ハルケギニアの電気工事


 

プロローグ:いつもの朝?

 
前書き
以前、「小説家になろう」様サイトにて連載していましたが、色々ありまして、この度こちらのサイトにて発表を続けていく事にしました。
修正しながらになるので、のんびりで行きます。 

 
 私の名前は板東太郎|(ばんどうたろう)。関東地方を流れる某大河の別名だが、特に関連はないと思う。
 年は46才、男。ごく普通の会社で課長を務め、妻も子供もいる。
 私の勤める会社は、設備のメンテナンスや電気工事等の仕事を受け持っている普通の会社であるが、社長の方針がなぜか社員の想像の斜め上を行くようで、受け持ち範囲外の仕事が飛び込んできては社員を混乱させている。
 社長のポリシーはどんな仕事を依頼されても『NO』と言わない事で、出来るか出来ないかなんてことは引き受けてから考えればいいと思っているらしい。
 何をしたいのかわからない変な会社である。
 
 真冬のある日、私はいつもの通り午前3時15分に起床した。長年この時間に起きているので万一にとセットしている目覚まし時計より早く目が覚めてしまう。
 すぐに着替えると一人で朝食の準備をする。毎朝インスタントラーメンを野菜やベーコンなどと一緒に煮込み、前日の残りご飯をぶち込んで食べる。
 起きてから朝食を終えるまでの時間は概ね30分。朝食後、休む間もなく自家用車で仕事場に出かけた。

 私の仕事場は家から車で1時間かかる、それなりに有名な大きな工場群の一角にある。
 中古のプレハブ2階建ての現場事務所で、女子社員に言わせれば夜一人で残業していると幽霊が出るそうだ。あいにく私は見た事がない。

 この日はいつにもまして猛烈な寒さで、ようやく吹雪のやんだ夜空には凍てつくような星が瞬き、道路は黒光りする完全なアイスバーンだった。

「天気は良いんだが、恐ろしく滑りやすくて神経が疲れるな。」

 などと呟きながら何とか仕事場まで着く事ができたが、相変わらずあたりは真っ暗だった。

「我ながら、何でこんな時間に仕事に来ているのか、理解に苦しむな。」

 仕事場には誰もいない。当然である。現在時刻は午前4時半。普通の人はまだ寝ている時間だ。
 単に通勤時の混雑がいやなだけだが、阿呆かと言われても言い返せない。
 同僚や、部下には事務処理の必要な書類が多すぎて、早出をして処理していると言い訳しているが。まあ、文句を言っていても仕方ないので、部屋中の電灯を点け暖房のスイッチも入れて、部屋を暖める事にした。ついでに電気ポットの水を替えてお湯を沸かし始める。

 外壁にはろくな断熱材も入っていない中古のプレハブ事務所は、火の気が無くなるとすぐに冷えてしまう。
 昨日みんなが帰ってから一晩たった今は室温が3度位しかない。
 それでも暖房のスイッチを入れて10分もすると、室温も10度を超えたのでさっそくパソコンのスイッチを入れていった。
 自分の業務に関連するパソコン関係の電源を入れ、立ち上げが完了する頃にはポットのお湯も沸騰するので、まずコーヒーを入れる。
 さあ、書類の整理を開始しよう。



 気がつくと外はまた雪が降り出しており、事務処理が一段落する頃にはかなり積もっていた。
 周りでは除雪車が動き出し、地響きとともにやかましい除雪の音がしている。

 その時、ふと外の音が消え、静寂にあたりが包まれた。
 何が起きたのかと窓の外に目を向けたとたん、辺り一面が白色光に包まれ、轟音とともに私は意識を失った。





 除雪中の作業員の証言。

「いきなりだったんですよ。本当に。なんかすごい音がしたと思ったら辺り一面真っ白に光って、車がひっくり返るんじゃないかと思う位ものすごい揺れがあったんです。
 もうハンドルにしがみついているのが精一杯でした。
 しばらくしてやっと静かになったんで表を見たんですよ。そしたら、今まであった目の前の事務所が無くなっていたんです。こんな時間から電気が付いていて、誰か仕事をしているんだなと思ったんです。それが無くなっていて、代わりに大きな穴が開いてるし、夢でも見ているのかと思いました。」

 朝日が昇り、明るくなっていつもの時間に出社してきた事務所の社員達は、半径10mくらいのクレーターを見てあ然としていた。
 そして、駐車場にはいつも一番にきている課長の車だけが残っていた………。










 私が目覚めると外は日が昇って明るくなっていて、窓から見える景色は濃い緑の深い森のようだった。
 部屋の電気は消えてエアコンも止まっていたが、暑いくらいでさっきまで降っていた雪などどこにも見えなかった。

「…………ここは何処だ?」 
 

 
後書き
以前、読んで下さいました皆様に感謝いたします。
ずっとご無沙汰してしまい申し訳ありませんでした。
何とか生きていますので、これから又続けていきたいと思います。 

 

第01話:私は何処?此処は誰?

 
前書き
プロローグに続いて、第01話を投稿しておきます。
後は追々。
6/5 一部修正しました。 

 
 窓から見える景色は、どう見てもさっきまで見えていた真冬の雪景色とは違っていた。

「………えっと?雪がない?何か何時も見えるより木が多くなったような。というか、此処はいったいどこの森だ!?」

 現代日本の風景では富士の樹海か白神山地若しくは知床岬の森とか?それ位に見える樹の数。
樹の種類も杉や松のような見慣れた針葉樹には見えない。
それどころか見た事もない樹ばかりで、木の実がたくさん採れそうな綺麗な広葉樹が鬱そうとした森を形成している。
 何がなにやら判らないまま、衝撃にふらつく頭を我慢しつつ起き上がった。
 窓に近づいて思いっきり窓を開けてみる。
本当なら外からは凍てつくような冷気が吹き込んでくるはずだったが、次の瞬間、外からは聞いた事のない鳴き声が聞こえ、色々なにおいが鼻に飛び込んできた。

「栗鼠とかウサギとかいっぱいいそうだな。これだけの森なら狐とか鹿もいるだろう。
じゃなくて!!どうみても日本じゃないぞ?狐や狸どころか、もしかして熊とか出るんじゃないか?」

 異常な状況に陥っているのは、感じとしては解るのだ。しかし、頭の方が働かなくて、どうしたら良いのかさっぱり解らない。
 こんな状況にいきなりおかれた人間が出来る事など、たかが知れている。
一気にパニックを起こしそうになった時、いきなり後から頭を叩かれた。

「いって~!!?」

 頭を押さえた俺が涙目になりながら後を振り向くと、そこにはどっかで見たことのあるような白髪、白髭、そのうえ白い着物といった老人が変にねじ曲がった杖を持って立っていた。

「爺さん!いきなり何すんだよ!!そんな杖で人の頭を叩いたのか?何考えてんだ!?痛いんだぞ!だいたい、いったいどっから入ってきたんだ?」

「誰が爺さんだ。誰が! 全く礼儀を知らん人間だな。」

「何が礼儀だ。初対面で後からいきなり人の頭を叩くような爺さんの方がよっぽど礼儀知らずだろうが!」

「爺さん、爺さんとうるさいわ!わしゃ神様だ!頭が高いわ。下がりおろ~!!」

「はあ!?何おかしな事を言ってるんだ?おい爺さん、あんたは水○黄門様か?それなら助さんや角さんはどこに行った?それともパチンコにでもはまってるのか?大体神様だ?どう考えてもおかしいだろう?
まったく、どこの病院から逃げてきたのか知らないけど、今お迎え(救急車)呼んでやるから大人しくしてろよ。(まだ、春は遠いのに可哀想に………。しかしどこから入ってきたんだ?警備の人間は何やってんだか)」

「返す返すも失礼な男よの。この儂を捕まえて頭がおかしいというのか?これだから最近の若いもんは」

「ちょっとまて。最近の若いもんはって、俺はもう46だぞ?若いって言われる歳じゃね~わ!!」

「何を言っておるのか。わしら神から見ればおまえのようなものは皆洟垂れ小僧と同じじゃ!ハッハッハッ」

 まじめに頭が痛くなってきた。いったい俺が何をしたと言うんだ?もう、溜息しか出てこない。

「ハ~~。解った。良いだろう、今一あんたが神様って言うのは納得いかないが、話を聞いてやろうじゃないか。」

「なんか、偉そうじゃな。まあ、いいわい。早速じゃが今の状況を説明してやろう。板東太郎よ。おまえは既に死んでいる。」

 此処は突っ込んでも良いかな?

「なに?今度は北斗○拳?TVアニメに詳しいというのは判ってやろう。しかし、少しはまじめに話をしようって気にならないか?」

「ばかめ、至ってまじめに話しをしておるわ。先ほど、おまえが気を失う前にあたりが光ったろ?あれは極小型の隕石が落ちてきたものじゃ。そしてドンピシャリでおまえのいた、この事務所に命中したというわけじゃよ。どうじゃ、なかなかの命中率じゃろ。」

「命中率って、まさかあんた狙ってやった訳じゃないだろうな?」

「狙った訳じゃないが、間違って隕石を落としたのは儂じゃ。ちょっと火星と木星の間にある小惑星帯で微惑星の並び方を直していたら、肘が側の微惑星に当たってな。そのままヒューストーンというわけじゃ。まあ、許せ。」

「許せって、それが本当なら、そんな簡単に言われて許せるか?大体それで死にましたなんて俺の寿命は?神様が間違って殺したら、現世における因果律とかどうなるの?おかしいでしょ?あんたも神様なら適当なこと言ってないで何とかしろ。俺には妻も子もいるんだぞ!!」

「何とかしろと言ってもな、実際問題としておまえの身体は極小型隕石の衝突エネルギーで原子レベルまで消滅してしまったし、今頃おまえの居たところにはクレーターが出来ていて、大騒ぎになっているわ。
まあ、間違って殺してしまったのだから儂に責任もあるでの、どうじゃ、おまえの家族についてはこの先生活に不自由しないように神様として幸運を授けよう。おまえについては、この今居る世界で生きていけるように新しい身体と地位を作ってやるから、それで勘弁しろ。」

「本当か?家族に与えられる幸運ってどんなんだ?」

「まず、健康じゃな。どうも、おまえの家族はみんなどこかしら病を抱えているようじゃから、その辺の所を全部直して健康な状態にして、おまけに今後は病気にならないようにしてやろう。
それから、当面の生活のためにおまえが入っていた生命保険をグレードアップしてやる。
これで生活も大丈夫じゃろ。
ついでにこれから先、おまえの妻が買う宝くじなんかも良く当たるようにしてやる。こんなもんでどうじゃ?」

「まあ、それ位して貰えば、安心か。俺自身は死んじまった以上どうとでもなるとして、………仕方ないか。ところでいくつか聞きたいことがあるんだが良いか?」

「なんじゃ?」

「まず、なんで神様が微惑星の並びなんて直していたんだ?微惑星って言ったらアステロイドベルト辺りだろ?あんな遠くにある微惑星の事でそんなことをする必要性が判らないんだが?」

「いや~。ちょっとこの前他の神様達と宴会やったんだが、調子に乗って宴会芸で賭けをしての。儂最下位じゃった。その罰ゲームみたいなもんじゃよ。
元々地球に落下しそうな微惑星があったので、このままじゃまずいと言うことになって誰かが軌道の修正に行かなければならなかったんだが、あそこは暗くて寒いから行きたがる神様なぞいなくての。結局くじ運が悪かったということじゃな。」

「神様がそんなことをやっているのか?大体くじ運の悪い神様って信じて良いのか?神頼みも考え物だな。
本当にいい加減なのか、真面目なのかさっぱり判らんが、まあ仕方ないか。それでは、次の質問だが、ここってどんな世界だ?この世界で生まれ変わって暮らす以上、最低限の知識は貰えるんだろうな?」

「もちろんじゃ。まず、この世界はおまえも良く知っている『ゼロ魔』の世界じゃ。現在地はアルビオン王国のサウスゴーダ近郊、ウェストウッドの森と言えば判るじゃろ。」

「なっ、なぜ俺が『ゼロ魔』を知っていると?」

「おまえの愛読書くらいはお見通しじゃ。おまえの記憶も確認済みじゃからの。今も鞄の中に何冊か入っているのじゃろ。いい歳をして、おまえも好き者よの。」

「どっかの悪代官様じゃあるまいに、ラノベ読むくらいで好き者呼ばわりはないんじゃないか?大体俺は『涼宮ハ○ヒ』も大好きだぞ。」

「あっちの世界に行かせても良かったんじゃが、こちらの方が波瀾万丈で面白そうじゃからな。」

 確かに波瀾万丈と言えばそうだろうな。しかし、こっちは戦争もあるし、貴族と平民では生活面で苦労が違いすぎるから、うかうかするとすぐにあの世行きだろう。

「大体の話はわかった。つまり、俺は良くある二次小説の転生とかになるわけだな?」

「そうじゃ。一応貴族として転生させるつもりじゃが。何か希望があれば出来る限りかなえよう。」

「良いのか?それなら、貴族になれるのなら魔法の能力か。『ゼロ魔』の世界だと魔法のクラスは土のスクエアと水のトライアングル位は最低でも欲しいところだな。
ついでに魔法を開発する能力と身につけている物なら何でも媒体に出来ること。あと魔力無尽蔵。これ位か。
あっ、そうだFFⅩの召還魔法とかDQの攻撃系や回復系の魔法も使ってみたいのだが。」

「思いっきり大きく出たな。まあ良い、どれも5歳くらいから使えるようにしてやろう。
しかしFFXやDQの魔法はいきなり出来るようになっても怪しすぎるじゃろ?そちらは10歳以上に限定するぞ。」

「10歳以上?う~ん、まあ良いか。使えるのなら問題無い。それからあまり、メインキャラクターに絡みたくないんだが、どの年代に転生するんだ?」

「『ルイズ』たちの生まれる10年前を考えているが、どちらにしろ生きていく上でどこかで出会うと思うぞ。その辺は諦めるんじゃな。」

「そうなのか?ちょっと嫌だな。あいつらと絡むとますます死亡フラグが立ちやすくなるんだが。
それなら武器関係も強化が必要だな。俺が生きていた世界での武器は持ち込んでも良いのか?」

「『場違いな工芸品』として認めさせることも出来るからある程度なら良いぞ。」

「では、64式小銃1丁。弾薬は魔法で無限に製造できるようにしてくれ。弾倉は10個もあれば良い。
それから、手榴弾100個、銃剣1振り、9㎜拳銃1丁と弾は小銃と同じで無限で、弾帯とホルスター、手入れ道具一式。
あとは、剣と防具だな。エクスカリバーとDQに出てくる、着て歩いているだけで体力の回復する魔法の鎧が有れば良いな。
これ全部に予め固定化の魔法を掛けておいて、ついでに『王の財宝』もくれ。さすがにこれだけの量を持ち歩くのは大変だからな。」

「なんじゃそりゃ?剣と防具はこの世界なら判るが、なんで自衛隊の武器まで出てくるんじゃ?ああっそういえばおまえは元自衛官じゃったな。やはり昔から使っていた武器の方が使いやすいか?」

「そう言うこと。だいたい『ゼロ魔』の世界で魔法だけで生きていくなんて無理が有りすぎる。剣にしても学生時代に授業で習った剣道や、自衛隊時代の銃剣道程度だからな。
それでも頑張って訓練すれば何とかなるだろう。ところで今の記憶は持って行っていいんだろうな?記憶をなくしたら全く意味がないからな。」

「ああ勿論じゃ、ただし、3歳までは封印状態にしておくぞ。赤子に戻って下の世話をされるのはさすがに嫌じゃろうからな。まあ、持ち物については良いじゃろ。この際じゃ、好きな物を持って行くが良い。」

「ありがとう!ところで、この事務所はどうするんだ?」

「いや、まあ、はずみで一緒に来てしまったんじゃが、どうすりゃいいかの?」

「それなら、このままここに置いておこう。神様の力で廻りに結界張って、俺以外に見えないし入れないようにしておいてくれ。
この事務所内にある物は色々と使えるから、全部固定化の魔法を掛けて欲しい。いつか俺がここに来れるようになったら、絶対必要になると思うからな。」

「そうか、じゃ、まあそう言うことにしておいてやろう。これで良いかな?」

「ああ!これで充分だ。」

「それでは、転生と行くか。目を閉じて10数えよ。」

「よし。1,2,3…………」

「やれやれ、やっと行ったか。まあ、適当に頑張るんじゃぞ。おまえの運もそれなりに強いようじゃから多分大丈夫じゃろ。気が向いたら見に行ってみるか。」

 後には、疲れたような、楽しいような自称神様が一人残された。 
 

 
後書き
一応、見直しを掛けてから投稿していますが、それなりに誤字等はあると思います。
また、辻褄が合わない事も多々あるかと思いますが、気がついたら修正しますので、大目に見て下さい。 

 

第02話:おめでとう!!3歳です!

 
前書き
半月毎に更新予定です。
少しずつですが修正を入れています。
楽しんでくれたいいなと思います。 

 
 やっほ~!転生に成功した板東太郎です。

 話しの都合上、一気に3歳まで飛びました。
 生まれてから3歳までの間は普通に赤ちゃんやってましたから、特に話すこともないのですが、記憶を封印して貰って良かった。あのまま46歳の記憶があったら、あの羞恥プレーは乗り切れなかったでしょう。今思い出しても恥ずかしくなります。

 さて、神様と約束した3歳になって、生まれ変わる前の記憶が開放された訳だけど、2~3日は記憶が戻ったショックで頭痛がひどいし、熱も出るしで大変でしたよ。
まあ、46年分の記憶が一度に戻るんだから当たり前かもしれないけど、あまり頭が痛いので泣いていたら母上が魔法で痛みを止めてくれました。
 突然の事だったので、母上も自分の治癒魔法だけでは難しいと判断したのか高名な水のメイジを呼んだりして、一次は家中大騒ぎになったそうです。

 ここで、現在解っている状況をお知らせします。
 僕が生まれ変わった場所は予定通り『ゼロ魔』の世界。
3年間の間に周りにいた両親やメイドの会話から判ったことは、我が家はゲルマニアのツェルプストー辺境伯の北隣に位置するらしい。と言うことは、トリステインのヴァリエール公爵領とも国境を接するお隣さんということになる訳です。こりゃ、嫌でも原作介入パターンになりそうで、もう鬱になります。
 家はボンバード伯爵という原作では聞いた事のない中堅の貴族で、父上はジョン・ストンロック・フォン・ボンバード、31歳の土のスクエア。なかなかのハンサムで、身長185サント、金髪、碧眼です。
錬金やゴーレム作りが得意で、30メールもあるゴーレムを作ることも出来ます。
母上はソフィア・エメロード・フォン・ボンバード。20歳で水のトライアングル。綺麗な人で身長165サント、濃い茶髪に空色の瞳で、癒しの魔法が得意です。
水の秘薬作りでも有名でたいていの病気ならすぐに直してしまいます。今のところ母方の旧姓が判らないのでどんな親戚がいるのか判断できませんが、、見た目も若々しく、とても子持ちに見えない両親です。

 僕はこの家の長男として生まれ、名前はアルバート・クリス・フォン・ボンバードと付けられました。少し赤みのかかった金髪と濃い緑の瞳です。両親に愛され、健康に育つことも出来たし、何より自分で見ても結構な2枚目だと思います。
 下には1歳になるかわいい妹、メアリー・アルメニア・フォン・ボンバードが生まれています。この子は母親似で茶髪と空色の瞳をしています。将来はきっと美人になるでしょう。
 現在この家には、僕たち4人家族と屋敷で働いている執事さんとメイドさん(10人)が住んでいます。

 生まれた時期は予定通り原作主人公達の生まれる10年前。それから3年たったので現在は7年前になるわけですね。
 たしかキュルケはルイズより2歳年上のはずだから後5年もすればお隣さんで生まれることになるのかな?
 この辺の原作知識がはっきりしないのだけど、ラ・ヴァリエール公爵の所のエレオノールさんはもう生まれているころでしょうか?原作開始時でたしか27歳だったと思うから、時期的には1歳位になるかな?
 ラ・ヴァリエール公爵の所には、まず行くことはないと思うけど、万一行く機会があったら確認してみようかと思います。

 この領地は中堅貴族の領地と言っても結構裕福なようで、隣のツェルプストー辺境伯とも家族ぐるみの親交があるようです(まだキュルケは生まれていませんよ)。その上、何と皇帝からの信頼も厚いそうですが、いったい何をしてきたんでしょうね。謎です。
 領民に対しても一般的な貴族よりまともな扱いをしていて、税率も5割以下とかなり低く領民からは一応の敬愛を受けているとか。何しろ一般的な貴族の領地では税率8割から9割何て所もあったようですから、領民も良く生きていられましたよね。
 元々我が家は両親揃って魔法を用いての技術的開発を行ってきて、今までに色々な発明によって皇帝から賞賛を受けると共に、発明品の商品化等によってそれなりの収入があるので領民の税を引き下げることが出来たと言う経緯があるらしいです。

 母上達のおかげでようやく頭痛もおさまり、記憶の整理も出来た所でおかしな事に気がつきました。
なにやら、自分の周りに変なものが見えるのです。
他の人たちには見えないようで、僕の周りを透き通った姿でふわふわ飛び回っているのに全然気がついていません。頭痛も収まったばかりでこんな事を言い出したら、何て思われるか解ったものではないので黙っている事にしましたが、あれはいったい何なのでしょう?こちらに危害を加えるような事はなさそうなので、あまり気にしなくても良いようですが。

 考えても仕方ないので頭を切り換えて、これから先のことを考えたいと思います。
 まず、魔法についてですが、我が家の家訓では最低5歳を過ぎるまで魔法の練習を始められないそうです。残念ですがまだ2年はありますね。
 もっとも神様から貰った武器や鎧なんかは現在でも使えるはずなので(体格的には合わないでしょうが。)、そんなに焦る必要もないと思います。それでも機会があれば近いうちに『王の財宝』の中を確認しておこうと思っています。

 つぎに領地の方ですが、両親は結構領地経営も上手いようで、そこそこ開発されているようです。最も現代社会で育った私から見ればまだまだ手を入れるところがいっぱいあります。
なんと言っても電気がない。これは我慢できませんから、大きくなって行動の自由が得られたら父上に提案して開発などしたいと思います。

 あまり目立つとろくな事にならないと思いますから、出来るだけ表に出ないような方法を考えて裏方に徹するのが一番なのでしょう。
 原作通りに歴史が動いていくとすれば、主人公達が魔法学校に入学するあたりからどんどん物騒な方向に進んでいくはずですから、それまでに家族や領民を守れるような力を付けておきたいです。本当は原作への介入はしたくないんですけど、万が一の場合、あっちの方からくる事も考えておかないと、間に合いませんでしたなんて事にもなりかねないから、準備は必要だと思います。ちょっとでも失敗すればそく死亡フラグが立つので危なくて仕方ないですから。

 さて、まだ魔法の練習はさせて貰えないので、今は、ひたすら魔法書を読んでいます。
 文字は2歳くらいから両親にしつこくお願いして教えて貰えるようになりました。
おかげである程度読めるようになっていたのですが、転生前の記憶が戻ったとたんに全部の字が読めるようになりました。チートで嬉しいのですが、あの勉強の日々は何だったのでしょうか。
字が読めるようになったのを良い事に、片っ端から読みまくっていたら、早々に屋敷の書庫にある易しい魔法書はすべて読み終えてしまったので、今度は書棚の高いところにあるやたら難しい本を取って貰うために執事さんにお願いしています。執事さん、最初は吃驚していたな。
 多分その後で執事さんから話を聞いたのでしょう。本を読むことに夢中になっていて気付かないうちに、いつの間にか正面の椅子に母上が座っていてあきれたように僕を見つめていました。

「アルバート。本当に本が好きなのね。すごい集中力で読んでいたわ。でも、本が好きなのは良いことだけど、いつもいつも本ばっかり読んでいてお母様はつまらないの。それにしても、いったい、いつの間にそんな難しい本が読めるようになったの?」

「母上?申し訳ありません、全然気づきませんでした。何時いらしたのですか?
文字はこの前のひどい頭痛が治った後、なぜか簡単に読めるようになりました。屋敷の書庫はためになる良い本がいっぱい有るのでもう嬉しくって仕方有りません。魔法の練習が出来るようになるまでに全部読めればいいのですが。」

「全部って、私でも書庫にある本を全部なんて読んでいないのよ。大体それじゃお母様と遊ぶ時間が無くなってしまうわ。つまらないわよ。
もう、何でいきなり字が読めるようになったのかしら?頭痛の後でなんて、痛みで頭がどうかした?それとも、まさかと思うけど変な事に目覚めたとか?」

 終わりの方はほとんど聞き取れないような小さな声でしたが、回りが静かなのでしっかり聞こえていました。

「さあ~?それは私にも判りません。というか、頭がどうかしたなんて酷いと思うのですが?それに遊ぶ時間って、母上にはいつも遊んで頂いていると思うのですが。
大体僕よりもメアリーの方を構ってあげないといけないのではないですか?」

「そんなこと無いわ。メアリーもちゃんと構っているわよ。でもまだ1歳なんだもの、やっぱりアルバートの方が弄った時の反応が面白いじゃない。お母様はもっともっと遊びたいわ。」

 そんなことを言って少し涙目になっています。困った母上ですね。でも騙されませんよ。

「弄るってなんですか?僕は母上のおもちゃですか?勘弁してください。」

「あら、だめだった?」

 ほら、もう笑っているんですから、あなたは子供ですか?

「でも、まあ良いわ。お父様とも少し話してみますが、魔法の練習を始めるのも早めた方が良いかもしれないわね。」

「魔法の練習が出来るのなら嬉しいです。早く魔法を習いたかったのですよ。」

「解ったわ。それじゃ今夜の夕食後にお父様にお話ししますからそのつもりでいてね。
それから、あまり本ばかり読んでいないで、子供なのだから外に出て遊ばないとダメよ。体力作りも大切なのだから。
お母様も寂しいわ。それから、もう少し子供らしい話し方出来ない?」

「はい。解りました。出来るだけ外で遊ぶようにします。でも、話し方は直りそうにありませんので許してください。」

 しかし、外で遊べっていっても近所に遊べるような歳の子供なんていないし、この時代公園も遊園地もないので、外で出来る事なんて基本は散歩とか乗馬とかしか無いんだよね。
3歳児では乗馬はちょっと無理があるし、散歩もただ歩くだけではあまり面白くない。まして母上のおもちゃは勘弁して欲しいです。

 と言うわけで、読書の合間に自分なりの1日のスケジュールを考えてみました。
 朝起きたらジョギング。これは短い距離から初めて、少しずつ距離を伸ばしていきましょう。やっぱり体力作りは走ることからですよね。
 朝食後は魔法の練習と魔法関係の座学。これは父上の許可が下りたらですが、午前中はお勉強の時間でしょう。
 午後は体力作り。柔軟やって、腕立て位でいいですね。最後はやっぱりジョギングで締めにします。
 夕食後は読書タイム。これは欠かせません。
 3歳児にしては少々ハードすぎるかな?まあ出来るところからやっていって身体を作りましょう。無理をして逆に成長を阻害してはいけませんから。
本格的なトレーニングはもっと大きくなってからですね。
 (しかし、自衛隊生活が長かったからどうしても一般的な自衛官のトレーニングになっているような気がします。)

 そうこうしているうちに夕食の時間となりました。
 我が家の食堂はそれほど大きくなく、アットホームな雰囲気で落ち着いて食事が出来るところです。
 原作知識にある魔法学院の食堂や、ラ・ヴァリエール公爵の所の食堂なんかでは、現代日本に生きてきた僕のような一般市民にはとても落ち着いて食事なんて出来ませんからね。
 一通り食事も終わり、食後のティータイムとなったところで、母上から昼間の話が出ました。

「あなた、今日の午後に執事のスミス(初めてでましたが執事さんの名前です。)が私の所にきてね、アルバートがとても難しい魔法書を読んでいるって教えてくれたの。それで書庫に見に行ったら、私が来たことにも気付かないくらい夢中になって分厚い魔法書を読んでいるのよ。もう驚いちゃった。
何でも、頭痛が治まってからいきなり読めるようになったらしいんだけど、なんでなのかしらね。」

「なに~?アルバート、どういうことなんだい?」

「はい、父上。以前、私がひどい頭痛になって母上達に直していただいた後、それまで良く解らなかった文字がすらすら読めるようになったのです。
試しに書庫にある本をスミスさんに取って貰って読んでみたのですが、今のところすべての本の文字が読めました。
その上、読んだだけでほとんどの内容を覚える事もできています。これなら魔法の練習を始める前に本に載っている呪文は全部覚える事ができそうです。」

「良く判らないけれど、そう言うことなので、特例になるけどアルバートの魔法の訓練を始めようと思うのよ。どうかしら。
私がみたところ、アルバートは3歳とは思えない考え方と精神力があるようだし、魔法を覚えてもいたずらに使うような事はないと思うわ。」

「いや、しかし家訓を変えるのは問題じゃないか?というより、書庫の本がどれも読めて、全部覚えられるって?あの本の中には私でも読めない本が有ったんだぞ?」

「まあまあ。すごいじゃない、アルバート。お母さん、驚いちゃったわ。
ねえ、あなた、家訓も大事だけど今回の事は特別だと思うのよ。アルバートにはきっと何かがあるわ。
だから早めに対応した方が良いような気がするのよ。お願い、私を信じて認めてちょうだい。」

「………。解った。ソフィアの感がそう言うのなら、きっと何かがあるのだろう。それでは明日から早速訓練をアルバートの魔法の練習を開始する。
突然の話だから専門の先生を用意する暇がない。だから初めは私たちが教えよう。できるだけ早く先生を見つけるから、それまで私たちがおまえの先生だ。いいな、アルバート。」

「父上、母上ありがとうございます。僕頑張りますので、よろしくお願いします。」

 こうして、なし崩し的に僕の魔法訓練が始まった。 
 

 
後書き
次回は6月末の予定です。
定期的にアップできるように頑張ります。 

 

第03話:魔法覚えて有名人!?

 どーも~! 板東太郎ことアルバートで~す!!

 両親に許可を貰って、魔法の訓練を初めてから2ヶ月がたちました。
 まず初めに1週間掛けて杖と契約しました。(普通はもっと時間が掛かるらしいです。)
杖は、父上がこの時の為にと用意してくれていた、20サント位の小振りの物で、手にもしっくりなじんで最高でした。
ただ3歳児には20サントでもちょっと長いようで、端から見ると杖を振っているのか振られているのか解らないような感じです。

 杖との契約もスムーズに出来ましたから、まずコモンスペルの練習から開始しました。

 魔法の実習は、屋敷の外にある訓練場で行いました。普通の野球場が10個位入りそうな広場ですね。
父上や母上といっしょに行きましたが、相談した時に決めた通り、最初は母上が先生になりました。
そこで思ったのですが、スペルの唱え方にも性格がでるんですね。いつものおっとり(天然?)とした性格のままで、ふわっとした感じでスペルを唱えてくれるので、初めての訓練でも緊張なんて、まるでありませんでした。
 お約束として、まずライトやレビテーション、ロックとアンロックなど、初歩のコモンスペルを一通り習いました。

まずここで母上を驚かせることになったのが、母上が使うコモンスペルの魔法を一回見ただけで、全部、完璧に使うことが出来た事です。ライトなんて杖の先が爆発したかのような光で、しばらく残像が残って周りが暗く感じたくらいでした。
 母上も呆気にとられたようですが、コモンスペルが予想より上手くできたので、気を取り直してすぐに系統魔法の確認に入ることにしました。

 系統魔法は神様との約束通り、一番感覚的に合うのは土系統でした。スクウェアは保証されていますからね。
 ただ、母上に落ちていた石ころを渡されて、試しに何かイメージしてこの石を練金してみなさいと言われ、鉄を練金したらジト目で見られました。
 僕は初めて系統魔法を使う訳ですから練金できるのはせいぜい青銅位と考えていたようです。しかし生前の現代社会では、身の回りにある金属と言えばまず鉄でしょう。他にはアルミニウムやチタン、ステンレスなどですが、青銅なんて金属は美術館や公園の銅像位でしか見ることがありませんから鉄の方がイメージしやすいのは当然だと思います。
まあ、3歳児がいきなりラインレベルの魔法を使うのもアレなのでしょうが。たぶん元素記号や原子モデルなんかをイメージできればどんな金属でも練金できると思いますよ。

「いったい、何でいきなり鉄を練金出来るのかしら?初めての練金なら普通は青銅でしょう?それにあなたの年で鉄なんて練金したら普通魔力の使いすぎで倒れると思うんだけど全然平気みたいだし。
もうちょっと子供らしくても良いと思うんだけど、アルバートの身体ってどうなってるのかしら?トリステインのアカデミーあたりに教えたら喜んで連れて行って、徹底的に実験動物扱いしてくれるでしょうね。」

「母上、何気に僕を売る気ですか?冗談じゃありません。解剖なんてされたくないですよ。」

 まったく、この人は何を言い出すんでしょうか。父上も苦笑しています。

「練金はイメージが大事だと仰ったのは母上ではありませんか。僕がたまたまイメージしやすかったのが鉄だっただけで、特別なことをしたわけでは無いのです。実際今のところ気分も悪くならないし、魔力切れにはならないと思いますから、問題無いのではないでしょうか?」

 危ない危ない。ちょっとまずかったかな?まだ解禁になっていないはずだけど、ある程度魔力無尽蔵が発動しているようです。とんでもないチートなんですから気をつけた方が良いようですね。

「問題無いとは思えないのよね。ジョン、あなたも笑っていないで、同じ土メイジなんですから何か解らないかしら?」

 母上は苦笑状態の父上に話を降ります。

「いや、いけないいけない、思わず笑ってしまったよ。それにしてもアルバートは我が息子ながら不思議がいっぱいだな。ディティクトマジックで見ても特に異常は感じられないし、身体的には問題ないようだから大丈夫だろう。ソフィアも心配しないで良いと思うよ。」

「そう?あなたは土メイジだからアルバートが土メイジに素質があることで喜んでいるのでしょうけど。私は、そう簡単に納得できないのよ。」

 母上、父上を見つめる目が据わっていますよ。

「それじゃあ、次は水系統の魔法を試してみましょうか。」

 次に水系統を試してみました。
 イメージしたとおり、コップに入れた水がふわふわと空中に浮き上がって、自由に形を変えます。面白くなって犬や猫の形に変化させて僕の回りを歩き回らせたり、お手、お座り、伏せなんてさせてみたら、また母上がぶつぶつ言っていました。
よく聞こえませんが、父上も引きつった笑顔になっているところを見ると、これもやりすぎだったようです。でも水系統の魔法も上手く使えることが解り、最後には母上も喜んでくれました。

 その後、火と風の魔法も試してみましたが、こちらはまともに発動すらしませんでしたから予定とおりと言うことでしょう。

「だいたい解ったわね。アルバートは土系統が一番で、次が水系統だわ。この分なら両方とも間違いなくトライアングル以上になれるわ。」

「そうだね。私達二人で教えることが出来るからうれしいよ。それじゃ、今日はこの位で終わりにしてお昼にしようじゃないか。初めてにしては少しがんばりすぎたからアルバートも疲れておなかも減ったろうからね。」

 父上も嬉しそうですね。

「はい、解りました。父上、母上。有り難うございました。」

 次の日からは、父上にゴーレムの作り方を習ったり、母上に回復魔法とか秘薬の調合とかの基本を教えて貰ったりで、2ヶ月があっという間に過ぎたのでした。

 それから、さらに半年が過ぎた頃、僕の魔法訓練が想像以上に早く進んでいるため、そろそろ自分の部屋があった方が色々と良いだろうと両親が僕に部屋をくれました。
 20メール四方はある大きな部屋ですが、ここにベッドや机、ソファーに本棚に秘薬の実験器具などよく使う物を置くと、恐ろしいことに少し狭く感じてしまいます。
日本にいた頃住んでいた家ならすっぽり入ってしまうような広さなんですけどね。とても3歳児の子供部屋には見えません。

 それから専属のメイドもつきました。アニーと言って17歳の娘でとてもかわいい顔立ちの身長150サントくらい。栗色の髪に茶色の瞳でメリハリのあるナイスバディーです。
良く気がつく優しいお姉さんといった感じで、生前の日本では考えられない事ですね。
僕はメイド喫茶とやらにも行った事がなかったので、リアルメイドさんはハルケギニアに来て初めて見たわけですが、自分専用のメイドさんなんて夢でしか見られなかったような体験です。

 部屋を貰ってまずやった事は、神様から貰った持ち物の確認です。
ドアにロックの呪文を賭けて窓のカーテンも閉めます。覗き見されないように異常のない事を確認してから『王の財宝』を出してみました。

 まずは64式小銃です。僕が自衛隊にいた時に主に使っていた自動小銃です。
その前に使っていたM-1カービン銃の方が軽くて良いのですが、この64式小銃は今の僕にはかなり重いです。レビテーションが使えて良かったですよ。
この銃は少し重いことが欠点ですが、癖も少なく使いやすい銃でしたので大きくなったらどうしても使いたいと思っています。これでも隊内での射撃大会や群、方面隊などでの射撃大会でいつも優勝していたんですよ。200~300メール位なら確実に当てられますから、魔法の届かない遠距離からメイジの無力化もできます。箱形弾倉も7.62ミリ弾薬も確認しましたが錆もなく問題無いようですね。

 銃剣は未使用品のようなので使う前に良く研がないと行けませんが、これは後で良いでしょう。本当に固定化の魔法って助かります。どこにも故障らしいところは見つかりませんでしたから。

 一旦64小銃を元通りにしまってから9㎜拳銃を出します。
こちらは自衛隊の幹部が使うものでしたから当時は余り持った事がなかったのですが、僕個人としては好きな拳銃です。コピーの元になったベレッタの初期モデルは僕が最初に買ったモデルガンでしたからね。フィンガーガードがあって持ちやすくって命中率も良いんですよ。こちらも一通り確認して戻します。

 そんな感じでごそごそ持ち物確認をやっているとあっという間に時間がたったようで、気がついたら外は暗くなってきました。
 もうすぐアニーが夕食の知らせに来るでしょう。見つかるとややこしくなるので全部『王の財宝』にしまって、本を読んでいることにしました。

 そんなこんなの毎日でしたが、時にはちょっと遠出をする時もあります。その日も朝から良い天気で、ハイテンションな母上に連れられ、アニーを含めたメイドさん3人を伴い、森まで秘薬の材料を取りに行きました。
 最近、水のラインになったので魔法の訓練がてら秘薬作りの手伝いをするようになりました。その一環で薬草や薬になる木の葉、木の実なんかを取りに森や山に良く行くようになったわけです。

「アルバート、そっちの葉先が丸い草を取ってくれる?痛み止めの秘薬に使う薬草なのよ。あっ、そっちの葉はちがうわよ。それは良く効く毒薬に使う草よ。それを使ったら永久に痛みを感じなくなっちゃうわよ。」

「母上、冗談事ではありません。まるっきり正反対の薬じゃないですか。そういう大事な事はしっかりと教えて下さい。」

「あら、冗談だなんて嫌ね~。今ちゃんと教えてあげたでしょう。だから大丈夫なのよ。」

「何が大丈夫なのですか?そんな根拠のない大丈夫なんて聞いたことがないですよ。あっ、これは傷薬に使う薬草だ。」

「ほら、ちゃんと覚えているじゃない。やっぱりアルバートなら大丈夫、大丈夫!!」

「………?なんだかな~。」

 これは自分でも色々調べて予習、復習をしっかりやっておかないとえらい事になりそうですね。治療のつもりで暗殺になりましたじゃ洒落になりません。

 こんな調子で母上からは水系統の魔法、父上からは土系統の魔法を習い、水系統がラインになっただけでなく、土系統はトライアングルになりました。
 もっとも、秘薬作りは神様から与えられたチート能力の内なのでメイジのクラスには関係有りません。母上には内緒ですがオリジナルの秘薬もすでにいくつか作っています。
 その中でも最高の秘薬は2種類あって、1つ目は生きてさえいればどんな病気でも完全に直す事ができます。コレラ、チフスなどの伝染病でも、癌、白血病や破傷風、狂犬病などの病気、それに脳や心臓疾患など考えつく全ての病気に効果があります。
もう一つの薬は怪我用の薬で、腕や足を切り落とされても傷口をくっつけてこの秘薬を付ければ、あっという間にくっついて元通りです。さすがに流れた血液までは増やせないので、そちらは別の秘薬の増血剤を飲ませる必要がありますが、この秘薬が広まればハルケギニアの死亡率が一気に低くなる事は間違いないでしょう。
ちょっとやりすぎた気がしますから、万一僕や家族が戦争とかに巻き込まれた時のためということで今は隠しておきましょう。こんな秘薬があることが漏れると危ないことになりますから。
 DQにでてくる世界樹の葉があれば死人でも生き返るのでしょうけど、そういえばハルケギニアでは世界樹があるって聞いた事なかったな。DQのようにどこかに生えていたらいいのに。



 訂正します。開発した秘薬の事、母上にばれていました。いつの間に漏れたんだろう?

 ある朝、すごくご機嫌な母上が僕の部屋に来ました。

「ねえ~、アルバート。新しいお薬を作ったんですってね。とっても効き目のあるお薬だって聞いたんだけどお母様にも1,2個くれないかしら?ちょっと調べてみたいのよ。良いでしょう~!おねがい!」

 なんて、目をキラキラさせて言ってくるんですよ。手もワキワキしているし。断ったら何をされるか解らないような雰囲気でしたから、下手にごまかすことも出来ませんでした。
しかたなく、その場は病気治療用の秘薬を小瓶2個分渡して勘弁してもらいました。

 母上なら調べると言っても変な事には使わないでしょうから問題もないだろうと思ったのですが、これが見事に大外れ。
 隣の領で重病人が出たと聞いて、早速行って使ってみたらしく(これってもしかして人体実験?)、御臨終一歩手前の瀕死の重病人があっという間に治ってしまったそうです。
これで、なんかすごい秘薬があるらしいとの噂が近隣を駆け巡り、あっちこっちから問い合わせが殺到しました。
 母上も3歳児が作った秘薬なんて事はちっとも気にせずに使って、その上、その秘薬を作ったのが自分の息子だなんて事まであっけらかんと話してしまったそうです。おかげで僕の名前がいきなり有名になってしまいました。母上、あなたはどこまで天然なんですか?

 こんな事をしていれば、当然、噂はゲルマニアの首都『ヴィンドボナ』まで流れて行き、その噂を家臣から耳にした皇帝が興味を持つ事になります。そうなれば次にくるのは皇城からの呼び出しです。3歳児の首都呼び出しなんて普通ありますか?

 母上、この始末をどうつけるつもりなのですか?父上もここは喜んでいられるような場面ではないと思いますよ。

 ハ~~。目立ちたくなかったのに、どうしよう。 

 

第04話:大人達の勝手な身の上話!?

 
前書き
第4話をUPします。
話はゲルマニアの首都へと移動しました。
このペースで続けていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。 

 
 こんにちは、アルバートです。

 本日はゲルマニアの首都『ヴィンドボナ』の皇城よりお伝えしています。

 前話でお話ししましたように母上の『お・ね・が・い・!』に端を発して、その天然ぶりで動き回ってくれた為に僕の名前がいきなり有名になってしまった結果、皇帝にいらない興味を持たれ、3歳児にして、とうとうこんな所に呼び出しを受けてしまいました。
 出来れば目立たないようにしたかったのに、皇帝に呼び出しを食らうなんて、母上のせいで完全に予定が狂ってしまいました。

 屋敷から馬車に揺られて3日もかけて、ようやく『ヴィンドボナ』に着きます。
 それにしても、どうして馬車という物はあんなに乗り心地が悪いのでしょうか?
車輪が木枠で車軸の軸受けが直接車体に取り付けられているのではショックがちっとも吸収されません。その上、道路が未舗装で凸凹だらけですから座席に座っていても転がりそうになります。
 せめて、車輪にはゴムのタイヤを取り付けて、軸受けは板バネを介して車体に取り付ける位やれば振動も緩和されると思うんですよね。ついでに座席にもクッションを着けて座り心地を良くしましょう。 それに主要な街道は簡易舗装位はしなければなりません。これは改革計画の中に入れておきましょう。

 皇城には畏れ多くも、正門から馬車のまま入城し、大きな入り口ドアの前に馬車を横付けしました。これも普通では有り得ません。
 こんな事が出来るのは皇族や他国の国賓など、よほど高位の方でなければ許されるはずがないのです。
 僕が目を白黒させている間にそんな事を堂々と実行した両親は、あっけにとられている僕を引き連れ、そのまま女官の方に案内されて、ずいぶん奥の方まで歩いて行きます。ずいぶんと物馴れた様子なのですが、幾らなんでも皇城なんて所に慣れているなんて事はないですよね?
 ようやくたどり着いた大きなドアを見上げて思わず溜息をついてしまいました。
 ここが所謂謁見の間のようで、女官の方がドアの両脇に立っている近衛騎士に僕たちが付いたことを報告すると、近衛騎士がドアを開けて、中に向かって大きな声で僕たちの到着を報告しました。
 そして、その声の反響が収まらないうちに、僕は両親に引っ張られて中に入ります。

 正面に3段ほど高くなった所があって、そこに煌びやかな椅子があり、髭を生やして大きな身体をした立派な人が座っていました。あの人が皇帝なのでしょうね。

 その段々の5mほど手前まで進んで父上と僕は片膝をついて頭を下げ、その隣で母上がスカートの裾を軽く持って膝を屈めて頭を下げます。
 臣下の礼を取った後、父上が顔をあげてご挨拶をしました。

「皇帝閣下、お久しぶりでございます。このたびはお召しにより妻子共々参上いたしました。」

「久しぶりだな、ボンバード伯爵。突然呼び出してすまなかった。しばらくぶりだがソフィアも元気そうで何よりだ。」

「有り難うございます。皇帝閣下。そして、こちらが当家の嫡男アルバートでございます。」

 思ったよりも結構フレンドリーな挨拶ですね。ただの伯爵あいてにしてはちょっと親しすぎるような気もしますが。まあ、僕としては、ここは精一杯真面目に御挨拶と行きましょう。

「皇帝閣下。お初にお目にかかります。ただ今ご紹介にあずかりましたアルバート・クリス・フォン・ボンバードにございます。以後、よろしくお願いいたします。」

 どうですか、僕だってこれ位のことは言えるんですよ。皇帝もちょっと驚いているようです。

「ほほう、未だ3歳と聞いておったが、その物言いはまるでいっぱしの大人のようだの。見た目は確かに子供だが、もしかしておぬし、歳をサバ読んでおらぬか?」

 ちょっと気張ってやり過ぎましたか。どこかのメガネの探偵少年ではないのですからここはごまかしの一手ですね。少しおびえたふりをしてめいっぱい子供っぽく、母上のスカートに縋り付いてみましょう。

「母上、教えて頂いたとおりのご挨拶を致しましたが、いけなかったでしょうか?」

「あらあら、アルバート。いいのよ猫なんかかぶらなくても。いつも通りのご挨拶で、とても良かったと思うけど、でも、もう少し子供らしいご挨拶も覚えましょうね。」

 母上、ちっともフォローになっていません。もう少しましなフォローをお願いします。

「ハッハッハ。まあ良い。ところで今日おまえ達を呼び出したのは他でもない。なにやら最近素晴らしい効き目の秘薬が作られたと巷の噂で耳にしてな。さっそく家臣に調べさせてみたのだが、その秘薬を作ったのがおまえ達の子供だと言うではないか。まだ顔を見たことがなかったからこの機会に一度会って、どのような子供なのか見ておこうと思い呼び出したのだが、アルバートと言ったか、なかなか面白いぞ。さすがはジョンとソフィアの子供だ。」

「恐れ入ります。アルバートの魔法の訓練があまりに進みますので、早めに必要かと思い自分の部屋を与えたのですが、私にも内緒で見たこともない秘薬を作っているものですから驚きました。アルバートは隠しているつもりだったようですけど、屋敷の中で魔法を使って秘薬など作っていれば私にはすぐに解ります。」

 そう言って僕の方をちらっと見ます。どうも僕は油断していたようですね。母上にこれほどの力があるとは気づきませんでした。何しろいつも天然でしたからね。

「かなりの効果がある秘薬だということは感じられたのですが、実際の効果を確かめたかったので、アルバートから少し分けて貰い、ちょうど近くで重病人が出たというので早速試してみましたの。そうしたら、私が作ったどの秘薬よりも素晴らしい効き目で、瀕死の重病人が投与して半日たらずで全快してしまいました。アルバートは未だ水系の魔法はラインレベルのはずなのですが、必ず私より腕の良い水メイジになりましょう。お父様のお眼鏡にかなうこともできましたようですし、私も嬉しく思っております。」

 えっと?なんか今色々と引っかかる言葉が飛び交っていたような気がしますが?ジョン?ソフィア?なんで皇帝がファーストネームで呼んでるんですか?それに母上、お父様って誰ですか?

「クックック!鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが、おまえ達、アルバートにまだ話していないのか?」

「はい、実はまだ内緒にしていて話しておりませんのよ。オホホホ・・・」

 オホホホ・・・って、何楽しそうに笑ってるんですか?父上も皇帝もそのニヤニヤはキモイので止めて下さい。

「やれやれ。それではアルバートも話しについて来れず、困ってしまうだろうに。いい加減、話してやったらどうだ?」

「そうですわね。もうちょっと黙っていて楽しみたかったのですけれど。」

 母上はそう言って僕をみると、にんまりと笑いました。

「それではアルバート、今まで話していなかったボンバード家の裏話を教えてあげるわ。知っている人は知っているし、知らない人はまったく知らないって言う秘密のお話よ。
 実はね私は皇帝閣下の娘なの。一応第三皇女になるわ。お姉様が二人と妹が四人いる。
 それからお父様は昔、皇帝閣下に選ばれて、このゲルマニアの魔法研究所の初代所長を勤めたの。魔法研究所の立ち上げから、数々の魔法や技術の研究・開発を指揮して、今のゲルマニアで使われている鉄鋼業の技術開発とか、すばらしい功績を挙げたことで皇帝閣下の絶大な信頼を得ていたのよ。
 私は、その頃皇城に頻繁に出入りしているジョンと出会ってね、もう一目惚れしちゃったの。それでお父様にお願いして結婚させて貰ったんだけど、どう驚いた?」

「はっ?母上、何の冗談ですか?その話でいけば私は皇帝閣下の孫になってしまいます。いくらなんでもそんなのあり得ないでしょう?いや、あり得ないって言って下さい。」

「残念だったなアルバード。ソフィアの言っていることは全て本当だぞ。皇帝閣下はおまえが生まれた時にとても喜ばれ、色々なお祝いの品を下された。まだおまえには見せていないが、全部しまってあるから今度ゆっくり見せてやろう。どうだビックリしたか?」

 父上もニヤニヤ顔で言っても冗談にしか聞こえません。両親揃って3歳児をショック死させたいのですか?

「そればかりではないぞ。今のところ儂には世継ぎの男子がいない。それにソフィアの姉妹達にも男の子は生まれていないのだ。つまり、現在おまえだけが我が皇帝家の血を引くただ一人の男子と言うわけだ。儂の孫として皇位継承権第一位、言わば皇太子と言っても良い立場になる訳だが、どうだ、うれしいだろう?」

 母上や父上ばかりでなく、皇帝はいったい何を言っているのでしょうか?僕が皇帝の孫?継承権第一位の皇太子?神様いったい何を考えているんですか?僕は平穏な人生を送りたかったのにこんな無茶なストーリーはないでしょう?

 困った大人3人のトリプルコンポにより、受けた精神的ダメージは3歳児にはちょっと厳しすぎたようで、この段階で僕の意識は途切れてしまった。
 ああっ、何なんだこの大人達は………………。

 それからどのくらい時間がたったのでしょうか。気がつくと豪華な部屋で柔らかな布団にくるまれていました。ここはお約束の一言でしょう。

「知らない天井だ………。」

 ベッドに寝ながらでも見える窓の外の景色は夕焼け色に染まって、部屋の中までピンク色になっています。この景色から判断するとまだ皇城にいるようですね。
 ボ~としていると扉が開いて女の人が入ってきました。どうやら皇城の女官のようですがかなりの美人です。もしかして面接試験には美人の選抜基準でもあるのでしょうか?なんて考えていたら目が合ってしまいましたね。

「あっ!お目覚めですか?御気分はいかがですか?」

「はい、気分は良いです。ところで此処は何処ですか?それから私の両親は何処にいるのでしょうか?」

「ボンバード伯爵様は伯爵夫人と御一緒に皇帝閣下と晩餐中でございます。此処は皇城の中にあるボンバード伯爵家専用の御部屋でございます。アルバート様がお倒れになられましたので此方の御部屋でお休みさせるようにとの皇帝閣下の御指示で私共がお連れいたしました。申し遅れましたが、私は女官のミッシェルと申します。御気分がよろしければ食堂に行かれますか?」

「ありがとうございましたミッシェルさん。あらためまして私はアルバートと申します。それでは食堂まで連れて行ってくださいますか?なんかとってもお腹が空いてしまいました。」

「畏まりました。それでは、まず此方の服にお召し替え願います。」

 ミッシェルさんに服を着替えさせて貰い、案内されて食堂に行きました。食堂までは少し歩きましたが、ミッシェルさんが気を遣って手を繋いで、良く話しかけてくれるので退屈しないですみました。とても優しい人で、16歳だそうです。皇城の女官になるのですから優秀なのでしょうね。
 食堂について扉を開けて貰い中に入りました。この食堂も本当に豪華で広々としています。父上と母上は皇帝を挟んでテーブルに着いていました。周りの壁際には女官の方や執事風の人が10人位並んでいます。父上達三人の姿を見たとたん、気を失った原因を思い出してもう一度気を失いそうになりましたが、何とか我慢できました。

「あら、目が覚めたのアルバート。よく寝たわね。もう晩餐の時間よ。あんまりよく寝ているから先に頂いていたわ。」

「まあまあ、寝る子は育つと言うじゃないか。よく寝る事は良い事だよ。」

「その通りだな。よく寝てよく食べて、そしてよく遊ぶ。子供にはもっとも大事な事だぞ。さあ、こっちに来て座りなさい。」

 いったい誰のせいで気を失っていたのか、小一時間ほど問い詰めたいところですが、仮にも両親と皇帝が相手ですからとても勝てるとは思えません。仕方ないので大人しくテーブルの母上の隣に座りました。
 すぐに僕の分の食器が並べられます。テーブルの上のメニューは鶏の照り焼き風とコンソメスープ。パンにサラダに魚のマリネみたいなのもありますね。晩餐なので量も種類もかなりあります。見ていると執事風の人が僕の分を取り分けてくれました。子供用なのでしょう、小さめに切り分けられています。

「それでは、いただきます。」

 手を合わせて、いつもの習慣で食前のご挨拶をしたら皇帝から聞かれました。

「変わったことをやるな。いただきますとはどんな意味があるのだ?」

「家にいる時も、食事前は必ずこの挨拶をするんですよ。家ではアルバートだけなんですが、やっぱり変わっていますわね。」

「いただきますとは東方の習慣で、私たちが生きるためにいただく動物や植物の命に感謝するという意味と、いつも料理を作ってくれる人に感謝するという意味があるそうです。前に読んだ本に書いてあったのですが、僕もその通りだと思ったのでそれ以来この挨拶をするようにしています。食後はごちそうさまでしたという挨拶をします。」

 一応、東方の習慣と言うことでごまかします。生前の日本ではごく当たり前のことなのですが、ハルケギニアではこの習慣はありませんからね。

「それはめずらしい習慣だな。しかし東方の事が書かれている書など、そのような難しい本を読んでいるのか?」

「アルバートは3歳になった頃から本ばかり読むようになって、もう屋敷の書庫にある本はほとんど読んでしまったようですわ。最近では出入りの商人に珍しい書物が手に入ったら持ってきて欲しいと頼んでいるようなのです。あまり本ばかり読んでいるのも身体に悪いと思うのですが、自分で時間を決めて午前中は勉強、午後は外に出て身体を動かすようにしていますから、無碍に止めることも出来ません。近くに同じ年頃の子供もいませんから遊び友達も出来ませんし、少し心配なのです。」

「なに、そのように自分で決めて実行できるとは、誠に素晴らしいことでわないか。心配することも無かろう。そうだ、本が読みたければ皇城の書庫に入ることを許そう。自由に入って読むが良い。まあ、皇城まで来ることは難しいだろうが何とか方法を考えてみるのも一興だろう。ところで身体を動かすのはどんなことをしているのかな?」

「はい、身体を動かすのは午後になりますが、軽く走ってから身体を柔らかくする運動、筋力を付ける運動、その後木剣を使って素振りを行います。最後にまた軽く走って終わりになります。後は身体の手入れを充分にして夕食の時間まで本を読んで休みます。」

「3歳でそこまでするか?いったい何時からそのようなことをしているのだ。」

「3歳になってすぐの頃ですから、もう8ヶ月位続けています。少しずつ走る距離を伸ばしていますが、なれると気分が良いのですよ。」

 メイジだからって身体が鈍っていてはろくに戦えませんからね。
 結局、この日は皇帝にあきれられたり、誉められたりと忙しい一日でしたが、皇帝の孫だったなんて冗談にしかならない話が出た他は、話もきちんと出来たと思いますし、概ね良い感じで終わったようです。納得は出来ませんが。

 ついでに、このまま泊まっていくようにと言われて、さっき目が覚めた部屋で休むことになりました。
 父上と母上はまだ皇帝とお話ししながらお酒を飲むと言っていましたので、僕は先に部屋に戻ります。戻る時も女官のミッシェルさんに連れて行って貰いましたが、この人は優しくて良い人ですね。着替えも手伝って貰って布団にすっぽりと収まりました。

 では、お休みなさい。 

 

第05話:使い魔召還!!何で君?

 
前書き
お待たせしました。第5話をUPします。
とうとう使い魔を召喚することになりました。さて、家族の反応は? 

 
 こんにちは~!アルバートです。

 この前、両親と一緒に皇城まで行き、皇帝に会って親戚関係に係わる非常に不本意な話をされてから、さらに色々有りました。

 結局あの後1週間も皇城に滞在し、現時点で皇城に残っている母上の妹姫様達2人にも会わせて頂きました。
 姉姫様と他の妹姫様達はすでに他国の王族や色々な公爵家等に嫁がれて皇城には居ないそうです。
 それにしても2人共とても美人で優しい人でしたが、すっかりオモチャにされたような気がします。
 皇帝からは少しだけ剣の手ほどきを受けました。まだ短い木剣しか持てないのですが、子供だということを全く気にしないで、足が立たなくなるまでしごかれましたよ。3歳児をしごいてどうしようって言うのでしょうか。
 それでも、皇帝にも妹姫様達にも気に入って貰えたようなので良かったと思います。

 皇城から帰ってからは、魔法関係の訓練も厳しくなって徹底的に鍛えられています。
水系の魔法は書庫の本に載っていたもの以外に、母上の知っている魔法を全て教えられました。色々使える魔法もありましたが、回復系の魔法はDQの方が効き目が強いのではないかと思います。“ベホ○”のような威力のある回復魔法はこの世界にはないようですから。
 父上からは土系統の魔法、特に練金やゴーレムについて教えて貰いました。父上のゴーレムもすごいと思うのですが、原作で出てきたギーシュのワルキューレのようなゴーレムも良いと思います。僕はどっち系に行こうか悩んでいます。

 剣の訓練は、父上が剣は得意ではないと言うので、諸侯軍の隊長に訓練して貰っています。諸侯軍とは、平時は我が家の領地を警護していますが、戦争が起きた時はゲルマニア軍の一画を担う軍隊です。
 この隊長は50歳位の歴戦の猛者といった風貌で、訓練はとても厳しいのですが、普段は人の良い豪快な笑い声のおじさんです。もちろん剣の訓練の他に、毎日の体力作りはそのまま続けていましたよ。

 そんなことをして過ごしましたが、特に記憶に留めなければならないような出来事も無かったのでこの辺で時間を一気に進めたいと思います。

   ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 そう言った訳でやっと5歳になりました。
 神様との約束による第一段階のチート能力開放の日です。

 魔法のクラスは、土のスクエアと水のトライアングルになりました。
これまでは土はトライアングル、水はライン止まりでしたが、やっと予定のランクになることが出来たわけです。

 魔法を開発する能力ですが、水の秘薬作りはすでにかなりの力を付けています。
例の病気用の秘薬を改良すると共に外傷用の秘薬の改良も行って、より少量で効果が期待できる秘薬にしました。また、精神力や魔力を回復する秘薬など、それまでなかった秘薬の開発にも成功しています。
 そして新しい魔法を開発する力が解禁となったので、これから色々と想像(妄想?)力で開発したいと思います。もっともDQの魔法を使う事ができればあえて新しい魔法を開発する必要もないように思いますが、それはそれとして。

 それから身につけている物なら何でも媒体に出来ること。
 これで杖以外でも指輪でも剣でも魔法の媒体に使えるようになりました。万一杖を取り上げられるような状況になっても、これで大丈夫です。早速指輪を一つ作って契約しておきました。

 あとは魔力無尽蔵ですが、これは既にある程度開放されていたような気がします。
 今までもどんなに魔法を使っても魔力切れになることはなかったですから。多分『ルイズ』の虚無(爆発?)魔法が使えたら連発で全力使用が出来そうです。相手にとってはさぞかし恐ろしい状況でしょうね。
 これだけの能力を持った上に『王の財宝』に納められた武器を使用すれば、この段階でほぼ無双モードになったようなものですね。

 毎日の午後の訓練により、体力的には10歳位になっていると思います。隊長にお願いしている剣の訓練も木剣から短めながらも真剣(所謂ショートソード)に変わり、それなりに使えるようになりました。まだまだ一人前にはなれませんが、少しずつでも自分の身を守れるように頑張っていきたいと思います。

   ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 せっかく皇城の書庫に入る許可を貰いましたが、あれから皇城に行く機会がありませんでした。
 大体子供だけで行けるような距離じゃないでしょう?誰かと一緒に行くにしても皇城なんてそれなりの身分がないとは入れるわけがないし、そうしたら父上か母上しかいなくなりますよね。
 それでは皇城に行くような用事が出来るのを待たなければならないので、年に1~2回位しか行けなくなります。もう一生懸命考えましたよ。頭から湯気が出そうなくらい考えに考えましたが、少なくとも屋敷にいる人を当てにしても無理だと言うことが解っただけでした。
 そこで、考え方を変えてみました。ようは途中の危険を考慮する必要がなければ子供一人で皇城まで往復する事が出来るわけです。
 某青色猫型ロボットがいて『○○ドア』なんて出してくれればベストなのですが、それは無理。ならば皇城への往復中に考えられる危険を排除できるだけの強力な使い魔を召還すれば良いんです。
 こんな事は誰かに相談しても止められるだけだと解っていますから、サモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも母上や父上に気付かれないように黙って一人でやってしまおう。と考えたわけです。

 思いついたら実行あるのみ。
 5歳になってから少ししたある日の早朝、屋敷の森の奥にある人目に付かない広場に来てついにやってしまいました。

「我が名はアルバート・クリス・フォン・ボンバード、・・・以下略」

 目の前に大きな鏡が出現しました。この中から使い魔が召還されるんですね。ワクワクします。

 ・・・・・・なかなか出てきませんね。何か鏡が大きくなってきたような?もしかしてかなり大きな使い魔でしょうか?

 ・・・・・・・まだ出てきません。なにかBGMでも流してやらないと出てきにくいのでしょうか?ドラムロールでも鳴らしてあげましょうか?鏡の大きさも縦10メール、横5メールくらいになりました。

 ・・・・・・・ん?中から光が出て来ましたね。そろそろ出てくるようです。頭が見えました。

「あれ?どこかで見たような?って、もしかして『ヴァルファーレ』?どうして?FFの召還獣を呼べるようになるのは10歳からのはずでしょ?何で今使い魔に召還されるんですか?」

 目の前に現れたのはプレステ2のFFⅩをプレーしていた頃、よく召還した『ヴァルファーレ』です。流石に迫力ありますね。知らない人なら腰を抜かすでしょう。

 『ヴァルファーレ』は目の前でじっと僕を見つめています。目で何か訴えかけてきますが、これはやっぱりコントラクト・サーヴァントをしろというのでしょうね。僕的にはもちろん願ったり叶ったりなのですが、神様も条件設定が適当ですよね。

「我が名はアルバート・クリス・フォン・ボンバード、・・・以下略」

 『ヴァルファーレ』に顔を下げて貰い嘴に口づけしてコントラクト・サーヴァントを済ませました。
 使い魔の紋章は何処に着いているのでしょう?さすがに体中羽毛で覆われているので見つける事が出来ません。まあ、どんな紋章でもこの際関係なさそうだからいいのですが。これで『ヴィンドボナ』までの護衛が出来ました。皇城に行って本が読めるので万々歳です。
 でも、これだけ迫力のある大きな身体では屋敷や町や皇城の人たちも怖がるかもしれませんね。

「何処に居てもらいましょう。まさか厩というわけにもいかないでしょうから、新しく小屋を作りましょうか?それに何を食べるのでしょうね?」

[主よ、何を悩んでおるのじゃ?我の居場所など、主が心配しなくとも普段は異界に暮らしておるから問題はないぞえ。食べ物にしても同様じゃ。我を召還せし主ならばもっと大きく構えておれ。主は我が必要なとき呼び出せば良いだけのことじゃ。]

 今の声はヴァルファーレですか?頭の中に直接声が聞こえましたからテレパシーですね。
FFの中では話しをしているところを見た事がありませんでしたが、ヴァルファーレも話せたんですね。多分『シヴァ』とか『イフリート』も話しができるのでしょう。意思の疎通が出来るのは有り難いです。とても助かります。

「『ヴァルファーレ』、良く着てくれたね。君の声が聞こえたよ。私の名前はアルバート。これからよろしく頼む。ところで、僕はこの屋敷から首都の『ヴィンドボナ』にちょくちょく行く事になるのだけれど、往復の護衛がてら君に乗せていって貰いたいんだ。出来るかな?」

[それ位の事お安いご用じゃ。任せるがよい。それで、それだけで良いのか?もっと我の力を必要とするような幻獣との戦いや大戦のような事はないのかえ?]

「ごめんなさい。僕はまだ5歳だし、今のところ戦争に行くことも幻獣と喧嘩するような事もないと思います。万一そのような事態になりましたら是非力を貸してください。それではあしたにでも『ヴィンドボナ』に行きたいと思いますのでよろしくお願いします。」

[なんじゃ、戦はないのか、つまらぬの。まあ良い。今日の所は異界に戻るとしよう。我に用があるときは空に向かい我の名を呼ぶがよい。別に決め言葉や決めポーズは必要ないからの。それではさらばじゃ。]

「はい、お疲れ様でした。さようなら。」

 もう召還用の鏡は消えていましたから、『ヴァルファーレ』は空に割れ目を広げて飛び込んでいきました。すごいスペクタクルです。

 ちょっとどきどきしましたが、無事に召還も出来ましたし問題はないでしょう。呼び出す時の決め言葉も決めポーズもいらないのは助かりました。人前でやるのはさすがに恥ずかしいですから。
 さあ、これで明日から皇城に行って本を読めます。それにしても『ヴァルファーレ』か。
 護衛には最高でしょうけど、『ヴィンドボナ』ではどこに降りればいいのでしょうか?いきなり町中や皇城に降りたら大騒ぎになりそうですし、町の外ではそこからの移動が大変です。母上達に相談してみましょう。でも、『ヴァルファーレ』のことはなんと説明したらよいのでしょうね?
 一旦屋敷へ帰ることにしました。

「母上、ちょっとご相談があるのですが、今宜しいでしょうか?」

「アルバート。姿が見えなかったので心配したのよ。屋敷の中にも周りにも居なかったし、いったいどこにいたの?」

 ちょっと、予定以上に時間がかかってしまったようですね。外に出たことがバレてしまいました。

「ごめんなさい。ずっと皇城までどうやって行ったらいいか考えていたのですが、やっと良い方法が見つかったので森の奥で試していました。」

「あらあら、ようやく方法が見つかったのね。大分時間がかかっているので諦めたのかと思ったわ。それでどうやっていくの?」

「相談したいのはその方法についてです。実は、皇城まで護衛をかねて載せていってくれる使い魔が居ればいいと思いつき、先ほど使い魔の召還をしました。召還自体はうまく行ったのですが、少々問題もあって解決策が思いつかないものですから母上のお知恵を借りたいと思ったのです。」

「使い魔召還?あなた、そんな危ないなことを一人でやったの?なんと言うことでしょう。万が一のことがあれば命を落としていたかもしれないのよ。」

「勝手なことをしてごめんなさい。事前に相談すれば止められると思ったので内緒でやりました。」

「この事は後でお父様もお話しします。それで、成功したと言うけど、どんな使い魔を召還したの?あなたは土系統のメイジだからやっぱり土系の使い魔かしら?」

「それが、どの系統にも合わないと思います。おそらくハルケギニアにいない幻獣ですから、見たことがある人もいないと思いますよ。とても大きくて空も飛べるし、戦闘力も半端じゃないですから迫力も桁違いですね。人に見られると騒ぎになりますから今は元々の住処に戻って貰っています。」

「それは面白そうね。そんなに大きくて迫力のある使い魔なんて、お母様にも見せてくれない?」

 母上。面白そうって流石ですね。やっぱり見て貰った方が話しをするより早いでしょうから、『ヴァルファーレ』にもう一度来て貰いましょうか。

「わかりました。それでは外の訓練場に召還します。父上や他の皆さんにも来て貰って下さい。一度に紹介してしまいましょう。」

 僕が訓練場に移動して待っていると、母上と父上、それに屋敷内の皆さんもやってきました。

「アルバート。話は聞いた。今回は無事に済んだから良いようなものの、万一の事があったらどうする。おまえは我が家の嫡男なのだぞ。そこをもう少し考えて、もう二度と勝手にこんな無茶はしてはいけないぞ。いいな。で、その使い魔はどこにいるんだ?」

「申し訳ありませんでした父上。以後気をつけます。今使い魔は元々の住処に戻っていますので、ここに呼び出します。」

「呼べば来るのか。それは便利なものだな。」

「はい。ところで僕の使い魔はとても大きな身体をしています。それに皆さんが見たことのない幻獣なので、驚かないで下さいね。絶対に危険はありませんから。」

 一応、みんなに注意しておきました。多分無駄でしょうけど。

「それでは、呼び出しを行います。『ヴァルファーレ』おいで!!」

 僕が空に向かって呼びかけると、空に大きな裂け目が出来て、咆吼とともに『ヴァルファーレ』が飛び出してきました。2回目の召還になりますが迫力ですね。
 僕の側に着地した『ヴァルファーレ』の頭をなでながら周りを見回すと、父上も母上も他のみんなも口を開けたまま腰を抜かしています。

「あはは・・!どうしよう?」 

 

第06話:ヴァルファーレ紹介・父上初飛行!!

 
前書き
累計PV25000、累計ユニーク20000を超えることができました。
ありがとうございます。
早速ですが、第6話を投稿いたします。
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします。 

 
 こんにちは。アルバートです。

 現在、屋敷の裏側にある訓練場に来ています。ここは、いつも僕が剣の練習をしている場所で、母上にお願いされて『ヴァルファーレ』を召喚するついでに、屋敷の人たち皆に一度に紹介してしまおうとしている所です。
 でも、心配したとおり『ヴァルファーレ』を召還したとたんに、父上も母上もみんな腰を抜かして倒れてしまいました。中には気絶している人もいるようなので、これではとても紹介出来ません。
しかし、『ヴァルファーレ』でこんな事になるのでは、『シヴァ』とか『イフリート』を召還したらどうなるのでしょうね?
 さて、このままでは話が進みません。仕方ないのでみんな纏めて回復してしまいしょう。

「『ヴァルファーレ』突然呼び出してごめんね。僕の家族達に紹介したかったんだけど、こんな状況なのでちょっと待っててね。」

 ………魔法治療実施中………。

「みんな、目が覚めた?ちゃんと驚かないでって注意していたのに、みんなそろって倒れるんだから。せっかく呼び出したのに『ヴァルファーレ』に紹介できないじゃないですか。」

「しかしだな、アルバート、これを見て驚くなという方が無理だと思うが、これはいったい何だ?」

「これなんて言わないで下さい。この子は『ヴァルファーレ』。異界という、ハルケギニアとは全く違った世界に住む幻獣で、もちろんこのハルケギニアには生息していません。東方の書では召還獣と呼ばれています。」

 ここはあくまでも、『東方の書』で誤魔化します。本当のことは言えませんからね。言っても信じられないでしょうけど。

「『ヴァルファーレ』は見ての通り、大きいとはいえ鳥のような体型をしています。でも頭も良いし風竜より早く飛ぶことも出来ます。口から火を噴くような事はありませんが、もっと強力な必殺技があるんですよ。それに父上達には聞こえないでしょうけれど僕とは声に出さず頭の中で直接話が出来るので意思の疎通もしっかり出来ます。ですから、まったく危険はないのですよ。」

「まあまあまあまあ!!。この子お話が出来るの?それは素敵ね!!でもこんなに大きいなんて本当に驚いたわ!こんな子がいるなんて聞いた事もないけど、この世界に住んでいないのなら当然よね。それにしても何処か威厳があるし迫力満点だけど、落ち着いてみればとても綺麗な目をしているのね。そう、あなた『ヴァルファーレ』というの?良い名前ね。」

 なんと言いますか、母上の順応力には恐れ入ります。もうラ・ヴァリエール公爵家のカトレアさんも生まれていると思いますが、あの天然さんと良い勝負でしょうね。メイドさん他の家臣の皆さんも何とか落ち着いたようです。

「これだけの身体に見合う戦闘力があるとすれば恐ろしい威力だろうが、その必殺技とやらを見せて貰う訳に行かないかな?」

「そうですね。此処は狭いのでお見せする事は出来ないと思います。通常技(ソニックウィング)でもこの広さでは屋敷にかなりのダメージを与えてしまうでしょうから、必殺技(シューティング・レイ)を使ったら屋敷が無くなってしまいますよ。やっぱりまずいでしょう?」

 訓練場の広さは南北500メール、東西300メール有りますが、『ヴァルファーレ』の技では狭いと言って間違いないでしょう。変な方向に発射したら、どこに被害が出るか判りませんからね。うまく訓練場の中だけで収まったとしても、当分訓練場が使えなく位のダメージは与える事になると思います。

「ここでも狭いのか?それはちょっとというレベルの話しではないな。う~む、見てみたいが、被害のことを考えると此処では止めた方が良いだろうし。」

「あなた、今日のところは止めておきましょう。近いうちに、領の端の方にあるだれも住んでいない広い場所でゆっくり見せて貰いましょうよ。」

 父上も母上もどうしてそんなに好奇心一杯なんですか?そんなに見たいのですか?領地の地形が変わっても知りませんよ。父上も母上の言葉を聞いて嬉しそうにうなずいているし、これは近いうちにお披露目が必要でしょうか?どうなっても知りませんからね。

「『ヴァルファーレ』、待たせてごめんなさい。僕の両親が君に会いたいというのでちょっと来て貰ったんだ。紹介するね。まず、こちらの男の人が僕の父上で、こちらの女の人が僕の母上です。」

「『ヴァルファーレ』と言ったか。見苦しいところを見せて済まなかった。私の息子を頼むぞ。」

「初めまして、『ヴァルファーレ』さん。宜しくお願いしますね。」

 両親の挨拶に『ヴァルファーレ』も軽く頭を下げて答えます。

「それからこちらの皆さんはこの屋敷に勤めているメイドさんと執事さん達だよ。その中でもこのアニーは僕のメイドさんだから宜しくね。」

「『ヴァルファーレ』さんて、すごいですね。見とれてしまいますわ。アニーと申します。これから宜しくお願いします。」

「今日は紹介だけだけど、その内君の力を見せて貰うことになると思うから、その時は宜しくね。」

[了解した。では、今はもう良いのか?]

「うん。もう良いよ。明日までゆっくり休んでいてね。」

 『ヴァルファーレ』は軽くうなずくと異界へと帰って行った。

「すごいな。空が割れるなんて。あの向こうが異界という所なのか?」

「そうです。人の行くことの出来ない場所ですが、あの異界には他にも色々な幻獣が住んでいるのだそうです。」

「それも東方の書に書いてあったのか?おまえの書物好きも結構役に立つということか。ところで、『ヴァルファーレ』を返す時に明日とか言っていたが、何かあるのか?」

「そうそう、アルバートは皇城に行く為に『ヴァルファーレ』を召還したと言ったけど、どうするの?」

「はい、『ヴァルファーレ』に乗って皇城まで行こうと思っています。ただ、皇城のお庭に『ヴァルファーレ』が降りても大丈夫かお聞きしたかったのです。」

「『ヴァルファーレ』にって、あの幻獣に乗っていくのか?いや、だめだ。危険すぎる。風竜より早いと言っていたが、万一落ちたりしたらどうするんだ。」

「そうよ。そんな危ないことは止めなさい。」

「でも、マンティコア隊やグリフォン隊の騎士達も幻獣に乗って、その上闘っているのですよ。それに比べれば、ただ乗って行くだけなのですから安全だと思いますが。『ヴァルファーレ』の背中はとても広いし羽毛もふさふさで長いから掴まるのも楽だと思います。」

「彼らは大人で訓練された騎士だ。おまえのような子供の力で皇城までの長時間、すっと掴まっているのは無理だ。途中で力が尽きて手を離したら落ちてしまうんだぞ。」

「『ヴァルファーレ』のスピードならそれほど時間はかかりませんよ。う~ん、どうしても落ちるのが心配なら、座席のようなものを作って『ヴァルファーレ』に着けて、その座席にベルトで僕の身体を固定すれば安全ですよね。そうすれば例え宙返りしたとしても落ちたりしません。手綱も必要ありませんから乗っているだけで良いので楽々です。」

「どんな座席を作るつもりか判らないが、そんなものを着けることが出来るのか?絶対に落ちないような装備が出来るのなら少しは安心だが、それでもやっぱり心配だ。」

「どうでしょう。明日座席を着けたら父上が一度乗って、安全かどうか確かめてくれるというのは。その上で許可を頂ければ良いのではないでしょうか?」

「たしかに、実際に乗ってみるのが一番の早道だろうな。解った、明日試乗して確かめよう。ところで皇城に直接乗り込むと言ったが、いきなりそんなことをしたら間違いなく近衛部隊に迎撃されるぞ。多分『ヴァルファーレ』にはマンティコアでもグリフォンでもかなわないとは思うが、万一おまえに直接攻撃が当たれば無事では済まないだろう。なにより皇城の上で『ヴァルファーレ』が応戦して必殺技を出したらどうなるか考えたくもない。どうしたものかな。」

「それなら、私が皇帝閣下に鷹便を送っておくわ。明日『ヴァルファーレ』にアルバートが乗って行って、昼前頃に皇城の庭に降りるって。『ヴァルファーレ』の姿や大きさなんかをいっしょに連絡しておけば、いきなり攻撃してくる事も無いでしょう。でも、本当に安全なら私も乗りたいわ。アルバート、ダメ?」

 ダメ?って。母上、本当に歳いくつですか?お願い状態の母上って、10代に見えるから凄いです。

「『ヴァルファーレ』にお願いして、近いうちに母上も乗せて貰えるようにしますから。勘弁して下さい。」

 そんなこんなで今日のところは解散となりました。これからは『ヴァルファーレ』を呼び出しても、メイドさん達もビックリして腰を抜かすようなこともなくなるでしょう。

 その後、『ヴァルファーレ』に着ける座席と安全ベルトを練金して、訓練場の側にある納屋にしまいました。魔法を使って座った人の体型に合わせて大きさが変わるように作りましたから、大人が乗ってもちゃんと身体を支えてくれるはずです。イメージとしては車のバケットシートでしょうか。
明日、『ヴァルファーレ』を呼び出したら、お願いして着けてみましょう。空を飛ぶのは生前旅客機に乗って以来ですから楽しみです。飛行機と違って直に風を切って飛ぶのは気持ちいいでしょうね。

  * * * * * * * * * * * * *

 そして、夜が明けました。今日も良い天気になりそうな雲一つない青空です。
 目が覚めて、アニーに服の着替えを手伝って貰いました。今日の服装は以前母上が作ってくれた乗馬用の丈夫な物です。革の帽子と手袋も付いています。まだ一人で馬に乗れないのに、いつか使うかもしれないと言って作ってくれましたが、思わぬ所で役に立ちました。これで父上の許可が出たら、すぐに出発できます。

 身支度が終わったら次は朝食です。
 食堂に行くともう父上と母上が席に着いていました。
 僕が席について少しすると、妹のメアリーがメイドさんに連れられて来ました。メアリーも3歳になっています。もう可愛くって仕方ありません。父上も母上もものすごい親ばかぶりですが、解りますね。どうして妹って言うのはあんなに可愛いのでしょうか。別にロリではないのですが、やっぱり特別なのでしょうね。

 みんなが揃ったので朝食開始です。今日はたっぷりのサラダにポタージュスープ、スクランブルエッグとベーコンにガーリック・トーストです。父上と母上にはミルクティー、僕とメアリーはオレンジジュースが付いています。バターを塗ったトーストとベーコンがとても美味しくて、ずいぶんたくさん食べてしまいました。
 食べ終わってお皿が片付けられると、飲み物を飲みながら昨日のことや今日の予定を話します。家族の団らんですね。メアリーは万一危険が有るといけないからと言われ、昨日は訓練場に連れてきて貰えず、何が起きたのか知りませんでしたが、僕たちの話を聞いてその場にいなかったことをとても残念がりました。

「兄様、私も『ヴァルファーレ』さんを見たかったです。今日も呼ぶのでしょう?私も『ヴァルファーレ』さんに紹介して下さい。お願いです。」

「大丈夫だよ。今日は父上に安全確認の試乗をして頂くし、時間もあるからちゃんと紹介してあげるからね。」

「有り難うございます。大きくて綺麗な鳥さんですよね。とっても楽しみです。」

 おいおい、誰が説明したか知らないけど、大きくて綺麗な鳥さん?間違っちゃいないけど………。『ヴァルファーレ』が聞いたら何て言うか?

「父上が安全だと認めてくだされば、その内一緒に背中に乗せてあげるからね。空を飛ぶのは気持ちいいと思うよ。」

「お空を飛べるのですか?すごいすごい!!絶対乗せてくださいね!」

 うわ~。目がキラキラ星になってるよ。嬉しいのは解るけど少女漫画みたいだ。
 さて、朝食も終わりましたし、そろそろ準備しましょうか。
 両親と妹を連れて訓練場に移動します。アニーに頼んでおいた手荷物の準備できていますよ。

「それでは、呼び出しを行います。もう目を回したりしないでくださいね。『ヴァルファーレ』おいで!」

 空が割れて咆哮と共に『ヴァルファーレ』が飛び出してきました。見ていたメアリーは大興奮でピョンピョン跳びはねています。こういうのは子供の方が耐性があるようですね。

「おはよう、『ヴァルファーレ』、今日は妹のメアリーも来てるんだ。この子がメアリーだよ。宜しくね。それから、僕が君に乗って飛ぶのが安全かどうか、父上が確かめたいというので、一度君に乗せてあげて欲しいんだ。良いかな?」

[我も信用がないようじゃな。しようもない、乗せてやろう。ところでどうやって乗るつもりなのかえ?]

「この座席を君の背中に固定して乗りたいんだ。少し伏せてくれるかな。」

[これでよいか?]

 『ヴァルファーレ』は体を低く伏せてくれました。
 背中に昇って座席を背中の頸の付け根付近に載せます。固定用の帯が2本有って、魔法で自由に延び縮みさせる事が出来ます。まず1本は頸の前を回し、もう1本は胸の前を回して固定します。一度座って安全ベルトの調子を確認しましょう。
 ベルトは4点式で腰の周りを固定するベルトに両肩の上から下ろして腰のベルトに固定する2本のベルトで出来ています。

「『ヴァルファーレ』痛い所とか苦しい所とかないかい?」

[大丈夫のようじゃ。飛ぶのにも邪魔にならないようじゃの。]

[良かった。それじゃあ、一度父上を乗せて飛んでみて下さい。父上はあまり飛んだ経験がないと思いますからお手柔らかにお願いしますね。」

 『ヴァルファーレ』から降りて父上の方に行きます。

「父上、準備が出来ましたので乗ってみて下さい。座席に座ったらしっかりとベルトを締めて下さいね。飛び上がってから降りるまでの指示はもう出してありますから、乗っているだけで特に何もすることはありませんから。」

「よし、それじゃ行ってくるよ。」

 父上が『ヴァルファーレ』に乗ってベルトを止めたのを確認してから、僕は『ヴァルファーレ』に飛び上がるように言いました。

「『ヴァルファーレ』屋敷の上空を一周してきて下さい。」

[了解じゃ。]

 『ヴァルファーレ』が離陸しました。 

 

第07話:皇城へ………!!

 
前書き
第7話をお届けします。
やっと皇城の書庫に行くことができます。
色々騒ぎが起きていますが、まあ、大丈夫でしょう。 

 
 お早うございます。アルバートです。

 ただ今、父上が『ヴァルファーレ』の安全確認のため試乗中です。

 『ヴァルファーレ』は離陸してから300メール位までゆっくりと上昇してくれました。これなら旅客機より楽な上昇です。乗っている父上には結構楽しい遊覧飛行になっていると思います。
 これだけ離れていても『ヴァルファーレ』と僕の間はテレパシーで話が出来ます。今の状況を聞いてみましょう。

「『ヴァルファーレ』そのままのスピードで屋敷の周囲を回って下さい。父上の様子はどうですか?」

[おぬしの父上は楽しんでいるようだぞよ。なにやら下手な鼻歌が聞こえるからな。それではこのままゆっくり1周回って着陸するぞよ。]

「良いですよ。その調子で着陸もゆっくりでお願いします。」

 今日の天気なら、ずいぶん遠くまで見渡すことが出来るでしょう。この調子なら父上からの許可も貰えそうですね。そうこうしている間に『ヴァルファーレ』が降りてきました。無事に着陸すると父上がベルトを外して降りてきます。

「父上、乗り心地はどうでしたか?上からは眺めも良かったでしょうね。」

「アルバート、『ヴァルファーレ』の乗り心地は素晴らしいものだな。揺れないし風竜よりずっと乗りやすい。座席の具合も良いから、あのベルトをしていれば宙返りしても大丈夫だろう。これならおまえが乗っても大丈夫だな。いや~、それにしても眺めも良くて最高だった。」

 よほど楽しかったのでしょうか、父上はご機嫌ですね。

「有り難うございます。それでは皇城までの往復は『ヴァルファーレ』に乗って行く事で問題無いですね。」

「良いだろう。但し今日は初めてなんだから、試運転のつもりで充分注意して皇城まで往復してこい。飛んでいる途中で天気が悪くなった場合や、危険な幻獣がいないかとか、途中に問題がないか確認してくること。次以降の皇城に行く際の細かい条件なんかは、その結果を聞いてから話しをするからな。」

「良かったわねアルバート。お母様も今度、是非乗せて貰いたいわ。」

「母上もメアリーも近いうちに乗って頂きますのでお待ち下さいね。それでは僕は早速、皇城まで行ってきます。母上、皇城への連絡はして頂けましたか?」

「昨日の内に鷹便を送っておいたわ。大丈夫だと思うけど注意はしなさいね。」

 昨日の内って、まだ許可が出るかどうかも判らないのに送ったのですか?父上が苦笑していますよ。

「有り難うございます。メアリーも何かお土産買ってくるから大人しく待っているんだよ。」

「はい、兄様。ちゃんと待っています。今度絶対『ヴァルファーレ』に乗せて下さいね。」

「解ったよ。約束するね。それでは父上、母上行ってきます。」

 出発の挨拶をすると、僕は『ヴァルファーレ』の背中に昇って座席に座りベルトで身体を固定しました。昨日座席を作る時についでに作っておいたゴーグルを掛けて準備完了です。

「『ヴァルファーレ』、それじゃ出発しよう。皇城まで宜しくね。」

[了解した。それでは行くぞえ。]

 ふわっと浮き上がるのを感じて、どんどん小さくなっていく父上や母上、メアリーに手を振りました。
 そのまま、グングンと上昇を続け、1000メールくらいの高さまで上がります。この高さならいきなり何かに襲われることもないでしょう。

「『ヴァルファーレ』この位の高さであっちの方に飛んで下さい。」

 『ヴァルファーレ』は僕が指さした方向に首を向けると、一気に加速して飛び始めました。スピードといい、運動性能といい、風竜どころかサイトの零戦でも追いつくことは出来ないでしょう。『ヴァルファーレ』の力なのか僕の身体の前方にシールドが張られたようで、息をするのにも問題ありません。万一、原作のアルビオン戦に係わったとしても、この『ヴァルファーレ』や『シヴァ』、『イフリート』を召還すれば、あっという間に殲滅できるでしょうね。






 途中、何も変わった事は起きず、1時間位空の旅を続けると、もう『ヴィンドボナ』が見えてきました。天気が良いおかげで遙か地平線まで見渡すことが出来ます。地平線を見ていると、この世界も丸いんだという事が判りました。こんなに順調だと気分はすっかり遊覧飛行ですね。

 さて、この辺から『ヴィンドボナ』の近衛隊に注意が必要でしょう。出会っていきなり攻撃してくることはないと思いますが、見たこともない大きな幻獣が飛んでくるのですから、最低限止められて誰何されるはずです。

「『ヴァルファーレ』、このまま『ヴィンドボナ』上空に進入して、ゆっくりと螺旋降下してください。たぶん『ヴィンドボナ』の近衛隊が来ると思いますから攻撃しないようにお願いします。」

[解った。それで、万一向こうから攻撃してきた場合はどうするのじゃ?]

「一応避けるだけにしてください。僕が説明すれば解ってもらえるはずですから、攻撃はしないようにお願いします。」

[そうか。何にせよ主に危害が加わるようなことにならない限り、こちらからは手は出さないようにしよう。]

 その後、2分ほどで『ヴィンドボナ』上空に到着し、螺旋降下に入りました。だいたい地上200メール位まで降りて来たところで、近衛隊のマンティコアが4機も近づいてきて呼びかけられました。

「止まれ!!何者か?此処は『ゲルマニア』首都『ヴィンドボナ』である。このような見たこともない幻獣に乗っているが何用があって来たのか答えよ。」

 マンティコアに乗った4人の近衛兵は、完全に戦闘態勢に入っています。3機の近衛兵は『ヴァルファーレ』の両横と後方の3方から包囲しつつ、いつでも魔法を放てるように詠唱に入っています。誰何してきた正面の1機も杖剣を抜いて、何時飛びかかってくるか判らないような表情です。ちょっと怖いですね。

「怪しい者ではありません。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバード。ボンバード伯爵家の嫡男です。本日は皇城に用があり参上しました。この幻獣は私が召還した使い魔の『ヴァルファーレ』といいます。私が本日『ヴァルファーレ』に乗って参上しますことは、先に鷹便にて連絡しておりますのでご確認の程お願い致します。」

「確かにそのような申し送りがあったが、しかし、このような見たこともない幻獣で来られたのでは、私の一存では判断できない。直ちに確認を取るのでそのまま待つように。」

「判りました。このまま待機しますのでよろしくお願いします。」

 後方の1機が離れていきます。降下して皇城に確認に向かうようですね。

「『ヴァルファーレ』、少しの間このまま待って下さい。多分すぐに済むと思いますから。」

[判った。存外面倒な事よの。]

 下の皇城を見下ろしてみると、大勢の人が出てきて騒いでいるようです。屋敷でもみんながひっくり返った位ですから、騒ぎになるのも当然でしょう。
 やがて確認を取りに行った1機が戻って、正面の近衛兵に話しかけました。何を言っているのか聞こえません。すこしして正面の近衛兵が話しかけてきました。

「ただ今皇帝閣下よりご指示がありました。直ちに着陸するようにとの事です。申し遅れましたが、自分は近衛隊マンティコア隊所属、ボイス・スタンダードと申します。失礼のあった事お詫び申し上げます。それにしてもこの幻獣が使い魔ですか?大きさといい、迫力といい、今まで見たことがない幻獣ですが、危険は無いのでしょうか?」

「はい。非常に知能も高く、私との意思の疎通も出来ますので、私が攻撃されるようなことがない限り危険はありません。」

「了解しました。それでは自分が皇城の庭まで先導しますので付いてきてください。」

「有難うございます。それではお願いします。『ヴァルファーレ』あのマンティコアに付いて着陸してください。」

 『ヴァルファーレ』は小さく頷くと近衛隊のマンティコアに付いて降下を始めました。高度が下がるにつれて、だんだん下にいる人の顔が判るようになってきました。もしかしてあの真ん中の一番前に見えるのは皇帝ではないでしょうか?守られる人が一番前に出てしまっては周りの近衛隊も大変でしょうね。マンティコアは人の集まっているところから少し離れた場所に降りましたので、『ヴァルファーレ』もその隣に着陸しました。

「『ヴァルファーレ』お疲れさまでした。すごく気持ちの良い旅でしたね。」

[なんの。これ位のことは何ほどのことでもないわ。主が気に入ったようで何よりじゃ。]

 『ヴァルファーレ』にお礼をしてベルトを外します。翼を下げてくれましたので、座席の後にくくりつけておいた荷物を持って翼づたいに地面に降りると、後ろから声を掛けられました。

「良く来たな、アルバート。ずいぶん時間が掛かっているから、いったいどんな方法を考えて此処まで来るかと楽しみにしていたのだが、すごい幻獣に乗ってきたものだな。これがおまえの使い魔か?」

「これは皇帝閣下。わざわざお越しいただき有り難うございます。先に母上より鷹便によりご連絡を差し上げたものと思いますが、私の使い魔『ヴァルファーレ』を紹介致します。こちらが異界より召還しました『ヴァルファーレ』です。非常に頭が良く私との間では、声ではなく、直接頭の中で話しをすることで意思の疎通を図ることが出来ます。ご覧のように背中に座席を着け、私でも安全に乗ることが出来るように致しました。」

「それはすばらしいぞ。儂も一度乗ってみたいものだ。さぞ乗り心地も良いのであろうな。」

「はい。今日などは天気も良かったので眺めが最高でした。上空に上がっても寒くないですから気持ちいい飛行になりました。」

「そうか。そうと聞いては我慢できん。どうだ儂を乗せてくれぬか?」

「えっと。護衛の方とかはよろしいのでしょうか?一応一人乗りになっておりますので皇帝閣下お一人となってしまいますが。」

「なに、かまわぬ。これだけの幻獣に近づくものなどおらぬさ。」

 皇帝はそう言いますが、周りの近衛隊の方達は小さく首を振っていますよ。もしかして、皇帝って結構好き勝手に動き回っているのでしょうか?だとしたら近衛隊も大変ですね。

「お乗りになる事自体は危険のない事を保証いたしますが、皇帝閣下に万一の事が有ってはなりませんので、やはりマンティコア隊に周りの護衛をさせた方がよろしいかと思います。いかがでしょうか?」

 そう言うと皇帝はやや憮然とした顔つきになりましたが、

「皇帝などと言ってもこれ位の自由もないのだからな。おまえも覚えておくと良い、窮屈なものだぞ。仕方ない3名ほど付き合え。」

 と言ってくれたので近衛隊もほっとしたようです。僕は頭の中で

「『ヴァルファーレ』申し訳ないけれど少しの間皇帝を乗せてあげてください。父上の時のようにごくゆっくりと安全飛行でお願いします。」

[色々とめんどくさいものじゃの。まあ、良いじゃろう。主のためとなるのなら従うまでじゃ。]

「ありがとう。よろしくね。」

 その後声に出して、

「それでは皇帝閣下、『ヴァルファーレ』の翼を足がかりにお乗りください。お乗りになりましたら座席にお座りになり、腰と肩の所にある4本のベルトを締めていただけますようお願いいたします。」

「解った。少し借りるぞ。」

 そう言うと、皇帝は『ヴァルファーレ』の背中に登って座背に座り、ベルトを締めました。

「皇帝閣下、準備は宜しいでしょうか?」

「おう、いつでも良いぞ。」

「それでは『ヴァルファーレ』お願いします。」

 『ヴァルファーレ』は父上の時のようにゆっくり上昇していきます。300メール位まで上昇した『ヴァルファーレ』は、水平飛行に移って皇城の周りをスムーズに飛行していきます。その周りをマンティコア隊が3機囲んで護衛していますが、大きさがここまで違うと戦艦の周りを護衛する駆逐艦と言ったところでしょうか。多分攻撃力の面から見てもそんな感じになるでしょう。
 今回は皇城の周りを3周して降下してきました。着陸すると皇帝が降りてきます。

「これは、すばらしい乗り心地だ。遙か彼方まで見渡せるし、揺れもほとんど感じない。おまえがつけたと言う座席もなかなか座り心地も良くて風竜やマンティコアなどよりずっと乗りやすいぞ。なにより両手が使えるのが良い。これなら剣を使うにしろ魔法を使うにしろ闘う事にだけ集中できる。う~む、これは儂も欲しいな。」

 ここで、『ヴァルファーレ』をよこせと言われたら大変です。皇帝が僕から取り上げるような事はしないと思いますが、一瞬焦りました。

「お褒めにあずかり光栄です。使い魔の主としてこれほどの誉はありません。残念ながらこの幻獣は異界に住んでいるため、ハルケギニアにはおりません。大切な私の使い魔なので献上する事はできませんが、ご勘弁を願います。」

「解っているアルバート。何もおまえの使い魔を取り上げようなどと考えぬ。安心するがよい。だがな、これだけの使い魔だ是非ともほしくなるのは当たり前だろう。他にいないのが残念だ。」

 皇帝と話している間に庭に出てきていた人たちが周りに集まって、『ヴァルファーレ』を見ながら話しています。そういえば母上の妹姫達もいますね。どうやら、はじめの驚きからさめて、『ヴァルファーレ』への興味の方が大きくなったようです。誰も悪く言う人はいないようで、すっかり人気者になりましたね。

「皇帝閣下、そろそろ私は書庫の方に参らせていただきたいのですが。」

「良かろう。好きなだけ使うが良い。また後で、話をしたいものだな。」

「解りました。それでは後ほど。『ヴァルファーレ』、僕は書庫に行ってくるね。帰るときにまた呼ぶから、今は一度戻って良いよ。」

[解った。主もゆっくりするが良い。また会おう。]

 『ヴァルファーレ』が翼を広げると空が裂け、その向こうに異世界が見えます。そして『ヴァルファーレ』はあっという間にその裂け目の中に飛び込んで、次の瞬間空の裂け目は消えていました。
 この怪奇現象を見ていた周りの人達は、さすがに驚いたようでまた大騒ぎをしています。皇帝も驚いているようですが、これで『ヴァルファーレ』もますます有名になるのでしょうね。

 それでは、僕は書庫に行ってきます。 

 

第08話:やっとの事で書庫到着!!

 
前書き
第8話をお届けします。
図書室って大好きなんですよね。最近、近くの図書館にも言っていないな。
一度、国会図書館に行ってみたいものです。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 屋敷を出てから足かけ3話目になってやっと書庫に着きました。長かったな~。時間的には出発してから2時間程度だと思うのですが………。

 さて、着陸した皇城の前庭で皇帝閣下と別れ、女官に案内して貰い書庫まで皇城の廊下を歩きましたが、右に曲がったり左に曲がったりで、もう自分が何処にいるのか解らなくなりました。とても一人で歩けません。
 大体廊下自体が広くて、何処も同じような作りになっているから余計混乱するのだと思います。一応階段を上がったので2階にいるのだろうと思った頃ようやく書庫の前に着きました。

 目の前には大人の背の2倍以上ありそうな扉がそびえています。無駄に大きいですね。こんな大きな人間が居る訳無いのですから、ただの見栄なのでしょうか?
 皇城を構成してるパーツ、それぞれがやたらに大きいようで、部屋のサイズも、こんなドアのサイズも僕のような子供の目線では余計に巨大に見えます。まあ、前世で周りに建っていた家と比較してしまうのは、一般庶民出としては仕方のない事なのでしょうか。

 幸いドアのノブは僕でも届くところにあるのですが、扉の大きさを考えると僕の力ではとても動きそうにありません。仕方ないので、魔法を試してみます。

「アン・ロック!」

 あれ?何も変わりませんね。ああ、すみません。これはロックを解除する魔法でした。
 そう言えば閉まっているドアを開放する魔法ってあったっけ?もしかして必要ない?そりゃ確かに鍵が開けば後は自分でドアを開ければ良いんですから必要ないように思えますが、誰か今の僕のような状況を考えなかったのでしょうか?

 こんな所で愚痴を言っていても始まりません。仕方ないので誰か探して開けて貰いましょう。なんか情けないな~。

 なんて一人で考えて誰かいないかなと振り返ると、すぐ側に女官が一人立っていました。何してんの?といった顔で見られています。
 そう言えば此処まで案内して貰ってそのままでしたね。余り目の前のことの集中しすぎて、この人が居るのをすっかり忘れていました。落ち着いて考えれば初めからこの人に頼めば良かったんですよね。思わず赤面です。

「すみません。此処まで案内して貰って名前を聞くの、忘れていましたが、このドアを開けて貰えますか?」

「かしこまりました。(クス!)私の名前はスピネルと申します。本日はアルバート様のお手伝いをするようにと申し使っております。よろしくお願いいたします。」

 うっ、笑われてしまいました。この状況では仕方ないですね。でもお手伝いを命じられていたのなら黙って見ていなくても良かったでしょうに。
 スピネルさんが開けてくれたので、ようやく書庫の中に入る事ができました。

 書庫は、ドアを入った側に10メール四方位のスペースがあって、机と椅子が並んでいます。窓もこのスペースの部分にしかないようですね。太陽の光で本を傷めないためでしょうか。奥の書棚で選んだ本を此処で読むようになっているのでしょう。

 このスペースの奥に沢山の書棚が並んでいます。どの書棚も天井まで届く大きなもので、上の方まで本が詰まっていますね。
 書庫の広さは体育館より大きいでしょうか。高さも体育館並みにあります。書棚がなければ楽にバレーボールでもバスケットボールでもできる広さですね。いったい何冊くらいの蔵書があるのでしょうか?これなら当分読む本に困らないでしょう。
 上の方の本はフライで飛んで取るようですが、はしごを使って登っていく事も出来るようになっています。メイジ以外の人も使えるように考えているのでしょう。

「スピネルさん。ありがとうございました。また、助けが必要な事があったらお願いしますね。」

「はい、解りました。それでは私は此方で控えておりますので、御用事の際はお声をお掛けくださいますようお願いいたします。」

 スピネルさんはそう言うと、壁際の方に移動していきました。

 その後、読書スペースに近い方から順に本を引っ張り出してみます。
 最初に引っ張り出した本はゲルマニアの地理や風土に関する本ですが、誰の著書か解りませんし、あまり詳しい内容ではありませんでした。2冊目はゲルマニアにおける産業の発展について書かれていましたが、此方もいまいちですね。個人が趣味のような感じで調べて書いているようなので視野が狭いというか自分の考えが入りすぎています。あまり面白くないので本棚に戻します。どうやらこの棚は主にゲルマニアの事についての本が収められているようですね。

 今日は初日なのでざっと本の種類なんかを見ておこうと考え次の棚へ移動しましたが、何でしょう?変な本を見つけました。

「これって、グラビア雑誌だよね?表紙は綾瀬○るかかな?こっちの表紙はほし○あき?結構新しい本なのじゃないかな?何でこんな本があるんだ?」

 そこの棚を調べてみると、グラビア雑誌のほかにも漫画や週刊誌といったものから、料理のレシピ本、ファッション誌まであります。古いものからおそらくここ数年のものまで年代も多岐にわたっていますが、どこから来るのでしょうか?

 しばらく原作知識から検索してみましたが、やっぱりこれはサハラの奥、シャイターンの門から出てくるか、日食に紛れて入り込んでくるのかでしょうね。たしか場違いな工芸品なんかもかなりの量が入ってきていたと思いましたから、これくらいはあって当たり前かもしれません。
 考え込んでグラビア雑誌を見つめたまま固まっている僕にスピネルさんが話しかけてきました。

「アルバート様、そろそろ昼食のお時間でございます。あの?アルバート様?そのような本はお子様がご覧になるような本ではございません。お戻しになるほうが宜しいと思いますが。」

 スピネルさんに顔を赤くして言われますと、何かすごく恥ずかしい本を見ていたように感じてしまいます。生前に僕の本棚の奥に隠していたエロい本に比べればとってもおとなしいと思いますよ。あれは米軍の友人から貰ったペントハウスやプレイボーイなど、税関通ってない原本、完全無修正版ですからね。あ~。あの本は今頃どうなっているのでしょうね。持ってきたかったな。

「ごめんなさい、スピネルさん。すぐに戻します。もうお昼ですか?気がつきませんでした。それでは案内をお願いします。」

 スピネルさんに案内して貰って食堂に来ました。もう皇帝や妹姫達も待っています。

「遅くなりまして申し訳ありませんでした。」

「どうやら夢中になっていたようだな。何か面白い本があったか?」

「まだ、入り口近くの本だけしか読んでおりません。ゲルマニアの地理や歴史といったものでしたが、あまり詳しいものではなかったので今ひとつと言ったところでしょうか。」

「何というか、子供の読む本ではないような気もするが、それを言ったら子供用の本などほとんど無かったな。まあ、好きにするが良い。」

 話はそこまでとなって、その後は昼食となりました。
 今日は魚のムニエルですね。この魚は何でしょう。この世界は鮮魚の輸送方法などありませんから干物や塩漬けなどの保存加工した魚しか内陸部の『ヴィンドボナ』には入ってきません。
 どうしても肉類とか脂っこいものが多くなりますから、このままの食生活では生活習慣病になってしまいます。
 何とか日本食を再現できるように色々考えましょう。大豆を見つけられれば海水からにがりを作って豆腐もできるし、麹を見つけられれば味噌も日本酒もできるでしょう。それにお刺身が懐かしいです。 魚介類は地球と同じ種はいるのでしょうか?鮪に鯛に鮃、ハマチや蛸に烏賊など生息しているのか調べないといけません。明太子なんかも大好きでしたがスケトウダラは捕れるのかな?そのうち沿岸部の漁村とかに行って加工方法など教えましょう。
 それ以前にやっぱり冷蔵庫を発明しないと改善できそうもありませんね。

 昼食も終わって、ティータイムです。

「そのほか気になるような本はあったか?」

「そうですね、東方の言葉でグラビア雑誌という本物そっくりな絵を集めたような本や漫画といった本がありましたが、まだ中身までは読んでおりません。」

「グラビア雑誌?どんな本なのだ?」

「きれいな女性が半裸でほほえんでいる絵が表紙を飾っている本です。」

「あれを見たのか?まだおまえにはちょっと早いと思うが。」

「そうですね。スピネルさんにも注意されました。それよりもああいった本はどこから流れてくるのですか?」

「時々東方からやってくる商人が持ってくるんだが、それほど頻繁に来る訳でもないし、量も多くはないのでな。結構な値段となる。」

「そうですか。珍しい物なのですね。それから此方には場違いな工芸品と言われるものはありますか?」

「いくつかあるが、どれも何のためのものは解らん物ばかりだ。まとめて宝物庫にしまってあるが見たいのか?」

「そうですね、今日は書庫の方でいっぱい一杯なので次にきたときにでもお見せ願えますか?」

「ああ、良いぞ。その時は案内をつけるから好きなときに見に来い。そうだな、スピネルをおまえの専属女官とするからそれで大丈夫だろう。」

「有り難うございます。それでは、私はまた書庫の方に戻りたいと思います。御用のせつはお呼び頂けますようお願いいたします。」

「ああ。余り根を詰めるのではないぞ。たまには気分を変えておまえの叔母達と話をしたり、遊んだりしても良いのではないかな?この子達もおまえに興味があるようでな、儂にいろいろ聞いてくる。」

 そう言えば個人的に話した事はありませんでした。せっかくこうして顔を合わせているのですから話をしないというのも変ですね。

「自分のことばかり夢中で考えておりませんでした。申し訳ありません。私もお姉様方とお話しさせて頂きたいと思っていました。今日はちょっと時間がとれそうもありませんが、今度来た時はぜひお話しさせていただきたいと思います。次からよろしくお願い致します。」

「ああ、頼んだぞ。それでは行きなさい。」

 一礼して皇帝の前から退室します。それからスピネルさんに連れられて書庫に戻りました。

「スピネルさん、先ほど皇帝閣下より僕の専属女官と指名されましたね。これからもよろしくお願いします。」

「はい、此方こそよろしくお願いします。」

 この前皇城に来たときも思いましたが、女官の皆さんは美人ばかりです。スピネルさんもなかなかの美人で、今のような笑顔は思わず見とれてしまうほどです。
 カメラがあったら良かったのにと思いました。アルビオンに隠してある事務所に行けばデジカメもあるのですが、今はまだ行く訳にはいきません。残念です。こんな事なら『王の財宝』に入れておけば良かった。もっともこんな所でデジカメなんて使ったらどうなるか解りませんが。

 書庫の中で、今度はもう少し奥の方を見てみましょう。

 この辺はゲルマニアの鉄鋼業に関係する本ですね。ゲルマニアはハルケギニアで鉄の製造をほとんど独占していますから、製鉄についての本は一杯あります。それに色々な発明品に係わる書類やその発明品を使った製品などの関連本もあります。
 でも考えてみれば此処にある発明品関係の本の中には、父上が書いた本も一杯あるんですよね。ということは、父上の部屋を探せばもっと詳しい本があるのではないでしょうか?もしかしたら、わざわざ皇城までこなくても技術的な本は屋敷で間に合ったとか?
 いやいやいやいや、技術的な本だけが目的ではないので、やっぱり皇城に来ることは大切なんです。そうなんです。ちょっと背中を冷たい汗が流れたような気がしますが、きっと気のせいでしょう。気にしたら負けです。どんどん本探しを続けましょう。

 その向こうは、他の国関係の本棚ですね。アルビオン、ガリア、トリスタニア、ロマリアの4カ国にクルデンホルフ大公国のほかの小さな国等それぞれの地理や歴史に関する本、主な貴族の名簿などもあります。トリスタニアの貴族名鑑を開いてみるとラ・ヴァリエ-ル公爵やグラモン伯爵、モンモランシ伯爵などの原作出演メンバーの名前も見られますよ。

 一番奥の棚は魔法関係の本が一面に並んでいます。これならおよそ考えられる限りの魔法が載っている事でしょう。
 大体どんな本があるか見る事ができましたので今日はこの位でお終いにしましょう。ちょっと夢中になりすぎたようですね。

「スピネルさん。今日はこの辺で終わりにします。皇帝閣下にご挨拶して帰りたいと思いますのでよろしくお願いします。」

「はい、かしこまりました。それでは此方においでください。」

 スピネルさんの先導で廊下を進み、奥の方の大きな扉を入ったところで一旦待ちます。此処は謁見の間の待機室のようです。此処で次の扉の前にいる侍従にスピネルさんが皇帝への取り次ぎをお願いしています。侍従は奥の部屋にいる人にお伺いを立て、すぐにお許しが出たようで、次の部屋に入る事ができました。
 この前父上や母上と来た時にも入った部屋ですが、あの時は色々テンパって居たので部屋の様子まで見ていませんでした。やっぱりすごく煌びやかな部屋ですね。各国の大使とかも来るのでしょうから当たり前なのでしょうが、僕としては落ち着くことの出来る場所とはいえません。

「お忙しいところ、申し訳ありません。夢中になって時間を忘れておりました。遅くなりましたのでお暇しようと思います。また来週参りますのでよろしくお願いします。」

「うむ。もう帰るか。あの使い魔がいるのだからちょくちょく来ると良い。いつでも歓迎するぞ。帰りも心配ないと思うが気をつけてな。」

「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」

 皇帝へのご挨拶も終わりましたので、朝着陸したところにスピネルさんに連れて行って貰います。僕が帰る事が何処からか伝わったのか、朝より少ないですがそれでもかなりの人が来ています。また見世物になるのでしょうか。

「それではスピネルさん、今日はありがとうございました。また来週来ますのでよろしくお願いしますね。」

「お待ちしております。気をつけてお帰りください。」

 スピネルさんへのお礼も済みましたから、早速『ヴァルファーレ』を呼びましょう。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 空に大きな割れ目ができ、咆吼と共に『ヴァルファーレ』が飛び出し、目の前に着地しました。
 見ている人たちの響めきも感じられます。

「『ヴァルファーレ』帰りもよろしくお願いしますね。」

 『ヴァルファーレ』の翼から背中に登り、座席に座ってベルトを締めます。地上の皆さんに手を振って、さあ帰りましょう。
 

 

第09話:内政チート開始?

 
前書き
お待たせしました。
いよいよ色々な開発に着手します。ここからが大変なんですよね。
どうか、読んであげてください。
*2018.11.25 無いように矛盾点がありましたので一部削除しました。 

 
 お早うございます。アルバートです。

 初めての長距離一人旅で、無事に皇城から帰ってきました。夕方になってしまいましたが、帰りも特に問題はなく、綺麗な夕焼けを見ながら気持ちの良い飛行ができました。やっぱ『ヴァルファーレ』は最高です。

 日がすっかり暮れる頃屋敷に着くと、訓練場に火が焚かれて明るくなっていました。その明かりの中に母上がメアリーといっしょに待っているのが見えます。帰る時間は連絡していなかったのですがどうして解ったのでしょう?

 『ヴァルファーレ』が静かに着陸し、座席から翼伝いに地面まで降りると後から母上に抱きしめられました。

「アルバート、お帰りなさい。帰りが遅いので心配していたのよ。何もなかった?」

「母上、遅くなってごめんなさい。明かりを点けて待っていてくれたんですね。有り難うございます。もっと早く帰ろうと思っていたのですが、つい皇城の書庫で夢中になって時間を忘れてしまいました。でも、帰りの時間を連絡しなかったのに、どうして判ったのですか?」

「皇城から鷹便が来たわ。これから出発するから、鷹便が着いてから少しした位の時間に着くだろうって皇帝閣下が連絡してくれたのよ。」

「そうだったのですか。皇帝閣下や女官の皆さんにも御迷惑を掛けてしまいましたね。これからは気をつけるようにします。本当に心配掛けてごめんなさい。それから、これはメアリーにお土産です。」

 そう言って、僕はメアリーに持ってきたお菓子を渡しました。これは皇城を出発する直前にスピネルさんから貰ったもので、『ヴィンドボナ』で最近人気のお菓子だそうです。帰る直前までお土産のことを忘れていたので助かりました。とても綺麗なのでメアリーも大喜びしています。今日はスピネルさんにはお世話になりましたから、今度皇城に行く時は何かプレゼントを持って行かなければなりませんね。

「『ヴァルファーレ』有り難う。お疲れ様でした。今日はもう戻って休んでください。」

[判った。何かあればまた呼ぶが良い。さらばじゃ。]

 そう言って、『ヴァルファーレ』は空の割れ目に消えていきました。
 『ヴァルファーレ』を使い魔に出来たことは、僕にとって最高のラッキーだったようです。

 その後は、少し遅い夕食を食べて、父上と母上に今日の旅の様子を報告します。往復の飛行中に危険はありませんでしたので、『ヴァルファーレ』に乗って皇城へ行くことを許可されました。ただし無条件に行くことは良くないと言われ、週一日、虚無の日で天気が悪くない日だけと言う条件が付きましたが、それ以外は父上と母上から自由にしても良いと許可を貰うことができました。

 それからの僕の日課は、今まで通り午前中に母上に魔法の座学と実技訓練を見て貰い、午後は護衛隊長の体力作りと剣の訓練を続ける傍ら、父上からゴーレムの訓練をして貰います。そして休憩時間にメアリーと遊んだり、母上に遊ばれたりで毎日を過ごすというものになりました。

 魔法の能力や錬度は5歳の誕生日にチート能力が開放されてから天井知らずに延びています。特に魔力無限の威力が大きいですね。どんな魔法を使っても魔力が切れて倒れることがありませんから、その気になれば30メールクラスのゴーレムを何体も作って個別に操作することも出来るようになりました。これを戦場に投入すれば大抵の状況はひっくり返すことが出来るでしょう。

 こんな調子で日々が過ぎ、あっという間に2年が過ぎました。
 この2年の間には、虚無の日に天気が悪い事なんて殆ど無かったので、週末毎に皇城に行って、妹姫様達ともすっかり仲良くなりました。おかぜで皇城での生活や慣習といったものもいろいろ教えてもらいましたよ。なんでも皇帝から皇太子として必要だから教えておくようにと言われたようで、ダンスの練習までありましたから驚きです。………だから皇太子は止めて下さい。

 一度『ヴァルファーレ』にお願いして皇城での試乗会を開催したこともあります。皇城のみんなにも遊覧飛行を楽しんで貰いました。マンティコア隊や竜騎士隊の人達も喜んでいたので良かったと思います。『ヴァルファーレ』もすっかり皇城になじんで人気者です。時々僕が皇城の書庫に籠もっている間に、妹姫様達を乗せて飛んであげたりしていたようです。

 皇帝とは読書の間にですが色々な話しをしています。忙しい方ですから時間的にはそんなに長く話しをしてもいられないのですが、その短い時間で皇帝としての心構えとか、他国との関係とか真剣に話してくれます。でもこれって帝王学ですよね?ここでも皇太子扱いですか?まじ、困るんですが。

 それから月に一度位、午後に特別に時間を取って剣の稽古を付けてくれたりします。男の子がいないからでしょうか、僕のことを自分の子供のように思ってくれているような所があります。それにしても皇帝の体力というか剣の腕は現役ばりばりですね。屋敷の護衛隊長より間違いなく強いと思います。
 これは誰にも言った事はありませんが、僕も結構皇帝のこと好きなんですよ。だから僕と話しをしてくれる時間とか剣の稽古の時は真面目に教えて貰うようにしています。

 場違いな工芸品も見せて貰いました。何か、懐かしい物が沢山ありましたが、武器の類が多いのはやっぱりガンダールブの力が関係しているのでしょうか。大半が壊れていて役に立たない物ばかりでしたが、中には、冷や汗物もありました。なんと信管部分が壊れているAIM-9『サイドワインダー』です。弾頭部分の形状からタイプDだと思います。
信管が壊れているのですぐ爆発する危険は無いはずですが、炸薬は生きていますから分解したり火に近づけたりすると危険ですので注意しておきました

 皇城の女官の皆さんや執事さん達ともすっかりおなじみになって、時々話しをしたりします。専属女官のスピネルさんには、時々プレゼントをもって来たりしていますよ。


 さて、こんな事をやっている内に7歳になったので、本格的に領の内政に係わらせて貰うことになりました。
 前に父上と相談して、7歳になったらお供付きですが一人で領内を見て回る事や内政のお手伝いをすることを許して貰っています。
 それからは母上も交えて色々話して領内の状況もそれなりに教えて貰いました。

 生前の僕は農業や酪農に携わっていたわけではないので、そちらの方面の知識は高校生が普通に習うようなレベルや日々のニュースで聞くようなものでしかありません。そのため、皇城の書庫で知識を仕入れようと思ったのですが、ハルケギニアのレベルでは僕の持っている知識でも使い方しだいで、農業革命を起こすことが出来るということが判っただけでした。ですから僕に考えつくことをどんどん提案していきたいと思います。

 まず、第1段階として考えつくのは、以下の5点です。

 1.領内の公衆トイレの設置→トイレのくみ取り業の開始→集めた屎尿の発酵、肥料化→肥料の農民への無料配布、使用方法の説明
 2.領内の道路の整備
 3.田畑の測量→課税基準の見直し
 4.新しい農具の開発、普及
 5.新しい農法の普及

 どれも、生前に読んだことのあるゼロ魔の二次小説で、良く出てくる改革案だと思います。それだけに効果があると考えられますから、この5点を行って領民の生活力の底上げを行います。そうすれば、次の段階へ進みやすくなるでしょう。

 何でこんな事を考えたかというと、このハルケギニアに転生して、まず思ったことが電気がないと言うことだったのです。生前の日本を考えると電気がないことなんて考えられません。照明もテレビ、冷蔵庫、エアコンやパソコン、すべてが電気で動いていました。
 僕自身、仕事でも私生活でも電気の恩恵にあずかっていたわけですから、この世界に来てランプや蝋燭の生活をしていると、何とか電気を普及して夜も明るい生活が出来るようにしたくなったのです。
 もちろん初めの目標は領民全体の家を電化することです。その為に発電所を作るのにも、送電線を張り巡らしたり変電所を作るのにも、とんでもないお金が掛かります。実際国家事業のレベルになりますからね。
 電線を作ることを考えても、まず鉄を練金して細い鋼線にして撚り合わせ細めのワイヤーを作ります。次に銅を練金して銅線をつくり、それをより合わせて細いワイヤー状に加工し、それを4本から6本、先に作った鋼線のワイヤーの周りに撚り合わせていきます。中の方の隙間をゴムで充填し、その周りをさらにゴムで被覆してケーブルに仕上げるといったいくつにも渡る細かい技術が必要になります。
 さらにその電線を設置する電信柱や送電鉄塔、送電の途中で昇圧や降圧を行う変圧器を作るのにも、莫大なお金が掛かりますので、それだけの資金を作りだすことから考えていかないと、完遂は不可能でしょう。

 一から作り出すことの難しさを思うと気が遠くなりそうですが、自分で決めたことですから腹を据えて行きましょう。
 そして、これが成功すれば、続いてゲルマニア全土の電化を始めます。最終目標はハルケギニア全体を電化することですが、アルビオンは別枠で考える必要が有ります。あそこだけ空飛んでいますから送電線を繋げるわけに行きませんからね。

 さて、領内改革の項目1ですが、農村にしても町にしてもハルケギニアは不衛生すぎます。はっきり言って臭い。初めて町に出た時なんか、あまりの臭さに頭が痛くなって倒れるかと思いました。
 あの状況ではいつ疫病が発生しても不思議じゃないですから、集落毎に必要な数だけ公衆トイレを設置します。そしてトイレ以外で用を足すことを禁止し、罰則も設けます。それから消毒と消臭を魔法で行います。
これで衛生状況を改善すると共にトイレの屎尿を収集し、一箇所に集めて発酵させます。
発酵には1年位掛かるはずですから最初は魔法で発酵を促進させましょう。この発酵した屎尿は肥料になりますから農民に無料で配り、畑の肥料として使うように教えます。これで一つのサイクルが出来るわけです。一昔前の日本の田舎を思い出します。
 これだけやれば病気の発生が大幅に減るでしょう。

 次に、項目2です。
領内の道路は手入れがされているところでも凸凹が多すぎます。一応魔法使いを動員して練金で整備しているようなのですが、剥き出しの土のままでは雨が降る度にぬかるんで元の木阿弥です。
どうしても前世の日本を基準に考えてしまいますが、流石にアスファルト舗装は無理でも、砕石舗装くらいなら出来るでしょう。マダカム舗装とも言いますが、練金で少し地面を掘り下げ、表面をならしながら固めてやり、その上に砕石を敷き詰めて大型のゴーレム等で平らに圧し固めてやればいいと思います。砕石は天然の砂利とは異なり表面が荒くなっていて、圧し固めるだけでガッチリと噛み合いますから、十分な耐久性を得る事が出来るでしょう。仕上がりも綺麗だし、馬の足がかりも良いから十分使えると思います。雨が降ってもぬかるんだりしなくなって、荷馬車も通りやすくなり商人の流通が増えると思います。
最終的には、さらに側溝を作って雨水の処理施設まで建設します。雨の度に道路が冠水するようなことが無いようにしましょう。交通が麻痺してしまっては通商の阻害になりますからね。
 多分、雨水の処理や農業用水の確保などを考えていくと治水事業にまで発展するでしょうから、土メイジが大活躍になりますよ。

 次の項目3はいわゆる検地です。
項目4,5にも係わりますが、正確な農地の測量で生産量を予測し、課税基準を見直していきます。ついでに農地を纏めて一つ一つの区画を大きくし、大規模農業が出来るように作り直します。
今の課税方法は大雑把すぎて収穫量が変動すると簡単に農民を殺してしまいます。状況を把握しながら適切な税の徴収をすることにより農民にも生活のゆとりを与え、働く意欲が湧けば自然に税収も増えるというものです。

 項目4は使用されている農具を見て考えました。鋤も鍬も低レベルすぎます。せめて先端に鉄を使用して取っ手の部分も改良し効率を上げましょう。牛を使ってモールドボード・プラウなんかも普及できれば項目3で広大な耕作地が出来た時に威力を発揮するでしょうから是非作ってみたいです。その他にも作ってみたい農具はたくさんあります。
せっかくゲルマニアは鉄の産地なのですから武器ばかりでなく農具にもどんどん使うべきです。

 最後の項目5ですが、ノーフォーク農法の導入や、土壌によっては牧草栽培期間を長くした改良穀草式農法なんかも普及させたいですね。今のやり方では無駄が多すぎますから一気に改良していきましょう。

 どこかに米や大豆なんか無いかな~。コシヒカリにササニシキ、あきたこまちとかの日本の米が食べたいです。炊きたてのごはんが食べたいと思うのはやっぱり日本人なのでしょう。お釜なんかは練金で作れますから米さえあればバッチリです。あと大豆があればわらに包んで納豆も出来そうだし、豆腐に味噌、醤油なんかも作りたい。豆腐が出来れば油揚げや厚揚げも出来るから、やっぱり大豆は使い道があるよね。栄養も満点だし何とか見つけられればいいのですが。もしかしたらタルブあたりに有るかもしれないですね。竜の羽衣の佐々木さんが色々やっていたはずですから一度行ってこないと行けません。

 この項目3から5の連携がうまく行けば農作物の収穫は何倍にもなるでしょう。領民の生活が改善され、余裕が生まれれば領民も増えて購買力も上がります。物を買う人が増えれば商人もやって来て活気が生まれます。それによって税収が増えれば万々歳となるわけです。どうしてこんな事も解らずハルケギニアの貴族達は領民から搾取することばかり考えているのでしょうか。結局自分の首を絞めていることに気付かないなんて、馬鹿でしょ?
 貴族も平民も関係なく、みんなで幸せになった方がずっと楽しいと思いますから、せめてこの領からできる事を実践して行きます。

 電気の普及の第一歩です。頑張りますよ!! 

 

第10話:領内改革!(その1)

 
前書き
さて、張り切って改革に取り掛かりましょう。
と言っても準備段階なのであまり進展はありませんが・・・。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 前話でお話しましたように、7歳になりいよいよ領内の内政に係わる事になりました。
 まず、考えた改革案を羊皮紙に書き出して、父上の書斎に持って行きました。書斎のドアをノックします。コンコンコンと(ノックは2回だとトイレになってしまうんですよね。一度やってメイド長さんに怒られました。)3回ノックして扉越しに呼びかけます。

「父上、アルバートです。」

「アルバートか。入りなさい。」

 お許しが出ましたから中に入ります。
 父上の執務室は僕の部屋より少し小さめですが、中央の窓よりに大きな机があり、その前にはソファーとテーブルがセットされています。周りの壁には書棚が設けられて仕事関係の本や書類が並んでいます。その内こちらの書棚も見せて貰わないとなりませんね。きっと皇城の書庫にある書物よりも鉄鋼業関係や発明品関係について詳しい資料が見つかるはずです。
 執務室らしく壁や天井は落ち着いた色で、窓のカーテンもグリーン系のしっとりとした感じです。どうやら母上の侵略から逃れているようですね。奇跡です。
 母上の手で整えられた居間や食堂などはパステルカラーに花模様で、いつでも春真っ盛りです。自分の部屋を貰ってから入った事がないのですが、寝室などどうなっているか解りません。

 (閑話休題)

「父上、昨日から領内を一通り廻って視察して来ました。これから行っていきたい事を幾つか書き出しましたから見て頂けますか?」

「ずいぶん早いな。もう出来たのか?見せてみなさい。」

 持って来た書類を渡します。少し枚数が多いのに驚いていたようですが、ちゃんと読んでくれていますね。羊皮紙6枚にびっしりと書きましたが、羊皮紙はペンが引っかかって書き難いので、早く紙の製造も考えた方が良いですね。きれいな紙を量産できれば、それだけでも特産品となりそうです。

「ふむ、早い割には良く領内を見てきたようだな。提案についても案件毎に提案理由と効果が纏められて良くできている。これをおまえ一人でやったのか?」

「はい、少し時間が掛かりましたが、第1段階としてはこれ位だと思います。それで、提案についてどう思いますか?」

 そう言うと、父上は頭を抱えてしまいました。どうしたのでしょうね?大きく一つため息をつくと、

「今更言っても始まらないが、おまえの頭はどうなっているのだ?私の部下でもこのような事を考えつく者は居ないぞ。それなのにこれで第1段階?つまりまだ後があるという事だろう?これだけの事を7歳の子供が出来るのなら、考えつきもしない部下の評価を見直さなければならないではないか。」

 それは、中世ヨーロッパ並みの知識を基にした考えと、21世紀の知識を基にした考えでは大きな違いが出て当然でしょう。そもそも貴族至上主義の世界では、僕の考えた改革案など出てくる訳がありません。発想の基礎が違うのですからそれで評価されては部下の方達も迷惑です。大体、僕の最終目標はハルケギニア全体の電化ですよ。そんな事を考えられる人が居るとしたら、同じ転生者位のものでしょう。

「父上の部下の方達の評価につきましては、私の案とは別にお願いします。」

「解っている。言ってみただけだ。おまえが規格外なのは今更だからな。」

 えらい言われようですね。自覚はしていますが親からはっきりと言われると流石にへこみます。此処は気を取り直して、

「それで、どうでしょうか?」

「おまえが考えた事は理解した。それで、この案を一度に行うつもりか?」

「いいえ、一度に行うには少し無理があると思いますので、順番に始めていきます。まず、町や村の衛生改革から取り掛かって、その進行状況を見て次の案件に掛かるようにします。それに各案件毎に専門の部署を作りますが、まず衛生関係の部署を立ち上げて、土メイジと水メイジを最低一人ずつ入れて、ほかに領民から10人ほど雇い入れるつもりです。」

「結構金が掛かりそうだな。収支が黒字になるのにどれくらい掛かるか、」

「そうですね、大体5年見てください。農作物の増収は2年目位から効果が出ると思いますが、安定するのにはそれ位掛かると思います。」

「解った。ではこの件はおまえに任せるとしよう。おまえの思うようにやってみなさい。途中の報告は逐次入れるように。」

「ありがとうございます。精一杯頑張ります。早速ですが、父上の部下から土メイジと水メイジを一人ずつ貸してください。出来ればトライアングルクラスのメイジがいてくれると助かります。領民の方は私の方で探しますので。それから専用の部屋が必要になりますから、屋敷の南西の端にある離れを頂けますか?」

「解った。人選しておまえの所に行かせよう。離れについては特に使っていなかったはずだから自由にして良いぞ。」

 父上からの許可が出ました。これで領内改革のスタートが切れます。

 まず、実施部署の立ち上げです。名称は『保健衛生局』にします。屋敷の南西端にある離れは2階建てで、適当な大きさの部屋が5つありましたから、そのうちの一つを『保健衛生局』に使います。
 他の部屋は別の部署を立ち上げたときに使って、離れ全体を『改革推進部』とすれば横のつながりも強化できますから丁度良いと思います。

 さっそく扉にハルケギニア語で『保健衛生局』と書いたプレートを付けました。
 次にメイドさん達にお願いして全部の部屋の大掃除です。時々は掃除をしているようなので大した時間は掛からないでしょう。
 掃除が終わったら、机や椅子、その他事務所として必要な什器類を執事の方達に手伝って貰って運び込んで、配置も決めて準備完了です。こういった時は魔法が使える事に感謝です。レビテーションは引っ越し業の救世主ですね。

 次は局員の募集です。領民に対しての募集要項は次のように決めました。

 1.仕事内容:公衆トイレの設置、屎尿のくみ取り、収集・発酵管理、農家への肥料の配布(汚れ作業を嫌がらない人)

 2.募集人数:10名

 3.性別:区別なし

 4.年齢:12歳~40歳までの心身共に健康な人、独身・家族持ちでも可

 5.雇用条件
  (1)給料は日給月給制(日給50スー)・月24日就業で1200スー(12エキュー)・定期昇給あり
  (2)制服、作業服、靴、作業用具等貸与
  (3)休日は虚無の日+ダエグの日
  (4)単身寮・家族寮あり:家具付き、無料貸与
  (5)食堂あり:朝、昼、夕各5スーにて提供(家族の使用も可)
  (6)有給休暇:年12日
  (7)共同浴場あり、毎日使用可(家族の使用可)
  (8)水メイジ常駐により仕事中の病気・怪我は無料で治療します。(家族も治療可)

 6.雇用希望者は1週間以内に村長に申し出ること。村長は1週間後に希望者の氏名、性別、年齢を領主屋敷アルバート・クリス・フォン・ボンバードまで文書にして報告する事。

 これ位の条件なら来る人もいるでしょう。これをビラにして領内の村に提示します。村長さんとか字の読める人に読み上げて貰えば、字の読めない人も大丈夫でしょうから、これで募集も何とかなるはずです。
 各村に配布するように執事さんに頼んでいる時に、男の人が2人来ました。どうやら、父上の選抜してくれたメイジのようです。

「アルバート様。伯爵様よりあなた様のお仕事を手伝うようにと命じられて参りました、ウイリアム・カスバートと申します。土のトライアングルです。よろしくお願い致します。」

「同じく、キスリング・ハワードと申します。水のトライアングルです。よろしくお願い致します。」

「良く来てくれました。お二人ともトライアングルとは助かります。これから大変な事業を行う事になりますので力を貸して下さい。よろしくお願いします。」

 二人とも24~26歳位でしょうか。父上の選んでくれた人ですから上手くやっていけるでしょう。

「この部屋が今度立ち上げる事になった『改革推進部』の一つになる『保健衛生局』の執務室です。どんな仕事を行っていくかについて説明しますので前の方の席に座って下さい。」

 おそらく『改革推進部』も『保健衛生局』も聞いた事もない名前でしょう。今まで無かった概念でしょうからね。言葉の意味から説明しました。
 この二人は『保健衛生局』の幹部になって貰う予定ですから、改革の細かい内容まで把握して貰わなければなりません。
 それから2時間にわたって改革内容の説明を行い、二人の質問にも答えて互いの理解を深めました。

 その後、昼食を挟んで午後からは領内の衛生推進の要となる公衆トイレについて、僕の作った設計図から材質、製作方法、製作数など話し合いました。
 この二人の担当ですが、ウイリアムさんには公衆トイレの製作、設置関係と補修全般、キスリングさんには各村の衛生改善、消毒及びその維持関係です。
 
 まず、ウイリアムさんと公衆トイレの図面を見ながら制作方法を検討していきます。僕も土メイジですから練金でトイレを作る事がイメージできますので相互理解がしやすいのが助かります。

「この図面で行きますと、床の1辺が各1メールの正方形で、高さが2メールになりますね。床の中央に穴を空けて、ここに内側が空洞になった椅子のような物を設置して、これに座って用を足すというわけですか。」

「そうです。椅子状の物が便器と言います。これに図面にあるように開閉式の便座というものを取付け、この便座に座るようになります。便器の強度は陶器程度にしますが、便座の強度は木製程度で結構です。トイレの壁と屋根は木製で大丈夫ですが、床は重い人が乗っても壊れない位の強度をとって下さい。」

「直接周りに有る木から板を練金しても良いですね。便器などは土から練金できますから大丈夫でしょう。」

「はい。それから壁には上部と下部に鎧戸式の窓を着けます。これは外から中を覗けないような形で、風通しが良くなるように考えて下さい。暑い時に密閉状態ではトイレの度に汗だくになってしまいますからね。寒い時は閉める事が出来るようにしておけばある程度我満できるでしょう。」

 こんな感じで、図面上の問題も特になかったので、このまま決定図とすることになりました。実際の制作は設置場所の近くまでいってから行います。わざわざ遠くで作って運搬するより、設置場所で作った方が楽ですからね。何しろ材料はいくらでも周りにあるのですから。

 設置手順としては、肥だめの穴を掘って、穴の表面を練金で陶器状に加工し、屎尿が土壌にしみ込まないようにします。その上にトイレを設置しますが、細かい位置合わせや、倒れたりしないように地面に固定するのは雇用した局員の内の4名でやって貰います。この調子で大体一箇所に3~4基を設置します。村内に3ヶ所位トイレ場を設けてあげれば、村全体で9~12基のトイレが有る事になります。

「肥だめの大きさはトイレの床の大きさから直径1メール以下ですか?」

「そうですね。一応80サントの円形で作りましょう。深さは1メールで良いでしょう。トイレの後方になる部分を外に向かって穴を広げておき、この部分にはトイレの外から蓋をします。この蓋を開放して屎尿をくみ出すようにするんです。」

 次に、屎尿の運搬方法を確認します。高さ1メールの瓶を作り、しっかり密閉できる蓋を取り付けます。次に荷車を2台用意して、各荷車に4個の瓶を載せ固定します。その荷車で村を回って屎尿を回収し、村の近くに別に作っておく集積場所まで運びます。荷車は車軸にバネを装備した新型を作ります。まだゴムの練金が出来ないのでタイヤは後回しにしますが、バネを装備するだけでも大分振動が違うと思います。
 瓶は土から練金で作りますが、陶器状にして割れないように厳重に固定化を掛けます。運搬中に割れるようなことがあったら悲惨なことになりますからね。この瓶の口は出来るだけ滑らかに整形し、その口に合わせて蓋を作ります。その上で蓋を瓶に固定できるように金具を取り付け、密閉して中身が零れたり臭いが漏れることの無いようにします。
 瓶は荷車に載せて動かないようにベルトなどで固定します。荷車の周りには折りたたみ式の踏み板を取り付け、屎尿の出し入れの時の足場にします。この踏み台に上がって、長い柄の柄杓を使って屎尿を肥だめからくみ取り、瓶の中に入れていきます。この荷車は馬か牛にひかせ移動するようにしました。
 この荷車を使っての屎尿回収、運搬を雇用した局員の内の4名でやって貰います。

「瓶だけでも重そうですが、中身が入ればもっと重くなります。運搬作業に速さは必要ないのですから運搬力重視で考えて、1台に牛を2頭使いましょう。」

「道路の舗装が出来ていないので引っ張るのも大変でしょうから、その方が良いのでしょうね。それでは牛の2頭引きの荷車を2台作って、1台に局員2名で2班作りましょう。この分ではすぐに増員が必要になりますね。」

 これだけの準備が出来て、公衆トイレの設置も済んだら、父上に公衆トイレ以外の場所での用足しを禁止するお触れを出して貰います。このお触れに違反した場合は罰則も設けて貰い、厳しく対処することでトイレを使用することを習慣付けるようにします。

 次にキスリングさんとの打ち合わせですが、公衆トイレの設置が済み、父上からのお触れが出された後に、残った局員2名を使って村内の道路上に散乱している汚物の回収、及び、秘薬による消毒を行って貰います。最初の頃は消臭も同時に行って、村内の不快な臭気の除去も行って貰い、嫌な臭いのしない綺麗な村を作り出します。
 一度、村内を綺麗にしてしまえば、わざわざ汚くしようとする人は居ないと思いますし、そのような人がいれば周りの人が黙っていないでしょう。その後の清掃は村民だけでもできるでしょうから、消毒作業を定期的に行って清潔な状態に保てれば、疫病などの発生も抑えられ、領民の発病率も低くなるでしょう。

「汚物の回収に結構手間が掛かりそうですね。」

「そうですね。地道な作業になると思います。汚物は回収次第、村の外に集めて焼却処分にして下さい。こちらはドットクラスで良いので父上に火メイジを一人回して貰うようにお願いしておきます。」

 次の問題は、作業を行う局員の装備です。くみ取り要員と汚物回収要員は、はっきり言って臭い、汚い、きついの3K作業となるので装備はしっかりとしたものを使わせたいと思います。作業服は汚れたらすぐに洗濯できるように3着くらい支給し、長靴、手袋、前掛け等も必要ですから支給となります。それに防毒マスクも作らなければなりません。長靴等の装備品は、内側は布製で問題ないと思いますが、外側のコーティングは絶対必要なのでゴムの練金も早急に実現しなければなりません。防毒マスクは吸収缶に活性炭を入れたいのでどこかで椰子が手に入るか調べないといけませんね。多分南の方を探せば見つかるのではないかと思います。椰子の殻を炭に加工して活性炭を作れば有効な消臭剤になりますからね。

 実際に作業に入る前に準備するものが多くて、かなり手間取りそうですが、これらが無いと仕事になりませんから頑張って材料を探し出して、作りましょう。
 それから、局員が集まらないことには作業が出来ませんので、募集の状況も見ながら開発も進めていくことになりますね。

 最後にどの村から作業を開始するかを二人と検討して、領内の地図の印を付けて確認し、初日は此処までで解散としました。

 お疲れ様でした。 

 

第11話:材料探しはリゾート探し!?(その1)

 
前書き
必要な資材を探してはるか南の海へ・・・!
空の旅は良いものですね。ヴァルファーレの独壇場です。
*今後の話の展開上必要な伏線がありましたので一部修正を行いました。2018.11.25 

 
 おはようございます。アルバートです。

 メイジ二人との打ち合わせから一夜明けて、今日も良い天気です。
 目が覚めてから、昨日の内に各村に送ってもらった局員募集のビラに効果があることを期待しつつ、今日の段取りを考えています。

 まず、一番はじめにやらなければならない事は、手に入りにくい資材の調査でしょう。ゴムと椰子の殻ですね。
 どちらの木も、地球であれば熱帯から亜熱帯あたりに生えているので、こちらの世界でも南の方の調査を行う事で見つけられるのではないかと期待しています。
 こちらは機動力のある『ヴァルファーレ』を使って、僕が見に行きましょう。空から行った方が危険も少ないし、捜索範囲も移動速度からかなり広く取れると思います。

 そして、僕が資材の調査に行っている間に、ウイリアムさんにはトイレの試作品を作って貰います。屋敷の人たちに実際に使用して貰い、不具合がないかの確認をしておくようにお願いします。
 キスリングさんには消毒と消臭の秘薬を作って貰い、効果の確認をして貰います。どの位の広さにどれくらい散布すれば良いか、基準を作っておいた方が良いと思いますから。

 募集期間の1週間でそれぞれの目処を付けたいと考えているので、積極的に掛かっていきましょう。

 そこまで考えを纏めてから日課のランニングをして、身体の手入れをしている内にアニーが来ましたので身支度を調えて朝食に行きます。
 朝食の後で、父上に昨日やった内容を報告し、火メイジの応援をお願いしてから『保健衛生局』へ向かいました。

「おはようございます。」

 もう、ウイリアムさんもキスリングさんも来ていました。二人と挨拶して、すぐに起きがけに考えた事を話します。

「昨日の話の中で出た懸案事項についてですが、まず、手に入りにくそうな資材の調査を行いたいと思います。こちらは、おそらく南の暑い地方に生えているものと考えられますので、僕が『ヴァルファーレ』に乗って、空から調査を行います。一応、募集期間の1週間を期限として考えていますので、その間、お二人には別の仕事をお願いします。」

 するとウイリアムさんが片手を上げて僕の話を止めました。

「ちょっと良いですか?アルバート様が『ヴァルファーレ』で調査に出るという事ですが、それは他の人ではいけませんか?万が一という事もあります。途中で事故など有りましたらとんでもない事になりますから、危険を冒すような事は控えて頂きたいのですが。」

 キスリングさんも同様の意見のようです。でも他の人が行くのはちょっと無理があると思います。

「お二人が心配してくれるのはありがたいのですが、この調査は僕しかできないと思います。探さなければならないゴムの木も椰子の木も、おそらくゲルマニアの人は見た事がないはずです。見た事のないものを探すのは不可能とは言いませんが、極めて難しいと思いますよ。それに、限られた時間内に見つけるためには『ヴァルファーレ』より安全で早い生物は、このハルケギニアには居ないでしょう。スピードと一日の飛行可能時間から見ても『ヴァルファーレ』以上に捜索範囲を持つ幻獣や使い魔が居ない限り、一番効率が良いのが僕と『ヴァルファーレ』のコンビだと思います。」

 完全に推測で話しをしていますが、おそらく一番早い幻獣が風竜だと考えられるので、間違った事を言っているつもりはありません。

「もちろん、父上や母上の許可を受けて出かける事にしますので、そのくらいで認めて頂けませんか?」

 どうやら、ウイリアムさんもキスリングさんも、効果的な代案を考えつかないようです。しばらく考え込んだ後、ようやくうなずいてくれました。

「有り難うございます。それでは、調査中にお二人にやって置いて欲しい事なのですが、まずウイリアムさん。1個で良いので公衆トイレの試作品を作って下さい。場所はこの建物の西側で、適当に建物との距離を離して設置して下さい。出来上がったら屋敷のメイドさんや執事さん達に実際に使って貰い、使い勝手を聞き取って欲しいのです。その意見を、より使いやすいトイレを作るための資料とします。」

「判りました。外観とか細かいところは私の主観で作っても良いですか?」

「ええ、構いません。見た目の形や色など、ウイリアムさんの感覚で作って貰って良いですよ。次にキスリングさんの方ですが、公衆トイレの試作品が出来て、ある程度屎尿がたまったら、その臭いを消すための消臭剤を作って下さい。それと同時に消毒薬も作って効果の確認をして下さい。それから作った消臭剤と消毒薬の効果から考えて、どの位の広さにどの位の薬を使えば良いかの基準を作って下さい。」

「今ある消臭剤や消毒薬を基にして作る事になると思いますので、そんなに難しい事もないでしょう。」

「そうですね。ただ、より強力なものにして下さい。量もそれなりに必要になると思いますから、大量に作る方法も必要になりますし、材料を仕入れる用意も必要になります。そこら辺も充分考えて、『保健衛生局』の局員が集まり次第、仕事が始められるような段取りをお願いします。」

「薬を使う基準は実際に薬が出来てから確認する事になりますね。薬を使い感覚なども確かめておきます。」

「それでお願いします。それでは、此処までの事を父上に報告がてら、調査の許可を貰ってきますね。後の事はよろしくお願いします。」

 二人に後の事を任せて、僕は父上の部屋に行きました。ノックをして声を掛けます。

「父上、アルバートです。」

「アルバートか。入って良いぞ。」

 中に入って机の前に立ちます。

「父上、今の状況の報告と、お願いに来ました。」

「そうか、では、まず報告から聞こうか。」

 先ほど二人と話した事を父上に報告します。一通り報告すると父上が溜息をつきました。

「アルバート。あの二人が言っている事に間違いはない。おまえがそんな危険な調査に行く事はないだろう。かといって、おまえの言う事ももっともだ。しかし、何だってこんな面倒な話になるんだ?一応聞くが、その資材はどうしても必要なものなんだな?」

「はい。この作業の性格上、これが無いと局員の負担が大きくなりすぎますから、絶対に必要なものです。」

「判った。必要ならば仕方ない。調査に行く事を許すが、充分注意するんだぞ。絶対に無理はするな。それから、調査期間はどれくらいになるんだ?」

「有り難うございます。出来るだけ安全に配慮する事をお約束致します。絶対に無理はしません。調査期間は往復で5日を考えています。『ヴァルファーレ』のスピードで調査しますから、5日有ればかなりの範囲を調査できると思います。それではさっそく準備して出発します。許してくれて有り難うございました。」

 何とか許可を貰えました。これで調査に出かけられます。すぐに準備に掛からなければなりません。
 その後、厨房に廻って食料を貰ったり、メイドさんにお願いして野宿用の毛布や敷布などを貰いました。それらを出来るだけ小さく纏めて鞄に詰め込みます。そういった準備が終わってから母上とメアリーに話しに行きました。
 ちょうど、母上がメアリーで(?)遊んでいるところでしたので、二人にこれから少し出かける事を話しました。

「母上、メアリー、私はこれから必要な資材を探すために調査に出かけます。5日ほど帰りませんので心配しないで下さい。」

「調査って、どこまで行くのかしら?5日も帰らないという事はかなり遠くまで行くようね?」

「はい。南の方、多分ロマリアを越えて海の方にまで行く事になると思います。『ヴァルファーレ』で空を飛んでガリアとの国境に沿って南下し、ロマリアあたりで海に出て海岸線の調査をします。そこに目的のものがなければさらに南に行こうと思っています。」

「ロマリアの向こう?凄く遠くね。南の海なんて私も見た事がないわ。危険はないの?」

「『ヴァルファーレ』で空の高いところを飛んでいきますから、ほとんど危険はないと思います。天候には注意が必要でしょうが、無理はしませんから心配いりませんよ。」

「兄様、今度は海まで行くのですか?私も見てみたいです。いつか連れて行って下さいね。」

「判ったよ、メアリー。今度見せてあげるね。それでは母上、行ってきます。」

「本当に気をつけるのよ。無事に帰ってきなさいね。」

 そう言って見送られて屋敷を出ました。一度『保健衛生局』によります。ウイリアムさんとキスリングさんに父上から許可を貰ったので、これから調査に出発する事を話し、後の事をお願いしました。
 そのまま、訓練場に移動して『ヴァルファーレ』を呼びます。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 空の裂け目から飛び出してきた『ヴァルファーレ』に、説明します。

「これから、南の海の方に資材調査に出かけなければなりません。調査期間は5日を考えています。少し長い旅になりますがよろしくお願いしますね。」

[そちらの方には行った事がなかったの。初めて見る地は楽しみじゃ。]

 すぐに座席を載せて固定します。荷物を座席の後側に括り付けて、自分も座席に座りベルトで身体を固定しました。これで準備完了です。

「それじゃ、出発しましょう。」




 『ヴァルファーレ』に合図すると、一気に上昇していきます。

「『ヴァルファーレ』、今回は隣のガリアとの国境添いに南下していきますから、変なちょっかいを掛けられないように、いつもより高いところを飛んでいきましょう。5000メールまで上がって下さい。」

[了解じゃ。]

 『ヴァルファーレ』はそのまま上昇を続け、やがて地上5000メールまで上がりました。少しも息苦しさを感じないという事は周りに障壁を展開し、地上と同じ気圧を維持してくれているようです。いったいどんな方法でそんな事が出来るのでしょうか?

 さすがにこの高度では幻獣も出てこないでしょう。『ヴァルファーレ』が一旦静止状態になったので飛んでいく方向を指示します。

「南南東の方向に飛んで下さい。大体あっちの方向です。海に出るまでは思いっきり飛ばして良いですよ。」

 それを合図に『ヴァルファーレ』が水平飛行に移り、加速します。周りの障壁のおかげで、風の影響も全く受けません。ほとんど加速による「G」も感じないのですが、障壁ってそんなことも可能なんですね。
現在の速度は測った訳ではありませんが、体感でおそらく時速800リーグ以上出ているのでしょう。持ってきた地図を取り出して飛行時間と地上の地形を頼りに現在位置を推測します。

「大体50分位飛んできましたから、今、右下に見えるのがガリアとの国境でしょうね。この辺から南に進路を変えた方が良いかな?『ヴァルファーレ』そろそろ進路を南に変えて下さい。少し右の方です。」

 『ヴァルファーレ』は軽くうなずくと、進路を南に変えました。
 下は茶色と緑色が見えるだけで、この高さからでは集落を判別する事が出来ませんが、小さな村程度ならこの辺にもあるでしょう。時々川らしい青い筋が混じります。

 進路を南に変えてから10分程たったでしょうか。
 ガリアの国境からも南側に少し外れたと思われる頃、下に見える森の中に一部木のない空間があるのが見えました。

「『ヴァルファーレ』この下あたりに人はいますか?」

[いいや。人の気配は感じられんが、どうかしたかえ?]

「はい。今、下に木の見えない空地が見えたので、ちょっと調べてみたいのです。この高度から見えるのですからかなりの大きさだと思うのですが、何かあった時の中継点にも使えるし、『ヴァルファーレ』も降りられそうでいい感じなので、降りてもらえますか?」

[解ったのじゃ。それでは降りるとするかえ。]

 そう言うと、『ヴァルファーレ』はゆっくりと垂直降下を始めました。
 5000メールからの垂直降下ですから、普通の降りて行ったらかなりの怖さだと思いますが、エレベータに乗っているよりも安心できる乗り心地です。
 凡そ5分程度で地面に着くことができたので1秒間に16メール位の降下速度だったようです。

 上空から見えた空地の中央部に着地したみたいですが、着地してから見た感じは直径200メール位ありそうな草原でした。
 なぜ、此処だけ木が生えていないのか解りませんから、詳細な調査が必要ですが、地面には特に湿気もないし、幻獣等の問題がなければ中継点として最適に感じます。
 機会を見つけて拠点作りをしないといけませんね。

「『ヴァルファーレ』、この場所を覚えておいてくださいね。できるだけ早い機会にここに拠点作りに来ることになるでしょうから。」

[安心せよ。しっかり覚えたから問題ないのじゃ。]

「ありがとうございます。それでは先を急ぎましょうか。」

 空地から今度は垂直上昇して、また5000メールまで上がり、進路を真南に変えてから、さらに1時間ほど飛んできました。どうやらガリアの国境からも外れたようです。今度はすこし西向きに進路を変えましょう。

「『ヴァルファーレ』、そろそろ進路を少し西向きに変えてください。そのまま行けば海に出るはずです。」

 『ヴァルファーレ』はゆっくりと西南西の方向に進路を変え、飛び続けます。その内前方に蒼い海が見えてきました。

 もう2時間半近く飛んでいます。この高さから見ると波に太陽の光が反射して、キラキラ輝いて見えます。綺麗な海なのでしょうね。何しろ臨海工場地帯のような大気汚染や水質汚染がないので、海岸はどこに行ってもリゾート地でしょう。資材調査も大事ですが、その内みんなで海水浴にも来たいものです。

「『ヴァルファーレ』、海に出たら少し高度を下げて、周囲に人が居ないか確認して下さい。見られる範囲に人が居なければ一度海岸に降りてみましょう。」

[判った。それでは高度を下げるぞえ。]

 直進しながらゆっくりと高度を下げていきます。段々地上の細かいところが見えるようになってきました。

[今のところは人の気配は感じられないようじゃな。このまま高度を下げ続けるがよいな?]

「いいですよ。『ヴァルファーレ』の感覚に任せます。」

 下に見える海は、どこまでも綺麗なエメラルドグリーンに煌めいて、所々に海鳥らしい白い姿が見えるようになりました。たしかハルケギニアの地形は地球のヨーロッパに似ているという事でしたから、このあたりは地中海になるのでしょうね。気候は温暖で風光明媚なリゾート地としても有名なところでしたから、こちらもきっと似たような所だと考えて良いようです。

[どうやら、この周囲には人は居ないようじゃ。このまま海岸に着陸するぞえ。]

「はい、お願いします。」

 こうして、僕は初めて南の海までやって来ました。降り立った地はまるでハワイかワイキキかといった感じで、綺麗な砂浜に南国の樹木が立ち並んでいます。思わず別荘が欲しいと思ってしまいました。 

 

第12話:材料探しはリゾート探し!?(その2)

 
前書き
出張中のため、11/2にアップできませんでした。
遅れて申し訳ありません。
まだ、出張中なのですが、頑張って第12部をアップします。
よろしくお願いします!! 

 
 お早うございます。アルバートです。

 領地改革の第1弾となる、『保健衛生局』立ち上げに必要なゴムや椰子の木などの資源を確保するために、遠路はるばる(2時間半位ですが……)南の海まで『ヴァルファーレ』に乗って飛んできたました。たどり着いたところはハワイも顔負けのリゾート地。思わずこんな風光明媚な所に別荘が欲しいと思ってしまいましたよ。だって、大人になって彼女が出来た時、ここが家の別荘だよなんて言って連れてきて、二人きりで過ごす事が出来るなんて夢のような話でしょう?
 地図を見ても、この辺は何処の領土か判りません。原作中の知識ではガリアの南の方にロマリアやサハラがあったような記憶があるので、もしかしたらサハラかもしれませんね。この海を西の方に行くとロマリアがあるはずです。勝手にゲルマニアの別荘を作るわけにはいきませんが、いつか何とかして作りたいと思います。表だっては異端にされますから、内緒でエルフと話し合って共同で開発できない物でしょうか。

 ………閑話休題………

 さて、此処までは、特に問題もなく順調な飛行でした。高空を飛んできた為か幻獣とかにも会うことはありませんでしたし、天候も良好で乱気流もなかったようです。
 この辺は地球で言えば地中海の東方の北岸といった所でしょうか。気温もかなり暑くなってきましたが、椰子の木やゴムの木は熱帯地方とかに生えているはずですからもう少し南に行かなければならないでしょう。この先は海ですからこのあたりで小休止しようと思って着陸したわけです。
 降りたついでに、少し身体を動かしてほぐしておきます。『ヴァルファーレ』の乗り心地は文句がない所ですが、ずっと座席に座ってベルトで固定されていると、エコノミー症候群になるかもしれません。動ける時に動いて血行をよくしておくことが健康の第一歩ですよ。
 もってきた水を飲んで、すこしビスケットを囓っておきます。お昼までにはまだ1時間位あるでしょうから、昼休みはもう少し飛んでから考えましょう。

「『ヴァルファーレ』、あと2時間位飛んでみて、陸地があったらそこで休みましょう。もう少し頑張って下さいね。」

[我なら、まだまだ大丈夫だぞえ。安心して我の背に乗っておるが良い。]

「お願いします。それでは行きましょう。」
 
 再度、『ヴァルファーレ』の背中に乗り込んで、座席に身体を固定します。合図すると『ヴァルファーレ』は一気に5000メールまで上昇して、また南に向かって飛び始めました。
 今度は下に見えるのは海ばかりです。時々小さな島が見えましたが、それもじきに見えなくなりました。周りは空の青と海の青で囲まれて、上と下の感覚がなくなりそうです。

 今度は1時間ちょっと飛んで、前の方に陸地が見えてきました。あれが地球で言うアフリカ大陸でしょうか?ハルケギニアではなんというのでしたっけ?

 小休止した時と同じ要領で『ヴァルファーレ』に安全を確認して貰い、ゆっくりと降下していきます。地上に近づくにつれて汗が噴き出してきました。えらく暑いですね。
 合計約4時間の移動ですから大体3000リーグ位でしょうか。此処はもう熱帯に入っているようです。着陸するとすぐに『ヴァルファーレ』から降りて、上着を脱ぎましたが、それでも暑いので側の木陰に飛び込みました。
 海岸に着陸したのですが、それほど湿度が高くないようで、木陰に入れば結構涼しく感じます。
 目の前は一面透き通るようなエメラルドグリーンの海です。先ほど休憩で着陸したところと、あまり変わらない景色に見えますが、陸地側を見ると海岸線に沿って延々と背の高い木が茂っています。どうやら椰子の木のようですね。

 この辺りならもう熱帯に入っているでしょう。暑さから考えて椰子の木が生えていても不思議ではないです。しっかりと実もなっているし。問題は誰のものかという事だけですが、木を伐採に来たのではないのですから、少し位実を貰っても大丈夫でしょう。目くじらを立てて怒るような事ではないと希望的観測で勝手に自己完結します。それでも、あまり目立たないようにはしておきますが。

 差し当たって、この調査の目的の一つである椰子の木を見つけられたのは良かったです。この分なら、少し探すだけでゴムの木も見つけられるのではないでしょうか。ただ、暑さが半端じゃないので熱中症に注意が必要ですね。水分と塩分の補給が大切です。

 幸い、『ヴァルファーレ』の凄い知覚でも、感じる事の出来る範囲に人は居ないそうですから、ここを調査活動のベースキャンプにしましょう。そうと決まれば、椰子の木陰に砂を使って練金で小さな物置を作ります。風通しを考えて作りましたから、この中に『ヴァルファーレ』から下ろした荷物を入れておきましょう。

「『ヴァルファーレ』、近くに人は居ないという事ですから、この場所をベースキャンプにします。ところで人は居ないという事だけど、他の動物なんかはどうですか?危険な動物とかが近くに居るようなら、ベースキャンプの守りも必要になるのだけど。それにゴムの木を探す為に林の中に入る時も準備が必要になると思いますから確認してもらえますか?」

[そうじゃな。今のところ、主にとって危険となるような獣の類は近くにはおらぬな。我に感じる事の出来る範囲では危険と思われる獣は、南東の方向に10リーグ以上離れた所に感じるだけじゃ。こちらに近づいてきて危なくなるようなら我が注意するから、調査とやらを始めても大丈夫じゃぞ。]

「有り難うございます。お昼ごはんを食べてから少し歩き回ってみます。」

 荷物の中からアニーに作って貰ったサンドイッチを出します。ボリュームがあってとても美味しいサンドイッチです。椰子の木陰に座り込んで、水筒の水を飲みながらサンドイッチを食べると言うのも良いものですね。
 お腹一杯になったので残りは包んで固定化の魔法を掛けておきます。さっき作った貯蔵庫にしまいます。この暑さですからほおって置いたらすぐに腐ってしまいますからね。
 その後、横になって腕枕で食休みします。良い風が吹いていて気持ちが良いですよ。

 1時間位たって、昼休みも終了です。

「『ヴァルファーレ』、調査に出かけますね。監視の方を宜しくお願いします。」

 そう言って、ベースキャンプからまっすぐ南に向かって椰子の林に入っていきます。それほど下生えの草がないのは海の側なので土地に塩が含まれているからでしょうか?

 しばらく周りの木の様子を確認しながら進んでいくと、下草なども増えてきました。そのまま進んで、200メール位来た所で円形に木の生えていない広場に出ました。直径30メール位でしょうか。中心に小さな池が出来ています。池からは南西の方に細い川が流れ出ていますが、流れ込む川がないのは池の中に湧き水があるのでしょう。水はとても綺麗で飲み水にも良さそうです。
 この辺まで来ると色々な木が生えてきていて、大きな葉っぱの木にツタが絡まったりしている様子はごく普通の熱帯の森ですね。地中の塩分も充分少なくなっているようです。時々鳥の声が聞こえたり、蟻などの昆虫も見ることが出来ます。

 剣を抜いて今出てきた所に生えている木に、目印の傷を付けておきます。大体こちら側が北になりますから「N」と刻みました。アルファベットならこの世界の人には読めないでしょうから、簡単な暗号の代わりになります。呼べば『ヴァルファーレ』が来てくれるでしょうが、主が迷子になって使い魔に助けられるのでは誉められた事ではないので用心に超した事はないでしょう。
 空き地の周りをぐるっと調べます。南西から南側の方に川があるせいでしょうか少し湿気があるようです。まず南側の木に印を付けて、更に進む事にしました。

 頭上に茂る木の葉の密度が増して薄暗くなってきた頃、ようやく生前に百科事典やテレビなどで見たことのあるゴムの木を見つけました。良い勘をしていますね。思わず自画自賛してしまいます。
 念のために持ってきておいた木の容器を、紐で幹に括り付け、その容器の少し上辺りに剣を使って木の幹に傷を付けます。しばらく見ていると傷から樹液がしみ出してきました。このまま置いておけばしみ出した樹液が木の容器にたまる事でしょう。
 此処までで、大体1時間位掛かりました。あと2時間位は調査を続けられそうです。

 調査初日に目的の木を両方見つけることが出来たのはかなりラッキーでしたが、ゴムの木の方はまだ1本しか見つかっていないので、もう少し探してみないといけませんね。さっき設置した樹液の採集容器はあのままにしておけば、ある程度の量の樹液を採集できるでしょうから、最悪の場合、捕れた樹液をサンプルに、練金で作ることも出来ます。しかし、もっと沢山のゴムの樹液があれば、より効率的にゴムを作ることが出来ますので、できるだけ沢山見つけておきたいものです。

 持ってきた羊皮紙にこの辺の地図を書いてみます。ベースキャンプを×印で書き込んで、ゴムの木を見つけた位置を此処まで歩いてきた経路と一緒に書き込みました。大体ベースキャンプから真南の方にゴムの木があった事になります。きっと近くを探せば、他にも見つける事が出来そうな気がするので、周囲の探索をしてみましょう。

 今度は、別の羊皮紙にゴムの木を中心とした地図を書いていきます。進んできた方向と太陽の位置を確認して南の方角を決めると、地図に方位の印を書き込み、それを基にまず東の方から探し始めました。

 出来るだけ同じ歩幅になるように気をつけながら、まっすぐ10歩歩いてそこに立つ木に印を付けます。東ですから「E1」にしました。その木を中心に探してみますが見つけられませんでした。歩いてきた方を確認して、また東に10歩移動します。この方法で東の方に100歩の距離を移動しながら探しました。大体700メール位でしょう。

 この結果、東の方にはゴムの木はありませんでしたので、一度元のゴムの木まで戻ります。地図には東の方向に10歩毎の位置に「E1」から「E10」までのポイントが記入されています。
 同じ事を南と西に向かってやってみました。地図上には「S1」から「S10」と「W1」から「W10」のポイントが記入されたわけですが、今のところ他のゴムの木は見つかっていません。
 この探索で2時間ちょっとの時間を使いました。流石に疲れてきたのでこの辺でベースキャンプに戻りましょう。

 ベースキャンプに戻ると、『ヴァルファーレ』が頭を翼の中に入れて丸くなって寝ていました。初めて見ましたが大きな鶏が寝ている感じでしょうか?色も羽毛の感じも違うのですが、なぜか鶏のイメージが出てきた事に驚いています。僕が林から出てきて服のほこりを払っていると『ヴァルファーレ』が動きだしました。起きたようですね。

[ようやく戻ってきたか。それで目的のものは見つかったのかえ?]

「やっとゴムの木を1本見つけましたが、他にはまだ見つかりません。でも、大分時間もたったので今日はこの辺で調査は止めます。そろそろ野宿の準備をしないといけませんからね。」

 そう言って、周りの砂を使い練金で海の方以外の3方向に高さ1.5メールの壁を作ります。それからフライで飛んで椰子の葉を何枚か取り壁の上に屋根になるように乗せました。壁は林の方からいきなり襲われないようにするためで、屋根は夜露を防ぐためです。気温は暑い位なので風邪を引くような心配はありませんが、これ位の備えは用心というものでしょう。

「『ヴァルファーレ』は、一度戻った方が良いですか?何か食べたり休んだりするのでしたら、僕も今日はここで休みますので戻っても良いですよ。」

[いや、我は3、4日位戻らなくても大丈夫じゃ。食べるものも別にいらないしの。第一、主を一人にするわけにもいかないので我も此処で休むとしよう。」

「そうですか。有り難うございます。面倒を掛けますがよろしくお願いします。」

 そのまま、小屋の前でしばらく海を見つめていました。こんなにゆっくり海を見るなんて何時以来でしょう。周りに人の話し声のしない、波の音だけの空間は身体が自然の中に溶けていくような感じがします。
 なぜか溜息が出て、ふと周りを見渡し『ヴァルファーレ』が僕を見つめている事に気付きました。

[どうしたのじゃ?ボーとしていたが疲れたのかえ?]

「こんなに静かな時間を過ごすのはどれ位ぶりかと考えていました。屋敷にいると何時も側に人が居て、一人になる事がないので少し人に疲れていたのかもしれませんね。」

 こんな時間を過ごすのも良いものですが、現実的に考えればそろそろ夕食の用意に掛かるべきでしょう。
 フライで飛んで側の椰子の木から実を2個取りました。
 その後、石を拾ってきて竈を作り、そこに枯れた木の枝なんか集めて火を点けます。火メイジの魔法は使えませんが、DQのメラを弱く掛ける事でライターの代わりになります。
 少しずつくべる木を大きくしてしっかりした火にすると、持ってきた干し肉やパンを出して木の枝にさして焼きます。チーズの塊を薄く切って焼いたパンの上に載せるとほどよくチーズが溶けて良い感じになります。それにあぶった干し肉を載せてできあがりです。これにお昼の残りのサンドイッチを出して、こんなものですね。

 砂を練金して鉈を作って椰子の実を割り、中のジュースを飲んでみると程よい甘さで喉の渇きがすっと引きます。
 パンもとてもおいしくて、満足の出来る夕食になりました。最後にジュースを飲み終わった椰子の実を二つに割って、中の果肉を食べました。デザートになってとっても美味しかったです。

 いつの間にか暗くなった空に、こぼれるような星が輝いて綺麗です。知っている星座がまったくないのは、地球ではないという証拠でしょうね。

 たき火に大きな流木をくべて、荷物から引っ張り出した毛布をかぶります。今日は満天の星の下で就寝です。

「『ヴァルファーレ』お休みなさい。」 

 

第13話:材料探しはリゾート探し!?(その3)+イベント発生!?

 
前書き
嬉し、楽しいイベント発生?
やっぱりファンタジーと言ったらこの人たちの出番でしょう。
なんて、個人的感情ですが・・・。 

 
 お早うございます。アルバートです。

 ボンバード伯爵領の屋敷から『ヴァルファーレ』に乗って、ゲルマニアからガリアの国境添いに南下し、南の海辺まで資源を探してやって来ました。
昨日は海岸の砂浜で野宿したので、今は2日目の朝になります。
 穏やかな海鳴りに夢も見ないでぐっすりと眠り込んでしまい、朝の光で気持ちよく目覚める事が出来ました。流石に夜になっても寒くなる事はありませんでしたが、今日も良い天気になりそうです。
きっと暑くなるんでしょうね。

 昨日、流木をくべておいたたき火はまだうっすらと煙を上げていて、火の気が残っている事を主張しています。
ちょっと不精をして毛布をかぶって横になったまま、木の枝で少し突っついて風を送り込んでやると、赤い火種が生き返って枝が燃え始めました。さらに枝を追加して火の勢いを強くして少し太い木をくべておきましょう。
 大きくのびをして毛布から出ると、『ヴァルファーレ』と目が合いました。もう起きていたようですね。

「『ヴァルファーレ』お早うございます。」

[良い朝じゃ。主もよく眠れたようじゃな。]

「はい、ぐっすり寝る事が出来ました。今日も一日頑張りますよ。」

 それから砂を練金して真鍮の洗面器を作ります。その洗面器に海の水を入れて真水に変えて、口をすすぎ顔を洗いました。
 昨日と同じメニューですが、朝食を食べて椰子の実のジュースを飲みます。綺麗な自然の中で食べる食事は、御馳走でなくても美味しく感じられるから不思議です。
 その後、一休みしてから一通り身の周りを片付けて、寝る時に作った壁を砂に戻しました。きちんと元通りにならしておきましょう。そのままにしておいて誰かに見られると面倒ですからね。また必要な時に作るとして、今は調査に入る前に軽く体操もしておきます。

「『ヴァルファーレ』、そろそろ調査を始めたいと思いますが、周囲の状況は変化ありませんか?」

[人間の気配は全くないようじゃ。獣の類は昨日も感じられたものだけだが、位置はやや東の方に移動しているようじゃな。距離が遠いので気にする事もないであろう。]

「判りました。それでは又監視をお願いしますね。」

 そう言って、僕は昨日見つけたゴムの木の有る場所に向かって、林の中に入っていきました。

 木の幹に着けた目印を頼りに、しばらく歩いてゴムの木の所に着きます。
見てみると昨日幹に括り付けておいた容器に、ゴムの樹液が3/4位溜まっていました。一晩で結構溜まるものですね。
樹液の出が悪くなっているようなので容器を幹から外し、新しく持ってきた容器を別の場所に括り付けます。容器のすぐ上の部分に剣で傷を付けて出来上がりです。樹液の入った容器は羊皮紙を使って蓋をして紐で縛っておいて、ベースキャンプに戻る時に持って帰れるようにしておきます。

 さて、あらためて昨日作った地図を広げて調査する範囲を考えてみます。あまり知識がないので確かな事は言えませんが、ゴムの木も乾燥した土地よりもある程度湿度のある土地の方が自生し安いのではないでしょうか?
この付近の土地の湿めり具合から考えると、あの空き地にある池から流れ出る小さな川の流れる方向が気になります。まず現在地から西南の方向を調べてみましょう。多分そっちの方に川が流れているはずです。

 そう決めると、現在地から地図に書いた「W1」までの間と、ベースキャンプから現在地まで来た道(仮に南道とします。)の間をジグザグに調べていきます。
 ゆっくりと探して歩きましたが、「W1」と南道の間には見つけられませんでした。そのまま、次の「W2」方へと同様に進みます。すると大体「W1」と「W2」の中間辺りから南道に入った辺りで2本目のゴムの木を見つける事が出来ました。
最初のゴムの木から約10メールといったところでしょうか。やはり割と近くに生えていたのですね。「W1」から「W10」まで歩いた時に見つけられなかったのは、薄暗いのと木が多くて見通しが悪いのが原因だったのだと思います。
 2本目のゴムの木の位置を地図に書き込んで、さらに探して先に進みます。

 この調子で調査を続け、午前中一杯で結果、10本のゴムの木を見つける事が出来ました。細かく調べればもっと沢山の木を見つけられるかもしれませんが、一人ではこれ位が良いところでしょう。今度、ゴムの樹液を採取に来る時は何人か連れてくるつもりなので、その時にもう少し細かく調査しようと思います。
 地図に見つけたゴムの木の位置を書き込んでベースキャンプに戻ります。

「『ヴァルファーレ』、ただ今帰りました。何か変化はありましたか?」

[東の方10リーグに人のような気配がしているが、今のところ此方に近づいてくる様子はないようじゃ。そちらはどうであった?]

「ゴムの木を10本見つける事が出来ました。これだけあれば差し当たって充分でしょう。午後からもう一度廻って、樹液を取る準備をしてきます。ところで、人の気配ですか?此方に来て初めての事ですね。近づいてくるか注意していてください。」

 この後、昼食を取って一休みしました。もうサンドイッチは無いので、持ってきたハムの塊を薄くスライスして、チーズと一緒にパンに挟んで即席のサンドイッチを作り食べました。途中の池で水をくんできたので、飲み水には困りません。
 持ってきた食料は、固定化の魔法も掛かっているので保存状態も良く、あと2日分位はありますから帰るまで猟をする必要はないと思います。しかし、一人で来ているからこれ位の食料で間に合いますが、ゴムの樹液や椰子の実の採取に大勢で来ると、食料の調達が一番の問題になりそうですね。
 食用に適した動物が近くにいれば猟も出来るでしょうが、あまり大っぴらに猟などをしては色々問題になるかもしれません。かといって人数分の食料を輸送するのも大変なので工夫が必要になります。

 1時間ほど休憩を取って、再度林の中に入っていきます。
 午前中に見つけたゴムの木を廻って、一本ずつ容器を幹に固定しては、その少し上の幹に傷を付けて樹液がにじみ出てくるのを確認します。
 2時間弱で10本の木に樹液採取の容器を取り付けることが出来ました。これで今日やることは終わりです。ベースキャンプに戻りましょう。

「『ヴァルファーレ』、今日の作業は終わりました。人の気配の方はどうですか?」

[大分此方に近づいてきているようじゃ。東に3リーグ位まで来ている。人数は1人のようじゃが、少し小さい動物が10匹ほど付いて来ているようじゃ。こんな所まで何をしに来た事やら。」

「人は1人ですか?変ですね。一緒にいる動物が気になります。大体ただの人ではこんな所まで来ることは出来ないでしょう。一応迎える準備はした方が良いようですね。」

 椰子の木近くの地面に練金を掛けて小さめのゴーレムを作ります。そうするとゴーレムの分だけ地面に穴が出来ますので、さらにゴーレムを使って穴を深くします。身体が入る位の穴になった所でゴーレムの練金を解き穴の人が来る方に積み上げます。この状態で固定化を掛け崩れないようにすれば、簡単な塹壕の出来上がりです。

「『ヴァルファーレ』は目立ちすぎますから一旦異界に戻ってください。危なくなったらすぐに呼びますから。」

[大丈夫かえ?誰であろうと我が吹き飛ばしてしまえば終わりであろうに。]

「いえ、一応話し合いで友好関係が結べるのならば、その方が良いですから、問答無用に攻撃することは出来ません。自分の身を守る位は出来ますから安心してください。」

[判った。危なくなる前に我を呼ぶのじゃぞ。]

 そう言って『ヴァルファーレ』は異界に戻りました。さすがにあの巨体では隠れることは出来ませんからね。
 こちらは魔法で防衛できるように準備するのと、万一を考えて「王の財宝」から手榴弾を3個出しておきます。手榴弾はただ投げても子供の力では遠くまで届きませんが、レビテーションを使えば何処にでも飛ばすことが出来ますから、結構使えると思います。

 さて、そのまま塹壕に隠れていると、ここから300メール位離れた東方の林から人影が現れました。遠目で判りませんが、少しふらついているようです。疲れているのか怪我でもしているのかと考えていると、その人影を追うように4足動物が飛び出してきました。『ヴァルファーレ』が言っていたように10匹位いますね。どうやら先に出てきた人が後から出てきた動物に追われているようです。動物の方は狼か野犬でしょうか?

 人影はよろめきながらも此方に向かって走り始めます。まだ僕には気付いていないのでしょう。砂の上で走りにくいのもあるでしょうが、このままでは僕の所に来る前に後ろの動物に追いつかれるのは確実です。敵か味方か判りませんが、一応人のようなので援護することにしました。

 まず、人影と動物の間に練金で壁を作ります。
突然目の前に壁が出来たので、避けきれなかった何匹かが突っ込んで犬のような悲鳴を上げました。
これで少し時間を稼ぐことができ、人影と動物の間が開きます。そこで動物の鼻先めがけてベギラマを唱えました。そのとたん動物たちの前に炎の帯が出現し、3匹位が火だるまになりました。
流石にこの炎を超えてくることは出来ないようで、炎に突っ込むことを避けられた動物たちは、炎の壁の向こう側で取り残されています。

 ここで、僕も塹壕を飛び出しました。人影が躓いて倒れたのです。急いで側に行くとレビテーションを掛けて浮かび上がらせ、塹壕の後方に運んで、そっと降ろしました。すぐに僕も塹壕に飛び込んで、動物の方に向き直ります。
 ちょうどベギラマの炎が消えて、さっき炎を避けることが出来た7匹の動物たちが此方に向かってくる所でした。こうなれば遠慮はいりません。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 見る間に空に裂け目ができ、『ヴァルファーレ』が飛び出してきます。『ヴァルファーレ』は一目で状況を確認すると、通常技(ソニックウィング)を発動しました。すると炎を受けて倒れていた3匹も、此方に向かってきていた7匹も併せて砂煙と共に吹き飛んでしまいました。
 やっぱり、普通の動物などにはあの子の技はオーバーキルになりますね。これでもうこっちに来ることはないでしょう。

「『ヴァルファーレ』、有り難う。もう大丈夫です。」

[うむ。あのような獣など、何匹来ようとあっという間に蹴散らしてみせるわ。」

 ほっとして、後ろの人を見ると気を失っているようです。かなり怪我をしているようですし、逃げ回って疲れたのでしょう。さっきは急いでいたので気が付きませんでしたが、耳の形からエルフのようです。しかも女性ですね。
初めて見るのでエルフの年は判りませんが、見た目は20歳前に見えます。ここはベホマを掛けてみましょう。すると見る間に傷は治って、呼吸も楽になったようです。この分ならすぐに目を覚ますでしょう。

 さて、ちょっと疲れましたし、もう夕方ですから夕食の準備をしましょうか。昨日と同じようにフライで飛んで椰子の実を4個取ってきます。今日はお客さんの分もいりますからね。
 練金でお皿を作って、その後、竈を作って火をおこし、ハムを厚めに切って炙ります。パンを切って炙ったハムを乗せ、その上にチーズを切って乗せました。他には大事にとっておいた野菜を出して、適当にちぎってお皿に乗せてマヨネーズを掛けておきます。ちゃんとフォークもありますからね。食材については固定化の為、品質には何も問題有りません。

 そうこうしているうちに、お客さんの目が覚めたようです。通じるか判りませんが、友好の為にも声を掛けましょう。

「目が覚めましたか?獣たちは追い払いましたからもう大丈夫ですよ。僕はアルバート・クリス・フォン・ボンバードといいます。何処か痛い所とか有りませんか?」

「あなたが助けてくれたのか?あれだけの獣で逃げ切れず、もうダメだと思っていたが、助けて頂いて感謝する。私はアルメリアと申します。有り難う。」

「どう致しまして。怪我の方も治療しておきましたが、どうですか?」

「驚いたな。何処も痛い所がない。こんなに綺麗に直るなんて、あなたは優秀な水メイジのようだ。」

「それは良かった。疲れてお腹も減っているでしょう。ちょうど夕食の準備ができた所ですから、一緒に食べませんか?」

 そんなことを話していたところ、ようやく『ヴァルファーレ』に気付いたようで、口を開けて目が点になってしまいました。やっぱり初めて見る人はみんな似たような反応をするんですね。

「驚かせて済みません。この子は『ヴァルファーレ』と言って、僕の使い魔です。決して危険はありませんから安心してください。」

 そう紹介すると、はっと気が付いたようです。

「これが使い魔か?初めてみた。なんて大きくて、立派なんだろう。こんな幻獣がいるなんて驚きだ。」

「皆さんそう言います。僕の国では人気者で、時々背中に人を乗せて飛んであげたりしているんですよ。」

「背中に乗れるのか?空を飛べるなんて気持ちいいだろうね。」

「最高の乗り心地ですよ。それよりも此方にどうぞ。食事にしましょう。」

 どうやら友好的に話が出来そうです。これで、やっと落ち着いて夕食が食べられますね。

 そんな訳で、エルフの女性と初めて会って、一緒に夕食を食べています。話に聞くとおりすごい美人さんですね。スリムな体型ですが、胸は普通にCカップ位のようです。ルクシャナは胸に劣等感を持っていたようですからエルフの胸はあまり発達しないと思っていました。ティファニアは例外中の例外でしょう。
 獣たちに追われて走り回ってよほどお腹が減っていたようで、用意した分の食事では足りなくて、追加で3回分の材料を使ってやっと間に合いました。エルフっていつもこんなに食べるのでしょうか?スリムな体でどこに入っているのか悩みます。

 夕食後は椰子の実のジュースを飲みながら、お話タイムです。
 お互い、何でこんな所にいるのかから疑問に思っていたので、質問合戦になっています。

「あなた方の国では、エルフは恐れられていたと思うが、私とこんなに近くにいて怖くないのか?」

「確かに僕たちの国の方ではエルフは恐怖の対象になっています。でも話を聞いていると此方が一方的に攻めて行っているようで、エルフ側から手を出すことはなかったように覚えていますから、エルフが悪いとは思えないんですよ。それに会ったこともないエルフでも、同じ世界に住んでいるのですから話ができない訳がないと思っていました。」

「非常に、公平な見方だと思う。そう言ってくれる人間がいるのは嬉しいことだ。」

 美人が微笑むとすごい威力です。思わず見とれてしまいました。
 その後、僕がここまで来た理由を話しました。

 ………かくかくしがじか………。

「なるほど。あなたの国では、そのような改革が始まっている訳か。その改革に必要な資材を探してこんな遠方に来ていると。失礼だが、あなたはまだ子供のように見えるのだが、いくつなのかな?」

「見たとおりの子供です。今年7歳になりました。今回の改革については僕の発案ですし、僕には『ヴァルファーレ』という高速の機動力がありますから、こういった調査には率先して出ようと思っているんです。その方が効率が良いでしょう?」

「それは組織の上に立つものとしては好ましい考えだと思うが、7歳の子の親としては家で心配して待っているだろう。それとも、よほど普段から信用があると言うことかな?」

「それはどうでしょうか?それなりに自由にはさせて貰っていると思いますが。ところでアルメリアさんはどうしてこんな所まで来ていたんですか?」

「私は生態系の研究者でな。私の国はもっと東の方にあって、此方の方には殆ど人が住んでいないので調査した者がいないんだ。そこで私が調査に出てきたんだが、まさか研究対象に襲われることになるとは思わなかった。可愛い子犬かと思って近づいていったら、いつの間にか私の後ろに親が来ていて、いきなり襲ってきたからものだから不覚を取ってしまった。」

「アルメリアさんも一人で来るなんて無茶をしますね。誰か一緒に来る人は居なかったのですか?」

「なかなかこういった研究に興味を持つ仲間がいなくてな。一人でも大丈夫と出てきたのだが失敗だったな。まあ、不意を突かれなければそれなりに戦うことができたんだが、油断しすぎた。」

 この夜は、結構遅くまで話をしてしまいました。いい加減眠くなったので休みましたが、日付が変わっていたでしょうね。 

 

第14話 会った! 別れた! 帰ってきた!!

 
前書き
ミッションは無事にコンプリートといった感じです。
先の見通しも立つようなので、いったん帰りましょうか? 

 
 おはようございます。アルバートです。

 昨日はエルフの女性(アルメリアさん)を助けて、夕食をご馳走してから夜遅くまで色々な話をしていたら、朝まで夢も見ないでぐっすり眠ってしまいました。

 目が覚めると今朝も昨日と同じように良い天気です。今日で屋敷を出てから3日目の朝になります。『ヴァルファーレ』も、もう起きていますね。

「『ヴァルファーレ』、おはようございます。」

[よく眠れたかな?大分遅くまで話し込んでいたようじゃが。]

「ぐっすり眠れました。つい話が弾んでしまいましたが、楽しかったですよ。」

 アルメリアさんはまだ寝ているようですね。流石に疲れていたのでしょう。今のうちに朝ご飯の準備をしておきましょうか。
 実は、昨日の夕飯で食料を使いすぎたので、残りは2人分しかありません。海に潜って魚を捕るか、森の奥に行って獣を見つけて狩りをするかしないといけませんね。
 たいした食材は残っていないので朝食の準備はすぐにできました。さっそくアルメリアさんを起こします。

 朝食後は、最後までとっておいた紅茶を出しました。練金でカップを作って2人分の紅茶を入れます。ミルクはありませんがこちらもとっておいた砂糖を入れて一つをアルメリアさんに渡しました。

「こんな西の地に来て人間の子供に会って助けられ、諍いも起きずに朝から紅茶を頂けるとは夢にも思わなかった。生きていると面白いことがいくらでも見つかるものだな。」

「いやいや、それほどの事でもないと思いますが。ところでアルメリアさんはこの後どうするのですか?」

「そうだな。一人での行動は危険が多すぎることも判ったから、一度戻るとするか。持ってきた荷物もなくなってしまったしな。」

「その方が良いと思いますが、ここから一人で戻るのも危険ですよ。こうして知り合ったのも何かの縁でしょうから家まで送りましょうか?」

「そうしてもらえると非常に助かるが、君の都合は大丈夫なのか?」

「ええ、大体目的の調査も済ませましたから、後は色々片付けてお昼位には動けると思います。そう言えば食料がもうないのでどこかで狩りをしないといけないんでした。この辺に食用に適した獣っていますか?」

「もしかしたら、私が昨日食べすぎたからかな?それは悪いことをしたな。どうだろう、助けて貰った事と送って貰う事のお礼も兼ねて、私の家で一晩泊まっていってくれないか。私の集落の代表にも紹介したい。帰りには旅に必要な食料も提供しよう。どうかな?」

「それは助かりますが人間を集落に招いて良いのですか?」

「命の恩人を招くのだ。誰も文句は言わないさ。」

「そういう事でしたら、宜しければお邪魔させていただきます。」

 話も纏まりましたので、僕は昨日設置した容器の回収に行くことにしました。アルメリアさんにはベースキャンプで待っていて貰います。ここなら『ヴァルファーレ』もいるので安心ですからね。
 林の中に入って、ゴムの木を廻って容器を回収しましたが、どの容器も2/3位樹液が貯まっています。零さないように羊皮紙で蓋をしてベースキャンプまで持ち帰りました。
 昨日回収しておいた樹液と一緒に、屋敷から持って来ていた大きめの瓶に集めます。合計11個の容器を使いましたが、結構な量が集まったのでゴム作りに役立つことでしょう。
後は椰子の実を20個ほど集めて此方も持って来た網に入れます。毛布とかのキャンプ用品と一緒に『ヴァルファーレ』の座席の後ろに固定しました。
 キャンプの後始末もきちんとして、これで帰る準備は完了です。

「それでは、済みませんがアルメリアさんがまず座席に座ってください。」

 アルメリアさんが『ヴァルファーレ』の翼を上って座席に座ります。

「これは座りやすいイスだな。体型に合わせて変形するようだ。良くできている。それでアルバートはどこに座るんだ?」

「僕は失礼してアルメリアさんの膝の上に座らせて貰います。二人乗り用の座席ではないので我慢してくださいね。」

 生憎、二人乗り用の座席ではないのでこの方法でしか乗ることができません。僕も『ヴァルファーレ』の背中に上ってアルメリアさんの膝の上に座らせて貰いました。ベルトは伸びるので二人纏めて固定することができます。頭の後ろがとても柔らかいのは気にしないことにしましょう。別に役得とかではないですよ。

「それでは出発しましょう。飛び上がったら、方向を教えてください。」

 アルメリアさんにはそう言って、『ヴァルファーレ』に出発の合図をします。大きな羽で羽ばたくと『ヴァルファーレ』は上昇を開始しました。500メール位で停止します。

「アルメリアさん、どっちですか?」

「……………。」

 返事がありません。僕の体を包むようにしているアルメリアさんの腕を軽くたたくと反応がありました。

「アルメリアさん。大丈夫ですか?」

「ああ、済まない。まさか、こんな巨体があんなに軽々と上昇するとは思わなかったので驚いてしまった。もう大丈夫だ。このままやや南寄りに東の方に飛んでくれ。目標が見つかったら教えるから。」

 いきなり垂直上昇はきつかったでしょうか。僕はすっかり慣れてしまって気にしなかったのですが、申し訳ないことをしました。

「判りました。『ヴァルファーレ』東の方へ、少し南寄りに飛んでください。」

 周りには他の幻獣も見当たりません。いつも通り順調な飛行で東の方に向かいます。それほど距離を飛ぶことはないと思うのでゆっくり飛んで貰っています。
 しばらくすると蛇行する河と一本の高い木が見えました。川の水がキラキラ輝いて眩しいくらいです。

「あの河と木が目標だ。川を越えたら北東に進路を変えてくれ。あと少しで着くだろう。」

「解りました。ところで、いきなり『ヴァルファーレ』で近づいて、攻撃されませんか?」

「………!?そう言えばその恐れがあったな。」

「もしかして考えていませんでした?」

「済まない。失念していた。まあ、いきなり無警告で攻撃して来ることはないと思うから、ゆっくりと進んでくれ。」

「はい。『ヴァルファーレ』、ゆっくり高度を下げながら進んでください。」

 北東に進路を変えて、ゆっくり高度を下げながら進みます。やがて密林の中に大きな集落が見えてきました。同時に風竜が3匹飛び上がってきます。近づいてきた風竜が話の届く距離で止まり、乗っているエルフから声が掛けられました。

「接近中の幻獣に警告する。直ちに向きを変えて立ち去れ。さもないと攻撃する。」

 『ヴァルファーレ』に退去するように警告されました。

「アルメリアさん。お願いします。」

「判った。彼は知り合いだから任せてくれ。お~いカイス。私だ。アルメリアだ。この幻獣に危険はないので安心してくれ。」

「アルメリアか?何でそんな幻獣に乗っている?おまえは西の地の探検に出ていたのではないのか?それにその子供は何だ?」

「詳しいことは降りてから話す。一緒に乗っているのはこの幻獣の主で、私の恩人だ。私が保証するので一緒に村に入れてくれ。」

「恩人?よく解らないが、おまえが言うのだから良いだろう。しかしその幻獣の大きさでは広場には降りられないだろうから、村はずれの草原に降りろ。先導するから付いてこい。」

 そう言って、風竜を操って降下していきます。

「あのカイスの風竜に付いていってくれ。」

「解りました。『ヴァルファーレ』、頼んだよ。」

 カイスの後について降下し、草原に着陸します。ベルトを外して『ヴァルファーレ』から降りると、カイスが立っていました。

「しかしでかい幻獣だな。こんな幻獣を人間が使い魔にしているとは驚きだ。アルメリアとそっちの子供は一緒に来い。代表に説明してもらう。この幻獣は此処で待たせておけ。」

 そう言われても、このまま待たせておくのも可哀想ですから、『ヴァルファーレ』には異界に戻ってもらいましょう。

「『ヴァルファーレ』、ちょっとこちらの方と一緒に村まで行ってきます。帰ってくるまで異界に戻っていてください。」

 『ヴァルファーレ』は軽く頷くと空に裂け目を作り飛び込んでいきました。見ていたアルメリアとカイスは呆気にとられています。アルメリアも初めて見るんでしたね。

「『ヴァルファーレ』は、本来のすみかに戻ってもらいました。この方が皆さんも落ち着くでしょう?」

「いったいこの人間の子供は何なんだ?見たことの無い幻獣を使い魔にしているわ、その幻獣は空を切り裂いて入っていくわ、訳がわからん。ともかく代表に会ってもらう。二人とも付いてこい。」

 どうやら、他の2匹の風竜は先に村の方に降りているようですね。カイスの先導で村に入らせてもらいます。村の中には老若男女併せて沢山のエルフがいました。大体200人程度の人口でしょうか。みんな、怪訝な顔で僕を見ています。こんな所まで人間の子供が来ることは、今まで無かったでしょうから、よほど珍しいのでしょうね。
 そのまま少し歩いて村の中で一番大きな建物に連れてこられました。集会場のような所でしょうか。高床式になっている建物の正面にある階段から上がって、中に入ります。
 周りの窓を開放しているので中も結構明るく、風も通って良い状態です。奥の方に敷物が敷いてあり、年を取ったエルフが座っていました。
長命種のエルフでこのくらい年を取った外見になるというと、いったい何歳になるのでしょうか?おそらくこのエルフが長老で代表ということになるのでしょうね。
 案内してきたカイスが頭を下げて代表に話しかけます。

「アル・アミーン。西の地の探検より戻りましたアルメリアと、アルメリアが恩人という人間の子供を連れてきました。」

「ご苦労。アルメリア。ずいぶん早い帰還だな。たしか予定では2ヶ月と聞いていたが。」

「アル・アミーン、申し訳ありません。己の力を過信し、油断から獣たちに襲われました。危うく命を落とすところを、偶然居合わせたこちらの人間、アルバート殿に助けられ、獣たちに受けた傷を癒していただいた上に食事と休む場所を提供して貰いました。その際の経験から単独では危険が有りすぎると判りましたので、出直す準備のためと、助けて貰ったお礼にアルバート殿に一晩我が家に泊まって頂こうと一旦戻った次第です。」

「なんと、お主ほどの者が命を落とすところだったと?その上、人間に助けられるとは驚いた事だ。アルバート殿と申されるか。人間の子供と見えるが、我が同胞を助けて頂いた事、礼の言いようもない。我が名はアル・アミーンと申す。この集落の代表を務めておる。見知りおき願いたい。」

「ご丁寧に有り難うございます。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバートと申します。人間の世界にありますゲルマニアという国の伯爵家嫡男です。この度は偶然にもアルメリアさんを助ける事が出来、幸いでした。未だ子供の身ではありますが、よろしくお願いします。」

「ほう。子供の身というが、なかなか見事な受け答え。同胞が助けられた事といい、ただ者では無いようだの。して、このような遠方まで何用で参ったのだ?」

 その後、僕がこんな遠くまでやって来た理由を話し、アルメリアさんも助けられた時の状況などを話した結果、今日、アルメリアさんの家に泊まる事と、不足している旅の食料を分けて貰える事が決まりました。また、今回のお礼として今後この集落に自由に出入りする事が許されました。信じられない幸運です。まったくの予定外の事ですが、これでエルフとの通商の窓口が出来ました。
 また、『ヴァルファーレ』の事も説明し、先ほどの野原を離着陸の場所に指定してもらえました。これで、何時でも『ヴァルファーレ』で来る事ができます。この集落に来ていれば、その内もっと大きなエルフの町に行く事もできるかもしれません。

 領地の特産品や名産品をこの集落まで持って来て売ったり、こちらの物産を買い取ったりする事や、西の地で椰子の実やゴムの樹液を採取する事など、色々な事の許可を得られました。何かとっても良い事ずくめで話が進みましたので、代表にお礼を言って集会所を後にアルメリアさんの家に移動しました。

 アルメリアさんの家に着いてすぐ昼ご飯になりました。海が近いという事もあってか、魚介類が豊富でアルメリアさんが料理して、鱒のような魚の塩焼きや貝のバター焼きのような物、ベーコンのような物が入ったスープなど、生前食べていたような家庭料理が食べられました。アルメリアさんて料理が上手だったんですね。この集落で捕られている魚介類や肉類の加工品などを輸送できれば、それだけでいい商売ができそうです。

 沢山食べて、食後の一休みも終わりました。特にやることもないので集落のことをアルメリアさんに聞いたり、ついでに案内してもらったりして時間をつぶしました。案内の途中ではエルフの奥さんや子供達にも紹介してもらい、皆さん驚いていましたが、とても優しい人たちばかりでした。初めての経験ですが、同じ年くらいの子供達も大勢いて仲良くなることが出来ました。
 たしかにエルフも人間を蔑んでいるところがあると思います。でも基はと言えば人間がエルフに対して一方的に仕掛けていることが原因で、それも聖地奪還とか言っている誰かさんのせいだと思うのです。こんな事をハルケギニアで大きな声で言ったら、即異端認定を受けて死刑でしょうけどね。

 アルメリアさんの家で一晩お世話になって、帰りの食料の提供も受けました。なんか結構な荷物になってしまいました。魚の干物や干し肉、珍しい干した果物などの乾物の他に、真っ白な砂糖や焼いたばかりのパンになんとお酒までくれました。このお酒には両親も喜ぶでしょう。エルフのお酒なんて口にする機会は今まで無かったでしょうから。
貰った食材は残ったら料理の研究材料にできます。魚も肉もハルケギニアでは見た事がない物ばかりなので、うまく調理して貴族などの口に合う料理ができれば、流行にする事もできるでしょう。それに真っ白な砂糖なんてこちらで生まれて始めてみました。これはなんとしても通商できるように頑張らないといけません。

 さて、日もだいぶ昇ってきましたから、そろそろお暇する事にしましょう。貰った荷物を着陸した草原に運ぶ途中、代表の所によってお世話になった挨拶をして村を出ます。荷物はレビテーションを使ったので楽に運ぶ事ができました。仲良くなった子供達も一緒に着いてきて見送りをしてくれるそうです。嬉しいですね。
 さてみんなの前で『ヴァルファーレ』を呼びましょう。

「『ヴァルファーレ』、おいで!」

 空が避けて咆哮と共に『ヴァルファーレ』が飛び出してきます。やっぱりみんな驚いていますね。でも僕が『ヴァルファーレ』の頭をなでてあげていると安心したのか、みんな近づいてきて羽や足を触ってみています。そのうちみんなも乗せてあげることを約束しました。
 着陸した『ヴァルファーレ』の背中に登って、荷物を纏めて座席の後ろに固定します。しっかりと固定しないと、途中で落としたりしたらもったいないですから、最後にもう一度チェックをして準備完了です。

「アルメリアさん。お世話になりました。こんなに貰ってしまって済みません。」

「なんの。助けて貰った事に比べれば大したことではない。またいつでも来ると良い。歓迎する。」

「有難うございます。ちょくちょく来させて貰いますね。それから、アルメリアさんに僕の国を見て貰いたいので自由に来られるようになるよう、僕も頑張ります。そうなったら是非来てくださいね。それでは出発します。」

 子供達には少し離れてもらって、『ヴァルファーレ』に乗り、ベルトを締めます。準備完了。
 みんなに手を振って、『ヴァルファーレ』に合図して離陸しました。ぐんぐん小さくなっていくアルメリアさんや子供達にもう一度手を振って、一路北に向かいます。

 帰りは一旦来るときに休憩した海岸に寄って休憩した他は特に寄り道もせず、3時間程度で無事に屋敷に帰ってきました。1往復して大体の地形を覚えましたから、同じ経路を使う限り迷うこともないでしょう。
 着陸する頃には帰ってきたことが伝えられたようで、母上がメアリーと一緒に迎えに来ていました。少し離れたところに二人のメイジもいます。すぐにベルトを外し『ヴァルファーレ』から降りました。

 地面に降りて振り返る前に、後から母上に抱きしめられました。

「無事で良かったわ。お帰りなさい。」

 やはり心配掛けてしまったようですね。申し訳ありません。思わず涙ぐみそうになりました。

「母上、メアリーただいま帰りました。」

「兄上、お帰りなさい。」

 メアリーも嬉しそうにしています。

 こうして、僕の生まれて初めての旅は終わりました。 

 

外伝:残された人々?とあるメイジ達の困惑

 
前書き
今回は外伝です。
アルバートが遠征中の残された人たちといった観点から話を進めてみました。
こちらも大変そうですので、応援してください。 

 
 私はウイリアム・カスバートという。土のメイジでトライアングルクラスだ。
 隣にいるのは同僚のキスリング・ハワードといい、水のメイジで同じくトライアングルクラスだ。

 私達はゲルマニアのボンバード伯爵家に仕えるメイジだが、この度伯爵により当家の御嫡男であるアルバート様が行われる、領地の改革に協力せよと命じられた。
 指示されたまま、屋敷の西南端にある離れに向かうと、入口の扉の上に『改革推進部』と書かれている。聞いたことのない名称だが、どうやら今回の改革の本部になるようだ。中にはいると2階から人の気配がするので、二人そろって2階に上がってみると右側奥の扉に今度は『保険衛生局』と書かれていた。他の扉には何も書かれていないので此処で間違いないのだろう。

 ノックをして中に入っていくと、一人の少年が大きな机の向こうに立って、執事に何か命じている。彼がアルバート様だ。まだ7歳で見た目はまったくの子供だが、てきぱきと命令を出す様は中々のものだ。
 執事が部屋を出ると、アルバート様が机を回ってこちらに来た。

「アルバート様。伯爵様よりあなた様のお仕事を手伝うようにと命じられて参りました、ウイリアム・カスバートと申します。土のトライアングルです。よろしくお願い致します。」

「同じく、キスリング・ハワードと申します。水のトライアングルです。よろしくお願い致します。」

「良く来てくれました。お二人ともトライアングルとは助かります。これから大変な事業を行う事になりますので力を貸して下さい。よろしくお願いします。」

 すでに水の秘薬作り等で有名になっている方だが、第一印象はさわやかで付き合いやすそうな感じだ。これなら上手くやって行けるだろう。

 その後、玄関や入口の扉の上に書いてある言葉の意味や、ここで行うことになる仕事の説明を受け、午前中は終わった。局員と呼ばれる細々とした作業をする者は領民から集めるという事で、先ほどの執事への命令はその募集の触れを出すことだったそうだ。

 昼食を挟んで午後からは、公衆トイレという物について使用目的の説明、設計図から材質、製作方法、製作数などを話し合い、私が公衆トイレの製作、設置関係と補修全般を担当し、キスリングは各村の衛生改善、消毒及びその維持関係を担当する事になった。
 こうした説明や打ち合わせで最初の一日は終わった。

 次の日、とんでもない事が起きた。昨日の打ち合わせでも問題となったが、改革事業に必要な資材の中でゲルマニア内では入手困難な物がある。それを探し出す為の調査に、アルバート様が一人で行くというのだ。調査範囲は南方の海の方までという事だが、伯爵様がたった一人の嫡男を何があるか判らない危険な調査に出す訳がない。私達としても主のご子息であり、また、この度の事業の総指揮者であるアルバート様に、そんな危ない旅をさせる事など出来ないからとお止めしたが、どうしても必要な資材である事、事業が始まる前に探し出さなければならない事、何よりご子息には使い魔の『ヴァルファーレ』がいる事で押し切られてしまった。私達では対案を出せない以上、もはや伯爵様だけが頼りとなる。

 アルバート様は、私には調査に行っている間に、トイレの試作品を作って、屋敷の人たちに実際に使用して貰い、不具合がないかの確認をしておく事と、キスリングには消毒と消臭の秘薬を作って効果の確認をして、どの位の広さにどれくらい散布すれば良いか、基準を作っておくように命じ、すぐに伯爵様にご相談に行かれてしまった。
 そして、アルバート様は伯爵様にどのように説明したか判らないが、許可を取付けてしまい、速攻で準備を整えると『ヴァルファーレ』に乗って出発してしまった。

 仕方ないので私たちは命じられた事を実行する事にした。ところがやっと仕事に取りかかった矢先に執事が飛び込んできて、なにやら問題が起きたのでアルバート様に相談したいと言い出した。そんな事を言っても既にアルバート様は遙かな空の上だから、相談など無理に決まっている。後を任された私たちで何とかしなければならない訳だが、問題の内容を聞かされて頭を抱えてしまった。
 なんと、昨日領内の各村に出した局員募集のお触れに、凄い数の申し込みが殺到し始めているというのだ。まだ、この屋敷の近くにある5~6の村位までしかお触れが届いていないはずだが、それだけでも50人近く申し込みがあって、各村長が対応に困ってどうしたら良いか指示を仰いでいる状況なのだ。このまま領内の全村にお触れが届けば、いったいどれだけの申し込みがあるか判らない。

 いったいどんな待遇で募集を行ったのか確認するために、執事に言って募集の内容を書いた羊皮紙を持ってこさせた。これを読んでビックリした。こんな好待遇の仕事は、ハルケギニア中を探しても無いだろう。これでは申し込みが殺到するのも肯ける。しかし、ここで下手に募集を締め切ったりしたら領民の暴動が起きるかもしれない。これには正直困った。

 何時までも放って置けば状況は悪化するだけだろうから、キスリングと二人で知恵を出し合い、選抜を行なう事、一次選抜として申込者が募集の条件に完全に合致しているかを確認させる事、現在の健康状態を調べて、健康な者だけを選抜する事を各村長に伝えさせた。おそらくあまりの好条件に我先にと申し込んできて、いくつかの条件を満たしていない者も混じっている事が考えられるし、健康な者だけに絞れば更に人数が減る事が考えられる。こうしておいて少し様子を見る事にした。

 その後は特に何も起きず、二人とも命じられた仕事を進めていった。
 私は、この離れの北側にゴーレムを使っていくつかの穴を掘り、それぞれの内側を陶器上に練金した。計画通りの形状で問題ないか、穴の形状を色々変えて試作して確認した訳だが、どうやら計画通りに作った方が良いようである。次にトイレ本体の製作に掛かる。ゴーレムで、近くの森から適当な木を取ってこさせた。その木を練金して厚めの板と柱になる角材を作り、組み合わせるのに必要なほぞを切ってほぞ穴を空ける。板には風を通す窓を開けて鎧戸を付け、ドアの下の方にも空気穴と鎧戸を設けた。練金の魔法を使っても、それぞれのパーツを上手く組み合わせる事が出来るように作るのに結構な時間が掛かってしまった。

 キスリングは今まで作られている消臭剤や消毒薬を持ってきてより強力な物が出来ないか調合中だ。伯爵夫人が高名(?)な水メイジなので、この屋敷には色々な秘薬が蓄えられている。このような時はそういった秘薬が大いに役立にたつのだ。
 こういった作業をして、この日は終わった。

 アルバート様が出発して2日目。

 昨日追加で出した指示で、近隣の村では申込者が1/3程度まで減ったという報告が来た。それでも続々と入ってくる他の村からの報告を合計すると、申込者の数は200名近くなっている。追加の指示が届けば減る事になるだろうが、それでも予想外の多さだ。
 もし、このままの人数が面接に来る事になれば大変な事になるので、さらに何回か選抜を行う事にした。まず、二次選抜として各村でいなくなると困る者を申込者から弾かせる。その後は、三次選抜で村長の一存でも良いしくじ引きでも良いから、各村2人まで絞り込ませよう。選抜から落ちた者には次回の募集時に優先的に選抜することを伝えさせて、ある程度不満を抑える。
 こうすれば領内全部で15の村があるから、合計で30人まで減らす事が出来るはずだ。後はアルバート様直々に面接して決めて貰えば良いだろう。それ位はやってくれても罰は当たらないと思う。

 さて、今日は昨日作ったトイレのパーツを組み立ててみた。ゴーレムに手伝わせて、練金した穴の上で土台を作り、柱を立て、全体を組んでいったが、上手く組めないところなどを修正しながら組んでいったので結構な時間が掛かってしまった。この段階では、まず地面を水平に均しておかないと、上手く組み上げる事ができない事が判った。
 一通り組み上げてから四方に少し離して杭を打ち込み、トイレのそれぞれの角と杭をロープで結んで地面に固定した。こうしておけば風が多少強く吹いても倒れたり移動したりしないだろう。汲み取り口の蓋もして出来上がりだ。

 ちょうどトイレの試作品ができあがる頃、キスリングが何かを思いついたようで、トイレの隣に丈夫な台を作った。そしてその台の上に大きな瓶を載せて台に固定した。瓶の下の方に蛇口が着いている。どうやら水をためておき、蛇口から出る水で手を洗うように作ったらしい。さすが衛生担当だ。
 ならばと、蛇口の下に流し台も作り、立派な手洗い場が出来た。

 メイド長と執事頭にアルバート様の言葉を伝える。

「アルバート様の命により、西の離れの北側に、今度領内に設置する公衆トイレという物の試作品を作った。ついてはこの試作品の問題点を見つけるために、君たちメイドと執事に実際に使って貰いたいとのご要望が出されている。アルバート様が帰ってくるまでの期間、みんなで使って欲しい。そして、使ってみて問題になりそうな事を見つけたら、どんどん言ってきて欲しい。その意見を元に改良を行い、よりよい物を領内に設置できるようにする。これはアルバート様の考えた領内改革の第一歩である。協力をお願いする。」

 メイド長と執事頭は少し驚いたようだが、アルバート様の考えである事を理解し、それぞれメイドと執事達に伝えに行った。

「ところで、キスリング。そっちの方はどうなっている?」

「さすがはボンバード家だな。この屋敷にある秘薬だけでもかなりの効き目が出せる。今調合している秘薬がうまく行けば消臭剤の方は大丈夫だろう。後は消毒薬だが、多分今ある物で充分だと思うのだが、どうだろうな。」

「そうか。トイレの方は実際に使用して貰う事になったから、もう少ししたら試す事も出来るだろう。結果次第で改良するかどうか決めれば良いだろう。」

 こうして2日目は終わった。

 アルバート様が出発してから3日目。

 もう、局員募集の触れは領内全ての村に届いているだろう。選抜の事も伝わっているはずなので人数の方は問題無く収まった事と思っている。あれから、特に問題は報告されていないので、後は実際の面接まで何も起きない事を願おう。

 昨日から試しに使って貰っているトイレの方は、今のところ大した問題もないようだが、使っている内に少しずつ意見も出てきた。この調子でいけば改良の方も順調にいけるだろう。使い廻しの方はメイドと執事達が上手くやっているようだ。
 時々、キスリングが消臭剤をトイレに散布して、効き目を調べている。ほぼ完璧な出来のようで、使っているメイド達からも全然臭いがしないと報告を受けている。

 アルバート様が資源調査に出発してから3日が経ったが、特に連絡もないのでいつ頃帰ってくるのか判らない。予定では1週間で戻ってくると言っていたが初めての土地での調査だから、予定通りに行くとは思えない。出来るだけ早く帰ってきてくれる事を祈るしかないようだ。

 今日、訓練場の近くに物見台が作られた。これからアルバート様が帰られるまで交代で見張りが立つらしい。なんでも護衛隊から目の良い者を選んで見張らせ、アルバート様が帰られたらいち早く伯爵様と伯爵夫人に伝えるためのようだ。みんなアルバート様の事を心配しているのがよくわかる。毎日天気も良いので、時々伯爵夫人は訓練場の片隅に出てきて息女のメアリー様を遊ばせながら、空を見上げている。アルバート様も連絡用の鷹位連れて行けば良かったのだが、私たちも忘れていたのだからどうしようもない。

 一応、量産できるようにトイレのパーツを作る訓練をしている。木だけは近くに森があるのでいくらでも手に入るから、のんびりやっても10棟分位はすぐ出来てしまうようになった。実際には設置する現場で作る予定なので、此処で作ったものを持って行く事はないのだが、結構良い出来になっているのでもったいない気もする。
 今日は特に急ぎの用件も入ってこなかったので、キスリングと二人、のんびりしている事が多かった。

 アルバート様が出発してから4日目。

 今日は朝から募集の申込者について情報が入ってきた。先日までに申し込んできた者の名前や年齢その他の情報を、各村の村長が纏めて送ってきたのだ。こちらはそれを面接用に書き直して、アルバート様が帰ってきたらすぐにお見せできるようにする為の作業を行なった。30人分の情報をキスリングと二人で纏め上げるのに、ほぼ午前中一杯掛かってしまった。

 午後からはトイレについて上がってきた改善点を検討し、窓の位置や形状、ドアの立て付けについてなど細かい事の修正を行っていた。消臭剤も完璧だとキスリングが笑っていたのでこちらも問題無いだろう。まだ消毒薬の方は試験が終わっていないようだが、元が伯爵夫人の作った物なので、失敗のしようがないとも言えるから安心している。

 屋敷がざわつきだしたのは昼を過ぎて1時間位たった頃だろうか。物見台から伯爵夫人に伝令が走って行った所を見ると、アルバート様が戻ったのだろう。私たちもお迎えに出る事にした。

 すぐに伯爵夫人がメアリー様と一緒に訓練場にやって来た。空を見上げている姿を見ると、本当に戻ってきてくれて良かったと思う。

 やがて、『ヴァルファーレ』の姿が訓練場の上に着き、静かに降りてきた。着陸するとアルバート様がベルトを外し滑るように『ヴァルファーレ』から降りてくる。地面についたと思ったらいつの間にか伯爵夫人がアルバート様の後ろに立っていて、後から思い切り抱きしめていた。メアリー様もすぐ側でアルバート様の服の裾を握りしめている。
 私はその光景を見ていて、ほっとするのと共に、思わず目頭が熱くなってしまった。本当に伯爵夫人もメアリー様も心配なさっていたのだろう。伯爵様もいらっしゃれば良かったのだが、今朝早く皇城からの使いが来て出かけられてしまった。明日には戻られるとの事だったが、帰っていらした事を知れば屋敷にいられなかった事を残念に思うだろう。

 感動の対面が終わり、アルバート様が伯爵夫人から解放されたので、私たちもご挨拶に向かった。4日足らずの間にアルバート様はすっかり日に焼けて真っ黒になっている。南の方はさぞかし暑かった事だろう。後で首尾をお聞きするとして、今は『ヴァルファーレ』から荷物を降ろす手伝いをしよう。なぜか行きより荷物が増えているようなので理由を聞いたら、椰子の実やゴムの樹液を沢山持って帰ったほか、お土産もあるという事だった。いったいどこからお土産なんか貰ったのか、袋の中から見た事のない干した果物だというものを出して、メアリー様に上げていた。メアリー様もよほど美味しかったのか大喜びだった。
 荷物を一旦『改革推進部』の一室に運び込んで、ざっと整理したところで、アルバート様から留守を守ったお礼を言われ、お土産も分けて頂いた。こちらも見た事のない魚の干物だった。なんでも焼いて食べると美味しいそうだ。

 アルバート様も帰られたばかりでお疲れだろうから報告関係は明日にする事になったので、今日の残りの時間は、キスリングと二人でトイレと消臭剤の試験結果の報告書作りをした。 

 

第15話:領内改革!(その2-1)

 
前書き
領内の改革について第一歩です。
それにしても「かくかくしかじか」とは、便利な呪文ですね。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 4日ぶりに屋敷に帰ってきて、自分の部屋でぐっすり眠る事が出来ました。
 昨日は到着後、母上のハグを受けてから、荷物を一度『改革推進部』の一室に運びました。それからウイリアムさんとキスリングさんに留守番のお礼をして、少しですが、お土産に魚の干物を分けました。

 屋敷に戻ってから、残りのお土産を広げて、母上とメアリーに干した果物|(ドライフルーツと呼びましょう。)をあげました。アルメリアさんに貰ったドライフルーツですが、6種類位あって、それぞれが分けられて袋に入っています。一袋1㎏位有って結構な量になりますから2人に1/4ずつ分けました。残りは製法や保存方法など商品になるか研究するために取っておきます。
 他に持ってきたゲルマニアでは見た事のない種類の魚や干物や干し肉などは、それぞれ10㎏位有るのでこちらも1/3位残して厨房の方に廻します。魚の干物は一応焼き方や煮ものなどの調理方法を教えておきました。真っ白な砂糖は母上も厨房の料理長も大喜びでした。こんな真っ白な砂糖は『ヴィンドボナ』でも滅多に見る事がないのです。

 今回の調査結果については、父上が明日帰ってくるという事なので、父上がいるところで報告する事になりました。お土産が珍しい加工品ばかりだったので、どこから手に入れたのか母上が知りたがっていましたが、何とか我慢して貰います。同じ事を2回も話すのは面倒ですからね。
 この日はこれで終了となり、後は自室でゆっくり休養を取る事にしました。

 一晩経った翌朝、朝食後に一度『改革推進部』に行って、留守中の報告を受けました。
 局員募集では迷惑を掛けてしまったようですね。まさかそんなに応募が来るとは思いませんでした。適切な対処をしてくれた事に感謝です。面接用の書類もすっかり出来ていますので、後でじっくり読んでおきましょう。
 トイレと消臭剤の報告書も貰いました。トイレは大幅な改造とかはないようですね。ちょっとした修正程度ですからすぐに設置できる事になります。消臭剤も結果を見れば完璧のようですから、いつでも使う事が出来ますね。
 後は局員を面接して採用者を決める前に、局員の家を確保しなければなりません。独身寮はアパートのような型式で良いと思いますが、妻帯者用の寮は1戸建てにしたほうが良いと思います。屋敷の周囲に纏めて作っておきたいですね。
 一度集めて教育してから班分けをします。今のところ考えているのは、トイレ設置班4人と屎尿収集班4人に消毒班2人の3班10人になりますが、面接次第で増やす事も考えておきましょう。

 一通り、二人からの報告を受けました。今度は僕の方からの報告です。
 まず、持ってきた荷物の中から椰子の実とゴムの樹液の入った瓶を出します。

「こちらが椰子の実です。殻の表面はつるつるですが、非常に固い繊維で出来ています。鉈や斧などで割る事が出来ますよ。」

 試しに鉈で少し割って見せます。

「中にはジュースが入っているので、いきなり二つに割ってしまうと零れてしまいもったいないですから、零さないように少しだけ割る事が大事です。

 コップを用意して中のジュースをコップに移します。

「このジュースは結構美味しいし、量も入っているので、南方の暑いところでは水分補給の為にも重要になります。ジュースを出し切ったら、完全に二つに割ります。」

 今度は鉈で実を二つに割りました。

「中のこの白っぽい部分が果肉で、とても美味しく食べられます。食後のデザートにも良いですよ。」

 こちらはお皿に取り分けます。

「まあ、ちょっと味わってみて下さい。」

 そう言って、二人に勧めます。二人ともおっかなびっくり口に運んでいましたが、結構いける味だと判ると、綺麗に食べてしまいました。

「このように、椰子の実は南方では非常に有効利用できるので大事にされています。もっとも、この使い道は今回の調査目的からはおまけの存在なのですけどね。調査目的として重要なのは残った殻の方です。堅い繊維質の殻を蒸し焼きにして炭の状態にすると、椰子殻活性炭という物が出来ます。これは臭いの吸収性能に優れていて、屎尿収集班と消毒班用の防毒マスクにつかう吸収缶の主要材料になります。」

「この殻が材料になるのですか。確かに凄く堅いからですね。切り口を見ると堅い繊維で出来ているのが良く解ります。」

 キスリングさんが割った片方の殻を手に持ってじっくりと調べています。ウイリアムさんももう片方の殻を持って見ていますね。

「この殻一つで、どれくらいの活性炭が出来るのでしょうか。」

「まだ、どれくらい出来るか迄は解りません。練金で木を使って炭を作る実験をして、上手くできる方法を見つけないといけません。木の成分を炭素に変換するだけですから簡単だとは思うのですが。吸収缶の大きさや構造も考えないといけませんから、これからやる事も多いと思います。」

 二人とも、大体感じがつかめたようですね。それでは次に行きましょう。

「次に、こっちの瓶の方です。中身はゴムの樹液です。これはゴムの木の幹に傷を付けて、出てきた樹液を集めた物です。今回の調査で11本のゴムの木を見つける事が出来ました。」

「これがゴムの樹液という物ですか。何というかネバ~とした感じですね。」

「そうですね。これを加工してゴムを作ります。非常に伸縮性に富んで防水性にも優れていますから使い道はたくさんあるでしょう。」

「この樹液をどう加工するのですか?」

「そうですね、まず樹液を良く練ります。この段階を素練りと言います。素練りはゴムの分子を細かくして加工しやすくします。後で作ってみようと思いますが、ミキサーという練るための機械があると楽に出来ると思いますが、ゴーレムにやらせるという手もありますね。」

 キスリングさんがメモを取りながら真剣に聞いています。ウイリアムさんはキスリングさんの書いているメモを覗き込んでいます。しっかり聞いて、理解して下さいよ。

「次は混練りと言う工程です。混練りは素練りしたゴムにカーボンブラックという非常に細かくした炭素の粉や硫黄などを混ぜ込んで、製造前段階のゴムにします。」

 この辺になってくると良く覚えていないので、だんだん怪しくなってきます。

「この後、例えば長靴を作るのなら布などで膝下位の長さがある靴を作り、外側にゴムを適当な厚さに均等に塗りつけて整形します。最後に全体に均等になるように熱を加えて、含まれている硫黄を反応させて弾性のある強力なゴムにします。」

 大体こんな感じで良いはずですね。後は練金を使って調整していけば何とかなるでしょう。

「あと、靴は履く人の足の大きさに合わせて作りますが、滑りにくいように靴底も作らないといけません。下になる面に刻み目を入れた靴の大きさの型を作って、ここに少し堅めに混練りしたゴムを流し込んで整形します。これを加熱してしっかりとしたゴムにしてから、さっき作った長靴の下に強力な接着剤でくっつければゴム長靴の出来上がりです。」

 メモし終わったキスリングさんが顔を上げます。

「ずいぶん工程が複雑で多いですね。必要な数を作るのが大変だ。1人1人採寸からやらなければならないのも面倒ですね。」

「ぴったりとあった物を提供しようと思うとこうなってしまいます。もっと大雑把に0.5サント刻みで大きさを決めて作っておけば、自分の足に一番合いそうな長靴を履けばいい事になりますから、手間は省けるようになると思いますよ。同じような要領で手袋や前掛けも作ります。これで必要な装備が出来る訳です。大変だと思いますが、大切な装備ですから頑張って下さい。」

「「解りました。」」

 2人とも納得してくれたようです。

「それでは、そろそろ父上が戻られる頃でしょうから、僕は屋敷の方に行きます。後をよろしくお願いします。」

 そう言って、残った荷物からアルメリアさんに貰ったお酒を取り出して屋敷に行きます。屋敷の中に入ってみると、もう父上は帰ってきているようなので居間に行ってみます。
 居間に入ってみると父上と母上がいました。メアリーはいませんね。

「父上、お帰りなさい。」

「ああ。アルバートも無事に帰ったそうだな。安心したぞ。」

「御心配をおかけしました。申し訳ありません。それで今回の調査について報告したいのですが、母上も一緒に執務室の方に移動できませんか。」

「他に聞かれてはまずい事があったのか?解った。移動しよう。」

 父上の執務室に移動します。母上も入って貰って、しっかりと鍵を掛けてから父上にお願いします。

「父上、サイレントを掛けて下さい。」

 父上も母上も少し驚いたようですが、すぐにサイレントを掛けてくれました。

「これでもう大丈夫だ。こんなに用心しなくてはならないような事があったのか?」

「はい、父上。まず、これをお受け取り下さい。」

 そう言ってお土産を渡します。

「これは酒か?見た事のないラベルと文字だが、これがそんなに大変な物なのか?」

「はい。これはエルフの友人に貰ったお酒です。」

「なに?エルフだと?エルフに会ったというのか?」

 母上も蒼白になっています。やっぱりエルフは恐怖の対象なんですね。

「調査の目的地で偶然出会いました。その時の状況はこのような物です。」

 ………かくかくしかじか………。

 アルメリアさんにあった時の状況を詳しく説明しました。

「そして、翌日エルフの集落に連れて行って貰ったのです。」

 ………かくかくしかじか………。

「と言う訳で、エルフの代表から自由に集落に出入りする許可を頂けました。」

「何というか、とんでもない話だな。間違えてもロマリアなどに知られる訳にはいかないぞ。」

「そうです。でも今回持って帰りましたお土産は、全てエルフの村にて頂いた物です。魚の干物や干し肉にドライフルーツなど、ハルケギニアではほとんど見る事のない食材ばかりです。それに真っ白な砂糖。どれも我が領で独占して通商することができればどれだけの利益を上げる事が出来るか、測り知る事が出来ません。」

「確かに、そうなるだろう。しかし、他人に入手経路が解らないように通商が出来るのか?」

「実際に通商を行うには、まだまだ準備が必要だと思います。しかし、『ヴァルファーレ』のように高空を高速で移動できるような手段は、今のゲルマニアどころかハルケギニア中を探しても見つからないでしょう。そうなれば尾行して入手先を見つけることは不可能ですし、詳しいことは私達家族だけの秘密にしておけば家臣達から漏れることもありません。ましてや、エルフから漏れることなどあり得ないのですから大丈夫でしょう。」

 原作ではガリアの狂王がエルフのビダーシャルを使っていましたが、まだ当分出てこないでしょうし、それまでにエルフとの付き合いを強固にしておけば悪いことにはならないでしょう。

「それから、この度の調査で改革に必要な資源の確保の目処が付きました。」

 ………かくかくしかじか………。

「これで『保険衛生局』の立ち上げが出来ます。資源の方もいつでも取りに行ける許可を貰っていますから、何も問題ありません。あと、エルフの村で同じくらいの子供達と仲良くなりました。時々遊びに行く約束もしていますからよろしくお願いします。」

「本当に友好的に迎えられたようだな。一歩間違えば生きては帰れなかったかもしれないが、結果的には良かったのだろう。場所が場所だけに大人数で行くことも難しいと思う。くれぐれも無理な行動はしないように頑張りなさい。」

「私も一度、アルメリアさんという方にお会いしたいわ。アルバートに良くしてくれた人なのだからお友達としてお呼びできないかしら?」

 母上、そんな無茶は言わないでください。父上も引きつっていますよ。

「今はまだエルフを呼ぶのには無理があるだろう。誰かに見られたらバンガード家にエルフが出入りしているなどと言われ、ロマリアから司教当たりが飛んでくるぞ。」

「それでは、今度アルバートがエルフの集落に行くときに一緒に行こうかしら?」

「母上、まだ出入りの許可を貰っているのは私だけですのでお連れするのは無理です。大体そんな遠方まで母上と二人乗りで行くなんて無茶すぎます。」

 母上はあからさまにがっかりしています。慰めるのは父上のお仕事ですよ。

「ところで、この次第は皇城にお知らせする必要があると思いますか?」

「皇帝閣下にはお知らせした方が良いと思うが、よほど注意しないとどこから漏れるか解らないからないからな。どうするか。」

「それでは、今度私が皇城に行ったときに、皇帝閣下に内密にお話ししてきます。皇帝閣下から話が漏れることはないでしょうから。」

「やはり、その方が良いか。それもおまえに任せよう。上手くやれよ。」

 ちょうど明日が虚無の日ですから、皇城に行って皇帝にも話を通してきましょう。悪いようにはしないと思います。
 両親に今回の調査での問題点や、領地改革の進捗状況を説明できたので次の段階にはいることが出来るでしょう。

「ところで父上。そのお酒ですが、一緒に持ってきた魚の干物を焼いて、摘みにするととっても合うと言うことですよ。母上と一緒にお飲み下さいね。」

 これには、父上も母上も嬉しそうでした。二人ともお酒大好き人間ですからね。

 さて、この二人は放っておいて、僕は残りの時間で面接用の書類を確認しましょう。来週初めは面接ですから大変です。 

 

第16話:領内改革!(その2-2)

 
前書き
遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
1/5に転職のため引っ越しを行いましたが、インターネット回線の開通に時間掛かりUPできませんでした。
どうか、お楽しみください。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 今日は虚無の日。基本的にお休みの日です。ウイリアムさんもキスリングさんも今日はお休みになっています。
 昨日、父上や母上と話をしたように、今日は皇帝閣下の所に行って、今回の調査結果について報告します。普通の報告なら報告書として書面で送っても良いのですが、今回はエルフとの事があるので、無駄な誤解を生まないように直接会って話す事にしました。
丁度虚無の日で、僕がいつも通り皇城に行くことに違和感もありませんから、話のついでに皇帝閣下にもお土産を持って行こうと思います。

 もうすっかり慣れている、屋敷から首都『ヴィンドボナ』までの空路を『ヴァルファーレ』に乗って飛んでいきます。なぜか僕が『ヴィンドボナ』に行く日は天気が良くて、雨になった事は一度もありません。何かあるのでしょうか?

 いつも通りの快適な空の旅を終えて、皇城に着きました。近衛の竜騎士隊が上がってきましたが、顔なじみの方なので顔パスで皇城の庭に降りる事が出来ます。

 『ヴァルファーレ』には一度異界に戻って貰い、迎えに出てきた女官のスピネルさんと世間話などしながら皇城の奥に進みます。途中で少しですが、ドライフルーツを分けてあげました。珍しい甘味なのでとても喜んでくれましたよ。
 やがて謁見室の控えの間について、待機していた侍従さんにスピネルさんが取り次ぎをお願いすると、すぐに入室の許可が下りました。

「皇帝閣下。早速お目通りをお許し頂き有り難うございます。」

「アルバート。良く着たな。1週間前に比べるとずいぶんと黒くなったが何かあったのか?」

「恐れ入ります。このたび領内改革の為新たな事業を興そうと考えております。その事業に必要な資源を探す為に南方に調査に出ておりました。昨日帰ったばかりでございます。」

「南方とな。いったいどのあたりまで行ってきたのだ?」

「はい、本日はその事についてのご報告とご相談がありまして参上しました。お許し頂ければお人払いをお願いしたいのですが。」

「何か、他人に聞かれるとまずい事でもあったか?まあ、良いだろう。」

 皇帝閣下は、側にいた侍従に命じ、謁見室にいたすべての人を外に出しました。その後、ドアにロックの呪文を掛け、続けて室内にサイレントの呪文も掛けてくれました。

「これで大丈夫だろう。話してみなさい。」

「有り難うございます。まずは此方をお納めください。」

 そう言って、父上に上げたのと同じお酒の瓶と姫様達へのお土産にドライフルーツを皇帝閣下に渡しました。

「これは干した果物か。見た事のない果物だ。こっちは酒か?珍しいラベルだな。絵柄も文字も見た事がないが、これが何か問題でもあるのか?」

「そちらの干した果物はドライフルーツと言います。南方でしか採れない果物を暑い気温と低い湿度でじっくりと干した物です。姫様達が喜ぶと思い持参しました。お酒については中身の酒自体に問題はありません。私の両親もとても美味しいと申しておりました。問題はこの酒を貰った場所とくれた人にあります。話すと少々長くなりますが、お聞き願います。」

 ………かくかくしかじか………

「こういった事情で、今回の調査に出かけた訳です。そして調査の3日目にキャンプをしていた場所でこんな事がありました。」

 ………かくかくしかじか………

「そして、私は助けたアルメリアさんというエルフの女性と一緒にエルフの集落へ行きました。その集落の代表という方とこのような話をしました。」

 ………かくかくしかじか………

 皇帝閣下は驚いた表情を隠しきれずに手を握りしめていましたが、最後まで言葉を挟まず聞いてくれました。

「以上がこのたびの調査で起こった出来事です。」

 皇帝閣下は今まで息を詰めていたのか、大きく息を吐くと少し汗のにじんだ額に手を当てて、言いました。

「話は解った。この際だ、おまえが一人でそんな遠くまで調査に出かけた事は許そう。後でアルバードには一言言いたい事があるが、それも今は良い。問題はそのエルフの事だ。
よりにもよって、一人で出かけてエルフに出会い、そのエルフを助けて友となるばかりか、エルフの集落に連れて行かれて代表者にもてなしを受け、その上出入りの自由を貰ってくるなど、ゲルマニアどころかどこの国でも考えられぬわ。」

「確かにそうでありましょうが、エルフと出会った事も偶然なら、助ける事が出来たのも偶然です。出会っていきなり争いになっていれば、おそらく生きて帰る事も出来なかったでしょうし、友好を結ぶ事ができたのは怪我の功名というか、非常に幸運であった事と考えますが。」

「それは普通の人間の間で考えればそうだろう。だが、エルフとは6000年もの昔から聖地を奪った仇敵であり、幾度となく起こった戦での恐怖の敵というのが各国共通の考えだ。特にロマリアやトリステインあたりは心底憎んで、そして恐れている。そんな者達にすれば出会ったとたん争いとなるのが当然で、友となる事など考えられないであろう。ましてや友となったなどと知られれば絶対に異端者として抹殺されるぞ。」

「それは十分に認識しております。ですから公表するような事は致しません。今のところこの件を知っているのは私の両親と閣下だけです。私があちこちで話すような愚を犯さなければ他人に知られる事もないと思いますが。」

「妥当な考えだ。それで、いったいおまえは何をしたいのだ?まさか、出会ったエルフに惚れて嫁にしたいとでも言う訳ではないだろうな?」

 にやりと笑って、そんな事を聞いてきます。

「閣下。たしかに同じ年頃の子供達と仲良くなる事ができたのでちょくちょく遊びに行きたいとは思っていますが、嫁にしたいなどと考えた事など有りません。私が助けたアルメリアさんはすごい美人で、見た目も20歳前後でしたから、閣下がご覧になれば愛妾として欲しがられるかもしれませんが。」

「ほう。そんなに美人であったか。それは是非紹介して欲しいものだ。」

「まさか、こんな所まで連れてくる事ができる訳もないでしょう。お戯れはご勘弁願います。
話を戻しますが、私はエルフの集落との通商を考えております。エルフの集落で貰った土産は、どれも此方の地では見た事のない珍味ばかりでした。魚も獣も此方にいない種類のものでしたのでゲルマニアばかりでなく各国で流通させて、料理の仕方等を教えることができればかなりの商売となるものと考えます。」

「それをおまえが考えて実行しようとしているのか?万一食材の出所が露見したらどうなると思っているのだ?」

 えらく呆れられているようですね。

「心配があるとすればガリア位でしょう。東方からの輸入品とすれば特に問題有りません。何しろ、実際に何処から輸入してくるか確認できる者などいないのですから。」

「ずいぶん自信があるようだが、何か策があるのか?」

「まず、エルフの集落までの距離が有りすぎます。風竜やマンティコアなどの幻獣で行こうと思うと途中で何回休まなければならないか。休める場所も確保できないでしょうから、非常に難しいものと考えられます。
今のところルートを持っているのは私だけです。しかもそのルートを使うにも『ヴァルファーレ』がいる事が前提となりますから、他人が使う事は無理でしょう。何しろ、高度5000メール以上を時速800リーグ以上で飛行するんですから、付いてこれる幻獣などどこにもいないと思いますよ。」

「つまり、後を付けて証拠をつかもうにも、着いていく事ができないという訳か。」

「そうなります。問題は大量輸送するにも輸送隊も付いてこれない事です。そこで、エルフとは関係のない場所に集積所を設けます。
ここまでは私が『ヴァルファーレ』で物資を輸送し、集積されたものを私の領の輸送隊が運ぶようにします。これなら、輸送隊はエルフには関係なく物資を運んでいるだけとなりますから、誰にも文句は言えません。」

「そうすると、その集積所とやらまで、おまえの『ヴァルファーレ』でどれだけの物資を運ぶ事ができるかが鍵となるが、そちらの方はどうなのだ?」

「今回は調査でしたので物資輸送の準備はしていきませんでしたから、お土産に貰った少量の品を『ヴァルファーレ』の背中に乗せてきました。実際に輸送を行う場合は、大きな網で出来た籠を作り、それに物資を入れて『ヴァルファーレ』に足で持って運んで貰います。輸送の速さを重視するため少し抑えますが、それでも竜籠3頭分以上を運べると思います。」

「一度に竜籠3頭分か。確かにかなりの量になるだろうな。」

「はい。しかもエルフの集落から集積場所までの距離は、『ヴァルファーレ』なら余裕で1日2往復できますから、合計竜籠6頭分の輸送量となります。」

「本気で『ヴァルファーレ』を輸送用に欲しくなったぞ。それだけの輸送能力が有れば武器弾薬の補給も楽になるからな。まあ、おまえの大切な使い魔だから取り上げようとは思わないが。」

 目は半分位本気でしたね。たしかに、『ヴァルファーレ』の能力があれば輸送なんて朝飯前になるのでしょうが、そんな事をやっているより直接『ヴァルファーレ』に攻撃させてしまえば、戦争なんてあっという間に終わってしまうでしょうに。

 その後も1時間位相談を続け、何とか許可を頂く事が出来ました。これで色々な事に掛かれます。皇帝閣下にお礼を言って退室し、今度はスピネルさんと一緒に書庫に移動しました。エルフ関係の文書が幾つかあったと思いますから、ちょっと見ておきましょう。

 書庫に入って、歴史関係の棚と各国の情勢関係の棚にエルフ関係の文書が数点有りました。全部を机まで運んで内容の確認をします。やっぱり、詳しい事は書いてありませんでした。
 ほとんど、今までにあった聖地回復の戦いの記録や、噂話などの曖昧な記録で、伝承としてもまともな物はありません。エルフの強さがスクエアクラスのメイジ10人分位とか、魔法を跳ね返すとかいった、原作でも出てくるような事は良いのですが、人間を食ってしまうとか夜な夜な人間の町にやってきて人を掠っていく等という、あんまりな記述が見られて参考になりませんでした。
 これでは、お化けや妖怪を怖がって書かれた怪談話と変わりませんね。それだけ恐れられていると言う事でしょうけど、もう少し相手を研究する人がいても良いと思うのですが。

 たいした成果を上げる事が出来ないまま、お昼になってしまい、スピネルさんに食堂に連れて行かれました。今日はお昼まで頂く予定がなかったのですが、姫様達も待っているとの事で逃げられませんでした。
 皇帝閣下も交えて昼食を頂き、食後のティータイムのおしゃべりは姫様達から旅の話をせがまれて、エルフ関係の事をうまくぼかしながら椰子の木やゴムの木を探した事を話しました。
ドライフルーツを気に入ってくれて、もっと欲しいと言われましたので、また入手したら持ってくる約束をしました。
 姫様達が好んで食べていると他の貴族達にも伝われば、良い宣伝になります。ドライフルーツは絶対に売れるでしょう。

 今日はゆっくりしていく暇はありませんので、昼食後はすぐに帰る事にします。皇帝と姫様達にお別れを済ませ、スピネルさんと庭まで戻りってくると、すぐに『ヴァルファーレ』を呼んで、スピネルさんにお礼を言って屋敷に向かいました。

 屋敷に帰り着くと、そのまま父上の執務室に行き、皇帝閣下と話し合った事を報告しました。

「そういった感じで、皇帝閣下には許可を頂く事が出来ました。実際に通商を始めるには少し時間が掛かると思いますが、絶対成功させて見せます。」

「解った。その時は輸送隊を編成して手伝わせればいいのだな。途中の集積所やルートについてはしっかりと確保して、輸送隊の兵士達に教えるように。途中で迷子になりましたなどと、冗談にもならないように注意しなさい。」

 今日できる事はここまでです。お昼ご飯は食べて来たので、午後からは久しぶりにメアリーと遊んであげました。今週はずっといなかったので、寂しがっていましたから嬉しそうでしたよ。ままごとやしりとり、あやとりなど、僕が前に教えた遊びをしていると、なぜか途中から母上も混じってきて、こちらも楽しそうにしています。メアリーより一生懸命になっているのを見ると、なんと言っていいのか解らなくなりますが、この際ですから良しとしましょう。気にした方の負けです。

 そんなこんなで休みを終わり、週明けです。今日は面接日ですから、気合いを入れて行きましょう。ウイリアムさん達が色々調整してくれて面接する人数も30人位にすることが出来たそうですが、面接時間が一人あたり10分としても30人で300分、つまり5時間も掛かる訳ですから、途中に昼休みを入れれば6時間です。
 どんな人が来てくれているか楽しみですが、掛かる時間を考えると少し鬱になります。面接開始は9時なので、それまでに面接場所の準備や書類の再確認をしておきます。『改革推進室』1階の玄関側に面接控え室を用意しました。屋敷の執事を2人貸して貰い、面接希望者の面倒を見て貰います。最後の人は6時間も待つのですから、お茶や軽食位は出してあげないと可哀相ですからね。

 8時位から面接希望者が集まってきました。遠方の村から来た希望者は予め決められた宿に宿泊しているはずですから、旅の疲れも取れていることでしょう。
2階の窓からやってくる人たちをのぞいてみると、みんな希望と不安で一杯と言った感じです。自分が就職した時を思い出します。考えてみれば自衛隊って入隊する時も入ってからも試験と面接が良くありました。年に2回位有るので、すっかり面接慣れして、受け答えもマンネリ化していたような気もします。

 昔の事を思い出していたら時間になったようですね。それでは面接を開始しましょう。 

 

第17話:領内改革!(その2-3)

 
前書き
今回は予定通りに投稿できました。
順調に領内の改革を実施中です。
どうぞお読みください。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 休みも明けて今日はいよいよ予定していた面接の始まりです。

 面接希望者は昨日までに、近くの村からは歩いて、遠くの村からは馬や乗合馬車に乗って移動して来て、あらかじめ確保しておいた屋敷近くの宿に宿泊してもらっています。
朝になるとそれぞれ泊まった宿から、続々と面接希望者が『改革推進部』1階の面接控え室に集合して来ます。
 この面接控室は『改革推進部』の中で一番大きな部屋を使っています。30人もの人を収容できる部屋は、此処だけでしたからね。

 そろそろ面接開始時間の9時になります。全員集まっているようなので開始前の挨拶を行いましょう。

「皆さん、おはようございます。本日は当家の新事業に参加して頂く為の面接に来て頂き、ありがとうございました。昨日はゆっくり休めましたか?」

 見渡した所、具合の悪そうな人も居ませんから大丈夫でしょう。

「初めに自己紹介をします。私はボンバード家の嫡男、アルバート・クリス・フォン・ボンバードです。この度のボンバード家領内改革総責任者で、今日の面接責任者でもあります。私の後ろに立っているのは面接補佐官をして貰うウイリアム・カスバートさんとキスリング・ハワードさんです。」

 僕が紹介すると後ろの二人が軽く会釈をしました。面接希望者達もしっかりとお辞儀しています。

「早速ですが、本日の予定をお話しします。これより面接を開始しますが、面接の会場はこの部屋から廊下を隔てた向かい側にある部屋になります。
 この後順番を決めるくじを引いて貰い、1番になった人から順に会場の方に来てください。大体一人10分程度の時間を予定しています。本日は30人の方がいますので、面接自体に約5時間程度かかる物と考えていますが、途中1時間の昼食時間及び別に小休止をを挟みながら行いますので合計7時間位掛かるものと思って下さい。
 この部屋は控え室として使って貰いますので、常時執事を2名控えさせています。後ろの方に軽食や飲み物も用意しておりますから自由にしてください。トイレの場所などは執事に聞いてくれれば教えてくれます。ここまでで何か質問はありますか?」

 僕の問いに、皆さん特に質問はないようでしたので、話を続けます。

「皆さんは、私が各村に配布した募集要項を十分理解しているものと考えて、雇用条件等の待遇についての説明は此処では置いておきます。
 それでは面接の前に仕事の内容について再度お話しします。
 まず、各村に人を募集した理由についてですが、この度、領内改革を行う為の第1歩として『改革推進部』という部署を発足させました。言葉の通り領内の改革を推進する為の本部となる部署です。この建物の入口に書かれているものに気がついた人も居るでしょう。この『改革推進部』の中に幾つかの局を設置する事になります。そして最初に設置する局として『保険衛生局』を作りました。」

 前置きが長くなりますね。まあ仕方ないでしょう、しばらく聞いて貰います。

「この『保険衛生局』の仕事は公衆トイレの設置、屎尿のくみ取り、収集・発酵管理、農家への肥料の配布、及び村や町の清掃・消毒となります。
 なぜ、この仕事を行わなければならないか。それは、村にしても町にしてもハルケギニアは不衛生すぎることが問題だからです。はっきり言って臭くて汚い。私が初めて町に出た時、あまりの臭さに頭が痛くなって倒れるかと思うほどでした。
 このような状況ではいつ疫病が発生しても不思議では有りません。
 その為、私は集落毎に必要な数だけ公衆トイレという物を設置することにしました。そしてこの公衆トイレ以外で用を足すことを禁止し、違反した場合の罰則も設けます。それから消毒と消臭を魔法薬で行います。これで村や町の衛生状況を改善します。
 次に公衆トイレの屎尿を収集し、一箇所に纏めて発酵させます。この発酵した屎尿は肥料になりますから農民に無料で配り、畑の肥料として使うことを教えます。
 これにより病気の発生を大幅に減少させると共に、田畑に使う肥料を作り農作物の増産と品質の改良を行います。
 こうした事業を行う為に必要な人手として募集を行った訳です。今回採用された人は『保険衛生局』の局員となります。そして、『施設課』、『清掃課』、『管理課』のどこかに配属となり、今言った事業を現場で実施する事になります。
 各課の役割を説明します。
『施設課』はトイレの制作、設置及び補修作業を行います。この課には4人を予定しています。
 次に『清掃課』は村や町の中にある汚物、ゴミ、動物の死体などを収集し、焼却処分にすると共に、消毒薬と消臭剤を使って村や町の消毒及び消臭を行います。この課には2人を予定しています。
 最後に『管理課』は屎尿のくみ取り、収集・発酵管理、農家への肥料の配布といった作業を行います。この課には4人を予定しています。
 以上、合計10人を採用する予定です。なお、作業に必要な服や資材類は此方で支給しますから、あなたたちが用意する物はありません。」

 大体の仕事内容について説明が終わりました。今度は面接についての説明です。

「以上が今回の募集に対する説明です。それではこれより面接の順番を決める為にくじ引きを行います。全員のくじ引きが終わったら、結果を控えている執事に知らせて下さい。それから10分後に1番の人から面接会場に入ってください。なお、午前中は12人の面接を予定しています。残りの18人は午後になりますからそれまで宿に戻るなり、散歩するなり自由にして貰ってかまいません。午後の集合時間は1時です。それから面接の終わった人は宿に戻って貰ってかまいません。
面接の結果については明日の朝9時に発表しますので再度集まってください。」

 説明が終わり、くじ引きが始まりました。僕とウイリアムさん達は面接会場の方に移ります。
 面接会場は奥側に長机と僕たちの座る椅子が3脚、ドアの方を向いて配置しています。その正面に面接者の椅子が1脚、机の方に向いて置いてあります。僕たちの方は中央に僕、向かって右がウイリアムさん、左がキスリングさんです。

 面接会場に移って5分位するとドアがノックされました。

「アルバート様。くじ引きの結果が出ました。」

 執事の一人がくじ引きの結果をもって来ました。結果に併せて面接用の書類の順番を整理します。一番の人は男の人で25歳ですね。
 やっと準備が出来て、ウイリアムさん達と確認が終わった頃、またドアがノックされました。

「どうぞ」

 と言うと、遠慮がちにドアが開かれて男の人が入ってきました。身長180サント位、髪は薄い金髪です。四角張った顔で眉も太く、なかなか頑固と言った感じですが、こんな面接は初めてなのでしょう。どうして良いか解らないようです。

「どうぞ、座ってください。」

 大分堅くなっているようですが、椅子に座りました。

「自己紹介をお願いします。簡単で良いですから、名前、年齢、出身地、今まで何をやっていたか等を話してください。」

「はい。わっ、私はヴェルナーといいます。年は25歳で、リーベナウから来ました。今まで畑を借りて麦を作っていました。よろしくお願いします。」

「有り難うございます。リーベナウというと、ここから南東に30リーグ位の村ですね。ヴェルナーさんの村では何人位の応募者が居ましたか?」

「30人位はいたと思います。村のみんなを集めて村長がお触れの事を話したとたん、我先にと村長に詰め寄っていましたから。男も女も働ける年の者は殆どが希望したと思います。」

「そんなにですか。それでは2人に絞られるまで大変だったでしょうね。」

「はい。後から追加の条件が届きまして、村長が説明したんですが、なかなか諦める人は居ませんでした。一旦解散になって、次の日の夕方にまた集められて話をされましたが、この時村長から指名されたのは私を含めて6人でした。」

「6人ですか?その後は?」

「その後は村長も決められなかったんだと思います。仕方ないのでくじを引く事になり、私ともう一人が当たって此方に来る事となりました。」

 やはり、最後の決定は村長では無理なのでしょうか。それでも6人まで絞れたのはたいした物です。

「やっぱり最後はくじ引きですか。多分何処も同じような状況でしょうね。解りました。それでは、この度の仕事の内容は理解されていると思いますが、3つの班に分かれて働く事になります。あなたはどの班を希望しますか?」

「畑で麦を育てていましたから、肥料に興味があります。出来れば『管理課』を希望したいのですが。」

「そうですか。あなたは独身と言う事ですが、面倒を見る親などは居ないのですか?」

 こういった話を聞きながら、受け答えの仕方や、話し方などチェックし、大体10分位で終了とします。途中、ウイリアムさんやキスリングさんも質問していましたが、特に問題もないようでした。

「ご苦労様でした。これで面接を終わります。後は自由にしてください。」

 こうして一人目が終わり、交代です。二人目は女性で18歳ですね。無い物ねだりですが、面接用の書類に写真が欲しい所です。本人かどうかの確認もやりやすくなるのですが。
 ノックの後入ってきた女性は、160サント位の身長で、明るい茶色系の髪をしています。顔の輪郭は細面で、瞳は綺麗なグリーンですね。椅子に座って貰い、先ほどと同じように自己紹介から初めて貰いました。

 こんな調子で午前中に12人、昼食を挟んで午後に18人の面接をしました。予定通りと言った所ですが、途中に小休止を入れたにしても結構疲れました。最後の面接が終わった時間は5時近くになっていましたから、昼休みを抜いて7時間です。
 その後、ウイリアムさん達と面接結果の確認をしました。『管理課』希望が1人、『施設課』希望が20人で、『清掃課』の希望は9人でした。やっぱり『管理課』は嫌われる仕事でしたね。最初のヴェルナーさんの他には希望者はいませんでした。でも、この仕事が一番重要な仕事ですから、きっちり選抜して割り振りしないとなりません。

「お疲れ様でした。纏めに入りたいと思いますが、それぞれの課に欲しい人材は居ましたか?」

「見た感じ、可もなく不可もなくと言った所でしょうか。中に2人ほど使えるかなと思える人が居ましたが、キスリングの方はどうだい?」

「そうだね、大体同じ感想かな?私の方では3人位、良いかなと思う人が居たが、他は大して代わりはないと思います。」

 二人に目に付いた人達5人の書類を選別して貰い確認しましたが、大体僕と同じような感じですね。僕は他に3人を選別して、合計8人となりました。

「私は此方の3人も使えると思いました。この8人は採用するとして、残りをどうするかですね。」

「そうですね。後の人はどれをとっても大差ないと思いますから。それこそくじ引きにしますか?」

「それもちょっと安直すぎるかな?そうだ、それぞれの生活状況を見て、生活が苦しい人から6人選んでください。出来れば家族持ちの人を優先に。」

 生活が苦しくて家族が居れば、多少きつい仕事でも頑張ってやってくれるでしょう。

「そうすると、此方の6人が一番当てはまると思いますが。」

 6人分の書類が選別されました。この内5人を『管理課』に入れて、ヴェルナーさんと合わせて6人で決定です。結局、男ばかりで合計14人になってしまいましたが、『施設課』4人、『管理課』6人、『清掃課』に4人としましょう。『管理課』と『清掃課』が少ないかなと思っていたのでこれで良しとします。

「男ばかりで14人ですか。4人多くなってしまいましたが、構成としてはこれで良いと思います。それから、今後の事も考えて事務を専門に行う部署も必要だと思うのですが、どうでしょうか?」

「事務というと、どういった仕事をするのでしょうか?」

「主に書類の作成や整理と言った事や、各地から来る案件の受付とかいった外で身体を動かす仕事ではなく、机でする仕事ですね。」

「なるほど、確かに私たちは外での仕事が多くなりそうですから、そう言った仕事をする人も必要になりますね。」

「はい。そこで、こういった仕事は力もいらないので女性にお願いしようと思います。ただ、読み書きや算術が出来ないとダメですから、すぐに使える人が居るかどうかが問題になるんですよね。私の見た限りでは今回の面接で条件に該当する人は1人だけでした。せめて3人位欲しいのですが、素養があるかどうか面接の時間だけでは確認できなかったので、後で別に確認したいと思います。」

「解りました。それでは女性の書類を分けて、明日もう一度確認しましょう。」

「それでお願いします。それでは私は父上に了解を貰いに行きます。今日はこれで解散としましょう。ご苦労様でした。また明日お願いします。」

 ウイリアムさん達には上がってもらって、僕は父上に話をしに行きます。父上は、この時間ならまだ執務室にいると思います。
屋敷に入って執務室に行くと明かりが付いていました。居るようですね。ノックをして返事を待ってから入ります。

「父上、お仕事ご苦労様です。ちょっと時間を頂いて宜しいでしょうか?」

「丁度終わりにしようと思っていたところだ。何かあったかな?」

「先ほど、面接が終わりましたので、御報告に参りました。」

「ああ、朝から大変だったな。それで、どうだった?」

 面接の状況を省略して話しましたが、面接自体の時間が結構掛かったので省略しても説明に15分位かかってしまいました。

「そう言った訳で、当初予定していました10人の所、まず14人を採用としました。こちらが採用者の書類です。」

 採用者の書類を父上に見せます。ざっと確認してもらいます。

「後は、事務専門の部署を作りたいので、明日、女性から3人選抜しようと思います。こちらは読み書きや算術が出来る女性を選びたいので人数が揃うか解りませんが、どうしても集まらなければ子供を集めて教育しようかと思います。」

「良く考えているようだな。解った。教育する事を考えるとかなり時間も掛かると思うが許可しよう。思いっきりやってみなさい。」

「有り難うございます。頑張ります。」

 これでやっと第1段階の『保健衛生局』を始動するための局員が揃います。ついでに『事務局』まで作る事になりましたが、後は装備品を揃えて、作業方法を周知すれば作業自体は開始できます。ほっとしましたね。

 忙しかった面接初日はこうして終わりました。 
 

 
後書き
引っ越しから3週間が過ぎて大部落ち着いてきましたが、先週の雪にはまいりました。
こちらは除雪体制が無いみたいで、いつまでたっても雪が片付きません。
おかげで現場に向かうのにいつもの3倍くらい時間がかかりました。
今週もまた雪が降るようなので、今から心配です。 

 

第18話:領内改革!(その2-4)

 
前書き
面接も無事に終了。アルバート君は事務局作りで美人さんに囲まれます。
 

 
 おはようございます。アルバートです。

 昨日は一日掛けて局員採用の面接を行いました。目一杯時間が掛かって疲れましたよ。
ついでと言っては何ですが『事務局』まで作る事にしてしまいましたから今日も大変になりそうです。

 さて、一夜明けて面接2日目です。昨日話した集合時間の9時に合わせて、面接希望者が集まってきました。
 みんな不安そうな顔をしていますが、募集予定人数から考えると半分以上が落ちる事になるのですから、自分が選ばれるかどうか心配になるのは仕方ないでしょう。

 9時丁度に面接控え室に入ります。

「皆さん、おはようございます。今日も時間通りに集まってくれてありがとうございます。どうぞ座ってください。」

 挨拶の後、みんなには椅子に座って貰います。僕とウイリアムさん達は控え室前側の椅子に机を挟んでみんなに向き合う形で座ります。控え室後方には昨日と同じで執事が2人控えています。今日も良い天気で、南側の窓からは朝の日差しが一杯に入っています。

「昨日は長時間の面接になりましたがご苦労様でした。本日は面接結果の発表となります。採用する事が決まった人の名前をこれから読み上げますので、呼ばれた人は昨日の面接会場の方に移動してください。そちらで配属先やこれからの予定などを話します。
 残念ながら採用から漏れてしまった方達は、そのままこの部屋に残ってください。」

 一度話を区切って、名簿を取り出します。

「まず、一人目はリーベナウのヴェルナーさん。面接会場に移動して下さい。次にブレスラウのハインツさん、アールベルクのヤコビンさん、面接会場の方にどうぞ。」

 次々に14人分の名前を読み上げます。結果を見ると、1つの村で1人を選出したような格好で、同じ村から2人出た所はありません。16の村があぶれた格好になりますけどね。

「以上の14人です。此方の都合で予定より4人多くなりました。今回選に漏れた方達は残念でしたが、又機会がありますので、その時は来て頂きたいと思います。この後、2日分の日当と往復の旅費を支払いますので、貰ってから解散して下さい。」

 残った16人はがっかりしていますが、これも仕方のない事ですから諦めて貰いましょう。

「それから、女性の方達にお願いしたい事がありますので、申し訳ありませんがこのまま残って下さい。」

 『事務局』員の選抜をしないといけませんから女の人だけ残ってもらいましたが、日当と旅費を貰って部屋から出て行く男の人たちから変な目で見られていしまいました。女の人たちも不安げな顔をしていますね。

 ウイリアムさんとキスリングさんに面接会場の男の人たちを任せて、こちらは僕が話をします。落選した男の人たちはみんな帰って、女の人が5人残りました。16歳から22歳の若い女性ばかりで、それぞれ違った感じの美人さんばかりなので服装は地味ですが華やかな感じです。
3人を採用する予定でしたが、帰してしまうのがもったいないような気がしてきました。折角ですから全員採用して何かしら仕事をして貰いましょう。………決してスケベ心ではありませんよ………

「さて、女の人だけ残してしまって申し訳ありません。実はこの度募集をした『保険衛生局』の他に、『事務局』という局を開設する事にしました。この局の仕事は今後各地から来る改革関係の問い合わせや、色々な要請などの受付窓口をしたり、『保健衛生局』などで働く人たちの勤務状況や健康状態などの管理を行う事になります。女の人だけの局にしようと思うので、折角集まってくれたあなたたちから選びたいと考えていますがどうでしょうか。採用条件としては読み書きが出来る事と簡単な算術が出来る事です。雇用条件は『保険衛生局』と同じになります。ここまでは良いですか?」

 さっきまで採用に漏れた事でがっかりしていた人たちが、話を聞く内にだんだん明るい顔つきに変わってきました。やっぱり働きたいのでしょうね。特に質問もないようなので先に進めましょう。

「昨日の面接で、皆さんの素養については大体把握できました。おそらく私の考えている条件に合うのはアールガウから来られたゾフィーさんだけですが、他の方達もこれから教育すれば大丈夫でしょう。『保健衛生局』の募集で来られた人に、別の仕事の話をするのも失礼かと思いますが、『事務局』の仕事でもやりたいと言われる方がいれば雇用したいと思います。」

 だんだん身体が前の方に乗り出してきていますね。何か襲われそうな感じがしてきました。こっちは7歳の子供なのですから、女の人といっても逃げられそうにありません。怖くなってきましたよ。

「まず、ゾフィーさん。読み書き、算術が出来るのはあなただけなので、僕と一緒に他の人の教育も手伝って貰いますから、その分の手当も付けますが、この条件で働いてもらえますか?」

「ぜひお願いします。何でもしますから働かせてください。」

 即答ですか。しかも涙ぐんでますね。何でもしますからなんて言わない方が良いですよ。僕が大人だったら危ない事になっているかもしれませんからね。

「それでは、ゾフィーさんを採用とします。他の方は、これからしばらく教育になりますが、雇用条件には変わり有りません。この条件で働きますか?」

「「「「是非働かせてください。お願いします。」」」」

 思わず仰け反りました。4人の声がハモりましたね。どこかで練習でもしていましたか?

「解りました。全員採用にします。ゾフィーさん以外の人たちは、読み書きと算術をゾフィーさんと僕が教師になって教育します。『事務局』の仕事にはどうしても必要なスキルですから、積極的に勉強してください。平行して『事務局』の仕事も覚えて貰いますから、当分の間は忙しい事になりますよ。」

 これで、美人さんを5人もゲットできました。やっぱり仕事場に女性が居ると華やかになってやる気も起きるってもんですよね。
 なんか、すっかり中年オヤジモードですが………。

「それでは、契約書などの準備がありますから、少しの間席を外します。皆さんはこの部屋で待機していて下さい。昨日と同じで後ろにお茶とお菓子が有りますから、自己紹介などしながら友好を深めて待っていて下さい。」

 急いで部屋を出て、屋敷に向かいます。アニーを見つけてお願いをしました。

「アニー、丁度良かった。新しく19人を雇用したので、親睦会を兼ねて昼食会を開こうと思います。簡単な物で良いので場所も合わせて用意して下さい。それから、女性が5人入りましたので、後で屋敷内で行動するための教育や屋敷内の案内などお願います。」

「アルバート様。一度に5人も女の人を囲うんですか?まだ7歳なのにすごいですね。」

「アニー?何言ってるんですか!?そんな訳ないでしょう。事務関係で必要なので採用しただけです!!」

「冗談ですよ。そんなに焦って赤くならないで下さい。それで新しく雇った人19人分とアルバート様、ウイリアム様、キスリング様で、合計22人分で良いですね。すぐに準備いたします。」

「お願いしますね。」

 変な所でからかわれてしまいました。昼食会をして全員の顔合わせがてら親睦会と行きましょう。19人ともしばらく宿屋住まいになりますから、急いで寮を作らないといけません。独身寮と家族寮がありますから、土メイジに協力して貰って大急ぎで作って貰いましょう。
 次は契約書ですね。『保険衛生局』の事務所に戻ります。自分の机に行き、用意していた契約書を出します。書き間違えとかを考えて多めに作って置いて正解でした。
 雇用条件等に変更はありませんから、ゾフィーさんの分だけ教育講師の項目を追加して、面接室に行きます。

「ウイリアムさん。此方のお話は終わりましたか?」

「はい、大体終わりました。後はこの後の予定の伝達だけです。」

「解りました。これが契約書ですので、内容を読みあげて説明してあげて下さい。問題がなければサインをして貰って下さいね。それから、お昼はみんなで昼食会をしますので連絡が来るまで待って貰って下さい。」

「昼食会ですか?」

「はい。みんなの顔あわせを兼ねて親睦会をしようと思います。」

「解りました。そのように伝えます。」

「お願いします。あと、話が済んだら『保険衛生局』にキスリングさんと来て下さい。」

 次は面会控え室です。

「お待たせしました。此方が契約書です。内容を読み上げますので良く聞いて、問題なければサインをして下さい。」

 契約書の内容を読み上げます。一応読み上げている内容と契約書の内容に齟齬がないかゾフィーさんに確認して貰います。

「ゾフィーさん、以上で間違えないですね。」

「はい、アルバート様。間違え有りません。」

「それでは皆さん、この条件で良ければサインをして下さい。ゾフィーさんは皆さんにサインの仕方など解らない事が有れば教えてあげて下さい。」

 みんな、ゾフィーさんに教わりながらサインを済ませました。読み書きが出来なくても自分の名前位書けることは、面接の中で確認できていますから大丈夫でしたね。
 契約書を回収して確認しました。全員契約完了です。

「ご苦労様でした。今日はお昼に簡単ですが、昼食会を開きます。今日採用された人たちの顔合わせを兼ねて親睦会をしようと思いますから、しばらくこのまま待っていて下さい。準備ができ次第呼びに来ます。
 それから、暫定的にですが、ゾフィーさんを『事務局』のチーフにします。これから連絡事項等がある場合、ゾフィーさん経由で皆さんに連絡するようになりますから、協力をお願いします。」

 伝達事項は以上ですから部屋を出て、『保険衛生局』に移動します。
 『保険衛生局』で自分の椅子に座りながら、今出来たばかりの契約書を確認します。少しするとウイリアムさん達が来ました。

「ご苦労様でした。契約書の方が出来ましたか?」

「はい。大丈夫です。」

 ウイリアムさんがもって来た14枚の契約書を貰います。これで19枚揃いました。

「それでは、今後の事ですが、急いで寮を作らないといけません。資材探しで忙しくって寮の事を忘れていましたから、採用した人たちの住む所がありません。」

「そう言えば、予定はしていましたが忘れていました。」

「皆さんにはしばらく宿屋住まいをして貰います。その間に急いで寮を作って住環境を整備しましょう。家族のある人は早く家族を呼びたいでしょうし、住む所が決まらないと落ち着かないでしょうからね。」

「解りました。土メイジを動員して、大急ぎで作りましょう。なに、設計図は出来ていますから3日もあれば出来ますよ。」

「お願いします。その間に屋敷で行動する為の教育と仕事をする為の導入教育を始めます。屋敷内での行動にも慣れて貰わないといけませんし、女の人たちは読み書きなどの教育もありますからね。
 それから、ゾフィーさんという女性を『事務局』のチーフにしました。これから連絡事項等は彼女を経由して伝える事にします。男の人たちも各課毎にチーフを決めて連絡体制を作って下さい。いずれ、各人の能力などを見て指揮系統を整備しないといけませんが、今は暫定で結構です。」

 後は装備品の製作を急ぐ事も大事ですが、各局毎の制服を作りましょう。同じ制服を着ている事で連帯感も生まれるし、外で活動している時も目立って、家の『改革推進部』だと言う事が判りますから、規律の維持にも良いでしょう。
 そう言った事を決めると、僕は父上の元に報告に向かった。

「父上。報告に来ました。」

 執務室のドアをノックして声を掛けます。

「アルバートか。入りなさい。」

「お忙しい所済みません。採用者が決まって契約書が出来ましたので持ってきました。」

 契約書を父上に渡します。目を通して貰いながら

「昨日お話ししましたが採用者は男性14人となりました。ただ、事務関係を専門にやらせる為に『事務局』を作る事にして別に女性5人を採用しました。なお、この後親睦会を兼ねて昼食会をします。」

「19人か。ずいぶん増えたな。人件費が大変だが、おまえの言っていた通り大事な事業になりそうだから、先行投資として必要な事と認めよう。あまり無駄使いしないように注意してくれ。」

「有り難うございます。最初の出費は大きいですが、絶対成功させて見せますから安心して下さい。それから、大事な事を忘れていました。まだ、みんなが寝泊まりする寮を作っていなかったんです。」

「寮?まだ手を付けていなかったのか?急いで作らないと大変だぞ。それで何が必要なんだ?」

「はい。土メイジを借りられるだけ借りたいのですが。既に設計図は出来ていますから後は材料集めと作るだけになります。」

「解った。たしか今の時期なら5人位空いているはずだから、そちらに回そう。しっかりした物を作らせるんだぞ。」

「有り難うございます。お願いします。」

 これで寮の方は大丈夫でしょう。父上の所を出て、『保険衛生局』に戻ります。
 ウイリアムさん達とも相談して『保健衛生局』の制服を考えました。『事務局』の制服は女の人たちに任せて考えて貰いましょう。
 他に、装備品の製作について確認や、各課に配属された人たちの確認などを行っている内にお昼になりました。

 アニーが知らせに来たのでみんなを連れて屋敷の方に移動します。食堂ではありませんが、大きな部屋にテーブルと椅子を用意してあります。料理も簡単なものですが結構立派に整えられているので、みんな目を丸くしています。
 簡単に自己紹介をして貰った後、楽しい昼食会の始まりです。みんな仕事が決まって安心したのか食欲も旺盛で、隣同士で話をしながら、良い感じで食事が進んでいます。
貴族の屋敷では食事中は会話は禁止なのですが、今日このような場では良いでしょう。

 みんなお腹いっぱい食べて満足したようですから、昼食会は成功ですね。
 その後、少し昼休みを取って、2時位からまた『改革推進部』の建物に戻ります。
 また、男性と女性に別れて、午後は仕事についての細かい説明をします。男性側はウイリアムさん達に任せて、女性側を1階の先ほどまで居た面接控え室より小さい部屋に連れて行きます。
 こっちの部屋には机と椅子が10人分入っていますから、人数的に十分です。この部屋を『事務局』にしましょう。

「この部屋を『事務局』の部屋にします。適当に座って下さい。」

 全員が座ったので、僕も座って話をします。

「まず、皆さんにお詫びがあります。此方の手違いで寮の準備が出来ていませんでした。申し訳ありませんが3日ほど宿に止まって頂く事になります。その間の宿代や食事代は此方で持ちますので安心して下さい。それから、今日までの旅費、宿代、食事代についても日当と合わせて支給します。」

 特に質問等もないようですね。

「次に、皆さんの服装ですが、制服を作りますから、それを着用して下さい。制服のデザインは皆さんで決めて下さい。制作は此方で行っても良いですし、皆さんで作られるのであれば必要な生地を提供します。その辺は話し合って決めて下さい。
 『事務局』は毎日の出勤時間を9時とします。終わりは5時。お昼休みは12時から1時の間の1時間。朝は9時から朝礼とミーティング、夕方は4時半から終了ミーティングをします。
 明日からの予定ですが、まず1週間で屋敷内で行動する為の教育と、仕事をする為の教育を行います。
 屋敷内で行動する為の教育は、さっき昼食の知らせに来たアニーというメイドが講師となって教育します。次に仕事の為の教育ですが、最初1ヶ月間読み書きと算術の教育を行います。この教育は進捗状況によりその後も続けるかもしれません。平行して2週間目から事務関係の仕事についても訓練を始めます。『管理課』などの各課の活動が始まると、『事務局』としての仕事も始まりますから、それまでにある程度仕事が出来るようにする為です。」

 それから、正式に座席の配置を決めて、制服のデザインを話し合いました。最後に終了ミーティングをして今日はお終いです。
 ウイリアムさん達の方も終わったので、今日の纏めと明日の予定を確認して僕たちも解散としました。

 やる事が一杯あって、明日からも大変です。部屋に帰ってゆっくりしましょう。 

 

第19話:領内改革!(その2-5)

 
前書き
アルバート君、大忙しの毎日が始まります。
うまくいくのでしょうか? 

 
 お早うございます。アルバートです。
 面接が終わり『保健衛生局』の他に『事務局』まで作ってしまいました。雇用した人数も予定を大幅に超えて一度に19人です。
 予算オーバーかなと思いましたが、何とかなりそうです。

 そして今日は、雇用した人たちの初出勤日。出勤時間は9時となっています。
 僕は、朝早くから作っていた『事務局』のプレートともう1枚のプレートを持って、『改革推進部』の建物に来ました。まず、1階の『事務局』に使う部屋の扉にプレートを貼り付けます。
 もう1枚のプレートは、1階奥にある一番小さい部屋のドアに貼り付けます。書いてある文字は『改革推進部・部長室』です。つまり僕の部屋になります。屋敷に自分の部屋がありますが、やっぱり仕事用の部屋が欲しいですよね。

 2階の大きな部屋を占有している『保健衛生局』は3つの課に分かれているので、『施設課』はウイリアムさん、『管理課』はキスリングさんに課長として管理して貰います。もう一つの『清掃課』は後で火メイジを課長にして管理して貰いましょう。
 それぞれの『課』はパーテーションで部屋を大まかに分けて使ってもらいます。
 『事務局』は暫定ですがゾフィーさんをチーフにして管理して貰いましょう。
 そして、僕は全体の管理をするので部長としました。『保健衛生局』の局長を兼務する形になります。他に出来る局の局長も全部兼ねる事になりますが、各課はそれぞれの課長がしっかりと管理してくれれば、それほど僕の負担は大きくならないと思います。
 この部屋は5メール四方の大きさで、少し大きめの机と椅子がセットされています。椅子の背中側に大きな窓があって日当たりも良い感じです。ちゃんとカーテンも掛けて貰いましたから、眩しすぎる事もありません。応接セットも入れておいて貰ったので来客があった時にも使えますね。
 その内、もっと忙しくなったら秘書が必要になるのでしょうか。

 その後、一旦屋敷に戻って家族と一緒に朝食を食べました。食後は今日の予定とか、昨日の懇親会の事とか話して、お茶を飲み終えてからまた『改革推進部』の建物に行きます。
 9時前にはみんなそれぞれの部屋に集まりました。アニーも昨日の内に講師の事を話しておいたので部長室の方に来ています。
 ウイリアムさん達とは、昨日のうちに今日やる事の打ち合わせをしておきましたから、今日も『保健衛生局』の方は任せて、僕は『事務局』の方にアニーと一緒に行きます。

「皆さん、お早うございます。」

「「「「「お早うございます!!」」」」」

 良い返事ですね。やる気満々と行った所でしょうか。

「皆さん揃っていますね。それでは朝礼を始めます。
 今日の予定ですが、午前中、こちらのアニーを講師に当伯爵家の屋敷内における決まり事を教育します。この教育には屋敷内での行動に関する実習もありますから、アニーの指示に従って、しっかりと覚えて下さい。
 昼食を挟んで午後は読み書きと算術の教育です。こちらの講師はゾフィーさんと私になります。途中休憩を取りながら午後一杯行います。
 何か質問はありますか?無ければ私の方からは以上です。それではこの後はアニーに任せますので、皆さんはしっかりと教わって下さい。」

 こちらはアニーに任せておいて大丈夫でしょう。僕は急いでメイジが集まっている屋敷の部屋に向かいます。

「お早うございます。こちらに土メイジの方はいますか?」

 そう聞くと、5人のメイジが集まってくれました。父上の言っていたとおりですね。

「いらっしゃいませ、アルバート様。お待ちしておりました。私はヴィルムと申します。土のメイジでトライアングルです。」

「ヴィルムさん、よろしくお願いします。すでに父上から連絡があったと思いますが、新しく雇った人たちの家を作らなければならないので協力をお願いします。皆さんも忙しい事と思いますが、よろしくお願いします。」

「はい、伯爵様から伺っております。それで、どのような家を作るのでしょうか?」

「この設計図を見て下さい。全部で5枚の図面がありますが、この通りの建物を作って欲しいんです。独身者用の寮は2棟で女性用と男性用になります。家族用の家は一軒やで、10棟お願いします。それから少し大きくなりますが、食堂1棟と公衆浴場1棟です。材料は出来るだけ良いものを使って、丈夫な建物を作って下さい。
 建設する場所は、屋敷の敷地の南側にある平地が良いでしょう。5枚目の図面に建物の配置が書いてありますので、それを参考に配置して下さい。
 この建物の数で、どれくらいで出来ますか?」

 ヴィルムさんが設計図を確認しています。

「これ位なら、3日もあれば出来るでしょう。内装もこの図面の通りで良いんですね。」

「ええ、図面の通りでお願いします。住んでみれば足らないような物も出てくるかもしれませんが、その時は後から作りますから大丈夫です。」

「解りました。すぐに掛かります。」

 これで寮の方も良いでしょう。それぞれの寮に10人位入れるお風呂も作るので毎日汗を流す事が出来ます。一軒家の風呂は3人位入れる大きさですが、十分でしょう。
 公衆浴場が出来たらお風呂の壁に日本の銭湯のような富士山でも書きたい気分です。

 食堂の方は専門のコックを雇わないといけません。屋敷のコックではこっちまで面倒を見られないでしょうから、どこかに良いコックはいないでしょうか。トリステインの魔法学校にいるマルトーさんが来てくれたら良いのですが、ちょっと無理でしょうね。

 食堂が運用されるようになったら、是非とも味噌としょうゆが欲しいです。米も探したい所ですが、今のところ麦しか見つけていません。一度タルブ村に行ってみたいものですね。そのうち適当な口実を考えて行ってきたいと思います。

 ちょっと厨房に行ってコック長に知り合いがいないか聞いてみましょう。

「コック長いますか?」

「はい。これはアルバート様。このような場所に何かご用ですか?」

「ええ。実は今度新しく雇った人達の為に食堂を作る事にしたのですが、そこで働いてくれるコックを探しているのです。誰か良い人知りませんか?」

「それは何人位入る食堂ですか?」

「今のところ1回の食事に20人弱ですが、最終的に1回で70人前後は入ると思います。4人掛けのテーブル20個と椅子を80脚用意する事になっています。」

「結構多いですね。料金は取るのですか?」

「一日3食提供できるようにして、それぞれ5スーにしようと思っています。」

「3食とも出すんですか?町の宿屋より忙しくなるんじゃないですかね?味もそれなりの物を出すのなら、よほど腕の良いコックを雇わないとダメですよ。」

 かなり厳しいようですね。やっぱりマルトーさんしか居ないかな?

「それで、どうでしょう。誰かあてはありますか?」

「ちょっと待って下さい。心当たりはありますから2、3人聞いてみます。いつまでに見つければいいですか?」

「食堂自体は3日位で出来ますが、運用開始はもっと遅くても良いです。そうですね、10日位で見つかればいいでしょうか。」

「判りました。探してみます。」

「お願いしますね。」

 コックを見つけるのは大変そうです。見つかるまでは宿屋の食事とかで我慢して貰うしか有りません。時々は屋敷の方で食事を提供しても良いでしょう。代金は経費で持つとして、宿屋の方にも話をしておかないといけませんね。

 それから、『改革推進部』の方に戻って、仕事場に使っている1室に入りました。ここには南方から持ってきたゴムの樹液や椰子の実が保管してあります。
 屋敷から持ってきて貰った布を自分の足に巻いて、長靴の型を作ってみます。その結果、この方法では、どうしても足にぴったりとしすぎて、履いたり脱いだりする事が難しいと解りました。
 一旦布をほどいて考えます。良い事を思いつきました。屋敷に行ってアニーに使い古した靴下を2足分貰います。
 今度は使い古した厚めの靴下を片足毎に2枚づつ履いて、その上に薄い布を巻きます。さらにその上から石膏を塗りつけ、練金で乾燥してから布の部分を含めて真ん中から左右に割って足から外しました。
 この石膏をもう一度一つに貼り合わせて、中に細かくした木くずをまんべんなく詰めます。この木くずを練金で一つの木に戻して、石膏を外せば足型の出来上がりです。
 厚めの靴下を履く事で、実際に足より少し大きめの型が出来ました。この型に薄い布を巻いて長靴の芯にします。両足分を作った所でお昼になってしまいました。

 部長室に戻ると、アニーが講義を終えて帰ってきました。

「アルバート様、午前中の講義が終わりました。」

「ご苦労様でした。講義の進み具合はどうですか?」

「概ね良い感じだと思います。あと4、5日続ければ十分でしょう。」

「そうですか。明日からもお願いしますね。」

「はい。それでは今日はこれで屋敷の方に戻ります。また明日来ますね。」

「有り難うございました。」

 アニーの方は良いようですね。午後からの勉強はどうなるでしょうか。ゾフィーさんが頼みになりますが、やってみないと判りません。
 その後、ウイリアムさん達も来ました。『保険衛生局』の方も導入教育は順調に進んでいるようです。
 さっき作っていた長靴の芯を二人に見て貰いました。子供の足なので小さいものですが、作り方としてはわかりやすいと思います。

「これが長靴という物の内側になるのですか?」

「そうです。型にした木は、僕の足より靴下2枚分大きくしてあります。こうすれば、履いたり脱いだりするときに足との間に余裕が出来るので、やりやすくなると思います。
 あとは、この布地の上にゴムを塗って防水します。ゴムの厚さは0.1から0.2サント位で良いと思いますが、その辺は作ってみて考えましょう。同じ要領で手袋も作ります。試作品なので僕の足型を作ってみましたが、大量に作る場合はやっぱり0.5サント刻みで大きさを決めて型を作っておいた方が早いでしょうね。
 他には前掛けと防毒マスクですが、こちらも早く作らないと仕事になりませんから、今週中に試作品くらいまで進めたいと思います。」

「それでは空き時間にでもゴムの材料を作っておきましょう。炭素と硫黄を練金しておかないとなりませんでしたね。」

「ええ。ゴムの樹液に混ぜて練らなければなりませんから、両方とも必要です。活性炭の方は僕が時間を見て作ってみますので、ゴムの材料の方はお願いします。」

 その後、屋敷で昼食を取って一休みしてから、午後の講義に向かいます。教材用に石版と石筆、それから小さい頃使っていた絵本を何冊か持ってきました。
 『事務局』に行くと、みんなそろって待っています。

「それでは、午後の講義を始めます。文字の読み書きにはこの辺から始めた方が解りやすいと思いますから、教材に絵本を持ってきました。」

 そう言って、みんなの前に絵本を並べます。

「1冊ずつしかありませんから、講義で使うときはみんなで集まって見てください。
 今日はまず、文字を覚えて貰います。こちらの石板を一人1枚ずつ取ってください。石筆は一人3本です。この石筆で石版に文字を書いて覚えます。まず、ゾフィーさんにお手本を見せて貰います。ゾフィーさん、私が言ったとおりに石版に書いてください。」

 ゾフィーさんが用意出来たのを確認して、ハルケギニアのアルファベットを順番に言います。ゾフィーさんは言われたとおりに石版に文字を書いていき、みんなはそれをじっと見つめていました。

「これが文字の基本になるアルファベットです。この文字を組み合わせて単語を作り、単語を組み合わせて文章を作ります。気を付けないといけないのは話す言葉と書く文字は微妙にニュアンスが異なる場合がある事で、その辺は講義の中で覚えて貰います。
 それでは、文字を書く練習をしましょう。ゾフィーさんが書いた文字を自分の石版に書き写してみてください。」

 みんながゾフィーさんの書いた石盤の文字を、自分の石版に書き写しています。僕とゾフィーさんはみんなの書いている所を回って、書き方のおかしな所などを注意していきます。
 1時間続けて、だいぶ慣れてきたようなので休憩にしました。みんなは自分書いた石盤を持ち寄って、お互いに見せ合いながら感想を言い合っています。
 こうして見ていると結構仲が良さそうなので安心できますね。

 10分休憩した後、次の講義に入ります。

「文字にも慣れてきましたね。文字は読み書きするための基本ですから、出来るだけ時間を取って練習し、確実に覚えてください。
 それでは、今度は単語に移ります。まず、絵本を一度読んでみましょう。ゾフィーさん、表紙の赤い本をゆっくりで良いので読んでください。」

 ゾフィーさんに音読をお願いして、一度通しで読んで貰います。そんなに長い話ではないのでゆっくり読んでも大して時間は掛かりません。

「皆さんも聞いた事のあるお話しだと思います。このお話の中に出てくる単語を一つずつ覚えてみましょう。」

 そう言って、絵本に出てくる単語を文章の最初から順番に抜き出して石版に書きます。1段落分を書き出すと、それをみんなに見せながら読み方と意味をゾフィーさんに言って貰います。
 次に、みんなにその単語を石版に書かせ、読み方と意味を確認させていきます。この作業をまた1時間続けました。

「どうですか?最初の1段落分ですが、聞いた事のあるお話を絵本を見ながら書き写して行くと、覚えやすいでしょう。それでは10分間の休憩です。」

 さっきの休み時間と同じように、みんなで石版を見せ合って話をしています。ゾフィーさんを中心にして、上手く纏まってきているようですね。
 その後も、絵本を使って文字の勉強を続け、4時45分から終了ミーティングをして、5時になったので解散としました。どうしても人によって覚える時間が違うから、勉強の進み方も変わってきますが、今のところ特に問題のある人は居ないようです。

 僕は仕事場に戻って、椰子の殻を使った活性炭作りを試してみました。
 作ろうと思っている活性炭は、粒状活性炭といわれる物で、作り方はガス賦活法で行こうと思っています。
 まず椰子の殻の一番内側にある「シェル」と呼ばれる部分を取り出し、練金で炭にして椰子殻炭を作ります。「シェル」は1個の椰子の殻から0.1リーブル位しか取れないので炭にすると更に半分位になってしまいますね。
 使ったのは調査から戻って最初にウイリアムさん達に試食させてみた椰子の殻です。中身を取り出してから4日位放置したので、良い具合に乾燥しています。この殻から「シェル」を取り出し、練金で炭素にしていきます。イメージしやすかったのでそれほど苦労しないで炭素に出来ました。
 ここまでは良かったのですが、問題になったのは加熱するために必要な炉です。
 ガスとして使う水蒸気と椰子殻炭を一緒に密封して加熱するのですが、加熱温度が900度位になる事と、完全に密封しなければならいので、使えるような炉がハルケギニアにあるとは思えません。たしか炉の内側がセラミックで出来ていたように覚えているのですが、あれは電気炉だったかな?
 炉を自作するとすればチート能力全開で練金して出来ない事はないと思いますが、加熱をどうやって行うかですね。エルフに頼んで火石を貰うしか無いかな?
 これは時間が掛かりそうなので、じっくり考えましょう。
 先に吸収缶の本体部分を作ってしまいます。小さめの缶詰をイメージして練金で作り出し、片側に面体に取り付けるためのねじを作ります。ねじの部分は中空にしてそこから活性炭が零れないように目の細かい網を取付けておきます。ここに活性炭を詰め込んで、さらに目の細かい網で蓋をしてから格子状の蓋をして出来上がりです。吸収缶の各パーツは出来ましたから、あとは活性炭を何とかすれば良いだけです。
 この吸収缶でどれくらいの性能が出るか、試してみないと解りません。それに面体を作るためにはゴムが必要なので今日はここまでにしましょう。

 僕が作業をしている間にウイリアムさん達も来て、ゴムの材料を作っていました。蝋燭を燃やして出てきた煤を集めて、さらに細かい炭素の粉に練金したり、硫黄の塊を細かい粉にしています。それから、ゴムの樹液と練り合わせる時に使う大きな鉄の寸胴を作り出しました。混練りを行うためのゴーレムは作業を行う時に作りますから、あっちも今日はこれ位で終わりのようです。

 後は、今日行った事についての連絡会をして、僕たちも解散しました。
 屋敷の方に戻るともう夕食の時間だったので、そのまま食堂に行きました。お腹一杯食べて、食後のティータイムの後はメアリーと少し遊んであげました。忙しくなるとなかなか遊んであげられないので寂しそうです。時間がある時は出来るだけ相手をしてあげようと思います。
 それからお風呂に入って、寝るまでの間少し本を読みました。だんだん自由な時間が無くなってきます。

 それでは、お休みなさい。 

 

第20話:中休み(虚無の日で息抜き?)

 
前書き
毎日バリバリお仕事モードのアルバート君です。
たまの休みもなかなか気疲れがあって、休みになりませんね。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 今日も良い天気ですね。
 『改革推進部』では昨日から新しく雇用した局員の教育が始まっています。今日は2日目です。
 『保健衛生局』と『事務局』に分かれて別々に教育を行っていますが、皆さん覚えが良いようで順調に進んでいます。

 朝食を取ってから、時間を見計らって『改革推進部』の『部長室』に行きます。
部屋に入ると、先にアニーが来ていました。早いですね。僕が来てからすぐにウイリアムさんとキスリングさんも来ましたから、簡単にミーティングをして今日の予定を確認した後、それぞれの局の部屋に移動しました。

 『事務局』の方は昨日と同じように朝礼をして、今日の予定を伝えると、そのまま午前中はアニーに任せて僕は仕事場の方に入ります。

 ゴムを加硫する為の炉が欲しかったので、元々この部屋の壁に作り付けになっていた暖炉を練金で改造しました。もう暖房用にはなりませんが、オーブンのように内部をムラ無く一定の温度(約140℃)で加熱できるようにしました。ゴムを加硫する為には、5時間位加熱処理しないといけませんから、温度が安定するように、細かい熱の調整が出来るようにしておきます。元が暖炉なので燃料は薪になるのですが、結構良い感じに出来ました。

 その作業を終えると、昨日ウイリアムさん達が作っていた大きな寸胴をレビテーションで浮かべ、外に運びます。適当な場所に設置して、動かないようにしっかりと固定しました。それから一旦仕事場に戻り、大きな瓶と昨日ウイリアムさん達が作った炭素の粉、硫黄の粉を持ってきます。よほど念入りに作ったようで、どちらの粉も驚くほど細かくなっています。

 次に身長2メールのゴーレムを練金して、近くの森から適当な長さの木を取ってこさせます。その木を練金で大きなしゃもじ状に整形し、準備完了です。

 万一のためにゴムの樹液はディテクトマジックを改良した魔法で組成を分析して有りますから、やろうと思えば練金で作る事も出来るようになりました。しかし、結構複雑な組成なので、練金では少量ずつしか出来ませんから、持っている分を大事に使って慎重に作業を行いましょう。

 持ってきた大きな瓶の蓋を開けます。
中には南方の森で集めたゴムの樹液がたっぷり入っていますが、採取してから大分時間がたったので、真っ白だった樹液は瓶の中で固まって少し黄色くなっています。
これを1/3ほど切り出して寸胴の中に移し、ゴーレムにしゃもじで良く練らせます。素練りですね。充分樹液の分子が細かくなるまで早めに一定の速度でじっくりと練らなければなりません。
 分子が細かくなって良い具合に練り上がった所で、計量カップで分量を量りながら炭素を加え、ゴーレムにかき混ぜさせます。混練りです。
人間がやろうと思うとかなりの力がいるので、こんなに早い速度で一定に練るのは無理がありますが、ゴーレムにやらせると上手くコントロールすれば、下手な機械より上手く練る事が出来ます。目測になりますが、良さそうなところで炭素を加えるのを止めます。入れた炭素の量は記録しておきましょう。
 さらに少量の硫黄の粉を入れて練り上げます。これで混練りも完了です。

 ゴーレムの仕事は終わったので土に返して、レビテーションで寸胴を浮かべ、仕事場に運びます。残った材料も仕事場に運んでから、昨日作った長靴の芯を出して台の上に逆さまに立てました。
 今度はへらを使って出来たゴムを長靴の芯に均一になるように注意して塗っていきます。一度塗って練金で乾かし、もう一度重ね塗りして適当な厚さに調整します。大体0.1サント位の厚さになりましたから、試作品としてはこれで良いでしょうか。
 それから、長靴の底に合わせて作った、靴底の型に残ったゴムを流し込み、先に出来た長靴のパーツと一緒に炉に入れて加熱します。目視でしか確認できませんが、うまくに加熱できているようですね。加熱温度と加熱時間を記録しながら様子を見ます。

 加硫には5時間位掛かるので、残ったゴムに固定化の魔法を掛けて一旦しまっておきます。
 次に作るのは手袋ですが、どうやって作ったらいいでしょうね?長靴と同じように自分の手に手袋を付けて型を取る方法が簡単かな?一回やってみましょうか。
 その為には、まず手袋を手に入れないといけませんから、また後でアニーに頼みましょう。

 しばらくすると午前中の講義が終わり、部長室にアニーが戻ってきたので、手袋が欲しい事を伝えました。明日までに探して持ってきてくれるそうです。ウイリアムさん達も午前中の教育を終えて戻ってきたので昼休みにする事にしました。

 昼食後、一旦仕事場に行って炉の様子を確認し、それから午後の講義に行きました。
 午後の講義は昨日の続きで、絵本を教科書に、単語の読み書きをして文字を覚える事に終始しました。ゾフィーさんが頑張ってくれるので助かります。
 4時に一度講義から抜け出して仕事場に行き、炉から長靴を出しました。
そのまま自然に冷めるのを待って、出来具合を確認しましたが、ちょっと柔らか過ぎですね。記憶にある前世の長靴に比べると、フニャフニャです。
ゴムが薄すぎるのか、途中の練りや炭素の配合が悪かったのか、どちらにしろ成功とはいえません。靴底の方もぜんぜんダメです。やっぱり見よう見まねでは最初からうまくいく訳がありませんね。
 試作第1号として飾っておきましょう。

 時計を見ると丁度終了ミーティングの時間なので『事務局』の部屋に戻り、みんなで今日の進み具合や反省点などを話し合って、5時に解散しました。

 こんな調子で今週は毎日、午前中は仕事場で作業用の防具や道具の試作品を試行錯誤しながら作り、午後は『事務局』のみんなの教育をして過ぎました。
 長靴は、ゴムに入れる炭素や硫黄の配合を変えてみたり、練りの速度や時間を変えてみたりして、ようやく使える物が出来るようになりました。ただ、ゴムの樹液が無くなってしまいましたから、近いうちに取りに行かないといけません。それでも、僕のサイズだけですが、長靴と手袋、それから前掛けもできたので、ウイリアムさん達にも見て貰い、今後の参考にすることが出来たようです。

 この週の途中、ラーグの曜日に土メイジのヴィルムさんから、頼んでおいた建物類が出来上がったと連絡があり確認に行きました。屋敷のすぐ外ですが見事な配置で綺麗な建物が達ち並んでいます。建物の周りも芝生に変わっていました。
 中に入ってインテリアも確認しましたが、これなら誰にも文句は言わせません。一通りの家具も揃っているし、壁紙も明るくて落ち着いた色だし、ヴィルムさん達は良い仕事をしてくれました。

 公衆浴場なんか、僕が設計図に書いた、凝りまくった指示の通りに出来上がって、すっかり銭湯になっています。床も壁もタイル張りで、ちゃんと木の桶や椅子もあります。一列に6人座れる洗い場は、それぞれ二つ並んだ蛇口から水とお湯が出るようになっているし、鏡も1枚ずつあります。座る人は居ませんが脱衣場にはちゃんと番台もありますよ。男なら一度は座ってみたいと思いませんか?

 食堂も素晴らしい出来ですが、コックが居ないと運用できないので、何時から使えるか解りません。もったいないので早くコックが見つかると良いのですが。
 屋敷に行ってヴィルムさん達にお礼を言って来ました。すぐにみんなにも知らせて、その日の内に宿屋から寮の方に引っ越しです。食事だけはもう少しの間、宿屋の方を使う事になりますが。家族も呼んで一緒に暮らせるので家族持ちの人たちは喜んでいました。もちろん、家族の旅費も出してあげましたし、宿屋での食事代も出します。

 そして今日は虚無の日で休日です。今週はめいっぱい働いたので、休みがとても嬉しく感じます。
 今日くらいのんびりしたいのですが、皇帝にも進捗状況を説明しないといけませんから、今日は久しぶりに『ヴァルファーレ』を呼びましょう。
 朝食の後、お茶を飲みながら父上と母上にそのことを話すと、聞いていたメアリーがふくれました。せっかくのお休みだから遊んで欲しかったようです。今週はあまり相手が出来ませんでしたからね。

 それでは、一緒に皇城に連れて行きましょう。『ヴァルファーレ』に二人乗り用の座席を付けて、皇城まで飛んであげれば喜ぶでしょう。『ヴィンドボナ』に出て買い物も良いかもしれません。
 母上にメアリーを連れて行く許可を貰いましたが、母上も『ヴァルファーレ』に乗りたそうなのには困りました。三人用の座席は作っていませんからいっしょに乗るのは無理です。じと目で見られるのを振り切ってメアリーを連れていそいで外に逃げました。いつもの訓練場まで行って『ヴァルファーレ』を呼びます。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 空が裂けて『ヴァルファーレ』が飛び出してきます。心なしか咆哮が嬉しそうに聞こえます。一週間ほったらかしでしたからね。

「『ヴァルファーレ』。おはよう。調子はどうですか?」

[我の調子は万全じゃ。しばらく呼ばれなかったので退屈しておった所じゃ。もっとちょくちょく呼ばぬか!!]

 やっぱり、退屈していたんですね。怒られてしまいました。

「済みませんでした。私も仕事が忙しかったので呼ぶ暇がありませんでした。これからは気を付けますね。」

[解ればよいのじゃ。それで今日は皇城か?]

「はい。メアリーと二人乗りでお願いします。」

[ふむ、今日は妹孝行か。兄という者も大変じゃの。まあ、たまにはそれも良いじゃろう。乗るが良い。]

 相変わらず、偉そうですね。さっそく座席を取付けて、メアリーを前の席に乗せしっかりとベルトで固定してあげます。それから僕も後の席に乗りベルトを締めました。

「準備完了です。それではお願いしますね。」

[了解じゃ。それでは行くぞ。]

 翼を広げてゆっくりと上昇を始めます。今日はメアリーが乗っているので、いつもの急上昇は無しですね。『ヴァルファーレ』も結構気を使っているようです。
 綺麗な青空の中を、雲を下に見ながら飛んでいくのはいつもながら気持ちが良いことです。メアリーも大喜びで、あっちこっちを指さしては、あれは何と僕に聞きます。メアリーは何度か『ヴァルファーレ』に乗せて貰った事がありますが、屋敷の上空を旋回するだけでしたから、こんなに遠くまで飛ぶ事はなかったので初めての景色なのです。
 1時間程度の飛行ですが、ここ1週間、講義と試作品作りばかりやっていて溜まった鬱憤が、すっかり晴れるような感じです。やっぱり空を飛ぶのって良いですね。

 皇城の上まで来ましたが、侍従の方や女官の方達にしてみれば、いつもの事なので突然飛んできても驚く人はもういません。
 今日の警備担当はマンティコア隊のようですが、近くまで上がってきても、誰何もせずに軽く手を振って離れていきました。『ヴァルファーレ』に対しては警備行動もすっかり形式化してしまっていますね。
 皇城の庭に着陸すると、女官のスピネルさんが待っていました。メアリーのベルトを外して、『ヴァルファーレ』から降ろしてあげます。

「スピネルさん、こんにちは。今日はメアリーも連れてきましたのでよろしくお願いします。」

「いらっしゃいませ、アルバート様。メアリー様もお久しぶりです。良くいらっしゃいました。それではこちらにどうぞ。」

「はい。それじゃあ、私は皇帝閣下とお話ししてきますので、『ヴァルファーレ』は自由にしていて下さい。」

 そう『ヴァルファーレ』に言って、スピネルさんの案内で謁見の間に行きます。控え室で入室の許可を待つ間に、スピネルさんにメアリーの事を頼んでおいて、僕一人で謁見の間に入りました。
 謁見の間には、いつもと違って皇帝の他に母上の妹姫のクリスティーネ様とエーデルトルート様がいました。ここにいるのは珍しい事ですね。

「皇帝閣下。早速お目通りをお許し頂き有難うございます。クリスティーネ様もエーデルトルート様もお会いできて光栄です。」

 僕が礼を取って挨拶すると、皇帝が笑って言いました。

「アルバート。いつも言っているがそんなに畏まって話さなくとも良いのだぞ。おまえは我が孫で皇子のようなものなのだから、もっと気楽にしないか。」

 いつの間にか皇子なってしまいました。僕は認めていないのですが、皇帝と両親の間でどんな話が行なわれているのか非常に心配になります。

「そうですよ。アルバート。あなたは私達の弟のような者です。もっと普通にしていなさい。」

 クリスティーネ様にも言われてしまいました。こちらは弟ですか?確かに兄や姉がいたら良いだろうなとは思った事もありますが、姫様達が姉になると別の気苦労が出来そうなので、ここはスルーしたほうが良いでしょうね。

「有難うございます。早速ですが、ボンバード家の領内改革の進捗状況についてご報告したいと思います。」

 それから、ここ1週間の状況を報告して、これからの予定を説明しました。さすがに一度に19人も雇用したと聞いて、皇帝も驚いたようです。

「一度に19人も雇用するとは、思い切った事をしたな。それに雇った者を住まわせるために新しく家を造ったというのも、珍しい考えだ。食堂に公衆浴場というのも面白い。儂も一度見に行くとしようか?公衆浴場という物はもう入れるのか?」

「お父様。行かれるときは私達も是非連れて行ってください。まだ一度もお姉様のお屋敷に伺った事が無いのです。久しぶりにゆっくりお話しもしたいし、アルバートの行なっている事もとても面白そうですもの。実際に見てみたいですわ。」

 皇帝と姫様達の領地行幸ですか?そんなイベントは御免被りたいのですが。
ぞろぞろ王家の紋章の入った馬車を押し並べて、街道を行列造って領地まで来るなんて目立って仕方ありませんよ。その上、公衆浴場に入る?皇帝や姫様達の入った公衆浴場ってなんですか?そんな事が他の貴族達に聞かれたらボンバード伯爵領のツアーが出来ますよ。こぞって貴族達が公衆浴場に入る様が目に見えるようです。あくまでも公衆浴場は局員とその家族のために作った物で、広げたとしても近くの領民が入りに来る位しか考えていません。「皇帝閣下御入浴の湯」なんて事になったら、領民などは入れなくなってしまいます。
 父上と母上ならそんな事になっても気にしないで単純に喜んでいるのでしょうが、僕としてはこれ以上目立ちたくありませんし、改革中に他の貴族達に領内に来て欲しくもありません。
 そうかといって、僕には皇帝や姫様達のやる事を止める事など出来ませんから、考えていると胃が痛くなりそうです。何とか誤魔化して、無かった事に出来たらいいのですが。

「そういえば、食堂のコックが見つからないと言っていたな。」

「はい。食堂は完成したのですが、未だにコックが見つからないので運用が出来ない状況です。しかし、当家のコックに心当たりを探して貰っていますので、もうすぐ見つかるものと思います。」

「そうか。もし見つからないようであれば、此処のコックを一人回そうかと思ったのだが。」

 皇城のコックなんて連れて帰ったら、どんな料理を出されるか解りません。領民の食べる料理なんて作った事もないでしょうから、5スーの料金で皇帝が食べるような料理が出てくるなんて、冗談みたいな事が起きるかもしれないのが怖いところです。これは何が何でも家のコックに見つけて貰わないといけません。

「ええっと、御報告致します事は以上となります。今日は妹を連れてきて待たせておりますので、失礼いたします。この後は『ヴィンドボナ』に出て買い物を付き合う予定になっておりますから、また近いうちに報告に参りますのでよろしくお願い致します。」

 さっさと撤退するに限りますから、ご挨拶をして急いで退室しようとしたのですが、姫様に掴まりました。

「メアリーも来ているのですか?早く言ってくれればいいのに。せっかく来てくれたのだから、お昼を一緒に食べましょう。」

 と、クリスティーネ様が言えば、エーデルトルート様は

「まあ、今どこにいるの?まだお昼には時間もあるからあちらでお話でもしましょうよ。」

 と言い出して、あっという間に二人そろって謁見の間から出て行きました。こうなってしまっては、もう逃げられません。まさか妹を置いていく訳にも行きませんから、昼食に付き合わないといけない訳です。皇帝がニヤニヤしているのが凄く気に障るのですが、何とかならないでしょうか。
 やむを得ず皇帝ともうしばらく話をして、昼食の時間にいっしょに食堂に移動しました。すでにメアリーと姫様達は来ていて、3人で話の花が咲いています。
 結局、昼食をご馳走になって、しばらく食後のティータイムを楽しんだ(?)後、やっと開放されたのは3時近くなってからでした。女の子達って、これだけの時間、いったい何を話していたのでしょうね。

 その後は『ヴィンドボナ』に出ました。あちこちの店を見て回って、メアリーが欲しいというものを買い、5時前にやっと皇城の庭に戻ってきました。
 『ヴァルファーレ』は、女官の方達や竜騎士隊の方達を乗せてあげていたようですね。相変わらずの人気者です。

「『ヴァルファーレ』。お待ちどうさまでした。用事も終わりましたから帰りましょう。」

 また、前の座席にメアリーを乗せてベルトで固定し、僕も後ろの席に座ってベルトを締めます。
 見送りに来ていたスピネルさんに手を振って、『ヴァルファーレ』に出発の合図をしました。『ヴァルファーレ』は大きく翼を広げて飛び上がります。
 綺麗な夕焼けを見ながら帰りの飛行も何事もなく、小1時間で屋敷に帰り着きました。着陸して『ヴァルファーレ』にお礼を言うと、『ヴァルファーレ』も異界に帰って行きました。『ヴァルファーレ』も今日は楽しかったようですね。

 何か疲れた虚無の日でしたが、メアリーは喜んでくれたので良しとしましょう。
 夕食を食べて、両親に今日の事を話しました。皇子や弟と言われた事も話しましたが、見事にスルーされてしまいました。仕方ないのでさっさとお風呂に入って、ベットに潜り込んで、もう寝ます。

 休みのはずなのに疲れたな~………。おやすみなさい。 

 

第21話:足りない材料はリゾートに行って!?

 
前書き
領内改革は順調な滑り出しで、アルバート君も気分は上々です。
今日は足りなくなった資源を調達しに、南方へと向かいます。
空の旅は快適でしょうね。
*今後の話のために一部修正・加筆を行いました。2018.11.25 

 
 おはようございます。アルバートです。

先週は教育と防具類の作製で目一杯働きました。流石に疲れましたが、そこは若さで乗り切って、短い休日でしっかりとリフレッシュ出来ました。

 今日からまた、新しい一週間が始まります。
先週一週間で『保健衛生局』員の教育も一段落したので、今週は公衆トイレの設置作業に入ってもらおうと思います。
 この作業は、特に防具もいらない土木作業と大工(建設?)作業なので、主に『施設課』の仕事になりますが、まだ作業が始まっていない『清掃課』と『管理課』にも手伝って貰って、各町や村に必要な台数を設置してもらう事にします。
 おそらく全ての町や村に公衆トイレを設置するには、2~3ヶ月程度の時間が掛かるものと想定していますので、どんどん作業を進める必要が有ります。
 設置作業がある程度進んだ所で『清掃課』と『管理課』の作業を始めれば、丁度良い位でしょう。

 『事務局』員は、読み書きの勉強はかなり進んで、ある程度の書類は読む事も出来るようになりました。もちろん専門的な言葉などはまだ無理がありますが、このまま実践的に覚えていけば充分読めるようになるでしょう。書く方はなかなか難しそうですが、このまま勉強を続ければ近いうちにすらすら書けるようになると思います。字の上手い下手は別ですが。
 算術の方は出来る人と出来ない人がはっきりと分かれてきました。小学校の頃を思い出すと解ると思いますが、足し算と引き算は割と簡単に覚えられるのに、掛け算や割り算になると出来ない人が増えてきます。特に割り算に抵抗がある人が多いようですね。
 分数の計算になると、かなりこんがらがってしまうようで、どうやって教えたらいいのか解らなくなります。
 この際、算術は出来る人に任せて、苦手な人はそれ以外の書類作成をやって貰いながら、算術は仕事の合間にゆっくりと覚えていってもらう方が良いように思えます。
 幸い、書類仕事が本格的に始まるのはまだ先の事でしょう。ゾフィーさんが書類作成の方にも適正があり、先週中に仕事のやり方を少し教える事が出来ましたので、僕の方からゾフィーさんに指示を出して、後は『事務局』の中で進めてもらうようにしようと思います。もちろん解らない事はどんどん聞いてくるように言っておきましたよ。

 週初めの全体朝礼で、先週苦労して作った長靴などの防具類をお披露目しました。僕のサイズで作ったので大人から見るとえらく小さく感じるでしょうが、これは見本という事で納得してもらいました。特に『清掃課』と『管理課』はこの防具類を使う事になりますから、使い方や注意点などをしっかりと話して、後でみんなの分も作る事を伝えておきました。

 さて、それぞれの仕事の指示も済みましたから、僕はゴムの樹液を取りに行ってきます。
 ついでと言っては何ですが、前回見つけておいた森の中の空き地に寄って、本格的に周囲の危険度を確認しておきたいと思います。特に危険がないようでしたら、中継拠点を作ろうと思っています。
 秘密基地みたいですが、あそこに拠点を作っておけば、物資の集積所や休憩地とか色々と使い道はありそうですからね。

 昨日の内に父上と母上には話しておきましたから、不在の間は何かあっても大丈夫でしょう。今回は連絡用の鷹も連れて行きますし、行き先もはっきりしているので両親も特に心配していないようです。
 メアリーには今朝、話をしましたが、しっかりとすねられました。またしばらく居なくなるのが気に入らないようですが、これも仕事ですから我慢して貰います。お土産を持ってくる事を約束して何とか機嫌を直してもらいました。前に持ってきたドライフルーツがとても気に入ったようで、また欲しいと言っています。

 今回は『ヴァルファーレ』用に荷物運搬用の籠を作っておきました。僕の「王の財宝」は秘密にしておきたいので、大量の荷物を運搬するにはどうしても運搬用の機材が必要になってしまします。
 この籠は軽量化の為に籠本体部分は5サントの幅で作った布製のベルトを格子状に縫い合わせて作っています。縦横5メールの大きさで、一番外側は輪になっていて直径2サントのロープが通されています。このロープを引けば籠の周囲が締められて中の荷物が落ちないようになっています。
 これでエルフの集落に持っていくお土産も楽に持っていくことができるでしょう。帰りはゴムの樹液の瓶や他に見つけることができた物など、運ぶ物が多くなっても大丈夫だと思います。

 エルフの集落へのお土産は、こちらで造られたお酒や海産物、肉の加工品など喜んでもらえるか解りませんが、出来るだけ良いものを選んで持って行きます。この前沢山もらったお礼を兼ねていますが、交易に使えそうな品物があるか確かめる意味もあって、色々な種類になりました。

 この籠には、籠の口を締めるロープの他に『ヴァルファーレ』の足に着けられるロープが取り付けられていて、離着陸の時に邪魔にならないだけの長さがあります。ロープの両端近くには捻じれ防止の“より戻し”を付けてロープが捩れないようにしてあります。ヘリコプターで荷物をぶら下げて運ぶ状態ですね。このロープで『ヴァルファーレ』に籠をぶら下げて運んでもらいます。ロープは2年位前に練金の訓練で作ったワイヤーロープで編んでありますから、かなりの無理にも耐えられると思います。『ヴァルファーレ』の足が痛くないように、足に着ける部分にはワイヤーロープの周りに厚いフェルトが巻いてあります。より戻しも何度も固定化の魔法を掛けてあるので、簡単には壊れないでしょう。ちょっと飛びにくいかもしれませんが、交易が出来るようになったら、『ヴァルファーレ』に中継拠点まで交易品を運んでもらう事になりますからね。今のうちになれて貰いましょう。

 前回と同じようにお弁当を作ってもらい、5日分の食料をお土産と一緒に積み込みます。
今回はエルフの集落で子供達を乗せてあげようと思うので、座席は二人乗り用にします。
荷物の積み込みで午前中一杯掛かってしまい、昼食を食べてからウイリアムさん達に後の事をお願いして訓練場に来ました。
 訓練場には母上とメアリーが来ていましたが、驚いた事に『事務局』の人たちも揃っています。お見送りに来てくれたようですね。
 母上とメアリーに行ってきますの挨拶をして、『事務局』の人たちに向かいます。

「わざわざ来てくれたんですか?まだお昼休み中なのに。」

 そう言うと、ゾフィーさんが前に出て言いました。

「いいえ。私たちの『部長』が、しばらく遠くに出かけるというのにお見送りもしないなんて考えられませんわ。資材調達で南の方に行かれるという事でしたが、気をつけて行ってらして下さい。」

「有り難うございます。週末には帰ってくると思いますから、読み書きと算術の方、よろしくお願いします。」

「お任せ下さい。それにしてもずいぶん荷物が多いようですが、どうやって運ぶんですか?」

 そういえば、『改革推進部』の人たちは、『ヴァルファーレ』を見た事がないのでしたね。大丈夫かな?

「まだ見せた事がなかったですね。僕の使い魔ならこれ位軽い物ですよ。これから呼び出しますけど、おそらく今まで見た事のない、とんでもない使い魔ですから、腰を抜かさないように気をしっかり持って下さいね。初めて屋敷の人たちに見てもらった時は、みんな揃って腰を抜かしましたから。」

「そんなに恐ろしい使い魔なのですか?」

「僕は恐ろしいと思った事はないのですが、初めて見た人は大体怖がりますね。何しろ大きいし。」

「解りました。出来るだけ頑張ります。みんなも良いわね?」

「「「「はい。」」」」

 返事は良いんだけど、多分ダメだろうな。これで少し出発が遅れそうだけど仕方ないね。

「それじゃ呼びます。『ヴァルファーレ』おいで。」

 僕の呼びかけに、空が暗くなって大きく裂け、中から咆吼と共に『ヴァルファーレ』が飛び出してきました。いつもながらの迫力です。母上とメアリーは一緒になって喜んでいますが、ゾフィーさんを始め『事務局』の女性陣は白目をむいています。美人が台無しですね。

「『ヴァルファーレ』。また南方のエルフの集落まで飛んでもらいます。今日はここにある荷物も持っていってもらいますから頑張って下さいね。」

[良いじゃろう。これ位の荷物、軽い物じゃ。ところで、そっちで白目をむいている女達は何じゃ?]

「済みません。先週から僕の下で働いてもらっている人たちなのですが、『ヴァルファーレ』とは初対面でしたので、いつも通りの状況です。ちょっと待って下さいね。」

 それから気付けの治療をしましたが、5人が元通りに戻るのにしばらく掛かってしまいました。

「大丈夫ですか?みんなには少しショックが大きすぎましたようですね。」

「申し訳ありませんでした。もう大丈夫です。それにしても本当に大きいですね。今まで何度か貴族の方達がお連れしている使い魔を見る事がありましたが、こんなに大きな使い魔は初めてです。それに何というか、近くにいるのが恐れ多いような、怖いというのとは違った感じがします。」

 他の人たちは、まだボーとしています。しばらくぶりの事ですが、やっぱり初めての人にはかなりのショックを与えるようですね。それにしてもゾフィーさんは結構丈夫ですね。

「この子の名前は『ヴァルファーレ』。召還獣と言って普段は異界と呼ばれる別の世界に住んでいます。空を飛ぶ事が出来て、強力な攻撃能力も持っているし、何より僕とは離れていても頭の中で話が出来ます。僕が作った座席を付ける事で、今のところ二人まで背中に乗る事が出来るんですよ。」

「『ヴァルファーレ』っていうんですか?凄いですね。こんな使い魔に乗って空を飛ぶなんて夢のようでしょうね。」

「その内、一段落したらみんなも乗せてあげますから、待っていて下さい。」

 それから僕は、籠のロープを『ヴァルファーレ』の片足にしっかりと固定し、座席を付けました。

「それじゃ、行ってきます。」

 『ヴァルファーレ』の背中に昇って、座席に座りベルトを締めます。二人乗り用ですが、まだ一人なので前の席に座りました。

「それでは『ヴァルファーレ』行きましょう。」

 僕の合図で『ヴァルファーレ』は一旦少し浮き上がって止まった後、緩やかに上昇します。今日は荷物があるので、ロープや籠に負担が掛からないように気をつけて上昇してくれています。何も指示をしなくてもしっかり考えて対応してくれるので本当に助かります。
 そのまま、高度5000メールまで上昇して一旦止まり、方向を確認すると南南東に向かって水平飛行に移りました。一度通ったルートなので、『ヴァルファーレ』は迷いもなく快調に飛んでいきます。体感になりますが、感覚的に前に飛んだ時より早く飛んでいるように感じるのに、荷物には特に負担が掛かっているように見えないのです。

「『ヴァルファーレ』。今のスピードは、前の時のスピードよりも速いですよね?」

[良く解ったの。前の時より少し早く飛んでいるが、それがどうかしたかえ?]

「いいえ。ロープや籠に負担が掛かっていないようなのが不思議に感じたのですが、もしかして荷物の周りにもシールドが張ってあるのでしょうか?だとしたら、もっと早く飛べるのではないかと思ったものですから。『ヴァルファーレ』が思いっきり飛んだら、どれくらいのスピードが出せるのだろうと考えただけですよ。」

[思いっきり飛んだらかえ?我が思いっきり飛べば、前にこのルートを飛んだ時、屋敷から最初の中継点まで掛かった時間の半分位で行けると思うが。]

 半分という事は、速度が倍になるんですよね。と言う事は前に飛んだ時は時速800リーグでしたから、時速1600リーグですか?気温と気圧を考えなければ対地速度が時速1225リーグで音速ですから、時速1600リーグだとマッハ1.3?完全に音速を突破していますね。しかもこの高度で出来るのですから、ソニックウェーブなんかはどうなるのでしょう?小回りが利いて空中で静止する事も出来るし、攻撃能力を考えるとジェット戦闘機より凄いかもしれません。少なくとも才人のゼロ戦よりずっと強いでしょうね。

「やっぱり『ヴァルファーレ』は凄いですね。こんなに凄い使い魔が側にいてくれるなんて、僕は何て幸運の持ち主なんだろうと思います。」

[なっ!何を言っておるのじゃ?いきなり恥ずかしい事を言うものではないぞえ!!]

 あっ、いま『ヴァルファーレ』が照れましたね。人間だったら顔が真っ赤になっているんでしょうね。

「済みません。それでは、このままの速度で良いですから、この前みつけた森の中の空き地まで行ってください。」

[解った。このままじゃな。]

 快適な空の旅を楽しんでいれば、あっという間に空地に着きました。
 『ヴァルファーレ』には空地の南側に降りてもらい、一旦荷物は足から外しておきましょう。万一幻獣でも表れて戦闘状態にならないとも限りませんからね。

 その後、『ヴァルファーレ』にも周囲の状況をじっくり確認してもらいながら、僕自身も空地の中や周囲の森の状況を確認して回り、全く異常を感じられなかったことから、此処に中継拠点を作ることにしました。

 空地の北側を50メール×100メール位整地して、その中に30メール×50メールの2階建てを土魔法で作りました。
 南側中央に玄関を作って、左右シンメトリにきれいに装飾を施して、全体的にどこかの小宮殿みたいな感じに仕上げています。
 建物の周りには整地した分だけ芝生を張って、はだしで歩いても寝転がってもいいようにしてみました。
 空地の東側には50メール四方の倉庫も作ります。これだけの大きさがあれば、さしあたっての荷物は入るでしょう。
 空地の周囲には高さ3メールの鋼鉄製の柵を作って、万一誰が来ても入ってこれないようにしておきましょう。

 これだけの施設を作り終えてから移動を続けることにします。
 そのまま、『ヴァルファーレ』に乗って空の旅を楽しんでエルフの集落に着きました。
 12日ぶりになるのかな?集落の様子は前に来た時のままのようです。速度を落としながら近づいていくと、風竜が2頭上がってきました。話が出来る距離で一旦停止します。

「こんにちは。以前お世話になりました、ゲルマニアのアルバート・クリス・フォン・ボンバードです。アルメリアさんはいらっしゃいますか?」

「良く来たな。私はザイターンだ。我々は君を歓迎する。アルメリアは家にいるはずだから、以前のように村はずれの草原に着陸して集落に入ってくれ。」

「有り難うございます。それでは着陸します。」

 『ヴァルファーレ』に指示して、前回着陸を許された草原に着陸します。『ヴァルファーレ』から降りて、足に着けたロープを外しました。
 籠の中から僕の食料や資材関係を取りだして、座席の後に付け直します。

「『ヴァルファーレ』、僕はアルメリアさんに会ってきますから、戻ってくるまで自由にしていて下さい。」

 そう言って、お土産の入った籠をレビテーションで浮かべ、集落の中に運びます。アルメリアさんの家まで歩いて行く間に、前に来た時に知り合った人たちや友達になった子供達とも会いましたよ。みんな笑顔で手を振ってくれるので、僕も笑って手を振りながらアルメリアさんの家まで来ました。ドアをノックすると中からアルメリアさんが出てきましたね。

「はい、どなた?ってアルバートじゃないか!良く来たな。今日はどうしたんだ?」

「こんにちは。ゴムの材料が足りなくなったので、またあそこの森まで行く途中なんです。せっかく近くに来たので寄らせて頂きました。この前色々頂いたお返しに、領内で取れる特産物等を持ってきましたから、食べてみて下さい。」

「わざわざお土産を持ってきてくれたのか。それは済まなかったね。ありがたく貰うとしよう。」

 喜んでくれたようなので持ってきたかいが有りました。さっそく籠をドアの前に置きます。

「ずいぶんと大きな籠だね。これは持ってくるのも大変だったろう。こんなに貰って良いのかい?」

「どうぞ、遠慮無く受け取って下さい。この前頂いた物は珍しいものばかりで、両親や妹もとても喜んでいました。実はゲルマニアの皇帝閣下にもお裾分けしたのですが、とても喜んでくれたんですよ。
 持ってきた物がエルフの方々のお口に合うと良いのですが、北の海で取れた魚の燻製や、肉の加工品と地元で作られているお酒です。それから、ゲルマニアの首都『ヴィンドボナ』で人気のお菓子も持ってきました。」

 その他にも色々持ってきた物をアルメリアさんに説明します。全部で300リーブル以上の重さになりますが、全部籠から出してアルメリアさんの家に入れさせて貰いました。

「ちょっと多かったかもしれませんが、集落の皆さんにも分けてあげて下さい。」

「ああ、勿論だ。みんなも喜ぶだろう。人間の作った物はあまりこちらには来ないから、結構珍重されているんだよ。本当に有り難う。」

「いいえ、どう致しまして。ところでアルメリアさんは、まだ次の調査に出かけないのですか?今日も来る間、お出かけ中だったらどうしようかと考えていたのですが。居てくれて助かりました。」

「ああ。調査の方は一緒に行く者を探しているところだ。この前は危なかったから腕の良い者を連れて行こうと思ったんだが、なかなか居なくてな。しばらく待機中だよ。」

「それは大変ですね。私は代表のアル・アミーンさんにご挨拶をしてから、この前のキャンプ地に行こうと思っています。あちらの方に行くのでしたら一緒に行きますか?」

「そうか。アルバートと行く手があったか。君なら腕に心配もない。私も丁度あの辺りの調査をしたかったところだから、一緒に連れて行ってくれるのなら助かる。お願いできるか?」

「勿論です。今回は座席も二人乗り用で来ていますから、乗るのも楽ですよ。」

 そんな訳で、ベースキャンプまでアルメリアさんと一緒に行く事になりました。
 その後、お土産の一部を持って代表に挨拶に行って、今回の訪問の目的を説明したり、アルメリアさんも一緒に行く事の許可を貰ったりしました。
 集落の人たちにお土産を分けて、とても喜ばれました。子供達にはお菓子が好評で、子供はどこでも一緒なんだなと感じました。

 アルメリアさんの準備を待って、集落のみんなにお別れして草原に戻ります。
 草原では『ヴァルファーレ』が先ほど上がってきたザイターンさんの風竜と話し込んでいます。ザイターンさんは側でそれを眺めていました。
 僕たちが近づくとザイターンさんがこちらに気がついて言いました。

「やあ。さっきから『ヴァルファーレ』と私の『スニフ』が話し込んでいるようなのだが、言葉が通じるのだろうか?」

 もっともな疑問ですね。申し訳ないですが、ちょっと話に割り込ませて貰いましょう。

「『ヴァルファーレ』。お話中済みません。そちらの風竜とは話が出来るのですか?」

[やっと帰ってきたかえ。こちらの風竜、名は『スニフ』と申すそうだが、ちゃんと話が出来るぞ。こちらの世界に召還されてからの事を話しておった所じゃ。まだ若い風竜じゃが、素直で賢くて良い竜じゃな。]

 ちゃんと話が通じるんですね。どういった言語体系をしているのでしょうか?

「お互い、言葉がわかるそうです。何か不思議なんですけど、種族が違っても言葉って通じるものでしょうか?」

「交流があれば別だろうが、完全に別の世界の住人が、出会ってすぐに話が出来るなど普通はあり得ないだろうな。もっとも、両方とも精霊のような存在と考えれば、話が出来ても不思議ではないのかもしれないが。」

「なるほど、精霊ですか。そう言うことも考えられますね。」

 話が一応纏まったところで、僕たちは出発する事にしました。
 ザイターンさんともお別れをして、アルメリアさんと『ヴァルファーレ』に乗り込みます。今回は二人乗り用の座席なのでアルメリアさんは前の席になります。アルメリアさんのベルトの状態を確かめて僕も座席に座りました。

「『ヴァルファーレ』。この前のベースキャンプまでお願いします。」

 合図と共に『ヴァルファーレ』が飛び上がります。ぶら下げた籠も中身がないので頼りない感じですが、軽くなったのは確かでしょう。そのまま高度を取って西南西の方向に向かいます。海岸線が見えてきたら、後は海岸線に沿って西に飛んで、15分位でベースキャンプに着きました。ここも離れた時のままのようです。

 着いた時にはもう夕方になっていました。エルフの集落でも時間を使いましたからこんなものでしょう。
 今日はキャンプの準備をして、夕食を食べて寝る事にしました。
 久しぶりに海鳴りを聞きながら満天の星を眺めていると、吸い込まれそうな気がします。 食後のお茶を飲みながら、アルメリアさんと別れてゲルマニアに帰ってからの事を話しました。アルメリアさんもゲルマニアの事に興味を持ってくれたようで、色々な質問をしてきました。
 それから、前と同じように練金で壁を作り、椰子の葉で屋根を葺いて簡単な小屋を作りました。荷物を片付けて、アルメリアさんと小屋に入り横になります。

 お休みなさい。 

 

第22話:平和だね~!

 
前書き
え~、こちらはリゾート地でバカンス中の皇子様です。
なんちゃって!!
でも、傍から見たら立派なバカンスですよね!? 

 
 おはようございます。アルバートです。

 ゴムの木の樹液採集の為、2度目のリゾート地遠征に来て2日目の朝です。
 金色に輝く朝日に目が覚めて小屋の外をのぞくと、白い砂浜の照り返しがまぶしくて目が痛くなりそうです。今日も穏やかで暑い一日になりそうですね。

 小屋を出て、前の時と同じように砂を使って洗面器を練金し、海水を真水に変えて顔を洗います。さっぱりした所で後ろを振り返ると『ヴァルファーレ』が見ていました。

「『ヴァルファーレ』、おはようございます。今日も良い天気ですね。」

[うむ。主も良く眠れたようじゃな。アルメリア殿はまだかな?]

「まだ眠っているみたいですね。今のうちに朝食の準備をしておきましょう。近くに異常はありませんか?」

[今のところ、10リーグ以内に危険な獣などの気配はないようじゃ。安心するが良い。]

「判りました。有り難うございます。」

 それでは、朝食の準備をしてしまいましょう。貯蔵庫からパンとハムに野菜を出します。今回は卵も持ってきたので卵焼きも作りましょう。
 昨日作った竈に火をおこして、フライパンを温めます。油を引いて、卵を2個落とし、軽く塩とこしょうをして箸でかき混ぜました。本当はボールでしっかりとかき混ぜたいのですが、洗い物を増やす事もないので簡単にやってしまいます。
 2枚のお皿に卵焼きを分けて、野菜とハムを盛りつけます。パンを厚めに切ってバターの準備も出来ました。やかんを火に掛けてお湯の準備もして、こんな感じでしょう。洗面器に新しい真水を作って、さて、アルメリアさんを起こしましょうか。

「アルメリアさん。そろそろ起きて下さい。もう朝ですよ。朝食の準備が出来ましたよ!」

 何度か呼びかけると、やっと小屋の中からアルメリアさんが出てきました。
ちらっと見て思わず目を逸らしましたが、すごい格好になっています。まだちゃんと目が覚めていないのか、ボーとしたままのアルメリアさんは、着衣が乱れてCカップの胸の頂がもう少しで見えそうになっています。下もズボンを履いていないので下着のままですから、目のやり場に困ります。僕の事を7歳児としか見ていないから気にしていないのでしょうけど、前世から通算して中身53歳の大人としては、見たいような見ちゃいけないような微妙な所になります。

「えっと、アルメリアさん?申し訳ありませんがちゃんと服を着て頂けないでしょうか?」

「ふぇ?服?服がどうかしたか?」

 まだ、意識がはっきりしないようですが、自分の格好を見回して、ようやく理解出来たようです。

「あっあははは。これは済まない。子供相手とはいえ、失礼した。」

 少し赤くなって小屋の中に戻っていきます。屋敷ではDとかEカップのメイドさん達も居ますから大きな胸も見慣れているのですが、さすがに生胸はお目に掛かる事がありません。刺激が強すぎますね。
 少しすると、ちゃんと服を着たアルメリアさんが小屋から出てきました。

「おはようございます。洗面器に水を作っておきましたから、顔を洗って下さいね。」

「おはよう。済まないね。」

 タオルを渡すと、アルメリアさんは洗面器を持って、少し離れた所に行って顔を洗いました。水を捨ててから大きくのびをすると戻ってきます。

「さっきは済まなかった。どうも朝は弱くていけない。」

「いいえ。気にしないで下さい。それよりも、朝食の準備が出来ていますから、食べてしまいましょう。」

「この前もそうだったが、毎回用意してもらって悪いな。」

「アルメリアさんの家ではごちそうになっていますから、お相子と言う事で良いじゃないですか。それでは頂きます。」

 二人でたわいもない事を話しながら朝食を済ませ、お茶も飲んでから後片付けをしました。

「私はこれからゴムの樹液を取りに森に入ります。アルメリアさんはどうしますか?」

「そうだな。私はこの辺り一帯の植物と動物の調査をするよ。」

「判りました。それではお昼になったら一度戻って下さいね。『ヴァルファーレ』はここで待機していて下さい。周囲をサーチして異常があったら知らせて下さいね。もしも、私やアルメリアさんに異常が発生したら救援をお願いします。」

[判った。任せるが良い。]

「『ヴァルファーレ』は、周囲10リーグ以上を監視する事が出来ますから、多少遠くに行っても大丈夫ですが、この前の事もありますから、気を付けてあまり遠くには行かないで下さいね。」

「半径10リーグなら十分だ。それにしても『ヴァルファーレ』は本当に優秀な使い魔だな。私もこんな使い魔が居れば何処でも自由に行けるのだが。」

 『ヴァルファーレ』のような使い魔はちょっと居ないでしょうね。今のところ異界の住人は僕しか呼び出せないでしょうから、他の人が呼び出す事は不可能だと思います。かといって、この世界に似たような存在が居るとも思えないので、やっぱり無理でしょうね。

 その後、アルメリアさんと別れて必要な荷物を担いで森に入りました。この前付けて置いた目印もちゃんと残っていたので、特に迷いもせずゴムの木の場所に着く事が出来ました。
 1時間ほど掛けて先に見つけていたゴムの木に傷を付けて容器をセットし、樹液の出具合を確認してから次の木へと移動を繰り返しました。
それから他にゴムの木がないか探して廻ります。ゴムの木も多い方が良いですからね。この前は余り時間が無かったので11本しか見つける事ができませんでしたが、今回は少し余裕がありますからもう何本か見つけておきたいと思います。
 この前と同じ地図に調査した場所を記録しながら、南西の方向に1時間くらい探して、新しいゴムの木を5本見つけました。この5本にも幹に傷を付けて容器をセットしておきます。
 この辺で、そろそろ良い時間になったので一旦ベースキャンプに戻ります。途中の泉で水をくんで飲み水も確保できました。

「『ヴァルファーレ』ただいま。異常有りませんか?」

[うむ。特におかしな事はないぞえ。]

「アルメリアさんはどの辺にいますか?」

[大体南西の方向、2リーグの所じゃ。此方に向かって戻ってきているようじゃな。]

「有り難うございます。それじゃあ、昼食の準備をしておきましょう。」

 竈に火をおこし、鍋に水を入れて掛けます。沸騰したら持ってきた豆と塩漬肉を入れてハーブを少々入れてから蓋をしておきます。20分くらい煮込んでから塩とこしょうで味を整えて少し火から離しておきます。
 鍋が煮えるのを待つ間に、フライで飛んで椰子の実を2個取ってきました。
 それから、白パンを切ってバターを塗ってから、ソーセージに木の串を刺して火のそばに立てておきます。後はやかんに水を入れて火に掛けて準備完了です。
 昼食の準備に30分位掛かりましたが、アルメリアさんはまだ戻ってきません。そのまま待って、さらに15分位たって帰ってきました。

「お帰りなさい。」

「ただいま。もう帰っていたのか。」

「ええ。お昼の準備が出来ていますから、手を洗って来て下さいね。」

 アルメリアさんに水を入れた洗面器を渡します。手と顔を洗ってアルメリアさんが戻ってきたのでご飯にしましょう。
 深皿に豆と肉のスープをよそい、白パンに焼いたソーセージをのせて食べます。
 アルメリアさんの食欲に合わせて、多めに作っておいて良かったと思いながら食事を終え、お茶を飲みながら午前中の成果を報告しあいます。

「私の方は、新しくゴムの木を5本見つける事が出来ました。午前中に合計16本とも樹液を採集する容器を付けてきましたよ。」

「頑張っているな。私の方は、南西側の調査を行ってみた。色々な植物を見つける事が出来たぞ。」

 そう言って、スケッチを見せてくれました。
 初めてアルメリアさんの絵を見せて貰いましたが、とても上手で綺麗な色も塗ってあるのでどんな植物なのか良く解ります。どうやって色を塗っているのでしょうね?
 スケッチは15枚有りましたが、その内の2枚が気になりました。どこかで見た事のあるような植物です。
 片方はたしか南アメリカかメキシコあたりが原産のリュウゼツランの一種に見えます。何でこんな北アフリカ(?)に自生しているのでしょうか?絵の特徴から、テキラリュウゼツランだと思います。
 もう片方はたしか生前新しく発見されて一部で柑橘類の代わりに栽培が期待されているケイアップルですね。
 すごい発見です。テキラリュウゼツランはテキーラの原料になりますし、ケイアップルはそのまま食べても良いし、ジャムなどの加工品にもなりますからすばらしい特産品になるはずです。
 夢中になって絵に見入っていると、アルメリアさんが不思議そうに言いました。

「その絵がどうかしたか?」

「この絵の植物は何処にあるか覚えていますか?」

「ああ。大体の場所は記憶しているが?」

「良かった。この植物はとても貴重な物です。こっちはテキーラという強いお酒の原料になるし、こっちの実はそのまま食べても良いし、ジャムなどの加工品にもなる美味しい実です。」

「こんな植物がか?それは驚いたな。良いものを見つけたようだ。それにしても何でアルバートは、そんな事を知っているんだ?」

「以前ゲルマニアの皇城にある書庫で東方の書物を見た時に、絵と一緒に載っていたので覚えていたのです。」

「そうか。昨日聞いた時も気になっていたんだが、アルバートはゲルマニアの皇帝とやらと親しそうだが、どういった関係なんだ?皇帝というと、そちらの世界ではかなり偉い人物と聞いていたように思うが、こちらの物を土産に持って行ったり、書庫に入って書物を読んだりしているのを見ると、けっこう頻繁に皇城とかにも行っているようだが。」

 疑問が疑問を生んでしまいましたね。これはちゃんと話しておかないといけないようですね。

「あまり自分でも認めたくない事なので話さなかったのですが、実は私の母が現ゲルマニア皇帝の娘だと言う事が私が3歳の時に判りまして、結果、私は皇帝の孫になるそうです。その上、現皇帝には王子が居ない為、私が現在の所皇位継承権第1位の皇子という扱いになっています。」

「アルバートが皇子様?冗談じゃないんだな?おいおい、仮にも皇子様が一人でこんな遠くに来て良いのか?ゲルマニアがどれくらいの大きさの国か判らないが、話の感じでは相当大きな国なのだろう?皇子を一人で旅に出すほど護衛に付ける兵隊がいないとも思えないのだが。」

「それは、『ヴァルファーレ』がすごすぎるからですよ。ゲルマニアにいるどの幻獣を連れてきても、『ヴァルファーレ』に着いてこられないので諦めたというのが真相です。今回の旅でも時速900リーグから1000リーグで飛んできましたから。風竜ではとても追いつけません。」

「そのスピードはいったい何なんだ。本当にそんなスピードで飛んだら吹っ飛ばされて、アルバートが乗っている事なんて出来ないはずだぞ。万に一つ、乗っていられたとしても呼吸はどうなるんだ?」

「そこの所は、『ヴァルファーレ』がシールドしてくれているので大丈夫です。その気になればもっと早く飛ぶ事も出来ますが、乗っている私には全然影響がないように出来るのですよ。」

「は~・・・。『ヴァルファーレ』のすごさは良く判ったが、確かにそれでは誰も着いてくる事は出来ないだろうな。まあ、人間の事情は我々エルフには関係のない事だが、アルバートが自分の責任を考えて、気をつけて行動する事だな。皇子と言う事は抜きにしても何かあったら両親が悲しむのだからな。」

「はい。判っているつもりです。」

「なら、良い。話は戻るが、テキーラというのは旨いのか?」

「旨いと思いますよ。私は飲んだ事がないので確かな事はいえませんが、結構有名らしいですから。」

「ふむ。それは是非作って見たいものだな。」

 そんな話をして、昼休みを過ごしてから、午後の作業に掛かりました。アルメリアさんは今度は南の方に行くそうです。
 僕は。ゴムの木を見て回って、樹液の採集状況を確認してきましょう。時間があれば、もう少しゴムの木を探して見ても良いですし。

「『ヴァルファーレ』。それではゴムの木の様子を見てきますね。ついでにもう少しゴムの木を見つけられるか調べてきます。周囲の監視をお願いしますね。」

[判った。気を付けるのじゃぞ。]

 すっかり通り慣れた森の中を進み、ゴムの木の所につきます。
 一通り樹液の採集状況を確認してから、地図を見ながら他にゴムの木が有る所を考えてみます。現在地図上には16個の印が付いていますが、どれも最初に見つけたゴムの木から南西の方向にあります。距離的には大体500メール、幅40メールの範囲でしょうか。この延長線上に他のゴムの木があると見て間違いないでしょう。
 それにしても、だんだん調査範囲が大きくなってきて、ベースキャンプからの移動時間が掛かりすぎるようになってきましたから、一人で採集するのはこの辺が限界になりそうですね。
 今回の収集は、この範囲内だけで諦めましょう。ここで3日位採集を続ければ、それなりの量を集められると思います。
 そう決めると、戻りながら樹液の採集状況を再度確認し、ベースキャンプに帰ります。
 かなり時間の余裕が出来たので、釣りでもしてみましょうか。

「『ヴァルファーレ』、帰りました。」

[ずいぶん早いお帰りじゃな。どうかしたのかえ?]

「どうも、樹液採集の作業範囲が一人で出来る限界になってしまったようなので、新しい木を探すのをやめて、この状態で採集を続ける事にしました。ゴムの木も16本有れば十分な量を集める事が出来るでしょうからね。」

[それも良いじゃろう。それで、余った時間で何をやるのじゃ。]

「そうですね。釣りでもして夕食の食材を増やしましょうか。」

 そう言いながら、『王の財宝』を開いてしまって置いた釣り道具を引っ張り出します。次に近くの砂浜の岩をひっくり返して虫を探します。適当な虫を何匹か集めて、一匹を釣り針に付けて水際から沖に向かって思いっきり投擲しました。
 放物線を描いて飛んでいくおもりを見つめて、レビテーションでさらに遠くに飛ばします。300メール位飛ばした所で海に落とし、十分に沈んだ所で糸を引き始めます。
 ゆっくりと糸を引いていくと、100メール位引いた所であたりがありました。後はタイミングを合わせながら糸を巻き取っていきます。電動リールでも有れば楽なんでしょうけど、ここでは手の力しか有りませんから5分位掛けて岸まで引き寄せ、ようやく魚の姿が見えました。
 体長50サント位の見た事のない魚です。急いで練金で砂のゴーレムを水際で作ります。ゴーレムの分だけ砂に穴が出来、その中に海水が入って小さめのいけすが出来ました。
 引き寄せた魚をそのままいけすに入れて、針を外します。アルメリアさんが帰ってきたら見て貰いましょう。
 すぐに釣り針に新しい虫を付けて、また沖に投擲します。今度は何も掛かりませんでした。虫を変えながら都合10回、投擲を繰り返し、最終的に色々な魚を4匹釣る事が出来ました。こんな物で良いでしょう。食べられる魚がいればいいのですが。
 釣り道具を片付けて、そろそろ夕食の準備に入ります。

 竈に火をおこして、食料庫から出した野菜とソーセージをフライパンで炒めます。
 次は鶏肉を焼いて、水で溶いた蜂蜜を掛けてさらに焦げ目が付くまで焼きます。
 焼いている途中でアルメリアさんが帰ってきました。生簀に気が付いたようで、中の魚を覗いていましたが、首をかしげているようです。
 焼き上がった鶏肉を皿に取り、先に炒めた野菜炒めをその横に盛りつけ、やかんを火に掛けました。

「アルメリアさん、お帰りなさい。」

「ただいま。この魚はどうしたんだ?」

「今日は早く上がったので釣りをしてみたんです。一応釣れたのですが、食べられるか解らなかったのでアルメリアさんが帰ってくるのを待っていたんですよ。」

「いったい何処に釣り道具があったのかも聞きたいが、まあ良い。この黄色の魚は毒があるから食べない方が良いだろう。後は大丈夫、結構旨い魚だ。」

「それは良かった。早速焼いてみますか。」

 その後、魚の内臓を取って木串を刺し、塩を振ってから火の近くに立てて焼きます。焼いている間にパンを切って食事を始めました。今日の夕食も、とても美味しくできました。 今日の出来事を話ながら、夕食も進み、焼き上がった魚も二人で食べて、だんだん暗くなる海を見ながらお茶を飲む頃には、お腹もいっぱいになってすっかり満足していましたね。

 本当にリゾート地の海辺で、となりに美人を座わらせて、のんびり休暇を取っているような気持ちになってきましたよ。屋敷で働いているみんなには申し訳ない気もしますが、頑張ってゴムの樹液は持って帰りますから、それで許して貰いましょう。

 今日も良い気持ちで眠れそうです。お休みなさい。 

 

第23話:お宝探し!(夢の果樹園計画と不思議発見!!)

 
前書き
今日も朝から元気いっぱい、マイペースのアルバート君です。
色々と、新しい物を見つけることもできて、上機嫌。
あまり暴走しないといいのですが。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 ゴムの樹液採集の為、2度目のリゾート地遠征に来て今日で3日目です。
 今日も穏やかで暑い一日になりそうです。

 少し早く起きて、洗顔を済ませた後、両親に現況報告の手紙を書きました。前回の調査の時は連絡手段を忘れて5日間も音信不通だったので、かなり心配をかけてしまいました。今回は忘れずに伝書用の鷹を連れてきています。鷹にご飯を上げてから、足に通信筒を括り付け、北の空に向かって放します。鷹は僕の上を3回廻り、一声無くと北に向かって飛んでいきました。

[親に手紙かえ?良い心掛けじゃのう。]

「はい。この前は考えが足りず、いらない心配をさせてしまいましたから。」

[どちらにしろ、親という者は子の心配をするものなのじゃ。それでも、確かに余計な心配はかけるものではないじゃろうな。]

「そうですね。気をつけますよ。」

 その後、いつも通り朝食を作って、準備が出来たのでアルメリアさんを起こします。
 出てきたアルメリアさんは昨日以上の寝相の悪さで、下着が捲れ上がって胸は丸見えになっていましたが、ちっとも見ていませんよ。ええ、見てませんとも………。

 朝食の後、今日の調査について方針を纏めます。
 現在16本のゴムの木を見つけて、樹液を採集中ですが、これ以上本数を増やしても時間的に作業が難しくなるだけなので、ゴムの木を見つける調査は止める事にしました。
 そうなるとゴムの樹液の採集だけでは時間が余ってしまうので、昨日アルメリアさんが見つけた「リュウゼツラン」と「ケイアップル」の場所を教えて貰い、自生している状況を確認してこようと思います。
 特にこの辺は誰の土地で見ない事を、アルメリアさんに聞いてありますので、多少いじくっても問題無いでしょう。そこで、出来れば「リュウゼツラン」と「ケイアップル」の木を集めて、「リュウゼツラン」は茶畑状態、「ケイアップル」は果樹園のようなものにしてしまおうと考えました。
 どれくらい木があるのか解らないのですが、自生している分布を確認して、一カ所に植え替えてしまうのです。こうして日当たりを良くする事により成長も良くなりますし、収穫する時も楽になりますからね。

 昨日の内に作っておいた簡単な地図に、教えて貰った木の場所を記入してから、まず最初にゴムの樹液の採集状況を確認に行きました。
 ちなみにアルメリアさんは今日も南側を重点的に調査するそうで、スケッチブック等の道具を持って既に出発しています。
 僕も朝ご飯の後片付けをして、『ヴァルファーレ』に後を頼んでから、荷物を持って出発しました。

 森の中に入ってゴムの木を1本ずつ廻り、容器に溜まったゴムの樹液を持ってきたガラス瓶に移し、幹に新しい傷を付けて容器を取付け直します。大分仕事に慣れたので2時間も掛からずに全ての木を廻り終わりました。この段階で、前回集めた樹液の量を超えています。
 ベースキャンプに一度戻って、集めた樹液を木陰の保管庫に入れておき、一休みして『ヴァルファーレ』に危険の有無を確認してから「リュウゼツラン」の自生場所に行ってみる事にしました。何でこちらを先にしたかと言えば、単純にこっちの方が近かったのが理由です。

 地図を見ながらベースキャンプの南西に向かって森の中に入っていきます。「リュウゼツラン」の生えている場所は、ベースキャンプから大体250メール位の所だという事です。
 歩き難い森の中を、下生えを踏みしめながら目立つ木の幹に印を付けて進んでいくと、それらしい植物を見つける事が出来ました。丈は60サント位、直径は80サントから1メール位の円形状に葉を伸ばして生えています。どうやら間違えなく「アガベ・アスール・テキラーナ」のようですね。ほんとに何でこんな所に生えているのでしょうか?
 葉の根元にあるピニャと呼ばれている部分がまだ小さいので2から3年生と思われます。あと3年位成長しないと使えませんね。

 ゴムの木の時と同じように羊皮紙の中心に現在地を記録して、周囲の探索に入ります。
 今回はこのポイントを中心に、東西南北に線を書いて一辺が50サントの区画に分け、それぞれの区画を虱潰しに探す事にしました。
 近いところから西の方に3区画分を調査して、3本の「アガベ・アスール・テキラーナ」を見つけました。どれも最初の「アガベ・アスール・テキラーナ」と同じ位の大きさです。やっぱり森の中なので少し日光の量が足らないようですね。
 そろそろお昼の時間になりましたからベースキャンプに帰りましょう。

 昨日より少し帰るのが遅くなりましたから、昼食は簡単にしましょう。
 『ヴァルファーレ』と雑談しながらベーコンのスープとポテトサラダを作っていきます。 昨日使った鶏肉の骨を砕いて水から鍋に入れて沸騰させ、鶏ガラスープを作ります。エキスを出し切った骨を取り出し、次に玉ねぎをスライスしてスープに入れ透き通るまで煮込み、ベーコンを細く切って加えて、しっかりと灰汁を取ってから塩とこしょうで味を調えます。
 並行作業で、じゃがいもも水から鍋に入れて柔らかくなるまでゆで、皮をむいてからしっかりとつぶします。ハーブを細かく刻んで、適当に切ったハムと一緒にじゃがいもに混ぜて、こちらも塩とこしょうで味を付けました。
 後は白パンを切ってお湯を沸かせば準備完了です。時間を掛けずに量を作れるのでこんな時には重宝するメニューです。

 集中して料理をしていたので気がつきませんでしたが、いつの間にかアルメリアさんも帰ってきていて、スケッチブックの整理をしていました。

「アルメリアさん、お帰りなさい。何か変わった植物でもありましたか?」

「ああ。いくつか新種を見つける事が出来たよ。やはりこちらの方は面白い。食後に画いたものを見て貰おう。」

 スープを深皿に入れます。灰汁を取りきっているので綺麗に澄んだスープは、良い出汁が出て塩加減も良く、満足な出来です。
 白パンにポテトサラダをのせて、そのままでも良いし、2、3種類あるソースをかけても良いし、食べ方のバリエーションは結構作れますから、飽きずにお腹一杯食べられます。
 スープもすっかり飲み干して、満ち足りた気分の食後は、ティータイムでアルメリアさんの成果を見せて貰いました。

 素晴らしい彩色の絵がスケッチブックに何枚も書かれています。ここまで来ると芸術ですね。絵描きとしてもやっていけるのではないでしょうか。
 たしかに、ゲルマニアなどでは見る事のない植物ばかりで、とても珍しいのですが、エルフの世界でどれくらい珍しいのか判断材料が無くで解りません。昨日のようなお宝になりそうなものも見つけられなかったので、素直に聞きました。

「どれも素晴らしい絵ですが、この中でどれが新種の植物なのでしょうか?」

 すると、アルメリアさんはにっこり笑い、ぐっと身を乗り出してきて言いました。

「アルバートはこちらの植物相に詳しくないし、私たちの間でも新種かどうか解る者はそれほど居ないから無理もないか。それでは詳しく説明しよう。」

 どうやら、アルメリアさんの変なスイッチが入ってしまったようです。凄く嬉しそうに絵を見せながら話すアルメリアさんはまるで少女のようで、僕にはとても止められない状態になってしまいました。
 それから延々と1時間以上説明会は続き、僕という聞き手をえて、思う存分説明の出来たアルメリアさんは満足したのか、スキップでもしそうな感じでまた調査に出て行きました。残された僕はすっかり気力を搾り取られてしまって、しばらく動く事が出来ませんでした。

[主よ。あの女もああ見えて要注意人物のようじゃな。]

 『ヴァルファーレ』にも言われてしまいましたが、今度からは充分注意しましょう。

「そうですね。まさかアルメリアさんにあんな一面があるとは思いませんでした。どうして学者や研究者は説明好きなのでしょうか。」

 まあ、いつもでも座り込んで居られませんから、自分にベホイミをかけてリフレッシュして、もう一度「アガベ・アスール・テキラーナ」を探しに出かけましょう。
 午前中に作った地図上では、合計4本の「アガベ・アスール・テキラーナ」の場所が記録されている訳ですが、西方向の南側3ブロックしか調べていないので分布の傾向が解りません。もう少し調査を続けないとダメですね。
 次は先に調査した3ブロックの北側を調べましょう。
 基準ポイントの「アガベ・アスール・テキラーナ」から西方向の北側3ブロックを調査する事にして、まずは基準ポイントに移動です。

「『ヴァルファーレ』、もう一度行ってきます。後をお願いします。」

 基準ポイントまでの道は、途中の木に印を付けてあるので簡単に進む事が出来ます。
 基準ポイントからは地図を確認しながら、西方向北側のブロックの調査を行います。この3ブロックの調査で、さらに5本の「アガベ・アスール・テキラーナ」を見つける事が出来ました。どれも先に見つけた「アガベ・アスール・テキラーナ」と同じ位の大きさなので、どうやら同じ時期にこの土地に根付いたように思われます。偶然でしょうか?

 「アガベ・アスール・テキラーナ」の調査は一次中断して、移植する場所を探す事にして、一旦ベースキャンプに戻ります。

[早かったの。何かあったのかえ?]

「いいえ、問題はありません。今のところ「アガベ・アスール・テキラーナ」を8本見つける事が出来たので、この辺で移植する場所を探しておこうと思って戻ってきました。歩いて探しても時間が掛かるだけなので、済みませんが空からの調査に付き合って下さい。」

 そうお願いして、背中に昇り座席に座ります。
 『ヴァルファーレ』に指示をして100メール位の低高度をゆっくりと飛んで貰います。しばらくして南東側500メールの所に小高い丘を見つけました。長さ200メール、幅20メール位の丘で、丁度良い感じです。

「『ヴァルファーレ』。この丘の周辺に動物や幻獣は住んでいそうですか?」

[いいや。住んでいる気配はないようじゃ。いるとしてもたまに通る位じゃろう。]

「解りました。ついでですから「ケイアップル」の調査をしてみましょう。西方向に飛んで下さい。」

 この丘を移植場所に決めて、地図にも位置を書き込んだので、後でアルメリアさんにも見て貰って、自生している木などを移動させても良いか判断して貰いましょう。
 せっかくですから、このまま西に飛んで、空から「ケイアップル」の木を探す事にしました。背の低い「アガベ・アスール・テキラーナ」と違って、それなりの高さがある木ですから、空からでも見つける事が出来るかもしれません。

 教えて貰った「ケイアップル」の位置を地図で確認しながら飛んでいくと、それらしい木を見つける事が出来ました。木の高さは、廻りの木とあまり変わりませんが、葉の感じが全然違うので、この木だけ浮いた感じがします。これなら見つけやすいでしょう。
 「アガベ・アスール・テキラーナ」の調査方法と同じように、地図上に線を引いて区画割りします。今度は『ヴァルファーレ』で空から探しているので、区画の大きさも1辺200メールにしました。低空飛行のままそれぞれの区画の上を飛んで、特徴ある木を探します。
 夕食の準備を始める時間までに2本の「ケイアップル」を見つけられましたが、合計3本では多いとは言えませんね。地図に木の位置を記録して、ベースキャンプに戻りました。

 夕食の支度をしているとアルメリアさんが戻ってきました。大分頑張って調査をしているようですね。でも、同じ時間外にいるのに、アルメリアさんはちっとも日焼けしていません。素晴らしく白い肌のままです。毎朝、目の保養をしているので解りますが、服に隠れている部分の色と、顔や腕などの剥き出しの部分の色が同じなのですから、全然焼けていないのが解ります。僕なんか前回の調査の時に焼けた色が残ったまま今回ですから、真っ黒になってしまいました。なぜか日焼けで皮がむける事がないので、もとの肌の色に戻れません。なんか不公平です。

 そんな事を考えながら夕食を終え、見つけた「アガベ・アスール・テキラーナ」と「ケイアップル」の事を話し、移植する丘の事も話して明日一緒に見にいって貰えるようにお願いしました。
 アルメリアさんの今日の調査報告を聞いて、砂浜に寝転んで、星を見ながら2人で色々な事を話しましたよ。アルメリアさんは、その内ゲルマニアなどの国にも来てみたいそうで、その時は僕が案内をしようかなと思いました。ハルケギニアのエルフアレルギーを何とかしないと難しいのですが、何か方法があると思います。いつかきっとみんなが仲良く住めるような世界にしたいと思いますから。

 そして、3日目も終わり、4日目の始まりです。
 ぐっすり眠って、元気いっぱいで目が覚めました。外は良い天気だし、横を見るとアルメリアさんが凄い格好で寝ているし、いつも通りです。眼福眼福。

 小屋の外に出て、顔を洗ってからすこしからだを動かします。しばらく歩くばかりでろくな訓練をしていませんから、身体が鈍ってしまいそうですね。
 昨日、アルメリアさんと話して、今日は午前中に昨日の続きの調査などを行い、午後から丘に行って植生の確認などを行う事にしました。僕もゴムの樹液の収集がありますから丁度良いと思います。

 朝食の準備をして、毎朝のお約束も終わり、先にアルメリアさんが出てから後片付けをして僕も出発します。
 昨日と同じようにゴムの樹液を収集して、幹に新しい傷を付けて容器をセットし、樹液の溜まった瓶をレビテーションで浮かべてベースキャンプに戻ります。これで10リーブル入る瓶2本に、大体8分目位づつ溜まりました。

 ベースキャンプに戻って昼食の準備をし、アルメリアさんが帰ってから昼食を食べて一休み。午後は2人で丘の調査です。
 『ヴァルファーレ』に2人で乗って、昨日の丘まで移動します。まず上空から丘の状態を確認し、生えている木についてアルメリアさんに説明して貰いました。特に珍しい木はないそうです。
 次に丘の西端に着陸してもらい、2人で『ヴァルファーレ』の背中から降りて歩いて確認します。
 下生えの草などにも珍しいものはないそうで、時々地面にここを通った獣や幻獣の足跡が残っている他は、別段なんと言う事もない普通の丘だという事が解りました。
 そこでアルメリアさんに、今生えている木を丘の下の方に植え替えて獣や幻獣が入ってこないように柵の代わりにする事と、空いたところを整地して「アガベ・アスール・テキラーナ」と「ケイアップル」を移植する事を話ました。丘を真ん中辺りで区切って、「アガベ・アスール・テキラーナ」の畑と「ケイアップル」の果樹園にするという案を説明して、メリットとデメリットを話し合いましたが、問題となるようなデメリットもないようなので、概ね賛成して貰えました。
 これは、次に来た時に実施する工事として、それまでに手順などを考えておく事にしました。この分では、ちょくちょくこちらに来る事になりそうですね。

 その後は、せっかく来たのだからと、丘の周辺を調査する事にしました。
 夕方まで2人で調査をしましたが、アルメリアさんには大して面白い成果はなかったようです。僕の方は「アガベ・アスール・テキラーナ」を4本と「ケイアップル」を3本見つける事が出来たのでラッキーです。

 ベースキャンプに戻って夕食を食べてから、いつものティータイムですが、ここで、今回こちらに来た目的の一つである、火石について聞いてみました。
 まず、僕の画いた活性炭を作るのに必要な炉の設計図を見せて、使用目的などを説明します。

「………。と言う訳で、この炉が必要になるのですが、炉の温度を900℃まで上げて、維持する方法が見つかりません。火メイジの魔法では無理だと思うので、他の方法をずっと考えていたのですが、以前エルフの方達が火石というものを持っていると聞いた事があったのを思い出して、もしかしたら、その火石があれば何とかなるのではと思いついたんです。」

「なるほど。確かに私たちの所には火石がある。上手く制御すればアルバートが必要としている条件を満たす事も出来るかもしれない。しかし、それだけの火石を作るのは大変だぞ。火の精霊に頼んで、どれくらいで出来るか解らないな。」

「それでは、火石は火の精霊が作ってくれるのですね。」

「火の精霊が作るというか、火の精霊の力を集めて凝縮したものが火石なのだよ。沢山の精霊が集まってくれれば、それだけ大きな火石が出来る。火の上級精霊を呼べれば確実に出来るかもしれないが、それこそ呼ぶ事自体が難しい。だから私たちの所でも、そんなに沢山の火石がある訳ではないんだよ。」

 なるほど。火の精霊の力を借りないと作れない訳ですね。これは何とかして火の精霊とお近づきにならないといけないようです。

 あれ?そういえば特に何をするって訳でもないので全然気にしなくなっていたけど、3才になった頃から廻りで見えていた変なものって、もしかして精霊?
 他の人には見えないようだったし、なんか透けて見えるような不思議なもので、いつも周りにいたからすっかり慣れて、空気みたいになっていたけど、いまも廻りに沢山見えます。よく見ると、いくつかの色に分かれているようです。色が属性を表しているとすれば赤く見えるのが火の精霊、青いのは水の精霊かな?それよりずっと薄い水色に見えるのは風の精霊かもしれません。地面近くには茶色い土の精霊がいるようです。なんだ、精霊って身の回りに沢山居るんじゃない。しかも小さいけれど人の形をしているように見えます。
 試しにアルメリアさんにお願いしてみましょう。

「アルメリアさん達エルフは精霊魔法を使えますよね。」

「ああ。私も使えるよ。」

「それでは、済みませんが精霊魔法で火を熾して貰えますか?」

「解った。見ていなさい。」

 アルメリアさんは何か小さくつぶやきながら、右手を前に差し出します。
 僕が見ていると、赤い精霊がアルメリアさんの手の上に集まってきて、だんだん赤から黄色と変わり、その内手の平の上で火が踊っていました。どうやら間違えないようですね。
 
「有り難うございました。やっと解りましたよ。小さい頃から僕の周りで何時も見えていた小さな人たちは精霊だったんですね!!」 

 

第24話:不思議解明!そして大きなお友達!?

 
前書き
いよいよ小さな友達と大きな友達が登場です。
アルバート君の周りは、いつも騒ぎになりますね。 

 
 アルメリアさんは何か小さくつぶやきながら、右手を前に差し出します。
 僕が見ていると、赤い精霊がアルメリアさんの手の上に集まってきて、だんだん赤から黄色と変わり、その内手の平の上で火が踊っていました。どうやら間違えないようですね。
 
「有り難うございました。やっと解りました。僕に何時も見えていた小さな人たちは精霊だったんですね。」

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 3才の誕生日のすぐ後、神様との約束により、生まれ変わる前の記憶を一度に取り戻した。
 その影響で酷い頭痛に苦しみ、母上や屋敷に呼ばれた腕の良い水メイジ達により治療してもらった後、それまで見えなかった透き通った小さな存在に気がついた。
 廻りのどこを見ても存在し、空中を飛び回ったり地面近くに漂っていたりしているその小さい何かが、他人には見えていないという事もしばらくしてから理解した。
 そして、頭痛が収まったばかりで他人に見えないものが見えるなどと言い出せば、頭がおかしくなったと思われるのが落ちなので黙っている事にした。
 その存在は、はじめの頃は輪郭がはっきりとせず、そして何時も見えているのに危害を加えてくるような事もなかったので、ただの自然現象、空気のようなものと納得し、それからは気にすることもなくなっていた。
 それからも常に私の廻りに存在し続け、7才になった今は、その姿が人の形に似ていることも解っていた。ただ、空気のような存在であることに変わりがなかったが。
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 ……… 回想終了 ………。

 今まで、自分の周りに見えていた、その小さな存在が精霊だった事が解り、長年の疑問が解決した訳ですが、更にもう一つの疑問が出てきました。
 僕は3歳の時に、生まれ変わる前の記憶を取り戻したのですが、その記憶の中には色々な本に出てきた精霊の知識も入っていました。それなのに自分の周りにいる小さな存在をなぜ精霊と考えなかったのでしょうか?
 ある程度ファンタジーといった分野の小説を読んだことのある人なら、必ず精霊に関しての記述がどこかで出てくるものでしょう。自分の身の回りに存在する4色の透けるような良く解らないものを見て、もしかしてと思わない訳がありません。
 さらに、3歳から今までの4年間、何時も見えているのに、全く気にすることがなかったのも可笑しなことです。
 それなのに、今になってアルメリアさんの手の上で、赤い存在が集まり火が誕生して初めて、それが火の精霊だと気がついたのです。
 これは、特定の記憶がブロックされている可能性が有るのではないでしょうか。もしそんな事をされているとすれば、やったのは神様しかいないと思いますが。
 何のために記憶がブロックされていたのか解りません。また、記憶のブロックがこれだけなのかも解りません。一度神様に会って、じっくりと説明を聞きたくなりました。

 さて、精霊が見えると言うことが、即精霊の力を使えると言うことになるのかどうか判りません。ただ、その存在が精霊だと気がついた瞬間、彼らも僕の存在を意識し始めたのが解ります。それまで良く解らなかった顔の表情がはっきりとし、こちらに笑いかけてきていることも解るようになりました。僕が笑いかけると彼らも笑顔になって嬉しそうに動きが活発になるのです。
 ここは、精霊魔法を使えるエルフに解説してもらった方が早いでしょう。

「アルメリアさん。今あなたの掌で小さな火が踊っていますが、僕の目には廻りに飛んでいた小さな赤い精霊が、あなたの手の平の上にどんどん集まって来て、赤が黄色になり、そして火になったように見えました。あなたには火になる前の小さな赤い精霊が見えますか?」

「アルバートに見えるのか?私には自分の周りにいる精霊を感じることは出来るが、実際に目に見えるようになるのは集まりだしてからだが。」

「ええ。いまも私たちの廻りで飛び回っている赤や青や薄い水色に茶色といった精霊を見ることが出来ます。多分赤が火の精霊で、青が水の精霊、薄い水色は風の精霊で、茶色は土の精霊なのでしょうね。茶色の精霊は地面の近くに多くいます。薄い水色の精霊は数が少ないようですが、一番じっとしていない精霊ですね。」

「それは凄いな。私たちの仲間でも精霊を見ることが出来る者はそんなにいないぞ。それだけの力があれば精霊にお願いして力を貸してもらうことも出来るだろう。」

「それが出来ればもの凄く助かるのですが、どうやったら話しかけることが出来るのか解りません。なにかとくべつな方法があるのでしょうか?」

「なに、特別な方法など無いよ。私たちは精霊呪文を使って精霊にお願いするが、アルバートは『ヴァルファーレ』と心で話が出来るのだから、精霊達にも心で話しかければ答えてくれるだろう。」

「解りました。やってみますね。」

 心で話すのは確かに慣れていますが、この方法で精霊とも話が出来るとは思いませんでした。精霊を見つめて、声に出さずに話しかけてみます。

「こんにちは、精霊さん。僕の声が聞こえますか?聞こえたら僕の近くに来て下さい。」

 話しかけたとたんに周りにいた精霊達が集まってきました。通じるものですね。

「有り難うございます。今度は精霊さん達の仲間毎に集まって貰えますか?」

 すると、精霊達がそれぞれの属性毎に分かれて集まりました。なかなか壮観ですね。

「これは凄いな。私に直接見えるようになるなんて、よほど集まっているのか?」

 私たちの廻りに赤、青、水色、茶色と4色に分かれて塊になっています。かなりの数が集まっているのでアルメリアさんにも見えるのですね。
 集まっている妖精さん達の仕草が何かかわいらしく見えますから、名前を付けたくなりました。

「失礼かもしれませんが、呼びやすいように名前を付けさせて下さい。火の精霊さん達は『ファイアリー』と呼ばせていただきます。よろしいですか?」

 火の精霊達が何か話し合っているようにしていましたが、すぐにこちらを向いて、そろって頷きました。やっぱり可愛いですね。
 思わず可愛さに浸っていたら、他の精霊さん達が何か言っています。どうやら自分たちにも早く名前を付けるように催促しているように感じられました。

「はいはい、解ってますよ。順番にいきますから慌てないでね。それでは、水の精霊さん達は『ウンディーネ』、風の精霊さん達は『シルフィード』、そして土の精霊さん達は『ノーム』と呼ぶことにします。」

 どうやら他の精霊さん達も納得してくれたようです。これからは名前で呼びましょうね。

「アルメリアさん。精霊さん達に名前を付けさせてもらいました。これからは火の精霊は『ファイアリー』、水の精霊は『ウンディーネ』、風の精霊は『シルフィード』、土の精霊は『ノーム』と呼びますから、よろしくお願いしますね。」

「名前?精霊に名前を付けたのか!?」

 何か、あきれられたように感じます。そんなに変でしょうか。

「それでは『ファイアリー』さん達。僕の手の上に集まって炎となって下さい。」

 手を差し出して『ファイアリー』にお願いすると、『ファイアリー』が集まってきて、手の平の上で赤から黄色に変わり、高さ20サント位の炎になりました。不思議なことに掌は全然熱くなりません。
 これが精霊魔法と呼ばれるものなのですね。廻りに精霊がいれば、呼びかけるだけで使えるし、多分系統魔法よりも強力な魔法になると思います。

「有り難うございます。分かれて良いですよ。」

 あっという間に炎が小さな火の精霊達に戻りました。

「驚いたな。もうそんなことが出来るようになったのか。」

「精霊さん達がお願いを聞いてくれるからです。皆さんとても可愛いんですよ。」

「そうか。それなら簡単にできるかもしれないが、火石は火の精霊が沢山集まって、力を集中することで作られる秘石だ。同じように水、風、土の石も作られる。アルバートなら出来るはずだ。」

「解りました。お願いしてみますね。」

 気持ちを精霊さん達に集中させます。

「『ファイアリー』さん達にお願いします。僕の仕事に火石が必要なのです。作って貰えますか?」

 すると、精霊さん達が一斉に僕の側から離れました。一瞬精霊さん達を怒らせてしまったかと心配になりましたが、違ったようです。『ファイアリー』達が大きく散らばって、身体を震わせたかと思うと、遙か彼方から赤い姿の『ファイアリー』達が無数に集まり始めました。どうやら『ファイアリー』達が何らかの方法で連絡を取り合い、離れた所にいる仲間にも集まってもらったようです。反対に他の精霊さん達は場所を空けるために僕の側から離れたようですね。
 僕が両方の掌を合わせて上に向けると、まるで世界中から集まってくるような数の『ファイアリー』達が手の平の上に次々に集まり、色もさっきの炎の時と違って赤から黄色に、そして白に変わっていきました。
 どれくらいの時間が掛かったのでしょうか。やがて白い光が更に強まって、目のくらむような白色の閃光となり、唐突にその閃光が収まると、掌には赤い拳大の石が乗っていました。

「凄いぞ。こんな大きな火石は滅多にお目に掛かれない。どれほどの火の精霊が集まればこんな火石が出来るというのだろう。」

 アルメリアさんが驚いていますが、周りを見渡しても、赤い姿をした『ファイアリー』は見つけられません。一時的にこの辺り一帯の『ファイアリー』を全て集めてしまったようです。

「アルメリアさん。どうやら近くにいる『ファイアリー』全員を集めてしまったようです。こんな事をしてこの辺りの気象に問題が出ませんか?」

「多分、大丈夫だろう。ここは世界でも最も暑い場所に近いから、すぐに『ファイアリー』もまた集まってくる。自然に生まれてくるものもいるだろうからな。それよりも」

 そう言って、アルメリアさんは掌を広げて何か小さくつぶやきましたが、その掌の上には何も起きませんでした。

「やはり、火の精霊がいないので火を付けることが出来ないようだな。集落の方はどうなっているのか。」

「もしかして、一切火が使えなくなっていたりしますか?」

「その可能性が大きいな。夕方の炊事の時間までには戻ると思うが、さぞかし驚いていることだろう。」

「すみません。こんな事になるとは思いませんでした。」

「気にするな。私もここまで大事になるとは思わなかったからな。しかし、これでアルバートの目的も果たせたという訳だが、これだけの力をどう使うか、よく考えないとこれからが大変だぞ。」

「そうですね。有り難うございました。気を付けるようにします。後はこの火石の力を上手くコントロールして、使うことが出来るように頑張るだけです。」

[主よ。また大きな力を手に入れたようじゃな。ところで、他の精霊達のことはどうする積もりじゃ?]

 『ヴァルファーレ』から話しかけられて、改めて周りを見回すと、他の精霊さん達がまた集まってきていて、何やら待っているような感じです。

「精霊さん達。もしかして皆さんも秘石を作ってくれるというのですか?」

 そう聞くと、みんな揃って頷きます。ちょっと待って下さいよ。今のところ他の秘石は必要ないですし、もしもここで秘石を作ってしまったら、精霊がみんないなくなって自然界の全ての力が一時的にしても無くなってしまいます。そんな事になったら大変ですよ。

「申し訳ありません。皆さんの申し出は大変嬉しく思いますが、今のところ他の秘石を使う予定がありませんし、これ以上エルフの方達に迷惑はかけられません。必要な機会がありましたら必ずお願いすると思いますから、今日のところは我慢して下さい。」

 もう一生懸命お願いしました。これ以上廻りに迷惑はかけられませんからね。
 ちょっと不満そうですが、皆さん納得してくれたようです。助かりました。

[主も色々と気を使わなくてはならなくて大変じゃな。あまり気を遣いすぎて禿げないようにすることじゃ。]

 嫌なことを言わないで下さい。この年で禿げたらたまりませんよ。
 火石は無くさないように『王の財宝』にしまいます。制御の仕方もアルメリアさんに聞いておかないといけませんね。

 これで一段落と思っていると、精霊さん達がざわざわとしだしました。何かあったようですが、言葉が解らないのが難点です。何があったのか確認しようとしていると、『ヴァルファーレ』が言いました。

[主よ。大きな力の持ち主が近づいてきておる。気を付けるのじゃ。]

「アルメリアさん。何か近づいてきているそうです。気を付けて下さい。」

「解った。」

 いったい何が来るのかと身構えていると、南の方から何かが飛んできます。近づいてくるに従って、だんだん身体の色が赤いことやかなりの大きさであることが解ってきました。どうやら全身火の塊のような人型の巨人です。これってもしかしてもしかですか?
 巨人は僕たちの側まで来ると空中で止まり、大きな声で言いました。

[この辺り一帯の我が僕達が消えた。変位の中心を見に来たが、この場にいるのはおまえ達だけのようだ。察するにおまえ達がこの変位の原因と考えるが間違えないか?]

 どうやら、『ファイアリー』達が大勢いなくなったことで火の上級精霊が出てきてしまったようです。確かに原因となったのは僕ですから、説明も僕がしないといけないのでしょうね。

「火の上級精霊とお見受けします。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバードと申します。あなたの僕と言われるのが火の精霊のことであるのなら、たしかにその原因は僕にあります。」

[おまえは人間のようだな。それに一緒にいるのはエルフか。そちらの方は初めて見る方だがおまえの仲間か?]

「はい。こちらは『ヴァルファーレ』と言います。この世界ではない異界の住人で、今は私の使い魔をしてもらっています。」

[そうか。世界を構成する4つの力の内、3つの力の精霊達が大勢ここに集っているようだが、これはいったいどうしたことだ?そして、なぜ我が僕達がいなくなったのか説明してもらおうか。]

「それは、私が彼らに秘石を作ることをお願いしたからです。私の仕事に火石が必要なことを話し、お願いしたところ、この辺り一帯の火の精霊達が集まってくれて、火石となってくれました。こちらがその火石です。」

 さっきしまった火石を『王の財宝』から出して見せます。

[おまえの願いを我が僕達が聞き届けたと言うことか?どうやらおまえには珍しい力があるようだが、その言葉を簡単に信じることも出来ん。他の精霊達に聞いてみるとしよう。]

 そうして、火の上級精霊は遠巻きに見守っていた精霊達に状況を確認し始めたようです。何を話しているのか解りませんが、僕の話したことが本当かどうか確認しているのでしょう。少しすると話し終わったのかこちらに向き直りました。

[おまえの話したことに嘘はなかったようだ。我が僕が自主的におまえに協力したのならそれで良い。その火石はおまえのものだ。]

「有り難うございます。それからこれは事後承諾となってしまいましたが、あなたの僕に勝手に名前を付けてしまいました。どうかお許し下さい。」

[我が僕に名を付けたと?その様な事、良く僕が許したな。]

 それに対して、他の妖精さん達が何かを上級精霊に話しかけました。

[なんと。おまえ達にも名を付けたのか?人間の子供よ。おまえは自分が何をしたのか解っているのか?]

「名を付ける事がそんなに大変な事なのでしょうか?」

[解らないか?相手に名を付け、相手がその名を認めたなら、おまえはその相手を僕にした事になるのだぞ。真の名を相手に告げる事と同じ事だ。おまえはこの世界を司る4つの力の僕達全員を自分の僕とした事になるのだ。]

 そう言うことですか。どうりでアルメリアさんが呆れた訳です。これは大変な事をしてしまいました。

「申し訳ありませんでした。そんな大変な事とは知りませんでした。私はどうすればいいのでしょうか?」

[どうもこうも無い。精霊達の話しによれば、名を付ける事を精霊達から願ったという事なのだから、おまえの責任とは言えない。だが、おまえも名を与えた以上、その責任を認識する必要が有るという事だ。それに、いずれ他の精霊達の主からも何かしら説明を求めてくる事と思うから、忘れない事だな。]

「解りました。御指導有り難うございました。肝に銘じて忘れずにおります。」

[ところで、おまえなら我にどのような名を付ける?]

「はっ?貴方の名前ですか?その様な事が許されるとは思えませんが、もしも名を付ける事が出来るのであれば『サラマンディア』と付けさせて頂きたいと思います。」

[『サラマンディア』か。良い響きだ。これからもし我に話したい事があれば、その名で呼ぶが良い。どこにいてもおまえの前に現れよう。]

「その様な事、宜しいのですか?」

[良い。その名、気に入った。我が僕達の事可愛がってくれ。それではまたな。]

 そう言って、火の上級精霊は南の空に飛んでいきました。
 もしかして、これって火の上級精霊もお友達になったという事でしょうか?
 今まで黙っていたアルメリアさんが溜息をついて言いました。

「アルバートと一緒にいると、何が起きるか解らないな。退屈しないのだが、命がいくらあっても足らないような気がするのは気のせいか?火の上級精霊が出てくるとは思いもしなかったが、その上、名前まで付けてしまうとは。おまえには怖いものがないのか?」

「怖いもの位有りますよ。それに名前を付けたって言いますが、どんな名を付けるかと聞かれたので答えただけです。まさかそのまま呼ぶ事になるなんて考えもしませんでした。」

「まあ、これは言っても仕方のない事だったな。それより問題なのは、あの上級精霊が言っていた事だ。こちらにいる間ならたいして問題もないが、アルバートが家に帰ってから他の上級精霊が屋敷の方に行ったりしたらどうなると思う?」

「言わないで下さい。考えるだけで頭が痛くなりますから。胃も痛くなるし、この年で頭痛持ちの胃潰瘍持ちなんて勘弁して下さいよ。
 多分、屋敷の方ならみんな驚くでしょうが、たいして問題にはならないでしょう。後は皇城なんかに行っている時に来ないでくれれば良いのですが、相手が相手ですからこっちの都合なんて考えてくれないでしょうし、考えてもどうしようもないのでしょうね。」

「違いない。言わば天災のようなものだな。いくら備えても被害は出るものさ。さて、もう寝るか。」

 そうですね。すっかり疲れてしまったので、大人しく寝る事にしましょう。『ヴァルファーレ』と廻りの精霊さん達にもお休みなさいの挨拶をして、アルメリアさんと小屋の中に入りました。今日一日で色々な事がありすぎたので、眠れるかどうか心配でしたが、疲れの方が勝ったようで、横になってすぐに寝てしまいました。

 お休みなさい。 

 

外伝2:頑張れ?『改革推進部・事務局』!!

 
前書き
その頃の改革推進部では?
皆さん頑張っていますね。良い仕事場です。 

 
 おはようございます。私はゾフィーと申します。
 私は、この度ボンバード伯爵様の嫡男アルバート様がお作りになりました『改革推進部』の1部門である『保険衛生局』の採用試験に応募し、はるばるこのボンバード伯爵様のお屋敷まで面接試験に参りました。
 初めてアルバート様にお会いした時の印象は、とても美しいお子様で、その上賢く、私たち領民にも優しく接してくれる方と感じました。話す事も7歳のお子様とは思えない程しっかりとなさっております。お子様といってもこの方ならお仕えして何の不安も感じられないと思いました。きっとあと10年もしたら、女性のお子様を持つ貴族の方々が押し寄せる事でしょう。

 採用試験2日目に、ボンバード伯爵領内から集まった30名の応募者中、男の人ばかり14人が採用されました。採用された人たちが別の部屋に移っていくのを見ながら、私は他の不採用となった人たちと一緒にがっかりしていました。しかし、解散となる時にアルバート様から不採用者の中から女の人だけ残るように言われ、男の人たちが帰った後、私を含めて5人の女の人が残りました。
 この状況になって、初めに考えたのはよく噂に聞いた貴族様の行いです。女中などに雇うと言って屋敷に連れ込み、散々弄んだあげくに飽きるとすぐに追い出されるとか。良い噂など聞いた事がないのでとても不安になりました。他の人たちも同じように感じているのでしょうか、落ち着かない感じで不安そうです。
 唯一の救いは私たちに残るように指示を出したのが7歳のお子様であるアルバート様だと言う事ですが、アルバート様の後ろに伯爵様がいらっしゃらないとは限りません。

 でも、私たちの不安は杞憂であった事がすぐに解りました。
 アルバート様は私たちの前に立つと、募集していた仕事とは別の『事務局』という部署で働かないかと勧誘してくださったのです。仕事の内容と、雇用の条件をお聞きして今までの絶望感が消え、希望の光が差し込んだように感じました。思わず、他の人たちと一緒にアルバート様に詰め寄ってしまい、アルバート様が少し怯えたようになった事を覚えています。
 その後、アルバート様から私に、他の人たちへの読み書きや算術の教育を一緒にして欲しいと言う事と、その分の手当も貰えると言われ、思わず雇って貰えるように即答していました。この時は気持ちが高ぶってしまい、涙ぐんでしまいましたが、ちっとも恥ずかしいとは思いませんでした。
 結局残された5人共、『事務局』に採用して頂き、その上、私は『事務局』のチーフとして働くようにと抜擢して頂きました。本当にこの度の募集に応募して良かったと思いました。村の代表に選んでくれた村長に感謝の気持ちで一杯です。
 『事務局』に採用された人たちの名前は、ベラ(16歳)、エルナ(17歳)、グレーテル(18歳)、ラウラ(22歳)で、みんな未婚でした。やっぱりこんなに遠くまで既婚者が一人で来るのは無理でしょうね。私より年上の人はラウラさんだけですが、みんな綺麗な人ばかりで負けそうです。

 その日は、採用された人たちと一緒に親睦会を兼ねた昼食会を開いて頂き、お屋敷の広間で初めて貴族様のお食事を食べさせて頂きました。こんな贅沢なお食事は初めてでしたが、これでも簡単にしたと言う事で、思わず普段はどんなお食事をしているのだろうと想像してしまいました。
 食事の後、午後は私たちが仕事をする部屋に連れて行って下さいました。先ほどの控え室より奥の方にある、少し小さい部屋ですが、仕事用の机や椅子が運び込まれていて、何時でも仕事が出来るようになっていました。掃除もしっかりとされていて、とても気持ちの良い部屋です。
 扉から見て正面の一番奥の机がアルバート様の机で、そのほかの机を自分たちで使うようにと言われました。私の机はアルバート様の左側で、一番近い所になります。
 その後は明日からの予定や、私たちが着る事になる制服のことなどの話があり、実際に制服のデザインを決めるように指示され、午後一杯掛かってみんなで話し合って決めました。決まった制服のデザインは、すぐにお屋敷付きの服屋さんに渡され、今週中に出来上がるそうです。

 次の日からは、午前中屋敷のメイドをしているアニーさんにお屋敷内の説明や立ち居振る舞いについての教育をしていただき、午後はアルバート様と一緒に私が講師となって、『事務局』の他の4人の読み書きと算術の教育を行います。
 教育用にアルバート様が持ってきてくれた絵本は、私が子供の頃母から寝物語に聞いた事のあるお話もありました。みんなも同じように聞いた事があると言う事なので文字も覚えやすく、とても助かりました。

 ラーグの曜日。アルバート様から寮が出来たといわれました。案内された所は、出来たばかりの少し大きな屋敷が2棟離れて,向かい合わせに建っていて、その間の奥の方に1棟、その向こう側にもう1棟の屋敷が建っていました。
 手前の2棟の屋敷が寮で、向かって右が男性用、左が女性用だそうです。中に入ってみると1階も2階も屋敷の片側に廊下があり、その廊下沿いに等間隔でドアが6個ずつ並んでいました。それぞれ同じ大きさの個室で、内装も同じになっているそうです。試しに1つの部屋に入ってみましたが、とても綺麗で住みやすそうな部屋でした。本当にこんな部屋に住まわせて貰えるのでしょうか。
 次に寮の間に建っている屋敷に行ってみます。ここは食堂で、中はとても広い部屋になっていて沢山の机と椅子が並んでいました。まだコックが決まっていないので食事は出来ませんが、近いうちに使えるようになるそうです。
 最後にその奥の屋敷に行くと、そこは大きなお風呂でした。入り口は一つですが、入った所に2つのドアがあり、右が男湯、左が女湯と書かれています。私たちは女湯と書かれた方に入ってみましたが、入ってすぐの所は何故か向こう側が見えそうな感じになっています。少し高くなった所に座れるようになっていて、おかしな作りですね。この部屋には沢山の棚が並んでいて、その棚に脱いだ服と着替えなどを入れておくのだそうです。
 その部屋の奥は、一面のガラス戸になっていて、そこを開けるととても広いお風呂場がありました。手前が洗い場になっていて、木で出来た小さな椅子や桶が並んで、その奥に2つの湯船があります。いっぺんに10人以上がゆったりと入れそうな湯船で、その上の壁には見た事のない綺麗な山や森の絵が描かれています。アルバート様に聞いてみると、これが公衆浴場という物だそうです。
 早速この日の内に宿屋から寮の部屋に引っ越しをしました。私は1階の一番手前の部屋にしましたが、お隣はベラさんでした。
 食事は食堂が使えないので、まだしばらく宿屋で取る事になっています。
 夕食を取った後、早速みんなで公衆浴場に行きました。大きなお風呂に手足を伸ばして入る事が出来るので、とてもリラックス出来ました。今まで入っていたお風呂は蒸し風呂だったので、こんな風にお湯に浸かるようなお風呂は初めてでしたが、良いものですね。

 そうして、1週間が終わる頃、私たちの制服が出来上がりました。
 一般的なドレスやメイド服(?)などと違い、スマートでシンプルなブラウスとスカートの組み合わせです。アルバート様の持っていた、まるで本物のように見える本に載っていた服を参考にして考えた物ですが、動きやすくて良いものが出来ました。着るのが楽しみです。

 翌日は、此方に来て初めての休みでしたが、宿屋にばかりいても退屈なので、女同士で話して町まで買い物に出る事にしました。宿屋で馬車を貸して貰い、グレーテルさんが御者をしてくれました。グレーテルさんの家は代々近くの貴族の家で厩番をしていたそうで、馬の扱いに慣れているのだそうです。
 私は御者台のグレーテルさんの隣に乗り込み、残りの3人は荷台に載ってみんなで楽しく話をしながら町まで行きました。
 町では寮の生活に必要な物やみんなで食べるお菓子など色々な買い物をして、屋台でお昼を食べたり、久しぶりにのんびり出来た気がしました。

 休みが明けて、こちらに来て2週目が始まりました。
 今日から、新しくできた制服を着て出勤です。
 この日、朝のミーティングでアルバート様から制服がよく似合っていると誉めて頂きました。とっても嬉しいです。
 その後、今週中にやっておく事についてご指示があり、私がチーフとして指揮を執るようにと言われました。
 ちょっと心配な事は、アルバート様が今週中、遙かな南方に旅に出られ不在になるということです。なんでも、『保険衛生局』で使う防護具というものの材料が足りなくなったので取りに行かれるのだそうですが、私達には考えられない位遠くまで行くのだそうです。
 まだ7歳でそんなに遠くに行くなんて、何かあったらと心配なのですが、先々週も行ってきたという事で、安心して欲しいと言われました。でも、どうやって行くのでしょうか?

 その後、アルバート様の出発時間に合わせて、『事務局』全員でお見送りに行きました。何故かお屋敷の訓練場から出発するそうで、アルバート様の母上様と妹様や、執事さんとメイドさん達も来ています。馬車は来ていなくて、訓練場の真ん中に網で出来た籠が置いてあるのが不思議でした。籠の中には色々な食料品やお酒の他に何に使うのか解らないような物がも入っていましたが、アルバート様ってあのお歳でお飲みになるのでしょうか?
 私達が訓練場に着いてすぐ、アルバート様が来られて、母上様達とお話しされてから、私達の方に来てくれました。
 私はアルバート様の不在の間の事をお願いされて、お任せ下さいと申し上げた後、あんなに多くの荷物をどうやって運ぶのかお聞きしました。そうするとご自分の使い魔が運んでくれると言う事です。こんな大量の荷物を運べるような使い魔なんているのでしょうか?今まで見た事のある幻獣で一番沢山運ぶ事が出来そうなのは竜籠位ですが、それでもこれだけの量を1頭で運ぶのは無理だと思います。まさか何頭も連れて行く何てことは無いでしょう。
 アルバート様からこれから使い魔を呼ぶから驚かないようにと言われて、みんなで大丈夫ですと答えましたが、その後初めて目の前に飛び出してきた使い魔を見たとたん、余りの事に頭の中が真っ白になってしまいました。多分みんな揃って気を失っていたと思います。アルバート様に治療をしていただき、何とか私が最初に気が付いたようですが、旅立つ前にお力を使わせてしまい申し訳なく思いました。それにしてもなんという使い魔でしょう。大きくて、恐ろしいほどの迫力があり、それでいてとても綺麗な不思議な使い魔です。
 アルバート様から使い魔の名前が『ヴァルファーレ』という事や、異界というこの世界とは別の世界から来た事を伺いましたが、良く解りませんでした。それでもちっとも怖い生き物ではないという事は理解出来たので、少し安心出来ました。
 アルバート様は、この使い魔に乗って空を飛んでいくのだそうです。あんなに大量の荷物を持って空を飛ぶ事が出来るなんて、信じられないような力があるのですね。それにしても、空を飛ぶって怖いような気もしますが、一度は飛んでみたいようなあこがれもあります。

 アルバート様は『ヴァルファーレ』さんの背中に座席を取り付け、荷物を『ヴァルファーレ』さんの足にロープで繋ぐと、ご自分も座席に乗り込んでベルトで身体を固定しました。なるほど、ああしておけば振り落とされるような事もありませんね。
 そして、アルバート様が私たちに手を振ると『ヴァルファーレ』さんがゆっくりと浮かびました。そのままグングン上昇していき、見えなくなる前にもう一度手を振って、南の方に向かって飛んでいってしまいました。私達も手を振りましたが、危なげなく飛び上がった『ヴァルファーレ』さんの姿に、思わず見とれてしまいました。凄く綺麗でした。
 見送りに来ていた人たちは『ヴァルファーレ』さんの姿が見えなくなるまで訓練場で立ち続けていましたが、やがてそれぞれお屋敷の方に戻っていきました。
 私たちも『事務局』に帰りましたが、その間みんなで『ヴァルファーレ』さんの事やアルバート様の事を話し続けていました。みんなかなり興奮しているようです。

 『事務局』に帰ると、午前中の残り時間で書類の読み方について、みんなで勉強する事にしました。
 先週、文字を覚える勉強をしましたが、まだ完璧とはいえません。でも、そろそろ書類で実践的な事を覚えていかないと、いつ村や町から要望書などの書類が来るか解りませんから、書類の読み方やチェックの仕方などを覚えながら、文字の勉強をして行く事にします。
 書類はアルバート様から、決済が終わっていらなくなった古い書類を渡されていますので、これを教材にして勉強していきます。
 私自身もそんなに書類に詳しい訳ではありませんが、幸い父が商人をしていましたので色々な書類を見る機会があり、書類の整理も手伝っていましたので、他の皆さんよりはある程度の事はできましたので、自分も復習しながらみんなに教えていく事が出来ました。

 比較的この仕事を覚えるのが早いのはラウラさんとエルナさんでした。飲み込みが良いというか、コツを覚えるのが早いのでしょうね。そう言えば算術の勉強でも覚えるのが早かったです。ベラさんとグレーテルさんはちょっと苦手そうで、こういった公式の書類で使われる言い回しや専門的な言葉に苦労しているようです。
 お昼休みを挟んで午後も続けましたが、いい加減疲れてきましたので、3時にお休みした後、『保険衛生局』の方の仕事を見せて貰う事にしました。

 『保険衛生局』は今週から公衆トイレの製作と組立の訓練に掛かっています。土メイジのウイリアムさんとキスリングさんが公衆トイレの壁などの部分を作り、局員の人たちが組立の練習をしています。
 土メイジのお二人は、ゴーレムを使って近くの森から木を伐採させ、この木で、壁や屋根やドアを作っていきますが、慣れているのか、かなりの速さで壁などを作って行きます。
 しかし、素人の私が見ても組立をしている方は余り順調とは言えません。4人ずつで3つの班に別れて彼方此方で作業をしているのですが、穴を掘る所から壁や屋根を組立てるまで、時々手を止めては何か話し合いながら進めています。多分次の工程が解らなくなるのでしょうね。
 実際に各村にトイレを設置するまでには、まだしばらく時間が掛かりそうです。皆さんお疲れ様。

 こんな感じで毎日お仕事をしていましたが、アルバート様が出発してから3日目の夕方に、『事務局』まで奥様がわざわざお手紙を持ってきて下さいました。鷹便が来たそうです。アルバート様からのお手紙を持って来てくれたんですね。
 お手紙の内容は、無事に目的地について、ゴムの樹液の収集も順調に進んでいるという事や、アルバート様もお元気で、毎日お天気も良く、波の音を聞きながら夜もぐっすりと眠れていると言う事。また少し黒くなったとも書いてありました。アルバート様のお肌が少し黒かったのは、南方に行っているからだったのですね。地黒じゃなかったんだ。
 アルバート様も元気で頑張っていらっしゃるのですから、私たちももっと頑張らなくてはいけません。
 次の日からの書類の勉強にも更に力が入って、ベラさんやグレーテルさんも、積極的に解らないところを聞きに来ます。みんなで額をくっつけるようにして1枚の書類を囲み、単語の読み方や言葉の意味などを考えたりして、確実にみんなの能力も向上して言っていると感じました。

 この頃になると、領内の各村や町からボンバード伯爵様宛に来る依頼関係の書類の内、道路の修理や河川の洪水対策、作物の不作や病害虫被害の対処と言った案件については『事務局』に廻されてくるようになりました。
 こういった書類は内容を確認し、優先順位を付けて整理しておくようにとアルバート様からご指示を受けているので、全ての書類をみんなで目を通していきます。特に優先順位が高いのは人命や家畜などの命に関する事で、緊急を要すると思われる場合は、ウイリアムさん達に相談し、奥様に報告するようにともご指示がありました。
 今のところ、そういった緊急を要するような文書は来ていませんが、いつ来ても対応できるように、心構えだけはしておかなければなりません。
 ちなみに今まで来た書類は、ほとんどが道路の整備に関する事と、川に架かった橋の修理に関する事で、緊急性のありそうな事は起きていないようでした。良い事ですね。

 さて、予定では明日はアルバート様の帰っていらっしゃる日です。
 きっと元気で、日に焼けて真っ黒なお顔で帰っていらっしゃるでしょうから、みんなでお迎えに行きましょう。
 そして、みんなでお帰りなさいと言って差し上げたいと思います。 

 

第25話:問題抱えて、ただいま~!?

 
前書き
問題なんて、アルバート君には今更の感がありますが、周りの人にとってはやっぱり・・・・? 

 
 お早うございます。アルバートです。

 今日は屋敷を出てから5日目。もう帰る日になりました。
 昨日、ずっと僕の周りにいて、3歳になった時から見えていたはずなのに、なぜか意識することの無かった精霊さん達を、初めて認識する事ができるようになりました。
 そして火の精霊に『ファイアリー』という名前を付けてあげたら火の精霊魔法が使えるようになったので、『ファイアリー』達にお願いしてみたら、大きな火石を貰う事が出来ました。
 しかし、火石を作るためにお願いした結果、僕の周囲数十リーグ内の『ファイアリー』が全て集まって力を貸してくれた為、この範囲内では火を使うことが出来なくなりました。
 そして『ファイアリー』がいなくなった事を訝しく思った火の上級精霊が、原因を確認するために来てしまったのです。僕は原因について説明をしました。他の精霊達も一緒に説明をしてくれたので、なんとか納得して貰いましたが、話しの弾みで、その上級精霊にも『サラマンディア』という名前を付けてしまう事になりました。
 『サラマンディア』は帰る際に、この名前で呼べばいつでも来る事と、僕が精霊さん達に名前を付けた事で、いずれ他の上級精霊も何かを告げるために僕のいるところに来る事の2つを告げて行きました。問題は何時、どの上級精霊が来るかわからない事です。屋敷にいる時に来てくれれば多少の騒ぎになっても何とかなると思いますが、僕が皇城に行っている時などにわざわざ追いかけて来られたら、皇城も首都『ヴィンドボナ』も大騒ぎになってしまいます。本当に、僕は目立ちたくないのに………。

 その後、余りの事に精神的に疲れ切ったので、アルメリアさんと軽く寝酒(自棄酒?)を飲んで、すぐに寝てしまいました。
 今回の旅の目的であるゴムの樹液の採集と火石の入手は出来ました。その上、「リュウゼツラン」と「ケイアップル」を発見することが出来たので、目標は100%以上達成できた訳で文句なしなのですが、何でいつも何か余計な事が付いてくるのでしょうか。

 さて、気を取り直して、最終日の今日は、いつも通りゴムの樹液の採集を行い、お昼にはエルフの集落に戻る予定です。
 いつも通りの朝の風景の後、朝食をとって、アルメリアさんはすぐに調査のため南東に向かって森に入っていきました。
 僕は朝食の後始末をしてから『ヴァルファーレ』に周辺をサーチして貰い、異常のない事を確認してから、後の事を頼んでゴムの樹液の採集に向かいます。
 2時間位掛かって全部の木を廻り、溜まっていた樹液を瓶に集め、幹に付けていた容器類を纏めてベースキャンプに持って帰ります。今度来る時まで無くならないように保管庫の中に入れて地中に潜らせておきました。
 これで、樹液の入った瓶が3本になり、差し当たって充分な量を確保できたと思います。
 瓶は割れないように何度も固定化の魔法をかけてありますから、輸送上の問題はありません。そのほか椰子の実も30個取って瓶と一緒に網籠に入れました。
 ベースキャンプの後片付けを終え、休憩を取りながら『ヴァルファーレ』と話していると、アルメリアさんが帰ってきました。
 いつも通りスケッチブックを抱えて機嫌良く歩いてくるところを見ると、それなりの収穫があったようですね。アルメリアさんも今回の調査では色々な植物の新種を発見する事が出来たので、満足できたようです。出来ればもっとゆっくり調査したかったのでしょうが、護衛役の僕たちが帰るのでは残る訳にも行きませんから一緒に帰る事になっています。

 アルメリアさんが『ヴァルファーレ』の前席、僕が後席に座って、ベルトを閉めた事を確認してから『ヴァルファーレ』に合図して離陸します。離陸して300メール位まで上昇し、そのまま集落に向かえば、15分で着きました。
 集落の上空に着くと風竜が上がってきます。手を振っている騎士を見ると、初めてこの集落に来た時に警備していたカイスさんでした。こちらも手を振って集落外側の草原に着陸します。
 すぐにアルメリアさんが降りるのを手伝って、その後、集落までアルメリアさんの荷物を持って行ってあげました。持ってと言ってもレビテーションで浮かべてですが。
 アルメリアさんの家について昼食を食べさせてもらって、一休みしてから代表の所に行きます。今回、ゴムの樹液を採集しに行った間の事を報告してお礼をすると共に、これから帰るので挨拶をするためだったのですが、当然アルメリアさんも一緒に報告に行ったので、話すつもりの無かった精霊との事もすっかり話されてしまい、代表からの質問攻めに遭う事になりました。
 代表にとっても上級精霊との間にあった事は珍しい事だったようで、事情を聞かれたわけですが、精霊達に名前を付けた事を話すとしっかりと呆れられ、上級精霊にも『サラマンディア』と名前を付けた事を話したら珍獣でも見るような目をされました。
 そのほか、僕の方から質問して、火の精霊に火石を作ってもらった時に、集落中の火が使えなくなった事も確認出来たので、あらためて謝罪しましたが、疲れた顔で苦笑して許してくれました。今更なんでしょうね。その時に出来た火石を見せると、その大きさに驚いていましたが、別れ際にはまた来いと言ってくれました。有り難い事です。

 見送ってくれるというアルメリアさんと一緒に草原に戻ると、沢山のエルフが『ヴァルファーレ』の周りに集まっていました。子供達もいて『ヴァルファーレ』に触ったり『ヴァルファーレ』の周りで走り回ったりしています。すっかり馴染んでいますね。
 近くに来て気が付いたのですが、いつのまにか網籠が来た時よりも大きくなって、中が色々な物で一杯になっています。僕が此方に来た時に持ってきたお土産のお返しだそうで、この前より沢山の食料やお酒などが大きくなった網籠がさらに膨らむ位に入れられていて、すごい事になっていますね。普通の竜やマンティコアなどでは、絶対に運べないでしょう。
 エルフの皆さんにお礼を言って、また来る事を約束して『ヴァルファーレ』に乗り込みます。手を振って『ヴァルファーレ』を離陸させました。帰りも荷物があるので上昇はゆっくりですが、それでも見送ってくれているエルフ達があっという間に小さくなっていきます。見えなくなる前にもう一度手を振って、上昇を続けながら北に向かって飛行を開始しました。
 5000メールまで上がると速度を上げて行きます。帰りも途中での休憩は無しで、一気にボンバード領を目指します。
 来る時は全然気付きませんでしたが、『ヴァルファーレ』の周りに沢山の風の精霊『シルフィード』が飛んでいます。この高度になると余り他の精霊達は見当たりません。僕が『シルフィード』に気付くと、『シルフィード』も僕が気付いた事が解るようで、近づいてきて、時々僕に触ったり、『ヴァルファーレ』に触ったりしています。『ヴァルファーレ』の飛行に力を貸してくれているようで、益々『ヴァルファーレ』の速度が上がっているように感じます。

 『シルフィード』の協力もあって、予想していた時間より早く、夕暮れ前には屋敷に着く事が出来ました。『ヴァルファーレ』にも聞いてみましたが、やっぱり使った力も少なくて済んで、その上スピードも速かったようです。この分では『ヴァルファーレ』の最高速度も更に速くなって、真面目に超音速戦闘機になってしまいそうですね。
 訓練場に着陸すると、前と同じで母上とメアリーが来ていました。僕が付く事は物見から知らせが行ったようです。今日は父上も屋敷にいたようで、一緒に来ていましたね。他には執事さん達とメイドさん達も来ています。仕事の時間は終わっているのに『事務局』の人たちも迎えに来てくれています。嬉しいですね。
 僕が『ヴァルファーレ』から降りると、母上に抱きしめられました。父上も隣に来て僕の頭をがしがしと撫でてくれました。一通り帰還の儀式(?)がすんで、僕は『ヴァルファーレ』の足からロープを外してやり、お礼を言って帰ってもらいました。

「『ヴァルファーレ』、有り難うございました。今回の旅もこれで終了ですから、ゆっくりと休んで下さい。」

 そう言うと、『ヴァルファーレ』は一声鳴いて、空の裂け目に入っていきました。
 僕はそれを見送ってから、ゾフィーさん達にただ今の挨拶をしました。

「『事務局』の皆さん。お迎え有り難うございます。こんな時間まで残っていてくれたのですか?」

「お帰りなさい、アルバート様。ご無事で何よりでした。みんな、アルバート様をお出迎えしたいと思って残っていたのですよ。旅はいかがでしたか?」

「それは有り難うございます。今回の旅も色々ありましたから、明日『事務局』の方でゆっくりとお話ししましょう。お土産もありますから、明日を楽しみにして下さい。」

 その後、持ってきた荷物をレビテーションで浮かべ、一旦『改革推進部』の空き部屋に持って行きました。勿論その前にドライフルーツを一握り、メアリーに上げるのは忘れませんでしたよ。
 荷物を置いて、椰子の実とゴムの樹液を網籠から出して、部屋の隅に片付けておきます。残ったお土産は、網籠ごと、もう一度レビテーションで浮かべて、屋敷の方に持って行きます。
 屋敷の食堂に入って、テーブルの上にお土産を並べてみました。この前よりも沢山の品物があります。前と同じものは魚介類の干物、ドライフルーツ、干し肉にお酒ですね。今回は他に3種類の魚の燻製とハムやソーセージ等の肉の加工品、色々なチーズ、胡椒や唐辛子(?)のような香辛料と思われる物があります。それに小さい袋に入っている豆のような物がありますね。どうやらカカオ豆のようですが、いったいどこから持ってくるのでしょうか?
 他には紅茶の葉が3袋にコーヒー豆3袋、あと綺麗なティーセットが色違いで2セット入っていました。もの凄く薄くて繊細な作りで、模様も細かくてとても綺麗です。前世ならウェッジウッドやマイセンといった高級ティーセットですね。思わず高そうだな~なんて考えていました。多分、アルメリアさんに何時も紅茶を出していたので、そちらから考えてくれたのでしょう。
 あと、チョコレートと思われる沢山のお菓子が入っていました。一口大のお菓子で、一つ食べてみるとジャムを挟んだケーキにチョコレートをコーティングしています。少しチョコレートに苦みがありますが、中のケーキとジャムの甘さで丁度良くなっています。
 しかし、持って行ったお土産より、もらったお土産の方が圧倒的に価値がありそうなのですが、どうしたものでしょうね。僕自身大したことをしているとは思えないので、今度行く時にはもっと色々考えてみたいと思いました。
 それに、これだけ素晴らしい物があるのですから、何としても交易を行いたいと思ってしまいます。ティーセットは貴族達にも人気がありますから、良い値で売れると思いますよ。

 お土産を父上や母上、メアリーに上げる物と屋敷の執事さんやメイドさんに上げる物、『改革推進部』の人たちに上げる物、皇帝と妹姫に上げる物と分けて、差し当たって父上達と執事さん、メイドさんの分を渡しました。『改革推進部』には明日持って行くとして、皇帝の所には明後日の虚無の日に報告がてら皇城まで行って渡して来ることになるのでしょうね。
 お土産を渡して、少し遅くなった夕食を食べる終わると、もう夜も遅くなったのでメアリーを先に寝かせ、僕は父上と母上に今回の旅であった事を話しました。
 まず、エルフの集落に行ってアルメリアさんにあった事。お土産を渡して集落の人たちに分けてもらった事。代表に挨拶した事を報告し、次にアルメリアさんとゴムの樹液を採集する場所まで一緒に移動し、それぞれの仕事をしていた事。その際、アルメリアさんが「リュウゼツラン」と「ケイアップル」と発見した事を話しました。

「この「リュウゼツラン」は、「アガベ・アスール・テキラーナ」という種で、テキーラという強いお酒の原料になります。まだ若いのでもう少し時間が掛かると思いますが、今のうちから「アガベ・アスール・テキラーナ」一ヶ所に移植して畑を作って、どんどん増やしていきたいと思います。
 それから、「ケイアップル」はオレンジのような実を付ける木で、こちらも一ヶ所に植え替え、果樹園を作ろうと考えています。」

「それは面白い物を見つけたな。それだけでも良い商品になるだろう。」

 父上も賛成してくれるようです。これは決まりですね。
 話を続けましょう。その後はゴムの樹液を瓶3本と椰子の実30個を持って帰ってきた事を話し、そして、今回の旅の一番問題となる場所に話しが来ました。

「ところで、父上達にはお話していませんでしたが、今回の旅は一つの大きな目的がありました。
 ある理由からエルフしか持っていない火石という物を貰ってくる事です。」

「火石?それはどういった物なのかな?」

「エルフの元には、4精霊の力が込められた秘石が有ると聞いていました。その内の火石は火の精霊の力が込められ、ルビーよりも赤く、その力を解放すれば火のメイジでなくとも火系統の魔法を使う事が出来ます。」

「なんと、そのような石が存在するというのか?」

「そうです。しかも制御方法さえ確立すれば、家全体を暖める暖房や厨房の竈の火の変わりにも使えたり、灯りにもすることが出来ます。そのほか、使い道は色々考えられるのです。」

「それは便利な物だが、おまえはそれを使って何をするつもりだ?」

「この度の改革で必要となる、活性炭という物を作るために、安定した高温で長時間過熱できる特別な炉を作らなければなりません。その炉の熱源に使います。」

「また、難しい物を作ろうとしているようだな。それでどうなった?」

「火石はエルフが持っているというのですから、アルメリアさんに火石の入手について聞きました。そして、火石を作るには火の精霊の協力が必要と言われて、どうしようかと考えた時に、3歳の頃の事を思い出したんです。僕が3歳になって酷い頭痛に襲われた後の事ですが、僕の廻りにそれまで見えなかった淡い影のような物が見えるようになりました。」

「淡い影?いったい何なのかしら?」

「はい、母上。その時はなんだか解りませんでした。ただ見えるようになっただけで、それが何なのかも解りませんし、相手も此方に何かするという事もありませんでした。ただ、不思議なことにその時から今までずっと、見えているのに見ていないと言う状態だったのが、アルメリアさんと話した後で、もしかしたらあの影は精霊なのではないかと気がついたのです。」

「精霊?アルバートは精霊が見えるようになっていたというの?」

「その様です。そして、その事に気がついて、あらためて自分の周りを見渡したら、沢山の精霊がいる事に気がつきました。精霊は4つの色に分かれていて、赤が火の精霊、青が水の精霊、薄い水色が風の精霊で茶色が土の精霊だったのです。」

「4つの色か。魔法の属性と同じなんだな。」

「そうです。そこでアルメリアさんにやり方を教えてもらって、自分の手の平の上に火の精霊に集まってもらうと、そこに炎が生まれました。その上、手の平の上で綺麗な炎が踊っているのに、ちっとも掌は熱くなりませんでした。」

「それは精霊魔法か?」

「はい。これで僕は精霊魔法が使えるという事が解ったのです。こんな風に。」

 そう言って、掌を上に向けて前に出し、『ファイアリー』に集まって炎になってくれるようにお願いすると、部屋の中を飛び回っていた『ファイアリー』が集まってきて、手の平の上で炎の踊りが始まりました。
 父上も母上も声もなく見つめています。少しして、『ファイアリー』に分かれてもらうと炎も消えました。

「アルバート。絶対人前でその力を使うのではないぞ。間違ってもロマリアなどに知られれば異端審問で殺されてしまうからな。」

「解っています。ただ、問題はまだありまして、何時までも火の精霊と呼ぶのもつまらなかったので、それぞれの精霊に名前を付けてしまいました。火の精霊は『ファイアリー』、水の精霊は『ウンディーネ』、風の精霊は『シルフィード』そして土の精霊は『ノーム』です。」

「精霊にまで名前を付けたのか?相変わらず変な事を考えるヤツだな。それで精霊は許してくれたのか?」

「はい。許してくれて、その上、とても喜んでくれました。おかげでこんな火石を作って貰えたのです。」

 そう言って、持ってきた火石を両親の前に出して見せました。

「これが火石か?なるほど、今まで見た事のあるルビーよりも遙かに大きいが、透き通るような綺麗な赤だ。」

「本当に、何て綺麗なんでしょう。初めて見たけれど、こんなに大きな火石って、いったいどれだけの力を秘めているのかしら。」

「そうですね。この火石の力を制御して引き出す方法も考えないと行けません。まあ、それは置いておいて、この火石を作るために、僕達がいた場所の周囲、どれくらいか解りませんがおそらく数十リーグの範囲で、一時的に『ファイアリー』がいなくなりました。そのためエルフの集落でも火が使えなくなったりしたそうです。
 そして、その事に異常を感じた火の上級精霊が僕達の所にやって来ました。」

「上級精霊?そんな者まで出てきたのか?良く無事だったな。」

「幸い、話のわかる精霊だったので助かりました。『ファイアリー』のいなくなった訳を話し、その事を他の精霊も説明してくれたので、上級精霊も納得して、特に咎められる事もありませんでした。
 ただ、火の精霊に名前を付けた事を話したところ、大変驚かれてしまい、その上、他の精霊達みんなにも名前を付けたと言ったら、思いっきり呆れられてしまいました。
 なんでも、相手に名を付け、相手がその名を認めたら、その相手を僕にした事になるのだそうです。それは真の名を相手に告げる事と同じ事で、僕がこの世界を司る4つの力の僕達全員を自分の僕とした事になると言われました。」

「なに~!?4精霊全てを僕にしただと?いったい何しているんだ?そんな事をして上級精霊達が黙っている訳がないだろ!?」

「一応、火の上級精霊には認めて貰えましたし、話しの弾みでしたが火の上級精霊にも名前を付けてしまいました。」

「呆れて物が言えんな。どこまで非常識を突き進むつもりだ?上級精霊に名前を付けた?いったいどうなるのだ?」

「火の上級精霊、名前は『サラマンディア』にしましたが、いつでも呼べば来てくれるそうです。」

「つまり、おまえに従属してくれたという事か。とんでもない息子を持ったものだ。」

「ねえ、アルバート。その『サラマンディア』さんてどんな精霊さんなの?格好いい?」

「そうですね、全身炎に包まれた真っ赤な巨大な竜です。恐ろしい熱を出していると思うのですが、僕には全然感じませんでした。精霊の加護があれば、炎に焼かれる事もないそうですから、今の僕は火山に飛び込んでも火傷一つしないかもしれません。」

「すごいわね。会ってみたいわ。今度呼んでくれない?」

「ちょっと待て。ソフィア何を言い出すんだ。そんな精霊を呼んだりしたらアルバートは平気でも、私達や屋敷なんか灰も残らず燃え尽きてしまうぞ。」

「そうですよ、母上。いくら何でも無茶です。『ヴァルファーレ』とは違うのですから、呼ぶのは止めた方が良いですよ。」

「そうなの?残念ね。面白そうなのに。」

 相変わらずの母上に、僕も父上も力が抜けそうです。

「その話は終わりにして、ここで最後の問題が出来ました。『サラマンディア』が帰る時に告げられたのですが、他の精霊にも名前を付けた事で、それぞれの上級精霊が何か言ってくるそうです。それも何時、どの上級精霊が来るか解らないので気を付けるようにと言われました。」

「他の上級精霊?火の他の3精霊か?そんな者がここに来るというのか?」

「まあ、この屋敷に来てくれれば、まだましかと思っています。『ヴァルファーレ』の事もあって、屋敷の人たちはある程度の耐性がありますから、それほど大騒ぎにもならないでしょう。問題は、僕が皇城に行っている時に来たりすると大変な事になるという事です。おそらく僕を追って皇城まで来てしまうでしょうから。」

「何て非常識な。そんな事になったら、皇帝閣下も皇城もどうなるか解らないではないか。『ヴィンドボナ』もパニック状態になってしまうぞ。」

「そうなんですよね。どうやって対処したらいいかも解らないので、3つの上級精霊が来てしまうまで皇城に行かない方が良いのでしょうが、報告にも行かないといけませんし、お土産もありますから。だから頑張って良い方法がないか考えているところです。」

 親子3人で頭を抱えて考え込んでいるのも笑える気がしますが、問題が問題なので、一歩間違えればゲルマニアがどうなるか解りません。ここは慎重に考え無いといけないでしょう。
 でも、いくら考えても良い考えなんて浮かびません。いい加減、今日は疲れたので公衆浴場に行って、どっぷりと湯船に浸かってこようかなと考えて、閃きました。
 そう言えば、この前皇城に行った時、皇帝が公衆浴場に入りたいって言っていましたね。あの時は他の貴族達に知られるのが嫌で、適当に話しを誤魔化しましたが、この際です。こちらから行く事が危険なら、来てもらえば良いのではないでしょうか。後でこの事が広まって他の貴族達に来られても困りますから、お忍びで来てもらえば何とかなるかもしれません。妹姫様達もこの屋敷に来たがっていましたから、ついでに呼んでしまうのも良いでしょう。

「父上、母上。先週皇城に行った時に、今行っている領内改革について皇帝閣下におはなしした所、皇帝閣下からぜひ公衆浴場に入ってみたいと言われました。それに妹姫様達も、一度この屋敷に来て母上とゆっくり話しがしたいとの事でした。この機会に、お忍びでお呼びしてはどうでしょうか?」

「アルバート。つまり、おまえが行けないから、皇帝閣下をこっちに呼んでしまおうという事か?」

「端的に言ってしまえばそう言うことです。」

「おまえも、本当に遠慮のないヤツだな。」

「あら。良いじゃありませんか。私も妹たちとゆっくり話が出来ますし、みんなでお風呂に入るのも楽しそうだわ。あなたも皇帝閣下と一緒にお風呂に入って、ゆっくり話しをされても良いと思いますわよ。」

「解った。一度皇帝閣下にお伺いを立ててみよう。話しをしたらすぐに来られる事になるかもしれないが。」

 多分、この前の様子なら、すぐに飛んでくるでしょうね。でも皇帝が家臣のお風呂に入るためにやって来るというのもとんでもない話しです。男湯に皇帝と父上が入って、女湯に母上と妹姫達が入ってる?聞いた事もない状況ですね。絶対他の貴族達に知られないようにしないと行けません。
 まあ、これで報告もお土産も何とかなるかもしれません。この際ですから、何でも利用しましょう。

 これ以上の話しも、特にないようなので、僕は公衆浴場に行く事にしました。旅の疲れはやっぱりお風呂が一番ですよね。それで入ってきます。 

 

第26話:課題消化!(その1:コックさんゲットだぜ!!)

 
前書き
家に帰ってゆったりのんびり。良いですね~!!
なんて思っていたら、あまり来て欲しくない人がやってきそうです。
その反面、一番来てほしい人も来たりして。
やっぱりのんびりできないアルバート君でした。 

 
 お早うございます。アルバートです。

 昨日は疲れたので、公衆浴場で手足を思いっきり伸ばして広い湯船に浸かっていました。
 ゆっくりとお風呂に浸かって、体中にしみ込んだ旅の疲れが、お湯に溶けていくような感じがしました。
 ちなみにこのお風呂のお湯は、練金で地下深くまで掘り抜いて出した温泉です。どうやって掘ったかは内緒ですよ。結構深く掘ったのでちょっと手間は掛かりましたが、やっぱりお風呂は温泉が一番でしょう。源泉掛け流しの立派な温泉です。
 おかげで、24時間いつでも入浴可能になっています。出来上がってから1週間も経っていませんが、屋敷の人も『改革推進部』の人も毎日入っていますが、近くの領民も入りに来ていて、とても評判が良いようです。

 起きてから、旅行中は出来なかった日課の訓練もしっかりとやりました。5日もやらないと身体が鈍ってしまいそうで、変な気分になります。訓練後は公衆浴場で汗を流しました。朝の一番風呂で湯船に浸かりながら、誰もいないことを良いことに、大きな声で歌って気分爽快です。

*******************

 朝食後、時間に合わせて『改革推進部』へ出勤です。『部長室』に入ると机の上に書類の小山がありました。たった5日間でこんなに溜まります?いったいなんでしょうね?
 カーテンを開いて窓を開け、空気を入れ換えながら、椅子に座って書類を一枚ずつ確認しました。どうやら僕が不在中に来た、村や町からの要望書や嘆願書のようです。いつもは父上の執務室に持って行かれる物ですが、『改革推進部』が出来たので、此方に廻ってくるようになったのですね。そんな話は父上から聞いていませんが。
 それにしても、『改革推進部』が出来て2週間と経っていないのに、その間だけでこれ位書類が来ると言うことは、領内にも結構問題があるようです。
 一番多いのは街道などの道路の補修関係ですね。やっぱり未舗装路ですから、雨が降るだけでもダメージがあるのでしょう。それに合わせて橋の補修依頼もあります。大抵石橋なのでそうそう壊れることもないように思いますが、基礎の作りが甘いと経年劣化で崩れる部分が出てくるようです。この補修は土メイジの仕事になりますが、場所によっては危険な獣や幻獣が出るところもあるし、野盗も出るかもしれませんので護衛のためにメイジや騎士の協力も必要となります。
 範囲が広いだけに、時間が掛かる地味な仕事ですが、道路が荒れると色々な障害が出てくるので、出来るだけ早く対処した方が良いでしょうね。

 ざっと目を通しただけですが、ミーティングの時間になりますので行きましょう。
 先に『保健衛生局』に顔を出して、帰ってきた挨拶とお土産を置いて行きました。仕事はウイリアムさん達に任せておけば大丈夫でしょうから、現在の状況は後で聞くことにしましょう。
 その後、『事務局』に行って、朝の挨拶をしながら自分の席に行きました。

「お早うございます。昨日は僕のお迎えのために遅くまで残って頂き、有り難うございました。まずはお土産です。皆さんの机を合わせてくれますか。」

 そう言って、みんなの机を合わせてテーブルを作り、持ってきたお土産の袋をその上に乗せました。中からドライフルーツや魚の干物、燻製、干し肉やハム、ソーセージ等を出して、並べて見せます。
 みんなの喚声が上がり、それぞれ公平に分け始めました。量があるので分けるのも大変ですが、楽しそうですね。特にドライフルーツやお菓子類は嬉しいようですね。
 お土産に入っていた小さなチョコレートのケーキは、何種類かのジャムが入っていて、食べてみないと何のジャムが当たるか解りません。少しお酒が入っているのか、しっとりとして良い香りがします。
 今日のミーティングは、お茶を飲んでケーキを食べながらになりました。

 まず最初に、僕の方から今回の旅の成果を報告します。内容的に全部は話せないので、一部省略しますが。

「今回の旅は、前にも行った場所なので、移動自体は何も問題なく、一気に飛んで行くことが出来ました。
 目的地に着いて、キャンプの準備をしてから一度森に入り、1時間ほど掛けてゴムの木の確認と、幹に傷を付けて樹液を受ける容器をセットしてから、他の所を探して新しいゴムの木を5本見つけることができました。これで合計16本のゴムの木を手に入れることが出来たので、今回は樹液も沢山取ることが出来ましたよ。」

「アルバート様お一人で森の中に入ったりして、危なくないのですか?』

 ベラさんから質問がありました。普通、そう考えるでしょうね。

「あの辺りは人も居ませんし、危険な毒を持った生き物もいないので大丈夫ですよ。危険な獣や幻獣は近づく前に『ヴァルファーレ』が見つけて、僕にはすぐに警告が届きます。これまでに狼のような獣が群れで来たことが一度ありましたが、『ヴァルファーレ』の通常技(ソニックウィング)で一瞬で吹き飛ばされてしまいました。」

「わあ~!『ヴァルファーレ』さんて、凄いんですね。」

 そうです。凄いんです。その上必殺技(シューティング・レイ)も有りますから、このハルケギニアの世界では、ほとんど無敵と行っても良いでしょう。えっへん!!

「向こうでやっていたことは、毎日ゴムの木から樹液を取ることだけですから、空いた時間を使って、前来た時に探せなかった辺りの調査をしました。この調査で、面白い物を見つける事が出来たんですよ。」

「面白い物ですか?いったいなんでしょう?」

 グレーテルさんの話し方は、アニメ版のカトレアさんかな?何かホンワリしますね。

「植物なのですが、一つは「リュウゼツラン」の1種で「アガベ・アスール・テキラーナ」という背の高さが60サント位の植物です。これはテキーラという強いお酒の原料になります。もう一つは「ケイアップル」といって少し背の高い木ですが、実がオレンジに似ていて少し酸味があって美味しいんです。どちらもまだ収穫できる状態ではないので、もう少し時間が掛かりそうですが、きっと気に入って貰えると思いますよ。」

「お酒とオレンジですか。良いですね。美味しそうです。でも、いったいどれくらい遠くまで行ったのですか?聞いたことのない名前の植物ばかりなので、余り近くではないと言うことは解るのですが、どの辺なのかが全然解りません。」

 これは、ラウラさんの質問です。さすが最年長。お酒も好きそうです。

「場所については話していませんでしたね。『ヴァルファーレ』が時速900~1000リーグで飛んで1時間半から2時間といった所ですから、大体屋敷から南の方向に1600~2000リーグの間位でしょうか。」

「1600リーグから2000リーグですか!?もの凄く遠いです。私の村からこのお屋敷まで、たしか30リーグですが、それでもお屋敷までは遠くに感じていましたのに、それの50倍以上も遠いなんて。」

「本当に遠くよね。それにしても『ヴァルファーレ』さんて、そんなに早く飛べるんですか?風竜よりもずっと早いですよね。」

「本気になればもっと早く飛べるんですよ。しかも飛んでいられる時間も風竜より長いので、ハルケギニア中で行けない所はありませんね。」

 みんな、本当に驚いています。これだけの能力を持った生物は、このハルケギニアには他にいませんから想像も出来ないのでしょうね。
 さて、それでは、次に皆さんの報告もお聞きしましょう。

「私の方はこれ位でお終いにしましょう。皆さんの方はどうでしたか?」

 こうして、僕のいなかった間のことを報告してもらい、大体今週合ったことは確認できました。(外伝2参照!!)

****************

 夕方、仕事が終わって屋敷に帰ると、アニーが待っていて、父上が話しがあるので執務室の方に来るようにと伝えてくれました。急いで行ってみましょう。

「父上。アルバートです。」

 ノックをして、中に話しかけます。

「アルバートか。入りなさい。」

 執務室の中に入って、父上の前に行きました。

「父上、何かお話があるそうですが、何でしょうか?」

「昨日の件で。朝一番に皇帝閣下に鷹便を飛ばしたのだが、もう鷹便が帰ってきた。昨日の夜の通りの内容で手紙を送ったのだが、まさかこんなに早く返事が来るとは思わなかったよ。おまえも読んでみなさい。」

 鷹便で着いた手紙を渡されました。内容は大体わかりそうな気がしますが。

 ……… 手紙・読んでいる最中です。………

 やっぱり来るそうです。来週マンの曜日に皇城を出発し、街道を馬車で移動して、ダエグの曜日に此方に着くと言うことです。妹姫達も連れてくると書いてありますから、予定通りですね。それにしても、何でこんなに早く返事が来たのでしょう?待っていましたという感じなのですが、気のせいでしょうか。

「ん?父上。この手紙によるとダエグの曜日に此方に着いて、マンの曜日までゆっくりしていくと書いてありますが、そうすると皇帝閣下が皇城に戻られるのは再来週のダエグの曜日になります。2週間近く皇帝閣下が皇城を空けることになりますが、政務はどうなるのでしょうか?」

「アルバート。おまえが言いたいことは良く解るつもりだが、皇帝閣下が動き出したら、もう誰にも止められないのだよ。恐らく今頃は仕事を丸投げにされる大臣達が大騒ぎをしていることだろう。」

 皇帝が2週間も不在で、仕事は大臣に丸投げ?しかも不在の理由が臣下の家で湯治?大丈夫か?ゲルマニア。
 多分騒ぎになるだろうとは思っていましたが、ここまで来ると、開いた口がふさがらないといった感じです。途中の宿泊は街道沿いの貴族達の屋敷になると思いますから、彼らの所でも皇帝を迎える準備で大変な騒ぎになっていることでしょう。その上、警護の騎士達が大勢着いてきて、どこかの大名行列ですね。やはりお忍びは無理でしたか。やれやれ………。

「それでは、来週のダエグの曜日に皇帝閣下が行幸されると言うことで、お迎えの準備をしなければなりませんね。領民にも知らせないと行けませんから、各村や町に伝令を出します。」

「うむ。屋敷の方の準備などは私とソフィアでやるから、村や町に知らせるのはおまえに任せる。後は自分の仕事に専念しなさい。」

「解りました。来週いっぱい、何事も起こらなければ良いのですが。」

「そうだな。余り期待できないが、そうなることを祈ろう。」

 その後、父上と一緒に食堂に行き、みんなで夕食を頂きました。
 夕食の後はメアリーと遊んであげて、遊び疲れたメアリーを部屋に運んで寝かしつけて自分の部屋に戻ります。
 明日はお休みなので特に仕事はありませんが、皇帝の行幸を村や町に知らせるお触れを書いて、伝令に持たせなければなりません。それが終わったら久しぶりに秘薬作りでもしましょうか。最近秘薬の改良もやっていませんから、母上と話しをしてみましょう。
 ベッドに入って、適当な本を読んでいる内に眠くなりましたから、そのまま明かりを消して寝ました。

*****************

 翌朝。
 今日は皇城に行く用事もないので、起床後、村や町に皇帝行幸の知らせを伝えるお触れを書いて、執事にすぐに送るようにお願いしました。本当は朝の訓練もしようと思ったのですが、何枚もお触れを書いて面倒くさくなったので、サボりました。

 朝食後のティータイムに母上と話して、午後から秘薬の改良などをやる事になりました。母上も久しぶりなので、嬉しそうです。
 それから、午前中はメアリーと遊んであげました。『ヴァルファーレ』を呼んで、1時間ほど遊覧飛行をしてから、訓練場の隅でオママゴトの相手や本を読んであげたりしましたよ。『ヴァルファーレ』も横でのんびりうたた寝をしたり、メアリーの相手をしたりしていました。

 お昼も済んで一休みしてから、僕の部屋に母上が来ました。色々相談して、どの秘薬をどれくらい改良するか決めて、二人で練金と調合を繰り返します。
 大抵の病気なら簡単に直してしまう秘薬や、怪我を治すための秘薬などは、あれ以上効果を高める事が出来るとは思えません。代わりに個別の症状に特化した秘薬を作って見ました。例を挙げると便秘薬や下痢止め、ものもらいなどの眼病用とか、水虫の薬などです。
 母上が特に興味を示したのはお化粧を落とすクレンジング液や美容液、お腹に塗ると余分な脂肪を除去する塗り薬や、やはり塗るだけで胸を大きくできる豊胸薬(ルイズが欲しがりそうですが。)などです。クレンジング液と美容液は、生前の日本でよく見かけた物を見本にしました。数限りなく有りましたからね。脂肪除去の塗り薬は塗ると皮膚から成分が浸透して、体内の余分な脂肪を溶かして尿として排出します。また、豊胸薬は腹部や大腿部などの気になる所に塗ると成分が浸透し、余分な脂肪を胸に集めて胸を大きくします。共に塗った後、じっくりと揉むことで、より効果を発揮するようにしました。それにしても母上が塗り薬に異常な程熱を入れていました。僕の見た限り、そんな物は必要ないと思うのですが、見えない所に不安があるのでしょうか?何て事を考えていたら、母上に笑いながら殴られました。何で考えていたことが解ったのでしょうか?
 こうして作られた秘薬類は、我が領の特製として他の貴族達に非常に人気があります。結構な値段で売っているので、かなりの収入源になり父上も喜んでいますが、母上の熱心さから想像すると夫婦仲にも貢献しているのかもしれません。その内、もう一人位弟か妹が出来るかもしれませんね。少し効果を落とした物を安価で領民に分けていますが、手荒れ用のクリームなどは特に人気があります。
 そんな事をして休日を過ごしました。

**********************

 そして、また、新しい一週間が始まります。
 お触れは休み中に出してしまいましたから、僕は自分の仕事に集中したいと思います。
 朝、『改革推進部』の各局に顔を出して、ミーティングに参加してから仕事場に行きます。
 今日は、早速炉を作ります。途中で拾い集めた石を使って、練金で1メール四方の石の箱を作ります。側面の一ヶ所に30サント四方の穴を開け、石箱の内面に耐熱煉瓦を隙間無く敷き詰め。さらにその内側に練金で耐熱用のセラミックを作って貼り付けます。石箱の壁の厚みは合計20サントになりました。
 石箱の中は2段にして、下の段は高さ10サント、上の段は45サント、間の棚は厚さ5サントの鋼鉄をセラミックでコーティングしました。棚は石箱の壁近くにスリットを作り上下を繋いでいます。
 30サントの開口部に鉄と耐熱煉瓦とセラミックで扉を作り、取っ手と閂を付けました。
 更に開口部の上に穴を開けて、そこに温湿度計を取り付けます。
 この石箱の下に30サントの台を鉄で作り、石箱としっかり固定して出来上がりです。

 石箱の下段に火石とセラミック容器に入れた水を入れて、『ファイアリー』にお願いして力を解放していきます。温湿度計とにらめっこしながら、炉内の温度が900℃になるように解放する力を調整します。ほとんど感覚での作業になりましたが、午前中一杯かけて調整し、大体どれくらいの力を解放すれば良いか確認できました。
 問題は水蒸気ですね。ガスとして使う水蒸気と椰子殻炭を一緒に密封して加熱するのですが、加熱温度が900度位になる事と、火石と一緒に入れた水では充分な水蒸気が得られませんでした。
 なにしろ、一回ごとに炉内がある程度冷えてからでないと、中の水を補給出来ないので時間が掛かります。
 昼食を挟んで水蒸気を得る方法を考えて、仕方ないのでセラミック容器の大きさを変えてみたり、上段にも容器を入れてみたりして、試行錯誤の結果、水の量と容器の位置を決めることが出来ました。何度も試していたら、あっという間に夕方になってしまいました。時間が経つのが早いです。

 事務局の方で終了ミーティングに出て、解散後屋敷に戻ると、アニーが待っていました。
コック長から時間があるようなら来て欲しいと言付かって来たそうです。多分コックの件だと思うので早速行ってみましょう。

「コック長いますか?」

「おお!アルバート様、お呼びだてして申し訳ありません。」

「良いですよ。気にしないで下さい。それで、コックの件ですか?」
 
「はい。見つかりましたよ。丁度良い人がいました。」

「見つかりましたか。それは良かった。これで食堂の運営が出来ます。それでどこの人ですか?」

「実は、昔の知り合いで、現在ガリアの首都『リュティス』で酒場の厨房を取り仕切っている奴なんですが、彼からの手紙で料理の発想に行き詰まって、他の土地で働く所を探していると書いてあったんですよ。それで、まだ行き先が決まっていないならこっちに来てみないかと鷹便でこっちの条件なんかも書いて送ってやったら、来ても良いって返事が来たので、早速呼んでおきました。良いですよね?」

「勿論良いですよ。それで、その人の名前は何て言うんですか?」

「そいつの名前はモーリスって言うんですが、たしか叔父がトリステインの魔法学校でコック長をやっているとか言ってましたな。その叔父仕込みで料理の方はかなりの腕ですよ。」

 トリステインの魔法学校って、コック長はマルトーさんですよね。来て欲しいと思っていた人材に当たったようです。とうとう原作関係者に関わりが出来たようですね。 

 

第27話:課題消化!(その2:2体目の上級精霊登場!!)

 
前書き
とうとう、原作登場人物に関係のある人が登場します。
食生活の向上が見込まれるので、アルバート君も大いに期待しています。
上級精霊も2人目がやってきますが、いつも賑やかなお屋敷ですね。 

 
 お早うございます。アルバートです。
 昨日、待望のコックさんが見つかったのでようやく食堂が運営できると大喜びしました。
 しかも、コックさんが、あのトリステイン魔法学校のコック長マルトーさんの甥に当たり、料理の腕もマルトーさん仕込みだというのですから、願ったり叶ったりです。
 現在ガリアにいるらしく、此方に来るのに何日掛かるか解りませんが、待ち遠しい限りです。

 さて、昨日は一日かけて炉の調整をしていましたが、なんとかうまく行ったので、今日は活性炭作りに挑戦してみましょう。
 朝食後、『改革推進部』でのミーティングに参加して、今日一日の指示を出してから作業場に入ります。
 昨日900℃まで温度を上げて色々調整をしましたが、一晩たって炉内が冷えても特に破損している所もないようです。かなり頑丈に作って正解だったようですね。火石も昨日使った位ではそれほど小さくなったようには感じません。
 早速、炉内に昨日の調整で解った規定量の水を入れ予熱します。ある程度温度が上がってから椰子殻炭を入れ、しっかりと扉を閉めて外気を遮断して、閂をかけます。そして『ファイアリー』にお願いして、炉内の温度を上げてもらいました。
 炉内の温度は順調に上がり、温湿度計が900℃を指すと『ファイアリー』が温度の調節をしてくれます。頑張って何度も調整したので、『ファイアリー』もどれくらいの温度が良いか解ってくれましたから、ある程度自動で温度を調整してくれます。
 そのままの温度を維持し、1時間後加熱を止めました。このまま冷えるまで放置します。

 一休みしに外に出てみました。炉の壁をかなり厚くして耐熱煉瓦なんかも張り巡らせてありますが、それでも側にいるとかなり熱いのです。おかげで窓を開け放っていてもずっと室内に居るのは厳しい物があります。これは『シルフィード』に頼んで、部屋の中の空気を循環させて空調機のような役目をしてもらった方が良いかもしれません。
 それにしても外は気持ちが良いです。木陰に座り込んで周りを見回すと、『シルフィード』が僕の廻りをくるくると飛び回っています。この辺りでは『ファイラリー』より『シルフィード』の方が沢山見えますね。地面に座っているので『ノーム』もいますが、近くの水といえば井戸くらいしかないので『ウンディーネ』は見当たりません。仲間はずれは可哀想ですから、屋敷の前に池でも作ってあげましょうか。
 暑い室内から外に出てほっとしていると、『シルフィード』の様子がおかしくなって来ました。なにか落ち着かない感じで、飛び回るのも早くなっています。これはもしかしてと思ったら、すぐ側につむじ風が吹いたとたん、薄青い透き通った巨人が現れました。
 とうとう現れましたが、風の上級精霊でしょうね。『シルフィード』もその巨人の廻りを取り巻いて、いつも以上に元気がありそうです。上級精霊から力を貰っているのかな?

[お前が、我が眷属に名前を付けた人間か?]

 これは頭に響くような声ですね。たまたま屋敷から出てこようとしたメイドがビックリして中に引っ込んでしまいました。大騒ぎにはならないと思いますが、すぐに母上達に知られて絶対見に来るでしょうね。
 さて、まずは挨拶からしましょうか。

「初めてお目に掛かります。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバードと申します。風の上級精霊とお見受けしますが、良くいらっしゃいました。」

[ほう?驚かないか。なかなか肝の据わった人間だな。我が眷属に名前を付けるだけのことはある。]

「たしかに風の精霊に『シルフィード』という名前を付けました。名前を付けるという意味は火の上級精霊よりお聞きしましたが、知らなかったとは言え、勝手なことをしてしまい申し訳ありません。」

[彼奴も来たか。その話しぶりからみると特に咎めはなかったという所か。我が眷属の言う所では自分の方から名を付けるように頼んだそうだな。だから儂もお前に文句を言うつもりはない。名を付けた責任についても解っているようだからな。今日はお前がどんな人間かを見に来ただけだ。まあ、合格としておこう。]

「有り難うございます。そう言って頂けると助かります。」

[ところで、火の奴は他にお前に何か言わなかったか?]

「火の上級精霊に言われたことですか?名前を付けた事とその責任について、後は他の上級精霊も私に会いに来ると言うこと位でしょうか?」

[それだけか?何やら面白いことをしたと眷属より聞いたのだがな。ほれ、正直に言ってみろ。]

 嫌なことを思い出させてくれます。やっぱり火の上級精霊に名前を付けた事を言っているのでしょうね。あえて、外して話しをしていたのに、どうしてもそこに話しを持ってきたいようです。

「それは、もしかして火の上級精霊に『サラマンディア』という名前を付けさせて貰ったことでしょうか?」

[そうそう、それだ。眷属達に名前を付けたばかりか、火の奴に名前を付けるような根性のある人間には、ついぞ会ったことがない。これは面白そうだと思ったので、早速見に来てみたのだが、その根性気に入った。どうだ、こうしてわざわざ会いに来たのだし、儂にも名を付けてみんか?]

 なんか、もう「お約束?」って感じですね。その気満々で言われると、何を今更と思ってしまいますが、火の上級精霊に名前を付けている以上、断ることも出来ません。

「それでは、おそれながら風の上級精霊には『ジン』という名前を贈らせて頂きます。」

[『ジン』か。良かろう、貰っておく。おそらく他の奴らも来ると思うが、お前なら大丈夫だろう。ところで、あちらの方で覗いておる人間達は何者だ?]

 『ジン』の指さす方を見ると、屋敷の側に人が集まってこちらを窺っています。一番前にいるのは母上ですね。

「私の母上とこの屋敷で働く者達です。精霊を見ることなど生涯に一度と有ることではないので、珍しさに見に来たのでしょう。失礼しました。」

[なに、かまわんさ。それでは儂はそろそろ行こうか。何か用が有れば儂の名を呼ぶが良い。力になろう。]

「有り難うございます。よろしくお願いします。」

[さらばだ。]

 また、つむじ風が起きて『ジン』は風の中に消えていきました。
 これで上級精霊2体と対面したわけですが、あと2体居るんですよね。先が思いやられるな、何て考えていたら母上が側に来ていました。

「アルバート!!今のは何?あれってこの前言っていた上級精霊なの?」

 そんなに興奮しないで下さい。顔を赤くして、目をキラキラさせて詰め寄られると、逃げ出したくなります。

「そうですよ、母上。今のは風の上級精霊『ジン』です。私に会いに来たそうです。」

「やっぱりそうなの。凄いわ。初めて精霊を見てしまったわ。精霊ってあんなに大きくて、透き通った綺麗な青い色をしていたのね。それにしても、もう名前を付けたの?」

「ええ。『ジン』という名前を付けさせて頂きました。外見があのように見えたのは『ジン』が風の上級精霊だからです。火の上級精霊『サラマンディア』は全身炎の真っ赤な巨人ですよ。」

「そうなんだ。その人にも会ってみたいわ。他にも水と土の上級精霊も来るんでしょう?来たら呼んでね!」

「人間のお客様じゃないんですから、来たからって呼べるわけがないでしょう。さっきも見ていて解ったでしょうけど、相手するのも大変なんですよ。」

「あら。堂々としていて素敵だったわよ。あれなら大丈夫よ。」

「どこが大丈夫なんですか。それより、屋敷の前庭に池を作りたいのですが、良いですか?」

「池?魚でも飼うの?飼うなら鯉が良いかしら。」

「いいえ。魚を飼っても良いですけど、池を作る目的は水の上級精霊がいつ来ても良いようにするためです。屋敷の周りは風も通るし、土もありますから、『シルフィード』も『ノーム』もいます。『ファイアリー』も南方ほどではないですが少しは飛んでいますが、屋敷の側には井戸の他には川も湖もないので、『ウンディーネ』が居ません。これでは不公平ですから水場を作ろうと思ったんです。」

「ああ。そう言うことなら良いわよ。後でお父様にも私から言っておくわ。」

「有り難うございます。それでは様子を見て作っておきますね。」

 母上の許可も貰ったので、後で池作りをしましょう。屋敷の前のロータリー東側が良いでしょうね。少し木を切ってしまえば丁度良い広さが確保できます。地下水脈まで掘って、地下水を湧き出させれば『ウンディーネ』も動きやすくなるはずです。

 さて、そろそろ炉の方も冷えてきたでしょうから、見てみましょうか。
 母上たちと別れて仕事場に戻ってみると、熱気が窓から出て部屋の温度も大分下がったようです。厚いミトンを手にはめて炉の閂を外し、扉を開けてみました。炉の中に残っていた熱気が外に吹き出してきますが、火傷をするほどではありません。
 上段の中央に置いた椰子殻炭を慎重に外に出します。見た感じでは良く解りませんね。大分細かくなっていますから、そのままこの前作った吸収缶に入れて、零れないようにしっかりと蓋を閉めます。
 出来上がった吸収缶をマスクに取り付けて、顔に装着してみました。
吸気弁と排気弁の動きは問題無いようです。ちゃんと外気が吸収缶を通してマスク内に入ってきます。後はちゃんと空気中の臭気が取り除けるかどうかです。
 マスクを着けたまま、『改革推進部』北側に設置してある、公衆トイレの試作品の所に行きました。もう2週間以上使って貰っているので、屎尿も溜まっているでしょう。トイレの裏にある汲み取り口を開けて、中の臭いをかいでみました。ほとんど臭いが感じられません。どうやら成功のようですね。
 ほっとしてマスクを外したら、まだ汲み取り口を閉めていなかったので、思いっきり臭かったです。マスクの威力は凄かった。
 慌ててマスクをして汲み取り口の蓋を閉めました。そのまま仕事場まで戻りましたが、途中でアニーに見られて変な顔をされました。たしかにマスクをして歩き回っているのはおかしいでしょうけどね。

 それから、3日間に渡って保護具作りを集中して行いました。ゴム長靴とゴム手袋も3種類ずつのサイズで人数分渡るように作りましたし、ゴム前掛けも大丈夫です。防毒マスクも出来たので、いつでも作業を開始できます。
 先週から、『保健衛生局』は全員で公衆トイレの設置作業に入っています。報告によると、近い方から3つの村で設置が終わって、順次遠くに行くそうです。設置の終わった所から公衆トイレの使用方法と、公衆トイレ以外での用足しの禁止をお触れとして廻し、徹底していきます。
 公衆トイレの設置がスムーズに行くようなので、そろそろ『清掃課』の火メイジを決めて連れてきましょう。父上の方には以前から話を通してありますから、直接メイジの詰め所に行きます。
 詰め所に入ると、寮などを建てる時にお世話になった土メイジのヴィルムさんが居ました。丁度良いので、火メイジを紹介して貰いましょう。

「こんにちは、ヴィルムさん。」

「アルバート様。いらっしゃいませ。今日はどのようなご用ですか?」

「どうも。実は、私が今行っている事業に、火メイジの協力が必要なので、一人選抜しに来ました。父上の了解は貰っていますので、誰か推薦して貰えますか?」

「その仕事は主にどのような事をするのですか?」

「各村や町を廻って、放置されているゴミや動物などの死骸を一ヶ所に集めて、焼却処分することです。最初に1回、全ヶ所を廻り、その後は定期的に巡回して、環境の維持管理を行います。部署名は『清掃課』といって、来て頂く火メイジの方は課長として、4名の職員を統括してもらいます。」

「部下が4人ですね。そういった仕事なら彼が適任かな?」

 そう言うと、一緒に来るように言って、奥の部屋に入っていきました。
 奥の部屋も結構大きな部屋で、メイジが15、6人たむろしています。ヴィルムさんは真ん中辺りにいる真っ赤な髪の体格の良いメイジに近づいて話しかけます。

「おい、ギュンター。ちょっと良いか?」

「どうしたヴィルム。何か用か?」

「ああ。こちらのアルバート様の要件に、お前が一番合っていると思ってな。アルバート様。彼はギュンターと言って、火のラインメイジです。」

「アルバート様?これは気が付かず、失礼いたしました。何か私にご用ですか?」

 僕は、先ほどヴィルムさんに話したことを、もう一度話して、協力をお願いしました。

「なるほど。その仕事を手伝えば良いんですね。了解しました。それで、何時頃から行きましょうか?」

「そうですね。仕事は来週からになると思いますから、週明けに『改革推進部』の方に来て貰えますか?詳しい話しは『改革推進部』の『保健衛生局』の方でします。」

「解りました。それでは来週初めに伺います。」

「よろしくお願いします。ヴィルムさんも有り難うございました。」

 二人に挨拶してから『部長室』に帰りました。これで『清掃課』も体制が整えられます。来週から実働状態に出来そうですね。

 『部長室』で机の上に溜まっていた『事務局』から回ってきた書類を決裁していたら、コック長が飛び込んできました。

「アルバート様。コックのモーリスが、今ガリアから着きました!!」

「え?モーリスさん、もう着いたんですか?今どこに?」

「ちょっと待って下さい。」

 そう言うと、急いで扉の外に出て、外にいた人を中に押し込んできました。恰幅の良い、少し赤ら顔の人で、想像したとおりという感じです。

「こいつがモーリスです。モーリス、このお方がアルバート様だ。」

「初めまして。モーリスと申します。この度は此方でコックを探していると聞き、ガリアから来ました。よろしくお願いします。」

「初めまして、モーリスさん。私がアルバート・クリス・フォン・ボンバードです。早速来て頂き有り難うございます。長旅でお疲れでしょう。それにしても早かったですね。」

「いや~、先週、こいつから手紙を貰って此方のことを聞いたんですが、そうしたら何が何でも此方の仕事をしたくなったので、すぐに乗合馬車に飛び乗って来てしまいました。」

「それは助かりました。実は2~3日中に皇帝閣下が行幸され、4日ほどこの屋敷にお泊まりになられますので、忙しくなる所だったんですよ。」

「え?ゲルマニアの皇帝閣下が此方に来られるのですか?それはまたいきなりですね。いったい何をしにいらっしゃるんです?」

「これは、余り大きな声で言えないし、他言無用でお願いしますが、私が新しく作った公衆浴場に入りに来るんです。一緒に姫様達も来られるのですが、此方は母上とお話がしたいという理由です。特に公務という訳ではありませんから、堅く考えないで下さい。」

「一国の皇帝閣下が、そんな理由で来られるのですか?それはまた、何と言っていいか解りませんな………。」

 来たばかりの人にも呆れられています。まあ、誰が聞いても呆れるよね?

「食堂も利用すると思いますから、そのつもりで居て下さい。ああ。だからといって、特別なメニューは考えなくて良いですからね。ここの食堂は、主に職員が利用することを考えて作っています。職員の家族も来るでしょうが、皇帝閣下が来て食事することを前提に作った訳ではないので、普通の食事を考えて下さい。条件は聞いて貰っていると思いますが、1食5スーで朝昼晩の3食お願いします。予算の範囲内で質は勿論ですが量もたっぷりした物を出せるようにお願いします。」

「良いでしょう。色々考えていることもありますから、腕によりをかけてやりますよ。期待して下さい。しかし、本当に特別な料理にしなくて宜しいのですか?」

「良いんですと。珍しいもの見たさに遊びに来るのですから。それよりも、此処の食堂で普段出される食事を体験してもらった方が、皇帝閣下も楽しんでくれると思います。よろしくお願いします。私の方からも珍しい食材を提供できると思いますから、メニューはお任せしますので使ってみて下さい。」

 待望のコックさんが到着しましたから、これで食堂の運用も始められます。職員の皆さんも待っていたことでしょう。なにしろマルトーさん仕込みですから、味は保証されているような物です。
 これで、いよいよ『改革推進部』も体制が出来上がって、本格始動です。
 後は、水と土の上級精霊に早く来て貰って、皇帝にも報告等ができれば、溜まったイベントも完了となり、改革の方に集中できるでしょう。 

 

第28話:課題消化!(その3:2大精霊登場!怒濤の池作り!?)

 
前書き
これで上級精霊4体が出そろいます。ますます賑やかになるエドワード君の周りですが、さて・・・ 

 
 お早うございます。アルバートです。

 昨日起きたことを羅列すると、

1.休憩していたら風の上級精霊が来て、少し話しをしたら、話の流れで『ジン』という名前を付けることになりました。
 2.『清掃課』と正式に活動させるため、ギュンターさんという火のラインメイジにお願いして、課長に迎えることが出来ました。
 3.コックのモーリスさんがガリアから来てくれました。すごい行動力で素早く来てくれたので、早速今日から食堂開業の準備を始めて貰います。
4.防毒マスクが出来ました。これで『保健衛生局』全体の活動準備も完了です。

 なんてことになります。

 さて、朝、気持ちよく目が覚めて、精霊達に囲まれて日課の訓練をしてから、家族で朝食を取りました。朝食後の団欒で昨日あったことを報告しましたが、メアリーが『ジン』の素晴らしさを話せば、父上は『ジン』に会いたかったと残念そうに言われ、母上からはモーリスさんが来たことで、食堂の料理を食べてみたいと言われました。

 朝食後は『部長室』に行って、昨日の続きの書類決済を行っていると、ゾフィーさんが来ました。また書類を持っていますね。

「お早うございます、アルバート様。昨日の内に確認した書類です。決裁をお願いします。」

 すっかり秘書さんモードですね。『事務局』の制服と合わせて、良くお似合いです。

「お早うございます。解りました。そこの未決済受けに入れておいて下さい。それから、こっちの決裁済みは持って行って良いですよ。」

「まあ、ずいぶん沢山出来ていますね。昨日も忙しかったようですが、ちゃんと休まれていますか?」

「ええ、休養はしっかりとっていますから大丈夫ですよ。昨日は少しイレギュラーが有りましたが、特に問題はありませんでしたから。」

「イレギュラーですか?何か面白いことでもありましたか?」

 面白い事ってどんなことだろう?確かに、上級精霊が見られるなんて面白いことかもしれないけれど、来られる方は結構気疲れするんだけどな。

「面白い事って言うか、仕事場での作業が一段落したので外で一休みしていたら、風の上級精霊が来て、ちょっとした騒ぎになった位ですね。」

「ええ?風の上級精霊ですか?そう言えば、何か外が騒がしいと思っていましたけど、そんなに凄いことが起きていたんですか?失敗しましたわ。見に行けば良かった。精霊なんていつ見られるか解らないのに惜しいことをしました。」

 何か、凄くがっかりしていますね。確かにかなりの見物かもしれませんが、普通の人は近くに来る事も出来ないと思いますよ。母上でさえ、『ジン』が帰るまで僕の所に来られませんでしたからね。

「まあ、そんなに気を落とさないで下さい。その内、また来ることもありますから。それにあと2体、まだ来ていない上級精霊がいますから、近いうちに来ると思いますよ。その時ゆっくり見ればいいじゃないですか。」

「本当ですか?それでは、今度来た時には知らせて下さいね。お願いします。」

 やっぱり娯楽が少ないせいでしょうか。みんなこういったイベントがあると、食いついてきますね。
 その後、ゾフィーさんと一緒に『事務局』の方に顔を出して朝礼&ミーティングに参加してから、『保健衛生局』にも行きました。ウイリアムさん達に、『清掃課』に来て貰う火メイジがギュンターさんに決まったことを伝えて、来週から『清掃課』の業務を開始するように指示を出しました。

 それから、僕は屋敷の前庭に移動して、昨日母上から許可を貰った池作りに掛かりました。
 場所は昨日考えた通り、前庭にあるロータリーの東側です。ここは前から少し暗い感じの木が多くて、鬱陶しいと感じていましたから、この際広めに木を切って大きな池を作ってしまいましょう。
 やり方は何時もと同じです。まず、身長3メールのゴーレムを5体作って、必要な範囲内の木を引っこ抜いていきます。
 意識しなくても『ノーム』が手伝ってくれるので、ゴーレムも魔力を殆ど使わないで出来てしまいます。まだ作った事はありませんが、今なら父上の作るゴーレムよりも大きなゴーレムを作る事も簡単にできそうです。
 こうして抜き取った木は一旦森側に置いて、後で薪に出来る大きさに切って乾燥させておきましょう。
 次に、池の部分の土を使ってゴーレムを作り、南側に歩かせて20メール位の所で土に戻します。これを何回か繰り返すと直径15メール、深さ1.5メールの池が出来ました。
 池の南側には大きな土の山が出来たので、今度はこの土を練金して30サント位の石を沢山作ります。そして、その石を伐採用に作ったゴーレムに、池の廻りと中心部を覗いた底一面に、しっかりと敷き詰めさせました。
 残った土の一部で、池の東側に50サント位の高さで適当に土台を作り、池の部分にあった芝を張り、伐採した木を練金で加工して東屋を建てました。柱4本に屋根が有るだけの簡単な物ですが、ベンチも作って置きましたから、散歩の時の休憩所といった感じです。
 最後に残った土は、またゴーレムにして屋敷の裏まで歩いて行かせ、そこで土に戻して山にしておきます。何かで必要になるかもしれませんから取っておきましょう。それにしてもゴーレムって便利ですね。
 後は池の周りの芝生を整えて、これで池の形は出来上がりました。後は水を入れるだけです。
 ずっと手伝ってくれた『ノーム』に聞いてみましょう。

「『ノーム』。この池に水を貯めたいのですが、ここの下に地下水脈は通っていますか?」

 『ノーム』は集まって、何やら話し合っているように見えます。少しすると『ノーム』たちが此方を向いて、顔に見える所を横に振りました。

「この下には地下水脈はないのですね?」

 そう聞くと、『ノーム』は顔を縦に振ります。どうやらこの下には無いようですね。そうすると屋敷の井戸水はどこから来るのでしょう。
 行ってみた方が早いので、屋敷の西側にある井戸に行ってみました。井戸の廻りには『ウンディーネ』がいます。やっぱり水のある所に居るんですね。

「『ウンディーネ』。この井戸の地下水はどっちの方から流れてきていますか?」

 そう聞いてみると、『ウンディーネ』達が井戸から北東に向かって並びました。どうやら並んだ下を水脈が流れているようですね。あっちの方向から流れてくると言うことは、池から見ると50メール以上離れていることになりますね。ちょっと水を引くのは難しいかな?失敗しましたね。先に水脈を確認すべきでした。

 『ウンディーネ』にお礼を言って、池の所に戻ります。
 池の側に座り込んでどうしようかと悩んでいたら、池の中心の石を置かなかった土の部分が盛り上がってきました。『ノーム』が嬉しそうに飛び跳ねていますから、これは土の上級精霊のお出ましでしょうか?

 丁度通りかかった執事さんに、『事務局』と母上達に土の上級精霊が来たことを伝えるようにお願いして、そのまま待ちます。来たら教えるという約束でしたからね。
 少しすると、全身茶色でごつごつした感じの巨人が現れました。大きな土ゴーレムといった感じでしょうか。でもちゃんと目や鼻や口がありますから、やっぱり見た目は大違いです。

[お前が我が眷属に名前を付けたという人間か?]

 他の上級精霊と同様に大きな声ですね。ちょっとくぐもっていてゆっくりとした話し方なのは、普段土の中にいるせいでしょうか?

「はい、確かに私です。私の名前はアルバート・クリス・フォン・ボンバードと申します。貴方は土の上級精霊ですか?」

[おまえ達人間の言い方をすればそうなるのだろう。ところで、昨夜、儂が山の上で月を見ながら風に吹かれていると、風の奴が来てな。話しを聞けば、我らの眷属だけでなく、風や火の奴らにも名前を付けたそうだな。]

 山の上で月見ですか?意外と風流なのかな?風流な土の上級精霊?なんだかな~??

「ええ、まあ、そういう事になりますね。成り行きというか、その場のノリとでも言いましょうか、火と風の上級精霊にはそれぞれ名前を付けさせて頂きました。」

[そうか。我が眷属に名前を付けた事には特にいう事はない。眷属共も喜んでいるようだからな。それは良いとして、どうだ、ついでにと言ってはあれだが、儂にも名を付けてみんか?]

 やっぱりそう来るんですね。こんな事になるとは、アルメリアさんも判らなかったでしょうから、今度有った時に話したら驚くでしょうね。

「それでは、『ラサ』という名前を贈らせて頂きます。土の精霊王という意味の名前です。」

[ほほう。それは良い名だ。確かに、その名前貰ったぞ。ところで、この丸い穴は何だ?]

「この穴は、池を作ろうと思って作った物です。この屋敷には井戸が一つ有るだけで、川や湖が無いので『ウンディーネ』が自由にいる場所がありません。そこで、『ウンディーネ』が居られる場所にと思いました。」

[『ウンディーネ』とは水の眷属のことか?それにしては、水の気配がないがどうしたのだ?]

「実は、ここまで作ったのですが、調べてみた所地下水脈が少し離れた所を通っていて、ここまで水を引くことが出来ない事が判ったのです。それで、どうした物かと思案しておりました。」

「ふむ。なるほど、水の道は大分北の方にあるようだな。どれ、あそこまで道を作ってやるか。]

 そう言うと、『ラサ』は右手を軽く動かしました。見る見るうちに池の真ん中に穴が開きます。その後、池から北の方に向かって軽い揺れを伴う地響きがしました。どうやら、池から地下水脈まで水路にする穴を掘ってくれたようです。

[こんな物か。これで水の道が出来た。]

「有り難うございます。本当に助かりました。」

[なに、対した事ではない。ついでに水の出口も作っておいてやったから、どんなに水が入ってきても池から溢れる事はないだろう。それよりも、道が出来たので水の奴が来るぞ。心して相手をするが良い。]

 水の出口って排水溝ですか?忘れてましたね。あのままだったら池があふれて、この辺り一面水浸しでした。助かりましたよ。ところで、今水の奴って言いましたよね?それって水の上級精霊のこと?いきなりの上級精霊の揃い踏みですか?

 なにやら、池に出来た穴から「ゴゴゴゴゴ………!」と腹の底に響くような音がしてきたと思ったら、水の柱が池の真ん中に立ちました。高さ5メールの天然の噴水ですか?太陽の光で虹が出来ました。綺麗ですね。チラッと屋敷の方を見ると母上やメアリーの他に屋敷の人のほとんどが来ているようです。『事務局』の人たちも来ています。良かったですね、この人達が上級精霊さん達ですよ~。

 凄い勢いで池に水が溜まっていきます。あれだけ、どうやって水を引こうか悩んだのが馬鹿みたいです。
 やがて、池が一杯になった頃、噴水の勢いが収まってきました。どうやって排水しているのか判りませんが、水は池の縁から少し下の所で上昇を止めています。
 そして、噴水が止まるかな?と思ったら、今まで噴水が有った所に水色の女性の姿をした精霊が現れました。他の上級精霊は男性に見えましたが、水の上級精霊が女性のようですね。確か呼び出した相手の姿を写して現れると思いましたが、今回は誰も呼んでいません。確かに女性の姿なのですが、いったい誰を模しているのでしょうか?
 姿が安定した時、視線が『ラサ』の方を向きました。

[土の。お前が道を通してくれたようだな。礼を言おう。]

[なに、大した事ではない。今し方、此方の人間に名前を貰ったので、その礼の代わりにやった事だ。]

 すると、今度は僕の方を向いて言いました。

[お前が我が眷属に名前を付けた人間か。我はラグドリアン湖に住まう者だ。]

 ラグドリアン湖が出ましたね。モンモランシ家の管轄ですが、こんな事になっているなんて知らないでしょうね。それにしても、ラグドリアン湖からここまで、どんな経路でやってきたんでしょうか?もしかしたら世界中の地下で繋がっていたりして?

「初めまして。私がアルバート・クリス・フォン・ボンバードです。貴方の眷属である水の精霊に名前を付けた者です。勝手な事をしてしまい、申し訳ありませんでした。」

[ふむ。なかなか礼儀を弁えた子供だな。この池は我のための物か?その気遣いに免じて不問に付す。]

「有り難うございます。池の具合はいかがでしょうか?」

[日当たりも良いし、深さも上々だ。なかなか良い作りであるぞ。気に入った。]

「それは良かった。いつでもいらして下さい。」

[ちょくちょく、寄らせて貰おう。ところで、風や火の奴らに名前を付け、今また土にも名を付けたというのだな?]

 上級精霊の間だって、横の繋がりが結構あるのでしょうか?どうしてこんなに情報が早いのでしょう?

「土の上級精霊には先ほど『ラサ』という名前を贈らせて頂きました。」

「ほう。『ラサ』か、良い響きだな。それで、当然我の名前も既に考えておるのだろうな。]

 おっと。当然と言われましたね。かなり期待しているようですが、上級精霊の間では名前を付けるのがトレンディになっているのでしょうか?

「はい。もうそろそろ来られる頃かと思い、考えさせて頂きました。『クウィンティ』という名を贈らせて頂きたいと思います。」

[『クウィンティ』か。それはどんな意味があるのかな?]

「水の精霊王の意味があります。いかがでしょうか?」

[気に入った。その名貰うとしよう。何か用事がある時はその名を呼ぶと良い。]

「有り難うございます。これからよろしくお願い致します。」

[[解った。また会おう。]]

 『ラサ』と『クウィンティ』は、揃って言うと土と水の中に消えていきました。
 これで全ての上級精霊とのイベントは終了ですね。肩が凝りました。結局みんなお友達になってしまったようですが、モンモランシ家は大丈夫でしょうか?

 張りつめた気が抜けて、やれやれ終わったと座り込もうとしたら、後から羽交い締めにされました。

「アルバート!!呼んでくれて有り難う~!!一度に2人も精霊にあえるなんて、凄いわ!」

「お兄様!凄いです!あれが精霊さんなんですか?」

「アルバート様!私、生きている間に精霊にあえるなんて思いませんでした。約束守って頂いて感激です。」

 その他大勢の喚声で耳がおかしくなりそうです。母上、首が絞まっています。苦しいですから話して下さい。し・死ぬ~!?

 ひどい目に遭いました。上級精霊に許して貰って家族に殺されたら洒落になりませんよ。 結局、あのまま母上に締め落とされて、気が付いたら自分の部屋でベッドに寝かされていました。
 目が覚めて、ベッドの上で起き上がると、ドアが開いてアニーが入ってきました。僕が目を覚ましているのに気付くとニヤリ(?)と笑って近づいてきます。ちょっと怖いのですが、何かしましたか?

「お目覚めですか、アルバート様。」

「ああ。アニー。私はどうしてここで寝ているのかな?」

「はい。それは、アルバート様が奥様に締め落とされて、気を失ってしまったせいです。慌てたゾフィーさんが奥様からアルバート様を引きはがして、この部屋まで運んでくれたんですよ。もうすごい勢いでした。」

「それは、ゾフィーさんに助けられましたね。実際死ぬかと思いましたから。」

「それにしてもアルバート様は、色々な女性に慕われているようですね?ゾフィーさんだけでなく、『事務局』の女性の方々全員が一緒に付いて来て大騒ぎでしたよ。メアリー様はもちろんですが、メイドの何人か走り回ってメイド長に怒られていました。」

 ははは…………、どういう意味でしょう?ボクコドモダカラヨクワカリマセン………。

「ところで、お腹減ったんですが、今何時ですか?」

「あからさまに話をそらせましたね。今丁度夕食のお時間になります。お食べになりますか?」

「はい。食べます。お腹ぺこぺこです。」

 これ以上アニーに責められると怖いので、とっとと食堂に逃げる事にしました。
 もっとも食堂に行っても、今度は母上からからかわれるし、父上も面白そうにしているので料理の味も良く解りませんでした。

 まだ7歳なんですから、女性関係については早いと思うのですが、此方の世界では違うのでしょうか。
 生前から生きてきた年数を合計すれば50年以上になります。妻も子供もいたのでゾフィーさんやアルメリアさんに魅力を感じる事も大いにありますが、生前の常識では7歳と言ったら小学校1年生ですよ。いくら何でも早すぎるでしょう?と感じるのも現代日本に住んでいた感覚なのでしょう。

 余り深く考えると、色々な問題が出てきそうなので、今日は上級精霊のイベントをクリアしたという事だけ考えて、気持ちよく眠る事にしました。
 明日が普通の日でありますように。お休みなさい。 

 

第29話:課題消化!(その4:皇帝一家精霊とご対面!!)

 
前書き
やってきました、皇帝一家。
来たら当然、精霊たちとのご対面となります。
お約束ですから、まあ、頑張ってください。 

 
 お早うございます。アルバートです。
 昨日は屋敷の前に水の上級精霊である『ウンディーネ』の為の池を作ったのですが、いざ水を引く段階で地下水脈の位置が離れすぎてる事に気付きました。そのままでは水を引く事が出来ないので、どうしようかとしばらく悩むことになったのです。
 そこに土の上級精霊が現れたので『ラサ』という名前を付けて上げたら、池から地下水脈まで地下に水の道を作ってくれました。そうしたら今度は、早速その道を通ってラグドリアン湖にいるはずの水の上級精霊がやって来て、池を水で一杯にしてから名前を要求されたので、『クウィンティ』という名前を上げました。
 これで、ようやく上級精霊とのイベントを無事コンプリート出来たのでホッとしましたが、その後で、やたらと感動した母上に締め落とされ、ゾフィーさんに助けて貰った挙句、あとでアニーや母上に冷やかされて大変な目に遭いました。
 ともかく、上級精霊4体と友好関係を築く事が出来ましたから、今後の領内改革にもいろいろと助けて貰う事が出来るでしょう。ただ、水の上級精霊についてはモンモランシ家あたりに何か言われそうなので、ばれないように注意しましょう。

 さて、そうこうしているうちに皇帝が到着するダエグの曜日となりました。
 すでに昨日には隣の領内に入って一泊している事が伝えられており、街道周辺の村や町では、街道を通る皇帝一家を一目見ようという領民が朝から集まって、今か今かと待ち構えています。今日は皆さん臨時休業のようですね。日本なら天皇陛下の行幸に道路で国旗を振って歓迎するという光景を思い出しますが、この世界ではそこまでの事はなく、ただ皇帝一家を見てみたいと言った感じのようです。
 どこから聞きつけて集まってくるのか、街道沿いには食べ物や飲み物を売る、物売りの屋台まで出て、皇帝を待っている領民達も屋台の食べ物を買って食べたり飲んだりしながらのんびり待っています。まるでお祭りの縁日のような賑わいですね。
 ボンバード家では今週初めから皇帝を迎える準備が始まり、今日も朝から母上の指揮の下、最終確認が行われていました。また、父上の指示で諸侯軍から迎えの兵が、護衛をかねて領境迄行っています。
 僕は、朝から『改革推進部』の人たちと公衆浴場の掃除をして、屋敷のコック長と食堂のモーリスさんにメニューの確認をしたり、それぞれの部屋の掃除をして皇帝の到着を待っていました。

 朝早くに隣の領主屋敷を出発したという報告が鷹便で届き、皇帝一家が領境を越えたのは朝9時頃でした。領民の喚声に迎えられて、着々と街道を進んできている状況が逐一知らされてきます。
 11時を回る頃、彼方から小さく喚声が聞こえるようになり、その喚声がだんだんと近づいてくるのが解ります。そして、屋敷の玄関からも遠くに皇帝一家の乗る馬車の姿が見えてきました。
 当家の諸侯軍が先導を努め、その後に王家の旗印を持った騎士が2名、見事な白馬にまたがって続きます。
 その後から皇帝一家の馬車が来ますが、その馬車を囲むように近衛隊が守って居ます。
 馬車は黒の大型が1台と白の中型が1台で、前を走る黒い馬車が皇帝用、後の白い馬車が姫様達用でしょう。綺麗で豪華な馬車ですが、こんな田舎道を走ってくると目一杯目立っています。
 一応お忍びという事になっているので、護衛の近衛隊も20人位のようですが、女官も10人位は付いているようですね。お忍びでこれ位の人数が付いてくるのなら、公の行幸なら1個中隊位付いてくるのでしょうか?安全のためなら仕方ないのでしょうが、何か無駄なような気がします。
 屋敷前の両脇に父上と母上、僕にメアリーが向き合って立ち、その後に執事とメイドが別れて並びます。屋敷内の仕事で最低限必要な人以外は、全員お迎えに出るようにと父上から指示が出ていますから、結構な人数が並んでいますよ。
やがて、行列が屋敷の門を入ってきました。玄関前のロータリーをぐるっと回って、皇帝の馬車が玄関前に着いて止まります。すぐに執事達が玄関から馬車まで、僕たちの並んでいる間に赤い絨毯を敷きます。一筋の赤い道が出来ると同時に馬車のドアが開き、中から女官が4人出てきました。女官が絨毯の両脇に立ち、恭しく頭を下げると、後に続いて皇帝が現れます。ここで軍楽隊でも居れば国歌吹奏とかやって雰囲気を盛り上げるのでしょうが、そもそもゲルマニアの国軍にも軍楽隊など無いですから出来ません。今度自衛隊の中央音楽隊のような組織を作ってみましょうか。

 何て事を考えている内に後の馬車から姫様達も降りてきましたので、ご挨拶の始まりです。

「皇帝閣下。ようこそおいで下さりました。この度の行幸、心より歓迎致します。長旅でお疲れでございましょう。どうぞごゆっくり御寛ぎ頂けますよう、誠心誠意努めさせて頂きます。」

「ボンバード伯爵。出迎えご苦労。しばらくやっかいになるが宜しく頼む。」

「改めましてご紹介致します。妻のソフィア。それから嫡男のアルバート、そして娘のメアリーでございます。」

 僕達はそれぞれ進み出て頭を下げます。今更ですが、これもお約束の儀式という奴ですね。面倒ですが、余り親しい所を表で見せるのは、色々な問題が起きる元になりますので注意しないと行けません。

「宜しくな。それでは此方も紹介しておこう。第6皇女のクリスティーネと第7皇女のエーデルトルートだ。」

 姫様達も軽く頭を下げます。こうして母上の居る所で見るとやっぱり似ていますね。
 (ちなみに、皇帝一家には7人の姫がいて、第1から第5皇女までは既に結婚して、皇室から外に出ています。アルバート君の母上は第3皇女でした。)

「それでは、此方にどうぞ。」

 玄関前での儀式も終わり、やっと居間に移動です。
 皇帝一家と、家の家族が居間に入り、一部のメイドと執事だけが残ってお茶の準備をしていると、椅子に座っていきなりテーブルのお菓子を食べ始めた皇帝が言いました。

「やれやれ。娘夫婦の家に遊びに来るのに、こんなに仰々しくしないといけないのだから皇帝というは本当に面倒くさい。廻りに他人が居なくなって、やっとのんびり出来るんだからな。」

「お父様、お行儀が悪いですわ。お茶の準備が出来るまでお待ち下さい。大体、お父様には皇帝閣下としての外聞があるのですから、これ位は我慢して下さい。」

「そうは言うがソフィア、ここまで来るのに5日も掛かっているのだぞ。もっと少人数で移動すれば、遅くとも3日有れば充分だというのに、いちいち途中の領主共との晩餐まで付き合わされて退屈な時間を過ごしてきたんだ、これ位の愚痴は言わせて貰っても構わんのではないか?」

 それは愚痴位言いたくなるでしょう。『ヴァルファーレ』に乗ってくれば1時間位で来られるのですから、どれくらい時間の無駄か解ると思います。最も『ヴァルファーレ』では2人乗りですので1人ずつしか運べませんけどね。『ヴァルファーレ』に竜籠を運んで貰うという手もありますが。

「解りました。でも、そろそろ昼食の時間ですから、お菓子ばかり食べてお腹一杯にならないでないで下さいね。」

「解っている。しかし、このお菓子は旨いな。見た事のない物だが、ここのコックが作ったのか?」

 それは見た事が無くても当然です。僕がエルフの集落から貰ってきたお土産ですからね。あの、チョコレートの中にケーキが入っているお菓子です。ドライフルーツも一緒に出しておきましたから、メアリーと姫様達も嬉しそうに食べています。

「皇帝閣下。それは私が先週南方に行った際にお土産で貰ったものです。他にも色々頂いてきましたから、後でご紹介します。」

 皇帝も南方からのお土産という一言で、エルフのお菓子だという事が解ったようです。

「ほう。ドライフルーツと同じだな。それで、アルバートはますます黒くなった訳だな。」

「はい。後程報告させて頂きますが、今回の旅では面白い物を沢山見つける事が出来ました。お話ししたい事もいっぱいありますから、夕食後を楽しみにして下さい。」

 居間で一休みした後、屋敷の食堂に移動して昼食会となりました。コック長が腕を振るうのは晩餐会となりますので、昼食では軽いランチとしました。
 母上からコック長に、皇帝の好物が知らされていて、その好物を取り入れた料理が、綺麗にお皿に盛りつけられて目の前に並べられます。全部で5皿が出されましたが、皇帝も姫様達もご機嫌で舌鼓を打って、料理が無くなった皿が調理場に戻されていきます。
 お腹も一日になって、お茶を飲んで団欒の時間を過ごし、昼休みが終わる時間に昼食会も終わりました。

 午後は『改革推進部』の視察です。以前から皇帝には『改革推進部』の事は話してありますので、実際にどんな事をやっているのか見て貰う事にしました。
 僕は先に『改革推進部』に行って、『事務局』の職員と一緒に皇帝を待ちます。
 父上の先導で『改革推進部』に来た皇帝一家は、『改革推進部』の玄関から1階の『事務局』へと入り、そこで僕の方から『事務局』の職員の紹介、仕事内容の説明などを行いました。ゾフィーさん達は制服で対応しましたが、なかなか制服姿が好評で、姫様達が興味を持ったようでした。
 続いて『部長室』を見て貰ってから、2階に上がって『保健衛生局』を見学しました。『保健衛生局』の職員は全員公衆トイレの設置のために、今週初めから領内の村へと出払っているので紹介は出来ませんでした。夕方には帰ってくると思いますから、出来ればその時に紹介したいと思います。
 最後に作業場を見て貰いました。ゴムを作るための暖炉を改良した加硫装置の説明や、量産したゴム長靴やゴム手袋、ゴムの前掛け。それに防毒マスクなどを実際に付けて貰いながら説明しましたが、出来映えに感心されて、いづれ『ヴィンドボナ』でも同様の作業を行う場合には、ここで作って納品するようにと言われました。次に活性炭を作る炉を見て貰い、使い方を説明しましたが、加熱するために必要な火石の事で、ちょっと曖昧な説明をしたら、しっかりと突っ込まれてしまいました。

「その火石という物は、どういった物なのだ?」

「南方の住人しか作る技術を持っていない秘石で、火メイジの使う魔法を中に閉じ込めたような物です。」

「そんな物をどうやって作るんだ?火の魔法を石の中に封じるなど、普通のメイジには出来ないだろう。大体、この炉で使って消耗してしまったら、補給はどうするのだ?いちいち南方まで取りに行くのでは、時間的に効率が悪くて仕方ないだろう。何か作る方法があるのではないか?」

 やっぱり、簡単な説明では納得してくれませんか。仕方ないので父上とアイコンタクトして了解を貰い、廻りには他の人が居ない事を確認して話す事にしました。

「仕方ないですね。やっぱり話さないといけませんか。それではこれを見て下さい。」

 そう言って、右手を前に出し、掌を上に向けます。

「『ファイアリー』、僕の手の平の上に集まって、炎をともして下さい。」

 僕の廻りを飛び回っている『ファイアリー』に頼むと、みんな喜んで集まってきてくれます。だんだんと集まってくると掌の上に赤い火が灯り、それが黄色から青白い炎となりました。皇帝が目を丸くしています。

「私はエルフの知り合いに教わって、私の周りにいる精霊にお願いする事により、このように火をともす事が出来ます。これは火の精霊『ファイアリー』が沢山集まる事により、普通の人の目にも見える状態になっているのです。この世界には魔法の系統と同じ、火、水、風、土の精霊が居て、その精霊にお願いする事で、それぞれの系統の魔法と同じ現象を起こす事が出来ます。これがいわゆる精霊魔法という物です。
 そして火石とは、同じようにお願いすることによって、自分の周り半径10リーグを越える範囲にいる『ファイアリー』全てが集まって作られる秘石で、スクエアクラスのメイジが唱えるファイアー系の魔法、何十回分もの力が込められています。」

「アルバート。お前はとうとう精霊魔法まで使えるようになったのか?その火は熱くないのか?」

「この火は私には熱くないのです。『ファイアリー』の加護を受けていますから、私の身体は火で焼かれる事はなくなりました。
 また、他の精霊達、水の精霊『ウンディーネ』、風の精霊『シルフィード』、土の精霊『ノーム』とも友達になったので、全ての属性の加護を受ける事が出来ました。
 今の私には、魔法であっても、自然災害であっても害を受ける事はないでしょう。」

「そうか。とうとうアルバートは人間を止めてしまったのか。残念だ。」

「いえいえいえ!?人間止めていませんから。精霊魔法を使えるからって、精霊の加護を受けたからって、人間ですから!!何を言い出すんですか?」

「わはははは!!大丈夫だ、儂は気にしないぞ。それにしても、精霊か。他の精霊にも会ってみたいものだな。どうだ、これから呼んでみないか?」

 からかわれていますね。言われると思っていましたが、この人の頼みは断れないんですよね。仕方ないので外に移動しましょう。

「ここで呼ぶ訳に行きませんから、外に出ましょう。」

 手のひらに集まった『ファイアリー』に解散して貰い、みんなを作ったばかりの池まで連れて行きます。東側の東屋に案内して皇帝と姫様達にはベンチに座って貰いました。
 僕は、池の反対側に立って改めて精霊を呼び集めます。

「『ファイアリー』、『シルフィード』、『ウンディーネ』、『ノーム』、みんな仲間毎に集まって下さい。」

 僕の周りにいる精霊達が僕を中心に集まり始めます。空中の高い位置に『ファイアリー』と『シルフィード』、池の上に『ウンディーネ』、そして地面近くに『ノーム』が集まって、それぞれの色で見えるようになってきました。東屋の方から響めきが聞こえてきます。

「皇帝閣下。空中の高い位置にいる赤い色が先ほどもご覧頂きました『ファイアリー』です。そして薄い水色が『シルフィード』、池の上の青い色が『ウンディーネ』、それから地面近くの茶色が『ノーム』です。このように見えるのは沢山の精霊が集まっているからで、普段は見る事が出来ません。」

「これが4つの精霊か。集まるとこのように見えるとは、不思議なものだな。」

 皇帝ばかりでなく、姫様達も驚いています。父上達も精霊を見るのは初めてなので一様に目を丸くしていますね。
 これは、折角ですから上級精霊の紹介もしておきましょう。どうせ、後の話で出てきたら、見せろと言われるでしょうから、この際です。

「風の上級精霊『ジン』よ、水の上級精霊『クウィンティ』よ、火の上級精霊『サラマンディア』よ、そして土の上級精霊『ラサ』よ、私の元に来て下さい。」

 目をつぶって、大きな声で叫ぶと、彼方から上級精霊達がやってくるのが感じられます。南の空から『サラマンディア』、東の方から『ジン』が飛んできました。家の水が盛り上がったかと思うと『クウィンティ』がこの前と同じ女性型になって現れ、僕の近くの土が盛り上がって『ラサ』が現れました。

「良く来て下さいました。風の上級精霊『ジン』、水の上級精霊『クウィンティ』、火の上級精霊『サラマンディア』、土の上級精霊『ラサ』」

[初めて自分から我らを呼んだな。この状況から見ると大体解るが、どんな用かな?]

 代表で[ジン]が話してくれました。

「突然呼び出して申し訳ありません。本日は私の住む国の皇帝閣下がお見えになっておりますので、私の家族を含め、きちんと皆さんを紹介したいと思いお呼びしました。」

[そうか。それで、誰がその皇帝とやらなのかな?]

 上級精霊がみんなで東屋の方を見ます。僕もそちらを見ると、母上を除き、みんな固まっていました。屋敷の人間でも別々に見た事はありますが、全部の上級精霊が纏まっているのは初めてですから、やっぱり刺激が強かったようです。それにしても流石母上ですね。 

 

第30話:課題消化!(その5:領内改革の視察は温泉湯治!?)

 
前書き
皇帝御一家も暇ではないと思うのですが、いがいとフットワークが軽いようで。
上級精霊(精霊王)にも会う事が出来て、上機嫌? 

 
 お早うございます。アルバートです。

 今日は、4泊5日の予定で皇帝一家が我が家に来ました。公務は誰に押しつけてきたのでしょうね。とても気になります。

 屋敷到着初日に、私たち家族と一緒に昼食を取った後に領内改革の本部である『改革推進部』の案内をしました。『保健衛生局』を案内した時は、みんな作業で出払っていましたので業務の説明だけを行いました。その後、『事務局』に案内して、事務員の皆さんと顔合わせを行い、僕の執務室の『部長室』を見て貰いました。最後に作業場を見て貰って、暖炉を改造した加硫するための炉と活性炭を作るための炉の説明をしましたが、活性炭用の炉を加熱する方法の説明で火石の事を話さなければならなくなって、火石の入手方法から精霊の話しをした結果、今度は精霊に会いたいという事になりました。
 仕方ないので、屋敷の表に新しく作った池に移動し、池の側で精霊を呼び集め、その有様を皇帝一家に紹介して驚いて貰った訳です。ついでに、どうせいつか会わせろと言われて、同じような場を設けるのも面倒なので、ここで上級精霊も紹介してしまう事にしました。
 初めて、自分から風の上級精霊『ジン』、水の上級精霊『クウィンティ』、火の上級精霊『サラマンディア』、土の上級精霊『ラサ』を呼びましたが、約束通りみんなすぐに来てくれました。
 東屋で精霊が集まるのを見て驚いていた皇帝一家と父上達は、突然現れた上級精霊を見て、みんな固まっていましたが、ただ一人母上だけはとても嬉しそうに両手を胸の前で合わせて頬を染めていました。さすがは母上です。本当にどんな神経をしているのでしょうね?
 さて、このままでは、話が進みませんから目を覚まして貰いましょう。

「皇帝閣下!!」

 大声で呼ぶのと同時に、『ウンディーネ』にお願いして、みんなの顔を軽く撫でて貰いました。バケツで水をぶっかける訳にもいきませんからね。
 こちら側では『ジン』がニヤニヤしていますが、気にしないでおきましょう。

「皇帝閣下。お目覚めですか?上級精霊の皆さんを紹介して宜しいでしょうか?」

「おおっ!?……。これは驚いた。まさかいきなり目の前に現れるとは思わなかったぞ。すまなかったな。続けてくれ。」

「驚かして申し訳ありません。それでは、紹介させて頂きます。皇帝閣下より向かって右側、私の側に浮いているのは『ジン』です。風の精霊『シルフィード』の上級精霊です。次に左側に浮いているのは『サラマンディア』。火の精霊『ファイアリー』の上級精霊です。そして私の隣に立っているのが土の精霊『ノーム』の上級精霊で『ラサ』。池の上に立っているのが水の精霊『ウンディーネ』の上級精霊『クウィンティ』です。それぞれ、精霊達の上位の存在で精霊王と言われる、この世界の自然の理を司る者達です。」

「自然を司る存在とまみえる事が出来るとは、ここまで来た甲斐があったという物だな。それにしても、アルバートはいつの間にこれだけの精霊達と懇意になったのだ?」

「実は、先にご紹介しました精霊達は、私が3歳になった時に廻りにいる事に気付いたのですが、何故かその後すぐに認識する事が出来なくなりました。見えているのに意識出来ないといった感じです。
 そして先週資材調達のために2回目の南方旅行に行った際、ちょっとした切っ掛けで認識する事が出来るようになってから、意思の疎通が出来るようになり、仲良しになることができたのです。」

「その話しは聞いた事がなかったな。精霊を見る事が出来る等という事自体、今まで聞いた事がなかったのだが、3歳の頃から精霊を見る事が出来たとは、やはり、アルバートは普通の子供とは違ったのだな。」

「私だけが見る事が出来たのか、それとも、他の子供達も、見る事が出来ても忘れてしまうのか解りません。
 精霊と意思の疎通が出来るようになったので、何時までも火の精霊とか風の精霊とか言うのもおかしいかなと精霊達に名前を付けたら、喜んでくれたので『ファイアリー』に頼んで火石を作って貰いました。そうしたら今度は火石を作った事が原因で火の上級精霊がやって来てしまったのです。さすがにまずい事をしてしまったかと思ったのですが、咎められる事もなく、精霊に名前を付ける事の意味を教えて貰って、この時に弾みというか、話しの流れと言うかで、火の上級精霊にも『サラマンディア』という名前を付ける事になりました。こんな感じでお友達になることが出来たのです。」

「普通、精霊に名前を付けようなどと考える者は居ないと思うがな。ましてや上級精霊にまで名前を付けるなど、普通の人間なら腰を抜かして話も出来ないと思うぞ。」

「なぜか、恐ろしいと感じなかっただけですけどね。そんな感じで南方では『サラマンディア』だけと会う事が出来ました。他の上級精霊は、此方の帰ってから個別に来てくれました。
 まず、私が外で一休みしていた時に、風の上級精霊が来て、やはり『シルフィード』に名前を付けた事で話しをして、『サラマンディア』にも名前を付けた事を話したら、『ジン』という名前を付ける事で、友達になってくれました。
 土の上級精霊は、池を掘った後、どうやって水を引こうかと考えていた時に池の真ん中に出てきました。『ジン』から話を聞いて来たそうで、『ノーム』に名前を付けた事や『ジン』にも名前を付けた事で、『ラサ』という名前を付けたら池から地下水脈までの道を作ってくれました。
 最後にその道を通って、ラグドリアン湖から水の上級精霊が来て、池を水で満たしてくれました。この時にも『ウンディーネ』に名前を付けた事から『クウィンティ』という名前を付けることになり、これで全ての上級精霊に名前を付けた事になったのです。
 ただ、全ての上級精霊が一同に集まるのは今日が初めてとなります。」

「それで、ずいぶん豪華な顔ぶれになった訳だ。しかし、わずかな期間で色々な事をやって来たようだな。一歩間違えばどうなっていたか解らないような気がするのだが、もう少し慎重に物事を行うようにしないと、最悪、死ぬ事になるぞ。
 しかし、精霊だけでなく上級精霊にまで名前を付けて友達にしてしまうとはな。いったい、お前はどれほどの幸運の持ち主なのか、一度じっくりと話し合う必要が有りそうだな。」

[皇帝とやら。お前の言うように、たしかに、この子供は類い希な幸運の持ち主なのであろう。エルフの長老のような精霊使いでも我らに直接会う事は殆ど無いからな。大体、この子供の方が、長老達よりよっぽど面白い。]

 『ジン』が話に入ってきました。呼び出して置いてほったらかしはいけませんね。

「『ジン』と申したか。風の上級精霊という事だが、その方のような存在が人の前に姿を現すのは、よほどの事がない限り無いと思うが、このアルバートは特別という事かな?」

[お前達人間には解らない事だろう。目に見える物しか知ろうとせず、見えない物を否定する愚かな存在よ。未だ人間に伝える事は許されない事なので、ここで話す事は憚られるが、この子供には色々な秘密があるという事だ。そういった意味では、確かに特別な存在であろうな。]

 なんか、話がやばい事になってきましたね。『ジン』は話す事が出来ないといっていますが、上級精霊が話せないと言うだけで、何か有るという事が解ってしまいますから、後で突っ込まれそうです。ここは、早く話しを元に戻した方が良いでしょう。

「私が幸運だと言う事は本当だと思います。ボンバード領の改革を行うために、必要な物を探して南方に行けば、交易などにも使えるような珍しい物を見つける事が出来たり、色々と手伝ってくれる精霊達と知り合って友達になる事も出来ました。
 この池もゴーレムを作って池の形を作る時に『ノーム』が手伝ってくれたので、普通より遥かに簡単に作る事ができました。また、『ラサ』と『クウィンティ』の協力がなければ、離れた所にある地下水脈から池に水を引く事もできなかったでしょう。
 この池が出来た事で私達も良い憩いの場を手に入れる事が出来ましたが、今まで水場の関係で行動範囲が限定されていた『ウンディーネ』も自由にこの屋敷で動き回る事が出来るようになりましたし、『クウィンティ』もいつでもここまで来る事が出来るようになりましたから、今日のように上級精霊が揃っている所を見る事が出来るようになった訳です。
 もっとも、余り派手に動き回られると、トリステインのモンモランシ家から『クウィンティ』について文句を言われるかもしれませんから、程々にとお願いしています。」

「そういえば、モンモランシ家はラグドリアン湖を抱える領地を持った、『クウィンティ』との交渉役だったな。たしかに、ゲルマニアの貴族が水の上級精霊とのルートを持っていて、『クウィンティ』という名前まで付けている事が解ったら、色々と面倒な事になりそうだ。もっとも、儂に言わせれば『クウィンティ』の方からお前に会いに来るのだから、文句の付けようがないと思うがな。」

「それで通じる相手なら良いのですが。今は良いでしょうけど、万一、モンモランシ家が何かの弾みで『クウィンティ』を怒らせるような事をして、交渉役を降ろされるような事があれば、トリステイン側の交渉役が居なくなって、ゲルマニアにいる私だけが『クウィンティ』と話の出来る存在となってしまい、ますます問題になりますからね。」

 この辺は、原作知識という奴ですね。このまま行けばモンモランシ家は水の精霊を怒らせて交渉役から降ろされるはずですから。自業自得とは言え、その後のモンモランシ家の状況はかなり悲惨ですから、出来ればそんな事にならないで欲しい物です。

[そのような事をお主が気に病む事はない。我が誰と会おうと古き血の盟約者には文句を言うことはできぬ。我は我の意志で相手を選んでいるのだからな。かの古き血の盟約者との約束とお主との事は別じゃ。]

 『クウィンティ』はそう言いますが、トリステインの貴族連中がそんなに話が解るとは思えません。バレれば絶対難癖付けてくるでしょうね。もっとも、いざとなったら上級精霊にお願いして、トリステインから全ての精霊を離してしまえば、雨が降らなくなって、作物は育たなくなるでしょう。家事で火を使う事も出来なくなりますし、多分魔法も使えなくなるはずですから、魔法しかないトリステインは戦争なんてやっていられなくなるでしょうね。

「まあ、あまりおおっぴらにしない方が良いでしょう。ロマリアなんかに知られたら、間違えなく揉め事が起きるでしょうから。ロマリアと事を構えるなんて面倒くさい事はやりたくありません。」

[まあ、お主がロマリアとやらと関わりを持ちたくないという事は解った。だが、いくら秘密にしようと思っても、遅かれ早かれ知られる事になるのは確かだと思うぞ。]

 『ジン』が嫌な事を言い出しました。たしかにこんな存在感のありすぎる上級精霊なんていう物が堂々と現れているのですから、どこで誰が見ているか何て解りません。それでも、隠しておけるだけは隠しておきたいと思うのですよ。

 僕の気持ちは置いておいて、皇帝にもちゃんと紹介出来ましたから、精霊達には解散して貰う事にしました。それこそ、今の状況を他人に見られるととんでもない事になりますから、余りゆっくりしてもいられません。

「お呼び出しして申し訳ありませんでした。これで紹介を終わりたいと思いますので、皆さん解散して下さい。」

 そして、精霊達はそれぞれに消えていきました。

「それにしても、アルバートには驚かされる。使い魔の『ヴァルファーレ』にも驚いたが、今度の精霊達にはもっと驚いた。どんな経緯で知り合ったのか詳しく知りたいものだな。」

「その辺の事は、晩餐の後でゆっくりお話しします。そろそろお茶の時間ですから、屋敷の方に戻りましょう。」

 何とか、精霊の紹介も無事に終わりましたので、一旦屋敷に帰ってお茶にしましょう。さすがに喉がからからです。
 先日、『クウィンティ』と『ラサ』が来た時も、屋敷の人たちが遠巻きに見ていましたが、今日もみんなが来ていました。皇帝が居るので余り近くに来られなかったようですが、充分見える所に陣取って、屋敷の人たちも『事務局』の人たちも居ましたから、精霊と上級精霊の全員集合を見る事が出来て、満足している事でしょう。後でみんなに口止めしておかないといけないのでしょうけどね。

 その後、午後のティータイムにかなりの時間を使ったので(色々話しがあって時間が掛かりすぎました。)夕方になってしまいましたから、晩餐前に今回の目的の一つである公衆浴場で入浴する事になりました。
 皇帝一家と家の家族で風呂道具を持って公衆浴場まで歩いて行きます。一人に一つずつ風呂桶を作っておきましたから、中に石けんとシャンプー・リンス等をいれて、その上に手拭いとバスタオルを乗せて風呂敷で包んでいます。完全に日本の銭湯スタイルです。こういった物は今回の行幸に会わせて作っておいたのですよ。そして、もう一つ目玉商品(?)として浴衣と団扇も作っておきました。こちらは僕がスケッチを描いて、それを基にメイドさん達に縫って貰いました。帯もおそろいで作ったので良い感じになっています。母上に着方を説明しておきましたから姫様達の気付けも大丈夫でしょう。皇帝には父上から教えて貰います。湯上がりに縁側で団扇を使って涼んで貰いましょう。
 皇帝一家も珍しがって喜んでいますから、一式セットで持って帰って貰うとして、後は牛乳(コーヒー牛乳でも可)とか下駄や草履も欲しいですね。今度作ってみましょうか。

 公衆浴場について、入口で男湯と女湯に分かれ、僕も皇帝と一緒に男湯に入ります。番台は形だけで、まだ誰も座っていません。当然、入浴料も取られませんよ。
 脱衣所で服を脱いで、備え付けの篭に入れて棚に置いてから風呂桶と手拭いを持って洗い場に入ります。脱衣所と洗い場を隔てるガラス戸の大きさに皇帝が驚いていましたが、中に入って湯船の向こうに書かれた絵にまたビックリしています。女湯の方からも喚声が上がっているので、大成功といった所です。

「これはどこの景色を描いた物なのかな?こうしてみるとなかなか風呂場に合う絵だが、見た事のない景色だな。」

「これは、東方の書から見つけた風景画を元にして描かせた絵です。一目見た時から、こういった場所に描いたら良いだろうなと思っていたのですが、良い物でしょう?」

「ああ、良い感じだ。風呂も大きいな。2つ並んでいるがどうやってはいるのかな?」

「右の方が温めの湯で、左の方が熱い湯です。まず、此方の洗い場で身体に湯を掛けて、ざっと汗などを流します。それから、お好みの方にゆっくりと浸かって下さい。注意事項としては手拭いを湯の中に入れない事だけです。」

 洗い場でお湯と水の出る水道の使い方を説明し、ざっと身体を洗って湯船に入ります。 日本式の湯船で馴染みがないから少し戸惑っていたようですが、僕が頭の上に手拭いを載せてお湯に浸かっているのを見て、皇帝も同じように入っています。少し高い所にある大きな窓から、空を流れる雲が見えたりして、何とものんびりした雰囲気になりました。誰かさんの言葉ではありませんが、お風呂は命の洗濯よ!!なんてね。
 ゆっくりと手足を伸ばして湯船に浸かると、一日の疲れがお湯の中に染み出して、身体が軽くなるような感じがします。おもわず何か歌いそうになりましたが我慢しました。軽く暖まってから洗い場に出て、シャンプーの使い方を説明しました。まだ、シャワーまでは作っていないので、桶にお湯を貯めて頭を洗う事になります。
 考えてみると、皇帝って普段のお風呂は侍女とかが付きっきりで身体を洗ってくれているのですよね。自分で洗う事なんて無いのではないでしょうか?皇帝にとって結構貴重な体験になったりして。壁の向こうからは、母上や姫様達の声が聞こえて来ますが、あちらも普段と違う体験に、黄色い声が響いて楽しそうですね。
 何とか身体を洗い終わって、もう一度湯船に浸かります。
 余り浸かりすぎても湯あたりしてしまいますから、適当な所で出る事にして、最後にちゃんと身体を拭いてから出る事も教えて、脱衣場に出ました。
 バスタオルで身体を拭いて、下着の上に浴衣を着ます。僕は慣れているので大丈夫なのですが、父上も余り慣れている訳ではないのでちょっと苦労していますね。皇帝はそれこそ初めて着るので、良く解らないようです。僕が所々で教えて、何とか着る事が出来ましたが、やっぱり違和感がありますね。慣れれば大丈夫だと思いますが。
 団扇を片手に脱衣場からそとの庭へと出ます。この庭はぐるっと高い木で囲んであるので外からは見ることが出来ません。置かれたベンチに座って、団扇で軽く扇ぐと良い気持ちです。そうして夕涼みがてら涼んでいると、女湯の方も上がったようなので引き上げる事にしました。外に出ると、女湯側から母上達が出てきました。母上の浴衣姿はしっかりと決まっていましたが、姫様達の浴衣姿もなかなかでしたよ。思わず、父上と皇帝が見とれていました。やっぱり湯上がりの女性の浴衣姿って色っぽいですもんね。 

 

第31話:課題消化!(その6:説明会?精霊との出会いについて!)

 
前書き
今回はほとんど皇帝閣下への説明会です。
やり過ぎに対する注意もありますが、概ね成功といったところでしょうか?
多分、アルバート君に注意しても、あまり効果はないと思いますが・・・ 

 
 お早うございます。アルバートです。

 昨日は到着した皇帝一家に屋敷の中や『改革推進部』等の施設を案内した後、出来たばかりの池の畔で精霊達を紹介してから、自慢の公衆浴場でゆっくりと入浴してもらいました。

 公衆浴場は皇帝一家から上々の好評を得る事が出来ました。特に浴室の壁の絵は大好評で皇帝一家も大満足と行った所です。やっぱり日本の銭湯をモデルにしただけの事はありました。用意しておいた浴衣もとても人気があり、姫様達の浴衣姿なんて絵に残しておきたいような物も見る事が出来ました。これってかなりのレアものですよね。

 お風呂から上がって、屋敷に戻ってからお待ちかねの晩餐です。
屋敷のコック長が腕を振るった晩餐は見た目も味も最高の出来で、普段皇城の料理を食べ慣れている皇帝一家も、文句一つ無い食べっぷりでした。
 その後、食後のティータイムに入ってから、皇帝に色々な報告しておかなければならない事を話していきます。食堂の中には父上と母上、それに皇帝一家と僕だけしか居ません。メイドさん達と執事さん達には部屋から出て貰いました。それから、部屋全体にサイレントの魔法を掛けて貰います。

「まず、今回の南方旅行の目的は二つありました。第1に活性炭作りに必要な椰子の実と装備品用のゴムの樹液を採集する事で、第2に活性炭を作るための炉を過熱するための火石を入手する事でした。」

「その火石という物だが、今まで聞いた事が無かったが、いったいどういった物なんだ?」

「火石とは一件赤い石に見えますが、本当は火の精霊の力の塊です。エルフだけが作る方法を知っていますが、精霊の種類に合わせて火の精霊の力を集めた赤い火石、水の精霊の力を集めた青い水石、土の精霊の力を集めた茶色い土石、そして風の精霊の力を集めた水色の風石があります。風石についてはアルビオンで使われている飛行船を空に浮かべる力となっているので閣下も耳にした事があると思いますが?」

「ほう。風石も精霊の力を集めた秘石の一つなのか?あれは地面の中から掘り出されるので作られ方も解らない高価な石だと聞いていたが。」

「そうですね。一般的にはその様に理解されていると思います。でも、本当は風の精霊の力を凝縮した事で出来る秘石なのです。現在自然の状態で算出されているのは風石だけのため、精霊の力で出来ると知っている人が殆ど居ません。そして、この秘石を適切な方法で使用すれば、石に込められている力を自由に使う事が出来るのです。ですから、火石を手に入れて、制御方法を確立する事で、活性炭を作る時に必要な制御された一定の高温という条件をクリアできると考えたのです。」

「制御された高温とはどういった物なのだ?」

「活性炭を作るためには900℃の温度を1時間維持しなければなりません。その上、その中に一定の湿度も必要となります。」

「900℃で1時間?それはまた凄い熱だな。確かにその温度を1時間維持するのは難しいだろう。それを火石が手に入れば実現できるという訳か。」

「そうです。制御方法がまだ確立されていなかったので問題も残っていた訳ですが、実際に火石を手に入れなければ実験も出来ませんので、まず入手する事を考えました。そして、入手するためにはエルフの集落に行かなければなりませんでした。」

「それで、今回の南方旅行となった訳か。」

「ええ。まず、『ヴァルファーレ』でエルフの集落まで一気に行って、アルメリアさんに会いました。持って行ったお土産はアルメリアさんに渡して集落の人たちに分けてもらえるようにお願いし、代表に挨拶に行って、今回も椰子の実とゴムの樹液を取りに来た事を話しました。
 アルメリアさんは、前回僕が助けた後も植物の調査に行きたかったのですが、やはり護衛を見つける事が出来ず出かける事が出来なかったそうです。そこで、ゴムの樹液を採集する場所まで私と『ヴァルファーレ』が護衛する事にして、一緒に『ヴァルファーレ』に乗って移動しました。」

「そのアルメリアというのは、前回の調査の時に助けたエルフの女だったな。その女も同じ場所で調査をしていたのか?」

「そうですね。ベースキャンプは同じ所でしたが、それぞれの仕事の場所は結構離れていたと思います。私は前回と殆ど同じ所でゴムの樹液を採集していましたが、アルメリアさんはあちこち歩き回っていましたから。私の作業は順調に進んで、合間に新しいゴムの木を見つける事も出来たので、沢山の樹液を集める事が出来ました。
 そして2日目でしたか、帰ってきたアルメリアさんに調査で見つけた植物のスケッチを見せて貰ったのですが、その中に「リュウゼツラン」と「ケイアップル」が有ったんです。」

「植物のスケッチとは、そのエルフは絵も描くのか?なかなか器用だな。」

「凄く上手なのですよ。細かい特徴まで解りやすく書かれていて、一目で「リュウゼツラン」と「ケイアップル」だと解りましたから。
 この「リュウゼツラン」は「アガベ・アスール・テキラーナ」という種で、丈は60サント位、直径は80サントから1メール位の円形状に葉を伸ばして生えます。葉の根元にあるピニャと呼ばれている部分がテキーラという強いお酒の原料になります。加工方法がちょっと面倒でけどね。次の日に実物を見に行きましたが、まだ若いのでテキーラの原料にするにはもう少し時間が掛かると思います。
 それから、「ケイアップル」はオレンジのような酸味のある美味しい実を付ける木です。それほど高い木ではありませんから栽培するのにも良いかと思います。
 後でまたいった時にでも、発見できた「リュウゼツラン」と「ケイアップル」を一ヶ所に植え替えて、畑と果樹園を作ろうと考えています。南向きの小高い丘で、日当たりの良い土地も見つける事が出来ましたから、しばらくすれば収穫できるようになると思います。」

 皇帝への報告なので、父上や母上は黙って聞いています。姫様達もしっかりと聞いてくれているので、頑張って話しましょう。

「酒と果物か。良い商品になるだろう。しかし、それだけのものを作ろうとすれば、一人では難しかろう。手伝いは必要ないのか?」

「手伝いが欲しいと言えば欲しいのですが、条件が厳しいと思います。まず、ここからの距離が離れすぎている事。『ヴァルファーレ』で高度5000メール、時速900リーグ位で飛んで、1時間半位掛かります。普通の風竜では就いてくる事も出来ません。この為、移動方法を考えないと行けなくなります。次に場所が熱帯地方に入る事から、此方と違ってとても暑いので、慣れないと熱射病にかかって最悪死ぬ可能性もありますから、簡単に連れて行く事が出来ません。さらに此方には居ない幻獣や猛獣なども沢山生息していますから、『ヴァルファーレ』位の護衛が付かないと危なくて常駐させる事が出来ないでしょう。ですから、この件についてはもう少し考えて決めたいと思います。」

「話を聞くだけでもとんでもない所だな。解った。続けてくれ。」

「まあ、そんな事があったりして結構忙しく働いていた訳ですが、4日目の夕食の後、もう機会がないと思ったので思い切ってアルメリアさんに火石について聞いてみたのです。そうしたら意外と簡単に火石と精霊の関係を説明してくれました。この時、アルメリアさんが精霊魔法で掌の上に炎を灯したのですが、私の目には火の精霊が集まる様子が見えたのです。これで自分の周りにいる存在が精霊だったのだと気付きました。
 その後、アルメリアさんに精霊に呼びかける方法を教わったところ、自分でも精霊魔法が使える事を確認できたので嬉しくなったのと、せっかく意思の疎通が出来るようになったのとで、つい周りにいる精霊達に『ファイアリー』と名前を付けてしまいました。精霊達も喜んでいたので問題無いと思ったのです。
 それから火石を作ってくれるように『ファイアリー』に頼んだら、沢山の『ファイアリー』が集まって来て、大きな火石が出来ました。そして、その代わりに私の感じられる範囲内から『ファイラリー』の気配が無くなってしまったのです。戸惑っていると、火の上級精霊が飛んできて、この辺り一帯から『ファイアリー』が居なくなった訳を尋ねられました。正直に自分のやった事を話すと、今度は自分の眷属である火の精霊に勝手に名前を付けた事の訳を尋ねられましたので訳を話すと、他の精霊達も一生懸命説明してくれたので納得してくれて怒られませんでしたが、その後しっかり精霊に名前を付ける事の意味を教えて貰って冷や汗をかく事になりました。」

「お前は、さっきも言ったがもう少し慎重に行動すべきだな。問答無用で『サラマンディア』に攻撃を受けても、文句の言えない状況ではないか。」

 皇帝は頭を抱えながらそう言いましたが、父上達はやれやれといった感じで苦笑いしています。

「申し訳ありません。これからはもっと注意します。それで、ひとしきり名前について話しをした後、[いずれ他の精霊達の主からも何かしら説明を求めてくる事と思うから、忘れない事だな。]と言われて、[ところで自分にならどんな名前を付けるか]と聞かれたので『サラマンディア』と付けますと答えたら、[『サラマンディア』か。良い響きだ。これからもし我に話したい事があれば、その名で呼ぶが良い。どこにいてもおまえの前に現れよう。]といって帰ってしまいました。」

「もう何も言うまい。考えると頭が痛くなる。」

「申し訳ありません。こういった息子なので余り気にしないで頂けると助かります。」

 何か、父上と皇帝の間で溜息の応酬になっていますが、私が悪いのでしょうか?

「その後は、翌日、エルフの集落にアルメリアさんを送り届けた後で、沢山のお土産を貰って屋敷に帰ってきました。」

「それがこの前食べたお菓子や魚の干物などだな。ところで、今までの話しで『サラマンディア』との出会いは解ったが、他の上級精霊との出会いも、もう少し詳しく話してみろ。」

「はい。あの日は屋敷の研究室で活性炭を作る作業をしていました。炉の過熱を1時間維持して加熱を止めた所で、一休みするために暑い室内から外に出て木陰で一息入れていると、周りにいた『シルフィード』の様子がおかしくなって来ました。これはもしかしてと思ったら、すぐ側につむじ風が吹いたとたん、薄青い透き通った巨人が現れたのです。そして[お前が、我が眷属に名前を付けた人間か?]と聞かれたので肯定すると、すでに『シルフィード』からも話しを聞いているのでそれについてはもう良いと言われました。
 その後で、『サラマンディア』と同じように名前を付けろと言われたので『ジン』と名付けました。」

「『ジン』も特に怒っていなかった訳だな。精霊とはもっと気難しいものだと思ったのだが、そうでもなかったのだろうか?それとも、やっぱりアルバートが特別なのか?」

「その辺はどうなのか解りかねます。
 その次の日に母上にも相談していた池を屋敷の前に作るために、ゴーレムを使って地面を掘りました。この作業は『ノーム』が手伝ってくれたのでとても早く終わったのですが、いざ水を通そうとすると近くに地下水脈がない事が解って、どうすれば良いか考えて込んでしまったのです。
 すると、池の真ん中の土が盛り上がってきて、そこから土の上級精霊が現れました。なんでも、前の晩に『ジン』から私の事を聞いたそうで、『ノーム』の事とか一通り聞かれましたが、『ジン』の時と同様にやっぱり名前を付けるように言われたので『ラサ』と名付けたのです。
 『ラサ』は名前を付けて貰ったお礼だと言って、池の真ん中から地下水脈までの地下水路を掘ってくれました。すぐに水が池に流れ込んできたのですが、今度はその水路を伝って水の精霊がやって来たのです。
 わざわざラグドリアン湖から地下水脈を通って来たそうで、一通りの挨拶の後、此方も名前を付ける事をお願いされたので『クウィンティ』と名付けました。
 こうして、結局全ての上級精霊に名前を付ける事になった訳です。」

 晩餐後の時間を皇帝への説明に当ててしまいましたが、下手な物語よりも面白かったと姫様達に言われ、母上からも楽しかったと言われました。
 父上と皇帝からは、これからはもっと注意して行動するように、重ねて注意を受けましたが、やった事については概ね了承を貰えたようです。

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 皇帝一家が来てから3日が経ちました。この間、皇帝は父上と一緒に領地内を視察したり、ある村で行われていた『保健衛生局』の仕事を見学したりして、夕方には公衆浴場に入りに行くと行った日課になっています。姫様達は母上やメアリーと一緒におしゃべりしたり、何やら怪しい秘薬作りの手伝いをしたりして、夕方になると皇帝と同じように公衆浴場にいって温泉三昧を満喫しています。この間は昼間と少し遅い時間しか一般の入浴が出来ない事になりましたが、理由もはっきりと伝えてあったため、特に混乱や不満も出ずにすみました。父上達も皇帝一家もすっかり浴衣姿に慣れてしまったようで、温泉から出ると池の畔の東屋で夕涼みをしています。

 僕は皇帝一家がのんびりと湯治を楽しんでいる間にも、『改革推進部』の仕事を進めて、その合間に皇帝に色々な支援のお願いをしたりしていました。

 そして、今日は皇帝から一度見ておきたいと頼まれていた活性炭製造の実演日です。
 マスクの効果についてはすでに経験して貰いましたが、その時に活性炭の威力を実感した皇帝が、作り方を見てみたいと言ったので今日の実演となりました。
 今日は朝から皇帝も一緒に『改革推進部』の各局の朝礼に出席して、ミーティングで予定の確認をした後、作業場に入りました。炉の方は昨日の内に掃除もしてありますし、火石の状態も確認済みです。椰子の実も皇帝が来た初日に、中のジュースや果肉を振る舞った時の実を乾燥させておきましたから、それを使います。

 前にもやった事なので作業はスムーズに出来ます。まず、二つに割った椰子の殻の一番内側にある「シェル」と呼ばれる部分を取り出し、練金で炭にして椰子殻炭を作りました。次に、炉内に規定量の水を入れ予熱します。ある程度温度が上がってから椰子殻炭を入れ、しっかりと扉を閉めて外気を遮断して、閂をかけます。そして『ファイアリー』にお願いして、炉内の温度を上げてもらいます。
 炉の温湿度計が900℃を指すと『ファイアリー』が温度の調節をしてくれます。自動温度調整も安定して、安心して『ファイアリー』に任せておけます。
 そのままの温度を維持し、1時間後加熱を止めました。このまま冷えるまで放置します。 窓を一杯に開放していますが、大分部屋が暑くなったのでしばらく外に出る事にしました。さすがに皇帝も汗をかいています。こういうときは池の側が良いですね。
 池まで移動する間に丁度見かけたアニーに、冷たい物を東屋まで持ってくるように頼みました。
 池に付くと池の上や周りを『ウンディーネ』が飛び回っているので、『シルフィード』と協力して、水を霧状にして拭きかけて貰いました。こうすると廻りの熱を霧が取ってくれるので、かなり涼しくなります。
 水の霧を受けて涼しく感じるようになった頃、アニーが飲み物と軽いお菓子を持ってきました。たまにはこんな開けた場所でティータイムというのも良いものですね。
 お茶菓子はエルフの集落で貰ったお土産ですが、皇帝もかなり気に入ったようで、屋敷に来てから結構な量を食べています。これ位受けるのであれば、輸入品としてエルフの集落から買い込んでも大丈夫でしょう。今まで2回行ってもらってきたお土産は、どれも喜ばれていますから輸入品として問題無いのですが、此方から持って行く輸出品の方が難しいのではないでしょうか。
 一応、2回目にいった時に此方から持って行ったお土産は、それなりに喜ばれたと思います。しかし、それがエルフの集落内で作られる物と交換してまで欲しいものなのかが良く解りません。もう少しマーケットリサーチが必要でしょう。
 それにエルフの集落等では、ゲルマニアなどで流通している貨幣が使える訳ではないので、交易をお金で行うのは現実的ではありません。そうすると物々交換のような形式で行う事になるので品物の価値基準をしっかりと確認しておく必要が有るのです。
 こういった事は、皇帝と話し合う事でどうすれば良いかが解るような気がします。此方での基準が決まったら、一度エルフの里に行って、彼方の価値基準との摺り合わせを行わなければなりません。またアルメリアさんに手間を掛けるかもしれませんが、この際ですからお願いしましょう。

 ところで、『ウンディーネ』に頼んでやって貰った霧の冷却法ですが、今度、この方法を改良して空調機を作ってみましょうか。冷風扇のような機構にすれば電気も使わずに作る事が出来るかもしれません。『シルフィード』と『ウンディーネ』に協力して貰って風石と水石を作って貰えば簡単にできると思います。

 そう言えば、今朝気が付いたのですが、池の中に魚が泳いでいました。見た事のない魚なので『クウィンティ』がラグドリアン湖から連れてきたのかもしれませんが、赤や黄色や青といった色とりどりの美しい魚が沢山泳いでいます。地下水脈を通ってきたのだとしたら、どれだけの距離を泳いできたのでしょうね。せっかく来てくれたのだから、屋敷のみんなには取らないように注意しておかないといけませんね。

 『保健衛生局』の『施設課』の作業は順調に進んでいて、既に75%の村と町に公衆トイレの設置が終わっています。それに伴って、『施設課』から課員を戻した『清掃課』の仕事も始まりました。此方は最初に設置した村から巡に、村内に放置されていた獣の死骸や汚物などを回収し、村外の安全な場所で焼却処分にしています。そして、綺麗になった村内をさらに消毒薬を散布する事で衛生状態を向上させ、同時に消臭剤も散布して臭いも消しています。この状態を維持していけば、疫病の発生も大幅に抑える事が出来るでしょう。

 そんな事を皇帝と話しながら時間つぶしをして、そろそろ炉も冷えてきたころに作業場に戻ります。炉の温度計も大分下がっていますから、しっかりとミトンをして炉の閂を外しました。ゆっくりと扉を開けると中の熱気がムワッと出てきます。
 ちょっと間を置いて、中の熱気を外に出してやってから、ミトンをはめた手で中の活性炭を取り出しました。見た感じ成功したようです。
 出来上がった活性炭を皇帝に見せると、しきりに感心していました。
 その後、予備に作っておいた吸収缶に活性炭を詰め込んで、吸収缶の蓋を閉め、防毒マスクに取り付ける所まで実演して、作業完了です。
 結構時間が掛かりましたが、皇帝は特に文句を言う事もなく、最後までしっかりと見てくれました。多分、産業として成り立つかとか考えているのでしょうが、今のところ設備を作るのも大変なので、僕自身どうするか考え中で答えは出ていません。 

 

第32話:肥料作りと農業改革!!(その1:説明編)

 
前書き
さらなる改革案の説明回です。
アルバート君の説明の長いこと。お父さんも聞いてて理解できているのでしょうか? 

 
 お早うございます。アルバートです。

 この度の皇帝行幸の目的である、南方旅行の報告(資材調達及び火石確保等)も皇帝にたいして無事に済ませる事ができ、さらに領内改革の状況や問題点なども全て話す事が出来ました。また、精霊達の紹介と合わせて上級精霊の紹介も出来ましたから、目的については完遂出来たと思います。
 その後は、皇帝一家も静かに湯治や食堂での昼食、夕食を楽しみ、父上や母上とも沢山話しをして満足して帰って行きました。僕も皇帝と話しをしたり、母上と一緒に姫様達と話しをしたりして結構楽しむ事が出来ました。

 皇帝一家が大満足で皇城へと帰り、平穏(?)な日々が戻ってきた訳ですが、皇帝が行幸(湯治?)に来ていた間も領内改革は予定通り進んでいて、現在全ての村や町に公衆トイレの設置が終わった段階です。この段階で『施設課』から『管理課』と『清掃課』所属の人を分けました。
 『管理課』には本来の仕事である屎尿回収を公衆トイレ設置の終わった順に実施して貰い、一時貯蔵場所に集めて発酵といった肥料作りの作業に掛かって貰いました。4人で牛に引かせた荷車を移動させながらの作業ですから、時間も掛かるでしょうが頑張って欲しいものです。
 『清掃課』には、村などに散乱しているゴミや動物等の死骸を集めて、村の外で焼却処分にするように指示を出してあります。但し、各家庭で発生した生ゴミはその他のゴミと分別して収集して貰い、一カ所に集めておくように指示しました。此方は発酵させて肥料にしたり、家畜の飼料にも使えますからね。使えるものはなんでも使いましょう。
 『施設課』には今後公衆トイレの補修作業等が発生しますが、まだ設置したばかりで出番がないので現在は領内の街道整備について検討させています。特に、首都『ヴィンドボナ』と、隣接するツェルプストー辺境伯の間は、色々な都合がありますから早めに整備したいと思います。来年にはキュルケも生まれる事でしょう。

 こういった業務を行って、領民の健康面や村内の衛生環境が良い方向に向かっている事が解るにつれて、領内各所から色々な要望や改善に関する陳情書などの書類がどんどん送られて来るようになりました。『事務局』では大分書類整理になれてきた局員が、総出で書類の確認作業を行って、その中から決裁の必要な書類が毎日大量に僕の机に運ばれてきます。
 『事務局』チーフで、今ではすっかり僕の秘書的な存在になったゾフィーさんは、2時間おき位に『部長室』に書類を抱えてきて、帰りに決裁のすんでいる書類を持って行きます。でも、さっぱり書類の量が減らない机の上を見て、疲れ気味の僕にいつも労いの言葉を掛けてくれます。もっとも、それで書類の量が減る事はないのですが。
 ゾフィーさんはとても気の付く有能な女性で、僕の所に来る書類は一度彼女の所でチェックされ、僕の所に来るまでに殆どのミスは直されて、その上、書類の優先順位も分けられていますから、僕は簡単な確認をしてサインするだけでいいようになっています。これは凄く助かります。それに、僕があんまり疲れているような時は、肩を揉んでくれたりと気を使ってくれるので嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちです。しかし、7歳で肩こり持ちで秘書さんに肩を揉んで貰っている図って、どうよと思いますが。

 『改革推進部』の食堂では、コックのモーリスさんが腕を振るって、ゲルマニア産の食材や近隣諸国で取れる食材ばかりか、僕がエルフの集落から貰ってきた魚や肉の干物やドライフルーツなども使って、素晴らしい料理を作ってくれています。料理の味は行幸に来ていた皇帝一家にも好評で、結局滞在期間中に昼食2回と夕食3回を食べていきました。特に食後のデザートは姫様達に大好評で、おかわりまでしていましたから、他人事ながら体重の心配をしてしまいます。母上も甘いもの大好き人間ですが、あの家系は太らない体質でも遺伝子に組み込まれているのでしょうか?
 家族持ちの局員は、家族寮が出来てすぐ、故郷の村や町から家族を呼んで一緒に暮らしていますが、家族の人達にも食堂の料理は人気らしく、良く家族揃って夕食を食べている光景が見られます。
 使われているエルフの食材は、2回の旅行でお土産に貰ってきた少量の魚や肉の干物しかありませんから、早急に保存方法を確立して鮮度の良い生の魚や肉類を輸送できるようにして、食堂で思いっきり使って貰おうと思います。出来れば刺身なんかも作れると嬉しいのですが、刺身にして美味しい魚って捕れるんでしょうか?前世の鯛や鮪、鮃なんかが捕れれば最高なのですが。

 あとは、新しい農作物を導入して栽培する事と、既存の農作物についてはこれから作られる肥料を普及すること及び品種改良していくことで、質の向上と栽培量の増加を図ります。それから飼料の改良と家畜の品種改良を行って、美味しい牛、豚、鶏の肉を供給できるようにします。また、酪農業を導入して牛乳の生産も行います。大量に牛乳を生産できれば、バターやチーズにヨーグルトといった乳製品も一般家庭で安価に購入できるようになり、良質のタンパク質を摂取する事が出来ますから、食卓も賑わうし健康にも良いはずです。それに夏場にアイスクリームなんか出来れば、みんなが喜ぶ事でしょう。勿論、イチゴやメロン味のシロップを作ってシャーベットやかき氷なんかも作りたいと思っています。
 ところで、タンパク質と言えば大豆などの植物性タンパク質が欲しいと思うのですが、ハルケギニアで納豆って食べて貰えるでしょうか?前世でも関西圏では食べる人が少なかったりする食べ物ですが、栄養価的には結構良いものだと思いますし、腸の働きを助けるナットウキナーゼなんか健康面では有効だと思います。その他大豆の加工食品では豆腐や味噌、しょうゆなども普及させたいので、今度タルブ村まで行って調査して麹なども確保したいと思います。頑張って味噌汁が飲めるようにしたいし、冬場の鍋物も絶対食べられるようにします。

「アルバート様。またボーっとして考え事ですか?」

 いつの間にかゾフィーさんが来ていて話しかけて来ます。時々改革の案を検討したりしていると、端からはボーとしているように見えるそうで注意されるのですよね。今回はかなり集中して考えていたようでゾフィーさんが来たのも解りませんでした。

「すみませんゾフィーさん。色々考える事があって集中しすぎました。所で何か有りましたか?」

「特に何かあった訳ではありません。お昼の時間ですので、みんなで食堂に行きますから、その事をお知らせしに来ただけです。余り根を詰めて考えずにアルバート様もお昼になさって下さいね。」

「ありがとう。もうそんな時間だったんだね。私もそうするよ。」

 今日はメアリーと約束していたので屋敷の方で昼食を取ります。昼食を取るのは大体『改革推進部』の食堂と屋敷の食堂とで半々位になっています。夕食は殆ど屋敷になりますが、これは父上への報告や情報交換などが必要なので、家族一緒にという意味も含めて屋敷で夕食というのが決まりみたいになっています。
 昼食後、一休みの時間を使って、今日考えていた事を父上に相談してみる事にしました。

「父上。今行っている領内の村や町の環境改善ですが、屎尿処理によって出来た肥料を農家に廻すだけではなく、家庭から出る残飯なども集めて、肥料や家畜の飼料にしようと思います。肥料の原料は出来るだけ多い方が良いと思いますから。」

「また、良く解らない事を言い始めたな。私ではちょっと判断できないことが多いから本当に困るんだよ。まあ、一番詳しいお前の思う通りにすると言い。ところで、農業改革と言っていたが、どういったことを行うつもりなんだ?」

「そうですね。私がこのゲルマニアの国内で普及させたい農法は輪栽式農業といいます。場所によっては(主に生前のイギリスなどでは)ノーフォーク農法とも呼ばれていますね。
 この農法の特徴は、農地を纏めて管理し、小麦等の冬季に栽培出来る穀類→カブ・てんさい等の春物→大麦・ライ麦等の夏季に栽培する穀類→クローバー等の地力を回復する性質を持つ牧草と、四季を通じて順番に耕作します。まあ、このように順番に廻して耕作することから輪裁式というのですが、この農法を行うことで根葉類やマメ科植物の作付が増加することになり、特にカブなどの栽培を導入することにより飼料不足が解決され、冬季に沢山の家畜を飼育ことが可能となります。その結果、家畜の堆肥と牧草による地力回復が期待でき、休耕地を無くすことができるのです。輪栽式農業導入により食料生産が増加すれば、領内の人口増加も見込め、また税収の増加も見込めますよ。」

「お前が言っている家畜とは、農家などで飼っている牛や豚や鶏などを指しているのだろうな。確かに冬場は餌が少ないので家畜を沢山飼うのは難しいが、そういったことが改善されるというのだな。」

「はい。食肉としての家畜は、飼料を変えるだけで肉の味や脂肪の付き具合なども変わります。美味しい肉が取れるように品種改良した家畜を『ヴィンドボナ』で宣伝して、皇城や有力貴族の所で使って貰えるようになれば、ブランドとして名前を覚えて貰えます。そうしてブランドによって肉の価値が変われば、生産する農家もより価格の高い質の良いものを作ろうと競争する事になります。
 鶏にしても飼料や飼い方で取れる卵の質や量なども変わってきますから、此方も競争を行わせる事が出来るでしょう。それぞれの農家が、より良いものを作っていく為にはこうしてモチベーションを上げることも必要だと思います。
 それから、食肉だけでなく、牛や山羊などを使った酪農も普及させたいと思います。」

「酪農とは初めて聞く言葉だが、どんな仕事なのだ?」

「酪農とは、牛や山羊などを牧場で多数飼育し、乳や乳製品を生産する為の畜産をいいますが、私は主に乳牛を使った畜産を考えています。美味しい乳を出す牛を品種改良して生み出し、繁殖させたいと思っています。
 乳牛を飼育するには冷涼な高地が向いているので、領内の山の方に牧場を作ります。そして、この牧場の経営は領の直轄とします。これは、飼育する乳牛の数が数百頭と多くなる為、領民の資金力では無理だと思うからです。牧場で数百頭の乳牛を放牧したり畜舎で飼育したりすることが目標となります。
 もっとも、乳牛1頭1頭から人の手で乳を搾らなければならないので、沢山の作業員を雇用する必要が有りますから、領民も充分な収入になると思います。牧場は年中無休で、1日2回朝と晩に搾乳を行うのが一般的ですが、それ以上の回数で搾乳する場合は作業員も増やして交代制なども考えないといけないでしょう。
 搾った生乳は牛乳缶と呼ばれる40リーブル位入る金属製容器を作って集めます。牛乳缶に集めた生乳は、生乳を冷やすための冷蔵タンクに集めて冷やして一時的に貯蔵し、その後、同じ敷地内に建設する予定の牛乳加工工場へ運んで飲むための牛乳やチーズなどの乳製品に加工します。
 乳牛は種付けして、出産後一定期間しか乳が出ないので、たとえ繁殖の必要が無くても、牝に定期的に種付けする必要が有ります。この方法もハルケギニアでは確立されていないので検討が必要です。
 乳牛に食べさせる飼料は牧草や飼料用とうもろこし等と穀類を中心とした配合飼料が使われます。牧草は乾燥させた乾草をサイロという乾草用の倉庫のようなものに入れて発酵させて与えます。緑色のままの牧草だけを食べさせると牛乳が青臭くなるので、これを無くすためにも乾草も食べさせなければなりません。それに牛乳にコクを出すためには、飼料にたんぱく質を多く含む大豆、米、麦、トウモロコシなどを混ぜる必要があります。こういった飼料も開発しないと行けません。
 いずれ、牛乳からアイスクリームという冷たいお菓子を作るための冷却設備や保存施設なども作ったり、牛乳を発酵させたヨーグルトなども作る事を考えています。」

「牛を使う事だけでも、色々な事が出来る物だな。牛の乳など飲んだ事が無いが、美味いのか?それにアイスクリームとかヨーグルトといった新しい言葉が出てきたが、それも食べものなのか?」

「牛の乳、牛乳は搾ったままを飲むと濃すぎてお腹を壊す人が多いと思いますから、適当に薄める必要が有ります。こうして調整した牛乳は、冷やしても温めても美味しいもので、料理にもよく使われます。ただ、冷たい牛乳を大量に飲むと、やっぱりお腹をこわす事があるので飲み慣れない人は注意が必要です。
 バターは食べ慣れている食材だと思いますが、作り方は、まず絞りたての牛乳を加熱殺菌した後、放置しておきます。そうすると牛乳の上に塊ができます。これがクリームといわれるものですが、これを取り出して激しく撹拌すると水分と分離されて乳脂肪分の塊が出来ます。これを取り出して、塩を加えて味を調えたものがバターとなります。パンに塗って食べたり料理に使ったりしますが、お菓子などを作る場合は塩を入れていない無塩バターの方が良いと思います。
 アイスクリームとヨーグルトも牛乳の加工商品です。
 アイスクリームはバターを作る途中で出来るクリームに砂糖などで甘く味付けして、ゆっくり撹拌しながら冷やして固めた食べ物です。冷たくて口に入れるととろける感じがとても美味しいものです。夏場の暑い時には最高だと思います。
 ヨーグルトは牛乳に乳酸菌を入れて発酵させて作る食品です。酸味がある為、苦手な人は砂糖で甘くしたりして食べますが、発酵させる事で乳酸菌が増えて、これがお腹の中で働いて、お腹の調子を良くしてくれるといった、身体に良い食べ物です。
 また、肉の繊維を分解する効果があるので、ヨーグルトに肉を一晩程度漬け込む事によって肉が非常に柔らかくなります。
 一般的に牛乳の加工品としてはチーズがありますが、牛乳には色々な使い道があって身体にも良いものですから、ぜひ普及させたいと思っています。」

「牛乳とはそんなに良いものだったのか?酪農では山羊の乳も使う事があるようだが、そちらも同じような物か?」

「山羊の乳は牛乳よりも栄養価が高いと言われています。ただ、牛乳よりもクセがあるのでちょっと飲みにくいと思います。ですから、まず牛乳を普及させて、その後、受け入れて貰えるようであれば山羊の乳も考えようかと思うのです。」

「なるほど。解った。他には何か有るか?」

「栽培したい植物で、まだ見つかっていないものがあるので、機会が有れば見つけに行きたいと思います。米という穀類を取る為の稲といわれる植物や大豆、小豆、そら豆等の豆類、大根やゴボウ等の根菜類など、欲しい植物が一杯あります。
 あとは、エルフの集落との交易のための中継点を作る事と、椰子の実やゴムの樹液の採集を定期的に行う為の作業員と、「リュウゼツラン」と「ケイアップル」の栽培の準備や実際に栽培を行う作業員の確保等ですね。南方という特殊環境で長期間の住込みで働く事になりますから、希望者が居るかどうか心配です。近くにいるのはエルフと幻獣位ですからかなり根性が必要になりますし、護衛する為の戦闘要員も必要になると思いますから。」

「確かに難しそうだな。少し時間が掛かりそうだが、出来る所から順番にやっていくしかないだろう。実施項目が多すぎるから、しっかりと計画を立てて焦らずに頑張りなさい。もちろん、途中報告は忘れないようにな。」

「解りました。」

 父上とも話しをして承認を貰いましたから、順番に進めていきましょう。これからはさらに人を使う事になると思いますから、時期を見て、また人集めをしないとならないでしょうね。
 今の『保健衛生局』の仕事が軌道に乗って、順調に進むようになってから考えればいいと思いますが、計画は形にしておかないといけませんから、結構忙しいと思います。
 街道整備についても『施設課』で検討中ですが、出来るだけ石畳で整備して、雨が降ってもぬかるんだりしないようにします。余り整備してしまうと、他国に攻め込まれた時に利用されてしまうので問題もあるのですが、それよりも自分たちで利用した時の利点を考えて、しっかりと整備しようと思います。
 後は馬車の足廻りと座席を、もう少し改良して振動を抑えるように出来れば、馬車での高速移動も出来るようになるでしょう。そのかわり馬の蹄には辛いかもしれませんから、蹄にはかせる靴のようなクッション材も開発してあげないといけませんね。
 まだまだ、研究が必要なものが一杯あって大変ですが、考えるのが楽しいって良い事ですよね? 

 

第33話:一旦改革は任せて??調査旅行に行きましょう!!

 
前書き
色々やることはあるのですが、どこかでエアポケットのような暇な時間もできるものです。
そんな時は、普段できないようなこともやってみたりして。
そんな訳で、いつも以上に遠くまで行くことにしました。 

 
 お早うございます。アルバートです。
 父上に農業改革や酪農について説明をして、今後の改革の方向についての承認を貰った後、馬車の改良と街道の整備について検討を行って昨日は終わりました。

 今日の昼前に『管理課』の人たちが肥料の発酵所まで来たと連絡がありました。公衆トイレを最初に設置した村から汲み取りを初めて、3つの村を廻って瓶が一杯になったので、一旦屎尿を投入する為に来たそうです。
 発酵所は、各村の位置からほぼ均等な距離になるように検討して、全部で6ヶ所設置する予定です。地形的には出来るだけ東、北、西の3方を小高い丘に囲まれた盆地状の場所を選んでおきました。建物の構造は大きな平屋で高い排気塔があります。建物の中には直径5メール、深さ10メールの穴を掘って、その穴の壁面を練金でセラミック状にして屎尿が地中に浸み込まないようにしてあり、その穴の上にお椀を逆さまにしたような半球状の鉄の蓋をかぶせたような形状になっています。この中に屎尿を貯めて発酵させる、所謂大きな肥だめですね。
 完全密封状態に出来上がっていますので、通常は臭いが外に漏れる事はないのですが、屎尿を中に投入する為に投入口を開放した際にどうしても臭いが外に出てしまいます。また、万一事故があった場合など予期せずに臭いが出てしまう事も考えられるので、人家に近い所に作ると苦情が来そうですから、各村から少し離れたところに作りました。3方を囲む丘も、万一の場合に臭いが拡散する事を防ぐ役割があります。
 さらに建物の壁を厚くして少し高い位置にある窓ははめ殺しになっています。入口も2重のエアロック方式になっていて、内部の臭いが外に漏れる事がないようになっています。換気については壁の地面近くに吸気口が設けてあり、ここには防塵用のフィルターを設置してあります。外から見えた高い排気塔は気圧差を利用して室内の空気を吸い出し、その分壁の吸気口から新鮮な空気が入ってくるようにしました。動力式の換気システムにすると故障した時が大変ですから自然換気型にした訳です。『シルフィード』にも協力してくれるように頼んでありますから、これで充分な換気が出来るでしょう。
 入口のエアロック内には中で作業する人用に防毒マスクが配備してあります。

 屎尿の入った瓶は荷車に乗ったまま建物の中に搬入され、レビテーションで持ち上げられて投入口まで運ばれます。投入口は鉄蓋の南側(入口側)に蒸気機関車の石炭投入口をモデルにし、テコと滑車を使って人力で簡単に開閉できるようにしてありますから、作業員が一人で紐を引いて開けるようにしています。この投入口を開けて、瓶を投入口の上で回転させ、中の屎尿を投入します。その後さらに水を使って瓶の中をざっと洗い、汚れた水も投入口から中に捨てられます。この過程はゴム手袋、ゴム長靴、ゴム前掛けに防毒マスク着用となります。
 この中で屎尿が発酵し堆肥となる訳ですが、時々土メイジが魔法で発酵を促進してあげます。そして、この過程で発生するメタンガスは、そのままにしておくと爆発の危険が有るので、鉄蓋上部に設けられたパイプを通して外にあるタンクに送られ貯蔵しておきます。メタンガスも上手く使えば立派な燃料になりますから、大事にしないといけません。勿論、建物の周囲20メール以内は火気厳禁にした上で、鉄蓋や建物の金属部分は接地を施して、静電気による引火などが起きないように注意しています。
 この設備は、公衆トイレの設置が終わった『施設課』が担当して作っています。僕は図面を作って渡しただけなのでちゃんと出来るか不安があったのですが、立派な設備が出来たと報告がありましたので一安心です。今のところ2棟が完成しているそうで、残りも建設中となっています。

 各村や町の中は、『清掃課』の働きですっかり綺麗になって、廃棄物などの嫌な臭いもなくなりました。撤去されたゴミや動物の死骸などは、全て構外の一カ所に纏められ、火メイジの魔法で焼却されて、灰などは深い穴を掘って埋められました。
 清掃された後は隅々まで消毒薬を撒かれ、更に消臭剤も散布されたので、今まで廃棄物からの臭いで解らなかった周囲に咲いている花の香りや川から運ばれてくる水を含んだ風の臭いなどを感じる事が出来るようになりました。
 人々はすっかり異臭がしなくなった事に驚き、今更ながら花に香りがある事や風の臭いに気が付いて感動しています。
 これで伝染病の発生をある程度予防する事が出来るでしょう。これからはこの状況を維持するように領民自ら働いてくれると思います。勿論定期的に『清掃課』が巡回し、出来る限りのサポートをしていきますが、一番大事なのは領民1人1人が『整理』、『整頓』、『清掃』及び『清潔』の所謂『4S』を実践していく事だと思います。この辺はこれからの教育に掛かっているのでしょうね。

 さて、こうして『保健衛生局』の活動が軌道に乗って、それぞれの局が順調に活動を始めたので、堆肥が出来るまでは僕が当面『保健衛生局』で行う仕事はなくなりました。しばらくはよほどの事がない限り各課長に任せておいて大丈夫でしょう。
 屎尿が集まるのに少し時間が掛かりそうなので、肥料を作るのはまだ先になりそうですから、今のうちに新しい作物の入手を考えたいと思います。
 今のところ考えているのは米や豆類、根菜類などで地球での自生地域や栽培地域からハルケギニアで栽培または自生している場所を推測して探しに行こうと思います。今回の調査では、最低限、根菜類、特に馬鈴薯やさつまいもなどを見つけたいと思っているのですよ。おそらく地球の地理的には『ロバ・アル・カリイレ』辺りに行けば米なども見つかるのではないかと思いますが、闇雲に東に向かって飛んでいってもたどり着けるかどうか解りませんからホイホイと出かける事も出来ません。差し当たって南方の調査がてらエルフの集落で情報収集を行って見ようと思います。此方には情報が無くてもエルフの老評議会に合う事が出来れば必要な情報が得られるのではないかと思えるので、その場合は紹介状でも書いてもらうつもりです。エルフの老評議会に紹介して貰えるだけでも、後が楽になるでしょうからね。
 今までの2回実施した調査旅行は、どちらも期間を5日間と決めて行っていましたが、そう言った訳で今度は特に期間を設けずに行こうと思います。目安としては2週間位と考えていますが、状況によっては更に日数が掛かる事になるかもしれませんので、連絡用の鷹便を2羽用意しました。
 まず、最初にエルフの集落まで行って情報収集後、更に遠くまで行こうと思っていますが、南に行くにしても東に行くにしても、未踏の地に踏み込む事になるので、情報を集める事から始めないとどうにもなりません。幻獣などの危険については『ヴァルファーレ』が居る限り安全だと信じられますが、その土地特有の自然現象や病気まではどこまで対処できるか解りませんから、少しでも情報を集めてから進みたいのです。

 その他の目的としては、既に発見している「ケイアップル」や「アガベ・アスール・テキラーナ」について、きちんと植え替えを行うつもりです。それぞれ、ある程度の数を揃えないと満足な収穫が望めないので、調査を続けてもっと沢山見つけ出して「ケイアップル」の果樹園や「アガベ・アスール・テキラーナ」の畑を作るのが目標になります。一度形が出来てしまえば、接ぎ木、挿し木、株分け又は種からと増やす方法は色々ありますから、管理方法を確立して確実に増やしていけるでしょう。
 ゴムもこれから先需要が増えると思いますから、果樹園の管理と共に、ゴムの樹液採集地や此方の果樹園など、管理させる為の人を常駐させたいと思っています。その為の宿泊施設なども作ろうと思いますが、これはエルフの管理する地域に作る事になるから、エルフの集落に行って代表にお願いしないといけません。多分、共用する事が出来る宿泊施設のような物を作れば、アルメリアさん辺りは調査の為にちょくちょく来て利用する事になるのではないでしょうか。そちらの方向から案外簡単に納得してくれるかもしれません。
 後は、正式に当家と交易して貰えるようにお願いして、了解が貰えたら経路の途中に中継点を何カ所か設定する必要もあります。いくつかの候補地は見つけてありますが、運用を開始できるまでは、またしばらく南方の調査旅行に出る事になるでしょう。

 そのようなことを決めてから1週間程掛けてウイリアムさんやキスリングさん、ギュンターさんといった『保健衛生局』の各課長と今後の打ち合わせを行いました。基本的には現在の状況を維持していく事になりますが、街道の整備については僕の居ない間にも進めていって欲しいので、ウイリアムさんにはそちらの事をお願いしました。
 ゾフィーさんとは各地から来る嘆願書の処理について、『事務局』の対応を話し合いました。僕が不在中に業務が滞らないように、綿密に調整をしておかないといけません。特に緊急を要する件が発生した場合は、各課長と調整して対処して貰う事と、父上への報告を行う事を確認しました。勿論、父上や母上にも相談して了解を貰うのと一緒に、僕が居ない間の事業のフォローも頼んでおきました。また、メアリーに拗ねられましたけどね。
 次に必要な事は、皇帝に相談する事です。今日は休みではありませんが皇城まで行く事にしました。朝一番で鷹便を皇城に飛ばして、1時間後にそれを追う形で出発です。『ヴァルファーレ』に乗って、いつもよりのんびりと皇城まで飛んでいきました。何時の時代でも大事なのは’報’、’連’、’相’ですよね。今まで2回の調査旅行でも行く前に相談していましたから、今回の調査旅行についてもちゃんと相談しておかないと、後で何を言われるか解りません。相手は一応国のトップですからね。下手に拗ねられても困ります。
 まあ、結果だけを言えば、「頑張ってな。怪我するなよ。」だけで話は終わった様な物でした。あれ?手紙でも良かったかな?

 皇帝からの了解も貰えた事ですので、早速準備に入ります。いつもより長い期間の調査になりますからその分持っていく物も増えます。まず、エルフの集落へ持って行くお土産ですが、この前持って行った時に感じたエルフの人たちの喜び方から、持っていく物を選びました。やっぱり、貰って嬉しいと思ってくれる物を持って行きたいですよね。その他にもまだ持って行った事のない物もいくつか入れて、お土産の選定は終わりです。結構な量になりましたが、モッコ(:前にも使いましたが、大きな網で作った篭の様な物です。)の大きさに入るので良いとしましょう。
 後は自分の生活用品です。食料は勿論、前回の倍以上用意しました。ただ、保存食になるので、どうしても飽きるんですよね。出来るだけ現地調達を考えていますが、食べられる獣とか木の実などが都合良く取れると良いのですが。海があれば魚も捕れると思いますが、内陸に入ってしまうと獲物を探すだけでも大変かもしれません。そういう時は『ヴァルファーレ』の探知能力に頼る事になるかもしれませんね。
 連絡用の鷹便2羽とその餌も持ちましたが,その他に今回、初めて持っていく物として、交易中継点を決めた時に、その場所に設置する目印があります。後からもう一度来た時に解らなくなると意味がないので目印を置く事にしたのですが、かといって偶然他の誰かに見つかっても困りますから、余り目立たない目印にしました。『ヴァルファーレ』なら、かなり上空からでも見つける事が出来るのは確認してありますので問題無いでしょう。
 そんなこんなで、この週は準備で終わり、虚無の曜日はゆっくりと休んで、メアリーの相手をしてあげました。

 さて、休みも明けてユルの曜日です。今日も良い天気ですね。最近丁度良い具合の雨が降るだけで嵐になる事がありません。これって『ジン』と『クウィンティ』が守ってくれているからなのでしょうか?この領内では干ばつもないし、疫病などの被害も発生していません。こんなに穏やかな日が続くのは珍しいのだそうですから、『ジン』や『クウィンティ』以外の『ラサ』や『サラマンディア』も同じように守ってくれているのでしょう。
考えてみれば4体の上級精霊に守ってもらっているような土地って、他にあるのでしょうか?
 少し早起きをして、もう一度装備の確認をしておきます。それから家族で朝食を食べて出発の最終準備に入りました。訓練場まで荷物を運んでモッコに詰め込みます。やっぱり前よりも多いですね。モッコが膨れあがっています。しっかりと荷造りをして確認が終わりました。保存食も『王の財宝』に格納しました。さあ、『ヴァルファーレ』を呼び出しましょう。

「『ヴァルファーレ』、おいで!!」

 前回の旅行から帰ってから2、3回呼び出して羽を伸ばして貰いましたが、仕事で呼び出すのは3週間ぶりになります。いつもの事ですが、青く晴れた空が一瞬雲でかき曇り、大きな裂け目が出来て『ヴァルファーレ』が咆吼を上げて飛び出してくる様は、下手な3D映画よりもずっとスペクタクルです。CG抜きでこんな事が出来るんですから、映画にしたら凄いでしょうね。

「『ヴァルファーレ』。お早うございます。調子はどうですか?」

[我の調子は上々じゃ。大荷物のようじゃが、エルフの所にでも行くのかえ?]

「はい。第一目標はエルフの集落です。でも、今回はもっと遠くまで行く予定ですから、よろしくお願いしますね。」

 そういって、モッコのロープを『ヴァルファーレ』の足に括り付けます。次に座席を着けて『ヴァルファーレ』の準備は完了です。今回も何があるか解りませんから座席は2人用にしました。この座席も少し改良して、後部席の後に収納庫を作りました。あまり量は入りませんが飛んでいる最中でも簡単に取り出せる様になっていますから、飲み物や食べ物など欲しい時に重宝すると思います。作って貰ったお弁当もしっかり入っていますよ。

「それでは、父上、母上、準備も出来ましたから出発します。」

「そうか。気をつけて行くのだぞ。くれぐれも無茶はしない様にな。」

「そうですよ。『ヴァルファーレ』も居る事なので、余り心配もないと思いますが、お前は屋敷を出ると何をしでかすか解らない所があるのでそれだけが心配です。無事に帰ってきて下さいね。」

「解りました。出来るだけ自重しますので、心配しないで下さい。」

「兄様、行ってらっしゃい。大人しく待っていますから、お土産忘れないでね。」

「解ったよ。また珍しい物を探してくるからね。父上や母上の言うことを良く聞いて楽しみに待っているんだよ。」

「はい!!」

 そして、『ヴァルファーレ』に乗り込んで、いざ出発です。
 訓練場には屋敷の執事やメイドさん達や『事務局』のゾフィーさん達も見送りに来てくれています。みんなに手を振って『ヴァルファーレ』に合図しました。
 『ヴァルファーレ』の大きな羽根が羽ばたくと、まるで重力がないかの様にふわりと浮き上がります。はじめは、足に着けたモッコのロープが張るまでゆっくり上昇し、モッコが地面を離れると、少しずつ加速しながら上昇を続けます。大体20メール位まで上がった所で、南に向けて上昇しながらの飛行に入りました。少し振り返って手を振ると、訓練場のみんなも手を振ってくれたのが見えましたが、それもすぐに見えなくなりました。
 やがて、いつも通りに高度5000メールまで上昇し、時速800~900リーグの速度で水平飛行に入ります。時々下を雲が流れていきますが、概ね快晴で順調に飛行を続けることになります

 一時間位経って、ガリアの東側の国境からさらに東に10リーグ付近を飛んでいます。ここで一度降下して、前に目を付けていた中継地候補に着陸しました。ここは、ガリアの国境から少し離れていることもあって、周囲10リーグに人気がありません。小高い丘の様になっていて余り高い木も生えていないので、中継地に良いと思います。『ヴァルファーレ』にも幻獣などが近くにいないことを確認して貰い、目印を設置しました。
 この後、最初に調査旅行に来た時に立ち寄った海岸まで移動して、そこにも目印を設置し、さらに海岸線を東に飛んで、はじめの中継点とエルフの集落との経路下に、もう一つ目印を設置しました。
 人の来ない場所で、幻獣も近くに生息していない所としてはこれ位になりますか。後は、ベースキャンプと果樹園の候補地に目印を設置すれば良いので、此方はエルフの集落に行ってからで良いでしょう。
 その後は寄り道することもなく、エルフの集落に向かいました。

 結局3ヶ所寄り道をしましたが、3時間も掛からずに第一目的地のエルフの集落に着くことが出来ました。
 風竜に乗ったエルフの戦士に挨拶をして、草原に着陸します。すぐにモッコのロープを外して『ヴァルファーレ』に自由にして休んでいる様に言うと、荷物をレビテーションで浮かべて集落の中に持って行きます。すっかり勝手知ったる集落の中を歩いて、アルメリアさんの家まで来ると、ドアをノックしました。すぐにドアが開けられ、アルメリアさんが顔を出します。

「はい。どなた?って、アルバートか。久しぶりだな。元気だったか?」

「こんにちは。私は元気ですよ。3週間ぶりですが、アルメリアさんも元気そうですね。」

 アルメリアさんの家にお邪魔して、お土産を渡して皆さんに分けて貰える様にお願いしてから、今回やって来た訳を説明しました。
 色々聞いて欲しいことがありますから、ちょっと時間を貰ってじっくりと説明しましたが、更に遠くまで調査に行くというとアルメリアさんの目がキラリと光った様に感じました。 

 

外伝3:登場人物覚え書き

 
前書き
 ふと思い立って今までの登場人物について書き出してみました。
 どうも先に進むほど混乱を起こしそうなので、本編の最初から読み返しながら確認作業をしましたが、書き始めた頃の設定を忘れかけていて、冷や汗ものでした。
 本編を読む上での参考にでもして頂ければ幸いです。
 続けて本編もアップしますので、そちらも宜しくお願いします。 

 
・アルバート・クリス・フォン・ボンバード(板東太郎)
 本編の主人公。ボンバード家の嫡男。転生者。
 転生前(生前)は日本人で板東太郎といった。元の年齢は46歳。性別男。電気工事会社で課長を務め、妻も子供もいた。自称神様の失敗で死亡してしまい、お詫びとして能力の付加と残された家族の生活保障を約束させた上で新たな世界に転生して貰う。
 本編開始時は3歳。転生前の知識を全て持っている。読書が好きでハルケギニアの文字もすぐに覚え、屋敷の書庫だけでなく皇城の書庫にある本も手当たり次第に読みまくっている。
 5歳の時に使い魔召還の儀式を行い、本来10歳にならないと召還できないはずのFFに出てくる召還獣『ヴァルファーレ』を召還する。以後、皇城への往復や遠出する際は『ヴァルファーレ』に騎乗するのが普通になっている。また、母親譲りの秘薬作りの腕前で死んでいない限りはほぼ完全に回復させることの出来る秘薬を開発。ゲルマニア国内では結構有名になっている。

 ハルケギニアの世界に電気がないことから、ゲルマニア国内に発電所を作り、電気を通すことを第1目標として、何れは国境を越えて全ハルケギニアを電気化することを最終目標に、現在はその為の資金作りの為に領内改革やエルフとの通商開拓などを行っている。

 飛空大陸「アルビオン」の森の中に一緒に転位した事務所を神様の力で隠している。事務所内に電気工事に必要な道工具、測定機器、パソコンなどが有るが、全て固定化の魔法により劣化や故障など起こさない様になっている。

 7歳の時に精霊と友達となり、さらに上級精霊とも友達になることから精霊魔法を使うことが出来る様になった。(火の上級精霊『サラマンディア』の祝福を受けた事で、どのような火によっても焼かれることはなくなった等、それぞれの上級精霊による保護を受けている。)

 ※神様から貰った所持品:64式小銃、弾薬を1000発、弾倉10個。手榴弾20個、             銃剣、9㎜拳銃、弾100発、弾帯、ホルスター、手入れ道             具一式。剣と防具(エクスカリバーとDQに出てくる着て歩             いているだけで体力の回復する魔法の鎧)を『王の財宝』に             収納している。
 ※神様から付与された能力:5歳から使用可【土メイジ(スクエアクラス)、水メイジ              (トライアングルクラス)、魔力無尽蔵、魔法を開発する              能力、身につけている物なら何でも媒体に出来る】                 10歳から使用可【FFⅩの召還魔法、DQの攻撃系や回              復系の魔法】
 ※神様との家族についての約束:健康(持病の快癒、健康の維持)、主人公が入ってい                た生命保険のグレードアップ(当面の生活費の確保)、                幸運(宝くじ等が良く当たる)

・神様
 主人公の前に突然現れた。白髪、白髭、白い着物を来ている。見た目老人で変にねじ曲がった杖を持っている。
 それなりの力があり、神様としての地位もありそうだが、他の神様達との宴会で調子に乗って宴会芸で賭けをし、最下位となった罰ゲームにより地球に落下しそうな微惑星の軌道修正を行う事になる。しかし、その作業中に誤って近くにあった小型の隕石を地球に落としてしまい、その隕石が主人公が仕事中の事務所に命中した事により、主人公を死なせてしまう。その後、主人公共々事務所もいっしょに飛空大陸「アルビオン」の森の中に転位させる。
 かなり古い洒落の好きな、くじ運が悪くて、いい加減なのか真面目なのか判らない神様である。

・ジョン・ストンロック・フォン・ボンバード
主人公の父親、ボンバード伯爵家の現当主。本編開始時31歳、土のスクエア。なかなかのハンサムで、身長185サント、金髪、碧眼。錬金やゴーレム作りが得意で、30メールもあるゴーレムを作ることも出来る。ゲルマニア皇帝とは幼なじみ。結婚前は皇帝に選ばれて、ゲルマニアの魔法研究所の初代所長を勤める。魔法研究所の立ち上げから、数々の魔法や技術の研究・開発を指揮して、今のゲルマニアで使われている鉄鋼業の技術開発など、功績を挙げたことで皇帝閣下の絶大な信頼を得た。後に皇帝の3皇女だったソフィアと出会い相思相愛になって結婚したことで所長を辞任し、ボンバード領を拝領した。

・ソフィア・エメロード・フォン・ボンバード。
 主人公の母親。ボンバード伯爵夫人。本編開始時20歳。水のトライアングル。綺麗な人で身長165サント、濃い茶髪に空色の瞳で、癒しの魔法が得意。水の秘薬作りでも有名でたいていの病気ならすぐに直してしまう。見た目も若々しく、とても子持ちに見えない。ゲルマニア皇帝の第三皇女。姉姫が二人と妹姫が四人いる。ジョンとは皇城内で出会い、一目惚れしてかなり強引に付き合うことになる。その後相思相愛となって結婚。

・メアリー・アルメニア・フォン・ボンバード
 主人公の妹。本編開始時1歳。母親似で茶髪と空色の瞳をしている。魔法属性はまだ不明。明るい性質で、かなりのブラコン。

・ゲルマニア皇帝
 主人公が転生した(ゲルマニア)の皇帝。皇妃は既に死亡。
 有能で剣士としての腕前も最高級。ゲルマニア国内に善政を敷いている。かなりのお調子者。主人公の母親の父であり、主人公にとっては祖父となる。皇帝には女性の子供しか居ない為、血統上唯一の男である主人公を跡継ぎにしようと考えている。娘の内主人公の母親を含む上の5人は嫁いでいるが下2人の姫が残っている。

・クリスティーネ
 ゲルマニア皇女。主人公の母親の妹姫。本編開始時15歳。主人公を弟のように思っている。

・エーデルトルート
 ゲルマニア皇女。主人公の母親の妹姫。本編開始時12歳。姉姫と同じように主人公を弟のように思っている。

・ミッシェル
 皇城に努める女官。初めて主人公が皇城に上がった際に、皇帝との話しでショックを受け気を失った後、お世話をしてくれた人。16歳。髪はブルネット。瞳は茶色。美人。

・スピネル
 主人公の皇城での専属女官。15歳。髪は赤毛。瞳は薄い緑色。美人。年の割にナイスバディー。

・ヴァルファーレ
 FFに登場する召還獣。外見は鳥類タイプ。通常技(ソニックウィング)、必殺技(シューティング・レイ)を使える。最高飛行速度は時速1600リーグ(マッハ1.3)。最高飛行高度不明(本編中では高度5000メールを飛行する記述があるが、どこまで上がれるかは不明)。
 主人公とは使い魔召還により召還されて出会う。通常は異界に住んでいて主人公の召還により空間の裂け目から出てくる。言葉は話せないが、テレパシーで会話が出来る。半径10リーグ以上のサーチ能力を持つ。ハルケギニアの幻獣内では最強と思われる。

・スミス
 ボンバード家の執事。年齢不詳。特殊能力不明。ボンバード家創設時から居るものと思われる。

・アニー
 主人公の専属メイド。本編開始時17歳。かわいい顔立ちで身長150サント。栗色の髪に茶色の瞳でメリハリのあるナイスバディー。良く気がつく優しいお姉さん。主人公が5歳の時に専属メイドとして抜擢される。

・ウイリアム・カスバート
 『保健衛生局』、『施設課』の課長。メイジ。土のトライアングル。金髪碧眼。身長185サント。細身でハンサム。公衆トイレの設置事業を行い、その後街道整備の事業を行っている。また、屎尿処理施設の建設も並行作業でこなしている、有能なメイジ。

・キスリング・ハワード
 『保健衛生局』、『管理課』課長。メイジ。水のトライアングル。薄い茶色の髪に焦げ茶色の瞳。身長180サント。筋肉質なハンサム系。公衆トイレ設置後に行われた村等の消毒及び消臭に使われた消毒薬と消臭剤を開発したメイジ。

・ギュンター
 『保健衛生局』、『清掃課』課長。メイジ。火のラインメイジ。真っ赤な髪。体格が良い。村等から回収されたゴミ等を焼却処分する業務を行っている。

・ヴェルナー
 『保健衛生局』、『管理課』局員。男性。身長180サント。髪は薄い金髪。四角張った顔で眉も太く、なかなか頑固と言った感じ。25歳。リーベナウ出身。畑を借りて麦作りをしていた。採用試験の面接時に『管理課』を希望した。

・ハインツ
 『保健衛生局』局員。男性。ブレスラウ出身。24歳。既婚者。妻と2人の子供を持つ。元は鍛冶屋。

・ヤコビン
 『保健衛生局』局員。男性。アールベルク出身。30歳。既婚者。妻と子供1人。元は猟師

・ゾフィー
 『事務局』局員。『事務局』チーフ。女性。アルマーニュ出身。19歳。家事手伝いの傍ら、村長の手伝いもしていた。読み書き、算術が出来、優秀。主人公の秘書的存在となる。

・ベラ
 『事務局』局員。女性。16歳。メーゼリッツ出身。元は実家の農家手伝い。事務仕事はちょっと苦手。

・エルナ
 『事務局』局員。女性。17歳。ユプサ出身。元は実家の農家手伝い。算術など飲み込みがよい。

・グレーテル
 『事務局』局員。女性。18歳。テシェン出身。家が代々貴族の厩板をしていて馬の扱いに慣れている。事務仕事は苦手。

・ラウラ
 『事務局』局員。女性。22歳。ザーガン出身。5年前に結婚したが夫は死別。子供無し。算術など飲み込みがよい。

・ヴィルム
 メイジ。男性。土のトライアングル。ボンバード家の土メイジの筆頭。『改革推進部』関連の寮や食堂、公衆浴場などを作ってくれた。

・モーリス
 『改革推進部』食堂のコック長。ガリアの首都『リュティス』で酒場の厨房を取り仕切っていたが、ボンバード家のコック長からの手紙により気分転換をかねて移ってきた。トリステイン魔法学校のコック長マルトーの甥

・アルメリア
 エルフの女性。年齢不詳。金髪。水色の瞳。身長176サント。植物学の研究者。植物の調査中、幻獣に襲われている所を主人公に助けられ、友人となる。主人公の調査旅行にも度々同行。体型はスリム。

・カイス
 エルフの戦士。男性。年齢不詳。風竜を操る竜騎士。エルフの集落の守備を行っている。

・ザイターン
 エルフの戦士。男性。年齢不詳。風竜(スニフ)を操る竜騎士。エルフの集落の守備を行っている。

・アル・アミーン
 エルフの集落の代表。男性。年齢不詳。主人公がアルメリアを助けたことに感謝し、エルフの集落への出入り自由を許可した。

・サラマンディア
 火の上級精霊。炎を纏った真っ赤な龍の姿をしている。上級精霊の中では最初に主人公と会って話しをし、『サラマンディア』と名前を付けて貰う。

・ファイアリー
 火の精霊。火石を作るのに協力して貰う。

・クウィンティ
 水の上級精霊。ラグドリアン湖の主。不定形だが人の前に出てくる時は一般的に女性の姿で現れる。ラグドリアン湖から地下水脈を通ってボンバード家の池まで来る。

・ウンディーネ
 水の精霊

・ジン
 風の上級精霊。薄青い透明な巨人の姿をしている。

・シルフィード
 風の精霊

・ラサ
 土の上級精霊。土色で髪は緑色の巨人。ボンバード家前の池を作る際に、地下水脈までの路を作ってくれた。

・ノーム
土の精霊 

 

第34話:大地は続くよ、どこまでも!?

 
前書き
ちょっと書き方を変えて、アルバート君と家関係とを並行で書いてみました。
元に戻すかもしれませんが、しばらくお付き合いください。 

 
Part-1:アルバート

 今日、3週間ぶりの調査旅行でエルフの集落に来て、アルメリアさんの家にお邪魔しました。持ってきたお土産をアルメリアさんから皆さんに分けて貰える様にお願いしてから、今回やって来た訳を説明します。
 前回此方に来てからの事で、色々聞いて欲しいことがありましたから、ちょっと時間を貰ってじっくりと説明しましたが、やっぱり、4大上級精霊が揃い踏みした事では、驚くよりも面白がっていました。その場に居て見られなかったことを残念だと言っています。
 それから、今回の調査では今までよりも更に遠くまで調査に行くというと、アルメリアさんの目がキラリと光った様に感じました。やっぱり着いてくるのでしょうね。
 
 アルメリアさんに話を聞くと、やっぱりというか、3週間前に僕と一緒に調査に出てからこちら、全然集落から出ていないそうです。まあ、基本的にエルフの人たちは保守的な様で、積極的に外に出て新しいことを始めると言うことがないようですからね。
 その為、アルメリアさんの様に植物学の為の調査に出たりする様な、普段の生活行動と違う調査等には興味がない様で、アルメリアさんの護衛に付いて来てくれる人も全然居ないと言う訳です。これではアルメリアさんにしてみればストレスが溜まる一方でしょう。
 このままでは、「僕が来た時にしか調査に出られない」事になってしまい、そうなると「僕が来るのが待ち遠しい」といった変な状況にはまってしまいます。結局今の状況は、アルメリアさんにしてみれば待ってましたという所なのでしょう。目の光り具合が違う訳です。

 一通りの説明やお願いの内容を話し終えて、それならばと、すぐに代表の所に行って今回の調査の目的などを説明することになりました
 集落中央の集会所に行くと、既に代表が待っていました。何時も僕が来ると、相談に来ているので、予め気を利かせて待っていてくれたようです。
 そこで、アルメリアさんに話したことをもう一度代表にも話しをしたら、集落の方には絶対に干渉しないことを条件に、新しく作る果樹園に管理員を住まわせることを許可してくれました。
 また、これから先の交易についても、今まで持ってきたお土産を見て有益と判断してくれて、遠慮無くどんどん進める様にと積極的に賛成してくれるなど、逆にあ然とさせられる始末です。
 まあ、断られるよりも簡単に承認して貰った方が良いのは当然ですので、僕が文句を言う必要はないのですが、本当にこんなに簡単で良いのでしょうか?後でアルメリアさんにその辺の事情などを聞いてみましょう。

 一旦、アルメリアさんの家まで戻って出発の準備に入ります。もっとも、アルメリアさんもいつでも出かけられる様に荷物を纏めてありましたので、一応アルメリアさん用の食材を補給するだけで、すぐに済んでしまいましたし、僕には準備すらないので単に荷物を取りに来ただけの様な感じになりました。
 アルメリアさんの家の前まで持ってきたお土産は、代表の所に行っている間に、影も形もなくなっていました。既に分配も終わったのでしょうね。いつもながら素早い行動です。

 2人で集落外の草原まで来ると、『ヴァルファーレ』が大人しく待っていました。今日もエルフの子供達や戦士の皆さんが廻りに集まって賑やかになっています。ほんと人気者ですね。
 皆さんに挨拶をして『ヴァルファーレ』に乗り込みます。アルメリアさんもすっかり乗り慣れた様で、スムーズに座席に乗り込んでベルトを締めました。僕も続いて後席に乗り込んでベルトを締めます。準備が出来てすぐに離陸しました。

 まず向かった先は、いつものベースキャンプ。今日から3日間はこのベースキャンプを拠点として、「アガベ・アスール・テキラーナ」と「ケイアップル」の再調査に植え替え作業を行う予定です。

 ベースキャンプはこの前来た時と変わらず、誰かが(幻獣や獣などを含めて)来た様な形跡はありません。アルメリアさんは初めて会った時は歩いて来たのに、他の人は本当に来ない所なんですね。
 早速、何時も使っているキャンプ用の小屋作りを行って、荷物を整理してから、ゴムの木などの確認に行きます。アルメリアさんは別行動で、植物調査に行きました。

「『ヴァルファーレ』。何時も済みませんが、監視の方をよろしくお願いします。何か変わったことがあったら呼んで下さい。」

[任せておけ。安心して主の仕事をすることじゃ。]

 後に何時も『ヴァルファーレ』が居てくれるので、安心して動き回ることが出来ます。本当に有り難い事ですね。

 いつもの経路を小一時間掛けてざっと歩いて見て回りましたが、ゴムの木も廻りの椰子の木も変わりなく、元気なようです。今日はゴムの採集は行わないので見て回っただけですが、その内また採集に来ることになるのでしょうね。もしかしたら、ゴムの木も一ヶ所に纏めた方が良いのかもしれません。後で考えておきましょう。

 次に「アガベ・アスール・テキラーナ」の自生地を見に行きましたが、前回発見した9本の「アガベ・アスール・テキラーナ」も特に変わりが無く、少しですが元気に成長しているようです。
 発見場所を記した地図を見直し、まだ調査していないエリアを特定して、他にも「アガベ・アスール・テキラーナ」が無いか探してみました。その結果、昼食を挟んで夕食の時間までに、新たに6本の「アガベ・アスール・テキラーナ」を見つける事が出来ました。
 これからも継続的に調査が必要ですが、差し当たってこの15本の「アガベ・アスール・テキラーナ」を、高台に移植してしまいましょう。

 ベースキャンプに戻って、まず『ヴァルファーレ』に魚を捕ってきて貰いました。1回無造作に海にダイブしたと思ったら、口の中に大小合わせて10匹の魚が入っていました。
 見た目がサバやアジのような魚でしたので、すぐに内臓を取り出し、塩を振って天日干しにしました。明日一日ほおって置けば立派な干物になるでしょう。
 その後、夕食の準備をして、アルメリアさんが戻ってから一緒に夕食を取りました。
 夕食後には、今日の結果を報告し合い、明日の予定を確認します。
 僕の方は「アガベ・アスール・テキラーナ」の移植でどれだけの時間が掛かるか解りませんが、時間に余裕が有れば、「ケイアップル」の調査を行うつもりなので、一日がかりになるでしょう。
 アルメリアさんも成果があった様で、書き写してきた植物の絵を見ながら、気が付いたことなどをノートに書いています。書き込みを行いながらいくつかの植物について教えてくれましたが、絵を見ると蘭の様な花があったり、変な形の食虫植物のもあったりで、面白くて結構ためになりました。いったい、今までにどれくらいの新種を発見したのでしょう。今度ゆっくり聞いてみたいものです。

 翌日は朝から果樹園予定地の整地作業を行いました。
 『ヴァルファーレ』に乗せて貰って予定地まで行くと、上空を旋回しながら魔法でゴーレムを作って、予定地から20メールの範囲内に生えている植物を全て取り除き、更地にしました。
 取り除いた木の中から、大きめの木をより分けて、更地にした部分と廻りの森の境界線に等間隔で植えます。柵の代わりですが、どうしても間隔が開いてしまいますので、間に少し小さい木を植えることで隙間を無くし、簡単に獣が侵入しない様にしました。
 もっともこれ位では力の強い幻獣などは排除できないので、境界線から5メール内側に鉄柵を練金で作ります。高さも2メールで強度はかなりの物にしましたから、簡単には入ってこられないでしょう。電気が有れば電流柵にしたい物ですね。
 これで、外側の柵と内側の鉄柵の2重防壁となりました。この柵から内側15メールが果樹園と畑となります。

 その後は、更地になった高台を綺麗に耕して、2メール間隔の線を浅く掘りました。「アガベ・アスール・テキラーナ」や「ケイアップル」を植える際の目安にします。
 ゴーレムを使ったり、魔法を使ったりして、ここまでを午前中に終わらせる事ができました。
 一旦昼食にベースキャンプまで戻り、昼食後は植え替え作業に係ります。



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Part-2:ボンバード伯爵領

 『改革推進部』では、今日もみんな揃って仕事に精を出しています。
 『改革推進部』の総指揮者であるアルバートが調査旅行に出て長期不在となっても、順調に動き出した領内改革の仕事は、一日も止まることなく粛々と進めなくてはなりません。

 『保健衛生局』・『管理課』:キスリングさんからの報告
 『管理課』は、毎日汲み取り作業に全力であたっています。
 何しろ人が居る限り、黙っていても自然に溜まる物ですから、汲み取りを休むと大変な事になります。
 その為、毎日朝から晩まで牛車を連れて村々を廻り、瓶が一杯になると近くの発酵所に運び込んで発酵タンク内に投入し、また次の村に向かうといった事を繰り返しています。
 ようやく2巡目に入りましたが、今のところ各村での評判は良好で、行く村々で歓迎を受けています。みんな、トイレがあることの良さを解ってくれた様なので、私達の仕事にも理解を示して労ってくれます。
 ただ、現状の2班体制でのスピードでは各村を廻るのに時間が掛かりすぎるので、この分では早い機会に局員を増やして、牛車を3台で運用しないと間に合わなくなるかもしれません。
 アルバート様が戻り次第、相談しようと考えています。

 『保健衛生局』・『清掃課』:ギュンターさんから報告
 『清掃課』は、各村等を定期的に巡回し、村内に放置されているゴミなどの回収・焼却を行うと共に、村内各部に消毒液を散布して病原体の発生を防いでいます。
 それから、『施設課』に頼んで作って貰ったゴミ箱を使って、ゴミの集積所を各村に設けました。こうすることで、ゴミを捨てる場所を認識させ、ポイ捨てを無くしていこうと考えました。
 この為、ここ最近はネズミも少なくなってきたということですし、ハエや蚊の発生が抑えられ、病気の発生率が低下し、死亡者の減少にも役立っているようです。
 また、消臭剤の効果で異臭がしなくなったおかげで、頭痛に悩む人が減り、食欲も増進して働く意欲も増したそうです。
 こうして貢献していることが認められ、あちらこちらで歓迎を受けようになりました。
 歓迎の場では少し時間を貰って、何度も村の皆さんに普段から清潔でいることの大切さを話し、村内にゴミを捨てる人が居なくなる様に、4Sを学んで貰っています。
 
 『保健衛生局』・『施設課』:ウイリアムさんからの報告
 『施設課』は公衆トイレの設置作業が終わった後、屎尿の発酵所を作りました。それからは、他の課から頼まれた物を作って、それと並行して領内の街道整備を進める為に、現状の調査と街道整備の方法の検討して、一応の方針を決める所まで来ていました。
 アルバート様が調査旅行に行く前の打ち合わせで、まず始めに整備を行う街道を隣のツェルプストー辺境伯との間の街道にすると言われました。途中に架かる橋も含めた全長150リーグを整備対象範囲となります。街道の痛みはそれほど酷い訳ではありませんが、この街道は交通量が多く、雨が降る度に泥濘と水溜まりが出来て通行にかなりの支障が出ていました。途中に3ヶ所有る橋も大分くたびれていて、すぐにどうこうといった訳ではありませんが、大規模な改修工事が必要と思われます。

 そこで、まず街道補修に必要不可欠な土メイジを集めることにしました。アルバート様から既に話を通してあると言われましたので、メイジの集まっているいつもの屋敷に行って、メイジのまとめ役でもあるヴィルムさんに状況を説明しました。
 ヴィルムさんは、すぐに土メイジを集めてくれました。やはり、アルバート様から、今後の作業で必要なメイジを借りにくることを前もってお願いされていたので、いつでも動ける様に、予め選抜をしてくれていたそうです。
 今回の街道整備に応援に来てくれる土メイジは、トライアングルクラスを中心に、ラインクラスを入れて7人となり、土メイジの指揮はスクエアクラスのヴィルムさんが取ってくれることになりました。

 早速、ヴィルムさんを含めた8人の土メイジに『改革推進部』の建物に移動して貰い、開いている部屋で『施設課』の局員と一緒にミーティングを行います。
 ミーティングの内容は、今回行う街道整備について、範囲や整備の方法について調整し、必要な資材、作業員などの準備状況や、工事の期間などを話し合います。
 この会議で、ツェルプストー辺境伯との間の街道を整備する為のラフプランから、詳細な工事計画が出来上がりました。
 この工事計画書を持ってボンバード伯爵に面会し、説明と調整を行った後、無事に承認して貰うことが出来ました。いよいよ工事開始です。

 まず、領民から作業員を募集します。村長等には予めアルバート様が話を通してありましたので、早速領内の村等に募集の張り紙をして行きます。
 採用人数は10人。工事作業員が男性8人と炊き出しに女性2人を募集しました。基本的に工事が終わるまでは住み込みとなりますから、その間村等に不在となっても問題無い人が募集対象になります。
 工事作業員は今回力仕事が多くなるので、健康であることの他に、それなりに力があることも条件としました。炊き出しの方は20人位の食事を作り続けるので、体力のある人で、美味い食事を作れる人が条件です。
 おそらく、募集した作業員が集まるのは1週間程度は掛かると思いますから、その間整地作業の準備を進めておくことにしました。
 ゴーレムを使って街道脇から土砂を運ばせ、大雑把な整地を行います。他のゴーレムで適当な岩を集めて来て、それを二つに割って、割った面を平らになる様に削ります。後は作業員が来てから、細かい調整をして岩を敷き詰めていくことになります。
  ゴーレムの運用はトライアングルクラスのメイジが行い、岩を集めて加工する作業はラインクラスのメイジが行うように、分担作業を行って効率化を図っています。 

 『事務局』:ゾフィーさんからの報告
アルバート様が3回目の調査旅行に出てからも、村々からの嘆願書が後を絶たずに届きます。
 一番多いのは街道の整備関係ですが、その他にも公衆トイレの修理や増設の依頼等の、『改革推進部』が担当する業務に関係するものが沢山来ます。
 困るのは時々混じってくる『改革推進部』の管轄外の物で、幻獣による被害の救済や、田畑の開梱に関する嘆願、村民の病気に関する嘆願などが有ります。
 こういった書類は、見つける度にお屋敷の伯爵様に渡して貰える様に、執事さんなどにお願いします。
 今のところ『事務局』の業務は、5人の局員で分担してこなしていますが、だんだん書類の量が増える傾向があるので、その内局員を増やすことも考えないといけなくなりそうです。
 
 今回のアルバート様の調査旅行は、今までよりも長い期間になると言うことが出発前のミーティングで説明されました。
 この前の5日間も長く感じられましたが、更に長く2週間以上と言われた時は、気が遠くなりそうでした。
 アルバート様が2週間も以内なんて、考えたこともありません。
 休憩時間にお茶を飲みながら、みんなで話しをしますが、他の人たちもとても寂しいと言っています。
 時々、居ないことを忘れて書類を部長室に持って行ってしまい、誰も居ない部長室の椅子を見て思わず泣きそうになってしまいました。
 チーフの私がこんな事では、他の局員に示しが付きませんから、お腹の底にぐっと力を入れて我慢しましたが、慣れることは出来ないだろうなとも感じています。
 本当に、早く無事で帰ってきて欲しいものです。