春日部歌集


 




 涼風の

  流るる雲に

   星影を

 眺むや祈る

    七夕の空



     七月七日



 

 




 泣き止みて

  風のさやけき

   天の原

 月影惑ふ

    雲の白浪



     七月八日



 

 




 あかね雲

  いづこに聞くや

   遠雷の

 雨そなからむ

    蝉時雨かな



 

 




 風吹かば

  立つや緑の

   徒浪は

 雲に泥みて

    空に霞みし



 

 




 日の隠るる

  空そ仰ぎし

    水溜まり

 降るはうだるる

     蝉時雨かな



 

 




 憂き雲に

  心も晴れね

   忍ぶ草

 行くも帰るも

    虚しばかりに



 

 




 立つ鳥の

  追いしや風の

   行く末も

 虚しく眺む

    黒揚羽かな



 

 




 忙しきし

  時より隠るる

   中庭の

 緑静けく

   風にそよぎし



 

 




 雲そ覆う

  空に楓の

    蝉時雨

 祈るは人か

     蝶の黄昏



 

 




 静けさや

  緑の映えし

    窓辺より

 眺むる空の

   移ろうものかな



 

 

十一




 夕されば

  梢やすけく

   ざわめきて

 いざのふ風に

     雲そ棚引き



 

 

十二




 いやましに

  暑さに嘆く

   蝉の声

 恋しく思ふ

    影そ求むる



 

 

十三




 天の原

  星そ隠せし

    雲間より

 久しく見ゆる

   月のさやけき



 

 

十四




 休めしか

  野分きの風の

   雲間より

 さやき月影

   もるる小夜かな



 

 

十五




 雨雲に

  閉じにし空の

   寂しさを

 夕に染めにし

    百日紅かな



 

 

十六




 日の陰る

  空そ仰ぎし

   昼顔の

 蔓ぞからむる

    朽ちし生垣



 

 

十七




 蝉そ鳴く

  白粉花も

   霞みたる

 葉月の空も

   僅かなりけり



 

 

十八




 憂き空に

  秋を呼びしや

   女郎花

 眺めせし間に

   時はそよぎし



 

 

十九




 夕されば

  空の泣きにし

   雨宿り

 西日ぞ朱く

    雲に霞みし



 

 

二十




 久方の

  雲のなき空

    仰ぎせば

 行く末も見ず

     秋の訪れ



 

 

二十一




 秋そ香る

  風の涼しき

   鈴虫の

 鳴くや葉月の

   終りなりける



 

 

二十二




 小夜更けて

  もみじ葉の露ぞ

   散らしける

 やや肌寒き

     秋の初風



 

 

二十三




 枯れにしも

  種そ残すや

    向日葵の

 俯き立つは

    我と変わらじ



 

 

二十四




 木洩れ日の

  影にそぼ降る

   蝉時雨

 零るる空に

    秋風の吹く



 

 

二十五




 久方の

  光りに戯る

   赤蜻蛉

 在りし日の影

   呼びにけるかな



 

 

二十六




 秋風に

  里そ香りて

   あばら屋の

 紫式部の

    色ぞ恋しき



 

 

二十七




 そこかしこ

  高き日に鳴く

   蝉の声

 夕にはやみて

    秋虫ぞ鳴く



 

 

二十八




 秋虫の

  音にそよぎしは

   香蒲の葉の

 里にはあらね

      安之堀川



 

 

二十九




 夕されば

  音もさまざまに

   虫そ鳴く

 春日部の田にも

    秋ぞくるなり



 

 

三十




 村雨の

  ふるは侘しき

   百日紅

 つもるは夏の

    形見なりける



 

 

三十一




 虫の音に

  宿を立ち出でて

   眺むれば

 里にも見ゆか

     遠き月影



 

 

三十二




 もみじ葉の

  移ろいゆくは

   秋の空

 染まるや夕の

    朱ぞ寂しき



 

 

三十三




 侘び濡れむ

  落葉踏みしむ

   人里に

 われ知る者の

   居ぬと思へば



 

 

三十四




 小夜更けて

  天の白玉

   散りにける

 野分の風に

   絃の切れしか



 

 

三十五




 秋の野に

  月影なくも

    風吹かば

 さわぐ芒の

   音ぞ知るらむ



 

 

三十六




 枯れ果てむ

  鏡草にぞ

   侘しける

 ゆく夏恋し

    秋の来れば



 

 

三十七




 虫のこゑに

  秋ぞ寂しく

    思い見ゆ

 心あらじか

    野辺の秋風



 

 

三十八




 花すすき

  野にさざめきて

   小夜更けて

 秋ぞ眺むる

    月のさやけき



 

 

三十九




 蝉のこゑ

  一つ二つと

   絶へゆかば

 深まる秋に

    心憂きけれ



 

 

四十




 侘しさを

  わが身のうへに

   よそふれば

 時そふりける

     秋の夕暮れ



 

 

四十一




 秋宵の

  雲に掠れし

    月明かり

 風に惑ふは

   かりがねの影



 

 

四十二




 空寒み

  雲隠れにし

   仲秋の

 零れし月の

   光りさやけき



 

 

四十三




 雲隠す

  いつぞ覚めたか

   十六夜を

 いさ知らぬ間に

     朝は来たるゝ



 

 

四十四




 鳴く鳥の

  日に影残し

   飛びにける

 眺むすゝきの

    物寂しさよ



 

 

四十五




 秋暮れの

  安之堀川

   香蒲の葉を

 打つや冷たき

   時雨なりける



 

 

四十六




 色もたへ

  冬そ待ちにし

   秋暮れに

 影の棚引く

    夕に黄昏る



 

 

四十七




 風騒ぎ

  野分に惑ふ

    枯れ尾花

 頽るる身に

   雨そ打ちける



 

 

四十八




 秋の夜の

  紅葉の下の

   さやかなる

 月影眺むる

    十三夜かな



 

 

四十九




 たがために

  落つるや侘し

   月の影

 うつすは虚し

    枯れ尾花かな



 

 

五十




 からす鳴く

  秋ぞ偲びし

   天の原

 紅きもみじ葉

   風に舞い落つ



 

 

五十一




 枯れ果てゝ

  野辺にそ散りし

   もみじ葉は

 去りにし秋の

    名残とぞ思ふ



 

 

五十二




 黄昏れて

  日も絶え絶えに

   吹く風の

 散りし銀杏に

     思い留めむ



 

 

五十三




 北風に

  弱り枯れにし

   さしも草

 冬来りなば

   春は来るとも



 

 

五十四




 木枯らしの

  朽ちし尾花に

   月影の

 落ちしは暗き

    影そばかりに



 

 

五十五




 遠き里に

  雪そ降りてか

   夜半の月

 草木も凍てし

    冬ぞ来れり



 

 

五十六




 日は差すも

  菊そ枯れにし

   冬の風

 木々のこずゑも

    淋したりける



 

 

五十七




 眺むれば

  安之堀川

   香蒲枯れて

 風に揺らるゝ

    夕月夜かな



 

 

五十八




 片割れの

  月の光の

   幽かなる

 揺れるは侘し

   枯葉ばかりに



 

 

五十九




 あてもなく

  吹きける風の

   冷たさや

 葉もなき梢に

    月影ぞ降る



 

 

六十




 いつか見ゆ

  この世の外の

    櫻花

 しばし微睡む

   冬の日溜まり



 

 

六十一




 春日部の

  野には積もらぬ

   雪なれど

 心に積もりて

   年は明けにし



 

 

六十二




 いたむ風に

  仰ぎし月の

   なほさみゝ

 虚しうつゝの

   冬ぞ凍てつき



 

 

六十三




 月影を

  映す水面に

   冬風の

 吹きてやゆらぐ

    野辺の夕闇



 

 

六十四




 梅の香の

  憂きし心ぞ

   なぐさむる

 風そやみにし

    冬の日溜まり



 

 

六十五




 久方の

  雪そ眺むる

   寒椿

 浅き夢見し

  小夜更けにける



 

 

六十六




 春を待つ

  さみゝ風吹く

   枯れ野原

 仰げば儚き

    小夜の月影



 

 

六十七




 日も絶へて

  月もなかりし

   宵なれど

 寒み風にそ

   梅の香ぞする



 

 

六十八




 夕暮れは

  昔ぞありて

   せまりなば

 侘しくものを

   思うものかな



 

 

六十九




 長ながし

  さみゝ冬とて

   春となる

 日の差しつれば

    梅の散りける



 

 

七十




 風にきく

  古里は深雪

   まとゐしと

 雪のなからむ

    野辺眺めつゝ



 

 

七十一




 空さみゝ

  曇りても香る

   紅梅に

 淋しさ忘る

   心地こそすれ



 

 

七十二




 立ち暮れて

  想いぞ尽きぬ

   冬の風

 春を待たなむ

    花そ散りける



 

 

七十三




 面影を

  追ゐてや侘し

   晩冬の

 取り残されし

     朱き夕暮れ



 

 

七十四




 春を呼ぶ

  緑萌ゑにし

    春日部の

 野辺そ寂しき

     里の白雪



 

 

七十五




 道の端に

  空と見まごふ

    いぬふぐり

 春となりしか

    寄りて語らい



 

 

七十六




 雨垂れの

  落つる軒端の

   しのぶ草

 憂き世にもまた

     春の来れる



 

 

七十七




 桃の花も

  冬そ戻りし

   雨雪に

 散りてや庭を

    春に染めにし



 

 

七十八




 曇りても

  花そほころぶ

   春の日に

 鴨ぞたわむる

     安之堀川



 

 

七十九




 夕暮れは

  萩や櫻と

   違えども

 寂しさ誘ふ

    朱き静けさ



 

 

八十




 櫻咲く

  誰ともなしに

   花見月

 風に散りなば

    日も陰るらむ



 

 

八十一




 今にして

  里の雪さえ

    懐かしき

 静けく櫻の

   散るを見やれば



 

 

八十二




 夕暮れの

  風のなからむ

   川下の

 流れにかかるは

    花のしがらみ



 

 

八十三




 夕影の

  月に散りなむ

   さくら花

 冬を偲びし

    春のさざ波



 

 

八十四




 月影に

  思ひて散らめ

   夜櫻の

 霞みて見ゆる

    川面なりけり



 

 

八十五




 春の日の

  和むは風の

   白雲の

 いづこへゆくや

    花そ散らしつ



 

 

八十六




 春雨の

  降らば戀しき

   山櫻

 里にあらねば

    見る由もなし



 

 

八十七




 霧雨に

  ものそ思いて

   白みける

 花ぞ冷えなむ

   朝ぼらけかな



 

 

八十八




 春日部の

  花そ濡らしつ

   降る雨に

 山の端思ふ

     春の草原



 

 

八十九




 武里の

  道端に生ふる

   母子草

 里そ思へし

    春半ばかな



 

 

九十




 空さみゝ

  冬の香ぞする

   春暮れは

 蛙のなくも

    秋の侘しさ



 

 

九十一




 遠ければ

  音にも聞かず

   古里の

 川の流れぞ

    偲ぶ雨かな



 

 

九十二




 眺むれば

  昔を偲びし

   おだまきの

 花に黄昏れ

   雨垂れぞ聞き



 

 

九十三




 帰らざる

  里の山波

   田の稲も

 霞し月に

    思ふ頃かな



 

 

九十四




 花も散り

  春そ去りてや

   夏衣

 時に戯る

   憂きし木洩れ日



 

 

九十五




 眺むるは

  朝の軒の

    忍ぶ草

 露そ散らせし

    風の侘びしき



 

 

九十六




 風さそふ

  夜露に濡れし

   葉櫻の

 朝日に零るゝ

     月の白玉



 

 

九十七




 夜ぞ更けて

  蛙鳴く音の

    遠ければ

 思ふは昔の

    里のあばら家



 

 

九十八




 若すゝき

  そよぐや風に

   心ゆらし

 流るゝ雲にそ

     時ぞふりけり



 

 

九十九




 宵闇に

  蛙鳴きけり

    雨そ降る

 香蒲にや忍べ

      安之堀川



 

 




 五月雨の

  朝にそぼ降る

   軒先に

 昔を偲ぶ

    どくだみの花


 

 

百一




 露空の

  月のなからむ

   夜の闇に

 蛙鳴く音の

     風にしみける


 

 

百二




 春日部の

  野にそぼ降りし

   五月雨の

 日も絶へ絶へに

     空そなずみし


 

 

百三




 仰ぎせば

  つゆの晴れ間の

   浮き雲に

 幽かに掛かりし

     夜半の月かな



 

 

百四




 五月雨の

  朝に落つる

   侘びし音に

 思ふは昔の

     荒ら屋の庭


 

 

百五




 雨空に

  頭垂らせし

   昼顔に

 蛙はねたる

     安之堀川


 

 

百六




 立ち葵

  夕に仰げば

   白雲の

 何そいたむや

     水無月の風



 

 

百七




 青空に

  揺れし緑の

   さゞなみに

 思ふは里の

     深き山波



 

 

百八




 霞みける

  戻りし梅雨の

   雨空の

 こゝろ惑ひし

      文月の風



 

 

百九




 夜は去りて

  露に見えにし

   古里の

 思ひに匂ふ

     山梔子の花



 

 

百十




 香蒲揺らぐ

  風そ駆けにし

   堀川の

 空霞みける

     夕月夜かな






 

 

百十一




 宵闇に

  落つるは淡き

   月影の

 田に吹く風に

     虫の音ぞ聞く



 

 

百十ニ




 香蒲の葉を

  揺らすは風の

   堀川も

 暑さにうだる

     蝉時雨ぞ聞く



 

 

百十三




 偲びてや

  日も傾きし

   堀川の

 夕ぞ待ちにし

     蟬の鳴くなる



 

 

百十四




 人はみな

  我が儘と知る

   夏の夜に

 冬そ偲びし

     風のなき里


 

 

百十五




 夏風も

  うだるや木陰

   探せども

 行くは芒野

     影もなかりき


 

 

百十六




 月影の

  宵待草の

   香に思ふ

 去りし山里

    ふりし我が身を



 

 

百十七




 夕風に

  流るゝ雲そ

    棚引かば

 鳥も偲ぶや

      里の山影



 

 

百十八




 星絶へて

  虫の声音も

    闇に伏し

 風にざわめく

     野原虚しき



 

 

百十九




 うだる風に

  草木も萎へし

   宵影に

 涼しげなるは

     月ばかりなる





 

 

百ニ十




 久方の

  雨そ降りにし

   夕暮れは

 昔を偲ぶ

    香の匂いける


 

 

百ニ十一




 涼風に

  白粉花も

   休みたる

 秋と思ゆる

     曇り空かな



 

 

百ニ十二




 夕されば

  蟬の音さへも

   侘しける

 留まる時の

    なきと思へば



 

 

百ニ十三




 雷鳴に

  驚き来るや

   夕立の

 雨ぞ打ちてや

     涼風の吹く



 

 

百ニ十四




 秋虫の

  鳴くや風間に

   夏の香の

 匂ひまとふや

     宵の静けき


 

 

百ニ十五




 月影に

  流る堀川

   香蒲の葉に

 驚きたるか

     鷺そ飛びにし



 

 

百ニ十六




 持たざれば

  世に捨てられて

   流されて

 ゆく瀬も見へぬ

       風の虚しき



 

 

百ニ十七




 涼風に

  秋そ来るか

   山里を

 偲びて仰ぐ

    夜半の月かな



 

 

百ニ十八




 夏も暮れ

  何を祈るや

   秋虫の

 音も侘びしける

      宵の月影



 

 

百ニ十九




 黄昏に

  ふるはわが身か

   霧雨か

 落ちて流るは

     さして変わらじ




 

 

百三十




 雨垂れを

  落とすや雲の

   天野原

 夏を偲びて

     秋を纏いし



 

 

百三十一




 秋風の

  吹きてさざめく

   花すゝき

 月も幽かに

    百舌鳥の鳴くなる



 

 

百三十二


 宵も暮れ

  濡れし草原

   村雨の

 虫の声さへ

    消えしものかな





 

 

百三十三




 すゝき野に

  落つるは清けき

   中秋の

 月に奏でし

     秋虫のこゑ


 

 

百三十四




 溜め息を

  つくや人波

   秋風の

 誰そ知るかは

     縁もなかりき


 

 

百三十五




 流れては

  時そ儚く

   散りにける

 玉の緒切らば

     楽となりしや



 

 

百三十六




 月影の

  なくば夜闇の

   虫の音の

 思いそ返す

     寂しさぞ聞く



 

 

百三十七




 秋風の

  吹きて草木の

   色づかば

 里の山並み

     偲び黄昏る



 

 

百三十八




 町の灯の

  見なば侘しさ

    沁みにける

 流るゝ風も

     身も虚しけり



 

 

百三十九




 椋鳥の

  騒ぎて立つや

   隠れ家の

 野分の風に

     惑いつるかな



 

 

百四十




 虫の音も

  断つや驟雨の

    すゝき野の

 虚しき小夜に

      霞みたるかな



 

 

百四十一




 宵闇に

  心そ時雨

   侘びしける

 風そ渡りし

     秋の霧雨



 

 

百四十ニ




 蟬の音も

  絶へて久しく

    もみじ葉の

 染まるや秋の

      夕に黄昏る



 

 

百四十三




 雨上がり

  ふりさけみれば

   夜の闇に

 幽かに洩るゝは

       上弦の月



 

 

百四十四




 月も見えず

  さみゝ秋風

    町の灯の

 木立を眺む

     秋の小夜かな





 

 

百四十五




 秋の香は

  風に寂しさ

   乗せにける

 ふる時そ見ゆ

      十三夜かな



 

 

百四十六




 宵風に

  揺らぐは草木か

   わがこゝろ

 思ひそ流せ

     安之堀川



 

 

百四十七




 あかね空に

  長くのびたる

   影法師

 寂しさまとふ

     夕の静けさ



 

 

百四十八




 木洩れ日に

  秋ぞ匂ひし

    風吹かば

 夏ぞ偲びて

     梢さざめき


 

 

百四十九




 霧雨の

  寒み秋夜の

    野辺の風

 うくは侘しき

      霞む月影


 

 

百五十




 語らずに

  消えゆくまでの

   人の身の

 老いて知りたる

       四季の黄昏







 

 

百五十一




 夕影に

  さみゝ風吹く

   晩秋の

 色づく葉にそ

    沁みにけるかな



 

 

百五十ニ




 染まりてや

  散りてや枯れし

   もみじ葉の

 儚き色の

    紅き夕暮れ


 

 

百五十三




 月籠り

  町の灯の中

   侘びしける

 色づく銀杏の

     散らす風吹く



 

 

百五十四




 朽ちにける

  人また同じ

   枯れすゝき

 雨に濡れにし

     夜に音もなく



 

 

百五十五




 寄せにける

  さみゝ夜空の

   霜月の

 そよ風吹かば

     冬の香ぞする



 

 

百五十六




 野辺に立つ

  夏を偲ぶや

   枯れすゝき

 遠くなりしや

      秋虫の声



 

 

百五十七




 さゝみ夜に

  椋の鳴く音の

    なお侘びし

 町の灯の中

     独り影落つ



 

 

百五十八




 そよ風に

  冬そ匂いて

    懐かしむ

 遠き里山

    もゆる夕影



 

 

百五十九




 侘びしきは

  雲に宿りて

    見えぬ月の

 冬そ近しき

     夜の長きたる



 

 

百六十




 散りたるや

  秋に染まりし

    さくら葉の

 春ぞ思ひて

     冬を待ちける


 

 

百六十一




 遠かれば

  月も人をも

   變わらずに

 望みてもなお

     陰りたるかな



 

 

百六十二




 虫の音も

  一つ二つと

   消え去りて

 冬の来りし

     夜の静けき


 

 

百六十三




 香蒲の穂も

  枯れ朽ちにける

    霜月に

 秋そ流すや

     安之堀川



 

 

百六十四




 町の灯に

  落つるは枯れ葉

   影一つ

 月もなかりき

      夜に風もなく



 

 

百六十五




 冬空に

  枯れて落つるは

   霞み月

 尾花も朽ちし

      霜月の風



 

 

百六十六




 帰らざる

  里にそ雪の

   降りけるや

 時雨し野辺に

     偲ぶ山並み



 

 

百六十七




 月陰り

  さみゝそよ風

    染みにける

 掠る枯れ葉の

     音の侘しけり


 

 

百六十八




 夜に時雨

  月も雲間に

    宿るらむ

 さみゝ風にそ

     冬を思へば



 

 

百六十九




 静けきや

  虫の声音も

   絶へ絶へに

 葉の散りにける

     木々そ虚しき


 

 

百七十




 そよ風に

  冬そしみける

    落ち葉踏む

 雲間に洩るゝは

      さやき月影


 

 

百七十一




 里山を

  思ひて見なば

   霞み月

 風に鳴きしは

     野辺の枯れ草



 

 

百七十ニ




 遠ざかる

  時そふりにし

   冬空に

 月そ渡るや

     雲隠れにし



 

 

百七十三




 宵闇に

  見なば疎らの

    木の葉にそ

 侘びしき冬を

     聞きしものかな



 

 

百七十四




 忙しなき

  空ぞ時雨て

   雨宿り

 地も時雨ける

    人のこゝろは



 

 

百七十五




 風吹かば

  夜半の寒きに

    聞こゆるは

 朽ちたる野辺の

     枯れすゝきかな



 

 

百七十六




 移ろいて

  空そ時雨て

    流れけり

 老いてや眺む

     昔なりける



 

 

百七十七




 年の瀬の

  夜風さみゝて

   枯れ枝の

 ふるは侘びしき

      冬の星影



 

 

百七十八




 夕も過ぎ

  月もなかりき

   寒風に

 落ち葉踏みしむ

      冬の黄昏れ



 

 

百七十九




 木枯らしに

  褪せし紅葉の

    散りぬれば

 見ゆるはさみゝ

      冬の夕暮れ



 

 

百八十




 年の瀬の

  見ゆる雲間の

   夕焼けに

 遠き里山

    思ひつるかな



 

 

百八十一




 夜も更けて

  さゝみ空にそ

   月もなく

 溜め息つかば

     白く濁りし



 

 

百八十二




 雲掛かる

  夜空にうつす

   古里は

 音もなくして

     白雪ぞ降る



 

 

百八十三




 宵影の

  忙し灯りに

   急かさるゝ

 時ぞ早せし

    師走なりけり



 

 

百八十四



 三日月の

  小夜の雲間に

   隠らるゝ

 いづこへ宿るや

     木枯らしの吹く




 

 

百八十五




 野も枯れて

  安之堀川

   淀みしも

 うつすは清けき

     片割れの月



 

 

百八十六




 見せばやな

  秋も褪せにし

   野辺の月

 年も暮らるゝ

     三冬月かな



 

 

百八十七




 書き記す

  筆も我が身も

    變わらずも

 人のこゝろに

     沁むるものかは



 

 

百八十八




 忙しなく

  追ふはわが身の

   年なれば

 夜も更けにける

      師走なりしか



 

 

百八十九




 遠退きし

  昔も今と

   はなれつる

 星のなかりき

     空を見上げん



 

 

百九十




 年の瀬に

  打つや心の

   徒浪は

 寄る辺なき夜の

     想いなりける



 

 

百九十一




 寒風に

  年も暮れなむ

    小夜更けて

 人波に落つる

     影そ侘びしき



 

 

百九十ニ




 日も暮れて

  風そいたみて

   騒ぎたる

 枯野に惑ふ

    鳥そ鳴きける



 

 

百九十三




 夜の空に

  光りなくして

   寒風に

 藤も耐へなむ

     年も暮れにし



 

 

百九十四




 雪もなき

  野辺に落つるや

   月影の

 うつすは淡き

     昔なりける



 

 

百九十五




 吹く風に

  時も過ぎにし

   三冬月

 人の波間の

    いかに侘びしき



 

 

百九十六




 語らざれば

  野辺に朽ちたる

   さしも草

 春を待ちても

     冬そ去らざり



 

 

百九十七




 底冷えの

  闇にともさる

   町の灯に

 幸を祈りし

    年の瀬の夜



 

 

百九十八




 忙しなく

  心なくして

    枯れ尾花

 野辺朽ちたる

     思ひ垣間見



 

 

百九十九




 夜のさみゝ

  風に惑ふは

   古里の

 思ひ返らむ

    年も終わりし



 

 

二百




 年明けの

  空そ染にし

    初日の出

 新たな年に

     影そけさんや



 

 

二百一




 新年の

  見なば忙しき

   人波の

 いづこへ行くや

     時は變わらじ



 

 

二百二




 行き来たる

  人のさゞなみ

    變わらずに

 寄りしは歳の

     波間なりける



 

 

二百三




 月影を

  追ふや静けき

   野辺の風

 息に白みし

     凍てし暁



 

 

二百四




 夕されば

  凍みし冬風

    渡りしも

 幽かに香れる

     早咲きの梅



 

 

二百五




 振り返り

  残れる月に

   古里を

 思ひて明けし

     空を眺めり



 

 

二百六




 風をいたみ

  早咲きの梅の

    散りけるや

 さみゝ月にそ

     凍みし夕暮れ



 

 

二百七




 うらぶれて

  時そ恨めし

    道の端に

 立ちてや眺む

      冬の月影



 

 

二百八




 さみゝ風に

  うたれて咲くは

    寒椿

 凍れし空に

     冴えし紅



 

 

二百九




 凛として

  月も凍れる

   小夜更けて

 睦月も暮れし

     冬半ばかな



 

 

二百十




 冬風も

  穏やかなりし

   青空に

 春を想ひて

     鳥のさえずる



 

 

二百十一




 閨に伏し

  骨身に凍みし

   隙の風

 粥炊くものも

    なきし侘びしさ



 

 

二百十二




 冬風の

  凍てつく空に

   注ぐ日は

 春を思ひて

     望み溢るゝ



 

 

二百十三




 久方の

  凍てし雨降る

   睦月暮れ

 流る時にそ

    雪となりぬる



 

 

二百十四




 泣く空の

  夜にそ涙の

   落ちにけり

 音にそ聞けぬ

    人のこゝろは



 

 

二百十五




 戸を叩く

  風そさみゝて

   古里の

 春また遠し

      冬の暁



 

 

二百十六




 枯れ草や

  月も見えざる

   如月の

 夜も凍みにける

     野辺の風かな



 

 

二百十七




 終わりなくば

  うつゝは侘びし

   箱庭の

 流る先にそ

     望みありせば





 

 

二百十八




 仰げども

  星も見えざる

   夜の空の

 掛かるは侘びし

      遠き思い出


 

 

二百十九




 雨上がり

  凍てし野に降る

   星影の

 眺むは虚し

     独り身の風



 

 

二百二十




 梅の香の

  舞ふは春風

   悪戯に

 夜半に見ゆるは

     凍てし月かな



 

 

二百二十一




 粉雪の

  浅く積もるや

   寒椿

 朝に惑ふは

     古里の風



 

 

二百二十二




 春の香も

  いたむ風にそ

    散りにける

 冬そ棚引く

     夜半の月かな



 

 

二百二十三




 小夜更けて

  そよぐ風さへ

   和めども

 わが身恨めし

      晩冬の月



 

 

二百二十四




 流さるゝ

  時に惑ひて

   月仰ぐ

 思ひも流さる

     安之堀川



 

 

二百二十五




 枯れ野さへ

  芽吹きて春を

    待ち侘びて

 老いしわが身の

      いかに虚しき



 

 

二百二十六




 忘らるゝ

  わが身そ返し

   野辺の風

 雲隠れにし

    月そ思へば


 

 

二百二十七




 そぼ降るは

  冬の名残りし

   涙雨

 朝来たれば

     花見月なる



 

 

二百二十八




 行き来たり

  冬も春をも

   関の前

 四季も旅をし

    来るものかな



 

 

二百二十九




 花桃の

  色そ褪せにし

   雨なれど

 香ぞたな引ける

    上巳なりけり



 

 

二百三十




 さみゝ雨に

  冬そ寂しさ

   惜しみける

 風にそ春の

    香ぞ匂ひなば



 

 

二百三十一




 枯れすゝき

  春には青く

    茂れども

 わが身枯れにし

     現し世の夢



 

 

二百三十ニ




 数えたる

  月日に意味の

    なかりせば

 生くるも辛き

      空を仰げめ



 

 

二百三十三




 人の世は

  冷え冷えにける

   こゝろかな

 春とて冬の

     心地こそすれ



 

 

二百三十四




 道の端の

  春を呼びにし

   水仙の

 ぽつりと咲きて

     風にゆらるゝ



 

 

二百三十五




 なぐさむる

  月そなかりき

   武里の

 夜闇に春の

    香ぞ匂ひける



 

 

二百三十六




 黄昏に

  冬そ偲びし

    野辺の風

 移ろう香にぞ

     春は来たれリ



 

 

二百三十七




 時そ流れ

  老いてや流れ

   桜木の

 語るも侘びし

    友ならなくに



 

 

二百三十八




 木蓮の

  幽かに差すや

   おぼろ月

 春の夜風に

    思い揺らめき



 

 

二百三十九




 咲くを待つ

  櫻の枝端

   眺むれば

 空には遠き

    春霞かな





 

 

二百四十




 香りたる

  樒の花の

   なお淡く

 ふと仰ぎせば

    御簾越しの月



 

 

二百四十一




 春日部の

  空そ霞みて

   朧なる

 月を仰ぎて

    花ぞ待ちける



 

 

二百四十ニ




 あばら家を

  思ひて侘びし

   夜の風に

 偲びて匂ふ

     沈丁花かな



 

 

二百四十三




 夕されば

  冬そ偲びて

   肌寒き

 野には春とて

     若草ぞ立つ



 

 

二百四十四




 星霞み

  朧月夜の

   春風に

 揺らす枝端の

    蕾ほころび



 

 

二百四十五




 花咲くも

  寒さ戻りて

   凍みにける

 春の思へし

    冬の名残りぞ



 

 

二百四十六




 月影も

  なくや心も

   褪せにけり

 春そさみゝて

    花もふるえし



 

 

二百四十七




 曇りては

  野辺の若芽も

   凍えたる

 返りし冬の

    思ひなりせば 

 

二百四十八




 さくら花

  咲きてや時も

    變わりつる

 さみゝ風とて

     偲ぶものかな



 

 

二百四十九




 令名も

  咲ひ零せし

    花冷ゑの

 櫻さざめく

     清和月かな



 

 

二百五十




 さみゝ風に

  雪とまごうや

   櫻花

 里そ懐かし

    卯月なりける



 

 

二百五十一




 春なれど

  日も暮れにせば

   風さみゝ

 冬も見ばやな

      櫻咲きける



 

 

二百五十二




 久方の

  のどけき空に

   野辺の風

 川は水面に

    花そかきなむ



 

 

二百五十三




 夕されど

  冬も陰りし

   花盛り

 木々の若葉も

    風にさざめき



 

 

二百五十四




 花咲かば

  時と散りなむ

   日の本の

 礼節持ちて

     令和迎えん



 

 

二百五十五




 日も暮れて

  花も黄昏る

   朧月

 散りし思ひそ

     川に流れし





 

 

二百五十六




 朧げに

  落ちし三日月

   音もなく

 櫻降りにし

     花冷えの宵



 

 

二百五十七




 暁に

  惑ひて散りし

   さくら花

 冷えし春さへ

    厭わざりけれ



 

 

二百五十八




 寒戻り

  春そ妬むや

   冬の雨

 若草打たるゝ

     花びらの道



 

 

二百五十九




 風吹かば

  櫻散りける

   花吹雪

 里の空には

    雪そ降りける



 

 

二百六十




 花影に

  里を思ひて

   見上げれば

 朧げなりし

     片割れの月



 

 

二百六十一




 風に散り

  雨にそ散りし

   花はなお

 若葉に春そ

    残しけるかな



 

 

二百六十ニ




 若草や

  野辺を染めにし

    春衣

 散りし花さへ

     包みけるかな



 

 

二百六十三




 春半ば

  日は陰りしも

   和みたり

 花そ散りける

     葉桜そ見ゆ



 

 

二百六十四




 そよ風に

  緑そなびき

    野も和み

 鳥そ歌へば

     里ぞ思へり



 

 

二百六十五




 春蝉の

  初音そ聞きて

    知りにけり

 移ろふ四季も

     川面なりける



 

 

二百六十六




 花そ散り

  枝に繁れる

   葉櫻の

 木洩れ日に見ゆ

    思ひ侘びしき



 

 

二百六十七




 夕風は

  寒さ残せど

   蛙鳴く

 緑深まり

    露も近きか



 

 

二百六十八




 思ひ見ゆ

  里に咲きたる

   山ざくら

 行くもなかりき

      山々の影



 

 

二百六十九




 花水木

  曇りし空にそ

   紅をさし

 たれそ待つらむ

     春そ暮れにし



 

 

二百七十




 小夜更けて

  月もなきにし

    野に聞こゆ

 幽かなる雨

     揺れし若草



 

 

二百七十一




 さゞめくは

  草の叢むら

    ゆく風の

 思ひそ残し

    時も去りなむ



 

 

二百七十二




 行き来たり

  悲喜こもごもの

    平成も

 洗ひ流すや

     春日部の空



 

 

二百七十三




 時はうつり

  新たな雨の

   降りにせば

 清き光りの

    見ゆるものかは



 

 

二百七十四




 春蟬も

  続く雨にそ

    惑ひける

 鳴きし弱音の

   侘びしものかな



 

 

二百七十五




 吹きにける

  夏の香まとふ

   そよ風に

 古里を見し

     田草月かな



 

 

二百七十六




 振り返り

  見なば雨雲

    覆いしも

 いづれは青き

     空となりせば



 

 

二百七十七




 古里の

  山そ飾りし

   山藤の

 咲きたる頃と

     思い偲ばせ



 

 

二百七十八




 偲びたり

  青葉の中に

   一輪の

 迷い咲きたる

    さくら花かな





 

 

二百七十九




 雨雲に

  月も陰るや

    春暮れの

 夕に香るは

     緑なるかな



 

 

二百八十




 行き交ふも

  いさや空しき

   人の波

 知る影もなく

     風の吹くらむ



 

 

二百八十一




 風をいたみ

  木々そざわめき

   雲そたつ

 闇に鳴きける

     鳥は知らねど




 

 

二百八十二




 蒲公英の

  綿毛そ舞うは

   夕風の

 吹きて偲ぶは

      里の山波



 

 

二百八十三




 夕影に

  染まりし白き

   詰草は

 去りにし春を

      送る道かな



 

 

二百八十四




 人知れず

  そよぐは侘し

   風なれば

 緑そ深き

    夏ぞ待ちける



 

 

二百八十五




 春蟬の

  鳴くは春暮れ

   夕闇の

 過ぎ去る時そ

    惜しみたりける



 

 

二百八十六




 山波は

  遥か遠けく

    思へしは

 夕の影にそ

     見えし幻



 

 

二百八十七




 夕影も

  雲に掠れし

   狭雲月

 さみゝ風にそ

    鳥の鳴きける



 

 

二百八十八




 雲そなく

  空に青葉の

   さざめきて

 時も掠るゝ

     夕月夜かな



 

 

二百八十九




 夕暮れに

  追われ棚引き

   影そ待つ

 偲びて見ゆる

      遠き昔日



 

 

二百九十




 肌寒き

  風の吹きける

   早苗月

 蛙も眺むや

     夜半の月影



 

 

二百九十一




 黒々と

  湧き立つ雲に

   雨そ待つ

 香蒲もざわめく

      安之堀川



 

 

二百九十二




 桜葉の

  小雨に青の

    なお深く

 初夏の香纏ふ

     風に惑ひし




 

 

二百九十三




 木洩れ日に

  落つるは時か

   懐かしき

 皐月も暮れし

     夕のさゞ波



 

 

二百九十四




 日も暮れて

  烏も鳴きて

    帰りなむ

 風に問いにし

     家はいづこぞ



 

 

二百九十五




 煌めきて

  萌ゆるは緑の

   波間にそ

 思ひぞ揺れし

     夕の空かな



 

 

二百九十六




 つゝじ咲き

  日も照りにける

   五月晴れ

 暑さに夏を

     思ふ頃かな



 

 

二百九十七




 日々の苦に

  笑ふは紅き

   つゝじかな

 雲そ遮り

    日をば陰らむ



 

 

二百九十八




 夕されば

  風に寂しさ

   まさりける

 音もなかりき

     影そのびけり



 

 

二百九十九




 そのまゝに

  生くるは難し

   春暮れの

 夕の野辺にそ

     見ゆる面影



 

 

三百




 薄暮にそ

  白詰草の

   敷かれたる

 野にそ偲ぶや

     里のあぜ道



 

 

三百一




 初夏の香の

  梢揺らせし

    風に舞い

 浮雲そ見ゆ

    根無し草かな



 

 

三百二




 夜もすがら

  風に涼みて

   蛙鳴き

 朝に咲くや

    あじさいの花



 

 

三百三




 曇りては

  月もなくして

   夜の影は

 初夏ぞ香りし

     風に惑ひぬ



 

 

三百四




 合歓の木に

  落つるは静けき

   通り雨

 夕も暮れにし

      光清けき



 

 

三百五




 道の端に

  顔そほてるや

   昼顔の

 夏とばかりに

    日の照りにける



 

 

三百六




 櫻葉の

  青きに隠る

   立ち葵

 影に涼みて

    咲ひけるかな



 

 

三百七




 春花も

  散りてや夏の

   花ぞ咲く

 風にそ匂ふ

     四季の戯れ



 

 

三百八




 呼びにける

  夕べに飛ぶは

   烏かな

 今も昔も

    時は變わらじ



 

 

三百九




 移りげに

  色をうつすや

   紫陽花の

 雨に匂ふは

     夏の黄昏れ



 

 

三百十




 問ひたれど

  風は何をも

    語らずに

 過ぎ行く時に

    消ゆるものかは



 

 

三百十一




 行き交ひし

  人も影とて

    思ひける

 いづれ絶へなむ

     この身侘しき



 

 

三百十二




 叢々に

  虫の鳴きける

   時節にそ

 なりけるを見ゆ

      歳を思ひて



 

 

三百十三




 若竹も

  伸びてや青葉

   茂らせむ

 露も近しき

     春日部の里




 

 

三百十四




 宵風に

  侘し春蟬

   露の香の

 行交ふ人に

    知るもなかりき



 

 

三百十五




 遠き日の

  思ひに咲くは

   山百合の

 香ぞ懐かしき

     露の風かな



 

 

三百十六




 人波に

  知るもなかりき

   風そ吹く

 かくも侘しき

     町のともしび



 

 

三百十七




 露の田の

  引きたる水の

   稲の葉の

 曇る空にそ

    日を仰ぎけれ



 

 

三百十八




 人影も

  いづれ消えゆく

    幻の

 思ひて虚し

    宵の黄昏れ



 

 

三百十九




 夕月に

  夾竹桃の

   花そ揺れ

 蛙鳴きける

    田をば眺めん



 

 

三百二十




 久方の

  見えし月影

    幽かなる

 風の吹きける

    野辺に落ちにし



 

 

三百二十一




 忙しなき

  蛙の音さへ

   止みにける

 篠突く雨に

     梅雨そ訪れ



 

 

三百二十二




 宵の空

  差すは霧雨

    音も無く

 幽かに香るは

     思ひ出の里



 

 

三百二十三




 梅雨入りて

  雲間に眺む

    三日月の

 うつすは侘びし

     野辺の風かな



 

 

三百二十四




 夕に見し

  からむや蔦の

   花の名を

 たれそ知らむや

     三日月の影



 

 

三百二十五




 山影も

  見へぬ里にそ

    吹きにける

 風また同じ

     遠く消えにし




 

 

三百二十六




 露空に

  月も隠るゝ

   小夜更けて

 さみゝ風にそ

     思ふ里かな



 

 

三百二十七




 泡沫の

  現をうつす

    三日月の

 影さへ幽かに

     雲に掠るゝ



 

 

三百二十八




 そぼ降りし

  雨に濡れしは

   紫陽花の

 色そ艶めく

    空に似たりき



 

 

三百二十九




 さめざめと

  涙落とすや

   曇り空

 木々の梢に

    鳥は宿りし



 

 

三百三十




 宵闇に

  静かに濡れし

   町の灯の

 光り霞みて

    こゝろ侘しき



 

 

三百三十一




 風吹かば

  寒さぞ返す

   夕影は

 夏そこばみし

    春の名残りぞ




 

 

三百三十二




 緑深く

  衣染めたる

    水無月の

 櫻葉濡らす

    露ぞ落ちける




 

 

三百三十三




 風さみゝ

  宵そ侘しき

    わが影の

 傍えに落つる

     片割れの月



 

 

三百三十四




 梅雨寒の

  夜の影にそ

   差しにける

 掠れし月を

    独り見しかな



 

 

三百三十五




 夕されば

  風に棚引く

   白雲に

 鳥そ鳴きける

    黄昏れぞ待つ


 

 

三百三十六




 影そ伸び

  夕そ伸びける

    梅雨晴れの

 風そ清かに

     緑暮れなむ



 

 

三百三十七




 夕影に

  宿を探すや

   椋鳥の

 木々の梢に

     霞む夕月



 

 

三百三十八




 静まりて

  小夜の梢の

    露そ落つ

 さみゝて仰ぐ

     空の虚しき



 

 

三百三十九




 霞み空

  たれそ思ふや

   石たたき

 声ぞ懐かし

    里にはあらねど



 

 

三十四十




 棚引くは

  緑か雲か

   風に酔ゐ

 夕を纏ひて

    静けさを見ゆ



 

 

三百四十一




 蛙さへ

  見を隠しける

   雨音に

 香蒲も垂れなむ

      安之堀川



 

 

三百四十二




 雲間にそ

  月影洩るゝ

   小夜更けて

 さゞめく鳥の

     声ぞ侘しき



 

 

三百四十三




 御簾越しの

  月そ清けき

   天の原

 幽かに落つる

     影そ虚しき



 

 

三百四十四




 そよ風に

  騒ぐは椋か

    夜半の月

 梢に零るゝ

     光り清けき



 

 

三百四十五




 小夜の闇

  月そ隠らば

    そよ風の

 音にそ眠る

     彌涼暮月



 

 

三百四十六




 青霞み

  夕に陰りし

   涼風の

 野辺にそ憩ふ

    鳥のさえずり



 

 

三百四十七




 暁に

  落つるは露か

   霧雨か

 静けさに散るは

     浅き夢かな



 

 

三百四十八




 風もなく

  夜闇に浮くは

   木々の影

 月もなくして

    いづこへ行かむ



 

 

三百四十九




 静寂に

  宵の影さへ

   揺らめきて

 幽かにそよぐ

     風そ歌いし



 

 

三百五十




 仰げども

  月のなかりき

   梅雨空の

 雲にそ掠れし

    夢のあとさき



 

 

三百五十一




 夕されど

  暑さ残りて

   夏近し

 露の晴れ間の

    青ぞくすみし



 

 

三百五十二




 風吹かば

  梢清けき

    松風の

 梅雨も近々

   去りしものかな



 

 

三百五十三




 露の間の

  晴れ間にうだる

   深緑の

 梢に流るゝ

     風の涼けき



 

 

三百五十四




 吹き抜けし

  風そ追ひける

   時もまた

 流るゝ朝を

    求むものかは



 

 

三百五十五




 野分去りて

  露も消えにし

   暑さなる

 雲間より差す

    日の恨めしき



 

 

三百五十六




 騒ぐ影

  人ぞ虚しく

   雨音に

 この世の外を

    思ふものかは



 

 

三百五十七




 雨雲に

  日も陰りにし

   晦日なる

 けふを惜しみし

     さくら葉の露



 

 

三百五十八




 露空に

  儚き風の

   涙雨

 螢ぞ照らす

    里の遠けき



 

 

三百五十九




 やまぼうし

  露にそ白けき

   花濡らし

 幽かに思ふ

     ふる里の道



 

 

三百六十




 雨そ打つ

  時そ流るゝ

    風待ちの

 月そ送りし

     夜半の影かな



 

 

三百六十一




 日も絶へて

  月も照らさぬ

   露の夜の

 幽かな梢の

     音の侘しき



 

 

三百六十二




 黄昏るゝ

  空も霞みて

   月掠れ

 幽かに落ちし

    野辺の影かな



 

 

三百六十三




 町の灯に

  野辺の叢々

    偲びたる

 遠くに蛙の

    鳴く声ぞする



 

 

三百六十四




 春は立ち

  夏の舞ひける

    梅雨暮れの

 暑さに惑ふ

    香蒲の揺れなむ



 

 

三百六十五




 淀む空

  露の明けるを

    待ちにしも

 野辺には夏の

     花ぞ咲きける



 

 

三百六十六




 夕暮れは

  風にそ思ひ

   染めにける

 緑霞みし

    露の空かな


 

 

三百六十七




 藤の葉の

  靡くは風の

   露空の

 掠れし蒼に

    溜め息ぞつく



 

 

三百六十八




 小夜更けて

  虫の音ぞきく

   野辺の風

 田のさざめきて

     夏の香ぞする


 

 

三百六十九




 露の夜に

  月も久しく

   見えざれば

 侘し憂き世に

     標なかりき



 

 

三百七十




 忍びたる

  雨そ上がりし

   木々の影

 鳩も思ひし

     夕ぞ近しき



 

 

三百七十一




 露の世の

  御簾ぞ垂れなむ

    空の下

 楓の青葉の

     影ぞ涼けき



 

 

三百七十二




 切られしは

   梢の枝端

     寂しげに

 椋も侘しき

    影もなからむ



 

 

三百七十三




 涼風の

  緑は憂きし

   曇り空

 露そ絶へなむ

     青ぞ夢見し



 

 

三百七十四




 見えぬ風

  帳そ降りし

   宵影の

 梢の掠るゝ

    音ぞ虚しき



 

 

三百七十五




 小夜更けて

  久しく見ぬや

   星影の

 いづこに宿りて

     見を隠したる



 

 

三百七十六




 憂き雲の

  空にそ橋の

   架かりける

 思ひて思う

     涙雨かな



 

 

三百七十七




 笹の葉を

  濡らすや露の

   催涙雨

 想ひかかるや

    かささぎの橋



 

 

三百七十八




 見えざるも

  逢瀬に涙す

   天の川

 戀しき時は

    かげろうの宵



 

 

三百七十九




 生きれども

  いづれは消えし

   玉の緒の

 永らへばこそ

     痛みもぞする



 

 

三百八十




 溜め息を

  つかば風にそ

    冷えにける

 影も移ろふ

     露の空かな



 

 

三百八十一




 夜にくずれ

  幽かにそぼ降る

   なみだ雨

 長くならむや

     月ぞ探しぬ



 

 

三百八十二




 年追ひて

  どこまで来たるや

    死出の道

 虫の鳴く音の

      標とぞする



 

 

三百八十三




 虫の音を

  聞きても春そ

   思はする

 櫻葉濡らせし

    夜半の露かな



 

 

三百八十四




 徒然に

  流る風にそ

   揺れにける

 女郎花の

    思ひ侘しき



 

 

三百八十五




 夜半の風

  くすみし月影

   なほ淡く

 水面陰りし

     安之堀川



 

 

三百八十六




 七夕の

  終えしも空の

   陰りたる

 冷えにし風に

     光り遠けき





 

 

三百八十七




 翳りしは

  空もわが身も

    變わらずに

 道もなくして

      淵そ覗きし



 

 

三百八十八




 夜の風は

  夏そ拒みて

   冷えにける

 虫の音侘し

    落つる影なく



 

 

三百八十九




 闇の夜に

  飛ぶは鴉か

   白鷺か

 声もなくして

    知る者もなし



 

 

三百九十




 昏き夜の

  月も眠りし

   露空に

 思ひ遠けき

     文月の風



 

 

三百九十一




 鈴の音を

  聞くは浮く夜の

   迷ひなれ

 雲掛かりても

     月はありにし



 

 

三百九十ニ




 翳る空の

  繁る青葉に

    夏を見ゆ

 露もいつしか

   消ゆるものかと



 

 

三百九十三




 思わばや

  花もなきにし

    この身ほど

 実もなからずば

      何を尊ぶ



 

 

三百九十四




 鳴く虫の

  音を横たへし

   野辺の影

 迫る闇にそ

     月を求めし



 

 

三百九十五




 曇りても

  光り宿せし

   朝にそ

 鳥はさえずり

     緑さざめき



 

 

三百九十六




 手を伸ばし

  触れし櫻葉

    露に濡れ

 風に零すは

     涙なりける



 

 

三百九十七




 薄曇り

  小雨そぼ降る

   夕月夜

 濡らすは花か

     人のこゝろか



 

 

三百九十八




 明けやらぬ

  露の雲間の

   月影は

 掠れて夏の

   遅しとぞ憂ひ



 

 

三百九十九




 来たりなば

  暑さ寒さに

    もの申し

 人のこゝろの

   いたずらにける



 

 

四百




 夜もすがら

  梅雨冷えの風に

   ざわめくは

 月もなからむ

      野辺の草々




 

 

四百一




 雨音の

  調べそ侘し

   文月の

 思ひそ尽きね

     露の宵影



 

 

四百二




 さめざめと

  泣くは露空

   小夜更けて

 迷ひそ打ちて

    いつかは晴れしや



 

 

四百三




 虫の音も

  なくして雨の

   声音にそ

 黄昏れ聞くや

      安之堀川



 

 

四百四




 宵の雨に

  聞くや侘しき

   行く末の

 頭に降るは

     白き雪かな



 

 

四百五




 小夜に降る

  雨にそ濡れし

   立ち葵

 朝の空を

    待ちて立ちにし



 

 

四百六




 露をうつす

  野辺に咲きける

    鏡草

 清けき青に

     夏そ思ひし



 

 

四百七




 夜の雨に

  傘に隠すは

   心かな

 濡れし花にそ

    侘しさを見ゆ


 

 

四百八




 梅雨空に

  鳴くは初蟬

    夏だとて

 流る堀川

    四季は巡りし



 

 

四百九




 久方の

  光りのどけき

   夕暮れに

 宵待草は

    月を待ちつゝ




 

 

四百十




 夕されば

  落つる影にそ

   侘しける

 梅雨の晴れ間の

     野辺の静けさ



 

 

四百十一




 躑躅散り

  見なば青き

    影となり

 残るは深き

     翠なりける



 

 

四百十二




 あたりける

  小雨そ虚し

    暑さなる

 野辺に吹きける

     風そ待ちなむ



 

 

四百十三




 そぼ降りし

  雨ぞ照らせし

   小夜の月

 夢も現も

    幽かなりけり



 

 

四百十四




 曇天に

  日は翳りても

    うだりなむ

 風も幽かに

     蟬の音ぞ聞く



 

 

四百十五




 涼やかに

  見えしは香蒲か

   堀川の

 暑さに茹だるゝ

      鏡草かな



 

 

四百十六




 たれそ呼ぶ

  風に揺らるゝ

   詰草の

 思ひ秘めにし

    影そ落としつ



 

 

四百十七




 小雨降る

  町の灯りの

    侘しさに

 虚しく響くは

     蝉時雨かな



 

 

四百十八




 文月の

  暑さも虚し

    蟬の音の

 開けし文も

    なかりせむかな



 

 

四百十九




 そぼ降るは

  憂ひ多かりき

   現にそ

 雨も涙も

   變わりせんかな



 

 

四百二十




 過ぎゆくは

  時も風にそ

   まさりける

 曇天の空に

     月そ探しつ



 

 

四百二十一




 雲深く

  月も隠るゝ

    露の夜の

 虫の声音も

     幽かなりける



 

 

四百二十二




 触れし風の

  語るや野辺の

   思ひ出の

 還らぬ時に

   月は出でしも



 

 

四百二十三




 虚しけり

  うわの空にも

   神ありや

 苦しき現に

    身も凍りつゝ



 

 

四百二十四




 夕闇は

  心にさして

    痛みける

 雨音に聞く

   老ひし行く末



 

 

四百二十五




 長々と

  星も見えざる

   露の空

 暁の風に

    虫の鳴くなる


 

 

四百二十六




 そよ風に

  草の叢々

   虫の音の

 呼ぶは黄昏れ

     遠き思ひ出



 

 

四百二十七




 久方の

  朱き夕空

   眺むれば

 棚引く雲にそ

    見ゆる里かな



 

 

四百二十八




 侘しける

  憂き世に浮きし

    白雲の

 流る先にそ

     空の見えざる



 

 

四百二十九




 今は遠き

  古里の露そ

   晴れたるや

 青き田畑を

     思ふ空かな



 

 

四百三十




 うだる空に

   狗尾草の

    涼けしく

 思ふは虚し

    夕ぞ待ちける



 

 

四百三十一




 吹き抜けし

  靡くは夏か

   宵の風

 月も幽かに

    遥かなりけり



 

 

四百三十二




 雲間にそ

  星の欠片も

   見えざれば

 思ひ侘しく

    溜め息ぞつく



 

 

四百三十三




 恨めしき

  現は黄泉の

    道ならで

 縋るもなかりき

     流れなりける



 

 

四百三十四




 涼風に

  聞こゆは野辺の

   草ぐさの

 掠るゝ音にそ

     虫の鳴きける



 

 

四百三十五



 笹竹の

  撓むは風の

   いたみける

 椋も騒ぎて

     嵐来たらむ



 

 

四百三十六




 星影も

  御簾に隠せし

   天の原

 宵待草の

    香は匂いつる



 

 

四百三十七




 思ひ出は

  色も褪せゆき

    遠くなりて

 我が身そ老いて

     忘るゝものかは


 

 

四百三十八




 梅雨も去り

  風はうだりて

   蝉時雨

 落つる影さへ

   うだるゝものかな



 

 

四百三十九




 日は昇り

  暑さに惑ふ

   梅雨明けに

 凛と立ちたる

     向日葵の花



 

 

四百四十




 行き交いし

  人も疎らに

    月もなく

 知る影もなく

     風の吹きける



 

 

四百四十一




 偲びける

  宵待草の

   花の香に

 こゝろは知らね

     月は眠りて



 

 

四百四十二




 小夜更けて

  町の灯りに

    蟬そ鳴く

 いづれは消えし

      声ぞ侘しき



 

 

四百四十三




 蟬の音に

  時雨てうだり

    小夜更けて

 項垂る木々に

      文月ぞ暮れ



 

 

四百四十四




 そよ風に

  青き楓の

   涼しげに

 影そ落とすや

     陽炎に揺れ



 

 

四百四十五




 風弱く

  暑さも引かず

    小夜更けて

 眠りも浅き

     葉月なりける



 

 

四百四十六




 夏だとて

  己を示せし

    暑さにそ

 日に項垂るゝ

      鏡草かな



 

 

四百四十七




 風鈴の

  短冊散りて

    音なくば

 蟬の音にさへ

   茹だるゝものかな



 

 

四百四十八




 振り返り

  生くるは旅路と

   知らねども

 掠れし夜半の

     月を眺むる



 

 

四百四十九




 木洩れ日に

  遠き思ひ出

    垣間見し

 帰らぬ里の

     山を偲びし



 

 

四百五十




 気付かざれば

  何もなかりき

    日々なりて

 永久もなかりき

     蟬そ鳴きける



 

 

四百五十一




 うつろいし

  四季に惑ふや

   人の影

 風の刹那に

    消ゆるものかな



 

 

四百五十二




 暁に

  露もなかりき

   暑さかな

 蟬もうだるゝ

    葉月なりける



 

 

四百五十三




 草原や

  波立つ風の

   なかりせど

 蟬に時雨し

    小夜更けにける



 

 

四百五十四




 夏草の

  靡くそよ風

   儚きて

 涼しげなるは

     夜半の月影



 

 

四百五十五




 日陰なく

  狗尾草も

   うなだるゝ

 風もなかりき

     昼下りかな



 

 

四百五十六




 涼風に

  宵待草の

    幽かなる

 香ぞ匂ひつる

     夜半の月かな



 

 

四百五十七




 夕影に

  飛びける椋の

    侘しきける

 眠る宿なく

     風に黄昏る



 

 

四百五十八




 久方の

  雨に濡れにし

   草原の

 緑に咽びし

    風の吹きける



 

 

四百五十九



 櫻葉の

  落とすは影か

   蟬時雨

 洩るゝ日差しの

     暑きものかな



 

 

四百六十




 虫鳴なかば

  音にそ思ふ

   古里の

 山にそ掛かる

     夜半の月影



 

 

四百六十一




 惑ひてや

  鳴くは椋かな

   月影に

 眠りし宿を

    探すものかな



 

 

四百六十二




 宵も暮れ

  暑さぞ残りし

   夜半の月

 浅き眠りに

    虫の音ぞ聞く



 

 

四百六十三




 風鈴の

  音も侘しける

   暑さかな

 久しくなかりき

     夕立を偲び



 

 

四百六十四




 月影の

  風に乱るゝ

   芒かな

 秋も近しと

    虫の鳴きける



 

 

四百六十五




 努々に

  忘るゝなかれ

   戦場を

 骨も帰れぬ

    人のありきを



 

 

四百六十六




 若すすき

  風にそ思へ

   死に逝きし

 人は戦ぞ

    憎みけるかと



 

 

四百六十七




 夜も更けて

  町の灯に降る

   蟬時雨

 うだるゝ風に

    夢もなかりき



 

 

四百六十八




 夏影に

  緑の波の

   うねりたる

 野辺に染みるや

     蟬ぞ鳴きけり



 

 

四百六十九




 笹竹に

  まとふや風の

   虫の音の

 暑さ和らぐ

    小夜に遊びし



 

 

四百七十




 久方の

  雷雨に見るは

   懐かしき

 幼きに眺む

     夕立の空



 

 

四百七十一




 きりぎりす

  鳴くや吹く風

   宵影の

 涼むや雨の

     安之堀川



 

 

四百七十二




 田にぞ吹く

  風も清かに

    実りたる

 稲穂の波の

     ゆれし暁



 

 

四百七十三




 遠雷も

  涼しげなりし

   雨空の

 和らぐ暑さに

     秋そ思えり



 

 

四百七十四




 鈴虫の

  鳴くや月影

   小夜更けて

 遠くかかりし

     思ひ巡らす




 

 

四百七十五




 湧き立ちし

  雲も染まりし

   夕暮れは

 久しく見ざる

     里の面影




 

 

四百七十六




 鳴く蟬の

  声にそ淡き

    秋の香の

 風ぞ吹きける

     葉月暮にし



 

 

四百七十七




 雨雲の

  月そ隠すや

   夏草の

 香にそ聞こゑし

      秋虫の声



 

 

四百七十八




 昇りても

  見へぬ月影

   曇空に

 悩みそ尽きね

    小夜ぞ更けにし



 

 

四百七十九




 夏影も

  淡くなりたる

   暮れ葉月

 波打つ田にそ

    風の吹くらむ



 

 

四百八十




 蟬の音も

  幽かなりける

   小夜の風

 ゆれるは野辺の

     芒なりける



 

 

四百八十一




 夏影の

  紅葉の青き

   葉もいづれ

 秋に染まるや

     朱き夕暮れ



 

 

四百八十二




 為すが儘に

  流るゝ風に

    身を委ね

 棚引く雲にそ

     思ひ掛けにし



 

 

四百八十三




 星月の

  なきにし里の

   夜の闇の

 知る影もなく

     涼風の吹く



 

 

四百八十四




 秋近し

  虫の声音の

    数多なる

 夏も暮れにし

     褪せし人影



 

 

四百八十五




 飛ぶ蟬の

  何ぞ求むや

   夕影の

 暮れし葉月に

    秋の香ぞする



 

 

四百八十六




 野辺に咲く

  憂き世に惑ふ

    鏡草

 つる悩ましと

   すゝき揺れにし



 

 

四百八十七




 棚引くは

  風を追ひしや

   白雲の

 秋虫の音にそ

     夏は暮れなむ



 

 

四百八十八




 夏暮れに

  篠突く雨の

   上がりせば

 暁の空にそ

     秋虫の鳴く



 

 

四百八十九




 涼風に

  秋を見たるや

   百日紅

 日も和らげば

     夏も陰らむ



 

 

四百九十




 香蒲の穂も

  秋ぞ思ゆる

   夕風の

 棚引く雲に

    影も伸びける



 

 

四百九十一




 宵風は

  秋そ纏ひて

   野辺に吹き

 さざめく夏に

    沁むる虫の音



 

 

四百九十二




 雨音の

  朝の空に

   聞こゑなむ

 梢の掠るゝ

     音に微睡み



 

 

四百九十三




 雨上がり

  宵とばかりに

   競ひなむ

 虫の声音の

     秋の呼び声



 

 

四百九十四




 和らぎて

  睡りいざなふ

    涼風は

 棚引く夏の

     思ひ抱きし



 

 

四百九十五




 過ぎ去りし

  時は遠けき

   月影の

 落つる光りに

    思ふものかな



 

 

四百九十六




 夕も暮れ

  葉月も終えし

   そよ風に

 虫の鳴きてや

    夏ぞ惜しみし



 

 

四百九十七




 長月の

  秋そ告げるや

   夜半の風

 暁に残る

    月そ侘しき



 

 

四百九十八




 夏も暮れ

  実る稲穂に

   吹きにける

 風にそ見ゆる

     古里の影



 

 

四百九十九




 見上げれば

  月のなかりき

   夜の空に

 思ひに似たる

     星影ぞ浮く



 

 

五百




 去り行ける

  時に似たるや

   夕暮れの

 色褪せるれば

     幽かなる

 痛みそ残し

    宵となり

 野辺の風にそ

     語るれば

 隠れし月の

    哀れみて

 御簾を上げしや

      足元に

 淡き灯りそ

     照らしなば

 落つる影にそ

      虫の鳴く

 流る川面の

    香蒲の穂は

 見なば帰らぬ

      里を見せ

 夏も翳りて

    思ひなむ

 四季の山波

     寄する風

 日々に褪せしも

      忘れまじ

 遠くなりてや

     今はまた

 返る頃にそ

     思ひ和らぎ



 

 

五百一




 草影に

  鳴くは秋虫

   軒先の

 月にそ夏の

   終わりとぞ知る



 

 

五百二




 櫪にそ

  見つけし蟬の

   抜け殻の

 去りゆく夏の

     思ひ残せし



 

 

五百三




 日の射せば

  暑さも返す

   蟬時雨

 夕戀しける

    百日紅の花



 

 

五百四




 掠れにし

  雲間の月の

    侘しけれ

 宵待草の

   香に惑ひける



 

 

五百五




 返す夏の

  虫も暑さに

   うだるゝや

 梢の間より

     見ゆる月影



 

 

五百六




 宵風も

  夏ぞ含みて

    吹きにける 

 見なば閑けき

     片割れの月





 

 

五百七




 川端の

  夏を惜しみし

    鏡草

 朝に思ふ

   晩夏の黄昏れ



 

 

五百八




 長月の

  夏の名残りの

   野分なる

 人も鳥をも

     騒ぎけるかな



 

 

五百九




 宵影の

  野分の風に

   うだるれば

 小雨もいづれ

     嵐となるらむ



 

 

五百十




 野分去りて

  差すは夕暮れ

    秋茜

 返しける夏の

    暑さにそ酔ゐ



 

 

五百十一




 夏を偲ぶ

  暑さに惑ふ

   重陽の

 夕の野辺にそ

    菊の咲きける



 

 

五百十二




 日ぞ追ひて

  蟬の鳴く音の

   遠ざかり

 秋そ聞きける

     夕月夜かな



 

 

五百十三




 雷鳴に

  稲妻走りて

    篠突きし

 雨の打ちせば

     暑さ流るゝ



 

 

五百十四




 雨風に

  虫も鳴きやむ

   稲光り

 夏ぞ惜しみし

     嵐なるかな



 

 

五百十五




 中秋の

  月隠れにし

   宵闇の

 見えぬ芒に

    秋虫ぞ鳴く



 

 

五百十六




 見えずとも

  月そありしや

   十五夜の

 里の山には

    見えしものかな



 

 

五百十七




 小夜更けて

  雲間に掠れし

   十六夜の

 洩るゝ月にそ

     秋風の吹く



 

 

五百十八




 中秋の

  過ぎにし風の

   秋の香の

 色濃く纏ふや

    田にそ吹きける



 

 

五百十九




 返り見て

  わが身そ虚し

   長月の

 闇にそ里の

    川の音ぞ聞く



 

 

五百二十




 秋風の

  夏そ名残りし

   曇天の

 町の灯の中

    白鷺ぞ飛ぶ



 

 

五百二十一




 長月の

  遠くなりしや

   蟬のこゑ

 沁みし虫の音

    秋に染めにし



 

 

五百二十二




 西日差す

  梢を見なば

   空高く

 淡き蟬の音

    夏を惜しみし



 

 

五百二十三




 長月の

  刈田に吹くは

   秋風の

 暁月夜に

    虫の音ぞ聞く



 

 

五百二十四




 秋の野に

  揺らぐ芒の

   影法師

 虫の音沁みし

     夕の静けさ



 

 

五百二十五




 夏影は

  かげろふの如く

   消えにけり

 空も幽かに

     遠くなりける



 

 

五百二十六




 交叉せし

  影も疎らに

   小夜更けて

 知る影もなし

     秋のそよ風



 

 

五百二十七




 寂しさは

  揺蕩ふ時の

    枯れ尾花

 夕に似たりて

     影そ落ちにし




 

 

五百二十八




 萩そ見し

  彼岸となりし

   長月の

 雲居に惑ふ

     夜半の月影



 

 

五百二十九




 夏の香の

  名残りし野辺の

   草ぐさの

 褪せし夕にそ

     秋津舞ひける



 

 

五百三十




 夏を偲び

  流れそ眺む

    さしも草

 時そ映さむ

     安之堀川



 

 

五百三十一




 一雨に

  時節そ移す

   長月の

 影も夜をも

     長く棚引き



 

 

五百三十二




 夕暮れは

  刈田ぞ染めて

   秋映し

 去りける夏を

    なお偲びなむ


 

 

五百三十三




 菊見月

  彼岸に降るは

   霧雨の

 古里思へば

    虫のなくなる



 

 

五百三十四




 寂しさを

  思へなりきや

   秋分の

 木洩れ日の中に

     駆けし夏風



 

 

五百三十五




 秋の野に

  流るゝ風は

    時に似て

 吹きてや遠く

   消えしものかな



 

 

五百三十六




 秋風に

  露も冷えにし

   朝ぼらけ

 川面の香蒲にも

    時はふるなれ



 

 

五百三十七




 更けし夜に

  見なば筆より

    落ちにける

 墨にそ似たる

     木々の影かな



 

 

五百三十八




 夜もすがら

  虫の音聞きて

   秋更けて

 色付く朝そ

   待ちにけるかな



 

 

五百三十九




 棚引くは

  雲か思ひか

    風そ吹き

 月の陰りし

     野辺に流るゝ



 

 

五百四十




 夕されば

  暮るゝ山波

   懐かしき

 里へと吹きける

     秋の風かな



 

 

五百四十一




 虫ぞ鳴く

  秋風そよぐ

   長月の

 暮れし空にそ

     雲の流るゝ



 

 

五百四十二




 振り返り

  刈田の秋津

    影追ひて

 夏そ惜しみて

     暮れし長月



 

 

五百四十三




 秋空の

  偲ぶや夏影

    映しなむ

 秋虫の音にそ

     朝顔ぞ咲く



 

 

五百四十四




 日に追われ

  見なば朽ちにし

    立ち葵

 わが身世にふる

      思ひ侘しき



 

 

五百四十五




 枯れし花の

  色は草木に

   うつりける

 野辺に見ゆるは

      春の面影



 

 

五百四十六




 夏影を

  思ゆ日差しの

   暑さにも

 尾花揺らすは

     清けき秋風



 

 

五百四十七




 夜もすがら

  野辺に鳴きける

   鈴虫の

 音ぞ侘しける

     秋のさざなみ



 

 

五百四十八




 川の端の

  無花果の実の

    なるを見て

 思ふは里の

     秋のそよ風



 

 

五百四十九




 秋風の

  吹きにし苑の

   薄染めの

 梢に掛かる

     夜半の月影



 

 

五百五十




 秋の香も

  染まりし色も

    變わらずに

 移ろいぞ見ゆ

     里にはあらねど



 

 

五百五十一




 陰りせば

  吹きゆく風の

   肌寒き

 楓も暮れし

     小春月かな



 

 

五百五十二




 秋桜

  靡きし風の

   木洩れ日の

 落とすは淡き

     思ひ出の影



 

 

五百五十三




 朝見ゆ

  露に濡れしや

    もみじ葉の

 色移ろひて

     秋そ深まり



 

 

五百五十四




 流さるゝ

  雲も遠けき

   神無月

 見なば秋津の

    飛びし夕暮れ



 

 

五百五十五




 苑に落つ

  橡拾ひて

   思ひなむ

 遠けき里の

    秋の夕暮れ



 

 

五百五十六




 肌寒き

  秋の夜長の

   月影の

 野辺にそ聞こゆ

    澄みし虫の音



 

 

五百五十七




 秋風に

  ともに揺蕩う

   月影の

 うつすは偲びし

      古里の影



 

 

五百五十八




 夜半の月

  秋風揺らす

    香蒲の影

 魚ぞ跳ねなむ

      安之堀川



 

 

五百五十九




 小雨降る

  虫の音弱き

   霜見月

 野分そ来るや

     風も惑ひし



 

 

五百六十




 鳥叫び

  風も叫びし

    野分なる

 草木も人も

   過ぐるを待ちにし



 

 

五百六十一




 夕されば

  月ぞ清けく

    虫の鳴く

 野分ぞ去りて

     秋ぞ深まり



 

 

五百六十二




 溢れしや

  雨ぞ集めし

   堀川も

 自然の内と

    思ひたりける


 

 

五百六十三




 秋雨に

  金木犀の

   香ぞ立てば

 思ふは優しき

    秋の日溜まり



 

 

五百六十四




 苑に生ふる

   楓も衣そ

    悩みなむ

 秋に染まるは

     思ひなるなか



 

 

五百六十五




 雨傘の

  咲くは秋雨

   肌寒き

 雨に忍ぶは

    百日紅の花


 

 

五百六十六




 人影も

  色付けにける

   金木犀

 野分の後の

    秋の日溜まり



 

 

五百六十七




 雲掛かり

  光り陰りし

    秋の日の

 野辺を染めるは

      鏡草かな


 

 

五百六十八




 笹竹の

  色も掠れし

   霜見月

 心も掠るゝ

    曇り空かな



 

 

五百六十九




 飛ぶ鳥の

  何ぞ見たるや

   秋風に

 思ひて眺む

    夕の空かな



 

 

五百七十




 風寒み

  夏の名残りも

    消え去れば

 秋の夜長の

     月ぞ侘しき


 

 

五百七十一




 虫の音に

  金木犀の

   香ぞ舞ひて

 風の冷えなむ

    夜半の月かな



 

 

五百七十二




 野分にそ

  堪へしや楓の

   枝の端の

 疎らな葉にそ

    わが身重ねし



 

 

五百七十三




 宵闇の

  侘し草木の

    影なるも

 思ひそつゝみし

     金木犀かな



 

 

五百七十四




 日々に暮れて

  こゝろ侘しき

   時雨月

 風に惑ふは

    秋虫のこゑ



 

 

五百七十五




 虫の音の

  響くは野辺の

   小夜の風

 曇りし空に

    月もなかりき



 

 

五百七十六




 音に聞く

  富士の高嶺の

   初雪の

 即位そ祝ふ

    花となりなむ



 

 

五百七十七




 宵暮れて

  空に掛かるは

   雲なれば

 星もなからむ

     野辺の秋風



 

 

五百七十八




 深き夜の

  虫の音にこそ

   侘しけれ

 里にも見ゆる

     月そ思ひし



 

 

五百七十九




 流れゆく

  秋ぞ幽かに

   寒風の

 金木犀の

  香ぞ惜しみける



 

 

五百八十




 冷たきは

  風か人の

   こゝろかな

 染まる秋にそ

     冬は近しき



 

 

五百八十一




 秋風に

  人も流れて

   行き来たり

 知る影もなく

     思ひ侘しき



 

 

五百八十二




 秋風に

  夏そ惜しみて

   咲く花の

 枯れゆくもまた

     生と思ひし



 

 

五百八十三




 思ふまゝ

  生くるは難き

   枯れ尾花

 月なき夜にそ

    虫の鳴くなる



 

 

五百八十四




 夜も更けし

  秋の夜風の

   肌寒き

 遅き月さえ

   ため息ぞつく



 

 

五百八十五




 貧しきは

  こゝろにあらで

   体になく

 人ぞ侘しき

     枯れ尾花かな



 

 

五百八十六




 月陰る

  静けき小夜に

   鳴く虫の

 音にこそ思ふ

     里の秋かな



 

 

五百八十七




 霜先の

  静けき野辺の

   秋風の

 時雨し空に

    虫の鳴きにし



 

 

五百八十八




 朝霧に

  冬を見せばや

   小春月

 虫の鳴く音の

     弱りもぞする



 

 

五百八十九




 秋風に

  咲かば枯るゝと

   知りながら

 こゝろありなば

     思ひとゞめし



 

 

五百九十




 風吹かば

  鳴るは野原の

   枯れ尾花

 夕の山波

    思ふ頃かな



 

 

五百九十一




 とまり木も

  なかりき道の

    枯れすゝき

 返す返すも

    虚したりける



 

 

五百九十ニ




 侘しきは

  野辺の虫の音

   疎らにそ

 夜霧に惑ふ

     秋の風かな



 

 

五百九十三




 衣濡らす

  夜霧に霞む

    枯れ尾花

 音も絶へなむ

     小夜ぞ更けにし


 

 

五百九十四




 久方の

  光りのどけき

   秋の日に

 夕に染まるや

     さくら葉の影


 

 

五百九十五




 秋に暮れ

  銀杏も黄金に

    染まりけり

 日々に寒さの

     つのる頃かな



 

 

五百九十六




 秋風に

  今ぞ去るゝるや

   小春月

 日を追ひけるは

     寒さなりける



 

 

五百九十七




 もみじ葉の

  秋に沁みるや

   木染月

 うかぬ月夜の

     見も掠れける



 

 

五百九十八




 行きけるや

  夜露に濡れし

   酔芙蓉

 朝に咲ふ

   こゝろ持ちなば



 

 

五百九十九




 霜月の

  冷えし風吹く

   町の灯に

 墨で書きたる

     木々の影かな



 

 

六百




 櫻葉も

  朱き衣に

   返しなば

 秋も暮れなむ

     雪待月かな



 

 

六百一




 宵風の

  寒さに沁みし

    もみじ葉の

 影なき夏そ

    惜しむ頃かな



 

 

六百二




 さめざめと

  雨にそ濡れし

    もみじ葉に

 四季こそ思へ

      秋の帳に



 

 

六百三




 柿の実の

  秋に染まれば

   懐かしき

 思ひ出さるゝ

     里山の色



 

 

六百四




 寒風に

  散りし落ち葉そ

   眺むれば

 思ひ出したる

     絶えし山栗



 

 

六百五




 侘しさに

  片割れの月ぞ

   仰ぎては

 落つる枯れ葉に

     身を重ねつゝ




 

 

六百六




 川の音に

  秋の侘しさ

   まさりける

 冬も近しき

    雪待ちの月



 

 

六百七




 葉を散らす

  掠れし櫻の

    枝端より

 見ゆるは侘し

     片割れの月



 

 

六百八




 霜月の

  冷えしや野辺の

    月影の

 風に朽ちなむ

     枯れ尾花かな



 

 

六百九




 薄雲に

  月も掠れし

    秋の夜の

 散りし枯葉の

   沁みしものかな



 

 

六百十




 寒風に

  秋も深しや

   もみじ葉の

 衣そ返す

    霜降月かな



 

 

六百十一




 秋暮れの

  風そ和らぐ

    昼下がり

 日溜まりに落つる

     枯れ葉侘しき



 

 

六百十二




 もみじ葉も

  染まりて散るは

    流れなる

 霜そ見たるや

      古里の月



 

 

六百十三




 町の灯も

  月も冷えにし

    小夜更けて

 影に散りける

     思ひ虚しき



 

 

六百十四




 侘しける

  堪えし現の

   夜もすがら

 掠れし虫の

    音にそ沁みにし



 

 

六百十五




 秋風に

  見なば枯れしや

   野の草の

 暮れしや夕の

     影そ棚引く



 

 

六百十六




 小夜に降る

  月そ霞みて

    幽かなる

 音にそ見ゆる

     枯れ芒かな



 

 

六百十七




 霞みける

  冷たき風の

    秋の野の

 冬そ見えたる

     霜月の朝



 

 

六百十八




 小夜の風

  眺む望月

   清けきや

 欠けぬ月など

    世にはあらねど



 

 

六百十九




 月もなき

  冷たき秋の

    夜の空の

 鳥の鳴きたる

     こゑの侘しき



 

 

六百二十




 寒風に

  虫の音遠く

    枯れ葉散り

 侘しさ残せし

     秋の夕暮れ



 

 

六百二十一




 倒れしも

  花をつけなむ

    秋桜

 咲きたる意味ぞ

     問うも虚しき



 

 

六百二十二




 さみゝ風に

  秋の帳は

   降りにける

 冬の近しと

    枯れ葉散るらん



 

 

六百二十三




 崩折れて

  待ちにけるかな

    冬の影

 夕に暮れなむ

    枯れすゝきかな



 

 

六百二十四




 月を待つ

  小夜ぞ更けにし

    秋風に

 冬の香ぞする

     野辺の静けき



 

 

六百二十五




 山そなく

  星もなかりき

   この里の

 虚しからんや

     安之堀川



 

 

六百二十六

 
前書き

 

 



 久方の

  落ちし日溜まり

   枯れ葉舞ふ

 花も惜しむや

     秋ぞ暮れにし



 

 

六百二十七




 色付きて

  落つる日差しに

   影伸びて

 寂しさにものを

     思ふ頃かな



 

 

六百二十八




 暮れにける

  日も幽かなる

   秋影に

 侘しさ見ゆる

     夕月夜かな



 

 

六百二十九




 忘らるゝ

  わが身に吹きし

    秋風は

 静かに掠れし

    野辺の枯れ草



 

 

六百三十




 朝見ゆ

  枯れ葉ぞ染めし

    薄霜の

 寒さに思ゆ

     冬の訪れ



 

 

六百三十一




 寒風に

  忍ぶ憂き世の

   夜の空の

 星も見えざる

     里の侘しき



 

 

六百三十二




 葉を散らす

  銀杏の木々の

   静かなる

 そよぐ風さえ

    虚したりけり



 

 

六百三十三




 虫の音も

  遠くなりてや

   秋暮れの

 眺む町さえ

   冷えしものかな


 

 

六百三十四




 枯れにしも

  夏ぞ残すや

   鏡草

 芽吹くを夢見

    眠りし種かな



 

 

六百三十五




 立ち枯れの

  野辺にそ雨の

    そぼ降らむ

 遠き虫の音

    聞くもなかりき



 

 

六百三十六




 霧雨の

  冬そ香りし

    夜の風に

 雪そ降りける

     里ぞ思ひし



 

 

六百三十七




 寒空の

  枯れし野にふる

   静けさは

 冬の初音と

     思ひけるかな



 

 

六百三十八




 筆をとり

  写すは侘し

   晩秋の

 夢も掠れし

   わが身なりける



 

 

六百三十九




 木枯らしに

  朽ちしもみじ葉

   散り果てゝ

 惜しむ者なく

     冬そ来たらん



 

 

六百四十




 うきし世の

  虚しさ映せし

   枯れ尾花

 風に掠るゝ

     音の侘しき



 

 

六百四十一




 寒々と

  秋を惜しむや

   村雨の

 打つは虚しき

    こゝろなりける



 

 

六百四十二




 もみじ葉の

  色も掠れし

   霜月の

 時雨し空に

    夕の暮れなむ



 

 

六百四十三




 さめざめと

  枯れ葉散らせし

   梅の木の

 冬を忍びて

     春そ待ちけり



 

 

六百四十四




 寒風に

  野辺の草木も

    枯れ果てゝ

 霜ふる朝に

     里ぞ思へり



 

 

六百四十五




 月影の

  なかりき闇に

   吹く風の

 冷たさ染むる

     霜月の暮れ



 

 

六百四十六




 小夜更けて

  散りし枯れ葉の

   風追ひて

 染みし寒さに

      月も眠りし



 

 

六百四十七




 虫の音も

  掠れ消ゑにし

   寒き夜の

 枯れすゝきにそ

     冬は来たれり



 

 

六百四十八




 霜月の

  晦日も暮れし

   人波の

 侘しく見ゆる

     冬の風かな



 

 

六百四十九




 忘れじの

  里の雪影

   今は見ず

 偲びて思ゆ

    冬の空かな



 

 

六百五十




 柊の

  花そ咲きしや

   冬風に

 思ふは白き

    里に降る雪



 

 

六百五十一




 葉を散らし

  冬ぞ忍びし

   櫻木の

 春そ思ひて

    今は眠りし



 

 

六百五十二




 日溜まりも

  風にさらわれ

    凍てつかば

 花も絶へなむ

      三冬月かな



 

 

六百五十三




 行き過ぎし

  時は流れて

   師走月

 枯れしや野辺に

     散るは言の葉






 

 

六百五十四




 枯れ草の

  風に朽ちにし

   野辺の影

 侘しさ誘ふ

     久方の月



 

 

六百五十五




 眺むれば

  衣そかえて

    色褪せし

 枯野に見ゆる

     人の道かな



 

 

六百五十六




 思ひ出も

  咲かせし櫻

   絶へ果てゝ

 侘しさ募りし

     冬の堀川



 

 

六百五十七




 吐く息の

  濁りてや思ふ

   古里の

 雪も見えざる

    師走なりけり



 

 

六百五十八




 凍えしも

  秋ぞ偲びて

    実りしは

 昔ぞ思ふ

    蜜柑なりける



 

 

六百五十九




 冬空に

  清けき月も

   冷え冷えと

 風に凍えし

    小夜の静けさ



 

 

六百六十




 虫の音も

  ふと偲ばるゝ

   冬の野の

 里ぞ知らむや

     夜半の月影




 

 

六百六十一




 冷えにける

   三冬月の

    夜の月の

 秋そ懐かし

   褪せしもみじ葉



 

 

六百六十二




 冬空の

  掠れし野辺の

   年の瀬の

 暁の月の

    こゝろ侘しき



 

 

六百六十三




 そぼ降るは

  雨か枯れ葉か

   年も暮れ

 夕に思ふは

     里の白雪



 

 

六百六十四




 雲そなく

  光り清けき

   望月の

 霞みて見ゆるは

     老ひし影なる



 

 

六百六十五




 望月の

  澄みたる影に

   枯れ尾花

 秋虫の音の

    懐かしきかな



 

 

六百六十六




 散りにける

  木の葉ぞ舞ひし

   木枯らしの

 寒さぞ染みし

      冬の黄昏れ



 

 

六百六十七




 年の瀬の

  人の波間の

    侘しけれ

 知る影もなく

     月ぞ冷たき



 

 

六百六十八




 宵も暮れ

  師走の風の

   沁みにけり

 月も幽かに

    音もなかりき



 

 

六百六十九




 散りゆくは

  褪せし櫻葉

   寒風に

 春待月も

    暮れにけるかな



 

 

六百七十




 年の瀬の

  音も虚ろなる

   堀川の

 日も絶え絶えに

     吹くは北風



 

 

六百七十一




 うつゝにそ

  契るも暇も

   ありはせず

 朽ちし芒に

     落つる月影



 

 

六百七十二




 年の瀬の

  忙しなき世の

   人波の

 冷たさ沁みし

    小夜のそよ風



 

 

六百七十三




 冬風に

  枯れし下草

    虚しけれ

 冷たき雨ぞ

    沁むる夜かな



 

 

六百七十四




 町の灯も

  色鮮やかに

    年の瀬の

 降誕節の

    風の冷たき



 

 

六百七十五




 底冷えし

  冬至も過ぎてや

   年も暮れ

 明くる年へと

     日を数えにし


 

 

六百七十六




 駆け抜けし

  時の早さぞ

    侘しけれ

 暮れし師走の

     空を仰ぎし



 

 

六百七十七




 寒風に

  葉もなき櫻

    眠りける

 星も疎らに

   小夜ぞ更けにし


 

 

六百七十八




 世の色は

  移りて侘し

    枯れ野原

 元日に落つる

     月の静けき



 

 

六百七十九




 明けにける

  空に沁むるは

   除夜の鐘

 音ぞ様々に

    年ぞ去りゆき


 

 

六百八十




 いづれ来る

  春まだ見えず

   新年の

 月も幽かに

     流る堀川


 

 

六百八十一




 年も明け

  人も疎らに

   小夜更けて

 うつろふ時は

    たれそ變わらず



 

 

六百八十二




 吹く風よ

  年そ移りて

   いづこへと

 流れゆかんや

      里の月影



 

 

六百八十三




 新春と

  言祝ぐ風も

   野にはなく

 思ふは遠き

     昔なりけり



 

 

六百八十四




 日ぞさして

   安之堀川

     水鳥の

 鳴くや變わらぬ

    年ぞ明けつる



 

 

六百八十五




 寒空に

  泣くや笑ふや

   三日月の

 年も明けにし

     春日部の里



 

 

六百八十六




 雪もなき

  枯れ野に明けし

    新年の

 朝にそ思ふ

     古里の冬



 

 

六百八十七




 めでたさも

  老ひてや思ふ

   半ばなる

 日々の變わるも

    かなりせんかな



 

 

六百八十八




 武里の

  野にも初日の

    差しにける

 鴨の鳴く音に

     思ふ雪里





 

 

六百八十九




 葉ぞ落とし

  眠る木々にそ

   侘しけれ

 惑ふは幼き

    日々の思ひ出



 

 

六百九十




 朝ぼらけ

  古き櫻の

   切り株の

 つきし霜にそ

    見ゆる思ひ出



 

 

六百九十一




 今は聞かず

  流れも見えぬ

    魚野川

 添ひし雪影

    月は知りしや



 

 

六百九十二




 偲びなむ

  七日正月

   祖母のこゑ

 褪せし昔の

    音もなかりき



 

 

六百九十三




 凍てつきし

  風そ纏ふや

    片割れの

 月そ仰ぎて

     偲ぶ古里



 

 

六百九十四




 さめざめと

  降るは霧雨

   冬風に

 枯れ野眺むる

    身も凍えつゝ



 

 

六百九十五




 松の木も

  寒さに忍ぶ

   小夜の月

 冷えし野辺にそ

    聞きし冬の音



 

 

六百九十六




 薄欠けの

  月ぞ冷たき

    春日部の

 侘し野に降る

     里の雪影



 

 

六百九十七




 さめざめと

  降るは月影

   枯れし野に

 褪せし草木の

     春そ夢見し



 

 

六百九十八




 冬半ば

  枯れ木に落つる

   日溜まりは

 春を思わす

     心地こそすれ



 

 

六百九十九




 吹く風に

  木々も凍えし

   小正月

 寒さに偲ぶは

     古里の影



 

 

七百




 抗えぬ

  時そ侘しき

    枯れ尾花

 移ろう四季とて

     同じものなれ



 

 

七百一




 冬の夜の

  星の光も

   絶え絶えに

 侘しさ吹くや

     野辺の枯れ草



 

 

七百二




 流さるゝ

  時に褪せしや

   震災の

 野辺に伝えし

     祈る人影



 

 

七百三




 月影の

  映すは虚し

   現とて

 野にも朝の

    来ると思へば



 

 

七百四




 そぼ降りし

  雨に凍えし

   うつし世の

 野にそ虚しき

    風の吹くらん



 

 

七百五




 久方の

  春を思わす

   日溜まりの

 影にそ冬の 

    落ちにけるかな



 

 

七百六




 仰ぎせば

  春の香纏ふ

    風そ吹き

 冬忘らるゝ

     大寒の空



 

 

七百七




 気付きなば

  合歓の枯木も

    絶え果てゝ

 偲ぶ昔の

   増えしものがな



 

 

七百八




 底冷えに

  町の灯さえも

   凍えしや

 春ぞ戀しき

    睦月暮れなむ



 

 

七百九




 小夜更けて

  寒さに匂ふ

    梅の香に

 冬もしばしと

     思ひつるかな


 

 

七百十




 凍えしは

  風に惑ひし

    枯れ草の

 掠るゝ音ぞ

    侘しけるかな



 

 

七百十一




 寒風に

  堪えしや青き

   金木犀

 影もなくして

    春ぞ待ちなむ



 

 

七百十二




 夜に舞ふは

  古き思ひの

    切れ端の

 偲びて眺むは

     野辺の風かな



 

 

七百十三




 無為に生き

   夢は現の

    野に駆けて

 冬の風にそ

    消えにけるかな



 

 

七百十四




 昏き空に

  心凍えし

    わが涙

 見へぬ朝に

     幸そ願ひて



 

 

七百十五




 影そ踏みて

  日も絶え絶えに

    散る風の

 侘しき野辺の

     夜は更けにける



 

 

七百十六




 過ぎゆける

  睦月も下弦の

   月となり

 如月見ゆる

    夜に凍えなむ



 

 

七百十七




 田の雪は

  いかばかりなん

    古里を

 偲びて眺む

     冬の月影



 

 

七百十八




 思ひ出ずる

  星も見へざる

   冬空の

 降らぬ雪にそ

    沁みしものかは



 

 

七百十九




 夜の雨の

  黙して見なば

   懐かしむ

 紅き梅にそ

    雪は降りつつ





 

 

七百二十




 音もなく

  落つる雪影

    侘しけれ

 つもるは遠き

     里の思ひ出



 

 

七百二十一




 暮れにける

  睦月の夜にそ

    掛かりなば

 如月の朝にそ

     落つる月かな



 

 

七百二十二




 久方の

  のどけき光に

   微睡みて

 冬忘らるゝ

    香ぞ匂ひける



 

 

七百二十三




 老ひたるは

   偏に時の

    流れとて

 花も実もなく

     散るは虚しき



 

 

七百二十四




 仰ぎせば

  久方の月ぞ

    望みけり

 落つる影にそ

     梅の香らん



 

 

七百二十五




 節分の

  日も暖かに

   暮れにける

 夜には冷えにし

    風そ吹きけれ



 

 

七百二十六




 束の間の

  春そ匂ひし

   日溜まりの

 雲ものどけく

    花の咲くらむ



 

 

七百二十七




 鬼も人も

  然して變わらず

   節分の

 豆そ撒きにし

     鬼もありせば



 

 

七百二十八




 寒月の

  空そ凍えし

   立春の

 近しき春そ

    花に呼びける



 

 

七百二十九




 月影の

  揺らすは冬の

   寒風の

 春待つ野辺の

     草木忍びし



 

 

七百三十




 風吹かば

  冬とばかりに

    冷えにしも

 春匂わすは

     花の影かな



 

 

七百三十一




 如月の

  風に凍えし

    月冷えの

 朝そ見なば

     水も凍れり



 

 

七百三十二




 寒風に

  雪とまごふや

   白梅の

 香にそ思ふや

     春の近しき



 

 

七百三十三




 冬風の

  身に凍みにける

   小夜更けて

 月もうきにし

     野辺の静けさ



 

 

七百三十四




 寒風に

  堪えしや冬に

   咲く花の

 香も褪せにける

     小夜ぞ更けにし



 

 

七百三十五




 冷たさや

  こゝろ留めん

    うつし世の

 花も凍れる

     冬の月影



 

 

七百三十六




 寒さ陰り

  春そ匂わす

   如月の

 花の香まとふ

    小夜の風かな



 

 

七百三十七




 眺むれば

  暁月夜に

   梅の香の

 舞えば聞こゑし

      春の足音



 

 

七百三十八




 忘らるゝ

  わが身そ厭ふ

   夜の闇の

 聞こふるものも

     なきと思へば



 

 

七百三十九




 空陰り

  月もなきにし

    小夜更けて 

 情けなき世を

     眺むとぞ思ふ



 

 

七百四十




 寒さ緩み

  蕾つけにし

   沈丁花

 古里そ思ひ

    春の香ぞ待つ



 

 

七百四十一




 梅の花の

  満ちて香るは

   木芽月

 春ぞ聞こゑし

    夜半の風かな



 

 

七百四十二




 見えぬ月の

  光なくして

   寒風の

 侘しこゝろに

     花そ匂ひし



 

 

七百四十三




 野辺に吹く

  風にそ春の

    近けるを

 知るやほころぶ

     沈丁花かな



 

 

七百四十四




 晩冬の

  時節も雨水と

    なりにける

 忍ぶ寒さも

     僅かなりけり



 

 

七百四十五




 梅の花も

  盛りとばかり

   夜の風に

 香るや冬の

    終わりとぞ思ふ



 

 

七百四十六




 如月も

  末となりせば

   春の香の

 舞ひてや冬の

     寒さ陰りし



 

 

七百四十七




 冬暮れて

  枯れ野の芽吹く

   日溜まりの

 陰にそ名残る

      冬の面影



 

 

七百四十八




 梅の花の

  風に散りなば

   冬惜しむ

 香ぞ霞ける

     寒さ和らぎ



 

 

七百四十九




 春けしく

  野も芽吹きたる

    暁の

 冬ぞ名残れる

      露の白玉



 

 

七百五十




 宵風に

  舞ひてや香る

   沈丁花

 春来たりしや

      末の如月




 

 

七百五十一




 日溜まりに

  微睡みしなば

   思ふらん

 春や秋やと

     夢に惑ひて



 

 

七百五十二




 夕風に

  凍てつくことの

   なかりせば

 長く眠りし

     冬ぞ去りぬる



 

 

七百五十三




 冬風の

  思ひ残すや

    冷たさに

 春も忍びて

     花も陰らん



 

 

七百五十四




 眺む野に

  見えしは春の

   息吹かな

 夜風に匂ふ

     冬の残り香



 

 

七百五十五




 後ろ髪

  引かるゝや冬の

   時雨かな

 止みてや返す

     寒さなりける



 

 

七百五十六




 惑ひしや

  春そ返すや

   冬空の

 月も隠れし

   御簾そ降ろしつ



 

 

七百五十七




 寒さ戻り

  冬そ纏ふや

   夕闇の

野にぞ聞こゆる

    侘し風の音



 

 

七百五十八




 夕暮れの

  野にそ返すや

   寒風の

 芽吹く蕾の

    凍えしものかな



 

 

七百五十九




 去りゆける

  流れて侘し

   堀川の

 時も留めず

    暮れし如月



 

 

七百六十




 幽かなる

  梅の匂ひも

   褪せにける

 花そ散らすは

      冬の寒風



 

 

七百六十一




 虚しきや

  儚き現の

   夜もすがら

 冬名残りしも

     花の香らむ


 

 

七百六十二




 如月の

  残れるけふぞ

    仕舞いける

 移ろう日々は

      遠く流れし


 

 

七百六十三




 心あてに

  野にそ分け入り

   夜の闇の

 知らぬ朝の

     光り探しぬ



 

 

七百六十四




 憂きし世に

  わが身の枷と

   留むらん

 雲そ流せし

     風の虚しき



 

 

七百六十五




 久方の

  清けき月そ

    侘しけれ

 秋とまごふや

     野辺の枯れ草



 

 

七百六十六




 人の身の

  浅ましかりき

    こゝろにそ

 かかる病に

     薬なかりき



 

 

七百六十七




 そぼ降るは

  寒き時雨か

   春雨か

 惑ひて咲きし

    さくら花かな


 

 

七百六十八




 春になれど

   冬の面影

    残しつつ

 移ろふ空の

    こゝろ思ゆる



 

 

七百六十九




 散りにける

  梅そ惜しみて

   降る雨の

 音ぞ侘しける

    野辺の夕暮れ



 

 

七百七十




 寒風は

  冬の衣の

   裾の端の

 残り香なるや

     夜半の月影



 

 

七百七十一




 川の辺に

  戯れ咲くは

   水仙の

 朝の影にそ

     思ふ古里



 

 

七百七十二




 月影に

  咲きし櫻の

    忍びける

 打つは冷たき

      春の寒風



 

 

七百七十三




 空寒み

  春そ侘しき

   霧雨の

 濡れし櫻の

    風にふるえし



 

 

七百七十四




 心あらば

  散るを留めて

    咲きけれと

 暫しの春ぞ

     眺めつるかな


 

 

七百七十五




 春風の

  吹くは弥生の

   月影の

 こゝろ静けく

    花も咲きなむ


 

 

七百七十六




 野辺に吹く

  風も優しく

   そよぎせば

 思ゆる春の

     月ぞ清けき



 

 

七百七十七




 蒲公英の

  花も咲うや

   夢見月

 夕には冬の

    香ぞ残りける



 

 

七百七十八




 夜半に差す

  月もなくして

   春雨の

 やみてや香る

      春の草花



 

 

七百七十九




 寄せ返す

  人の波間の

   果敢なきて

 月も見ばやな

    侘しうつし世



 

 

七百八十




 染むるかな

   春の寒風

    野の花の

 夜に哀れむは

     月ばかりなる



 

 

七百八十一




 なごり雪

  寂しき冬の

   面影の

 弥生の空の

    思ひ侘しき



 

 

七百八十二




 つれなきは

  春の空にそ

    冬を呼び

 寒さに惑ふは

     野辺の草花



 

 

七百八十三




 去りきらぬ

  寒さ忍びし

    春の夜の

 こゝろ侘しく

    花の咲くらむ



 

 

七百八十四




 衣返し

  冬ぞ去りける

   彼岸かな

 風も和みて

    日も暮れにける



 

 

七百八十五

 
前書き


 

 



 春の香を

  纏ふや風の

   夜にいたみ

 里の影にそ

    時は褪せにし



 

 

七百八十六




 春の夜の

  川辺に艶し

   櫻花

 憂きし月にそ

    魅せしものかな



 

 

七百八十七




 野に萌ゆる

  春の草木の

   若緑

 衣替えにし

    現なりける



 

 

七百八十八




 見知りたる

  春の草花

   變わらねど

 里より眺む

    野辺ぞ懐かし



 

 

七百八十九




 思ひなむ

  年そ重ねし

   櫻花

 老いてもつけし

     花の侘しさ



 

 

七百九十




 堀川の

  濁りし流れに

   白鷺の

 上にそ散りし

    さくら花かな





 

 

七百九十一




 夜もすがら

  春に思ふや

    独りなる

 世にそ侘しき

     人の道かな



 

 

七百九十二




 留めなむ

  心に掛かるは

   月影の

 夜に鳴きにける

     鳥ぞ侘しき



 

 

七百九十三




 咲く花の

  思ふはたれそ

   咲ひけり

 春に散りゆく

    定めたりしも



 

 

七百九十四




 夜に吹ける

  冬そ惜しむや

   寒風の

 川辺に咲きし

    花も冷えしや



 

 

七百九十五




 花冷えの

  月も隠るゝ

   夜もすがら

 匂ひに紛ふ

     見えぬ古里



 

 

七百九十六




 心あらば

  思ひ留めよ

   櫻花

 のどけき春に

    急くこともなし



 

 

七百九十七




 流さるゝ

  雲に霞むや

    花冷えの

 冬偲びける

     風の吹くらむ



 

 

七百九十八




 寒風は

  冬の侘しき

   後ろ髪

 独り眺むる

    さくら侘しき



 

 

七百九十九




 今は見ず

  遠きあばら家

   懐かしむ

 時に褪せなん

     侘し影かな



 

 

八百




 變わりなむ

  移ろう時は

    侘しけれ

 夜にそ虚しき

     花の散るらめ



 

 

八百一




 留めおきて

  花や溢るゝ

    春の日の

 いつか去りなん

      霞む空にそ



 

 

八百二




 春影に

  野辺の草木の

   色づきて

 若狭の衣

    紡ぎせんかな



 

 

八百三




 町の灯に

  雪と紛ふや

   櫻花

 ふるは侘しき

     里の思ひ出



 

 

八百四




 仰ぎせば

  花そふりける

   春の夜の

 夢うつゝにそ

     追ひし人影



 

 

八百五




 果敢なくも

  咲きて散りにし

   さくら花

 刹那の春そ

    惜しむことなく



 

 

八百六




 春蟬の

  初音ぞ聞くや

   春風の

 宵に散らせん

     さくら花かな


 

 

八百七




 寒風は

  春そ妬むや

   冬の影

 花そ散らすや

    雨の冷たき



 

 

八百八




 春の香も

  消すや冬ぞ

    舞ひ戻り

 若葉も忍ぶ

    時雨なりける



 

 

八百九




 貧しさは

  人の冷たさ

   まさりける

 惜しむもなかる

    わが身なりけり



 

 

八百十




 逝きし人の

  思ひ絶やさず

    笑みそあれ

 病ぞ来たる

     春となりしも



 

 

八百十一




 溜め息を

  去らすや人の

   面影を

 こゝろに留むる

     春の木洩れ日


 

 

八百十二




 世の病みし

  うきし月夜の

   侘しさも

 蛙の初音に

    こゝろ安しき


 

 

八百十三




 遠からず

  わが身も消ゑし

   現なれど

 四季は移ろう

     事もなくして



 

 

八百十四




 片割れの

  うきし月影

   夜櫻の

 散るは果敢なき

     侘し現し世



 

 

八百十五




 仰ぎせば

  淡き月にそ

   散りにける

 災禍も知らぬ

     さくら花かな



 

 

八百十六




 花ぞ散る

  いたむ春風

   野を行きて

 里にそ届くや

     夜半の月影




 

 

八百十七




 春風も

  宵も暮れなば

   肌寒き

 重ねし衣に

    冬そ偲びつ



 

 

八百十八




 夕されば

  春も霞むや

   寒風の

 雪とまごふや

    舞ひし花びら



 

 

八百十九




 忍びつる

  人ぞ侘しき

    気違ひに

 つけし薬の

    なきぞ虚しき



 

 

八百二十




 夕されば

  時も陰らむ

   夕月夜

 われ知らぬとて

      流る人波



 

 

八百二十一




 人の身の

  罪と思ゆる

   病かな

 穢れなき世の

    無きと思えば



 

 

八百二十二




 仰ぎせば

  櫻の間より

   落つる月の

 光り眩しき

     明日ぞ思わん



 

 

八百二十三




 夜も更けて

  若葉より洩るゝ

   月影は

 まばゆき中に

    里ぞ見せにし



 

 

八百二十四




 花冷えの

  いたむ夜風の

   冷たさの

 染みし現の

    明けも見えざる



 

 

八百二十五




 夕されば

  風も冷えにし

   卯月なる

 花も散りなむ

     春半ばかな



 

 

八百二十六




 在りし日を

   思ゆ雨空

    侘しけり

 心に掛かるは

     人の影かな



 

 

八百二十七




 虚しきや

  卯月に降りし

   涙雨

 人の身にして

    驕るなかれと



 

 

八百二十八




 寒風に

  揺れし若葉の

   掠る音に

 侘しく思ふ

    人のこゝろぞ


 

 

八百二十九




 蒲公英の

  綿毛となりて

   舞ふ空を

 躑躅咲ひて

    仰ぐ日溜まり



 

 

八百三十




 葉櫻の

  掠るや春の

   宵風の

 災禍も知らず

    ただ在りにける



 

 

八百三十一




 春の日の

  病に喘ぎし

    現なれど

 清けき藤の

    咲きし頃かな


 

 

八百三十二




 新緑の

  霞て見ゆる

   春空の

 絶へぬ災禍に

    憂きし侘しさ



 

 

八百三十三




 日溜まりに

  天に焦がるや

   花水木

 春の終わりの

     見えし頃かな



 

 

八百三十四




 佇みて

  見なば燕の

   舞ひにけり

 遠き里にそ

    藤は咲きしか



 

 

八百三十五




 囀りし

  鳥は知りしか

   古里の

 野山を駆けし

     風の清けき



 

 

八百三十六




 終り見えぬ

  災禍に淀む

    春暮れの

 緑は知らぬ

     人の愚かさ



 

 

八百三十七




 雷鳴の

  冬そ返すや

   寒風の

 冷たき雨に

    春は凍えし



 

 

八百三十八




 若草も

  色深まりてや

   晩春の

 憂き世そ虚し

    伸べる手もなし



 

 

八百三十九




 夜も更けて

  落ちし月影

   細々と

 世も陰りなむ

     夏端月かな



 

 

八百四十




 薄雲の

  掛かる現ぞ

   染めにしや

 咲きし躑躅の

     花ぞ虚しき



 

 

八百四十一




 日溜まりに

  初夏の香ぞする

   そよ風の

 中に揺らぎし

     白詰草かな



 

 

八百四十二




 深まるは

  翠か蒼か

   春暮れの

 野にそ咲きける

      詰草の花



 

 

八百四十三



 空も野も

  人は知らずと

   移ろひて

 浮き世そ嗤ふ

    花もありなむ



 

 

八百四十四




 昏き夜の

  花も霞むや

    野辺の風

 蛙鳴く音に

    初夏ぞ匂ひし



 

 

八百四十五



 夜半に降る

  雨に濡れしや

   葉櫻を

 見せし稲妻

    刹那に黄昏る



 

 

八百四十六




 端午にそ

  願いて香る

    葉菖蒲の

 思ひに匂ふ

     古里の風



 

 

八百四十七




 雷鳴に

  蛙も慄き

   音も止みて

 後に残るは

    落つる雨かな



 

 

八百四十八




 振り返り

  花望月の

   清けきに

 咲きたる菖蒲の

     世にそ侘しき



 

 

八百四十九




 隠れつる

  月そ探しつ

   寒風の

 夜にぞ吹きける

     虚し春暮れ



 

 

八百五十




 ざわめきて

  なんぞ虚しき

   現し世の

 災禍に勝りし

     人の欲かな



 

 

八百五十一




 蒲公英の

  綿毛そ舞うや

   五月晴れ

 憂くは人の身

     侘し日溜まり



 

 

八百五十二




 宵風に

  深き葉櫻

   さゞめきて

  そぼ降る雨の

     夜にぞ濡れつゝ



 

 

八百五十三




 咲き乱る

  つゝじの花の

   散る風の

 思ひ黄昏る

     春も終りし



 

 

八百五十四




 初夏の香の

  纏ふや皐月の

   田の稲の

 月そ見えざる

    夜にそさゞめき



 

 

八百五十五




 宵闇に

  風そよぎては

   野ぞ掠れ

 蛙鳴く音に

    夜も忍びける



 

 

八百五十六




 小夜更けて

  隠るゝ月ぞ

    思ひつゝ

 忍びて見ゆる

      遠き山里



 

 

八百五十七




 古里の

  今は咲きしか

   山藤の

 香ぞ匂わせよ

     宵のそよ風



 

 

八百五十八




 籠りてや

  月もなかりき

   闇夜にそ

 蛙や虫の

    音ぞ愛しける



 

 

八百五十九




 そよ風に

  揺れし青葉の

   田の波の

 清けさ眺む

    皐月なりける


 

 

八百六十




 肌寒き

  風にそ小雨

   そぼ降らば

 春そ思ゆる

    小夜ぞ更けにし



 

 

八百六十一




 宵も暮れ

  うつすは侘し

   町の灯の

 風に揺らるゝ

    白詰草かな


 

 

八百六十二




 思ひ出は

  褪せては染みし

   衣なる

 いつか忘れし

    四季となりせも



 

 

八百六十三




 風に聞く

  遠き古里

   田の畦に

 今もありしや

     青き露草



 

 

八百六十四




 皐月暮れ

  朧に見えし

    片割れの

 月そ仰げば

     古里ぞ思ゆ


 

 

八百六十五




 雨露を

  忍びて咲くは

   母子草

 見なば偲びし

    あばら家の庭



 

 

八百六十六




 紫陽花の

  色鮮やかに

    咲く花に

 夏も近しき

     彌涼暮月



 

 

八百六十七




 雷鳴を

  聞きてや蛙

   跳ねにけり

 花草濡らせし

     雨ぞ打ちける



 

 

八百六十八




 迷えども

  尽きぬ現の

   煩ひの

 憂く侘しさに

    言もなかりき



 

 

八百六十九




 水無月の

  田にそ降りなむ

    村雨の

 夜にそ止みせば

      蛙鳴きけり



 

 

八百七十




 移ろひて

  雨に打たるゝ

   紫陽花の

 花にそ思ゆ

     古里の空



 

 

八百七十一




 風追ひて

  迷ひ惑ひて

    飛ぶ鳥の

 雨を凌ぎし

    軒もなかりき



 

 

八百七十二




 稲妻の

  映すは野辺の

   立ち葵

 葉にそ隠れし

     蛙鳴きける



 

 

八百七十三




 夜の田の

  光りて見やる

   稲妻の

 思ひぞ遠く

     音も無きにし



 

 

八百七十四




 涼風に

  昼も忘るゝ

   宵闇の

 聞こゆは楓の

     掠る音かな



 

 

八百七十五




 行き交いし

  こともなかりき

    人影の

 流る川面に

     月もなくして


 

 

八百七十六




 宵闇に

  思ひ返すは

    川の音の

 聞こえぬ田にそ

      蛙鳴くなる


 

 

八百七十七




 今は見ず

  古き山里

    螢火の

 朧に掛かる

   欠けし月かな



 

 

八百七十八




 契りなん

  人もなくして

   現し世の

 風に惑ふは

    根無し草かな



 

 

八百七十九




 過ぎ去りし

  時は彼方に

   月影の

 光り侘しく

    見ゆる野辺かな



 

 

八百八十




 星もなき

  霞みし空に

   朧月

 里は見えしか

     葉櫻の影



 

 

八百八十一




 夏草の

  中にそ聞くや

   虫の音の

 野にそ渡りて

     風の吹きける



 

 

八百八十二




 道の端の

  茂る夏草

   侘しけれ

 昔を偲ぶ

   人もなかりき



 

 

八百八十三




 雨上がり

  露に濡れにし

   山梔子の

 香ぞ舞い上げて

     そよ風の吹く



 

 

八百八十四




 田に蛙

  小夜の小雨の

   雨音の

 聞くは侘しき

      文月の空



 

 

八百八十五




 螢火の

  久しく見ずは

   春日部の

 藤の葉なびく

     間にそ侘しき



 

 

八百八十六




 渦中にそ

  影そたらしむ

   命なれど

 風を追ひせし

     人は踏みたる



 

 

八百八十七




 天の川

  雲そ掛かりて

    見えずとも

 思ひ逢えしや

      七夕の夜



 

 

八百八十八




 七夕の

  地にそ落つるは

    涙雨

 願い届かば

     去らせよ涙


 

 

八百八十九




 露雲を

  朱く焦がせし

   夕暮れの

 影にぞ香る

     夏の近しき


 

 

八百九十




 流れゆく

  時に溺るゝ

   人波の

 いずれ散りたる

      影そ侘しき



 

 

八百九十一




 宵影に

  夏草香る

    文月の

 梅雨の晴れ間の

      淡き月影



 

 

八百九十二




 老ひたれば

  つもる頭の

   雪山の

 枯れし草木に

     惜しむ者なし


 

 

八百九十三




 気も失せし

  手から零るゝ

   そよ風に

 惜しむ現も

    なかりせんかな


 

 

八百九十四

 
前書き

 

 



 月待つや

  宵待草の

   花の香の

 思ひそ侘し

     遠き人影



 

 

八百九十五




 露空の

  風に揺蕩ふ

   夏草の

 香ぞ懐かしき

     里の山川



 

 

八百九十六




 迷ひ出ずる

  宵の灯にとぶ

   蜉蝣の

 命果敢なく

    消ゆるものかと



 

 

八百九十七




 紫陽花の

  色も褪せにし

   七夜月

 宵に黄昏る

     露の霧雨



 

 

八百九十八




 白雲の

  靡くは風の

    行く末の

 思ひ馳せるや

      夏草の道



 

 

八百九十九




 佇めば

  そぼ降る雨の

   雨垂れの

 音に霞てや

     蛙鳴くなる


 

 

九百




 梅雨冷えの

   春そ偲ぶや

    雨雫

 落つる空にそ

     里ぞ思ひし


 

 

九百一




 儘ならぬ

  現にあらで

   夏草の

 虫の鳴く音の

    いかに侘しき



 

 

九百二




 露空を

  仰ぎて染むる

   夾竹桃

 黄昏る風に

    夏ぞ呼びける



 

 

九百三




 向日葵の

  夏の遅しと

    項垂れし

 見なば絡まる

     朝顔の蔓



 

 

九百四




 梅雨明けも

  近しかうだるゝ

   蟬のこゑ

 揺らぐ空にそ

     溜め息ぞつく


 

 

九百五




 雨空を

  見据えて咲くは

    鏡草

 くすむ時節に

     色を差しけり


 

 

九百六




 繰り返し

  降るは侘しき

   思ひなば

 朝日に惑ふ

    露と消えなむ



 

 

九百七




 忍ばざる

  人のこゝろの

    弱きことの

 災禍は赦す

     こともなきかな



 

 

九百八




 蒸し返す

  雨そ上がりし

   野辺の風

 久しく月の

    見えぬ夜かな


 

 

九百九




 蟬の音も

  篠突く雨に

   掻き消えし

 夏は早しと

     露の雨空



 

 

九百十




 宵影の

  町の灯に降る

   蟬時雨

 梅雨長々き

     空そ恨めし



 

 

九百十一




 文月の

  末に見えぬは

    夏空の

 雲の上にそ

     星はまたゝき



 

 

九百十二




 久方の

  清けき月の

   天の原

 露も去りなむ

     文月の暮れ



 

 

九百十三




 久方の

  青き空にそ

   白雲の

 風に揺蕩ふ

    葉月となりける



 

 

九百十四




 夕されば

  野辺に吹きける

   そよ風の

 涼しき流れ

     宵ぞ待ちけり


 

 

九百十五




 薄雲に

  夏草香る

   夜の風の

 中にそ聞こゆ

     秋虫のこゑ



 

 

九百十六




 吹きにしも

  昼そ喰みたる

   夜風かな

 宵待草も

    うだる月影



 

 

九百十七




 白雲を

  追ひてや幼き

   日そ思ふ

 簾の影の

    蟬時雨かな



 

 

九百十八




 思ひなむ

  現の業の

   深きかな

 朝露に消ゆ

     蜉蝣の羽



 

 

九百十九




 いつぞやと

  心あてなく

    思ひなば

 映すは古き

     里の影かな



 

 

九百二十




 夏草の

  靡くは久しき

   涼風の

 虫の鳴く音に

     暫し憩ひし



 

 

九百二十一




 夏影に

  向ひて咲くは

   立ち葵

 紅く差したる

     花の静けき



 

 

九百二十二




 夜もすがら

  暑さにうだるゝ

   蝉の音に

 風も涼しさ

    忘るゝものかな


 

 

九百二十三




 星影も

  その身を隠す

   暑さかな

 花も萎るゝ

     宵影の風



 

 

九百二十四




 そよ風の

  暑さに眩む

   夏草の

 雷雨そ嬉し

     葉櫻の影



 

 

九百二十五




 旧盆の

  暑さに茹だる

   鬼灯の

 影にも落ちし

      蟬時雨かな



 

 

九百二十六




 蒸す風の

  芒に絡みし

   昼顔の

 涼しげなるは

    いかなことかと



 

 

九百二十七




 日をよけし

  櫻葉の影に

    隠れしも

 暑さ忘るゝ

     こともなかりき


 

 

九百二十八




 涼風を

  待つや宵影

   夏草の

 香にそ噎せなむ

      暑き夜かな



 

 

九百二十九




 涼しげに

  咲くは向日葵

   夏の日の

 空は懐かし

     古き思ひ出



 

 

九百三十




 宵なれど

  残る暑さに

    項垂るゝ

 風に揺られし

     夕化粧かな



 

 

九百三十一




 夏影に

  蟬の鳴く音の

   近しけれ

 聞きてや思ふ

      遠き古里



 

 

九百三十二




 時去れば

  褪せし風吹く

   思ひ出の

 遠くにありては

     痛むものかな



 

 

九百三十三




 繰り返す

  時はうつろふ

    四季の端の

 散りては芽吹く

      道そあらんや



 

 

九百三十四




 秋虫の

  鳴くや草原

   宵風の

 涼も幽かに

    夜も更けにける



 

 

九百三十五




 片割れの

  月のそ仰ぎて

   秋虫の

 鳴く音ぞ侘し

      野辺の夏草




 

 

九百三十六




 追ふ風の

  行方は知らず

   天の原

 片割れの月の

     いとも清けき



 

 

九百三十七




 遠かりき 

  古里の空も

   變わらんや

 いずこも同じ

     蟬の声かな



 

 

九百三十八




 宵なれど

  夾竹桃の

  うだるゝは

 稲妻見せし

     雨のなき空



 

 

九百三十九




 夜もすがら

  昼を忘れぬ

    そよ風に

 秋虫もまた

     暑きものかな


 

 

九百四十




 古里も

  残暑嚴しき

   ものかとて

 思ひて眺む

     すゝき野の影



 

 

九百四十一




 月影の

  照らすや野辺の

    夏草の

 雨懐かしむ

     秋虫のこゑ



 

 

九百四十二




 長月の

  覚めてや聞こゆ

    秋虫の

 こゑぞ侘しき

     夜半の月かな



 

 

九百四十三




 残る夏に

  夜もうだりける

    菊見月

 涼風戀し

    百日紅の花



 

 

九百四十四




 雷鳴に

  虫の音やみて

   風そ急き

 篠突くに

    暑さ和らぎ



 

 

九百四十五




 稲妻の

  残せし空の

   月影の

 うつすは濡れし

     野辺の夏草



 

 

九百四十六




 昏き夜の

  虫の鳴く音の

   草原に

 夏も暮れしと

     思ひけるかな



 

 

九百四十七




 吹く風に

  幽かに秋の

   香ぞ交じり

 侘しく蟬の

    こゑぞ聞きける



 

 

九百四十八




 音もなく

  降るは霧雨

   黄昏の

 虫のこゑさえ

     幽かなりける



 

 

九百四十九




 秋風の

  吹きてさざめく

   稲の穂に

 おのゝき立ちし

      秋茜かな



 

 

九百五十




 雲の間に

  月も眠るや

   長月の

 たれそ呼びける

     秋虫のこゑ



 

 

九百五十一




 見えぬ月を

  探すや秋の

    虫の音の

 侘しく聞きし

     彼岸なりける



 

 

九百五十二




 昏き夜の

  逢えぬ月にそ

   戀しけれ

 宵待草の

    香ぞ懐かしむ



 

 

九百五十三




 秋の香の

  惑ふや風の

   長月の

 朽ちゆく夏の

     草ぞ侘しき



 

 

九百五十四




 朽月に

  独り咲きにし

   秋櫻

 野辺にそ見しや

      里の夕暮れ



 

 

九百五十五




 寒風に

  堪へて色差す

   鏡草

 朝に見ゆる

     夏の残り香



 

 

九百五十六




 秋風に

  枯るゝ夏草

    哀れなる

 そぼ降る雨に

    こゝろ憂きにし



 

 

九百五十七




 蟬の音も

  絶へて久しき

    夜の野辺の

 冷えし風吹く

      暮れし長月



 

 

九百五十八




 月影も

  雲に掠れし

   夜もすがら

 虫の音聞きてや

      思ふ里山



 

 

九百五十九




 遠くありて

  思ふや里の

    秋の香の

 匂ひて染むる

     山ぞ懐かし



 

 

九百六十




 分け入りて

  取りしあけびも

   山栗も

 霞み行きしや

     祖母の思ひ出



 

 

九百六十一




 秋雨の

  濡れし袂の

    枯れ草の

 寒さ染みてや

     夏ぞ懐かし



 

 

九百六十二




 古里の

  野山は衣

   かえしかと

 思ひて眺む

     秋の霧雨



 

 

九百六十三




 寒風の

  そぼ降る雨の

   侘しける

 蟬も蛙も

    絶へし野辺かな




 

 

九百六十四




 町の灯に

  降るは秋雨

    枯れ尾花

 打ちてや聞こゆ

      冬の足音



 

 

九百六十五




 洩れ出る

  雲間の月の

   果敢なければ

 野に吹く風さへ

      虚しからんや



 

 

九百六十六




 見えぬ月に

  鳴くや秋虫

    昏き夜の

 風に掠るは

     朽ちし夏草



 

 

九百六十七




 夜もすがら

  冷えし秋空

    月もなく

 風に聞こゆは

      里の面影



 

 

九百六十八




 寒風に

  深まる秋の

   さくら葉も

 染まりつるかな

      侘し夕暮れ



 

 

九百六十九




 過ぎ去りし

  夏の形見そ

   手に取りて

 見やるは虚し

     蟬の抜け殻



 

 

九百七十




 朝顔の

  枯野に咲きてや

   幽かなる

 夏そ懐かし

    冷えし秋風


 

 

九百七十一




 野ざらしの

  朽ちし草花

   夏の影

 秋雨そぼ降る

    夜もすがらかな



 

 

九百七十二




 刈草の

  夏の残り香

    侘しける

 深まる秋の

    寒さ沁みにし



 

 

九百七十三




 夕月夜

  見なば虚しや

   あかね空

 影棚引ける

    もみじ葉の道



 

 

九百七十四




 幽かなる

  虫の鳴く音の

   枯れ野原

 そぼ降る雨にそ

     聞ける侘しさ



 

 

九百七十五




 寂しさに

  ふりさけ見れば

    夕月の

 高き空にそ

     見ゆる古里



 

 

九百七十六




 秋の夜の

  侘しき野辺に

   片割れの

 月そ仰ぎて

     秋虫の鳴く



 

 

九百七十七




 宵闇の

  枯れ草打つや

   通り雨

 虫の音幽かに

     夜の長かりき



 

 

九百七十八




 虚しける

  秋の夜長の

    虫の音の

 声に聞きける

     里の思ひ出



 

 

九百七十九




 月影に

  思ふは里の

    枯れ尾花

 虫の鳴く野に

      秋風の吹く



 

 

九百八十

 
前書き


 

 



 湧き立ちて

  染まるは銀杏の

   葉ぞ舞いて

 思ひて歩む

    里にはあらねど



 

 

九百八十一




 もみじ葉の

  寒さに沁みし

    くれなゐの

 淋しさ滲む

     秋の夕暮れ



 

 

九百八十二




 木の葉月

  暮れに暮れてや

    後の月

 見なばや思ふ

      古里の空



 

 

九百八十三




 秋虫の

  音も弱々し

   夜も更けて

 霜月のぞむ

     月の影かな



 

 

九百八十四 

 
前書き

 

 



 秋風に

  棚引く雲の

   月影の

 果敢なく見ゆる

     枯れ尾花かな



 

 

九百八十五




 夜も更けて

   暁見るや

    木枯らしの

 吹きてや聞こゆ

       冬の足音



 

 

九百八十六




 そぼ降るは

  夢か過ぎゆく

   思ひ出か

 音に見ゆるは

     枯れし夏草



 

 

九百八十七




 霜月の

  夜にそ侘しき

   虫の音の

 弱々しきぞ

    身に染みにける



 

 

九百八十八




 秋暮れの

  木々も染みにし

   寒さかな

 色様々に

    思ひうつしぬ



 

 

九百八十九




 暖かき

  風も絶え果て

   枯れ尾花

 掠る音侘し

     雪待ちの月



 

 

九百九十




 色づきて

  落つる紅葉の

   冬支度

 遠くぞ思ひて

    落ち葉踏みしむ



 

 

九百九十一




 名も知らぬ

  草も枯れにし

   神帰月

 寒風の吹く

     野辺の月影



 

 

九百九十二




 秋虫の

  音も絶え絶えに

    北風の

 吹きける野辺の

      枯れ草の音



 

 

九百九十三




 ふりにける

  染まりし秋の

    木々の葉の

 思ふは長き

     冬の侘しさ



 

 

九百九十四




 禍の

  去らぬ明日に

   憂ゑども

 今日顧みる

    人のなかりき



 

 

九百九十五




 終わりなき

  世にそ虚しき

   人の身の

 沁むる夜闇に

     愚痴を零しつ



 

 

九百九十六




 長からむ

  人の命の

   虚しけれ

 寒み夜闇に

    咲く花もあり



 

 

九百九十七




 留まれば

  静かなりける

   枯れ野原

 虫の鳴く音の

    懐かしきやと



 

 

九百九十八




 立ち行けり

  時は果敢なく

    散るものを

 今そ思ひて

     生くる虚しさ



 

 

九百九十九




 片割れの

  月そ映すや

   枯れすゝき

 鳴るは寂しき

     冬の溜め息



 

 




 忍びしや

  咲くは柊

   寒風の

 雪に似たりき

    冬の香ぞする



 

 

千一




 忘らるゝ

  秋の名残りの

   枯れ尾花

 流る時節に

     影そ棚引き



 

 

千二




 散りにける

  枯れしもみじ葉

    寒風に

 墨で描くや

     冬のたそがれ



 

 

千三




 野辺に聞く

  枯れし草木の

   掠るゝを

見なば侘しと

     月も隠るゝ



 

 

千四




 北風の

  吹くや霜月

    夜の闇の

 雲居に掛かる

     師走見えにし



 

 

千五




 そぼ降りし

  氷雨に見るは

    夢の跡

 風に惑ひし

     白き溜め息



 

 

千六




 夕されば

  沁むる寒さに

   身を縮め

 暮れし枯れ野に

      見ゆる古里



 

 

千七




 風に凍え

  すゞめも衣

   羽織るかと

 朝に見やる

    在りし日の影





 

 

千八




 染みにける

  師走の空の

    凍みし風

 褪せし秋にそ

     冬ぞ在りなむ



 

 

千九




 枯れし草の

  雨に朽ちなむ

   師走月

 里にそ雪の

    降りしものかは



 

 

千十




 香蒲も枯れ

   淀む堀川

     鴨そ鳴く

 浅き流れに

     冬そ煌めき



 

 

千十一




 月隠る

  三冬月の

   夜半の空

 今や懐かし

    雪のふる里



 

 

千十二




 風に鳴る

  秋の形見の

    枯れ尾花

 里には降るや

      遠き白雪



 

 

千十三




 思ふまゝに

  歩めぬ身では

    がらくたの

 この世の外に

     夢を見しける



 

 

千十四




 凍てつきし

  夜にそ侘しき

   星影の

 夢ぞ果敢なき

     枯れ野眺むる



 

 

千十五




 そよぐ風も

  凍てつく師走の

   夜もすがら

 御簾に隠れし

     月そ探しぬ



 

 

千十六




 収まらぬ

  災禍にありて

   人ぞ見ん

 心ありせば

    惑わぬものそ



 

 

千十七




 幽かなる

  冷えし星影

   儚きて

 在りし日々さへ

     いずれ褪せにし



 

 

千十八




 月落つる

  夜半に侘しき

   野辺の風

 朽ちし芒に

    身も凍えける


 

 

千十九




 届かずも

  祈りて願ふ

    人の身の

 何ぞ望むや

     心なくして



 

 

千二十




 いつ知れず

  消えゆくこの身の

    侘しさを

 思ひて眺む

     野辺の枯れ草



 

 

千二十一




 止め処なく

  流るゝ時そ

    虚しけれ

 年も暮れしや

     災禍抱きつ


 

 

千二十二




 朱き空も

  凍てつきにける

    夕月夜

 師走の風に

     望みなくして



 

 

千二十三




 夜も更けて

  月もなくして

    星影の

 淡き光りに

     道を問ひなむ



 

 

千二十四




 寒風に

  遥かな月ぞ

   傾けり

 老いてや年の

     暮れぞ侘しき





 

 

千二十五




 身を正す

  事もなかりき

   人の世の

 禍転ずる

    事もなかりき



 

 

千二十六




 年の瀬の

  欠けたる月の

   侘しけれ

 三冬月の

    風そ凍みける



 

 

千二十七




 古里の

  雪は深きか

   月影の

 照らす枯れ野を

     見ゆる虚しさ



 

 

千二十八




 仰ぎ見ん

  月も隠るゝ

    冬の夜の

 侘しき風は
 
    野を吹き抜けり



 

 

千二十九




 寒み風の

  枯れ野に鳴りて

   年明けの

 聞くは侘しき

     人の虚しさ



 

 

千三十




 闇に紛れ

  人のこゝろの

   弱きかな

 凍みし夜空に

     月はなかりき



 

 

千三十一




 枯れ草の

  音にそ虚しき

    禍の

 人の無様な

    こゝろ笑ひし



 

 

千三十二




 古の

  光り残せし

   星影の

 嘲笑うや人の

     愚けきを見て


 

 

千三十三




 月を見ず

  夜風侘しき

    野辺の闇

 草木も虚し

    音もなくして


 

 

千三十四




 朝咲く

  紅き梅の花

    和みけれ

 睦月の空に

     なびく白雲



 

 

千三十五




 我知らず

  小さき人の

    愚かさを

 凍てつく空に

      月は嘲り



 

 

千三十六




 溜め息も

  白く濁りて

   春遠く

 咲ける梅の花

     侘しさに差し



 

 

千三十七




 夜の風に

  昼の和みも

    薄れける

 思ひや冬の

     睦月なりけり



 

 

千三十八




 月霞み

  凍えし夜風の

   枯れ野原

 秋の形見の

    枯れ草ぞ鳴る



 

 

千三十九




 惑わせし

  紅き梅の香

   宵風に

 舞ひてや近し

    春そ思わん



 

 

千四十




 崩折れて

  地にそ還るや

   枯れ芒

 夕ぞ侘しき

    冬半ばかな



 

 

千四十一



 月影を

  仰ぐや褪せし

   思ひ出の

 侘しき野辺に

    影そ揺らるゝ




 

 

千四十二




 古里は

  遠きに在りて

   霞みけれ

 雪そなかりき

     里に見る月



 

 

千四十三




 あてもなく

  吹きゆく風に

   手を翳し

 虚しさ染みし

    夜半の月かな



 

 

千四十四




 静けさに

  打つは霰の

    冬の音に

 紅梅の香の

    春そ呼びけれ



 

 

千四十五




 久方の

  月に聞こえし

   節分の

 声にそ思ふ

     幼子の頃



 

 

千四十六




 気怠さに

  仰ぎし空に

    月もなく

 見えぬ野辺にそ

     風を聞きけり



 

 

千四十七




 如月の

  春そ遠退く

   寒風に

 見ゆる月さへ

    冷えしものかな



 

 

千四十八




 かじかみし

  手も虚しける

   如月に

 梅は咲きけり

     春は近しと



 

 

千四十九




 梅の花に

  寒風沁みし

   如月の

 空にそけぶる

     月の静けき



 

 

千五十




 夕されば

  春風冷えし

   早花月

 梅散りにしも

    香ぞ残りける



 

 

千五十一




 薄雲の

  軒の影にそ

   苧環の

 隠れて咲くや

    遠き思ひ出



 

 

千五十二




 霞空に

  寒さ残りし

   花見月

 日に膨らみて

    つぼみ色付き



 

 

千五十三




 春そ覚ゆ

  風もとけしや

   宵闇の

 中にそ見ゆる

     人の愚かさ



 

 

千五十四




 枯れ野にそ

   春ぞ香りし

     若葉かな

 古里の雪は

     未だ深きや



 

 

千五十五




 道の端に

  若草茂りて

    春を知り

 寒さも暫しと

    眺む野辺かな



 

 

千五十六




 梅散りて

  櫻はまだか

   夢見月

 里につもりし

     雪そ思ひつ


 

 

千五十七




 肌寒き

  風は冬ぞ

   惜しみなん

 蕾ふるえし

    弥生なりけり



 

 

千五十八




 寒暖の

  差も甚だし

    彼岸かな

 春を思へば

     冬風の吹く



 

 

千五十九




 侘しさに

  ふりさけ見れば

   月影の

 春そ来たりと

     花の咲くらむ



 

 

千六十




 朝咲く

  菜花愛でつる

   夢見月

 澄みし青空

    飛びし白鷺



 

 

千六十一




 春蟬の

  鳴くを聞きにし

    春半ば

 櫻降りなむ

     春惜月



 

 

千六十二




 花咲かば

  川面に舞ひて

   朝見ゆ

 流るゝ時の

    早きものかは



 

 

千六十三




 散りゆける

  花の下にそ

   若草の

 浅き緑に

    思ひ揺蕩ふ



 

 

千六十四




 朝咲く

  菜花映えにし

   青空に

 霞かゝりて

     春の和みし



 

 

千六十五




 櫻散り

  川面染めにし

   花弁は

 艶やかなりし

     春の振り袖



 

 

千六十六




 春蟬の

  鳴くや梢の

   揺らさるゝ

 風にそ見ゆる

      冬の面影


 

 

千六十七




 今はなき

  川端の櫻

   懐かしき

 思ふは遠き

    褪せし日々かな



 

 

千六十八




 人の身の

  愚かなりしは

    禍の

 忘るゝことの

     無様なりける



 

 

千六十九




 古の

  想ひ紡ぐや

    金雀枝の

 縁もいづれ

     露と消えなむ



 

 

千七十




 雀遊ぶ

  春の木洩れ日

   懐かしき

 古里偲ぶ

    春紫苑かな



 

 

千七十一




 浮かぶ月の

  影ぞ霞みし

   櫻花

 流る堀川

    何処へ帰らん



 

 

千七十二




 散りゆかむ

  さくらの下の

   月影に

 聞きたる蛙の

     初音侘しき



 

 

千七十三




 若蓬

  見なば思ひ出

   幼子に

 優しく笑ふ

    祖母ぞ映さん




 

 

千七十四




 人は皆

  我を通せしや

    禍の

 義を折りしなば

     消ゆることなし


 

 

千七十五




 夕されば

  蛙鳴きける

    春暮れの

 冷えし風にそ

     冬を偲ばん



 

 

千七十六




 風に舞ふ

  蒲公英の綿毛

   何処にそ

 行きてや根付く

      都なりける