Los estudiantes del mundo paralelo


 

Introduction

 
前書き
こちらは更新が遅めです。
 

 
此処は【学園都市】の[第七学区]にある
39号線の『木の葉通り』

通称『ケンカ通り』

時間は深夜。

影が夜陰(やいん)に溶け込み見分けの付かないその一角で乾いた音が響く。

(まぎ)れも無く銃声だ。

しかし辺りに人はいないのか()したる反応も無く寝間(ねま)の静寂は(たも)たれている。


「僕のことを嗅ぎ回っているのが悪い」


たったいま人を殺したとは思えないほど平然とした青年が其処にはいた。撃たれた男は胸を紅に染め、(にじ)み出した赤は小さな血溜(ちだ)まりの池を作り出している。

青年は彼が持っていたアタッシュケースを開いて中身を物色した。中には青年を含めた数名の個人情報が記された資料が在る。


「これは…使えそうだな……」


青年は頬を(ほころ)ばせ表情を(ゆる)めた。彼は首を回して周囲を確認する。


(別に銃を使う必要性は無いんだけどね。だが自分の力を偽っている身としては気を付けなければならない。監視網は誤魔化しているから心配は無いと思うが念のためだ。『統括理事長(アレイスター)』による厄介な『滞空回線(アンダーライン)』のこともあるわけだし……)


そんなことを考えながらアタッシュケースを回収して第四学区にあるカフェへと向かう。

青年は『CLOSE』の看板が掛かっている明かりの付いた店の扉を遠慮無く開いて中へと入る。ドアのベルが音を立てるとそれに気付いた店のマスターがカウンター越しに青年を見た。


「いらっしゃいませ《野口勝哉(やぐちしょうや)》様。こんな遅くに何の御用でしょう?」


マスターは深夜に押し掛けた勝哉に気を悪くすることも無く落ち着いた態度で迎える。勝哉は彼の正面に座ると直ぐに注文した。


何時(いつ)ものを」


マスターはミルで豆を挽き始めた。店内に良い匂いが広がる。そしてコーヒーを注いでソーサーに乗せたカップを勝哉の前に差し出す。


「御待たせ致しました。エスプレッソで御座います」


選別された挽きたての極上豆から()れただけあり湯気すらも香り高い。

野口勝哉はコーヒーを一口含み舌の上を転がせる。そして匂いを鼻腔(びこう)へ通すと目を(つぶ)って深呼吸した。


(この時間が一番落ち着くなあ……)


マスターがジュークボックスのスイッチを入れる。今時珍しいレコードから再生された古き良き時代のクラシックジャズが勝哉の耳を楽しませてくれる。

その光景はレトロながら
好きな人には(たま)らない演出の空間だ。

勝哉はゆっくりと時間を掛けて最後の一口まで珈琲(コーヒー)を味わった。飲み干したタイミングを見計らったようにマスターが声を掛ける。


「本日の御仕事は如何(いかが)でした?」


その質問に唇の端を僅かに上げて微笑む。


「終始何の問題も無かったよ。こうして良い情報(もの)も手に入ったことだしね」


彼はそう言いながら床に置かれていたアタッシュケースの方へと目配せする。


「では本日こちらに御来店頂いた理由は何時ものあれ(・・)で御座いますね?」


マスターの言葉にアタッシュケースを持って席から腰を上げる。


「【第0学区】に戻るよ。ここからが僕の本当にやりたかったことだからね」


超能力者(レベル5)という学園都市最高能力者の枠にさえ収まり切れなかった能力者(がくせい)達が学園都市を変えるために、壊すために、守るために戦う。


これはそんな学生達(students)の物語。 
 

 
後書き
久し振りに勝哉君書いたなあ。 

 

Solicitation activities

 
前書き
(*´∀`) 

 
此処は【第0学区】にある《野口勝哉(やぐちしょうや)》の活動拠点。『地上(うえ)』の学園都市で学生として住んでいる家とは違うアジト的なもの。

彼は昨日の昼間から『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事で街中を歩き回り、夕方から深夜まで自分のことを探っていた暗部を始末したりと動いていた。


「ふう……」


どうやら疲れているようだ。無理も無いが。


(周りにレベルを合わせるのも楽じゃない……)


何時ものことながら本来の力を隠して押さえ付け、自己を殺して主張もせず生きるのは抑圧(ストレス)が溜まる。


「まあ無駄でも無かったかな。《的場聖持(まとばせいじ)》の様子も変わり無いみたいだったし」


そう言って伸びをしながら体を(ほぐ)す。勝哉はコーヒーを入れた後で、昨日暗部から奪取したアタッシュケースを開いて中身を取り出した。


「頭に入れながら()れからの事を考えるか」


彼は一言一句の覚え間違いも無いように真剣な眼差しで目を通しながら詳細に至るまで正確に記憶していく。

先日勝哉が暗部から手に入れたのは学園都市が厳重に秘匿(ひとく)している【絶対能力者(レベル6)】について記されたレポート。

彼等は学園都市に存在を無かったことにされている。もしかすると統括理事長にとって現在の『超能力者(レベル5)』の第一位が最初の絶対能力者でないと困るのかもしれない。


絶対能力者LEVEL6


それは学園都市に存在する能力者の強度(レベル)()いて六つある段階の頂点。

学園都市の超能力開発に於いて究極の目的でありLEVEL5の更に先にあるもの。

順にすると次のような強度がある。

─────────────────

無能力者(レベル0)

学園都市に居る能力者の六割はこれに当て()まるという。

全く能力が使えないというわけでも無いし、AIM拡散力場も観測されている。

しかし学園都市的には『落ちこぼれ』である。

────────────────

低能力者(レベル1)

これも多くの学生が属しており、スプーンを曲げる程度の力しか無い。

───────────────

異能力者(レベル2)

レベル1と同じく日常では余り役に立たない。

───────────────

強能力者(レベル3)

日常で便利と感じる程度。

この辺りからエリート扱いされ始める。

そしてこのレベルが能力者にとって一つの『壁』となっている。

──────────────────

大能力者(レベル4)

軍隊に於いて戦術的価値を得られる程の力。

ここまで来れば押しも押されもせぬ立派なエリートと言って差し(つか)え無い。

─────────────────

超能力者(レベル5)

学園都市の学生230万人に七人しか該当する者がいないとされる。

─────────────

しかしレベル5の能力者は第0学区に行けば何人も居るし、学園都市の都市伝説や【禁忌簿】に載っている禁忌の中には

『LEVEL5を超えた者』

『正体不明の能力者』

『強大な力の持ち主故に、誰も本気を出している姿を見たことの無い能力者』

『LEVEL5PhaseNEXT(フェイズネクスト)

『能力の本質』

『能力改造』

『都市伝説の中の都市伝説』

なども裏では(ささや)かれている。

そしてまだ誰一人として辿り着いた者はいないとされているのが絶対能力者(レベル6)である。

『世界の真理』という『神様の領域』は人間には辿り着けない。

だから『人間を超える』ことでそこに到達した者を指すと思われている。

ただ、レベル6の創造すらもSYSTEMへと至る第一歩に過ぎないらしい。


【神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者・SYSTEM】など、『超能力』として認識される概念の限界を超えたもの、『絶対能力者』の『更に先にあるもの』の存在も(ほの)めかされてはいるが実際のところは解らないと言える。

レベル6の思想は一部の魔術的なものと似通った部分を持っているように見受けられる。

例えば『セフィロトの樹』に於ける考えに存在する『アインソフオウル(000)アインソフ(00)アイン()』という概念上における、人間には理解が出来ず、表現も出来ない『神の領域』

アインは『無』と訳され0で表される。アイン・ソフは『無限』と訳され00で表される。アイン・ソフ・オウルは『無限光』と訳され000で表される。

アインからアイン・ソフが生じ、アイン・ソフからアイン・ソフ・オウルが生じた。

または『神様の力を横取り出来る』とされている『完全なる知性主義(グノーシズム)』の教義。

それは『人間に理解出来ないならば、人間を超えた肉体を手に入れれば良い』という考え。

『人間は精製途中の神であり、己を鍛え上げることで神の肉体を手に入れ神の(わざ)を自在に操る事が出来る』と(うた)い、十二使徒ヨハネさえも危険視した十字教最初の異端宗派。

他にも錬金術の最高峰『黄金錬成(アルス=マグナ)』がその(るい)に入り、使い方の代表的なものとしてはあらゆる物を黄金に変えるというものだ。しかし本来の使い方は『鉛のように(くす)んだ人間の魂を黄金の如き天使の魂へ昇華する』術とされる。

そして魔術を極めた先にある『神様の領域にまで足を突っ込んでしまった人間』とされ、『人の身でありながらその存在を、魔術の修得と儀式を(もっ)て神格へと昇華させた者』、『魔術で世界の全てを操る者』ともされる【魔神】は到達の可能性が(いちじる)しく低いという点ではレベル6と同様という感想を抱く者もいる。

今の野口勝哉がやろうとしていることというのは『絶対能力者(レベル6)』のみで構成された組織を創設することだ。

ただ、勝哉を含めた絶対能力者(レベル6)は完全制御している者もいるが、基本的に力が大き過ぎて、現在学園都市に七人しか居ない超能力者(レベル5)のように力を振るうことが無い。

というよりただでさえ強くて本気が出せないレベル5の彼等よりもレベルが上で、遥かに強い為にその力を振るうことが出来ない。

しかしそれも目的達成のためだと勝哉は割り切って行動している。


「簡単なゲームや苦労もせずに成し遂げられる程度の目標なんて目指すに(あたい)しない。必要経費で退屈を(まぎ)らわしてくれる良い刺激(スパイス)になってくれるだろう」


そして一通り資料に目を通した後、リストの中からある人物を選んだ。勝哉がテーブルの上に置かれたカップを手に取りコーヒーを飲み干す。


「まずは仲間の一人目だ。フフ……これから面白くなりそうだな」


彼は片付けを終わらせ聖セルビア学園の制服に袖を通すと緑色をした風紀委員(ジャッジメント)の腕章を付ける。そして支度を終えると玄関を出た。


「飛車角金銀落ちの状態で更に手抜きプレイを強要される縛りにはもう慣れた。さて、生温い学園都市に行くとしようか」 
 

 
後書き
禁書が10年経ってもレベル6出さないとは思わなかったよ。というかいつ最終章になってホルスの時代の詳細が明らかになるんだ。

この話では勝哉君を筆頭にどう足掻いても舐めプするしかないのが悲しい。

レベル5第三位のレベル6化でも一瞬で学園都市が消滅するみたいですからしょうがないですけどね。

まあこの話の主要な高位能力者は既に科学の枠を外れてるので多分色々とやりようはあるはずなんですが……。

原作でレベル6が出ないとどれくらいの規模で戦闘すれば良いのか解らないのが辛いところ。 

 

Rutsch

 
前書き
某所の私が書いた旧三次と今連載中の二次(げんさく)の方を読み直しています。 

 
蝉の声が聞こえる六月───


「この辺りなんだが……」


野口勝哉(やぐちしょうや)》はレポートを元にレベル6が最後に目撃されたポイントに来ていた。

そこは建物の状態こそ保ってはいるが、既に(さび)れて使われなくなった『第一九学区』の工業地帯だ。


第一九学区とは再開発に失敗して急速に寂れてしまった学区である。

全体的な街並みは旧時代的。

現在では廃れてしまった蒸気機関や真空管などを調べる研究機関が存在する。

古い技術の実験場として使う為にわざと寂れさせているという噂もあるらしい。

レポートには人物の写真が貼られ最後に目撃された日付けも載っていた。

そのページには『六月三日』という日付け。


「今日は十日だ。マークされていることに気付いたのでもなければ必ずこの辺りにいるはずだ」


勝哉は工業地帯の一角に捜索範囲を絞り、その中から更に数件の工場をリストアップする。

そしてピンポイントで中に入り注意深く観察しながら自らの足で情報を集めていった。


(僕が調べて判ったことは、やはりこの辺りに誰かが居るということ。その人間は定期的に場所を変えて移動しているということ。痕跡が幾つかあるが全て同じ人物のものということだ。パターンを見るとそろそろ当たりそうだな)


どうするか考えながら次の工場に入ると何かが空気を裂く音がする。

勝哉は一歩だけ真横に動いた。

少しすると何かが先程まで立っていた場所を通り過ぎ、工場に置いてあった機械に奥深くめり込んで見えなくなった。


「二人掛りで使うような巨大スパナか」


マッハ2程で飛んできたがそのくらいであの威力が出せるわけも無い。

金属で出来た機械に対して粘土を指で穿(ほじ)くるように物を押し込んで穴を空けるなど質量と強度を完全に無視している。

レベル5だと第一位の向き操作か速度は遅いが【絶対等速(イコールスピード)】のような何があろうと前に進み続ける能力が無いと無理だろう。

威力だけなら上回る能力は幾つもあるが、ただ物を投げたり飛ばしたりでここまでの攻撃力は珍しい。


「ヒットしたかな?」


威嚇(いかく)のつもりか敵と思われたか。そんな予想もしつつ気にせずに内部を進んでいく。

すると勝哉の(そば)にあった壁が爆破されたように炸裂し、(おびただ)しい数の破片が第三位の超電磁砲(レールガン)を超える速度の飛礫(つぶて)となって彼を呑み込んだ。

爆弾の殺傷力を上げるために釘などを混ぜておくのと似たような発想の攻撃だ。辺りが爆煙に包まれ見えなくなる。

しかし第四位でも無傷で済むか知れない事態に関わらず、勝哉は服に(ほこり)の一つも付けず姿を現した。

本人は能力を使っただけなのだが。

崩れた壁の先には捜していた人物がいた。

椅子に座って勝哉を睨んでいる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……此処(ここ)へ何しに来やがった?」


どうも間が悪かったようだ。


「先に言っとくが此方(こっち)の機嫌が(わり)いのは手前(てめえ)がウロチョロと俺を捜してるのに気付いたからなんだぞ?」

「それは済まなかったね」


微笑む勝哉は明らかに悪気が無い。

男の顔が更に(けわ)しくなる。

そして彼からは今にも襲い掛かりそうな臨戦態勢の気配を放ち、炎のように視認出来る程の幻影(ビジョン)を残す闘気が(みなぎ)る。

その状態から獰猛だが誇り高い獣王を思わせる眼光を宿す(まなこ)で真っ直ぐ勝哉を見据えてきた。

書庫(バンク)に登録されている能力者で彼の覇気と重力が増したような威圧に()えられる人間など五人もいないだろう。

まあ本来のレベルと能力で登録されていない者は別としてだが。


「《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》君で間違いないかい?」


しかし勝哉と同年代だろう青年は答えない。

そしてこう言ってきた。


此処(ここ)は俺の(ねぐら)だ。見逃してやるから()せろ」


だがその警告を受けても去ろうとしないのを見て痺れを切らしたのか悠持はポケットに手を突っ込んで座った状態から動く。

彼は椅子からトランポリンで跳んだように(はず)み後方宙返りする。

そして空中で回転をしたまま勢いを利用して椅子を蹴り飛ばしてきた。

まだ地面に足が着いていない。

勝哉は半歩動いて躱す。

椅子は壁を突き抜け並んだ機械をまとめて貫通し、工場の外まで飛んでいった。

笑えない破壊力だ。

どういう原理なのか見当も付かない。

どうやれば木製の椅子であんな威力を出せるのか解らないがベクトル操作顔負けである。


「ハアー……折角俺が無事に帰るチャンスをくれてやったっていうのになあー……」


悠持がピクリとした。

直後、彼は勝哉の目前に現れる。

速い、マッハ1はあるだろうか。

だが0.1秒で34m動くそれは『常人』の枠から外れたレベル6には止まっているも同然。

当たれば戦車だろうと蒸発する加速と赤熱が起きる悠持の拳に対して勝哉は前腕の内側に手を添えて別方向へ受け流した。

悠持はその技に少し感心し一旦バックステップして距離を取る。


「へー、やるじゃねえか……。手前ぇただの風紀委員(ジャッジメント)じゃねえな?」

「そっちこそ。今のパンチの余波で地面が真っ直ぐアイスクリームみたいに(えぐ)られた上に軌道上にあった設置物まで根こそぎオシャカにしてる。しかも外には影響が出てない」

「まあ俺を知らない奴にちょっかい出そうとは思わねえからな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


互いの力を認めた二人だったがそれだけで丸く治まるような話の段階ではない。


「ま、お前は運が悪かったと思って諦めろ」


悠持は『フィンガースナップ《指パッチン》』で音を鳴らした。

火打ち石のように小さな火花が生まれる。

それは周囲の酸素を異常な速さで取り込み猛烈な燃焼をし始めた。

そこから更に爆発的な火力の上昇を見せると工場全てを巻き込む火災へと変貌。

その炎は1200℃にもなる。

しかし勝哉は動かない。

だが行動(それ)は恐怖から来たものでは無い。

そういうものとは別の、むしろ全く逆ベクトルの感情が頭と心を駆け巡っていた。

野口勝哉(やぐちしょうや)という人間は普段から勘や本能と言った曖昧なものには頼らない。

その明晰な頭脳と有している情報を余すところ無く活用し、合理的、かつ無駄無く物事を運ぶ。

しかし神薙悠持を一目見た瞬間に勝哉は本能で確信していた。彼こそ自分が探し求めていた『絶対能力者(レベル6)』に間違いないと。


勝哉は歓喜と高揚(こうよう)に満ち溢れていた。

自分と同じく学園都市に『存在しない』ことにされ、『絶対能力(レベル6)』という人間が使うには強大過ぎる力を持つが故に『孤独』で『孤高』にならざるを得なかった者がここにも─────



「いた」



彼は思わず心の声を口に出す。

そして勝哉を灰塵(かいじん)()そうと火の海を生み出した悠持に……自分がレベル6となり初めて出逢った自分と同等の力を持つ存在を相手に、勝哉は能力を使った。

彼がしたことは簡単だ。

火を消した。

ただし鎮火ではなく終息というレベルで。

工場を包み込んでいたはずの1200℃の炎があっという間に力を失い、800℃という熱を持っていた空気も火災前の常温に戻っていた。

先程までのことが嘘のようである。

悠持は有り得ない事態に声を失った。

焼け焦げているので燃えたのは間違いない。

しかしあれだけ熱せられた空気だ。

一瞬で余韻(よいん)残滓(ざんし)も無く元に戻るなどあるはずが無い。


(5秒も経たず大気が元に戻っただと? それも涼しさを感じるくらいにまで)


自分がやって見せたたことと同じく完全に物理法則を無視している。


「今の僕には君の力が必要なんだ。是非とも一緒に来て協力をしてほしい」

「なに?」


いきなりそう言われ(いぶか)しむ悠持に勝哉は本音をぶつける。


「ある目的のために組織を創る。君にはその一員になってほしい」

「おいおい、絶対能力者(レベル6)の俺に何処かへ属しろっていうのか……?」

「気に食わない場合は何時でも抜けて良いし、戦ってくれても構わない。それでも君が必要だと僕は思っているんだ」


悠持は急な提案に迷いを隠せない。

そこで勝哉はこう告げた。

『僕も絶対能力者(レベル6)さ』と。

すると悠持は此方(こちら)を見て納得する。


「そうか、そういうことだったのか。だから俺の力を相殺出来たってわけか……」


そして一息()き目を閉じながら上を向く。

どうやら勝哉の要望に対して今後の身の振り方と行動指針を決めたようだ。


「正直なところ、お前が何を思ってるのか俺にはとんな解らねえ。だが………」


そこで一旦言葉を切り勝哉を見詰める。


何となく(・・・・)だがお前が気に入った。だから着いてかせてもらうぜ。どうやら退屈はしなさそうだからな。今さら『やっぱ無し』っつってももう遅いぜ?」


悠持はいたずらっ子のような笑みを見せる。


「悪い顔だなー……」(汗)

「俺の信条にそぐわないようなことがあって、お互いの道が交わらず(たが)えでもしない限りは嫌だろうが泣こうが(わめ)こうが、くっ付いてってやるから覚悟しな」


そう言って組織への加入を決意した。それを聞いた勝哉は珍しく心からの笑顔を見せながら答える。


「ああ、それで構わない。歓迎するよ」


彼を受け入れた。


「僕は野口勝哉という。これからは仲間として宜しく頼むよ」

「俺は神薙悠持ってんだ。まあ知ってるみたいだから自己紹介は要らないみたいだが」


二人は握手する。


「そういや組織の名前は決まってんのか?」

「ああ、【STUDENT】という」

「なるほど、『学生』……ねえ。学園都市を構成する重要な要素(ファクター)だな。で、その目的は?」

「学園都市を変える」

「どうやって?」

「聴きたいかい?」

「そりゃあまぁなぁ……」

「後悔するかもしれないよ?」

「何だ、そんなにヤバい内容なのか?」


そしてクスクスと笑った後で勝哉が放った言葉に悠持は思わず固まった。


「マジで言ってんのか? お前……」

「引き返すなら今の内だよ。聴かなかったことにするだけで良いんだから」

「へっ、見縊(みくび)ってくれちゃあ困るな。言ったはずだぜ? 嫌でも着いてくってな」

「ありがとう。それじゃあ今日を(もっ)て正式に、僕達の組織【STUDENT】結成だ!」

「おう!」


悠持がノリ良く呼応(こおう)した。 
 

 
後書き
旧版を変えて、今の二次の方を少し足して、文章を長くしたら意外と時間が掛かりました。

 

 

Start action

 
前書き
二人とも帰ってきてー。
( ノД`) 

 
6月12日───

野口勝哉(やぐちしょうや)》と《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》は手分けして資料をまとめている。

そしてレポート以外での情報を得るために【GROW】という組織へ情報収集を依頼していた。


「しっかしスゴかったよなぁーあの人の能力。ありゃあただもんじゃねえぞ……」


悠持は勝哉に渡されたLEVEL6が二人分の資料とにらめっこしながら先程情報を持ってきた人物を思い出している。


「情報自体は【GROW】のネットワークで集めたものなんだろうけど彼女も一部の人間にはとても有名だよ」


勝哉も資料を確認しながら悠持の疑問に答える。


「そうなのか……まあAIMの感じからしてかなりの高位能力者なのは解ったが……もしかして俺達と同じく『存在しない』ことにされてるくらい力があるのか?」

「彼女は《島崎向子》と言ってね。LEVEL[6.5]とも言われていて、『(ゲート)』というものを介して空間を繋ぐことが出来るらしい」

「はぁっ!? レベル6.5おっ!?」

思わず呆気に取られた声を出す悠持に勝哉がその人物のことを解説する。

「ああ。GROWを創設したメンバーの一人で現在は最高幹部のNo.2を勤めているやり手でもある。あの性格はキャラではなく素だけど」

「……スカウトしねえのか?」

「彼女はGROWが性に合ってるみたいだからね。それにあの様子を見るとSTUDENTには向いてないだろう」

勝哉が彼女に対して既に割り切っていることが解った悠持は納得する。


「そっか。惜しいが仕方ねえな。初めてLEVEL6より上のやつに会えたのにな」

「僕も残念に思うよ。彼女の力が借りれたら有り難かったんだけどね。ふざけてるように見えても頭は切れるし能力無しの強さも僕が要求する基準を満たしている。仮に彼女が戦闘に向いてないとしてもLEVEL6以上の空間能力だよ?」

「そうだよなー。空間移動じゃないけど【暗部】のLEVEL4に『液化人形(リキッドシャドウ)』っつーのが有るんだけどよ。遠隔操作できる範囲が100㎞超えてるらしいんだよなー」

「常盤台中学にいる空間移動はLEVEL4で距離は80mくらいだよ。まあLEVEL5との差があることを(かんが)みれば、LEVEL6だと弱くとも日本まるごと移動範囲に入るだろう」


二人は気を取り直し、改めてGROWからの情報に目を通した。

その頃、彼等の話題に上がっていた人物はというと───


「あれがSTUDENTかあ。なかなか面白い子達じゃない。これからどうなることやら」


そう言って(ゲート)を開く。


「えー…と次の相手はあの子かあ~。もちっと愛想良くしてほしいかなあ」


そんな言葉を残し島崎向子は門を潜った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝哉と悠持が情報を見進めていくとあるものが目に付いた。

それによると非常に奇妙で能力なのか疑うような代物らしい。

『不死』

そんな風に流布(るふ)される能力が一部科学者の間で話題に上るという。


「回復特化の能力なのか?」


悠持が推測する。


「いや、まだ続きがある」


勝哉が資料の続きを読んでいくと彼の手がはた、と止まった。

そこにはこう記されている。

『炎を操る』

何故一人の資料に二つの能力が載せられているのか二人の頭には思い当たる節があった。


多重能力(デュアルスキル)……?)


しかし勝哉はその可能性の低さに思い至り、直ぐに首を振って苦笑いする。


「もし本当に多重能力だとしたら、ある意味LEVEL6より貴重だがよお……」


悠持は困惑している。


「もし本当に二つの要素を保持してるというのなら面白いね。とても興味がある」

(おいおい……LEVEL6の多重(デュアル)なんざ洒落になってねえぞ……)

「悠持はそっちの二人を捜してくれ。この人物には僕が会ってくるよ」

「一人で行くのか……?」


席を立つ勝哉に悠持が顔を(しか)める。相手が多重能力だとしたら炎と回復以外にも情報に入っていない能力があることは充分考えられる。気に掛けるのは当然だろう。

しかし勝哉は背中を向けたまま言った。


「もし負けたなら僕には計画を実行する力が無かった。それだけのことだ」


そしてドアの前でふと足を止める。


「それに僕を倒すことが出来るとしたら現在(いま)のところ《神薙悠持》だけ……だろ?」


振り返った勝哉は本当に楽しそうだった。

そんな彼の様子に対し呆気(あっけ)に取られていた悠持だったが───


「……はっ」


思わず笑いが込み上げた。


「ハハハハハッ!! そうかっ! そうだなっ! お前を倒すのなら俺しかいねえよなあっ!? 良いぜっ! 行ってこい! そんでもって『不死』の能力者とやらを引き()ってきなっ!! 此方(こっち)の二人は俺に任しとけっ! 力付くでも連れて来てやるよっ!」

「ああ、楽しみにしててくれ」


勝哉は玄関を潜りながらクスリと微笑むのだった。


「それにしても不死で炎か。フェニックスみたいな能力者なんだな」 
 

 
後書き
作品タイトルはスペイン語で
学生達の並行世界(平行世界)です。 

 

transaction

 
前書き
( - _ - ) 

 
勝哉が出掛けた日の夜、《島崎向子》は次の仕事相手との待ち合わせ場所に来ていた。

此処は学園都市の『第一○学区』。

取り引き相手が居住している。ここはその第一○学区の名所となっている『屋台尖塔』と呼ばれている場所。

立体駐車場に停まっている車の全てがワゴン車やキャンピングカーを改造した屋台になっており、客席用の椅子やテーブルを広げる都合で駐車スペースは満車状態ではないが、たった一棟のビル内に400から500もの店舗が詰め込まれている。

立体駐車場は密閉空間ではないが、万に一つの可能性に備えて排ガスを逃がすための換気扇や空調ダクトなどは必要以上に増設されており、ビル自体が何処か手作り臭の漂うジャンクな雰囲気で満ちている。

なお、多くの客が殺到すると順番待ちで喧嘩になりかねないのでエレベーターの使用は禁止されている。そのため階層の移動には設置されている緩やかなスロープを利用する。

出入口に近い低階層は大量集客、大量消費のジャンクフードが並び、上階層に向かうにつれ客足が少なくとも生計を立てていける(こだわ)りの通好みな店が増えていく。

最上層にもなると燕尾服のマスターが管理するコーヒーショップや屋台にも(かか)わらず着物の御姉さんが懐石料理を出す店も少なくない。

それでいて値段は恐ろしく安いため、そのあまりの安さに手放しで喜べなさそうな何かが感じられる。

向子がいるのはその最上階の一角である。依頼人が指定したのが其処(そこ)だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「今日はやけに珍しいことも有るわね。貴方が食事に誘ってくれるなんてさ」

「貴女がもっと愛想良くしなさいと言ったのでね」


向子のからかいに素っ気なく答える。


「それにしてもこのお店って……」


向子はキョロキョロと見回している。


「この店の噂は聞いたことがあるでしょう?」


そう、依頼人(クライアント)が予約したのは屋台尖塔の最上階。その一角にあり、『メチャクチャお客さんが入ってくるとんでもないお店がある』という噂がある店。


「うん…。まあそんなところに連れて来てもらえるのは私も嬉しいし、とってもラッキーだなって思うんだけどー……」

「?」


向子の反応がおかしい。


「このお店ってメニュー無いよね?っていうか料理専門店じゃないよね?」


そうなのだ。実際には『料理以外の何か』も取り扱っているようで、ボディーガードと呼ばれる『汚れ仕事』担当が三人も雇われている。しかし一つだけ出されている料理がある。


「はい。でも向子さんの前にはこの店が出す唯一のメニューがありますよ」


依頼人(クライアント)はにこやかに笑っている。


(くっ、悪気が無い!?  本気だ!)


躊躇無くそれを食す相手に彼女は珍しく焦る。


(いやいやいやいやいや? 食べてみたいと思ったことはあるけどさあ)(汗)


目の前に置かれたそれは『ドーン!』という効果音が聞こえてきそうだ。


(リアルに出されると驚くんですけど!?)


いわゆる『漫画肉』である。


(しかもおっそろしいほど値段安いし……!)


向子がダラダラと汗を流す。


「まあ気にせず食べて下さいよ」


依頼人がもぐもぐ食べ進めているのを見て更に悩む。


(ぐぬぬう……恐ろしい子!)


そして遂に覚悟を決めた。


「えーい、私も女だ! それにGROWのNo.2だしやってやろうじゃないの!」


その大きな肉にかぶり付く。そしてその感想はというと……。


「美味しかった!」

「でしょ?」


こうして二人は本題に移る。


「どうかな? 今回はこの人達なんだけど」


向子が情報を渡す。


「どうせまた俺の能力を目当てに捜し回ってる研究者か暗部なんでしょう?」


依頼人(クライアント)は先程までと違いフランクに振る舞いながら溜め息を吐く。


「この前も片付けたばっかりなのに……」


受け取った資料を取り出しながら愚痴を溢す。


「どうせまた何時もと変わらない雑魚……」


記載内容を見た途端に手を止めた。その額から汗が頬を伝って流れ落ちる。

向子はニヤニヤしながらそれを眺めている。


「どうよどうよ? 今日の情報(ネタ)はGROWのNo.2であるお姉さんの一押しよ」


固まる依頼人に何気無く尋ねた。


「[絶対能力者(レベル6)]のみで構成されている組織…【STUDENT】だと……!?」


思わず口に出しながら体を戦慄(わなな)かせる。


「十中八九、間違いなく貴方の元に来るわよ?」


そう言った向子の言葉に依頼人は天井を見上げた。


地上(こっち)絶対能力者(レベル6)と深く関わるのは彼奴(あいつ)から【命廻天翔(フェネクス)】を渡されて以来か……」


そう。

依頼人は二羽の不死鳥を宿している。

向子は黙って見詰めたままだ。


「助かったよ。何時も俺を捜してる連中の情報(こと)を定期的に伝えてくれるよう頼んだ甲斐があった。今日は(おご)りだよ」


依頼人は手早く会計を済ませて退店した。向子も店の前に立って今後の予定を立てる。


「うふふ。面白くなりそうだなあ~。見に行っちゃおうかなあ~。でも仕事あるしなぁ~」


そう言っていきなり足下に(ゲート)を開き垂直落下した彼女。

そして次に現れたのは屋台尖塔の遥か上空。


「ま、私はどう転んでも影響無いから良いんだけどね~」


そんなことを呟き散歩がてらに夜景を楽しみながら向子はGROW本部への帰路に着いた。 
 

 
後書き
フェニックス三羽の魂、精神、肉体を入れ換えるかもしれません。

(*`・ω・)ゞ良いネタがあったので。 

 

Phoenix

 
前書き
この話でどれだけ詰め込めるかなあ。 

 
6月15日───


「ウジャトの目に掛かる奴は久し振りだな。向子さんの言ってた通りだ。別に見つからないように立ち回っても良いんだけどそれは止めておこう。折角の絶対能力者(レベル6)だしな」


その人物はこれから来る客人を楽しみにしていた。


「まあ何かあったら二羽の餌にすれば良いし問題無いだろ。逃げを打つ選択もあるしね」


何処かの屋上で寝転がり空を見上げながらその人物は今か遅しと来訪の時を待つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


野口勝哉が『不死』の力を持つ絶対能力者(レベル6)を捜し始めてから三日が過ぎた。


「やれやれ、スキルアウトの連中を蹴散らしながら来てはみたものの……」


勝哉が今来ているのは『第一○学区』。


「こんなウザい連中がうようよしている所に好き好んで居るなんて変わってるな」


この第一○学区は学園都市の中で最も治安が悪いことで有名だ。

配送業者がわざわざこの学区を迂回して目的地に向かうという逸話すらある。

その影響で土地が最も安く『他の学区では敬遠される』様々な施設が集中している。

学園都市で唯一の墓地が存在し、他にも少年院や実験動物の処分場、大きな土地を必要とする研究施設や原子力関連、10m以上の大蛇がいる験獣施設や過去に第一位が在籍し、現在は廃虚と化した『特例能力多重調整技術研究所』、通称『特力研』もこの区にある。

不死の能力者はこの区にある『ストレンジ』というスラム地域に潜んでいるという。

その付近は【武装無能力集団(スキルアウト)】の根城となっている危険地帯だ。

実際この二日で勝哉は100人以上のそういう連中に絡まれてきている。

え? その連中がどうなったか? 

勿論だが一人残らず返り討ちとなった。

彼はそういうところで容赦しない。


「少し前からスキルアウトが減って毛色の違う奴が増えたな。こんなのが彷徨(うろつ)いてるなら目的地までは近そうだ」


どうも暗部や研究者のようだ。

不死の能力者目当てで間違いないだろう。

そしてストレンジの中心部に辿り着いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


此処(ここ)か……」


目の前には思わず見上げてしまうほど巨大な高層ビルが(そび)え立っている。

それはスラムの外からも見え、第一○学区の大半を一望出来るほどだ。

高さは300mはあるだろうか。

しかし窓は一枚も残っておらず壁は無数の罅割(ひびわ)れがある。

それだけに留まらず何かで傷付けた亀裂や数え切れない弾痕が残されていた。


「ビルの周りだけ不自然に建物が無いな。その周辺も焼け焦げてばかりだ」


勝哉は外周の調査を終えるとビルの中へと入った。普通の人間なら咳き込みそうな(ほこり)っぽさがある。

それに日光が上手く射し込まないためか昼間というのに薄暗く足下が覚束(おぼつか)無い。

特に影になっている柱の裏などは光の反射もあまり無く心細い。

勝哉は感知しながら壁や床、柱に触れて確かめてみた。あちこち(すす)だらけで所々が焦げて焼け落ち炭化している。

大火災があったと言われれば信じるだろう。


「かなりの広範囲に弾痕を始めとした戦闘の跡が残っているね。様子からして第三位並みの規模で能力が使用されたみたいだ。それに何より……」


勝哉はそれを口には出さなかった。

地道にフロアを上がっていく。三時間ほど掛けて昇りながら確信を強めていった。

此処にいる者もまた絶対能力者であると。


(ストレンジに入る前から同じAIM拡散力場の反応があったからね。それにこのビルの階層を上がる度に強く感じられるようになっている。まるで僕を意識して意図的に気配を感知させたように。まあ罠であるなら楽しむか踏み潰せば良い)


そして勝哉は屋上の扉に手を掛け外に出る。


「流石に三時間振りの太陽は眩しいなあ……」


思わず目を(そむ)ける。そして段々と光に慣れ視界が戻ってくるとちょっと感動した。


「ああ……良いー空だ………」


其処(そこ)には口に出してしまうほど見事に雲一つ無い青天が広がっていた。

するとそれに同意するようにのんびりとした声が聞こえてくる。


「ああ……それに良い風だ……」


その声の(ぬし)は屋上の扉を開けた正面、落下防止用の柵に(もた)れている。


「こんな日は何にもしたくないよなぁー……君もそう思わないかい?」


その人物は此方(こちら)に背を向けたままで真っ青な空を見上げていた。

それに対する勝哉の返答はというと。


「コーヒーを飲みたいところだね。でもまあ今日は無理かな?」

「まあ俺もそういう返事が返ってくることになるだろうとは思ってたけどな」


その時偶然ビルの下を歩いていた《真咲 証(しんさきしょう)》は空を見上げてこう思ったという。

「風が……騒がしいな……」 
 

 
後書き
無理矢理ですが証君登場(笑) 

 

Phoenix 2

 
前書き
現実の銃弾に合ってるかは解りません。
 

 
勝哉がどう話を持っていこうか考えていると相手が右半身を後ろに向け問い掛けてきた。


「野口勝哉君で間違いないかな?」

「ああ、そうだよ」


勝哉は自分のことを知っている相手に少し警戒を高めたが、それを表には出さず平静を(よそお)った。


「君は《桐崎飛鳥(きりさきあすか)》君で良いんだよね?」


解りきってはいるが念のため確認を取る。


「その通り。俺が君の捜している人間だ」


あっさり認めた彼に拍子抜けする。


「野口君は俺の不死が目当てなのかい?」

「僕は不死になりたいわけじゃない。桐崎君の絶対能力者としての力を僕の目的の為に貸してほしいんだ」

「そうか」


すると飛鳥は(おもむろ)に右手を懐へと差し込んだ。そして何かを取り出しながら……。


「君の力を見てから考えるよ」


彼の手には銃があった。

しかし最初(はな)から戦闘になることを想定済みだった勝哉には微塵(みじん)の焦りも無い。

むしろ実力を確かめる良い機会。

受けて立つ。


「始めて良いかな?」

「何時でもどうぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


飛鳥が銃爪(ひきがね)を引いた。発射された弾丸が勝哉の眼前に迫る。

飛鳥の使う銃は【第0学区】で作られたものを改造限界(カスタムリミット)まで(いじ)った後で更に過剰調律(オーバーチューン)した個人専用(オーダーメイド)一品(ワンオフ)ものである。

ベースになっているのは『腐敗区』で時々見かける『処理者』にも配備される通常仕様。

サイズの割りに弾数が多く、弾速も火力もある。オートマチックモードなら速射、殺傷性が著しく跳ね上がる。その威力は口径より大きな弾痕が刻まれるほど。

処理者が使う仕様と言っても量産(マス)型である。しかし明らかにオーバーキルだ。

だが元々からして射殺を前提に製造された物騒な代物なので仕方無い。

なにせ飛鳥のカスタムでないグレードやランクが一番下の型番といえど最低弾速はマッハ10というイカれ具合いである。

だがマッハ1で一秒340mという性能を考慮したとしても、地下を基準にすれば最下層の強さしか持たない者なら逃げられないはず(・・)といった程度でしかない。

第0学区で本物の強者というものはその時々で必要な分の力しか使わないし自分からそこまで目立つことはしない。

もちろん例外もいるのだが。

ちなみに銃は『火食い鳥(クワッサリー)』と言う名前である。

対防御能力を考え『JAIM鉱石』の弾丸もあるにはあるが、高いのであまり使われない。

その代わりとして通常弾丸の攻撃力はかなり高い。

どれくらいかと言うと厚みが炭素原子一個分のシートでありながら鉛筆を突き立てて破るのに像を一頭乗せる必要があるグラフェンと言われる同じ厚さならダイヤモンド以上の強度があるそれを指で穴を空けるように撃ち抜いてしまう。

飛鳥が使っている弾丸は学園都市の外界でいう対人スチール・コア弾という『鋼製弾芯(スチール・コア)』を元にしたもので、【監禁区】の犯罪者データを基本に地下技術で材質から手を加えられている。

学園都市の外で通常使用されている『7N10弾薬』の場合、尖った先端の特殊タイプなら14mm厚の鋼板を100m離れたところから貫通させる。

威力、速度ともに地上の人間では知覚不可能なはずだがこの場に立つ二人にそんな常識は通用しない。

科学サイドの魔神と例えられる者がマッハ20程度の弾速でどうにか出来るわけが無いのだ。

飛鳥の放った弾丸は普段ならマッハ20なのだが今回は調整された速度特化型で能力発動前に打倒する為の仕様でその速さはマッハ30にもなる。

しかしその弾は勝哉の髪に触れる直前、蜘蛛の巣すら僅かの揺らぎも起きない静かさで突然停止した。

そして弾丸の向きが変わる。

その後からもう一発飛んできた。

次は高速射出モードも使いマッハ40。

今度の弾は勝哉の周囲をシャトルランするようにターンした。

そして二つの弾丸を飛鳥へと送り返す。


(なるほど……)


それを眺めながら額と心臓を撃ち抜かれ飛鳥は仰向けに吹き飛んだ。

体が何度もバウンドして動きを止める。

勝哉は彼に近付いて言った。


「バレてるよ。反応あるんだから」


すると飛鳥は足首から先の力だけで映像を巻き戻すように立ち上がった。

転んでも元に戻る起き上がりこぼしのよう。


「それなりに力があるのは解った。でも協力するためには此方(こちら)の条件も飲んでもらうよ」

「無理なことでないなら」


そして二人は交渉を始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なるほど。君は【理論不死(フェネシス)】を捜しているのか」

「ああ、戦いは避けられないだろう。かなり面倒な能力らしいからな」

「それぐらいなら任せてくれ。協力するよ」

「良し、それじゃあよろしく頼む」

「ところで君の言うフェニックスって一体何なんだい? 伝承は知ってるけど」

「大体はそういう認識で良いと思う。ただちょっと複雑なんだよなあ……」

「というと?」

「伝説や神話の存在なのは間違いないんだけど『この世界』で()うのとはちょっと違う」


勝哉はもう少し踏み込んで話を聞いてみた。


「ふむふむ。【神格昇華(ディビジョン)】か。それは非常に興味深いね」

「興味本位で手を出すと痛い目見るから止めといた方が良い。まあ……」


飛鳥は勝哉を見る。


「? どうかしたかい?」

「いや、何でもない」

(本人が気付いてないなら良いか)

「それで、そのフェニックスが君の力の源ということで良いんだよね?」

「困ったなあ。今の能力になった切っ掛けは勿論そうなんだが元々の力が肉体再生で小さい時に火が使えるようになったんだよ」

「飛鳥は神格昇華(ディビジョン)出来るのかい?」

「出来るけどする気は無いぞ。恐らく理論不死(フェネシス)もそうだろう。別に世界をどうこうする気は無いからな」


勝哉は聞いた話を頭でまとめて少し考える。

彼の捜している『理論不死』についてだ。

彼もそれなりに神話の知識がある。

そして魔術(オカルト)側の人間と関わったことも。


「どうした勝哉?」

「理論不死は鉄壁の防御を持つんだよね?」

「そうだが?」

「ひょっとしてだけど理論不死のフェニックスの正体は『護国の鳥』かい?」

「多分……そうなんだろうな。三羽のフェニックスはそれぞれ『習合(しゅうごう)』や『合一(ごういつ)』って言って同一と見做(みな)される神格の神性(ディバイン)を複数持ってるんだ」

「……反則だな……」

「そうでも無いさ。三羽揃わないと全ての力は使えない。俺は二羽分の力を使えるけど使う機会なんてまず無いからな」

「でも僕に対して使っていたよね。AIMが狙ったように飛んできたし」

「位置確認したのは『ウジャトの目』だけどAIMを感知させたのは自前だから。というかAIM拡散力場って普通は機械で測るもので人間が感じるものじゃないんだけど」

「それは失敬。で、他に何か言うことは無いかな?」


飛鳥は沈黙する。実際言ってないことがあるからだ。


「人それぞれの感覚にもよるんだけど幾つもの存在と習合したり合一とされたりして、尚且つその力を別々に使えるものを『神群(しんぐん)体』と呼ぶ。文字通り『神の()れ』だ。酷いものだと同一存在とされるものや習合して合体させた分の格や力までもが能力を別にして(・・・・・・・)加算されるんだよ。『神話体』なんてバグを目指してる奴もいるみたいだけどね」


それを聞いて勝哉は思った。

自分もその完全体を見たいと。

こうして三人目のメンバーが誕生した。 
 

 
後書き
ここに書いた設定はこの先出るか解りません。

昔書いた夢絶君が神群体のはずでした。 

 

Logic

 
前書き
どの順番で書こうか悩みました。 

 
6月14日───

野口勝哉(やぐちしょうや)が出掛けてから二日後。遅れて出発した神薙悠持(かんなぎゆうじ)は目的である二人のLEVEL6がいるという場所に来ていた。


「こんな所に居るということは俺みたいに人と関わりたくなかった連中だったりするのかね」


此処(ここ)は学園都市の『第一七学区』

クローン食肉や野菜の人工栽培をしている農業ビルが存在する学区。また学園都市内で使用される工業製品の製造に特化しており施設の大半が自動化されている。

オートメーション化の影響で人口は他の学区に比べて極端に少ない。道路にも余計な電飾は無く夜には自動工場の照明しか灯らないため他の学区よりも比較的暗い。


「まあ人が少なかろうと見付かるんですけれどね。俺が良い例だわ。定期的に場所変えてもそうだったからな」


ただし悠持にとってある問題があった。


「この学区の中でも特に人口が少なくて使われてない所だからそこそこ力を出せるんだが二人の内の一人しか顔が解らないんだよなあ。名前は判明してるんだけど」


取り敢えずその二人が居るらしい施設の中に入って歩き回った。そして手頃に座れる場所を見付けて持ってきた袋を開ける。


「敵地で飯ってのもあれだけど折角買ったからな。一旦休んで食わせてもらおう」


おにぎりとお茶を取り出して昼食を始めた。そして辺りを見ながら考え事をする。


「何かの気配はしたんだから誰かが住んでるのは間違いないんだがなあ」



食べ終わって一時間ほどその場に居座る。そして考えをまとめた悠持はゴミを能力で処分し立ち上がった。


「よーし、そんじゃ景気よくこの周辺をまとめてぶっ飛ばして───」


神薙悠持は面倒なことが嫌いなのだ。


「おい止めろ馬鹿!」


一人の青年が慌てて飛び出して来た。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おっ、見付けたぜ《騎城優斗(きじょうゆうと)》。探してたんだ。そっちから出てきてくれるとは有り(がて)え」

「くっ、全く滅茶苦茶な奴だな。思考が読めない」

「早速で悪いんだがちょっくら俺と一緒に来てくんねえか?」

「俺達はもう他人とあまり関わりたくないんだよ。放っておいてくれ。とは言っても逃がしてくれそうに無いな」


悠持はニヤリとした。


「安心しろよ。俺らの目的が達成したら元の生活に戻って良い。そこは保証するぜ? 何せウチのリーダーのお墨付きだ。それにどうしても譲れない部分があるならリーダーを力付くで倒しゃ良い」

「協力して何のメリットがある」

「俺等の組織は全員が絶対能力者(レベル6)だ。身の安全は確保出来る。それにもう少し仲間が増える予定なんだよ」


優斗も理解はしている。悠持の言っていることが本当なら一時の安らぎは得られるだろう。

自分と一緒に行動している彼女にとっても同じくLEVEL6の人間と関わるのは決して悪く無いことだと思う。だがその為にはやはり避けて通れないことがある。


「着いていっても良いが条件がある。聞いてもらえるか?」


悠持は快く頷く。


其方(そちら)は承知だと思うが俺と行動を共にしている《七草花夜(ななくさはなよ)》という娘は気が弱いんだ。出来るだけ気を配ってあげてほしい。スイッチが入ると面倒なことになるんだ」

「七草は気が弱いのか。良いぞ、それくらいウチのリーダーはお安い御用だ。俺も可能な限りは気を使う。条件はそれだけで良いのか?」


本人のいない所でしれっと勝哉に押し付ける悠持はなかなか良い根性をしている。


「お約束と言って良いのか解らないが君の力を確かめさせてもらいたい。二人の身を預けるに値するかどうかね。ちなみに途中で彼女が割って入る可能性があるから気をつけてくれ」

「構わねえよそのくらい。二人掛かりでも良いじゃねえか。望むところだ、掛かって来な」

勝哉(あいつ)が不死の能力者を連れて来るなら俺はお前等二人を仲間にしてみせる)


こうして変則な二対一の戦いが始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あっ、先に言っとくけど俺が使う能力は直接攻撃するようなタイプじゃないから基本は格闘になるよ。物足りないかもしれないけど其処は我慢してくれ」


「別に構わねえよ。LEVEL6が超能力使わなけりゃ戦闘出来ないはずが無いんだからな。それに戦闘以外の能力も組織には必要なもんだ。まあその能力によるけど」


そう言って悠持が前に歩く。

隙だらけで素人にも解る。

彼が武術を(かじ)ってすらいないことが。

優斗はその場から動かない。

対する悠持は優斗の間合いへ入るまでに彼の様子を分析しだした。


(膝を曲げず腰を落とさない。見たこと無い構えだな。(かかと)はやや浮かして母趾(ぼし)球に重心を掛けてる。さて何処の格闘技が飛び出すやら)


攻撃がクリーンヒットする位置まで近付き間合いが重なる。

先手は性格が攻撃型の悠持からだった。

普通の前蹴りだが彼の脚力は数字で言う1に押さえた『常人』の最低値状態でも原付きがノーバウンドで10m以上飛んでいくので普通の人間では受け切れない。

一般人をあしらうだけなら相手に合わせてもっと加減するが今回は1で足を振り抜く。

LEVEL6の肉体に加減する必要は無いからだ。

例えそれが非戦闘タイプの能力者だとしても。

優斗は前足蹴りでそれを迎撃する。

その一撃で悠持の体術を解析していく。


(言うだけあって身体能力は俺より高いな。格闘技の段位だと二つは違う。天性の感覚(センス)もあるし、蹴り同士が当たってバランスが崩れても直ぐに体勢を立て直した。この男が真面目に武術をしていたら俺ぐらいでは勝負にならなかったろうに……惜しいな)


悠持は格闘技を使えないからこそ出来る型の無い自由な攻撃を繰り出して優斗を防戦一方に追い込んでいく。

そして空中で逆立ちしたような体勢のまま、手で着地して体を(ひね)った。そのままブレイクダンスと某格ゲーにある空中旋風脚を合わせたような回転蹴りを叩き込む。


「そらそらどうしたどうしたぁ。お前の持ってる力はこんなもんなのかよぉ?」


悠持が手で飛び上がり体を縦に回転させて蹴り込む。しかしそれは優斗に当たること無く地面を(えぐ)った。


「待たせたな、ちょっと時間が掛かったがもう大丈夫だ。ここからが俺の戦い方だよ」


構えはそれほど変わらないが一般の空手のように後手が引き手として構えるのではなく前手に添える『夫婦手』となっている。そして今度は優斗の方から前に出た。


「これでまともな殴り合いが出来そうだな」

「そうだな」


二人の突きと蹴りが何度も交錯する。悠持の攻撃は全て(さば)かれ優斗の攻撃は狙った通りの場所へ飛んでいく。

しかしこの流れは騎城優斗にとって予想外のものだった。本来なら動きを記憶された悠持が全て計算通りの挙動を取られ敗北するはずなのだから。

それなのに拮抗が数分間も続いている。互いの速さは既にマッハ100。

二人が科学に生きる者の縛りである物理法則に従っていればこの無人地帯は嵐に包まれ衝撃波と高熱で廃虚と化しているだろう。


「なんだその動きと反射神経は、どういう原理で俺の攻撃を回避してる? パターンは完璧に読み切ったはずだぞ!」

「言ってみりゃあ()だ。体が考えるより先に動いてんだよ。本能って言っても良い」

「バグかお前……」


しかも互いに動きを修正して対応し始めると悠持の方が一歩上回っている。才能と感覚(センス)があるのは解っていたがこれ程とは。おまけに優斗の動きを取り込み洗練され出している。


「嘘だろおい。俺が何年掛かってここまで技を練ったと思ってるんだよ」


たまらず悠持から離れ優斗は『気おつけ』に似た構えをする。出す気は無かったが使わせてもらおう。悠持に対しての敬意の表れとして自分の使える最高の技術を用いることにした。


(何だありゃ? あのまま歩いて来やがる。何かの技だったりすんのか?)


優斗の顔からは表情が消えている。そして先程までと違う気配を漂わせている。だが今の悠持には退くという考えは無い。更に速さを上げて攻撃を仕掛けた。

悠持の拳はマッハ200で相手の頭の真横をすり抜ける。それと同時に服の(えり)が捕まれ悠持は後ろから強い力で引っ張られたように腰から下が宙に浮いた。

そこを狙って優斗の攻撃が容赦無く決められる。この戦い始まって以来のダメージを負った悠持は即座に場から跳ぶ。相手は追って来ない。再び普通に歩いて近付いて来る。


(何だ今の攻防は? カウンター取られたみたいになったぞ。それによく見ると左右のぶれが一切無い。正中線が綺麗に揃ってる。防御型の技なのか?)


能力を使えば済む話だが二人にその考えは全く無い。素の実力で認めさせなければ意味が無いからだ。そして悠持には多少の危険を伴おうと挑むしか無い。


(あの野郎を失望させるわけにはいかねえからな……。それに勝哉(あいつ)を倒すのに此奴(こいつ)で手間取ってるわけにはいかねえ。もう少し上げさせてもらうぜ)


悠持のスピードがマッハ300まで上昇する。

しかしそれでも優斗は崩れない。

どうやっているのかは不明だが此方(こちら)の攻撃が無謀なものにしかならない。


(何となくだが解ってきたぜ…コイツのこの歩法にまともな体術で仕掛けるのは同格のやつじゃねえと恐らく無理だ。けど技巧で俺が勝てることは有り得ねえ。流石に此処までのやり取りで覚えるのは時間が足りねえからな)


しかし悠持には見えてきた。決して攻略することは不可能ではない。それは相手をしている優斗にも感じ取れている。


(何だこの男……。二度目に喰らった時から既に急所をずらし始めてた。交差法で決めてるから反射神経で回避するのも難しいはずだ。反応速度が桁外れなのか? それとも能力を使っているのか?)


違う。

身体能力が優斗より上なのは間違いないがそれを考慮に入れても彼の『御殿手(うどんでい)』からのカウンターを躱すには至らない。

別に悠持は神経の情報伝達速度で対応しているわけでは無いのだ。


(ようや)く……慣れてきたぜ)


慣れ。

そして本能。

無意識による対処能力の早さが原因だった。

同じLEVEL6から見ても異常な対応力が悠持には備わっている。

そして再び拮抗に持ち込んだ。

今度は二人の攻撃がヒットしない。

片っ端から寸止めに見える程の見切りや肌を掠める紙一重の攻防が繰り返される。

互いの力が少しずつ引き出されていく。

冷静な優斗と自然体の悠持がどうしようもなく高ぶっていた。

ここまでまともな勝負をしたのは久し振りなのか熱が入る。

もしかしたら二人ともLEVEL6になる前を思い出しているのかもしれない。


(ああ…楽しいなあ……コイツがここまでやれるとは思って無かった)

(普通の人間はこんな気持ち解らないだろうな)


圧倒的な力というものはつまらないものだ。

常人の枠を遥かに越えた彼等は力を制御出来ても社会に加わることが叶わない。

人間とは過ぎた力に畏敬を払うが同時に脅威とも捉える。

その行き着くところは排除しかない。

孤独と孤高に(さいな)まれ、『世界』という(くく)りで見ても強大なLEVEL6は普通に生きることすら許されない。

友と語らい情を(はぐく)み絆を繋ぐこともまずもって無い。

だからこんなギリギリの戦いさえも楽しんでしまう。

超能力者(レベル5)の面子を見てもそうだが学園都市の能力者が必ず持っている『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』は非現実な事象を信じる力であり妄想力だ。

それゆえに常識は通用しない。

性格破綻者も多く存在する。

それを上回る絶対能力者(レベル6)が一般人と解離(かいり)した精神性を持っていても何ら不思議では無いのだ。

ただ、今戦っている二人や野口勝哉、桐崎飛鳥はかなりまともな部類である。

とくに勝哉は力を抑えて普通の学生生活を送りながら風紀委員(ジャッジメント)(つと)める極めて(まれ)なLEVEL6だということはここで言っておく。

そして遂に悠持と優斗の拮抗が崩れた。

悠持の拳がマッハ400で悠持の頬を捉える。

完璧に入ったそれが決め手。

優斗が膝から崩れ落ちた。


「やっぱりこれは花夜さんが来るまで待ってるべきだったかなあ……」

「取り敢えず助かったぜ。まとめて相手をするのは面倒臭いからな」

「はは、確かにそうかもね。でも……ちょーっと遅かったかもしれないよ?」

「なに?」

「お帰り」


悠持の背後には音と気配を殺した《七草花夜》が幽鬼(ゆうき)のように立っていた。

悠持は後ろを振り向かず全力で横っ跳びする。

今まで立っていた場所に自分の身長ほどの深さがあるクレーターが出来た。


「花夜さん。彼は敵じゃ無いよ。でも君が戦いたいなら好きにすると良い」

「おいおい!?」

「そうする」

「彼女は俺より強いから頑張ってくれ」


優斗はそう言って目を(つぶ)り眠った。


(超無責任だあいつ!)

「誰か知らないけど……倒す」


やる気満々の彼女に悠持は能力を使用することを視野に入れて相対した。 
 

 
後書き
誰か気力、体力、時間、話のネタをくれー。

優斗君と花夜さんを二人一緒に戦わせることも考えましたけど能力を出すのは話が進んでからにしたかったので体術オンリーになりました。 

 

Sense

 
前書き
花夜さんも今の時点ではあんまり能力を使わせる気はありません。fortressやSTUDENTのメンバーは緊急時以外、仲間にも見せない奥の手や特殊戦術、別の能力みたいなのが存在しています。出せるか解らないですけど。 

 
《七草花夜》が真っ直ぐ神薙悠持に向かう。


(馬鹿正直に突っ込むだけじゃあカウンターの餌食だぜ!)


しかし悠持のそんな考えは根底から覆されることになった。

何故かいきなり体勢が崩れたのだ。

その隙に花夜が体に触れる。


「うおぉっ!?」


瞬時に投げ飛ばされた。

彼はこの投げに覚えがある。

今まで戦った中で何人かいた。


(合気道かっ、だが今までの奴とまるで違う性能だな)


空中で後方宙返り、いわゆるバク転をしながら悠持が着地すると花夜は既に彼との間合いに居た。

悠持は後ろ足を蹴り出し前足で踏み込みながらストレートを打つ。

それに対して花夜は胴体を軸にして時計の針のような動きで側面に回り込んだ。


(死角に入った)


花夜が言う『死角』とは別にただ見えないだけの位置では無い。

相手の視野から外れ、且つ自分からの攻撃は届くが相手からの攻撃は届き難い位置のこと。

今は悠持がストレートを出した腕の外側。


「やっべ」

「フッ!」


今度は腕を掴んだまま地面に投げ落とした。

固い場所に叩き付けられ悠持が顔を歪める。

しかしタフな彼のことだ、直ぐに飛び下がり距離を取る。

其処から暫くは花夜の動きを観察し続けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(七草の動きは騎城と全然ちげえな。合気道ってこんな武道だったっけか?)


悠持がそう思うのも無理は無い。

この合気道は開祖が考えた本来の思想に花夜が色々と手を加えたものなのだから。

『力の出し方』

『接触の方法』

『触角情報を操る技術』など幾つも試して作り上げた彼女だけの合気道。

それでありながら合気道の技法に於いても歴史上で実際にここまで極めた者は皆無に等しいだろう。

例えば一番最初に悠持がおかしくなったのは『接触点』に関するものだ。

その名の通り本来は触れることで為し得る技術なのだが熟達すると直接触れることなく相手の攻撃のタイミングや勢いを利用して動きを導き崩すことが可能とされている。

柔道や柔術で云われたこともある触れずに投げる『空気投げ』を気の力無しで実際にやると同じようになるのかもしれない。


(やべえぞ。超絶めんどくさい体術使いだ)


悠持が能力無しで勝つには時間を掛けて観察するか直接技を受けて慣れるしかない。

考えている間も花夜は距離を詰めてくる。

その状況に腹を(くく)った悠持は自分から攻めることにした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっぱ俺にはこれしかねえか」


自分の感覚に任せて思うままに暴れる。

なんだかんだでコイツが一番性に合っている彼にはその選択が必然だったのかもしれない。


(なにこの人? 急に動きが良くなった。玉砕覚悟で突っ込んでるわけじゃなさそうだけど)


花夜に何度投げられても受け身を取り、技を切り返し、腕を振り(ほど)き向かってくる彼は腹を()かせた猛獣のよう。

徐々に対応し互角の乱取りに持ち込んだ。

そして遂に悠持が追い抜いた。


「こんな感じか?」


彼は合気道の投げを決めた。

袖や(えり)、そして関節の取り方は一日の長がある花夜が(くう)に飛ぶ。

彼女はショックで受け身を取れなかった。

しかしそれでも何とか立ち上がる。


(私の合気道を極意まで出せば勝てる。でもそれはもう能力を使うのと変わりが無い。それに優斗君が頑張ってくれたことが無駄になってしまう)


花夜は迷った末に負けを認めた。


「そっか。もうちょっと合気道を試してみたかったんだけどな。結構面白えな武術って。勝哉にも教えてもらおうかね」

「貴方はそのままで良いと思いますよ……。覚えられると反則ですから」


悠持は騎城優斗を背負い、七草花夜を連れてSTUDENTのアジトへ帰還した。 
 

 
後書き
合気道って調べると明らかに体術じゃない説明や理念、思想、極意がありますよね。花夜さんが使える合気道の極意は『気』や道教の『(タオ)』みたいなものになります。

合気道の一部要素を使ったらそんな風になりました。彼女が本気出すと既に魔神より強いかもしれない。
 

 

Breaker

 
前書き
次の戦いが大変そうです_φ(TдT ) 

 
7月20日───


《桐崎飛鳥》、《騎城優斗》、《七草花夜》の三人が【STUDENT】に新しく加わってから数日が過ぎた。

そんな時、学園都市で最大の規模を持つ情報組織【GROW】のNo.2《島崎向子(しまざきこうこ)》が尋ねて手紙を持ってくる。


「この手紙の差出人については書いた人の依頼により秘密なんだよね」


そう言って野口勝哉に手紙を渡すと、また直ぐに別の所へ転移(ワープ)した。

取り敢えずその手紙を読んでみる。

そこには短い文章が書かれていた。


『名前も書かずにこの手紙を出したことを許してほしい。野口君が絶対能力者(レベル6)を集めていることは知っている。僕自身と一緒に行動している連れもその一人だ。そこでだ、君に会って話をしたいと思っている。叶うなら其方(そちら)の組織に入りたいんだよ。STUDENTへの加入方法と加入是非の判断はそちらに任せたい。君がよく行くカフェで朝10:00に待っています』


「ふむふむ……。どうやら加入希望者のようだね。行くのかい勝哉?」

「罠の可能性は無いと言い切れませんが味方はある程度欲しいところですから」


優斗と花夜は行こうが行かまいが何方(どちら)でも構わないようだ。


「もちろん行くさ。折角のお誘いだしね」

「それにしても誰かが観察してるとはな」

「俺達に気付かれないってことは普通じゃないのが間違いねえからちったぁ期待して良いんじゃねえか?」


他の三人は意外と好意的に受け止めている。

まあ勝哉、悠持、飛鳥は何かあっても自力で何とか出来る自信が有るからでもあるのだが。


「それにしてもよく僕が週4で通っているカフェに気付いたものだ。この人物もコーヒー好きなのかな?」

(それは気付かれてもしょうがないと思う)


勝哉の台詞を聞いて他の四人は思った。

普通は週4でコーヒー飲みに行かない、と。

しかし勝哉にとっては当たり前のことなので気付かない。


「早速、明日行こうと思う」

「了解」



勝哉は楽しみにしながら眠りに()いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


6月21日───


此処(ここ)だよ」


勝哉が他のメンバーと来たのは一軒のカフェテリア。そこが手紙で指定された場所だ。


「何だか隠れるようにして立ってますね」

「昼間だけどこの辺は人もあんまり歩いてないな」

「けど良い雰囲気の店だ」

「俺が飲むコーヒー置いてるかな?」


四人は店構えを見てそれぞれの感想を述べる。


「まあマスターがあんまり騒がしい店にしたくないみたいだったからね。僕もある程度、席が空いてる方が好みだからお客さんが少ないのは丁度良いんだよ」


この場所は『第四学区』。食品関連の施設が多く並び、この学区だけで世界中の料理を楽しめる。テレビや雑誌などのメディアに取り上げられる有名店も幾つもある。

勝哉は四人と共に席に座り何時ものようにコーヒーを頼もうとした。するとマスターが注文前にコーヒーを出してきた。


「マスター?」

「あちらの方から自分達が居る間に野口様が御来店されたら渡すようにとお願いされまして」


そちらを向くと何か飲んでいる青年とマスター御自慢のパフェを頬張る少女がいた。勝哉は彼等に近付く。すると向こうから話し掛けてきた。


「やあ。僕は《池野操作(いけのそうさく)》と言う。初めまして野口君」


彼はパフェを食べる少女にも自己紹介を促す。


「私は《箱部鈴菜(はこべりんな)》と申し上げます。どうぞお見知り置きを」

「これは御丁寧にどうも」


彼女の雰囲気と仕種(しぐさ)を見て勝哉はどことなく品の良さを感じた。もしかしたら箱入りのお嬢様だったりするのかもと。

三人はマスターの前にあるカウンターに向かう。鈴菜がパフェを食べ終わりコーヒーを頼んだことで七人並んでコーヒーを飲む光景が広がる。


勝哉はエスプレッソ。

悠持はカフェ・フレッド・シェカラート。

飛鳥はキャラメル・マキアート。

優斗はカフェ・ラッテ。

花夜はカフェ・オ・レ。

操作はフラットホワイト。

鈴菜はアフォガート・ココア。


悠持達が飲んでいる間に勝哉と操作が話をする。


「STUDENTに入りたいのは解った。でもそれ相応に実力が必要になるよ? 非戦闘型の能力だとしても自己防衛くらい出来なくちゃ困るからね」

「それじゃあ僕と鈴菜さんの二人と勝哉(きみ)一人のハンデを貰っても良いかな?」


勝哉は快諾し、コーヒーを飲み終える。そしてカフェから出ると操作と鈴菜を先頭に移動し始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「此処に来るのは[風紀委員(ジャッジメント)]での訓練と試験の時以来になるかなあ」


勝哉が案内された場所に懐かしむ。それもそのはずやって来たのは『第二学区』である。ここは警備員(アンチスキル)や風紀委員の訓練場があり、爆破物や兵器等の試験場も存在する。

他にも自動車関連学校の為に用意された実験用サーキットなど『騒音の出る施設』ばかりが集中しており騒音対策として学区の周囲は『逆位相の音波』を放出して騒音を低減する『スピーカー』の付いた『防音壁』でぐるりと囲まれている。

才人工房(クローンドリー)や量産型ドラゴンライダーの実験用サーキットといった場所もこの学区にある。


「目的地はもう少し先だよ」


操作と鈴菜は段々と人気(ひとけ)の無い方へと向かっていく。そして辿り着いたのは地下にある巨大な水路だった。

(いわ)く、この場所は建設工事が白紙になってしまい手付かずのまま残されたらしい。つまりは此所(ここ)で二人の『STUDENT』加入を賭けた戦いをするということだ。

操作と鈴菜が勝哉と対峙する。優斗や飛鳥は周囲でそれを見守ることにした。


「野口勝哉の戦いを見るのは初めてだからな。よーく観察させてもらうぞ」

「悠持さんが買ってる実力が本物かどうか、この目でしかと確かめさせてもらいます」


優斗と花夜の言葉に悠持と飛鳥は苦笑する。


「ま、俺も勝哉(あいつ)とは本気で()ってねえけど解るぜ。少なくとも俺が真剣(マジ)になるくらい強いってのはな」

「俺もフェニックスの神仏魔性(ディバイン)が複数無かったら正直言って戦りたくはない相手だよ。炎と再生だけでどうにかしようと思ったら神格昇華(ディビジョン)させてもらわないと」


この戦いに注目しているのは優斗と花夜だけではない。悠持と飛鳥も勝哉の実力が操作と鈴菜によってどれだけ引き出されるか期待しているのだ。もしも彼と命を懸けた戦いになった時のために。 
 

 
後書き
というわけで彼等が飲むコーヒーの紹介が一番悩みました(笑)

旧版では優斗君と花夜さんの出番が少なかったので今回は連れてきました。 

 

Style

 
前書き
_〆(。。) 

 
FLICK(フリック)


野口勝哉(やぐちしょうや)は指を軽く、そして素早く弾くように僅かな動きをさせた。

まるで空気を押し固めたような目に見えない弾丸が成形される。


「行くよ二人とも」


勝哉の確認に池野操作(いけのそうさく)は忍者が持っていそうな『苦無(くない)』を取り出して構える。


「僕は行けるよ」


箱部鈴菜(はこべりんな)の手にはグローブが()められ何時でも飛び出せるフォームになった。


「私も構いません」


二人が了承したのを合図に空気の弾丸が一発ずつマッハ100で放たれる。

操作は視認出来ないそれをマッハ200で切断し、鈴菜は殴って打ち消した。

圧縮した空気が斬られて解放されると火や熱の無い衝撃波のみの爆発が起きる。

三人はその風圧を全く気にせず対峙したままだ。


「これは失礼。どうやら手抜きし過ぎたようだ」

(池野君はデキる奴だと踏んでたけど箱部さんもなかなかどうして(あなど)れないな。よし、もう少し試してみるか)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝哉は再び空気弾を用意する。

ただし今度は自分の周りで壁になる程の数を造り出していた。

そのせいで光が屈折し、他の人間から見た時の勝哉は歪んで見える。


(これは凄いな。空気を弄りすぎて地下の大気と肉眼で捉えられる光が屈折してる。弾数(たまかず)は無尽蔵で雨のようになるんだろう。まあ問題は速度とタイミングなんだけど)

(一対一で戦っていたらまず勝ち目は無かったですね。抑えに抑えてこんな真似が出来るなんて称賛に値します)


操作と鈴菜にはまだ余裕があるが、それでも油断ならない相手だと認識させるには十分な光景だった。


「今度は弾数制限無しだ。君達が音を上げるか僕の気が済むまで撃ち続ける。覚悟してくれ」


速い。

空気が元の状態を維持して動ける上限を遥かに超えて空気の弾が地下空間をこれでもかと言わんばかりに飛翔する。

おまけに目には見えない。

二人はどうやって対応しているのか。

簡単な答えだ。

特に何もしていない。

神薙悠持と騎城優斗の戦いでもそうだったがLEVEL6とは人間を超えている存在。

不条理が服を着て歩いているようなものだ。

音速という速度で捉えることは出来ないと言って良いだろう。

ならば何故、音速の領域でわざわざ戦っているのかというと、それは抑えた状態でどれだけ戦えるのか見るため。

自分の力を制御してどれ程の活動が出来るか確かめるためでもある。

能力の制限も同じ理由がある。

驟雨(しゅうう)のように吹き荒れる億千万に及ぶ空気弾が地下空間を水路ごと削り取っていく。

このままでは被害が地上にも出てしまう。

勝哉は攻撃を止める。

空気の弾丸を全て大気へと戻した。

その後に残ったのは………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「結局最後まで一発も貰わなかったね」


二人は無傷。

敢えて言うなら(ほこり)まみれになっただけだ。

そして今度は操作が動いた。

視線誘導(レッドヘリング)で勝哉の意識を別に()らす。

数字の単位にして『(こつ)

10万分の一秒という時間の隙。

彼にはそれで充分だ。

その間に『抜き足』を決める。


抜き足とは古武術の呼吸法と歩法の合わせ技。

人間は生き物である以上、機械のように目や耳にしたことを全て事細かに認識は出来ない。

脳が確かに捉えて覚えていても、意識がそれを認識出来ない。

もし全て認識して分析などすれば脳がオーバーヒートを起こす。

だから人間の脳は優先度の低い情報を『覚醒の無意識』に放り込んで放棄することで脳の処理を軽くする。

『抜き足』というのはある種の特殊な呼吸法と歩法によって自らの存在を相手の覚醒の無意識に滑り込ませる体術。

相手は見えているのにそれが解らなくなる。

動きを捉えているのに意識がそれを必要の無い情報として処理してしまうので認識が出来ないわけだ。

それこそ生命の危機が迫る瞬間まで。

抜き足を破るには『覚醒の無意識』に目を向けることだがほぼ不可能に近い。

例えば目の前に拳銃を突き付けている相手が居て銃爪(ひきがね)に指を掛けていたとする。

その状況で銃から目を離して別の物を見る。

それくらいの難度がある。

命のやり取りの最中で意図的に相手から意識を外すという行為はそれなりに訓練を積んで自分の体や意識を自在に制御出来なければならない。

普通は見落としたと思えばより集中する。その結果として視野が(せば)まる。

そうするとますます覚醒の無意識が増えるという悪循環だ。

操作と同等の抜き足が出来る者など能力無しでなら第0学区にもそうはいないだろう。

しかし勝哉の喉元に『苦無(くない)』が届く寸前、何かにぶつかった。


「操作君は何か能力でも使ったのかい? いきなり消えたけど」


苦無が空中で止められている。

見えない何かが刃を(はば)んでいるのが見て取れる。

操作が力を入れても前に進まない。


「空気を圧縮して壁のようにしたんだよ。ちなみにそれを突破しても鎧みたいにしたのがあるから苦無は効かない」


それを聞いて操作はゆっくりと苦無を引いた。


「やれやれ。お手上げだね。抑制(よくせい)してどうにかなるもんじゃない」

「もう少し力を出して良いなら抜けますが、そうするとこの地下水路が()たないでしょうし、この辺が退き時ですね」

「じゃあ僕の勝ちだね。試験は合格だよ。(いず)れ君達にはもっと力を振るってもらわないといけないから技の研鑽に(はげ)みつつSTUDENTの活動に(いそ)しんでほしい」


そう言って勝哉は破壊された地下を修復する。


「戦闘よりこれの方が凄いぞ……」

「能力制限がLEVEL5だったら最低でもこの学区が壊滅してたでしょうね」


《騎城優斗》と《七草花夜》は勝哉の演算と能力制御に感心する他無かった。


「池野って最後に何かしたのか? 勝哉が棒立ちになってたけど」


神薙悠持の問いに桐崎飛鳥が答える。


「俺はあそこまでじゃないけど使えるよ。聞いたこと無いか?『抜き足・差し足・忍び足』って」

「あの(たぐ)いのやつか」

「もっと(たち)が悪くなってるけどな」


他の四人が喋っている間に地下は来たばかりの状態に復元されていた。
 
 

 
後書き
書きたいことは色々あるけど上手く話に入れられない。次の話はどうするかな。

今作では経歴的にSTUDENTの体術一位は《池野操作》と思っています。

勝哉君は普通の相手だとFLICK(フリック)のような指を動かすことさえしません。

強いことが解っているので何かの動作を入れて能力を補正しています。

一種のルーティンや構えみたいなものです。 

 

Malfunction

 
前書き
どうしますかね。 

 
《池野操作》と《箱部鈴菜》が【STUDENT】の仲間になって数日が過ぎた。

《騎城優斗》と《野口勝哉》が何やらアジトのPCを弄って作業している。


「そっちは終わったか勝哉」

「僕が着任されてる風紀委員(ジャッジメント)支部のPCはハッキングしてトラップを仕掛け終わったよ」

「こっちもあと少しで駅爆破と【OBJECT(オブジェクト)】を結び付けて関連させるような情報を掲載してる場所にトラップを仕込み終える」


優斗は画面を見てキーボードを打ち続けながら勝哉と会話をする。そして最後のタッチをするとロードバーが表示された。


「これでゲージがメーター一杯になれば完了だ。コーヒーでも飲んで休もうか」

「そうだね。作業自体は何てこと無いけど気を使ったから脳が疲れた。糖分補給に甘い物も欲しい」


二人は部屋にあるデスクにコーヒーとケーキを持ち寄り話し始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ところで勝哉。あのメールの相手はどうするんだ?」

「僕は操作に観察されてたのが解ってから更に周囲に気を配ってたんだけどね。また知らない人間に連絡を取られるとは思ってもみなかったよ。まあ飛鳥みたいに【GROW】の取引相手の一人なんだろう」


操作と鈴菜がSTUDENTに入って直ぐに次のLEVEL6から連絡が来ていたのだ。ちなみにこのような内容のメールだった。


『えーと、これは《STUDENT》の野口勝哉に届いてるのかな? もし間違ってたら気にせず消去して忘れてくれ。俺はお前等と同じ【絶対能力者《レベル6》】だ。STUDENTが仲間を集めてるのは知ってるぜ。俺も其処(そこ)に入ってやる。だがタダで入るつもりはさらさらねぇ。そっちの力を試させてもらうからメンバー全員で来なよ。場所は『第九学区』だ。待ってるからな』


「どう見ても挑発と戦闘馬鹿の発想だよな。LEVEL6っていうのは案外暇人が多いのか? 俺と花夜さんは出来るだけ人に見つからないようにしてたけど」

「退屈というのは否定しないよ。このメールの(ぬし)は力を振るう場所と相手が欲しそうな気がする。挑戦状と言っても良いようなものだし」


無視しても問題無いのだが勝哉は時として不合理な行動を取る。自分の計画通りに行くことは勿論好ましいことだ。しかしそれが盤上を引っくり返すように状況が覆る事態もまた、彼の楽しみの一つなのである。


「両側が奈落の底になってる地獄の綱渡りだよな勝哉の計画って。一歩どころか半歩失敗(ミス)ると真っ逆さまだ。出来るんだからもっと堅実に進めた方が良いぞ」

「ジェンガやトランプのタワーとおんなじでね。崩れるかもしれないドキドキ感が(たま)らないんだよ。地に足を付けて着実に歩む王道も良いけど『愚者(フール)』のように行き当たりばったりもまた楽しいものさ」

「前言撤回させてもらう。勝哉のは地獄の綱渡りであみだくじ()るようなもんだ。ていうかよくそれでやって来れたなあ」

「生憎と悪魔にも死神にも嫌われてるみたいでね。かと言って女神や幸運に愛されてるわけでも無いけど」


勝哉は自嘲(じちょう)しながら笑う。そんな彼に優斗が苦言を(てい)した。


「あんまり()き急ぐなよ。勝哉(おまえ)に何かあったらSTUDENTに居る連中がどうなるか解らないからな」

「ああ、気を使わせて済まない。それでメールの件だが二日ほどしてから行こうと思う」

「悠持がえらくノリノリだったからなあ。いざという時は止めてくれよ? たぶんアイツの能力がLEVEL6で解放されたら勝哉と飛鳥しか頼りに出来ないからな」

「優斗の力で少し時間を稼いでもらいたいんだが」

「悠持が()る気にならなければな」


STUDENTのメンバーは次の絶対能力者(レベル6)がどんな人物なのか期待と不安が入り交じった二日間を過ごした。
 
 

 
後書き
よし、優斗君の出番を作れたぞ。

戦闘での活躍はまた(いず)れ。 

 

Abnormality

 
前書き
φ(-ω-。`) 

 
第九学区───

STUDENT一行は8人目のLEVEL6が指定した場所に来ていた。

そこは取り壊される寸前の多目的ホール。


「よう。来てくれてあんがとよ。歓迎すんぜ。俺の名前は《影縫子規(かげぬいしき)》ってんだ。(よろ)しくな」


彼は片足だけだらんとさせ、片腕だけで頬杖を突いている。

その余裕綽々な(たたず)まいと身に(まと)う気配は(まさ)しく強者だけが持つそれだ。


「わざわざ歓迎ありがとう」

「お望み通り全員で来てやったぜ?」

「ぶっちゃけた話、舐められてるよね」

「俺から言いたいことは特に無い」

「持てるもの全てで挑まないと死にますよ?」

「強い弱いに拘るのは素人」

「弱いからこそ見える世界もあるんです」


七人は色々言いたいことはあるが影縫子規を倒してからだと呑み込んだ。


「能書きは良い。俺が興味あるのはお前等の力だ。こちとら思うように力を出させてもらえないのが窮屈で仕方無いんだよ。だから期待させてもらうぜ? その為にこの学区を選んで俺の意志を示したんだからな」


その言葉に神薙悠持が反応する。


「まあそんなこったろうと思ったぜ」

「彼は全く嘘を吐いてないね」


池野操作も洞察力と観察力で子規の心身状態を読んだ。


「おおっ。解ってくれて嬉しいぜ。俺の思考はこの第九学区の制度にドンピシャなんだ。だからこの区で居座(いすわ)ってる」

「確かこの区独自の制度と言えば……」


箱部鈴菜が思い出そうとした。

この第九学区は主に工芸や美術関連が集まっている。伝統芸能からホログラム技術まであらゆる分野の芸能がこの学区に収まっている。

そして子規が言ったこの学区内のみの特別な条例が存在する。


「年功序列を完全廃止した純粋な実力のみで上下関係が決定される。そういった制度は日本では珍しい」


七草花夜は特に感慨も無く淡々(たんたん)と述べる。

すると子規が拍手しながら足をぶらぶらさせて笑った。


「よく出来ました。俺はその実力制度が気に入ってるんだよ。だから口先だけの説得は聴かない。語りたいなら力で来い。仲間にするなら戦うしかないぞ?」

「良いねえ解りやすい。俺もテメエには体で知ってほしかったんだ。俺はSTUDENTに命を懸けるほど義理があるわけじゃねえ。が、今回はちょっと根性出させてもらう。まぁそんなわけだから……プチッと潰すぞ?」


悠持は普段からは想像がつかないが意外にプライドが高い。子規のSTUDENT全員を相手取るという行為に自尊心を刺激されていた。


「うわーやる気満々じゃないですかー」

「どうするんですかあれ?」

「影縫が殺られる前に誰かが影縫を倒す」

「不味くなったら僕と飛鳥が止めるよ」

「え? 俺もなの?」


悠持以外のメンバーがひそひそ話し合いをしている内に子規が舞台を飛び下りて着地した。

その時である。

地面が彼を中心にして波紋が拡がるように波打った。

物質の状態を操る能力はそこまで珍しいものでもない。だが今の感覚は明らかに異常だった。

まるで本来の性質を発揮出来ず別の事象が起きたような……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「何となく今ので理解出来たかもしれねえが俺の能力はLEVEL6として、というより能力者として異端な部類に入る。まあ暴走するのを覚悟で使わなけりゃキチンと制御出来てるから安心しな。追い込まれたらフルパワーを御目に掛けることになるかもしんないけど」

「ハッ」


彼の発言を悠持が鼻で笑う。

そして操作も何かスイッチが入ったようだ。

二人の目が氷点下まで()()えていく。

それでいて瞳の中には抑え込んだ熱が見て取れた。


「御託は良い。どうやら君には教育が必要なようだ」

「良いね操作。いっちょやりますか」

「いや、頼むから事態をややこしくしないでくれ」


優斗は悩みの種が増えて頭を抱え込んだ。


「はっはっはっ。悪態吐かれるってのも悪くないな。すげえ新鮮だわ。俺がLEVEL6になってそんなこと言った奴いねえよ。やっぱ面白えなお前等。気に入ったぜ。だからギリギリまで能力を使ってくれよ?」


影縫子規は慌てない。

適度に(ゆる)く、適度に(たる)む。

柳に風と受け流す彼の精神性があってこそ彼の能力は彼に応えてくれるのだ。


「それじゃあ始めようか。出番の無いメンバーもいるかもしれないが、そこはそれ。御愛敬(ごあいきょう)と言う奴さ。STUDENTにいる七人の絶対能力者(レベル6)を存分に味わってくれ」


勝哉がノリノリで大仰(たいぎょう)に両腕を広げて魔王のようなポーズを取る。

舐められていることより見たことの無いLEVEL6を知る喜びの方が彼は大きいのだ。


「男性陣には悪いですが、まあ勝負にならない気はしますけどね。貴女もそうは思いませんか鈴菜さん?」

「え? それ私に聞くんですか花夜さん?」


まあ色々あるがそこはそれ、これはこれ。

LEVEL6七人を相手に軽薄さを見せながら脳天気でお気楽極楽な根拠不明の自信を見せる影縫子規は何処まで頑張れるのだろうか。 
 

 
後書き
子規君の戦闘は以前書いた時に納得してない話の一つです。

兎にも角にもあの時よりはましにしたいなあ。 

 

Error

 
前書き
うーん子規君の能力は難しいなあ。
φ(・ω・`) 

 
「~♪~♪」


影縫子規(かげぬいしき)は両手をポッケに入れたまま鼻唄交じりにSTUDENTの方へ歩いてくる。

どう攻撃されても対処出来る自信があるのだろうか?


「違うな。あれはこの状況を楽しんでるんだ」

彼奴(あいつ)は勝算があって前に出て来るわけじゃないってことか」


野口勝哉と騎城優斗は相手の思考をプロファイリングしてみた。

そしてそこからあまり当たってほしくない行動予測をする。


「あの手の類いは厄介だぞ……何をしでかすか解らんからな」

「楽しむ為には喜んで自分の身を危険に(さら)すってことか」

「仲間にするにもその辺りを修正してもらわないと困ります」


桐崎飛鳥、神薙悠持、箱部鈴菜が相手の行動原理を知ってシミュレーションを開始した。

そして池野操作と七草花夜はというと。


「それじゃあ僕が先に行くよ。花夜さんはサポートをお願い出来るかな?」

「私が役に立つか解りませんが手伝わせてもらいます」


花夜が能力で姿を消した。

そして操作が床を蹴る。

その速さと威力でホールの床を抜いて地面を重機で掘り上げたような土砂を間欠泉のように噴き上げる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「お手並み拝見」


土砂に拳を振るう。

しかし当てるわけではない。

拳圧とハンドスピードにより土砂を子規に向かって叩き付ける。

速度にしてマッハ250で飛ぶ土砂は加速で溶けマグマのようになった。

目前に迫る溶岩と化した土砂を見て子規はニヤリとする。

しかしその顔は誰にも見えていない。

小さい子供が無邪気に昆虫を解体する時のように残酷な笑みを浮かべながら彼の能力が発動した。


Get out of order (さあ 狂騒の時間だ) Go Mad (踊ろうぜ!)!」


赤熱して流状になった土砂がその姿を崩す。

そして荒れ狂う大蛇のようにのた打ち回った。

それはホールの所々を見境なく破壊し明後日(あさって)の方へ飛んでいく。

それは勝哉の力によって動きを止めエネルギーを失い黒茶色の土砂へと戻る。

帯びていた1200℃に及ぶ熱も完全に冷却された。そして床に落ち割れて砕けた破片を鈴菜が拾う。


「土を焼いて陶器を作るように焼き物になってますよ」


飛鳥もそれを手に取り指で弾く。

高く響き渡る鐘のような音色だ。



「陶磁器みたいだな。これは面白い」

「だろ? まあそんなことする為にやったわけじゃないんだけどね」

「ははっ。楽しい奴だな野口勝哉。でも戦闘中だってこと忘れてないか?」

「君こそ気をつけた方が良い。目の前の操作だけが相手じゃないよ?」


その言葉が示すように子規の体が何回転もする。

そして何かに顔面を掴まれ後頭部から垂直に落とされた。彼は何かに触られた感触は無い。

顔にも勝手に手の形がつけられたようにしか感じられなかった。

そして子規の顔が元の表情に戻る。


「なーるほどね。こいつは面倒な能力だ。完全ステルスってやつか。五感も六感も働かない上に触れても解らないとかヤバいな」


花夜が操作の隣に姿を現す。


「いちおう頭に叩き込みましたが崩れるかは解りませんよ? 意外と彼のP・R(パーソナルリアリティー)は頑丈そうですからね」


彼女が使う合気道の理念・精神性に『精神的な境地が技に現れる』というものがある。

彼女はそれを『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』に取り入れAIM拡散力場を能力のように扱う(すべ)の修得に成功した。

fortress(フォートレス)】という学園都市が誇る切り札の一つである組織にも同じ技術を操る者がいるのだが、それはまた別の話。


「これで彼の能力が安定しなくなれば楽が出来るんだけどねえ」


操作が拳を開いて掌打の構えを取る。

立ち上がった子規が顎を打ち抜かれて脳が揺れた。視界が歪んで足場が安定しない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(おいおい冗談じゃねぇぞ。俺はもっとコイツらと遊びたいんだ。さっきあの女に喰らった時から演算は働くけど能力が出せねえ状態になってる。だがこんなもんで俺は満足出来ねえんだよ。もっと…もっともっと……もっともっともっとだ!!!)


彼の周囲の空間が歪みだした。

そしてホールの内部が不思議な光に包まれる。それはSTUDENTの一同にも影響を及ぼした。


「何だか身体の調子がおかしい……」

「大丈夫ですか操作さん! それに花夜さん! 姿が出たり消えたりしてますよ!?」

「鈴菜さんもAIMが乱れてます! それに自分で自分の能力を打ち消してます!」


そんな場面を見て優斗がポツリと(こぼ)した。


「能力の暴走だな。三人も巻き込まれてる」

「どうするんだこれ? 俺はフェニックスで死なないけど他の奴はそうもいかないだろ」

「悠持、手伝ってくれ。影縫君の力を抑え込む」

「オーケーだ。全く手間掛けさせやがる。飛鳥、お前も手伝うかあの三人を連れ出しといてくれ」

「操作達は俺の能力で演算を戻してP・Rを安定させながら誘導する。飛鳥は安心して奴を止めろ」



優斗が花夜達を引き連れ脱出すると勝哉、悠持、飛鳥は仰向けになって宙に浮いている子規に近付いていく。すると全ての光が彼に収束し球体となった。


「爆発する前に小さく圧縮された状態だな」

「臨界ってなら俺の倍率変化の出番か」

「熱や火が出たらこっちで食ってやる」


そして四人を内部に残したままホールは跡形も無く吹き飛んだ。

もうもうと立ち込める粉塵と爆煙が一気に収まるとそこには無傷の四人がいた。


「なあ勝哉。あれってどんくらいのエネルギーだったか解るか?」

「多分だけど本来のツァーリ・ボンバ並みじゃないかな。100メガトンだったよねあれ」


飛鳥が思わず苦笑う。


「まあ水爆ツァーリ・ボンバは実際50メガトンにまで出力制限されたらしいけどな」


その半減された状態で広島型原子爆弾リトルボーイの3300倍であり、第二次世界大戦で使われた総爆薬量の十倍の威力を持つと言われる。

この100メガトン級核爆弾の爆発は2千km離れた場所からも観測され、その衝撃波は地球を三周したという。


三人の談笑を意識を取り戻した子規が聞いて宣言した。


「俺の負けだ」


彼がゆっくりと立ち上がる。

そして勝哉の元に近付き握手を求めた。

勝哉も快くそれに応じたその時だった。


「さーて、STUDENTも影縫も此処(ここ)らで大人しくリタイアしてもらおうかな」


何処から現れたのか解らない青年が不穏な気配をさせて嘲笑った。


()けろお前等!!」


子規が勝哉、悠持、飛鳥を突き飛ばす。

男の攻撃が子規を空中へ浮かせた。そして追撃が加えられる。


「くたばれ」


閃光が直撃した爆発によって子規の姿は見えなくなった。 
 

 
後書き
思ったより短くなりました。以前よりは少しましになった気がする。話の流れは変わらないけど。

そして花夜さんの特殊技術の一つが公開されました。 

 

Vide

 
前書き
あー時間掛かったー。かなり簡略化してます。やりたいことやってると作業が終わらないので(笑) 

 
落ちてくる影縫子規(かげぬいしき)を神薙悠持が跳び上がって受け止める。そのまま着地すると桐崎飛鳥と池野操作が駆け寄ってきた。



「これは重症だね」

「俺が不死火鳥(フェニックス)で治す。操作は状態維持を頼む」

「させないよ?」



それを遮るように地を割り空を裂く光が放たれる。しかし箱部鈴菜が三人の前に立ちそれを掻き消した。


「御二人はそのまま治療を続けて下さい」


悠持が謎の青年に近付く。



「誰だ手前(てめえ)は」

「《我紋駿河(がもんするが)》って言うんだ宜しく。アンタ等と同じで絶対能力者(レベル6)だよ」


彼は悪びれること無くしれっと告げた。



「それで、何が目的なんだ?」

「STUDENTと影縫にやられてほしいんだよ。理由は内緒だ」



騎城優斗の質問にあっけらかんとぶち上げる。



「上等だ。やれるもんならやってみな!」

「戦るのは良いけど少し離れてくれ」



野口勝哉が提案する。



「その意見に従う必要があるのか?」


駿河は構わず戦おうとしたが───


「じゃあ実力行使で」


しかしその声は誰にも聞こえない。

既に能力を発動し、彼の後ろへと回り込んでいた七草花夜が凄まじい勢いで投げた。

ハンマー投げなら大気圏の外まで飛んでいきそうな速度で見えなくなるだろう。


「ナイス花夜さん」


優斗と鈴菜が親指を立てる。

花夜も同じ仕種(しぐさ)で返した。


「勝哉、先に行っとくぜ」


ソニックブームを撒き散らして悠持が駿河を追う。


「みんなはここで子規君を頼む」


勝哉も直ぐに後を追う。

少し進むと先の方で二人が戦っていた。

余波で次々と雲に穴が空き、周囲には爆撃のような衝撃が途切れること無く発生している。


「このやろ、何だその体。全っ然、(こた)えてねえじゃねえか」


外から見る分には悠持が圧倒している。

だが駿河には余裕があった。

勝哉はそこで違和感を覚える。


(……AIM拡散力場が増えてる?)


駿河の力が先程より上がっていた。



「スゲェなぁお前。第0学区で集めた意味ねぇよ。充分貰ったから返すわ」


彼は雷速で悠持に突っ込む。

そして体重を乗せながらタイミングを合わせて拳を打った。

まるで自分から壁に激突したように悠持の体が不思議な挙動で跳ねる。


『物理発勁』


体の芯と軸、そして調子を合わせて行う特殊な打撃。その威力は気の力を使った発勁(はっけい)と勘違いをされてしまうほどだ。



(こんにゃろ…! 減衰しなかったらヤバかったぞ!)



そして勝哉が気付いた。


「ははあ、成る程。そういうことか」


そして戦闘中の駿河に手を伸ばす。

その意味を知り、彼の力を理解している者はこんなことを言うかもしれない。


『統べる。魔法のように。全ては彼の意のままに』


駿河の体から何度も音がした。

血を吐きながら()ちていく。

悠持が驚いて降下してきた。


「何やったんだ?」

「彼は君の攻撃を吸収して自分の力にしていた。だから体内で操ってダメージを与えたのさ」


駿河がズタボロになりながら立ち上がる。


「こ、この野郎……」

「彼を連れて帰る」


悠持は呆れてものが言えない。

リスクを承知の上なのだろうが。


「ま、お前が良いってんなら反対はしねぇけどよ」


「我紋駿河。君に拒否権は無い。これからはSTUDENTの一員として頑張ってくれ。ちなみに僕に挑戦するなら場所を選んでくれ」


その態度に諸手(もろて)を上げて降参する。


「OK。何でも言ってくれリーダー。でも…今は休ませてくれ……」


そう言って彼は血塗(ちまみ)れのまま気絶した。
 
 

 
後書き
よし、全員揃った。

みんな旧版よりも世界観以外は強くしたけど力を使う機会はあるのだろうか。 

 

Held

 
前書き
新しい展開になります。
_φ(゚Д゚ ) 

 
朝が来た。

ベッドから起きる。

6時半だ。

今日も一日が始まる。

退屈と平凡で塗り固められた世界。

新たな演者が舞台へ上がる。

彼の名は《的場聖持(まとばせいじ)

野口勝哉と同じ、主人公である。


(自分は【STUDENT(がくせい)】というSYSTEM(ほうそく)を組み込まれた神様の機械人形(ラジコン)ではないだろうか?)


時々そんなことを考えることがある。


「っとと…いかんいかん。作業中だってのに」


彼は部屋の一角を占める三面モニターのPCに対し向き合っていた。

調べているのはとある『駅の爆破事件』

報道では能力者の単独犯行としていたがネットでは何らかの組織が(たくら)んだのではと噂されていた。

それには理由がある。

実際、事件当日の駅以外でも付近の工場で爆発が起きており、その周辺には【OBJECT(オブジェクト)】と名乗る組織だった者達がいたという情報も挙がっていたからである。

聖持はこれに強い感心を示し、時間があれば独自に情報を集めていた。

すると目覚まし時計が鳴る。

直ぐに止めて家を出た。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あれやってると時間忘れるんだよな」


通学路を走る。

朝食の時間が無かったのでコンビニに寄りゼリーを吸いながらチーターもビックリの走り(ラン)とマラソンの金メダリストが真っ青なストライドで見事なモーションを描き出す。

彼は遅刻ギリギリの登校というものはしない。

自分自身で守る『五分前行動』に従って何とか教室に入る。


「疲れた~……もうヘロヘロだよ……」


彼はその日一日を机に()()して授業を受け続けた。そして放課後は足早にとある施設へと向かう。

その場所は【風紀委員(ジャッジメント)】の支部。

彼はそこに所属している。

中にある持ち場。

そこには聖持の良き話し相手が居た。


「やあ。今日も早いね的場君」

「どうも。野口さんも相変わらずですね」


その人物はもう一人の主人公《野口勝哉(やぐちしょうや)

勿論だが聖持は彼の本性を知らない。

そして勝哉も風紀委員には所属しているものの、本命の活動はSTUDENTなことに変わりはない。


(まだ予兆は無いな……)


STUDENTの計画には彼の力が欲しい。そこには勝哉の個人的な願望も含まれてはいるが。


(しかし僕と優斗で仕掛けたトラップに(ことごと)く引っ掛かるとは一体どれだけ【OBJECT】を調べているんだ?)


勝哉と優斗が以前行っていたのはOBJECTと爆破事件を結び付けた情報にアクセスしたPCを逆探知して解るようになるトラップ。


(今は何とも無いがそろそろ手を打っておこうか)


勝哉は策を練ることにした。

その日の仕事を終えると聖持をコーヒーに誘った。ちなみに(おご)りである。

何時ものカフェに行き、二人は話し合う。


「野口さんって顔が広いですよね」


聖持の言う通り勝哉の顔、いわゆる交遊関係は広い。半端な幅の利き方ではない。

有能とか社交的では片付けられない。

歳上の人達にも敬語を使われているほどなので尋常ではない。


「はは、そんなことは無いよ。マスターだって常連だから知ってるだけさ」


そして話題は移る。


「最近OBJECTという組織を調べているんです。少し前の爆破事件にも其処が関与してるという話が出てたもので」

「あんまり深入りしない方が良いよ」


この時一瞬だが勝哉の表情が変わったことに聖持は気付かなかった。


「心配して頂いてありがとうございます。でも、気になることが他にもあるんですよ」

「へー」

「森宮高等学校の最寄り駅で起きた事件で森宮の男子生徒と学園都市の外部から来た少女が居合わせたらしいんですけど……」

「何があったんだい?」

「元に戻ったらしいんですよ。爆破されて崩れた駅が。こう、瓦礫が全て集まって時間を巻き戻したように復元したそうです。ちなみに駅が爆破されたのは他の人も目撃しています」

「………」


勝哉の思考が一瞬止まった。しかし直ぐに高速思考を行ないあらゆる可能性を考慮する。


(OBJECTが直したのか? いや、彼等はそんなことはしない。壊れた物体を元に戻せるLEVEL5までの能力者なら『未元物質(ダークマター)』しかいないが彼もそんな性分じゃない。ということは僕も知らない能力者か魔術サイドだな)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


悩みが増えてしまった勝哉はその日の夜、ある人物に連絡を取った。


「なるほど。僕がPCをクラックして第0学区の情報を消せば良いんだね?」

「ああ。君なら大丈夫だからね。頼むよ」


そう言って通話を切る。


「さてと、後は僕と彼女で的場君に一芝居打つことにでもしようかな」


その頃……。



Goodbye , our prayer.(さようなら、僕達の祈り)

Goodbye , our world.(さようなら、僕達の世界)

Per aspera ad astra.(困難を克服して栄光を獲得する)

Per angusta ad augusta.(苦境を通じ神聖なものへ)

Ad aspera per groriam.(苦難を通じて栄光へ)

Non estrad astra mollis e terris via.(大地から天までの道は平穏ではない)

Groriam qui spreverit , vervm habebit.(栄光を軽蔑する者は、真の栄光を持つだろう)

Id dictu quam re facilius est .(それを言うは易く、行うは難し)


「学園都市……終わりの時は近い。俺達OBJECT(オブジェクト)が復讐を成し遂げるその日まで、首を洗って待っておけ」

「そろそろ夢絶叶(オリジナル)との御対面になるのか。(ろく)な事にならなそうだ。ああ面倒臭い」

「逃がしはしないぞ不死火鳥(フェニックス)。まあそっちもそのつもりだろうがな」
 
 

 
後書き
はい、外国語書くのに超時間掛かりました(泣)

途中の森宮の男子と学園都市外部の少女は恐らく偽悪の方の原作を書いている方しか解らないでしょう。最後の二人はあの二人です。

え? 途中の外国語が何かって?

OBJECTのメンバーが喋ってます。

何かこう、あれですよ。

外国語で言わせたくなったんです。

それより鈴菜さんと勝哉君の話はどうしようか悩む。旧版の時は書いてないんですよ。すごい難しかったんでφ(・ω・`) 

 

Falsify

 
前書き
旧版では避けたのでやります。

向子さん出そうかと思いました(笑)
 

 
その日、いつものカフェで野口勝哉(やぐちしょうや)池野操作(いけのそうさく)箱部鈴菜(はこべりんな)が集まっていた。



「じゃあそういうことだから宜しく頼むよ」

「任せて下さい」

「僕も用事を済ませてくるよ」



その数十分後、的場聖持(まとばせいじ)がやって来た。勝哉はある目的の為に鈴菜とカップルのふり(・・)をすることにしたのだ。



「初めまして。俺は的場聖持と言います」

「私は箱部鈴菜と言います。勝哉君からお話は聞いていますよ」



一体なんと言われているのか気になった聖持だったが何も言わなかった。


「よし。じゃあ揃ったところで注文(オーダー)でも取ろうか。任せて、的場君の分も僕が持つよ」


それに気をよくしたのか聖持は何時も勝哉と一緒に飲んでいるエスプレッソとは違うものを頼む。



「ウォータードリップ(水出し)を」



このコーヒーは専用の機材を用い、水で抽出する。点滴のように一滴ずつ落として抽出するため一杯分で約八時間の抽出を目安とする。

この店ではマスターが少量だけ作り置きしているので直ぐに出てくる。ただし手間隙(てまひま)が掛かるのでそれなりに値段は張るが。



(遠慮しないね的場君)

(容赦が無い……恐ろしい子!)



勝哉と鈴菜は彼の肝の太さに感嘆する。



「豆はロブスタとアラビカ。どちらに致しますか?」



マスターの水出しコーヒーは二種類ある。

ロブスタ種の豆は普通のドリップ式だと苦味が強く出るのだが、水出し抽出にするとカフェイン等の刺激成分が少なく飲み口が良くコクが有るものになる。

『ダッチ・コーヒー』と呼ばれるているのは大体こちらのこと。

そもそもロブスタ種の苦味が強いコーヒーの為に考えられたのが水出し抽出である。

もう一つはアラビカ種の豆であり、繊細な風味を生かすためのウォータードリップ。


なおコーヒー豆はフルシティロースト以上の深煎(ふかい)りでないと酸味ばかりで旨味の無いコーヒーになってしまう。



「アラビカで」



聖持が選んだのは繊細なアラビカ豆。


ちなみにダッチ・コーヒーは酸化がしにくいので冷蔵庫の保存が効く。だから作り置きが可能なのだ。



「彼女に何時ものを」


勝哉は先に鈴菜の分を頼む。

この店No.1サイズのジャンボパフェ(マスターお手製)とアフォガートである。アフォガートのセットは何時ものバニラアイスでなくチョコアイスだがそれは鈴菜が頼んだ。


アフォガートとはバニラ風味のアイスクリームやジェラートに飲料をかけて食べるスタイルのイタリアンデザート。

かけるのはエスプレッソが最もポピュラーだが紅茶やリキュールなどバリエーションが多い。

鈴菜は甘い物が好みなので何時も甘ーいココアをバニラアイスにかけるのだが今日は一層甘くチョコアイスにした。


勝哉はお馴染みエスプレッソだが少し違う。


「マスター。僕は今日の豆をdoppio(ドッピオ)で」


通常のエスプレッソは一杯当たりコーヒー豆を7グラム程度使用する。14グラム程度使用したものを『doppio(ドッピオ)』(ダブルの意味)と呼び区別することもある。豆が多いので当然いつもより濃い。


三人のメニューが来て会話が始まる。


「御二人はこの後どちらへ?」


聖持の質問にすかさず勝哉が答える。


「ショッピングでもと考えてるんだけど」


実を言うと勝哉は操作を聖持に見立てて鈴菜と三人で芝居の予行をしていたのだが、鈴菜はこういうものが苦手らしい。なので先手を打ち彼が答える手法に変更した。

鈴菜はその間モキュモキュとパフェを頬張りアフォガートココア・チョコアイス添えを食べ進める。

そしてその間に聖持と勝哉の会話は一通り終わっていた。


「そろそろみんなとの待ち合わせ場所まで行きます。御馳走様でした。今度はロブスタのウォータードリップが飲みたいですね」

(ええー……)


鈴菜が少し衝撃を受けている。聖持が店を出ると同時に連絡が来た。



「どうやら操作も上手くやってくれたみたいだね」

「私、食べてただけなんですけど良かったんでしょうか?」

「人には適材適所がある。それにメンバーの知らない一面を見ることが出来て良かった。それだけでも一芝居打った甲斐があったよ」


勝哉の笑顔に鈴菜はホッと一安心した。



そしてこの日を境に野口勝哉は風紀委員(ジャッジメント)へその姿を現さなくなった。


運命の時は近い。

的場聖持との道が交錯(こうさく)するまであと僅か。

二人の主人公は同じ道を歩くのか。

それともすれ違うのか。


学園都市と第0学区の混迷は一層その度を増していく。


 
 

 
後書き
「パフェ美味しいです」
(*´ω`*)モキュモキュ

「鈴菜さん良い食べっぷりです」
( ゚д゚)ウム

「名無。言って良いかな?」
( ・д・)

「何ですか勝哉君」
(-ω- ?)

「コーヒーの話で文字数稼いだよね?」
(  ̄ー ̄)

「そこは見逃して下さい。雑なのは自分でも理解してるんです。話が浮かばないんで仕方無く……」
( ´・ω・`)

 

 

To underground

 
前書き
やっと追い付きます。 

 
聖持が風紀委員の仲間と遊びに行ってから数日後、異変が起きていた。

風紀委員の支部にある持ち場が何者かに物色された形跡があったのだ。

しかし別に散らかっているわけではない。

問題は何時も使っていたPCがハッキングされ第0学区やOBJECTの情報が失われていること。


がっくり肩を落とした聖持だが取り敢えず持ち場を調べてみた。

すると一枚の紙が置かれている。



〃これ以上は知らない方が良い〃



まだ脅迫と言った感じではなく警告文のレベルだ。このまま続けたらどうなるかは解らないが。



「こんな時にあの人がいればなあー……」



聖持は箱部鈴菜を紹介された日から野口勝哉の顔を見ていない。

連絡も繋がらない状況。

警告文が書かれた紙を裏返してみる。

するとそこには一つの電話番号とメッセージが書いていた。



〃全てを知りたいならここに連絡を〃



表面とは逆にこちらを誘うような文面。

悪い予感がする。

状況から考えるとこの支部の人間が共犯の可能性が高い。

みんなで遊びに行った日に予定があり行けなかった風紀委員は勝哉を含む数人。

そして勝哉を除くメンバーが皆、今日は支部に来ている。

信じたくない聖持はメモの番号にコールする。

繋がったのはある人物だ。


「もすもす。あ、やっぱり来た。いや~判断早いね的場君」


自分のことを知っている相手に驚くが今は優先すべき事がある。

聖持はこの『向子』と言われる人物と会うことにした。指定されたのはなんと自分と勝哉行き付けのカフェだ。

向子が聖持の顔を見る。

もう怖れていない。

何があろうと受け入れる決心があることが感じられる。



「気に入ったよ。確認するまでもなく覚悟があるみたいだし、君の知りたいことを教えても問題無さそうだ。後は家に帰ってくれれば解るから」


彼女は彼のコーヒー代金を置いて自分が持ち帰る豆を注文する。


「マスター、『コピ・ルアク』の豆が欲しいんですけどあります?」


世界一高いコーヒー豆。

どんなものかは知らない方が良い。

興味はあるが飲む気が()せる。



(野口さんなら飲むんだろうか)



聖持がエスプレッソを飲んで家に帰ると見覚えの無い地図があった。

それに従い学園都市にある巨大エレベーターの一つに乗り込む。

地図と一緒にあったメモのパスワードに従いエレベーターのボタンを押していく。

このエレベーターは一般人も使うので間違って地下の第0学区に行かないようにという配慮だ。


「これで解るのか。真実が」


そして遂に聖持は第0学区へと足を踏み入れる。


「此処が第0学区・四大区画の一つで最も治安が劣悪とされている『腐敗区』か……」


不吉な死の香りが漂う。

墓場のような不気味さを放ちながら暴虐の息吹(いぶき)を感じさせる風が吹く。

そしてこの地で全てを操る青年が仲間と共に聖持を待ち受けている。



「彼は二日後にはやって来る。その時は僕達なりの歓迎をさせてもらうよ」

(わり)いけど俺は何処まで加減出来るか解かんねえぞ」

「私の力で打ち消せるでしょうか」

「彼の肉体が神に届き得るか見極めたい」

「必要なら、私も戦う」

「的場聖持がどんだけ強いか楽しみだなあ」

「俺はやつの力を吸収して謎を解き明かしたい」

「俺の出番は彼に『CODE(コード)』を打ち込むことだ。そして新しい力を掴む」

「フェニックスの出番。来ないと良いなあ。理論不死(フェネシス)と戦るまでは死ねないんだよ」



 
 

 
後書き
「なあ勝哉。気になってたんだが」
( ゚∀゚)

「なんだい悠持?」
( -_・)?

「その袋なんだ?」
(・3・)

「こっちに来る前にコンビニで買ったコーヒーだよ。少しの間こっちに居るからね」
( ^∀^)

「そんなに飲むのかお前!?」
( ; ゚Д゚)

「味はマスターのとは比べるまでも無いけどコンビニのも色々とあるから楽しいよ?」
(^∀^ )
 

 

Decey

 
前書き
久し振りに書こう。 

 
第0学区行きのエレベーターから出て『腐敗区』に足を踏み入れた『的場聖持』は周りを少し散策してみる。


「この辺りは地上(うえ)に近いアクセスポイントだからマシな治安なんだろうけど錆び付いた鉄臭さとAIM拡散力場の濃さが尋常じゃないなあ」


この地下世界にいる能力者は学園都市にいる者と比較して平均値が高い。

何故か身体能力も最低値平均が地上の十倍という域に達していたりする。

別に種族が違うというわけではないのだがそうなのだ。


「此処から目的地まではどれだけ順調に行っても二日は掛かる。運動神経の方には自信があるけど『大能力者(レベル4)』の俺が何処までやれるか……」


かと言ってこの場に居ても自分は何も出来ないし何になるわけでもない。

今の彼に出来るのは前に進むか後ろに退()がるかである。

そして彼はこういう時、恐怖と不安を押し殺して一歩踏み出すことが出来る人間だ。


「迷っていても始まらない。兎に角やるしかないんだ。俺が腐敗区に来た目的は真実(ほんとう)のことを知るためなんだから」


聖持が街の方へ向かって歩き出す。


「街の中は更にAIMと錆の臭いがするな。それにどっかの世紀末みたいな光景だぞ」


腐敗区の建物はあまり整備や修繕が行き届いていない。

今にも崩れそうな建築物が立ち並んでいる。

第一○学区のストレンジを更に酷くしたような場所も沢山ある。

聖持は気を張り巡らせながら慎重に街を進んでいく。

すると目の前に人集(ひとだか)りが出来ている。声からすると喧嘩か何かだろうか。

風紀委員(ジャッジメント)として見逃せない事態に周囲の野次馬の頭上を一足で飛び越え人混みの中心にある騒ぎの現場に着地する。

そこには集団に私刑(リンチ)されている一人の少年がいた。


容姿からすると聖持とそれほど年齢は変わらないように見える。

聖持は早速、風紀委員の仕事に取り掛かった。

それは何時もの光景。

ただし此処は第0学区。

どんな能力者がいるか解らない。


「止めろお前ら!」


声を上げて少年を囲んでいた連中の動きを一瞬だけ止め、こちらに視線を向けさせた隙に聖持は少年を抱き抱えて助け出していた。


「なんだテメエ。もしかして地上(うえ)の人間か?」

「ここは地下(した)だぜ?」

「互いにルールってもんがあるんだよ。すっこんでやがれ!」

「さあ。そいつを渡してもらおうか」


聖持は男達に背中を向けたまま少年を安心させるように優しく声を掛けた。


「少し待ってて。アイツらやっつけて来るから」


その笑顔は正義の味方。

美味しいところでやって来る主人公。

聖持は大能力者(レベル4)ではあるが、その格付けに見合わない優れた戦闘能力を持っている。

そして最近の彼は自分の力が抑え切れないほど増大していることに気付いていた。

例えその相手が超能力者《レベル5》でも十分な勝機が見えるほどに。


第0学区(こっちがわ)の住人は地上(うえ)の人間より強いらしいからな。悪いがちょっとばかし痛い目を見てもらうぞ?」


聖持の姿が消える。

直後に男の一人が顔を陥没させながら野次馬を越えて飛んで行った。

彼等は四区画の戦闘能力としては平均だが、地上の常人と()すれば百倍の身体能力がある。

その連中が五感で感じられる速度を軽々と超えて、尚且つ一撃で立ち上がれなくなる筋力で攻撃する。

他の男も味方が一人見えなくなってからその事に気付いた。


「正義執行、鉄拳制裁」


他の男も一撃で野次馬の向こう側まで飛んで行く。そして同じように立ち上がって来ない。

圧倒的だ。

周囲の人集りはその強さに熱狂と絶叫を上げて盛り上がっている。


「この人達…もしかして『賭け』をしてたのか」


賭けを仕切っていた胴元には悪いが此方(こちら)は仕事のつもりでやったので知ったこっちゃない。

聖持は少年を背負いその場を離れると一旦街を出る。


「あそこじゃ安心出来ないからな。必要なら地上に連れて行って治療しないと」


そう呟いて計画を練り直していたその時だった。


「あ、その心配は無いよ。助けてくれてありがとう」

「そう?それじゃこの辺で───」


聖持の言葉が止まる。

さっきまで少年は見るも無惨な状況だったはず。

それが何故こんなに落ち着いて喋れている?

そして何故、この少年はこれ程までに強いAIM拡散力場を放っている!?

聖持はゆっくりと彼を背中から下ろし、その姿を確認する為に振り返る。

するとその身なりは買ったばかりの服のように、お風呂に入ったばかりの体のように綺麗さっぱりだった。


「いやぁ君がそういう人で良かったよ。あそこで私を見過ごしてたら手を貸す気は無かったからね。合格だよ的場聖持君。私も一緒に着いて行かせてもらうよ」

「君は一体……?」

「私の名前は気にしないで良い。みんなはオブザーバーとかベオバハターとか呼んでたりするけど。たまに日本語で呼ぶ人もいるね」

「確か日本語で観測者だったか。それじゃあ君のことは《観測者(オブザード)》と呼ばせてもらおう。ところで何で私刑(リンチ)されてたのさ。さっきのAIMの感じからすると相当な能力者だろ?」

「私は戦う為に『封殺世界(ケーラウェルト)』から『外』に出てきたわけでは無い。他ならぬ島崎向子に頼まれて君を見に来たんだ」

「あの人がなんでそんなことを」

「そこのところは私にも解らないよ。それに彼女は《傍観者(バイス)》だからね。直接手を下すことは少ないし主義じゃない。まあ私も観測が仕事だから見守るのが本来の在り方なのだが、このままでは君の()(すえ)が危ないのでね。因果や概念から切り離されている私が介入することにした」

「それをすることに意味はあるのかい?」

「大千世界、並びに四界、オリュンポスに九世界や他の世界。平行世界に並行世界がその影響を受けることになる。信じなくとも構わないが君の生死、彼等(・・)の計画の成功と失敗が全てに変革をもたらす。そこまで行けば私の能力でも取り返しがつくか解らないんだ」


聖持には話が大き過ぎて解らないが観測者(オブザード)が真剣なことは伝わってきた。今は助けが欲しいと思っていたので渡りに船だ。


「それで、俺は何をすれば良いんだい?」

「聖持君が目的地に着くまでに強くなってもらう。なあに心配は要らないさ。私は世界や神の法則(システム)から外れた存在で、ある程度何でも好き放題出来るからね。時間なら幾らでも用意してあげられる。思いっきり力を出して良い」
 
 

 
後書き
はい、始まりました。

聖持君の第0学区珍道中(笑)

観測者(オブザード)さん滅茶苦茶強いですよ。

封殺世界でもかなり上の方の実力者。

ちゃんと名前もあります。

本来なら暗黒魔境(ディストピア)でもNo.2(パシり)さん並みの扱いになるんですが、ちょっと特別な役割を持ってるので外の世界へ出ています。 

 

confortans

 
前書き
強化、修行ターンです。

レベルが4の聖持君と全員が6のSTUDENTメンバーでは差がありますからね。 

 
観測者(オブザード)》は聖持を連れて腐敗区から瞬時に移動する。

そこは等活地獄さながらに人間が修羅の如く戦っている場所だった。


「な……!?」


その光景を見た聖持は絶句した。

目前で戦うのは全て『超能力者(レベル5)』クラス以上、そして腐敗区で倒した男達の10倍以上で動く人間だったからだ。


「ちょうど良い具合に()ってるね。さ、君も参加するんだ。あれを全員倒して止めて来るのが修行の第一段階だよ」

「あ、あれを俺一人で何とかするのは難しくないかい?」


観測者の出した試練に聖持は冷や汗を流して顔を青くする。


「大丈夫さ。せいぜい(・・・・)地上の人間と比べて身体能力の平均が1000倍でLEVEL5クラスの力を持ってるだけだから」

「それ、第一位基準のLEVEL5だと凄いよね?」

「地上の第一位は超能力者(レベル5)の中でもとびきりの素質と素材だ。身体能力はゴミだが頭脳と伸び代の桁が違うからな。コイツらと比べるってのは失礼なもんだよ」


観測者(オブザード)の高低入り交じった批評に聖持は複雑な顔になる。そしてやはりあの第一位が普通では無いことを実感した。



「まあそれは良いとして早く行って来なよ」

「そりゃ風紀委員(ジャッジメント)としては行くけど本当に大丈夫なんだろうね?」

「勿論さ。君は最近の自分に変化が起きていることに気付いているはずだ。所詮(しょせん)は普通の人間の位階である『小一界』の『常人』ではLEVEL5が良いところなんだよ。それに『1』の壁を破るのも難しい」


聖持は観測者(オブザード)の語る謎のキーワードが何のことだか理解出来ない。

何か重要なことであることは感じるのだが。


「ん? ああ、気にしないで良い。()の者と同じ『神の子』やら『生命の樹(セフィロト)』や『死滅の樹(クリフォト)』と言っても理解の範囲外だろうからね」

「確かにそうだ。科学の範疇の外にある。でも何でだろうね。君の言葉は不思議と俺の心に響いてくる。だから信じて行くさ。あの連中を止めて次の試練に取り掛かってやる」


聖持は覚悟を決める。

その瞳に危険な光が宿った。

命を懸けるような鬼気(きき)を感じさせる。


「危なくなったら私が助けるから安心して彼処(あそこ)に飛び込んで良いよ」

「その必要は無いさ。ところで今更なんだけど此処(ここ)は一体何処なんだい?第0学区であることは間違いないみたいだけど」

「腐敗区よりもっと地下にある『最深学区』だよ。住人の力が上よりもっと高いんだ」

「そうだったのか。道理でAIMが充満してるわけだな。負ける気は無いけど少し慎重にならないといけないか」

「時間の流れは止めておくから幾らでも時間を掛けて良いよ。彼等を確実に倒せるようになるまで粘ってくれ。そして出来れば相手を殺す覚悟を持て。でないと君が向かう所にいる者達には対抗出来ない」


忠告を聞いて最深学区の乱戦の中に飛び込んで行く聖持を見ながら観測者(オブザード)は思った。


「的場聖持……君はどちらの方になるんだろうね」


第一位と同じ『有機』

神にも等しい力の片鱗を振るう者。

第二位と同じ『無機』

神が住む天界の片鱗を振るう者。


「或いは()と同じ、両方か。(いず)れにしても運命は変わる。そしてあの者と共に世界を動かす鍵となる」

 
 

 
後書き
観測者(オブザード)の能力は説明要りますかね。
 

 

confortans 2

 
前書き
観測者(オブザード)の能力は本当に便利。 

 
「お疲れ様ー」


《的場聖持》は《観測者(オブザード)》に連れて来られた【最深学区】で地力を上げる為に住人と戦い続けていた。

倒し切ったり掠り傷でも受けそうになると観測者が時間を止め、聖持の記憶、経験、熟練度を蓄積したまま最初の状態まで巻き戻す。

その度に聖持は全快し、動きを修正し、倒す早さが上がっていく。

そんなことを一時間ほど繰り返すと平均的な人間の千倍も身体能力がある『最深学区』のLEVEL5を欠伸(あくび)しながら一分以内で二十人は倒せるようになっていた。


「……」


聖持は黙って自分の手の平を見詰める。明らかに自分の肉体が常人という範囲に収まっていない。それに能力が触れずに発動出来るようになっていた。


「腐敗区に来た時点で『変心』の位階にいることは解ってたけどこうも成長が早いとはね。それとも無意識に抑え込んでいたのかな?」


聖持の強さの上がり方は【暗黒魔境(ディストピア)】の住人をして常識を越えている。

一度目に二十人の相手と戦った時は彼等と拮抗した状態だった。

それが一時間で十倍以上の力となり圧倒するなどあろうはずが無い。元からそのような力を持っていたのでもなければ……。


「自分でも気になるけどこれなら大丈夫じゃないかな。負ける気はしないよ」

「まだだ、まだ早い。確かに聖持君の身体能力だけなら目的地にいる彼等に食い付けるかもしれないが、能力はLEVEL5の下位と言ったところだろう。まだ寝てるような段階だし」

「今の俺でも食い付ける程度って……一体何が待ってるっていうんだい?」

「悪いがそれを言うわけにはいかない。君自身が決断しなければならない重大な出来事が待っている、とだけしかね」


観測者の真剣な顔を見て聖持も納得するしかない。特に嘘を吐いているようにも思えないので何も言わなかった。


「良いよ。それより次の試練は何だい?」

「君の能力を強くする。私の力を使って聖持君のP・Rに介入し、既存のルールを捨てさせる」

「え、科学に沿った物理法則を外れるのか?」

「相手が相手だからね。少し無理しないと」


観測者は聖持の持つP・Rを観測し始めた。

自分だけの現実=P・R=パーソナルリアリティーとは能力者の持つ『感覚』。

それは力を使う為の土台だ。

あらゆる可能性、現実とは『常識のズレた世界』を観測し、小さなミクロ世界を操ること。

能力者が無意識でも能力の源であるP・Rの観測が可能ということは現実から切り離されている状態。

超能力は波束の収縮を脳波で引き起こす。

小さくミクロに世界を歪めた余波が大きなマクロという影響で広がり物理法則を捻じ曲げる。

観測者は常識のズレた世界を実際に観測出来てしまう。そしてそれに干渉することが可能な能力を持っている。


「既存のルールを全て捨てて、可能と不可能を再設定する。目の前にある条件を並べて壁を取り払う。それにより新たな制御領域の拡大を獲得。自分だけの現実に数値を入力し、通信手段を確立する」


恐ろしい勢いで聖持の感覚が鋭くなり、世界が鮮明に認識される。こんなにクリアな演算が出来るのは初めてのことだ。自分が自分で無くなってしまう気がする。

学園都市の能力者が無意識に観測している『ズレた世界』を他人が協力して最適化し、アップデートする最適値を入力して更にハイスペックにする。

観測者(オブザーバー)がやっているのは能力追跡(AIMストーカー)が覚醒した場合に発現するとされる『学園個人』の領域をも凌駕した神業。そしてそれがもたらす結果が如何(いか)なるものかが明らかになった。


「これで良い。何時でも天使と戦う事が出来る」

「何てことをしてくれたんだ君は……おまけに何だいこの莫大な未知の知識」

「何時か要り用になるかもしれないからね。おまけに付けておいたよ。もっと強くなれる方法を」


この瞬間、世界に新たなる一人の絶対能力者(レベル6)が誕生した。 
 

 
後書き
本人にも見えない自分だけの現実にある世界を観測して操るのは能力の一端でしかないです。

それでも原作の一方通行や御坂美琴と違い、完璧な天使、悪魔化が可能です。

そして無限の位相を破壊し、基礎になっている魔術も能力も位相も存在しない科学世界へ干渉可能です。 

 

trigger

 
前書き
旧版の二次からゲストキャラです。でも当時は戦闘シーンが殆ど無かったのでかなりオリジナルになります。 

 
【絶対能力者LEVEL6】へと進化した《的場聖持(まとばせいじ)》は《観測者(オブザード) 》ととある場所にやって来た。


「最深学区の街もAIM拡散力場が濃かったけど此処はもっと凄いね。本当に強い住人しか来ないのが解るよ」

「わざわざ最深学区を抜けないと来れないようにしたのを理解してくれて嬉しいよ」


二人は【最深学区】を越えて【封殺世界(ケーラウェルト)】に入り込んでいた。聖持の力を確認する為に【暗黒魔境(ディストピア)】の住人と戦わせるためである。

とは言うものの『壁』の外にいる住人は地上の約一万倍程度の力を持つ者しかいないので、今の聖持には役不足な感が否めない。

そこで観測者は少し奥に進むことにした。

わざわざ聖持と戦わせる為だけに『ある人物』を呼んであるらしい。

最深学区と封殺世界の境界線を越え、五芒星(クイント)六芒星(シックス)のバリアを抜けながら防衛戦を渡り、境衛地(ガーダー)も素通りする。

そんなことをしても何も言われないし、むしろ頭を下げる人達も沢山いた。その全員が最深学区の街で戦った能力者より強い。


「いやはや《観測者(オブザード)》って本当に一体何者なのさ? あんな強そうな兵士が直立不動ってどういうことなの?」

「私がお偉いさんの一人で単純に強いからだよ」


彼は【封殺世界(ケーラウェルト)】に入ってから今この最中も明らかにAIMの反応が強くなってきている。

今まで聖持が体感したことの無い密度を常に放出しながら顔色一つ変わらない。


(今の俺が戦ったら負けるな……)


自惚れるほど力を増した聖持が僅かな勝機も見つけることが出来ないほど観測者は人間という枠を超えていた。


「フフッ、そんなに(かしこ)まることは無いさ。聖持君の力は【暗黒魔境(ディストピア)】でも十分に通用する。最強の一人とは行かないかもしれないが最上位には入ると思うよ?」

(まあ覚醒したら神仏魔性(ディバイン)無しの人間で最強の一人になるのは確定なんだけど)


二人の目前に巨大な黒い壁が見えてきた。

どちらを向いてもそれが続いている。

そしてそこには巨大な門が(もう)けられ、一人の門番が立っていた。


「やあグラン」

「おや《観測者(オブザード)》か? 珍しいな。門を通ろうなんて」

「いや、今日は別件なんだよ。この場所を借りて戦闘をさせたい人物がいるんだ」


そう言って聖持の方を振り返る。


「確かに、これは強い力を持っているな。今の私が戦ったらどうなるか解らないけど」

「元【fortress】の《グラン・アークボルト》が今の(・・)彼を相手に本気を出す必要は無いだろうに」

「けど潜在能力は私から見ても相当なものだぞ?」


聖持は二人が会話している間、ずっとグランの観察をしていた。

そしてまた、彼も観測者と同じく今の自分より強いことを確信してしまった。

どうにも聖持はLEVEL6になってからというもの感覚がやけに鋭くなってしまったようで、直ぐに相手の力を見抜いてしまう。


(二人とも底が見えないぞ……)


絶対能力者が脅威と捉えるようなAIM拡散力場は窒息させられそうな勢いだ。

もし観測者が聖持と戦わせようとしている相手がグランなら殺す気でやっても無理だろう。


「そう言えば聞いてなかったんだけど、一体誰をそこの少年と戦わせる気なんだい?」

「タイミング的にはそろそろ来るはずなんだけど」


するとグランの後ろにある『夜影障壁(ヴァントノワール)』から大きく低い音が響いた。

どうやら何かが巨大な門を開けたらしい。


「噂をすればなんとやら、か」

「どうやら来たらしいね」


堕烙門(ギャバン)』の開いた隙間からは一人の男が出てきた。

まだ学生をやっていそうな年齢で何処となく真面目そうな雰囲気がある。

そしてやはり強い。

観測者とグランほどの圧は感じられないが、LEVEL6並みに力を感じられる。

今の聖持とならまだ彼の方が上だろう。


「俺に何のようです観測者?」

「わざわざ出向いてもらって済まない。あそこにいる的場聖持君と戦ってほしいんだよ」


男は聖持の方を見て目を細める。


(強い。だがまだ少し不安定だな)

「あの人ってもしかしなくてもLEVEL5の域を越えてますよね」

「流石、鋭い。彼は絶対能力者LEVEL6だよ」

「なるほど。暗黒魔境でも十分やっていける力があるわけだ。成長途上みたいだが」


観測者とグランは堕烙門の前で並び立つ。


「グランはどっちが勝つか解る?」

「的場君が戦いの中で成長したなら解らないな」


男が歩いて近付いてくる。

普通に見えていた気配がみるみる内に研ぎ澄まされていく。

聖持の(そば)に来た時には漏れ出す気合いだけで心身ともに圧迫される程になっていた。


「どうもはじめましてだね。私は元【fortress(フォートレス)】の《志木疋鉄《しきひきがね》》という。今日は君の相手をすることになった」


「俺は的場聖持と言います。宜しくお願いします」


二人とも薄々感じていた。お互いに無傷で済むような戦いにはならないであろうことが。 
 

 
後書き
疋鉄(ひきがね)君のヒーローアルファベットは出てないので解りません。H・Q・U・Vが空いてるのでどれかだとは思うんですが。

彼はfortressを抜けてからレベルが変わるくらいパワーアップしています。fortressのメンバーは基本的にレベルが不明ですけど( ゚ 3゚)

暗黒魔境の上位に楽々入る実力者なので今の聖持君が格闘で勝負しても簡単に勝てる相手ではないです。

この二人の戦いは少し長くしたいなあ。 

 

trigger2

 
前書き
さて、書きますかね。 

 
戦いは始まった。

《的場聖持》も《志木疋鉄(しきひきがね)》も動かない。

だが二人は決して隙を探して手をこまねいている訳では無い。

既に彼等にしか見えない火線(かせん)が飛び交い火花を散らす戦況が浮かんでいる。

達人同士は実際に戦う前から勝負を始めていると言われるように互いの動きを高度に先読みし合っているのだ。

そしてこの二人と同等の強度(レベル)が発する『AIM拡散力場』の強さと『観測』によって疑似世界たる『位相』の【自分だけの現実(パーソナルリアリティー)】から引き出した『可能性』の象徴にして力の結晶である『能力』は黙って睨み合いをするだけで物理的な現象が発生する。


(やはり強い。《観測者(オブザード)》がわざわざ連れてくるだけのことはある。『PHASE(フェイズ)』はまだ『6.0』だから今の私でも勝てるが先でどうなるか解らんな。まあ天使や悪魔にならないだけまだマシな方か)


疋鉄(ひきがね)は素早く自分と聖持の戦力分析を行ない有利な立場にあることを認識した。


(俺は野口さんのように頭が切れる方じゃあ無いからな。それなりに拮抗した相手の場合だと能力を当てる以外にこれと言った決め手が浮かばない。ここは慎重に行くべきか?)


聖持がそう考えて守りの体勢に入ろうとした時だった。周囲の景色が陽炎のように揺らぐ。特に気温が高いわけでも無いのに。

疋鉄が頭の中で戦術(タクティクス)を構築しながらそれに合わせた演算を行うとそれがP・R(パーソナルリアリティー)に反映され、そこから現実に影響を及ぼす。


『人の意識の中で構築される世界』とは決して『科学の法則』だけが支配するような『まっさら』な世界ではない。神話や物語の中で設定された『天国』や『地獄』などと言った『宗教概念』というフィルターを通して見る歪んだ景色のようなもの。


こういった宗教概念の集合体のことを『位相』と呼ぶ。


しかしこれらは空虚な妄想ではなく『実体を持った異世界』として確かに存在し、現実に影響を及ぼす。

例えば魔術はこれら異世界での法則を強引に現実へと適用することで超常現象を引き起こすが別に魔術の使用の有無に関わらず『人間の言う現実世界』自体が位相を介して見ている世界に過ぎないのだ。

故にもし位相を改変する技術があれば、『世界の見え方』は変わる。

それは位相の向こう側にある魔術も異能も無い『真なる科学の世界』を直接弄っているわけではないが人間の主観で言えば世界が作り替えられるのと同じことなのだ。


今の疋鉄(ひきがね)がしているのはそれ。


能力は魔術と同じく空想の異世界から法則を引き出して使うが彼はP・Rにある位相の世界を引っ張り出して限定的に世界を改変している。

もはや能力などという枠では収まらない。


絶対能力者(レベル6)】が科学サイドの魔神と言われる所以(ゆえん)の一つである。

どれだけ強大な力を持つ『超能力者(レベル5)』だろうと科学の法則だけに従っていては世界を変える相手に敵うはずがない。

何せその異世界は異世界の主である能力者にとって都合が良い法則が支配し存在するものすら主の思うがままなのだから。

はっきり言ってしまうならば戦う必要性すら無い。別の宇宙、世界で異なる仕組みを前にどう(あらが)えと言うのか。

対抗できるのは同じく自分の世界、いや、宇宙を現実に適用し展開出来る世界の侵蝕者だけだろう。


「さあどうする聖持君? このまま私のP・R、いや、『宇宙論(コスモロジー)』に飲まれて終わるのかい?」

(観測者が期待する逸材ならば必ず乗り越えられるはずだ。さあ、見せてくれ。君が内に持つ、果てし無く広がる宇宙を!)


魔法が成る。

その輝きは溢れ出て止まらない。

まるでもっと光を放ち輝きたいと言わんばかりに主張する。


自分だけの現実=P・R=パーソナルリアリティーとは妄想や信じる力のこと。

能力とは『自分だけの(・・・・・)現実世界』を観測し、自分の中だけにあるミクロな世界を操ること。


そうだ。

自分次第で世界は幾らでも変わるしどんな風にも変えられる。

強い個性を保ち、強靭な精神力と確固たる主義を持つことがP・Rの強さに繋がる。


聖持の周りにある空間を侵蝕していた疋鉄の宇宙が留まった。止まったのではない。前に行こうとしても進まないのだ。


「期待した通りだ的場君。ここからが本番だよ。私の宇宙論(コスモロジー)を乗り越えることが出来た君には【粒子加速(マグネーザー)】を相手にしてもらおう。覚悟は良いかな?」


「俺を進化させてくれた恩は、ありったけの(あだ)で返させてもらいますよ」


「ん、結構だ。これで此方(こちら)も遠慮無く戦える」
 
 

 
後書き
書いた後で気付いたけど宇宙論(コスモロジー)の名前が箱庭の問題児が出てくる作品とだだかぶりじゃないですかー。( ; ゚Д゚)

ぶっちゃけ旧版よりみんな強くなれますよ。まあそこに行くまでに終わらせますけどね。

途中の説明は大体、禁書の原作に沿っています。

 

 

trigger3

 
前書き
φ(-ω- )うーんどんな風に書こうかなあ。 

 
志木疋鉄(しきひきがね)》がAIM拡散力場を放出する。その瞬間に《的場聖持(まとばせいじ)》が姿を消した。


疋鉄が視線を下ろすとそこには(かが)んだ姿勢で腕をくの字に折り曲げ体を発条(バネ)のように縮めて力を溜め込んだ聖持がいた。



(ほう、速いな)


だが聖持は疋鉄の方を向いてはいない。

何故なら首を回して戻す関節の反発力も威力と速度に上乗せする為だ。


(俺はまだこの人には届かない。それなら出し惜しみする必要も無い。全ての攻撃を全力で決めに行く!)


聖持の体が始動する。

疋鉄も彼の内から放たれる熱と圧力に肌をひりつかせた。当たれば一撃で首が木端微塵(こっぱみじん)になりそうだ。


疋鉄は身体を射線から外しながらAIM拡散力場で小さな球体を作る。そのさなかで聖持の拳が能力を(まと)って撃たれた。


弱点設定(ダメージポイント)オッッ!!)


聖持の能力は本来『磁場のようなもの』を発生させ触れたものを磁石のSN同極が反発しあうように細胞の結合を破断し壊すもの。

しかしその特性故に接近戦を強いられるという免れない欠点があった。だが今の彼はある程度まで離れた距離からそれを使うことが出来る。


ならばわざわざ相手の懐に潜り込んで危険を(おか)す必要があるのか?


確かにそうだ。

ちまちまとでも良い。

時間を掛けて確実に攻めれば問題は無いはず。

しかし聖持が敢えて疋鉄の(そば)まで近寄ったのは彼の技量を感じ取ったからだ。


(《観測者(オブザード)》のくれた知識で解る。この人はどんなに弱くとも『変体』以上の位階にいる。俺が得意な近接格闘で()っても勝ち目があるかは解らない程の高みにいる。なら離れて攻撃しても当たるわけが無い!)


それなら当たる可能性の方に賭ける。

今までの自分のスタイルを崩さず戦う。

それが聖持の決断だった。

そしてその考えは正しい。

疋鉄と距離を取って対峙するのは危険だった。

聖持の振り上げた拳は空を切った。しかしそれでも構わない。離れていても効果があるのだから。疋鉄の頬にいきなり痛みが走り裂けた。


(外したか。だがまだだ。何度でも繰り返して)


聖持が再び攻めようとした時に疋鉄は先に作った球体を破裂させた。

大量の光が放たれる。

その光量に聖持は堪らず目を閉じ動きを止める。

戦いが始まってからここまで一秒。


(この間にやらせてもらう)


疋鉄は聖持が目眩ましで動きを止めた一瞬に先程よりも速く演算をする。そして再び球体を作り出した。それも100個ほどはある。

AIM拡散力場で()まれたそれは内部に空間を閉じ込めた。その中にある原子の核に刺激を与え激しく反応させる。

電撃のスパークやプラズマのようにも見える力が球体に満ちた。その球体の一部が膜を開きエネルギーを放射する。


(粒子の速度は調整してある。これなら100の光条でも充分反応出来る筈だ。もし対処も回避も出来ないのなら君に先は無い)


ビームの速度はマッハ300。

聖持の体が穴だらけになるどころか速度の勢いだけで千切れ加速だけで灰すら残らない。

しかし【絶対能力者(レベル6)】とは神の域に手を掛けた存在。

更に聖持は既に『変体』の位階に到達。

ならば出来る。

疋鉄の手加減した攻撃を()なすことなど、マッハ300のビームなど雑作も無く打ち消せるはずだ。

聖持は視覚を封じられたままAIM拡散力場の反応と空間の揺らぎを感じ、一万分の一秒で100本の光線を全て自分の手首と足首から先に当てる。

彼の力は反発させるだけでなく引き寄せることも可能になっていたのだ。これも今までの積み重ねにより『可能性』の元となる原因、『可能態(デュナミス)』があったからこそ。

可能性とは確実に出来るものでなくとも良い。

『出来るかもしれない』という『可能的』で曖昧なもので構わないのだ。

的場聖持は『出来る』と信じてやってきた。

それがここで実を結んでいる。

聖持の手足に触れたビームは全てが霧散し(ただ)の無害な粒子へと戻る。

彼は『可能態(デュナミス)』の域に()ける最終段階である『(つぼみ)』に可能性を実現させたのだ。

もはやただ破壊するだけの能力ではない。


(なんだと? 【PHASE(フェイズ)】で言えば『6.1』でこれか。これで『現実態(エネルゲイア)』に(いた)り『花』を一分でも開花させたらどうなるんだ……)


聖持は戦い始めて一分も経たずにレベルを上げた。


「これで良いんですか志木さん?」

「私が鍛えるまでも無かった気がするがね」


準備は整った。的場聖持とSTUDENTが戦いの火蓋を切って落とすまで二日。

その間に聖持は自身に宿る指導天使と守護天使を取り込み『内在神部(アウゴエイデス)』を手にいれPHASEを『6.4』まで上昇させた。
 
 

 
後書き
疲れました。

やっとSTUDENTと決戦出来ます。

でも6.4でも確実に勝てるかは難しい相手なんですよね。

全員が天使を取り込まず同じようなフェイズなんで。

潜在能力は聖持君が一番ですけど。
 

 

存在状態

 
前書き
大雑把な力の違いです。一つでも存在が上昇すると力の桁が違ってしまいます。

ちなみに禁書原作の魔神が持っている力は最初の存在をそのまま極めたような無限の力なので数量的には上の位階にも勝てます。

ただし原作の魔神はあくまでも最低存在での無限なので上階が完全解放して無限になると勝負になりません。 

 
【存在】

1:活動・零

───────

2:偽海・十

───────

3:形成・百

───────

4:海罪・千

────────

5:創造・万

────────

6:原型・十万

─────────

7:落涙・百万

────────

8:無光・千万

────────

9:無闇・億

────────

10:無限・十億

────────

11:虚無・百億

─────────

12:無在・千億

─────────

13:無形・兆

─────────

14:・十兆

─────────

15:魔性・百兆

────────

16:餓鬼・千兆

────────

17:畜生・(けい)

────────

18:羅刹・十京

────────

19:修羅・百京

─────────

20:人間・千京

─────────

21:天部・(がい)

──────────

22:天狗・十垓

─────────

23:外法・百垓

─────────

24:・千垓

──────────

25:・(じょ)

───────────

26:・十抒

────────────

27:・百抒

────────────

28:白虎・千抒

───────────

29:青龍・(じょう)

───────────

30:朱雀・十穣

───────────

31:玄武・百穣

─────────

32:麒麟・千穣

────────

33:鳳凰・(こう)

─────────

34:黄龍・十構

────────

35:・百構

───────

36:・千構

───────

37:人皇・(かん)

────────

38:泰皇・十澗

────────

39:地皇・百澗

────────

40:空皇・千澗

────────

41:天皇・(せい)

────────

42:皇帝・十正

────────

43:覇極・百正

───────

44:双極・千正

────────

45:太極・(ごく)

─────────

46:太老・十極

─────────

47:太道・百極

─────────

48:太元・千極

─────────

49:零極・恒河沙(こうがしゃ)

─────────

50:終極・十恒河沙

─────────

51:真極・百恒河沙

─────────

52:究極・千恒河沙

──────────

53:・阿僧祇(あそうぎ)

──────────────

54:鴻鈞(こうきん)・十阿僧祇

───────────────

55:空座・百阿僧祇

──────────

56:無窮・千阿僧祇

──────────

57:無常・那由他(なゆた)

───────────

58:至高・十那由他

──────────

59:・百那由他

──────────

60:白帝・千那由他

──────────

61:黒帝・不可思議

──────────

62:赤帝・十不可思議

───────────

63:青帝・百不可思議

───────────

64:黄帝・千不可思議

───────────

65:涅槃(ねはん)・無量大数

──────────────

66:太母・十無量大数

───────────

67:盤真(ばんしん)・百無量大数

─────────────

68:何無(いずな)・千無量大数

───────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

数字の最大値は全て無限です。

今のところ



の状態が有り、それぞれの存在領域で存在進度が有ります。

【とある魔術の禁書目録】に登場する[魔術師]の到達点で、覚醒した瞬間に世界の容量を越えてしまい、世界が破壊されてしまう『無限』の質量と存在と力を持ってしまった存在である【魔神】

魔神達は上の存在状態に在る者の数値が『有限状態』なら勝てますが、もし仮に『一』の存在が『無限状態』だったのならば、一の存在が一人で魔神が無限に居たとしても絶対に敵いません。

魔神は基礎が零なので我々が考える普通の無限ですが、一は基礎の数値が一の無限だからです。

零から一へと存在を上げるためだけでも無限を超える必要が有り、一の無限に達したなら零の無限の無限倍になるので無限の密度が違います。

無限を集めた無限の集合ではなく、無限の概念を超えた無限になっていくと言えば良いのでしょうか。

言えるのは禁書の魔神が自分の持つ無限を自由に操作できるようになり、無限を自分という一個体に凝縮させて世界の中で居られる存在になって漸く活動の零から一へ到る道がうっすら見えてくるレベル。 
 

 
後書き
漢字が本来と違うものがあります。 

 

クローバー

 
前書き
修正したら書くこと無くなった。 

 
【一つ葉】

困難に打ち勝つ・始まり・開拓・初恋

─────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【二つ葉】

素敵な出会い・平和・調和

─────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【三つ葉】

幸運・愛・希望・信仰・幸福

──────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【四つ葉】

大きな幸運・大きな幸福

────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【五つ葉】

経済的繁栄・財運・金運

───────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【六つ葉】

地位・名声・栄光・栄誉

───────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【七つ葉】

無限の幸福

───────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【八つ葉】

縁結び・無限の発展

───────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【九つ葉】

高貴・気品

─────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【十葉】

完成・成就

─────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【十一葉】

無限の愛情

─────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【十二葉】

宇宙・真理

────────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

白詰草(しろつめくさ)

[花言葉]

私を思って

私を見て

幸運

感化

約束

復讐心

私を思い出して

─────
◆◆◆◆◆

4/2

4/4

4/18

5/9

5/26

5/27

6/17

8/29

8/31の誕生花らしいです。

─────────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【四つ葉】

Be mine(私のものになって下さい)

四枚の葉には

誠実・Faith

希望・Hope

愛・Love

幸運・Lucky

というワードが有り、四枚が揃うことで

真実・本物・Genuineとなるそう。 
 

 
後書き
空いてしまったから適当に埋めてみたんですけど内容としては魔術サイド寄りな気がする。 

 

Raiging the curtain

 
前書き
前の話で守護、指導天使をいきなり取り込んでいますがちゃんと理由があります。特にストーリーに関わってきませんけど。 

 
観測者(オブザード)》が《的場聖持(まとばせいじ)》を連れて【腐敗区】へと戻ってきた。

到着したのは聖持が二日を掛けて向かおうとしていた区の中でも人があまり近寄らない廃虚の中に(そび)える一棟(いっとう)のビル。


「フム、ここが彼等のいる場所か。ただの廃虚ではないな」


観測者は見ただけで構造を解析した。

一見廃ビルに見えるがかなり手を加えてある。ちょっとやそっとの能力では小揺(こゆ)るぎもしないだろう。


「観測者の言う『彼等』というのが誰か知らないけど察しが着いたよ。多分あの人が含まれてるんだろう?他は知らないけど」


聖持は【風紀委員(ジャッジメント)】の支部に忍び込み、自分の持っていた『第0学区』や【OBJECT(オブジェクト)】の情報をクラックして消去(デリート)した犯人を《野口勝哉(やぐちしょうや)》だと踏んでいた。


「さあ行くよ聖持君。全ての答えが此処にある」

「え? 観測者も行くの?」

「戦うわけじゃないよ。君が負けたら連れて帰るし怪我をすれば治す。いわゆるサポート要因だね」

「それは助かるよ。此処(ここ)にいるのは全員が相当な能力者だろうから」


聖持の言葉を聞いた観測者が首を(かし)げる。


「私はこのビルや彼等について何か言ったかな?」

「いいや? でも今までの流れを考えればある程度は理解できるはずだよ?」

「と言うと?」

「俺をわざわざ志木さんみたいな【絶対能力者(レベル6)】と戦わせて強くするんだからそれをするだけの相手がいるってこと」

「成る程。当たり前過ぎて気付かなかった」


観測者は手を打って納得した。


「中には何も無いんだな」

「戦うだけなら特にものは要らないからね」


二人がビル内を進むとコンクリートに見える柱が規則的に正しく均等な間隔で配置されていた。

すると誰かが此方(こちら)を向いて立っている。


「来たか、って二人いるな。自己紹介しておく。俺は《騎城優斗(きじょうゆうと)》。そっちの制服が的場聖持だな。もう一人の方は……」

「私は《観測者(オブザード)》。彼のサポートだよ。戦うことは無いから安心して良い」

「そうか。なら良いんだ。手出しされると困るからな」


優斗が手首を振ると折り畳み式の『バタフライナイフ』が現れた。

彼はそれをクルクルと回してジャグリングのようにしながら刃を出し入れする。


(速い、使い馴れてるな)


手元を見る聖持は優斗が見せるその曲芸的な動作に目を惹かれる。


「武器は手に馴染むものが良いからな。不断は素手で十分なんだけど今回は殺傷込みで()らないといけないらしいから」


バタフライナイフはフォールディングナイフ(折り畳みナイフ)の一種で一枚のブレードに(みぞ)付きの二分割されたグリップが付いており、上下から挟み込むようにして収納するのが特徴。

開閉操作には若干の修練を必要とするが慣れると片手で楽に素早く操作出来る。


「それじゃ始めようか。俺の目的は現時点の力を観察するのと此処から先で戦い抜く為に必要なものを与えること。そして俺自身が的場から学ばせてもらうことだ」


観測者が邪魔にならないように退避する。


「俺も今の自分がどれだけやれるか試したかったんですよ。そこそこ負けて手に入れた力がどれ程のものかね」


聖持は無手なので拳を構えて備える。対する優斗は何やら連続で小さく跳ね始めた。


「ボクシング?」


観測者が見た感じは拳闘/ボクシングのステップワークのよう。

聖持と優斗は互いに息を整え集中する。気迫が肌を(しび)れさせ刺すような闘気が流れ出した。

静寂に包まれたフロアは雰囲気が強張(こわば)り空気が張り詰める。

そして向かい合う二人が息を吸った瞬間だった。


「シッ!」

「はっ!」


ジャブのような速さ重視の突きが聖持に、それに踏み込んで放たれたストレートが優斗に襲い掛かった。 
 

 
後書き
たまには武器で戦うのも書きたい。

 

 

first

 
前書き
φ(-ω- )ん~む…… 

 
互いの攻撃が頬を(かす)めた。

的場聖持(まとばせいじ)》は頬が浅く斬れて血が(にじ)み、《騎城優斗(きじょうゆうと)》は頬に痛みが走る。



「今の弱点設定(ダメージポイント)ならあの距離で血が出ないのはおかしいな。内出血は起きてるから細胞の結合が破断してるのは間違いないんだけど」



二人の交錯を眺める《観測者(オブザード)》は疑問を持つが当の本人達はというと、初手である程度は理解した。


(騎城さんはあのステップワークを維持しながらも軸がぶれてない。そしてナイフの突きはボクシングと剣術を合わせたものかな?)

(的場の動きは俺が出逢った奴の中でも特にスピードとパワーがある。そこに能力が絡んで威力を高めている。AIMでカバーしてなかったらざっくりと頬が裂けてた)


二人は更に集中力を高めて戦闘を続行する。


聖持は後ろへ跳び下がりながら弱点設定を放って攻撃。これを優斗はサイドステップで難なく(かわ)す。彼がいた場所が弾けて飛び散る。

しかし聖持は回避した優斗に再び同じ攻撃で攻める。今度は逆にステップして外される。三度目の攻撃に至ってもそれは同じだった。

聖持は闇雲に弱点設定(ダメージポイント)を使ったロングレンジに徹しているわけではない。ちゃんとした狙いがあってのことだ。


「成る程、そういうことだったか」


観測者は二人の行動を見て展開に気付く。何故に聖持が得意な近接格闘に持ち込まず当てにいくだけのような戦術を取っているのか。


(騎城さんは俺ほどでないけど安定して素早い動きが可能だ。そして最初の攻撃で解ったけどAIMを使って至近距離で弱点設定の威力を抑えていた。直接当てて決めないといけないが今のままだと手間が掛かるからな)


聖持は安全策を取った。

じわじわ追い込む持久戦を行ないながらチャンスがあれば間合いに入って一撃を喰らわせるヒットアンドウェイで付かず離れずという戦法を。

その為にしたのは足を使わせること。


優斗は《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》や的場聖持のような身体能力があるわけではない。

近接戦闘の技術はあっても《池野操作》ほど卓越しているわけではない。

騎城優斗は技術的に超一流の体術を使えるのだが、あまりにもオーソドックスで御手本のように綺麗過ぎたので読みやすい。

彼は可能な限り計算で動く理詰め型の天才であるため悠持や聖持のような感覚型の本能的なアドリブで動ける天才には弱い。

それでも殆どの相手は優斗のスペックの高さも相まって負けることは無かったがSTUDENTへ入る際、それが露呈(ろてい)する結果となってしまった。

聖持は優斗が左右に交互へ逆方向へと避けざるを得ないよう攻撃を散らしている。常に全速力であるため急な停止や旋回がやりづらい。

最初の方こそあっさり()けていたが徐々に余裕が削られ皮一枚スレスレの場面が多くなってきた。

AIM拡散力場を用いて弱点設定のダメージを減らしてはいるが、ダメージは確実に優斗の体を蝕んできている。

聖持の狙いが功を奏した形だ。


「まあ彼はそんな思惑に気付いてるだろうけどね。このまま大人しくロングレンジで釘付けにされるような相手じゃないだろうし」


観測者の予想が適中した。

優斗が左右に体を移動させる回避に限界を感じた途端に挙動を変える。

彼は足を止めて聖持に向き直る。

その胸元目掛けて弱点設定が突っ込んで来るのに合わせて自分から近付いた。

そして直撃するかと思われた瞬間に四足動物が這うかのように姿勢を低くし弱点設定の下を駆け抜ける。

その体幹の強さで体を一切ぶらすこと無く聖持へと迫る優斗は駄目押しに『抜き足』を使用。


(俺のは操作に及ばないが仕方無い。相手が相手だからな)

「くっ、当たらない!」


優斗の動きが冴える。

弱点設定(ダメージポイント)の弾幕を掻い潜りジリジリ間合いを詰める。反射も反応も上回る聖持が的を絞らせてもらえない。


「相手の認識外に滑り込む歩法というわけか。破るには脳や体を本能や反射に逆らって能動的にコントロールすることが不可欠。だが的場聖持という男に動きを見せ過ぎると碌なことにならないぞ?何せ底無しに成長するからな」


観測者は二人のどちらにも期待している。それがこの先の為になると確信しているから。
 
 

 
後書き
長く書かないと一話だけでは終われない。でも一話だけにまとめると個人的にやりにくい。

というわけで優斗君にはもう少し戦ってもらいます。

どのネタ入れようかな……。 

 

first2

 
前書き
φ(´ε` ) 

 
距離を詰めた優斗は鋭い連撃で攻める。ナイフの軌跡を視認することすら難しい。大半は回避されてしまうが何回かは聖持を軽く斬る。

互いに攻め手を欠いた膠着が維持される中で優斗は考えていた。



(さて、ここに到るまでの間に俺の『プログラム』と勝哉の『コード』を打ち終えたわけだが後はどうするか)



優斗の能力は他人の演算に割り込むことが可能である。それを利用して聖持の中に特別な情報を入力した。

相手に気付かれないよう戦闘へと意識を傾けさせながらの作業なので脳以外の動きが(にぶ)る。

元から差のある身体能力と戦闘向きな能力ということもあって追い込むのに手間取ってしまったがもうそのハンデも背負う必要は無い。思う存分その力を自身の為に使うことが出来る。


しかし《騎城優斗(きじょうゆうと)》はこの戦いに於いて要求される【STUDENT】としての役割を果たした。

なので戦闘を放棄してもお咎めは無い。

だが彼自身の個人的な目的が達成されていないために、《的場聖持(まとばせいじ)》と対峙をして戦いを続けているのだ。



(演算すると数字が並んで羅列を作る。その光る文字に従って式を組んでいく。照らし出された道筋を外れないよう忠実に。何時もそうだった。この計算は外れることが無い。決まった答えを弾き出す。いや、出してしまう)



それが絶対能力者にまで至った優斗にとって最大の弱点であり悩みの種である。彼の演算能力は戦闘技術と同じように自分の常識範囲内に於ける理論(セオリー)で成り立っている。


つまり彼は物質世界(アッシャー)の法則というものから完全に抜け出せてはいない。そして自分の常識の枠を越える思考が出来ないことが他のSTUDENTと差を着けられる最大の要因だった。



(何て静かなんだ…息を()らせば聞こえそうだ)



聖持は小刻みに動きながら緩急を付けて迫る優斗を見てそんな感想を持った。二人を外野から見れば静穏とは逆。激しい(せめ)ぎ合いは騒乱である。

しかし聖持は外観を言っているのではない。内面を感じて評価を下している。



(言ってしまえば地味。だが勢いがあるのでもなければ解りやすいのとも違う。騎城さんの動きが頭に入って目が離せなくなってしまう)



此方(こちら)の動きに対して御手本のような正解。置きと絡ませ方が絶妙だ。野口勝哉のように意地悪な技巧をしないので読みやすいが今の聖持には良い練習相手とも言える。



(力の差はあっても自分の長所を際立たせつつバランスが悪くならないように計算づく(・・・・)で構築された挙動の()は単純にも見えるが引き込まれる)



人間の感覚に合わせたようなそれはとても正確だ。しかしそれは優斗が真に求めた計算とは違う。むしろ自分を縛り付けるものだった。



(苦しい。どうしたら良いのか解らない。何時だって目指すものは見えてるのに公式が当てはまらない。本当に疲れるよ。俺は見えた通りのことしか出来ない。答えが見えるものはキチンと正しい数字や計算になっている。でもそれ以外は何も見えない)



見える道を踏み外した瞬間から新しい何かが始まり見えなかったものが見えることもある。

だから優斗は同じSTUDENTの《影縫子規(かげぬいしき)》のことが羨ましかった。彼はあっさりと常識から外れて計算出来てしまうから。



(俺はアイツのように出来ない。なら計算して計算していないような答えを出す!)



聖持は違和感を覚え始めていた。



(何だこのざわつく感じ。同じパターンで動いてるからこっちも繰り返しの対処を取るだけで良いはずなのに……。それで一体どれだけ深く攻めるつもりだこの人は……!!)



観測者(オブザード)》はまるで自分に優斗の感情が流れ込んで来る気がした。


(今、明らかに何かが……──)


騎城優斗は限りなく小さく正確に動いているだけだ。それなのに引き摺り込まれる。

そして聖持はこの感覚に気付いた。つい先日も感じたことがあるそれは一つの力。



「──ああ、すごいな。たった一人の中に……果てし無い宇宙が広がっている」



優斗の可能性が開いた。もう常識に囚われることは無い。既成概念に縛られることも無い。それでももう何処にでも行ける。



「的場聖持……。感謝させてくれ。俺はこれで(ようや)くスタートラインに立てた気がする。お陰で俺は俺だけの『宇宙論(コスモロジー)』を手に入れることが出来た。これで天使を戦わずとも取り込める。つーわけで次に行って良いぜ。どうせある程度俺の動きを盗んだんだろ?」



「ええまあ。っていうかバレてたんですか?」

「あれだけ熱心に観察してたらなあ……」



そして二人は苦笑する。



「他は全員俺より強いぜ。今の俺と比べてどうかは解らないけどな」

「まともな戦いになると良いんですけどね」
 
 

 
後書き
二人とも強化しました。今の優斗君なかなかの強さですよ。設定上の全力出すことは無いかもしれないけど。 

 

Second

 
前書き
二人目の相手は強化後の優斗君でも敗北濃厚な強さにします。 まあこの人は能力が初めて設定された時から厄介なキャラでしたけど。

問題は極意を使うかどうか。 

 
騎城優斗(きじょうゆうと)》に力を認められた『的場聖持』は二階へと歩を進めた。そこには地上の学園都市にいる無能力者(レベル0)並みの微弱なAIM拡散力場を発する清楚で物静かな少女がいた。



(なんだこの人……。強い能力者のはずなのにAIM拡散力場が殆ど感じられない。それに気配もまるでない。能力で気配を打ち消してるってわけじゃ無さそうだけど)


「私は【STUDENT】の《七草花夜(ななくさはなよ)》です。貴方が的場聖持さんですね? この階では私が相手をすることになります」



彼女は部屋の入り口に立つ《観測者(オブザード)》の方を見たが直ぐに聖持へと視線を戻す。



「始める前に質問良いですか?」

「どうぞ」


「AIM拡散力場が微弱な上に気配もすごく薄いんですけど能力を使っているんでしょうか?」


「いえいえ、私はまだ能力を使ってはいませんよ。そしてAIMと気を感じにくいのは制御しているからです。私は無意識で気やAIMを抑えられるくらいには自分や能力を操れるので」



花夜は『気』やAIM拡散力場の操作を高位魔術に匹敵するような段階で修めている。

守破離(しゅはり)』でいうところの『離』に達し、自分だけの戦闘技術の理法を編み出して流派を開き、世界中にそれを広めた地球の人類史で屈指の達人すら超えた歴史に名が残る一代限りの力を持つ武人すら今の彼女には及ばない。


伝説や神話に名や偉業が伝えられる神代の大英雄とされている面々と同等以上、人外クラスの『武術における大聖人』と言っても過言ではない。


もしも十字教でいうとしたのなら最初の人間であり『神の子』と言われた『アダム』に次ぐ地位であり、『救世主』『神の代行者』『二人目の神子』『十字教の創始者』である()の『イエス・キリスト』により特別に選ばれた直弟子たる『十二使徒』。

七草花夜が使徒ならば、その筆頭であり一番弟子と言われる『ペテロ』以上の偉人になったであろうことは想像に難くない。


彼女の武とは物理法則を超えてそれほどの域に辿り着いてしまっている。それはもはや人間が人間相手に使うようなものではない。

『神薙悠持』が短時間で花夜の技を見様見真似出来たのは彼もまた別の意味で同等の領域にいる存在だからだ。



(この人も志木さんや騎城さんと同じく俺が理解出来ないところの強さにいるんだろうな)

「悩んでいてもしょうがない。兎に角やろう」



聖持が優斗から盗んだ『抜き足』で花夜の認識外に潜り込もうとする。


「あれ?」

「それじゃあ駄目ですよ」


聖持は間合いに入る前に宙を舞った。彼は腕一本で着地しそのまま後ろへ跳ぶ。連続で後方宙返りをして花夜から距離を取る。



(おっかしいなあ……。物理的にあそこの死角に行けると思ったんだけど何で気付かれたんだろう?それに離れた所から投げられたようになったぞ……)


「私に抜き足を使って物理的、意識的な死角に入り込むことは不可能ですよ。貴方なら理解出来たかもしれませんが」



対峙する聖持に解るのはフィールドを広く視界に捉え、一挙手一投足も見逃さないだろう花夜の眼力。だがそれを考慮しても今の攻防は異常だった。



「的場君はまだ学園都市の科学に偏重(へんちょう)した考えが抜け切っていませんね。『絶対能力者(レベル6)』が行う本来の戦いに常識は通用しません」

「成る程。今までの考えを捨てずに更なる新しい常識を加えることで『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』に進化を促すわけか。ということは俺を投げたのは空気投げと言われる類いの技になるのかな?」

「流石に理解が早いですね。まあ先程投げ飛ばしたのは物理を応用した『接触点』の技法であって『気』の力を用いたのでは無いのですが」



彼女の説明によると技に熟達した場合、直接触れること無く相手の攻撃タイミングや勢いを利用して誘導しながら体勢を崩すというものがあるらしい。



「状況が合えば『結び・導き・崩し』を瞬時に行ない技を決められます。私が使う合気道とは『一撃()く死命を制する』ものですから」



聖持は何故同じSTUDENTの絶対能力者である優斗が他の全員が自分より強いと言ったのか解った気がした。



「そりゃあこんな人達ばっかりなら自信を持てなくてもしょうがないよなあ……。ということは七草さんより先はどうなるんだ?」

「勝ち負けには関係無く何かを得てもらいますから普段は皆さんにも御目に掛けない合気道の摂理も披露させてもらいますよ」


 
 

 
後書き
以前に花夜さんが戦った時にもうちょっと頑張ってたら神薙君も人間のままではかなり分が悪かったです。

というより純粋な物理法則の範囲内に収まる体術だけの戦闘で勝てる人がSTUDENTにすら本気の操作君しかいない。

合気道の理法や極意はもう魔神並みのチートですし彼女の使う武道、武芸、武術、極意は人間が模倣やコピーといった真似が出来るようなものではないですから。

ちなみに禁書の十字教における神の子とはリアルでも有名な宗教の唯一神と同等の存在です。

連続でバック転するのは一部アクション作品ではよくやるので解ると思います。


花夜さんと聖持君の戦闘は優斗君よりも長くなりそうだなあ。残りのメンバーはどうしよ。 

 

Second2

 
前書き
φ(・ω・`) 

 
的場聖持(まとばせいじ)》はフロアを目一杯にまで使って小まめに距離を調整しながら【STUDENT】の《七草花夜(ななくさはなよ)》と戦いを続けていた。

時に近距離(クロスレンジ)で殴打蹴撃を行ない、時に遠距離(ロングレンジ)弱点設定(ダメージポイント)を用いて射撃に徹し、時に中距離(ミドルレンジ)で付かず離れずのヒットアンドアウェイで変化を付ける。



「七草さんは近距離格闘しかしてないのに何でこんな対応力があるんだ!?」

「それが合気道なんですよ」



中距離は隙を見て接触点を操られるので遠距離を主眼に置いて戦う聖持だったがそれでも安心は出来ない。



「無駄な力を使わず効率よく相手を制する呼吸や合気を会得し同時に合理的な体の運用、体捌きを用いて相手の力と争わず攻撃を無力化する。これを『自分だけの現実』に組み込んで[AIM拡散力場]を使った戦闘に応用させるのは本当に苦労しましたよ」



聖持は速さが上なので足を使って掻き回しながら弱点設定をばら()いていれば当たるはずなのだが殆ど掠ることも無い。



(完全に俺の気を読んでるな。四方に目が付いてるみたいに対処される)



花夜はどんな死角から攻撃しようと確実に対処する。中距離でも投げられるので近距離の間合いは死地と言っても良いほどだ。

しかし彼女もまた聖持の驚異的な成長速度に脅威を覚えていた。攻防が行われる度に動きが少しずつ修正され着いてこれるようになってきている。



(仕方ありませんね。もう少し力を使いましょうか)



合気道とは『森羅万象の活動と調和すること』が極意。そして己を一つの宇宙そのものと一致させる。合気道の極意を会得したものは宇宙がその腹中(ふくちゅう)にあり、『我は即ち宇宙』なのである。



(合気道の開祖『植芝盛平』はそのことを武を通じて悟ったと言います。まあ私はその力で和合したりしないので彼の意には添えませんが)

此方(こちら)から行きますよ的場君」



その声がした直後、聖持は自分に何かが繋がった気がした。今までより明らかに離れた所から間合いに入れられたように。

危険を感じた彼は()かさず弱点設定(ダメージポイント)を周囲に展開し30発ほど同時に放つ。



(序盤は距離さえ取ればあの能力は私のAIMを突破出来ませんでしたが今はあっさりと貫通しますね。肉体に限らず能力も成長している。それは精神から生まれ土台となる『P・R』(パーソナルリアリティー)が強固になったことの証。余計な力も抜けて動きもスムーズです。この戦いが終わるまでにどれだけ『Phase(フェイズ)』が上がるか予想も付きません)



聖持は知らず知らずの内に導かれ力と可能性を引き出されていた。彼は今、植芝盛平の後を継いで道主となった『植芝吉祥丸』の言葉と同等の域に達しつつある。


《真に武道の心得ある者はむしろ肩肘の無駄な力が抜けて外見は優姿に見えるものであり、真に自信があるものは悠々として、常に愉快な気分を(おもて)に表すものである。いわゆる『外柔内剛』。日頃は地味で謙虚であり起居振舞もごく自然で無駄が無い。つまりありのままの自分をありのままに見せながら自然に生きれる者こそ真の武道の修業者と言えるのではなかろうか》



(ひょっとすると悠持さんをも超える成長と進化の速度かもしれませんね。末恐ろしいですよ。でも同じくらい的場君が何処まで行けるか見てみたくもあります。使うことも考えなければいけません。私の『宇宙観(コスモロジー)』を)


 
 

 
後書き
やはり2では終わらなかった。 

 

Second3

 
前書き
そろそろ偽悪の方を進めます。

10000文字かあ。 

 
近代以降になると日本に存在していた武道の多くが『剣道』の剣、『柔道』の投極、『空手』の打といった技術的な特化をしていったのに対し、『合気道』では投げ、極め、打(当身)、剣、杖、座技を修し、攻撃の形態を問わず自在に対応し、多数の敵に対しても技が自然に次々と湧き出る段階に達することを求める。


この境地を開祖は『武産合気』という『無限なる技を産み出す合気』と表現し、自分と相手との和合、自分と宇宙との和合により可能になるとしている。


そして《七草花夜》と一戦交えている《的場聖持》はそれを身を以て体感していた。



「俺の弱点設定(ダメージポイント)は距離が近いほど威力が上がるのに触れて逸らしたり弾いたりするってどういうことなんですか………」


「合気とは何かという説の一つに『接触の方法』というものがあります。AIMだけで防げないなら別のものを使えば良いだけのこと。合気道とは『天地の“気“に合する道』という意味です」


「まさか俺のAIM拡散力場に合わせているとでも言うんですか?それだけでどうにかなるとは思えませんが……」


「気を合わせると相手の動きの機微が手に取るように解ります。しかし貴方はそれを上回ってくる。私が力を出すほどに強い手応えを感じます」



花夜は聖持にある理念と精神性を覚えていた。合気道は創始者の思想が強く反映されており、『精神的な境地が技に現れる』と云われる。

それは武道家だけでなく能力者にも言えることである。『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』も精神が強いほど影響を与える。


的場聖持はほんの少しずつだが花夜に追い付きつつあった。それは彼が勝ちたい、追い越したいと強く願っているから。

思い込みや信じる力が体を動かし進化させる。花夜は彼の内に宇宙が広がっていることを感じ取った。そして彼女は使う。合気道の基本技術を応用した力を。


「相手と自分の接点──結び」


花夜が聖持に触れると動きが止まった。


「相手の重心を操作する──導き」


今回は聖持の体ではなくAIMを操作している。


「体勢を乱して倒す──崩し」


AIMからP・Rに繋げて引き摺り出す。彼だけの現実が満ち、法則が支配する宇宙を。


「そして最後に固めて()める」


花夜は聖持の能力にある根源に触れたせいで体は傷だらけになり意識が飛びかけている。



「…的場君は土台が出来上がってましたからね…。宇宙観(コスモロジー)を引き出すのは楽でしたよ……。でも…力の強さが予想以上でした……」

「七草さん!?」

「貴方の持つP・Rは『位相』…という宇宙となり、この世界を塗り変える。その力は強大ですが……まかり間違えば全てを滅ぼすことが……出来ます。どうかお気をつけて……」



花夜は聖持を進化させて倒れた。

その後で観測者(オブザーバー)が彼女の傷を治し次の階へと進んだ。



「七草さん大丈夫かなあ」


「目が覚めれば問題無い。心身共に完全に治したからね。それにしても、まさか自分の体を張って聖持君を成長させるとは」


 
 

 
後書き
宇宙観(コスモロジー)を展開すると大体は勝負が着くんですけど自分以上の相手はあんまり効かないですね。

元ネタは『宇宙観(コスモス)』、『虚無戦記』の空間支配能力、神座万象シリーズの流出と求道神、セフィラ、クリファ。

まあ今の聖持君の段階だとモデルよりかなり弱く設定してますし、物質世界しか展開出来ませんが。
 

 

Third

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
三階───


「お待ちしておりました」

「あ、貴女は……」


的場聖持(まとばせいじ)》の前にいる相手は《箱部鈴菜(はこべりんな)》。

以前に《野口勝哉(やぐちしょうや)》が紹介してくれた少女だ。


「騎城君と七草さんには認めてもらえたようですね。次は私が御相手をさせて頂きます」


鈴菜は正面から突っ込む。
聖持は嫌な感じがして跳び下がった。


「今一瞬消えましたね。
もしかして『抜き足』ですか?」

「ええ、教えて頂きました。騎城君も私もその方が使う抜き足には到底及びませんが」


二人に教えたのはもちろん《池野操作(いけのそうさく)》だ。

彼が暗殺者時代から練り上げた体技は七草花夜の合気道と同じく魔術レベルまで昇華されている。


「俺も使えますよ」


聖持は抜き足を使ったが途中で動きを止めた。


「来ないんですか?」

「箱部さんの認識外に潜り込めないんです。こっちの動きを見切ってますよね?」


それは花夜とは違う感知。鈴菜は元々普通に持っている観察力がとても高い。それが池野操作と共に過ごす時間の中で磨かれていったのだ。


「不意討ちが決まらないなら
真っ直ぐに行かせてもらいますよ」


聖持は雷速で駆ける。その手首と足首から先には『弱点設定(ダメージポイント)』が纏われている。触れればそれだけで致命傷になり、近付くだけでも影響が出る。

鈴菜が再び抜き足で迫ってきた。しかし今度は彼女の動きが正確に捉えられている。これなら近接格闘で押し切れる。

そう判断した聖持だったが彼女はSTUDENTの三人目。簡単に勝たせてはもらえない。鈴菜の動きに異変があることに気付いていなかった。


(抜き足が良い布石になってますね。
では行きますよ)


そしてそれが起きた直後───


「か…は……!?」


背中から衝撃が走る。凄まじい激痛が聖持を襲ってきた。皮膚が一部破れるほどの何かが攻撃したのは解るがそれだけしか解らない。


「が、ぐ…い、今のは……!」


抜き足ではない。だが鈴菜が目の前から消えた。そこから正体不明の痛みが発生したらしい。


(思い出せ。箱部さんの動きを!)


聖持は距離を取りながら【弱点設定(ダメージポイント)】を射って牽制(けんせい)する。


(解りますか的場君。でないと貴方が負けるまで同じような目に会いますよ)


記憶から解析する。彼女の動きを。速度、挙動、()、ただの突進とは違う真っ向からの攻撃。そして聖持が気付いた。その技術が何かを。


(クロスオーバーステップを応用した曲がり(カット)か? 普通とは体重の掛け方や重心が違う)


全速力で走ると障害物を直前で回避する為にはブレーキを掛けて止まるか大幅な減速をしなくてはならない。鈴菜が使ったのはそれをカバーする為のステップである。

人間は曲がる際に曲がる方向とは『外側』の足に体重を掛けてから地面を蹴る。そして反対側へと曲がる。

しかしこの技で用いるクロスオーバーステップは『内側』の足に力を入れてターンする。

鈴菜は曲がり(カット)の直前でスピードを落とすのではなく歩幅を調節して小刻みにすることで最高速を維持(キープ)したのだ。

迫る速度は遅くなっているのに出ている速度は変わらないという物理法則を無視した矛盾のような緩急が付けられることで相手は消えたように感じたり残像が見えたりする。

そうでなくともスピードが一切落ちていないのでブレーキのタイミングなど測りようも無く、相手はただ抜かれるしかない悪魔染みたカットである。


(あの顔は…どうやら気付きましたかね)

(アメフトなんかのスポーツでやってるのを見たことはあるけどこんなに凄いのか……!)


普通の人間が聖持にやっても通用はしないだろう。自分と近いレベルの相手がやって漸く効果がある。だからこそこの状況は厄介だった。


(抜き足とあの曲がり(カット)の組み合わせは面倒だな。とにかく距離を取って弱点設定を射ちまくるしかないか)


しかし鈴菜は飛来する能力を恐れず間合いを詰める。そして彼女の能力が発動した。


「?」


聖持の能力が働かない。演算も出来ているし干渉をされている感覚も無い。何が起きたのだろうか。

そうこうしている内に鈴菜が全身の力を脱力させ水に例えられる液体のような動きから(なめ)らかにしならせた腕で鞭のように打った。

咄嗟(とっさ)に両腕を使ってガードするが聖持の皮膚は衣服ごと剥ぎ取られてしまった。それにまたもや信じられない痛みが走る。この攻撃は一体なんだと言うのか。


「な、なんなんですか…それ……」


痛みに体を震わせながら鈴菜に尋ねた。


「『流水の動き』と【鞭打】と言います。
詳しく説明をすると……」


全身を液体としてイメージし、出来るだけ体の力を抜く。そして全身をしならせ体の動きを連動させて放つ鞭のような攻撃。基本は掌打だが足で出すことも出来る。

普通の打撃と違い肉を裂き骨を折るのではなく、『皮膚』を直接攻撃するので防ぎようが無い為に格闘戦では(かわ)すしか出来ない。

鈴菜の鞭打は全ての皮膚が急所となる。

痛みが強い鞭打を更に『痛点』を刺激するように打っているので余計に痛みが走るのだ。


「理不尽ですがよく解りました……。ところで俺の能力が使えないのはやはり箱部さんの力なんですか?」


「その通りです。私の【異能殺し(エスパーブレイカー)】は能力を無にしてしまう力がある。今の的場君はまだ私より能力強度が低いのでしょう。ちなみに無にしている間は【望我理創法(ファナティック)】や【望我理想像(アイディアル)】の展開もさせませんよ」


七草花夜も強かったが彼女もまた現在の聖持より強かった。しかし此処で諦めるわけにはいかない。

鈴菜の力によって自分の能力や宇宙論が外に出せないのなら内に出せば良い。超能力者(レベル5)がこの仕組みを理解出来ても恐らく納得はしてもらえないだろう。

《的場聖持》は自分の中に【自分だけの現実(パーソナルリアリティ)】という『個人』の世界を展開した。それは己が持つ思い込み、信じる力、自身のあらゆる可能性を網羅し法則として顕現させた個人だけの現実世界。

つまりこれを内側に展開したことにより彼は一つの世界そのものとなった。そして別の世界であるがゆえにこの現実世界に於ける縛りからも解き放たれる。


「あ、能力が戻った」

「おめでとうございます。これで貴方のPHASE(フェイズ)は『6.5』になりました。でも特異点になってしまいましたよ」

「なんですかそれ?」

「文字通り、基準が適用出来ない『点』ですよ。それに位階も上がったみたいですしね」


鈴菜ははっきりとしたことは教えてくれなかったが聖持は彼女に合格を貰えたことに胸を撫で下ろして安堵した。

もし続けていたら結果がどうなるか解らなかったから。それに彼女とはあまり戦いたくないのが聖持の本音だった。


「さ、次は私の体術を覚えてもらいますよ」


聖持は彼女にみっちり技を仕込まれた後で《観測者(オブザード)》に回復してもらい次の階へと向かった。 
 

 
後書き
順調に強化されていく聖持君。

次は彼の番ですね。 

 

Fourth

 
前書き
何かネタでも入れよう。
φ(・ω・ ) 

 
箱部鈴菜(はこべりんな)》との特訓を終えた《的場聖持(まとばせいじ)》、付き添いの《観測者(オブザード)》は四階までやって来た。



「コンボで()め倒してやる!」



そこにはこのような場所にあまりに似つかわしくないポップな出で立ちをした少年がヘッドホンをしながらゲームに熱中していた。



「うーむ。今行くと不味い気がする。彼のゲームが終わるまで待っていよう」

「そうだな。邪魔しちゃ悪いくらいのめり込んでるし」



聖持は少年が一喜一憂しているところを見ていると今までの相手と同じく強いようには思えなかった。

そして気が済んだのかゲームのスイッチを切り此方(こちら)の方に向いて驚いた。



「なんだ来てたのかよ的場ッチ。なんか知らない人もいるけど丁度良いや。このゲーム持っててくんない?」

「私は《観測者(オブザード)》って言うんだよ影縫君。別に預かっていても構わないが」



観測者が少年から渡されたハードを見てプレイしていたゲームを確認する。『スペースファイターSOUL─ONLINE』。どうやらネットワーク対戦の出来る格闘ゲームをしていたようだ。



「いやー二人ほどおっそろしく強いプレイヤーがいてさあ。学園都市内のゲーセンで連勝記録出してる奴とオンラインのネットプレイしかやらない都市伝説みたいなのが揃って接続してたから騒ぎになってたのよ」



その二人に挑むプレイヤーが続出したが片っ端から敗北させられていた。あまりに強過ぎて誰も挑戦する者がいなくなった時、少年が二人にチャレンジしたらしい。


最初は普通に負けていた。パーフェクトで勝つのが当たり前の相手なので特に珍しくもない。しかし二度目からダメージを与え始めた。

少年は二人と交互に戦いあっという間に同レベルでのプレイが可能なまでに学習し互角にまで持ち込んだ。

相手からは手を抜いていたのかと言われる程の変わりっぷりだがそんなことはない。実際キャラを操作するキーとボタン入力の速さは殆ど変化していない。



「どんなに強い奴だろうと人間である限りは好みの思考や戦術がある。けして無限のパターンは無い。だから個人の偏りを見つけてそこを突く。俺ッチってば面倒臭いのが嫌いだからさっさと相手の動きを覚えんのよ」



一度の対戦で相手の動きを覚え、そこから何が出来るのかを予想する。ボタンを打つ速度。コマンドを入力するタイミング。操作する人間のテクニックから出来るだろうアクションまで頭をフル稼働させて想像する。



「二人とも後は弱パンチ一発ってとこまで追い込んだんだけど相手が底力を見せ付けてきたから結局勝てなかったけどな」



すると観測者が声を掛ける。



「そのプレイヤーの一人はネームを『GATE(ゲート)』って言うんじゃないかい?」

「そだよ。地獄の門ゲートって言うんだ。メチャクチャ強いけど絶対に顔は(さら)さないんだよね~」



観測者は思わず苦笑いした。

傍観者(バイス)》が何をやってるのかと。

そしてもう一人が誰なのかも察しがついた。



「もう一人がパーフェクトを出しまくる『STD』って人。こっちはちょくちょくゲーセンに顔を出すんで結構有名なんだよ」

「STDとはどういう意味なんだい?」

「『Show the dream.』夢を見せるって意味らしい。ただしパーフェクト負けっていう悪夢だけど」



あの途轍もない面倒臭がりで昼行灯の三味線を弾き語りなヒーローも容赦が無い。



「えーとそろそろ名前聞いても良いですかね?」

「おお、忘れてた。俺ッチの名前は《影縫子規(かげぬいしき)》ってんだ。宜しくな的場ッチ」



なんだか精神年齢が低そうな相手に
気が弛む聖持だった。 
 

 
後書き
「いやー今日は久し振りに
骨があるのが相手だったねえ」

「俺とお前があんだけ手間取る奴っていうのは多分だけど初めてだよな?」

「また来てくんないかなあ。
もっと強くなってくれるだろうしさ」

「俺もまだまだ鍛え方が足りねえってことなのかねえ……。よし、相手してくれよ。取り敢えずお前をパーフェクトだ」

「ふっふっふっ、お姉さんを甘くみないでほしいね」


「「お前は仕事しろ」」


叶世重実と一之世意式の突っ込みが入った。


三人は何時も無駄に無駄な才能を消費して無駄に洗練された無駄の無い無駄なコマンド操作と技術(テク)と演算を駆使して無駄にゲーセンに通ったり無駄にネットに繋いで自分より弱いプレイヤーを無駄に狩りまくって無駄に血祭りに上げているぞ!(爆)


まあ不可抗力なんだけどね。取り敢えずやられているみんなには乙。(。*・д・。)ノ 

 

Fourth2

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
「そんじゃ早速始めようか的場ッチ」



影縫子規が服から銃を抜いた。



「俺達の戦いに銃は無意味なんですが」

「コイツはただの武器じゃあないんだぜ?」



そう言って子規が銃爪(ひきがね)を引くと弾が勢いよく───



「あれ?」

「ふっ、どうだ的場ッチ。すごいだろう」



発射されなかった。

聖持は拍子抜けして調子が狂う。



「今のは何か意味があったんですか?」

「勿論だぜ。ちゃーんと弾は当たってんよ」



すると聖持に異変が起きた。


「な、なんだ?」


彼のAIM拡散力場が不自然に揺らいで安定しない。まるで陽炎のように歪み周囲へと拡がっていく。


「へへっ、いっちょ上がりかな?」


子規が愉しそうに銃をしまう。


「何をしたんですか……?」


聖持はAIM拡散力場を制御しようと演算する最中に子規へと話し掛ける。



「さっきの銃は俺のAIM拡散力場を弾として収束集中させて発射出来る特別製でな。普通に能力を使っても効きが悪そうな奴に使うんだよ。とは言っても使うのは的場ッチが初めてなんだけどさ」



そして彼はAIM拡散力場を放出し始めた。今度は普通に能力を使うつもりらしい。聖持はまだ能力の制御に手間取っている。

今手を緩めると暴走してしまいそうなので下手に他のことに意識を割くわけにはいかない。



「おいらの能力は色んなものを暴走させることが出来る。そして俺が的場ッチに課す試練は限界ギリギリの暴走を経験させて完璧に操れるようにすることだ」



聖持の能力が不安定さを増してフロア全体を力場が包み込んで行く。彼の周囲は三次元単位で歪み始めた。


学園都市で採用されている代表的な次元の成り立ちは二つある。



一つは学園都市の住人ではない者でもよく知っている素粒子という点が世界で一番小さい存在であるという0次元から十一次元までの次元。

もう一つの説は世界で一番小さいものとは粒子という点ではなく『ひも』状の弦だという空間次元が十個と時間次元が一つの十一次元だ。


影縫子規は的場聖持をこの世界に於ける物理的、能力的な限界まで追い込み成長させるつもりなのである。



「的場ッチが能力を暴走させても俺ッチは問題ない。発生させた暴走なら操作出来るし大体は『消力(シャオリー)』で受け流せるからな」



既に聖持は血管どころか神経が浮き上がるほど脳を回転させて演算を行っている。鼻から血が流れ出したのを始めとして、口、耳、閉じた目からも出血が起きた。



(耐えてくれな的場ッチ。俺ッチは見たくてしょうがないんだよ。勝哉の奴がお前に入れ込んでる理由(わけ)ってやつを)



聖持が能力を制御し始めそのまま安定させようとすると直ぐに子規が負荷を増大して状態を乱す。それを数十分ほど繰り返すと変化が起き始めた。



(揺らがない……。自分だけの現実(パーソナルリアリティー)が強度を増したか。そしてこれが的場ッチの新しい力)



聖持は子規の能力を一定レベルまでしか受け付けなくなっていた。そしてそれ以外にも肉体的に変化した。



「治療した時に気付いたんだけど君の体構造はそのままに性能が変わってるよ。動きは特に変わらないけど」



聖持は新たな力と肉体を手に入れ四階を後にした。



「あのまま戦ってたら腐敗区をぶっ飛ばしてたかもしんねえなあ。ま、天使か悪魔の力を借りない限りそんなことにはならねえだろうけどな。あの観測者ってのが止めるだろうし」



 
 

 
後書き
さあ次はある意味で今回の聖持君とSTUDENTの戦いの中でも特に気を使って書くかもしれないあの人が相手だ。

子規君の銃は番外編で最深学区の咎さんの所から持って帰ってきたやつです。
 

 

Fifth

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
《的場聖持》は五階に向かう階段の途中で気付いた。気配が殆ど感じられない。七草花夜もそうだったがこの小ささは異常だ。

死にかけているのではないかと
思えるような儚さを覚える。


「なんか嫌な予感がするなあ……」

「強いのは今までと変わらないけど
相当手子摺りそうな雰囲気だよね」


観測者(オブザード)》の方も妙に不吉な感触を覚えていたので彼の意見に同調する。

そして二人が階段を上がり切るとフロアの中央で此方(こちら)に背中を向けたまま座禅を組み瞑想をしている人物がいた。

その気配は更に小さくなり捉えることも難しい。蝋燭(ろうそく)の火が消えかけているように時々AIM拡散力場も感知が出来なくなる。


「気配ってあんなに抑えられるもんなのか……」

「あれでも本気じゃないんだろうな。
臨戦態勢に入っているというだけで」


座禅していた人物が傍に置いてあった何かを手に取り立ち上がる。それを左腰に差すと聖持達の方を振り向いた。その所作に思わず目を奪われてしまう。ただ立ち上がるだけで魅了されることがあるなど誰が思っていただろう。

あまりに滞り無く完璧に、それでいて騎城優斗のような常識に基づいた美しい正確さ。だというのに七草花夜よりも自然体で余計な力が入っていない。

その身体は無駄な仕種(しぐさ)でさえ完成品(うごき)を作る為のピースに変えてしまう。

まるで進化の過程で失った原始の肉体と動きを取り戻し、これまで積み重ねられた武の歴史と融合したような奇跡的な存在が其処にはいた。


「【暗黒魔境(ディストピア)】でも普段の日常的な動作であのような真似を出来る人間は私を含めた最強クラスの住人で100人いるかどうかだろう。身体操作と肉体の制御、武の技術、総合的な近接格闘に関しては『小一界』における人間の中で上から50位以内に入ると思って間違いない」


観測者がいう体術の小一界上位100人には聖人ですら入ることは不可能である。彼等は上位十億位に手が届くかどうかではないだろうか。

何故なら聖持が修業の為に連れて行かれた最深学区の最上位平均で地上の人間の10万倍の身体能力がある。暗黒魔境には能力無しでも単身で国を落とせる人間が腐るほどいるので珍しくも無い。

その中で上位50以内に入るというのは既に『神の子』と同じか神殺しを実行出来てもおかしくない領域である。


「やあ、始めましてだね。僕は《池野操作(いけのそうさく)》。君を試す者とでも言っておこうか」


優しい声音(こわね)が聖持を落ち着かせる。すると操作が腰に差したものに手を掛けた。


「ん? これが気になるのかい?」


彼がそれを前に(かざ)して見せる。黒い(つか)(こしら)えには新緑の頃に庭の片隅や野山でひっそりと咲く白い鈴蘭の模様が描かれている。

彼は腰に戻すと鞘から刀身を引き抜いた。青白い輝きを放ち薄っすらと冷気が感じられるそれは小刀だろうか


「これは分類で言えば小脇差というのに入る。小刀でも構わないよ。僕の為に鈴菜さんが研いでくれた特別な刃だ。そしてある思い入れがある」

「名前を聞いても良いかな」


その見事な出来映(できば)えに観測者が尋ねると
操作は快く答えた。



「『脇差 無銘 《号 箱部》 (つけたし) 黒漆脇差拵(くろうるしわきざしこしらえ)』という。僕は【氷刀(ひょうとう)鈴花(すずばな)】という名前を付けてるけどね」


なるほど、その涼し気な印象に合った名前だ。観測者には『箱部』という第0学区の名門が断絶し、娘一人だけが生き残ったという話を思い出した。彼女はその箱部家の息女に間違いないと確信する。


「さて、話はこれくらいにして始めようか」


聖持は気になっていた。操作の右腰にあるもう一つの黒い鞘に入った小刀が不吉な気配を漂わせていたから。 
 

 
後書き
氷刀・鈴花はそれなりに考えてみたつもりです。

刀身は約35㎝くらい。

別名が操作君の暗殺者時代の名前からとった『IS』で『I who reap the soul』の『私は魂を刈り取る者』というのと同じ。

描いてある花の『鈴蘭』

別名が『君影草』『谷間の姫百合』

別名の由来は可憐な花を女性に見立て、まるで殿方の影に寄り添うように咲くことから付いたという。

鈴のように可愛らしい花を付ける。

見た目とは裏腹に有毒植物。
(この辺り鈴菜さんぽい気がする)

花言葉(日本)

幸福

繊細

純潔

純愛

幸せの再来

清らかな愛

幸福が戻ってくる


花言葉(欧米)

謙遜(humility)

優しさ・愛らしさ(sweet)

純粋(purity)

再び幸せが訪れる(return of happiness)

もう一本の小刀の詳細はまた(いず)れ。 

 

Fifth2

 
前書き
落第騎士の方のネタも入れよう。 

 
『武』とは本来、武骨なものである。

握り締めた拳を見れば解るだろう。

およそ『美』というものとは程遠い
威圧的かつ暴力的な形をしている。

敵を打ち倒す。

そんな概念を纏った異様を。

そこに優雅さや華やかさなど無い。

当然だろう。『武』とはこの星と共に歴史を歩んできた人間の生存競争を生き抜く為に考えられた清濁併呑(せいだくへいどん)の文化であり、人間がどれだけ進化しても捨てられない野性の表れなのだから。

しかし人類は永き歴史の中でこの武骨な存在である『武』を『美』へと昇華させた。それが武術であり、武芸、武道である。

敵を倒す為に始まり何かを守る為、自らを鍛え己を高める為、理由は色々あるだろうが先人が積み重ねてきた理念と蓄えられた知識経験の結晶。

神すら持ち得ない人間だけの哲学。

理性を持って律されながら合理的に研ぎ澄まされた野生には確かな『美』が宿る。

《池野操作》は自身の才能というものを気にしたことは無い。しても仕方無いからだ。

他者と自分は違って当然。

故に幼い頃から【Anaconda(アナコンダ)】の暗殺者育成所でも周囲の目を気にせずに己の体を鍛え、心を磨き、『武術』の技を練った。

暗殺者になってからも同じだった。血の滲むような努力で更なる高みに自分を引き上げ『武芸』の道も歩き始めた。

そして《箱部鈴菜》と共に過ごすようになってから彼女を守る為に今までとは違う精神性で武と向き合い『武道』の領分にも踏み入れた。

池野操作は渡り歩き、間近に見て、知識を得て、技を学び、盗み、抽出し、知恵をひねり、やがては自分だけの『武』を構築していった。

彼が的場聖持に求めることは自分に何かを与えてくれること。しかし本当の目的はその先であり逆である。

この戦いの真の意図は武を修めた師に弟子入りした若人(わこうど)達が繰り返してきた連綿と続く行為と同じ。

操作(じぶん)から何を奪い成長できるか。

聖持は進化に深化を重ね急激に絶対能力者(レベル6)(きざはし)を段飛ばしで駆け上がっている最中(さなか)、踊り場に差し掛かった。

自分は其処(そこ)に立ち彼の()く道を塞がんとする壁であり番人であり試験官。


(恐らくこの階を出る時にはレベルのPHASE(フェイズ)が『6.7』にはなっているだろう。彼が此処に来た時点でレベル6.6だったのは予想外だったが問題はここからだ。6.5を越えてからの壁は高く道は険しい。優斗君が苦しんでいたのが良い例だと思う。まあ簡単に此処を通す気は無いし、死ぬほど苦労してもらうつもりだから覚悟はしておいてくれ)


操作は右腰に(はい)した小刀にそっと触れる。


(いざとなればこっちも使うことになるかもしれないね。『IS(イズ)』を辞めてから手入れする時以外抜いたことが無い(かつ)ての相棒を)


観測者(オブザード)》は少し目を向ける。


(聖持君……何か変わったかな? 気力が満ちている。なんだか凄く楽しそうだ)

(残りの戦いでも技と知識と力を貯め込めるだけ貯め込んで地上(うえ)に戻ったら野口さんや他の人と今度は本気で勝負がしたい……。自分の力をぶつけまくってみたい!)


聖持は今、力と強さに関してとても貪欲になっていた。そしてお(あつら)え向きに上へ上がる為の相手がゴロゴロ転がっているのがSTUDENTという組織である。

◆◆◆◆◆◆◆

上層階───


「おおーやる気満々だなぁ操作のやつ」


《桐崎飛鳥》がウジャトの目で覗きながら炎に映し出し他のメンバーにもその光景を見せている。


「あれが的場聖持か」


《我紋駿河》はその姿を目に焼き付けていた。


「操作が初見から決めに行くことは無いから心配無いだろうが俺の所に来るまでに負けないだろうな」


《神薙悠持》は足をテーブルに上げソファーに(もた)れながら今回の相手を興味深く眺めている。


「フフ…良いね的場君。予想以上の覚醒(めざ)め方だよ。これは僕が考えていたよりもずっと強くなるだろうね。【STUDENT】との戦闘経験を得ずとも君は素晴らしい存在になれていた。でも今は僕の手を離れて道を歩いている」


既知や解りきったことほどつまらないものは無いだろう。未知や謎こそ我が喜び。是非とも自分の計算を上回って来てほしい。

その時は思う存分に持てる言葉(ちから)の限りで語り合(たたか)おう。ともすればこの戦いが終わった後に全てを賭けた戦いをすることも(いと)わないかもしれない。

野口勝哉は残り少なくなったコーヒー缶の本数を数えながら内に秘めた獣を(うず)かせていた。


(STUDENTのメンバーにも僕の『猛獣の魂(ブルートソウル)』に火を付けてくれた人間はいるけどそれ以上になると期待しているよ。灰になるほど君を待ち焦がれている。一種の愛だと思うほどに)


抑制装置(ストッパー)』の解除や『ポーカー』の階級上昇(クラスアップ)をすることも勝哉の未来予想図には入っていた。

まあ的場聖持と渾身の力を込めて譲れないものの為に互いが道を(たが)えないのならその切り札を使う機会は来ないのかもしれないが。
 
 

 
後書き
向こうの飛鳥君の話でテンションが上がったので一気に書き上げてしまいました。

操作君との戦いはかなり長くなるかもしれません。下手をすると落第で書いてる長期戦より長いかも。

勝哉君の『猛獣の魂(ブルートソウル)』に火を付けたのは悠持君です。STUDENTの何人かは本気でやれば彼の猛獣の魂(ブルートソウル)に火を付けられますが後が困るでしょうね。

旧作のワイルドカードはポーカーに変更しました。
 

 

Fifth3

 
前書き
φ(-ω- ) 

 
的場聖持(まとばせいじ)》は今、《池野操作(いけのそうさく)》に向かって攻撃を仕掛けていた。

掠るだけでもそれなりに損傷を与えられる『弱点設定(ダメージポイント)』が手足に込められ気合いの入った声と共に襲い掛かる。当たりさえすれば終わるのだが当たらない。操作は聖持の攻めを全て捌き切る。

たった一本の小刀を持っただけの状態で妖術とも思える動きが二人の間に起きている。全力で繰り出した聖持の拳が、足が、いつの間にか操作から空振りしている。

受け流した感触すらも伝わってこない。初めから何も無い空を狙っていたように逸らされる。

しかし《観測者(オブザード)》の目には違う見え方だった。絶え間無く続く聖持の攻撃を緩やかな動きで()なす操作の体術は舞いのように優雅であり、まごうことなき『美』があった。



「ハァ、ハァ、ぜ、全っ然っ当たらないっ!」

(汗一つかいてない、化け物だ……!)



聖持の体術は【STUDENT】のメンバーと比較しても遜色ないレベルである。だが操作は僅かながらの足捌きと剣先を使った受け流しで応じていたのでほぼ体力を使っていない。

これは誰が悪いわけでもない。ただ操作が体術に於いて天賦の才があり、異能に頼らない戦いを考慮して常軌を逸した鍛え方をしてきたからである。


学園都市でも『強能力者(レベル3)』のフェイズが5を超えた辺りからの者にとって本来的に体術は不要なものである。

肉体を鍛えて武の修行に時間を()く余裕があるなら能力強度を高めたり、使い方の幅を広げて応用性を上げた方が余程早く強くなれるだろう。

好んで手を付けるのは能力の素質が全く無い無能力者(レベル0)を始めとする劣等生か、本当の意味で強い実力者だけである。



「うん、良いと思うよ的場君の動きは。花夜さんが先に進ませたのが解る。期待を持てる素養を感じられる」

「それはどうも……。まあ池野さんには
掠りもしませんでしたけどね」

「僕は自分の能力が生物に関することだから肉体の動きも重視してるだけで、君が体術を重く捉える必要は無いよ」


そうは言っても聖持の能力は元々触れて使うものだったので体術には自信があった。

しかしSTUDENTと《志木疋鉄(しきひきがね)》にはその自信を揺るがすどころか砕かれている。

しかしそれでへこたれる聖持ではない。殊更(ことさら)に楽しそうな顔をして頬笑む。



「俺にとっては大歓迎な状況ですよ。ここまで学び甲斐も盗み甲斐もある相手は初めてかもしれません」

「盗んでくれるのは構わないけど教える気は無いよ?だって的場君は花夜さんと同じで口を挟める段階は通過しているからね」



(僕や花夜さんは身体能力に自信があるけど使う武道は基本的に技術寄りの技巧派だと思ってる。でも的場君や悠持君の体術は違う。相手をねじ伏せる強者の武だ。そういう方向性になってしまっている。だから小手先や解りにくい技なんか必要無い)



操作がそんな考えに耽っていた時だった。彼と同じくらいの大きさがある弱点設定が目の前に迫っていた。しかし逃げられないことが効くということに繋がるとは限らない。

彼は能力を使った肉体で後ろ向きに回転し、そのまま逆方向から蹴り飛ばした。弱点設定は何処かに飛ぶこと無くその場で霧散しAIM拡散力場へと戻る。


恐ろしい威力と技のキレ。その衝撃的な光景に聖持は思わず震え上がった。操作の動きではなく彼が一瞬だけ垣間見せた怜悧(れいり)冷徹な眼差しに。



「ふう、危ない危ない。ちょっと気を抜いてたよ。やるじゃないか、僕の隙を突くなんて。さて、今度はこっちの番かな?」



そう言って操作が『氷刀(ひょうとう)鈴花(すずばな)』の間合いに聖持を入れるが妙に遅く緩い太刀筋だ。当てようとする気が感じられない。

しかし時折刺すような殺気が聖持の体の様々な部位に飛んでくる。痛みは感じないが現実(リアル)に小刀で斬られた映像が見えるので油断はならない。



(どういう気なんだろう。あの斬られるイメージが生々し過ぎて俺の動きが止まる瞬間があるのにそういう時だけは必ず対処が間に合うように攻撃してくる)



操作は観察している。『照魔鏡』のような洞察力で(すじ)一本の動きも見逃さない。そしてあることに気付いた。



(大分違うが根底に勝哉君と似たような動きがあるな。彼の方がスムーズな移動だけど)



戦いになれば両足に均等な力が掛かる時より片足に力が掛かる時間の方が遥かに多くて長い。『動く』ということは常に片足から片足に継ぎ()ぎされる重心移動のリレー。

だから片足で自在に平衡(へいこう)を取れないのは戦いの場に身を置く者にとって良いことではない。言われずとも解っていることだが。


中国拳法ではそれを『双重(そうじゅう)(やまい)』として戒めている。


大袈裟に思えるが両足に重心を均等に散らして立つ体勢は病と呼ぶに相応しいほど危険なことである。突然何かが起きても直ぐに『動』へと繋げることが出来ない隙だらけの姿なのだから。

隙は死に直結する。だからこそ武はこれを戒める。どのような武であろうと重心を両足へ均等に乗せる姿勢は存在しない。


武芸百般に通じる基礎の基礎。


聖持にはほぼ存在しない欠点ではあるが操作としては少なくとも自分と同等に引き上げる位はしておきたかった。この先を戦い抜くにはあって損はしない力だ。



(流石にこのレベルの相手を戦いながら素早く調整するのは少し気を入れて掛からないといけないか。でも動きの矯正さえ終われば彼はもっと伸びる)



操作は戦いながら聖持の動きを操り思うように誘導していた。剣速を上げれば手早く済む話なのだが相手が相手なのでそれも出来ない。



(やれやれ、瞬殺する方がよっぽど楽だ。だけどこれも僕個人とSTUDENTの目的の為だ。暫くは付き合ってもらうよ)


 
 

 
後書き
操作君がどんどん強くなっていくなあ。聖持君は違和感を感じていますがそろそろ矯正が終わるので動きが格段に上がります。しかしそれでも能力無しの戦いでは勝てません。どれだけ操作君の技法を奪った上で覚醒するかが肝。 

 

Fifth4

池野操作(いけのそうさく)》は戦いながら《的場聖持(まとばせいじ)》の動きをミリ単位で調整していた。

何故わざわざそうしていたかと言うと彼の挙動が体にマッチしていないからだ。

聖持は自分でも鍛えており独自の体術を使えるが《野口勝哉(やぐちしょうや)》が教えた体術も使うことが出来る。問題はそこにあった。

それを使って戦うのは一向に構わない。しかし聖持は勝哉の動きをそのまま使っている。つまり勝哉の体に合わせて作られた動きを聖持の体で行っている為に本来の力が充分に発揮出来ていない。

その無理矢理な動きをした状態で操作の元まで上がって来れたのは流石と言わざるを得ないが勝哉が使うことを前提に調整された型で戦えるのはこの辺が限度だろう。

現状の聖持は身体の各部に無駄(ロス)が生じてパワーやスピードが摩耗(まもう)してしまっている。操作は勝哉の体術を聖持の体に合わせたものにするため時間を掛けていたのだ。



(そろそろだな)



操作が体動調整を終えた瞬間に今まで遅くしていた剣速を急激に引き上げ弧を描くように打ち下ろす。

大振りなのでまだまだ本気ではないがそれでも緩急の緩に慣れきった聖持の目には体感速度が実際以上に見えるだろう。聖持は一か八かの賭けに出る。



「「!!」」


これには二人揃って驚いた。操作は聖持が氷刀・鈴花の腹を打って弾いたことに。聖持は自分の動きが極端に上がったことに。双方予想外の事態に戸惑って距離を取った。



「どうやら正解だったようだ。関節から筋肉まであらゆる動きが連動し、体の部位個別だけじゃなく総合的な動きが僕に匹敵する速さと力を生み出している」


今まで自分に合っていなかったものがフィットされたことでパワーやスピードといった解りやすいものだけでなく、妙に力む必要が無いぶん体は強張ること無く次に繋げる動きもしなやかさ、滑らかさが増しスムーズになった。



「なんだよこれ……。いきなり強くなったぞ?一体何が起きたっていうんだ……」



操作はその疑問に答えるつもりはない。だがこれで準備は整った。これで普通(・・)に斬りかかっても大丈夫だろう。解りやすく闘気と殺気を飛ばして此方(こちら)に注意を向かせる。

聖持が落ち着きを取り戻し構えたことを確認すると操作は地面を蹴る。疾風(はやて)のように間合いに踏み込み叩き付けるようにして斬撃する。

しかし真正面から隙も突かずに行っては防がれて当然。聖持は小刀を殴って逸らす。しかし操作は最初から当てる気など無かった。この攻撃は所詮ブラフ。

狙いは聖持が鈴花を迎撃する為に腕を振らせること。腕が跳ね上がる間に聖持の懐へと潜り込む。頭突きすら可能な近接距離(クロスレンジ)で小刀と拳の応酬が始まる。


本来なら小刀を持ちリーチが長い操作は接近戦に於ける連続攻撃や腕を振る速さの『回転』に関しては素手で戦う聖持に劣る。しかしそれを技で何とかするのがこの男だ。

聖持の腕が引き戻されるよりも速く『氷刀・鈴花』が青白(せいはく)に煌めく。冷気を帯びた鋼の斬光が鎌鼬(かまいたち)のように襲い掛かる。聖持は持ち前の反射神経と学習能力の高さで軌道を読み、行動を先取りし、次々と(かわ)し 、逸らし、弾く。


しかし徐々に防御が遅れ掠り傷を負うようになってきた。操作は小刀を体全体で振り回すような真似はしない。まるでカットラスのように手首を捻りながら刃を返す。

指揮者がタクトを振るように旋律(リズム)楽譜(スコア)に乗って氷の鈴花(りんか)が咲き誇る。凍れる太刀筋が(ひるがえ)る度に聖持は肝を冷やした。



(やるか)



聖持は考えていたアイデアを試そうとしていた。『宇宙論(コスモロジー)』が実体化した『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』ならば、そのエネルギーであるAIM拡散力場も同じようなことが可能ではないかと。

操作は手首だけで()で斬る浅い攻撃の最中(さなか)、やるには絶好のチャンスだろう。聖持は自分の体に攻撃が届かないギリギリで斬撃を素通りさせた。



「なにっ!?」



鈴花が弾かれた。目には見えない何かが刃線刃筋の軌道に存在している。体が揺らいだ操作に聖持の拳が迫る。しかし彼は後ろに倒れていく勢いを利用して更に加速を付けながら地面目掛けて沈んでいく。



(躱されたか、だがそれでも構わない。地面に背中を着けて倒れれば上からラッシュを散打して終わりだ!)



だがそうはならなかった。操作は仰向けに倒れる途中でブリッジのように上半身を反らし両手で床を捉える。そして体を支えた反動と発条(ばね)を活用し下半身を逆立ちさせるように聖持の顎を蹴り飛ばし天井に叩き付けた。


カウンターを喰らった聖持は天井に自分の形をした跡を残して落ちてくる。まだ意識は飛んでいない。逆に目が覚めた。この相手には今持てる全てを以て挑まなければ勝ち目が無い。


嬉しかった。この人なら何の良心の呵責(かしゃく)も必要無い。殺す気で戦っても(・・・・・・・・)自分を受け止めてくれるかもしれないと期待した。

正直なところ的場聖持は優しかった。敵であっても殺さなければならないという意識が薄かった。命を懸けて戦うということが自分とは違う何処か遠い世界の出来事のように思えてならなかったのだ。


これまでは────


そして池野操作は最後の一押しをする。



「的場君。もしかしてだけど君はまだ………」



それによって背中を押された聖持は一段と強くなった。



「自分が死なないとでも思っていないか?」



二人の戦いは更に激しさを増していく。


 
 

 
後書き
操作君は殆ど能力を使ってません。使っていれば瞬殺出来たんですけどね。あくまで体術と剣術メインで戦ってもらっています。

聖持君が操作君の動きをマスターすると能力無しの体術戦闘ではSTUDENTの誰も手が付けられません。

既に原作の大天使をAIM拡散力場だけで元いた位相ごと塗り潰すので復活もさせません。というより原作設定ならその位相が消えるとそこの法則を利用していた魔術が使えなくなります。

STUDENTのメンバーの『自分だけの現実』である『宇宙論(コスモロジー)』の規模と強度は魔術の一系統全てを含む一つの神話位相まるごとに匹敵するかそれ以上です。

STUDENTの全員やろうと思えば一人でも小一界の物質世界を自分だけの法則で塗り替え魔神と同じように好き放題出来ますがやりません。

色々とありますからね。
 

 

Fifth5

 
前書き
φ(-ω-*) 

 
「僕から見てだけど的場君には危機感が足りない気がするね。だから少し厳しく行こうと思う」


今でも十分苦戦していると言いたいが其処は《池野操作》も理解している。あくまで内面の問題だ。ここは本格的に追い込むしかないと判断した彼は雰囲気を変えた。


「気配が完全に消えた……」


《的場聖持》の目には確実に操作が映っている。にもかかわらず存在が空気のように薄い。一度でも目を離せば消えてしまいそうだ。そして二度と姿を見ることがないように思えてくる。


「今は先のことを考えるな、僕を見ろ、僕を目指せ。それが的場君の為でもある。強くなりたいなら進化しろ、深みに沈め。高みへ至り、昇華するんだ。でなければ……『死ぬ(・・)』」


感情が消え失せた顔から機械のような瞳が聖持を見据えている。それを見た瞬間に体がフロアの端まで跳んだ。


(なんだあれ…なんだあの目は……。殺気でも覇気でもない。闘気や威嚇とも違う。視線が合った瞬間に殺されるかと思った……)


操作は思考の配線を少し入れ替える。

暗殺者として、かつて『IS(イズ)』だった時の技をある程度入れて対峙を行う。

かなり荒療治になるのは避けられないのだが
一番効果が出そうな手段に打って出た。


「それじゃ行くよ的場君。
急所はしっかり守ってね」


操作は聖持の意識の間隙(かんげき)を縫って其処を歩いていく。騎城優斗や箱部鈴菜も用い、聖持も使えるようになった『抜き足』だ。

同程度の技量を持った者が使えば見抜くことも可能だが操作のそれは三人と次元が違う。彼は個人の意識外でなく群衆の中を相手に誰一人気付かれず普通に歩くことが出来る。

そして抜き足を使う時は素早く相手に近付くことが当たり前なのだが彼にそれをする必要は無い。今の聖持では操作の隠形を目の前で行われても気付くことは出来ない。


「え」


聖持が首を振って辺りを見回しても彼の姿は見えることはない。AIM拡散力場も感知することが出来ない。音すらもしない。

『暗歩』。暗器が隠して使う武器のように隠れて移動する歩法。忍者が使う『忍足』と同じように音がしない。操作の抜き足と併用すれば体術の技量が上か感知能力が無いと捉えることが出来ない。

何時の間にか聖持の目と鼻の先には『氷刀・鈴花』の刃があった。操作は突き付けたまま動かない。その視線は猛禽(もうきん)類のように標的を捉えている。

聖持は全身の毛穴が開き冷たい汗を流す。このままでは本当に命を落とすことになると頭に(よぎ)る。そして彼はまた一つ(きざはし)を上がることになった。


「!」


聖持の周囲にAIM拡散力場が充満する。そこからは弱点設定(ダメージポイント)の弾丸が次々と現れた。凄まじい勢いで空間を埋め尽くしていく。


「や、これはちょっと不味いか、躱せない」


操作は右の鞘からもう一本の小刀を抜いて交差させる。その直後、数えることが出来ないほどに弱点設定の散弾が途切れること無く降り注ぐ。

二振りの小刀にAIM拡散力場と気を纏わせ衝撃波を散らしながら秒間数万発の必殺射撃を全て斬り飛ばしていく。呆れるほどの反射神経と腕の回転力には聖持も感銘を覚えた

裂帛(れっぱく)の気合いで何とか凌ぎきった操作だが腕が上がらない。体は無傷だが斬った弱点設定の破片が伝達神経に異常を起こしたようだ。普段なら能力を使えば直ぐに治るのに指の一本も動かせない。


「やれやれ。酷い力付くだな。だがまあ的場君には僕の動きを焼き付けることが出来たから良しとしよう」

「何も見てないんですけど……」


何はともあれ聖持は操作から認められた。
 
 

 
後書き
抜き足は頭が認識していないだけで目はちゃんと見ていますから覚醒の無意識を使えるなら何とかなります。

聖持君が操作君の技術を意識せずに覚えています。


操作君のもう一本の小刀。

鴉蛇(からすへび)

正式名
『脇差 鴉蛇《号 大蛇(おろち)》黒漆脇差拵』

長さは30㎝ほど

黒い鞘には『餓者髑髏(がしゃどくろ)』が黒い(うるし)で描かれ柄には色合いが違う黒で鴉蛇が描かれザラついており、それが滑り止めになっている。

暗殺者時代でIS(イズ)と名乗っていた頃に使っていた。

足抜けするために組織を壊滅させた時、Anaconda(アナコンダ)の長であるマスターの喉を斬り裂いた小刀。

組織を抜けてから手入れする時以外は実戦で一度も使っていない。

あまりに血を吸い過ぎた為に刃が黒くなっている。

別名は『絶望(デスペアー)
 

 

Sixth

 
前書き
六人目。 

 
「来たな的場聖持。俺は我紋駿河(がもんするが)ってんだ。取り敢えず此処まで来れたことを褒めておく。操作が通すと思ってなかったからな」


駿河の手には突起物が付いたメリケンサック、そして腰には棍棒らしきものが見える。雰囲気からして戦闘体勢に入っている。

自己紹介の直ぐ後に二人が戦闘を始めた。駿河が床を蹴ると砕け散る。それが表すように猛烈な速度で間合いを詰めていく。そして大振りに力一杯拳を打ち下ろす。


(今までの人よりも格闘技術は少し低めなのか?そんなテレフォンなモーションでは俺の良いカモですよ!)


聖持は振るわれた腕の内側に入り体を使ってパンチを止めた。そして拳一つ分の隙間を通すようにショートアッパーで密着した状態から顎をかち上げる。勿論だが弱点設定(ダメージポイント)を付加して。

しかし駿河は瞬時に首を下に向け聖持と目を合わせる。そのまま捕まえようと両腕を回してきたが逃げられてしまう。そこから先は何度も同じような展開が続いた。

避けては打ち、近付いては逃げ、その度に聖持の打撃が駿河の体を捉える。この繰り返しである。



(なんだこの人……これだけ何発も綺麗に喰らって何でピンピンしてられるんだ?)

(そろそろ行けるかな?)



駿河には二つの狙いがあった。先ずは一つ目の条件をクリアしたので再び攻撃を仕掛ける。メリケンサックが付いた拳の連打。だが明らかに違う動き。


(腰が入って脇も締まったコンパクトで鋭いパンチ、それに体重移動にも淀みが無い見事な散打。これだけ見れば騎城さんより上かもしれないな……!)


これまでと打って変わって本格的な戦闘技術を見せる駿河に聖持も負けじと手の甲と手の平を用いた受け流しで対応する。


(打撃とタイミングを合わせろ。触れる時は割れ物を扱うように慎重に。強風から一輪の花を守る気持ちで添えるんだ。そして動きを誘導して流せ。硬く大きな岩が中洲にある川の如く)


流され別方向に向いた余波は周囲へと及ぶ。拳圧が飛びフロアに駿河の拳の跡が残る。そして攻撃を流し切った後、聖持は踏み込みながら両手を使って掌底を胸へと叩き込んだ。

駿河が5メートルほど後ろに下がる。聖持は今までの戦闘を細かく分析して違和感の元に気付いた。それが一体何を意味するのかはまだ解らないがこのままやれば大変なことになることは間違いない。

何故なら駿河は───



(我紋さんは攻防する毎に少しずつ動きが良くなってる。そして俺が攻撃を当てた直後はそれ以上に同じことが起きてる。まるで身体能力を強化する能力でも使ってるみたいだ……!)


「いやぁ予想以上にスゴいなお前。こんだけ良い打撃を喰らったのは初めてかもしんねえ。まあ彼奴らと体術で戦り合う気は無いんだけどさ」



そう言うと駿河は腰に付けていた棍棒のようなものを両手に持った。


「折角のガントレットも当たんなきゃ意味ねぇからな。今度はブラストクラブで行きますか」


ガントレットを()めたままの両手にブラストクラブが握られた。リーチが伸びたがそれだけではない。二つの武装にはある機能があるのだ。


(フィジカルが同じ位で技術も極まってるとしたら後はもう騙し合いや駆け引きしかない。セオリー通りにやってると勝てないから互いに神経を磨り減らすような読み合いになる)


駿河は勝哉に弱点を見切られ一敗地にまみれてから凄まじい執念で努力してきた。


(的場の学習と成長を上回る膨大な経験とそれに基づくパターンの構築をして後は真っ向から捻じ伏せる)


「Disce quasi semper victurus,vive quasi cras moriturus」
(永遠に生きるかのように学べ 明日死ぬかのように生きよ)


 
 

 
後書き
ガントレットも折角名前を付けた棍棒のブラストクラブも一度は当てておきたいですね。あのネタも入れなければならない。

最後の台詞は駿河君です。勝哉君に負けてからこれくらいの気持ちで鍛えてるので滅茶苦茶に強くなっています。

流石に体術で操作君に勝つとかは無理ですけど能力任せの防御に頼る考えはかなり無くなりました。まあ負けの原因が能力の仕組みですしね。
 

 

Sixth2

 
前書き
φ(・д・。)遂に二次の方があと一人か。 

 
我紋駿河が棍棒のブラストクラブを双剣のようにして振るう。的場聖持が即座に摺り足で後ろに下がった。メリケンサックのガントレットを主体にした打撃と同等の動き、そして技のキレ。

風を巻いて踊るようにリズミカルな挙動は太鼓でも叩くかのように的確な狙いを付けて飛んでくる。

唐竹(からたけ)袈裟(けさ)、逆袈裟、右薙、左薙、右切上、左切上、逆風、刺突。

刃線刃筋が通った打撃は一流の剣士が繰り出す斬撃と大差ない。斬れないとしても喰らうべき攻撃ではないと勘が告げている。



(何時まで躱し続けていられる?こちらからも攻めるべきじゃないのか?)



間合いを取って遠距離戦に持ち込もうとしても駿河は影のようにピタリと着いてくる。そしてブラストクラブを使う前より更に動きを良くして聖持に迫る身体能力となった。

聖持が駿河を跳び越える。ブラストクラブが(はさみ)のように交差して振るわれる。そこで彼我(ひが)の実力差を知った。

駿河が振った棍棒を見失った。通過したと思われる場所の大気が裂け焦げ臭くなる。余りに速すぎ鋭い打撃は聖持の肉眼でも捉えることが困難になっている。

辛うじて捉えたのはブラストクラブが擦過(さっか)したことにより白熱する空気。躱さなければ受けた部位が弾けて肉片と化してしまう。


(気を抜いたら身体欠損からの肉体爆散とか笑えないだろう……!)


速すぎて残像が見える見えないとかそういう問題じゃない。聖持は一瞬だけ呼吸を放棄する。もはや息を吸う暇が無い。雷速すら超えた不可視の打撃が酸素を燃やす。

軌道にある酸素が燃えて火を帯びた軌跡となる。弱点設定(ダメージポイント)を使いながらAIM拡散力場で身を包みブラストクラブを目掛けて殴り付けた。


一つ二つ三つ四つ………─────


数十の打ち合いで互いが理解した。


(なんだ…この拳の重さは……)


能力とAIMを付加した拳を棍棒で打った駿河は全身に広がる僅かな痺れに驚愕する。意識を断ち切る鋭さを持ちながら芯に響いて足が動かなくなるような(にぶ)く重い一撃。


(信じられないけどこの人のブラストクラブという棍棒による打撃は速さと技のキレ以外でも何かおかしい。まるで止まっているような不可解さがある……!)


駿河の二つ目の仕込みが漸く効を奏してきたようだ。ここから戦いの流れが傾いていく。それも勝敗を左右する程の戦局となって。


「くっ!」


遂にブラストクラブが聖持に届いた。しかしAIMを付加した手首で防いだのでそれほどのダメージは無い。だがこの棍棒は打撃する為だけのものではない。


爆破(ブラスト)


二人が光に包まれ見えなくなった直後に轟音と爆煙が生じる。一足早く聖持がその場を離れるとダメージを負っている。今の彼ならこの規模の爆発で怪我をするわけはないのだが。


(何やら音叉みたいに響いて来たぞ。演算に影響を与えるような機構になってるのか?)


痛みはあるが耐えられないほどではない。聖持が爆煙に向かって弱点設定をアサルトライフルのように連射する。駿河は転がりながら爆煙を飛び出す。


(ダメージが無い。どうやらあの人にはブラストクラブの爆発は効かないみたいだ。なら自分の攻撃で決めるしかないな)


突っ込んでくる聖持を見て駿河は腹の中でほくそ笑む。まんまと乗ってきてくれた。的場聖持の性格ならそうすると踏んでいた。これであの三つを使うことが出来る。


(三次元的に立体の動きを感じろ。AIMをあれだけ出してるなら的場の動きはまるわかりだ)


予測が的中した駿河は聖持の前に回り込んでメリケンサックのガントレットを使ったボディーブローを叩き込む。するとガントレットが光を放って甲高い音を放つ。


「まさかこれも…!?」

「爆ぜろッッ!」


殺意を読み取った聖持の体が神経より速く反射したが間に合わない。血反吐(ちへど)をぶちまけながらくの字に折れ曲がって飛んでいく。


「カハッ!!」


壁に衝突した聖持が思わず(うめ)く。床に落ちると直ぐに立ち上がろうとしたが足元が覚束(おぼつか)無い。


(危なかった…! AIMの防御が間に合わなかったら立てなかったかもしれない。それにしてもなんて威力だ……。あれはただの爆発じゃないぞ…!? 恐らくは能力に関する何かが仕込まれてるんだろうけど……)

「すげぇな、まだ立てんのか。今のは結構なダメージなはずだが」


駿河のガントレットとブラストクラブはJAIM鉱石が放つ能力や演算を阻害する波長や能力者のAIM拡散力場、そして音波兵器を参考にして作られている。

武器を当てることで楽器のように振動が走り、装着者のAIM拡散力場を増幅。演算を乱して能力を封じる。そして駿河の場合は自身が持つ能力の特性として吸収したエネルギーを放出する力がある。

それを融合させ自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を脆くしAIM拡散力場を弱めながら武器の振動が駿河の放出したAIMと能力エネルギーを共鳴させ爆発を起こす。


だから聖持のAIMや宇宙論(コスモロジー)が上手く働かなかったというわけだ。



「さて、それじゃあ終わらせるとしようか」


駿河がガントレットとブラストクラブを共鳴させて独特な波長を起こす。それは聴覚で聞き取れるようなものではない。

そこから更にブラストクラブ同士を打ち合わせて響かせる。音叉のように一定の波長が生まれて先の波長と重なりあう。

二つの波長が共鳴した特別な能力阻害の波長が溜め込まれ駿河の能力エネルギーも込められたブラストクラブが目映く光輝く。それは聖持の目には死の宣告に思えた。


「じゃあな的場。今度会う時はお前の知らない学園都市になってるかもしれないが」


その瞬間これまでとは比較にならない闘気が駿河から噴き上がる。まるで光の暴風ようだ。フロアの床板が外れて浮き上がり、柱は悲鳴を上げ、壁の表面は粉微塵に吹き飛ぶ。

駆ける。全力を出すべき相手だと認めた敵目掛け。錯綜(さくそう)の間際に聖持は自らの未来を断つ暴力の気配を感じた。そして此処で彼の意識は途切れる。



爆して鎖す光の響壊(レゾネ・インスピレ)



止まらない。大小様々な爆発が高速でドラムを打つように現れる。それはSTUDENTのいるビルを破壊するには過剰なエネルギーを持っていた。それが駿河の制御によって指向性を持ち聖持に集束される。

周囲に影響を及ぼさない不思議な爆発の演奏が全て余すことなく聖持に伝わる。意識が無い彼には死体も残らない攻撃であった。


「………」


突然爆発が収まり爆煙が消えた。そこには無言で立つ聖持がいる。意識を取り戻したのか目を開いて駿河を見詰めていた。だが様子がおかしい。まるで池野操作が見せたような機械的な表情をしている。

瞳はまるで硝子(がらす)玉でもはめ込んだように生気が感じられず顔は能面より感情を読み取れない。そして次の瞬間だった。



『彼は必ず僕のところに来るよ。自分の意思とは関係無くね。選択とはそういうものさ……』


(ああそうか…そういうことか勝哉……。こりゃあ一本取られたぜ。まさかコイツが…この男がこれほどの化物(・・・・・・・)だったとはな───)


光速、マッハ88万、10億8千万㎞、単位にして(じん)。駿河はそれだけの速度を以て手足に穴を空けられ両脇腹の肉が素手で引き千切られていた。


そして聖持は彼の顔を掴んで後頭部から地面に落とすのではなく墜とした(・・・・)。床は頭の形に凹み陥没する。そこからマウントポジションを取り顔面を規則正しく殴り続けた。

聖持の拳は紅に染まり駿河の顔から肉が潰される音が鳴る。ブシャリブシャリと筋肉が(ほぐ)れ筋が剥がれタタキを作っているかのようだ。

頭部からは死んでもおかしくないような出血が起き気を失っている。だが骨の一つも折れていないのは流石といったところだろう。

聖持がマウントから拳を振り上げ能力を発動させる。その(みなぎ)り方はこの場所に来て一番だ。確実に駿河は死ぬ。いやもしかしたら下のフロアを全てぶち抜いて最深学区まで届くかもしれない。


しかし振り下ろした聖持の腕が途中で止まる。観測者(オブザード)が腕を掴んで引いていた。構わず腕を振ろうとするがまるで動かない。すると聖持が立ち上がり観測者を見た。

聖持が光速の拳を見舞うが観測者は手刀のような構えで受け止め裏拳を喰らわせる。そしてそのまま追尾を行い向かって来る聖持を何度か張り飛ばす。最後は波長を出してP・Rを崩壊させ眠らせた。



「完全覚醒せずにこれか。野口勝哉も恐ろしい存在を生み出したものだ。何れは私の手にも負えなくなるかもね。だが信じているよ。聖持は力の使い方を間違わないと。しかしもしもの時は私も自分の能力で全力を出して相対することになるだろう」


 
 

 
後書き
一時的に覚醒したぐらいでは観測者には全く敵いません。このキャラは偽悪で名前だけ出るかもしれない〇〇を分割した力を持った上で本人の力も最強の一角ですから。

技名が何語かは調べても恐らく解りません。元と少し変えてますから。ちなみに日本語だとこうなります。

()して(とざ)す光の響壊(きょうかい)


ああああああああー!!! 予定してたネタを入れられなかったよおおおおおおおー!!!


残り三人で何とか出したいが出来るかな。

 

 

Seventh

 
前書き
【STUDENT】メンバーの中では
一番力加減が難しいキャラが相手です。 

 
「………んあ?」


正気を取り戻した聖持は階段の途中を歩いていた。我紋駿河はどうしたのだろうか。状況を把握する限り負けかけていたはずだが。


「安心して良い、君は勝ったよ」


観測者(オブザード)》が思考を読んで疑問に答える。


「そうか…あそこから逆転出来たんだな……。でもその時のことを全然覚えてないや。ただ、やけに力が漲っていたのだけは解るんだけど」

「能力の蓋は開いたけど制御がまだ出来てなかったから我紋駿河が大変な目に合わされてたぞ」


自分が何をしたのか全く記憶が無い聖持に観測者が自身の記憶を観測させる。その光景に聖持は震え上がった。いくらなんでも強くなりすぎている。

自分と同じ姿をした別人が戦っているような違いが見せられた記憶にはあった。何より敵に対して甘さや優しさはまるで無い。

正に無情冷徹不感苛烈を地で行くように止めを刺しに行っている。観測者が止めなければどうなっていたか解ったものではない。


「気にする必要は無いよ。我紋君はちゃんと治しておいたからね。それよりも次からが問題だ。残りは誰が来ても苦労させられることになるだろう」


観測者がそう言うと次の相手がいるフロアに到着した。其処にいたのはソファに背中を沈めて浅い吐息をつき体からぼんやりと赤橙(せきとう)色の光を放つ青年。

彼を見た聖持は青年の(かたわ)らに二羽の火の鳥が眠るように寄り添っているビジョンが見えた。目をこすってもう一度確認すると(まぶた)を閉じていた火の鳥が消えて青年の目元が動く。

彼は瞼を上げると眼球をギョロッと聖持達の方へ向けて伸びをする。欠伸(あくび)までしながら肩を回して凝りをほぐす。そしてゆっくりと立ち上がるとソファが炎になって消えた。


(火を他の物質代わりに使ってしかも本物に見せていたのか? なんなんだあのあからさまに物理法則を無視した力は……! まるで魔術や物語の中に出てくるようなやつじゃないか!!)


聖持は叫びたかったが止めた。自分もあまり人のことを言えないから。しかしそれを差し引いて考慮したとしても、この七人目である青年の力は異常が過ぎる。


「的場聖持は良いとして、観測者はこんなところで何をしてるんですか?」

「彼の回復を始めとしたサポートだよ。負けたら私が地上に連れて帰る役目もあるしね」

「なら大丈夫ですね。もしも俺が駿河みたいにされたら頼みますよ」


青年は気楽な感じに自己紹介する。


「俺は《桐崎飛鳥(きりさきあすか)》。見ての通り炎を操る力を持ってる。まあそれ以外にも色々と特性があるんだが殆ど使うことは無いから安心して良い」


彼の体が燐光し火の粒子が散り始めた。


「ところで一つ聞いておきたいんだが、君が駿河を倒した時の力は一体何なんだい? 今の俺だとちょっと厳しいんだが」

「覚えてないんですよ。意識が飛んでたので勝手にああいうことになったんです」


自分自身にも制御出来ないものを出したくても出すことは出来ないだろう。しかし一度あれを経験したお陰か体の調子がすこぶる良い。


「あの力を使いこなせればかなりのところまで行けそうなんですけどねえ」

「だろうな。あれと戦るなら制限破るわ。そんじゃ始めようか的場聖持君。俺との戦いで力を引き出せるだけ引き出して次へ進んでくれ」


聖持が左手を引いて拳を作り、右手は顎の前で拳を作る。足を前後に開いて重心を低くした構えは安定感がある。そして普通に立つのと違い正面に胴の全てが見えず半分ほどしか狙う範囲が無い。

一方それを眺めていた飛鳥はといえば特に何もしない。両手をズボンのポケットに入れて薄く微笑みながらAIMを放出する。それに合わせて放出される燐光が増す。

聖持が僅かに下を向いて息を吸う。それに続いて飛鳥が顔を斜め上に傾け息を吐いた。そして二人が息を合わせたように呼吸を止める。

戦いの開始と同時に聖持が駆け寄り弱点設定(ダメージポイント)を乗せた拳で打つ。駿河を倒した時と殆ど変わらない速さで迫る。飛鳥はそれを引いて下がって躱して避けて、徹底的な受け身に回る。


(これはなかなか心臓に悪い作業だな)


しかし何時までも後退が出来るわけではない。直ぐに背中が壁に当たった。それに気付いて一息吐くと飛鳥は一転して前に出た。その動きは闘志がまるで見えず戦う気がさらさら無いような歩み。

そしてあろうことか聖持の腕が手首まで届く距離で立ち止まった。聖持が更に速くした猛攻を行う。それは今までのSTUDENTを相手にした時とは別次元だった。


(駿河までの戦いでは基本的に進化や覚醒した時以外だと『M』(マッハ)の単位で加速してた。でも今は『E』(エクレ)の域で加速してる。しかも一発打つ毎に……!)


聖持はこれまで力を引き出していた最中だと一発打つ毎にマッハ、つまり音速で速さが増していた。しかし今はそんなレベルの加速ではない。彼は拳を振る度にエクレ、雷速で加速している。

加速することがそのまま急な加減速であるチェンジオブペースになる底無しの速度上昇。だが飛鳥はそれに合わせて身をこなす。

弱点設定(ダメージポイント)】と聖持の手足が確実に届く射程に自分を置きながら華麗なステップワークを見せ、その優雅な立ち回りで喰らえば激痛を伴う損傷を免れない矛先を全て躱す。

飛鳥は知っている。

この聖持のラッシュを超える加速をしながら更に鋭くキレがある釣瓶(つるべ)撃ちの使い手を。 
 

 
後書き
釣瓶撃ちは調べると解ります。
エクレはオリジナルの架空単位です。

操作君より長くなるかなあ。
 

 

Seventh2

 
前書き
少し前から光速出してますが私が読んでいた血界戦線やトライガンに比べればまだまだ遅いです。

禁書原作の方と比べるならば身体能力で出せる速さと速度としては最速のなんですけど。

あの辺りまでスピードインフレさせるのにどれくらいかかるかな。まあ既に法則変更したりしてるので速度が意味を成していない気がしないでもないですが。
φ(´ω`●) 

 
飛鳥はポケットに手を入れたまま聖持の拳撃を躱し続ける。彼にとってはまだまだ十分目で追える速度だ。光速にも達していない物体など冷静でなくとも軌道を読み切れてしまう。

堪らず聖持はバックステップして間合いを空けた。飛鳥は一度も攻勢に出ること無く下がらせるという離れ業をやってのけてしまう。



「俺のラッシュを慣らし(・・・)に使うとは良い度胸をしてますね。で、どうです? 調子の方は」

「まぁ良いんじゃないかな。
ぼちぼちって感じだよ」



飛鳥からすれば力を抑えた状態なので絶好調は有り得ない。だが聖持からすれば蹴り足の伸び、身体のキレ、紙一重の見切り、どれを取っても一級品だ。


「それじゃあサービスタイムは終わりですね。怯えの一つも生まれてないみたいですし、一気に上げますよ」


聖持が頭を下げ光速で動く。しかし飛鳥は同じように光速で間合いにステップインし、胴回し回転蹴りを披露した。力任せに叩き付ける足は粗暴で技術のぎの字も見られない。

しかし聖持の眼からしてそのキレは異常な鋭さだった。だが所詮は大振り。動きの先を見切り腕をクロスさせて受け止め───


悪寒が走った。防御を止めて体を逃がす。床に着地した飛鳥の足元から轟音が聞こえ、ビルそのものが激震した。


「良い見切りだな。受けれたかもしれんが両腕が砕けてたぞ」


今の聖持ならビルを倒す蹴りであったとしても防御は不要だ。しかしながら飛鳥の出した蹴りは『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』から流れ出すAIM拡散力場により自分の法則を現実世界に持ち出しての攻撃だった。

物理法則を自分の法則に変えてしまうのは聖持も宇宙論(コスモロジー)で経験済みだ。しかしAIMだけで世界の法則を変えるところまでは行き着いていない。



(しかもまだポケットに手を入れたままだ。おまけに能力も格闘技術もまともに出していない。しかしそれでも俺は前に行く!)


「お、頑張るな。それじゃあ俺も能力使おう」


飛鳥の周囲が蜃気楼や陽炎を思わせる揺らぎを見せる。そして火の玉が妖怪の『釣瓶火(つるべび)』のように末尾を上に向かって昇らせた。


「な…何いいッッ!?」


聖持が天井を見上げると水風船を吊り下げたような火の玉が所狭しとぶら下がっている。一斉に落下すれば躱すどころの話ではない。

直ぐ様『宇宙論(コスモロジー)』を自己の精神と体内に展開し防御力を上げる。これで攻撃干渉は勿論外部からの法則変更にも簡単には侵蝕されない。



壱の命火(ファーストフレイム)



天井と火玉(かぎょく)を繋いでいた紐のような炎が切れる。



垂衝火玉(フォボレア)



フロアの下方全てに隙間無く叩き付けられる火の玉が飛鳥、聖持、観測者にも衝突した。


 
 

 
後書き
この技は違うフェニックスの『力』とはカウントされないです。ファーストフレイムを利用しただけの『技』ですからね。別にセカンドやサードでも出来ますが火力の無駄使いなのでしません。



一応イメージと元ネタの紹介。

《フォボレア》

ドイツ語の『Fallen』・落ちる
ドイツ語の『Feuer』・火
フランス語の『balle』・玉

この三つを混ぜた名前。ただし読みが合ってるかは解らないです。あくまでもイメージで読んでますから。



垂衝火玉(すいしょうかぎょく)

妖怪の『釣瓶火(つるべび)』が木からぶら下がり垂れているところがイメージです。

火が追尾することはありません。ただ高速落下させて叩き付け衝突させる火の玉です。

指向性を持たせて自動で誘導するのでもなければ常時使い手の意思で任意操作をしなくても良いので大量に数を用意出来る。

脳の負荷と演算の規模を考えればコストパフォーマンス的にとても優秀な技。フェニックスに任せれば脳の仕事も放棄出来ますしね。



ちなみに火の玉に質量を持たせて絶対能力者(レベル6)の技としても使うと凄まじい威力になります。

仮に上に向けたとすると温度や熱量が大能力者(レベル4)だとしても速さによる質量の増加と接触時のエネルギーで大気圏を軽く突破して、何処かの大食いシスターのように樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を撃ち落とせます。

火の玉が届いたとしても宇宙では燃えないということはありません。何故ならフェニックスの炎である上に飛鳥君が元から持っていた火も物理を外れてますから。



《壱の命火》

ファーストフレイムは『卵火』と迷いましたね。フェニックスが火の鳥なので其方でも良かったんですが不死鳥や不老不死のイメージを優先しました。


なかなか設定にあるフェニックスの特性が使えないなあ。ウジャトの目しか出してないし日の目を見ることはあるのか。今回は使うつもり無いですけど本気で戦う時は必ず使います。

能力でなく特性なのがポイントですね。

飛鳥君まだポケットから手を抜いてません。

 

 

Seventh3

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
「かなり腕を上げたみたいだね?飛鳥君」

「やはり《観測者(オブザード)》は無傷ですか」



桐崎飛鳥(きりさきあすか)》が垂衝火玉(フォボレア)を落下させてフロアに叩き付けてから数分後、彼は観測者と話をしていた。



「私が今の技程度で傷付けられることは無いよ。飛鳥君が本気で来るなら話は別だが」

「ですよねー。あっちはどうか知りませんが」



二人の視界が開けてくると《的場聖持(まとばせいじ)》が防御姿勢を取ったまま立っていた。ところどころ煤が付着して火傷したり焦げたりはしているがあのくらいなら戦闘の継続は可能だ。


(あの桐崎って人はすごいな。これでもまだまだ序の口なのか。どういう発火能力(パイロキネシス)なんだ……)


フロアの床はベコベコになり、床も壁も明るいオレンジに変わるほど熱を帯びている。恐らくは1200℃程あるのではないか。


「おー…流石はウチの六人に認められただけはあるね。見た目はダメージあるけどそれほどまでじゃあ無さそうだ。いやぁ結構結構……。それじゃあこんなのはどうかな?」


飛鳥の周囲にはまたもや火の玉が浮いている。今度は何をするつもりなのだろうか。



火炎放射(ファイアスロアー)


学園都市の能力者にもある発火能力の一種。ただし性能が違う。火力、速度、数、範囲、聖持が知る同名のものとまるで別物だった。


「炎が追っ掛けてくる上に消えない!」


聖持が弱点設定(ダメージポイント)で発火点を潰さない限り延々と火炎放射が一条の熱線となって追尾する。



「ふむ」

(やはりか、今までと同じように少しずつ力が増してきている。ならば此方も体を張る必要があるか)


飛鳥は火炎放射を出したまま手に剣の形をした炎を出して握った。それを片手で何度か振って手応えを確かめる。


(まあこれくらいで良いだろう、あまりやり過ぎると建物ごと焼き切ってしまうからな)


フロアの温度が1500℃まで上がった。飛鳥が炎剣を出したのを見て聖持は火炎放射を回避しながら呟いた。



「この状態から近接攻撃か。容赦無いなあ」


聖持からすれば更にやりにくいが近付いてくれるというならチャンスでもある。とにかくダメージを与えて動きを抑えなければ分が悪い。



(あの人が来る前にこの火炎放射(ファイアスロアー)の発火点を全て潰す。でないと安心して戦り合えない)



彼は炎が発生している場所を見る。其処で新しい力が発動した。正確な座標が把握出来ている。空間移動の使い手が11次元上で演算する以上に認識が行われ弱点設定が放たれた。



「やるじゃないか」



フロアにあった全ての発火点が精密射撃でほぼ同時に破壊された。弱点設定が通った軌道は空気が無くなり真空状態となっている。


「なんだろう。普通の五感とか第六感とは違う気がする。このフロアにあった俺が認識すべきものを全て捉えられたような……」


飛鳥は聖持の攻撃を見て、その身に一体何が起きたのかを何となくではあるが理解した。



(どうやら『六根(ろっこん)』を限界まで引き上げたか。これで『六境(ろっきょう)』と『六識』を修めれば相当な認識知覚を手に入れられるが、そうなった場合には炎刀だけで戦うのは厳しいか……?)


飛鳥は剣を構えながら先の展開を予想していた。

 
 

 
後書き
六根とは主観側に於ける六つの器官。この場合は聖持君が主観ですね。

(げん)()()(ぜつ)(しん)・意のこと。

『意』以外の五つで『五根』と言い、人間が外からの影響を受ける身体器官で、いわゆる五感のこと。

『意』とはそれ(五根)によって感じることで生じる『心』の働きのこと。


今回は単純な速さと力の上昇ではなく感覚の鋭敏化をさせてもらいました。

飛鳥君には剣技で活躍してもらおう。

ゼロとセカンド、サードの出番が無いなあ。 

 

Seventh4

 
前書き
φ(・д・。) 

 
桐崎飛鳥が炎の剣を構える。


「さあて行くぞー。『炎刀・焔』」


的場聖持は少し虚を突かれた。もう少し変わった構えをすると思っていたから。


(中段の構えか。よく見るやつだな)


中段の構え。正眼、人、水の構えとも言い五行の構えの一つ。この形からはほぼ全ての構えにスムーズな移行が出来る。

この構えを基点にすることで戦闘中に発生する状況の変化に対し咄嗟に対応出来る。攻防ともに隙が少ないことから現代では剣道の基本として教えられる。

飛鳥は足裏から炎を噴射させて高速移動した。しかしそれ以上の速度で聖持が追い抜く。


(全く勝哉も面倒臭いことをさせてくれるなあ)


逃げ切れない弱点設定の一撃に炎刀の一閃を以て応じる。剣戟と拳戟のぶつかりで響く音が大気を揺らす。

飛鳥は隙無く放たれる弱点設定と拳を防ぎながら後退する。しかし一方的に見える展開に聖持が不思議な感覚を覚えていた。


聖持の攻撃は飛鳥を押し潰せるものだ。押されるということは有り得ない。何故なら受け止めるということを許さないのだから。

飛鳥は炎刀・焔で受けるが全て受け止めるということをしていない。受け切らずに衝撃を後ろへ進む力として相手の間合いから逃れていく。

重く力強い攻撃を受け流す柔軟な防御。言うのは簡単だが実行するのは至難。僅かでも受ける力が強ければ聖持のパワーに腕が破壊され、弱ければ炎刀ごと弾かれる。


力の加減、角度、調子、どれか一つでも微細に狂うだけで失敗する。だが聖持の前にいる男は光の倍に比する速度で眠そうな顔をしながらやってのける。


「そろそろ反撃させてもらおうか?」


飛鳥が焔を振り上げ聖持の両拳を弾く。そして構えを変えた。その状態から放たれる剣気は正に烈火の如し。フロアの温度が2000℃まで上がる。

飛鳥は最深学区に住んでいたことがある。そして暗黒魔境(ディストピア)に入って修業したこともある。二つの場所にいる能力を持たない住人は極端に身体能力が高い。そして体術や武器術が卓越した接近戦のスペシャリスト達が数多く存在する。



(確かに的場君の肉体や技術は彼等のほぼ全員を上回っている。だがとびきりの武の達人というわけじゃあない。例えばウチの操作とかな)


フェニックスの恩恵を受けているとは言え、互いが普通の剣という前提で戦った場合、飛鳥の実力は『五本指』の一人である二刀流の女剣士にすら勝てるかもしれない。


「太刀筋は心得を、型は歴史を、呼吸は理念を雄弁に語る。それらの『枝葉』を辿り『根幹』に行き着きさえすれば、どういう技が存在するのか、どんな組み合わせを有しているのか、どう対応するのかを読むことは難しいことじゃあない」


聖持は震撼した。彼は飛鳥がこれ程までに近接戦闘に()があるとは思わなかった。《七草花夜》や《池野操作》にも劣らないのではとすら思えてくる。

手加減されていたとはいえSTUDENTの六人目までを倒した体術をあっさりと読まれただけでなく上を行かれたのだから。


相手の攻撃を見るだけでそこに蓄積された知識や経験を読み取り動きを見切る。飛鳥は能力無しでそれを実行している。

一体どれだけの洞察、観察力を以て修練すればそのような境地に至れるというのか。おまけに飛鳥が今取っている構えは上段。


(攻めるってことの意思表示なのか……)



五行の構えの一つ、上段の構え。天、火の構えともいう。刀を頭上に振り上げる。前にある足で右と左の上段に分けられる。

対戦相手を斬る為に必要な動作は極論振り下ろすだけであり、そこに限れば凡そ全ての構えの中でも最速の行動が可能。

刀剣を用いた攻撃において最もその長さ(リーチ)を生かすことの出来る構えでもある。基本的に打突は片手で打つので威力が増すなど攻撃的。

反面構えている間は面以外の部分を曝け出している状態であり、防御には向いていない。そして一対一ならば有効であっても相手が複数ならば左右の肘が死角となり使えない。


「俺の意志は受け取ってもらえたみたいだな。つまり此処(ここ)からは此方(こちら)も攻撃させてもらうということだ」



しかしそうは言っても聖持を負けさせるわけにはいかない。飛鳥はギリギリで彼を倒さない嬲り斬りのようにするしかなかった。

そして今までも使っていたのに気付かなかった聖持の特殊な力が判明することになる。



「五分か」

(的場君の攻撃は全て鋭いが此方(こちら)の動きを知らない分だけ操作や悠持より戦りやすいな)


だが飛鳥は知っている。自分の元まで勝ち抜いてきた聖持が追い込まれる度に進化してきたことに。それは全身を斬られて真っ赤に染まっている今でも変わらないだろう。


「これなら行ける」

「と思うよな」


飛鳥と聖持の戦いをモニターで見ていた池野操作と騎城優斗が自分達の時を思い出す。


「的場君が怖いのはここからだよ」


《野口勝哉》の言葉に合わせるように
聖持が薄く目を開いた。

そこから五分、聖持は圧倒的な力で飛鳥の能力を全て打ち消しながら肉体技能においても逆転させた。


「俺が打ち込んだ『プログラム』が起動したようだな」


いきなり飛鳥を圧倒出来たのにはわけがある。その秘密は騎城優斗が聖持との戦いの最中、演算に紛れて混ぜ込んだ身体情報だ。

人間の脳は睡眠を取った時に記憶の定着や整理をしている。聖持の脳はその機能が極端に高い。

普通の人間なら勉強や訓練をして毎日少しずつ色々と覚えていくが聖持は一眠りするだけで、学んだことをほぼ100%自分の経験と感覚に反映出来た。

睡眠記憶と言われる学習能力。聖持は皆から色々と教えてもらったことがある。しかしある程度自分が楽しくなると最初から居た人間がいなくなっていった。

あまりにも上達するのが早すぎて教えた者をあっという間に追い抜きプライドと心をへし折ってしまうのだ。

だから彼は勝哉の存在が有り難かった。どんなに自分が上手くなり上達しても離れることが無かったから。例えそれが悪意によるものだとしても聖持は救われていた。

優斗がしたのはその睡眠記憶と高速学習を睡眠無しで使えるようにし、更には強化するプログラムの組み込み。これが無ければかなり危なかっただろう。


「さて、そろそろ出番か」


《神薙悠持》が所定の場所に着いて
聖持を待ち受ける。 
 

 
後書き
記憶は一度、脳の海馬という所に蓄えられる。但し、何度も練習するように同じ刺激を与えないと直ぐに忘れてしまう。

これは記憶を一時的に留める『短期記憶』として蓄えられているからである。

例えば初めて聞いた電話番号を思い出せないのは短期記憶であるために忘れてしまっているから。

これを安定して暗算でもするように記憶を引き出す、或いは取り出せるようにする為には『長期記憶』として脳に『定着』させる必要がある。

この時の記憶形成に睡眠が関わっている。

但し記憶とは学校の勉強などで習う頭で覚えるものだけではない。例えば自転車の乗り方。最初は上手く行かなかった人も多いのではないだろうか?

こういった身体を動かす感覚、運動やスポーツ技術の向上に必要な『手順記憶』がある。

一日かけて練習しても修得出来なかった技術がぐっすり寝た次の日には簡単にこなせるようになっていることもある。

優斗は自分の体術、知識、演算に感覚まで聖持に覚えさせ融合させている。

聖持は睡眠記憶だけでなく手順記憶も凄まじく優れている。それはここまでの戦いで何度か見せたので解ると思います。

つまり優斗のプログラムとは『記憶の再編成』による記憶と技術、感覚の定着。それを睡眠無しで短時間に行うこと。

殆どの体術は見ただけで理解、認識、把握して自分のものに出来る。

それだけでなく演算や感覚の融合により能力も強化されているので残りの二人にも簡単には負けませんよ。

それだけ強化しても苦戦は必死でしょうが。 

 

Eighth

 
前書き
誕生の卵火(イグニスアイ)』とか『紅蓮の双鳥(セカンドフェニックス)』とか『零の業火(ゼロファイア)』とか『サードソレイユ』とか〇〇〇〇とか出したかったけど、出すと先の話でやることが無くなるので諦めました。

 

 
的場聖持(まとばせいじ)》と観測者が階段を昇る。

【STUDENT】のメンバーも残すところはあと二人となった。


「終わりが見えてきたねぇ的場君」

「復活するの早いですね」(汗)


桐崎飛鳥(きりさきあすか)》が息を吹き返して彼等に同行している。


「飛鳥君がいるのならば、いざという時にも万全だね。そうならないことを祈ってるけど何事も絶対というものは無いし油断は出来ないから仕方が無い」


観測者(オブザード)は聖持が飛鳥をあっという間に倒した場面を見て気を引き締めていた。


「それにしても、本当に一体俺の力は何なんだろうか……。【STUDENT】の絶対能力者を相手にスイッチが入っただけで勝つなんて」


本当の力を使うもう一人の自分がいたりするのかもしれないと思いながら聖持は階段を上がり切った。


「よう、来たな的場」


三人の前に立つのは一人の青年。


「入れ込み過ぎじゃないか?」

「ははっ、そう言うなよ飛鳥。俺はこいつと戦うのを楽しみにしてたんだぜ? テンションも上がるってもんだ」

(……大気に闘志が満ちている。体から闘気が迸っている。覇気も体の内側から漲っている。というかあの威圧感がある人を相手に堂々としていられる桐崎さんの胆力半端ねぇな)


観測者は観測者で何時も通り肩の力を抜いてリラックスしている。普通の絶対能力者を優に超えている実力者が三人も(ひし)めき合うフロアで自分の存在が霞んでいると思っていた聖持だったのだが……。


「おい的場聖持」


八人目の相手から声が掛かる。


「俺は《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》だ宜しくな。早速で(わり)ーんだが───」


聖持はここで(ようや)く理解したのかもしれない。彼の持つ異様さに。驚きに目を見開いた聖持の感覚が追い付いた。

飛鳥と喋っていた時と違い目は鋭く、口は不敵な笑みを浮かべ、ただでさえあった威圧感と迫力が更に増し、闘気の中に針のような殺気が混ざっている。

肌が刺されるように痛い。そして血が引いていくように寒気を感じる。聖持が悠持に抱いたイメージを例えるなら───


凶戦士(バーサーカー)……いや、修羅か)


「久し振りに本気の真剣勝負(ガチンコ)と行かせてもらうぜ。的場よぉ……」


猛獣のようでありながら洗練された身のこなしと研ぎ澄ませた肉体は臨戦態勢からでも解った。それにあのギラギラとした瞳に(たぎ)る光は本能的な恐怖と闘争心を掻き立てられる。



「お前が此処に辿り着くまでの【STUDENT】を相手にどれだけ成長したのか、あるいは成長していないのか……見せてみなっ、的場!」


悠持がクラウチングスタートの構えを取る。しかも方向転換をすることを僅かも考えていないことが伝わってくる。彼の頭には直線で突っ込み聖持を仕留めるしか選択肢が無い。

体の重い肉食獣は無駄な力を使わない。獲物を仕留めるなら使う力と掛ける時間は極力削ってスピーディーに狩りを行う。



「速い──ッ!!!」



悠持は最初の一歩で1(ライト)まで加速しモーションブラーを残しながら更に加速する。聖持がAIMを物質化させて防ぐが粉々に粉砕された。

その直後やっと悠持が動いた衝撃が伝わったのか、床から壁へ、壁から天井へと無数の亀裂が入り、フロアが崩れそうになる。



「おうやるじゃねえか。手加減してるとはいえ2Lに反応するなんてよ。だがまあ出来れば生身で受けてもらいたかったけどな」

「ははっ、つい反射的にやってしまいましてね。タックルされてたら危なかった」



実際タックルならばAIMの物質ごと押し潰されていたかもしれない。格闘技術は兎も角として素の身体能力なら悠持はSTUDENT最強の男なのだから。



的場(おまえ)からは何だか同類の臭いがするんだよなあ。どっちが強いか解るのが楽しみだ。だがそれ以上に求めているのはわくわくだ。脳髄にまでズシン(・・・)と響くようなのを期待してるぜぇ」




その頃───


「ビルが壊れそうだな。直しておこう。手伝ってくれ」


野口勝哉が騎城優斗と共に遠隔能力で悠持と聖持が戦うフロアを修復させた。


 
 

 
後書き
Lは架空単位でライト、つまり光のこと。

1Lで光速です。
 

 

Eighth2

 
前書き
_φ(゚ー゚*) 

 
「おっ、フロアが直ってくな。気が効くじゃねぇか彼奴等。これでガンガン戦り合えるってもんだ」


軽く前方へステップした悠持はそのまま1Lで聖持に迫る。だが今度は聖持の方も成すがままではない。同じように1Lで摺り足を行ない悠持の元へと滑り込む。

悠持が右足で刈り取るような弧を描く蹴りを放つ。聖持は左腕を伸ばして足の内側に腕を沿えながら右側に動いていく。


「見てないのに何でか使えるようになってるんだよな、影縫さんの消力(シャオリー)が。まあ正確にはそれを応用した受け流しだけど」


悠持の蹴り足に対して宇宙論(コスモロジー)を展開した聖持の肉体、現実世界の侵食、そしてAIM拡散力場を利用した超能力戦技(サイキックアーツ)、そこに《騎城優斗(きじょうゆうと)》のプログラムで聖持の体内に書き込まれた【STUDENT】のデータが融合すれば能力無しの体術相手に負けることは有り得ない。

聖持が右腕を伸ばして【弱点設定(ダメージポイント)】を使うと悠持が首を右に回して受け流す。右足を伸ばして左足一本で立っているとは思えないバランスと反応だ。

そこから悠持が上半身を右に回す。彼の左足が聖持の右腕を外側から押しながら力付くで弾いた。体ごとはね除けられた聖持は足を地面に踏ん張って耐えるが引き摺られるようにして後ろに下がる。


「ちったぁまともになったな。だがまだ鈍足だ。俺の目にはまだハッキリとお前の動きが映って見えてるぜ。それともこっちが能力を使わないと気を使うか?」


悠持がそういうと頭上に大きな水の球が現れる。それがまるで見えない糸で繋がっているように聖持へ向かう。

切れそうになるまで引っ張ったゴムが縮むように水球は光速を超えて円錘形に近いフォルムをした槍のイメージだ。

しかも摩擦や空力加熱、抵抗や重力を無視して飛んでくる。全く威力が減衰せず限度知らずに加速して威力を増す。

AIMが渦を巻いた聖持の鉄拳が唸りを挙げる。何万、いや何十万トンあるかしれない威力の水球弾を食い千切るように蒸発から気化し、水素と酸素が混ざり合う。


「良い迎撃だ。だが無意味だ」


悠持が小気味良い音を立てて指を鳴らす。すると聖持と水球の衝突で生まれたエネルギー、大気の可燃物、そして指を鳴らした衝撃が調和し一つの事象となる。


「弾けて混ざれ」


フロアは連鎖的な水素爆発と酸素燃焼による酸素不足が引き起こされる。しかも爆発で生まれたエネルギーが操られ反響(エコー)を続けるため火や熱は無くとも衝撃波が空気を揺らす。


「衝撃波は波だ。気体や液体を介せば特に伝わりやすい。聴覚は封じて触覚も鈍らせた。AIMを散布して法則も歪めてる。さあここからが頑張りどころだぞ的場聖持。今から俺とお前の違いを見せてやる」

「もしかして緩急自在をやるのか?流石に今の流れだと厳しいと思うんだけどなあ」


飛鳥は周到に準備して攻撃すら囮にした悠持に苦笑してしまった。しかし同時に聖持がこの状況を覆すことも期待していた。 
 

 
後書き
悠持君は旧版の勝哉君と戦った時みたいにヌンチャクを使わせるか考えていました。

問題は能力改造だが出すのは早いからなあ。
 

 

Eighth3

 
前書き
キャラ設定の修正と変更を並行して書いてると話がなかなか進みませんね。SUBJECTの20人以上を少し直したいけど出来るかなあ。 

 
神薙悠持(かんなぎゆうじ)》が0―100―0という恐るべき緩急を付けて変速機動を行う。それはもはや『チェンジオブペース』などではなく『ストップアンドゴー』のレベル。

制動を掛ければ停止、加速すれば即座に最高速。能力無しで『縮地』でもしているような錯覚を覚えさせられる。その急激過ぎる行動速度の変化は的場聖持を翻弄した。

しかし第三者の目から見て二人には速度に殆ど差は無い。それでも落差がある悠持の動きは聖持の体感速度を否応なく高めていた。

聖持が距離を詰め変速する間を与えないようにする。そして悠持の頭部へと磁力のような力場を発生させた。どうやら一撃で終わらせるつもりらしい。

大気を白熱させる速度と切り裂くほどの鋭さを持った悠持の拳を皮一枚で躱しクロスカウンターの要領で聖持の拳が真正面から相手の顔面を捉えた。流石に回避しようが無い。


(これで終わる───)


モニターで戦いを見ていた【STUDENT】のメンバーはそう思った。聖持も決まったと確信していた。がしかし、それは間違いであった。このままで終わらないだろうことを予測していた者がいた。


「君の力はこんなものじゃないよ。だってそうだろう悠持? 君は僕の『猛獣の魂(ブルートソウル)』に火を付け『抑制装置(ストッパー)』を外しても良いかなと思わせてくれた実力者だ。ここで終わるなら君を飛鳥より後で的場君に当てるなんてしてないさ」


彼を直接【STUDENT】に勧誘(スカウト)して自分に続く二人目のメンバーにしたのは他の誰でもないリーダーの《野口勝哉(やぐちしょうや)》だ。だから彼は知っている。神薙悠持が普段どれだけ力を抑えているのかを。


「良いさ少しくらい、冷たい檻から出て野性を取り戻せ。本能のままに理不尽な暴力を解き放つんだ」


勝哉が画面に小さく声を掛けると二人の状況が変わった。悠持の顔面に決まるはずだった『弱点設定(ダメージポイント)』付きの拳が彼の顔の上を濡れた氷で滑るようになぞっていく。


「ッッッ!?!?!?」


激しく動揺した聖持が目を泳がせると視界に肘をくの字に曲げた腕が映る。聖持の腕がスライドして悠持の頭部を流れていく途中に合わせてストレートパンチがカウンターで叩き込まれた。


「詰めが甘ぇな。何で俺が飛鳥の次に出張ったと思ってんだ。任されるだけの理由があるからに決まってんだろう?」


吹き飛んで壁に叩き付けられた聖持は自分の背中から蜘蛛の巣のように亀裂を走らせる。余程の衝撃だったのだろう。

本来なら壁を突き抜けて第0学区の端まで飛んでいくはずなのだが威力を聖持の体に集中させ無駄な被害を出さないということを感覚でやってのける無茶ぶりには《池野操作(いけのそうさく)》と《桐崎飛鳥(きりさきあすか)》も呆れるしかない。


「本当に良かった。悠持君に体術教えないで」


花夜の言葉に他のメンバーも黙って首を縦に振る。そうしている間にも全身打撲で痣だらけになった聖持は冷静に先程の出来事を分析していた。


(あの感じからすると摩擦か……?でもそれじゃあ水を使った攻撃の説明がつかない。一体何の能力なんだ……?)


聖持の少し手前で悠持が立ち止まる。


理解(わか)んねえって顔してるな。まあ無理も無いんだけどよ。確かにこの能力(ちから)は科学の領分に入っちゃいるが、それ以上のことが出来ちまうから難しい。ちなみにさっきのが何か解るか?」

「……摩擦…ですよね……?」

「そうだ。ダメージがあるとはいえ、まだちゃんと頭が回るらしいな。結構結構」


悠持が(かが)んで説明し始めた。


「打撃、斬撃、銃撃、この世界に存在するありとあらゆる力の作用には摩擦が大きく関係してるってのは解るよな?どれ程の威力を持つ弾丸も着弾点に摩擦が生じないなら貫通力は作用せずに対象の上を滑るだけだ」

「………」


聖持は黙って話を聞いている。


「この摩擦の力を攻撃に転用したとしよう。例えば刃物なら既存のありとあらゆる物質の分子間を抵抗無くすり抜ける無双の剣と化す。だがな、この力の基点となる『摩擦』の操作は俺の能力にとって『出来ること』の一つに過ぎないんだ」

「解ってますよ。でないと水の攻撃が
説明出来ませんからね」


悠持が指パッチンをして火打ち石のように火花を散らすとロウソクほどの火が灯る。そして指を握り込むとそのまま消えた。


「教えてやる。俺の力は【横流能力(スライドパワー)】って言うんだよ。これは『倍率(・・)』を操ることが出来る能力だ。まあ俺の場合は[スライド]っていう概念の中に入る概念が広すぎて自由度が高いから全部使うことはまず無いんだけどな」
 
 

 
後書き
φ(^Д^ ) 

 

Eighth4

 
前書き
φ(゚∀゚ ) 

 
「倍率の操作、か………」


的場聖持(まとばせいじ)》は《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》の能力を空間操作するものだと予想していた。範囲を指定して、内部にあるものを自由に操れる能力。それなら水や火を出現させたことも、自分の攻撃が滑って当たらなかったことも説明がつく。

だがどちらであっても対処法は無い。こちらに干渉しているわけでもなければ殴り合いでも優位を取るには至らなかったから。お手上げと言って良いかもしれない。

しかし此処まで来て負けるわけにはいかない。聖持はまたも進化する。深みに沈みながらも藻掻(もが)いて足掻く。


(あの力を使うしかない……)


新しい感覚が彼にもたらされる。

それは『六境(ろっきょう)』。

桐崎飛鳥(きりさきあすか)》と戦った時に進化した六つの感覚である『六根(ろっこん)』が主観側の感覚なら六境は『客観』の側が持つ六種の対象。

六根の対象であり、対応する(さかい)。その六つの感覚をそれぞれ『(しき)境』・『(しょう)境』・『(こう)境』・『味境』・『(そく)境』・『(ほっ)境』という。


悠持が突っ込んできた。周囲の空気を燃やすほど加速をしながら姿そのものが閃光と化す超光速。今までの比ではない。敵の命を確実に絶とうという動き。

そんな彼に対して聖持は普通に蹴りを放つ。ただそれだけで悠持が蹴り飛ばされた。思わずもんどり打ってしまうが足を滑らせながらも着地する。ただし片手を地面に着いて。


(なんだ今の? つまんねえ小細工で動いたわけじゃねぇぞ。いきなり素の素早さが上がりやがった。全てのギアが一つ違うくらい速くて早い。それならこっちももうちょいハイにならせてもらおうか)


聖持は既に飛鳥を倒した時の動きを思い出していた。しかしその力を以てしてもこの男を確実に倒すには至らない。二人の格闘戦は拮抗、いや、僅かに悠持が上を行っていた。


(神薙さんの動きはトリックやイカサマじゃない。純粋(ピュア)な『生まれながらの競技者(ナチュラルアスリート)』としての動きだ。だから無駄が生まれる筈が無い。この人にとってはこれが当たり前なんだ)


これに関しては文字通り
才能と言わざるを得ない。

【STUDENT】で最も体術が優れ肉体とのバランスに恵まれた《池野操作(いけのそうさく)》がどれだけ羨んだかしれない天性の器と感覚。

一見荒々しく見える悠持の挙動は観察をすると使える関節が全て連動し一つの流れとなっている無駄が存在していないフォームなのだ。

本人は適当に思うがまま行動しているだけなのだが、あまりに突き抜けた運動神経と超人的な肉体感覚があらゆる動きに対応して、無意識の内に関節や筋肉の動きを調整調節(アジャスト)してしまう。


(最も最適かつ無駄の無い型になるっていうことですか……。初めて他人の才能というものに嫉妬したかもしれないな)


これほどまでに完成した芸術品(フォーム)にケチを付けることが出来るほど聖持は自惚れてはいない。(おご)れるわけもない。しかもそれだけではなかった。


「ハッハァッ!」


悠持は聖持が胸に必殺の拳を打ち込む瞬間に上半身を地面と平行になるほど仰向けに()()らせる。そして真下から通り過ぎた聖持の腕を見上げながら、両足で挟み込むように蹴りを見舞う。

間一髪、腕を取りに来た足の片方をもう片方の腕で受けた聖持だったが、上がり続ける速度と威力を前に上手く衝撃を流すことが出来ず、肩の骨が外れかけた。

不安定な体勢からでも威力が落ちないのは仕方無いと割り切れる。しかし聖持が気にしたのは攻撃力でも速度でもない。


(この人やっぱり………!)


息が乱れた聖持は防御に注力する。身構えて振り下ろされる(かかと)落としを受けようと腕を頭上に交差させた。だが悠持の足とクロスガードが交わる瞬間に、降ってくる悠持の足が幻のように消失した。 
 

 
後書き
悠持君のスペックがバリバリ上がるなあ。

次で収集付くんだろうか。

 

 

Eighth5

 
前書き
〆(・ω・。) 

 
(不味いッッ!!)


的場聖持(まとばせいじ)》が全力で身体を後ろに投げ出した。刹那、今まで自分がいた位置を薙ぎ払い、風を斬り裂く蹴撃が走る。

兎に角急いで跳んだ為、尻餅を着きそうになるが、何とかこらえて体勢を立て直した。

二人の攻防を見守っていた《観測者(オブザード)》と《桐崎飛鳥(きりさきあすか)》は聖持の姿を見て息を呑んだ。制服の腹を覆う部分が綺麗に裂けている。


「ただの蹴りを出したキレでこれか……」


飛鳥は自分の斬撃拳と比べても遜色ない悠持の打撃に舌を巻く。聖持が後ろに下がらなければ臓器の一つくらい(こぼ)れていたかもしれない。


「やるじゃねぇか、今のタイミングで躱すたあな」


聖持が気付く。

【STUDENT】のNo.2である悠持の身体能力が極めて高いことからその可能性として、ずっと頭の片隅に置いていた一つの答えに。そしてそれが現実であると。


「今、貴方の力が何なのか確信しました。あの馬鹿げた加速を支えているのは最高速の高さだけじゃない。『反射神経』ですね?」

「半分そうで、半分違うな」

「反射神経の性能がイカれてる。反射速度とは人間の行動である『知覚し、理解し、対応する』。この行動工程の速さのことだ。今の貴方がしていた速度なら俺が一回動く間に最低二回、もしくは三回の動きが出来る」


神薙悠持(かんなぎゆうじ)》の反射速度なら聖持の常識で回避出来るはずがないものを回避し、攻撃と防御がぶつかる瞬間に軌道を修正して別の方向から打ち込むという人間を逸脱したことも可能となる。

聖持の上から落ちてきた踵落としが消えたのはそのせいだ。何故なら目に映っていても、それを脳に伝える伝達信号が悠持の動きより遅いのだから。

聖持が脳で情報を処理し、対応しようとしても、既に悠持は其処にはおらず、先程と全く違う動きで存在しているのだから。


「まああれだ。俺は操作や的場みたいに抜き足を使うことなく認識の外に行けるってことだな。初見で見破れたのはお前が初めてだよ。だがだからどうした?お前には俺に効果がある攻撃を喰らわせるしか手が無いぜ。それとも他に手段があるのか?」


悠持には体術の技術が無い。強い者が勝つという原点を象徴するような剥き出しの暴力と肉体があるだけ。

だがそれだけで武の歴史が積み上げてきた理論を原始的な殴り合いで崩してしまう。ただ格闘するだけで全てを蹂躙出来る。

何故なら反射速度とは運動の根底を司るもの。

どれだけ体を鍛え、どんなに技を練り、どこまで型を磨いても、どんな駆け引きを覚えようと、開始点(スタート)から置き去りにされては無意味なものになる。

微に入り細を穿つような優れた戦術と、それをひっくり返す戦略の果てにある不意討ちだろうと悠持は相手の防御を見てから攻撃する位置を変えることが出来る。

技も知識も経験も策略もまるごと御破算になる悪夢のような理不尽さこそが悠持の持って生まれた異次元の才能(ギフト)

神経速度に追い付く筋肉の速度とそれを活かしきる運動神経と身体能力が生み出す圧倒的な行動速度。そして悠持の最高反射速度はまだまだこんなものではない。


「瞬間四点攻撃!?!?」


光速の2倍である2(ライト)で動く聖持の目にそんな幻を見せるような速度で悠持の打撃が飛ぶ。それを聖持が前に踏み込むことでガードと攻撃がぶつかる面積を増やし、辛うじて全て防ぎ切る。

その時だった。聖持を抑制していた蓋が一時的に全て外れ、眠っていた力が目覚める。

聖持の意識が眼球に集まる。世界から色が消えた。必要でない情報であると判断された為、色彩が遮断される。色の認識に回っていた力を動体視力に移す。悠持の動きが極端に落ちた。

ちなみにこれは特別なことではない。普通の人間にも出来る集中力の高まりによって起こせる意識と認識の高速化と対象限定だ。

俗に言う死に際の走馬灯とスポーツのゾーンが更に高まった時に見られるという、認識しなければならない対象以外の全ての認識が遮断される一面が白の世界。

聖持は芯に響く一撃を(えぐ)るように悠持の腹に突き刺した。その一撃は悠持のAIM拡散力場を霧散させ、自分だけの現実すら破壊した。

意識が断ち切られ寄り掛かってきた悠持を支えて横にすると聖持は彼を見下ろして感謝の言葉を告げる。


「神薙さんだからこそ、俺も此処まで力を出せたのかもしれません。野口勝哉(あのひと)はこうなることまで計算してたのかなあ。けど何時までも手の平で踊っているわけじゃあないですよ。次は貴方の番です」 
 

 
後書き
次はキャラ設定の修正の続きを書かないといけないな。

ちなみに悠持君の反射速度の最高速は光速の二倍で動く聖持君が瞬間四点に見えるどころじゃなかったりするんですよね。

これが能力無しの速さだから困る(汗)
( ; ゚Д゚)
 

 

Ninth

 
前書き
漸く此処まで来た。

 

 
《的場聖持》

観測者(オブザード)

《桐崎飛鳥》

三人の男が階段を昇る。

その(あいだ)に言葉は無い。

静寂が(とばり)を下ろし、
沈黙が場の空気を陰湿で重苦しいものとする。

言葉は不要。

慰めも要らない。

言い訳は聴かない。

これより聖持が相間見えるは超絶の頭脳と能力を持った【STUDENT】の創設者。

そして八人の『絶対能力者《レベル6》』を束ね纏める異端の魔人。

聖持にとって最も尊く気貴く敬うに値する誇り高い先輩で、どんなことにおいてもたった一度すら勝てたことが無い心の拠り所だった人。


「やあ。君なら必ず此処まで辿り着けると信じていたよ、的場君。僕が最後の相手、そしてSTUDENTのリーダーだ」


聖持の目の前に立つのは他の誰でも無い。
最も因縁があるこの男。

全てを操り現在の状況を作り出した
完璧なる天の采配者。


「野口さん、やはり貴方でしたか……」


野口勝哉(やぐちしょうや)》───


学生としても優秀で風紀委員(ジャッジメント)としても有能で何でもそつなくこなす優等生だった。

敢えて言うのなら、あまり他人と関わるような人間ではなかったのが欠点らしい欠点だろう。

それで困るような彼でも無かったが。


「貴方が何を思って桐崎さん達を集め俺を此処に呼び寄せたのかは解りませんが戦うというのなら容赦は出来ませんよ?」


聖持が静かにゆっくりと構える。彼の心は氷河のように沈着冷静で、頭は鋼のように怜悧冷徹だった。ただ真実を見据え、あるがままの現実を受け入れる。


(一種の悟りを開いたようになってるのか……)

(何処か勝哉に似てる雰囲気だな)


飛鳥と観測者は聖持の落ち着きようと豹変ぶりに驚きを隠せないでいた。

しかし勝哉はその微笑みを崩さない。

ただ、ほんの少しだけ…寂しそうな顔をした。

だがそれは観測者にしか捉えることが出来なかった。

その観測者も特段、戦いの趨勢(すうせい)には影響を及ぼすものでは無いだろうと思い、すぐに頭の片隅へと追いやり意識からも消し去ったので特に気に留めることも無かった。


「戦う気になってくれているのは嬉しいけどその前に言っておくよ。君はまだ釈迦の手の平に乗っているだけの孫悟空でしかない。的場君は僕に転がされ踊っているだけの『道化(ピエロ)』だ。全ては僕の思い描いている想像の範囲でしかない。だから、出来ることなら、叶うのならば僕の手を脱け出し覆してほしい。STUDENT(ぼくたち)の目的を」


挑発したかと思えば直ぐに懇願するような言葉を投げ掛ける勝哉。しかしそれには何一つ偽りが無いことは聖持も他の二人も感じ取れた。


「一体何なんですか?絶対能力者(レベル6)を何人も集めて為し遂げなければならない事というのは」


聖持は構えを崩さず気を緩ませることも無く先程の言葉の真を問う。


「僕が絶対能力者レベル6である皆を集めて創った組織、STUDENTの目的……。その名を【学園都市レベル化計画(LEVEL SYSTEM PROJECT)】という」


地上に幾つかあるポイントから
特殊な物質を散布し音波を伝達。

それらにより学園都市全域にいる開発を受けていない人間、いわゆる真の無能力者を能力者に覚醒させ、学園都市を能力者しか存在しない街へと変貌させる。

そしてそこで行われるのは力による支配だ。強き者が闊歩し弱き者が踏み躙られる世界。

自然界の摂理を人間が生きる現代社会に持ち込んだような野性の掟が否応無く襲い掛かる。


其処に在るのは修羅が蠢き悪鬼が跋扈し羅刹が練り歩く闘争の世界。他者を顧みること無く生きる為に切り捨てる。

日々を過ごす為だけに息を潜め、希望も未来も見ることはおろか考えることも無い弱肉強食の世。


「強い者が生き、弱い者が死ぬ。簡単な理屈だ。実際にそれをやってみようというだけだよ。特に変わったことでも何でも無いだろう?的場君にとってはどうか知らないけど」

「させると思いますか?俺が……」

「無いね。何だかんだで正義感のある風紀委員だから僕の邪魔をする」

「俺は貴方の前にある道に立ちはだかります。そして『学園都市レベル化計画(LEVEL SYSTEM PROJECT)』は絶対に止めて見せます」


それを聞いた勝哉は目を輝かせて白い歯を覗かせながら笑う。聖持なら必ず乗って来てくれると思っていたから。


「ん、結構だ。じゃあ始めよう。この一戦に学園都市230万人の命運が懸かっている。だが僕はそれと引き換えにしてもこの計画を成したいんだ。負けた時は覚悟してもらおう」

「それは此方も同じです。野口勝哉、貴方の野望はここで必ず食い止める。風紀委員としても、後輩としても、STUDENTの皆さんに強くしてもらった恩はとびっきりの仇にして返させてもらいます」


勝哉は堪らず苦笑いしてしまった。聖持がどうしようもない御人好しということに。


(後輩として、か……。君はまだ僕を先輩として見てくれている上に信じてくれているんだね。恨まれる覚悟はしてたけど少し予想外だな。でも存外嬉しいものなんだね、割り切っていたはずなんだけど思ったより情が移っていたらしい)

勝哉は思い出していた。強大な力を持って産まれた自分を見捨てること無く何時も優しかった最愛の二人を。


(父さん……母さん……僕は……間違っているのかな……?)


勝哉はまだ気付いていない。何故かつての自分と同じように覚醒する以前から強い力を持っていた聖持から離れなかったのか。他の者が居なくなっても彼の傍に在り続けたのか。

それは単に利用する為だけではない。勝哉自身の複雑な想いがあったからだ。無意識のままに聖持を自分と同じような道に進ませて良いのかと。

的場聖持と野口勝哉。出生は違えど何処か似た者同士の二人。互いを想いながらも両者譲れない願いの為に最後の戦いが始まる。
 
 

 
後書き
前置きが長過ぎますね(; ̄ー ̄A

学園都市レベル化計画は力で支配するだけが目的ではありません。勝哉君なりに理由があります。STUDENTのメンバーも賛同するのは仕方無いです。本当ならやりたくはない計画なので。

その理由を書く気はありませんが今までの話の中でヒントになるようなことを一つ書いています。

普通に生きられるならそれが一番良いんですよ。普段は詰まらないと思っている平穏でささやかな暮らしの日常。その懸け換えの無い大切さは喪失(うしなっ)て初めて解るのかもしれません。

STUDENTのメンバーはそれをよく知っています。だからこそ力で支配するような計画に乗ったのです。間違っているでしょうが私は完全に拒絶したり否定する気は起きません。

やっている事が悪だとしてもこれしか無かったわけですからね。学園都市が歪んでおらず、腐敗も少ない出来るだけ正しい社会ならこうはなりませんでした。


偽悪の英雄(むぜつかの)反逆英雄(なつのせつな)がどう言うかは解りませんが理解はしてくれるとは思います。ただ、理解はしても聖持君のように止めるでしょうが。 

 

Ninth2

 
前書き
_φ(゚ー゚*)さあ書くか。 

 
野口勝哉(やぐちしょうや)》が何も無い空間から銃を取り出して《的場聖持(まとばせいじ)》に向ける。それを合図に戦いの火蓋が切られた。

勝哉は両手の銃を次々と射ちながら
聖持に向かって走る。

聖持も弾丸の軌道を見切って
とある歩法を決める。


その歩法とは、
抜き足、差し足、忍び足という三種。

抜き足は覚醒の無意識に踏み込む、差し足は間合いを差す、つまり近づいて詰める、忍び足は気配を消す歩き方だ。


池野操作が暗殺者時代に使っていた古来より伝わる忍者と武人の足の運び、『運足』を組み合わせた『縮地』と並ぶ体術の奥義。

しかしこれは聖持と操作の戦いで
用いられてはいない。

騎城優斗(きじょうゆうと)》のプログラムにより与えられた【STUDENT】のデータがロードされたのだ。

優斗のデータは聖持がその力を使う為に必要なレベルにならなければ情報が解禁されないという設定になっている。だから今まで使うことが無かった。


聖持は既に能力者の強度(レベル)PHASE(フェイズ)が[6.9]まで達している。

前人未踏、空前絶後、学園都市の統括理事長が目指す『SYSTEM』と同じかは解らないが、それに並ぶ神の領域に近付いている。

だが的場聖持の前に立つは野口勝哉。恐らく自分と同等かそれ以上の絶対能力者。三種の歩法を同時に用いても隙を突けるとは限らない。


「良い動きだけどまだ甘い」


今度は勝哉が同じ歩法を使ってクロスオーバーステップの応用をしたような曲がり(カット)をしてきた。もちろん銃を射ちながらだ。


「あれは箱部さんのステップか!」


最高速を変えずに歩幅を変えることで接近時間を調整する人間の感性を裏切るようなその動きに聖持は苦労させられた。


「伊達に彼等のリーダーを
してはいないってことさ」


しかし聖持も以前とは違う。三種の歩法に意識の隙を突かれず鈴菜のステップによる緩急にも合わせて見せた。もちろん銃弾を躱しながらそれをやってのけた。

勝哉と聖持が格闘の距離になりそのまま戦闘を続行する。拳と弾丸が途切れること無く互いを狙って飛び交う。

聖持は何時ものように自分の手首と足首の先に『弱点設定(ダメージポイント)』を付加しながらの格闘。彼はその中であることを思っていた。


(おかしい。野口さんの銃は弾が六つしか装填されない回転式拳銃(リボルバー)のデザインだ。何故こんなに弾が射てる?)


それは勝哉が心理的な効果を狙ったものだ。彼の拳銃は暗黒魔境(ディストピア)の技術で製造されたAIM散力場を弾に変換出来る優れもの。事実上は弾切れの心配が無い。

回転式拳銃(リボルバー)のデザインにしたのは弾切れのタイミングを誤認させる為。そしてその弾倉の保持形式は『固定式(ソリッドフレーム)』 と言われるタイプである。

回転式拳銃(リボルバー)には弾を込める
弾倉の保持方式でタイプが別れている。

現在の回転式拳銃で最も普及している保持方式は『弾倉振出式(スイングアウト)』。シリンダーを振り出しそこから弾を込める。トップブレイク式の装填の容易さとソリッドフレームの堅牢性を両立している。

勝哉の使う『固定式(ソリッドフレーム)』はシリンダーが固定されている。振り出しや中折れが出来ないため再装填は銃後部のローディングゲートと呼ばれる場所から空の薬莢(やっきょう)を一発ずつ捨て、それからまた一発ずつ弾を装填するか、シリンダーを外して装填する。

このため再装填に長い時間が掛かるがその分銃身の堅牢さは非常に高く、通常より威力の高い強装弾を使用することが出来る。

そして銃弾の威力は精製に使われたAIMの量によって決まるので超絶な威力と速度を発揮するのだ。

(ライト)を超える腕の動きと装填、発射、銃弾の速度。爆風すら吹き飛ばす二人の火花を散らすやり取りはまだ始まったばかり。 
 

 
後書き
勝哉君が使っている二挺の銃のデザインは
片方が『コルトM1877ライトニング』。

伝説の早撃ちガンマン『ビリー・ザ・キッド』が使っていたとされる。

もう一つは『S&W M500』。

アメリカのS&W社が2003年に開発した超大型回転式拳銃であり、一般市場に流出する商品の中では世界最強の拳銃とされる。(ハンドメイドの受注生産品は含めない)

その反動は『手の中で何かが爆発したような感覚』とまで言われている。

─────────────

あのネタは必ず入れたい。操作君と悠持君で使わずに取って置いたやつなので此処で書かないと機会が暫く無い。 

 

Ninth3

 
前書き
φ(-ω- ) 

 
勝哉の両手に構えた銃から放たれる銃弾の驟雨(しゅうう)を掻い潜りながら聖持は着実に急所を狙った打撃を繰り出す。しかしそれは全て(さば)かれ逆に銃口が火を吹く。

互いに拳が届く距離にいながら聖持が互角に持ち込まれているのは勝哉が見せている近接格闘術のせいだ。普通に生きている人間なら本物を拝むことなど一生有り得ないような稀少技術。


銃闘武型(ガン=カタ)


拳銃を持ったまま超近接格闘に持ち込み多数の敵を短時間で倒す技法である。

銃を持った相手を想定して考えられた武術なので、銃口を逸らしたり狙いを外す為の体捌きが素早く行われ、非常に接近した状態での高速銃撃戦が展開される。

敵の眼前で体術と銃撃を同時にするという斬新な考えは色モノ過ぎて殆どの人間に曲芸としか捉えられなかった上に修得難易度も高い。

だが極めればこれほど画期的な戦闘術も無かった。

常に敵の死角に回ることで銃弾を回避しつつ、最少の攻撃で最大の成果を得る合理的な概念から生まれたことを納得してしまう程に。


勝哉の場合は普通の人間として『銃闘武型(ガン=カタ)』を用いれば、銃を鈍器代わりにするだけで学園都市の駆動鎧(パワードスーツ)を破壊するレベルである。

それだけに留まらず、銃闘武型の使い手は多数の敵が構える銃口の向きを一瞬で判断し、弾丸の軌道を予測しつつ攻撃するため物陰に隠れたりせず積極的に近付く。



(『無敵貫通(トータルキラー)』の身体強化が効いてるな。能力も使わないと攻め切れないか?)



勝哉が能力で通り過ぎた銃弾を引き戻し、もう一度聖持に向けて攻撃する。無論のことだが二人は銃撃と拳撃の真っ最中だ。

更に勝哉はフロアのあちこちにめり込んだ銃弾を操って一ヶ所に集め群体にした。何発もの弾が同時に飛ぶ散弾のように一塊となって聖持の背中へ向かう。


その気配に気付いた聖持が前を向いたまま後ろへと弱点設定(ダメージポイント)のエネルギーを放出した。するとそれに触れた途端に群体を成していた銃弾がバラけて地面へと落ちる。



聖持の新たな能力『無敵貫通(トータルキラー)』は科学と魔術が融合した状態に限りなく近い。

魔術的な力で能力を相殺し、科学的な力で魔術を相殺する。

そして身体能力とそれを引き出して使う為の器である肉体の強度を著しく引き上げ強化する。

銃弾が地に落ちたのは操っている勝哉の能力を相殺して打ち消したから。


《箱部鈴菜》の『異能殺し(エスパーブレイカー)』による能力無効と《池野操作》の『身体操作(スタイルコントローラー)』による身体強化もそれ単体で強力なものだが無敵貫通には更に違う力がある。


それは『自身に掛かる物理法則』を操ること。


相手の能力による干渉を遮断し、現実世界の法則に縛られず、常識に捕らわれない肉体に『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』から引き出した自分だけの法則を掛け合わせる。


これによりほぼ確実に攻撃を命中させることが可能な攻防一体の出鱈目な能力である。

人間が使うものとしては恐らく学園都市はおろか、最深学区でも『超能力』と言われる概念の範疇の境目に当たる存在だろう。



(だけど後一歩足りないね)



聖持の力はまだ上がある。そしてそれは勝哉にも言えることだ。

勝哉は銃を空間に仕舞い、フロアのあちこちに飛び散った弾丸やめり込んだ弾丸、砕けた瓦礫などを分解する。

攻撃が途切れたのを見計らって聖持が突っ込み『無敵貫通(トータルキラー)』を真っ直ぐ10Lの速さで叩き付けた。しかしそれは勝哉の前にある空間で止められてしまう。

目を凝らして見るとそれは分解した弾丸と瓦礫が砂利のようになったもので作られた極細のワイヤー。だがこんなもので今の攻撃を受けられるはずが無い。



「的場君が自身に掛かる法則を変えれるように僕も法則を変えれるんだよ。P・Rから引き出した可能性が能力という存在だ、なら僕の世界の法則を現実に適用すれば君と同じようなことが出来る。まあ能力者なら誰でも出来る可能性があるんだけどね」



勝哉がしているのは『宇宙論(コスモロジー)』による世界の侵食ほどではないが、世界に存在する既存の法則を改変するという行為。

聖持のように自分に掛かる法則を操るのとはまるで違う。改変した時点から操るということをする必要が無いのだ。脳の演算ですらも。

 
 

 
後書き
能力が高度になると理屈が通用しないんですよね。この二人はオッレルスみたいに説明が出来ないレベルになっているので。

ガン=カタは映画リベリオンと映画まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語で『巴マミ』、『暁美ほむら』の二人が戦った時に使っていたアクションです。 

 

Ninth4

 
前書き
_φ(゚Д゚ ) 

 
「ん?」



聖持が後ろへ跳び下がると何かを踏み付けた。見てみるとそれは一本のコーヒー缶。



(感触からするとアルミ缶みたいだけど何故ここに…というより何時現れたんだ?)

「それは僕が飲んだコーヒーだよ」



そう、それは勝哉が地上のコンビニで袋いっぱいに買ってきた缶コーヒーである。すごいペースで飲み続けたのであっと言う間に数を減らしたのだ。



「飲むのは構わないんですけどちゃんとごみ箱に捨てるか回収に出しといて下さいよ……」



聖持は僅かに困惑したが直ぐに気を取り直して勝哉に注意を入れた。風紀委員の癖はこんなところでも発揮される。



「ああ悪い悪い。それは別にポイ捨てしたわけじゃないんだよ。その缶の隣を見ててごらん」



勝哉がそう言うと床からコーヒーのアルミ缶が生えてきた。奇妙な光景である。まるでキノコのようだ。



「足場を不安定にしたいんですか?それとも足止めが出来るとでも思ったんですか?確かにちょっと意識が行きましたけど」

「僕がアルミ(・・・)缶のコーヒーを買ってきたのは飲む為だけじゃない。ちゃーんと戦闘に使えるから此処に持って来たのさ」



互いに法則を書き換え出来る二人ならば空き缶を使った攻撃でも倒せるかもしれないが、条件が同じ者同士なら普通の能力戦闘にしかならない。それを解った上で勝哉はアルミ缶を用意したのだ。



(レベル4くらいでもあの(・・)威力だからね。僕がやったらどうなることやら。ま、察しは付いてるから自爆することは無いけど)



聖持は嫌な予感がしたのか前兆で回避する。その直後、踏んだ方のアルミ缶が爆発した。それも尋常な威力ではない。爆心地を中心にフロアの上下左右前後が火柱で貫かれた。



「くっ!」

(何だこの爆発は?その辺にあるような武器の威力じゃないぞ!?)


考えていると爆煙の中から踏んでいない方のアルミ缶が飛び出してきた。聖持は『宇宙論(コスモロジー)』を展開し世界の侵食を行ないつつ『無敵貫通(トータルキラー)』の能力干渉遮断を使いながらその場を離れる。


再び爆発が起きた。それは宇宙論で侵食する聖持の世界へと吹き込み物理法則を操る無敵貫通を相殺してダメージを与えてきた。



(ポーカーのレベルを今より解放しなければ互角のようだな。しかし風紀委員をやっていた僕が『虚空爆破(グラビトン)事件』の犯人と同じことをやるなんて皮肉が効いている)



勝哉がしているのは『量子変速(シンクロトロン)』という能力と同じだ。

本来は量子を変速させる能力なのだが虚空爆破事件の犯人はアルミを基点に『重力子(グラビトン)』を増やして規模を大きくするのではなく、加速して周囲に放出している。

はっきりと解りやすく言えばアルミを爆弾にすることが出来る能力である。


同じことが出来る量子変速の能力ではレベル4が学園都市の最高位であり、勝哉からしてみれば特に大したことも真似をする必要も無い。ただコーヒーを飲んだ入れ物を武器に使えるのは良いなと思ったからしている。

そして肝心の威力だが犯人の場合はセブンスミストの売り場の一角を吹き飛ばす程度のものであった。しかし自分をも巻き込む爆発があるので直接攻撃ではなく設置して時間差で攻めるのが普通だ。


がしかし、勝哉は自分の能力で起こした事象でダメージを負うことなど有り得ない。相手の能力を逆流させ、生物以外ならあらゆるものを統べる彼の力と人間の域を著しく逸脱してしまったP・R、演算、制御により原子一つも動きは乱れない。

勝哉が最初に見せたフロアを爆破する攻撃はただの演出のようなもの。その証拠にフロアは不自然にしか破壊されていない。二発目も聖持に爆発が集まるよう操った。

何より威力を抑えている。今はまだレベル5に届くくらいの攻撃力でしかない。

レベル6として重力子爆発を起こしたらどうなるのか勝哉も試したことは無いが恐らくこうなるという予測は出来ている。



重力子(グラビトン)とは素粒子物理学に於ける『四つの力』の内、『重力相互作用』を伝達する為に役目を負わされた素粒子だ。これには『万有引力』が大きく関わっている。この宇宙に於いては何処でも全ての物体は互いに『引き寄せる作用』を及ぼしあっているとされる)



勝哉は室内に生えたコーヒー缶を一本引き寄せ手に取った。少し眺めてからフロアの真ん中に向かって軽く投げる。すると圧倒的なエネルギーを持った爆発が生じ、その位置に留まる。



「僕の予想なら『あれ』が起きるはずだが」



空気の流れが変わる。爆発に向かって爆煙が引き寄せられ聖持の姿が見えた。戦闘するには問題無い程度ではあるがダメージを受けている。だが今は互いに爆発の方に注視している。

爆発が収まり始めたが何かおかしい。中心に黒いものが見える。見たことがある人間などまずいないだろうが。


「やっぱりこうなったか」


思わず勝哉が笑う。しかし聖持はそんな場合ではない。


「ブラックホール……だって……?」


あまりの破壊力と重力子の放出を広範囲にしても規模が大きな爆発にしかならない。勝哉は一定範囲に区切ってエネルギーを収束させながら維持することでアルミ缶を使った即席の重力爆弾を作り出したのだ。

そしてその力は小型のブラックホールを生み出す程の重力場を展開していた。だが聖持にとってそれはどうでも良い。問題は自分の防御を勝哉が相殺できるということ。


「もしもあんなのを喰らったら、その日には圧縮された上にチリにされてしまうぞ……!?」



勝哉は悪い笑顔を浮かべながらフロアにある全てのアルミ缶を同時に起爆させる。するとあちこちで重力子が放出され爆発が起き、小規模ながらも強力な重力場が展開される。



「さあ的場君、力が目覚めないと……死ぬよ?」



その言葉を聞いた後、聖持も、飛鳥も、観測者(オブザード)も、そして勝哉自身も、フロアごとブラックホールに呑み込まれ重力の暗黒へと消えた。


 
 

 
後書き
手抜き勝哉君が虚空爆破事件の犯人だったら多分ですがアルミ缶の一本でもあれば縮退で核融合を起こしながら重力崩壊した後に地球が破壊されますね。

これでネタの一つは入れることが出来たが残りをこの戦いの中で全部使えるだろうか。 

 

Ninth5

 
前書き
今回の話は特に解りにくいです。
仏教ネタは漢字が多い。 

 
過度に集積された重力の闇中で《的場聖持(まとばせいじ)》は身動きが取れないでいた。このままでは間違いなく命を落とす限界状態で彼は『その領域』へ入る為に最後の(きざはし)を上がる。

桐崎飛鳥(きりさきあすか)》との戦いで人間が持つ『六つの感覚』を強化させた上で新たに手に入れた感覚である『(げん)』・『()』・『()』・『(ぜつ)』・『(しん)』・『意』の《六根(ろっこん)》。

そして《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》との戦いで目覚めた『(しき)』・『(しょう)』・『(こう)』・『()』・『(そく)』・『(ほっ)』の《六境(ろっきょう)》。

この六根と六境を合わせて『十二処』と呼ぶ。

聖持が新しく得ようとしているのは『六識』。

(しき)』とは外界の対象を識別し、認識する心の作用で『眼・耳・鼻・舌・身・意』の六つ。

通常の人間に六つあるというそれぞれの感覚が『目・耳・鼻・舌・肌(身)・心(意)』の人間が持つ六種の認識器官に依存して、それぞれが『色』、つまり『形を持った物質』で『考えられる対象』であるという風にされている『色・声・香・味・触・法』を認識する。

十二処と六識を合わせて『十八界』と呼ぶ。

能力と精神が大きな関係を持つ存在だということは『P・R』という『小さくミクロな世界』を操ることから見ても解ると思う。

ならば聖持が今まで手にした感覚は能力に繋がるのかと言えば勿論そうだ。

P・Rとは能力者が持つ『独自の感覚』であり、能力を発動する為の土台。正に能力の源であり、『火を出す可能性』、『心を読む可能性』など、『現実の常識』とは『ズレた世界』であり、それを『観測』して自分の中だけにある小さな世界を操る術。

能力者なら誰もが持つ『能力』なのだ。

より強い個性を保ち、強靭な精神や確固たる主義を持つことが『自分だけの現実(P・R)』の強さに直結する。

能力者一人一人が見ているものは違っており、超能力の性質上、自身が観測できるP・Rによって能力が決まる。

そしてP・Rとは妄想であり信じる力。観測する為には『独自の感覚』が必要だ。P・Rという『認識のズレ』も本人がそれを捉え認識することで、『自分だけの現実』という精神世界を歪め、その影響で体の外にある『大きなマクロ世界』に『能力』という超自然現象を引き起こす。

学園都市に於けるミクロ世界の観測者とは『人間の脳』である。故に人間の脳を適切に操作して『ミクロな世界』を観測させればミクロ世界そのものであるP・Rを歪めることが出来るとされている。

例えば自然現象が『99%』存在し、超自然現象が『1%』存在する時には《普通の人間》が観測すると『99%』の確率で『正しい』自然現象が顕れ、『歪んだ』超自然現象が顕れる確率は『1%』しかない。

しかし学園都市の『開発術』や原石能力者の自然環境による開発で脳を操作されてしまった人間は『1%』しかない筈の超自然現象を『本来の確率』を無視して人為的に現実へと顕すことが出来る。

そして小さくミクロな世界の歪みがバタフライ効果のように水面の中心から波紋が広がる如く、大きくマクロな世界にも本来は有り得ない事を引き起こす。

『感覚』が強化されるとP・Rを観測する力が上がり、能力の強度が増す。ただ、『可能性』がその場に全く存在しない場合、現象は起こすことが出来ないとされている。

しかしそれも自分の考え方次第だ。何故なら観測するのは自分の心の中。幾らでも物理を振り切った能力を創ることは可能。


「遂に……この時が……」

「来たか………!」


観測者(オブザード)》と《野口勝哉(やぐちしょうや)》がロウソクを吹き消すように散らされたブラックホールの中心で宙に浮かぶ的場聖持を見る。


「とうとうおでましか」


飛鳥も炎の翼を一枚出して飛んでいる。


「【完全攻撃(パーフェクトダメージ)】……。『弱点設定(ダメージポイント)』のセーフティーが外れた最強の矛。『無敵貫通(トータルキラー)』が持つ最高の防御と対を成す力。あの二つに目覚め、更にレベルを上げた的場君の攻撃はもはや絶対能力者(レベル6)で防ぐことは不可能だろう」

「それにあれを手に入れたということは心身に何らかの劇的な変化が起きているはずだ。あれを相手にするとなるともう手段を選べないんじゃないのか勝哉」

「飛鳥の言う通りだ。でも勝ち目は薄くとも最後まで戦るよ。彼等(・・)の出番も作ってあげないといけないしね。というわけでバトンタッチだ。『勝真(しょうま)』、少し任せるよ」


勝哉が(まばた)きした直後、その人物が姿を現す。


「やれやれ。僕は能力で勝哉に勝てないし武器や体術は彼に劣るんだけどなあ。その代わりに小細工使うけど。さて的場聖持、僕は野口勝真。勝哉と多心同体の身だ。少しだけ相手をさせてもらうよ。だがまあ敢えて言わせてもらうのなら………」


聖持は勝哉が別の人格を持っていたことに驚く。


「テメェは僕が倒すよ」
 
 

 
後書き
勝真君にはあのネタを使ってもらおう。

この話の殆ど使って書いた『観測』の最高峰が観測者(オブザード)の固有能力です。

というか能力に見える能力じゃないものなのかな?

あまりに突き抜けた力なので神格100%レベルの相手でもないとまず本気では使えないです。

でも流石にGROWのリーダーはキツいと思います。

保有してる神性がありなら解らないですけど。
 

 

Ninth6

 
前書き
ネタ的に解りづらい。 

 
野口勝真(やぐちしょうま)》が100L(光速の100倍)という速さで動きながら『高周波活性オーロラ調査プログラム』、通称『High Frequency Active Auroral Research Program』、略して『HAARP(ハープ)』と同じことを能力を用いて行う。


これは電離層の現象をコントロールする実験を行う為に高周波を照射して電離層に熱を発生させることである。

地下に居る現在の状況で出来るわけは無いのだが勝真の力ならば十分に可能だ。



「これはねぇ、放射線を発散しない核兵器サイズの爆発を起こすことが出来るんだよ」

(しかし勝哉も御人好しだな、ポーカーの9番目までしか使わないなんてさ。同じ条件で戦うなら10番目まで使うべきだろう?)


勝真がポーカーのレベルを上げて聖持と同じ域の力になる。そして15キロトン級の爆発が立て続けに起こった。弾幕としてはあまりに過剰を超えた爆撃が聖持に襲い掛かる。

レベルを自分と同じところまで引き上げた勝真の攻撃に聖持は動くことが出来ないがダメージを受けることも無い。力が拮抗しているのだろう。

その間にHAARPによって人工的に電磁場が作り出された。この電磁気システムは生理学的身体の破壊、知覚の歪曲、方向感覚の喪失などを引き起こせる。



(防御を緩めるとただでは済まない、どうする的場?)



これに対して聖持は無敵貫通(トータルキラー)の防御を展開しながら完全攻撃(パーフェクトダメージ)で攻撃するという攻防一体の力を見せた。勝真がぶつける力は全てが掻き消される。

しかしHAARPは電磁波放射線を電離層に反射させて地球を貫通させることも可能。地球を汚染する放射線は他に影響を出すことなく聖持ただ一人へと集束する。



聖持には既に常人では見ることが出来ないものが見えている。高周波も電磁波も放射線も『観測』し、そこにあると認識できる。ならば干渉することは可能。

勝真の一撃は残滓の欠片も無く一点へと引き寄せられた。それを完全攻撃の一発で打ち消してしまう。



(おいおい勝哉、やっぱり僕には荷が重いよこの相手……。同レベルにしても分が悪いじゃないか)



勝真が弱気になるが何故か体から力が湧いてくる。



「まだ彼の出番は早いってことか…。仕方無い、もうちょっと僕が頑張ってあげよう」

(あんまり使いたくはない力だけどこれで行くか)



『位相幾何学』。


この学問では例えば穴の空いたドーナツの円環体と、取っ手の付いたコップの形は同一視される。

これはドーナツを『連続』的に変形してコップにすることが出来、その逆も可能だからである。



(僕はもしかしたら位相幾何学というものはあらゆる物体に通用するものじゃないかと思う。例えば立方体を正面から観察する、次に俯瞰(ふかん)で上から見る、そして人の主観で感じることは出来ないが理論上同一のものを別の方向から観察する。つまりA➡Bに変わるまでの➡の時間を入れるとすれば位相幾何学に分類されるんじゃないかと)



勝真はこの位相幾何学を物体以外にも応用。法則や概念をいじること無く何かを変えることが出来るようになっていた。

そして彼がしたのは聖持の力を変形させること。これで弱体化させ、次の自分に交代する。その狙いは何とか上手く行った。



(能力を弱らせたとはいえ勝てるかは微妙なところか。だがもう僕の出番は終わりだ、後は任せた)



勝真は精神の奥に潜み、代わりに新しい相手が出てくる。

その雰囲気はやけに威圧的で攻撃的、殺気が剥き出しの凶暴な顔。勝哉と同じ顔でここまで変わるとは驚きだ。



(今度は一体どんな相手なんだ)


「俺は『野口真哉(やぐちしんや)』。あんまり手加減しねぇから勝哉には中々表には出してもらえねぇんだよ。それに能力を使うのは三人の中で一番下手だからな。そんかわし接近戦は得意だ。折角だから楽しませてくれよな?」


 
 

 
後書き
15キロトンはリトルボーイの威力の筈です。あれと同クラスの爆発がずうっと途切れること無く同時に何百と起きています。

そろそろ終わるかな。あのネタを使ってから。 

 

Ninth7

 
前書き
最後です。 

 
野口真哉(やぐちしんや)》に向かって聖持が《神薙悠持》から覚えた変速機動を用い、始動・加速・減速・停止で緩急を付けながら『完全攻撃(パーフェクトダメージ)』による水平射撃を行う。



(かす)るだけなら耐えれるが直撃したら即終了だからな。全く気を抜けねぇ野郎だぜ……)



どうにか対処する真哉だが別に逃げているわけではない。此処まで聖持が戦ってきた『STUDENT』のメンバー全員の動きを下地にした技を(あらわ)にしようとしていた。そしてその兆候が既に出始めている。



(おかしい……。真哉(このひと)が止まっている時間がやけに長くなったような……?)



聖持の異変を察した真哉がほくそ笑む、やっと効いてきたと。彼が聖持に対して仕掛けたのは『クロノスタシス』という現象。

それは『サッカード』と呼ばれる速い眼球運動の直後に目にした最初の映像が長く続いて見えるという『錯覚』。


よく知られている例が『時間が止まって見える』というものだ。

アナログ時計に目を向けると秒針の動きが示す最初の一秒間が次の一秒間より長く見えるというもの。


眼球がサッカード運動する時には時間の認識は僅かに後ろへ伸びる。そして観察者の脳は実際よりも僅かに長い時間だけ『時計の針を見ていた』と認識し、秒針が一秒以上固まっていたという錯覚を生む。

実は見ている方向が『ある点から次の点』へ移動する度にこの現象が起きているのだが、気付くことは殆ど無い。


この現象を説明するものの一つは『見る方向が移動する際の時間の隙間を脳が埋めている』というものである。


実験によると恐らくサッカードがあるにも関わらず、脳が連続した意識体を構築しようとすることでこの現象は引き起こされるらしい。


この現象はあらゆる眼球運動によって生じるが何か時間を計れるものがある場合には、より顕著になる。


そしてこの現象は聴覚によってでも引き起こされるという。


聖持の攻撃は徐々に外れ出し、真哉の方が攻勢に出る。そして近接戦闘に持ち込んだ聖持をナイフで斬り裂いていく。



(アドレナリンもエンドルフィンも使え、出し惜しみするな。脳のリミットを外して着いていけ!)



聖持は押されながらも底力を発揮して互角にもつれ込ませた。

互いに互いの攻撃が掠る。それだけで二人には引きつるような痛みが感じられる。

泥試合の様相を呈してきた真哉と聖持の鬩ぎ合いは更に激しくなった。

二人の時間感覚が上昇し、それは走馬灯のように一瞬で人生を振り返る現象を肉体にもたらした。


『光秒』


それは天文学で用いられる長さの単位。

一光秒は光が一秒間に進む距離と定義される。

『m』(メートル)は光が『2億9979万2458分の一秒』という時間に進む距離。

そして一光秒は光が地球を七周半する時間。



聖持と真哉が出したのは『光ナノ光秒』。

光が1ナノ秒、つまり十億分の一秒間に進む距離。

細かく数字にすると『0.299,792,458m』。

約30㎝である。


光の速度でも約30㎝ほどしか進むことが出来ない1ナノ秒という速度で両者は攻防を行う。


ナイフの斬撃を。

破壊の砲弾を。

消滅の打撃を。

法則の操作を。

世界の侵蝕をやってのける。


しかしそのやり取りは遂に終わりを迎えた。




───聖持がベッドで目を覚ます。



「もうちょっと休んだ方が良いよ」



桐崎飛鳥が声を掛けると他のSTUDENTも集まってきた。



「……俺を助けても…良いんですか?」



それに影縫子規が答える。



「俺ッチ達の目的は『学園都市レベル化計画(LEVEL SYSTEM PROJECT)』の成功か的場ッチの覚醒だったからな。どうやってもどちらかの目的は達成出来なかったんだよ」


「的場君、君に話すことがある」



どうやら傷は池野操作と飛鳥が治したらしい。

しかし肉体的には完治していても精神や魂のダメージまでは簡単に治らないのだ。



絶対能力者(レベル6)の本格的な戦闘とは物理的な範囲に収まらず、この世のものではない何か、説明の出来ない力も振るわれる。

魔術と同じく科学では(かえり)みられることがあまり無い霊的な場所にまで影響を及ぼしてしまう。

ましてや野口勝哉はレベル6の中でも事実上レベル7と言っても過言ではない程の力があり、的場聖持はその更に先にいるレベル7である。


その気になれば無限の力を持ち、存在するだけで世界が破壊され、倒す為には無限に戦わなければならない魔術の魔神すら瞬殺し、神話の神格にも大半は勝利するだろう。


勝哉と聖持の戦いによるダメージは池野操作が使う秘技『心霊医術』ですら完璧には治せない程の深度にまで魂と精神に傷を負わせていた。

なので飛鳥が持つフェニックスの力を一部だけ埋め込んで治療したとのこと。

これにより聖持は不死鳥の再生という恩恵を極僅かにではあるが、その身に宿すこととなった。



やがて動けるようになった聖持はSTUDENTと観測者(オブザーバー)に見送られて決戦の場になったビルを去って行ったが地上には戻らないらしい。



「…これで良かったのかい?」



観測者が勝哉に尋ねると彼は含み笑いをしながら話し出した。



「僕としてはどちらの計画が成功しても良かったんですよ。的場君はもう地上に戻るわけにはいかないですから」



観測者は知っている。的場聖持という存在も、その能力も、全てが勝哉によって創り出されたことを。



「この筋書きは勝哉君の思った通りというわけか」



その後、野口勝哉の能力により決戦場は素粒子にまで分解され飛鳥の能力によって世界から消滅した。

そして池野操作の能力を学園都市全域に住む民間人に施したことにより、彼等の記憶から喪失させ、決戦の日には何も無かったこととなる。



「誰の記憶にも現実の痕跡にも無い空白の一日か。まあ私には通用しないんだけど、それは聖持君も同じか」



fortress

OBJECT

人形の残骸(ドールディブリス)

神性(ディバイン)



「何時になったら気が休まるのやら」



全てを見届けた観測者は一迅の風と共に跡形も無く消える。暫くは暗黒魔境(ディストピア)で過ごすことになるだろう。



そして時は過ぎ……────


 
 

 
後書き
第一章が終わりました。

 

 

Resumption

 
前書き
第二章の始まりです。 

 
的場聖持とSTUDENTの決戦から五ヶ月。学園都市の学生達は冬休みを過ごしていた。



「つまんないなぁー、何か面白いことないかなあー」



マンションの屋上で寝そべる少年が冬の寒空を見上げている。


神薙仁(かんなぎじん)


能力を持たない一般人である。

彼は幼馴染と一緒に『Answer(アンサー)』という小さな組織を作って活動していた。


主に事件を解決するのだが小さな事件は風紀委員で事足りるし大きな事件なんてそう起こるものでもない。

そもそも開発を受けていない真の無能力者と変わらないレベル0が戦うとなればレベル3以上の相手だと勝率はグンと下がる。



(まあ簡単に負ける気は無いし負けることは少ないだろうけどさ)



事件に関わるなら最低限の強さというものは持っているはずなのだが周りの評価はそうもいかない。

なので基本的には風紀委員の手伝いをしているが当てにはされていないようで仕事は殆ど来ないのが実情だ。



「こんなとこに居たの仁?宿題残ってるんだからボーッとしてる時間なんて無いわよ」

「解ってるよ、そっちは終わったのか?佳奈」



屋上にやって来た少女は『七草佳奈』。

気付いたら仁と出逢っていた間柄である。

昔は無邪気な女の子だったが成長するにつれて馬鹿になっていく彼を幼馴染として放置出来なかったので共に『Answer』を作った。



「当然よ。ほら戻った戻った」



彼女は学業優秀なエリートで仁に勉強を教えている。


◆◆◆◆◆


宿題を終わらせた仁は部屋にあるPCを弄る。

画面には今のところ学園都市で謎に包まれた三つの事件があった。



『空白の7月19日』

これはSTUDENT行った偽装工作が真相だ。

聖持との戦いが終わった後にその日の出来事を人間の記憶からも機械のデータ上からも消し去った。

一般人からすれば覚えの無い一日が終わっていたという感じだろう。



『赤い衣服』

現在の学園都市で薄っすらと噂になっており、街の重役やその補佐などを勤める者が相次いで行方を眩ましているというもの。

行方不明者が最後に目撃された現場には血液らしきもので真っ赤になった衣服があったそうだ。

しかし共通して外部から何かしらの攻撃を受けた痕跡が見付からないという。



『軍のミサイル消滅』

これは一時期大ニュースになっていたのでよく知られている。『空白』の事件と同時期に起きていた。



「ミサイル消滅事件と空白の一日事件は全くの同日だったとかはないかな」



仁によるとミサイルは普通に強奪されており、その後に空白が起きたからミサイルが自然消滅したと思い込んだのではないかということだ。



「気分転換でもしない?」



佳奈の提案で近くのコンビニまで出掛ける。



「奢りだからってココア一つなんて遠慮しなくても良いのに」



そう言う彼女の横で仁が缶に口を付けようとするが猫舌らしく息を何度も吹き掛けて冷ましていた。




その頃……───



「さて、彼等が動き始めたみたいだし、またみんなを集めないといけないかな」

「私が介入することはあるのだろうか」


「ミサイルの使い道は決まってるからな。今から楽しみだ」

「『HsMDCー01』の準備をしておいてくれ」

「目標は学園都市だ」

「え、あれ使うの?」

地球旋回加速式磁気照準砲(マグネティックデブリキャノン)か……」

「この街を跡形も無く消し飛ばす気満々じゃないですか」(汗)

「地図の上からも消えるな」

「ミサイルが使えない時の最後の手段だ」

「一も二も無く身も蓋も無いすね」(苦笑)

「私達の能力を使えば早いんですが」

「下手に動けばSTUDENTが黙っていないだろうさ」

「fortressもな」

「砲弾の十段階目に設定することも考えておかなければならないかもしれません」

「あまり使いたくない手ではあるが、第0学区に居れば此方(こちら)は無事だしな」


 
 

 
後書き
その頃の後の一人目は勝哉君で二人目は観測者(オブザード)です。

三人目からはOBJECTとSUBJECTのメンバーです。

HsMDCー01『地球旋回加速式磁気照準砲(マグネティックデブリキャノン)』はPSPゲーム『とある科学の超電磁砲』から。

 

 

Aqud eundum

 
前書き
_φ(゚Д゚ ) 

 
地上・学園都市───


此処は第五学区。

この区は大学や短大が多く、多くのビルが立ち並ぶ。

大学生メインの区域だけあってデパートなどのランクは若干高めで全体的に落ち着いた雰囲気が漂う。

居酒屋など中高生に利用出来ない施設も多い。


その中にある一件のバーは第0学区との繋がりも深く、一見しただけでヤバいと解るのが出入りしている。



「マスター、コーヒーを一つ」



一人の青年がカウンターで注文する。



「此処はアルコールが売りの飲み屋です。未成年の方がお越しになるのはお薦め出来ませんよ?」

「そう言いながらちゃんとコーヒーくれるマスターは良い人だよね」


青年がコーヒーを待つ間に一人の男が隣へ座る。何処にでも居るような中年の男性が小さな現金輸送型のジュラルミンケースをカウンターに置いた。まあこれが現金持ち運び用の鞄だとは誰も気付きはしないだろうが。

青年がケースを開くと白い紙の紐でまとめられた札束が十あった。



「ん、間違いない。キッチリ一千万だな」



青年は引き換えにして中年に一枚のファイルを渡す。彼は『情報屋』をやっているのだ。若いが良い腕をしているらしい。



(向子さんの伝手を利用してGROWの情報網使わせてもらってるけど便利だなー)



彼は頼んだコーヒーを啜りながら一息()く。BLTサンドを頬張っていると何やら小太りで巨体の男が近付いてきた。



「こんな場所(とこ)でモロバレな取り引きするたぁ舐め過ぎだぜ。今なら見逃してやるからそのケース寄越しな」



青年はそれをスルーしてサンドイッチとコーヒーを交互に口へ運んでいる。

それにカチンと来たのか巨体の男は青年へ手を伸ばす為に腕を上げようとしたのだがそれは成されなかった。


青年の姿をまるで巨大な火の鳥のように幻視し、自分がその猛禽(もうきん)のような爪に捕まり餌になろうとしていると錯覚した。

捕食者と(かて)という関係性が本能で垣間見えた男は危うく尻餅を突きそうに後退(あとずさ)り逃げていってしまった。



「ん?今何かあったかな?」



本人は食事に集中していたので全く気付いていないようだが。

巨体の男と入れ替わりにバーへ入ってきた人物が隣へ座りコーヒーを頼む。



「何ていうか…強くなったね飛鳥」

「勝哉か。久し振りだな」

「早速で悪いんだが『STUDENT』の力が要り用になった」

「『OBJECT』か。チョコチョコと下部組織も動いてるぞ」

「ああ、『SUBJECT』の方だね。まあOBJECTを止めてしまえば彼等のやってることも意味が無くなるだろうから其処まで気にしてないけど」

「明日には基地(アジト)に行っとくよ」



二人はバーを出て別れた。



「しっかし勝哉、よく俺の居る場所が判ったな。まあ向子さんなんだろうけどさ」



あの人に情報戦で勝てる気はしない。



◆◆◆◆◆



(操作君は鈴菜さんと連絡が着いたから良いとして、悠持と子規君だ)



勝哉は第六学区へと足を伸ばす。



「この区はアミューズメント施設が集中しているからね。狙いを付けておいたんだ」



勝哉はとある遊園地に行ってお化け屋敷に立ち寄るとマッチョな黒人から探し人の情報を受け取る。



「探シテイル人ガ見ツカルト良イデスネ」



一件のゲームセンターにやって来た。



「いたいた」

「勝哉ッチお久ー。ゲームやってく?」

「いや良いよ。ところで例のことは───」

「バッチリだ。ほれ見てくれ」



影縫子規はカードを渡してアタッシュケースの中身を見せた。



「札束じゃなくて小切手だ。一枚の額が半端ねぇから気を付けてくれな。ちなみにカードの預金残高が結構シャレにならないから」

「一体0が幾つあるんだいコレ、っていうかこの五ヶ月何してたのさ」

「一発デカいのを当てようと思ってギャンブルに行ったら思いの(ほか)ハマっちまってな。調子に乗って勝ちまくったらカジノへ出入り禁止になっちまったんだよ」

「ええー……」

「てなわけでネットカジノへGOして勝った。そしたらそこが悪徳業者だったらしくてな。殴り込みしてしこたま貯め込んでた有り金を全部丸ごと頂いてきた。証人は居ねぇよ?全員精神壊れたから放っといても衰弱死する」



ちなみにアタッシュケース札束入りが数日後には三桁届くそうだ。



「ちゃんと本部に戻るから大丈夫だよ」



勝哉は小切手がギッシリ詰まったケースとマネーカードを回収して立ち去った。



「さて、後は悠持だけだが今頃何してるやら」



◆◆◆◆◆



「御苦労さん、行って良いよ」



バーで飛鳥に絡んだ小太りで巨体の男は金を受け取り第0学区へと戻る。



「うーん、厄介な相手だなぁ~」



彼はSUBJECTの《相川圭人》。

少し様子を見る為に人を雇ってSTUDENTのメンバーと知りながら接近させたのだ。



「まあ予想通りあしらわれましたけどね」



こちらもSUBJECTで《小川真帆》。



「やっぱり正面切っての戦闘はOBJECTに任せることになるか」

「私達が戦るなら数の力と策謀が頼りですね」

「あと相性と運ね。最近『fortress』見掛けること増えたから。『Peace(ピース) Maker(メイカー)』の一件以来、警戒レベル上げてるんだよ」


 
 

 
後書き
黒人さんはもちろんあの人です。 

 

Lacus

 
前書き
φ(´ω` ) 

 
野口勝哉が電話で誰かと話している。



「はいはーい、こちらGROWの『島崎向子』でーす。情報が御要りなのかなー?」

「お久し振りです向子さん、野口勝哉です」

「おやまあ懐かしい。もしかして『的場聖持』君のことかな~?」



空白の7月19日にSTUDENTと戦ってから聖持は彼女に保護された後、指示に従って仕事をしている。

情報屋にボディーガード、物資の運搬などなど畑違いな職種の内容を毎日苦も無くこなしている。



「スゴいね彼、覚醒したのは聞いてたけど戦闘以外でも覚えるのが早いこと早いこと」

「僕は向子さんの指導の賜物(たまもの)っていうこともあると思いますよ」

「ハッハッハッ、じゃあ当然のことかもしれないね。でも褒めても何も出ないよー?」



向子は勝哉が《STUDENT》を立ち上げるよりも以前、『アカウント』という組織に居たことがある。

そこに新人として入ってきた勝哉の教育と指導を任され情報屋のいろはからちょっとした戦闘に至るまで徹底的に彼を仕込んだ。



「あの時に勝哉君の観察をする時間は幾らでもあったからね。にしても聖持君の要領の良さは尋常じゃない。あそこまで出来の良い教え子は君以来だよ。GROW(ウチ)に就職してくんないかなぁー。直ぐにアタシ直属なのに」

(もしかして向子さん、何時かはGROWを抜けたりするんじゃないだろうか……)



以前居たアカウントという組織は能力の有無を問わず様々な人間が集まって作られた組織で第0学区のみならず地上にもパイプやコネクションがあった。彼女はそこから最高機密を奪取し姿を消してしまったのだ。



「んん?大丈夫だよ、今は抜ける気はサラサラ無いから。まだまだやりたいことがあるしね」

「顔に出てましたか。ところで一体何なんですかやりたいことって?」

「せめて全ての禁忌を見るくらいはやりたいんだよねぇ。見れないものとかは別として。あっ、話がズレてるから聖持君の話題に戻すよ」

(この人は読み切れないなあ)



虚構と真実が入り交じった実態を掴めないトリックスター。彼女を上手くコントロールするGROWのリーダーがどのような人物なのか気になるところだ。



「勝哉君に聴くけど聖持君って私が教えたことや他人の動きを完全に複写(コピー)してたんだけど、確かSTUDENTの動きも真似してたんだよね?」

「あれは彼のミラーニューロンと驚異的な感受性、そして高速学習能力というところですかね」

「彼は他人の言葉を聞いて想像し、動きを見て吸収し、自分の中で自己現実に新しい価値観を生む。その新しい『何か』の影響でどんどん成長するってことかな。おっかないねぇー。GROW(ウチ)のリーダーと張り合えるレベルになるかもしれないよ?」

「偉人は『盗作』の天才だったというのを聞いたことはありませんか?向子さん」

「『凡人は模倣し天才は盗む』、20世紀最大の芸術家とも言われる『パブロ・ピカソ』の格言だね」



そう。実は盗むことに関して肯定的な偉人は多い。何人か例を挙げてみよう。



Apple創業者《スティーブ・ジョブズ》

『ピカソは優れた芸術家は模倣し偉大な芸術家は盗むと言った。だから僕達は偉大なアイデアを盗むことに関して恥じることは無かった』



発明家《トーマス・エジソン》

『商工業の世界では誰もが盗む。私も随分盗んだものだ。肝心なのは如何に盗むかである』



画家《サルバドール・ダリ》

『何も真似したくないなんて言っている人間は何も作れない』



映画監督《フランシス・フォード・コッポラ》

『私達から盗ってほしい。先ずは盗んでみてほしいんだ。何故なら結局は盗み切れないからだ。盗めるのは私達が与えたものだけだ。君はそれを自分のスタイルに取り入れ自分のスタイルを見つけていく。誰だって最初はそうだ。そして何時か誰かが君を盗む日が来る』



歴史に名を刻む成功を収めた人物も他人から何かを盗んでいる。

大事なのは『真似で終える』のではなく『盗む』ということ。

真似は模倣(コピー)であり、其処にオリジナルは存在しない。天才はこの真似るという段階で終わらせることはしない。

真似したものを組み合わせることで新たな価値観を生み出している。そしてそれが盗むということである。

類似箇所があるだけで盗作と騒ぐことだけが正しいのではない。

どんな偉大なクリエイターも何かから影響を受け、その掛け合わせでオリジナルが生まれている。



「凡人は模倣(コピー)に留まってしまうが天才は其処(そこ)に『何か』を加え自分のものにしてしまう。才能にはそんなパターンもあると僕は聖持君に期待しています。かつて《fortress》に居た『ヒーローZ』が良い例だとは思うんですが」

「模倣の壁を越えた向こうに聖持君はどんな自分と出逢うのかなあ。是非とも『先』を見せてほしいものだよ。彼には《STUDENT》に協力するよう伝えるから」

「それは助かります、今彼に会うとどうなるか解りませんしね」

「《OBJECT》は冷酷で非情な組織だ。地上で事件(コト)を起こす行為にも躊躇しないだろう。注意しとくんだよ?《SUBJECT》の方は御得意様だしそこまでエグい事はしてない。そっちの方は支部長に知り合いも多いから私が当たってるんだよね」

「SUBJECTの場合はあくまでも裏方に徹しているというのが助かりますよ。OBJECTと全面対決することになったら他にあまり手を()きたくはないので敵は合理的に少ない方が有り難い。『学園都市レベル化計画(LEVEL SYSTEM PROJECT)』も凍結させたわけですしね」


 
 

 
後書き
何故こんなに長くなったんだろう?

それより実名出したけど大丈夫かな。
(; ̄ー ̄A

 

 

Lacus2

 
前書き
φ(´ω`●) 

 
向子は通信を終えた。


「勝哉君にも言った通りSUBJECTは何とかなるんだよね。問題はOBJECTを調べる為に頼んだ人なんだけど」


彼女は独自にOBJECTへ潜入捜査させる人間を雇い、彼等の元へ送り込んでいた。だがこの数日で連絡が取れなくなってしまっている。


「これは駄目かもしれないねぇ」



潜入した本人はというと走っていた。左には(かばん)、右にUSBメモリらしきものが握られている。彼は逃げている最中であった。

向子に雇われて先日まで依頼をこなしていたのだが、その時に隙を見てOBJECTが用いるネットワークに潜入しながら最近の妙な動きとその目的を探っていた。

しかし介入が相手側にバレてしまい、データの一部を抜き取った後、慌てて逃げ出したのである。

背中には刀傷のようなものが出来ている。かなり大きく出血も多い。彼は背中からズボン、靴にまで血が染み込み地面には赤い足型が残っている。もう助からないだろう。

次第に視界は霞み、倒れてしまう。そして耐えられないほどの眠気が襲いかかった彼は重い目蓋を閉じて二度と覚めることが無い眠りに落ちていった。



「やれやれ、結局は誰も助けに来なかったか」


彼はSUBJECTの支部長、『石塚暦(いしづかれき)』。この潜入捜査員の後をつけていた。



「泳がせたのが無駄になってしまいましたね」


こちらも支部長の『忠沖功務(ただおきいさむ)』。



「それにしても(えん)くんは見事に殺さないギリギリで斬ったみたいだ。流石は『箱部家』で修業した剣士なだけはある」


暦は感心して首を振る。



「鳩橋さんとしてはあまり長く苦しませたくないので素早く終わらせたかったみたいですけど岸さんがわざとこの男に手傷を負わせて逃がし、迎えに来た関係者が来たらそいつを捕らえるか、まとめて殺すという作戦にしましたからね。で、この死体はどうしますか?石塚さん」

「放置して構わない。気になるなら見張りを付けときゃ良いさ」



二人の支部長がそう話していた同時刻、『ANSWER(アンサー)』の《神薙仁(かんなぎじん)》は探っていた『三つの事件』を調べてくれる情報屋を求めて動いていた。

そしてその過程で地下にある第0学区の存在を知ることとなった。


「仁これ、この部分見て!」


相棒をしている《七草佳奈》が驚いて指摘した部分には一件の情報屋の名前が載っている。



「イニシャルK・Aか……。佳奈、この人にコンタクトは取れるか?」

「やってみる」


検索すると以外と簡単にK・Aの番号が特定出来た。仁は早速連絡を取る。



「何かな、って情報しかないよね」

「はい、調べてほしい事件があるんです」

「事件か……それはもしかして話題になっている『三つの事件』のことかな?」


仁はK・Aの洞察力に虚を突かれた。『ミサイル』と『赤い服』は兎も角として、全てが抹消された『空白の一日』における情報など最初(ハナ)から諦めていたから。


其方(そちら)の希望は解った。事件の資料は用意するから明日以降に此処へ来てくれ」


情報屋が指定したのは『第五学区』にあるバーだ。仁が聞いた限り、声の感じだと若く、年の差は無さそうだったが会う場所が場所なので大人なのだと思った。



「勝哉、ちょっと出てくる」

「仕事かい?」

「俺の情報屋はそこそこ繁盛してるからな」



二日後、仁はK・Aとの待ち合わせ場所であるバーへと向かった。


 
 

 
後書き
よし、書き終わったぞ。
( ゚ー゚)

もしも聖持君が空白の一日で負けていたら《STUDENT》は《OBJECT》や《SUBJECT》と協力して『fortress』と決戦していたと思います。

『学園都市レベル化計画』で都市体制が崩壊した後はOBJECTと敵対する理由が無いですしね。フェニックス関連のキャラは別ですけど。


たぶん地下はあんまり関わらないんじゃないですかね。 

 

K.A.

 
前書き
φ(・ω・ ) 

 
仁が指定されたバーに入った。

其処は少し懐かしく時代を感じさせるレトロな雰囲気が漂う大人の空間。

店内を見回すとカウンターにいる青年が此方にむかって手招きをしている。仁は彼に近付いて隣の席へ着いた。



「はじめまして」

「こちらこそはじめまして。俺がK.A.こと情報屋の『桐崎飛鳥』だ」

「……本名を言っても良かったんでしょうか?」

「こうやって接触(コンタクト)できた今は名前で呼び合う方が安全なのさ。理屈は解らないかもしれないだろうけど」

「そうした方が良いならそうします」



そして二人は事件について話し始める。



「学園都市に住んでいる人間の記憶を一日分だけ全部消した……!!!???」



飛鳥から『空白の7月19日』に於ける真相の一部を伝えられた仁は自分が予想していたことが意外に当てはまっていたことに驚いたが街全体にいる住民全員が干渉を受けていた事はそれ以上の驚きだった。

スケールが違うなどというレベルではない。


第五位の『心理掌握(メンタルアウト)』でも同時に精密操作出来る人間は10人程度であり、プログラム通りに自動(オート)で動かすとしても三桁に届くかどうか。

才人工房(クローンドリー)』に設置されていた『外装代脳(エクステリア)』で能力を増幅、拡張し、ブーストしても数千人が限度である。

仮にではあるが第一位が精神系能力を使って(ようや)く10万単位の人間に干渉できるのではないだろうか。

200万人以上いる学園都市住民の頭の中を弄れる能力というものは仁の理解の範疇を遥かに超えていた。



「地上のことしか知らない人間は想像も出来ないだろうな。俺の持つ情報から『空白』を起こした奴等のことを意見させてもらうと、恐らくは地上のどんな組織より優秀で、有能で、厄介で、地球上の連中全て敵に回して相手取ったとしても悪くて互角、良くて単身で勝利出来る」

(まさかその一人が俺とは言えないよなぁー)



飛鳥はSTUDENTの一員であり、空白を作った当事者の一人ではあるが、それを伏せて話す。言ったところで信じられないのは解っているのでそれが良いだろう。



「世界と張り合える組織……。でも確かに可能性はあるんですよね。『一方通行』のキャッチコピーが『核でも平気』みたいなのだったはずなので」



仁は恐怖した。もしも第一位より上なのだとしたら、その能力者達は『超能力者(レベル5)』では済まないのではないかと。


(ひょっとして俺、踏み込んじゃいけない領域に足を突っ込んだかなぁ………)


この事で相棒の佳奈が危険に巻き込まれるかもしれない心配もあったが仁は事件への好奇心を捨てることが出来なかった。

その時だ。飛鳥が電話番号とアドレスの書かれたメモを差し出す。



「俺が知ってるのは此処までだ。もしもこれ以上に知りたいのなら其所へ掛けてみると良い」



仁はメモを受け取ってバーを立ち去る。その背中は来た時よりも小さく見えた。そこで飛鳥が何者かに連絡を取る。



「もしもし…ああ俺だ。………そうだ。……いや、なら良いんだ。悪かったな邪魔をしてしまって。………了解した」



飛鳥は仁の背中を見送りながら嫌な予感がした。


◆◆◆◆◆


翌日、メモの番号へ電話を掛けた仁はとあるカフェに来ていた。



「君が神薙仁くんかな?私は『島崎向子』っていうんだ。気楽に向子さんとでも呼んでくれて良いよー」


彼女の注文によりコーヒーが二人の前に並ぶ。



「さあどうぞ。マスターのコーヒーは美味しいんだから」

「……実は…コーヒーが苦手なんです。ココアお願いします」


向子は笑いを堪えながらココアを頼む。


(苦手なものを要領良く笑顔で誤魔化せるほど大人じゃないんですよ……)


ココアが来ると向子は顔付きをガラリと変えて仁に警告した。



「こっち側の人間にこんな事は言わないんだよ? 君はまだそっち側の人間だから言うだけさ。仁くんは普通に生きてたら本来知ることが無い、知る必要が無い、知らない方が良い所の境界線にいる。脅しでも何でも無く命を狙われてもおかしくない。だから常にこの組織に気を払うんだ。『OBJECT』にはね……」



仁は新たな謎に突き当たった。向子は飛鳥と同じように『STUDENT』の話をすると踏んでいたのだが意表を突かれた格好だ。答えに辿り着けぬまま仁はカフェを後にする。


向子は彼が見えなくなると直ぐに連絡を取った。勿論だが相手は仁ではない人物だ。



「もしもし…あ、向子さん。……はい、…そうですか。じゃあ直ぐに向かいますから」


 
 

 
後書き
_〆(。。) 

 

Der Beginn des Spiels

 
前書き
φ(・ω・*) 

 
GROWの《島崎向子》とカフェで会った《神薙仁》が《七草佳奈》の待つ家に戻る途中、悪寒が走る。

何時もと違う道を歩くと雰囲気が変わるように向かい側に見える裏通りに気配を感じた。

急速に体温が下がっていくような寒気を抑え込んで仁は人気の少ない路地を進んでいく。

そして奥にある角を曲がると───



心臓が跳ねるとはこのことか。仁は瞳孔を開いた。彼は口を押さえて叫びそうになるのを耐える。脈が激しく打ち、気が動転して思考はぐちゃぐちゃだ。胃から昇ってくる酸っぱいものを我慢して無理矢理飲み下した。


死体。赤く染まり、血の気が抜けて青白い。それほど死後は経過していないのか起き上がってきそうな気配がある。



「ケホッ……な、なんで死体がこんなとこに……!?」


涙目の仁は先頃に向子から身辺に注意するよう言われたばかり。恐怖の度合いは一層高まっている。



『命を狙われてもおかしくない』


「……俺も、こんな風に……」



その時何かを察した彼は裏路地のビルの谷間から上を見た。誰かに見られていると感じたからだ。だが其処には誰もいなかった。



「するべきじゃないのかもしれないけど………」



彼は死体の観察を始めた。何かないかと色々探ってみる。


「右肩から左の腰辺りまでバッサリ、それも一太刀か」


傷の深さ、出血からして致命傷だろう。切断面は血が滴る肉汁たっぷりのレアステーキを思わせる。


(相当な腕だな……)


現在の日本で何人いるかしれない剣豪でも容易ではない見事な一刀。そしてこの死体となった人物も只者ではない。

血の跡が点々と続いているところを見ると長い距離を逃げてきたのだろう。



「よく動けたな…。臓器に届いていないとはいえ生死のギリギリだったはずだぞ……ん?」



仁がふと目をやると死体の手に何かある。



(USBメモリ?だが死ぬ直前でも手離さなかったところを見ると大切な物証なんだろう)



この人物が死体になった理由がUSBにあると思った仁は死後硬直して固まった指を一本ずつ開きUSBメモリを回収する。



「一体この中には何が詰まってるんだ?この人が命を懸けなければならなかった情報とは……」



USBを端末に繋げて内部情報を閲覧しようとした瞬間、仁の手にバチンという大きな音が聞こえるほどの静電気が流れた。



「痛って! 何だいきなり!?」



それを切っ掛けに第0学区で動きがあった。



(かの)、ねぇ叶ってば! 聞いてるの?」

「うるせぇぞ時雨(しぐれ)、ちゃんと聞いてるっつーの」



彼等の前にある巨大モニターには学園都市のほぼ全域を、細くて狭い、そして余り使われない裏路地の一本に至るまで網羅した詳細な地図として映し出していた。

その中で何やら一つの点が現れた。それは点滅しながら移動を開始する。



「フィイイイイイッッシュッッッ!!!!」

「獲物が餌に食い付いたわね」

「死体になる前に助けに来ねえで死んだ後に来るとは薄情な連中だな」

「誰かに雇われたプロなら見捨てたり、同じ組織の人間に話していなくても不思議じゃない」

「さてと、そんじゃあちょっくら行ってきますか」

「後始末だな」



その時一人の青年が立ち上がる。



「俺が行ってくる。大体は『SUBJECT』のみんながやってくれるから暇してたんだ」

「そうか、じゃあ君に任せる」

「誰か着いていかせようか?勿論手は出させない」

「ははっ、心配してくれてあんがとな。でも大丈夫だよ」



彼はそう言って地上へと向かう。



「さあて、久し振りに楽しい愉しい遊戯(ゲーム)の始まりだ。頼むからつまんねぇ有り様で俺を退屈させんじゃねーぞ?」



そう言うと薄笑いを浮かべて殺気を放つ。



「お前が獲物だって言うんだったら黙って食われる家畜になるな。ちゃーんと逃げて走って追わせてくれよ?でなけりゃ俺が喰らう価値が無いんだからさ」


 
 

 
後書き
よし。 

 

Rastrera Sombra

 
前書き
φ(・д・。)ちょっと追記。あの人達の出番があるか解らないけど。夢絶君と叶瀬君は一体どういう関係なのだろうか。 

 
神薙仁(かんなぎじん)》が死体からUSBメモリを回収して数日が過ぎた。

仁は相棒の《七草佳奈(ななくさかな)》にはその事を告げず、一人で行動している。頼れるのは《桐崎飛鳥》か《向子さん》以外にいないのだが。


(佳奈を巻き込むわけにいかないし、早く何か手を打たないと不味いよな……)


しかし佳奈は考え込んでいる仁を見て何かを察する。


「仁、何か大事なこと考えてない?」

「え?何だよ藪から棒に」

「仁って悩んだり難しいこと考えると眉間を()まむ癖あるから解りやすいわ」


ただの幼馴染なら気付かないのかもしれないが、生憎と佳奈は仁を放って置けなくて《ANSWER(アンサー)》に籍を置いている。これが厄介だ。例の件に関わらせたくない仁はそっぽを向いて話すことを拒む。


「ねぇ、ちょっと良い?」


仁が振り向き様に佳奈のハグが待っていた。


「!?!?!?」


茹で(だこ)のように顔を真っ赤にして頭から湯気が出そうな仁の耳元へ佳奈の口が近付いてくる。


「ちょ、ちょっと佳奈。胸、胸!」

「当ててんのよ。アンタ生意気。仁のクセに私を気遣おうなんてさ」

「は、へ?」


仁は頭に(のぼ)っていた血が下がり少し落ち着きを取り戻す。それでも女の子の甘くて良い香りが鼻腔(びこう)をくすぐるので腰が砕けそうだ。心臓もバクバクして脈拍はドッドッと波を打つ。

そんなことを知ってか知らずか佳奈は───


「私はね?貴方を支えることを役目として同じ組織に居るのよ。だから気なんて使う必要は無いの。解った仁?」


佳奈が評する『神薙仁』という幼馴染は純粋で素直で隠し事が苦手。そのくせ他人(ひと)に迷惑を掛けないよう一人で何もかもを抱え込む頑張り屋で強がりで意地っ張りなのだ。


「私は幼馴染で相棒なんだから幾らでも巻き込んで良いわよ。むしろ巻き込んでほしい。でないと貴方を助けられないし、じゃないと一緒に居る意味が無いもの。私達は二人で『ANSWER』なんだから」


佳奈は子供に言い聞かせるように、聖女が懺悔する人に導きの言葉を掛けて救いをもたらすように説き伏せる。

仁もその想いに何もかもを白状してしまいそうになるが、最後のところで口を(つぐ)む。そして彼は彼女に見えないよう顔を下に向けて言う。


「いや、本当に何でもないから……。ちょっと気分転換に外行ってくる」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


罪悪感で一杯の心を隠し、酷い顔の仁を表すように、天気は生憎の雨だった。

そんな冬の寒空の下で冷たい雨粒が地面を打ち付ける中、《OBJECT》の『叶瀬叶(かなせかの)』は仁が持ち帰ったUSBメモリに仕掛けられたGPS反応を元に彼の居場所を特定。今し方外出するところを確認した。


(よりによってこんな天気の時に俺と会うなんてな。野郎も運が無え奴だ。こりゃ楽しむ前にオジャンかな。同情はするぜ? 容赦はしねぇけどな)


不吉な笑みを浮かべて口元を(ほころ)ばせる叶はレインコートの帽子を目深に被り、顔を隠して追跡を開始する。湧いてくる殺気を抑え、殺意と野性を理性と合理的な判断で封じながら先にいる獲物を仕止めんと、息を潜めて静かに迫る。


(かの)

「どうした時雨」


こんな状況で気さくに声を掛けてきたのは【OBJECT】の《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》という少女。

学園都市に対する復讐心と自分達に敵対する者に対する殺意の塊を凝縮して人の形にしたような人間が集まるOBJECTという組織の中で時雨は冷静な『頭脳』であり司令塔の役割を果たす。

叶の持つ生来の激しい気性も彼女が居ることで
押さえとなり幾分ましになっている。


「直ぐに殺ったら駄目だからね。生きてるのなら先に情報を吐いてもらわなきゃだし」

「解ってる。取り敢えず動けない程度に(なぶ)ってから口を聞ける範囲で痛め付ける。そしたら自分の意志で情報提供してもらってそこから逃がして狩りをする」

「性格悪いわよねホント。終わったらあっさり始末してあげなさいよ……」


どう転ぼうと叶瀬叶は神薙仁を生かすつもりは無い。そういうことだ。これ以上の情報漏れは囮に使うのでもなければ避けなければならない。


「的場聖持と同じ、世界を左右するもう一人の存在。此処で死ぬか生きるかが未来を(わか)つ」


観測者(オブザード)》が再び因果の収束点と分水嶺(ぶんすいれい)に立ち会う。


「STUDENT、OBJECT、SUBJECT、fortress、GROW、《的場聖持》《真咲証》《夢絶叶》《桐崎飛鳥》《野口勝哉》。そして鍵を握るあの……」
 
 

 
後書き
やっぱり女の子を描写するのは苦手です。

( ゚ε゚;)むむむ……日常系全般が難しい。 

 

Agresor

 
前書き
今回は変更出来る部分があんまり無いなあ。
(;-ω-) 

 
雨が降りしきる中、《神薙 仁(かんなぎじん)》は傘を差しながら当てもなく街を彷徨っていた。

後悔先に立たず。

後の祭りとはこういう事を言うのだろう。

あの時正直に佳奈の問いに答えていれば気は楽にならずとも心は軽くなったかもしれない。素直に白状したことで開き直れた可能性もあった。


(悪い佳奈。それでも俺は……)


雨足がだんだんと強くなってきた。自身の足音も聞こえないほどに。自分という存在が失われていくように思える。しかしその雨が消えさった。まばたきほどの一瞬で。

季節外れの台風と言える程の風雨が治まり辺りを静寂が包み込む。仁は足下から這い上がって来るような寒気を感じた。すると今度は雨に代わって濃霧が視界を遮った。


「つーかまーえた」


その声が聞こえると仁の全身に鳥肌が立ち、怖気(おぞけ)が走る。皮膚が(あわ)立ち氷のように冷たくなった汗が雫となって地面に落ちた。

右肩に違和感を感じる。仁は本能で理解した。


(振り向くな)


振り向きたくなる心情を必死に堪えて自身が置かれた状況を察する。


(息一つでも気取られるんじゃないだろうか。今は一歩も動くべきじゃない……)

「へぇー。ちったぁ頭が回るみたいだな。
まあ殺しゃしねぇよ。此処(・・)ではな?」


その言葉に仁は弾けるようにして走った。不意打ちで動いたので少しは間合いを取れるはずだ。

肩に手を掛けていた気配は其処から動かず
距離を取ることに成功した。

仁は振り返って正体を確認する。


「よう。初めましてだな」

「……誰だ…あんたは……?」


先程の口調と迫真の言葉。そして時折垣間見える殺意からすると本気で仁を殺す気だ。

仁の動揺と動悸が収まらない。


「俺が誰かって? 死神だよ。悪いことをした坊やにお仕置きの時間だ」


そう言うと彼はフィンガースナップで指を鳴らす。その直後、霧は消えて再び雨となる。


「どうやって俺のことを……
っていうか何で狙う?」

「察しがついてんじゃねぇか? お前ちょっとばかし前に死体を物色してたろ?」


仁はまさかと思い自身の記憶を検索する。


「あれか…あのUSBは罠だったのか。接続(コネクト)したらいきなりビリッときたからな」

「正解。ほれ」


死神が仁へ何か投げる。

そこには赤く点滅する点と座標が映っていた。


「GPSだ。USBと繋げた端末にウィルスを注入。それを元にお前が使うマシンの権限を一部奪って居場所が解るようにしてたんだよ」


死神がまた指を鳴らすと今度は雨から氷の飛礫(つぶて)となって叩き付けられ、仁の傘を容易く破って穴を空けながら激しく追撃する。


「情報を引っ張り出す必要があるからな。今は動けない程度にするだけで勘弁してやるよ」


死神がその手を鉤爪のような形にして何も無い空を引っ掻いた。それを見た仁の予感が働き後ろへ跳んだ。すると地面は抉れて巨大な獣が爪で切り裂いたような跡が残る。


「大人しくしとけ。手元が狂うだろうが」


すると今度はサバイバルナイフを取り出して襲い掛かって来た。痛ぶるように刃が体を掠めていく。そして彼の手の平が(かざ)され刀身をなぞる。


(何だあれ。赤熱してるのか?)

「この刃は貫き抉る。喰らい付け! 《地を這う大蛇の牙(サーペント・ファング)》!!」


まるで蛇が地面をこするように滑空してナイフの刃が伸びる。仁は更に後ろへと下がるが蛇刃の速度はそれより速く、間合いは予想を超えて長かった。

着地と同時に右腕を貫かれてしまう。傷口を押さえる仁に異変が起きる。意識が飛びそうな程の痛みがある。


(とんでもなく……痛い……!)


毒の影響なのか何時もの何倍も痛い。神経が剥き出しになったかのようだ。


「刃も痛みも鋭いぜコイツぁ。思考が止まるだろう?」


どうにかして逃げなければ仁に生き残る術は無い。

 
 

 
後書き
φ(´ε`●) 

 

Agresor2

 
前書き
_〆(゚▽゚*) 

 
死神が仁の腕に刺さった蛇のように伸びたナイフを引き抜く。


「さーて、そろそろ終わりかな」


死神が腕を横に振ると鞭を思わせる軌道でナイフの刃が水平に動く。間合いの外に出なければ致命傷となるだろう。


(痛みで思考が止まる。確かにそれはある)


しかし今の仁にはそれ以外のことが起きていた。


(逆に集中できてクリアだ。追い込まれたお陰か)


彼が刃の追い付かないギリギリの速さで後ろに跳ぶ。そしてナイフが触れる直前に角度を付けて体を倒す。

刃が胸の上を通過すると仰向けに転びそうになったが片足を引いて足を前後に開くことでそれを防いだ。そしてそのまま大蛇の牙が届かない位置へと避難した。


「アンタが痛みをくれたお陰だ。調子が良い時でもここまで感覚が研ぎ澄まされることなんて無い」


仁は刃の動きや射程を捉えるだけでなく死神の能力も看破する。


「能力も何となく解ったよ。『相』を操って組成と状態を変えてるんだ」


最初に気付いたのは霧になった雨。そして次は雨から氷の飛礫(つぶて)になった時だ。もし『相』を変えれるのなら液体を気体へ、液体を固体にすることが出来る。


「その力は本来なら不可能とされる人間の『気化』すらも可能なんだろう?」

「何のことかな?ボクちゃん頭悪いからよく解んな~い♪」


仁が言っているのは調べていた『三つの事件』の一つ、《赤い衣服》について。

見付かるのは着ていた衣服だけ。外部から何かされた形跡も残さず赤く染まった衣服だけが現場に残る。


「状態が自由自在なら骨も残さず気化できる。だから毛の一本も見付からなかった」


仁は事件を調べた時に情報から能力による犯行の線を踏んでいたし、当たりも付けていた。しかし学園都市と言ってもそこまで出来る能力者は片手で数える程に限られる。

レベル5の一位二位なら可能かもしれないが、後は四位の力で原子レベルから消し飛ばすくらいだろう。三位の電気分解では出力が足りないのは明白だ。

だから普段は自分の力を隠している者や学園都市の兵器によるものだと予想していた。

死神はナイフを手離し素手で飛び掛かる。だが先程の伸縮刃すら見切った仁には意味を成さない。


(何だこいつ?何で当たらねえ)


攻撃に対して際どい距離感を保ちながら避け続ける。

仁は昔から『観察眼』に長け、他の人が持つ癖を見抜くことが得意だった。

それは年齢を重ねる毎に成長し、長さや届く範囲を一目見ただけで把握するほどの瞬間的な理解、認識力を彼にもたらした。


(目だけ良くても俺の動きには着いて来れねえ。ここまで粘るなら身のこなしにも自信があるんだろうな)


死神が仁の頭上に刺すというより押し潰すほど巨大な氷の棘を出した。そして更に威圧感と殺気を漂わせ辺りに充満させる。

どれだけ負の感情があれば
こんな悪意ある気迫を出せるのか。

仁は頭上に浮いている巨氷の棘と目前に立つ死神に対して交互に視線を這わせながら警戒する。危険を感じた彼が後ろへ一歩踏み下がった時にそれは起きた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「イヒッ」


掛かったと言わんばかりの死神は此処までのストレスから解放されたようなにやけた目と生贄を得た悪魔のように口の端を吊り上げた笑みを浮かべる。

仁はその顔に総身が虫の標本にでもなったかのように縫い止められた。

足下から冷たい何かが登ってくることを感じる。眼下を見下ろすとそこには氷付けになった足があった。


「まだだぜ?」


死神が一指し指を曲げて上に向ける。


「ぐッッ!?」


靴を突き破り足の裏から甲まで貫通した氷柱が更に靴の甲から飛び出してきた。仁は痛覚を毒で過敏にされているので身動きすることもままならない。


「足下がお留守だぜボーイ?相手だけじゃなく地形にも気を払っとかねぇとな」

「水溜まりを…作ったのか……!」


血に飢えた目で死神が近付く。


「取り敢えず質問といこうか」


この相手は思ったより冷静だ。もしかすると交渉の余地があるかもしれないと仁は思った。


「誰に頼まれて俺等を嗅ぎ回ってたのか教えちゃあくんねーかな?」


全く意味が理解出来ない。仁が死体を見付けたのは偶然。USBを持ち帰ったのも偶然なので答えることが出来るわけも無い。


「あー……もしかしてあれか。『好奇心は猫を殺す』ってやつか。そりゃあ済まなかったな。だがまあ例の件を知ってるみたいだし見逃すわけにはいかねぇ。ま、運が悪かったと思って諦めろ」


死神が言い終わると頭上の巨大な氷棘が落ちてくる。痛みを感じる間も無く即死だろう。


(此処で終わりか。短い人生だったな)


脳裏に浮かぶ心残りは彼女のこと。


(佳奈……)


仁が諦めて瞳を閉じた瞬間だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「邪魔だ」


何かが激しく砕け散る音がする。仁の顔にもその砂粒のようになった冷たい欠片が当たる。恐る恐る瞼を開くとこちらに背を向けて一人の男が立っていた。

巨大な氷塊は見る影も無く粉々になり、光輝くダイヤモンドダストのように風に流れていく。

それを見て仁は思った。


(強い……。それに何て清廉なオーラだ)


視認出来そうな程の聖浄な気と、清々(すがすが)しく爽やかでいて吹き(すさ)ぶ一迅の春嵐(しゅんらん)が如き猛威。

気付けば足の氷も砕かれている。


「よく頑張った。もう安心だよ」


次に気付いた時にはその人物に抱き上げられていた。何時こうしたのか解らない。まるで瞬間移動したような速さだ。


「誰だテメェ!!」


取り乱し激昂する死神に対して彼は顔を半分だけ死神の方へと向けた。

その表情は余裕の笑みが見て取れる。そしてたったそれだけで死神の体が震えた。存在が小さくなったと思うほどに死神の気が萎縮する。


「俺はただの(・・・)雇われ屋さ。名乗る程の者じゃない。今日は上司から仕事のお願いをされたから彼を助けに来たんだ」


死神が二人の逃げる隙間が無いほど氷柱を展開する。


「ふっざっけんなあぁーッッ!!!」


全ての氷を同時に発射。これはどうやっても躱しようがない。絶望的な光景に仁が顔を青褪める。だがそれを目の当たりにしても男は威風堂々と立っている。


「無駄だ」


雇われ屋は詰まらない顔で歩き出す。すると数百、いや数千の氷柱が一つ残らず力を失って地面へ落ちる。それを見た仁は張り詰めていた気が切れたのか疲労と睡魔に襲われた。


「落ち着ける場所へ行こう。そこの奴、追って来るのは勝手だがその時は容赦無く潰すぞ」


そう警告して感じることが出来ない速さで男は消えた。


「あのガキが携帯を持ってる限りGPSで追える。今度は他のメンバーも連れて……」


死神がレーダーに目をやると何故か点滅する反応が此処から動いていない。二人が居た場所を見ると仁の携帯が落ちていた。


「は、はは。骨折り損のくたびれ儲けかよ……」


死神は壁に背を預けてずり落ちていく。


(あの雇われ屋、俺がオリジナルとヒーローXの映像を見た時とおんなじ真剣(ガチ)で危険な感じがした。直接向き合って本気でヤバいと思ったのは《修冴(しゅうご)》と《空斗(そらと)》以来か)


完全に獲物を逃した死神は雨の中、
座り込みながら悔しさで雄叫びを上げた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


少し経ち、仁が何処かの廃ビルで目を覚ます。そこにはこちらを見て缶コーヒーを飲む青年が居た。仁を助けてくれた雇われ屋だ。


「アンタはさっきの……」

的場聖持(まとばせいじ)


彼は島崎向子が仁と出会った日に彼女から彼を守るよう指示を受けていた。


「君の携帯はウイルスに感染してたからこちらで処分させてもらった」


聖持は仁が落ち着いた時を見計らってこの先どうするか一つの選択肢を提示した。


「これ以上事件に首を突っ込んで俺達の側に来るのなら先刻みたいな(やから)に狙われ続けることになる。それは死と隣り合わせの日常を過ごすという意味だ。君が此処で事件から手を引いて舞台を降りるというのなら責任を持って身の安全を守る。このまま事件の調査をして俺達に協力してくれてもそれは変わらないんだが……どうする?君はどうしたい?」


仁はその問いに迷ったが今の状況にした自分の責任を痛感していた。他人に任せて何も無かったことにするなんて虫が良すぎる。それに何より心を占めた想いがある。


(佳奈は俺が守らなきゃならない)

「協力します。もう俺も無関係じゃありませんから」

「そうか…。じゃあこれから宜しく仁君」


返事を聞いた聖持が手を差し出す。


「はい、的場さん」


仁はその手を握って意志を示した。


 
 

 
後書き
調子乗って長くしましたすいません。
人( ̄ω ̄;)


聖持君の『邪魔だ』から『潰すぞ』までの流れの部分は今の自分の文章力で考えると気に入っています。

聖持君がSTUDENTとの決戦後でどれだけ成長したか少しは表現出来たかなあという気持ちと一部の時と別人じゃんと思う気持ちがあります。

まあ個人的にはちょっと大人びた格好良い聖持君が書けた気がするので満足してますけど(笑) 

 

Reunion

 
前書き
_〆(゚▽゚*) 

 
《的場聖持》に助けられた《神薙仁》は彼と協力することにした後で《七草佳奈》にこれまでの事情を話した。

彼女は別に不機嫌になることも無く笑って許してくれた。一安心した二人に聖持が提案してきた事がある。もう少し味方を増やす為にある組織を訪ねてみようということだ。


「一人ずつ倒すなら俺だけで大半の片を付けられるが根本的に戦力で数の差があるからね」


そして三人が向かった場所はというと───


「此処が例の【第0学区】なのか……。明らかに地上と違う感じがする。地下と区別されてるのがよく解った」

「俺から離れないでね。大体は何とか出来るから」


仁は佳奈の手を握りながら引いて歩いている。そのお陰もあってか彼女も少しは落ち着いているようだ。


「力を貸してくれるところに宛が?」

「【STUDENT】という組織を頼る。あそこは前みたいな物騒なのはいないよ」


そうして目的のアジトまでやって来た。

見た目は廃屋っぽいが中は生活用品が並び、普通に人が過ごしているのが解る。

やがて一人の女性が出迎えてくれた。

第0学区には似つかわしくない場違いな気品と高貴さに身を包んでいる。


「ようこそお出で下さいました。皆様奥で御待ちになられていますよ」

「ありがとうございます箱部さん」


内部を進んでいくとコーヒーの薫りが途切れることなく漂っていた。


「やぁ……久し振りだね的場君。そろそろ会えると思ってたよ」


次に現れた人物は聖持達が来ることを予め知っていたかのように告げた。仁は二人の間に何か因縁めいたものを感じたが口を挟まず黙っていた。


「野口さんは相変わらずなんですね本当に……。貴方に頼りたくは無かったんですが今回はそうも言っていられないので………」

「ははっ、嫌われたねどうも。けど頼ってくれて嬉しいよ。メンバー全員で助力させてもらおう」


聖持は7月19日にあった『空白の一日』以来STUDENTと関わっていない。

まあ真相を知っている者にとっては当然の反応なのだが事件の全容を部分的にしか知らない仁にそれを理解出来るわけも無かった。

今回の事件を再確認された上で《野口勝哉》から何が起ころうとしているのか話をされると仁は衝撃を受けた。


学園都市崩壊計画(DEAD END PROJECT)!?」


それは【OBJECT】が軍から奪ったミサイルに人間を死亡させる前提で作られたバクテリアやウイルスなどを積んで学園都市の上空で爆破し街に散布する計画だ。


「一呼吸に1ナノグラム(10億分の1グラム)でも吸えば死ぬような第0学区でも度を超えた品種改良の代物らしい」

「そんなものが撒かれたら街は……!!!」

「一番運が良くて230万人中60から70万人は死ぬね。だがそれはあくまで急性、つまり早期感染分の被害に過ぎない。慢性的な長期スパンで見れば学園都市の全力を以て感染拡大を食い止めたとしても最低で100万、酷いと200万人を超えるだろう」


想像も出来ない死体の山が積み上がり、その辺りに遺体の道が出来る。

外部から来ている人間も含めれば200万の死者などまだ被害が少ない方だ。

何故なら勝哉の計算はあくまで学園都市の住人に限って犠牲者数を弾き出しているのだから。


「で、でもそんな計画を実行したら犯人も巻き込まれる可能性がありますよね?」


自分達の命を投げ捨て(どぶ)(さら)すような行動を取るOBJECTに仁は戸惑う。


「OBJECTは別に学園都市を支配したいわけじゃない。その目的はあくまで復讐なんだ」


最初から第0学区で産まれた人間ならともかく地上から地下へ降りて生活するようになった人間の大半は『地上で生きる権利』を剥奪されている。その中には自業自得の者もいれば理不尽な理由でそうならざるを得なかった者も。

奪う側にならなければ奪われる側になり、殺さなければ殺される。

そんな劣悪な環境の中で怨み辛みを募らせ周りが見えず、目的を果たすことのみに妄執(もうしゅう)している何処ぞの宗教派閥で構成された強硬な原理主義者の集まりである過激テロリストが被害の度合いを考えた冷静な計画を行うわけもない。


「別にOBJECTは死を恐れていないんじゃない。彼等にとっては『復讐』が最優先なのさ。何に替えてもね」


話が終わる頃には場の空気が冷えて静まり返っていた。勝哉が閉じていた目を開く。


「OBJECTの気持ちが解らないわけではない。でも生憎とSTUDENTは彼等と反りが合わなくてね。学園都市を好き勝手されるのは気に食わない。だから向こうには悪いけど邪魔をさせてもらうよ」


STUDENTとAnswer、的場聖持がOBJECTの計画を阻止する為に手を結んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三者が打倒OBJECTで結束した時刻、【SUBJECT】では何が起きていたかというと………。


「おーい調子はどうだー?」

「おやどうした叶」


叶瀬叶(かなせかの)》は兵器の開発研究をしている《子話阿倉(すわあぐら)》の元に来ていた。


「決まってるだろ。あのヤバい物が
完成したかどうかだよ」

「問題ない。あとはミサイルに積めば
準備は完了だ」


阿倉は殺人バクテリアを開発していた。


「しっかしエグいの作ったよなあー。
モデルにしたのってなんだっけ?」

「自然、人工の毒やウイルスを問わず見本にしてるからな。確か参考にしたのは……」


ナチスさえも尻込みした『物質N』。空気に触れると沸騰し、水に触れると爆発し、人間に吸引されると死に至らしめ、分解されると猛毒のフッ化水素酸となる。


「確か火炎放射機で放射すると2400℃に達したんだったんだよなあ……」

「触れたら爆発して100万分の1グラムで人を殺せて臭いを嗅ぐと憔悴して動けなくなるようなやつだからな」


まあバクテリアなので
爆発や沸騰は性能に含んでいないのだが。


「他には『ジメチルカドミウム』」


全ての毒性(・・)を有する化学物質を同じ重量で比較した場合、最も強い毒性を示すと思われる。

吸引すると即座に血液に入り体中に行き渡り細胞の中の原子から電子を引き剥がす化合物を生成する。

この物質は急性だけでなく慢性でも効果を発揮する。

触れても数時間生きていれば幸運だが非常に発癌性が高いので後々には体を蝕まれる。

とても強力なため、大気中に立法ナノメートル辺り数百万分の1グラム浮遊するだけで法的な安全基準に触れてしまう。


「よく無事に研究開発してるよなあ阿倉って」

「まあ【チオアセトン】もモデルの一つだからな。対処には気を使ってるよ」


チオアセトンは臭い化学物質のトップともされる。何せ偶然発生させただけで、あまりの臭さに一つの街の住民が全て避難するほどだった。

ただしモデルにしたのはその強烈さと食欲の減衰であり、感染して生き残った人間への追加効果を狙ってである。


「4分の1の学園都市住人を殺すとは言ってるが全滅させる気しかないような気がするんだがなあ……」

「気のせいだ。まだバクテリアのモデルにしたのがあるぞ」


【フルオモアンチモン酸】

これは硫酸の一京倍も強力とされる世界最強の腐食剤である。


「酸を酸足らしめるもの。それは陽子を近くの分子に与える特性。その陽子は電子を失った水素原子だ。この過程はプロトン化と呼ばれ、酸の強度は如何に活発に陽子を他の分子に寄与するかで決まる」


フルオモアンチモンが水素原子を失った場合フッ素の残りの原子と他の元素、アンチモンは周りの全てを崩壊させる。近くの分子から電子を奪い、後には有機物の残骸が残される。

フッ素はカルシウムと結合しやすいために一旦皮膚や筋肉の脂質で構成された有機組織を通り抜けるとフッ素は骨を溶かす。注射器やスライドも侵食され有毒ガスを吸い込む為のフュームフードもお手上げだ。


「どうやって保管してるんだよ……」

「企業秘密。さあ次のモデルだ」

「まだあるのかよ!?」

組瓦(そが)さんとノリノリで作った最高の毒性感染する生物兵器だぞ。この程度で満足出来ないぜ」

「スカウトした本人が言うのもあれだけどやっぱ頭おかしいわ。何でお前が【蒼世の必要悪義(バッドジャスティス)】みたいな所なんかに居たんだよ……」

「次はみんな御存知【エボラウイルス】だ」

「それで十分に国が混乱するんだけど」


エボラウイルスは体細胞の構成要素である蛋白質を分解し、体内に数個入るだけで容易に発症。体中の穴という穴から血を噴出させて死ぬ。


「インフルエンザの特性を組み込んだから感染力が上がってるぞ」


エボラは致死率が高いが他人に感染する前に患者が死ぬので蔓延しにくい。その辺りも考慮した。


「お次はヘルペスBウイルス」


末梢神経を得て中枢神経に達し、脊髄、延髄と徐々に感染し、横断性脊髄炎、上行性脊髄炎、脳脊髄炎を来す。


「他にはラッサウイルスの衰弱性、天然痘の夥しい数の膿疱による見た目の醜悪さから来る精神的苦痛、そしてやはり殺人バクテリアを作るにあたって外せなかったのが……」


CREバクテリア。

地球で最もタフなバクテリアで一番強い抗生物質でも死滅しない耐性を持つ。


「まだあるよ」

「あ、組瓦さん」

「チース成元さん」


彼は《組瓦成元(そがなりもと)》。この殺人バクテリアのもう一人の生みの親である。


「炭疽菌の短期間で致命的な感染を起こす力。使った後での環境修復が容易な点」

(この二人は地上を滅ぼしかねねぇ……!!!)


流石の叶もドン引きである。


「新種のボツリヌス毒素あったよな」

「抗毒素が見つからないからセキュリティが懸念されるとして具体的な遺伝子配列を記した論文の発表を差し控えるっていう学会始まって以来の異常事態になったあれですか?」


史上最凶最悪の致死性物質とされる新種のボツリヌス毒素は2ナノグラム(10億分の2グラム)注入すると成人が死ぬ。

13ナノグラム(10億分の13グラム)吸入すると成人が死ぬ。

スプーン一杯混ぜると日本全都市の水供給が壊滅的打撃を受けるとまで言われる規模の毒だ。


「時雨がいないと突っ込みが足りねぇ……!」

「殺人バクテリア『DEAD END』。一位と二位以外は学園都市で何人が生き残れるかな」


一橋錐弥(ひとつばしきりや)》が想像する。

それを隣で聞いていた暗部上がりのSUBJECT支部長《江之和美(えのなごみ)》はこう呟いた。


「力の有無に関わらず、身を弁えない屑が争い、奪い、全てを破壊する地獄のような矛盾を抱えた学園都市に何の意味がある。夢も希望も無く、何も気付かない愚か者どもに巻き込まれてみすみす滅ぶくらいなら、一度全てを終わらせて新しい世界に進み、零からやり直す他にはない」

 
 

 
後書き
フルオモアンチモン酸の説明が本当にこれで合っているのかはちょっと不安。

新種のボツリヌス毒素の所にある日本全都市は調べた場所に全市と書いてあっただけで何処の国の全市とは書いてませんでした。

「SUBJECTの仕事は戦闘だけではない」
( ・`д・´)

「作るのは楽しいぞ」
( ・∇・)

「俺が言うのもなんだけど阿倉と成元さんのバクテリアは世界レベルの近所迷惑だぞ」
( ; ゚Д゚)トンダゴメイワク

「作者からも言わせてくれ。人類存亡の危機というか地球上の生物が殆ど死に絶えるよ」
( ;´・ω・`)ヤメテクレメンス
 

 

Segador Eine Hand von

 
前書き
( ゚Д゚) 

 
ANSWER(アンサー)】と《的場聖持》が【STUDENT】と同盟を結んだ翌晩、《野口勝哉》は呼び出しを受けてある場所に来ていた。


「まさかこうも早く接触してくるとはね……。何を考えているのやら……」


其処は誰の目も届かない一棟の廃ビル。


「遅刻だぜ、野口勝哉?」

「そうかい。それは済まなかった。お色直しに時間が掛かってしまってね」


勝哉は床の抜け落ちた二階にある水平に掛かった(はり)の上で立てた片膝に肘を置き、片方の足をだらんとぶら下げた姿勢で見下ろしてくる青年と目を合わす。


「頭が良い割りに直情的で単純明快な君のことだから何故ここに僕を招待したのかは解ってるよ。《神薙仁》を襲った死神くん」

「相変わらず理屈臭い上にまどろっこしい奴だな野口」

「OBJECTの《叶瀬叶》と会おうっていうんだ。策を練りたくもなろうってもんさ」

「はっ、世辞は良い。心にも無いこと言ってんじゃねぇよ。呼んだ理由は解ってんだろうが」

「僕の無力化、もしくは行動不能」

「御名答。組織の頭を潰すのは定石だ。お前が片付きゃ、レベル6に対して言うのはあれだが残りは寄せ集めだ。烏合の衆でないにしろな」


STUDENT、ANSWER、的場聖持による三つの勢力の協力体制とは野口勝哉がいなければ均衡が取れず、連携も不可能になるほど危うい氷薄の上に成り立っている。


「お褒めに預かり光栄の至り。でも僕以外のメンバーを侮らない方が良いんじゃないかな。それに君の考えに大人しく従うとでも思ってるのかい?」

「別にお前の意見は聞いてない。返事も不要だ。そうさせてもらうだけだからな」


勝哉の腕に痛みが走る。その傷口を抑えながら後ろに下がった。


「そいつは『JAM(ジャム)加工』っつーのがしてある弾丸でな。能力者に付着すると能力を使えなくなる代物だ。ま、一時的にだがな」

(能力を妨害して邪魔するJAMING(ジャミング)からもじってるのか。第0学区の『JAIM(ジャイム)鉱石』といい能力者の優位性を維持できるのも何時までやら)


勝哉は敵の撃退、排除から、この場よりの脱出、撤退へと行動指針を切り替える。ロングコートから抜いた二挺のハンドガンを辺りに撃つと明かりを灯す照明が破壊されて暗く静かな空間が広がった。


(あっちは二人か)


勝哉が何処に位置取り(ポジショニング)して叶瀬叶の前に立つのかを予想して罠を仕掛けたのでも無ければもう一人いるはずなのだ。


(まあそれが一番可能なのはウチの《影縫子規》だろうけど)


子規クラスの計算と理詰め、偶然の動きを導き出すシミュレーションをする相手なら、その思考から外れた狂い手が三つは欲しい。


(単なる理詰めなら《騎城優斗》、心理戦なら僕と《池野操作》が張り合えるけど、不確定要素まで入れた盤面将棋だと子規が一番だからなあ)


机上の空論を戦闘に持ち込んで現実の敵を頭の中で計算して(カリキュレート)で凌駕するゲームの申し子と同格の人物が向こうにいるとは思いたくない。


「よそ見厳禁だぜ?」


場慣れしている筈の勝哉が寒気を覚える。声は聞こえるのに気配を感じ取れない。


「なるほど。死神の声とはよく言ったものだ」


勝哉のいる柱の影と正反対の位置から放たれた一撃は柱が破壊される程の強烈さだった。吹き飛ばされた勝哉は激突のような着地で床を踏み砕くと即座に反転して片方のハンドガンをナイフに持ち替え奇襲をかける。


(視界が利かない暗闇の中でこの粉塵と瓦礫、狙うなら此処だ!)


ナイフを逆手にし、ハンドガンを撃ちながら(かの)の居る方へと迫る。しかしその弾丸は別の所から来た何かに弾かれてしまう。だがそれを利用して叶の位置に当たりを付けた勝哉はすれ違いながらナイフを命中させることに成功した。


「くっ、この…悪足掻きをっ!」


そのまま叶の後ろに回り込むと勝哉は彼のうなじにナイフを刺そうとするが刃が急速に気化し始めた。叶瀬叶の能力『状態操作(スタイルマインド)』は温度を操り固体、液体、気体へと変化をさせることが出来るのだ。

すると次の瞬間に横合いからの一撃で勝哉が地面に叩き付けられた。直ぐに立ち上がり離れると自分が立っていた場所の直ぐ側に一人の男がいた。


「肋骨の二、三本は持ってけたかな?」

「光の屈折を操るのか」

「!」


顔からすると当たりのようだ。勝哉は《七草花夜》の『無感存在(ノーセンス)』と比較する。


「姿は消せても気配まではそうもいかないんだね。花夜さんの能力がどれだけ凄いのかよく解るよ……」


すると足場が底無し沼のようになっていく。


「OBJECTはこのビルに色々と趣向を凝らしてるんだよ。お前を呼び出すより前からな」


足がコンクリートに取られて動けない勝哉を置いて叶と男はビルの外に出る。


「叶、死体を確認しなくても良いのか?」

「あのまま地盤沈下すりゃビルがオシャカになる」

「ま、能力無しなら逃げられないか」


下半身がコンクリートの沼に沈んだ勝哉に止めを刺す必要も無いということなのだろう。もう何時ビルが倒れても、いや、崩れてもおかしくない。


「ビルを墓標にするのなら、ちゃんと形は残して欲しいものだね」


そんな軽口を叩きながら彼は崩落に呑まれていく。ビルは泥沼と化した地面に吸い込まれ、一帯を破壊の風が襲った。


「あばよ、野口勝哉」


その夜から勝哉は消息を断ち、行方不明となった。

 
 

 
後書き
「………」
( ・-・)

「………」
(゚ω゚)

「あれ、袈裟妙理(けさみょうり)摩上走刃(まがみそうは)じゃないか。何してんの?」
( ゚ 3゚)

「名無、本気を出せる出番が欲しい」

(それがし)もだ」

「お前らが本来のスペック出すとSTUDENTのリミッター外さにゃならんだろうが」
(∩゚д゚)アーアーキコエナーイ

「せっかく全裸待機してたのになあ」
(´ε`;)

「野口勝哉と戦う機会が」
( ´Д`)=3

(別に本当の裸でなくても良いんだけど)
(;-ω-)

「出しても良かったけど勝哉君が〇〇まで使って本気出すと走刃しか生き残れんぞ。《観測者(オブザード)》か《神群体夢絶》さんか自重しない《完全体フェニックス》か《GROWのリーダー》でも呼ばんと。他に戦えるのは聖持君か私の頭の中にあるオリジナルの最強モードになった証君と《統括者(キング)》かな。他の予定候補はデリバリー《死神(ヘル)》と《パシり》さんだ」
( ・ω・)
 

 

Secuestro

 
前書き
_φ(゚Д゚ ) 

 
「おかしいな……?」


《桐崎飛鳥》が首を捻っている。


「そっちはどうだ?」


《影縫子規》がPCを操作して《野口勝哉》の行方を探している。


「勝哉ッチの端末を逆探して電波ウイルスでヒットしないか試してるんだけど御覧の有り様だよ」


画面には『ERROR』の文字が映っている。


「う~む…もう三日過ぎてるんだがなあー……」


飛鳥はあまり心配しているようには見えない。


「こんな時に何日も空けて連絡を寄越さないってのは無いよなあー」


子規は最悪のシナリオを描いていた。仮にそうであろうと『OBJECT』の計画は阻止するが。その為には勝哉より他のメンバーに気を使わなければならない。

一方で飛鳥は別のことを考えていた。


(俺と同じで『アレ』があるんだから到底死ぬことは考えられない。アレ以上の奴と戦うのでもなければ)


『STUDENT』の中で飛鳥だけが気付いている勝哉の奥に潜むものが其処まで不安にならない要因だ。


「おう、何を湿気た面してんだよ。彼奴のことだからどうせ『重役出勤さ』とか何とか(のたま)うだろうぜ」

(あー確かにそんな感じするわー)


《神薙悠持》の言葉に二人が笑う。

悠持は勝哉が失踪してから仲間や連合を組んでいる『Answer』の所へ足を運び鼓舞して回っていた。その必要が無い者もいたが。


「野口さんがそんな簡単にくたばるわけないじゃないですか。だってあの野口勝哉ですよ?」


《的場聖持》の台詞を思い出して笑う。


(まあそうだわな。彼奴だもんなあ)


何の根拠にもなってない馬鹿らしい根拠だがその通りなので仕方無い。その時STUDENTの基地で大爆発が起きた。子規のPCにマップが表示され一部が点滅している。


「ド派手に来たなオイ」

「ヤバい、あの区画にはAnswerの二人と花夜ッチが居んぞ!」


子規の言を聞き飛鳥がフェニックスに姿を変える。


「行くぞ悠持」

「おう、調子こいてる彼奴らに目にもの見せてやらぁ!」


飛鳥はかなり荒っぽく飛行するが悠持は目をギラつかせて愉しそうに背に乗っている。


(花夜がそうそう遅れを取るとは思えんが急いだ方が良いか。何かフェニックスが騒がしいような気がするし)


一方現場に居た『神薙仁』『七草佳奈』『七草花夜』は破壊の余波を受けていた。佳奈と花夜の二人は気を失って動けない。


「くっ、アンタ達は一体……」


答えは既に仁の中で出ている。これはあくまでも時間稼ぎだ。会話を引き延ばして味方が来るのを待つ。それに二人が敵に担がれているので下手に動けない。


「別に攻撃しても良いぜ。こっち側にだけ当てれんのならだけどな」


(あお)っても歯を食い縛って悔しそうにするだけの仁に敵は少し感心したようだ。


(ほう…とても場数を踏んでるようには見えない若さなのにこの状況で挑発しても突っ込んで来ないか。頭に血が昇っても理性で抑えられるのは偉い)

理論不死(フェネシス)


襲撃者二人組の一人が不死鳥(フェニックス)らしき姿になる。それに佳奈達が乗せられ飛んでいく。


「このままじゃ佳奈と花夜さんが…そんなことさせてたまるか!」

(俺が守る! こんな結末は認めない!!)


仁の感情に応えるように電流が走る。そしてその場に落ちていた瓦礫を拾い上げた。


「イメージだ! 『超電磁砲(だいさんい)』を思い出せ!!」


見えない電気のレールがセットされ照準が不死鳥に絞られるが状況が状況だけに安定しない。


「待たせた仁、行くぜ飛鳥!」

「解ってる、俺も個人的にあっちの火の鳥に用があるんでね」


仁の頭上を飛び越えた飛鳥が悠持と共に飛行する襲撃者の真上に付いた。


「OKー上等な位置だぜ。しかし敵も飛鳥みたいな能力持ってるとはな」


悠持は飛鳥から飛び降りると敵の不死鳥に向かう。直ぐ様その背に乗っていたもう一人の敵が身構える。それを見た悠持が落下途中で腰に付いていたストラップのようなキューブを一つ手に取ると瞬く間に槍へと変形した。


「んな!?」

刺し穿つ赤き棘(ゲイ・ボルグ)!!!」


原典のように急所を確実に突くような呪いの魔槍ではない。どうなるかは神薙悠持の技量(うで)次第である。


 
 

 
後書き
「やあ読者のみんな、ビルの下に沈んだ野口勝哉だ。今回は名無と後書きを交代してもらったよ。出番が無いので趣味(コーヒー)の紹介をしよう」
( *・ω・)ノ

『アイリッシュ・コーヒー』

アイリッシュ・ウイスキーをベースとするカクテル。

コーヒー、砂糖、生クリームの入った甘めのホットドリンクで主に寒い時期に好まれる。

同じウイスキーでもアイリッシュでないと名前が変わる。

■バリエーション■

ベースが『アイリッシュ・ミスト』だと『アイリッシュ・ミスト・コーヒー』

ベースが『アクアビット』なら『スカンジナヴィアン・コーヒー』

ベースが『コニャック』なら『ロイヤルコーヒー』(カフェ・ロワイヤル)

ベースが『カルヴァドス』なら『ノルマンディ・コーヒー』


「アルコール入りのコーヒーなので注意だ」
(・д・)ではまた
 

 

Secuestro2

 
前書き
φ(・ω・*) 

 
《神薙悠持》の槍を受け止めた敵は腕を振るって払い除ける。


「おっ、やるねぇ」


しかし悠持には焦りが無い。それは気を逸らす為の演技。敵が足下を見ると白い包帯のようなものが《七草花夜》を包んでいた。それを引くと彼女が敵の不死鳥の背から落ちる。


「飛鳥、そっちは任せたぜ。で」

「あ」


悠持がもう一度帯を引くと襲撃者と共に不死鳥から落下しながら攻防を行う。


「自滅する気か?」

「何言ってんだ?たかだか数十メートルから飛び降りただけじゃねえか」


男は自分の相手がまともでないことに気付いたのか薄ら寒くなっていく。

その一方で《七草佳奈》を乗せた敵の不死鳥は仲間を回収するタイミングを測って飛んでいた。

悠持は下で戦闘中だし《桐崎飛鳥》もこの状況で攻めてくる相手ではない。


(個人的には不死火鳥(フェニックス)の力を試す良い機会なんだがな)

「おーい仁くんー!」


声のする方を見ると《影縫子規》が来ていた。彼は《神薙仁》と合流する。


「二人は?」

「花夜さんは大丈夫です。でも……」


子規は上空にいる二羽の不死鳥を見た。そして先程の仁がしていた行動を思い出す。頭の中で何通りもの展開が浮かび数式となって組まれていく。


「仁くん、俺の言う通りに超電磁砲(レールガン)を射ってくれ」


カウントする子規に従って実現に近付いていく『未来を見通す数式』。どうやっているのか見当も付かないが人間の所業に収まるものではない。そしてゼロになった瞬間に仁の指から超電磁砲が弾け飛ぶ。敵の不死鳥は右翼を貫かれ傾いた。勿論だが佳奈には当たっていない。


(これが影縫子規の『未来を見通す数式(Future of mathematical)』の力か……! この状況でタイミングを測り、未来位置を予測して命中させるとはな…。見事としか言いようがない)


敵の不死鳥は血を垂らしながら仲間を置いて撤退を優先した。そしてもう一つの戦いは互角で拮抗が続いていた。悠持の超人的な槍捌きと人外染みたトリッキーな動きを確かな技術で隙を小さく丁寧に凌いでいく。


「へっ、なかなか良い腕してんじゃねぇか」

「そっちこそ。STUDENTのNo.2を自負するだけはある。だが今日はここまでだ」


男は煙幕に紛れて姿を消した。


「逃がしたか」


こうして《Answer》の七草佳奈は敵の手に落ちた。そしていよいよ《OBJECT》が本格的に動き出す。


 
 

 
後書き
SUBJECTを出す良い機会だった気がするなあ。 

 

Sandalphon

 
前書き
_φ(゚ー゚*)このタイトルの意味に気付くかな 

 
「ん……寝てたか……」


《神薙仁》は《七草佳奈》を連れ去られた失意で緊張の糸が切れて疲れ果て、眠り込んでいたようだ。

佳奈を攫った《OBJECT》は凶悪な組織。情報を吐いた後で直ぐに始末されるかもしれない。

そんなことを考える仁の元へ《神薙悠持》がやって来た。佳奈を助けられなかったことを謝りに来たのだ。彼の手にはココアの缶が二本握られている。


「……隣良いか?」


仁の頷きを見て悠持が腰を降ろす。そしてココアを一つ仁に手渡した。


「佳奈ちゃんのことは済まなかった」


それに対して仁は反応を返さない。悠持はそれくらいの覚悟はしていたので続けて話す。


「俺さ、昔なんだけど弟がいたらしいんだ」

「らしい?」


仁が悠持の方を見ると顔を伏せている。あまり良い話ではないことを感じ取ったが聞かねばならない気がしたので先を促した。


「俺は小さい頃、地上で普通に暮らしてたんだ。両親もいて平凡な毎日を過ごしたのを覚えてる。でもある日、学園都市の運営の都合で第0学区に連れてかれた。その頃に弟がいたような記憶が僅かにあるんだよ」


どうやら悠持もはっきりとは言えないので『らしい』という曖昧な表現にしているらしい。


「実は俺にも…兄がいたらしいと聞いています」


悠持が衝撃を受ける。恐る恐る仁の顔を眺めて思った。名字が同じで境遇も符合する。こんな出来すぎた上手い御都合主義な話があるのだろうかと。


「兄のことは両親から聞きました。俺が生まれて間もなくいなくなったと。それから数年後に両親から兄が死んだと報告を受けたんですが正直な話、何も感じませんでした。顔も名前も知らない人間が死んだと言われても感情移入は出来ません。そして佳奈と出会った数年後に両親も亡くなったので真相は闇の中です」

(仁の兄が死んだと言うのなら、俺はこいつの兄貴じゃないんだろう)


それでも悠持は仁に言った。


「じゃあ俺が兄になっても良いか?」


仁がその問いに怪訝な顔をする。しかしそれを拒む選択はなかった。自分もまだ見ぬ兄の死を何処かで否定していたのだから。


「それじゃあ俺が貴方の弟ですね」


二人が握手する。


(神薙仁は今日から俺の弟だ。何があってもコイツの味方でいよう)


悠持がココアを一気飲みして缶を置く。


「先ずはお前の佳奈(ひめさま)を助けないとな」

「べ、べべべ別に、そんな大層なものじゃないですよっっ!? 大事な相棒で幼馴染ではありますけど……(ボソボソ)」


赤面しながらキョドる仁に悠持が吹き出す。その笑顔を見た仁に一つの決意が生まれた。


(この人が俺を支えてくれるなら俺もこの人を支える。待っててくれよ佳奈)


 
 

 
後書き
(。・ω・。) 

 

intimidazione

 
前書き
_〆(゚▽゚*) 

 
《七草佳奈》が誘拐されてから早くも三日が経過していた。そしてその日、膠着していた事態が動き出す。『STUDENT』に一通の脅迫状が届いたのだ。その内容はこのようなものだった。


『お前達のリーダーである《野口勝哉》はこちらで始末した。後はお前達を消せばそれで終わりだ。こちらの条件は一つ。総力を用いた全面戦争を申し込む。『連合』の全員で来なければ人質の命は保障しない』


「全面戦争? どういうことだ……」


《桐崎飛鳥》は直ぐ様《影縫子規》へ連絡を取った。何故なら子規は『OBJECT』のネットワークへと独自のハッキングを仕掛けて情報を入手していたからだ。

STUDENTが【学園都市崩壊計画(DEAD END PROJECT)】の情報を《的場聖持》や【ANSWER(アンサー)】の二人と合流する前に入手出来たのはそのお陰だった。


「子規。全面戦争っていうのは一体全体どういうことだ。何があったって言うんだ?」

「こっちもさっきから接続試してんだけど向こう側が全てのルートを完全遮断(シャットアウト)しちまってるんだ。お手上げだよ」


子規がOBJECTへ独自に繋いでいた接続回線(アクセスライン)は外部のネットワークと隔たれて《OBJECT》のネットワークそのものが誰も辿り着けない絶海の孤島のようになってしまっていた。


(これじゃあ俺ッチの『バク』も意味が無い。はてさてどうしたもんかなあ……)


バクとは影縫子規が作った彼の持つ最大の『ネットワークウイルス』のことだ。このバクがあったからこそ『空白の七月十九日』における全てのデータが学園都市にあるネットワークから根刮(ねこそ)抹消(イレイズ)されてしまったのだ。

ちなみにバクという名前は " 指定した情報をバクバク食べる " というところから略して付けたらしい。

OBJECTの狙いが読めない、動向が掴めない今となってしまっては向こう側の指示に従うのが一番手堅い安牌(あんぱい)だった。


「いや待てよ? 佳奈ちゃんが『連合』を組んだ俺ッチ達を釣る為のエサだってんなら生存確率は高くなった、つーことだよな?」


子規の言葉に《神薙仁》の中で燻っていた火種が一気に激しく燃え上がる。そこへ《神薙悠持》がやって来た。どうやら今の話は聞こえていたようだ。


「悠持。どうやらOBJECT(やっこさん)の方は準備万端みたいだぞ?」


飛鳥の質問に悠持はニヤリと白い歯を見せた。あの顔は彼のスイッチが入った知らせである。その表情を元に戻すと逡巡した後で指示を出す。


「子規。即席で構わねぇんだ。
どれくらいで作戦を練られる?」

「一つで良いなら一分要らない」

「飛鳥。敵アジトの目星は付いてるか?」

「今その座標を把握した。二、三分もあれば外観と内部構造も少しだが解るかもしれない」

「そんじゃ子規は飛鳥がアジトの構造を判明させたら今考えてる作戦を軌道修正してくれ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三人のやり取りは一分ほどで終わった。

彼等は《野口勝哉》がいないという状況を正しく理解し己のやるべき事を全うしている。そして各自の情報を聞き漏らすことなく的確に他者へ伝えながら仕事を割り振る悠持の指揮能力も大したものだ。


(俺は今まで勝哉が居たおかげで戦うことだけ考えていられたがアイツがいないっていうんなら俺がSTUDENTを支えなきゃなんねえ。だからさっさと帰ってきやがれ。飛鳥や的場もそうだがお前と俺の決着もまだ着いちゃあいねえんだからな……)


悠持は勝哉と『STUDENT』を始めた者として重責を感じていた。それから数分して飛鳥が手に入れたOBJECT拠点の図面を元に子規を中心として作戦が立案された。


「なるほど。けどこれだとお前に来る負担が結構デケェぞ。心配はしているわけじゃあないが大丈夫なのか?」


気に掛ける悠持に対して作戦を考えた子規は楽しそうな笑みを浮かべる。彼の思考は普通の人間に想像ができる常識を軽々と跳び越えてしまうことが出来る。何せSTUDENTのメンバーをして『ブッ飛んでる』と言われるほどだ。

だが作戦は細微に至るまでが一つ一つ精緻に組み上げられているので早々と問題が起きることは無いだろう。

それから悠持が作戦の決行を発令するとSTUDENTのメンバー全員と神薙仁。そして的場聖持がOBJECTの拠点目指して戦場へ向かう。動き出した中で仁が心に誓う。


(必ず助けてみせる。だからそれまで待っててくれ。心配は要らないよ。こっちはSTUDENTのみんなに聖持さんが居る)


そこでふと悠持と目が合った。それは言葉では無い。優しく力強い瞳で語り掛けてくる。


(安心しろ。あの()は絶対に助け出す。なんたって『弟』の大事な彼女(ひと)だからな)


それが通じているのか解らないが
仁はこう思った。


(それに何よりこっちには『兄さん』が居る。佳奈、もう少しの辛抱だ)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな彼等の様子を観察する者が二人───


「今回は助けたら歴史が大きく変わりそうだね」


その一人は《観測者(オブザード)

かつて《的場聖持(まとばせいじ)》に手を貸したこともある地下世界の重鎮だ。


「で、君はどうするんだい?」


彼は横に居る青年に話し掛ける。


「フフッ…。情報のみで把握していた組織に過ぎなかったんですけどね。【STUDENT】を崩すのは思った以上に難しそうだ。流石は『勝哉くん』と言ったところかな。あそこにいないのが残念だけど」


青年は少し嬉しそうで、勝哉のいないSTUDENTの力を認めつつも苦笑いしていた。


「【OBJECT】に手を貸すつもりかな?」

「いいえ? 今回は別に何もしませんよ。どちらにしろOBJECTかSTUDENTが害を被りますからね。それに貴方や他の人を敵に回すつもりも無いですし」

「それは私の台詞だよ。【暗黒魔境(ディストピア)】でも最上位に並ぶ力の持ち主と戦るのは出来るだけ避けたいところだし。そもそも私の本来の役目は歴史の流れを観測することだからね」

「まあ何れは相間見えるのかもしれませんが」

「そうならないことを願っているよ」

((お互いに))


そんなことを思いながら二人は空間に開いたゲートのようなものを(くぐ)って姿を消した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方OBJECTの拠点ではリーダーの《叶瀬叶(かなせかの)》が組織の頭脳(ブレイン)を勤める《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》と意見を交わしている。どうやら時雨の方が少々怒っているようだ。


「ちょっと叶。人質ちゃんの扱いを間違ってない?情報を聞き出すために連れて来たんじゃなかったっけ?」

「ハハッ。なーに言ってんだよ。俺達はこれから『残党狩り』をするんだぜ? 人質の佳奈ちゃんはその為の餌だよ餌。STUDENTには必ず出向いてもらわねえと困るからな」


時雨は実に無邪気に答える叶に呆れる。だがそれ以上に彼が生粋のゲーマーであることを失念していた自分の記憶に呆れていた。

時と場所さえ違っていれば彼は自分のオリジナルである【fortress】の『偽悪の英雄(めんどくさがり)』とSTUDENTのゲーマーを相手にして違う意味での熱戦を繰り広げていたことだろう。


(ホント、昔からそうだけど叶と居ると退屈しないわ。良くも悪くもね)


すると叶は時雨の頬に手を添えて自分の方へ振り向かせる。叶の顔はとても殺人鬼とは思えないほど暖かみがあった。


「どんなことがあってもOBJECT(この組織)とお前は守ってやる…って格好付けたいけど俺一人じゃあ到底アイツ等を全部相手には出来ねぇ。みんな頼りにしてるぜ」


何やら時雨は固まったままだ。


「ん、どうした時雨。俺に惚れたか?」


今度は彼女の顔が真っ赤になって火を噴きそうだ。


「ハ…ハンッ。アンタがらしくなく弱気なこと言ってるから面白かっただけよ」

「そんな酷い。俺そこまで
自信過剰な単細胞じゃないぞ」


時雨はそっぽを向いた。叶に心の中を見透かされそうな気がしたから。本当は胸がドキドキ鳴りっぱなしでさっきの顔が頭から離れなかったのだ。


「アンタは気にせずアタシ達に背中を任せて前を向いてりゃ良いのよ」


ボソボソと叶に聞こえないように呟いた時雨は叶の方へ向き直ると心中で『ばーか』と付け加えた。 
 

 
後書き
久し振りに観測者(オブザード)さんの登場です。

もう一人はLiberの方で設定紹介している勝哉君の知り合いSTくん。 ただ、二次設定とは違うので、この話の中だとあの設定で出てくる予定はありません。 

 

Military Specialist

 
前書き
OBJECT拠点の外観イメージはロワール渓谷の古城シャンボール城で良いんですかね。 

 
【OBJECT】の本拠地ではリーダーの《叶瀬 叶(かなせかの)》がモニタールームで情報を分析している。彼の前には将棋盤が置かれ駒が弄くられていた。

彼にとってのルーティンとも言える仕草を見ながらブレーンである《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》は呟く。


「叶ってさ。オールジャンルにゲームが出来るはずなのに決まって頭の回転と想像力が必要なのを好むみたいだけどなんでなの?」


組織の頭脳担当を勤める彼女からすれば何故そんなに頭脳系のゲームばかり嗜むのか不思議で仕方無かった。

《叶瀬 叶》が普段から血の気が多い戦闘狂と言われるような性格だということはOBJECTのメンバー全員が周知の事実である。

しかし彼が相手の動きの先を読むような思考型遊戯ばかりやっているのはあまり知られてはいない。時雨の問いに対し手に持った将棋駒を御手玉のように弾ませながら叶が言った。


「そうだなぁー。まず一つは脳筋でゴリ押しの
『馬鹿にならないため』だ」


その時本拠地に破壊の音が響く。屋根から天井を抜いたような揺れが二人の居るモニタールームまで振動を伝える。幾ら人質を取っている有利な立場とはいえ臨戦態勢で極度の緊張感から無意識に臆してしまう。


「奇襲か…。やってくれるわね……!」


時雨の予測では彼等が強引な手段に出ないと思っていた。しかし予想が外れても司令塔である彼女は動揺を表に出すことはしない。だが叶にはその内心を見抜かれており彼は薄く微笑む。


「ははっ、まあ落ち着けよ。さっきの続きだが二つ目は『ブッ飛んだ馬鹿』という名の天才が考えてることを理解するためだ」


叶が香車の前に歩を打った。その歩の後方には残りの駒が並び控えている。


「序盤といこうか危険地帯(エラーゾーン)。俺とお前のどっちが戦況を読み当てるのか楽しみだ」


こうして戦闘が始まった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それより遡ること数分前。

【STUDENT】、《神薙 仁(かんなぎじん)》、《的場聖持(まとばせいじ)》による【連合】は敵の本拠地へ突入する前に気を引き締めていた。

戦闘態勢に入ろうとした連合の空気に水を差したのは今回の作戦を考えた《影縫子規(かげぬいしき)


「うーむ。少々向かい風かな」


彼は自分の人さし指を咥えて濡らすと風の方向を調べた。そして《桐崎飛鳥》と確認した拠点の内部構造から狙いの『ポイント』を推測していく。


「良し。それじゃあやろうか」


子規は脳内でコースが決まると連合のリーダーを勤める《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》を呼んできた。


「軌道は修正するから宜しくー」


悠持は若干の戸惑いを覚えたが『仲間を信じる』ということに於いて彼ほど義理や友情に厚い奴も珍しい。悠持は覚悟を決めると子規が乗れるくらいのケースを地面に対して斜めに設置した。それは人力のカタパルトとも言える代物。


「よっしゃあ! 行ってこーい!」


蹴り飛ばされたケースは勢いを増しながら飛んでいく。そしてOBJECTの本拠地上空まで来た子規はケースを風向きに合わせて軌道修正しながらポイントの真上に届いた。


「組織単位の戦闘は度肝を抜く
インパクトが必要だよね」


第一印象は重要である。相手が呆然となるほどの衝撃を与えれば流れが変わる。


「ついでと言っちゃああれだけど
基地の一部を持ってかせて貰うぜ」


子規を乗せた巨大ケースは狙い通り真っ逆さまに屋根をぶち破って侵入した。


「予想が外れたか。玄関ルームに人影が無い。まあ百発百中になるわけじゃないからな」


影縫子規の『未来を読む数式(Future of Mathematical)』はあくまでも予測や予想であって予知ではない。だから100%になることは無い。的中率は高くて95%というところだろう。


「しっかしよりにもよって
10%切る確率を引くとはなあ」


僅かだが機械の音がする。子規は悪い予感がして顔を横にズラした。すると何かが頬を掠めて飛んでいく。触れて見ると血が垂れていた。


(銃弾か)


その光景を叶瀬叶がモニタールームで眺める。


「あのケースが気にはなるが取り敢えず香車(やり)を陣地に入れることが出来たな」

(この野郎は頭が出来すぎるから適当で調度良い。本気で知力と閃きの勝負しても碌なこたぁねえ)


本拠地に設置されたスピーカーから
叶瀬叶の声で放送が流れる。


「ようこそブッ飛びの天才。もてなしとして数十万発の弾丸(たま)が30分間飛んでくる。打ち止めになるまで頑張るか蜂の巣になるか見物させてもらうぜ」


子規は直ぐに集中状態へと入った。 
 

 
後書き
遂に二つの勢力が総力でぶつかりました。この先どうなるのか。それはこの弾丸により変わることになります。 

 

Dispositivo

 
前書き
φ(・ω・*) 

 
実際の弾丸というものは基本的に音速を超えるものが多い。その動きは人間の動体視力が追い付くことなど想定されてはいない。しかし《影縫子規(かげぬいしき)》が見ている視界には 、その殺傷を前提とした小さな兵器が多数ある。目に見える物量は幾つなどではない。

何十、何百、何千、何万、何十万?

完全記憶能力を持った頭の中に十万三千冊の魔導禁書の原典を覚えている歩く魔導図書館の少女がこの風景を切り出して見れば弾丸の数を数えられるのかもしれないが、生憎とレインマンのモデルになった人物のように超高速の瞬間計算も持ち(あわ)せていなければカウントは無理だろう。

子規は表情を崩さず弾丸の雨が迫る中でポケットからボタンを取り出して押す。


起動(オン)


その声に反応し、彼が『OBJECT』の本拠地へ乗り込む時に使った大型ケースから機械の声がする。


「シールドエフェクトヲキドウ」


ケースは姿を変えると人間一人が隠れるくらいの壁となった。


(そこまで防御力と耐久性は無いだろうが少なくとも10分は持つ筈だ。にしてもマスターの裏の顔が怖い)

「ハハハハハッ!! スゲーなおい! 何だあれ!? 俺もあんなの欲しー!」


《叶瀬叶》はモニターを見ながら愉快に笑っていた。


◇◆◇◆◇◆

数カ月は前になるだろうか。子規は《野口勝哉》が常連のカフェに来ていた。彼が所有するオーダーメイドの銃はほぼ全てカフェのマスターが作ったらしい。

今は閉店間際の23:00頃。


(流石に他人が居る時にこの話はしにくいからな)


扉を開けて入店するとコーヒーの薫りが鼻をくすぐる。店内はカウンターしか明かりが灯っておらずジュークボックスからはクラシックジャズが流れている。曲だけが響く静寂を楽しむようにマスターは食器を手入れしていた。


「おや。この時間帯に来るのは野口様くらいと思っていましたよ」

彼は早速コーヒー豆を挽き始めた。

(ぐあぁ…。こんな匂い嗅いだら飲みたくなる。これはもう飯テロの一種だぞ……)

数分後コーヒーの注がれたカップが二つ子規の前に並んで提供された。

「あれ?まだ注文してないですけど」

「もう閉店の時刻は過ぎていますからね。料金は頂きません。奢りと思って気になさらず」

そしてジュークボックスの曲をクラシックジャズからポップ・ミュージックへと切り替える。

「どうして曲を?」

客によって音楽ごとジャンルを変えるなど並みのセンスではやらない。というよりセンスがあっても難しい。


「お客様からは『多くの色が混ざった』イメージを感じました。その感覚が私の中にあるポップ・ミュージックと同じだったのですよ」

子規は夏休み前の出来事を思い出す。ふと勝哉が音楽を聴いているのを見かけた時だ。

(あの時に勝哉っチが聴いてたのは確かクラシックジャズだったよな……。はっ‼)

そこで子規は驚いた。マスターが新しい客が来るまで曲を変えない人物だったのなら自分の来る前に居たのは勝哉だったのかもと思ったのだ。

「じゃあマスターにとって野口勝哉のイメージってどんなもんなんですかね?」

「ふむ…そうですね。『曲げられない』何かを持つストレートな方…。なのではないかと」

子規は少しだけ野口勝哉を理解出来た気がした。

暫く雑談を続けた二人が気付くと夜中の一時に迫っていた時、子規が切り出す。


「マスターに一つ注文したいんですが」

マスターは相変わらず笑みを浮かべているが僅かに表情を変えた。何となく察したようだ。


「お願いしたいのは『拠点防衛装置』。それも『人力』で持ち運び出来るサイズと重さで」

「ほほ。これはまた『ぶっ飛んだ』相談ですな。サイズはキャリーケース程で宜しいので?」


子規は設計図を用意していた。ただ、あくまで提案する立場なのでモノを作る技術は無い。マスターが図面通りに出来るかが重要だった。目を通したマスターの様子を見る限り不明瞭点は無さそうだ。

「これなら一月ほどあれば」

子規は思わず立ち上がる程に衝撃を受けた。この常識外なお願いを明確な期間まで設けて実行してもらえるのだから無理もない。

二人が料金について話を済ませたあと、子規は受かれてカフェを後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇

彼は今、そのシールドエフェクトに隠れて次の作戦を練っている。

(五分経過したか。残り半分しかシールドは保てない)

子規は五分間で弾丸の軌道を推測した。それによると彼を狙って三割、残りの七割は回避場所を無くす為に飛んでいる。

ここで予想外のことが起きた。シールドエフェクトが爆発に巻かれて大きく損傷する。これでもう隠れることは出来ない。


「にゃろう……!」

(炸裂弾か)


爆発が続く可能性を考えてシールドエフェクトから離れるとハンドガンを出して両手に持った。


「さあ再開だぜ大馬鹿(てんさい)


影縫子規の脅威の持久戦はここからだ。

 
 

 
後書き
φ(゚∀゚ ) 

 

Dispositivo2

 
前書き
_〆(。。) 

 
二丁のハンドガンを手にした《影縫子規(かげぬいしき)》は隠れていたシールドエフェクトから離れる。彼はここまでしていた発砲音の反響具合で現在地である玄関ホールの範囲をある程度まで理解していた。

「そんじゃま、マスター謹製の一点物(ワンオフ)ハンドガンをば」

子規はホールの壁を狙って鉄爪を引く。その黒い弾丸は壁で弾かれ別の方へと飛んだ。

(こいつがゴム弾の性能だ)

彼は絶対能力者(レベル6)ということもあって基礎能力の高さは充分にある。しかし彼が本領を発揮するのは計算がものを言うどっしりと腰を据えた盤上のような戦い。《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》や《池野操作(いけのそうさく)》のような直接戦闘ではないのだ。

それに今の状況では殺傷をする必要が無い。凌ぐためにはボールのように弾む特性が欲しかった。それも長時間跳ね回るものが。

(弾道の計算だけなら意外に簡単だ。問題は不確定要素と跳弾。そして銃口の向きに射線。ゴム弾一つで一発落とすんじゃなく効率的かつ合理性に基づいて多数の弾を外させる)

ゲームのやり過ぎか癖か解らないが、彼は目に映る範囲には全て気を配り観察する。視野の広さで対象を視界に入れて、集中力で感覚を研ぎ澄ませることで動きを見切りながら、リアルタイムの軌道を読む。

子規には一つ一つの弾丸に矢印のカーソルが付いているように見えていた。

(全弾中の三割だけが相手ならやれる!)

子規は恐ろしい程の演算を行って射撃線を読みながらの最中で弾道の先を割り出しつつゴム弾を放つ。しかしゴム弾が壁に跳ね返る中でも何故か彼の射ったゴム弾は飛び交う鉛の弾を一発も弾かず相殺していない。

これでは防御の役割を果たしていないのではないかと思うかもしれないが子規は計算でやっている。ゴム弾が如何に長い時間を跳ね続けられるとも弾丸に当たって相殺すれば劣化し摩耗する。

それが意味するところはつまりゴム弾が消費されてしまい、壁になって防いでくれなくなるということである。残りの時間に飛んでくる数十万発の弾丸に対して自力の回避以外では対抗手段が無くなってしまう。

それを避ける為に躱せる分は体で対応する。そして飛んでこない銃弾にまで無駄なゴム弾を使わない。子規は自身の動きとゴム弾の軌道、そして迫る弾丸の三つに主眼を置いて行動しているのだ。

それをモニタールームで観察する《叶瀬叶(かなせかの)》は目を離さない。共に居る《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》は子規の驚異的な粘りに圧倒され気後れしてしまっていた。

「本っ当にスゲーなコイツ。15分経過で余裕が見えてきた。まあそうは問屋が卸さないってな。時雨、弾丸の射線を一部だけβ(ベータ)にしてくれ」

叶は子規を仕止めるために弾幕と火線のパターンを変えるよう指示を出した。時雨はコンピューターを操作する。このコンピューターは無人で動かしても自動で学習する。

影縫子規のデータを少しずつ蓄積して射撃ポイントを徐々に修正しているにも関わらず彼の計算と行動が一時的にそれを上回るのだ。読みの深さが違う。

(同じ頭脳派として称賛に値するわ。まあ絶対に真似は出来ないし、したくないけど)

時雨は叶が何故、子規のことを『ブッ飛んでる』と言ったのかを少し理解できた気がした。


その頃その頭のネジが二、三個吹っ飛んでる本人はというと───


(後は時々先読みしながらゴム弾を撃っていれば何とかなるはずなんだけど……)

次の瞬間に彼の肩を貫通する。さらには続けて肩、足、片目を掠め、あるいは撃ち抜いていく。子規は血で開かない左目を押さえて分析するが激痛で思考力は半分ほどにまで落ちた。

(イレギュラーか?それとも発射口の向きを変えたか。計算に無い軌道なのは確かだが)

子規は弾幕を濃くし、これ以上被弾する確率を下げるためにも一層の微細な思考を展開し実行していく。苦痛に耐えながらも弾丸同士が当たりそうなほど際どい射線(ライン)

しかしβ(ベータ)の射軸を相殺すると今度はγ(ガンマ)軸の射線が加わって子規を追い詰めていく。既に十発の弾丸が彼に命中し、ダメージを与えていた。

「あと…三…分……」

もう気力だけで体を持たせているような子規がこの状況からある結論を導き出した。

(残りのゴム弾は二丁合わせても十発しかない。だがこれを使って弾幕を張っても最後までは持たないだろう。防ぐのが全体の三割で良いって言ったって、その四分の一も対処出来るかどうか…。あと一分、あと一分で終われるってのに……!!)

足掻くことをしなければ10秒持たず即死。子規の欠点はあらゆるパターンを予測し計算できるため、自身に起こる敗北を予知してしまうことにあった。

「くそっ…。まだここからなんだぞ。戦闘の本番はこれから始まるっていうのに……」

今回の作戦を立てた自分が倒れては話にならない。彼は体のあちこちから出血して動きがままならない。その中で知ってしまった避けられない『死』の運命。

子規はゴム弾の弾幕が消えるまでのカウントを取る。これを数え終えた時、彼は命を喪うだろう。瞼を閉じてその時を待つ。

潔いと言えば聞こえは良いが、それは踏ん張りの悪さであり自分を軽く見ている、諦めが良すぎて割り切り過ぎているということでもある。


(あ"ー…ヤバイなこりゃ。走馬灯みたいなの見えてきた。コラ、数日振りだけど手を振るな)


彼は川を挟んだ色とりどりの花畑で手招きする野口勝哉を見た。縁起でもない景色だ。

「5…4…3…」

子規が銃を手放し地面に落とす。正真正銘の丸腰だ。ゴム弾は防壁の役目を果たし終え、彼に弾丸の雨が降り注ぐ。

「29分か。よくここまで持たせたわね。でも、これでさよならよ。じゃあね?天才さん」

時雨はモニターで子規の最後の瞬間を見届けようとしていた。
 
 

 
後書き
影縫子規のゴム弾反射防御のモデルイメージは西尾維新先生の『刀語』に出てくる《真庭人鳥(まにわぺんぎん)》の『忍法柔球術』と『忍法運命崩し』。
(モデルはアニメ版をイメージしてくれると解りやすいかな?)

もう1つは同じく西尾先生原作で暁月あきら先生作画のジャンプ漫画『めだかボックス』で序盤に出てきた《雲仙冥利(うんぜんみょうり)》が持つ自身の演算と大量の超躍弾(スーパーボール)を組み合わせた乱反射軌道の完全計算。
(こっちはコミック版がモデル)

この二人、その場に立ってても当たらないんですよね。今の子規君が見たら驚くどころじゃないなあ。特に人鳥、君だよ君。似たような特性のキャラがSUBJECTに居るけど。 

 

Floribus rojas que frorece

 
前書き
別の話はどうするかなあ。書き貯めてる分はあるけど。
_φ(゚ー゚*) 

 
影縫子規(かげぬいしき)》が知力と集中力を駆使した持久戦を玄関ホールで繰り広げられている最中(さなか)、他の【STUDENT】、【Answer(アンサー)】、《的場聖持》による【連合】は【OBJECT】の本拠地へと向かっていた。


「子規が上手くやってると良いが……」


彼を信じていないわけではないが、《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》には一抹の不安が残っていた。

そんな彼の心情を見透かすように──


「この【第0学区】にそぐわない甘い考え方してるんだな。胸焼けがしちまって反吐が出らぁ」


その声に全員が足を止める。其処に居たのは何らかの液体を入れた試験管を幾つも腰のベルトに差し、手にも八本の試験管を携えた青年だった。


「へっ、なかなか多いじゃねぇの。まあさっき頭の上を一人飛んでったけどさ」


悠長に話しているが連合の方は呑気にしている暇は無い。《池野操作(いけのそうさく)》が一歩前に踏み出すが、それを遮って《箱部鈴菜(はこべりんな)》が進み出る。


「私が御相手を」


二人が青年の相手を買って出たのは
一目で試験管の中身に気付いたからだ。

それは自分達にとって忘れることが出来ない鎖された過去から何時までも忘れらず頭に焼き付いて離れない、薄く赤くて濃く紅い、乾くと黒ずむ生命の雫が持った独特の危険で甘美で神秘に満ちた色。


「鈴菜さんには僕がサポートに付く。
みんなはこのまま先に行ってくれ」


操作の声に悠持が真っ先に走り出し二人とすれ違い様に呟いた。


「信じてるからな」


だがそれを黙って見ている敵ではない。


「おいおい!? そいつは困るぜ! はいそうですかって簡単に通すかってんだよっ!!」


彼は最初から両手指の間に挟んでいた四本ずつの試験管を宙に投げる。

合計八本のそれに対して手を翳すと中の液体が容器を内側から割り砕き、粉々になった試験管の欠片と霧のようになった赤い飛沫(ひまつ)が散らされる。


「どうだいこいつは? 赤い水芸ってのも中々に乙なもんだって思わねーか?」


霧は所々で集まると波打つ水の塊になり、そこからは赤い刃が現れた。その勢いは硬質の金属をも切断しそうな高圧のウォーターカッターを思わせる。

だが鈴菜は恐れない。


「余所見をしないで下さい。不愉快です」


彼女は能力で赤いそれを只の液体に戻す。その間に悠持達は場を抜けて先へ駆けて行った。


「言った筈ですよ? 私が相手をすると」


それをモニターで眺めていた《叶瀬叶(かなせかの)》が片手で顔を隠しながら天井を仰ぐ。


「『宗嗣(そうじ)』の馬鹿野郎…。
ちゃんと足止めしろよな……」


そして溜め息を()きながら顔を下ろし、
モニターを見直した。


「良いじゃない別に。彼一人で連合を止めようなんて虫が良すぎるわよ。箱部鈴菜は能力の天敵だし二人を釘付けにしただけ頑張ったんじゃない?」


比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》には一人に多数の強敵を押し付けるという考えは無い。如何にOBJECTメンバーの腕が良くとも限界があるのだ。その言葉に叶は子規が鉛弾の嵐を凌いでいるのを見ながら頭を切り替える。


「ああ…そうだな。こっちの『ブッ飛んだ馬鹿』を相手するのに頭を使い過ぎて他にまで思考を回す余裕が無かった」


こういう時には特に時雨が持つ頭脳と冷静さ、そして多角多面な視点は有り難さを感じる。


「重く考える必要は無いわ。いざとなれば『SUBJECT』のみんなを呼べば良いだけのことよ」

「間に合えばの話だけどな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あちゃー……。簡単に行かせちまった。叶さん絶対に怒ってんだろうなぁー……。これまためんどくさいことになりそうだ」


宗嗣は愚痴を(こぼ)しながら鈴菜を見る。


「まっ、良いや。此処でこの二人をぶっ殺しちまえば叶さんも怒んねぇだろ。……多分な」


そう言うと腰のベルトから試験管を一本人差し指と中指の第二関節で()まんで 引き抜いた。素早く抜き去ったそれは宗嗣の顔辺りまで飛んでクルクルと回る。

彼は少しの間、その内部で流動しながら赤い軌跡を残す液体を愛おしそうに眺めると腕を前に振ってキャッチした。そして何処か人間として大切なものが欠けてしまったような狂気を感じる笑顔で告げる。


「殺るついでだ。お前ら二人のも俺のコレクションにしちまうか。とびきりの稀少(レア)もんでお気に入りになるかもしんねえ」


その様子を見ながら鈴菜は拳に何時もより力を込めて戦闘態勢に入った。この男だけは許せないという想いがある。


「貴方のようにいとも容易く誰かの命を奪う人を放置するわけにはいきません。これは私がやらなくてはならない鉄拳制裁です」


『旧地下民』の考えが根強く残り、犯罪が腐敗区より多かった支配区でも『箱部家』は誇り高く名家として在り続けた。

その生き方は旧地下民の子として生まれ、『電撃五点所得者(サンダーファイブポインター)』の異名を持つ《久安唯(ひさやすゆい)》にも多大な影響を与えている。


(鈴菜さんはどんなに怒りが湧こうと表に出すことは殆ど無い。それがこんなに感情を(あら)わにするなんて……)


操作ですら見たことの無い彼女の姿に
驚きを隠すことが出来なかった。 
 

 
後書き
宗嗣君の能力はもしかして旧設定の『水器流渦(みきりゅうか)』のアレに近いものなのだろうか。だとすると試験管の分だけでは到底済まないのだけど……。
( ゚ 3゚)
 

 

La sua colonna verteblale

 
前書き
(*´ω`)オヒサー♪
 

 
《箱部鈴菜》が拳を固く握り締めて構える。そして《宗嗣(そうじ)》に向かって一直線に駆けた。

鈴菜の主な攻撃手段とは『殴打』のような打撃が基本。箱入り娘として育った可憐な彼女に似合わない武骨で暴力的な方法だ。それでも彼女が武器を使わないのには理由がある。

それは『殺傷性』の問題。

《池野操作》は体術だけでなく小刀を使って戦うこともあるため相手を死なせることもある。

彼女は宗嗣のような外道でも命を奪おうと思えない。故に『箱部流』の人間として己が身一つで挑むのだ。

その誇りを胸に(いだ)き鈴菜はこの凶人を憤怒を以て救い上げる。その威圧感は明王の如し。

宗嗣は刺すような視線を感じながら腰のベルトから試験管を抜く。そしてコルクを親指で弾くように抜き、中身を振り撒いた。

「!」

鈴菜は相手の仕草を見て液体が劇薬と判断した。前方に向かって走っていた体を後方に傾けると地面を蹴って跳び下がる。


(鈴菜さんでは分が悪いか)

操作が小刀『鈴花(すずばな)』の鞘に手を掛ける。その時だった。鈴菜が振り向いて優しく微笑む。二人は言葉を交わす必要などない。以心伝心を地で行っているのだから。操作は鈴花を手放して腕を組む。


(有り難う御座います操作様)

この戦いに負けるわけにはいかない。危険だとしても踏み込むしかないのだ。再び迫る彼女に宗嗣は赤い液体の入った試験管を地面に叩き付けた。容器が砕けて中身が弾ける。それを操って礫のように射つ。


「さぁってこの液体は何かなぁ? さあさあ恐れずに突っ込んできなよ!」

彼は鈴菜へ発破を掛けるように叫ぶ。

彼女の『異能殺し(エスパーブレイカー)』は能力に対して有効だ。しかし宗嗣の能力を無効化しても意味が無い。液体の操作を止めさせても体に降ってくるだけ。

だから迷わず進む。惑わされることは無い。次々と襲いかかってくる水礫に対して突っ込みながらも肌を掠める程度しかダメージを受けない。


「無様だな。猪突猛進まんまじゃねぇか」

宗嗣が煽る。だが彼は言い様の無い何かを感じていた。彼女から目が離せない。

『武』とは本来無骨なものだ。握った拳を見ると良い。それは『美』とは程遠い威圧的かつ暴力的な形をしている。そこには優雅さなど無い。

当然だろう。武とは生存競争を生き抜く為の生々しい現実なのだから。

だが人類は何千年もの歴史を重ねる中で無骨な『武』を『美』へと昇華させた。それこそが『武道』だ。

敵を倒すため。誰かを守るため。何かを手に入れるため。研ぎ澄まされた理念と蓄積された英知の結晶。

この世界で人間しか持ち得ない哲学。 

理性を以て律され研ぎ澄まされた野性には確かな『美』が宿る。そう。宗嗣の前で行われている箱部鈴菜の疾走のように。


(何だこいつ……!)

一撃で良い。当たれば倒せる。なのにその一発が命中しない。鈴菜は移動しながら液体を操る宗嗣を捉えて離さない。四方八方から来る攻撃を見ずに回避する。しかもそれを幻覚剤による目眩(めまい)の中でやっているのだから驚きだ。

宗嗣は腕を振る動きを入れて補整を掛けることで能力操作の精度を上げる。しかし鈴菜目掛けて繰り出した劇薬の流槍は何故か地面を突き刺した。

これは能力ではない。明らかに体術だ。初めから狙っていないかのように逸れる。

鈴菜の動きを見ている操作と宗嗣には見えた。絶え間無く降る水礫を穏やかな動きで捌き往なす彼女は突進しているのに無駄が無い演舞のように優雅であり、まごう事なき『美』があった。宗嗣が足を止めて見入る程に。

気付くと彼女の拳が腹部に触れている。


「無力撃・終の型(おわりのかた)

鋭く研ぎ澄ませた『気』に近いものをぶつけて相手の脳に瀕死の一撃を受けたかのように伝える。それが体感ダメージとの差で神経に混乱を起こし、情報処理が追い付かず気を失う。

殺気をぶつけて死をイメージさせるのに似ているかもしれない。

この業は《神薙悠持》や操作にも出来ない。鈴菜の完全なオリジナルだ。他者を物理的に傷付けることを好まない彼女らしい技である。


「思ったより来ますねこの幻覚剤……」

「よく頑張ったよ。少し休んでて」

操作は鈴菜の体内にある薬の成分を抜き去り傷と体力を回復させると眠らせた。そして彼女を抱えて仲間の後を追っていく。

 
 

 
後書き
鈴菜さんが新しい武の領域に入った気がする。 

 

In the middle of the expression

 
前書き
_φ(゚Д゚ )
 

 
脅威の持久戦を終える後一歩のところで万策尽きてしまった《影縫子規》。彼は銃を手放して眼前に迫る死を待つばかりだ。その様子をモニタールームで《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》が眺めている。


(意外に呆気無かったわね。ここまで粘ったのは賞賛に値するけど諦めが良すぎる)


興味を失ったように彼女が冷めた目をモニターから離そうとした瞬間────


「……ジャスト一分だ」


子規の口からその言葉がぼそりと誰の耳にも届かないほど静かに細く小さく確信を持って呟かれた。

彼によるゴム弾の乱反射跳弾で作られた防壁が消滅し銃弾の雨が途切れる30分が経過するまでのラスト一分で鉛の飛礫が襲い掛かる。

モニターで見ていた《叶瀬叶》と時雨は子規の死を見るまでも無いと考えていた。逃れようのない天才(バカ)の終止符が訪れると。

しかし二人は何故、子規がブッ飛んでいる(・・・・・・・)と言われるのかを改めて思い知らされることになった。

彼に向かって放たれた弾が同じく発射された別の弾により相殺され、弾かれる。確実な絶命をもたらすはずだった一分を指先一つ動かさず大馬鹿(てんさい)の軍師は乗り切って見せた。

叶がこの異常(エラー)な事態が起きた原因に気付く。玄関ホールに配備された銃に指示を出す迎撃システムの指揮管制が入れ替わっている。


「ま、さか…あの野郎……!?」


叶は焦燥の目でモニターに映る子規を見た。彼は大きく息を吐いて緊張を解く。


先行任務達成(ミッションコンプリート)……だ」


子規は血だらけで無邪気な小憎(こにく)らしい子供の顔をしていた。それがまた叶の癪に障る。


「目的はこいつか」


影縫子規の目的とは30分間を凌ぐのでなく29分間を使ったクラッキングにあった。

つまりケースに入れてきた目立つシールドエフェクトもゴム弾を使った相殺弾幕も、全てはクラックを勘付かせない為の目眩ましで囮。本来の目的から目を逸らさせるための手段に過ぎなかったのだ。

しかもその行程をモニターで見ている叶や時雨に悟られぬよう気を回しながら不規則(ランダム)に数列を崩しつつ組み替えるという手間を掛けて迎撃システムの指揮管制を権限剥奪(テイクオーバー)する計算式を構築して見せた。

『イカれている』というより計算能力と絶対能力を手に入れた代償に人間として大切な何かを『捨てた』か大切な何かが『抜け落ちている』としか思えない。

子規は力が抜けてその場に座り込んだ。何発も弾丸を浴びているのだから当然だ。正直なところ、計画通りとはいえ一か八かの賭けに等しかった。

子規がクラックに使ったシステムは以前から考えていた『簡単には見破れない』クラックを仕掛けられないかと彼が模索して完成させたものである。


「…もうちょっと…相手のことを…考えなよ……」


(まあクラッキングしようと思ったのは此処に来た途端に『OBJECT』のネットワークに繋げられるようになったからだけどな。やっぱり機械より人間の方が恐ぇえってことか)

子規はモニターカメラを撃って破壊した。


(夏に的場ッチに負けた。余裕をひけらかして油断した上に『読み』で負けた。全くお恥ずかしいったらありゃしない)


それ以来、同じミスをしないよう制限を設けた。一つは『力でゴリ押ししない』。もう一つは『計算で勝利を導き出す』といったもの。


(優斗ッチも的場ッチに負けてるけど頭の使い方が俺でも読み切れない時が出てきたからな。あの戦いで進化してるのは間違いない)


敗北を知らぬ者より敗北を知る者の方が、より強くなれるというのはまんざらでもないのかもしれない。そして子規はふと昔を思い出す。

『STUDENT』での賑やかな日常で忘却の彼方に置き去った在りし日の記憶が蘇る。


(俺の本当の名前は影縫子規じゃない。まあ本名も忘れちまったけどさ。それに俺の本名は呪われている。それは " あの時 " にあった地獄のゲームで多くの命を奪った殺戮者の名前。けど俺はその呪いから逃げ出したんだ)


しかし彼は別の呪いを受ける。その内容は『死ぬまでゲームを続けなければならない』というもの。子規はゲームを『したい』のではなく『やり続ける』ことを強いられていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その時だ。玄関ホールの扉が勢いよく破られる。このタイミングで他のメンバーが此処まで辿り着くのも子規の予定通り。


神薙悠持

桐崎飛鳥

騎城優斗

七草花夜

神薙仁

的場聖持

悠持を先頭に飛鳥が扉の中に飛び込む。


「あそこだ!」


悠持の声に飛鳥が炎の翼を生やして子規の直ぐ傍まで飛んでくる。彼は瞬く間に子規の傷を回復させていく。十発以上の弾丸を喰らった体は直ぐに治った。

この状況に至り子規は一つの未来を予測する。彼にとっては漸くといった感じだが。しかし確定している訳でもないので自分の胸だけに留めておくことにした。


「お前は少し休め」


飛鳥の言葉に子規が大人しく従う。


「此処からは四本の道がある。どれを行っても敵さんのお待ちかねだろうさ」


子規の予想に悠持が指示を出す。


「俺は仁と行く。飛鳥、優斗、花夜の三人は他にある別の三つのルートを頼む」

「いや」


それを遮ったのは《池野操作》。

一同は《箱部鈴菜》を抱えて追い付いた
彼の俊足に驚く。


「一つは僕が行くよ」


鈴菜も目を覚まして操作に同行する意を表す。

ちなみに的場聖持は入り口で門番の役目をしてもらう手はずだ。現時点で最強の彼を置いていくということは何かあるのかもしれない。

こうして前哨戦が終わり、OBJECT拠点における本格的な戦いがようやく幕を開けた。 
 

 
後書き
次の原稿は書いてあるんですが真面目に二次と殆ど変える部分が無いなあ。戦闘描写に拘っただけはあります。開き直って行きますかね。

ルレシオ君の方どうしよう(汗) 

 

Drowback ruptura

 
前書き
上手いオリジナリティーが出せない。
φ(・ω・`) 

 
《神薙悠持》が【OBJECT】の本拠地にある玄関ホールから続く通路の一つを走っている。途中には時たま天井に明かりがあるだけで先が何処に通じているのかは解らない。

唯一確かなのは敵が居ること。

悠持の後ろには《神薙 仁》が走っている。

そのお陰で悠持は特に不安を感じることなく
走ることが出来ていた。

広場に近い部屋に二人が着く。

周辺には特に目立つ物が無く、
規則正しいコンクリートの柱が並ぶ。


(部屋っていう巨大(デカ)さじゃねぇなコレ)


二人が部屋を眺めていると奥から足音が響いてくる。


「お前とは決着を着けたかった」


現れたのは【STUDENT】の拠点を襲撃した一人。悠持は腰に付けたキューブを一つ外して槍にする。相手は以前と違い背中に負った太刀を引き抜いた。


「この前は得物が合ってなかったんだ。俺本来の立ち回りではコレの方がしっくりくる」


二人が殺気を放ち、それが空気に満ちていく。仁は僅かにでも動けば斬られてしまうと感じた。


「俺の一つ先の部屋には俺達のリーダーである《叶瀬 叶》が居るぞ。ちなみに人質も其処だ」


仁が一瞬で我を失いそうになったが悠持が抑える。


「こいつは俺が相手する。お前は先に行け」


悠持に感謝した仁は落ち着きを取り戻して
タイミングを計り出した。


「敵の目前で作戦会議か?」


挑発するような相手に悠持が煽り返す。


「お前俺と決着着けたいんだよな。他に気を回してるとあっさり終わるぜ? あんまり強そうじゃねぇし」


相手が殺気を増して上段に構える。


「俺は《神宮寺庵鬼(じんぐうじあんき)》。お前を斬る男だ」

彼は地を蹴り振りかぶりながら駆ける。狙いは仁だ。悠持の槍間合いぎりぎり外を抜けて太刀を向ける。


「弱い奴から狙うのは常識(セオリー)だろう」


一瞬で落ちてくる刃は仁にとって正に瞬きの刹那だった。しかしその攻撃は横合いからの一突きで防がれる。

庵鬼の動作が流れるように淀まず無駄の無い動きなら、それは降って湧いたような意識の穴を突く意表の間撃。悠持は槍で庵鬼の太刀の腹を突いて横に弾き出したのだった。


「しょっぱいことするんじゃねぇよ。()えちまうだろうが。それに余所見されると寂しいもんなんだ…ぜ!?」


悠持は普通に両手で槍を突き出す。そしてその射程が最大まで達すると片手を離してもう片方の手の中を発射するように滑らせた。原理は管槍(くだやり)と同じで筒の中を走らせている。

悠持は槍の()が自分の手を通り抜ける直前に掴みフェンシングのような体勢になるとそのまま横に振って太刀を更に弾く。

庵鬼が揺らいでいる間に悠持が槍を引き戻しながら間合いへ入り猛攻を仕掛ける。庵鬼も太刀を走らせ突きの壁とも言えるラッシュを凌ぐ。

二人は拮抗して競り合っていた。

仁はここだと決めて二人から少し離れた場所を全力で走る。その背を庵鬼の目が捉えた。悠持を巧く往なして後を追う。


「行かせねえよ‼」


クイックモーションで投げられた槍が庵鬼の足元へと突き刺さる。その間に仁は次の部屋へと進んだ。それを見送ったあと庵鬼が槍を抜いて放り投げる。


「おっ、悪いな」

「等しい条件で戦ってこそ意味がある」


悠持は庵鬼の仁に対する行動が彼をこの場から去らせるものだということを解っていた。庵鬼は仁を自身が狩るべき獲物だと見ていなかったのだ。

それが意味するところはつまり、もう誰かを気にする必要が無いということに他ならない。


(今はただ)

(この目の前に居る強者を)


打ち倒すことこそが互いの考えるべきこと。

二人が同時に地を蹴った。速さは互角。同等の技量で異なる武器が甲高い剣戟を鳴らす。槍と太刀が打ち合い擦れる度に刃鳴(はな)が咲き火花が散る。

両雄は無言で熱戦を繰り広げる。

刀を熱して打って鍛えるように二人は少しずつ激しさを増しながら音速など遥か彼方に置き去り槍と太刀の舞踏を踊る。

悠持は太刀を捌いて僅かに見え隠れする隙を狙い、庵鬼は太刀を捌かせながらわざと隙を見せる。


(野郎…誘ってんのか……?)

(来い。俺の刃が斬って落とす) 
 

 
後書き
キャラが二人いないと掛け合いが成立しないあのやり取りを捩じ込もうかなあと思ったんですけど良いタイミングが解らない。

旧約禁書の話ですけど管槍(くだやり)の真似は五和さんもアックアにやってましたよね。 

 

Drowback ruptura 2

 
前書き
ここ何日か風邪っぽい症状で体のあちこちが痛い。頭が働かないから筆が進まないです。

普通に歩くだけでもキツい。 

 
《神薙悠持》と《神宮寺庵鬼》が膠着状態に入って五分が経過。ほんの僅かに均衡の天秤が傾く。悠持は庵鬼の誘いとも言える隙に恐れ知らずに飛び込んだ。

二人は太刀と槍による剣戟で競り合う。

一瞬のタイミングを見計らった庵鬼は受け止めていた悠持の槍を太刀で受けたまま体を回転させて弾く。だがその動作は愚行だ。

体を半回転させたことで背中は敵に丸出しとなり、目では見えない死角の場所に敵を置く。庵鬼は弱点を晒して一体何を考えているのか。

悠持は容赦なくがら空きの背後を突く。しかしそれは庵鬼も承知の上。彼は悠持の攻撃性を逆手に取ったのだ。


「なに!?」


悠持の槍は庵鬼の太刀を納めていた鞘に命中する。金属が擦れ合う火花を散らして槍の穂先が受け流されていく。

自分の剣を体の延長線上、または一部のように扱えねば鞘まで利用したトリッキーな戦術は取れまい。

槍を受け流された悠持は体勢を崩す。今度は庵鬼が斬りかかった。しかし悠持は崩れたバランスを利用して自分から回転することで槍を振るう。それは庵鬼の太刀を相殺して見せた。

しかし無理な動きをしたことで悠持は背中から地面に落ちる。だが直ぐに後方宙返りで槍を構えた姿勢に戻る。


「何とか切り抜けたか」


悠持の頬には一筋の切り傷が出来ている。


(今のは認識のズレか? 視覚を誤魔化すなら光の操作だけで十分だが感覚に干渉する力だとしたら……)


悠持が考えている間も庵鬼は容赦なく攻めてくる。横に薙いだ太刀の軌跡にワンテンポ遅れて悠持の胸元が裂け血が噴き出す。


「ぐ……ッ!!」


槍を杖代わりに踏ん張るが思ったより傷が深く出血も多い。血液が上手く循環せず肺に取り込める空気も少ない。


(深く息を吸うと痛ぇ。浅い呼吸しか出来ねぇ…。動きに影響が出るな……)


悠持はなんとか思考回路を働かせて庵鬼の能力を分析する。このままでは嬲られるだけなので脳神経を強引に叩き起こす。


(斬られたタイミングと痛みが来るタイミングが違う。さっき考えてた光や感覚を弄るのとは違う能力か)


追い込まれたせいか悠持は感覚が研ぎ澄まされている。生存本能が働いているのかもしれない。その鋭敏さで一つの違和感に気付いた。

それは空気の振動だ。

大きく息を吸い込んで冷静さを取り戻した悠持がある実験を行う。先ずは庵鬼の太刀が届く間合いに入る。当然のように攻撃が来た。悠持は体の重心を出来るだけ下げて地面を滑るように躱す。

そしてその体勢のまま抉った。

槍が狙ったのは庵鬼の足場になっていた場所。

弧を描くように地面を抉っていくと足で制動をかけながら方向転換する。そして勢いを槍に乗せて叩き付けた。


(太刀では無理か……)


庵鬼は右腕で受ける。槍の威力は案の定、腕がくの字に曲がる程だった。そのまま力を入れて耐えようとする庵鬼を悠持は力尽くで吹き飛ばす。

庵鬼は柱を破壊する勢いで
打ち付けられてしまった。


「右腕は…駄目か」

(ここおッッ!!!)


悠持は槍で抉り切れ目のようなものを入れた地面を剥がし取る。それは半円球状の塊となって投げられる。しかし飛んでいった巨塊は何故か別方向に逸れてしまった。


「当たると思ったか?」

「いやこれで良い。狙い通りだ」


悠持は庵鬼の使う能力が一体何なのか、どういうものなのかの当たりを付けたようだ。 
 

 
後書き
おかしかったら申し訳ない。
(´-ω-)
まだ不調が治る気配が見えないんですよね。 

 

Drowback ruptura3

 
前書き
お久し振りです。
(・ω・)
 

 
「どういうことだ?」


神宮寺庵鬼(じんぐうじあんき)》は(いぶか)しむが、先の地面を抉って作った巨塊を投げ付けた攻撃で何をしたのか気付く。


「俺の能力を分析する為か。
そして当たりが付いたと」


神薙悠持(かんなぎゆうじ)》は素知らぬ顔で気付いていないふりをするが庵鬼の予想は正しかった。

しかし能力の分析は完全ではない。射程距離と効果範囲が不明のままだ。だがその答えは相手の口から語られることとなる。


「俺の能力は『空気操作』の類いと言われるが、自分では『キリキリ舞』という風に呼んでいる。範囲(レンジ)は半径5mってところか」


《神薙仁》を先に行かせてくれた事と言い、庵鬼は今時の若者には珍しい昔ながらな感情を表には出さず、内面で燃える古風な武人肌なのだろう。

敢えて手の内を(さら)して真っ向勝負を悠持に挑む。こんな清々しい武道精神に溢れた戦い方をする男が何故【OBJECT】に加担しているのか。


(まあそれは良い。これで能力は見破れた。肝心なのは対策をどうするかだ)


空気の操作だと言うなら庵鬼の間合いに入れば対処は難しい。しかしやるしかない。悠持が腹を括った。

神薙悠持は普段から能力を100%の出力で使うことはない。必要最低限使えば足りない分を単純な身体能力で補えたから。


「やれやれ…久々だぜ。地上(うえ)の学区をまるまる一つブッ飛ばせる力ぁ一個人にぶち込むのは」


神薙悠持が戦闘においてこれだけの力を使うのは《野口勝哉》と《的場聖持》の二人を除いては本当に久し振りのことだ。


(『能力改造(カスタムバースト)』があるにはあるが出力高過ぎるし能力の『適用概念』も制限解除するには早えぇ。あの二人にすら御披露目してねぇし)


悠持が槍を手放し陸上短距離で見られるクラウチングスタートの体勢に入ると庵鬼も太刀を鞘に納めて腰を捻る。そして体を屈めて前傾姿勢となった。

僅かでも速くする為に前のめりになった居合い斬りの構えに入ると庵鬼の気配が急激に小さくなる。

攻撃の瞬間に全てを賭けるため、直前まで力まず、それでいて力を溜めている。両者が押し黙り空気が張り詰めていく。

互いの気迫がぶつかり見えない火花が散らされている。二人は高度な読み合いで仮想の自分達が戦う姿を実際に視界へと映していた。

悠持が臨戦態勢に入ると眼球に意識が集まり始める。そこでは少し変化が起こっていた。普通の人間では一生体験することの無い異変が。


(先ず色は要らねぇ。今は特に必要となる
情報ってわけじゃねぇからな)


故に彼は視覚から色彩を遮断する。目に見える世界の色を白黒にして色彩感覚を動体視力に回す。続いて嗅覚も動体視力に回し、聴覚と味覚も切って触覚に回す。

すると白黒世界の時間が遅くなっていき、遂には流れが停滞を起こし始めた。

これは別に特殊な超能力ではないし悠持の持つ天性の反射神経とも違う。普通の人間にも出来る『感覚鋭敏集中(コンセントレーション)』によって引き起こされた意識と認識の高速化である。

本来は命の危険が迫っているような極限状態で発揮できる力なのだが悠持は天性で、《池野操作》は才能と鍛練によって自在にコントロールすることが可能。

一番近いのは表現でよくある死に際の走馬灯だろうか。自分が生きてきた中の出来事を一瞬の間に思い出して回想が出来てしまうあれだ。

そもそもそのくらい出来なければ、正真正銘の全身全霊を限られた時間に使い切る集中の極致に到れないのだから当然と言えば当然である。

そして庵鬼も初めてその領域へ踏み込んだ。神薙悠持という、過去最強の好敵手に対して(おの)が限界の向こう側へ。

二人が同時に開始線を踏み切る。あっと言う間に悠持の姿が迫る。しかし彼の動きは真っ向勝負が故に予測の範疇だった。

庵鬼は接触までの僅かな時間、(まばた)きより遥かに短い間に親指で鍔を持ち上げながら右腕で太刀を引き抜き刀を振るう。


(剣士にとって間合いは絶対。相手との間隔を姿や音で測る内は技がキレていようが剣速が速かろうが二流。一流というものは気配で測るものだ)


庵鬼は目を閉じていた。つまり彼にとっての間合いとは上下左右前後何者をも寄せ付けない。所謂(いわゆる)ところ、『剣の結界』である。

一閃──

間違いなく庵鬼は悠持の気配を斬った。しかしその姿が消える。直ぐ横に現れた気配にも既に刀を戻していた庵鬼が右薙ぎする。相変わらず目は閉じたままで。

しかしそれはAIM拡散力場と倍率上昇で爆発的に増加した人型の位置エネルギーによる質量を持った残像。

不可思議な感触に庵鬼も目を開く。すると姿が崩れていく悠持の姿があった。取り敢えず納刀して次の一撃に備える。


(能力は本来5メートルほど射程があるんだが、今は太刀から1メートル先くらいまでに絞ってるからな。その分を太刀に纏わせて威力を上げているが)


悠持は再び元の位置から真正面に突っ込む。何か策はあるのだろうか。無手の彼には初太刀を躱すか捌くかしかないであろう。


彼奴(あいつ)の斬撃は今の戦り取りが始まる前より格段に上がってる。まして今度は目も開いてる。感覚鋭敏化した現在(いま)の俺でも間合いに踏み込んだ刹那───)


鋼の銀光が疾走(はし)る。今度こそ間違いなく命中した。質量のある残像ではない。しかし庵鬼は油断せず残心に入ったままだ。

太刀を戻していた庵鬼の眼中に信じられない絵面が見える。なんと刃がへし折られていた。そして次に見たのは左腕を振り抜いた姿勢のままで右腕を後方に引き、腰を回して振りかぶった悠持。


(馬鹿なッ…!! まさか初めから俺の方ではなく、刀身の方を狙って───)


意識が飛んだ庵鬼はドミノ倒しでもするように強化コンクリートの柱を次々と砕いて吹き飛んでいく。光速で殴られたので跡形も無く消滅するはずなのだが間一発能力を自身の肉体へ集中させて無事だった。


(能力を付加した太刀をこうも簡単に折るとは…。いや待て、物打ちの一点に互いの力が瞬間的に集中すれば或いはいけるのかもしれないが……)


しかし一番の問題は其処ではない。先程まで庵鬼が研ぎ澄まされ放たれていた斬撃はAIMによる世界の歪みもあって光速を超えていた。

彼は僅かな時間ではあるが絶対能力者(レベル6)と同じく常識や物理の果てにある(きざはし)を上がっていたのだ。なのに光速までしか出ていない悠持が追い付き追い抜いたということは……。


(見せ過ぎた……か)


悠持の出していた速度では先程の太刀が鞘から抜かれ始めるのを見ていては間に合わない。つまり彼は既に読んでいたのだ。庵鬼の太刀筋を。

《騎城優斗》や《七草花夜》と戦った時もそうだが悠持は野性動物のような本能と異常に高い身体学習能力を持ち合わせている。

全ては慣れ(・・)。そして()。いや勿論ちゃんと本人も考えてはいるのだが、こと自分の戦闘になると天性が働いてしまうのは彼の(さが)だ。


「こいつは欠点、つまりはdemerit(デメリット)を持った強化(バースト)だよ。まあ使わせたお前は間違いなく強者ってことだな」


悠持は全身の筋肉が痙攣して動くのもやっとの状態だ。本来はここまで反動が来ないのだが庵鬼に応える為にわざと相殺やダメージを流すことをしなかった。


(真っ向勝負だったからな。俺も甘くなったもんだ。昔なら容赦なく殺りに行ったろうに)


しかし悠持はその甘さが嫌では無かった。遠い昔、能力者として『第0学区』に連れて来られる以前に少し戻れた気がするから。

しかし決して戻ることはない。絶対能力者になったからには正体を明かして普通の生活は出来ないのだ。まともな人間の世界はそれを許してくれない。


「止めは刺さねえよ。俺達がOBJECTを潰したらお前は足を洗って真っ当になれ。お前ならまだ戻れる」

(待ってろよ仁、今行くからな。兄貴が行くまで絶対に死ぬんじゃねえぞ。俺に約束を守らせろ) 
 

 
後書き
御待たせしました。原稿自体は最新話が来た翌日には書いていたんですが書くタイミングが無かった(汗)

今日書いている間にも予定より長くなって展開も変わってしまいましたしね……。

能力改造(カスタムバースト)は何時か出せるとは思います。または別作品で出すかもしれません。

観測者さんはどうしたんだろう?

久し振りに彼に後書き出演してもらいましょう。それではお任せしますよリーダー。

どうも、野口勝哉です。今回は悠持が頑張ったね。僕も何かさせてもらうよ。というわけでコーヒーの紹介を。
(*・∀・*)
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【グリーンコーヒー】

焙煎する前の『生豆』の状態から成分を抽出したコーヒーで、壊れやすいクロロゲン酸が効率的に摂取出来る。

コーヒーの成分の内、カフェイン、カテキン、クロロゲン酸にはそれぞれ以下のような効能がある。

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《カフェイン》

気管支を広げる作用があり、呼吸機能を改善することで『呼吸器系疾患』での死亡リスクを減少させる。

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《カテキン》

動脈硬化防止に効果があり、『心疾患』、『脳血管障害』のリスクを減らす。

日本では緑茶に含まれるのも有名。

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《クロロゲン酸》

『血糖値』を下げる働きがあり、『ホルモン』の分泌を促し、『糖尿病』などの罹患リスクを減らす。

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コーヒーの『香り』や『苦味』成分の一つである『クロロゲン酸』は《加熱》で壊れやすい為に焙煎時間が長い『深煎り(フレンチロースト等)』だと分解されてしまう。

クロロゲン酸を効率的に体へ摂取する為には『浅煎り』 で飲む方が効果的だ。しかし『生豆』で飲んだ方が、より効率的とされる。

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神宮寺庵鬼はOBJECTで3、4番目の強さらしい。それなら悠持の槍捌きに着いてこれた太刀の腕も解る。

そして次はある意味今回の決戦で最注目の飛鳥が戦うらしいね。一体誰と当たるのやら。もし彼と戦うのなら是非ともメタ視点で見せてもらわないとね。

飛鳥と彼で三羽のフェニックスが相間見えることになるのだから見逃す手は無いだろう。

ではまた出番が来るまで御暇(おいとま)させてもらうとしよう。それまで頼んだよ、みんな。
( ・∀・) 

 

Resonance

 
前書き
私にとっては今回の『STUDENT』と『OBJECT』の決戦に於いて、この二人の戦いがある意味で一番のクライマックスだと思っています。

旧版でやっていた時に叶わなかったネタバレを二年越しに出来るとは思わなかった。 

 
《影縫子規》を回復させた《桐崎飛鳥》は《神薙悠持》と《神薙仁》が進んだ方とは違うルートに入っていった。

何処へ続いているのか解らないほど暗く、僅かな光すら射し込むことが無い。それでも『ウジャトの目』を使って先に進むと鬼火を思わせる青白い炎が見える。


(やはりそういうことだったか…。どうやら此処が俺の正念場のようだな)


飛鳥がこのルートを選んだのは単なる偶然ではない。この道を進むべきだという確証があったからだ。それにはある理由が存在する。

飛鳥の有している『不死火鳥(フェニックス)』という能力は同系統で大元までもが同じだという二つの別能力があった。

一つは桐崎飛鳥の親友であり、【災禍の軍隊(ユーベル・ミリテーア)】に所属している青年《春日桜花》が持っていた『命廻天翔(フェネクス)』という能力。

この名前は《アレイスター・クロウリー》の出版した『The Lesser Key of Solomon(ソロモン王のゴエティアの書)』という本に載っている悪魔としてのフェニックスである『Phenex(フェネクス)』から来ている。

能力については飛鳥が災禍の軍隊に所属していた時に起きた事件の折に飛鳥を助けるため、桜花の意志で飛鳥へと継承された。


そしてもう一つのフェニックスが『理論不死(フェネシス)』という能力だ。このフェネシスという名前は能力名を考えついた者が、とある理由から本来の名前を変えている。

元々は古代フェニキアに伝わっている『護国の鳥』、つまりは東西南北を守護する朱雀や青龍のような役割を果たしていたという。

その名を《フェニキアクス》。この守護獣の名前を略して『フェニキア』という風に最初は呼んでいた。

それが何故、『フェネシス』という名前になったかと言うと、この不死鳥が持っている『神性(ディバイン)』と三羽のフェニックスが一つになった時に現れる性質の一つにあるものがあったからだ。

それは十字教の聖典『創世記(ジェネシス)』にも描かれている内容であり、人々はこう呼ぶ。

『天地創造』と。

『フェネシス』とはフェネクスとジェネシスから来ている名前だったのだ。


三つの能力はそれぞれが不死鳥を象徴する性質を何かに偏った形で表しており、性能ではどれも拮抗している。

そして恐ろしいことに同一と見なされる神格の性質を複数持つ。それは能力と間違われる程のものだ。

飛鳥が使っていたウジャトの目もその一つ。

『不死火鳥』は『火を操る』という性質を強く引き継いでいる。『攻撃型』とでも言えば良いのだろうか。

この三つの能力は一つの存在を分割されて受け継がれているので再び一つに戻ろうと惹かれ合う。


(この先に俺が捜してた奴が待ってるのか)


飛鳥は二羽の不死鳥の内、『精神』の不死火鳥(フェニックス)、『魂』の命廻天翔(フェネクス)を宿している。もうすぐで完全体となったフェニックスを目にすることが出来ると思うと否応無く昂ってしまう。

青い鬼火は飛鳥をそのまま広場まで導くと消えていく。しかし直ぐに仕掛けられていたかのように広場の端へと青い火が灯り、順番に点火されて照らしていく。


「久し振りだな桐崎飛鳥」


奥には一人の青年が立っていた。


「俺は何処の誰だか名前も知らん奴と
久しくした覚えは無いぞ?」


飛鳥の言っていることは正しい。しかしそれはある意味間違っている。


「ハハハ、そうだな、それもそうか、無理もない。『裁きを下す断罪の不死鳥(ジャッジメントフェニックス)』の時はお前と春日桜花は俺の姿を見ていないんだったな」


飛鳥はその名前にピクリと眉を動かしたが平静を保ったまま青年と話を続ける。


「そうか…。お前が桜花の反応していた『理論不死』の宿主か……。ということはあれから能力者の代変わりはしていないということだな」


青年は手の平から青い炎を発する。


「俺の名は《鬼立(きりゅう) 修冴(しゅうご)》。その網膜と鼓膜に焼き付けときな」


「そんなアピールしなくても良いぜ? もう把握してる。何たって『同種』の臭いを辿って此処まで来たんだからなあ」


修冴は狂気の笑みを見せると青い炎翼を現出させて浮かび上がる。まるで堕天使のようだ。


「き~り~さ~き~。
フェニックスを寄越せえぇぇぇ~!!!」

彼は飛鳥に向かって飛びながら火の飛礫(つぶて)を翼の周囲に浮かび上がらせる。


第一灯命之火(ファーストフレイム)


すると火の飛礫は造形を小さな青い火の鳥と化して、宙を舞うように様々な角度、方向から飛鳥を強襲する。


第一灯命之火(ファーストフレイム)


すると飛鳥も呼応するように赤い炎翼を顕現させ赤い炎の羽毛を発射させた。

それは小さな赤い火の鳥となり、小さな青い火の鳥と互いの身をぶつけて(ついば)み掴み、燃やし尽くそうと喰らい合う。


「性質は違えど同系統で起源も出力も同じ。それが衝突して比べ合うなら相殺するのは必然だ。付け加えるなら俺は二羽の不死鳥(フェニックス)を宿す。単純な力の総量でも必然的に勝ちは決まったも同然だろうって思うんだけどなあ?」


飛鳥が煽る。どう言い(つくろ)っても覆せない正論であり、正直な話、贔屓(ひいき)目に見ても修冴に勝ちがあるとは到底思えない。


「いちいちうるせぇ野郎だ。真剣勝負に言い訳するのは『弱者』の負け惜しみだろうが。それならいっそ潔く俺の手で逝きやがれ」


修冴の背後に見える青炎の翼は光を増す。それは彼の行き場の無い憎悪、やり場の無い憤怒が凝縮し具現化したかのようだ。


「一体何が其処までの憎しみを与えたって言うんだ? お前が『OBJECT』へ入るまでに至った原因は何なんだ?」


飛鳥の疑問に止めどなく、やるせない負の感情が渦巻き震えるような声で修冴は(こだま)のように返す。


「原因、か……。そんなもの(・・・・・)『学園都市』以外に何があるってんだ?」


彼の青い炎は少しずつ暗くなり黒味がかっていく。人間が持つ闇と負の側面と悪魔の部分が強すぎるあまり、『火』というものの在り方まで歪み始めている。


地上(うえ)でのほほんと安穏(あんのん)無事に、平和に浸かって暮らしてる奴は知らねぇ。絶対に解らねぇんだろうな。『存在』を消されて無かったことにされる恐怖や絶望ってやつを……!」


修冴が歯ぎしりする。


「どれだけ望んでも、どれだけ憧れても、どれだけ焦がれても…俺達は彼処(あそこ)で生きる権利を持てないんだぞ……!?」


彼の翼はどんどん濁り、ドス黒くなっていく。

飛鳥は彼の言葉で思い出した。学園都市への恨みは少なからず彼も持っていた。しかしそれは『STUDENT』で生活する日々によって過去の事だと忘れられつつあったのだ。


(そうだ…。こいつは桜花と出逢う前の…。そしてSTUDENTに入る前の俺だ!)

「お前のような甘っちょろい平和ボケした奴が…。学園都市への恨みを忘れた腑抜けが生意気にも、俺の前に立ち塞がってんじゃねぇぞ!!!」


修冴は感情を激しく爆発させて
飛鳥に想いの丈をぶつけた。

『不死鳥』をその身に宿す彼等は最早、概念的に『人間』ではなく『人間だった者』になっている。

そうなった理由がどうであろうと彼等ほど救われない境遇もそうは無いだろう。


頑健乃丈理論(セカンドフェネシス)


修冴の体に青黒い炎が絡み付き、それが満遍なく包み込む。そして右手には青い焔の剣。

それは何かを熱したり
燃やすための火などでは決してない。

静かに仄暗(ほのぐら)く、灰と化すのではなく溶かす事を目的とした完全燃焼の炎。


「熔岩すら凍らせ太陽をも()て付かし、炎熱地獄すら震わすほど(こご)えさせ、黒き煉獄すら永久氷壁の中に閉じ込める蒼碧の絶対零度。その青い炎を刃と成して俺の意志を()め。眼前の弱者を斬り捨てろ」


修冴は感情を己の内に抑え静寂の徒となる。

広場には二人の放った炎が所々()べられ燃え盛っているというのに気温がどんどんと下がっていくように感じられた。

その研ぎ澄まされた鋭い殺意と闘志、覇気は広いフィールド全体に影響を及ぼし始めている。

互いのAIM拡散力場、そして内なるフェニックスが放つ波動で空気が破裂し衝撃を巻き起こす。

それだけでなく両者の存在そのものが世界を歪め、無意識に垂れ流す気配がOBJECTの本拠地を軋ませ広場のあちこちを弾けさせながら力の拮抗で亀裂を走らせていく。


「ここからが本番だ。行くぜ桐崎飛鳥」

「御託は良い。掛かってきな。俺がお前を全部まとめて喰らってやるよ」
 
 

 
後書き
理論不死が防御型ぽかったのでフェニキアクスを見た時にこれだと思いました。

「飛鳥のやつ、わざわざ僕とウジャトの目を繋がなくてもなあ。ま、お陰で全部見えるんだけどね。ところでやっぱり貴方も居たんですか、《観測者(オブザード)》?」
( ゚ 3゚)

「うん。桜花君と同じで私も二人の戦いを見逃すわけにはいかないからね。君もそうなんだろう? 皇皇君」
( ・∇・)

「まあ、な。俺は『完全体』フェニックスは兎も角として、『神群体』に目覚めるかが問題なんだよ。夢絶とジェネスのこともあるし、フェブクスと言えど限度があるからな」
(;゜゜) 

 

No se adapta a entender

 
前書き
サードソレイユに漢字を付けたは良いんですが微妙になってしまったなあ。 

 
《桐崎飛鳥》と《鬼立修冴(きりゅうしゅうご)》の戦いで【OBJECT】の拠点が軋み悲鳴を上げていた頃、入り口では《的場聖持》が【STUDENT】の後詰めとして門番に付いていた。


「あ、あれは…」


其処へ誰かがやって来る。どんどんと拠点に近付いてくる。そして───


「やあ。久し振りだね聖持君」

「何故ここに…。まさかあの人も?」


姿を現したのは【災禍の軍隊(ユーベミリテア)】に所属をしている色白の肌とピンクの髪をした男の娘っぽい外見の美青年。

名前は《春日桜花》という。彼は元フェニックス能力者の一人で【命廻天翔(フェネクス)】の宿主だった。

聖持は以前、STUDENTとの決戦で勝利し彼等の目的だった【学園都市レベル化計画(LEVEL SYSTEM PROJECT)】を阻止した後で地上の学園都市に戻れなくなってしまっていた事がある。

其処を【GROW】の《島崎向子》に保護され彼女の元で仕事をしている内に災禍の軍隊と出会うこととなった。


「確かにウチのリーダーがこの近くまで来ているけれど『水』に関わる能力者が居ないなら此処には来ないよ」


それを聞いて聖持はホッとした。あの人が来れば、味方なら助かるが敵になるとどうなるか解ったものではない。まあそんなことは滅多に無いのだが。


「じゃあ桜花さんは何故OBJECTへ?」

「飛鳥の様子を見にさ。どうやらフェニックス同士が戦ってるみたいだからね。手を貸すつもりは無いけど『ウジャトの目』を貸してくれてるから見えちゃうんだよ。あの二人の戦いがね」


手を出さないと言うのなら行かせても大丈夫だろう。それに彼と聖持が戦うとなると面倒な事になる。

桜花は『神依(かみより)』と言われる特異体質を持っており、神や悪魔が寄って来やすい。

その性質の為にフェニックスを喪った後でインド神話最高神の一柱[ヴィシュヌ]がヴァーハナという乗り物にしている『ガルダ』を宿していた。

それは炎のように光輝き熱を発する神鳥。

彼は蛇や竜のナーガ族を常食し、その存在は産まれて直ぐ神々を震え上がらせる程だった。

そして天の神軍を払い除け、神々を打ち負かし、三界の神王たる[天帝インドラ]が誇る最強の武器ヴァジュラでも掠り傷一つすら付かない強さを持つ。

その力と勇気に感動したヴィシュヌが彼の願いを叶えて不死とし、ガルダはヴィシュヌに仕えることを誓ったのだ。

もし聖持と全力で戦えば只では済まない。


「元々の力を比べてフェニックスが三羽居たところでガルダに勝てるはずが無いんだけど、あのフェニックス達は神話の壁を越えてるんだよなぁ~」


そう言って桜花は拠点の奥を見る。


「止めませんよ。貴方なら信頼できますからね」

「済まない。僕は結末を見届けたいんだ。どんな形になったとしても……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


鬼立修冴は脚で大気を踏み掴み、翼で大空を翔けながら豪風のように迫る。そこから既に振り上げられた炎獄の蒼剣を垂直に墜とす。

その攻撃を桐崎飛鳥は赫灼(かくしゃく)の紅翼で体を包んで守ることで防ぎ止めて見せる。

フェニックス能力者の操る炎は気体のような通常と同じ性質に留まらない。実体や質量を持たせることで優れた防御力を発揮し炎剣なども形成できる。


「その程度で俺の刃を受けられたと思うなよ…。このままぶった斬ってやる!!」


修冴が持つ蒼炎の剣が飛鳥の赤い炎翼を見事に両断した。が、それは飛鳥がわざと刃を通させたに過ぎない。

剣を振り切って技後硬直したところを飛鳥の赤炎剣が斬る。修冴の両腕が回転しながら落下していく。


「チィッ! まだだッ!!」

紅蓮苛烈ノ双爪翼(セカンドフェニックス)


両の(かいな)を喪っても諦めない修冴に飛鳥は二つ目の力を解放しながら頭部へと流れるように斬り払う。しかし炎剣が当たる瞬間に実体が無い炎となり、刃への手応えが来なかった。

修冴が炎になったものは分散して飛鳥と距離を取ると元の通りに人の形となる。


(腕は元通りか。流石フェニックス)


修冴の『理論不死(フェネシス)』は三羽の中でも『防御』に長けた性質を持つ。もし先程とは逆に、飛鳥が炎剣で翼を斬ろうとしても刃を通すことは出来ないだろう。

理論不死の名が示す通り、現在の世界に存在する『まともな方法』でダメージを与えられることは皆無である。

故に確実なのは同じく不死鳥の能力者か、一定以上の『神性(ディバイン)』を使うのがベストな選択だ。


(防御力の延長線上に治癒力の向上も含まれている。治癒能力は『命廻天翔(フェネクス)』が最も優れているわけだが、だからと言って理論不死も治癒力が低いわけじゃないしな)


三羽は

『攻撃』の《不死火鳥(フェニックス)

『防御』の《理論不死》

『治癒』の《命廻天翔》

に分類されている。

特に命廻天翔は一羽しか宿さない状態で第四の力を開放しても、戦えなくなるが動けるぐらいの再起が可能。それでも無理が祟れば反動が蓄積し、他の二羽と同様死んでしまう。

つまり三羽で強さの序列を表すのなら、命廻天翔が最も厄介で、その後を残りの二羽が拮抗している。


「気ぃ抜いてて良いのか?」


飛鳥が声に気付いて意識を向けた。総身が震える程の殺意が走る。再び修冴が蒼炎の剣を振るうと飛鳥は紅蓮の剣で受けた。

その一撃は二人を包み、見えなくなる程の爆発を起こして青嵐を吹き散らす。


「ぐぅッッ…!?」


飛鳥は堪らず後退させられてしまう。しかし修冴に変化は無い。自分の炎で自滅することは無いのだから。


衝波爆流旋(イムプヌダール)


『火』を操るフェニックスは爆破を操作することも可能。頑丈で堅固なものは大体が威力で吹き飛ぶ。

爆煙を切り裂くように飛鳥が飛び出すと息を荒くしていた。彼の持つ『不死火鳥』は三羽の中で最も攻撃が得意な代わりに治癒力が最も低い。


「さ、流石に…。今のは、
ハァッ…。効いたぁ~……」


飛鳥が無事に動けるのは宿しているもう一羽の能力『命廻天翔(フェネクス)』が三羽の中でも一番秀でている治癒の恩恵を与えているから。

不死火鳥だけでは正直危なかった。


(まったく難儀なことだ。三羽の中で一番運が無いとされるだけのことはある。他の不死鳥が助けないとあっさり崩れるな…。まあ攻撃に注力していれば強いんだが)


そんなことを考えている間に飛鳥の傷口は塞がり体力も戦闘に支障が無い程度に戻った。

様子を眺めていた修冴がギリ…と歯の音を鳴らして苦い顔をする。思わず顎に力が入り食い縛ってしまう。


(やはり二羽を相手にすると第二段階の力では倒し切ることは出来ない…か)


一方の飛鳥は決着を付ける為に神性(ディバイン)を使い、右目を『ラーの目』、左目を『ウジャトの目』に変容させた。


「精神世界以外でこいつを使うのは初か…?」


彼は生成した火と熱を凝縮し一つの火の玉を作る。そこへ延々と力を込めて注いで送り続けながら、ひたすらに圧縮を重ねていく。


(……何だ…あれは……?)


修冴は唖然呆然とし、顎が外れたように口を開く。というのも三羽のフェニックスが有した能力は強力であるが故に幾つかルールが設けられている。


大まかなものは二つ。

自身が所持する不死鳥の数より一つ多い段階までしか力を解放することが出来ない。

能力の強度は段階を経て強化されていくので順番に解放させなければならない。


修冴はこの二つによって未だに第三段階の技を発動させたことが無く、見たことも無かった。

飛鳥は頭上に腕を伸ばす。彼の手の平の先には熱が高まったせいで真っ白に輝く炎の光球がある。それはやがて膨張を始め、何メートルあるか判らないほど巨大になった。


昇参乃白来陽(サードソレイユ)


真夏の陽炎、砂漠の蜃気楼より視界の光景が歪む凄まじい熱と光が放射されて(またた)く。

普段の修冴なら発動を阻止するが彼の中では正反対な意志があった。この技と力を正面から真っ向で受けることにより不死鳥の力を試そうとしている。


(三羽が揃えば絶対的と言われるフェニックスの異能。桐崎は俺よりも強い力を扱うことが出来る。なら、その力が何れ程のものか俺が試してやるよ)


修冴は蒼炎の翼で全身を包むと硬質な鉱物のように変質させた。これが不沈の金剛壁、難攻不落と言われ、現代では傷一つ付ける技術も無いと理論の上で語られた『理論不死(フェネシス)』本来の防御形態。

その凄絶(せいぜつ)な防衛力は『SUBJECT』の《イオ・メドヴェキア》が持つ【守護星霜(ラグナス)】、『fortress』の《御臼来未(おうすらいみ)》が持つ【布地硬化(ガーディアンクロス)】をも凌駕する。


「万物もろとも天壌の白き聖火で()き尽くせ。光に呑まれて(ちり)(あくた)も遺さず逝け果て」


飛鳥に投げ下ろされた小さな太陽にも見える昇参乃白来陽(サードソレイユ)は修冴に接触すると、高密度に練り込まれた力が壮絶な勢いで放出される。

それは大地すら蒸発させて掘り返してしまうプラズマをも上回り、正面から受け止めた修冴は原形を留めているが重症を負って動けない。

二人の衝突がOBJECTの拠点を激しく揺るがす。


「……これは……決まったかな?」


春日桜花は烈火が渦巻く灼熱の焼地へと歩みを進めながら想いを馳せるのだった。 
 

 
後書き
折角なので桜花君を来させました。

災禍の軍隊リーダーの斗浪さんは気を失っている宗嗣(そうじ)君(苗字不明)の方へ向かってます。

旧版の水器君と水系能力者の組織アクアリウムにあった設定を引き継いでいると丸く収まる可能性が高いです。

ラーの太陽の右目とウジャトの月の左目は二つ揃ってホルスの目ともされています。

この話のフェニックスが持つ神性の一つに過ぎません。まだまだ別の神性を有しています。

──────────────

鑑賞者(エスペクト)

傍観者(バイス)

観測者(オブザード)

審判者(ジャッジ)

破壊者(クラッシャー)

皇皇さん

終夜さん

シリウスさん

統括官(キング)

涼峰君

ロウ

神剣勇

(この戦いを見てる面子がやばすぎて作者が非常にコメントしにくいぞ。漆黒魔球のキャラや勇君居るし。あ、勝哉君なら大丈夫かな?)
( ; ゚Д゚)

(いやぁ~…。僕の方としても久々に龍実君とは話をしたいんだけど、無理だよこれ)
( ゚ε゚;) 

 

No responder a cabo

 
前書き
意外な決着。 

 
昇参乃白来陽(サードソレイユ)の攻撃を受けた《鬼立修冴(きりゅうしゅうご)》は命からがらではあるが、何とか立ち上がった。そして嬉しそうに口元を吊り上げる。


「…こいつが第三段階まで至った『不死鳥』の力ってやつか…。これより先があるとは思えねえ力だった。これなら手にする価値も甲斐もあるってもんだ……」


修冴は回復すると蒼翼を生やして炎に包まれる。そして両手を前に出すと燃え尽きる蝋燭が激しく揺れるような球体を作り出した。


「こりゃ制御が大変だ」


《桐崎飛鳥》は直ぐに理解できた。修冴の体からは煙にも見える光が立ち昇り表情は険しくなる。


(これが負荷なんだな。体が風に吹かれる炎みたいに不安定だ。人形を保てなくなりそうだぜ)


修冴はフェニックスの能力が持つシステムに逆らって本来は使えないはずの第三段階に手を出した。


「自滅する気か!?」


飛鳥の声を聞かずに修冴は
青い光炎の球体を自分より大きくさせていく。


(こいつは俺を倒せるなら命の危険を承知で仕掛けてくる。お前の覚悟は見せてもらった。良いだろう、俺も応えてやろうじゃないか)


飛鳥が吹っ切れる。すると彼の体から今までと比較にならない程の炎が噴き上がり、光の白煙が昇り出す。


「見せよう。不死鳥の到達点を。最後の技を」


飛鳥は自身に宿る不死鳥から最後の技が何なのか正体を聞かされていた。

実は不死鳥、フェニックスの能力として語り継がれ、伝えられている三羽の火の鳥とは名ばかりの不死鳥。本来的な力で見たならフェニックス以上となる。

それ故に彼等の能力はルールが存在し、ルールを破れば不死鳥の補正でも反動を消しきれない。


◆◆◆◆◆


数ヶ月前のことだ。

飛鳥は不意に己の精神世界へ引き込まれた。

不死鳥の能力は『憑依』と『合成』という表し方が正しい。フェニックスの側にも自我があり、テレパシーでの会話が可能である。


「契約者よ。運命の時へ向かって着実に針は刻まれている。話すべきは今」

「内容の察しは何となく付いてるけどな」

「そうか。ならば答えを教えよう」


不死火鳥(フェニックス)が行った解答は飛鳥の予想と同じだった。最後の四つめとなる技について。

飛鳥は此処へと辿り着く以前から
不死鳥の能力に疑問を持っていた。


1・何故能力に『反動』があるのか

不死鳥の能力だと言うならば不死鳥を宿す飛鳥が使いこなせるのは当然のはず。しかし現実はそうではない。

反動が無いという真実にならず、十割を引き出し十全に使いこなすという概念に至らない。

使う上で制約がある。


2・なぜ段階を踏むのか

ルールを作ってまで段階的に力を解放する構造には幾つか理由が考えられる。

不死鳥が自身の力を制御できない。

不死鳥ではない力の場合。


飛鳥は後者の『不死鳥でない力』と考えた。それには技の名前も影響している。

例えばだが『不死火鳥(フェニックス)』の場合で見るのならば、【紅蓮苛烈ノ双爪翼(セカンドフェニックス)】。

理論不死(フェネシス)』なら【頑健乃丈理論(セカンドフェネシス)】。

最後の技は四つ目にも関わらず、二つ目の技でそれぞれの能力に宿る不死鳥を象徴する名前が出ている。

段階が進んで強くなるのだとすれば、二段階目のフェニックスより力が有るものになるだということは想像が付くだろう。


「御主達、我等の契約者は不死鳥が持つ真価と最大の力を『治癒』、そしてある意味での『不死』と捉えているが否。それは断じて違う」


異を唱える不死火鳥に飛鳥は正しい解答を得るため静かに耳を澄ませ聞き入る。


「三羽の不死鳥たる我等はあくまでも(しゅ)が持つ一つの力を分けた存在に過ぎない。つまり不死火鳥は『矛』、理論不死は『盾』、命廻天翔(フェネクス)は『鎧』としての役割を成す」


飛鳥は何故三つの能力に差があるのか理解した。役目が違うからだ。

「なら不死鳥が言う『(しゅ)』とは何だ?」


答えはこの質問にある。


「主の放つ黒き炎。それこそ我等が到達点。偉大なる尊き天主の名とは……───」


そして飛鳥は精神世界から帰還した。


◆◆◆◆◆


煉獄不屍凰(フォースミステリオ)・【黒日冠照光天(アマテラスオオミカミ)】」


黒い───

幾重にも積層し濃厚となった重苦しい暗闇が神々しく輝いているようにさえ映る禍々しい炎。

それを放出する飛鳥の炎翼も冥府の底から常闇を引き出したように漆黒となり、叢雲が如く展開される。

それに合わさるように修冴の方も技を出す準備が完了し、その力を撃とうと構え終わった。


昇参乃白来陽(サードソレイユ)!!」


修冴(しゅうご)の放った白い太陽のような球体は膨大な熱を撒き散らして爆発を始めたが、飛鳥の黒炎は火で火を燃やし焼き払うように。

いや、存在する場もろとも怖気が走る程の瘴気と魔性を以て修冴も巻き込んでいく。


「馬、鹿な…。こんな、はず……」


跡には灰すら残らなかった。


(フェニックスの力ならば、寿命に達するまでは簡単に死ねないはずだ)


飛鳥は命廻天翔(フェネクス)の治癒で自滅を免れていた。そして気を抜いた途端、意識が引き寄せられる。


(共鳴か。早いな…)


◆◆◆◆◆


「契約者たる桐崎飛鳥。最後の審判だ」


飛鳥の後ろには赤い色をした『不死火鳥(フェニックス)』と黄色の『命廻天翔』。前には青い『理論不死(フェネシス)』が鎮座する。


「理論不死は俺に宿るのか?」

「いえ、私は修冴の元に残ります。そちらには主に仕えた二翼が()られますしね。それに私は修冴を新たな主と考えています。故にこのまま彼に尽くさせて頂く」


実直で忠誠心に溢れる解答を得た飛鳥はそれを受け入れることにした。


「三羽揃えども一つにはならず。未だ完全体への到達は出来ず、か……」


◆◆◆◆◆


飛鳥は精神世界から戻ると起き上がる。部屋の奥には通路が続いているのが見えた。


「そう簡単には休めないってことか」


次の敵がどんな奴かは解らないが、()じ伏せるのみと考え歩き出す。


「俺は自分で答えを探さないといけない」

「そだね。鬼立修冴は暫く起きないし」


思わず飛鳥が振り返る。そこには(かつ)て飛鳥に命廻天翔を受け継がせた《春日桜花(かすがおうか)》が居た。


「やっほー。来ちゃった♪」

「来ちゃった♪じゃないだろ……。まあ良い、歩きながら話そう。着いて来てくれ」

「は~い」


■■■■■■■■■■■


「まさか黒日冠照光天(アマテラスオオミカミ)を使うとは飛鳥もなかなか無茶をするよね」

「完全体への道は遠のいたけど後悔は無い」


飛鳥はすっきりした顔をしている。


「ところで桜花は何の目的でこんな所まで来たんだ?」

「もちろん結末を見にだよ。フェニックスの完全体を見たかったけど飛鳥が納得してるなら構わないや」

「そうか。それは悪かったな」

「その代わりに用事が出来た」


飛鳥が首を捻る。


「フェニックスを『完全体』にするには三羽が必要だけど、『神群体』にするには一羽居れば良いんだよー」

「 」

「まあ固まるよね。けどまあ一羽だけでは厳しいから二羽が居て良かった」

「どういうことだ!?」


飛鳥は桜花の肩を掴んで揺さぶる。


「落ち着いて落ち着いて。飛鳥も知ってる通り、三羽のフェニックスは『習合』や『合一』って言って、同一と見なされたり関連がある存在の『神性(ディバイン)』を持ってる」


桜花の言葉に飛鳥が首肯く。二人が使うウジャトやラーの目がその神性の一つだ。


「三羽の内、足りない分を特定の神格から持ってくるか宿主の力を上げて穴埋めする事で完全体を超えた神群体が可能になるんだよ」

「宿主に必要な力はどれくらい要る?」

「出来るならアレイスターと同等くらいになるかな。つまり『ホルスの時代』だね」


飛鳥の頭が痛い。

あれと同じくらいになれと言うのか。


「神群体が完成した場合の纏め役として、ホルスの時代に良い神格が二柱ほど居るんだよ」

「考える事が多すぎるな……。まあ詳しい話はまた今度にしよう。で、桜花はOBJECT退治に付き合ってくれるのか?」

「別に良いけど災禍の軍隊(ぼくのところ)のリーダーが近くまで来てるよ」

「え、斗浪(となみ)さん来てるの?嘘!?」
 
 

 
後書き
本家フェニックスの本体が明らかになったことですし、私の方の神群体と関係ある神格、神性の全部を何処かに書いた方が良いかな?

何故太陽の神である天照が黒い炎を扱うのかを自分なりに考えてみました。

上とは関係ないのでしょうが、赤黄青は混ぜると原理的に黒くなるそうですね。 

 

Por esta vida de su

 
前書き
抹消者の方はどうしようかな。

 

 
池野操作(いけのそうさく)》は《箱部鈴菜(はこべりんな)》を抱き上げながら暗く続く通路を進む。一体何処に通じているのか解らない上に敵の拠点ともなれば神経を磨り減らしながら行かねばならない。


「操作様、私はもう歩けますから……」


鈴菜の言葉を危機ながらも操作は抱えたまま歩く。鈴菜の方は恥ずかしいのか顔を赤くしている。


「鈴菜さんは無理をする。他人の為なら自分が傷付いても良いと思ってる。自己犠牲の精神は尊いけど、度を超したら只の害悪だ」


鈴菜は反論しない。両親を亡くした夜から誰より自分を見ている操作が言うのだから。普段は鈴菜にあまり意見しようとしない彼が苦言を呈すのだから余程なのだろう。


「自分のことを排した善性は偽善より怖い。人間が持つようなものじゃない。だから……」

「だから?」


鈴菜が続きを聞こうとするが操作からは上手い言葉が出なかった。その内二人の前に分かれ道が現れる。

操作に鈴菜が別れて進もうと提案した。


(彼女なら能力者相手に牽制は出来るだろう。能力無しでも強い方なわけだし)


操作は彼女の案を採用して先に進む。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


鈴菜が一人で暗闇を進む。

実を言うと彼女が何でも自分の力で解決しようとする癖は操作と出逢って過ごす日々の間に身に付いた。


(あの人に助けられるだけでは駄目。彼に寄り添って困った時は手を()き目の代わりに成れてこそパートナーの意味がある)


鈴菜が歩いていくと広場に出た。

そこには一人の(たくま)しい男が居る。


「おぉ? ハハッ、女じゃねぇか。こいつは運が良いな。当たりを引いたのは俺の方か」


彼は舌舐めずりしながら両手の指をわきわきさせた。その姿からは如何にも品が無い下劣な(やから)だと嫌悪感を覚える。


「私は先に進まねばならないのです」


鈴菜は殺気を放ち、威圧しながら構えた。

男の方は二王立ちのまま動かない。

彼女は一気に間合いへ入り拳を当てる。


「無力撃・終の型(おわりのかた)


鋭く研ぎ澄ませた『気』のようなものをぶつけて相手の脳へと瀕死の一撃を受けたように誤認させる。男は意識を失うように白目を剥いた。

鈴菜は気を緩めて部屋から出ようとする。


「まーだだよ」


彼女の腕が掴まれた。振り返ると背筋がゾクッとし、髪が逆立ちそうな笑みを浮かべた男の姿。

彼は指に力を入れて鈴菜の腕を握り直すと軽い人形でも振り回すように柱へと叩き付ける。


「かふッ!?」


彼女は全身の力を抜いて脱力し、無理矢理ではあるがかろうじてダメージを受け流す。


(完璧に流せなかった……!)


床に落ちる途中の鈴菜へ向けて男が蹴りを放つとサッカーボールのように飛んでいく。


(終の型は確実に決まったはず。なのに何故あの男は普通に動くことが出来るの……?)


精神が肉体を凌駕しているなら有り得るだろうが、そんなことを出来る人間はそうそう居るものではない。

能力かと思った鈴菜は【異能殺し(エスパーブレイカー)】を発動させたが男に()したる変化は見られずヘラヘラ笑っている。


「能力者と思ったか? 残念だったな」


男は大鎌を振るように外側から腕をしならせ曲線的な軌道でフックパンチを放った。

側頭部に喰らい真横へ吹き飛ぶかに見えたが、鈴菜は強引にヒットポイントをズラしてダメージを減らしながら転がっていく。


「勘違いさせて(わり)ぃが、こう見えても俺はレベル0の無能力者なんだよぉッッ!!」


今度は転がった鈴菜に向かって走り、
勢いを付けたまま背中を蹴っ飛ばす。

彼女も実家で『箱部流』を学んでおり、それを操作と居る間に磨いたはずなのだが押されている。

男は慈悲の無い一方的な猛攻を仕掛けていた。


「俺はなぁ…。生意気な女を見ると、(なぶ)り倒したくなる性分なんだよぉ。テメェはメッタメタのグッチャグチャに殺してやるから覚悟しとけ」


鈴菜は自分の意識が遠ざかっていくのを感じる。


(操作様……)
 
 

 
後書き
「このレベル0さんやりますね。私が知らないキャラですよ。鈴菜さんを追い込むとは」

「鈴菜……」

「あ、そうか。(えん)姉さんは宗次郎さんから箱部流の技法を受け継いでるんですよね」

「昔は彼女のことを御嬢様とか鈴菜様とか呼んでいましたよ。あの方が私に呼び捨てにしてほしいと言ったので止めましたけど」

「助けに行きますか?」

「そうしたいのはやまやまですが、その必要は無いと思います。もし彼が間に合わないなら私が出ますけど」

「SUBJECTの意に反しても、ですか」

「彼女は学園都市が在ろうが無かろうが死んで良い人間じゃない。それに私は可愛い妹弟子を見捨てるほど情を捨ててないし割り切れる人間じゃないよ」

「んにしてもレベル0の人、体技か何か使えるのかな?鈴菜さんの技を喰らって無事だし。まあいざとなれば、操作君にISモード使ってもらいますけど」 

 

Stain in blood

 
前書き
サクサク行きます。 

 
《箱部鈴菜》と別れて数分後、《池野操作》が拓けた場所に出る。そこには操作よりも体格がずっと大きい男が待ち受けていた。


「あら。これまた可愛らしい坊やじゃない。どんな風にもてなしてあげようかしら」


その(いか)つくゴツい容姿には到底似合わない口調に操作は思わず引いた。無理もないが。

操作は暗殺組織のAnaconda(アナコンダ)に居た頃に多くの人間と性質を見てきたが、この男は命の危険とは違う意味で関わりたくないと思う。


「悪いが僕は、そっちの趣味嗜好に付き合うつもりは無いんだ。早々に終わらせよう」


操作が腰に差した小刀の【鈴花(すずばな)】を逆手で引き抜くと左手に持ち、青白い刀身に光を映して男の腕を狙う。

這うような前傾姿勢で蹴り込みながら、右へ左へ鋸刃(のこば)を思わせる鋭角移動で間を詰めていく。

一撃の重さや瞬発力では同じ『STUDENT』の《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》に敵わないが、暗殺者時代に培った気配操作、鍛えた俊足、身に付けた歩法は相手を翻弄する。


「せっかく好みの()が来たんだし、直ぐに終わらすのは勿体ないわよね」


男が攻撃体勢に入る。視線が合うと視界に捉えたようで、速さが拮抗してきた。


「それじゃあ遠慮なく!」


男が操作へ手を伸ばす。しかし、彼が触れるまでの間に距離感を狂わせて操作は逃れる。気が付けば男の腕に斬り傷が付いていた。

操作の斬撃速度と技のキレによって痛みが遅れたのだ。もし痛覚が働かなければ男は斬られた事に気付かなかったかもしれない鋭い動きだった。


「どうしたのかな? その腕は飾りかい?」


操作が煽ると男の体に血管が浮き出る。そして斬り傷を筋肉で止血させた。先程までとは打って変わって凶暴な顔となる。

彼は短距離走を始める時のような体勢になって思い切り地面を蹴り、猛烈に加速しながら操作に近付く。


「もらったわよッ!!!」


男のパワーは防御ごと踏ん張りを引っこ抜いて操作を吹き飛ばす。そして男は飛んでいく操作に上から蹴りを喰らわせた。


(左腕が折れたか!!)


動きの止まった操作の頭を男が掴んで持ち上げる。


「トマトみたくブシュッといくわよ」


万力のように締め付ける感覚に意識が薄れていく。


(ここで…終わるのか。ごめん鈴菜さん……)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「とまあそういう夢を見ているわけだが」


立ち姿で動かない男と操作が向かい合っている。男は無意識の内に操作の能力で有利に戦っているように錯覚させられていたのだ。


「少しすると頭にこびりついて離れないような悪夢を味わうことが出来ると思うよ」


操作は広場を見て回った。奥へと進む道が無い。


「鈴菜さんの様子は……!」


感知すると彼女の生体反応が低下していた。


「くそっ、罠か!」


操作は来た道を戻って全力疾走する。息も吐く暇が無い。後ろから男の絶叫が響くが知ったことじゃない。


(間に合え!!!)


操作が鈴菜の居る部屋に辿り着いた。そこには彼女を足蹴(あしげ)にしながら笑う男が見える。


「鈴菜…さん…!」


操作は体から血の気が引いていくようだった。

 
 

 
後書き
工藤雅臣が名無しになりましたか。

残りのOBJECTは何名かな?

そして操作君の本領とは。 

 

Desire

 
前書き
番外編以来に彼の出番です。 

 
目の前にある光景に《池野操作》の時が止まる。実際には極僅かな間ではあったが彼には一瞬が無限に続くかと感じた。

反射的に小刀の『鈴花(すずばな)』を抜き、《箱部鈴菜》を踏む男へと斬り掛かっていく。しかし殺気に気付いたのか直ぐに操作の方を向いた。そして刀身を払い除けてしまう。


「んぁ?てめェ……」


男は弾き飛ばした操作が腰に差している鈴花ではない小刀を見て、彼が誰なのか気付いた。


「こんなとこで会うとはなあ。IS(イズ)


その名に顔が強張った操作は他人の振りをするが男は変化を見逃さなかった。


「余所余所しいなぁ。悲しくなっちまうぜ。俺を覚えてないってこともねぇだろぉ?」


そう言われて男の顔を見る。頬には鉤爪で付けたような傷があった。操作は『Anaconda(アナコンダ)』に居た頃の記憶を辿り、何度か見掛けたのを思い出す。

彼はAnacondaにおいて『拷問官』をしていた。新米で日が浅く、若い暗殺者を従順に躾ける為に非情な拷問を行う。命を落とす者も少なくなかった。

当時の操作は『人の死』というものに対して特に思うところは無く、男の役目にも疑問を感じなかったが、今となっては何故そんな風に考えたのか疑問を覚えるほど痛ましかった。


「確か《無名の拷問官》だったか」


操作の語気が少し荒い。鈴菜を踏んでいた男に対しての怒りから来るものだ。今すぐ彼女を助けてコイツを切り刻んでやりたい。


「そうだ。Anacondaでは暗殺者にしか名が付かないからな。マスターに心から忠誠を誓っていたのに顔すら覚えてもらえなかった」


組織のボスであるマスターにとって名前が付いている暗殺者とは我が子のようなもの。名無しの拷問官など覚えるに値しないという考えであった。

しかし男はそのようなマスターに対して忠誠を誓っていたのだ。そんな彼の胸中は簡単に他人が察せるような単純なものではないだろう。


「俺は覚えてるぜ。あの方に寵愛され、実の息子だった《EVE(イブ)》よりもずっと大切にされていたお前を…。何処まで行っても何時まで経っても報われない俺は、求めずとも与えられるお前と偏った愛情を注ぐマスターを憎んだ」


男は認めてほしかった。自分も息子の一人なのだと。だがそれは叶わなかった。マスターは最期まで名をくれず、最愛の暗殺者だった操作に葬られてしまう。

男は今でもふとした時にその光景が目に浮かぶ。本当の親であるかのように優しい言葉を掛けるマスターの首を操作の刃が斬り裂く様を。


「なあIS(イズ)。俺は感謝してるんだぜ?」

「なに?」


操作には男が人の皮を被った何かのように見えてきた。どんどん不快な気分になっていく。


「俺は人が死ぬ瞬間であんなに興奮したことが無い。僅かな希望が盤面を引っ繰り返したみたいに絶望へ変わる事態に体も心も震えた。あんな残酷な話あるかよ!?」


男は息を荒くして愉悦を浮かべる。


「イカれてるな……」

「ハハッ。そうかもなぁ。もう人が死ぬのを見過ぎておかしくなってんのかもなぁッッ!!」


彼は高笑いを上げたが直ぐに落ち着きを取り戻す。


手前(てめぇ)にも死を味会わせてやる。この女を助ける為にも掛かってきなッ!」


操作が鈴花を手に懐へ入る。そして相手の視覚を誤認させて斬り付けた。しかし攻撃が決まったのは男の方。操作は柱へ激突する。


(まぐれで当たったのか? 
適当な攻撃にも狙ったようにも見えたが)


操作は状況の整理が付かないまま攻撃を行う。今度は相手の直前で能力を使いながら左右を逆にステップして見せながら回り込む。

男には操作が居る方向が逆に見えているはずだ。しかし男は錯覚している方とは逆へと殴りつけた。


「ぐはァッッ!?」


またもや操作が吹き飛ぶ。ここで彼にある疑問が浮かび上がってきた。


(僕はAnacondaに居た頃、『能力』に頼らず暗殺者としての技量だけで実積を重ねていた。だから基本的に能力者であることは知られていない)


しかし男は操作が能力者だと断定して戦っているように思える。そうでなければ操作の能力による錯覚を見破れるはずがない。


(試すか)

「─────」


操作は男に向かって意味不明な言葉を投げ掛けた。しかし彼は一切反応しない。


「お前もしかして『読唇術』を使えるのか?」

(言葉や口の動きだけで能力者と判断できるわけじゃない。AIMが感知できないしな。何らかの『読心』を出来るんだろうか)


男が白ばっくれるのを見て確信した。


(さっきの錯覚は『視覚』と『聴覚』に働きかけることで行う。しかしあの意味の無い言葉に反応しないところを見ると耳に(せん)でもしてるんだろうな)


こうなれば『能力』に頼らず接近戦をするしか操作に手はない。彼は腰に差したもう一方の小刀に手を伸ばす。しかし操作はそれを抜くことを拒んだ。


(【鴉蛇(からすへび)】を置いてこれを持ってきたけど正直な話、こっちも血を吸い過ぎてる。使いたくない。使わせないでくれ)


《的場聖持》と戦った時に鴉蛇を抜いたが、あれは特別と例外の事案なのでカウントしない。

現在の操作はISだった頃と違い、『誰かの命を奪わない』という誓いを立て、それを守る為に戒めとして鈴菜が作ってくれた鈴花以外にかつて使っていた刃を差している。

故に鈴花ではないもう一本を抜くのは命を奪うことを決めた時だと思っていた。

操作は鈴花を握り締めて男に向かって行くが敢えなく返り討ちに会い、踏み付けられる。


「テメェ何ビビってやがんだ?ハハ~ン、ひょっとして~……」


男が鈴菜の首を持ち上げて締め始めた。


「この(あま)が死ねばテメェはIS(イズ)に戻れんのかな?かな?」

「やめろッッ!!!」


操作は必死に藻搔くが男の足はビクともしない。


「おら、早くしねぇと女が逝っちまうぞぉ!?」


鈴菜が苦悶で足掻く中、操作に声が響く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「彼女を守り切れないのか?」

「誰だ?」

「考えようによっては兄かな?」

「僕に兄は居ないぞ」

「生物学的には違うな。精神的には『オリジナル』と言った方が良いか」

「オリジナル…だと?」

「池野操作とは俺が能力で作った人格だ」


いきなりの事実に操作は混乱する。


「まあそうなるだろうさ。俺が一方的に記憶を共有してるだけだしな」

「何故、僕を作る必要があった……?」

「彼女の為だよ。《箱部鈴菜(はこべりんな)》という少女を守るのに俺は汚れ過ぎている」

「だから仮の人格を?」

「そう。暗殺者ISとして手に入れた力に制限を掛けて記憶のみを受け継がせた。同じ過ちを繰り返さない為にな。お前は希望通りに今日まで人を殺さず彼女に寄り添ってくれた。本当に操作には礼を言わねばならない」

「僕は組織を抜けてからもずうっと鍛えてたんだけど強くなっていないのかな?」

「力を増した分だけ封印を強くしてる。でなければお前もAnacondaのISと同じくらいにはなれてるよ」

「つまり今の僕には鈴菜さんを守れる力が無い、ということなのか……」

「終わらせない為に、お前に手を汚させない為に俺の人格を残していたんだ。仮ではあるが、兄として箱部鈴菜(かのじょ)は守ってみせる。ついでに能力と技術の制限を多少外しておく」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ハハハハハッッ! ……あ?」


男は操作を踏み付けていた足が
膝から切り離されてしまっていた。


「何いッッ!!?」


男は堪らずバランスを崩して鈴菜を手放す。操作は彼女を慈しむように抱き止めて距離を取る。


「ば、馬鹿な…。僅か一瞬、一体全体俺の体に何が起きたってんだァッ!?」


男は痛みを感じない。最初から片足だったように痛覚が麻痺している。有り得ない技のキレと冴えだ。どれだけ術理を練って磨けばこんな真似が出来るのか。

男が操作へ視線を向けると彼は新たに一振りの小刀を抜いていた。的場聖持と戦った時に出した鴉蛇とは違うが刀身は同じように黒い。

それは血が刃に染み込んでしまい、錆のように黒くなった上に何度も何度も人の血を塗り重ねるように浴びたことで、洗い流しても取れなくなってしまったもの。


「鴉蛇と同じくコイツを武器として扱うのも組織を抜けて以来になるか…。出来ることならば、この【断刀(だんとう)頭並(かしらなら)べ】を持って戦いたくはなかったが仕方無い」


其処に立っていたのは池野操作ではなくIS(イズ)だった。先程までの殺気に溢れていた操作と違い、ISには何も感じ取ることが出来ない。

こうして肉眼で見ていても完全に環境へ溶け込み空間と一体化しているように思える。


「違い過ぎる…。『静』と『動』の切り替えと気配の制御が人間のそれじゃない……」


ISは両手を振って確かめる。


「操作のやつ、ホント真面目に鍛えてるな。この三年で何処まで体と技を練り上げてんだか」


今の自分ならば、『雷霆』や『浮雲』を使うまでも無く、Anacondaを正面から小細工無しに、能力の片鱗すら見せず潰滅できるだろう。


「『縮地』も『順体法』も要らないな。これなら普通(・・)にやってるだけで勝てそうだ」


IS(イズ)が予備動作の殆ど無い『無拍子』から瞬間加速して男の視界より消える。気付けば腕が宙を舞っていた。

知覚できない刃が体を抜けて、少しした後に勢いが働き自分の体の何処かが斬り飛ばされる絵面は男の戦意をみるみる内に奪い去っていく。


(これがAnaconda(アナコンダ)の歴代No.1で『最強』と謳われ、『死神』とまで呼ばれた男、か…!)


四肢を切断された男は心底後悔したが時既に遅し。彼は悔冥(かいめい)を覗き込んでしまったのだ。


深黒(しんこく)にして、その奇景の一端を(うかが)い見ること(あた)わず。『I who reap the Soul(私は魂を刈り取る者)』」


ISが頭並べをクルリと回し、逆手に持って男の首へ向けながらポツリと呟く。


「終わりだ」


男が死を悟るがISの中に声が聞こえた。


(いけません!!!)


その声に刃が首へ届く寸前で止まる。ISが頭並べを鞘に納めて鈴菜の元へ戻っていく。彼は瞳を閉じたままの彼女の頬を愛おしそうに撫でた。


「三年ぶりかな…。けど俺が会えるのは鈴菜さんが眠っている間だけなんだ」


ISは寂しそうに苦笑いする。彼の気持ちが伝わったのか鈴菜には涙が浮かぶ。それは流れ落ち、頬を撫でる手の上で弾けた。ISは鈴菜の唇へと口付けると同時に能力で治療していく。


(俺は後悔なんて無い。これからも鈴菜さんと操作を守る。この口付けは見返りみたいなものさ。ほら、そろそろ起きないと……)


鈴菜の目が開く。其処には操作が居た。自分の流している涙の意味が解らなかったが操作の顔を見て何かを感じ取れた気がした。


「さっきの言葉の続き、やっと出てきたよ」


鈴菜が何のことか思い出す。


(自分のことを排した善性は偽善より怖い。人間が持つようなものじゃない。だから……)


「鈴菜さん……これからはもっと僕のことを頼ってほしい。頼りないかもしれないけどパートナーとして君のことを助けたいんだ……!」


操作の必死な思いを聞いた鈴菜が優しく微笑む。その顔は今まで見た中でも一番輝いて幸せに溢れていた。
 
 

 
後書き
拷問官の人はけっこう頑張りましたね。制限ありとはいえ操作君を追い詰めるとは。

そして操作君の上限が多少ですが解禁されることになりました。

次は第二部の主人公である仁君の出番となります。戦闘はしないみたいですけども。

偽悪の英雄では操作君を中心人物の一人にした事件の真っ最中ですが果たしてマスターの実子EVEの行く末は如何なるものになるのか。

ちなみに雷霆はAnacondaのマスターから教えられ、浮雲はAnacondaの先輩だった《OR(オア)》に習った身体技法ですが、雷霆の方は体質と言って良いものになります。 

 

Asistensia ejecutiva

 
前書き
今日は禁書の新約18巻を買って
一気読みをしました。

いやはや私の好きなネタが出るわ出るわ。
とても楽しかったです。

そしてあのキャラが出た━(゚∀゚)━!

禁書に出ることは無いと思ってたから嬉しい。
 

 
神薙悠持(かんなぎゆうじ)》が《神宮寺庵鬼(じんぐうじあんき)》の相手をしたことで防衛ラインを抜けてきた《神薙仁(かんなぎじん)》。

彼は今、奥にあるフロアで待っていた人物と対面している。しかしそこに待っていたのは《叶瀬叶(かなせかの)》ではなかった。


「な…。こないだ俺を襲ってきた奴とまったく違うじゃないか……ッ!?」


仁は思わず唖然としてしまう。此処には彼の相棒で幼馴染の《七草佳奈(ななくさかな)》と【OBJECT】の叶瀬叶が居るはずなのだから。

だが仰天した理由はそれだけではない。

本当の裏世界で行われる戦闘に慣れていない素人の仁ですら、目の前に居る男が途轍(とてつ)もなく強いことが解ったせいだ。


「はっはっーん…? さてはお前、庵鬼の野郎に一杯喰わされたクチか」

「んな…!!?」

(騙されたってことかよ畜生ッ!)


この男によれば神宮寺庵鬼は相手の波長を読み取れる技能を持ち、相手が疑うことの無い、自然な形で波長に旋律と調子を合わせられる。

故に庵鬼の言ったことを真に受けてしまうのだという。


(もしかして…。まさかだけど、『1/f(エフぶんのいち)ゆらぎ』ってやつなのか……?)


この声の代表的な人物が、かの《アドルフ・ヒトラー》とされ、カリスマ性があり、大衆を動かす力を持つ者が備えている能力の一つとされる。

その声音、律動は、話し相手のことを心地よくさせ、人に快適感やヒーリング効果を与えるとも言われる。


「まあそんなに心配すんなよ。俺からの用事は直ぐに終わらせてやるからさ」


男の圧倒的な威圧感と圧迫感に仁は呼吸することも辛くなり、動けなくなってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


時間を遡ること数分前。

OBJECT拠点の玄関ホールで休息と防衛を兼ね待機していた《影縫子規(かげぬいしき)》は今の状況を予測して数式を組んでいる最中だ。

そこに突発的な異常事態が起きる。


(! 建物の右翼か)


子規が通信機へ連絡を取った。
その相手は《池野操作(いけのそうさく)》だ。


「400秒後にOBJECT拠点の右翼側へ『ビル』が突っ込む! 此処の建物じゃそれに耐えるのは無理だ!」


理解し難い状況だったが危機なのは伝わったので、操作のテレパシーによる避難の通達が右翼に居るメンバーへと送られる。


「はぁ?ビルだとぉ!?」

「ああ。子規君が予測して導き出した。多分当たるだろうね。何時ものように」

「どうやら飛鳥が今居る組織も向こうと同じでなかなかに愉快なことが起きる所みたいだね」

「こんな愉快さは要らん」


春日桜花(かすがおうか)》に反論しつつ、《桐崎飛鳥(きりさきあすか)》が不死鳥形態となる。そして気絶した《鬼立修冴(きりゅうしゅうご)》を炎で包み飛び去っていった。

桜花もガルダの力で後ろを飛行する。

操作の方は自力で逃げるのが間に合いそうにない《箱部鈴菜(はこべりんな)》を抱えて子規が待つ玄関ホールまで駆けて行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それと同時刻、拠点のモニタールームで戦況確認する叶瀬叶と《比屋定時雨(ひやじょうしぐれ)》は建物外部に設置されたカメラから奇妙なものを捉える。

レーダーで測定する必要が無い大きさだ。その中には一つの生体反応があるのも確認できる。


「何よこれ!! このでかいのも、あの『ぶっ飛び軍師』の考えた作戦ってわけッ!?」


何時も冷静な時雨も流石に思考が着いていける範疇を超えているらしい。

一方の叶は感知された生体反応から、これが誰の手によるものなのかに気付いてしまう。死んだはずなのに。


「あんの野郎…。頭の中にあるはずのネジが二、三個吹っ飛んでやがる……ッッ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その数分後、仁と対峙していた男は何かを察知したのか地面へと手を当てた。


「地面に揺れを感じたな。念のため動けなくなった奴は逃がしておくとするか」


その声は仁の耳に聞き取れなかった。しかし雰囲気が変わったので何かあったのだと解る。男は右を向いて瞬間移動した。

その直後、仁は驚天動地の光景をその目に映すことになる。途轍もなく大きな物体が本拠地の右翼を抉り取るように突っ込んできた。

仁は奇跡のように被害が及ぶ範囲ギリギリの所へ居たので何とか無事に済むが、男が居た場所は削り取られてしまっていた。


「い、一体何が…?」


わけが解らないが窮地を免れた仁は
元来た方へと道を戻って行った。

それと同時刻、仁の前に居た男は突っ込んできたビルの一角と自分が居た空間を入れ替え内部へ転移していた。


「やっぱりね。僕の相手は君だと思ってたよ」


ビルの中には青年が一人。男はその声を聞いて背筋が凍る程の狂気に満ちた笑みを見せた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方ビルが通るのを見届けた子規は操作、鈴菜、飛鳥、桜花と合流していた。


「飛鳥ッチ。誰その人?」

「お気になさらずー」

「彼のことは良いから説明しろ子規」


飛鳥は冷静に質問する。


「まったくよぉ。主役は遅れてやって来る。なーんて馬鹿なことしやがってよぉ。待ちくたびれちまったぜ」


男の前に立つ青年は企むような顔で戦場に現れた。いや、戻って来たと言うべきか。


「暫く【STUDENT】のことを任せて済まなかったね『連合』のみんな。まあ重役出勤というやつだよ」


彼の名は《野口勝哉(やぐちしょうや)》。

地の底へ沈んだ筈の男。


「さてと。それじゃあ始めるとしようか。
狭間(はざま) 空斗(そらと)》君」


STUDENTのリーダーとOBJECTのNo.1。

一瞬たりとも気を抜けない戦いが始まる。 
 

 
後書き
「祝・勝哉君復活」
「ありがとう龍実君」
(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ

「二人ともキャラが違う。というか勝哉君どうやって地面に沈むビルから脱出したんです?」
(´・ω・`)

「ポーカーを幾つか解放して制限をちょっと外したら一発だったよ」
(  ・ω・)

「まさかの力技!?」(汗)
Σ(゚Д゚; )

──────────

波長ということは庵鬼君が旧版のあれで、空間移動できる空斗君はあの能力に当たるのかな。

一から考え直しただけあって、やはり旧版とは色々と変わっているみたいですね。

先が読めない。 

 

不死鳥の主、天照大御神の御話

 
前書き
Wikipediaとフェニックス能力の二次設定から思い付いた内容で、適当に話を作ってみました。 

 
ことの発端は、《イザナギ》が死んだ妻の《イザナミ》に追われて黄泉国(よもつくに)から逃げてきたことにある。

イザナギは黄泉で受けてしまった不浄の穢れを清めるため、阿波岐原で(みそ)ぎを行った。

この時、左目を洗った時に《アマテラス》、右目からは《ツクヨミ》、鼻からは《スサノオ》が生まれ、『三貴子』という神となった。

この三柱はイザナギが自ら生んだ諸々の神の中で最も(どうと)い存在とされている。

──────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

アマテラスから黒い炎を扱う不死鳥が生まれた原因の一つ目は、イザナギが洗い流した穢れを浴びてしまったことによる。

これにより、正の力を持った太陽神でありながら、負の側面を持つようになる。

───────────

二つ目の原因は、弟のスサノオが高天原で暴れた時に、彼がアマテラスと同じように浴びていたイザナギの穢れを姉に移してしまったこと。

───────────

三つ目の原因は高天原から追放されたスサノオが、倒した《ヤマタノオロチ》の中から見付けてアマテラスに献上した『天叢雲剣(あめのむらくも)』。

この剣にはオロチの負の念と穢れ、地上で犯した罪が凝縮されており、それをアマテラスは知らぬ間に全て請け負ってしまう。

───────────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

それが元となって誕生したのが
黒いアマテラス。

本来のアマテラスとは別たれた存在であり、負と陰の力を持った真黒(しんこく)の太陽神。

ちなみに男神。

アマテラスからは《太天輝煌皇(たいてんきこうおう)》と呼ばれる。

『天帝』の対となる『天皇(てんこう)』。


後に彼は、三羽の鳥である

鳳凰・赤

(らん)・青

鵷鶵(えんすう)・黄

を生み出し世に放った。

────────────

実はイザナギは黄泉国へ行く前にイザナミが産み、彼女が死ぬ原因になった《カグツチ》という『火の神』を殺してしまっているので、三貴子はその穢れも浴びてしまっています。

イザナギに斬られたカグツチの血からは何人もの神が生まれており、特に雷神の《タケミカヅチ》が有名。

赤子だった頃に飛び散った僅かな血から、日本神話の三大軍神の内、二柱を生んだカグツチが成長していれば、三貴子を超える力を持ったかもしれない。

─────────────

三大軍神は間違っていなければ

タケミカヅチ

フツヌシ

タケミナカタ

の三柱になるはずです。

この三神が倒せなかった相手や、
その相手を降伏させた神も居ますけど。

スサノオならこの三柱に勝てそうですね。少なくとも《タケミナカタ》はスサノオに勝てないはずです。タケミカヅチは良い勝負してくれそう。 
 

 
後書き
オリジナルの設定により、『天叢雲剣(あめのむらくも)』と『草薙剣(くさなぎ)』は別の剣になっています。

実はヤマタノオロチの機嫌が悪くなって暴れていた原因は尾の中にあった『天叢雲剣』のせいであり、それは天から落ちてきたものである。

天叢雲剣の持ち主は、『別天津神(ことあまつかみ)』に続く、『神世七代(かみよななよ)』の一柱で、古事記では二番、日本書記では三番目の《豊雲野神(とよくものかみ)》。

イザナギとイザナミは神世七代の七番目。

剣が返ってきたトヨクモノは喜び、代わりのものとして、アマテラスに草薙剣を下賜(かし)した。

草薙剣は別天津神の《高御産巣日神(たかみむすびのかみ)》が司っている高木の力を与えたので植物を始めとする自然現象に滅法強い効果を発揮する。

作った神はタカミムスビの方が格上なのだが武器としては天叢雲剣の方が格上。

タカミムスビは別天津神の五柱の中でも『造化の三神』の一柱であり、神世七代と比べても別格の存在。 

 

Best of them

 
前書き
お待たせしていたかどうかは解りませんが、
久し振りに更新です。

|д゚)チラッと見たら二次の方が来ていた。 

 
徐々に降下していく『ビル』の中では二人の男が対峙している。その一方である【OBJECT】のメンバーでNo.1の《狭間空斗(はざまそらと)》は向かい合う【STUDENT】のリーダー《野口勝哉(やぐちしょうや)》に対してある詰問をした。

それはSTUDENTがOBJECTの本拠地に攻め込む前に起きた野口勝哉への襲撃を行った後のことについてだ。


「俺はお前がビルごと地中に沈んじまって、そのまま大人し~くお寝んねしてくれてるとばっかり思ってたんだがなぁ」


しかも彼の身動きを取れなくする前に能力を阻害する『JAM加工』が施された弾丸まで喰らわせている。例え[絶対能力者(レベル6)]と言えども確実に仕止めている算段だった。

だがしかし、それでもこの男は生還した。現在この場で空斗の前に立ち塞がっているのは夢や幻ではない。歴とした厳然たる事実である。


「君達の考えた手段はやられた僕から見ても良い策略だったと思うよ。だから狭間君には僕の秘密を一つ教えてあげよう」

「お前には秘密が多すぎる気がするがまあ良いや。じっくり聞かせてもらおうじゃねえか」

「僕は普段、自分の能力を『防御』に割いている。僕が能力で干渉できるのは『生物』以外の全てなんだ。つまり地上の至るところに存在する〔空気〕も〔重力〕も〔磁力〕も〔熱〕も操作可能。能力者だからAIM拡散力場だって発してる。それ等を常時、『膜』のように張り巡らせて自動防御(オートガード)を行っているというわけさ」


つまりあの襲撃時に勝哉の体を掠めたと思われていたJAM加工の弾丸は極薄の防御膜に沿って通り過ぎていたということ。だから勝哉はビルが沈む前に能力が使えたということになる。

しかしそれが真実なら別の疑問が湧く。

なぜ逃げずにビルの中へ残ったのか。勝哉(かれ)の能力が健在だったのならば幾らでも撤退する手段は存在するというのに。そもそもビルが地面へと呑み込まれる惨事自体を発生させないことが可能だったはずだ。


(万に一つの可能性で野口が生きていた時の為に跡地へ【SUBJECT】を送ったが不審者の目撃情報は来てない)


今日に至っては彼等から情報の一つも回ってこなかった。OBJECTに好意的なメンバーが何人も居るSUBJECTが反応を示さないのは何か理由があるのだろう。


(俺達以外でSUBJECTの人間を動かせるやつなんざ、そう多くはねぇはずだ。OBJECTの誰かが指示したか、或いは他の組織に工作や交渉でもされたか……)


勝哉の方も不思議なものを感じていた。


(僕の動きを封じるためにSUBJECTを動かすことは想定済みだった。でも今日に限って見張りが見当たらなかったんだよね)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


《野口勝哉》が《狭間空斗》と話している同時刻、戦場と化した【OBJECT】の拠点から目視で確認できる程の地点に【暗黒魔京(ディストピア)】の幹部《観測者(オブザード)》が腰を降ろして戦局を見詰めていた。


「勝哉君が来てから一気に戦況が傾いた。この戦いはこれで決まったかもしれないな……」


そう思った時だ。彼の隣にある空間が歪み、水中から上がるようにして一人の青年が姿を現した。観測者としては青年の正体を理解しているつもりなのだが、それでもなお彼には底知れない何かを感じる。


「この前【STUDENT】が彼処(あそこ)に向かう時に会ったけど相変わらず忙しそうだね。いや、仕事熱心なのかな。彼等が衝突した結果を何処へ伝える気やら。まあ其方(そちら)のことだから、色々な組織(ところ)人脈(パイプ)が有るんだろうけど」

「ハハッ、なかなかに面白いことを言いますね。貴方は『観測者』としての役割ばかりで薄っぺらい中身の人だと思ってましたよ」

「毒を吐くね。本人の前で」


青年の言葉には手探りしても足りない程の闇が込められていると観測者は感じた。真っ(さら)で純心な純粋なまでの『悪意』は内に抱えているものを覆い隠してしまう。彼の中にはどれだけの深淵が秘められているのだろうか。


「今回STUDENTとOBJECTが戦った『情報』は彼等の組織規模が大小かに関わらず有用だ。何せ双方とも[第0学区]が在る【不夜明業界(ノクタルシア)】で屈指の力が有るからね。負けた方は別の組織から戦争を仕掛けられるだろう」

「ええ。『強者』の称号というのは第0学区で非常に価値が有りますからね。それに便乗して漁夫の利を得ようと他の連中も動く。多くの人が動けばそれだけ『情報』が必要とされ、こちらは情報という力を以て強者の一角を奪い取れるでしょう」

「つくづくだねぇ~君も……」


観測者は乾いた笑みを浮かべている。この青年が考えているのは秩序が無い混沌の荒廃した世界だ。


(まあ完璧な秩序で構成されていたとしても、まったく瑕疵(かし)が無い世界で生きていられる人間なんて、そうはいないからね)


白か黒かではなく、灰色で済まさなければならないことなど世の中には腐るほど存在するのだから。政治に関わるとそういうことも珍しくない。正しい情報や真実が隠されたり捻じ曲がることもままある。


「ところで君はアレをどう思う?」


観測者(オブザード)》が【OBJECT】の拠点を向いた。


「強いて言うなら個人的には勝哉くんに負けてほしくないですかね?一応はライバルみたいなものですから。彼が『僕』をどう思っているかは知りませんけど」

「君が何を考えていようとも、私的な理由で興味を示すつもりは無いよ。システムの中に有る役割は抑止力としてじゃあないからね」


彼はあくまでも観測者なのだ。


「それは無関心という意味ですか? 貴方は『観測』に徹するなら超一流ですが、観測に重きを置きすぎているきらいが有ります。いざ介入しようとしたら手遅れだった、なーんてことにはならないように御願いしますよ?」


青年がそう言ってから僅かに間が空いた。観測者は特に先程の言葉を気にすることも無く、再び口を開く。


「勝哉君は昨日までビルと一緒に沈んだままの場所で【SUBJECT】の監視を受けていたはずなんだが何故ここまで来れたと思う?」


青年は質問についての答えとして、
どう応じるべきかを理解している。


「それに関しては『俺』が手を回しておいたんですよ。SUBJECTとは割と長い期間、付き合いがありますからね。OBJECTの足下で独自に仕事する彼等は本当に(したた)かだと思います。つい此方(こちら)から契約を申し出てしまいました。珍しいんですよ?そんなこと」

「成る程。その結果が勝哉君の自由か」

「そういうことです。長年の取り引きをしているから解ることなんですけど、【SUBJECT】は【OBJECT】の命令を実行するだけの思考停止した集まりじゃない。みんな確固たる自分の意志を持っている。『龍は伏し、鳳は宿る』とでもいうように、今は休んで力を蓄えているに過ぎないんですよ」


告げて青年は腰を上げる。
もう此処へ留まる理由は無いようだ。


「見届けてはいかないのかい?」

「確かに観測者である貴方ならば意味はあるのでしょうね。しかし【GROW】と同じく情報屋の俺には無意味。結果が見えているなら新しい情報を探しに行きます。例えば【暗黒魔京(ディストピア)】が在り、《統括官(キング)》の住む城が在るという【封絶葬殺界(ケーラウェルト)】のことについてとかね」

彼処(あそこ)の幹部として言っておくが、第0学区の【管理者(ボス)】と同じような【執行官(オフィサー)】に目を付けられると面倒だぞ。あまり【暗黒魔京】から出てくることは無いが」


空間に波紋が拡がり歪みとおぼしきものが現れ青年が飲み込まれていく。どういう能力なのだろうか。


「求めていない情報であろうと僕の口座(アカウント)に来ますからね。時間の問題だと思いますよ」


そう言い残した青年が水中へ沈むように消えると空間の歪みは収まり波一つ立たない水面のように凪いでいた。


「一体何が彼をあそこまで突き動かすのかを理解する為には私情を挟んだ観測になりそうだなあ。だがそれはきっと私には相応しくないだろう。まあどうであれ、彼とは何時か相対するのかもしれないね。私自身が戦うことは無いかもしれないけど」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


狭間空斗(はざまそらと)》と《野口勝哉(やぐちしょうや)》は暫くの間、睨み合いを続けていた。


「戦局は決した。できれば交渉で終わらせたい。これ以上の被害は何の意味も無いからね」

「それは有益だな。けどさ、俺達はその話に乗るよりもっとお得な話も有るんだぜ?」


空斗が拳を構えると勝哉は溜め息を()きながらコートのハンドガンを抜く。そして銃爪に指を掛けながら呼吸を穏やかに集中を高めた。

撃鉄が落ちる。空斗はそれを合図の代わりに前傾姿勢で出走しながら弾丸を躱す。更に速度を上げて勝哉へと向かっていく。


「……」


勝哉は続けて両手のハンドガンから一発ずつ発射。空斗はそれを右へ跳んで回避し弧を描きながら走り込む。


「ふむ」


それから勝哉は空斗の足下へ射撃を乱れ撃つが命中する気配が無い。潔く右手の銃を投げた勝哉はコート袖口から何かを取り出す。


(隙だらけだぜッ)


空斗は勝哉の攻撃が途切れた合間に至近距離まで辿り着く。走りの勢いを残したままで蹴ろうとするが、その目前に突如として壁が飛び出し行く手を阻む。


「面倒だな……!」


空斗は壁に向かって蹴りを放つ。呆気ないほど簡単に砕け散ったそれに対し、防御用のものとしては弱いと違和感を覚えた。


(薄い…?)


壁の向こう側には粉塵と砂煙に紛れて紫電が迸る音がする。寒気が体を走り抜けた空斗は思わず条件反射で上半身を後ろに仰け反らす。その直後、彼の腹上を恐ろしく威力と速度の有る何かが通り過ぎた。直撃なら最悪死んでいただろう。


「そう上手い具合にはいかないよね」


粉塵が晴れると片腕に青白い電光を鳴らす勝哉が静かに佇んでいた。空斗は何が飛んできたのか察する。


(『超電磁砲(レールガン)』…。地上(うえ)の学園都市で公式認定されてる超能力者(レベル5)・第三位の技だな。だが全てにおいてオリジナルを上回ってやがる……)


眉間に(しわ)を寄せる空斗を見て勝哉はここまでの彼に対して考えを巡らせる。


(彼はまだ能力を使っていないのかな? 悠持のような感覚が鋭い相手で今以上に動きが良くなると少し手子摺るかもしれない)


勝哉は手ぶらの右手に右袖からサバイバルナイフを滑り落として掴む。そして逆手に持って間合いを詰める。接近戦を主として戦う空斗は怯むこと無く待ち受け肉弾戦が始まった。

次々と迫るナイフの刃に対して勝哉の手を捌きながら腕を受け流す技術や反応は《神薙悠持(かんなぎゆうじ)》や《池野操作(いけのそうさく)》に引けを取らない。


(なんだコイツ。動きは鋭いが振り回してるだけで、俺には当てる気がねぇのか?)

(戦闘と予測を平行しているのか。悠持の身体能力と飛鳥の頭脳を合わせたようなものかな)


読み合う最中(さなか)で勝哉はナイフだけで攻撃するように見せつつ左のハンドガンで間近にある空斗の頭を狙う。

しかし瞬時に銃口を見据えた空斗は踏み込んで自分の位置をズラし、その勢いを利用して体を捻った。そこから膝を曲げたままで片足を上げると踵落としを逆にしたような蹴り上げで銃を弾き飛ばす。

二人は相手の出方を見るため距離を取った。


「お前は俺を倒す為に此処へ来たと思っていたんだが、もしかして違ってたりするのか?」

「僕は普通に戦ってるつもりなんだけど」

「攻撃に殺気が(こも)ってなかったからな。足止めするつもりなら意味は()えよ。俺は物体との位置関係を入れ替えられる。人だろうと物だろうと考慮する必要は無えんだ」
 
 

 
後書き
「アポートは取り寄せ、アスポートは転送だから違う能力だな。この二つを同時にすると取り寄せた物が在った座標に自分が移動し自分が居た座標に取り寄せた物が移動する。必ず位置関係を入れ替えることになるのならば使い勝手はそこまで良くないはず。それでOBJECTのNo.1に選ばれるというのはよっぽどだぞ」
(・д・)

「相変わらずですね観測者(オブザード)
(´-ω-`)

「おや名無君じゃないか久し振りだね。ところで執行官(オフィサー)の方はどうなってるんだい?」
( ´∀`)

「メンバー全員ではありませんが情報屋の青年やGROWのリーダーに対抗するには十分揃いましたよ。貴方の同僚みたいな人達ですから頑張ってくれるでしょう」
( ・ω・)ゞ

「戦う機会があればね」
(* ̄∇ ̄)