提督はBarにいる。


 

隼は太平洋を翔る夢を見るか?・前編

 
前書き
 料理と酒が大好きな変わり者の提督。その趣味を生かして艦娘達を労いつつ、コミュニケーションを取ろうと画策します。そこで彼は思い付いた‼

 『そうだ、Bar作ろう。』
 

 
 鎮守府の業務が終わる夜8時。提督と秘書艦が過ごす執務室はその姿を変える。仕事机と書類棚は消え去り、代わりにシックな雰囲気のバーカウンターとシステムキッチンが御目見えする。執務室の提げ札は外され、ネオン瞬く看板にすげ変わる。看板には『Bar Admiral』の文字が躍る。そう、ここは提督がマスターを務めるバーである。酒好きで料理が趣味、という一風変わった提督が、日夜闘っている艦娘達を少しでも労ってやろうと作った仕掛けだ。美味しく多彩な料理、そして艦娘達が語る悩みや自慢話。そしてちょっとのハプニング。それを肴に今日も、グラスは傾けられるーーー…



 カランカラン、とドアの開いたのを知らせるベルが鳴る。

「よぅ提督、じゃなかったマスター。今日も来ちゃったよ~。」

 既に赤ら顔で千鳥足の軽空母が一人、フラフラと開店直後の店に入ってくる。

「まぁたお前か隼鷹。まぁ、給料の範囲内で明日の任務に響かないなら止めないが……少しは自重しろ。」

 俺は呆れたようにそう注意するが、目の前の軽空母・隼鷹は顔をにへらっ、と崩してでへへへへぇと笑う。

「わかってるよぉ、ていとくぅ。隼鷹さんは酒は呑んでも飲まれないよ?」

 そう言いながらケラケラと笑う隼鷹。まぁ、確かに翌日は真面目に勤務しているから俺も止めないが。



「で、注文は?ビールか?それともいつも通りポン酒か?…あぁ、それとも焼酎にするか?『赤兎馬』のイイのが入ったんだ。」

「いや、今日はそう言う気分じゃないや。……マティーニちょうだい。ドライマティーニね。」



 珍しい事もあるもんだ、と俺は思う。普段は同じ呑兵衛仲間の艦娘達と、ビールや焼酎、日本酒なんかの大量に呑みやすい酒が好みだとばかり思っていた。それがこの店が出来てから初めて、カクテルの注文。何かあったのか?と思いつつ、カクテルの準備を進める。

 使うのはジンとドライベルモット。割合はジンが4にベルモットが1。それをミキシンググラスに注ぎ、軽くステア(かき混ぜ)してやる。ここで注意すべきポイントは、正確に計量する事と優しくステアする事。どちらも怠れば味は全くの別物になってしまうからだ。そして、それをカクテルグラスに移し、カクテルピンを刺したオリーブの実を飾る。これで『カクテルの帝王』とさえ呼ばれるマティーニの完成だ。俺はそれを2杯用意し、隼鷹に渡した。

「あれぇ?提督もちゃっかり自分の分……」

「うるせいやい、俺も呑みたい気分だったの。……ホレ、乾杯。」

 カクテルグラス同士を軽く打ち付け合う。ホントは打ち付け合うものじゃないらしいが、まぁそこは日本人ぽさが出てるよな。

「……はぁ。量少ないけどさ、結構キツいよねコレ。」

「まぁな。アルコール度数は25°~30°あるからな。」

 そう受け答えしながら適当につまみを用意しつつ、様子を伺う。しかし隼鷹は一向にアクションを見せない。黙ってグラスを傾けている。やがて一杯目を飲み干すと、同じくマティーニを頼まれた。ここがチャンスか、と俺はお代わりを作りながら話し掛けた。

「珍しいなぁ、お前がヘベレケになるまで飲んでウチに来て、普段頼まないカクテル頼むなんて。……何か…あったか?」

「うん、ちょっとね……。」

 そう言うと隼鷹は、ポツリポツリと語り始めた。
 
 

 
後書き
 という訳で記念すべき第1話をお送りしました。少し文字数も少な目ですね(^_^;) 

 

隼は太平洋を翔る夢を見るか?・後編

「提督、アタシの今日の任務……覚えてる?」

 確か今日の隼鷹の任務は、駆逐艦と重巡数隻を連れて外洋に出る客船の護衛だったか。今のご時世に船旅とはとんだ道楽者だ、と依頼書を読んで思ったものだ。

「まぁ、大体はな。」

「その客船がさ……アタシの妹だったんだ。」

 ぶほっ、と思わず口に含んだマティーニにむせかえる。隼鷹の妹?一体どういう意味だろうか。艦娘になる前の彼女らの出自は明らかにされていない。その艦娘になる前の女性としての妹なのか?それともーー…

「いや、アタシのーー『商船改装空母・隼鷹』の妹さね。」



「アタシが空母になる前の事は提督も知ってるだろ?」

 隼鷹という船は元々、戦時下に於いては海軍が徴用するという契約の下、海軍が色々と便宜を図って建造された日本郵船保有の客船だったはず。名前は確か、

「橿原丸、か?」

「そうそう、橿原丸。その妹に当たる船ーー飛鳥が護衛対象だったんだ。」

 今は名前変わってたけどね、と隼鷹は少し悲しそうに笑った。

「もうね、スッゴい白くて綺麗な船体に豪華な飾り付けでさ。おまけにプールまであるんだよ?」

 アタシにも昔はあったんだけどね~、と無理に茶化したように笑う隼鷹。その目には、うっすらと光る物が見える。

「何かさぁ……あの戦争が無かったら、アタシもあんな綺麗な船になれてたのかなぁ、って思うとさ……」

 堪えきれなくなったのか、グスングスンと鼻を鳴らし始める隼鷹。その泣き顔はいつもの飄々として明るい彼女の面影は無く、傷付きやすい、いたいけな少女のような真っ赤に腫らした顔があった。

「あーもー、折角の美人が台無しだぞ?全く……。」

 化粧が崩れた顔は見せたくないだろうと、暖かいおしぼりを手渡してやると、ありがと、と鼻声でお礼を言われた。おしぼりで隼鷹が顔を覆ったのを確認すると、

「なぁ隼鷹。お前、空母になって辛い事ばかりだったか?苦しくて、悲しい事ばかりだったか?」

 教え子に優しく諭す教師のように。イメージはそう、金〇っつぁんのように。

「違うだろ?楽しい思い出も、沢山の仲間も出来たろ?なら、悲しい事ばっか考えるなよ。お前に涙は似合わん。」

 う、う……とくぐもった呻きがおしぼりの中から聞こえ始めた頃、ドアがけたたましく開かれた。

「あ~っ、やっぱり隼鷹コッチにいたぁ!!」

「何か泣いてるんですけど~っ」

「あ!!提督が泣かせたんでしょ!そうなんでしょ‼」

 那智、足柄、千歳に飛鷹。いつもの隼鷹の飲み仲間だ。

「ち、違うよぉ。ちょっと今日はセンチメンタルな酒を飲みたかったの!!」

「なぁ~に言ってんのよっ、アンタにはぁ、涙は似合わないんだからっ。」

 コッチもいい感じに出来上がっている飛鷹がそう言いながら、隼鷹に抱きついて頬擦りしている。うっとうしそうにしながらも、満更でもないようだ。まぁ、こんな明るい仲間が居るんだ。涙酒なんざ、俺が一緒に飲み干してやるさ、なんてね。
 

 

長門?ながもん?

 
前書き
 サブタイで誰がメインかバレバレになった。後悔はしていない。

※注意※
この先、長門さんがかなりぶっ壊れてます。凛々しい長門さんがお好みの方はブラウザバック推奨です。ながもんキャラでも一向に構わんッッッ!!という方だけお進み下さい。
 

 
ドーモ、皆=サン。提督デス。……なんて、ふざけた挨拶は大概にしておこう。何せ今日の『Bar Admiral』はただならぬ緊張感に包まれている。その原因は今日の昼間に遡る。

『提督、少々宜しいか?』

『なんだ?長門。改まって。』

 時刻は昼飯時。午前中の艦隊執務も滞りなく終わり、今日の秘書艦の金剛、そして秘書艦補佐の大淀と共に午後の打ち合わせをしながら昼飯を食べていた。

『oh,どうしたネ、ナガモン?いつものアナタらしくないヨー?』

 いつものハキハキとした喋り方とは対照的に、今の長門はモジモジとして歯切れが悪い。そんな怪しい態度の彼女を見て、同じく戦艦である金剛が怪訝な表情で顔色を窺っている。

『わ、私はナガモン等ではないっ!!日本の誇るビッグ7の一角、戦艦長門だっ。』

 金剛の呼び間違い、もといアダ名呼びにムキになって反論する長門。凛々しく見えて、こういう天然ぽい所がながもん呼ばわりされている原因だと思うのだが、本人の為に何も言うまい。

『そ、それよりもだっ!!……こここ、今晩店を貸し切りたいのだっ、ふ、二人きりで話したい事がある!!』

 食堂中に響き渡るような大声を出す長門。瞬間、食堂は騒然となった。

『Heyテートクー!!どういう事ネ!?わ、私という者がありながら~っ!!』

 隣に座っていた金剛に勢い良く揺さぶられる。女の子とは言え、中身は戦艦。脳がシェイクされて吐きそうになる。長門は他の提督LOVE勢や耳聡い青葉や如月等に詰問されている。お陰で午後の執務は金剛がボイコットを決め込み、まともな執務にならなかった。まぁ、なんやかんやあって、今に至る。

 幸い(?)長門はまだ来ていない。今の内に呼び出しの理由を考えてみるとしよう。一番最初に考えられたのは大勢の艦娘が考えた通り、ケッコンカッコカリの艦娘からの申し込み、通称【キュウコンカッコカリ】だ。だがしかし、長門の練度はまだ最高まで達していない。ならば、作戦にミスでもあったか。毎月特別海域に出撃し、最低3つは勲章を入手するようにしてはいるが、無理はしないように心掛けているし、艦娘達の練度は満遍なく高めている。特に問題視されるような点はない。……と思う。ではなんだろうか?ウンウンと唸っている調度その時、ドアをノックする音が。

「お、おぉ。入って来ていいぞ。」

「し、失礼するっ!!」

 やや緊張した面持ちで入ってくる長門。席に着くが、話を切り出す気配は無い。仕方がない、助け船を出すか。

「とりあえず、何か呑むか?」

「あ、あぁ。頂こう。」

 俺はそう言って、越乃寒梅をぐい飲みに注ぎ、肴に鯖の塩焼きを出してやる。俺の故郷の漁師から直接仕入れた名物だ。焼き立てで脂がブスブスと音を立てている。ご飯にも合うが、呑ん兵衛の俺としては日本酒と合わせたい所だ。

「ホレ、乾杯。」

「……ん。」

 軽くぐい飲み同士をぶつける。何ともムーディーな空間だな、と我ながら思う。いい女といい酒を酌み交わしながら二人きり。いやぁ、素晴らしいシチュエーションだ。……アレ?これマジで告白なんじゃ?そんな気もしてきた。まぁまずは、長門が自分から話し出すのを待とうか。

 鯖の塩焼きを平らげ、越乃寒梅もぐい飲みで3杯程煽った。そろそろ、魚の脂と酒で舌が回りやすくなった頃合いだろう。

「……で?相談てのは何だ?」

「あ、あぁ。実はな……」





「ギャハハハハハハ!ヒーッヒーッヒーッ!!は、腹痛い、た、助けて……!!」

「わ、笑い事ではないっ!私にとっては由々しき問題なのだ!!」

「だ、だってよぉ……!!」

 いきなり見苦しい所を見せてしまった。でも、ご容赦頂きたい。長門の相談、それは。

『ワインが飲めるようになりたい』

 だったのだ。これが笑わずに居られようか。だって、あの長門だよ?いつも凛々しく、艦隊総旗艦とか呼ばれちゃったりする長門がよ?ワインが飲めるようになりたいから協力してくれ、だって。笑い死にさせる気かっての。

「で?なんでいきなり艦隊総旗艦(笑)様は、ワインが飲めるようになりたくなったんだ?」

「そ、その……実はな……」


 数日前・居酒屋『鳳翔』にてーー…

『見てみて、長門さんよ!!』

 1人で鳳翔さんの店で刺身と酒を嗜んでいた時、後ろから第六駆逐隊の4人の声がしたのだ。

『はわわわ、1人酒なんてオトナなのです‼』

 フフフ、私がオトナか。憧れて見えるか。胸が熱いな‼最初はそう思っていたのだ。だが……

『きっと長門さんはレディーだから、色んなお酒を飲めるのよね、きっと!!』

 ん?暁よ。いきなり何を言い出す。私は確かに呑むのは好きだが、あまり多種多様な酒は飲まないぞ?

『……なら、どんなお酒を飲めるのが、暁はレディーだと思うんだい?』

『う~ん……あ、よく熊野さんや武蔵さんが飲んでるワインなんかどうかしら?』

『そうね!ワイングラスをお洒落に使いこなして飲めるのはとってもオトナな感じね‼』

『ハラショー。それは確かにレディーに見えるな。』

 な、何…だと……?私よりも熊野や武蔵の方があの幼くも可愛い彼女達の憧憬と尊敬を集めていたと言うのか……?まさか、そんな。私は足下がガラガラと崩れ落ち、奈落の底へと堕ちていくような錯覚さえ覚えた。それほどにショックだったのだ。だから、何としても私はワインを飲めるようにならなければならんのだ!!

「はぁ。」

 俺から出てきた言葉は、それだけだった。相当重症に拗らしてやがる、このながもんは。 

 

やっぱりながもんだった。

 
前書き
 前回からの続きです。やはりこちらもながもんキャラ注意でお願いします。 

 
「んじゃ、取り敢えず呑んでみっか。」

 俺はワイングラス2つと赤と白、2種類のワインの瓶を取り出した。

「くずまきワイン、か。提督は確か岩手県出身だったな?」

「あぁ、とは言っても葛巻の出身じゃないぞ?もっと北の方の港町だ。」

 これだって、知り合いのツテで同県人のよしみで買ってくれと頼まれて買った物だ。別段、この銘柄が好きだと言う訳ではない。

「んじゃまずは、割りと飲みやすい白から行くか。」

 俺はグラスに白ワインを注ぎ、長門に手渡した。

「い、頂くぞ……。」

 長門が軽くグラスを傾ける。俺も合わせて口に含んだ。

「口当たり爽やかで、美味しいなコレは!!」

「んー、確かにな。俺はもっと白はこう、甘味の強いイメージがあったんだが。」

「これなら刺身とか生魚によく合いそうだ。」

 美味い美味い、と長門はゴクゴクと喉を鳴らして呑んでいる。そんなジュースみたいに呑まんでも……。

「さて、問題は赤だな……」

 個人的な意見だが、ワインは赤の方が苦手だと言う人が多い気がする。長門もそういうクチだろうか。

「ホレ、ワインはやっぱり赤のイメージが強いよな。」

「お、おぉう……。では、頂こう。」
   
 長門が口に含んだ。瞬間、見た事もないような渋面に長門がなった。顔が中心に向かってクシャッとなった感じ、と言えば伝わるだろうか?

「な、何だコレは‼腐っている訳ではないのか!?」

「えー、コレでも赤にしては甘口だと思うがなぁ。」

 そこまで渋味と酸味は強く感じず、寧ろ甘味が引き立っているように感じる。

「こ、コレで甘口……。」

 長門が考えている事はただ一つ、『絶望』だろう。こんなに渋くて酸っぱいとはおもわなかった、といった表情だ。

「な、何故普通に食べればあんなに甘くて美味しいフルーツを、わざわざ渋くて酸っぱい飲み物にしてしまったのだ……‼」

 まさにぐぬぬ、といった表情で長門がそう呟いた。確かに、このワインの渋味と酸味を敬遠して、飲みたがらない人も多い気がする。仕方ない、奥の手を出そう。



「なぁ、長門。そのワイン、お前でも飲めるようにして、且つ駆逐艦達にも気付かれなくする方法があるとしたら……やるか?」

「何!?そんな方法があるのか!?なら最初から……」

 そこまで言いかけて長門はハッと口を閉じた。そう、彼女は気付いたのだ。その方法を使えば、確かに長門の体面は保たれる。しかし、大好きな駆逐艦達に嘘をつく事に他ならない。己の体面か、真実を貫き通す信念か。長門にその決断は委ねよう。

「夢を壊さない為の……優しい嘘も、あるよな…?提督。」

「……そうか。なら、出してやろう。」

「なっ!?そ、それは……!!」


 俺が取り出した1つの瓶。それは、

「カ、カシスリキュール!?」

 そう。居酒屋等でアルコールに弱い人や女子が頼みやすいお酒のツートップ、炭酸割り、ウーロン割り、オレンジ割りの万能選手、カシスリキュールだ。

「長門は飲んだ事あるか?」

「いや、陸奥はよくカシスオレンジを飲んだりしているが、私はあまり、その……軟弱に見えるイメージの物は。」

「だろうな、そんなこったろうと思ったぜ。なら、指に付けて舐めてみな。」

 俺はショットグラスに少しだけカシスを注ぎ、長門に舐めさせた。

「こ、これは!!ジャムのように甘いぞ!!」

「だろ?これをワインに……8:2位でいいか。飲んでみな。」

 そう言って長門の飲みかけのグラスにカシスを足して、再び手渡した。

「ぜ、全然苦くない!!コレなら飲めるぞ‼」

 そう、カシスの甘味がワインの渋味と酸味を打ち消してくれるのだ。しかも、色も酷似しているから、カクテルとは気付かれにくい。

「じゃあ、このワインボトルにはカシスを足して、お前のキープボトルにしておいてやるよ。」

「あ、ありがとう提督よ!!これでビッグ7の体面は保たれるっ‼」

 長門は涙を流して喜んでいる。そんなに嬉しいか、このスットコ戦艦め。



 気分良く帰って行った長門を見送った後、

「青葉ァ!!」

 と俺は叫ぶ‼途端に、窓の外でヒッ、という小さな悲鳴が上がる。

「さぁ、こっちに来い。少しお話しようじゃないか……!!」

 この後、滅茶苦茶説得(物理)した。艦娘達のメンタル面の維持も提督の大事な仕事だからね、仕方無いね。

 まぁ、偉そうな事は言ってたけど、俺は意地張ってまで呑みたくない物を呑むよりも、美味しく楽しく、呑む方が良いと思うけどね。 

 

どう考えてもあのワンコは提督LOVE勢だと思うんだ。

 
前書き
 軽空母・戦艦と来たので次は駆逐艦です。またもサブタイで特定余裕だとは思いますが、まぁ気にしない。

 また、作者の思い付きで書いているので時系列はバラバラです。なので、1話完結型のストーリー集と思って頂ければ読みやすいかもしれません。 

 
今日は鎮守府挙げてのお祭り騒ぎだった。春先に発令された大規模作戦『第十一号作戦』において、我が鎮守府が敵中枢……通称【甲種艦隊】を見事に撃破したとして表彰され、更にイタリアより派遣された戦艦2隻を初め、合計5隻の新たな艦娘を新戦力として迎える事となった。

 その作戦完遂祝いと新規加入の艦娘の歓迎会として、鎮守府全域を解放して1日休みとした。姉妹艦で、呑み友達同士で、戦友同士でと思い思いにグループを作り、中庭や浜辺、食堂等でピクニックや酒宴を開いていた。

 かく言う俺も、今日は仕事は休みだと、執務室を朝からBarセットに切り替えて一人で祝杯を上げていた。

「か~っ、どうしてこう、陽が高い内から呑む酒は旨いかねぇ。」

 一人で呑みながらそんな事を呟いた。今日はビール。つまみには茹でたての(冷凍)枝豆に板わさ、炙ったスルメにビーフジャーキー。祝杯にしちゃあ何ともチープな肴だが、ビールのつまみはこの位でちょうどいい。

 呑んでいるのはサッポロの黒ラベル。俺は国産ビールメーカーだとぶっちぎりでサッポロ党だ。次いでアサヒ、サントリー。キリンはあまり得意じゃない。

「提督さ~んっ!!」

 執務室のドアが勢いよくバン、と開かれたかと思うと、これまた勢いよく此方に向かって走ってきた艦娘が、俺にジャンピングダイブをかます。

「ぐえっ!」

 なんともまぁ、マヌケな声を出して椅子ごと倒れた。咄嗟にジョッキを離したお陰でビールまみれにはならなかったが。

「何すんだ夕立!危ないだろうが‼」

 飛び付いて来たのは夕立。先日の第十一号作戦での最殊勲艦と言っても過言ではない駆逐艦娘だ。



 俺と夕立の付き合いもかなり長い。着任早々に艦隊に加わり、過去の蛮勇に違わぬ活躍を見せてくれた。そして改ニとなってからは『ソロモンの悪夢』との異名そのままに、駆逐艦離れした戦闘力でウチの鎮守府最強の一角と呼べるまでになった。第十一号作戦でも、最終海域に鎮座していた戦艦水鬼にトドメをさしてみせた。
 しかし普段は天真爛漫を絵に描いたような振る舞いで、誰にでも親しく、俺にも警戒心を持つ事無くスキンシップを求めてくる。その人懐っこい性格と「ぽい?」という口癖、そして犬の耳のように跳ねた癖っ毛と口からはみ出す八重歯が合わさって『ぽいぬ』とあだ名される程に可愛らしい。
 だが、駆逐艦はマズイ。色んな意味で。流石にこの年でケンペイ=サンに連行されてKRS(ケンペイ・リアリティ・ショック)なんて発症したくない。

「だってぇ、夕立寝てたらお姉ちゃん達に置いてかれたっぽいんだもんっ!!」

 むぅ、と頬を膨らませて文句を言う夕立。詳しく聞けば、今日は姉の白露達と街に買い物に行く予定だったらしい。しかし夕立も疲れていたのだろう、今の今まで寝ていたらしい。白露達も頑張った夕立に気を遣ったのだろう、疲れているなら寝かせておいてやろうと。それが気に入らないらしく、このワンコは大層ご立腹だ。

「だから、夕立は提督さんと二人っきりでやけ酒するのっ!!」

 なんともまぁ、夕立らしいと言うか、単純ド直球と言うか……。

「ところで夕立、お前酒飲んだ事あんのか?」

「無いっぽいっ!!」

 大丈夫かよ、オイ……。 

 

狂犬には紅い瞳を。

「んじゃ~……、作るの面倒だし、ビールで良いか?」

「うん!!飲んだ事無いから、提督さんにお任せするっぽい♪」

 ならば、と俺は冷凍庫で凍らせたジョッキにビールサーバーから並々と注いでやる。銘柄は俺と同じサッポロの黒ラベル。最初は少し斜めにして注ぎ、7割程入ったらジョッキを垂直に立てて泡を立てる。 液と泡の比率は7:3。旨いビールの黄金比率だ。

「ほれ。とりあえず、MVPのお祝いに乾杯しよう。」

「えへへ、改めて言われると照れるっぽい~…。」

 飲む前から頬を赤らめてフニャフニャしている夕立。チクショウ、可愛いじゃねぇか。



「んじゃ、MVPおめでとう。乾杯!!」

「かんぱ~いっ、いただきま~すっ!!」

 その瞬間、一気にジョッキを傾け、ゴクゴクとビールを流し込む夕立。俺も釣られてジョッキに残っていたビールを飲み干す。少し気が抜けてしまったがこの炭酸の喉越しとホップの仄かな苦味、そして後からやってくる麦芽の甘味。これがビールの旨さだよなぁ。

「かぁ~っ、美味ぇっ!!」

「うえぇ~……。苦くて美味しくないぃ……」

 いや、そこはぽいじゃねぇのかよ、と言うツッコミはよしておこう。やっぱりお子様にはビールは早かったか。などと考えていると、

「あ!提督さんが夕立の事子供扱いしてるっぽい‼」

 再びご機嫌を損ねたらしい。駆逐艦の中には子供扱いされたくないと考える娘も多く、夕立もその内の1人だったらしい。

「夕立だってちゃんと成長してるっぽいっ‼」

 そう言って胸を張ると、確かに改ニになる前には無かった膨らみがぽよん、と揺れる。どこが成長したって言うんですかねェ……?なんて、ゲスな考えは冗談としても。

「しょうがねぇなぁ。ほら、残ったビールこっちに寄越しな?」

「えー?こんなのどうするっぽい?」

「ははは、まぁ見てなって。」

 ジョッキの半分程度に減ったビールに氷を足し、同量のトマトジュースでビルド(割る)。それを軽くステア。

「ほい完成。飲んでみな。」

 夕立は不信がりながらも、恐る恐る口を付けた。途端に、疑いの眼差しが驚きに変わる。

「ちょっと苦いけど全然嫌じゃないっぽい‼美味しい~っ♪」

「良かったなぁ夕立。それに、そのカクテルはお前にピッタリなんだ。」

 意味が解らない、と言った表情で小首を傾げる夕立。無防備なその仕草も可愛いなぁこの野郎。と、Barの扉が開かれる。

「提督ぅ~っ、飲んでますかぁ?」

 軽く頬を紅潮させ、しかししっかりとした足取りで此方へ向かってくる軽空母の艦娘。

「あっ、千歳さんだ‼千歳さんも一緒に飲むっぽい~♪」

「あら、夕立ちゃんも来てたの?駆逐艦の娘が来るなんて珍しいですねぇ。」

 軽空母・千歳。着任当初は水上機母艦だったが度重なる改装を受けて軽空母へと艦種を変更。実力もさることながら、隼鷹や足柄等と毎晩呑み明かす『チーム呑兵衛』の一員として有名だ。

「えへへー、提督さんにカクテル作ってもらった ~。」  

 少し酔って来たのか、とろんとした表情で千歳にそう報告した夕立。

「あら美味しそう。夕立ちゃん、一口貰える?」

「良いよ~♪はい。」

 千歳は夕立からジョッキを受け取ると、ゴクリと一口。

「あら?『レッド・アイ』なんて、提督も中々洒落の効いた事をしますね。」

「あっ!さっきこのカクテルが夕立にピッタリだ、って言ったのって……」

 そう、ビールをトマトジュースで割ったこのカクテルの名前はレッドアイ。紅い瞳をギラつかせ、戦場を駆ける夕立にはピッタリだろう。

「本来はタンブラーで作るモンだがな。残すのも勿体無いんで、緊急処置だ。」

「うふふ、提督らしい。……じゃあ、私はレッドバード頂けます?」

 了解、と請け負って俺は準備に取りかかる。タンブラーグラスに氷を入れ、そこにまずはウォッカ。チョイスしたのはスカイシトラスのレモン。アメリカのメーカーのウォッカで、オレンジやレモン、ライムといったシトラス(柑橘類)のフレーバーをプラスした口当たり爽やかな奴だ。そこに倍のトマトジュース。これでもうカクテル『ブラッディ・メアリー』になっているのだが、ここに更にトマトジュースと同量のビールを加えて軽くステア。

「お待ち。レッドバードだ。」

「いただきます。」

 黒タイツに包まれた脚を組み、軽くグラスを傾ける。…なんだろう、そこはかとない色気を感じるのは俺だけか。

「ふぅ、やっぱり提督の作るカクテルは美味しいですね。」

「そうか?ありがとよ。」

 その後も俺達3人はささやかながらも祝勝会を続けた。そして最後に、酔い潰れた夕立を部屋まで曳航していったら、他の白露型の娘達に白い目で見られたのはまた別の話。 

 

一晩寝かすと美味しくなるアレって何なんだろうね?

木曜日の深夜、店に誰も居ないとき、無性に作りたくなるメニューがある。

「……仕込んでおくか。」

 誰に言うでもなく、俺はそう呟いて調理の準備を始める。

 シンクの下から中華鍋と、炒め物ように傾斜の付いたお玉を取り出す。中々年季の入ったそれは、俺が提督になる以前から愛用していた相棒とでも呼べる代物だ。

 用意する主な材料は豚挽き肉、ホールトマト、赤ワイン、醤油。そして使いたい野菜。じゃがいも、人参、玉葱がベーシックだが、今の時期なら茄子や南瓜、トウモロコシやズッキーニ、キノコ類なんかもいいかもな。

 先ずは下拵え。使う野菜を粗微塵切りにする。ポイントとしては刻む野菜の大きさは揃える事。そうしないと食べた時の食感にバラつきがでるからな。

 野菜の準備が出来たら、中華鍋に油を入れ、熱していく。温まって湯気が出てきたら、ここに挽き肉を入れて炒めていく。……おっと、チューブでいいから生姜も忘れずにな。肉の臭み消しだ。今回は豚を使ったが、牛や鶏、羊でも勿論作れる。だが、牛や鶏を使うなら牛脂を足す事をオススメする。脂を野菜に吸わせると旨味が増すからな。

 挽き肉に火が通ったら玉葱を加え、玉葱が透き通って来たら残りの野菜を加えて更に炒める。野菜に火が通ったらホールトマトと少量の赤ワイン、顆粒のコンソメ、隠し味に醤油を一回し。水は加えずにホールトマトと炒めた野菜の水分、そして赤ワインで煮込んで行く。

 水気が無くなり過ぎない内に味の決め手、カレールー。……そう、もうバレバレだとは思うが俺が作っていたのはカレー。しかも、夏野菜たっぷりのドライカレー風だ。今回はジャワカレーの辛口と中辛をミックスして使用。自分でスパイスを調合しても良いんだが、手軽だしな。

 ついでに1つ、市販のカレールーの蘊蓄(うんちく)を。カレールーの箱に書いてある辛口や中辛、甘口等の差は、辛味を出す成分量の差じゃない。各メーカーがスパイスの種類や配合を変えて、辛さを変えているのだ。なので、簡単に味に深みを出したければ同じ種類のカレールーでも中辛と甘口、辛口と甘口等のように組み合わせて使うと良い。

 ゆっくりとルーを溶かしてやりながら、その香りを確かめる。うん、いい出来だ。このまま温かい飯に……でも良いんだが、俺は耐熱容器に作りたてのカレーを移し、粗熱を取ったら冷蔵庫にしまう。明日は金曜日だ、海軍の伝統をそのまま受け継ぐ鎮守府では、未だに「金曜日はカレー曜日」の習慣が根付いている。長い船上生活の中でも曜日の感覚を失わない為らしい。これで、明日は美味いカレーが喰えそうだ。
 

 

定食屋とかで隣の席の人とかが食ってるの見てると、無性に食いたくなる。あんな感じ


 提督としての今日の執務は終わり。今日も特に問題はなく、つつがなく鎮守府を運営できた。白い軍服を脱ぎ、クリーニング専門の妖精さんに手渡す。そしてラフな格好に着替えて執務室を模様替え。これもスイッチ1つで妖精さんが変更できるように改造してくれた。こうしてようやく開店だ。

「さて、と。……お楽しみの物を準備しますか。」

 俺は米を研ぎ、土鍋に入れる。俺の親戚から貰った新米だ。粘り気は少な目の品種の方がカレーには合わせやすいだろう。水は米を敷き詰めた表面から、手の甲が被る位の水位。本当は竈で鉄釜使いたいところだが、まぁ贅沢は言うまい。

 ガスコンロに火を入れる。まずは沸騰するまで強火。ボコボコと湧き始めて湯気の吹き出し口から吹き零れ始めたら火を弱める。そしてここからが重要、まだまだ蓋は取らない。吹き出し口から漂う香りに少し香ばしさが混じってきたら、そこで火を消す。そして蓋を閉めたまま10分~15分蒸らす。
ここまで耐えて、ようやく蓋を開ける。瞬間、フワリと立ち上る炊きたてご飯の香り。日本人なら誰しもが、生唾を飲み込みたくなる香り。口に入れなくとも解る、米本来の甘味と旨味の凝縮された香り、あぁ堪らない。



 しかし炊飯ジャーで炊いたご飯と違い、土鍋ご飯には水分量にムラがある。それをかき混ぜ、均一に均す。さぁ、至福の時だ。

 皿にご飯を盛り付け、そのアツアツの上に昨日仕込んで冷蔵していたカレーをかける、と言うより乗せるに近い。一晩以上冷蔵庫で寝かされ、固まっているので掛けると言うよりもご飯に乗せる。と言うイメージが近い。その固まったカレールーが、ご飯の熱で少しずつ、少しずつ雪解けのように蕩けていく。それをご飯に絡ませて、スプーンで掬い、口の中へ。この一口目が堪らなく美味い。

 これが俺の考えるカレーの最強の食べ方、「昨日のカレー」だ。夢中になって二口目を迎えに行こうとしたその時、目の前からゴクリ、と大きな生唾を飲み込む音が。

「うぉっ!?な、なんだ。赤城か。」

 正規空母、赤城。ウチの鎮守府のみならず、大概の鎮守府の初の正規空母であろう彼女は、その「大食いキャラ」で有名だが、ウチの鎮守府の赤城は食べる量は人並み。……だが、美味しい物を察知するのは人一倍早い。

「いえ、今出撃帰りで部屋に戻ろうとしたらお店の前から良い匂いがしたもので……。提督、何を召し上がってるんです?」

「これか?昨日のカレー。暖めないでご飯に乗せて蕩かして喰うの。」

「あの……私にも頂けますか?」

 勿論、断る理由はない。アツアツの飯にカレールーを乗せて、スプーンと共に渡してやる。

「では。頂きます。」

 一口入れた途端、いつも凛々しく引き締まった頬がとろんと緩むのが解った。今左右に引っ張ったら、つきたての餅のようにムニュ~っと伸びそうな位ユルユルだ。

「うわぁ、美味しいですねぇコレ‼」

「そうかぁ?普通だろ。野菜とかカレールーとか、その辺で買える物ばっかだぞ?」

「作る人の腕が良いんですよ、きっと。」

 そう言われたら悪い気はしない。



「でも不思議ですよね、何で一晩経ったカレーの方が美味しいんでしょう。」

 「確か……火が通った事によって、具材表面の細胞壁が破壊されて、そこからルーに具材の旨味が染み出すから……とかなんとか。」

 確かそんな話をしているTV番組を見た記憶がある。と、そこへまた誰かが入って来る。

「チーッス提督。お、赤城さんまでいるじゃ~ん。」

 航空巡洋艦、鈴谷だ。そのフランクな喋りとJKっぽい見た目から、ソッチ方面の人気も高い艦娘だ。確か今日は赤城と同じ艦隊で出撃したメンバーだったハズだ。

「飲みに来たんだけど……二人して何食べてんの?」

「「昨日のカレー。」」

 二人の言葉が絶妙にハモる。

「鈴谷も飲むつもりだったけど……二人の食べっぷり見てたらお腹空いちゃった。鈴谷もカレー!大盛りね‼」

 そこからはもう芋づる式だった。鈴谷に続けと言わんばかりに一緒に出撃したメンバーが次々と来店。結局、出撃メンバー全員が来店し、全員が食べていたカレーを注文。
たちまち作り置きのカレーは無くなった。その翌日には昨日のカレーの噂は広まり、毎週金曜の店の開店時刻には行列まで出来るようになっちまった。ったく、ウチはカレー屋じゃねえっつの。

 まぁ、「毎週金曜は昨日のカレーの日にします」なんて張り紙した俺も悪いんだが。 

 

アニメに出てくるカクテルとかって結構多いよね。

 今日は珍しく誰も来ないな……なんて考えてると、不意に予期せぬ客が来る事がある。この日もそんな感じだった。誰も来ないんでグラス磨きをしたり冷凍出来るスープストックを作ったりしながら時間を潰していたその時、カランカランとドアに付けたベルが来客を告げる。

「こんばんは~……って、うわぁ。話には聞いてたけど、ホントにカウンターバーなのね。」

「おぉ、お前が呑みに来るなんて珍しい……ってか、初めてじゃないか?夕張。」

 入り口からヒョコっと顔を覗かせて中の様子を窺っていたのは、兵装実験軽巡・夕張。ウチの鎮守府最古参にして、対潜・遠征のスペシャリストとして活躍している艦娘だ。しかし、普段はあまり飲まないイメージのある艦娘なのだが……。

「わ、私も呑めないワケじゃあ無いんですよ?ただ、お蕎麦と一緒に呑むなら鳳翔さんのトコか間宮さんの方が良いってだけで…。」

 まぁ、確かにな。俺も蕎麦打ちは出来なくもないが間宮や鳳翔には劣る。聞けば、天ぷらと小鉢を肴に蕎麦焼酎か日本酒を嗜み、〆に蕎麦を啜って終わる。何ともまぁ、ツウな飲み方をする奴だった。

「……で、今日はまた何でウチに来たんだ?」

「だって、鳳翔さんは他の鎮守府に技術指導に行ってるし。間宮さんは仕入れでお休みだったんだもん。」

 そうか、と納得した。鳳翔は発艦技術の指導に新規開設された柱島泊地に。間宮は半月に一度の仕入れの日だったか。

「んじゃ、しょうがねぇな。で、何を飲む?」

「ん~……、普段飲まないような、リキュールとかカクテルに挑戦しようかな?」

 後はお任せで、と注文された。ウチの店には「マスターのお任せ」という注文方法がある。基本的には艦娘の注文を受けて作るのだが、あまり注文したことが無い物を頼む時や、気分をガラリと変えたい時などによくこの注文がされる。



 そこで俺はシャンパングラスにとあるリキュールを注ぎ、炭酸水でビルド。仕上げにチェリーと、曲がるストローを挿した。

「はい、おまち。」

「ってコレ、メロンソーダじゃない‼」

 バカにしてるのか、と憤慨する夕張。確かに見た目は完全にメロンソーダだ。

「ふっふっふ、文句は飲んでからにしてもらおう。」

 そう言って俺は不敵に笑うばかり。そこで恐る恐るストローから吸う夕張。その瞬間、盛大にむせかえった。

「ケホッケホッ、何コレ!?お酒じゃない‼」

「おいおい、ここはBarだぞ?酒出さないでどうすんだ。」

 ま、マスターのお任せは俺が艦娘に冗談半分で悪戯を仕掛ける場にもなってるってワケだ。



 種明かしをすれば、注いだリキュールは純日本産のメロンリキュール、その名も「ミドリ」。かき氷のメロンシロップのような毒々しいまでの緑色とは裏腹に、味はしっかりと赤肉メロンを漬け込んで作られた本格的リキュールという、夕張にはうってつけの1本だ。それを炭酸割りにしてチェリーと曲がるストローとくれば、見間違えても無理はない。

「ははは、悪かったよ。さぁ、次は何にする?」

「う~……。なら、アニメに出てくるカクテル!作品は問わないわ‼さてさて、何が出てくるかしら?」

 そう。夕張は鎮守府内でも一二を争うアニメオタクなのだ。さてと、何を作ろうか。 

 

アニメオタクは止まらない。


 まずはラム酒。クセも強く、色味も独特であまりカクテルには適さない酒ではあるが、今回作るカクテルには色味はあまり影響しない。

 次にコアントロー。フランス産のオレンジリキュールで、その強烈とも言える位の強い香りとまろやかな甘さが特徴のホワイトキュラソー(無色透明のキュラソー)。良質のビターとスイート、2種類のオレンジの果皮や花、葉に極秘の成分を加え、スピリッツに漬け込んで香りを移した物を更に蒸留。そこにシロップやスパイスで味を調整して作られる。口当たりは良いがアルコール度数は40°と中々にキツい。呑むときには要注意だ。

 そして最後にレモンジュース。市販の物を使っても良いが、ウチではその場で絞ったフレッシュを使う。半分に切ったレモンを絞り器で絞り、全てをシェイカーに。

 比率はラムが2、コアントローが1、レモンジュースが1。全てが入った所で氷と共にシェイク。シャカシャカと小気味良くシェイクしていると、夕張がクスクスと笑う。

「提督ってば、ホントにそれっぽいねw」

「やかましいわ。」



 カクテルグラスを準備し、シェイクした中身を注ぐ。すると中からは白濁したカクテルが姿を現す。コアントローの特性として、氷等で冷やされると無色透明から白へと姿を変える。それがホワイトキュラソーと呼ばれる所以だ。

「ハイよ、注文のカクテルだ。」

「んじゃ、いただきます‼」

 静かにカクテルグラスを傾ける。

「甘くて美味しい‼ねぇねぇ、コレなんてカクテル!?」

「コレか?コレはXYZ。アルファベット最後の3文字から取って『これ以上の物はない』とか、『究極のカクテル』なんて意味を持たされてる1杯だ。」

「そしてその符号と言えば……‼」

「「シティーハンター‼」」

 二人の声が同時に作品を叫ぶ。


「でもなんで、XYZが冴羽遼の呼び出し符号なんです?」

 XYZを呑みながら、夕張が俺に尋ねてくる。

「確か、XYZの後は無いだろ?だから、後が無い位追い詰められてる、助けてくれって意味だったと思うぞ。」

 俺も自分の分を作ろうと、シェイカーを振るう。カクテル好きなら大概知っていると思うが、XYZのレシピは実は、メインの酒を変えるだけでカクテルが何種類も作れる万能レシピなのだ。

 ラムをブランデーにすればサイドカー。
    ウォッカにすればバラライカ。
    ドライジンならホワイトレディ。
    ウィスキーならウィスキー・サイドカー。
    焼酎なら焼酎・サイドカー。

 更に少しレシピは変わるが、ホワイトラムにコアントローを半分にし、その分グレナディン・シロップを加えるとビューティフルと呼ばれるカクテルになる。このように、汎用性の高いレシピである所も、夕張に似合うと思って提供した理由だったりする。



「ぷはぁ~。甘くておいひぃからぁ、ついつい呑んでゃいましたぁ~…」

 1杯目を飲み初めて30分。普段甘めのカクテルなど呑まない夕張が調子に乗って飲みまくってヘベレケになっている。その数、8杯。XYZ以外にも、バリエーションのカクテルも飲んでいるからチャンポンだ。悪酔いしないハズがない。

「こんばんは。……おや、先客がいたのか。」

「よ、響。今日もウォッカか?」

 やって来たのは駆逐艦・響。その幼い見た目とは裏腹に、鎮守府でも五本の指に入る酒豪だ。前世でロシアに渡った影響だろうか。

「いや、今日は私もカクテルを貰おう。……バラライカ。でも、カクテルグラスでなく、タンブラーでね。」

 ホラこれだ。呑む量が違う。

「しかし夕張さんとアニメ談義しながら呑むなんて、司令官も中々オタクなんだね。」

「まぁな。第六駆逐隊の奴等もアニメ見るのか?」

「まぁね。特に暁が魔法少女モノにはまってね。この間夕張さんにDVDを借りたと言っていたよ。」

 クスリ、と小馬鹿にしたような、しかしそれが愛らしいと言いたげに静かに笑う響。

「因みに響、なんてアニメを借りたか解るか?」

 しばらく唸った後、

「確か……まどマギとか言ってたような……。」

「響、悪い事は言わない。暁を止めてやれ。」

 暁にまどマギなんて見せたらトラウマ待ったなしだろうに、まったく。そのトラウマを生産しようとした張本人は今、カウンターに突っ伏してスヤスヤと寝息を立てている。いい気なモンだぜ。

「冴羽みたいに襲っちまうぞ?」

 なんて、冗談めかして言いながら、俺もXYZを煽った。 

 

雨の記憶

梅雨も半ばの6月。この時期になると否応なしに思い出される事がある。その日だけは店は休み。……いや、正確には俺が俺の為に店をリザーブする。間接照明だけで薄暗い店内で、俺はカウンターに腰掛けながら日本酒をぐい飲みに注ぐ。カウンターに客の姿はない。代わりに、俺の真正面には写真立てが2つ。1つは、この鎮守府発足から半年記念で撮った集合写真。そしてもう1つは、ある艦娘との2ショット写真。別段、特別な関係だった訳ではないがその艦娘がどうしても、と言うので不承不承撮った1枚だ。

「7年、か。」

 溜め息を吐く様に、そう一言だけ吐き出すと俺はまたぐい飲みの中身を一息で煽る。写真の前にもぐい飲みが置かれ、その周りには金目鯛の煮付け、揚げ出し豆腐、肉じゃが、きんぴらごぼう等々、純和風の食べ物がズラリと並ぶ。

「嬉しいか?お前の好きだった肴ばかりを集めたんだ。遠慮なくやってくれよ。」

 俺はその肴に手を付ける事はしない。何故ならコレは、俺の分じゃない、『アイツ』の分だ。



 窓の外はしとしとと雨が降り続いている。思えば、あの時も雨だった。だから未だにこの時期のこの日には気が滅入る。お陰で俺は、流れ落ちる涙を隠さなくて済んだ。

 その報告を受け、鎮守府の入り口で出迎えた時、真っ先に謝られた。『俺が謝った』んじゃない、『俺が謝られた』んだ。

 彼女を護ってあげられなかった。

 一刻も早く敵艦を沈めていたら、彼女は轟沈しなかった。

 私達の慢心がこのような結果を招いてしまった。

 申し訳ありませんーー…。と。



 俺はその場で崩れ落ちた。声を上げて泣いた。全ては俺の責任なのに。

 彼女が大破していたのは解っていた。

 それでも尚、夜戦を強行したのは俺だ。

 慢心させるような戦い方をさせていたのは俺だ。

 もしあの時、俺が撤退を選んでさえいれば、彼女が暗い水底へと沈む事は無かった。



 その時以来、俺は変わったと当時から居る艦娘達は言う。上層部からどんなになじられようが、「昼行灯」と陰口を叩かれようと、艦娘の生命を第一に考えた指揮を執るようになったと。臆病風に吹かれたか、と野次った提督が居れば、その鎮守府以上の戦果を叩き出して封殺した。Barを始めたのもその辺りだ。艦娘達の心を癒し、喜ばせ、明日への活力を生み出す。それら全てが彼女への償いだと、今日まで信じてやって来た。

「なぁ。俺はしっかりと提督、やれているかい?」

「……それは私に対しての質問?それとも、その写真の『私』への質問かしら?」

「加賀……。」

 店が薄暗いせいか、扉の前に立つ彼女に気付かなかった。俺の鎮守府で唯一沈んだ艦娘と同一人物・正規空母『加賀』が、ドアに貼り付くように立っていた。
 

 

『あの日』の記憶

「座ってもよろしいですか?提督。」

「見えなかったのか?今日は俺の貸切りだ。」

 つっけんどんな尋ね方に多少苛立ちを覚えながらも、務めて冷静に受け答えしようとする。しかし加賀は、俺の返答など関係ない、と言わんばかりにカウンターへと腰掛けた。

「いい加減にしろよ、加賀。幾ら俺でも怒るぞ?早く部屋に戻ーー…」

「今日ここに来たのは、赤城さんに行くようにと言われたからです。」

 俺の警告を遮るように、加賀が切々と語りだした。何と無く勘づいてはいたが、やはり赤城の差し金だったか。加賀が轟沈したその現場にいたお前らしい。

「それがどうした?俺には関係の無いことだ。」

「いいえ、有ります。『私』の着任前にも正規空母・加賀が居たと聞きました。そしてその方は提督の無茶な進軍によって沈んだと。」

 加賀の目には一切の揺らぎが無い。その事を叱責しようとか、哀れんで慰めようとか、そんな感情が感じられない。

「私はただ、真実が知りたい。そして貴方が信に値しない人だと感じた暁にはーー……」

 そう言いながら加賀は左手の薬指に嵌められた銀のリングを外し、カウンターの上に置いた。

「この指輪はお返しします。」



 ケッコンカッコカリの指輪。錬度の上限を解放し、更なる戦力増強を図る為の装身具。そして艦娘にとっては司令官からの信頼と愛情の証とされていた物。ウチの鎮守府では前者の意味合いが強く、複数人に指輪を渡している。その中でも加賀は2番手の錬度を誇る猛者だった。

「解った、解ったよ。」

 こうなってしまった加賀は、梃子でも動かない。そんな頑固な所も、『あっち』の加賀にそっくりだ。同じ艦娘なのだから、当然と言えば当然か。

「あれは……そう、この鎮守府が出来て半年程経った頃だ。」



 その頃俺達は難関と言われた沖ノ島海域の攻略に駆り出され、その最前線で戦っていた。後1歩で敵の中枢……敵主力艦隊を叩ける。そんな時だ、加賀が大破したと一報が入って来たのだ。撤退か、強行進軍か。迫られる決断。そこに再び無線が入る。

『行って…下さい……、提督。』

「加賀っ‼」

 大破した加賀本人からの通信。

『武装は使い物になりませんが、主機と缶……駆動系は生きています。回避に専念すれば問題ありません。』

「しかし……‼」

『貴方には迷っている猶予は無いハズですが?』

「っ!……解った、但し沈むな。必ず還ってこい。沈んでも必ず、だ。」

『了解……致しました。』

 そして彼女達は敵の中枢へと攻撃を仕掛けたのだ。

 昼の砲雷撃戦では敵を圧倒。加賀も言葉通りかわし続けていた。…だが、全滅には至らず。上層部からは「撃滅」……つまりは全滅させろとの命令だった。

「加賀……夜戦も行けそうか?」

『無論。』

「……そうか、なら。」

 俺はそうして夜戦に突入させた。敵艦隊は半数が撃沈。残りは戦艦2隻と中破した重巡が1隻。先ずは戦艦を潰せ、と砲弾と魚雷を浴びせる。その最中、一瞬気が緩んだ瞬間に重巡が魚雷を発射。反応の遅れた加賀に直撃。そのまま海の底へと沈んで行った。結果は敵艦隊を見事撃滅。俺は上層部より表彰された。……見事撃滅だと?ふざけるな。俺は部下を、大事な仲間を、少なからず俺に好意を寄せていた女性を見殺しにした最低の指揮官だ。

 その日は鎮守府にどう帰り着いたかも定かじゃない。浴びるように酒を飲み、泥のように眠った事だけは覚えている。
 

 

顧みても尚、前へ。


「それで?まさか貴方はそれしきの事で思い悩んでいたのですか?」

 唐突に投げ付けられた、暴言ともとれる一言。頭の芯が灼熱し、気付いた時には加賀の襟首を掴んでいた。

「んだと?……もういっぺん言ってみろやゴラァ‼」

「えぇ、何度でも言って差し上げます。貴方は大丈夫だと言った部下を信頼し、戦闘を続行した。その結果、無茶をした部下は沈んだ。そのどこに問題点があると言うのです?」

 瞬間、俺の右拳は加賀の左頬を捉えていた。吹っ飛ぶ加賀の身体。俺はと言えば殴った事で頭に上っていた血が下りて、冷静になった瞬間にハッと我に返った。

「加賀、すまん。大丈夫か?」

 頬は赤く腫れ上がっており、ジンジンと疼くような痛みが走っているだろう。それでも尚、加賀の目には力が宿っていた。

「大丈夫です。私も、恐らく『彼女』も、不器用なんです、とても。」

 左頬を押さえながら、加賀はそう呟いた。



「やはり同じ艦娘だからでしょうか。何と無くですが彼女の気持ちが解る気がします。貴方の焦り、戸惑い、そして恐怖。それを一刻も早く取り去ってあげたい。そう思ったのでしょう。その為ならば……私も同じ立場なら、この身一つで賄えるならば、喜んでこの身を差し出します。」



 焦り。そう、確かに俺はあの時焦っていた。上層部から沖ノ島海域を期日までに攻略出来なかった場合、提督としての任を解き、地方へ出向させる、と。早い話、結果を出さねば左遷するぞ、と脅されていた。そう、あの日がちょうど期日の日だった。恐らく、加賀はそれを知っていたのだ。だから普段は絶対にしないあんな無茶を……。

「過去はやり直せません。ですが、そこから学ぶ事は出来ます。だから提督……『私の事で、もう苦しまないで』。」

 幻聴だったのかも知れない。俺の身勝手な想像の産物だったのかも知れない。でも確かに今、加賀の声が2人分、はっきりと聞こえたんだ。

「加賀……、悪かった。俺はもう、迷わない。沈んだ艦娘は戻らない。でも、それを悔やんでも前には進まないんだ。それに気付かされたよ、ありがとう。」

「そうですか。なら、謝礼を頂かないといけません。」

 そういい終えた瞬間、加賀の顔がすぐ目の前に迫り、俺の唇に熱く柔らかい水羊羹のような物体が触れた。時間にして10秒位だろうか。

「はぁ…はぁ……ご馳走様でした。」

 少し息を乱しながら、耳を真っ赤に染めて加賀がそう言った。その瞬間、店のドアが吹き飛んだ。

「Heyテートクー‼何をカガとだけイチャついてますカー‼」

「ひえぇ……見てません、見てませんからぁ……ひえぇ~‼」

「は、はははは榛名は大丈夫じゃ……無いです。」ガクッ

「マイクチェックの時間だオラァ‼」

「あらあら、加賀さんも意外とだいた~ん。」

「提督?まさか加賀さんだけ特別扱いなんて……しませんよね?」

 恐らく店の外で聞いていたのだろう。金剛・比叡・榛名・霧島・赤城・瑞鶴。加賀以外のケッコン艦が勢揃いしていた。

「お、おい待て。落ち着けお前ら……‼」

「ここは譲れません。」

 そう言って首に腕を絡めてくる加賀。こいつ、火にガソリン注ぎやがった。

「逃がさないヨー‼BURNING……LOVE‼」

 そう金剛が叫んだのをきっかけに、全員が飛び付いてきて俺はもみくちゃにされた。その日以来、加賀の命日には皆で明るく楽しく呑んで騒いで、弔うのが通例化してしまった。まぁ、そっちの方がウチの鎮守府らしいし、加賀も心配しないだろうな、と今は密かに思っている。 

 

この人残念系美人だったらたまらんよね。

 
前書き
さて、前回が重めの話だったので、今回は思いっきりギャグ方面に振り子を振ります。お楽しみに。
 

 
ウチの鎮守府には残念系美人四天王、と陰で呼ばれている艦娘がいる。面子は、隼鷹・足柄・ビスマルク、そして残りの1人が……

「ちょっと提督、聞いてるんですかっ!?」

 ダン!とカウンターに大ジョッキを叩き付けて、赤ら顔にビールの泡で髭を生やし、クダを巻いている重巡・高雄型の1番艦、高雄だ。彼女達は夜な夜な「居酒屋 鳳翔」に入り浸って酒盛りをし、やれ男にモテないだの、やれ職場に潤いが無いだの、なんとも男が聞いていても物悲しい喪女の叫びを上げてクダを巻いているらしい。

「あぁ、聞いてる聞いてる。……で、なんだっけ?」

「聞いてないじゃないですかぁ~っ‼……もう。だからぁ、足柄が私達女の友情を裏切ろうとしてるんですよぉ~っ‼」

 普段から騒がしい呑みをしているらしい彼女だが、今日は一段と騒がしい。それもバカ騒ぎではなく泣き上戸の上に絡み酒。面倒臭い事この上ない。

 なんでも、足柄が合コンや婚活パーティーに参加しても彼氏が出来ないから、お見合いをしようとしているらしい。

「私達、ちゃんと恋愛して彼氏作って、それから結婚しようね、って言ってたのにぃ~っ‼」

 ウチの鎮守府に限らず、艦娘には人と何ら変わらない権利が与えられている。転職や(鎮守府によっては)副業、そして恋愛も自由だ。提督とケッコンカッコカリではなく本当に結婚した艦娘も少なくない。鎮守府の外に彼氏が居る艦娘もザラだ。

「ははは……、でも高雄位の美人なら、合コン行ったら引く手数多だろ?」

 苦笑いしながら俺は高雄の飲み干したジョッキに再びビールを並々と注ぐ。これで大ジョッキ7杯目。そろそろ打ち止めにしてやらないと明日に響く……かと思ったが、確か高雄は非番だ。ならば、好きなだけ飲ませてやるか。

「合コン行ったって、本命が居るから本気になれるハズないじゃないですかっ。」

 高雄はムスッとしたまま、ボソッと聞き取れるかどうかと言うギリギリの声量でそう言った。

「え?高雄本命居るのか?マジか‼誰だ誰だ、鎮守府の職員か?それとも外の奴か?」

 俺も腐っても提督だ、そういう情報戦は制していないとマズイ。高雄は聞かれたと解ると顔を真っ赤にして俯いた。照れてる、モジモジしてる。めっちゃ可愛い。

「うぅ~……ち、鎮守府の中の人……です。」

「職場恋愛かぁ。……で?そいつイケメン?彼女いんの?」

 高雄は人差し指を合わせてクリクリしながら、

「顔は……私的にはカッコいいかな、と……。か、彼女は……それっぽい人が……」

「あちゃぁ~…彼女持ちかぁ。そりゃ片想いじゃ辛ぇわな。」

「あ、あの……彼女っぽい人が…7人……」

 は?あれ、高雄さん?今とんでもない事口走りませんでした?

「え?彼女7人て、お前それ浮気野郎じゃねぇか‼最低の野郎だな、そいつ……。てか、お前も何でそんな奴に惚れるかなぁ。」

 やれやれと、俺は頭を抱えてしまった。幾ら自由とは言え、部下は部下だ。そんな最低の浮気野郎に、大切な部下を預ける訳にはいかない。だが、先ずは高雄の心を癒す事が先決だ。

「よし!今からは俺のオゴリだ!飲みたいだけ呑んで、そんな最低の野郎なんざ忘れちまえ‼」

「やっぱ解ってないよ、バカ……。」

 高雄がなにかしら呟いたようだったが、今度は聞き取れなかった。 

 

高雄はイジられ系?

「さて、と。じゃあ俺から高雄にピッタリのカクテルを贈ろうか。」

 今回は入れる材料の種類が多い為、量まで細かく書いておく。先ずはジン。シェーカーに氷と共に45mlを注ぐ。次にチェリーブランデー。

 ブランデーとは、果実(主に葡萄が多い)を発酵させ、それを蒸留。そしてオーク(樫)の樽で香り付けした酒を差す。今回はチェリーを原料とした物を使用。それをシェーカーに15ml。更にフレッシュレモンジュースを20ml。仕上げの隠し味に砂糖をティースプーンで1杯半。それをシェイク。

 用意するのはタンブラー。そこに氷をたっぷりと。シェイクした物を注いだら、そこにソーダを注ぐ。最後の仕上げにカットしたリンゴ、スライスレモン、レッドチェリーを飾る。

「ハイ、おまち。」

 受け取った高雄は戸惑う事もせずにグラスを傾ける。

「あ、フルーティーで呑みやすい。炭酸もいい感じですねぇ♪これ何てカクテルです?」

「シンガポール・スリング。」

 さっきまで機嫌よく笑っていた高雄の笑顔が引きつった。

「へ?」

「シンガポール・スリング。1915年、シンガポールのラッフルズホテルで考案された、トロピカルカクテルの傑作と呼ばれる1杯だ。」

 途端に顔が赤くなってプルプル震え始める高雄。

「バ、バカにしてんですかぁ!?」



「まぁまぁ。このカクテルはシンガポールの夕焼けがモデルなんだから、あんまり高雄が気にする必要はねぇだろ?」

「む~……。私がシンガポールにトラウマ抱えてるの知ってるくせにぃ‼」

 むくれながらも飲む手は止めない。そんな所もいじらしく可愛らしく見える。こういうタイプってからかい甲斐があるんだよなぁ。

「おかわり‼」

 シンガポール・スリングを呑み終えた高雄が、更に酒を要求。ならば、と受け取ったタンブラーの中身を捨ててそこにビールを注ぐ。

「ほい。」

「ん……。」

 高雄は受け取ると、ゴクゴクと喉をならして一気飲み。おぉう、男らしい(女だけど)。

「さっきと銘柄違いますよね?コレ。」

「お、よく解ったな。イギリスの娘になっちゃった高雄に合わせて、イギリスのエールをな……」

「まだ引っ張ります!?それ。」



 高雄がカウンターに突っ伏して泣いている。からかい過ぎただろうか?

「うぅ~…、提督までバカにしてぇ……。どうせ私には魅力なんか無いんだぁぁ~…。」

 あらら、こりゃ重症だわ。フォロー入れとくか。

「んな事無いぞ?高雄。俺が普通の男で、合コンに高雄が来たらダメ元でアタックするわ。」

 その言葉を聞いた高雄がガバッと起き上がる。

「本当ですかっ?」

「おぅ。」

「ホントにホントですか?」

「お、おぅ。」

 そう聞いた高雄が制服の上着を脱ぎ始めた。

「お、おいバカ‼何やってんだ‼」

「本当に私が魅力的ならぁ……“お持ち帰り”…してくださいよぅ。」

 あ艦これ、完全に悪酔いしてやがる。仕方ねぇ、許せよ高雄。

「解ったよ。そんなに言うなら……」

「え、あ、きゃあっ‼」

 俺は高雄の後ろに回り込み、膝裏と肩の辺りに両腕を差し込み、抱えあげた。所謂お姫様抱っこってヤツだね。

「そんなにお持ち帰りされたいなら……持ち帰ってやるよ。」
   
 耳元で囁いてやると、酔って赤ら顔だった高雄の顔が更に赤くなり、頭から湯気を上げてクタッとなった。恥ずかしさの余りに気絶でもしたか?チョロ可愛いなぁ、全く。

「マジで持ち帰ってやろうか?ったく……」

 勿論、そのまま高雄型の部屋に送り届けた。愛宕と鳥海がニヤニヤ笑っていたが、まぁ気にしないでおこう。 

 

提督の簡単‼おつまみクッキング~チューハイ編①~

 その相談を鈴谷から受けたのは、執務を始める前の朝食の時だった。

『つまみの作り方を教えて欲しい、だぁ?』

『う、うん。』

 少しモジモジしながら、頬を赤く染めて向かいに座った鈴谷がそう言ってきた。隣に座る姉妹艦の熊野がフォローを入れてくる。

『実は最近、鈴谷に鎮守府外に恋人が出来たんですの。鈴谷は家事一般は出来ますし、お料理の味も私(わたくし)が保証致しますけれど……少し、お酒に合わせたメニューのレパートリーに不安がございますの。』

 熊野は普段から神戸生まれのお洒落でお淑やかな重巡で通ってはいるが、こういった恋バナやゴシップ系のネタとなると、途端に大阪のオバチャンと化してしまう。今も周りに聞こえるような大声でベラベラと喋っている。鈴谷が真っ赤になって必死に「バカ、熊野!シーっ、シーっ‼」と黙らせようとしているが、時既に遅し。周りの艦娘達は久しぶりの恋バナにキャアキャアとはしゃぎながら騒いでいる。

『ま、まぁとりあえず今晩店に来い。話を聞きながら教えてやるから。』



 そして、今に至る。

「も~…熊野のバカぁ。今日1日青葉に付き纏われて大変だったじゃんかよぉ。」

「あらあら、私嘘は言っておりません事よ?」

「嘘じゃなくても言って良いことと悪い事があるよぉ~…。」

 店には、鈴谷と何故か熊野が来ていた。どうやら、一緒に作り方を勉強しに来たらしい。

「さてさて、鈴谷の彼氏とやらは何を飲むんだ?」

 酒のつまみと一言に言っても、酒によって合う・合わないは存在するだろう。やはり赤ワインには肉料理かチーズを合わせたいし、日本酒には刺身等の和の味を合わせたい。だからこそ、飲む相手の酒に合わせて作った方が良いだろう。

「ん~とね…鈴谷のダーリンは、お酒飲むのは好きなんだけど、あんまり強くないから缶チューハイが多いんだよねぇ。」

 ふむ、となるとチョイスが難しい。今時の缶チューハイはベースとなる酒がメーカーによってバラバラだ。ならば、と俺はある提案をする。

「なら鈴谷、その彼氏には『本物のチューハイ』も一緒に味わってもらったらどうだ?」

「本物のチューハイ?何それ。」

 ふふふ、まぁ見てな。と俺は作り始めた。タンブラーグラスに氷を入れたら先ずは焼酎。チューハイにするなら甲類焼酎の方がクセが少なく適しているだろう。そこに炭酸水を注ぎ、スライスレモンを入れて、マドラーで上下に2、3度突くようにかき混ぜる。

「なんだかウィスキーのハイボールの様ですわね。」

「そりゃそうだ。チューハイってのは元々焼酎ハイボールの略称だからな。作り方は一緒だよ。」

 そう言って二人にタンブラーグラスを渡す。まずは味を覚えて貰おう。

「あっ、炭酸のシュワシュワでキツさ感じない!」

「それにレモンのお陰で後味も爽やかですわ‼」

 気に入って貰えた様だ。次はこれに合うつまみだが。

「鈴谷、作りながら教えてやるから。中に入ってこい。」

「は~い、おっ邪魔しま~す♪」 

 

提督の簡単‼おつまみクッキング~チューハイ編②~

 さてさて、どういう系統のつまみにしたものか。鈴谷から聞いた話では彼氏は肉食系であまり野菜は食べないとか。なら、野菜多めのメニューでいくか。

「んじゃまずは、簡単な奴から。」

 使うのは玉ねぎ。生で食べるから辛いのが苦手な人は新玉がオススメだな。コイツを縦に割って先と根っこを落とし、皮を剥く。

「そう言えばさぁ提督。」

「ん?何だ?」

「玉ねぎって縦横切り方で調理方法分けたりするじゃん?あれ何で?」

「あぁ、あれは切り方で味が変わるせいだ。」

 玉ねぎの繊維に沿って切ると、玉ねぎの辛味成分である硫化アリルが出にくい。生で食べるならそっちの方が適している。

 逆に繊維を断ち切るように切ると硫化アリルが断面から多く出てくる。この硫化アリルは加熱すると、辛味から甘味へと姿を変える。バーベキューや焼き野菜で横に切る事が多いのはこの為だ。

「へぇ~、詳しいじゃん。」

「まぁな。……っと、皮を剥いたらスライサーで薄くスライスしてくれ。」

「はぁ~い。」

 玉ねぎの辛味が苦手な場合は、ここで水に曝す。まぁ、個人的にはそのまま使う方が好みだが。

 次の段階がもう仕上げだ。スライスオニオンに花鰹を加える。市販の小分けパックで十分だ。玉ねぎ1個に1パックが目安かな。

「後はここにマヨネーズ、醤油と……最後にお好みで黒胡椒、と。」

 そう言いながらペッパーミルを回す。味の調整は……まぁ、好みで調節してくれ。これを和えたら出来上がりだ。

「ほいお待ち。『スライスオニオンの鰹マヨ和え』だ。」

 さっきの酎ハイと合わせてみな、と二人に試食させる。

「ん~‼コレ単品だとちょっと辛いですけど、お酒に合わせるとピッタリですわ!」

「うんうん、このちょいピリ辛が良い感じぃ♪」



 お次も野菜メイン。玉ねぎに並ぶ『おつまみにしやすい野菜ベスト3』の一角(俺が勝手に決定)。森のバターの異名を持つ、アボカドだ。皮を剥いてスライスして、そのままワサビ醤油で……でも良いが、それじゃあちと味気ない。

 まずは定番。アボカドを半分に割り、種を取り出す。次に用意するのはトマト缶。これは生のトマトでもOKだ。生のトマトを使う場合は細かく刻んで耐熱皿に。そこにガーリックパウダーとハーブソルト。ハーブソルトは肉の下味からスープの味付けまで幅広く使える便利な奴だ。特に俺はクレイジーソルトを愛用してるので今回はそれで。量はお好みだ。

 味付けしたらトマトをレンジで30~40秒加熱。終わったらアボカドの種を取り除いた窪みになんちゃってトマトソースを盛り、その側に常温に戻して柔らかくなったクリームチーズを一緒に乗せる。仕上げにミントやクレソンなんかのハーブの葉を飾れば完成だ。

「ほい二品目。『アボカドのココット~トマトとチーズを添えて~』だ。」

 二人はスプーンでトマトソースとチーズ、アボカドを一緒に掬って口へ運ぶ。途端に声にならない悲鳴を上げる。

「うんまあああぁぁぁ‼何コレ!あんな簡単なのにスッゴい手間かかってそうな味‼」

「ん~♪しかもこれならワインやトニックにも合いそうですわっ!」

 まぁ、手間かけずに美味い物を、ってのが俺のポリシーだからな。一応、手間かける料理も作れるが。
 

 

提督の簡単‼おつまみクッキング~チューハイ編③~

 さてさて、次は更に簡単。切って混ぜるだけだけど、意外過ぎる組み合わせだけど結構美味しい、そんな一品をご紹介しますよ。

 用意するのは2つだけ。まずはベビーチーズ。最近の奴にはアーモンド入りとかカマンベール入り、クリームチーズ入りなんてのもあるが、好きな奴をチョイスしよう。これを賽の目に切る。出来れば細か目の方が絡みやすくて良いかもな。けど、細かすぎると食べた気がしない。そこはちょうど良い大きさを自分で見つけてくれ。そして合わせるのは……意外や意外、食べるラー油!これをチーズと混ぜるだけ。簡単だろ?

「え~……、これ美味しいのぉ?」

「何と言うか……こう、あまり食欲がそそられる感じでは無いですわ。」

 そうなんだよなぁ。コレ美味いには美味いんだけど、初見だと箸が伸び辛いんだよなぁ。まぁ、騙されたと思って食べてみな。と促すと、2人はおそるおそる箸を付けた。

「ん?さっきのアボカドみたいに物凄く美味しい!ってなるワケじゃ無いけど……」

「クセになってきて、箸が止まらなくなる味ですわね。」

 そういう味にしてあんだよ、ワザと。ちょっとした箸休めになる一品だ。俺はその間に食べるラー油を使ってもう一品。



 使うのはもやし。食感を残したければサッと、クタッとした方が良ければちょっと長めに茹でる。茹でてる間に調味液を作る。市販のもやし1袋(200g)に対して醤油と胡麻油を大さじ1ずつ、ほ〇だしを小さじ1。白ごまを好きなだけかけて混ぜる。コレでベースの「即席もやしナムル」の出来上がりだ。ここに個人の好みでおろしにんにくや鷹の爪、七味を足したり、食べるラー油をかけたりする。これがまた美味いし、タッパーに入れておけば冷蔵庫で1週間~10日位は保つ。ご飯のお伴にもなるし、常備菜にも出来る。実家だと1kgのもやしで纏めて作ってたっけ。

「うん、これも手間かかって無いけど本格的!」

「ご飯の欲しくなりそうなお味ですね。」



 さて、と。じゃあ最後に「おつまみにしやすい野菜ベスト3」、ぶっちぎりの1位を使った料理も作ろうか。

「鈴谷、また手伝ってくれ。」

「はいは~い、鈴谷にお任せぇ♪」

 まずは皮を剥き、茹でていく。火が通ったら水を捨て、再び火に掛けて粉を噴かせる。……そう、個人的にではあるがジャガイモはつまみにしやすい野菜だと思うのだ。

 生食こそ出来ないものの、煮る、焼く、揚げる、蒸す、茹でる。炒める等々、手の加え方で幾らでも姿を変える。そしてお酒にも合う。

「提督、粉ふきいも出来たよ。」

「じゃあ、それを潰してマッシュポテトにしてくれ。」

「了解~。」

 その間に俺は他の具材の準備だ。今回は2品作るので、纏めて下拵え。用意するのはニンジン、キュウリ、玉ねぎ、ハム。それと春巻きの皮(大)に明太子、切れてるチェダーチーズ。

 ニンジンは銀杏切りにして下茹で。玉ねぎとキュウリはスライス。ハムは食べやすい大きさに切る。明太子は皮を裂いて中身をほぐし、春巻きの皮は4つに切る。チェダーチーズも包みやすいように細く切っておく。

「マッシュポテト出来たよー。」

 さて、調理スタートだ。 

 

■提督の簡単‼おつまみクッキング~チューハイ編④~

 鈴谷が作ってくれたマッシュポテトを分ける。分量としては4:1位で良いか。少ない方には明太子と塩胡椒、マヨネーズで明太ポテトを作る。これを先程4等分にした春巻きの皮に包む。この時、隙間が空かないように注意。チェダーチーズも包んでおく。後はこれを揚げるだけだ。

「ほい完成。『チーズとポテトのパリパリ揚げ』だ。」

 そのまま食べても良いだろうし、マヨネーズとケチャップを混ぜてオーロラソースでも美味い。

「んー♪やっぱり炭酸効いたお酒だと、揚げ物は鉄板だよねー。」

「私あまりこういったジャンキーな物は好みませんけど、美味しいですわ。」

「あれあれ~?この間武蔵さんに佐世保バーガーのお店でゴチになって、美味しさのあまりに3つも食べたのはどちらさんでしたっけねぇ?」

「なっ!?そ、それは言わない約束のハズでしょう‼」

「にひひー、朝のお返しだよ~ん♪」

 しかしまぁ、仲の良さといい見た目といい、本当にJKにしか見えねぇなコイツら。そんな事を考えながら、俺は最後の一品に取りかかる。とは言っても、前回読んだらなに作るか、だいたい解っちまうよな?(メタ発言)そう、ポテトサラダだ。居酒屋とかでよく出されるお通しの大定番。……けど、俺のポテトサラダは味付けがちょいと違うのさ。



 まずは作り方は普通のポテトサラダと一緒。切った具材をマッシュポテトに合わせる。味付けは塩胡椒にマヨネーズ。そして一番の特徴がコレだ。

「わ、ワサビ!?」

 そう、ワサビだ。ポテトサラダのアクセントとして粒マスタードや練りからしを入れる事があるが、その代わりにワサビ。ちょっとしたポイントだが、本生ワサビよりも少しリーズナブルな練りワサビ(粉ワサビを練った奴だ)の方が混ざりやすいから味にムラがでにくいぞ。それを結構たっぷり目に入れる。

「食べてみな、『俺流おつまみポテサラ』だ。」

 明らかに2人の顔が引いている。さっきのチーズの食べラー和えの時より引いてる。

「食わないのか?美味いのに。」

 俺は出来を確かめるように一口。口に入れた瞬間、マスタードとも違うワサビ独特の鼻に抜けるツーンとした辛味。しつこく残るワケではなく、本当に良いアクセントになってジャガイモの味を引き立ててくれる。そこに酎ハイをグビリ。クセが無いからこそ、良い感じに口の中をリセットしてくれる。再びポテサラに手を伸ばしたくなる。我ながらホント、良い組み合わせだわ。

「くぅ~、美味いっ!」

 その言葉を聞いて二人も漸く手を伸ばし、試食。

「っ!美味っ‼全然アリなんですけど‼」

「だろ?意外とジャガイモとワサビって合うんだよなぁ。」

 フライドポテトのディップソースとして、ワサビ+マヨネーズに、刻み玉ねぎとパセリ。これも爆うまだ。

「どうだ鈴谷?参考になったか。」

「うん!もうコレでバッチリだよ‼」

 そりゃあ良かったと、俺達は鈴谷の恋愛成就を願って乾杯した。 

 

■焼酎に合う〇〇〇を探せ!

 
前書き

 今回のお話は作者の独断と偏見に基づく物です。必ずしも読者の方々に納得頂ける内容かかなり微妙な線です。ただ、たまには趣向を変えたツマミをチョイスする時の一助になれば、と思います。 

 

 店が暇な時、俺の仕事は大きく分けて3つだ。

・在庫のチェック

・作り置き出来るメニューの仕込み

・新メニュー開発

 の3つだ。1つ目は当然欠かせない。艦隊運営と同じく、店の在庫のチェックは重要だ。2つ目も暇だからこそ出来る作業だな。漬け物や魚の煮付けなんかは、作って冷蔵庫に放り込んで置けば、すぐにパパっと出せる。これも大事だが、3つ目の新メニュー開発。こいつが一番難儀な作業だ。何せウチの店には決まったメニューが無い。客の気分や嗜好に合わせて、ある材料で作る、ってのがウチのスタンスだからな。一応、俺の脳内と秘伝のノートにはメモしておくが、店の壁に貼り出したりはしない。

「うーむ……。」

 その日も俺は、酒瓶とある食材を目の前にしてにらめっこを繰り広げていた。客は無人。いい機会だからと友人に貰った「ある酒」と、お通しの新しいレパートリーの候補である「ある食材」のマッチングを比べていた。

「提督よ、やっているか?」

 扉が開くと同時にそんな声がかかる。そちらを見ると、二人の艦娘が肩を組んでそこに立っていた。

「あぁ、開いてるよ。……てか、CLOSEDの看板出てなけりゃ開いてるのは知ってるだろ?」

「いやいや、一応礼儀としてな。」
 
 どの口が言ってんだ、というツッコミは辛うじて飲み込む。言ったら間違いなく、ブッ飛ばされる。

「まぁ、座れよ。武蔵に霧島。」



 席を勧められた二人はカウンターに腰掛けた。途端に香ってくる酒の匂い。どうやら、ここに来る前に大分エンジンを暖気してきたらしい。

「随分呑んだな?」

「まだまだ、序の口だよ。」

 なんでも、今日は『九州艦娘の会』という集まりの飲み会だったらしい。艦の名前や、軍艦であった頃に九州に縁や所縁のある艦娘達の集まりらしく、定期的に飲みの席を催しているらしい。察するに、メンバーは武蔵、霧島、大淀、日向、望月、鳥海……等々と言った所か。

「ところがですね、私と武蔵さん、そして大淀以外の全員が轟沈しちゃいまして。」

 と、平然とした様子でだらしない、とばかりに語る霧島。どれだけ飲んだ(飲ませた)んだよ、この蟒蛇(うわばみ)共は。大淀も二次会に行こうと誘ったらしいが、「明日も朝早いので」とお断りされたらしい。さすがだ大淀。目の前のアホ二人とはワケが違った。

「それで提督よ。貴様は何をしていたのだ?」

「あぁ、新しい芋焼酎のお通しにな。『チーズの盛り合わせ』を考えているんだが、中々決まらなくてな。」

 そう、先程からの俺の悩みの種はチーズだ。友人から偶然に珍しい芋焼酎を貰ったのだが、折角だから新しいレパートリー開発に使いながら味わおうと考えたのだ。

「ほほぅ。少し酒瓶を改めても良いか?」

 ほれ、と武蔵に瓶を渡す。瞬間、武蔵目がカッと開かれた。

「こ、これは‼紫の赤兎馬じゃないか。よくこんな珍しい酒を……」

 紫の赤兎馬。2008年にネット限定、6000本だけ販売され、即完売した『幻の芋焼酎』。今回運良く、譲って貰えたのだ。

「フ、フフフフフ……。」

 武蔵と霧島が不気味に嗤う。心無しか、眼鏡が光っている気さえする。嫌な予感しかしない。

「提督よ。喜べ‼芋焼酎にはちと五月蝿い私と霧島が、芋に合うチーズを共に選んでくれよう‼」

 フハハハハハハ、とお前はどこの魔王だよとツッコミを入れたくなる位の高笑いを上げる武蔵。あ艦これ、絶対酒飲みたいだけだコレ。 

 

ここぞとばかりに高級な奴選んだ。後悔はしていない。

「さて、まずは私達にも一杯ずつ貰おうか。」

 早くしろ、と急かす様に手を伸ばして来る武蔵。どうやら、本気で飲む気らしい。はぁ。俺も諦めがついたので、ロックグラスに注いでやる。氷は入れずに冷やだ。

「おっ、これは中々……。」

「えぇ、スッキリとした味わいですね。」

 流石に解っているな、と二人の舌に感心する。俺も常温で飲んだ時は随分クセが強いと思ったが、十分に冷やしてやるとクセが全く感じられず、寧ろ芋のナイーブな香りが良いアクセントだ。これなら、芋焼酎初心者でも飲みやすいかもしれんな。

「さて、おかわりを……」

 節操なく伸ばされた武蔵の手を、ピシャリと叩いて止める俺。

「アホゥ、主目的忘れんなよ。チーズとの相性見るんだろうが。」

そう言いながら俺はチーズの盛られた大皿を二人に出してやる。



 俺が今回選んだのは、次の6種類だ。

・ミモレット

・ベルエトワール

・ペコリーノロマーノ

・パルミジャーノ・レッジャーノ

・ロックフォール

・スモークチーズ(手製)

 だ。味見をしたレビューを更に載せておこうと思う。



・ミモレット……フランス原産の牛乳から作られるハードタイプ(歯応えが強い)のチーズだ。発酵にダニを使う事でも有名だな。その独特の味わいから「西洋のからすみ」とも称される。

・ベルエトワール……これもフランス原産の牛乳チーズだ。周囲に白カビを吹き付けてあり、カマンベールチーズをイメージしてもらうと解りやすいだろうか。

・ペコリーノロマーノ……イタリア原産のハードタイプチーズ。ペコリーノとは羊の事で、一般的な牛乳が原料のチーズとはまた違った味わい。しかし何と言っても、特徴は『塩』だ。塩気が凄く際立ったチーズだ。サラダなんかにもいいかもな。好みがかなり別れそうな一品。

・パルミジャーノ・レッジャーノ……イタリア原産のハードタイプチーズ。牛乳原料。この中では割りと有名な部類のチーズだろう。知り合いのバーのマスター(本職)に聞いた所、「最も焼酎に合う」とのお墨付き(?)を頂いた。断面をみると黄色いチーズの中にポツポツと白い塊が見える。これは旨味成分のアミノ酸の結晶で、口に入れて咀嚼すればジャリジャリとアミノ酸が砕けて混じり、更に旨味が増す。そのまま食べても絶品。

・ロックフォール……個人的にはダークホースだと思っている一品。「ブルーチーズの王様」と称される青カビチーズの最高級品。特定の洞窟にしか居ない青カビを使用しなければこの名前は冠されない。好きな人には堪らない絶品チーズ。

・スモークチーズ……これは一応俺の手製だ。スモーク(燻煙)しても溶けないチーズを見つける迄は苦労したが、それを買ってきて桜のチップでスモークしただけ。この中では一番安価。

「うわぁ、高級なチーズばっかり。成金趣味ですか?提督。」

 眼鏡をスチャッと上げながら、此方に辛辣な言葉を投げ掛けて来る霧島。まぁ、確かにこれだけ揃えるのに数万飛んだが良いじゃないか、たまの贅沢くらい。

「……ほう?なら霧島は食べたくないんだな?」

 そう言って意地の悪い笑みを浮かべて皿を回収する俺。

「ちょっ、食べないなんて言ってないじゃないですかっ‼」

「なら文句言うな。」

 さて、長くなったので合わせた感想は次回としようか。 

 

やっぱそっちが目的か。

 さてと、いよいよ焼酎と合わせてみよう。採点は五つ星を満点として五段階評価。まずはミモレットを一切れ口に放り込む。咀嚼して細かくした所に焼酎を一口。

「おっ?これは……」

「口の中で混じり合って、心地好いハーモニーですね。」

 二人の言う通りだな。ミモレットと焼酎が上手く混じり合ってお互いがお互いの長所を引き出していて且つ、邪魔していない。この組み合わせは良いなぁ。

評価:★★★★★

 お次はベルエトワール。カマンベールの豊潤な白カビの薫りが、吉と出るか凶とでるか……。

「んぅ、これは、さっきのより……」

 真っ先に顔を歪めたのは霧島。続いて武蔵も顔をしかめる。

「どうにも、合わんようだ。」

 匂いを消すかのように焼酎を流し込む武蔵。そんなに酷いか。ならば、と俺も一口。

「うーむ、確かに……。」

 二人同様、俺も顔をしかめる。チーズの香りと芋の薫りが喧嘩して、ぶつかり合ってマッチしそうもない。やはり赤ワインに合わせたくなる味だ。

評価:★★★



「んじゃ次は、味を変えてペコリーノロマーノを、と。」

 ん~しょっぱ。この塩っ辛さが芋に合うのか?


「う~ん、塩が強すぎるか。」

「そうですねぇ、せっかくの芋の甘味が負けちゃってますよ、コレ。」 

 確かに、と味わいながら俺も思う。塩辛さが立ち過ぎて芋焼酎その物の良さを感じられない。どちらかといえばジンとかウォッカ系のスッキリした味のカクテルに合わせたい。

評価:★★☆

 次はパルミジャーノ・レッジャーノか。これ普通にチーズ単品だけでも美味いんだよな。ただ、焼酎と合うかはまた別の話。

「ふむ、不味くはない。だが……」

「最初に食べたミモレットの方が、相性よかった気がします。」

 だよなぁ、やっぱり。パルミジャーノの旨味が強すぎて、芋焼酎の味も引き立ててはいるんだけど、どっちもガツガツに主張してきてマッチしてるとは言い辛いな、コレ。

評価:★★★★

「さて、残るは2種類か。」

「ブルーチーズと提督手製のスモークチーズか。しかし私はどうもブルーチーズのキツい香りが苦手でな……」

「あ、武蔵さんもですか?実は私も……。」

 ブルーチーズの青カビ臭さは苦手な人は本当に苦手だからなぁ。吐きそうになるくらい。まぁ、対応策が無い事も無いが。

「まぁ、取り敢えず味見しようぜ。」



 結果的には、芋焼酎にブルーチーズはあまり合わないと判明した。青カビの香りが芋の香りを完全に邪魔してしまっている。味は合っていると思うんだがなぁ。

「て、提督……すまんっ‼」

「飲み込めそうに……無いですぅ。」

 二人とも青い顔をしてプルプル小刻みに震えている。ありゃりゃ、こりゃ重症だわ。仕方無い、秘密兵器を出すか。

「二人とも、口の中身は吐き出しちゃっていいからさ。今度はコレかけて食べてみな。」

 俺が差し出したガラス瓶。それは……

「これは……ハチミツ?」

 そう、ハチミツだ。コレをブルーチーズにかけてから再び口に入れる。

「ん‼美味い、臭くない‼」

「寧ろ絶妙なアクセントですよ、コレは!」

 うん、思った通り。ブルーチーズ+ハチミツは青カビ臭さを抑えて味を引き立ててくれる。そして芋焼酎とのマッチングもバッチリ。

評価:★★★★★+α※但し、ハチミツ追加の場合。

 最後はスモークチーズか。う~ん、しかしこれは……

「スモークがあんまり合いませんね、芋の香りに。」

「……だよなぁ。やっぱり合わせるならビールかウィスキーだわ。」



 う~ん、こうなって来るとやはりミモレットとブルーチーズ(ハチミツ掛け)か?

「なぁ、どう思う?」

「うむ。私も最初はミモレットが良いと思ったんだがな……?」

 武蔵は頬をポリポリと掻いて、申し訳なさそうにこう言った。

「こう……したたかに酔って来たら、パルミジャーノ位に自己主張が激しいチーズの方が合う気がしてきた。」

「あ、それ私も思ってました。酔いが回ってくると強烈な味の方が良いですね。」

 そうか、なら決まったな。

「ありがとよ。チーズの盛り合わせはミモレットとパルミジャーノにするよ。」

「いやいや、決まってよかった。それに美味いチーズと焼酎もご馳走になったしな。」

 あ、よく見たら一升瓶空じゃねぇか‼

「テメェら呑みすぎだこの野郎!折角の貴重な酒がぁ……」

 俺の涙などなんのその。二人は更に酒とツマミを注文してきた。こうなりゃヤケだ。

「お前ら、朝まで寝かさんからなっ‼」 

 

深酒イクナイ。

 突然だが、読者諸兄は『深酒し過ぎた女子』を見て、どう思うだろうか?オイシイ、と思う人もいるかも知れんが、そんな奴はケンペイ=サンのケジメ案件まっしぐらだ。可愛く寝息をたてたりしていればまだマシな方だろう。大概はそう、目の前にいるーー、

「提督ぅ~、達磨お代わりぃ~。」

 そう、目の前にいるこの『那智』のように、

『めんどくせぇ……』

 と思うだろう。一応本人の名誉の為に言っておくが、那智はそこまで酒に飲まれるタイプではない。寧ろ、鎮守府内でも強い部類に入る艦娘だ。だが、普段から武人然として四六時中気張っているせいか、時たま本人も気付かない内に酒を過ごしすぎる。そうすると普段とは正反対のフニャフニャになった那智が出てきて、これまた普段からは考えられない位に甘えてくる。まぁ、俺の店で二人きりの時位にしか出てこないので、それもまた意地らしく、可愛らしいのだが。

「はぁ。飲みすぎだぞ?今日はもう止めとけ。」

「や~だ~、飲~む~。」

 もう大きな駄々っ子状態。こうなってくると話題は、いつも姉妹達の事だ。

「私は戦う事しか能がない脳筋重巡なんだ。そんな私がMVPを取った時位は飲ませて貰ったって良いじゃないかっ。」

「いや、お前何かと理由つけて毎晩飲んでるからな?それ毎日理由つけて宿題やらない夏休みの小学生レベルの思考だからな?」

 む~、と唸る那智。普段の飲み癖は全く問題ないと言える。寧ろ妹の足柄もメンバーである『残念系美人四天王』の方が毎晩酷い。ただ、たまに出てくるこれを除けば、の話だが。



「だってだって、男は妙高姉さんや羽黒みたいな清楚系美人か、足柄みたいな残念系美人が良いんだろ?私なんて、私なんて……。」

「いや、何気なく妹ディスんなや。てか、今度は泣き上戸かよ。ホントにめんどくせぇな……。」

 と、その時不意に店のドアの扉が開く。そこに見えるのは小さな影。今日始めてこの店に来たその娘を、俺は朗らかに出迎えた。



「こ、こんばんは……。」

「どうした?子供はもう寝る時間だぞ?」

 掴みというか、定番というか。その娘をからかうには一番効果的であろう“子供扱い”をしてみる。

「ちょっと!子供扱いしないでよっ‼暁はレディーなんだからっ‼」

 おぉう、予想通りの反応。ホントにもう、暁はチョロかわだわ。

「それで?今夜はレディーが何用で?」

「あ、あのね?その……明日お休みだから、響達と一緒に夕張さんから借りたアニメ見てたの。」

 オイ、夕張とアニメって単語から物凄ぇフラグ臭がしてると感じるのは俺だけか?

「そそそ、それでね?その内容が……ちょっと…ホントにちょっとよ?恐くて…。だから、気を紛らわす為にお酒飲みに来たの。」

「……因みにだが、何を見た?」

「………学校の怪談。」

 よし、明日夕張はシメておこう。心の中で静かにそう決意する俺。

「仕方無ぇなぁ。んじゃ、お前ら二人にはとびきりのカクテルをご馳走してやる。」 

 

これはレディーですわ。

 まずは簡単な奴から行くか。ライムジュース20mlに、ガムシロップを容器の半分。それをジンジャーエールを適量で割り、クラッシュドアイスを入れたコリンズグラスに注げば完成だ。

「ほれ。まずは一杯目『サラトガ・クーラー』だ。」

 3杯分用意して、2人に手渡す。乾杯して、ゴクリと一口。

「美味しい!辛くない‼」

「ん。確かに、キツくないから飲みやすい。」

そりゃそうだ。これアルコール入ってないカクテル……モクテルだもの。呑兵衛な読者諸君は、ここにウォッカやジンを足すと中々に美味だ。因みにだが、サラトガという名前の全くレシピも違うブランデーベースのカクテルがある。下戸な読者の方はバーで頼む時には注意しよう。

続いて俺はお代わりの準備を始める。オレンジジュースとレモンジュースを2:1の割合でシェイカーに入れ、風味付けにアンゴスチュラ=ビターズというお酒を2dash。1dashは1mlなので、含まれるアルコールはほぼ0だ。最後に先程残ったガムシロップを淹れたらシェイク。少し大きめのカクテルグラスか、シャンパングラスに注いだら完成。

「はい、お代わり。『フロリダ』だよ。」

 ルーツはアメリカ禁酒法時代と言うから、かなり歴史の古いモクテルだ。更にフルーティーにしたいなら、ガムシロップの代わりにザクロを使ったグレナディンシロップを使うとよりフルーティーな味わいに出来る。察しの良い読者諸兄は既にお分かりかと思うが、今俺は那智にアルコールの入っていないモクテルを飲ませ、血中のアルコール濃度を下げようと努力しているのだ。


「美味し~い!司令官、もっとちょうだい‼」

よほど気に入ったのか、もっと寄越せとせがんでくる暁。まぁ、いってみればちょっと大人っぽいミックスジュースだからなぁ。飲ませても問題ない、か?

「……そうだな。今度は趣向を変えて、南国風な物を貰えるか?」

 少し口調が戻って来た。脳が再始動し始めたらしい。

「OK、ちょっと待ってな。」

 用意するのはココナッツミルクとパイナップルジュース。それと氷をたっぷりと。ココナッツミルク45mlに、パイナップルジュースを80ml。それを氷と共に投入するのはバーブレンダー。ま、簡単に言えばミキサーだな。氷が細かくなるまでミキシングしたら、カットパインとレッドチェリーを飾り、ストローを刺す。

「おまち。『ヴァージン・ピニャ・コラーダ』だ。今日は暑かったからな、フローズンスタイルにしてみた。」

 このように長時間掛けて飲むカクテルをロングスタイルカクテルと呼ぶ。ヴァージンとは言っても処女ではなく、「初めての」という意味合いで使われ、カクテルに付く場合にはノンアルコールである事を指し示している。呑兵衛な人はここにライト・ラムを30ml足せばピニャ・コラーダになるし、ウォッカを足せばチチというカクテルになる。試してみよう。

「う~ん、このココナッツミルクの独特の風味が、まさにトロピカルよねー。」

「うむ。ところで提督、ぴ……ぴにゃ?ぷにゃ?こらーだとはどういう意味だ?」

 横文字苦手な那っ智可愛い(ノ≧▽≦)ノ

「ピニャ・コラーダな。スペイン語で『裏漉ししたパイナップル』って意味だぞ、確か。」

「流石に博学だな。」

「まぁな。好きこそ物の上手なれ、って奴さ。」



「しかし……暁が羨ましいよ。」

 ピニャ・コラーダを啜りながら、那智がそう呟いた。途端にむせかえる暁。

「ふぇっ!?ななな、何言ってるの那智さん!?」

 赤くなってドギマギする暁を尻目に、那智はクスリと笑って更に続けた。

「だって、私と同じ四姉妹の長女として妹達を取り纏めているし、自分の向上心も落ちる事がない。私には、暁がその名の通りに眩しく見えるよ。」

「何言ってるのよ那智さん!那智さんは立派なレディーじゃない!」

 顔を真っ赤にして那智の発言を真っ向から否定したのは、誰あろう暁だった。

「那智さんは私達をどんな時だって身体を張って護ってくれるじゃない。自分が大破しようとお構い無しで他人を守れるなんて、とってもレディーな振る舞いだと思うわ。」

 そうだよ、そうなんだよな。暁は普段ポンコツ(ヒドい)だけど、たま~に凄く良い事を言うんだよな。それが常に出せれば、一人前のレディーだと思うんだが、それにはまだまだかかりそうだ。

「さて、そろそろ店仕舞いだ。これを飲んでお帰りになられては?二人のお姫様。」

 そう言って差し出したカクテルグラスの中身は「シンデレラ」。パイン・レモン・オレンジジュースを同じ量だけ入れてシェイクし、原料と同じカットフルーツで飾った見た目にも華やかなカクテルだ。更にそれをソーダ水で割り、爽やかさをプラスした。

 気付けばもう時計は12時を回っている。さぁ、舞踏会は終わりの時間だぞ?

「ふふ、そうね。夜更かしはレディーの大敵だもの。ねぇ、那智さん?」

「そうだな。じゃあこれを飲んだらお暇するとしようか。じゃあ、小さなレディーに乾杯だ。」

 そう言って二人はグラスを軽く打ち合わせ、飲み干すと席を立っていった。あれだけ酔っていた那智の足取りも軽やかだ。どうやら、小さなレディーの活躍のお陰らしい。

 そして翌日、第六駆逐隊の部屋から雷の怒鳴り声が聞こえた気がしたが、俺は何も聞いていない事にした。 

 

たまには故郷のMammaの味を。

 長く、苦しい夏の大規模作戦だった。『第二次SN作戦』ーー。数年前にも大規模作戦の戦場となったソロモン海海域を再び主戦場とした今作戦では、我が鎮守府は敵の部隊の戦力を削る「丙作戦」に編入され、1隻の撃沈を出す事もなく見事に担当した7つの海域を突破。新たに海外艦娘を含めて7隻の新規加入メンバーを迎える事となった。なので今日は、その海外艦娘の歓迎会を兼ねた慰労会をやろう、という運びになった。それに合わせて、家具職人妖精さんを始め、多くの妖精さん達に協力してもらって店舗にも手心を加えた。細工は隆々、準備万端だ。と、待ち兼ねた客が来たらしい。扉をノックする音がする。

「おー、来たな。入れ入れ!」

「提督、こんばんは。」

おっとりした印象を受ける柔和な雰囲気を纏った戦艦・リットリオ。今は改装を済ませてイタリアか。

「……お招きどうも。」

眼鏡に仏頂面、いつも不機嫌そうな神経質そうな表情のローマ。そしてその影に隠れるように、ちょこちょこと小さな影が1つ。

「提督さ~んっ!リベも来たよ~‼」

そう、今回の主賓とも言えるマエストラーレ級駆逐艦3番艦・リベッチオだ。見た目通り、清霜とか卯月に近い元気いっぱいなタイプだな。

「まぁまぁ、まずは座って。」

俺はそう言って3人をカウンターに導く。イタリアは店の中をキョロキョロと興味深そうに眺めている。

「他の方の話には聞いていましたけど、本当に良い雰囲気のbar(バル)ですね。」

そうそう、イタリアとかスペインなんかのラテン語圏だと、barって書きは一緒でも読みが英語圏とは全然違うものな。

「あぁ、今回お前達をもてなすのに、少し弄ったからな。ちょっとイタリアのバルっぽく模様替えしたんだ。」

 しかし何と言っても、最大の目玉はピザ焼き用の石窯だろう。本場イタリアの素材というわけには行かなかったが、妖精さん達の頑張りで本格的な石窯が組上がった。



「何はともあれ、夏の大規模作戦、お疲れ様でした。イタリアとローマ。二人の活躍がなければこうしてリベッチオを迎える事はできなかっただろう。」

「……ふん、褒められて悪い気はしないわね。」

「提督の的確な指示があればこそ、ですよ。」

 対称的だが、二人ともどこまでもマイペース。こんな感じがイタリア艦娘の特徴なのか?

「そこで、だ。お前達二人も着任して約半年だ。そろそろ故郷の味が恋しくなって来た頃だろうと思ってな。リベッチオの歓迎会も兼ねて、お前達に俺からイタリアンを振る舞おうと思ってな。」

 おお~、と驚きの声をあげるリベッチオ。そして嬉しそうに顔を綻ばせるイタリア。しかしローマは……

「あら、日本人の貴方に私達が納得出来る料理が作れるのかしら。」

 と、眉に唾付けて話を聞いていやがる。なら食わせてやろう、俺のイタリアンを!
 

 

料理回のつもりがお酒回になってしまった。


「さてと、まずは食前酒でも如何かな?お嬢さん方。」

イタリアンは多少本格的に作りたい。せっかくキッチンもそれ用に改装したんだ、少し調理にも手間をかけていくので、その時間繋ぎにも飲んでおいて貰おう。

「イタリアのお酒は何があるんです?」

「有名な銘柄は一通りあるぞ。イタリアワインが7種類、後はアペロール、アマレット、ガリアーノ、カンパリ、グラッパ、サンブーカ、ストレガ、チナール、ディロサンノ・アマレット、ナストロ・アズーロ、ノチェロ、フランジェリコ、ベルモット、ペローニ、マラスキーノ、リモンチェッロ……位か?」

「ず、随分取り揃えてるのね。」

「まぁな。仮にもBarを語るにゃ、この位は揃えてないとな。」

 イタリア産の酒はカクテルの原料になる物が多い。そのままでもカクテルでも飲みやすいので、多種多様な種類を揃えている。

「では……、私はグラッパを。」

「いきなりグラッパかよ。キツいけど大丈夫か?」

苦笑いしつつ、イタリアの注文を受ける。グラッパとは大きく分けるとブランデーの仲間で、その大きな特徴はワインではなくポマースと呼ばれるブドウの搾りカスを発酵させたアルコールを蒸留して作るのが大きな特徴だ。また、ブランデーの特徴である樽熟成をしないため、ブドウの香りが強く残っている。アルコール度数は30°~60°。主に食後酒として飲まれる事が多い一杯だ。また、観光客向けのグラッパの瓶は美しく、インテリアにも向いている。



「なら……私は『ゴッド・ファーザー』を。」

「お、中々マニアックなカクテル知ってるな。」

「……まぁね。ホラ、早くちょうだい。」

 俺、嫌われるような事したんだろうか。まぁ、気を取り直して作り始める。

 ウィスキー7割、アマレットが3割。これを四角く角張ったオールド・ファッションド・グラスに氷を入れて注ぎ、軽くステア。ウィスキーの香りとアマレットのアーモンドのような香ばしい香りが芳しい一杯だ。因みにアマレットのアーモンドのような香りは、アーモンドを使っている訳ではなく、杏仁豆腐の原料でもある杏仁(杏子の種子の中身)を使っている。アルコール度数は34°~36°と高めなので、ゆっくりチビチビと飲むロングカクテルだ。



「リベはねぇ~、う~んとねぇ……。リモンチェッロ!ちょっとキツいから炭酸割り‼」

「ははは、リモンチェッロとはリベッチオぽいな。」

リモンチェッロはレモン・リキュールの中では中々有名な1本だ。ウォッカなどのホワイトスピリッツにレモンの皮を一定期間漬け込み、それを取り出した後に砂糖水(又はシュガー・シロップ)を加え、一週間~一ヶ月熟成。鮮やかな黄色とレモンの風味、そして砂糖の甘味で飲みやすいが、アルコール度数30°と少し高め。割らずに飲むのが一般的だが、炭酸割りにするとレモネードのような爽やかな口当たりになる。

「さぁさぁ、作ってる間は飲んで待っててくれ。」

「では……乾杯♪」

 さて、作りますかね。そう俺は心の中で呟くと、手早く調理を始めた。 

 

■提督のお手軽‼イタリアンクッキング~本格パスタ編~

まずは定番、パスタから行こうか。俺はキッチンの下から鉢植えを取り出した。

「それは……バジル…ですか?」

 イタリアの言う通り、コイツはバジルの鉢植えだ。育てるのも簡単だし、鉢植えで十分な量のバジルが取れる。独り暮らしやマンション暮らしの人にもオススメだ。鉢植えから使うだけバジルを摘み取ったら、葉の汚れを落として水気をしっかりと拭き取る。次に用意するのはニンニク、オリーブオイル、塩胡椒、煎った松の実。松の実がなければバタピーやカシューナッツ、クルミ、最悪ミックスナッツでも良い。取り敢えず、1人分の分量は……

ニンニク:ふた欠け

オリーブオイル:30cc

ナッツ類:20g

塩胡椒:適量(バタピー等の塩味が付けてある物は調整してあじつけしてな。)

 バジル以外の上の材料を、フードプロセッサーで粉砕する。粒の粗さはお好みだが、なるべく細かい方がオススメだ。細かくなったらそこにバジルを加えてさらにフードプロセッサーで砕く。チーズを入れて砕く場合もあるが、そうすると保存が効きにくくなる。チーズは後入れ推奨だな、個人的には。バジルがペースト状になったら完成だ。

「Genovese alla pesto……所謂ジェノベーゼソースって奴ね。」

 ご明察だ、ローマ。後はこれを茹でたてのパスタ……今回は平打ち系のパスタ・リングイネやトレネッテに粉チーズと共に絡めてやれば……

「出来たぜ、Trenette al pestoだ。」

「うーん、バジルの香りが爽やかですねぇ。」

「提督さんって、ホントにお料理上手なんですねぇ♪どうですか?ローマさん。」

「……ふん、まぁまぁね。」

 あ~らら、手厳しい事で。んじゃ、パスタでもう一品。因みにだが、さっきのジェノベーゼソースは纏めて作ればジップロックで板状にすれば冷凍保存も効くぜ?パンにチーズと一緒に載せてトーストするのも結構美味くてツマミになる。



 なら今度はトマトベースで行こうかな?使うのはニンニク、トマトの缶詰め、バジル、オリーブオイル、鷹の爪。トマトの缶詰めは玉ねぎのみじん切り入りならそのまま、入ってない物なら玉ねぎも追加で。

 まずはオリーブオイルでニンニクのスライスかみじん切りを炒めて香りを出す。鷹の爪も種を取って輪切りにして加える。種入るとマジで激辛になるから注意な、冗談抜きで。←(辛い物好きだからと試したバカ、約1名。)あ、鷹の爪もベランダで鉢植えで育てられます。ベランダ農園、意外とオススメ。

 ニンニクの香りがたってきたら、トマト缶とバジルを千切って入れ、煮立ってきたら火を弱めて煮込む。玉ねぎが入っていないタイプのトマト缶なら、玉ねぎもここで忘れずに加える。水分が減ってきたらパスタの茹で汁を加えて伸ばす。だから塩は要らない。伸ばす時の粘り気の目安としては……そう、かき混ぜてトロトロになったヨーグルト位が丁度良いかな。後はそこに茹でたパスターー今回はペンネを加えて絡める。盛り付けて粉チーズを振りかけたら完成だ。

「Penne alla arrabbiata……ペンネアラビアータですね!」

「そうだ。リベッチオは辛いの大丈夫か?」

「うん!……だから提督さん、私の事はリベで良いってばー‼」

 椅子の上でムキー!となりながら手足をバタつかせるリベッチオ。可愛らしいなぁ、もう。

「で?どうかな、ローマ。」

「な、中々やるじゃない。『カンパリソーダ』っ‼」

「……へいへいw」

 素直じゃねぇなぁ、もう。そんな様子を見てクスクス笑うイタリア。しかし良いコンビだな、この姉妹も。今作ったのは極々シンプルなアラビアータソースだ。単調過ぎて味気ないと思ったらコンソメの顆粒を足しても良いし、ツナ缶を加えるのもオススメだ。ピザソースにも使えるし、スパゲッティでも合わせたら美味い。まぁ、難点としては日持ちしない所だな。作り過ぎ厳禁。

さてさて、次はイタリア料理の大定番、ピッツァでも焼こうかな、っと。 

 

提督のお手軽‼イタリアンクッキング~本格ピッツァ編~

 
前書き

 さて、前回の続きです。今回はパスタに並ぶイタリアンニ大巨頭、ピッツァ編です。 

 
 さてと、先ずはピザ生地から行こうか。
材料(20cmサイズ3枚分)

・薄力粉150g

・強力粉150g

・イースト3g

・塩5g

・オリーブオイル2g

・砂糖3g

・水150cc

・ぬるま湯30cc

 先ずは強力粉、薄力粉、塩をよく混ぜ合わせる。この時イーストは入れないように注意な。塩とイーストは相性最悪、生地が膨らまなくなるからな。次はイーストの準備。ぬるま湯にイーストと砂糖を入れてかき混ぜる。イーストが発酵して細かい泡がたくさん出始めたらOKだ。水は入れない。イーストが発酵しなくなるからね。ここまで来たら、先程の薄力粉にイーストと水を加えて捏ねていく。ある程度纏まって来たらオリーブオイルを加えて更に捏ねる。水分が多いと感じて来たら、少しずつ粉を足す。ベタつきがなくなって生地に粘り気が出てきたら完成だ。使う分量毎に1枚分ずつに切り分けて、ラップでくるんで一晩冷蔵庫で寝かす。これは明日の分の仕込みだ。今日使う分は昨日の内に仕込んである。



 次はソースだ。先程作って残っているアラビアータソースが勿体無いから、使いきってしまおう。それとド定番、トマトソースも作っておく。

 トマト缶をベースに玉ねぎとニンニクのみじん切り、そこにクレイジーソルト。味見をして物足りなかったら、コンソメの顆粒を足しても良い。これだけでお手軽なトマトソースが出来る。

さて、生地を延ばすぞ。良くピザ生地を回して延ばすパフォーマンスがあるが、アレは流石に出来ん。ピザピール(ピザ窯の中でピザを回してるアレ)の上にピザ生地を載せて丸く延ばす。延ばした生地にトマトソースを塗り、フレッシュバジルとモッツァレラチーズを千切って載せたら、窯にそのままIN。中は妖精さんが薪で温度管理してくれている。報酬は後でスイーツ食べ放題で手を打った。

後は焼け具合を見ながら2枚目も準備していく。別のピザピールに生地を広げ、そこにアラビアータソース。更に具材にツナ缶とアンチョビを載せたら、此方にはゴーダチーズを使う。ご家庭でやるときは市販のピザ用チーズが良いと思うぜ。

そろそろ1枚目が良い感じだろう。ピザピールで窯の中のピザをクルクルと回して焼きムラを無くして、ピールに載せたら一気に引き抜く。

「お待ちどう様、ピッツァマルゲリータだ。」

ナポリピッツァの代名詞、ピッツァマルゲリータ。マルゲリータは昔のイタリアの女王の名前だな、カクテルにも同じ名前がある。3人がマルゲリータを熱々の内に堪能している間に、俺は2枚目の焼きに入る。

「どうだ?美味いか。」

「最高だよ提督~!日本でこんなに本格的なピッツァが食べられるなんて‼」

リベッチオはご満悦のようだ。イタリアとローマも黙々と食べている。気付くと、イタリアはグラッパを一瓶空けている。コイツ、いつの間に……。良く見ると、ローマのカンパリソーダのグラスも空だ。

「どうするローマ?まだ飲むか?」

「そうね、赤ワイン頂けるかしら?」

 見ると、少し頬に赤みが差して少し酔って来たのだろうか?目がトロンとしてきている。

……っと、2枚目も焼き上がりだな。

「ほいさ、ツナとアンチョビのピッツァ……トンナータだ。」

「~♪アンチョビの塩気が良い感じにお酒に合いますねぇ。」

 さてさて、結構腹もみたされたであろう御三方。まだお腹の方に余裕はあるのかな?と尋ねてみた。リベッチオは流石に苦しそうだが、イタリアとローマはまだ余裕があるようだ。

「じゃあ、ここからは日本人の特技のご披露の時間と行きますかねぇ。」

 次回に続く! 

 

提督のお手軽‼イタリアンクッキング~和風イタリアン編①~

 さてさて、今度は日本人の舌に合わせてアレンジされた「和風イタリアン」を御賞味頂こうか。

 用意するベーシックな材料は、玉ねぎ、プチトマト、砂糖、オリーブオイル、酢(イタリアンの味を強くしたいならワインビネガー、和風イタリアンにしたいなら米酢)、クレイジーソルト、冷蔵庫にハムやちくわがあったら、それを入れても美味いぞ。

 まずは玉ねぎをスライス。面倒ならスライサーを使おう。俺は手間でも無いので包丁でいく。ダダダダダダダッ、とテンポよくスライスしていると、ローマが感心したように

「良い手際じゃない?流石は元プロね。」

「は?俺は元プロじゃねぇぞ。あくまでも趣味だ。」

「え~っ!?提督さんてシェフだったんじゃないの?」

 リベが驚いたように叫ぶ。誰だよ、そんな風説の流布を流した奴は。まぁ、何となくわかるけど。

「だって、青葉さんの『鎮守府日報』に書いてありましたよ?提督は元シェフだって。」

 アオバワレェ……。後で覚えとけよあんにゃろう。まぁいいや、調理を進めよう。玉ねぎのスライスが終わったら次はプチトマト。ヘタを取って半分に切る。数は……食べたいだけ入れよう。ハムやちくわが入る時はここで食べやすい大きさに切っておく。此方も量はお好み。

 具材が切り終わったらタッパーに入れて酢を入れる。量は全部が浸るまで入れる必要はない。そこに砂糖とオリーブオイルを大さじ1ずつ。酸味がキツいのが嫌ならオリーブオイルを更に足そう。仕上げにクレイジーソルトを適量加えて、冷蔵庫で1時間寝かせれば完成だ。

「あ、marinataですか。」

 流石は飯ウマと噂されているイタリアだ。marinata……所謂マリネだが、これをそのままレタスに盛り付けても良いんだが、今回は更にそこに一手間。



 用意するのは絹ごし豆腐。水気をある程度切ったら大きめにカットしてその上にmarinataを載せる。

「提督風イタリアン冷奴~marinataを載せて~だ。召し上がれ。」

 イタリアとローマは鎮守府の味噌汁等で豆腐は食べているだろうが、リベは恐らく今回が豆腐初挑戦だろう。慣れない箸を使いながら、リベが一口パクリ。

「っ‼美味しいねコレ。トウフって初めて食べたけど、不思議な味~。」

「まぁ、そうだろうな。豆腐は大豆と水で良し悪しが決まる食べ物だから、色んな味とマッチしやすい食品だし、高タンパク低カロリーでダイエットのお供にも良いしな。」

「それは嬉しいですね!」

いきなり大声を出したのはイタリア。なんだなんだ、びっくりするだろうが。

「あ、いえ……そのぅ………。最近食べ過ぎちゃったのか、バ、バルジが…。」

 あっ……(察し)。あんまり触れないでおこう。それも優しさだ。 

 

■提督のお手軽‼イタリアンクッキング~和風イタリアン編②~


 さて、前菜的な物は味わって貰った。次は日本生まれのパスタとピザを味わって貰おう。

 先ずはパスタだな。一般に良く使われるスパゲッティを茹で始めたら、次は具材を刻んでいく。使うのは玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、そしてお手製のスモークベーコン。ここまで書いたらもうまるわかりだよな。日本生まれのパスタの代名詞、ナポリタンを本場イタリアの艦娘に味わって貰おう。

 玉ねぎはスライス、ピーマンは半分に切ってからか、そのまま輪切り。マッシュルームもスライスして、ベーコンは食べやすい大きさに切っておく。後は炒めていくぞ。

 フライパンにサラダ油を引き、ベーコンを炒めて脂と共に旨味を出させる。そこに野菜類をドバッと入れたら、油に馴染ませるように炒める。ここで軽く塩胡椒をふってもいいが、ケチャップの味を計算に入れて振らないとしょっぱくなってしまう。

 スパゲッティが茹で上がったら、ザルに揚げて軽く水気を切る。具材が十分に炒まったらスパゲッティを加えて具材と良く絡ませる。仕上げにケチャップ。最近のちょっと小洒落たカフェなんかだと、ケチャップじゃなくてトマトソースを使ったりするらしいが、そんなのはナポリタンじゃねぇ。ここで味見をして、少し塩気に物足りなさを感じたらパスタの茹で汁をお玉で加える。少しずつ加えて様子を見るようにしよう。

 出来上がったら皿に盛り付けて、パルメザンチーズとタバスコを添えて出してやる。

「ホレ、日本生まれのパスタ……ナポリタンだ。お好みでタバスコとパルメザンチーズを振りかけて食べるんだ。」

 3人共に興味津々でフォークに巻き付けて食べる。だが、何とも言えない微妙な表情。

「う~ん……とてつもなくマズい、という訳では無いんだけれど…。」

「やっぱり、トマトソースを使ったスパゲッティの方が美味しいわ。」

 そりゃあそうだろうな。元々ナポリタンは終戦直後の物資不足の中で生まれた料理だから。

「まぁな。でも、それは日本人の努力の結晶なんだぞ?」



「え、どういう事?提督さん。」

「いいか、ナポリタンてのはな……。」

 終戦直後、日本はGHQをはじめとする連合国の占領下にあった。それに日本中焼け野原で物資も乏しい。そんな中である日、東京のとあるホテルに米兵がやって来た。

「スパゲッティが食べたい。」

 注文を受けたはいいが、ソースを作る為のトマトは無いし、スパゲッティは昨日茹でて余ってしまった残り物しかない。具材に使えそうな野菜も僅か……。そんな状態であるシェフがフライパンで刻んだ野菜と少し残っていた配給の加工肉を炒め、そこに余り物のスパゲッティを加えて、トマトソースの代わりにケチャップを突っ込んだ。そんな適当な料理が美味いハズが無いと仲間のシェフ達は止めようとしたが、そのシェフは皿に盛り付け、味に深みが足りないだろうと粉チーズをウェイターに持たせて運ばせた。

 緊張の一瞬。米兵の機嫌を損ねたらどうなるか解った物ではない。食べ終えた米兵がウェイターを呼ぶ。

「この料理を作ったシェフを呼べ。」

 不味かったのか。作ったシェフは項垂れて米兵の下へと向かう。

「大変美味しかった。仲間にも紹介したいのだが、これは何という料理だ?」

 口の周りをケチャップだらけにして、にこやかにそう語る米兵。そこでシェフは、自分が知っていたイタリアの都市、ナポリから名前を取ってこの料理をナポリタンと名付け、この料理は瞬く間に日本中に広がっていった。やがてナポリタンは喫茶店等の定番メニューとなり、人々に親しまれるようになって今に至る。


「ま、そんな具合で使える物が少ない中、諦めないで美味しい料理を提供しようとしたシェフの思いが、その素朴な味のパスタ料理には籠められてるのさ。」

「……なんでしょうね、そうやってこの料理の出自を聞くと、何だか暖かさを感じるような、そんな不思議な味に感じますね。」

 そう言いながら二口、三口と食べ進めるイタリア。

「まぁ、元々不味い訳ではないし。」

 先程よりも少し頬に赤みが増したローマも食べ進める。少し目も潤んでるか?もしかして意外と涙脆いのか?

「確かにねぇー。どんどん食べてくと、クセになってくる不思議な味~。」

先程まで苦しそうだったリベも頑張って食べ進めている。そんな3人を微笑ましく見ながら、俺は最後の一品に取り掛かった。 

 

■提督のお手軽‼イタリアンクッキング~和風イタリアン編final~


 さてと、まずはピザピールの上にピザ生地を延ばす。その上に塗るのはマヨネーズ。

「提督、それはピッツァ・ビアンカなのですか?」

「まぁ、大きく分ければそうだろうな。」

 ピッツァ・ビアンカとは、ピザソースにトマトベースの物を使わない白いピッツァを意味する。ま、そんな区分分けにこのメニューが当てはまるのか知らんが。 会話しつつも俺は調理の手は止めない。マヨネーズを塗り終えた生地の上に、スライスオニオン、スイートコーン、マッシュルームを彩り良く散らす。酒のツマミにするなら、ハラペーニョなんかの青唐辛子を小口切りにして散らすのも美味いぞ。今回はツマミにするのでこれも散らしておく。そしてここから、このピザのメイン食材を載せていく。



 昨日の内に作っておいた「それ」を、冷蔵庫から取り出す。

「提督?それは……グリルチキン?」

「惜しいな、ローマ。これはチキンの照り焼きだ。」

 そう、俺は今照り焼きチキンピザを作っている。日本生まれのピザと言えば、これは外せないだろう。

「お魚の照り焼きは何度か食べましたが……あの甘い味付けがピッツァに合うんでしょうか?」

 少し不安そうにするイタリア。まぁ、食べてもらえば解るだろ。俺は手製の照り焼きチキンを薄くスライスしてピザ生地に載せていく。簡単にやるなら、コンビニとかスーパーで売ってる照り焼きチキンの切り落としで十分だ。その上からチーズを振りかけて窯にIN。後は焼け具合を確認しながらピールで生地を回していき、焼き上がったら窯から取り出し、仕上げに刻み海苔を散らす。

「出来たぞ~。照り焼きチキンピザだ。」



 恐る恐る、と言った様子で手を伸ばす3人。一口パクリ。

「わぁ、マヨネーズの塩気と照り焼きの甘さがちょうど良い感じです!」

「うん、初めての味だけど、とっても美味しいね‼」

 うんうん、リベとイタリアには好評みたいだな。

「どうだ?ローマ。美味いだろ?」

「うん、とっても美味しい‼」

 あれ?ローマさんてこんなキャラでしたっけ?なんかキャラ違いません?

「提督さんてホンットにお料理上手なのね!ローマ、ビックリしちゃった!」

 豹変したローマに戸惑っていると、イタリアがクスクス笑っている。どうやら、この原因を知っているらしい。

「あらあら、やっぱり限界でしたか。」

「どうしたんだ、このローマは。」

「実はローマ……あんまりお酒が強くないんです。ちょっと飲み過ぎると、幼くなっちゃうんですよね。」

 要するに幼児退行しちまうのか。中々新しい酔い方だな、ソレ。



「さてと、リベの歓迎会もこれでお開きだ。楽しんで貰えたかな?」

「うん、と~っても美味しかったよ!頑張ったらまた作ってね‼」

 頑張ったご褒美じゃなくても、店に来たら作ってやるよ、と笑いながら3人を見送った。翌日、顔を真っ赤にしたローマに『昨日の事は忘れろ~!』と叫ばれながら追いかけ回されたが、何の事でしょうかね?(棒読み) 

 

鎮守府の昼下がり

 夏の大規模作戦も終わり、鎮守府にも多少ゆったりとした時間が流れているこの時期の空気感が、私は嫌いではない。無論、毎日の必要最低限の任務はこなしている。……が、備蓄されていた大量の資材を放出した直後では、積極的な攻勢に出る事も出来ない為、艦娘達の間には半ば遅れてきた夏休みのような雰囲気が漂っている。

 私もそんな空気の多分に漏れず、齷齪とした出撃の雰囲気からは解放されてゆったりと過ごしている。そんな時、私は竿を垂らす。とは言っても特定の魚を狙う訳ではなく、多種多様な魚を狙う五目釣り。勿論ボウズの日も珍しくない。ただ、そんな時も無駄な時間を過ごした、という気にはならない。そんな日もあるさ、とその時間を楽しむ事が出来ている。これも、艦から人の姿にならなければ楽しめなかった事だ。



 ふと、鎮守府にサイレンが鳴り響いた。気付くと昼だったらしい。今日は久し振りに良く釣れていて、ついつい夢中になっていたらしい。そろそろ引き上げようか、と考え始めたそんな時、

「よぅ。釣れてるかぁ?」

 不意に後ろから声をかけられた。振り向くと、Tシャツ短パンにサンダル。右手には釣り道具一式、左手には氷の入ったバケツを持った男が立っていた。

「……なんだ、君か。こんな時間にここにいるなんて珍しいな、提督。」

「はは、まぁな。隣……良いか?」

 そう。この一見するとだらしないように見えるこの男は、この鎮守府の指揮官である提督。そして私はこの男の部下。伊勢型戦艦の二番艦・日向だ。



「珍しいな、この時間はもう大淀達と執務を代わっている時間だろう?」

「ん~、そうなんだが……。今日は一日休んで下さい、と執務室から追い出された。」

 我が鎮守府は中々特殊な業務形態を取っている。ウチの提督は夜間はBarのマスターとして、日夜激務をこなしている艦娘を労おうと奮闘している。その為、店は早朝まで開けているので午前中の執務は大淀と日替わりで任務に就く秘書艦娘が協力してこなし、昼過ぎに起きてくる提督に執務を引き継いで、午後からの執務に臨んでいる。そして定時に執務が終われば提督はマスターとなり、執務室は『Bar admiral』へと姿を変える。だが、ここ最近は大規模作戦の為に提督は昼夜なく働き詰めだった。疲労も溜まっているだろう事を見越して、大淀が執務を提督から取り上げたらしい。

「…なら、また寝れば良かったじゃないか。二度寝なんて中々出来ない贅沢だぞ?」

「普段の体内時計は崩せなくてな。寝付けなかったの。」

 提督はブスッとしたまま、折り畳みの椅子に腰かける。糸を垂らすと同時に、バケツの中から缶ビールを取り出してプシュッと開ける。ジリジリと焼けるような陽射しの下でキンキンに冷えたビールは喉に心地好いだろう。

「飲むか?お前も。」

 飲みたそうな顔をしていたのだろうか?まぁ、断る理由も無いから貰っておこう。

 バケツの中身を覗くと、缶ビールにワンカップ大関。更に丸のままのトマトと瓶詰めになった串刺しのキュウリが山盛りの氷によって冷やされている。遠慮なくワンカップを氷から取り出すと、プルタブをプシュッと開けて一口。氷によって冷やされた日本酒が、喉を通り過ぎて行く感覚が心地好い。

「ふぅ……、美味いな。」

「だよなぁ。明るい内から酒飲めるなんて、かなりの贅沢だよな。」

 提督はそう答えながら、串刺しのキュウリにかぶりついた。ポリポリと良い音がしている。

「食うか?ウチのバァちゃん特製の辛子漬けだ。」

 頂こう、と私も一本貰いかじる。キュウリの瑞々しさと辛子のツーンと来る辛味が酒を要求してくる。更にワンカップを煽る。

「まぁ、悪くないな。こんな昼下がりも。」
 

 

魚と聞いたら、居ても立ってもいられない。


 提督も混じってもうすぐ2時間程が経つ。あれだけあった酒や野菜は粗方二人の胃袋に収まり、若干ではあるが私も顔が火照って来た。

「ん~、食いが悪いな。」

 提督も数匹カワハギを釣り上げた後はピタリとアタリが止んだらしい。私の方も午前中の大小まばらなアジの他は、たまに針をつつきはするが、本格的なアタリが無い。

「あっれ~?提督じゃん。こんな時間に珍しいねぇ。」

 溌剌とした声の方に振り向くと、私の姉……伊勢型の一番艦・伊勢がいた。その後ろにはバケツを持った数人の駆逐艦娘がいる。
 私の姉はその底抜けに明るい性格のせいか、面倒見の良さが良いのか、駆逐艦娘に囲まれている事が多い。それを物陰から歯軋りしながら眺めている長門を差し置いて、だ。私の方は……顔が怖いのか、あまり近寄ってこようとしない。まぁ、喧しいのは好きではないから、構わんのだが。



「何々、こんな時間からサボリぃ~?いっけないんだぁ。」

「バカ言え。大淀に強制的に休みにされたの。そういうお前は何してた?」

 まぁ、右手のバケツと左手の熊手を見れば、何となくは想像が出来るが。

「え?暇だから他の駆逐艦の娘達と一緒に潮干狩りよ、潮干狩り。」

 あっさり~、しっじみ~、はっまぐーりさ~んってね。そう言いながら伊勢のバケツの中を覗くと、しじみは無いがアサリとハマグリで山盛りだ。

「はぁ。……んじゃ、釣りはそろそろ切り上げるか。伊勢に日向、今日の獲物は俺に預けろ。明日美味いモン食わせてやっから。」

 まぁ、提督に預ければ問題ないだろう。明日の夜まで我慢とは少し辛いが、まぁ仕方ない。



 そして翌日の夜、私と伊勢、そして伊勢と潮干狩りをしていた白露と春雨、そして新入りの江風と海風は提督の店の前に来ていた。

「提督って男だろ~?男の作る飯が美味いのか~?」

 江風はどうやら提督の料理の腕を疑っているらしい。まぁ、そうなるな。あの味は食べなければ疑いたくなる。

「ま、まぁまぁ江風。白露姉さん達も居るんですからお行儀良く、ね?」

 そう言いながら海風の顔にも、多少疑いの眼差しが宿っている。まぁ、食べればわかって貰えるだろう。

「さ~って、今日も食べるぞぉ~っ!」

「た、食べ過ぎてお腹壊さないで下さいね、姉さん……。」

 気合いの入った白露と、苦笑いの春雨。やはり、白露型は個性的な娘が多いな、と思う。

「さてさてお嬢さん方、無駄話はそろそろ止めにして、行きますよ~っと。」

 そう言いながら伊勢が扉をノックした。 

 

河豚より美味い、フグ目の魚。

 コンコン、とノックの音がする。俺は下準備の手を一端止めてそれに応える。

「おー、勝手に入ってきてくれ。今手が汚れてるから離れられんからよ。」

 その言葉に応じるように、ズラズラと艦娘達が入ってくる。伊勢・日向・白露・春雨。そしてこの間加わったばかりの江風と海風。なんともまぁ、あまり接点が無さそうに見える組み合わせだよな。

「やっほー提督、ゴチになりに来たよ~。」

「はぁ?何言ってんだお前は。魚介類の材料費以外は有料だぞ。」

 当たり前の事を伊勢に言うと、リアルにorzの姿勢になって落ち込んでいる。

「ガーン……。提督の料理がタダで食べられると思って昼も抜いてきたのに。」

「まぁ、そうなるよな。」

 冷静沈着な日向のツッコミが入る。

「ふーん、提督の料理ってなぁそんなに美味いのかい。アタシはまだ疑ってるけどな。」

 そう言ってフン、と鼻を鳴らしたのは江風。どうやら俺の腕前に疑問があるらしい。それなら美味い料理を食わせてギャフンと言わせてやろう。



「さーてと、まずは喉を湿らせた方が良いだろう。」

 何を飲む?と6人に尋ねる。

「まずは日本酒を貰おう。銘柄は提督にお任せで、な。皆もそれで良いか?」

日向がすかさずそう注文をかける。他の5人も異論は無いらしい。ならば、と俺はこの間届いたばかりの地元の日本酒を開ける。

「岩手の酒蔵から直送して貰った『月の輪』の大吟醸だ。甘口だから飲みやすいからな。良さを消さない為に冷やでやってくれ。」

 なんと言っても大吟醸の良さはその円やかな口当たりと、完熟メロンとも称される芳醇な香りだ。熱燗なんてもっての他。大吟醸熱燗にした、というアホな友人をぶん殴った事さえある。

「「「「「「乾杯。」」」」」」

 枡で出してやったから、打ち合わせる乾杯ではなく、掲げるだけの乾杯。ズズズ、と啜ってやると、僅かに開いた口の隙間から甘い香りが漏れ出てくる。

「うん、飲みやすい‼」

「確かにな、流石は呑兵衛の提督だ。無名でも美味い酒を知っている。」

 日向よ、それは誉めてんのか?貶してんのか?どっちだよ……。まぁいい、気を取り直して調理に移ろう。



 まずはカワハギからいこうか。意外に知らない人が多いが、カワハギはフグ目に属する魚で、フグの旨味とカレイのエンガワのようなこりこりとした歯応えを併せ持つ、酒の肴ならばトラフグにも勝るとも劣らない魚だと個人的には思う。

 角の様な部分と口先、ヒレを落としたら口先の切り口から皮を剥いでいく。カワハギの特徴はなんと言っても、その名前にもなっている皮の剥がしやすさだろう。手で剥がせるのだから相当剥がしやすい。皮を剥いだら腹を裂き、肝を傷付けないように取り出して、浮き出している血管を流水で洗う。カワハギはこの肝も絶品なんだよな。フグと違って無毒だし。身は三枚に卸して薄造りに。このまま刺身で……でも美味いんだが、ここにもう一手間。

 使うのは先程取り出した肝。コレをすり鉢で擂り潰したらそこにポン酢、更に柚子の皮をすりおろした物と果汁を少し。更に自家製一味唐辛子(これはイタリア回で育ててた鷹の爪を、乾燥させてミキサーで砕いた物だ)。コレで特製の肝ポン酢の完成だ。そこに薄造りにした身を加えて和えたら出来上がり。

「お待たせ。カワハギの肝ポン酢だ。」

 6人は嘗めるように味わうと、枡酒を流し込む。

「河豚より美味しいって聞いて疑ってたけど、ホントに美味しいねコレ!」

「ホントですねぇ。カワハギってこう、不細工な顔だから美味しくないのかと思ってました。」

 見た目で判断するのは感心しないなぁ春雨。魚も人も、中身が肝心なんだぞ?



 さて、カワハギはフグと同じように唐揚げや天ぷら、皮を残した状態で塩焼きやソテー、肝も残して煮付け等々、幅広いレパートリーが出来る。肝も残さずに、擂り潰して醤油と混ぜて肝醤油を作り、コレだけを熱々の白飯にかけても絶品だ。しかも寒くなるにつれてカワハギは更に脂が乗ってくる。コレを捌いて鍋にし、付けだれを肝ポン酢にしたら、下手するとふぐちりよりも美味いかも知れん。いや、マジで。

 さぁさぁ、港町育ちの魚介類レパートリーの多さ、味わって貰おう。 

 

参った!と唸らせる魚。

 さて、お次は鯵に取りかかろう。大きい鯵は鱗とゼイゴを包丁で丁寧に落とし、頭を切り落としたら腹を開いて膓を取り出したら、三枚に卸す。何匹かは三枚卸しにせずに、鱗とゼイゴ、ヒレとエラを落とすに留めておく。

 三枚卸しにした方も、たたく分とそのまま使う分とに分ける。まずはたたく方から二品作っていこう。

 鯵の身を叩く。包丁二刀流でなるだけ素早く、細かくしていく。細かくなってきたら一度全体をかき混ぜるように練り、身の大きさにばらつきが出ないように更に叩く。鯵の叩きが出来たら半分に分け、片方にはみじん切りにした長ネギと大葉に茗荷、おろし生姜、味噌とごま油を加えて更に叩きながら混ぜる。

「ま、鯵と言ったらコレは外せんわな、『なめろう』だ。」

「ん~、やっぱ生の鯵ならコレが定番だよねー。」

「まぁな。皿を嘗めるまで食べたくなる、その気持ちも解らんでもない。」

 美味い美味い、と伊勢と日向はなめろうと日本酒を交互に流し込んでいく。しかし、空母と戦艦はホントに良く食うわ。さて、残った半分の叩きも仕上げるとしましょう。

 こっちに加えるのはひきわり納豆。小粒でも良いが、更に細かくするからひきわりの方が時間短縮になる。納豆を加えたら更に叩き、納豆が細かくなって粘り気が出てきたら小口切りにした万能ネギを加えて更に混ぜる。皿に盛って中央を凹ませ、そこに卵黄を落としたら完成だ。

「意外な組合せ、『アジ納豆』だ。醤油をかけて召し上がれ。」 

「さ、流石にコレは……」

「く、くさそう……。」

 食指の伸びない江風と海風。美味いのになぁ、コレ。

「いらないんなら、俺が一口っと。」

黄身を崩して醤油を垂らし、かき混ぜたらパクリ。うん、アジの旨味と納豆の旨味を、卵がまろやかに包んでくれる。最高だね。

「か~、美味いなぁやっぱ。」

 俺もぐい飲みに月の輪を注いで煽る。米が原料の日本酒だから、余計に合うんだよなぁ、この組み合せ。あ、海苔で巻いて食っても美味いぞ。韓国海苔でも焼き海苔でも味海苔でも、好きな奴で巻いて食べると良い。

 俺が美味そうに食べているのに釣られたか、ようやく箸を付ける江風と海風。

「う、美味いっ‼」

「ホント、ビックリする位合いますね!」

 どうだ江風。少しは見直したか?

「ま、まぁこの位じゃまだまだ……」

 ぬぅ、強情な奴め。ならば今度は生じゃなくて火を通していくぜ。



 三枚卸しにした鯵の皮目に、大葉をくっ付けて天ぷらの衣を付ける。後はコレを揚げればアジの天ぷらの完成なんだが、揚げている間に上にかけるタレを作る。

 ベースは醤油。そこにみじん切りにした生姜とニンニク、それに鷹の爪を加える。鷹の爪は刻んでも良いし、種を取り除いてそのまま入れてもOKだ。香り付けに柚子を絞ったらタレの完成。醤油の代わりにポン酢を使えば柚子の絞り汁は要らないぞ。

 カリッと揚がったアジの天ぷらの上に、さっき作ったタレをかけたら出来上がり。

「お待ち。『アジの天ぷら~薬味ソース掛け~』だ。」

「♪~、アジの揚げ物と言えばフライが多いですけど、天ぷらも美味しいんですねぇ♪」

「まぁ、割りと簡単だから料理上手な春雨ならすぐ覚えられるさ。」

「ふぇっ‼?」

 ビックリしたせいで気管に入ってしまったのか、盛大にむせる春雨。

「時雨や夕立からも聞いてるぞ?麻婆春雨が絶品らしいじゃないか。今度俺にも作ってくれよ。」

「は、はい……。喜んで……」

むせかえったのがそんなに恥ずかしかったのか、帽子で顔を隠してしまう春雨。

『ねぇ日向、提督って結構なタラシだよね?』

『あぁ、しかも無意識にやってるから相当質が悪い。』

「あん?何か言ったか?」

「「いや、なんにも?」」

 変な奴等だな、全く。 

 

参った!と唸らせる魚。part2


 さて、お次は分けてあった小鯵と、三枚卸しにせずに下処理を施した鯵を調理していこう。

 まずは小鯵。ほとんど下処理などはせずに、片栗粉を付けて油で揚げていく。その間に付け合わせの野菜の準備だ。使うのは玉ねぎ、人参、ピーマン、パプリカ、ニンニク。

 玉ねぎはスライス、人参とピーマンは細千切りがオススメ。もし短冊等にするならサッと油通ししておこう。パプリカは食感を残すために太めに切ったら、サッと油通し。ニンニクは薄皮を剥いて素揚げにしておく。焦がさないように気を付けよう。さてさて、ここからが重要な調味液……南蛮ダレを作っていく。そう、今俺が作っているのは小鯵の南蛮漬けだ。

 南蛮ダレ(4人分)の分量は下の通り。

・おろし生姜:1片分

・酢:大さじ2

・オイスターソース:大さじ1と1/2

・水、ごま油、醤油:各大さじ1

・砂糖:小さじ1

 以上の材料を混ぜてバット等の平たくて広い容器に入れ、下準備の出来ている野菜を浸けておく。そこに揚がった小鯵の唐揚げを投入。ジュウジュウという音と共に、ぷ~んと漂ってくる南蛮漬け独特の香り。ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえる。暫く浸けて味を染み込ませたら、野菜と小鯵を一緒に盛り付けて完成だ。

「さぁ、『提督特製・小鯵の南蛮漬け』だ。酒のお代わりは?」

ビール、ハイボール、モスコミュール、ジントニックと様々な注文が入る。やっぱ揚げ物系のツマミには、炭酸の爽やかな刺激が欲しくなるよなぁ、マジで。ちなみにだが、この南蛮漬けのタレは大概の青魚に合う。アジ・サンマ・イワシ・サバ……。好きな奴をチョイスしてくれ。

「ん~、幸せぇ♪」

「ホント、提督さんは料理上手過ぎですよぅ。」

「よせやい、誉めたって他の料理しか出て来ねぇぞ?……で?どうだ江風。美味いだろ?」

 俺に唐突にそう聞かれた江風は、両頬を膨らませてモゴモゴと、

「ま、まぁ確かに普通の男よりは上手いんじゃない?」

 と、顔を赤くしてそっぽを向いた。頬っぺた一杯に南蛮漬け突っ込んでそう言われても全然説得力無いんだが……こりゃ、轟沈まで後一歩、ってトコか。ならだめ押しだ。

「そうかそうか、なら気分をかえて、次はイタリアンでいくか。」



 用意するのは漸く登場、下処理済みの鯵と昨晩から砂抜きしておいたアサリとハマグリ。そういえば、よく砂抜きが上手く出来ないと聞くから、砂抜きの上手いやり方を解説しておくか。

 まずはアサリを浸けておく水。コレは海水よりも薄めの塩水で。あまり濃くすると塩味がついてしまうからな。そして重要なのが水のかさ。よくボウルに目一杯水を入れて砂抜きする人がいるが、あれだとアサリは上手く砂を吐き出さない。溺れてしまうからな。目安としては貝殻の一番高い所が少し水面に出る位の高さがベスト。スーパー等で売っている物なら2時間~半日、掘ってきた物なら半日~一晩浸けておくとしっかりと砂を吐き出してくれる。

 砂抜きが終わったアサリとハマグリを、ザルに開けて米研ぎの要領でガシャガシャと洗っていく。こうして貝殻に付いた細かい汚れを落としてやる。次は鯵に飾り包丁を入れておく。斜めに三ヶ所程で良いだろう。ここに軽く塩を振ったら、フライパンにオリーブオイルを敷き、火を点けて軽く熱しておく。ニンニクをスライスした物と鯵を投入。ニンニクのスライスが面倒なら、包丁の腹を使って押し潰しても良い。元はイタリアの漁師メシ、意外と適当だ。

 鯵の表面に軽く焦げ目がつき、カリッとしてきたら裏返し、ここにアサリとハマグリを投入。そして白ワインを入れるんだが、スーパー等で売っているアサリ1パックに対して50ccだから、80~100cc位かな。入れたら蓋をして3分程待つ。貝が開いてきたら水を300cc程一気に加える。このボコボコ言っている姿がイタリア語で狂った水……Acqua pazzaの名前の由来になった……という説もある。

 そしたらここにミニトマト。ヘタを取り、半分にカット。幾つかは味出しの為に軽く潰してもいいかもな。コレをオリーブオイル200ccと一緒に入れて、豪快に混ぜる。本格的な味にするなら、ここに黒オリーブやケッパーを入れるとかなりレストランに近い味になる。後は全体に馴染むように鍋を揺すりながら煮込み、塩胡椒で味を整えてパセリを散らす。この出来上がりの煮汁の色が、質の悪い密造ワイン、acqua pazzaだと言う説もあるが、本当の所は解らない。

「さぁ出来たぞ、『鯵と二種の貝のアクアパッツァ』だ。」

 瞬間に伸ばしてきた江風の手を、ヒョイとかわす。

「ちょ、ちょっと!?何すんのさ提督‼」

「あのなぁ江風。俺だって美味しく食べて貰える奴に食わせたいの。つまんねぇ意地張って、美味しいって素直に言えないような奴には食わせたくないの。」

ぐぬぬ……、という悔しそうな顔をする江風。よっぽど食べたいのか、身体はぷるぷる震えてるし、唇もワナワナしている。

「……った。」

「あん?聞こえねぇぞ。」

「解ったよ!参った、参りました‼提督の料理はプロ並みだよ。だから、早く食べたいからそれちょうだい!」

 勝った(悦)。全くもう、最初っからそうやって素直にしてりゃあ可愛いってのに。そう思いながら頭を撫でてやる。

「頭撫でんなー‼子供扱いすんなー‼」

ムキー!となりながらも食べる手は止めない。全く、本当の娘みたいに思えてくるからな、駆逐艦は可愛いなぁ。 

 

〆は麺類♪

 さてさて、アサリがまだ残っているから、ここから4種類のパスタを作ろうか。

 先程洗ったアサリを、もう少し念入りに洗っていく。ボウルで何度か水を変えながら、水に濁りがなくなるまで洗う。コレをしないと生臭いパスタになっちまうからな。あ、この時同時進行でパスタ茹でるの忘れずにな。

 アサリが洗い終わったら、まとめてやるから大きめのフライパンにオリーブオイルとニンニクのみじん切り、種を取り除いた鷹の爪を入れる。辛いのが好みなら種は少し位残したらいいアクセントになる。

 香りが立ってきたらここで1/4を別のフライパンに移す。オリーブオイルごとな。大きいフライパンには白ワイン、小分けにした方には小口切りにした長ネギと日本酒、そして醤油を振って蓋をして酒蒸しに。

 2~3分で貝の口が開くハズだから、香り付けに黒胡椒を少々。そのまま煮汁が半分位になるまで煮込んでいく。この位になるとアサリの出汁が出て煮汁が白濁してくるハズだ。

 ここまできたら大きいフライパンの中身を三等分にする。ウチのキッチンはコンロが6つあるから対応出来ている。まったく、妖精さん様々だぜ。



 4つのフライパンを同時に仕上げていく。各フライパンに茹でたてのパスタと茹で汁をお玉で1~2杯。上手く具材と絡まったらフライパンのひとつはもう盛り付けだ。仕上げにイタリアンパセリかバジルを千切って散らしたら完成だ。

「ほい、まず一皿目『Vongole bianco』……ボンゴレビアンコだ。」

 更に行くぞ。先程同様にパスタと茹で汁、先日作ったジェノベーゼソースを加えれば、

「ほい二皿目、『Vongole verde』……緑のボンゴレだ。」

 更に先程のジェノベーゼソースをトマトソースに変えれば、

「さぁ三皿目、『Vongole rosso』……赤のボンゴレだ。」

 このトマトソースは先日作ったアラビアータソースを使っても美味いぞ。辛いから酒によく合う。さぁ、ラストだ。和風に仕上げたフライパンにも同様にパスタと茹で汁を加え、皿に盛り付けたら刻み海苔と糸唐辛子を散らす。

「ほいこれでラスト、『和風ボンゴレ』だ。」

 以上、『提督特製4色のボンゴレ』の完成だ。

「美味っ、美味っ‼」

「ん~、どれも絶品ですぅ……♪」

「お酒にも合うよコレ!」

「まぁ、そうなるな。」

「やっぱ提督の料理がいっちば~ん‼」

 おい白露よ、鳳翔や間宮が聞いたらブチキレられんぞ。ストライキでも起こされたら敵わん。

「どうだ江風、満足したか?」

「うん!やっぱ人間素直が一番だよね~。」

 そりゃあ良かった、俺も美味しく食べて貰えたなら満足だよ。そう思いながら、俺は密かに月の輪で祝杯を挙げた。 

 

奴が再び現れる。

 
前書き
※注意※

今回はお酒も飯テロ要素もほぼありません。それでも良い方だけお進みください。 

 
 以前から要望のあった設備を、「Bar Admiral」に追加する事になった。主計課や総務課の人間に怒られるかと思いきや、一発OKだった。まぁ、主計課も総務課も艦娘運営の組織だ、通るだろうなとは思っていた。

 その設備とは、ビリヤード台、ダーツボード、麻雀卓の3つ。ビリヤード台とダーツボードは艦娘達からの要望だが、麻雀卓は俺の要望だ。どれも最新の物を入れてもらった。特に雀卓スゲェ。全自動卓なんだが、和了した手牌の点数計算までしてくれる。他にもバカラテーブルやスロットマシンなんて要望もあったが、流石にそこまでやったら本部に怒られそうだから止めておいた。トランプゲームはカウンターでやろうと思えば出来るしな。そこで、月1だが、ゲーム大会を開催する事になった。ダーツはカウントアップ、ビリヤードはナインボール。優勝者には間宮券30枚か、ウチの店の1日貸しきり券を用意する事になった。……だが、コレが不味かったのか今やウチの店はバーというより遊技場と化していた。

 今日もビリヤードのキューが玉を突く小気味良い音が響く。

「ま、負けた……。しかも完封……」

ガックリと肩を落とし、落ち込んでいるのは長門。その先で勝ち誇った笑みを浮かべていたのは……

「フフフ、ビリヤードはただ力任せに突けば良いのでは無いんですよ?長門さん。」

 掛けた丸眼鏡型の電探を元の位置に戻しながら、鳥海がそう言ってのけた。そういえば、先月のビリヤード大会の優勝者は鳥海だったか。

「玉を突く角度、強さ、反射の角度、残りの玉の配置とポケットまでの距離……。長距離射撃よりも簡単な計算の筈ですが?」

 ぐぬぬ……、と黙り込む長門。成る程、言われてみれば確かに深海棲艦との戦闘中はもっと面倒な計算をこなしているのだろう、鳥海が放つ正確無比なショットは確実にポケットを捉える。

「なら、更に長距離の射撃が可能な長門なら、鳥海にも
勝てる筈だがなぁ。」

やけ酒をすると長門がカウンターに座り、山崎をロックで頼んできた。山崎の12年を注いでやりながら、俺は長門に尋ねてみた。重巡よりも射程の長い戦艦ならば、先程の鳥海の説明なら勝つ筈だろう。

「何を言っている提督、そんな物勘で当てているに決まっているだろう。」

 おい、この超弩級戦艦トンデモ発言してるんだが。

「え、お前勘で今まで長距離砲撃してたの!?」

「そうだが?しかしどうする、このままでは私の完璧な計画がぁ……!!」

 おいおい、絶対良からぬ事企んでるよ、この超弩級戦艦。

「私が優勝してゲットした間宮券で駆逐艦の娘達に奢ってチヤホヤされるという、私の完璧な計画がぁ……!!」

 …………。よし、コイツの名前は明日から長門でもながもんでもない、バカモンにしておこう。 

 

ダーツ上達に何よりも必要な物。

 ビリヤードで圧倒的敗北を鳥海に喫した長門。そんな失意の長門に、俺はダーツも薦めてみる事にした。

「なら長門、ダーツはどうだ?あっちならまだ勝てる余地が有るんじゃないか?」

「提督よ、ダーツにも不動のチャンピオンが居るじゃないか。彼女を倒すのは限り無く難しい……!!」

 その時、ダーツボードの方からワッと歓声が上がる。何人かの艦娘がカウントアップで対戦していたらしい。

「Oh,amazing!!2回連続でインブルだヨ、時雨~‼」

 バス・ペールエールを瓶で煽りながら金剛が驚いたような声を上げている。

「ひえぇ……なんでそんなに中心ばかり当たるんですかぁ。」

 カシスソーダをチビチビと飲みながら、比叡がプルプルと小刻みにふるえている。

「は、榛名は真似できそうに無いです……」

 アハハ…、と苦笑いしながらジンビームを舐める榛名。

「わ、私の計算以上の命中率だなんて……!!」

 そう驚きつつカイピリーニャを砂糖少なめでグビグビ飲み干していく霧島。俺はお前の飲みっぷりが計算以上だ、蟒蛇め。既に7杯目だ。

「フフッ、そんなに誉めないでくれよ、照れるじゃないか。」

 少し照れ臭そうにしながら、ジョニー・ウォーカーの黒をロックでチビリと飲んでいるのは時雨。我が鎮守府最強のダーツプレイヤーである。



 そういえば30分位前、金剛姉妹と時雨がやって来てそれぞれの酒とサラミとチーズの盛り合わせ、そしてダーツボードの使用許可を取りに来たんだった。勝負をしている訳ではないが、間もなく大会が近いから練習しにきたのだろう。その中でチャンピオンの時雨から少しでもコツを盗もう、といった所か。

「提督、ジョニ黒おかわり。」

「流石幸運艦だな、時雨。二投連続インブルなんて凄いじゃないか。」

 ダーツのルールを知らない読者諸兄に説明するが、ダーツボードの中心にはブルと呼ばれる二重の円があり、各種様々な遊び方があるダーツの中でも高得点に位置している場所だ。中でもインブル(インナーブル)は二重の円の内側で、二投連続でインブルを捉えるのはかなり難しい。

「提督も解ってないなぁ。ダーツに必要なのは運じゃない……乱れない精神力…スピリッツが重要なのさ。」



「一切の雑念を捨てて、ただインブルに投げ込む事だけに集中する。後は正しく真っ直ぐに投げられる姿勢が身に付いていれば、それほど難しい事じゃないさ。」

 ダーツボードの方を見やると、目をギラつかせた金剛四姉妹が順番にダーツを投げている。……が、力みすぎなのか真ん中には飛んでいかない。

「金剛さん達は……申し訳ないけど、雑念が多すぎるよね、長門さんもだけど。」

(テートクと二人っきりテートクと二人っきりテートクと二人っきり……)

(お姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデート……)

(提督とデート提督とデート提督とデート提督とデート提督とデート……)

(お酒飲み放題お酒飲み放題お酒飲み放題お酒飲み放題お酒飲み放題……)

 うわぁ、雑念が見える。長門も時雨の横で撃沈している。時雨と俺は苦笑いしながら、ジョニ黒を酌み交わしながら遊戯台の様子を眺めていた。こんな騒がしい夜も、たまには悪くない。 

 

長女の結婚騒ぎ・前編

 
前書き

※注意※
今回のお話は同人誌「妙高さんが一番悶えた日」からヒントを得て書き上げました。同人誌と聞いて薄い本(意味深)をイメージされるかも知れませんが、寧ろ短編の純愛作品として完成度が高いな、と読ませて頂きました。興味のある方は一度読まれる事をオススメします。 

 

 その日、朝から鎮守府は上から下への大騒ぎだった。青葉の自主発刊している「鎮守府日報」が、妙高型重巡洋艦四姉妹の長女・妙高のデート写真をスッパ抜き、今までそんな噂すらなかった娘の恋愛話に大騒ぎだった。

「おぅ、入れ。」

 そんな騒ぎの中、今日の秘書艦担当であった妙高が、服装と髪を整えながら入ってきた。本当なら朝まで店を開けていた俺は、この時間は寝ているのだが、何かしらの説明があるのだろうと無理矢理に大淀に艦隊運営を任せずに徹夜で起きていた。

「どうやら、相当もみくちゃにされたらしいな。」

 俺が苦笑混じりにそう言うと、妙高は少し顔を赤らめながら、

「青葉さんのお陰でエラい目に会いました……。」

 と、少しムスッとしていた。先日第二回改装を済ませたばかりだったその紺を基調とした制服も、若干シワが寄ってしまっている。

「ハハハ、そりゃあ災難だったな。俺も実は徹夜明けでな。コーヒー飲むか?」

 コクリと頷く妙高に、俺は真新しいエスプレッソマシンを使ってエスプレッソを淹れる。この間イタリアン対応に店を改装した時、妖精さんについでに作って貰っておいた物だ。翌日、金剛に壊されそうになって本気で怒ったのも最早良い思い出だ。

「……ふぅ。やはりコーヒーやお茶を頂くと落ち着きますね。」

「全くだ。眠気も吹っ飛ばしてくれるしな。」

 エスプレッソの苦味とカフェインの血行促進効果のお陰で、少し寝惚けていた頭も冴えてきた。妙高が飲み終えるまで話し掛けるタイミングを伺う。



「……さて、と。こっからはこの鎮守府を預かる者として真面目に聞いておくべき話だ。妙高。」

 雰囲気が変わったのを察したのか、妙高も飲み終えたカップを置いて眼鏡を正した。そう言えば何時からだろうか?妙高がこの眼鏡型の電探を装備するようになったのは。

「あの鎮守府日報の記事、あれは事実なのか?その場合、その男性との進展具合を聞いておきたい。」

 本来ならばこんなプライベートに踏み込んだ話はするべきではない。だが、彼女は艦娘なのだ。人工的に作られた謂わば『人ならざる人』だ。

 勿論、『艦娘保護法』の施行により艦娘には普通の人間としての権利が与えられている。結婚や恋愛の自由、子供を作る事さえ可能となった。だが、やはり未だに人と艦娘との溝は深い。艦娘としての任を解かれ、退役後はある期間は監視も付くが、再就職して別の仕事をしている者もいると聞く。機密保持の為にそれは致し方ない事だ。



「はい、提督。私妙高は鎮守府外の一般男性とお付き合いをしており、先日求婚を……プ、プロポーズをされました。」

 先程よりも更に顔の赤みを強めながら、妙高は詰まりながらも一息に言い切った。

「そうか。しかしそこまで話が進行していたとはなぁ。」

 俺は面倒な事になった、と頭をガシガシと掻きむしる。

「す、すみません。もっと早くにご相談していればよかったのですが……。」

 慌てて謝ってくる妙高を俺は制した。こんなプライベートな話、いくら上司とはいえしにくいだろうからな。

「いや、それは仕方ねぇだろう、常識的に考えて。……で、先方の親御さんなんかも理解してるのか?『人と艦娘の結婚』について。」

 問題はそこだ。やはり昔ながらの人の考えならば、自分の息子が得体の知れない人の形をした物と夫婦になろうというのだから、反対も強いだろう。家族の理解。それが最も高く、険しい壁だった。


「はい、そこは抜かりなく。先日彼のご両親にご挨拶に伺う時に、大淀さんにある程度フォローして頂きながら、私が艦娘である旨は包み隠さず説明して来ました。」

「あ?まさかあの時の有給ってまさか……。」

 思い出した。殆ど有給なんぞ取った事の無かった大淀が、有給を取って1日鎮守府に居ない事があった。あの時は『何れ解りますよ♪』とはぐらかされたが、この事だったのか。



「はぁ、まぁ解った。で、お前はどうすんだ?結婚して退役するのか、しないのか。」

 これが提督として一番聞かなくてはならない案件だ。艦娘は建造すればまた同型の艦は造れるだろう。だが、それをまた今の妙高と同じ錬度まで鍛え上げるにはそれなりの期間とコストが掛かる。ましてや改二改装まで済ませた重巡洋艦だ、貴重な戦力を失いたくは無いのが本音だ。

「その辺りのお話もさせて頂きました。彼のご両親も未だご健在ですし、先方からも『最後までお役目を果たしてから家庭に入って欲しい』とのお言葉を頂きました。」

 流石に前大戦経験者、今の状況の理解力が違う。

「解った、なら俺からは止める物は無い。待ってろ、今許可証を……。」

「あ、それとですね……。」

 妙高が言い辛そうに放った一言。それを聞いた俺は、思わず万年筆を取り落とし、白い制服のズボンに黒いインクの染みが出来ている事さえ気付かなかった。普段なら、鳳翔さんに死ぬ程怒られる、と狼狽えるのに。 

 

長女の結婚騒ぎ・中編


「え~、本日お集まり頂きました皆様におかれましては、今回の酒宴の意味を重々ご理解の上でのご参加と思います。」

 珍しく那智が緊張した顔で挨拶を述べている。場所は『居酒屋・鳳翔』。提督禁制の女の園だ。何故俺がその情景を見られているかと言えば、

『ワレアオバ、ワレアオバ。提督聞こえます?』

 記録映像撮影の目的でカメラを回している青葉に、ライヴ中継させているからだ。この大騒ぎの発端を作ったのだ、それ位の罰は受けて貰おう。

「今回の幹事は妙高型の那智と足柄、そして羽黒が努めさせて頂きます。」

「ではっ‼妙高型一番艦妙高、起立っ‼」

「は、はいっ!」

 顔を真っ赤にして妙高が立ち上がる。

「そ、それでは……皆さん、ご唱和下さいっ!」

 珍しく羽黒が声を張り上げる。

『こっそり男を作っちゃう奴は~‼』

 会場にいる艦娘全員の大合唱だ。物凄ぇボリューム。

『しかも、プロポーズまでされちゃうような艦娘は~‼』

『独身女の巣窟から出ていけ~っ!』

『出て行けええぇぇぇぇっ‼』

 これが噂の『艦娘独身寮の追い出し口上』か。一度聞いてみたいとは思っていたが、中々迫力があって面白い。ってか、何なんだこの大学生の体育会系のサークルのノリ。



 妙高から頼まれた事。それは、

『三日後に催される結婚祝いの宴の後に、彼に会って欲しい』

 という事だった。どうやら、向こうの彼氏が俺を父親がわりに挨拶したいという事らしい。それで今、俺はそのタイミングを見計らう為に青葉にモニタリングさせている(建前は)。

「はいっ!私妙高はこの度独身と晴れておさらば致しますので、独身寮を退寮させて頂きますっ‼」

 まぁ本音を言えば、

「なので皆さん、私に続いて早く退寮出来るように頑張って下さい!」

このバカ騒ぎを覗きたかっただけなんだが。



主賓である妙高は、年がら年中モテないと嘆いている高雄や隼鷹に絡まれ、幹事のハズの足柄と那智は既に出来上がっている。他の奴等も何の飲み会か忘れたかのように、飲めや歌えの大騒ぎ。うわ、スゲェカオス。こんな事いつもやってんのか、この店は。


「青葉さん、お疲れ様です。」

 にこやかに青葉に話し掛けて来たのは、鬼の主計課長、鳳翔さん。この間もズボンの件でしこたま怒られた。その微笑みを崩さないまま、ガシッとカメラを掴んできた鳳翔さん。

「提督?覗き見はいけませんよ?あとでお話があるので、そのおつもりで。」

 その瞬間、青葉からの映像は途絶えた。あっ、ヤバイ奴だこれあ艦これ。俺鳳翔さんに殺されないよねコレ。



 ところで今、俺は緊張を紛らわす為に飲んでるんだが……。
まっっっったく酔えないんだけど。え、何?もうテキーラのボトル半分空いたんだけど。どうすんのコレ。娘を貰いに来た男に会う世のお父さんてこんな気分なの?これは辛いわー、そりゃ娘はやらん‼とか言い出しちゃうわー。とか何とか考えてたら、コンコン、と扉をノックする音が。

「お、おぅ。入れ~。」

 少し飲んで血色が良くなったか、頬を桜色に染めた妙高がやって来た。

「か、彼は遅れてくるそうなので、もう少しお待ちください……」

 お、おぅ。と生返事を返しながら、俺は更にテキーラをあおっていた。すると、扉の前に人の気配。

「し、失礼しますっ!」

 少し緊張した面持ちで、妙高の『彼』が入ってきた。
 

 

長女の結婚騒ぎ・後編

 緊張した面持ちで入ってきた妙高の『彼』は、良くも悪くも普通、だった。背格好は俺よりヒョロリと高く、細面の優男といった印象だ。顔には純朴そうな笑みを浮かべており、人当たりの良さそうな中年、といった感じか。

「ど、どうもはじめまして。妙高さんとお付き合いをさせて頂いてます◯◯です。今日はお招き頂きましてーー」

「ちょっと、招かれて無いでしょ?」

「あぁそうか、俺達が時間作って貰ったんだものな。」

 たはは……と笑う男性に、苦笑いでそうツッコミを入れる妙高。敬語も無しで喋っている姿が何か新鮮に感じる。顔に似合わずおっちょこちょいらしい。こういう放っておけない所に惚れたのかな?妙高面倒見が良いし。



「改めて、提督の◯◯です。この度はおめでとうございます。」

「あ、ありがとうございます。」

 頭を下げながら男が名刺を渡してきた。どうやら大手企業の営業マンらしい。

「さて、何か飲みますか?ご馳走しますよ。」

 今宵は祝いの席だ、儲け度外視でご馳走する気でいた。

「あ、では新潟のお酒ってありますか?」

「新潟のお酒?出身地なんですか?」

 俺がそう尋ねると、男は気恥ずかしそうに頭を掻きながら、

「いやぁ、そういう訳ではないんですが。新潟は彼女の名前に所縁がある所なので。」

 成る程、新潟の妙高山や妙高市は、彼女の名前の由来だものな。いやはや、ご馳走するつもりが此方がたっぷりご馳走になってしまった。

「なら、コレが良いかな……。」

 取り出したのは『久保田 萬寿』。新潟県長岡市の朝日酒造で作られた日本酒だ。日本酒の温度は冷やす温度や燗を付ける温度で名前が付けられているが、この1本は雪に刺して冷やすと調度良いという雪冷え……5℃前後が最適と言われている。

 今日はめでたい席だし、折角だからと寿の焼き印が入った枡でお出しする。

「では、乾杯。」

 二人が口に含み、少し微妙な顔をしている。

「何というか……。」

「口の中に渋味?のような物が残ります……。」

 うん、だってそういうお酒だもの。初めの飲み口は吟醸酒ならではの柔らかさでスッと入る。けれど、口の中に後味というか、日本酒独特の「キレ」の良さが残ってしまう。その口の中に残るスッキリとした感じを好む人もいるが、万人受けするかと言われれば怪しい。



「まぁ、ちょっと待って下さい。今少しずツマミを出しますから。」

 まずはド定番、冷奴。手製の朧豆腐に、刻んだネギと生姜、茗荷に削り節を散らして上から醤油ではなく緩くとろみを付けた醤油餡をかけてやる。

「ん、美味しい。」

「うん、俺も夏バテ気味で胃が疲れてたから、休まる味だ。」

 だが、久保田の萬寿の本領はここから。冷奴にかけた餡は、実は塩気を少し強めてある。口の中に味が残りやすいのだが……。

「! 口の中に味が残りません。」

「うん。さっきのキツさが上手く口の中をリセットしてくれる。」

 そう。久保田の萬寿はスッキリとしたキレの良さで、どんな料理にも合わせやすい。

 次は焼き物。今日は地元近くで取れたホッケの開きを用意した。

「うん、やっぱり居酒屋とかで食べるよりも肉厚だね。」

「でも、ちょっと脂がキツいかも……。」

 でも、そんな脂も萬寿が洗い流し、次の料理の味を堪能しやすくしてくれる。懐石料理やコース料理を食べる時などに最適と言える一本だろう。

 その後も蕪の煮物~海老の擂り身詰め~や、茶碗蒸し、鯛の活け作り等を味わって貰った。二人とも食べるペースを落とす事なく食べ進めて舌鼓をうっていた。

「さて、最後は天ぷらかな。」

 用意したのは車海老、穴子、鱚、白子の四種類。衣は十分に冷やして作り、少しダマが残る位に混ぜる。キレイに混ぜきってしまうと衣がモタつく原因になるからな。

 薄く衣を付け、菜種油で揚げる。油に浮かべた後も衣を散らすように垂らしてやり、サクサク感を作る。

 具材に火が通ったら油から上げ、熱い内に塩を振る。

「さぁ、熱い内に召し上がれ。」

 かぶりついた瞬間、サクッという音と共に、海老のエキスが溢れ出す。

「「熱っ、熱っ、あちちち……。」」

 結婚してないが言ってやろう、似た者夫婦め。



「さて、満足頂けましたか?」

 全ての料理を食べ終えたところで、俺は二人に尋ねた。

「えぇ。お話には聞いていましたが、とても美味しかったです。」

「私も。その前にも飲食してきたのに、ペロリと食べられちゃいました。」

「そっか、そりゃ良かった。妙高、君達も今日の料理や萬寿の組み合わせのように、様々な辛苦も乗り越えられる……そんな夫婦になってくれ。」

 俺も臭すぎるかな、と思う台詞を言った瞬間、妙高の目から大粒の涙が溢れ出した。それを抱き止めて頭を撫でてやる男の目にも、妙高の電探に良く似た型の眼鏡が掛けられていた。成る程、ペアルックか。離れた所でも繋がりを感じていたい……そんな思いがあったんだろうな。



 それから1週間後、妙高は盛大に結婚式を挙げた。俺は残念ながら参加できなかったが、非番の艦娘と青葉を送り、代わりに盛大に祝って貰った。その翌日、結婚式と披露宴の一部始終を収めたビデオの上映会で妙高が恥ずかしさの余りに絶叫していたのが印象的だった。そして彼女は今日も、新しい家族の待つ家から鎮守府に元気に通って来ている。 

 

あのCM見てたら書きたくなった。

 何年か前、ウチの鎮守府でハイボールブームが起きた。恐らくN◯Kのドラマが原因だろうが、あの頃は皆こぞってウィスキーを注文していた。…だが、ウィスキーなんか飲み慣れて居ない奴にとってはハイボールが手軽に手をつけやすい。だからこそ、ハイボールの注文が激増した。



 あれはそう、そんなブームも盛りの頃だ。

「提督っ、ハイボールお代わりっ!」

「またか。好きだねぇお前らも。」

 俺は苦笑いしながらも作ってやる。ウィスキーと炭酸を1:1。そこに輪切りのレモンを入れて、マドラーで2~3回上下に。

「ウィスキーが、お好きでしょ~っ♪と。」

 あのCMソングがついつい口をついて出た。それを聞いた艦娘が、プッと軽く吹き出した。

「へぇ?提督も歌ったりするんだ。でも似合わな~いっ!」

 キャハハハハハ、と笑い上戸なその艦娘は受け取ったハイボールのジョッキをゴクゴクと飲んでいく。

「おいおい、お前ら明日出撃だろ?大丈夫かよ。」

「大丈夫ですよぅ提督ぅ。アタシも蒼龍も、明日に響くまで飲みませんよぅ。」

 そう、今夜の客は蒼龍と飛龍の二航戦コンビ。ウチの鎮守府では一航戦よりも二航戦が大喰らいになってしまっている。



「提督ぅ、お腹すいたー‼なんかおツマミ~っ!」

 蒼龍がギャアギャアと喚いている。当然、ハイボールに合うツマミという事になるだろう。……とくれば、ジャンルは一択。

「仕方ねぇなー。じゃあちょっと待ってろ、なんか揚げてやるから。」

 やっぱビールとかハイボールのツマミには、揚げ物欲しくなるんだよなぁ。翌日の胃もたれとかカロリーとか、後々のリスク高いけど。

 まずはジャガイモ。泥を落としたら皮付きのまま6等分から8等分に櫛形に切る。皮付きの方が揚がって食べる時に、仄かに皮に染み付いた土の香りが立って良いアクセントになる。後はニンニク。これは薄皮剥くだけ。切ったりしない。

 で、熱した油に同時にドボン。ニンニクの方が火が通りやすい。こんがり狐色になったら先に上げる。焦がすとえぐみが出るからな。ジャガイモも揚がったら油を切って、熱い内に塩を振って馴染ませる。揚げたニンニクは砕くなり細かく刻むなりしてジャガイモに散らす。

「ホラよ、ガーリックポテトだ。熱いから気を付けろ。」

 わーい、と大皿で受け取った二人は、右手にハイボール、左手にポテトを持ち、交互に口に流し込んでいく。

「熱っ、美味っ、熱っ、美味っ♪」

「ん~、しやわせぇ~。」

 しかし美味そうに食うなぁコイツら。俺も飲もうかな。但し、只のハイボールじゃないけど。



 用意するのは生姜のシロップ煮。輪切りにした皮付きの生姜を、ザラメとかきび砂糖とか、料理に使うような砂糖と、同量の水を火に掛け、沸騰するまで焦がさないように中火で煮立たせる。生姜が汁から顔を出したら、隠し味にハチミツ少々。また一煮立ちさせたら火を止めて冷まし、瓶詰め。これで生姜のシロップ煮の完成。これを炭酸割にしてジンジャーエールに。更にウィスキーとレモンを加えてジンジャーハイボールだ。

 ゴクリと一口。うん、甘過ぎずに生姜の香りが立って調度良い。

「提督、オツマミとコークハイ!」

「あ、アタシも‼」

 うひゃ~、こりゃバルジ増設不可避ですわ。まぁ良いや、回避下がったら神通辺りに預けて鍛えて貰おう。今は売り上げ優先、って事で。 

 

揚げたてサクサク+キンキンのハイボール=?

さて、次は肉でいくか。豚挽き肉、玉ねぎ、キャベツ、卵、パン粉を用意。

 玉ねぎとキャベツはみじん切り。大きさは……大きい方が食感を楽しめるし、細かくすれば生地との馴染みが良い。今日は細か目で行こうか。刻み終わったら豚挽き肉と卵、牛乳に浸したパン粉を繋ぎにして、刻んだ野菜と混ぜる。味付けは塩・胡椒・ナツメグ。ハンバーグを作るイメージの味付けで良いだろう。ソースをかけずに食べるなら、味付けは強めの方が良いだろうな。

 生地が出来たら後は簡単、小麦粉と卵を混ぜ、少量の水で薄めたバッター液とざく切りにしたフランスパンをパン粉代わりにして衣を付け、180℃の油でカラッと揚げる。

「ほれ、『キャベツメンチカツ』だ。濃い目の味付けにしといたから、そのままかぶりつきな。」

 ザクッ、というワイルドな音が響く。フランスパンで衣を作ると、バリバリという硬めの歯応えで美味いんだよなぁ。

「あふ、あふ、あふあふ……」

「肉汁が凄い……。熱いけど美味ぁ~。」

 キャベツを入れる事で肉汁の量が大幅UP。かさ増しにもなるから同じ大きさの普通のメンチカツよりはヘルシーだしな。アレンジするとしたら、中にとろけるチーズを仕込むとか、茹で卵を包んでスコッチエッグ風とか良いかもな。



 さてと、じゃあ次は一風変わったコロッケをご紹介。使うのは冷凍豆腐と茹で卵。冷凍豆腐は市販のパックの豆腐をそのまま冷凍庫に放り込んでおけば作れる。色々なレシピに使えるから試して見てくれ。茹で卵は黄身にも火をしっかり通した堅茹でで。メインの食材はこの2つだ。冷凍豆腐は解凍出来たら素手で水気をギューッと搾る。完全に抜けなくても良いが、8割位は搾っておこう。原型の無くなった冷凍豆腐に、茹で卵もフォークで潰して混ぜる。そこにマヨネーズ、刻みパセリ、砂糖、クレイジーソルトを加えて、玉子サラダを作る。実はこれだけでも美味い。サラダとして食べるなら、ここにスライスオニオンとか胡瓜、ハムなんか入れると良いかもな。

 でも今日はコレを揚げていく。バッター液は先程と違い卵を使わない。卵は具材に入ってるからな。代わりに小麦粉と水、そして日本酒を使う。アルコールが入ると余分な水分が抜けてカラッと揚がり易くなるからな。そしてパン粉は普通のパン粉を使用。後は揚げるだけ。中身はそのまま食べられる物だから、衣が狐色になればOKだ。

「『特製・卵コロッケ』だ。熱いから気を付けろ。」

 
「熱々の玉子サラダって、何か新鮮~。」

「でもアタシはポテトコロッケより好きかも。しっとりしてて。」

 揚げ物のオンパレードに負けず、ハイボールをガンガン飲んでる二航戦コンビ。もうジョッキで7、8杯は飲んでいる。そろそろ止めるべきだろうな、うん。

「そろそろ止めにしたらどうだ?大分飲んでるだろ。」

「何言ってんですか提督!まだまだ序の口ですよ!?」

「そうですよぉ、まだお腹も六分目位だしぃ。」

 はぁ、この暴食空母共は……。食う母に艦種変更してやろうか、ったく。 

 

変わり種と定番


 散々飲み食いしたくせに、未だ衰えを知らない二航戦コンビの食欲。なら、とことんまで食わせてやろうじゃないか。

野菜、肉、卵と来たから、海鮮でも行こうか。用意するメインの食材は、はんぺん。今の時期だとおでんとかに入れると最高だよな。フワフワ食感に出汁吸って。今日はそのまま使うのではなく、フードプロセッサーに掛けて一旦擂り身の状態に戻してやる。するとはんぺんてのは面白いモンで、成形される前の状態のように粘り気のある擂り身の状態になるんだ。

 俺はそれを半分に分け、片方には干しエビ、もう片方にはちりめんじゃこを混ぜた。後は揚げるだけなのだが、ここでも衣に一工夫。先程卵コロッケを作るのに使ったパン粉を使い回すのだが、そこに天かすを混ぜる。割合はパン粉が8、天かすが2くらいで良いだろう。後は普通のフライと一緒。小麦粉→卵→パン粉の順に付けたら油にダイブ。これも中身は火を通す必要は無いから、衣に火が通ったら油から上げる。

「ほら出来た、『2種のはんぺん揚げ』だ。まずはそのまま、薄味に感じたら醤油で食べてみな。」

 三度かぶりつく二航戦コンビ。パン粉のサクサクに天かすのカリカリとした食感が混じり、独特の歯触りになるんだよな、コレ。

「ん~、はんぺんフワフワぁ♪」

「中のエビとかじゃこが良い味出してますねぇ。」

 俺がアレンジ加えるとしたら……そうだな、パン粉に黒ゴマなんか足したら、香ばしさ増して良いかもな。



 さて、最後は定番、鶏の唐揚げで行こうか。唐揚げのレシピは何種類かあるが、今日はその中でも最もオーソドックスな奴で行こう。

 使うのは鶏のモモ肉。大きめに切って、おろしニンニク、おろし生姜、醤油、ごま油、ハチミツ、豆板醤、酒をを合わせた漬けダレに漬け込む。

 30分程漬け込んだ所に溶き卵を加えて混ぜ、更に30分漬け込む。

 衣は薄力粉→片栗粉の順番に付けて使用。片栗粉のみだと竜田揚げになっちゃうから注意してな。後は180℃に熱した油に投入。カリッと揚がったら真ん中辺りまで切れ込みを入れ、千切りにしたキャベツにマヨネーズ、カットレモンを添えたら出来上がりだ。

「ほれ、鶏の唐揚げ。これは美味しい食べ方があるんだ。」

 まずは千切りキャベツとマヨネーズを和えて、そこに七味唐辛子を加える。唐揚げにはお好みでレモンをかける。そうしたら唐揚げの切れ込みにキャベツを挟み込んでかぶりつく。もちろんそのまま食べても美味いんだが、こうして食べるとシャキシャキのキャベツの食感と唐揚げのジューシーさが相まって更に美味しく食べられる。

「ん~、やっぱ唐揚げは美味しいねぇ~。」

 蒼龍は顔をユルユルに緩めながら、唐揚げにかぶりつく。隣の飛龍はといえば、顔が笑顔のまま固まっている。

「どうした?飛龍。飲みすぎたか?」

「えへへへへぇ~、蒼龍ぅ~♪」

飛龍が隣からガバッと抱き付き、ギューッと羽交い締めにする。

「ち……ちょっと飛龍、痛いってば!」

 蒼龍は飛龍の羽交い締めから逃れようと身を捩る。その度に蒼龍の上着がはだけそうになりながら、胸部装甲(意味深)が大きく跳ね回る。

「ていっ!」

 さすがにこれ以上はマズイだろうと、俺が飛龍の延髄に手刀を決める。その一撃で昏倒した飛龍を抱き止める蒼龍。

「あ、ありがとう提督、助かったよ……。」

 息を切らしながら着崩れた上着を直す蒼龍。

「蒼龍、お前ちょっとマジメにダイエット考えた方が良いぞ。」

 首を傾げる蒼龍に、俺の目に毒だからとは言えなかった。

(飛龍が羽交い締めにした時に、「頑張れ飛龍、お前なら出来る!」と応援してしまったのは、もっと内緒。) 

 

EX回:1 鎮守府の秋祭り~プロローグ~

 
前書き
※今回からハーメルン時代にコラボ(こちらでいうクロスオーバー)した作品がしばらく続きます。

作者はコチラでも活動を始められた白飛騨さん(ハーメルンではしろっこさん)です。同じ事柄を2作品で描くという中々面白い形になっていますが、まだ此方では白飛騨さんサイドの作品は読めません。出来る限り早くコチラでも読める状態にしたいと白飛騨さんは仰っておりましたので、我慢出来ない方はハーメルンで読まれる事をオススメします。

※追記※
 白飛騨さんの『みほちん』シリーズにはオリジナルの艦娘が多数出演しています。今回のコラボでは

・重巡『祥高(しょうこう)』
・駆逐艦『寛代(かよ)』

 が登場します。誤植や誤字では無いので注意してください。 

 
 俺は執務室にいる。だが、すぐ近くから祭囃子の笛太鼓の音色が響く。執務室の窓からは、艦娘と妖精さんが共同で建てた櫓が目に入る。いつもは殺風景な鎮守府入口から本館までの道のりには、幾つものカラフルな屋台が並ぶ。客は艦娘と一般人、混じりあって楽しんでいるらしい。

「いやぁ、やっつけ仕事でやった割には盛況じゃないか。」

 誰にそう言うでもなく、俺は1人つぶやいていた。



 きっかけは、そう。意外な事に海外の艦娘からの発案だった。

「オクトーバーフェストぉ?ドイツのビール祭りか?」

「う、うん……。ダメかなぁ?提督。」

 特に問題なく艦隊運営の指揮を執っていた昼下がり、それは大淀と共にやって来たZ1……レーベレヒト・マースからの提案だった。どうやら、故郷ドイツの祭をこの鎮守府でやりたかったらしい。

「いや、一応ここ軍事施設だからな?雰囲気は女子高とかそのノリに近い物あるけどよ。」

 やはり兵器とはいえ、女子が数百人同棲してるんだからノリはそうなっても仕方がないのかも知れないが、そこはやはり軍としてある程度の規律ある行動を取らなくてはならない。そもそも、大本営からの認可が降りるとは思えない。だからその今にも泣きそうな顔を止めてくれ。何か俺が悪い事してるみたいじゃねぇか。

「良いのでは無いですか?提督。」

 そう言ったのは大本営とのパイプ役、軽巡・大淀だった。

「大本営は地域住民との関係改善は最重要課題に挙げて居ますから。『地域住民への一般開放』という形で、秋祭りとして開催しては?レーベさんの希望とは多少異なるかも知れませんが、出店ブースの1つとして出せば可能かと。」

 はぁ、解ってんのかねこのドS眼鏡は。そんな大々的なイベントやったら、仕事増えて困るの俺なんですけど?そしてレーベに要らん希望を持たせやがって。

「あー……、解った、解りましたよ。大淀、大本営にイベント開催の是非を問う電報を打て。一応暗号でな。」

「はい、提督。」

 大淀はクスクス笑いながら電報を打ち始めた。チクショウ、完全に俺が根負けするの判ってやがった。性悪ドS眼鏡め。

「取り敢えず大本営の許可が降りたら、だぞ?レーベ。」

「うんっ、ありがとう提督!僕頑張って準備するよ。」

 おい、だから認可が降りたらだっつの。そんな開催が決定したかのように大喜びで走ってくな、勘違いされっから。



 そして夕方、大本営からの変電が来た。なになに……?

『貴官ノ発案、真ニ素晴ラシキ物也。是非トモ盛大ナ秋祭リノ開催ヲ望ム。』

 え、何コレ。ヤダコレ。要するにジャンジャンやっちゃって良いよ、って事か?おいおいマジかよ……。ん?まだもう1枚あるぞ。えーと…?

『秋祭リ開催ニ臨ミ、警備ノ増員必要ナレバ、イツデモ連絡頂ク様、切ニ願ウ物也。

                    陸軍憲兵隊』


 え?憲兵さんも全面協力なワケ?もうやだこの国。戦時中って、なんだっけ……orz

 とにかく、こうして我が鎮守府で秋祭りが開催される運びとなった。 

 

EX回:2 鎮守府の秋祭り~準備編~


 大本営からの変電が来た翌日。俺は滅多に開かない朝礼をすることになった。

「え~、大変誠に超絶面倒くさいのですが、鎮守府を一般公開して秋祭りを開催する事になりました~。え~、それに伴って待機組18隻を選抜して、それ以外は艦娘主体の屋台を出す出店組と完全にオフの組に分ける。希望者は出店計画書を俺に提出するように。期限は三日、それ以降は遅延は受け付けない。以上だ。」

『やったああぁぁぁぁ‼』

 お~お~、このはしゃぎっぷり。どうみたって女子高の学園祭のノリその物だわな。まぁ、決まった物は仕方がない、こうなりゃ全力で楽しむだけさ。



 ……なんて、考えてた時期が私にもありました(遠い目)。この事前の準備、果てしなくめんどくさい。

 開催に当たり、大本営から提示された条件は4つ。

 1)海上警備用の艦隊を三編成準備する事。

 2)地域住民と艦娘の屋台を同時に出店させ、競合させる事。

 3)会場内の警備は憲兵隊に任せる事。

 4)内地から提督とその艦隊を送る為、公開演習をプログラムに組み込む事。

 1、3、4は解る。1は万が一の備えとして必要だし、俺も待機組は編成するつもりでいた。3は陸と海の関係を少しでも改善したいというお上のご意向だろうさ。ここで陸さんに借りを作っておけば、後々上手く回るだろうからな。4は……まぁ、ぶっつけ本番だろうな。

 問題は2だ。特に艦娘の屋台。既に相当数の出店希望が出ている。必要機材は妖精さんと明石、夕張が請け負ってくれた。問題は誰を出店させるか、だ。

「長門の綿菓子……レーベのプチオクトーバーフェスト、金剛姉妹の喫茶コーナー……あん?」

 出店希望のリストを眺めながら、俺は1枚の出店計画で手を止めた。そこには比叡:カレースタンドの文字がある。比叡の飯マズっぷりは他の鎮守府でも有名らしいが、ウチでもそれはご他聞に漏れず、特にカレーは「食べる大量破壊兵器」と揶揄される程だ。俺も改善しようと努力はしたが、全く改善が見られない。勿論却下だ。

「お。足柄と那智が共同でカレースタンド出すのか。こっちは認可…っと。」

 認可の判子を押し、再び確認作業に戻る。

「雲龍の肉まん、大和のジュースバー、時雨のかき氷、鳳翔さんは……焼鳥かぁ、100%美味いだろコレ。」

 どんどん認可の判子を押していく。そして再び手が止まる。磯風:烏賊焼きと書かれている。

「アウトオオオオォォォォ‼もろアウトォ!」

 飯マズとして有名な比叡以上に、磯風の飯マズっぷりは強烈だ。なにせ焼き魚みたいな単純な料理でさえ命の危機を感じるような殺人兵器に作り変えてしまう。あそこまでいくと最早才能だわ。

 さてと、こんなモンかな。艦娘の出店スペースと店の種類は決まった。 

 

EX回:3鎮守府の秋祭り~準備編②~


 どうにかこうにか、出店する艦娘と屋台の種類が決まった。下に一覧として出そうと思う。

黒潮:お好み焼き

浦風:広島風お好み焼き

長門:綿菓子

鳳翔:焼き鳥

龍驤:たこ焼き

愛宕:チョコバナナ

高雄:フランクフルト

間宮&伊良湖:大判焼き

武蔵:佐世保バーガー

天龍:金魚すくい

龍田:唐揚げ(竜田揚げ)

大和:ドリンクバー

雲龍:肉まん

時雨:かき氷

秋月&照月:おにぎり

大鯨:豚汁

足柄&那智:カレースタンド

金剛姉妹:喫茶コーナー

夕立:ドーナツ

明石:明石焼き

瑞鳳:クレープ

ドイツ艦娘:プチオクトーバーフェスト(ドイツビール&料理の提供)

 主だった物はこんな所だろうか。紐くじや射的、輪投げといった遊戯的な屋台や、一部の飲食系の屋台は地域住民の出店という事で話がまとまった。



 さてと、次は……ゲ、憲兵隊との折衝かよ。あそこの隊長苦手なんだよなぁ、皮肉屋で。

「さ、嫌がってないで行きますよ~、提督。」 

 ニコニコしながら大淀が俺の襟首を掴んで引き摺っていく。ちくしょー、この性悪ドS眼鏡め。俺は一応お前の上司だぞ?くそったれ。



 しかし意外な程、憲兵隊からの協力は取り付けられた。もっとゴネられるかと思ってたがすんなりと私服の憲兵さんが20人、各重要施設の入口に二人ずつ、合計10人で総員30人。やはり軍令部が手を回していたらしい。

「さて、後は会場設営と……」

「あ。そういえば模擬演習の相手の提督の資料、届いてましたよ。」

 あのなぁ。そういうのは届いたらすぐに出せっての。えぇと、何々……。



 海軍提督養成課1期生。という事は大先輩じゃねぇか。鎮守府黎明期、艦娘がこの世に誕生したばかりの頃、日本周辺の海域をほぼ封鎖され、絶体絶命だった頃の激戦を戦った世代。今の様に艦娘の量産態勢も整っていない頃だ、国内四大鎮守府と言われている横須賀・呉・佐世保・舞鶴は規模も艦娘の錬度も段違いに高い。

「さ~て、どこだどこだ~?横鎮か?呉か?はたまた佐世保か?」

 もう一度資料を見ると、【所属:美保鎮守府】とある。ん、美保鎮守府?

「う、嘘だろオイ……まさかあの美保鎮守府の提督が相手かぁ!?」

 美保鎮守府。鳥取県西部に面した日本海の入り口の守りを任された鎮守府。施設の規模は小さいながらも、戦艦・空母・雷巡・重巡・軽巡・駆逐艦とバランス良く配備され、更に独自の艦娘を建造して配備している。更に実戦経験も豊富で、数少ない陸戦も経験した鎮守府だ。

 提督の指揮能力も高い。前任の舞鶴では新任の頃に一度の出撃で6隻、つまり出撃した艦隊全艦を沈めたという過去の記録が残っているが、美保鎮守府に転任してからの損害は0。上から何と言われても艦娘の命を最優先し、その為艦娘達からの信頼も厚い。加賀を沈めた直後、まさに俺が理想とした提督像だと、残っていた戦闘詳報や演習記録、残っていた手記等を読み漁って研究したものだ。そんな相手が演習の相手。あ、ヤバイ。緊張で吐きそうなんだけど。
 

 

EX回:4鎮守府の秋祭り~前日編~

 どうにかこうにか、祭りの前日までこぎ着けた。俺も目の下に濃い隈を作りながら書類と格闘している。連日連夜、ウチの店に出店担当の艦娘達が料理指導をしてくれと押し寄せて来ていた。鳳翔さんか間宮さんのトコに行けよ、と怒鳴ったりもしたのだが、鳳翔さん達は明日のご飯の準備があるからダメなんだと。俺もここの指揮官なんですがそれは。兎に角だ、漸く明日には一段落だ。と、そこにノックの音が。

「おぅ、入れ。」

「提督?間宮です。お疲れでしょうから、大判焼きの試食を兼ねて、お茶をお持ちしました。」

「おっ、良いねぇ。早速頂こうか。」



 準備期間中はこんな嬉しい誤算もあった。試食と称して艦娘達が差し入れを持ってきてくれるのだ。お陰で半分引きこもりのような状態になりながらも書類仕事をやっつけられていた。

「ず、随分持ってきたね。」

「えぇ、出品予定の全種類、持ってきましたから。」

 えぇと、つぶあん、こしあん、クリーム、チョコ、ずんだ、白玉入りのつぶあんとこしあん、ウグイスに栗……すげぇ。大判焼きの専門店か何かかな?

「これでも減らした方なんですよ?最初の段階ではこの倍くらいの種類でしたから。」

 て事は、最初は20種類位あったのか。恐るべし間宮さん。

「さぁ、冷めない内にどうぞ?」

 そう薦められて1つ手に取る。まだ温かい。わざわざ焼いて持ってきてくれたらしい。半分に割って見ると、中から小豆の粒と白い塊が顔を出した。どうやら、白玉入りのつぶあんを手に取ったらしい。一口かぶりつく。途端に感じたのは餡の熱さ。

「あふ、あふ、あふふふ……」

 口をハフハフと動かしながら、口内から熱を逃がす。ある程度冷めたら一回、二回と咀嚼する。次に感じたのは、その独特の食感だ。フワフワと口当たりの良い大判焼きの皮に、小豆のツブツブとした食感、そして舌に感じるツルリとした感触。白玉だ。白玉を噛むとモチモチとした食感が加わる。

 フワフワ、ツブツブ、モチモチ。3つの異なる食感が目新しさを感じる。そして口一杯に広がる餡のドロリとした甘味。皮からも甘味を感じるが……これは、ハチミツか?

「…うん、流石は間宮さん。美味いよ。」

 そして、このほうじ茶に合う事合う事。間宮さんが正面で満足げに微笑んでいる。あぁ、こういう熟した感じの女性ってのも、魅力的だよなぁ……。って、何考えてんだ俺は。

「でも、大分お祭り会場らしくなって来ましたね。」

 ほうじ茶を啜りながら、外を眺める間宮さんが目を細める。確かに、櫓も屋台もほぼ完成し、今は飾り付けの提灯を下げている段階だ。

「そうだな、もう明日には開催だからな。」

「他の鎮守府でも開催された事の無い、初めてのイベントですから。絶対、成功させましょうね。」

「あぁ、勿論。」

 俺と間宮さんは、その場で握手を交わした。 

 

EX回:5 鎮守府の秋祭り~当日編①~


 多少の不安を残しつつ、秋祭り当日を迎えた。ポンポンと開催を告げる空砲が鳴り、ワッと来場者が流れ込んでくる。威勢の良い掛け声や雑踏のざわめきが、執務室まで響いてくる。

「さ~てと、どうすっかなぁ。」

 ここの責任者としては、ここを動くべきではない。憲兵さんからの定時報告もあるだろうし、海上警備の艦娘からの連絡もここに入る。しかし、生来の祭り好きな俺はもうウズウズしている。行きたくて行きたくて仕方がない。

「何をそわそわしてるんです?提督。」

 大淀がクスクスと笑いながら近寄ってきた。今日はいつものセーラー服を思わせる服ではなく、青を基調とした浴衣を羽織っていた。あの軽巡にしてはバカでかい艤装も背負っていない。

「どうです提督、似合います?」

 クルクルと回ってみせる大淀。浴衣の裾が捲れてチラチラと細くて白い脚が隙間から覗く。

「そうさなぁ。普段真面目な委員長が、今日は頑張っておめかししました~って感じだな。」

 俺がニヤリと笑ってそう言った瞬間、顔が真っ赤に染まった大淀の左フックが飛んできたが、仰け反ってかわす。

「ハッハッハ、着なれない服装だから動きが鈍いな、大淀。」

 尚も追撃を仕掛けてくる大淀の右ストレートを、左手でキャッチする。女子とは言えど、流石は艦娘。手がビリビリと痺れるが左手の力は弛めない。

「怒るな怒るな、似合ってんだから。」

 掴んでいる左の拳を横に退けて、顔をグッと近付ける。ドキッとしたのか、顔を逸らす大淀。やっぱSっ気の強い奴って、強く迫られると弱いんだよなぁ。



「失礼します‼……あ、お取り込み中でしたか?」

 若い憲兵らしき甚平姿の男が、敬礼して入ってきた。まぁ、男女が触れあいそうな距離で立ってたら、そりゃ気まずいよなぁ。

「いや、構いませんよ。定時報告ですか?」

 そこで漸く大淀を解放してやる。少し残念そうな顔してんのは気のせいか?

「はっ。只今開会から2時間経過致しましたが、大きな問題はなく概ね順調であります。」

「ありがとうございます。今から少し席を外すので、連絡事項は私の無線によろしく。」

「了解致しました。では!」

 再び敬礼して憲兵さんが戻っていく。

「さてと……大淀!」

「は……はひ?」

「さっきは悪かったな、からかって。お詫びに一緒にお祭り廻るか?」

「は……はい?」

「そうかそうか、なら行こう。」

 そう言うや否や、俺は大淀の肩をガッチリと抱くと、そのままの勢いでズリズリと引き摺るように外へと連れ出した。

「えぇ!?ちょ、ちょっと……待ってえええぇぇぇぇ……‼」

 という、困惑した大淀の叫びを置き去りにして。さぁて、遊ぶぞ~‼ 

 

EX回:6 鎮守府の秋祭り~当日編②~

 執務室での待機に飽きたので、会場の巡回を行う事にした(建前上)。まぁ、本音を言えば祭り会場で遊びたいだけなんだが。大淀を連れていれば艦娘からの報告の受信、指示の伝達は出来るしな。

「さて、まずはどこに行こうかな~っと。」

「はぁ……、これ仕事なんですからね?提督。」

 大淀が隣でジト目で睨んでくる。まぁそう怒るなよ、と言いかけたが、その顔もまぁまぁ可愛いので止めておいた。

「む……なんだ提督、職権濫用でデートか?」

 そう言って呼び止めたのは長門。そういや長門は綿菓子屋をだしてるんだったか。

「やめろバカ、人聞きの悪い。屋台が問題ないかの巡回だよ。大淀居れば連絡も取りやすいだろ?」

 成る程、と言う長門の見えない所で大淀が脛を蹴ってくる。止めてくんない?地味に痛いから。

「折角だ、何か食べていけ。」

 と言った瞬間、わーっと小さい男の子や女の子が長門の屋台に群がってきた。地域住民の子だろう。

「お姉ちゃん!アタシ、クマさんのわたあめ‼」

「あ、俺は虹色の奴!」

「あ!ずるい。じゃあねぇじゃあねぇ、私はピンクのゾウさん‼」

 長門、途端にキャラ崩壊。

「そうかそうか、今作るから順番に並ぶんだぞ~?」

「「「はぁ~い‼」」」

 なんだあの弛みきった顔は。鼻の下まで伸びきってるぞ。



 しかしながら、長門の手付きは中々の物だった。まずは土台だろう、大きな丸いわたあめを作り、次に小さなわたあめを作って三角に成形。土台にくっつける。更に目や口を器用に作ってくっつけると……

「わぁ~、クマさんだぁ!」

 あの不器用な長門が随分練習したらしい。虹色のわたあめとやらは……?成る程な、かき氷のシロップを霧吹きに詰めて、それで色付けか。しかしスゲェ色だな。



 次々と子供達の注文をこなしていく長門。どうやらこの屋台は問題ないな。

「じゃあな長門、俺達はそろそろ行くよ。」

「む、そうか?1つ位食べていっても……」

「いや、中々貴重な物が見られたから良いよ。じゃあな。」

 デレッデレの顔で仕事をこなす長門なんざ、滅多にお目にかかれないからな。

「………ん?」

 ふと、前方にいる一人の少女に目が止まる。背格好は小学生位なのだが、着ている服はセーラー服。どうにも違和感がある。

『今着ている子供は大概が浴衣、もしくは私服……。そこにセーラー服だと?』

 あの位の背格好でセーラー服というと、真っ先に思い浮かぶのは艦娘……それも駆逐艦。しかし、ウチの鎮守府にあんな娘いたか?脳内の記憶野を探るが、思い当たる艦娘はいない。と、此方の視線に気付いたようにそそくさと雑踏に紛れ混んでしまった。

「どうしたんです?提督。」

「……いや、気のせいだろう。さ、行こうぜ。」

 そう言って俺は脳内の邪推を振り払うと、再び歩き出した。 

 

EX回:7 鎮守府の秋祭り~当日編③~

 少し違和感を覚えつつ、巡回を続けるが、屋台に関しては然したる問題は無かった。黒潮と浦風が真のお好み焼きで張り合ったり、駆逐艦の娘達に声を掛けようとしていた如何わしいお兄さん達が憲兵さん達に連行されていたり、天龍が金魚すくいの屋台でチビッ子に囲まれてワタワタしていたりと、割りと日常化した光景だった(特に天龍)。

 しかし、歩き回っていると腹が減ってきた。さて、そろそろ何か食べようかと思案していたら、目の前の屋台に凄い人だかりが出来ている。しかも、野郎ばっかり。さぞかし食べ応えのあるメニューなのだろう。

「大淀、少し待ってろ。今買ってくるから。」

 その人だかりを掻き分けるようにして行くと、

「あらぁ♪提督、いらしてくれたんですねぇ♪」

愛宕と高雄が隣り合ってチョコバナナとフランクフルトの屋台を出していた。まぁ、それは良いよ。ただ、問題はその服装だ。

「なぁ愛宕。1つ聞いていいか?」

「なんでしょう?」

「何でお前らは水着で商売してんのぉ!?」



 そう、愛宕と高雄は何故か水着姿。いや、正確には上半身はどちらも普段の制服をイメージした青いビキニだが、愛宕はデニムのホットパンツ、高雄はパレオ風のスカートを巻いていた。

「ん~?暑いから?」

う~ん、と悩むように腕組みをして人差し指を顎に当てる愛宕。その仕草でナニがとは言わないがギュッと寄せられ、どたぷんと揺れる。周りの男達が一斉に生唾を飲み込むのが聞こえる。嗚呼、男の性よ(泣)。

「というか、高雄までそんな格好……。」

「だっ、だって暑いんだもの!そ、それにこっちの方が売れ行き良いし……。」

 出店ブースの艦娘は、機材料と設備費、そして材料代以外は自分のポケットマネーになる。その為、どの艦娘も真剣に商売している。確かにこの爆裂ボディでフランクフルト売ってたら、男ならイケナイ妄想しちゃうわな。悲しいけど、これ本能なのよね……。

「ぱんぱかぱ~ん、チョコバナナとフランクフルト、各30本ずつ出来ましたよぉ♪……食べるぅ?」

 食べりゅうううううぅぅぅぅっ!と、周りの男達が野獣のように食い付く。まぁ、これも商売のやり方の1つだし?

「ま、まぁ怪我人とか出さねぇように気を付けろよ?」

「はぁ~い♪じゃあ提督、毎度ありがと~。」

 俺はフランクフルトとチョコバナナを2本ずつゲットし、大淀の所へ戻った。すると、しきりに首を傾げている大淀。

「どうした、トラブルか?」

「いや、あれ……。」

 大淀の指差した方を見ると、たこ焼きの屋台で龍驤が鬼の形相でたこ焼きを焼きながら何度も千枚通しを突き刺している。

「巨乳なんぞ…巨乳なんぞ……」とか、「貧乳はステータスや…希少価値なんや……」

 とかブツブツ言いながら、大量のたこ焼きを捌いている。

「……………………大淀、何も触れてやるな。それがヤツの為だ。」

 俺はそれだけ言って、その場を後にした。



 フランクフルトとチョコバナナだけでは、流石に昼食には物足りない。

「おお、提督よ。デートか?」

 おいおいまたか、と声の主の方を見ると、ハンバーガーを片手にパティを焼く武蔵?の姿が。普段の服装にプラスして、野球帽とどっかの刑事がかけてそうなサングラスを掛けている。恐ろしく似合ってない。

「おい、それ商品だろ。食っていいのかよ。」

「あぁ、私は儲けなど度外視でやっているからな。」

 話を聞くと、以前市街で佐世保バーガーの店を見つけて熊野や鈴谷、赤城等と連れ立って食べに行ったらしい。そしてその店の味に惚れ込み、以来その店のオヤジに頼み込んで作り方を教わっていたらしい。そして今回、屋台に出店するという事で、その店の味を提供しようという考えに至ったらしい。

「それに焼きながら味のチェックをしていれば、私は満足だしな。レーベ達が差し入れにビールを持ってきてくれるし。」

 そう言いながら、武蔵は傍らに置いてあったビールに手を伸ばし、ゴキュゴキュと喉をならして瓶ビールをラッパ飲みしている。

「あぁそうだ、提督も食べるか?美味いぞ?」

「お、そうだな。なら貰おうかな。」

「毎度。では、メニュー表からサイズを選んでくれ。」

メニューを見ると、ハンバーガー1種類とサイドメニューだけだが、バーガーのサイズが艦種になっている。成る程な、これは鎮守府らしくて面白いかもしれん。

「小さい順に…潜水艦、駆逐艦、軽巡、重巡……ははぁ、燃費によってサイズがでかくなるのか。」

「そうだ、中々ユニークだろう?」

「一番デカいのは……『大和型スペシャル』か。完食した奴いるのか?」

「あぁ。まずは私だろ?姉貴だろ?……あぁ、二航戦コンビは1人1つ頼んで撃沈してたな。後は…そうそう、赤城が完食してたぞ。」

「赤城が?」

 またそこで、俺は違和感を感じた。普段の赤城は二航戦コンビよりも食べない、というよりも食えない。とてもじゃないがあの胃袋ぶっ壊れコンビが返り討ちに遭うようなメニューを完食出来るとは思えない。

「で?どうするんだ。サイズは?」

「あ、あぁ。じゃあ、大和型スペシャルと、ポテト1つ。」

 再び違和感を感じながら、俺は武蔵に注文した。 

 

EX回:8 鎮守府の秋祭り~当日編④~

 任された、と注文を受けた武蔵がまず取り出したのは、横に平べったく、そして馬鹿みたいにデカいバンズ。下手すると洗面器位の直径があるかも知れん。

「どうだ?デカいだろう。直径35cmあるぞ、どうだ?怖じ気付いたか。ん?」

 どうやら武蔵の思い通りのリアクションだったらしい。くそう、何か腹立つ。そのバンズを横に半分に割ると、その断面を下にしてを鉄板の上に乗せた。更に、これまた巨大なパティが2枚。しかし、ステーキの様に分厚い訳ではなく、薄くバンズの直径に合わせたサイズだ(それにしたって凄いグラム数だろうが)。

「そのパティは100%ビーフか?」

「あぁそうさ。その方が肉の旨味がガツンと来る。……所で提督よ、貴様佐世保バーガーの定義を知っているか?」

 ジュウジュウと良い音を立てて焼けていくパティの焼け具合をチェックしながら、武蔵が少し鼻高々に聞いてきた。

「あぁ、確か……」



 一時期流行って全国で食べられていた佐世保バーガー、あれは実は本当の意味では佐世保バーガーではない。佐世保バーガー『風の』ハンバーガーだったのだ。

 そもそも、佐世保バーガーの定義は、

・店毎に独自性、主体性があること。

・作り置きをせず、注文を受けてから作る事。

・必ず手作りである事。

・地元(つまり佐世保市)の食材を使っている事。

・そして何より、その味や安全性に信頼が置ける事。

 以上の事柄を基準に審査して、それに合格した物だけが佐世保バーガーを名乗る為の看板を掲げる事が許される。また、佐世保市内に店舗が無くとも、認定された者であれば、『佐世保バーガーの美味しさを市外の人々に広める為』という事で、「佐世保バーガー観光大使」に任命され、例え佐世保市外であっても認定の証の看板を掲げる事が出来る。

「……だったか?」

 周りからおぉ~……と感嘆の声と疎らな拍手が起こる。一方武蔵は悔しそうにギリギリと歯軋りをしている。

「おい貴様ァ!何故そんなに詳しいのだ‼」

「え、だって俺もそこの店、常連だし。」

 途端に武蔵がずっこけそうになっている。調理中に危ない奴だなぁ。そこのオヤジさんはお喋り好きで、色々と蘊蓄を教えてくれるモンだから、自然と覚えてしまったのだ。因にだが、そのオヤジさんの店にも、認定の証の看板は掲げられている。つまりは、本場の佐世保バーガーの味が堪能出来るってワケだ。

「フン、まぁいいさ。私の作るハンバーガーの再現度の高さに恐れおののくがいい‼」

 おいおい、どこの魔王の台詞ですかそれは。まぁ、確かに手際はかなり良い。パティを返した武蔵は、ハンバーガーに挟む前に焼かなければ行けない具材を更に準備していく。パティの次はベーコン。スーパーに売っているようなスライスベーコンを8枚、カリッカリになるまで焼いていく。更に更に、丸い金型を取り出して、その内側に卵を落とす。その数5つ。この時点で見ているだけで胸焼けがしてきそうだ。パティに火が通ったらしい事を確認した武蔵は、その上に特製らしいソースを回しかける。鉄板の熱さでソースが焦がされ、香ばしい匂いが立ち込める。ごくり、と唾を飲み込む。先程までの胸焼けしそうな感覚はどこへやら、また胃袋が空腹を断固訴えてきた。グウゥ……と腹が鳴る。

「ふふ、もう少しだ、待っていろ。」

 武蔵は腹の鳴った俺を微笑ましく見ながら、ソースを掛けたパティの上にとろけるチェダーチーズを乗せる。そのチーズがとろけ始めた瞬間を見計らって、武蔵が仕上げに入った。

 まずバンズをひっくり返し、良い焦げ目が付いた断面にバターをうっすら塗る。そこにパティを二段重ね。そこにソースを追い掛けし、その上に巨大目玉焼きをドン。

 更にカリカリベーコンを目玉焼きの上に載せ、そこにトマト、紫玉ねぎのスライスを載せ、マヨネーズソースをトロリと掛ける。その上にサニーレタスで覆い被せ、最後にバンズの上半分で閉じ込める。そして鉄板焼用のコテを二本使い、スパゲッティ等を纏めて盛りそうなサイズの大皿にドスンと置いた。

「さぁ出来たぞ。『佐世保バーガー・大和型スペシャル』だ。重いから気を付けて持ってくれよ?」

 折角作ったのに落とされては敵わん、と念押しされる。両手で受け取ると、確かにズッシリとくる重量感。3kg位は有るんじゃなかろうか。

「じゃ、じゃあな武蔵。ありがとよ。」

 巨大ハンバーガーを受け取った俺と大淀は、座って食べられる場所を探して歩き出した。……あ、流石にポテトは大淀に持って貰った。



 しばらく歩いていくと、広場の様な開けた場所にテーブルと椅子が何セットも出してある場所に辿り着いた。

「おっ、ここにしようぜ。……あ゛~、疲れたぁ。」

 持っていた荷物をテーブルに置き、椅子にもたれかかって両足を投げ出す。

「運動不足ですよ~?提督。」

「うるせー、歩くのに疲れたんじゃなくて、人混みに疲れたの。」

 そんな会話を交わしていると、後ろから寒気を感じさせる気配が接近してくる。

「へーィ提督ぅ。何を仕事中にイチャイチャしてるですカ~?」

 こめかみの辺りに青筋を浮かべ、引きつった笑顔の金剛がお盆を持って近寄って来た。

「イチャイチャなんてしてねぇぞ?屋台の巡回警備だって……の?おま、その頭の飾りは何だ?」

 よく見ると、金剛の服装はいつもの巫女さんぽい制服だが、あの特徴的な電探型のカチューシャの上に、大きなウサギの耳が付いている。

「あ、これですカ?普通のcafeじゃつまらないので、Bunny girl cafeにしたのデース‼」

 周りをよく見ると、確かに金剛の他にも比叡に榛名、霧島もウサ耳を付けている。更に、手伝いだろうか卯月に弥生、島風と漣も同様にウサ耳を装着していた。漣に至ってはメイド服のコスプレまでしている気合いの入れようだ。

「へぇ……中々似合ってるじゃないか。」

「あら?Adomiral,貴方も飲みに来たの?」

 聞き覚えのある声の方に振り向くと、そこにはバーテンダーの男装をした金髪の女性が一人。

「お、お前もしかしてビス子か?」

「ちょっと!その呼び方は止めなさいって言ってるでしょ‼私はドイツの誇る超弩級戦艦・Bismarkなんだから!」

 そう言ってビス子……もといビスマルクは、背筋を伸ばして身体を大きく見せるように胸を張った。 

 

EX回:9 鎮守府の秋祭り~当日編⑤~

 
前書き
漸くいつもの感じのシーンが出てくると思います。 

 
 改めてビス子……もといビスマルクの男装を上から下までまじまじと眺める。普段の制服も黒を基調とした制服だ。ボディラインが出やすい構造のお陰でスタイルが良いのは解っていたが、やはりスラリと伸びた脚が長いからかスカートではなく細身のタキシードでも着こなしてしまう。何ともまぁ、モデル体型ってのは羨ましい。

 ……え、俺は着ないのかって?俺は良くも悪くも日本人的な胴長短足だから、あんまり似合わねぇんだよ。それに堅っ苦しいのは苦手なんでね、Tシャツに短パンもしくはカーゴパンツ。その位ラフな格好の方が性に合ってる。そ れに、そんな気取った店には見えないだろ?その方が。

「な……何よ、そんなにジロジロ眺めて。どうせ似合ってないとか言いたいんでしょ!?」

 ビス子(結局直さない)は頬を真っ赤にしてうっすらと目に涙を浮かべながら怒鳴っている。何だこれ、俺悪者みたいじゃん。

「いや?フツーに似合ってるだろ。お前スタイル良いから、やっぱこういうバーテンダーっぽい衣装って脚長いと似合うよなぁ。」

 俺は素直な感想をビス子にぶつけると、顔が更に赤く染まり、そっぽを向くと、小声で

「…………Danke.」

 と聞こえた。やっぱ性格が暁そっくり。精一杯背伸びするけど、素直になれない。けれども礼儀はしっかりしてる。だから『デカい暁』とか言われちゃうんだろうなぁ、多分だけど。あと、後ろの方で「Shit!」とか聞こえた気がするが、まぁ気にしない。



「あ、提督。来てくれたんだ!」

「おー、レーベか。お前のそれも似合うなぁ。」

 見るとレーベは普段の制服である上下一体となったアレではなく、伝統的民族衣装の……ディアンドル、だったか?エプロンドレスを着て、艤装も艦上構造物を取っ払った様な形の物をトレーの代わりにしてビールを運んでいる。見るとマックスとプリンツ、それにユーことU-511も揃いのディアンドルを着て接客している。

「あ、そうだ。提督にちょっと相談なんだけど……。」

「あん?」

 レーベが耳元に右手を当て、コショコショと囁いてくる。

『実は……ビール以外のドリンクメニューを考えて、ビスマルクに教えて欲しいんだ。』

 聞けば、オクトーバーフェストを再現する為にビールは色々な種類を用意したのだが、どうにも売上の伸びが悪い。特に女性があまり注文してくれない、と。

「ははぁ、それで俺に白羽の矢が立ったワケだ。」

「うん。どうにかならないかな?」

 そう言われては手伝わない理由はない。チラリと大淀に目配せすると、仕方ありませんねとでも言いたげに肩を竦めた。さぁて、やっちゃいますかねぇ。



 取り敢えず、フードメニューとドリンクメニューを見せてもらう。

『料理のメニューは……ザワークラウトにプレッツェル、グラーシュにヴルスト(ソーセージ)等々、まぁ初めてドイツ料理を食べる人でも親しみやすそうなメニューが並んでいる。』

『ドリンクメニューは……と。ハイネケン、ビットブルガー、レーベンブロイ、シュナイダー=ヴァイセ、ラーデベルガー、ヘニンガー、ベックス、クロンバッハ、イエファー、ホルステン、エルディンガー、ドム=ケルシュ……まだまだあるが約20種類か。よくもまぁビールのみでこれだけ集めたモンだ。』

 さてどうしたものか。仮にもオクトーバーフェストを名乗っているのだから、出来る事ならビールを使う方が良いだろう。女子ウケが良い物も変わり種の物も、何種類か教えた方が良いだろうな。

「お~いビス子~。こっち来~い。」

「だから、ビス子って呼ばないで、って……。」

 瞬間、俺はビス子の口に人差し指を当て、黙らせる。

「折角のバーテンダーの衣装だ、それを活かして稼ぐのはどうだ?」

 そう言ってニヤリと笑って見せた。

「おー、妖精さん。サンキューな。」

 大淀が頼んでくれたらしい、妖精さんがカクテル作りに必要な物を一式、持ってきてくれた。俺は白い軍服を脱ぐと、軽く手を洗う。

「さてと、小規模ながらオクトーバーフェストを名乗っているんだ。ビールを使ったカクテルをお前にご教授しましょう。」

「あら、ビールはそのままが一番美味しいに決まってるじゃない。」

 お前ねぇ、そういう身も蓋も無いこと言うんじゃないよ全く。まぁ良いさ、ビス子に頼まれたんじゃなくてレーベに頼まれたんだし。

 まずは定番ぽいのから行くか。タンブラーにビールとジンジャーエールを半々注いで出来上がり。

「ほい、まずはシャンディガフな。」

「早っ!雑っ‼」

 雑じゃあねぇよ。だってステアしたら折角の泡が消えるだろうが。使うビールは色味を考えてピルスナー系が良いだろうな。……あ、解らない人の為に解説すると、ピルスナーってのはビールの大別した種類の中の1つな。世界的に最も醸造され、そして飲まれている黄金色のビールだ。日本でビール、って言ったらまぁコレだわな。ピルスナーしか知らない人とか居るみたいだし。味としてはホップの苦味を活かしたスッキリサッパリした飲み口が特徴か。

 取り敢えずビス子に試飲させる。

「ん……ビールが苦手な娘には良いかも。苦味が緩和されるし。」

 そうなんだよな、ビールベースのカクテルって、基本『苦手なビールを如何に飲みやすくするか?』ってスタンスで作られてる物が多い気がする。

 次も簡単な混ぜるだけの一杯。ピルスナーグラスにビールとレモネードを半々。ステアは炭酸を掻き消さないようにあくまで軽く2~3回。

「さぁ、『パナシェ』の完成だ。フランス語で混ぜ合わせた、って意味だぞ。」

「さっきのシャンディガフは生姜がビールを引き立ててたけど、こっちはレモネードと甘さとビールのほろ苦さがマッチして、ちょっとだけオトナなドリンクね。駆逐艦の娘達が好きそう。レモンのお陰で爽やかな後味だし。」

 一般家庭で簡単にやるなら、アサヒのスーパードライにC.C.レモンがオススメだ。ビールが苦手な人にも是非とも飲んでみて欲しい一杯だ。

 さぁ、どんどん行くぞ。タンブラーグラスにカンパリを45ml注ぎ、そこにキンキンに冷やしたビールを適量注ぐ。するとあら不思議、黄金色のビールが鮮やかなラズベリーのような赤に変わる。

「さぁ出来た、『カンパリ・ビア』だ。」

「へぇ、カンパリとビールのほろ苦さが混ざり合って、不思議な感じ。けど全然嫌じゃないわ。」

 見た目にもお洒落だから、パーティなんかにも良いかもな。まだまだ、ビールを使ったカクテルはこんな物じゃないぞ。 

 

EX回:10 鎮守府の秋祭り~当日編⑥~

さて、次はどうするかな。

「ねぇ、シェイクして作るカクテルはないの?」

「は?何でだよ。」

「だって、バーテンダーと言ったらシェイカーを振るじゃない‼」

 安直過ぎませんかねアナタ。ビールシェイクしてどうすんのよ、ビールの特徴であるあの爽やかな炭酸が抜けちゃうでしょうが。仕方がない、ビール以外の材料をシェイクする奴を作りますか。

「んじゃあ……まずはライチリキュールを18ml、グレープフルーツジュースを36ml。香りと色付けにメロンリキュールを6ml……と。ビス子、これをシェイクしてくれ。」

「ええ、解ったわ。」

 ぎこちない手つきだなぁ。まぁ、ぶっちゃけた話混ざればどうにかなるからな。混ざった所でピルスナーグラスを用意し、シェイカーの中身を注ぐ。これだけで『チャイナ・グリーン』というカクテルなのだが、今回は俺のオリジナルアレンジ。そこにビールを適量注ぐ。更にミントシロップで爽快感をプラス。

「さぁ、『チャイナ・グリーン・ビア』だ。飲んでみな。」

「トルコ石みたいで綺麗な色ね。……うん、見た目通りにフルーツの色々な味とミントの爽やかさがスッキリするわ。でも、ビールをあまり感じないから私としては少し不満かしら。」



 そう言われては、次はビールをガツンと楽しめる、一風変わったカクテルを2杯、続けてご紹介。

「ビス子、大きめのジョッキにビールを2杯くれ。……あ、8割位の量で良いぞ。」

 ビス子と呼ばれるのに抵抗が無くなって来たのか、俺の指示に怪訝な表情を浮かべながらも、ビールを注ぐビス子。その間に俺はショットグラスを2つ準備。そこにそれぞれバーボンとテキーラを注ぐ。バーボンもテキーラも、かなり有名な酒だから説明は要らないだろう。ただ、バーボンと聞いてルパン三世一味のガンマン・次元大介を思い出すのは俺だけだろうか?

「提督、注ぎ終わったわ。」

「よしよし、よ~く見てろよ~……。」

 俺はジョッキの中にショットグラスを静かに落とす。グラスがジョッキの中で倒れなければ完成だ。

「さぁ、『ボイラーメーカー』と『サブマリノ』だ。ビールだけじゃあ物足りない、って客に出してやるといいさ。」

 ジョッキを傾けながら飲み進めて行くと、徐々にビールとショットグラスの中身が混ざっていき、時間と共に味の変化を楽しめる、ってワケだ。

「美味しいけど……、コレすぐに酔いが回りそう。」

 『ボイラーメーカー』を嘗めながら、若干顔をしかめるビス子。そりゃそうだ、そういう目的で生まれた飲み方、もしくはカクテルだからな。



 『ボイラーメーカー』が生まれたのは、アメリカらしい。なんでも、火力発電所に勤めるボイラー技師達が、少ない金で短時間に酔えるように編み出したのが、バーボン(もしくはウィスキー)のチェイサーにビールを飲む、という飲み方だった。それがいつしかジョッキの中にショットグラスを沈めるという奇想天外な方法で親しまれるようになった。

 『サブマリノ』の方は、元々質の悪いイタズラが発祥ではないか、という説がある。イマホドガラス製のビールジョッキが一般的ではない頃、主流は陶器製のビアマグと呼ばれる物だった。当然、中にショットグラスが入っているか等解らない。そこにテキーラだ。気付かずにガブガブ飲んだ奴は途端に酔いが回り、ノックアウトされてしまう。その姿が、まるで潜水艦に魚雷を喰らったかの様だったし、ビールの海に沈んだショットグラスを潜水艦に見立ててその名が付いた、とする説だ。ボイラーに潜水艦とは、なんとも艦娘にピッタリな飲み方じゃないか。

「ま、コレだけあれば何とかなるだろ。じゃあなビス子、あとは頑張れよ。」

「えぇ、貴方も見回り頑張って。」

 そう言ってビス子と別れると、俺は大淀を待たせていたテーブルに向かう。するとそこでは数人の艦娘達が浴衣姿でテーブルに各々の戦利品を広げてワイワイやっていた。

「あ、漸く戻って来たクマ。もう提督の席は無いクマ。」

「そうだにゃ。ここは多摩達が制圧したニャ。」

 そう言ったのはクマとタマ……じゃなかった、球磨と多摩。どちらも個性的な口調と高い能力で鎮守府の中でもクセの強い軽巡だ。今日は二人ともいつもの学生服のようなセーラー服ではなく、浴衣姿だ。特に球磨は、あの特徴的なクルクルアホ毛が消滅していた。

「あっそう。なら別にいいよ。…大淀、俺のハンバーガーは?」

「え、ありませんよ?」

「…………………は?」

「だから、このテーブルを制圧された時に球磨ちゃんをはじめ他の皆さんに食べられてしまいました♪」

 良く見ると、球磨、多摩、長良、名取、浜風に雷、電。皆頬や口の回りにソースやマヨネーズの付いた跡が。

「そ、そりゃあねぇだろうよぉ~……」

 俺はその場でヘナヘナと座り込み、ガックリと肩を落とした。



「フフフ、テートクぅ。そんな事もあろうかと、私達がspecialなtea timeを準備しておきましたヨー‼」

 金剛の声に反応してそちらを見ると、テーブルの上にはサンドイッチやスコーン、カップケーキ、クッキー等が所狭しと並んでいる。

「ありがとう金剛ォ!流石嫁艦筆頭、頼りになる‼」

 思わず金剛に抱き付く俺。金剛の顔はデヘデヘとだらしない笑いが張り付いているらしく、比叡がその涎をハンカチで拭っていた。

 早速いただこう。もう腹ペコだ。

「で、何でお二方は俺の両サイドに?」

 俺の両サイドには今、金剛と榛名が座っている。二人とも勿論ウサミミ装備。何コレ、近くで見ると余計に可愛いんですけど!

「テートクのお世話をする為ネー‼」

「は、榛名はお姉様のお手伝いに……。」

 え、ちょっと待ってこれ。なんか俺が物凄く恥ずかしいんですけど!

「Hey,テートクぅ。こっち向くヨー。」

 金剛の方を向くと、金剛が満面の笑みでサンドイッチを持ってこちらに向けている。こ、これってもしかして、もしかしなくてもだよなぁ。

「テートクぅ、あーん♪」

「あ、あーん……?」

 パクリ。何の変哲もないハムチーズサンドの筈だが、それの何と美味い事か。よくよく味わっていると、後ろから背中をつつかれる。

「あ、あの……。提督、榛名の淹れたミルクティーです。よろしければ…どうぞ。」

 榛名が顔を真っ赤に染めて、モジモジしながら上目遣いでティーカップを差し出してくる。あれ、これ夢かな。じゃなければ俺、この二人に萌え死にさせられそうなんですけど。
 

 

EX回:11 鎮守府の秋祭り~当日編⑦~

 金剛と榛名に挟まれ、嫌な気分……というより夢心地だったその時、急に携帯していた無線が鳴る。

「はい、こちら提督。」

『あー、提督?こちら海上見回りグループA班の北上様ですよ~。』


 連絡を寄越したのは北上。ウチの鎮守府の中でも古株で、その普段のユルさと海域攻略の時の頼り甲斐からか、駆逐艦に慕われている。……が、本人は駆逐艦のその幼さ故のかしましい感じが嫌いらしくいつも逃げ回っている。そんな彼女は重雷装巡洋艦。魚雷戦に特化した火力偏重型の艦娘だ。しかしその火力は凄まじく、特に夜戦となれば敵の姫級や鬼級と呼ばれる特異型の深海棲艦すら一撃で沈める事すらある。誰が呼んだか「ハイパー北上様」。本人も存外その呼び方を気に入っているらしい。

「おぅ、どうした?何かトラブルか?」

『あー、トラブルか解んないんだけどさぁ。会場って晴れてる?』

 あ?妙な事を聞く奴だな。晴れに決まってるだろうに。

「晴れてるぞ。そっちも晴れてるだろ?」

『いやぁ、それがさぁ。どうにも妙な霧が立ち込めてるんだよね~。そのせいか解んないけど、通信にも微妙にノイズ走ってるし。』

 言われて気がついた。確かに北上との通信が不鮮明だ。悪天候でもない限りクリアに聞こえるハズの通信が、だ。例えるなら……そう、ラジオのチャンネルの周波数が少しだけズレているような、そんなノイズの入りかただ。

『気にする程では無いかもだけどさぁ、一応ね。あ、あと提督も金剛達とイチャついてないで仕事しなよー。報告終わり~。』

「あぁ、ごくろうさん。そのまま続けて、定時で交代してくれ。」

 俺はそう言って北上との通信を切った。結局、海上の見回りは全員が交代で行う事になっていた。全員が平等に祭りを楽しむ為、だとさ。そういうチームワークの良さがココの売りだからな。



『しかし………霧。霧か。』

 海と霧は組み合わせとしてはあまりよろしくない。海で霧が発生すると時空が歪んでいる証拠だ、なんて唱えるSF研究者もいる位だ。『さ迷えるオランダ人』……フライング・ダッチマンのように世界の狭間に放り出される、なんてのはお伽噺やよくある都市伝説だと思っていた。あの時までは。

 霧の艦隊事件ーー。あの頃鎮守府に着任していた提督からすれば、あんな物は出来の良いB級映画だと思いたい位にぶっ飛んだ現実だった。不可解な霧がハワイ諸島海域を包み込み、そこに巨大な戦艦群……通称『霧の艦隊』が現れた。それと同時に、横須賀の大本営にも第二次大戦中の伊号潜水艦を象った霧の艦・イオナが出現。彼女とそのサポートユニットである霧の大戦艦・ヒュウガの談によれば、彼女達『霧』はこの艦娘が存在する世界とは別の世界線……つまりはパラレルワールドの住人であり、何かの事故かトラブルによってこの世界に飛ばされたらしい。そしてその世界に帰るには、深海棲艦と手を組んだ霧の大戦艦・コンゴウを倒さなければならない、と。

 戦いは熾烈を極めた。何しろ相手は昔の戦艦のサイズにレーザーやミサイルなどの兵器を満載し、果てはバリアや超重力砲なる空間を歪める重力エネルギーの奔流を発射する事さえ出来る。アレを生で見たときは、

「おいおい、グラビティブラストだよアレ。どこの機動戦艦ナデ◯コだよ。エステバリスドコー?」

 と、現実逃避したくなる程の破壊力だった。しかし、イオナ、タカオ、ハルナといった霧の艦の協力もあり、一連の騒動は幕を下ろした。……ハズだが。

『まさか、またあの時のような事が起ころうとしているのか……!?』

「テートクぅ?何難しい顔してるデスかー?」

 みると、金剛が心配そうにこちらを覗き込んでいる。どうやら、心配してるのが顔に出ていたらしい。大分険しい顔をしていたんだな。

「何でもねぇよ、心配すんな。」

 そう言って俺は金剛の頭をワシャワシャと撫でてやる。

「あ、あの~…。」

 そこにおずおずと声を掛けてくる男が一人。そちらを見ると、白く見覚えのある服が目に入った。



 それは俺が今着てるのと同じ提督である事を示す白い軍服。という事は、この方が彼の美保鎮守府の提督か。俺は急いで襟を正し、敬礼する。

「美保鎮守府の提督殿でありますな。お会い出来て光栄です。私はこの鎮守府を預かる◯◯大将です。以後、お見知り置きを。」

 敬礼をした相手はかなり狼狽えているようだ。何でだ?そういえば少し、いやかなり聞いていた年齢よりも若く見える。……いや、童顔なだけだろうな、恐らく。それに後ろに控える艦娘達。金剛・比叡・日向・赤城・龍田・夕立。そして見慣れない重巡と駆逐艦らしき艦娘。やっぱりだ、チラリと見かけたあの女の子だ。戦歴を見ればかなり歴戦の艦娘のハズだ。古強者達が放つ独特の風格が……あれ?なんか、気のせいか、すっっごい錬度がウチの艦娘達に比べて低そうに見えるんですけど?いやいや、そんな筈はないよな、ウン(錯乱)。

 時計を見ると、時刻はそろそろ公開演習の予定時刻である午後2時近く。調度良い、そのまま演習会場の方へ向かうとしよう。

「さぁ、時間もそろそろですから、会場に向かいましょう。」

「へっ?会場?なんの?」

「ハハハ、今更何を仰いますやら。これから、私の艦隊と貴方様の艦隊とで、模擬演習を行うのではないですか。」

「え……えええぇぇぇぇ!?」

 おぉう、何とも新鮮なリアクション。まるで今初耳みたいなリアクションだなぁ。あ、そうだ。折角だし、此方も同じ編成で挑むことにしよう。

「大淀ぉ、この方々と同じ編成で演習やるから。招集かけといてくれや。」

 了解しました、と大淀が敬礼したのを確認すると、俺は急かすように美保鎮提督の背中を押していく。何でだろうな、凄く抵抗されるんだが。まぁいいさ、会場に着けばやる気も出してくれるだろう。 

 

EX回:12 鎮守府の秋祭り~演習編①~

「あー、あー、マイク~チェック、マイク~チェック、ワン、ツー……。さぁ皆様、大変長らくお待たせ致しました!これより、我が鎮守府の艦隊VS日本本土よりお越しいただいた提督との模擬演習を執り行いま~す‼」

 瞬間、わあっと盛り上がる観客達。

「実況は私、金剛型戦艦四番艦・霧島と、解説には『演習番長』こと大和型戦艦の武蔵さんと、『鎮守府のはた迷惑パパラッチ』、青葉さんの計3人でお送りします。」

「うむ、よろしく。……ってなるかァ!おい霧島ぁ、後で覚えておけよ?」

「あぁん霧島さん酷いっ!青葉はた迷惑なんかじゃないですよぅ!」

 おい実況・解説席。トリオ漫才をやれと誰が言った。まぁ、解説の人選は悪くない。流石は霧島、艦隊の頭脳と呼ばれるだけはある。武蔵は先程の渾名の通り、その運用コストの問題で演習を数多くこなしている。演習のルールについて精通しているし、艦娘の分析力も高い。青葉はその情報網の広さでデータを活かした解説が望めるしで、まさにうってつけだ。



「さてさて、茶番はこの位にして。演習の編成としては如何です?武蔵さん。」

「そうだな、高速戦艦が2、航空戦艦1、正規空母1、駆逐と軽巡洋艦がそれぞれ1か。なかなかバランスの取れた編成だな。戦艦の火力をどう活かすか、それがカギだろうな。」

 茶番だと自覚があった霧島を、武蔵が華麗にスルー。しかし武蔵の解説は尤もだ。戦艦の大火力、そして同じ編成である事による戦略の差が勝敗の分かれ目といった所か。さてと、ではそろそろウチの艦隊を錬度(レベル)付きで紹介しようか。

旗艦:金剛(改二)Level135

 謂わずもがな我が鎮守府の最高錬度にして筆頭嫁艦。その自慢の攻撃力と高機動、そして敵の砲弾すら弾き飛ばす拳の強さは、そのまま接近戦でも活かされる。

「フフフ、勝ったらテートクにディナーを申込みマース!」

と、演習前に語っていたらしい(取材:青葉)。まぁ、ディナー位なら幾らでも付き合うさ。嫌いな奴に指輪渡すワケもなく、寧ろこっちからお願いしたい位だしな。

二番艦:比叡(改二)Level116

 説明不用のお姉様Loveの金剛型二番艦。ケッコン指輪さえ「お姉様とお揃い!」と大喜びだった(俺の立場ェ……)。錬度は姉妹の末っ娘霧島(Level120)には負けるが、姉譲りの高火力高機動は顕在。

「お姉様とディナーデートなんて……こいつはメチャ許せんよなぁ…」

 等とブツブツ呟いていたのを青葉が聴いて教えてくれた。殺されないかなぁ、俺(泣)。それで比叡の背後から物凄い気迫というか、妖気のようなモノが見えてたのか。

三番艦:日向(改)Level97

 航空戦艦となって純粋な火力は目減りしたものの、その代わりに得た航空機運用能力を活かし、対潜・対空戦闘、支援砲撃の上手さはピカイチ。多くは語らず動きで魅せる、寡黙な仕事人。そんな感じの戦いをする。最近飾りのように提げていた軍刀では接近戦は難しいと知り、日本刀に変えてから俺と剣術の稽古に励んでいる。飲み込みが早く、腕前は中々。

「まぁ、相手は格上だ。なるようにしかならないさ。」

 とは、試合前の談。

四番艦:赤城(改)Level110

 空母の中では二番目に錬度が高い彼女は、他の鎮守府のような暴食空母ではなく、どこかのゴローちゃんのような一人での食べ歩きをこよなく愛するグルメ。そして空母筆頭の加賀と後で食べ歩くらしい。艦載機の運用も上手く、バランスの良い安定した戦果を稼ぎだす。稀にだが油断すると手痛い被弾をしてしまうのが珠に傷か。

「はあぁ、巡回帰りですぐに演習ですか…トホホ……。」

五番艦:龍田(改)Level48

 普段は駆逐艦を率いての遠征旗艦が多い龍田だが、時代遅れとなった艤装ながら高い回避能力で敵の懐に潜り込み、手にした矛で相手を切り裂く戦法を得意とする。錬度の低さを腕でカバーしている典型的な例だ。

「赤城さん。間宮さんの大判焼き、冷めちゃったけど食べる?」

六番艦:夕立(改二)Level90

 駆逐艦最強、否、最狂戦力。普段は元気一杯の天真爛漫娘だが、一度スイッチが入ると『ソロモンの悪夢』の異名よろしく、ちょっとアタマの可笑しいレベルの戦果を叩き出す。ただ、今日はドーナツ屋を出店しており、完売すると浴衣姿で遊び回っていたせいか、浴衣姿での参戦。そして、

「食べ過ぎでお腹苦しいっぽいぃ~……。」

と言っていたのが不安材料か。

「夕立のドーナツもあるけど、食べるっぽい?」

 赤城は龍田と夕立からそれぞれ甘味を貰い、口一杯に頬張っている。相変わらず緩いなぁお前ら。これから演習なんだよ?解ってる?



「さぁ両艦隊出揃いました‼ここで今回の特別演習のルールをご説明致します。」

 実況の霧島がそう言ってルールを説明する。

・制限時間は30分

・時間切れまでに旗艦を撃沈判定にするか、艦隊を全滅させた方が勝ち

・勝利条件のどちらも満たされていない場合、美保鎮守府提督の勝利となる

・過度の攻撃、その他残虐な行為は禁止

 要するに、だ。ウチの鎮守府のチームは敵を全滅させるか旗艦を仕留めなければいけないってワケだ。

「では、今より10分間の作戦タイムとなります。」

 とは言っても、ウチの方針では作戦会議はしない。……いや、俺を交えた作戦会議はしない、だな。俺は滅多に前線に出向く事はない。だからこそ、普段から俺は細かい指示は出さずに、出来るだけ艦娘達に考えさせるようにしている。

「では提督、お互いに握手を。」

 相手の美保鎮守府の提督は、少し小刻みに震えている。武者震いだろうか?握手を交わすと、その手はジットリと濡れていた。手汗?歴戦の提督が演習で?どうにもさっきから腑に落ちない。

「では……演習、始めっ‼」

 霧島の掛け声を号令として、演習が始まった。 

 

EX回:13 鎮守府の秋祭り~演習編②~

 実況担当・霧島の掛け声と同時に、両艦隊の夕立と龍田が飛び出す。

「おおっとぉ、両艦隊共に駆逐艦と軽巡洋艦が飛び出したァ‼武蔵さん、これにはどういった意図があるのでしょう?」

「そうだな……やはり金剛型も高速とは言えそれは戦艦というカテゴリの中での話。やはり先鋒は足の速い駆逐艦や軽巡に任せたいのだろう。」

「そうですねぇ、上空でも制空権を奪い合いが始まってますし、この序盤でどちらが主導権を握るかが決まると思われます。」

 流石に武蔵と青葉は目の付け所が違う。恐らく、金剛達が立てた戦略は、夕立と龍田を試合開始と同時に飛び出させて敵の目を釘付けにした上でその隙に赤城と日向が艦載機を発艦させ、制空権をかっさらおうとしたのだろう(そもそも作戦会議に参加してないので、憶測での物言いだが)。しかし相手も手練れ、その位の戦術は予測していたらしく、ほぼ同時のタイミングで両軍の艦載機が上がってきた。作戦としては悪くなかったが、奇策で機先を制したかったのならもう少し予想外の戦術を立てないとな。ま、及第点てトコか。



「さぁ、地上と上空では激しい主導権争いが繰り広げられている~っ!しかし、両艦隊の攻撃の要である戦艦は動かないッッッ‼」

「恐らく両陣営共に短期決戦が狙いなのだ。制空権を奪取し、相手の先鋒を退けた所で戦艦3隻の高火力で一気に仕留める。これだろう。」

「いやいや、包囲して叩くという可能性も……」

 おうおう、実況席もヒートアップしてるなぁ、確かに戦況は五分五分に見えなくもない……が、ジリジリとだが此方が押し始めた。特に海上の龍田と夕立が押し始めた。最初こそ龍田VS龍田、夕立VS夕立の構図で戦っていたものの、相手の力量を見極めるや否や、挟み撃ちになるフリをして、互いの身体を半回転。戦う相手を入れ換えたのだ。龍田は相手の夕立を、そして夕立は相手の龍田を見やると、ニコリと微笑んで再び突っ込んだ。

「夕立、突撃するっぽい!」

 夕立はその鍛え上げた脚力で敵艦隊の懐に飛び込み、そこで主砲や高角砲、魚雷等を弾切れになるまで撃ちまくる単艦突撃戦法を得意としている。もはや戦法と呼べる代物なのかは怪しいが、実はこれも夕立なりの算段が行っているらしい。

「敵だって自分の仲間を撃つのは嫌がるっぽい。だから夕立が相手の真ん中に行くと、相手は反撃し辛くなるっぽい。」

 以前夕立の単艦突撃を、危険だから止めさせようとした時の夕立の反論だ。言われてみれば確かにな、と思う。奴らに人間的な感情があるのかは解らんが、そうでなくとも味方同士の撃ち合いで戦力を損耗するなど、普通に考えたら馬鹿げた話だ。彼女には彼女なりの算段が有るのであれば、それを長所として伸ばしてやる方が理に敵っているだろう。そこで教えたのは回避を重視した立ち回り。懐に飛び込むのが危ないなら、被弾しなければ良い。単純且つ明解な回答だ。そしてもう1つ、1対1での接近戦で活きるショートレンジの打撃だ。



「ふっ!」

 短く息を吐くと共に、敵の龍田が突きを放ってくる。夕立は僅かに身体を捻り、最小限の動きでかわしつつ尚も懐深くに飛び込む。相手との間隔は30cmもない。そこから拳打を繰り出すには、腰や身体を捩るように回転を使ってスピードとパワーを乗せていく。ショートフックやアッパーを主体とした打撃を放つ。その打撃を嫌がるように龍田が後方に跳び退がろうとするが、夕立は尚も追い縋るように貼り付く。これが戦う相手を入れ換えた最大の狙いだ。

 龍田の接近戦は手持ちの槍?矛?まぁどっちでもいいや、あの手持ち武器を主体とした棒術・槍術に近い戦法だ。だからこそ相手の懐に飛び込めば、相手の強みである「リーチの長さ」を封殺できる。狙うポイントは鳩尾や顎、肝臓など人体の急所と言われるポイント。俺がミット打ちに付き合って場所を身体に叩き込んだ。その為吸い込まれるかのように相手の急所へと拳が、膝が、肘が飛んでいく。相手は防戦一方となり、動きが鈍っていく。

『相手の嫌がる箇所を探せ。そしてそこを突け。』

 俺が常々艦娘達に教えている戦術の基礎の基礎だ。相手の弱点を探る事は、相手を観察する事に繋がり、それによって受け攻めどちらにも有利に働く「目」を養う事が出来る。

「ぐっ……!」

「あぁっとぉ、夕立さんの拳が龍田さんの右脇腹を抉るっ、相手の龍田さんの表情が苦悶に歪む~っ‼」

 完璧にリバーを捉えた。あれ喰らうと内蔵が捩れたんじゃないかと思う激痛と共に息が詰まる。身体がくの字に曲がり、最大の弱点である頭が下がる。瞬間、夕立が身体を捻って右足を振り上げる。右背側からのハイキックが敵の龍田の側頭部を見事に捉え、龍田を昏倒させた。

「……っぽい!」

 ビシッと決めポーズまで決めちゃってまぁ。

「決まったああぁぁぁ!夕立のハイキックぅ‼」

「いやいやいやいや!艦娘なんだから砲雷撃で戦えよ!何で殴り合いでのしちゃってるんだ‼」

 武蔵よ、それは突っ込むだけ無駄というものだ。そして夕立、見事過ぎるハイキックでスカートの中身見えちゃってたから。お客さんかなりの数ファインダーに納めちゃってたから。凹むなよ。 

 

EX回13 鎮守府の秋祭り~演習編③~

 夕立が敵の龍田を海面という名のマットに沈めた。数はこれで6VS5。数的有利は得たがまだ決着ではない。夕立は龍田が相手している『自分』に猛然と襲いかかる。

「ぽいぽいぽ~いっ‼」

 シャークマウスのペイントが施された魚雷を投擲する夕立。いや、魚雷の推進部分が火を噴いて推進しているのを見ると、アスロックに近い物なのか?妖精さんの技術はよく解らん。

「ちょ、そんなの反則っぽい~っ!」

 相手の夕立は血相変えて逃げている。やっぱり妙だ、あの美保鎮守府の艦隊だぞ?ウチの艦娘達よりも錬度が高くて当たり前と思っていたが、どうにもあの夕立といい、金剛と比叡といい、改二改装を施された形跡がない。というか金剛に至っては改にすらなっていないように見える。

『どういう事だ?これじゃああまりにも……』



「おおっと龍田さんと夕立さん、相手の夕立をジワジワと敵戦艦群から引き剥がしに掛かる!」

「……巧いな。挟み撃ちの形を活かして敵主力から遠ざけている。何か仕掛けるつもりだぞ。」

「み、見てください!アレ‼」

 瞬間、全員が青葉の指差した先、制空権争いが繰り広げられていた上空を見やった。見ると、此方の赤城と日向が放った瑞雲と彗星がそれぞれ爆撃体勢に入ろうとしていた。



 瑞雲は水平爆撃、彗星は急降下爆撃で、敵艦隊主力に襲いかかる。次々に襲いかかる爆撃機を落とそうと砲撃を加える敵の金剛達。しかし通常の砲弾では殆ど効果がない。数瞬の後、戦艦群を覆うように水柱が上がって姿が見えなくなる。水柱と轟音、そして水煙が晴れたその輪の中には、敵艦隊の艦娘達が大破していた。

「こ、これは……?」

「美保鎮守府旗艦・金剛轟沈判定により、我が鎮守府の勝利ですっ!」

「しかしこれは呆気ない終わり方でしたねぇ。まさか航空機の爆撃で終わるなんて。」

 青葉がそんな感想を述べているが、武蔵はフンと鼻を鳴らした。

「青葉よ、お前ジャーナリストとやらを気取ってはいるが、その目は節穴のようだな。」

 その武蔵の言葉に反応する霧島と青葉。どうやら、武蔵の目にも俺と同じモノが見えていたらしい。

「仕方がない、この武蔵が解説してやろう。今の攻撃の内に何が起きたのかを、な。」



「まずは敵方の龍田が沈んだ後だ。此方の龍田と夕立で敵の夕立を主力から引き剥がしにかかったな?」

「えぇ、あれは戦力の分断の為では?」

 実況の霧島が尋ねる。確かに、普通に考えたらそう見えるだろう。だが、あの一手があればこそ、此方の艦隊は勝ちを拾った。

「いや、あれはそれ以上に『対空火力を減らす』狙いがあった。」

「と、言いますと?」

「私の見る限り、敵方の金剛達は対空火器を殆ど積んでいなかった。夕立を主力から遠ざけて、爆撃の成功率を上げる為の布石だ。」

「ではやはり、艦載機の爆撃で決着が着いたのですか?」

 怪訝な表情の霧島に対して、武蔵は左右に頭を振る。

「いや、敵戦艦に決定打を与えたのは感想じゃない。戦艦の砲撃だ。」

「砲撃!?だ、だってあの時金剛さん達は……」

「青葉よ。お前はあの時本当に金剛達の動きを見ていたのか?」

 そう。赤城と日向の爆撃は、目を惹き付ける役目だった。

「あの爆撃の直前、金剛と比叡は全速力で航行して敵を三方から囲むように布陣した。空からの攻撃に気をとられ、恐らくは演習をしていた当事者すら気付いて居なかったろう。」

「そして……爆撃。」

「そうだ、爆撃に合わせて金剛達は一斉射撃を加えた。水柱と轟音で相手に気取られない砲撃……かわしようがない。」

 おぉ~……と、会場からも感嘆の声が上がる。さすがは武蔵、金剛達のその場の思い付きであろう奇襲作戦を見ただけでほぼ理解し、それを解説して見せる観察眼には恐れ入った。これで後は、普段の酒量を減らしてくれれば文句ないんだが。しかしこれで、俺の疑念もはっきりとした。

「いやぁ、流石は大将、完敗です。」

 美保鎮守府の提督、いや、提督を名乗る人物が向こうから近付いて来る。右手を差し出され、握手を交わす。……が、そのまま掴んで離さない。

「ちょ、ちょっと?痛いのですが……」

「おい、お前何者だ?」

 俺は顔に無理矢理笑顔を貼りつけ、周りには怪しまれないようにギリギリと右手に力を込める。



 どう考えたってあの艦娘達の錬度の低さがあり得ない。どう少な目に見積もったとしても、金剛と比叡は改二改装を施せる位の錬度に到達していなければ勘定が合わない。それに幾ら童顔だとしても、資料にある提督歴と顔の年齢が一致しない。つまり、導き出される答えは1つ。この男と艦隊が偽物だという事だ。

 恐らく艦娘は本物だ。だとすれば、身分を偽って潜入した他国のスパイの可能性すらある。艦娘の建造技術は国家的機密事項だ。盗み出せればデカい金になるだろう。憲兵達も不穏な空気に気付いたらしく、懐に忍ばせた武器を手にジリジリとにじりよって来た。大捕物かと思ったその時、慌てた様子で大淀が此方に駆けてきた。

「ていっ、……とく……大本営からコレが………。」

 見ると、緊急の半が押された電報のようだ。見ると、『予定していた美保鎮守府の艦隊は、濃霧の為航行が難しく、内地に引き返した』とある。

「……………えっ?」

 おい、まさかこれって。

「……勘違い、ってか艦違い?」

 近くにいた誰かがそう言った。誰が上手い事言えと言った。 

 

EX回14 鎮守府の秋祭り~会食編①~

 
前書き
はい、皆さんお待ちかね、飯テロのコーナーはっじまっるよ 

 
「ハッハッハ、いや~スマンスマン。どうにもコッチが早とちりだったなぁ。」

 鎮守府の本館の中を、艦娘を引き連れてゾロゾロと歩く二人の提督。一人は豪快に笑いながらもう一人の方の提督の肩をバシバシと叩いている。……って、まぁこれは俺なんだが。

「ハハハ……、まぁこれも良い経験ですよ。」

 苦笑いしながらその提督……名前何だっけ?聞き忘れた。まぁ良いや、その新米提督君は赦してくれた。なんでも、南方の鎮守府への演習に二式大艇で移動中、落雷?のような物を受けて不時着水、近くの鎮守府に助けを求めようとしたら偶々ウチが近所だったらしい。

「しかしまぁ、すげぇ偶然もあるモンだ。俺の演習相手と全く同じ編成とは。」

 そのせいもあって、余計に勘違いしてしまった。いやぁ、確認って大事だね。今、そのお詫びも込めてだがご飯をご馳走しようと移動中だ。そして何故だか、演習に参加したメンバー全員と、「スクープです!」と鼻息荒く青葉がくっついて来た。新米君の艦娘が付いてくるなら解るが、何故お前らまで。

「提督のご飯が食べられると聞いて、逃すワケには参りません‼」

「お腹空きました!」

 おいW赤城さんや、一航戦の誇りはどうした、まさか「誇りで飯が食えるんですかねェ……?」とか言い出すんじゃあるまいな。そして金剛には両軍の比叡が互いのお姉様をチェンジして、ほっぺスリスリしている。

「はぅあ~、更に改装したお姉さまも凛々しくて素敵ですぅ~♪」

「コッチのお姉様も昔を思い出すようで素晴らしいですぅ~♪」

「と、言う事は……?」

「つまり……?」

「「お姉様は最高‼」」

 なんかW比叡が金剛を通じて友情結んでガッチリ握手しちゃってるし。それを見たW金剛も、比叡はドコでも変わりませんネーwなんて、微笑ましい会話交わしちゃってるし。もう、なんなのコレ。

「す、すいません…ウチの娘達が……。」

 そう言って見慣れない重巡艦娘(祥高さんと言うらしい)が頭を下げてきた。

「あぁ、いやいや。喧しいのはウチもいつもの事さ。ただ、同一の艦娘でも似ている所や似ていない所があるモンだと思ってね。」

 まぁ、それが人間の『個性』ってものさね。っと、漸く着いたな。

「ここは……執務室?」

 それを聞いた瞬間、新米君の方の赤城が膝から崩れ落ちた。まぁ、腹ペコ状態の大食艦でお馴染みの赤城が聞いたら普通はそうなるわな、ご飯が遠退いたと思って。ここが普通なら、な。

「さぁ、入った入った。」

 全員が入っても余裕がある程、広くスペースの取られた執務室。新米君の艦娘達は全員が全員、怪訝そうな顔をしているな、新米君も含めて。

「は~い、その辺の壁とか家具とか触らないようにな。」

 あ、ポチっとな。するとあら不思議、壁の資料棚はピストンによって酒瓶の満載された棚に変わり、テーブルとソファが床の開口部からせりあがってくる。そして提督の座る実務机周辺は、システムキッチンとバーカウンターに早変わり。

「さぁ、『Bar Admiral』へようこそお客様。ここからは俺は提督じゃあない。この店のマスターだ。」



 新米君の所は全員、開いた口が塞がらないって感じだな。まぁそれが普通の反応だよ。ウチの艦娘達は馴れたもので、思い思いに座りたい席に着いた。そして我に帰った新米君達も、少し慌てた様子で席に着く。

「さてさて、ウチの店にはメニューらしいメニューがない。頼まれた物で作れる範囲の物は作るってのが俺のポリシーだ。さぁ、まずは何か景気付けに飲むかい?」

 そう言うと新米君は困ったように、おずおずとこう切り出してきた。

「あの~、非常にありがたい申し出なんですが、実は俺、酒は飲まないんです。」

「あらら、もしかして下戸?」

「いえ、決してそういうワケでは……。」

 何かワケありっぽい雰囲気だな。もう少し突っ込んでみるか?

「まぁ、ウチはご飯物も作れるから安心してよ。何かワケありかい?」

 ここは敢えてオブラートに包まずド直球。すると、

「実は俺、願掛けに酒断ちしてるんです。俺の部下であるこの娘達が沈まないように、って。恥ずかしいからあんまり人には言わないんですが……。」

 かぁ~、泣かせるねぇ。良い話だ。オジサン感動しちゃったよ。それに比べてウチの奴等と来たら……(泣)。

「よしわかった、俺が今から最高の飯をご馳走するよ!さぁ、何でも好きな物を頼んでくれぃ。」

 じゃあ、とばかりに奥の方に座ったウチの艦娘達からカクテルやらボトルやらの注文が飛ぶ。だぁから、お前ら少しは遠慮しなさいっての。

「さて、新米君のトコのお嬢様方は何を?」

「上司である提督が飲まないのに、部下である私達が飲むワケには参りません。」

 そう言ったのは新米君のトコの日向。わぁお、この奥ゆかしさ。奥のテーブルで早速ビール髭を作ってる同一人物に聞かせてやりたい台詞。ならば、と俺はノンアルコールのカクテルを作り、残り全員に配る。俺も秘蔵の山崎を開けてグラスに注ぐ。

「何はともあれ妙な出会いだったが、こんな貴重な経験も無いだろう。さぁ、互いの鎮守府の発展と活躍を願って乾杯しよう。乾杯‼」

 さぁ、楽しい一夜の始まりだ。 

 

■EX回15 鎮守府の秋祭り~会食編②~


 さて、メインのご飯物を作っている間に、何か軽くつまんで貰おうか。何かあったかな……?と考えながら、冷蔵庫を漁る。お!長芋に明太子。これでいくか。

「手早く一品作っちゃうから、それつまんで待っててな。」

 俺がそう言うと、は~いと返事が返ってくる。乾杯の時は各鎮守府毎に固まっていたが、人懐っこい夕立や、社交的な金剛などが積極的に席替えを提案して交流しているようだ。さて、対応はあいつらに任せて、俺は調理に専念しようか。

今回は独り暮らしの人にも解りやすく、1人~2人分の分量で書こうと思う。用意するのは、

・長芋:100g(大体でOK)

・明太子:1/2腹(1本)

・白だし:大さじ1

・青ネギ、刻み海苔:適量

 長芋は皮を剥き、食べやすい大きさに切る。サクサクとした食感を味わう為に、千切りよりも銀杏切りとかの方が良いだろうな。そこに明太子を1/2腹。薄皮を取り除いてほぐして加える。辛味が強いのが好きなら、ここに一味や七味を加えると良い。因みにだが、鱈の腹にはたらこが2本ずつ入っている。単位で数え方が変わるから、恥かかないように気を付けてな。(腹なら2本で1腹、本なら2本は2本)

 味付けは白だしのみ。明太子にも味がついてるからな。白だし知らない人に説明すると、白醤油や淡口醤油に昆布や椎茸、鰹節の出汁や、みりん、天日塩等を加えた複合調味料だ。めんつゆは濃口醤油をよく使うが、白だしは色の薄い白醤油や淡口醤油を使うのが大きな違いかな。食材の色を損ないたくない時などに便利だし、めんつゆよりも角が立たない。料亭や懐石料理の店で広く使われていたが最近ではスーパーでも見かけるようになったな。今回は市販の物で大丈夫だ(世の中の主婦には自作する強者もいるが)。

 白だしを大さじ1加えたら、後は長芋に粘りが出るまで混ぜるだけ。な、簡単だろ?後は盛り付けて刻み海苔と青ネギ散らせば完成だ。

「はい完成、『長芋の明太子和え』だ。おいお前ら、誰でも良いから運んでくれ。」

 と言うと、ウチの鎮守府の龍田と、新米君のトコの見慣れない駆逐艦(寛代って言ったか)が立ち上がり、それぞれの席へ運んでいった。

「ん~♪deliciousデース!」

「確かに、美味しいわぁ♪」

 うんうん、新米君のトコの艦娘達にも好評なようだ。具が少なくて物足りないと感じたら、サッと塩茹でしたオクラとか入れても良いかもな。しかし見慣れない重巡の娘、名前は祥高さんというらしいが、どうにも新米君のトコにしかいない特別配備の艦娘らしい。その祥高さん、何故に青葉に写真撮らせてんの。しかも料理の。

「あぁいえ、あまりに美味しそうだったので、鳳翔さんに写真だけでも持ち帰って再現しようかと。」

 あぁ、成る程ね。だったらもっと効率の良い方法があるじゃないか。

「もし良かったらコッチ来る?材料とか分量とか、入ってきてメモした方が楽でしょうに。」

「えぇ!?でもレシピを盗まれては困るのでは……」

「ハハハ、そんな大した料理は作ってねぇから。ただ呑兵衛が気ままに作ってる家庭料理?とも違うか。まぁそんな大層なモンじゃないから、良ければおいでよ。」

 じゃあ、と言って祥高さんがおずおずと厨房に入ってきて、メモ帳を取り出した。あらら、準備の宜しい事で。



 じゃあ次は、お酒のツマミにもなるご飯『おかず炊き込み』を紹介しようかな。用意する具材はシンプルに2つ。夏野菜だが、この時期からホクホク感が増して美味しくなるカボチャと、意外と万能選手なブロックベーコン。今日は俺の手製を使うが、市販の物で充分だ。さて、詳しい分量を↓に載せておく。

《カボチャとベーコンのおかず炊き込み》(1~2人分)

カボチャ:250g(アバウトでいいよ)

ベーコン:120g

米:2合(研いで水に浸けておく)

塩:小さじ1強(気持ち多めに)

酒:大さじ1

 さて、調理開始。まずカボチャだけど、火の通りが心配なら、切る前にラップかけて電子レンジでチンして軽く火を通しておくといいかも。そして切る。大きさは煮物にするよりは小さめに。でも小さすぎると炊く時に煮崩れたりするから、そこは調整してな。ベーコンは厚く、短冊切りのイメージで切ると食べ応えあって良いぞ。後は炊飯器でも土鍋でも、米、カボチャ、ベーコンの順にドサドサと入れて、塩と酒を入れて炊くだけ。水加減は普通に米2合炊くよりも少し少な目に。

 洋風色を強くしたいなら、顆粒のコンソメを足して酒を白ワインに変えよう。但し、ベーコンからもかなりの塩気が出るから、慎重に味付けしよう。あ、それともう1つ注意点があったんだ。作って食べ終わった後だけど、ベーコンの脂が臭い残りしちゃうから、洗剤かけて念入りに洗うようにね。特に炊飯器、ちゃんと洗わないと最低でも3日はベーコン臭いご飯を食べるハメなる。意外だが、カボチャとベーコンの組み合わせは味噌汁でも美味い。興味があったら試してみよう。



 さてと、ご飯は仕込み終わった。後はおかずだが、何を作ったものか。

「あの……提督さん?宜しいでしょうか。」

 あらまぁ、どしたの祥高さん。

「実は、『揚げ出し豆腐』の美味しい作り方を知りたいのですが……。」

 揚げ出し豆腐か。あれ美味いよなー、カラッと揚げた豆腐に大根おろしと醤油。そして日本酒辺りでキューっと……あぁ、腹減ってきた。

「いえ、おろし醤油以外の味付けもあるなら知りたいな、と思いまして。」

 成る程、レパートリーが欲しいと。そういう事ならリクエストにお応え致しましょう。 

 

EX回16 鎮守府の秋祭り~会食編③~


 祥高さんからリクエスト頂いた揚げ出し豆腐、作っていきましょうかねぇ。

 まずはメインの豆腐から。重要なのは豆腐の水切り。ここでしっかりと水気を切っておかないと、豆腐を揚げた後にベチャッとして美味くないからね。キッチンペーパーか布巾で全体を包んで、ザルの上に置いたら、上に皿などで重石を乗せて水を抜く。大体30分~1時間位置いておけば十分だろう。時間が無いときには豆腐は包んだままで電子レンジへ。500wで1~2分もチンすれば、綺麗に水気を切ることができる。いやぁ、文明の利器って便利な。

 豆腐は大きめにカットしたら、全体に片栗粉をまぶして180℃の油に投入。その間に、上にかける餡を作ろうか。用意する具材は、椎茸、しめじ、木耳、にんじん、細切りの筍、アサツキ。秋が旬の茸類をメインにしてみた。舞茸も考えたが、舞茸は香りが強すぎるので今回はパス。

 椎茸は石附を取り除いて笠だけにしたら、半分に割ってスライス。しめじも石附を除いたら小房に分ける。木耳は乾燥した物を使う場合、水に浸けてもどしたらこれも石附を取り除いて細千切りに。木耳は業務用スーパー等に行くと細千切りで乾燥させたタイプがあるので使いやすい。にんじんも細千切り、アサツキは小口切りに細切りの筍はスーパーなんかで売ってる水煮を、水切りして使用。

 鍋に鰹だしを煮立たせたら、そこに先程刻んだアサツキ以外の具材をいれる。そして醤油・酒で味付け。ここで1度味見をし、塩気が足りないと感じたら塩で調整しよう。味付けが済んだら水溶き片栗粉でとろみを付ける。軽くとろみが付けばOKだ。そろそろ豆腐も良い感じだろう。

 豆腐を油から上げたら、油を切り、皿に盛り付けて上から餡をかける。

「はい、『秋の餡掛け揚げ出し豆腐』。祥高さんも味見してみて。」

 サクサクとした衣の中にはホロホロと崩れる豆腐。そこに絡むアツアツの餡。そして口に含むと香ってくる茸の香りが良くマッチする。

「良い香り……。秋を感じますね。」

「豆腐のサクサク、筍と木耳のコリコリとした食感の差が面白いです。」

 うん、中々好評。ウチの艦娘達も美味い美味い、とグラスを次々と空けている。



 お、そろそろご飯が炊き上がるね。なら、お次は汁物を一品作ろうか。カボチャとベーコンのおかず炊き込みにも負けない汁物……確か、イワシがあったな?それでつみれ汁といこう。

《具材ゴロゴロ!イワシのつみれ汁》(1~2人分)

イワシ(三枚下ろし):3尾分

おろし生姜1/2片分

卵黄:1/2個分

粉山椒:適量

塩:少々

煮干し出し汁:1と1/2カップ

牛蒡:5cm位

人参:2cm位

大根:2cm位

味噌:大さじ1~1.5

黒胡椒:適量

 さて、まずはつみれ作りから。フードプロセッサーに水気を拭き取ったイワシ、卵黄、塩、粉山椒を入れ、粗いミンチ状になるまで回す。終わったらボウルに移し、おろし生姜を入れて更に混ぜる。

「そういえば、つくねとつみれはどう違うのでしょうか?」

そう尋ねてきたのは、ウチの鎮守府の青葉だった。普段料理に興味が無さそうな青葉も、やはり女子なんだな。

「つみれは練り上げた生地を煮汁にそのまま入れて煮るのがつみれだ。摘み入れる、というのが語源らしい。つくねは手でこねて丸く成形して揚げたり焼いたりする料理の総称だな。“こねる、丸める”といったのと同じ意味の言葉捏(つく)ねるが語源だな、確か。」

「へー!博学ですねぇ!」

 まぁ、俺は気になると調べてその疑問を解決しないと気が済まない質だからな。まぁ、今一番気になっているのは目の前にいるこの新米を名乗る提督。どうにも何かを隠しているような気がしてならない。恐らく青葉も、その辺を嗅ぎ付けてついてきたのだろう。やはりそういう嗅覚は侮れない。まぁ、無理に聞き出そうとしてもそこは軍人、口は割らないだろう。

「提督さん?どうされました?」

 祥高さんがいぶかしむような声をかけてきた。どうやら手が止まっていたらしい。ごめんごめんと謝りつつ、調理を再開する。つみれはできたから次は野菜の準備。牛蒡はピーラーでささがきにしてアク抜きに酢水にさらす。大根は3mmの厚さで銀杏切り、人参も3mmの厚さで半月切りで。

 鍋に煮干し出汁を煮立たせて、そこに2本のスプーンを使ってつみれ生地を団子状にして鍋に加えていく。ポイントは、つみれの表面が滑らかになるまでしっかりと成形する事。表面が毛羽立った状態で煮ると煮崩れやすくなってしまうので、繰り返しスプーンで成形してから鍋に入れる事。つみれ生地を入れて再び煮立ってきたら、先程刻んだ野菜類を入れて7~8分、アクを取りながら煮ていく。

 野菜にも火が通ったら一旦火を止め、味噌を溶き入れる。味が決まったら器によそい、仕上げに黒胡椒をガリガリと振っていく。

「お味噌汁に黒胡椒ですか?」

「青ネギ散らしたり刻み生姜でも良いんだけどね。ちょっと飲み比べてみてよ。」

 まずは胡椒なしの汁。次に胡椒を振った汁を、それぞれ祥高さんに味見してもらう。

「やはり胡椒独特の辛味がアクセントになるから、あった方が美味しいですね。」

「でしょう?だから、仕上げに黒胡椒。」

 その時、炊飯器が炊き上がった事を知らせるアラームを鳴らす。ちょうどいい、つみれ汁と逸書に出そうか。

「お待たせしました、『カボチャとベーコンのおかず炊き込み』と、『イワシのつみれ汁』です。」

 いただきま~す、と一斉に声が上がる。新米君のトコの赤城は炊飯釜から直接食べている。……てか、熱くない?それ。

「う~ん、美味しいですねぇ。」

「お酒にも合いますネー。」

 よしよし、満足してるっぽいな。……ん?新米君のトコの夕立がコッチをみてるな。

「提督さん、お肉食べたい。」

 あ、ガッツリ系のおかずが欲しかったのね。なら、揚げ油が熱い内にもう一品、作りましょうか。 

 

EX回17 鎮守府の秋祭り~会食編④~


 肉でガッツリか。鶏モモ肉があるし、アレでいこうか。調味料の分量はモモ肉2枚分だから、枚数増えただけ倍量でね。

鶏モモ肉2枚(400~450g)に、溶き卵1/2個、醤油、みりん、酒を小さじで2杯ずつ。更に生姜の絞り汁とおろしにんにく少々。これを混ぜ合わせたらモモ肉によく揉み込んで5分位漬け込んでおく。これで下味は完成。次は鶏モモ肉を揚げた後に漬ける甘酢ダレを準備。同時進行でゆで卵も作っておく。もう何を作っているか解ったよな?そう、チキン南蛮だ。何でチキン南蛮かって?何となく、日向の顔をみてたらつい、な。(日向って地名は宮崎県だからだろうか?)甘酢ダレは超簡単、酢、みりん、醤油を大さじ3ずつ混ぜるだけ。これで甘酢ダレは完成した。お次はタルタルソースだな。今回は二種類作って好きな方をかけてもらおう。

 まずは和風タルタルソースだ。マヨネーズ大さじ5強に、白いりゴマ大さじ1、茹で卵1個、レモン汁を適量、更にここからが和風要素、キュウリの浅漬け、しば漬け、ラッキョウを各50gずつ、細かく刻んでいれる。他にも高菜とか野沢菜とか、歯応えの良い漬け物なら合うと思うぜ。これを混ぜ合わせたら和風タルタルソースの完成。

 次は酒飲み御用達、ピリ辛風味のタルタルソースだ。こちらはマヨネーズ大さじ4に、茹で卵2個、セロリ1/2本、玉ねぎ1/4個、酢小さじ2、塩と黒胡椒少々、わさびを好きなだけ(加減はしろよ?)。後は刻み海苔を混ぜ込んで完成。ちょいと味見。……うん、この鼻に抜ける感じが酒に合うんだよな、うん。

 後は揚げていく。下味を付けた鶏モモ肉に、片栗粉を少しずつまぶしていく。下味の汁気が無くなってきたらOKだ。一気に片栗粉を加えると、衣がもたっとしてしまうから注意が必要だ。

「あら、竜田揚げ?なら私が作ったのにぃ~。」

 食い付いて来たのは新米君の方の竜田、もとい龍田。そういえば竜田揚げは龍田の主計科長が編み出したって説があるんだったか。

「残念ながら竜田揚げではないよ。途中までは工程一緒だけどな。」

 そうやって会話を交わしつつ、俺はフライパンを2つ用意する。これが揚げ物全般を失敗しないようにする方法だ。つまり、二度揚げ。一方は中温(165℃)にセットし、もう一方は高温(180℃)に設定。こういう細かい温度管理はIHクッキングヒーターとかなら楽なんだがな。どうにもアレは俺にとって使い勝手が悪い。

 衣を付けた鶏モモ肉を、先ずは中温の油のフライパンに投入。ジュワワワワ……、と揚げ物独特の良い音がする。一度目の揚げは肉の芯まで火を通す事が目的だからひっくり返しながらじっくりと揚げる。目安としては、表面がうっすら狐色になって油が跳ねるパチパチという音が小さくなったら一旦揚げる。そして表面がジュウジュウ言わなくなってから、今度は高温のフライパンに入れる。インターバルを置いた理由は、余熱で鶏モモ肉に火を通す為だ。数を作る場合には、油の温度が下がりやすいから時々揚げるのをストップして油の温度を調整するようにな。二度目の揚げは衣をサクッとさせるいわば仕上げの揚げだ。衣を焦がさないように揚げたら、熱い内に甘酢ダレにサッと潜らせる。冷めてしまうと甘酢ダレを吸わないし、長時間浸けておくとチキンが固くなってしまう。だからサッと潜らせるだけで良い。

 後は千切りキャベツ、貝割れ菜、ミニトマトなんかを付け合わせにして盛り付け。タルタルソースは別の小鉢に盛ってセルフで掛けて貰おう。

「はいお待ち、『チキン南蛮』だ。タルタルソースは好きな方をかけて味わってくれ。」

 リクエストをくれた夕立は、ハフハフ言いながらがっついてくれている。そうか、そんなに美味いか。他の連中も満足げに食べている。どうやら、満足してもらえたようだ。



 さて、そろそろお開きだろうな。外の屋台村も大分片付いたようだし、新米君達もそろそろ休まないと本来の目的地に辿り着けないだろうし、な。……その言葉が本当なら。

「さて、今日はそろそろ店仕舞いとするか。…新米君達も部屋を用意したからそっちでゆっくりと休んでくれ。風呂は自由に使ってもらって構わんからな。」

「何から何まで…、ありがとうございます。」

 そう言って新米君は、軍帽をとって深々と頭を下げてきた。なんだ、礼儀正しい好青年じゃないか。

「いやいや、困った時はお互い様ってね。しかも同業だ、また何かあったら何時でも尋ねて来てくれ。」

 そう言って俺は新米君を送り出した。彼に続くようにご馳走さまでした、おやすみなさい、と口々に挨拶をして店を出ていく艦娘達。なんとも礼儀正しい。日頃の教育が見て窺える。それを追うようにして飛び出していった青葉が、廊下で伸びていたがまぁ大丈夫だろう。 

 

EX回18 鎮守府の秋祭り~エンディング~

 
前書き
 祭りと戦争には共通点がある。それは、どちらも永遠には続かない事だ。 

 
 あの秋祭りから一夜明けた翌朝早朝、俺達は港湾部に居た。新米君達の乗ってきた二式大挺の発進準備が整った為に早朝ではあるが急遽出発する事になったのだ。

「こんな朝早くなモンでな。本来なら鎮守府総出で見送るべきなんだろうが……」

「いえいえ、そんな事されたら逆に気を使いますから。このくらいがちょうどいいです。」

 見送りに出ていたのは、俺に大淀、昨日の演習メンバー、そして不服そうな顔をした青葉と、若干眠そうな川内。

「では、突然の来客で申し訳なかったです。」

「いや、いいさ。俺としても貴重な体験だったしな。」

 そう言いながら俺達はガッチリと握手を交わす。

「それに、また飯が食いたくなったら遊びにくりゃいい。」

「アハハ……、かなり遠いと思いますけどね。」

 その新米君の隣には、憮然とした表情の白衣を着た女性が。なんでも、「病人」として担ぎ込まれた技術将校らしいが、随分と鎮守府の中を見学していたらしい。なんともまぁ、元気な病人もいたもんだ。

「そろそろ出まぁす!」

 大挺のパイロットがハッチを開けて叫んでいる。内火挺の準備も整っている。後は乗り込むだけ。

「では。総員、乗り込め‼」

 新米君の号令で艦娘達が内火挺に一斉に乗り込む。内火挺のエンジンが掛かった瞬間、

「総員、敬礼!」

 金剛だろうか、誰かの号令と共に鎮守府の宿舎の扉が全て開け放たれ、中にいた200を超える艦娘達が駆け出してくる。そして整列して一斉に敬礼。俺を含めて総員251名の敬礼だ。これは中々に壮観な景色だろう。

 新米君達が大挺に乗り込む。発動機が回され、バルン、バルンとレシプロ機の独特な始動音が鳴り響く。やがてプロペラが高速回転を始めると、大挺は滑らかに水面を滑り出した。

「総員、帽振れ~‼」

 昔ながらの航空機を送り出す時のしきたりだ。だが、艦娘には帽子を被っている者は少ない。それ以外の者達は、

「さようならなのです~‼」

「また来てね~‼」

「今度はうーちゃんとも遊ぶっぴょん!」

 などと、思い思いに別れの言葉を投げ掛けながら手を降っている。まぁ、こんな騒がしい見送りもアリだろうさ。



 大挺が水面を離れ、しっかりと上昇して視界に映らなくなった後、青葉が口を開いた。

「司令。」

「あん?何だよ急に。」

「司令はどこまで知ってたんです?」

「だから何が。」

 瞬間、青葉が声を荒げようとしていたのを、川内が後ろから押さえ付けた。

「ハイハイ、無用な混乱を起こそうとしな~い。」

 俺も晩飯の辺りには薄々は勘付いていた。新米だと思っていた彼らは、『過去』の美保鎮守府の面子である事に。

 その挙動、言動、全てが違和感だらけ。そしてあの新米君の顔。忘れようもない、艦娘の運用を学ぼうと読み耽った美保鎮守府の戦闘記録に載っていた、若かりし頃の提督その人の顔だ。だからこそ、大挺の認識コードも一致しなかったし、装備も錬度も数段過去の物だったのだ。(まぁ、それをフルボッコにしたのは我ながら大人げないとは思うが)だからこそ、「病人」として潜り込んできた女将校を川内に尾行させたし、余計なちょっかいを出そうとした青葉を川内に気絶させるように指示したのも俺だ。

「まぁ、軍艦の魂が人の形して生きてる時代だ。タイムスリップ位起きても今更驚かねぇさ。」

 誰に言うでもない、俺はそう呟いた。さ~てと、後片付けと大本営に出す報告書、書かねぇとな~。

「それと……川内。」

「ん?どしたの提督。」

「青葉を離してやれ。もうオチてるから。」

「へっ?」

 見ると、青葉は白目を剥いて顔面蒼白になっている。

「やっばい、救護班、救護班~‼」

 はぁ。朝から騒がしいなぁ、この鎮守府は。



《報告書》

 先頃、当鎮守府で行われた秋祭りに於いては、多少のトラブルは発生した物の、その進行を大きく妨げるような大きな問題は起こらずに滞りなくその日程を終了。

 尚、秋祭り開催中に所属不明の遊軍機(二式大挺)の乗員を救助し、一泊させるも然したる問題は見受けられず。翌朝早くに当鎮守府の領海を離脱。つきましては、その所属不明機の目的地・所属・任務目的を軍令部に開示願う物である。遊軍に扮したスパイ活動の可能性も否定できない為、切に願う物である。


以上




「まぁ、こんなモンか?ひっひっひ、軍令部の奴等泡食った騒ぎになるぞコイツぁ。」

 そんな意地の悪い笑みを浮かべていると、横から冷たい視線が刺さる。

「提督、悪ふざけはやめてください。鎮守府の不利益になります。」

「硬っ苦しいなぁ加賀は。これは俺の当然の権利なの。解る?」

 実際最初はスパイ活動も本気で疑ったのだ。幾ら遊軍とはいえ所属不明機が着陸を求めてくれば怪しむのが当然だ。まぁ、同期の奴をからかう意味合いの方が強いがなw

 まぁ、こんなバカな事が出来る位には平和って事さ。それもこれも、過去からの積み重ねがあってこそ。

「期待してるぜ?『美保の回り道太郎提督』さんよ。」

 俺は窓の外の青空を眺めながら、そう、呟いた。 

 

華は強く、美しく


 あの騒がしかった秋祭りからはや一週間。我が鎮守府はいつもの忙しさと騒がしさを取り戻していた。出撃・遠征・演習・執務に工廠での開発任務と、日々の仕事はこなしていた。勿論、ウチの店も繁盛していた。毎晩誰かしらがやって来ていたし、収支も黒字。全くもって順調だ。

 その日も午後9時を回り、そろそろ一人目の客が来るだろうかと思案していた所、まるで図ったかのようなタイミングでコンコン、とノックされた。

「失礼します。」

 おっとりとしているようで、凛としたその声で俺は誰が入ってきたのか直ぐに察した。

「なんだ、ノックなんかしなくても入ってくりゃいいのに。」

「いえ。あくまで上司と部下ですから、その位置付けはハッキリさせておかないと。」

 そう言いながら静かにドアを閉めた彼女の姿は、いつもの制服姿ではなく浴衣姿。いつも付けている鉢金も、この姿の時は流石にしていないようだ。代わりに緑の大きなリボンでその長髪を纏めている。

「相変わらずお堅いねぇ、神通は。疲れない?」

 そう言うと神通はクスリと笑い、

「流石に冗談ですよ。今日は私もオフですから♪」

 と、俺をからかっていた事を白状した。くそう、普段のお堅い雰囲気だったからすっかり騙された。やるようになったな、神通め。



 だが、着任当初は四六時中張り詰めていて、端から見ていて危なっかしい事この上なかった。まぁ、姉と妹がアレだから自分がしっかりしようと頑張りすぎていたんだろうが。漸くこうやって女の子らしい無邪気な笑顔を見せてくれるようになったのは、川内型の三姉妹全員の第二改装が終わった辺りからだ。

 裾をたくしあげて神通が席に着くと、フワリとシャンプーの香りが漂ってきた。どうやら風呂上がりでそのまま此方に来たらしく、まだ少し熱っぽいのか頬が紅潮してうっすらと汗ばんでいる。髪もしっとり艶やかで、なんともまぁ、大和撫子ってのはこういう事をいうんだな。……ハッキリ言って、色気が堪らん。エロい。

「今日は姉妹の世話は良いのか?」

 と俺が冗談めかして聞くと、

「姉さんは今晩は夜間哨戒に出てますし、那珂ちゃんは長距離遠征任務中ですから。今日はお休みなんです。……というか、予定は提督が組んでいるんじゃないですか。」

 神通がちょっとムッとしながらそう答える。ありゃ、そうだったか?ぶっちゃけ遠征の人員とかは俺が寝ている午前中に大淀とその日の秘書艦があーでもないこーでもないと話し合って決めているし、間違いなんてほぼ起こらないからおざなりに判を押している所がある。いやはや、部下が優秀すぎるってのも困り物である。

「あぁ、そうだったな。でも珍しいな、神通がこんな遅くに風呂なんて。」

 俺の記憶違いでなければ、綺麗好きの神通は非番の日は早くに入浴を済ませ、夕食を食べるか晩酌をしにウチか鳳翔さんの店にやってくるのだが。

「今日は久々に自分の為に鍛練してたんです。それに熱が入り過ぎてしまって……。」

 神通は恥ずかしそうに俯いた。神通は我が鎮守府の中では最高錬度の軽巡だ。その面倒見の良さも相俟ってか、よく駆逐艦娘達の訓練の教官を務めてくれている。しかも昔取った杵柄という奴か、かなりのスパルタらしい。まぁ、『華の二水戦』旗艦を勤めた事もある艦の生まれ変わりだ。全く違和感は無い。

 『華の二水戦』とは、旧大日本帝国海軍の誇る「第二水雷戦隊」の事で、ヤクザ映画に例えると、戦艦や重巡がいる「第一戦隊」を親分衆とすればその周りを固めるボディーガード的な役割を果たすのが「一水戦」……第一水雷戦隊であり、二水戦はその花道の障害物(ゴミ)を掃除する謂わば斬り込み役、悪く言えば鉄砲玉だ。
 そんな部隊の性質上、超武闘派揃いである二水戦の旗艦の中でも特に有名なのが、この神通なのだ。そんな艦の生まれ変わりのせいかとても戦闘にストイックで、他者に厳しく、自分にもっと厳しい。だが、そのストイックな姿勢が駆逐艦や戦艦達からも信頼を得ている彼女の良いところだ。



「……で、何か摘まむかい?」

「そうですねぇ…では、日本酒のオススメを冷やで。後は、何か簡単に摘まめる物を。」

 ふむ。冷やで美味い酒か。

「辛口と甘口、どっちがいい?」

「実は、ある娘と待ち合わせしてるんです。その娘はあまり日本酒は飲んだ事が無いので、スッキリと飲みやすい、甘口をお願いします。」

 日本酒をあまり飲んだ事が無いのか。……駆逐艦か?となると、あまり切れの良すぎる甘口ではキツいか。何かあったかな……。あ、そう言えばと俺はハッと思い出し、酒棚の奥の方から純白の箱を取り出した。

「提督、それは?」

「同期の奴からの貰い物だったんだがな。あまりに口当たりが軽すぎるんで、ちと俺の口には合わなくてな。」

 そう言って取り出した一升瓶の中身は驚くほどに透明で、まるでミネラルウォーターのような見た目。

「上善水如(じょうぜんみずのごとし)。名前の通り、限り無く水に近いような、雪融け水のような軽い口当たりの純米吟醸だ。」

 まずは味見してみろ、とガラス製の小さなグラスに注ぐ。俺も久々に飲むからな、味を思い出す為にも飲むか。神通も始めて飲むからか、恐る恐る口を付け、チビリと口に流し込んだ。すると、神通の目が大きく丸く開かれる。

「美味しい……‼本当に水を飲んでるみたいです…。」

 うむ、確かに名前に偽り無し、って感じの味だよな。どこまでも透き通った味で日本酒独特のツンとした香りや、日本酒嫌いの人が言う苦味は全く感じない。寧ろ、甘酒以上の強い甘味と仄かな米の香りが引き立ち、日本酒の良い香りだけを付けた甘い水を飲んでるような感覚だ。

「う~ん、美味いには美味いんだがなぁ。やっぱ俺は日本酒の個性がガツンと来る酒の方がいいなぁ。」

 そんな感想を述べていると、廊下の法からバタバタと騒がしい足音が。どうやら、「待ち合わせの娘」がやって来たらしい。

「お……お待たせした…っぽい……。」

 やれやれ、様子を見る限り風呂上がりで全力ダッシュしてきたらしい。軽く逆上せて、伸びてしまった。

「大丈夫かぁ?夕立ぃ。」

 ぽ、ぽいぃ~~……、とどうにか返事をした彼女は、神通と同じく浴衣姿で床にへばってしまった。オイオイ、これから一杯やろうって時に大丈夫か? 

 

夏じゃないよ、秋なのよ

「大丈夫かぁ?ホントに。」

 息も絶え絶えの夕立に水を出してやる。風呂上がりだというのに浴衣は気崩れているし汗だくだ。普通に見えちゃいけない所まで見えているが、本人にはそんな余裕は無いらしい。

「お風呂上がりで……ダッシュは…ヤバい…っぽひぃ~……。」

 舌を出してハッハッと息を短く吐く夕立。やっぱり犬っぽい。俺は苦笑いしながらも何を作るか思案を始めた。さて何を作ろうか。……あ、そう言えば泥抜きが終わった『アレ』があったな、ホントは俺一人で味わおうかとも思ったが、捌いて出してやるか。

「こないだ本土の知り合いから中々珍しい物が送られてきてな。食べるか?」

 俺はそう言いながら木桶を二人の前に差し出した。中に入っていたのは……

「鰻……ですか?」

「あぁ、それも天然物だ。貴重品だぞ~?」

「え~、鰻はもう旬じゃないでしょ~?」

 そう言ってブーブー文句を言ってきたのは夕立だった。



「だって、『土用の丑の日鰻の日』って言うでしょ?だから鰻の旬は夏っぽい。」

 意外だなぁ、夕立がそんな言葉を知ってるなんて。でも、浅はかだな。

「残念、それは江戸時代の発明家・平賀源内が考えたとされているキャッチコピーなんだ。」

 本来、鰻の旬は晩秋から初冬の寒い時期だ。鰻は冬眠する為に秋頃から食欲を増し、肉厚で脂の乗った身になる。逆に夏場は活発に動き回るから脂は少なく、身も薄味になりやすい。だから、江戸時代の鰻屋は夏場の売り上げに四苦八苦していた。そこで考え出されたのが『土用の丑の日鰻の日』だ。

 元々、土用の丑の日には頭にうの付く食べ物を食べると夏バテせずに夏を乗り切れるといわれていた。瓜(うり)とか梅干しなんかは、その代表格だな。だから、平賀源内という人が売り上げの減少に苦しむ鰻屋を憂いて、さっきの言葉を考えた、と言われている。まぁ、現代は養殖鰻が一般的だから、夏に合わせて肥え太らせるんだけどな、無理に。

「へ~、じゃあ本当は今くらいの方が美味しいっぽい?」

「ん?まぁ、そうなるな。」

「じゃあ、それでお願いしまーすっ!」

「では、私も。」

 へいへい、解りましたよ~っと。けど、今から捌いて焼くから時間がかかる。その間に一品二品、摘まんでいて貰おうか。ま、お通しだな要するに。

まずは豆腐でチャチャっと一品。使うのは木綿豆腐。キッチンペーパーで包んでザルに乗せ、上に皿を乗せて水切り。その間に準備するのは大葉……青じそだ。分量としては木綿豆腐1/2 丁に対して大葉10枚位かな。大葉を縦に半分にして、細千切りにする。豆腐の水切りには15分位かかるから、その間に大根の一風変わった浅漬けも作ろうかな。

 大根は10cm位の長さの分量を皮付きのままで1cm幅で銀杏切り。ビニール袋に入れて塩を2つまみ位。よく揉み込んで、15分位放置。そろそろ豆腐の水切りが終わっただろうから、一品目を仕上げますか。

 水切りが終わった豆腐に大葉を加えて、そこにごま油を小さじ1、塩を小さじ1/4、砂糖を1つまみ。全部入ったら豆腐を崩しながら混ぜる。これで完成。

「ハイよ、『豆腐のしそ和え』。……にしても、夕立も酒が飲めるようになったのか。」

 豆腐のしそ和えを小鉢に盛ってやりながら、夕立に話しかける。早々に水を飲み干した夕立は神通に上善を注いでもらい、チビリチビリと嘗めるように飲んでいる。

「提督にカクテルを作っていただいて以来、お酒の美味しさに目覚めたみたいですよ?ねぇ、夕立ちゃん。」

「うん、鳳翔さんのお店とかで霧島さんとか武蔵さんにご馳走してもらったりしてたよ。でも、日本酒は初めてっぽい!」

 あぁ、俺のせいなのかよ。またウチに呑兵衛が増えてしまう……orzはぁ。まぁいいや、大根もそろそろ良いだろう。

……よしよし、水もしっかり出てきてるね。水をしっかり切ったら、そこに醤油大さじ1、ごま油とおろし生姜を少々。これで再び揉み込んで、更に5分置く。ピリ辛が好みなら、ここに粉唐辛子とかをプラスすると良いだろう。5分経てば完成だ。

「ハイ、『大根の中華風浅漬け』。これでもかじって鰻を待っててな。」

 皮付きのお陰でガリッ、ボリッとワイルドな歯応えが特徴の浅漬けをかじりながら上善を一口。中華風の漬け物が合うのかと思われるかも知れないが、これが意外と合うんだよ。
昔から鰻屋は急かすな、新香をかじれって言葉があったりする。鰻は注文を受けてから捌いて焼くから、美味い鰻が食いたければ急かさずに漬け物や小鉢をつついて酒を飲んで待て、という事だ。さぁて、あんまり待たせちゃ申し訳無いしそろそろ取りかかるとしますかねぇ。 

 

鰻はとかく難しい

 さて、鰻を捌くとしよう。今回は焼くからな、背開きの方が身崩れしにくい。だから今回は背開きでいこうか。

 ……っと、その前に自分の手をチェック。鰻の血液は哺乳類に対して有毒だからな、手に傷があってそこに触れると酷く痛む。どうしても、って時には使い捨てのビニール手袋をはめると良いだろう。俺の場合は傷は無いから無問題。右利きの場合は頭を右側に置き、背中が手前に来るようにする。そうしたら使うのは千枚通し。コイツで胸鰭の右側、つまり頭側の付け根の辺りにブスリ。まな板に打ち込むようにしっかりと固定する。動かないのを確認したら、いよいよ鰻に刃を入れる。刃を入れるのは胸鰭の左側の付け根。ちょうど千枚通しが鰭を挟んで反対側にある辺り。頭を切り落とさないようにゆっくりと包丁を入れ、中骨に当たった感触を感じたら包丁を左に傾けて切り口を大きくする。

 いよいよ鰻を開いていく。左手で確りと鰻を抑え、先程の切り口をスタート地点に包丁を入れる。コツとしては、刃に常に中骨が当たっているようにする為に刃を少しだけ傾ける。その状態でノコギリのように引いては戻すを繰り返して少しずつ左へ進めていく。

「やっぱり提督さんてお料理上手っぽい~。」

「そうですね、鰻を捌ける人は中々珍しいですよね。」

「そうかぁ?こんなモンやって慣れるしか無いだろうに。」

 昔から色々な魚を捌いて慣れているだけなのだ、本当に。流石に鮟鱇のような特殊な捌き方をする魚は出来ないが、大概の魚は捌けると思う。要するに戦闘と同じだ。場数が重要。注意点としては、腹側に包丁が貫通しないように気を付けて捌いていく。刃は背中線(背中の真ん中)を意識して波形にならないように気を付けて開く。尾鰭は無理に開かない。蒲焼きにすると、どっちにしろ焦げて食べられないからな。切り落としてしまった方が早い。が、今はまだ落とさない。



 鰻が開けたら次は肝と骨の除去だ。肝は手で取り除ける物は取り除き、身とくっついている部分は包丁を使って削ぎ落とす。この肝も調理すればいい酒の肴になるんだが……今回はパスだ。次は中骨だ。頭と付いたままの中骨を切り離し、身から浮かせるように刃を当てる。後は開いた時と同様に刃をノコギリのように動かして身から中骨を剥がしていく。この時一緒に尾鰭も切り落としてやる。

 骨が取れたら次は血合いの除去。肝があった辺りに付いている血合いを包丁で削るように取り除く。もしも中骨も食べるなら、こちらの血合いも取り除いてやる。中々食べた事がある人は少ないと思うが、鰻の中骨は素揚げにして塩を振るとパリパリサクサクでいいスナックになる。80cm以上ある大物の鰻だと腹骨もデカいので包丁で何本か切れ目を入れる。鰻屋は背鰭と臀鰭も切り落としてしまうのだが、アレは切れ味のいい鰻包丁と高い技術が必要な為に取らない。まぁ、蒲焼きにするなら気にならなくなるからな。後は頭を落として、表面に付いた血液を水道水で洗い流せば完成。二人からはおお~…と、感嘆の拍手が起こる。コイツを食べやすいように半分に切って鉄串を売ったら、焼きに入る。



 鰻の蒲焼きの調理スタイルは、大きく分けて三通りに分類される。関東風、関西風、九州風だ。

 関東風は背開きで焼き、途中から蒸してふっくらと仕上げるのが特徴。関西風は蒸さずにこんがりと焼くだけで火を通す(地焼き)。主流は腹開き。九州風は背開きで地焼きで仕上げる。それぞれにいい所があるのだが、個人的には皮の香ばしさが味わえるから関西風よりの焼き方の方が好みだな。今回は背開きでやってるから九州風だけど。

 ガスコンロに火を点けて皮目から焼いていく。焼き加減を見ながら、盛り付けの支度も同時進行でしていく。きゅうりを半分、青じそを10枚、三つ葉を1/2束、しば漬けを適量。きゅうりを輪切り、三つ葉は1cmの長さで刻み、青じそとしば漬けは粗微塵に刻んでおく。鰻の香りが立ってきた、そろそろ返し時か。

 クルリと表裏を返して、身の方を焼いていく。その間に皮目に刷毛でタレを塗る。今回は市販の鰻のタレ。甘辛く香ばしい香りが立ち込める。グウゥ…と腹の虫が鳴いた。どちらだろうかと顔を見ると、真っ赤になった神通がそっぽむいていた。バレバレだっての、可愛いなぁもう。

「でも珍しいなぁ。神通と夕立って組み合わせは。」

「今日は夕立も非番だったから、神通さんに組み手の相手を頼まれたっぽい。だから、今日は一緒に来たの。」

 成る程、神通が鍛練に熱を上げたのはそういうワケか。しかし軽巡と駆逐艦の最強火力の激突か。さぞ見応えのある試合だったろう。

「でも夕立ちゃん凄かったです。危うく負けてしまう所でした。」

「え~?だって結局4勝6敗で負け越したっぽい。」

 いやいや、それ十分凄いから。鬼教官て呼ばれてる神通に4回土付けてる時点で凄すぎるから。

 そんな会話をしている内に、そろそろ鰻も具合が良さそうだ。ならばそろそろ仕上げだな。俺はご飯を大皿に盛り、そこに酢1/4カップ、砂糖大さじ1、塩小さじ1/2を合わせたなんちゃってすし酢を全体に回しかける。酢飯っぽくするなら混ぜながらの方が良いんだろうが、わざとムラを作って味の差異を作った方が飽きずに食べられる。

 出来た酢飯に輪切りのきゅうりを散らしたら、焼き上がった蒲焼きを縦半分に切ってから1cm幅に切って全体に散らす。青じそ、三つ葉も散らしたら、最後にしば漬けと山椒の実の佃煮を散らす。これがピリッといいアクセントなんだ。

「さぁ出来たぞ、『鰻のちらし寿司』だ。二人で取り分けて食べな。」

 俺はそう言いながら、とっておいた肝に串を打ち、コンロで炙る。肝焼きである。

「ん~♪鰻がジューシーで美味しいっぽい~。」

「それに、しば漬けや山椒の佃煮がくどくなくしてくれますね。」

「だろ?結構美味いんだよな、それ。」

 そう言いながら、俺も肝焼きにかぶりつく。うん、ほろ苦さとタレの甘辛さが絶妙。いい肴だわ。今回は自分で焼いた蒲焼きを使ったが、スーパーで売ってる鰻の蒲焼き、なんなら穴子の蒲焼きでも美味しく作れるぞ。その時は、酒を軽く振ってからレンジでチンするとふっくらと仕上がる。

「んへへぇ、世界がグルグルっぽい~…」

「あらあら、飲ませ過ぎましたかね。」

 見ると、一升瓶は空。二人でほぼ五合ずつ飲んだ計算か。上善は飲みやすいが決して度数が低い酒ではないからな。

「では、夕立ちゃんは私が送って行きますね。提督、お休みなさい。」

「おぅ、また明日な。」

 むにゃむにゃ言いながら眠っている夕立を背負って行く神通を後ろから眺めていると、何故だか本当の姉妹のように見えてくるから不思議だ。まぁ、そろそろ呑兵衛共が二次会に此方に来る頃だろう。時刻は午後11時を指していた。 

 

十人十色とはよく言うが。

 数年に一度、鎮守府には大本営から監査が入る。健全な鎮守府運営が為されているかをチェックする為の物で、資材のギンバイや艦娘に対する如何わしい行為、その他軍規を著しく乱す行為が行われていないかのチェックだ。監査に引っ掛かると減俸や降格、鎮守府異動……最悪鎮守府自体がお取り潰し、なんて厳しい処分もある監査、のハズなのだが。

「ったく、何なんだよあの報告書はぁ。お陰でコッチは蜂の巣つついたみたいな大騒ぎだぞ?」

 監査官であるハズの軍令部の男は、秘書である艦娘を横に侍らせて酒を飲みながらクダを巻いている。何を隠そう、この男は俺の同期生。いつも監査官はコイツが担当なのだが、すげぇ適当で数日間の監査の間はほぼ、コイツの有給休暇状態になってしまっている。しかも、

「なんだ?そんな面白い事があったのか。いい酒の肴だ、聞かせろよ。」

「その話、私も興味あるネ。是非聞かせてくれよ。」

 護衛に付いてくる提督二人もいつもの面子で、コイツ等も同期。さながら同窓会状態になってしまっている。



 さて、コイツ等の事でも一応紹介しておこうか。目の前でクダ巻いてる監査官が染嶋(そめじま)大佐。一応同期の中では首席だったキレ者。今は大本営の軍令部で書類と格闘する毎日。殆んど実戦経験は無いが、実務能力半端ない。嫁艦は叢雲(改二)。

「カッカッカ、コイツに八つ当たりしてもしょうがねぇじゃろうが。」

 染嶋の隣で豪快に笑いながら焼酎のロックを胃袋に流し込んでいるのが荒木。出身は呉。本土の呉鎮守府での勤務を希望していたらしいが、その才能を買われて今はラバウルにある艦娘の技術研究所、通称『ラバウル技研』に所属。あそこは技術の変態が集うと言われる魔窟らしいが、本人曰く「技術者の天国」らしい。まぁ、類は友を呼ぶ、って奴だろう。階級は中佐で嫁艦は大和。 

 最後に控えるのは金髪碧眼、クルツ=波多。何を隠そう元在日米軍の司令官様だ、元だけど。法律が整備されて艦娘との結婚が可能になった途端、「俺、米軍辞めて日本人なるわ。」と日本に帰化。即刻日本政府に取り入って提督に着任したらしい。入学式の時はビビったよ、『外人のオッサンがおる……‼』って。今はショートランド泊地だったか?階級は少将、嫁艦は雷と夕雲の二人。しかし、四十超えたオッサンが(見た目は)幼女に甘えてるこれは絵面的には完っ全にアウトだと思うのだが。しかも昔はキリッとした厳しい男だったらしいが、今や完全なダメ男と化している。

「イカヅチちゅわぁ~ん、酔っ払っちゃったよ~♪」

 うへぇ、気持ち悪りぃ。



……何?俺の紹介は、だと?要らないだろう、自分でやるのは恥ずかしいし。どうしても、っていうなら感想欄で聞け(メタ発言)。

 それよりも、話題はこの間の秋祭りの報告書だ。夜の間の一騒動(後々武蔵から聞き出した)は流石に報告しなかったが、一応はあった事を洗いざらい報告書に記載して送ってやった。

「じゃあ何か?起こった事を隠蔽しときゃあ良かったのか?」

「いや、誰もそういう事を言っているワケでは……」

 染嶋がどもると、傍らにいた叢雲が此方をキッと睨み付けてくる。

「ちょっとアナタねぇ、ウチの人をあまりイジメないでくれる!?この人ナィーブだから傷付き易いんだから‼」

 そう言って叢雲は染嶋の頭を抱き寄せると、まるで子供をあやすように頭をナデナデし始めた。

「お~よしよし、恐かったわねぇ……。」

 染嶋はチラリと此方を見て、すまんとでも言いたげな表情だ。前々から手紙で聞き及んではいたが、あれじゃあ過保護すぎるだろ。

 どうも染嶋の所の叢雲は、あまり実戦経験が無く、事務処理の手伝いがメインのせいか二人っきりの事が多いらしくてベタボレらしい。そのせいか、愛情表現が少し……いやだいぶ過剰らしい。ウチの叢雲はもっとツンケンしてて、俺への風当たりが強かったと記憶しているが…やはり、過ごす環境や人付き合いの仕方でこんなにも同じ艦娘でも差が生まれるんだな、と改めて感心した。

「しっかし、タイムスリップなぁ。」

 荒木は腕組みをして、首を捻っている。やはり技術者の血が騒ぐのか、手帳を取り出して何やら訳の解らない数式を書きながらブツブツと言い始めた。その隣では、

「提督ぅ……、提督ぅ?大和のお声、聞こえてますか~?」

 荒木の嫁艦の大和が、男前ジョッキ(容量1リットル)を片手にテーブルに突っ伏して右手の人差し指でテーブルをグリグリとやっている。どうやら荒木のトコの大和は嫉妬深く、かまってちゃんらしいな。しかし、ウチの酒と大和もこんな感じになるのだろうか?今度しこたま飲ませてみようかとも思ったが、ウチが大損害を被りそうなので止める事にした。
 

 

本命は誰だ!?

「ところで、お前のトコの嫁艦は?居ないじゃないか。」

 強かに酔っ払った染嶋が、目の据わった顔で此方を睨みながら言ってくる。コイツ、完全に出来上がってやがる。

「〇〇のトコはウチより多いジュウコン艦隊だからネー。1人に選べないんだよナ?」

 雷の腹に頬擦りしながら、ニヤニヤと嗤うクルツ。やばい、スッゴい殴りたい。

「バカ言え、ウチのケッコンの基準は戦力の底上げだぞ?個人的な嗜好は絡んでない。」

「ほっほ~う?なら、なんで長門と陸奥には指輪を渡しとらんのじゃ?」

うぐっ、荒木め痛い所を突きやがる。確かにウチの長門と陸奥も錬度は最高値。ケッコン指輪を渡して更に戦力の増強を図るべきだろう、先程の説明なら。

「あらあら、大将さん黙り込んじゃいましたよ?」

「って事は、今指輪を持っている娘の中に本命がいるって事ね!」

 クルツのトコの夕雲と雷が互いに顔を見合わせ、クスクスと笑っている。おいおい、何だか雲行きが怪しいんだけど。

「で?その本命さんって誰なんです?」

 さっきまで山城並のマイナスオーラが漂っていた大和も、先程とは打って変わってこちらの色恋沙汰に興味津々、といった感じだ。やはり女子って事か。



「なら、一人ずつコイツの結婚艦を挙げていって、俺たちで推理してみるか!」

 酔っ払った染嶋の提案に、みんな乗り気だし。どうすんの?コレ。

「まずは空母から!最近ケッコンした新妻、翔鶴さん‼」

 まぁ、確かに一番最近ケッコンした艦娘だけれども。

「あー、まぁ翔鶴さんはなぁ。装甲空母になって燃費上がってしもうたしなぁ。」

 確かに、ウチみたいな大所帯だと燃費の良さは大きなアドバンテージだった。ただ、数少ない装甲空母という魅力には勝てなかった。

「しかし、やはり燃費が悪くなるのはなぁ。」

 オイ荒木、隣で嫁さんが大ダメージ喰らってるが良いのか?ノックアウト寸前って感じだぞ。

「って事は、翔鶴さんは違うようね。じゃ次!」

 オイ、まだ続けるのかコレ。

「じゃあ翔鶴さんの妹、瑞鶴さん!」

「無いな。」

「うん、無いな。」

「コレは確信持てるネー。」

 同期の3人が揃いも揃って、口を揃えて『瑞鶴は無い』と断言。何となく、その根拠は解る気がするが、それだけは口にして欲しくない。

「何で解るのよ、そんな事。」

 叢雲が尋ねちゃったよ。やめて、いやマジで。

「「「だってコイツ、おっぱい星人(死語)だもの。」」」

うわああああああああ‼言われたああああああぁぁヽ(´Д`;)ノ

 今までひた隠しにしてきた性癖を暴露って、なんだよこのイジメにも等しい行為。ほら見ろ、叢雲は軽蔑の眼差しだし、大和は胸を両腕で隠しちゃったし(少し勿体無い)、夕雲は「あらあら♪」って悪戯っぽく笑ってるし、雷なんか目が死んでるじゃねぇか。

「む、胸が無くたって女の子は可愛いし……(震え声)」

 とか言っちゃって別の世界に旅立とうとしちゃってるよ完全に。もう俺、完全にこの娘達の脳内で『おっぱい大好きな変態提督』って位置づけなっちゃってるじゃんコレ。どうしてくれんだ。

「ま、まぁ取り敢えず瑞鶴はコレで消えたな。じゃあ次は赤城さん!」



「まぁ、赤城さんは順当だな。」

 染嶋の言葉にうんうん、と頷く荒木とクルツ。

「黒髪美人だし!」

「仕事出来るし!」

「家事も上手そうだし!」

「おっぱい大きいし。」

「おっぱい大きいし。」

 だからもうおっぱいはいいだろぉ!?そんなジト目でコッチを見ないで下さい嫁艦の皆さん。嗚呼、視線が痛い……orz
まぁ確かに、赤城とケッコンした、という提督の話はよく聞く。艦娘の量産化が可能となってからは、大本営が特定の任務をこなす事で配属させる正規空母、って事で正規空母最古参である事が多いし、それに戦闘にしても執務にしても、その能力は高い。それに空母は錬度が上がりやすい。大概の海域攻略に必要だし、他の艦娘の錬度を上げるにもその随伴として心強い。そしてケッコンした事によるメリット、「燃費の改善」が大きい。

 「ボーキの女王」「喰う母」「赤城給食」等々、赤城のその暴力的とも言える食欲と(鎮守府運営初期での)燃費の悪さは有名だ。ウチの赤城はそれほど燃費が悪いと感じた事は無いが、以前他の鎮守府の提督に『お前のトコの赤城は赤城じゃない。赤城の皮を被ったナニカだ。』と言われたその一言に、赤城への思いが凝縮されている気がする。それがケッコンにより改善するなら、願ったり叶ったりだろう。

 しかし、やはり赤城は「何か」違うのだ。確かにあのムチムチフカフカのボディにクラッときた事は何度かある。それは否定しない。だがなんというか、それは肉体的魅力に惹かれたのであって、心まで許した感じでは無い、と言えば解って貰えるだろうか。

「いや、赤城は無いよ。それは断言できる。」

 俺はきっぱりと、全員にそう言った。

「じゃあ加賀さんは?空母の中でも一番の錬度じゃない。」

 叢雲はスクリュードライバーのグラスを傾けながら、こちらにそう言ってきた。

「あ~、加賀さんは…なぁ?」

「コイツの場合は仕方無いというか、なんというか……。」

「罪滅ぼし的なトコがあるからネ。」

 嫁艦達は一斉に首を傾げる。無理もない、加賀にケッコン指輪を渡したのは俺の個人的贖罪の意味合いが強い。前にも語ったが、俺は若い頃に加賀を沈めている。沈んだ彼女とは違うのは解っている。ただ、俺はもう沈めないという決意の表れとして、空母では一番に指輪を渡したし、過去との決別も果たした。その話は同期のコイツ等もよく知っている。それを嫁艦達に話して聞かせてくれやがったらしい。揃いも揃って、顔がグシャグシャだ。

「うっ、うっ。良い話じゃないの…。」

「おっぱい星人とか言っちゃってごめんなさああぁい…」

「その沈んだ加賀さんも、彼方でさぞお喜びでしょうね。これだけ慕われて……。」

 どうすんのこれ、収拾着かないんだけどさ。 

 

惚れた弱味

「するってぇと、後は金剛型の四姉妹の誰か、っちゅう事になるのう。」

 ウチのケッコン艦メンバーを思い出しながら荒木がそう宣った。げ、どんどん核心にせまってやがる。ヤバイぞこれ、どうすんだコレ。

「へぇ、金剛さん達皆とケッコンしてるのね!」

「でもそれって、本命さんを隠すためのカモフラージュ……だったりして。」

 おいおい、さっきからクルツのトコの夕雲が物凄いニアピン発言連発なんだけど。今胃がキリキリと絞り上げられてる気分なんだけど。これが世に聞く女の艦、もとい女の勘って奴なのか。すると此方をチラリと見た夕雲、確信を持ったように妖艶な笑みを浮かべる。

「やっぱり。本命さんは金剛さん達姉妹の誰かね?」

 ゲ、まさかさっきの会話に対する俺のリアクションを観察してやがったのか!?それを聞いた酔っぱらい共、やおらテンションが上がる。

「よ~し、じゃあ金剛四姉妹の中から、コイツの本命を探って行きましょ~っ‼」

「「「「おー‼」」」」

 ハァ。もう好きにして下さい……。



「じゃー下から順に……まずは霧島さん!」

「うん、まぁ。霧島さんなら不思議じゃないですよね。」

「そうよねぇ。戦艦としての実力は申し分無いし。」

「『艦隊の頭脳』の二つ名通り、秘書艦能力も高いし。」

「改二になってからは更にオンナに磨きがかかったよな、彼女。」

「眼鏡っ娘で末っ子、男の人ってそういうの好きですし。」

 ジトッとした目でコッチを見てくる大和。まぁ否定はしないが。確かに霧島は可愛らしいとは思う。それに、改二になってからは長門型に勝るとも劣らない火力を叩き出す、難関海域の突破には欠かせないメンバーとなっている。それに、他の艦に比べても事務処理能力は高いし、意外と何をやらせてもそつなくこなす。酒も強いから、俺に付き合って飲んでくれる事もしばしばあり、非の打ち所がない女性といった感じだ。だが、それがまた逆にネックだったりする。

「けどのぅ。そういうオンナを好む男もいるじゃろうけども、コイツはそういうタイプじゃあないしのぅ。」

 そう、そうなんだよ荒木。流石に解ってるな、お前は。

「えっ、なんで?悪いところが無いなら良いじゃない。」

 叢雲がむくれたようにそれに突っかかる。

「何て言うか……ねぇ?」

「男はネ、女性に『弱さ』を求めるんだよ、本能的に。」

 サラトガのグラスを傾けながら、語り始めるクルツ。

「男は本能的に、『女性は守る者だ』という意識がある。それなのに、守る必要が無いと言われると、途端に困ってしまうんダ。」

 まぁ、それに近い感覚だろう。相手の足りない部分を補ってこそのパートナーだと思うし、そういう所を補いたいと自然と思えるのが愛だと、俺は思うがね。

「まぁ、霧島はしたたかだからな。意外と既に彼氏が居たりしてなw」

 有り得なくはない、と思ってしまった俺がいる。



「じゃあ次は三女の榛名さん!」

「彼女こそ良妻賢母、って感じですよねぇ。」

「ただただ健気だし。」

「可愛いしなぁ。」

「何て言うかこう……守ってあげたい!って思えるよなぁ自然と。」

 うへへへ……、とニヤつく男性陣を冷ややかな視線で眺める女性陣。うわぁ、他の女の話題で盛り上がってるとこんな顔されるんだなぁ。気を付けよう。

 確かに榛名は健気だ、何をやらせても一生懸命だし細かい所に気が付く。こういう奴が嫁さんだと、旦那は仕事に集中させてくれそうだよな。……けどなぁ、榛名はなぁ。

「でもさぁ、榛名ちゃんて重そうだよな。」

 赤ら顔の染嶋が、唐突に言い放った一言。これが榛名に躊躇する一番の理由では無かろうか。個人の勝手なイメージかもしれないが、榛名はその愛情表現が重そうなのだ、何となく。

 俺も大将という立場上、同じブルネイ泊地に在籍する提督のまとめ役のようなポジションを担う事がままある。そういう時によく話題に挙がるのが『鎮守府の中での生活』、特に嫁艦との生活に関して……つまりはノロケ話だ。カッコカリとはいえ、まがりなりにも『嫁』なのだ。勿論、夫婦らしい過ごし方も認可されているし、大本営も提督のストレス軽減に効果があると寧ろそれを推奨している。そんな中でもよく名前が挙がるのは榛名だ。健気に尽くしてくれる優しい美人……男には堪らないだろう。だが同時に、嫁として苦労するとの話をよく聞くのも榛名だ。

 嫉妬深く、独占欲が強い。他の艦娘と仕事の話をしているだけでボコボコに殴られた、なんて奴もいた。幾ら健気で美人でも、ヤンデレは勘弁願いたい。

「じゃあ……残るは比叡さんか金剛さん?」

 やっぱそうなるよなぁ。実際問題、二人の内片方は本当に惚れた相手だから困ったモンだ。さて、どうやってこの流れを収めた物か。



「……そういえば、提督さんがその本命の人を好きになった理由って何ですか?」

 好きになった理由?理由なぁ……考えた事も無かった。

「なんだろうなぁ。気付いたら視線で追ってて、何で追ってんだ?って考えたら、『あぁ、俺コイツに惚れてんのか』って気付いた。」

「一目惚れ、って奴かいのぅ。」

「ワォ、なかなか純情ボーイだネ。」

「ケッ、からかう気も失せるわ。そろそろ寝るぞ~、叢雲。」

 そう言ってフラフラと千鳥足で立ち上がる染嶋。その傍らで脇から支える叢雲。

「ほんじゃ、ワシ等も行くかぁ。」

 荒木もよっこらせ、と立ち上がり染嶋を追う。大和もクスリと笑って後ろを付いていく。

「じゃ、司令。私達も休みましょうか。」

「え~?まだ飲んでから……」

 瞬間、夕雲がクルツの耳を引っ張った。

「司令ぇ~?行きますよ~?」

「ハ、ハイ……。」

 ズリズリと引き摺られていくクルツを眺めていると、夕雲が振り替えって微笑んだ。

「提督さん?でも、いずれはその気持ち、伝えてあげて下さいね?その娘はずっと、待っているハズですから。」

 そう言い残し、クルツ達も出ていった。部屋には、俺一人を残して。

「随分と、難儀な課題を残してくれたモンだぜ……。」

 頬杖突いてブスッとした顔で、頭が痛いのを感じながら俺はいやに苦く感じたウイスキーを、一気に胃袋に流し込んだ。 

 

寒くなったら食べたい汁物トリオ

「さて、そろそろ来る頃か……。」

 年の瀬も迫る12月の昼日中、俺は昼の執務室から夜の姿――『Bar Adomiral』へと姿を変える。決してサボりではないということを先に断っておく。今日の書類仕事は終わっているし、出撃した艦娘達も軒並み戻ってきて午後からは休みモードに入っている。だからこそ、俺は早めに店を開けた。勿論、呑兵衛共が陽のある内に呑みに来る事を予想しての事だがそれ以上に、この日はある艦娘が毎年尋ねてくるのだ。
……おっと、噂をすれば影って奴か。少し控えめな、ノックの音がした。

「おぅ。準備できてるから、入って良いぞ―。」

「し、失礼します…。」

 
 少し緊張の窺える声色で入ってきた艦娘。その姿は凡そ「軍艦の転生した姿」には見えない。

 艦娘は基本、セーラー服の様な制服か、巫女の様な和装が多い。しかし彼女は似つかわしくないエプロン姿。かといって補給艦かと言われれば、それに近いが呼び名が違う。彼女の艦種は「潜水母艦」。潜水艦を主体とする艦隊の旗艦として、潜水艦への補給機能や潜水艦隊を指揮する能力に長けた艦娘だ。

「何で緊張してるんだよお前はぁ。もう毎年恒例の事なんだからいい加減に馴れろよ。」

「だっ、だって執務室に来るなんて、秘書艦の娘かMVPを取った娘位じゃないですかっ。」

 むぅ、と頬を膨らませてその艦娘・大鯨が反論してくる。何というか、見た目が艦娘というよりも主婦に近い上に顔が童顔だから幼妻の様に見える。ぶっちゃけ可愛らしい。それにしても、だ。

「しっかし、本当に時雨に似てるよなぁ。」




 過去の軍艦だった時代に護衛に就いていた影響なのか、顔立ちや髪型がよく似ている。それに白露型のトレードマークでもある赤いネクタイを着けている。本人に聞いたら「時雨ちゃんから『御守りに』って戴きました♪」との事だった。そのネクタイをしているせいか、余計に似て見える。

「僕を呼んだかい?提督。」

 ヒョコッと顔を出したのは噂の主・時雨。本当に二人並ぶと姉妹だなぁ。夕立とか村雨が姉妹だって言われるよりも自然だわ。

「どうした?ウチは昼メニューはやってねぇぞ。」

 半分からかうようにそう言うと、

「大鯨さんに聞いたんだ。冬にピッタリの温かい汁物を作るから、作り方を教わりたければ来ると良いよ、ってね。」

 成る程、そういうワケか。大鯨が来たのもそういう理由だ。実は今日は仕事納めで、ここから暫くの間は我が鎮守府は交代で年末年始の休みに入る。……だが、ウチの全艦娘の1/5を占める潜水艦娘達は終業時間ギリギリまでオリョールやバシー島沖、カレー洋等にローテーションを組んで出撃している。そんな潜水艦娘達の労を労いたいと、着任当初から大鯨が俺に要望してきた事だった。

「はぁ。まぁいいや、作り方は教えてやるからお前も手伝えよ?時雨。」

「勿論さ。ホラ、エプロンだってもう持ってきてあるんだ。」

そう言ってピンクのエプロンを着ける時雨。さてと、じゃあ始めますか。




「それで提督、今日は何を作るんだい?」

「今日は豚汁とけんちん汁、それにせんべい汁を作ろうと思ってな。」

 そう言うと二人は首を傾げた。

「豚汁とけんちん汁は知っているけれど、せんべい汁は初耳ですね。」

「そもそも、お煎餅を汁物に入れて美味しいのかい?」

 だよなぁ。知らない人が聞くと、大概そういう反応だ。

「まぁ待て。そもそも、お前らが想像している煎餅とせんべい汁のせんべいは別物だ。」

 せんべい汁のせんべいは、南部せんべいという岩手と青森の辺りで昔から食べられていたせんべいを使う。普通の煎餅は呼んで字の如く薄切りにした餅をパリッと焼き上げた物だ。それに対して南部せんべいは、主原料は小麦粉。昔は米が殆んど取れなかった土地柄からか、岩手北部と青森の辺りには小麦粉やそば粉を使った郷土料理が多い。せんべい汁ってのは、その南部せんべいのなかでも汁物に適する様に堅焼きにした南部せんべいを使った料理、って訳さ。

「へぇ、やっぱり料理って地域性があるんだね。」

「まぁな。今日のは我が家のレシピだから、多少有名なレシピとは違うかも知れんが、味は保証するぜ。」

 んじゃ、作っていこうかね。

 豚汁にもせんべい汁にも、我が家で欠かせない具材はゴボウ。今日はそれぞれに2本ずつ、合計4本を使おうか。

「二人はゴボウを笹がきにしてくれ。俺はその間に他の具材を準備するから。」

 我が家の豚汁は、とにかく具沢山だ。ゴボウ・ニンジン・長葱・玉葱・ジャガイモ・椎茸・榎茸・大根・白菜(又はキャベツ)・豆腐・コンニャク。そして最後に豚肉。これをまとめて炒めて煮込んで作るのだ。

 ゴボウは皮を剥かずにたわしでよく泥を落としながら水洗いして皮付きのまま笹がきに。笹がきにしたら真水に着けて軽く灰汁抜き。

「提督、酢水の方が灰汁は抜けるんじゃないのかい?」

 このレシピで作った経験の無い時雨が質問してくる。

「ゴボウは皮から良い出汁が出るんだ。それに、酢水だとその出汁まで抜けちまうからな、水でいいんだ。」

 そう、我が家の豚汁の特徴としては、鰹や昆布などはまず使わない。野菜と豚肉から出る出汁で仕上げる。そのためには炒める順番が重要になるからな。

 ニンジンは細切り、長葱は斜め切り、玉葱やジャガイモは食べやすい大きさに。椎茸は干し椎茸を戻して使う。戻し汁は煮込む時に使うからとっておく。戻した干し椎茸は半分に切ってスライスし、榎茸は石附を落として適当な長さに。せんべい汁に白菜を使いたいから、豚汁はキャベツにするか。
キャベツも食べやすい大きさに刻んでおく。大根は銀杏切り、コンニャクは好きな物を好きな形にしてOK。

「ふぅ、粗方具材は刻み終わったな。」

 さて、お次は炒めていくぞ。豚肉は一口大に切って、油を熱した鍋に投入。使う種類はバラ肉や小間切れとか、脂の多い部位が良い感じだ。脂から出汁が出るからな。

「お肉の量が野菜に比べて随分と少ないね。」

 そう、これも我が家の豚汁の特徴。豚肉の分量に対して他の具材は2倍~2.5倍は入る。そもそも、俺の考えとしては豚汁ってのは「豚肉がメインの汁物料理」ではなく、「豚肉の旨味を吸った野菜を味わう汁物料理」だと思っている。だからこそ、出汁が出る程度で豚肉はいいんだ。

 さてさて、こっからの順番が重要になってくるぞ。 

 

汁物の仕上げ


 鍋にサラダ油を引き、豚肉を炒める。今回は豚バラを使う。アバラ周りのバラ肉は脂と赤身のバランスが、脂の旨味を活かしたい炒め物等にちょうど良い。豚肉の色が八割方変わったらゴボウを加えて炒める。

「ゴボウはどのくらい炒めれば?」

「ゴボウの香りが立ってきたら良いぞ。そこにジャガイモを加えてくれ。」

 指示通りにジャガイモを加える時雨。ある程度炒まったらそこに臭み消しの酒を振り入れる。一気に湯気がたつ鍋に臆する事なく炒めていく。

「提督?私はどうすれば……」

 あ、大鯨が手持ち無沙汰になっていた。いかんいかん、じゃあ今の内にせんべい汁の具材の仕込みをしてもらおうか。

 使うのはニンジン、榎茸、白菜、長葱、干し椎茸、ゴボウ、鶏モモ肉。切り方は豚汁と同様で、白菜は細切りに。鶏モモも小さめで良いだろう。

「提督、豚汁の方は良い感じだよ。」

「お、そうか。そこまで炒まったら大根とニンジン、それと玉葱とコンニャクも加えて炒めてくれ。」

 根菜類が全て入ったら炒めるのはサッとでいい。全体が混ざったら干し椎茸を加えて戻し汁も加えて灰汁を取りながらの煮込みに入る。具材が被るくらいの水の量になるように調整してな。そうしたら長葱と榎茸も加えてしばらく煮込む。灰汁取りは細かくやらないと味が落ちるから入念にな。その間にせんべい汁も仕込み始めよう。



 こちらも鍋に油を引き、鶏モモを投入。豚肉に比べて鶏肉は焦げ付いてボロボロになりやすい。少し焼き目を付けてから炒め始めた方が良いだろう。

「そういえば、せんべい汁は鶏肉なんですね。」

「だなぁ。あんまり鶏以外を合わせようって思考が無かったわ。」

 今回はモモ肉を使ったが、むね肉とか手羽中、手羽先なんかも良いかもな。ささみはパサつくだろうからあんまりオススメはしないがな。

 鶏が炒まったら豚汁同様にゴボウを加えて更に炒める。香りが立ってきたらこちらも酒を振り入れる。ゴボウにも火が通ったらニンジンと椎茸、白菜の下の方、白い部分を炒める。白菜が透き通ってきたら葉の部分を加え、全体に混ざりあったら干し椎茸の戻し汁を加えてこちらも灰汁を取りながら煮込む。

「ふぅ。とりあえず、二品はほぼ出来上がりだな。チョイとと休憩して何か飲むか。」

 二人にそう薦めると、二人は嬉しそうに席に着いた。とは言ったものの何を出したものか。時刻を見ると午後3時。オヤツの時間か。…なら、甘いカクテルでも振る舞うとしようか。

 まずは爽やかな口当たりの物を1つ。リキュールグラスにクレーム・ド・カカオ、クレーム・ド・ミント・グリーン、そして生クリームの順に、静かにグラスに同量注ぐ。するとそれぞれの比重の違いから混ざり合う事なく美しい縞模様を描き出す。見た目にも美しいこれはプース・カフェ・スタイルと呼ばれるカクテルの方式で、口に含む事で初めて味が完成するのだ。

「お待たせ。『グリーン・ホッパー』だ。まずは何も聞かずに飲んでみな。」

 二人は恐る恐る口に運ぶ。

「あ、この味……」

「チョコミント!私、あまりお酒は得意じゃないけれど、これなら美味しく飲めそうです。」

 大鯨が頬を綻ばせてニコニコ笑っている。あぁ、癒される笑顔してんなぁこの娘。

「まぁな。クレーム・ド・カカオは口当たりの良さがウリだから。」

 クレーム・ド・カカオとは、チョコレートの原料であるカカオ豆を焙煎し、アルコールと共に蒸留。更にカカオの浸漬液やカカオ色素で濃い褐色に色付けした物が一般的だ。まぁ今回は彩りを考えて着色せずにバニラの香りとシロップを加えたホワイトタイプを使った。クレーム・ド・ミント・グリーンも同様、ミントを漬け込んだリキュールで、円やかな口当たりと鮮やかなグリーンが特徴だ。甘過ぎず、かといって辛すぎず、絶妙なバランスの一杯だ。



 さて、野菜に火が通るにはもう少しか。ならばもう一杯、今度は温かいカクテルをご馳走しようか。用意するのはマグカップ。温かいカクテルだからな、ガラスのグラスは似合わない。そこにゴールド・テキーラを30ml、クレーム・ド・カカオを15ml。今度は一般的なブラウンタイプを使う。更に香り付けにレモン・ジュースを5ml。そして仕上げにホットコーヒーを適量注いでステアすると完成だ。

「『ホット・パイパー』だ。それを飲んだら作業再開するぞ。」

 二人とも似たような動きでフーフーと息を吹き掛けて冷まし、普通にコーヒーを飲むようにズズズと啜る。

「……なんだか、カフェモカみたいな味だね。」

「でも、お酒が入ってるからか余計に暖まってる気がします。」

 本人の話通り、大鯨は酒が強くないのか顔が赤くなってきている。大丈夫かよ、オイ。



 さて、豚汁とせんべい汁を仕上げてしまおう。蓋を開けるとどちらの鍋もグラグラと煮立っている。豚汁の方には賽の目に切った豆腐を加え、豆腐が温まったら火を止める。味噌汁作りにも言える事だが、味噌を溶き入れる時には必ず火を止める。そうでないと味噌の旨味や香りが逃げてしまう。これは味噌を使う時のいろはのいの字だ。味噌を溶いたらここで味見。塩気の強弱はここで調整してな。

「うん、良い味だ。」

 使う味噌は赤味噌系がオススメかな。野菜の量が多いから、白味噌だと甘く感じるかも。勿論、自分の好みに合わせて合わせ味噌でもOKだ。

 今度はせんべい汁だな。こっちは醤油ベースの味付け。顆粒の鰹だしと昆布茶を少々加えて、そこに酒と醤油。味見をして、自分の基準にする汁物の塩気よりほんの少ししょっぱい位が丁度良いかな。後からせんべいが入るから、味が薄まる事を計算して調整してくれ。

「うん、こっちもいいな。」

「あれ、せんべいは入れないのかい?」

「せんべいは食べる寸前に入れて軽く煮るのさ。そうしないとデロデロになるからな。」

 せんべい汁のせんべいは、柔らかい所とあまり煮えてない所のまばらな食感を楽しめる方が美味いからな。

「さぁて、次はけんちん汁を作ろうかね。」 

 

おにぎりと汁物とスク水と。

「さてと、豚汁とせんべい汁は完成だ。残りはけんちん汁を作っていこうかね。」

「でも、けんちん汁って不思議な響きの名前だよね。和食なの?」

 確かに、出自を知らないとよくわからない名前だよな、けんちん汁。

「あ~、確か原型となった料理は精進料理。つまりは肉や魚を使わない寺の坊さん達の料理だったハズだな。」

 諸説あるが、有力とされているのは建長寺の修行僧が作っていたから「建長汁」、それが訛ってけんちん汁となったという説と、江戸時代に中国大陸から渡ってきた精進料理……所謂普茶料理(ふちゃりょうり)の巻繊(ケンチャン:刻んだ野菜と豆腐を混ぜて炒め、油揚げか湯葉で包んで揚げた料理)をアレンジし、汁物にしたのがけんちん汁となった、という説が二大巨頭だ。

「つまりは、お野菜の旨味だけで出汁を取るのが正式な作り方、という事ですか?」

「まぁな。原型は精進料理だから、出汁を取るのに使えるのは昆布と椎茸……鰹節は使わない。具材も野菜にコンニャク、油揚げと豆腐位だが、今は普通に合わせだしやら肉を入れたレシピの方が一般的だ。」

 それに、味付けも味噌仕立てと醤油ベースのすまし汁風と二分化している。こうやってみると、案外身近なようで奥が深いぞ、けんちん汁。



「さぁて、お勉強の時間は終わりっ。さっさと作るぞ~。」

 用意した具材は、ゴボウ・ニンジン・大根・干し椎茸・里芋・コンニャク・豆腐・油揚げ・ヒラタケ・鶏モモ肉。味付けは醤油ベースのすまし汁風で行こう。ヒラタケがない場合はしめじでもOKだ。

 まずは具材の下拵えをしつつ、同時進行で出し汁作りだな。ゴボウは斜めに薄切りにして水に曝して灰汁抜き、大根とニンジンは5mm幅の銀杏切り、里芋は皮を剥いて塩揉みしてぬめりを取り、下茹でしておこう。コンニャクは小さいお玉かスプーンで小さくちぎり、油揚げと鶏モモは小口切り。ヒラタケ(又はしめじ)は石附を落として小房に分ける。豆腐は布巾に包んで水分を切っておこう。

 同時進行で合わせだしを作る。そういや、本格的な出汁の取り方は大鯨にも教えた事が無かったな。昆布と鰹の合わせだしを取る場合、水2リットルに対して鰹節30g、昆布は産地によって変えた方が良いのだが、大体20g位と思っておけばいい。まずは昆布出汁の取り方だ。まずは昆布の表面をキッチンペーパーや乾いた布等で拭き取る。

「何で昆布を拭くんです?」

「昆布は採ったらすぐに砂利の上やアスファルトの上なんかに広げて乾燥させるんだ。だからどうしても細かい砂粒だとか汚れが付着してるんだ。それが残ってると繊細な昆布出汁に雑味が出るからな。」

「表面の白いのも拭き取るの?」

「それは旨味成分の塊だ。それが落ちるくらいゴシゴシ擦らなくても良いぞ。」

 汚れが落ちたら昆布を水に浸ける。水出しの方が上品な味が出るが、最低3時間は必要となるからな。今回はパスだ。昆布に切り込みを入れて出汁を取るやり方もあるが、あれはそれぞれメリット・デメリットがある。今回は切れ込みを入れてから水に浸けた。昆布を入れた鍋を火にかける。火加減は強火で温めていく。水が沸騰してきたら火加減を弱火にし、しばらくそのままにして昆布の旨味をしっかりと出す。しかし、この時アクと昆布の強い香りも出てしまう為にしっかりとアク取りをする。

 一度味見をして昆布の旨味が出ている事を確認したら、昆布を取り出してそのまま弱火にかける。こまめにアクを取り除いていくと澄んだ色の出汁になる。こうなると昆布のくどい香りや雑味もなくなり、円やかな味になる。こうなったら一旦火を止めて出汁の温度を下げる。煎茶同様、鰹節は熱湯で出汁を取ると美味しく無くなる。その為、差し水するか火を止めて温度を下げてから鰹節を加える。勿体ぶらずに一気にバサッと入れる。火を止めて温度を下げた場合には、ここで再び火を点ける。こまめにアクを取り続け、沸騰してきたらそのまま20~30秒、鰹出汁を煮出してやる。煮出し終わったら直ぐに火を止め、キッチンペーパーを使って出汁を濾してやる。一気にドバドバと注がずに、ゆっくりと濾してやると、澄んだ綺麗な出汁が取れる。これだけの手間暇をかけてやれば、円やかで自然な甘味さえ感じられる後味の良い出汁が出来上がりだ。

「ん、どうした大鯨。」

「いや、鰹節と昆布が勿体無いなぁと思って……」

 勿論、出し殻の昆布と鰹節は無駄にしない。定番な所だと佃煮とか、色々と利用できる。俺が後で調理しておこう。


 さて、海産物の出汁が取れたら、今度は山の幸。干し椎茸の出汁を取ろうか。といっても干し椎茸は大して難しくない。雑味の原因となる汚れを落とし、軽く日光に当てる。そうすると乾物独特のひなた臭さが取れるし、栄養成分のビタミンDが増える。そしたら干し椎茸は絶対に水出しの方が良い。お湯で戻すと苦味が出てしまう。時間としては3~4時間。今回は時間が無いから、俺が予め準備しておいた物を使う。出汁の分量としては水1リットルに対して干し椎茸30g。
戻した椎茸はけんちん汁の具材として使う。



 さぁ、一気に仕上げよう。鍋にごま油を敷き、まずは鶏モモ肉。焼き目が付いたら大根・ニンジン・下茹でした里芋・コンニャク・キノコ類・ゴボウの順に加えて炒めていく。水気を絞った豆腐を崩しながら加えて全体に混ざりあったら、先程取った2種類の出汁を加えて煮込む。こまめにアクを取りつつ、煮立ってきたら火を弱めて更に煮込む。具材が柔らかくなったら酒と醤油で味付け。味見をして塩で調整したら出来上がりだ。

「さぁ出来たぞ、けんちん汁。後は……握り飯もか。」

「そうですね、日も暮れて来たので急ぎましょう!」

 大鯨と時雨、そして俺は潜水艦達に振る舞う握り飯を大急ぎで握り終えると、汁物3種が入った鍋とカセットコンロ、テーブルに椅子、仮設テントを担ぎ出して港へ急ぐ。

 テントを設営し、カセットコンロに火を入れる。せんべい汁の鍋が温まってきたら汁物用せんべいを割って入れ、一煮立ち。せんべいがある程度汁を吸ったら完成だ。それと同時に海の方からザプ、ザプと何かが上がってくる音が聞こえる。

「お、来たか。」

 グッドタイミング。ウチの稼ぎ頭達のご帰還だ。 

 

出がらし?いいえ、食材です。

「ふへえぇ~、疲れたのねぇ。」

 疲労した身体を引き摺るようにのそのそと歩いてくる一団。揃いの制服のようにスクール水着を身に纏い、両脇には獲得してきた資源であろう重油入りのドラム缶やら弾薬の詰まった箱やらを抱えている。顔立ちは駆逐艦と同じか少し年上位の印象で、その髪は彼女らの重要課題であろう『隠密性』って何だっけ?と尋ねたくなる位カラフルだ。赤にピンク、紫に金髪銀髪。絶対目立つだろ、それ。

「おぅ、今日もオリョクルお疲れさん。」

「あ、提督!今日もオリョクルで資材拾って来たでち。」

 このでちでち言ってんのが伊58、通称ゴーヤ。割りと何でもズケズケ言ってくる気の強さが特徴だ。

「これでまたアイツ等を一網打尽なのね!」

 そのゴーヤの隣でなのなの言ってるのが伊19、通称イク。悪戯好きで俺も手を焼いているが、出撃すると持ち前の強運で空母や戦艦を一撃で仕留めたりする。

「そ、それよりもはやくお風呂入りたい……」

 歯をカチカチ鳴らしてガタガタ震えているのが伊168、通称イムヤ。スマホいじったりとか以外とメカに強い。

「ろ、ろーちゃんも~……」

 イムヤの隣で同じようにブルブル震えているのが呂500、通称ろーちゃん。元々はドイツ海軍初の量産型潜水艦娘U-511だったのだが、妖精さんが二回改装したら完全にゴーヤ達の影響で(毒されて?)、最初の物静かでおどおどしてた純白お肌のユーちゃんはどこへやら、明るく元気で活発、こんがりと日焼けしたろーちゃんへと変貌を遂げた。この変わり様を見た向こう(ドイツ)の総統が、

『どんな魔改造しやがった畜生めええぇぇぇぇぇっ‼』

 と叫んだとか叫ばないとか。

「アハハ…、でも早くお風呂にドボーンってしたいよねぇ。」

 そう言いながらタオルで身体を拭いているのが伊401、通称しおい。他の潜水艦娘よりも頭1つ分身長が高いせいか、若干お姉さんぽく見える。いつも風呂に飛び込む為、注意しているのだが一向に治らない。

「………………。」

 一団の後ろの方で物静かに本を読んでるのが伊8、通称はっちゃん。普段から自ら積極的に話す事を好まない性格なのか、あまり言葉を交わした記憶がない。しかしながら、艦だった頃に単独でドイツと日本の間を往復した経験からか、隠密行動の上手さはピカイチ。虎視眈々と獲物を狙うスナイパーだ。

「みんな、お疲れ様。暖かい物を用意してあるから、遠慮なく食べていってね!」

 大鯨がそう言うと、潜水艦達全員がわーっと駆け寄っていく。流石は潜水母艦、ゴーヤ達の信頼は厚い。



「梅干し、おかか、昆布にタラコ。」

「ツナマヨや明太子、筋子なんかもあるのね!」

「こっちの豚汁も美味しいよ~?」

 ワイワイガヤガヤと食卓を囲む潜水艦達。彼女らの頑張り無くしては、この鎮守府は立ち行かなくなってしまう。

 鎮守府の運営には、予算とは別に艦娘達の修理や補給、装備の開発や建造等に使用する重油や弾薬類、鋼材にボーキサイトといった資源が必要不可欠だ。資源を得る方法は3通り。

1)大本営からの任務報酬や定期的な補給

2)遠征による資源獲得

3)出撃時に出来る資源回収

1の大本営からの任務報酬や定期的な補給は、数量が決まっている為に何度も獲得は出来ない。2の遠征も艦隊の編成数には限りがあるため、効率良く遠征させる計画を建てなければ厳しい。それを補うのが3の出撃時の資源回収だ。

 出撃する海域によっては資源を回収出来るポイントが存在する。鉱山や精錬所、補給基地等様々だが、特に有名なのは往復した東部オリョール海だろう。南西諸島海域にあるオリョール海は、北方や西方、南方といった激戦地への物資の中継地となっているのか、深海棲艦の補給艦の艦隊が多く、それを撃沈してシーレーンを潰す作戦が定期的に行われている。撃沈された艦艇は潮流の関係か、海域内に数ヶ所確認されている潮溜まりに流れ着く。その残骸から重油や弾薬を引き抜き、回収するのだ。特に、潜水艦はその駆逐艦以上の燃費の良さから向いているとされ、潜水艦のみで編成された艦隊でオリョール海を周回し続け、資源を回収するオリョールクルージング……通称オリョクルが提督達の中でも騒がれている。特にウチみたいな大所帯になると遠征や任務報酬だけじゃあ足りず、オリョール海やバシー島沖、カレー洋など様々な資源を回収出来る海域では潜水艦達に世話になりっぱなしだ。その証拠に、ウチの鎮守府に所属する艦娘は250居るが、その1/5……50隻は潜水艦娘だ。



「今年も一年、お疲れさんでした。」

「全く、人使いの荒い提督で困るでち。」

 ハフハフ言いながらせんべい汁にがっつくゴーヤ。まぁ、確かに潜水艦達に無理を強いていたのは認めざるを得ない。

「だ~か~ら、こうやってねぎらってんだろ。ホレ、これもサービスだ。」

 俺が出したのは『昆布のごまかつお和え』と『出し殻かつおのだし巻き風』。どちらも出汁を取った後の出し殻を捨てる事無くリメイクした物だ。

《昆布のごまかつお和え》

出汁を取った後の昆布:5cm四方

黒すりごま:大さじ1/2

花かつお(小分けパック):1/2パック

醤油:小さじ1/2~1

みりん:小さじ1

コーレーグース:適量

作り方は簡単。昆布を細切りで刻んだら、全部の材料を混ぜるだけ。超簡単。

《出し殻かつおのだし巻き風》

出し殻かつお:10g

卵:2個

白だし:小さじ1

全ての材料を混ぜ、熱したフライパンに流し込んだらスクランブルエッグを作る要領で中心に寄せるように混ぜる。ある程度固まったらフライパンの端に寄せて形を整え、ひっくり返して両面に焼き色を付ける。蓋をして火を止め、2分程放置して余熱で火を通したら完成。



「この昆布ピリ辛で美味しいのね~。」

「だし巻きもジューシーで最高ですって!」

 うんうん、中々好評。

「お!美味そうなモン食ってるじゃん‼」

「あらあら、ゴーヤちゃん達だけはずるいわよ?」

「ウチらにも振る舞ってぇな提督~。」

 あ~らら、匂いに釣られて寄ってきちゃったか。まぁいいか、

「ホレ、お前らも並べ並べ~。喧嘩せんでも食わせてやっから。」

 結局、潜水艦達だけでなく、沢山の艦娘達が舌鼓を打った。こういう団欒こそ、ウチのチームワークの良さを産んでるんだろうな。こんな年の瀬も悪くはないさ。 

 

秋祭り~The after story~

 あの騒々しかった秋祭りから2週間経ったある夜、俺は店に二人の艦娘を呼び出した。理由は単純、「事情聴取」の為だ。勿論、公的な物じゃない。あくまでも個人的、私的な知識欲……好奇心を満たす為の物だ。

「提督、来たぞ。」

「おぅ、入れ入れ。」

 簡単な言葉のやり取りの後に、扉が開かれる。そこから入ってきた二人は、まるで母娘のような身長差だった。

 一人は褐色の肌に銀髪。制服に収まりきらない胸をサラシで巻いて抑え、前をはだけている。昔本人に聞いたのだが、「ボタンを止めようとしたらボタンが弾け飛んだ」らしく、以来止めていないらしい。銀縁の角眼鏡の下の眼差しは、まるで猛禽類のような鋭さだ。黒い革のグローブに納められた拳も、その佇まいで威力を物語る。ただ、その右手は今は首に添えられて、脛椎の辺りをゴキゴキと鳴らしていた。

「やれやれ、エラい目に遭った。お陰で身体中がバキバキに固まってしまった。」

 不満げにそう漏らす彼女は武蔵。大和型の二番艦であり、ウチの店の常連だ。

 もう一人の方は白い肌に武蔵と比べると華奢な体つき。しかし、その自慢の速力を産み出す脚はスプリンターのようにしなやかだ。しかしながら、その服装は露出狂なのでは?と疑いたくなりそうな物だ。紅白のニーハイに尻が丸出しになる程短いスカート、その下に履いているのはZ旗がモチーフだという紐のようなパンツ。肩口までしか袖がないセーラー服に、白い長手袋、極めつけに何故か黒いウサ耳のカチューシャ。艦娘でなければお巡りさんに補導待ったなしな格好と言えるだろう。

「うぅ~…、アタシ臭くないよねぇ?10日振りのお風呂だったから、自分が臭くないかどうかもわかんないよぉ。」

 そう涙目で話すのは島風。島風型駆逐艦の一番艦で、悪戯好き。いつも鎮守府内を駆け回り、その頭のウサ耳のせいか元気一杯に跳ね回っている。

「アホゥ、そりゃ自業自得だろうが。…ホレ、さっさと座れ。」

 俺はそう言って、二人に着席を促した。



「ホレ、まずはおつとめご苦労さん。」

 そう言って二人の前にグラスを置き、ビールを注いでやる。

「フン、放り込んだ本人に労われても嬉しくないぞ?」

「そーだそーだ~。」

 ゴン。瞬間的に二人の頭部に拳骨をいれてしまった。二人共頭を抑えて痛そうにしているが、こっちの手も尋常じゃない位痛い。特に武蔵、お前の頭蓋骨は超合金か。

「ったく、営倉に10日間じゃ足りなかったか?本来ならお前ら解体処分でもおかしくなかったんだぞ?」

 お~痛て、と両手を振りながら俺がそう言うと、二人はぶすっとして口を閉じた。そう、この二人は先日軍規違反をやらかし、つい数時間前まで営倉に入れられていた。拘束付きで。そして解放された後で風呂に入れ、ここに呼び出したのだ。罪状は『無断での出撃及び戦闘用艤装の無断持ち出しと使用』。私的な理由から艤装を持ち出し、戦闘行為を行ったという罪状だ。艦娘は軍属の人型兵器、その艤装を無断で私的に使う事は軍艦を私用に使うのと同義。どうにか監査のついでに取り調べに来た染嶋達は上手い事とりなしたが、下手を打つと二人共解体処分になってしまっていた。

「なぁ武蔵よぉ、俺も俺なりに調べあげてんだ。あの時何でお前が勝手に出撃してたのか。」

 あの時とは、美保から来たというあの一団を見送ったあの朝だ。あの時、既に武蔵と島風は鎮守府を抜け出して二式大艇の飛行ルートへと先回りして待機していた。そうでなければ武蔵の速力であの一行が戦闘を繰り広げた海域には間に合わない計算だ。つまり、武蔵はあの時敵艦隊の襲来を予見し、待ち伏せしていたのだ。

「あの時お前は二式大艇が襲われると考えて飛行ルートを予測。それを護る為に待ち伏せして敵艦隊を攻撃した。違うか?」

「ふっ!……くっくっくっ、あっはっはっはっは‼」

 突然武蔵が大爆笑。何だよ、コッチは真面目な話をしてるんだぞ?

「いや、いやいやいや。存外提督も頭が堅いのだと思ってな。」

 くっくっ、とまだ笑いが収まらない武蔵は、否定の意を示すように右手を左右に振ってみせる。



「私が無断で出掛けた理由だと?それはな提督、あの提督を私は気に入ってたんだ。一目惚れ、といっても良いかも知れんな。」

「……は?」

 あまりの答えに言葉を失った。武蔵があの美保の提督に一目惚れだと?

「それでな。照れ臭いのと仕事上で、彼には強く当たってしまった。だから一人で静かに見送りたくてな。こっそりと抜け出そうとしたら島風に見つかってしまったのだ。なぁ島風、そうだったよな?」

「おっ、おぅ?……そ、そうだよ提督っ、武蔵さんにアタシは勝手に付いてったの!」

 いや、絶対嘘だよなコレ。でもまぁいいや、結果的に美保の一行は助かったみたいだし。コイツらが反省しとるかは解らんが、まぁ営倉にいる間は大人しくしとったから、それでチャラって事にしといてやろう。

「はぁ。まぁ、そういう事にしといてやろう。今日は謹慎明けだからな、お前らがまだ味わえてないだろう秋の味覚を喰わせてやるよ。」

 はぁ、俺もまだまだ甘いねぇ。 

 

秋刀魚だと思った?ねぇねぇ、秋刀魚だと思った?

「これは……キノコか。」

 そう、二人の目の前にカゴごと置いたのは山盛りのキノコ。今の時期しか食べられない、旬の味だ。

「てっきり秋刀魚が出てくると思ったのにぃ~。」

 そう言って島風は不満げだ。確かに、漢字を見ても秋と言えば秋刀魚、ってイメージは強いよな。だが、その辺は国際情勢やら何やらで難しいのだ、特に今年は。

「あ~、実はな。お前らが営倉入りしてる間に、農水省と大本営から辞令が来てな。」

 そう言って二人の前に1枚の紙を見せた。内容は簡単に言えば、『日本近海の秋刀魚漁が不漁だから、艦娘使って秋刀魚獲ってこい』って辞令。無茶苦茶だとは思うが、上からの命令だから仕方ない。

「主にアルフォンシーノの辺りでな、秋津洲使って秋刀魚獲ってるんだ。」

 やり方は簡単、水中探信儀使って秋刀魚の群れを見つけ、秋津洲の搭載してる二式大艇ちゃんに網を括り付けて引き上げる、という方法だ。まぁ、そのままの二式大艇の出力だと離水も難しいから、妖精さんに多少弄ってもらってはいるが。

「ほぅ、二式大艇にそんな使い方がな。」

 武蔵は興味深そうに目を細めた。

「そんな理由でな、獲った秋刀魚は本土に送ってるから秋刀魚は無いんだ、悪いな。」

「しょうがないさ、無い袖は振れなくて当たり前だ。」

「うぅ~…、そのかわり、美味しいキノコ料理急いでねっ!」

 まぁ、秋刀魚の不漁は天候だけじゃなく、中〇や〇湾の台頭がある。近年、北海道沖の公海上でかなりの数の秋刀魚漁船が操業してるらしい。普通の船だから深海棲艦に瞬殺されそうな物だが、どうやら艦娘の劣化コピーのようなのが護衛に就いているらしく、本土の方はスパイ探しに躍起になっているらしい。ま、そんな面倒くさい政の諸々はお偉いさん方に任せとけばいいのさ、椅子に座ったケツに根が生えたように動かない連中を、たまには動かさせてやらにゃ。



 さて、と。取り敢えず二人はまだビールを飲んでいるようだし、簡単なツマミを一つ。

「……ってか、島風お前呑めるんだな。」

「あ!提督今子供扱いしたな~。失礼しちゃう‼」

 島風は頬を膨らませてむくれている。なんだろうな、たま~に艦娘の仕草があざとく見えたりするのは俺だけか。まぁ今はそれは置いといて、調理をしよう。まずは大根、といっても、大根おろしにするだけなんだが。そこに加えるのは俺の手製のなめ茸。案外なめ茸って簡単に作れるんだよな。

《案外簡単、手作りなめ茸》

・えのき:200g

・醤油:大さじ3

・みりん:大さじ3

・酒:大さじ3

・砂糖:小さじ2

・米酢:小さじ2

 えのきは根元を切り落としたら、使用する部分を2cm幅位に切り揃える。鍋に米酢以外の材料を入れて煮立たせる。沸騰してきたら弱火にして、5分程コトコト煮る。えのきってのは不思議なモンで、加熱すると独特のぬめりが出てくる。そのぬめりを活かしてとろみを付けたのがなめ茸ってワケだ。最後に酢を入れたら完成だ。一味足りないと思ったら、花かつおかほんだしを加えると良いかもな。大根おろしになめ茸を和えたら完成だ。

「はい、『おろしなめ茸』。まぁチビチビつまんでてくれや。」

 しかしなめ茸は常備菜にしておくと意外と便利だ。他の食材と混ぜるだけで、一品料理が出来てしまうからな。なめ茸とイカ刺しとか、豆腐となめ茸を混ぜてナゲットとか。万能ネギとなめ茸を混ぜてやると、冷奴の良い薬味になる。後は卵焼きに入れても美味いよな。あとはパスタに使ったり、アーモンドフィッシュと混ぜてご飯と混ぜ混んで焼おにぎり。ツナとなめ茸で炊き込みご飯なんてのも手軽だけど美味いぞ。



 さて、次は定番天ぷらといこう。今日は3種類、椎茸、舞茸、後は意外な一品、エリンギ。やったこと無い人が多いらしいが、エリンギは天ぷらにするとあのシャキシャキとした独特の食感と強い旨味がクセになる。厚めに繊維に沿ってスライスするのがオススメかな。

「ふむ。エリンギの天ぷらとは始めてみるな。」

「結構美味いんだがな、あんまりやってる人を見たこと無いな。」

 ジュワワワワ、と良い音を立てて揚がっていくキノコを返しながら会話を交わす。カウンターの良いところってのは、客との触れ合いがしやすい所だよな、やっぱり。

 あ、そうだ。読者諸兄にお尋ねしたい。スーパー等からパック包装されたキノコ類を買ってきた場合、どのように調理しているだろうか?調理の直前に袋から出して調理している方が殆どだと思うが、一手間加えると更に美味しくなる。それは「調理の2時間前位から袋から出して、外気に触れさせる」事。

 キノコの半分以上は水分だ。外気に触れさせて少し余分な水分を抜いてやる事で味が凝縮されるし、香りも立ってくる。この一手間で味は変わるから試してみて貰いたい。

「さぁ揚がったぞ、『旬の茸の天ぷら三点盛り』だ。」

「味付けは何が良いかな?提督。」

「うーん、好きな方で良いと思うが、椎茸と舞茸はてんつゆ、エリンギは塩がオススメかな。」

サクッ、ザクッという小気味良い音に混じって、繊維質を噛みきったシャキシャキという音が混ざり合う。独特の香りと旨味、そして食感。これがキノコの醍醐味だよな。

「ん~っ、サクサクで美味しい~。」

「うむ、エリンギは初体験だが美味いな。」

 さて、次は何を作ろうか。 

 

ちょっとお洒落に


 あぁ、そういえば中々珍しいキノコが混ざっていたっけな。それでちょっとお洒落に一品作ろうか。

「ん?提督よ、それはマッシュルームか?」

「そうだ。このキノコは山形の知り合いが送ってくれたんだがな、そいつの家は代々キノコの栽培をやってるんだ。」

「なるほど、それで最近作るようになった物を送って貰ったのか。」

「中々生のマッシュルームなんて貴重だろ?だから、その香りを活かして『アヒージョ』でも作ろうかと思ってな。」

「アヒージョってなぁに?提督。」

 ビールを飲み干し、今度はジントニックをチビチビやっている島風が聞いてくる。アヒージョとは、スペイン語で「ニンニク風味」を表す言葉であり、首都のマドリード以南の地方でよく食べられる料理だ。南ヨーロッパでは良く見られるオリーブオイル煮、といえば伝わりやすいだろうか。有名なのはエビのアヒージョだが、キノコやエスカルゴ、チキンに牡蠣、砂肝等々そのバリエーションは多い。

「ふ~ん、良くわかんないや。美味しいの?」

「うーん、ご飯のお供にはアレだが、パンやお酒にはこの上なくマッチする料理だぞ。」

「んじゃ、お願いしまーす。超特急でね‼」

 さて、急かされてるから急ぎましょうか。とは言っても準備は簡単、マッシュルームを食べやすい一口サイズにカットしてニンニクはスライス、辛味付けの鷹の爪は種を取り除いたら準備完了。

 次に、小さめのセラミックの鍋にオリーブオイルとニンニク、鷹の爪、塩を入れる。本式の作り方だとカスエラと呼ばれる耐熱の陶器で調理してそのまま客に提供されるのだが、独り暮らしで面倒くさいならば、鍋焼きうどんなんかに使う小さい一人用の土鍋なんかでも良いかも知れない。後ポイントとしては、ニンニクを焦がさないように点火する前にオリーブオイルに予め入れておいた方が良いだろう。

 油が温まってニンニクの香りが立って色付いて来たら、マッシュルームを投入。揚げる訳ではないから、油温が上がり過ぎると失敗するぞ。そのまま油でグツグツと煮てやって、素材に火が通ったら完成だ。もしもエビ等のシーフードで作る場合には、仕上げにシェリー酒で臭み消しと香り付けを同時にやるのを忘れずにな。キノコ等の素材その物の香りを楽しむ場合には使わない事。

「さぁ完成、『マッシュルームのアヒージョ』だ。熱いから気を付けろよ?」

 島風が急いでフォークにマッシュルームを突き刺し、一思いに口に放り込んだ。瞬間、

「あひ、あひ、あひひひ……」

 と悶絶。なんともその熱がり方がアヒージョにぴったりで、武蔵と共に吹き出してしまった。

「どれ、無くなる前に私も一口……」

 武蔵はフォークに突き刺さず、なんと素手でつまみ上げて口に。いや、熱くねぇのかお前。

「フム、これはビールではないな。提督、赤ワインを貰おう。」

 指に付いたオリーブオイルを嘗めとりながら、武蔵が注文してきた。しかしまぁ、良く飲むねぇ武蔵は。

「当たり前だ、営倉にいる間一滴も飲めなかったからな。今日はその分飲まなくてはな!」

 フハハハハ、と高笑いする武蔵。ながもんに続いてお前もこれからたけぞうって呼んでやろうか。……いや、ダメだ。たけぞうだと二〇一流とか編み出しそうだからダメだ。

「まぁいいけどよぉ。明日からまた通常業務に戻ってもらうからな?差し支えの無いようにしろよな。」

 ちなみにだが、ニンニクとオリーブオイルの組み合わせは、他の国でも見られる。特に、イタリアのアーリオ・オーリオなんかは有名だな。パスタのアーリオ・オーリオは、別名ペペロンチーノ……まぁ、こっちの方が有名だな。



「ねぇねぇ、武蔵さん知ってる?」

 アヒージョを肴に赤ワインを楽しんでいた武蔵に、ジントニックを飲み干して、今度はチチをストローで啜っていた島風が思い出したように話しかける。

「ん?どうした島風。」

「最近ねぇ、あきつ丸さんのお酒の好みが変わった、って。」

 それを聞いた武蔵は、かなり驚いていた。

「何だと?それは本当か。」

「うん、最近鳳翔さんのお店に行くと、ワインとチーズばっかり頼むんだって。」

「あれだけ『日本男児たるもの、日本酒以外有り得ないであります!』と豪語していたあきつ丸がなぁ。」

 クックッと喉を鳴らし、笑いながら武蔵もグラスを傾け、中身のワインを喉に流し込む。俺も思わず吹き出しそうになったが、ここで吹いたらあきつ丸が余りに不憫だったので何とか堪えた。そもそも、あきつ丸も艦『娘』なのだから、日本男児ではないのだが。しかし、話を聞くだけで情景が目に浮かぶわ。

「まぁ、いい事じゃないか。陸軍からの派遣組も、そうやってウチの鎮守府……というか海軍の空気に慣れてきたって事だろ?」

「いや提督よ、それは慣れてきたのではなく『毒された』というのでは無いのか?」

「ブフッ!」

 すまん、あきつ丸。我慢しきれなかった。 

 

冬といえばコレだよね。

 御用納めも終わり、短いながらも我が鎮守府は年末年始の特別シフトに移行した。普段ならば大将という立場上の責任もあり、より多くの戦果を稼ごうと忙しなく出撃を繰り返すのだが、年末年始シフトは大本営から提示された任務……つまりは必要最低限の任務だけをこなし、それ以外の艦娘はゆっくりと羽を伸ばす。交替で数日間の休暇を取り、ある者は本土への旅行を計画したり、またある者は恋人や夫の待つ家でのんびりと過ごしたり、鎮守府の自室に篭って惰眠を貪ったり趣味に没頭する、なんて奴もいる。そのせいか、シフトで勤務に割り当たっている艦娘以外の姿を見かけない。お陰様で、普段は騒がしいくらいの鎮守府が静かすぎて少し居心地が悪く感じる位だ。しかしまぁ、のんびりしやすくて良いことはあるんだが。

 さて、俺はと言えば年末シフトに備えて執務室を大きく模様替えし、のんべんだらりと書類をこなしていた。

「Admiral?入るわよ?」

 おっと、今日の秘書艦様のご到着か。しかし、『コレ』を使っていると立って歩くのが億劫になってしまう。

「お~、開いてるから入ってこ~い。」

 ガチャリ、と音を立てて執務室のドアが開く。入ってきたのは長身の金髪美女。ドイツからの派遣組の戦艦・ビスマルクだ。つい先日、3度目の改装を終えてビスマルクdreiになったばかりだ。黒というよりグレーに近かった制服は烏の濡羽
とでも表現すればいいだろうか、日本人の黒髪のように艶のある黒を貴重とした物にグレードアップされ、より精悍さを増した服装となった。装備面でも魚雷発射管が追加され、魚雷も撃てて戦艦並みの火力もある頼り甲斐のある能力を手にいれていた。しかしそんな彼女は今、入り口で立ち尽くして口をパクパクさせている。

「あ、Admiral……!?貴方一体何して…」

「何って、仕事だろ?」

「だから、そうじゃなくて……!!」

「どんだけくつろいでるのよ貴方はああああぁぁぁぁ!」




 あ、そうか。ビス子がツッコミ入れたかったのは執務室の様変わりようにか。まぁなぁ、フローリングは前面畳張り、部屋の真ん中に炬燵、酒棚はそのままだが、その隣には大画面テレビ、俺の背後にはシステムキッチンと、一瞬見たら独り暮らしの男の部屋っぽいものな。

「安心しろ、ビス子。仕事はちゃんとこなしてるから。」

 俺の姿も大分ラフだ。制服は着ているが、上には綿貫を羽織って口にはくわえ煙草、傍らには熱燗の徳利が置いてある。普段ならば間違いなく職務怠慢でクビだろうな。

「だから、ビス子って呼ばないでって……!」

 舵を象ったブーツを履いたまま畳に上がろうとするビス子。

「土足厳禁。基本だろ?畳の上では靴を脱げ。」

「あ、ご免なさい。」

 この時ビス子、意外に素直。

「それよりAdmiral、貴方なんて危険な物を使ってるの!」

「あん?何がだよ。」

「こっ、コレはコタ・ツーでしょ!?プリンツから聞いたわ、コタ・ツーは人を堕落させる悪魔の道具だって……!!」

 おいおい、誰だよそんな間違った情報を植え付けたのは。

「あのなぁビス子。確かに炬燵は人を堕落させる事もある、それは事実だ。だがな、それは本人の気の緩み……つまりは慢心が生み出す物だ。」

 ヘェックシ!と空母寮の方から大きなくしゃみが聞こえた気がしたが、気にせず話を進める。

「それとも何か?ビス子は気が緩んでるダメ戦艦だとでも?」

 あ、ビス子の顔が赤くなってきた。煽りが相当効いてるな。

「じょ、上等じゃない!このビスマルクがどれだけ強い鋼の精神力を持っているか、見せてあげるわ!」

 やっぱ乗ってきた。ビス子はこの身体のサイズに見合わず負けず嫌いで幼い性格のせいで、駆逐艦の暁に瓜二つだと言われている。陰で「デカい暁」とか、逆に暁の方が「チビマルク」なんて呼ばれてたりする。だからこそ、こんな安い挑発にも乗ってしまう。こういう解りやすい性格の奴って、やっぱりからかい甲斐があるんだよなぁ。



「ホラホラ、いつまでも突っ立ってないで、こっち来いよ。」

 俺が手招きすると、ビス子がおずおずと警戒するように近寄ってきた。どんだけ炬燵を警戒してんだよ。

「し、失礼するわ……。」

 炬燵掛け布団を捲って足を入れた瞬間、驚いたようにビス子が声を上げた。

「あ、暖かいわ!」

「そりゃあねぇ、だって炬燵だもの。」

 暖房器具だ、暖かくて当たり前だろう。一年中常夏に近いブルネイでも、その気候に慣れてしまえばやはり冬場は寒く感じる物だ。そうなるとやはり、真っ先に炬燵が浮かぶ。

「ままま、まずは一献。」

 俺がビス子にお猪口を渡し、ぬるくなりかけの徳利から酒を注いでやる。

「ちょ、ちょっと実務中にお酒は……」

「いーのいーの、この時期にしか味わえない甘露だ。味わっとけって。」

 年末シフトに限っての話だが、特別に待機中の艦娘にも飲酒を許可している(限度はあるが)。やはり体内から身体を温める効果は高いし、なんと言っても普段出来ない悪い事をしている感じが、なんともまぁ甘露な味にしてくれる。

「ぷはっ、やっぱり温めて飲むなら日本のサケが一番ね。」

「だよなぁ。ビールとかワインにも温めて飲む方法はあるが、やっぱり日本酒の熱燗には敵わねぇものなぁ。」

 今日は地元岩手の辛口純米酒「七福神」に燗を漬けて飲んでいる。通常の純米酒に比べて味わいが強く、日本酒が苦手な人だと少し飲みにくいと感じるかも知れない。だが、その強い味わいは燗を漬けても損なわれる事なく、寧ろ温まる事で蕾が開くように香りが柔らかく立ってくる。個人的には冷やよりも熱燗で飲みたい1本だ。

「さてと、足元は炬燵で上半身は熱燗で温まって来たろ?さっさと仕事するぞ~。」

「えぇ、わかったわ。」

 そう、短く言葉を交わすと俺達は普段に比べて格段に少ない書類を片付けるべく、互いに無言になった。 

 

食は国の顔

『金田アアァァァッ‼』

『さんをつけろよデコスケ野郎っ‼』

 えー、今現在の状況を説明しますと、今日の分の書類仕事は全部終了。今はビス子と二人、ボケーっと炬燵の天板の上に顎をのせて二人でテレビ(というか俺の私物のDVD)を眺めています。

「いやー、やっぱこの時代のアニメはすげぇわ。技術が極まってるもんな。」

「そうねー、日本の有名な物って昔はスシとかテンプラとかだったけど今はマンガやアニメの方が有名よね。」

 炬燵の上に置かれた徳利からお猪口にぬるくなってしまった酒を注ぎながらビス子が言う。確かにジャパニメーションの世界的な広がり方は驚異的だからな、日本を知らなくてもアニメは知ってるなんて世代もこれから出てきそうな勢いだ。

「それにしても、これだけの映像をパソコンで作るのにどれだけかかるのかしら。少なくとも半年はかかるわよね。」

「はぁ?何言ってんだビス子。これはセル画だぞ?」

 呆れたぜ。まさかセル画とCGを勘違いしてたとは。俺は新しい煙草に火を点け、軽く紫煙を吐き出した。

「えっ?」

「だぁから、このアニメはセル画。つまりはアニメーターと呼ばれる人達の手描きだ。」

「えぇ!?日本のアニメって全部コンピューターで作ってるんじゃないの!?」

「最近の主流は確かにCGだ。けどな、俺がガキの頃、まだ20世紀の終わり頃はCGなんてとてもじゃないがアニメを作れるほどの代物じゃなかった。だからこそ、アニメはセル画全盛。」

「し、信じられないわ……。こんな複雑な動きや光の加減なんかが全て手描きだなんて、とんでもないカルチャーショックよ……」

 まぁ、この作品が作られた頃のアニメーターは一航戦もビックリの化け物揃いだからな、驚くのも無理はないか。と、アニメに夢中になっていたビス子の腹がグウゥ……と鳴る。途端に顔が真っ赤になるビス子。咄嗟の出来事で恥ずかしかったか、可愛い奴め。

「しょ、しょうがないでしょ!?もうお昼だもの!」

 顔を真っ赤にして反発してくるビス子。確かに時計を見ると12時を少し回っている。どうやら、アニメ鑑賞に夢中になりすぎてたらしい。さて、何か作るとするか。折角だし、ビス子の分と二人分でガッツリ系のメニュー……。

「あら?提督ったらランチをおごってくれるの?」

「あぁ。何か食べたい物はあるか?」

 ドイツ料理の方が良いか?なんて事を考えていると、

「あ、出来たら和食がいいわ。」

 なんとまぁ、ビス子からまさかの和食リクエスト。

「何でまた和食なんだ?俺一応ドイツ料理も作れるぞ?」

「私はね、料理はその国の文化だと思うの。寒い国なら温かい料理が美味しいし、海に囲まれた国ならシーフードが絶品だわ。だからこそ、その国の料理を味わって、『あぁ、私は今この国にいるんだ』って実感したいじゃない。」

 なるほど、海外から来た艦娘ならではの発想だよな、これは。

「解った、急いで作るからお前はDVD見てな。」




 さて、今日は豪勢に昼から肉と行こうか。用意したのは豚のロース肉。薄切りを大量に用意しても良いんだが、今日はブロックから切り出して厚めにカット。そこに小麦粉・卵・パン粉をまぶして準備完了。一旦これは置いといて、別の準備だ。用意するのは大根、ゴボウ、人参、長ネギ、三つ葉。

 大根は皮を剥いて大根下ろしに、ゴボウと人参はささがき、長ネギは斜め切りにして、三つ葉は食べやすいように2cm幅位に切る。

 さぁ、メインを調理しましょう。衣を付けたロース肉を180℃の油に入れる。ジュワアアァ……と良い音が聞こえる。

「Admiral、別のアニメも見て良いかしら?」

「おー、好きなのセットして見るといいや。」

 カツを返しながらビス子の問いに応える。こんがりと狐色になったら油から上げて、余分な油を切っておく。

 そしたら今度は別の準備だ。親子鍋を2つ火にかけて、中に出汁と醤油や砂糖を合わせた割下を入れて、片方にはネギを入れる。ほとんどのところは玉ねぎが主流だろうが、俺個人としては長ネギの方が好きだね、割下との相性もいいから。もう片方には大根下ろしを水気を切ってから入れて温めてやる。

 しかしこの独特の形をした親子鍋、元は親子丼を作ることに特化して作られた鍋だって話だから、日本人の食への拘りはやはり半端ではない。

 割下が煮たって来たらカツを食べやすい大きさにカットして鍋に投入。衣が割下を吸いすぎない程度の所で、長ネギの入った方は卵で閉じる。と同時に三つ葉を散らして蓋を閉める。

 大根下ろしの方はそのまま皿に盛り付ければ完成だ。これは俺の分、カツ煮はカツ煮だが、「みぞれカツ煮」だ。ビス子の方は丼に飯を盛り、親子鍋をスライドさせるように中身を飯の上に載せる。もうバレバレだよな、「カツ丼」の完成だ。後は付け合わせに2種類のきんぴらを添えて。



「お待たせ~、カツ丼だ。」

「あら、私カツ丼は初めて食べるわ。」

 あらま、意外にも人生初のカツ丼ですか。リアクションが楽しみだな。

「これは……カツレツ?でも、随分と分厚いような。」

「それは日本で生まれた豚カツって料理だ。カツレツが入って来て、それを日本人がアレンジしたんだ。」

「へぇ、厚いカツレツなんて、食べ応え充分ね!」

 ビス子、大きな口でカツ丼を口一杯に頬張る。よく咀嚼して、ゴクリ。

「奇跡の料理よ、これは。」

 感動したように目が輝くビス子。

「豚カツはジューシーだし、衣がスープを吸ってフワフワだし、ショーユとお砂糖の甘辛い味付けも絶妙!」

 カツ丼は外国人によく好まれるレシピだって聞くからな、安直な理由でチョイスしたんだが大当りだったらしいな。どれ、俺もみぞれカツ煮を一口。うん、カツが程よく割下を吸って、サクサクとフワフワのW食感の上に大根下ろしが絡まってさっぱりさせてくれる。やっぱ酒の肴にするならこっちだよなぁ。 

 

紫煙の記憶

「ところでAdmiral、こっちの炒め物はなぁに?」

 カツ丼をモシャモシャと頬張りながら、箸できんぴらをつつくビス子。行儀悪いぞ、ったく……。

「それはきんぴらだ。その右側のがゴボウと人参のきんぴら、左のが大根のきんぴらだ。」

「ふ~ん、キン・ピラーって言うの……。」

 何だよそのウルトラ怪獣にいそうな名前は。ビス子は小鉢を持ち上げ、きんぴらごぼうの香りをスンスンと嗅ぐ。

「あら、香ばしくて良い香り。」

「きんぴらはごま油を使うのがメジャーだしな。そこに焦がし醤油の香りも合わさって、堪らない香りになる。出来立てのきんぴらってのは香りまで美味いんだ。」

「ふ~ん、じゃあ一口……。んっ、結構しょっぱいわねコレ。」

 まぁな、我が家のきんぴらの作り方なんで、地域性もあるのかも知れんが、ウチのきんぴらはしょっぱ目の味付けだ。

「けどな、そのしょっぱさが飯にも酒にも合うんだよ。」

 俺もきんぴらを一口。…うん、この塩っ辛さ、懐かしいねぇ。そこに冷や酒をキューっと流し込む。

「かぁ~っ、美味い。」

 熱燗も美味いが、やっぱり冷やの方が俺は好きだね。因みに銘柄は「陸奥八仙」。俺の地元の近く、八戸の酒蔵が出している地酒だ。コイツはその純米大吟醸華想い50、その名の通りに味も香りもまるで華のような鮮やかさだ。オススメは15℃~16℃位の涼冷え。冷やしすぎると折角の香りが立たなくなるからな。

「しかし、Admiralってホントにお酒強いのね。」

「そうかぁ?普通だろこれ位。」

 熱燗で朝から5合、今の冷やを飲み干せば7合か。まだほろ酔いにもならねぇ量だ。青葉が以前『自覚が無いって、恐ろしいですね……』と青冷めてたが、一体何の事だ?



 腹も程よく満たされて、酒も身体が温まる程度には入ってきた。そうなってくると、今度は別の刺激が欲しくなる。

「なぁビス子、煙草吸って良いか?」

「えぇ、構わないわ。でも意外、Admiralも煙草吸うのね。」

「まぁ、ほとんど吸わないんだがたま~にな。無性に吸いたくなる時がある。」

 こうした気を緩められる時位か、煙草に火を点けたくなるのは。普段は吸いたいなんて滅多に思わんのだが、ふと吸いたいと思うと我慢できなくなる。

 了承も得たので遠慮なく、一本くわえて火を点ける。一息吸って、そのニコチンとタールを肺に満たしてやる。そして鼻から紫煙を吐き出してやる瞬間、煙草に混ぜられていたフレーバーが鼻腔をくすぐる。元々は海外の銘柄の煙草で、バニラやカカオ、チェリーといった甘い香りが付けてある。今日はチェリーをチョイス。部屋の中にもチェリーの甘酸っぱい香りが拡がっていく。

「Admiral、私にも一本貰えないかしら?」

「え?お前も吸うの?」

「えぇ、たまに昔の仲間を懐かしんでね。」

 あぁなるほど。それで突然、煙草なんて……。

 第二次世界大戦中、当時イギリス海軍の誇りであり最大・最強を誇った戦艦があった。その名は『フッド』。それをプリンツ・オイゲンと共に沈めたのが当時ドイツ海軍の最新鋭戦艦だったビスマルクだった。当然の如くイギリス海軍は激怒。ビスマルク一隻を沈めるために戦艦8隻を基幹とした大艦隊を差し向け、追撃戦を展開した。その最中、遠目で英海軍の戦艦に偽装しようとハリボテの煙突を作り、その煙突を本物らしく見せる為に艦長が乗組員に煙草を吸わせたらしい。結局そのハリボテの煙突は使われる事は無かったらしいが、艦長の機知に富んだアイディアによって乗組員の士気は高まったという。戦艦ビスマルク・その壮絶な最期を遂げる2日前の事だったというーーー……。

「ホレ。」

 ビスマルクに一本差し出し、くわえさせてライターで火を点けてやった。その紫煙を燻らせた目の端に、光る物が見えたのは気のせいではなかったハズだ。

「泣いてんのか?お前。」

「う……うるさいわねっ!煙が目に滲みただけよ……。」

 強がっちゃって、可愛いなぁ全く。そういえば、ビス子が美味いと食っていた大根のきんぴら、皮のきんぴらだったんだが黙っとくか。



 ハイ、再び二人でアニメの鑑賞中ですよ~っ、と。

『ハイスクールのランチ、2回奢ったぞぉ!』

『俺は13回奢らされた!』

『いちいち数えてんじゃ……ねぇよっ!』

「ねぇ提督、この二人って仲悪いの?」

「いんや、すんげぇ仲の良い幼なじみだぞ。」

「なのにこんな殺し合いしてるの?男の友情って理解に苦しむわ……。」

 まぁ、この感覚は男同士の方が理解しやすいだろうな。とその時、執務室のドアがコンコン、とノックされる。

『提督?大和です。オヤツをお持ちしました。』

 時間を見るとグッドタイミング、午後3時だった。

「おー!入ってこい、一緒に食おうや!」

「失礼します、今日は駆逐艦の皆さんと作った手作りのバニラアイスですよ。」

 大和は有名な料理上手だ。特にアイスは間宮の物に勝るとも劣らない逸品だ。ハロウィーンのイベントの時も駆逐艦達に配っていたっけな。

「良いねぇ、けど今日は少しアレンジを加えるか。」

 大和は座って待ってな、と炬燵に入らせる。俺はキッチンに立つと、鍋を火にかけて、シェリー酒やブランデー、フルーツのリキュール等を暖める。沸騰はさせない。70~80℃位の温度で留めておく。そしてドライフルーツやナッツ類を小皿に盛り付け、二人の前に持っていく。

「さぁ、アイスに好きなトッピングをして、好きな酒をかけてやれば『提督流アフォガード』の完成だ。」

 アフォガードは日本だとエスプレッソをかけた物が一般的だが、本来は紅茶やリキュールなんかをかけた物も存在する。そこにレーズンやドライフルーツ、ナッツ類を好みで散らすとまた美味いんだ、これが。

「ん~っ、大人の味って感じですね。」

「そうね、この味わいはお子様にはわからないでしょうね。」

 俺も一口。俺はレーズンにクルミ、それにシェリー酒をチョイスした。程よく溶けたバニラアイスとシェリー酒が混じりあった物が口に入ると、バニラエッセンスとシェリー酒の香りが口一杯に拡がっていく。そこにクルミのガリゴリという食感とレーズンの仄かな風味が混じり合うんだよ。マズい訳がない。

「いやぁ、贅沢なオヤツだなコレは。ありがとう大和、美味かったよ。」

「いえ、そんな……。あ、ありがとうございます。」

 あらま、顔真っ赤にしちゃって。酔っ払ったか? 

 

鱈は棄てるところないよね。


 まずは身と白子を使って鍋を一品。昆布出汁をベースに、酒と醤油で鍋の汁を作る。そこにいれるのは豆腐に人参、長ネギ、大根、春菊、白菜、ささがきゴボウや昆布巻き等々、鍋物に使う野菜をお好みで。肉は入れない。

 野菜を入れて火にかけ、ある程度火が通ったらそこに鱈の身と白子を入れる。身と白子にも火が通ったら完成だ。

「お待たせ、『鱈のたず鍋』だ。熱いから気を付けて食べろよ?」

 炬燵の上にガスコンロを置き、鍋をその上に乗せて点火。グツグツと煮立つその絵はやはり、冬の風物詩って感じだよな。ビス子も小さなお玉を使い、出してやった小鉢によそってパクリ。

「ん!鱈の身がホロホロとほぐれて汁とよく合うわ。けれど、この脳ミソみたいなプルプルしたのは何かしら。」

 なるほど、ヨーロッパのほうじゃ白子なんかほとんど食わねぇだろうからな。

「それがたず鍋の『たず』さ。鱈の白子……つまりは精巣だ。」

「えぇ!?これ精巣なの!?」

 気持ち悪い物でもみるかのように、小鉢から鍋に戻そうとするビス子。

「何すんだ勿体無い!それに行儀悪いぞ。」

「だっ、だって精巣だなんて、食べる所じゃないでしょう!?」

 なんて事を言うんだ全く。鱈の白子は冬から春先にかけての最高の珍味だろうが。

「あのなぁビス子。鱈の白子ってのは通称タラキクとも呼ばれてな、小間の時期しか食べられない最高の珍味なんだぞ?大体、ドイツだと豚の臓物なんかしょっちゅう食べてたろ?」

 鱈の白子はその形状から、食用菊の形に似ているからとタラキクとも呼ばれる。産卵期を迎えた真鱈でしか食べられない贅沢品だ。

「騙されたと思って喰ってみな。きっと、びっくりすると思うぜ?」

「そ、そんなに言うなら……。」

 恐る恐る、口の中に白子を放り込むビス子。瞬間、驚きを隠せないと言った感じで目がカッと開かれる。

「何これ、すっごいクリーミー!それに生臭さも全然感じないわ!」

 意外と多いんだよなぁ、鱈の白子の食わず嫌い。『生臭そう』とか『見た目がキモい』とか、そんな理由で。

「美味いだろ?俺はもう一品作っちゃうから、俺の分も残しとけよ。」

 俺はそう言って、残してあった鱈の内蔵や頭、アラの調理に入った。



 まずはやかんに湯を沸かし、鱈のアラと頭に湯をかける。こうする事によって余計な滑りや臭み、細かい鱗や汚れなんかを剥がれやすくしてやる。次にボウルに水を溜め、今しがた湯をかけたアラと頭をボウルに入れ、滑りが取れるまで洗い落とす。

 滑りが取れたら鍋に水をはり、酒と昆布、それに残してあった鱈の一切をぶちこむ。グツグツと煮込みながらアクを丁寧に取り除きながら煮る。鱈に火が通ったら火を弱め、味噌を溶く。この料理は味噌か塩がメジャーだが、俺は味噌仕立ての方が好みなんで味噌仕立てにした。味見をして、味を調整したら完成。

「おいビス子。『鱈のじゃっぱ汁』も出来たけど食うか?」

「うーん……今のところお鍋で満足してるからいいわ。」

 そうかそうか。ちなみにじゃっぱとは、標準語で言うところの「雑把(ざっぱ)」で、身以外の普通は棄てるところという意味だ。これじゃあTO●IOが来てもやれないがな。個人的には、真鱈は一に白子で二に肝と、身よりも内臓系の方が美味いと思っている。是非とも捨てずに食べていただきたい。

 結局、ビス子は一人で鍋の殆どを平らげ、酒もしこたま飲んでそのまま炬燵の魔力でKO。部屋までおぶっていく事になってしまった。部屋に辿り着いたら重巡の寮に居るはずのプリンツが居て、「ビス子を頼む」と渡したら何故かハァハァ言っていた。まぁ、疲れたから深くは考えないでおこう。 

 

冬はこっちかな。


 ビス子とのアニメ鑑賞、3作品目に突入。

「タチコマ可愛いわねぇ~……。」

「だよなぁ。こういうの、ウチの鎮守府にも一機位欲しいよなぁ。」

「明石と夕張に頼めば作れそうじゃない?」

 あいつらに頼んだらタチコマというより多脚戦車が出来上がってしまいそうだ。んな事したら陸軍が怒鳴り込んで来そうだから止めておこう。

「あ~…、そろそろ晩飯の時間か。何食おうかなぁ。」

 昼飯は肉だったからなぁ、魚がいいが生憎と在庫を切らしていた。さてどうした物か、と思案しているとドアをノックする音が。

「提督?大淀です。お荷物が届いておりますが。」

 荷物?何か頼んでいただろうか。

「へいへい、今開けますよ~っ、と。」

入り口で受け取ったそれは、段ボールではなく発泡スチロールの直方体の箱。持った感覚はズシリと来るな。中々重いものが入っているようだ。

「Admiral、荷物は何だったの?」

「待て待て、まずは送り主を確認しねぇと。」

 送り主は……と。お、地元で漁師やってる同級生からか。時期を考えるとお歳暮のつもりか?中身はなんじゃろな~っ、と。

「おぉ!見事な鱈じゃねぇか‼」

 入っていたのは丸々と肥えて脂の乗っていそうな真鱈。こいつぁ良い。今晩のメニューは決まりだな。

「よっしゃ、今日はこの鱈を使って地元の味を振る舞うとしようか。」



 まずはこの鱈を捌かねぇとな。俺は出刃包丁を取り出すと、まな板の上に新聞紙を敷き、シンク周りが汚れ難くした。最初にやるべきは鱗取り。一般的には包丁の背を使って取るのだが鱈の皮は分厚く、ちょっとやそっとじゃ傷が付かない。俺は面倒な時は金たわしでゴシゴシと擦り落としている。鱗を落としたら次は頭を落としてやる。喉元とエラの付け根に刃を入れて切り離し、身を起こして頭の上から包丁を入れ、頭を胴から切り離す。

 いよいよ、腹に刃を入れていく。鱈の内臓は殆どを食べることが出来る。だからこそ内臓は傷付けないよう、浅く刃を入れていく。腹に刃を入れ終わったら内蔵を取り出す。この時気を付けなければならないのは黒っぽく見える胆嚢。胆嚢は潰さないように切り取っていく。中骨にくっついている浮き袋をとり、内蔵を包んでいる黒い薄皮を手で剥がしてやる。腹の中骨にへばりついた汚れと血合いも包丁を使ってかき出して綺麗にしてやったら、腹周りの処理は大体終わりだ。

 腹周りの処理が終わったら開いた部分を更に尾びれの方まで切り開いていく。腹側を開いたら身を半回転させ、背骨側から包丁を入れていく。なぞるように少しずつ刃を入れて背骨に刃が当たる所まで入れる。この時、尾びれは落とさずに最後まで残しておく。半身を切り出せたら裏返し、同様に背中側から包丁を入れて身を切り出す。三枚に卸せたら最後に腹骨を削ぎ落として身の方の下処理は完了。お次は内蔵だ。

 内臓は一揃え全て一緒に取り出している為、食べられる部位と食べられない部位を切り離す必要がある。まずは生殖器から。今回の鱈は雄だったので白子を取り外す。次に肝臓、胃の順番で取り除いていく。もちろん、肝臓と胃袋も食べられる。但し、胃袋は開いて汚れを取り除く必要があるけどな。残りの内臓は食べられない為、全て捨てる。後は頭の解体だ。

 頭をまな板の上に立てて置き、口を開いて包丁を突き刺すように切り開く。骨は結構固いから、多少力が必要だぞ。半分に割れたらエラを切り離して捨て、内側と外側を流水でよく洗い、食べやすい大きさに切り分ける。これで完成だ。

「ふふっ、やっぱりAdmiralの料理の手際は大したものね。」

「そうか?実感はないんだが。」

「お嫁さんになる人が可哀想に思えてくるわね。私だったら自信喪失して立ち直れないもの。」

「まぁ確かに、俺の結婚相手に求める条件は、『俺より飯が美味い』か『それ以上の魅力がある事』だからな。」

 一瞬黙り込むビス子。

「Admiral、貴方生涯独身かもしれないわね。先にお悔やみ申し上げておくわ。」

 なんだと?失礼な。 

 

ハロウィーンと次女の憂鬱。


 我が鎮守府の運営方針は『艦娘による自治と運営』。余程変な提案でなければ許可を出すし、基本的な鎮守府内の組織は艦娘達に運営を一任している。その為か年間を通してイベント事も他の鎮守府に比べて多いらしい。何年か前にもイベントの取材として、内地の青葉がクルー(と言っても、衣笠に古鷹、加古だったが)を引き連れて取材に来た事があった。

 春は花見、夏は海水浴や縁日、花火大会。秋はチーム対抗の運動会や紅葉狩り、冬はクリスマスに忘年会、餅つき大会や新年会等々。鎮守府を挙げてのイベント以外にも、艦娘達個人が個性を活かして非番の時などに小規模なイベントをやったりしている。

 武蔵が主催の「九州艦娘の会」や、扶桑・山城主催の「不幸お茶の会」。長良がリーダーとなってやっているランニング同好会、なんてのもあったか。扶桑と山城の茶会には入会の為の条件があるらしいが、名前で既に解るので聞くのは止めておいた。そんなこんなでお祭り騒ぎが好きなウチの鎮守府だが、数年前から新たに加わったイベントがある。



「はぁ……。」

 その日ウチの店にやって来た客も、そのイベントが気がかりらしく、いつものボトルキープしているウイスキーの進みが悪い。

「どうした?溜め息なんか吐いて。ただでさえ低い運が逃げちまうぞ?」

「……ちょっと、一言余計よ。私だって、不運に生まれたくて生まれたワケじゃないんだからね?」

 むぅ、と頬を膨らませて此方をジト目で睨んできているのは陸奥。長門の妹に当たり、その火力とお姉さんキャラで鎮守府内でも頼られるポジションにいる艦娘だ。だが、扶桑・山城に並ぶ程に運が悪い。本人はさほど気にしていない所が山城達との雰囲気の大きな差だろう、と俺は考えている。

「悪い悪い。で、どうした?何か悩み事か。」

「ホラ、もうすぐハロウィーンでしょ?お菓子何を作ろうかと思って。」

 成る程な、言われてみればもうそんな時期か。そう、何年か前からウチの鎮守府は金剛が言い出しっぺでハロウィーンのお祝い事をやっている。と言っても欧米のような本格的な物じゃなく、もっと日本的な、誰でも楽しめそうなコスプレイベント的なノリの奴だが。

「発起人の金剛さんたちはスコーンとかクッキー焼くって言ってたし、大和はアイスだって。」

「和菓子は?」

「全滅。お団子は鳳翔さんが作るらしいし、間宮さんはお饅頭、伊良湖ちゃんが最中でしょ、扶桑と山城がおはぎで、利根と筑摩がお煎餅やるって。」

 なんだその完璧な布陣。入り込む隙間ねぇじゃん。

「長門姉さんに相談しても、『例年通りラムネでよかろう!』の一点張りだし。」

 再びはぁ……と溜め息を吐く陸奥。実際問題、長門のラムネは近年売れ行き、というか部屋に訪問に来て貰っていく駆逐艦が減少しているらしい。

「姉さんは…ホラ、あれでしょ?だから内心、来てくれる駆逐艦の娘達が減ってるの気にしてると想うのよ。」

 まぁ、有り得なくはない、というか長門の事だから気にしてないハズはない。大和や金剛の所に流れていく駆逐艦の娘達を見て、悔し涙を流しているかも知れん。

「だからね、今年は何か目新しいお菓子を準備しようと思うんだけど。生憎、私もお菓子作りは経験無いのよねぇ……。」

 なんとまぁ、あのポンコツな姉思いの良い妹じゃあないか。よし、ならばここは俺の出番だろう。

「なぁ陸奥。もし良かったら俺が教えてやろうか?お菓子作り。」

 瞬間、突っ伏していた陸奥がガバッと起き上がる。

「提督、お菓子作れるの!?」

「まぁな。ウイスキーやブランデーには、甘いお菓子が合ったりするだろ?その関係もあってな。」

 まぁ、それだけじゃなく趣味で覚えた部分もあるんだが。

「ハロウィーンで配るのに適してそうなお菓子、教えてやるよ。」

 翌日の午後、執務室に来るように伝えてその日は解散という事になった。 

 

甘い幸せ。

「提督、何してるの?」

 お菓子作りを教えると言った翌日、陸奥がやって来て放った第一声だ。それもそのはず、執務室はいつものカウンターバーではなく、部屋の中央に作業台を備えた部屋になっており、さながら料理教室のようになっていた。

「秋祭りあっただろ?あの時料理を教えろって押し掛けられてな。いつものカウンターじゃ教えきれないから急拵えだが妖精さんに作ってもらったのよ。」

 言うなれば執務室ver.4と言った所か。

「まぁいいわ。それで、今日は何を作るのかしら先生?」

「おいおい、何だよその先生ってのは。」

 陸奥が悪戯っぽく笑いながら、

「だって、お料理のしかた、教えてくれるんでしょ?だから、セ・ン・セ・イ♪」

 なんて前屈みで顔の間近で言われた日には、大概の男はコロッといってしまうだろう。

「へいへい、まぁ呼び方は好きにしろよ。」

 俺は平気だけど。陸奥は何だかつまらなそうにしながら、頬を膨らませている。



「それで?本当に何を作るのかしら?」

「今日陸奥に作り方を教えるのは……キャラメルだ。」

「キャラメル?キャラメルって、あの茶色くて甘~い?」

「そうだ、それも昔北海道の一大ブランドになった花〇牧場の生キャラメルと同じレシピだ。」

 読者諸兄は知っている方も多いだろう、あの一大ブームを起こした〇畑牧場の生キャラメル、何を隠そう製造元がレシピを公開している。恐らくは素材で勝負しているという自信の表れなのだろうが、消費者としては有り難く使わせてもらっている。

《作ってみよう!あの生キャラメル》

●材料

・牛乳:600ml

・生クリーム(動物性):300ml

・ハチミツ:50g

・グラニュー糖:200g

・バニラビーンズ:1/2本

「それで?この材料をどうするの?」

「それを……全部これに入れるんだ。」

 俺が取り出したのは大きな銅鍋。無ければ、熱伝導の高い鍋でもOKだ。

「これを火にかけて焦げないようにかき混ぜて行くんだが……湯気で熱くなるからヘラを持つ手に鍋掴みや手袋を用意したほうがいいぞ。」

「提督、私艦娘よ?熱いの位へっちゃらよ。」

「あ、それもそうか。なら、そのまま点火してくれ。」

 さぁて、キャラメル作りはここからが大変なんだ。



 最初は強火で加熱し、鍋の中身が泡だらけになるまでゆっくりとかき混ぜながら加熱していく。

「鍋の縁に付いたのも落とすんだぞ?焦がしたら苦味やえぐみが出るからな?」

 次第にかき混ぜて行くと吹き零れそうな位に沸騰してくる。それでもなおかき混ぜるのを止めずにかき混ぜる。どうしても無理、ってなった時は一旦火は弱火にしても良い。だが、吹き零れそうな状態が収まったら再び強火にする。それを繰り返していくと、次第に液の色が白➡クリーム色➡茶色へと徐々に変化していく。

「提督、これをどのくらい続けるの?」

「ん~とな、30~40分は混ぜ続けろ。」

「え?」

「だから、焦がさないように手を止めずに30~40分混ぜ続けろ。」

 明らかに陸奥の目からハイライトが消えた。間違いない。それでも手を休める事はしない。嗚呼、美しきかな姉妹愛。それじゃあ俺も、自分用のハロウィーンの菓子を作らせてもらおうか。

 俺が準備したのは様々なジュースにゼラチン、レモン汁にグラニュー糖、そしてポイントとなる食材X。今から作る物をバラしてしまうと、グミだ。それも、HARIBOやコーラアップのような弾力があって噛み応えのある、所謂ハードタイプのグミだ。普通の果汁グミ位の固さのグミならば、ゼラチンの量を増やしてやれば意外と簡単に作れる。しかし、ゼラチンオンリーだとあのハードタイプグミの弾力が出ない。そこで加える食材Xというのが……水飴だ。

 ではここに、簡単なレシピを書き出して行こうと思う。

・ジュース:200ml

・ゼラチン:10g

・レモン汁:少々

・水飴:大さじ1~2

・グラニュー糖:適量(市販のジュースには要らんが、100%ジュース等には足した方がいい)

 陸奥がガスを使っているから、こちらは文明の利器を使うとしようか。耐熱ボウルにジュースとレモン汁、ゼラチンを入れて1分くらいチンする。ゼラチンが溶けていなければ、追加で30秒ほどチン。

 ゼラチンが溶けていたら、水飴を追加して更に30秒ほどチン。水飴とゼラチンが溶けて混じりあっていたらOKだ。このあと型に流し込むんだが、ここで少し注意点がある。型は変型しても良いシリコン製がオススメだ。そうしないと、型にグミがへばりついて取れなくなる。シリコン以外の型を使うときは、型に流し込む前に型にサラダ油を塗っておくといいぞ。

 型に流し込んだら後は冷蔵庫に入れて冷やすだけだ。

「て、提督……出来たわよ。」

 おぉ、ナイスタイミング。こっちも今終わったトコだ。どれどれ……うんうん、いい色と香り。このままパンに付けたりポップコーンに絡めたりでも美味いんだが、やはり今回はオーソドックスに行こう。バットに流し込んで表面を均し、こちらも冷蔵庫に入れて冷やす。固まったら取り出して、適当なサイズに切れば完成だ。さてと、これでハロウィーンの準備はOKだな。




 そしてハロウィーン当日。

「トリックオアトリート!」

 鎮守府内に駆逐艦達の元気な声が響き渡る。

「へいへい、ハッピーハロウィーンと。」

 執務室に押し掛けて来やがった駆逐艦達の持ってるカゴに、バラバラとグミを入れてやる。

「わぁい、ありがとうです!」

「司令官さまぁ、巻雲にも下さい!」

 魔女の格好をした巻雲に、ゾンビの格好をした高波か。中々よく出来ている。しかし、何で巻雲の袖はまた長いんだよ。

「夕雲姉さんに作ってもらったらこうなりました!」

あっ……(察し)。まぁ、気にせずやろう。

「そういや、長門と陸奥の部屋は行ったか?」

「ふぇ?まだですけど?」

「今年は陸奥が手作りキャラメル作ってたぞ?」

「キャラメル!?」

 途端に表情が変わる巻雲と高波。何を隠そう、夕雲型は皆キャラメルに目がないのだ。

「行くよ高波!キャラメルはいただきで~すっ!」

「あ、待って欲しいかも……ですっ!」

 騒々しい奴等め。と、また誰か来たらしい。扉がノックされている。

「ハイハイ、どちらさ……ん?」

 下を見ると、そこにはハイヒールと黒タイツしか見えない。駆逐艦じゃねぇ。じゃあ一体誰だ?視線を上に向けると、そこには……

「ヘイテートクぅ、トリックオアトリックでーす!」

 そこには小悪魔コスプレをした金剛が。露出が大胆すぎて目のやり場に困るんだが。てか、今とんでもない事言ってたよこの嫁艦筆頭。

「おい待て、トリックオアトリックじゃ、選択肢1つじゃ……‼」

「フッフッフ、この時を待っていたネー……。」

 ガチャリと、金剛が扉の内鍵を閉める。

「ここでキセイジジツをmakeすれば、私がテートクのwife確定ですネー。」

 ジュルリと、深紅のリップを塗った唇を嘗める金剛。その目はまさに、獲物を狙う野獣の目。流石に女に逆レ〇プは勘弁だ。俺は咄嗟に、『DANGER』と書かれたボタンを拳で叩いた。その瞬間、

「wasshoi‼」

 との掛け声と共に、窓ガラスを叩き割って赤黒いニンジャ装束を纏った人影が飛び込んできた!

「アイエエエエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

 途端に金剛=サンは失神!泡を吹いて床に倒れてしまった。

「あーあ、つまんないの。折角気合い入れて仮装したのに。」

 そのメンポを外すと、現れたのは川内。ウチの鎮守府の警備の一切を取り仕切っている艦娘だ。今日はハロウィーンだからと、気合いを入れてニンジャスレイヤーのコスプレだったらしい。

「大丈夫?提督。怪我はない?」

「あぁ大丈夫だ、悪かったな。」

「いいよいいよ、仕事だもん。」

 じゃあね、と言って川内は割れた窓から再び出ていった。ふぅ、と俺は一息吐き出すと、金剛の身体に毛布を掛けてやる。

「ったく、襲わないで普通に来いっての。そうすりゃ俺だって……。」

 俺はそれ以上、言葉を繋ぐのを止めた。もしかしたら金剛が起きてるかも知れんしな。こんな独白、聞かれたら切腹物だ。 

 

ズボラのグルメ・1


「何?飯の作り方を教えろって?なんでまた。」

 その艦娘に相談を受けたのは、丁度その艦娘が遠征帰りの報告に来た時だった。俺はその相談を受けて驚いた物だ。普段の生活態度や任務への臨みかたを見る限り、ついぞ料理をするタイプには見えなかったからだ。

「あ~、それなんだけどさぁ。」

 その艦娘は面倒くさそうに頭をガシガシと掻くと、

「もうすぐ菊月の奴の誕生日なんだよね~。んでさ、姉貴達と協力してパーティやろうって話になってさぁ。アタシも何か作らないといけなくなったワケ。」

 なるほど、普段から面倒がって自分から動くことをしたがらない彼女だが、やはり姉妹の事となると話は別、というワケか。しかし、料理を習うならもっと適任な奴がいるだろうに。

「なら、間宮とか鳳翔さんに習ったらいいだろうに。」

「いやぁ、あの二人に教わると本格的な料理になっちゃって面倒くさそうじゃん?だから、手抜きをしても見た目が豪華そうな料理が作れそうじゃん?提督って。」

 おいおい、お前は俺を何だと思ってんだよ、ったく……。
まぁ、姉妹の誕生日を祝いたい、というその気持ちは汲んでやりたい。

「わかった、わかったよ。…明日、仕事終わって晩飯の後にココに来い。」

「あいよ~。ありがとね、提督。」

「ホレ、解ったらとっとと補給行ってこいよ……望月。」

「へいへい、んじゃ明日よろしくね~。」

 睦月型駆逐艦の11番艦・望月。そのユル~い雰囲気と気だるそうな喋り方が癒される、と提督達の間でも話題になる艦娘だ。



 さて、その翌日。執務を終えた執務室も今日は飲兵衛厳禁。危険要素だった長門は演習の相手を頼まれていた新人提督の鎮守府に送り出してやったので、問題は無いだろう、たぶん。準備を整え、望月を待っていると

「司令官~、来たぞ~。」

 と、相変わらずの気だるそうな望月の声が。

「おっしゃ。準備は出来てっから、入ってこい。」

「し、失礼しま~す。」

 俺の目に映ったのは、駆逐艦の小さい頭が1つ、2つ、3つ。……あれ?増えてね?

「おい待て、望月がいるのは判る。だがなぁ、なんで長月と文月もエプロンと三角巾をしてんだよ。」

「いや~、それがさぁ。」

めんどくせ~、という表情が見てとれる望月の口が重い。ならば代わりに、とでも言いたげに長月が堰を切ったように喋りだした。

「しょ、しょうがないだろう!?私と文月も料理はそんなに得意ではないのだ。普段から如月姉さんや三日月に任せっきりだったし、間宮さんや鳳翔さんの所で用が足りるんだ。そもそも、元は軍艦の私達艦娘が料理の腕なんか必要ないだろう、そう思っていたんだ……けど…、」

 長月がそこで言葉に詰まり、俯いてしまった。小刻みに震え、その目からは光る物が零れ落ちているようだ。それを見てあたふたしながら、文月も続く。

「だっ、だからね?私達もちゃんと誰かに教わってお料理だけじゃなく、もっと色んな事が出来るようになりたいの。だからね、司令官……」

「「「私達3人に、お料理教えて下さいっ!」」」

 そう言って3人が頭を垂れる。あ~クソ、小っちゃかろうが大きかろうが、女の涙ってのは見るに忍びねぇ。

「わかった、解ったから。3人にちゃんと教えるからよ。だから、泣くなよ?長月。」

「うぅ……うん。」

 はぁ。取り敢えず、青葉に撮られてないかだけが心配だわ。もし撮られてたら『スクープ!駆逐艦を泣かせる鬼畜提督を見た‼』とかなんとか見出しを付けられて鎮守府中にばら蒔かれて長門か憲兵さんに〆られるわ。 

 

ズボラのグルメ・2

 まずは和風と洋風、2種類のお手軽だけど見た目が豪華そうなサラダを作ろうか。

「よし、じゃあまずは和風の方を文月に作って貰おうかな。」

「よ、よ~し。頑張るよ~!」

 和風のサラダのポイントは『香り』だ。和食は彩りや味、盛り付けの美しさだけでなく、香りも楽しむ料理だからな。名付けて、《やってんじゃないの風サラダ(和風)》!

《やってんじゃないの風サラダ(和風)》※分量2人前

・茹でタコ:150~200g

・クレソン:1/2束

・セロリ:1本

・みょうが:2個

・青じそ:5枚

・生姜1片分

・白髪ねぎ:10cm分

・白いりごま、ごま油、ぽん酢:適量

「まずはタコだな。水気を切って、食べやすい大きさにぶつ切りだ。」

「は~い。」

 文月はそう返事をすると、おぼつかない手付きでタコを切り始める。ホントに普段から包丁を握っていない事が見て窺える。意外と俺が知らないだけで、料理が出来ない艦娘は多いのか?等と考えていると、

「し、司令官っ。私達の手伝うことはないのかっ!?」

「えー、長月ぃ、声が掛かるまで放っとこうぜぇ、めんどいし。」

「う、うるさいっ!私はお前と違ってちゃんと料理を覚えたいんだ!少しでも手伝いたいんだ!」

 ぎゃあぎゃあと喧嘩を始める長月と望月。しかしまぁ、駆逐艦の姉妹艦喧嘩ってのはかくも微笑ましい物か(あ、ロリコン的な意味じゃなくて父親的な視点だからな)。

「あ~、わかったわかった。んじゃ長月にはクレソンを切って貰おうかな。」

 クレソンは根元を落としたら3cmの長さにカット。

「しかし、このクレソンとやらは何なんだ?普通の野菜のようには見えないが……。」

「そりゃそうだ、クレソンてのは水草だからな。」

「み、水草!?水草を食べるのか!?」

 まぁ、クレソン初めてなら驚くよなぁ。クレソン、和名はオランダガラシやミズガラシなんて呼び方もするんだが、基本的に湿地や水場に生える植物だ。その独特の香りやワサビと同じ辛味成分が特徴で、茹でてごま和えや、天ぷら、漬物、味噌汁の具、鍋なんかにも美味い。また、ルッコラやホウレン草のように香味野菜としてサラダや肉料理の付け合わせとしても重宝する。

「けっこう美味いんだぞ?まぁ、楽しみにしてろ。」

 そう言いながら、俺は長月が切り落としたクレソンの根を、豆腐のパックに水を張って浸けてやる。

「何してるのぉ~?司令官。」

「これか?クレソン育ててまた食おうと思ってな。」

 クレソンの特徴には、その繁殖力の強さも挙げられる。下水道や側溝なんかの汚水でも育つってんだから、その力は御墨付き。なんせ、クレソンが日本で初めて野生化したのは洋食屋が輸入したクレソンの切れっ端が汚水と共に池に流れ着いたってのが最初らしいからな。この位なら余裕で育つ。ただし、水はこまめに替えないと衛生上宜しくないがな。

「さてと、調理に戻るぞ。次はセロリだ。ピーラーで皮を剥いて、5cm位の長さに切り揃えてから、縦に薄切りにするぞ。」

青じそ、みょうが、生姜は千切りにするのだが、これは難しいだろうから俺がやろう。後は白髪ねぎだな。

「長月、白髪ねぎを作ってくれ。こいつでな。」

 俺が長月に手渡したのは長葱と剣山。こいつで長葱の表面を撫でていくと、簡単に白髪ねぎが作れるんだ。

「おぉ……、こいつは凄いな。簡単だ。」

 野菜の準備が出来たら全てボウルに入れ、ぽん酢を回しかけてザックリ混ぜる。あ、ボウルは耐熱性の物を使ってくれ。

「そしたら仕上げだ。フライパンでごま油を熱して、湯気が立って来たらボウルの中に回しかける!」

 瞬間、ジュワッと音を立てて香味野菜に火が通り、更に香りが立ってくる。ん~、いい香りだぜ。最後に白いりごまをふって混ぜたら完成だ。

「はい完成、『やってんじゃないの風サラダ』だ。……な?ちょっと料理が出来そうな人が作ったように見えるだろ?」

「た、確かに……。」

「お料理初めての私達が作ったとは思えないね~。」

 さて。お次は洋風か。



《やってんじゃないの風サラダ(洋風)》※分量は4人分

・水菜:1束

・マッシュルーム:6個

・ベーコン:3枚

・にんにく:1片

・レモン汁1/2個分

・オリーブ油:大さじ1

・パルメザンチーズ(ブロック)、塩、こしょう:適量 

「まずは材料を切っていくぞ。ベーコンは1cm幅で切って、にんにくは芽を取って横に薄切りにする。」

 水菜は食べやすくちぎって、マッシュルームは薄切りにしてボウルに入れる。

「お次はベーコンだ。油を敷かずにベーコンをフライパンに並べて焼いていく。」

 ベーコンの脂だけでカリッと焼けるからな、火加減は弱めの中火で焦がさないようにカリカリベーコンを作る。ベーコンが出来たら脂は捨てず、ベーコンだけ取り出す。

「ベーコン取り出したら次はにんにくだ。オリーブ油を足して、薄切りにしたにんにくを揚焼きにする。」

 きつね色になった所で、にんにくを取り出す。油は捨てずに冷ましておく。

「切った野菜にレモン汁と塩2つまみ、さっきのフライパンの油をかけて混ぜる。」

「こ、これだけでも美味しそぉ~。」

 文月が目をキラキラさせている。やっぱ美味いものを食べる直前、ってのはテンション上がるよなぁ。

更に、カリカリベーコン、揚げ焼きにんにくを散らし、ここで味見。塩・こしょうで味を整える。

「仕上げにパルメザンチーズをピーラーで削って散らせば……」

「おぉ、お洒落だぞこれは……‼」

 パルメザンチーズの塊がない場合は、見た目を気にしなければ粉チーズでも同じ味に出来る。

「出来た。《やってんじゃないの風サラダ(洋風)》だ。」

味としては、シーザーサラダに近いだろうか。簡易に作れるシーザーサラダと思って食べればそれっぽい味に感じるだろう。

 さてと、次は望月に教えるパーティ向きの料理だ。 

 

手間のかからないパーティ料理

 さぁて、今回のメインイベント。望月に教えるのはパーティ料理だが、簡単に出来る物だ。と、思ったのだが……。

「ね、寝てる……。」

 待ち時間が長かったのか、それとも何もすることがなくて暇だったのか、望月は丸まってスゥスゥと寝息を立てていた。その姿を見てイラッとしたらしい長月が、思いっきり息を吸い込む。

「望月ぃっ‼起きないかっ!」

「んぁ~、何ぃ?朝ぁ?」

 相変わらずのユルさだなぁ望月は。まぁ、このマイペースな所が望月の良さでもあるのだが。

「ホラ起きろ、今度はお前が料理をする番だぞ?望月。」

 だりぃ~、ねみぃ~と言いつつもちゃんと起き上がる望月。

「で、何作るのさぁ。」

「今回望月に作ってもらうのは……『チーズフォンデュ』だ。」

「え~、チーズフォンデュってめんどくさいって如月姉さんが言ってたよ~?」

 文月が横から口を挟んできたが、確かにチーズフォンデュは手間がかかる料理だ。焦がさないようにチーズを管理したり、チーズソースを作るのもなかなかに手間だ。だが、最近流行りの作り方があるのだ。その作り方は普通に作る事に比べれば遥かに楽で、しかもパーティ料理向き。

「まぁまぁ、俺が教えるチーズフォンデュにはコレを使うんだ。」

 そう言って俺が取り出したのは、ホットプレートとココットと呼ばれる陶器製の耐熱容器だ。

「名付けて……《ココットカマンのチーズフォンデュプレート》だ!」



《ココットカマンのチーズフォンデュプレート》

・明治十勝カマンベールチーズ:1個

・とろけるミックスチーズ:200g

・豆乳:150cc

・すりおろしにんにく:少々

・コンソメ:1/2または小さじ1弱

・白ワイン(もしくは酒):大さじ1と1/2

・お好みの具材:食べたいだけ

「まずはフォンデュソースを作るぞ。フォンデュ用の鍋でなくてもいいから、耐熱性の鍋に豆乳、白ワイン、コンソメ、おろしにんにくを入れて弱火で暖める。」

へーい、と言いつつ全ての材料を鍋に入れ、弱火にして暖める。焦がさないように注意な。

「よーし、暖まってきたらここにチーズを少しずつ加えて溶かしていくぞ。あぁ、長月と文月は食べたい具材を串に刺して準備してくれ。」

 そう聞いて嬉々として準備を始める二人。ウインナーやブロッコリー、プチトマトにアスパラベーコン等々、様々に準備しているようだ。ん?その白いのはなんだ?

「お餅だ。チーズを絡めたら美味しそうだと思ってな。」

 なるほど、確かにチーズと餅は合うだろうな。お好み焼きとかもんじゃ焼きでも餅とチーズの組み合わせは鉄板だからなぁ。

「司令官、ソースがトロトロになってきたよ~。」

 よし、ソースがクリーミーになってきたな。そうなったら火を止めて、ココットにフォンデュソースを移す。そうしたらホットプレートにココットを置いて、温度は鉄板焼位の温度まで上げてから保温に。周りに具材を並べたら完成だ。

「さぁ、試食してくれ。《ココットカマンのチーズフォンデュプレート》だ。」

 熱々のホットプレートで焼けて香ばしさが出た野菜を、トロトロのチーズに絡めてパクリ。ハフハフ言いながら噛むと、途端に顔が緩んでくる。

「ん~、美味しいぃ♪」

「うん……これはいいな!」

「餅チーズうまー。」

 うんうん、好評で何より。……ってあら?俺のジンジャーハイボールは!?

「あぁ、司令官のジュースだったのか?これは。」

 見ると、長月が俺のジョッキをもってグビグビと喉を鳴らしている。あっちゃあ、飲んじまったか。結構濃い目に作ってたんだが……

「はれ?何だか目の前が…グルグルとぉ~……うにゃあ。」

 一気に酔いが回ったか。その場でぶっ倒れたぞ長月。

「あっちゃ~…、長月弱いからなぁ。」

 やれやれ、と言った感じでジョッキの中身を嘗める望月。

「あ、確かにこれじゃあ長月KOされるわ。しかし、司令官てホントに酒強いんだね~。」

「ってか、お前飲めるのか望月!」

「当たり前でしょぉ?アタシこれでも『九州艦娘の会』のメンバーだからね?武蔵さんや霧島さんに付き合ってたら、自然と飲めるようにもなるよ。」

 ん~。確かにその二人に付き合わされれば飲めるようにもなるか。

「んな事言ったら、文月も飲めるよ?なぁ?」

「何ぃ!?」

「うん、毎日如月姉さんや睦月姉さん達に付き合ってるからね。えっへん!」

 いや、それ全然自慢にならねぇからな?お前ら見た目は幼女なんだから、街では飲むなよ?頼むから。そんな事を考えつつ、俺はチーズフォンデュを口に放り込んだ。

「熱っ!」 

 

家庭で作れる酒の味。

 
前書き
 ここの所酒の話してないやん!と気付いたので、今回はお酒の話の回です。 

 

 それは、しとしとと雨の降る梅雨時の事だ。その日は客もいないからと、仕込みに時間を費やしていた。青々とした梅の実の表面を水洗いし、ヘタを爪楊枝でほじくって取る。そう、俺は今梅酒を作ろうとしている。梅酒を始めとする果実酒は、家庭でも作りやすいが美味く作るにはそれなりに手間がかかる。果実の選別、漬け込みに使う酒のチョイス、リキュールと漬け込みの原料、そして糖分を足す為の氷砂糖かグラニュー糖の割合で味は幾らでも変わる。まぁ、俺は定番とされている比率でしか作らんがな。

 梅の実1~1.2kgに対し、漬け込み用のアルコールを1.8リットル(1升)。今回はホワイトリカーと呼ばれる果実酒用に作られた度数の高い甲類焼酎を使った。他にも、泡盛を使ったりブランデーベースリキュールと呼ばれる酒を使うと、ブランデーの風味が付いた、ホワイトリカーベースとはまた違った風味の果実酒が楽しめる。注意点としては、度数35度以上の物をベースに使うこと。熟成の間に漬け込んだ物からエキスが染みだして薄まるから、それを計算に入れて作らなくてはいけない。そこに氷砂糖を400g~600g。これら全ての材料をガラス製の広口瓶に入れる。そして熟成させる訳だ。

 先ずは青梅から。果実の選別のポイントは3つ。

1つ、新鮮であること。

2つ、キズなどの傷みが無いこと。

3つ、粒の大きさが揃っていること。

 それらを丹念にチェックして、選び抜かれた物だけを使う。次に氷砂糖。砕かずにそのまま、青梅の隙間に滑り込ませるように入れてやる。ムラを極力無くしたいのであれば、青梅→氷砂糖→青梅→氷砂糖……といった具合に互い違いの層を作るのも良いだろう。仕上げにホワイトリカーを瓶の中に注ぐ。俺は長期間熟成させる為、標準レシピよりも多くホワイトリカーを入れている。後は蓋をしてそこにいつ、何を漬け込んだか?等の情報を書いたシールを貼り、風通しの良い冷暗所に保存する。3ヶ月程で無色透明のホワイトリカーに梅のエキスが染み出して、琥珀色になったら飲み頃だ。酒造メーカー等では1年漬け込んだら梅の実は取り出す所が一般的らしいが、俺はずっと漬け込んだままで長期熟成させている。1年程度だとまだアルコールの角が立っていて、口当たりがキツいことがままある。3年以上寝かせると、角が取れてまろやかな、スルスルと飲める……シロップのような梅酒に仕上がる。1年毎に味が変化していくから、それを楽しみながらチビチビ飲むのも中々にオツなもんさ。

「あらあら、随分楽しそうですね♪」

「うぉっとぉ!?……なんだ、鳳翔さんか。」

 梅酒を仕込み終えて向き直ろうとしたその時、後ろからいきなり声をかけられて飛び上がりそうになる。そこにいたのは鳳翔。その包容力と雑務能力がお母さんのようだ、との事でオカンならぬ『お艦』と呼ばれ、鎮守府全体の母親のような役割を担っている。また、その料理の腕を活かして鎮守府の敷地内に小さな小料理屋『居酒屋 鳳翔』を構えており、艦娘達の癒しの場となっている。……らしい。らしいと曖昧なのは、鳳翔さんの店は提督は出入り禁止で、艦娘達のぶっちゃけトークの場ともなっているのだ(青葉に頼んで覗いた事はあるけども)。



「今日は店はいいのかい?いつもならまだ客が大入りの時間だろうに。」

 時計を見ると、時刻は午後10時過ぎ。いつもならば隼鷹や千歳、足柄や武蔵などの飲兵衛共が大騒ぎしている時間帯のはずだ。しかし鳳翔さんはクックッと肩を揺らして笑うと、

「もうすぐ大規模作戦の前ですから、やることがない娘達が多いのでお店を早く開けたんです。その分、早仕舞いしちゃいました。」

 成る程な、そういやもうそんな時期か。大規模作戦の前はその海域に全力を注ぐために出撃を必要最低限まで減らし、その分遠征の割合を多くして資源の備蓄をしていく。遠征任務は駆逐艦と軽巡洋艦を主とした水雷戦隊がメインだから、必然的に戦艦や空母達はすることが無くなる為に早くに飲み始める奴が多いってワケか。その頃はまだウチは執務中だから開いてない。

「それで今日は暇だったのか、どうりでなぁ。」

「だから、私も来た事が無かったのでたまには飲みに行こうかな、と思いまして……。」

 照れ臭そうに頬を染める鳳翔さん。何故だろう、声が幼く聞こえるせいなのか、とても可愛らしく見える。お母さんというよりも、まるで若い人妻のような艶っぽさを感じる。

「そうか、鳳翔さんがウチに来るのは初めてだったか。じゃあ、何を飲もうか?日本酒?それとも焼酎?」

「いえ、先程の梅酒作りを見ていたら果実酒が飲みたくなってしまいました。梅酒以外の物もあるんですか?」

「色々あるよ。梅にリンゴ、ミカンにオレンジ、イチゴ、キウイ、ブルーベリーにザクロ、パイナップル、レモン、アンズ、ユズ、カリン、スモモ、サクランボ、キンカンにコケモモに……。」

 ざっと数えたら30位か。実際はそれ以上にある。果実酒の良さは、好きなフルーツを漬け込んで自分の好きな味に作れる所だよな、やっぱり。

「沢山あるんですね。…では、梅酒のソーダ割りをいただけますか?」

「あいよ。何年物にする?」

 梅酒はほぼ毎年のように漬け込んでいる。浸かり具合やその年の梅の出来具合で味が変わる。まぁ、俺は3年以上をお奨めするがね。

「では……6年物を。」

あいよ、と返事をして梅酒の瓶を取り出す。中のホワイトリカーは琥珀色を通り越して樹液のような濃いブラウンになっている。それを氷の入ったグラスに注ぎ、炭酸水を注ぐ。割合は半々。漬け込みが浅いと少しキツく感じるだろうが、3年以上寝かせた物だとこの位でもまったく角が立たない。まるでいつもニコニコと笑っている目の前の彼女のように。

「はい、梅酒ソーダね。」

「では……乾杯いたしましょう。」

 鳳翔さんのその一言で、グラスを打ち鳴らした。 

 

女将vs大将の味比べ

「あっ、そういえば……」

梅酒ソーダをのグラスを静かに傾けていた鳳翔さん、何かを思い出したかのように両手をぽん、と合わせる。

「今日は早仕舞いだったので、お店のお料理を持ってきたんでした。」

 余り物で申し訳ないのですが、と言いながら傍らに置いてあった風呂敷包みからタッパーを幾つか取り出していく鳳翔さん。なんとも家庭的な光景だが、噂に名高い鳳翔さんの料理を食べる機会がこんな形でやって来るとは思わなかった。

 ウチの鎮守府の食堂は、地元の雇用促進の意味合いもあって現地の方々と間宮、伊良湖が協力して作ってくれている。他の所だと鳳翔さんが作っている所もあるらしいが、ウチの鳳翔さんは専ら艦載機のパイロットの養成、空母の艦娘達の指導教官、艦娘の寮の寮母、更には鎮守府内組織の主計科を取り纏める主計科長を担ってくれている。働き過ぎのような気もするが、一度その事を咎めた際に

『これは私がやりたくてやっているんです、手出しは無用ですっ!』

 と、語気を強めながら怒られてしまった。まぁ、本人が無理していない範囲でやりたい事をやっているというなら止めることはしないが、これに加えて居酒屋の経営しながら酔っ払い共の相手とは。いやはや、我が部下ながら頭が下がるぜ。

「肉じゃがにつくね、ポテトサラダに鰊の昆布巻き……どれも美味そうだな。」

 堪らなくなって肉じゃがを指でつまみ食い。

「あぁ!もう、提督ったらはしたないですよ?」

 むぅ、と頬を膨らませた鳳翔さん、破壊力抜群だ。しかし、そんな表情が目に入らない位にこの肉じゃがは美味い。ジャガイモは表面が程好く熔け出してトロリとしつつ、中はホクホクと芋の良さを感じさせる。玉ねぎは甘く、肉の旨味を引き立てる。この甘辛な味の染みた蒟蒻もいじらしい。それらが主張しすぎず、絶妙なバランスで混じり合ってこの味が出来上がっている。美味いぞコレは、それに何だかホッとする味だ。お袋の味、とでも言えば良いのだろうか懐かしさすら感じる。

「美味いなコレは。俺もこの味は出せんだろうな。」

「あらご謙遜を。提督のお料理は絶品だって、よく聞いてますよ?」

 あの酔っ払い共め、他の飲食の店で他の店の話をするかね普通。

「だから、一度食べてみたかったんですよ?提督のお料理。 」

 さて困った、別に作るのは構わんが、相手はあの鳳翔さん。下手な物を作ってお茶を濁すのもアレだ。しかし、いつものスタンスを崩すのもなぁ。

「何か、食べたい物は有るのか?」

「そうですねぇ……折角ですから果実酒を使ったお料理をお願いできますか?」

 それと、カリン酒をロックでお願いします、とグラスが返ってきた。



 それならば、普段和食が多いであろう鳳翔さんに中華の味をごちそうしようか。作るのは《中華風・豚の唐揚げ》。正確に言えば唐揚げという料理は中華には存在せず、一番近い調理法は乾炸(粉をまぶして揚げる)だそうだ。だが今回は、天ぷらやフリッターにも似た「軟炸」風にしようと思う。

《特製・軟炸里脊(豚のフリッター風)》

・豚のヒレ肉

・にんにく

・生姜

・醤油

・塩、胡椒

・卵白

・小麦粉

・片栗粉

・果実酒(何を漬け込んだ物かは、お楽しみ)


 まずは豚ヒレ肉。塊を厚めに切ったら食べやすい大きさにカット。次に下味を付けるんだが、ここで果実酒が登場。下味を付けるのに果実酒を使ってその香りを肉に移そうってワケだ。果実酒とすりおろしたらにんにくと生姜、それに塩と胡椒をまぶしてよく揉み込む。実はこれ、漫画の『MASTER キートン』の作中に出てきた豚の唐揚げを再現しようと作ったメニューなんだよな。作中では香り付けにウイスキーを使うという特徴以外の描写が無かったモンだから、後は俺の想像と勘で試行錯誤して作ったんだよな。中華風の色を強くしたいなら、ウイスキーを紹興酒にすると本格的な味になる。

 お次は衣の準備。卵白を泡立ててメレンゲ状にしたら、ここに醤油。下味に入れると折角の果実酒の香りが消えてしまうからな。更に片栗粉を加えて混ぜる。よく混ざったら小麦粉を加えてゴムベラ等でサックリと混ぜる。混ぜすぎるともたついた衣になってしまうからな。

 後は衣をたっぷり付けて揚げるだけなんだが、よくやる二度揚げは今回は無し。二度揚げると香りが飛んでしまうからな。一度でパリッと、しっかり中に火を通しながら揚げる。衣がきつね色になったら油から上げる。油を切ったら皿に盛り付け、パセリを乗せる。小皿に岩塩と黒胡椒を混ぜた物を一緒に盛り付けたら完成。

「はい、《特製・軟炸里脊》だ。……さて、使った果実酒が何か、解るかな?」

 鳳翔さんが一口パクリ。サクッという小気味良い音と共に、ヒレ肉特有の赤身肉の旨味を含んだジュースが溢れ出す。

「んっ、……程よい塩加減でとても美味しいです、流石にお酒との相性もバッチリですね。」 

 一口目の軟炸里脊をカリン酒ロックで流し込んで口の中をリセット。再びかぶり付き、今度は味わうようによく噛んで果実酒の漬け込んでいる物を探しているようだ。

「う~ん……お酒の香りはブランデー?でしょうか…。」

 おっ、流石は鳳翔さん。確かにベースリキュールはブランデー。語源は焼いたワインという意味の蒸留酒だ。その特徴は何と言っても香りにある。蒸留前の原料となる酒の材料でその香りは千差万別。果実酒のベースリキュールはその漬け込む材料の香りを活かすため控えめの香りとはなっているが、ホワイトリカー等に比べれば香りは強いだろう。

「けれど、なんでしょうか、少し舌にピリッと来る物が……。」

 お、鋭いな。確かにこれはフルーツを漬け込んだ物ではない。さぁて、わかるかな~?

「山椒かしら、唐辛子ではない痺れるような辛味ですから。」

「ご名答、流石だね鳳翔さん。」

 そう、俺が使ったのは山椒酒。普通に飲んでも面白いがカクテルや料理に使うと面白い味になる。

「ごめんくださ~い。」

 おや?誰か新しい客が来たらしい。

「あら?貴女は……」 

 

母娘のような、そんな関係。


「あぁやっぱり、ここだと思いましたよ。」

「大和ちゃんじゃない。貴女も晩酌に?」

 現れたのは我が鎮守府の秘密兵器とも言える超々弩級戦艦・大和だった。その燃費の悪さから普段の出撃部隊に加わる事は殆ど無いが、大規模作戦の際などには妹の武蔵共々、その消費量に見合った活躍をみせる、正に切り札。そんな彼女は駆逐艦や軽巡等からの信頼も厚い。艦齢としては彼女達の殆どが年上なのだが、やはりそこは連合艦隊旗艦を務めていたという実績もあってか殆ど皆が大和「さん」か、武蔵や長門のように「大和」と呼び捨てにする。……そんな中、唯一と言っていい例外がこの鳳翔さんだ。彼女だけは、大和「ちゃん」と、まるで娘のような呼び方をする。当の大和もそれを嫌がる事もせず、寧ろ鳳翔さんを「お母さん」と呼んで本当の母と娘のように仲が良い。現に今、大和は鳳翔さんに抱き付いて頬擦りしている。

「や、大和ちゃん……ちょっと痛い…。」

「あっ、ご、ごめんなさい……。」

 怒られたと思ったのか、大和は鳳翔さんを羽交い締めから解放すると、俯いてシュンとなってしまった。何だろうな、やはりウチの大和は精神的に若干幼いような気がする。



 ウチの鎮守府に大和がやって来たのは、大型艦建造が可能になった直後の事だった。その際も他の鎮守府のそれとは精神的に違いがある大和に大本営も興味を持ち、彼女を解析することによって建造システムの謎を解こうとした。人道的にダメだと言われそうなギリギリの事も少しはやったが、結果は芳しく無かった。最終的に出された結論は、『建造中、もしくは建造直後の大和の艦魂が宿った、と推察される』という、なんとも曖昧な物だった。

 太平洋戦争中、大和は大日本帝国海軍の秘密兵器として、呉の海軍工廠にて、軍艦としての最後の仕上げ、艤装の装着作業がされていた。その傍らには、その巨大な船体を少しでも隠蔽しようと鳳翔が停泊していたらしい。その際の記憶が強く反映され、まるで雛鳥の刷り込みのように鳳翔さんを母と慕うようになったのではないか、と結論付けた。勿論、真相の程は解らない。だが、こんな関係も悪くないんじゃないか?俺はそう思うのだ。



「大和ちゃん、貴女も何か注文したら?」

「そうね、折角ですから。……う~ん、お酒って気分じゃないから紅茶!ロイヤルミルクティーで。それとお茶菓子も下さい。」

 ロイヤルミルクティーは簡単に出来るが、今からお茶菓子か。時間がかかるなぁ……何か無かったか?…あぁそういえば、無くなる寸前だった果実酒使って作ったアレがあったな。アレを切って出してやればいいか。出す茶菓子は決まったからな、次はロイヤルミルクティーを淹れるとしようか。因みにだが、読者諸兄はミルクティーとロイヤルミルクティーの違いを知っているだろうか?そもそも、日本以外にはロイヤルミルクティーという飲み物は存在しない。つまりは和製英語であり、日本独自の飲み物なのだ。ここで先程の違いの話になってくるのだが、ミルクティーはお湯などで煮出した紅茶にミルクを入れて飲むのだが、ロイヤルミルクティーは牛乳(正確には水で薄めた牛乳)で直接煮出すのだ。今回は、家庭で出来る美味しいロイヤルミルクティーの淹れ方を伝授しようと思う。

《家庭で簡単!本格ロイヤルミルクティー》※分量2杯分

・紅茶葉:ティースプーン山盛り2杯

・牛乳:300cc

・水:100cc

 まずは紅茶葉。ティースプーンで山盛り2杯をミニボウルに入れる。今回はアッサムをチョイスしたが、茶葉は各々の好みで構わない。茶葉を入れたミニボウルに、沸騰したお湯を茶葉がひたひたになる位まで入れて、茶葉を開かせる。なぜ直接牛乳に入れないのかと言えば、牛乳にはカゼインという成分が含まれており、これが茶葉を包み込んでしまい、茶葉が充分に開かず、味や香りが出ないままになってしまう。多少手間がかかるが、これが上手く淹れるコツだ。

 次に、ミルクパンに牛乳と水を入れて火にかける。沸騰直前で紅茶葉を入れて火を止めて軽く混ぜて蓋をし、そのまま3~4分蒸らす。沸騰直前で火を止めるのは、沸騰させると牛乳独特の香りが茶葉の香りを打ち消してしまう為。目安としては、鍋肌に細かい泡がフツフツと出来てきて、それが全体に広がった位が丁度いいかな。

 蒸らしが終わったらスプーンで再びかき混ぜて、湯通ししたティーカップに茶漉しで茶葉を分けて注いだら完成。お好みでグラニュー糖やハチミツを加えてもいいが、今日は特別仕様。ティーカップの上にマシュマロを数個浮かべて大和に出してやる。

「ハイよ、『マシュマロロイヤルミルクティー』な。今茶菓子も準備するから、マシュマロ溶かしながら待っててくれ。」

「はぁ~い。」

 大和もティースプーンをクルクル回しながら、鳳翔さんと談笑している。

「そういえば、武蔵ちゃんは元気?」

「武蔵はねぇ~……最近、付き合い悪いんだぁ。」

 ぶぅ、と口を尖らせる大和。

「武蔵ってば最近、利根さんとばっかり飲みに行っちゃうんだもん。たまにはお姉ちゃんを構ってくれてもいいのに……。」

「あらあら、拗ねないの、もぅ。」

 そんなやり取りを見ていると、本当に母娘に見えて仕方がない。そんな事を考えながら、俺は冷蔵庫にしまっていたそれを取り出して、食べやすい大きさにカット。

「あら?提督、それはパウンドケーキかしら。」

「残念、これはパウンドケーキじゃないよ。鳳翔さんも食べるかい?」

「えぇ、是非。」

 そう言われて鳳翔さんの分もカットし、皿に盛り付けて出してやる。

「上に乗っているのは……パイナップルかしら?」

「それに、この匂い……お酒?」

「どっちも正解。ブランデーベースのパイナップル酒を使って作った《ブランデーケーキ》さ。召し上がれ。」

 おっと、長くなってきたな。ブランデーケーキの作り方はまた次回にでも。 

 

仲良き事は善き事かな


 前回載せそびれたブランデーケーキの作り方を、ここに纏めておこうと思う。今回はブランデーベースのパイナップル酒を使っているが、普段作るときは普通のブランデーで構わない。

《家庭で作れる!ブランデーケーキ》※パウンド型1つ分

・無塩バター:110g

・砂糖:90g

・全卵:2個

・ブランデー(練り込み用):大さじ4

・ブランデー(仕上げ用):大さじ5

・薄力粉:110g

・ベーキングパウダー:小さじ1/2

・塩:一つまみ

・アーモンドプードル:20g

 まずは下準備。予め無塩バターと卵を常温に戻しておく。これをしておかないとバターは固くて練りにくいし、卵は冷えているとバター等と混ぜた時に分離してダマになってしまう。ちょっとした事だが、『食材の温度を合わせる』というのは大事なポイントだ。バターを常温に戻す時間がない場合は、湯煎で暖めても構わないが、溶けすぎないように注意な。溶かしバターではパウンドケーキ系は作れない。

 卵を完全に溶き、練る用のブランデー大さじ4を混ぜる。更に薄力粉、ベーキングパウダー、塩をふるいにかけて合わせておく(卵液とは混ぜないぞ)。ここまで来たらパウンド型にクッキングシートをセットし、オーブンを170℃に余熱。

 ここから生地の仕上げ。常温に戻して柔らかくなったバターを、空気を含んで膨張してクリーム状になる位まで練る。キレイにクリーム状に練り上げる事でこの後卵液をを合わせた時に分離しにくくなる。練ったバターに砂糖を3~4回に分けて更に練り上げる。ボテッとした感じで伝わるかな?砂糖を加える前よりも感触も重たくなるから解ると思うが、ここの練りが足らないと上手く焼き上がらない。練れたらそこに卵液を5~6回に分けて混ぜながら加えていく。分離しないようにしっかりと混ぜてな。しっかりと混ざったらふるった粉とアーモンドプードルを3回に分けて加えて混ぜる。アーモンドプードルはその名の通りアーモンドの粉末で、クッキーに加えれば香ばしさを、ケーキ生地に加えればしっとりとさせてくれる便利な製菓材料だ。最近の流行りものだとマカロンなんかにも使われてるな。しっかりと混ざったら生地は完成。

 パウンド型に生地を流し込む。隙間が出来ないように、パウンド型のそこを叩きながら生地を入れ、隙間なく入ったらトッピングだ。ブランデーケーキだけでなくパウンドケーキ全般だが、レーズンやナッツ、ドライフルーツ等は相性がいい。今回は上に果実酒の漬け込みに使ったパイナップルを輪切りの半分にして並べた。ドライフルーツ等は上に散らしてもいいし、型に流し込む前に生地に練り込んでもOKだ。



 さて、いよいよ焼成だ。余熱したオーブンに生地を入れ、45~50分焼く。焼き色を見ながら、焦げそうならアルミ箔を被せて焼く。ムラなく焼きたいなら、焼き上がりの15分前位に向きを変えると良い。焼き上がりのチェックは串を刺して何も付いてこなければOK。焼き上がったら熱い内に仕上げ用のブランデーを半分塗る。冷めたら残りの半分を塗る。これで完成ではあるのだが、美味しく食べるには寝かせた方がいい。型から外してラップで包み、ビニール袋などに入れて口を縛り、冷蔵庫で寝かせる。最低でも1週間位は寝かせた方が仕上げに塗ったブランデーが生地に馴染んで更にしっとりとして美味くなる。今回は2週間近く寝かせたものを大和と鳳翔さんに出している。

「ん~っ、しっとりしてて美味しい!」

「そうね、ブランデーの香りがとても良いアクセントね。」

 二人は顔を綻ばせながら美味しそうにブランデーケーキを食べている。と、

「おぉ、やはりここじゃったか。武蔵ぃ、おったぞ‼」

 何やら扉の方から喧しい声が。

「提督よ、邪魔するぞ。」




 やって来たのは利根と武蔵、それに筑摩。先程大和を置き去り(?)にして飲みに行ったという二人が、もう一人を引き連れてやって来たのだ。

「いや~、武蔵と街に出て飲んでいたのだがな?飲み足りないという事で鳳翔さんの店で飲み直そうと思ったのじゃ。」

 かっかっか、と笑いながら語る利根。座るなりブルーベリー酒をソーダ割で頼み、ジュースのようにゴクゴクと飲んでいる。

「私は一人だったので鳳翔さんのお店でお夕飯にしようと伺ったのですが、もう閉まっていて、どうしようかと思っていたら利根姉さんと武蔵さんに出くわしたんです。」

 照れ臭そうに笑う筑摩はみかん酒をロックでチビチビと嘗めながら、鳳翔さんが持ってきていたお総菜をつまんでいる。

「それで、『どうせならば大和も誘おうぞ!』と利根が言うんでな。探していたのだが……迷惑だったか?」

 武蔵が申し訳なさそうに頬をポリポリと掻きながら大和に尋ねている。

「べっ、別に?迷惑って事もない事も……ない…けど。」

 大和はそっぽを向いたまま、ブツブツと言いながらミルクティーを啜っている。さっきまで寂しがっていたクセに、素直じゃねぇなぁ。見ると鳳翔さんも肩を震わせてクスクスと笑っている。結局その日は明け方近くまで5人の話に華が咲いて飲み明かしていた。翌日、珍しく寝坊して赤面していた鳳翔さんを見た、と艦載機の妖精さんから聞いたが、俺は知らんと誤魔化しておいた。
 

 

オンとオフ

 ビリヤード台とダーツボードを入れた時、個人的な趣味で麻雀卓を導入した。大概の艦娘はビリヤードとダーツに夢中だが、一部の物好きな艦娘は、俺に教わりながら牌を摘まんでいる。この日もちょうど、酒を飲みながらのお通夜(徹夜麻雀)の最中だった。

「あ、それポン!」

 俺が捨てた白を、対面の艦娘がポンした。これで2副露、それにもう1つは發をポンしたもの。この艦娘の打ち筋なのだが、どうにもこいつは派手好きで全局役満狙いの打ち方になっている。

「ふっふ~ん、提督もこの艦隊のアイドルの打ち回しにタジタジのようだね~?」

 得意満面、と言った様子でニヒヒと笑うのは那珂。川内、神通の妹でありかつては四水戦の旗艦まで務めた軽巡洋艦。今は何がどうしてこうなったのやら、自称『艦隊のアイドル』を名乗り独自の歌や振り付けで定期的にゲリラ的ライブを行っている。

「那珂の狙いは判りやすいからねぇ。大方、大三元か字一色辺りが狙いでしょ?」

 傍らに置いたジントニックを煽りながらそう言うのは川内。川内型の長女にして那珂の姉であり、ウチの鎮守府の警備班・班長。こいつも俺に麻雀を教わってる一人。こいつも割と打ち筋が読みやすい。川内はリーチ大好き、どんな手だろうとリーチをかけないと気がすまない。捨て牌から待ちを読めば振り込む可能性は限りなく低く出来る。

「あら、川内さんもリーチばかりだから読みやすいですよ?」

 そう言いながらホットワインを啜るのは由良。この娘は以前から麻雀のルールを知っていたのだが一番厄介。鳴き麻雀も打てるし早和了りに点数計算、場の全体の流れを読んでの
和了る相手の取捨選択までやってのける。この中だと何をしてくるのか一番読みにくい娘だ。



『手出しで俺の現物……由良がテンパイ気配だが…、さてどうしたものか。』

 俺の手牌は中を切ればテンパイ、だが那珂の奴の手牌に中が対子になっていたら大三元完成となる。捨て牌には中が1枚。揃っていない可能性が高いが、万が一という可能性もある。まぁ当たる可能性は低い、ここは中切りだな。

 中を河に捨てるが、鳴くものはいない。やはり中の対子は無かったか。

「う~っ、揃わないぃ~!」

 苛立ちを隠せない那珂が『亀の尾』のロックをぐいと煽る。普段は可愛い子ぶって「カシオレとかしか那珂ちゃん飲めな~い☆」なんて言ってるが、三姉妹の中では一番酒が強い。

「あっれぇ~?那珂、今日は可愛い娘ぶらなくていいワケ?」

 ニヤニヤと笑いながらジントニックを煽りながらサラミをかじる川内。普段の状態を知る川内だからこそ、こんなからかい文句が出てくる。

「いーんですぅ。今日はアイドルもオフなんですぅ。」

 そう言って胡椒煎餅をバリバリと咀嚼する。普段は可愛いケーキやクッキー、マカロン等が好きだと言っているが、実は彼女はポテチや煎餅、おかきなんかの固くて塩っからいお菓子の方が好きだったりする。煎餅を食べる方に夢中になっているせいか、捨て牌のチョイスが甘い。手牌から場風牌の東が切られる。

「ロン。バカホンで3200。」

 俺の待っていた牌だ。那珂はウゲッ、という顔に歪む。今晩もまた、俺の日だったらしい。

「残念だったな那珂。ま、オリ方なんかを見る限り筋は悪くないんだ。次はも少し賢い打ち方を勉強してから挑んで来るんだな。」

 ムキー!と悔しがる那珂を尻目に勝利の美酒(今晩は『魔王』のロックだ)を味わう。そういえば、いつからだったかな?こうやって卓を囲むようになったのは。 

 

事の始まり

 あれは、そうだ。ビリヤード台とダーツボードと共に麻雀卓を入荷して半月ほど経った頃だ。その日は珍しく客がなく、暇だった俺は雀卓に合わせて購入した革張りの肘掛け椅子に腰掛けて、麻雀漫画の『むこうぶち』を読んでいた。打つ相手が無いので無用の長物と化してしまっているが、この椅子自体の座り心地は悪くない。麻雀は長時間座って行うからな、少し位は贅沢しても構わんだろう。

「ばんわ~っ、……ってお客さん居ないじゃん。珍しいねぇ。」

「むぅ~っ、せっかく那珂ちゃんの限定ライブやろうと思ってたのにぃ。」

「ま、まだ歌い足りないんですか?あれだけ歌ったのに……」

 そんな話をしながら入ってきたのは川内・那珂・由良。それぞれ普段は艦隊旗艦として遠征や近海の対潜掃討、鎮守府内の警備を担当している軽巡達だ。しかし今日はいつもの制服ではなく私服だ。どうやら、街に出てカラオケでも歌ってきた帰りらしく、若干だが頬に赤みが差している。

「おぉ、珍しい取り合わせだな。軽巡の旗艦が3隻揃い踏みとは。」

 俺も読書を切り上げ、カウンターの中に戻る。

「いや~っ、明日たまたま3人の休みが被ったから街に遊びに行ったんだけどさぁ。」

 苦笑いしながらアベイ頂戴ね、と注文してくる川内。

「那珂ちゃんがカラオケ行ったらマイク放してくれなくて、楽しめなかったんですよ。」

 お陰で酔いも冷めちゃいましたよ、と不満げな由良。

「だってだってぇ、最近地方巡業ばっかで全然歌えてなかったんだもん。アイドルとして由々しき事態ですよこれはぁ!」

 ムキー!と苛立ちを隠さない那珂。どうやら、ウチの那珂は他に比べて気が短くて直情型な所があるらしい。

「さてと。川内からは注文を承ったが、由良と那珂はどうする?」

「じゃあ、私はコーヒーカクテルと……何かそれに合わせた甘い物を。」

「那珂ちゃんは焼酎ロックと鮭とば!バッキバキの硬い奴ね。」

 由良の注文はともかくとして。

「しかし那珂。お前ホンットにオヤジ臭い酒だなぁw」

 川内と由良の注文を支度しながらツッコミを入れる。

「ホントだよねぇwアイドルの娘が飲む感じじゃないもんねね。」

「お仕事帰りの一杯を引っ掛けるお父さん、って感じの注文ですよね。」

 二人もそれに同調するように那珂をからかう。

「もぉ!川内ちゃんも由良ちゃんも酷いんだ‼提督はいつもの事だから別にいいけどさぁ。」

 途端にむくれる艦隊のアイドル(自称)。苦笑いしながらも那珂のキープボトルである「黒霧島」のロックと、軽く炙った鮭とばを出してやる。

 お次は川内ご注文のアベイか。ドライ・ジンが40ml、オレンジジュースを20ml、香りと仄かな苦味を付ける為にオレンジの果皮を漬け込んだリキュールのオレンジ・ビターズを1dash。これをシェークしてカクテルグラスに注ぎ、マラスキーノ・チェリーを飾れば完成。

「ほいさお待たせ、『アベイ』と、ツマミのカナッペだ。」

 アベイはオレンジの風味を前面に押し出したカクテルだ。そのフルーティさ故にツマミもシンプルにチーズを載せたクラッカー位の方がいい。さて、お次は由良の注文のコーヒーカクテルだが……。

「由良、アイスとホット……どっちがいい?」

「え、どっちも出来るの?じゃあ…今日は暑かったしアイスで。甘めの方が嬉しいかな。」

 甘めのコーヒーカクテル、アイスでか。…よし、ならアレで行くか。

 ベースに使うのはモーツァルト・リキュール。発祥の地はオーストリアのザルツブルク。厳選されたビター・チョコレートを使用したリキュールで、チョコと言いつつ甘くない、カカオ本来の香りと苦味を楽しめるリキュールだ。これ単品でオンザロックでも美味いし、ウォッカで割ってマティーニスタイルでも楽しめる。日本の酒造メーカーだと、サントリーが本場と同様の作り方でビターとスイート、それにホワイトも出してたかな?コイツを氷を入れたタンブラーに45ml。そこにアイスコーヒーを適量。軽くステアしたら、仕上げにアイスクリームとホイップクリームを飾って出来上がり。

「お待たせしました、『モーツァルト・アイス・コーヒー』です。それに、ハニートーストもどうぞ。」

 由良は目をキラキラと輝かせてハニートーストにフォークを突き立てて、そのまま口へ運んでパクリ。そこへモーツァルト・コーヒーを流し込む。

「うん、おやつの時間みたいな取り合わせだけど、チョコレートのリキュール?が効いてて美味しい!」

 どうやら、ご満足頂けたようで。



「ところで提督さぁ、さっき何してたの?」

 アベイを飲み干し、お代わりにA1を注文した川内があけすけに聞いてきた。

「あぁ、あれか?…いや、恥ずかしながら麻雀が打ちたくなってな。だが、打てる面子が居ないから雰囲気だけでも味わおうと思ってな?」

 暴露したら途端に恥ずかしくなってきた。だが、由良は驚いたように目を丸くしている。

「ん?どうした由良、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔して。」

「提督さんのお店って、雀卓あったの!?なら早く教えてほしかったなぁ。」

 なんでも、由良は前から麻雀に興味があったらしく、独学でルールを覚えてネット麻雀を楽しんでいたらしい。意外な趣味だが、人は見かけによらないと言うことか。

「他にも、正規空母の皆さんとか、龍田さんなんかも打てるみたいですよ?」

「マジでか?知らんかった……。でもアイツ等ウチに来るときにはほとんどヘベレケだからなぁ。」

 今度誘ってみるか、等と考えていた時。

「ねぇねぇ、麻雀ってさぁ面白いの?」

 霧島のロックを一気に煽って飲み干した那珂が、その勢いのままに聞いてきた。既に5合は飲んでいる筈だが、ケロリとしてやがる。

「面白いぞぉ?相手の腹の内を探り合い、裏を掻き、そして相手を叩く。こんな高度な戦略的ゲームなのに、1対1じゃなくて4人のバトルロイヤルってのがまた面白いのさ。」

「そうそう、1人だけを気にしてたら他の人に和了られたりしちゃう……あのスリルがたまらないんですよね!」

 麻雀の解る俺と由良、二人をそっちのけで盛り上がってしまった。

「ふーん、面白そうじゃん。ねぇ提督、アタシと那珂にも教えてよ、麻雀。」

 こうして、川内と那珂に麻雀を教える事になったんだったか。 

 

提督の麻雀教室・その1

 那珂と川内に麻雀を教える事になった。ようやく置物になってた雀卓が意味を成す時が来たらしい。

「とりあえず適当に腰かけてくれ。」

「提督、ルールはどうします?アリアリで?」

「ん~、ベーシックな打ち回しを覚えさせるならナシナシの方がいいだろう。」

 麻雀のルールの解らない人の為に解説すると、今由良と交わしたアリアリ・ナシナシという言葉は、鳴き(副露)の後に役牌と呼ばれる牌を3つ揃えて役を付ける「後付け」、鳴いて作るタンヤオと呼ばれる「喰いタン」を認めるかどうかという会話だ。当然ながら、全くのド素人の那珂と川内はきょとんとしている。まぁ今回はナシナシルールでやる事にした。

「それじゃあゲームスタート……っと。初回は俺が親でいいな。」

 俺はそう言いながら自動卓の中央にある賽子を回すボタンを押す。カラカラと回る2つの賽子に合わせるように、綺麗に積まれた牌が卓の下からせり上がって来る。この牌の積む作業が無いだけ、手積みよりもかなり楽だよな。

「賽子の出目は6。俺から反時計回りに数えて6だから……、取り始める山は那珂の前にある山からだな。那珂、もう一回賽子回してくれ。」

 一度目の賽子は4つある山から4人の手牌を取り始める山を決める為の賽子。取り始める山が決まったらその目の前にいるプレイヤーが再び賽子を振り、横に17牌ずつ積んである山のどこから取り始めるかを決める。

「提督、賽子は7だよ。」

「よし、それじゃあ那珂の目の前の山を右側から数えて7番目の所から4つずつ、俺から時計回りに取っていく。」

 取り始める位置が決まったら、そこから縦2段の山を横に2つ分、4つずつ順番に自分の手牌として取っていく。全員に12牌ずつ行き渡ったら、親である俺以外のプレイヤーが1牌、俺が2牌取る。これが配牌。そして俺が不用な牌を1牌捨ててゲームがスタートする。




「1局目はルールを説明しながら勝負度外視で行くから、それぞれ牌を倒して相手に見えるようにしてくれ。」

俺の指示に従って、牌を倒して晒す3人。

「麻雀のルールは複雑なようでシンプルだ。3枚1組の面子を4つ、2枚1組の雀頭を合わせた14牌を揃えた奴の勝ちだ。」

 だが、その中で相手との駆け引きや読み合いが生じてくる。

「でもね、ただ揃えればいいんじゃないの。…ホラ、隼鷹さんとかがよくトランプでポーカーやってるでしょ?」

「あ、ポーカーならアタシわかるよ!隼鷹さんとかに教わったから。」

 なら、覚えは多少は早そうだ。ポーカー同様、麻雀にも揃える基本形に『役』がある。その難易度や組み合わせによってそれぞれ点数が割り振られている。

「その役を作りながら、牌を揃えていけばいいんだね。」

 なんだ、アホの娘かと思ったら意外と賢いな艦隊のアイドル。

「面子の揃える形も2種類ある。同じ図柄を3つ揃える刻子(コウツ)と、数字の連番で揃える順子(シュンツ)だ。」

「へぇ~、色んな絵柄があるんだね。」

「うんうん、見てるだけでも飽きないかも。」

 1~9の漢数字に萬という感じが彫ってある物をマンズ(またはワンズ)と言い、竹が複数本彫られた物が索子(ソウズ)、円形の図形が彫られた物を筒子(ピンズ)と呼び、それぞれ1~9までの数字が4牌ずつある。

「ねぇねぇ、東とか北とか書いてあるのは?」

「それは字牌だ。数牌とは少し違う扱いだから、後で説明する。…さて、基本的な流れとしてはゲームがスタートしたら俺が切ったら反時計回りの次……つまり那珂が山から牌を1つ持ってくる。」

「どこから取ってもいいの?」

「いや。配牌で取った続きからだな。その半端になってるトコから1つ取るんだ。」

 那珂のツモった牌は七萬。手牌には六萬と八萬があった為、これで一面子完成。そして不要な牌を1つ捨てる。

「那珂ちゃんが牌を捨てた時(ホントは提督が捨てた時でもいいんだけど)、自分の手牌に那珂ちゃんが捨てた牌で面子が出来る人は『鳴く』事が出来ます。」

 刻子が出来る場合はポン、順子が出来る場合はチーを宣言して鳴く。もう1つ特殊な鳴きもあるが、ここでは説明を省く。

「あ、じゃあその四筒ポン!」

 鳴いたのは那珂の向かいにいる川内。鳴いた牌は自分の右側に寄せておく。川内が捨てた所で、鳴いた際のルールを説明。

「鳴いた奴がいた場合、そいつの次の人間にツモ番が回る。……つまり、由良のツモ番が回らずに俺に回ってくるって事だ。」

「え~!?何それズルくない!?」

 真っ先に反応したのは那珂。仕方ねぇだろうが、そういうルールなんだから。それに、上級者の中には相手のツモを妨害する為に多少自分の手を安くしても鳴いてツモを飛ばす、なんてテクニックを使う人もいる。こういうルールが存在する事によって、麻雀は様々な場面で幾重にも読み合い、駆け引きが生まれるのだ。 

 

提督の麻雀教室・その2

 基本的なゲーム進行の流れを教え、数巡した頃、那珂の手番。

「え~っ……と、3つずつ、3つずつ、それに……あ!提督、あと1つ揃えば和了りだよ、ホラ‼」

「ん?どれどれ…ゲ、お前これ四暗刻テンパイじゃねぇか。」

 那珂の手牌を見ると、暗刻が4つ完成。後は雀頭の白がくれば役満・四暗刻の完成だ。

「スゴいじゃない那珂ちゃん、初めてなのに役満テンパイなんて中々揃えられないわよ?」

「え?なになに、那珂ちゃんスゴい事やっちゃったの?」

 ルールをしっかりと理解できていない那珂は戸惑った様子で俺と由良の顔を交互に見ている。それともう1人、

「ちょっとぉ~っ、那珂にばっかり構ってないでアタシにも解るように説明してよぉ!」

 と、ルールが分からない川内がむくれている。

「あぁ、スマンスマン。立直、つまりリーチってのはあと1牌揃えば和了りの状態にある時にのみ使える特殊な役でな。」

 リーチをかけるには幾つかの条件がある。

1.聴牌(テンパイ)している事

2.ポン・チー・カン等で鳴いていない事※ただし、己の手牌から出したカン(暗カン)は除く

3.持ち点に1000点以上ある事



 以上3つの条件が揃って初めて、リーチを掛ける事が出来る。

「リーチの良い所はね、掛けるだけで1翻付くの。だから和了ろうと思えばリーチのみでも和了れるの。」

「ただし、リーチをかけた後は手牌の交換は出来ない。暗カンのみ鳴く事は出来るがな。」

 つまり速攻をかけやすいが持久戦に持ち込まれると辛いのがリーチの特徴だ。※あくまで個人の意見です



「ふぅん、それで役満ってのは?」

「役満は麻雀の和了りの中では最高得点に位置する役の総称だ。複数あるが、親なら48000点、それ以外のプレイヤーでも32000点が付く。」

「那珂ちゃんはそれを偶然だけどあと1牌って所まで揃えてたの。スゴいじゃない!」

 素人ながらも誉められて悪い気分のする者はいない。那珂は照れ臭そうに頬を染め、エヘエヘと笑っている。

「そ、そんなに誉めないでよぅ。那珂ちゃん恥ずかしい~。」

 しかし、四暗刻テンパイまで初心者で持っていくとは。那珂那珂……もとい、中々侮れない。

「さて、何となくルールは理解出来たか?それなら今度は牌を見せずに普通にやってみるか。」

 とりあえず、この局は流れた事にして東二局から仕切り直し。親は俺の左手に座る由良。ドラは發に決まった。

『さて、と。手牌は二・五筒と三萬が対子、七萬が暗刻か。三色か対々和狙いが早いか。』

 しかし、問題は親の由良だ。那珂と川内は素人だが、由良は手つきなどを見る限り中々の打ち手のようだ。どういう打ち方をするのか見当も付かない。ここは和了りを狙いつつ、打ち方を探るか。俺が手牌の中で浮いていた二索を切った瞬間、

「チー!」

 と元気な声が飛ぶ。鳴いたのは那珂……二・三・四索の順子を作らせてしまった。由良にばかり気をとられていたが、他の二人も警戒すべきだったか。しかしまだ一巡目だからな、そこまで警戒するほどでもないか?もう一巡してきて再び俺のツモ番。

『ツモは四萬か。揃ってはいないが順子を作る可能性も考慮して、残しておくか。』

 そう考えながら俺は一索を切った。今度は誰も動かない。



 時は進んで7巡目。その後も那珂が六索をポンしてくれたお陰でツモが増え、どうにかテンパイまで持ち込んだ。

『断ヤオ・三暗刻テンパイか。裏ドラ次第でハネ満まで伸びるか?待ちは四萬、七筒待ち。……やるか!』

 俺は浮いていた初牌(ションパイ)の東を切ると、

「通らば……リーチだ!」

「カン。」

 俺のリーチ宣言に被せるように、親の由良が東をカン。やっちまった。コレで由良は二翻確定、そして恐らくだが、テンパイしただろう。そしてカンドラは……七萬!これは俺に味方したか。無いとは思うが、この王牌(ワンパイ。カンした際にツモる牌)からのツモで和了れば点数が幾つになる事やら。ゾッとするぜ。

「領上開花は……まぁ、出来ませんよね。」

 舌を軽くペロッと出して、はにかみ笑いをする由良。良かったぁ~、流れは完全に持ってかれたと思ったからもしや、とは思ったが。流石にどこぞの超次元麻雀マンガのようにはいかんか。そして由良は今しがたツモった牌を手牌に加え、手出しで發を切った。瞬間、

「ポン!」

 ここでまさかの那珂からポンの声がかかる。コレで那珂はドラ3ゲット。……というより、この鳴きを見る限りまさかとは思うが……

『まさか、緑一色狙いか?』

 緑一色(リュウイーソー)とは読んで字の如く、索子の二・三・四・六・八と發を使って4面子1雀頭を組み立てる役だ。鳴こうがメンゼンだろうが構わない。和了れば役満の大きな手だ。由良も気付いたらしい。しかも次のツモ順は俺。おいおい、勘弁してくれよ……。

「南無三っ!」

 そう言いながらツモった牌を見ると…八索。那珂のド本命、超危険牌。しかも俺はリーチ掛けてるから切るしかない。あれ?これ詰んでる? 

 

提督の麻雀教室・その3


 さて、俺が絶賛絶体絶命なんだが、今の状況を整理してみよう。那珂の鳴いたのは3副露……つまりは完成している面子が3つ。二・三・四索の順子と六索・發の暗刻。これだけで發、ホンイツ、ドラ3の跳ネ満確定の手なのだが派手好きな那珂の性格を鑑みるに恐らくは役満・緑一色狙いだろう。つまり、那珂の抱えているであろう牌は二・三・四索の順子か刻子、または八索の刻子。そして雀頭だろう。恐らくは既にテンパイしているだろう事から、俺の今ツモった八索はかなりの危険牌。

 だが、俺は今リーチ中の状態。和了り牌のツモでなければ切らなければならない。当たらないのを祈るのみだ。

「提督~、早く切っちゃってよぉ。」

 せっかちな川内はイライラしながらお代わりに作ってやったジントニックを煽っている。

『えぇい、ままよ!』

 ツモった八索を勢いよくタンッ!と卓に叩き付ける。和了られたならそれまでだ、今日は俺の日じゃなかったって事だ。……しかし、那珂からはロンの声は聞こえない。どうやら、首の皮一枚繋がったらしい。思わずフーッと息を吐き出したら、

「提督さん?そんなに緊張する必要ないと思いますけど?」

 と、隣でカルーアミルクを啜っていた由良に突っ込まれてしまった。

「いや、昔のクセというか何というかな。貧乏学生の頃は少ないバイト代を賭けて稼いでたんだよ。」

「えぇ~?提督賭博やってたの?ダメなんだよー、捕まっちゃうよ~?」

 黒霧島を4合飲み干し、良い感じに顔が紅くなってきた那珂がとばをかじりながらそう横槍を入れてきた。確かに、賭け麻雀は賭博法違反で捕まる歴とした犯罪行為だ。だが、昔は暗黙の了解というか、仲間内でやっているなんてのはザラにある事だった。何せ警官なんかもやったりしてたんだから取り締まる側も甘かった時期が確かにあった。

※あくまで個人の見解です。

「いいんだよ、今はやってないんだから時効だろ。ホラ、由良のツモ番だぞ?」


 由良のツモは白だったようだ。手牌に無かったからか、即ツモ切り。そして川内のツモ番に回る。山から一枚取り、確認する。その顔には落胆のような苛立ちのような物が見てとれる。

「う~、揃わないぃ!」

 イラついたように四索を河に捨てる川内。それは素人故の無警戒だったのか、それとも単なる気の緩み……慢心から来る物だったのか。それは定かではないが確かに四索は捨てられたのだ。瞬間、

「川内ちゃん、油断したね~?ロンだよっ‼」

 パタリ、と手牌を倒す那珂の手牌は予想通りの緑一色。しかも八索は頭の四索単騎待ち。本当に間一髪でかわしていたらしい。その時、由良がクスリと笑って手牌を静かに倒した。まさか、由良の待ちも四索だったのでは?そんな事を一瞬考えたが今はそれよりも那珂の和了りだ。まさかまさかの麻雀初心者が役満和了り。その運も大した物だ。

「えぇ!?じゃあ私が1発で負けちゃったの!?何それ、戦艦の直撃喰らうよりショックかも……。」

 オイオイ、そういう不吉な話は勘弁してくれ。そんなこんなで那珂と川内の初の麻雀は幕を閉じ、二人は麻雀にドはまりしてしまった、というワケだ。それから数年が経つが、未だに麻雀熱は冷めやらないどころか、最近では漫画やアニメの影響か徐々に麻雀に興味を持つ艦娘が増えているらしい。




「さぁ、もう半荘行くよ!」

 眼がギラギラとたぎった状態の川内が牌を卓の中にガラガラと落とす。全自動卓は積むのが無いから楽で良いよな。そしてふと、気になったので隣に着席していた由良に訊ねてみた。

「なぁ由良、実はあの時お前も和了ってたんじゃないのか?」

「? いつの事?」

「那珂と川内に初めて麻雀教えたあの時だよ。」

「……あぁ、あの時ね。」

 そう言うと由良はクスリと笑って此方にグラスを渡してきた。

「別に良いじゃない?那珂ちゃんの役満和了りで決着付いたんだし。…それに、弱ってる相手を叩いてもつまらないでしょ?」

 キール・ロワイヤルお願いしますね、と言いながら此方にそう言って笑顔を向けてくる由良。やれやれ、こういう手合いが一番手強いんだよな。俺はカウンターに立ち、キール・ロワイヤルに使うスパークリングワインとクレーム・ド・カシスを仕度しながら苦笑いした。 

 

大掃除と年越しと

 今日は12月30日。我が鎮守府恒例行事となっている一斉大掃除の日だ。今日は完全に寝不足(というか寝てない)だが俺も早起きし、食堂に全員を集めて朝礼をする。食堂には駆逐艦から特殊艦まで全員が揃い、顔を見ると寝起きらしき奴や飲み過ぎで死んだ魚のような目をした奴もいる。しかしそんなのは関係ない。この大掃除は全員参加と決まっている。

「えー、毎年恒例ではありますが鎮守府全体の大掃除の日がやって来ました。例年通り公共のスペースはくじ引きで、個人の部屋は各個人毎の担当となります。なお、サボり・逃走を犯した者がいるグループには年末年始の宴会の参加及びお節・年越し蕎麦の支給は無い物と思うこと。以上!」

 ここで担当区域の書かれた割り箸を筒に入れた大淀が一歩前に出る。

「えー、それでは各グループの代表者はくじを引きに来てください。掃除の進捗は私に報告するように。終わり次第チェックに参ります。」

 各グループ6隻ずつに別れた中の代表者がくじを引いていく。何故か金剛がくじを引いた瞬間にガッツポーズをしていた。くじがチラリと見えたが、『執務室』とあった。……何をする気かは分からんが後でチェックに行かねば(使命感)。俺はというと、鳳翔・間宮・伊良湖・浦風・雷等といった料理の上手い艦娘達と共に、お節と年越し蕎麦の仕込み役だ。

「さぁて、俺は何をする?」

「……では、私とお餅をつきましょうか。」

 そう名乗りを挙げたのは鳳翔。臼と杵は既に用意してあるし、餅米も蒸かし上がっているらしい。

「しかし毎年餅つきの担当は長門じゃなかったか?」

 毎年の餅つき担当は長門と鳳翔だったと記憶している。その間俺は天ぷらや年越し宴会用の刺し身を捌いたりとバタバタしていたのだが。

「長門さんは……そのぅ…」

 言い澱んでしまった鳳翔さんに見かねたのか、浦風が口を開いた。

「長門さんは今頃、大淀さんの監視付きで部屋の整理をしとる頃じゃ。…何でも、憲兵さんに連行スレスレの写真が大量に見つかったとかでの。」

「そうそう、しかも青葉さんと衣笠さんも一緒に捕まったらしいわ!」

 浦風の言葉に雷が続く。もういい、判った。その面子だけで何が起きたか判ったから、これ以上俺の頭痛のタネを増やさないでくれ。



 仕込みをしていた食堂から出て、臼と杵をセッティング。臼と杵の先はぬるま湯で湿らせて餅がくっつかないようにしておく。

「餅米持って来ましたぁ~!」

 伊良湖が湯気の立ち上る大鍋を抱えて、パタパタと忙しなく走って来た。おいおい、頼むから転ぶなよ。鍋に入った餅米を臼に移すと、

「でっ、ではつき上がり次第おかわりを持ってきますのでっ!」

 そう言い残して再びパタパタと走っていった。普段もあんなに落ち着きが無いのだろうか?

「フフフ、提督と接する機会が少ないですからね。緊張しているんですよ、きっと。」

 苦笑いする鳳翔。おいおい、寧ろ怯えてるように見えたんだが。

「なら、提督のお顔が恐いのでは?」

 勘弁してくれ。そんな事言われたらガチで凹むから。……おっと、こんな無駄話をしている暇は無かったな。餅米は熱い内につきあげてしまわなければ上手く餅にならない。

「さぁ~ってと、行きますか?」

「はい、いつでもどうぞ♪」

 とは言ったものの、いきなりドンドンとついてはいかない。先に杵を細かく動かし、捏ね回すように餅米の粒を粗めに潰す。その際、返し役の鳳翔が適度に水を足し、水分量を調節する。ある程度粘りが出てきた所で本格的な餅つきスタートだ。

「行くぞ……そらっ!」

「よいしょ♪」

「うりゃっ!」

「はいっ♪」

 俺が臼の中心をつくように杵を振り下ろす。鳳翔はついた部分を回すようにして位置をずらし、まだ粒の残っている所を中心に持ってくる。それを10分~15分繰り返す事により、柔らかく粘りのある餅がつき上がる。



「ふぅ、結構疲れるな。」

「お疲れみたいですけど……提督?まだまだついていただかないといけませんからね?」

 鳳翔が満面の笑みでニコニコと笑っている。

「へっ?」

 そこに、再びパタパタと大鍋を抱えた伊良湖がやって来た。

「お、おかわりをお持ちしましたぁ。」

 息を切らして伊良湖が持ってきた鍋の中身は、当然のように蒸かした餅米。

「ちなみにだが……鳳翔?さっきついたので何人前だ?」

「えぇと……ざっと10人分、といった所でしょうか。」

 それから4時間近く、昼飯時まで一心不乱に餅をつき続けた。死ぬかと思った。 

 

中間報告


 昼飯時。餅つきを終えてぐったりしていても腹が減るものは減る。さすがに今日は間宮達も作れなかったのだろう、昨日の夕飯で出たらしいクラムチャウダーがセルフサービスで提供されていた。しかし、そこはやはり間宮謹製。味に一切の手抜かりは無い。ジャガイモやにんじん、玉ねぎ等の根菜類の甘味と、アサリとベーコンから滲み出る旨味と塩気。それらを纏める牛乳のまろやかさが絶妙なバランス。そしてこれが飯にもパンにも合う。素晴らしい。

「提督?午前中の報告が上がって来ましたのでご報告に。」

 
 飯の最中だったがそう声をかけられては仕方がない。顔を上げると、そこにいたのは大淀と木曾に矢矧、そして高雄。

「ん、ご苦労さん。まぁ立ち話もなんだから、昼飯食いながらでも話そうや。」

 俺はそう言って対面の空席を薦めた。4人が着席し、大淀がリストを読み上げ始める。

「大掃除の進捗状況ですが、全行程のおおよそ65%が終了。公共のスペースは全ヵ所チェックまで終了致しました。」

 中々順調なようだ。このペースで行けば1800頃には全て終わりそうな勢いだな。

「トラブルは?」

「長門さんの私室から大量に見つかった盗撮写真は処分致しました。その主犯である青葉、並びに幇助の疑いの衣笠は拘束してあります。」

 浦風と雷から聞いていたが、やはり本当だったのか。年々重症化しているぞ、ビッグセブン。

「いい、青葉は毎度の事だが、憲兵さんに引き渡してお灸を据えてもらえ。」

 では、そのように処理致しますと大淀が応える。

「毎年の事だが……今年も出たのか?バックレた奴が。」

 自分でそう言って溜め息を吐いてしまった。まぁ、大淀にくっついてきたメンバーを見れば何となくは顔ぶれも解るが。

「えぇ、まぁ。阿賀野・球磨・多摩・愛宕に伊勢……あぁ、伊勢は既に日向が引っ捕らえました。」

 流石は日向、仕事が早い。大方、ここに来ているメンバーの姉妹がまだ捕まっていないのだろう。



 毎度の事だが、大掃除の時は必ず逃亡者が出る。ちゃんと朝礼でも釘を刺しているのだが、姉妹に押しが弱いものが居たり、ただただ面倒がっている者や、そもそも掃除が苦手な者が毎年懲りずに逃げ出している。

「そこで提督、相談なんだが。」

 そう切り出したのは木曾。改二になって益々イケメンぶりが上がっており、駆逐艦の中にはファンクラブが密かに組織されているとかいないとか。

「球磨姉ぇ達は必ず捕まえて掃除に引き戻す。だから、お節無しは勘弁して欲しいんだ。」

 顔の前で合掌し、この通りだと頼まれてしまっては仕方がないか、という気がしてくる。

「矢矧と高雄もか?」

「そうね、私の場合能代が阿賀野姉さんに甘い所があるから少し厳しいけれど。」

「私と鳥海は自分の部屋も終わりましたから、許可さえ頂ければ2人で必ず愛宕を捕まえてみせますわ。」

 ふむ。サボりを捕まえるのは良いことだしな。

「解った、許可しよう。ただし、怪我はさせずに捕まえろよ?砲撃戦も無しだ。それと、援軍も出してやる。」

 そう言って俺はグルリと食堂を見回し、目的の艦娘を見つけるとそちらを向いて叫んだ。

「おぉい、加賀ァ~!」



「……何か用?」

 普段から感情の起伏が少ない加賀だが、大好きな食事の邪魔をされて苛立っているようだ。

「いやぁ、悪いんだがよ。空母の中で私室の片付けまで終わってる奴居ないか?」

「私は済んでいるけれど。それがどうかして?」

 しめた。加賀の錬度なら申し分ない。

「実はこれこれしかじかでな……」

「成る程、私に逃亡者を捕まえるのに協力してほしい、と?」

 飲み込みが早くて助かるよ、全く。

「そういう事だ。頼めないか?」

「そうね。……何か、見返りがあっても良いと思うのだけれど?」

 そう言って切れ長の眼を此方に向けてくる加賀。止めろ、その目付きは目力強いんだから。

「解った、日本酒一升でどうだ?」

「やりました。…すぐに準備するわ。」

 そう言って加賀は食堂を出ていった。恐らく、索敵機を飛ばす為に艤装を取りに行ったのだろう。それを見て慌ただしく出ていく木曾達3人。

「あ……提督!」

 食堂を出ようとしていた木曾が、首だけ引き戻して此方に声をかけてきた。

「拳骨の2、3発はご愛嬌だよな?」

 ニヤリと笑う木曾。まぁ、それくらいなら構わんだろう。

「あぁ、それ位ならな。」 

 

変わりダネ!かき揚げ特集

 昼飯を終えてからも仕込みは続く。何せ250を超える艦娘をのご馳走だ。幾ら準備しても終わる気がしない。午後イチの俺の仕事は年越し蕎麦用の天ぷらを揚げる事だった。

「海老に鱚、穴子にかぼちゃ、蓮根、烏賊……。なんか代わり映えしねぇな。」

「そうなんよ~。毎年同じような天ぷらばっかりで皆も飽きて来とるんじゃ。」

 一緒に天ぷらを揚げていた浦風が溜め息を吐いている。……しかしまぁ、隣に立つとより解るが駆逐艦離れした体つきだ。しかも料理上手で世話好きときた。ホントに良い嫁さんになりそうな娘が多いよな、艦娘って。

「そうじゃ!提督さんが変わった天ぷら作ってくれん?ウチも手伝うけぇ。」

「お、俺!?……まぁ、いいか。んじゃあ適当に冷蔵庫漁って来るわ。」



「取り敢えず、かき揚げが無いから変わりダネの奴を何種類か作ってくぞ。」

 まずは定番か、烏賊のゲソと三つ葉のかき揚げだ。烏賊は水分を多く含む為に揚げるとバチバチと油が跳ねて揚げ難いネタだ。特にゲソは吸盤の影響で特に跳ねやすい。

「まずは吸盤の下処理だ。浦風、ゲソの吸盤に付いてる歯を洗って落としてくれ。」

 烏賊の吸盤には蛸のそれとは違い、獲物に食い込ませる為に歯が付いているのだ。これをしっかり取り除いてやらないと歯触りが悪くなる。流水で烏賊のこするようにゴシゴシと手で洗う。すると手に感じるざらつきが徐々に無くなってくる。これを完全にざらつきが無くなるまで洗い落とす。

 下処理が終わったら三つ葉とゲソの長さを切り揃えて天ぷらの衣に混ぜる。そして小さなお玉に掬い、熱した油に静かに入れてやる。ジュワアアァァァ……という音が次第に、パチパチと弾けるような音に変わり始める。

「ひゃんっ!」

 油が跳ねて顔に飛んできたらしい。可愛らしい悲鳴を上げて身体を竦める浦風。その動きで胸がブルン、と揺れる。いやぁ、眼福眼福。……じゃなかった、

「大丈夫か浦風?」

「だ、大丈夫じゃ……でも、今悲鳴上げたのは恥ずかしいけぇ、誰にも言わんといてね?」

 勿論ですとも。他の人に話すなんて勿体無い。



 さて、お次は蕎麦の具だけじゃなくツマミにもなる天ぷらを作っていくぞ。用意するのはちくわと枝豆。

「ちくわは縦に4つに割って、その後細かく刻んでくれ。」

 枝豆は茹でて塩をして冷凍した物を使用。冷凍食品で売ってる枝豆でもいいし、最近はむき枝豆なんてのも売ってるからな。ポイントとしてはちくわのサイズを枝豆の粒より小さくした方が食べやすいし、衣も絡みやすい。

 衣に多少塩を混ぜ、ちくわと枝豆がしっかりと全体に混ざるように絡める。こっちは少し小ぶりにした方が食べやすいので大きめのスプーンに掬い、熱した油にイン。具材は生でも大丈夫な物だから衣に火が通ったら完成だ。

「ホレ、味見。」

 軽く油を切ってまだ熱い状態のちくわのかき揚げを浦風の口に放り込んでやる。

「あひ、あひ、あちちち……もう!何するんじゃ提督さん!」

 浦風はむくれて頬を膨らませている。そういうリアクションが楽しいからやっちゃうんだよ、実際。

「ハハハ、悪かったよ。…でも美味いだろ?コレ。」

「うん、味は悪くないね。お酒にも合いそうじゃ。」

「え?浦風も飲めるのか?」

 驚く俺を尻目に、浦風は呆れたように溜め息を吐いた。

「なぁに言うとるんじゃ提督さん。寧ろ飲めん娘を探す方が難しいよ?この鎮守府は。」

 そ、そうだったのか。今年一番の衝撃的ニュースかも知れん。気を取り直して調理再開といこう。



「それで?次は何のかき揚げをつくるんじゃ?」

「次はな~…コレだ!」

 俺が取り出したのは納豆とニラ。意外や意外、この2つのかき揚げは飯によし、酒によし、饂飩・蕎麦にも勿論よしと、是非とも試してもらいたい一品だ。

「まずはニラだ。食感を楽しみたいなら3cm位の長さで切り揃える。風味を楽しむなら小口切りだな。」

 今回は食感を楽しみたいので長めにカット。

「ほんで?もう1つの材料の納豆はどうするんじゃ?」

「納豆はよ~く練って、粘りが強くなったらそこにニラ、天ぷらの衣を加える。たれも後からだぞ。」

 浦風が納豆をパックから空けてボウルに移して練っていく。使う納豆の種類だが、中粒や小粒よりもひきわりを個人的には薦める。混ざりやすいし、具の偏りが少なくなるからな。衣を加えてよく混ざったら、ちくわのかき揚げ同様、大きめのスプーンで成形して油へ。コレも衣に火が通れば十分だ。

「うん、コレもイケるね!」

「個人的にはもう少し塩気が欲しいがな。……まぁ、食べる時に醤油なりかけて食べればいいか。」



「さて、と。今で3種類か。じゃあ後1つ、作ってみるかな。浦風、フードプロセッサー借りてきてくれ。」

「ん?何につかうんじゃ、そんなモン。」

「いいからいいから。あぁ、刃はおろし金でな。」

 首をしきりに傾げながら、浦風が借りに行っている間に、俺はメインの食材を支度する。皮を剥き、フードプロセッサーに入る位の大きさにカット。中にはちりめんじゃこと万能ネギにするか。

「借りてきたよ、提督さん……って、大根!?」

 そう、大根だ。正確には大根下ろしのかき揚げだな。

「そがぁなモン美味いんか?」

「まぁまぁ、食ってみてからのお楽しみ、ってな。浦風は大根下ろしを作って、軽く水気を搾ってくれ。」

 言われるがままに大根下ろしを作っていく浦風。俺はその間にちりめんじゃこを炒り、万能ネギを刻む。

「出来たよ、提督さん。」

「そしたら、大根下ろしにじゃこと万能ネギ、そして天ぷら粉を入れてよく混ぜる。」

「天ぷら粉は水で溶かなくてええんか?」

「溶いたら大根下ろしの水気を搾った意味が無くなるだろ……。んで、これを成形して油へ入れる。」

 少し平べったい形にして揚げてやると揚がりやすいぞ。表面が固くなってきて少しきつね色になったらOKだ。

「ホレ、食ってみろ。」

「な、なんじゃコレ!まるで餅みたいじゃ!」

 そう、大根下ろしに小麦粉を加えて揚げると、まるで餅のような食感になる。勿論、揚げずに焼いてもOK。普通の餅米を使った餅よりもヘルシーだし、繊維質たっぷりで体調管理にもうってつけだ。 

 

一年の締めくくり

 天ぷらを作り終えてからもバタバタと忙しい限りだった。お節を重箱に詰めたり、年越し蕎麦用のそばつゆを拵えたり、しかしどうにか1800までには終わりそうな目処が付き、鳳翔達と茶を啜って一服していた。そこにやって来たのは逃亡者とその姉妹の一団。加賀以外は全員息を切らしている。球磨と多摩に到っては頭を抑えて涙目になっている。何をされたかは想像に難くない。

「加賀、ご苦労だったな。酒は後で届けさせるよ。」

「では、私は汗を流したいのでこれで。」

 加賀はそう言って一礼すると、さっさと食堂から出ていってしまった。

「さ~て、と?毎年懲りずに逃げ出しているお馬鹿な面々がまた顔を揃えている訳だが?」

「球磨はお馬鹿じゃないクマー!意外に優秀な球磨ちゃんっていつも誉められるクm……」

『あ゛?』

 木曾、アカン。怒っているのは解るが、それ姉に対してしていい表情と違う。球磨も木曾の一睨みにビビったのか、

「な、なんでもないクマー……」

 と黙り込んだ。多摩も木曾の迫力に気圧されたのか黙り込んでいる。しかし同じ軽巡の阿賀野は、いつものペースを崩さずに、寧ろ矢矧に対してプリプリ怒っている。

「ちょっと矢矧~!何で阿賀野を捕まえるのよ~っ!」

「はぁ!?何言ってるのよ阿賀野姉ぇ!阿賀野姉ぇが逃げたら私たち4人全員、お節もお蕎麦も宴会の参加もナシになるのよ!?」

 矢矧も普段の冷静沈着な様子からは想像できない剣幕だ。

「第一、『今年は酒匂が来て初めてのお正月だから、ちゃんとお祝いしてあげようね』って言い出したのは阿賀野姉ぇでしょ‼」

 そう、阿賀野型の末の妹・酒匂は秋の大規模作戦においてようやく我が鎮守府に着任したのだ。あの時は姉妹全員大泣きして大変だったなぁ……なんて、思い出に耽るのは後回しだ。それなのにこのだらし姉ぇは、

「あ、あれ~……っ?そ、そうだっけぇ。」

 などと、すっとぼけようとしている。矢矧よ、その握り拳は降り下ろすなよ。

「愛宕!貴女まで……」

「だ、だってぇ~…お掃除って苦手なんですものぉ~。」

 高雄に詰め寄られ小さくなる愛宕。全く、今までは口頭での厳重注意で済ませて来たが……仕方がない。



「お前らの気持ちはよ~く解った、お前たちの姉妹に免じてお節と年越し蕎麦の支給はしてやる。」

 ホッと胸を撫で下ろす逃亡者達。

「ただし!元旦から10日間、お前らは『間宮』並びに『鳳翔』の利用を禁ずる。」

 一気に血の気が失せる4人。阿賀野なんぞ、白眼を剥いて今にも卒倒しそうな様子だ。

「提督の鬼!悪魔~!」

「あんまりだクマ、横暴だクマー!」

「そんニャ…絶望だニャ……。」

「10日間オヤツ無しだなんて……。」

 正に非難轟々、といった様子の4人。しょうがないだろう、口で解らないなら処罰を与えなければ示しがつかん。

「それとも、正月三が日に神通のスペシャルメニュー訓練にするか?」

 俺はどちらでも構わんぞ?と選択は4人に任せた。

「「「「是非……1つ目でお願いします…。」」」」

 項垂れた様子で応える4人。だろうな、神通のスペシャルメニューを正月三が日にやるなんて俺も嫌だ。しかし、これでようやく懸案事項は全て片付いた。後は今年1年の無事を神様に拝んで、締めの挨拶をして終わりだ。

 1800。全ての艦娘が神棚のあるホールに集まった。俺を先頭にして綺麗に整列。神棚に正対して二礼・二拍・一礼。艦娘全員に猪口を配り、お神酒を注いでいく。全員に行き渡ったのを確認して、俺が口を開く。

「え~、今年も1年轟沈を出す事無く無事に乗り切る事が出来た。これはひとえに皆の努力の賜物だ。来年もまた、平穏無事に戦局を乗りきられますように。……乾杯!」

『乾杯!』

 全員の乾杯の合唱の後、全員がお神酒を飲み干した。これで今年は締めだ。そして明日からはまた、新しい戦いの1年が始まる。各艦娘が催す宴会に参加する者、姉妹で朝までまったりと過ごす者、早々に眠りに就く者。様々いる中で俺は何人かの艦娘に声をかけた。

『今日お節の仕込みをした艦娘は、2230に執務室に集合するように。』

 俺からの個人的な労いの為に。 

 

労いの一杯


 さて、約束の2230。年越しの宴会があちこちで行われているのか、普段ならこの時間は(一部を除いて)静かなこの鎮守府も、今日はまだ昼間並みの騒がしさだ。しかし、ウチの店『Bar Admiral』は静かな物だ。なにしろ、今日は特別なリザーブ客だ。そしてこの日は、出すメニューは決まっている。俺は今そのメニューを絶賛仕込み中。とそこに、コンコンと扉をノックする音が。

「おぉ、いらっしゃ~い。入ってくれ。」

「お邪魔しますね~。」

 そう言って入ってきたのは鳳翔・間宮・伊良湖・雷・浦風。俺と一緒に今日の大忙しの厨房を支えてくれた頼りになる部下……いや、戦友と言い換えても良いかも知れんな。

「さぁさぁ、そんな入り口に突っ立ってないで、座ってくれ。」

 俺にそう急かされて5人はカウンターに着席する。特に伊良湖は居心地悪そうにモジモジしたり、店の中をキョロキョロと見回していた。そこでようやく、伊良湖の不審な様子の意味を理解した。

「あぁそうか、伊良湖はウチの店に来るのは初めてだったか?」

「わひゃあ‼ は、はい……。そうです。」

 俺が話しかけただけでそんなにビックリしなくても。そんなに俺って怖い顔してるかね?ちょっとショック。そんな様子を見て、間宮が肩を揺らしてクスクスと笑っている。

「提督さん、伊良湖ちゃんはほとんど提督さんと会話した事ありませんから、緊張してるんですよ♪」

 なるほど、そういえばそうか。確かにたまに『間宮』に行っても応対は間宮だったし、裏方で忙しそうにしていた伊良湖は俺の前に姿を見せた事はほとんど無かった。

「伊良湖。」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 敢えてしかめっ面で話しかけ、ニッと笑い

「そんなに緊張するな。お前の作る最中のお陰でいつも大規模作戦の時は助けられてるんだ。もっと自分の仕事に自信を持て。な?」

 そう言うと伊良湖は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「あらあら、提督さんてば伊良湖ちゃんみたいな娘が好きなんですか?」

「何言ってんだよ全く。あんまり茶化すと出してやらんぞ?」

 これは毎年恒例の行事。一年の締めくくりの忙しさを一緒に潜り抜けた戦友への特別メニューだ。



「さ~て、さて。メニューを仕上げる間に飲み物はいかがかな?」

 これも毎年のお決まり。リクエストに応じて一番いい酒を俺の持ち出しで提供する。要するに、俺の奢りだ。

「では、私と間宮さんは赤ワインを。」

 鳳翔と間宮は普段日本酒等が多いからか、この時は洋酒の注文が多いよな。

「ウチは洋酒は好かんから……日本酒、熱燗で貰えるかなぁ?」

 浦風は日本酒か。イメージ通りといえばイメージ通りか。

「伊良湖ちゃんはどうする?」

 意外にも今回が初参加の雷が伊良湖に尋ねる。

「あ、私はあんまりお酒が強くないので……。」

「ふ~ん。じゃあ、私と伊良湖ちゃんはお任せで!」

 成る程、承りましょう。まずはワインか。この日の為にとっておきを仕入れてある。俺は秘蔵のセラーから木箱を取り出した。その側面には『Domaine de la ROMANEE-CONTI』と印字されている。

「て、提督これって……‼」

「ディ、DRCじゃないですか!こんな高いものをわざわざ……」

 DRC。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ=コンティ。世界中で最も語る者が多く、口にする物が最も少ないとされるブルゴーニュワインの最高峰の生産者(ドメーヌ)を示す物。その証が印字された箱が今、目の前にある。そう、特別に箱買いしちゃったぜ。

「さぁさぁ、そんなにビビってないで。高級っていったってワインなんだからさ。飲まなきゃソンソン、ってね。」

 俺は手早く箱から1本を取り出し、何の感慨もなくコルクを抜く。途端に広がる華やかな葡萄の香り。確かに匂いだけで判る、こいつぁスゲェや。しかし酒は飾る物じゃない、飲む物だ。グラスを2つ取り出し、並々と注ぐ。

「さ、どうぞ。」

 鳳翔と間宮、2人に渡す。しかし2人共恐縮してしまったのか、口を付けようとしない。

「何だよ、飲まないの?なら、俺が貰っちまうぞ~?」

「だ、ダメですっ!」

「い、頂きますっ!」

 2人同時にグラスを傾けた。途端に2人の顔に驚きの色が浮かぶ。

「「お、美味しい……!」」

 2人同時にリアクション。どうですか?世界最高の赤ワインのお味は。

「何と言い表してよいやら……」

「とにかく美味しいです!」

 だろうね、俺も食レポ出来るとは思えねぇもん。さて、伊良湖と雷にはこの開けた赤ワインでちょっと贅沢な飲み方を提供しよう。



 まずは鍋に水とシナモン、クローブ、スターアニス、乾燥させたオレンジピールを火に掛けて香りと風味を煮出す。香りが立って来たら火を弱め、砂糖とワインを鍋へ。弱火で砂糖を溶かしつつ、アルコールが飛びすぎないように暖める程度。濾過器を準備し、スパイスを取り除いたらマグカップに移す。

「さぁ、特製『グリューワイン』だ。お好みでベリージャムやレモン汁を足してな。」

 本来はクリスマスのお祝いの時なんかに飲む物らしいが、まぁ年越しのお祝いでも良いだろう。

「初めて飲んだけど、すっごく美味しいわ!」

「はい、シナモンやクローブの香りが良いアクセントです……♪」

 流石に伊良湖は料理が専門の艦娘なだけあるな。解説が上手い。さぁて、お次は熱燗ですか。 

 

熱燗と鶏南蛮と除夜の鐘

「提督さん、ウチの熱燗は~?」

 待ちきれない、といった様子で浦風が催促してくる。
まぁ待て待て、美味い熱燗にゃそれなりの準備がいるんだ。燗を付ける酒のチョイス、道具、暖め方、暖める温度……。それらを上手くやらなければ美味い燗酒は楽しめない。

 まずは燗を付ける酒。チョイスしたのは地元・岩手の大槌町にある赤武酒造の『浜娘 純米酒』。 2014年に開催された燗酒のコンテストで金賞を受賞した1本だ。

「さぁさ、まずは冷やでやってみな?」

 俺はそう言って升に浜娘を注ぎ、浦風に渡してやる。

「ん……、これでも十分美味いけど…結構辛口やねぇコレ。」

 そう、燗酒のポイントその1。酒は辛口をチョイス。甘口の酒は加熱すると風味も甘味も飛んでしまうが、辛口ならば香りも風味も更に引き立ってくる。なので辛口をチョイスしよう。
 さて、いよいよ燗を付けていく。鍋に水を張り、徳利に酒を注ぐ。目安は徳利の九分目くらい。注ぎ終わったら徳利の注ぎ口にラップをかける。コレは家庭でやる場合に暖まって香りが飛ばないようにする為の工夫だ。次に水の張った鍋に徳利を浸けて見る。この時、徳利の半分位に水かさが来るように調節する。水かさが調節できたら、徳利を取り出して水を沸騰させる。燗を付ける際は水から沸かすのではなく、沸騰したお湯に短時間浸けるのがコツだ。

 お湯が沸騰したら火を止め、徳利を浸ける。大体2~3分位かな?目印は酒が暖められて徳利の口元に上がってきたらお湯から上げ、徳利の底に中指を当ててやや熱いと感じる位だと調度いい燗が付いている目安だ。まぁ、これは徳利の厚みや素材によって差はあるけどな。

「ホラよ、調度いい『上燗』だ。やってみな?」

 暖まった徳利と猪口を浦風に渡す。猪口をクイッと傾け、猪口の中身を一気に空けた浦風は、プハーッ、と息を吐き出した。瞬間、酒の芳醇な香りが一気に周囲に広がる。

 さてさて、以前少しだけ酒の冷やす温度の呼び方に触れたが、実は燗酒の温度にもそれぞれ呼び方があり、特徴が別れる。それをご紹介したい。

・日向燗(ひなたかん)……大体30℃くらいまで燗を付けた状態。常温よりもほんのり香りが引き立つ。徳利の底を触っての目安は温度の上昇を感じない位。

・人肌燗(ひとはだかん)……35℃くらいの燗の付き具合。味に膨らみが出て、米や麹の甘くていい香りがする。徳利の底の感触はやや温かいと感じる程度。

・ぬる燗……40℃くらいの燗の付き具合。香りが急激に立ってくる。触った感触としては人肌燗よりも温かいが熱いと感じない程度。

・上燗(じょうかん)……45℃くらいの燗の付き具合。ぬる燗よりも引き締まった感じの香りに変化する。個人的オススメ。人によってはぬる燗の方が好き、という人も。目安は徳利から猪口に注いだ時に湯気が立つ程度。

・熱燗(あつかん)……50℃くらいの燗の付き具合。辛口が更に引き立ち、香りもよりシャープな物に。熱燗が苦手な人がよく言う『アンモニア臭い』、『刺激臭がする』というのはこの位の温度から。目安としては徳利の注ぎ口から湯気が立ち、底を触ると熱く感じる。

・飛び切り燗(とびきりかん)……55℃以上の燗の付き具合。熱燗より更に辛味とシャープな香りが立ち、舌にピリピリと来る位の味に。個人的にはここまで燗付けたら逆に不味いと思うのだが……まぁ、好みは人それぞれ。徳利のどこを触っても熱く感じる。

 どうやら、浦風も上燗位がお好みだったらしい。さて、いよいよメインを仕度しようかね。

「鳳翔、間宮。持ってきてくれたか?」

「勿論♪」

「年に一度の楽しみですから♪」

 二人から荷物を預かる。鳳翔からは手打ちの蕎麦、間宮からは蕎麦つゆを。具材・調理は俺の担当さ。



 用意したのは南部太葱。通常の長葱の倍はあろうかという茎の太さが特徴の青森県南の葱だ。何と言ってもその水分量の多さと、生食した際の強烈な辛味が凄い。コイツを白髪ネギとぶつ切りにしておく。続いては鶏のモモ肉。使うのは青森シャモロック。これも青森県産の食材で、濃厚なダシとピアノ線のような繊細な筋肉の弾力性が特徴の極上の鶏だ。これを1人1枚、贅沢に行くぜ。

 モモ肉から余分な脂と皮を外す。脂が多すぎるとくどくなっちまうからな。皮を外した身は削ぎ切りにして酒・醤油少々で薄く下味を付け、片栗粉を軽く揉み込んでおく。外した皮はフライパンに油を敷かずにパリパリに焼いていく。と同時に、鶏皮から滲み出る脂を利用して太葱のぶつ切りを焼いていく。葱の辛味成分は加熱すると甘くなるから是非ともやって欲しいね。コレは。葱は焼きすぎずに焦げ目が付く程度がオススメかな。

 モモ肉を茹でる。沸騰したお湯に片栗粉をまぶしたモモ肉を投入。片栗粉をまぶすとパサつかずにつるりとした食感に仕上がるからな。それと同時に蕎麦つゆを温め、蕎麦を茹でる。

 蕎麦が茹で上がったら流水で締めて器に盛り付け。同様に茹で上がったモモ肉、焼き葱、白髪葱、パリパリに焼いた鶏皮(細切りにしたもの)を載せ、蕎麦つゆを回しかける。最後に三つ葉、柚子の皮をトッピングしたら完成さ。

「さぁ出来た、『特製・鶏南蛮』だ。お好みで山椒か七味を振っても美味いぞ。」

 全員に行き渡った所で、合わせて合掌。

「「「「「「いただきます。」」」」」」

 ズズ、ズルズル~ッと蕎麦を啜る小気味良い音が響く。そうそう、蕎麦はこうでなくちゃ。と、遠く日本人街の方からゴォ~ン、ゴォ~…ンと除夜の鐘が響いてくる。

「いよいよ今年も終わりですねぇ。」

 しみじみとつゆを啜りながら、間宮が呟いた。

「私ももっとも~っと頑張るから、もっと頼ってね!司令官!」

 にぱ~っと、太陽のような明るい笑顔の雷。

「ウチも頑張るけぇね。」

 シャモロックの肉をツマミに猪口を傾ける浦風。

「私も、前線には出られませんがサポート致しますね。」

「わ、私もですっ!」

 微笑む間宮と顔が真っ赤の伊良湖(飲み過ぎか?)。

「あらあら、これは私も負けていられませんね。」

 可笑しそうにクスクスと笑う鳳翔。全く、部下に恵まれて幸せ者だよ、俺は。その後、早々にノックアウトされた雷と伊良湖をソファに寝かし付け、4人で朝まで飲み明かしてしまった。箱買いしたDRCが全て無くなってしまったが、一体一晩でいくら飲んだんだろうか……?まぁ、いいけどさ。 

 

提督の採用テスト・問1

「何、Barで働きたい?」

 その駆逐艦からそんな突拍子もないお願いをされたのは、今年の春先……確かインド方面への大規模侵攻作戦、『第十一号作戦』が開始された辺りだったか。確かに、その頃はまだイタリアやローマも着任しておらず(今作戦着任だから当たり前だが)、俺も毎日作戦指揮とBarの切り盛りでてんてこ舞い。寝不足に近い状態なのを秘書艦達にどうにか助けてもらっている状態だった。そんな中での渡りに船な話ではあったのだが。

『しかし……駆逐艦。駆逐艦かぁ。』

 幾ら艦娘と言えど駆逐艦の身体は少女のそれだ。深夜帯の仕事は好ましくないだろう。それも艦娘としての業務をこなした上で、だ。

「提督は今ご多忙です。お手伝いの一人や二人、居てもいいとは思いますが?」

「う~む、とは言えなぁ……。」

 言葉を濁す俺に対し、彼女は更に続ける。

「それに私はまだ着任したばかり。まだ戦力になるとは到底思えませんが?」

 うぐ、痛い所を突いて来やがる。確かにウチの鎮守府はある程度の錬度になるまでは遠征等の前線には赴かせず、演習や屈強な艦娘達との錬度上げをし、最低でも1段階の改装を経てからの本格的運用になる。ウチの運用に当て嵌めて言えば、彼女は確かにまだ戦力としては数えない。

「判った、だがウチの店は鎮守府内とはいえ、それなりの信用を勝ち取っている店だ。生半可な気持ちや技術、知識では立たせられん。よって、テストをしてお前の適性を見させてもらう。」

 ……なんてのはただの言い訳。難問をぶつけて諦めさせるのが魂胆だ。

「テスト……ですか、いいでしょう。」

 微妙に上から目線ぽくね?それともこれがコイツのキャラなのか。



「では……第一問。ここに2つのグラスがある。それぞれに違う種類のウィスキーが入っている。その違いを説明して、更にその酒それぞれに合うツマミを出してもらおう。」

 見た目的には素人目にはわからないであろう、2つのグラスに琥珀色の液体2種類。しかし、解る者からすれば生まれも違えば造りも違う、全くの別物なのだ。

 まずは彼女、2つのグラスを持ち上げて少しだけ傾け、店の照明を通して色を確認。ほぅ、中々本格的な真似をする。次は香りと言わんばかりにくんくんとグラスに鼻を近付けて匂いを確かめる。そしてグラスを回し、空気と混ぜ合わせて匂いの変化を確かめる。そしていよいよ、口に含む。ゆっくりと、口全体を湿らせるように転がし、たっぷり10秒はかけて飲み込んだ。もう1つのグラスの中身もテイスティングし、グラスを置いた。

「判りました。まずは右側のグラスの中身。僅かにバーボン・ウィスキーの雰囲気を残しつつ、この独特な香り。これは、サトウカエデ……つまりはメープルの木を原料とした炭を用いて蒸留したての原酒を濾過した事に依るものです。……従ってこれはテネシー・ウィスキー。有名な銘柄には『ジャック・ダニエル』等がありますね。」

 ほぅ、やるな。では左のグラスは解るかな?

「続いて左のグラスですが……これは海軍にはとても縁深い物ですよね。この強烈なスモーキーフレーバー、ダルマの大将……サントリーオールドですね。」

 やはり此方は分かりやす過ぎたか。しかし、この2種類にどんなツマミを合わせるかな?これには彼女自身のセンスと舌が問われるぞ?

「じゃあ、テネシーの方から聞こうか。どんなツマミを合わせる?」

 ウィスキーのツマミというのは案外難しい。甘い物から塩辛い物。フルーツ、菓子、乳製品、肉、魚介。何でも万能に合うようでいて、その実、フレーバーや味が食材と喧嘩してお互いの良さを消しやすい。どれだけそのウィスキーを理解しているか?ここがチョイスの大きなポイントだろう。

「そうですね……。」

 彼女はしばらく熟考し、やがて口を開いた。

「このテネシーは中々甘口ですから、合わせるとしたらドライフルーツ……オレンジピールのチョコがけなど如何でしょう?」

 ふむ、悪くない。ウィスキーのツマミを選ぶ際、定番と言われている選び方に、『甘口には甘いツマミを。辛口には辛いツマミを。』というのが鉄板とされている。そういう点では悪くないチョイスと言えよう。しかしここで、俺も意地悪な条件を出す。

「しかしな、ウチの鎮守府の中には甘いツマミを好まない艦娘が少なからずいる。そういう場合、このテネシーに何を合わせる?」

 あり得ないシチュエーションではない。

「そう…ですね……。定番的な物としてはやはりナッツやチーズ、奇をてらった物を好む方であれば牡蠣の薫製……それをオイル漬けにしたもの等も良いかも知れませんね。」

 おぉ、牡蠣の薫製とは。その発想はなかったな。アーモンドやピスタチオ、カシューナッツ等のナッツ類はその濃厚な味でウィスキーの味を阻害する事なく、寧ろその仄かな塩味でウィスキーのフレーバーを引き立てる万能に合うツマミだ。チーズもまた、ウィスキーのフレーバーを引き立てつつ、自らもその隠れたフレーバーが引き立って互いを高めてくれる良い組み合わせだ。しかし牡蠣の薫製とは。今度試してみるか。

「どうやら、かなり勉強しているらしいな……早霜。」

 夕雲型駆逐艦の17番艦、早霜。普段ミステリアスな雰囲気を漂わせる彼女だが、どうやら優秀なバーテンになりそうだ。

「フフ……ありがとうございます…。」

 その少しだけ不気味な笑い方を直せば、だが。 

 

提督の採用テスト・問2

 早霜の酒の知識、そして舌のセンスの良さは判った。お次はその技術を見せてもらおうか。

「ここはBarだからな。ただ酒をロックや水割りなんかで出すだけじゃ商売にならない。ウィスキーベースのカクテルでも作ってみせて貰おうかな。」

 ウィスキーベースのカクテル、と簡単に言ってもベースのウィスキーの種類の味の違いで違う味わいのカクテルになる。そのチョイスを確りとできるのか?そしてカクテル作りに必要な技術が備わっているか?チェックするとしたらその辺りか。

「ベースのウィスキーはどれを?」

「任せる。好きな物を使って……そうさな、10種類ほど作って貰おうか。」

 早霜はまた顎に手を当て、少し眉をひそめて悩んでいるような熟考モードに入った。



「解りました、では。」

 そう言って早霜は早速支度に取り掛かった。俺はキッチンから席側に回り、椅子に座って早霜の手際を観察する。チョイスしたのはアイリッシュ・ウィスキーか。最古のウィスキーとも呼ばれる物だな。イギリス・アイルランドの有名なウィスキーと言えばスコッチが有名だろうが、アイリッシュは製法が全くの別物だ。

 原料は大麦を主体に小麦やライ麦、糖化させる為に大麦麦芽。スコッチは主原料の違う2種類のウィスキーをブレンドして作るブレンデッド・ウィスキーがあるが、アイリッシュは初めから複数の原料をミックスし、糖化・発酵・蒸留を行うのが大きな特徴。その為、別名「シングル・ブレンデッド・ウィスキー」等とも呼ばれたりする。複数の原料による複雑な旨味が特徴だ。

 早霜はそれを氷の入ったコリンズ・グラスに60ml。そこにソーダ水を適量。俺は濃い目が好きだからな、少し少な目にしてもらった。仕上げにレモンピールを絞ってグラス内に垂らし、絞ったレモンをとぷん、と沈めて軽くステア。

「どうぞ。『アイリッシュ・クーラー』です。」

 ゴクリ、と喉を鳴らして一口。炭酸のシュワシュワ感がアイリッシュの味を引き立てつつ、レモンの爽やかさが纏める。ステアもあくまで優しく、且つ混ざっていないという事はない。絶妙だ。

「よし、次。」

 褒める、という事はしない。あくまでテストだからな、厳しくいくぞ。しかし美味かったのが顔に出ていたんだろう、早霜は嬉しそうに微笑んで『はい♪』と小さく応じた。



 お、次もアイリッシュを使うのか。ボールアイスを入れたオールド・ファッションド・グラスに、アイリッシュとドライベルモットを30mlずつ。香り付けにアブサンとアロマチック・ビターズを2dashずつ入れ、軽くステア。

「お待たせしました、『アイリッシュ・ブラックソーン』です。」

 ベルモットは白ワインをベースにニガヨモギを主とした薬草やハーブで香りを付けたフレーバードワインだ。さらにアブサンとビターズで爽やかな苦味と多種類のハーブの香りをプラス。

「早霜。」

「何でしょう?」

「この一杯に合わせるとしたら、どんなツマミ出す?」

 ウチみたいなBarならよくある事だ。『この酒に合うツマミを』。客の無茶ぶりとも言えるこの状況で、早霜は果たして何を選ぶのか。

「そうですね、ハーブの香りを引き立てる白身魚……ヒラメや鯛のお刺身やマリネ、少しボリュームをお望みでしたらフィッシュ&チップス等も如何でしょう。」

「お、いいなそれ。冷蔵庫の中に作り置きのマリネがあるからそれを出してくれ。」

「かしこまりました。」

 早霜はタッパーに入ったマリネを、手早く皿に盛り付ける。うむ、中々いい手付き。普段から姉の夕雲などの料理の手伝いをしてるんだろうな。



 手前味噌ながら美味いなコレ。いつも作る時には味見するが、そん時ゃ傍らに酒がないからなぁ。酒と合うように作ってるから合うこと合うこと。自作のマリネを自画自賛しながらつつき、次の一杯を待つ。さて、お次は~?……お、今度はシェイカーの準備してるな。氷を入れて……そこにスコッチか。

「このカクテルは、クセが強くない方が美味しく仕上がるので。」

 何この娘、読心術でも心得てんの?たしかにスコッチは他のウィスキーに比べてクセが少ない。ウィスキーの独特な部分を際立たせたくない時にはうってつけだ。そこにドライ・シェリーか。量はどちらも20mlずつ。更にレモンジュースを10mlに、グレナデン・シロップを10mlか。このグレナデンシロップ、地域によって素材が違う。日本やフランスではザクロを使った物が主流だが、英語圏では複数のベリーを使って作ったどちらも赤が色鮮やかなシロップだ。

 それら全てが入った後、シェイカーの蓋を閉じて脇を締め、リズムよくシェイカーを振るう。その姿も中々様になっていて、本人のミステリアスな雰囲気も相俟ってか、格好良くさえ見えてくる。しばらくシェイカーを振っていた早霜の手が止まる。カクテルグラスを取り出し、シェイカーの中身を注ぐ。ぐれないシロップの赤とスコッチの琥珀色が混じりあって紅が鮮やかな一杯に仕上がっている。 

「『アーティスツ・スペシャル』です。提督もあまり召し上がった事が無いのでは、と思い作ってみました。」

 確かに、初めて見る一杯だ。未知の味に出会うってのは、恐くもあるがそれ以上に期待に胸が膨らむ。

「んじゃ早速……」

 グラスを傾け、口の中に含む。瞬間、感じたのは鼻に抜ける若草のような爽やかな香り。
 ドライシェリーの香りはその爽やかさゆえ、時として若草の香りに例えられる。しかし通常のワインよりもアルコール度数が高く、人によっては飲み辛く感じる。ゆっくりと、舌の上で転がして味を確かめる。……成る程、グレナデンシロップの甘味とレモンジュースの酸味で甘酸っぱさを演出し、キツいはずのシェリーを飲みやすくしてるのか。そしてその3つの土台のように、スコッチの旨味が全体を纏めあげる。ウィスキーベースのはずなのに、決して自分が目立とうとせず、縁の下の力持ちのように全体を支えてバランスを保つ。こういう一杯もあるのか。

「如何でしょう?」

「いや、美味いよ。勉強になった。」

 俺が率直な感想を述べると、早霜は照れ臭そうに頬を赤く染めていた。


 

 

提督の採用テスト・問2-2

 そういや、早霜のここで働きたい動機を聞いてなかったな。

「なぁ早霜。」

「何でしょうか?」

「何でいきなりBarで働きたい、なんて言い出したんだ?」

 幾ら人型駆動兵器と巷では揶揄されようが、艦娘とて軍人だ。毎月の給料は支払われるし、民間からの依頼をこなせば特別ボーナスが入る。金銭的には困っていないハズだ(一部を除いて)。

「そうですね……一言で言えば…夢、でしょうか。」

「夢?」

 カクテルを作る手を止める事なく、早霜は続ける。

「私、自分の作ったお酒を飲んで『美味しい』と言って欲しい方がいるんです。それに、もしもこの戦争が終わって平和になったら……小さなBarを開きたいんです。」

 成る程、要するに早霜の想い人ってワケか。

「しかし駆逐艦の連中も進んでいるんだなぁ。」

「……? 何がですか。」

 不思議そうに首を傾げる早霜。

「…だって、彼氏だろ?飲ませたい相手って。いやいや、重巡や戦艦、空母や軽巡なんかには浮わついた話も出ていたが、駆逐艦にもオトコがいる奴がいたんだなぁ。」

 早霜は開いた口が塞がらない、とでも言いたげな表情で目を丸くしている。

「あん?どうした早霜。早いトコお代わりくれよ。」

「あっ、あぁ……そうでしたね。」



『アーティスツ・スペシャル』は確かに美味かったが、いかんせんカクテルグラスじゃ量が少ない。早霜は何やらブツブツと言いながら作業を再開。使用するのはブラックニッカの8年物。北海道と宮城の2ヶ所の蒸留所で8年以上に渡って熟成されたモルトを、世界でも稀少なカフェ式蒸留機を用いて香り高く仕上げられたカフェグレーンを絶妙にブレンドした逸品だ。それをシェイカーに30ml。更に加えるのがレミーレッド。有名なコニャックメーカー・レミーマルタン社のコニャックに桃、杏、赤すぐりを配合した女性でも飲みやすい円やかで甘口のリキュールだ。更にカクテルの名脇役・オレンジビターズを1dash加える事で柑橘の香りと仄かな苦味をプラス。これをシェイクしていく。

「しっかし、いい手際だな。練習でもしてたのか?」

「えぇ、まぁ。夕雲姉さんや巻雲姉さん、長波姉さんや清霜相手なんかに作ってましたから。」

 氷を入れたタンブラーにシェイクし終えた物を注ぎ入れながら、早霜は受け答えしている。そして取り出したのはコーラ。プシュ、といういい音と共にプルタブを起こし、タンブラーに注ぐ。仕上げに手早くカットしたオレンジをカクテル・ピンに刺し、飾って完成。

「『赤ひげ』です。すぐに酔ってノビてしまうのですが、巻雲姉さんのお気に入りです。」

 ……何となく味の想像は付くが、まぁ頂こう。

「うん。予想通りに甘いな。」

 飲みやすいには飲みやすいが、どちらかと言えば女子向けな味だ。…まぁ、女の園であるココならば受けは良いだろうな。暁を始めとするお子様系には良さそうだ。

「そういえば提督、『赤ひげ』の由来はご存知ですか?」

 こちとらこんなカクテルは初めて飲んだ。知るわけねぇだろと突っ込もうかと思ったが、こういうバーテンの蘊蓄を聞くのもBarの一興か。

「いや、知らんな。」

「昔、映画に『赤ひげ』という作品があったのをご存知ですか?」

 確か、往年の名俳優が演じた、薬草調合の名人の医者の話だったか。

「それに、ブラックニッカのボトルに描かれた男性も赤い髭なんです。」

 まぁ、言われてみれば確かにそうだな。…ははぁ、成る程な。

「映画の赤ひげは薬草のブレンド名人、ブラックニッカの赤ひげは酒のブレンド、つまりはカクテルの名人、ってワケか。中々小洒落てるな。」

 ちなみに後に調べて解ったのだが、このレシピは日本の女性に飲ませたいカクテルの品評会で日本一を獲ったレシピらしい。不味いハズがねぇやな。作る時のコツとしてはコ〇・コーラよりもペ〇シコーラを使った方が美味く出来るな。
 〇カ・コーラはコークハイに代表されるようにウィスキーとの相性は悪くないが、カクテルとなるとあの独特のフレーバーが他のリキュールのフレーバーを邪魔してしまう。その為、俺個人としては〇プシコーラをお勧めする。……あ、ゼロカロリーは論外な。



 甘すぎる赤ひげに合わせて、塩の強いペコリーノ系のチーズをかじりながらやっていると、扉の外に人の気配。

「邪魔するぞ、提督。」

「おぅ、木曾じゃねぇか。第一海域突破お疲れさん。」

 当時改二に成り立てでまだマントもサーベルも真新しい木曾が入ってきた。

「私も居るのだがな、提督。」

 木曾にだけ反応したのに不満そうに、もう一人艦娘が入ってきた。黒い長髪を後ろで1本に束ね、折角の良い顔立ちを不機嫌そうに歪める。

「なんだぁ?お前明日は出撃だって言ってあっただろが。何でまだ飲んでんだよ、那智。」

「仕方なかろう?木曾が無事に第一海域を突破したら、一杯奢るという約束だったのだ。」

 瞬間、カウンターの方からバリン、とグラスの割れる音がした。見ると、あの冷静沈着・鉄仮面の早霜が、顔を赤くしてアワアワしている。

「なっ……ななななな那智さん!?な、何故ここに…。」

「何故って……ここはBarだろう?酒を飲みに来たんだ。何か可笑しいか?」

 何を当然な事を、とでも言いたげな表情で、早霜の問いに答える那智。…ははぁ、読めたぞ。さっき早霜の言ってた『酒を飲ませたい人』ってのは、オトコじゃなくて那智の事だったのか。まぁ確かに、那智と早霜は縁が深いからな。

 太平洋戦争当時、駆逐艦『早霜』の最期を看取ったのは、那智の水偵だったそうだ。それでときどき、水偵が飛んでいると眩しそうに空を見上げている事がある、と早霜の姉である夕雲から報告は受けていた。…そうだ、私にいい考えがある。

「おぉ、丁度いい所に来たなぁ二人とも。…実はな、今新しくウチの店にバイト入れようと思ってな?」

「ほぅ?」

 興味津々、といった様子の那智が早霜の目の前に座る。木曾は俺を挟んで那智の向かいに座る。

「そこで、だ。二人は中々酒の好みは五月蝿いだろ?だから、バイト候補の早霜の試験に付き合ってくんねぇか?」

 えっ、と驚いた様子の早霜。動揺が隠せない、といった感じだ。

『おい待て提督、どういうこった?』

 俺の耳元で木曾がこしょこしょと話しかけてきた。やめろよ、くすぐってぇわ。

『説明は後だ、今は取り敢えず話を合わせろ。』

『……解った、キッチリ聞くからな?』

 こういう時の理解力の高い奴は助かるぜ。

「あ~、那知さん。折角だ、俺達も早霜の試験に協力してやろうぜ。」

「フフ、私も構わんさ。但し、評価に手抜きはしないからな。全力で来い、早霜!」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 あ、噛んだ。なんだこの可愛い生き物。 

 

提督の採用テスト・問2-3

 早霜は何をそんなに上がっているのか、ガチガチに緊張して固くなっている。

「早霜、あまり緊張するな。肩の力を抜け。」

「は、はいぃ……。」

 那智にリラックスしろと言われてはいるが、先程までの妖艶でミステリアスな雰囲気はどこへやら、その怯えたような表情は、まるで雨に打たれて衰弱したずぶ濡れの子犬のようだ。ぶっちゃけた話、可愛い。

「で、では何かリクエストは有りますか?」

 少しは平静を取り戻したか、那智と木曾に尋ねる早霜。俺は敢えて第三者の視点から観察させて貰おう。

「そうだな。ベースの酒はウィスキーがいいな。出来れば達磨を頼む。」

 那智はホントにウィスキー好きだな。それもほとんど達磨。前に聞いたら、

『し、仕方なかろう!私は達磨以外のウィスキーに馴染みが無いんだ。古臭い女で悪かったなっ。』

 と、拗ねられてしまった。誰も悪いとは言ってないんだがなぁ。

「俺は何でもいいんだが……そうだな、スッキリした飲み口の方が嬉しいかな。」

「わ、解りました。では……。」

 早霜はそう答えて、先程とはうって変わってぎこちない手つきで準備を始めた。

「しかし、世界と比べて日本のウィスキーというのはどうなんだ?美味いのか?」

 ウィスキーの瓶を眺めながら、木曾が頭に浮かんだ疑問を口に出した。

「美味いんじゃないか?何せ日本のウィスキーは『世界5大ウィスキー』に数えられる位だからな。」

 日本のウィスキー、ジャパニーズウィスキーと大別されるらしいが、スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアンと並ぶ5大ウィスキーに数えられるらしい。実際、ウィスキーの世界的な品評会なんかでも世界一を獲ったりしてるしな。

「ほぅ、そうなのか。ならわざわざ他国のウィスキーは飲まなくてもいい、という事だな!」

「いや、その理屈はおかしい。」

 なんてアホな会話を交わしている間に、早霜の作業はかなり進んでいる。

 ミキシンググラスに氷を入れて、そこに達磨を36ml。更にドライベルモットを12ml、ポートワインを12ml、オレンジビターズを1dash。これをゆっくりとステアしていく。

「そういえば提督、ポートワインって美味しいのか?」

「は?何だよ藪から棒に。」

「いや、この間足柄が合コン帰りに買ってきていてな。羽黒が貰って飲んでいたのだ。それもお代わりして。」

 羽黒の話は聞いていた。ウチには珍しい下戸の艦娘。飲めなくは無いのだがアルコールに弱いらしくあまり飲めないらしい。

「フム。飲みやすいかは知れんが、ポートワインは普通のワインよりも度数が高いハズだ。」

 ポートワインとは、ポルトガル北部特産のワインで、別名酒精強化ワイン。ワインの発酵途中に葡萄から作られたグレープ・スピリッツと呼ばれるアルコールを添加し、発酵を止めて葡萄の甘味を残すように作られる物だ。必然的に甘いが度数の高いワインに仕上がる。

「そのせいか。羽黒が淫らになったのは。」

 おいおい、穏やかじゃねぇ会話が出たぞ。

「羽黒が酔っ払うと近くにいる人に絡み付いて甘えてくるんだ。お陰で一人で飲みに行かせるワケにもいかん。」

「あぁ、よく見張っといてくれ。」

 なんて会話を交わしている内に、目の前にカクテルグラスが置かれている。

「『アイアン・レディー』です。イギリスの女性首相・サッチャーをイメージして作られた一杯です。」

 では、いただきましょう。



「うん、スッキリした口当たりだ。」

「ワインとウィスキーの組み合わせ……アリだな、これは。」

 確かに美味い(悔しいが)。ワインの甘い口当たりに母親らしき母性を感じつつ、ウィスキーのガツンとくる風味に意思の強さを感じる。確かに『鉄の女』と呼ばれたサッチャーのイメージピッタリだ。

「さて、お次は何を?」

 一杯作って緊張がほぐれたか、早霜は此方に尋ねてくる。

「そうだな、では春先の洋上はまだ寒い。暖かい一杯を貰えるか?」

 憧れの那智からのリクエスト。早霜はどう答える?

「…提督、コーヒーを淹れる機材は有りますか?」

 ホットコーヒーと聞いた瞬間、俺はピンと来た。あの一杯を出すつもりか。

「あぁ、あるぞ。コーヒー淹れるのは俺がやろう。」

 コーヒーとウィスキー。よく紅茶とウィスキーの組み合わせは聞くが、コーヒーはあまり聞いたことが無いだろう。

「あ、コーヒーはブラック以外で頼むぜ?」

 おやま、木曾から意外な注文。ブラック飲めないのか。

「天龍は意地張って飲めないクセに、ブラック飲んで大人ぶってるからな。俺は見栄なんて張らずに自然体でいたいのさ。」

 いい心がけだ。どこぞの見栄っ張りビッグセブンに爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか。そんな事を考えながら、ゆっくりと豆を入れたフィルターに湯を注いでやる。一方早霜はアイリッシュ・グラスを準備し、それぞれにカルーアを15mlずつ注ぐ。そこにホットコーヒーを適量注ぎ入れ、更にアイリッシュ・ウィスキーを倍の30ml注ぐ。コーヒーの後に注ぐのはウィスキーの香りを飛ばさない為だな。ウィスキーを入れたら軽くステア。そこに適量の砂糖を加えてホイップした生クリームをフロートしたら出来上がりだ。

「『アイリッシュ・コーヒー・ア・ラ・カルーア』です。ブラックコーヒーが苦手との事でしたので、少し甘めに仕上げてみました。」

 本来は泡立てていないクリームを浮かべるのだが、今日は少しだけアレンジを加えた。カルーアを加えない『アイリッシュ・コーヒー』というレシピもあるんだが、カルーアを入れるとコクと深み、それにローストしたコーヒーの香ばしい香りが加わって更に美味しくなる。秋から冬にかけての寒い時期に、コーヒー党の人には是非試して貰いたい一杯だな。 

 

提督の採用テスト・問2-4


 さて、早霜に課したカクテル10種類の内、7種類が完成した。残り3種類、どんなカクテルを出してくれるのやら。

「では、今度は地名のついた一杯をご賞味いただきます。」

 そう言って早霜はシェイカーに氷を入れていく。そこに注ぐのはバーボン・ウィスキーを45ml。

「そういや、バーボンって結構色んな漫画に出てくるよな。」

 木曾が突然そんな事を言い出した。そうか、木曾も俺の漫画コレクションを貸してやってる一人だったか。

「確かにな。某格闘漫画の素手喧嘩ヤクザなんか、ワイルドターキーをがぶ飲みするし、ルパン一味の次元はバーボンしか飲まないこだわりの男だしな。」

 そう考えると、案外バーボンって有名な酒なんだと改めて認識させられる。

「そういえば、以前読んだ……『ジパング』、だったか?にバーボンはトウモロコシで作った焼酎だ、という記述があった気がするのだが……そうなのか?」

 まぁ、焼酎もウィスキーも同じ蒸留酒だし、バーボンの主原料はトウモロコシだ。間違ってはいないが……。

 そんなバーボンの無駄知識談義をしている間に、早霜の作業は進んでいる。バーボンの次はライムジュースを15mlか。うん、悪くない取り合わせだと言えるだろう。

 バーボンやライ麦を主原料としたライ・ウィスキーは、大麦や小麦を主原料とした物よりも香ばしい香りが立つ。それにフルーティな香りと甘味はよく合うだろう。更にグレナデンシロップをティースプーンで半分。更にパウダーシュガーをティースプーン1杯。仕上げとばかりに輪切りにしたオレンジを1枚、軽く搾ってからシェイカーに沈め、そこからシェイク。

 ひとしきりシェイクが終わり、カクテルグラスにシェイカーの中身を注ぐ。すると、朝焼けのように鮮やかな黄色に近いオレンジ色の液体が姿を現した。

「『ニューヨーク』です。同名の街に昇る朝日をイメージした一杯との事です。」

 うん、ライムとザクロ、そしてオレンジの香りが凄くマッチしている。飲み口もくどい甘さはなく爽やかな口当たり。飲みやすくていいな、コレは。

「いいねぇ、こういうの。球磨姉ぇとか多摩姉ぇとかも好きそうだ。」

「うむ、これくらいならば羽黒にも飲ませられるやも知れん。」

 お二方にも好評なようだ。早霜、嬉しそうに笑ってて頬が緩んでるぞ。



「少し甘いカクテルが続いて口の中をさっぱりさせたいな。……早霜、出来るだろうか?」

 他ならぬ憧れの那智からのリクエスト。応じない訳にはいかないよな。

「はい、お任せください。」

 少し鼻息荒く、早霜が請け負った。入れ込みすぎはあまり良い結果には結び付かんのだが……大丈夫か?

 一抹の不安を覚えた俺をよそに、早霜は手際よく準備を進める。どうやら今度も、シェイカーを用いた一杯らしく、先程使ったシェイカーを洗っている。

「しっかしなぁ。まさか駆逐艦の中にもこんなに酒に通じた奴がいるとはねぇ。」

 感心したように木曾が早霜を誉める。少し照れたのか、色白な頬に紅が差した。

「いや、実際大した物だ。これなら提督よりも腕前がいいかもしれん。」

 おい那智よ、それは聞き捨てならんな。

「ほぅ?なら、那智は俺の作った料理は食いたくねぇ。そういう事だな?」

 瞬間、那智は焦ったように首を左右に振る。

「なっ、だ、誰もそんな事を言っていないではないか!」

「そうだよな~、妙高型の四姉妹の中で唯一と言って良いくらい家事全般出来ないもんなぁ、那智の姉御はw」

 俺のキラーパスに木曾が追い討ち。そう、那智は凛々しい何でもデキる女に見えるがその実、家事全般が極端に苦手だ。一般男性と結婚した妙高を筆頭に、(性格はともかく)女子力の高い足柄、自信が足りないが良妻賢母になりそうな羽黒と、仕事以外もそつなくこなす姉妹に比べて、那智の私生活は惨憺たる物だ。

 料理は比叡や磯風のようなバイオ兵器……とまではいかないが、およそ料理と呼ぶには難しい物が出来上がる。黒焦げの肉塊とか、味のない野菜炒めとか、飲めない程にしょっぱい味噌汁とか。

 部屋も話にしか聞いてはいないが、酒瓶や着替えが転がり、妙高曰く『男やもめのワンルーム』のような有り様らしい。洗濯も機械に弱い那智がやると大惨事になるらしいから、足柄か羽黒が纏めてやっているらしい。そんな状態なので、実は妙高型姉妹の中では『売れ残る』のは那智ではないか?と真しやかに語られている。

「いっ、いいんだ!私が稼いで主夫をしてくれる男を捕まえるから私はそれでいいんだっ!」

 ダン!とカウンターを叩く那智。そのあまりの迫力に、俺と木曾は

「「お、おぅ……」」

 と答える他なかった。

「まぁまぁ、那智さんも落ち着いて下さい。こちら『ハリケーン』となっております。どうぞ、召し上がれ。」

 ハリケーンとは凄いネーミングのカクテルだな。俺も初めてのカクテルだ。口に一口入れた瞬間、強いアルコールと酸味、そして清涼感が一気に襲ってきた。まさにハリケーン。

「ケホッ、す、凄いなコレ……」

 一気に煽ったらしい木曾がむせかえっている。

「お好みのウィスキーにドライ・ジン、レモンジュースとペパーミントホワイトを同量混ぜた物です。如何です、スッキリしたでしょう?」

 眠気覚ましにもなりそうな、強烈な一撃を貰ったよ。ウィスキーにジン、そしてペパーミントリキュール。アルコール度数もかなり高いだろう。



 さて、いよいよラストだ。

「最後は……そうですね、少し故郷を懐かしんでみましょうか。」

 早霜は悪戯っぽくクスリと笑うと、早速準備を始めた。取り出したのはカナディアン・クラブのボトル。結構有名なカナディアン・ウィスキーだな。ライ麦を主として、他の香りを付けたフレーバードウィスキーと、トウモロコシを主として作られたウィスキーをブレンドして作られ、一年以上の熟成をする事でも有名だ。……え、バーボンじゃねぇのかだって?バーボンはトウモロコシの割合が50%以上で80%より下の物を指すんだ。カナディアン・クラブの材料のウィスキーは50%以下だからバーボンではない。味と香りのバランスがよく、飲みやすく、カクテルにもしやすい。有名なカクテルの『マンハッタン』のベースリキュールとしても有名だ。

 そんなカナディアン・クラブを、氷を入れたコリンズグラスに30ml。そこに出てきたリキュールは、俺の店のボトルじゃねぇな。

「これは私の私物のリキュールです。中々面白いフレーバーですよ。」

 早霜がその瓶の蓋を開けた瞬間、懐かしい『あの』香りが漂ってきた

「こ、これは……!」

「桜か!」

「そうです。桜の花弁と葉を漬け込んだ桜リキュールです。」

 いやはや、桜リキュールとは恐れ入った。それを15ml、カナディアン・クラブの入ったグラスに注ぐ。仕上げにトニックウォーターで割り、清涼感と微炭酸で爽やかさをプラス。

「出来ました、『C.C.桜(カナディアン・クラブ・さくら)』です。」

 口に運び、香りを楽しむ。桜の芳醇な香りと、熟成されたC.C.の香りが堪らない。これは……いいな。見ると、那智の目にはうっすらと光るものが。日本が恋しくなったか。生まれも育ちもブルネイのはずだが、やはり魂の奥底に眠る記憶に響いたのかな。

「いや、素晴らしいバーテンぶりだったよ早霜。文句なしの合格だ。俺の忙しい時は、代理店長頼んだぞ。」

「フフフ……承りました。」

 那智が不意に立ち上がると、飲み代をおいて立ち去ろうとしていた。

「少し飲みすぎたようだ。そろそろ寝る事にするよ。早霜、『美味かったぞ』。ではな。」

 涙を見られたくないから強がっちゃってまぁ……。こっちの小さなバーテンは、

「う……うわああぁぁぁぁ……!」

 嬉しさのあまりに泣いちゃってるし。翌日、事情を聞いた木曾に弄られて顔を真っ赤にしていた早霜が強烈に可愛いと思ったのは、また別のはなし。 

 

提督の休日・1

「う……今何時だ~…?」

 寝惚け眼で枕元の目覚ましを眺める。時刻はおよそ午前11時。そろそろ起きないと執務に影響が出る頃だ。ゆっくりと上体を起こし、ん~…と背中を伸ばして、左右に捻る。背骨が伸ばされてコキコキと鳴る音がする。艦娘だけでなく俺自身のメンテナンスも考えないとな……等とボーッと考えていると、机の上のメモ書きが目に止まった。

『輸送作戦完遂お疲れ様でした。本日は新規着任の艦娘のオリエンテーリングとなっております。どうぞ、普段の疲れを癒してきて下さい。    大淀』

 そうか。昨日は輸送作戦完遂記念で祝勝会やったんだったか。最終海域を突破した後も、新型の駆逐艦の船霊回収の為に出撃を繰り返していたが、どうにかそれも成功してそのままの流れで店の閉店時間の朝6時まで飲み明かしたんだっけか。そのせいもあってか、頭が重い。酒が残っていて二日酔い、とまではいかないが不調をきたしている。

「取り敢えず、風呂いくか……」

 着替えを持ち、重い足取りで入渠ドック……もとい風呂へ向かう。『提督使用中』の札を提げて脱衣場に。中は衣類かごをみる限り誰も居ないようだ。

 俺が着任したての頃、一番に手を付けたのが風呂の改装だった。味気ないシャワールームのようだったのを、温泉旅館の大浴場並みの施設に改造。疲労や傷を癒す事は、艦娘の士気の向上に繋がる、と考えての事だった。

「あ゛~…生き返るぅ~……♪」

 湯を張ったばかりの浴槽にざぶん、と浸かるとザバ~っと浴槽から湯が溢れる。贅沢だが、たまにはいいだろう。しかし、寝不足と軽い過労もあったのか、また…眠く…なって……zZZ……。



 ……ん?誰だよ、ほっぺ突っつき回してんのは。それも両サイドから。折角人が気持ちよく寝てんのに…

「鬱陶しいわっ!……あれ?」

「あ、漸く起きましたよ加賀さん。」

「提督、おはようございます。…ですが、浴槽で寝るのは危険だと思いますが?」

 見ると、俺の両サイドには一航戦の赤城と加賀が。どうやら、浴槽で寝ていた俺を突っつき回していたらしい。

「OKわかった、取り敢えずお前らに聞きたい事が3つある。」

「何でしょう?」「答えられる質問ならばお答えします。」

「まず1つ目。何でこんな朝っぱら(昼だけど)から風呂に?」

 今日は大規模作戦の翌日。ほとんどの艦娘は非番のハズだ。

「新人のグラーフさんとの練習終わりです。」

「汗をかいたので、それを流しに。」

 ドイツから派遣された大型空母・グラーフ・ツェッペリン。どうやらその実力が見たいと射撃場に誘ったらしい。その腕前は悪い物では無かったようだ。

「んじゃ2つ目。『提督使用中』の札、俺提げておいたよな?」

 二人は?と首を傾げている。

「それがどうかしました?」

「別に私達、提督が入っていようと気にしないわ。見られて恥ずかしいような身体をしてはいませんので。」

 いやいや加賀よ、そんなどや顔で言われても。確かに眼福な光景ですよ、否定しませんよ。けどね、少しは恥じらってくれ。仮にも乙女だろうに。

「それじゃあラスト。…何でお前らタオルすら巻いてないワケぇ!?」

 そう。赤城も加賀も生まれたままの姿……要するにすっぽんぽん。しかも俺にしなだれかかっているワケですよ、現在進行形で。体のそこかしこにムチムチプニプニの感触があるんだよ。もうね、朝っぱら(だから昼だけど)から堪らなくなるでしょうが!何がとは言わないけどさ。

「あら、良いじゃないですか♪」

 赤城が満面の笑みで答える。それに加賀も続く。

「カッコカリとは言え、私達は婚姻関係です。提督の嫁です。夫に裸体を見られる事に何か問題でも?」

 いや、無いよ?無いんだけどさぁ……。

「あ、そうだ!もしもアレでしたらこれから3人で夜戦(意味深)しましょう!今日はお休みですし、時間もたっぷりありますよ♪」

 オイ待てこら、何でいきなりそんな話になる。確かにケッコンカッコカリした艦娘となら、そういう関係になる事は認められてるし、俺も男だ。嫌いではない。

「私達も暫くお相手頂いてないので溜まってるんです。さぁ、そうと決まれば早速。」

 いや決まってねぇよ!?やめろ加賀、手を離せ!このままだと鎮守府の 風紀が 乱れる!

「すまんがな。今日は外出の予定があるんだ。相手はまた今度な。」

 そう言ってそそくさと風呂を後にした。浴槽の方からは、

「チッ、取り逃がしましたね……」

「でも、また今度な…という事は今度の相手は私達ですよ♪」

 なんて、不穏な会話が聞こえてきた。勘弁してくれよ、全く……。



 赤城も加賀も気立てはいいし、美人だし、良い身体をしている。申し分無いんだがいかんせん、食欲以外にアッチの方も旺盛なもんだから、2人いっぺんに相手となると限界まで絞り取られる。翌日足腰立たなくなる事を覚悟しなくてはいかん。それに今日は、久しぶりに街に出ようと考えていたのだ。

 一旦部屋に戻り、車の鍵を持って建物の外に。ちょうど時刻は正午頃だ。街に出て昼飯がてらブラブラするか。

「テートク~っ!」

 お、誰かと思えば。

「どうした金剛?今日は姉妹でお茶会じゃないのか?」

 ウチの鎮守府嫁艦筆頭、金剛が愛車の影に隠れていた。しかも、いつもの巫女さんみたいな服装ではなく、動きやすそうなキャミソールにミニスカ。正直目のやり場に困るが、流石に私服のセンスはいいな。

「Uh~……そのつもりだったんですケド、比叡は溜まったアニメの消化、榛名は伊勢達とショッピング、霧島は朝から居なかったデース……。」

 シュンとなって落ち込んだ金剛。心なしかアホ毛も萎れて見える。やっべ、可愛い。

「ケド、これはチャンスだと思ったのデース!テートク、私とデートしましょう!」

 なるほど、いつも姉妹でいる事が多いし、最近構ってやれてなかったからな。それで俺が外出すると踏んで、車の横に待機してた、ってわけだ。

「あぁ、良いぞ。…さぁ乗った乗った。」

 俺は愛車のR-35(黒)の助手席に金剛を座らせると、エンジンに火を入れた。 

 

提督の休日・2

「そういえば金剛、お前昼飯は?」

 R-35を運転しながら、助手席に座る金剛に尋ねた。非番の日には早めに昼食を済ませて午後の時間を長めに取る者が多い。

「私もランチはまだですヨー。」

「そっか、何か食いたい物とかあるか?奢るからさ。」

「ん~……。私あまり街に下りた事が無いんですよネ~。」

 そうなのか、知らなかった。

「なので、テートクお奨めのお店を教えて欲しいデース!」

 俺のお奨めか。何にするかな……。

「あ、あそこのカレーにするか。」

「カ、カレーですか…私もう少しオシャレな所が……。」

「安心しろ金剛、お前が喰った事ないカレーだろうから。」

 そう言って俺はハンドルを目的の店に切った。

「よぅオバチャン、久しぶり~。」

 鎮守府から車で10分程走った所に、その店はある。少しエスニックな雰囲気の佇まいの、半分屋台のような見た目の店だ。

「タイ料理、ですか……。初チャレンジデース…」

 初めて食べる国の料理って、意外と不気味に感じる物なんだよな。判るわ、金剛の不安。腕に思いっきりしがみついてきて、腕に柔らかい感触が当たる。ちょっとラッキー…かな?

「アラテイトク、久しぶりダネ~!」

 出てきたのは日に焼けた元気のよいオバチャン。タイの人なのだが、昔日本にも店を出していた事があるらしく、微妙な片言の日本語とグイグイ来る押しの強い性格が特徴。けど、料理の腕は抜群だ。

「ソッチ彼女?釣り合ってナイヨー。」

 美女と野獣ダヨー、と(ヾノ・∀・`)こんなリアクションのオバチャン。余計なお世話だっての、ったく……。

「取り敢えずグリーンカレー2人前と、パッタイ1人前。デザートは後で頼むよ。」



 厨房に入っていったオバチャンから、アイヨー!と威勢のいい返事が飛んでくる。天気もいいので外に設置されたテラス席で食べる事に。

「テートクはよくここに?」

「いんや、たま~にな。たまの休みには街の新しい店とか、発展具合とか。皆から情報仕入れたりして回って歩いてるんだ。」

 この街だって最初は酷いもんだった。深海棲艦・大国からの圧力・海賊紛いの横行……。俺が着任したての頃は治安も最悪だった。しかし帝国海軍がブルネイの石油資源に目を付けたのが全ての始まり。恒久的な石油の提供を引き換えに、鎮守府を置いて艦娘を主とする艦隊を駐留させる契約を結んだのが、『あの』美保鎮守府の提督が活躍した辺りの話。俺はその何代か後の司令として、着任したってワケだ。帝国海軍が駐留するようになってから周囲の制海権は確保され、シーレーンが復活。そのお陰で『安全』が生まれ、『安全』がある所には人が集まる。そうやって荒んだ街は復興を遂げ、更なる発展をみせた。

「オマタセー!グリーンカレーとパッタイダヨー。」

 オバチャンが料理を運んできた。グリーンカレー(正確にはゲーンキャオワーンというらしい)にタイ米、それとタイ風焼きそばのパッタイ。

 ゲーン・キャオ・ワーンってのは、タイ語でそれぞれ、汁物、緑、甘いという単語を示しているらしい。多数の香辛料やハーブを磨り潰したペーストを炒め、そこにココナッツミルクやナンプラー、砂糖と具材となる野菜(主に豆茄子やタイ茄子、赤ピーマン等)、肉、海老、魚等を煮込んで作る。今日はチキンに茄子、赤ピーマンのカレーだ。

「Oh…なんだか比叡の作るカレーのような色デスネー……。」

 食欲失せるような事を言うなよ、ったく。これが緑なのはコリアンダー(別名パクチー・香菜)や青唐辛子を始めとする緑色のハーブを使うからだ。比叡のカレーのように意味もわからず緑色のカレーとはワケが違う。

「ま、味は保証するよ。さぁ食おうぜ。」

「「いただきます。」」

 タイ米の器に、サラサラとしたスープ状のルーをスプーンでかけてやり、口へ運ぶ。ピリッとした辛味が走った後、ココナッツミルクの円やかさが後から追ってくる。インドが源流の欧風カレーや日本のカレーと違い、瞬間的な辛味のインパクトはグリーンカレーの方が上だな。けど、持続的なヒリヒリという辛さはない。一瞬でスッと消える。

「久しぶりだけどやっぱ美味いなここのは。」

「け、結構hotですネー……。」

 いいよ金剛、無理してそんな汗垂らしながら食べなくても。

「こっちのパッタイなら辛くないから、こっち食えよ。」

「そうするヨー……。」

 ハヒハヒ言いながらパッタイを啜っている。米粉を使った太目の麺を使い、卵に干しエビ、鶏肉、もやしや砕いたピーナッツ等を具材として、タマリンドというフルーツの果汁やナンプラーで味付けした焼きそばだ。辛くはない。

「うぅ~!酸っぱいネー!」

 ライムを搾ってあるから酸っぱいけど。



「も~!酷いですよテートク~!」

「悪い悪い、まさか辛いのも酸っぱいのもあんなに苦手とはなぁ。」

 む~!と頬を膨らませたまま拗ねている金剛。

「アララ~、テイトク酷い男ダネ~。」

 オバチャンがドリンクとデザートを持ってきてくれたらしい。

「ホラ、これでも食って機嫌治せよ。」

 差し出したのはサンカヤーというココナッツミルクを用いたカスタードプリンと、タピオカ入りのミルクティー。ブスッとしたまま、プリンを頬張り、ミルクティーを啜る金剛。

「どうする?こんな酷い男は放り出して帰るか?」

 ニヤリと笑いながら金剛に尋ねてみる。何となく答えは解ってるけどな。

「うぅ~…ハァ。こんな酷い男に惚れた私の負けネー。」

 金剛は溜め息を吐いて、サンカヤーを再び頬張った。クックッと笑いながら、俺もミルクティーを飲む。そう、互いに互いの想いはさんざん解っているんだ。けれど、あと一歩、あと一歩が踏み込めずに今のような歪な関係が数年続いている。

『……いい機会だ、ついでにプロポーズしてみるか?』

 突然の思い付きのようにそんな事を考える位には、な。 

 

提督の休日・3

 昼飯を終えた俺と金剛は、再びR-35に乗り込んで走り出す。この後の予定としては買い物を2、3軒というつもりだったが、金剛のリクエストも聞かなけりゃあな。

「金剛、見て回りたい場所とか、欲しい物とかあるか?」

「ンー?私が欲しい物ですか?私、テートクが欲しいです。」

 ……おい、いつものハイテンションなエセ外国人口調どこ行った?

「おいおい、口調忘れてんぞ。」

「テートク、私大真面目なんですよ?」

 助手席から強い眼差しを感じる。……勘弁してくれ、そういう視線に弱いんだ。

「まぁ、取り敢えず適当にぶらつくか。」

 む~、と金剛がむくれているのがわかる。まぁ走ってる内に寄りたい所も出てくるだろう。まずは元々の目的である俺の用事を済ませてしまおう。



「よぉおっちゃん、なんかいい出物入った?」

「あぁアンタか。珍しいねぇ女の子連れなんて。デートかい?」

 またこのパターンかよ。まぁ普段は女っ気がないのは認めるし、隣にいるのは(カッコカリだが)奥さんだし、間違っちゃいないんだが。面と向かって言われると何か気恥ずかしい物がある。

「まぁ、そんなトコかな?……で、何か面白い物は入った?」

 訪れたのは日本から調味料や食材を輸入してる問屋。日本人街もかなりの規模だから、ここ以外にも問屋は存在する。けれど、ここのオヤジは珍しい調味料や食材を多く仕入れる変わり者らしい。俺もそういったスタンスの店は嫌いじゃないのでちょくちょく使わせてもらっている。

「そうさなぁ……あぁ、今日広島から『れもすこ』入ったよ。それに『ゆずすこ』に『しょうがすこ』、『わさすこ』も入ったね。」

「お!結構奮発したじゃん。」

 俺の嬉しそうな顔を見ると、オヤジはニヤリと笑いながら、

「そろそろ君が来る頃だろうと思ってね。お得意様だから頑張ったよ。」

 はっはっは、と快活に笑うオヤジ。白髪に獅子鼻と中々特徴的な顔立ちだが、仕事は凄い。よくもまぁこれだけ珍しい品を見つけるもんだ、と感心する。

「じゃあ……さっきの4種類1ケースずつと、『ドロソース』に『にんにく七味』。あ、それと『しょース』ももらおうかな。」

「毎度。届け先はいつもの通り鎮守府だね?」

「うん、宛名は俺宛でいいから。」


「しっかし、鎮守府の主計科も大変だねぇ。」

 その言葉を聞いて、金剛がピクリと反応した。

「Hey!この人はコックじゃないデース!この人は提とk……」

 瞬間的に金剛の口を抑えて黙らせる。俺はこの店では鎮守府勤めの主計科職員、って事になっている。

 ちゃっちゃと会計を済ませ、店を出る。その間、金剛は呆気に取られたようにポカンとしていた。

「テートク!何で嘘つくんデスか!」

「バカだなぁ、海軍ってだけでこの辺の人達は気ぃ使うんだ。ましてやそこの長たる提督が店に来た、なんて言ったら俺が気軽に来難くなるだろうが。」

 ここの日本人街の人達は、基本的に海軍……というより艦娘に友好的だ。本土の方じゃあ偏見が強い地域もあるらしく、苦労している鎮守府もあるらしい。だが、ここブルネイの地は土地柄や安全保障の絡みで日本との繋がりが深い。過去には沿岸部を使って演習が行われた、なんて記録もある(そこに美保鎮守府の面々が参加していた、という記録も)。そんな土地なモンだから、鎮守府勤めの人は一般職員でさえ凄く尊敬される。そんな所にトップである俺がふらついていたらすぐに気軽には出かけづらくなる。だからこそ、俺は身軽なままで出歩きたいのだ。

「さ、次行くぜ~♪」

「ハァ……。」

 その後も俺は本屋で欲しかった本をまとめ買いし、馴染みの酒屋でBarの酒を仕入れた。時刻は午後2時を回った所。そろそろ一服を入れてもいいが、金剛もそろそろ行きたい場所が出てきた頃だろう。

「テートク~、私行きたいお店があるんデスけど。」

「おぉいいぞ、どこだ?」

 その瞬間、金剛の浮かべた悪戯っぽい笑みを、俺は見逃してしまったらしい。

「場所はナビゲートするデース!テートクは私のナビゲートに従って運転して下サーイ!」

「お、おぅ。」

 妙に元気になったな、と少し不穏に思いつつも、俺はナビゲート通りに車を転がした。



「さぁテートク~、今度は私のショッピングに付き合ってもらうデース!」

「いやいや、流石にここは不味いだろうよ……」

「何でデスか~?テートクの好みが大事な物デスよ?」

「だからってランジェリーショップに男連れは不味いだろうがっ!」

 金剛に引っ張って来られたのはランジェリーショップ。確かに見せる相手は俺くらいだろうけれども、一緒に店に入って選ぶのはちょっと……。

「アラ~?意外とテートクも意気地無しデスね~w」

 やれやれ、といったオーバーアクションで金剛がこちらを煽ってくる。だがこんな挑発に乗っていたらコイツを始めとするウチの嫁艦共の相手はしていられない。

「Uh……釣られませんか。じゃあテートク、色の好みだけ聞いておくネー。」

「……………………黒で。」

「OK、楽しみにしとくネー。」

 そう言ってクスクスと笑いながら、金剛は一人でランジェリーショップに入っていった。全く、からかいやがって。

「さて、俺は今の内に……。」

 俺は店に金剛を残し、R-35を走らせた。向かうのは宝飾品店……ジュエリーショップだ。気付かれないように指輪を手に入れ、サプライズのプロポーズをする為だ。サイズは予めチェック済み、手抜かりは無い。

「全く、デート中の相手を置き去りにするなんて、普通許されないデスよ~?」

 またも頬を膨らませた金剛が、此方を見てプリプリと怒っている。俺が買い物をしている間に金剛が買い物を終えて、店から出てきて俺が居ない!と騒ぎになったらしい。

「だぁから、悪かったって謝ってんだろ~?買い忘れを思い出して買いに行ってたんだからよ~。」

「そんなの、後でいいじゃないデスか~…。」

 金剛は怒りを通り越して、若干涙目になっている。おいおい、泣くな泣くな。メイク崩れてたりしたら比叡に殺されかねん。

「悪かったって。お詫びにいい喫茶店連れてってやるから、それで許してくれよ。」

 そう聞いた瞬間、先程までの涙はどこへやら。既に心は喫茶店の方に完全に向いてしまっているらしい。こういう感情の起伏の大きさも、また可愛い所なんだがな。 

 

提督の休日・4

 
前書き
 糖分を要求された結果がこれである。反省はしていない。後悔はメッチャした。 

 
 金剛を連れてやって来たのは、メインストリートを少し外れた所にある少し古ぼけたような印象のある喫茶店。見た目は一見するとボロく見えるが、内装は年季は入っているが良く手入れされていて、洒落た雰囲気を醸し出している。マスターの料理の腕も確かで、コーヒー・紅茶もさることながら手作りだというケーキ類も絶品。更には軽食まで出してくれる。俺のお気に入りの店で、外出の際には必ず立ち寄っている。

「いらっしゃい。」

 店のドアを開けると、チリチリンとドアベルが鳴る。マスターはいつもの朗らかな笑顔で出迎えてくれる。有名人で言えば俳優の藤村俊二さんにソックリだ。店内には小粋なジャズが流れ、いつもながら落ち着いた雰囲気だ。

「て、提督!?なんでここに!」

 見知った顔が居なければ、だったが。



 面子は伊勢に長門、榛名に天城、ドイツ組のプリンツ・オイゲン。なんともまぁ珍しい取り合わせだな。

「いや、たまには嫁も構ってやらんと怒られるんでな。久しぶりにデートでも、と思ってな。」

 と、少し冗談めかして言ったら、伊勢が意地の悪そうなニヤーっという笑みを浮かべた。

「だってよ榛名ぁ、榛名も嫁艦なのにねぇ。お姉様ばっかり贔屓してると思わない?」

「そうですよアトミラールさん!ケッコンしてるなら皆平等に愛するべきです!」

 伊勢に続けと言わんばかりにプリンツの追い打ち。余計な真似を……と思っていたら、榛名自身が顔を真っ赤にして、

「い、いえ!榛名は提督とデートなんて……恥ずかしくて死んじゃいますっ!」

 そういえば、ウチの榛名は羽黒以上の恥ずかしがり屋だったか。執務中に手が触れるだけで顔を真っ赤にして書類を落とす位だったからな。一時期は嫌われてるんじゃないかと本気で悩んだが、金剛や比叡達姉妹、そして榛名本人の努力によって今は大分マシになった方だ(これでも)。実際、榛名とはまだプラトニックな関係が続いている。

「あ、そう?本人が納得してるならいいんだけどさぁ……。てか長門、アンタもいい加減にケーキ食べすぎだって!」

 さっきから一言もしゃべらんと思ったら、ケーキに夢中だったのかこのビックセブン(笑)は。

「ここのケーキが美味すぎるのがいかんのだ。」

 そう言いながらもフォークを動かす手は止めない。そんな長門を見て、おかしそうに笑う天城。よく見ると今日は、いつもの和服でもなくあの露出しまくりのチャイナドレス風の衣装でもなく、落ち着いた感じのカーディガンにチェックのロングスカート。タイツとロングヘアーはアップにしていて、なんだか別人のようだ。



「随分と珍しい取り合わせだな、一体何でこんな組み合わせに……。」

 伊勢達の座るボックス席の隣に腰掛けながら、そう訊ねてみた。

「いや~、実はね?天城がほとんど服持ってないっていうからさぁ。榛名と一緒にコーディネートしてあげようと思ってね?」

 コーヒーを啜りながら伊勢が言う。

「そこで、街の雑貨屋に向かう長門さんを見つけて。一緒に行く事になったんです。」

 口を付けていたレモンティーをコースターに置き、榛名が続けた。

「そうしたら暇そうに歩くプリンツを見つけてな。私が誘ったのだ。」

 先程まで食べていたモンブランを完食し、今度はミルクレープに手をつけ始めた長門がとどめとばかりに説明してきた。

「あ、あの……提督?天城の服装、変じゃないでしょうか…?」

 真っ赤になって俯き加減に、こちらに尋ねてくる天城。

「秋っぽくて良いと思うぞ?折角可愛いんだからもっとお洒落を楽しんだ方が良いぞ。」

「そっ、そうですか!天城、頑張りますっ!」

 こういう素直な娘なんだよな、天城って。そして金剛やテーブルの向かいから脛を蹴るな、地味に痛い。



「さてお二人さん。お喋りもいいけどご注文は?」

 話に夢中になりすぎて、すっかり忘れてた。

「ストレートティーとチョコレートタルト、お願いしマース。」

「カフェモカとチーズケーキ。豆はお任せで。」

 マスターはペコリと頭を下げ、厨房の方に引っ込んでいった。昔はコーヒー頼むと烈火のごとく怒られたモンだかな。『あんな泥水、飲む価値ありまセーン!』とか言ってな。今は漸く理解力を持ってくれたのか、それとも諦めの境地に到ったのか、どっちか解らんが文句は言われなくなった。まぁ、それだけ長い時間を一緒に過ごしてきた、って事か。

「お待たせしました、チョコレートタルトと紅茶です。」

 金剛の注文が先に来た。気にせず食べろ、と勧めてやる。チョコレートタルトにフォークを入れる。チョコレート生地はフォークを押し返す事なくスッと受け入れ、タルト生地は逆にフォークを押し返さんばかりに堅め。しかしザクッ、という音を立ててタルト生地はフォークに両断。それを口に運ぶ金剛。入った瞬間、

「~~~~~~~~っ!」

 声にならない悲鳴をあげた。そのくらいここのケーキは美味い。甘すぎず、しかし苦すぎず、そしてしつこくない。そのバランスが絶妙で、1つ1つの仕事の丁寧さを窺わせる。そしてそれがドリンクにマッチするんだよな。どれにでも。

「ん~っso happyデース!」

 ホントに美味そうに喰うなぁ、コイツ。俺も食いたくなってきた。

「おい金剛。」

「ンー?なんですカー?」

「一口くれ。」

 金剛は聞くや否やにま~っと笑い、

「仕方ないネー……。はい、あ~ん♪」

「あ~……」

 しかし、金剛のフォークは突如踵を返し、金剛の口に入った。

「あっ‼てめ……」

 しかし次の瞬間、俺の口は塞がれた。金剛の口が俺の唇に覆い被さり、口の中にチョコタルトが押し込まれて来た。

「どっ、どうですカー?スペシャルでショ~…?」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがってるクセに何をしてくれやがりますかこの高速戦艦は。

「………………恥ずかしいから、外でやるな。こんな事。」

 沸騰した頭では、それを絞り出すのが精一杯だった。そしてそれと同時に、隣のテーブルの5人が同じドリンクを注文していた。

「「「「「マスター、アイスコーヒー。キンキンに冷やしてブラックで。」」」」」 

 

提督の休日・5


 よほどさっきの口移しが恥ずかしかったのか、真っ赤になって俯いたままの金剛。一方俺は頼んでおいたチーズケーキとカフェモカが来たので、一服しながらさっき買った戦術書を読みながら、ボンヤリと外の景色を眺めていた。

「……ん?」

 今、窓の外に見慣れた顔が通ったような気が。

「おい金剛。」

「ふぇっ?」

 まだ頭が沸騰してやがる。原因は自分だろうに。

「あれ霧島じゃねぇか?」

「テートク、霧島だって休みの日には外出位しますヨ?」

「あっそう?じゃあそれが……男連れでも?」

「what!?」

 思わず英語が出ちゃってるよ、どんだけビックリしてんだよ。

「窓の外、見てみ。」

 金剛が見るのに合わせ、俺ももう一度確認の為に外を眺める。やはりあれは霧島だ。いつもの制服ではない。モコモコのコートに短めの丈のスカートにニーハイ。いつもキッチリカッチリしていて固い印象があったんだが、今の服装はなんとも女の子っぽい。意外な一面だ。

「Oh…霧島のあんなに嬉しそうな顔、初めて見ました……」

 金剛の目にはうっすらと光る物が。まさか……泣いてんの?

「霧島が腕に抱き付いてる男は……あ!あれこの間の秋祭りの警備で見たぞ!憲兵の若いにぃちゃんだ。」

 そういえば演習の後に親しげに話をしていたが……まさかこんなに親しい仲になっていたとは。

「さぁて、私達は後を尾けますか!」

 元気よくそう言って伊勢が立ち上がった。

「……だな。青葉に売れば間宮券の足しにはなるだろう。」

 長門もケーキに満足したのか、おもむろに立ち上がった。おいお前らなぁ。

「あ、天城も気になりますっ!」

「私も面白そうだから行ってきます!」

 天城にプリンツまで……やっぱ色恋沙汰の話には弱いか。ここは霧島の直ぐ上の姉である榛名に止めてもらいたいものだが……。

「は、榛名も気になりましゅ……」

 あ、ちょっと甘噛みしてるけど、止めないのね……。まぁ良いけどさ。

「ま、程々にしておけよ?霧島は怒らせるとコワイからな。」

 バタバタと出ていった5人を見送りながら、俺達もそろそろ出ようかと立ち上がり、会計を済ませて店を出た。

「私……心配してたんですヨ。」

 車を走らせ始めた所で、口を閉ざしていた金剛がポツリ、と言い出した。

「……霧島の事か?」

「あの娘は末っ娘で、姉の私達にいつも気を使ってたんデス。いつも本音を隠していて、全てをさらけ出してはくれなかった……ケド、あの娘も全てを出せるパートナーを見つけたんですね。本当に…本当によかった……!!」

 グスグスと隣から聞こえる音を聞こえないフリをしながら、俺は車を走らせた。

「……悪い、金剛。タバコ吸いてぇから一旦停めるわ。」

 しばらく走って物陰に車を停め、下車して煙草に火を点けた。2~30分程、ゆっくりと煙草をふかし終え、車に戻ると、金剛の顔は元の綺麗な顔に戻っていた。



 時刻は夕暮れ時。空は星の輝きが混じってプラネタリウムのようになっており、水平線にはオレンジの夕陽が煌々と燃えていた。その明暗のコントラストが美しく、まるでこの世の物ではないような景色だ。場所は街から離れた小高い丘。昔海軍の演習で地形が変わってしまった場所らしく、記念碑のような物と小さなベンチが設置されてちょっとした公園のようになっていた。

「Oh~…beautifulデース!」

 金剛は子供のようにはしゃいでクルクルと回りながらその景色を眺めている。

「金剛っ!」

 もう無理、もう限界。可愛すぎてここでプロポーズするしかない、そう思った。背後から身体の前に両腕を前に回してホールドする……所謂『あすなろ抱き』ってヤツで、金剛の動きを止める。

「ひゅえっ!?ててて、テートク~!な、何してるデース!?」

「もうね、俺も我慢の限界。……やっぱね、お前に俺の隣にずっと居て欲しいわ。」

 一旦ここで言葉を切り、落ち着く為に一呼吸おいた。

「なぁ金剛。……俺と結婚、するか?」

 ……言っちまった。ついに言っちまった。この微妙な距離感が壊れるのがイヤで、つい避けていた言葉を。だが、肝心の返事が来ない。

「う……うぇいうぇい!Please waitデスよテートク~…。いつも言ってマスけど、時間と場所を弁えtーー」

「時間:デート終盤。」

「うっ……」

「場所:二人っきりの絶景ポイント。」

「ううっ……」

「これ以上のタイミングはないと思うんだが、OK?」

「お、OK……。」

「で、返事は?」

「……………………………。」

 黙り込んだまま、小刻みにプルプルと震えている金剛。もう一押ししないとダメか。

「好きだ、金剛。」

「ひゅえっ///」

 あ、またビックリして過呼吸みたいになってる。可愛いなぁもう。

「片方が意思表示してんだ。それを聞いたら然るべき意思表示を返すのが礼儀ってモンじゃないのか?」

「い、いい、意思表示デスか~…?」

「おぅ。シンプルに言うなら、YESか、NOか。」

「そ、それって今更聞く意味ありマスか~?」

「ある。なきゃ聞かん。」

「わ、私の気持ちは今までにずっと、何度でも、言葉に出して来たつもりですケド……。」

 金剛は俺のホールドから逃れようとしているのか、モジモジと身体を動かし始めるが、逃がしてはなるまいとホールドを強くする。

「今までにいつ、どこで、何回言ったかなんて関係ない。俺は今、ここで、お前の口から直接、お前の気持ちを聞きたい。」

「あ、あの……。」

「あん?」

「これ、夢じゃないデスよね。」

「何なら俺の頬に思いっきりパンチしてみるか?気絶したら現実だろ。」

「や、やめときマース……。」

 スー、ハー…。金剛が深呼吸をしているのが判る。どうやら腹を括ったらしいな。

「提督?」

「あんだよ。」

「一旦、離してください。」

 あすなろホールドをほどき、向かい合う形になる。その顔は夕陽に負けない位に真っ赤だ。

「耳、貸してください。」

「ホラよ。」

 金剛の顔面に押し付けられる位に耳を押しつける。

「ち、近すぎデース!もう少し離れて、そう、私が背伸びして届く位に……」

「こんなモンか?」

 離れた瞬間、金剛の顔が耳に近付いてきた。耳に当たる吐息がこそばゆい。

「I love you,My only sunshine.」

「どうか私を、貴方だけのものにして下さい」 

 

提督の休日・6

 思わぬ金剛からの大胆な返答に、俺の頭は一瞬フリーズ。しかし、段々と実感が湧いてきた瞬間、思わず金剛を抱き締めていた。

「ちょ、ちょっとテートク!苦しいデスよ~!」

「あぁ、悪い悪い。お前が可愛すぎるからつい、な。」

 そう言った瞬間、ボンッと音がしたんじゃないかと思うくらい、金剛の顔が更に赤くなった。やっぱりこういうストレートな表現に弱いらしいな。

 さて、ここからどうしたものか。ホントなら日帰りの予定だから帰るべきなのだろうが、正直このまま帰るのが惜しくなってきている。

「テートク……あの…。」

「もしかして、今晩帰りたくない……か?」

 金剛は少し俯き、コクリと頷いた。仕方ねぇ……始末書は覚悟しとかねぇとな。俺はケータイを取り出し、電話をかける。

「あ~早霜か?俺だ。急で悪いんだが今晩店を任せてもいいか?…おぅ、任せるわ。すまんな、土産は買ってくよ。……あぁ、じゃあな。」

 ケータイを切り終えると、金剛にニカッと笑ってみせる。

「無断外泊だ。始末書と大淀の雷は覚悟しとかねぇとな。」

 そう聞いた金剛はフフッ、と笑う。

「良いですよ、テートク……いえ、darlingと一緒ならno problemデス。」

 と言って抱き付き返してきた。ヤバイね、これは。



「さぁ~てと。とりあえず今晩の宿を確保しねぇとな。」

 正直こんなことになるとは思ってなかったから、ホテルの予約もクソもあったもんじゃない。とりあえず街に下りて、それから決めようか。

「とりあえず金剛、離れようか?」

「ンー!イ~ヤ~デ~ス~!」

 ゴン。思わず拳骨落としてしまった。

「今晩の宿を確保しないと、帰る羽目になるぞ。」

「お、おうらいデース……。」

 金剛は頭を抑えながら、すごすごと付いてきた。

 今宵の宿は案外、すぐに見つかった。ホテル等ではなく、マンションやアパートの空き部屋を貸し出している斡旋所を見つけ、その中でも新しめの部屋を一晩借りたのだ。

「テートク~…何でホテルじゃないんデスか~?」

「あれ、嫌だったか?こういう普通の生活スペースっぽい部屋の方が新婚気分とか出るかと思ったんだがなぁ。」

 “新婚”という言葉に陥落したのか、ホテルじゃない事に不満タラタラだった金剛はうってかわって、ルンルン気分でショッピングカートを押している。部屋と家具類しかない部屋なワケだから、当然食事は自分達で準備しないといけない。そこで、斡旋所で鍵を借りた足でスーパーにやって来たのだ。

「ん~……何を作るかな~?」

 金剛は決して料理の出来ない艦娘ではない。寧ろ調理の技術は高い。だが、ベースとなっている料理がいかんせんよろしくない。イギリス生まれだから、当然のごとくイギリス料理が彼女の料理の源流なワケだ。読者諸兄もご存知の通り、イギリス料理はかなり独創的な物が多い。……ぶっちゃけ言ってしまえば、マズい物が多い。体調を崩して寝込んだ時に、スタミナが付くからと『ウナギのゼリー寄せ』を持ってきた事があった。あの時は本当にどうしたものかと悩んだものだ。

「ねぇdarling、折角だからお互いに料理を作って、食べ比べしまショウ!」

「おぉ、それいいかもなぁ。…けどよぉ、そのダーリンって止めてくんない?何か照れ臭い……///」

 俺も恥ずかしくなって頬を掻くと、金剛は鼻息荒く語る。

「良いじゃないデスか~。darlingと呼ぶのはワタシだけのspecialデスよー?」

 まぁ、事実だしいいんだが、慣れるまで時間がかかりそうだなぁコリャ。……ってなワケで互いの作る料理が解らない方が面白いだろうと、二人別れて買い物を済ませ、合流して宿へ向かう。



 借りた鍵で扉を開け、部屋に入る。

「お~、結構きれいじゃねぇか。」

 部屋は1DK、風呂・トイレ別。家具も備え付けで1晩2万ならまぁまぁ、ってトコか。

「Oh!ここならdarlingと住んでも狭くないネー。」

「そうかぁ?すぐ狭くなっちまうだろ、この位じゃ。」

「Why?なんでデース?」

 怪訝な表情で眉を吊り上げる金剛。

「家族が増えたら狭いだろ、この位じゃ。やっぱ一戸建てぐらいじゃないとなぁ。」

 俺の発言を聞いた途端、またもや真っ赤になる金剛。家族が増えるってのは、まぁそういう事だよな。にしても、ちょろかわ過ぎませんかね?この高速戦艦は。

「さぁ~て、と。作りますかね。」

 そろそろ調理開始だ。何を作るかはまだ秘密だ。 

 

提督の休日・7

 キッチンは狭いからな。先ずは俺が先に仕込んでしまおう。

「金剛、今のうちに風呂沸かしといてくれ。」

「ハーイ。任せるネ~。」

 よし、始めるか。米は土鍋で炊くとして、メインの方にとりかかろうか。鶏肉と根菜を使った珍しいレシピだ。

《鶏肉と根菜の豆乳〇〇〇》※材料は4人前

・鶏モモ肉:2枚

・ごぼう:1本

・じゃがいも(メークインがオススメ):2個

・しめじ:1パック

・青ネギ1/3束

・玉ねぎ:1個

・にんにく、生姜:各1片

・サラダ油:大さじ1

・水:500cc

・豆乳:300cc

・醤油、酢:適量

・ご飯:適量

・〇〇〇〇〇:1箱(書いたらバレる)

尚、付け合わせも適量(これも書いたらバレる)。

 先ずは材料のカットから。ごぼうは麺棒で叩いて5cm位の長さにちぎり、酢水に3分くらいさらしてあく抜き。メークインも一口大にカットして水にさらす。しめじは石附を落として小房に分ける。青ネギは5cm長さ、玉ねぎは繊維に沿って薄切りにし、にんにく・生姜はみじん切り。鶏肉は一口大に切る。

 材料を切り終えたら炒めて行くぞ。鍋を熱してサラダ油を引き、鶏肉を皮目を下にして強火で焼く。ひっくり返しながら両面に焼き目が付いたら、鍋の隙間ににんにくと生姜を入れて炒めていく。香りが立ってきたら玉ねぎを加えて炒める。玉ねぎが薄いきつね色になったら水気を切ったごぼう・メークイン・しめじを加えて炒める。具材全体に油が回ったら水を加え、アク取りをしつつ15分程煮込む。

 メークインに竹串を刺してスッと通ったら、ここで登場、カレールウ。そう、俺が作ってたのはカレーだ。カレールウを加えて5~8分煮てルウを溶かす。ルウが溶けたら豆乳を加え、更に青ネギを加えて一煮立ち。味見をして、醤油で味を整えたら完成だ。米も炊けたし、福神漬けとらっきょうも準備した。俺の方の調理は終わりだな。

「darling、お風呂はOKだヨ~。」

「お~、グッドタイミング。俺も終わったから交代な~。」

 金剛はクンクンと鼻を動かし、何を作ったのか当てようとしてるらしい。

「この匂い……カレーですネ!」

「あぁ、お前の好物だろ?」

 金剛は、恥ずかしいのだが俺の作るカレーに目がない。今回はまだ作ってやった事がないメニューだから楽しみにしていてもらおう。

「さぁ、今度はワタシが張り切って作っちゃいマスよ~!」

 ……ちょっと心配。



 俺はソファーに座ってテレビを見てくつろぎながらも、キッチンの様子が気になって仕方がない。今はトントンとリズムよく包丁の音がしているから、何かを刻んでいる所だろうか。ガスコンロには鍋が火にかけられ、何かをグツグツと煮込んでいる。……おっと、今度はフライパンを出して何かを炒め始めたな。この独特な香りは……

「金剛、もしかして今炒めてるのはラムの挽き肉か?」

「Oh!よく解ったネー。」

 ってぇ事は、茹でてるのはじゃがいもか?

「はは~ん、シェパーズパイか。ウナギゼリーじゃなくてよかったぜ。」

「もう!なんでわかっちゃうんデスか!」

 む~!と頬を膨らませる金剛。シェパーズパイはパイ生地を使わないがパイと名の付く、一風変わった料理だ。作り方を載せておくから、金剛好きの人は是非ともチャレンジしてもらいたい。

《芋と肉だけで超満足!シェパーズパイ》※材料は4人前

・ラム(子羊)の挽き肉(牛挽き肉や合挽き肉でも可):300g

・トマト:2個

・玉ねぎ:1個

・じゃがいも:3個

・バター:大さじ1

・バター(味付け用):30g

・オリーブオイル:大さじ1

・牛乳(常温に戻しておく):20cc

・塩、胡椒、ナツメグ:各適量

 玉ねぎはみじん切り、トマトは1cm角の角切り。じゃがいもは茹でてマッシュポテトにするため、厚めの半月切りにして水から茹でておく。

 フライパンにバターとオリーブオイルを各大さじ1ずつ入れて熱し、玉ねぎを炒める。玉ねぎが透き通って来たら挽き肉を加えて強火で更に炒める。俺が匂いで感付いたのはこの辺りだな。塩、胡椒、ナツメグを少々きつめに入れる。特にナツメグは肉の臭み消しと風味付けの意味を兼ねているので、少しキツいと感じるくらい振った方がいい。味もほぼここで決まるから、ここが薄味だとほとんど味を感じなくなってしまう。味付けをしたら角切りにしたトマトを加え、トマトの水気が無くなるまで中火でじっくりと炒め、火を止める。

 炒めた具材を耐熱容器に入れ、平らに均す。お次はじゃがいもを加工していく。

 茹でていたじゃがいもに竹串を刺してスッと通ったら、一旦ザルにあけて水気を切る。具材を炒めていたフライパンにイモをあけて粉ふきいもにする。熱いうちにボウルに移してマッシャー等で潰し、口当たりを滑らかにするために裏漉しする。

 裏漉ししたイモに、混ざりやすいように細かくしたバター30gと牛乳を加えてよく混ぜる。滑らかさが足りないようならバターと牛乳を同量加えてよく混ぜる。

 炒めた具材の上にマッシュポテトを敷き詰め、こちらも平らに均す。フォーク等で表面に模様を付け、220℃に余熱したオーブンで軽く焼き色が付くまで20~25分焼けば完成。




「darling~!終わったヨー!」

 シェパーズパイをオーブンに入れ終わったのか、キッチンから駆け出してきた金剛がソファーに寝そべっていた俺の上にフライングボディプレスしてきた。

「ぐえっ!」

 お前ねぇ、駆逐艦じゃなくて戦艦なんだから、自分の質量考えろっての、腰やっちまうわ。そんな事はお構い無し、といった感じに俺の胸板に顔を押し付け、グリグリと擦り付けて来る。お前はゴールデン・レトリバーみたいな人懐っこい大型犬かよ。前髪……というかアホ毛が顔に当たってくすぐったい。頭を撫でてやると薄いブラウンの髪はサラサラフワフワの手触りで、何だか長毛の猫を撫でているような感触だ。こういう無邪気な所も、妹達を思う長女らしい姉らしさも、全部ひっくるめて好きになったんだ。

「あ、そうだ。パイが焼けるまで時間かかるだろ?風呂入るか……一緒に。」

「ふぇっ!?///」

 ……そうそう、こういうチョロインなトコも可愛らしくていじらしくて、好きなんだよな。 

 

提督の休日・8

 二人で脱衣場に向かい、服を脱いでいく。パッパと脱ぎ終えて金剛が服を脱いでいくのを背後から眺める。

「だ、darling……?あんまりまじまじと見られると恥ずかしいデース。」

 そんな事言ってもなぁ。目の前に極上のオンナが居たら、そりゃあ見ちゃうでしょ。

形の整ってキュッと引き締まったヒップ。

筋肉と脂肪のバランスが絶妙な太もも。

細すぎず、かといって弛んでいる訳でもない健康的なウェスト。

大きいが、垂れる事なく張りを保ったバスト。

瑞々しく、新鮮なフルーツを想像させるリップ。

白く、キメ細やかな肌。

手入れを欠かしていないのだろう、艶やかなブラウンの髪。

 全てが絶妙なバランスで、男を蠱惑的に誘ってくる。それを独り占めできる幸せ。改めて、コイツを選んでよかったと、そう思った。

「いやぁ、相変わらず綺麗な身体してるよなぁ。」

 ついつい本音が駄々漏れになるのも致し方ない事だろう。そのせいで殴られかけたけど。こんな美人と、互いに一糸纏わぬ姿で一緒に風呂に入るなんて、すげぇ贅沢だよな。




「あ゛~、生き返るなぁ。」

 今日2度目の入浴だが、風呂は何回入っても気持ちが良いもんだ。

「確かに、バスタイムはいいですネ~。」

 ふへえぇぇ~……ととろけたような顔をしている金剛。今向かい合わせに湯船に浸かっているんだが、う……浮いてますよ奥さん!何がとまでは言わないが、情緒もなく言えば脂肪の塊だ……浮かない方が可笑しいか。

「う、浮くんだなソレ……。」

「……?そりゃ女の子の形してても船ですからネー。」

 違う、そうじゃない。

金剛が先に湯船から出て、身体を洗い始めた。スポンジにボディソープを泡立てて身体を擦っていく。

「どれ。背中流してやるよ。」

「ふぇっ!?い、いいですヨ~!恥ずかしいデス!」

「遠慮すんなって、ホラ。」

 ううぅ~……と唸りながら、縮こまってしまった金剛の背中を、スポンジで擦ってやる。

「力、強すぎないか?」

「だ、大丈夫デス。気持ちいいデス。」

 しかしこうやってみるとホント、小さい背中だ。これで人類を守る為の盾として戦ってくれているんだ。……よく見ると、古傷のような跡がうっすらと見える。

「金剛、この疵は……」

「あ~…見つかっちゃいましたか?」

 金剛は恥ずかしそうな、少し悲しそうな表情を見せた。

「やっぱり大きなケガをすると、少しだけど跡が残っちゃうんデスよ。こういう疵を嫌がって、フラれちゃった娘もいるみたいデス……」

 艦娘故に仕方のない事だと言えば、それで片付いてしまうのかもしれない。だが、これをそんな一言で片付けてしまうのは間違っている。そう思った。

「だ、darling!?何してるデース!?」

 気付いたら、泡だらけなのも気にせずに、金剛を後ろから抱き締めていた。

「疵は消してやれん。…けどな、背負い込むな。その疵の嫌な思い出は、一緒に背負って軽くしてやれる。」

「ハイ……。」

 艦娘と結婚するってのは、こういう事に理解を示して受け入れる覚悟のような物が必要なのだと改めて思った。



「「カンパーイ♪」」

 グラスを打ち鳴らす。中身は安物の赤ワインだが、ゴクゴク飲むには気兼ねなく飲める方がいいだろう。

「ンー♪カレーがマイルドで美味しいデース!」

 豆乳がいい仕事してくれてるんだよな、そのカレー。ごぼうのシャキシャキとした食感も、普段のカレーとは違う食感を味わえて面白い一品だ。さて、俺もシェパーズパイを頂くか。

「ん!美味っ!」

 芋のまったりとした口当たりに、ラム肉の風味とトマトの酸味と旨味がガツンと来る。イギリス料理は不味いと敬遠されがちだが、ちゃんと作れば美味い料理は沢山ある。

 イギリスには元々、美食を良しとする文化がない。美味しいの基準値を美食家のレベルではなく普通の生活を営んでいる人々の程々なレベルとして考えると、むしろ合理的であるとする料理研究家さえいる。

 だが、イギリス料理が不味いと言われる大きな理由を挙げるとしたら、野菜は食感が解らなくなるまでクタクタに茹でる、揚げるときは真っ黒焦げになるまで揚げる、麺を必要以上に茹でるといった食材本来の味や食感を残さずに加熱する調理法が他国には受け入れられない事が多いからだ。更に、「味付けは個人の好みで調味すべし」というのがイギリス料理の基本スタンスなので、調理中に殆ど味付けらしい味付けをされない。今も一流レストランのテーブルには塩や酢などの調味料が置かれている所が多い。

 これにはイギリスの過去の習慣や歩んできた歴史が影響するのだが、長くなるので興味のある人は自分で調べてみてくれ。……まぁ、今食ってる物が美味いからまぁいいか。



「はぁ~…食った食った。満足だぜぇ。」

 ワインをぐいと飲みながら、まったりとテレビを眺める。洗い物は金剛に任せてしまった。

「darling、洗い物は終わったヨー。」

 時刻は2230。そろそろ寝てもいい頃かな?

「そろそろ寝るか?」

 瞬間、金剛の顔が真っ赤になる。想像しちゃったんだろうなぁ、ナニを……もとい、何をとは言わないけど。

「何だよ、今さら恥ずかしくなったか?」

 当然というと聞こえが悪いが、金剛とは既に何度も肌を重ねている。最初のケッコン相手だってのもあったが、お互いに両思いだったのだから、自然とその回数は増えるワケで。

「ち、違いマスよ!ただ……今日は『初めて』の日だから特別なんデスよ……?」

 ハァ。んな事で悩んでたのかよ。

「金剛、おいで。」

 近付いてきた金剛を抱き寄せ、耳元で囁く。

「俺にとってはお前と過ごす日は毎日が特別で、毎日が記念日みたいなモンだ。今日は、それが少しだけ違うだけさ。」

 そう言って優しく口付け。すると金剛は小悪魔のように笑うと、

「これでfinish?なワケないでショ~?」

 と、挑発してきた。いい度胸だ、後悔させてやるぜ。 

 

提督の休日・final

 
前書き
糖分吐き出しは終わり。通常営業に戻ります。 

 
「う……あぁ~…今何時だぁ?」

 ベッドの横のカーテンから差し込む陽の光で、強制的に目を覚まさせられる。枕元に置いておいたケータイを取ろうと、左腕を伸ばそうとしたら……動かない。見ると、人の腕をガッシリと掴んで抱き枕代わりにしてスヤスヤと寝息を立てている奴がいる。その安らかな寝顔と、昨夜の野獣のような乱れっぷりのギャップに少し可笑しくなってしまい、つい苦笑してしまった。

「…っと、ケータイ、ケータイ……。」

 時刻表示を見ると時刻は午後1時。とっくに昼の休憩も終わって午後の執務が始まっている時間だ。着信履歴には30件を超える着信が入っていた。その殆どが大淀から。

「あっちゃあ~…、こりゃ相当ご立腹だな。」

 上体を起こそうとした瞬間、腰にズキンと痛みが走った。

「あたたたたたた……、こ、腰が…。」

 昨夜は久々にハッスルし過ぎた。お互いが満足するまで貪り合うように回数を重ねて、半分気絶するような格好で眠りに就いた時には空が明るくなり始めていた。現役で柔道やってた頃よりも鈍っていないと自負していたが、どうやらそれは間違いだったらしい。

 無理をかけた腰を労るようにゆっくりと起き上がって着替えをする。

「ン~…今何時デスか~……?」

 ようやく眠り姫もお目覚めらしい。

「よぅ寝坊助、コーヒー飲むか?」

 俺もさっき起きたばかりだが、平静を装ってモーニングコーヒー(昼だけど)を啜っている。寝惚けた目を擦りながらゆっくりと起き上がろうとする金剛。どうやら一糸纏わぬ姿では恥ずかしいらしく、色んな液体が付いてガビガビになってしまったシーツにくるまったまま起き上がった。

「オゥ!?こ、腰が………!」

 お前もかよ。

「どうしたどうした~?鈍ってんじゃねぇのか~?」

「What!?元はといえばdarlingが昨日の夜あんなに激しく…!」

 と、全部言い終える前に気恥ずかしくなったのか、真っ赤になってゴニョゴニョとどもり始めた。

「なんだよ~、後半はお前もノリノリだったクセにぃ~。」

「そ、そんな事ありませんよ!」

「ウソつけお前、途中から馬乗りになって腰振ったり、舐め回したり、おっぱいで挟んだりは自分からしてたろうが。」

 ナニを、とは言わなくても伝わるよな?読者諸君。金剛は真っ赤になってプルプルと震えている。…ともかく、早いトコ鎮守府に戻らないとマズイ。



「あ~!買ったばかりのランジェリーがぁ~!」

 昨日の夜、昼間に立ち寄ったランジェリーショップで買った下着を早速着けてたんだっけ(黒のレースで半分スケスケの奴)。今それはクシャクシャのグチョグチョになってしまっている。…まぁ、そうなるな。

「お~い、とっとと着替えしろ~。」

「ううぅ……。」

 よほど新品のランジェリーがダメになったのがショックなのか、ノロノロと着替えする金剛。

「解った、今度また出掛けた時に買ってやるから。今は急げ、な?」

 瞬間、ぱぁっと笑顔になった金剛は鼻歌を鳴らしながら着替えしている。ふぅ、待ってる間に一服付けるか……ん?ポケットに触り慣れない感触の物が……あ。

「金剛!」

 ポケットに入っていたソレを、金剛に投げてパスする。

「だ、darlingコレって……!」

「開けてみな。」

 金剛が渡された小箱を開けるとそこには、ダイヤのプラチナリングが収まっていた。

「一応、な。艦娘の間はカッコカリの指輪付けとけよ?」

 それはただの宝飾品。艦娘の能力を高める力はない。

「渡し方適当過ぎマスよ!?もっとロマンチックに渡してくれても……!」

「あぁ!?文句言うなら返せよ!今からでも返品してくるわ!」

「誰が要らないって言いましたか!」

 まぁ、こんな感じで些細な事での喧嘩は絶えない間柄だ。でも俺達二人はこの位でちょうどいいのかも知れん。



「……で?無断外泊と大遅刻への釈明はございますか?提督に筆頭秘書艦殿?」

 玄関先で待ち構えていたのは、ひきつった笑みを浮かべた大淀だった。無理に笑っているのがみえみえで、こめかみには青筋が浮いている。

「「あ、ありません……。」」

 俺達に出来るのはただ、嵐が過ぎ去るのを小さくなって堪え忍ぶ。それだけだ。

「ハァ。もういいですよ、始末書は後で書いて頂きますからね?皆さんおまちかねですから、食堂に行って下さい。」

「「へっ?」」

 顔を見合わせる俺と金剛。とにかく、行けと言うなら行くしかない。食堂に入った瞬間、四方八方からクラッカーが飛んできた。

『提督、金剛さん、ご結婚おめでとう~‼』

 食堂に集まっていたのは、ウチの鎮守府所属の全ての艦娘。皆笑顔で拍手をくれている。

「な、なんで皆ソレを知ってるんだ……?」

「フッフッフ、それは青葉の功績ですっ!」

 予想はしていたが、やはりお前か。

「ばっちり司令のプロポーズシーンは抑えて、号外を刷らせて頂きました!いや~、いい絵でしたよ実際。」

 どや顔でウンウンと頷く青葉。サービスで引き伸ばした物を額縁に入れて執務室に飾って置きました!とも言っている。余計なマネを……。

「まぁまぁ、良いじゃないですか。今日はおめでたい日なんですから。」

 俺を宥めに来たのは霧島。

「お゛ねぇざばぁ~…!」

 泣きながら抱きつくなよ、比叡。鼻水と涎が付いたら流石の金剛でも怒るぞ?

「…そういや霧島、憲兵君とのデートはどうだった?」

「ふぇっ‼?し、司令!何故それを!?」

 流石は妹、姉そっくりのリアクションだこと。まぁいいや。

「ソレはおいおいゆっくりとな。今はそれより……ハイ注目!」

 俺が声を張り上げると、食堂内はしんと静まり返った。

「え~、正式に発表する前にどこぞのバカが報道してしまった通りだ!俺は金剛にプロポーズしてOKを貰った!」

『おお~…!』

 一気にどよめく観衆。

「ただし、この戦争が終わるまでは提督とその部下である事は変わらない!だから皆、これからもよろしく頼む!」

 わあっと歓声が再び上がる。そしてどこからともなくキース!キース!キース!キース!の大合唱。リクエストにはお応えしないとなぁ?

「ちょ、ちょっとテートク~…んん……ンー!」

 たっぷり30秒は口付けしたまんまだったぞ。どうだ、恐れ入ったか。皆ドン引きして黙り込んでるけど、お前らが煽った結果がコレだよ!

「あ、青葉は後で執務室な。」

「アイエエエエエエエエエエエエエ!?」

 この騒ぎの首謀者を除いて。 

 

冬の味覚

 年末年始の和やかムードもなりを潜め、再び鎮守府もいつもの忙しさが戻ってきた頃。騒がしい二人組が店のドアを叩いた。

「うぅ~…さぶさぶっ!マスター、熱燗二人前ねぇ~!」

「ちょ、ちょっと隼鷹!勝手にアタシの飲み物決めないでよっ!」

 入ってきたのは飛鷹と隼鷹。共に今日はキス島周辺の漸減作戦で集中的に錬度を上げるように指示していた二人だ。

「おぉ、お疲れさん。二人とも今帰りか?」

 俺は熱燗の支度をしながら、お通しの茄子と胡瓜のからし漬けを切っていく。

「そうそう、アタシ等に被弾が無いのは良いんだけどさぁ。」

 箸も使わずにポリポリとからし漬けをかじる隼鷹。キス島周辺の海域は地磁気や海流の影響で水雷戦隊以外は島に近寄れない。その代わり、逸れたルートにいる敵はさほど強くもなく、倒して敵の戦力を削ぎながら艦娘の錬度を上げやすい、『おいしい』海域なのだ。

「替わりに潜水艦の娘達がボロボロになるのが不憫でねぇ……。」

 敵の艦隊はほぼ水雷戦隊。潜水艦を1隻入れておくと、躍起になってそちらを追い回してくれるモンだから、水上艦艇が仕事をしやすくなるのだ。…いわば『デコイ』役を潜水艦の娘達に任せてしまっている。

「幾らなんでもアレは可愛そうにも程があると思うんだよねぇ……?」

 隼鷹はジト目でこちらを睨んでくる。

「そうは言われてもなぁ。こっちにも急いでお前らを鍛えなきゃならん事情があるんだって。……ホレ、熱燗。」

 潜水艦に無理をさせているのは解っている。でもな、こっちにもやむにやまれぬ事情があるんだよ。そう思いながら燗の程よく付いた徳利と猪口を渡してやる。



「アチ、アチチチ……。その事情って?」

「もうすぐ大規模作戦も近いってこの時期に、本土から視察が来るんだよ。」

 俺の言葉に目を丸くする二人。そりゃそうだよな、今まで言ってなかったもの。

「え、視察?どこの泊地?階級は?」

「まぁ落ち着けよ。所属は鹿屋だそうだ。階級は……中将だったかな?ウチの機動部隊の運用が見たいんだと。」

「へぇ~…鹿屋かぁ。」

 鹿児島の鹿屋は昭和11年に帝国海軍が鹿屋航空隊を設立してからというもの、自衛隊の航空基地を始め、防空に力を入れてきた土地だ。当然、その土地柄が新設された艦娘を主軸とした艦隊にも反映されているのか、空母を軸とした艦隊運用が主らしい。

「なるほどねぇ。それで珍しく二航戦の二人が夜間爆撃訓練なんてやってたんだねぇ。」

 今も沖合いでは蒼龍・飛龍の二人がそれぞれの艦爆・艦攻隊の隊長を伴って特殊訓練の真っ最中だろう。いつものお気楽な二人ではなく、引き締まったイイ面構えをして出ていった。あれなら視察の時には期待以上の物を見せられるだろう。他の正規空母や軽空母も、軒並み錬度を上げにかかっている。

「さぁて、そんな事よりアタシ等はアタシ等で明日の英気を養わないとねぇ~♪マスター、今日のオススメは?」

 まったく、コイツ(隼鷹)はいつも飄々としていて、真面目なんだか不真面目なんだか、よくわからん。

「今日は北方海域に遠征してた奴等が偶然、漁船を助けてな。お礼にこいつを貰ってきたのよ。」

 俺はその『お礼』をドン、とカウンターに載せてやる。

「おぉ!」

「り、立派なブリねぇ……!」

「今から捌いてやるから、楽しみにしてな?」

 すると二人は微妙な表情。…あら?ブリ嫌いだったか?

「いや、嫌いってワケじゃあ無いんだけどさぁ……。」

「ホラ、ブリって言えば刺身にしゃぶしゃぶ、照り焼きにあら煮とかその辺が定番じゃない?正直……」

「食べ飽きてる、と?」

「不味くはないんだけどねぇ……」

 なるほど、言われてみれば確かにな。よしわかった。

「任せとけ、今日はブリの新しい食べ方、たっぷりと紹介してやっから。」



 とりあえず、熱燗は二人とも飲み干したらしい。お代わりを出すタイミングなのだが……

「今日はブリを洋風にして食わせてやるから。酒は白ワインベースのカクテルでいいか?」

「おう!お任せお任せ~。」

「マスターなら不味い物は出てこないしねぇ~♪」

 さて、そんなに期待されちゃあ答えないとな。まずは食前酒に甘めのを一杯。

 氷を入れたコリンズグラスに、白ワインを90ml、レモンジュースをティースプーン1杯。そこにジンジャーエールを注いでビルド。カットレモンを浮かべたら完成。…本来はストローで飲むんだが、この二人には不要だろう。

「ホイ食前酒、『オペレーター』だ。」

「「カンパ~イ♪」」

 二人同時にゴクリ。

「ん!うまっ!」

「うん、口当たりサッパリで、ソフトドリンクみたい。」

 浮かべたカットレモンを絞って酸味を調節すると、甘いのが苦手な人も飲みやすいぞ。……っと、こんな無駄話は置いといて、調理を始めようか。

 まずは刺し身を刺し身っぽく無くするアレンジを2品。用意するのはブリの身200g。スーパーで売ってる刺し身用でOKだ。半分は5mmの厚さに切ったら軽く塩を振り、皿に盛り付けておく。もう半分は身が1cm角程度になるまで叩く。ここで豆腐を取り出し、パックの半分に切って水切りをしておく。お次は青じそ。4枚位を千切りに。

 叩いたブリの身にオリーブオイル(エキストラバージンがオススメ)を大さじ1/2、醤油小さじ1、白ワインビネガー、桃屋の生七味を小さじ1/2ずつ加えて和える。

 水切りをした豆腐にしそ、ブリを載せたらオリーブオイルを大さじ1/2かけて、仕上げに生七味を小さじ1/2載せて完成。

「ホレ。『洋風・ブリのせ冷奴』だ。」

「ん~、ちょいピリ辛で酒が進むねぇ~♪」

「うんうん、鯵とかの青魚じゃこうは行かないわね。」

 さてさて、塩をしといた方も仕上げましょうかね。ここからは合わせる野菜の調理。使うのはミニトマト4個に玉ねぎ1/8個、パセリ適量。ミニトマトは4当分して玉ねぎは薄くスライス。パセリはみじん切りにして同じボウルに入れる。

 一味唐辛子を適量振って、更に塩を2つまみ。全体に振ったらよく混ぜ、30分程寝かせてよく水を出す。30分経ったら出ている水分量と同量のオリーブオイルを加え、乳化するまでよく混ぜる。これがソース代わりだから、しっかりと作ろうな。あとはブリの身にかけるだけ。簡単だろ?

「お待たせ、『ブリの南イタリア風』だ。」

「うわ、オッシャレ~。」

「ホント、いつもの刺し身じゃないみたい。」

 確かに、カルパッチョに近い感じになるのかな?だが、鯛とかよりも脂が多いから更に濃厚な味になるぞ。 

 

冬の味覚・2

 さて、『オペレーター』を早々に飲み干した2人は早速お代わりをご所望だ。んじゃあ、ちょっと変わった一杯をご馳走しましょうかね。

 まずはディタ・スターリーというリキュールを30ml。コイツは珍しいスターフルーツのリキュール。ディタと言えばライチリキュールの方が有名だが、コイツも中々美味い。更に白ワインを45ml、クランベリージュースを15ml、仕上げにレモンジュースをティースプーン1杯。全てをシェイカーに入れてシェイクして、フルート型のシャンパングラスに注いで完成。

「ホラよ。コイツは西新宿の裏路地にある居酒屋『バガボンド』って店でマスターに即興で作って貰った一杯でな。その名も『やぶれかぶれ』!中々面白いだろう?」

 その珍妙なネーミングを聞いて、2人もプッと噴き出した。

「な、なんだよそれ~!適当過ぎんだろ!」

「あ、でも美味しいわよコレ。ベリーとスターフルーツの酸味がイイ感じ。」

 さてさて、お楽しみ頂いてる間に更に調理をしましょうかね。お次は変わったぶり大根を振る舞うとしよう。

 使うのはブリの切り身。スーパーで売ってる加熱調理用の切り身でOKだ。臭み取りの為に酒を少々振り、10分程置いておく。それに合わせるのは大根。一切れに2cm位が目安かな。皮を剥いたら5~7mm位の厚さで銀杏切りにする。

 フライパンに大さじ1のオリーブオイルを熱し、にんにくを1かけ分みじん切りにして入れ、香りが出るまで熱する。フライパンの中央にブリを置き、その周りに大根を並べて中火で焼く。大根に少し焼き目が付いたら、大根は全てひっくり返す。大根をひっくり返し終わった所で、ブリもひっくり返す。大根が透き通って来た所で醤油を小さじ1杯回しかけ、火を止めて盛りつけ。

 そして味の決め手、ゆず胡椒マヨを作る。マヨネーズ大さじ1に対してゆず胡椒を小さじ1/2加えてよく混ぜ、ブリにかけて完成。ゆず胡椒よりもサッパリさせたいなら、俺もこの間買っていた『ゆずすこ』もオススメ。これは液体化されたゆず胡椒で、チューブの物よりも使える幅が広い。

「『ゆず胡椒マヨの焼きぶり大根』だ。煮ないぶり大根は中々珍しいだろ?」

「ん~、これも酒に合うなぁ♪」

「……にしても、ブリって濃い目の強い味付けが合うのねぇ。まさか、マヨネーズが合うなんて思わなかった。」

 確かにな。刺し身とかしゃぶしゃぶなんて素材の味を活かした食べ方をする食材に、味の濃い味付けが合うなんて思わねぇよな、普通はさ。でも、加熱してやると淡泊な味に近くなるから味噌やマヨネーズ、チーズ、トマトやにんにくなんかも合うんだよな~これが。



 さて、そんなワケで濃い目の味付けのブリ料理をもう一品。今度も使うのはブリの切り身。1人一切れが目安だけど、食べたい分入れても大丈夫だ。これを3~4等分しておろしにんにく(チューブでOK)を塗って臭み取り、下味に塩・胡椒を振る。合わせる野菜はミニトマトにブロッコリー、シメジ等のキノコ類がオススメかな。ミニトマトは半分に切り、ブロッコリーは下茹でして食べやすい大きさにカット。キノコ類も石附を落として食べやすい大きさにカットしよう。

 オリーブオイルをフライパンに敷いて熱し、ブリが色を変える程度に火を通す。ここで火を通しすぎてしまうと、仕上がりが固くなってしまうから気を付けよう。

 グラタン皿に焼いたブリ、ミニトマト、ブロッコリー、キノコを盛り付け、その上にピザ用チーズを山盛りに散らし、更に香り付けにバジルをたっぷり。オーブントースターで8~10分焼き、チーズに焦げ目が付いたら完成だ。

「熱つつつつ……、ホイさ。『ブリと野菜のチーズ焼き』だ。熱いから気を付けろよ?」

 二人は同じ皿から野菜とブリをフォークに突き刺し、上に掛かったチーズを絡めとる。それを口に放り込む。

「「あふ、あふ、あふあふ……。」」

 口から熱気を逃がしつつ、『やぶれかぶれ』に流し込んで口の熱を冷ます。

「かぁ~!やっぱ美味いなぁマスターの料理は。」

「ホントよねぇ。金剛さんが羨ましいわよ。」

「あん?何でそこでアイツの名前が出るんだよ。」

 俺がそう言うと、2人は目をパチクリさせている。

「え?だって2人暮らしなら毎日マスターの料理食えるじゃんよ。」

「そうよ、ある意味天国であり、(カロリー的には)地獄だわ。」

 何を勘違いしてんですかねこいつらは。

「んな事出来るワケねぇだろ。ウチの店は朝6時まで開けてんだ。その時間は何の時間だ?」

「……あ!総員起こし!」

「そう言う事。俺とアイツの生活時間は見事に食い違ってんだよ。執務が終わり次第、店は開けるしな。」

 そう。俺と金剛は新婚でありながら新婚らしからぬすれ違い生活を続けていた。普通の夫婦の感覚からすると、こんな新婚生活は最悪だろう。だがアイツは……金剛は、俺のそんな我が儘を受け入れて耐えてくれている。全く、良くできた嫁だよ。

「そっかぁ~…ちょっと残念だなぁ。」

「? 何がだよ。」

「私達も提督とケッコンしたら、毎日美味しいもの食べ放題!って事にはならなそうだからね。」

 そうか、お前らもそろそろ……。

「まぁ、指輪は準備しておくよ。」

「へへへ、その前に長門に渡さないと、また追いかけ回されるぞ?五航戦の時には痛い目見ただろ?提督ぅ。」

「思い出させるなよ、折角忘れかけてたのによぉ……。」

 そう、長門はとうに錬度が99に達している。これ以上高みを目指すならばケッコンしかない。しかし俺は、改ニ甲への換装を果たし、補給や修理に掛かる物資が増えた翔鶴と瑞鶴を優先した。お陰で艤装を着けた長門に半日近く追いかけ回された。

「何故私が後回しなのだ~!」

 と叫びながら。今度はそうならん事を祈るばかりだ。 

 

冬の味覚・3

 さてさて、生・焼き共に2品。お次は『揚げて』味わって貰おうかな。

 ブリの身は焼きぶり大根よりも厚めに1cm程にカット。今日は濃い目のソースを付けるから、下味はシンプルに塩で行こうか。カットしたブリを網に載せたら、お湯をかけて霜降りに。これで臭みを抜いたら塩を振り、少し休ませておく。お次は衣の準備だ。

 強力粉1/4カップに、これがポイント・炭酸水を1/4カップ。これを混ぜた物にブリをくぐらせ、パン粉を付ける。炭酸水の効果で衣がサクッとしつつも固くなりすぎずに軽い食感に揚がる。後は油で揚げるだけだが、その前にスパイシーなタルタルソースを作ろうか。

 マヨネーズにみじん切りにしたピクルスと玉ねぎ。それに潰したゆで玉子。ここからがオリジナルだが、隠し味にカレー粉を少々、更にプラス粒マスタードを多めに。これをよく混ぜて一旦味見……うん?少し塩が足らないか。味は塩・コショウで調整。

 いよいよブリを揚げていく。時間は5~10分程。衣が狐色になった位で油から上げる。千切りキャベツを添えて、タルタルソースをかけたら完成。

「お待たせ、『ブリかつ』だ。」

 ブリの身は火を通す事で鶏に近い感じになるが、鶏よりもしっとりとした食感になる。サクサクの衣にブリのジュースが溢れてくる。

「う~ん、美味い事は美味いんだけどさぁ…。」

「やっぱり、ビールが欲しくなるわよねぇ。」

 そう思って準備しましたよ、ビールも使った白ワインカクテル。……と言っても、ワインをビールでビルドしただけなんだけどね。

 氷を満たしたゴブレットに、ワインを180ml。そこにビールを120ml割り入れてステアすれば完成。

「ホラ、『ビア・スプリッツァー』だ。」

 ブリかつに一口ガブリとかじりつき、ビア・スプリッツァーで流し込む。

「くぅ~っ!やっぱ揚げ物にはビールだよなぁ!」

「でも不思議。ワインの爽やかさとビールのほろ苦さがこんなにマッチするのねぇ。」

 スプリッツァーってのは元々、白ワインを炭酸水でビルドしたカクテルの事だ。シャンパンよりもアルコール度数が低くとも、それに近い爽快感を味わえる為に、酒に弱い人間に好まれやすい。イギリスの有名な皇太子妃が好んで飲んだとされ、ブームが起きた時に紹介された。ただ、俺みたいな酒飲みにはあまりウケず、亜種としてこのレシピが生まれたと言われている。



「はぁ~…満足満足。これで明日からまた頑張れそうだよ。」

「そりゃあ良かった。明日からも錬度上げ頑張ってくれ。」

 俺がそう言うと黙り込んでしまった二人。どうした?

「ん~…。なんか〆が欲しいなぁ。」

「そうねぇ、お酒と魚だけじゃあ……ちょっとねぇ。」

 そう言ってこちらをチラチラと見てくる二人。仕方ねぇなぁ……。

「わかったよ。仕込みに時間掛かるから、もう一杯飲みながら待っててくれぃ。」

「「は~い♪」」

 ったく、こういう時だけ都合がいいんだから、ったく……。

 ドライ・ジンとスイートベルモットをそれぞれ15mlずつに、レモンジュースを1dash。これをシェークして氷の入ったオールド・ファッションド・グラスに注ぎ、更に白ワインも注ぐ。仕上げにレモンピールを絞りかけたら完成。

「『ローマ・ホリデー』だ。これをチビチビやりながら待っててくれ。」

 俺はその間に〆の一品を支度しよう。

 まずはブリを塩を振って焼き、米を研いで土鍋に入れる。炊くときにはかつお出汁を入れて、米に出汁を吸わせておく。

 具材はシンプルに。薄揚げを油抜きして短冊切りに、青ネギは小口切りにしておく。
 ブリが焼けたら土鍋にブリと薄揚げを加え、醤油・酒・みりんを大さじ1ずつ入れて炊く。

「しっかしなぁ。昔は鬼のようにおっかなかった提督が、こんなに丸くなるとはねぇw」

 しっしっし、と笑う隼鷹。この二人は空母組の中では古参の部類。一番最初の空母が隼鷹、続いて龍襄、赤城、飛鷹だったか。

「確かに確かにw昔なんかちょっと遅れただけでも般若みたいな顔で怒ってたもんねぇ~w」

 こいつら……酔った勢いでベラベラと…(怒)

「オイお前ら。」

「へっ?」

「俺はいつでも、『昔』に戻ってもいいんだぞ?えぇ?」

 少し睨みを利かせて脅かしてみる。

「いやちょ、ちょっと冗談だって提督ぅ~。今の鎮守府の雰囲気がいいんだからさぁ。」

「そっ、そうよ!皆今のアナタの人柄が好きで頑張ってるんだから!」

 そんな事は百も承知だ。提督になりたての頃の俺は、部下である艦娘にナメられてはいかんと肩肘張ってピリピリしながら生活していた。…だが、加賀の件が俺に気付かせてくれた。腹を割って話をし、艦娘達と協力して戦う。これが一番戦果を見込めるし、艦娘達が安全な事を。

「冗談だ、俺もあんだけ気張った生活に今更戻るのは疲れる。」

「たまの休みの日も、金剛さんに搾り取られるから疲れるしねぇ~www」

 ゴン、と鈍い音を立てて隼鷹の頭から火花が飛ぶ。余計な事は言わんでよろしい。

「ちょ、ちょっとした冗談じゃんかよぉ~…。」

 隼鷹はうっすら涙を浮かべながら、頭をさすっている。

「相変わらずバカやってるわねぇ、隼鷹はw」

 飛鷹はそんな様子を眺めてクスクスと笑っている。…そんなバカ話をしている間に、土鍋がイイ感じだな。

 ご飯が炊き上がったら青ネギを散らし、ブリの身をほぐしながらかき混ぜる。

「出来たぞ、『ブリの炊き込みご飯』だ。」

「美味っ!美味っ!」

「ブリの炊き込みなんて初めてだけど、美味しいわぁ。」

 半分くらい食べたら、海苔と三つ葉を散らして山葵を載せ、上からブリのアラから取った出汁をかけて出汁茶漬けに。

「ん~っ!絶品だなぁコリャ!」

「ホント!あれだけ食べたのにサラサライケちゃう!」

 ホント、美味いよなぁコレは。ブリは冬の味覚だ、時期の物だからその時に楽しまねぇとな。 

 

ウチの航空部隊事情

 
前書き
 今回はハーメルン時代のコラボ回です。ろくろうさんという作者さん執筆の『艦隊これくしょん~あなたに逢いたくて~』から特別ゲストがお二人いらっしゃいます(正確にはご本人ではありませんが)。

 作品の概要をザックリ説明しますと、嫁艦になった翔鶴さんが、提督に会いに行きたいと次元の壁を飛び越えちゃってイチャラブするという、ある意味夢の内容となっております。今回出演しているのは平行世界の同一人物というポジションの人物ですが、作品に興味を持たれた方は是非あちらで! 

 

 今日は以前から予定されていた本土から来る提督が視察に来る日。さすがに徹夜明けで出迎えるワケにもいかず、昨日は店を早霜に任せて早めに休む……つもりだったのだが、金剛の奴にキッチリ搾り取られてしまった。アイツも少しは考えたのか、限界までは搾られなかったが心なしか身体が怠い。

「ふぁ~…んぐ。」

 堪えきれずに生欠伸を噛み殺すと、横から尻をつねられた。

「何をしてるんですか。もっとシャキッとしてください。」

 うぉう、流石は元戦艦、眼光が鋭すぎるぞ加賀。今回は航空部隊を主とした視察の為、秘書艦は加賀にしてある。まぁケッコンしている艦だし、体裁は保てるだろう。と、庁舎の裏に建設された飛行場に近付いてくる双発の発動機の音。どうやらおでましらしいな。ヴゥゥゥ……ンと鈍い音を上げながら下りてきたのは月光。また珍しい機体を移動用に用意したモンだ。

 複座式の夜間戦闘機である月光。試作段階では双発三座式のの陸上戦闘機となる予定が、最初の生産時期の物はニ式陸上偵察機として生産。その後、現場で施された改造案が正式採用されて斜銃と呼ばれる仰角を付けた20mm機銃を装備した形でロールアウトした数奇な運命の機体。ウチにも何機か配備されているが珍しい事には変わりない。やがてゆっくりと着陸体勢に入り、出迎えの俺達の前でピタリと止まった。パイロットはかなりいい腕をしているらしい。少し間があって降りてきたのは、白い軍服に身を包んだ男性と、その秘書艦であろう艦娘だ。

「相馬六郎中将です。本日は急な申し出を快諾して頂き、感謝しております。」

「秘書艦の翔鶴です。本日は宜しくお願い致します。」

 俺達の側までやって来た二人はビシッと直立不動で敬礼する。まぁ、階級的にも年齢的にも俺の方が上だから緊張しているのだろう。

「ここの鎮守府を預かる金城だ。今日はよろしくな。」

「航空部隊を執り仕切っている加賀です。本日は宜しく。」

 海軍だからな、礼儀は大切だ。俺達二人もしっかりと返礼をする。そこに駆け足で近寄って来たのは吹雪と初雪、白雪。

「遠路はるばるお疲れ様でした!まずはこの鎮守府の航空部隊の全容をご説明致しますので、此方へ。」

 吹雪には客人の先導係、初雪と白雪には客人の荷物を預からせた。



「はぁ……立派な物ですね。」

 相馬中将は会議室へと向かう間、物珍しそうにキョロキョロと周囲を見回していた。美保の提督もそうだったが、そんなに立派な造りだろうか。

「いやはや、噂には聞いてましたがまさに『城』って感じですね。」

「噂ぁ?」

 おっと、思わず素が出てしまった。もうしばらくは猫被って礼儀正しくしておくつもりが。オホン!と大きく咳払いをして誤魔化し、

「どんな噂かお聞かせ願えるかな?」

「ブルネイの金城提督は有名ですよ。激戦区に程近い南西諸島海域にありながら、大部隊を率いて凄い戦果を挙げている、って。」

 口を開いたのは秘書艦である翔鶴さん。よく見ると左手の薬指には光る物が。成る程、ケッコン済みだったのか。どうりで二人の距離が近いと思ったよ。

「ただ……黒い噂もあって。」

「ほう?」

「戦力増強を進めて本土に反旗を翻すつもりだとか、艦娘の強化の為に人体実験してるとか……。」

「プッ!ククク…アハハハハ!……いや、失敬失敬。」

 思わず笑ってしまった。本土のモグラどもはそんな事を考えてやがったのか?下らねぇ。

 俺は現場主義で前線に居たいだけだ。本土の安全圏でぬくぬくとしてるなんてのは性に合わん。艦娘の配備数が多いのは認めざるを得ない事実だが、それは必要な数を確保しているだけで、余剰戦力なんざいねぇっての。んな下らねぇ事を考える暇があるなら、テメェ等で視察に来いっての。恐らくこの相馬君も、半分様子を探らせる為の刺客みたいな扱いでココに送られて来たんだろうな……可哀想に。少しでも実入りのある視察になればいいな、と密かに思ってしまった。



「此方です、どうぞ。」

 吹雪が案内してきたのは会議室。広めの室内には赤城と鳳翔さん、そして何故か呼んでいないハズの金剛が待ち構えていた。

「紅茶とコーヒーをご用意しました。まずはくつろぎながらでもお話を聞いていただきたいと思います。」

 金剛は満面の笑みでそう言っているが、俺には解る。アレは置いていかれた事に怒っている時の顔だ。相馬中将と翔鶴さんの対面に俺と加賀も腰かける。……と、目の前に豪勢な茶菓子とティーセットが出された。恐らくは金剛姉妹の手作りだろうな。と思いつつ、俺はコーヒーを頼んだ。

「…では、僭越ながら私から、我が鎮守府の航空部隊の運用状況について説明させて頂きます。」

 そう言って赤城が立ち上がると、部屋の照明が落とされ、壁面にプロジェクターの映像が映し出された。



「我が鎮守府では空母・軽空母の艦娘を大きく3つに分け、運用されています。」

《1班・第一線で活躍する主戦力。主に新海域や特別作戦の時に運用される。》※()の中の数字は錬度

・加賀(120)

・赤城(117)

・翔鶴改ニ甲(103)

・瑞鶴改ニ甲(108)

・隼鷹改ニ(98)

・龍驤改ニ(96)

・千歳改ニ航(95)

・千代田改ニ航(94)


《2班・戦果を挙げる日常的出撃班。大規模作戦の際の支援艦隊の直奄等、運用は様々。》

・雲龍改(97)

・天城改(77)

・葛城改(65)

・瑞鳳改(89)

・龍鳳改(86)

・祥鳳改(86)

・飛鷹(97)

・大鳳改(70)

《3班・主にパイロット及び艦娘本人の錬度を上げる班。》

・鳳翔改(93)

・蒼龍改ニ(97)

・飛龍改ニ(97)

・大鳳(40)

・グラーフ=ツェッペリン(50)

「…以上、艦娘の運用面はこの通りです。続いて、艦載機の運用について……」

 ウチの保有する航空機は艦載機だけではない。地上の攻撃目標を狙って深海棲艦の爆撃機が飛来する事もある。その為、鎮守府の裏手に飛行場を設営して、艦載機のパイロットを転科して基地防空隊を組織している。運用しているのは紫電改や隼、屠龍や月光等々。陸軍と海軍の航空機両方を運用している。パイロットの錬成は鳳翔や蒼龍・飛龍を中心に行っており、戦果はまぁまぁ。航続距離の長い航空機を活かして、支援部隊を飛ばせないかと研究を進めている。 

 

訓練の様子

 
前書き
作中に艦娘のレベルが出てきますが、作品を初投稿した当時のレベルです。悪しからず。 

 
 航空機の運用についての概要を説明し終え、俺達は再び外に。赤城と加賀、鳳翔以外の空母艦娘達が勢揃いしている。

「では、実際に部隊の錬度をご覧にいれたいと思います。」

 まずはニ航戦の二人がそれぞれ自慢の艦爆・艦攻隊による複合攻撃。普段は食いしん坊&飲兵衛というダメな部分が目立つ二人だが、腐っても鯛と言うべきか、その錬度は侮れない。標的は洋上に浮かべてある老朽化した護衛艦。そこに猛然と襲いかかる友永隊長・江草隊長率いる艦載機の群れ。上空と水面スレスレからの三次元的な攻撃こそ空母の最大の強みだろう。

 巨大な水柱が上がり、双眼鏡で確認すると護衛艦の喫水線には巨大な穴が空き、艦橋構造物は軒並み黒煙を吐いている。深海棲艦はアレよりも小型で特殊な装甲を有している為、あそこまでボロボロになる事は少ないが、それでも大破位までは追い込めるだけの火力だろう。

「流石は“神様”と呼ばれた方が率いる航空隊ですね。錬度が違う。」

「そうですね、私の持つ村田隊も、もっと錬度を上げないと……」

 相馬中将と翔鶴さんは興味深そうに双眼鏡を覗いている。やはり航空機の運用に関心が強いらしい。続いて、烈風・零戦による模擬空戦が始まる。

 普段瑞鶴が運用している零戦五三型甲の部隊が、加賀の運用している烈風改の部隊を追いかけ回している。しかし妖精さんの技術でペーパープランに終わった烈風改の飛ぶ姿が見られるとは、マニアにとっては感慨深い物だろう。




 そもそも、烈風改と呼ばれた航空機のペーパープランは3通りがあり、

・『誉』エンジンをハ43型に換装した仮称烈風一二型

・烈風の武装を翼内30mm機銃×4、斜め銃30mm機銃×2を装備した高高度局地戦闘機

・仮称烈風一二型にターボチャージャーを取り付けた型

 の3通りの内、妖精さんの再現したのは3つ目のターボチャージャー装備型だった。しかし烈風一二型の時点で機械式の3速過給器が装備されており、更にターボチャージャーを付ける事で発生する重量増を補って余りある性能アップが見込めなかった為に、ペーパープランに終わった悲運の機体。それを妖精さんの技術力で復活させ、艦載機に改造したのだ。※烈風一二型は元々局地戦闘機としてのプランだった

 零戦よりも長大な機体を、大馬力のエンジンが唸りを上げて引っ張り上げる。小回りは小柄な零戦には多少劣るかも知れんが、その他最高速等は圧倒的に上。総合的な性能差で零戦五三型を引き剥がしにかかる。

 対する零戦五三型も零戦の名を冠してはいるが、性能・搭乗員共に烈風改に勝るとも劣らない。率いている小隊長が有名人なのだ。翔鶴・瑞鶴に改ニが実装された際、艦載機のパイロット妖精の中に、『零戦虎徹』と呼ばれた岩本徹三氏の生まれ変わりが発見された。艦載機のパイロット妖精は先の大戦のパイロットの英霊の生まれ変わりだという説が有力で、その証拠に江草隊長・友永隊長の両名のように、他にも何人かの有名なパイロットの生まれ変わりが見つかる事がある。今回もそのパターンで、零戦虎徹が発見された。

 それを聞いた工廠妖精に明石、夕張が大ハリキリ。零戦五ニ型を改造し、五三型を造り上げてしまった。五ニ型のエンジンを水メタノール噴射装置付きの栄三一型エンジンに換装し、弱点とされていた燃料タンクの防弾を強化した機体だ。一般的な零戦二一型に比べて武装を強化した五ニ型に、エンジンの燃焼効率を高めて性能をアップした事で運動性能を損なわずに速度や航続距離を伸ばした事で、烈風改に食らい付く。格闘戦となればその小回りは顕在であり、烈風の背後を取って得意の巴戦に持ち込んでいる。やはり指揮官の教えが良いと、部下の腕前も上がってくるものらしい。次々と烈風がペイント弾を被弾し、飛行場に降りてくる。最後に残った烈風の小隊長は岩本徹三妖精自らが追いかけ、熟練ならではの芸当『燕返し』で一瞬にして背後を取り、トドメを刺した。

「やったぁ!特訓の成果が漸く……!」

 岩本小隊を預かっている瑞鶴が嬉しそうに飛び跳ねている。対する加賀は少し不満そうだ。俺の側に控えていたが、ツカツカと近寄っていき、

「他の鎮守府の提督の前よ、はしたない真似は止めなさい。」

 と、鋭い眼光で諌めた。明らかにシュンとして見える瑞鶴。

「…けれど、艦戦の腕前は見事だったわ。よく頑張ったわね、瑞鶴。」

 そう言って頭を撫でている。撫でられている瑞鶴も、嬉しそうにエヘヘと笑っている。相馬中将の翔鶴さんは有り得ない物でも見るかのように驚いているが、まぁ珍しいよな。一航戦と五航戦……特に、加賀と瑞鶴は仲の悪さで有名だ。ウチの二人は仲違いした時期もあったが、今では良い先輩後輩といった仲だ。ただ、こんなに褒めてやるのは珍しいが。俺がニヤニヤしながら加賀を出迎えると、尻をつねられた。止めて下さい、痛いんですけど。



 その後もドイツ製の艦載機の模範飛行や、艦娘による一斉発艦など、様々な状況を想定した訓練を視察してもらった。

「視察としてはこんな物かな。少しは参考になればよかったが。」

「いえいえ、とても有意義でした。ありがとうございます。」

 気付けば時刻は夕暮れ時。熱心に視察しているモンだから、昼食も取らずに続行していたが、そろそろ空腹も限界だろう。

「…さて、と。そろそろ良い時間だし、ささやかながら君達をもてなしたいと思うんだが……どうかな?」

「えぇ、是非。」

 そのやり取りを聞いてざわつく空母達。勘弁してくれ、お前ら全員に奢ってたらウチの財政が……。

「でも、私達だけと言うのは申し訳ないですし、良ければ皆さんと語らいながら食べたいのですが……如何でしょうか?」

 相馬中将の奥さん(翔鶴さん)、その優しさが眩しいよ。眩しいけど……俺の心が痛い。

「解りました、……おいお前ら、中将の厚意に感謝しろよ?」

「「「「「は~い♪」」」」」

 おいお前ら、目が雄弁に物語りすぎだぞ、

『提督、ゴチになります(笑)』

 って。はぁ……、財布の大破は確定か(涙)

「提督、私もお手伝いしますから。」

 優しいのは鳳翔さんだけかよ(号泣) 

 

日本酒が苦手なアナタに送る


 訓練の視察を終えた俺達は、空母達を引き連れてゾロゾロと歩く。端から見ると何とも間抜けな絵面なんだろうな、これ。

「へぇ……じゃあ相馬中将の地元は茨城なのか。」

 俺はと言うと、いつもの通り(?)執務室に向かう道すがら、相馬中将に何を振る舞おうかと探りを入れていた。

「えぇ、まぁ。アニメの舞台になったりして少し知名度が上がったんですが。」

 あ、もしかしてあの戦車アニメか?となればあんこう鍋とか良いかもなぁ。ベタベタだけど。

『鳳翔さん、鮟鱇って店にある?』

『ありますよ、取ってきます。』

 その短いやり取りで鳳翔さんはそそくさと隊列から離れていった。

「そう言えば、金城提督は加賀さんとケッコンなさってるんですか?」

 秘書艦の翔鶴さんから質問が飛んできた。

「あ~、まぁ一応ね。ウチはジュウコンしてるから他にもケッコンしてる艦娘はいるよ。」

 ここにいる空母勢だけでも4人、指輪を嵌めている者がいる。

「世間じゃあジュウコンには否定的な意見もあるけどね、ウチはそこまで揉め事も起きてないから。」

 金剛が正妻に決まってからというもの、金剛本人の浮気容認とも取れる『他の嫁艦もちゃんと構ってあげるデース!  』宣言によって、他の嫁艦からのアピールも露骨になってきた。最後に自分の下に戻ってくれば良いという金剛の気遣い(?)によって、『2号さん』ポジを狙った争いが水面下で起きている……らしい。ガチのいさかいは無しだと本人達の間で取り決めがなされたらしく、アピールをして選ばれたら勝ち、というルールらしい。

「さて、ここだ。」



「「し、執務室……?」」

 ハイ頂きました、定番のリアクション。それに比べてウチの奴等の落ち着きっぷり。ワイワイと部屋に入り、部屋の中心部に固まっている。

「ハイハイ、んじゃ動かしますよ~っと。」

 執務用の机のボタンをポチッとな。すると変形ロボットのギミックよろしく部屋が変形。あっという間にBarに早変わり。視察の二人は呆気に取られている。ま、それが普通だよ。

 俺も堅っ苦しい制服を脱いで、いつものラフな格好に。

「さぁさ、ゲストの二人も座った座った。ウチの店は階級とか立場なんざ気にせず飲める場所だから、気にせずじゃんじゃん注文してよ。」

「は、はぁ……。」

 遠慮がちなゲストの二人。それに対して、

「今日は無礼講だぜヒャッハー!」

「流石ぁ!提督太っ腹!」

「飲むでぇ!食べるでぇ!」

「流石に気分が高揚します。」

 お前らは遠慮を覚えてくれ、頼むから。

「ま、とりあえず乾杯しようか。料理やら酒やらの注文はその後でね。」

 そう言って俺は二人の前にグラスを置き、ビール瓶を差し出した。他の席やテーブルの方にもグラスとビール瓶を回して、グラスに注がせる。

「ハイ、あなた。」

「お、おぅ。すまんな。」

 なんだか初々しいねぇ、この二人。

「もしかして、二人はケッコンしたばっかりなのかな?」

「いや、お恥ずかしながら。」

「まだ半年経ってないんですよ。」

 どうりでね。ウチの嫁艦達みたいに遠慮とは逆に、遠慮というかぎこちない距離感があるものな。

「んじゃ、そんな新婚さんの前途を祝しまして……乾杯!」

「「「「「「かんぱ~いっ♪」」」」」」

 グラスの中身を一気に飲み干し、ビールの中身を空けにかかるウチの空母達。それに比べてチビリチビリと嘗めるようにビールを飲む中将。

「あれ、もしかして酒は苦手かい?」

「いや、どうにも大将殿に直接振る舞って貰うというのは……」

 どうにもこの人、そういう所は真面目らしい。まぁ、良い事だけどさ。

「ハッハッハ、気にしなさんな。俺の趣味というか道楽でやってるんだから。オッサンの暇潰しにと思って、付き合ってくれよ。」

「そうそう、遠慮するだけ損だよ~?…ってワケで提督、アタシ等のテーブルに日本酒!一升瓶でね~♪」

「お前は遠慮しろよ隼鷹!」

 こんな騒がしい空気が少しは楽しくなってきたのか、緊張気味だった中将の秘書艦の翔鶴さんから笑みが零れた。これで少しは打ち解けてくれるといいんだが。

「……で、ご注文は?」



「あ、じゃあ日本酒と……簡単に摘まめるものを何品か。」

 中将の注文に顔が暗くなる翔鶴さん。

「あれ?あなた確か日本酒が苦手じゃあ……。」

 おやまぁ、また何で苦手な日本酒を。

「実は昔、二十歳になりたての頃に居酒屋で熱燗を飲んだ時に酷い悪酔いをしてしまいまして……。」

 ふむ、熱燗で悪酔い……ねぇ。

「それ以来、独特の匂いや強い甘さが苦手になってしまって……。」

 確か日本酒嫌いの人からはよく聞く話だ。他のワインやウィスキー等の洋酒に比べて、日本酒はアルコール度数が高いし、強烈なアルコール臭や強い風味は初めての日本酒が熱燗というのが大きいだろう。

 熱燗は熱を加える事で日本酒の風味や香りを引き立たせる物だが、燗を付けすぎるとアルコールが熱分解され、アンモニア臭や酔いの原因となるアセトアルデヒドが増加してしまう。

「なので、もしも苦手な日本酒を克服できれば……と。」

「なるほどねぇ、まぁ俺はプロじゃあないからどれだけアドバイスできるかは解らないけどね。」

 とりあえず先にツマミを出していこうか。

 皿に大葉を敷いて、その上にスライスした人参。そこにKiriのクリームチーズを乗せて、仕上げに鰹の内臓の塩辛……酒盗を乗せたら完成。

「ハイこれ、『酒盗クリームチーズ』。見た目まんまの名前だけど、全部を一緒に口に放り込んで食べてね。」

 そしてそこに合わせるなら……これだろうな。

「これを合わせてみて。『獺祭(だっさい) 純米大吟醸50』。」

 グラスに注いで出してやる。酒盗クリームチーズを口に放り込んで4、5回咀嚼。そこに獺祭を流し込む。

「く、くどくないですねコレ。」

「多分だけどね、中将が飲んだのは純米酒位の精米歩合の日本酒だったんだと思うよ。」

 日本酒は以前にも紹介したが、精米の歩合で酒の種別が変わる。そして最高級とされる純米大吟醸は、米と水だけで仕込まれる上に米の表面から50%以上を削り取り、中心の糖分の塊だけを使用した物だ。そして中心に近付ければ近付けるほど、雑味は消え去りその風味はへばりつくようなしつこいものでは無くなり、あくまでスッキリとした飲み口で後味も爽やかな物になる。

「山口の旭酒造って蔵が造ってるんだけどね、『売る為、酔う為の酒ではなく、味わう為の酒造り』がモットーの酒蔵なんだよ。」

 どれも美味いが、3000円程度から買える商品があるのも嬉しい所。それにこの酒、某有名アニメの劇場版にも登場している。

「アニオタ絡みで興味を持つ人も居るんだけどね。ヱヴァ〇ゲリヲンの新劇場版:序に出てきた葛城ミサトさんの部屋に、獺祭の瓶が山のように置かれてるんだよね。」

「へぇ……じゃあ、ミサトさんお気に入りの一杯なんですか?コレ。」

「ま、そういう事だね。」

「提督ぅ~…呼びまひたぁ?」

 既に出来上がっている葛城がカウンターに寄ってきた。葛城違いだ、気にすんな。 

 

日本酒が苦手なアナタに送る・2

 さてさて、お次はお手軽なツマミを1つ。まずは大葉とネギをみじん切りにして、そこにおろししょうが。量はお好みだね。そこに足すのは鯖の水煮缶。味噌煮缶でも出来るかもしれないけど、味の調整がめんどくさくなるかもな。水煮缶を空けたら、まな板の上で薬味とよく混ざるように叩く。ある程度混ざったら味噌を大さじ1位。量は自分のさじ加減で変えてくれ。味噌を入れて更に叩き、よく混ざったら器に盛り付け。円形に整形して真ん中を少し窪ませる。仕上げにその窪みにウズラの卵黄を落としたら完成。

「お待ち、『サバ缶なめろう』だよ。」

 少し塩気の強いツマミをチョイスしたからな。続けてだが甘口の物を薦めさせて貰おう。

「割りと大手の酒造メーカーだけど、『月桂冠 鳳麟(ほうりん)純米大吟醸』。これも中々飲みやすいよ。」

 またグラスに注いでやり、中将と翔鶴さんに差し出す。

「凄い……フルーツみたいな香りですね。」

「本当……まるでメロンみたい。」

 それが属に言う吟醸香って奴だな。精米歩合50%を超えた酒造好適米の糖度はメロンにも匹敵するほどだ。それを熟成・発酵させることでまるでメロンのような香りが立ち上る。

 なめろうを口に運び、その味を十分に噛み締めてから鳳麟を口に含む。

「鯖の味が強いからくどくなるかと思いましたけど……」

「凄くさっぱりしますね。味噌との塩っ辛さも絶妙に……」

 二人は美味しそうに黙々と食べている。他の席の空母達も、美味い美味い、と舌鼓を打っている。



 さて、お次は辛口の酒を紹介しようか。っと、それに合わせるツマミを1つ。

 用意するのは鶏のささみ。観音開きにしたらラップで包み、すりこぎなどで叩いて薄く伸ばしておく。お次はささみでくるむ具材の下拵え。

 梅干しは……ささみ200gに対して3つ位かな?種を取り除いて叩いて梅肉を作る。大葉(2枚くらい)は千切り。これを納豆1パックに加えて、濃口醤油小さじ1と練り辛子少々を加えてよく練っておく。

 お次は衣。薄力粉1/3カップに、卵と水を混ぜた卵液を1/3カップ。そこに隠し味の豆板醤を少し入れて混ぜ、衣の完成。後はささみで梅納豆を巻き、衣を付けて揚げるだけ。簡単だろ?

「先ずは酒からだね。『日高見 純米山田錦』。さっきの2つとは違って辛口の日本酒だよ。それと、『水戸風鶏揚げ。』相馬中将が茨城出身だって言うから、少し作ってみたよ。」

 まずは日高見を単品で味わってもらう。

「最初甘いですけど……後からピリッと来ますね。」

「うん。俺は辛口の方が好きだから、このくらいの方がいいかも。」

 そこに鶏揚げを一口。サクサクとした天ぷら風の衣に、梅肉の酸味と鶏ささみのサッパリとした旨味。そこに顔を覗かせる納豆の風味。一風変わった揚げ物だが、酒肴としては面白い一品だろう。

「揚げ物にも合いますねぇ。」

「揚げ物にはビール、って感覚だけどこれはこれでアリかも。」

 喜んで貰えたようで何よりだよ。少し酔ってきたのか、頬が紅潮している翔鶴さん。相馬中将に少し寄り添うようにくっついている。

「お、おいバカ、恥ずかしいって……。」

「あら、良いじゃないですか少しくらい……♪」

 うわぁ。何て言うか、うわぁ。他人のイチャイチャ見るのってこんな気分なのか。俺達ももう少し自重しよう。それを見た加賀が不貞腐れたような顔をしている。

『どうした?妬いてんのか?』

 料理を持っていきながら加賀に小声で尋ねる。

『……別に、いつも通りです。羨ましくなんてありません。』

 いや、完全に嘘だよねソレ。握ってるグラスがミキミキって悲鳴上げてるんですけど。

『…解った、明日の晩は相手するからよ。それで機嫌直してくれ。』

『やりました、赤城さんも一緒にお願いします。』

 俺、死なないよな…?



「お待たせしました~!」

 鳳翔さんが土鍋を抱えてパタパタと入ってきた。どうやら調理まで済ませてきてくれたらしい。

「いやぁすいませんね鳳翔さん。」

「いえいえ、お鍋でしたからさほど手間ではありませんでしたよ。」

 そう言いながら鍋をガスコンロにかける。ほどなくクツクツと中の汁が煮立って来た音が聞こえる。湯気からはふわりと味噌と魚介のよい香りが漂ってくる。

「今日のスペシャルメニュー……『あんこう鍋』です。」

 具材は白菜、ネギ、豆腐にエノキ、椎茸に鮟鱇を使ったつみれ。それに鮟鱇の身と内臓を入れて、味噌で味を整えたシンプルにして最高の一品。これに合わせるなら、酒も特上のを出さないとね。

 その酒瓶を取り出した瞬間、飲兵衛共がざわついた。無理もない、それくらい珍しい『幻の銘酒』と呼ぶに相応しい一本だからな。

「『十四代 黒縄 大吟醸』。今日出せる日本酒の中で最高の一本です。…どうぞ、味わってくれ。」

 まずはゲストの二人に一杯ずつ。後ろから生唾を飲み込む音が聞こえるが、我慢しろお前ら。ゆっくりと味わうように口に含む。

「なんだろう、甘口なんだけど……凄く力強い。」

「上手く表現できませんけど……凄く美味しいです!」

 だよなぁ。俺も『十四代』を初めて飲んだ時は味の感想が浮かばなかったもんな、凄すぎて。ただただ、美味いとしか表現できなかった。そのくらい段違いに美味い。

 全員に行き渡るようにあんこう鍋と十四代を回す。皆それぞれに味わって、疲労なんか吹っ飛んでキラキラ状態だ。でもその位美味いよ、マジで。

「さてさて、どうだったかな?日本酒の味は。」

「初めて飲んだ日本酒とは比べ物にならない位に美味かったです。これなら苦手意識も解消できそうですよ。」

 それは何より。俺は他にもオススメの日本酒の銘柄をメモし、翔鶴さんに手渡した。

「これは……?」

「他にも美味い日本酒は沢山ある。今度は君が『旦那様』に振る舞ってあげると良い。」

 翔鶴さんは真っ赤になりながらも、小さくコクリと頷いた。

 翌朝、二人は仲良く月光に乗り込んで帰っていった。少しは今回の視察が艦隊運用に役立ってくれるといいんだが。その夜、一航戦の二人に搾り取られてヘロヘロにされたのは、また別の話。 

 

長女で苦労人ポジってあんまりいないよね。


 皆さんはバーテンダーが口の堅い人間でなければ務まらない、と言われているのをご存知だろうか?人は酒を飲むと自然と心の封がほどかれてついつい、漏らしてはいけない本音や愚痴、悩みが零れ出す。それを留めてしまっておくのも、バーテンダーの重要な務めなのだ。その日の『彼女』もまた、深刻そうな悩みを抱えているようだった。

「はぁ……。」

 彼女は大きな溜め息を吐きながら頬杖を突き、注文したカシオレのマドラーをクルクルと回していた。

「どうした?陽炎。そんなデケェ溜め息なんぞ吐いて。珍しいな。」

 俺は注文されていた軟骨揚げを出しながら溜め息の理由を尋ねた。陽炎型の一番艦・陽炎。普段の彼女は溜め息を吐くようなタイプではない。着任している駆逐艦の中では最も多い陽炎型の長女として、出撃に遠征にと精力的に働いてくれている。また、曲者揃いの妹達を上手く纏めてあげていて、こちらもかなり助けられている。そんないつも活発な彼女が陰鬱な顔をして溜め息を吐いているのだ、尋常ではない。

「なーんかね~…お姉ちゃんでいるのに疲れちゃったのよ。私。」

 軟骨揚げをヒョイと摘まみ上げて、口に放り込む陽炎。揚げたてで相当熱い筈なんだが、意にも介さず咀嚼してカシオレを流し込んでいる。

「お代わり。なんかサッパリ系の頂戴。」

 普段は中々顔を見せない陽炎だが、酒が強いのかどうかをよく知らない。これ以上飲ませても大丈夫なものか……。

「オイオイ、大丈夫か?結構飲んでるぞオマエ。」

「らいじょうぶって言ったら大丈夫なのっ!早くっ!」

 ヤバイ。目が座ってる上に微妙に呂律が回ってない。しかしこうなると陽炎が頑として曲がらないのもまた事実。余程腹に据えかねる事があったのだろう。今夜くらいは黙って飲ませてやるか。



 まずはカカオリキュールを45ml、そこにレモンジュースを20ml。更に砂糖かガムシロップをティースプーン1杯。これをシェークしてタンブラーに注ぎ、仕上げにソーダ水で割れば完成。

「ほらよ、『カカオ・フィズ』だ。…それ飲みながらで良いから、何があったか喋ってみな?」

「……ありがと。」

 陽炎は受け取ると、早速一口。

「チョコ風味なんだけど、レモンの酸味と炭酸のシュワシュワが来て頭が混乱しそう。けど、美味しいわ。」

 お酒ってのはついつい、口を軽くしてくれたりするからな。これで少しは喋りやすくなってくれると良いんだが。

「……で?何をそんなに悩んでたんだ?」

「これよ、これ。」

 そう言うと陽炎は紙の束を取り出した。

「ウチの姉妹、数が多いでしょ?だからもしかして、普段言えない不満や要望があるかも、って思ったの。」

 フム、面倒見の良い陽炎らしい発想だな。雷や夕雲とはまた違うベクトルで面倒見が良いからな、陽炎は。

「でね?匿名のアンケート用紙作って、解決できそうならしてあげようと思って。」

 おぉ、良いアイディアじゃないか。俺もパクろうかな……。

「けどね、そのアンケートの内容がね…手遅れって言うかね……。」

 そう言って辟易した顔でカカオ・フィズを啜る陽炎。そんなに酷い内容なのか……?陽炎に許可を貰い、見せてもらう。

・早く改二になって時雨ちゃんとユニット組みたいから早く改装計画下さい!

・時々先輩方(特に空母)からの視線が突き刺さって痛いんですが、何とかなりませんか?

・頼むから部屋割り変えて……。寝不足で死にそう…。

・着任してから付き合いで走り回らされて足がパンパンで限界です。何とかしてください

・野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん野分ちゃん(※当時は野分は未着任)

・いつも戦艦に間違われるのですが、何故でしょうか?解決策があればご教授下さい。

・食堂のメニューに粉もんの追加を!



 アカンわコレ、幾つかは解決出来るかも知れんけど、解決策がねぇのがチラホラ……。

「……ね?無理でしょ?」

「うん、無理だなコリャ。強いて言うなら……」

「強いて言うなら?」

「上層部に期待するしかねぇなw」

「デスヨネーwww」

「「ハァ……。」」

「よぉ~し、今日は忘れる為に食べるわよ!マスター、エスニック料理って作れる?」

「まぁ、難しくないのでなけりゃあ、な。」

「んじゃ、それお任せでお願いしま~す!」



 それじゃあ、まずは世界三大スープの1つ・トムヤムクンを作ろうかな。

《手軽に本格!トムヤムクン》(材料2人分)

・エビ:8尾

・筍(水煮):60g

・ふくろたけ(水煮):6個

・こぶみかんの葉:6枚

・レモングラス:2つまみ

・いんげん:6本

・トマト:1個

・青唐辛子:4本

・にんにく(みじん切り):1片分

・ココナッツミルク:100cc

・オイスターソース:大さじ1/2

・鶏がらスープの素:大さじ1/2

・ナンプラー:大さじ2

・香菜:適量

・ライム:適量

・水:800cc

・サラダ油:小さじ1

 まずは材料の下拵えから。エビは竹串で背ワタを取り、尻尾を残して殻を剥く。この時、尻尾に泥汚れが残っていることが多いので包丁で削ぎ落としておく。トマトはヘタを取って湯剥きにし、1cm角に切る。食感を楽しみたいなら湯剥きせずに小さく乱切りにしてもOKだ。いんげんは3等分にして塩ゆで、筍は縦に3mm位の厚さでスライス。ふくろたけは半分にする。

「マスター、ふくろたけって珍しいキノコよね。」

「そうだな、俺も水煮以外ではほとんどお目にかかった試しがねぇや。」

 ふくろたけがなければ他のキノコでも代用がきくぞ。青唐辛子はヘタを落として小口切りにして、材料の下拵えはOKだ。後は水に鶏ガラスープの素を合わせておくと、後々楽になる。

 次は材料を炒めていく。鍋に油を入れて熱したら、にんにくと青唐辛子を入れて炒める。香りが出てきたらがらスープと合わせておいた水を入れ、強火にかけて熱する。ふつふつと沸いてきたらこぶみかんの葉とレモングラスを入れる。

「レモングラスとかって売ってるの?その辺に。」

「昔は取り扱い店少なかったがな。最近のエスニックブームでGAB〇Nがレモングラスを発売してからグンと取り扱い店は増えたぞ。探してみるといい。」

「ふぅん……。」

 レモングラスを入れて、その名の通りレモンのような香りがしてきたらいんげん・筍・エビ・ふくろたけを入れる。

エビに火が通って色が変わったら、ココナッツミルク・オイスターソース・ナンプラー、そしてとっておいたトマトを加えてひと煮する。後は器に盛って香菜を散らし、櫛形に切ったライムを添えれば出来上がりだ。

「お待たせ『トムヤムクン』だ。ライムはお好みでな。」

「いっただっきま~す♪……う~ん、この酸っぱ辛いスープと、香菜の爽やかな苦味が良い感じよねぇ~。」

 半分位食べてから米の麺のフォーとか、春雨なんか足しても美味いよな。

「マスター、『カカオ・フィズ』無くなっちゃった。『チチ』お代わりね。」

「……ハイハイw」

 ま、たまには好きなだけ飲ませてやるか。長女は案外大変だしな。 

 

完璧に落ち度ですわコレ。

「う~ん、アジアンテイストなのも良いんだけど……メキシコ料理っぽいのも食べてみたいのよねぇ…」

 チチをストローで吸いながら、陽炎から料理のリクエストが来た。メキシコ料理か。何かあったっけか……お、小麦粉のトルティーヤ(冷凍だけど)あるじゃん。これでブリトーにするか。

 とりあえず冷凍のトルティーヤをフライパンに広げ、解凍しつつ焼き目を付ける。焼き目が付いたら乾燥しないようにして置いておく。お次はブリトーに使う2種類のソースを作ろう。

 まずはアボカドを使ったワカモレソース。アボカド1個に香菜を2枝。アボカドは種と皮を除いて香菜はみじん切り。具材をボウルに入れたらレモン汁大さじ1、おろしにんにく小さじ1/4、塩小さじ1/3、オリーブオイル大さじ1/2を加えて、アボカドを潰しながら混ぜれば完成。お次はブリトー以外にも色々使えるサルサソースを作るぞ。これは是非試して貰いたいので、レシピを別に書いておく。

《使い道色々!サルサソース》

・カットトマト(缶詰):1缶

・玉ねぎ:1/2個

・ピーマン(小):2個

・パプリカ(黄):半分位

・おろしにんにく:小さじ1

・レモスコ:大さじ1

・ハーブミックス:大さじ2/3

・砂糖:小さじ2/3

・塩、胡椒:適量

※レモスコがなければレモン汁大さじ2にタバスコをお好み量で。

 作り方は簡単、野菜類をみじん切りにして、全部の材料を混ぜるだけ。これで本格的な味が出来ちゃうから驚きだよね。

 メインの具材は鶏のモモ肉(300g位)とソーセージ。鶏モモは1.5cm角くらいにカットして、オリーブオイル大さじ1、おろしにんにく小さじ1/2、チリペッパー小さじ1/3、クミンパウダー小さじ1/3、塩小さじ1/3でスパイシーに下味を付ける。フライパンにオリーブオイルを引いて熱し、鶏モモを焼く。ソーセージもパリッとするくらいまで焼いておこう。

 後はトルティーヤに好きなソースを好きなだけ乗せ、レタス・チーズ・きゅうりのみじん切り等お好みの材料をソーセージや鶏モモと巻いたら出来上がり。巻くのは自分の好みがあるだろうからセルフでやってもらおう。



「ん~♪アジアンなエスニックとは違うけど、これもピリ辛で美味し~い!」

 意外と辛いのが好きなんだな、陽炎。酒も強めのカクテルを5、6杯は飲んでいるからまぁまぁ強いようだ。

「結構強いんだな、陽炎。意外な一面だわ。」

「そう?ウチの姉妹皆結構な飲兵衛よ?」

 雪風とか飲めない子もいるけどねー、とチチを飲み干して応える陽炎。

「結構姉妹で料理とかお菓子とか持ち寄って集まって、女子会っぽい事とかしてるもの。」

「へぇ……。」

「それに、そういうプライベートな空間って意外な一面が出てきて面白いのよ。この間なんて不知火がね……あ、これ秘密だったわ。」

 おいおい、ここまで引っ張っておいてお預けはないだろう。

「何だよ、気になるじゃねぇか。」

「絶対誰にも言わない?」

「おぅ(多分な)。」

「ホントにホント?」

 どんだけ凄い秘密なんだよ。余計に気になってきて是が非でも知りたくなってきたわ。

「じゃあ見せてあげる。不知火ってさ、普段は飲んでても素面と変わらないんだけどね、許容量を超えちゃうと一気にスイッチ入っちゃうのよね。」

 そう言いながら陽炎はケータイのムービーを起動した。

『お姉ちゃん……♪お姉ちゃんだぁ…///』

 えぇと、解りやすく説明しますと(恐らく)酔っ払って頬を紅潮させた不知火が、陽炎に抱き付いて腹部に顔を押し付けてスリスリしています。

『ちょ、ちょっと不知火!?アンタ飲みすぎよ!』

『おっとっと、これはキマシタワーかな?スケッチしなきゃ(使命感)』

 秋雲はそれを止める事もなく、スケブを取り出してスケッチ始めてるし、カメラを回してるのは黒潮か?雪風はあまりの事態にアワワワしてるし。

『お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……///』

 不知火、ほっぺスリスリから鼻を埋めてグリグリに移行。気恥ずかしさからか、みるみる陽炎も赤くなっていく。

『ちょ、ちょっと不知火!ホントに酔っ払いすぎだって!そろそろマジでやm……』

『酔っぴゃらってなんかいませんよぉ…?しらぬいににゃにか落ち度でもぉ……?///』

 いや、ない。無いんだけど、落ち度しかねぇわコレ(錯乱)。

『……落ち度が、ありましたかぁ………?』グスッ

 不知火、お目目ウルウルさせてしゃくりあげ、今にも泣き出しそうです。

『な、無いわよ別に……///』

 陽炎、陥落。観念したかのように不知火の頭をナデナデしてやっている。

『んん~……♪』

 対して不知火は撫でられるのが余程嬉しいのかホワホワしている。

『お姉ちゃんは暖かいなぁ…。』

『そりゃ、お酒飲んでるから体温上がってるだろうし、不知火も十分あったかいわよ?』                            

 陽炎がそう言うと不知火はブンブンと首を横に振る。

『そ、そうじゃなくてぇ……』

 そう言うと不知火はポツポツと語り始めた。

『“不知火”は宵の海に浮かぶ幻の篝火、実体の無い炎の事。』

『もしも不知火があったかく感じるなら、それはお姉ちゃんや妹達から暖かさを分けてもらってるから、だよ?』




 そう不知火が言った所でムービーは終わっていた。

「どう?感想は。」

 ニヤニヤしながら陽炎が尋ねて来た。何だこの可愛い生き物。……何だこの可愛い生き物。感想がそれしか出てこない。

「しかし意外でしょ?あの普段クールっていうか冷酷にも見える不知火があんな感じになるなんてw」

 陽炎は尚も上機嫌に語っている。背後に立つ人の気配にも気付かずに。

「陽炎さん陽炎さん、後ろ後ろ。」

「へっ?」

 そこには、顔を真っ赤にしながらプルプルと震える不知火の姿があった。

「え、えーと……いつから?」

「陽炎が姉妹で飲み会をする、という辺りからです…」

「え、え~……?居るなら声かけてくれればいいのに…」

「あまりにも楽しそうに語っているのでお邪魔かと思いまして。」

 プルプルはなりを潜め、代わりに戦艦クラスの眼光が戻ってきている。アカン、これはアカン奴や。

「さて……私が言いたいのは一言だけです。」

 不知火は12.7cm砲に弾を装填して、構えた。

「い、いや、待って不知火、流石に実弾は……!」

「問答無用!沈めええええぇぇぇぇぇっ‼」

 そう叫びながら不知火は逃げる陽炎を追い掛けて行ってしまった。……あ、勘定貰ってねぇや。まぁ良いか、後で徴収しよう。そう考えながら鎮守府内で聞こえる砲撃音を聞きつつ、ブリトーを肴にテキーラを煽った。

 翌日、陽炎は大破して入渠ドックに担ぎ込まれ、鎮守府の壁が穴だらけになって何故か俺が明石に怒られた。穴だらけにした張本人の不知火が1週間引きこもりになったのは、また別の話。 

 

トマトと女殺し


 陽炎のお陰で1週間程部屋に閉じ籠っていた不知火が漸く出てきた。俺も悪い事をしたと思ったのでお詫びの印に店にご招待差し上げた……というのは、動機の3%位。要するに建前だ。本音を言えば、『あのデレデレの不知火を生で見てみたい!』と思ったのだ。嫁艦連中にばれたら袋叩きに遭いそうだが、それと天秤にかけても十分にお釣りが来る。

「何かご用でしょうか、不知火はお酒を飲むつもりはありませんが?」

 戦艦クラスの眼光で俺を睨み付けてくる不知火。あの恥ずかしい映像を見られたせいで、俺にもご立腹らしい。

「だぁから、悪かったって謝ってんだろ?そのお詫びの印に料理をご馳走しようと思ってな?」

 不知火はムスッとしてそっぽを向いてはいるが、耳がピクピクと動いている。どうやら料理が気にはなるらしい。

「陽炎から聞いたんだが、トマトを使った料理が好きらしいな。」

「まぁ、確かに好物ですが。」

 数日前ーーー……

『不知火の好物?』

『そうそう、今度この間のお詫びにご馳走しようとおもってさぁ。』

 この間の一件以来、ちょくちょく飲みに来るようになった陽炎に相談をぶつけておいた。

『う~ん……あ、あの娘トマトを使った料理が好きよ。』

『トマト料理、ねぇ……。』

 シンプルにサラダとか、素材の味を活かした料理か。

『あ、でも生のトマトはダメよ?不知火って加工したトマトは食べられるけど、生のトマトは食べられないの。』

 あぁ、そういうタイプか。たま~にいるよね、そういう人。

『なるほどねぇ、じゃあホールトマトとかを使った料理か。』

『そうそう、そんな感じ。あとケチャップなんかもいいかもね。あの娘ケチャラーだから。』

 なるほど、マヨネーズ好きはマヨラー。ケチャップ好きだからケチャラーか。



「そう聞いて色々と仕度はしていたんだが……そうか。呼び出して悪かったな、戻って良いぞ。」

「ま、待ってください!」

 そう言って顔を見せない為に後ろを向いた。言うて不知火は生真面目な娘だ、謝罪の意を示したのに蔑ろに出来る娘ではない。正直笑いだしたいのを堪えながら、不知火の方に向き直る。

「どうした?無理に食ってくれ、なんて事は言わないぞ。」

「いえ、あの……折角準備して頂いたのに食べないのは失礼ですし、その…」

 瞬間、不知火の腹がグウゥ……とその意思を伝えてきた。

「食べるか?」

「は、はい。」

 顔真っ赤にしちゃってまぁ。可愛いなぁコイツ。

とりあえず、その喉を潤して貰おうか。普通の飲み物に見せかけたカクテルを飲ませて、知らず知らずの内に酔わせてしまおうという計画だ。ケケケケケ、今日の俺の中には悪魔が棲んでるぜ。

「とりあえず、アイスコーヒーでも飲んで待っててくれよ。 」

 そう言って俺は仕度を始める。ベースリキュールはウォッカ。ジャガイモや大麦、小麦などを原料に作られる無味無臭の強いアルコール度数を誇る、ロシアの国民酒とでも呼ぶべき酒だ。響の大好物。それを氷を入れたタンブラーに注ぐ。そこにカルーアを追加してやる。比率としてはウォッカを2、カルーアを1。そして生クリームを浮かべれば完成。これが『ホワイト・ルシアン』というカクテルなのだが、今回は生クリームを多めにしてアルコールの風味を誤魔化してある。

「手早く作っちゃうから、それ飲んで待っててくれ。」

 不知火は疑う様子もなく、ゴクリと一口。

「クリーム多めでまろやかな口当たりですね。」

「ブラックコーヒーより飲みやすいだろ?」

 俺は会話を交わしながら、茹で玉子を作っている。最初はサラダとスープを振る舞うつもりだ。

《ミキサーで簡単!ガスパチョ》

・トマト(生):1個※今回はホールトマトを1缶

・きゅうり:1本

・玉ねぎ:1/2個※新玉ねぎや紫玉ねぎがオススメ!

・ピーマン又はパプリカ:ピーマン1個分くらい

・フランスパン:市販のバゲットの半分※パン粉1カップで代用可

・水:6カップ

・ビネガー(できたらワインビネガー):1/2カップ

・オリーブオイル:1/4カップ

・にんにく:7片

 作り方は超簡単。ミキサーやフードプロセッサーで全部の材料を細かくして混ぜ合わせるだけ。食感を楽しむには具材を全て細かい角切りにして混ぜ合わせればいいが、今回は滑らかな口当たりにしたいので全部をフードプロセッサーにぶちこんで回す。具材が細かくなったら完成だ。

「まずはスープからだ。スペイン・アンダルシア地方の名物料理『ガスパチョ』だ。」

 皿に盛り付けたガスパチョとスプーンを手渡してやる。

「これは……塩などは入っていないのですか?」

「フランスパンからの塩分だけだな。後はビネガーの酸味とトマトから出る旨味がほとんどよ。」

 トマトは野菜の中でも旨味成分が豊富だ。味の素の創始者がトマトから旨味成分のグルタミン酸を発見したのは有名な話だな。そのポテンシャルを十分に活かした料理と言える。

「ビネガーの酸味とトマトの風味、それににんにくのスパイシーさが食欲を引き立ててくれます。」

「しかもパンと大量の野菜も入ってるからな。冷製スープだし、夏場の食欲落ちてる時なんか最高だぜ?」

 そんな会話を交わしながら、サラダの仕上げに入る。と言っても、固茹でにした茹で玉子をざく切りにして、そこにこの間のサルサソースを和えただけなんだけど。

 あのサルサソースは意外と色々な料理に使える。それに冷蔵庫で3~5日は保存が効くから週に1度くらいは大量に作って置いておく常備菜になっている。今回はそれを多用する事になるだろうな。 

 

トマトと女殺し・2


 早々にホワイト・ルシアンを飲み干した不知火。まだまだ余裕だろう。次のドリンクはどうしたものか……。

「司令、次はオレンジジュースを頂きたいのですが。」

 茹で玉子のサルササラダをつつきながら、不知火がドリンクの催促。オレンジジュースか。…なら、アレで行くか。脳内でメニューを決定した俺は、早速準備に移る。

 氷の入ったタンブラーに、まずはウォッカを45ml。そこにオレンジジュースを75ml足してやる。これだけで『スクリュー・ドライバー』になるのだが、カクテルだと気付かれにくくするために一工夫。ここにイタリアのリキュール・ガリアーノをティースプーン2杯。ガリアーノはオレンジとすみれの香りがとても強い、変わったリキュールだ。仕上げにステアしてスライスしたオレンジとチェリーを浮かべたら完成。

 これが『ハーベイ・ウォールバンガー』ってカクテルなんだ。後は不知火が気付くかどうか。刺してやったストローで啜っている不知火。

「あら?何だか花の香りが……。」

「気付いたか?普通のオレンジジュースじゃつまらんと思ってな。すみれのエキスを混ぜてみた。」

「フフ、司令も中々洒落た事をしますね。」

 どうやら気に入ってくれたらしい。じゃあ俺は次の料理を作るとしますかね。スープ、サラダと来たから次は海鮮と行こうか。

 まずは海老。大体10匹くらいかな?殻を外して背開きにして背ワタを取り、片栗粉を軽くまぶして水洗い。こうすると片栗粉が汚れを吸着してくれて身が綺麗になるんだよ。片栗粉を念入りに落としたら塩・胡椒で下味を付けてから片栗粉を揉み込んでおく。

フライパンを2つ出し、片方では卵を溶いて軽く塩をしてふわふわの炒り卵を作っておく。もう片方のフライパンで生姜とにんにくのみじん切りを小さじ1ずつ、豆板醤を小さじ1/2炒めて香りを出したら海老を加える。海老に焼き色が付いたらここでカットトマト缶を1/2加えて、そこにオイスターソース小さじ1/2、顆粒の鶏ガラスープ小さじ1、塩・胡椒を適量加えて味付け。仕上げに炒り卵を入れて軽く混ぜたら完成。

「お待ちどう、『たまトマエビチリ』だ。辛味は控えめにしてあるよ。」

「ありがとうございます。……卵とトマトって合うんですね、はじめて知りました。」

「いやいや、オムライスなんか卵とトマトの組み合わせの最たる例じゃねぇか?」

 不知火がエビチリを食べながらそんな感想を述べている。俺が反論すると不知火は少し考えている。

「……言われてみればそうですね。」

 意外と天然なのか?不知火。



 お次はちょっとボリュームあるメニューといこう。使うのは骨付きのラム。いわゆるラムチョップって奴だね……ドンと2本行こうか。塩・胡椒で下味付けたらオリーブオイルで焼いていく。焼き目が付いたら一旦取り出して、玉ねぎ半分とにんにくのみじん切り大さじ1/2、塩少々を振って炒める。

 ここにホールトマト。トマトソースを作る時はカットトマトよりも味が出やすいので、ホールトマト。これを潰しながら強火で加熱して酸味を飛ばす。ここにラムチョップを戻したら塩と、同量くらいの砂糖。砂糖入れないとコクが出ないからな、砂糖は重要だ。味付け終わったら蓋をして中弱火で10分煮込む。その間に付け合わせのクスクスを茹でておこうかな?

 クスクスってのはパスタなんかに使われるデュラム小麦の粗挽き粉に水を含ませ、1mm位の粒にしてそぼろ状態にした物だ。国によっては主食にもなっている。ブイヨンで煮たり肉料理の付け合わせなどに使われたりもする。味は米粒サイズのパスタ、って感じだな。

「さぁできたぞ、『ラムチョップのトマト煮込み』だ。」

 ラムは大人のマトンに比べてクセが少ない。肉も柔らかいし食べやすいだろう。

「ラムは初体験ですが……さほど臭くないんですね。トマトソースとの相性も素晴らしいです。」

 ラムに酒が進むらしい、ハーベイ・ウォールバンガーをゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。

「っぷはぁ。しれい、お代わりもらえますか?」

 ん?少し口調が砕けてきたな。もう少し……か?

「おぅ、ちょっと待ってな。」

 よし、酔って少しは味覚も鈍ってきているだろう。ここいらでウォッカ以外のベースのカクテルも飲ませるか。

 用意したのはゴールドラム。その名の通り、熟成中に金色に変化したラム酒だ。まずはこれを30ml。クラッシュアイスを入れたオールド・ファッションド・グラスに注ぎ、更にピーチリキュールを25ml。仕上げにフレッシュライムジュースを加えてカットライムを飾り、太めのストローを刺したら完成。

横浜老舗のバーが発祥のカクテル、『ジャック・ター』。ピーチとライムの爽やかで甘い口当たりが心地よく、飲みやすい。しかしアルコール度数は高め。飲みすぎには注意しよう。…まぁ、今夜は酔わせるのが目的だからな。ケケケケケ!

「ハイよ、桃とライムのミックスジュース。フローズンドリンク風だから、氷と一緒に飲むと良いぞ?」

 太めのストローでズルズルとすすり上げる不知火。少し頬にも赤みが差してきたな。効いてきてるな?

「……しれい?よければ、こちらで一緒に飲みませんかぁ?」

 おっと、思わぬ発言。これに乗らない手はないだろう。俺はグラスと自分のボトルを持って、不知火の横に腰掛けた。
 

 

トマトと女殺し・3

「……しれぇ。」

 あれ、幻聴か?一瞬雪風の声が聞こえたような気が。と思って周りを見回していた瞬間、不知火が俺の腹に抱き着いてきた。

「しれぇ……しれぇだぁ…………///」

 雪風の声かと思ったら、発信源はお前か不知火!流石は姉妹と言うべきか似すぎなんですけど。ここ最近運動不足で少し出てきた腹に抱き着いて、更にはギューッと抱き締め&ほっぺスリスリ。これはヤバい、破壊力抜群。ロリ〇ンの提督だったら間違いなく轟沈不可避ですわ。

「え、えぇ~と不知火?大丈夫か?」

「ら、らいじょうぶですよぉ……ヒック!///しらぬいにはぁ……にゃにも落ち度なんてない、ですよぉ……?」

 何この可愛い生き物。普段の猛禽類みたいな鋭さが無くなって、寧ろ雪風とか時津風が持ってる小動物的な雰囲気なんですけど。フェレットとか、子犬とかそんな感じの。

「な、何か落ち度が…ありましたかぁ……?」

 来ましたよコレ、上目遣いでウルウルお目目攻撃。陽炎がこれで陥落してたけど、マジでヤバいわコレ。(この間、抱き着かれっぱなし)

「い、いや?特には無いが……。」

 それを聞いた途端、不知火がにへらっと笑い、

「よかったぁ……///」

 と再びスリスリ再開。あぁもう、俺にどうしろと。



「しれぇ?しらぬいの悩み、聞いてもらえますかぁ……?」

「お、おぅ。なんだ?」

 ケッコン出来ないとかじゃないよな?と少し思ったがあまりにも突拍子が無さすぎるな。

「実はしらぬい、陽炎お姉ちゃんよりも、そして妹の黒潮よりも背が低いんです。」

 それは初耳。てっきり、姉妹の中では1番か2番目位には背がデカいかと思っていた。やっぱ、普段の大人びた雰囲気がそう錯覚させるんだろうか。

「もちろん、雪風とか他の妹よりかは大きいんですが、それでも気になって…しれぇは背の小さい娘はお嫌いですか?」

 普段の不知火からは想像も付かないほどに子供らしい悩み。……いや、案外こういうコンプレックスをひた隠す為に気張っているのかもな。

「んな事気にすんな、不知火。」

 俺はそう言いながら不知火の頭を撫でてやる。不知火は驚いたような、戸惑ったような顔をしているが大人しく撫でられている。

「俺は4人兄妹でな。男3人女1人の構成で長男が俺なんだが、弟は2人は俺よりもデカいぞ?身長よりも、兄弟姉妹ってのは『器』のデカさとか、そういうモンが大事だと思うぞ?」

 ……あら、ずいぶん静かになったと思ったら寝入っちまってら。随分と気持ち良さそうに寝ちゃってまぁ。娘を持ったらこんな感じで飲むのも良いかもな、なんて事を思ってたら。

「提督さ~ん、飲みに来たよ~っ!」

「美味しそうな匂いがしたのでこちらに……♪」

「ちょ、ちょっと赤城さんに瑞鶴も……」

 入ってきたのは赤城に瑞鶴、そして霧島。

「あっ?」

「「「……あっ(察し)」」」

 霧島がスマホで写真を撮り(現在、泥酔して寝入った不知火を膝枕&ナデナデ中)、赤城と瑞鶴は『おじゃましましたー』と棒読みで言いながらドアをそっ閉じしようとしている。

「いやいや待て待て勘違いすんなお前ら。」



「いやぁ、まさか提督さんがこんな事してるなんて、ねぇ?」

「以前からストライクゾーンは広いと思ってましたが、まさか駆逐艦にまで手を出されようとするとは、ねぇ?」

「さっきの写真、青葉に売ったら幾らで買ってくれるでしょうか?」

 3人が3人、ニヤニヤした面でカウンターに座っている。対して俺は、再びキッチンに立つ羽目に。畜生、どうしてこうなった。(不知火は赤城に膝枕を換わって貰った)

「だってまさか、店に来たらカッコカリでも旦那様が幼い娘を酔わせて如何わしい行為をいたそうとしてたら、ねぇ?」

「だぁから、それがそもそもの勘違いなんだって赤城ぃ。」

 俺はそう弁解しつつも、調理を進めている。3人の提示した条件は、『今宵の飲食代をタダにする事』。それで黙っていて貰えるなら安い物だ。

「まったく、こんな小さな娘にこんな強いカクテル飲ませて。お姉様に知れたら大変でしたよ?『お義兄さま』?」

 霧島は最近、俺をからかうとき等はそう呼ぶようになってきた。まぁ確かに関係としては間違ってないし、本命は別に居るのだから問題ないのだが。

「だから、勘弁してくれって霧島もぉ。ちゃんと今日の飲み代は持ってやるから。」

 俺はそう言いながら、手製のトマトケチャップを作っている。不知火の為に多めに入荷しておいたトマト缶が余分にあまりそうなんでな、幾つかはストックしておくが調理してしまおう。

《手作り意外と難しい?手作りトマトケチャップ》

・ホールトマト:1缶

・砂糖:大さじ8

・粒マスタード:小さじ2/3

・塩:小さじ2/3

・白ワインビネガー:大さじ4

・ハーブミックス:少々

・レッドペッパー:2つまみくらい

・シナモン:小さじ2/3

・コンソメ顆粒:お好み

・隠し味にウスターソース等:適量



 まずはホールトマトを潰す。めんどくさいから手で荒々しくでいいや。鍋に移して火にかけたら、調味料を全部ぶちこんで強火で加熱して酸味を飛ばしつつ、香りが変わってとろみが出てきたら中弱火まで火を弱めて煮詰める。もしも具入りのがお好みなら、最初から人参や玉ねぎ、セロリなんかを細かいみじん切りにして加えよう。今回はシンプルに行くから具なしで。

 十分に煮詰まったら隠し味に泥ソース。こいつはウスターソースなんかを作る時に出る沈殿物で、とんかつソース等よりもスパイスや野菜、フルーツの濃度が高い。普通に使うよりも料理の隠し味やコク出しなんかに使うと抜群に美味くなる。ここで一旦味見。……う~ん、市販品には劣るが、手作りとしては十分に美味い。やはりプロの仕事は侮れない。

「提督さ~ん、まだ~?私お腹空いてきたんだけど。」

「もう少し待て、瑞鶴。今特製ケチャップに合う料理作るから。」

 ぶぅ、と口を尖らせてカウンターに突っ伏している瑞鶴。なんだろうな、コイツも若干酔うと幼くなるタイプなのか?

 さてさて、それじゃあフライドポテトでも揚げるとしますかね。

 ジャガイモは皮付きのまま櫛形に切って、今回は粉をまぶしておく。まぶすのは強力粉。薄力粉でもいいんだが、強力粉の方が衣がバリッとして歯応えが心地好い。

 後は油で揚げるんだが、ここに一工夫。ジャガイモを点火前に油に入れてしまう。油の量はイモがヒタヒタになるくらい。こうすることで大きめにカットしたフライドポテトでも、焦がすことなく生焼けにもならない。

 点火して油が温まって泡が立ってきたタイミングで、油にローズマリーを適量。こうすると油に香りが移ってポテトにもいい香りが移るんだ。

 イモが揚がったら油を切り、ザルに空けて塩・胡椒・ガーリックパウダーで味付け。仕上げに盛り付けてさっきのケチャップとマスタードを添えて完成。

「ハイよ。『フライドポテト~手製のケチャップを添えて~』だ。熱いから気をつけろよ?」

「「「いただきま~す♪」」」

 3人は男前ジョッキ(用量1リットル)をそれぞれ持ち、ビール片手にポテトに舌鼓。

「うーん、やっぱり提督の料理は絶品ですねぇ♪」

「ホントよねぇ、花嫁修業する気が失せちゃいそうよっ。」

「アハハ、けれどやっておかないと後々大変ですから……」

 そんな会話を繰り広げている3人。そう言えば霧島と例の憲兵の彼はどうなっているんだ?

「霧島、彼氏とは上手くいってるのか?」

「んぐっ!?」

 焦りすぎだろ。イモがつかえるぞ。霧島はビールを流し込んでハァハァと荒く息をしている。

「し、死ぬかと思った……。交際は順調ですよ?その内良い報告が出来るかと。」

 そうかそうか、それは何よりだよ。

「さて、お三方。そろそろ〆の料理だと思うんだが……何がいい?」 

 

トマトと女殺し・4

「私ピザトースト!チーズたっぷりね~」

 ジョッキの中身の泡が消えてしまったビールを煽りながら、瑞鶴の注文。

「私は……、ホットドッグお願い出来ますか?」

 男前ジョッキで3杯目に突入した霧島からの注文。しかしホントにザルだな霧島。底が見えん。う~ん、と最後まで悩んでいた赤城は、

「私はご飯をお願い致します。」

 ピザトースト、ホットドッグ、ご飯物か。一番手間がかかるのはご飯物だ、まずはそれから行くか。

 まずは野菜を炒める。にんにくのみじん切りを大さじ1玉ねぎを1/2、ニンジンとセロリは合わせて玉ねぎと同じくらいの量になるように調整してくれ。野菜は全部みじん切りでな。これを多めのオリーブオイルで炒める。…といっても、ほとんどかき混ぜないがな。ばらつきが出ないように混ざったら塩を振り、しばらく放置。野菜の水分が出るから案外焦げ付かないから安心してくれ。

 玉ねぎが透き通って来たらトマト缶1缶、水1カップ、コンソメ顆粒はお好み量。もしもあればローリエを1、2枚いれると本格的な味になる。ちなみにだが、ローリエ、ローレル、ベイリーフは同じ月桂樹の葉だからどれでもいいぞ。最初は強火で酸味を飛ばしつつ、煮詰まり過ぎないように適宜水を足す。一旦味見して調度よくなったら中弱火に火力をおとして20分程コトコト煮る。野菜の粒感が残っててもいいんだが、今日は滑らかなのが良いと思ったんで最近買ったハンディブレンダーでトロトロにしていく。……おっと、ローリエ取り出すのを忘れずにな。野菜の原型が無くなった所でソースが完成。このまま器に盛ってパセリと生クリームを散らしてトマトスープ……でもいいんだが、今回はこいつをソースに使う。

 さぁ、こっからが本番だ。厚切りにした特製ベーコン80g、玉ねぎ1/4個をオリーブオイルで少し炒め、そこに洗っていない白米を1合。そのまま炒めて米が透き通って来たら、さっきのトマトソースを1カップ、水気が足らないので適宜足しながら調整。……まぁ、多分2カップ位かな?もう何作ってるかバレバレだよな、イタリアンのご飯料理、リゾットだ。塩・胡椒で味を調整して仕上げに生クリーム適当に。後は器に盛ってイタリアンパセリ散らしたら完成だ。

「お待ち。『トマトクリームリゾット』だ。二人のもさっさと仕上げるから、も少し待ってくれ。」

「うわぁ、美味しそうです……♪」

 おい赤城、目がシイタケみたいになってんぞ。さてと、お次は作り置きのサルサソースを使って2品一気に仕上げるぞ。

 食パンと背割りのコッペパン(ロールパンでも可)にうっすらとバターを塗り、コッペパンの方にはサラダ菜をしいておく。食パンの方にはサルサソースをバターを塗った面に載せ、スライスしたサラミとか好きな具材を載せる。最後にピザ用チーズを刻んで細かくしてぎっしりと散らしてトースターにIN。ピザ用チーズは軽く刻んでやると隙間なく敷き詰めやすくなるからな、グラタンなんかやるときにもオススメだぞ。トーストしてる間にホットドッグ用のソーセージを焼く。今回はサルサソースのっけてサルサドッグにするから、チョリソーなどのスパイシーな物よりも、シンプルな味付けをオススメするぜ。俺はフランクフルトをチョイス。皮がパリッとするまでじっくりと焼いていく。

「そう言えば、霧島さんの彼氏の話って、提督さんと金剛さんの話で立ち消えになっちゃったのよね。……ねぇねぇ、実際どこまで進んでんの?」

 ニヤニヤとしながら瑞鶴が聞いている。霧島は頬を赤らめながら、

「ど、どこまで……ですか?え、えぇと、その~……彼は、会った時から『一目惚れです、結婚しましょう!』って口癖のように言い続けてて……」

 と、若干うつむき加減になって赤面している。おぅおぅ、若いってのぁいいねぇ、勢いがあって。

「キャ~!すっごい情熱的じゃん!ねぇねぇ、返事したの?まだ?」

 瑞鶴は遠慮せずにずけずけと聞いていく。その不躾な感じが羨ましくも思える。まるで芸能リポーターのようだ。

「こら、はしたないわよ瑞鶴。…でも、お返事は早い方が良いかも知れませんね。」

 やはり乙女、瑞鶴を嗜めつつも赤城も気にはなるんだなw

「で、でもやっぱりカッコカリとは言え提督とケッコンしている身ですし……」

「何だ、俺の事気遣ってたのか?気にすんな、それこそ『カッコカリ』なんだから、旦那の練習台くらいで調度いいんだよ俺は。」

 ケッコンカッコカリの指輪はそもそも、艦娘の錬度の限界を引き上げる為の装身具だ。提督との強い絆は必要だが、それは必ずしも『愛』である必要はない。上司と部下としての『信頼』、戦いの中で芽生える『友情』、『敬愛』。心の繋がりは1つではない。第一、女の提督もいるんだから愛だけではケッコンカッコカリが出来ない事になってしまう。

「別に俺と霧島の繋がりは愛だけじゃねぇ……だろ?だから俺に操立てする必要無ぇんだよ。戦争が終わればその後の生活があるんだからな。」

「ハイ、ありがとう……ございます。」

 霧島の目に光る物が見えたのは、気のせいではないだろう。とその時、オーブントースターからチン♪と音が。

コッペパンにフランクフルトを挟んでサルサソースのっけて、サルサドッグも完成だ。

「お待ちどう。『ピザトースト』と『サルサドッグ』だ。」

「ん~♪チーズトロトロ~!美味ー!」

「サルサソースのピリ辛とソーセージの肉汁がいい感じです♪」

 おぅ、美味そうに食うなぁお前ら。幸せそうで何よりだよ。

「さて、と。赤城、不知火任せても良いか?俺はまだ店もあるし。」

「良いですよ、任されました。」

 赤城が不知火を背負うと、

「んん……しれぇ…お慕いしてますぅ……。」

「あらあら、ライバル出現ですね♪」

 そう笑いながらもしっかりと背負って送り届けてくれた。照れちゃうね、しかし。

 翌日、不知火が真っ赤になって執務室に怒鳴り込んできたが知らぬ存ぜぬを貫き通した。どこに仕掛けてあったのか、青葉の盗撮ムービーが出回って危うく憲兵さんに捕まりかけたのはまた別の話。 

 

我が鎮守府のバレンタイン事情~春雨の場合~

 一年の内、最も胸焼けがする季節がやって来た。鎮守府の中が甘ったるい匂いに包まれ、艦娘達は料理雑誌やら何やらを見ながら騒いでいる。

「なぁ……毎年の事だけどさぁ。疲れない?仕事の合間にチョコ作りとか。」

 午後の執務も一段落した午後3時過ぎ、その日の秘書艦だった霧島に尋ねてみた。

「どうでしょうかね?私は今回彼に初めて作ろうと思っていますので、寧ろウキウキしてますが。」

 ウチは250を超える艦娘がいる。その全員からチョコを貰っていたら俺が糖尿病直行な為、一定のルールを設けている。

1.他に本命がいる人は原則提督には渡さない

2.巨大過ぎるチョコは×

3.変な物を混入しない

 この3つのルールが出来ただけで、大分チョコを貰う数は減った。…というか、さりげに惚気て来るようになったな霧島。どうやら交際は順調らしい。胃もたれ気味なのに余計にもたれそうだ。と、そんな会話をしていた所に扉がノックされる。

「はいは~い、開いてるよ~。」

「し、失礼しますっ!」

 緊張して少し上ずったような声色。……だが、声からすると恐らくは春雨だろうか。時期から考えてもチョコを持ってきたのかな?渡すだけなのに緊張するなんて可愛い奴め。

「は、春雨!?その格好……」

「うぅ……、い、言わないで下さいぃ…」

 その服装はいつもの黒を基調とした白露型の制服ではなく、長袖のエプロンドレス……ようするにメイド服。胸元には大事そうにギュッとハート型の包みを抱えていて、恥ずかしいからか顔が真っ赤で目も涙目。

「ど、どうしたんだその服。」

「さ、漣ちゃんが『ご主人様はコスプレ好きだからこのカッコで行けばバッチリですよ!』って……」

 さ、漣ぃ……!お前は何という…素晴らしいチョイスをするんだこの野郎‼悔しいが認めざるを得ねぇよ!似合いすぎだよ!めちゃめちゃ可愛いよ!最近流行りのミニスカメイドじゃなくてクラシカルなロングスカートのメイド服ってのもポイント高けぇよ。もうね、ヤバいね。学生時代男社会に生きてきたから、こういうイベントに縁が無かったが、生きててよかったと素直に思うわ。

「ま、まぁ座れよ。丁度オヤツの時間だしな。…霧島、コーヒーを頼む。」

「ハイ、ただいまお持ちします。」

 霧島が執務室を出て行く。流石にチョコを渡す時に他の女性がいるのは気になるだろうという俺なりの配慮だ。霧島が妙にニヤニヤしていたのは気にしないでおこう。



「そ、それで…そのぅ……バ、バレンタインが近いので、チョ、チョコをお持ちしましたっ!」

 この初々しい反応。何だか学生時代に後輩の娘から告白されているような気恥ずかしさだ。ダークブラウンの箱にピンクのリボンでデコレーションされた箱は、春雨がギュッと抱き締めるように持っていたからかほんのりと暖かい。

「開けてもいいか?」

「どっ、どうぞっ!」

 リボンを解き、箱を開けると、中身は一口サイズのトリュフか入っていた。

「い、一応…手作りです……ハイ。」

 段々と小さくなっていく春雨の声。1つ摘まんでみる。

「わ、私っお菓子作りは初めてで…時雨姉さんとか浜風さんとかに教わりながら作ったんです。だから上手く出来てないかも…」

 触るとフニフニと柔らかい。口どけをよくするためにクリームを多めに練り込んだのだろうが、春雨があんまり強く抱き抱えてたモンだから少し溶けてしまったのだろうな、と思われる。口に放り込む。

「うん、初めてだって言うけど美味いよ。流石は料理上手、前評判通りだな。」

 丁寧に湯煎して練ったのだろう、妙なざらつきや溶け残りは一切無く、まろやかな口どけだ。感謝の意味も込めて頭を撫でてやる。最初は少し照れ臭そうにしていたが、えへへ……とはにかんだように笑う春雨。こんな事をしていると、世のロリコン提督の気持ちが解らんでも無くなってくるからヤバい。本格的にヤバい。



「し、司令官?よろしければ…したい事があるんですが……」

「おぅ、何だ?変な事じゃなければいいぞ。」

 俺がそう言うと、春雨はおもむろに箱からトリュフを1つ摘まみ上げると俺の口元まで持ってきた。

「はい、あ~ん……♪」

 え、何コレ?食べるの?俺が?待って待って、すげぇ恥ずかしいんだけど何コレ。春雨は目を閉じて完全に食べてくれるの待ってます状態だし。コレ絶対食べなきゃダメな流れだよね?……えぇい、ままよっ!

「あ、あ~ん……」

 パクリ、とトリュフと春雨の指が口の中に収まる。

「ひゃっ!し、司令官っ!ゆ、指まで食べないで下さい……」

 ヤバい、頭が沸騰してきてチョコの味とか解んなくなってきた。どうしようコレ。

「し、司令官。春雨にも1個貰えますか…?」

 これアレだよね、あ~んして返せって事だよね?

「あ、あ~ん……?」

 春雨の小さな口の中に、トリュフと俺の指が収まった。トリュフは既に俺の指を離れたのだが、春雨が俺の指に吸い付いて離してくれない。

「ん…んぅ……」

 少し吐息を漏らしながら俺の指を舐め回している春雨。なんだろう、何となくだけどイケナイ事をしてる気分になってきたぞ。なんかスゲェ……エロい。

「し、仕返しです……」

「どうですかご主人様~?漣チョイスのメイド服装備の春雨ちゃん…は……?」

 入ってきたのは春雨にメイド服を着せた張本人、漣。しかもタイミングの悪い事に、春雨が俺の指を解放するかしないかのタイミングで入ってきた。固まる俺たち。

「メシウマktkr。青葉さああああぁぁぁぁぁん!」

 その瞬間をスマホで撮られた。脱兎の如く逃げ出す漣。

「待てやコラ漣いいいいいぃぃぃぃぃっ‼」

 急いで追いかける俺。今度の写真が出回ったら今度こそヤバい、主に俺の首が。 

 

出撃・礼号作戦!~前段階~

 さてさて、大将ともなると厄介な仕事が舞い込むなんてのはザラに有る事だ。フィリピンのミンドロ島に泊地設営を目論んでいた深海の艦隊を叩く為に『礼号作戦』が発令された。イタリアで建造された新型重巡艦娘を迎えての観艦式が予定されていたこの時期にだ。バレンタインデーも終わった直後だってのに、深海の奴等は勤勉なこって。

「……あ?本土からの艦隊は来ない?何でまた…、は?複数の鎮守府がスパイによる破壊工作!?んだそりゃ、本土の奴等は気が抜けすぎなんじゃねぇのか!?……あぁ、わかったよ。コッチで何とかすらぁ。じゃあな。」

 乱暴に受話器を置いた俺は、懐から煙草を取り出して火を点けた。溜め息代わりに紫煙を吐き出すと、少しは気が紛れた。

「テートクぅ、今の電話って……」

「あぁ、軍令部の染嶋からだ。どうも、深海の奴等に同調してる国があるらしい。」

 フィリピンへの攻勢が決まった途端、呉・大湊・佐世保・ラバウル・トラックが破壊工作を受けた。特に呉は一時的に場所を移さなければならない程の打撃を受けたらしい。

「どうにも、きな臭ぇな。」

 タイミングが良すぎる。深海の動向を知らなければこんなにもタイミングを合わせて動く事は出来ないハズだ。恐らくは中国辺りが怪しいモンだが、証拠が少なすぎて断定は出来ん。

「金剛、全員に緊急召集だ。ウチの鎮守府が『礼号作戦』の前線部隊になるからな。戦闘配備、装備・資源のチェックを急がせろ!」

 鎮守府の中にけたたましくサイレンが鳴り響く。バタバタと食堂に集められる艦娘達。 

「え~、フィリピンに深海の泊地を設営しようとしている動きがあるのは聞いていると思う。その前に叩く為に作戦が発令された。作戦名は『礼号作戦』、総員戦闘配備にて待機。いつでも出られるようにしとけ。以上!」

 全員が返礼してくる。統制はバッチリだ。後は鬼が出るか蛇が出るか……だ。

「まずは情報だ。敵の構成、展開範囲、錬度……全て足りん。基地航空隊に連絡!航空偵察隊を編成、当該海域に飛ばして情報をかき集めろ!」

 コクリと頷いて鳳翔・蒼龍・飛龍が慌ただしく出て行く。

「他の者は別命あるまで第二戦闘配置で待機!いつでも呼び出しに応えられるようにしとけ。」

『了解!』

 さぁて、一仕事と行きますかね。



 俺と嫁艦の数名は執務室に戻って戦闘指揮所に模様替えの準備を整える。家具を退けて部屋の中央にテーブルを広げ、海図や艦隊の備蓄状況などを纏めたデータ等をズラズラと並べていく。

「さて、と。後は偵察部隊からの報告待ちだ。少し手持ち無沙汰になっちまうなぁ。」

 俺は煙草を取り出して火を点けた。深く吸って紫煙を吐き出した。偵察隊からの報告が上がって来るまで数時間。さてさてどうしたものか……と、部屋の中にグウゥと誰かの腹の音が鳴り響く。誰だ?赤くなってるのは…比叡か、珍しい。

「いや、あの、DVD見てたら夢中になっててご飯食べ損ねちゃって……」

 赤面しながら弁解をしてる比叡。これから熾烈な戦闘が始まるかも知れんと言うのに、何という平常心だ。

「ぷっ、くくっ……」

「くっ、くすくす……」

「ぷっ、ぷふっ!」

「ぷふっ、あははっ!」

 あははははははっ!と爆笑に包まれる執務室。腹が減っては戦は出来ぬってのは昔からの格言だしな。

「よっしゃ、腹ペコの比叡が出撃して一撃大破なんてされたら敵わん。何か作るか!金剛、手伝ってくれ。」

「OK、任せるネ~w」

「じゃあ、私と霧島は飲み物の用意をしましょうか。」

「あ、私達も手伝いますよ榛名さん。」

「そうね、紅茶にコーヒー、後は何があればいいかしら。」

「翔鶴姉、私達は何しよう?」

「……そうね、お腹が空いてる比叡さんの気を紛らわす為にお話の相手になっていれば良いんじゃないかしら。」

「もう!お姉様達も、翔鶴さん達まで~っ!」

 頬を膨らませて抗議する比叡をよそに、軽口を叩き合いながら、テキパキと準備を整える嫁艦達。そうさ、こういう連携の良さも、ウチの強みだよな。



「パンと具材はあるからな。サンドイッチでも作るか。」

「OK、食パンのサンドイッチの方は任せるネ。」

「おぅ、任せた。俺はデニッシュにクロワッサン、それとバゲットサンドを作るかな。」

 そう言いながら俺はパンを半分に割り、断面にバターを塗る。使う野菜はレタスにトマト、紫玉ねぎ、アボカドで行こう。

まずはデニッシュだ。レタスを食べやすい大きさにちぎって載せ、そこにスライストマト、ハム、卵サラダ。デニッシュのもう半分で挟めば完成。

お次はクロワッサン。コイツは2種類つくるぞ。レタスを敷いたら1つにはスライスしたアボカド、ボイルして半分に割ったエビ、スライストマト、玉ねぎ。仕上げにサワークリームとマヨネーズを混ぜたソースをかけてサンド。

もう1種類はレタスに玉ねぎ、そこにスライスチーズと生ハム。黒胡椒をガリガリと振ってやり、岩塩をパラパラと。後は挟むだけだ。

最後はバゲット。レタスをしいて、玉ねぎにトマトを載せたら、ちょっと豪勢に合鴨のローストをスライスして挟む。黒胡椒を上から振ってやり、仕上げにマスタードとハチミツを混ぜたハニーマスタードをかけたら挟む。

「よし、こっちは上がったぞ。そっちは?」

「こっちも出来たヨ~。」

 金剛はハムチーズに、ツナサラダ、ハムレタストマト、卵サンド。定番だが間違いなく美味いよな。

「よっしゃ、まずは腹拵えだ!」 

 

出撃・礼号作戦!~作戦会議~

「失礼しま~す。偵察部隊が戻ってきたので報告に……って、何でお茶会してんですか!」

「そうですよ、私達が仕事してる時に!」

 部屋に入ってくるなり不満の声を上げたのは蒼龍・飛龍のニ航戦コンビ。食べるの大好きなこいつらからすれば、俺達がサボタージュ真っ最中に見えたのだろう。

「すまんな、バタバタしてて飯食ってない奴が居てな。ついでに腹ごしらえを、って事になったんだ。」

 不満そうにしていたニ航戦コンビだったが、先輩の加賀に席を奨められ、紅茶を出されると少しは落ち着いたようだった。

「さて、と。食いながらでもいいから報告を聞こうか?」

 先に食っていた俺達は一段落付いている。残りをニ航戦に奨めつつ、作戦会議と行こう。

「了解です。ミンドロ島周辺を哨戒した結果ですが、基本的に水上部隊はほとんどいません。……ただ、潜水艦の反応多数アリ、と。」

 ふむ。潜水艦による警戒網か。奴等の泊地建設予定地……いや、物資の集積地というべきか。そこに強襲をかけるにはまず対潜掃討をやらにゃならんという訳だ。

「ルートとしては……そうですね、この辺を基点にして、真っ直ぐ東に進むか、北に進むルートで大回りに回ってその後艦隊を反転、西に進んで湾内に突入がベストだと思います。」

 霧島と加賀が蒼龍と飛龍の話を聞きながら、海図に大まかな航路を書き込んでいく。

「でもさぁ、それだったらここのスタート地点から南東に進んで、島の周りを回り込んだ方が早くない?」

 瑞鶴が不自然な回り道をする航路を見て不満を漏らした。確かに図面だけで見ればそれが最短ルートだろうが……

「そのルートは使えないわ。島の回りは岩礁やら珊瑚礁が複雑に入り組んでるから潮の流れも早くてゴチャゴチャ。最悪座礁するわよ?いくら昔よりも小さな身体になったとはいえ、ね。」

「霞……!」

 瑞鶴が呈した疑問に的確な答えを出したのは、かつてこの海域で行われた同じ名前の作戦において旗艦を務めた駆逐艦・霞だった。つい最近大改装を受けて霞改ニとなっていた。



「私ならここの海域に通じてるわ。ナビゲーターにはうってつけじゃない?」

 成る程、要するに旗艦を直訴しに来た、ってワケだ。

「良かろう、やってみな。……皆も異論はねぇな?」

 嫁艦連中は頷いてみせる。ここからは霞にも作戦会議に参加してもらう。

「さてさて、どこまでいったかな?……あぁ、大まかな航路は決まったか。で、敵の戦力配置は?」

「えぇ……っと、こことこの辺に潜水艦の艦隊が居ました。」

「ちょうどこの辺を水雷戦隊が巡回してます。」

 粗方のポイントに印をしていく。

「あ!海域の北東と南東方面から大型の爆撃機らしき機体が飛んできてたって偵察部隊の妖精さんが言ってました。」

 爆撃機が?という事は近くに飛行場姫が潜んでやがるな、厄介な事になってきたぞ、こいつぁ。

 深海棲艦はその能力が高くなれば成る程に人型……いや、艦娘の姿に近付いてくる。その中でも抜きん出て戦闘能力ならびに知能が高い者を俗に『鬼級・姫級』と呼称している。その鬼か姫が海域を制圧すると、自分が居座る所に『巣』を形成する。基地だったり泊地のような形に見えるそこからは女王アリに仕える働きアリのように深海棲艦が産み出され続ける。『巣』を叩かない限りそれは終わらない。

「まぁ、飛行場姫は後回しだ。今の所はそっちを叩けとの命令は来てないからな。で、敵の親玉は?」

「姫級の反応は3つ。湾内の陸地に1つ……恐らくですが、これが物資の集積地と思われます。それを護るように潜水棲姫と思われる反応が。今はコイツが『巣』を形成してます。」

 潜水棲姫か。やはり対潜掃討戦になりそうだな。

「……ん?あと1つの姫級の反応は?」

「これは海域の東側から輸送艦隊と思われる一団から。水母棲姫を目視でも確認したとの事です。」

 ふむ、輸送艦隊を叩いておくべきか、最短ルートで潜水棲姫だけを叩くか。そんなに時間をかけていられる訳じゃあねぇからな。

「…よし、全員に通達!目標は潜水棲姫、輸送艦隊は牽制しつつ相手にはするな。あくまでも潜水艦の掃討を主目的として行動せよ。」

 嫁艦と霞が一斉に立ち上がって敬礼する。後は艦隊の編成と装備の選定だな。



 2時間後、艦隊の編成と装備の選定を終えた俺はそのメンバーを呼び出した。

「え~、作戦内容は説明した通りだ。君達には潜水艦の掃討戦を行ってもらう。」

霞改ニを旗艦に、夕張、鹿島、日向、大淀、瑞鳳。日向の瑞雲と瑞鳳の艦載機で制空権を確保しつつ、装備の積載数が多い軽巡を採用して対潜装備をガン積みにして敵を吹っ飛ばす格好だ。

「任せておきなさい、潜水艦なんて速攻で片付けてやるんだから!」

 気合い十分の霞。

「落ち着け、入れ込みすぎは逆に危険だ。」

 それを嗜める日向。いつも冷静沈着、こういう時には頼り甲斐がある。

「やっぱ潜水艦相手となると、私か五十鈴よねぇ~。」

 いつも通りの夕張。潜水艦の相手ばかりさせてるから慣れた物だろう。

「うふふ……提督さんっ♪」

 最近ウチに来た鹿島。何となく狙われてる気がするのは気のせいだろうか。

「では提督、そろそろ出撃しますね。」

 この面子の中では数少ない(?)真面目な性格の大淀。まとめ役、任せたぞ。

「提督、お弁当作ってきたから食べてね♪今日の卵焼きは自信作なの!」

「お、おぅ。」

 卵焼き大好きな瑞鳳。美味いには美味いんだが毎回だと辛いものがある。

「じゃ、霞。このヘッドセット付けてけ。コイツで俺とやりとりしてもらうからよ。」

 霞はヘッドホンにマイクが付いたような格好のヘッドセットを身に付けると、

「では……礼号作戦旗艦・霞!出撃します!」

 ビシッと敬礼。他の5人もそれに倣って敬礼する。さぁ、いよいよ作戦開始だ。 

 

出撃・礼号作戦!~前哨戦~


 早速だが霞を旗艦とした艦隊に作戦海域へと向かってもらう。今回は鎮守府の近くの為、輸送船は無しで直接現場に向かってもらう。事前にスタート地点にすると打合せしていたポイントに着いたら連絡が入る手はずだ。

『こちら霞。提督、聞こえる?』

 噂をすれば影、って奴だな。霞からの入電だ。

「あぁ、感度良好だ。作戦海域に着いたか?」

『着いたら連絡しろって言ったのはそっちでしょ!?ホント、使えないわねぇ!』

 少し苛立ったような様子の霞。多少入れ込みすぎに感じるが、初めての旗艦だ。緊張して当然だ。

「何だ、柄にもなく緊張してんのか?霞。声が上ずってんぞ?」

『なっ!?何言ってんのよこのクズ!私は緊張してなんて……』

「ははは、その位の口が利けるなら大丈夫だな。戦闘があったらその都度報告。損害状況と敵の情報は正確にな。」

『わ、解ってるわよ!じゃあねっ!』

 そのままブツンと通信を切られた。まぁ1度目の出撃だ。威力偵察程度のつもりで、ボスの下まで辿り着けたらめっけもん、位の感覚で送り出してるからな。

「相変わらず性格悪いネー、テートクぅ。」

「まぁそう言うなって。霞はあの位の方がいつもの調子が出るんだからよ。」

 ウチの艦隊には調子を崩さない限り、敵に怖じ気付くような柔な鍛え方をした奴はいない。そう信じているからこそ、普段通りの力を出せるようにするのが俺の務めだ。自信の無い奴には励ましの言葉をかけ、緊張している奴には軽薄な言葉をかけてからかい、その緊張を解す。

「普段通りにやれ、必要な力は付けてある。」

 ってのが俺の口癖だ。霞は励まして褒めるよりも、今の位の方が反骨精神に火が点いて調子が出てくるんだ、艦娘1人1人の個性を理解して運用するのが提督の器量ってモンだろ?

「それを世間一般では女ったらしとか、ジゴロとか、スケコマシというのでは?」

 辛辣すぎるぞ、加賀。



 そんな会話を交わしている間にも霞の率いている艦隊は前進を続け、どうやらボスである潜水棲姫の下にまで辿り着いたらしい。

『こちら霞。敵のお姫様がおいでなすったわ。どうすんの?』

「沈められるなら沈めて構わん。どうせ複数回沈めないといかんからな。」

 鬼・姫級の深海棲艦が作り出す『巣』は、その核となる棲姫を倒せば消滅する。但し一度沈めただけでは『巣』は消滅しない。一度沈められた棲姫は、『巣』を構成している資材を喰らって復活する。そうやって『巣』の規模をどんどん小さくしてやり、最終的には破壊する。地道な作業だがそれしか手がないのが現状だ。

『了解、全力でぶっ潰してやるわ!』

『マタキタノネェ……?エモノタチガァ!』

 霞のヘッドセットのマイクから聞こえてきたのは、敵の『巣』の主である潜水棲姫の甲高い声。姫級ともなると人語を理解して言葉を発する事がある。大概が怨み言で聞くに耐えないような代物だが、時折意味深な言葉を発する者もいる。それを聞くと、やはり深海棲艦は艦娘と生まれを同じくする者なのではないか?と考えてしまう。

 艦娘は嘗ての軍艦の魂……『艦魂(ふなだま)』が人の姿に転生した者だという。ならば深海棲艦はその負のエネルギー……沈められた痛みや苦しみ、孤独感やある種の怨念…それらが形作られた者なのでは無いか?と。まるでコインの表と裏のように。

『クソっ、倒しきれ無かった……!提督、夜戦はどうすんの?』

 っと、いかんいかん。考え事を始めるとどうにも回りの声が聞こえにくくなる事がある。気を付けねば。

「夜戦はしなくていい。いくら手負いとは言え夜戦の潜水艦は脅威だ。それにこちらの攻撃も殆ど当たらんしな。一旦帰投しろ。」

『了解。追撃せず、ね。だけど大破までは追い込んだわ。』

 よしよし、最初の出撃にしては上出来だ。

「わかった、詳しくは帰ってから聞く。油断せずに帰ってこい。」

 そう言って今度はこちらから通信を切る。通信の内容を聞いていた嫁艦達がクスクスと笑っている。

「あんだよ?」

「いえ、なんだか提督がお父さんっぽいなと思いまして。」

 俺も結婚して所帯染みて来た、という事だろうか?そこまで老いて落ち着いたつもりは無かったんだが。



「潜水棲姫と交戦、鹿島が中破、日向が小破に追い込まれるも、敵棲姫を大破まで追い込みました。以上、報告終わりっ!」

 霞からの帰還報告を受け取る俺。

「ご苦労だった、引き続き同じ陣容で頼む。中破した鹿島は入渠ドックで高速修復剤を使用、補給・疲労回復の後に再出撃。『間宮』に甘い物を頼んである。各自、適宜補給してくれ。以上、解散。」

 やはり甘い物には目がないか、我先にと駆け出していく出撃メンバー。

「提督さ~ん……私達にオヤツは無いの~?」

 手持ち無沙汰にしていた瑞鶴が不満げに漏らした。時刻を見ると既に午後3時を回っていた。ここにいるメンバーは今の所は頭脳労働ばかりだからそれほど空腹にはなっていない筈だが、頭を使うと糖分が欲しくなるという欲求は解る。

「ちょっと待ってな、貰ったチョコで作った奴が……」

 冷蔵庫に入れてあった。貰いすぎたチョコ(もちろん義理チョコだぞ?)で作ったお手軽チョコラスク。

 フランスパンを1.5cm幅にカットして、トースターではなく電子レンジで加熱して乾燥させる。これによって焦がさずにサクサク食感が作れる。今度は常温に戻して柔らかくしたバターを練ってトロトロにしたら砂糖を加え、シュガーバターを作る。これをパンに塗って、仕上げに湯煎したチョコをかけて冷蔵庫で冷やし固めれば完成。本来ならチョコソースを作ってフランスパンに染み込ませたタイプを作りたかったが、市販ではなく手作りチョコも混ざっていたので早めに消費する為にこのような形にした。

「ん~♪サックサクで紅茶に合うわ~。」

「ホント、提督の料理の幅は広すぎますよ。」

「花嫁修業する気が失せて来ますよねぇ~。」

 おいお前ら、どんどん干物女臭くなってきてるぞ、気を付けろ。

「金剛、コーヒーお代わり。」

「ハイハーイ、淹れてくるヨ~。」

 そう言いながら給湯室に向かう金剛を見送る。

「でも、あの金剛さんがコーヒーを淹れてくれているなんて意外ですね。」

 チョコラスクをかじりながら、そんな感想を述べた。まぁ確かに、金剛といえば紅茶、紅茶といえば金剛というイメージは根強い。

「そうでもねぇさ。昔の海軍のお偉方にはコーヒー党が多かったらしいし、金剛の艦内で催された晩餐会ではコーヒーが出されていたって史実もあるしな。艦としてでもそれを眺めてれば美味いコーヒーの淹れ方の1つや2つ、身に付こうってモンだ。」

 それにアイツは、俺の好みに合わせてくれる器量を持ち合わせている。奨めはするが押し付けはしない。良くできた嫁だよ、全く。

「おアツいですねぇ、いつもながらw」

 からかうな赤城、お前の分のチョコラスク没収すんぞ。 

 

出撃・礼号作戦!~潜水棲姫との決着~

 初戦こそ撃沈出来ずに大破で終わったものの、その後は順調に潜水棲姫を沈めていく。沈める度に棲姫が構築していた『巣』は縮小を続けていく。やがて巣を構成していた物資は消え去り、次に棲姫を撃沈すれば完全にトドメを刺せる状態となった。

「フン、案外歯応え無かったわね。」

 作戦開始から6時間、辺りは既に暗い。夜襲は難しいだろうとの判断から、今日はこれ以後の出撃を取り止めて出撃メンバーの疲労回復に努める事にした。備蓄が心許なかったので遠征艦隊には働いてもらっているが。今ウチの店には俺と旗艦の霞の二人だけ。夕食を食べた後に一杯ひっかけに来たらしい。今宵の一杯はバレンタインにちなんでカカオの香り高いアレキサンダーをチョイスした。

「そうでもねぇさ。人も獣も、手負いの追い詰められた奴ってなぁ危険なんだ。」

 霞の発言に釘を刺す。初の旗艦で昂っているのも解るが、それで油断して手痛いしっぺ返しを喰らうのは自分だ。

「窮鼠猫を噛む、って言うだろ?追い詰められた奴はなりふり構わなくなる。悪い意味でふっ切れちまう。覚えがあるだろ?」

 嘗ての大戦末期、行われた数々の特攻作戦、綾波や夕立に代表される驚異的な戦果。あれは良い意味でも悪い意味でも「吹っ切れた」結果だろう。

「まぁ、確かにね。油断するつもりはないけど、肝に銘じておくわ。」

 霞はぶっきらぼうに見えて他の朝潮型と同様、根は素直な娘だ。明日の出撃でも上手くやるだろうさ。




 翌日、昨日と同じ面子で攻撃を掛ける。

「相手は虫の息だ、油断せずに行け。そして…勝って帰ってこい!」

『ハッ!』 

 俺の飛ばした檄に6人は敬礼して次々に海面へと降りていく。俺が出来るのは待つ事のみ、だ。

『こちら霞。作戦海域に到着したわ。』


「じゃあ、頼んだぞ。」

 返事も返ってこない短いやり取り。それでも言いたい事は伝わったのだろう、水上を進む音が少ししてから通信機がブツンと切れた。しかし、敵も侮れない。追い詰められたネズミでさえ、自分の数十倍の猫に噛み付くのだ。ましてや相手は互角以上の相手……油断は一瞬にして死を招く。今の所は順調のようだ。潜水棲姫の手前で待ち構えていた水雷戦隊によって足柄が小破させられたが、それ以外はすこぶる順調だった。

「さぁ、ちゃっちゃと沈めてやるわっ!」

『オノレェ……カンムスドモガァ‼』

 最後のトドメを刺せる状態まで追い込んだ時、棲姫の率いる艦隊はパワーアップする。駆逐艦は更に強力な駆逐艦になったり、軽空母は正規空母に変わったりと、敵も本気で迎撃してくる。今回の場合もそうだ。取り巻きにいた潜水カ級はeliteへと強化されており、潜水棲姫自身も装甲が厚くなっているようだ。

「狙うは棲姫のみよ!水上の奴等はほっときなさい!」

 霞の指示に従って水中へ集中攻撃を仕掛ける出撃メンバー達。しかし、敵も侮れない。ソナーを用いて攻撃を加えても敵の判別が付かない。カ級を攻撃しているのか棲姫を攻撃しているのかが判り辛い。

『潜水艦が1隻、機関停止!カ級撃沈です!』

 大淀がソナーを用いて撃沈を確認した瞬間、

『きゃあぁぁぁっ!』

 通信機から聞こえる悲鳴。

「どうした!?」

『霞が被弾、中破です!』

「指揮を日向に委譲、全員霞をカバーしろ!」

『ナ……ナメんじゃ無いわよおぉぉぉぉっ‼』


 中破された霞が負けじと吼える。先程よりも苛烈に爆雷を撒き散らす。水中からの断続的な破裂音が止むと、

『せ……潜水カ級更に撃沈を確認!水中の敵は棲姫のみです!』

 再び大淀がソナーを用いて確認したらしい。

「全艦、棲姫に攻撃を集中!一刻も早くケリをつけろ!」

 日向の晴嵐が、瑞鳳の艦攻が、大淀、夕張、鹿島の爆雷が海中に襲いかかる。ズボボボボボン、と鈍い炸裂音が響いた暫く後、

『オノレェ……ワスレンゾォ……!』

海中から恨み言と共に断末魔の叫びが聞こえてきた。

『棲姫の撃沈を確認……。巣が消滅します!』

 ふぅ。まずは第一段階突破、って事か。

「ご苦労さん、まずは気を付けて帰ってきてくれ。」

 そう言って通信を切った。まだこれは作戦の前段階、言ってみれば下準備が整ったに過ぎない。作戦の本番はここからなんだ。

「とりあえず、第一艦隊を出迎えるか。金剛、付き合え。」

「ハイハーイ、今行くヨ~♪」

 俺は金剛を伴って港湾部まで出迎えに向かう。その道すがら、今回の奴等の一連の動きについて考えを巡らせてみる。事の発端は敵の泊地建設の動きの察知だった。今まで泊地型の棲姫は完成してからの発見が多く、常に後手後手の対応だった。それが今回に限っては建設開始直後の発見の報。何というか、『作為』の匂いを感じる気がする。

 そして作戦決定と同時に起きた鎮守府に対する破壊活動。明らかに何者かが海軍の戦力を削ごうとして、起こした妨害活動だろう。恐らくは深海棲艦と繋がる事で旨味の得られる国々……怪しいのは中国・ロシア辺りか?まぁ何にせよ、何か別の目的の為に今回の一連の騒動は動いている気がしてならない。

「テートク~?眉間がシワシワで恐い顔してマスよ~?」

「ん?あぁ、すまんすまん。ちょっと考え事を、な。」

 邪推のし過ぎで周りに心配掛けてりゃあ世話ねぇやな。考え込み過ぎるのはよそう。
 

 

出撃・礼号作戦!~礼号作戦本番、の前に……~

 棲姫を倒したとはいえこれはまだ前哨戦。本チャンはここからだ。集積地に棲まう棲姫……仮に【集積地棲姫】としておこうか。今までの経験から鑑みるに陸上型と呼ばれる姫級は手強い物が多い。

 飛行場姫が最たる例だ。あの子憎たらしい二本角の姫に、何度煮え湯を飲まされた事か。戦艦並み、下手をすればそれ以上の砲撃火力に分厚い装甲、正規空母数隻に並ぶとも思われる航空兵力。そして駆逐艦・軽巡必殺の魚雷攻撃も、陸上建造物だから当然効かない。打つ手なしかと言えばそうでもない。

 戦艦・重巡が積み込める三式弾、軽巡・駆逐が積み込めるWG42艦対地ロケットランチャーが有効であろうと予想が立てられる。

 三式弾……正式名称は『三式焼霰弾』だったか?時限信管で中に充填された可燃性ゴム弾や硫黄マグネシウム等が燃焼しながら散弾銃のように飛散して攻撃する、という代物だ。太平洋戦争中に実際に戦艦で使われていた物だと、ソフトボール大の燃えるゴム弾が飛んできたらしいからな。人間に当たればひとたまりもないだろう。ただ、この弾は対空兵装、つまりは航空機を狙うために開発された物らしい。大して航空機には真価を発揮できなかったようだが、別の所で日の目を見た。

 それは対地攻撃。『広範囲』を『焼き払う』事が可能な三式焼霰弾は対地攻撃にはうってつけだったようだ。艦娘の使う三式弾も、この三式焼霰弾をベースに艦娘が使いやすいように妖精さんが改良した物らしい。

 もう1つがWG42。同盟国ドイツの科学力の一端が垣間見える装備だ。

 元々は陸軍の略式榴弾砲として使われていた物を、水中発射可能なように改造した物らしい。太平洋戦争当時の計画ではこれをUボートのU-511に積んで水中からニューヨークを爆撃する、という計画があったらしい。しかし潜行中の航行に支障を来したりと問題だらけで計画は頓挫、そのままドイツは敗戦という歴史がある。

 今回はそのリベンジのつもりだったのか、U-511が此方に派遣されて来る時に設計図や仕様書が一緒に送られてきて、妖精さんが完成させてくれた物を使っている。三式弾よりは威力は落ちるのだろうが、軽巡や駆逐、潜水艦など比較的非力な艦娘でも運用が可能なのがメリットか。

 さてさて、何でいきなりこんな俺らしくもない兵装の話やら何やらをしているかと言えば、

「だーかーらー、戦艦と空母をメインにした艦隊で敵艦隊を吹っ飛ばしてやるネー!」

「はぁ!?アタシ達礼号作戦組が主軸になって戦った方が良いに決まってんでしょ!」

 今目の前でウチの嫁さんと史実では旗艦だった霞が、今にも取っ組み合い寸前のバチバチの喧嘩をやらかしてやがるので、現実逃避してました。



 今は潜水棲姫を撃破してから数時間が経過した所。第二段階である礼号作戦の本チャンに向けての作戦会議中。過去の作戦を知る霞と、ウチの最高錬度である金剛とが真っ向から対立してしまった。

「陸上型の姫と言えば戦艦の独擅場デース!最近やっと改ニになったばかりの小娘が生意気言うなデース!」

 おい金剛、幾ら頭に血が昇ってるとは言え今のは言い過ぎだ。

「はぁ!?錬度が高くて提督のお気に入りだからってそれに胡座を掻いてるオバサンには言われたく無いわよ!」

「What!?今何て言いましたか!?」

「オバサンよオ・バ・サ・ン!オバサンになると耳まで遠くなるのかしら?」

 どんどんヒートアップする二人。対して周りの嫁艦共は二人の喧嘩を止めるでもなく、間宮が差し入れてくれたアイスをパクついている。……まぁ、かくいう俺もそうなんだが。

『オイ、誰か止めろよいい加減に。』

『えー、ヤですよぉ。折角の間宮アイスを犠牲にしてまで喧嘩の仲裁なんて。』

『あら、意外な所で気が合うわね瑞鶴。』

 特に不満げなのは加賀と瑞鶴。普段は他所で聞くほど犬猿の仲ではないがそれほど親密な訳でもない二人だが、妙な所でウマが合う。

『そうですね、金剛さんは提督の伴侶なワケですから責任を以て提督が仲裁すべきかと。』

 あらら。優しい顔して結構辛辣だね翔鶴。……ハァ、仕方ねぇか、俺が止めるとしよう。俺は席を立ち上がり、バトルしている二人の傍らに立った。

「うぉ~いお前らー、いい加減にしとけよ~?作戦会議が纏まらんわ。」

「「アンタは黙ってて(るデース)‼」」

 同時にハモってきやがった。カチンと来たぜ。




 瞬間、執務室に響いたのはガツン、という衝撃音と、

「「いったああああああぁぁぁぁぁい!」」

 再びハモった二人の悲鳴だった。あんまりにもしつこいから昔取った杵柄で喧嘩両成敗の鉄拳制裁。二人は脳天押さえてうずくまったまま動かない。

「う、うわぁ……相変わらず提督の拳骨は痛そうです。」

「ひ、ひえぇ~……」

「は、榛名も久し振りに見ました……」

 五航戦の二人は呆気に取られている。無理もない、二人が着任したのは先代の加賀を失った後だ。その頃の俺は昔のような鬼軍曹と呼ばれそうな感じではなく、今の昼行灯に近い状態の俺だったから、滅多に怒ることは無くなっていた。

「いい加減にしろよテメェ等。こちとら作戦考えるのに忙しいんだよ、解るか?俺の仕事の邪魔すんじゃねぇよ。」

「な、何よ!今更昔に戻ったって怖くなんかーー……」

「怖くなんか……何だ?霞よぉ。新人の頃に口のききかたがなってないって絞られたのを忘れたか?あ?あの時泣き喚いて許しを乞うたのを忘れたってのか。」

 霞はハッとしたような表情でみるみる内に青くなり、カタカタと震え始めた。古参の古い生意気だった艦しか知らないトラウマのスイッチが入ったらしい。

「忘れたってんなら……思い出させてやるが?」

「ひっ、い、いえ……結構です!すいませんでした!」

 霞の震えはますます大きくなり、目からは大粒の涙が今にも零れそうだ。ここでオイル漏れ(意味深)されても困るし、脅かすのはこのくらいにしとくか。

「解ればよろしい。金剛も良いな?ったく、あんまり手間かけさせんなよな~…っと。」

 二人の頭を撫でてやると、そのまま崩れ落ちるようにへたり込み、俺は再び席に着いた。その日以降、瑞鶴以下後発組の中には『提督を怒らせるな』という暗黙のルールが出来たとか出来ないとか。 

 

出撃・礼号作戦!~作戦会議その2~

「大淀~。作戦海域の海図と、ウチの艦娘の錬度表をくれ。」

「は、はいただ今。……えぇと、此方になります。」

 俺の先程の久し振りの剣幕にビビったのか、少し動きがぎこちない大淀。別にそんなに畏まらんでも良いだろうに。

「さて……と。ここからの作戦展開だが、まずはここだ。」

 俺は海図を開きながらとある小島を指差した。

「ここに物資を運び込んで取り敢えずの橋頭堡を築く。……索敵班からの報告は?」

「こちらです、司令。」

 流石は『艦隊の頭脳』、求められると思って準備してたか。

「ふむ、真っ直ぐ直進は岩礁が多過ぎて難しい……か。となると、北から回り込むルートか南を回るルートか。」

 索敵班からの報告によれば、北は水深が浅い為か水雷戦隊と潜水艦の残党を中心とした警戒網、逆に水深の深い南側の海域は空母や戦艦のflagship級を中心とした精強な艦隊が厚い防御線を張っている。更に、湾内の浅い水深の所には厄介な小鬼共が群れを成して壁を作っているらしい。

 PT小鬼群。嘗ての大戦期にアメリカ海軍が用いていた哨戒魚雷艇(Patrol Torpedo boat)を真似たらしい、超小型の新型深海棲艦。その名の通り、奴等は魚雷以外の攻撃手段をほぼ持たず、耐久力も副砲弾1発で沈んでしまう程度。だが、その小型の体こそが厄介極まりない。そもそも攻撃が当たらないのだ。戦艦の主砲のような大口径砲などかすりもせず、辛うじて小回りの利く駆逐・軽巡の小口径砲が比較的効果的、という程度。そして何より、奴等は『群れ』で襲って来るのだ。1匹2匹の損害などおくびにも止めず、正に童話に出てくるゴブリン……小鬼のように群れで襲いかかり、多い時には10本以上の魚雷を纏めて叩き込んでくる。そんな飽和攻撃を喰らえば、さしもの大和・武蔵でも大破は免れない。そんな奴等が海面を埋め尽くさん勢いで群れているのだ。なら、採るべき道は決まった。

「湾内突入部隊は礼号作戦組を基に編成。霞を旗艦に、足柄、大淀、清霜、阿武隈、更に重巡か航巡を1名加えた6名で行く。……霞、引き続きの旗艦で大変だとは思うが任せたぞ。」

「フン、さっきから任せなさいって言ってたでしょ。」

 まだ生意気な口が聞けるなら大丈夫だな。その向かい側では金剛がむくれている。

「テートク~!また出番はナシですか~!?」

 落ち着けバカ野郎。編成はまだ終わってねぇ。

「この作戦は短時間での攻略がキモだ。よって、支援艦隊も出していくぞ。まずは道中支援……こいつらには突入部隊の後方に控えて艦載機による直掩護衛と、支援砲撃を任せる。編成は重巡2、軽空母2、駆逐艦2の編成だ。」

 再びBOO、と不満を漏らすような音を立てる金剛。

「支援艦隊はもう1つ。こっちは棲姫に突入部隊が取り付いた時に支援砲撃と爆撃を行う決戦支援部隊だ。編成は……金剛、比叡、赤城、加賀。この4人を軸に護衛の駆逐艦2隻を加えて1編成とする。南からの敵のいないルートを使っての大回りになるが……出来るな?」

「of courseネー!嫁艦の実力、見せてやるヨー!」

 先程までの不機嫌はどこへやら。金剛は鼻息荒くやるき満々といった様子だ。全く、現金な奴め。

「榛名と霧島は手の空いている駆逐・軽巡を指揮してポイントへの物資の運び込みの陣頭指揮を任せる。徹夜仕事だが、宜しく頼む。翔鶴・瑞鶴は、ニ航戦及び鳳翔さんと合流、現場海域では大型の爆撃機の目撃情報がある。運搬部隊の護衛に当たれ。」

「了解!」

 榛名・霧島・翔鶴・瑞鶴は敬礼すると忙しなく執務室を出ていった。

「他の者は編成の名前に挙がった者に伝達。以後、明日明朝からの出撃に備えて休息を取るように。以上!」

 室内にいた全員が、一糸乱れぬ敬礼。よくぞここまで……と自画自賛したくなったが、慢心はいかんな。止めておこう。

「俺は少し休む。緊急の場合のみ取り次げ。」

 俺はそう言って執務室の横に備え付けてある仮眠室に、極々自然に金剛の手を引いて入った。




 俺に指図されるまでもなく、金剛は膝枕の体勢を取った。俺もそれに甘えるように、頭をその柔らかな太股に預ける。

「済まなかったな、金剛。」

「ンー?何がデスか?」

 わざとらしく小首を傾げる金剛。……こいつめ、解ってるクセに。

「本当なら嫁であるお前を活躍させてやりたいと思う気持ちもあるんだ。だがな……」

 俺の言葉を遮るように、クスクスと笑い出す金剛。

「解ってますよ、提督。」

「提督は、一軍を率いる将です。私情を挟んで負ける訳には行きませんよ……。敵の戦力を見て、ベストな判断をしたと、私は思いますよ?」

 そう言いながら俺の頭を撫でてくる金剛。いつものハイテンションな片言はなりを潜め、あくまでも優しく、子供に語りかけるような口調だ。

「なら、何であんなに突っかかった?お前だって解ってたハズだろうに……」

「あ、あれは……何と言うか、私のワガママですよ。提督。」

 下から顔を見上げると、苦笑いを浮かべる金剛の顔がそこにあった。

「提督の妻として、一番役に立ちたいと思う、そんな嫉妬深い私のワガママですよ……」

「んな心配するんじゃねぇよ。お前は俺にとってのナンバーワンであり、オンリーワンなんだからよ。」

 そう言って、金剛の頭を引き寄せて口付けを交わす。仮眠室の外の廊下では、バタバタという足音が響いている。忙しくさせてしまった駆逐・軽巡達には悪いと思いつつ、俺達二人は微睡みの中に落ちていった。
 

 

■出撃・礼号作戦!~いざ、礼号作戦~

『提督、お姉さま。間もなく決戦支援艦隊の出撃予定時刻です。』

 いつの間にか寝入ってしまっていた俺達を……と言うか俺を起こしたのは、仮眠室をノックする霧島の声だった。

「おぉ、すまんな。今行く。」

 よっこらせ、と上体を起こすと正座したままの状態で大口開けて寝ている金剛の姿が目に入る。こいつ、一晩中俺を膝枕してたのか……。ってか、無防備にも程があるだろう。

「おい金剛、起きろ。出撃の時間だ。」

「Zzz……フガッ!?も、もう朝デスか~…?もう少し寝た…ぐぅ。」

 昔のクセが抜けんのか、戦艦には朝が弱い者が多い。かくいうウチの嫁もご他聞に漏れず、朝はそんなに強くない。昨夜はしていないが、寝る前に『運動』し過ぎだってのもあるかもしれんが。

「おいこら、二度寝は流石にいかんぞ。寝不足の霧島に〆られちまう。」

「そ、それはヤバいネー!早く起きるデース!」

 流石の長女もマジギレの末っ子は怖いらしい。

「提督、お姉さまもおはようございます。」

 霧島は普段通りを装ってはいたが、流石に徹夜の作業は堪えたのだろう、目の下に隈が出来ている。

「徹夜での作業、ご苦労だったな。運搬に従事してくれた奴等もクタクタだろう?ゆっくり休むように伝えてくれ。」

「はい。では、私はこれで。」

 霧島はペコリとお辞儀すると、若干ふらつきながら執務室を出ていった。

「さて、工廠に向かおうか?」

「OK、エスコートお願いしマース!」

 俺は金剛の腕を俺の腕に組ませると、連れ立って執務室を出た。



 廊下に出ると、眠気と疲労で力尽きてしまったのか、軽巡や駆逐艦がスゥスゥと寝息を立てていた。その1人1人に毛布をかけて回っている榛名。お前も限界だろうに、無理はするなよ?なるべく音を立てないように廊下を進み、工廠にやっとこさ辿り着いた。

「あ、金剛さん。お待ちしてましたよ。」

 中に入ると明石が建造妖精さん達と金剛の艤装を換装していた。ウチの戦艦級の定番装備は主砲2門に水偵、そこに電探か徹甲弾なのだが、決戦支援艦隊の時は火力特化。金剛の身体には少し持て余す46cm三連装砲3門に弾着観測の為の水偵か電探を積み込む。

「フゥ、流石にちょっと重いネ~……」

「すまんな、負担をかけて。」

「Don't worryテートク~!毎日鍛えてますから、この位へっちゃらデスよ~!」

 全く、その底抜けに明るい笑顔に何度励まされた事か。お前が俺にその笑顔を向けてくれるから俺は迷わずに進めるんだ。

「他の方はもう港でお待ちですよ。」

 明石にそう急かされて、見送りの為に港へと向かう。港に着くと、既に金剛以外の5人は準備万端待ち構えていた。

「も~!金剛さん遅刻っぽい!」

 朝も早よからテンション高いな夕立。

「Sorryネ~。テートクが中々離してくれなかったのヨー。」

 また何でお前はそういう勘違いを生み出すような言い回しをするかなぁ!

「提督、流石にそれはドン引きです。」

「と言うか正妻だけえこひいきですか!ズルいです!」

 いやいや待て待て一航戦よ。お前ら二人とも発言がおかしいから(特に赤城ぃ!)。

「違うわっ!お前らの想像してるような事は一切ねぇわ!俺が一晩中金剛に膝枕してもらってただけで……あ。」

 やっちまった、墓穴掘った。

「あらあらまぁまぁ、仲の宜しい事でwww」

「ラブラブっぽい~www」

 ほら見ろ、大事な出撃前なのにこのユルさ。?……てか、このテの話題にすぐ食らい付いてくる比叡からリアクションがない。

「立ったまま寝るなぁ!」

「ひえっ!ねねね、寝てません!寝てませんってばぁ!」

 鼻提灯出して立ってた奴に誤魔化されるかバカ野郎。おおかた、またアニメのDVDでも観ててあんまり寝なかったんだろう。

「だ、だってぇ……キタンが格好良すぎて……。」

 まぁ確かにキタンは格好良いけれども。大事な出撃前なんだからちゃんと寝とけよ、比叡。

「やれやれ、毎度毎度の事ですけど。大変ですねぇ、司令官。」

 そう言って慰めてくれたのは吹雪か。お前のその真面目さだけが救いだよ、ホント(泣)。



 さて、悪ふざけはこれくらいにしておこう。俺はゴホンと咳払いをして、

「傾注!」

 と叫んだ。途端に先程までのユルい空気感はどこへやら、敬礼する6人からは緊張感が漂っている。

「お前たちは艦隊決戦支援艦隊だ。…だがな、錬度が一番高いのはお前達だ!第一艦隊に選ばれなかったのが何だ!だったら第一艦隊の奴等が攻撃する前に敵にトドメを刺してやれ!……その位の心構えで任務に当たってくれ。以上だ。」

「OK、皆行くヨー!」

 金剛の明るい掛け声と共に、6人が次々と海面に下りていく。やがて隊列を組んだその航跡が見えなくなるまで、俺は海を眺めていた。

 金剛には止められているが、こんな時でないと吸えないからな。胸ポケットから煙草を取り出して火を点けた。一息ふかすと、チェリーの甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐっていく。フーッと余韻を楽しむようにゆっくりと紫煙を吐き出すと、

「な~に浸ってんのよ、このクズ!」

「あだっ!あつつつつ……」

 霞に脛を蹴られた。



 後ろを振り向くと、第一・第二艦隊の面々が揃っていた。

《第一艦隊・湾内突入部隊》

旗艦・霞改ニ

足柄改ニ

羽黒改ニ

阿武隈改ニ

大淀改

清霜改

《第二艦隊・突入支援部隊》

旗艦・妙高改ニ

那智改ニ

綾波改ニ

島風改

瑞鳳改

隼鷹改ニ



 何人か酒臭いぞオイ。俺は休め、って言ったよな?間違いなく。まぁいいさ、ウチの奴等に飲むなというのがどだい無理な話だ(諦め)。

「俺からはほとんど言う事は無い!お前達は十分に任務をこなせるだけの力を有している。必ず敵棲姫をぶちのめしてこい。……特に昨日飲み明かした奴!仕事しなかったらただじゃおかねぇ。覚えとけ。全艦出撃、暁の水平線に勝利を刻んでこい!」

 12人の一糸乱れぬ敬礼の後、どんどん海面に飛び降りる艦娘達。

「細工は隆々、後は仕上げを……ってな。」

 さぁ、張り切って行こうか。 

 

出撃・礼号作戦!~決戦、集積地棲姫!~

 
前書き
決戦とか言ってるのに何故か料理回である。 

 

『こちら霞。作戦海域に到着したわ。』

 鎮守府を出発して数時間、日も高くなって来た頃に霞からの入電。

「了解、作戦概要は伝えてある通りだ。北のルートを通りつつ、支援艦隊と連携して湾内へ突入。敵の揚陸地点に『巣』を形成し始めている棲姫を破砕せよ。俺の判断が必要な時はまた連絡を寄越せ。」

『了解。じゃ、一旦切るわね。』

 ブツッ、という無線の電源を落とす音と共に、執務室に再び静寂が訪れる。夜を徹した輸送作業で未だに夢の中にいる艦娘も多いせいか、大規模作戦中とは思えない程、鎮守府の中は静まり返っている。それに直接現場に赴いて指揮を執っている訳ではないから俺が暇になってしまった。……さてさてどうしたものか。

「差し入れでも作るか。」

 暫くの間、攻略部隊には物資を集めた前線基地に寝泊まりしてもらい、戦闘を継続するつもりだった。その為に睡眠施設や簡易の入渠ドックなんかも準備したが、問題は食事だ。一応食糧も運び込んではあるものの、保存性や栄養補給を優先して作られた不味いレーションでは(主に俺のせいで)舌の肥えた連中から不満が出かねない。そしてその不満は士気の低下に繋がって戦果にモロに影響する。指揮官としてはあるまじき思考かも知れんが、実際そうだから仕方無い。

「さて、何を作るかだな。火は起こせるから飯は炊ける……温めてすぐに食える煮込み料理とスープ……これでいこう。」

 まずは野菜から。用意したのは大根と南瓜。大根は厚めに皮を剥き、厚い銀杏切りにカット。南瓜は食べやすい大きさの乱切り。大根はもうそのまま20分程下茹でを始めるが、南瓜は鍋に敷き詰めて塩を振り、30分程放置して塩を馴染ませる。水分が出てきた所で、南瓜の高さの半分位まで水を入れ、中弱火で落し蓋をして煮汁が無くなるまで煮る。その間に先に茹でていた大根が柔らかくなってきたので、ここで秘密兵器。投入するのはすっぽんスープ(缶入り)。プルタブ式の缶だから使いやすいし、丁寧にとられたスープだから旨味の大洪水だ。分量としては大根1/3本にすっぽんスープ1缶と白だし少々を加えて、弱火で更に20分。水溶き片栗粉で緩くとろみをつけたら大根は完成。南瓜の方も煮汁が無くなって竹串がスッと通る位まで柔らかくなった。

「よし、『南瓜の塩煮』と『すっぽんふろふき大根』完成……と。」

 南瓜の塩煮は多めに作った。コイツを使ってもう2品、簡単な副菜を作ろうと思う。とは言っても潰しながら混ぜるだけ。ボウルの片方にはマヨネーズ適量マスタード少々、もう1つのボウルには市販のでいいから肉味噌を適量。これらをそれぞれ潰しながら混ぜてやれば、『簡単南瓜サラダ』と『南瓜肉味噌』の完成だ。南瓜の塩煮はシンプルでそのまま食っても美味いが、それをベースに色々な料理が作りやすい。冷凍も効くから大量に作って冷凍しておくのもオススメだ。



 さ~て、お次は……

「て~とくさんっ♪何してるんですかぁ?」

「うおっ!?か、鹿島か。脅かすなよ……」

 調理に集中していたからか、目の前に鹿島がいる事に気が付かなかった。というか、正直この娘苦手なんだよなぁ。龍田みたいに底が知れない『闇』が垣間見えるというか、何というか……。

「てーとくさん!?話、聞いてます?」

 少し苛立った様子で鹿島が頬を膨らませている。

「あ、あぁ。すまんすまん、何の話だっけか?」

「もう!……だからぁ、鹿島がお手伝い出来る事。ありませんか?」

 あぁ、手伝える事が無いか?って話か。聞くところによると鹿島はかなりの料理上手らしいからな。差し入れの調理補助を頼むか。

「助かるよ、今出撃メンバーに差し入れでも届けてやろうと思ってな。その手伝いを頼めるか?」

「もちろん♪じゃあ、急いでエプロン取ってきますね♪」

 んじゃ、俺は鹿島が戻ってくる迄に進められる調理を進めていこう。

 野菜の次は肉!ってなワケで、準備したのは豚のスペアリブと鶏の砂肝。スペアリブは500gでの計算で調味料の分量を載せておく。

 スペアリブは鍋に水を張り、酒と塩を少々入れて30分程下茹で。その間に砂肝を半分に切り、銀皮(白くなってるトコね)をカット。後で別の料理にするから、銀皮は捨てないようにね。銀皮を外したら食べやすいように切り込みを入れて、下味を付ける為に塩・胡椒をしておく。

「お待たせしました~♪」

 パタパタと戻ってきた鹿島はピンクでフリフリいっぱいのハート型エプロンを着ていた。

「どうです?可愛いでしょ?」

「いや、何というか……そういうの、マジで着る奴いるんだな……」

 艦娘のエプロン姿って間宮に伊良湖(間宮は割烹着だが)、鳳翔に時雨、長門、後は金剛くらいしか見た事が無かった。そいつらも普通のエプロンだったから、こんなキャピキャピした感じのエプロンを着てるのを生で見たのは初だった。

「酷い!そんな言い方しなくても……」

 そう言うと鹿島はクスン、クスンとしゃくりあげて泣き始めてしまった。

「いや、別に可愛くないとか言ってる訳じゃあ……」

 慌ててフォローにはいる。実際のところ似合っているし可愛いとは思う。思うんだが、どうにもぶりっ子してる奴が着ていそうなイメージが拭えない。

「いや、似合ってる……と思うぞ?」

「ホントですか!?やったぁ、頑張ってお手伝いしますね♪」

 どうやら機嫌は持ち直してくれたらしい。



「それで、私は何を手伝えば良いですか?」

「んじゃ、そろそろスペアリブの下茹でがOKなハズだから、合わせ調味料を作ってくれ。」

 スペアリブ500gに対して醤油と酒を大さじ3ずつ、砂糖を大さじ2、コチュジャンを大さじ1弱入れて合わせ調味料は完成。スペアリブの鍋を空けて、スペアリブを一旦取り出したら、今度は鍋にごま油をひいてスペアリブに焼き目を付ける。

 俺はその間に砂肝と合わせるマッシュルームをスライスする。砂肝とマッシュルームの分量は……まぁ適当だなw以前にも使ったセラミックの鍋に、砂肝とマッシュルーム、乾燥にんにくのスライスと鷹の爪、塩を入れてオリーブオイルをヒタヒタに。もうわかったよな?……そう、以前作ったアヒージョだ。今回はマッシュルームオンリーではなく砂肝も使う。中弱火で30分程コトコトと煮込めば完成だ。

「提督さん、スペアリブもいい感じですよ♪」

「よしよし。そこまで焼き目が付いたら水を300cc加えて少し煮込んで、その後で合わせ調味料を加えてくれ。」

「は~い♪……でもホント、提督さんってお料理上手ですよねぇ。」

「そうかぁ?俺よりも上手い奴なんて一杯いるし、艦娘それぞれの得意料理だと敵わない奴もいるぞ?大和のアイスとか、加賀の肉じゃがとか……。」

「へぇ~。…あ、因みに私はサンドイッチが得意なんですよ!」

「ほぅ。後で食ってみたいな。」

 金剛の夫だからな、煩いぞ?俺は。アフタヌーンティーによく出されるから金剛もサンドイッチは得意料理だからな。

 合わせ調味料を加えたら更にスライスした生姜を1片分。落し蓋をして、30分中弱火で煮込む。その後で蓋を取り、チンゲン菜を切らずに1枚ずつ剥がして1株分加え、5分位煮込む。チンゲン菜に火が通ったら完成。

「よし、『スペアリブのコチュジャン煮込み』と、『砂肝とマッシュルームのアヒージョ』完成……っと。」

 さぁ、もう少し作ろうか。 

 

出撃・礼号作戦!~決戦、集積地棲姫!②~

 
前書き
だから決戦とか言ってるのに料理k(ry 

 
 さて、次の調理に入ろうとした時に通信機に着信が入る。

「ハイ、こちら執務室。」

『こちら霞。清霜が小破しちゃったけど、敵の集積地に取り付けそうよ。』

「OK解った、第二艦隊は先に帰投させてくれ。」

 一旦通信機を切り、今度は金剛に繋ぐ。

「支援艦隊は配置についたか?」

『バッチリ、スタンバイ済みネー。』

「よし、間もなく第一艦隊が突入する。旗艦同士で通信を繋いでタイミングを合わせろ。」

『了解ヨー。戦闘終わったらまた連絡するネー!』

「任せたぞ。晩飯は差し入れてやるから頑張れよ。」

 そう言って通信を切った。キッチンに戻ると鹿島がむ~……と膨れっ面をしている。

「もう!折角の二人っきりだったのにぃ~…」

「いやいや、仕事なんだから無茶言うなって。そもそも、デートでも何でもねぇのに、二人っきりだとかそんなの気にする事じゃねぇだろが。」

「もぅ、判ってないし提督さんたらぁ~っ!」

 顔を真っ赤にして怒っている鹿島。可愛らしいとは思うが、今はそれに構っている暇はない。

「さぁて、チャッチャと調理を進めていこうか。肉で2品、野菜で4品作ったからな。そろそろ魚介といくか。」

 ……おっと、砂肝の銀皮忘れてたな。ポン酢と水を1:1で割った煮汁に銀皮を投入。中弱火で15分程煮込んだら長葱の青い所を小口切りにした物(青ネギでも可)をたっぷりと。ネギにもサッと火が通ったら完成、『銀皮ポン酢・ネギまみれ』だ。食べる時はお好みで七味とか振ってもウマイぞ。



 話が逸れたが、今度こそ魚介の煮込み料理といこう。まずは和食から。

 使うのは鰯。マイワシの方が食べ応えがあるがセグロイワシでも大丈夫だ。イワシは頭を落として腹を開き、内臓を取り出して腹を流水で洗って血を落としておく。調味液は大量だとわかりづらいからイワシ6匹分に合わせた量を載せておく。

イワシ:6匹

水:1カップ

めんつゆ(3倍濃縮):1/3カップ

砂糖:小さじ1

生姜(千切り):10g

梅干し:1個


 梅干しは潰して梅肉にして入れてやり、煮崩れしないように弱火で30分。アルミホイルでふわりと落し蓋をしてコトコトと炊いてやる。まぁ梅干し入ってるから解るよな?今作ってるのは『鰯の梅煮』だ。梅干しの酸味が苦手ならハチミツ梅なんかでもいけるぞ。

「提督さん、私もやっぱり手伝います!」

 先程まで拗ねていた鹿島も戻ってきた。んじゃ、和食の次はイタリアン風のアレンジスープといこう。

「じゃ、材料を刻んでいくぞ。えぇと分量は……」

玉ねぎ:1/2

セロリ:1/3本

赤パプリカ:1/3個

黄パプリカ:1/3個

マッシュルーム:4個くらい

ズッキーニ:1/2本

人参:1/3本

 ここでアレンジ、タコを使う。大体200g位かな?足だけじゃなく、食間を楽しみたいなら頭も使ってOKだ。タコは大きめの一口大にカットし、野菜は全てみじん切り。

「もしかして……『ミネストローネ』、ですか?」

「ご名答。野菜を刻み終わったら、鍋に多めのオリーブオイルをひいて、刻んだにんにくをこれまたガッツリ入れる。」

 点火してにんにくが炒まって香りが出てきたら玉ねぎとセロリを投入して炒めていく。

「でも、ミネストローネにタコなんて初めて聞きました。」

「そうか?でもな、ミネストローネってのは日本でいう所の味噌汁みたいなモンだ。季節によって入る野菜は変わるし、パスタを入れたり米を入れたりして作ったりもするんだ。特に決まった作り方は無いからな、別にタコが入っても良いのさ。……おっと、玉ねぎとセロリがいい感じに火が通ったな。ここに塩・胡椒をして…と。」

 要はウマけりゃ良いんだよ。玉ねぎとセロリが透き通って来たら、塩・胡椒適量で味付け。ここまで来たら残りの野菜とタコも鍋に入れて炒めていく。全体が混ざって具材に油が回ったら、

「鹿島、ホールトマト出して潰してくれ。」

「はーい♪でも、カットトマトじゃダメなんですか?」

「ホールトマトとカットトマトじゃ使われてるトマトの品種が違う。ホールトマトのは火を通してもあまり風味が損なわれない。煮込み料理とかスープに向いてるんだ。」

 逆にカットトマトは酸味が強く、みずみずしいからさっぱりとした味。冷製パスタとかドレッシングなんかに向いてるぞ。

 潰したホールトマト1缶、水300cc、あればブラックオリーブの実を25g位加えて、塩・胡椒・顆粒コンソメを適当に。あればローレルも1、2枚加えて煮ると香り高くなって美味しくなるぞ。

※パスタや米を加えるなら水を入れるタイミングで。その場合、水はここに書いてある量よりも多く加えて、様子をみながら適宜足してくれ。

 最初は強火で酸味を飛ばし、一度味見。丁度よくなったら弱火にして30分位コトコト煮よう。そうすれば、

「タコ入りミネストローネ、『タコストローネ』の完成だ。」

 我ながらネーミングセンスは無いな、とつくづく思う。



 うーん、おかずは十分だとおもうが、汁物がタコストローネだけじゃなぁ。……そうだ!手軽で食べ応えもあるポトフを作ろう。メインは……玉ねぎだ。

《野菜ゴロゴロ!ガッツリポトフ》(分量2人前)

玉ねぎ:1個

さつまいも:1/2本(100g位)

ブラウンマッシュルーム::6個位

ベーコン(ブロック):100g

ウィンナー(太めのオススメ):4本(180gくらい)

顆粒コンソメ:大さじ1

水:500~600cc



 (小さい鍋でやる場合)下準備は超簡単。皮を剥き、頭と根っこを落とした玉ねぎに、縦に切り込みを入れる。十字になるように深さは半分より少し深い位。こうする事で玉ねぎの甘味や旨味がスープに出やすくなるし、コンソメを吸い込みやすくなる。さつまいもは縦に4つに割り、ベーコンは角切りか賽の目切り、厚みを意識して食べ応えを出すように。

 具材を切ったら一人鍋用の土鍋を用意。鍋の真ん中に玉ねぎを置き、周りに散らすようにさつまいも、ベーコン、マッシュルーム、ウィンナーを鍋に入れる。顆粒コンソメを鍋全体に行き渡るようにパラパラと撒いたら、具材がヒタヒタになるくらいまで水を入れたら、後は火にかけるだけ。野菜に火が通ったら完成だ。

「ふぅ。こんなもんかな。」

 時間を見ると昼を回って13時半。少しばかり熱中しすぎたらしいな。

「提督さん?コーヒー淹れたので少し休しましょう♪」

 見ると、鹿島がマグカップを2つ持って微笑んで立っていた。

「おぉ!気が利くな。早速頂くよ。」

 芳しい焙煎と豆の香り。かなりいい豆だ。

「ブルーマウンテンです。少し奮発しちゃいました♪」

 一口含む。口の中一杯に香りが膨らみ、鼻腔に抜けていく。特徴である繊細な味も舌を楽しませてくれる。美味い。有名ブランドの豆なだけはある。一気に飲み干してしまった。

「いや~、美味かった!御馳走さま。」

「うふふ♪提督さんに喜んで貰えてよかったです♪」

 と、疲れが溜まっていたのか強かに眠くなってきた。

「すまん、鹿島……少し仮眠をとっていいか…?」

「どうぞ、提督さん。鹿島の膝枕で……ゆっくりお休みになって下さい♪」

「助かる……出撃部隊から通信入ったら…起こして……くれ…」

 俺はそれだけ言うと意識を手放した。

  ー数時間後ー

「うぅ……ん?はっ!?今何時だ?」

 窓の外は真っ暗。随分と熟睡してしまっていたらしい。

「今は19:00です。鹿島さんから話は聞いてあります。」

 室内には霧島が立っていた。

「戦闘は?どうなった。」

「戦闘は15:00に敵棲姫を撃破。一度帰投してから再度出撃。二度目も見事に撃破した、との通信が入りました。」

「そうか……。作った料理は?」

「それも既に遠征部隊を組織して運んでもらいました。お姉様達、とても喜んでいたようですよ?」

 そうか、それは何よりだ。……しかし、寝た筈なのに身体に気だるさが残っている。まるで、ナニかした後のような……。

「あ、それと。もうご結婚なさっているんですから盛り過ぎるのはどうかと思いますよ、『お義兄さま』?」

 え、まさか。少し薄ら寒い感覚を覚えながら、俺は業務に戻った。 

 

出撃・礼号作戦!~横須賀・大本営~

「ねぇねぇ提督さん、横須賀ってどんな街?アタシ初めてなんだよねぇ~♪」

「瑞鶴、提督は普段の激務でお疲れなんだから休ませて差し上げないと……」

 え~、どうも提督です。只今俺と嫁艦's、それと観艦式に参加するメンバー一行は、大本営が準備した輸送機に乗って空の上、もう間もなく本土上空に入ろうとしてます。なんでこんな事になったかと言えば……


「はぁ!?観艦式ィ?」

『そうだ、イタリアから送られてきた新型の重巡のお披露目も兼ねてな。』

 そんな通信が入ったのは集積地棲姫を撃破し、礼号作戦を完遂したと報告書を纏め、大本営に送って数時間後の昼下がり、今回の作戦はどうだったとかくっちゃべりながら、午後の茶会を楽しんでいる時だった。通信の相手は作戦開始を告げられたのと同じく軍令部の染嶋。どうやら俺への言伝て役か何かにされているらしい。

※俺の料理のお陰か、集積地棲姫は戦意高揚した艦隊にアッサリとやられてしまった模様。

「ま~た何でこんな時期に……。呉やらラバウルやらはまだ復旧してすらいねぇんだろ?」

『いや、呉以外の鎮守府は被害も小規模だったから復旧している。呉も今仮設だが鎮守府再建の工事中だ。』

「ま、それはいいや。……んで、何で俺に白羽の矢が立ったワケ?」

『それが……イタリア大使からのたっての希望でな。“是非とも参加する艦隊は、今回の侵攻作戦の司令官の艦隊に”ってな。』

 成る程ねぇ、新型の情報は提供してやると言われてるし、国際情勢を鑑みるに友好国との関係悪化は避けたい、と。

『その上、今回の指名は元帥閣下の指名でもあるんだよ。』

「叔父貴……じゃなかった、元帥閣下が?」

『あぁ、それに迎えはもうやったって……』

 そう言う染嶋の言葉を遮るように、上空から鈍いエンジン音が響いてきた。窓を眺めると、二式大艇が水面に滑らかなランディングをする所だった。あぁ、返事はYESかハイしかないんですね、わかります。



 んで、手早く荷物を纏め、俺達は一路空の人となったワケよ。乗る時に席順をくじで決めて、瑞鶴が引いた時点でお察しだよな。留守は大和と武蔵に任せてある。…と言っても遠征と演習をこなす位のモンだから安心だが。

“間もなく『横須賀軍港』にランディングします。ベルトを締めて着陸に備えて下さい”

 パイロットからの無線が機内に入る。初の本土にはしゃいでいる者、いつも通りの者、初の飛行機に恐怖している者……様々いるが、もう少しの辛抱だ。

「ふぅ。やっぱブルネイに比べると寒いな。」

 大艇から降りて内火艇に乗り換え。ようやく地面に降りて第一声がこれだ。生まれは東北だが、やはり普段過ごしているブルネイが温暖な気候だと横須賀の冬ですら寒く感じる。

「わぁ~……ここが本土…ここが横須賀ですか!」

 初の本土の土を踏んだ面子はキャイキャイとはしゃいでいる。

「私はテートクの付き添いで何回か来ましたけどネー。」

 そう自慢げに語る金剛、それくらいにしとけ。加賀が弓引いてるから。今回連れ立って来たのは以下の面子。

《嫁艦's》

金剛・比叡・榛名・霧島・赤城・加賀・翔鶴・瑞鶴・長門

《観艦式参加メンバー》

高雄・愛宕・隼鷹・飛鷹・足柄・那智

 一応観艦式の参加メンバーは急拵えだがちゃんとした理由がある。高雄と愛宕は観艦式への参加経験がある為に採用。隼鷹と飛鷹はまず間違いなく行われるであろう晩餐会でのドレスコードとか、立ち居振舞い関連で他の奴等のサポート役も兼ねて連れてきた。残りの二人は誰でも良かったんだが、本土に行くと聴いた途端に鼻息荒く足柄が、

「私も英国の観艦式に参加経験あるわよ!私を出さないなんてあり得ないわっ!」

 と怒鳴り込んできた。……まぁ恐らくは本土のイケメンでも引っ掛けようって魂胆だろう。それで良いのか、熟れた狼……基い、餓えた狼よ。那智はそのお目付け役だ。

「ブルネイからはるばるとようこそお越し下さいました。」

 埠頭には不釣り合いな黒塗りの高級車。どうやら出迎えらしい。

「いやいや、元帥閣下のご指名とあらば。」

 社交辞令的な挨拶を交わし、車に分乗する。

「とりあえず、今日の予定は?」

「この後提督と秘書艦殿には元帥閣下と面会して頂きます。その後、20:00より観艦式に参加する艦娘を交えての晩餐会となっております。」

 やっぱりな、連れてきて正解だったぜ隼鷹と飛鷹。……てか、パーティ用のドレスなんてあいつら持ってるのか?無ければ見繕わせねぇと。

 手短な会話を済ませて後は車に揺られていく。戦争初期に焼き払われたこの街も、戦前の姿をほぼ取り戻しつつある。20分程走って車は大本営の敷地に入った。



「思ったよりも……小さいんですね?」

「まぁな。ここは殆ど事務方の詰所みたいなモンだ。ウチみたいな大規模設備は要らんのさ。」

 赤城の質問に答えながら、簡単にではあるが解説しよう。

 国内外を問わず、鎮守府は数多く存在している。その戦力を一極集中させては良い的だ。その為、『所属』は横須賀鎮守府でも『所在地』は静岡、なんて事例はザラにある。その中でもその地域の元締めのように機能している場所を示して『泊地』だとか『警備府』なんて呼び名が付けられている。今回の破壊工作で狙われたのも、この中枢部だな。かく言う俺もブルネイの元締め的な立場を仰せつかってはいるんだが
、何分めんどくせぇし半分以上は優秀な部下が処理してくれている。どうしても俺の採可が必要な物だけ俺に回ってくる様なシステムになっている。

「え~、今晩20:00より大本営主催の晩餐会が開かれる。軍人とは言えお前達艦娘は見目麗しい女性だ。ドレスコードは必要不可欠。」

「だから~、テートクのポケットマネーでドレスアップしてくるデース!」

 俺達は元帥閣下のご機嫌伺いに行かないといけないからな、そう言って加賀にクレジットカードを預けた。

「集合は19:00だ!それまでは自由行動、羽目を外しすぎないようにな。以上、解散!」

 俺に一瞬敬礼したかと思うと、脱兎の如く走っていきやがった。全く、現金な奴等め。

「さぁて、行きますか?」

「ンフフー、行きましょう!」

 俺と金剛はそれを見送ると、腕を組んで本庁舎へと歩みを進めた。 

 

ちょっとだけ、提督の昔話

 横須賀大本営の本庁舎の通路は、いつも使う廊下に比べて狭く感じる。…いや、実際狭いのだろう。日本人の基準から見てかなり大柄な俺からするとかなり手狭だ。すれ違う奴等は此方をチラリと見て値踏みをするような視線を向けてきやがる。本庁勤めを鼻にかけているような輩だ。そういう奴が嫌いだから、俺は現場の方が気楽なんだ。やがて通路の奥の突き当たりに、荘厳な扉が見えてきた。部屋を表す名札には『元帥執務室』と刻印されている。取り付けられたノッカーでドアを叩く。

『どうぞ、入りたまえ。』

「失礼しますっ!元帥閣下の呼び出しにより参上致しました!」

 俺は柄にもなく、金剛と整列してキッチリとした敬礼をする。執務机に座していた老境に差し掛かった男性は、身動ぎもせずに此方に眼光を飛ばしてくる。

「まぁ、座りたまえ。」

「ハッ!失礼します!」

 応接間も兼ねているのであろう、豪奢なソファに腰掛ける。

「さて……書記官君。」

 元帥閣下の斜め後ろの机に控えていた細身の男がピクリと反応した。

「儂と大将はこれより密談に入るのでな、君を含めて人払いを頼む。」

「は?いえ、しかし、あのーー…」

「聞こえなかったのかね?人払いを頼むと言ったんだが?」

 海軍を取り仕切る最高権力者からの命令と、射竦められるような鋭い眼光。これで従わない奴はほとんどいない。

「は……ハイッ!し、失礼しますっ!」

 細身の男が部屋を大急ぎで出ていく。これで室内は俺達4人だけとなったワケだ。

「…さぁ、ここからはいつも通りと行こうじゃないか“坊主”。」

「だな。しっかし、やっぱアンタの前で肩肘張るのは合わねぇよ“叔父貴”。」

 俺と元帥は互いにニヤリと笑う。そう……目の前のジィさん、海軍最高権力者の元帥は俺の古い馴染みだ。



「久しいな、13年振りか?」

「その位になりますかね、三笠教官。」

 元帥のジィさんもソファに座り、その秘書艦もその隣に座る。戦艦三笠。海軍兵学校提督養成課の教官にして、元帥の秘書艦、その実態は最古と言われる艦娘のプロトタイプだ。

 艤装らしい艤装は無い。持っている得物と言えば常に携えている刀のみ。海上には立って航行する事が出来る。だが、今の艦娘のように砲撃や雷撃は出来ない。そのエネルギーを膂力に回している。その為、敵艦隊の懐に突撃して格闘戦と剣術のみで制圧するのだ。…が、そんな戦い方を続けた無理が祟り、今は出撃に耐え得る身体ではない。それで今は陸で提督の教官を勤めている。

「そうかそうか、お前さんをスカウトしてからもうそんなに経つか。」

「スカウトぉ?ありゃ拉致って言うんだぞ?日本語間違えんなよジィさん。」

 それに、このジィさんが言う『スカウト』という名の拉致をされたのは今から約20年前の事だ。

「あ、あの~?」

 今まで黙り込んでいた金剛が、申し訳なさそうに口を開いた。

「ん?どした金剛。」

「darlingと元帥閣下が昔から知り合いだったのは解ったデス。けど、何でdarlingはテートクになったんデス?」

 俺とジィさん、思わずキョトンとしてしまった。

「なんじゃお主、伴侶となったおなごにも話しておらんかったのか?」

「だってよ、話す程の話じゃねぇでしょうが。」

 昔のジィさんとの出会いの話なんざ、誰が聞きたがるのか。そう思って誰にも好き好んで話した事は無かった。しかし嫁さんはそうでもないらしく、興味津々といった感じで俺達の話を聞こうとしている。仕方ねぇ、じゃあ話してやるか。

「大して面白い話でもねぇんだがなぁ……」




 俺とジィさんとの出会いは……20年以上前になるか?俺は二十歳そこそこ、独立開業したばっかの整体師でな。たまたま横須賀鎮守府の中で診療しては貰えないかと誘われて、これ幸いと飛び付いて、ここで艦娘やら事務方の提督もどきを施術してたんだ。

「テートクってホントにコックじゃなかったんですネー……。」

「んだよ、信じてなかったのか。」

 話を進めるぞ。その頃は国内の主な鎮守府はどうにか確立出来てな、漸く国外の鎮守府設立案が出始めた頃だった。そんなご時世だったからな、優秀な指揮官を一人でも多く確保したい。そんな時だった、てのはジィさんの談。

「では、ここからは儂が話すとしよう。」

 そう言うのでジィさんに語り部を替わる。

 ちょうど、昼食を済ませて部屋に戻る途中じゃった。職員の休憩スペースには戦意高揚を図る為にとテレビが置かれてな。航空偵察機が撮影していた海戦の様子を流していた。しかし職員にとっては物珍しい物ではなく、寧ろ二つの敵艦隊に挟撃されようとしておる味方艦隊に、非難の視線すら向けている者までおった。

『やれやれ、このようなお粗末な艦隊指揮では……』

 そう思った時じゃった。

「あ~あ~、なってねぇなぁ。それでもホントに大学出のエリートかよ、オイ。」

 イスにふてぶてしく座り、缶コーヒーをすすりながらテレビに向かってヤジを飛ばす巨体の男……目の前に座っておるこ奴と、儂の初めての出会いじゃった。

「なぁジィさん、もう止めない?昔の恥を曝されてるみたいでヤなんだけど。」

「嫌じゃ。」

 キッパリと断言されてしまった。

 話を続けよう。儂は思った。この男はただヤジを飛ばしているだけなのか?それとも、この指揮の問題点が解っているのか?尋ねてみたくなった。

「のぅ、お若いの。」

「あん?誰だジィさん。」

 目上への態度は宜しいとは言えん、か。まぁエエわい。

「先程テレビに向かってなってないと叫んでおったが、何がなってないんじゃ?」

「だってよぉ、指揮がお粗末過ぎるだろうよこれじゃあ。」

 ふむ、何と無くはわかっておるのか?

「何処が悪い?」

「まず、敵艦隊に2時方向と11時方向から挟み撃ちにされそうになってんだろ?それなのに艦隊を分散させちまった。これは頂けねぇ。」

「ほぅ?なんでじゃ、挟み撃ちというのは具合が悪かろうて。」

「まぁ、確かにな。けどよ、こっちは6隻、相手は12隻だ。6対6で漸くトントンの相手に、3人ずつで別れちゃあどっちらけだ。」

 ほぅ、わかっておる。確かに挟撃に対して艦隊を二分するのは下策。撃破出来る者も撃破出来なくなる。ベストを上げるならば各個撃破が上策。しかし……

「ならば、どちらを狙う?」

「あ?そんなの決まってらぁ。2時方向の艦隊だ。」

「ほぅ、してその理由は。」

「随分疑問の多いジィさんだな。答えは簡単、敵艦隊の中に空母が居るからよ。」

「じゃが、そっちの艦隊には戦艦もおるぞ?戦艦の砲撃は脅威じゃろうて。」

「俺はこの海戦を最初から見てたけどよ、最初にこっちの艦隊を見つけたのは戦艦と空母のいる艦隊だった。けどな、後から11時方向からもう1つ艦隊が割り込んで来たら空母が逃げ始めた。」

 む、そこまで、見えておるか。

「空母ってのは戦艦よりも高い攻撃力を出せる。まぁ、例外も居るがな。戦艦や重巡を潰してでも空母を守ろうとしてやがる。なら、最優先でぶっ潰すべきは空母だ。」

「戦で勝つ、ってのは目先の勝利に惑わされちゃいけねぇ。長い目で見てどれだけ相手に深手を負わせるか。そっちの方が大事なんだが……どうにも、この艦隊の指揮官様は解ってねぇようだったんでな。」

ヘッ、と笑って若いのは缶コーヒーの中身を飲み干すとよっこらせと立ち上がった。

「若いの、どこで仕事をしておる?」

「あ?2階の突き当たりの『施術室』だよ。てかジィさんこそ何者だよ。」

「儂か?儂は……ただの将棋好きのジジィじゃよ。またな、“坊主”。」

 思わぬ所に掘り出し物が転がっておった。儂の心中はそんな状態じゃった。 

 

ちょっとだけ、提督の昔話②


「う~ん、darlingと元帥閣下の出会いはわかりまシタ。けど、何でdarlingはテートクになったんデス?」

 金剛の話は尤もだ。実の所俺は整体師の仕事を気に入ってはいたし、生涯この仕事で喰っていく腹積もりだった。

「だぁから言ったろ?このジィさんに騙されたて拉致られたの。」

「人聞きの悪いことを言うでないわっ!アレはお前も納得の上での勝負じゃったろうが!」

 ぎゃあぎゃあと怒鳴り合う俺とジィさん。その隣で可笑しそうに笑う三笠教官。ちょうどその現場に居合わせた、言わば立会人だ。

「ンー?三笠お姉さまは知ってるデスか?」

「あぁ、知っているとも。私はその勝負、一部始終を見ていたからね。」

 そう言って三笠教官が金剛に語り出していた。

 あれは……そう、二人が出会って一月と経っていない頃だ。

ー昼休み・施術室ー

「ハイどーぞ。」

 元帥のノックに気のない返事。ぶっきらぼうな男だと受け止めてしまうかも知れんが、一度付き合い始めると誰にでも分け隔てなく接しているだけだと解ってくる。ましてやここでは向こうが『先生』であり、こちらは『患者』。客商売としては間違っているかも知れんが、この室内では彼の方が上手(うわて)だ。

「よぅ、忙しく……は無いようじゃな。」

「ま~た来たのかジィさん。よっぽど暇なんだな。」

「私も邪魔するぞ。」

「あらま、『教官』さんまでお揃いで。随分暇人だらけなんだなぁ海軍の本拠地っつっても。」

「馬鹿な事を言うでないわ。今の今まで仕事じゃったわ。それでな?まだ昼飯を食っておらん。何か作ってくれんか?」

「あ~!?食堂あるだろうがよ!そっちで食えよ!」

「別にエエじゃろ?どうせ食べた後にここで将棋指しに来るんじゃ。ここで食べた方が手間が少ないわい。」

「俺の買ってきてる材料費がタダじゃねぇんだがなぁ……」

 この男がここに就職する際に唯一付けた注文がコレらしい。『施術室の隣にキッチンを付ける』……仕事関連の注文ではないので妙だとは思ったが、疑問はすぐに解けた。この男は料理が上手い。それこそプロと遜色ない程に。私も何度か付き合いでこの男の料理を食べたが、同じレベルで作れるか?と聞かれると自信がない。私も元帥と結婚しているからな、妻として食事の用意をしてはいたが、ショックだったよ。

「仕方ねぇなぁ……。」

 男はのっそりと立ち上がると、キッチンの方に歩いていった。私は元帥と顔を見合わせて笑ってしまったよ。なんだかんだと文句はつくが、この男は面倒見がいいのだ。




 何を作っているのか気になって、キッチンの方を覗く。お湯を沸かしながら電子レンジでアジの開きを2匹温めている。

「観察していてもいいか?」

「いいっスよ?大した物じゃねぇし。」

 許可が下りたので近寄って観察する。お湯に顆粒の鰹だしを入れて溶かしている。結構濃い目の出汁を使うようだ。

「ホントは花鰹で出汁取った方が美味いんだけどね、今日は手抜き。」

 苦笑いしながら男がそう言った。出来た鰹だしをボウルに移し、冷蔵庫に入れて冷やす。冷製の料理を作るのか。確かに今日は汗ばむような陽気だから丁度よいかもしれんな。

 そう思っていたら今度は電子レンジで温めていたアジの開きを取り出して、骨を除きながら解している。

「俺の朝飯のおかずだったんスけどね、客が来て食いそびれちゃって。」 

 料理の腕も去ることながら、整体師としての腕前も中々だ。私も定期的に施術を受けているが、持病だった腰痛は大分マシになっている。アジをほぐし終わったら、今度は胡瓜と茄子を取り出した。胡瓜は縞模様になるように皮を剥き、薄くスライス。茄子も同じように半月にスライスして、両方を塩を軽くまぶして混ぜて置いておくようだ。

 今度は茗荷と青じそが出てきた。茗荷はみじん切り、青じそは千切りにされていく。

「もしかして蕎麦か素麺か?」

「残念ながら違うんだなぁ~。ま、見ててくださいよ。」

 男はニヤリと笑うと薬味を器に盛り、今度はミキサーを取り出した。

 ミキサーの中にほぐしたアジ、炒りごま、味噌、冷やしていた鰹だしをお玉で1杯入れるとミキサーにかけて細かくしていく。

 ペースト状になった所で別のボウルに移し、鰹だしを少しずつ加えて伸ばしていく。

「本場だと擂り鉢でやるらしいんスけどね。めんどくさいんで。」

 つまりこれはどこかの郷土料理、という事か。本当にこの男の料理のレパートリーは幅が広い。

 先程塩揉みしておいた胡瓜と茄子から水が出ている。男はこれを搾って味噌だれに加えて混ぜ、味見。

「う~ん、塩気が薄いかな?」

 そう言いながら塩を入れて調整している。冷蔵庫に入れて冷やしてから食べるらしいのだが、今日は時間が無いので更に氷を加えてタレ自体を冷やしていく。

「『教官』さん、炊飯器から飯盛ってもらっていいすか?そこにある丼に。」

「あぁ、わかった。」

 炊飯器を開けると中身は麦飯。普段から麦飯を食べているのだろうか?

「白飯ばかりじゃ飽きるんでね、たまには雑穀米やら麦飯やら炊くんですよ。」

 成る程な。私は丼に麦飯をよそい、施術室の方へ持っていく。

「はいお待ちどぉ、『冷や汁』だよ。飯にタレをかけて薬味載っけて、かき混ぜて食べるんだ。」

 薬味は先程刻んでいた茗荷と青じそ、それにおろししょうがと白炒りごまだ。好きなだけ乗せてかき混ぜてズルズルとかっこむように食べる。

 麦飯と焼いたアジの身の香ばしさ、アジと味噌の旨味と塩気、薬味の辛味が上手く調和している。掻き込むような食べ方ははしたないと思いつつ、あまりの美味しさにガツガツと食べてしまった。元帥など、3杯もおかわりして食べていたよ。

「全く……よく食うジィさんだぜ。」

 と、苦笑いしていたっけな。



「ぷぁ~っ、食った食った。」

 男は満足いった、とでも言うように腹を摩っている。

「いやぁ、実に旨かった。お前さん、主計科に転職するつもりはないかのぅ?」

「え、ヤだよ。俺はこの仕事が気に入ってんの。他の仕事なんてさらさらやる気はねぇよ。」

 そう言いながら男は茶を差し出してくれた。本当は提督になるように説得しに来たのだが、探りを入れてはみたものの男の意志は頑なだ。

「そうか……残念じゃのぅ。ならばどうじゃ、腹ごなしに1局。」

「また将棋か。好きだねぇジィさんも。」

 元帥は立場を隠してここには「将棋好きの好好爺」としてやって来ていた。

「そうじゃ、この勝負で勝った方が負けた方に何でも1つ言う事を聞かせる、というのはどうじゃ?拒否権はなし。」

「良いねぇ、その勝負乗った!」

 こうして、彼の運命を決める事になった将棋勝負が始まったワケだ。 

 

ちょっとだけ、提督の昔話③

 そんなこんなで始まった、将棋勝負。折り畳み式の簡素な将棋盤を広げ、手早く駒を並べていく。

「では、始めるとするかのぅ。」

 先手は元帥。迷いなく歩をつまみ上げ、パチリと将棋盤に打つ。

「そんなに力入れて打つようなモンじゃねぇだろ。」

 対して男は気張るような様子もなく、あくまでも気楽にゲームでも楽しむかのようにパチッと打つ。何度か二人の対局を見た事があるが、実力は五分五分といった所。元帥は攻めが上手く、男はそれをのらりくらりとかわしていく。

「しかし……勿体無いのぅ。」

「あ?何がだよ。」

 二人は差し合いながら会話を重ねていく。

「これだけの差し手なら、さぞ艦隊の運用も上手かろうと思うてな。」

「将棋と海戦は違うだ……ろっ!」

 バチン!と威嚇するかのように強く音を出す男。元帥の狙いを読んで牽制したつもりか。盤面を見ると男は早々に矢倉囲いを組み上げて守りを固めている。元帥は徐々にではあるが考える時間が延びているようだった。僅かずつだが、押されている。

「そうでもないじゃろう。将棋も艦隊の運用も、大局を見据えて先を読まねばならん。」

「だからってな、俺にゃ提督なんて重荷は無理だ。」

 パチッ、パチッと1手1手、差す音が響く。会話を交わしながらだが、盤面は激しい攻防が繰り広げられている。




「勝手ながらな、お主の経歴を調べさせてもらった。」

 パチリ、と駒を差した男の手が止まり、元帥を睨むような目線を投げ掛けていた。当然、大本営に出入りするような人物だ、身辺調査は入念に行われる。その資料を追い掛けたのだ。

「高校は工業系の高校、中々優秀だったようじゃな?」

「その後何を想ったか整体師の資格を取って開業……随分と大胆な方針転換じゃな?」

 その間も差す手は止まらない。男は黙り込んだままだった。

「け、生憎と座学が嫌いでね。手に職を付ける目的で選んだ進学先だった。」

「工業系の技術は嫌いじゃなかったけどな。それよりも整体師の方に興味が出てきたのさ。」

 盤面は中盤から終盤に差し掛かったといった所か。互いに駒を取り合い、盤上にある駒は少なくなってきていた。

「フム……、やはりそれは柔道をやっていた経験からかの?」

 そう、この男は柔道に学生時代打ち込んでいた。黒帯は取っていないようだったが、高校時代には全国でもかなりイイ線まで行っていたようだ。

「ジィさん。まさかストーカーとかじゃねぇよな?……冗談だよ、冗談。天下の元帥閣下がストーカーなワケがねぇ。」

 今度は元帥の手がピクリと痙攣したように震え、手が止まった。

「…………知っておったのか。」

「ココに来るのはアンタ等だけじゃねぇんだ。他の職員に聞いたら一発だったよ。」

 ま、口のききかたに気を付けろ!って怒られたけどな。と、苦笑いする男。目の前の老爺が海軍のトップだと知りつつも、その態度は微塵も変わらない。図太いと言うかなんと言うか……それだけでも凄い奴だと私は思ったよ。

「で?その元帥閣下の持ちかけてきた勝負だ……何企んでやがる。」

「ふ……はっはっは!お見通しだったというわけか。よかろう、儂はこの勝負でお前さんを負かし、提督にするつもりじゃ。」

「お……おい!そんな事を言ったら…!」

「大丈夫じゃ、安心せい。この若造はそう言われる事まで読んでおるよ。その上でこの勝負を受けとる。」

「ま、そう言う事ですよ。アンタは立会人だ、黙って見ててくださいよ『教官』殿。」

 男に釘を刺され、私はただ見守る事しか出来なかったよ。




 勝負は終盤戦、いよいよ詰みが見えてきそうな場面だ。互いに緊張感からなのか汗が額に滲んでいる。それを拭う事もせずに盤面を睨む二人。ただ見ているだけの私でさえ、息が詰まりそうだった。

 手番は元帥、しかし駒を挟んだまま動く気配がない。差す直前の体勢のまま、長考に入った。3分…5分……と時間だけが過ぎていく。と、男が瞼に垂れてきた汗を嫌って拭ったその瞬間、元帥が漸く差した。男も取った駒から歩を一枚取り、差した。

「ん?それは二歩ではないか?」

「あ?二歩だぁ?んなワケが……あ。」

 それは呆気ない幕切れだった。男の気が緩んだのか、二歩などという素人の犯してしまいそうなミスでの反則負け。

「よし、決着はついた。お主の転属に関しては追って書類を渡そう。」

 元帥がそう言って立ち上がろうとした瞬間、男が元帥の右手を掴んだ。

「なんじゃ?何か文句でもあるのか?」

「いや、文句はねぇさ。油断してたのは俺だ……ただし、この右手に金将が入ってなけりゃ、な。」




「さっき二歩を指摘された時、妙~な違和感があったんだ。んで、今盤面をよく見直して気付いた。……金将が3枚しか見当たらねぇ。」

 男の指摘で私も漸く気付いた。確かに、互いに2枚ずつ……都合4枚あるハズの金将が3枚しかない。

「さっきの長考、俺に隙を作らせる為に待ってたんじゃねぇのか?そして差すと同時に手の中に握り込んでいた歩と金将をすり替えた……違うか?」

 元帥は微動だにしない。見ると、先程よりも右手に力がこもっている。僅かな隙間から木材らしき物が見えた。男の予想通り、元帥は金将を握り込んでいる。

「ほぅ、面白い推論じゃ。だが……もし万が一この右手の中に金将が無かったら…その落とし前どう付ける?」

 しかし元帥の胆力も流石だった。金将が手中にあるにも関わらず、素知らぬ顔で逆に圧をかける。睨み合う二人。その迫力には私も肝を冷やしたよ。

「……わかった、俺の敗けだよ。提督になりなんなり、好きにしやがれ。」

 諦めたように掴んでいた右手を離して、笑ったんだよ彼は。その後は元帥の推薦と言う形で提督候補生になり、卒業と同時にブルネイに配属、その後は君の方が詳しいだろう?金剛。




「ハァー……。凄い話でシタ。」

 自分の夫の提督となった経緯と元帥との関係を聞くと、目の前で未だに言い争っている二人が本当の親子のように見えてくる。

「第一ジィさんがイカサマ認めてりゃあ、俺は提督ならずにここで働いてたんだぞ!?解ってんのか!」

「やかましいわい!大体あの時、儂は『イカサマをしてはいかん』などと言うてはおらん!」

「あ!この野郎開き直りやがったな!それつまりイカサマしてたって暗に認めてんじゃねぇか!」

「誰もそんな事は言うておらんだろうが!馬鹿か貴様は!」

 二人の言い争っている姿を見ていたら、親子というよりも長年の友が他愛もない口喧嘩をしている……そんな感じに見えてきた金剛。

「何だかdarling、とっても楽しそうネーw」

「そうさな、二人は似た者同士だからな。存外歳の離れた兄弟のような感覚なのかも知れん。」

 いつまで経っても大人げない二人を見守る二人の妻は、そう言い合って笑っていた。 

 

策謀・計略悲喜こもごも

「ったく、あのジジィめ、さっさと隠居しやがれってんだ。」

 元帥の執務室を後にした俺と金剛は、控え室として用意された部屋に戻る。

「あ、提督。お帰りなさい。」

 買い物(という名の観光)を済ませた嫁艦'sと観艦式メンバーが戻ってきていた。部屋の中はさながらファッションショーのバックヤードのようだ。所狭しと並べられたドレスにハイヒール、手袋やハンドバッグ、数々のアクセサリー。幾ら使ったのか明細を見るのさえ頭が痛くなりそうだ。

「お前ら、幾ら使ったんだよ……。」

「さぁ?数えるのは不粋かと思いまして。」

 しれっとした顔でそう言ってのける加賀。

「まぁまぁ、提督ぅ。侍らせる女のグレードは男の甲斐性と見栄の見せ所なんだからさぁ。」

 隼鷹が後ろからフォローを入れてくるが、口から漂ってくるワインの香りは誤魔化せんぞ?

「やっべ、もうバレた!」

 咄嗟に口を抑える隼鷹。だから、今更無駄だっての。時計を見るともうすぐ19:00。あと1時間程で晩餐会が開催される。

「ハイハイ、ファッションショーも良いけどな。あと1時間で晩餐会だからな?着替えとメイクはバッチリ済ませておけよ。」

 『は~い♪』と一斉に返ってくる返事。俺も着替えるとしますかね。白い海軍の制服を脱ぎ、黒のタキシードに着替える。本来こういった公的な場だと制服が基本なのだが、どうやらどこかの国の根回しで、『軍服の人間がいるとゲストが萎縮する』と注文をつけられたらしい。観艦式を記念した晩餐会にゲストもクソもねぇと思うのだが、上からの指示だ、一応従っておくさ。



 何年か振りにタキシード着たが、腕回りとかキツくなってるな。運動不足解消に筋トレとかやりすぎたかな?まぁ良いさ、服は後で仕立て直せば。そろそろ艦娘達をエスコートして会場に向かわねぇとな。

「お~い準備出来たか?そろそろ行く…ぞ……?」

 一応別室で着替えた俺が部屋に戻ると、色とりどりのドレスに身を包んだ艦娘達が待ち構えていた。背中や胸元等の女性的な美しさを引き立てる部分は大きく開かれたドレスの数々。耐性の無い男ならば赤面して直視できない程に艶かしい。容姿も元が良いからこそ、こういったセクシーなドレスが似合うんだよな、うん。普段は素っぴんか薄いメイクの彼女らも、今日はしっかりとしたメイクで飾られている。なんと言うか、少し誇らしくすらある。

「ンッフッフー、どうしたのテートク?皆beautifulで惚れ直しちゃいましたカー?」

 得意満面、といった笑みを浮かべながら純白のドレスに身を包んだ金剛がからかうように言ってきた。

「バカ言え、お前らがその辺の女よりも美人だ、なんてのは常日頃から解ってるわ。下らねぇ事言ってねぇで、さっさと行くぞ。」

 照れ隠しにそんな言い方をしたが、恐らく顔が赤くなっている。その証拠に、俺と腕を組む金剛の顔には囃し立てるようなニヤニヤ笑いが張り付いていて取れなかった。

 パーティ会場に指定されていたのは集会などを行う為に作られた講堂だった。そこがパーティに相応しいような豪華な装飾をされていた。真っ赤な絨毯が床一面に敷き詰められ、照明はシャンデリアと交換されている。所々に食事の乗せられた丸テーブルが設置され、壁際には仮設のバーカウンターが備え付けられていた。席は無い。恐らく立食形式のパーティなのだろう。

「ま、わかってるたぁ思うがココも公的な場だ。楽しんでも良いが羽目を外しすぎないようにな。」

 全員がコクリと頷く。その辺りは流石に弁えているだろう。

「んじゃ、俺からは以上だ。後は好きにやってくれ。」

 そう言うと艦娘達はそれぞれに自分の好きな飲み物や食べ物の所に散っていった。

「まぁ、たまには作る側じゃなくてもいいか。」

「そうネー、たまにはテートクも一緒にパーティを楽しむデース!」

 そう言って金剛が左腕に抱きついて来る。嫌な重みではないから、まぁいいか。




 取り敢えず飲み物を取りに行くか。その辺を回っているウエイターからシャンパンを……でもいいが、折角だしカクテルを貰おうか。俺は金剛と連れ立って手近なバーカウンターへと向かう。

「いらっしゃいませ。何に致しましょう?」

「ウォッカ・マティーニとアレキサンダーを。」

「畏まりました。」

 そこに立っていたバーテンダーは随分と若そうだ。作る手捌きもどこかぎこちない。見ると、海軍の紋章が入ったベストを羽織っている。成る程、新人の見習い提督を労働力として駆り出してるワケか。シェイカーの振り方も雑で、あれでは氷が中で砕けて混じってしまいそうだ。

「お待たせしました、マティーニとアレキサンダーです。」

「ありがとう。……あぁそれと、も少し肩の力を抜け。そんな振り方じゃあ折角の酒も不味くなっちまうからな。」

 俺はニヤリと笑ってチップを渡した。その間に俺の名刺を挟んで。アレを見たらあのバーテン君はビックリするだろうか?そんなことを考えながら、マティーニを一口啜った。…ふむ、味は悪くねぇな。酒の良さのお陰か。

 その後はテーブルにある数々の料理を試食して回った。和洋中だけでなく、イタリア、フランス、ロシア料理など多岐にわたる種類だ。少しは腹が満たされてきた頃になると、会場内の様子も窺い知れて来る。

「成る程ねぇ、お国の為とは言えご苦労なこって。」

「何が『お国の為に』なんだい?」

 懐かしい声に振り向くと、見知った面が娘ほどの年頃の二人を引き連れて笑顔で立っていた。

「クルツか。何やってんだこんなトコで。」

「あらら、ご挨拶だねぇ。今日は大使の護衛でね。」

 同期の提督、クルツ。前にも出てきたから覚えてる人も居るかな?駆逐艦大好きのプロリコン(プロのロリコン)親父だ。そういえば元駐日アメリカ軍のお偉方だったっけ。

「だから、情報合戦に必死だなぁ……と思ってな。」

「成る程、ネ。中国とロシアか。」

 会場内の参加者は国際的なパーティというだけあって様々な国の人間が混じっている。日本、ドイツ、イタリアの海軍が軍事同盟を結んでいる国を始め、日本と友好なアメリカ、艦娘の劣化コピーを作って配備しようとしている中国、海軍列強として復活を狙っているロシア。特に中国とロシアは深海棲艦との繋がりが噂されている。今回の一連の破壊工作もこの二国のどちらかが関わっている、というのが俺の読みだ。

「ふ~ん、随分とブラックな話だ。」

 豪華絢爛な光に包まれるパーティ会場。光が強ければそれだけ、影の濃さも強くなる。

「それに、VIPに紛れ込んでネズミが数匹。」

「……産業スパイ?」

「あぁ、あっちでウチの奴等を口説いてる中にも混じってる。」

 視線を送った先では足柄と那智が複数の男に囲まれて口説かれている。足柄は満更でもなさそうだが、経験の少ない那智は戸惑っているようだ。あの群がる男達の何人かは、軍事産業系の企業のスパイだ。艦娘の艤装等に関してのデータを盗み出そうってハラだろう。

「助けなくていいのかい?」

「大丈夫だろ、外にゃ憲兵が張ってるし。何より、俺は残業が嫌いなんだ。」

「……そうだった、キミはそういう男だったね。」

 金剛はクルツが連れていた文月と皐月と楽しげに話していた。

「そういや、雷と夕雲はどうした?」

「今日は鎮守府の仕事が忙しいから、他の娘に構ってもらいなさい!ってさ。」

 ヤレヤレ、といった具合に頭を振るクルツ。

「ハハハ、尻に敷かれてるワケだ。」

「彼女達の尻に敷かれるなら本望だよ、色んな意味で。」

 相変わらずブレねぇな、このおっさんも。




「そういや聞いたぞ?ついにアメリカでも艦娘の建造に成功したって?」

「耳が早いな。……少し外で話そう。」

 何やら聞かれたくない話でもあるのだろうか。俺とクルツは講堂の外に出て、タバコに火を点けた。これで周りからは煙草をふかしているようにしか見えまい。

「で?艦種は何が出来た。駆逐艦か?軽巡か?」

「いいや、戦艦だ。戦艦『アイオワ』。」

 まさか初の建造が戦艦……それもアイオワとは。まぁ、ある意味米海軍を象徴する戦艦だから当然と言えば当然なのか。

 なにしろ1943年の就役から1990年の退役まで、実に半世紀を戦い抜き、今も博物館としてその形を留めている戦艦だ。

「それで今困っててねぇ~……」

「あん?何が。」

「いやね、アイオワの艤装が先に出来上がっててさ。主砲の試し射ちの任務がウチに回ってきたんだけどさぁ。」

 成る程、言いたいことはわかったぞ。

「お前のトコは祿に戦艦が育ってねぇものな。積み込む奴がいねぇのか。」

「そう言うコト!……それでさぁ、代わりにやってくんない?」

「あ?まずくねぇかソレ。国際問題なっちゃったりするんでねぇの?」

「そこはホラ、上手くやるからさ!頼むよ、ネ?」

「……考えといてやるよ。」

 俺はそう返して、タバコをふかした。 

 

出撃・礼号作戦!~親善観艦式、そして……~


 晩餐会の翌朝、早朝に叩き起こされた俺達は観艦式の会場の変更を告げられた。横須賀の湾内でやる予定だったが、急遽千島列島の北端にある幌筵(ぱらむしる)泊地に会場が変更になったというのだ。

『あのジジィ、何企んでやがる……』

 寝起きの呆けた頭を無理矢理コーヒーで覚醒させ、金剛を始めとする艦娘達を起こしにかかる。まぁ、翔鶴と瑞鶴は同じ部屋に居たから楽だったが。……理由?察してくれ。全員が揃った所で会場変更の旨を通達、手早く準備をさせる。そして昨日移動に使った二式大艇に乗り込み、再び空の人となった。

「幌筵って珍しい読み方ネー……方言?」

「に近いかな?語源は確か先住民族のアイヌ語で……大きい島とか広い島、って意味だったかな?」

 太平洋戦争中は陸軍・海軍両方の拠点としてかなり大規模な施設だったらしい。かの有名なキスカ島撤退作戦の出発地としても有名だな。戦後はロシア軍が駐留して実効支配していたーー所謂北方領土だな。深海棲艦の出現で駐留していた軍が逃げ帰った所に日本政府が掠め取るような形で取り返したらしい。火事場泥棒のような形になってしまったが、ロシアも返還要求に応じてなかったからな、お互い様って奴だろう。

 やがて大艇は降下体勢に入り、スーっと水面を滑るように着水した。初めての幌筵泊地に降り立った俺達。

「さ……さぶっ!」

 横須賀や故郷の岩手よりも余程寒い。流石はロシアやアラスカと同じ位の緯度に位置する鎮守府だ。艦娘達は北方海域に出撃し慣れているせいか、凍えている者はいない。




「いやぁ、済まんな。急遽の会場変更で。」

 泊地の方から元帥のジィさんと三笠教官が歩いてくる。いきなりの会場変更のせいで早朝に叩き起こされた俺は怒り心頭で近付いて、

「おいジィさん、何のつもりだこりゃ?大本営に無理矢理連れてこられたと思ったらいきなり幌筵なんて北の外れに移動させやがって!」

「いや、諜報部から報告があってな。観艦式が奇襲される、とな。」

 それは聞き捨てならない。何せ参加するのはウチの艦隊だ。

「深海棲艦か?それとも……」

「それは解らん。いや、或いは共同戦線を張って両方か……。」

 あり得なくは無い話だ。過去にもあった事だからな。それも、俺の守るブルネイの地で。俺が赴任する前の事だが、大規模な戦闘があったと聞いている。

「成る程な、念には念をってワケか。」

「それに、軍の上層部に『ユダ』が居るかもしれん。」

 元帥のジィさんはそう言って、一層声を潜めた。イエス・キリストを銀貨30枚で売ったとされる裏切り者……ユダ。お偉方の中に敵方と通じている者が居るとすれば一大事だ。

「その為に急遽会場を変えさせてもらった。ここに呼んであるのはイタリアの関係者とお主らに儂と三笠……それと、疑わしい幹部にしか召集をかけておらん。」

「成る程、俺達に囮になれってか。」

 ココが襲われれば呼び出された奴の中にユダがいる。大分絞り込まれるワケだ。

「そういう事じゃ。マスコミにもこの観艦式は非公開となった。後はお主らの『演技』にかかっとるぞ。」

 それではな、と去っていくジィさんと三笠教官。全く、相変わらずのギャンブル好きで困ったジィさんだぜ。




 その後は待機している嫁艦's達の艤装に実弾を装填して待つ。やがて司会から声がかかり、観艦式が始まった。複縦陣で進むウチの艦隊と、その先頭を進む金髪の重巡洋艦。アレが例のイタリアの新型らしい。

「Zara級1番艦、Zaraか。」

 ウチにもイタリアにローマ、リベッチオとイタリア艦娘が3人いるが、重巡洋艦は初めてだな。渡された資料によると203mmの主砲は再現できたが、イタリア戦艦以上と言われた多数の対空砲は再現できなかったらしい。主砲は初速が速く、戦艦並みの長射程を実現してはいるが、命中率が低い……か。使いこなすには特殊な運用が必要そうだ。魚雷の搭載は無し。あくまでも砲撃戦に拘った造りか。        

『いかんなー、フリとは言えこういう資料を見ると運用法をついつい考えちまう。』

 提督ならではの職業病とでも言うべきか。俺は思わず自嘲気味に笑ってしまった。艦隊の方は陣形を崩さず、沖合いに向かって主砲を砲撃している。中でもZaraの射程は目を見張る物がある。高雄達の着弾点と比べると一目瞭然だ。と、哨戒をさせていた赤城と加賀の索敵機から同時に通信が入る。

「提督!沖合いに深海棲艦の艦隊を確認!姫級の反応多数!」

 来やがったか!そう思った瞬間、幌筵にある一番高い山を飛び越えるようにして、ジェット戦闘機が何かを投下して飛び去った。海面に叩き付けられたそれは炸裂し、煙幕と閃光、爆音が感覚を奪う。

「クソッタレ、沖合いに居たのは囮か!?」

 敵艦隊発見の報に合わせたように現場を撹乱する煙幕と閃光弾。こんな高度な連携は密度の濃い連絡を取り合わないと不可能だ。やがて煙が晴れてくると、現場の混乱ぶりがハッキリしてきた。

 逃げ惑う海軍幹部たち、突如現れた深海棲艦に応戦するウチの艦娘。姫級の姿が無い所を見ると、尖兵といった所か。しかしウチの嫁艦達に敵うような奴等ではない。足止めが目的か……?だとすると、奴等の狙いは。

「金剛!」

『何ヨテートク?今忙しいんデスけど!?』

 通信機の向こうからは砲撃音が響き、音が反響して聞き取り難い。

「イタリア艦の……Zaraの安否を確認しろ!奴等の狙いはイタリア艦の強奪の可能性がある!」

 鎮守府への破壊工作、突如始まった深海棲艦の攻勢、そして観艦式。それら全てが新型の艦娘の強奪に帰結するとしたら、全ての疑問に合点がいく。

『radarにも反応ナイよ~!Shit!』

 最悪の事態だ。俺の予想よりも遥かに最悪の事態が、目の前で起こっていた。 

 

出撃・礼号作戦!~発令、捷四号作戦!~

 エラいことになった。イタリアからの新型艦娘が深海に強奪される。前代未聞の事態だったが、ここは動くしかない。

「ジィさん、敵の動きは?」

「今探らせておる。恐らくは奪った重巡の深海棲艦化……それが目的じゃろうて。」

 今までも何体か姫級や鬼級の個体の中には、艦娘によく似た姿の者が確認されている。妖精さんの見解では、同じ艦魂が核となっているから似通った姿形をしているのではないか?との事だった。

 愛国心や忠義、そういった正の感情の部分が艦娘に。

 怒りや悲しみ、苦しみ等の負の感情の部分が深海棲艦に。

 まるでコインの裏表のように、艦娘と深海棲艦は生まれているのではないか?と。事実、どこかのブラックな鎮守府の中では艦娘を深海棲艦に変化させる、なんてマッドな研究をしている馬鹿な提督もいたらしい。勿論、既に解体されているらしいが。同じような事を、それも最新鋭の艦娘にするとしたらーー?考えたくもねぇ話だ。

 やがて一時間もすれば幌筵泊地から飛ばしていた偵察機からの情報も集まりはじめる。それを基にして海図を書き、戦略を練る。どうやらZaraを拐った艦隊は足を止め、一定のポイントに停泊しているらしい。

「さて、問題は作成海域が広すぎる事じゃ。」

 書き上がった図面を眺めながら、元帥のジィさんが唸る。確かに、この泊地をスタート地点とするならば、作戦海域が広すぎる。

「なぁ、ここの小島使えるんじゃねぇか?」

 海図を眺めながら俺が指差したのはこの泊地から東北東に進んだ先にある名もないような小島。報告によれば駆逐棲姫が警戒線を張っているらしいが、一度突破して橋頭堡を築ければ、そこをスタート地点として追撃できる。礼号作戦でウチが使った手だ。

「成る程、現状ではそれが最善の手じゃろうて。よしわかった、その輸送作戦は横須賀鎮守府の奴にやらせる。お前さんはブルネイから補充の艦娘を呼び寄せて、作戦に備えてくれ。」

 そう言うと慌ただしく電話をかけ始めるジィさんと三笠教官。さぁて、俺も電話しますかね。




『はい、こちらブルネイ鎮守府……あぁ、提督か。どうした?』

 電話口に出たのは武蔵。

「おぉ、ちと緊急事態でな。今から言う面子を戦闘配備で輸送機に載せてこっちに送ってくれ。面子は……」

『面子は了解した。で?場所はどこだ?横須賀だろう?』

「幌筵だ。」

『幌筵?なんでまたそんな北の外れに……』

「説明は後だ。とにかく急ぎだ、頼んだぞ。」

 俺はそれだけ言うと返答も待たずに電話を切る。そして間髪入れず、別の所に電話をかける。

「あぁ、クルツか?俺だ。昨日言ってた例のアレ、こっちに回してくれ。……そうだ、実戦で使ってテストする。無茶じゃねぇよ、何とかしろよ!任せたぞ、じゃあな。」

 これで準備は整った。後はメンバーが揃うのを待つばかり。その間に横須賀の最精鋭部隊なら見事に橋頭堡を築くだろう。俺達の出番はその後だ。とにかく今は焦らずに待つ事、それが重要だ。




 ただ待っているだけ、というのも暇だ。久し振りにジィさんと一局、と思ったが横須賀鎮守府の提督への指示で忙しそうだ。さてどうしたものか……。そういえば、ゴタゴタのせいで皆昼飯を摂ってない。今出来る事をやるとするか。

「なぁ、幌筵の提督って君か?」

「はっ!なんでありましょうか大将殿!」

 階級章を見ると階級は大佐。目上の奴に話しかけられたら緊張するのは解るが、ガチガチになりすぎだ。

「いや、別に取って食おうってワケじゃあねぇさ。作戦開始まで暇だしさぁ、ちょっと料理でもしようかなぁと思ってね。」

 要するに、道具と食材を提供してもらえないかという話だ。

「ほぅ、久し振りにお前さんの飯が食えるのか?悪くないのぅ。……すまんが、頼まれてくれるか?」

 元帥のジィさん、それを聞きつけて寄ってきた。相変わらずの地獄耳だな。目の前の大佐君がビビって固まっちまうだろうに。

「ひゃ、ひゃいっ!ただ今準備を……!」

 ほらぁ、狼狽えてたじゃねぇか明らかに。しばらく待っていると材料や食材を抱えた艦娘達が戻ってきた。たまには屋外で料理ってのも、風情があって良いじゃねぇか。

「さて、冬の北海道沖だ。間違いなく寒いだろうから煮込みかスープだな。」

 そう言って作り始めようとしたら、

「わ、私達もお手伝いします!」

「あ~、こっちはいいよ。それよりさ、中の厨房とかでおにぎりとか準備してくれ。作戦指揮とかしながら食べやすいようにさ。」

「は、はいっ!」

 俺の気晴らしにやるのに、手伝われちゃ敵わんよ。さてと、まずは……お、じゃがいもに玉ねぎ。さすがは北海道、野菜が豊富だな。んじゃこれでいくか。

 まずはじゃがいもにフランクフルト。大きめゴロゴロになるようにカットして、鍋にバターとオリーブオイルを熱して炒める。じゃがいもは軽く蒸かしてからのほうが火の通りが早くて時間短縮になるんだけどな、今日は生から炒めていく。フランクフルトにもいい感じの焼き目が付いたら食材が被る位の水。そこに砂抜きしたアサリと顆粒のブイヨンを足して更に煮込む。具材に火が通ったら牛乳、塩、胡椒で味を整えれば「お手軽クラムチャウダー風スープ」の完成だ。

 お次は玉ねぎと白菜を使ったスープだな。白菜と玉ねぎは適当に刻んで、バターとサラダ油で炒め、サッと火が通ったらこっちも具材が被る位の水。少し煮立たせて白菜と玉ねぎが透き通って来たらここに鍋キューブの鶏だし・うま塩味を入れて更に煮込む。鍋キューブが無ければ塩と鶏ガラスープの素、それに昆布茶入れれば代用できるぞ。野菜がクタクタになったらミキサーにかけてペースト状にする。それをもう一度鍋にあけて、温めながら生クリーム適量。塩で味を整えれば「白菜のポタージュスープ」の出来上がりだ。




 お次は煮込みだな。大根と豚バラブロックを使って1品。大根は皮を剥いてざく切り。豚バラブロックも食べやすい大きさにカット。鍋にサラダ油を軽くひいて、大根から炒める。豚バラから炒めると大根が油を吸いすぎるからな。大根が少し透き通って来たら豚バラを入れ、カリカリの焼き目が付くように焼いていく。余分な油をキッチンペーパーで吸い取ったら、和風だしと臭み消しの意味合いも込めて多めの酒、具材が寂しかったからウズラの卵を入れたら味付け。使うのは醤油と粒マスタード。割合としては醤油が2でマスタードが1。味付けをしたら落し蓋をして弱火でコトコト。大根に味が染みたら「大根と豚バラの醤油マスタード煮」の完成だ。

 お次も豚肉で一品。シチュー用の豚肉に塩コショウで下味を付けて小麦粉をまぶす。合わせる野菜は玉ねぎ、牛蒡、エリンギ。食べやすいサイズにスライスしたらバターとサラダ油で炒める。豚肉は別に炒めて後で加えて、炒まったら水をヒタヒタになる位まで。アクを取りつつ煮込んだら、火を止めてS&Bの粉末フレークタイプのデミグラスソースを加えて再点火してひと煮立ち。デミグラスソースが無ければケチャップと中濃ソースで代用できるが、コクが今一つ。デミグラスソースが溶けたら「ポークシチュー」の完成だ。




「よっしゃ、出来たぞ~!」

 ちょうどいいタイミングでおにぎりもやって来た。腹が減っては戦は出来ぬ、腹拵えと行こうじゃないか。

「うまっ、うまっ!」

「流石に腕は落ちておらんのぅ。」

「ん~♪やっぱりdarlingの料理は最高ネー!」

 先程までの焦りが募っていた表情だらけだった場に、笑顔が零れ出す。根の詰めすぎは禁物だ。これで少しは解れただろ。 

 

出撃・礼号作戦!~最終作戦、始動~

 俺が呼び出したメンバーが到着したのは、俺の炊き出しの支度が終わり、皆でワイワイと食べていた時だった。

「あ~っ!提督さん達だけ何か美味しそうな物食べてる!ズルいっぽい~!」

 輸送用の飛行艇を降りてきて真っ先に声を上げたのは夕立。コイツはどこにいてもマイペースだよ、ホント。大物なんだかおバカなんだか、見分けがつかん。

「まぁまぁ、提督だって色々考えてこうしてるんだから。」

 それをどうどう、と宥めているのは陸奥。やはりまとめ役は武人的な長門よりも皆の姉的雰囲気をもった陸奥の方が向いていそうだ。

「他の奴等もご苦労だったな。取り敢えず腹拵えしながら状況を説明する。好きな物をとってきな。」

 そう言うと、我先にと言わんばかりに炊き出しコーナーに向かっていく。個人ごとに好きな物を持ってきて、泊地の敷地内の芝生の上に敷いたブルーシートの上に座っていく。大急ぎで準備させたからな、食事する暇も無かっただろう。全員美味そうに食べていく。

「皆食べながら聞いてくれ。観艦式に参加していたイタリアの艦娘……Zaraが深海棲艦の奇襲によって拿捕された。」

 食べていた艦娘達がざわつく。無理もない、観艦式の参加という名目で来ていた為に装備はそれほどでは無かったが、ウチの鎮守府の最大戦力がほぼ揃い踏みの状況下で拐われたのだ。

「油断があったのは否めん。だからこそ、この落とし前は俺が……いや、俺達でキッチリと取らなきゃならねぇ。」

 相手の待ち構える艦隊は恐らく姫級を多数配置した強力な防衛線だろう。それでも、俺達はやらなきゃならん。

「では、これより編成を発表する!」




「第一・第二艦隊。今回は連合艦隊……水上打撃部隊でいく。先ずは旗艦……長門!」

「良いだろう……この長門の力、敵に見せつけてくれる。」

 長門は目の前でZaraを奪われてるからな、静かに……だが激しく燃えているようだ。

「続いて陸奥、扶桑、山城!」

「あらあら、金剛さん達じゃないなんて珍しいわね。」

「まぁ、私達もたまには運動しないと……ねぇ、山城?」

「そうですね姉様!」

 中々出撃の機会が巡ってきていなかった陸奥・扶桑・山城。今回金剛四姉妹には援護部隊を任せるつもりだからな、その為の采配だ。

「続いて正規空母…加賀。制空権争いは任せたぞ。」

「……解りました、お任せ下さい。」

 正規空母の中では最高の錬度を誇る加賀。こういった難関の攻略となると、やはり彼女頼みになってしまう。それでも、彼女はいつも期待値以上の仕事をしてくれる。

「最後に重巡……鳥海。重巡一の火力、期待してるぞ。」

「は……はいっ!お任せ下さい!」

 改二となって重巡洋艦一の火力を出せるようになった鳥海。こういった緊急性の高い作戦はほぼ初参加のはずだが、その能力をいかんなく発揮してくれるだろう。

「続いて第二艦隊。旗艦は神通だ、任せたぞ。」

「はい……ご期待に応えてみせます。」

 鬼教官は実戦も強い。その指揮能力と戦闘力は俺も太鼓判を押せる。

「続いて駆逐艦……夕立、時雨。」

「っぽーい!」

「うん、任せてよ提督。」


 駆逐艦最狂と、豪運の持ち主。今の状況下で出せるベストメンバーを選出したつもりだ。

「続いて重巡……プリンツ、お前だ。」

「ふぇっ?わ、私ですかぁ?」

 ドイツ海軍の火力と持ち前の運は大きな強味だ。案外、隠し玉と思ってたりする。

「最後に雷巡……北上、大井。」

「ほいほーい、任された~。」

「殺ってやるわ……うふふふふふ♪」

 大規模作戦の切り札中の切り札、雷撃大好きハイパーズコンビ。ウチには北上と大井は3人ずつ在籍しているが、その中でも一番の古株を連れてきた。とくに大井、こいつはマジでヤバい。キリングマシンというか、バーサーカーというか……とにかく、ヤバい。

「以上が出撃のメインとなるメンバーだ。金剛、比叡、榛名、霧島には援護部隊を任せる。必要な面子を選出、報告しろ。」

 そこで全員が立ち上がり、敬礼した。隙は無い。後はやるだけだ。




 昼食を兼ねたミーティングを終えて臨時の作戦本部へと戻ると、室内の面子は難しい顔で唸っていた。

「どうかしたかジィさん、まさか輸送部隊が失敗したとか言わねぇよな?」

「いや、それは上手くいった。既に出撃は可能な状況じゃ。」

「ならすぐにでも打って出りゃ良いじゃねぇか。迷ってる暇はねぇぞ!」

 普段の大規模作戦ならば、ある程度腰を据えて取り組む事も出来るが今回は状況がよろしくねぇ。一刻も早い人質の救出が望ましいからだ。

「じゃが敵が多すぎる。これを見ろ。」

 手渡された資料は幌筵から出された偵察機からの報告書。敵艦隊の戦力分布、その内容がびっしりと書き込まれていた。

「空母棲姫に戦艦棲姫が多数、飛行場姫からの爆撃機の大群に、姫級を護衛するのは改flagship級、その他戦艦、空母、重巡に駆逐艦、潜水艦。いずれもelite以上の模様……確かにこりゃウチの艦隊だけじゃあ難儀しそうだなぁ。」

「更にじゃ。最深部に形成されつつある『巣』の中核は、見た事の無い新型の姫級。……恐らくは重巡洋艦クラスとの事じゃ。」

「……マジ?」

 ジィさん、それを早く言えよと言いたくなる位の大艦隊。しかもZaraは既に敵の手に堕ちた可能性が高い。

「あぁ、しかもその姫級……仮に『重巡棲姫』としておこう。それを護衛するのは戦艦棲姫2、空母棲姫1を主幹とする艦隊だ。」

 更に三笠教官からの追い討ち。これだけの戦力を相手取るのに一番最悪のケースは挟撃される事だ。

 敵の最深部にいる艦隊でも、ウチの艦隊ならば互角以上に渡り合えるだろう。それは確信している。だが、その背後を突かれるとこっちは一気に総崩れだ。とは言っても、今からウチの全戦力を移送するのは時間が掛かりすぎる。手詰まりに近い感覚を覚えつつ、必死に糸口を探る。……と、海図を見ながらある事に気付く。

「なぁ、単冠(ひとかっぷ)湾の泊地からは出せねぇのか?連合艦隊。」

 ぼそりと呟いた俺の一言に反応して、どやどやと海図に集まり始める提督とその秘書艦達。

「北は戦艦棲姫が多い編成だ。こっちはウチが叩く。南からのルートは空母戦力が多いらしいから……空母機動部隊で二正面に構えれば……」

「挟撃の線は薄くなり、戦力の分散も見込める……か。単冠湾泊地に無線を繋げ!急ぎ機動部隊を編成させよ!」

 流石は元帥、歳を食っても頭の回転と反応の早い事。先程までの意気消沈した作戦本部はどこへやら、バタバタと騒がしくなってきた。

「さぁて、売られた喧嘩は買う主義なんだ。キッチリと痛い目見さして、ナメた真似出来ねぇ様にしてやるぜ。」

 誰に言うでもなく、俺はそう言って気合いを入れた。さぁ、決戦だ! 

 

出撃・礼号作戦!~決戦、重巡棲姫~


 単冠湾泊地との協議の結果、翌朝夜明けと同時に出撃する事が決まった。それまでは待機となってしまったので、ジリジリと焦れてくるような気持ちになるがこればかりはどうしようもない。皆ピリピリと緊張感を保ったままそれぞれに休息を摂り、身体を休めた。そして、その夜。

「んん~……テートクぅ…」

「今日はじゃれついて来ても駄目だ。押し倒したりしねぇからな。」

「な、なんでデスか~!?」

 同じベッドに入った金剛が絡み付いてきて、色々とヤバいです、主に理性と愚息が。

「明日は出撃だろ?お前とシてると燃え上がり過ぎちゃって朝までコースじゃねぇか毎回。」

 明日は互いに失敗の許されない立場だ。体力の消耗と寝不足は避けた方がいい。

「Uh……わかりまシタ。でもテートク、テートクは抱き枕にさせてもらいマース!」

 そう言うと金剛は先程よりも引っ付いてきて、色々と当たって来るわけですよ、柔らかいモノが。脚なんか身体に絡み付けて来ちゃったりして。もうね、こっちからしたら地獄ですよ。ある意味天国だけど。

『やれやれ、こりゃ眠れないかもなぁ……。』

 そんな事を考えながら、悶々とした夜を過ごした。




 翌朝、結局一睡も出来なかった頭を覚醒させようとコーヒーを飲みに行くと、既に先客が居て作戦概要の資料を眺めながらコーヒーを啜っていた。

「お早う、酷い面だな。どうした?まさか一晩中嫁とまぐわっていた訳じゃあるまいな。」

「まさか。サカリの付いた猿じゃあるまいし、その位の分別はついてますよ教官。」

 そう俺が言うとくつくつと喉を鳴らして笑う三笠教官。

「いや、すまんな。どうにも教え子だった頃のクセが抜けなくてな。若造扱いしてしまうんだ、許せ。」

「まぁ、教官と教え子の関係は変わりませんからね。心配されても無理はありませんよ。」

 熱く湯気の立つブラックコーヒーを、胃袋に流し込む。豆の苦味と酸味、そして熱気が寝惚けていた頭を叩き起こしてくれる。

「さて、それじゃあ教え子の成長した手際、見せてもらおうか。」

「ははは、くれぐれもお手柔らかに。」

 そう言って同時に立ち上がった。

 制服を着替え直し、出撃前の港湾部に着くと、既に準備を整えた24人の艦娘が待機していた。

「俺から言う事は何もねぇ。出来るだけの準備、させられるだけの訓練はしてきた。後はこなすだけだ、行ってこい。」

 手短に出撃前の訓示を済ませ、指令室にむかう。ウチの艦隊が急造の補給基地に辿り着き次第、作戦開始だ。静寂に包まれた指令室の中、到着の報を待つ。そして、見送ってから1時間後、通信が入る。

『こちら長門だ、補給基地に到着。燃料を少し補給したが準備は万端だ。』

「了解、では作戦開始だ。叩き潰してこい。」

 俺が静かに作戦開始を告げると、一気に指令室内も慌ただしくなった。




 最初の打ち合わせでは艦隊はまず東南東に向かい、海流が二手に別れているポイントに到着したら連絡が来る手筈だ。

『こちら長門、ポイントJに到着した。』

「了解、打ち合わせ通り南に進んでくれ。」

 今回のルートの選択は、艦隊の構成を考えての事だった。海流から見てそのまま東方向に向かうルートと、南に向かった後で東に向かうルートだ。東に向かうと潜水ソ級flagshipを旗艦とした潜水艦部隊が待ち構えている。ウチの構成だと潜水艦を相手にするのは厳しい。それを踏まえての南ルートだった。しかし、此方にも問題がない訳ではない。

『敵艦隊の反応を探知!旗艦は……報告通り戦艦棲姫だ!』

 南進した艦隊から通信が飛び込む。報告には聞いていたが、やはり姫級が道中にいるというのは肝が冷える。

『マタ……キタノネ?ガラクタドモ!』

 通信機から響く戦艦棲姫の怨み言。これほど出会す度に厄介さと強さを感じさせられる敵艦がいただろうか?

 戦艦棲姫が初確認されたのはアイアンボトムサウンドと呼ばれた作戦の最深部だ。大和型を超える重装甲と大口径砲。そこから繰り出される砲撃は、直撃すれば戦艦でさえ一撃で大破させられてしまう。

「棲姫はまともに相手しなくていい、随伴艦を沈めて脇腹を食い破れ!」

『了解!』

 交戦状態に入った事で一旦通信は途切れる。誰かが損傷するか戦闘状態が終われば通信が入る。こちらからは無事を祈ってやる事しか出来ない。もっと細かく指示を出せば良いとも思うのだが、現場での直感に勝る物は無いと思っている。現場は現場に任せるのが一番いい。その為の訓練はしてある。




 再び通信が入ったのは30分後だった。

『こちら長門、戦闘終了だ。損害は特に無し……このまま進撃する。』

「わかった、ご苦労。」

 フーッと息を吐き出す。どうにか無傷で切り抜けてくれた。この先も油断は出来ないが、取り敢えず1つの山は超えた。そんなに心配ならばもっと細かく指示を出せば良いとも思うのだが、現場での直感に勝る物は無いと思っている。現場は現場に任せるのが一番いい。その為の訓練はしてある。

 その後は飛行場姫が飛ばしてきた爆撃機の空襲をやりすごし、戦艦タ級flagshipを旗艦とした艦隊を殲滅して、いよいよ最深部に待ち受ける艦隊と遭遇しようかと言うタイミングだった。




 通信を繋いでいた長門の通信機から、砲弾が着弾したような音が響いた。

「どうした!?」

『ほ、砲撃だ!戦艦の砲弾よりも小さいようだが、射程が戦艦のそれだ!』

 まさかとは思っていたが、やはりか。

「それは敵の手に堕ちたZaraからの砲撃の可能性が高い!初速が早いから気を付けろ!」

『了解!同航戦に持ち込む!加賀、索敵機を!』

『もう飛ばしてあるわ。』

 流石だ、要求されるであろう事を先読みし、先回りして行う。この辺りの配慮はまだ瑞鶴や翔鶴には出来ない熟練の味だ。

『敵は報告通りの編成ね。旗艦が見慣れない奴だけれど…』

「映像はこっちに回せるか?加賀。」

『難しいわね、相手が既に砲撃戦の準備をしています。』

『バカ…メ……ヤクタタズドモ…メ……マタ…シズンデシマエ……。』

 相手の旗艦、仮に『重巡棲姫』と名付けられたソイツは、喋るのに馴れていないように覚束無い口振りだ。まさか、改造されてまだ間もないのか?……であれば、まだ助けられる可能性はある。

「全艦、戦闘準備!敵の旗艦を倒しきれればまだ救い出せる可能性がある!」

『了解、まずは制空権を奪います。』

 加賀、扶桑、山城から艦載機が発艦していく音が通信機越しに聞こえる。しばらく機銃の音や対空砲火の音が響いていたが、

『制空権確保!だが、時雨が小破、夕立が中破した!』

 これは痛い。当初の予定では昼の砲撃戦の内に敵の随伴艦を潰し、夜戦で重巡棲姫を叩くプランだった。その為に対空火力の減少を考慮しても、夜戦の得意な者を第二艦隊に組み込んだのだ。

『ハーイ、私の仲間を傷付けたオトシマエはキッチリ付けてやるネー!』

『ほいほーい、仇は取るよ~!』

『ナメた真似すんじゃないわよ、雑魚の分際でぇ!』

 金剛達の支援砲撃と大井、北上コンビの魚雷攻撃が疾る。通信機越しにも轟く轟音、炸裂音。

『随伴の駆逐艦2隻は撃沈、空母棲姫は飛行甲板が炎上中だ!』

 これはデカい。それでは空母棲姫は艦載機が飛ばせないから置物同然だ。残るは戦艦棲姫2隻と重巡棲姫のみ。

「砲撃開始!叩き潰せぇ!」

 長門が切り忘れた通信機から、続けざまに響く砲撃の音。鼓膜が破れそうになってこちらから一旦通信を切った。時刻は夕暮れ……間も無く夜の帳が降りてくる。

『敵の随伴は大破……重巡棲姫は中破しているが?』

「勿論夜戦に持ち込む!神通、任せたぞ!」

『了解、探照灯照射!第二艦隊、突撃します。』

 第二艦隊の戦法は至ってシンプルだ。旗艦の神通が探照灯を照射しながら突撃し、後続の艦娘が砲撃と魚雷を叩き込む。被弾のリスクも高いが、こちらの攻撃の成功率も高い。ハイリスクハイリターンな戦法だが、神通なりの勝算があっての事だ、口出しはしない。

『当たって……!』

 神通の砲撃。何かに当たって爆ぜたような音がする。

『砲塔を1つ潰した!けどまだ動いているぞ!』

 長門が実況してくれている。現場で見られていないのが少し歯痒い。

『オノレエェ!』

 重巡棲姫からのお返しと言わんばかりの砲撃。神通に被弾したらしく悲鳴が響く。

『神通大破!だが探照灯は取り落としていない。』

 流石は神通、普段から鬼教官と呼ばれて教え子を鍛えていない。己の気迫も大した物だ。

『残念だったね…!』

 時雨の魚雷攻撃。炸裂した場所が良かったのか、断末魔のような悲鳴が聞こえる。

『重巡棲姫の動きが止まった!けれどまだ止めは……あ、おい夕立!』

 あの狂犬め。相手の懐に飛び込んで零距離射撃で止めを刺すつもりか。見えなくても何となく解ってしまうから困る。

『苦しまないように、一発で仕留めてあげる。』

 ぽいも何もなく、そう言い放つと同時に砲撃音がして何かが水面に崩れ落ちる音がした。

『重巡棲姫、沈黙……。』

「了解、残った敵も出来るだけ沈めて帰投しろ。」

 さて、夕立の蛮勇ぶりにも困った物だ。強いのは間違いないんだが、いかんせんやり方が荒っぽ過ぎる。注意すべきか長所を伸ばすべきか。悩み所ではあるが……。

「随分と手を焼いているようだが、中々いい運用をしている様じゃないか。」

 珍しく、三笠教官に褒められた。今くらいハチャメチャな方が楽しいかも知れん。小利口に纏まられ過ぎても扱いに困るしな。俺はそう思いながら、独りで苦笑した。 

 

出撃・礼号作戦!~まるで遠足終わりのバスのように~

 今何時だろうか。船室に備え付けられた時計を見ると午前2時。この時間は普段だと営業時間中だ、起きていて不思議ではないのだが、横須賀からの帰りの船旅の途中だ、寝ていた方が楽なのは間違いない。

『夜風にでも当たって来るか……。』

 そう考えながら、俺は歩き出した。一度倒した相手を倒すのは、さほど難しい事ではなかった。何度かは道中の姫級に大破させられる者が出たりしたが、出撃回数が10を超える前には『巣』を消滅させて深海へと堕ちたZaraを回収・救助する事が出来た。

 かかった燃料や弾薬、修理用の鋼材やボーキサイトといった資材の諸々は大本営……つまりはジィさんの払いという所で決着が着いた。結果としては目的は果たしたのだから万々歳だろう。そこで帰りの手段の話になり、今はこうして護衛艦の上だ。それも、横須賀の艦娘の護衛つき。最初はウチの奴等に交替でさせようかという話だったのだか、頑として譲られなかった。

 最初は来た時と同じく飛行艇で帰ろうと思っていたが、人数が30人近い大所帯になってしまっていたので却下。なら民間機で、と思ったがマスコミに捕まる恐れがあるからとこれもNG。艦娘が近海で大規模戦闘した、なんてのは国民の不安を煽るだけだ。公式的にも「無かった事」にした方が都合がいい。てなワケで帰りはのんびりと船旅と相成った。




 甲板に上がると流石に海上だ、南に向かっているとはいえ風が冷たく感じる。胸ポケットから煙草を取りだし、火を点けてふかす。俺の吸っている銘柄は海外産の煙草で、バニラやチョコ、チェリーといったフレーバーが付いている。タールの量も多いのだが、こればかりは止められん。

「ガキでも出来れば止めるかも知れんがな。」

 独り言のようにそう呟いて、くつくつと喉を鳴らして笑う。大分疲れが溜まっているらしい、こんな弱気な思考に陥るとは。

 転落防止の柵にもたれながら、今回の騒動に思いを馳せる。クルツの奴は遅れてやって来たが、アイオワの主砲という手土産は大きかった。実際、長門に積み込んで運用したが大和型の46cm砲に威力と対空性能は劣るものの、命中率の面では完全に上だ。そのお陰か、昼の砲撃戦の中で何度か長門が姫級を仕留めていた。データの引き渡しを条件に、引き続きウチで試験運用することになった。

 試験運用と言えば、Zaraの問題もあったか。彼女はそのまま帝国海軍に預けられる予定だったが、今回のゴタゴタでそれが引き延ばしになるかもしれない、との事だ。珍しいケースである為にメディカルチェックと調査が行われた後、量産体勢が整った後に、(言い方は悪いが)コピーマスターである彼女は本人の希望で着任する鎮守府を決める見通しらしい。……何と無くだが、ウチに回ってきそうで怖い。深海棲艦と化していた時の艤装も回収できたらしてほしいとの要望だったが、流石にその余裕は無かった。




 元帥のジィさんも明日から大忙しだろう。何せあのタイミングでの深海棲艦の奇襲、そしてそれを援護した某国の戦闘機。協力関係にない国家と気脈を通じている輩が上層部にいる、という事だ。膿は絞り出してしまわなければならない。

「その内視察に窺わせて貰う」

 と言っていたが、大方飯と酒目当てだろう、どうぞお帰りくださいと言ってやりたい。まぁ、大忙しなのは俺もだが。

 船では後2~3日の道程だという。鎮守府に着いたらいつもの如くの大宴会、そしてあっという間にホワイトデーだ。チョコをもらっていない奴にも、不公平にならないように全員に渡しているから大変だ、今から材料を仕入れて作っていかないととても間に合わない。それに、今回はちょっとした趣向を用意してあるからな、その準備も進めないといかん。仕事の事よりも菓子作りに気を割いているのだから笑えてくる。……まぁ、艦娘のメンタルケアも仕事の一環と捉えればこれも仕事か。作るのは苦じゃねぇし、それなりに楽しくやるさ。

 空を見上げれば満天の星空。普段は騒がしい位の奴等が乗っているのに、今日は静寂に包まれている。

旗艦の重責を果たした長門も、

久しぶりの出撃で疲れたであろう陸奥達も、

最終決戦で空母棲姫を撃沈した鳥海も、

礼号作戦から出ずっぱりの嫁艦達も、

時雨や夕立、後から合流したメンバーも、

観艦式に出席した隼鷹達も。

 皆、今宵ばかりはいい笑顔で夢の中だろう。苦しいながらも楽しかった戦闘の記憶を思い出しながら、まるで遠足の帰りのバスの中のように。

「……って、それじゃあ俺は引率の先公かよw」

 再び独り言のように呟いて、また苦笑してしまった。あんな一癖も二癖もある連中を纏める先公だとしたら、ストレスで毛根がマッハだったろうな。そう思いながら更に笑う。

 少し笑ったら気も紛れた。俺も笑顔で夢の中に行けそうだ。そう思って火を点けた3本目の煙草を吸い終えると、船室に戻った。道程はまだ、長い。 

 

提督のホワイトデーお返し大作戦!

 礼号作戦に纏わるゴタゴタが終わった後、俺は3日間の有給を取った。とは言っても休みではない。来るホワイトデーの為にお返し用のクッキーを支度する為の休暇だ。何しろ250を超える人数だ、纏めて作らないと時間が足らなくなる。更に今回の騒動の詫びのつもりなのか、ジィさんの所から新型の駆逐艦が2隻、来る事になったとの連絡が入った。秋月型が1隻、夕雲型が1隻。この娘達にも配らなくては。

 毎年趣向を変えて作っているのだが、今年はベタにクッキーの詰め合わせにしようと考えていた。必要な材料も買い揃え、俺が隠れ家代わりに借りたアパートに引きこもる。大して大きくない部屋なのだが、本格的なアイランドキッチンが付いているのを気に入って即決で借りた。緊急の用が無ければ連絡も来ない。ここなら集中して取り組めそうだ。

「さて、まずはプレーンなバタークッキーだな。」

《王道!バタークッキー》※分量は30枚分位。

・バター:100g

・砂糖:60g

・卵黄:1個

・薄力粉:150g

・バニラオイル:5滴くらい

 まずは定番、室温に戻したバターと砂糖を合わせる。最初はゴムへらを使いながら練るように混ぜ合わせ、手触りが滑らかになってきたら泡立て器に持ち換え、砂糖のザラザラとした感触が感じられなくなってバターが白っぽくなるまで混ぜ合わせていく。

 次は卵黄だ。練り上げたシュガーバターに卵黄を加えてムラが無くなるようによく混ぜ、混ざった所にバニラオイルをチョンチョンと。薄力粉を振るい入れて、ゴムへらでサックリと混ぜる。ある程度混ざったら手で粉っぽさが無くなるまで捏ねていく。

 捏ね上がったら棒状に成型し、ラップでくるんで冷蔵庫で生地を30分~1時間寝かせる。この間にオーブンの余熱と2種類目の仕込みを始める。同じ種類ばかり作らずに、飽きの来ないように作っていくのが、250人分以上のクッキーを作る時のコツかな?そんな機会無いとは思うが。

「さてと、お次は……ココア生地にスライスアーモンドだな。」

《サクサク!ココアアーモンドクッキー》※分量は3cm円形で20枚位

・薄力粉:100g

・ココアパウダー(無糖):20g

・バター:60g

・砂糖:40g

・卵黄:1個

・スライスアーモンド:適量

 手順はほぼさっきのバタークッキーと変わらない。バターと砂糖を練り合わせ、薄力粉とココアパウダーを振るい入れて混ぜる。バターが少な目なのは、アーモンドが入るからくどくならないようにする為と、ココアパウダーの香りを殺さないようにする為だ。

 ゴムへらでサックリと混ざったら、ここでスライスアーモンドを投入。後はバタークッキーの時と同じ要領で捏ねていく。アーモンドが粉々になりすぎないように注意しよう。これも捏ね上がったら棒状に成型、ラップでくるんで冷蔵庫へ。……っと、バタークッキー用に余熱していたオーブンが温まったらしい。バタークッキーの生地を取り出して、カットして焼いていこう。

 ラップを外したら直径3cm位にした生地を1cm幅位に切っていく。後はクッキングシートを敷いた天板に並べて、170℃に余熱したオーブンで30分焼いたら完成。勿論、焦げないようにチェックしながら焼き色は調整してくれ。




 割とベーシックなクッキー2種類が出来た所で、今度は小麦粉もバターも卵も使わない、風変わりなクッキーを1つ。
……え?小麦粉使わずにどうやって生地を作るのか、って?そいつは今からのお楽しみ。

《朝ごはんにも!ココナッツオートミールクッキー》※分量は30枚分位

・オートミールの粉末:200g

・オートミール:80g

・ココナッツロング:50g

・ココナッツオイルまたはオリーブオイル:30g

・はちみつ:30g

・牛乳:適量

・シナモンパウダー:お好みで

・ナッツ類やドライフルーツ:お好みで

 小麦粉を使わない秘密はコレ、オートミールだ。オートミールってのは燕麦(えんばく)って麦を脱穀して調理しやすくしたもの。または、それを粥状に調理したり、加工したものを指す。アメリカやカナダ、イギリスなんかだと牛乳とかかけて食べる朝食の定番だったりするらしい。保存も利くから、昔のアメリカ海軍ではレーションとしても採用してたらしいぞ。……おっと、話が逸れたな。今回はこいつを粉に挽いた物と粒のままの物、2種類を使ってザクザクとした歯触りの食感の良いクッキーを作る。

 調理は簡単、材料を全てボウルに入れ、混ぜ合わせたら牛乳を少しずつ加えて纏めていく。牛乳がつなぎだから弛くなりすぎないように調整しながら混ぜるように。

 生地が纏まったら天板にクッキングシートを広げ、30枚が同じ大きさになるように等分しながら丸く成型していく。少し位不格好な方が歯応えが楽しめるぞ。オートミールは全粒穀物だから栄養価も高いし、今回のレシピは甘さ控え目だから朝飯代わりにもオススメだ。ナッツやドライフルーツを加えて味の幅を広げると飽きずに食べられる。

 焼く時は180℃に余熱したオーブンで15分だ。丁度バタークッキーが焼き上がったらしい。取り出すとバターの濃厚な香りと砂糖とバニラオイルの甘い香りが鼻をくすぐる。どれ、一枚味見……と。

「うん、サクサク。バターと砂糖で超濃厚。これなら紅茶でもコーヒーでも牛乳でも、何でも合うな。」

 よしよし、少しオーブンを休ませて、今度は180℃に余熱だ。ココアクッキーの生地もそろそろ頃合いだから、カットして焼く準備に入ろう。ココアクッキーもオートミールクッキーと同じく、180℃で15分だ。

 よし、この調子でどんどん作っていこう。 

 

提督のホワイトデーお返し大作戦!その2


 さてさて、お次はアメリカの映画なんかでお巡りさんとかがよくかじってるイメージのある、フワフワサクサク、具沢山の《チョコチャンクッキー》を作ろうか。

《気分はアメリカン!チョコチャンクッキー》※分量25枚分位

・薄力粉150g

・ベーキングパウダー3~4g

・砂糖:60g

・バター:75g

・卵(全卵):1個

・バニラエッセンス:少々

・チョコレート:お好みで

・ミックスナッツ:お好みで

・グラノーラ:お好みで

 まずはチョコを刻む。市販の板チョコとかブロックチョコで大丈夫だ。中の具になるからあまり大きな塊にならないように。

 クッキー作りとしてはもうお決まりだが、バターと砂糖を練り合わせ、予め溶いておいた卵とバニラエッセンスを加える。この時の注意点としては卵も常温に戻しておくこと。そうしないとバターと分離してしまって上手く混ざらない。材料の温度を合わせておく、というのもお菓子作りの大事なポイントだ。

 次に薄力粉とベーキングパウダーをよく混ぜ合わせた粉をふるいにかけて入れる。この時は完全に混ぜきらずに切るようにサクサクと混ぜる程度。ここから具材を加えていくぞ。

 まずはチョコレート。ばらつきが出ないようにしっかりと合わせる。次にミックスナッツ。塩味の利いている物の方がいいからおつまみ用が使えるぞ。最後にグラノーラ、これも市販されている奴でいい。ドライフルーツが入っている物でもOKだ。

 気付いた人もいるかもしれないが、実はこれ、カントリーマ〇ムに似た味になる。アレよりもサクサクとした食感になるが、しっとりしていたらそっくりだ。カントリー〇アムのしっとり感が苦手だという人には是非試してもらいたい。

 これもオートミールクッキー同様、天板に直接載せて成型するタイプのクッキーだ。スプーンでクッキングシートを敷いた天板に落としてやり、少し潰して丸くする。間隔は広めに取るようにな。ベーキングパウダー入ってるから、予想外に膨らんでくっついた、なんて失敗例もあるぞ⬅実体験

 後は170℃に余熱したオーブンで25分、じっくりと焼き上げたら出来上がりだ。




 ここまでは味に拘ったクッキーを4つ作った。今度は見た目にも美しい《ステンドグラスクッキー》を2種類作ろうか。

《女子ウケ間違いなし!ステンドグラスクッキー》※分量は天板2枚分位

・バター(ケーキ用マーガリンでもOK):60g

・砂糖:90g

・バニラエッセンス:少々

・卵:1個

・薄力粉:220g

・片栗粉:50g

・飴(のど飴はNG):適量

 まずは飴だ。袋などに入れて金槌とかで叩いて砕いておこう。今回は発色と味のバランスを考えてイチゴ味とマスカット味をチョイス。

 次はクッキー生地。シュガーバターを作り、卵、バニラエッセンスを加えて混ぜ、混ざった所に粉を振り入れる。なんと言ってもポイントは片栗粉。このクッキーは他のクッキーに比べて細かな細工を施すのだが、その為に粘り強く細工のしやすい生地にするための片栗粉だ。

生地が滑らかになって纏まったら、麺棒などを使って平らに薄く延ばしていく。次は型抜き。星形やハート型の抜き型を使って抜いていき、もう一回り小さな型で中央を抜く。ちょうど、クッキーが枠の役割を果たすようにするワケだ。小さい型が無ければキッチンばさみ等を使って切り抜いても良い。

 焼きに入る時の注意点は、先に生地をある程度焼く事。170℃に余熱したオーブンで10~15分焼き、一旦取り出したら抜いた真ん中に砕いた飴を入れる。そして再びオーブンに入れ、170℃で5~10分。あくまでも目安だから、飴が焦げないように目を離さずに焼こう。上手く焼き上がれば飴が溶けて一枚の色つき硝子のようになる。だからステンドグラスクッキー、という訳さ。




 さて、ウチの鎮守府だ。当然飲兵衛共に合わせたクッキーも入れなきゃイカン。なので今回は、チーズの利いた《チーズクッキー3種》と、《酒粕入りごまスティッククッキー》を作ろう。

《クッキーなのにつまみ!?チーズクッキー3種》※分量25枚分

・ピザ用チーズまたはとろけるスライスチーズ:40g

・バター:50g

・砂糖:50g

・薄力粉:140g

・ブラックペッパー:お好みで

・岩塩:お好みで

・パルメザンチーズ:お好みで

 まずはチーズとバターを耐熱ボウルに入れ、600wのレンジで50秒位チンする。様子を見ながら追加で10秒ずつ、チーズがトロトロになるまでレンジで加熱していく。

 チーズが溶けたら冷めない内に砂糖を入れて混ぜながら溶かし、小麦粉を振り入れて混ぜ、生地を纏める。生地が出来たら正方形の棒状に成型してラップでくるみ、15~20分冷蔵庫で冷やす。

 チーズが入っているので、普通のクッキー生地よりも早く固まるぞ。冷やしすぎると切りづらいから15分位冷やしたら取り出してカットしておこう。※カットしておけば冷凍保存も出来るので、纏めて作ってカットして冷凍すれば食べたくなったら焼くだけなのでオススメ!

 カットしたら天板に並べて、上にそれぞれパルメザンチーズ、岩塩、ブラックペッパーをまぶす。

 170℃で15分位焼き、薄いきつね色位の焼き色になったらOKだ。


 さて、お次は洋菓子なのに和風な酒粕入りクッキーだ。

《和風?洋風?酒粕入りクッキー》

・強力粉:130g

・黒ごま:20g

・砂糖(三温糖):15g

・塩:3g

・ベーキングパウダー:2g

・牛乳:60g

・酒粕:50g

・太白胡麻油(製菓用):20g

 牛乳、酒粕、胡麻油以外の材料をボウルに入れ、泡立て器で混ぜ合わせる。牛乳と酒粕を別のボウルに入れ、レンジで加熱してペースト状にする。※酒粕が溶け残っても大丈夫!

 粉のボウルに酒粕ペーストと胡麻油を入れて軽く混ぜ、一まとめにする。水分量が足りない場合は牛乳で調整しよう。

 長方形に延ばして成型したら、0.5mm幅の棒状にカット。160℃に余熱したオーブンで12~15分焼けば完成。酒粕入りの生地は他の生地にも増して焦げやすいから、オーブンの前を離れないようにな。



 これで10種類。これだけあれば充分だろう。後はひたすら生地を作り、成型し、焼く。この繰り返しだ。そして漸く……

「お、終わったあぁ~!疲れたぁ~!」

 流石の俺もしんどかった。後はラッピングするだけなのだが、ここにある仕込みをする。250を超える包みの中に10枚だけ、とある「チケット」を入れた。それは

『提督特製スイーツチケット』。これを引き当てた艦娘は俺に対して好きな時に好きなスイーツをリクエスト出来る権利を得る。期限は来年のバレンタインデーまで。誰が引くかは完全に解らなくしてある。

「さぁて、誰からどんなリクエストが飛び出すやら……ククク、今から楽しみだねぇ。」

 少し怖いような、楽しみなような。そんなワクワク感に包まれながら俺は包装作業を進めた。 

 

艦娘とスイーツと提督と・1

 
前書き
ここから10話程ハーメルン時代のホワイトデーリクエスト企画の話となります。普段のような飯テロ要素はあまりないですが、甘ったるい雰囲気をお楽しみ下さい。 

 

~陸奥:ポン菓子~


「なぁ、陸奥よぉ。マジでやるのコレ?」

「あら?提督が何でも良いっていうから、これをリクエストしたんじゃない。」


 ホワイトデーの当たりくじ入りのクッキーを配った翌日、さっそく当選者からのリクエスト・第一弾がやって来た。それは予想外にも戦艦陸奥。こう言ってはなんだが、運の低い彼女が当たりを引くとは思っていなかった。

 そして今、二人で中庭に出て巨大な装置の前に立っている。陸奥のリクエストしてきた菓子を作るには特殊な装置が必要だった為、妖精さんにお願いして作ってもらった。相変わらずの万能ぶりだぜ、妖精さん。そのお菓子とは『ポン菓子』である。

 穀物に高圧と熱を加えて、一気にその圧を解放する事によって爆発的に膨らませる、昔懐かしい駄菓子。陸奥のリクエストはそれだった。




「いいか、近付くなよ!?絶対近付くなよ!?」

 既にポン菓子機の中の米は良い感じに調理されている。後は圧を解放するだけなのだが、その役目は俺がやる事にした。理由?察してくれ。

「もう、大袈裟ねぇ。妖精さんが作った機械なんでしょ?なら問題ないと思うけど?」

「俺が心配してんのは陸奥の方だよ!主にフラグ的な意味で!」

 ポン菓子はその名の通り、圧を解放する時に破裂音のような音がするのだが、音がデカ過ぎて破裂音というより、一種の『爆発音』に近いような音がする。

「ひどいわね~、ちょっと童心に帰って懐かしい駄菓子をリクエストしただけなのに。」

そもそも艦娘に童心があるのかはさておき。

「いやいや、ポン菓子じゃなくても懐かしい駄菓子は幾らでもあるだろうに。なんでわざわざポン菓子よ?」

 俺がそう言うと、陸奥はうーんとしばらく唸った後、

「うーん、敢えて言うなら……シンパシー?」

「ありがとう、これ以上無い自虐ネタを見たよ。」



「さぁさぁ、私は大丈夫だから景気良くやっちゃって、提督!」

「解ったよ……南無三!」

 圧を溜めていた弁をハンマーで叩いて解放すると、バアアァァァァン!と爆発音がして中に入っていた米が弾けるように飛び出して来た。飛び散っても良いようにビニールシートは敷いてあったが、いやはや凄いもんだ。

「~っ!凄い凄いとは聞いてたけど、ホントにすごい音だったわね。」

「鎮守府の敷地内でポン菓子作るなんざ、ウチくらいしかやらねぇよ畜生!」

 俺も負けじと自虐を言ってみたが、悲しくなってきた。

「温かいポン菓子なんて初めて食べたけど、美味しいわねコレ。」

「そうだなぁ。味付けしてないけど米本来の甘味とこのポリポリって食感がいいよなぁ。……あ?ほうじ茶淹れてきたんだ。飲むか?」

 中庭に置いてあるベンチに腰掛け、拾い集めたポン菓子をポリポリやりながら、ほうじ茶を啜る。意外と和むし、楽しいからたまにやるのは良いかもしれんな。

「……あら?何だか中が騒がしいわね。」

 耳を澄ますとバタバタと数人が走っている音がする。

「だな。大方島風辺りが廊下を走り回ってんじゃねぇのか?」

「でも、足音こっちに近付いて来てるわよ?」

 その瞬間、バァン!と弾かれた様に中庭に通じる扉が開かれた。

「て、提督!大丈夫ですか!」

 息を切らしながらやって来たのは大和……今日の秘書艦だ。

「陸奥も居るようだし、まさか……!」

 青ざめて居るのは武蔵。いや待てお前ら、幾らなんでもそれは。

「陸奥!私はいつもあれほど気を付けろと言ってあっただろうに……!」

 実の姉である長門のこの一言が陸奥にとどめを刺してしまった。

「…ねぇ提督。」

「……なんだ?」

「私、ちょっと泣いても良いかな?」

 陸奥の目には既に大粒の涙が溜まっている。

「……思いっきり泣いても良いぞ。」

 その後、大和と武蔵は平謝りし、長門など土下座までした。しかし陸奥の怒りは修まらず、長門は1ヶ月間無視され続けて狼狽えていたのはまた別の話。 

 

艦娘とスイーツと提督と・2

 4月も終わりかけのとある日、2人目のチケット当選者がリクエストを持ってきた。メニューはハニートーストと『とある飲み物』をリクエストされた。

ー午後3時頃・執務室ー

「ねぇ~提督さん、ホントに出来たの~?」

 ソファにブーツを脱ぎ去ってゴロゴロしながら、リクエストを出してきた艦娘・瑞鶴が疑るような声を上げている。俺の料理の腕も侮られたモンだ。

「ちょっと待ってな、今盛り付けてるから……っと、出来たぞ~。」

「ホント!?やった、早く早く!」

「ハイよ~、瑞鶴リクエストの『パ〇ラの完熟チョコバナナハニトー(フルーツ・アイス・チョコソースマシマシ)』と……」

 ここで一旦息を吸い込み直す。

「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノだっ……!」

 はぁ、名前言うだけで息切れするとか何なんだ。

「お~凄~い!こんなアホみたいに長い名前一息で言っちゃうなんて!」

「アホみたいだと解ってるならこんな注文すんなやっ!」

 あはは……と苦笑いしながらも瑞鶴はグラスを受け取り、ストローで一口。

「う~ん、けどやっぱり注文内容長くして色々積みすぎると、味もとっ散らかっちゃって微妙かなー。」

「お前は作らせといてそれかいっ!」





「あははは、ウソウソ。バッチリ美味しいよ提督さん!でも一回くらい頼んで見たかったんだよねー、こういう注文。」

 まだ湯気の立っているハニートーストに、溶けかけのアイスを絡めてフルーツと一緒に口に放り込んだ瑞鶴がそんな事を言う。

「だったら店で頼めよ。パセ〇とス〇バとか、味の再現の為に調べるの大変だったんだぞ?」

「だってぇ、この辺にどっちも無かったから。この間初めて行った横須賀でどっちも初めて行ったんだもん。」

 そうか、この辺にはどっちも無かったっけか。……ん?今聞き捨てならない発言が聞こえたんだけど。

「オイちょっと待て、お前ら横須賀で何してた?」

 俺がそう尋ねると、瑞鶴はドリンクを啜りながら

「え~っとねぇ、ドレスとアクセサリー買って、スタ〇でコーヒー飲んで、みなとみらい観光して、〇セラで2時間位唄って……あ、海軍カレーも食べたよ!美味しかったなぁ。」

「観光旅行じゃねぇか!満喫し過ぎだろ!」

 ショッピングして、お茶して、観光してカラオケ、そしてとどめにグルメって……完全に観光旅行に来た学生気分じゃねぇか。初の内地とはいえ満喫し過ぎだろ。





「でもよぉ、本物の〇タバ行ったんなら、そこで頼めば良かったじゃねぇか。」

「だってさぁ、ネットでああいう注文出来るってのは知ってたけどね、実際お店でやって店員さんが反応してくれれば良いけど、もしも(゚д゚)ハァ?って顔されちゃったらどう?提督さん。」

「……確かに、想像しただけでいたたまれねぇな。」

「でしょー?それに、あんな長い注文出来る自信無かったし。いやホント凄いよ提督さん。」

「いや、全く嬉しくねぇわその誉め言葉。」

「そ・れ・にぃ~……提督さん、あーん♪」

 瑞鶴がハニトーの一切れをフォークに刺して、こちらに伸ばしてきた。

「あ、あーん……」

 しぶしぶ口を開けると、瑞鶴がハニトーを放り込んできた。

「あそこに提督さん居なかったから、こんな事出来なかったから……ね?」

 参った、降参。こいつぁ可愛過ぎる。その後は食パン1斤を使った巨大なハニートーストを食べさせあったりしてゆったりとした時間を過ごした。甘めに作った筈のハニートーストの味があんまりしなかったのは、幻覚では無かったはずだ。 

 

艦娘とスイーツと提督と・3

~時雨:提督特製シャーベット盛り合わせ~

 窓の外を眺めると、窓の外は5m先も見えない程のザーザー降りの雨。今日ばかりは航行すらも危険と判断して、出撃・遠征・演習も取り止め。完全なオフ日になってしまった。

「……雨、まだ降ってるね。」

「あぁ、この雨足だと丸一日は降り続くだろうなぁ。」

 そんなのんびりとした会話をしながら、部屋の中にはザクザク、シャクシャクといった音が響いていた。

「けど、雨好きの時雨としてはこういう日の方が良いんじゃねぇのか?」

「……提督、それ僕が雨女だって言いたいのかい?失礼しちゃうなぁ。」

 ジト目で頬を膨らませながら抗議の視線を送ってくる時雨。しかし俺特製のシャーベットを一口放り込むと、膨れていた頬が面白いように萎んでいく。姉妹の夕立も顔に出やすくて解りやすいが、時雨も大概だと思うのは俺だけか。

「いや、そうは言わねぇが。……まぁ、向こうもこの雨じゃあ仕掛けて来る事ぁねぇだろ。たまの休日と思ってゆっくりしてくれや。」

「……で、僕はそのたまの休日に提督特製のシャーベットを食べながら満喫してる、と。こんなご褒美があるなら、僕も雨女で良いかな?」

 悪戯っぽくクスクス笑いながらシャーベットにパクつく時雨。

「おいおい、まだ言うのか?それにこの悪天候は偶々だろうに。」

「冗談だよ、提督。天気は女の子のと一緒で気紛れだからね。」




「それに甘い物が食べたいならプロがいるだろ、プロが。俺に頼むよりも間宮んトコとかに行くだろうよ。」

「まぁ、確かにそうかもしれないけどさ……。」

『休日に提督を独り占め出来る、っていうのが大きいんだよね……。』

 時雨が何か小さくボソボソと何か言ったが聞き取れなかった。

「あん?何か言ったか?」

「なっ、何でもないよ提督!あー、シャーベット美味しいよ。」

 焦った様子でシャーベットを食べ始める時雨。顔が赤くなっているが、そんなに恥ずかしい事を言ったのだろうか?

「ところで提督、提案なんだけど。」

「ん、なんだ?」

「このシャーベットなんだけどさ、これから暑くなるでしょ?暑くなってからの艦隊の帰投後に皆に配ったらどうかな?」

 シャーベットをか?確かにそれほど手間のかかる代物じゃあないが。

「それに、間宮さんのアイスじゃないけど、皆の疲れも取れるし、喜ぶと思うんだ。」

「う~ん……このシャーベットをなぁ。出来ない事は無いが…アイスなら間宮だけじゃなく大和も作れるだろ?何もわざわざ俺が作らんでも……。」

 それに、他の心配事もある。…寧ろ、そっちが不安材料なんだよなぁ。

「確かに大和さんのアイスも美味しいんだけどさ、このシャーベットのさっぱりした味が好きな娘もいると思うんだ。」

「まぁ正直に言っちゃうと僕の我が儘なんだけど……どうかな?」

 ここまで目をウルウルさせて嘆願されると弱い。

「解った、毎日ってワケには行かないが用意するようにしてみるか。」

「本当かい!?ありがとう提督!」

 よほど嬉しかったのかハグされてしまった。こういう所を見ると、やっぱり時雨も夕立と姉妹なんだなぁと思うわ、うん。

「暑い日に冷たい物で士気を高める、ってのも悪くねぇと思っただけだ。任務の合間に作るからな、あんまり期待はするなよ?」

「それでもとっても嬉しいよ。ありがとう提督!」

 もしも犬の尻尾付いてたら物凄い勢いでブンブン振り回されてるんだろうな、っていう位のいい笑顔だ。

『さて……問題は飲兵衛連中と食い意地張った連中だな。食い尽くされちゃ敵わんぞ。』

 シャーベットはカクテルをベースにしても作れるからな、シャーベットを作る事を駆逐艦のみのご褒美にしてしまうかどうか、それが俺の心配事だった。



 この数ヵ月後、『真夏のシャーベット争奪戦争』が起きたのはまた別の話。 

 

艦娘とスイーツと提督と・4

~皐月:アップルパイ~

「ホイお待たせ、焼きたてアツアツだから気を付けろよ~?」

「わぁ、ありがとう司令官!いっただっきま~す♪」

 4人目のチケット当選者、皐月のリクエストはアップルパイ。折角だからと焼きたてアツアツのを出してやった。まだ湯気の立っているパイの真ん中にフォークを突き刺し、無邪気に大口を開けてかぶりついた。サクリ、とパリパリサクサクのパイ生地の砕ける音と共に、

「~~~~~~っ!」

 皐月が声にならない悲鳴を上げた。そりゃ当然、焼きたてアツアツだからな、パイの中身の林檎のコンポートもアツアツなワケで。あんな大口でかぶりついたら火傷しかねない。

「ほ~れ言わんこっちゃない。ほれ、牛乳だ。取り敢えずそれ飲んで口の中冷やせ。」

 涙目で顔を真っ赤にしながら、コップの牛乳を一気に飲み干す皐月。

「ふへええぇ~、ボク、マジで沈むかと思ったぁ~……」

「轟沈理由:アップルパイなんて報告書に書けねぇからそれは勘弁してくれ。」

 思わず苦笑いしながら、茶化すようにそう言った。




「でもホント、司令官ってお料理上手だよね。」

「そうか?間宮や鳳翔には敵わねぇぞ?流石に。」

「そんな事ないよ、間宮さんなんかこの前、『提督に負けたら私の立場が……』って、お店でブツブツ呟いてたよ?」

 おいおい、穏やかじゃねぇなぁ。あくまで俺の料理は趣味の延長線であって、カロリー計算とか栄養バランスなんて物はハナから計算したことすらねぇ。

「あっちはプロだからなぁ。アマチュアが幾ら褒められてもプロには勝てんさ。」

「そうかなぁ、このアップルパイだって生地はサクサクだし、中の林檎も甘過ぎないし酸っぱすぎないし、とってもいいバランスで美味しいと思うんだけどなぁ。」

「お~?何だ何だ~?改ニになった途端に随分一丁前なコメント言うようになったな~?」

 そう言いながらクシャクシャと頭を撫でてやる。そう、皐月はこの間改二の改装計画が持ち上がり、艤装と制服、装備一式を新調したばかりだった。

「や、止めてよ司令官~!頭ぐしゃぐしゃになっちゃうだろ~!?」

 まぁ、中身はあんまり変わっていない様だがw

「さて、と。一切れ食べ終わったが、お代わりは?」

「もっちろん!お代わりしないワケにはいかないよ、こんなに美味しいんだもん!」

「ハイハイ、少々お待ちをお転婆姫。」

 俺は苦笑いしながらお代わりのパイを取りに行く。




「ホラよ、お代わりのパイと……パイに使ったのと同じ林檎で淹れたアップルティーだ。飲むか?」

「は~い!いただきまーす!」

 程よく冷めたパイにかじりつき、身震いする皐月。そこに淹れたばかりの温かいアップルティーを一口。合わないワケがねぇよな、ウン。

「やっぱりスーパーとかコンビニで買うアップルパイとは違うなぁ。」

「そりゃあな。ありゃアップルパイというよりアップルデニッシュだからな、別物だ。」

「へぇ~……あれ?この中身の林檎、随分赤いね?何で?」

 お、そこに目を付けたか。やはり改二になって少しは成長したのだろうか。

「あぁ、その中身のコンポートは俺特製でな。林檎を煮詰めるのに赤ワイン使ったんだ。少しワインの酸味と香りが付いて、ただのコンポートよりも酒に合うように作ってある。」

「やっぱりお酒なんだね司令官の料理の中心は。」

「当たり前だ、BarだぞBar。酒飲まないでどうするよ。」

「そりゃそうだねwねぇ司令官、アイス無いかな?パイに載せて食べたいんだけど。」

 まだ温かいアップルパイの上にアイス。間違いなく美味いだろう。美味いだろうが……

「いいのか皐月ぃ。アイスはあるにはあるが、カロリーとんでもない事になるぞ~?」

「えっ……?」

「この間採寸したばかりの改二の制服、入らなくなっても知らんぞ~?w」

 と、ちょっと悪戯心が芽生えたので言ってみた。

「し、司令官がこんなに美味しく作るのがいけないんじゃないかぁ~っ!」

 と、よくわからん責任転嫁をされつつも、結局皐月はパイを1ホール全てペロリと平らげ(内3/4はアイス載せ)、しばらく島風に付き合ってランニングする姿が見られたというのはまた別の話。 

 

艦娘とスイーツと提督と・5

~春雨:クレームブリュレ~

「司令官さん、ではお願いします!」

 真剣な眼差しでリクエストされたスイーツの仕上げを見つめる春雨。最後の仕上げはバーナーを使うので危険だから、出来れば間近でまじまじと見るのはやめてもらいたいのだが。

「いいけどマジで気を付けろよ?春雨は折角髪が長くて綺麗なんだからよ、バーナーの火に巻き込まれて焦げたりしたら勿体無いからな。」

「大丈夫です、ゴムで縛ったので万全です……ハイっ!」

「んじゃ……行くぞ~!」

 懐に入れてあったライターの火を近付け、ガスを出していた調理用バーナーの火口に近付けると瞬間的に点火。シュゴオオオオオ、と青い火炎が凄い勢いで噴出している(ように見える)。それをクレームブリュレの表面に近付け、火で炙っていく。

「バーナーの火でクリームの表面が焦げていって……き、綺麗~!」

 クリームに含まれる脂肪分と糖分、更に上にまぶした粉砂糖とグラニュー糖がバーナーの熱でキャラメリゼされて香ばしい香りと美しい焦げ目を作り出していく。

「……よし、こんなモンか。」

「で、出来立てのクレームブリュレ……感激ですっ!」





「う~ん、表面サクサクで中からクリームがトロッと出てきて最高です!」

「まぁ確かにな。砂糖のあの焦げた香ばしさは間近でないと感じられんわなぁ。……にしても、今日も春雨はメイド服か。気に入ったのか?それ。」

 今日の春雨の服装はまたバレンタインの時のメイド服だった。改めて思うが、桜色のツインテールと相まってとても可愛い。

「お、お礼っていうのも変なんですが……司令官に褒めていただいたので今日も着てきたら喜んで貰えるかと思いまして……そのぅ……」

 なんというか、こういう一途な思いをぶつけられるのは男としてはとても嬉しい物だ。…だが、流石に駆逐艦に『お手付き』するのは流石に無理があると思う。ケンペイ=サンにケジメを取らされないとも限らないし。

「うん、とても可愛いと思うよ。ありがとうな。」

 そう言いながら頭を撫でてやる。娘のようなつもりで父親気分で接してやれば問題ないだろう。春雨は俯き加減で赤面している。




「し、司令官っ!出来れば春雨も作ってみたいのですが、よければ作り方を教えて頂けませんか?」

 ふむ、その位なら材料も余っているし教えてやるか。

「別に構わんぞ。春雨も丁度よくメイド服だしなw」

《焦げ目サクサク!クレームブリュレ》※200ml容量のココットで4つ分

・卵黄:4つ

・グラニュー糖:60g

・生クリーム:400cc

・牛乳:120cc

・無塩バター(型塗り用):適量

・粉砂糖:適量

・バニラエッセンス:適量

「まずはメインの材料のカスタードクリームだな。卵黄全部とグラニュー糖を半分入れて、もったりとしてくるまでかき混ぜる。」

「りょ、了解です!」

 手際よくカシャカシャと泡立て器でかき混ぜていく春雨。成る程、普段からよく料理をするだけあって手際がいい。俺はその間に鍋に生クリームと牛乳を入れて温める。沸騰直前まで温めたら、春雨が混ぜた卵黄とグラニュー糖を少しずつ加えながら混ぜ、全て混ざりあったら濾してやり、バニラエッセンスを適量加える。

 お次はもう焼きに入るぞ。

「春雨、ココット皿の内側にバター塗ってくれ。」

「は、はいっ!」

 バターを塗ったら生地を型に流し込んで、天板にお湯を張り、100℃に余熱したオーブンで30分、焦がさないようにじっくりと火を通す。

「け、結構手間がかかるんですね。」

「まぁな。食感が命のお菓子だから火加減が重要なんだ。」

 焼けたら取り出して冷蔵庫に入れてしっかりと冷やし、その間に上にまぶす粉砂糖とグラニュー糖の残りを混ぜておく。

「さぁ、大事な仕上げだ。しっかりと冷えた生地の上に砂糖をまぶして、バーナーで炙る……ってのは、さっき見せたよな?」

 それ以外にはオーブンを高温に上げて再びオーブンに入れ、ムラなくカラメル色に焦がしてやる。慣れない内はオーブンでやった方が失敗も少ないぞ。

「バーナーでやる時のコツはあるんですか?」

「そうさなぁ……こればっかりは場数を踏んで慣れないとなぁ。…あ、艦娘ならではの方法があるぞ。」

「な、何ですかそれは?」

「バーナーで炙る時に雪風か時雨に側にいてもらえ。最悪やってもらうのもアリじゃないか?」

「……えっと、それってコツって言うんですかね?」

「コツというか、験担ぎというか……けど、悪い結果にはならないと思わないか?」

「確かに、そうですねw」

 そこで作ったクレームブリュレはお土産として春雨に持たせてやり、後日白露や夕立にお礼を言われた。……なんだか本当に父親の気分だ。 

 

艦娘とスイーツと提督と・6

~伊19:ミルク寒天~

「~♪うーん、この食感、たまらないのね~♪」

 ウチには全体の1/5、約50人の潜水艦娘がいる。勿論分け隔てなくホワイトデーのクッキーを配った。その中で今回は伊19……通称イクの一人がチケットを引き当てた。そのリクエストはミルク寒天。大して難しい物ではないし、別にいいのだが。

「あ~、イク?楽しんでる所悪いが一言いいか?」

「もうっ、折角イクが自分の世界に浸って楽しんでる所に何なの!?提督!」

 ミルク寒天が余程美味しかったのか、お楽しみを邪魔されたイクがプリプリと怒っている。俺も慰労の為に行っている企画だ、邪魔するつもりは無かったのだが。

「そいつぁ悪かった。んじゃ簡潔に要件だけを伝えるぞ。」

 これはこのイク一人に限った事じゃない、潜水艦娘全員に前々から言いたかった事だ。

「水着の上からでも良いから服を着ろ、頼むから。」

「だが断るの!」

「断んなっ!」

 キリッ、という効果音でも付きそうな位の自信満々の顔でお断りされた。そう、潜水艦娘の服装の無頓着さ。前々から改善しなくてはならないと思っていた問題だ。




「大体、イク達の服装を指定してきたのは提督なの!それなのに今更なんなの!?」

「いや、お前らの服装を決めたのは俺じゃなくて上だから……ってかな、色々と誤解を生むから鎮守府内を歩き回る時は上着位羽織ってくれって言ってんだよ。」

「碁会?」

「誤解だ誤解。文字にしないと解りづらいボケをかますんじゃない。」

 実際問題、これによる被害も出ていた。主に俺のイメージに。

「……ったく、お前とかゴーヤが『提督指定の水着なの!』なんて言いながらいつも服を着ないで歩き回るから、俺がそういう変態趣味があると未だに思われてんだぞ?一部の奴には。」

「へぇ~?じゃあ、提督には『そんな趣味』は無いって言うの?」

 イクは悪戯っぽい笑みを浮かべながらニヒヒと笑っている。完全に無いとは明言出来ないが、それでも時と場所を選ぶ位の分別はある……つもりだ。

「……それはそれ、これはこれだ。」

「あ、お茶を濁したの。」




「と、とにかくだ。鎮守府内を歩き回る時は上着位は羽織るように他の潜水艦の奴にも言ってくれ。」

「うーん、それは別に良いのね。」

「良かった、大体お前らその格好で街に行こうとする奴等とかいるだろ?お陰でなぁ、地元の警察に事情聴取された事もあるんだぞ俺は。」

 何度かスクール水着姿で街中を歩いていて、補導された艦娘がいる。……というか、スク水なんて潜水艦娘位しか着ていない。しかも、警察で聴かれた時にも『これは提督指定の服装だ』と言ってやがるモンだから、当然俺にそういう卑猥な格好を強要しているという在らぬ疑いがかけられて任意の事情聴取を受けた。俺は艦娘の服装を決めているのは軍上層部である証拠となる資料を提出し、疑いはすぐに解けたのだが、それ以後も現地住民からの苦情が度々寄せられていた。




「とにかくだ。鎮守府内でも外でも、スク水で歩き回るのは
禁止。そう他の奴にも伝えてくれ。」

「えーっ、イク達はこっちの方が楽なの~。」

「というかお前は恥ずかしくないのか?地肌の見えてる部分とかかなり大きいが。」

 うーん、と唸っているイク。

「ねぇ提督。」

「なんだ?」

「イク達よりも……おっぱいをサラシ巻いて隠してるだけの人とか、紐みたいな見せパン穿いてる娘とか、いつもお臍とかパンツが見えるような服装してる娘がいるけど、そういう娘はいいの?」

 う、と言葉に詰まる。言われてみれば確かに、普通に街中を歩いていたら職務質問されても可笑しくないような服装してる艦娘はいる。それも複数。毎日見慣れてしまっていたから気にもならなくなっていたが、これは由々しき事態かも知れん。というか艦娘って痴女の集まりなの?アレ、どんどん思考が変な方向に……ワケが解らなくなって来た。

「なぁ…………イク。」

「なぁに?提督。」

「正しい服装って、何だろうな……?」

「イクに聞かれても知る訳ないの。」


 数日後、「外出の際は節度のある、誰に見られても恥ずかしくない服装をすること」という規則が追加されたのは、また別の話。 

 

艦娘とスイーツと提督と・7

~朧:あんドーナツ~

「あぁぁ、油で揚げたからこそ出るこのコク!周りを大袈裟に覆ってジャリジャリという位に付着した砂糖!それに負けず劣らず甘味と個性を主張してくるこしあん!」

 えー、何でか解りませんがリクエストを出されたあんドーナツを山積みにして朧の前に出したんですが。何故だか絶叫しつつ半泣きになりながらパクパクと食べて行ってます。

「一度食べ出したら止まらない、しかしそれを許さないカロリーの嵐!あぁ……なんて恐ろしいお菓子なんでしょうか!」

 恐ろしいお菓子、ねぇ。その割には食べ進める手は休まない。食べやすいようにと一口サイズで作ったあんドーナツを、両手で1つずつ掴んで右手のあんドーナツを放り込んで咀嚼し、飲み込んだら今度は左。その間に右手には既にあんドーナツが摘ままれている。もうどうにも止まらない、といった感じだ。

「恐ろしいとか言う割には手は止めんのなw」

「司令が美味しく作りすぎるのがいけないんじゃないですかー!」

「おいおい、俺は褒められてんのか?叱られてんのかどっちだよ。」

「両方です!」

「おい。」




「取り敢えず、飲み物でも飲んで落ち着け。お茶にコーヒーに牛乳。どれにする?」

「あ、じゃあ牛乳で。……だって、折角リクエストしたのに食べなきゃ損じゃないですかっ。」

 そう言いながら再びあんドーナツに手を伸ばす朧。左手には牛乳のコップを持つようになったが、右手で2、3個口に放り込んでから牛乳で一息、というバルジ増加(意味深)不可避な食べ方をしている。

「だったらカロリー云々を気にするのは止めとけ。折角美味いもの食べてるのに気分が沈むだけだろうが。」

「それが出来たら苦労しませんよ!提督は乙女心が解らないんですかっ!」

 そう言いつつ尚も手を休めない朧。

「せめて話す時は食べるのを止めろ、行儀悪いぞ。」




 そこでようやく手を止める朧。

「むぅ……でも、これってそんなにカロリー高くないですよね?」

「カロリーか。う~ん、作ってる時にゃ気にした事もねぇからなぁ。」

「だ、だったらもう少し食べても大丈bーー」

「どれ、乙女心の参考になるかは解らんが、今計算してやろう。」

「       」

 朧は唖然というか呆然というか、例えるなら『この世の終わり』とでもいうような絶望感に溢れた顔をしている。

「えぇと、生地に練り込んだ砂糖が~g、まぶしたのがこの位、餡にこの位入れて練って、油で揚げたからこの位吸い取ってると仮定して……」

 カタカタと電卓を叩いていく。こういう計算は一度覚えちまえば簡単だ。

「あわわわわわわ、ストップ!ストオオオオオォォォォォップ!」

 必死に止められた。

「なんなんだよ急に。カロリーの話題持ち出して来たのはそっちだろ?」

「そういう現実を突き付けて来るような所はダメだと思います!」




「あのなぁ、俺だって聞かれなきゃ計算しねぇから。美味いもの食べてカロリー増えたら消費すりゃいいだろが。」

 これは持論だ。カロリー気にするなら食事制限よりも動け。食べてる最中に気にしてたら折角のご馳走が思う存分味わえないからな。

「そもそも、お前ら出撃で激しく動くからその位のカロリー消費はすぐだろうに。」

「そ……それでも乙女は気にするんですっ!永遠の課題なんですっ!」

「お、おぅ……。」

 そのあまりの剣幕にちょっとたじろいでしまった。

「あ、なら第七駆逐隊の皆にお土産として持って帰ってやったらどうだ?喜ぶだろアイツ等。特に曙とかあんこ大好きだったろ確か。」

「うっ……そ、それはそうなんですけど。」

「ん?何か都合が悪い事でもあるのか?」

「あれ以上うs……いえ、あの娘にカロリー与えちゃったら、更に格差が広がるんじゃないかと思って……」

「あ?あ~……あぁ。」

 深くは言わないが察してしまった。主に脅威、もとい胸囲の格差社会的な意味で。

「まぁ……朧、頑張れ。何がかは解らんが。」

「は、はい……。」

 その後、結局残ったあんドーナツは持ち帰る事になり、翌日曙に

『あんな美味しい物食べさせて、太ったらどうしてくれんのよこのクソ提督!』

 と言いながら脛を蹴られた。なんでや。 

 

艦娘とスイーツと提督と・8

~加古:餅~

「うーん、やっぱり餅はつきたてが一番だよね~……。」

 少し肌寒くなってきた頃、チケットを持ってやって来たのは加古。執務室を畳張りにして炬燵を出し、そこで加古に餅を振る舞っている。味付けのタレも黒ごまダレにきな粉、胡桃ダレにあんこ、ずんだに大根おろしと様々揃えた。中でもお気に入りは磯辺巻きらしく、さっきからつきたてのおかわりを持っていく度に海苔を巻いて頬張っている。

「けど残念だな~、年末に食べた提督のついた餅が食べられると思ったのに。」

「しょうがねぇだろ?臼と杵使うにゃ俺一人じゃ餅つき出来ねぇんだからよ。」

 今回は捏ねたりひっくり返したりしてくれる人がいなかった為に餅つき機を使用した。水に浸けてふやかした餅米さえ用意すれば、蒸す事は勿論つく、捏ねるもスイッチ1つでやってくれる優れものだ。



「はぁ~、この胡桃ダレも美味しいねぇ~。」

「ホントは保存用の角餅出そうかとも思ったんだがな。どうせならつきたての餅を食わせてやろうと思ってな。」

「にしてもよくやるよ、提督もさ。普通アタシがお餅食べたい!ってリクエストしても普通つきたてを食べさせようなんて考えないよ?」

「俺は半端がきらいでね。いつも椅子にふんぞり返ってるだけなのに、肉体労働任せっきりのお前らの為なら尚更な。」

『だからそういう発言が天然ジゴロ扱いされる原因なんだってぇ……!』

 加古は顔を真っ赤にして俯いて、何やらボソボソと呟いている。

「あん?何か言ったか。」

「なっ、何でもないって!あー、餅美味い。提督、おかわり!」




「ところでさぁ提督、さっきから何包んで食べてんの?」

「え、チョコだけど。」

 バレンタインデーに貰ったチョコ、実は大量に余っていた。貰った娘には申し訳ないが冷凍して、形を変えて店などで提供させて貰っていた。今回はいい機会だと思って、つきたてアツアツの餅にチョコをくるんで、その熱でとろけさせて食べている。餅の熱で程よく溶けたチョコの甘味が柔らかい餅によく絡んで美味い。

「あ、それ美味そう。ちょーだい。」

 炬燵の天板に顎を載せ、あーんと口を開けている。別に新しく作るのも面倒だったので、俺の食べかけを押し込んでやる。すると加古は目を白黒させてアワアワしている。

「なっ、なんで食べかけ押し込むんだよっ!」

「あ?新しく作るの面倒だったから。……あ、嫌だったか?」

「い、いや、別に……嫌とかじゃあ…ないけど。」

 ならいいんだが。何をそんなに慌ててるんだ?加古は。




 餅を食べ始めて約2時間。加古は休む事なく食べ続けていた。

「にしてもよく食うなぁ。今何個目だ?」

「えー?数えてないよぉ。めんどいし。」

 改二になって凛々しくなったと思っていたが、中身はお気楽・寝坊助な加古と大して変わっていなかったらしい。

「……まぁ、幾つ食おうがお前の勝手だが、この後の仕事に差し支えないようにしろよ?」

「大丈夫でーす、今日は非番なんでー。」

「それに、対策も準備してあるから大丈夫!」

 対策?なんの事だ。

「何だ?胃薬でも準備してあるのか?」

「違う違う。…もっとこう、自然にさぁ……ふあぁ」

 加古の目がトロンとしてきて、欠伸を噛み殺している。おいまさか。

「というワケで、おやすみなさーい……グゥ。」

「おい、食べた後すぐ寝ると牛になるぞ……じゃなくって」

「寝るなら自分の部屋で寝ろ、ここは執務室だぞオイ!」

 揺さぶっても加古は起きる気配がない。の〇太かお前は。まぁ、これもある意味満足してくれた結果だし良かった……のか?この後、古鷹に連絡入れて引き取りに来て貰った。物凄い謝られて逆に申し訳ない気持ちになった。 

 

艦娘とスイーツと提督と・9

~瑞穂:南部煎餅~

 パリパリ、サクサク。執務室内を満たすのは小気味良い菓子を食べる音と、香ばしいその菓子が焼ける匂い。

「なぁ瑞穂~、リクエスト本当にコレで良かったのか?もう少し豪勢な菓子とかでも良かったんだぞ?」

「いえいえ。私の注文は『提督が子供の頃召し上がっていた、故郷のお菓子』。この……南部煎餅、というのですか?はピッタリだと思います。」

 まぁ、満足してくれているのならいいんだが。俺は南部煎餅の焼き型をひっくり返しつつ、そんな事を考えていた。

 南部煎餅は凄く歴史の深い菓子だ。その元祖と言われている説は1300年代中期・いわゆる南北朝時代まで遡る。南朝の長慶天皇が今の三戸郡南部町辺りにある長谷寺を訪れた際、食べる物が無くて困り果ててしまった。そんな時に家臣の一人が近所の農家からそば粉と塩、そして胡麻を貰ってきて自分の鉄兜の中で練り合わせて鍋代わりにして焼き上げ、天皇に献上したのが元祖と言われている。※諸説あります

 それに昔の南部藩の辺りは今ほど米も取れず、寧ろ悪天候に強い小麦やそばの栽培の方が盛んで、それを使った兵士の糧食だった、とする説もある。

「それにしても……色んな種類があるんですね。」

 瑞穂が座っている席のテーブルの上には、様々な種類の南部煎餅が取り揃えてある。

「俺がガキの時分にはごまと皮付き落花生を練り込んだまめ、黒ごまペーストを表面に塗ったゴマ塗り、何も入ってない白せんべい位しか無かったんだがな。」



「今だと生地に色々練り込んだり、表面に何かをトッピングしたりと、様々あるらしい。」


 南部煎餅のベーシックな材料は、小麦粉に塩、それに軽い歯触りにするための重曹。後は胡麻やら落花生やら南瓜の種やら、中に入れる具材を加えれば生地は出来る。後は専用の焼き型に生地を入れて、直火で焼くだけだ。俺も粗方焼き終えたので、食べる方に加わる。

「あら?その手に持っているのは何ですか?提督。」

「あぁ、これか?これは南部煎餅の『みみ』だ。」

 南部煎餅の焼き型は、両面からプレスするような形で焼いていく。すると重曹の作用で生地が膨らむと、型の隙間からはみ出した生地が煎餅本体よりも堅く、少し