とある3年4組の卑怯者


 

登場人物紹介

 
前書き
 本編に入る前に主要登場人物の整理をしておきます。 

 
 藤木茂(ふじき しげる)
 清水市の入江小学校に通う3年4組の男子。気弱でドジな性格でそれが災いして「卑怯者」と呼ばれるようになってしまった少年。しかし、その分優しい心の持ち主でもある。同じクラスの笹山に好意を寄せているが、なかなか思いを伝えられない。また、花輪の別荘で出会ったリリィという少女にも好意を寄せ、後にラブレターを出すも、忘れられており、一時は諦める。
 クラスで最も背が高い。特技はスケートで、その卓越した技術は皆が一目置くほどである。

 リリィ
 父親はイギリス人、母親は日本人のハーフの少女。花輪家の別荘で藤木と出会った。後に藤木からラブレターを送られるも、藤木のことが誰だかを覚えていなかった。藤木と彼女の縁は完全に切れたとされていたが・・・。

 笹山かず子(ささやま かずこ)
 3年4組の女子。とても優しく、温厚な性格。その優しさゆえに、藤木から好意を寄せられるも、その想いに全く気付いていない。が、藤木とは彼の思い切った行動に感心したり、責められたときに彼を庇うなど、なんだかんだで仲が良い。藤木のことを悪く思わず、数少ない藤木の理解者でもある。

 永沢君男(ながさわ きみお)
 藤木の親友だが、藤木のことをすぐ卑怯呼ばわりしたり、嫌味を言ったり、絶交宣言をしたりなど、彼には藤木は単なるクラスメイトとしか考えていない。過去に家が火事にあったトラウマを持つ。人が頭の中で考えていることを見抜くほど恐ろしい洞察力がある。クラスメイトの城ヶ崎とは犬猿の仲。
 家では弟を可愛がり、家族を気遣うなど優しいお兄ちゃんである。

 城ヶ崎姫子(じょうがさき ひめこ)
 笹山の親友で、クラス一の美女。その反面、気が強く、言いたいことははっきりと言うために、敵も多い。特に永沢とは非常に仲が悪く、事あるごとに対立している。

 吉川みどり(よしかわ みどり)
 藤木達とは別の学校に通う女子で、まる子の友人。自身の学校では友達がいないことに悩んでいる。スケートをしている藤木の姿を見て惚れて以降、藤木に好意を持っている。都合が悪いことが起きるとすぐに泣いてしまう泣き虫。礼儀正しく、常に敬語で話す。

 さくらももこ
 3年4組の女子。「まる子」というあだ名を持つ。みどりと藤木を引き合わせたのは彼女であり、度々二人の仲介を引き受けている。

 穂波たまえ(ほなみ たまえ)
 まる子の親友。

 花輪和彦(はなわ かずひこ)
 大金持ちのお坊ちゃまで女子からの人気も高い。外国語かぶれの口調で話す。

 みぎわ花子(みぎわ はなこ)
 クラスの女子で、花輪に非常に好意を寄せているが、花輪からはその熱苦しさで気味悪がられている。

 丸尾末男(まるお すえお)
 クラスの男子。学級委員としての仕事に命をかけている。

 浜崎憲孝(はまざき のりたか)
 通称「はまじ」。お調子者ではあるが、情に厚い一面もある。

 冨田太郎(とみた たろう)
 通称「ブー太郎」。語尾に「ブー」というのが口癖。

 山根強(やまね つよし)
 藤木の友人。胃腸が弱い男子だが、心に熱血さを秘めている。

 小杉太(こすぎ ふとし)
 食いしん坊の少年。いつも食べ物や食べることしか考えていない。

 山田笑太(やまだ しょうた)
 クラスのバカ男子。いつも「アハハハ」と笑い、「だじょ~」が口癖。

 野口笑子(のぐち えみこ)
 暗い感じの女子。しかし、お笑い好きであり、抜け目がない。「クックック・・・」と笑う。
 
 

 
後書き
 では、本編をお楽しみください。後書きには次回予告を入れたいと思います。 

 

1 再会

 
前書き
 いよいよ本編です。キャラがずれているかもしれませんが、ご感想、ご指摘、お待ちしています。
 藤木によるリリィとの回想はアニメ「ちびまる子ちゃん」2期30話「すてきな夏休みの始まり」の巻、97話「藤木のラブレター」の巻から引用しています。 

 
「はあ~・・・」
 静岡県の入江小学校に通う3年4組の少年・藤木茂は溜め息をついていた。理由は今日も散々な目に合ったためだからだ。一昨日は掃除で雑巾がけをやっていた際にバケツをひっくり返して皆から責められた。昨日なんて算数の授業中に先生から回答を要求された時に答えを間違えて皆の笑いものになってしまった上に、昼休みは廊下を走っていた生徒とぶつかった。そして今日は、漢字の宿題をやってきておきながら家に忘れてしまい、先生に正直に伝えたのはいいが、皆から信用してもらえず、皆から卑怯、卑怯と繰り返し言われた。
(なんで誰も信じてくれないんだ!どうして本当のことを言ったのに卑怯になるんだ!!)
 藤木は今日は一日中その自分の代名詞のような言葉である「卑怯」という言葉でで頭を悩ませなければならなかった。だが休み時間・・・。
「藤木君」
 優しそうな声が藤木を呼んだ。クラスメイトの笹山かず子だった。
「さ、笹山さん・・・」
 藤木は頬を赤らめた。藤木は彼女が好きなのだ。
「朝から大変だったわよね。気分悪くなっちゃったでしょ?」
「あ、いや、その・・・」
「気にする事ないわよ。今度から気を付けてね。それじゃあ、元気出してね」
「あ、うん、ありがとう」
(笹山さんは僕を卑怯呼ばわりしていない・・・)
 藤木は好きな女子から心配されて少し元気を出すことができた。

 放課後、藤木は親友である永沢君男と共に下校していた。その時、藤木は前方に笹山の姿を発見した。同じクラスメイトの城ヶ崎姫子と共に歩いている。
(笹山さんと一緒に帰りたいなあ。今日僕の心配をしてくれたお礼も言いたいし・・・)
「藤木君・・・」
 永沢が話しかけた。
「な、何だい?永沢君」
「君、まさか笹山と一緒に帰りたいなんて思っているんじゃないだろうね」
「いや、そんなことないさ!」
 藤木は自分の思っている事を悟られた。
(永沢君はどうして僕の考えていることが分かるんだ・・・!?)
 笹山と帰る方向が分かれた。結局藤木は彼女にお礼を言う事ができなかった。
 こうなってしまえば溜め息をつくしかないだろう。
(僕はなんでこんなドジばっかするんだろう・・・)
 藤木は不幸体質の己を嘆いた。

 とある日曜日、藤木は家でボーっとしていると、彼の母が声をかけた。
「茂~、買い物行ってきてくれる?」
「あ、わかったよ」
 藤木は母から買い物袋を受け取り、家を出て行った。
(なんか変な目に合わないかな?)
 藤木は外出に若干の不安を感じていた。

 買い物をすべて済ませて帰ろうとしているところ、藤木はある家族が目に入った。
 父親と思われる人物は外国人だ。母親の方は日本人だった。そしてその娘と思われる子は茶髪で肌の白い少女だった。そしてその少女もこちらを見てきた。
「あれ、あなたは、もしかして別荘で出会った・・・」
「君は、もしかして、リリィ・・・!?」
 藤木は驚いた。まさか、もう会えないと思っていた、友人の花輪和彦の別荘で出会ったあの美少女だった。
「うん、覚えていてくれたのね、嬉しいなあ」
 リリィと言う少女は微笑んだ。
「いや、はは」
 藤木は彼女の両親にも挨拶を交わしあった。
「あなたの名前はええっと・・・」
「僕は藤木っていうんだ。忘れているだろうね」
「フジキ・・・?ああ、貴方が藤木君だったの!?ごめんなさい。あの時貝殻をくれた人が藤木君だったのね。あの手紙を貰った時ギターを弾いてくれていた人だと思っていたの。あれから手紙が来なかったからどうしたんだろうと思っていたんだけど、私が勘違いで衝撃的(ショック)だったんじゃない?」
「いや、いいんだ。僕はただ連れてきてもらったものの一人だから僕なんか覚えているわけないよね、ははは・・・」
 藤木は寂しげな笑みを浮かべた。
「でも、私また藤木君と会えて嬉しいな。ここに住んでいたのね」
「あ、うん」
「私の家族、ここに住むことになったの。またよろしくね!」
「えっ、そうなの!?」
 藤木はリリィが清水に住むことになるとは予想もつかぬ事で非常に驚いた。
「ハイ、私この静岡で働くことになったのでね、今町を見ているところですよ」
 リリィの父が言った。
「そうなんですか」
「リリィに知り合いがいる所に引っ越すなんてリリィも学校が楽しくなるんじゃない?」
「そうね、ママ」
「もしかして入江小学校ですか?」
 藤木はもしかしてと思って聞いた。
「そうよ」
 リリィが答えた。藤木は心を躍らせた。こんなことがあるなんて、二度と会えないと思った人とまさか同じ学校になるなんて、たとえ偶然でも、自分にだって良い事はあるんだ。藤木はそう心の中で思っていた。
「じゃあ、また学校で会えるかもね」
「うん楽しみにしているわ。バイバイ」
「さようなら」
 リリィとその両親に別れを告げた後、藤木はリリィとの思い出を回想しながら家に向かった。

 いつの日かの夏休み。藤木はお金持ちのクラスメイト、花輪和彦の別荘へ連れて行ってもらった。皆で海水浴というときに自分は海パンを忘れてしまった。バカだなあと自分で思いながら海で遊ぶ皆をよそに一人で浜辺で貝殻を拾っていた。
 その時だった。藤木が顔を上げると一人の少女が立っていた。
 それがリリィだった。藤木は彼女の美しさに一目惚れしてしまったのだ。
 その夜、キャンプファイヤーで藤木は花輪家の隣の家のベランダで夜空を眺めていた彼女に再び出会った。
 リリィもキャンプファイヤーへ参加した。だが、「新しい友達」のためにギターを弾いている花輪を見てリリィは自分より花輪とお似合いな感がしていた。でも別れ際に浜辺で拾った貝殻をプレゼントした。
「どうもありがとう。大切にするわ」
 彼女はそう言って両親のもとへ戻った。藤木はまた会えると信じていながら・・・。

 それからしばらくして、藤木はリリィに好きだと伝えたいがためにクラスメイト達の協力でラブレターを出した。そして返事が来た・・・。だが、返事には藤木とは誰か覚えておらず、キャンプファイヤーでギターを弾いていた男子と勘違いしていた。藤木じゃない、それは花輪クンだよ・・・。そしてその人なら喜んで文通させていただくわ、と。藤木は自分はリリィとは駄目なんだと実感していた。
 返事をもらったと知ったクラスメイトたちは賞賛していた。あの笹山まで疑わずに褒めていた・・・。でも藤木は嬉しくはなかった。なぜなら自分はリリィに忘れられたのだから。

 そんな失恋もあったが、藤木はリリィとまた学校で会えることを楽しみにするのだった。 
 

 
後書き
次回:「学校」
 学校でリリィと会う事を楽しみに登校する藤木。だが、登校中、彼女と遭遇する事はなく、教室にもリリィの姿はない。そして担任の戸川先生が教室に入って来た時・・・。
 
 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!

  

 

2 学校

 
前書き
 夏休みに花輪和彦の別荘で出会った少女・リリィと再会をした藤木。彼女と同じ学校に通うことになると知り、胸を躍らせるのだった・・・!

 リリィのフルネームは、私が考えたもので、公式設定ではありません。ご了承ください。 

 
 次の日、学校に行く途中、藤木はリリィに会えるか気になった。しかし、登校中で彼女に会うことはなかった。
(なんで会えないんだろう・・・、もしかして昨日のことは夢だったのかな・・・?)
 藤木は不安になってしまった。その時、後ろから藤木を呼ぶ声が聞こえた。
「藤木君・・・」
「な、永沢君!?」
 藤木を呼んだのは永沢だった。
「どうしたんだい?落ち込んでいるようだけど・・・」
「いや、何でもないよ」
 藤木は心の中では永沢ではなく、リリィと一緒に学校に行けたらなあと思っていた。
「藤木君、君もしかして僕と一緒に学校に行きたくないとでも思っているんじゃないのかい?」
「い、いや、そんなことないさ!」
 藤木はまたもや永沢に心の中を読まれた。

 学校に着き、いつもの3年4組の教室に入った。藤木はクラス内には変わったことがなく、いつもと同じ様子だった。
(もしかしたら違うクラスかもしれないし、学年が違うかもしれないか・・・。同じクラスになるなんてそんな都合のいいことあるわけないよな、ハハハ・・・)
 そして先生が入ってきた。が、その時・・・。
(え、リリィ!?)
 藤木は驚いた。
「あの子って・・・」
「マジかよ・・・」
 藤木のみではない。花輪家の別荘のキャンプへ行ったメンバーのさくらももこや浜崎憲孝、丸尾末男なども驚きを隠せなかった。
 担任の戸川先生が「静かにしてください」と皆を黙らせた。
「皆さんに転校生を紹介したいと思います。では自己紹介をお願い致します」
 リリィが自己紹介をした。
「はじめまして、リリィ・莉恵子(りえこ)・ミルウッドです。リリィと呼んでください。イギリスから来て少ししか経っていないので日本には友達があまりいません。仲良くしてください。よろしくお願いします」
「それではリリィさんの席は藤木君の隣でお願いいたします」
「え・・・?」
 藤木はまたこの上ない幸運を感じた。同じクラスになったうえ、席が隣になったのだ。こんないいことがあるなんて・・・。
 そのとき、リリィが藤木に話しかけ、微笑んだ。
「藤木君と同じ(クラス)なんてびっくりしちゃった。よろしくね」
「あ、うん、よろしく・・・」
 藤木は思わず照れてしまった。逆隣の席の永沢が話しかけた。
「よかったじゃないか、藤木君。またリリィと会えるなんてね」
「あ、うん・・・」
 なお、その様子を、笹山が遠くから見ていた。

 休み時間になった、花輪の別荘へキャンプファイヤーに行った面子はリリィの机に集まっていた。
「リリィ、あたしビックリだよ。ウチの小学校に、しかも同じクラスでさ」
「まる子」 のあだ名を持つさくらももこがリリィに言った。
「いや~、藤木、アンタもよかったね~、またリリィに会えてさ」
「あ、うん」
「藤木君とは昨日会っているの。昨日清水がどんな町なのか見て回っていたら偶然会ってね、ね?藤木君」
「うん、そうだよ」
「でも、文通してたんじゃないの?藤木からラブレターもらってさ」
「文通?返事は出したけどあれから何もなかったの・・・」
 藤木は隠しておきたかったことをばらされてしまい、凍りついてしまった。
(ああ、リリィ、それは言わないで欲しかったよ~、さくらもそんなこと聞くなよな!)
「藤木、アンタ上手くいってたんじゃなかったの?」
 藤木はまる子に疑いの目を向けられた。
「じ・・・実は返事にはギターを弾いていた人なら喜んで文通させていただくと書いてあってリリィは僕じゃなくて、花輪クンがいいんだと思って諦めたんだ」
「ふうん、それを隠してたわけか・・・」
 まる子は藤木を軽蔑した。そのとき永沢が言葉を発した。
「藤木君、君は上手く行っているように見せかけて隠していたなんて、本当に卑怯だね」
 また言われた、卑怯・・・。藤木は自分を追い詰めなければならなかった。
「フンッ!ちょっとアンタ、私の花輪クンと文通で仲良くなって狙おうなんて許さないわよ!フンッ!」
 みぎわ花子が鼻息を荒げてリリィに詰め寄った。
「え・・・!?」
「ちょっとみぎわさん、落ち着きなよ」
 まる子がみぎわを抑えようとした。そのときお金持ちのお坊ちゃまの花輪和彦も口を出した。
「まあまあ、みぎわクン、落ち着き給え。僕は誰とでも文通してもOKだよ、Baby」
「なら花輪クン、私と今日から文通しましょ~」
「う・・・君とはいつも学校で会っているじゃないか・・・」
 みぎわと花輪の暑苦しそうな会話をよそに、リリィが喋った。
「でも、藤木君は悪くないわ。私の返事で藤木君を落ち込ませたのが悪いのよ」
(リリィ・・・。はあ、こんな卑怯な自分を庇ってくれるなんて、ホント僕って情けないなあ)
 そのとき、みぎわに苦労していた花輪が呼びかけた。
「あ、そうだ、今日みんなで僕の家でリリィクンの歓迎Partyをやろうじゃないか」
「いいね、賛成~!」
「楽しみだブー!」
「ありがとう、花輪クン。藤木君ももちろん行くよね?」
「え・・・、うん、もちろんさ!」
「花輪くう~ん、私も行っていいわよね~」
「ああ・・・、いいとも、Baby」
(花輪クンは渡さないわよ・・・!フンッ!)
 みぎわはヤキモチの炎を燃やしていた。

 次の休み時間、トイレから戻っている藤木を誰かが呼んだ。笹山だった。
「藤木君。リリィさんって人と知り合いなの?」
「あ・・・、その、夏休みに花輪クンの別荘へキャンプに行ったときに出会ったんだ」
「じゃあ、藤木君ってあの人にラブレターを出したの?」
「・・・うん、そうなんだ」
「へえ~。藤木君、また会えてよかったわね」
「あ・・・、うん」
 笹山は笑顔を藤木に見せて教室へ戻った。しかし、藤木は彼女の後ろ姿を見て何らかの寂しさを感じた。
(確かに僕はリリィが好きだ。でも笹山さんも好きだ。リリィと再会できたのは嬉しいけれど、逆に笹山さんが僕から離れていきそうな気がする・・・)
 藤木はリリィも好きだが、笹山も好きだ。もし、リリィが花輪を好きになって笹山が勘違いしたまま今よりももっと遠い存在になってしまいそうな事が今の藤木には怖くてたまらないのだった。 
 

 
後書き
次回:「嫉妬(ヤキモチ)
 リリィはクラスの女子の注目の的となり、会話を弾ませる。一方、藤木はリリィが羨ましく思う。そして放課後、花輪家でリリィの歓迎会を行うのだが・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

3 嫉妬(ヤキモチ)

 
前書き
 リリィが藤木の通う学校かつ3年4組に転入してきた。花輪家の別荘でキャンプをしに行った面子達はリリィとの再会に喜び、花輪の家で歓迎会を行うことになる。その一方、みぎわが密かにリリィに対して敵対心を持つのであった!! 

 
 藤木は授業中、隣にリリィがいる事で胸がドキドキしていて授業に集中できなかった。そして国語の授業の時・・・。
「藤木君、次の段落を読んでください」
「え!?あ、ええと・・・」
 藤木はどこを読めばいいか分からなかった。
「す、すみません、どこですか?」
「藤木君、授業をちゃんと聞いていないとダメですよ」
 戸川先生は困った顔をした。藤木は折角好きな女子が隣にいるのに恥をかいてしまうなんて自分はどれだけついていないのかと思うのであった。授業が終わると永沢は藤木に声を掛ける。
「藤木君、君、もしかしてリリィに見惚れてて、上の空だったんじゃないのかい?」
「い、いや、そんな事ないさ!」
 永沢の透視能力のような洞察力に藤木はいつもの如く誤魔化すのであった。その一方、リリィはクラスメイトの女子達と喋っており、彼女達と早速仲良くなったようだった。
(いいなあ、リリィは、転校生だからってこんなにちやほやされて。僕も転校したら、卑怯者だなんて思われずに皆から人気者になれるのかな・・・?)
 藤木はリリィを羨ましがった。それに二人だけでリリィと喋りたい気持ちだったのだが、そのタイミングはなかなか掴めなかった。
「藤木君、君、もしかしてリリィと喋りたいと思ってるんじゃないのかい?」
「あ、いや、そんな事ないさ!」
 藤木はまたも永沢の問いに対して誤魔化した。
「まあ、君は手紙を出した相手が花輪クンと間違えられていたんだ。見向きしてくれるわけないと思うよ」
「そ、そんな・・・」
 藤木は悲愴になった。
(どうしよう、今日花輪クンちでリリィの歓迎パーティーやるって言うのに、行くのやめようかな・・・?)
 帰りの会が終わると、花輪がリリィの所へ向かう。
「Hey、僕の家へは僕のじいや・ヒデじいの車で送るよ」
「ありがとう、花輪クン」
(やっぱり、リリィは花輪クンとお似合いだ・・・。歓迎会、行くの止めよう・・・)
 藤木はそう思った。
「藤木君」
 藤木はリリィに呼ばれた。
「また後で会おうね。バイバイ」
「あ、うん」
 藤木は少し照れた。やっぱり歓迎会に行こうと思うのだった。そんな時、永沢が声を掛ける。
「藤木君、君、もしリリィから呼ばれなかったらきっと歓迎会行くの止めてたんじゃないのかい?」
「い、いや、そんな事ないさ!」
 永沢に心の中を見透かされ、藤木は案の定誤魔化した。そして慌てて話を変えようとする。
「な、永沢君は歓迎会に行くのかい?」
「勿論さ。花輪クンちに行けば高級なお菓子が食べられるじゃないか」
「あ、うん、そうだね」
 永沢は高級なお菓子狙いだった。彼は花輪に憧れており、花輪について行けば何かいい事が起きるのではと考えていたのであった。

 放課後となり、藤木は家に着くと、早速花輪家へ向かった。
 リリィは花輪の家がどこにあるかはわからなかったようだが、花輪の執事のヒデじいの車が彼女を送迎することになっていたので問題はなかったようだ。
「Hey、藤木クン。よく来てくれたね。こちらの広間に来てくれ給え」
 藤木は花輪が招待した広間に入った。リリィは既にそこにいた。
 そして、まる子、穂波たまえ、「はまじ」こと浜崎憲孝、「ブー太郎」こと富田太郎、丸尾、山田笑太、永沢、そしてみぎわとキャンプに行ったメンバーが集った。
 花輪が司会を務めた。
「Hey、それじゃ歓迎Partyを始めよう。先ずは久しぶりだから誰だか彼女も覚えていないだろうから自己紹介から始めよう。では僕から、僕は花輪和彦だよ、Nice to meet you,baby」
「俺は浜崎憲孝。はまじって呼んでくれよ!」
「おいらは富田太郎っていうんだブー!ブー太郎って呼んでくれブー!」
「あたしはさくらももこ。みんなからはまる子って呼ばれているんだ!」
「私は穂波たまえ、よろしくね!」
「オイラ、山田笑太だじょ~。アハハハ~!」
「ズバリ、ワタクシは学級委員の丸尾末男、次の学級委員の選挙はズバリこのワタクシに一票を宜しくお願い致します!」
「僕は永沢君男だ・・・」
「私はみぎわ花子よ。花輪クンの将来のお嫁さんよ!!」
 皆自己紹介を済ませていった。
「ほら、藤木君も名乗りなよ」
 永沢が催促した。
「あ、うん、ぼ、僕は藤木茂、また会えて本当に嬉しいよ」
 こうして一通り自己紹介が終わった。
「皆さんとまた会えて本当に嬉しいです。あの夏の野営(キャンプ)を思い出すわ」
「それではeverybody、glassを片手に持ってくれ給え。乾杯!」
「乾杯!」
 そのあと、皆はお菓子を食べてリリィと楽しく会話をした。複雑な心境の藤木と嫉妬(ヤキモチ)溢れるみぎわを除いて。
「ねえ、花輪クン。私またあのギターの演奏を聴きたいな。いいかしら?」
「ああ、いいとも。ヒデじい、guitarの用意を」
「畏まりました、お坊ちゃま」
 ヒデじいがギターを持って来ると、花輪はキャンプの時と同じ曲を弾き、鼻歌を歌った。
(やっぱり、リリィは花輪クンの方がお似合いだな・・・。ラブレター出したのが僕だって知ったとき、本当はがっかりしていたんじゃないかな。それに笹山さんも僕はリリィとうまく行っていると思って僕を遠ざけてしまうような、そんな気がする・・・)
 藤木は不安を感じていた。
「藤木君、君もしかして、リリィが花輪君と仲が良さそうで残念に思っているんじゃないのかい?」
「い、いや、そんなことないさ!」
 永沢に心の中を読まれた。花輪のギターの演奏が終わった。
「ありがとう、花輪クン。とっても素敵だったわ」
「いやいや、どういたしまして、Baby」
 ところがその時、みぎわの我慢の限界が来た。みぎわがテーブルをバン!と叩く。
「フンッ!アンタ、転校生のくせに何なのよ!?花輪クンを私から奪い取ろうなんて!一体どういう神経してんのよ!?え!?!」
 みぎわは鼻息を荒げてリリィに詰め寄る。リリィの顔が恐怖で引きつっていく。
「ちょ、ちょっと、みぎわさん落ち着きなよ」
 まる子がみぎわを止めようとした。
「そうだよ、リリィの歓迎会なんだから転校早々そんなに怒鳴っちゃかわいそうだよ・・・」
 たまえも抑えようとする。が、みぎわは引き下がらない。
「アンタたちは黙ってなさい!フンッ!アンタ、私と花輪クンの愛を引き裂こうとするなんて調子のってんじゃないわよ!!!」
 その時・・・。
「やめろーーー!!!」
 藤木が喚いた。 
 

 
後書き
次回:「遊戯(ゲーム)
 嫉妬のあまりにリリィに怒りむき出しのみぎわを抑えようとする藤木。その場を何とか抑えた後、皆はイギリスでよく行われている遊びをやる事にする・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

4 遊戯(ゲーム)

 
前書き
 リリィの歓迎会にて花輪と仲良さげにしているリリィに対してみぎわが激怒して彼女に詰め寄る!!それを真っ先に止めようとしたのは藤木だった!! 

 
 藤木はみぎわに近づいた。
「リリィはそんなこと考えていない!!第一、リリィは君が花輪クンを好きだなんてそこまではよく知らないはずだ!!」
「フンッ!何よアンタ、邪魔しないでよ!!」 
「だからって転校してきたばかりの子にそんな怒鳴って嫌な気分にさせて・・・。そんな酷い歓迎会があるか!!君は他の女の子が花輪クンと話しているだけですぐ嫉妬(ヤキモチ)を焼くじゃないか!花輪クンは君だけのモノだなんてそんなの間違っている!僕だってリリィは好きだし花輪クンとこんなにいい感じになっているのは羨ましいよ!!でも好きな人が他の人と仲良くしているからってただ怒ればいいのか!?」
「煩いわね!アンタに私の気持ちの何が分かるのよ!?フンッ!」
「分からないさ!でも・・・、喧嘩しかけて歓迎会を台無しにする方が最低だよ!」
「何ですって!?アンタ卑怯の癖にこんな時に正義ぶって調子に乗ってんじゃないわよ!!」
 二人の激しい口論の中、花輪が仲裁に入る。
「まあまあ、二人とも落ち着き給え。こんな祝福の時間に争い事は良くないよ、Baby」
 はまじも止めに入った。
「そーだぞ、二人ともこんな時に喧嘩なんてみっともねーぞ!」
 藤木は我に返った。
「う・・・、ごめんよ、ついカッとなって・・・」
 みぎわも落ち着きを取り戻した。
「ごめんね、花輪クン~、やっぱり花輪クンは私のことを想っているのね~」
「そ、そういうわけじゃないけどね・・・」
 藤木はリリィにみっともない姿を見せてしまったと思い自分が恥ずかしくなった。
「お~い、藤木君、すわれよ~」
 山田が笑顔で行った。
「あ、うん・・・」
 藤木は自分が座っていた席の椅子に戻った。リリィは藤木を見ていた。藤木に対してどういう思いで見ているのか、藤木には分らなかった。
 そのとき花輪がこの後の提案をした。
「それじゃあ、お菓子を食べた後は何かgameをしようじゃないか、everybody」
「そうだな、賛成ブー!」
 
 皆は別の部屋に移動した。
「何やろうかね~」
 まる子が尋ねた。
「リリィ、イギリスではどんな遊びやるのか教えてくれよ、それやろーぜ!」
 はまじが提案した。
「そうね、イギリスではWhat's the time Mr.Wolf?っていうのをよくやったわね」
「ワッツ、ザ、タイム・・・って、なんだそりゃ?」
 花輪が説明した。
「ああ、それは日本語で言うと、『オオカミさん、何時ですか?』っていう意味で、ruleは鬼ごっことだるまさんが転んだを合わせたようなものさ」
「まずオオカミの人を決めてオオカミの人は壁に向かって立って他の人はオオカミの人から離れて立つの。他の人はオオカミに向かって『今何時ですか?』って聞くの。オオカミの人はそれに対して何時か答えてその数だけ他の人は歩くの。例えばオオカミが5時って答えたら5歩、8時って答えたら8歩歩くのよ。そしてオオカミの人は気配を感じてきたら『晩御飯の時間だ!』って答えて振り向いて皆を追いかけて、皆は逃げるの。オオカミに捕まった人が次にオオカミをやってあとはまた同じことを繰り返すの」
 リリィがルールを詳しく説明した。ブー太郎が質問する。
「オオカミが晩御飯の時間を言うタイミングは何回目に言わなきゃいけないとかいう決まりはあるのかブー?」
「いや、何回目にいうかは自分で決めていいのよ。気配を感じた時だからね」
「それじゃあ、始めよーぜ!」
「みんな初めてだから私がまずオオカミやるわね」
 皆は部屋から庭に移動した。リリィがオオカミ役となり皆は散らばった。
「何時ですか?」
「今、7時です」
「っていうことはオイラたちは七歩進めばいいんだなじょ~」
 皆は7歩進んだ。
「何時ですか?」
「9時です!」
 リリィの返答に対し、皆は9歩進んだ。
「何時ですか?」
「・・・晩御飯の時間!」
 リリィが振り返って追いかけた。その時藤木は・・・。
(リリィに迷惑かけたし、わざと捕まろうかな・・・)
 しかし、捕まったのは丸尾だった。
「丸尾君がおおかみだじょ~!」
「うう~む、次でリベンジでしょう!」
 丸尾がオオカミとなった。そして、次は山田、たまえとオオカミが変わった。
 そして、藤木がオオカミとなった。
「何時ですか?」
「5時です」
「何時ですか?」
「4時です」
「何時ですか?」
「6時です」
(リリィ以外を狙おう・・・)
 藤木は心の中でそう考えていた。
「今何時ですか?」
「晩御飯の時間です!」
 藤木は追いかけた。
(リリィを捕まえてはならない・・・)
 藤木はリリィ以外を追いかけようとした。みぎわがいる。よし、みぎわを捕まえよう。藤木はそう思った。
 藤木はバン!とみぎわの背中をタッチした。
「フンッ!あんた、よくも私を捕まえたわね!さっきの恨みでしょ!!」
「い、いや、そんな事ないよ!」
 みぎわが藤木に詰め寄った。
「まあ、まあ、gameなんだから、怒るなよ、Baby」
「そうだったわね、ゴメンナサイ、花輪クン」
 その後もゲームは続き、そして日が暮れた。 
「それではEverybody、お開きにしようか」
「皆さん、今日は楽しかったわ。今度やるときは日本の遊びをやりたいわね」
 リリィは皆に感謝をした。
「なら、また今度はカルタとかすごろくとかをやろうか!」
 まる子が提案した。
「いいなブー!」
 ブー太郎も賛同した。こうして皆はそれぞれの家へ戻った。その時藤木はみぎわとの揉め事を未だ気にしていた。
(リリィの前であんなにみぎわに怒ってしまった・・・。リリィも流石に僕を変な奴だと思ったに違いない・・・)
 藤木は後ろ向きに考えた。

 その一方、リリィはヒデじいの車で家に送って貰っていた。
「花輪クン」
「何だい?」
「藤木君って私の事、あれだけ好きだったのね。だから、あのみぎわさんって人から私を庇ってくれたのよね?」
「まあ、そうだね」
(そうだ・・・)
 リリィはある事を思いついた。自分をみぎわから庇ってくれた藤木に礼をしたいが為に。 
 

 
後書き
次回:「二日目」
 家に帰ったリリィは、藤木の行動に対してある事を計画する。翌日、藤木はみぎわと喧嘩した事を気に病みながら登校している途中、リリィと遭遇する。そして昨日の事で礼を言われた藤木は・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

5 二日目

 
前書き
 リリィの歓迎会で皆はイギリスの遊びをする事になる。だが、藤木は遊んでいる間も、遊んで帰る時もリリィに対するヤキモチで詰め寄るみぎわと口論した事を気にしていたのであった!! 

 
 リリィはヒデじいの車で家へ送って貰っていた。あの藤木という男子があれだけ自分を好きだという気持ちが本物だという事を改めて理解していた。リリィは同行していた花輪に質問する。
「花輪クン、あのみぎわさんって眼鏡の人って花輪クンが好きなの?」
「え?ああ、そうさ・・・」
「あの人凄い怖かったわ・・・」
「え?ああ、気持ちは解るよ・・・」
 花輪も何度かみぎわの猛アタックに悩まされている身だった。
「私、藤木君に今日、私を庇ってくれた事でお礼しようと思ってるの」
「ああ、その方が藤木クンも喜ぶと思うよ」
「そうよね」
 リリィは自宅で車から降ろして貰い、帰宅した。
「只今」
「お帰り」
 母が出迎える。
「歓迎会、楽しかった?」
「ええ。色々皆と楽しめたわ。それでお願いなんだけど、私が会った人を明日呼びたいんだけど、いいかしら?」
「ええ、いいわよ。ケーキも用意しておくわね」
「ありがとう」
 リリィは自分の部屋に入る。そして貰った日から遺していたラブレターをもう一度見る。
(この手紙、あの藤木君がくれたもの・・・。そのお返し、ちゃんとしておかないと・・・)

 藤木は帰宅後、自室の部屋で今日の事で気にしていた。両親は今日も仕事で遅くなるので今日は出前だ。
(僕のあんなみっともない姿を見せてリリィは変に思ったんだろうな・・・。そうなると僕はみぎわと同じ、ただ暑苦しいだけだと思われるだろうな・・・)
 藤木はリリィが花輪に心酔していき、自分が疎まれる事を恐れた。もしかしたら自分に話し掛けてくれなくなるかもしれないとも思った。

 翌日、藤木は登校中だった。昨日の事を未だに気に病みながら。その時・・・。
「あ、藤木君、おはよう!」
 リリィだった。
「あ、リリィ・・・。おはよう」
 リリィは笑顔だった。
「藤木君、元気ないね、気分が悪いの?」
「あ、いや・・・そんなことないよ!」
 リリィは昨日自分がムキになってみぎわに突っかかった事を気にしていなさそうだった。
「そう、ならよかった。あの、昨日は私のこと守ってくれてありがとう。藤木君は私のことそれだけ大切にしてくれていたのね」
「え・・・?あ、うん、でも僕もただ熱くなっちゃっただけさ」
「そんなことないわよ。みぎわさんって人結構ヤキモチ焼きなのね」
「みぎわは花輪クンが好きでたまらないだけさ。他の女の子が花輪クンと仲良くしているのが気に食わないんだよ」
「そうなんだ。今日、藤木君に昨日のお礼がしたいの。是非私の家に来て!」
「いいのかい!?」
「もちろんよ。ダメな理由ないもん」
「あ、ありがとう・・・」
 藤木は気分が盛り上がった。
(よかった!リリィに嫌われたわけじゃなかったんだ!)
 藤木は嬉しくなった。さらに彼にとってはさらに嬉しいことにリリィと共に登校することになった。藤木には朝からこの上ない幸運な日だった。

 リリィは二日目も色々な女子と談笑していた。イギリスの話とかをしていた。
(今日もリリィは人気だな。僕も転校すればあんな風に人気者になれるのかな・・・?)
「藤木君」
 永沢が不意に話しかけてきた。
「君、もしかして自分もリリィみたいに転校すれば人気者になれると思ってるんじゃないのかい?」
「い、いや、そんな事ないさ!!」
 永沢はいつもの如く、藤木の心の中を見抜いた。藤木は慌てて誤魔化した。
「ま、そうだろうね、君は転校先でもすぐ卑怯な事しそうだしね。人気者になれるわけないもんね」
 相変わらず藤木には辛辣な永沢であった。しかし、藤木にはこの上ない楽しみが待っていた。何しろ放課後にはあのリリィの家に招待されて二人だけの時間が楽しめるのだから。

 なおこの日は体育の授業があった。男子は走り幅跳びをやっており、藤木はリリィにいいところをみせてやろうと考えた。そして走り出す。
(よおし!)
 藤木は思い切り飛ぼうとした。しかし着地においてズッコケてしまい、みっともない姿を見せる結果になってしまった。多くのクラスメイトが笑いを誤魔化そうと必死になっていた。リリィも笑っていた。
(ああ、なんでこんなにツイてないんだろう・・・)
 毎度の事であるが、本当に自分は運の悪い男だと思う藤木であった。そして体育の授業が終わり、藤木は永沢と話しながら教室へと戻る。
「藤木君、君、カッコつけようとしなかったかい?」 
「い、いや、そんな事ないさ!」
 藤木はいつもの如く永沢の推察に否定する。
「まあ、そうだろうね。卑怯な君がカッコよく決められるわけないよね。それで君に惚れる女子なんて要るわけないだろうね」
「う・・・」
「永沢君、そこまで言わなくたっていいじゃない」
「え?」
 リリィが話に入って来た。
「空回りする事って誰にだってあるんじゃないの?私にだって上手く行かなかった事ってあるわ」
「ふん、君は藤木君が卑怯者だって事を知らないからそんな事いえるんだ。今にも藤木君がどんな奴か解るさ」
 永沢はさっさと離れてしまった。
「藤木君」
「え?」
 藤木はリリィによばれでドキッとした。
「ごめんね、さっき笑っちゃって」
「い、いや、全然気にしてないさ」
(永沢君から僕の事庇ってくれたし、もういいのさ・・・)
 藤木は心の中でリリィに感謝していた。
「永沢君が行ってた事も全然気にしてないからね」
「う、うん」
(そうだよな、後でリリィの家に行けるんだもんな!!)
 藤木は放課後の事に心を膨らませるのであった。

 給食の時間となった。給食当番が給食を取りに行く。藤木やリリィは待っていた。
「日本じゃ必ず給食っていうのを食べることになってるのね」
「どういう事だい?」
「イギリスでは食堂(カフェテリア)って所でその給食を食べる人もいれば、家からご飯を持って来て食べる人もいるのよ。給食当番ていう教室にご飯持って来る人はいなかったわ」
「へえ。リリィはどっちだったんだい?」
「日によってはママがご飯を用意してくれたり、友達と給食を食べる事にしてたわ」
「へえ、日本よりちょっと自由だね」
「それに、食べるのも皆が揃ってから食べ始めるんじゃなくて自由に食べていいのよ」
 藤木はイギリスの学校と日本の学校の違いを少し学ぶことができたのであった。 
 

 
後書き
次回:「貝殻(たからもの)
 藤木は放課後、掃除当番である事を思い出し、リリィに待ってくれと頼むが、リリィは掃除の手伝いをしてくれることになる。その後、リリィの家に連れて行かれた藤木は・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
  

 

6 貝殻(たからもの)

 
前書き
 リリィの歓迎会の翌日、藤木は登校中にリリィに会うと共に彼女の家に招かれる事になる。その事で嬉しくなった藤木は体育でリリィにいい所を見せようとするも空回りにしてしまう。その事で永沢から嫌味を言われるものの、リリィに庇って貰えたのだった!! 

 
 リリィは昼休みはクラスメイトの女子達と一緒に遊んでいた。藤木は昨日の時のように寂しく思う事はなかった。何しろこの日は放課後リリィの家に招待されたのだから、自分とリリィの二人だけの時間が楽しめると思うと嬉しく思うのだった。
「藤木君」
 永沢が不意に呼んだ。
「な、何だい、永沢君!?」
「君、今日は何か良い事でもあったのかい?」
「い、いや、そんな事ないさ!!」
 藤木はまた誤魔化した。

 藤木は放課後、自分が掃除当番だった事を思い出した。
「あ、リリィ、今日、僕掃除当番だったんだ?」
「ソージトーバン?何それ?」
「教室の掃除をするんだよ。順番でだれが掃除するか決まってるんだ」
「そうなの?日本じゃ自分達で掃除するのね」
「そうなのかい?」
「ええ、イギリスの学校では掃除してくれる業者さんがやってくれるのよ」
「いいなあ、イギリスは・・・」
「でも、自分達で掃除するのはいい心掛けだってママが言ってたわ」
「そうなんだ。終わるまで待っててくれるかい?」
「ううん、折角だから手伝うわよ」
「いいのかい?ありがとう」
「私も一緒にやれば早く終わるでしょ?」
「う、うん、そうだね!」
 藤木は掃除当番になるとはツイていないと思っていたが、リリィも共にする事になり、少し嬉しくなった。リリィは掃除係の前田ひろみから雑巾を借りて窓拭き,床の雑巾がけなどをやっていた。掃除をしながらリリィはある事を思う。
(もし『あれ』を見せたら藤木君はどう思うかしら?)
 その一方、藤木はリリィと掃除ができる事に喜びを感じ続けていた。
(リリィと一緒に掃除できるなんて・・・。こんな良い事あるのかな?)
「藤木君」
「な、永沢君!?」
 永沢が不意に呼び掛けてきた。
「君、何ニヤニヤしているんだい?」
「あ、いや、何でもないさ!」
「兎に角、ボーっとしないでくれよ」
 藤木はリリィの事ばかり考えていた為に箒で掃いている自分の手が止まってしまっていた。
「う、うん!」
 藤木は我に返り、掃除を再開した。

 掃除は終わった。リリィが手伝った頃で掃除係はいつもより掃除が(はかど)ったとかなり上機嫌だったそうだ。
「藤木君、お疲れ様」
 藤木は赤面しながら答える。
「あ、ありがとう・・・。それじゃあ、一緒に行こうか」
「でも藤木君、そのまま家に帰らずに直行して大丈夫なの?」
「うん、両親は共働きで夜遅くまで帰ってこないからね」
「そうなんだ・・・。お父さんもお母さんも大変ね」
「う、うん・・・」
 2人はリリィの家に到着した。
「ただいま~」
「お邪魔します」
「お帰り、あら、あなたは確か藤木君ね」
 リリィの母親が出迎えた。
「はい、こんにちは」
「まあ、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
 藤木はダイニングへと通された。そこへケーキと紅茶をご馳走になった。ケーキは生クリームが塗られており、ショートケーキのようだったが、苺ではなく、ブルーベリーが乗っていた。
「うわ、このケーキ美味しいですね」
「うん、ママの好きな製造者(メーカー)のケーキなの。他のケーキや焼き菓子もあるわよ」
「へえ、いいね。羨ましいよ。ウチじゃこんな美味しいもの食べられないからね」
「この紅茶も美味しいですね」
「それは三重県で栽培された伊勢紅茶よ。ストレートのままでもミルクを入れても美味しいのよ」
 リリィの母が答えた。
「へえ、日本にも紅茶を生産しているんですね」
「ええ、静岡県もお茶が有名でしょ。緑茶にして飲む人が殆どだけど、紅茶にしても美味しいのよ」
「へえ、静岡県生まれなのに初めて知りました」
 紅茶を飲み終え、ケーキを食べ終わった。
「藤木君、私、藤木君に見せたいものがあるの。私の部屋に来てくれるかしら?」
「うん、ありがとう」
 藤木はリリィに彼女の部屋へ連れて行ってもらった。
「藤木君、私が初めてあなたと会ったとき覚えてる?」
「あ、うん、僕は花輪クンの別荘のビーチで貝殻を拾っていたんだ。そしたら君がやって来たんだったね」
「そう、そして営火(キャンプファイヤー)の夜にまた会ったとき、あなたは私に貝殻をプレゼントしてくれたわよね」
 リリィはそう言って机に置いてある瓶を持ってきた。その中にはあの時、藤木がリリィにあげた貝殻が入っていたのだった。
「名前は忘れていたけどこの貝殻をくれたあなたの顔はしっかりと覚えていたの。そしてこの貝殻もずっと宝物として大切にしていたのよ」
「そうだったんだ・・・」
 藤木はこの貝殻を思い出して嬉し涙を流してしまいそうになった。
「リリィ・・・、大切にしてくれて、ありがとう・・・」
「藤木君も私のことを覚えていてくれてありがとう」 
「うん、でも花輪クンじゃなくて、がっかりしたんじゃないのかい?それに僕は卑怯だし・・・」
「卑怯?そんなことないわよ。昨日私のために必死で庇ってくれたんだもん、嬉しかったわ。確かに花輪クンも素敵だけど貴方も優しいところ、あるのね」
「リリィ・・・」
 藤木は嬉し泣きしてしまった。なぜなら一度消えた恋が蘇ったのだから。

 花輪家では花輪が紅茶を一杯飲んでいた。
(リリィクン、きっと藤木クンと楽しい一時(ひととき)を過ごしているのかな・・・)
 そして花輪は思う。
(藤木クンも良かったじゃないか。想い人とまた会えたんだから・・・)

 リリィは瓶の貝殻を見る。
(藤木君、私、今度はもう藤木君の事、忘れないわ・・・)
 リリィはラブレターの件で彼の名前を忘れてしまった事を反省すると共に、藤木に対して他の友達とはまた異なった想いを抱くのであった。

 藤木はその後、お土産にリリィの母からパウンドケーキを貰って家に帰った。藤木は帰りながら思う。
(僕がリリィに貝殻をあげた事は無駄にはならなかったんだ・・・。ありがとう、リリィ。僕は君とまた会えたことを嬉しく思うよ・・・)
 藤木はリリィに心の中で感謝するのであった。 
 

 
後書き
次回:「招待」
 3年4組の卑怯者・藤木茂。彼は2人の女子に恋する男子であるが、そんな彼に恋する女子もいた。その女子の名は吉川みどりと言った・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

7 招待

 
前書き
 今回からまる子の友人で藤木に好意を寄せる、みどりちゃんが登場します。 

 
 藤木はある朝の登校中、前にリリィがいるのを見つけた。
「あ、リリィ、おはよう」
「藤木君、おはよう」
 リリィも笑顔で挨拶を返した。
「あのさ、日本の小学生ってこのランドセルを背負って登校するのね。イギリスではそういうことなかったから日本人らしく感じるわ」
「へえ、そうなんだ。ランドセルって日本特有なんだね」
 藤木は日本固有の特徴を改めて学んだ瞬間と感じた。そして後ろから・・・。
「やあ、おはよう、藤木君」
「ああ、山根君」
 クラスメイトの山根強だった。
「藤木君、リリィともうそんなに仲良しになったんだね。君が羨ましいよ」
「え、そうかな。そういえば、山根君はリリィとはあまり話してはいないんだよね」
「ええっと、山根君だったね。それじゃあ、3人で行こう、いいよね、藤木君?」
「え、あ、うん・・・」
 藤木は心底ではリリィと2人きりで行きたいと考えていた。
(僕だけのリリィが・・・、リリィが山根君を好きになったらどうしよう・・・)
 藤木は勝手な不安を感じてしまった。

 休み時間、藤木はクラスメイトの「まる子」ことさくらももこから声をかけられた。
「あのさあ、藤木」
「さくらか、何だい?」
「今日うちにみどりちゃんが遊びに来るんだけどさ、藤木にも会いたいと言っていたんだ。アタシんちに遊びに来てくれない?」
「ええ、あのみどりちゃんがかい?」
 藤木は思い出したかのように驚いた。みどりちゃんとは、まる子の祖父の友人の孫で、藤木達とは別の小学校に通う女子、吉川みどりの事だった。彼女は藤木に好意を寄せているのだ。
「うん、アンタ今日これといった用事ないでしょ~?」
「ああ、そうだけど・・・」
「もし来なかったらアンタまた卑怯ということになるからね。待っているからね」
「う・・・、分かったよ」
 やや脅迫まがいの誘いに藤木はやむなく承諾してしまった。自分の代名詞であり、弱みでもあり、悩みでもある「卑怯」と言う言葉に動揺されて。

 後でまる子から聞いた話ではあるが、みどりが藤木を好きになったのは、学校のスケート教室でたまたま藤木達の学校とみどりの学校が同じ日であり、滑り転びそうになったみどりを藤木が助けたことが始まりだった。そして、上手に滑る藤木にみどりが見惚れてしまい、みどりはまる子によって自分と引き合わせてもらい、バレンタインデーにチョコレートとマフラーをプレゼントしたのだ。

(僕に会いたいって一体何がしたいんだろう・・・)
 藤木は気になって今日一日中そのことを気にしていた。給食の時間もそれで元気がなさそうにしていた。
「藤木君、君どうかしたのかい?」
 永沢が尋ねた。
「え、何でもないさ!」
 藤木は慌ててごまかした。
「君全然給食食べてないからね、食欲ないのかい?」
 と、その時・・・。
「おう、藤木、お前食う気がねえのか??なら俺が食ってやろうか??」
 食い意地のはった男子、小杉太が急に現れた。
「い、いや、結構だよ!」
 藤木は慌てて給食に手をつけた。
 
 放課後になった。
「そんじゃ藤木、待ってるよ~」
 まる子がそう藤木に声かけて去っていった。
「あ、うん・・・」
 藤木は教材をランドセルにしまい、家に帰ろうとした。
 
 家に帰り、ランドセルを置いて、藤木はさくら家に赴いた。藤木は複雑な気分になっていた。
(僕はみどりちゃんから好かれているけど、僕は笹山さんとリリィが好きなんだ。でもそれをみどりちゃんに伝える勇気がないしな。それを言わないのも卑怯かもしれないけど、言ってしまえばみどりちゃんを悲しませてしまうかもしれない。そうしたら女の子を泣かせたとしてどのみち卑怯呼ばわりされるよな・・・)
 さくら家に到着した。藤木は玄関の戸を開けた。
「こんにちは。藤木です」
「あら、いらっしゃい、藤木君。みどりちゃんも来てるわよ」
 年上の女性が出迎えた。まる子の姉であった。まる子の姉に連れられて藤木は居間に入った。
「ああ、藤木」
 まる子が藤木を見て言った。もちろん、みどりもいる。そしてまる子の祖父もその場にいた。
「藤木さん、どうもご無沙汰しております」
 みどりが挨拶をした。礼儀作法の稽古でもつけられたかのような畏まった口調と態度だった。それが彼女の特徴でもあるのだが。
「やあ、みどりちゃん、久しぶりだね」
 藤木も挨拶を返した。
(それにしても一体何の用があるというんだろう・・・?)
 藤木はみどりが何を意図しているのか疑問に思っていた。
 藤木は緑茶と饅頭(まんじゅう)をご馳走になっている時、みどりが照れくさそうに話しだした。
「あ・・・あの・・・まる子さん、藤木さん・・・」
 みどりは非常に緊張している様子だった。
「何だい?」
 藤木が聞いた。
「恥ずかしがらずに言いなよ」
 まる子も催促する。
「まあ、まあ、みどりちゃん、みどりちゃんのおじいちゃんとわしは知っているからわしが言おうか?」
 まる子の祖父が言った。しかし、みどりは「いえ、自分の口から言います」と言った。
「あの、私のおじいちゃんが今度の日曜、デパートに連れて行ってくれて、そしたらまる子さんとまる子さんのおじいさんも一緒に行こうかと誘ってくれたんです。他に友達を誘ってもいいか聞いたらいいと仰っていたので、是非藤木さんにもおいでいただけたらなあって思いまして・・・」
 藤木は返答に詰まってしまい、困惑した。まる子と密かに相談した。
「さくら、どうしよう?」
「みどりちゃんの誘いとなると断ったらまた大泣きするからねえ、もう行くしかないよ」
「そんな・・・」
 藤木は暗い顔をした。その顔を見てみどりは哀しみをすぐ表してしまった。
「そ、そんな・・・ぐす・・・、やっぱり急に誘ってやっぱりご迷惑でしたでしょうか・・・?」
 みどりは半べそとなった。まる子と藤木はさすがにこれは断ったらまずいと思った。
「いや、そんなことないって、行けるよね?藤木?」
「う、うん、日曜は特に用はないから大丈夫だよ!!」
「そうですか、ありがとうございます!」
 みどりは泣き止んだ。藤木もまる子もやれやれと心の中で思った。
「あ、そうだ、お姉ちゃんも行かない?大勢で行けばきっと楽しいよ!」
 まる子は自分の姉に振った。
「残念でした。私はよし子さんたちと映画を見る約束あるんで」
 まる子の姉はあっさり断った。
「それじゃあ、五人で決定じゃな」
「ありがとうございます、まる子さん、藤木さん」
 みどりは今度は嬉し涙のようだった。藤木は作り笑いをしていたが、心の中では溜め息だった。
(やれやれ、結局行くことにしちゃったよ・・・)
 こうして日曜の予定が決まったところで藤木は家に帰ることになった。

 夜となり、両親が帰って来ていた。藤木は既に寝る時間であったが、日曜に予定が入ったことを伝えなければならない。
「あの・・・父さん、母さん」
「何だい、茂」
 父が応答した。
「今度の日曜、さくらたちとデパートに行く約束だけど、行っても大丈夫かな?」
「あら、いいじゃない、行ってきなさい、さくらさんに迷惑かけるんじゃないよ」
 母が承諾した。
「でも、何か乗り気がしなくて・・・、やっぱり断ろうかなと思って・・・」
 ところが、父が「は?何言ってんだお前は」と藤木を睨んだ。
 母も顔を変えた。
「何を考えているんだね、約束したんでしょ、なのに後で断るなんてどういう事よ!?だからアンタは卑怯って言われんのよ!」
 藤木は凍り付いた。親にまで「卑怯」と呼ばれる羽目になってしまった。行くしか選択肢がなく、仕方ないと思う藤木であった。 
 

 
後書き
次回:「百貨店(デパート)
 まる子とみどり、そしてそれぞれの祖父と5人でデパートに行くことになった藤木。藤木は複雑な思いを持ちながらも店内を楽しむが、彼らはとんでもない事に遭遇する・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
 

 

8 百貨店(デパート)

 
前書き
 藤木はまる子、みどりと共にデパートに行くことになった。一度は断ろうと考えたが、親に叱られたために、気が重くなるのであった・・・。

 それにしても、みどりちゃんのおじいちゃんってアニメ本編にはあまり出てきませんね・・・。友蔵の友人とは聞きますが、中野さん程の親しさではないのでしょうか? 

 
 藤木は頭の中でボーっとしていた。何しろ明日は日曜日。みどりやまる子達とデパートに行くことになっていたのだから。と、その時・・・。
「藤木君?」
「はい!?」
 担任の戸川先生が藤木の名を呼んだ。
「次の文章を音読してくれますか?」
「はい・・・、えっとどこでしたっけ?」
「藤木君、授業中はボーっとしないでくださいね」
 藤木は恥ずかしくなった。クラスは今国語の授業中だったのだ。
 
 下校時刻となった。藤木は明日が一刻一刻と迫ってきており、胸騒ぎが抑えられなかった。
「藤木君、バイバイ」
 リリィが笑顔で藤木に別れを告げた。
「あ、またね・・・」
 藤木も挨拶を返した。
(もしリリィに僕がみどりちゃんに好かれているって知ったらどういう反応を示すんだろう・・・)
 藤木はリリィの後ろ姿を見て思った。
「藤木君、君もしかして何か心配事でもあるのかい?」
 永沢が聞いてきた。
「いや、そんなことないさ!」
「でも君、授業中も何かを気にしているようで集中できていなかったじゃないか」
「いや、その、疲れていたんだよ」
「君まさか、笹山にリリィとクラスに好きな人が二人もいてどっちを取るか迷っていたんじゃないのかい?」
「君は何を言っているんだい?僕が授業中までそんな事考えるわけないじゃないか!」
 藤木は永沢の質問に困惑した。
「とにかく、僕は帰るよ」
「あ、おい、藤木君!」
 早歩きで教室を出て行った藤木を永沢はただ呆然と見送るしかなかった。と、その時、後ろから怒鳴り声が永沢を呼ぶ。
「永沢っ!あんたまた藤木に嫌なこと言ったんでしょっ!?」
 城ヶ崎姫子だった。永沢と城ヶ崎はお互い犬猿の仲であるのだ。
「じょ、城ヶ崎!いきなりなんてことを言うんだ!僕は藤木君が今日ボーっとしていた理由を聞いただけだぞ!」
「じゃあ、なんで藤木が早足で教室出て行ったのよっ!」
「藤木君が急に出て行ったんだ!僕の知ったこっちゃじゃない!」
「そう、でもあんた言葉に気を付けなさいよっ!あんたは嫌味ばかり言うんだからっ!!」
 そう吐いて城ヶ崎はその場を離れた。
「ふん、余計なお世話だ!」
 永沢も城ヶ崎の後ろ姿に向かって怒鳴った。そして怒りながら自分も教室を出て行った。
(ああ、嫌な奴、嫌な奴、嫌な奴!!)
 なおこの様子を一人の女子・野口笑子が傍観していた。
「クックック・・・」

 翌朝、藤木は学校に行く日と変わらない時間に起きた。
(はあ、今日か)
 朝の支度を終え、藤木は出かけた。
「楽しんでいってらっしゃいね」
「うん」
「茂~、お土産楽しみにしているぞ!」
「ちょ、父さん、僕そんなにお金はないよ・・・」
「ああ、心配すんな。ほれ、3000円だ。落としたり、失くしたりすなよ」
 藤木の父は息子に金を渡した。藤木はそれを財布にしまった。
「うん、じゃ、行ってきます」
 藤木は待ち合わせの清水駅へ向かった。と、歩いている途中、父の言葉を思い出した。
(お土産か・・・)
 藤木はお土産という言葉で何かいいことを思いついたようだった。

 清水駅にはまる子とその祖父、そしてみどりとその祖父がいた。
「やあ、さくら、みどりちゃん」
 藤木はそれぞれの祖父にも挨拶した。
「こんにちは」
 みどりの祖父が言った。
「やあ、君が藤木君かい。ウチの孫がお世話になっているよ。みどりもいい友達がいてよかったじゃないか」
「はい、おじいちゃん。藤木さんは私の大切な友達の一人ですから」
「この子は、学校に友達がいないからね、君がみどりの友達になってくれて本当に嬉しいよ」
「あ、はい・・・」
 藤木はいつもはみどりの恋を半分迷惑がっていたものの、彼女が学校で友達がいないという事を知り、この時は流石に哀れに思ってしまった。
「それでは吉川さん、そろそろ行こうかの」
 まる子の祖父が催促した。
「そうですね」
 五人は電車で静岡駅へと向かった。
(う、嬉しい・・・。藤木さんとデートなんて・・・)
 みどりは電車の中で喜ばしく感じていた。実際はまる子や祖父たちもいるのでデートではないが。
「どうしたんだい?」
 藤木はみどりがニヤニヤしているのを見て気になった。
「いえ、何でも・・・」
 みどりはさらに照れてしまった。

 静岡駅前のデパートに到着した。
 まずは地下1階の食品が連なるところを散策した。
「うわあ、いろいろあるねえ!お、フルーツゼリーだってさ、おじいちゃん、これお土産にしようよ!」
「はは、そうじゃのう」
 まる子は祖父に甘えていた。一方みどりは藤木と歩くだけで感心しているようだった。
(藤木さんとこうして一緒に歩くなんてまさにこれは至福の時・・・)
「みどり、何か買ってほしいものはないのかい?うちへのお土産に何か買おうじゃないか」
「あ、そうですわね、おじいちゃん・・・」
(さて、僕はどうしようかな・・・)
 そのころ、和菓子のコーナーに立ち止まってどら焼きが目に入った。つぶあん、こしあんそれぞれ6個入り、合計12個で定価は1030円。
(よし、これを父さんと母さんへのお土産にしよう!)
 藤木はどら焼きを購入した。
(まだ残りはあるからリリィと笹山さんへのお土産を買おう)
 藤木は父の言葉で笹山とリリィにお土産を買うことを計画していたのだった。
「お、藤木どら焼きかったの~?」
「うん、これは父さんと母さんのお土産にと思ってね」
「おお、アンタ親孝行しているね~」
 これを見てみどりはうっとりしていた。
(藤木さんってお父様とお母様のためにお土産を・・・、家族思いなのね・・・)
 
 1階の雑貨では化粧品コーナーでまる子とみどりは自分もこんな道具を持って化粧がしたいと話していたり、2階の婦人服のフロアでは二人はマネキンに着せられている服一式を見てあんなの来てみたいと話していたり(なおみどりはここで祖父からきれいなブラウスとワンピースを買ってもらっていた)、3階の紳士服のフロアではみどりがスーツを見てもし藤木がこれを着ればと妄想していたりとしていた。4階の書籍のコーナーにおいては、まる子が新発売の雑誌を祖父から買ってもらっていた。その時、藤木は好きな女子2人へのお土産をどうしようか考えていた。
(さて、どうしようか、二人とも普段から高級なお菓子を食べていそうなイメージだからデパートの贈り物用のお菓子なんてきっと珍しくはないだろうな・・・。別のにしよう)
 かといって自分の持ち金ではアクセサリーや服など買えるわけがなかった。
 と、その時藤木は本屋のフロアには文房具の販売のコーナーも併設していることに気付いた。
(文房具なら何とかなる・・・)
 藤木は文具の方へ向かった。
 いろいろな文具があって何を買うかでまた迷ってしまった。でも藤木はそれぞれの文具の多様性(バリエーション)の豊富さに驚き、探し買いがあるとも感じた。
 その時藤木が見たものは、ケーキの形をした消しゴムのセットだった。ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ、シュークリーム、モンブラン、ロールケーキの形がそれぞれ箱に入っていた。
(そいえば笹山さん、お菓子作りが好きとか言ってたな、興味持ってくれるかもしれない)
 藤木は笹山へのお土産を決めた。次はリリィへのお土産をどうするか迷った。と、その時・・・。
 赤、青、黄、緑、橙、紫の6色の蛍光ペンを発見した。
(よし、これを買ってみよう!)
 藤木はレジに向かった。そして、文具を買った特典として、図書券500円分が貰えたのだ。
(図書券だって!?こんなラッキーなことがあるなんて!これで漫画を買おうかな?いや、待て、これもリリィにあげよう!)
 藤木は気分が高揚した。デパートに行ってよかったと改めて感じた瞬間だった。藤木はまる子たちと再合流した。
「藤木、文房具って何買ったの?」
 藤木は一瞬頭の中で何かとんでもないことが起きそうな気がしていた。
(これで本当のことがバレたらみどりちゃんをまた泣かすことになるぞ!)
「あ、ちょっと自分のエンピツや消しゴムとかが足りなくなっていたから買ってきたのさ。ただそれだけだよ。ははは・・・」
「そういえば藤木君、今日の文房具屋は買った人には図書券が貰える特別サービスがあるんじゃが、貰えたかな?」
 まる子の祖父が聞いてきた。
「はい、貰えました!」
「図書券ですか?私も何か買っていかないと、まる子さん、こんなチャンス逃すわけにはいきませんね!!」
「よし、行こう!!」
(ははは、バレずに済んだ)
 藤木は安堵した。

 5階に上がると、そこはゲームセンターとなっていた。
「わあお、こりゃ凄いや、遊ぼうか、みどりちゃん!」
「はい、藤木さんも是非・・・」
「あ、うん、もちろん・・・」
 3人は何のゲームで遊ぶか迷った時・・・。
「おい、あれは吉川じゃね?」
「おい、吉川!何やってんだ!?」
 二人組の見知らぬ男子がみどりを名字で呼んだ。
「う・・・」
 みどりの顔が暗くなった。
「みどりちゃん、誰?」
 まる子が聞いた。
「私のクラスの・・・男子です」
「えっ!?」
 まる子も藤木も驚いた。みどりのクラスメイトの男子2人が迫る。
「おい、お前友達いないはずだろ!?」
「よその学校の奴か!?」
「自分の学校で友達作れなくて違う学校の生徒に友達になってもらってるって情けねえな!」
 二人組の男子がアハハと笑いだす。みどりが泣き出す。二人組の男子を睨む藤木とまる子。そして・・・。
「君達、いい加減にしろ!よってたかって女の子を馬鹿にして泣かすなんて君達は卑怯だぞ!!」
 藤木が怒りだした。  
 

 
後書き
次回:「空気杖球(エアホッケー)
 みどりをからかう男子2名に自分の汚名を浴びせた藤木。その男子達と決着をつけるべく、エアホッケーで対決する事になる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

9 空気杖球(エアホッケー)

 
前書き
 まる子とその祖父、みどりとその祖父と共にデパートに行くことになった藤木。そんな時、みどりのクラスメイトと遭遇し、みどりをいじめるその2人組の男子に藤木がキレた!! 

 
「よってたかって女の子を馬鹿にして泣かすなんて君達は卑怯だぞ!!」
 藤木はみどりをからかう男子2人に自身の汚名を浴びせた。2人組の男子は驚いた。まる子も、みどりも、それを見ていたまる子の祖父も、みどりの祖父も。
「何だお前は?」
「僕達はみどりちゃんの友達だ。ここで何をしたって別に君達には関係ないだろう?」
 藤木は自分でも何を言っているんだと思いながらもみどりを庇おうとした。
(藤木さん・・・)
 みどりは照れていた。
「へえ、こいつを庇うってことはお前もしかして吉川のこと好きなんじゃないのか?」
 藤木は顔が赤くなり、ぎくっと背筋が凍り付いた。
「う、そんなことはどうでもいい!とにかく君達はしつこいぞ!」
「そうだね、行こう、みどりちゃん」
 藤木は去ろうとした。まる子もみどりを連れてその場を去ろうとする。
「おい、待てよ。逃げるのか?人を卑怯と言っておきながら言いたいこと言って去るのか?お前も卑怯じゃないか」
 一人の男子が皆の後ろ姿を見て文句を言った。藤木が自分の代名詞でもある「卑怯」という言葉を言われて動揺する。
「じゃ、じゃあ、どうしろと言うんだい?」
「そうだな・・・。あのエアホッケーで勝負しようじゃないか。お前らが勝ったら俺たちはもう吉川をからかわないと誓ってやる。ただしお前が負けたら、お前が俺たちに何かおごれ!」
(どうする、大変なことになってしまったな・・・、でもここで逃げたら僕は本当の卑怯者だ。なら、卑怯じゃないとこ見せてやるまでだ!)
「わかった、いいとも」
 藤木は承知した。
「藤木、私もやるよ」
 まる子も参戦しようとした。しかし、みどりがまる子を制止しようとする。
「いえ、まる子さん、ここは私が行きます」
「みどりちゃん!?」
「藤木さんが私を庇ってくれましたし、それにこれは私自身の問題ですから・・・」
「そうか、藤木、あんた最後までみどりちゃんを守るんだよ!負けたら承知しないよ!」
「あ、うん・・・、分かったよ」
 そしてその様子を見ていたまる子の祖父とみどりの祖父がお互いを向き合った。
「やれやれ、困りましたな、吉川さん」
「ええ、こうなったら私たちも応援するしかありませんね」
 まる子の祖父が動く。
「ならわしが審判をやろう。ゲーム代はわしが出してあげるよ」
「サンキュー、じいさん」
「ふん、俺達が勝つもんねー!」
 藤木とみどりは挑発に乗った。
「臨むところだ!」
(藤木さんと愛のコンビ、絶対に負けられない!)
 みどりは藤木とゲームできる事に喜びを感じていた。

 こうしてみどりのクラスメイトの男子2名のペアと藤木・みどりのペアのダブル対決となった。
「この10分でどっちかが先に15点取るか、でなきゃ制限時間で多く点を取った方が勝ちだ。いいな?」
「ああ、もちろん」
 こうしてゲームが開始した。
 台の真ん中に設置しているパックの口からパックが現れた。藤木がマレットで弾こうとする。が、相手のマレットが先だった。そのスマッシュにみどりは追いつけず、先制された。
「ふん、こりゃ楽勝だな」
「まだ勝負はこれからだ!」
 次のパックが出てきた。が、また先を越された。しかし、今度は藤木は守りに着くことを考えてゴールを何とか回避した。それをみどりが相手のゴールへと弾こうとする。しかし、簡単に守られた。
 みどりがもう一度狙う。が、これも失敗。そのパックを打ち返される。2点目を取られた。みどりが涙目になった。
「みどりちゃん、泣くなよ。泣くならこれが終わってからにしてくれ。あきらめちゃダメだ!」
「藤木さん・・・はい!」
 その時藤木はどうすれば勝てるか考えた。
(そうだ、身長は僕の方が高い・・・)
 パックが出てきた。藤木は先手を取るために腕を伸ばし、思いっきり背中を倒した。成功した。パックは弾かれた勢いでテーブルの端にぶつかり、さらなる勢いで相手のゴールを襲った。
 1点を返した。
「すごい、藤木さん」
 みどりは見とれた。次のパックは先に取られたが、上手くゴールを守り抜き、2点目を入れ、同点とした。
 次は藤木が先制したが、ブロックされ、激しい攻守の中、相手に3点目を許してしまった。
 そして、次は相手に先制され、相手のスマッシュが勢いよくゴールへと入りそうになる。みどりは必死にそれを弾いた。それを大きく端にあたり、もう片方の相手が必死に弾き返そうとするもマレットに当たっただけでゴールに入って再び同点となった。
 藤木とみどりの息が次第に会ってきていると、観戦しているまる子は思った。
 次は藤木のスマッシュでついに藤木・みどり側が4点目と勝ち越した。
 相手に焦りが見えてきた。次は相手も先制しようと焦って、先にみどりのマレットがパックを横に逸らした。これが藤木へのパスにつながり、辛うじてもう片方の男子が最初はゴールはブロックできたものの、藤木2回目のスマッシュで5点目を献上した。
 次は相手の得点を許したが、その次は藤木の強力なスマッシュがゴールを命中。さらにその次はみどりがゴールを決めた。
 藤木・みどりペアの怒涛の勢いで8点目、9点目を挙げた。残り時間が半分を切った。
 次はみどりのミスで相手チームの5点目を挙げてしまった。
「ごめんなさい、藤木さん」
「いいよ、まだ勝ってるんだから」
「はい」
 このときの藤木がまる子には頼もしく見えた。
 藤木は長身を活かしてパックを奪い、相手に渡すまいとそれをみどりにパスした。それをみどりが相手ゴールに向かって弾く。が、ブロックされる。いただきと相手は思ったが、これもまた藤木が受けとめ、相手のゴールに入り、10点目が入った。
 次は藤木のスマッシュを弾いたところでみどりの追撃で11点目を入れる。そして次は相手のゴールを献上するも、そのまた次は藤木の攻撃で12点目を陥れることに成功した。
(・・・あと3点取れば勝てる!)
 藤木はかなり熱くなっていた。
(藤木、今のアンタは全然卑怯じゃないよ)
 まる子はそう思いながら観戦していた。
 次は敵に7点目を献上してしまった。だが、藤木もみどりも取られたゴールを気にすることはなく、寧ろ先を見ていた。
 藤木がパックを奪い取る。が、辛うじて奪ったためにスマッシュに勢いがなく、簡単に弾き返された。藤木がそれを素早く受け止める。そしてゴールへと突っ込んだ。またブロックされる。が、みどりもまたゴールを阻止して迎撃に成功、13点目を挙げた。
「あと2分じゃ!」
 審判役のまる子の祖父が告げた。
 残り時間が2分を切る。13対7とリードを広げる結果にはなっているが、藤木は何とか逃げ切らなければと考えていた。
 藤木が先制に成功。端にぶつけて相手のゴールを狙う方法で14点目。あと1点となった。
「くっそ、おい、やべえぞ」
「一気に8点取るしかねえな」
「やれるもんならやってみろ」
 相手も巻き返そうとする。その勢いに押されたのか、8点目、9点目と許し、点差を5点に縮められた。
「藤木さん・・・」
「あと1点取って、このままゴールを守り抜けばいいんだ。その気持ちがあればきっとできる!」
「はい!」
 みどりは藤木が言った勝つ方法2つのことのみを考えるようにした。次のパック、相手に先制を取られたがみどりが必死に守った。パックが相手の陣地に渡り、そのスマッシュで藤木たちのゴールが襲われる・・・。が、それを藤木が見事にブロック。それを相手の方に打ち返す。このままでは不利だ、と藤木は感じた。その時、さらに打ち返されたパックをみどりがまた打ち返す。さらに打ち返したパックがさらなる勢いで端に当たり、相手のゴールにめがける。

 相手は弾き返しに失敗した。みどりのカウンター・スマッシュが決着を着けるゴールを決めた。
「うむ、この試合、藤木君・みどりちゃんペアの勝ちじゃ!」
「やったね、みどりちゃん!」
「はい、藤木さんのおかげです!」
「いや、みどりちゃんが最後を決めてくれたんだよ」
「くそ!俺たちが負けるなんて」
「絶対マグレだ!」
「マグレでも結果は結果だよ」
 藤木が勝ち誇った笑顔で言う。そして威勢よくこう言った。
「約束だ。もう二度とみどりちゃんをからかわないと誓うか!?」
「分かったよ。誓うよ。覚えてろっ!」
 気に食わぬ顔してみどりのクラスメイトたちはその場を去った。
「やったね、みどりちゃん、藤木!」
 まる子が賞賛した。同じく見ていたみどりの祖父も二人の活躍を喜んでいた。
「藤木君、かっこよかったよ。みどり、いい友達を持ったじゃないか」
「はい、おじいちゃん」
 藤木は自分の手でみどりを守ったんだなと、改めて感じた。
「藤木、アンタやるじゃん。今のアンタはヒーローだよ!」
「え!?ありがとう、さくら・・・」
 まる子が藤木の背中を叩いて褒めた。
「ふう、真剣になってお腹が空きました」
「なら上の階のレストランに行こうかの」
 まる子の祖父が提案した。
「賛成!」
 まる子が元気よく言った。こうして一行は6階のレストランへと向かった。 
 

 
後書き
次回:「土産」
 デパートを満喫した藤木は翌日、リリィと笹山にお土産を渡そうとする。その時、二人が示す反応はいかなるものなのか・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

10 土産

 
前書き
 みどりをいじめる男子2名をエアホッケーで打ち負かした藤木。彼は卑怯者を超えてみどりの最高の友人で英雄(ヒーロー)となったのだった・・・。
 

 
 一行は6階の飲食店のフロアに到着した。
「実はな、この日にデパートに行きたかった理由がここのレストランなのじゃよ!のお、吉川さん」
「はい、このレストランではいま日本各地の料理を扱った定食が期間限定で食べられるからね」
「へえ~すごいね!」
「はい!」
 こうして一行は期間限定メニューを取り扱ったレストランに入った。

 ウエイトレスに席を案内され、静岡の街並みが見える窓側のテーブルに5人は着いた。 
 メニューを見てみると、いろいろなメニューがあった。北海道定食、東北定食、関東定食、甲信越定食、東海定食、北陸定食、近畿定食、中国定食、四国定食、九州定食、沖縄定食・・・。どれも日本各地の名物を地方別に楽しめる献立となっている。
「どれにするか迷うな・・・」
 藤木は迷っていた。
「藤木さんはどれになさいますか?」
 みどりが聞いてきた。
「そうだなあ・・・、この東北定食にしてみようかな」
「そうですか、私も藤木さんと同じものにします!」
「いや、無理して同じものにしなくても・・・」
「いえ、私藤木さんが選んだものならきっと美味しいと思いまして、それに私はなかなか選べませんでしたから・・・」
 みどりが照れながら言った。
(みどりちゃん、そこまで藤木と合わせなくても・・・)
 まる子がみどりの藤木への好きだらけに少し苦い顔をした。
 まる子は近畿定食、まる子の祖父は沖縄定食、みどりの祖父は北海道定食に決めた。

 東北定食は宮城県のはらこ飯、青森県のねりこみ、秋田県のいぶりがっこ、福島県のウニの貝焼き、そして山形県の柚餅子(ゆべし)、岩手県の江刺りんごから搾り取ったジュースであった。
「こりゃどれも美味しいや!」
「本当です。私もこれを選んで本当に良かったです!」
「近畿も美味いよ~、大阪のたこ焼きなんかついてるし、鮒寿司も結構いけるよ~」
「沖縄もええぞ。ゴーヤーチャンプル、ソーキそば、シークワーサーのジュースも美味いぞい!」
「北海道だって、石狩汁、室蘭やきとり、美味しいよ。このホオノキの茶はアイヌ民族の飲み物だとさ」
 こうして5人は食事を楽しんだ。
 その後はまた5階のゲームセンターで遊んだ。みどりをからかった男子たちはいなかったので、楽しく遊ぶことができた。負けるとすぐに泣いてしまうみどりを藤木とまる子はかなり気を使わなければならなかったが。

 こうして夕方になり、一行は清水へと戻ってきた。藤木たちがみどりとその祖父の別れの挨拶の時だった。
「まる子さん、藤木さん、今日は本当にありがとうございました」
「うん、気を付けて帰ってね、みどりちゃん」
「みどりちゃん、バイバイ~」
「ええ、またお会いしましょう」
 みどりは礼儀正しくお辞儀をして祖父と共に帰った。そして途中でまる子たちとも別れ、藤木は家に着いた。

「ただいま」 
「お帰り、茂」
 母が出迎えた。
「あ、お土産にこれ買ってきたんだ」
「どれどれ、へえ、どら焼きじゃない、いいの買ったわね、父さんもきっと喜ぶわ」
 そして父も、「こりゃ美味そうじゃないか」と言ってくれた。
 藤木家は夕食の後、そのどら焼きを食べることにした。父は粒餡、母と息子は漉し餡を食べ、その味はかなりのモノだった。

 翌日、藤木は学校へ行く準備をした。笹山とリリィに渡すお土産をランドセルに入れて。
「行ってきます」
 藤木は張り切って学校に行った。
 教室に入ったときにはまだ二人とも来ていなかった。藤木は例のモノは机の中にしまった。
 その時、永沢が教室に入ってきた。
「やあ、藤木君、おはよう」
「あ、永沢君、おはよう」
 藤木は挨拶を返した。永沢に自分がプレゼントをあげる姿を見られると何か冷やかされるかもしれない、と不安を感じた。
「藤木君、君もしかして、僕に何か見つかるとまずいものがあるんじゃないのかい?」
「え!?!」
 あっさりと感づかれた。
「そんなことないよ!」
「ふうん」
 そんな時、笹山が入ってきた。
(笹山さんが来た!)
 藤木は永沢を気にせず、机の中からお土産を持って思い切って笹山のところへ向かった。
「笹山さん!」
「あ、藤木君、おはよう、どうしたの?」
「あの、昨日デパートに行って来てね、これ買ってきたんだ」
 藤木は紙袋の中からあの消しゴムセットを取り出し、笹山に差し出した。
「うわあ、これケーキの形をした消しゴム!?」
「うん、笹山さん、お菓子好きかなって思って・・・」
「ありがとう、嬉しいわ」
 笹山は笑顔でお礼を言った。と、その時・・・。
「何!?ケーキだって!?おい、藤木、俺にも食わせてくれよ!!」
 小杉がいきなり飛び込んできた。
「違うよ、ケーキじゃないよ、小杉君!」
「そうよ、これはケーキの形の消しゴムよ!」
「ちぇ、ケーキが食えると思ったのになあ。でも上手そうだな、くれよ」
「これは君にじゃなくて、笹山さんにあげたものだよ」
「そうよ、折角藤木君がくれたんだもん」
「そういうこと言わずにさあ」
 図々しい態度に永沢が出てきた。
「小杉君、そんなに欲しかったら君も同じのを買えばいいじゃないか。横取りしたら君は泥棒だぞ。藤木君よりもずっと卑怯だぞ」
 永沢が小杉を睨む。
「ちぇ、分かったよ」
 小杉は残念そうに去った。
「あ、ありがとう、永沢君」
 藤木が永沢に礼を言った。
「別に僕は君を助けようと思ったんじゃないよ」
「え・・・?」
 永沢はそう言って去った。
「藤木君、ありがとうね」
「うん・・・」
(笹山さんが喜んでくれている・・・。良かったなあ)
 藤木は1人への土産渡しを完了させた。
 藤木は自分の席に戻り、リリィを待った。その時、永沢がまた声をかけた。
「藤木君、君はもしかしてリリィを待っているんじゃないのかい!?」
「え、いや、そんなことないよ!!」
 その時、リリィが学校に入ってきた。途中で合流したのか、まる子にたまえと一緒だった。
「あ、リリィ・・・」
「藤木君、おはよう、どうしたの?」
 リリィが挨拶と共に聞いてきた。
「あの、これ・・・、昨日デパートに行って買ってきたんだ。そしたらおまけに図書券も貰えてね」
 藤木はリリィに蛍光ペンと図書券を差し出した。
「私に?いいの?」
「もちろんさ・・・」
「ありがとう、是非使わせてもらうわね!」
 リリィは喜んでいた。藤木はリリィの笑顔をみて自分も嬉しく思えたのだった。
「藤木君・・・、君、プレゼントをあげたからっていい気になっているんじゃないのかい?」
「な、永沢君!」
「もしかしたら、しばらくしたらこのことを忘れて使ってもらえずに終わるかもしれないよ」
「そんなことないわよ!永沢君、その言い方ちょっとひどいわよ!」
 リリィが真剣な顔で永沢に言い返した。
「う・・・」
 永沢は何も言えなかった。
(リリィが僕を庇ってくれた・・・?)
 藤木は自分のことを庇ってくれたリリィに対して嬉しくもちょっと自分が情けないと感じた。

 下校時、藤木は誰かに声をかけられた。まる子だった。
「藤木、アンタ昨日文房具で買ったのは笹山さんとリリィへのプレゼントだったんだねえ」
「な、なんでさくらが知ってんだよ!?」
「だって二人から聞いたもん」
「そ、そうなんだ・・・」
「そしたらアンタのこと他の男子と違って気持ちがこもってるって言ってたよ」
「え、へえ~」
 藤木は嬉しくなり、顔がどんどん赤くなった。
「あ、そうそう、笹山さんが気になってたよ。どうしてリリィが好きなのに私にあげたんだって」
「う・・・」
「まあ、難しいだろうけど、アンタもどちらにするかそろそろ決めたほうがいいよ」
 そういってまる子はさっさと行ってしまった。
(はあ、どっちも捨てきれないんだよな・・・)
 
 そして翌日、藤木は帰宅した時、ポストの中に自分宛の手紙が入っていた。
 みどりからだった。
 藤木は部屋に入り、封を切り、中を読んだ。すると、こう書いてあった。

 藤木さん

 先日はどうもありがとうございました。私は藤木さんとデパートでお買い物ができて、一緒にエアホッケーをして、さらに食事ができてとてもうれしかったです。また、私をいじめから助けていただいて藤木さんは私を大切にしてくださっているという事が理解できました。いつかまた、藤木さんと今度は遊園地とか博物館とか、旅行にでも行きたいと思います。ではまたいつの日か。

 みどり

 藤木は頭が真っ白になった。
(もう勘弁してくれよ・・・みどりちゃん) 
 

 
後書き
次回:「学級文庫係」
 藤木と永沢は学級文庫係として、リリィに皆に読んでもらいたい本があれば学校に持ってきて欲しいと依頼する。そしてリリィと本を探しに本屋へ行くことになる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 

 

11 学級文庫係

 
前書き
 今回は学級文庫係としての藤木と永沢の活動を描写してみたいと思います。
 二人が学級文庫係を担っているという設定はアニメ「ちびまる子ちゃん」2期223話「学級文庫係の苦労」の巻からの引用です。
  

 
 リリィは教室の黒板の前にある本棚を眺めていた。そこにまる子とたまえが入ってきた。
「リリィ、何してるの?」
 まる子が聞いた。
「この本棚に色んな本があると思って」
「ああ、それ学級文庫だよ」
「ガッキューブンコ?」
「クラスのみんなが読んでもらいたいと思う本を家から持ってきてこの本棚に置くんだよ。誰でも自由に読んでいいし、もちろん借りることもできるよ」
 たまえが詳しく説明した。
「借りるってことは家に持ち帰ってもいいの?」
「うん、学級文庫係に頼めばできるよ。永沢と藤木が係だから二人のどっちかにお願いすれば借りられるよ」
 たまえの説明にリリィは理解できたようだった。そのとき、まる子があることを思いついた。
「そうだ、リリィも是非みんなに読んでもらいたい本があったら持ってきてよ!」
「そうね、そうしようかな」

 昼休み、リリィは藤木と永沢に話しかけた。
「永沢君、藤木君、私も学級文庫の本を借りたいんだけど、いいかしら?」
「ああ、もちろんさ、一週間後には返してくれよ」
 永沢が応答した。
「ありがとう、この本を借りるわ」
 それは藤木が持ってきたとされる(実際には永沢が持ってきてあたかも藤木が愛読していたと見せかけたものであり、後にウソが皆にバレたが)「走れメロス」だった。
 藤木は焦った。また内容の説明を要求されたらどうしよう、と。
「あ、リリィ、君も是非読んでもらいたい本があったら持ってきてくれよ」
 永沢がリリィにそう告げた。
「そうね、昔読んでいたのは英語の本が多いからみんなには読めないし、日本語の本はあっても日本語の勉強に使った教科書ばかりでつまんないと思うし・・・、そうだ、私も自分で本を買って読んでみたいな。そしたら持ってこれるしね。学校終わったら一緒に本屋さんへ行って手伝ってくれるかな?」
 そのとき、藤木は心の中で嬉しくなった。
(リリィが僕を頼ってくれてる・・・!!)
「うん、いいよ!放課後、本屋さんに行こう!」
 藤木は喜んで承諾した。
「リリィは本屋さんの場所はわかるのかい?」
 永沢が聞いた。
「うーん、案内してくれるかな?」
「分かったよ。僕が案内してやるよ」
 永沢が提案した。藤木は永沢にリリィを奪われるのではないかと不安を感じて永沢にこの事を聞いてみた。
「で、でも永沢君、リリィの家どこかわかるのかい?」
 いつもは藤木を見下す永沢もさすがにこの質問には答えられず、焦った。藤木の方は招待されたことがあるのでリリィの家の場所は分かっていた。
「わ、分かった。藤木君、案内してくれよ」
「うん」
こうして三人は約束を決めた。

 放課後、藤木は家に帰るとランドセルを置いて永沢の家へ向かい、永沢を呼んだ。そして、二人でリリィの家へ向かった。
 リリィの家に到着し、ドアを叩いた。リリィの母が出迎えた。
「こんにちは、藤木です。リリィいますか?」
「あら、ちょっと待っててね」
 数分して、リリィが出てきた。
「お待たせ、それじゃ行きましょ」
 リリィは母に行ってきますと告げて、二人と共に本屋へ向かった。
「あ、そうだ、リリィはお金持っているのかい?」
 永沢が聞いた。
「ええ、大丈夫よ。この前藤木君がくれた図書券まだ使ってなくて、これで買おうと思っているの」
 藤木は赤面した。その図書券は以前、藤木がまる子やみどりたちとデパートに行った時に文房具屋のおまけで貰い、それをリリィにあげたものだった。
「ありがとう、リリィ、使ってくれて」
「だって、せっかく藤木君がくれたんだもん、使わないともったいないからね」
 リリィは微笑んで言った。そのとき、永沢はこの二人の仲が羨ましいのか、藤木だけいい感じになって気にくわないのか、イライラしていた。
 藤木が質問した。
「そうだ、イギリスではどんな本があるのかな?」
「そうね、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』とか、アガサ・クリスティーの『名探偵ポアロ』『ミス・マープル』とか、推理(ミステリー)小説が有名ね。『ロビンソン・クルーソー』や『ガリバー旅行記』などの冒険(アドベンチャー)小説も人気あるわよ。他には『不思議の国のアリス』とかかな。私結構それ読むの好きだったわね」
「へえ、じゃ、そういうの探してみようかな」
「うん、みんなに読んでもらえたら嬉しいな」

 本屋に到着した。三人はイギリスの作品の本を探した。と、その時・・・。
「うわあ、『トム・ジョーンズ』!パパが好きな本だわ!」
「え、お父さんが好きって君の家にあるのかい?」
 藤木が聞いた。
「あるけど英語だから、これならみんなも読めるかな」
「でも、これ長いな。4巻まであるじゃないか。全部買うと図書券1枚で済まないぞ」
 永沢が嫌みがありそうに言った。
「う、そうだ、足りない分は僕と永沢君で出そうよ!」
「僕は嫌だね、藤木君、君だけが協力しろよ」
 永沢が拒絶する。が、リリィが異議をとなえた。
「永沢君、私のためにここまで来たんでしょ、藤木君に面倒押し付けないでよ!学級文庫係でしよ?」
「ふん、ならリリィと藤木君二人で足りない分のお金をだせばいいだろ?」
「分かったわよ、藤木君そうしよ?」
「う、うん・・・」
 藤木とリリィは足りない分のお金を出しあった。

 本の購入を済ませて三人は帰る途中、藤木はリリィに本の内容を聞いた。
「リリィ、『トム・ジョーンズ』ってどんな話だい?」
「私も実は実際読んでないからわからないけど、トム・ジョーンズって捨て子の男の人がいろいろな辛い目に遭いながらも生き抜いていく話よ。最後はお互い好きになっていたソファイアっていう女の人とめでたく結ばれるの」
「へえ、 僕も読んでみようかな」
 藤木と永沢はリリィと別れ道にさしかかった。
「藤木君、今日はありがとう、さすが学級文庫係ね。バイバイ」
「いやあ、どういたしまして」
 藤木は学級文庫係としての自分が誇らしく感じていた。
 リリィは二人と別れた。そのとき、永沢はえっ!と驚いた。
(藤木君だけ?!僕は、僕には礼を言わないのかい?!)
 永沢はこれが気にくわないのか、藤木と別れるとき、さよならの一言も言わずに帰った。
(永沢君、何をそんなに怒っているんだろ・・・?) 
 

 
後書き
次回:「拝読」
 藤木はリリィが読んだ『トム・ジョーンズ物語』を学級文庫から借りて読むことにする。ところが、その先に事件が・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
 

 

12 拝読

 
前書き
 今回は普段目立たない「あの人」が活躍・・・!? 

 
 三人が本屋へ行って数日後、リリィが藤木に「走れメロス」の本を差し出した。
「藤木君、この本返却するわね。これ本当興奮して感動したわ」
「え、いやあ、ありがとう」
「今『トム・ジョーンズ物語』も読んでいるけど、読み終わったら持ってくるわね」
「うん、待ってるよ」
(リリィが持ってきたら、早速読んでみようかな)
 藤木はリリィが「トム・ジョーンズ物語」を読み終えて学校に持って来る日を楽しみにしていた。

 やがて、一週間が過ぎ、リリィが藤木の机の席に来た。
「あの、これ、まだ2巻までしか読んでいないんだけど、これだけでも学級文庫に置いてもらえるかな?」
「ああ、もちろんだよ!」
 藤木は喜んで承諾した。
 (ふん、藤木君だけ、仕事頑張っているように見せかけて!くだらない、くだらない!!)
 永沢は自分が相手にされていないようで不満に感じていた。
 なお、この様子を一人の女子、野口笑子が傍観していた。
「クックックッ・・・」

 リリィはそして、3巻を2日後に持ってきて、残る4巻もその週の最後に持ってきた。
「リリィ、凄いね、たった2週間程度で読み終わるなんて!」
 藤木は驚いた。
「ふふ、面白くて続きが気になってものすごいスピードで読んじゃったの」
「よし、新しい図書が入ったて皆に伝えなきゃ、ね、永沢君?」
「え?ああ、そうだな」
永沢は素っ気なく返事した。
 そして、学級文庫係からのお知らせとして藤木と永沢は前に出た。まず永沢が発言した。
「学級文庫係からのお知らせです。新しい本を学級文庫に置きましたので、ぜひご利用をお願いします」
 藤木が続けて言う。
「入ってきた図書は、リリィさんが持ってきた『トム・ジョーンズ物語』です。捨て子の少年が辛いことにも耐えて生きていくお話です。借りたい人は、僕か、永沢君に言ってください」

 永沢と藤木が帰ろうとするとき、花輪が二人に声をかけた。
「Hey、君達、是非その『トム・ジョーンズ物語』を読んでみたいけど、OKかい?」
「ああ、もちろんさ。一週間後までには返してくれよ、いいよな、藤木君?」
「うん、いいよ」
(僕が先に読みたかったけど、まあいいか)
 藤木は少し残念に思い、花輪が読み終わったら読もうと考えた。
 
 そして4日経ち、花輪は「トム・ジョーンズ物語」の第1巻を返却した。
 「これ、すごい面白いよ、Baby。続きを借りてもいいかい?」
 花輪は藤木に尋ねた。
 「うん、いいよ」
 花輪は「トム・ジョーンズ物語」の2巻を借りた。
 (よし、早速読むぞ!)
 藤木は早速本に手を出した。
 休み時間、藤木は熱読した。しかし、永沢は藤木に何らかの憎しみを感じていた。
(いい気になるなよ、藤木君・・・)
 この永沢の様子を、野口笑子が傍観していた。
「クックックッ・・・」

 藤木は休み時間も、そして家に帰ってからも夢中で読んだ。

 花輪が2巻を先に読み終わると、藤木はそれに続いて2巻を借りた。

 そして、花輪が3巻を読み終わると、藤木はそれに続いて3巻を借りる。

 そして、花輪が全巻読破を達成し、4巻を返却した。その日の夜、藤木も家でちょうど3巻を読み終わった。
(よし、あと1冊だ!)
 藤木は最後の巻を待ち遠しく思い、明日を待った。

 翌日、藤木は教室に入り、3巻を返却した。そして、最後となる4巻に手を伸ばそうと思ったが、楽興宇文庫の中に入っていなかった。
(な・・・、ない?)
 藤木は誰かが借りているのではないかと思った。花輪は昨日返却しているのだし、自分以外では、あとから読み始めている人もいるが、途中を飛ばして読むなんて考えられない。藤木は永沢のところに行って聞いてみた。
「永沢君、『トム・ジョーンズ物語』の4巻を誰か借りているのかい?」
「さあ、僕は知らないよ?藤木君がもう借りているんじゃないのかい?」
「僕は借りてないよ。だからこうして聞いているんじゃないか、学級文庫係だろ?」
「君も学級文庫係だろ?それに君こそ読んでいるんじゃないか?君が責任を取るべきだね」
「そんな、永沢君!そんなこと言わなくたっていいじゃないか!」
 藤木は熱くなっていた。そんな時、リリィが現れた。
「どうしたの?」
「藤木君が『トム・ジョーンズ物語』の4巻が学級文庫にないって大騒ぎしてるんだ。僕はそんなの知らないし、藤木君が読んでいたから、藤木君が悪いんだよ」
「そんな酷いこと言わなくてもいいでしょ?みんなに聞いてみたらいいじゃない!」
 リリィが永沢を叱った。そして藤木に顔を向けた。
「藤木君、きっと見つかるわよ」
「う、うん・・・」

 帰りのホームルームの際、藤木と永沢は学級文庫係として前に出た。
「学級文庫係からのお願いです。『トム・ジョーンズ物語』の第4巻が学級文庫になく、誰かが借りた様子もありません。誰が所持している方はいますか?」
 藤木は焦りながら言った。対照的に永沢は他人事のような顔をしていた。
(ふん、君学級文庫係としていい気になってばかりいるからこうなるのさ。これで君はあの本を読破することはできないね・・・)
 永沢は心の中で藤木の災難を喜んでいた。誰も心当たりはないようだった。
「藤木君、誰も知らないよ、人が持ってきた本を大事に管理できないようじゃ、君は学級文庫係失格だね・・・」
 永沢は馬鹿にしたように言った。
「そんな・・・」
 藤木は泣きそうになった。せっかくリリィのために共にお金を出してまで買った本をこんなみっともない形で紛失してしまうなど、信じたくなく、リリィに見せる顔がないとまで感じてしまった。と、その時・・・。
「私、知っているよ・・・」
 野口笑子が無表情で発言した。
「の、野口?」
「私、花輪クンが返した日の放課後、遠くからその本を引き抜いてこっそりランドセルに入れて、持ち帰った人を見ていたんだ・・・。クックックックッ・・・」
「それはいったい誰なんだい?」
「藤木のすぐ隣にいる人だよ・・・」
 野口が少し笑いながら言った。まさか、と藤木は疑った。そして永沢の顔を見た。永沢の顔がこわばっている。
「まさか、永沢君かい?」
「ぼ、僕がそんなことするわけが・・・」
「永沢には本当のこと、言えやしないよ、言えやしないよ・・・」
「永沢君!」
 藤木が泣き顔から怒り顔に変わった。その時、丸尾も立ち上がった。
「永沢君、ズバリ、本当の事を言うべきでしょう!」
 永沢は次々にクラスメイト皆に睨まれていった。
「う、わ、分かったよ、白状するよ!・・・その本は僕が家に持ち帰った。藤木君がちやほやされていて僕は悔しくて、羨ましかったんだ・・・」
「永沢君・・・」
「後で僕んちへ取りに来いよ・・・」
「わかったよ、皆さんご迷惑をおかけしました・・・」
 藤木はそう言って永沢と共に自分達の席に戻った。

 その後、藤木は永沢の家へ向かった。永沢は本を差し出した。
「ほら、受け取れよ。ごめんよ、隠したりして・・・」
「永沢君、なんでそんなことをしたんだい?」
「君が羨ましかったからさ・・・」
「え?」
「君ばかりリリィに頼りにされているみたいであの時どうして僕にはお礼を言ってくれなかったのか、悔しかったんだ!」
「永沢君・・・、もういいよ。僕は君を頼りにしているんだから」
「え・・・?」
「だって、僕たちは同じ学級文庫係じゃないか!」
「う、うん、ありがとう、藤木君、これからも頑張っていこう」
 こうして二人は和解した。

 藤木は最後の4巻を夢中で読んだ。

 藤木は完読した。藤木は「トム・ジョーンズ」の4巻を学級文庫に戻した。そしてリリィに会うと礼をした。
「リリィ、この本僕も夢中で読んだよ、ハラハラもしたけど最後は感動したよ」
「ありがとう、藤木君に読んでくれてこの本選んでよかったわ」
「リリィ・・・」
 藤木は完読してリリィに喜んでもらえて嬉しく感じた。そして自分も作中の登場人物のようにリリィと結ばれたらなと内心で思っていた。 
 

 
後書き
次回:「授業妨害」
 2組のある生徒による他のクラスへの授業妨害が3年生の間で悩みとなっていた。この迷惑行為は案の定4組にも及んでおり・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!