座」

「はい」

箒がベッドから下り、床に正座した。

「円香、エレン、リム。後で色々教えて上げるからちぃっと部屋から出とけ。
外に束さんいるから遊んでもらえ」

「「「さーいぇっさー!」」」

三人は一夏に怯えて、部屋から逃げ出した。

「さて…お説教の時間だオラァァァ!」

「ぴぃ!?」
 

 

第百十五話

一夏が箒への説教を終え、今度は円香についての話になった。

「で?弾かれたのか?」

「ああ、円香に気を流そうとしたら逆流して弾けたんだ」

「ふむ…」

一夏は円香のエイドスに目を向けた。

そうして、その理由を即座に理解した。

「吸血鬼の魔法耐性か…」

箒が気を流した瞬間と同時に、円香の中の奏の血がもたらす吸血鬼性が僅かに上昇した、とイデアには記されている。

「はぁ……仕方ない…円香の気功指導は俺がやるか…」

一夏は大きくため息を吐き、あまり気が進まない、と言った様子で呟く。

「意外だな」

箒が言ったのは、身長に関してだ。

気功は成長を促進する。

つまり、既に一夏より背の高い円香が更に背が高くなるという事だ。

「円香だけ仲間外れはダメだろう」

「そうか」

「それに…もう身長は気にしない事にした」

「…………頭でも打ったのか一夏」

「いや、単に吸血鬼化したからだ。今の俺の肉体は成長しない。成長できない。
きっと俺は滅ぶその日までこのままだ」

一夏は『死ぬ』という表現をせず、『滅ぶ』という表現を使った。

一夏は、次の転生はあり得ず、次こそ自分というクオリアは消えると、滅ぶと考えていた。

「だから、まぁ、エレンとリムにも俺が教えるさ」

一夏が正座した箒の背後に回り込む。

「えい」

「ぴっ!?」

箒の足をつつき始めた。

「えい。えい」

「あ!やめっ!やめろ一夏ぁ!」

「お仕置き」

「さんざん説教しただろうが!」

「それはそれ。これはこれ」

「鬼畜!」

「褒め言葉だ」

つんつんつんつん…

「ぴぎゃぁぁ!?」











一夏は三人を呼び戻し、ベッドの上に座らせた。

「じゃ、まずは円香からやろうか。服を脱いで後ろを向いてくれくれ」

「ん」

円香が服を脱ぎ、真っ白い肌を顕にした。

一夏がその背中に、心臓の真裏に右手を当てた。

「フォールドリング・オープン」

一夏の指にリングが顕れる。

「一夏、なぜフォールドリングを展開するんだ?」

「このリングほど不思議現象に関係が強いアイテムを俺は他に持たんのでな」

フォールドリングはその名の通り『フォールドクォーツ』を嵌め込んだ指輪で、アームにはサイコEカーボンが使われている。

その『不思議現象』への関係性というか、引き起こしやすさは折り紙付きだ。

一夏が目を瞑り、精神を落ち着かせる。

「ふぅー…」

生体波動の同調。

自分の生体波動を相手と合わせる事で、拒否反応を無くしていく。

失敗すれば自信の生体波動が乱れ、行動不能に陥りかねない行為だが、一夏は難なく同調を進める。

「きた」

波長が重なり、一夏の右手から円香へ向けて力が流れる。

「円香、気を巡らせるからこの感覚をよく覚えておくんだ」

「わかった。おぼえる」

円香の心臓から指先へ向けて、指先から心臓へ向けて、力が流れる。

力が循環する。

動脈と静脈に沿うように、力が行き渡る。

「手、離すぞ」

「うん」

そっと、一夏が円香の背から手を離した。

「そうだ、そのまま力の流れを意識し続けるんだ。その内無意識にでも出来るようになるから」

次に一夏はエレンとリムを呼ぶ。

「首筋さわるぞ」

後ろから二人の首筋に触れる。

ゆっくりと包み込むように気を流す。

「暖かい…です」

「うん…きもちい…」

二人の指の末端まで行き渡った一夏の気が、二人を温かく包み込む。

「うみゅ…」

「ふみぃ…」

やがてアルシャーヴィン姉妹の目がトロン…とし始める。

「まぁ…いいか。二人共、眠いなら寝ていいぞ」

「「みゅぅ…」」

二人からかくん…と力が抜けた。

「箒の時もそうだったが…何故寝るんだろうな」

「お前の腕に抱かれているような安心感を感じるからな」

「そんな物なのか?」

「今度お前にもしてやろう」

一夏の袖を円香が引く。

「ん?」

「ん!」

「ん?」

「ん」

「ん」

一夏がアルシャーヴィン姉妹の首筋から手を離し、円香の首筋に手を当てる。

「まて一夏、円香。何故今ので伝わるんだ」

「「兄妹だから!」」

「そうか」

円香の体が一夏の気に包まれ始める。

「はにゃぁ……おにーちゃんに抱っこされてるみたい…」

「それは良かった。俺じゃお前を包み込むようには抱けんからな」

やがて円香の目蓋も重くなる。

「お休み、円香」

「おやしゅみぃ…」

円香からも力が抜ける。

「箒」

「ああ、わかっている」

一夏と箒は座ったまま眠った三人をベッドに寝かせ、部屋を後にした。

部屋には、気持ち良さそうな寝息だけが微かに響いていた。 

 

第百十六話

07:19

「うにゅぅ…」

「…………」

千冬が目を覚ますと、目の前に一夏の顔があった。

百人集めれば、トップに立つであろう美貌。

男であるが故に、女よりも他者を惹き付け、魅了する美貌だ。

更には…

「にゃふぅ…」

頭の上には猫耳がある。

黒猫だ。

千冬が一夏の腰に手を回す。

そこにはふさふさした尻尾が、黒猫一夏の尻尾がある。

「ふみゅ…」

その根元辺りを、きゅっと握った。

「ふみゃぁ!?」

びくん!と体を振るわせて、一夏は目を覚ました。

「起きたか、一夏」

「みゃぉぉぉん……」

千冬が一夏の頭を撫でると、一夏は嬉しそうに目を細めた。

人懐っこい猫みたいに、みゃぁと鳴いた。

そしてふにふにと耳をマッサージし始めた。

「ふみゅ…みゅぅ……みぃぃ…」

一夏が千冬の服をキュッと握った。

「みゃぅ…みゃおぉぉん…」

ぐりぐりと千冬に頭を擦り付ける。

「本当に猫だな…」

「にゃー…」

ギアを入れていない一夏は、基本こんな感じである。

理性によって抑えられていた『幼さ』が表に出ている、と言っても差し支えないだろう。

「……はむ」

千冬が一夏の猫耳をくわえた。

「ふみゃぁ…?」

そのままはむはむと唇で挟んだり、耳を舐めたりしていると、一夏が千冬に抱きついた。

「ぅ~」

「どうした一夏?」

「ねーさんのいぢわるぅ…」

顔を上げた一夏は……エロかった。

「…………………………………」

千冬は葛藤した。物凄く葛藤した。

(もう襲ってもいいんではないだろうか)

(姉弟……だから何だ既に一夏は二人と付き合っている今さら何を躊躇う)

(しかも我々は『メシア』だ。ヒトの法など最悪無視しても咎めはあるまい)

(いやしかしこの論法では一夏は円香も…)

(いや円香もどうせ堕ちるのではないだろうか)

(弟は姉の物だ何を躊躇うことが…)

「ねーさん…? どーしたの?」

己を見つめる黄金の瞳に、千冬は我に帰る。

「なんでもないぞ。朝食だ。起きよう」

「うん!」









side in トレイター艦橋 10:30

「あー。てすてす。てすてす。
入ってる? イン◯ル入ってる?うん、はいってる。
あと一時間で着くから荷物片付けといてね。
あと時差はタイムスケジュールでアジャストしてるけど時差ボケには気をつけて。
いじょー。砲雷長兼戦術長兼航行長兼副長織斑一夏より」

海底を這うように進むトレイターは既に日本近海まで来ていた。

イギリスから二日━━━途中でトレイターと同サイズのダイオウイカに襲われた時には唖然としたが━━━何事もなくここまで来れた。

「束さん」

ブリッジの艦長席に座る束さんに声をかける。

「なに?」

「この後はどうするの?」

「どうって?」

「また旅に出るの?」

束さんはここ数年、ほとんど海の中で過ごしていた。

また、航海に出るのだろうか…

「そうだね、いっ君のお家にお世話になろうかな」

「へ?」

「まーちゃんを一人にする訳にはいかないでしょ?
いっ君はそこら辺護衛も兼ねてFA:Gに家庭教師をやらせようって腹積もりみたいだけど、FA:Gじゃまだ無理だよ」

確かにFA:Gはまだ経験が足りない。

「だから、ちょっといっ君のお家にお邪魔しようかとね」

「わかった。いいよ」

束さんが居てくれるなら、円香を任せられる。

家の事を仕切ってるのは俺だし、姉さんも文句は言わないだろうし。

「神社には帰らないの?」

「んー。まだちょっとね」

ま、それならそれでいいけどね。

同じ町の中に住んでるんだし会うこともあるだろうし。

「それでいっ君。トレイターをどこに着ける気だい?」

「ラボの地底湖だけど?
そのあとはラボから市街地までの直通シャフトで街に出る」

「ふーん…いいのかい?」

「大丈夫。認識阻害とか光学迷彩術式とかかけながら行くから」

束さんにひょいと抱えられた。

「ぅにゃ?」

「ちょっと撫でさせて」

「いーよ」









『トレイター、第零ドックゲートまであと300』

イノセントの声が館内に響く。

「カグツチ、カムイ」

『ゲートオープン』

『ガイドビーコン照射』

『『『入港準備完了』』』

「イノセント。推進機関落とせ」

『トレイター、推進機関停止。
CADシステム起動。微速前進』

トレイターの推進機が停止し、イノセントが移動系魔法を起動した。

相対位置固定の魔法だ。

その定義に従い、トレイターが入港する。

『トレイター、ラボ湖底部に到達』

「重力バラスト調整。浮上」

『浮上開始』

トレイターが浮上する。

ゆっくり、ゆっくりと。

『水上まで3、2、1……浮上完了』

「カグツチ、カムイ、トレイター固定」

『『了解』』

ゴゴン…とトレイターがアームで固定された。

「イノセント、艦内通路隔壁全解放」

『了解』

「イノセント、艦内放送」

『オン』

マイクを取る。

「こちら副長。トレイター着岸。隔壁は開いてるから順次降りてね」

side out







一夏は地底湖の岸壁、港のように整備された場所でこの後の事を説明する。

「えーと、今からシャフトを通って市街地に出るよ」

「市街地?」

と楯無が一夏に尋ねた。

「直江津市にあるシルヴヴァインのオフィスの地下」

「若、俺知らないんだが」

「フィグネリアには言