渦巻く滄海 紅き空 【下】


 

序 閑話

 
前書き
閑話という名の登場人物紹介です。最初からこんなタイトルで申し訳ありません。

「渦巻く滄海 紅き空」におけるキャラクターそれぞれの現在の立ち位置(一部以外)を簡単にまとめたものです。ただし、原作そのままのキャラに関しては紹介致しません。ご了承ください。
第二部に入る前に一度整理しないと(私が)わかり難いので。未見の方はこのキャラ紹介で、少しでも興味を抱いてくださると幸いです。

捏造多数なので、あくまでもこの話の中での設定だという事を念頭に置いた上で眼を通してください。
また、原作と大幅に変わったキャラクターしか紹介しておりません。ご容赦ください。

 

 
『木ノ葉』


〇波風ナル
主人公。原作ナルトの立ち位置。性格・口調もナルトそのものだが、外見は【おいろけの術】のナルコを幼くしたツインテールの女の子。
姓を波風としているので、四代目火影の子だと周知されているものの、それでも里人には未だ忌み嫌われている。持ち前の明るさと真っ直ぐな性格で同期とは仲が良いが、恋愛事には物凄く鈍い。
原作ナルトより術を覚えるスピードが早く、頭の回転も意外に速い。だがそのぶん、精神的に追い詰められ、プレッシャーを抱え込みやすい。精神面は原作ほど強くない。
うずまきナルトとは双子で、実の妹。しかしながら本人はその事実をまだ知らない。


〇奈良シカマル
波風ナルの幼馴染の一人。ナルの同期で、里人に忌み嫌われている彼女の身をいつも案じている。事実、かなり幼い頃からずっと片想い。
同じく幼馴染のキバとは恋のライバルだが、ナル本人が鈍感なので、今のところは彼女を支えようと奮闘している。
恋の力か原作より若干やる気があるので、チャクラの持続を長くしたりなど陰ながら地道に努力している。うずまきナルトと、木ノ葉勢の中で最も接点が多い。
五代目火影・我愛羅と共に、サスケ里抜けの真相を知っている。


〇犬塚キバ
波風ナルの幼馴染の一人。ナルの同期で、彼女を気に入っている。シカマルとは恋のライバル。
ナルとよく似た性格で、彼女と気が合う。こいつは俺がいないとどうしようもないな、などと昔は思っていたが、中忍予選試合で負けて以来、ナルの力を認めている。ガキ大将気質なので、若干好きな子ほど苛めたくなるタイプ。
アマルの件でナルの相談事を受けた際、「そいつが悪い道へ行こうとするのを止めて、正しい道へ向かわすのが『友達』」の一言でナルに大きな影響を与えてしまった。基本的にナルと思考が似ているので、自分の考えはナルの考えと同じ、と思い込む節がある。


〇山中いの
波風ナルの幼馴染の一人。ナルの同期で、独り暮らしの彼女を姉のように心配している。独りの寂しさを紛らわせるのにせめてもの、と花屋故に花の球根をあげたのが思いの外喜ばれた。以来、植物を育てる楽しみに目覚めたナルの頼みで、家を空ける時は彼女が育てている花の世話をしている。
うちはサスケに恋心を抱いており、サクラとは恋のライバル。原作より修行をしているのか、相手の姿が見える範囲内で相手の精神に触れる事ができ、戦闘意欲もある。サスケ追跡編にて、危ないところをサイに助けてもらった。
目下の目標は、里抜けしたサクラを一発殴ってやる事なので、修行に更に精を出している。


〇日向ヒナタ
波風ナルの同期であり、彼女の親友。
ナルに憧れており、彼女の影響を受け、「まっすぐ自分の言葉は曲げない」事を忍道としている。ナルとの大切な思い出であるたんぽぽのしおりを宝物として大切にしている。
幼少期に雲隠れの里の忍びに誘拐されたところを叔父のヒザシに助けられた。その一件でヒザシが命を落としたと聞かされており、彼の生存を知らないため、その息子であるネジに負い目を感じている。
うずまきナルトとは僅かに接点があり、彼にほのかな恋心を抱いている。


〇日向ネジ
日向一族の分家出身でありながら、『日向家始まって以来の天才』と呼ばれるほど天賦の才に恵まれた実力者。
当初、人は変えようのない運命に支配されているという絶望的な人生観を語る運命論者で、うずまきナルトに人知れず昔の自分に似ていると称された。波風ナルとの試合を経て、運命とは自分で切り開くものだと知る。
その後、死んだと聞かされていた父――ヒザシの生存を知り、日向宗家やヒナタとのわだかまりを解消出来た。運命論に囚われていた自分を救ってくれたナルに好意を寄せているが、感謝の気持ちのほうが大きい。


〇日向ヒザシ
ネジの父。誘拐された宗家の跡継ぎであるヒナタを奪取するのに成功したが、隙を突かれ、逆に自分が捕虜として連れ攫われる。
白眼の秘密を探られるより前に、里の命令で、宗家の長である兄の日向ヒアシに額の呪印を発動させられ、死亡。その亡骸は何故か国境にある川沿いで発見され、死んで白眼の能力を失ったため、利用価値が無いと判断した輩が放置したのだろうと木ノ葉の里に推測された。
だが実際はヒアシの独断で、脳細胞を停止させ、仮死状態にされただけであり、木ノ葉病院奥の病室に秘密裏に収容されていた。一向に起きる気配は無かったが、中忍試験本選のネジとナルとの試合真っ只中で、意識が戻る。眼が覚める直前、金色が見えたらしいが定かではない。



〇月光ハヤテ
中忍選抜第三試験予選の審判を務めた忍び。
本選前、我愛羅の様子を窺っていた砂と音の密会を目撃し、火影に報告しようとした矢先に相手から逆に攻撃を受け、屋根の上で力尽きたらしい。偶然君麻呂に発見され、ナルトの口添えで木ノ葉病院へ収容された。砂と音の密会を目撃した夜を憶えておらず、一時的な記憶喪失になっていると周囲は考えている。
その後、今度は志村ダンゾウとナルトとの取り引き現場を目撃し、パイプ役を余儀なくされる。長い入院生活故か、喘息が治ってきているとは本人談。ダンゾウの前ではナルトを憎んでいるよう見せかけているが、その実、ナルトを以前から知っているようだ。


〇ロック・リー
師のガイと同様、相当な体術の使い手。
『体術だけでも立派な忍者になれることを証明する』という忍道を掲げ、努力の天才故に忍術の才能が無くとも体術のみで他を凌駕している。
中忍予選試合で、うずまきナルトと対戦し、【八門遁甲】を開放。だが第五門を開く前にナルトによって精神的打撃を受け、昏睡状態に陥る。開放したのが四門までだったので、【八門遁甲】の後遺症は少なくて済んだが、眠ったまま、眼が覚めずにいた。
木ノ葉病院にナルトが訪れた際、リーにかけた術が簡単に解けるよう施していたので(渦巻く滄海 紅き空【上】三十五話参照)後に帰郷した綱手によって眼が覚めた。以降はリハビリに励んでいる。


〇自来也
『伝説の三忍』の一人。
波風ナルの師で、彼女に【口寄せの術】を教えたが、まさかフカサクを呼び出すとは思ってもいなかった。サスケ追跡任務後のナルと共に妙朴山で仙術を改めて修行している。ある程度の仙術を身につけたので、今度は見聞を広める為にナルを連れて修行の旅へ出かけたが、その理由がフカサクの妻であるシマの虫料理にあるとは言ってはいけない。


〇綱手
『伝説の三忍』の一人。
放浪の旅に出ていたところ、木ノ葉崩しの一件でナル・自来也の説得で里に帰還。志村ダンゾウと火影の座を巡り、カカシ・サスケの手を借りて五代目火影に就任する。火影就任後、サスケのスパイ活動を認め、里抜けをわざと見逃すよう手配した。
猶、放浪の旅の道中に弟子にしたアマルが、大蛇丸の下へ行ってしまった事で自責の念に駆られている。


〇猿飛ヒルゼン
三代目火影。木ノ葉に存在する全忍術を解き明かし、「忍の神」と謳われた天才忍者。
兄の失踪を悲しむ波風ナルを案じて、禁術によりナルを始めとした人々の記憶からナルトの記憶を消した張本人でもある。以上から木ノ葉隠れの里でナルトを唯一憶えていた人物なので、『木ノ葉崩し』にて大蛇丸と対峙している際に介入してきたナルトに驚いていた。
ナルトによって【屍鬼封尽】の術の代償は両足だけで済んだが、人々の記憶からナルトの存在を消した自身の後悔から、術を解く唯一の方法である己の死を望み、術を解くよう促した。だがそれを拒んだナルトによって昏睡状態に陥る。綱手でさえも手に負えない深い眠りについているので、木ノ葉病院最奥の病室に、現在秘密裏に収容されている。
三代目火影生存を知っているのは少人数で、世間では殉職したと発表されている。


〇志村ダンゾウ
木ノ葉の暗部養成部門『根」の創設者で、『忍の闇』の代名詞的存在。
中忍試験本選の最中にてナルトと取り引きし、『うちは一族殲滅事件』の真相も、自分を破滅に追い込む真実も、その手に握っている彼に感心した。
五代目火影の座を巡って綱手と争ったが、カカシとサスケに邪魔され、火影にはなれず仕舞いに終わった。サスケ追跡編にて生け捕りにした音の五人衆の二人――右近/左近・鬼童丸を自分の手駒にしようと考えている。
ナルトとのパイプ役として月光ハヤテを利用し、ナルトを『根』に引き入れようと虎視眈々と狙っている。


〇サイ
『根』の一員で、ダンゾウの部下。
ダンゾウ火影就任を阻止する為に署名活動をしていたサスケの前に現れ、友達のように振舞っていた。実際は署名状を奪うことが目的だったが、内心サスケに親近感を抱いている。サスケの友達になろうと奮闘していた事もあり、サスケの里抜けには聊か驚いていた。サスケ追跡編にて、ダンゾウの命令で追い忍であるナル達を見張っており、右近/左近を捕らえる際、思いがけず山中いのを助けた。
ダンゾウの力になろうと奮闘するその本心は、自分の兄のような存在であるシンと会いたいが為である。兄に会う為にはダンゾウの許可が必要なのだが、事実はまだ明らかになっていない。








『砂』


〇我愛羅
尾獣・一尾の人柱力。砂の三姉弟の末っ子。父親の四代目風影に幾度も刺客を送られた過去から、以前は自分の存在を確かめる為に人を殺すなどといった非情な性格だった。うずまきナルトとの会話を経て、波風ナルと戦った一件により、考えを改める。
うちはサスケの里抜けの真相を、シカマル同様知る人物であり、綱手個人の要請によりサスケをわざと見逃した。もっともその際、かつての自分のように闇に染まらぬようサスケに釘を刺している。
うずまきナルトに感謝しており、恩人でもある波風ナルに対しては盲目的なほど一途な想いを抱いている。


〇テマリ
我愛羅とカンクロウの姉で、風遁使い。下二人が弟なので妹に憧れを抱いていた。
よって波風ナルを気に入っており、事あるごとに自身をおねえちゃんと呼ばせている。
ナルへの弟の恋心を察し、我愛羅を応援している。








『音』


〇大蛇丸
『伝説の三忍』の一人。
木ノ葉隠れの里を抜け、音隠れの里を創った。
木ノ葉崩しを決行するにあたって、ダンゾウと取り引きしたが、その内容をナルトに利用されたとは知らない。また、音の五人衆が生存してナルトの許へいる事実もナルトの上手い根回しによって知らないでいる。
ナルトに関しては絶対敵対したくない相手だと認めており、何度も自分に仕えてほしいと交渉しては、その度に断られている。

〇カブト
大蛇丸の側近で医療忍者。何故かナルトを嫌っているが、その一方でナルトとナルが兄妹と知っている。現在はアマルを弟子として医療忍術を教えている。


〇うちはサスケ
波風ナルの同班且つライバル且つ親友。うちは一族の生き残りであり、兄のイタチを憎んでいたが、うずまきナルトの仲介で和解。よってダンゾウ火影就任騒動では、すっかり兄を慕う弟に戻っていた。しかしながらその後、ナルトからイタチの死を告げられ、再び復讐者となる。
木ノ葉の里抜けの真相を五代目火影たる綱手に前以って告げてから、大蛇丸の許へ向かう。ナルトへの復讐心のみなので、原作より闇に染まっていない。イタチの形見である鴉を常に手元に置いている。

〇春野サクラ
波風ナルの同班。サスケに恋心を抱いており、山中いのとは恋のライバル。
カカシから「幻術の才能がある」と言われた事と、『木ノ葉崩し』にて助けてくれた香燐に自分の特技や取柄を見つけろと指摘された事が切っ掛けで、幻術が得意な夕日紅の許で修行していた。恋慕から、偶然見かけたサスケの後を追い、里抜けする。
ナルのことは妹のように想っているが、その一方で彼女の成長に焦りを覚え、このような事態に陥った。現在はサスケと共に大蛇丸の下にいる。


〇アマル
映画『NARUTO疾風伝 絆』のヒロインとして登場。
難病を患ったまま、闇のチャクラ増幅機として利用され、死にかけていた。死の直前に救ってくれたナルトを『神サマ』と慕い、ナルトを捜す旅をしていた際、綱手に会って弟子になる。波風ナルと意気投合し、仲良くなったが、大蛇丸の甘言で心が揺らぎ、ナルトに会いたい一心で彼の下へ向かう。
里抜けしたサスケを迎える役目として再登場した。現在、カブトの下で医療忍術を学んでいる。


〇ザク・アブミ
音の三人衆の一人で、大蛇丸への忠実さが災いして、ドスとキンの二人と決別。
予選試合で油目シノと闘った際、右腕を失くす。後に大蛇丸から義手をもらい、益々忠誠心を募らせたが、実は義手の中には麻酔針が仕込まれており、禁術の生贄にされる寸前だった。
中忍試験本選前に、我愛羅を奇襲したが、逆に返り討ちに遭う。死ぬ直前でナルトに命を救われ、義手に仕込まれていた麻酔針も秘かに抜き取られ、別のモノを繋ぎ目として埋め込まれた。だが当の本人は全く知らず、ドスとキンをたぶらかした憎き敵としてナルトを恨んでいる。
大蛇丸の部下として現在も音の里に滞在しており、大蛇丸に気に入られているサスケに敵対心を燃やしている。


〇シン
かつて『根』の一員で、サイの兄的存在。
現在は大蛇丸の下で、サイをダンゾウの魔の手から救おうと励んでいる。
サイの絵の上達の為に、動物に変化した過去から、動物限定だが、変化の術は天下一品。完璧な動物変化故に、なかなか見破るのは難しいが、ナルトには効かなかった。一時期、波風ナルを見張っており、宿の猫やトントンに化けていた。綱手の弟子だったアマルを大蛇丸側に引き込んだりと、裏で暗躍している。











『暁』


〇うちはイタチ
元『暁』の一員。
サスケの兄で、実の弟であるサスケを除き、うちは一族を殲滅させた大罪人と世間では見做されている。
真実を胸に秘めたまま死ぬつもりだったが、ナルトの介入により、サスケと和解する。しかしながら弟との和解に気が緩んだのか、気が急いたのか、内部から見張っていた『暁』に裏切者と認識され、鬼鮫に追われる身となる。形見として前以って己の写輪眼を仕込んだ鴉をサスケに届けてほしいとナルトに頼むと、自ら【天照】の黒い炎に撒かれた。
以降、『朱』と施されたイタチの指輪はナルトが常に首にかけている。


〇サソリ
『暁』の一員。
殺した人間を人傀儡に作り変えてコレクションしており、『永く後々まで残ってゆく永久の美』を芸術としている。ナルトを坊と呼んでおり、自分の傀儡にしたいと常々考え、毒死させたいと思っている。ナルトの死因を巡って、デイダラと度々口論している。


〇デイダラ
『暁』の一員。
『儚く散りゆく一瞬の美』をモットーに、爆発を芸術としている。ナルトを気に入っており、ナル坊と呼んでは爆死を喜々として勧めてくる。
ナルトの死因を巡って、同じ芸術仲間のサソリとよく言い争っている。


〇飛段
『暁』の一員。
殺戮をモットーとしたジャシン教を信仰しており、ナルトに何を見出したのか、何時の頃からか彼を『邪神様』と呼び慕う。毎回ナルトにその呼び名はやめろと咎められているが、聞く耳を持たない。
戦闘前や戦闘後に行う儀式における『ジャシン様』とは別物らしいが、同一視しているのかと勘違いするほどナルトに対する熱狂ぶりは凄まじい。
昔のナルトのほうが『邪神様』らしかったとは本人談。











『他』


〇紫苑
映画『NARUTO疾風伝』のヒロインであり、鬼の国の巫女。
妖魔『魍魎』を封印するにあたって、ナルト達と共に沼の国の祠に赴いた。人の死を予知するとされていたが、実際は己自身の死を予知し、その度に身代わりとして周りの者が死ぬ事に心を痛めていた。もっとも真実は、死ぬ間際に呼び覚まされる紫苑の本来の力を抑える為で、鈴も一見、強力な結界であり、紫苑を守る力であるように見せかけて、その実、彼女の力を抑え込む封印術がかけられていた。猶、魍魎を滅した後、鈴はナルトに預けている。
ナルトに恋心を抱いており、大胆発言をしたものの、多由也と香燐の剣幕でうやむやになってしまった。


〇ススキ
鬼の国の衛兵の一人で、足穂とは旧知の仲。
巫女の呪縛から逃れさせたい一心で紫苑を案じるがあまり、木ノ葉隠れの里に無断で潜入し、木ノ葉厳重警戒施設に収容された。
数日後には引き渡す手筈になっていたが、監獄内で自害する。本当に自殺なのか、それとも他殺なのかは鬼の国からしたら判別出来ないので、その一件により木ノ葉隠れの里との間に溝が出来てしまった。


〇足穂
巫女の付き人で、紫苑の母――弥勒への恩から、紫苑を警護している。
【影鏡身転の法】で紫苑に成り代わり、彼女の身代わりに死ぬところだったが、ナルトによって拒まれ、死なずに済んだ。
ナルトから木ノ葉隠れの里の諍いを無くす為の巻物を得て、それが国交を回復する切っ掛けとなる。


〇クスナ&シズク
映画『NARUTO疾風伝』で敵対する四人衆の生き残り。
妖魔『魍魎』を復活させた黄泉に従っていたが、途中で疑念を抱き、改心する。ナルトの口添えで死刑を免れ、各国で問題を起こした忍達を多数収監している施設に収容された。
ナルトに感謝の念を抱いている。


〇神農
表向きは世界を渡り歩いた医者だが、その実体は世界征服を企む空の国の忍。
【零尾】に関する巻物を手に入れようと、中忍試験に乗じて木ノ葉から目ぼしい巻物を盗んだ。
難病で村から隔離されていたアマルを利用し、闇チャクラを増幅させていた。
零尾を復活させたもののナルトに敗れ、術の反動で老人と化す。現在はナルトの術により記憶を奪われた村人と共に生活している。












『???』


〇桃地再不斬
『霧隠れの鬼人』としてその名を轟かせた霧隠れの抜け忍。元・『霧の忍刀七人衆』の一人で、首切り包丁を常に担いでいる。
【霧隠れの術】や水遁系の術を得意とし、『無音殺人術(サイレントキリング)』の使い手。
波の国で死んだとされていたが、ナルトに秘かに死を偽造されていただけで、中忍試験で暗躍したり、木ノ葉に訪れた鬼鮫と戦闘を繰り広げたりなど、ナルトと行動を共にしている。
文句を言いつつもナルトに従い、白や君麻呂を始めとした少年達をまとめたりと徐々に苦労人と化している。実はナルトの一番の理解者とも言える。


〇白
幼い頃、ナルトに拾われて以降、ナルトに忠実な美少年。
再不斬と同じく、波の国で死んだと見做されていたが、実はナルトに助けられていた。自分と同じ境遇の君麻呂を同族嫌悪から嫌っており、度々険悪な空気になっている。千本を得物とする、氷遁忍術の使い手。
ナルトの言葉は絶対で、彼の為ならば自分の命すら投げ出すほど盲目的に崇拝している。


〇君麻呂
音の五人衆のリーダーで、通り名は「地の君麻呂」。
ナルト至上主義者で、彼をナルト様と呼び、盲目的に崇拝している。その為、似たような境遇の白とは相容れない。
神農が木ノ葉から強奪した、かぐや一族関連の巻物を用いたナルトに不治の病を治してもらってから、益々崇拝ぶりに磨きがかかった。
大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を企て、死の偽造に成功し、ナルトの傍で行動を共に出来るようになった。もっとも白も一緒にいるので、険悪な空気になるのもしばしば。多由也と香燐のように似た者同士とも言える。
実はかつて、ナルトの命を狙っていた黒歴史がある。


〇多由也
音の五人衆の一人で、通り名は「北門の多由也」。
ナルトについて行き、君麻呂と共に中忍試験に参加した。予選試合を勝ち進んだが、木ノ葉崩しの準備により本選は欠場。
その後、大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を君麻呂と企て、ナルトに伝えずに決行した。犬塚キバと対戦し、死の偽造に成功。現在、ナルトの傍で行動を共にしている。
ナルトに対して恋心を抱いており、彼の前では猫を被ったように大人しくなるが、基本的に口は悪い。恋敵の香燐に対しては特に険悪で、眼鏡女呼ばわりしている。
一人称がウチの、好戦的な赤髪少女。


〇次郎坊
音の五人衆の一人で、通り名は「南門の次郎坊」。
大蛇丸の命令でうちはサスケを里抜けさせる最中、大蛇丸から逃れて自由の身となる計画を企てていた。波風ナルと対戦し、ナルに【呪印】の危険性を知らせたかったナルトの指示で、“呪印”を使用。死を装う対象者の死を目の当たりにする人間が必ず一人でなければならない条件によるナルトの術により、死の偽造に成功した。
敵のチャクラを吸い取る事が可能で、それを基にして仲間のチャクラを回復する事も出来る。多由也の口の悪さを注意したり、多由也と香燐の険悪な間を取り持ったり、再不斬と同じく苦労人と化している。


〇右近/左近
音の五人衆の一人で、通り名は「西門の左近」。
大蛇丸の命令でうちはサスケを里抜けさせる最中、大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を企てていた。
サスケ追跡編にて山中いのと対戦。崖から落下して死を偽造しようとしたが、サイに捕らわれ、『根』のダンゾウに生け捕りにされてしまう。だがナルトが前以って取り引きしていたので身の安全は保障されている。
現在は鬼童丸と共に『根』の優秀な手駒としてダンゾウの下、修行させられているが、己の能力に関しては一切明かしていない。


〇鬼童丸
音の五人衆の一人で、通り名は「東門の鬼童丸」。
大蛇丸の命令でうちはサスケを里抜けさせる最中、大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を企てていた。
日向ヒナタと対戦中、乱入してきたシノによって敗北。右近/左近と同じく『根』に生け捕りにされてしまい、優秀な手駒としてダンゾウの下、修行させられている。【念華微笑の術】でナルトから指示を仰ぐ一方、戦闘をゲームとして考える癖から、ナルトをチートキャラ・無理ゲーと脳内で度々叫んでいる。


〇香燐
感知タイプの眼鏡少女。チャクラを感じ取る事ができ、火遁の術も多少は使える。
中忍試験に参加しており、死の森でナルトに助けてもらった。ナルトに一目惚れし、ダーリンと勝手に呼んでいる。恋敵の多由也とは犬猿の仲だが、彼女と同じく赤髪及び一人称もウチなので、実際似た者同士。


〇鬼灯水月
霧隠れの里出身の少年。
再不斬の首切り包丁が目的で、ナルト達と行動を共にしている。再不斬を先輩と呼んでいるが、完全にからかって遊んでいる。尊敬はしている模様。
再不斬に奇襲をかけては返り討ちにされている。『霧の忍刀七人衆』の忍刀を集める目的の裏に、本当の目的があるらしい。


〇重吾
“呪印”のオリジナルで、自然エネルギーを取り込むことのできる体質を持つ。本来はおとなしい性格だが、時折殺人衝動が湧き起こる事がある。
その衝動を抑える事が出来る唯一の人物がナルトであり、重吾の異常な性質を更生させる為に、精神を安定させる効能を持つ薬を開発してもらった。
その薬を作るのに必要な薬草が、波の国の森に群生する草なので、平和な波の国で隠れて住んでいる。
穏やかに生活できる夢を叶えてくれたナルトを、ナルトさんと呼び、慕っている。君麻呂と特に仲が良いが、ナルトと行動している彼が羨ましく思っている。


〇ドス・キヌタ
音の三人衆の一人で、大蛇丸に疑問を抱き、ナルトとの交渉に応じた。
キンと共にナルトの傍で暫し行動を共にしており、再不斬にも僅かの間鍛えられた様子。現在は鬼の国の巫女・紫苑に仕えている。

〇キン・ツチ
音の三人衆の一人で、ドスと共にナルトの交渉に応じた。
ナルトの傍で行動を共にしていたが、現在はドスと同じく鬼の国の巫女・紫苑に仕えている。猶、ナルトに対して淡い恋心を抱いていたようだが、多由也と香燐の剣幕に怖気づいてしまったようだ。


〇ミズキ
かつて波風ナルを騙して禁術の巻物を盗ませた罪で、木ノ葉厳重警戒施設に収容されていたが、ナルトにより秘かに脱獄。世間では死亡したように偽造されている。
カブトがサスケを襲撃した際、再不斬と共に変化し、一芝居打った。好人物のようなその顔の裏には野心家の匂いが秘められている。ナルトのことを昔から知っているような口振りに、食えない奴だと再不斬は評している。


〇零尾
尾のない尾獣とされているが、その正体は明らかにされていない。突然神農に口寄せされ、無理やり従わされていた。人の心の闇や負の感情を喰らい、闇のチャクラを生み出す。範囲内であれば人の心を読み、チャクラを吸収する事も可能。
額に『零』という字が施された生白いお面をつけており、笑っているのか怒っているのか泣いているのか判然とせぬ面相で、大蛇のような長い躰。無数の触手で攻撃するが、妖魔『魍魎』の妖気で闇を促進されたのが原因で、黒い翼まで生えた。
神農に口寄せされる前や自分の居場所、己の事を何一つ憶えていない。自身を化け物と呼ばず、黎明と名付けたナルトを慕い、従っている。













◎うずまきナルト









 
 

 
後書き
『渦巻く滄海 紅き空 【上】』に長らくお付き合いくださり、ありがとうございます!
読んでいらっしゃらない方はこの閑話という名の登場人物紹介を読んで、少しでも興味を持ってくださると幸いです。原作・映画を観ていない方にはネタバレになってしまうかもしれませんが、あくまでこの話においてのキャラ紹介だということを念頭に置いておいてくださいね。
猶、原作と大幅に変わったキャラを思いつけるだけ書いたので、もしかしたら見落としている人物もいるかもしれません、ごめんなさい。(汗)


次回から第二部の疾風伝に入ります。原作と同じく成長してからの話なので、ナルト達が大きくなっています。駄絵で申し訳ありませんが、イメージとしては扉絵です。

次回から疾風伝に突入致します!
どうかこれからも『渦巻く滄海 紅き空』をよろしくお願い致します!! 

 

一 暁の静けさ

 
前書き
大変長らくお待たせ致しました!
冒頭の一場面は、今後の展開の一部を先取りしたものです。ご容赦ください。

疾風伝編、始動です。 

 
…―――約束、したよな。
一緒に、ラーメン食いに行こうって。




四苦八苦していた【口寄せの術】に助言をしてくれたり、誰かに頼ってもいいんだと思わせてくれたり、見舞いに花をくれたり。
そうして、いつか一緒に一楽のラーメンを食べに行こうって約束した相手。

中忍試験に共に参加した間柄だけだったのが、いつの間にか、大きな存在になっていた。




だから、信じられない。
同期の仲間が自分を呼んでいる。切羽詰まったように叫んでいる。自分以外の全員が警戒態勢を取っている。
それが何故なのか、彼女はわからなかった。


不意に、大きな雲がその場の面々に影を落とす。
雲は、大樹の枝上に佇む彼にも例外なく、頭上を覆い被さってゆく。周囲から敵意を向けられている張本人は、涼しげな顔で彼女を見つめ返した。
雲の影と、そして頭上の葉陰で暗くなっても、その眼差しだけは妙に美しく輝いていた。


「…―――ナルッ!!」

シカマルの声で、波風ナルはハッと我に返る。肩と共に、ツインテールの長く綺麗な金髪が大きく跳ねた。

何度も自分を呼んでいたらしいシカマルが、同期が、木ノ葉の仲間達がナルに呼びかけている。その声が彼女には何処か遠くから聞こえた。
けれど、先ほどからずっとナルの足は固まっていた。直立不動のまま、ある一点だけを見つめていた。


「そいつから離れろ!そいつは、うずまきナルトは―――」


周囲からの視線を一身に集めている彼の服が、ふわり、風で舞い上がる。純白の外套とは対照的な黒い裏地。
その端に、見覚えのある忌まわしき紋様が垣間見えた。

赤い雲。

「…―――『暁』だ…ッ!!」




自分の中の九尾をつけ狙う犯罪組織。その象徴が瞳に飛び込んでくる。

空のように純粋な青を、信じられないとばかりに大きく見開いて、ナルは呆然と彼を仰いだ。雲間から覗く太陽の光が、波風ナルとよく似た髪の色を煌めかせる。

忍び達に完全に包囲されながらも、ナルの視線を受け止めた彼は、滄海の如く深い青の瞳をゆぅるりと細めた。


敵意と困惑と殺意が渦巻くその中心で、彼は―――うずまきナルトは悠然と微笑んでみせる。
波風ナルを見つめるその瞳の青は、その場の誰にも真意を悟らせない、徹底的な謎を秘めていた。














光の無い、全くの闇だった。
あの時、あの瞬間、あの場所で。

二人の立ち位置が違っていたら。
両者の些細な言動が一つでも変わっていたら。

君と僕の立場は逆だったのかもしれない。
僕の見る光景が君の瞳に映っていたかもしれない。
そうしたら。

僕の居場所に君がいて、君の世界に僕が生きていた。
こちら側に君が生きて、あちら側に僕が立っていた。
そう考えたところで。



今は詮無き事。
















「……まだ起きとるのか?」
夜空をぼんやりと眺めていた彼女は、背後からかけられた師の声に振り向いた。

月光が、いつもは二つに結っている髪にキラキラと降り注ぐ。下ろされた長い黄金の髪が、まるで天の川のようだな、と自来也は柄にもなくそんな感想を抱いた。

「ちょっと、夢を見て…」
自来也の問いに、窓辺に腰掛けた波風ナルは曖昧に答える。
弟子の妙な受け答えに疑問を抱くこともなく、自来也は「遠足前のガキじゃないんだから、さっさと寝ろのぉ」と若干のからかいも乗せて促した。


「なんせ明日は、」
「わかってるってばよ」

子どもの頃と変わらない口調だが、姿形はすっかり大きくなった彼女が自来也の言葉を遮って唇を尖らせる。里を出る前の姿と比較して、(図体だけは一丁前になりよって)と自来也は内心苦笑した。

改めて就寝の挨拶を交わし、自分の寝床に戻った自来也を見送ったナルは、再び窓から天を仰いだ。
眼に痛いほど明るい月が、彼女の瞳の青に映り込む。



妙な夢を見た。夢の内容は憶えていないのだけれど、どこか懐かしい夢だった。

ずっと昔、遥か遠い過去。誰かが自分に寄り添ってくれていたような。
こうして眠る時、悲しくないように寂しくないように、自分の手を握ってくれていたような。
なんとなく、そんな陽だまりの中にいるかのような、ふわふわした夢だった。


明日は、懐かしい里に帰る日だ。
木ノ葉の里を出て、妙朴山で暫し過ごし、こうして各地を回る修行の旅に出て、久方ぶりの帰郷。

だから早く寝なければいけないのに、どうしてだか、その不思議な夢を見て、胸が騒いだ。
それで、泊っている宿の窓から月を見て、気持ちを落ち着かせていたところに、自来也が声をかけてきたのだ。


ただの夢だとはわかっている。しかしながら、ただ、という一言で片づけたくなかった。懐かしくてあたたかくて、でもどこか泣きたくなるような。

悲しくもないのに変だよな、と首を傾げたナルの視界の端で、道端に咲く小さな花が風に揺れていた。
忍び故に、眼が良い彼女の瞳は、暗い夜にもかかわらず、自分の部屋の真下で秘かに咲いている花をしっかと捉える。

雑草の部類だろうが、健気に生きている花を目にして、波風ナルは故郷で自分が育てている花の数々を思い出した。里を出て行く前に、幼馴染の山中いのに世話を頼んではいたが、枯れていないか不安だ。

まぁ花屋の娘である彼女は自分よりもきっと花への気配りは上手だろうけど、それでも植物を育てるのが好きなナルは僅かばかり心配した。

貰い物だから余計に気にしてしまう。なにしろ木ノ葉病院で入院していた際にお見舞いとして貰ったものだから。

花の送り主である、うずまきナルトの姿が一瞬脳裏に過ぎる。
彼の髪は、現在眺めている月のような綺麗な金色だったな、と自身も金髪であるにもかかわらず、ナルは窓辺に腰掛けながら思いを馳せる。

ラーメンを一緒に食べに行く約束を未だに果たせていない事実が気掛かりだが、何処にいるのかわからぬ相手だから仕方がない。しかしながら昔から、約束事に敏感である彼女は、他の人間よりもずっと約束を重んじていた。

いつか必ず、と意気込んでから、そろそろ寝ようかと腰を上げる。もう一度、ちらりと道端の小さな花を目にして、明日宿を出る時に水でもあげようかなと思う。

木ノ葉の里への帰還前夜、そんな、他愛のないことを波風ナルは考えていた。














吹き荒れる砂嵐。
強烈な陽射しと歪んだ熱気の中、場にそぐわない清澄な鈴の音が響き渡る。

灼熱地獄の世界で鳴る鈴は心が休まる唯一のようだったが、その鈴の持ち主は砂漠を進むにはとても似つかわしくない風体だった。
鈴が連なる笠を目深に被る二人の男はこの熱気だというのに、黒衣で身を包んでいる。
その中心の赤い雲模様がやけに目立った。

「…相手は人柱力だ。その袋、一つで事足りるのか?」
広漠たる砂地をずぅるりずぅるり這っている男が言葉少なに、もう一人に問う。男の歩いた跡をすぐに砂が覆っていった。

「問題ねぇ。それに、ちゃんと十八番も持ってきてる」
強く吹きつける風が黒衣を翻す。その下に差し入れた手のひらが、まるで男の心象を表わすかのように舌なめずりした。


「なんせ相手は…―――」
笠の陰から覗く瞳が獰猛に嗤う。



「『一尾』だからな」



















「…―――サソリとデイダラが?」
「ああ。一尾狩りに向かわせた」

光の一点も無い闇。
お互いの息遣いだけが唯一感じ取れる暗がりの中、男は仮面の奥で眼を細めた。感じるのは自分の息遣いだけで、相手は何も無い。
姿形はおろか、息遣いも、そして気配さえも無い。彼の完全なる“無”に、男は仮面裏で感嘆の吐息を漏らす。

「なにか、問題でも?」
「……いや。三年後と伝えたはずだが」

唯一聞こえる彼の言葉に、思い当った男は、ああ、と記憶を掘り返す。思い返せば、『木ノ葉崩し』にて彼は一度接触していた。
「仕方がないだろう。事態は急を要する。それにあの時は一尾・九尾、双方捕らえるに骨が折れるのはこちらも解っている。大蛇丸まで出張っていたしな」


かつて組織に所属していた大蛇丸の名を口にして、眉間に皺を寄せる。相手の望む答えとは的外れな返事をしているとは露知らず、仮面裏で険しい表情を浮かべていた男は、ふと気配が露わになった事に気づいて顔を上げた。

暗がりから、音も無く静かに現れた彼を目にして、わざと姿を見せてくれたのだと察す。だから男も敬意を表して、普段滅多に外さぬ仮面を外した。

露わになったその顔は年齢のわりに、人生を達観したかのような暗い表情だったが、それよりも彼の方がずっと、全てを見透かす眼をしていた。

鏡の如く澄み切っていながら、闇を濁り固めたような。それでいて、深い滄海の如き瞳の色が、男は気に入っていた。
自らも対象を吸い込む力を持っているが、それ以上に吸い込まれそうな青を見ていると、荒れていた心が落ち着く。同志だからだろう、と男は自身より背が低い相手の姿を眩しげに見つめた。



暫しの静寂の後、彼は何も言葉を発さず、くるりと背を向けた。再び闇に溶け込みかける小柄な背中へ、男は思わず手を伸ばす。拍子に落ちた仮面が、カツン、と音を立てて跳ねた。
闇に響いた音を聞き咎め、彼が「マダラ」と指摘する。その呼び名に、男は聊か機嫌を損ねた。

「お前だけは…その名で呼んでくれるな」


完全に立ち止まった彼が、男の代わりに仮面を拾い上げる。男の素顔を仰いで、ふっと和らいだ瞳の青が暗闇の中で妙に輝いていた。


二年ほど前よりは随分成長したものの、やはり変わらず、まるでその場に存在していないのかと見間違いそうになる。
そしてそれ以上に、今ようやく感じ取れた研ぎ澄まされた気配が、幻想的な彼の存在を確かに物語っていた。


差し出された仮面を受け取れば、彼はフードを目深に被って再度踵を返した。しかしながら肩越しに振り返ると、静かに男の本名を口ずさむ。



「わかっているよ……――――オビト」



音も、声も聞こえない、唇の動きすら読み取れないほどの些細な呼び名に、それでも男は満足して仮面をつけ直す。その時にはもう、男はマダラという名の男になっていた。

別れ際に彼が呼んでくれた自分の名が、まだ残響として耳に心地良く残っている。
己が何者かわからず、狂いそうになるのを唯一止めてくれているその名は、まるで地獄に垂れ下がる蜘蛛の糸のようだ。
闇の中で、消えた彼の髪の残像が、金色の軌跡を描いているように見える。その軌跡の金糸が、自分にとっての蜘蛛の糸だと仮面の男は思う。



こんな地獄のような世界で生きているからこそ、男はつい寸前まで目の前にいたはずの存在に感謝した。
やり切れない寂寥の海はいつだって凪いでいるが、寸前のほんの一時の対話だけで、心の荒波は平穏なものへ一変する。





彼―――うずまきナルトの存在こそが、己をうちはオビトだと証明してくれる同志だと、仮面の男は信じて疑わなかった。
とっくに消えたナルトの姿を、仮面の男は暫し視線で追うと、やがて己自身も闇に溶けゆく。





払暁を期して、組織は動き始めた。

 
 

 
後書き
どうかこれからも『渦巻く滄海 紅き空』をよろしくお願い致します!! 

 

二 怪しい雲行き

 
前書き
大変お待たせいたしました!!

今回前半部分は、シカマル→ナルの描写やシカマルとテマリの不仲、及び若干のハレンチ?というか青春な内容がありますので、ご注意ください!

 

 
「久しぶりだな、二人とも」

長い廊下の奥にある火影室。
その主たる五代目火影―綱手は、自来也の隣に立つ小柄な存在に眼を細めた。
目に入れても痛くない程、まるで孫のように可愛がっている子がようやく己の許に帰ってきたのだ。これを喜ばずにいられようか。
修行旅の労りの言葉を掛けようとした刹那、重厚な火影室の扉をノックする音がした。

「入れ」
綱手の許可を受け、扉を開けて室内に入ってきた奈良シカマルは軽く頭を下げる。
「どうも」と挨拶して顔を上げた途端、彼は硬直した。
その後ろからついて来た砂忍のテマリが、急に立ち止まったシカマルを訝しげに睨む。
「おい、どうした。早く中に…」

シカマルの背中越しに見えた金色に、テマリもまた動きを止めた。
以前からよく火影室に出入りするシズネや山中いのがこの場にいるのはわかる。けれども、ここ暫く見かけなかった眩しいばかりの笑顔が、シカマルとテマリの瞳に飛び込んできた。


この二年ほど木ノ葉の里で見ることが敵わなかった、鮮やかな金色。
以前も美しかった金髪は、しばらく見ない間に長く長く伸びたらしい。火影やいの達と談笑していた彼女が、背後のシカマルとテマリに気づいて、ぱあっと顔を明るくさせる。
二つに結っても長いツインの金糸を、ふわりと揺らして振り向いた存在に、どきりとシカマルの胸が高鳴った。

「…な、ナル…、おい!ナルじゃねーか!!」
「あっ…、シカマル!」

花がほころぶような笑顔で己の名を嬉しそうに呼ぶ彼女に、シカマルの鼓動は高まる。
その後方で立つテマリは、彼女の変わり様を見て驚いていた。



波風ナル。
12歳の頃の彼女の容姿は、ほぼ男と変わらぬ体型だったはずである。かろうじて、女と認識できたのはツインテールの金髪のみ。
華奢で小柄なところは変わっていないが、この二年ほどで何があったのか疑いたくなるほどに、立派な女性の姿になっていた。

(…というより、【お色気の術】で変化した姿まんまじゃねーか)
お色気の術を見たことがあるシカマルは、心中溜息を零した。

アカデミー時代の彼女がよくふざけて変化していた、グラマラスな身体の女性。その女性と瓜二つに成長したナルは、ボンキュッボンと理想の女性像の身体に育っていた。
(つか、こいつ、確か変化した時は裸体じゃなかったか…?)
うわ、と思わず口を押さえる。それはつまり、今の彼女の裸なわけで。
自然と顔が熱くなるのを誤魔化そうと、シカマルは即座に表情を得意のポーカーフェイスに切り替えた。

「お前、帰ってきてたのか」
「ああ。今朝帰ってきた」

男口調なのは変わってないのか、と少し安心する。照れ臭さを誤魔化すように軽く頭を掻きながら、シカマルはかける言葉を選ぶ。
けれども口から飛び出たのは、当たり障りのない一言だった。

「…なんつーか…変わったか、おい」
「変わりすぎよ!なに、この胸!」
シカマルの言葉に反応したのは、ナルが来る前に火影室にいた山中いの。
現在、綱手の弟子として修行に励んでいる彼女は、可愛い妹分のようなナルの成長っぷりに聊か抗議の声を上げた。

「なにしたらそんなでかくなるのよ、教えなさい!」
「…ちょ、いの…!?やめ…ッ」
自分の胸を鷲掴みするいのにナルが戸惑う。彼女の声とその胸を目の当たりにしたシカマルは、気が遠くなりそうになった。

「…あ~、いの。止めてやれ。健全な青年には刺激が強すぎる」
天の助けか、綱手がいのをやんわりと止める。その言葉にハッとしたいのは慌ててナルから離れた。
「なんじゃい、も~ちょっとしてくれてもよかったのに…残念じゃのう」
「あんたは!何を期待してるんだいっ!」
残念がる自来也を、綱手が拳で黙らせる。痛みに悶える自来也を、綱手はじろりと睨みつけた。

「…お前、ナルに手を出してないだろうね」
「ん~…?どうかの~??」
へらへらと笑う自来也に、ナル以外の全員が冷たい視線を投げた。冷ややかな眼を向けられ、自来也は慌てて弁解する。

「っ、あ、安心せえ!中身は12歳の頃とまっっっったく変わっとらん!」
「「「「「あ、やっぱり…」」」」」
「…エロせんに~ん…」
恨みがましくガクリと肩を下げるナルを見て、室内全員の心は一致した。
(((((つまり、鈍いままか…)))))


男と女の違いや、彼女に向けられる好意をまっっっったく理解していなかったあの頃と同じ。
しかも立派な女の身体となった今となっては、余計タチが悪い。
これから先苦労するのが目に見えて、シカマルは溜息をついた。

その横から、沈黙を貫いていたテマリがナルに声をかける。
「…ずっと考えていたんだが」
「…あ!テマリ姉ちゃんだってば!久しぶりだってばね!」
「ああ、久しぶりだな。憶えていてくれたのか」
「あったり前だってばよ~!すっげ~美人さんがいるって思ったってば!前も美人さんだったけど、ますます綺麗になっててびっくりしたってばよ!」

(…いや、びっくりしたのはお前のほうなんだが。つか、フェミニストぶりも変わってねえのな、めんどくせ~)といったシカマルの思考は、次のテマリの一言によって中断になった。


「ふふ、義妹は口が上手いな。よし、お義姉さん・義姉さん・テマリ義姉…この中からどれでも好きなのを選べ」
「おい!!」
思わず声を荒げたシカマルを、テマリは一瞥する。

「…なんだ」
「…なにが義妹だよ」
「我愛羅の嫁になるのだから、私の義妹になるのは当然だろうが」
「は!?なにが当然だよ!勝手に決めんな!!」
「お前に口出しされる覚えはない」
険悪な二人の間の空気をまったく読めないナルと、その状況の原因を理解して苦笑する綱手達。
そしてその口喧嘩を止めたのも、原因を作った本人だった。

「え~と、よくわかんないけど…前のように、テマリ姉ちゃんって呼んでもいいってば?」
「…まあ、それで今は良しとしよう。だがいずれ…」
「いずれも何も、これから先ねーよ」
「ふん、貴様には関係ないだろう」
悪態をつくシカマルを、鼻で笑うテマリ。
「…ッ、てめ…」

普段滅多に怒らないシカマルがなぜ不機嫌なのかわからぬまま、ナルはテマリに声をかけた。
「て、テマリ姉ちゃんはどうしてココにいるんだってば?」
久しぶりに会って少し照れ臭いのか、恥ずかしげに「姉ちゃん」と小さく言葉を紡ぐナルを、テマリは微笑ましく感じる。
こんな妹が欲しかったな、と二人の弟を持つ長女は切実に思った。
テマリの考えが読めたいのは、(相変わらず、この子は変わってないわね)と苦笑する。


火影室が談話室になることを怖れて、綱手の隣に控えていたシズネがこほん、と咳払いした。
「綱手様、そろそろ…」
「なんだい、水をさしおって…空気が読めないねぇ」
「綱手様の場合、サボりたいだけでしょう!」
口煩い側近に騒がれて、綱手は辟易とした表情を浮かべる。
二人のやり取りに苦笑した自来也は「わしはまだ報告があるから、お前達は先に出とれ。積もる話もあるだろう」とシカマルに視線を寄越した。

察しの良いシカマルは素早くナルとテマリ、そしていのを連れ立って火影室を後にする。
四人の足音が火影室から遠ざかったのを見計らって、綱手は何の前触れもなく背後に声をかけた。


「もう入ってきていいぞ」
「アイツ…成長したのは体格だけじゃないですよね?修行の成果があるとありがたいのですが」
火影室の窓の向こう側から即座に返ってきた返事に、自来也はふんっと鼻を鳴らす。
「抜かりがあると思うか?気を抜くとお前も出し抜かれるぞ」


挑発めいた答えに、火影室の外で待機していた畑カカシは満足そうにマスクの下で笑った。
「そりゃあ、楽しみですね」

窓から失礼して火影室に入ってきたカカシと、綱手と自来也の間で流れる空気を感じ取って、一礼したシズネは静かに退室する。

暫しの沈黙ののち、自来也がまず口火を切った。
「ヤツらの動きが活発になってきた」
その一言で、綱手とカカシはたちまち険しい表情を浮かべる。明確に言わずとも、ヤツらの正体を二人は把握していた。


『暁』――十数名ほどの忍びによって構成されている犯罪組織。
メンバーは何れもビンゴブックに載っている凶悪なS級犯罪者ばかり。そんな奴らが波風ナル――正確には、九尾の狐を狙っているという。


「各国の警備担当者には『暁』の情報を流しておいた。すぐに警戒態勢を取ってくれるとよいのだがのぅ」
綱手とカカシに報告する自来也の脳裏に、情報を流した里の一つが過ぎる。

中忍試験時にかつてナルと闘った相手だからか、ナルと似た境遇だからか、同じ人柱力だからか。
何れにしても砂隠れの里がどうも気にかかる。

もっとも、情報を流した砂の警備部隊の隊長は周囲からの信頼が厚い人物のようだった。心配はいらないか、と自来也は修行の旅で得た情報を報告することに専念する。


ちょうどその折、砂隠れの里に組織の影が忍び寄っていたが、現時点では誰も気がついていなかった。

















火影室から、ほぼ追いやられる形で里へ繰り出した波風ナル・山中いの・奈良シカマル、そしてテマリ。

いのに頼んでいた植物の世話等や中忍になれていないのがナルだけだという衝撃的事実を交えた近況報告を道すがら済ませる。
テマリが木ノ葉の里に来た理由が中忍試験の打ち合わせだと納得した後、ナルは先ほどから気になっていた事柄を彼女に問うた。


「テマリ姉ちゃん、我愛羅は?元気だってば?」
「ああ元気だよ―――我愛羅は、」

自分の弟が今どうなっているのかを誇らしげに伝えるテマリに対し、火影を目指しているナルには酷かと、いのとシカマルは気まずい表情を浮かべる。
顔を伏せるナルが拳をぎゅっと握ったが、二人の危惧は杞憂に終わった。
「そっか。我愛羅が…」


気合を入れるように、ぐっと背筋を伸ばす。ナルの決意が込められた視線に、一瞬テマリは眼を瞠った。
「オレも…っ、負けてらんねぇってばよ!!」
幼き日からずっと抱いている夢を火影岩に向かって改めて宣言する。


「絶対火影になってやる…!!見てろよ、我愛羅…っ」


















禿鷹が飛んでいる。

太陽を背に飛ぶ鳥の鳴き声は、吹き荒れる砂嵐に雑じっていても、里に響き渡る。
乾燥し切った空気を裂くように旋回し、小さな鳥影が砂隠れの里に落ちてゆく。


いつものように、我愛羅は己が治める里を俯瞰していた。里に聳える建物を砂が叩いてゆく。
無表情で里を見つめる彼の瞳には憂いが満ちており、知らずに溜息が零れていた。

里長に就任したと言えども、我愛羅の心中は気掛かりなことばかりだ。自業自得なので反論のしようもないけれど、かつての己の所業から、自分を怖れる里人も多い。
我愛羅は恐怖による支配などしたくはないし、するつもりもない。しかしながら中には、上層部の人間を脅して風影になったのでは、と疑う者もいる。

現状、我愛羅が風影になった事に関して認めていない里人が多数を占めているのは事実だった。



再び溜息をついて、我愛羅は一瞬眼を伏せた。
視界は砂で埋め尽くされ、止むことの無い砂嵐が彼の視線の先に常にある。
またもや、一陣の砂嵐が吹いて、眼に刺さる砂粒に、双眸が反射的に閉ざされる。

そうして眼を開けた瞬間、視線の先の光景が若干変わっていた。




「風影になったんだね。おめでとう、我愛羅」
「……誰だ?」




砂嵐に塗れた光景の中、その存在だけがやけに鮮明に映る。
激しく吹きつける砂向こうで、眼の前の人間は妙に白々と陽光の下で輝いていた。

フードの陰に隠れて顔は全くわからない。隙も気配も窺えない。
けれども、里に住まう人間ではないことは確かだった。

風影である自分に微塵も悟られず、ここまで接近してきたのだ。砂隠れの里に現在そこまでの忍びはいないと、自惚れではなく事実を知る我愛羅は当然の如く警戒した。


反面、突如現れた存在は、身構える素振りすらなく、悠然と手摺に腰掛けている。
激しく吹き荒れる砂嵐の中だというのに、顔を隠し続けるフードの白色が妙に眼に焼き付いた。
いっそ懐かしい感じすらして、我愛羅は眼を眇め、再度問い質す。
「――何者だ?」

我愛羅の再三の詰問にも、相手は答える気が無いのか、穏やかな物腰のまま黙している。そこで動揺を誘おうと、試しにほんの僅かに殺気を放つと、相手が微かに微笑んだ気配がした。
「以前のお前なら、出会った瞬間に殺気を出していた…――成長したな」

まるで昔からの知り合いのような口振りに、我愛羅のほうが動揺する。改めて何者か問うがやはり無言を貫く相手に、我愛羅は質問を変えた。

「俺に何の用だ」
「助言をしに来ただけだよ、我愛羅」

そこでようやく、相手は応えた。
何の感情も窺えない淡々とした物言いは事務的なようでいて、それでもどこか暖かみのある声音でもあった。


「風影になるのには相当努力したのだろう。それでも里長として認めてくれぬ人間もいる。人心を掴むには、我愛羅。身をもって立証するしか無いんだよ」
「…なにを、言って…」

今正に自分が悩んでいる事柄を的確に指摘され、我愛羅の足が自然と後ずさる。
無意識に視線を周囲に走らせるが、まるでこの場だけが世界から切り離されたかのように、誰も此処に近づく気配は無かった。



「里に脅威が迫った時、君はどうする?」


突然、何の脈絡もなく問われる。
今まで散々質問してきた己に逆に問うた相手は、物静かに言葉を続けた。

「影を背負う器になったからには、それ相応の覚悟も必要だ。同時に、己の命も大切にしなければならない。そして、君が現在風影になっているという事は、君を里長と認める人間もいるという事だ。それを忘れてはならない」
「…見ず知らずの人間が説教か?」

昔と随分変わったとは言え、流石の我愛羅も表情を険しくさせた。足元から、自然現象ではない、己の力である砂が小刻みに震え始める。
フードの陰で、「気に障っただろうな、すまない」と謝罪した相手がふっと口許に苦笑を湛えた。

「ただの、お節介さ」






眼前の光景が揺らめく。あれだけ鮮明だった相手の姿が曖昧になってゆく。
陽炎のように揺らめく我愛羅の視界の向こうで、相手が同じ質問を今一度問うた。

「里に脅威が迫った時、君はどうする?」

止んでいたはずの砂嵐が再び吹き荒れる。
視界に塗れる砂と激しい風の中で、物静かな声と共に澄んだ鈴の音が我愛羅の耳朶を震わせた。

「それが答えだよ、我愛羅」










激しく吹き荒れる砂嵐は止むことがない。
乾燥し切った空気を裂くように旋回する禿鷹の鳴き声が響く。里に聳える建物を砂が叩いてゆく。
そんな、いつもの環境音が我愛羅を我に返らせた。


眼を瞬かせて周囲に視線を走らせても見渡しても、寸前まで会話していた相手の姿など何処にも無い。手摺の辺りを注意深く見たところで、そこに誰かが腰掛けていた様子など微塵も無く、ましてや砂が積もっていた。

呆然と佇む我愛羅の背後で、己を呼ぶ声がする。
「風影様…そろそろ会議です」


跪いて伝えるバキに、我愛羅は一瞬、此処にいたのは自分だけだっただろうか、と問おうとした。
だが、途中で思い直し、「わかった」と一言返す。


今のが白昼夢だった可能性も無きにしも非ずだったが、それでも幻や空想という一語で終わらせるにはあまりにも鮮明過ぎた。


バキに促され、会議に出ようとした我愛羅は、不意に足を止めた。肩越しに振り返って、里向こうを見やる我愛羅を、バキが訝しげに呼ぶ。

再び、風影の羽織を翻し、里から眼を離した我愛羅は、これから迫り来る脅威に未だ気づいてはいなかった。しかしながら、心の何処かで警戒心が頭をもたげる。
耳に強く残る正体不明の存在の助言らしき言葉は予感めいていて、我愛羅の胸を砂嵐のように騒がせた。








砂隠れの里向こう、砂嵐に雑じって、鈴の音がした気がした。
それは、白フードから聞こえた音と同じく美妙だったが、不吉な音色とも言えた。





里と、そして我愛羅自身に迫る脅威の前兆の音だった。
 

 

三 瓦解

 
前書き
お待たせ致しました!
大変申し訳ありませんが、原作と同じ場面は端折ります。
原作と同じ個所はどんどん削りますので、ご容赦ください。

また大変申し訳ありませんが、加筆致しました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
どうかよろしくお願いします!

 

 
砂漠の一角で、閃光が奔った。



爆発音。白煙。強烈な輝き。
砂嵐よりも激しい耳鳴りがする。

砂隠れの里全体を覆っていた砂の天蓋。最後の力を振り絞って里外へ運ばれたソレが轟音を立てて砂漠に落下する。
砂海が波打つのと、我愛羅がガクリと項垂れるのはほぼ同時だった。


「自らを犠牲にして里を守ったか…流石は風影だな、うん」

失った左腕の袖が靡く。
赤い雲模様が、闇夜に嗤った。























「たっだーいま!だってばよ」
快活な声を上げ、久方ぶりの我が家のドアを開ける。

途端、むわっと埃臭い匂いが鼻について、波風ナルは顔を顰めた。三和土で靴を脱いで足を踏み入れれば、ハッキリ足跡がついて、苦笑を零す。

「長いこと空けてたから、流石に埃だらけだってばよぉ…」

埃で覆われる廊下に足跡を点々と残し、寝室に向かうその前に、ナルは山中いのに預かってもらっていた五つの鉢植えをベランダに置く。
うずまきナルトから見舞いの品として貰った花々を種類ごとに分けて植え替えた八つの鉢。

陽当たりの良い場所へ下ろせば、埃だらけの部屋がようやく彩りを得た。綱手を捜す旅に出て以来忙しいナルに代わって、いのに世話してもらっていた花々はイキイキとしている。
残り三つの鉢植えはヒナタが預かってくれているようなので、後でお礼と取りに行かなきゃ、とナルは思った。

何も無い殺風景な室内で唯一あたたかみを感じられる花々に、心が落ち着く。

家を空ける間、換気や部屋の掃除をしようか、と名乗り出てくれた同期は多かったが、ナルは遠慮して断った。
申し訳ないという気持ちの反面、自分のテリトリーに他者を寄せ付けたくないという無意識な拒絶が働いていたのだ。
里の大人から散々受けた待遇や忌避された幼少期の経験は、そう簡単にナルの心の領域を他人に侵させない。


そういった自分の中の感情を自覚しないまま、窓を開けて寝室内に蔓延る澱んだ空気を逃がす。
清潔とは言い難いベッドに腰掛け、傍らの机上の写真を手に取った。案の定、埃で曇ったソレを、汚れるのも構わず手で丁寧に拭う。


「…サスケ…サクラちゃん…」

スリ―マンセルで構成される班の中、自分を残して里抜けしてしまった写真の二人。


うちはサスケと春野サクラの顔をまじまじと見つめ、「帰ってきたってばよ…」とナルは己の胸中の想いを言葉にする。胸の煙は埃に塗れた室内で形無き火となって立ち上った。

写真のように曇る事無く、いつまでも清いままのナルの決意。


「…―――連れ戻す為に」

























「邪魔されるのは興覚めだ」

意識を失った我愛羅を起爆粘土の巨大鳥に捕らえさせたデイダラは、風影を取り戻そうと躍起になっている真下の砂忍達を面倒臭げに見下ろした。

「ノルマはクリアしたし、さっさとずらかるか…いい加減、サソリの旦那も待ちくたびれてる頃だしな、うん」

起爆札が貼られた矢が飛び交う中、デイダラの乗る巨大鳥が里の出入り口へ向かう。


由良隊長率いる警備部隊が固めていたその場所は、既に死体の山で埋め尽くされている。【潜脳操作の術】で失っていた記憶を取り戻したサソリの配下である隊長の由良本人が、自ら全滅させたのだ。


見張り一つない無防備な殺戮地帯へ、デイダラは死体の山を尻目に悠々と降り立った。
途端、待ちくたびれていたサソリが間髪を入れず、デイダラを攻撃する。

「おせぇぞ!!待たせんなって言ったろ!」
頭上を通り過ぎた鎌の如きソレに、デイダラは肩を竦めた。

「坊を見習え!アイツは時間厳守だぞ」
「ナル坊と一緒にすんなっての、うん。結構強かったんだ、コイツ」

捕獲したばかりの我愛羅を、デイダラは顎で指し示す。
彼の左腕の袖が所在なく靡いているのを目に留めたサソリは、ハッ、と鼻を鳴らした。

「片腕一本で済んだなんざ、安いもんだろーが」
「そっちは?」
「バッチリだ!それより止血くらいしろ、見苦しい」

はためく左袖を鬱陶しげに見遣るサソリに、デイダラは「ナル坊に治してもらうから別にいいだろ、うん」と横柄に答える。

「お前…坊に甘えんのもいい加減にしろ」
「その台詞そっくり返すぜ、旦那。旦那だってナル坊に手土産貰ってたじゃねぇか。羨ましいぜ、うん」
砂隠れの里の出入り口での口論は、追い駆けてくる砂忍達の足音で一端途切れた。


「とにかく引き揚げだな、うん。そういや、旦那の部下はどうした?」
「由良なら先に行かせた。お前があまりに遅いんでな」
「サソリの旦那…いつまでも根に持つ男は坊に嫌われるぜ、うん」
「ぶっ殺すぞ」

軽口を叩き合いながら、外套を翻す。
黒地の中心の赤い雲模様が、月下にて異様に赤黒く浮かんでいる。


砂隠れの里内部を透かし見るように、サソリは一瞬肩越しに振り返った。即座に顔を、辺り一面に広がる砂漠へ向ける。それきり、彼が振り返る事は無かった。
背後で爆音がし、悲鳴が聞こえても、彼らは立ち止まらない。


「サソリの旦那のトラップに引っ掛かったようだな…うん」
「当たり前だ。引っ掛かるように作るのがトラップってもんだ」
「そりゃそうだ」

大方、追い駆けてきた砂忍が、死体を不用意に動かしたのだろう。罠として、由良が全滅させた部隊の亡骸に仕掛けておいた起爆札がまんまと爆発したのだ。

爆発音と閃光を背にして、砂漠を這うように進むサソリの傍ら、デイダラは胸元から笠を取り出す。
鈴が連なる笠を目深に被れば、鈴の美妙な音色が鳴り響いた。


けれども、その美しく澄んだ音は、捕らわれた我愛羅を癒す事も、ましてや耳に届く事など無かった。
そして、我愛羅の兄――カンクロウの叫びでさえも。


砂隠れの里を守る為に力を使い果たした我愛羅には、聞こえなかった。
























鼻孔をくすぐる美味しそうな匂い。
暖簾を潜れば、自室に籠っていた澱んだ空気など比べ物にならぬ、香しい湯気が顔にぶつかった。


快活に挨拶すれば、里の人間にしては珍しく幼少期からナルと親しくしてくれた豪快な主人が笑顔で迎えた。
随分会わなかったが、ナルにすぐ気づいたテウチとその娘のアヤメは、にこやかに彼女の帰郷を喜んでくれる。

帰還祝いに奢ってやると豪語するテウチの言葉を遮って「俺に奢らせてくれ」と暖簾の向こうから懐かしい声がナルの背中にかけられた。笑顔だったナルが益々喜色満面になる。
アカデミーの教師であり、自分の存在を認めてくれた初めての相手であるイルカに、ナルは歓喜の声を上げた。


修行でまた一回り大きくなったナルを、イルカは眩しげに見つめる。
ラーメンを嬉しそうに食べる姿は子どもの頃と変わらないので、若干安心しつつも、かつての教え子の成長をイルカは心の底から喜んだ。反面、夢にまで見たラーメンを口に出来たナルの笑顔が曇る。


「不満があるってばよ」と唐突に言うナルに、ラーメンの味に不満があるのか、とテウチがつっかかった。店主の剣幕に、ラーメンに不満があるわけではない、とナルは慌てて弁解する。

いつになく落ち込んだ様子に言葉の先を促せば、今度ラーメンをイルカに奢ってもらうのは中忍になれた祝いだと思っていた、とナルは胸の内を明かした。
同期の皆は中忍になったのに自分だけまだ下忍のままだと劣等感を抱くナルに、イルカが慰めの言葉をかけるも、「…それとさ」と彼女は話し続ける。


「お世話になった相手との、ラーメン一緒に食べに行くって約束も果たせてねぇし…一楽のラーメン最高だから食べてもらいたいのにさぁ」

【口寄せの術】の助言や見舞いの花々をくれたうずまきナルトを思い浮かんだナルが溜息をつけば、テウチは「なんだ、そんなことかい」と豪快に笑った。


「それじゃ、約束の友達とやらが一緒に来た時に、二人まとめて奢ってやるよ」
「ほんとっ、おっちゃん!?」
「男に二言はねぇ!!うちは千年後だって美味いラーメン作ってるからな!」

大げさに語るテウチをアヤメが恥ずかしそうに小突いたが、ナルは喜び勇んで思わず立ち上がった。奢ると言ったのにもかかわらず、イルカに先に言われてしまった手前、今回奢る事が出来なかったのがテウチには少し不満だったらしい。

「おっしゃ――!オレってば千年後も絶対おっちゃんのラーメン食べに行くってばよ!!」
「おう、待ってるぜ!」

店主と教え子の会話を微笑ましげに眺めていたイルカは、ナルから落ち込んだ雰囲気が払拭されたのを見て取って、ほっと安堵する。


改めてラーメンを食べようと、ナルが椅子に座り直す。
その拍子に、ナルの手前の籠から、ゆで卵が転がり落ちた。謝るナルに、テウチは寛容な態度で応える。

「それより、その約束した友達、連れてこいよ。美味いラーメンご馳走するからな!」
「ありがと、だってばよ!オレの好物の味噌ラーメン、そいつも好きにさせてやるってばよ!」
「おう、その意気だ!」

テウチとの会話で盛り上がりつつも、欠けた殻から覗き見えた白が、何かの均衡を破ってしまったように思えて、ナルは聊か「でも…この卵、もったいないってばよ…」としょげた声をあげた。
ほんの小さな綻びから全体が崩壊してゆく、そういった妙な不安感が胸に押し寄せる。なんとなく胸騒ぎがした。


直後、沈んでいた気分を晴らすように、ナルはイルカに向き合った。

「そういえば、砂隠れの我愛羅は風影になったって聞いたってばよ!すっげぇよなぁ!!」

心から感心するナルに反して、イルカは苦笑しながら「…あの子はまた…別格だからな」と聊か含みのある言葉を返した。

その返答が気に入らなかったのか、ナルは顔を顰めて反論する。
自分達とは違う存在のような物言いが、大好きな先生の言葉と言えど、聞き捨てならなかった。

「別格って、なんだってばよ…それだけじゃ、風影にはなれねぇ」


自分と同じ人柱力で、里の人間から忌避されていた我愛羅。
彼が風影という頂点に上り詰めるのに、どれほど頑張ったのか、血の滲むような努力をしたのか。


「頑張って頑張って…皆に認められて―――アイツは『風影』になったんだ!」

他の一般人なら想像もつかないだろうが、ナルには手に取るようにわかった。
自分とよく似た相手だったから。


「オレもアイツのように、頑張って頑張って、もっともっと強くなって…――」

その言葉の先は、言うまでもなかった。
昔から変わらない教え子の夢に、イルカは眩しげに眼を細めた。店内に籠る湯気が眼に沁みた。
























夜が明けた。

砂の水平線から顔を出す朝陽。旭日の輝く東の空を前に、サソリが立ち止まる。

「まさか…ついて来る奴がいるとはな…」


サソリの罠に引っ掛からなかったらしき砂忍に、デイダラは笠の陰で眼を眇める。
そして手土産を貰ったサソリへの意趣返しに、サソリに小声で囁いた。

「『木ノ葉崩し』では砂も噛んでたみたいだし、ナル坊もそいつと接触したかもな、うん」
ピクリ、とサソリの曲がった背が若干盛り上がる。


「その上、旦那の罠に引っ掛からず、ここまで追いついてきたんだったら…坊も認めるほどの忍びだったのかねぇ……うん」

デイダラの言葉は単なる推測だ。『木ノ葉崩し』でナルトが関与した事柄は、一尾と九尾の争い真っ只中で、どさくさに紛れて二体捕縛出来ないかという算段によるものだ、と暁のメンバーは聞いている。事実は異なるが、『木ノ葉崩し』で砂隠れの里が大いに関わっている事は明らかだった。



「我愛羅は返してもらう」
風影を、そして自分の大事な弟を取り戻しにきたカンクロウ。

同じ傀儡師だと即座に悟ったサソリの後ろで、デイダラは、クッ、と口角を吊り上げた。

(傀儡を扱うなら、サソリの旦那の右に出る者はいねぇ…)


それに煽っただけあって、サソリはやる気十分だ。
含みのある笑みを浮かべ、デイダラは鳥の背に飛び乗った。

我愛羅を捕らえる巨大鳥が空へ舞い上がるのを阻止すべく、カンクロウは手を振るう。指に結わえたチャクラ糸が、ピィン、と張った。

「行かせるかっ!」



だがカンクロウの糸で繋がれた傀儡人形は、直後、動きを止められた。
眼の前に立ちはだかるサソリによって。


「…俺は人を待つのも待たすのも好きじゃねぇからな……それに、」

先へ行かせたデイダラを見もせず、サソリはカンクロウを睨み据えた。サソリから生えている、人間とは思えない、妙な尾が傀儡人形を捕らえている。
絡まれた傀儡人形が、カタカタ、音を立てた。


「坊に認められる傀儡師は、俺一人で十分だ」


忍びに加え、同じ傀儡の術を扱う者として、サソリは鋭い眼をより一層冷たく細める。
暁天に、鎌の如き尾が風を切った。




「―――すぐに終わらせる」



























完全敗北だった。
地に伏せたカンクロウは、それを認めざるを得なかった。

痺れる全身。霞む視界。
毒が廻り始めている。
(ち…くしょう…)

追いついた相手との実力差は明白だった。黒地の赤い雲模様。会議で耳にしていた『暁』という組織の一員だとも、解っていた。
このまま命を落としたとしても、深追いし過ぎた自分のミスだ。自業自得だ。
(ちくしょう…ちくしょう…)

けれども、弟を攫った犯人をみすみす見逃すなど、カンクロウに堪えられるはずも無かった。



だって自分は……―――兄なのだから。


(…ちくしょう…ッ!)








「――生きたいか」


不意に、頭上から澄んだ声が注がれた。
対峙していたサソリという男の声ではない。カンクロウは顔を上げようとしたが、痺れる全身では指一本動かす事さえ叶わなかった。

伏せた顔で目線だけを上げようとしても、太陽の強い陽射しがカンクロウの眼を焼く。
足掻こうと引っ掻いた指が砂に塗れ、砂漠に吹き荒れる風がカンクロウの身を徐々に砂漠の一部とさせる。


「もし生きられるなら、お前はどうする?何を望む?」

幻聴かもしれない。死ぬ間際の幻覚かもしれない。熱い陽射しによる陽炎かもしれない。
けれども、何を解り切った事を、とカンクロウは応えた。


「弟を…――我愛羅を助ける…ッ」


カンクロウの心からの望みに、眼の前の陽炎は頷いたようだった。
力を振り絞って視線を上方へ上げると、白いフードがはためいているのが垣間見えた。



「…ならば、弟を―――我愛羅を諦めるな」



暁天を背に、陽炎は倒れ伏すカンクロウに囁いた。
遠のく意識の向こう、我愛羅を連れ去った『暁』の男達とは微妙に違う、鈴の音が聞こえた。




「―――兄なのだから」


やけに切々とした、夢幻の声を最後に、カンクロウはプツリ、意識を失う。
気絶する寸前、毒による苦痛が幾分か弱まった、そんな気がした。


 
 

 
後書き
ちなみに、暁メンバーのナルトの呼び方は、『渦巻く滄海 紅き空【上】』の七十話を、よかったらご覧ください!
次回もよろしくお願い致します!

 

 

四 毒媒蝶

 
前書き
いつも月末投稿が多いですが、今回別ジャンルで月末が忙しく、大変申し訳ございませんが、お早めに更新させていただきました!
捏造多数、オリジナル忍術などございますので、ご注意ください!急いで書き上げたので、短いし矛盾等あるでしょうが、ご容赦願います!
ナルトが非道に見えるかもしれないですが、許してやってください…っ!
その代わり、美少女ハーレムなカカシは許さなくていいよ!←おい

オリジナル忍術の一つはかつて【上】の十四話で出てきた術なので、よかったらご覧になってくださいね。
よろしくお願い致します!
 

 
吹き荒れる砂嵐が、止まった。

やむことのない風がピタリ、と一瞬治まったのは何かの前触れか、兆しだろうか。


台風の目にいるかのような一時の静けさの中で、倒れ伏したカンクロウの顔を、彼は片膝立ちで覗き込んでいた。


暫しの戦闘を繰り広げ、毒により力尽きたカンクロウの首元に手を翳す。

それだけで注入された毒の量が如何ほどのモノか推測した彼は秘かに眉を顰めた。
三日ともたずに済む量ではなく、明らかに今日一日もつかもたないかの瀬戸際を確かに感じ取る。


「……随分凶悪な量を仕込んだな…」

ナルトが認める傀儡師は己一人だけだ、と同じ傀儡の術を扱うカンクロウに勝手ながら対抗意識を燃やし、毒の量を普段の数倍注いだサソリ。
原因が己自身だとは微塵も気づけないまま、彼はカンクロウを憐憫の眼差しで見遣った。

「このまま解毒するのは容易いが…我愛羅を取り戻すなら、サソリと再戦するのは必然」


それならば、毒の抗体を得る必要がある。サソリと闘い勝つ為に不可欠な血清を手に入れるには、今、解毒しては再戦しても二の舞になるだけだ。


砂隠れの風影が暁に連れ去られたという情報が真っ先に入るとすれば、同盟国の火の国・木ノ葉隠れ。

医療スペシャリストの綱手は火影故に里から離れられないが、彼女の弟子ならば、問題ない。
おそらく砂に応援を要請された木ノ葉隠れの里が打つ手段としては、その弟子を送り込む可能性が非常に高い。
一部隊に一人の医療忍者が必要だと昔から主張している綱手なら猶更。よって、解毒法が皆目見当がつかない砂が頼るとすれば、木ノ葉からの応援要請で来る医療忍者だ。

更に、現在の時期を顧みれば、波風ナルを筆頭にした部隊を送り込むと予想がつく。
木ノ葉隠れの里にいる内通者からの情報という裏付けがあっての推測だが、綱手の弟子となった彼女達の実力を見るならば、これ以上ない案件だ。もちろん第一に見たいのは、波風ナルがどれほど成長したか、なのだが。



「すまないな…毒の巡りを遅延させるくらいしか、今はできない。解毒できない場合は、コイツに体内の毒を処理させる。それまで苦しいだろうが、我慢してくれ」

毒を秘かに吸って、体内の毒の量を徐々に減らす働きをもたらすソレ。人目につきにくい首筋あたりにソレをつけた彼は、すっくと立ち上がる。

そうして、砂隠れの忍びに見つけられやすいよう、おもむろに印を結んだ。



「【疾風(しっぷう)沐雨(もくう)】……」

瞬間、激しい雨風がカンクロウの身についた砂を全て洗い流す。
中忍試験予選試合でドスの身体に纏わりついた我愛羅の砂を掃ったあの術である。

あの時は我愛羅からドスを守る為に使った術を、今は我愛羅を助ける為に動いたカンクロウを救う羽目になるとはなんとも皮肉だった。


吹き荒れる砂嵐は砂を高く積み、埋める。吹き曝しになっているカンクロウの身体に砂が積もれば、ただでさえ見通しが悪い砂漠での発見が遅れる。そうなれば、身体を廻る毒の経過も速い。

以上からカンクロウを砂の追跡部隊に発見されやすいように施した彼は、何事も無かったかのように立ち去った。


再び吹き始めた砂嵐に、はためくフードの白がやけに目立つ。
その裏地の黒に、赤き雲の模様が垣間見えた。






















砂隠れの風影が暁という組織の者に連れ去られたという情報は木ノ葉隠れの里にすぐさま通達された。

応援を要請してきた砂隠れに応じ、五代目火影の綱手に命じられて、現在、畑カカシ率いる一部隊が砂隠れの里へ向かっている。
先陣を切って走っていた波風ナルは、前方を歩く背中に、木の枝上で足を止めた。

「テマリ姉ちゃん!!」


中忍試験の打ち合わせを終え、里へ帰る途中だったテマリは、頭上の木から下りてきた集団に驚いた。


波風ナル・畑カカシそれに山中いの・日向ヒナタ。
カカシ以外は女の子で固められた部隊に、テマリの眉間に皺が自然と寄った。

だが、もたらされた衝撃的な情報に、彼女は愕然とする。
「なに!?我愛羅が!?」


風影であり、そして自分の大事な弟である我愛羅を連れ去られたと知って、テマリは唇を噛み締めた。その険しい表情を、ナルもまた、難しい顔で見つめ返す。



女性ばかりのチーム編成だが、急を要する事情故、仕方がなかった。

砂隠れの里からの急を要する知らせが届いた時、火影室にいたのが偶々彼女達だったのだ。
ナルが家を空けていた間、花の世話をしてくれていたヒナタといのにお礼を伝えている最中の、緊急な知らせだったのだ。もちろん、綱手とて何も考えていないわけではない。


何故なら、綱手の弟子は、山中いの、そして日向ヒナタの二人だからだ。


山中一族の能力故に、戦闘面は仲間に頼りがちになりやすく、攻撃術は不得手だという弱点を克服する為、いのは【桜花衝】を始めとした攻撃に特化した術を綱手から主に学んでいる。

一方のヒナタは木ノ葉最強と歌われる日向一族な為、【柔拳】を駆使した接近戦は得意。よって彼女が綱手から主に教わるのは、繊細な医療忍術である。
体内のチャクラの流れである『経絡系』をも見ることが可能で、洞察力・透視に長けた『白眼』ならば、相手を治療するのも他の忍びに比べれば遥かに容易い。

それでも生半可な知識では難しいのは当然。よって二人が努力したのは、手に取るようにわかる。
いのも花屋の娘故に、薬草や毒物に詳しいので、二人揃って綱手の弟子と名乗るに相応しい大きな成長を遂げていた。




「ここから砂まで二日半はかかるからな。急ごう」
カカシの言葉に応じて、テマリを加えた部隊は再び、砂隠れの里を目指した。


ちょうどその折、里からおよそ半日の地点で意識不明のカンクロウが発見され、サソリによってバラバラにされた傀儡と共に回収される。

砂隠れの医療忍者に解毒不可能だと判断されるものの、比較的早く意識が戻ったカンクロウが得た情報を聞いて、バキは顔色を変えた。
手術室を後にしたバキは酷く険しい顔で、足早に廊下を進む。


「あの方達に…あのご姉弟に相談するしかあるまい。だが…素直に出てきてくださるかどうか…」


















重厚な扉の向こうで、泉に釣り糸を垂らす隠居した姉弟。
年老いた弟が、訪問者の気配に気づいて、立派な白眉を片方吊り上げる。

「おや、誰か来たようだな」

泉を挟んで、向かいの姉に呼びかけるも、返事は返ってこない。
一向に身動ぎしない姉に「死んだか?」と弟のエビゾウが呼びかける間もなく、釣竿がゆっくりと泉へ。


落ちる寸前、大きくしなった。

「なぁーんてな、死んだふり~!」


やーいひっかかったひっかかった、とばかりに、お茶目という言葉では聊か限度があるボケをかました姉のチヨに、エビゾウは大きく肩を落とした。
毎回、リアルな死んだふりをかますのはやめてほしい。齢が齢だけにこちらの心臓に悪い。


「ご姉弟…お二人にお力をお貸し頂きたく、参りました」

訪問してきたバキに、最初こそ静観の態度を崩さなかった砂隠れの里の相談役のチヨとエビゾウ。
かつて熟練の傀儡師・凄腕の軍師として忍び世界に名を馳せた姉弟は、次のバキの一言で目の色を変えた。


「暁のメンバーの一人に、お孫さんがいらっしゃいます」


実際に対峙し、毒を注入されたカンクロウから得た衝撃的な情報。
彼の実の祖母であるチヨは、明らかとなった孫の所在に、眼に見えてうろたえた。

かつて砂隠れで傀儡部隊の天才造形師と謳われた『赤砂のサソリ』。
彼が里を抜け二十数年、ようやく掴んだ孫の居所が、現在『暁』の一員であるという酷な真実を耳にして、チヨは目元を伏せる。


釣り糸を垂らしていた泉に波紋が幾重にも広がって、そして消えていった。



















無事、砂隠れの里に辿り着いた木ノ葉増援部隊。

いきなり『木ノ葉の白い牙』と勘違いして、カカシに襲い掛かったチヨとの騒動があったりしたが、医療忍者であるヒナタが早速カンクロウを診る。
いのは助手として付き添い、阿吽の呼吸で二人は協力してカンクロウから毒を抜いた。

薬草に関してはいののほうがエキスパートなので、ヒナタが体内に未だ残留する毒に対して治療する傍ら、解毒薬を調合する。

皆がカンクロウの治療に専念する中、首筋から秘かに何かがゆるり、と音も無く動いた。
治療に集中するヒナタといのは気づけなかったが、砂隠れの里の医療忍者の一人はソレを目にして眉を顰める。



それは、何らかの蛹であった。

白い壁をパキパキ…と抉じ開け、今まで見た事もないほどの艶やかな色が垣間見える。
深い青紫。ゾッとするほどの美しさ。


開け放たれた窓から飛び立つソレに、思わず眼を擦り、再度、カンクロウの首元を注視する。
首筋についていた蛹のようなモノは白い灰となって、やがてサラサラと砂の如く空気へ消えていった。


幻だったのだろうか。
連日徹夜でカンクロウの治療に手を焼いていた医療忍者は、寝不足による幻覚だったのだ、と己を納得させ、ヒナタといのの手伝いへと走った。






















「解毒したか…」

己の許へ舞い戻ってきた蝶に、彼はゆるゆると眼を細めた。

カンクロウの首筋から毒を徐々に吸わせて大きく成長したソレが、ゾッとするほどの美しい輝きを放って周囲を華麗に飛ぶ。
毒が強ければ強いほど、美しく艶やかな翅の蝶へと育つ為、猛毒だったのは間違いない。

蝶の働きがあったとは言え、それを解毒したのだから、五代目火影の弟子は優秀だという事が窺える。


「――これは期待できそうだな…」





この世のモノとは思えないほどの美しき蝶を人差し指に止まらせ、影の功労者である彼は、人知れず優雅に微笑んだ。
 

 

五 鈴鳴る向こう

 
前書き
ギリギリの更新、大変申し訳ありません…!!
また、急いで書いたので大した内容ではなく、更に短くて申し訳ございません!


相変わらず、捏造多数です。ご注意ください!
 

 
鈴が鳴る。

砂に染み入るような涼しい音色。
どこか物悲しい音は夜が奏でる風に溶け、やがて消えてゆく。

頭上を覆う巨大な鳥を見上げ、次いで正面を見やったデイダラは軽く肩を竦めた。
「やっと砂ともおさらばだな…」


砂漠から一転、鬱蒼とした森を見て、うん、と口癖を言えば、隣から不機嫌そうな声が返ってくる。

「人を待たせるのは嫌いだ…急ぐぞ」
我愛羅を追ってきたカンクロウの相手をしていたサソリの言葉に、デイダラは薄く苦笑する。

「やれやれ…誰のせいでこんなに時間食ったと思ってんだ」
自分のことを棚に上げてのデイダラの発言に、サソリは間髪入れず、反論した。

「それはお互い様だ」
「そうだった」

再び肩を竦めたデイダラは背後を振り返る。広大な砂地が広がる光景のずっと向こうを、彼は長い前髪の合間から覗き見た。


「追い忍は…さっきのサソリの旦那が相手にしたヤツだけか、うん」
「追い駆けたくとも追えない現状なんだろうよ」
「そりゃどういう意味だ、うん?」


首を傾げるデイダラに、サソリは剣呑な細い瞳を更に細めた。


「言ったろ…俺はお前と違って準備は怠らないんだよ」


砂漠に吹き荒れる風が、デイダラとサソリの外套を大きくはためかせる。
黒地の中心の赤い雲模様が、月下にて異様に赤黒く浮かび上がった。



「引っ掛かるように作るのがトラップ。そして気づかれないうちに仕込むのも、トラップってもんだ」



ククク…、と喉を震わせるサソリの笑い声が、鈴と風の音に雑じり合う。


砂嵐の向こう側を見やるサソリの眼には、今し方強襲した、そして郷愁に駆られた、砂隠れの里が見えなくとも映っていた。
















解毒に成功し、カンクロウが眼を覚ました。
彼は転んでもただでは起きぬ根性で、サソリの服の切れ端を『暁』の手がかりとして、最後の力を振り絞って得ていた。

その切れ端の匂いをカカシが忍犬達に辿らせ、その知らせを待っている間、砂隠れの里に新たな災難が降りかかる。


「た、大変です…!!」

慌てふためいた砂忍が、突然治療室に飛び込んできた。
次から次に襲い掛かる凶報に、バキはただでさえ、眉間に寄せていた皺を更に深くする。


「なんだ、いきなり…!」
「そ、それが…通路の起爆札を取り除いていた者達が突然、倒れて…!!」
「なに…!?」

バキが驚愕の声をあげるよりも、医療忍者であるヒナタといのが、逸早く飛び出す。
砂忍の案内で辿り着いた別の治療室は、病人で溢れかえっていた。



「な…なんだ、これは…っ!?」
愕然と立ち竦むバキとテマリに反して、ヒナタといのは患者達の容態をすぐさま診る。

「麻痺してるわね~…瞳孔が収縮してるわ」
いのの意見に頷きながら、ヒナタが『白眼』で体内を透かし見る。


「…筋肉を収縮する神経伝達物質の伝達が滞ってますね…」

一目で正確な診察をした二人の木ノ葉のくノ一に、感嘆している砂忍を、バキは苛立たしげに問い質した。


「一体、何があった⁉」
「それが…とても取り除けない場所に配置されている起爆札があり…仕方なくあえて爆破させたところ…その爆風の煙を吸った者達が次々と…」

おどおどと状況を説明する砂忍を前に、バキは眉間を指で強く押さえ、「何故、上に指示を仰がなかった…」と呆れが雑じった声を喉から搾り出した。

「勝手な判断がこのような状況を招いたのだ!もっと慎重に行動しろ!!」


怒鳴るバキの背後で、淡々と患者を診ていたヒナタといのが、忙しなく手を動かしながら眼を細めた。

「状況から察するに、その爆風がただの爆風ではなかったようですね」
「瞳孔の収縮、痙攣、咳…症状から見て、おそらく毒ガスね~…」



ただの爆発ではなく、毒ガスを孕んだ爆風をその身に受け、全身全身が麻痺している。
もっとも幸いなことに、命に別状はないようだ。症状もさほど重くない。
だが、人数が人数である。

カンクロウの治療を終えたばかりだが、いのとヒナタは手分けして彼らを診た。毒に詳しいチヨも、二人と協力して、患者を治療する。

三人は流石に手馴れていたが、特に『白眼』を持つヒナタの正確な手腕は見事だった。



頼もしい同期であり仲間であり友達であるヒナタといのの二人を、ナルは誇らしげに見る一方で、同時に何も出来ない自分を歯痒く感じる。
できることと言えば、包帯を変えたりタオルを洗ったり、といった簡単な作業だ。

テマリも医療関係の知識はないので、さほど助力できない己を悔いているらしく、唇を噛み締めている。けれども、時々、チヨに教えてもらったのか、ナルよりは手早く治療の補助をしていた。


やがて医療忍者の能力の高さから、比較的早く、患者達の呼吸が落ち着いてきた。
それでもまだ、油断はできない状況で、まだ毒ガスの影響を受けている砂忍もいる中、『暁』の追跡を頼んでいた、忍犬が戻ってくる。

我愛羅の匂いもした、と報告する忍犬――パックンの話を聞いて、カカシは顔を顰めた。

「そうか…すぐにでも出発したいが…」



チラリ、とカカシは、医療忍者が奮闘する治療室を窺う。カカシの視線に気づいたヒナタが手を止めた。

忍犬とカカシ、そしていのへ視線を這わせ、最後に、ナルを見る。
決断は、早かった。


「こ、ここは私に任せて、先に我愛羅くんを助けに行ってください…!」

いつものように口ごもりながらも、ヒナタの声音にはしっかとした決意が秘められていた。
綱手の弟子であり、同じ医療忍者のいのが、ヒナタの宣言に驚愕の表情を浮かべる。


「な…!ヒナタ、あなた…」
「私は大丈夫です。ここの患者さん達をきちんと治療して、後からナルちゃん達を追い駆けるから」
「ヒナタ、でも…っ!」

思わず身を乗り出したナルに、ヒナタは穏やかに微笑んだ。
診察している身、額をつたう汗が窓から注ぐ陽光で、キラリ光る。


「し、心配しないで、ナルちゃん…。『白眼』を持つ私なら、そんなに大変じゃないから…ね?」
「……そうなんだってば…?」

ヒナタに説得されつつあるナルをよそに、いのは秘かに眉を顰めた。
いくら『白眼』を持っていたとしても、たった一人でこの人数を治療するのは大変に決まっている。
けれども同時に、ヒナタの考えをいのは察した。


ヒナタは、ナルとカカシだけを、我愛羅奪還に行かせまいとしているのだ。
班につき一人は医療忍者が必要。特に、なりふり構わず敵の許へ向かってしまうナルの身を案じているのだろう。

本当は自分こそがナルと一緒に行きたいだろうに、適材適所を考え、ヒナタはいのに頼んだのだ。
頭に血が上って、敵に突っ込んでゆくナルを止めるストッパー役兼医療忍者として。



ヒナタの視線から、彼女の意図を感じ取って、いのは軽く溜息をついた。
承諾の意の吐息だった。



「…わかった。命に別状がある緊急の患者はいないから、ヒナタに任せるわ~」
「う、うん…ありがとう、いのちゃん…すぐ追い駆けるからね」

二人のやり取りを目にして、聡いカカシは彼女達の思いやりと成長っぷりに、眼を細める。


ヒナタだけではなく、ここには砂の医療忍者もいる。
だがヒナタの助けなくては、患者が回復するのは聊か難しい。状況から考えて、ヒナタの判断は間違っていないだろう。

なんせ一刻も早く我愛羅を助けに行くのが、一番の目的なのだから。



ヒナタに患者を任せ、早速パックンから得た情報を頼りに、ナル・カカシ・いのが砂隠れの里を出発する準備をする。
しかしながら、一緒に我愛羅の救出へ向かうはずだったテマリを始めとした砂の手練れの忍び達は、バキに止められた。

風影の不在が公になれば、他の里が攻めてくる可能性もあるという、里を第一に考える上層部の決定で、テマリは国境警備を余儀なくされた。
反論するも、苦々しい表情を浮かべているバキの顔を見れば、彼もまた上からの命令を渋々聞いたということが窺える。


板挟み状態となった砂忍達の頭上から、突如降ってきた声の主は、思いも寄らぬ人物。

「わしが行く」
決意を瞳に湛えて宣言したのは、砂隠れの里の相談役のチヨだった。


砂風に服を靡かせ、高齢を感じさせない軽い足取りで、ナル達の前に降り立つ。
隠居した身であり里の相談役、その上、かつて熟練の傀儡師と謳われたチヨには里の上役もなかなか口を出せない。それを逆手に取って、チヨは口許に弧を描いた。


「可愛い孫を久しぶりに可愛がってやりたいんでのう…」


どこか妖しい皮肉げな言葉の裏には、孫に対する複雑な感情も僅かに感じ取れる。

かつて砂隠れで傀儡部隊の天才造形師と謳われた『赤砂のサソリ』。
彼の実の祖母であるチヨは、大きな決意を胸にすると共に、感慨深げに眼を細めた。





















見渡す限りの砂海と暗澹たる森の狭間。

広大な砂漠を抜け、鬱蒼とした木立を歩くデイダラとサソリ。
その傍らで羽ばたく巨大な鳥が捕らえている我愛羅は未だ目覚める気配がない。


「なるほどな…起爆札に見せかけての毒ガスか…ねちっこい旦那の好きそうな手段だな、うん」
「誰がねちっこいだ、ぶっ殺すぞ」

サソリが砂隠れの里に残した更なるトラップの話を聞いて、デイダラが軽く口笛を吹く。
感嘆しつつもわざわざ揶揄してくるデイダラを、サソリは苛立たしげに睨んだ。


「さっき旦那が相手にした砂忍の治療で困ってるのに、毒ガスで病人は増える一方…今頃、里は阿鼻叫喚だな、うん」

木ノ葉からの救援である腕利きの医療忍者…いのとヒナタの存在を知らぬデイダラが嘲笑すれば、サソリは僅かに肩を竦めた。


「…と言っても、時間が無かったから、毒ガスのほうは大した効果はねぇ…毒に詳しい人間なら十分治療できる程度だ」
「毒に詳しい人間…?誰だ、うん」

デイダラの問いに、サソリは口を噤んだ。
毒に詳しい、祖母の姿が彼の脳裏を一瞬過ぎってゆく。


暫しの沈黙の後、サソリは一言、「さあな…」と答えた。




サソリの妙な返答に、デイダラは怪訝な顔をしたものの、すぐに目線を下に向ける。

清涼な渓流。切り立った崖の端で立ち止まり、下を覗き込めば、唐紅の社が大きな奇岩の前に鎮座している。

急にぽっかり開けた森を背後に、険しい崖から降り立った二人は唐紅の社へ足を進めた。



岩壁に穿たれた穴を塞ぐように佇む社。そしてその穴には奇怪な岩が嵌っている。
我愛羅を捕らえる鳥を伴って、社の前で印を結べば、奇岩怪石の中央に貼られた『禁』という御札から赤い光が迸った。

ややあって、途轍もなく大きな奇岩がズズズ…と上へ浮き上がる。岩から滴る水が糸を引き、小さな滝を作り上げた。

奇岩が浮くにつれ、ぱっくりと口を開ける洞穴。



社を潜る。

滝を抜け、洞窟の中へすうっと入った巨大鳥が我愛羅を下ろす。
途端、白煙となって掻き消える鳥をよそに、洞窟の出入り口付近で待っていた男は開口一番「遅かったな…」と、デイダラとサソリをやや責めた。

「思いの外、強くてな…人柱力ってのは」

デイダラがそう弁解すると同時に、背後で再びズズズ…と音が轟いた。奇岩が外からの光を遮り、深い闇が広がる。
閉ざされた外界。


「もうお待ちかねだ…」

陽炎のように揺らめいた姿で、ペインは背後を振り仰いだ。
洞窟の奥。更に深い闇の向こうで佇む彼の姿を認めて、デイダラとサソリは笠を恭しく脱いだ。



「頼んだぞ…――ナルト」




陽炎の如く揺らめくペインの言葉に、闇から静かな声が応えた。
デイダラとサソリが被っていた笠の鈴よりも、いっそ涼やかな声音だった。




「――ああ」

 
 

 
後書き
急いで書いたので大した内容ではなくて申し訳ございません!!

これからも、どうかよろしくお願いいたします。 

 

六 不可視の領域

 
前書き
捏造多数です。
書いといてなんですが、原作熟読していないですし、知識もあまりありません。
尾獣に関しても独自設定や捏造が多く含まれておりますので、ご注意ください!!

タイトルと一部の名前、変更しました。大して変わりませんが、ご了承願います!
 

 
(誰だ…この手…)


白に満ちた空間。
眼に入ったソレが己の手だと気づくのに、我愛羅は幾許かの時間を要した。

(……なんだ…俺の手か…)


自分の手をまじまじと見遣って、眼を瞬かせる。
曖昧模糊な感情とおぼろげな記憶が、彼の思考を鈍らせてゆく。不明瞭な考えばかりが取り留めも無く溢れては泡のように弾けて消えてゆく。


不意に、強烈な感情を伴う心の底からの疑念が胸を突いた。
(…俺は、誰かに必要とされる存在になれたのだろうか…)


手持ち無沙汰に手を開き、そして握ってみる。その手が掴めたモノの正体が我愛羅にはわからない。

夢も希望も未来も、己には手に入れられないモノだと幼き頃から悟っていた。
縁が無いモノだと諦めていた。

しかしながら幼い頃から自分が望み、願い、手に入れたかったソレは、結局のところ、何であったか。
今、心の底から浮かんだ疑問こそが、己の望むモノだと、ややあって我愛羅は気づく。

誰かに必要とされる存在。


(…――何故、必要とされたかったんだろう)
手を開閉させながら、我愛羅は思い巡らせる。


幼い頃……心身共に子どもであった自分は、どういう存在であったか。

何の為に存在し、生きているのか。
生きている間はその理由が必要。そしてその答えが見つからぬ限り死んでいるも同然。
過去のかつての自分は、己以外の人間を殺す為に存在している、という答えに行き着いた。

たくさん殺せば自分の存在を確かめられる。
他人の死が自分の強さの象徴。殺した数が強さであり、己が生きる理由。

今となっては一笑に付すほどの愚かな解答であったが、あの頃の自分にはそれが全てであった。
そうでも考えないと己を保つ事が出来なかった。




開いた手を、我愛羅はじっと見据えた。
子どもの時より随分大きくなった手だが、果たして何かを掴めただろうか。

夢も希望も未来にも縁が無い自分が。手に入れられない自身が。この手に掴めない己が。
そんなおこがましい考えを持てるのだろうか。


誰かに必要とされる存在になりたい、だなんて。


(俺は何故、それを望んだんだろう。そもそも俺とはなんだ…)


自分自身が何者かでさえ、わからなくなってくる。
真っ白な何も無い虚空に、我愛羅は手を伸ばした。何かを掴むように。

広大な白に、ぽつねんと所在なさげに佇む己こそが、取るに足らない存在に思えてきて、自然と自嘲の笑みがこぼれる。


(ああ、俺はなんて小さな―――)




空を切った手が力無くダランと垂れて、下りてゆく。
手を完全に下ろすその寸前に、何かが我愛羅の手首をパシリと握った。



虚空を切って何も得られなかったはずの手が、誰かに引き留められている。
自分の手首を握る白い指を、我愛羅はまじまじと見遣った。


ゆっくりとその指の先を視線で追う。
指、手、腕と目線を上げてゆくと、太陽のように眩い金色が突如として瞳に飛び込んできた。

今まで白のみに占められていた世界で急に現れたその金に、我愛羅は眩しげに眼を細める。
その金色を認めた途端、周囲も色鮮やかになってゆく。曖昧模糊な白の空間が突然鮮明な世界へと一変した。



輪郭は陽炎のようにぼんやりしているのに、妙に鮮烈に思える。
記憶も思考も薄れかかっている我愛羅は、その声の持ち主によって、まだ自分が存在できていると妙な実感が湧いた。
顔も気配も何もわからなかったが、金色だけがやけに眼についた。


「今の君は、ちっぽけな存在じゃない」



我愛羅の手を握った相手がだしぬけに口を開く。
その不可解な発言に答えようと口を開けた我愛羅は、そこでようやく、この世界が何処で、何であるのか知り得た。

此処は…―――。




「そうだろう?」

自分の手を握っている金色の存在が、急に我愛羅の背後へ声をかける。

その呼びかけに応えたのは、獣の唸り声。物凄い威圧感が全身にひしひしと突き刺さる。
同時に、見知ったチャクラだ、と我愛羅の直感が囁いた。


おそるおそる後ろを振り仰げば、巨大な茶釜がそびえ立っている。
幾重にも鎖が巻かれているその釜の奥底から、昔からずっと我愛羅を苛ませてきた存在が、劈くような声をあげた。


「てめぇら…誰の許しで此処に入り込んだんだァ!!??」


眼の下の隈が取れない原因であり、我愛羅を不眠症に至らしめている獣。

茶釜の中央に貼られた『封』の紙を目にして、我愛羅は己の背後に立ちはだかるその者が何なのか思い当った。


「お前は……俺の中にいる…」
「…―――守鶴」


我愛羅の言葉尻を捕らえて、金色の誰かが正確な名を告げる。
名前を呼ばれて、苛立たしげに己の巨躯を怒りに震わせた存在は…―――『守鶴』。


我愛羅の体内に封じられた一尾であった。


























薄暗い洞窟。

再び奇岩で出入り口を閉められた為に、内部は薄暗い。しかしながら、その奥は光すら射し込まぬ闇が広がっている。

意外に深い洞窟の奥を、デイダラは眼を細めて見やった。
先ほど引き渡した我愛羅を、洞窟の奥に連れて行ったナルトの背中を追うように。


ナルトに何事か頼んだペインの姿はもう無い。ナルトの邪魔はするな、との一言を残し、消えてしまった。

事前に聞いた話だと、尾獣を人柱力から引き抜く儀式をするにあたってナルトと何かを契約しているそうだが、定かではない。
何れにしても、手練れの忍び九人がかりで、それも三日三晩掛けてようやく可能となる術を、たった一人で行うという。


「普通なら、ありえねぇと一蹴するところだが…」
「ナル坊なら仕方ねぇな、うん」

サソリとデイダラは呆れたようにお互いに顔を見合わせる。
ナルトが何をしているか気になるのは山々だが、覗いたところで見えはしないし、聞こえはしない。
結界が施されているからだ。


『暁』のメンバーが脅威と敬意を込めて呼ぶその結界は【不可視の領域】。
たとえ【写輪眼】や【白眼】をもってしても、視ることが決して叶わぬ結界だ。



洞窟の奥周辺に貼られた結界を前に、サソリとデイダラは各自思い思いに過ごす。怠けているわけではなく、待っているのだ。

洞窟から消える直前、ペインから聞いた話はもう一つある。
砂隠れの里から我愛羅を連れ戻しに、追っ手が此処へ向かっているらしい。

要するに、ナルトの邪魔をするな、という言葉は、その間に誰かが邪魔をするならソイツを消せ、という意味と同義。

砂隠れの里で、我愛羅と一戦交えたデイダラがこれ幸いと暫しの休息を取る中、サソリは眉を顰める。砂隠れの追っ手というのが妙に気になった。



人柱力から尾獣を引き抜くのではなく、全く逆の行為が【不可視の領域】内で行われているなんて知りもせず、デイダラとサソリは追っ手を待ち構える。


結界が張られた洞窟の奥は、やはり変わらず沈黙していた。

























「……しゅ、かく…」

呆然と我愛羅は呟く。

今まで己の中にいる一尾に怖れ、恐怖してはいたが、真っ向から見たのは今回が初めてだった。
『木ノ葉崩し』の時でさえ、自らの精神を眠らせ、守鶴を呼び覚ます【狸寝入りの術】を使用したのだ。
意識が無く身体を乗っ取られた状態故に、一尾がどのような性格なのかも我愛羅は明確には理解していなかった。



「オレ様の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!!」

釜が大きく揺れ、幾重にも厳重に巻かれた鎖がじゃらじゃら音を立てる。
守鶴が大きく揺れ動いた為に地響きがし、我愛羅は踏鞴を踏んだ。途端、ずしゃり、と何かに埋もれる。

足元を見れば、砂が足首まで覆っていた。
守鶴が封じられている釜から溢れているらしく、寸前の怒声で益々なだれ込んでくる。

砂漠と言っても差し支えないほどの砂で溢れかえったその場は、先ほどまで何も無かったはずだった。


けれども白い空間は、いつの間にか、飴色の光に満ちた砂漠と化している。
砂隠れの里から月夜に見られる、月光が射し込む砂漠と同じ光景だ。


鎖が厳重に巻かれた巨大な茶釜さえ無ければ。




自分がいる世界の変わりように、我愛羅は戸惑う。

果たしてコレは現実なのか、夢なのか。
けれども己の手を握り締める、正体不明の誰かの手のぬくもりだけは何故か現実味があった。


「そう吼えるな、守鶴」

守鶴の威圧感にも、怒声にも、地鳴りが続く足場にも、微動だにしていない金色の彼が釜へ向かって、悠然と微笑む。
しかしながら穏やかな笑顔に反して、その声音は鋭く強い響きを伴っていた。


「相互理解してゆく仲だというのに」
「ハッ!!人様の領域に無断で足を踏み入れる無礼者と仲良くするわけねぇだろ!!」


鼻で嗤う守鶴を前に、我愛羅は目の前の会話についていけず、沈黙を貫いていた。
けれども、我愛羅が傍観者でいることを、金色の彼は良しとしないらしい。
次いで投げられた一言に、我愛羅も、そして守鶴も呆然と言葉を失った。


「理解し合うのは、俺じゃない」


金色の彼は、そこでようやく顔を上げた。やはり誰なのかわからない。
妙な白い霧のようなものが思考と記憶に覆い被さり、相手の正体だけが何故か知る事が叶わない。

何処かで会ったはずなのに、初対面のような。初めて知っただろうに、どこか懐かしいような。
不可解な謎ばかりが、我愛羅を戸惑わせたが、直後の彼の発言には更に困惑させられた。


「人様の領域だと言ったな。ならば此処は我愛羅、お前の中だ。守鶴…お前を封じる、我愛羅の内」

封印術により尾獣を封じる領域であり、人柱力である宿主と尾獣のそれぞれの意志の境目。



歌うように淡々とそう述べて、彼は我愛羅に顔を向けた。
金色の陰から垣間見える青い瞳が静かに光る。


「だから宿主である我愛羅、お前の許可が必要だな。勝手にすまない」

急な謝罪に、我愛羅は何とも言えなかったが、ずっと自分の手を繋いでくれているそのぬくもりが、まるで己の意識を繋ぎ止めてくれているようで、無意識に頭を振る。
長年自分を悩ませてきた一尾との間にいる彼の存在がとてもありがたかった。

けれども、結局のところ、何故自分はこんな場所にいるのだろうか。



心の内の疑問を悟られたように、金色の彼が我愛羅を真っ直ぐに見据える。そのまま、パチン、と指を鳴らした。


刹那、足場の砂が急激に増え、我愛羅はバランスを崩して倒れ伏す。
ジュウウウウ…と何か嫌な匂いと音がして、顔をあげると、釜を厳重に巻いていた鎖がボロボロと溶けている。その鎖には、いつの間にか紫色の艶やかな蝶が纏わりついていた。

その蝶の鱗粉によってなのか、まるで毒液を浴びたかのように、鎖がどんどん溶けてゆく。頑丈な鎖の囲いが緩むにつれ、茶釜が大きく揺れ動き、膨れ始めた。


そして、最後の鎖の一本が溶けたかと思うと、次の瞬間、釜が弾け飛ぶ。
其処から、のっそり現れたソレは、砂で形成された山の如き巨躯を大きく揺らした。




「ひゃっはあああああ―――!」


高いテンションで、守鶴が雄叫びを上げる。
封じていた茶釜から解放されてしまった一尾を、我愛羅は悄然たる顔で見上げた。


「なにがなんだか知らねえけど、解放してくれたお礼にぶっ殺してやるぜ!!」



隈取りのような文様を纏わせた巨大な体躯を愉快げに震わせる。叫ぶや否や、守鶴は我愛羅と、金色の彼に猛然と襲い掛かった。砂で形成された巨大な腕を振り翳す。

だが腕が振るわれるよりも先に、我愛羅の隣で、金色の彼が涼やかな声で朗々と言い放った。



「俺がお前を解放したのは、会話するならお互いに顔を見て話すべきだと思ったからだ」


守鶴からの攻撃に身構えていた我愛羅は、一向に来ない衝撃に困惑顔で一尾を見る。
己を封じていた鎖も釜も無くなり、自由になったはずなのに、守鶴は動かない。
否、不思議なことに動けないようだ。守鶴自身も己が何故動けないのか、戸惑っている。


その妙な事態に動揺するのは我愛羅と守鶴のみで、金色の彼はやはり変わらず、悠然と構えていた。



「話し合いは共存するに必要な行為だ。いつまでも口を利かないままだと、理解もし合えない」


話し合いの場を設けた彼は涼しげな顔で、しかしながら、有無を言わせぬ強い口調で語る。
難しい議題だが、現時点で少しでも彼らの間柄を良くしなければ、今後が大変だろう。
勝手な言い分だとは百も承知。

事態を把握できずにいる我愛羅の隣で、金色の彼――うずまきナルトは、そこでようやっと、己がこの領域に足を踏み入れた目的を告げた。






「せっかくの機会だ。お互いに歩み寄らないか」

人柱力と尾獣ではなく、仲間として相棒として…――そして友となれるべく。
せめて、それぞれを尊重し合う仲になってほしいが為に。

 

 

七 宣告

 
前書き
大変お待たせいたしました!
こんな長い話にお付き合いしてくださり、いつも本当にありがとうございます!
何卒、これからもよろしくお願いします!!


 

 
木がしなる。
二・三枚散った木の葉が、駆ける四人の後ろへ飛んでゆく。

攫われた我愛羅を取り戻す為に、パックンを先頭に走るのは、波風ナル・畑カカシ・山中いの、そして砂隠れの里のチヨだ。

「ナル…!いくら急いでいるからって隊は乱しちゃダメでしょ~!」
先を急ぐナルに、いのが注意する。後方のチヨを気遣っての発言だったが、当の本人であるチヨは「年寄り扱いするでない」と不貞腐れたように唇を尖らせた。

「ナル、だったか?遠慮せんと、もっとスピードあげても良いぞ」
「話のわかるばあちゃんだってばよ!!」

別里にもかかわらず、和気あいあいとするナルとチヨに、いのは軽く肩を竦めた。
暴走がちのナルを抑えてほしい、という日向ヒナタの頼み事に応えてやろうと思えど、ナル本人がこんな調子なので、彼女の要望にあまり応えられそうにない。

砂隠れの里に未だ残っていた敵のトラップに引っ掛かり、毒ガスを吸ってしまった砂忍の治療をする為に、ひとり、砂隠れの里に残っているヒナタに、同じ医療忍者であるいのは、内心謝罪した。


「ナル、そう熱くなるな。落ち着け。自来也様にもそう言われてるんじゃないか」

カカシの一言で、ナルは気まずげに視線を彷徨わせた。
カカシの推測通り、すぐに熱くなって暴走してしまうナルは、その欠点を自来也によく指摘されていたのだ。


少しスピードを落としたナルに苦笑するカカシの隣に並んだチヨが「ほう…?あの三忍の自来也があやつの師なのか?」と興味深けに問うた。

「ええ。ナルには常に自来也様がついていた。だから『暁』も今まで手が出せなかったんでしょう」

カカシの発言を聞いて、チヨは訝しげに眉を顰めた。


「…いや?わしが得た情報では、『暁』が今になって動き出したのは、もっと別の理由があると聞いた」


チヨからの新たな情報に、カカシを始めとした三人は顔を引き締めた。
『暁』の匂いを辿るパックンも走るスピードこそ落とさないものの、聞き耳を立てている。


「人に封じられる尾獣を引き離すにはそれ相応の準備が必要と聞く。その準備に手間取ったのじゃろう」

己の推測を語るチヨだが、ナルトがそう『暁』のメンバーに周知させた為に、彼らの尾獣狩りの行動を抑制させていたという真実までは知る由も無かった。



「尾獣…?」

聞き慣れぬ語に首を傾げるいのに、チヨは「綱手の弟子のくせしてそんなことも知らんのかい?」と聊か呆れの雑じった声をあげる。
次いでのチヨの一言に、ナルの顔が一瞬強張った。

「木ノ葉には『九尾』がおるじゃろう?」


人知れず、顔を伏せたナルをちらりと見遣って、カカシは「九尾のことは木ノ葉では完全に極秘扱いですので」となんでもないように説明する。
その説明を受けて納得するチヨに反して、ナルを気遣わしげに見つめていたいのは顔を顰めた。


極秘情報のわりには、里の人間はナルを九尾と同一視し、忌避していた。
幼少期から大人達から冷たい扱いを受けていたナルを、幼馴染であるいのは、ずっと傍で見ていたのだ。
幸い、いのの両親を始めとした幼馴染達の家族は皆、ナルに対しては優しかった。
他の里人のように、ナルを疎ましい存在だとはしなかった。


結局、人の口には戸が立てられないのを、あの頃の木ノ葉の里は体現していた。
ナルが九尾をその身に宿していると知っては、表向きには目立った暴行すら加えないものの、陰口か陰湿な行為は絶たなかった。もっとも、これでも随分マシになったそうだ。

ナルが四代目火影の波風の姓を名乗るその昔は、もっと酷い仕打ちを彼女は受けていたらしいと何処からか耳にしたことがある。
はたして何時からだったのか、幼少期よりも冷たく酷い仕打ちとは何だったのか、今となっては知る由もないけれど、幼馴染であるいのがナルの境遇に常日頃不満を抱いていたのは確かな事実だ。
ナルの不遇に真っ先に異論を唱えたのも、その原因に逸早く思い当ったのも、同じ幼馴染である某面倒くさがりなのは言うまでもない。




やるせない想いを抱いて、いのはナルと肩を並べた。
急に自分の隣へ跳躍してきたいのに、ナルは伏せていた顔を上げる。

「…私もナルが木ノ葉にいない間、ただ修行していたわけじゃないわ。綱手師匠の書斎に勝手に入り込んだり、外に出て調べられるだけ調べた」

ナルの顔を覗き込んだいのは、小声で「アンタの中にその尾獣がいるってのも、知っているわ」と何気なく呟く。肩を大きく跳ね上げたナルに気づかないふりをして、いのは話し続けた。


「でもだからって、私の大事な幼馴染で大切な友達なのは昔からずっと変わらない」


キッパリそう言い切ったいのは、動揺するナルの顔を真っ直ぐ見据えた後、前方へ視線を向けた。

「…調べたのは、九尾だけじゃないわ~。サスケくん…そしてサクラが里抜けして向かった先――大蛇丸についても少しだけど調べた。アイツも、元『暁』のメンバーの一人だったそうよ…。だから『暁』に近づけば大蛇丸の情報も、そして…―――」

一度、息をついたいのは、強い眼差しをナルに向けた。
確固とした決意を告げる。


「おのずと、サスケくんにも―――あのバカサクラにも近づける」



いのは、親友であったサクラが自分に何の相談も無しに、サスケを追った事が許せなかった。
こう言ってはなんだが、うちは一族の生き残りであるサスケが天涯孤独の身であるのに反して、サクラには両親も家族も友達も仲間もいた。その中でも、親友の自分はサクラにとって気の許せる相手だと、いのは思っていた。
だがそれはいのの単なる独りよがりだったらしい。

何か悩んでいるサクラがその悩みを打ち明けてきれなかった事や、何も言わず里抜けした事よりも何よりも、何も気づけなかった己自身がいのは許せなかった。


「サスケくんとサクラ、二人を取り戻すわよ」

一緒に、と言外に伝えられたいのの強い決意に、ナルは大きく頷いた。













前方で何やら話しているナルといの。
特に我愛羅奪還に必死になっているナルの背中をじっと見ていたチヨは、訝しげな視線をカカシに投げる。

「何故、あのナルという娘は他の里の我愛羅をあそこまで助けようとする?」

木ノ葉の里からの応援と言え、所詮、別里だ。自分の里の人間でもない相手を必死になって助けようと駆けるナルの強い想いを、チヨには理解できなかった。

チヨの疑問に、カカシは暫し眼を細める。
ほんの一時の沈黙ののち、カカシはナルの背中を見つめながら答えた。

「アイツも…――『人柱力』です」

思いも寄らぬ返答に、眼をみはったチヨに構わず、カカシは言葉を続けた。

「それも、『九尾』を封印された…―――我愛羅くんと同じですよ」


走る速度は落とさず、話し続けるカカシの言葉を聞き漏らすまいと、チヨは耳を澄ませる。

「ナルにとって砂隠れや木ノ葉といった里の違いは関係ないでしょう。しかし、砂隠れの誰よりも、ナルは我愛羅くんの気持ちがわかってしまう」

強大すぎる力には恐怖し、避け、畏怖するのが人間だ。故に、人柱力がどんな扱いを受けてきたか、どの里においても大差ない。


「だから、ナルにとって我愛羅くんは、同じ痛みを知る仲間なんです」


衝撃的な真実を告げながらも、カカシは幾分嬉しそうだった。ナルの背中を眩しげに、微笑ましげに見つめる。


「交わす言葉こそ少なくとも、誰かの心に寄り添い、その者と打ち解けられるのがナルなんです」


幼少期からの不遇な境遇にも耐え、辛さと痛みを乗り越えてきたナルだからこそできる所業であり、彼女の長所でもある。

誇らしげに語るカカシに、チヨは顔を伏せた。苦渋の表情を浮かべる。

「我愛羅に一尾を封じたのは、わしじゃ」


逆に衝撃の事実を知り得たカカシは、一瞬動揺したものの、顔には出さなかった。

「我が砂隠れの里の為、良かれ、と思ってしてきた行為だったが、間違いだったのかもしれない」


俯き加減で、半ば独り言のように、チヨは語る。
ややあって、チヨは顔を上げ、目の前を駆ける若い少女の――我愛羅と同じ人柱力であるナルを見やった。


「だが、今はどうだ?」

チヨの話に口を一切挟まず、カカシは無言で聞いていた。
飛び乗った木の枝の、ミシリ、という軋んだ音だけがやけに響く。


「里を守る為の行いが、結果、里を苦しめ、その上、同盟を信じず、避けてきた他の里によって助けられようとしておる…―――わしのしてきた事は、間違いばかりだ」

自嘲気味に語るチヨは、カカシに否定も肯定も何の返答も望んでいない。
それを察しているからこそ、カカシも無言で応えた。


「その上、老い耄れて諦め癖までついた……カカシよ」

名を呼ばれたカカシはそこでようやくチヨに視線を向けた。
チヨは羨ましげにいのと、そしてナルを見つめていた。


「若いとはなんという可能性を秘めていることか…」

羨ましいのぉ、と続くチヨの言葉に、ようやっとカカシは意見を返した。

「まだまだこれからですよ。十分お若いですし」


微笑むカカシに、お世辞だとわかっていながらも、チヨは楽しげに笑った。一頻り笑った後、彼女は伏せていた顔を大きく上げる。



「そうさのぉ…ワシにもまだ、できることがあるかもしれんのぉ…」
まだ、出来ることが。



同じ人柱力でありながら、我愛羅を誰より必死になって助けようとしている、九尾の人柱力の波風ナル。
先を急ぐ彼女の背中を見つめるチヨのその双眸には、年齢にはそぐわない、強い光が湛えられていた。

























【不可視の領域】。

【写輪眼】や【白眼】をもってしても、視ることが決して叶わぬ結界の内、ナルトは目の前の激しい応酬に、大きく溜息をついた。
うちはサスケとイタチとの間を取り持った時と同じく、【零尾】の力を借りている為に、この領域はナルトに支配下だ。それがたとえ、我愛羅の中であっても。

よって、我愛羅も一尾である守鶴もお互いチャクラを使えないのだが、双方は先ほどから激しい舌戦を繰り広げていた。




話し合いの場を設けたところで、そうすぐに仲良くなれるとは毛頭考えていなかったが、先が思いやられる。
四代目風影である我愛羅は生真面目すぎる性格であり、反して守鶴は意外にファンキーな節がある。
気が合うとはお世辞にも言えないだろうと予想はしていたナルトだが、再度溜息をつく。

まぁ、双方とも姿形と性格を知れただけでも良しとしよう。現段階では、白と君麻呂のような間柄であっても、お互い何も知らないままよりはマシだろう。
それに、もう時間が無い。

結界の内にいても、事前に仕掛けた術によってナルトには外の様子が手に取るようにわかる。そろそろ砂隠れの里から我愛羅奪還の為の追い忍が洞窟の前へ来るだろう。
そのうちの一人が波風ナルだと知っているナルトは、今まで貫いてきた沈黙の構えを解いた。



「話の最中、悪いが打ち止めだ」

いい加減不毛な言い争いを止めるべく、我愛羅と守鶴の間に割って入る。





「邪魔すんじゃねぇえええ!!」

ナルトの力で動けはしないものの、口だけは達者な守鶴が喚く。それを一瞥して、ナルトはわざとらしく肩を竦めた。
話し合いで済めば良かったのだが、そうも言っていなれない。手荒な手段に移らせてもらう。


「やはり所詮、一尾。九尾に比べれば品が無いな」
「……―――あ?」

ぶわりと毛が逆立つ。全身で不快感を露わにさせる守鶴に、ナルトはわざと挑発の言葉の数々を投げつける。

「力を始め、品の良さも心の広さも尾の数によって変わるのかな?九尾は人柱力に助力しているというのに」



尾の数を昔からずっと気にしている一尾『守鶴』。特に九尾に対しての対抗意識は強い。
その点を利用して、ナルトはわざと挑発めいた言葉を続ける。


「九尾は己の宿主に力を貸すという、広い心と器と強さを持ち合わせている。反してお前は……――」



そこであえて言葉を切って、わざとナルトは大きな溜息をついた。何も言わない事が更に守鶴の劣等感に火をつける。
押し黙り、怒りで全身の毛を逆立てる守鶴を、ナルトは涼しげな顔で見上げた。



「やはり『一尾は九尾には勝てない』という噂は本当だったようだ」



その一言は大いに効いたらしい。

凄まじい形相で守鶴はナルトを睨んだ。ナルトの術で動けないのが、更に守鶴の怒りを煽る。

膨らませてゆく濃厚な一尾の殺気に、ナルトは全く物怖じしない。
反面、守鶴の凄まじい殺意に、我愛羅は身体を強張らせて身動きできずにいる。



「これ以上話しても無駄だな―――行こう、我愛羅」

そう言うや否や、ナルトはパチン、と指を鳴らした。



その瞬間、溶けたはずの鎖が守鶴の足場である砂中から幾重にも出現する。
まるで鎖自体が意志を持っているかのように、ジャラジャラと音を立てて高く伸び上がったかと思えば、守鶴の身に纏わりつく。
何百本といった鎖が守鶴の身を覆い尽したかと思うと、それは当初と同じ茶釜へと変貌した。


寸前と全く変わらない釜の中へ封じられた守鶴は、忌々しげに唸り、喚く。
だが、ナルトは全く気にせず、我愛羅を悠然と促した。

ナルトが我愛羅を促してその場から離れようとするのを見て取って、守鶴は聊か焦りの雑じった声音で呼び止める。


「……ま、待ちやがれ……っ!!」


人知れず、口角を吊り上げたナルトの背に、守鶴は大声で喚き散らす。

「九尾のヤローにできて、この俺様ができないわけないだろーが!!バカにすんじゃねぇ!!」

上手く口車に乗せられているとも気づかず、守鶴は我愛羅をじろりと見据えた。


「……仕方ねぇ…。仲良くなんて柄じゃねぇけど、九尾のヤローに負けるのは癪だからな…。俺様が力を貸してやるんだ!感謝しやがれ!!」


何がなんだかわからず、ぽかんと口を開けている我愛羅をよそに、ナルトはほくそ笑む。

『木ノ葉崩し』前における、波風ナルへ力を貸して欲しいと頼んだ九尾と同様の手法だったが、上手くいったようだ。
一尾も九尾もお互いに気の無いふりをしていながら対抗意識を燃やしている。

よって、ナルトはわざと守鶴の劣等感を刺激した。
九尾の自尊心を傷つけ、ナルに力を貸すように仕向けたのと同じ原理だ。


卑怯なやり方だとは理解しているが、こういった荒療治でもしないといつまで経っても状況は変わらない。
今まで『守鶴』と名前を呼んでいたのに、急に一尾と呼び方を変えたのも、ナルトの計算の内だ。




再び封印した守鶴の茶釜に、ナルトは背中を向ける。
あれだけ口喧嘩していたのに、気遣わしげに釜の中の守鶴を見やる我愛羅を横目で見て、案外歩み寄るのは早いかもしれないな、とナルトは満足げに頷いた。

尾獣と人柱力が仲良くなれるのなら、ナルトは己自身がどれだけ憎まれても恨まれても構わない。
たとえ敵と見なされても、そう思われるだけの非道な行為をしている自覚が彼にはあった。



踵を返したナルトに手を引かれ、我愛羅が困惑顔で茶釜から離れる。
猶も喚き散らす守鶴を、ナルトは肩越しに振り返った。微笑。


「相変わらずお前は、九喇嘛への対抗意識が強いね。守鶴」





その瞬間、守鶴は喚くのをやめた。口を噤む。
彼の姿が、遠い昔慕っていた人物と重なった。大きく目を見開く。


「…じじい……?」



その呼び掛けに、ナルトは応えなかった。























ひんやりとした冷たさを背中に感じて、我愛羅は眼を開けた。
ゆっくり瞼を押し上げる。


「こ、ここは……」

砂隠れの里で『暁』の一人であるデイダラと闘って力尽きた後からの記憶が無い。
ぐらぐらする脳に加えて、眩暈がする。
ぼやける視界の隅で、白いフードを被った誰かが、我愛羅の顔を静かに見据えていた。


「起きて早々、申し訳ないが」

淡々とした冷たく澄んだ声が、我愛羅のいる洞窟の奥に染み渡る。
ぼんやりと霞む視界の中、我愛羅は目覚めた直後に、とんでもない宣告をされた。


フードの陰に隠れたその双眸の青には、動揺も戸惑いの色も何一つ無い。
ただ淡々と、ナルトは我愛羅へ静かに囁いた。














「死んでくれないか」

 
 

 
後書き

不穏な終わり方で失礼します。

今年最後の投稿でございます。来年もどうぞよろしくお願い致します。
それでは、よいお年を!!  

 

八 火蓋を切れ

 
前書き
あけましておめでとうございます!!(←遅い)
昨年は大変お世話になりました!今年もどうぞよろしくお願い致します!!

大変長らくお待たせ致しました!!
短いですが、今後とも何卒よろしくお願い致します!! 

 
巨石の前に静かにたゆたう水面。
目的地であるその場に、四人と一匹は降り立った。

ここから先は戦闘になる可能性が大きいので、カカシは案内役の忍犬にお礼を言って、【口寄せの術】を解く。
素直に従ったパックンが煙と共に掻き消えていく。
立ち上る白煙の傍ら、カカシはちらりと横目でナルの様子を窺った。
九尾のチャクラが滲み出ている彼女に、無理もない、と彼は内心苦笑する。


『尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ』


共に行動している砂隠れの里のチヨからもたらされた事実は、同じ人柱力である波風ナルにとっては衝撃的なものだった。
特に我愛羅に親近感を抱いているナルには酷だろう。


おかげでチヨからその話を聞いてから、ナルの必死さは顕著だった。咎めるいのの忠告も耳に入らないのか、走る速度は増すばかり。

長い艶やかな金の髪は聊か逆立っているように波打ち、頬の三本髭は濃くなっている。
普段は澄んだ空の色である眼の青も、昂ったナルの気持ちに呼応しているのか、赤く燃えていた。

頭に血が上っている風情を感じ取り、(頼むから暴走してくれるなよ)とナルの中にいる存在を気がかりに思いつつ、カカシは改めて目の前にそびえる巨大な岩を見上げる。


この岩の向こう側に『暁』と、そして攫われた我愛羅がいるようだが、現段階では中を窺えない。
岩の中央に貼られた『禁』の札が妙に気にかかる。


思案顔を浮かべるカカシに反して、ナルが勢いよく岩に向かって拳を突き出した。
止める間もなく、殴りかかる。


しかしながら彼女の拳は、岩の前の視えない障壁に阻まれた。

「結界か……っ」




自分達が佇む水面と同じく、岩は波紋を描いて、ナルの行く手を阻む。
何らかの特殊な結界が張られている、とその場の面々は即座に悟った。


「さて…どうしたものか」

目と鼻の先にいるのに、手が出せない。岩のすぐ向こうに、目的の我愛羅と、そして『暁』がいるはずなのに、それを阻む巨大な岩と結界に、気を揉む。

苛立つナルの隣で、カカシは片眼を鋭く眇めた。






















「外が…騒がしくなってきたな」

岩向こうの変化に逸早く気づいたサソリが、ぴしゃりと尾で地面を叩く。
サソリの言葉に、デイダラも同意を返した。

「ご到着のようだな、うん」

外の異変を感じ取ったデイダラとサソリが岩を透かし見るように眼を細めるのと、洞窟の奥から朗とした声が響いたのは、ほぼ同時だった。


「だが、もう遅い」


三時間ぶりに姿を見せたナルトへ、サソリとデイダラはすぐさま顔を向ける。その腕に抱えられた我愛羅と、そして寸前の彼の一言を顧みて、彼らは即座に悟った。

それよりも、普通なら手練れの忍び九人がかりで、それも三日三晩掛けてようやく可能となる術を、たった一人で、その上三時間程度で行ったその力量に、内心舌を巻く。

「終わったのか」
「ああ」


我愛羅を地面に丁寧に横たわらせたナルトが軽く首を捻る。
我愛羅の胸が上下に動いていないのを一目見て、デイダラとサソリは我愛羅の死を確信した。

「さて、これからどうする、うん?」

指示を仰ぐデイダラをちらりと見遣って、それからナルトは岩向こうへ眼をやった。
深海より深い蒼の瞳が、ふっと懐かしげに緩められる。しかしながらそれは一瞬で、その上薄闇の中なのもあり、デイダラもサソリも気づかなかった。


「任せる」
「やっぱ、そうなるか…うん」

ナルトの一言に、デイダラは苦笑いしつつも、どこか誇らしげに笑う。サソリもまた心得たとばかりに頷いたが、直後「いいのか?」と不敵に問うた。

「外の連中の一人は、確かお前のノルマだろう…悪く思うなよ、坊」

九尾の人柱力である波風ナルを言外に匂わせたサソリの視線に、ナルトは無言で応えた。

答えぬまま、我愛羅に視線を落とすと、「丁重に扱えよ。お前の片腕を奪ったほどの実力者なんだろ」とデイダラに釘を刺す。
腕が無いことを既に見抜かれていたとわかって、我愛羅と一戦交えたデイダラは気まずげに視線を彷徨わせた。



「ところで、九尾の人柱力は、一体どんな奴だ…?」

ナルトのノルマである相手を自分の手柄にする気満々のサソリが悪びれた様子もなく、問い掛ける。
その問いに、ナルトは暫しの沈黙の後、涼しげな顔で一言答えた。


「一番最初に大声で怒鳴ってくる子かな…」

ナルトにしては、大雑把な返答に、サソリとデイダラは一瞬虚を突かれた。直後、呆れた声をそれぞれあげる。

「あァ?なんだそりゃ」
「もっと具体的な特徴はないのか、うん?」

サソリとデイダラの視線を一身に受けたナルトは、やはり微塵も動じず、軽く肩を竦めてみせる。
そうして、我愛羅を残したまま、一瞬でその身を消した。



瞬く間に消えてしまったナルトに、「あらら」とデイダラは眼を瞬かせた後、からかうようにサソリに声をかけた。

「ナル坊のノルマ、とっちまっていいのか?サソリの旦那」
「あの返答だと構わねえんだろ…」


デイダラの揶揄に、面倒臭そうに答えたサソリは、改めて岩の向こうを透かし見る。

九尾の人柱力が、ナルトの助言通りの人物であるかどうかを見極めるように。

























巨石の中央の『禁』の札。
結界の種類がどんなものか見極めようとしていたカカシは、次の瞬間、眼を見開いた。

何もしていないのに、札の端がチリリ…といきなり燃え上がったのだ。


一瞬にして燃え尽きた札に、聊か呆然とし、直後我に返ったカカシはいのに目配せした。
その合図に応えて、いのが巨岩から少し離れた場所へ移動する。そのまま助走をつけて、一気に岩目掛けて、師匠の綱手譲りの馬鹿力を振るった。


ガラガラガラ…と瓦解する岩の破片を飛び越え、突入する。
結界が自ら解かれたことに、(あえて結界を解くとは大した自信だな…)とカカシは眉間に皺を寄せた。
その隣で、ナルはようやく入れた洞窟内の光景に釘付けになっている。


視線の先で、横たわる我愛羅。
その身が微動だにしていないのを認めたくなくて、彼女は吼えた。


「てめぇら……!!」

黒の外套に赤い雲。
『暁』のデイダラとサソリを睨み据える。

特に我愛羅の身体に腰掛けているデイダラを、ナルは一際強い眼光で怒鳴った。

「…―――ぶっつぶす…ッ!!」



眩い金色の髪とその容姿に、デイダラとサソリは一瞬躊躇する。
ナルトに似通ったその身をまじまじと見遣った二人だが、彼女の言動に、すぐさま思い当った。



「一番最初に大声で怒鳴ってくる奴…――アイツか…」
「の、ようだな…うん」

一瞬でもナルトに似ていると思った己を恥じるように、サソリとデイダラはお互いに大きく頷いた。

「ナル坊、特徴教えるのうめえな…うん」

感嘆するデイダラの横で、サソリはナルと共に洞窟に飛び込んできた人物の一人だけに注目していた。こちらをじっと、感慨深げに見つめるチヨの視線から逃れるように顔を背ける。


「我愛羅…!そんな所で呑気に寝るなってばよ…立てってばよ!!」

我愛羅を起こそうと躍起になるナルの大声が洞窟内に響き渡る。
見兼ねたカカシが「わかっているはずだ」と心苦しくも止めるのを聞いて、デイダラはにやりと口角を吊り上げた。座っている我愛羅の頬をペチペチと叩く。


「そーそー。わかってんだろ…」

次いで、ナルにとって最も聞きたくない言葉が洞窟の中で、そして彼女の耳朶にうわんうわんと反響した。


「とっくに死んでんだよ」









我愛羅を取り返しにきたのだろうと推測し、デイダラは己が椅子にしている相手を少しばかり感心したように見やる。

「死んでも人質に使えそうだな、うん…」

一人納得したデイダラは、サソリの答えを待たずに、術を発動させる。
羽ばたく巨大な鳥の姿に、嫌な予感がしたサソリは「おい」と声を尖らせた。


「デイダラ…てめぇ、まさか…」
「芸術家ってのは、より強い刺激を求めたがる性質(タチ)なんでね…」


我愛羅に腰掛けたまま、デイダラは真っ直ぐナルを見据える。


「九尾の人柱力ってのはなかなかに強いって噂だし…なによりあのナル坊がノルマにするほどの相手だぜ?うん」

興味ある、と笑うデイダラに、サソリは「お互い考えることは一緒か…」と舌打ちした。


「オイラの芸術に相応しい相手だ…うん」
「デイダラ…てめぇは本物の芸術ってのをわかってないようだな」

いきなり芸術について舌戦し始めるサソリとデイダラ。

その会話を、警戒しつつも呆気に取られて眺めるナル・カカシ・いの・チヨの四人と同じく、洞窟から離れた地点で、呆れる存在がいた。



















「やれやれ…丁重に扱えと言ったばかりなのに」


洞窟の内部での光景が見えているかのように、ナルトは軽く溜息をつく。
釘を刺したというのに我愛羅の上に座るデイダラに、呆れた声を零す。


岩の結界を解く手間を省いた彼は、ひしひしと感情を高ぶらせる波風ナルを、洞窟から遠く離れた地点から静かに見やった。



「さて…お手並み拝見、といこうか」
 

 

九 傀儡師

「―――とっくの昔に…引退したと聞いていたんだがな…」


肩を落とすだけでなく、全身で溜息をつく。
我愛羅を使い、九尾の人柱力を誘い出したデイダラを洞窟の中から睨んだサソリは、改めて懐かしい顔を見据えた。


サソリの実の祖母であるチヨ。
引退の身故、戦線には出てこないだろうと、考えていたチヨとまさかの再会を果たし、聊か動揺していたものの、その顔に感情めいたモノなど微塵も浮かばせない。

表情に一切出さないサソリの強い眼光に、いのの足が無意識に後退した。
己より遥かに、実戦経験の差と人を殺してきた数が桁違いだと悟る。



「急に孫の顔が見たくなってな…」

懐かしげに眼を細めたチヨは、ゆっくり前へ進み出る。
たじろぐいのに「怖れるな。このワシに任せろ」と、力強く頷いてみせる。


老いて猶、頼りになるその背中を、いのは尊敬の意を込めて見つめた。

サソリと対峙したチヨがおもむろにクナイを取り出す。
ワイヤーで繋がれているかのような九本のクナイ。それらは重力に逆らい、宙に漂っている。

それらをチヨは一斉に解き放った。



引き寄せられるようにクナイはサソリ目掛けて飛び掛かる。
軌道を読んで、サソリはそのクナイを難なく全て叩き落した。


「俺に盾突こうってなら仕方ねぇ…」

面倒くさげに溜息を再度ついて、サソリは自ら服を破いてみせる。以前とは異なる形態を見せつけ、サソリは尾で地面を強かに叩いた。


「そこの餓鬼と一緒に俺のコレクションにしてやろう、チヨ婆よ」


昔の自分では無いと、己の力量を示すかのように。































粘土の巨鳥が翼を広げる。

空で旋回する鳥に乗ったデイダラは、眼下の二人を見下ろした。巨鳥の口がパカリと開き、我愛羅の足が垣間見える。


我愛羅を囮に、九尾の人柱力を誘い出す事に成功したデイダラは、自分を追ってくるナルを満足げに見下ろし、直後、チッと舌打ちした。


九尾の人柱力であるナルだけでなく、はたけカカシまで追い駆けてきた事に、面倒くさげに溜息をつく。

洞窟内に視線をやって、デイダラは「いいのか?俺なんか相手にしてて」とカカシに向かって、諭すような物言いで注意した。


「写輪眼のカカシ先生よぉ…うん?」

ナルと共に洞窟から出てきたカカシ。チヨといのを洞窟に残して来た彼を非難する。


「言っちゃぁ、なんだがサソリの旦那は俺より強いぜ?」

たぶんな、と付け加えつつ、デイダラは洞窟にいるサソリの強さを暗に指摘する。
チヨといの。二人だけでは到底太刀打ち出来ぬ相手だと。



「芸術に関する考えはだいぶ違うが、旦那の強さは本物だ。そっちを相手にした方がいいと思うがな…」


九尾の人柱力を捕まえたい故に、デイダラは邪魔なカカシをその場に留まらせようと促す。
巨鳥の口にくわえさせた我愛羅を取り戻そうと、怒りに満ちた表情で己を睨むナルを、デイダラはちらりと見遣った。


洞窟前の紅い鳥居の上に佇む九尾の人柱力は、金色の長い髪をなびかせて、デイダラを真っ直ぐに睨む据えている。
その容姿はナルトに似通っていたが、瞳の色だけは違っていた。


炎の如く真っ赤に燃える赤。


(ナル坊とは眼の色が違うな、うん)

やはりナルトとは似ていない、と結論づけて、デイダラはナルを挑発する。



「可哀想な嫌われ者の人柱力同士、放っておけない?だからコイツを取り返そうと必死なわけか?うん?」


紅い鳥居の上。
ナルの頭上を旋回しながら、デイダラは巨鳥にくわえさせた我愛羅をこれ見よがしに見せつける。


「人柱力は根暗で人嫌いなヤツが多いと聞くが…お前は変わってるな、うん」

失くした片腕の裾を棚引かせて、デイダラは口許に弧を描いた。
わざと声を張り上げる。





「我愛羅は死んだ!!」




尾獣を抜かれた人柱力は死に至るのは当然。その上、あのナルトが一尾を抜いたのだ。
現に、鳥の口の中で、我愛羅は身動ぎ一つしない。息をしていない。心臓も動いてやしない。


「安心しろ、うん」

寸前の顔とは打って変わって、にこりとデイダラは笑顔を浮かべる。口許に湛えるそれは、気遣っているかのような穏やかな笑みだ。


だが、その口からもたらされる言葉は酷く辛辣で冷たいモノだった。





「―――直に、お前もそうなる」































傀儡使いは後ろで糸を操るのが定石。

何故なら、傀儡を操る時、隙が生じやすいからだ。遠距離戦を得意とする傀儡使いは、反面、接近戦に弱いのが通常。


それを克服する為に生み出されたのが、現在のサソリの姿。
傀儡人形『ヒルコ』だ。

本体である傀儡使いは、内から人形を操り、傀儡は術者の鎧とも、そして武器ともなる。



つまり、まずは攻防一体の傀儡『ヒルコ』から、本体であるサソリ自身を引きずり出さなければならない。



実戦経験はこの場で一番多いチヨは、用心深く此方を窺うサソリに、ふ、と口許を緩める。
待つのも待たせるのも嫌いなサソリが迂闊に手を出してこない。

昔からの性格は変わっておらんな、と思いつつ、チヨはいのに耳打ちする。自分に聞こえぬよう小声で囁くチヨを、サソリは訝しげに遠目で見遣って、やがて高らかに嗤った。


「喜べ!貴様らで、俺の芸術はちょうど三百体となる」

今まで人傀儡にしてきたコレクションを自慢するかのように、冷笑する。


(できることなら坊を記念すべき三百体目にしたかったが…まぁいい)

もっと特別な機会にナルトを己の芸術作品にしようと勝手に決めたサソリは、何やら自分を倒す手立てを模索しているらしき二人の動きを注視する。
やがて、真正面から突っ込んできたいのに、呆れ返ったサソリは攻撃態勢を取ろうとして、自由に動かぬ我が身に、顔を強張らせた。



「なに…!?」

ハッ、と我に返ったサソリは、直後、チヨの先制攻撃であるクナイの意図を悟った。

「婆、てめぇ……ッ」



だが、その瞬間、いのの拳が迫り来る。
咄嗟の判断で『ヒルコ』から抜け出たサソリは、案の定、バラバラに砕かれた傀儡に、チッと舌打ちした。

カラカラカラ、と乾いた音を立てて地面に転がる『ヒルコ』の傍ら、黒のフードで顔を隠したサソリは「流石だな、チヨ婆…」とチヨを称賛する。



九本のクナイで攻撃した際、チヨはクナイについていたチャクラ糸を『ヒルコ』につけ直したのだ。
叩き落したのが仇となり、逆に己の得物である傀儡人形をチャクラ糸で全身に結んだチヨを、サソリは黒のフードの陰で見据えた。




「傀儡遊びを俺に叩きこんだだけはある…」
「…もう終わりじゃ。傀儡遊びも……そしてサソリ――お前も」


サソリの傀儡人形『ヒルコ』のコントロールを奪ったチヨは、指に結んだチャクラ糸を眼前に掲げた。
己の武器であり、鎧であった『ヒルコ』がチヨの命令で、バラバラに砕かれても猶、サソリに襲い掛かってくる。


「さァて…」


だが、それより速く、サソリは『ヒルコ』を何の未練も無く、粉砕した。


「そう、うまくいくかな?」




空中分解した傀儡人形の中、サソリは黒のフードを脱ぎ捨てた。
愕然と眼を見開くチヨを、愉快げに眺める。


そうして、厳重に紐で結わえた巻物を取り出し、彼は最初から手の内をさらけ出した。
圧倒的力で、相手を叩きのめす為に。


「婆相手に出し惜しみはしねぇ」




百体もの傀儡人形を従えて、サソリは嗤った。









「始まってすぐで悪いが、終演にしよう」






二十年前、砂隠れの里を抜けた当時のまま。
若々しい十五歳の容姿で、サソリは優雅に、それでいて不敵に微笑んでみせた。








「チヨ婆さまよぉ……?」

 
 

 
後書き
お待たせしました!
短くて申し訳ございません。また原作と変わり映えしなくて(最後以外)本当にすみませんが、これから微妙に違ってきますので、ご容赦ください!!


これからもどうぞよろしくお願い致します!! 

 

十 操演の幕開け

最初につくったのは、父と母だった。









赤砂のサソリ。

そう呼ばれるようになったのはいつからだったか。
砂隠れの天才造形師と謳われるようになったのはいつだったか。
人を待つのも、待たせるのも嫌いになったのはいつからだったか。


サソリが傀儡つくりに熱中するようになったきっかけ。
両親を『木ノ葉の白い牙』に殺され、チヨに待つように諭され、死者の帰りをひたすら待った幼少期。



それが全ての始まりだった。













影が落ちる。
いくつもの影が天から降ってくる。


それは徐々に人の形をかたどって、やがてサソリの周りを取り囲む。

その数。
およそ、百。



「数で圧すつもりかの…」

洞窟を埋め尽くすサソリの傀儡人形に、引き攣った表情を浮かべたチヨは、しかしながら至極真っ当な事を指摘した。

「そんな多くの傀儡を一人で操るには荷が重いじゃろうて」
「フッ…そうでもないぜ?」


黒衣の胸元から膨大なチャクラ糸を人知れず放出しながら、サソリは口角を吊り上げる。
そうして、洞窟の外である鳥居の向こうに、彼は眼を凝らした。



我愛羅を囮にしたデイダラを、九尾の人柱力の波風ナルと、はたけカカシが追っている。
その後を追い駆けなければいけない。よってサソリはこんな所で足止めを喰らうわけにはいかなかった。


「さっさとそこをどいてもらおう。デイダラに先を越されるわけにはいかないんでな…」
「見た目同様、せっかちなのは変わらんな…」


チヨの手元を離れた時から年を取っていないサソリ。
変わらないその姿に、同じ傀儡師であるチヨは、サソリが何故若いままなのかという理由にすぐ思い当った。

自らを人傀儡に改造した孫を見るその瞳に、一瞬憐憫の情が掠める。
だが直後、自分も人のことは言えまい、と己の腕を見下ろして、チヨは自嘲した。


「じゃがお前はもっと用心深い子だったと思うが?いきなり奥の手を出すとは…サソリ、お前らしくもない」




【赤秘技・百機の操演】。

一国を落としたとされる傀儡人形。

おそらく彼にとっては最大のカラクリであろう奥義を最初から披露してきたサソリに、チヨは訝しげに訊ねる。
自ら禁じていた術【白秘技・十機近松の集】の十体の傀儡人形を解放しながら、警戒心を露わに、彼女は問うた。


「急を要するからに決まってるだろーが。早くしねぇとデイダラが九尾の人柱力と……」

チヨの質問に、何を言っているとばかりに、サソリは肩を竦めた。







「コピー忍者…『木ノ葉の白い牙』の息子を殺しちまうだろうが」






サソリの発言に、チヨはハッ、と眼を見開く。
砂隠れに応援としてカカシが来訪した際も、彼女自身、『木ノ葉の白い牙』と見間違えた。

それほど似ている為に、血の繋がりがあるとは一目瞭然。
よって、『写輪眼のカカシ』や『コピー忍者』として有名なはたけカカシが『木ノ葉の白い牙』の息子だと判断するのは実に容易い。
だが、まさかあのサソリがその点に注目するとは思ってもみなかった。


「チヨ婆よぉ…確かに俺は血の繋がりだとか家族だとか、そういったものには興味はねぇ……────だがな」




砂隠れにいた当時のサソリは天才造形師と謳われ、優れた傀儡を数多くその手で生み出した。
だが一方で、己の芸術として、心血を注いだのが『人傀儡』。
傀儡にした人をコレクションし、芸術作品の一つとする事が、サソリにとっての『永久の美』であった。



何故なら傀儡にした相手は、朽ちない。寿命に縛られない。
死なない。
いくらでも作り直せる。
待つことも待たされることもない。


幼いあの日、『木ノ葉の白い牙』に殺された父と母を、いつまでもいつまでも待ち続けることもない。







「つくった人形には思い入れがあるんだよ」


幼少期が原因で、人を待つのも待たせるのも嫌いになったサソリは、己がこうなった理由は『木ノ葉の白い牙』だと考えた。
故に、その息子であるはたけカカシには、それ相応の報復をするつもりだった。



自分で操った父と母に抱かれたところで、返事は返ってこない。温もりなどない。

所詮、偽りの肉親。されど、サソリにとって始まりの傀儡。
よって自らがつくった傀儡を、多少なりともサソリは心にかけていた。


どんな事態が起こるか判り得ぬ戦場やその場に応じて、人形への思い入れが浅いか深いかは、変わるだろう。
だが、今ここにカカシがいるのならば、良い機会だとサソリは眼を細める。

砂隠れの里から我愛羅を連れ戻しに、洞窟にまで追い駆けてきた追っ手。
サソリが注視していたのはチヨではなく、カカシのほうだったのである。




「俺としては…チヨ婆。アンタがあの『木ノ葉の白い牙』の息子と同行していた事に驚きだがな。なんとも思わないのか?」
「……子どもに罪はない」
「どうだか…。なんにせよ、傀儡にするにも質が良さそうだ。うちは一族でもないのにあの【写輪眼】を保持していると、大蛇丸が散々訝しがっていたからな」



人形は数を増やせばいいわけではない。現在発動している【赤秘技・百機の操演】は確かに数の暴力といったものがあるとは認める。
だがコレクションするなら量より質に注目する。
よって、何か特殊な能力を持っている人間を傀儡にするのが良い。




「『木ノ葉の白い牙』の息子である『写輪眼のカカシ』を殺せば、仇を討ち、優れた傀儡人形の器も手に入る。一石二鳥だ」

その上、九尾の人柱力まで手に入れられたら言う事ないのだがな、とサソリは悪びれもなく言い放つ。
父の罪はその子どもであるカカシには関係ないことだ、とチヨが反論したところで、聞く耳を持たない。







「…………黙って聞いてりゃ、好き放題ベラベラ言ってくれちゃって…でもおかげで良い事を聞いたわ~…」


サソリの話を黙って聞いていたいのは、湧き立つ怒りを全力で抑えた。
できるだけ冷静になることを努め、静かに口を開く。


「アナタ、今、『大蛇丸』って言ったわね」
「ああ…。アイツとは昔、組んでたからな」


かつて、『暁』でパートナーだった大蛇丸の事を訊ねられ、サソリは怪訝な表情を浮かべつつも答えてやる。
その返答に、いのは眼光を鋭くさせた。


「────なら、色々と聞きたいことがあるわ」




木ノ葉の里を抜け、大蛇丸の下へ行ってしまった、うちはサスケ…そして春野サクラ。


想い人と親友の居場所を知る為に、いのはサソリを鋭く睨み据える。
いのの急激な感情の高ぶりに、サソリは首を傾げつつも、己の目的を改めて告げた。


「あいにくだったな。俺はさっさとお前らを片付けて、さっきの奴らを追い駆けないといけない。早くしねぇと、せっかくの傀儡人形の器をデイダラが爆死しかねないからな」

人間の死体からつくる人傀儡。傷一つでもつけられたら、堪ったものじゃない。
特にデイダラの攻撃は爆発だ。欠片も残らないほどバラバラにされてもらっては困る。


「人を待たせるのは嫌いなもんでね。質問に答えている時間はない。答えてやる義理もねぇしな」


九尾の人柱力はノルマなので、自分の判断で勝手に傀儡には出来ないだろうが、九尾を抜いた後なら交渉してみてもいいだろう。

なんせ、あのナルトに似た相貌だ。傀儡人形としてコレクションするのも悪くない。
そして『木ノ葉の白い牙』の息子である『写輪眼のカカシ』も良い人傀儡になるだろう。



「コピー忍者と九尾の人柱力……後者は『暁』の意向がどうかわからねぇが、前者は俺のコレクションの一体に加えても構わないだろうよ」



言外にナルとカカシを殺すと告げるサソリに、いのは抑えていた怒りを解放する。
洞窟の外にある鳥居を背に、彼女は吼えた。




「そんなことさせない…!許さない…!!」
「威勢が良いな、小娘。この数を前に、何をどう許さないって?」


圧倒的な傀儡人形を従わせ、サソリはいのを鼻で嗤う。


傀儡使いは使える人形の数でその者の能力を量れるとされる。
指の数と同じ十体の傀儡を同時に操る、チヨ婆極意の指の数。
城一つを落としたほどの攻撃力を誇る故にチヨ自らが禁じていた傀儡衆【白秘技・十機近松の集】だ。


だがその十倍の数をも保持している己の【赤秘技・百機の操演】を前にしては、たとえその禁じられた技でさえ霞んでしまうだろう。

己の勝利を確信し、冷笑するサソリに、いのは身構えた。


「勝負は数じゃない」



チヨがいのに囁く。チャクラ糸を結んで、いのを傀儡人形と同じく操ってくれるらしいチヨに、いのは囁き返した。

「チヨ婆様。申し訳ないですけど、私を操り続けてくださいね」
「わかっておる」

ぐっと腰を落としたいのに、チヨは頷く。
サソリの攻撃を回避するには、自分の補助が必要だろう。


いのが地を蹴ったのと、チヨが指を構えるのを、サソリは見下した。
無駄な足掻きを、と嘲笑する。

「たった二人で何ができる…!!」






瞬間、百体もの傀儡が一斉に、チヨといのに向かって襲い掛かる。

数多の傀儡の猛攻撃に、無駄のない動きで傀儡を操るチヨに、内心、称賛しつつ、サソリはいのに視線を向けた。
二人が自分の傀儡の数を減らす一方、サソリがいのを狙うのは至極当然。
その後、チヨに攻撃を集中させ、さっさと操演を終わらせてやる。


(まずはコイツから…)
攻撃の矛先をいのに集中させる。サソリに従い、傀儡人形がいの一人に殺到した。
怒涛の攻撃がいのひとりに襲い掛かる。


「…いの!!」

白煙が立ち昇る。
いくら自分がチャクラ糸で操っているとは言え、既に【白秘技・十機近松の集】を操っている身。
チヨは己の指をくいっと引っ張り、いのの身体と繋がっているか確認する。

手ごたえを感じ、ほっとする反面、今のサソリの攻撃をかわし切ったいのに、内心舌を巻いた。


(自らでも見極めないと、サソリの攻撃は回避し切れん…大した小娘だ)


白煙が晴れた向こうで、いのの無事な姿を認め、胸を撫で下ろすチヨに反して、サソリは眉を顰めた。


(なんだ…?)

今の攻撃は確実に、いのに命中したはずだ。
だが、掠り傷一つないいのの姿に、サソリは一瞬違和感を覚える。


もう一度、改めて攻撃しようとした彼はハッ、と身を翻す。


「よそ見している場合かのぉ!!」

チヨの傀儡人形の攻撃。
いつの間にか間近にまで接近していた傀儡を、サソリは冷ややかに見やった。
自分の傀儡で容易にチヨの攻撃を受ける。

そのままチヨの人形を破壊しようとしたが、すんでのところで後退した白秘技の一体に、サソリはチッと舌打ちした。














傀儡師同士の壮絶な戦闘。
その片隅で、いのは人知れず、だが着実に、傀儡人形の数を減らしていく。

サソリが操る数多の傀儡人形。
それらを前に、彼女の脳裏には、先ほどサソリがなにげなく口にした人物の名が強く反響していた。



(大蛇丸…)

サスケくんとサクラに近づく為には、大蛇丸の情報を得る必要がある。
やっと見つけた手がかりを、みすみす見逃すわけにはいかない。




(────絶対聞き出してみせる…ッ!)


大蛇丸に関する情報をサソリから得る。
サスケとサクラ────二人の情報を手に入れる為に。












































「待てってばよ!!」


我愛羅を囮に、ナルを誘き寄せる事に成功したデイダラは背後を振り返った。
確実に自分の後ろを追い駆けている九尾の人柱力に、満足気に頷く。

同時に、サソリがいるであろう洞窟から爆発音が聞こえる。
遠目でその白煙を認めたデイダラは肩を竦めて、心の中でサソリに謝罪した。


(悪いな…サソリの旦那)

あの暴れっぷりだと、おそらく自分を追い駆ける為に、さっさと片付けようとしているに違いないサソリを思い浮かべ、デイダラは苦笑する。


だが、こんな機会なかなか無い。
サソリに譲る気など更々無いデイダラは、ちらりと横目でカカシのほうを見やった。


「それにしても…やっぱり邪魔だな」

九尾の人柱力を捕まえるには、コピー忍者は邪魔なだけだ。


先にカカシを始末しようと考えるデイダラは知らない。
『木ノ葉の白い牙』の息子であるカカシも、サソリのターゲットである事を。

爆死なんてさせたら、後でサソリからどれだけ苦情を言われるかなどとはそ知らず、デイダラは起爆粘土を練った。
ナルとカカシを引き離す為に、蜘蛛型の粘土を鳥から落とす。


直後、真下から聞こえてきた爆発音。
下を覗き込んだデイダラは口許に苦笑を湛えた。


「流石にコピー忍者相手には起爆粘土一つじゃお粗末だったな、うん」


無事なカカシの姿に肩を竦め、今度は多数の蜘蛛型粘土を墜落させる。




助走をつけての突破を防ぎ、対象に張り付いて爆発するタイプの起爆粘土。
後ろへ下がる際は一定距離を保ち、たとえ振り切っても、ジャンプして対象に追いつく。



カカシに上手く蜘蛛が張り付いて爆発したのを見届けて、デイダラは旋回した。










「カカシ先生…?」

後ろから聞こえる爆発音。
追い駆けているはずのカカシの身に何か起こったのか。


どうしたのかと、ナルは背後を振り返った。
途端、鳥の羽ばたく音に、ハッ、と空を振り仰ぐ。




「やっと…二人きりになれたな、うん」

頭上から落ちてきた影。
自分を強く睨み据えるナルに、デイダラは不敵な笑みを浮かべてみせた。




































圧倒的な人形の数の差。


だが、チヨが気を抜いてはいけない相手だとは、サソリとて理解していた。
だから、上手く誘導し、チヨと彼女が操る【白秘技・十機近松の集】の十体の傀儡人形を引き離す。

そして隙をついて、チヨに向かってサソリは傀儡人形を殺到させた。




「しま…ッ!!」

目の前の傀儡に気を取られていたチヨは、頭上から迫り来る人形に身を強張らせる。
慌てて白秘技の人形を呼び戻すが、それより速く、サソリは傀儡を操った。


「おせぇよ…────ソォラァ!!」










刹那、サソリは背後から迫る傀儡に気づき、反射的に反応した。


チヨの白秘技の一体かと視線を奔らせたサソリは、身を翻し様に、眼を見開く。
回避しつつも思いも寄らない人形の姿に、彼は眉を顰めた。






(…どういうことだ…?)











今、自分に攻撃してきたのは、サソリの傀儡【赤秘技・百機の操演】。


その百体の内の、一体だった。

 
 

 
後書き
いのがチヨ婆様に頼っているように見えますが、そんなことないので、ご容赦ください。
チヨ婆様は反応したのに、サソリが反応しなかったのがちょっと気になったので…カカシ先生ごめんなさい(汗)

また、随分前に書いた駄文ですが、「渦巻く滄海 紅き空」の没作品をpixivのみ公開中です。
「没・忍法帖」という題名での映画ネタです。
本編に全く関係なく、設定もまだあやふやな時に書いた駄作ですが、興味のある方はどうぞご覧ください〜!

次回もよろしくお願いします! 

 

十一 暗中飛躍

 
前書き
大変お待たせしました!
ですが申し訳ございません!急いで書いたので手抜きに加え、短いです(汗)

だけど、久しぶりのあのキャラが再登場!
憶えていらっしゃるでしょうか…??


 

 
身体を捻り、人形が突き出してきた刀を回避する。
耳元で、ひゅっと、風を切るような音がした。


自らが操る傀儡人形。
主である自分の意志に逆らって攻撃してきた人形に、サソリは顔を顰める。

(チヨ婆の奴…俺の傀儡にチャクラ糸を繋げやがったか…!?)


しかしながら、ただでさえ十本の指で【白秘技・十機近松の集】を操っているのに、その上更に、いのまで操るチヨに、サソリの傀儡を奪ってチャクラ糸を繋げる余裕があるだろうか。

(だが、俺の傀儡を操るなんて、それしか考えられない…婆め、一体どんな手を…)

改めてチャクラ糸の先がきちんと傀儡に繋がっているか、サソリは手ごたえを確認する。
その間に、窮地を脱していたチヨは肩で息をしながら、今し方の展開に眉を顰めた。


(今のはわしを殺す絶好の機会だった…何故────)


頭上から迫り来るサソリの人形。
その攻撃をもろに受けてしまう間際、一瞬何かに気を取られたのか、サソリの手元が僅かに狂った。
その隙に無事攻撃を回避したチヨは、不可解な展開に違和感を覚える。

疑問が生じつつも、サソリからの怒涛の攻撃と圧倒的な傀儡の数を前に、チヨは再び指を構えた。




サソリの傀儡人形───それらが着実に減っている。

その理由が、いのにある事に、彼らはまだ気づいていなかった。





























辺りを警戒する。
二人で交互に周囲を満遍なく見渡し、誰にも見られていない事を確認する。


打ち捨てられた廃墟。
与えられた任務を遂行した後、指示された待ち合わせ場所で、鬼童丸と左近は油断なく廃墟の奥へと進んで行く。



奥に進むにつれ、益々暗くなっていく廃墟。
四方は石壁で取り囲まれており、あちこちで石の柱が崩れている。
罅割れた天井の隙間から洩れる僅かな日光だけが、唯一の明かりだ。

崩壊した遺跡のようなその場所はかつての栄光など忘れてしまったように、しん、と静まり返っていた。



「…人使いが荒い奴ぜよ、ダンゾウって野郎は…」
「まったくだ。これならボスのほうがまだマシだっつーの」


ぼやきながら、倒れた柱の瓦礫に腰を下ろす。
罅割れた石柱に背中を預け、一息つくと、壁と壁の合間から声が聞こえた。



「おっつかれ~!!」

やけに間延びした明るい声に、二人の肩が大きく跳ねた。瞬時に警戒態勢を取る。

しかし、人影らしいモノは見当たらない。


待ち合わせしている相手か、それとも気配を消して自分達を尾行していた敵か。

後者なら、現在自分達の身柄を拘束している組織の可能性が高い。
鬼童丸は左近と目配せした。


お互いの心にある懸念は一つ。

((もしや、バレたか…!?))




「あ、大丈夫大丈夫」

二人の気持ちを読んだかのように、見えない存在が明るく答えた。

声のする方向へ眼を凝らすと、壁の壁の罅の隙間から、何かが滲み出ている。
じわじわと大きくなる染みの正体を、左近と鬼童丸は注視した。


「……水?」
「せいか~い!」


瞬間、壁の罅という狭い隙間を抜けて、ばしゃりと多量の水が迸る。
かと思えば、その水は人の姿を模って、やがて青年へと変化していく。


「正確に言えば、【水化の術】なんだけどね~」

ぴちゃん、と波紋を描いて、人の姿へと戻った水月は、へらへらと笑みを浮かべる。
警戒態勢を崩さない左近と鬼童丸を困ったように眺めて、彼は頭を掻いた。


「え──っと。アンタらが『根』に潜伏中の、元『音隠れ五人衆』?」


悪びれる様子もなくあっけらかんとした物言いで、訊ねてきた水月に、左近と鬼童丸の顔から血の気が引いた。

色白の見知らぬ青年と大きく距離を取る。チャクラを練り始めた二人に、水月は慌てて顔前で手を振った。

「いやいやいや!!ちょ、ちょっと勘違いしてない!?」


水月の意見を聞かず、左近が一気に踏み込む。その後方では、鬼童丸が蜘蛛の糸を硬質化させ、弓矢を構えた。
【呪印】を発動させずとも蜘蛛の糸を弓矢に変化させる事が可能になっているのは、皮肉にも『根』の過酷な修行の効果である。


「敵じゃないって!!」

二人からの攻撃を避け、水月は叫ぶ。
能天気な雰囲気を醸し出しているものの、しっかり回避する相手に、鬼童丸と左近は益々警戒心を高めた。

しかしながら直後、攻撃を仕掛けた彼らは、水月の一言で、ピタッと動きを止める。


「アンタ達、喧嘩っぱやすぎ!カルシウム足りてないんじゃね!?君麻呂を見習ってカルシウム濃度調整しろよ!!」

折しも、昔、香燐が君麻呂に向かって怒鳴った言葉と同じ言葉を水月は言い放つ。
君麻呂の名前に反応した左近と鬼童丸は水月を訝しげに見遣った。


「……てめぇ、君麻呂を知ってるのか?」
「知ってるも何も!アイツ、ナルトにべったりじゃん!!白と毎回、右腕の座巡って争ってるし!」

聊かうんざりした口調で答えた水月に、左近と鬼童丸は顔を見合わせる。
攻撃こそ止めたが、未だ警戒態勢は崩さず、水月から距離を取っていた二人の脳裏に、次の瞬間、声が響いた。



『久しぶりだな、鬼童丸、左近…それに、右近も』

普段は左近の体内で眠っている右近にも挨拶してきたその声の主に、水月・鬼童丸・左近は同時に叫んだ。


『おっそいんだけど!?ナルト!』
『ナルトか!待ち合わせにコイツ寄越したのはお前ぜよ!?』
『ってゆーか、この水ヤロー誰だよ、ボス!?』


【念華微笑の術】で連絡を取ったナルトに向かって、一斉に喚く。
同時に言われ、ナルトの苦笑雑じりの声が三人の脳裏に伝わった。

『一気に言わないでくれ…それと、左近、その呼び方はやめてくれ』


自分をボスと呼ぶ左近を窘めるナルトをよそに、鬼童丸が水月を睨み据える。


『俺達はお前の指示通り、待ち合わせ場所である此処に来たんだぜよ』
『ああ、すまない。俺は少し抜けられない用事があってな。彼に頼んだんだ。顔合わせもさせたかったしな』


ナルトの謝罪に、左近と鬼童丸の警戒心が若干薄れる。
それでもまだ自分に対して警戒態勢は崩さない彼らに、水月は軽く肩を竦めた。


「ボクは鬼灯水月───ナルトのお仲間だよ」

なんとなく白々しいその様子に、左近と鬼童丸は顔を顰める。
しかしながら、脳裏に響くナルトの言葉が、水月が敵ではない事実を明らかにしていた。









左近と鬼童丸は、大蛇丸の命令でうちはサスケを里抜けさせる最中、大蛇丸から逃れ自由の身となる計画を企てていた。

死を偽造しようとしたものの、失敗し、『根』のダンゾウに生け捕りにされてしまう。
もっともナルトが前以って取り引きしていたので身の安全は保障されており、現在は『根』の優秀な手駒としてダンゾウの下、修行させられていた。


ナルトとは度々、【念華微笑の術】という術で連絡を取り合っており、今回、待ち合わせ場所として指示されたこの廃墟に、ダンゾウの眼を盗んで、二人は来たのだ。

しかし、待ち合わせ場所に来たのは、ナルトではなく見知らぬ人間。
左近と鬼童丸が警戒するのも無理はなかった。




一方、水月は再不斬の首切り包丁が目的で、ナルト達と行動を共にしている。

前以って、元・音の五人衆の二人である左近と鬼童丸の事は聞かされていたものの、自分の情報も既に彼らに伝わっていると思っていた為に、水月は聊かナルトを非難した。


『ちょっと!いきなり攻撃されるとか聞いてないんだけど!?なんで顔見知りじゃなくて、ボクを寄越したわけ?』

今回の待ち合わせ場所へナルトに指示されて向かったものの、顔見知りである君麻呂や多由也のほうが適任だったのではないか、と言外に告げると、脳裏で謝罪と共にナルトが説明する。
その説明を聞くうちに、水月の機嫌も徐々に治まってきた。



『───というわけだ。お前が適任だろう、水月?』
『あ──…そういうことね…』

納得した水月が左近と鬼童丸に顔を向ける。
ナルトの説得でようやっと警戒態勢を解いてくれた二人に、水月は本題を切り出す。


現在『根』に潜入している彼らにしか頼めない事。
この廃墟のように人目がない場所ならともかく、流石にダンゾウの眼が光る『根』に水月は潜入出来ない。

だからこそ、今、表向きは『根』に所属という形に納まっている鬼童丸と左近が適任だ。
そして、彼らに与える任務内容から、今回待ち合わせ場所にナルトが水月を向かわせた事も納得できる。



ナルトから得た情報をもとに、早速水月は本題を切り出した。




「ボクが知る限りの情報を教えるから、アンタ達にはダンゾウの許から奪ってきてほしい」
「奪う、だと…?」

怪訝な表情を浮かべる左近と鬼童丸に、水月は言い直した。


「いや、ダンゾウが奪った、というのが正しいか…」
「何の話だ?」

理解が出来ず、眼を瞬かせる二人に、水月は口許に弧を描いた。
特徴的なギザギザの歯が垣間見える。




「霧隠れが唯一所有する双刀『ヒラメカレイ』、そして鮫肌と首切り包丁を除いた───『霧の忍刀七人衆』の忍刀」



己の目的であり、本来の目的を達成する為の重大な要。
その為に水月は、『根』に表向き所属している左近と鬼童丸に協力を仰ぐ。


ナルトの仲間であり、『根』にスパイとして入り込んでいる彼ら二人に。









「ダンゾウの許にある、それら忍刀を盗んできてほしい」


 

 

十二 奪還

 
前書き
お待たせしました!
色々捏造してしまってますし、オリジナル忍術が出てきます!
おかしな箇所や矛盾する点も多々あるでしょうが、眼を瞑ってくださるとありがたいです…!
どうかよろしくお願い致します!!

 

 
「ま~たサソリの旦那に、準備不足だって怒られそうだな…うん」

はたけカカシを蜘蛛型の起爆粘土で、九尾の人柱力と上手く引き離す事はできたものの、粘土の量がもう残り僅かな事に、デイダラは思わず天を仰いだ。
目を瞑り、強がった物言いで呟く。

「しかし、あれこれ考えてチマチマ用意するのは性に合わねえ。どんな状況になろうとも柔軟な発想で対処する。それこそが芸術家としてのセンスを磨くことにも通じるってもんよ」

苦笑を口許に湛えつつ、閉ざしていた眼を開けて眼下を見下ろすと、自分を睨み据える視線の持ち主と目が合った。




九尾の人柱力───波風ナル。

強い眼光でデイダラを見上げている彼女の視線を受けながら、「うーん…どうしよ」と悠長な態度で人柱力を捕まえる算段を探る。

不意に、眼下の相手が動きを見せた。
攻撃ではない。


何事かと視線をやると、何らかの巻物を取り出している。
流れるような仕草でシュッと巻物を開いたナルに、デイダラは眼をパチパチと瞬かせた。
そうして、巻物に描かれた術式に、瞳を細める。


(【口寄せ】の術…?)

眉を顰めるデイダラの前で、ナルが巻物の術式に手を打った。術が発動する。


直後、巻物の上で立ち昇る白煙。
ナルが口寄せした相手に、警戒態勢を取ったデイダラは、思わぬ姿に眼を丸くした。

























ふらり、立ち眩みを起こす。

一瞬意識が朦朧とし、ヒナタは机の端を掴んだ。ぐっと堪える。
踏鞴を踏んだ彼女を見て取って、砂の医療忍者が慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

休み無しでずっと、患者の容態を診ていたヒナタを砂忍が気遣う。


サソリの置き土産であった起爆札の爆風に雑ざっていた毒ガスを吸って、多くの砂の忍びが倒れてしまった。
その件で、ひとり砂隠れの里に残り、治療する為にナル達とは別行動を取っていたヒナタは、疲労感を漂わせながらも気丈に振舞う。

『白眼』を持つ故に、医療忍術に長けているヒナタのおかげで、毒ガスの被害に遭った患者のほとんどが快復に向かっている。
本来ならば、ナルと一緒に、我愛羅奪回を目的とした班員に加わるはずだった彼女を、砂の医療忍者は心配した。


「休憩無しのぶっ通しで治療してくださってるじゃないですか!休息してください!」
「それに、貴女のおかげでほとんどの患者が快復しています。もう大丈夫です!ここは我々に任せて…」

医療忍者に説得され、ヒナタは周囲の患者を見渡した。
確かに顔色も随分良くなっている。このまま安静にしていれば、全快するだろう。


砂の医療忍者たちに説き伏せられたヒナタは、木ノ葉増援部隊が休む為に用意された客室へと向かった。
カンクロウが握っていたサソリの服裾を忍犬に辿らせている間、休ませてもらっていた部屋である。
結局毒ガス騒ぎで、治療室に入り浸りになっていたものの、荷物などを置かせてもらっていたのだ。

チャクラを使い過ぎたので、今の状態でナル達の増援へ向かっても、足手纏いになるだけだ。
それに、カンクロウも我愛羅を奪回する為に、里を出るという。
それに同行させてもらう為、とにかく荷造りをしようと考えたヒナタは、自分達木ノ葉の忍びに宛がわれた部屋の扉を開けた。


「えっ!?」

部屋に入った途端、想像していなかった相手が室内にいるのに気づいて、ヒナタは驚愕する。
我愛羅を奪還する為に、とっくに砂隠れの里から出たはずの彼女の姿をまじまじと眺め、ヒナタはおそるおそる訊ねた。


「な、ナルちゃん…?」

じっと動かず、静かに眼を伏せているナルが部屋の隅で座っている。


窓から入ってきた小鳥が肩に乗っていても、微動だにしない。
ヒナタがそっと近寄ると、小鳥は逃げ出したが、ナルは依然として黙している。


「ナルちゃん、いつからここに…?いのちゃんと一緒に行ったはずじゃ…」

砂隠れの里を襲い、我愛羅を攫った『暁』の一員。
サソリの匂いを辿った忍犬の案内で、はたけカカシ、山中いの、そしてチヨと共に、我愛羅救出に向かったはずである波風ナルが残っている事に、ヒナタは戸惑う。

何も反応しないナルの肩に、おずおず触れようとしたその矢先、白煙が立ち昇る。

「な、ナルちゃん…?」
座禅を組んでいたナルの姿が白煙と共に目の前で掻き消える。
妙な現象だが、思い当った術の名を、ヒナタは口にした。


「……今のは…【影分身】?」




ナル本人ではないような気はしていたので、彼女が得意とする術だとは勘付いたものの、ヒナタは首を傾げる。
何故、影分身をわざわざ一体、砂隠れの里に残していたのか。

動かずに、ただじっと黙しているだけの影分身をつくるにも、チャクラが必要だ。
戦闘において大事なチャクラを何故、影分身に回しているのか。


動揺と疑問が入り雑じりながらも、ヒナタはカンクロウが里を出ようとしているとの知らせを耳にして、慌てて身支度する。
部屋を出る寸前、先ほど白煙と化して消えたナルがいた場所をチラリと見やる。

ナルの残像を掴むように、眼を細めて、ヒナタは心の内でナルに呼びかけた。

(ナルちゃん…今から私も行くからね…!)



ナル・いの・カカシ、チヨ、そして我愛羅の無事を願いながら、ヒナタは砂隠れの里を出発する。
治療で既に疲労困憊しながらも、少しでも力になる為に。





























「【口寄せの術】…!」


白煙が掻き消える。
口寄せした相手────口寄せ動物でもなんでもなく、ナルそのものが巻物の上で座っている光景に、デイダラは呆れた声をあげた。

「おいおい…そりゃ【分身】か【影分身】か?」


デイダラを見据えながら、ナルが【影分身】の術を解く。
軽い破裂音と共に、再び巻物の上で白煙が舞い上がった。

「そんなもん、口寄せしたところで何になる?うん?」

冷笑しながら、デイダラは軽く起爆粘土を投げる。

はたけカカシを足止めしているモノと同じ、蜘蛛型の粘土が跳ねながら、ナルに向かって飛び掛かった。
【影分身】の術を解いたナルの頭上に、蜘蛛が小さな影を落とす。


「チャクラの無駄使いだ…うん!!」

デイダラの合図で、蜘蛛が爆発する。
【口寄せ】や【影分身】を解いた時とは比べ物にならない白煙が立ち昇った。


白煙の向こうを透かし見るように、巨大な鳥の上から俯瞰していたデイダラは、次の瞬間、すぐ横から殺気を感じた。
「……ぐっ!!??」

辛うじて、避けようとしたが、吹き飛ばされる。空中で体勢を整えながら、デイダラは巨鳥に合図をした。
旋回した鳥の背中に上手く着地する。

回避したはずなのに、衝撃を受けた事実にデイダラは顔を顰めた。
未だ立ち込める白煙の向こうから、声が聞こえる。


「無駄じゃないってばよ…!」

白煙が消えていくうちに、見えてくる金の長い髪。
寸前と何も変わらないだろうに、妙な威圧感を感じ取って、デイダラは無意識に身構える。


風に髪をなびかせながら、岩の壁に重力を無視して佇むナルは、不敵な笑みを口許に湛えた。




「我愛羅は返してもらう…!!」




眦に紅の色が一筋。
赤い隈取りを目元にくっきり浮かばせて、ナルは口角を吊り上げた。



















印を素早く結ぶ。直後、岩壁をナルは強く叩いた。


「【土遁・岩壁(がんぺき)十手(じゅって)】…!!」


刹那、岩の壁から巨大な手が伸びてくる。
岩で形作られた手がデイダラの乗る鳥を捕まえようと、迫って来た。


それを回避したところで、背後の岩壁から、別の手が生えてくる。
岩壁と岩壁に挟まれた場所だからこそ、攻撃しにくい場所だと判断したのに、逆にその地形を利用してきたナルの術に、デイダラは舌打ちする。


空中を巨鳥で飛び回りながら、判断を見誤った、とデイダラは己の失態を思い知り、苛立ちを募らせた。


鳥を捕らえようと、周囲の岩壁から生えている手が、掴み損ねて空を掴む。
術を発動させながら、ナルもデイダラと同じく、焦燥感に駆られていた。

時間が無い。


仙人モードになれたところで、まだ持続期間は短いのだ。
今の内に、我愛羅を奪い返さないといけない。

砂隠れの里で、客室として宛がわれた部屋に、ナルは【影分身】を一体残しておいた。
そしてその影分身に、万が一の為に、と仙術チャクラを練らしながら待機させておいたのである。

しかしながら、砂隠れの里を出る直前に【影分身】をつくったので、仙術チャクラはあまり練り込めなかったようだ。
【口寄せ】で呼び寄せた【影分身】を解いたところで、還元された仙術チャクラが大した量ではないことが、己の中に入ってきた時点でナルには把握できた。


(せいぜい、二分…ってところか)

ならば、その間に、我愛羅を無事に奪還しなければならない。
そこで用いたのが、己が修行の内に編み出した術──【土遁・岩壁十手】だ。


岩でできた巨大な手が岩壁から十本出現する。
十本と言っても、捕縛対象を追って、あちこちの岩壁から現れ、素早い動きで手の中へ閉じ込めようとする術だ。

この術は、仙人モードではないと発動しないのだが、こういった地形を利用して敵を捕らえる事が可能であり、障害物が多ければ多いほど、捕縛に向いている。
要するに、現在のように、岩の壁と壁に挟まれた地形だからこそ、活用できる技だ。

仙術チャクラを多く練れば練るほど、十手から百手、そして千手へと徐々に手の数を増やしていく、捕縛専用の術である。



倒すだけならまだしも、デイダラの手中には我愛羅がいる。
彼を無傷のまま安全に取り返すには、一先ず、相手を捕縛するのが優先だと、ナルは考えたのだ。







「チッ…!こんなの想定外だぞ、うん…」

岩壁から生えてくる手を爆弾で吹き飛ばすにも、粘土が足りない。
天高く伸びれば、追い駆けてこないかと思いきや、岩の手が鳥の進行を阻む。
行く手を阻まれ、とにかく回避するしかこの場を凌ぐすべはない。

「まぁ、こんな大技、チャクラ切れですぐ終わ…ッ」

不意に、間近に迫ってきた拳に、デイダラは慌てて顔をめぐらせた。
しかしながら、またもや回避したにもかかわらず、頬に衝撃が奔る。

即座に距離を取ったデイダラは、いつの間にか、岩の手に乗って接近し、殴りかかってきたナルを睨んだ。

(まただ…!かわしたのに、攻撃が当たる…!なんなんだ、うん…!?)



仙人モードであるが故に、周囲の自然エネルギーが術者の体の一部となっている為、攻撃範囲が広がる【蛙組手】。

たとえ相手が躱しても攻撃を当てることが可能である体術だとは知らないデイダラは不可解な現象に、顔を険しくさせる。


妙な術を使うナルを警戒するあまり、背後から迫る石の手を見もせず、鳥が回避した。
刹那、鳥の顔に何かが飛びつく。


はたと見下ろしたその瞬間、デイダラは足場を崩された。

「なに…!?」
「我愛羅は返してもらうって言ったってばよ…────【螺旋丸】!!」



我愛羅を口の中に入れている巨鳥の顔。それを手に入れる為に、鳥の首と胴体の中心で閃光が奔った。
【螺旋丸】を当てられた巨鳥の胴体と首が引きちぎれる。



「くそ…!?」
「ナル…!よくやった!!」



足場であった鳥を失い、空中で体勢を整えていたデイダラの耳に、最も聞きたくなかった声が聞こえてくる。
デイダラの蜘蛛型の起爆粘土を振り切って、ナルの許へ駆けつけたはたけカカシが、額あてを押し上げた。
その眼は赤く渦巻いている。



【万華鏡写輪眼】。


その瞳に確実に捕らえられ、デイダラはぶるりと寒気を覚えた。
嫌な予感がすると同時に、空間が曲がる。
全身がその空間に捉えられ、身体そのものが捻じ曲げられそうな感覚を覚えた。



「とらえた…!!」



瞳にとらえた範囲の空間をべつの空間に転送する脅威の瞳術。
ナルのおかげで確実にピントを合わせる事が出来たカカシの左眼がデイダラを真っ直ぐに見据える。
空中で身動ぎひとつできず、デイダラは冷や汗を掻いた。


逃げられない。



































「仙術か…」


岩の壁から生えていた手がやがて、元の岩壁へ戻っていく。
仙術チャクラが切れたのか、肩で荒く息をしながら波風ナルが【土遁・岩壁十手】の術を解いた。
眦の紅が、スゥ……と消えてゆく。


仙術モードではなくなった波風ナルを遠目から見て取って、ナルトは青の双眸をゆるゆると細めた。


デイダラと、カカシ、そしてナルを遠くから観察していた彼は、指先に止まった蝶に、ふっと吐息をかける。
蝶はひらひら、と甘い香りを残し、ナルトの手から離れて行った。



「手間を増やしてくれるなよ…──デイダラ」

デイダラへの言葉を告げながらも、ナルトの視線はナルに向かっている。



以前と同じく真っ直ぐなナルをじっと見つめるその瞳は、まるで眩しいものを見るかのように優しく細められていた。 
 

 
後書き
仙術や仙人モードに関してあやふやな知識しかなくて申し訳ございません…!!
完全に捏造満載ですが、どうか次回もよろしくお願いします! 

 

十三 操り人形の手綱

空間が歪む。
身体が歪み、捻じ曲げられる。

「…ぐっ」

不可解な現象に、デイダラは身を捩る。空中で体勢を整えるのもままならない。
真下を見下ろすと、はたけカカシの赤く渦巻く瞳と眼があった。


(あいつか…!)

万華鏡写輪眼。
ピントを合わせた部分を中心に目標をピンポイントで転送。
狙いを絞ったデイダラの身体を得体の知れない時空間へ送りつけようとするその術をカカシは発動する。
一度として瞬きしていないのがその証拠だ。


なんとか逃れようとしたものの、完全に狙いを定められている。
自分の身体がみるみるうちに、さながらブラックホールに吸い込まれていくおぞましい感触がして、デイダラは冷や汗を掻く。

一方のカカシも、抵抗してなかなか転送に踏み切れないデイダラに、顔を険しくさせた。


狙いを絞らないといけないので、瞬き一つできやしない。それでもチャクラを込めて眼光に力を注ぐ。

不意に、視界の端で、何かがチラついた。なにやらヒラヒラと舞うその白に、気を逸らされる。
僅かにピントがデイダラからズレた。

「しま…っ」



狙いが外れる。

全身を捉えていたはずのデイダラの腕だけが術でねじ曲がった。
苦悶の表情を浮かべるデイダラだが、無事に身体を歪んだ空間から引き抜く。
腕が取れ、バランスを崩したデイダラの姿が背後の森へ墜ちていく。



「外れた…!」

正確に狙いを定めていたのに、視界端に映った白い蝶に気を取られてしまった。
焦点がズレた事でデイダラの像が一瞬ぼけてしまい、術を発動したものの、腕しか空間転移できなかった。


チッと舌打ちしたカカシは、瞼を閉ざす。
次に眼を開けた時には、赤く渦巻いていた瞳はいつものカカシの眼に戻っていた。

視線を走らせる。術の発動を偶然にも邪魔した白い蝶が、森へと飛んでいく。
デイダラが墜落した森の方角を確認する。


デイダラが墜ちた箇所へ視線を向けたまま、カカシはナルを呼んだ。

「ナル」




しかし、返事がない。


不審に思ったカカシが背後を振り仰げば、ナルは【螺旋丸】で引きちぎったデイダラの巨鳥の頭部を抱えていた。
その背中が小刻みに震えている。


巨大な鳥にくわえられていた我愛羅のだらんとした手足が、カカシの瞳に映った。




「我愛羅…我愛羅…」
「…ナル」
「なにしてんだ、我愛羅…!起きろってばよ!!狸寝入りすんじゃねぇぞ…!」
「ナル」



ナルの悲痛な声を耳にし、カカシは唇を噛み締める。
奪回には成功したものの、既に遅かった事は、理解していた。

わかってはいたが、それでもやはり、親しい者の決別は何度経験しても慣れない。
戦争慣れしているカカシでもそうなのだ。ナルなど、心が引き裂かれるほど辛いだろう。


「ナル…」

肩に手を置こうとしたカカシは、次の瞬間、反射的に飛び退いた。
触れようとした指先が火傷している。


ぞわり、と悪寒がして、カカシはナルを凝視した。



(……おいおい…まさか、)




我愛羅を抱えるナルの瞳は紅い。

寸前までは隈取りのように目元に引かれていた紅色は無く、今はただ、炎のように燃える双眸が赤々とデイダラが墜落した森の方角を見ていた。







「よくも…我愛羅を…ッ!!」
「待て、ナル…!!」


カカシの制止を聞かず、ナルが森のほうへ飛んでいく。
カカシは慌ててナルを追おうとしたが、残された我愛羅を見て取ると、彼の身体を担いだ。
我愛羅を背中に乗せる。


力無いその身体からはやはり生きているとはとても感じられなくて、カカシは間に合わなかった己を責めつつも、ナルの後を追った。
















その一部始終を、物言わぬ蝶がずっと見ていた。

森へと飛んで行った蝶とは別の黒い蝶は、胴体と頭部が別れた巨鳥の上をひらりと舞う。
やがて、デイダラ、そしてナル・カカシに続いて、黒い蝶もまた、森の奥へと向かった。

































「チッ…」

刀を手に迫る傀儡人形。
自分の得物であるにもかかわらず、主であるサソリに襲い掛かる。
かと思えば、チヨが操る【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形の攻撃。


己の傀儡人形が一体、急に指示に刃向かって、サソリ目掛けて刃を振るう。
それを避け、傀儡を壊した次の瞬間には、別の人形がサソリを襲う。

最初はチヨがチャクラ糸を使い、自分の傀儡を奪っているのかと思っていたが、どんなに注意深く観察しても、チャクラ糸は見えない。



それならば、答えはひとつ。




(あの女、か…!)

【白秘技・十機近松の集】の傀儡衆と同じく、チヨにチャクラ糸を結ばれ、操られている本人────山中いの。

チヨがいなければ、自分の攻撃を避けることも出来ない小娘だと侮っていたが、どうやら違うようだ。


(あの女…一体どういう能力で、俺の傀儡を…)




一国を落とした、最大の奥義。
チヨの持つ【白秘技・十機近松の集】の十倍の数をも保持している【赤秘技・百機の操演】。
一瞬で決着をつける為に繰り出した術のはずなのに、思いの外、時間を食っている。


それもこれも、何処から、どの人形が自分に刃向かってくるかわからないという不可解な現象が原因だ。


(…数で圧すつもりが逆に仇となったか…)




どういう力かまだ判明は出来ないが、自分の傀儡人形を乗っ取って操っているのは間違いない。
サソリと同じ傀儡師のチヨが、チャクラ糸を結ばずに傀儡を奪うなんて芸当は流石に持っていないだろう。



(だが、人形を操るにしても、法則性があるはずだ…)

チヨの【白秘技・十機近松の集】と、急に制御が利かなくなる己の傀儡人形を相手にしながらも、サソリは、いのの能力を判明しようとする。

ふと、背後から襲い掛かる自分の傀儡の攻撃を避けたサソリは、すれ違い様に己に刃向かった人形を破壊した。直後、目の前から新たに傀儡人形が迫り来る。
たった今、破壊した人形とは直線上にいた傀儡の攻撃を見て取って、サソリは含み笑った。



(────なるほど)

つまり、人形から人形へと操る対象を変えるこの術の盲点は、直線上でしか使えないという事だ。
今し方、サソリの制御が利かなくなった傀儡が、背後にいた人形から、目の前にいる人形へと、変わったのがその証拠。


ならば、直線上にいる傀儡に気を付ければいい話だ。






「まぁ、その前に、本体をぶっ叩けばいい話だがなっ!!」


そう言うや否や、サソリはいのに向かって、傀儡人形を放った。

一斉に迫り来る人形は尋常な数ではない。
チヨが慌てて、いのを守るべく自分の【白秘技・十機近松の集】の人形を向かわせる。
同時にいのに繋いでいるチャクラ糸を、チヨは操った。


顔を俯かせているいのは、チヨのチャクラ糸に従い、サソリの攻撃をかわす。
だが、サソリはチヨにも己の傀儡人形を襲わせて、いのに注意が向けられないように施す。


自分に襲い掛かる傀儡の猛攻に耐えながら、チヨはいのを呼んだ。

「いの…っ!!」



直線上でしか人形を操ることが出来ないのなら、全方向の違った方角から襲い掛かってくる傀儡には、対処しようがない。
仮に、一体を操ったとして、他の人形はサソリの指示通りに直線上にはいないよう、上手くコントロールする。

もっとも、なんらかの方法でサソリの傀儡の制御を奪う術者────いのを倒せば、それで済む。




「ソォラァ!!」


傀儡が殺到する。
カンクロウを動けなくしたモノと同じ、毒を滴らせた刀を、複数の傀儡がいの目掛けて刺した。



手ごたえは、あった。






「────いのッ!!」

チヨが叫ぶ。
悲痛な声を背景に、サソリはくっと口角を吊り上げた。




刹那。




頭上から風を切る妙な音がして、サソリは反射的にチャクラ糸を操る。
傀儡人形が守るようにサソリの眼前に佇んだかと思うと、直後、破壊された。



「チッ、」

傀儡人形を拳で粉砕した相手から、サソリは距離を取った。
先ほど、自分の傀儡人形を殺到させた場所を振り仰ぐ。



複数の人形に全身を刀で突き刺されている────いのの姿が確かにある。
だが、その瞬間、その場に白煙が舞い上がった。




「【影分身】か…!」
「ご名答。私の親友の得意な術よ」


ただの【分身】とは違って、実体がある【影分身】。
いつの間にか、サソリの操る傀儡人形に変化して、【赤秘技・百機の操演】に紛れ込んでいたいのは、口許に弧を描いた。



「やるな、小娘……」
「アンタもね」


今の一撃でサソリを倒すはずだったいのは、内悔しげにしながらも、拳を前に構えた。



サソリの傀儡人形を次々と操っていたのは、サソリの推測通り、いのである。
山中一族に伝わる秘伝────【心転身の術】を使ったのだ。

相手に自分の精神をぶつけ、相手を乗っ取る術は、強い精神力の持ち主には抵抗されるという欠点がある。
しかしながら、元々、精神がない人形相手なら、話は別だ。

もっともこの術は、以前まではシカマルに相手の動きを止めてもらった上で、使っていた。
しかしながら、修行の成果で、対象が動いていても身体を乗っ取る事が可能となったのだ。
ただし、精神をぶつけて身体を乗っ取る事が出来るのは、現状では直線上の相手のみ、という欠点がある。そして、相手の身体を乗っ取っている際、自分の身体が無防備になってしまうのも変わらないままだ。


よって、その間、無防備になってしまう己の身体はチヨに操ってもらい、いの自身の精神はサソリの傀儡人形を乗っ取っていたのである。
サソリに破壊される間際に、他の人形へと精神を飛ばし、そしてまた、サソリに攻撃を繰り出す。



そうすれば、おのずとサソリの傀儡の数は減るに加え、サソリの得物を奪うことも出来る。
傀儡師のチヨがいるからこそ、出来る作戦だ。




「どうやら、俺の傀儡を操っていたのはお前のようだな」

(流石ね…この術のカラクリに気づいたか)



サソリの発言に、いのは表情にこそ動揺を露わにしなかったが、内心、感嘆する。


自分が術を使って傀儡の制御を奪っていると、サソリが気づいたらしいのを見て取って、いのは一度、本体に戻ると、秘かに影分身をつくったのだ。
そして、いの自身はサソリの傀儡人形に変化したのである。


中忍試験の予選試合で、波風ナルが使用した作戦。
赤丸にすかさず変化し、キバを騙して勝利へと繋がった親友からヒントを得て、いのは影分身を自分と見せかける。

もっとも、『木ノ葉崩し』において、カンクロウと闘った犬塚キバも同じような方法を使っているとは、流石にいのも知る由は無かった。





(だけど、チャクラの消耗が激しいから、【影分身】はこれっきりね…)

【影分身の術】は、分身体の数だけ本体のチャクラも等分される為に、チャクラの少ない者が使えば、消耗も大きい。それなのに、【多重影分身】で何人もの影分身を生み出すナルに、改めていのは感心していた。




戦闘態勢のいのをじっと見ていたサソリは、不意に【赤秘技・百機の操演】の術を解いた。
百体よりは随分数は減ったものの、それでもまだ残っていた傀儡人形が掻き消える。

傀儡師の武器である人形を急に巻物へ仕舞い込んだサソリに、いのは怪訝な表情を浮かべた。



「…どういうつもり?」
「なぁに。これ以上、俺のコレクションの数を減らしたくないだけだ」


いのに操られ、襲い掛かってきた自分の傀儡をサソリ自身も破壊していた為、せっかく百体揃っていた【赤秘技・百機の操演】が、名の通り、百機では無くなっている。

このまま、戦闘を続けていても、数は減るばかり。
それならば。






「暁に入った時のいざこざ以来だ。いつだったかなぁ~…」


黒衣のボタンに指をおもむろにかける。
徐々に露わになるサソリの身体を前にして、いのと、そしてチヨの眼が大きく見開かれる。



「ああそうだ。坊に完膚なきまでに破壊された時、だったか…」


無謀にもナルトに戦いを挑んだ挙句、一瞬で粉砕されてしまった昔の出来事を思い出しながら、サソリは皮肉げに自嘲の笑みを零した。



己の全身を纏っていた、暁の外套。
黒衣が、するり、と地面に滑り落ちる。

それを脱ぎ去ったサソリの身体を眼にして、チヨは愕然とした表情を浮かべた。
直後、顔を顰める。

「……変わらんはずじゃ…」




背中から、シャキン、と刃物が飛び出す。
腹部から伸びるワイヤー。先端を地面に突き刺すと、所々から毒が滴り落ちてゆく。



自らを傀儡化したサソリは、己の腹から伸びるワイヤーに足をかけると、生気の無い冷ややかな瞳で、いのとチヨを見下した。







「なんにせよ久方ぶりだ…────自分を使うのはな」 
 

 
後書き
大変お待たせしました…!

いのの力、こういう戦闘なら、上手く活用できるのではないかと…。
ただし、捏造多数なので、もし間違っていても眼を瞑ってください。ご了承願います。 

 

十四 しずめゆく者

 
前書き
ギリギリ更新、申し訳ありません~!!
いい加減、風影奪回編終わらせたいので、ささっと駆け足で書いちゃってます。
場面もコロコロ変わるので読みにくいかもしれませんが、ご容赦ください!
どうかよろしくお願いします!


 

 
熱いあついアツイアツい…。
腹の奥で溶岩が煮え滾っている。

殺意・憎しみ・怒り・悲しみ…様々な負の感情が熱を以って、ナルの身体を蝕む。
へそのあたりがどろりと溶けて、真黒い闇が顔を覗かせる。


閑散とした回廊。
熱く燃えたぎっている空間で、彼女は仰向けに横たわっていた。

ぽこりぽこりと、耳元で弾ける水泡。床一面を満たす水が熱を伴い、やがて蒸発していく。

しかしながら一向に空間には水が減らない。
否、一見、水に見えるが、どろりと粘着性のある汚泥のようなモノが彼女の全身を沈ませていく。


それは殺意と憎悪を多分に含んだ負の感情。

感情に流され理性が沈むゆくのを感じながら、ナルは瞼を閉ざした。
目の前に広がる巨大な鉄格子の向こうから、自分を呼ぶ強大な存在から眼を逸らして。


負の感情に、身を委ねた。




















「…風影を餌に、人柱力を誘き出すってアイディアまでは良かったんだけどなぁ…うん」

紅い雲模様の衣を纏うデイダラは、茂みに隠れながら(さながら、人柱力が纏ってるチャクラは九尾の衣か…)と息を顰めた。


ぽこり、ぽこり。
人柱力から迸る殺気とチャクラ。

眼に見えるほどの凶悪な九尾のチャクラに、デイダラは軽く口笛を吹く。面白いモンが見られたな、と眼を細めると、彼はそのまま視線を落とした。




失った両腕の代わりに、パタパタとはためく『暁』の外套。

風影であり一尾の人柱力である我愛羅の攻撃で片腕を失い、今しがた、はたけカカシの瞳術でもう片一本持っていかれた。
だが、腕だけで済んだのは僥倖だろう。全身を持って行かれても仕方のない状況だったのだ。

あの時、視界の端で飛んでいた蝶が今も、九尾の人柱力の傍で舞っている。意外にも九尾チャクラで燃えない蝶を何の気もなく眺めながら、デイダラは茂みの奥に身を潜めた。



「やっぱり最大の誤算は、あの写輪眼のカカシを振り払えなかった事だな…、うん」


おそらく九尾の人柱力だけでは、自分が追い詰められる現在の状況にはならなかっただろう。猪突猛進タイプの行動は読めやすいからだ。もっとも、急に力を増し、妙な技で自分を翻弄した点は評価に値する。

一気に獣染みている今と違い、あの時は目尻に紅色があった気がするが、錯覚だろうか。
とにかくも、我愛羅を奪われ、死んでいる彼を見て九尾の人柱力が激昂しているこの現状をどうにか突破しなければならない。





「これまでか…」

九尾のチャクラを身に纏うナルが視線を周囲に奔らせている。自分を捜しているのだ、とデイダラは察した。

もっとも幸いな事に、九尾の人柱力は我を忘れている。
追い駆けてきたカカシも、辺りの木々をなぎ倒しているナルを正気に戻すので手一杯。
逃げるチャンスはある。











「近い内にまた相手してやるよ…うん」
「そう言わず、今、相手してもらおうか!!」



背後から聞こえてきた声に、デイダラは反射的に地を蹴った。寸前まで自分がいた茂みを見やると、スッパリ綺麗に切り揃えられている。


足裏にチャクラを定着させ、大木の幹上で横立ちになって見下ろすと、大きな扇を掲げたくノ一の姿があった。彼女の後ろには、妙な瞳をした黒髪のくノ一がいる。
彼女は、デイダラがいる方向を寸分違わず、真っ直ぐに見つめていた。




(あの眼…!)

写輪眼と並び、木ノ葉に伝わる【白眼】。
その眼を使い、死角から接近してきた二人のくノ一を、デイダラは内心、感嘆しながら口許に弧を描く。


両腕を失っても猶、不敵な笑みを浮かべるデイダラに、ヒナタは一瞬怯んだ。
だが、ヒナタの先導でこの場に辿り着いたテマリは、むしろ果敢として扇を更に広げてみせる。




「その紅い雲模様…お前が我愛羅を攫った『暁』か」


デイダラの外套をちらりと見遣って、テマリは扇を握る手に力を入れた。







つい先ほどまで、風影の不在が公になれば、他の里が攻めてくる可能性もあるという、里を第一に考える上層部の決定で、彼女は国境警備を余儀なくされていた。

バキの口添えやカンクロウのおかげで、我愛羅を追っても良い事に決まった途端、テマリは砂隠れの里を我先にと飛び出したのだ。

連れ去られた我愛羅、そしてサソリと応戦し、負傷したカンクロウ。
姉としてどうしても許せなかった。


ひとり、深追いしようとしていたテマリは、誰かに呼び止められ、ようやく足を止める。
その相手こそ、ナルといの達に一刻も早く合流しようとしていたヒナタだったのだ。

彼女の【白眼】でデイダラがいる場所を特定し、現在ようやく、テマリは弟達の仇と相まみえる事が出来たのである。



扇を振り翳し、テマリはデイダラを強い眼差しで、しかしながら油断なく睨み据えた。








「我愛羅を……──弟を返してもらおう…っ!!」





































熱いあついアツイアツい…。
殺意・憎しみ・怒り・悲しみ…様々な負の感情が汚泥となって、ナルの身体を蝕む。


《おい…お前、》

鉄格子の合間からナルを呼んでいた九尾は、ハッ、と鼻をうごめかした。


かつて会った、そして会いたくなかった相手が、ナルの身体を引っ張り上げている。


汚泥からずるり、と彼女の身を救った相手を、九尾は剣呑な眼つきで見据えた。


《貴様……》
「久しぶりだね、九喇嘛」




ナルの身を沈ませようとしていた汚泥が、彼が足を打ち鳴らすと、澄んだ水へと忽ち変わっていく。
熱気に溢れていた回廊も、清浄な空気が吹き抜け、いつもと同じ、静けさが戻ってくる。


唯一、いつもと違うのは、この場にはいないはずの存在がいるという事だった。


《小僧…ソイツに何をした?》
「変わったねぇ、九喇嘛」


ぐったりとしているナルの身を案じているらしい九尾に、ナルトは微笑ましげに微笑する。

まだ九尾チャクラに翻弄され、理性を失う事もあるけれど、意外と人柱力と尾獣の関係は概ね良好な関係らしい。
心配していない風情を装ってはいるものの、ナルを気にしている様子を見て取って、ナルトはゆるゆると双眸を細めた。



ナルが九尾チャクラを纏ったと理解した瞬間、ナルトは己のチャクラを蝶へ宿した。そうして、九尾チャクラと蝶が接触するや否や、自分のチャクラがナルに注ぎ込むように施したのだ。
彼女を落ち着かせる為、内部からの精神安定を試みたのである。





「ナルを…これからもよろしく頼むよ──九喇嘛」



見事、落ち着かせたナルの髪を撫でる。自分と同じ、だけどナルトよりずっと長い金色の髪がさらさらと指の間をすり抜けていく。

額に汗でへばりついた前髪を掻きあげて、「もう…大丈夫だよ」と彼は囁いた。

その優しく穏やかな眼差しは、確かに、兄のものだった。







そうして、次の瞬間には、九尾の前からも、そしてナルの前からも、ナルトの姿は消えていた。








































ぽこり、ぽこり。
ナルから迸る殺気とチャクラ。

髪留めが燃え尽き、二つに結わえられていた長い金の髪が風に靡いている。


眼に見えるほどの凶悪な九尾のチャクラに、カカシは冷や汗をつう…と流した。

(自来也様…恨みますよ)

風影奪還の任務ですぐさま木ノ葉隠れの里を出発した為、カカシは自来也からナルの近況について、何も聞いていなかった。ましてや、九尾チャクラが漏れた時の対処法など。



写輪眼を使った手前、既にチャクラは残り少ない。この状況で、九尾の封印が解けてしまったらとても太刀打ちできない。
おぶっていた我愛羅を木の幹に横たわらせ、九尾チャクラを纏わせるナルを見つめながらカカシは思案する。ふと、何処からか視線を感じた。おそらく、デイダラだろう。

しかし、今はデイダラどころではない。目の前のナルをどうにか正気に戻すのが先決だ。
そう思っていた矢先、彼女が急に立ち止まる。寸前までの殺気が一気に消え失せ、纏わせていた九尾チャクラも、徐々に消えていく。

九尾の尻尾のようなモノも掻き消えたかと思うと、ふらり、ナルの身体が揺れる。
倒れる寸前に、カカシは彼女を抱きとめた。




「ナル、しっかりしろ!」

気絶しているだけだとはわかる。だが、眼を覚まさない彼女が息をしているかどうかをカカシは確認した。
規則正しい息遣いを感じて、ホッと胸を撫で下ろす。



不可解な現象に訝しげにしながらも、カカシは安堵感のあまり、大きく嘆息したのだった。






































「あやつは…わしの手元を離れた時から、昔のまま……歳を取っておらん」


チヨの言葉を耳にしながら、いのは愕然と視線を往復させる。

腕と足は人間と同じと言っても過言では無いほどの精巧なつくりであり、人と見間違えるのは当然と言えた。
だが、腹部から伸びるワイヤーと、背中の刃物が人と同じつくりをしていない事実を露わにしている。


「その理由が目の前のアレじゃ」

苦々しげに呟くチヨの視線を受けて、サソリはかくんと首を傾げた。瞬きひとつしない、怖ろしいほど整った顔立ちが逆に恐怖を煽る。

自らを人傀儡にしたサソリは、立ち竦んだまま動かないチヨといのを交互に見やって、眉を顰めた。


「どうした?来ないのか?」


紅い雲模様の衣が足元に滑り落ちる。
『暁』の外套の近くで、全身の武器に仕込ませている毒が滴る。洞窟で反響する音が開戦の続行を宣誓した。



「ならば、こちらから行くぞ」

両腕を掲げる。関節の音と相違ない音を鳴らして、手のひらから噴射口が現れる。


【赤秘技・放炎海】。
高温の熱が岩を溶かす。サソリの両腕から発射された炎は洞窟内の壁さえ溶かし、外の光が射し込んでくる。



あたりが炎の海へと化していく。サソリに近づけもしない。
チヨの傀儡人形である【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形がサソリになんとか接近しようとしたが、そのほとんどは近づく前に消し炭にされた。



見事な身のこなしで、いのとチヨはサソリの攻撃を避け続ける。
炎が一瞬途切れたのを見計らって、いのがクナイを投げた。
クナイは高熱にすぐさま、傀儡人形同様に、炭と化す。

(これじゃ、迂闊に近づけない…!)



逃げ場を徐々に失っていく二人。
岩壁に身を潜めながら、いのはチヨを捜した。いのと同じく、岩壁に隠れていたチヨが目配せする。その視線を受け取って、いのは大きく頷くと、手裏剣を取り出した。

再び投擲された手裏剣を見て、サソリは冷笑する。


「何度やっても同じことだ!」



手裏剣が高熱の炎でジュっと焼けていく。だが一枚の手裏剣が溶けていくのを目の当たりにしていたサソリの背中に影が落ちた。


「チッ、ばばあ…!!」

後ろから迫り来る【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形。手裏剣で誘導し、背後からの攻撃を仕掛けたチヨが指を動かす。

手のひらの噴射口から炎を発しているサソリは、背中ががら空きだ。そこを狙う。


チヨの指の動きに倣って、傀儡人形が一斉にサソリの背中目掛けて、一斉に襲い掛かった。振り向く暇すら与えず、傀儡人形の影がサソリを覆う。影の中、サソリの指がピクリ、動いた。



「忘れてねぇか、チヨ婆…俺は傀儡師だぜ?」


先ほど脱いだ『暁』の外套。その衣がふわり、舞い上がる。
潜ませていた巻物が空を舞ったかと思うと、白煙が立ち昇った。





「懐かしい顔に会わせてやるよ、チヨ婆」

振り返る素振りすらせず、チャクラ糸で巻物を外套から取り出したサソリは、うっそりと眼を細めた。



瞬間、【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形が急に動かなくなる。
関節がギギギ…と唸り、動きが鈍っているのを見て取って、チヨは己の指に巻き付けてあるチャクラ糸を訝しげに見下ろした。しっかり結わえられているチャクラ糸を確認する。


直後、視線をサソリに戻したチヨは、言葉を失った。
愕然として立ち竦むチヨに、いのが駆け寄る。咄嗟に、チヨを庇ったいのは、サソリの傍に見知らぬ人形が浮かんでいるのを視界の端で捉えた。




「【砂鉄時雨】!!」


ぶわり。
虫のような微小な粒状がサソリの周りで浮かんだかと思うと、一斉に飛び散った。それらはチヨの傀儡人形を正確に狙い撃つ。


散弾の如く、降り注いだ時雨。
雨が止んだ頃には、サソリの足元には、チヨの傀儡人形の残骸があった。





【白秘技・十機近松の集】を一瞬で全滅させたサソリを、チヨは苦々しげに睨み据える。


十年以上も前、消息不明となっていた三代目風影。
八方手を尽くしたが見つからなかった砂隠れの里長が、今、目の前にいる。


サソリの人傀儡として。






傀儡化した己自身、更に傀儡師として人形を操っているサソリは「これで二対二だな…」と空々しくチヨといのに視線を交互に向けた。



「どうした、チヨ婆さま?感激のあまり、声も出ないか?」


【白秘技・十機近松の集】の残骸を踏みしめる。
己のお気に入りの傀儡を披露してみせたサソリは、冷ややかな笑みを口許に湛えた。









「とっておきを見せてやるんだ────とくと御覧じろ」

 

 

十五 始まりの傀儡


──三代目風影。


かつて歴代最強と謳われた彼は、突如、砂隠れの里から姿を消した。
里の者達は八方手を尽くして必死に捜索したが、とうとう見つからず。

しかしながら、あれほど強い風影が死ぬはずはないと、砂忍の暗部には秘かに調査を続けさせていた。




その風影がまさか、サソリの手に墜ち、人傀儡として再会するとは。

サソリの祖母であるチヨは、思いも寄らなかった。













「どうだ?懐かしい顔だろう?」
「サソリ…お前が、」

風影を殺して己のコレクションに加えた実の孫を、チヨは憤怒の形相で睨み据える。



「なんだ、その顔は?隠居した婆が三代目の敵討ちでもするってのか?」

祖母の険しい表情を見やり、サソリはハッ、と鼻で嗤った。


「──ご苦労なこった」




整った顔立ちに浮かべる冷笑。
なまじ顔が綺麗なだけ、サソリの冷ややかな笑みに、いのは背筋を凍らせる。
顔を引き攣らせる彼女の隣で、久方ぶりの三代目風影を目の当たりにして驚きつつも、チヨは平然たる表情で口を開いた。


「隠居の身でもわざわざ重い腰を上げてみるもんじゃわい。新たな事実の発覚がこのような形で得られようとは思いも寄らなんだ。我が孫が悪党に身を堕とすだけならまだしも、里を裏切り、三度までも風影に手をかけようとは…」



一度は三代目風影。
二度は四代目風影。
そして、五代目風影である我愛羅。


我愛羅の父──四代目風影を殺したのは大蛇丸だが、それを手引きしたのはサソリだと語るチヨ。
その話に、サソリは不服げに「おいおい」と片眉を吊り上げた。


「四代目ってのは俺は知らねぇぜ?手引きは俺の部下がやったものだ」
「ならばお前がやったも同然じゃろう。部下の監督不行き届きは、サソリ…お前に責任がある」
「勝手に濡れ衣を着せるんじゃねぇよ。俺は自分の尻拭いも出来ねぇようなヤツは部下になんざしねぇ。大体、今のアイツは大蛇丸の部下だ。ってことは大蛇丸が責任取るのが筋ってもんだろーが」


ハッ、と吐き捨てたサソリに、チヨはなにか言いたげに口を開いたが、結局言葉を発さずに噤んだ。もはやかける言葉も見つからないのか、黙り込んだチヨを流し目で見遣ってから、サソリはふ、と口許に笑みを湛える。


「まぁ俺の部下が手引きしたと調べたところまでは褒めてやる。確か──『木ノ葉崩し』だったか?大蛇丸の野郎も、なかなかやるな」


その発言に、いのがピクリと反応する。

木ノ葉の里に多大な被害を与えた、木ノ葉の忍びにとっては悲劇に他ならない事件。
それを愉快げに語るサソリを、いのは激しく睨み据えた。


「…アンタは絶対捕まえて、大蛇丸のことを吐かせてやる…!」




いのの決意を込めた強い眼光を、サソリは柳に風と受け流す。
そうして、涼しい顔で「そろそろ、お喋りはお仕舞いにしようぜ」と軽く首を捻らせた。紅い髪がさらっと靡く。




「さて、やるか」


瞬間、三代目風影がいのに迫る。
生気のない瞳が、獲物を捉えた。チヨが咄嗟に指をくゆらせる。
感情の無い真顔で、サソリはひゅうっと口笛を吹いた。


「やるなァ、ばばあ」


残骸と化したはずの【白秘技・十機近松の集】。寸前破壊されたばかりの己の傀儡人形を防御壁に利用する。


いのを守ったチヨに賛辞を送ったサソリは、そのまま流れるように手首を軽く振る。指先のチャクラ糸が十字を切った。
すると、三代目風影の腕のカラクリがひとつ、ひとつ、開いていく。腕に仕込まれた札が露わになったのを一目見るなり、チヨは慌てて、いのに繋げたチャクラ糸を引き戻した。


「おせぇよ!!」



サソリの指の動きに従い、開放された札から数多の腕が出現する。
三代目風影の傀儡の腕から、同じような腕が何本も何本も重なって、束になっていく。

傀儡の腕に仕込まれたその手の数は、およそ千。



【千手操武】の名の通り、数多の腕がいのに向かって伸びてくる。束になっているそれはもはや、巨大な大木の幹のようだ。

しかしながら、やはり先端は、手の指が密集していた。チヨが咄嗟にチャクラ糸を操る。
重圧感を放つ大木の如き腕が真上から襲い掛かってくるのを、いのは見た。






「──いのっ」

地面に突き刺さる勢いで殺到する。土煙を濛々とあげるその先に向かって、チヨは叫んだ。
まともに、千本もの腕の猛攻を受けたいのは、黒煙の中、姿が見えない。
いのの身体を操るチャクラ糸を構えたまま、チヨは眼を凝らす。


煙が晴れていくにつれ、全貌になっていくのは、千本の腕で形作られた檻。

地面に深々と突き刺さっているその腕に阻まれて、いのの姿は見えない。
腕の檻に閉じ込められたいのの安否を、チヨは気にする。
その一方で、三代目風影を操り、【千手操武】を披露したサソリは、ぴくりと指を小刻みに揺らした。舌打ちする。




(──仕損じたか。運の良い小娘だ)

傀儡人形の反応から、獲物はまだ死んでいない。
指の感触だけで、いのの無事を確認したサソリは眉を顰める。

同様に、いのに結び付けたチャクラ糸から、チヨも彼女の生存を確かめた。
ほっと息をつく間もなく、サソリの次なる一手に警戒する。




サソリが小指を軽く折った。先手を打たれる前に回収せんと、チヨはチャクラ糸を引っ張り上げる。
チヨの指の動きに従って、千本もの腕の攻撃を上手く回避できたいのが、檻から抜け出た。


いのの姿がサソリとチヨの間で、空を舞う。しかしながら、チヨに回収される前に、サソリは既に次の一手を打っていた。




腕の檻。その内の一本から仕込まれた何かが噴出される。

それは毒々しい色を孕んだ煙。


サソリの身体に、そして三代目風影の傀儡にも仕込まれているモノと同じ色を帯びたソレは、檻から逃げ出した獲物を追うように迫りくる。


「毒か…!!いの!!」


逸早く毒煙だと気づいたチヨが叫ぶ。チヨの指示に従い、いのは息を止めた。
濛々と立ち込める紫紺の煙はたちまち、いのの身体を包み込む。




「毒煙なら、動きは関係ねぇぜ?」


どんなに運動神経が良くても、煙という気体なら逃げられようがない。回避不可能だ、と言外に冷笑するサソリを苦々しげに睨んだチヨは、即座にチャクラ糸を引っ張る。毒煙から引っ張り出そうとしているのを見て取ったサソリは、「させるか」と開いていた手を軽く握った。

すると、千本もの腕で形成された檻から、今度は別の噴射口が出現する。新たな噴射口から飛んできたソレを、チヨは直観で弾き返した。



「ほお…?」

自分の元へくるくると回転しながら飛来してきたソレを、サソリは軽く首をめぐらすことでかわした。

背後に落ちた、ロープつきクナイ。それを巻きつかせる事で、いのを毒煙の中に留めさせようと考えていたサソリは、思惑が外れた事に、逆に感心めいた表情を浮かべた。



「かわすと思っていたが、なかなかどうして……勘が良いじゃねぇか、チヨ婆」


チャクラ糸を手繰り寄せ、いのを無事に毒煙の包囲網から脱出させたチヨを称賛する。
そのままいのがチヨの元へ戻るその前に、サソリはひそやかに双眸を細めた。



「だが、忘れてねぇか…?」



刹那、背後から風を切る音がして、いのは反射的に身を捻らせた。激しい痛みが肩を掠めていく。





「あぐ…ッ」
「いの!!」


毒煙を抜けて、チヨのほうへ戻ろうとしていたいのの身体が、ガクリと崩れる。
肩を押さえるいのを目にして、チヨの顔が青褪めた。



いのの肩。押さえている手からも、どんどん液体が溢れ出る。
それは、血だけでなく──。





「俺は傀儡師であると同時に、」


紫色の毒を滴らせたワイヤーを腹部から伸ばしたサソリが、双眸をゆるゆると細めた。








「俺自身も傀儡なんだぜ?」

































































「チッ…!ちょこまかと…っ」


巨大な扇を翻す。


扇の動きを見て取って、デイダラは素早く幹を蹴った。途端、寸前まで自分が立っていた大木が、ずずん…と地を揺らして倒れゆく。
スパッと綺麗な切り口を残して切り刻む烈風に、デイダラは眉間に皺を寄せた。



(このままじゃ、隠れる場所が無くなんぜ…うん)


森中の木々を全て切り落とす勢いの風を操るテマリ。
攫った人柱力である我愛羅と同じ砂忍らしい彼女の攻撃に、デイダラは辟易していた。そのまま視線を、テマリの隣の存在へ移行させる。


(まぁその前に…あの眼の前じゃ、隠れようにも隠れられないんだがな…うん)

写輪眼と並び、木ノ葉に伝わる【白眼】。
どんなに隠れようと身を潜めようと、この眼の前では全てを看破される。



「さて、どうすっか…」

風の猛攻をのらりくらりとかわしながら、頭を悩ますデイダラの傍を何かが通る。
我愛羅とカカシによって失った両腕の代わりに、ひらひらと風にたなびく『暁』の外套。

黒衣に映えるその白に眼を留めて、デイダラはハッ、と辺りを見渡す。





ひらひらと、自身を先導するかのような蝶。

どこかで見たことのあるその白に、デイダラは視線を周囲に這わせた。


(……近くにいんのか…?───ナル坊)































ぽたり。


ぽたり、と血が滴り落ちる。
暗紅色と紫紺色が雑ざり合い、黒々とした赤紫色の液体が、度重なる戦闘で罅割れている地面に滴下した。



三代目風影を正面から襲わせ、傀儡化した自身のワイヤーで後方から攻撃する。
己自身と傀儡人形を同時に使ったサソリは、いのに駆け寄ったチヨを冷酷に見下ろした。


いのの肩口から溢れる血と紫紺色の毒。

眼を見張るチヨに、サソリは冷酷に真実を告げる。



「もう気づいていると思うが…このワイヤーにも毒が塗り込ませている」


カンクロウを戦闘不能に陥らせた毒。

それを己の腹部から伸びるワイヤーにも、そして背中の刃物にも、それどころか全身の武器に仕込ませているサソリは、間髪を容れずに指を動かす。

鍵盤を滑らかに躍らせるかのような指の動き。その動きに従い、三代目風影が身体の向きを変えた。



「毒煙を回避したつもりだったろうが、残念だったな…小娘はもう動けまい。あとは婆…てめぇだ」


俺の毒を喰らったヤツの末路は知っているだろう?と、サソリは冷ややかな眼差しでチヨを見下ろす。



じわじわと身体の自由を奪い、やがて死に至らせる猛毒。すぐに身体が痺れて動けなくなり、僅か三日の命という瀕死状態になる。

たとえ、掠り傷ひとつでも、毒を染み込ませたワイヤーの攻撃を肩に受けたのなら、いのはもう戦闘員ではない。
動けないまま、傀儡師同士の戦闘を見るくらいしか出来やしない。



毒の強さをよく知っているサソリは、もはやいのなど眼中に無かったが、やがて、苦しげに呻きながらも必死な声が耳に入ってきて、顔を顰めた。



「……さっきも…言ったけど…っ!」


毒が廻ってきているのか、足が痺れる。けれどもなんとか立ち上がろうとするいのは、霞む視界の向こうにいるサソリを睨み据えた。


「お、…大蛇丸のことで、き、きかなきゃいけないことが山ほどある…!だから、アンタは…絶対…っ、」



かつて、『暁』でパートナーだった大蛇丸のことを話したサソリは、うんざりとした表情でいのをチラッと見やった。
そのまま続けて啖呵を切ろうとする彼女を無視し、指をくいっと動かす。




三代目風影の腕に仕込まれていた数十本のクナイ。
それらが一斉に、いのに向かって投擲される。


迫り来る刃物に、いのは咄嗟に反応できなかった。
否、もはや身体が毒で、指一本、動くことすらままならなかった。



ギュッと眼を瞑る彼女の耳元で、刃物が風を切る音が響いた。




























「女が喋ってる時は、男は静かに聞いてやるもんじゃ。わしはそう、お前に教えたはずじゃったがのう」
「ふん…そんな遠い昔のこと、とっくに忘れちまったよ」


二つの巻物を手にするチヨ。自分を庇った二体の人形の背中を、いのは見上げた。
チヨの巻物から出現し、そしてチャクラ糸の繋がれているその二体は傀儡には変わりないはずなのに、どこか懐かしい感じがした。


そう──木ノ葉の里にいるであろう、自分の父と母。


両親を思い浮かべるような背中だと、眼を瞬かせるいのを、チヨは下がらせる。
二体の傀儡人形を眼にして、サソリは「ああ…」と気のない声をあげた。



「それか…」
「憶えておったか…」
「一応、作った人形には思い入れがあるんでね」

軽く肩を竦めるサソリ。
はぐらかすようなその物言いに、彼の心の内を見定めようと、チヨは瞳を細めた。

「そうじゃ…」

項垂れる二体の傀儡を通して、実の孫の真意を探る。






「お前が作った最初の傀儡──」


項垂れていた赤い髪の人形が顔を上げる。その髪の色は、サソリの髪とよく似ていた。


「『父』と──」


項垂れていた長い髪の人形が顔を上げる。その美しい面差しは、サソリの整った顔立ちによく似ていた。



「──『母』じゃ」









待ちわびていた存在を前にしながらも、興味のない風情を装う。
無関心な態度をわざと取るサソリに対し、チヨはむしろ彼が憶えている事に、驚愕の表情を浮かべた。




「俺の作った傀儡で、俺の傀儡と殺しあおうってか?くだらねぇ」


吐き捨てる言葉とは裏腹に、かつて己が拙いながら必死で作り上げた人形を、サソリは静かに見つめる。
















その瞳には、人知れず、懐古の色が確かに宿っていた。
 
 

 
後書き


大変お待たせしました~!!

いのが足手まといな感じに見えるかもしれませんが、これからですので、ご容赦ください!
原作沿いですので、原作の流れですが、微妙に違う展開になっていきますので、どうかこれからもよろしくお願いします~!! 

 

十六 蹉跌をきたす

 
前書き
お待たせしました!
捏造多数です。矛盾する箇所もあると思いますが、眼を瞑ってくださるとありがたいです。
どうかご了承お願いします!


 

 
白い蝶。

ヒラヒラと花びらのように舞う蝶に導かれて、デイダラは木を蹴る。


追い駆けてくる追っ手。砂忍のくノ一と木ノ葉のくノ一に注意しつつ、彼は白い蝶の行方を眼で追った。

「おっ」


視線の先で捉えたソレに、デイダラは歓喜の声を上げる。

起爆粘土の巨鳥の頭。我愛羅を咥えていた鳥の残骸だ。

ナルに引き裂かれた鳥の一部。風影を助ける為に手で掘ったらしく、あちこちに飛び散っている粘土を眼にして「荒っぽく掘ってくれたな、うん」とデイダラは苦笑した。

「────だが、好都合だ」


上手く小さな塊が散乱している光景。木に飛び移ったデイダラは粘土を口に咥えると、軽く咀嚼する。
ぷっと吹き出すと、先導してくれた蝶とそっくりの姿をした起爆粘土がひらひらと空を舞い始めた。

両腕があればもっと早く蝶型の爆弾をつくれるのだが、とデイダラは腕のない我が身を見下ろした。

片腕は我愛羅に、もう片腕ははたけカカシによって失なったものだ。

もっとも既に小さな塊が散乱しているので、粘土を千切る必要性はない。皮肉にも、我愛羅を助けようとしたナルの行いが、両腕のないデイダラに攻撃手段を与えてしまったのである。

その上、カカシは現在、暴走したらしい九尾の人柱力のほうにいる。逃げるなら、今がチャンスだ。


「感謝するぜ…九尾の人柱力」





鬱蒼とした森の中。木立の合間を駆け抜けていた木ノ葉のくノ一…ヒナタは、ハッ、と目線を上方へ向けた。

「見つけました…!」


【白眼】でデイダラの足取りを追う。ヒナタの導きでデイダラを追っていたテマリは、扇を構えたまま、彼女の視線の先を追った。


木の上。そこで『暁』の衣をなびかせているデイダラの姿を激しく睨み据える。

攻撃しようと扇を振りかぶったテマリは、ヒナタの「テマリさん…!」と注意を呼び掛ける声に、ハッ、と周囲を見渡した。


いつの間にか、数多の蝶に取り囲まれている。


白い蝶の群れ。
ひらひらと飛び交う蝶型の爆弾の中心で、デイダラは口角をくっと吊り上げた。




「綺麗だろ?こうすりゃ、もっと芸術になるぜ…うん!!」




刹那、緑一色の森に白煙が立ち昇った。



































もはや洞窟とは言えぬ空間。
そこでは、刃物と刃物がかちあう音が響き渡っていた。


チヨの人形────【父】が手にする刀が、三代目風影の繰り出す歯車と拮抗し、ガチガチと甲高い音を打ち鳴らす。
【母】が振るう茨の如き鞭から逃れた風影が腕から刃物を出せば、再び【父】の刀が襲い掛かる。



激しい攻防戦を繰り広げる傀儡人形。

それらの操り人は繊細且つ正確に指を素早く動かしている。目にも留まらぬ早業で踊るチャクラ糸が、その先に繋がる人形同士の戦闘を展開していた。


【父】と【母】を操るチヨが真剣な顔つきであるのに対し、サソリはどこか楽しげに三代目風影を操っている。祖母と孫の真剣勝負をどこか楽しんでいるかのような風情だった。



甲高い唸りが残響となって轟く。刃物と刃物がガチガチ噛み合って、火花が散った。

チヨの【父】【母】の傀儡二体と、サソリの三代目風影の、どちらも一歩も譲らぬ白熱した戦いを、いのは固唾を呑んで見つめた。三体の傀儡、特に三代目風影を注意深く観察する。


毒で、指一本自由に動けぬ我が身を、いのは苛立たしげに見下ろした。自分を庇って戦うチヨの小さな背中の影で、足手纏いの己を叱咤する。

(……今、修行の成果を見せないと、)




いのの瞳に強い決意の色が宿ると同時に、人形同士が一斉に離れた。激しい金切り音が未だ残る中、人形はそれぞれ傀儡師の許へ戻っていく。
双方の持つ得物の歯零れが激しい戦闘を露わにしていた。



チヨの人形である【父】と【母】のぶっつり千切れた鞭とボロボロに欠けた刀に、視線をやったサソリは、次いで己の傀儡を見た。歯車も仕込み武器も、もはや見る影もないほど刃部分が丸みを帯びており、使い物にならなくなっている。



反してチヨは、次の攻撃の対策として、即座に【父】と【母】の新たな仕込み武器を二体の腕から出現させた。今度は寸前とは逆で、【父】が鞭を手にし、【母】は刀を構える。

武器として成り立たなくなった三代目風影の得物を一瞥した後、互いの武器を入れ替えたチヨの二体の人形を見て、「少しはいじってるみたいだな…」とサソリは双眸を細めた。



「グレードアップしてんじゃねぇか…面白い。それなら俺もお礼に、懐かしいモノを披露してやるよ」


サソリの言葉に、油断なく構えていたチヨの片眉がピクリと動いた。嫌な予感がする。

チヨの怪訝な視線の先で、三代目風影がカタカタカタと音を鳴らして口を開いた。
そこから漏れ出すそれらに、顔を顰める。予感が的中したと、チヨは悟った。


「やはり、その傀儡……三代目の術を、」
「久しぶりだろ。この術で三代目風影は『最強』と謳われたんだからな」




砂隠れの里で最も恐れられた武器────『砂鉄』。

練り込んだチャクラを磁力に変えることができる特異体質から、三代目風影が編み出した術だ。あらゆる形状に砂鉄を変化させ、状況に応じた武器を作り出す。


自身が操る『父』と『母』の普通の傀儡人形とは根本的に違う。
生前のチャクラを宿した人傀儡の三代目風影を前に、チヨは冷や汗を掻いた。

【人傀儡】最大の利点を発動したサソリは、己のお気に入りコレクションを見せびらかすかのように、くっと口角を吊り上げる。




絶体絶命の危機に、せめていのを逃がそうと促すチヨを尻目に、「もう遅いんだよっ!」とサソリは足を踏み込んだ。同時に、三代目風影の周囲に漂う砂鉄が微小な粒状へと変化してゆく。



「【砂鉄時雨】!!」


刹那、砂鉄の弾丸が一斉にチヨといのを襲う。

散弾の如く降り注ぐ砂鉄に、チヨは咄嗟に【母】を操る。
いのを助けた傀儡人形を操る傍ら、己自身は【父】の傀儡人形に鞭を振るわせた。砂鉄の弾丸を弾く。


鞭を自在に操って砂鉄の雨を次から次へと弾く【父】を目の当たりにしても、サソリは顔色ひとつ変えなかった。
それどころか、「おいおい…攻撃を受けてよかったのか?」と呆れの雑じった声をあげる。


【父】の傀儡人形を操って、【砂鉄時雨】の猛攻から身を守ったチヨは視界の端で、いのの安否を確認する。
【母】に庇われた彼女の無事な姿を認め、ほっと息をついた直後、指先に違和感を覚えた。

指を動かして、そこで初めて、己の失態に気づく。


鞭を持っている【父】の腕。
それが、ギギギ…と嫌な音を軋ませるばかりで動かない。



(砂鉄で……身動きが、)
「防ぐんじゃなく、かわすんだったな」

チヨの表情の変化に逸早く気づき、口許に弧を描く。一枚上手だった孫に、チヨは「ワシともあろうものが…」と歯噛みした。

砂鉄が傀儡人形の腕に潜り込んだせいで、動きを封じられたのだ。
三代目風影のこの術は回避しなければならないと知っていたはずなのに、いのを守るほうに気を取られて判断を誤ってしまった。
今回は幸運にも【父】の片腕と鞭だけで済んだが、三代目風影の磁力がある限り、傀儡人形では勝ち目がない。


(どうしたものか…)

いずれ、傀儡人形は三代目風影の砂鉄で動かなくなるだろう。しかしながら、いのはサソリの毒にやられて動かない。
どうにかこの形勢不利を打破しなければならない。


思案に暮れるチヨは、ふと、自分の前に立ちはだかった影に目を瞬かせた。


「いの…」
「チヨ婆様、私の身体を使ってください」


気丈にもチヨの傀儡になると発言するいのに、「しかし、おぬしの身体では…」とチヨは困惑する。毒に侵された身、立っているのもギリギリなはずだ。

カンクロウが三日間苦しみ悶えた毒。
その強い毒性は、治療したいの自身がよくわかっている。動けば動くほど毒の巡りは早まり、死へのカウントダウンも差し迫ってくる。

にもかかわらず、戦う意志を見せる彼女の背中に、チヨはどこかしら既視感を覚えた。





「それに…私はこんなところで立ち止まってられないんです」

チヨに背中を向けながら、いのは強い口調できっぱりと宣言した。


「私の親友…その子の眼を覚まさせるまでは」







大蛇丸の許へ、サスケと共に行ってしまった春野サクラ。
彼女を一発殴って眼を覚まさせるまでは、死ねない。死なない。

ナルと一緒に、サスケとサクラを取り戻すまでは、いのはこんなところで足踏みするわけにはいかなかった。
前に進まなければならない。



「大丈夫。私に考えがあります」

毒で全身が痺れ、今にも意識を失いそうになる。だが、あれは最終手段だ。それまではなにがなんでも、使うわけにはいかない。

毒による激痛を押し殺し、いのは肩越しに振り返った。毒で青褪めながらも、微笑んでみせる。



「だから、私の身体……頼みますね、チヨ婆様」

毒で痺れる身、自分では動けなくともチヨのサポートがあれば動けるだろう。それに、生身の人間ならば砂鉄で動きを封じることはできない。
更に、砂鉄の脅威があるとは言え、まだ【父】と【母】の傀儡人形は壊されずに済んでいる。


いののキッパリとした宣言に、チヨは眼を細める。
彼女の師である、五代目火影────綱手の背中が被さって見えた。



話し合いが終わったらしいくノ一を真顔で見ていたサソリは、呆れたように肩を竦める。

砂鉄でまもなく動けなくなる傀儡人形二体に加え、生身の人間を傀儡として操る算段らしいと彼は察していた。
いのにチャクラ糸をつけたチヨを、サソリは「おいおい…なかなかの冷血婆じゃねぇか」と野次る。

「毒で動けねえ小娘を無理に動かすってのか?ふ、まぁ俺の毒を受けたのなら、死んだも同然だがな」


人体にチャクラ糸を繋げて傀儡人形のように操る【操演・人身冴功】。
術の由来は、戦場で傀儡を失った傀儡師が屍を傀儡人形として操った事によるものだ。

その事も含めて、サソリは愉快げに唇を歪めた。

「天下の傀儡師も落ちぶれたものだ…死にかけの小娘と傀儡二体で何ができる?」




直後、真顔になる。




「────俺を舐めるのもいい加減にしろよ」






サソリがそう言うや否や、地面に打ち込まれた砂鉄が針のような形状へと変化する。
瞬間、足場である地面から一斉に砂鉄の針がチヨといのに向かって襲い掛かった。

(下から…ッ!!??)


鋭い針が飛び交う空中。
咄嗟に跳躍したチヨは、浮遊しながら指を動かす。

いのと【父】と【母】。


三体を同時に操るチヨの動きを、サソリは注視する。
今や、この中で戦闘要員はチヨのみ。傀儡師であるチヨを叩けば、傀儡二体は動かなくなる。

毒に侵されているいのなど眼中にないサソリは、チヨ目掛けて更なる砂鉄の雨を降らせようと指を動かす。


だが、妙な違和感がある。
異変を疑問に思うよりも前に、サソリに向かって【母】が刀を振りかぶった。


それを三代目風影で防ごうとする。
動きを封じようと、三代目風影の口が大きく開き、砂鉄の雨が────。






















サソリ目掛けて、飛んできた。


























「……ッ、」

咄嗟に回避したサソリは、岩壁に飛び移る。
チャクラで足を壁に貼り付けた状態のまま、彼は「どういうことだ…」と顔を顰めた。


いきなり、自分のほうへグルンと顔を向けた三代目風影をじっと見据える。
不意に、ギギギ…と不愉快な音がして、見下ろせば、傀儡化した肩の溝に砂鉄が入り込んでいた。

完全に動きを封じられたわけではないが、自由に身動ぎできない。
サソリ自身も傀儡人形なので、砂鉄で動きを止められてしまうのである。

皮肉なものだ、と自嘲しつつ、サソリは指に結んだチャクラ糸を確認した。きちんと三代目風影に繋がっている。
それなのに、どうして、主人である己に刃向かったのか。


そこでサソリはハッ、と眼を見開いた。

【父】と【母】の間に雑ざって、迫るいの。彼女の頭が項垂れている。

毒で顔をあげるのも儘ならないと思っていたが────。



「まさか、」

試しに、サソリはチャクラ糸を動かして、三代目風影の腕を持ち上げようとした。

腕は持ち上がる。だが、次の瞬間、サソリは岩壁を蹴った。

背後を振り仰ぐと、先ほどまで自分がいた場所の上空に、微小な砂鉄が霧のように漂っている。
穴が空いた岩壁から砂鉄でできた針が見えた。



サソリの推測は、その瞬間、確信へと変わった。




視線が、【父】と【母】の傍にいるいのを認める。
チヨに操られるも彼女自身が動いているかのように見えるが、おそらく、中身はからっぽだ。



【赤秘技・百機の操演】。チヨの【白秘技・十機近松の集】と対戦時に起きた出来事の再来。

あの時は、傀儡人形の何体かが犠牲になったが、いずれも、大した力を持たぬ傀儡だった。
だが、今は最も厄介であり、そして己の得物が奪われた事実に、サソリは苦々しげに眉を顰める。

今まであまり表情に変化が窺えなかったサソリが、最も感情を露わにした瞬間だった。















「小娘……俺の傀儡を乗っ取りやがったな…!!」

 
 

 
後書き
いい加減、風影編終らせないといけないので、そろそろささっと書きたいんですが、なかなか…(汗

こんな長い話に付き合ってくださって、本当に感謝しております!
どうかこれからもよろしくお願いします!! 

 

十七 サソリVS三代目風影

 
前書き
大変お待たせしました~!!


いのが風影の力を自由自在に使いこなしてますが、身体(肉体)が術を覚えているっていうことで、すみませんがご容赦ください。
捏造多数です!ご注意ください!!


 

 
岩壁に穿たれる穴。
凄まじい勢いで降り注ぐ砂鉄の雨を、サソリは間一髪でかわした。

「チィッ」

舌打ちしつつ、自らのチャクラ糸を振るう。手応えはあるのに、それを無視して自分に逆らう人形に、サソリは顔を顰めた。

サソリの傀儡である三代目風影。それは今や自分の制御を逃れ、いのに乗っ取られている。

「小娘が…ッ」



【赤秘技・百機の操演】VS【白秘技・十機近松の集】の乱戦中、サソリは自分の人形を何体か失った。
それはチヨの人形に破壊された以外にも、いのの能力も大いに関係している。

しかしながら、あの戦闘中でサソリはいのの能力の法則性を見出したはずだった。
人形から人形へと操る対象を変えるこの術の盲点は、直線上でしか使えない。だが、乗っ取られる寸前、三代目風影といのは、直線上ではなかった。


(どちらにしても、風影を操っている小娘を倒せばいいだけか…)

サソリは、チヨの傀儡人形の【父】と【母】に守られているいのに狙いを定める。
自らを傀儡化した腕。その手のひらの噴射口をいのに向けた。


「燃え尽きろ!!」

【赤秘技・放炎海】。
傀儡化した両腕の噴射口から発射した炎。瞬く間に一面を火の海と化す威力のある炎は、いのに辿り着く前に、おびただしい数の砂鉄に阻まれた。
みるみるうちに熱を帯びる砂鉄を目の当たりにして、サソリは咄嗟に退いた。同時に、秘かにサソリの腕や足のつけ根に、砂鉄がじわじわと入り込んでゆく。






膨大な量の砂鉄がサソリの炎を浴びた事で、より一層凶悪な武器となって、襲い掛かってくる。三代目風影を乗っ取っているいのにより、高密度に圧縮されてゆく砂鉄。




硬質且つ重度の増した巨大な鋼鉄製の武器が瞬く間に生成された。

「【砂鉄結襲】…!?」


いのが一度も見たことのない三代目風影の術が、サソリに襲い掛かる。驚きを隠せないまま、サソリは飛び退いた。
三角柱や円柱の形状の武器がサソリを押し潰そうと迫り来る。

三代目風影の意志や精神はなくとも、術の使い道がなんとなくわかったいのは、これを機にサソリを倒そうと攻撃の手を緩めなかった。


【心転身の術】。自分の精神を相手にぶつけ、精神を乗っ取る山中一族の秘伝術。
強い精神の持ち主ならば抵抗されるが、精神を持たない人形相手には非常に有効だ。更に、人傀儡である三代目風影の身体を乗っ取る事で、生前の術を意のままに操れる。

また、直線上でしか相手の精神を乗っ取れないという欠点を克服する為にいのは修行に励んでいた。
その欠点を、彼女は土壇場で克服したのだ。
その結果が、今の戦況である。


(今の私にできること…!)

サソリの毒で、動かない我が身。
ぐったりとした自らの肉体は、チヨに上手く操ってもらっているが、足手纏いに他ならない。
だから、いのは身動ぎひとつ満足に動かせない自分の肉体を現時点では捨てた。万が一を考えて、奥の手とする為に。

三代目風影がいのの術によって奪われた事実を知ったサソリが術者であるいのを狙うのも、推定済みだ。
その攻撃はチヨによって防がれている。何故三代目風影が味方になったのか驚きが隠せないものの、いのの身体はチヨが傀儡である【父】と【母】を使って、しっかと守っていた。

相手の身体を乗っ取っている間は、いのの身体は無防備になる。
チヨの助力無しでは行えない術を使って、今のいのにできること…───それは。


(この身体で、サソリを追い詰めること!!)

自分の身体はチヨに任せ、三代目風影の傀儡を乗っ取ったいのは、砂鉄を操り続けた。























巨大な三角柱が回転しながらサソリを押し潰そうと迫り来る。
地面どころか、洞窟の壁を抉る驚異的な攻撃力。地鳴りをあげて、凄まじい砂煙が立ち昇る。

三角柱の攻撃を避けたサソリに、間髪容れず、円柱が頭上から墜落してきた。
かわそうと膝に力を込めたサソリは、ふと違和感を感じる。傀儡化した己の身体の節々が上手く動かせない。

「なに…?」

見下ろせば、地面に散らばった砂鉄がサソリの足元に集結している。
傀儡である自らの身体の関節に入り込んだ砂鉄のせいで、動くのも儘ならない。おまけに、地面の砂鉄が足を地にへばりつけている。その間に、刻々と巨大な影をサソリの頭上に落としてゆく円柱。



「くそッ」

手を頭上に掲げたサソリは、円柱に向かって炎を放つ。傀儡化した両腕の噴射口から発射した炎で、円柱が赤く熱されてゆく。だが落下してゆく勢いは削げられない。
サソリは噴射口から放っていた炎を止め、次いで水を放出した。熱していた円柱が水で急激に冷やされ、凄まじい水蒸気が一気に生まれる。


熱していたところを急に冷やす事で、脆くなった円柱に罅が入った。
そこを狙って、サソリは水の放出量を細くする。細くすればするほど圧縮された水は、まるで刃のように鋭くなり、円柱を切り裂いた。



バラバラに砕かれる円柱。自分を押し潰そうとしていた脅威を粉砕し、サソリは一瞬気を緩める。

それが命取りだった。




刹那、砂鉄の雨がサソリに降り注ぐ。
驚愕の表情を浮かべたサソリの身体を、砂鉄の鋭い散弾が貫いた。


鋭利な針状に変化した砂鉄が地面にカカカッと突き刺さる。
同時に、凄まじい勢いで降って来た砂鉄の針により、サソリの全身がバラバラになる。分断された手足があちこちに転がった。
























(……や…やった…?)


三代目風影の身体を乗っ取っていたいのは、半信半疑で地面に転がるサソリを見下ろした。

【砂鉄結襲】で生成した円柱がサソリに砕かれたのを見て、咄嗟の機転で、すぐさま【砂鉄時雨】へと攻撃を変えたのである。

砂鉄を微小な粒状に固めで、散弾の如く降り注ぐ【砂鉄時雨】。
熱されたところを急激に冷やされて瓦解し、細かく砕かれて小さくなった砂鉄を鋭利な針や弾丸に変じるのは、そう難しい事ではなかった。


頭部に手足、『蠍』と施された胸部、胴体が散らばっている。
かつてはサソリだった傀儡人形の成れの果て。


人形のパースがあちこちに散らばっているのを横目に、いのの精神は三代目風影から抜き出た。
自らの身体に戻ると、途端に毒による激痛や疲労感がどっと押し寄せてくる。
それをぐっと堪えて、いのはチヨに「やりました…!やりましたよ、チヨ婆さま!」と微笑んだ。



「いの…お前…」

信じられないとばかりに、チヨは眼を大きく見開いた。
【父】【母】に加えてチャクラ糸で操っていたいのは終始無言で項垂れていた事にも疑問だったが、サソリの傀儡である三代目風影が反旗を翻したのを目の当たりにして、益々驚きが隠せなかった。
闘う直前に、『考えがある』といのに伝えてもらわなければ、困惑して戦闘に集中できなかっただろう。



乗っ取っていたいのの精神が消え、主であるサソリもバラバラになった今、三代目風影は力なく倒れ伏せた。
サソリの残骸を背後に、いのはチヨのほうへと足を進める。毒で痺れる全身を駆使して、一歩一歩前進する彼女の顔からは勝利の喜びが隠せなかった。


それがぬか喜びだと気づけたのは、チヨが呻き声をあげた瞬間だった。






「く…ッ」
「チヨ婆さま!?」

自らの身体に戻ったいのが、チヨの呻き声に反応して、足を速める。視線の先では、チヨが自らの腕に仕込んだ機構を開き、荒い息を吐いていた。
全身を傀儡化したサソリ同様、腕を傀儡化させているチヨの結界が展開されている。












「傀儡使いという人種同士、考えることも同じだな」


背後で、カタカタカタという音と共に、サソリの声が響いた。






















背筋を凍らせたいのが立ち竦む。

確かにバラバラになったはずなのに、とおそるおそる振り返ると、『蠍』と施された胸部を中心に、サソリの身体がみるみるうちに元へ戻ってゆく。
首をぐるんと一回転させて、平然と佇むサソリに、いのの足が無意識に退いた。



勝利したと思い込んだいのの隙を衝いて、チヨに攻撃を仕掛けたサソリは口許に苦笑を湛える。
自分と同じように自らを改造している祖母を前にして、彼は聊か愉快げに唇を歪めた。


「だけど、その腕じゃ、傀儡はもう操れまい…いや、身体自体が動かねぇか」


ハッ、と察したいのがチヨの許へ駆け寄ろうとする。その前に、チヨの肩に突き刺さった何かが、いのの視界を掠めた。

毒が滴るワイヤー。



視界を過ぎったソレに、いのは悔しげに顔を顰める。いのだけでなく、チヨまでサソリの毒の餌食となってしまった。

咄嗟に腕のカラクリである【機光盾封】でワイヤーの軌道をズラしたものの、肩を掠めてしまったチヨもまた、苦々しげに眉を顰める。片腕はまだ使えるが、もう片腕のほうは毒で痺れて動けなくなっている。
【父】【母】を操ると同時に、いののサポートに専念するも、以前よりは上手く操れないだろう。

しかしながら、長年傀儡師として戦場で闘ったチヨは流石に観察眼が鋭かった。
愕然と立ち竦むいのを奮い立たせる意も込めて、小声で囁く。



「今…サソリは『蠍』と施された胸部を中心に、立て直していた。つまり、あの左胸がやつの弱点じゃ」

チヨの推測を耳にして、そこでようやくいのはハッ、と我に返った。再び復活したサソリを前にして、慌てて【心転身の術】で再度三代目風影を乗っ取る。

またもやサソリ目掛けて迫り来る砂鉄で生成された三角柱。
鋭い切っ先を向けられたサソリは、眉間に皺を寄せると、「仕方ない…」とぽつり呟く。




刹那、いのは慌てて、三代目風影から精神を抜き出した。同時に、ぼうんっと軽い白煙が立ち昇る。

サソリが三代目風影の傀儡を巻物に戻したのだ。



「二度も同じ手を食らうかよ」

白煙と共に、砂鉄の武器が大きな地鳴りをあげて、地に墜落した。衝撃で砂煙が巻き上がり、チヨは咄嗟に眼を瞑る。
同時に元の身体に精神が戻ったいのは、秘かに取り出したモノを、煙の中で己の身体に注入した。





「チヨ婆さま!!」

いのと同じく、サソリの毒に侵されたチヨが、どっと膝をつく。
辛うじて動く片腕でチャクラ糸を操りながら、チヨは気丈に「だ…大丈夫じゃ…」と強がってみせた。



「わしのことは気にするな、いの!それより前を見ろ!」
「……ッ、」

チヨの注意で我に返ったいのは、身を捩った。寸前まで自分がいた岩場が、スパンっと綺麗に割られている。
慌ててチヨを支えながら、いのはその場から飛び退いた。サソリの腕の噴射口から、圧縮された水が刃のような切れ味を伴って、いのとチヨ目掛けて放たれる。


「小娘…よくもやってくれたな」

冷酷な表情でサソリはいのを見据えた。
己のお気に入りのコレクションである三代目風影の傀儡を巻物に戻さねばならなくなった元凶を、激しく睨む。






三代目風影の術は敵に回ると相当厄介だ。その上、傀儡化している我が身なら猶更。
このままだと、砂鉄で身体の自由が完全に封じられるが可能性もある。現に、円柱が墜落してくる際、上手く動かせなくなっていたのだ。


だからこそ、これ以上不利になる前に巻物に戻した方が得策だとサソリは考えた。更に、他の傀儡を口寄せしたところで、またいのに乗っ取られるのは眼に見えている。

ならば、方法はひとつ。
サソリ自身が自ら闘うしかない。





いのは既にサソリの毒にやられている。チヨも今し方、ワイヤーの毒を突き刺した。片腕は未だ使えるようだが、片腕に結んだチャクラ糸だけで【父】【母】、そしていのを同時に操るのは難しいだろう。


チヨがチャクラ糸をつけた手を振るう。同時に、いのの身体が地を蹴った。
【父】と【母】の傀儡人形も、武器片手に、サソリへ迫り来る。

ガクン、といのの頭が項垂れた。三代目風影が乗っ取られた時と同じ光景を前に、サソリは視線を周囲に奔らせる。


(小娘…今度はどいつに入った…?)





左から迫る【父】か。右から迫る【母】か。

毒に侵されている身、いのの身体は痺れて動けない。ならば、どちらかの傀儡人形を乗っ取っている可能性が高い。


【父】と【母】も三代目風影の砂鉄で動きが鈍いが、それはサソリにも言える事だ。
いのが乗っ取った三代目風影の砂鉄により動きを封じられ、軋む我が身に、サソリは眉を顰める。

やはり三代目風影を巻き物に戻したのは正解だった、と周囲を警戒しながら「悩むまでもないか…」とサソリは苦笑した。


腹部のワイヤーを伸ばす。勢いよく飛来したワイヤーの切っ先はチヨの傍の岩に突き刺さった。そのワイヤーの切っ先に引っ張られたサソリは、空中で背中に仕込んだ刃物を出現させる。
まるで翼のように広がった鋭い刃物。それに回転を加えて更に殺傷力を増しながら、サソリはチヨに襲い掛かる。


「チヨ婆…!お前さえ消えれば…!」




傀儡人形の【父】【母】と、毒で動けぬいのの身体をチャクラ糸で操るチヨが倒れれば、あとは小娘一人だけ。
先にチヨを倒すのが先決だと考えたサソリの攻撃が、チヨへと届く寸前──。






ぐっと身体が斜めに傾く。何かがサソリのワイヤーを手繰り寄せている。

かと思えば、左右から【父】【母】がサソリに向かって武器を振り下ろす。
それを避け、見下ろしたサソリは、目の前の光景が信じられなくて、眼を見張った。


同時に、凄まじい怪力でワイヤーもろとも、己の身体が引っ張られる。
遠心力で思いっきり振り回される中、サソリは(馬鹿な…!?)と目まぐるしく回転する視界に認めた存在に、愕然とする。


ワイヤーを引き寄せている相手は、いの。

毒で動けないはずの彼女が凄まじい力で自分を引き寄せている。歩くなどという簡単な動きならともかく、空を飛ぶ自分を引き摺り落とすなどという激しい動きなど出来るはずもない。


(毒で動けないはず…ッ)








困惑するサソリには、ふたつ、誤算があった。

ひとつは、毒に侵されたいのが自由に動ける事は出来ないだろう、と思い込んでいたこと。
もうひとつは、いのの力が相手の身体を乗っ取るだけしかないと考えていた事だ。


カンクロウの治療時に、ヒナタと協力して作った解毒剤。
それをいのは、サソリが三代目風影の傀儡を巻物に戻した際に煙を隠れ蓑として、注射器で己の身体に注入したのである。
また、いのは怪力を最後まで隠し通していた。
自分の能力が相手の身体を乗っ取る力のみとサソリに思い込ませるのが狙いだったのだ。


身体が痺れても最後までとっておいた解毒剤。そして怪力。これらがいのの奥の手だった。



つまり、いのの解毒剤を知らず、更に彼女の綱手譲りの怪力を知らずにいた事がサソリの敗因だったのだ。








(しま…ッ)

サソリの弱点。チヨが推測した左胸の『蠍』目掛けて、いのは拳を振るう。
手繰り寄せた長いワイヤーがいのの怪力でひしゃげているのが、サソリの視界の端に過ぎった。


凄まじい力を込めた拳が、正確に、サソリが唯一残していた生身のパーツへと繰り出される。
渾身の一撃。



「これで…終わりよ!!」











「それは困るな」












パンっと、軽い音が響き渡った。



いのの怪力をいとも簡単に手のひらで受け止めた彼は、引き摺り落とされたサソリの身体をも、平然と支えている。

もう後がない最後の攻撃を容易に受け止められて、いのは愕然とした。チヨもいきなりの第三者に、動揺する。



いのとチヨはもちろん、サソリでさえ驚く反面、割り込んできた彼は平然とその場に立っていた。



フードの陰に隠れて顔は全くわからない。隙も気配も窺えない。

サソリ以上の強者の風情を感じさせる彼の声は、しかしながらいのには何処か懐かしいものに思えた。

だがその裏地に映える赤い雲が、サソリと同じ『暁』だということを露わにしていた。




















「彼にはまだ、やってもらわないといけないことがあるんでね」


サソリといのの間に割って入ったナルトは、白いフードの陰で、うっそり微笑んだ。

 

 

十八 等価交換

 
前書き
いつも月末ギリギリの更新で申し訳ございません…!
お待たせしました!!

 

 
瓦礫の山の上で、純白の衣をたなびかせる存在。

それは荒れ果てたこの地に君臨する、王者の如き気高さと、空気に溶け込むほどの透明感を秘めていた。


(──誰じゃ…?)



サソリといのの間に割って入ってきた人物。白いフードで顔を覆い隠した彼を、チヨは眼を凝らして見つめた。
霞む視界に映る白は眩く、戦場と化したこの場に相応しくない。だが妙な事に、一際目立つであろう純白は希薄さえ感じられた。

第三者である彼が纏う雰囲気。
一言であらわすなら【無】だ。

まるでその場に存在していないのかと見間違いそうになりながらも、研ぎ澄まされた気配が感じ取れる。
同時に、本当に存在しているのかどうかすらあやふやな透明感と、この場の全てを制するほどの威圧感という矛盾さを抱えていた。


チヨは警戒しつつ、いのとサソリの戦闘を邪魔した不届き者を観察する。
いののせっかくの勝機を不意にした事から、相手がサソリの味方である事が窺える。
なにより、純白の外套とは対照的な黒い裏地に描かれた紋様が、自分達の敵だという事を露わにしていた。

赤い雲。


風影の我愛羅を攫った『暁』の証拠であるソレに、チヨは内心焦燥する。

いのはもはや限界だ。緻密な作戦を立て、全力を出し切っての攻撃が全て水の泡となったのだ。
条件反射で、サソリと、謎の相手から距離を取っているものの、動揺のあまり、立て直すのは難しいだろう。
体勢しかり計画しかり。

(ならば、わしがなんとかするしかあるまい…)


チヨはチャクラを練って、糸を再び『父』と『母』の人形に結び付けようとしたが、不意に立ち眩みを起こす。
拍子に、懐から『父』『母』を口寄せした巻き物が懐から転がり出た。サソリの毒の影響から、チャクラが上手くコントロールできず、傀儡二体が白煙をあげて、勝手に巻き物へ戻ってしまう。


「……ぐ…ッ」

サソリに刺されたワイヤーの毒が、じわじわと身体の自由を奪ってゆく。
脂汗を掻きながら、チヨは地面に膝をついた。


「チヨ婆さま…っ!」

背後を振り返ったいのは、チヨの青褪めた顔を認めて、眉を顰める。気遣わしげな視線をチヨに向けながらも、彼女の全神経は謎の人物に注いでいた。


サソリに勝てる唯一の機会。
それを不意にした相手だが、何故か憎いとは思えなかった。
むしろ、妙な事に懐かしさすら覚えたが、誰なのか全く思い出せない。





「おせぇぞ…坊」
「約束していたわけでもないだろうに」

サソリの非難めいた言葉に、謎の第三者が苦笑を返す。
チッ、と舌打ちしたサソリのほうが押し黙った事からして、力関係は彼のほうが上なのだろうか。
しかしながら『坊』という呼び名から、謎の第三者がサソリより若いという事が窺える。


彼の鈴の鳴るような澄んだ声は、一度聞いたら忘れられないほどなのに、まるで何か薄い垂れ幕に阻まれているかのように、曖昧模糊としたものだった。
声は特徴の一つのはずなのに、男とも女とも、または子どもの声にもとれる。
それでいて、どこかで聞いたことのある声なのだから、いのは内心、戸惑いを隠せなかった。




これがもし、サソリが彼を『ナルト』と呼んでいたならば、いのは記憶の底から、かつてナルへの見舞いの品である花を買いに花屋に訪れた少年の事を思い出しただろう。
デイダラのように『ナル坊』という呼び名でも、中忍試験で出会ったあの不思議な少年の顔を思い浮かべたはずだ。

だが、あいにくサソリの『坊』という呼び名だけでは、目の前の人物が以前会ったうずまきナルトと結びつけることは、いのには難しかった。




地に伏せるチヨと、傍らにいるいのに、ナルトは視線を奔らせる。
山中いのだと知っていながら、素知らぬ顔で「木ノ葉の忍びか…」とフードの陰で彼は青い双眸を細めた。



「『木ノ葉崩し』の主犯だった大蛇丸の情報が欲しいのか?」
「なにを言って…っ」


いきなり核心を衝かれ、いのは動揺する。警戒して身構えるその肩が一瞬跳ねた。


いのの本来の目的は、うちはサスケと春野サクラの居場所。
里抜けした彼と彼女が今、身を寄せている大蛇丸の居場所を突き止める為に、サソリから情報を引き出そうとしている事実を把握していながら、ナルトは涼しい顔で言葉を続けた。



「サソリから執拗に何らかの情報を手に入れようとしているのは、一目瞭然だった。大蛇丸は元『暁』であり、サソリと組んだこともあるからな…」
「俺はあんな蛇ヤローより坊と組みたかったのだがな…」



サソリの小さな呟きに気づかず、ナルトは「以上から、『木ノ葉崩し』で亡くなった三代目火影の敵討ちをする為に大蛇丸の情報を得ようとしているのだと踏んだのだが…?」としれっと訊ねる。

あえて、サスケとサクラには触れずに、いのが大蛇丸の情報を手に入れようと必死な訳を、もっともらしい理由をつけて、ナルトはでっち上げた。
ナルトの話を聞いて、「そうか…やはり三代目火影はあの時の事件で…」とチヨがしみじみ呟く。
サソリもまた「噂では聞いていたが…」と三代目火影の死を確信した。

それこそがナルトの狙いだとも知らずに。





砂隠れの里だけでなく『暁』にも、三代目火影である猿飛ヒルゼンの死を広める事で、実際は彼が生きているという真実を覆い隠す。
さもないと、木ノ葉病院の最奥で秘密裏に収容されているヒルゼンの命が危ないからだ。外堀は埋めておくに限る。




なにやら納得している風情のサソリと、急に三代目火影の話をし始めたナルトに、いのは怪訝な視線を投げた。
木ノ葉の里では一部の者しか、ヒルゼンの生存を知り得ない為、彼女もまた、三代目火影が『木ノ葉崩し』で亡くなったと思っている。

だが、いのが大蛇丸の情報を得たい理由は、里抜けしたうちはサスケと春野サクラを連れ戻したいという想いからだ。
残念ながら、三代目火影の敵討ちというわけではない。


しかしながら、いのが反論する暇を与えず、ナルトは厳かに口を開く。
フードで隠された顔の内、唯一垣間見える唇から紡がれる一言に、いのは眼を見張った。




「草隠れの里にある天地橋」
「坊…!お前、」

思わず声を荒げるサソリをよそに、ナルトは淡々と言葉を続ける。
それこそ、いのが求めていた情報だった。



「十日後の真昼、其処へ行け」
「てめぇ、なにを勝手に…!」


自分しか知り得ぬ情報を赤裸々に告白するナルトの胸倉を、サソリは掴んだ。
額と額がぶつかりそうなほどの接近にも臆さず、平然とした顔でナルトはサソリを見つめ返す。


「いや、それよりどうやって…!」

草隠れの里の天地橋で、部下と会う約束をしている事を知っているのか。
サソリの言葉尻を捉え、ナルトはキッパリと一蹴する。






「見逃してもらうに値する情報だと思うが?」







自分が割り込まなければ、いのに倒されていただろう?、と暗に告げるナルトに、サソリは気まずげに視線を彷徨わせた。
深い滄海の如き双眸の蒼に、しかめっ面が映り込む。何もかもがお見通しかのような澄んだ瞳から顔を逸らして、サソリはチッと舌打ちした。

渋々「大蛇丸の部下に俺のスパイがいる。其処でソイツと落ち合う手筈になっている」と口早に述べる。


思いがけず聞き出した大蛇丸の情報に、いのは眼を瞬かせた。




大蛇丸の部下である相手。
そいつと接触して上手く、大蛇丸の許へ向かい、あわよくば、サスケとサクラを連れ戻す。


そう、期待に胸を躍らせつつも、いのは疑念を晴らすことができない。
怪訝な表情で、彼女はナルトとサソリを注意深く睨み据えた。





「……それが嘘じゃないという証拠でもあるの…?」

木ノ葉の忍びを誘き寄せる罠ではないか、と疑ういのの前で、ナルトは軽く肩を竦めてみせる。



「…信じるかどうかは、そちら次第。だが、たとえ虚偽だとしても、藁にも縋りたいのではないのか?」
「…っ、」



確かに、何の手がかりも見出せない今、ナルトからもたらされた情報は、サスケとサクラへ辿り着く、唯一の道だ。

押し黙るいのを暫し、眺めていたナルトは「そうそう」と今、思い出したかのように、軽い口調で語る。
それは、まるで今日の天気の事でも話すかのような、軽い物言いだった。




「それから、砂隠れの里で起きた毒ガスの件は安心しろ。数日で身体から自然に毒気は抜ける」


サソリが砂隠れの里に仕掛けたトラップ。
起爆札の爆風に雑じった毒で、砂忍を痺れさせ、追っ手の可能性を減らしたサソリの罠の盲点を、ナルトはあっさり暴露する。
吸い込めばたちまち、全身が麻痺するが、その毒は何も治療しなくとも、数日後には次第に抜けてゆくのだ。

しれっとその事実を明らかにするナルトに、ほっと安堵するいのに反して、サソリは眉間に皺を寄せた。


「坊、てめぇはまた勝手に…!」

もはや、何故知っているか、という疑問を抱く事すらせずに怒るサソリに、ナルトは聊か冷ややかな視線を向けた。



「傀儡人形にしたいからって俺に毒を盛ったのはお前だろう、サソリ」



隙を見ては、モットーである『永久の美』に似合う人傀儡にする為に、幾度となくサソリはナルトに毒を盛っている。

「その意趣返しだ」と答えるナルトに、サソリは「よく言うぜ。平然としてただろうが」と肩を竦めた。


どれだけ強力な毒を盛っても、何事もなかったかのように振舞っていたナルトに呆れつつ、(自分の毒を何度も浴びている坊なら毒ガス成分も即座に把握できるだろうな)と納得したのだった。




















「東へ行け。森の奥に、お前達と行動を共にしていた木ノ葉の忍び達がいる」
「ナルとカカシ先生のこと?どうして…」



毒ガスに加え、ナルトからの更なる情報に、いのは戸惑いを隠せなかった。
こちらに対して、有意義な情報ばかりを告げてくるナルトを不審に思いつつ、何故、知っているのか、と眉を顰める。


まるでこちらの動きを全て見透かしているかのような。




そこで、いのはハッと顔を険しくさせた。




「アンタ…!ナルになにかしたんじゃないでしょうね…!!??」
「まさか、」



いのの激昂に、ナルトは口許に苦笑を湛える。
ナルとカカシの居場所を知っているという事は、彼女と彼に何かしたのでは、と訝しむいのの鋭い視線を、ナルトは受け流した。
フードの陰で、儚い笑みを薄く浮かべる。








(──大事な妹だからな)





毒ガスのことも、ナルの居場所も伝えたナルトに、サソリは顔を不機嫌に歪める。


「ちと、サービスが良すぎねぇか」

サソリの文句に、ナルトは涼しげに、手の中のものを弄んだ。


「情報料を頂いたからな」





いつの間にか、二本の巻き物を手の中で軽く弄んでいるナルトに、いのは眼を見張る。
隣で、地面に膝をついていたチヨが息も絶え絶えに「い…いつのまに…ソレを…」と苦々しげに言うのを聞いて、彼女はようやく気づいた。



ナルトが手にしているのは、『父』と『母』が収容されてある巻き物。
チヨがサソリを闘う為に持ち出した、幼い頃のサソリが作った傀儡人形だ。




つい先ほどまで、サソリとの戦闘に用いていた二体は、チヨが毒で痺れた事でチャクラが乱れ、巻き物の中へ戻っていた。
しかしながら、その巻き物はチヨの真横にあったはずだった。
もちろん、チヨの傍らに佇むいのにとってもすぐ傍に落ちていた。



その巻物を、2人に気づかれず、いや、サソリにすら悟られる事も無く、いつの間にか奪っていたナルトに、チヨは驚愕した。



恐るべしはサソリではなく、この不可解な人物にあるのではないか、と。




こちらにとっての有意義な情報を与えるも、しっかりとその対価として『父』『母』の巻き物を手に入れているナルトに、サソリは舌を巻いた。

同時に、小声で囁く。



「……最初からわかっていたのか…?」
「勘だよ」



サソリの懐に、手に入れた『父』と『母』の巻き物を忍ばせる。
本来の目的である代物を、ナルトから得たサソリは、深紅の髪を軽く振った。




「…なんだか、全てがお前の手のひらの上で転がされているふうにしか見えねぇな…」
「冗談を言うな」


サソリの一言に、ナルトは口許に笑みを湛える。
それは自嘲の笑みだった。








「己自身のことでさえ手に余るくらいだよ」








敵だというのに、白いフードで顔を隠す得体の知れない存在から、いのはなんだか眼を離せなくなった。
不思議と惹きつけられるモノが彼にはあった。


「……いい加減、彼女の毒を解毒してやれ」

ナルトの声で、いのはハッ、と我に返る。サソリの毒で痺れているチヨに、彼女は慌てて解毒剤を投与した。
荒かった息遣いが次第に落ち着いたものへなってゆく。

ほっと安堵の息を漏らしたいのが次に顔を上げた時、其処には誰もいなかった。


サソリも、『父』『母』の巻き物も、そして不可解なフードの存在も。


瓦礫の山の上で、いのはチヨの身体を支えながら、茫然自失する。


目の前に広がる荒涼たる光景。



あとに残されたのは、サソリとの戦闘の爪痕だけだった。





























「やっぱ、腕がねぇと不便だな、うん…」


数多の蝶型の爆弾を従えながら、デイダラは眼を細める。
木ノ葉の忍びであるヒナタ、それに砂隠れの忍びであるテマリと対峙していたデイダラは、ひらひらとたなびく袖を鬱陶しげに見下ろした。


デイダラが攫った風影の姉であるテマリ。
彼女の猛攻は凄まじく、蝶の爆弾でなんとか防御しているものの、時間の問題だ。

蝶の群れを操っていたデイダラは、ふとテマリとヒナタの背後へ視線を向ける。


にやり、と口角を吊り上げたデイダラは、蝶の一匹を人知れず、ソイツの傍へ向かわせる。
同時に、自分達の傍へ近寄る怪しい人影を【白眼】で視たヒナタが、ハッ、と後ろを振り返った。




「…テマリさん、危ない…!!」


ヒナタの呼びかけで、テマリは咄嗟に身を捩った。刹那、飛んできたクナイが、テマリの武器である扇を傷つける。
扇を掲げて身構えたテマリは、背後から現れた相手の姿を見た瞬間、愕然とした。



「お、お前は……」


砂隠れの里の上役であり、警備部隊の隊長。
周囲からの信頼も厚い上忍だったが、『暁』であるデイダラとサソリの襲撃以来、行方知れずだった。
死体が見つからないから、生存を望んでいたが、まさかこんな場所で会えるとは。


「無事だったのか!よかった…!」

同じ里忍である彼にテマリは親しげに声をかける。テマリの様子から敵ではないと判断したヒナタも警戒心を緩んだ。





「気をつけろ、アイツが砂隠れの里を襲撃した『暁』の──」
「存じてますよ」





警戒を促すテマリの言葉を遮る。
瞬間、ヒナタとテマリ目掛け、数多のクナイが襲い掛かった。




「な…!」

攻撃を仕掛けてきた同じ里の仲間であるはずの砂忍を、信じられないとばかりにテマリは眼を大きく見開いた。




【潜脳操砂の術】によって記憶を消されていた、『暁』のサソリの配下──由良。








「足止めにはうってつけだな、うん」










風影である我愛羅を攫う為に重大な任を担った相手。

彼の手引きで、砂隠れの里にサソリと共に、秘密裏に忍び込む事が出来たデイダラは、狼狽する二人のくノ一を愉快げに眺めながら、口角をくっと吊り上げた。
 
 

 
後書き
伏線というほどの伏線じゃないけど、【上】の70話の呼び名の伏線回収。
この話の為に、サソリにとってのナルトの呼び名を「坊」にしてました。
また、いのがナルトと花屋で会うシーンは【上】の34話です。


あと、等価交換ってタイトルのわりに、価値は巻き物のほうが上だと思いますが、情報も大事なので、ご容赦ください(汗)
どうか次回もよろしくお願いします!! 

 

十九 開演のブザーが鳴る

 
前書き
あけましておめでとうございます!

年末に話自体は書けていたのですが、何故か何度やっても更新にならなくて、年が明けてしまいました…(泣)
大変申し訳ございません!!

誰かが死にます。原作通り…とは限りませんが、原作では確か亡くなった相手なので、ご容赦ください!
我愛羅→ナルコが微妙にあるので、ご注意ください!!
 

 
我に返った瞬間、ナルの瞳に飛び込んできたのは我愛羅の遺体だった。


「──我愛羅!」

ガバリと起き上がったナルに、傍らにいたカカシは一瞬驚いたものの、ほっと安堵する。
九尾の力で暴走していた彼女が正気に戻ったのを見て取って「…落ち着いたか?」と訊ねると、ナルは眼を大きく瞬かせて、周囲をきょろきょろと見渡した。

自分がなぎ倒したのであろう大木や砕かれた岩を見て、苦渋の表情を浮かべる。青褪めるナルを気遣わしげに見ていたカカシは、ピクリと片眉を吊り上げた。

誰かが来る気配を感じ取って身構えたカカシは、駆け寄った相手の姿を認めると、構えを解く。





「よかった…!ナルもカカシ先生も無事みたいね!」

いのとチヨの姿を眼にして、ナルの肩から力が抜けた。ほっと安心した彼女同様、カカシも胸を撫で下ろす。


サソリと戦闘していた二人が此処にいる。その事から導き出される答えはひとつしかない。
いのとチヨによってサソリは倒されたのだろう。



まさかナルトによって取り逃がしてしまったとは思いも寄らず、カカシは「よく此処がわかったな」と感心する。

その言葉に、曖昧な表情でいのは苦笑を返した。
ナルとカカシの居場所までこんなにも早く辿り着けた理由は、サソリと共にいた謎の人物の助言によるものだからだ。




「……我愛羅はどこじゃ?」

チヨの問いに、ナルは眼を伏せる。
いのに解毒薬を打ってもらったものの、サソリの毒で体力を消耗しているチヨは、疲労が滲んだ顔で周囲を見渡した。横たわる我愛羅の遺体が目に留まる。




はっといのが息を呑んだ。
沈痛な面持ちのカカシと、唇を強く噛み締めるナルを見て、チヨは一度、瞳を固く閉ざす。


次に眼を開けた時には、チヨの瞳には決意の色が宿っていた。

































「なにが人柱力だ…!!なにが…!!」


ナルの視線が痛い。一目見てわかっていたけれど、動いていない心臓を前に、いのは顔を逸らす。


森の外れの広い原っぱ。
視界が悪い森よりも四方を見渡せる場所のほうが良いかと考え、そこに移動した一行は、我愛羅を中心に佇んでいた。


皆の注目の的である我愛羅本人は、ぴくりとも動かない。
ナルに頼まれて診てみたけれど、やはり変わらぬ現実に、空気が沈む。

清々しい風が吹き抜ける場所なのに、我愛羅と、彼を囲む者達の間では悲しみに満ちていた。白い蝶だけが空気を物ともせず、優雅に飛んでいる。



「風影になったばっかだぞ…!なのに……っ、なんで我愛羅ばっかがこんな目に…!」


同じ人柱力だからこそ、我愛羅を最も理解している。
同じく疎まれた存在だからこそ、彼の歩んできた過酷な道を知っている。


ぼろぼろとナルの、透き通るような青い瞳から大粒の涙が零れてゆく。それは空から降り続ける雪の結晶にも、深海の真珠にも見えた。
キラキラと煌めいて我愛羅に降り注いでゆく。


「……なにが人柱力だってばよ…!偉そうにそんな言葉でオレ達を呼ぶな…!そんなふうに言われて、我愛羅が何を思っていたか、何を感じていたか…!考えたことないのか…っ」


原っぱに、ナルの激昂が轟く。心からの叫びだった。
彼女の嘆きは、我愛羅の中に一尾を入れた砂の忍びであるチヨにはとても耳が痛い言葉だった。





砂隠れの里の為にと、自分が今までしてきたことは間違っていたのかもしれない。
ならば、せめて、今だけでも、正しいことをすべきではないのか。

たとえ──己の命を懸けようとも。








決意を秘めた瞳で我愛羅を見据えたチヨは、戦闘を終えたばかりのふらつく身体を駆使して、遺体の許へ向かう。

【己生転生】。
己の全チャクラを媒介とすることで、術者のチャクラが魂に変換され、対象者に生命力を分け与える禁術だ。


悔しげに泣くナルの横を通り過ぎ、何もできずに俯くいのの肩をぽんっと軽く叩く。
顔を上げたいのは、自分を押し退けて我愛羅に手を翳すチヨを見て、ハッと顔を曇らせた。

サソリを見逃してしまい、チヨの得物である【父】【母】の傀儡をも奪われてしまった。
その後、ナル達の許へ急いでいる道中、いのはチヨからこの禁術の事を聞いていた。


サソリの両親の傀儡に命を吹き込む目的でチヨが開発した術。
死者を生き返らせるという大きなリスクを伴う為、人道的理由から禁じられていた術だが、術を開発したきっかけである傀儡を奪われたと嘆くチヨからの話を前以って耳にしていたいのは、彼女が今から我愛羅に何をしようとしているのかわかって、顔色を変えた。



「チヨ婆さま、その術はまさか、」

言い淀むいのを制して、チヨは優しく笑顔を浮かべる。
皺が刻まれた柔和な眼差しに宿る決意の色に、いのは何も言えなかった。


だが、サソリとの戦闘直後故に、チャクラが圧倒的に足らない。いのから禁術の話を聞いたナルは苦しげに喘ぐチヨの傍へ寄ると、手を差し伸べた。


「オレのチャクラを使ってくれってばよ、ばあちゃん…!!」

チヨの霞みかける視界に、ナルの両手が映る。
ゆっくり顔をあげると、ナル自身も疲労しているはずなのに「オレってばチャクラだけはありあまってっからさ…!」と元気よく、へへっと笑ってみせた。だがそれが空元気なのを、チヨもいのもカカシも見抜いていた。


「頼む、ばぁちゃん」

ナルの強い意志を受けて、チヨの唇が笑みを象る。
彼女の青い瞳の奥に、前途ある未来のヴィジョンが垣間見えた。


「くだらぬ年寄りどもがつくった、争いの絶えぬこの忍びの世界に」

ナルの手と己の手を重ね合わせる。ナルのチャクラを借りながら、チヨは双眸をゆるゆると細めた。


「波風ナル…お前のようなやつがいてくれて嬉しい」



砂と木ノ葉。いがみ合っていた別里同士を繋ぐ架け橋。
これから先の未来を思い描いて、チヨはナルの瞳を真っ直ぐ見据えた。


「我愛羅をよろしく頼むぞ」
「おうっ!」


チヨの言葉を受けて、ナルは威勢よく頷くと「でもばぁちゃんもだってばよ!オレとばあちゃんと…皆で我愛羅を支えてゆくってば」とにっこり笑顔を浮かべる。
禁術のリスクをいのから聞いていながらも、それでも我愛羅も、チヨでさえも、ナルは諦めていなかった。


「オレってば我儘だからさ。最後まで希望は捨てないんだってばよ!!」


忍びの世界に身を置く身、何を甘ったるいことを、と言われるかもしれない。
忍びに相応しくないのかもしれない。

それでも希望を捨てないナルの発言を耳にして、チヨの目が大きく見開いた。



ナルは渾身の力を込めて、手にチャクラを宿す。いくら膨大なチャクラを持つ身とは言え、チャクラを放出し続けるには限度がある。



ナルは瞳を強く閉ざした。緊迫めいた空気をよそに、白い蝶が呑気に我愛羅の鼻先に止まって、美しい翅を休めている。



ナルの腹の奥で、狐の唸り声が聞こえた気がした。

























































罅割れた大地。


草原とは打って変わって荒れ果てた土地に、ひとりぼっちの子どもがいた。
赤い髪を腕の中に押し込めて、この世から消えて、無くなってしまいたいというように、縮こまっている子どもがいた。



やがて、その子の肩に、何かあたたかいものが触れる。視界の端に、白い蝶が止まっていた。
いや、それは幻だったのだろう。



我愛羅は顔をあげた。

泣き過ぎて腫れぼったい瞳に、金色の髪が垣間見えた。



「帰ろう、我愛羅」



















《おいこらクソ狸》

我愛羅の体内の奥の奥で縮こまっている存在。
ナルの手から注がれるチャクラを通して、その存在に話しかけた九尾はそいつを挑発する。


《お前はこのワシに負けっぱなしでいいのか?》


焦げ茶色の茶釜。どっしり鎮座して微動だにしない釜が、九尾の声に反応して、僅かに揺れた。


《そんなんだからお前はいつまで経っても三下なんだよ》


ガタガタガタ、と茶釜が揺れ動く。挑発に明らかに反応を示した茶釜に、九尾は畳みかける。


《一尾は九尾に劣るか!やはりワシの敵ではないわ!!》



カラカラと嗤う九尾の言葉を最後に、茶釜が大きく割れた。
中から煙と共に、怒りの形相で現れた一尾。

己と同じ尾獣に、九尾の口角が僅かに上がった。


「喧しい!!おちおち寝てられるか!!」
《寝てた?死んでたの間違いだろうが》




鼻息荒い一尾【守鶴】に、九尾は嘲笑を返す。だがその声音には満足気な響きがあった。



《寝汚ねぇお前のおかげで、ワシの宿主のチャクラが減る一方だ。さっさと起きろ》


一尾に目覚めを促して、九尾の意識がナルの許へ戻るのと、我愛羅の瞼がゆっくりと開かれたのはほぼ同時だった。


















































「我愛羅」
「…──ナル?」

起きた途端に、波風ナルの顔が飛び込んできて、我愛羅は眼を瞬かせた。
起き上がると拍子に、白い蝶がぱっと我愛羅から離れてゆく。


我愛羅は周囲を見渡した。
波風ナルと、畑カカシ。山中いのに、彼女に支えられて横たわるチヨの姿があった。



「──我愛羅!!」

ふと前方を見ると、カンクロウと、彼の部下達が駆けてくる。
カンクロウは弟の無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。

ヒナタといののおかげでサソリの毒を解毒してもらったカンクロウは、周囲の制止の声を押し切って、里を飛び出したのだ。だが、自分より先に我愛羅を助ける為に里を出たテマリとヒナタの姿が無い事に、彼は顔を顰める。


瞬間、森の奥で大きな爆発が聞こえた。
大きな地鳴りと共に、爆風が草原にも押し寄せてくる。


「なんだ!?」

カンクロウが爆発の発生源に眼を向けると同時に、爆風に押されるように誰かが森から飛び出してきた。

テマリとヒナタだった。


「テマリ…!?お前、なにやってんじゃん!?」
「私じゃない!!由良のヤツが…!」

煤だらけの顔を拭って怒鳴り返したテマリは、我愛羅の姿を認めると、顔を輝かせた。


「我愛羅!よかった…」

心の底から安堵の息をつく。
しかしながら、我愛羅の無事を確かめる前に、テマリはカンクロウと共にやって来た部下達に命じた。



「さっきまで戦っていた由良が自爆した」


何か残っていないか現場を見て来てくれないか、と言うテマリの指示に従い、部下達が森の奥へ向かう。
自分達と同じ砂の忍びであり行方知らずだった由良について、テマリがいきなり話し出した事で困惑したカンクロウが眉間に皺を寄せた。



「どういうことじゃん?」
「どうもこうも…聞いた通りだよ。アイツは自爆した。私達を殺そうとして」


由良の最期が脳裏に過ぎって、テマリは深い溜息をつく。

デイダラと対戦していた矢先に現れた由良は明らかに『暁』の味方だった。
追い詰めて口を割らそうとしたところ、自爆してしまったのである。



「おそらく由良が里に手引きした張本人だろう」
「周囲からの信頼も厚かった、あの由良が…」

由良がスパイだったという事実にショックを受けるも、気を取り直したカンクロウとテマリは、我愛羅の許へ急ぐ。
ヒナタも、ナルの無事な様子と、いの達の姿を見て、胸の前で手を組んでほっと安堵の息をついた。


「よかった…ナルちゃん…」
























「な~にが後々まで残ってゆく永久の美だ」

由良が爆発した現場。

大きなクレーターが穿たれたその場で、デイダラはサソリにつてブツブツ文句を連ねる。
己自身も我愛羅を奪い返された身でありながらも、いのとチヨが五体満足でナルの許へ来たのを遠くから確認した彼は、サソリが死んだと思い込んで、鼻で嗤った。


「だいたい、弱点丸出しの造形はつくづく自信過剰だと思ってたぜ、うん」
「やかましい。ぶっ殺すぞ」

瞬間、背後から放たれた殺気と声に、デイダラはひくりと唇を引き攣らせる。
おそるおそる振り返ると、憤慨したサソリがじとりと睨んでいた。

「あらら~…」と自分の発言が聞かれていたと察して、デイダラは視線を彷徨わせた後「旦那、生きてたんだな、うん!」と調子の良い言葉を続ける。


「あんな小娘とババアにやられるとは思ってなかったぜ、うん!」
「嘘つけ。さっきまで思ってただろーが」


愛想笑いを浮かべるデイダラを睨んで、サソリは木の下を覗き込む。
大きな穴が穿たれている掘り返された地面を見て取って、チッと舌打ちした。


「デイダラ…てめぇ、俺の部下の由良を使いやがったな」
「いや、アイツが勝手に足止めしてくれたんだぜ、うん!まぁ旦那の部下だけあって、なかなか良いヤツだったぜ」

しみじみと由良を高評価するデイダラに、サソリは今一度、大きく舌打ちした。


「なんでよりによって自爆しやがったんだ…!」
「いや~やっぱ芸術は爆発だよなぁ~!旦那の部下はよくわかってるぜ!!」

爆死を大いに評価したデイダラが、うんうんと嬉しげに頷くと、サソリは「やっかましい!!」と怒鳴った。


「なんでせめて毒で死ななかったんだ、アイツは!」

どうやら部下の死よりも、死因について腹を立てているサソリに、デイダラは「いや、忍者の遺体は色々調べられるから、跡形もなく消えるほうを選んだほうが得策だと思うぜ、うん」と至極もっともな答えを返す。
正論だと理解しつつも、サソリは苛立たしげに吐き捨てた。


「お前のモットーと同じのが余計嫌なんだよ!」
「旦那、ひっでぇ~!!」

芸術コンビの諍いは、テマリとカンクロウの部下である砂隠れの里の忍び達が現場検証をしに来るまで続いたのだった。

















我愛羅の周りが一斉に騒がしくなる。

沈んだ空気が払拭され、瞬く間に明るくなった。
だが、いのだけは、横たわったチヨを抱きかかえ、眼を伏せている。


カンクロウと共に来たチヨの弟であり、砂隠れの里の相談役であるエビゾウは、姉の顔を覗き込んだ。
今にも起き上がって、いつものように自分をからかいそうな安らかな顔に、立派な白眉を悲しげに下げた。


力無く、いのの身体に身を横たわらせるチヨを見つめつつ「今にも笑いだしそうなそんな顔をしておる」としみじみ呟く。


いのの瞳から涙が零れ堕ちた瞬間、腕の中の存在が身じろいだ。




















「なぁーんてな、死んだふり~!」



やーいひっかかったひっかかった、とばかりに、お茶目という言葉では聊か限度があるボケをかましたチヨに、周囲の人間達がギョッとする。
エビゾウが腰を抜かす横で、涙が引っ込んだいのが信じられないとばかりに、楽しげに笑うチヨを見た。


「ち…チヨ婆さま……?」

周りの反応に満足げに、あひゃひゃひゃ、と笑ったチヨは、暫くしてから、いのに顔を向けた。
「普通は死ぬはずなんじゃが、まだ生きとるのぉ」と茶目っ気たっぷりにウインクするチヨに、彼女を慕う砂隠れの里のくノ一達が「よかった、チヨ婆さま~」と抱きついた。


「こんな老いぼれでも、まだまだ生きてる価値があるのかのぉ」と不思議そうにしつつも笑顔を浮かべるチヨを前に、いのは涙を拭う。
よかった、と心からホッとすると同時に疑問を抱いて、我愛羅へ視線を向けた。




(…ということは、我愛羅くんは死んでいなかった……?)

術者の死と引き換えに、死者を生き返らせる禁術。

ただの医療忍術ではない、転生忍術は、術行使後に術者が死亡する可能性が非常に高い。
【己生転生】も例外ではなかった。


たとえ、ナルのチャクラを借りようとも、死者に命を吹き込めば術者は必ず死に至る。
我愛羅が目覚めた今、チヨの死は免れない定めである。


それなのに、我愛羅を生き返らせたチヨは死なずに済んだ。
以上から考えられるのは、ナルのチャクラによる恩恵が大きかったのか、それとも──。


(仮死状態だった…?)



一瞬浮かんだ疑念は、ナルの嬉しそうな笑顔によって消え失せる。
ヒナタがこちらに駆け寄ってきたのを見て、いのは自分の考えを頭から追い出すと、歓喜に打ち震える皆の許へ走ってゆく。


微笑ましげにその光景を眺めていたカカシは、ふと、誰かに見られているような気がして、森へ一瞬視線を向けた。
変わらない静まり返った森を暫し眺めて、気のせいか、とカカシは再び、我愛羅を中心に喜ぶ人々へ視線を戻す。





「我愛羅!!」
「ナル…!うわっ」
「よかった…!ほんっとうによかったってばよ~!!」

ナルに飛びつかれ、顔を真っ赤にした我愛羅が、嬉し泣きをする彼女に眼を白黒させている。
弟の恋心を知っているテマリがにやにやと笑っていると、カンクロウが「病み上がりなんだから急に危ないじゃん」と水を差すような言葉を投げ掛けた。

「無粋なこと言うんじゃないよ」
「…?なにがじゃん?」


溜息をつくテマリに、カンクロウがきょとんとする。弟の恋心に微塵も気づけてない弟に、テマリは「それだからアンタはモテないんだよ」と呆れ返った顔をした。

「急になんで蔑まされないといけないんじゃん!!??」


喚くカンクロウをよそに、弟の恋を応援する為、風影目的で近づくくノ一達を近づけまいとして、テマリは我愛羅とナルの前に立ちはだかるのだった。






































生きている我愛羅と、生きているチヨと。

たくさんの人々で賑わう草原を、遥か遠くから見ていた彼は、指先に寄ってきた白い蝶に「ご苦労様」と息を吹きかける。
たちまち、ただの白い花の花弁に戻った、かつての蝶は優雅に風に乗ってヒラヒラと飛んでゆく。







「これも、お前のシナリオ通りか?」
「どうだろうね?」

傍らの桃地再不斬に曖昧な言葉を返して、ナルトは今し方我愛羅の許へ駆け寄ったヒナタを見やった。


サソリの部下の由良は、彼女の足止めに大いに役立ってくれたらしい。
爆死したのは計算外だったが、彼のおかげで我愛羅を【白眼】で視られずに済んだと、ナルトは亡き由良に祈りを捧げた。

両腕を失って苦戦するデイダラの許へ、サソリの部下の由良を向かわせたのはナルトである。

サソリに化けて、デイダラを逃す手助けをしろ、と命じたのだ。
サソリからの指示を待ち望んでいた由良は微塵も疑う事もなく、デイダラの許へ向かい、彼と一戦を交えていたテマリとヒナタの前に立ちはだかった。

己の命を懸けてまで足止め役を遂行したものの、テマリの強さとヒナタの【白眼】には敵わず、起爆札で爆死したのである。彼女達をも爆発に巻き込もうとしたようだが、それは流石に無理だったようだ。
ナルトとしては、ヒナタを我愛羅の許へ近づけたくなかっただけなので、巻き込まれなくて良かったのだが。


何故なら【白眼】で視た場合、我愛羅が実際に死んでいないという事がバレる可能性があったからだ。
いくら巧妙に死を装って遺体に見せかけていても、チャクラの流れを把握できるあの眼で視られると、仮死状態だとヒナタに気づかれてしまう恐れがあった。


要するに、デイダラを見逃すように仕向けつつ、実際はヒナタの足止めが目的だったのである。
大木の幹に背を預けて、腕を組むナルトに、チラッと視線を投げた再不斬は「相変わらずお前の先見の明には頭が下がるぜ」と感嘆の吐息を零した。


「そううまくいかないさ。ストーリー通りにいかないのが、人生だよ」

白い蝶でさりげなく、仮死状態であった我愛羅の硬直を解き、止まっていた一尾のチャクラを循環させ、尚且つ、止まっていた心臓を動くように促す。

だからこそ、必ず死ぬはずの転生忍術を施したチヨが死なずに済んだのだ。
死者を生き返らせたわけではないからだ。





「サソリの実の祖母を死なせちゃ目覚めが悪いからな」
「あのカラクリ野郎がそんな殊勝なタマかねぇ」

面識はないものの、傀儡師として有名なサソリをカラクリ野郎と称する再不斬に、ナルトは苦笑を返す。


「口が悪くなったな、再不斬。多由也達の影響か」
「元々、俺はこんな口調だ」

むすっと顔を顰めた再不斬は「それよりいい加減、白達に顔を見せろよ」とナルトに文句を告げる。
「アイツら、二言目には「ナルトナルト」とお前のことばっか聞きたがる」と頭をガリガリと掻き毟る再不斬に、ナルトは苦笑いを口許に湛えた。



「世話を掛けるな」
「なにを今更」

ハッと鼻で嗤う再不斬の背後から、デイダラとサソリの気配を感じ取って、ナルトは片眉を吊り上げた。

いのとチヨからサソリを連れ出したナルトは、ナルの許へ向かう彼女達に見つからぬように彼らもまた、森へ向かったのだ。そうして、森奥に潜むデイダラを捜しに行くようにサソリに頼み込んだのである。

文句を言いつつも森へ消え去ったサソリを見送るや否や、こうして再不斬と落ち合ったナルトはこれからの計画等を手短に話し合っていたのだ。




「そろそろデイダラとサソリが帰って来る」
「わかった」

また連絡しろよ、と一言残し、再不斬の姿が掻き消える。
再不斬が、サソリとデイダラとは真逆の方向へ向かったのを確認しつつ、ナルトは改めて草原のほうを遠目で窺った。





我愛羅の傍で歓喜するナルの笑顔を微笑ましげに眺める。
彼女の喜びを我が事のように思いつつ、直後、ナルトは顔を引き締めた。


デイダラとサソリが自分の許へ辿り着くのにまだ時間がある。
双眸を閉ざしたナルトは【念華微笑の術】を発動させた。
この術は、山中一族の術に近い一種のテレパシーによるもの。
その術を用いて、彼は現在【根】に潜入している彼らに連絡を取る。



『約束の天地橋。それまでの十日間が勝負だ』

脳裏に響くナルトの言葉を受け取って、相手が息を呑む。



『大蛇丸とダンゾウ…どっちに転んでも殺されそうだな』と苦笑雑じりの返答を聞き流して、ナルトは淡々と言葉を続けた。























『準備はいいか?────左近・右近…鬼童丸』


それは、新たな計画の始まりを告げる一言だった。






開演のブザーが鳴る。
 
 

 
後書き
やっっっっっと風影奪回編終りましたあああああ~!!大変長くお付き合いしてくださり、ありがとうございます!

先月の分を今回投稿させてもらったので、今月はもう一話更新予定です!
次回からは新しい章に入ります!




昨年は大変お世話になりました!今年もどうぞよろしくお願いいたします!! 

 

二十 木ノ葉のスパイ

 
前書き
大変お待たせしました!

今回、ちょっと下品?セクハラ?っぽいところがあります。
また、シカマル・キバ→ナルな内容もございますので、ご注意ください!

新章突入です! 

 
蛇の鱗を思わせる石柱。
ちょろちょろと蛇の舌先のように裂けた炎が宙を舐める。点々と燈った蝋燭が仄暗い闇に橙色の光を落としていた。


殺風景な回廊は、まるで蛇の内部の如く長い。

四方を壁で囲まれた長い長い廊下のその先には広間があり、蛇の頭を象った銅像が鎮座している。空ろな眼窩には、ちょうど眼球のように蝋燭の炎が灯っている。

蛇の銅像は赤い瞳を爛々と輝かせ、まるで生きているかの如く、鎌首をもたげていた。





「十日後…天地橋ねぇ…」

蛇の眼から洩れる淡い光。蝋燭の炎に照らされて陰鬱な室内がほんの微かに明るくなる。
しかしながら、陰気で重苦しい空気が漂う此処では、橙色の光はいっそ不気味に感じられた。


「はい。其処で落ち合う手筈となっております」


風で揺れる蝋燭故に、闇と光を交互にその身に受ける。こうべを垂れていた相手の頭を大蛇丸は見下ろしていた。
頬に手をやり、なにやら思案した後、やがて蛇を思わせる双眸を細める。


「その情報を私に伝えるという事は…」
「大蛇丸様のご意向のままに」


かつて『暁』のサソリのスパイとして自分の許へ潜り込み、今や立派な自分の片腕として役立っている部下。
彼からの進言に、大蛇丸は「お前は本当に、末恐ろしいわねぇ…」と口許に苦笑を湛える。


「自分の元主人も平気で売るのだから」
「今の主人は大蛇丸様ですから」

しれっと答えたカブトは話の内容とは裏腹に、その柔和な表情を浮かべる。人当りの良い穏やかな微笑みは、とても以前の上司を裏切るようには見えない。


「裏切者は何度だって裏切るものよ」


暗に、自分の事もいつかは裏切るのではないか、と冗談雑じりに訊ねた大蛇丸に、カブトは「とんでもない」とゆるゆる首を振って否定を示す。


「僕ほど忠誠心が篤いものはおりませんよ」


「よく言うわ」と苦笑した大蛇丸の後ろに付き従いながら、カブトは言葉を続けた。


「では、十日後の天地橋の真昼にて…」
「ええ…────なんにしても楽しみだわ」


くつり、と喉を振るわせて口角を吊り上げる大蛇丸の背後で、カブトは背中に視線を感じた。流し目で背後を確認したカブトは、視線の持ち主に思い当ると、さりげなく眼鏡を押し上げる。

秘かに口角を吊り上げると、大蛇丸には気づかれぬよう、視線の先を自分の背中で受け止める。




カブトの些細な所作には気づかず、大蛇丸は唇に怪しげな微笑を艶やかに乗せた。

その笑みは、以前自分が座していた組織を懐かしんでいるのか、それともかつての仲間との再会を待ち遠しく思っているのか定かではなかったが、どこか愉快そうな風情でもあった。










「────サソリに会うのは」











陰鬱な空気が漂う隠れ家。その内に潜む各々が抱く意図。
食い違う思惑の中、物言わぬ蛇の銅像だけが変わらずに蝋燭の眼を赤々と輝かせていた。
































「ビックリしたってばよ、カカシせんせー!!」
「木ノ葉の里に帰るなり、ぶっ倒れるんだもんね~」
「だ、大丈夫ですか…?」


三者三様。女三人寄れば姦しいと言うが、三人とも自分を心配してくれているので、カカシは布団で覆い隠した口許に苦笑を湛えた。


風影である我愛羅を無事、砂隠れの里まで送り届けた事で、はたけカカシ・波風ナル・山中いの・日向ヒナタの任務は見事遂行された。

『暁』のメンバーを誰ひとり拘束できなかったのは口惜しいものの、一人の犠牲も出さなかった事は僥倖と言えるだろう。
【写輪眼】、それも新しい瞳術【万華鏡写輪眼】の使い過ぎでダウンしてしまったカカシを除いては。



木ノ葉の里に辿り着くまでは気力で歩いていたが、万物の始まりと終わりを示す『あ』と『ん』の文字が連なる重厚な門が近づくにつれ、気が緩んでくる。
深い峡谷の如き門を抜けると、木ノ葉の里へ無事帰還出来たという安堵感が一気に押し寄せると同時に、今まで張り詰めていた緊張の糸がついに切れてしまった。



門を潜るや否や、バッタ────ン!!と勢いよくぶっ倒れたカカシに、ナル達を始め、門番の神月イズモ・はがねコテツが驚いたのは言うまでもなかった。

















「ご苦労、カカシ」

木ノ葉病院の病室。
布団の上で眼を覚ましたカカシは、ナル・いの・ヒナタ以外の女性の声に、大きく眼を瞬かせた。
無理に起き上がろうとするカカシを、病室へ入ってきた五代目火影─綱手は押し止める。


「無理はするな。さっき診させてもらったが一週間はベッドの上だな」

任務復帰には更に数日かかる、と告げながら、綱手はカカシを病院まで運んでくれたイズモとコテツに眼を向けた。


「悪かったな、此処まで運ばせて。もう戻っていいぞ」
「いえ」
「良い息抜きができましたよ」


門でぶっ倒れたカカシを木ノ葉病院まで連れて来たイズモとコテツは、苦笑いを浮かべる。
正直、暇で飽きていたところだったので、良い息抜きが出来たと笑い合いながら、門番の仕事へ戻る二人を見送って、綱手は視線をカカシに戻した。


「当分は無理せず養生することだ。報告書は後日で良い」

前以って砂隠れの里から、風影を無事『暁』から奪還できた旨を聞いている綱手は、急を要する話は特にないと判断した。もっとも、それはカカシに限った話だが。


『暁』のサソリと直接闘って有意義な情報を掴んだらしい山中いのをちらりと見遣る。
師匠である綱手の視線を受けて、いのは微かに頷いた。















「『暁』のメンバーから得た情報です」
「十日後…天地橋、か…」

木ノ葉病院を出て、火影邸の露台で、いのからの報告を受けた綱手は思案顔を浮かべる。


草隠れの里にある天地橋。
そこで、大蛇丸の部下に潜り込ませた己のスパイと、サソリが落ち合う事になっていたという情報。
本来は、サソリというより、突如、いのとサソリの戦いに割って入ってきた謎の人物────つまりはナルトから得た情報だが、どちらにしても『暁』のメンバーからの情報である事は間違いない。


砂隠れの里から木ノ葉の里へ帰還したばかりの山中いのの話。
弟子からの報告に、綱手は顎に人差し指を添わせて考え込んだ。


「この情報を得た日から既に四日経っています。なので、六日後という事になりますが…」
「時間が無いな…カカシは当分あのザマだし」

木ノ葉隠れの里から砂隠れの里まで、急いでも二日半はかかる。よって、我愛羅を無事砂隠れの里まで送り届けて、急速に別れの挨拶をして帰還してきたものの、今や四日過ぎてしまっていた。
いのの言う通り、残り、六日しかない。


「しかし、この機会を逃す手は無いな。新しいチームを編成するしかあるまい」
「それならば、ナルちゃんは外すべきです!」


いのと綱手の会話を黙して聞いていたシズネが身を乗り出す。

九尾の狐の人柱力である波風ナルは、『暁』のメンバーから狙われている。
極力里外の任務は避けるべきだと意見するシズネを、しかしながら綱手は一蹴した。


「いいや。ナルは行かせる。百歩譲って、いのを任務から外したとしても、この任務にはナルを向かわせる」
「何故ですか!!??別の小隊を向かわせるべきです!」


猶も反論するシズネを一瞥した後、綱手は天を仰いだ。


「放っておいても、アイツは勝手に天地橋へ向かうだろうさ」


それなら最初から任務として行動させたほうが良い、と苦笑する綱手の言葉が終わるや否や、彼女が背にしていた手摺に、誰かが飛び乗った。


「流石、ばぁちゃん!オレのこと、よくわかってるってばよ!!」


とんっと軽やかな音を立てる。天地橋の話を聞いていたナルは、火影邸の屋上から飛び降りると、綱手の傍らの手摺の上で、にっと笑った。



「早速、メンバー探しするってばよ!サンキュー、綱手のばぁちゃん!!」





言うや否や、手摺を蹴る。
メンバー探しをする為に飛び出したナルの気配を背中で感じながら、綱手は「ったく、あのせっかちが…」と苦笑した。
ナルの飛び出した勢いで、巻き起こった風に髪を靡かせる。


「まだ、『暁』の罠の可能性もあるってのに…」












天地橋へ向かう気満々のナルを任務から外せば、逆に躍起となって単独で行動するのが容易に思い浮かぶ。
ナルの性格からして、その際、ひとりでいるところを『暁』に狙われる危険性もある。故に、最初からナルを天地橋へ向かわせるメンバーに組み込んでおいたほうが良い。

しかしながら、本当に草隠れの里にある天地橋へ、大蛇丸の部下に潜り込ませたサソリのスパイが来るかどうか、確証は無い。サソリからの話とならば、サソリ本人は橋に来ないだろうが、『暁』がこの情報をわざと流した可能性もある。

つまり、大蛇丸を餌とし、『暁』が天地橋で待ち伏せしている場合もあるわけだ。
そうなれば、九尾の人柱力であるナルが向かえば、『暁』の思う壺。





思案げに眼を伏せた綱手は、意気揚々と飛び出したナルの軌跡を視線で追いながら、軽く髪を撫でつけた。


(真偽を確かめねばならんな…)















































「そりゃ協力してやりてーのは山々なんだけどよ…」


期待に満ちた瞳でじっと見つめてくるナルの視線から顔を逸らす。
気まずげに視線を泳がせながら、奈良シカマルは眉間に深い皺を寄せた。


「めんどくせーけど、中忍試験の係員、任されちまってな」




ナルが風影の我愛羅を奪還して無事に戻ってきた。
更には新しいチームメンバーとして自分を頼りにしてくれたのはすこぶる嬉しいが、如何せん、綱手から中忍試験の係員に任命されたばかり。


一緒に任務に参加したいのは山々だが、タイミングが悪いな、と溜息をついたシカマルは、恨めしげに自分をじ~…と見つめる青い瞳に、思わず「んぐ」と喉を詰まらせた。



そわそわと視線を彷徨わせるシカマルをよそに、彼をじっと見つめながら、ナルはむすっと唇を尖らせる。

綱手といのの会話である天地橋の話を聞いて、ナルは早速メンバー探しに繰り出していた。
風影奪還の任務に共についていたヒナタといのも、今度の任務にも続けて参加すると希望してくれたが、疲労が溜まっている様子だったので、彼女達には休息をとってもらうようナルは頼んだ。

自分は元々体力バカで、その上、チャクラも多い。
既に体力もチャクラも回復しているし、里抜けして大蛇丸の許へ行ってしまったサスケとサクラに再会できるチャンスを逃す気も更々無い。

よって、新たなチームメンバーを探そうとして、真っ先に彼女が向かった先が幼馴染で何かと頼りになる奈良シカマルの許だったのだ。
しかしながら、期待を裏切って、遠回しに断りの言葉を連ねるシカマルを、ナルはじと~っと恨みがましく見つめた。



「そ…っ、そんな捨て犬みてーな眼したってな…っ」

澄んだ青空を思わせる瞳が不安げに揺れている。上目遣いで自分の顔を覗き込んでくるナルから、シカマルは火照った顔を隠すようにサッと眼を逸らした。


頼りにしてたのに、とか、シカマルならと思ったのに、などと呟くナルを前にして、動揺する。
内心、想い人である彼女に頼りにされている事実を喜びつつも、断りの言葉をシカマルは口ごもった。


「無理なもんは、む…」
「んじゃ、俺が一緒に行ってやんよ!!」

感情を押し殺して断ろうとするシカマルの言葉を遮って、と空から声が降ってきた。



ドスン!、と地鳴りと土煙が湧き上がる。さりげなくナルを背中で庇いながら、シカマルは面倒くさそうな表情を浮かべた。
シカマルの後ろから、ひょこっと顔を覗かせたナルは、大きな犬の背中に乗っている人物をぽかんと見上げた。見覚えのある顔に、驚愕の声をあげる。


「き…キバ…か!?」
「よぉ!!」

ナルを見るなり、喜色満面の笑みを浮かべた犬塚キバは、相棒の赤丸からすぐさま降りた。
ナルに駆け寄るや否や、鼻をうごめかす。くんくん、と匂いを嗅いで「やっぱ、ナルだな!この良い匂いはよ!」とニカッと犬歯を覗かせてキバは笑った。


「んえ?いや、任務を終えて里に戻ってきたばかりだから汗臭いってばよ?」

シカマルとは我愛羅を奪還する任務に就く前に会っていたものの、キバには会ってなかった。
だから久しぶりの再会に喜びつつ、匂いを嗅がれたナルはくんくんと自らも自分の匂いを嗅ぐ。
嗅覚が鋭いキバならともかく、汗の匂いしかしないな、と首を傾げるナルの匂いを、キバは再びくんくんと嗅いだ。


「いや、この匂いは間違いなく昔から俺がす」
「おい、いつまで嗅いでんだ、メンドクセー」


ナルの傍から勢いよく引き離す。いくらナルかどうか確かめる為とは言え、何度も匂いを嗅ぐキバを、シカマルはじとっと睨み据えた。


「大体、おめーは紅先生との任務があるだろーが。勝手なこと言うんじゃねぇよ、めんどくせー」
「ナルが困ってんのに、黙ってられねぇだろ!」


邪魔されたキバがシカマルを睨み返す。
同じ想い人のナルを挟んで、バチバチ火花を散らしているキバとシカマルをよそに、ナルはすっかり大きくなった赤丸に夢中だった。



「すげぇってばよ、赤丸~!キバ乗せて走れるくらい大きくなったなぁ~!」と赤丸のもふもふの毛を堪能するナルと、ナルの顔をペロペロ舐める赤丸というほのぼのな光景を前にして、シカマルとキバが脱力する。







瞬間、二人の顔色が変わった。



「「ナル…ッ!!」」



シカマルとキバが一斉にナルに飛びつく。
押し倒されて、驚いたナルが眼を瞬かせると、視界の端で、赤丸が奇妙な猛獣に噛みついていた。黒い墨が飛び散る。


「な、なんだってばよ!!??」

墨へと変わった猛獣。
狛犬のようなソレに驚愕の表情を浮かべるナルに反して、キバとシカマルは彼女を守るように身構えた。


「あそこか…」

嗅覚が鋭いキバが逸早く、敵の居場所を突き止める。
いきなり襲い掛かってきた相手。正面の屋根の上に座っている人物の顔を認めて、シカマルは眉を顰めた。


(アイツ…何処かで…?)

見覚えのある顔に、顔を顰める。
色白の青年の姿に、ナルも不思議そうに首を傾げた。



「どっかで会った気がするけど、誰だってばよ?」
「知り合いにしてもいきなり襲い掛かってくる奴があるかよ!」


警戒体勢を取ったキバが、色白の青年向かって飛び出す。
途端、青年の術らしい数匹の狛犬がナル目掛けて襲い掛かった。


「チッ」と舌打ちしたキバが狛犬を赤丸と共に蹴散らしながら、「行け、ナル!!」と促す。
【影真似の術】の印を結んで青年を拘束する準備をするシカマルを横目で確認し、ナルもキバに続いて地を蹴った。


たくさんの狛犬がナルを邪魔するように襲い掛かってくるが、それらは何れもキバと赤丸が蹴散らしていく。
その合間を縫って、青年の許へ辿り着いたナルはクナイを即座に手に取った。




カキンと、短刀とクナイが搗ち合う音が響く。




刃物と刃物が軋む音を奏でる中、ナルは対峙している色白の青年を見据えた。
やはり、何処かで見た事がある。
過去の記憶を遡っていた彼女は、しかしながら、相手の下品な物言いで一気に引き戻された。




「野蛮だなぁ…君、それでもおっぱいついているんですか?」


朗らかな笑顔に反して下品な物言い。
女性に対する明らかなセクハラ発言に、ナルよりも、シカマルとキバのほうが青筋を立てる。
露骨に顔を顰めるシカマルとキバに反して、ナルは「しつれーなっ」と頬を膨らませた。






「エロ仙人のお墨付きの立派なのが二つ、ついてるってばよ!!待ってろ、今、見せて…」
「「やめろバカ!!!!!!!!!」」





怒りに任せて、その場で脱ごうとするナルに向かって、シカマルとキバが一斉に叫ぶ。
慌てて【影真似の術】を咄嗟に、色白の青年ではなくナルに仕掛けて動けなくしたシカマルに非はない。
代わりに、キバが勢いよく色白の青年へ襲い掛かった。


キバの猛攻をひらりとかわすと、色白の青年は胡散臭い笑顔を浮かべて、ナルを見つめる。
シカマルの術で身動ぎできないものの、強い眼光で自分を睨む彼女を、色白の青年────サイは愉快げに眺めた。

そうして軽く屋根を蹴る。
キバとシカマルには眼もくれず、ナルを一心に見据えながら、サイは印を結んだ。


「いずれ、またお会いしましょう」






刹那、墨がサイの全身を覆いつくす。
墨が消えた頃には、サイの姿は何処にも無かった。


「何者だ、アイツ?」と犬歯を覗かせて唸るキバの横で、「な~んか、見た事あるんだけどな~」とナルは不思議そうな表情を浮かべる。

過去の記憶を辿いながら【影真似の術】を解いたシカマルは、ハッ、とようやく思い当った。




(そうか。アイツ、サスケと────)































(───さて、)

執務室で手を組みながら、綱手は自分の部下を下がらせる。



いのやシズネを始めとした部下達が部屋から遠ざかったのを見計らって、彼女はやにわに【口寄せの術】を発動させた。
己が契約している口寄せ動物の大蛞蝓。
今はさほど大きくもなく、肩に乗せられる程度の大きさの蛞蝓は、綱手の視線を受け止めると恭しく首を垂れる。
暫しの沈黙の後、ようやく手元のカツユが相手からの言葉を綱手に伝えてきた。


≪なんだ?≫
「ご挨拶だねぇ」


蛞蝓【カツユ】が分裂した個体はみな意識を共有している為、どれだけ離れていても情報の伝達が可能である。
よって定期的に五代目火影である自分へ情報伝達するようにカツユの分身を相手に前以って渡していたのだ。


本来は、綱手の口寄せ動物であるカツユが分裂した個体が受け答えする為、丁寧な口調が返ってくるはずだが、どうやったのか、相手本人の声が直接聞こえてくる。








かつて、木ノ葉隠れの里を抜けた────。



















「元気かい、サスケ?」
≪何の用だ?≫







表向きは抜け忍であり、実際はスパイとして大蛇丸の許へ潜り込んだ────うちはサスケ。




昔と変わらぬ相変わらずのぶっきらぼうな物言いに、綱手は口許に苦笑を湛えた。
 
 

 
後書き
ちなみに、サイにはシカマルとナルは一瞬会ったことあります。詳しくは【上】の七十九話をよかったらご覧ください!

これからもどうぞ「渦巻く滄海 紅き空」をよろしくお願いいたします~! 

 

二十一 タイムリミット

「そうか…ご苦労、サスケ」

大蛇丸を餌として『暁』が天地橋で待ち伏せしているという可能性。
罠ではないか、という疑惑が、これで潰れた。


現在、秘密裏に大蛇丸の許へスパイとして忍び込んでいるサスケの話に、綱手は思案顔を浮かべた。


大蛇丸とカブトの会話を秘かに聞いていたサスケ。
カブトが一瞬こちらに気づいたような素振りを見せたものの、大蛇丸に何も伝えていない事を考えると気のせいだろう。大蛇丸の腹心の部下であるカブトが、盗み聞きしているサスケの事を大蛇丸に報告しないはずがない。

サソリと落ち合う事を大蛇丸に報告している時点で、カブトがサソリを裏切っているのは明白である。
大蛇丸に、己が『暁』のスパイだと暴露して、今もサソリの部下ならば、その時点でカブトの命はない。
よって、現在のカブトが従う相手は大蛇丸に他ならないだろう。
それほど忠誠心を抱いている大蛇丸に何も言わなかったのなら、会話を盗み聞きしていたサスケに気づかなかったと判断できる。

大蛇丸とカブトの会話を聞いたことでサスケの身が危険に晒されることはない、と判断した綱手は、「しかし…」と、顎に指先を添わせた。


「カブトが『暁』メンバーの部下だったことは驚きだな」
≪前々から胡散臭い野郎だと思ってはいたがな≫


綱手の口寄せ動物であるカツユ。
その分裂体から聞こえてくるサスケの声に耳を傾けながら、綱手は「ひとまず、これで天地橋に向かっても罠の可能性はないわけだ」と言いながら、眉間に皺を寄せた。


「だが、大蛇丸が来る可能性がある、という危険性が更にあるわけか…」
≪曖昧なところだな≫


サスケとて、大蛇丸とカブトの会話を完全に把握できたわけではない。
カブトが『暁』のメンバーの部下であり、天地橋で落ち合う手筈になっていたという情報は聞き取れたが、実際に大蛇丸が橋に向かうかまでの確証は得ていない。カブトがこちらに気づいたような素振りを見せた時点で、サスケはすぐさま身を潜めたからだ。


「まぁ『暁』の罠の線が消えただけで良しとしよう───ところで、サスケ」

綱手の問いに、サスケは無言で話の続きを促した。
黙っているカツユの分裂体である小さな蛞蝓に、綱手は声を潜めて訊ねる。


「春野サクラと…────アマルの現状は?」

サスケの後を追って里抜けしたサクラと、かつて綱手の弟子であったアマル。
サスケがスパイだと知らずに里を抜けたサクラと、大蛇丸の甘言で自分の許を去ったアマルを、綱手は気にしていた。


《アマル…?ああ、里を抜ける時、俺を迎えに来たあの女か》


『終末の谷』で、ナルと対峙した時、大蛇丸の命令でサスケを迎えにきた赤い髪の少女。
ナルと決別して大蛇丸の部下になったそうだが、詳しいことはサスケは知らない。

そもそも、サスケ自身、大蛇丸に迎えられてからというもの、アマルはもちろん、サクラとさえ引き離されたのだ。
やはり木ノ葉の里に戻ろうと心変わりをしないように、大蛇丸がそれぞれを引き離したのである。
よって、単独で行動していたサスケが、彼女達の現状を知るよしもない。


《詳しくはわからないが、聊か気になることはある。サクラのことだ》
「どうした?」
《サクラは早々に俺と引き離され、大蛇丸の傍で修行させられていたらしい。つまり…》
「……大蛇丸に洗脳されている可能性がある、と」
《懸念であればいいがな》


サスケの話に、綱手は顔を顰める。
木ノ葉の里の抜け忍でありながら、音の里をつくり、部下を得ている大蛇丸は確かにどこか惹きつけられるものがあるのだろう。傍にいれば、大蛇丸の嗜好や考えに同意してしまう可能性もある。

「苛立たしいことに、アイツにはカリスマ性があるからね」と、かつて同じ三忍と呼ばれてきた綱手は苦々しげに吐き捨てた。


ふと、火影室へ誰かが向かって来る気配を察した綱手は、早々にサスケとの会話を打ち切る事にする。
近々、天地橋にナルが向かうことを口早に告げると、綱手はサスケに頼み込んだ。


「また何かわかり次第、連絡してくれ」
《────わかった》


サスケの言葉が終わるや否や、カツユが白煙と共に掻き消える。

素っ気ない態度だが、従順な答えを返したサスケに、綱手はホッとする。
サクラが大蛇丸に洗脳されている可能性はあれど、サスケは違う。
そのことを確認できただけでも上々だ。





















「さて……」

執務机で、手を組んだ綱手は、今からこの部屋に訪れる強敵にどう立ち向かうか、頭を巡らせる。
ノック音と共に部屋に入って来た水戸門ホムラとうたたねコハルの顔を認めて、綱手は背筋を伸ばした。
彼らの話が何かとうに察しはつくものの、素知らぬ顔で訊ねる。



「これはこれは。ご意見番のお二方。如何された?」




















































太陽の光さえ届かぬ地下。
外界と切り離された其処は暗澹としており、まるで仄暗い深海のようだ。

十字形に交叉した橋は四方を円柱に囲まれ、圧倒的な静寂だけが満ちている。
辛うじてその十字路の如き橋、それも中心のみが、天から降り注ぐ光に微弱ながらも照らされていた。




鼠一匹すら忍び込めぬ閉鎖された空間。暗澹たる世界で、男の荒い息遣いが響いている。
顔を引き攣らせて、荒い息を吐いている男の肩。


其処には、顔が生えていた。







「妙な真似をしないほうが身の為だぜ?」
「き、貴様…!?」


ダンゾウの部下である【根】の男の肉体に入り込んだ右近は、顔だけを男の肩から覗かせながら念を押す。


「下手な行動は命取りだぜ?何故なら、今、俺とお前は肉体を共有しているんだからな」






チャクラが流れる経絡系は内臓の各機関に深く絡み合っている。
経絡系とは、各機関を造り出している組織にも、そして組織を造り出している細胞にも、更に細胞の主成分であるたんぱく質にまで複雑多様に絡み合って連結している。
チャクラでこれらの細胞やたんぱく質の分解再構成が自由に出来る右近は、己の身体を粉々にして敵の体内へ入り込み、また元に戻して外に出る事が出来るのだ。


要するに、普段、左近と右近がそれぞれ身体を共有している状態を意味する【双魔の攻】が彼ら二人の血継限界である。
だが『根』の創始者であるダンゾウを始め、『根』に所属する者は皆、右近・左近の血継限界を知らない。
更に言うならば、右近の存在も知らないのだ。

弟の左近が一人だと見せかけ、身体の中で眠りについている右近の存在を『根』の気づかれないように徹底して心掛けていたのである。
それと言うのも、今までダンゾウに利用されないが為に、あえてひた隠しにしていたのだ。




かつて、うちはサスケを里抜けさせ、大蛇丸の許へ連れ出そうと見せかけ、その実、大蛇丸から逃れ、自由の身となる計画を企てていた『音の五人衆』。
その際、次郎坊・君麻呂・多由也は死を偽造出来たが、鬼童丸と右近・左近は『根』に生け捕りにされたのである。

大蛇丸の部下だった『音の五人衆』を捕縛しても、彼らの身の安全を保障するよう、ナルトが水面下でダンゾウと取り引きしていたので、実験体にされずに済んだものの、『根』では常に監視されていた。


だから、ダンゾウがいない今がチャンス。




「『霧の忍刀七人衆』の忍刀の在り処を教えろ」
「な、何故、それを…!?」

身体を右近によって融合され、恐怖に怯える『根』の一員の男が驚愕する。その情報は、火影でさえも知らず、ダンゾウが秘密裏にしていた内容だ。


霧隠れが唯一所有する双刀『ヒラメカレイ』、そして鮫肌と首切り包丁を除いた───『霧の忍刀七人衆』の忍刀。
それを、『根』の創始者であるダンゾウが保管している事は、『根』の部下の中でも一部しか知り得ない情報である。



(水月の話通りだな)

男の表情から察するに、やはりこの場に『霧の忍刀七人衆』の忍刀はあるのだろう。



ダンゾウにこき使われている最中に立ち寄った廃墟。そこで左近と鬼童丸は鬼灯水月と落ち合った。
ナルトの仲間となったらしい彼の言い分から、ダンゾウが奪った忍び刀をこちらの手中におさめるのが、『根』に潜伏中の右近・左近と鬼童丸の任務である。



「さっさと刀がある場所へ案内しな。さもないと、お前の細胞を破壊してしまうぜ」
「わ…わかった…」

相手の身体に入り込む。その肉体の内臓・器官・組織をバラバラにしてほしくなければ、言いなりになる他無い。
反面、右近にとっては身体に入り込む事で攻撃を食らわなくなる。


肉体を共有している故に、相手の細胞を生かすも殺すも右近次第。事の深刻さを理解して、己の身体を人質にされた男が冷や汗を流す。


暗殺専門の術の恐ろしさを早々に理解した男に右近は満足げに頷いた。

ふと、頭に過ぎったのは、身体を共有されながらも自決覚悟で自分を倒そうと立ち向かった木ノ葉のくノ一。
(普通はコイツみたいに俺に逆らえなくなるか、命乞いするかの二択なのに、あの女は度胸があったな)と右近は珍しく山中いのを称賛した。


現在、ダンゾウは、五代目火影の綱手の許へ向かっている。
こちらの行動をダンゾウが知る前に、『霧の忍刀七人衆』の忍刀を手に入れなければならない。



















常日頃、左近の体内で眠っていた右近。
左近から水月の話を詳しく聞いていた彼は、久しぶりに外へ出られたことを喜ぶかのように、やる気たっぷりの笑みを浮かべる。

ダンゾウの部下である男の肩から顔だけを覗かせて、右近は口角を吊り上げた。



(さて、さっさとこんな辛気臭い地下から抜け出す為にも、手土産を持参しねぇとな)
 
 

 
後書き
今回、大変短くて申し訳ありません~!

その上、急いで書いたので、つまらない内容で本当にすみません~!(泣)
右近の能力、こういう事に向いてそうな気がして(汗) 

 

二十二 忍びの闇

 
前書き
大変お待たせしましたぁ―‼

ダンゾウが悪役ですのでご注意ください!



 

 
「アンタは…自分の部下を見殺しにする気か!!」

五代目火影の剣幕に、志村ダンゾウは涼しげな顔で答えた。

「部下…?ふん、勘違いしてもらっては困る」

水戸門ホムラとうたたねコハルのご意見番を前に、ダンゾウは冷ややかな目をゆるゆると細めた。

「あやつらは、もともと大蛇丸の部下だった。それを返却するだけだ」
「ハッ!自分の部下を物扱いかい?」
「ワシの手駒の中でも役に立たない捨て駒を返して何が悪い」


しれっと答えるダンゾウに向かって、綱手は目の前の机を叩いた。
随分力を抑えたものの勢い余って罅が入った机を、ダンゾウは横目に眺める。


「短気なのは相変わらずだな、綱手姫」
「……アンタも相変わらずだね」


『根』の創始者であり、『忍びの闇』と評される志村ダンゾウを、綱手は苦々しげに見やった。





つい先ほど火影室に訪れたご意見番のホムラとコハルの二人によって、突如開かれた会合。
案の定、波風ナルの処遇に関する内容に、綱手は溜息をつく。

『暁』から得た情報である天地橋。
そこで大蛇丸が現れるという情報により、ナルを向かわせるはずが、どこから聞きつけたのか、ご意見番が出てきたことに、綱手は顔を顰める。もっとも聞きつけた情報源はわかっている。


視線を彷徨わせる傍らのシズネを睨みつけると、綱手はご意見番に自分の意見を押し通した。

なんとかナルが天地橋へ向かうことを承諾させたものの、追加の班員に関してはこちらで用意した忍びをつけさせる、と条件をつけられる。

確かに、現状第七班は、うちはサスケと春野サクラが里抜けしている為、実質ナルひとりである。
はたけカカシが倒れた今、だれか追加の班員が必須なのは綱手としても同意見だ。


何らかの魂胆を覚えずにはいられないものの、ご意見番の意見を無碍にするわけにもいかず、渋々了承を返した綱手は、背後の気配に振り仰ぐ。


「久しぶりだな、綱手姫」
「アンタが出てくるってことは…そうか」

杖をついて猶、威厳を損なわぬ、忍びらしい忍び。
志村ダンゾウに、綱手は眉を顰めた。


「新しい班員というのは、暗部の根の者か」
「根の者?いいや、ただの捨て駒だ」


冷たく吐き捨てたダンゾウに、綱手は元々低かった機嫌を益々降下させた。
直後、ダンゾウから追加の班員の名を聞いた彼女は、抑えていた憤りを露わにさせた。



そして冒頭に戻る。





















ダンゾウが指名した相手。

かつてサスケの里抜けに助力し、結果的に『根』に捕らえられた『音の五人衆』。


他三人は死亡を確認したが、唯一生存していた彼らの生け捕りに成功した話は、五代目火影である綱手も耳にしていた。『根』ではなく、木ノ葉が保護すべきだと再三申し出たが聞き入れてもらえなかった忍びの子ども達。

右近・左近と鬼童丸を天地橋へ向かわせるというダンゾウの意見に、綱手は額に青筋を立てた。


「そんなもん、大蛇丸にみすみす殺させに行かせるようなものじゃないか!!」

死んだはずの部下が実は生きていて、そしてしれっと大蛇丸の許へ向かえば結果は見えている。
それなのに、大蛇丸が訪れる天地橋へかつての部下である右近・左近と鬼童丸を向かわせるなど、何を考えているのか。


憤る綱手に対し、ダンゾウは「元部下なら、親心をだしてアジトにまで案内してもらえるかもしれないだろう」ととぼけた返事を返す。

「そんな殊勝なタマじゃないと、アンタが一番理解しているはずだろう!!」


かつて大蛇丸を従わせていたダンゾウに問いただす。
だが、ダンゾウは聞く耳をもたず、窓から木ノ葉の里を一望している。
綱手が更に詰問しようと口を開くも、ご意見番の二人に「追加の班員はこちらで用意すると伝えたはずだ」と非難された。

「チッ」

納得できずに舌打ちした綱手は、極力怒りを抑えつつも「…カカシの代わりはどうするつもりだ」とダンゾウの背に鋭い視線を投げた。


「…班員を子どもだけにするつもりなら、益々アンタの正気を疑うね」
「ならば、火影直轄の暗部の中から、より優秀な忍びを1人選抜して隊長にするべきだな」


綱手の鋭い視線を一身に浴びながらも、ダンゾウは振り返らずに淡々と答えた。

「カカシの代役の人選はこちらで任せる……、という事で良いのか?」


無言の返事に、綱手は今一度舌打ちすると、強かに机を叩く。
どうやらこれ以上話すことはないらしい。

「そちらが二人指名するのなら、こちらもカカシの代役と班員…二人指名させてもらおう」

せめてもの反抗とばかりに意見する綱手に、ダンゾウは一瞬チラリと視線を投げる。

無言の承諾に、綱手は鼻息荒く立ち上がった。
ご意見番とダンゾウを一瞥し、勢いよく部屋を出て行く。

その後を慌てて追い駆けたシズネは、一度立ち止まると、ご意見番のホムラとコハルに一礼した。
五代目火影の前にあった机がビキビキと音を立てて壊れていく様子を目の当たりにして冷汗を掻きながら、綱手を追い駆けてゆく。


その光景を、天井裏から覗き見ている者には気づかずに。


















足音荒く廊下を歩く綱手に追いつくも、シズネは師である彼女の機嫌が悪いことに身を縮こませた。
抑えていたとは言え、叩いた机が時間差で粉砕されたことにも、綱手の怒りが窺える。

萎縮するシズネをよそに、「カカシの代わりをも、てっきり自分の部下をゴリ押ししてくるかと思ったが…」とぶつぶつ呟いていた綱手は、親指をギリッと噛みしめた。

「カカシの代行に火影直轄の暗部というのはこちらも考えていたことだ。だが、まさか向こうから提案してくるとはな…」

目下の急務は、カカシ班の編成だ。
だが、それにしても大蛇丸の部下である音の五人衆を向かわせるとは、どういう意図あってのことか。

「…それとも何か他に魂胆が、」


ダンゾウの考えが読めない。
苛立ちを隠しもせずに、綱手は再三舌打ちした。














































薄暗い闇に、研ぎ澄まされた刃物がギラリと鈍い光を放った。

鈍刀の兜割・長刀の縫い針・爆刀の飛沫・雷刀の牙。

それぞれ忍び刀とは思えない造形をしている名刀の数々に、鬼童丸はヒュウッと口笛を吹く。


『霧の忍刀七人衆』の特殊な忍刀は代々受け継ぐ習わしとなっており、刀を受け継ぐ度に襲名されてきたが、今や霧隠れの里が所有する忍刀は双刀のみ。
相次ぐ内乱等で再不斬のように所有者が刀ごと次々離反していったからである。故に忍刀の一振りである双刀以外は現在消失している有様なのだ。

再不斬の首切り包丁に鬼鮫の鮫肌、それに霧隠れが唯一所有している双刀『ヒラメカレイ』を除けば、『霧の忍刀七人衆』の忍び刀は幻のものとなっている。

それらが全て自分の手の内にある事に、鬼童丸は軽い感動を覚えていた。



「おめーの無駄に多い手はこの為にあったのかもな」
「いやべつに俺は忍び刀を持つ為に手が六本あるわけじゃないぜよ!?あと、無駄には余計ぜよ!!」

右近の揶揄に、思わずツッコミを入れる鬼童丸だが、その手にはしっかと四本の名刀をしっかと握られている。

刀というより斧に近い兜割と、斧に巻物を組み合わせた形状の飛沫や、巨大な刺繍針の如き刀の縫い針はともかく、斧と巨大なハンマーを組み合わせる兜割と、二刀一組の牙は二本揃っている。

その為、腕が六本あるからこそ、ひとつひとつの刀を持つことができる鬼童丸に、「これだけ多い忍び刀を一発で持ち歩けるなんざ、コイツしかいねぇわな」と右近はボソッと呟いた。

「で?これで全部か?」
「水月から聞いた話ではそうなるな」

前もって水月と会っている鬼童丸に、普段は左近の中で眠っている右近が問いただす。
水月から直接刀の説明を受けていた鬼童丸は「確かに刀の特徴を知らねぇと、『霧の忍び刀七人衆』の刀だととても気づけないぜよ」と六本もある自らの腕が全て納まっているのを眺めた。


「き、貴様、なんだ、その腕は!!??我々『根』はそんな報告受けてな…、」
「おっと」

右近に現在身体を共有させられているダンゾウの部下が、鬼童丸の腕の多さを目の当たりにして、目を白黒させた。
大声で怒鳴ろうとするも、右近によって口を閉ざされてしまう。

『霧の忍び刀七人衆』の忍び刀が保管されている場所へ案内させられたダンゾウの部下。
その身体を乗っ取っている右近は、落ち合って一緒に忍び刀を探した鬼童丸と顔を見合わせた。

「「言ってないからな」」



そもそも『音の五人衆』は、うちはサスケの里抜けに便乗して大蛇丸の許から抜けようと企てていた。

君麻呂・多由也・次郎坊は上手く死を偽造し、ナルトの許へ向かえたが、鬼童丸と右近・左近は『根』のダンゾウに生け捕りにされてしまったのだ。
ナルトが前以って取り引きしていたので身の安全は保障されているが、いつ切られるかも定かではないのだ。
スパイとして潜り込んだ先に手の内を明かす愚か者がどこにいるだろうか。

よって『根』には自分の能力に関しては一切明かしていない。
鬼童丸は能力どころか腕が六本あるというのさえ、徹底的に誤魔化していたので、現在、ダンゾウの部下を驚かせているという次第である。



「お前が長時間出てるなんて珍しいな、右近」

口を右近によって押さえられているダンゾウの部下がふごふご言っているのを尻目に、鬼童丸は右近に訊ねた。

基本的に右近は普段左近の中で眠っている。
だが、今は分離してそれぞれ単体で動いているのを疑問に抱きながら、鬼童丸は巻物の中に『忍刀七人衆』の忍び刀を収納した。
流石に敵のアジトの中を盗んだ忍び刀を持ってうろつくわけにはいかない。

鬼童丸の問いに、右近は「ああ」とダンゾウの部下の口を押えながら、答えた。

「アイツは今、ダンゾウを見張ってる」



今頃五代目火影の綱手の許で、天地橋へ向かう波風ナルの処遇に関して話し合っているのだろう。
木ノ葉の里に関わる情報をナルトだけでなく、鬼童丸や右近・左近にも流してくれる相手からの情報だ。

現在、波風ナルの七班は、うちはサスケと春野サクラの里抜けによって班員がナルしかいない。
班を率いるはたけカカシでさえ、風影の我愛羅の件で木ノ葉病院に収容されている。

その欠員に、ダンゾウは『根』の誰かを送り込む手筈となっている。
その誰かが自分たちであることを、右近・左近、それに鬼童丸は知っていた。









大蛇丸に、かつて彼の部下であった自分たちをぶつける。
要するに、裏切り者である右近・左近と鬼童丸自身を大蛇丸への贈り物とすることで、大蛇丸の警戒心を緩ませようとする魂胆だろう。

死んだと思っていた右近・左近や鬼童丸が実は生きていたとすれば、大蛇丸は彼らを裏切り者だと認識する。
何故なら生存しているにもかかわらず、音に帰らなかった者など大蛇丸にとっては裏切り者に他ならないからだ。

その裏切り者である右近・左近と鬼童丸をダンゾウは手土産にするつもりなのだ。






ならば、こちらも相応の手土産を頂いても構わないだろう。



ダンゾウが秘密裏に保管していた『霧の忍刀七人衆』の忍び刀を秘かに持ち出しても。
































ダンゾウを今まさに天井裏で見張っている左近が戻ってくるまでに、さっさと忍び刀を持ち出そうと考えた右近は、融合することで人質にしているダンゾウの部下の身体を使って、普段は入れない場所を秘かに歩く。

いつもは閉鎖されており、どうあっても行けなかった廊下を突き進むと、何処かで水音がした。

「なんだ…?」

自分の口寄せ動物である蜘蛛を鬼童丸が音のする方向へ向かわせる。するすると、音がする方向へ小蜘蛛が糸を出しながら向かって行く。

安全を確認して戻ってきた小さな蜘蛛を人差し指に乗せた鬼童丸は、「奇妙な水槽があるらしい」と右近を振り返った。


「あっちに何があるんだ?」
「し、知らない…あちら側にはダンゾウ様しか行けない場所だ」

人質のダンゾウの部下の答えに、右近は思案顔を浮かべる。

『霧の忍刀七人衆』の忍び刀の在り処でさえ知っていた者が知らない場所。
上手くすれば、ダンゾウの弱みをつかめるかもしれない。



そもそも、幻の忍び刀でさえ、何故ダンゾウが手に入れていたのか定かではない。
大方、自分の部下に命じて収集したのだろうが、本来ならば霧隠れの里に返さないといけない代物だ。
それを秘密裏に隠していたとなると、国際問題にもなりかねない。

よって、たとえ右近・左近と鬼童丸が忍び刀を持ち出したところで、ダンゾウは表立って忍び刀を追うわけにはいかないだろう。
更に、自分達二人は今から天地橋へ向かわされることになっているのだ。

忍び刀が無くなったことに気づいた時には、天地橋で大蛇丸と会っている頃だろう。
その時、忍び刀の紛失に気付いたところでもう遅い。


全てはナルトの読み通りに動いているが、ダンゾウの秘密が他にもあるのなら調べない手はない。
ダンゾウの部下が大声を出さないように口を押えながら、右近は鬼童丸に目配せした。


子蜘蛛の糸を辿る。
糸を辿ったその先には、水柱があった。







その中に、囚われている存在に、右近と鬼童丸の目が大きく見開かれる。


「な…どういうことだ…!?」












































『おい、ナルト!!』


【念華微笑の術】で連絡を取ったナルトに、鬼童丸は開口一番に問いただした。
ナルトは、香燐をからかう水月に視線を投げながら「どうした?」と尋ねる。


以前、水月に会って、忍び刀の特徴を伝えられた右近・左近と鬼童丸。
その鬼童丸からの報告に、ナルトは心の中で(────やはりな)と呟いた。

























『なぜ水月が此処にいる!!??』 
 

 
後書き



最後の台詞の人物の名前、誤字ではありません。やっと伏線回収できます…!
あー長かった!!

次回もどうぞよろしくお願い致します~!!