英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)


 

プロローグ

~グランセル城内・客室~



「……う~……まぶし…………」

ベッドで眠っていたエステルは窓から差し込んでくる光で目を覚まして、起き上がった。

「ふわあああああああ~っ……。ん~~っ、よく寝たぁ~~っ!……あれ……。………………………………」

起き上がったエステルは周囲の風景を見て、首を傾げた。

「そっか、あたし達昨日はお城に泊まったんだっけ。ヨシュアとお祭りを回って……帰りにアイスクリームを食べて……夜は父さんと一緒に晩餐会に出て……。……それで……」

昨日の行動をエステルはどんどん思い出していき、そして空中庭園での出来事も思い出した。

「………………………………。……うそ…………」

信じられない表情で呟いたエステルはベッドから飛び起きると、部屋を確認した。

「ここ……ヨシュアと父さんの部屋だ……。確かあたし……シェラ姉と同じ部屋だったはず……。えっと…………どこからが夢なんだろ……」

そしてエステルはポケットに入っていたハーモニカを見つけた。

「あ……。………………………………………………………………。ヨシュアっ!!!」

ハーモニカに気付いたエステルは部屋を飛び出した。



~グランセル城内・廊下~



「あら、エステル。ずいぶん遅いお目覚めね。」

部屋を飛び出て辺りを見回しているエステルに別の部屋から出て来たシェラザードが声をかけて来た。

「シェラ姉……」

「まったく、昨日はいつまで経っても帰って来ないから心配しちゃったわ。でも、その様子だとヨシュアと色々話せたみたい―――」

「シェラ姉、ヨシュアは!?」

「へ……」

エステルに迫られたシェラザードは戸惑った。

「ヨシュアを捜してるの!シェラ姉、見かけなかった!?」

「今朝は見かけてないけど……。ていうか、あんた昨日は疲れてそっちの部屋で眠ったんでしょう?起きた時にはいなかったの?」

「え……!?あたしが疲れて寝たって……。そ、それって誰から聞いたの?」

シェラザードの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。

「先生からだけど……」

「と、父さんが!?それじゃあ!父さんは見かけなかった!?」

「先生なら、さっき階段を登って空中庭園に上がって行ったけど……」

「!!!」

シェラザードの話を聞き終わったエステルは空中庭園に走って行った。

「あ、ちょっとエステル!?……どういうこと……?」

エステルの行動に首を傾げたシェラザードは一枚のタロットカードを取り出し、真剣な表情で呟いた。

「………………………………。逆位置の『恋人たち』……」



~グランセル城・空中庭園~



「あ……」

空中庭園に到着したエステルはヨシュアの告白を聞いた同じ場所にいる軍服姿のカシウスを見つけた。

「エステルか。」

「と、父さん……」

エステルはカシウスに走って近付いた。

「あのね、大変なの……!」

「判っている。ヨシュアは……行ってしまったようだな。」

慌てて事情を話そうとするエステルの次の言葉がわかっていたようにカシウスは答えた。

「ど、どうして……。なんで父さんが知ってるの……?」

「昨日、軍議から帰ってきたらサエラブがお前を背に乗せて部屋に向かっていた。それを俺がサエラブから受け取った後、まさかと思い俺とヨシュアの部屋に向かった。

そしてテーブルにはあいつの書き置きが残されていた。それで大体の事情は分かるさ。」

「だ、だったら!だったらどうしてこんな所でノンビリしてるの!?早くヨシュアを捜さないと―――」

「止めておけ。」

慌てているエステルをカシウスは遮った。

「え……」

「あいつが本気で姿を消したらたとえ俺でも見つけるのは無理だ。5年前、あいつに狙われた時、俺もかなり苦戦させられたからな。」

「………………………………あたし……今までずっとこの質問はしなかったけど……ヨシュアって……何者なの?」

ヨシュアの事情を全て知っていそうなカシウスにエステルは尋ねた。



「………………………………。『身喰らう蛇』―――そう名乗っている連中がいる。『盟主』と呼ばれる首領に導かれ、世界を闇から動かそうとする結社。ヨシュアはそこに属していたらしい。」

エステルに尋ねられたカシウスはしばらくの間黙っていたが、エステルに背を向けて答えた。

「『身喰らう蛇』……」

「正直、遊撃士協会でも実態が掴めていない組織でな。世間への影響を考えてその存在は半ば伏せられている。だが、それは確実に存在し、何かの目的を遂行しようとしている。……今回のクーデターのようにな。」

「そ、それって……あのロランス少尉のこと!?」

カシウスの説明を聞き、思い当たった人物がいたエステルは慌てて尋ねた。

「ああ、間違いあるまい。もっとも、関与していたのはその少尉だけではなかったはずだ。……ある意味、ヨシュアも協力者の1人だったようだからな。」

「ちょ、ちょっと待って……。それってどういう意味!?」

カシウスの話を聞いたエステルは信じられない表情で驚き、尋ねた。

「書き置きに書かれていた。ヨシュアはこの5年間、遊撃士協会に関する様々な情報をその結社に流し続けていたらしい。どうやら、自分でそれと知らずに報告する暗示をかけられていたそうだ。」

「そ、そんな……。そんなことって……」

「正直、得体の知れない連中だ。深入りするのは止めておけ。」

「………………………………。あは……意味が分からないんですけど……。それって……ヨシュアを放っておけってこと?」

カシウスの警告にエステルは放心した。

「………………………………」

放心している様子のエステルをカシウスは黙って見ていた。

「ねえ父さん!答えてよ!」

何も答えないカシウスに業を煮やしたエステルは怒った。



「いずれ……こうなる日が来ることは判っていた。5年前、ヨシュアが俺の養子になることを承諾した時。あいつは、ある事を俺に誓った。」

「ある事……?」

「自分という存在がお前や俺たちに迷惑をかけた時……結社という過去が何らかの形で自分に接触してきた時……俺たちの前から姿を消すとな。」

「………………………………。……なにそれ……お母さんはその事……知っているの?」

カシウスの話を聞いたエステルは固まり、尋ねた。

「………レナは知らん。余計な気苦労を負わせる訳にはいかなかったし、何よりヨシュアも望まなかった。」

「……………………」

カシウスの言葉をエステルは無意識に拳を握って、聞いていた。

「お前の気持ちも分かる。今まで家族として暮らしてきたんだ。簡単に割り切れるものでもないだろう。だがな……男には譲れない一線というものがある。だからお前もヨシュアの気持ちも分かって―――」

「……知ってたんだ。」

「なに?」

唐突に言いだしたエステルにカシウスは驚いた。

「ヨシュアが……いつかいつかあたし達の前から居なくなっちゃうかもしれないって……。……父さん……知ってたんだ……お母さんやあたしには内緒で……………」

「………………………………。……すまん…………」

いつもの太陽のような笑顔をなくし、口元だけ笑い無表情のエステルに言われたカシウスは目を伏せて謝った。

「父さんのバカ!」

目を伏せて謝るカシウスにエステルは涙を流して怒り、走り去った。そして走り去るエステルとすれ違ったシェラザードがカシウスに近付いた。



「先生……」

「シェラザード……。みっともない所を見られたな。」

「いえ……。………………………………」

「責めないのか、俺を?」

何も言って来ないシェラザードにカシウスは尋ねた。

「あたしも、それなりの事情があって先生のお世話になった身ですから……。先生とヨシュアの気持ちはどちらも分からなくはないんです。」

「そうか……そうだったな。」

「でも、1つだけ。女の立場から言わせてもらえれば、」

「うん?」

溜息を吐いて何かを言いそうなシェラザードを見て、カシウスは首を傾げた。

「先生もヨシュアも、かなり最低です。………もし、この場にレナさんがいたら、同じ事を言うでしょう。」

「…………………………」

シェラザードに責められ、またレナの事も出されたカシウスは辛そうな表情で黙っていた。



~王都グランセル・北街区~



「はあっ、はあっ……」

一方エステルは雨が降り出す中、当てもなく街を走っていた。

「………………………………。そんなわけない……。ヨシュアが居なくなるなんて……そんなこと……あるわけない……」

立ち止まったエステルの表情は消えていて、目の焦点があってなく、現実を逃避するかのように呟いていた。

(エステル………)

(エステルさん…………)

(あの愚か者が………!エステルがこうなるのは数年間、生活を共にしていればわかることだろうが……!なのにあのような真似を……!)

(………深い悲しみと絶望が感じられるわ…………希望と喜びで溢れ、輝かしい笑顔を持つ娘なのに……ニル、エステルをこんな目に合わせたヨシュアの事、絶対に許さないわ!)

エステルの様子をエステルの身体の中からパズモとテトリは悲しそうに見ていて、サエラブとニルはエステルを悲しませたヨシュアに怒りを抱いていた。

「おっと、嬢ちゃん。こんな所でどうしたんだ?」

そこに一人の巡回兵がエステルを見つけて、声をかけた。

「濡れちまうまえに、さっさと家に帰った方がいいんじゃないか?」

「あ…………………………そっか、そうよね。ヨシュアが居なくなるはずがない………きっと……先に家に帰ってるだけ………」

「え?」

自分自身に言い聞かせるように言うエステルの言葉に兵士は首を傾げた。

「兵士さん、ありがと!急いで家に戻る事にするわ!」

兵士にお礼を言ったエステルはロレントに帰るため、空港に向かった。

「な、なんだぁ?それにしても今の子………どこかで見たことがあるような。」

一人残された兵士はエステルの言動や行動に首を傾げた後、エステルの見覚えのある容姿に首を傾げていた後、ある事に気付いた。

「…………!そうか!クーデター阻止に協力した………!」



その後エステルは飛行船に乗って、ロレントに向かった……………… 

 

第1話

~上空・定期船セシリア号~



(僕のエステル……お日様みたいに眩しかった君。君と一緒にいて幸せだったけど、同時に、とても苦しかった……。明るい光が濃い影を作るように……。君と一緒にいればいるほど僕は、自分の忌まわしい本性を思い知らされるようになったから……。だから、出会わなければよかったと思ったこともあった。)



「………………………………。あたし……ヨシュアのこと気付けてたの?出会わなければよかったって……。……あたし……」

エステルはヨシュアの言葉を思い出し、今にも泣きそうな表情をしていた。

「アカン、アカンな~。」

そこに一人の青年がエステルに声をかけた。

「……?」

青年の声に首を傾げたエステルは振り向いた。エステルが振り向くとそこには七曜教会の神父の服装でいる青年がいた。

「澄みきった青空!そして頬に心地よい風!そんな中で、キミみたいな可愛い子が元気なさそうな顔をしとったらアカンよ。女神さまもガッカリするで、ホンマ。」

「えっと……」

青年の言葉にエステルは戸惑った。

「あ、ちゃうで?けっして怪しいモンとちゃうよ?ただ、乗船した時からキミのことが妙に気になってなぁ。なんか元気ないみたいやからオレの素敵トークで笑顔にしたろと、まあ、そんな風に思ったわけや。」

「………………………………。えっと……よく判らないけど、ありがと。」

青年の説明がイマイチ理解できなかったエステルだが、一応お礼を言った。

「まあ、ぶっちゃけナンパしとるんやけどね。どや、暇やったら下の展望台にでも付き合わん?ドリンク注文できるみたいやからお近づきの印に奢らせてもらうわ。」

「あ、あの……気持ちはありがたいんだけど……あんまり気分じゃなくて……。……ごめんなさい……」

「んー、そっか。それじゃあ、ナンパは止めて本業に切り換えた方がいいかな?迷える子羊導くのもお仕事やし。」

「本業……?」

ナンパが失敗したにも関わらず、あまりショックを受けていない様子の青年の言葉にエステルは首を傾げた。

「フフン、これや。」

首を傾げているエステルに青年は胸を張った後、自慢げに杯が描かれたペンダントを突き出した。

「え、それって……たしか七耀教会の……」

「ビンゴ。『星杯の紋章』や。オレはケビン・グラハム。これでも七耀教会の神父やねん。」

「へー、そうなんだ……って、冗談でしょ?」

青年――ケビンの言葉に頷きかけたエステルだったが、先ほどのケビンのナンパを思い出し、信じられなかった。



「なんでぇ?オレ、めっちゃ真面目な神父さんやで?3度の祈りは欠かしたことないし、聖典もほら、肌身離さず持ち歩いて……」

エステルの言葉を聞いたケビンは心外そうな顔をした後、証拠の聖典を出すために服の中を探したが

「………………………………。ゴメン、座席に忘れてきたわ。」

聖典が服の中に入っておらず、どこにあるかを思い出したケビンは気不味そうな表情をした。

「……説得力ゼロなんですけど。ふふ……。ホント、おかしなお兄さんね。」

「あ!今ちょっと笑ったな?うんうん。やっぱ可愛い子は笑顔でないとな。ま、そういうわけやからよかったら神父として相談に乗るで。ナンパは抜き、空の女神に誓うわ。」

「あ……うん……。で、でも……どんな風に相談したら……。あたし……。……んくっ………………」

ケビンの言葉に頷いたエステルは今にも泣きそうな表情で涙をこぼし始めた。

「え、ちょっと待ってや……。何か知らんけど!ゴメン、オレが悪かった!」

涙をこぼし始めているエステルを見たケビンは焦って、謝り出した。

「ひっ、えっ……。うううう……あああああっ……。うわあああああああああん……!」

ケビンの謝罪が聞こえていないエステルはその場で泣き出した。

「あー……よしよし、良い子や。今までガマンしとったんやな。気の済むまで泣いたらええよ。」

エステルの様子を見たケビンはエステルの肩に手を置いて、慰めた。

「うあああっ……!うわああああああああん……!」

そしてエステルはしばらく泣き続けた。



~定期船セシリア号内~



「えっと……ケビンさんだったっけ。ごめんなさい……みっともない所を見せちゃって。」

その後泣き止んだエステルはケビン飛行船の中でケビンに謝った。

「ええて、ええて。女の子に胸貸せるなんて役得や。どや、ちょっとは落ち着いたか?」

「……うん。あたしエステル。エステル・ブライトっていうの。遊撃士協会に所属してるわ。」

ケビンの言葉に頷いたエステルは自己紹介をした。

「エステルちゃんか~。名前もめっちゃ可愛いやん。………………………………。……って、遊撃士協会?」

エステルの自己紹介に頬を緩めていたケビンだったが、エステルが所属している団体を思い出し、驚いた。

「うん、これでも遊撃士よ。えへへ、あんなみっともない姿見たら信じられないかもしれないけど……」

「いや、そんなことないで。よく見たらそれっぽい恰好やし。やっぱ何かの武術をやってるん?」

「棒術を、少しね。後、最近は剣術も始めたわ。……まだ実戦で使えるレベルじゃないけど。そういうケビンさんは本当に教会の神父さんなの?どう見てもそうは見えないんだけど。」

「あいた、キツイなぁ。まあ、オレは巡回神父やからちょい毛並みが違うのは認めるわ。」

エステルの指摘にケビンは苦笑しながら説明した。

「巡回神父?」

ケビンの説明を聞いたエステルは理解できず、首を傾げた。

「礼拝堂のない村ってあるやろ?そういう村を定期的に訪れて礼拝や日曜学校を執り行うわけや。ま、教会の出張サービスやね。」

「なるほど……そんな神父さんがいるんだ。」

「まあ。礼拝堂勤めの神父と違って法衣とかも適当なヤツが多くてな。そんなワケで大目に見たってや。」

「うーん、まあいいか。それじゃあ、ケビンさんはこれからどこかの村に行くんだ?」

ケビンの説明を聞き、納得したエステルは尋ねた。



「や~、実はオレ、リベールに来たばかりなんや。巡回神父の手が足りんらしくて本山から派遣されて来たんやけど。」

「あ、そうなんだ。教会の本山って……どこにあるのか知らないけど。」

「大陸中部にあるアルテリア法国ってとこや。まあ、グランセル大聖堂の大司教さんに着任報告する前にちょいと観光でもしたろ思ってな。で、こうしてブラブラしてるわけや。」

「ガクッ……ダメじゃない。ホント、いい加減な神父さんねぇ。」

余りにも神父らしくないケビンにエステルは呆れて溜息を吐いた。

「ええねん。いずれ巡回する場所の下見や。こうして、悩みごとがありそうな可愛い子と巡り会えたしなー。うんうん、これぞ女神のお導きやで。」

「まったく調子いいわねぇ。」

ケビンの調子のよさにエステルは苦笑した。

「……でも、ありがと。泣いたらスッキリしちゃった。ダメよね、うん。ちゃんとヨシュアを信じないと。」

「へ……?」

エステルの口から出た突拍子のない言葉にケビンは首を傾げた。

「あ、ヨシュアって、あたしの兄弟みたいな男の子なんだけど。いきなり居なくなっちゃったからあたし、ちょっと驚いちゃって……」

首を傾げているケビンにエステルは説明を始めた。

「いきなり居なくなったって……。それって、家出かなんかか?」

エステルの説明を聞いたケビンは驚いた後、真剣な表情で尋ねた。

「ううん、違う。一足先に家に帰っただけなの。だって家族なんだもん。勝手に居なくなるわけないんだから。」

「………………………………」

笑って説明するエステルをケビンは真剣な表情で黙って聞いていた。

「でも、ホント失敗したなぁ。告白はタイミング悪かったかも。ヨシュアに会ったらうまい具合にごまかさないと……」

「………………………………。……なあ、エステルちゃん。」

黙って聞いていたケビンはやがて口を開いた。

「ふえっ?」

話を遮られたエステルは驚いて声を出した。

「いや……。………………………………。あんな、オレさっきも言ったように観光中やから特に用事もないねん。せやから、ロレントって街で降りてエステルちゃんを家まで送ったるわ。」

「ええっ!?」

ケビンの申し出にエステルは驚いて声を上げた。そして飛行船はロレントの空港に到着した。



~ロレント発着所~



「は~、ここがロレントか。こう言うたらなんやけど発着場がある以外は田舎やね。」

飛行船から降りたケビンは周囲を見渡して感想を言った。

「悪かったわね、田舎で。一応言っておくけど、礼拝堂だってあるし、それに”闇の聖女”様が住んでいる街だし、メンフィルの王様やお姫様が住んでいる大使館だってあるんだからね。」

ケビンの感想にムッとしたエステルは自慢げに言った。

「お~……あの噂の聖女さんや覇王もこの街に住んでいるのか………そりゃ、凄いな。」

エステルの説明を聞いたケビンは感心した様子で言った。

「ふふ~んだ。……ねえ、ケビンさん。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」

「ん?なんや?」

「アーライナ教やイーリュン教と七曜教会って……仲が悪いの?」

「ハッ?なんでそんな事を思ったん?」

エステルの疑問を聞いたケビンは首を傾げた。

「えっと………七曜教会の信者の人達が、イーリュンやアーライナの神様を信じ始めて、信徒が減ったって習った事があるから。」

「おいおい……今の日曜学校はそんなキッツイ事も教えているんかいな…………」

エステルの説明を聞いたケビンは驚いた後、溜息を吐いた。

「あ、日曜学校じゃなく、シェラ姉――シェラザードっていう遊撃士の先輩が教えてくれたんだ。」

「遊撃士の?遊撃士がなんでそんな事を知っているん?」

「実はシェラ姉って、”闇の聖女”様の魔術の弟子なんだ!」

「ほへ~……そりゃまた、凄いな。あの”闇の聖女”から直々に指導して貰えるなんて滅多にないと思うで?」

エステルの説明を聞いたケビンは驚いた。



「えへへ……実はあたしも聖女様にちょっとだけど、魔術を教えて貰った事があるんだよ?それに聖女様からこのブローチを貰ったんだから!」

エステルは自慢げに言い、胸に着けていたペテレーネから昔貰ったブローチをとって、ケビンの前に突き出した。

「ん……?それって、確かアーライナ教の信者が着けているお守りやないか……という事はエステルちゃん、アーライナの信徒だったんかいな!?」

突き出されたブローチを見たケビンは驚いた。

「ううん。聖女様が遊撃士を目指すあたしの為にって、特別にくれたんだ!」

「ハハ……実はエステルちゃんって、凄い娘やったんやな。」

「えへへ……それほどでもないわよ。それで?さっきのあたしの質問に答えてもらってもいいかしら?」

ケビンの言葉にエステルは恥ずかしそうに笑った後、尋ねた。

「あ~………別に仲は悪うないよ。実際両方の宗教はさまざまな福祉をやっているし、”聖女”の存在が民間人に知れわたっとるからな。目の仇になんかしたら、それこそ空の女神(エイドス)を信じている信者達が離れていくわいな。それに実際、聖堂で作っている薬の材料でも希少な物や代わりになる材料を分けて貰ったり、”治癒の水”みたいな向こう独特の薬も分けて貰っているからな……ま、実際こっちも助かっている訳や。」

「ふ~ん……そう言えば七曜教会で七曜教会の”聖女”を世に広めたりとか福祉をやらないの?」

苦笑しながら説明するケビンにエステルは聞いた後、尋ねた。

「いや~”聖女”と評されるような人がこっちにもおったらええねんけど、残念ながらいないしな~……福祉に関しても、あちらさんと違って、メンフィルからの膨大な援助がある訳でもないしな~。」

「あ。そっか………そう言えば、イーリュンやアーライナの”聖女”はメンフィルの皇室の関係者だったわね。だからロレントにあるイーリュンの孤児院みたいな凄い所を経営できるんだ………」

ケビンの説明を聞いたエステルは納得した。

「ま、そういう訳や。……で、エステルちゃんの家ってどっちの方にあるん?」

「それなんだけど……。見送りなんて必要ないってば。街から出てすぐの所だし、これでも一応、遊撃士なんだから。」

「なはは、遠慮せんでええよ。レディの送り迎えは男の義務や。それに、自慢のカレシにも一度お目にかかってみたいしな。」

「カレシって……。そんなんじゃないんだけど。まあいいわ、家に着いたらお母さんに頼んでお茶くらいはご馳走してあげる。」

「サンキュー。ほな、案内したってや。」



そしてエステルはケビンを連れて、ブライト家へ向かった………… 

 

第2話

~ロレント郊外・ブライト家~



「へ~。ここがエステルちゃんの家か。なんちゅうか、あったかそうな雰囲気の家やね。」

ブライト家に到着したケビンは家から漂う雰囲気に感心した。

「えへへ、そうでしょ?あたしと、父さんと、お母さん、パズモ……それにヨシュアとの思い出がいっぱいに詰まった場所なんだから。」

「なるほどな~。ん?パズモって誰や?妹かなんかか?」

エステルの説明を聞いていたケビンは首を傾げて尋ねた

「ううん。パズモはあたしの友達。……ちょうどいいわ。パズモを含めてあたしの友達を会わせてあげる!みんな、出て来て!」

そしてエステルはパズモ達を召喚した。

「んな!?なんや、これは!?」

召喚されたパズモ達を見てケビンは驚いた。

「えへへ……”契約”っていって、みんなあたしの魔力に同調していて、普段はあたしの身体の中で休んでいるんだけど、あたしを護るためにこうやって、呼べば出て来て一緒に戦ってくれるんだ!」

「は~………よくわからんが、凄いねんな~……」

エステルの説明を聞いたケビンは感心したような声を出してパズモ達を見た。

(…………よろしく。……………)

「………こんにちは。」

ケビンに見られたパズモとテトリはエステルをチラチラ見ながら会釈をした。

「よろしゅうな。そっちの狐君やそっちの羽の生えたお穣さんも………って、天使!?」

パズモ達に会釈をしたケビンはサエラブを見た後、ニルに気付き、ニルを一目見て天使とわかり、驚いた。

「えへへ、驚いたでしょ?異世界には天使もいるんだよ!」

「ほ~……………まあ、神が現存しているんだから、天使がいてもおかしくないか………」

エステルの説明にケビンは納得した。

(……………………こ奴、何者だ?隠してはいるが、ヨシュアに負けないぐらい、強烈な負の気配がするぞ…………)

(……それと、魔力とは別のとてつもないエネルギーを感じるわ。……それも人間が扱えないような強烈な負の。)

サエラブやニルはケビンから感じられた雰囲気で、お互い念話で話し、ケビンを警戒した。

「それより、そのヨシュア君ってのが一足先に帰ってきているわけか?」

「うん、間違いないわ。ついて来て、紹介するから。」

ケビンの言葉に頷いたエステルは家の中へ入って行った。

((…………………))

「「………………………」」

その様子をパズモ達は痛ましそうな表情で見ていた。

「どんな野郎か知らんが、罪作りなやっちゃ。ふう……しゃあないな。君達も一緒に行くか?」

ケビンは真剣な表情で呟いた後、溜息を吐き、パズモ達を見た。

((…………………))

「「………………………」」

ケビンに見られたパズモ達はそれぞれ首を縦に振った後、ケビンと共に家の中に入った。



「ただいま~、ヨシュア!ねえ、帰って来てるんでしょ!?」

家の中に入ったエステルは返事を待った。

「あら、エステル。お帰りなさい。フフ、前より女らしくなったわね。」

そこに別の部屋からレナが出て来て、微笑ましそうな表情でエステルを見た。

「あ、お母さん!ただいま~!ねえ、ヨシュアはどこ?」

「ヨシュア?一緒に帰って来たんじゃないの?」

エステルに尋ねられたレナは不思議そうな表情で尋ね返した。

「……………………あはは、帰って来てるに違いないじゃない!お母さんに帰って来た連絡もしないなんて、薄情な奴ね~。全く、ここはお姉さんとして叱ってあげなくちゃね!」

レナの答えを聞いたエステルは笑顔が固まった後、気を取り直して2階に上がって行った。

「エステル……?」

エステルから感じる違和感にレナは首を傾げた。そしてエステルが2階に上がった頃にケビン達が家の中に入って来た。



「……そうだ。あたしの部屋にいる可能性もゼロじゃないよね……?やばっ、下着とか出しっぱなしにしてたかも……」

ヨシュアの部屋に行こうとしたエステルは自分の部屋に入った。

「………………………………。よかった……。出しっぱなしにしてなくて。まあ、ヨシュアだったら、あたしの下着なんか見たって平然としてるだろうけど……。………………………………」

フラフラしながらエステルは自分の部屋を出た後、ヨシュアの部屋のドアの前に立った。



コンコン



「ヨシュア……入るね?」

ノックした後、エステルはヨシュアの部屋に入った。

「………………あ。」

誰もいないヨシュアの部屋を見て、エステルはようやくヨシュアがいなくなったという現実に戻った。

「あは……そっか…………あたし……バカだ……」

現実に戻ったエステルはその場で崩れ落ちた。

「カレシ……おらんみたいやな」

「エステル………………」

そこに真剣な表情のケビンと悲しそうな表情をしているレナが入って来た。さらに廊下からはパズモ達が部屋の様子を見守っていた。

「それともアレか。いったん帰って来てからまた街にでも出かけたとかか?」

「……ううん…………」

ケビンの言葉にエステルは首を横に振った。

「ふう……。やっと目ぇ、醒めたみたいやね。」

エステルの答えを聞いたケビンは安堵の溜息を吐いた。

「………………………………。そうよ、ホントはね、ちゃんと分かってたんだ……。ヨシュアは行っちゃったって……。家に戻ってるはずないってちゃんと分かっていたんだよ……」

「そっか……」

「でもね……この部屋が最後だったから……。他に、ヨシュアの居場所なんてあたしには思いつかなかったから……。だから……ここでおしまい。あたしはもう……二度とヨシュアに会えないんだ……」

「エステル………!」

絶望に陥っているエステルを見てレナは思わずエステルを抱きしめた。

「お母さん……!ヨシュアと会えなくなっちゃったよ……!う、ううっ………」

抱きしめられたエステルは涙を流し始めた。

「………そう………………」

泣き始めているエステルを慰めるように、レナはエステルを強く抱きしめ、エステルの背中を優しく撫でた。



「………………………………。諦めるの、早ないか?」

その様子を見たケビンはしばらくの間黙って考えた後、言った。

「…………?」

ケビンの言葉の意味がわからなかったエステルはレナから離れて、立ち上がってケビンを見た。

「所詮、運命なんちゅうもんは女神にしか見えへんシロモンや。そんなもんに縛られた気になって諦めるのは早すぎるで。大事なんは、エステルちゃんが何をどうしたいって事とちゃうか?」

「で、でも……。ヨシュアを捜そうにも何の手がかりもないし……」

ケビンに尋ねられたエステルは戸惑いながら答えた。

「いや、そうでもないやろ。そのカレシがどんなヤツかオレは知らへんけど……。何のきっかけもなしに姿を消すヤツなんておらんで。」

「……え…………」

「最近、カレシの言動や態度で何かおかしなことはなかったか?もしくは、カレシに関係ありそうな奇妙な出来事が起こったりとかな。ずっと一緒にいたキミにしかわからんことやで。」

「……あ……!」

ケビンに言われたエステルは頭の中に思い当たる節を思い出し、声を上げた。

「ああっ……!ヨシュアがおかしくなったのはあの休憩所に戻ってから……。……うそ……どうして?なんであたし……あの時あった人が思い出せないの?」

一部の記憶が思い出せない事にエステルは青褪めた。

「エ、エステルさん!?」

廊下で見守っていたテトリはエステルの言葉を聞き、青褪めた。

(……ちょっと待って。確かあの時、エステルが会った人って……!)

(アルバと名乗っていた考古学者………あの男が黒幕という訳か……!)

「人の記憶を、しかもエステルの記憶を弄るなんて外法、絶対に許せませんわ……!」

一方エステルの身体の中で見守っていた為、記憶に影響を受けなくエステルが思い出せない人物の事を覚えていたパズモが言い出し、その答えをサエラブが答えた後、エステルの記憶障害を起こさせた人物――アルバ教授にサエラブとニルは怒りを抱いた。



「だ、大丈夫か?めっちゃ顔色悪いで。」

「エステル?どこか具合が悪いの?」

「う、うん……大丈夫……」

一方パズモ達の様子に気付いていないケビンやレナは青褪めているエステルに声をかけた。

「そっか……。ヨシュアの目的は悪い魔法使いを止めること……。あの時、あたしがあった人がその魔法使いだとするなら……。それがクーデターを影から操っていたのと同じ人物なら……。悪い魔法使いは、まだリベールで何かをしようと企んでいるはず……。

じゃあ、あたしが遊撃士として魔法使いの企みを阻止できたら……。……ひょっとしたら……」

「……よく気付いたな。」

エステルが呟いたその時、カシウスとシェラザードが入って来た。

「父さん、シェラ姉!?ど、どうしてここに……?」

カシウス達の登場に驚いたエステルは声を上げた。

「……悪い、エステルちゃん。定期船を降りる時、ギルドの王都支部に連絡させてもらったわ。」

「え……」

ケビンから来た意外な答えにエステルは驚いて、ケビンを見た。

「まったく驚いちゃったわよ。あんたを捜してギルドに行ったらちょうど連絡が入ってくるんだもの。で、あわてて先生と……そしてあの娘と一緒に出発直前の貨物飛行船に乗ったわけ。ほら、何か言いたい事があるなら、出て来て遠慮なく言っちゃいなさい。」

そしてシェラザードは廊下に声をかけた。するとミントが部屋に入って来た。

「あ……ミント………」

「ママ………!」

エステルを見たミントはエステルに抱きついた。



「うっ……ヒック!ヨシュアさんがいなくなって、それでママまでいなくなったって聞いて……ミント……もう、ママに会えないと思って…とっても、心配したんだよ!」

エステルに抱きついたミントはエステルの服を強く握って、涙を流しながら泣きそうな表情を顔を上げてエステルに見せた。

「ミント……!ゴメンね……!貴女にまで心配をかけちゃって……!」

涙を流し、今にも泣きそうな表情を見たエステルはミントを強く抱きしめた。

「ヒック!うわあああああああああん!」

エステルに抱きしめられたミントはついに大声で泣き出した。

「ゴメン……!ゴメンね、ミント……!」

大声で泣いているミントを抱きしめて、エステルは涙を流しながら何度も謝った。

「…………ケビン神父といったか?連絡してくれて本当に助かった。礼を言わせてくれ。」

「……ありがとうございます。」

エステルとミントの様子を見たカシウスは安堵の溜息を吐いた後、ケビンにお礼を言った。また、レナもカシウスに続くようにお礼を言った。

「いや~、とんでもない。部外者が出しゃばったりしてホンマ、すんませんでしたわ。」

お礼を言われたケビンは謙遜しながら答えた。そしてミントが泣き止んだ後、エステルはカシウスを見て言った。



「あ、あの……。父さん、あたしね……」

「判っている。……深入りするなと言ったのはただの俺のエゴだ。男としての、父親としての論理をお前に押し付けただけにすぎん。そう、シェラザードに叱られてな。」

「シェラ姉……」

「ふふ、あたしも今回は全面的にあんたの味方よ。」

エステルに見られたシェラザードはウインクをした。

「フフ、私もシェラちゃんと一緒でもちろん貴女の味方よ?エステル。」

「お母さん…………」

「……それとあなた?」

「な、なんだ?レナ。」

レナに呼ばれたカシウスは表面上は穏やかなレナの声に突如恐怖感が襲って来て、微妙に手を震わせた。

「………後で私からも言いたい事や聞きたい事がい・ろ・い・ろと!あるので、忘れないで下さいね?ア~ナ~タ~?」

「…………ハイ、わかりました…………」

そしてレナは凄味のある笑顔をカシウスに見せ、レナの凄味のある笑顔を見たカシウスは身体中を震わせて全身に冷や汗をかき、縮こまりながら答えた。

(………な、何やろ?オレが怒られた訳やないのに、こっちにまで震えが来てしまう……!ってこの感覚はルフィナ姉さんが怒った時と同じ感覚やんけ!…………というか下手したらルフィナ姉さんの上を行く怖さや………!とんでもない人や……!)

(さ、さすがレナさんね…………先生、ご愁傷様です………)

一方ケビンやシェラザードはカシウスに向けているレナの怒りの余波を受け、それぞれ体を震わせた。

「覚悟はしていたが……あいつが居なくなったことが思っていたよりも堪えたらしい。だから、せめてお前だけは危険な道を歩かせたくなかった。命と引き替えにお前を救おうとしたレナのようになって欲しくなかった。……だが、そういう風に考えるのはお前にも、レナにも失礼だったな。今更ながらに思い知らされたよ。」

気を取り直したカシウスはエステルとレナを見た。

「父さん……」

「フフ……そうね。……でもあなた?私は今でもこうして生きているのだから、命と引き換えにこの娘を救ったなんて事を言わないで頂戴。」

「………そうだな。リウイ殿達には本当に感謝しているよ………」

レナに優しい微笑みを向けられたカシウスは口元に笑みを浮かべた後、レナの命を救ったリウイ達に改めて心の中で感謝した。そしてカシウスは表情を真剣にして、話を続けた。



「……軍を立て直すため俺はしばらく身動きが取れん。おそらく奴等の狙いはそこにもあったのだろうが……。今度こそ、俺はお前のことをロクに手助けもできんだろう。それでも、決意は変わらないか?」

「……うん。あたし、まだまだ未熟だけど、それしか方法はなさそうだから……。だからあたし、やってみる。『身喰らう蛇』の陰謀を阻止してきっとヨシュアを連れ戻してみせる!」

「ミントもママと一緒にヨシュアさんを連れ戻すお手伝いをする!」

カシウスに尋ねられたエステルは胸を張って答え、ミントも続いた。

(私達の事も忘れないでよ?エステル。)

「精一杯エステルさんがヨシュアさんと再会できるように、私も頑張ります!」

(……お前がそう決めたのなら、我等は全力でお前をサポートしよう。……それが我等の役目だ。)

「短期間でよく立ち直ったわね、エステル………貴女を”守護”する者として、誇らしいわ。」

「みんな……ありがとう!」

ミントやパズモ達の協力の言葉を受けたエステルはミント達にお礼を言った。



「そうか……。ならば何も言うことはない。遊撃士として……それから1人の女として。お前は、お前の道を行くといい。」

「……父さん……」

そしてエステルはカシウスに抱きついた。

「あたし……あたし……」

「そうだ……。大事なことを言い忘れていた。」

「え……?」

カシウスの言葉を聞いたエステルは首を傾げた。

「エステル、どうか頼んだぞ。ヨシュアを―――あの馬鹿息子を連れ戻してくれ。」

「……あ…………。うん……わかった……。またこの家で……みんなで一緒に暮らすためにも……。絶対にヨシュアを連れ戻すから……!」



こうしてエステルはヨシュアを連れ戻す決意をした……………! 

 

第3話

その後、ケビンが去った後、エステル達は居間でこれからの方針を決めようとしていた。



~ロレント郊外・ブライト家~



「―――言ったように、もう俺はお前を止めるつもりはない。だが正直、今のお前の実力では結社の相手はあまりにも危険すぎる。そこでエステル……『ル=ロックル』に行ってみないか?」

「『ル=ロックル』?」

カシウスの口から出た知らない地名にエステルは首を傾げた。

「レマン自治州にある遊撃士協会が所有している訓練場だ。宿舎の周りには、様々な種類の本格的な訓練施設が用意されている。遺跡探索技術、レンジャー技術、サバイバル技術、対テロ技術……。実戦レベルの訓練を行うのにもっとも適した場所と言えるな。」

「そんな場所があるんだ……。でも、自治州ってことはその訓練場、外国にあるのよね?あたし……今、リベールを離れるわけには……それにミントを置いて行くなんて、あたしにはできないわ……」

「ママ…………」

カシウスの説明を聞いたエステルはリベールを離れたくない事や、ミントを置いて行きたくない事を言った。

「外国とはいっても国際定期船を使えば1日よ。訓練期間は、そうね……。1ヶ月もあれば一通り終わるわ。その間、何か情報が入ったらすぐに連絡できるように手配する。それならどう?」

「それとミントなんだが、これを機にル=ロックルで遊撃士の研修を一緒に受けてみたらどうだ?それならミントと共にいれるだろう?……ただし、通常の研修を短期間で全て受けさせるために、ほとんど休憩する暇はないぞ。……恐らく食事と寝る時以外は一緒になれないと思うぞ。」

「「………………………………」」

シェラザードとカシウスの説明を聞いたエステルとミントは考えていた。

「まあ、勧めはするが決めるのはあくまでお前達だ。よく考えてみるといい。」

「……ううん、もう決めた。あたし、訓練を受けてみる。ミントもいい?」

「うん!ママと一緒にいれるなら、ミント、頑張る!」

「あらま……親娘揃って、決めるのが早いわね………」

一瞬で決めたエステルとミントにシェラザードは驚いた。



「ふむ、思い切りがいい。どうやら自分でも思うところがあるらしいな?」

エステルの答えに頷いたカシウスは尋ねた。

「うん……まあね。考えてみれば、あたしってヨシュアに頼りきりだった。何か事件が起こったときはいつもヨシュアが導いてくれた。でも、これからは自分の判断が頼りなんだよね。だからあたし……その訓練場で自分を鍛えてみる。」

「ミントも早くママに追いつくために、頑張る!」

「そうか……。なら、明日にでも訓練場の利用を申請するといい。ロレント支部から出来るはずだ。」

「うん、わかった。」

「ミントの方はあたしが手配しておくわ。」

「ありがとう、シェラお姉さん!」

カシウスの言葉にエステルは頷き、そしてミントはシェラザードの申し出を聞いてお礼を言った。

「そう言えば、エステル。旅に出る前と比べて随分友達ができたようね?」

レナはパズモ達を見てエステルに言った。



「あはは………色々あって、今はこんなに友達ができたわ。……パズモはお母さんも知っているけど、ほかの子達は初めてよね。……サエラブ、テトリ、ニル。この人があたしのお母さんだよ。」

レナの言葉に苦笑したエステルはサエラブ達にレナを紹介した。

(………我は”狐炎獣”サエラブ。誇り高き”炎狐”!!事情があって、エステルと共に行動をしている。)

「あら………もしかしてこれがエステルとパズモが普段していた”念話”という会話かしら?フフ……まさか私も体験する事になるとは思わなかったわ。」

サエラブの念話に驚いたレナだったが、初めての体験に微笑んで答えた。

「……ユイチリのテトリです。エステルさんには助けて頂いた恩があったので、こうしてエステルさんの使い魔をやらせて頂いています。」

「フフ………エステルの事、これからもよろしくお願いしますね。」

テトリに微笑んだレナは最後にニルを見た。

「それにしても……まさか、天使様までエステルに力を貸して下さるとは思いませんでした。」

「フフ……ニルに敬称や”様”なんていらないわ。ニルは天使の中でも変わりものだもの。」

「あら、そうなの?本当の天使ってどんな方なのかしら?」

ニルの言葉に驚いたレナは尋ねた。

「……普通、天使は滅多な事がない限り、人間に力を貸さないわ。まして”闇夜の眷属”達と親しい人間を見たら、目の色を変えて襲って来ると思うわよ?」

「へっ!?なんで!?」

ニルの説明を聞いたエステルは驚いて尋ねた。

「光に属する”天使”は闇に属する”闇夜の眷属”の事を忌み嫌っているのが天使の普通よ。だから”闇夜の眷属”や彼らと親しい人間は凄く嫌っているし、中には攻撃を仕掛けて来る好戦的な天使もいるわ。」

「光と闇………まさに相反する存在だからこそ、歩み寄れないのか………」

ニルの説明を聞いたカシウスは難しそうな表情で納得した。

「あれ?じゃあ、貴女ってなんでエステルに力を貸しているのかしら?それに貴女、リフィアさん達とも親しそうに話していたわよね?」

シェラザードはある事に気付き、ニルに尋ねた。

「……まあ、以前はニルも他の天使と同じで”闇夜の眷属”はあんまり好きではなかったわよ?前のニルの主が魔神や睡魔、飛天魔や幽霊とか従えていたし、メンフィルの王達はかつて共に戦った戦友。”闇夜の眷属”もニルや人間と変わりない存在だってわかったからね。だからリフィア達とは親しいし、さまざまな種族に慕われているこの娘の将来を見てみたいからね。だから、契約しているのよ。」

「え”!?ゆ、幽霊って存在するの!?」

ニルから出たある言葉にエステルは驚き、恐る恐る尋ねた。

「もちろんいるわよ?幽霊どころか、不死者……エステル達にわかりやすくいえば、ゾンビね。そういった既に死んでいて彷徨っている存在なんて、ニルの世界にはたくさんいるわ。」

「ひ、ひえええ~!!」

「ニルさん達の世界にはお化けさんがいるんだ……ミント、怖い……!」

ニルの説明を聞いたエステルは悲鳴を上げた。また、ミントも怖がった。

「あら?もしかして、エステル………幽霊や不死者とかダメなの?」

「あ、当たり前でしょ!?怖いに決まっているじゃない!」

首を傾げているニルにエステルは怒鳴った。

「……それにしても、貴女の前の契約者って色々と凄いわね………ファーミシルス大将軍のような”飛天魔”や最強の存在である”魔神”すらも使い魔にしていたって………一体、どんな化け物よ?」

一方シェラザードはニルの前の主がどんな人物か気になった。



「あ、セリカ?セリカは”神殺し”だから、その呼び名の通り、神を超えている存在だからね。人によっては化物と呼ぶかもしれないわね……」

「か、”神殺し”!?何よそれ!?」

ニルから出た物騒な呼び名にシェラザードは驚いた。

「その呼び名の通り、”神”を”殺して”、その肉体を奪って生きている存在よ。……”神殺しが居る所に災いあり”と語られるほど、セリカは世界から敵扱いされているわ。………まあ、セリカを襲って来た者達はほとんど、セリカの剣技か魔術で瞬殺されているけど。神の力を持つセリカが放つ魔術はすさまじい威力だし、セリカの剣技――”飛燕剣”は伝説クラスの剣技でもあるし、その剣技をセリカは悠久の時を生きながら常に使い続けているから、そこらへんの剣豪には負けないわ。」

「………話が大きすぎて、夢物語を聞いているような気分よ………」

「ふ~む……機会があれば、ぜひ手合わせをしたいな………それにその”飛燕剣”とやらがどういった剣技なのかも気になるな………」

「もう………いい年をして、何を言っているんですか…………」

ニルの説明を聞いたシェラザードは溜息を吐き、カシウスはセリカと手合わせをしたいと思ったりセリカの剣技が気になり、その様子を見たレナは呆れて溜息を吐いた。

「ふんだ。”神殺し”か何だか知らないけど、自分が契約していた子を忘れる薄情者はいつかあたしがぶん殴る!!テトリどころか、パズモやニルの主でもあったようだからね………当然、忘れているだろうから、2人の分も込めた最高の一撃でぶん殴ってやるわ!」

「あ、あわわ…………前にも言いましたが私なんかの為に、そんな事止めて下さい!下手したら殺されちゃいますよ!ご主人様、冗談とか本当に通じない人ですし!」

一方エステルは頬を膨らませていつかセリカを殴る事を言い、その様子にテトリは慌てた。

「フフ……神を恐れぬどころか”神殺し”をも恐れないなんて、エステルぐらいよ。本当に面白い娘ね♪」

ニルは”神殺し”であるセリカを恐れないエステルを見て、口元に笑みを浮かべていた。

(……”神殺し”か。我も知識として知っていたが、まさかお前達の以前の主だったとはな………)

(………セリカは決して自分から望んで”神殺し”にはなっていないわ。……さまざまな運命が絡み合った結果、そうなってしまったのよ……)

サエラブはパズモを見て、見られたパズモはセリカが”神殺し”になった経緯を思い出し、悲しそうな表情をした。

「……とりあえず、話を戻すぞ。………ル=ロックルにはパズモ達は連れて行くな。」

「え!なんで!?」

カシウスの言葉にエステルは驚いた。



「ル=ロックルはお前自身の実力を上げる訓練所。パズモ達がいれば、お前は彼女達に頼ってしまうだろう?自分自身の実力を底上げするためにも彼女達は連れて行かない方がいい。」

「う”~……仕方ないか………悪いけど、しばらくの間、留守番をしてもらっていてもいい?」

カシウスの説明に納得したエステルは唸った後、パズモ達に確認した。

「わかりました。エステルさんもミントさんも頑張って下さい。」

(……今後の戦いのためにもエステル自身、強くならないとダメだものね。いいわよ。)

(………しっかり修練して、見違えて来い。)

テトリやパズモ、サエラブは頷いて了承の返事をした。

「う~ん……エステル達が修行に行っている間、何もする事がないから暇になるわね……」

ニルは暇ができた事に退屈そうに溜息を吐いた。

「ああ、その心配は必要ないぞ?」

「え?」

そしてカシウスの言葉にニルは驚いた。

「エステル達がル=ロックルにいっている間……4人には遊撃士協会を手伝ってもらうつもりだ。……実力ある者が4人も暇を持て余しているんだ。クーデターの件もあって、今のリベールの遊撃士協会は

猫の手も借りたいほどだ。きっと歓迎されるぞ?」

「………ちょっと、父さん?まさかそっちが本命だったりとかしないわよね?」

カシウスの話を聞いたエステルはジト目でカシウスを見た。

「ギクッ……そんな事はないぞ?」

ジト目で見られたカシウスはエステルから視線を外した。

「あっやしいわね~………まあいいわ。みんな、どうする?」

ジト目でカシウスを見ていたエステルは気を取り直して、パズモ達に尋ねた。

(私は別にいいわよ。魔力もエステルの魔力と繋がっているから、活動にも問題ないし。)

(……構わん。少しでも退屈を紛らわせるなら別にいい。)

「みなさんが私の力を望むのでしたら、存分に使って下さい。………できれば手配魔獣を倒すとかそういった戦いの仕事はやめてほしいですけど。」

「フフ………退屈凌ぎにはちょうどいいですわ。」

エステルに尋ねられたパズモ達はそれぞれ頷いた。

「決まりだな………早速エルナンに知らせて、王都の仕事を手伝わせよう。今の王都は大変だろうしな。」

「あ、先生。一人ぐらいはこっち(ロレント)に廻して下さいよ?こっちも常に人手不足なんですから。」

「もう、パズモ達の契約者であるあたしの目の前でそういう話はやめてほしいわ………」

ノリノリにパズモ達の手伝いの事を相談しているカシウスとシェラザードを見て、エステルは溜息を吐いた。



「フフ………さて、エステル。話も落ち着いたようだし、その娘の事……私にも紹介してくれるかしら?」

「あ、うん。ミント。」

「はーい!」

レナに言われたエステルはミントを呼び、呼ばれたミントは元気良く返事をした。

「……遅くなったけど、この娘があたしの娘になったミントよ。ミント、この人があたしのお母さんよ。」

「ミントです!初めまして、お祖母ちゃん!!」

「あらあら………この年でこんな大きくて可愛い孫ができるなんて思わなかったわ。……よろしくね、ミント。」

ミントの自己紹介を聞いたレナは微笑ましそうな表情でミントの頭を撫でた。

「えへへ………お祖母ちゃんって、若くてとっても綺麗だね!」

「フフ、ありがとう、ミント。……さて、エステル?クラウス市長に伝えた私の伝言……もちろん覚えているわね?」

「は、はい!」

レナに笑顔を向けられたエステルはクラウスの伝言を思い出した後、体を震わせて姿勢を正した。

「ど~し~て~?私に何の相談もなく、この娘を引き取ったのか~し~ら?」

「ヒッ!い、今話します!」

「ハァ……レナさんに相談もなく、そんな事をしたの、エステル。………たっぷり怒られなさい。」

「………………………ブルブル………」

レナの凄味ある笑顔を見てエステルは思わず敬語になり、シェラザードは呆れて溜息を吐き、カシウスは次は自分の番である事を理解し、エステルよりさらに怒られるとわかっていたので体を震わせていた。そしてエステルはレナ達にミントを引き取る事になった事情を説明した。



「こ、この娘が”竜”!?本当なの、エステル!?」

ミントの正体を知ったシェラザードは驚いてミントを見て、エステルに尋ねた。

「…………………………」

カシウスは驚きの表情で黙ってミントを見ていた。

「うん。それとこの娘の友達のツーヤって子が言ってたんだけど、まだ大人になっていないから”竜化”はできないんだって。」

驚いているシェラザード達にエステルは説明した。

「…………話はわかったわ、エステル。でも、一つ聞かせて頂戴。どうして”母”になったの?”姉”ではいけないの?」

エステルの話を聞き終えたレナは静かな声で尋ねた。

「そ、それは……………」

「………何もこの娘を引き取った事には反対していません。でもね、エステル?あなたの年で”母”を務めるなんて、並大抵の事ではないのよ?」

「で、でも!ミントは10年近くもあたしの事、待っていたんだよ!?」

「それは”パートナー”の話でしょう?………ねえ、ミント。よかったら私達があなたのパパとママになってもいいかしら?」

エステルの反論をバッサリ切ったレナはミントに優しい微笑みを見せて、尋ねた。

「やだっ!ミントの”ママ”はママだけなんだから!」

レナの申し出にミントは思いっきり首を横に振って答えて、エステルの手を強く握った。

「ミント…………」

ミントの答えにエステルは感動し、ミントの手を強く握り返した。

「フフ……どうやら、ちゃんと”母親”をやっているみたいで安心したわ。」

「へっ!?」

いきなり態度を変えたレナを見て、エステルは驚いた。

「レ、レナさん!?さっきまで反対していたのに、なんでいきなり態度を変えたんですか?」

レナの心変わりにシェラザードは驚き、尋ねた。



「フフ………ミントがエステルに抱きついて、泣いているのを見て、迷子の子供が母親を見つけたのと同じようだなって思って、ミントがエステルの事を実の母親のように慕っているってすぐに気付いただけよ。

それに2人のお互いを見る目や態度を見ていたら、誰でもわかるわ。」

「いや、そんなすぐにわかるのなんて、レナさんだけと思うのですが………」

「さすがレナだな………」

レナの答えを聞いたシェラザードは驚き、カシウスは感心した。

「って!もしかしてあたし、試されていたの!?」

驚いていたエステルだったが、ある事に気付き声を上げた。

「フフ……ごめんね、エステル。まだ成人もしていないあなたが本当に母親をやれているか、どうしても心配でね?ちょっと、試させてもらったわ。」

レナは優しい微笑みを見せて、謝った。

「もう……お母さんったら………」

レナの答えを聞いたエステルは呆れて溜息を吐いた。

「それにせっかくできた可愛い孫娘に嫌われたくなんてないもの。」

そう言ったレナはミントの頭を撫でた。

「えへへ………」

頭を撫でられたミントは気持ち良さそうな表情で喜んでいた。

「結局はそこなのね……もう~、みんなして、ミントに甘いわね~。」

((……………………))

「ア、アハハ………………」

「……その子を一番甘やかしている貴女がそれを言う?」

エステルの言葉を聞いたパズモとサエラブは呆れている様子で黙っていて、テトリは苦笑し、ニルは呆れて溜息を吐いた。



「フフ……さて………と。話はここまでにして、エステルの正遊撃士になったお祝いと新しい家族や友達の歓迎会をしなくちゃね。」

「あ!あたし、久しぶりにお母さんのオムレツ、食べたいな!」

「オムレツ!?ミントも食べたい!ミント、卵が大好きだもの!!」

レナの提案にエステルは真っ先に反応し、ミントは大好物の卵料理を聞くと、目を輝かせた。

「フフ、そう。ブライト家のオムレツは特製だから、楽しみに待っていてね。…………………うん、こんなものかしら。じゃあ、悪いけど今から買物に行ってくれるかしら?私は今から下ごしらえを始めるから。」

メモに買って来る物を書いたレナはエステルに渡して頼んだ。

「うん!ミント、みんなも一緒に行こう!ついでにロレントを案内するわ!!」

「はーい!」

(フフ……すっかり元気が戻ったようね。)

(ああ。)

「フフ……ニル達を見て、騒ぎにならなきゃいいけどね。」

「ア、アハハ……(どう考えても天使のニルさんがいる時点で騒ぎになりますよ………)」

そしてエステル達は買物をするためにブライト家を出た。

「それじゃあ、あたしもエステルの事、ギルドに報告して来ますね。ご馳走、楽しみにしていますよ、レナさん。」

「ええ、腕によりをかけて作るから期待していていいわよ、シェラちゃん。ただし、お酒はほどほどにね?」

「タハハ……了解しました。」

レナの言葉に苦笑したシェラザードはエステル達と同じようにブライト家を出て行った。

「フフ……ミントを見ていると、新しい子供が欲しくなって来るわ。」

カシウスと2人だけになったレナは微笑みながら、とんでもない事を言った。

「そ、そうか?よーし、それじゃあ早速今から部屋で頑張ろうじゃ……」

レナの言葉に反応したカシウスは口元に笑みを浮かべて言いかけた所を

「別にいいけど、もちろん常識の範囲内で。私はこれからあの子達の祝いのためのご馳走の支度があります。そ・れ・に!今夜は寝かせないつもりだから安心していいわよ、ア・ナ・タ?」

「…………ハイ………………」

レナの凄味のある笑顔を見たカシウスはさっきレナに言われた事を思い出し、顔を青褪めさせて縮こまりながら答えた。



そしてエステル達はレナのご馳走を食べ、ブライト家に泊まった後、しばらくの間ブライト家から通いながらロレントで仕事をし、その後エステルとミントはグランセルに行き、パズモ達と一端別れた後ル=ロックルに向かい、訓練を始めた。



一方、エステルがヨシュアを連れ戻す決意を決めてから、2カ月近く。ディル・リフィーナの大陸の中で2番目に大きい大陸、ラウルバーシュ大陸のアヴァタール地方。その中でも最も勢力がある国で、土着神――『水の巫女』を崇め、世界の敵――”神殺し”セリカ・シルフィルを客将として受け入れている国、レウィニア神権国。レウィニアの王都、プレイアで因縁の再会の時が迫っていた……! 

 

外伝~因縁の再会~前篇

~レウィニア神権国・王都プレイア~



「…………………………」

”神殺し”セリカ・シルフィルの第一使徒であり、かつてはレスぺレント地方最大の勢力の王族であり、『姫将軍』という2つ名で恐れられていたカルッシャの王女――エクリア・フェミリンスは心あらずな様子で買物をしていた。

「あの……お客様?」

エクリアの様子を不思議に思った店の主人はエクリアに話しかけた。

「!すみません、なんでしょうか?」

「いえ……あの、お会計がまだなのですが………」

驚いているエクリアに店の主人は遠慮気味に言った。

「申し訳ございません。今、払いますので………」

店主に謝ったエクリアは代金を払って、店を出た。

「ハア………イリーナ…………」

店を出たエクリアは溜息を吐いて、かつてその身に宿る”姫神”フェミリンスに身を任せて、殺してしまった末妹であり、リウイの愛妻であったイリーナの名を呟いた。

(……2人は神の墓場のような場所にイリーナの魂が彷徨っているって言ってたけど………貴女は今、どうしているの?)

実は以前セリカの使い魔であり、今は冥き途の門番であるリタとナベリウスが遊びに来た時、エクリアにリウイ達が自分達にイリーナの魂の行方を尋ねに来た事、そしてイリーナの魂の行方を2人に教えられたエクリアはその日からずっと、心あらずな様子であり、

主であるセリカに尋ねられても、誤魔化す一方だった。溜息を吐いていたエクリアだったが、気を取り直しセリカの屋敷に帰ろうとしたその時



「あの……すみません。一つ、お尋ねしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

ある女性がエクリアの背後から話しかけた。

「?…………はい、なんでしょうか?」

話しかけられたエクリアはどこかで聞き覚えのある声に首を傾げた後、声がした方向に向き直って女性を見た。

「え……………………」

女性――メンフィル大使館で働いているメイド、イリーナ・マグダエルを見たエクリアは驚いて、手に持っていた回復薬等が入った袋を落とした。

「え…………(何?この懐かしい気持ちは……?)」

一方エクリアの顔を見たイリーナもエクリアを見て感じる気持ちに思わず声を上げた。

「イ、イリーナ!?」

エクリアは信じられない様子で声を上げた。

「あの……どうして私の名前を知っているのですか……?どこかでお会いした事があるのでしょうか?」

「え…………」

自分の事を全く知らない様子のイリーナの答えを聞いたエクリアは驚いた。

「………申し遅れました。私、さる御方に仕えているイリーナ・マグダエルと申します。」

「イリーナ……マグダ……エル……?」

イリーナの本名を聞いたエクリアは首を傾げた後、イリーナの顔をよく見た。

(別人……?でも、あまりにも”あの娘”と似すぎているし、感じられる雰囲気も”あの娘”そのもの……!)

エクリアはイリーナの容姿や感じられる雰囲気で、自分が知っているイリーナとそっくりな事を心の中で思った。

「あ、イリーナさん。道を尋ねられそうな方を見つけたのですか?」

そこにプリネとツーヤがイリーナ達に近付いて来た。

「プリネ様。それにツーヤちゃんも。……はい。今からこの方に聞こうとした所です。」

「そうですか。どなたかは知りませんが、お手数をかけてすみま……」

イリーナの答えを聞いたプリネはエクリアを見て、謝罪をする途中で固まった。



「なっ!?あ、貴女は!『姫将軍』エクリア・テシュオス!!」

「!!」

今はもう、限られた人物達しか知らないはずの過去の自分の二つ名と百数十年前に捨てたかつての王族として名乗っていた名をプリネが口にした事にエクリアは驚いた。

「ご主人様?この方を知っているのですか?」

エクリアを知っていそうなプリネを見て、首を傾げたツーヤは尋ねた。

「………ええ。直接会ったのはこれが初めてだけどね。………神殺しが住む王都――プレイアに神殺しの使徒である貴女がいても、特におかしくありませんね、エクリア様。」

「………貴女は何者ですか?」

エクリアは自分の正体や過去を知っているプリネに、プリネ自身の正体を尋ねた。

「……申し遅れました。私の名はプリネ・マーシルン。この娘はツーヤ。よろしくお願いします。」

「……ツーヤと言います。イリーナさんと同じく、ご主人様に仕えております。」

警戒している様子のエクリアにプリネは礼儀正しく自己紹介をし、ツーヤもプリネに続くように自己紹介をした。

「マーシルン!?ま、まさか……リウイ様の……縁の方ですか……!?」

一方プリネの名を聞いたエクリアは驚き、震えながら尋ねた。

「……父は初代メンフィル皇帝、リウイ。母はアーライナの神格者、ペテレーネです。」

「!!リウイ様とリウイ様の側近の方の……ご息女……ですか……道理で私の事を……知っている訳ですね……」

プリネがリウイの娘と知ったエクリアは驚いた後、寂しげに笑った。



「あの、プリネ様。宿屋の事は聞かなくていいのですか?」

そこにイリーナが遠慮気味に申し出た。

「そうね。あまりにも驚いてしまって、すっかり忘れてしまったわ。……エクリア様、今お時間はよろしいでしょうか?」

「……はい。」

そしてプリネはエクリアに宿屋を探している事を説明して、そこまでの道を尋ねた。

「………もしよろしければ、私がご案内いたしましょうか?」

「……よろしいのでしょうか?」

エクリアの申し出に驚いたプリネは尋ねた。

「はい。……その代わりといってはなんですが、教えて欲しい事があるのですが……」

プリネに答えたエクリアはイリーナに一瞬目を向けた後、言った。

「……わかりました。ただ私が説明するより、もっと適任な方がいらっしゃるので宿屋までお願います。」

エクリアの意図を理解したプリネは真剣な表情で頷いた。

「では、こちらです……」

そしてエクリアはプリネ達を宿までの道を案内し始めた。



「………そう言えば、リフィア様はご健勝でしょうか?」

宿屋への道を歩きながら、エクリアは尋ねた。

「ええ。実は一緒に来ていたのですが、プレイアに着くなり『セリカとマリーニャに会いに行って来る!』と言って、エヴリーヌお姉様や妹のレンを連れて、止める間もなく行ってしまったんです。」

「そうなのですか………それにしても、何故メンフィルからレウィニアに?」

「実はセテトリ地方に用がありまして、レウィニアによったのは旅の休憩をするためによったのです。」

「そうだったのですか………あの、リウイ様は……」

プリネの説明に頷いたエクリアが尋ねかけたその時

「あ……もしかして、この建物が宿屋ではありませんか?」

イリーナが宿屋のマークがある建物を見て、言った。

「そのようですね。……道案内、ありがとうございました。」

「「ありがとうございました。」」

エクリアにお礼を言うプリネに続くようにツーヤやイリーナも頭を下げてお礼を言った。

「いえ……それほど、大した事はしていないので……あの……」

プリネ達のお礼を謙遜しながら受け取ったエクリアがある事を再度尋ねようとしたその時



「はぐれたと思ったが、こんな所にいたか、3人共。」

「よかった……」

「心配しすぎよ、ペテレーネ。プリネももう、18歳じゃない♪」

「そうよ。気持ちはわかるけど、貴女はちょっと過保護すぎだわ。」

なんとカーリアン、ファーミシルス、ペテレーネを引き連れたリウイがプリネ達の後ろから声をかけ、プリネ達に近付いて来た。

「お父様。……その……こちらの方に案内してもらいました。」

「ほう……ならば娘が世話になった礼をしないとな。」

プリネの答えを聞いたリウイはエクリアを見た。

「!!」

「え!」

「嘘!?」

「なっ!貴様は!」

エクリアを見たリウイは目を見開いて驚き、ペテレーネやカーリアンは声を上げて驚き、ファーミシルスは驚いた後連接剣を構えた!

「!!……やはり、一緒に旅をしておいででしたか……」

一方エクリアも驚いた後、覚悟を決めたような表情で呟いた。



「何故、貴様がプリネ様達と一緒にいる!……姫将軍!!」

「やめろ。騒ぎを起こしてレウィニアに我等が滞在している事を悟られる訳にはいかん。……こんな所で足を止められる訳にはいかん。」

「ハッ!」

今にも攻撃しそうなファーミシルスだったが、リウイに制されて構えを解いた。

「あ、あの、プリネ様。もしかして私、尋ねてはいけない人に尋ねたのでしょうか?」

リウイ達の様子を見たイリーナは恐る恐るプリネに尋ねた。

「…………いえ。確かにかつては敵対していましたが、今はそうではないでしょう?お父様。」

「……………ああ。」

「…………………」

プリネに言われたリウイは複雑そうな表情をしながら答えた。また、ペテレーネは心配そうな表情でリウイとエクリアの顔を何度も見た。

「…………俺はこの者に娘達が世話になった礼をする。お前達は先に宿屋で休んでいてくれ。」

「ハッ!」

「承知しました。」

「リウイこそ、騒ぎを起こさないでよ~。」

リウイの言葉にファーミシルスとペテレーネは頷き、カーリアンはエクリアを一瞬見た後、宿屋に入って行った。

「お父様。リフィアお姉様達はどうしましょう?」

「……その内帰って来るだろう。神殺しの屋敷に泊まって来るかもしれんが、あいつらの分の部屋も一応取っておいてくれ。」

「わかりました。行きましょう、2人とも。」

リウイの言葉に頷いたプリネはツーヤやイリーナにも宿屋に入るよう促した。

「はい、ご主人様。」

「………はい。」

プリネの言葉にツーヤは頷き、イリーナはエクリアを気にしながらプリネ達と宿屋に入った。



「………………………」

「………………………」

カーリアン達が宿屋に入り、2人だけになったリウイとエクリアはそれぞれ黙っていた。

「……………………」

何かを考えるように両目を閉じて黙っていたリウイだったが、やがて目を見開いて踵を返してエクリアに背中を見せて言った。

「…………その様子だと”イリーナ”の事が知りたいのだろう?……プリネ達を道案内した礼だ。………知りたいのなら、ついて来い。」

そう言ってリウイは歩き出した。

「……………………」

歩き出すリウイを見て、目を閉じて考えていたエクリアだったが、やがて目を見開き、決意の表情になってリウイの後を追った。



今ここに”闇王”と”姫将軍”の因縁の再会の時が来た…………! 

 

外伝~因縁の再会~後篇

~レウィニア神権国・王都プレイア・郊外~



「……………………………」

エクリアに背を向けて歩いていたリウイは誰もいない平野に来ると、そこで立ち止まった。

「……………………………」

立ち止まったリウイを見て、エクリアも立ち止まり、リウイが言いだすのを待った。

「…………何から聞きたい。」

エクリアに背を向けたまま、リウイは少しの間考えるように目を閉じた後、やがて目を開き尋ねた。

「………その……遅くなりましたが、プリネ様の誕生、おめでとうございます。」

「……………別にお前に祝われる筋合いはないが、一応受け取っておこう。第一、お前が言いたい本題はそれではないだろう。」

「……………………」

リウイに指摘されたエクリアは黙った後、やがて決意の表情になって、尋ねた。

「その…………イリーナ・マグダエルという女性の事で聞きたいのですが………」

「………………あの者は縁あって、俺達に仕えている。両親は昔、不幸があってあの者が幼い内に逝ってしまったが、血縁の妹や祖父は今でも生きている。……それだけだ。」

「………どこで出会われたのでしょうか?」

「………………………」

エクリアに尋ねられたリウイは黙った後、やがて口を開いた。

「………冥き途の門番達と親しいお前なら、俺達が来た事ぐらいは聞いているだろう。」

「………はい。その……イリーナの魂が突如、消えてしまった事も………」

リウイに尋ねられたエクリアは震えながら答えた。



「………俺達は門番達の言う通り、あいつが消えた場所を探した。その結果があの者だ。」

「………!!じゃあ、やはりあの娘なのですね………!よかった………!」

リウイの言葉を聞き、エクリアはイリーナが生きている事に思わず涙を流した。

「…………………」

その様子をリウイは背を向けたまま、黙って聞いていた。

「……正直ここに寄るべきか、迷った。ここは今のお前の故郷といっておかしくない場所だからな。」

「………………………」

「だがその一方、お前とあの者が出会えば何かが変わると思って、リフィアの言う通り賭けに出たのだが……あの様子では、賭けは失敗したようだな。」

「?……あの。そういえばどうしてあの娘は今、貴方の妻ではなく、プリネ様の侍女をしているのでしょうか……?」

「……何か勘違いをしているようだな。あの者は”イリーナ”ではない。”イリーナ・マグダエル”という者だ。」

「…………!そういう事……ですか……あの娘は生き返った訳ではなく、転生をしたんですね……」

リウイの言葉を聞いたエクリアは複雑そうな表情をした。



「………言っておくが、いくらあいつが転生し、お前の利用価値が無くなったとはいえ、お前を許した訳ではないからな。」

「構いません……私は貴方に殺されて当然の存在なのですから……妹の幸せを……貴方の愛妻を奪っておきながら、私はぬくぬくとこうして生きている……妻を奪われた貴方からすれば、許せない事でしょうし、私自身も自分を許して等おりません。……この思い、一時期はセリカ様のお陰で晴れましたが、リタさん達からイリーナの魂の行方を

聞き、そして”イリーナ・マグダエル”という女性を見て、思いました。……やはり私は許されるべき存在ではないと。……私は貴方と………そしてイリーナに裁かれるべき存在です。」

リウイに言われたエクリアは静かに答えた。

「フン……かつて、俺達の最大の敵であった者が随分弱気になったものだ。お前を慕って俺達に殺されて逝ったお前の部下達が報われないな。」

「………………………」

リウイの皮肉にエクリアは何も返さず、目を閉じて黙って聞いていた。

「………神殺しに伝えておけ。『イリーナの魂を救った礼を変える』と。」

「え………?」

リウイから出た言葉にエクリアは驚いた。

「『レスぺレントにお前達が姿を現す事がない限り、お前の使徒は狙わない』と。」

「!!」

「神殺しを思うなら、二度と俺達に会おう等思わぬ事だ。……もう、お前に話す事はない。………さらばだ。」

そしてリウイは自分の言葉を聞いて驚いているエクリアとすれ違い、宿屋へと戻って行った。



「…………………」

一人残されたエクリアは何も言わず、その場に留まっていた。

「セリカ様の事を考えるなら……私は…………でも…………」

遠回しに『イリーナと2度と会うな』と言われた事を理解したエクリアは自分の中で起きている葛藤に迷っていた。

「……私はセリカ様の使徒………セリカ様の幸せのためだけに生きるのが私の生きる目的……セリカ様を狙う敵が少しでも減るなら、私の……贖罪は……ウッ……ウッ………」

心の中ではイリーナに謝罪したいエクリアだったが、セリカを狙う敵を少しでも減らすべきだと思ったエクリアは、セリカを優先し、自分が本当にしたい事を押し殺す事に顔を俯かせ、声を押し殺して涙を流した。

「…………………」

声を押し殺して泣いていたエクリアだったが、やがて表情を戻して顔を上げた。

「………すっかり、遅くなってしまったわ……お客様も来ている事だし、早く帰らないと……」

そしてエクリアはセリカの屋敷へと戻って行った。



~レウィニア神権国・王都プレイア・郊外~



翌日、宿屋で休んだリウイ達は王都の郊外でリフィア達を待っていた。



「待たせたの、リウイ!」

「エヴリーヌは久しぶりにリウイお兄ちゃんと一緒に寝たかったのに……リフィアは強引すぎ。」

「うふふ……世界を敵に廻した人って、どんな男かと思ったけど、中々の美人な男の人だったわ♪あれなら、ドレスとか着たら凄く似合うんじゃないかしら♪」

リウイ達を見つけて、近付いて来たリフィアは声をかけ、エヴリーヌは溜息を吐きながら文句を言い、レンは噂の”神殺し”に出会った感想を言った。

「……ようやく戻って来たか。」

「お帰りなさいませ、リフィア様。」

リフィアと合流したリウイは溜息を吐き、ペテレーネは会釈をした。

「目を放せばすぐにどこかへ行くこの癖……誰に似たのかしらね?」

「……こっちを見ないでくれるかしら?」

呆れている様子のファーミシルスに見られたカーリアンは気不味そうな表情で言った。

「2人とも、プレイアはどうでした?」

一方プリネはイリーナとツーヤに感想を尋ねた。

「なんていうか……とても綺麗で賑やかな都でした。それと水が凄く綺麗で、神様が住んでいるような神々しい感じもしました。」

「……プレイアには土着神である”水の巫女”がいる王都だからな。あながち、ツーヤの言っている事も嘘ではないだろう。」

ツーヤの感想を聞いたリフィアは感心した様子でツーヤを見た。

「……………………」

「イリーナさん?どうしたんですか?」

プレイアを黙って見続けているイリーナに首を傾げたプリネは尋ねた。



「!!す、すみません……ボーっとしていて聞いていませんでした……」

プリネに言われ、ハッとしたイリーナはプリネに謝った。

「いえ、別にいいのですが、何か気になる事があったんですか?」

「はい。………昨日宿屋まで案内してくれた女性ですが……………なんとなく、その方から懐かしい雰囲気を感じたのです。……どうしても、それが気になってしまって………」

「!!そうなのですか………」

イリーナの答えを聞いたプリネは驚き、視線を一瞬リウイに向けた後、なんでもないふうに装った。

「………………………」

イリーナの言葉を聞き、内心驚いたリウイだったが、顔には出さず黙っていた。

「ねえねえ、早く行かない?エヴリーヌ、早くセテトリの葡萄、一杯食べたいもの。」

「天使と睡魔が仲良くしているなんて街、興味あるわ~♪私も早く、行きたいわ♪」

「………私は人間でありながら竜や力天使(ヴァーチャーズ)、ソロモンの一柱に力を認めさせた”匠王”とやらに興味があるわ。一体どんな人間なのだか……」

エヴリーヌの提案にカーリアンは興味ありげな表情で頷き、ファーミシルスも同意した。

「……そうだな。いつまでもここに長居する訳にはいかん。そろそろ行くか………全ての種族が共存し合う街、『ユイドラ』へ。」

「……申し訳ないのですが、私達もご同行させて頂いてもよろしいかしら?」

リウイが全員に目的地に行くよう促したその時、一人の女性がリウイ達を呼び止めた…………… 

 

外伝~新たな出会い、そして工匠都市へ~

~レウィニア神権国・王都プレイア・郊外~



呼び止められたリウイ達は首を傾げて振りかえるとなんと光の現神の中でも最も勢力があると言われる軍神――マーズテリアの紋章が印された魔導鎧を装備し、槍を持っている女性とどことなく高貴な雰囲気を纏い、弓を装備しているエルフがいた。

「なっ!!軍神(マーズテリア)の神官戦士!?」

「……私達に何の用かしら?」

女性の内の一人――マーズテリアの神官戦士を見たカーリアンは驚き、ファーミシルスは警戒した様子で尋ねた。

「……初めまして、メンフィル王。マーズテリアの神官戦士、ロカ・ルースコートと申します。闇夜の眷属と人間の共存を実現した高名な陛下に会えて、光栄です。」

マーズテリアの神官戦士――ロカはリウイ達に会釈をした。

「………今のメンフィル王はシルヴァンだ。俺の事はリウイでいい。……それでマーズテリアが俺達に何の用だ?」

「用……といいますか、行き先は私達と同じなのでよければ私達も御供をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「フム……それにしてもマーズテリアがユイドラに何の用があるのだ?」

ロカが語った用が気になったリフィアは尋ねた。

「マーズテリアではなく、私個人の用です………今、ユイドラはある魔神が率いた軍に攻められているのです。……今はなんとか耐え凌いでいるようですが、ユイドラは全ての種族が協力し合う街。そんな事が長く続けば、ユイドラに住む闇夜の眷属達の立場がなくなってしまい、領主であるウィルも街の人達から攻められてしまいます。

……彼にはこの魔導鎧を作ってもらった恩もあるので、彼を手助けするためにユイドラへ向かっているのです。」

「なぬ!?魔神に攻められているだと!?一体どこの馬鹿がそんな真似をしているのだ!」

ロカの説明を聞いたリフィアは憤り、魔神の正体を尋ねた。

「……それはこちらの方が説明して頂きます。フォーチュラ殿、お願いします。」

「……わかった。」

ロカに促されたエルフ――フォーチュラは頷き、リウイ達に会釈をした。

「……申し遅れました。私はルーン=エルフのフォーチュラ・シード。……このような形で我が友が興味を持っていた方に会えるとは思いもしませんでした、リウイ殿。」

「友……だと?エルフが何故、俺に興味を持ったのだ?」

フォーチュラの言葉に驚いたリウイは尋ねた。



「友と言っても、エルフではありません。フィーノ、セフィリア夫妻という人間の異界守の友です。……今はもうその2人は寿命が尽き、冥き途へと旅立ってしまいましたが……」

「異界守……テルフィオン連邦国家の一つ、ヴァシナル公国の街――エテの街の地下にある迷宮、『歪みの主根』 。その迷宮の秩序を保つ者達がそのような呼び名で呼ばれていたと記憶しています。」

ファーチュラの説明を聞き、ファーミシルスは自分の持っていた情報をリウイに話した。

「………光の三太陽神が盛んな国の者がよく俺に興味を持ったものだな?」

「………フィーノは出会った時から闇夜の眷属と敵対する事に疑問を持っていました。街の者達は彼の考えに同意しませんでしたが、彼は闇夜の眷属と人間はいつかわかりあえると信じていました。そして後に彼の妻になったセフィリアも彼の考えに同意し、貴方達メンフィルやエディカーヌの事等も調べておりました。……そして紆余曲折があり、フィーノの努力によってエテの街は人間と僅かですが闇夜の眷属と共存する街になりました。」

「……そうか。もし生きていたら一度会ってみたかったものだ………」

フォーチュラの説明を聞いたリウイは弱冠残念そうな表情をして答えた。

「……フォーチュラといったな。お主はウィルとどんな関係だったのだ?」

リフィアはフォーチュラとユイドラ領主――ウィルフレド・ディオンとの関係が気になり、尋ねた。

「……ユイドラ領主というより……彼の妻――セラヴァルウィ・ディオンと私は共に学んでいた時がありました。………ユイドラの現状を知ったのは彼女の便りで知り、かつての学友を助けるために今、ここに到るのです。ロカとはたまたま酒場で相席になり、彼女の目的が私と同じだとわかったので、彼女とユイドラへ向かっている途中だったのです。」

「……魔神がユイドラを襲っているって言ってるけど、誰がユイドラを襲っているの?」

ユイドラを襲っている魔神の正体が気になったエヴリーヌは尋ねた。

「……彼女の便りでは魔神はこう名乗ったそうです………『ディアーネ』と。」

「嘘!?」

「邪龍との戦い以降、音沙汰がないと思ったら…………何をやっているのだ、奴は………」

魔神の名を聞いたカーリアンは驚き、リウイは頭痛を抑えるかのように、片手で頭を抑えた。



「……うむ、決めたぞ!」

「リフィアお姉様……?」

「嫌な予感………」

急に声を出したリフィアにプリネは首を傾げ、エヴリーヌは嫌な予感がした。

「そのディアーネとやらを余の下僕にしてくれる!」

「………本気で考えているのか?奴は隙あらば、寝込みを襲うような奴だぞ?」

リフィアの決意に驚いたリウイはリフィアに尋ねた。

「余達に屈した者を使いこなせず、何が王者ぞ。それに闇討ち?上等だ!返り討ちにして、余の力を思い知らせてくれる!」

「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」

胸を張っているリフィアを見て、リウイ達は驚いてリフィアを見ていた。

「フフ……さすがリフィアお姉様ですね。相手が魔神であろうと変わりありませんね。」

驚いていたプリネだったが、やがて微笑んだ。

「うふふ、さすがリフィアお姉様!レンも見習わなくっちゃ!」

「……相変わらず、お前には驚かされるな。」

レンとリウイも同じように口元に笑みを浮かべて言った。

「………さすがはリウイ様の血を引く御方。今後のメンフィルが楽しみですわ。」

「あら♪私の血を引いている事も忘れないでよ♪」

「フン。貴女の血を引いていなければ、リフィア様の放浪癖はなくなっていたんではなくて?」

「なんですって~?」

「ふ、2人とも落ち着いて下さい。」

今にも喧嘩をしそうなファーミシルスとカーリアンを見たペテレーネは慌てて仲裁を始めた。

(……ご愁傷様、ディアーネ。……リフィアに目をつけられたら、逃げられないよ?ま、同じ深凌の楔魔として愚痴ぐらいなら聞いてあげるよ。)

エヴリーヌは溜息を吐き、ディアーネの不運を哀れんだ。

「リフィアさんって、凄いですね、イリーナさん。ご主人様のお父さんがリベールにとって英雄なのはあたしでも知っているぐらいなのに、そんな人を驚かせるんですから。」

「ええ………それにとても明るくて優しい方よ……私や妹もリフィア様の明るさと優しさのお陰で、両親を亡くした悲しさを乗り越えられたんだから……」

ツーヤの言葉にイリーナは昔を思い出し、遠い目をして答えた。



「フフ………さすがはシルフィア様の血を引くだけあって、勇敢な方ですね。」

「………ぜひ、フィーノ達と出会って欲しかったな………」

ロカやフォーチュラも同じように口元に笑みを浮かべた。

「………そこのエルフはともかく、マーズテリアの神官戦士。本気で俺達と行動を共にする気か?」

ロカやフォーチュラの事をどうするべきか気付いたリウイはロカに尋ねた。

「はい。それが何か?」

「………お前達からすれば、俺はお前達の模範であった者の神核を奪わなければならない事にしてしまった存在だぞ?」

「……シルフィア様の事ですね。存じ上げております。あの方こそ、真のマーズテリアの聖騎士なのですから……」

「そうだ。なのになぜだ?お前達からすれば、俺達は忌むべき存在だろう。」

「私は光と闇は争わず、手を取り合っていけると信じています。……それをリウイ様達やウィル達が証明してくれていますから……」

そう言ってロカはリウイ達に微笑んだ。

「…………変わった女だ。神殿からの処罰が怖くなければ勝手にしろ。」

「はい。ありがとうございます。」

「……貴方達の出会いにルリエンに感謝を……」

リウイの返事を聞いたロカは会釈をし、フォーチュラは祈りをささげた。

「さて……出発が遅くなったが、行くとするか!ユイドラへ!」

そしてリフィアはリウイ達に先に進むよう促した。



こうして新たな同行者を加えたリウイ達は全ての種族が協力し合う工匠都市――ユイドラへ向かった。そしてその一方、エステルがヨシュアを連れ戻す決意を決めてから、すでに2カ月が経とうとしていた……… 

 

序章~乙女の決意~ 第4話

~レマン自治州・遊撃士協会・ル=ロックル訓練場~



遊撃士達の訓練所であるル=ロックル。そこでエステルはアネラスと特訓をしていた。

「いくわよ、アネラスさん!烈破―――無双撃ッ!」

エステルはSクラフトをアネラスに放った!

「わわっ、さすが強烈だね。でも……今度はこっちの番だよっ!剣技―――八葉滅殺ッ!」

エステルの攻撃を刀で防ぎきりながらも、最後の一撃で後退してしまったアネラスは驚いた後、猛烈な連撃のクラフト――八葉滅殺をエステルに放った!

「くっ……!」

アネラスの猛烈な連撃をエステルは防御するだけで精一杯だった。そしてアネラスはさらに連撃を続けた!

「まだまだ~っ!」

(くっ……このままじゃ持たない……。それなら……!)

アネラスの攻撃を防御しながら自分の劣勢を悟ったエステルはアネラスが刀を振り下ろした瞬間、横にずれて回避した!

「え、うそっ……」

「もらったああっ!」

攻撃を回避され、驚いているアネラスの隙をついて、エステルが強烈な一撃をアネラスに放った!

「きゃうっ……」

エステルの攻撃を寸前で刀で防御したアネラスはその場で跪いた!

「あいったあ~っ……」

「だ、大丈夫、アネラスさん?治癒魔術、かけようか?」

痛みに顰めているように見えるアネラスを見て、エステルは慌ててかけよって声をかけた。

「あはは、大丈夫だよ。何とかガードも間に合ったしね。」

エステルの言葉にアネラスは苦笑しながら平気な顔で立ち上がった。



「はー、でも参っちゃったな。とうとうエステルちゃんにあの技を返されちゃったか~………」

「えへへ、まぐれよ、まぐれ。今までコテンパンにされた分、ちょっとくらいは返せないとね。」

「ふふっ。やる気だね、エステルちゃん。それなら、ついでだからもう1セット付き合ってくれる?」

「うん、望むところよ!」

そして2人がまた特訓を始めようとしたその時

「あらあら、2人とも元気ねぇ。」

一人の女性がエステル達に声をかけた。

「あ、管理人さん。お早うございま~す!」

「管理人さん、おはよう!」

女性――ル=ロックルの管理人であるフィリスにエステル達は朝の挨拶をした。

「はい、おはよう。エステルちゃん、アネラスちゃん。朝ゴハンができたから呼びにきたんだけど……。うーん、お邪魔だったかしら?」

「あ、そうなんだ。アネラスさん、どうしよう?」

「うーん、そうだね。ゴハン冷めたらもったいないし、今朝はこれで上がりにしよっか。管理人さん、クルツ先輩はどうしてます?」

「クルツさんならミントちゃんの朝のお勉強を終わらせた後、演習の準備があるって先に済ませちゃったわよ。何でも今日の演習はかなりハードなんですってね?」

「え……」

「そ、そんな風に先輩が言ってたんですかっ?」

フィリスの言葉にエステルとアネラスは身震いした。

「うん、朝食はしっかり取っておくようにとの伝言よ。2人とも、いっぱい食べてしっかりスタミナをつけてね♪」

そして2人は宿舎に戻って、ミントと朝食をとり始めた。



~ル=ロックル・宿舎~



「はあ……。けっこうお腹いっぱい。訓練前にこんなに食べたらまずいような気がするけど……」

「えへへ……ミント、つい朝ごはんの目玉焼きを4つも食べちゃった!」

満腹になり、後の事を考えたエステルは苦笑し、ミントは無邪気な笑顔で大好物の卵料理をたくさん食べた事を嬉しそうに言った、

「ふふ、管理人さんの料理ってホントおいしいもんね。でも、訓練と違って途中でバテるわけにもいかないし、ちょうどいいんじゃないかな?」

「うん、確かに。やっぱりスタミナは基本よね。それにしても……。ここに来てからもう3週間か。正直、あっという間だったな。」

アネラスの言葉に頷いたエステルは時間が経つ速さに驚いていた。

「ふふ、エステルちゃんとミントちゃん、ものすごく頑張ってたもんね。私も一緒に訓練しててホント、いい刺激になったよ。特にミントちゃんは、あの厳しいクルツさんが褒めていたよ?『こんな優秀で賢い娘が遊撃士になってくれるとは思わなかった』って。」

「えへへ………」

「えへへ……。そう言ってもらえると嬉しいな。」

アネラスの言葉にミントとエステルは、親娘揃って照れていた。

「でも、クルツさんが訓練教官として来てくれたのも驚いたけど……。まさかアネラスさんがあたしと同じ訓練を受けるとは思ってもみなかったわ。」

「んー、私も正遊撃士になってから半年くらいの新米だからねぇ。シェラ先輩からエステルちゃんとミントちゃんの話を聞いて渡りに船だと思ったんだ。前々からこの訓練場のことは先輩たちに聞いて興味があったし。」

エステルの言葉にアネラスは訓練に来た経緯を思い出し、言った。

「そっか……。でも、こんな場所があるなんてギルドも結構大きな組織なのね。最初、父さんたちから話を聞いたときはあまりピンとこなかったんだけど………まさか、仕事用の服もついでに変える事になるとは思わなかったわ。」

そう言ってエステルは正遊撃士になった祝い代わりに新しい仕事服をシェラザードに買ってもらい、すでに着こなしている自分自身を見た。



「なるほど……。その服って、シェラ先輩のお祝いプレゼントだったんだね。いいな~。可愛い服を買ってもらえて。」

「とっても似合っているよ、ママ!」

「う、うーん……。丈夫な生地を使っているし、動きやすくっていいんだけど……。こういう女の子っぽい服ってあたしには似合わないかも……」

アネラスとミントに褒められたエステルは苦笑しながら答えた。

「そんなことないとミントは思うけどな……」

「うんうん!ミントちゃんの言う通りそんなことない!とってもよく似合ってるってば。それに遊撃士でも女の子にオシャレは必要だよ。否、遊撃士だからこそオシャレには気を使わなくちゃ!」

ミントの言葉にアネラスは何度も頷いた後、熱弁を始めた。

「ア、 アネラスさん?(あっちゃ~……スイッチが入ったみたいね………)」

真剣な表情になっているアネラスを見て、エステルは心の中で溜息を吐いた。

「そうだ、エステルちゃん。リボンとか付けてみる気ない?すごく似合うと思うんだけどなぁ。」

「あ、賛成!ミントとお揃いのリボンにしよう?ママ!」

「え、遠慮しときます。ていうか……相変わらず、アネラスさんって可愛いものに目がないわね。」

アネラスとミントの提案をエステルは苦笑しながら答えた後、アネラスに言った。

「もちろん!可愛いことは正義だもん!シェラ先輩みたいな格好いいお姉さまにも憧れるけど……。やっぱり可愛く着飾った年下の女の子に勝るものなし!ぬいぐるみなんか抱いてたらぎゅっと抱きしめたくなるよ~♪ミントちゃんもすっごく可愛いし、不謹慎だけど私、この訓練に来てよかったと思っているよ?毎日ミントちゃんに会えるしね!」

「えへへ……ありがとう、アネラスさん!」

「ねえねえ、エステルちゃん。今夜もミントちゃんを貸してもらってもいい?また、一緒に寝たいのよね~。」

「ダメよ~!昨日一緒に寝たばかりでしょ?今夜からはあたしのベッドに戻ってもらうんだから!」

「ぶー……エステルちゃんのケチ。」

「えへへ………」

エステルとアネラスの会話を見ていたミントは思わず、可愛らしい笑顔で笑った。



「ミント?どうしたの?」

「えへへ……ママ、以前と同じようにとっても明るくなったなって思って、ミント、とっても嬉しいんだ!」

「ミント…………あ~ん、もう!この娘ったら本当になんて素直で健気で、可愛い娘なのかしら!」

ミントの言葉に感動したエステルは思わず、自分の横に座っていたミントを抱きしめた。

「えへへ……苦しいよ~、ママ。」

抱きしめられたミントは口とは正反対に嬉しそうに抱きしめられていた。

「あー!エステルちゃんばっかり、ズルイ!私にも抱きしめさせてよ~!」

「残念でした~。これはミントの隣に座っている人だけの権限よ~♪」

「むう……じゃあ次は私がミントちゃんの隣に座るんだから!」

エステルに言われたアネラスは頬を膨らませた後、次の食事の時はミントの隣に座る事を決めた。

「フゥ、それにしても……。初めて会った時と較べるとエステルちゃん、変わったよね。」

「えっ?」

気を取り直したアネラスの言葉にエステルは首を傾げた。

「最初はいかにも新人君で初々しい印象しかなかったけど……。今は、初々しさを残しながらぐっと頼もしくなった気がする。それって結構スゴイことだよ?それにミントちゃんも最初はとっても可愛い後輩ができたなって思ったけど、今では一人前の準遊撃士になったなと感じているよ。」

「や、やだなぁ……。アネラスさん、おだてないでよ。」

「そうだよ~。ミント、まだ依頼はちょっとしか受けた事ないのに。」

アネラスの言葉にエステルとミントは照れた。

「そういえば、アネラスさん。そろそろ演習の時間じゃない?」

「あ、そうだね。いったん部屋に戻ろうか。それじゃあ、また後でね~!」

エステルの言葉に演習が近い事に気付いたアネラスは準備をするために自分が泊まっている部屋に戻って行った。

「そういえば……今日はミントはどうするの?」

「うん!クルツさん、朝ご飯が終わったら、ママ達と一緒に来てほしいって言われたよ?」

「そうなんだ………じゃあ、一緒に戻って準備をしましょうか!」

「はーい!」

そしてエステルとミントは2人が一緒に泊まっている部屋に戻って行った。

「さてと、演習と言うからには一通りの装備が必要になりそうね。実戦と同じで何が起こるか分からないし……ミントは大丈夫かしら?」

「うん!剣やオーブメントもバッチリだよ!」

「そう。…………」

ミントの言葉に頷いたエステルはベッドの上に置いてある鞄からハーモニカを取り出した。

「………………………………。うん、今日も頑張らなくちゃ!」

ハーモニカを見て気合を入れたエステルは装備を確認した。

「これでよし。……それじゃあ、玄関に行くとしますか!」

「はーい!」

そして2人は部屋を出た。



エステルとミントが1階に降りると食事をしたテーブルにアネラスとクルツが座っていた。

「来たか、エステル君、ミント君。向かいの席についてくれ。」

クルツに言われたエステルとミントは空いている席に座った。

「本日の演習は遺跡探索だ。この宿舎の西にある『バルスタール水道』に入ってもらう。」

「『バルスタール水道』……。古めかしい名前だけどやっぱり訓練用の施設なの?」

「ああ。中世の遺跡を改築した施設でね。昔の仕掛けも残っているし、危険な魔獣も多く徘徊している。」

「ねえねえ、クルツさん。ミントはどうすればいいの?」

訓練の内容をエステルとアネラスに説明するクルツにミントは首を可愛らしく傾げて尋ねた。

「ミント君もエステル君達と同じ演習を受けてもらう。だから、説明をしっかり聞いていてくれ。」

「はーい!」

クルツに言われたミントは元気良く返事をした。

「フフ……ミントちゃんも一緒に受けれるなんて今日はついているわ♪それじゃあ早速、その水道に出発するんですか?」

ミントが自分達と同じ訓練に参加する事を嬉しく思ったアネラスはクルツに尋ねた。

「いや、その前に……。3人とも、これを見てくれ。」

そしてクルツは見慣れぬ戦術オーブメントをテーブルに置いた。



「あれ、これって……」

「もしかして……戦術オーブメントですか?」

「ああ、その通りだ。導力魔法の使用を可能にする戦術オーブメントを造っているのは『エプスタイン財団』というが……。これは先月、財団から納入されたばかりの新型でね。スロットの数は1つ増えて7つ。今までのアーツに加えて新型のアーツも組むことができる。」

「へ~、凄いじゃない!」

「わあ………クオーツも前より一つ多くつけれるし、使えるアーツも増えるから、お得だね!」

クルツから新たな戦術オーブメントについての説明を聞いたエステルとミントははしゃいだ。

「うんうん!かなり期待できそうだね。で、クルツ先輩。私たちも貰えるんですか?」

「ああ、希望するならギルドから無償で提供される。ただし……」

アネラスの言葉に頷いたクルツは、一端言葉を切り、そして以外な事実を言った。

「難点が一つあってね。新型は、基本的アーキテクチャが大幅に変更されてしまったんだ。だから、互換性の問題で以前のクオーツが装着できない。新規格のクオーツが必要になる。」

「ええ~っ!?そ、それってつまり……」

「今まで合成したクオーツが無駄になるってことですかっ!?」

「最初から一杯クオーツを付ける事ができないんだ…………」

新しい戦術オーブメントの欠点を聞いたエステルやアネラスは驚き、ミントは残念そうな表情をした。

「残念ながらそうだ。面倒だろうが、また最初から1つずつ揃えてもらうしかないな。」

「そ、そりゃないわよ~。」

「ママ、元気出して!」

今まで苦労して集めたクオーツが無駄になった事にエステルは肩を落とし、その様子を見たミントが慰めた。

「うーん……。確かに迷っちゃうよね。このまま今のオーブメントを使い続けたらダメなんですか?」

「ダメじゃないが、推奨はしない。新型オーブメントは、全ての面で以前のものより性能が高いんだ。最大EPも大幅にアップするし、最新型のクオーツにも対応できる。将来的には、さらなる身体能力の向上が期待できるということだ。それに何と言っても以前のオーブメントになかった新しいアーツが組めるのが大きい。……エステル君、ミント君。ロランス少尉を覚えているか?」

アネラスの質問に難しそうな表情で答えたクルツは意外な人物の名前を出した。

「え!?」

「ふえ!?」

クルツの口から出た以外な人物の名前を聞いたエステルとミントは驚いて声を出した。



「う、うん。忘れるなんて出来っこない相手だけど……」

「そうだよ~。ミント、あの人の事、絶対忘れられないもん!」

「シェラ君から聞いたが、彼は未知のアーツを使ったそうだな。複数の相手を一度に攻撃しながら混乱効果を与える上位アーツ……。実は、新型オーブメントではそのアーツを組むことも可能なんだ。名前を『シルバーソーン』という。」

「『シルバーソーン』……」

「あ……そういえば、そんな名前でいっていたね………」

「そ、それじゃあ……。あの赤い隊長さんは新型を使っていたんですね!?」

クルツの説明を聞いたアネラスは驚いて尋ねた。

「その可能性は高そうだ。さて、君たちはどうする?」

アネラスの質問に真剣な表情で頷いたクルツはエステル達に尋ねた。

「………………………………。あたしは……新型を使いこなしてみたいな。」

少しの間だけ考えたエステルだったが、すぐに答えを出した。

「え?」

「ママ?」

短時間で答えを出したエステルを見てアネラスとミントは驚いた。

「あの時、あたしはあの銀髪男に全く歯が立たなかった。カーリアンのお陰で勝てたようなものだし………オーブメントを変えたからって自分が強くなるわけじゃないけど……。それでもあたし、より大きな力を使いこなせるようになってみたい。だから……」

「エステルちゃん……。……うん、確かにそうだね。クルツ先輩。私も新型、使わせてください!」

「ミントもお願いします!」

エステルの言葉に頷いたアネラスとミントは自分達の答えを出した。

「いいだろう。それでは受け取ってくれ。」

そしてクルツは3人にそれぞれ、戦術オーブメントを渡した。

「あと、これを渡しておこう。」

また、各属性のセピスも渡した。

「それだけあれば基本的なクオーツは揃うだろう。演習に行く前に、そこの工房でロベルト君に合成してもらうといい。新しい結晶回路(クオーツ)導力魔法(オーバルアーツ)のリストはブレイサー手帳に追加しておいた。工房に行くときは自分たちで確認しておくように。」

「うん、了解です。」

「はーい!」

クルツの言葉にエステルとミントは頷いた。

「さらに……。今日の演習は長丁場になるはずだ。いざという時に備えて、食料も用意した方がいいだろう」

「うーん、食料ですか……。それはフィリスさんにお願いすればOKですよね?」

「ああ、そうだな。ロベルト君とフィリス管理人……2人に相談して準備を整えるように。………それでは自分は宿舎の出口で待っている。準備が終わったら来てくれ。」

アネラスに尋ねられ、答えたクルツは立ち上がって先に外に出て行った。

「それじゃあ、エステルちゃん、ミントちゃん。早速、演習の準備を始めようか。」

「うん、フィリスさんとロベルトさんの所に行って話を聞いてみなくちゃね。」

「うん!」

そしてエステル達は準備を始めた……… 

 

第5話

その後、クオーツの合成や携帯食を用意した3人はクルツに連れられ、地下水道に到着した。



~バルスタール水道~



「ここが『バルスタール水道』……」

「わ~…………凄く広いな………」

「へ~、結構大きな地下水道みたいですね。」

「王都の地下水道ほどではないが、それなりの広さはあるだろう。本日の演習は、水道の最奥にあると思われる機密文書の回収だ。」

「き、機密文書ぉ?」

クルツの説明を聞き、エステルは驚いて声を出した。

「はは、あくまでもそういう想定での演習だよ。とにかく、水路の最奥まで行けばダミーの書類が見つかるはずだ。それを回収できたら演習終了さ。」

「うーん、話を聞いてる限りだと簡単そうに聞こえますけど……」

「うん。ミントが準遊撃士の試験を受けた時と同じ依頼に感じるよ。」

「当然、演習というからには色々と用意してるのよね?」

クルツの説明を聞いたアネラスはあまりにも簡単すぎる内容に唸り、ミントもアネラスの言葉に頷き、エステルは尋ねた。

「まあ、ご想像にお任せするよ。ちなみに徘徊している魔獣がかなり手強いのは確かだ。……傷を負った場合には無理せず撤退するように。オーブメントの回復装置も念のために用意したからね。」

「あはは、さすがはクルツさん。何もかも準備万端ってわけ。」

「ただ、魔力に関しては回復できないから魔力石を用意したから、魔力が減って来たら私に言ってくれ。」

「あはは……あたしとミントの事を考えて、そこまで用意するなんて……さすがはクルツさんね。」

なんでも用意したクルツを見て、エステルは感心した。

「うん、それだけに私たちもちゃんと期待に応えないと。それでは行ってきま~す!」

「行ってきま~す!」

そして3人は仕掛けを解除したり、途中で出会う魔獣達を倒しながら奥に進んで行った。



~バルスタール水道・終点~



「やあ、ようやく来たか。」

エステル達が終点に到着するとそこには入口にいるはずのクルツがいた。

「ク、クルツ先輩!?」

「ふえ!?」

「え、ちょっと待って……。入口の所にいたはずなのにどうして先回りしているわけ?」

クルツがいる事にアネラスとミントは驚き、エステルは驚いた後尋ねた。

「実は他に抜け道があってね。君たちが仕掛けを解除している間にまっすぐここに来させてもらったよ。」

「ガクッ……。せっかく苦労して仕掛けを解いてきたのに……」

クルツの説明を聞いたエステルは肩を落として、溜息を吐いた後恨みがましい目線でクルツを見た。

「そ、それはともかく……。やっぱりここが地下水路の最奥なんですよね?」

「ああ、その通りだが?」

「それじゃあ……回収する機密文書っていうのは?」

「ふふ……」

アネラスの言葉を聞いたクルツは不敵に笑った後、槍を構えた!



「へっ!?」

「えっ!?」

「や、やっぱり……」

槍を構えたクルツを見てエステルとミントは驚き、クルツがいた時点で次の展開がなんとなくわかっていたアネラスは溜息を吐いた。

「自分の役は、機密文書を強奪しに来た某国の武装工作員だと思ってくれ。当然、同じ目的を持った者たちは実力を持って排除させてもらうよ。」

「あ、あんですって~!?」

「ミント達、クルツさんと戦うの!?」

「機密文書は単なる口実……。本当の演習課題は、探索中の予想外の交戦ってわけですね!?」

クルツの説明にエステルとミントは驚き、アネラスは訓練の真の目的がわかり、尋ねた。

「ふふ、そういうことだ。それでは……こちらから行かせてもらうぞ!」

そしてエステル達はクルツと戦闘を始めた!



「はあっ!せいっ!ぬぅぅぅん!!」

「っと!」

「!!」

「わっ!」

クルツの槍での先制攻撃をエステル達はそれぞれの武器で防御した。

「やっ!」

「えいっ!」

そしてエステルとアネラスは反撃をした!

「させん!」

しかしクルツは槍で2人の攻撃を捌いた。

「行っくよ~!………アクアブリード!!」

そこにミントのアーツが発動し、クルツに命中した!

「うっ!」

「ナイスよ、ミント!はぁぁぁ、せいっ!」

そしてエステルはクラフト――金剛撃を放った!

「むん!」

しかしクルツは槍で防御した。そこにいつの間にかアネラスがクルツに一瞬で近付き、クラフトを放った!

「たぁ!」

「ガッ!?」

アネラスはクルツを空中へと蹴りあげた!そしてクルツが落ちて来る瞬間を狙ってジャンプして、叩き落とした!

「失礼します、先輩!」

「クッ!?」

アネラスが放ったクラフト――落葉を受けたクルツは呻いた。



「やるな……ならば、今度はこちらの番だ!うおぉぉぉ!!」

「あうっ!?」

「きゃっ!?」

「やん!?」

クルツが反撃に放った複数の敵を目にも止まらぬ速さで攻撃するクラフト――極技・夕凪を受けたエステル達は悲鳴を上げた後、一端下がった。

「方術………穏やかなること白波の如し!」

そしてクルツは方術を使い、自分自身を回復した!

「癒しの闇よ……闇の息吹!!」

「回復するね!………ティア!!」

「オーブメント駆動!………ティア!!」

エステル達も魔術やアーツを使って自分自身を回復した。

「方術………貫けぬこと鋼の如し!」

さらにクルツは方術を使って、自分自身の身を固めた!

「うげっ…………あの術って………」

「クルツ先輩がよく使っている『方術・鋼』だね。味方で放たれるとありがたいけど、敵で放たれたら厄介なんだよね………」

クルツの行動を見てエステルはゲッソリし、アネラスは苦笑しながら答えた。

「う~………とにかく物理攻撃が効きにくくなったのは痛いわね………」

「だったら、アーツや魔術で攻撃しよう!」

唸った後溜息を吐いているエステルをミントは元気づけた。



「そうね。……アネラスさん。時間稼ぎ、お願いできるかな?」

「オッケー!………まだまだこれからだよっ!はぁい!」

エステルの頼みに頷いたアネラスは防御力を犠牲にして攻撃力を高める背水の気合いのクラフト――風花陣で自分に活を入れた!

「さぁ、行くよ!」

「!!」

アネラスの見覚えのあるクラフトの構えを見たクルツは身構えた。そしてアネラスはクラフトを放った!

「まだまだまだまだまだまだぁっ! 」

「……………………」

アネラスのクラフト――八葉滅殺をクルツは槍で冷静に防いでいた。そしてアネラスが激しい連撃を放っている間にミントの魔術の詠唱が終わった!

「落っちろ~!サンダ-ボルト!!」

「ぐあああああっ!?」

ミントが放った魔術の雷を受けたクルツは感電して、悲鳴を上げた!さらに続くように詠唱を終えたエステルの魔術が放たれた!

「闇よ、我が仇名す者を吹き飛ばせ!……黒の衝撃!!」

「グッ!?………ガハッ!?」

エステルの暗黒魔術を受けたクルツは壁まで吹っ飛ばされ、壁にぶつかり呻いた。そこにアネラスが集中して刀に闘気を集め始めた!

「はぁぁぁぁ……………!」

アネラスの集中によって、アネラスが持っている刀の刃の部分が光った!

「せい!」

そしてアネラスは刀を震い、光の刃をクルツ目掛けて放った!

「グワアアア!?不覚…………」

アネラスのSクラフト――光破斬を止めに受けたクルツは戦闘不能になった!



「やれやれ……。手加減したつもりはなかったが。どうやら、自分の負けのようだな。」

地面に跪きながらクルツは自分の敗北を宣言した。

「ふう………なんとか勝てた………」

「ミント、疲れたよ~………」

エステルとミントは奥に来るまでの今までの戦闘とクルツとの戦闘によって疲労がピークに達していたので疲労感を隠せない様子で安堵の溜息を吐いた。

「う、うん……。さすがは『方術使い』……。3人がかりでやっと勝てたね……」

2人の言葉に頷いたアネラスも疲労感を隠せない様子で答えた。

「さて……工作員が無力化したことで君たちは機密文書を回収した。今回の演習はこれで終了だ。」

「そ、それじゃあ今日の訓練は……」

「これで終わりとか……?」

「わくわく…………」

クルツの訓練終了の言葉を聞いたエステル達は期待の目でクルツを見た。

「はは、まさか。宿舎に戻って昼食を取ったら南にある『サントクロワの森』に向かう。演習の反省点を見直す意味でもみっちり訓練を受けてもらおうか。」

「ひえ~……」

「はう~……」

「クルツ先輩って……ホント、容赦ないですよねぇ。」

ある意味予想していたクルツの言葉を聞いたエステル達は肩を落とし、悲鳴を上げた。



その後訓練を終えたエステル達が宿舎に戻った頃には夜になっていた……………




 

 

第6話

宿舎に戻ったエステル達は夕食をとった後すぐにベッドに入り、寝始めた。



~ル=ロックル宿舎・深夜~



エステルとミントが一緒に寝ている中、銃声やアーツの発動音らしき音が何度も聞こえて来た。



(ん……?なに……この音……)

絶えず聞こえて来る音で目を覚ませたエステルは首を傾げた。

「う~ん………うるさいよ~…………」

ミントも同じように目が覚め、聞こえて来る音に目をこすりながら顔を顰めた。

「!!何この音……。ひょっとして銃声!?」

「え!?………あ!本当だ!!」

頭がハッキリして来たエステルは聞こえて来る音を驚いた表情で声を出し、エステルの言葉を聞いたミントも驚いた後、聞こえて来る音が銃声である事に気付いた。その時、部屋のドアが何度もノックされた。



コンコン!コンコン!コンコン!



「……エステルちゃん!ミントちゃん!2人とも起きてる!?」

そしてアネラスが部屋に入って来た。

「「アネラスさん!?」」

「よかった!起きてたんだね!さあ、早く支度をして!」

「う、うん!この銃声ってまさか……」

「正体は判らないけど何者かが襲撃してきたみたい!クルツ先輩が応戦しているから2人とも急いで!」

そして2人は急いで装備を確認し、下に降りた。



「クッ……これでしばらくは……」

エステル達が1階に降りると正面の入口から入って来た後鍵をかけたクルツが崩れ落ちた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「た、大変っ!腕にケガをしていますよっ!」

「大丈夫……。ただのかすり傷ですから……。それよりも……敵の侵入を防がないと……」

自分を心配するフィリス達を手で制したクルツは優先すべき事を言った。

「ク、クルツさん!?」

「せ、先輩!?ケガをしたんですか!?」

「大丈夫なの!?」

そこにクルツの様子を見たエステル達が駆け寄った。

「エステルちゃん!アネラスちゃん!ミントちゃん!」

「すまない、油断してしまった……。見ての通り、武装した集団がこの建物を襲撃しているようだ……。3人とも迎撃に協力してくれ……」

「りょ、了解!」

「は、はい!」

「そんな……。先輩に手傷を負わせるなんて……。誰が襲ってきたんですか!?」

クルツの頼みにエステルとミントは驚きながら了解し、アネラスは実力の高いクルツに傷をつけた相手に驚き、襲撃者の正体を尋ねた。

「先ほど少しやり合ったが……。あの格好は……おそらく『猟兵団』の一派だろう……」

「猟兵団って……あの百戦錬磨の傭兵たち!?」

「で、でも……どうしてそんな人たちが!?」

「傭兵の人達って、戦争をしている国でしか活動しないんじゃないの!?」

クルツから襲撃者の正体を聞いたエステルは驚き、アネラスとミントは何故傭兵達が襲撃をしているのかわからなかった。

「リベール国外では遊撃士協会と猟兵団は事あるごとに対立している……。ここが彼らの標的になってもそれほど不自然ではない……。ひょっとしたら……例の結社が手を回したのか……」

「え!?」

クルツの呟きを聞きエステルが驚いたその時、窓が叩き割られて鎧に身を包んだ猟兵が1人侵入してきた後、エステル達に向かって行った!

「「あ……!」」

「しまった!」

そしてエステル達は迎撃態勢をとり、猟兵と戦闘を始めた!



「ぬん!」

「ハッ!」

大剣で攻撃してくる猟兵の一撃をエステルは棒で受け止めた!

「風の刃よ…………エアストライク!!」

「やぁっ!えいっ!」

そこにアネラスが放ったアーツとミントが放ったクラフト――アッパーファングが猟兵を襲った!

「!!」

2人の攻撃が命中した猟兵はのけ反った!

「はぁぁぁぁ、せい!」

「くっ!」

そしてエステルはクラフト――金剛撃を放ち、エステルの攻撃に気付いた猟兵は一端下がって回避した。

「これでもくらいな!」

そして猟兵は懐から何かを出して、アネラス目掛けて放った!

「はいっ!」

しかしアネラスは刀で斬り払った!

「むん!」

そして猟兵はミントに攻撃して来た!

「わっ!」

猟兵の攻撃をミントは驚きながら回避した。



「やっ!!」

そこにエステルがクラフト――捻炎棍を放った!

「ぐ……熱っ!?」

エステルのクラフトに命中した猟兵は呻いた。

「はいっ!はいっ!はぁいっ!」

「グアッ………!」

さらにアネラスが続くように高速で何度も放った真空の刃――剣風閃が猟兵に命中した!

「あっち行け~!」

「ガハッ!?」

そこにミントが放ったクラフト――バーストショットが猟兵の腹に命中して、吹っ飛ばした!

「…………グッ!?……………」

吹っ飛ばされた猟兵は空中で受け身をとって着地をした後、度重なるダメージを受けた為、崩れ落ちた!



「はあはあ……。な、何とか勝てたけど……」

戦闘が終了し、エステルは息を切らせながら棒を構えたまま、跪いている猟兵を警戒した。

「そ、そこの人!武器を捨てて降伏してっ!」

「大人しく降参して下さい!え~っと……器物破損、傷害の容疑であなたを拘束します!」

アネラスとミントは降伏勧告をした。

「クク……。思ったよりもやるようだ。だが、詰めは甘いようだな。」

「え……」

2人の降伏勧告を聞き、口元に笑みを浮かべて言った猟兵のセリフにエステルは驚いた。そしてその時同じ格好をした猟兵が窓から侵入してきて、煙幕を投げた!

「あ……!」

「ふえ!?」

「は、発煙筒!?」

「フフ……。お眠り、仔猫ちゃんたち。」

不敵に笑いながら言う別の猟兵の声を聞きながら、エステル達はその場で崩れ落ち、眠ってしまった……………
 

 

第7話

~サントクロワの森~



「ん……。……もう朝かぁ……。………………………………。!!!」

森の中で目覚めたエステルは眠る前までの状況を思い出し、すぐに身を起こした。

「え……。ここ、どこ……?たしか敵が襲ってきて……」

周囲の風景に戸惑い、エステルは周囲を見渡した。そこで、アネラスとミントが倒れていた。

「アネラスさん!ミント!起きて、2人とも!」

倒れている2人を見て、焦ったエステルは2人の身体を揺すりながら声をかけた。

「うーん……えへへ……。うさぎさんとー……くまさんのぬいぐるみ……。……どっちにしようかなー……」

「わあ………お祖母ちゃんのオムレツにー………ママのオムレツだー…………どっちから食べようかな~………?」

アネラスとミントは幸せそうな表情で夢を見ていた。

「な、なんの夢を見ているんだか……。………ちなみにミント、どっちを先に食べるのかな………?って今はそれどころじゃないって!2人とも!大変なの、起きてってば!」

「ん~……?」

「ふわあああ~……………」

エステルに起こされた2人は目を覚ました。

「あれ、エステルちゃん……。あ、そっかぁ……もう朝練の時間なんだ……」

「あ、ママ…………今日の朝ご飯に卵はある?」

「ガクッ……。朝練や朝ご飯どころじゃないってば。お願いだから目を醒ましてよ~!」

2人の寝ぼけた言葉を聞いたエステルは脱力した後、叫んだ。

「ふぇ……?」

「ママ………?」

エステルの様子からただ事ではない事を感じた2人は体を起こして周囲の風景を見渡した。

「………………………………。……えーと。何がどうなっちゃってるの?もしかして昨日の襲撃って、ただの夢?」

「夢じゃないとミントは思うけど…………」

「ミントの言う通り、夢じゃないと思うわ。2人とも昨日の事、覚えているでしょう?」

「あー、なるほどねー。いやー、これはお姉さん、一本取られちゃったなぁ。」

「アネラスさん……。まだ寝ぼけてるでしょ。」

能天気に笑い飛ばすアネラスを見てエステルは呆れて溜息を吐いた。そしてエステル達は状況確認の相談を始めた。



「えっと、まずは状況を整理してみようか。昨夜、猟兵団らしき集団が宿舎を襲撃してきて……。クルツ先輩が手傷を負って、私たちが駆けつけた直後に窓から敵が侵入してきて……。その直後、私たちはすぐに眠らされてしまった。」

「多分、あの時の煙を吸ってしまったから、ミント達は眠っちゃったんだろうな………」

「そうね。問題は、どうしてこんな所で目を醒ましたかなんだけど……」

アネラスとミントの言葉に頷いたエステルは自分達が目覚めた場所に首を傾げた。

「うん、確かにおかしいよね。持ち物の類は無くなってみたいだけど……。訓練の時に使っていた武具を取られちゃったみたい。」

「あ……ミントの剣がない!傷をちょっとずつ回復してくれる便利な剣だったのに………」

アネラスの言葉を聞いたミントは持ち物を探り、自分の武器である『アーナトス』がない事に気付いた。

「あ、あたしもだ。あの棒、リフィアが用意してくれた特注品だったのに…………っていうことは、あたしたちをこの場所に運んできたのって……襲撃してきた猟兵団?」

「うん……。そう考えるのが自然だけど……。ただ、私たちを拘束しないで放置した理由が分からないんだよね。」

「なんでミント達をどこかに閉じ込めていないんだろう?」

エステルの推測に頷いたアネラスは自分達を拘束しなかった事に首を傾げ、ミントも同じように頷いた。

「気絶したあたしたちをここに運んで武装解除した後……。何らかのアクシデントが起きて慌てて別の場所に移動したとか?」

「なるほど。それはイイ線行ってるかも。そうなると、この場所に長居をしていたら危険みたいね。エステルちゃん、地図は持ってる?」

「あ、うん。荷物は取られてないから……。……あったあった。」

アネラスの言葉に頷いたエステルはル=ロックルの地図を広げた。

「うん、やっぱりそうだ。ここは昨日訓練で使った『サントクロワの森』だと思う。」

「ということは……。当面の目的は、森を脱出して宿舎の様子を確かめるくらい?」

「後は奪われたミント達の武器を取り返さなくちゃね。ミント達が今持っている武器、練習用だからそんなに攻撃力ないし………」

アネラスの言葉を聞き、エステルとミントは当面の目的を確認した。

「そうね。武具を取り戻せるか微妙だけど、探したほうがいいだろうしね。それじゃあ、出発しようか。敵が近くにいるかもしれないし、慎重に行動した方がいいね。」

「うん、わかった。」

「はーい!」

そして3人は森を探索しながら出口に向かった。森を探索した際、以外な事に奪われた武具がところどころ隠されており、エステル達は自分達の武具を取り戻した。



~サントクロワの森・出口付近~



「アネラスさん、ミント!あそこが出口みたい!」

エステルが出口を見つけ、2人に言った。

「ふ~……。ようやく一息付けるねぇ。」

「やっと森を抜けられるね………」

出口を見つけ、アネラスとミントが安堵の溜息を吐いたその時

「あらあら……。ちょっと目を離したスキに逃げ出すなんて悪い子たちね。」

謎の声が聞こえた後、エステル達に銃弾が飛んできた!

「きゃ……!」

「わっ………!」

「くうっ……!」

いきなり飛んできた銃弾に驚いた3人はその場で伏せた。

「ふふ……。あたしの狩り場にようこそ。」

そして3人の目の前に銃を構えた女の声をした猟兵が現れた。

「お、女の人!?」

「えっ!?」

「エステルちゃん、ミントちゃん、気を付けて!この人……かなり強いよ!」

「あら……。それを見抜く力はあるのね。それに、あのガスを食らってもう目が醒めたのは驚きだわ。さすがは遊撃士。体力だけは無駄にあるみたいね。」

アネラスが自分の実力を見抜いた事と、エステル達がもう目覚めた事に猟兵は呆れ半分で感心していた。

「あ、あんたたち!いったい何が目的なの!?どうして訓練場を襲ったのよ!?」

「ふふ……。答える義理はないわね。あなたたちに選べるのは2つ。大人しく降伏するか、このままあたしに狩られるかよ。」

エステルの叫びを猟兵は不敵に笑いながら言った。

「くっ……。(回収した装備で何とか戦える……!?)」

エステルは今の自分達ならなんとか戦えると思い、アネラスとミントに声をかけた。

「アネラスさん!ミント!」

「「うんっ!」」

そして3人は取り戻した武器を構えた!

「ふふ……。いいわ、仔猫ちゃんたち。存分に狩らせてもらうわよ!」

そしてエステル達は猟兵との戦闘を開始した!



「ほらほら!」

「くっ………!」

「わっと!」

「くうっ……!」

猟兵の銃捌きにエステル達は近付く事ができず、防戦一方だった。

「くっ……なら!」

アネラスは近付いての攻撃からアーツによる遠距離での攻撃に切り替えるためにオーブメントを駆動させたが

「させないよ!」

「あうっ!?」

猟兵の妨害攻撃によって駆動は中断された上、ダメージを受けた。

「あったれ~………!ストーンフォール!!」

そこにミントの魔術が発動し、複数の岩が猟兵の頭上から落ちて来た!

「何!?」

自分に落ちて来る魔術に気付いた猟兵は驚いた後、回避に専念した。

「大丈夫?アネラスさん。………闇の息吹!!」

そしてエステルは猟兵が回避に専念している隙を狙って、アネラスに駆け寄って治癒魔術を施した。



「ありがとう、エステルちゃん!よ~し、今度こそ!」

エステルにお礼を言ったアネラスは再びオーブメントの駆動を始めた。

「好きにはさせな……」

「やっ!」

「!ぐっ!?」

アネラスの行動を見て、また妨害しようとした猟兵だったがエステルが放ったクラフト――捻糸棍を受けてしまい、のけ反った!そしてアネラスのアーツが発動した!

「やあっ!ソウルブラ―!!」

「ガッ!?くっ………」

アネラスのアーツ――ソウルブラ―を受けた猟兵はソウルブラ―の追加効果によって弱い気絶に陥り、すぐに攻撃にうつれなかった。

「燃えちゃえ~!ファイアシュート!!」

「行け!火弾!!」

さらに畳みかけるようにミントとエステルの魔術が猟兵を襲った!

「グア!?熱……!」

火の魔術を受けた猟兵は火の熱さに苦悶の声をあげた。そしてそこにアネラスが集中して剣に闘気を集めていた!

「はぁぁぁぁ……………!」

「!!チッ……!」

アネラスの行動を見て、猟兵は舌打ちをした後、銃を放って中断させようとしたが

「貫いちゃえ~!アイスニードル!!」

「!くっ!?」

ミントが放った魔術によっていきなり足元から氷の刃が飛び出たので、驚いた猟兵はアネラスに攻撃するのをやめて回避したが

「行くわよ~………!紅燐撃!!」

「ガッ!?」

エステルが放ったクラフトが命中し、ダメージを受けた!

「せいっ!」

「グアアア!?やるじゃないかい………」

そこにアネラスのSクラフト――光破斬が命中し、猟兵は戦闘不能になった!



「クッ……。少し甘く見ていたか……」

戦闘不能になり、地面に跪いている猟兵は舌打ちをした。

「はあはあ……。遊撃士を甘く見ないでよね!」

「ミント達は今まで厳しい戦いをして来たんだから!」

「小娘3人と侮ったのが運の尽きだったみたいだね!」

「フフ、威勢のいい仔猫ちゃんたちだこと……」

3人の威勢のいい言葉を聞いた猟兵は不敵に笑った後、立ち上がって発煙筒を投げた。

「またっ……」

「エステルちゃん、ミントちゃん、息を止めて!」

「うん!」

発煙筒によって辺りは煙だらけになり、何も見えなくなった。そして煙の中から猟兵の声が聞こえて来た。

「すでに方術使いは捕まえた。仔猫ちゃんたちの味方はいない。あきらめて投降することね……」

そして煙が消えた頃には猟兵の姿は消えていた。

「あ!いない!」

「逃げられたか……。アネラスさん。深追いしない方がいいよね?」

ミントは猟兵がいなくなった事に驚き、猟兵を捕まえられなかったエステルは悔しさの表情で溜息を吐いた後、アネラスに確認した。

「そうだね……。待ち伏せされる危険もあるし。ねえ、エステルちゃん、ミントちゃん。今の人が言ってた『方術使いは捕まえた』って……」

「あ……。うん……クルツさんのことだと思う。」

「クルツさん、あの人達に捕まったみたいだね…………」

「そっか……。………………………………」

エステルとミントの答えを聞いたアネラスは表情を曇らせた。



「だ、大丈夫だってば!仮に捕まったとしてもクルツさんなら無事だって!それに……こういう時こそ今までの訓練が活かせると思う。」

「そうだよ!なんたってお祖父ちゃんの次に強いって言われている人なんだから!」

表情を曇らせているアネラスを見てエステルとミントは励ました。

「あ……。非常時の行動、安全の確保、そしてカウンターテロ行動……。うん……確かにそうかも!教えてもらったことを活かしてクルツ先輩を助けなくっちゃ!」

エステルの言葉からある事をすべきと思いだしたアネラスは表情を凛とさせて言った。

「うんうん、その意気!ね、アネラスさん、ミント。とりあえず宿舎に戻らない?敵に占領されたままかどうか確かめた方がいいと思うし。」

「うん、そうだね。それじゃあ、出発しようか。」

「はーい!」

そしてエステル達は森を抜けて警戒しながら宿舎に向かった………………
 

 

第8話

その後宿舎に戻ったエステル達は宿舎を調べた後、宿舎を出たところ、クルツが隙を見て逃がしたオーブメントの整備士――ロベルトに会い、状況を聞き、猟兵達が別拠点に移った事を知ったエステル達はロベルトから教えられた訓練用の要塞――グリムゼル小要塞に猟兵と捕まったクルツとフィリスがいると思い、3人はグリムゼル小要塞に入って仕掛けを解除したりしながら進み始めた。



~グリムゼル小要塞・終点~



「カカッ、よく来やがったな。」

エステル達が終点に着くとそこには槍を構えた猟兵がいた。

「「あ……!」」

「やっと出た……!」

猟兵を見つけたエステル達は一定の距離をとりながらいつでも戦闘に入れる態勢でいた。

「よく来たなぁ。俺たちの新たな拠点によ。仕掛けは楽しんでもらえたかい?」

「えー、おかげさまでね。それよりも、クルツさんたちはその扉の向こうにいるみたいね。」

猟兵に尋ねられたエステルは呆れた表情で溜息を吐いた後クルツ達の居場所を尋ねた。

「痛い目に遭う前に解放した方がいいと思うよ~。」

「そうだよ!こっちは3人もいるんだよ!」

アネラスやミントは猟兵を挑発した。

「クク、小娘3人がずいぶんと(さえず)るじゃねえか。死地とも知らずにのこのこ飛び込んでくるとはな。」

「フン、それを言うならあんたたちだって同じでしょ。何が目的か知らないけど袋のネズミと同じじゃないの。」

「なにィ……?」

エステルの言葉を聞いた猟兵は以外そうな声を出した。

「ギルドの応援もすぐに来るよ。そうなったら、あなたたちの勝ち目は無いと思うんだけどなぁ」

「フン……。宿舎の通信器は完全に破壊した。それでそうやって連絡を取る?」

「え、えっと……(何か上手いハッタリは……)」

すぐに状況を思い出し鼻を鳴らして尋ねた猟兵の言葉を聞いたエステルは猟兵を騙す言い訳を考えた後、それを言った。



「フン、連絡なんてそもそもする必要がないのよ。定時連絡がない時点でこちらに異常が起きたのはギルドにも分かってるはずだし。」

「なに……?」

「確かに、今朝の時点で異常に気が付いているはずだから……。うん、そろそろ応援が到着するかも♪」

「もしかしたらニルさん達も来ているかもしれないね♪」

エステルのハッタリに騙されているのを見たアネラスとミントはそれぞれ本当に増援が来ているかのように言った。

「……チッ。詰めが甘かったみたいだな。まあいい。どのみち貴様らは目障りだ。とっとと片付けさせてもらうぜ!」

「望むところよ!」

「あなたなんかにミント達は絶対に負けない!」

「いざ、尋常に勝負だよっ!」

そしてエステル達は猟兵との戦闘を開始した!



「ぬん!」

戦闘開始直後、猟兵は槍を構えて勢いを持ってミントに突進した!

「やん!?………あう!」

猟兵の攻撃を剣で防御したミントだったが、体重が軽かったため吹っ飛ばされて壁にぶつかった。

「ミント!大丈夫!?」

「う、うん…………」

エステルの心配した声に答えたミントはなんとか立ち上がった。

「よくもミントを攻撃したわね~!」

「あんな可愛くて小さい娘を真っ先に狙うなんて人として最低だね!」

ミントの無事を確認したエステルは猟兵を睨み、アネラスは猟兵を非難した。

「カカ……弱い奴から狙うのが戦闘の常識だろうが。それでも遊撃士か?」

「言ってくれるじゃない……!はっ!」

猟兵の挑発に乗ったエステルは棒で攻撃した!

「フッ!」

しかし猟兵は槍でエステルの棒を捌き、さらに身体を回転させながら攻撃した!

「ぬん!ハッ!せ~い!!」

「クッ………キャッ!?」

猟兵の攻撃をなんとか捌いていたエステルだったが、最後の一撃を防いだ衝撃によって吹っ飛ばされた!

「よっと!」

吹っ飛ばされたエステルは空中で受け身をとって着地した。



「さあ、行くよ!剣技――八葉滅殺っ!!」

そしてアネラスはクラフトを放った!

「まだまだまだまだまだまだぁっ!」

「ハァァァァァァァ!」

アネラスの連撃に対して、猟兵も素早い槍捌きで対抗してアネラスの技を防いでいたが

「炎の矢よ!フレアアロー!!」

「行っくよ~!ファイアボルト!!」

「グッ!?」

いつの間にか駆動を終えていたエステルとミントのアーツが命中し、猟兵が呻いたところを

「とどめっ!」

「ガッ!?チッ………!」

アネラスが放っていたクラフトの最後の一撃を受けてしまい、ダメージを受けた猟兵は一端下がった。

「まだまだこれからだぜ!」

そして猟兵はクラフトを使って自分自身を回復した。



「落っちろ~!サンダーボルト!!」

「光よ、槍と化して、敵を貫け!……光槍!!」

「グアッ!?」

しかしミントとエステルはその隙を逃さず魔術を放って攻撃した!

「たぁっ!」

「ガッ!?」

さらに2人の魔術を受け、のけ反っている隙を狙ったアネラスが猟兵を天井へと蹴りあげた!

「やあっ!」

そしてアネラス自身もジャンプして、猟兵を叩き落とした!

「グッ!?」

叩き落とされた猟兵は呻いた。

「ミントのとっておき、見せてあげる!ソードファング!!」

「グアアアッ!?」

そこにミントのSクラフトが命中し、猟兵は悲鳴を上げた。

「止めよ!ハァァァァ…………剛震撃!!」

「ガハッ!?…………………」

そしてエステルが放ったクラフトを受けた猟兵はその場で崩れ落ちて、立ち上がらなくなった!



「はあはあ……か、勝った……。で、でもこの手応えって……」

「もしかして…………」

「う、うん……。エステルちゃんとミントちゃんも気付いた?」

倒れて何も話さない猟兵を警戒しながらエステル達は猟兵を信じられない表情で見ていた。

「フフ……。見事、騙されてくれたようだね。」

「ハハハッ。面白いように引っかかったな。」

その時今まで戦った2人の猟兵が扉から出て来た。

「あっ!」

「わっ!」

「あ、新手!?」

「はは、だから違うって。」

「もう口調は変えてないからあんたたちにも分かるだろう?」

新たな敵の登場に驚いているエステル達に猟兵達は親しげに笑いながら尋ねた。

「その姐さん口調……。……も、もしかして!?」

「カルナさん!?」

「ビンゴだ。」

エステルとミントの言葉を聞いた猟兵の一人が顔を隠していた仮面をとると、なんと猟兵はカルナだった。

「アネラス、エステル、ミント。ずいぶん久しぶりじゃないか。」

「久しぶりって……。一体どうなっちゃってるの?そ、それじゃあこっちは……」

カルナに驚いたエステルはもう一人の猟兵を見た。



「グラッツ先輩ですねっ!?」

「おうよ!」

アネラスの言葉に頷いた猟兵が仮面をとるとなんと猟兵はグラッツだった。

「よう、3人共。お疲れさまだったなぁ。」

「お、お疲れさまって……。……もしかしてこれって……」

「フフ、そういうことだ。エステル君、アネラス君、ミント君。最終訓練、ご苦労だったな。」

そしてさっきまで戦った猟兵が仮面をとると、なんと猟兵はクルツだった。

「さ、最終訓練……」

「つ、つまり……。昨日の襲撃から全部、お芝居だったんですかっ!?」

「ええええええ~!?」

クルツの言葉にエステルは口をパクパクさせて何もいえず、アネラスが言った事にミントは声をあげて驚いた。

「ふふ、この訓練場における慣例のようなものでね。最終訓練は、訓練生を騙して危機的状況を体験させる趣向なんだ。」

「あ、あんですって~!?」

クルツの説明を聞いたエステルは驚いた後、クルツ達を睨んだ。

「んで俺たちは、その手伝いのためわざわざリベールから来たってわけだ。」

「ふふ……。なかなか楽しませてもらったよ。」

「う~っ……。先輩ってば意地悪すぎですよ~っ!」

「そうだよ~!ミント達を騙すなんて!」

「そ、そうよ!あたしたち本気でピンチだと思ったんだからね!」

グラッツとカルナの感想を聞いたアネラス達は頬を膨らませて文句を言った。



「まあ、それが狙いだからね。ちなみに言っておくが……本物の猟兵はこんなに甘くないぞ。」

「うっ……」

「「あう……」」

しかしクルツの言葉を聞いたエステル達は気不味そうな表情をして何も言えなくなった。

「リベールでは猟兵団の運用は禁止されているからあまり想像できないだろうけど……。他の国じゃ、遊撃士協会と猟兵団の対立は日常茶飯事なのさ。自然と、遊撃士たちも危機的状況に備える者が多い。」

「だから、リベールの遊撃士にも一度は危機的状況を体験して欲しい。そんな親心の現れだと思ってくれや。」

「はあ……ずるいなぁ。そんな風に言われたら文句言いたくても言えないわよ。」

「うんうん、ずるいよね」。

「そうだよ~。ミント達のためって言われたら何も言えないよ~。」

グラッツとカルナの話を聞いたエステル達は溜息を吐いた後、納得した。

「あらあら。もう終わっちゃったのかしら?」

そして扉の奥からフィリスが出て来た。

「あ、管理人さん!」

「む~、管理人さんもグルだったんですね?」

「ひどいよ~!」

「あん、グルなんて言わないで。お芝居っていうから私も一生懸命、台詞を覚えたのよ?うふふ、迫真の演技だったでしょ♪」

驚いているエステル達にフィリスは悪びれも無く呑気に言った。

「えーえー。完全に騙されましたとも」

「はっはっはっ。3人ともお疲れさん!」

そして整備士のロベルトもエステル達の後ろから現れた。



「あ~、嘘つきな人だ。」

「結局のところ、全員がグルだったわけね。あ、それじゃあ、宿舎の通信器って……」

ミントの言葉に頷いたエステルは溜息を吐いた後、宿舎を調べた際、壊されていた通信器の事を思い出した。

「うん、あれはジャンクパーツさ。本物の通信器は、別の場所に保管してあるから心配いらないよ。本当は、僕も最後まで人質として出てこない予定だったけど……君たちが、新型オーブメントをどう使いこなすか知りたかったからあのタイミングで現れたってわけさ。」

「まったくもう……。みんな用意周到すぎですよ。でも、結局のところ騙された私たちの負けかなぁ?」

「うーん、悔しいけどそうかも。落ち着いて考えれば不自然な所はかなりあったし……。まだまだ修行が足りないなぁ。」

「ミント、一杯勉強したのに…………」

「ふふ、そう落ち込むことはない。グラッツも言っていたが、今回は君たちの実力を試すよりも危機的状況を体験して欲しかった。そういう意味で演習は大成功だ。」

落ち込んでいるエステル達をクルツは励ました後、表情を戻してアネラス達の名を呼んだ。

「では改めて……アネラス・エルフィード。」

「あ、はいっ」

「エステル・ブライト。」

「……はい!」

「ミント・ブライト。」

「はーい!」

「これをもって、本訓練場における総合強化訓練及び、準遊撃士の集中研修の全過程を終了する。この3週間、本当にご苦労だったね。」

「そ、それじゃあ……」

「もう明日には……?」

「もしかしてリベールに帰れるの!?」

クルツの説明を聞いたエステル達は期待の表情でクルツを見た。

「すでにリベール行きの定期船のチケットは取ってある。もう今夜は何も起こらないから3人とも、ゆっくり休んでくれ。」

「うふふ。打ち上げと、送別会を兼ねて今夜はご馳走にしなくちゃね♪」

こうしてエステル達はル=ロックルでの訓練を終えた……………
 

 

外伝~動き出す陰謀、漆黒の決意~ (序章終了)

~同時刻・リベール王国某所~



エステル達がル=ロックルでの訓練を終えた同時期、リベールのある場所に建造されている研究所に一機の赤い飛空艇が着陸し、そこからスーツ姿の少年が現れた。

「ふぅん。なかなか良い所じゃない。教授もいい趣味してるよね。」

「遅かったな、カンパネルラ。」

少年――カンパネルラに銀髪の青年――ロランスが近付いて来た。

「やあ、『剣帝』。ずいぶん久しぶりだねぇ。君がいない半年間、寂しくてたまらなかったよ。」

「フッ、心にもないことを。帝国遊撃士協会の襲撃はお前が担当したと聞いている。カシウス・ブライトの相手はさぞかし楽しかっただろう?」

カンパネルラの言葉を無視したロランスは不敵な笑みを浮かべて言った。

「なあんだ、知ってたのか。いや~、あのオジサン、ホントとんでもない人だよね。僕の存在は知らないはずなのに次々と的確な対策を取られてさぁ。おかげで手持ちの猟兵団をひとつ潰されちゃったよ。」

自分の部下達が潰された割には、カンパネルラは楽しそうに答えた。

「『ジェスター猟兵団』か。一度、稽古は付けてやったがどうにも凡庸な連中だったな。『剣聖』の相手は少々、荷が重かっただろう。」

「あはは……そういう君は”剣皇”に”戦妃”、おまけに”空の覇者”やあの”姫の中の(プリンセスオブプリンセス)”を相手にしたじゃないか♪そっちと比べたら天と地ほどの差だよ♪ずいぶん手酷くやられたんだってね?」

「ああ。噂通りとんでもない存在だよ、剣皇達は。剣皇の娘である”姫の中の(プリンセスオブプリンセス)”でさえ俺が敵わなかったのだからな。小娘と侮っていたら、痛い目に会うから気をつけておけよ。………彼らと対抗できるとしたら、”鋼の聖女”殿ぐらいだと思うぞ?」

「あー………あの方なら剣皇達と対抗できてもおかしくないよねぇ………(ただ、あの方……剣皇達の話が出ると、いつもと様子が少しだけおかしいように感じるんだよね………)でもま、君の工作完了まで足止めできたから十分かな。あ、そうえいば君ってば彼との対決が(たの)しみだったとか?」

ロランスの話を聞いたカンパネルラはある人物の事を思い浮かべて苦笑した後、尋ねた。

「フフ……少しな。だが、野に放たれた虎も軍務という名の鎖に繋がれた。もはや、正攻法で我らを止めることは叶うまい。」

「ふふ、教授の計画が見事、図に当たったみたいだね。それじゃあ、他のメンバーはもうリベールに来てるのかい?」

ロランスの言葉に頷いたカンパネルラは尋ねた。



「ああ、昨日集結したばかりだ。もっとも、ブルブランのやつは前から下見していたようだが。『怪盗紳士』、『痩せ狼』、『幻惑の鈴』……。それと『博士』も少しだけ、手を貸すと聞いている。揃いも揃って、クセのある連中ばかりが集まったものだ。………それと一部の作戦には『西風の旅団』と『赤い星座』を雇うと聞いている。」

「わお。よりにもよってその2つの猟兵団を使うんだ♪………ふふっ。それにしてもまあ、そういう君だって相当クセが強いと思うけどね。そういえば『彼』……行方をくらましたんだって?」

「………………………………」

カンパネルラからある人物の事が出ると、ロランスは口を閉ざした。

「うふふ、愉しみだな。僕たち『執行者(レギオン)』の中でも隠密行動はピカイチだったしね。『剣帝』と『白面』相手にどこまで頑張ってくれることやら。」

「………………………………。所詮、何年も前に『結社』から足を洗った人間だ。大した脅威になるはずがない。」

「いやいや。そんな事はないと思うよ。」

そこにワイスマンがロランス達に近付いて来た。

「やあ、カンパネルラ。わざわざご苦労だったね。見事、カシウス・ブライトを足止めしてくれて助かったよ。」

「うふふ、愉しい仕事だったよ。しかし、教授の計画書を拝見させてもらったけど……いやはや、ずいぶんと愉しいことを考えてるじゃない。」

「ははは、道化師たる君にそう言ってもらえるとは光栄だ。しかし、実際の計画ではもっと楽しんでもらえると思うよ。何しろ、今回協力してくれる諸君は皆、個人的な目的を持っている。私も、そしてこちらの彼もね。」

「……否定はしないさ。あなたの思わせぶりに(ほの)めかされる筋合いはないがな。」

「やれやれ、つれない事を。」

ロランスの言葉を聞いたワイスマンは溜息を吐いた。

「ふふ、なーるほど。色々と事情がありそうだ。まあいいや、教授の悪趣味はまはや芸術的とすら言えるからね。存分に楽しませてもらうよ。」

「フフ……。悪趣味とは聞こえが悪い。まあいい、心ゆくまで今回の計画を見届けるがいい。我らが『盟主』の代理としてね。」

カンパネルラの言葉を聞いたワイスマンは醜悪な笑みを浮かべて言った。

「うふふ、任せておいてよ。執行者No.0―――『道化師』カンパネルラ。これより、使徒ワイスマンによる『福音計画』の見届けを始める。」

そしてカンパネルラはその場でうやうやしく礼をして、ある事を宣言した…………



~同時刻・エレボニア帝国南部・リベール王国の国境線より約120セルジュ北部~



「………………………………」

一方同じ頃、黒髪の少年が墓石の前で花束を抱えていた。

「カリン姉さん……帰ってきたよ。」

そして少年は花束を墓前に置いた。

「不思議な事があったよ………僕達とは何の関係もないメンフィルの皇女が姉さんに見えた事が何度かあったよ………”星の在り処”も弾けたから、きっと姉さんと気が合ったんだろうな………姉さんが生きていた頃に、ぜひ会ってほしかったよ………」

少年は墓前でかつての旅の仲間であったある少女の話を話していた。

「お、おーい……。どこ行っちゃったのさぁ!?」

その時、少女の声が聞こえて来た。そして少女は同行者の兄達を連れて、少年を見つけた。

「よかった……ここにいたんだ。」

少女――ジョゼットが少年を見つけて安堵の溜息を吐いた。

「もう、ビックリさせないでよ!1人でさっさと奥に行くんだもん。」

「ふう……どうして来たんだ。個人的な用事だから付き合う必要はないと言ったはずだよ。」

ジョゼットの言葉を聞いた少年――ヨシュアが冷たい口調で言った。

「か、可愛くないヤツ!人がせっかく心配して探しに来てやったのにさ!」

ヨシュアの言葉を聞いたジョゼットは頬を膨らませて怒った。

「それにこの有様は興味を持つなって方が無理さ。見たところ、廃墟になったのはここ10年くらいの間みたいだな。」

「俺たちは3年前まで北部の領地に住んでいたが……。南部が廃村になったなんて今まで聞いたことがなかったぞ。何ていう名前の村だったんだ?」

そしてジョゼットの兄達――キールとドルンは周囲の風景の事について尋ねた。



「………………………………。……『ハーメル』。かつてそう呼ばれていた村さ。」

キール達の疑問にヨシュアはしばらく言うのを戸惑ったが、ジョゼット達に背中を向けて言った。

「ハーメル……。聞いたことのない名前かも。キール兄、知ってる?」

「いや……。俺も聞いたことがないな。兄貴はどうだい?」

ジョゼットとキールは村の名前に首を傾げた後、ドルンを見た。

「んー、待てよ……。かなり前に、帝国政府から何かの通達があったような……。……駄目だ、思い出せねえ。」

「なんだよ~、それ。」

肝心な事を覚えていないドルンを見て、ジョゼットは呆れて溜息を吐いた。そしてヨシュアはジョゼット達に振り向いて言った。

「……僕の用事は終わりだ。貴方たちには関係ないのに付き合わせて済まなかったね。」

「別にそれはいいんだけどさ……。アンタ、最初に会った時と態度が違いすぎるんじゃない?ボクたちを舐めてるわけ?」

ジョゼットは以前のヨシュアの態度を思い出し、ヨシュアを睨みながら尋ねた。

「……君にそんなことを言われる筋合いはないな。最初に会った時、ずいぶん堂に入った演技をしてくれたじゃないか。僕の態度もそれと同じさ。」

「うっ……。そ、それじゃあそれがアンタの本性ってわけかよ!?」

図星をつかれたジョゼットは叫びながらヨシュアに尋ねた。

「ふう……何だか知らんが色々と事情があるみたいだな。まあ、本性を出してくれた方がこちらとしては信頼はできる。上辺を取り繕われるよりはな。」

「………………………………」

キールの言葉を聞いたヨシュアは何も言わず、黙っていた。

「それに、おめぇには王国軍に追われていたところを助けてもらった借りもあるしな。そのクソナマイキな態度も少しは大目に見といてやらぁ。」

「……大目に見る必要はない。貴方たちを助けたのはあくまで利用できる駒が欲しかっただけだからね。貸しに見合う働きを期待させてもらうだけさ。」

「ぐっ、口の減らねぇガキだな。だがまあ、おめぇの提案は俺たちにとっても渡りに舟だ。せいぜい俺たちの方もおめぇを利用させてもらうぜ。」

「……それでいい。僕と行動するのはかなりの危険が付きまとう。その危険に見合うだけの協力はさせてもらうつもりだ。」

ドルンの挑発とも取れる言葉をヨシュアは淡々と答えた。



「ほ、ほんと可愛くないヤツ!なんでこんなヤツのことをあの時一瞬でも……」

「……?」

ジョゼットの様子を見て、ヨシュアは首を傾げた。

「なんでもないっ!不思議そうな目でボクを見るな!」

「どうどう、ジョゼット。ま、いずれにしてもお互いの目的を達成するまでは俺たちが仲間ってのは確かだ。よろしく頼むぜ、ヨシュア。」

怒っているジョゼットを宥めたキールはヨシュアを見て言った。

「………………………………。わかった、よろしく頼む。」

「ヘッ……。そろそろ出発するかよ?」

「ああ……戻ろう。リベールへ―――見えざる影に覆われた大地へ。」

そしてヨシュア達はそれぞれの目的の為に、リベールへ向かった………………


 

 

1章~忍び寄る影~ 外伝~環の行方~

~王都グランセル・封印区画・最下層~



かつてのクーデター事件の最終決戦となった封印区画。そこにクーデター事件解決の功労者として、中尉から大尉に昇格したユリアが先頭に立って、ケビンを案内していた。

「ふ~、それにしてもほんまゴツイとこですねぇ。いい加減、足が疲れましたわ。」

「ふふ、安心するといい。ここが『封印区画』の最下層だ。」

「わお、ホンマですか!?は~、あと半分とか言われたらどないしようかと思いましたよ。」

ユリアの話を聞いたケビンは嬉しそうな表情で答えた。

「フッ、ご謙遜を。神父殿が、聖職者にしてはかなり鍛えてあるのはお見通しだ。そうでないと君の役目はなかなか務まらないだろうからね。」

「あいた、かなわんなぁ。まーええですわ。リベール王家とウチのところは昔から縁が深いみたいですし。そや、大尉さん。例の市長さんのアレですけど……」

「ああ、『封じの宝杖』だね。………盟約に従い、指定された方法で厳重に保管させてもらっている。いつでも手渡せると思うよ。」

「おおきに、助かりますわ。盟約に協力的な国といったら、リベールぐらいで、他の国は色々難癖をつけて来てなかなか渡してくれまへんし。」

「…………そうか。盟約といえばメンフィルはどうしているんだい?」

ケビンの言葉を真剣に受け止めたユリアは尋ねた。

「あ~………………あそこは異世界出身で盟約がない分、こっちが渡すように言っても渡してくれないんですよね…………時には”自分達の世界の技術”だからとか、”自分達は使いこなせる”から俺らはお呼びでないって、言われる時もかなりあると聞いています。実際、向こうの世界の技術はどんな物が全くわかりまへんから、攻めどころがなく、こっちは何も言えないんですよね…………かと言ってゼムリア大陸以上の国力を持つと言われる色々と反則なあの国に喧嘩を売る訳にもいきまへんし。」

「…………………そうか。昔から縁がある身としてはなんとかしてあげたいが、すまないが君達の助けにはなれないだろう。」

「あ~、気にせんといて下さい。俺らの事情で昔から縁のあるリベール王家に迷惑をかける訳にもいきまへんし。実際、あんなすさまじい国と同盟関係にまで持ち込んだ事が奇跡に近い事でしょうし。」

申し訳なさそうにしているユリアにケビンは気にしていない事を言った。



「すさまじい………か。実際言われてみたら、そうだろうな…………国力、軍力もそうだがそれらを親子揃って、卓越とした政治力、指導力で有効に活用する皇家の能力。そして何より首脳陣の彼らは老いがなく、我々より遥かに長命だしな。彼らの登場でゼムリア大陸の国同士の力関係が完全に変わってしまったしな。」

ケビンの言葉を聞いてユリアは遠い目をしながら答えた。

「全くやで………特に”英雄王”や”闇の聖女”は不老不死という情報もありますから、リベールはともかくエレボニアにとっては頭の痛い話やろうな。」

「そうだろうな………だが、我々リベールにとってはありがたい話だ。我々の落ち度がない限り、恐らく向こうも今の関係のままにしてくれると思うしな。他国任せになってしまうのは情けない事だが、リベールにとっての強みの一つがメンフィルとの同盟関係になるしな。」

「ハハ………次代のメンフィルの女帝になると言われるリフィア姫殿下もかなりの評判と噂されているし、今回の事件みたいなこともありまへんやろうしな。」

「…………………」

冗談混じりのケビンの言葉を聞いたユリアは目を伏せた。

「おっと!すみません、そっちの事も考えず、つい…………」

「いや………気にしないでくれ。そういえば、異世界の宗教との関係はどうなのだろう?」

謝罪するケビンに気にしていない事を答えたユリアは尋ねた。

「かさねがさね良好ですわ。特にイーリュン教は神の教えを広めるのが目的ではなく、傷ついた人々を癒すのが目的やから同じ聖職者として向こうさんの気持ちもわかりますし。」

「……確かにイーリュン教の慈悲深さや信念には恐れ入るよ。特にどんな事があろうと決して争わないという教えは、尊敬に値する。………軍人である自分には耳が痛い事だが。」

ケビンに答えたユリアは苦笑しながら言った。

「いや~……それを言ったら”俺ら”もそうやし、大尉はんが気にすることないやろ。」

「フフ……そう言ってもらえるとありがたいよ。アーライナ教はどうなのだい?」

「アーライナ教ですか……」

ユリアに尋ねられたケビンは真剣な表情をした。



「………その様子からすると、何か問題があるのだろうか?」

「まあ………アーライナ教というか、アーライナ教の一部の信者に問題があるから、教会として解決策もありまへんから、頭を悩ましているんですわ。」

「一部の信者に問題?一体それは何なのだ?」

ケビンの話を聞いたユリアは首を傾げた。

「………アーライナ教の教えは”混沌”でっしゃろ?ですから一部の信者達が外法の行いをするアホ達もいるんです。」

「………”闇の聖女”殿はそれを知っているのか?」

ケビンの話を聞いたユリアは驚いて尋ねた。

「ええ。なんとかしてくれとこっちが度々頼んでいるんですけど、聖女さんは『それもまたアーライナの教えですから、何かするつもりはありません。』って、言って何もしてくれないんですわ………」

「驚いたな………あれだけ評判のいい”闇の聖女”殿にそんな冷酷な一面があったとは………」

「…………まあ、向こうの教えで言えば、反していないという話ですし、聖女さん自身は関与してない上、聖女さん自身が行っている福祉活動とか考えると聖女さん自身が悪い訳やありまへん上、皇族でもありますからこっちも強く言えないんですわ。要は信者自身、”混沌”をどう受け取るか……ですわ。」

驚いているユリアにケビンは溜息を吐きながら答えた。

「……難しい問題だな。それで?外法を行いをした者は”そちら”で対処しているのか?」

「ええ。それに関しては聖女さんも特に何も追及してきませんでしたし。一応、聖女さんのお墨付きと言う事で”俺ら”で対処しています。………それより、例のブツ、見せてもらえますか?」

「ああ―――こちらだ。」

そしてケビンとユリアはクーデター事件の最優決戦場であった最深部に向かった。



~封印区画・最深部~



「こいつはまた……」

ケビンは最深部にあるバラバラになったトロイメライを見て驚いた。

「七耀教会もさぞかしこれらの扱いには困るだろう。超弩級(ちょうどきゅう)と言ってもいい古代遺物(アーティファクト)だろうからね。」

「………………………………。……ちょいと調べさせてもろてもええですか?」

「もちろんだ。陛下の許可も下りている。どうか我々に知恵を貸していただきたい。」

ユリアの許可を貰ったケビンはトロイメライを調べ始めた。

「こいつが報告書にあった『環の守護者』っちゅうヤツか。カルバードで出土した巨像に雰囲気は似とるが……。うー、動いているところをこの目で確認したかったわ~。それと……」

次にケビンはリシャールがゴスペルを設置した装置に目を付けて近付いた。

「古代ゼムリア文明末期……1200年前の代物やな……。装置としての機能は不明ながら遺跡全体の中枢であるらしい……」

「アーティファクトの解析は現代の技術では不可能らしいな。同じ導力として稼働しながらもオーブメントとは異なる機械体系……。そうラッセル博士が仰っていたよ。」

「『早すぎた女神の贈り物』―――そう教会では定義しとりますわ。それであっちが……」

ユリアの言葉に頷いたケビンは支柱が収納されてある床に近付いた。

「『ゴスペル』っちゅう漆黒のオーブメントが使われた直後……ここにあった巨大な柱が床の中に格納されたそうですな?」

「ああ、ここを含めた四隅にある柱が格納されたそうだ。しかし、2ヶ月近く経つのに、その意味はいまだ掴めていない。」

「封じられた『輝く環』……。そして使われた漆黒の『福音』……。装置が喋った『第二結界』と『デバイスタワー』の起動……。なるほどなー……。微妙にカラクリが見えてきたわ。」

「カラクリが見えた……。そ、それは一体どういう……!?」

ケビンの言葉に驚いたユリアは尋ねた。



「いや~、何ちゅうか直感みたいなモンですけど。恐らくこの場所は『門』やないかと思います。」

「『門』……?」

「ええ、そうです。女神の至宝に至るための『道』を塞いでいた『門』……。そして、それをこじ開けたのが『福音』と呼ばれた漆黒の鍵……。そう考えれば、ここに肝心の『輝く環』が無いのも肯けますわ。」

「だ、だが、『道』と言ってもここはすでに遺跡の最下層だ。博士の調査でも、他のエリアが存在しない事は判明しているが……」

ケビンの説明にユリアは驚き、焦りながら尋ねた。

「多分、目に見える形での『道』とはちゃいますやろ。地下に流れる七耀脈……。あるいはもっと別の経路……。恐らく、それを越えたどこかに『環』の手がかりがあるはずですわ。」

そしてケビンは真剣な表情でユリアの疑問に答えた…………………


 

 

第9話

ル=ロックルでの訓練を終えたエステル達はリベールの王都――グランセルに到着した。



~グランセル国際空港~



「ふ~。半日以上、飛行船に乗ってたらさすがに疲れちゃったねぇ。早速、訓練終了と帰還の報告をギルドにしに行こっか?」

定期船から降りたアネラスはエステルとミントに提案した。

「………………………………」

「ママ?」

「エステルちゃん?」

放心状態になっているエステルを見て、ミントとアネラスは首を傾げて尋ねた。

「う、うん……。そうよね。エルナンさんに挨拶しなきゃ。」

2人に声をかけられたエステルは我に返って答えた。

「えっと……もしかして。エステルちゃん、緊張してる?」

「う、うん、何でかな……。訓練に行く前はそんなこと感じなかったのに……。これから本格的に正遊撃士として動くと思うと何だか落ち着かなくって……」

アネラスに尋ねられたエステルは恥ずかしそうにしながら答えた。

「そっか。多分それは……武者震いなんじゃないかな。」

「む、武者震い?」

「エステルちゃんはこの一月の訓練で強くなった。それは、力だけじゃなくて知識とか慎重さとか判断力とかそういうものも含めてだと思う。謎の組織の陰謀を暴いてヨシュア君を連れ戻す……。たぶん、そのことの大変さが前より見えてるんじゃないかな?」

「あ……。うん。言われてみればそうかも。はあ……マヌケだわ。登ろうとする山の高さが見えてなかった登山者みたい。」

「ママ…………」

アネラスの説明を聞き溜息を吐いているエステルを見てミントは心配した。

「登る気、無くしちゃった?」

「ううん!やる気だけは前以上かも。どんな山だって、結局は一歩一歩登るしかないんだし。たとえ這ってでも頂上を目指してやるんだから!」

「ミントも一緒にがんばるね!ママ!」

「ありがとう、ミント。」

「ふふっ、その意気だよ。それじゃあ、ギルドに報告に行こうか?」

「うん、了解!」

「はーい!」

そして3人はギルドに向かった。



~遊撃士協会・グランセル支部~



「そうですか……。3人ともご苦労さまでした。では、訓練の評価と合わせて報酬をお渡ししましょう。」

3人の報告を聞き、頷いたエルナンは以外な事を言った。

「え?訓練なのに報酬なんてもらっていいの?」

訓練をしただけで報酬をもらった事にエステルは首を傾げて尋ねた。

「ええ、これも仕事の一環ですからね。もちろん、その分の活躍は期待させてもらいますよ。」

「あはは……頑張ります。」

「ミント、ママ達に早く追いつくよう、一杯頑張るね!」

そして3人は査定を受け、報酬を受け取った。

「どうやら、充実した訓練期間だったようですね。」

「うん!本当に勉強になっちゃった。」

「また機会があったらぜひとも利用したいですね。」

「ミント、遊撃士に必要な事、一杯覚えたし前より強くなったよ!」

エルナンの言葉にエステル達はそれぞれ自分自身が成長した事を実感している事を嬉しそうに話した。

「ふふ、それは何よりです。そういえば、クルツさんたちは訓練場に残ったそうですね?」

「うん、カルナさんたちと上級者向けの訓練をするらしいわ。しばらく帰って来れないみたい。」

「でも、正遊撃士が3人も国外に行ったきりだもんねぇ。これから猛烈に忙しくなりそう。カシウスさんも、もう本格的に王国軍で働いているんだったよね?」

エステルの説明に頷いたアネラスはカシウスに対しての事情を一番知っているエステルとミントを見た。

「あ、うん。確か、レイストン要塞勤務になるって聞いたけど……」

「お祖父ちゃん、前より偉くなったってミントに自慢してたよ!」

「へ?何それ??初耳よ。…………全く父さんったら、あたしには言わない癖にミントには話すってどういう了見よ………」

ミントの話を聞いたエステルは驚いた後、呆れて溜息を吐いた。



「カシウスさんは、准将待遇で軍作戦本部長に就任されました。実質上、現在の王国軍のトップとも言えるでしょうね。」

「ぐ、軍のトップ!?それって今だとモルガン将軍じゃないの!?」

エルナンの話を聞いたエステルは軍でのカシウスの待遇に驚いた。

「当初はその予定だったそうですが将軍ご自身の意向で、カシウスさんに権限が集中する体制になったそうです。将軍としては、若いカシウスさんに王国軍の未来を託したいんでしょうね。」

「うーん……。あんまり実感湧かないわねぇ。」

「ふわ~…………お祖父ちゃんって、本当に凄いね!」

エルナンの話を聞き、普段のカシウスの姿を知っているエステルはカシウスが軍のトップである姿が思い浮かべず唸り、ミントははしゃいだ。

「あはは、カシウスさんならそれもアリって感じがしますけど。ただ、これでますますギルドの戦力が低下しますねぇ。」

「まあ、以前よりもさらに軍の協力は得られそうですが……。ただ、今の我々には新たに警戒すべき事があります。」

「え……」

「それって……。やっぱり『結社』のことよね。もしかして、何か動きがあったの?」

気になる情報が出て来て、エステルは真剣な表情で尋ねた。

「いいえ、今のところは。ただ、ここ1ヶ月の間、奇妙なことが起こっていましてね。たとえば……各地に棲息する魔獣の変化です。」

「魔獣の変化……」

「具体的にはどういう事ですか?」

「…………………」

エルナンの話を聞いたエステルは驚き、アネラスは尋ね、ミントは手帳に聞いた情報を書く準備をした。

「まず、今まで見たことのないタイプの魔獣が各地で現れました。さらに、既存の魔獣も今までよりはるかに手強くなっているそうです。今のところ、原因は判明していません。」

「そ、そんな事があったなんて……。『結社』っていうのが何かしたって事なんですかっ!?」

「いや、結論するのは現時点では早計でしょうね。ただ、女王生誕祭を境にして何かが起こり始めている……。それは確実に言えると思います。」

「そんな……」

「やっと、平和になったのに………」

「………………………………」

これからが本番である事にエステル達は暗い表情をした。



「実は、その件について対応策を立てることになりまして。エステルさんとアネラスさん、そしてミントさんにも是非、協力をお願いしたいんです。」

「へっ……?」

エルナンの提案にエステルが首を傾げたその時

「なんだ、もう到着してたのね。」

シェラザードとアガット、そしてエステルの契約した使い魔達が入って来た。

「あ、シェラ先輩!?」

「こんにちは~。シェラお姉さん、アガットさん!」

「シェラ姉!?それにアガットも……みんなも久しぶり!」

シェラザード達を見たアネラスは驚き、ミントは無邪気に挨拶をし、エステルは驚いた後、パズモ達を見て嬉しそうな表情をした。

(フフ……本当に久しぶりね、エステル。)

(どうやら以前と比れば各段に見違えたようだな…………だが、その程度で浮かれるなよ?)

「お久しぶりです、エステルさん。」

「ようやくニル達の本来の役割に戻れるわね………」

パズモ達もそれぞれ懐かしそうな表情でエステルに言った。

「えへへ………今までご苦労さま。久しぶりにあたしの中で休んで!」

(ええ。)

(戦があれば、我等を呼ぶがいい。)

「また何かあればいつでも呼んで下さいね。」

「あなたをサポートするのがニル達の使命だからね。いつでも気軽なく呼びなさい。」

エステルの言葉に頷いたパズモ達は光の玉になってそれぞれエステルの身体の中に入った。



「お帰り、エステル、アネラス、ミント。」

「ヘッ、思ったよりも早く帰ってきやがったな。」

「シェラ姉、ただいま!アガットも、お久しぶりだね?」

「ああ、生誕祭の時以来だな。……ヨシュアのことはオッサンから聞かせてもらった。ヘコんでたみてぇだが……どうやら気合い、取り戻せたみてえじゃねえか。」

エステルの様子を見て、アガットは口元に笑みを浮かべた。

「えへへ、まあね。それよりも……どうして2人が一緒にいるの?」

「うーん、確かに。珍しいツーショットですよね。」

「うん。ミントもそう思う。」

「あら、そうかしらね?」

「ま、確かに一緒に仕事をすることは少ないかもしれんな。」

エステル達の言葉を聞いたシェラザードは以外そうな表情をし、アガットは逆に頷いていた。

「実は、シェラザードさんとアガットさんには、特別な任務に就いてもらうことになりましてね。そのために来てもらったんですよ」

「特別な任務?」

エルナンの話を聞いたエステルは首を傾げた。

「ええ……。『身喰らう蛇』の調査です。」

「えええええ~!?」

「『結社』の調査!?」

「そ、それってどういう……!?」

エルナンからシェラザード達の任務を知ったミントやエステルは声をあげて驚き、アネラスは驚きながら尋ねた。



「調査と言っても、具体的に何かをするってわけじゃないわ。なにせ、実在そのものがはっきりしない組織だしね。」

「各地を回って仕事をしながら、『結社』の動向に目を光らせる……。ま、地味で面倒な任務ってわけだ。」

驚いているエステル達にシェラザードとアガットはそれぞれ詳細な内容を説明した。

「な、なるほど……。でも、現時点ではそれくらいしか手はないのかも。それじゃあ、あたしたちに協力して欲しい事って……」

「ええ、2人のお手伝いです。王国各地で情報収集するためにアガットさんとシェラザードさんには別々に行動してもらうのですが……。得体の知れない『結社』相手に単独行動は危険かもしれませんから。………本来、準遊撃士になったばかりのミントさんには荷が重いかもしれないのですが、

クーデター事件の最後まで関わった数少ない人物でもありますから、ミントさんの事情も考えて今回の件のメンバーに入れたんです。」

「じゃあ、私たちの誰かがシェラ先輩のお手伝いをして……。もう一方がアガット先輩のお手伝いをするってわけですね?ちなみにミントちゃんは……」

「もちろん、エステルさんと一緒になります。……彼女はエステルさんの傍にいないといけない事情がありますし。」

「えへへ………ママと一緒に仕事ができるんだ。やった~。」

エルナンからエステルと一緒に仕事をしていい事を聞いたミントは嬉しそうにしていた。

「ただ、ミントさんは準遊撃士ですから正遊撃士昇格のために別の仕事を1人でしてもらう時もありますからね?」

「はーい!」

「さて………どうでしょう。協力していただけませんか?」

念を押し、ミントの返事に頷いたエルナンはエステルとアネラスを見た。

「あたしはもちろん!元々、『結社』の動きについては調べるつもりだったから渡りに舟だわ。」

「私も協力、させてください。そんな怪しげな連中の暗躍を許しておくわけにはいきませんよ!」

「ありがとう、助かります。」

2人の力強い返事を聞いたエルナンはお礼を言った。

「さて、そうなるとチームの組み合わせが問題ね。あたしとしてはどちらがパートナーでもいいわ。」

「互いに面識はあるわけだしな。自分たちの適性を考えて3人で相談して決めてみろや。」

「うっ……。なかなか難しいこと言うわねぇ。アネラスさん、ミント、どうしよう?」

自分達に選択を与えた事に迷ったエステルはアネラスとミントに意見を求めた。

「うーん、そうだね。無責任かもしれないけど……ここはエステルちゃんが決めちゃうのが一番いいと思う。」

「アネラスさんに賛成~!ミント、ママが決めてくれるのなら大丈夫と思っているもの!」

「ええっ!?」

しかし完全に自分任せにして来たので、エステルは驚いて声を上げた。



「やっぱりエステルちゃんは正遊撃士になったばかりだもの。遊撃士としての自分のスタイルがまだまだ見えてないと思うんだ。だから、これを機会に自分がどういう風になりたいのか考えてみるといいんじゃないかな?」

「アネラスさん……」

「ふふ、アネラス。いつの間にか、いっちょまえな口を利くようになったじゃない?」

アネラスの言葉を聞いたエステルはアネラスを尊敬の眼差しで見て、シェラザードは口元に笑みを浮かべた。

「ふふん、任せてくださいよ♪」

シェラザードの言葉を聞いたアネラスは胸を張って答えた。

「ま、言うことはもっともだ。例えば、俺とシェラザードは遊撃士のランクは同じくらいだが、戦闘スタイルのクセはかなり違う。俺はアーツは補助程度で重剣を使った攻撃がメインだが……」

「あたしは機動力と鞭の射程、そしてアーツも活用するタイプ、極めつけは魔術よ。確かに、そのあたりはどちらを選ぶかの基準にはなるわ。ただ、遊撃士の仕事っていうのは何も戦闘だけじゃないからね。自分なりに考えて選ぶのが一番よ。」

「う、うーん。えっと、それじゃあ……。アガット。協力してくれる?」

アガットとシェラザードの助言を聞いたエステルは少しの間考えた後、アガットを指名した。

「そうか、わかった。正遊撃士になったからにはこれまで以上に厳しく行くからな。覚悟しとけよ。後、そこのチビもだ。チビとは言え、テメエも遊撃士の一人だからな。」

指名されたアガットは頷いた後、ミントにも忠告した。

「えへへ………大丈夫だよ!だってアガットさん、本当は優しいもんね!」

「はいはい、判ってますって。ホント、予想通りの憎まれ口を叩くんだから。」

「む……」

ミントとエステルに図星を指されたアガットは顔を顰めた。

「はいはい、ケンカしないの。それじゃあ、あたしはアネラスとコンビか。訓練の成果、見せてもらうわよ。」

「はいっ。ふふ、久しぶりに先輩とコンビを組めて嬉しいなぁ。」

シェラザードと組める事になったアネラスは嬉しそうにしていた。



「さてと、これでようやくこの問題はケリがついたが……。具体的にどういう風に各地を回るかってのが問題でだな。」

「エルナンさん。そのあたりはどうかしら?」

メンバーが決まり、エステル達はエルナンに今後の方針を尋ねた。

「そうですね……。当面は、忙しい地方支部の手伝いに行くのが良いでしょう。実は、ロレント支部とルーアン支部から応援要請が来ているんですが……」

「あちゃあ、さすがにロレントを留守にしすぎたか。ここは、アイナを助けるためにもあたしが行った方がいいのかな。」

「そうですね、私も賛成です。うーん、アイナさんに会うのは久しぶりだな~。」

エルナンの話を聞いたシェラザードは気不味そうな表情で溜息を吐いた。また、アネラスはアイナに会うのを楽しみにしていた。

「だったら俺たちはルーアン支部に行くとしよう。エステル、チビ、それでいいな?」

「うん、もちろん。ルーアン地方か……。みんな、どうしてるのかな。」

「む~……さっきから気になっていたんだけど、ちゃんとミントの事も名前で呼んでよね!けどルーアンか……えへへ……先生やクラム達に会えるかもしれないな……」

アガットの言葉に頷いたエステルはルーアンで出会った人達の事を思い出していた。また、ミントはアガットの自分に対する呼び方に頬を膨らませていたが、テレサ達に会えるかもしれない嬉しさに怒っていた事をすぐに忘れた。

「各支部への連絡は私の方からやっておきます。それでは皆さん。気を付けて行ってきてください。」

そしてエステル達はそれぞれの地方に向かうために空港に向かった……………


 

 

第10話

その後、ロレントに向かうアネラスとシェラザードを見送ったエステル達はルーアンに向かう飛行船を待つために待合所に向かった。



~飛行船会社・待合所~



「……………………」

「わっと、ごめんなさい。」

エステル達が入口に入ると、魔導鎧を装備し、立ち止まって無表情でエステル達を見ている女性に気付いたエステルは謝ってアガット達と共に女性に道を開けた。

「……………………」

女性はエステルを一瞥した後、どこかに去った。

「今の女の人……なんか、怖かったね………」

女性が去った後、ミントは女性の雰囲気から感じた事をエステル達に言った。

「こらこら。そういう事は本人の目の前で絶対に言ってはダメよ?………でも、確かになんか普通の人とは違う感じがしたわね………」

「ああ。それにあの眼……全く感情が籠ってねえ眼だ。……後、クーデターの時に戦った人形兵器共と似たような雰囲気があるぜ。」

「人形兵器って…………いくらなんでもそれは失礼じゃない。」

アガットの言葉に呆れたエステルは溜息を吐いたエステルは待合所にいる客達がある一点を集中している事に気付いた。

「あれっ……?」

「ふえ………?」

エステル達が客達の視線の先を見ると言い争いが起こっていた。そこにはミュラーもいた。

「まったく、これだから尊大なエレボニア貴族というのは……。鼻持ちならないにも程がありましてよ。」

言い争いをしている一人である女性――カルバード大使、エルザが鼻をならした。

「フン、鼻持ちならないのはそちらの方ではないのかね。第一、エンジン供給についてどうして共和国が口を出す?それこそ、内政干渉ではないか。」

同じく言い争いをしているもう一人の人物――エレボニア大使、ダヴィルが言い返した。

「安全保障上の問題ですから。貴国がリベールを侵略してからまだ10年しか経っていないでしょう。そんな侵略国家がぬけぬけと最新技術に手にするなど言語道断。友好国のメンツにかけても見過ごすことなどできませんわ。」

「な、なにが友好国だ!10年前も実際に兵を出したわけでもなかろうに!実際にリベールの友好国として戦ったのは、メンフィルだろうが!ただの傍観者風情の上、友好国と言う言葉を利用してメンフィルと何とか繋がりを持とうとする卑怯者が偉そうな口を利くのはやめたまえ!」

エルザの言葉に頭に来たダヴィルは怒鳴り返した。

「な、なんですって……」

ダヴィルの言葉を聞いたエルザは頭に来て、今にも掴みかかりそうな雰囲気だった。

「ダヴィル大使……。そのあたりになさっては。他の客の迷惑になりますよ。」

「し、しかしミュラー君。」

自分を諌めるミュラーにダヴィルは反論をしようとした。

「エルザ大使もここはお引き取り下さい。この話は、いずれ別の機会に双方の大使館ですればよいかと。」

「……そうですわね。エレボニア軍人に指図されるのはあまり愉快ではありませんけど。尊大で性根の腐ったエレボニア貴族よりは遥かにマシですわ。」

「な、なんだと!?」

同じくミュラーに諌められ、冷静になったエルザの言葉を聞いたダヴィルはまた怒鳴った。



「それでは御機嫌よう。皆さん、失礼いたしますわ。」

そしてエルザは待合室を出て行った。

「な、なんという失礼な女だ。これだから歴史も伝統もない成り上がりの庶民どもは……」

「大使……」

「……フン、判っている。私は先に大使館に戻る。例の件については君に任せたぞ。」

「了解しました。」

そしてダヴィルも待合室を出て行き、ダヴィルとすれ違ったエステル達はミュラーに話しかけた。

「どうも、こんにちは。」

「こんにちは!」

「君は……。確かエステル君にミント君だったか。久しぶりだ。武術大会の時以来になるか。」

「よかった。覚えていてくれてたんだ。それにしても……すごい言い争いだったわねぇ。今の人たち、どちらさまなの?」

「男性の方はエレボニア帝国のダウィル大使。女性の方はカルバード共和国のエルザ大使。どちらも王都にある大使館の責任者にあたる立場だ。」

「そ、そうだったんだ。」

「ふえ~……なんだかよくわかんないけど、凄く偉そうな人達なんだね。」

ミュラーから言い争っていた人物の事を聞いたエステルやミントは驚いた。

「しかし、大使というのは大人気ない口論だったな。あんなもんで務まるのか?」

「ちょ、ちょっとアガット。」

呆れて無礼な事を言うアガットにエステルはミュラーを気にしながら慌てた。

「いや、面目ない。元々、エレボニアとカルバードは友好的な関係とは言えなくてね。さらにあの2人は、性格的にも徹底的にウマが合わないらしい。まあ、顔を合わせるたびに口論ばかりしているというのは逆に気が合う証拠かもしれないが。」

一方ミュラーは目を伏せてダヴィル達の言い争いの件を謝り、事情を説明した。

「あはは、そうかもしれないわね。それにしても……気になること言ってなかった?エンジン供給とか内政干渉とか。」

「………………………………」

エステルが口にした言葉を聞くとミュラーは真剣な表情で黙った。

「ミュラーさん?」

「あ、聞いたらマズかった?」

ミュラーの様子を見たミントは首を傾げ、エステルは尋ねた。



「……いや、構わないだろう。エンジンとは、中央工房が現在開発している最新鋭のものでね。完成の暁には、飛行船公社を通じてエレボニアとカルバード、そしてメンフィルにサンプルが提供される話があるんだが……。その打ち合わせに来たところでエルザ大使と鉢合わせたわけだ。」

「ふーん、そうなんだ。でも、新型エンジンくらいでどうして口論になるのかしら。」

「そうだよね。飛行船が速くなったりするかもしれないのに………」

「そりゃあ、飛行船の性能を左右する最重要の部品だからな。軍艦に搭載されることを考えたらノンキに流せる話でもねぇだろう。」

ミュラーの説明を聞き首を傾げているエステルとミントにアガットが理由を話した。

「なるほど……。確かに、それでエレボニア軍がパワーアップしちゃったらちょっとシャレにならないかも。……あ、ゴメンなさい。」

アガットの言葉に納得した後、エレボニア軍人であるミュラーの目の前でうっかり口を滑らした事にすぐに気付いたエステルはミュラーに謝った。

「いや、確かにその通りだ。普通なら、他国に最新技術を提供するなど考えられないが、これも女王陛下のご意向でね。技術的優位を独占するのではなく、多くの国に提供することで諸国間の平和を確立したい……。そう思ってらっしゃるそうだ。」

「なるほど……。確かにそんな風に言ってたかも。うーん、それを考えるとやっぱり女王様って立派よね。ただの理想というよりずっと先のことまで考えた外交政策っていう気がするわ。………あれ?さっき打ち合わせに来たって言っていたけど、メンフィルの人は来なかったの?」

「いや、もちろん来たさ。ダヴィル大使達が言い争いを始めると、『任務は完了しましたので失礼します』と言って、さっさと去っていったよ。もしかしたら、君達とすれ違ったかもしれないな。」

「もしかして、さっきの鎧を着た女の人じゃないの?」

ミュラーの言葉を聞き、心当たりのあったミントはミュラーに尋ねた。

「恐らくその女性だろう。……彼女の名はシェラ・エルサリス。メンフィル帝国の機工軍団を率いるメンフィルの将軍の一人だ。」

「しょ、将軍~!?さっきの人、そんな凄い人だったんだ………」

すれ違った女性――メンフィル機工軍団長シェラの事を知ったエステルは驚いた。

「………将軍にしては、礼儀の一つもない奴だったな。俺達が道を開けた時、礼の一つも言わなかったぜ。」

「あんたに言われたかないでしょうよ。」

アガットのシェラに対する印象にエステルは呆れて言った。

「…………彼女はある意味、人形といってもおかしくない存在だから仕方ないだろう。」

「へっ?それって、どういう事??」

ミュラーの言葉にエステルは首を傾げて尋ねた。

「………かつての”百日戦役”の終結する際の会談でわかった事らしいのだが、シェラ将軍は生物ではなく、異世界の古代遺物(アーティファクト)のような存在だそうだ。」

「え!?」

「マジかよ!?」

「それって………クーデターの時に戦ったあのトロイメライとかいう奴と同じって事!?」

ミュラーの説明を聞いたエステル達は驚いた。



「………彼女が率いる機工軍団の一部は彼女のような存在が複数いるらしい。メンフィルにとって、主力軍団の一つであり、我々エレボニアからは”破壊の女神”と恐れられているよ。」

「”破壊の女神”………なんか物騒な呼び名ね………」

「んな事より、あのデカブツみたいな存在をメンフィルは複数持っているのかよ………とんでもねえな。」

「……実際、彼女達が戦場に出て攻撃を行うと頑丈に閉ざされた大門や戦の為に作られた砦、エレボニア軍が誇る戦車隊が跡形もなく消し飛ばしされたと聞く。まさに”破壊の女神”と評されてもおかしくないだろう。」

「クーデターの時に戦ったあのトロイメライみたいなのが複数いて、それが一斉攻撃って………ブルブル!想像したくもないわ!」

エステルはトロイメライ戦の事を思い出し、思わず震えた。

「同感だよ。彼女達の存在もそうだが、リウイ皇帝陛下を始めとし、”英雄”クラスの将が複数いる上、一般兵も親衛隊クラスの強さという精鋭ぞろいのメンフィルとは二度と争いたくないものだ。……すまない。つい話し込んでしまったな。乗船券を買うのだろう?俺はこれで失礼させてもらおう。」

「あ、うん。そういえばミュラーさん。オリビエのことなんだけど……。彼、もうエレボニアに帰っちゃたのかしら?」

「なんだ、知らないのか?」

エステルからオリビエの事を尋ねられたミュラーは意外そうな表情をして尋ねた。

「生誕祭以来、機会がなくて挨拶してないまま会ってなくて。申しわけないって思ってたの。」

「心配せずとも、あのお調子者ならまだリベール国内に滞在しているぞ。しばらく、エルモ温泉という場所で優雅に逗留(とうりゅう)するとか抜かしていたな。」

「あ、そうなんだ。ふふ……。なんだかオリビエらしいな。」

「温泉か~………いいな~。」

ミュラーからオリビエの行動を聞くとエステルは苦笑し、ミントは羨ましがった。

「ヤツが大使館に戻ってきたら君たちのことを伝えておこう。少なくとも、帰国前にはギルドに連絡するように言っておく。」

「ありがとう、ミュラーさん。」

「こちらこそ、あの変人に付き合ってくれて感謝する。それでは、またな。」

そしてミュラーは出て行った。



「あの金髪男の知り合いにしちゃずいぶん堅そうな軍人じゃねえか。いったいどういうヤツなんだ?」

ミュラーが去った後、アガットはオリビエの事を思い出し、オリビエの知り合いの割に真面目なミュラーに首を傾げてエステル達に尋ねた。

「ミュラーさんっていって帝国大使館の駐在武官さん。と言っても、あたしたちは1,2回会ったくらいなんだけどね。」

「片手でオリビエさんを引っ張って行ったんだよ!凄い力持ちの人だよ!」

「ふーん……。ガタイもいいし隙もねぇ。獰猛な牙を隠し持った優秀な軍用犬ってところか。」

エステルとミントからミュラーの事を聞いたアガットは目を細めて答えた。

「もう、失礼な言い方ねぇ。確かに……かなり強そうな雰囲気だけど。」

「フン、あの金髪男もそうだが、どうも帝国人は信用ならねぇな。カシウスのおっさんと何か話していたみたいだが……。どんな目的で長期滞在してるか判ったもんじゃねえ。」

「うーん、言われてみれば。でも、オリビエって変人だけど悪人じゃないし……。あのミュラーさんにしたって悪い人には見えないんだけど。」

「フン、どうだかな。まあいい、カウンターでとっとと乗船券を買うぞ。」

「はーい!」

そしてエステル達は乗船券を買おうとしたが、エルナンの手配によって乗船券のお金を払う必要もなく、受け取り、そしてしばらくの間飛行船を待った後、飛行船に乗ってルーアンに向かった…………


 

 

第11話

~リベール上空・定期船リンデ号~



「うわ~………雲が一杯あるよ、ママ!」

「はいはい。相変わらずミントは無邪気ねぇ……それにしてもいい天気ねぇ。この分だと、ルーアン地方は絶好の観光日和じゃないかしら。」

「かもな。もっとも、今は観光以外で熱くなってるみてぇだが。」

ミントの無邪気さに微笑んだエステルの言った言葉にアガットは頷いた後、気になる事を言った。

「観光以外?」

「市長選挙だ。逮捕されたダルモアの代わりに2人の候補が出馬したらしい。」

「へ~、そうなんだ。でも、確かにそうよね。いつまでも市長が不在でやっていけるはずないんだし。」

「そういや、あの事件はお前らが事件解決したらしいな。後からジャンに聞かされたぜ。」

アガットはかつてルーアンで起こった事件の解決をしたエステルを感心した様子で見ていた。

「あ、あはは……。うん、アガットが抜けてからヨシュアとクローゼでね。まあ、記者の人にも助けられたし、親衛隊が市長を逮捕したんだけど。」

「フン、自分の力だけじゃないと分かってるんならそれでいい。それにしても、あの制服娘がクローディア姫だったとはな……。城で聞かされた時には、さすがの俺もビビったぜ。後、メンフィルの貴族共がまさか皇女だったとはな………あれも驚いたぜ。」

「あはは、気持ちは判るけどね。そういえば、オリビエもそうだけどクローゼとも生誕祭以来なのよね……。ううん、ティータと博士、それにジンさんとも……」

アガットの感想に苦笑しながら同意したエステルは今まで出会った旅の仲間のその後が気になり、尋ねた。

「ティータと爺さんなら俺の方から事情を伝えといた。お前たちのことをあまりにも心配しやがるからな。」

「そうなんだ……。ありがと、アガット。」

「ま、いずれ手紙を出すなり、直接挨拶に行くといいだろう。ジンのやつは、生誕祭のあとカルバードに帰っちまった。お前によろしくと言ってたぞ。」

「そっか……。挨拶くらいしたかったな。」

「まあ、姫さんの方は学園に戻ってるらしいからな。せっかくルーアン地方に行くんだ。ヒマを見て挨拶すりゃあいいだろ。……そう言えばメンフィルの皇女共はその後、どうなったんだ?」

それぞれのその後を報告したアガットはリフィア達の事が気になって尋ねた。



「あ、うん。あの後ロレントの大使館に帰ったよ。……ロレントで少しの間だけミントと一緒に遊撃士の活動を行っていて、ヨシュアの事も含めて報告しに会いに行ったんだけど、リフィア達、あたしが渡した剣を修復してもらうために

向こうの世界のこの棒を作った人に頼みに行くために、向こうの世界にいるってあたし達に対応してくれたルースって人が教えてくれたんだ。」

「その棒を作った奴か…………かなりの腕を持っている鍛冶師なんだろうな。」

アガットはエステルの背中にさしてある棒を見て呟いた。

「そうね。それに武術の腕もかなりあるらしいわ。ミントは寂しくない?」

アガットの言葉に頷いたエステルはミントに尋ねた。

「ほえ?それってどういう事?」

エステルに尋ねられたミントは首を可愛らしく傾げた。

「ほら、ツーヤにも会えなかったじゃない。」

「あ、うん………心配してくれてありがとう、ママ。でも大丈夫だよ。それがツーヤちゃんの進む道なんだから。ミント達、それぞれの”パートナー”を見つけた時、それぞれの道を行くために別れる覚悟はしていたもの。」

「ミント……………」

「へっ。ガキのわりにナマ言ってるじゃねえか。」

凛とした表情のミントを見てエステルは驚き、アガットは感心した。

「えへへ………でも、アガットさんってやっぱり優しいね!」

「ハア?どういう意味だそれ。」

ミントの言葉を聞いたアガットは心外そうな表情で声を上げて尋ねた。



「だって、ミント達が王都を出発する時、買物とかにも凄く気を使ってくれたもの!」

「言われてみればそうよね……ふふっ。」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ。ったく……俺は到着まで席で寝てるからな。ウロチョロ船内を歩き回ってルーアンで降りるのを忘れるなよ。」

ミントの無邪気な笑顔とエステルの笑みを見たアガットは照れた後、船内に入った。

「まったくもう。憎まれ口ばっかなんだから。さてと、到着まで時間はあるし、船内を回ってみようかしら。」

「あ!ミントも一緒に回る!」

その後船内を探索していたエステル達は到着のアナウンスを聞いた後、席に戻った。そしてルーアンに到着したエステル達はギルドに向かった。



~遊撃士協会・ルーアン支部~



「いや~!来てくれて本当に助かったよ。何しろカルナさんが留守で掲示板の仕事が溜まっていてね。早速、ジャンジャンバリバリ働いてもらうとしようかなぁ。」

ルーアン支部の受付――ジャンはエステル達に会うなり、仕事がたくさんある事を言った。

「あ、あはは……。相変わらず飛ばしてるわねぇ。」

「よ~し!一杯仕事をやって、早く推薦状をもらうぞ~!」

ジャンの様子を見たエステルは苦笑し、ミントはやる気を見せた。

「掲示板の仕事はボチボチ片付けるつもりだが……。何か他に緊急の仕事はねぇのか?」

「それが、仕事は溜まっているけど緊急要請にあたる物はないんだ。市長選の管理は軍の管轄だし……。街も、市長選で盛り上がってるから観光客は少ないみたいなんだよね。」

「ふーん、市長選ってそんなに白熱しているんだ。誰が出ているんだったっけ?」

「観光事業を推進しているノーマン氏と港湾事業の維持を訴えるボルトス氏さ。ルーアン市長といっても、その権限は地方全体に及んでいてね。マノリアの住民も投票するし、マスコミもかなり注目をしている。ルーアン地方の未来を左右する重要な選挙になるのは間違いないね。」

「へ~、そうなんだ。未成年だし、住民じゃないから選挙権はないんだけど……。あの事件に関係した人間としてやっぱり動向は気になるわねぇ。」

「そのあたりは『リベール通信』が特集しているから読んでみることをお勧めしておくよ。あ……そういえば。実は1つだけ調べて欲しいことがあったんだ。」

「調べて欲しいこと?」

ジャンの言葉を聞いたエステルは首を傾げた。

「うーん、なんて言うか……。どう説明したらいいか非常に困る話なんだけど……」

「なんだぁ?ハッキリとしねぇヤツだな。いつもの図々しさでズバッと切りだしてみろや。」

言葉を詰まらせているジャンの様子にアガットは我慢ができず、言った。



「あはは、言ってくれるねぇ。それじゃあ言うけど……。『亡霊』について調べて欲しいんだ。」

「「「……………………」」」

ジャンの話を聞いたエステル達は怪しい物を見るよう目でジャンを見ていた。

「はあ、絶対にそんな顔をされると思ったんだよなぁ。だから頼むのは嫌だったんだ。」

エステル達の様子を見たジャンは溜息を吐きながら言った。

「……あ、いや、うん。ちょっと面食らっただけで。いったいどういうことなの?」

「うん……。ここ1~2週間なんだけどさ。『夜、白い影を見た』って報告がギルドに何件も寄せられているんだ。それも、ルーアン地方の各地からね。」

「夜、白い影を見た……。そそそ、それって!?」

「お化けさん!?」

ジャンの説明を聞いたエステルとミントは怖がった。

(前にも思ったけど、魔神や闇夜の眷属は怖がらないのになんで幽霊ごときをそんなに怖がるのかしらねぇ……(もしかしてリタも怖がるのかしら?))

(全くだ。あ奴らなぞ、炎を使えば燃やしつくせるというのに。)

(そうよね。不死者達にとってニル達は天敵のような存在なんだから、別に怖がる必要はないと思うわ。大体エステル自身、不死者達の弱点である神聖と火炎魔術が使えるし、ミントが持っている剣も不死者達の弱点になるじゃない。)

(アハハ………エステルさん達の反応が普通ですよ……)

一方エステルの身体の中からエステル達の様子を見て呆れているパズモ達を見たテトリが苦笑しながら言った。

「なるほど、それで『亡霊』か。目の錯覚にしちゃあ各地からってのが気にはなるな。」

「うん、そうなんだよね。掲示板の仕事のついででいいから聞き込みをしてもらえないかな?」

「あ、でも、その、ねえ……。あまり安請け合いもできないし、考えさせて欲しいなぁ、なんて。」

ジャンの頼みを聞いたエステルはいつもと違い、あまり乗り気でない様子で答えた。

「ママ?」

エステルの様子を見たミントは首を傾げた。

「エステル君、ひょっとして……」

「え、やだ、違うわよ!?全然そんなことないんだからね!?この泣く子も黙るエステルさんが幽霊が苦手だなんてそんなこと…………ゴメンなさい。ちょっとだけ苦手かも。」

「ミントも一緒だよ、ママ!」

ジャンに察しられたエステルは慌てて言い訳をしたが、つい白状してしまって頭を項垂れ、その様子を見たミントが同意してエステルを慰めた。



「あはは。ちょっとどころじゃなさそうだね。まあ、実害があるわけでもないし、この話は無かったことに……」

「いや……引き受けた。」

エステルの様子を見たジャンが頼みを取り下げようとしたがアガットが首を横に振って答えた後、エステル達を見た。

「……忘れんな。俺たちの任務は『結社』の調査だ。少しでも妙な兆候があれば調べて『結社』の関与を検証する。そういう話だったろうが。」

「「あ……」」

アガットに注意されたエステルとミントは揃って声を上げた。

「人間、誰しも苦手なモンはある。たまには弱音を吐くのもいいだろう。だが、何もしてないうちから尻尾巻いて逃げ出すんじゃねぇ。」

「「………………………………」」

「やれやれ。ちょっとキツすぎないかい?」

アガットの言葉を聞いて黙っているエステル達を見たジャンが助け船を出した。

「……ううん。アガットの言う通りだわ。確かに、幽霊とかは苦手だけど……。ヨシュアが消えたことに比べれば、そんなの全然恐くなんかない……」

「うん!ママ達がいれば、ミント、へっちゃらだよ!」

「2人とも………」

エステルとミントの言葉を聞いたジャンは驚いた表情をしていた。

「フン、分かってんじゃねえか。」

「ジャンさん、その調査、あたしたちに任せてもらえる?」

「そう言ってもらえると助かるよ。すでに幾つか証言は集まったんだけど新たに3件の目撃情報が届いたんだ。まずは、エア=レッテンの関所に勤めている兵士の1人でね。夜の巡回中に見かけて腰を抜かしかけたそうだよ。」

「ひえ~……」

「兵士さん、とっても怖かったんだろうね………」

ジャンから詳細な説明を聞いたエステルは思わず声を上げ、ミントは兵士を可哀想に思った。

「2人目は、『レイヴン』のチームメンバーの1人らしい。これはアガットがいたら聞き込みはしやすいだろうね。」

「ま、拒否したところで力づくで口を割らせてやるさ。」

「やめなさいって……。武術大会の時に対戦したけど、結構心を入れ替えてたみたいよ?」

「フン……どうだかな。」

エステルに注意されたアガットは鼻をならした。



「まあまあ、穏便に頼むよ。そして最後の目撃者は……マーシア孤児院の子供たちさ。」

「えっ……クラムたちが!?」

ジャンの説明を聞いたミントは驚いた。

「ああ、テレサ院長が代わりに連絡してくれたんだ。ちなみに、マーシア孤児院は先日、建て直されたばかりでね。テレサ院長の希望もあってほぼ前と同じ形になったそうだ。」

「そうなんだ……良かった。院長先生と子供たちには挨拶に行くつもりだったし。お祝いがてら話を聞きに行ってみようかな。」

「ミントも勿論行く!」

エステルの言葉を聞いたミントははしゃぎながら言った。

「よろしく頼むよ。ただ、言った通り、緊急じゃないから後回しにしてくれても全然構わない。掲示板には他の仕事もあるからそちらをチェックしておくといい。3件の目撃情報を確かめたらここに戻ってまとめて報告してくれ。集まった情報を検討してみよう。」



その後エステルとアガットは近くにいるレイヴン達に聞き込みをするために港の倉庫に向かった。また、ミントは一人で仕事を少しでもかたずける事と関所の兵士から話を聞くために一端別行動にした…………








 

 

第12話

~港湾区・倉庫~



「はぁ、なんか最近タルいよな。色々と鍛えてみたけど強くなった実感はないし……」

「フン……。まさか今更、街道をうろついてる魔獣に苦戦するとは思わなかったぜ。」

「あー、なんでも最近、魔獣が狂暴化してるらしいよん。以前の2~3倍は強くなってるんじゃないかってさ。」

エステル達が来る少し前倉庫内でディン達はテーブルで最近の事を話していた。

「なるほど、そういうことか。……仕方ねえ。久々に街に繰り出すとするか。どうだ、北区の『ラヴァンタル』に行かねえか?」

「あー、2階のカジノが新装オープンしたところか。いいねぇ、色っぽいディーラーの姉ちゃんもいるらしいし。へへっ、あわよくばお触りなんかしちゃったりして。」

「それだ!カルナの姐御も留守みたいだし少しくらい羽目を外してもいいだろ。」

ロッコ達が騒いでいたその時

「……何が構わないってんだ?」

アガットとエステルが倉庫に入って来た。

「ア、アガットさん!?」

「……げっ…………」

アガットを見たディンは焦り、ロッコは顔を顰めた。

「まったく、てめえらは……。ちったあマシになったと思えばすぐにタルみやがって……」

「や、やだな~。ただの冗談ですってば。って、そこにいるのは……」

睨みながら呆れている様子のアガットを見て焦ったディンだったが、隣にいるエステルに気付いた。

「新人遊撃士のエステルちゃんじゃん!?」

「ども、久しぶりね。武術大会で戦って以来かな。」

「あー、そうだな。」

エステルに気付いたレイスははしゃぎ、エステルに挨拶をされたロッコは頭をボリボリかきながら答えた。

「いや~、俺たちあれから決勝戦まで観戦したんだけど。マジ凄かったよ。あんたのこと惚れ直したもん♪」

「あはは……ありがと。でね、今日訪ねたのはギルドの用事でなんだけど……。えっと、あなたたちの中で『白い影』を見た人っている?」

レイスの言葉に苦笑したエステルはロッコ達に尋ねた。



「それって……」

「……だよなぁ。」

エステルの言葉を聞くと3人は顔を見合わせて頷いた。

「あ、やっぱり知ってるんだ。」

「だったら、とっとと知ってることを話しやがれ。手間を取らせるんじゃねえぞ。」

「……ちょっと待てや。アンタ、少し調子に乗りすぎなんじゃねえのか?」

アガットの物言いに頭に来たロッコは言い返した。

「……あ?」

反抗して来たロッコを見てアガットは意外そうな表情をした。

「うざいんスよ、アンタ。勝手にチームを抜けて遊撃士なんかになったクセに。都合のいい時だけ話を聞かせろっていうわけか?ふざけんなって感じなんだよな。」

「お、おいロッコ!」

ロッコの態度にディン達は慌てた後、諌めようとした。

「へっ、あいかわらず鼻っ柱だけは強いヤツだぜ。だったら、何をすりゃあお前は満足するってんだ?土下座でもしろってか?」

「………………………………。ここで……俺たちと勝負してもらおうか。」

「な、何でそうなるんだよっ!?」

「おいおい、なに熱くなってんのよ。」

ナイフを構えてアガット達と戦おうとしているロッコを見たディンとレイスは焦って止めようとした。

「るせえ、これはケジメの問題だ。アンタらが勝ったら知っている情報を教えてやる。俺らが勝ったら……二度とデカイ面するんじゃねえぞ。」

「ヘッ、いいだろう。どの程度強くなったのか、この重剣で確かめてやろう……。3人とも、気合い入れて来いや!」

「とほほ……。どうしてこんな事に……」

「でも、エステルちゃんとまた戦えるのはラッキーかも♪」

アガット達と戦う事にディンは溜息を吐き、レイスはエステルを見て嬉しそうにしていた。

「そ、そんなもの?まあいいわ。こっちも手加減はしないわよ!」

レイスの言葉に戸惑ったエステルだったが、棒を構えてアガット共にロッコ達と戦い始めた!戦いはエステル達の有利で終わったが、ロッコ達は意外にも武術大会以上に粘った。



「くあ~、さすがに強いぜ。」

「白旗白旗、お手上げッス!」

「……クソッ…………」

戦闘が終了し、地面に跪いているディンとレイスは溜息を吐き、ロッコは悔しそうにしていた。

「でも、一般人にしてはかなり強い方だと思うけど。こんな場所でたむろしてないで、遊撃士でも目指してみたら?」

「なに……」

「お、俺たちが遊撃士?」

「あ、ありえねぇって!」

エステルの提案にロッコ達は驚いた。

「でも、あたしみたいな小娘だって遊撃士やってるくらいなんだもん。あなた達だって、その気になれば十分なれると思うわよ。」

「「「………………………」」」

エステルの言葉を聞いたロッコ達は少しの間考えていた。

「コラ、安請け合いすんな。遊撃士ってのは傭兵じゃねえ。切った張った以外の仕事も多い。それはお前も経験してるだろうが。」

「うーん……。それはそうなんだけど。」

アガットの注意にエステルは今までの仕事を思い出しながら答えた。

「そ、そうだよなぁ。オレら、ケンカくらいしか能がないし……」

「そんな上手い話、あるわけないよな~。」

「………………………………。とりあえず、約束は約束だ。アンタらの知りたいことを教えてやるよ。」

「おう、話してもらおうか。」

「さっきも言ったけど、あたしたち、『白い影』を目撃した人たちを探しているの。あなたたちの仲間でもいるって聞いたんだけど……」

「ああ、いるぜ。今日は来ていないがベルフって名前のヤツだ。」

「1年前に入ったヤツでね。アガットさんも、顔くらいは知ってると思いますけど……」

「ああ、あいつか。前の事件で取り調べた時にちょいと話したくらいだな。」

ディンに言われたアガットは放火事件の時の事を思い出していた。

「ベルフのやつ、ここ数日ほどこの倉庫に来てないんだよね~。幽霊を見たショックで家で寝込んじゃってるのかも。」

「ええっ!?そ、それってひょっとして呪いとかタタリなんじゃ……」

レイスの話を聞いたエステルは驚いた後、身を震わせた。



「それは知らねぇが……。すげぇビビってたのは確かだ。元々、良いとこのボンボンで気が小せえヤツなんだ。」

「フン、まともな家があるのに不良なんかやってんのか。まあいい、詳しい話は本人から聞くから家を教えろや。」

ベルフという人物の育ちを聞いたアガットは呆れた後、尋ねた。

「えーと。市長邸の右隣にある家ッス。ノーマンってオッサンの家でベルフはそこの長男なんですよ。」

「市長邸の右隣にある家、と。情報提供、どうもありがと。それじゃあ場所も分かったし、ベルフって人を訪ねてみようか。」

手帳に情報を書いたエステルはアガットに確認した。

「ああ、そうするか。それじゃあな。ヒマだからって悪さするなよ。」

「フン、余計なお世話だ。」

「お疲れさまっす。また来てくださいよ。」

「頑張れよ~、エステルちゃん♪」



その後エステル達はベルフに事情を聞いた後、ベルフの住んでいる家を出た時、関所に仕事と聞き込みに行っていたミントとちょうど合流できたので、ミントを加えて残っている目撃者がいるマーシア孤児院に向かい、エステル達がマーシア孤児院に到着すると、孤児院はルーアンを去る時と違い、完全に以前と変わらず再建されていた。



~マーシア孤児院~



「ああっ……」

「わあ………!」

元通りになっている孤児院を見たエステルは驚き、ミントは嬉しそうな表情をした。

「ほう、こりゃ驚きだぜ。あれだけ黒コゲだったのをよくここまで戻せたもんだ。」

アガットも驚いた後、元通りになった孤児院を見て感心していた。

「建物が新しくなったくらいであとは元のまんまかも……。……よかった……本当に。」

「うん………!」

「エステルさん?それにミント?」

嬉しそうにしているエステル達の所に庭で用事をしていたテレサが声をかけて、近付いて来た。

「テレサ先生!」

「先生!」

テレサを見たエステルとミントは嬉しそうに声を上げた。

「ふふっ。やっぱりそうだったのね。いらっしゃい。よく来てくれました。それと……あなたはアガットさん?」

「ああ。ご無沙汰してるぜ。」

「以前、クラムの件でお世話になって以来ですね。お久しぶりです。あの時はお世話になりました。」

「いや、いいんだ。それよりも、今まで挨拶もナシで申しわけねぇ。」

「あ、あの、孤児院再建、本当におめでとうございます。前のまんまだから驚いちゃった。」

「おめでとう!先生!」

「マノリアや業者の方々のご好意でそうして頂きました。やっぱり、この雰囲気がマーシア孤児院だと思いますから。」

エステル達の祝福を受け取ったテレサは孤児院を見ながら答えた。



「あはは……。うん、ホントにそうですね。えっと……あの子たちは中にいるんですか?」

「ちょうど今、マノリア村にお勉強に行ってるところなんです。週に一度、巡回神父の方が来て日曜学校が開かれるので……」

「そうなんだ……どうしよう。挨拶のついで、あの子たちから話を聞こうと思ったんだけど……」

「話……。ひょっとして、ポーリィが見た『白いオジチャン』のことかしら?」

考え込んでいるエステルが呟きを聞いたテレサは心当たりがあって、尋ねた。

「あ、多分それです!そっか、目撃者はポーリィちゃんだったんだ。確かにあの子、妙にカンが鋭かったし……」

「わあ………ポーリィのそういう所、相変わらずだね♪先生!」

「あの子たちが帰ってくるまでどうぞ、中でお待ちになって。お茶とお菓子をご馳走しますから。ミントも……お帰りなさい。」

「うん!ただいま~、先生!」

テレサの微笑みを見たミントは無邪気な様子で嬉しそうに言った。

「フフ、ミントったら……。………………………………」

「なんだ、どうした?」

ミントの様子を見て微笑んだエステルだったが急に黙ってしまい、その様子を見たアガットは首を傾げた。

「テレサ先生……。ヨシュアのこと……聞かないんですね。」

「………………………………。……クローゼから聞かせてもらいました。あの子があまりにも悩むから相談に乗ってあげる形で……。エステルさん……色々と大変でしたね。」

「……あ…………。あはは……やだな。……先生みたいな人に慰められたら……あたし……。ガマンできなくなっちゃう……」

「ママ…………」

「………………………………」

テレサに言われ、今にも泣きそうな表情をしているエステルを見て、ミントとアガットはかける言葉がなかった。

「………………………………。我慢する必要なんてありません。大切な人が自分の側から居なくなってしまったのだから……」

そう言ったテレサはエステルを抱きしめた。

「……あ…………」

「何も言わないで…………………しばらくこのまま……抱きしめさせてくださいね。」

そしてエステルは少しの間、テレサの胸の中で声を押し殺して泣いた。



その後泣き止んだエステルはミント達と共に孤児院の中に入った。

「はあ……恥ずかしいな。せっかく正遊撃士になった姿を見てもらうつもりだったのに……」

「ふふ、そういえば正遊撃士になったんですね。おめでとう、エステルさん。」

「いや、あはは……。ホントまだまだ新米だけど。あ、そういえば……。ミント、あなたもテレサ先生に報告する事があるでしょ?」

テレサに褒められたエステルは恥ずかしそうに笑った後、ミントを促した。

「うん!みてみて、先生!ミント、準遊撃士になったんだよ!」

エステルに促されたミントははしゃぎながら、遊撃士の手帳と準遊撃士の紋章をテレサに見せた。

「まあ…………!おめでとう、ミント。」

ミントが遊撃士になった事に驚いたテレサだったが、すぐに微笑んでミントを祝福した。

「えへへ………ツーヤちゃんもプリネさんの騎士になるために一杯頑張るって言ってたよ!それにミント、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんができたよ!」

「そう………それはよかったわね。…………フフ、少しみない間に成長したわね。」

はしゃぎながら自分の事を話すミントを見て、テレサは微笑みながら答えた。

「本当!?ミント、成長しているんだ………!」

「ふふ、ミントったらはしゃぎすぎよ。…………そういえば……。先生、さっきクローゼが悩んでたって言ってませんでした?」

ミントの様子を微笑ましく見ていたエステルだったが、ある事を思い出してテレサに尋ねた。

「ええ、エステルさんとヨシュアさんのことでね。大切な人たちが苦しんでいるのに力になることができない……。それは、多分あの子にとって一番つらいことなのでしょう。」

「大切な人……。えへへ、申しわけないけど何だかちょっと嬉しいかも……。早くクローゼにも会わなくちゃ。」

「賛成~!ミントもクロ―ゼさんに早く会いたい!」

「確か今、学園は試験期間ですから中に入れないかもしれませんが……。もうすぐ終わりのはずですし、すぐに会えると思いますよ。」

「うん、わかりました。それにしても……あの子たち、遅いですねぇ。日曜学校の授業ってそんなに長くないはずですよね。」

テレサの言葉に頷いたエステルだったが、中々帰って来ないクラム達に首を傾げた。



「ひょっとしたら、授業が終わった後、村で遊んでいるのかもしれませんね。新しく来られた巡回神父の方が子供好きでいらっしゃるそうですから。」

「新しく来た巡回神父……(あれ……何だか引っかかるような?)」

テレサの話を聞き、エステルはある言葉が気になった。

「だったらマノリア村まで様子を確かめに行ってみるか。ついでにガキどもをここに送ってくりゃあいい」

「あ、それもそっか。」

「わあ………その提案、とってもいいね!」

「あら……いいんですか?」

アガットの申し出にエステルは頷き、ミントは嬉しそうな表情をし、テレサは驚いた後尋ねた。

「えへへ。気にしないでください。美味しいお茶とお菓子のお礼です。」

「それと、慰めてもらった礼もしなくちゃならねえしな。」

「も、もう……!」

アガットの指摘にエステルは恥ずかしさが蘇って顔を赤らめた。

「クスクス……。わかりました。それではお願いしますね。」

「行って来ま~す!」

そしてエステル達は一端孤児院を出た。



~メ―ヴェ海道~



「しかし、あの院長先生は相変わらずのおっかさんだったな。女王もそうだったが……ああいう人には頭が上がらないぜ。」

「あはは、アガットでもそんな風に思うことがあるんだ。うん、あたしのお母さんともちょっと雰囲気が似ているかな。」

「そう言えばそうだね!お祖母ちゃんと先生………なんだか似ているね!」

アガットの言葉に頷いたエステルの言葉にミントは同意した。

「そうか、オッサンの……。確か、10年前の戦争でお前を庇って、大怪我を負ったって言ってたな……。」

「まあね。でも、リフィアや聖女様のお陰で怪我はすぐに治って、今でも元気だよ!」

「………………………そうか。…………………」

エステルの話を聞いたアガットは複雑そうな表情をした。

「どうしたの、アガット?」

「いや……何でもない。それよりとっととマノリアにガキどもを迎えに行っちまうぞ。」

「はーい!」

そしてエステル達はマノリア村に向かった………………






 

 

第13話

マノリア村に入ったエステル達は日曜学校をやっている場所を探し、風車小屋でやっているのを見つけたが、授業中の紙が貼ってあったが既に終わっている頃なので、気になり小屋の中をそっと見た。



~マノリア村・風車小屋内~



(あれっ、あの人……)

風車小屋の中の様子を見たエステルは見覚えのある人物に驚いた。

「『同情することありませんよ。まったく、ティーア様は人がいいんだから』

正直なところ、ガストン公爵がこのまま黙って引き下がるとはとても思えないペトロでした。それに、不気味な仮面の人形師ハーレクインの動向も気になります。互いに面識があるようでしたが師匠のカプリは、言葉を濁してなにも教えてくれませんでした。

いずれにせよ、近いうちにもう一波乱あるに違いありません。ペトロは蒼騎士の改造を決意しました。『もう、ペトロ様ったら』

ちょっと拗ねたような口調にペトロは我に返りました。

『お茶が冷めてしまいますよ?』

青空を映した、涼やかな瞳が“大丈夫”と安心させるようにいたずらっぽく輝いています。照れくさくなったペトロはぬるまった紅茶で喉を潤しました。

……人形の騎士・おわり。」

見覚えのある人物――ケビンがクラム達の前で読んでいた本を閉じた。

「ええ~っ!もう終わりなのかよ~!?ハーレクインとの決着はどうなるんだよ!?」

「バカねぇ、クラムったら。ここで終わるのがいいんじゃない。そしてペトロとティーア姫はいずれ結婚して幸せに暮らすのよ。はあ~、ロマンチックねぇ♪」

「うんうん。やっぱり2人には結婚して幸せになってもらわないと♪」

「ボク、なんだか先生のお茶が飲みたいな~。」

「カプリ師匠がカッコイイの。」

ケビンが本を閉じるとクラム達やマノリアの子供達は口々に感想を言った。

「はあはあ……。さすがに『人形の騎士』全22巻の一気読みはキツイわ。ほれ、これでええやろ。今日の授業はオシマイやで。」

ケビンは疲労を感じながら授業の終了を言った。

「ぶーぶー。」

「ケビン先生、お疲れさまぁ。」

「ふう、敵わんなぁ……。あー、そこの人。授業は終わりやからもう入ってきてもええで。」

クラム達の元気の良さに苦笑したケビンはエステル達に声をかけた。

「あはは……。気付かれちゃったか。えっと、失礼します。」

ケビンに言われたエステル達は風車小屋の中に入った。



「へっ……?」

「あああああっ!?」

「エステルさん!?ミントお姉ちゃん!?」

エステル達を見たケビンは驚き、クラムやマリィは声を上げて驚いた。

「みんな、久しぶりね!元気にしてた?」

「ただいま~、みんな!」

「なんだよ!遊びに来たのかよ~!?ミント姉ちゃんもお帰り!」

「うわあ!本当に久しぶりです~!」

「エステルおねえちゃん、ミントおねえちゃん。遊んで遊んで~。」

「よく来たのー。歓迎するのー。」

クラム達はエステルとミントにかけよってそれぞれ嬉しそうに声をかけた。

「えへへ………相変わらずみんな元気だね!病気や怪我とかしていなくて、ミント、安心したよ!」

「あはは……。みんな相変わらず元気ねぇ。えっと、ケビンさんもお久しぶりね。」

クラム達の元気な様子にミントは嬉しそうに答え、エステルも微笑んだ後ケビンを見た。

「おお、エステルちゃん。オレのこと覚えとってくれたか!」

「そりゃあもちろん。しかし、本当にその格好で神父なんかやってたのねぇ。」

「どーいう意味やねん。しかし、こんなところでまた会えるなんてなぁ。これはひょっとして運命の再会ってやつかもな♪」

そしてエステル達はケビンと共にクラム達を孤児院に送った。



~マーシア孤児院~



「そうでしたか……。神父様とエステルさんはお知り合いだったんですね。ふふっ、世間は狭いですね。」

事情を知ったテレサは微笑みながら答えた。

「いや~、ホンマそうですわ。それにしても、オレまでお昼をご馳走になってしもうてえらいスイマセンでしたわ。」

「いえいえ、ついでですし子供たちに勉強を教えてもらっていただいているお礼ですわ。」

「なー、エステル姉ちゃん。ヨシュア兄ちゃんがいないけど今日は一緒じゃないのかよ?」

「ミントお姉ちゃん。ツーヤお姉ちゃんは………?」

テレサとケビンが和やかに会話している中、クラムとマリィはヨシュアとツーヤがいない事に気付いて尋ねた。

「あ、うん……まあね。ちょっと用事があって一緒に来られなかったのよ。」

「………………………………」

事情を知っているケビンは真剣な表情で黙っていた。

「ツーヤちゃんは今、プリネさん達とロレントのお家に住んでいるの。だから今日は一緒じゃないんだ………」

「そうなんだ……しょぼん。」

「うー、ヨシュア兄ちゃんやツーヤ姉ちゃんにも孤児院が元通りになったトコ、見てもらいたかったんだけどなー。」

「ほんと、残念です。ツーヤお姉ちゃんにも会いたかったな…………」

「お姫さまのカッコウ、また見たかったのー。」

ヨシュアとツーヤが来ていない事を知ったクラム達は残念がった。

「あ、あはは……。それはともかく、ずいぶん長い日曜学校だったわね。最後に何か読んでたみたいだけどあれって小説か何かなの?」

「へへん。『人形の騎士』っていうんだ。人形使いの戦いをテーマにしたバリバリのアクション活劇だぜ!」

「あん、違うわよう。身分違いの恋をテーマにしたラブロマンスじゃないの。」

エステルに本の事を尋ねられたクラムとマリィはそれぞれの視点で感じた事をエステルに説明した。



「リベールに来る時に持ってきた青少年向け(ジュヴナイル)小説なんやけどな……。ちょっとずつ読んで聞かせようと思っとったのにいきなり全巻読んでしもたわ……」

「あはは。ノリがいいのが仇になったわね。」

疲労感を隠せず、溜息を吐いているケビンを見て、エステルは苦笑した。

「うふふ。本当にお疲れさまでした。神父様はこれからルーアンにお戻りになるの?」

「ええ、まあそうですね。他にも回るところがあるからすぐに飛行船に飛び乗ることになるとは思いますけど。そういや、エステルちゃんとミントちゃんはどうしてルーアン地方におるん?やっぱ、遊撃士のお仕事でか?」

テレサに答えたケビンは何故エステル達がルーアンにいるのかを尋ねた。

「うん、まあ色々あってね。そうだ、あたしたちは聞きたいことがあって孤児院にきたんだけど……」

「ポーリィが見たという『白いオジチャン』の話ですね?」

エステルの言葉を聞いたテレサは確認した。

「あー、その話かぁ。」

「んー?ポーリィがどうしたの?」

「えっと、ポーリィちゃんに聞きたいことがあるんだけど……。『白いオジチャン』のこと詳しく聞かせてもらえないかなぁ?」

「ねえねえ、ポーリィ。どんな人を見たの?」

無邪気な女の子――ポーリィにエステルとミントは尋ねた。

「白いオジチャンは白いオジチャンなの。くるくる回っていてとっても楽しそうだったのー。」

「うーん……困ったわねぇ。」

「もうちょっと………何かないかな?」

ポーリィの答えを聞いたエステルは困り、ミントは尋ねた。

「えっと、あたしから説明させてもらいますね。」

エステル達の様子を見たマリィがポーリィの代わりに話し始めた。



「あれは4日前くらいかな……。この子、夕食のあと外に出てぼーっとしてたんです。そしたら空に、白い男の人が浮かんでいるのを見たらしくて。」

「そうなのー。楽しそうに飛び跳ねながらお空でくるくる踊ってたのー。で、ポーリィが話しかけたらペコリとお辞儀をして飛び去って行っちゃったのー。」

マリィの言葉に頷いたポーリィは無邪気に答えた。

「ぜってー、寝ぼけてただけだって。だってユーレイにしちゃ全然怖くないじゃん、そんなの。」

「私も最初そう思ったんですがダニエルも見ていたらしくて。ね、ダニエル?」

クラムの言葉に頷いたテレサは男の子――ダニエルに尋ねた。

「うん。ボクはちょっとだけど。白いヘンな影が、東のほうにびゅーんって飛んでいったんだ。」

「う、うーん。」

「丁寧なお化けさんなんだね。」

ダニエルとポーリィの話を聞いたエステルは考え込み、ミントは幽霊を不思議がった。

「目撃者が2人ってことは信憑性が高そうだな。しかし、声をかけたらお辞儀したと来やがったか……。その白いオッサンってヤツ、どんな顔をしてたか分かるか?」

2人の話を聞いたアガットは頷いた後、尋ねた。

「お顔は知らないのー。だってオジチャン、変なマスクをつけてたんだもん。」

「え!?」

「マ、マスク!?」

「そりゃまた……。ケッタイな幽霊もいたもんだ。」

ポーリィの話を聞いたミントとエステルは驚き、アガットも驚いた。

「あのなぁ、ポーリィ。そういう事はちゃんと言えよ。初めて聞いたぞ、オレ。」

ポーリィの話を聞いたクラムは呆れながら答えた。

「だって誰にも聞かれなかっただもーん。」

「まあ、マスクの事はともかく夢ではないようでしたので……。念のため、遊撃士協会にお知らせした次第なんです。それ以来、注意はしましたけど再び現れる様子はないようです。」

「う、うーん……」

「大体わかった。色々と参考になったぜ。」

「えっと…………一度現れてからは二度と現れた事がない………っと。」

話を聞き終えたエステルは考え、アガットは頷き、ミントは手帳にメモをしていた。



「そういえばミント姉ちゃん………さっきから気になっていたんだけど、ミント姉ちゃんがつけている紋章って………」

「あ、うん。………そういえばみんなには言ってなかったね。……ミント、遊撃士になったんだよ!」

クラムに尋ねられたミントは嬉しそうな表情で準遊撃士の紋章と遊撃士手帳をクラム達に見せた。

「えええええ~!?」

「ミントお姉ちゃん、遊撃士になったの!?」

「カッコイイ………」

「ミントお姉ちゃん、カッコイイの~。」

ミントが遊撃士になった事を知ったクラム達は驚いた。

「えへへ………」

クラム達の様子を見たミントは恥ずかしそうにしていた。

「ったく。まだヒヨッコになったぐらいで、はしゃぎすぎなんだよ。」

「こらこら。子供達の前でそんな事を言わないの。」

呆れている様子のアガットの呟きが聞こえたエステルは軽く注意をした。

「ハハ………こらまた、可愛い遊撃士やな。年齢は大丈夫やったんかいな?確か16からでないとなれへんやろ?」

「あ、それは大丈夫よ。ミント、あんな外見だけどあたしと同い年だそうよ?」

「へっ!?………なるほど。あの嬢ちゃん、”闇夜の眷属”やったんかい………”闇夜の眷属”は俺らと違って長命やって聞くしな。成長も俺らと違って遅いんか………」

エステルの言葉を聞いたケビンは驚いた後、ミントの容姿をよく見て、尖っている耳を見て”闇夜の眷属”と察して納得した。

「ねえねえ、ミント姉ちゃん!遊撃士になったら魔獣をやっぱりこう……ズバっと!倒したり、アーツでカッコよく倒したりしているの!?」

「魔獣を倒すのだけが遊撃士の仕事じゃないでしょう?ミントお姉ちゃん、どんな仕事をしたの?」

「えへへ………ミントが受けた仕事はね………」

興味深そうに聞いて来るクラム達にミントは自分が受けた仕事を楽しそうに話した。その後テレサやクラム達と別れたエステル達は幽霊の目撃者全員から話を聞き終えたのでジャンに報告するために、ルーアンに戻るケビンと共に海道を歩いてルーアンに戻って行った………




 

 

第14話

その後ルーアンに到着し、ケビンと別れたエステル達はギルドに向かった。



~遊撃士協会・ルーアン支部~



「あ………」

ギルドに入った時、見覚えのある人物達を見つけたエステルは思わず声を出した。

「お、戻ってきたか」

「エステルちゃん!ミントちゃん!お帰りなさ~い!」

「こんにちは!」

「ナイアル、ドロシー!どうしてルーアンにいるの?」

見覚えのある人物達――『リベール通信』の記者とカメラマンのナイアルとドロシーにミントは元気に挨拶をし、エステルは何故ギルドにいるかを尋ねた。

「そりゃあ、話題の市長選を取材しに来たに決まってるだろ。で、妙な事件が起こってるって聞いて、ギルドに事情を聞きに来たわけさ。」

「妙な事件って……。例の『白い影』のことね。」

ナイアルの話を聞いたエステルはすぐに察しがついた。

「実は、君たちが調べている間に市街で別の目撃事件があってね。市民の間にも徐々に動揺が広がっている状況なんだ。」

「そうか……。だんだん、大事(おおごと)になってきたな。」

ジャンの話を聞いたアガットは真剣な表情で答えた。

「そして極めつけが……。このお嬢さんが撮った写真さ。これはかなり有力な資料になると思うんだけど……」

「写真って……。ま、まま、まさかっ!?」

ジャンの説明を聞いたエステルは身を震わせた。

「心霊写真ってやつか?」

「ええええ~!?お化けさんの写真をドロシーさんが撮ったの!?」

アガットの言葉を聞いたミントは驚いた後、エステルの後ろに隠れながらドロシーに尋ねた。

「うーん、そうなのかなぁ。ホテルから夜景を撮ってたら偶然写っていたからよくわからないんだけど~。とりあえず見てみてくれる~?」

そしてドロシーは写真をエステル達に見せた。写真にはマント姿の白い影が写っていた。



「「…………………………」」

写真を見たエステルとミントは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

「……なんつーか。決定的じゃねえか?」

「あ、あはは……。そう決めつけるのは早いわよ。オーバルカメラの調子が悪かっただけかもしれないし……」

「う~ん、故障ってことはありえないと思うよ~?中央工房で買った最新機種だしメンテナンスもバッチリだもの~。」

「そういう事にしといてってばっ!」

アガットの言葉を否定して逃避しようとしたエステルだったがドロシーに否定され、ドロシーを睨んだ。

「エステルちゃん、コワイ……」

「まあ、そういう訳でかなり具体性を帯びた話になってきちゃったんだけど……。この件は、マスコミと協力しても損はないと思う。早速、各地で調べてきた事をここで報告してくれないか?」

「う、うん……。一応、3箇所で調べたけど。」

「た、大変だ~!」

エステル達が報告をしようとしたその時、一人の青年が慌ててギルドに入って来た。

「ど、どうしたの!そんなに慌てて……」

「どんな事が起こったの!?お兄さん!」

「強盗でも起こったか!?」

慌てている青年を見てエステル達は尋ねた。

「いや、違うんだ!ノーマンさんの支持者とボルトスさんの支持者が言い争いを始めちまって……。ラングランド大橋で睨みあってる状態なんだ!」

「あ、あんですって~!?」

「ノーマンとボルトスといやあ、どっちも市長選の候補じゃねえか。」

「ええっ!市長さんになる人を応援している人達が喧嘩しているの!?」

青年の話を聞いたエステル達は驚いた。



「ほほう。そりゃあ良いネタだな。ドロシー、とっとと行くぞ!」

「アイアイサー!エステルちゃん、また後でね。」

青年の話を聞き、目を光らせたナイアルはドロシーと共に急いでギルドを出た。

「な、なんて素早い……」

「念のため、俺たちも行くか。喧嘩になりそうだったら間に入って仲裁するぞ。」

「う、うん!」

「はーい!」

「すまない。よろしく頼んだよ。」

そしてエステル達はラングランド大橋に向かった。



~ラングランド大橋~



エステル達がラングランド大橋に到着するとそこでは市長候補の支持者達が睨みあって、言い争いをしていた。

「とぼけるんじゃない!ホテルに現れた幽霊ってのがあんたたちの仕業だっていうのはもう分かってるんだよ!」

「ノーマンさんの息子さんもショックで寝込んでるんだぞ!やりすぎだとは思わないのか!?」

市長候補の一人――ノーマンの支持者達がもう一人の市長候補――ボルトスの支持者達を非難した。

「フン、その息子ってのは『レイヴン』の不良じゃねえか!そんなロクデナシの言うことが信用できるかよ!」

「……ちょっと待ちたまえ。私個人を批判するならともかく家族を攻撃するのは卑怯だろう。そのロクデナシってのは撤回してもらおうじゃないか。」

「うーん、確かにそれは言い過ぎかもしれないねぇ。」

ボルトスの支持者の反論を聞いたノーマンは口を出し、ボルトスも頷いた。

「ちょっと主任!そこで納得しないでくれよ!あんたがそんな弱腰だから観光推進派が調子に乗るんだ!」

「な、なんだと~!?」

「調子に乗ってるのはあんたら港湾推進派じゃないか!幽霊騒ぎなんてセコイ手使って嫌がらせなんかしやがって!」

お互いの支持者達が言い争いをしている中、エステル達はどうするか考えた。

「あちゃあ……。ヒートアップしてるわねぇ。これは止めた方がいいのかしら?」

「喧嘩沙汰にはなってねぇからまだ早いかもしれんが……。いざ喧嘩が始まったらすぐに止められるような場所に移動しておきてえな。」

「でも、人が一杯でミント達が入る隙間がないよ?」

様子を見たエステル達は言い争いに介入するかを相談していた。

「そうなのよね………見物人が多くてとても前に進めないんだけど……。まったく、ナイアルたちってばちゃっかり前を確保しちゃってさ。」

ミントの言葉に頷いたエステルはちゃっかり最前列を陣取っているナイアル達を見て、溜息を吐いた。



「もう我慢できねえ!てめえらみてぇな軟弱野郎が腕っぷしで勝てると思うなよ!」

一方ボルトス側の支持者が今にも殴りかかりそうな構えをした。

「じょ、上等だ!やってやろうじゃないか!」

「ノーマンさんの名誉は僕たちノーマン商会員が守る!」

それを見たノーマン側の支持者も今にも喧嘩をしそうな構えをした。

「止めたまえ君たち!暴力はいかん、暴力は!」

「みんな抑えてくれ!ここは冷静に話し合いを……」

ノーマンやボルトスは止めようとしたが両者の支持者達は聞く耳を持たなかった。

(やばっ……!)

(チッ……止められねえか。)

「お願いだから、どいて~!喧嘩を止められないよ~!」

人の多さで進めない事にエステル達は焦ったその時



~~~♪



リュートの弾く音が聞こえてきた。そしてエステル達や橋にいる全員がリュートが聞こえてきた方向を見ると、そこにはボートに乗り、リュートを持った金髪の青年――オリビエがいた。

「フッ……。哀しいことだね。」

オリビエはボートを橋の近くで止めた。

「争いは何も生み出さない……。空しい亀裂を生み出すだけさ。そんな君たちに、歌を贈ろう。心の断絶を乗り越えて、お互いに手を取り合えるようなそんな優しくも切ない歌を……」

そう言ったオリビエはリュートを弾きながら歌い始めた。

「陽の光~ 映す~ 虹の橋~



 掛け渡り 君の元へ……



 求めれば~ 空に~ 溶け消えて~



 寂しいと~ 君が舞う……



 届くことのない はかない願いなら~



 せめてひとつ 傷を残そう~



 はじめての約束 守らない約束



 君の吐息 琥珀にして~



 永遠の夢 閉じ込めよう……」



そして演奏と歌を終えたオリビエは髪をかきあげた。

「フッ……。みんな感じてくれたようだね。ただ一つの真実……それは愛は永遠だということを。今風に言えばラヴ・イズ・エターナル。」

「「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」」」

その場にいた全員はオリビエを見て、呆れて何も言わなかった。

「コ、コホン……。とりあえず、ボルトスさん。ここはいったんお互い頭を冷やした方が良さそうだな。」

「ええ、そうですね。通行の邪魔になりますし。みんな、いったん港の方に戻ろう。」

「そ、そうっすね……」

「そうだ……。チラシを配らなくちゃ。」

そして両陣営はそそくさと橋を離れた。

(み、みんな逃げた……)

(……気持ちは分かるぜ。)

その様子を見て呆れているエステルの小声にアガットも呆れながら頷いた。

(わあ………オリビエさんって、歌やリュートも上手いんだ!)

(ミ、ミント…………”アレ”はミントの教育に悪いから、絶対手本にしたらダメだからね!?)

(ほえ?うん。………でも、オリビエさん、本当に歌やリュートを弾くのが上手いんだけどなぁ………)

一方目を輝かせてオリビエを見ているミントに気付いたエステルは慌てて注意をして、注意をされたミントは首を傾げながら頷いた。



「フッ、どこの国でも民衆が熱しやすく冷めやすいのは同じだな。いや、真に恐るべきはみんなの平常心を取り戻したこの奇跡のごとき旋律か……。さあ記者諸君!思う存分、写真を撮って取材してくれたまえっ!」

「うわ~、いいんですかぁ。それじゃあ遠慮なくいきますね。ハイ、チーズ♪」

オリビエの言葉を聞いたドロシーは意気揚々とカメラでオリビエを撮りまくっていた。

「うーん、マーベラス。」

そしてオリビエもしっかりポーズを撮って、酔いしれっていた。

「えーと、その……。俺はさっきの話を聞かせてもらおうかね。」

「う、うん、そうね。早いうちに報告しないと忘れちゃいそうな気が……」

「とっととギルドに戻ってジャンに報告するか。」

「はーい!」

オリビエを無理やり無視したナイアルの言葉に頷いたエステル達がオリビエとドロシーを放って、ギルドに戻ろうとした時

「おや……。ちょっと、エステル君。どこに行こうというのかね?ま、待ちたまえ!いや、どうか待ってください!」

「おお、いい表情ですね~!とってもキュートです~♪」

エステル達の行動を見たオリビエは焦りながら呼び止め、ドロシーは呑気に写真を撮っていた。



その後ドロシーとちゃっかりついて来るオリビエを連れて、エステル達はギルドに向かった…………


 

 

第15話

~遊撃士協会・ルーアン支部~



「まったく、何という薄情な……。久しぶりに再会した運命の相手に向かってこの仕打ちはあんまりだよ。」

「何が運命の相手なんだか……。大体、オリビエってばどうしてルーアンにいるのよ。エルモの温泉に逗留してるんじゃなかったの?」

ギルドにつき、オリビエは呟き、それを聞いたエステルは呆れた後、ツァイスにいるはずのオリビエが何故ルーアンにいるのかを尋ねた。

「フッ、実はミュラー君から『紅葉亭』に連絡があってね。エステル君とミント君が戻ってきたことをわざわざ知らせてくれたのだよ。これは挨拶せねばと思って飛んで来たわけなのさっ♪」

「あ、ありがたいんだけど素直に喜べないような……。でも、生誕祭以来挨拶もできなかったよね。ありがとう、オリビエ。また会えて本当に嬉しいわ。」

「お久しぶりだね、オリビエお兄さん!」

「そ、そうか………うーむ、ミント君はともかくエステル君が素直だと調子が狂うような。もっと激しく突っ込んでくれないと、その……欲求不満になってしまうよ。」

いつものやり取りじゃないエステルを見て、オリビエは顔を赤らめた。

「顔を赤らめながら不穏な発言をするのはやめい!」

オリビエの様子を見たエステルはすかさず怒鳴った。

「フム……ここはミント君のキスで欲求不満をなくそうじゃないか♪………という事でミント君。オリビエお兄さんのほっぺに再会の祝いとしてキスをしてくれないかな~♪なんなら唇でもオッケーだよ♪」

「ほえ?ミント、オリビエさんにキスをすればいいの??」

「お願いだから、やめて!純真で可愛いミントが穢れるわ!!」

オリビエの冗談か本気かわからない言葉を信じようとしたミントをエステルは慌ててミントを抱きしめて止めた。



「ったく、ギルドの中でよくそんな犯罪まがいな事が言えるな………」

一方アガットは呆れて溜息を吐いた。

「ハッハッハ!そう褒めないでくれよ!照れちゃうじゃないか♪」

「褒めてねえっ!クソッ………!コイツのせいで無駄な気力を使ってしまうぜ………」

笑っているオリビエを怒鳴ったアガットは疲労感を隠せず、溜息を吐いた。

「はあ……まあいいわ。えっと、ジャンさん。コレがクーデター事件の時に協力してくれたオリビエ。エレボニアから来た演奏家なの。」

「はあ……。何というか強烈な人だねぇ。しかし、それだったら一緒に話を聞いてもらっても構わないかな。」

エステルにオリビエを紹介されたジャンは苦笑した後、答えた。

「本来なら部外者ってことで追い出すところだが……。人の話を聞くヤツじゃねえし放っておくしかなさそうだな。」

「だって、オリビエさんだものね♪」

「ハッハッハッ。さすがはアガット君だ。ボクのことなら何でもご存じのようだね♪それにミント君もわかっているじゃないか♪」

「さもマブタチのように語りかけてくんじゃねえ!あの時一緒に戦っただけでロクに話したこともねえだろ!」

「えへへ…………」

オリビエの言葉を聞いたアガットは怒鳴り、ミントは逆に嬉しそうにしていた。



「……まあ、流す方向で。」

「オーケー。その方が良さそうだね。」

エステルの言葉にジャンは頷いた。

「どうでもいいが、さっさと話を聞かせてくれ。こちとら、市長選のネタを集めなきゃならねえんだからな。」

「はいはい、判ってるわよ。それじゃあ、聞いてきた順に目撃情報を報告するけど……」

そしてエステル達は各地の目撃情報や、ケビンをルーアンに送った際、神父であるケビンが今回の騒動についての見解をエステル達に言ったので、それも報告した。

「なるほど……。ずいぶん具体的に集まったね。少なくとも、何かを掴むには十分すぎるほどの情報だよ。」

「うーん、そうかしら。」

「う~ん…………ミント、わかんない……………」

ジャンの言葉を聞いたエステルは考え、ミントも考えた後、全く理解できなかった。

「まあ、さっき騒いでいた市長選の相手陣営を妨害するためのイタズラって線はなさそうだな。ノーマン氏の息子はともかく孤児院と関所の兵士を脅かして効果があるとも思えんし。」

「実際、亡霊は空を飛んでいる。一般人が簡単にできるトリックじゃないはずだぜ。」

「それじゃあやっぱり、本物の幽霊さんなんですよ~。たぶん仮面をかぶらされて幽閉された挙句におかしくなった大昔の貴族かなんかで~。数百年の時を経た今、怨霊として甦ったんですよ~♪」

ナイアルの推測にアガットは頷き、ドロシーは楽しそうな表情で答えた。



「そ、そんな怖い話をさも嬉しそうに言わないでよっ。第一、幽霊ってのは人か場所に縛られているらしいし。やっぱり違うんじゃないかしら。」

「………いや、それはどうだろうね?」

「ほえ?」

「な、なによオリビエ。」

「気付いた事でもあるのか?」

オリビエの言葉を聞いたエステル達は驚いてオリビエを見た。

「いや、幽霊かどうかというのはボクにも判断がつかないが………エステル君達の報告を聞いていくつか気になる事があってね。その白い影が人と場所に縛られているという説には、少々疑問を呈したいのだよ。」

「へえ、大したもんですね。僕もちょうど同じ事を考えていたところですよ。」

オリビエに感心したジャンはオリビエの意見に同意した。

「フフッ、やはりか。旅行者の常、ボクは最近、王国地図を良く眺めるんだが………まずはルーアン地方のエリアに注目してもらった方がいいかな。」

そしてエステル達はギルドにある王国地図に注目し、オリビエが説明し始めた。

「さて………エステル君が調査した3ヶ所の目撃地点だが……ここと、ここ、ここになる。」

オリビエが地図にマークをつけた。

「うん……。ルーアン南街区に、エア=レッテンの関所、そしてマーシア孤児院。それがどうかしたの?」

「ここで得られた3つの証言において、明確に異なる部分に注目すると、ある事実が浮き上がるのだよ。エステル君、その異なる部分とはどこだろう?」

「3つの証言で明確に異なる部分……」

オリビエに尋ねられたエステルはそれぞれの証言を思い出して、考えてある事に気付いた。

「そ、それって……。わかった!ずばり、白い影が去った方角ね!」

「あ!本当だ!」

エステルの言葉を聞いたミントも気付いた。

「うん、その通りだ。南街区での証言では白い影が去ったのは『北東』……。エア=レッテンの関所の兵士の証言では白い影が去ったのは『北』……。そして、孤児院での子供の証言では白い影が去ったのは『東』……」

オリビエが白い影が去った方向を矢印で書くとある一点に集中した。



「「あああっ!?」」

「フン、そういうことか……」

「なるほどねぇ。幽霊が来た場所が絞られたっていう寸法かよ。」

白い影が去った方向が合わさった場所を見てエステルとミントは驚き、アガットとナイアルは納得した。

「フフ、そういうことさ。『ジェニス王立学園』…………ここの近辺になるみたいだね。」

「オリビエ………あんたって冴えているわねぇ。こうなったら幽霊だろうが何だろうがどっちでもいいわ。行って確かめるしかないわね!」

「わあ………じゃあ、クロ―ゼさん達に会えるね!」

オリビエの意見に感心し、エステルが次にする行動を聞いたミントは嬉しそうな表情をした。

「ふむ………ジャン、問題ねえな?」

「ああ、本格的に調査してできれば問題を解決してくれ。『リベール通信』さんはこの先、どうするんですか?」

アガットの言葉に頷いたジャンはナイアルとドロシーはどうするかを尋ねた。

「そうだな、肝心の市長選の取材もしなくちゃならねぇし……。よし、ドロシー。この件はお前に任せたぞ。」

「はーい、わかりました~。これでもかってくらい心霊写真を撮ってきまーす!」

ナイアルの指示にドロシーは元気良く答えた。

「違うっての!あくまで真相の解明だ。エステルたちに付いて行って幽霊事件の取材をするんだよ。」

「はあ、なるほど。よく判りませんけど~。せいいっぱい頑張りま~す!」

ドロシーの勘違いに気付いたナイアルはドロシーに注意をしたが、あまり理解している様子ではなかった。

「ちょ、ちょっと。勝手に話を進めないでよ。」

「まあまあ。写真も提供してもらったし、持ちつ持たれつってことで。」

「そうだよ~。ドロシーさんの写真のおかげでお化けさんの姿を見れたし。」

ドロシーが付いて来る事に渋っているエステルにジャンが宥め、ミントも頷いた。

「フン……仕方ねえな。」

アガットもドロシーが付いて来る事に渋々納得した。

「うーん、なんかどんどん緊張感がなくなって行くような。でもまあ、今回は助かるかな。」

「そういうわけで事件の調査、よろしく頼んだぞ。俺はこれから2人の候補にインタビューをかますからな。」

ナイアルはギルドを出て行こうとしたが、ある事を思い出してエステルに振り返った。

「とと……。そうだ、エステル。……ヨシュアのことは親父さんから少し聞かされた。謎の組織ってのも気になるし……。それっぽいニュースが入ったらすぐにギルドに連絡するからな。」

「え……」

ナイアルの申し出を聞いたエステルは驚いた。



「だからその……まあ、頑張れってことだ!そ、そんじゃあな!」

そしてナイアルは今度こそギルドを出て行った。

「ナイアル……」

「うふふ。先輩ってば照れちゃって~。カシウスさんから話を聞いて結構ショックだったみたいなの。何か助けになれないか色々と考えてたみたいよ~?」

「そ、そうなんだ。まったくもう。素直じゃないっていうか……」

「かく言うわたしも取材で気になるネタを拾ったらギルドに連絡を入れるから~。だからエステルちゃん。ファイト・オー、だからね~!」

「うん、ありがとう……。それじゃあ……王立学園に行くとしますか!」

「王立学園には僕の方から連絡しておこう。それではよろしく頼んだよ。」

そしてエステル達はギルドを出た。



「……何ていうか、今さら突っ込むのも何だけど。やっぱりオリビエも来るわけね?」

ギルドを出たエステルは溜息を吐いた後、自分に付いて来る予想通りの予定外のメンバー――オリビエを見て尋ねた。

「ハッハッハッ。やだなあ、エステル君。鳥が空を駆け、魚が水に遊ぶのと同じくらいあたり前のことだよ。何のためにボクが、温泉を捨ててエルモから来たと思ってるんだい?」

「うーん……。ねえアガット、ミント。仲間に入れてもいいかな?」

オリビエの答えを聞いたエステルは迷った後、アガットとミントに尋ねた。

「ミントは賛成だよ!オリビエさん、アーツと銃の腕がとっても上手いし、歌やリュートも上手だもの!」

「ハッハッハ!相変わらず、ミント君は素直で可愛いね♪照れるじゃないか♪」

嬉しそうな表情のミントの言葉を聞いたオリビエは酔いしれていた。

「もう好きにしやがれ……。ただし、俺はアンタを完全に信用してるわけじゃねえ。妙なマネをしたら容赦なくブチのめすからな。」

一方アガットは呆れた様子で答えた後、オリビエに注意した。

「ふう、それは残念だ。たまには君みたいなワイルドなタイプも悪くないと思ったんだが。」

「はあ?」

オリビエの言葉を理解できないアガットは声を上げた。

「フッ、安心してくれたまえ。君の信用を勝ち得るまで口説くのは控えることにするよ。」

「………………………………。ア、アホかああッ!何の話をしてやがる!!??」

酔いしれているオリビエの言葉を聞いたアガットは一瞬放心した後、怒鳴った。

「はわわ~、何だかとっても大人の香りでドキドキですぅ。」

ドロシーは呑気に2人を見ていた。

(しばらくツッコミ役はアガットに任せてとこっと……)

(えへへ………オリビエさんって、相変わらず面白い人だな♪)



そしてエステル達はジェニス王立学園へ向かった。



一方、その頃。全ての種族が共存しあい、発展をし続ける街、ユイドラ。十数年前さまざまな種族と協力してある危機を乗り越えて平和になった街の郊外は、ある魔神が率いる魔族達に対してユイドラを護るために出撃した領主率いるユイドラ兵達と領主の仲間達の激しい攻防が続けられていた……………………


 

 

外伝~もう一人の共存を謳いし”王”~

~工匠都市ユイドラ・近郊~



「ユエラ、エミリッタ!右翼の軍が苦戦している!援護に行ってくれ!」

「わかった!行くぞ、エミリッタ!」

「ラジャであります!」

一人の青年の指示に頷いた腰まで伸ばした美しい黒髪の女剣士――ユエラと大きな鈴を着けた杖を武器に持つ桃色の髪を腰までなびかせて戦う魔術師の女性――エミリッタが大量の下級魔族――ゴブリンやオーク達の軍団に苦戦しているユイドラ兵達の援護に向かった。

「ハァッ!」

「「「「ギャアアアッ!?」」」」

ユエラが放った神速の剣撃は一振りするだけで複数のゴブリン達の身体を分かれさせ、絶命させた!

「行っくよ~!………流星よ、落ちよ!小隕石召喚!!」

エミリッタが詠唱し、放った魔術によって空より小隕石がいくつもゴブリン達の上に落ちて来た!

「「「「「「ウギャアアアッ!?」」」」」」

隕石に命中したゴブリン達は隕石に押しつぶされ、絶命した!

「シャルティ、ラグスムエナ!」

「はいは~い!」

「………ウィルとユエラの敵は殺す………!」

青年に呼ばれた睡魔――シャルティと大鎌を持った死神――ラグスムエナが意気揚々と目の前の敵陣に突っ込んだ!

「そ~れっ!」

「「「「「ガッ!?」」」」

シャルティの技――ごろごろを受けた下級悪魔達は吹き飛んだ!そこにラグスムエナが大鎌を大きく振りかぶった後、思い切り震った!

「フン!」

「「「「!!……………」」」」

ラグスムエナの震った大鎌は敵の身体を真っ二つにして、絶命させた!



「!!ウィル!左翼もおされています!」

そして正確無比な射撃で敵を射抜きながら戦場の状況を見ていたエルフの女性がユエラ達を指揮している自分の夫でもある青年――ユイドラ領主、ウィルフレド・ディオン――ウィルに警告した。

「わかった、セラウィ!メロディアーナ、頼む!」

エルフの女性――ウィルの妻のセラヴァルウィ・ディオン――セラウィの警告に頷いたウィルは自分を護るように戦っている第八位天使の上位にあたる大天使(アプサエル)と呼ばれる天使族の女性――メロディアーナに声をかけた。

「わかりました!」

ウィルの言葉に頷いたメロディアーナは不死者と幽霊の軍団に苦戦しているユイドラ兵達の元に自分に付いている翼で飛んで行き、自分の武器である槍に光を纏わせ、そしてそれを震った!

「ハァァァァァァ!!彗星の光槍!!」

メロディアーナが槍を振るうと、いくつもの光の槍が不死者や幽霊の軍団に降り注いだ!

「「「「「ギャアアアアアアアッ!?」」」」」

弱点である神聖属性の槍を受けた不死者と幽霊の軍団は断末魔を上げながら、消滅していった!

「ハアッ!」

仲間達の活躍に続くようにウィルも自分の武器としている鉄槌――『匠王の神槌』で目の前の敵を倒していた。

「ハッ!」

そしてウィルを援護するようにセラウィが弓矢で的確に敵を射抜き、倒していた。



「クッ………キリがないな……!」

敵を倒し、一息ついたウィルはまだまだいる魔物達を見て、顔を歪めた。

「倒しても倒しても、湧いて来るように出て来て~!一体、どれだけいるのよ!」

「泣き言を言う暇があったら、詠唱して目の前の敵を倒せ!ハァッ!」

右翼のユイドラ兵達を援護しているエミリッタは敵の多さに泣き言を言い、それを見たユエラは叱咤しながら敵を斬りまくった!

「せめて、水那達がいれば、もう少し戦況はよくなるんですけどね………」

敵を射抜きながらセラウィはこの場にいない仲間達の事を言った。

「仕方ないよ。水那達には他の仲間達に援軍を頼みに行って貰っているんだから。……水那達が仲間達を連れて来ると信じて、俺達はここで食い止める!」

実はウィル達には他にも心強い仲間がいるのだが、彼女達は周辺の水精や土精、エルフ。そしてかつての仲間であった仲間達の協力を頼むためにユイドラを留守にしていて、そのせいで戦力不足となり、ウィル達は苦戦していた。

「ええ!ユイドラの、全ての種族のために……そして、家で待っているセティ達のためにも必ず勝たないと!」

夫の言葉に勇気づけられたセラウィは頷いた後、弓矢で敵を射抜き、そして魔術を使って味方の治癒や敵への攻撃をした。

(……我はまだ出なくていいのか?ウィル。)

そこにウィルが着けている腕輪が光り、ウィルにある人物の念話が来た。

「………アスモデウスはディアーネが出て来た時に、出て来てもらう!」

(……それはいいのだが、このままでは数に押されてしまい、壊滅してしまうぞ?)

「わかっている!(クッ………街の防衛に着いているレグナー達をこちらに廻すか?でも、そんな事をすればユイドラががら空きになるし……!)」

腕輪から聞こえた念話――ソロモン一柱の魔神アスモデウスの言葉に答えたウィルはユイドラの主力である親友であり、ライバルでもあり、そして領主である自分の右腕でもあるレグナー率いる工匠達――いざという時に温存しているユイドラの主戦力を前線に出すかどうか迷った。その時、考え込んでいるウィルの隙を狙い、一匹の下級悪魔が襲いかかった!

「ウィル!」

「!!クッ!」

セラウィの警告に我に返ったウィルは自分に襲いかかって来る下級悪魔を迎撃しようとしたその時

「我が魔術にひれ伏しなさい!……粒子弾!!」

「!?ガアアアアッ!?」

突如雷が籠った魔力弾が下級悪魔を襲って、命中した下級悪魔は断末魔をあげながら地面に倒れて動かなくなった。



「えっ!?今の声と魔術は……!」

自分を援護した魔術に驚いたウィルだったが、聞き覚えのある声に表情を明るくさせ、魔術が来た方向に向いた。

「全く………精霊王女たるこの(わたくし)を破っておきながら、なんという体たらくですか。以前と比べて、腕が少し落ちたんではなくて?」

そこには槍を持ち、得意げに胸を張ったフィニリィが嬉しさを隠せない表情でウィルを見ていた。

「フィニリィ!最近姿を見ないと思っていたから心配していたけど、無事でよかった!」

フィニリィを見たウィルは嬉しそうな表情で言った。

「うっ……!(あの反則の笑顔は相変わらずですわね、ウィルは。)」

ウィルの笑顔を見たフィニリィは自分が唯一好意を持ち、身体を許した相手に笑顔を向けられ、一瞬顔が赤くなり、そして小声でセラウィに話しかけた。

(フフ……惚れ直しましたか?)

小声で話しかけられたセラウィは微笑みながら小声で答えた。

(な、何の事よ!それに妻の貴女がよくそんな事が言えるわね……)

セラウィの答えにフィニリィは一瞬焦った後、呆れて溜息を吐いた。

(ウィルと恋人同士だった頃から、貴女や水那達がウィルに好意を持っている事や抱かれている事は知っていますし、今更じゃないですか。)

(……私達の事、なんとも思わないの?)

(フフ……確かにたまに嫉妬をする事はありますが、それも含めてこそのウィルなのですから。……それに古来から『英雄、色を好む』とありますし、貴女達相手なら私は何も言いませんよ。……というかセティが産まれた1年後に産まれたシャルティとウィルの娘――シャマーラと、シャマーラと同じ時間に産まれたウィルとメロディアーナの娘――エリナの事は貴女も知っているでしょう?)

(貴女って人は………………)

セラウィの答えを聞いたフィニリィは呆れて溜息を吐いた。

「?2人とも一体何を話しているんだい?」

セラウィとフィニリィの会話が聞こえなかったウィルは首を傾げて尋ねた。

「なんでもありませんわ!それよりここは戦場なのですから、油断は禁物……ですわ!」

ウィルに答えたフィニリィは自分に襲いかかるゴブリン槍で倒しながら言った。

「そういえば……どうして俺達がここにいるってわかったん……だい!」

同じく自分に襲いかかかる魔物を倒しながらウィルはフィニリィに自分達を探し当てた理由を尋ねた。



「どうせ、あなたの事だから最前線にいるのはわかりきっている事ですわ。全く領主の癖に、なんでそんな真似をするのですか!少しは領主としての自覚を持ったらどうかしら?」

「あ、あはは……でもみんなに任せて、俺だけ安全な所でみんなの戦いを見ているだけなんて事できないよ。」

フィニリィに怒られたウィルは苦笑しながら答えた。

「フフ……ウィルらしいですね。それより水那達が貴女を見つけて、今のユイドラの状況を教えてくれたんですか?」

「いいえ………貴女の学友とやらが教えてくれましたわ。」

「え……?」

フィニリィの答えを聞いたセラウィが首を傾げたその時

「ハアッ!そこっ!」

戦場に乱入したフォーチュラが走りながら弓矢を放って、敵を射抜きながらセラウィの所に来た。

「久しいな、セラウィ。」

フォーチュラは懐かしそうな表情でセラウィを見た。

「フォーチュラ様!どうしてこちらに?」

フォーチュラの登場にセラウィは驚いた後、尋ねた。

「フフ……かつて共に学んだ友を助けに来て、どうしてそんなに驚く?」

「フォーチュラ様………助力、ありがとうございます!」

「フフ……気にするな。それに私以外の心強い援軍も来ているぞ?」

「援軍……?」

フォーチュラの言葉にセラウィが首を傾げたその時

「これで……終わりよっ!」

女性の声が聞こえた後、ゴブリンの軍団の一部の中心に轟音と爆発が起こり、爆発の中心地にいたゴブリン達は絶命して地面に倒れていた。

「間に合ったようね、ウィル。」

「ロカさん!?なんでここに……!」

鎧に付いている魔導砲でゴブリンの軍団を葬った女性――ロカの登場にウィルは驚いた。

「たまたま酒場で出会ったフォーチュラ殿から今のユイドラの状況を聞いてね。……この魔導鎧を作ってくれた恩返しに来たのよ。」

「そんな……!報酬ももらったなのに恩返しだなんて……!」

ロカの答えにウィルは恐縮しながら答えた。

「それにここに来たのは私個人、あなたに協力したいと思ったから。だから、気にしないで。」

「……ありがとうございます!」

そしてロカは槍を構えて、メロディアーナ達が戦っている不死者と幽霊の軍団に突撃した。

「ハァァァ!」

ロカの洗練された聖なる力を宿した槍は次々と不死者達を葬っていった。

「やりますね……さすが軍神の神官戦士。……ですが、私も負けてはいられませんよ!………光よ、我が仇名す者達を吹き飛ばせ!……光燐衝撃!!」

ロカの活躍に口元に笑みを浮かべたメロディアーナはロカの活躍に負けないよう、魔術を放って敵を吹き飛ばし、倒していった!そしてユエラ達等、他の場所で戦っているウィルの仲間達の所にも次々と予想外の援軍が到着し始めた……!




 

 

外伝~覇道と王道が交わる時~

~工匠都市ユイドラ・近郊~



「ふえ~……以前見せた強さ以上に強くなっているんじゃない?」

一方エミリッタはロカの活躍を見て、感心していた。

「ああ。だが、劣勢なのは変わらない!気を引き締めて行け!」

「ラジャであります!」

ユエラの警告に頷いたエミリッタが戦闘を再開しようとしたその時

「ハァッ!」

「ハァァァァ………!ラファガブリザード!!」

「超・ねこ、パ~ンチ!!」

「うふふ、死んじゃえっ!」

「光よ、集え!……光霞!!」

プリネとツーヤ、そしてペルルにレン、イリーナが戦場に乱入し、ユエラ達が相手にしているゴブリンやオーク達を次々と葬っていった!

「!何者だ!」

プリネ達の登場に驚いたユエラは警戒した表情で尋ねた。

「私達は貴女達の味方です!今から私達も貴女達を援護します!」

「味方……?」

「今はそんな事を気にしている時じゃないでしょ!とにかく味方が増えたんだから、ラッキーじゃない!」

味方の登場に首を傾げているユエラにエミリッタは言った。

「よ~し!ボク達闇夜の眷属と仲良く暮らしている人達のために、がんばるぞ~!」

「うふふ………こんなにお客様が一杯いたら、誰からもてなそうか迷っちゃうわ♪」

ペルルは意気込み、レンは凶悪な笑顔を浮かべて大鎌を構え、どのようにして、敵を倒して行くか考えていた。

「……さっきも確認しましたが、イリーナさん。本当に貴女も戦うんですか?」

一方プリネは心配そうな表情でイリーナを見て尋ねた。

「はい!ツーヤちゃんみたいに戦えませんが、プリネ様をお守りするために私も戦わせて下さい!ペテレーネ様の教えのお陰で、少しですがさっきのように魔術は使えますので、援護させて下さい!」

「………わかりました。でも、決して無理はしないで下さいね?それと絶対に私達から離れないで下さい。」

戦場で押し問答をする訳にはいかなったプリネはイリーナの決意を聞き、忠告した。

「はい!」

プリネの忠告にイリーナは力強く頷いた。

「ツーヤ、貴女もよ。以前みたいな無理をしたら、さすがの私も怒るからね?」

「はい!」

プリネの忠告にイリーナと同じようにツーヤも力強く頷いた。

「……では、これよりユイドラの方達を援護します!」

「うん!」

「「はい!」」

「は~い♪」

プリネの号令にペルル達はそれぞれ頷いた。そしてプリネ達はユエラ達と協力して、敵を次々と葬って行った!

「神速!鳳凰剣舞!!」

「フェヒテンイング!!」

ユエラとプリネの剣技は次々と敵を斬り伏せ

「行っくよ~!それぇっ!!」

「ヤァァァァッ!」

ペルルがクラフト――恐怖のごろごろで敵にダメージを与えた所をツーヤがクラフト――円舞で止めを刺し

「いでよ、翼輝の陣!……ケルト=ルーン!!」

「闇よ、我が仇名す者達に絶望を!……黒の闇界!!」

エミリッタの魔術とレンの魔術は多くの敵を葬り

「行きなさい!……光弾!!」

イリーナの魔術はユイドラ兵達によって傷つき、まだ生きている敵に止めをさしていった。そしてユエラ達の活躍に勇気づけられたユイドラ兵達も雄叫びをあげながら、敵を倒していった!



一方正面でユイドラ兵達と共に下級悪魔達を相手にしているシャルティやラグスムエナ達が援護しているの所に2人の戦士達が乱入した!

「激しいの、行くわよ♪……白露の桜吹雪!!」

「塵と化せ!ハァァァァ………!暗礁回転剣武!!」

戦場に乱入した2人の戦士――カーリアンとファーミシルスが放ったSクラフトは大量の下級悪魔達を消滅させた!

「へっ!?あなた達、私とラグスムエナと同じ闇夜の眷属のようだけど……誰?」

「私達の敵……倒した………味方か……?」

2人の乱入に驚いたシャルティやラグスムエナは2人に尋ねた。

「フフ……戦場に言葉はいらないわよ!」

「全く、貴女と来たら……必要な事ぐらいは説明しなさい!……私達は味方よ!我が主の命により、私達も参戦させてもらうわ!」

カーリアンの言葉に呆れたファーミシルスはシャルティ達に自分達が味方である事を言った。

「何がなんだかわかんないけど、楽になるならいっか~!」

「協力して……敵を倒す……!」

そしてシャルティ達はファーミシルス達と協力して、戦闘を始めた!

「死ね!断命の大鎌!!」

「連接剣のお味はどう?」

ラグスムエナの大鎌は一撃で敵を葬って行き、ファーミシルスが放った連接剣の刃を素早く2回伸ばして攻撃するクラフト――連接剣双伸張で敵の後ろにいた敵も巻き添えにしてどんどん葬っていき

「フフ……そ~れ♪」

「あら。じゃあ、私も続こうかしら♪魔術発動♪」

シャルティが放った睡魔独特の魔術――淫魔の接吻は敵にダメージを与えると同時に混乱させ、それに続くようにカーリアンも魔術――淫魔の魅惑を放って混乱させた。

「行っけ~!凝縮闇弾!!」

「どーりゃ~!冥府斬り!!」

そして同士討ちを始めた敵達にシャルティやカーリアンはそれぞれ攻撃して敵を葬っていった!シャルティ達の活躍に勇気づけられたユイドラ兵達も雄叫びをあげながら、敵を倒していった!



「彼女達は一体………」

次々と現れ、自分達の味方をしているカーリアン達を驚きの表情でウィルは見ていた。

「フフ……セラウィ、お前の夫はとんでもない人物まで引きよせたようだぞ?」

驚いているウィルをフォーチュラは微笑みながらセラウィに言った。

「え?一体何の事ですか……?」

フォーチュラの言葉にセラウィが首を傾げていたその時

「………罪人を処断せし聖なる光よ!我が仇名す者達に裁きの鉄槌を!贖罪の光霞!!」

「闇に沈んじゃえ♪ティルワンの闇界!!」

「猛りの大地よ……我が魔力に答えよ!ベーセ=ファセト!!」

「マーリオン、来い!」

「了解しました………!荒ぶる水よ………溺水!!」

「燃え尽きろ!フレインバル!!」

リフィア、エヴリーヌ、ペテレーネ、そしてリウイに召喚されたマーリオンの魔術、リウイの魔法剣技がウィル達が相手をしている敵を大幅に減らした!

「久しいな、ウィルよ!」

「やっほ。」

「リ、リフィア!?それにエヴリーヌも……!」

自分に近付いて来た謎の味方の内、見覚えのある人物達を見たウィルは驚いて声をあげた。

「お前にまた頼む事があり、ついでに遅くなったがお前達の結婚や子供の誕生も祝っておきたくてな。余達もユイドラに来たのだ!」

「え!?その為だけにメンフィルからはるばる来たのかい!?」

リフィアの説明を聞いたウィルは驚いた。

「ウィル、セラウィ。結婚、おめでとう。」

「あ、ありがとうございます。リフィア、エヴリーヌ。」

戦場には場違いなエヴリーヌの祝いの言葉をセラウィは戸惑いながら受け取った。



「前から聞きたかったんだけど……リフィア。一体君は何者なんだい?以前、贈られて来た棒と双剣の報酬も凄い金額だったし……武器の送り先を見て、遠い北の国、メンフィルの出身者って事は予想していたけど……」

「フフ……それはすぐにわかる。リウイ、この者がウィルフレド・ディオンだ!」

ウィルに正体を尋ねられたリフィアは胸を張って、リウイにウィルを紹介した。

「……お前が全ての種族と共存する事を礎とする人間、”匠王”ウィルフレド・ディオンか……個人的にお前とは会いたかったぞ。」

「あなたは……?」

口元に笑みを浮かべているリウイにウィルは正体を尋ねた。

「我が名はリウイ・マーシルン。……リフィアの祖父だ。」

「あ、あなたがリフィアのお祖父ちゃん!?」

「それでこの者が以前言っていた、余の祖父の従者だ。……ペテレーネ。」

「はい。」

リウイがリフィアの祖父と知り、驚いているウィルにリフィアはペテレーネを促した。

「初めまして、私はペテレーネ・セラと申します。お嬢様達がお世話になったようで、遅くなりましたがお礼を言わせて下さい。……ありがとうございました。」

「い、いえ……俺達もリフィア達のお陰で助かった事もありますし、お互い様です。」

ペテレーネにお礼を言われたウィルは恐縮しながら答えた。

「え!?あ、あなたがあの”闇王”なのですか!?」

一方リウイ達の名前を知ったセラウィは驚いてリウイ達を見ていた。

「……どこかで聞いた事がある名前だけど……セラウィ、知っているのかい?」

リウイ達の名前に頭の片隅で引っ掛かっていたウィルはリウイ達を知っていそうなセラウィに尋ねた。

「え、ええ……」

セラウィは驚きの表情でリウイを見ながら言うのを戸惑った。

「?もったいぶらず、教えてくれないかな?」

セラウィの態度に首を傾げたウィルはセラウィに尋ねた。

「……ここは戦場だ。細かい詮索は後にして、戦闘に集中しろ。」

「!そうですね。……なんとお呼びすればいいですか?」

リウイの指摘に今の状況を思い出したウィルはリウイがさらけ出す雰囲気からかなりの身分の者と感じ、自然と敬語で尋ねた。

「……リウイでいい。それと口調もいつも通りで構わん。」

「わかった。……これでいいかい?リウイ。」

リウイに言われたウィルはすぐに口調をいつもの口調に直して尋ねた。

「ああ。……ここからは俺達も参戦させてもらう。………みな、行くぞ!」

「はい!」

「了解しました……!」

「うむ!」

「キャハッ♪久しぶりに一杯遊んじゃうよ~♪」

リウイの号令にペテレーネ、マーリオン、リフィアは力強く頷き、エヴリーヌは凶悪な笑顔を浮かべて頷いた。

「よし!リウイ達と協力して、敵を追い返すぞ!」

「わかりました!」

「ああ!」

「ええ!」

ウィルの号令にセラウィ、フォーチュラ、フィニリィは力強く頷き、またウィルの周りで戦っていたユイドラ兵達も心強い援軍の登場や自分達が慕う領主の号令に雄叫びを上げた。そしてリウイ達とウィル達は協力して、大量の魔物の軍団と戦い始めた!



覇道を持って人間と闇夜の眷属、さまざまな種族との共存を目指す”闇王”とその仲間達。王道を持って全ての種族との共存を目指す”匠王”とその仲間達。手段や考えは違えど、同じ志を持つ彼らの共闘が今ここに始まった……!


 

 

外伝~奇跡の共闘~前篇

~工匠都市ユイドラ・近郊~



リウイ達がウィル達と共闘を始めたその頃、魔物や悪魔の軍団を率いる魔神――エヴリーヌと同じ”深凌の楔魔”の魔神の一人であり、かつてはレスぺレント地方の北部を支配していた魔神ディアーネが圧され気味の自軍を見て、怒鳴った。

「貴様等、何を手間取っている!相手はたかが人間だ!この我が率いる者達が人間に負けるなぞ、許さんぞ!」

「し、しかし……」

そこに上級悪魔の一人が遠慮気味に話しかけたが

「黙れ!」

「ガッ!?」

ディアーネが虚空より出した魔槍が上級悪魔の喉を一突きし、絶命させた。それを見た周囲の魔物や悪魔達は驚き、ディアーネを怖がった。

「この雑魚と同じになりたくなければ、とっとと敵を滅せよ!」

ディアーネの脅迫まがいの命令に魔族達は恐怖を抑えるかのように雄叫びを上げて、自分達の敵に襲いかかった。

「全く………全ての種族と共存だと?人間の分際で調子に乗り過ぎだ。人間は我等に従うべきだというのに………チッ………ソロモンの一柱が何故人間に従うのかが理解に苦しむ……!」

ディアーネは遥か先で戦っているウィル達を睨んだ後、最初にウィルを襲った時、ウィルが召喚した魔神――ソロモンの一柱の魔神でもあるアスモデウスに圧倒され、撤退した事を思い出して顔を歪めた。アスモデウスを脅威と考えたディアーネはアスモデウスを消耗させるために大量の配下達を襲わせて、ウィル諸共討取ろうとする作戦をしているのだが、思いの他抵抗が激しく、上手くいってなかったのだ。

「ん………?なんだ、この覚えのある気配は………?」

そしてディアーネは戦場から微かに感じる覚えのある気配に首を傾げていた。



一方ディアーネの脅迫まがいの号令で雄叫びをあげながら、ウィル達に襲った魔族達だったが、ウィル達やリウイ達の圧倒的な強さに次々と討取られて行った。

「邪魔だっ!………ハァッ!!千刃剣舞!!」

「フェヒテンバル!!闇に呑まれよっ!ティルワンの闇界!!」

ユエラの神速の剣技とプリネの洗練された剣技、そして魔術は次々と敵を葬って行った!そしてユエラとプリネはお互い、並んで武器を構えていた。

「ほう………なかなかやるな。」

「フフ……貴女ほどではありませんよ。力の加護を!戦士の付術!!」

ユエラの称賛に謙遜したプリネは魔術を使ってユエラの能力を上げた。

「しばらく間ですが、これで貴女の力が上がっています。……見た所貴女はユイドラ軍の主力の一人みたいですから、主力には活躍してもらわないと困りますものね。」

「フッ………そういうお前こそ、飛び入りの割に、私達と大して変わらない腕を持っているようだな?」

プリネの称賛を聞いたユエラは不敵な笑みを浮かべたてプリネを見た。

「フフ、さすがにそれは買被りすぎですよ…………出でよ、鋼輝の陣!イオ=ルーン!!」

「はあーっ!!」

プリネの魔術で傷ついた敵達がプリネの魔術によって強化されたユエラの刀が薙ぎ払った!

「敵の数は圧倒的です!私達が活躍して、兵達の士気を高めましょう!」

「ああ!」

そして2人はそれぞれの敵に向かって行った。



「出でよ、烈輝の陣!!レイ=ルーン!!」

「うふふ、消えちゃえ!死線!!」

エミリッタとレンが放った強力な魔術は大量の敵を一掃した。

「へ~………小さいのに結構やるね!」

「うふふ、小さいのは余計なひと言だけど、褒め言葉として受け取っておくわ♪そういう貴女こそ、凄いじゃない♪レンと違って、敵が消滅しているわよ?」

「フフ……だってあたしは世界一の魔法使いを目指しているんだから、これぐらい当たり前だよ!」

レンの称賛にエミリッタは笑顔を見せて答えた。

「うふふ………じゃあ、レンは敵を倒した数の世界一になろうかしら……っと!!」

エミリッタの言葉を聞いたレンは物騒な事を呟いた後、凶悪な笑顔でクラフト――カラミティスロウを放って、敵を真っ二つにして倒した!

「うわ~…………可愛い顔をして、物騒な物を武器にしているね………」

「うふふ、そうかしら?レンにとっては使いやすい武器なんだけどね♪」

レンの大鎌と攻撃を見て、エミリッタは冷や汗をかいて呟き、レンは楽しそうな表情で答えた。

「ま!でも、武器がそれだからと言って、負けないよ!いっけ~!!」

そしてエミリッタは大量の魔力弾を放って、次々と敵を倒していった!

「うふふ、そうこなくっちゃ!………殲滅の力、うけてみなさい!そ~れっ!レ・ラナンデス!!」

レンも負けずにSクラフトを放って一撃で複数の敵を葬っていった!そして2人はとてつもない勢いで複数の敵を倒していった!

「行きます!………ヤアッ!!」

「えいっ!」

ツーヤが放ったクラフト――溜め突きでダメージを受けた敵をペルルが装備している鉤爪で止めをさした。そして安堵のため息をはいているツーヤに敵が襲った!

「!!あう!」

「!!大丈夫、ツーヤ!?超、ねこ・パ~ンチ!!」

ツーヤを傷つけた敵をペルルがクラフトを放って倒した。

「癒しの光よ………癒しの息吹!!」

そしてイリーナの治癒魔術がツーヤの傷を回復した。

「ありがとうございます、イリーナさん。」

「フフ、気にしないで。……でも、無茶をしたらダメよ?プリネ様もそうだけど、私も悲しむんだから。」

「はい。すみません………」

イリーナの言葉を聞いたツーヤは謝った。

「……プリネ様に仕える者同士、お互い助け合ってプリネ様をお守りしましょう!」

「……はい!」

「フフ、もちろんボクもその一人だからね!」

イリーナに元気づけられたツーヤは力強く頷き、ペルルも頷いた。そして3人は連携して敵を倒して行った!

「行きます!光よ、我が仇名す者達に裁きを!………槌の光霞!!」

「ハァァァァ………!ラファガブリザード!!」

「行っくよ~!それぇっ!!」

「女性達に遅れをとるな!俺達もがんばるぞ!」

「オオッ!」

3人の活躍は周囲で戦っているユイドラ兵達をも刺激し、3人に負けないようユイドラ兵達も奮戦した。



「消えろっ!!」

「とーう!!」

ラグスムエナは敵の背後に転移して、背後から強襲して敵を滅し、シャルティは空から強襲して、敵を倒し

「ハァァァァ!!」

「それぇっ!!」

ファーミシルスとカーリアンは正面から敵をどんどん葬って行った!

「へ~……そっちの死神はともかく、貴女……睡魔のわりには結構やるわね♪」

戦闘に少しの余裕ができたカーリアンはシャルティを見て言った。

「フフ、そういう貴女こそみた所、睡魔の血が混じっているようだね?」

「あら。やっぱり同族の血が少しでも入ってたらわかるのかしら?」

シャルティの答えを聞いたカーリアンは少し驚いた後、尋ねた。

「まあね~♪あたしにもウィルとできた娘がいるから、わかるよ♪」

カーリアンに尋ねられたシャルティは楽しそうな表情で答えた。

「あら?ユイドラ領主の娘はハーフエルフの娘ではないの?」

横で話を聞いていたファーミシルスは首を傾げて尋ねた。

「それはセティ………セティが産まれた1年後にシャルティがウィルとできた娘を産んだ……」

「………よくエルフの妻と修羅場にならなかったわね……エルフは私達と違って、頭が固いと思っていたんだけど。」

ラグスムエナの話を聞いたファーミシルスは驚いた後、ラグスムエナに尋ねた。

「セラウィは特別………それに私も含めて、ユエラとエミリッタを除いて……みんな、ウィルに抱かれた事があるし……セラウィも知っている……」

「みんなって……まさか天使も!?確かユイドラ領主は大天使(アークエンジェル)に護られ、力天使(ヴァーチャーズ)もユイドラ領主の力を認めていると聞いたけど。」

「そう。………シャマーラが産まれた時と同じ時間に天使のメロディアーナがウィルとの娘を産んだ………その事を後で知ったエリザスレインは呆れていたけど………」

「なるほど………(種族問わず、人を引き付ける力はひょっとしたらリウイ様と同等かもしれないわね………)」

ラグスムエナの説明を聞いたファーミシルスはウィルの評価を改めた。

「……まあいいわ。今は目の前の敵を全滅させるわよ!」

「オ―!」

「フフ、倒した敵の数がどちらが多いか……ここで勝負よ!」

「ウィル達のために………敵は全員殺す……!」

そしてカーリアン達は再び戦い始めた!

「その身を溶かせ!強酸の暗礁壁!!」

「フフ、耐えられるかしら?………白露の桜吹雪!!」

「超!ねこ、パンチ………奥義!!」

「地獄の炎に呑まれろっ!闇界獄滅炎!!」

4人の活躍はユイドラ兵達に畏怖を抱かせると同時に、味方である事に心強さを感じさせ、兵達の士気を高め、士気が上がった兵達は雄叫びを上げて勇敢に戦い始めた!

「裁きの光よ!我が槍に宿れ!」

メロディアーナが槍を掲げて叫ぶと槍に強烈な光が宿った!

「ハァァァ………裁きの神槍!!」

そしてメロディアーナが槍を震うと、強烈な数えられないほどの数の光の槍が雨のように降り、不死者達を滅した!

「マーズテリアよ……我が仇名す者達に裁きを!天の裁き!!」

ロカが強く祈ると天より強烈な光が降り注ぎ、不死者達を滅した!

「相変わらずの腕ですね、マーズテリアの神官。」

「フフ……そちらこそ。メロディアーナ殿に比べれば、私もまだまだです。」

メロディアーナの称賛の言葉にロカは謙遜して答えた。

「……それより、貴女から私の同族の気配がしているのですが……」

「……やはり、気付かれましたか。………イルザーブ!!」

メロディアーナの言葉を聞いたロカは使い魔――堕ちた天使――堕天使イルザーブを召喚した!

「イルザーブ、メロディアーナ殿達と連携して、ユイドラを襲う敵を排除しなさい。」

「承知しました、我が主よ。………それにしてもまさか、堕ちた私が再び、同族の者と共闘する時が来るとは……」

「堕ちた……?まさか、貴女は……!」

イルザーブの言葉を聞いたメロディアーナは驚いた後、イルザーブを見た。

「そうだ。かつて私は古神に仕えていた者。」

「………やはり、”堕天使”ですか…………」

イルザーブの答えを聞いたメロディアーナは両目を伏せたて少しの間考えた後、両目を開いて答えた。



「堕ちた者とはいえ………元は同族。今は1人でも多くの戦力が必要です。貴女の活躍、期待していますよ。」

「…………何故、私にその槍を向けない。私は”堕天使”だぞ?」

「言ったはずです。今は1人でも多くの戦力が必要だと。それにユイドラは全ての種族との共存を謳う街。例え堕天使でも、ユイドラは貴女を受け入れます。」

イルザーブの疑問にメロディアーナは誇りを持った表情で答えた。

「…………………………」

「フフ、驚きましたか?これも貴女が疑問を持っている”人の可能性”の一つですよ?」

驚いているふうに見えるイルザーブを見て、ロカは微笑みながら答えた。

「…………ロカ様、敵の援軍が来ています。構えて下さい。」

ロカの言葉を聞き、黙っていたイルザーブは気を取り直して、敵の援軍を見てロカに警告した。

「ええ。………喰らいなさい!!」

イルザーブの警告に頷いたロカは魔導鎧に付いている魔導砲を使って、大勢の敵を滅した!

「そこっ!」

「ハッ!」

メロディアーナの槍とイルザーブの剣は次々と敵を滅して行った!ロカやメロディアーナの活躍と新たな天使の登場に勇気づけられたユイドラ兵達は、さらに奮戦した!



「行きますよ!ハァッ!!」

「行くぞ………!ハッ!!」

「死んじゃえばぁ!!」

セラウィとフォーチュラ、エヴリーヌの3人が放った技――制圧射撃によって放たれた矢は雨のように降り注ぎ、敵の喉元や眉間を貫き、絶命させ

「ご覧あそばせ♪………大放電!!」

「荒ぶる水よ……!溺水……!!」

「闇の彼方に沈め!……ティルワンの闇界!!」

「魔王ケシェスよ………我が呼びかけに応え、我が仇名す者達に聖なる炎を!………ケシェスの聖炎!!」

フィニリィとマーリオン、リフィアとペテレーネが放った魔術は敵の数を一気に減らし

「大地の力よ!メーテアルザ!!」

「雷よ!我が槌に宿れ!電撃スマッシュ!!」

リウイ、ウィルが放った魔術の加護を受けた武器の攻撃は残った敵を次々と倒して行った!

「フフ………以前と比べて、腕が格段と上がったな、セラウィ。」

「そんな………フォーチュラ様には敵いませんよ。」

「謙遜するな。……今のお前は以前と違い、誰かを護ろうとする決意が感じられる………やはり、家族を持ったからか?」

セラウィの謙遜に微笑んだフォーチュラはセラウィから感じる雰囲気を悟って尋ねた。

「ええ。愛するウィルを……セティ達を……ユイドラのみなさんを護るために私はこの弓と魔術を持って、戦います!」

「そうか。……ならばかつての学友として、お前の家族や故郷を護るために私も全力で助力しよう!」

「フォーチュラ様………ありがとうございます!」

「フフ、気にするな。……行くぞ!」

「はい!………たぁっ!!………森よ……私に力を!リーフ=ゲルプス!!」

「ハッ!!………大地に住まう精霊よ………我が呼びかけに答えよ!地響き!!」

そしてフォーチュラとセラウィは肩を並べて、弓矢を放ち、さらに魔術を放って敵を倒して行った!



「貫け!……フフ………まさかこうしてウィル達と共に再び戦う時が来るとはね。」

一方槍で敵を倒して一息ついたフィニリィは口元に笑みを浮かべて呟いた。

「……………………」

その様子をマーリオンは黙って見ていた。

「あら?何か言いたい事があるのなら言ってもらえるかしら?」

マーリオンの様子を見て首を傾げたフィニリィは尋ねた。

「あの…………プリネ様の契約は…………どうなさる………おつもりですか…………?」

「マーリオンさん…………」

プリネを案じるマーリオンを見て、本来リウイの使い魔であるはずのマーリオンがプリネを心配している事にペテレーネは驚いてマーリオンを見ていた。

「なるほど………故郷であるユイドラに戻って来たわたくしが契約を解除すると思ったのですね。………心配しなくても、当分はあの皇女に力を貸してあげますわ。メンフィルにも興味が出て来たし、わたくしにとってもちょうどいいのですわ。」

「そう………ですか……………」

「フフ………ありがとう、フィニリィさん。マーリオンさんもプリネの事を考えてくれて、ありがとうございます。」

フィニリィの答えを聞いたマーリオンは表情が見えない顔をどこか安心したように見える顔を見せ、ペテレーネは微笑みながら答えた。。

「そんな事よりさっさと敵を倒しますわよ!………精霊王女たるこのわたくしを破り、そしてこのわたくしが身体を許した男はやらせませんわ!……超越せし純粋よ、今ここに集い、我が仇名す愚か者達に滅びの鐘を奏でよっ!!…………ルン=アウエラ!!」

「水よ………!我が魔力と同調し、敵を呑みこめ…………!…………デネカの津波!!」

「ソロモンの力よ!私に力を………!滅びの暗礁壁!!」

フィニリィとマーリオン、ペテレーネが放つ魔術は無数の敵を呑みこみ、絶命させた!



「余がおれば負けはない!行くぞ、エヴリーヌ!!」

「ん!!」

一方エヴリーヌと組んで戦っているリフィアはリウイ達と同じように苦戦の二文字はなかった。

「ふはははははははー!!ユイドラを襲う不届き者共は余達が蹴散らせてくれようぞ!!…………神をも震撼させし、滅びの鐘よ!今、ここに奏でよ!!………エル=アウエラ!!」

リフィアが放った高位純粋魔術――エル=アウエラによって敵の中心で爆発の嵐が起こり、敵という敵をまるでゴミ屑のように塵に変貌させた!

「有象無象共がどれだけ寄り集まろうと、屑であるという現実は変わらぬと思いしるがよい!」

塵になった敵を見てリフィアは勝ち誇った笑みを浮かべて言った。

「ユイドラを襲うこいつら、殲滅しちゃってもいいんだよね、リフィア?」

「許す!プリネ達も戦っているのだ!ここは姉として、手本を見せてやるぞ!!」

エヴリーヌに尋ねられたリフィアは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「フフ………そうだね♪それじゃあ、エヴリーヌ…………久しぶりに全力でやっちゃうね♪エステル達との旅では手加減ばっかやっていたから、欲求不満なんだよね♪」

エヴリーヌは凶悪な笑顔をして、弓に矢をつがえた!

「うーで、あーし、むーねにあったま……全部潰す!………制圧射撃!!まだまだ行くよ♪三連射撃!!精密射撃!!アン・セルヴォ!!」

神速で放つエヴリーヌの弓矢の動作は空気を斬り裂き、次々と敵の屍を積み上げて行った!

「………罪人を処断せし聖なる光よ!我が仇名す者に裁きの鉄槌を!贖罪の光霞!!」

「キャハッ♪凍え死んじゃえ♪氷垢螺の吹雪!!」

そしてさらに放ったリフィアとエヴリーヌの魔術は大量の敵の屍を作った!

「ふははははー!哭千陣の時の事を思い出すな?エヴリーヌ!!」

「キャハッ♪そうだね♪………でも、あの時と違ってお兄ちゃん達やプリネ達もいるからもっと楽しくなって来たよ♪」

不敵な笑みを浮かべているリフィアの問いにエヴリーヌは遠足に行くような気分の笑顔で答えた。

「うむ!リウイ達に余達が成長した証を見せるためにも、リウイ達より多く敵を撃破するぞ、エヴリーヌ!!」

「その提案、賛成~!!………行っくよ~!エヴリーヌの敵はみんな消えちゃえ!ゼロ・アンフィニ!!」

「これが余に秘められし真なる力!究極なる光!……………クロースシエル!!」

可愛らしい容姿をしながら容赦のない攻撃に魔物達は悲鳴をあげながら消滅していった。



「神聖なる力よ!エクステンケニヒ!!」

「行くぞ!玄武の鋼撃!!」

一方リウイとウィルは肩を並べて、敵を倒していた。

「ほう…………職人のわりにはなかなかやるな。」

「ハハ………買被りすぎだよ。俺の腕ではユエラ達の足を引っ張らないよう、精一杯だよ。………こういった小手先の物を使わないと、彼女達の足を引っ張るしね。」

リウイの感心した言葉にウィルは苦笑しながら答えた。そしてウィルは懐から絵札を出して、絵札に魔力を込めた!

「焼き尽くせ!!」

ウィルが絵札に魔力を込めて叫ぶと、絵札が光り、複数の敵にいきなり炎が発生して、敵を焼き尽くした!

「今のは”轟炎の絵札”か。…………なるほど、道具を使って自分の足りない部分を補うか。悪くない考えだが、なぜその絵札からはまだ魔力が感じられる?絵札は一度放てば、力を失うはずだが………」

リウイはウィルの持っている絵札が使われたにも関わらず、絵札に秘められている魔力を感じ取って尋ねた。

「………これは俺の特別製で一度使っても、絵札に込められている魔力はなくならなく、永久的に使えるんだ。」

「何………!?」

ウィルの説明を聞いたリウイは驚いてウィルを見た。

「…………とは言っても、一度放てば少しの時間が必要だから、連発できないし、これを作るには超貴重品な”神珠”がないと作れないからね………量産や販売はしていないんだ。」

「…………………………」

驚いて黙っているリウイにウィルは苦笑しながら答えた。

「…………お前はその絵札の危険性に気付いているのか?」

リウイはウィルに静かな声で問いかけた。

「勿論。………絵札は魔術を使えない人でも魔術を放てる道具だ。こんなのが出廻ったら戦争とかでも必ず使われるしね。………だからこの絵札のレシピは公開していないし、俺の頭の中だけに秘めて、墓まで持って行くつもりだよ。」

「”創る”者だからこそ、わかる未来か……………ウィルフレド・ディオン、一つお前に聞きたい事がある。」

「ん?改まってどうしたんだい?」

リウイの問いかけにウィルは首を傾げて尋ねた。

「…………何故お前は他種族との共存を謳う?お前が謳う種族の中にはお前達人間が恐怖を抱いている、俺達”闇夜の眷属”も含まれているのだぞ?」

「闇夜の眷属とか、そんなのは関係ないよ。」

「何?」

「………ユイドラは全ての種族によって成り立つ街さ。闇夜の眷属とかエルフとか、そんなの関係ないよ。現に最初は悪さをしていたシャルティとかも、俺との約束は律儀に今でも守ってくれているよ。」

「…………………………」

ウィルの話にリウイは驚いて黙って聞いていた。

「それに俺はセラウィと”約束”した。ユイドラを俺達の子供が、全ての種族が住みやすい環境にしようって。………だから俺は精一杯生きて、みんなのために頑張っているんだ。………俺が死んだ後もセラウィがずっと覚えていてくれて、ユイドラを見守ってくれるさ。」

「……………そうか。それがお前の”道”か。フッ…………リフィア達の話を聞いて似ていると思ったが、まさかここまで似ていたとはな………」

リウイは愛妻イリーナと誓った理想の時を思い出し、またイリーナを亡くしても、イリーナと誓った理想のために覇道を歩み続けている自分とウィルを照らし合わせ、口元に笑みを浮かべた。

「え?」

リウイの言葉を聞いたウィルは首を傾げた。

「………こちらの話だ。気にするな。それより次が来るぞ。」

「ああ、わかっている!援護するよ、リウイ!超絶強化呪付!!」

リウイの警告に頷いたウィルは魔術でリウイの身体能力を強化した!

「我が奥義にて、滅せよ!フェヒテンカイザ!!」

ウィルによって強化された身体でリウイはSクラフトを使って、次々と敵を殺して行った!

「みんな、ユイドラを………家族を護るためにこの調子で行くぞ!!全員無事でユイドラに戻ろう!!」

「敵の数は多いが雑魚共ばかりだ!ユイドラ兵よ!故郷を、家族を護るためにも何人たりとも領主に遅れるなっ!!」

「オォォォオオォォォォォォオオオォォッッッ!!!!」

匠王と覇王、2人の”王”の叱咤激励にユイドラ兵達は武器を掲げて、勇ましい雄叫びをあげ、今まで以上に奮戦した………………!







 

 

外伝~奇跡の共闘~後篇

敵の数は多かったが、ウィル達のように連携はとれていなく、対するウィルやリウイ達は歴史に残る戦いを生き抜いた英傑揃い。魔物の軍団はそれぞれ、ウィルやリウイ達の仲間によって数を激減させて行った!



~工匠都市ユイドラ・近郊~



「思いしれ!夢幻天翔!!」

「行きます!フェヒテンバル!!」

「超!ねこ、パ~ンチ!!」

「貫け!アイスニードル!!」

「喰らえー!破滅の轟雷!!」

「うふふ……死んじゃえ!玄武の鎌撃!!」

「光よ、集え!光霞!!」

ユエラ達が援護していた右翼はユエラとエミリッタ、そして途中参戦したプリネ達によって、右翼を襲っていた敵は全滅し

「超!絶!ねこ………パ~ンチ!!」

「それぇっ!冥府斬り!!」

「遊びは終わり!ゼーレラオベン!!」

「ハァァァァァァ!暗礁!電撃剣!!」

最前線で戦っていたシャルティ達も敵を全滅させ、

「光よ!今ここに集いて、明日を斬り開く道標(みちしるべ)となれ!………行けっ!彗星の光剣!!」

「裁きを受けよっ!贖罪の光霞!!」

「マーズテリアよ………我が仇名す者達に聖なる刃を………!聖剣!!」

左翼を襲っていた不死者達はメロディアーナ達の聖なる技や魔術で消滅し

「わたくしの魔術、ご覧あそばせ♪イオ=ルーン!!」

「行きます………!水刃………!」

「風の精霊よ………我が呼びかけに応えよ!………大竜巻!!」

「大いなる闇よ……ティルワンの死磔!!」

フィニリィ、マーリオン、フォーチュラ、ペテレーネの魔術は敵の屍を山のように積み上げていき

「エヴリーヌ、行くぞ!」

「オッケー!!」

「「……我等に眠る”魔”の力よ、我等に逆らう者達に滅びを!………血の粛清!!」」

「ウィル!私達も!」

「ああ!!」

「「降り注げ!七色の矢よ!………ルン=アハト!!」

リフィアとエヴリーヌ、セラウィとウィルの協力技は魔物の屍をさらに増やし

「我が魔の力に呑まれよ!……魔血の目覚め!!」

リウイが放った大技で、魔物の軍団は完全に全滅した!



「ヤッタ~!あたし達の勝ちね!」

「………待て!あそこを見ろ!」

敵の全滅を確認して喜んでいるエミリッタに戦場の先から見えて来る何かの集団に気付いたユエラは忠告した。

「へっ…………?」

ユエラの忠告に首を傾げたエミリッタが先を見ると、なんとディアーネが先頭に立ち、大量の上級悪魔の軍団を率いていた!

「フン!調子に乗るなよ、人間共が!ここで貴様等の息の根を止めてくれる!」

援軍の登場に驚いているウィル達、ユイドラ勢を睨んでディアーネは高々と叫んだ。

「クッ………まさかここで敵の援軍が来るなんて…………」

援軍の登場にウィルは顔を歪めていた。

「…………ペテレーネ、できるか?」

「お任せ下さい、リウイ様。」

一方リウイは冷静にディアーネの軍団を見た後、ペテレーネに尋ね、ペテレーネは頷いた後身体全体に魔力を覆わせ、詠唱を開始した。



「………この感じ、ルティーナが真の姿を見せた時に感じた時と似ている………まさか、あの女性がやろうとしている事は………」

「今までとは比べ物にならないほどのこの魔力……それに神気がかすかに感じられますが……まさか!”神”を召喚するつもりなのですか!?」

魔力の流れが最も感じられるフォーチュラとセラウィは周囲から伝わって来る雰囲気に驚いた後、ペテレーネを見た。

「………混沌を司る我が主神よ………今こそ、ここに其の姿を現せたまえっ………!」

ペテレーネが叫ぶと、空が夜のように真っ暗になり、そして空間が歪み、そこから魔女が纏うような黒い衣装を纏った銀髪の女神――混沌の女神、アーライナが現れた!

「あれは…………!」

「このすさまじい魔力、それに神気………まさか”神”なのですか!?」

姿を現したアーライナをロカは驚いて注目し、メロディアーナはアーライナから感じられる自分達とは比べ物にならないくらいの魔力からアーライナの正体を見抜いた。

「ねえねえ、プリネお姉様!あの人、誰?レン達の中で一番魔力が高いママやリフィアお姉様とも比べ物にならないくらいの魔力が感じられるけど。」

一方レンはアーライナを見ても、恐れを抱かずプリネに尋ねた。

「あれは恐らく混沌の女神、アーライナ様よ。………お母様が召喚したのね。」

「なんだと………!」

「嘘!?神様を召喚するって、貴女のお母さん、どれだけ凄いのよ!?」

プリネの説明を横で聞いていたユエラは驚き、エミリッタも驚いた後、プリネを見た。

「お母様は術者として、最高峰に値する方ですから………それに加えて”神格者”でもありますし。」

「”神格者”!?それってまさか………!」

「………聞いた事がある。神に選ばれた者だけが授かるという力………その存在になれば、不老不死の存在になれると聞いたが………」

恥ずかしそうに説明するプリネを見て、エミリッタは信じられない表情で驚き、ユエラは呟いた後、プリネを見た。

「ええ。おっしゃる通り、お母様は不老不死の存在です。」

「ふえ~………まさかそんな存在があたし達の近くにいるなんて思わなかったわ…………………………」

プリネの話を聞いたエミリッタは驚いた後、考え込んでいた。

「どうしたんだ、エミリッタ。そんなに考え込んで。」

エミリッタの様子を見たユエラは首を傾げた後、尋ねた。



「あ……うん。ウィルが”神格者”になれば、セラウィが女性として最高の幸せを手に入れられるのになって、ちょっと思っちゃった…………」

「……………そうか。」

エミリッタの話を聞いたユエラは目を伏せた。そして2人はアーライナを注目した。

「アーライナ様…………裁きをっ!!」

ペテレーネが叫ぶと、ペテレーネの願いに答えるかのようにアーライナが片手を震った!すると空を覆うほどの無数の暗黒の槍が現れ、アーライナがもう一度片手を震うと無数の暗黒の槍が雨のようにディアーネ達に降り注いだ!!

「何!?」

自分達に襲う無数の暗黒の槍に驚いたディアーネは結界を貼って防御した。ディアーネの部下達も結界を貼る等して、防御したが神が放つ魔槍には効果を示さず、結界ごと貫かれて絶命していった!魔神であるディアーネだけは無事であったが、完全に防御が仕切れず、身体の到る所が傷ついていた。

「ひゅ~!相変わらず、凄いわね。」

「ええ。神を召喚する技量…………称賛に値するわ。」

アーライナの攻撃にカーリアンは感心し、ファーミシルスはアーライナを召喚したペテレーネを感心していた。

「す、凄い…………」

(ほう……まさか混沌の女神を召喚するとはな…………あの者、かなりの術者にようだな……)

ウィルはその様子を驚いて見ていた。また、ウィルが付けている腕輪から様子を見ていたアスモデウスは感心していた。

「………………………」

アーライナはウィルに一瞬だけ目をやった後、現れた時と同じように空間を歪ませ、姿を消した。アーライナが去ると、空も青空に戻った。

「よくやった、ペテレーネ。」

「はい、ありがとうございます…………」

リウイはペテレーネの頭を撫でながら褒め、褒められたペテレーネは恥ずかしそうにしながらも幸せそうな表情で答えた。

「おー。久しぶりに見たね、ペテレーネのアーライナの召喚。相変わらず凄い威力だね、キャハッ♪」

「うむ!さすがはペテレーネだ!余もペテレーネのような臣下を手にれなくてはな………!」

エヴリーヌの言葉にリフィアは胸を張って答えた。



「クッ………神を召喚するだと………!?待て、確かこんな真似ができる奴が一人いたぞ………!奴がいるという事はまさか………!」

一方ディアーネは身体に伝わる痛みに呻きながら、アーライナを召喚できた人物を一人知っており、その人物の傍にいるであろう人物を思い浮かべた時

「その通りだ。………久しぶりだな、ディアーネよ。」

「やっほ~。久しぶりだね、ディアーネ。」

リウイがディアーネに近付いて来た。また、エヴリーヌとリフィアもリウイに付いて来ていた。

「リウイ王!それに貴様はエヴリーヌ!なぜ貴様等がここにいる!?」

リウイ達の登場に驚いたディアーネはリウイ達を睨んだ。

「…………ユイドラにはある用事があってな。まさかお前がここにいるとは思わなかったぞ、ディアーネ。…………相変わらずの様子だな。」

「フン!エヴリーヌと共に我をあざ笑いに来たのか!」

リウイの言葉にディアーネは鼻を鳴らして答えた。

「生憎だが、俺はお前に用はない。」

「なんだと?」

リウイの言葉に首を傾げているディアーネの所にリフィアが進み出た。

「お前がエヴリーヌ達と同じ”深凌の楔魔”の序列第9位に値する魔神ディアーネか。」

「黙れ!貴様は何者だ!!」

「余か?余の名はリフィア・イリーナ・マーシルン!!リウイとシルフィア様の孫だ!!」

「何…………!?」

高々と名乗るリフィアを見て、ディアーネは驚いてリフィアを見た。

「ディアーネよ。余の使い魔になれ。そうすれば、ユイドラを襲った件に関しては余達がウィルに謝罪しておこう。」

「この我を使い魔にするだと………!?ふざけるな!!」

リフィアの提案にディアーネは怒鳴った後、片手を震って、魔術でできた槍――封印王の槍を放ったが

「甘いわ!死愛の魔槍!!」

リフィアが放った魔術によって、ディアーネが放った魔術の槍は真っ二つに割れ、ディアーネの目の前で突き刺さった!!

「バカな…………!」

「これで余の力はわかっただろう?大人しく、従順せよ!」

自分の魔術が破られた事に驚いているディアーネにリフィアは威厳を纏って答えた。



「………………………………クッ………………………勘違いするな?今の我は万全ではない!我が万全であれば、貴様ごときすぐに滅してやるものを………!」

「フム。ならば万全の貴様を倒せば、余を認めると言うのだな?」

「……………………フン。……………だが、この我が貴様ごときに膝を折る訳がない。」

(あ~あ…………ディアーネ、自分で墓穴を掘っちゃったよ………………)

リフィアとディアーネの会話を聞いていたエヴリーヌはディアーネを哀れんでいた。

「フム。ならば最高の状態でもう一度、勝負だ!その時、貴様が負ければ大人しく余の使い魔になるがよい!」

「おい、何を言っている。リフィ………」

リフィアの提案を制しようとしたリウイだったが

「いいだろう!首を洗って待っているがよい!!」

時既に遅く、ディアーネはリフィアを睨んだ後転移魔術を使って、その場から消えた。

「…………………遅かったか………………」

「あ~あ。エヴリーヌ、し~らないっと。」

転移したディアーネを見てリウイは頭痛を抑えるかのように頭を抑えて溜息を吐き、エヴリーヌは呑気に呟いていた。

「えっと……………よくわからないけど、ディアーネってもしかしてリウイ達の知り合いなのかい?」

そこにいつの間にか近付いて来たウィルが遠慮気味にリウイ達に話しかけて来た。

「……………そんな所だ。それより奴は去った。兵達を安心させた方がいい。」

「そうだね。………みんな!魔神は去ったぞ!!俺達の勝利だ!!」

「オォォォオオッッッ!!!!」

ウィルの勝利宣言にユイドラ兵達は勝利の喜びの雄叫びをあげた。

「リフィア達も手伝ってくれてありがとう。もしよければ、俺の家に来てもらってもいいかな?手伝ってくれたお礼もしたいし、それにディアーネとの関係も聞きたいし。」

「うむ!」

「ねえねえ、ウィル。温泉ってまだある?」

ウィルの提案にリフィアは頷き、エヴリーヌはある事を思い出して尋ねた。

「ああ。温泉もそうだけど、家も以前君達が訪れた時よりもっと大きくなっているよ。………それとリフィアやリウイ達の宿の手配は俺がしておくよ。」

「うむ。快く、お前の好意を受け取っておこう。リウイもよいな?」

「ああ。」

リフィアに尋ねられたリウイは頷いた。そしてウィルは握手を求めるかのように、リウイの前に手を差し出して言った。

「ようこそ!ユイドラへ!!」

こうしてリウイ達はウィル達と共にユイドラに向かった。



一方その頃、エステル達はジェニス王立学園に到着した……………


 

 

第16話

~ジェニス王立学園~



「ほう、ここが王立学園か。ほころぶ直前の蕾たちが青春の汗と涙を流す学び舎……。フフ……実に素晴らしいじゃないか。」

「さぞかし撮りがいのある被写体が揃ってそうですね~。これを機会に撮りまくらないと~。」

学園に到着したオリビエとドロシーは観光気分の発言をしていた。

「あのな、俺たちはあくまで幽霊騒ぎを調べに来たんだっての。わかってんのか、そこんとこ?」

それを見たアガットは呆れた表情で注意した。

「でも、何だか懐かしいな……。この学園で過ごしたのはたった一週間くらいだったけど……」

「うん。ミントも毎年ある学園祭にいっつも来てたもの。本当に懐かしいよ………」

学園に思い出のあるエステルとミントは懐かしそうに学園を見まわしていた。

「ま、それだけ濃い時間を過ごしたってことだろ。何でも学園祭の劇に出演したらしいな?」

「あ、ナイアル先輩に聞いたよ~。エステルちゃん達が騎士で、ヨシュア君がお姫様だったんでしょ?あーあ、写真撮りたかったなぁ。」

アガットの言葉に反応したドロシーが楽しそうな表情で言った。

「うん、そうだよ!ママとクロ―ゼさん、プリネさんの騎士姿、とっても似合っていたし、ヨシュアさんもお姫様がすっごく似合っていたよ!」

「なに……それは本当かい!?」

ドロシーの言葉とミントの感想を聞いたオリビエは血相を変えて尋ねた。

「うん。役割に対する性別を逆転させた劇だからあたしとクロ―ゼ、プリネが騎士役でヨシュアがお姫様役だったわ。」

「おお、なんたることだ!ヨシュア君の艶姿を見逃すとは!何としても彼を見つけてもう一度着てもらわなくてはっ!」

「はあ、感傷に浸ってるのが馬鹿馬鹿しくなってくるわね。そういえば、試験期間だってテレサ先生が言ってたけど……。まだ終わってないのかしら?」

オリビエの様子を見て呆れたエステルが学園を見て呟いたその時

「ピューイ!」

鳥の鳴き声が聞こえて来た。



「あ!この鳴き声って!」

「ジーク!?」

ミントの言葉を続けたエステルに白ハヤブサ――ジークが飛んで来てエステルの肩にとまった。

「ピュイピュイピュイ!」

「ジーク君、こんにちは!久しぶりだね!」

「あはは……。何言ってるのか分からないけど歓迎してくれているみたいね。久しぶり、元気にしてた?」

嬉しそうに鳴いているジークにミントは元気に挨拶をし、エステルは苦笑した後尋ねた。

「ピューイ♪」

エステルの疑問に答えるように、ジークは嬉しそうに鳴いた。

「……エステルさん……ミントちゃん…………」

「あ……」

その時、クロ―ゼがやって来た。またクロ―ゼの横にはハンスやジルもいた。

「クローゼ……。えへへ……生誕祭以来ね。」

「こんにちは、クロ―ゼさん!」

「はい……そうですね。……あの……私……。…………私………………」

クロ―ゼは泣きそうな表情でいきなりエステルに抱きついた。

「わわっ……。どうしたのクローゼ?」

「クロ―ゼさん、どこか痛いの?」

抱きついて来たクロ―ゼにエステルは驚いた後、尋ね、ミントも泣きそうな表情のクロ―ゼを見て尋ねた。

「ごめんなさい…………本当にごめんなさい……。エステルさんたちが大変な時に私……なんにも出来なくって……。自分の力不足がイヤになります……」

「やだな……。そんなこと言わないでよ……。そんな風に思ってくれただけであたしは嬉しいから……。ヨシュアだってきっと同じだと思うから……。とにかく……また会えただけでも嬉しいよ……」

「はい……私も……。こうして再会できただけでも女神達に感謝したい気分です。」

「まったくも~。2人とも大げさなんだから。久しぶりね、エステル。それにミントちゃんも。生誕祭の時に会って以来かな?」

エステルとクロ―ゼの様子を茶化したジルはエステルとミントを見た。

「こんにちは~!ジルさん、ハンスさん!」

「うん、そうだね。ハンス君も……お久しぶり。」

「ああ……そうだな。色々と話したいんだが……今は後回しにしておくとするか。遊撃士の仕事で来たんだろう?学園長のところに案内するよ。」

そしてエステル達は学園長室に向かった。



~学園長室~



学園長室に入ったエステル達はコリンズに今までの事を説明した。

「なるほど、話はわかった。ルーアン地方の各地に現れる『白い影』がこの学園から来ているのだね?」

「はい、そうみたいなんです。」

「そこで、ギルドとしては学園内の調査をしたいんだが。生徒への聞き込みを含めて許可してもらえんだろうか?」

「お願いします、学園長さん!」

エステル達の話を聞き、頷いているコリンズにエステル達は調査の許可を頼んだ。

「いや、そういう事であればこちらからもお願いしよう。その『白い影』の正体はどういうものかは判らないが……。選挙にも影響を与えていると聞いては放ってもおけんだろう。」

「ホッ……。ありがとうございます。それで、学園で『白い影』みたいな怪しい噂が流れてたりしませんか?」

「いや……。私の所に報告は来てないな。生徒会の方はどうかね?」

エステルの疑問に首を横に振って答えたコリンズはクロ―ゼ達に尋ねた。

「うーん、こちらにもその手の話は来てませんねぇ。ただ、なにぶん、試験期間中でもありましたし。みんな、相談に来るような余裕がなかっただけかもしれません。」

「なるほど……ありえるな。」

「?どういうこと?」

ジルの話を聞き納得しているコリンズを見て、訳がわからなかったエステルは尋ねた。

「王立学園の定期試験は進級のかかる重要なものですから……。たとえ何かを見た生徒がいたとしてもとりあえず考えないようにして勉強に集中してしまうかもしれません。」

「確かに俺でもそうするね。目の錯覚にこだわるよりも一つでも多くの数式を頭に叩き込みたいところだ。」

クロ―ゼの説明に頷いたハンスは溜息を吐いた。

「ひえ~……。そういうものなんだ。」

「クロ―ゼさん、いつもそんなに頑張っていたんだ………」

「ふえ~、最近の学生さんはとても頑張り屋さんですねぇ。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルとミントは驚き、ドロシーは感心した。



「だけど、今日で試験期間も終わってみんな解放感に満ち溢れている……。そういった噂が出るとしたらまさに今日からなんじゃないか?」

「怪談めいた噂が広まったらどれが真実か分からなくなる……。目撃者本人から話を聞くには今がちょうどいいかもしれないね。」

ハンスの話に頷いたオリビエは珍しく真面目なことを言った。

「うむ、さっそく学園内で調査を始めるといいだろう。ジル君、ハンス君、クローゼ君も協力するといい。」

「はい!」

「わかりました。」

「とりあえず、調査をするならどこか拠点があった方がよさそうね。何か情報が入るかもしれないし、生徒会室がいいんじゃないかしら」

「サンキュー、助かるわ。」

そしてエステル達は生徒会室に向かった。



~生徒会室~



「さてと……。これで役割分担は決まりね。まず、私とアガットさんは職員室で先生方に聞き込み。続いて、その他職員方への聞き込み調査も行います。」

「おう、よろしく頼むぜ。」

ジルの役割分担にアガットは頷いた。

「ハンスは資料室で過去に似たような事件がなかったかどうかのチェック」

「了解だ。」

「エステルとクローゼとミントちゃんは生徒たちへの聞き込み調査。」

「オッケー」

「わかりました。」

「はーい!」

続くように言うジルの役割分担に呼ばれた人物達はそれぞれ頷いた。

「ドロシーさんとオリビエさんは感性の赴くままに学園内を散策。芸術家ならではの直感で何かを発見してみてください。」

「フッ、任せたまえ。」

「頑張っちゃいますね~♪」

そして最後に呼ばれたオリビエとドロシーはそれぞれ張り切っていた。

「各自、夕方までには調査を終わらせて戻ってくること。それでは解散!」

そしてエステル達を残して、それぞれの持ち場に向かった。



「はあ……。学園祭の時もそうだったけど相変わらず見事な手並みねぇ。普段はおちゃらけてるけど、さすが生徒会長なだけはあるわ。」

「ふわ~………ジルさんのあんな凄いところ………ミント、初めて見たよ!」

ジルの手並みにエステルは感心し、ミントは目を輝かせて感想を言った。

「ふふ……。将来はメイベル市長みたいな政治家になりたいそうです。10年早く生まれていたら今度の市長選にも立候補するのにって本気で悔しがっていましたから。」

「そ、それは凄いわね。」

「ミント、ジルさんが市長になるの賛成~!」

クロ―ゼの話を聞いたエステルは驚き、ミントははしゃいだ。そしてエステルはある事が気になって、尋ねた。

「そういえば……。ジルたちってクローゼのことどこまで知っているの?」

「ふふ……。ほとんど全部知っていますよ。入学してから半年くらいで2人に見抜かれてしまいました。他に、私が王族であることをご存じなのは学園長だけです。」

エステルの疑問――クロ―ゼがクロ―ディア姫である事をジル達が知っているかをクローゼは微笑みながら答えた。

「えええええ~!?ジルさん達、クロ―ゼさんの事を知っていたんだ!」

「そうなんだ……。それにしちゃ、2人ともクローゼに対して自然に付き合ってるわよね。」

クロ―ゼの話を聞いたミントは声を上げて驚き、エステルは普段のジルとハンスのクロ―ゼに対する接し方を思い出して言った。

「はい……エステルさんみたいに。みんな大切なお友達です。」

「あはは……。ちょっと照れるわね。さてと、学園内を回ってみんなから話を聞いてみよっか。『試験期間中、何か変なことはなかったか?』って聞けばいいよね?」

「はい、そう聞いた方がみんな判りやすいと思います。あと、寮に帰ってしまった生徒からも聞いてみた方がいいかもしれません。」

「ん、オッケー。それじゃあ、聞き込み開始!」

「はーい!」

そしてエステル達は生徒達の聞き込みを開始した……………


 

 

第17話

生徒達からさまざまな新たな情報を入手したエステル達はふと、講堂に立ち寄って講堂の舞台に登った。



~講堂~



「あ……」

舞台に登ったエステルは舞台から観客席だった場所を見下ろした。

「………………………………」

「……おかしいですよね。数ヶ月前のことなのにとても懐かしく感じます……」

「うん……」

「ママ達の騎士姿やヨシュアさんのお姫姿……ミント、今でも覚えているよ!」

クロ―ゼの言葉にエステルは頷き、ミントも答えた。

「あれから本当に色々なことがあって……。澄ました顔でお姫様をやってたヨシュアは居なくなって……。そして観客だったミントがこうしてあたしの隣にいる…………今、あたしたち3人だけでこの舞台にいる……。何だか不思議な気分かも。」

「うん。そうだね、ママ。」

「そうですね……。ねえ、エステルさん、ミントちゃん。一つ白状してもいいですか?」

「え……?」

「ほえ………?」

舞台の縁側に座りながら語り合っていたエステル達だったが、クロ―ゼの言葉に驚いて2人はクロ―ゼを見た。

「私……ヨシュアさんが好きでした。初めて会ったときからとても惹きつけられるものを感じていたんです。」

「ええええ~!?」

「………………………………。……そっか。あはは、やっぱりね。そんな気はしていたけど……」

クロ―ゼの告白を聞いたミントは驚いて声を出し、エステルは逆に納得しているような様子で答えた。

「最後のキスシーンなんてすごくドキドキしたんです。エステルさんに申しわけないと思いながらも演技に熱が入ってしまって……。フリじゃなくて、本当に唇を奪いそうになってしまいました。」

「そ、そうなんだ……。クローゼって意外と大胆っていうか……」

「クロ―ゼさん、ヨシュアさんの事、それだけ好きだったんだ…………」

クロ―ゼの話を聞いたエステルは顔を赤らめ、ミントは驚いてクロ―ゼを見ていた。



「ふふっ、ユリアさんによれば私の行動にはいつもヒヤヒヤさせられるそうです。でもあの時……ダルモア市長がエステルさんに銃を突きつけた時……。ヨシュアさん……本当に恐い目をしていた……。どれだけエステルさんのことを大切に思っているか判りました。それで、これは見込みがなさそうだなって諦めたんです。………プリネさんでさえ勝てないのに、私なんかが勝てる訳ないですよ。」

「う、うーん……。あたしが言うのもなんだけど諦めるのは早いんじゃないかなぁ。クローゼとあたしじゃ正直、勝負になんないと思うし……ましてやプリネなんか、比べる方がおかしいし…………プリネ、美人でスタイルもいいし、性格もそうだけど、旅をしている時に作ってくれた料理も凄く美味しかったし。………まさに女性の鏡じゃない。」

「そうかな~?ママ、プリネさん達に負けないほど、一杯魅力があると思うけどな………」

「フフ………さすがにミントちゃんはわかっていますね。それにしても、エステルさんって本当にそういう事に疎いんですね。自分がどれだけ魅力的かいまいち自覚してないんですもの。」

「う……。何だかバカにしてるでしょ?」

微笑んで自分を見ているクロ―ゼにエステルはジト目で睨んで尋ねた。

「ふふ、とんでもないです。私、エステルさんのそういう所が大好きですし……。たぶん、ヨシュアさんも同じだったんだと思います。その意味では、私とヨシュアさんは似た者同士なのかもしれませんね。」

「あ……言われてみればちょっとそんな感じがするかも。頭が良くて礼儀正しいところとか涼しげなところとか……。だから最初、お似合いだとかヨシュアを(そそのか)したんだけど……」

「私は先生たちと出会うまで孤独な日々を過ごしていました。多分、ヨシュアさんもエステルさんと出会うまでは同じだったのかもしれません。私とヨシュアさんが違うとすれば……それは強さだと思います。」

「強さ?」

「ほえ?」

クロ―ゼの言葉を聞いたエステルとミントは首を傾げた。

「お祖母さまは、次期国王に私を指命しようとなさっています。状況を考えるとそれが最善だとは思いますが……。だけど、女王になれば私は2度と『クローゼ』には戻れない。大きな権力と責任を持つ『クローディア・フォン・アウスレーゼ』として生きていくしかありません。こうして友達と気軽に話したり、先生に甘えたり、あの子たちを抱き締めてあげることもできない……。それが恐くて……。そして、孤独に戻る恐さを感じてしまう自分が情けなくて……。いまだにお祖母さまにはっきり返事ができていません……」

「クローゼ……」

「クロ―ゼさん…………」

辛そうな表情をしているクロ―ゼを見て、エステルとミントはかける言葉がなかった。



「その点、ヨシュアさんは私なんかよりも強いと思います。誰よりもエステルさんから離れたくなかったはずなのに……。それでも、エステルさんを自分の事情に巻き込まないために姿を消したんですから……」

「……確かにヨシュアは強いよ。でも……それは間違った強さだと思う。」

「え……?」

「ママ?」

クロ―ゼの言葉を肯定したエステルだったが、静かに否定し、それを聞いたクロ―ゼとミントはエステルを見た。

「一国を治める女王様だもん。クローゼが悩むのも当然だよ。不安に思うのは当たり前だし、思わなかったらおかしいと思う。そんな風に悩んで、それでも答えを出そうとしているクローゼだからこそ、あたしは女王様にふさわしいと思う。リフィアみたいに、みんなに愛される女王様になれると思う。」

「エステルさん……」

「だけどヨシュアは……。ヨシュアは悩まなかった。悩みもせずに、さも当然のようにあたしたちの前から姿を消して……。あたしね……それが一番、許せないんだ。」

「エステルさん……。……そうですね。ちょっと許せませんよね。女の子の気持ちを何だと思ってるのかしら。」

「そうだよ~!ママ、頑張って告白したのに!それにミントももうすぐパパができると思って、すっごく楽しみにしていたのに~。」

エステルの言葉にクロ―ゼは頷き、ミントも頬を膨らませて頷いた。

「ぷっ……」

「ふふっ……」

「えへへ………」

そして3人は顔を合わせて笑った。

「あたし、クローゼと友達になれて本当によかった。ここまで本音で話せる人ってなかなかいないと思うし……」

「ふふ、私もです。恥ずかしいことばかり語ってしまいましたけど……。えっと、誤解しないで下さいね?私、ヨシュアさんのこと、今ではそんな風には思って……」

「ああ、いいっていいって。好きって気持ちが抑えられるものじゃないってあたしにもようやく判ったし。それに、こういうのも何だか青春っていう気がしない?」

遠慮しようとしているクロ―ゼにエステルは苦笑しながら制した。



「もう、エステルさんったら……。うーん、気持ちが残っていないと言えばウソになりますけど……。それ以上に、お2人のことを応援したい気持ちが強いというか……」

「うんうん、分かってるって。……さてと、すっかり話し込んじゃったね。生徒への聞き込み、続けよっか?」

「あ、そうですね。夕方になる前に回りきってしまいましょう。」

「はーい!」

そして聞き込みを再開したエステル達はさまざまな事を聞き、気がつくと夕方になっていたのでアガットやオリビエ達の情報を照らし合わせるために、一端生徒会室に向かった。



~生徒会室~



「あ、戻ってきたわね。それじゃあ一旦、各自報告をするとしましょ。」

生徒会室に戻って来たエステル達を見て、ジルは既に戻っていたアガットやオリビエ等を見まわして言った。

「各職員から話を聞いてみたが……。用務員が学園の敷地内で怪しい人影を目撃したらしい。旧校舎に通じる裏門のところでいきなり消えちまったそうだ。」

「他の先生方はテストの準備で忙しくて特に気づいた人はいなかったみたい。学食のおばさんと受付のファウナさんからも大した情報は得られなかったわね~。」

「なるほど…………あたしたちは、3人の生徒から気になる証言を聞いたんだけど……」

アガットとジルの情報を聞いたエステルはミントとクロ―ゼと一緒に、ある3人から『白い人影』が現れ、そして全て旧校舎の方に向かった事で終わった事を話した。

「どの証言も、校舎の裏手―――すなわち、旧校舎が鍵になっています。偶然にしては気になる符号ですね。」

アガットや自分達の情報を纏めたクロ―ゼはある共通点がある事に考え込んだ。

「それじゃあ、わたしの成果を発表しますね~。生徒・職員の方々を30枚、学園内の風景を50枚も撮りました~。えへへ。どれも可愛く撮れたと思うよ~。」

「ボクもの方も残念ながら大した収穫はなかったよ。フッ、リュートを演奏したら可愛い仔猫ちゃんたちがいっぱい集まってきたけどね。」

「もう、2人とも全然調査になってないじゃないの。あんまり期待もしてなかったけど……」

そこにドロシーとオリビエが雰囲気を壊すような関係のない話をして、エステル達を脱力させた。

「最後は俺か。過去の資料をあたって同じような事件がないかどうか調べてはみたんだけど……。この学園、建物自体は新しいから怪談めいた話は意外と少なくてね。それも大体が旧校舎に集中してたよ。」

「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」

ハンスの説明を聞き終えたエステル達はある事に気付いた。



「どう考えてもその旧校舎ってのが怪しいな。いったいどういう建物なんだ?」

「裏門の奥にある築数百年の古い建物ですよ。20年前まで使われていて、こちらの新校舎が建造されてからは閉鎖されているんですけど……」

「あれ、学園祭の時には旧校舎の中に入れなかったっけ?」

アガットに旧校舎の事を説明しているジルの話を聞いて、ある事に気付いたエステルは尋ねた。

「あの後、魔獣が入り込んだりして危険だから裏門が施錠されたんです。2、3ヶ月は放置されたままだと思います。」

「フッ……。数百年の石造りの建物か。亡霊が住みつくにはピッタリのロケーションだね。」

「うーん……。正直、気は進まないけど他に手がかりも無さそうだし。……今日はもう遅いから明日の朝にでも調べてみない?」

「おや、エステル君。どうして遅いことがあるんだい?」

エステルの提案に首を傾げたオリビエはエステルに尋ねた。

「だ、だって、もうすぐ夜だし、魔獣もいて危険かもしれないし。昼間ですら薄気味悪いのに夜なんかに入った日には……」

「フッ、それがいいんじゃないか。肝試しといえば真夜中。幽霊の正体を掴むのにこの上ない時間帯と言えよう。」

「うんうん。やっぱり心霊スポットの取材に夜は欠かせませんよね~。」

慌てているエステルをオリビエやドロシーは気にせず、行く気満々である様子を見せた。

「ママ………ミント、怖いけど遊撃士としてお化けさんの正体を掴むために頑張るよ!」

「ったく、まだ渋っているのかよ…………ガキがここまで言っているんだから、保護者のお前がしっかりしなくてどうする。」

「う、うーん……。あれっ……」

ミントとアガットの言葉に悩んだエステルは窓に目を向けた時、ある事に気付いた。



「エステルさん?どうしたんですか?」

「うん……。窓の外に何か見えたような。」

クロ―ゼに尋ねられたエステルは答えた後、窓の縁に近寄って、窓の先を見た。

「白っぽい影だったからジークだと思うんだけど……。………………………………白い影?」

エステルが窓の先を見るとそこには仮面をかぶり、白いマントを着た人物が宙を舞っていて、エステルに気付くとお辞儀をした後、旧校舎のほうに飛んでいった。

「………………………」

「エステルさん?どうなさったんですか?」

「ママ?顔が真っ青だよ?どこか具合が悪いの?」

エステルの様子を見て心配したクロ―ゼとミントは尋ねた。

「あは……あはははは……。う、う~ん……」

そしてエステルは笑いながら崩れ落ちて気絶した。

「お、おい!?」

「ママ!?」

「エステルさん!大丈夫ですか!?」

崩れ落ちたエステルを見てアガット達は驚いた後、駆け寄り、そしてアガットがエステルを寮のベッドまで運んだ。



~女子寮~



「……テルさん……。エステル……きて……」

「………マ……目………さま………」

「ん……。あれ……」

途切れ途切れに聞こえて来る2人の声にエステルは目を覚ました。

「あ、エステルちゃん!」

「ママ!!」

「よかった……。目を覚ましたんですね。あの、気分はどうですか?」

エステルが起きた事にドロシーとミントは喜び、クロ―ゼは尋ねた。

「うん……悪くないけど。……………あれ……ここ女子寮よね?どうしてこんな所で……」

そしてエステルはベッドから身を起こしてベッドから離れた。ベッドから離れたエステルはすぐに直前にあった事を思い出した。

「あ、あたし!窓の外に『白い影』を見て!それでっ……!」

「はあ……。やっぱり幽霊を見たわけね。」

「ママ、お化けさんを見たの!?」

エステルの説明を聞いたジルとミントは驚いた。

「エステルさん……。その『白い影』というのはどのような姿をしていましたか?」

一方クロ―ゼは冷静な様子で尋ねた。

「う、うん……。古めかしい衣装を着た、仮面をかぶった男の人で……。白くてボーッと光りながら空中をくるくる踊っていて……。旧校舎の方に飛んで行っちゃった。」

「ポーリィが見た時と同じだ………」

「ふえ~、ずいぶん楽しそうな幽霊さんだねぇ。」

「各地で目撃されたという『白い影』の証言と同じですね。」

「それに、やっぱり旧校舎か。」

エステルの説明を聞いたミントとドロシーは呆け、クロ―ゼとジルは顔を見合わせた頷いた。



「……談じゃないわよ。」

「へっ……?」

「ママ?」

「幽霊だか何だか知らないけど上等じゃない……。ふざけた格好で人を脅かして気絶までさせてくれちゃって……。この落とし前、絶対に付けてやるんだからっ!」

「お、落とし前って……」

「エステルちゃん。幽霊苦手じゃなかったの~?」

エステルの様子を見たジルは驚き、ドロシーは尋ねた。

「あたしが幽霊が苦手なのは居るかどうかわからないから!こうして目撃しちゃった以上、今さら恐がるものですかっ!2度と化けて出てこないようとっちめてやるわ!」

「うーん、逞しいというか、ズレてるっていうか……」

「ふふ……。さすがエステルさんですね。」

「ふわ~………ママ、カッコいい!」

エステルの言葉を聞いたジルとクロ―ゼは苦笑し、ミントは尊敬の眼差しでエステルを見ていた。



その後アガット達と合流したエステル達はジル、ハンスとは別れ、クロ―ゼ、ドロシーを連れて旧校舎に向かった…………








 

 

第18話

旧校舎に到着したエステル達はドアに挟まっているカードを見つけて、カードに書かれている意味深な言葉を推理して探索しているとさらにほかのカードがあり、カードをどんどん探して行くと最後には地下への階段を見つけ、エステル達は地下に降りて、進んだ。



~旧校舎・地下~



エステル達が最初の部屋を抜けるといきなり霧のような魔獣が複数現れた!

「えっ……」

「チッ……いきなりかよ!」

「ドロシーさんは下がって!」

「了解~!ミントちゃん達も気をつけてね~!」

そしてエステル達は戦闘を開始した!

「オラァッ!!」

アガットは先制攻撃をしたが、攻撃はすり抜けた。

「何!?チッ。物理は聞きにくいタイプか。」

自分の攻撃がすり抜けた事に驚いたアガットだったが、すぐに状況を理解して舌打ちをした。

「だったら魔法攻撃よ!光よ、槍と化して、敵を貫け!……光槍!!」

エステルが魔術を放つと、魔術によってできた聖なる槍が魔獣の一匹を貫き、そして爆散させた!

「………冷気の雨よ、降りそそげ!………ダイヤモンドダスト!!」

「……開け、黄泉の門!ヘル・ゲート!!」

そしてエステルに続くようにクローゼやオリビエがアーツを放って、ダメージを与えた!

「えいっ!!」

そしてミントがクラフト――ピアスドライブで一匹に止めをさした。

「へっ!?なんでミントの剣はあんなあっさり通ったのかしら?」

(攻撃が通って、当然よ。)

(ニル?ミントの攻撃が効いた理由がわかるの??)

ミントの物理攻撃が効いたことに驚いているエステルにニルの念話がエステルの頭の中に響いて、エステルはニルに尋ねた。

(ミントの持っている剣はエステルも知っていると思うけど、ニル達の世界で作られた魔術効果を秘めた剣よ。加えて”アーナトス”は光――神聖属性の秘印術が込められた剣。相手が霧のような不定形には効果が倍増する上、必ず命中させる効果を持っているわ。)

(そっか。………あれ?じゃあ、なんでアガットの剣はすり抜けたの??アガットの剣もミントが持っている剣と同じなのに………)

ニルの説明に納得しかけたエステルだったが、ある事に気付いて首を傾げた。

(”アーナトス”が他の武器と違って、普段から魔術効果を発しているのもそうだけど、あなたやミントと違って、あの青年は魔力や闘気を流し込んでいる訳ではないからね。それだとただの物理攻撃になってしまうわ。)

(え………じゃあ、魔力や闘気とか込めたら、アガットやクロ―ゼもあたし達みたいに魔術効果を込めた攻撃ができるの!?)

ニルの説明に驚いたエステルは尋ねた。



(さすがにあなたの魔術を込めた技みたいな威力は出せないけど、少なくとも魔力か闘気………どちらかを込めれば武器に込められている属性を呼び起こせるわ。)

「そっか、ありがとう、ニル!」

「おい、エステル!さっきからそこに突っ立ているようだが、何をしているんだ!戦闘中だぞ!!」

エステルがニルにお礼を言ったその時、ニルと念話をしていた事がわからないアガットはエステルを注意した。

「ごめん、アガット!ミントの剣が簡単に通った事をニルに聞いていたんだ!」

「ハァ?誰だそれ??」

「もしかして………念話で聞いていたんですか!?」

ニルの存在を知らないアガットは首を傾げ、クロ―ゼは察しがついて尋ねた。

「うん。ミントの剣には霧を振り払う光の魔術が込められているからああいった魔獣にも効くみたいだって!」

「ミントの剣、そんな効果があったんだ!」

「フム。ならばミント君をサポートする形でいいかな?」

エステルの説明にミントは驚き、オリビエは感心した後尋ねた。

「ううん。それよりいいやり方があるわ!アガット!クロ―ゼ!2人ともクーデター事件の時以降、武器を変えていないよね?」

「ええ。私はエステルさん達みたいに、普段から戦う訳でもないので………」

「俺もだ。この剣、思った以上に使いやすい上威力があるからそのまま使っている。」

エステルの質問にクロ―ゼとアガットは戸惑いながら答えた。



「そっか。ニルが言ってたんだけど、2人の剣もミントと同じ魔術効果を込められている剣だから、闘気や魔力とか込めたらその剣に込められている属性が発揮するんだって!」

「ほお………確か、これを買った時、あの商人がこの剣の名前を言ってたな………『火炎剣ルバニオン』って。………だったら、炎か!オラァッ!!燃えやがれ!!」

エステルの説明を聞いたアガットは自分の得物である両手剣に炎をイメージして、闘気を流し込んだ!すると両手剣がうっすらと赤く輝いた!

「せいやっ!!」

そしてアガットは敵の一匹に襲いかかって攻撃した!すると敵は燃えながら消滅した。

「へっ………普段の攻撃と比べると、少し疲労が多いが大したことねえな。こんな効果があるとは思わなかったな。あの商人………見た目に反して、いい物を売ってやがるな。」

敵を倒し、アガットは自分の持っている両手剣を見て不敵に笑った。

「あの………エステルさん。私の持っているレイピアは何の属性が込められているのですか?」

そしてミントやオリビエが魔獣を相手にしている間にクロ―ゼも自分が持っているレイピアが気になり、エステルに尋ねた。

「へっ!?ちょっと待って!(ニル、クロ―ゼの持っているレイピアには何の属性が込められているの?)」

クロ―ゼに尋ねられたエステルは驚いた後、ニルに尋ねた。

(あの娘の持っているレイピアからは冷却属性の魔力が感じられるわ。)

「ありがと、ニル!クロ―ゼ!そのレイピアからは水か氷の魔術が込められているんだって!」

「水か、氷ですか………エステルさん、魔力を込めるってどうすればいいのですか?」

「魔力を込めるか。……………ん~………難しく考える必要はないって!集中して、何かをイメージすれば、できると思うわ!」

「イメージですか…………………………」

エステルの説明を聞いたクロ―ゼはその場で目を閉じて、集中して水をイメージした。するとクロ―ゼのレイピアがうっすらと蒼く輝いた!

「!!えい、やあ、はあ!」

そして目を見開いたクロ―ゼは蒼く輝いているレイピアでクラフト――シュトゥルムを放った!すると霧の魔獣は大ダメージを受け、霧が消えかかっていた!

「燃えちゃえ~!ファイアシュート!!」

「時の刃よ!ソウルブラ―!!」

そしてそこにミントの魔術とオリビエのアーツが命中して、最後に残っていた魔獣は消滅した。



「フゥ……」

戦闘が終了し、クロ―ゼは安堵の溜息を吐いた。

「凄いじゃない、クロ―ゼ!あたしやシェラ姉みたいに、武器に魔術を込めれたじゃない!」

そこにエステルが興奮した様子で話しかけた。

「そんな…………このレイピアのお陰ですよ。エステルさん達みたいに、魔術は使えませんよ………」

エステルの言葉にクロ―ゼは苦笑しながら答えた。

「そうだ、クロ―ゼ!あたしでよかったら魔術の使い方を教えるよ!」

「あ!ミントも!」

「二人とも…………ありがとうございます。機会があれば、お願いしますね。」

エステルとミントの提案に驚いたクロ―ゼだったが、微笑みながら答えた。



その後エステル達は非戦闘員であるドロシーを連れての探索は危険と判断し、ドロシーは入口に待たせて、奥へと進み、地下を探索したエステル達はどんどん進んで、一番奥に到着するとそこに一人の人物がいた。

~旧校舎・地下・奥~



「あ…………!」

エステルは奥にいた人物の姿を見つけると驚いて声をあげた、その人物の姿は数々の目撃者達が見た白いマントを羽織った人物だった。

「影もあるようだし、幽霊じゃあなさそうだが……。てめえ……何者だ!?」

「フフフ……」

アガットの叫びに白いマント姿の人物は笑いながら、エステル達に振り返った。

「ようこそ、我が仮初めの宿へ。歓迎させてもらおうか。」

「か、仮面……?」

「お兄さん、なんで顔を隠しているの??」

「エステルさんやポーリィちゃんの目撃情報と同じですね……。あなたがルーアン各地を騒がしていた『影』の正体ですか?」

白いマント姿の人物が仮面をかぶっていることにエステルは驚き、ミントは仮面をかぶっている事に首を傾げ、クロ―ゼは今までの情報を整理して真剣な表情で尋ねた。

「フフ……。その通りだ、クローディア姫。お目にかかれて光栄だよ。」

「え!?」

「こ、こいつ……なんでクローゼの正体を!?」

マント姿の人物がクロ―ゼの正体を知っている事にミントとエステルは驚いた。そしてエステル達の様子を見て、不敵に笑った後マント姿の人物は自己紹介をした。

「フフ……。私に盗めぬ秘密などない。改めて自己紹介をしよう。『執行者』NO.Ⅹ。『怪盗紳士』ブルブラン―――『身喰らう蛇』に連なる者なり。」

「『身喰らう蛇』……!」

「…………チッ!…………」

『白い影』の正体――ブルブランが自分達が追っていた組織の幹部という予想外の人物の登場にエステル達は驚いた後、後ずさりして警戒した。



「フフ、そう殺気立つことはない。私はここで、ささやかな実験を行っていただけなのだ。諸君と争うつもりは毛頭ない。」

エステル達の様子を見たブルブランは口元に笑みを浮かべて答えた。

「じ、実験……?」

ブルブランの言葉に首を傾げたエステルだったが、ブルブランの後ろにある黒いオーブメント――ゴスペルを見つけた。

「そ、それは……」

「リシャール大佐が使っていた漆黒の導力器『ゴスペル』……」

「しかもどうやら……あれより一回り大きいみたいだね。」

「本当だ………前のと比べたら大きい…………」

見覚えのあるオーブメント――ゴスペルを見て、エステルやクロ―ゼは驚き、オリビエとミントは以前のゴスペルと比べて大きい事に気付いた。

「ふむ、『彼』の報告通りこれの存在は知っているか。この『ゴスペル』は実験用に開発された新型でね。今回の実験では非常に役に立ってくれたのだよ。」

「実験……。いったい何の実験だ?」

ブルブランの話を聞いたアガットはブルブランを睨みながら尋ねた。

「フフフ……。百聞は一見に()かずだ。実際に見ていただこうか。」

アガットに睨まれたブルブランだったが気にもとめず、ゴスペルが置いてある装置らしき所についているスイッチを押した。すると浮いていて、透けているブルブランの映像がエステル達の目の前に現れた。

「ゆ、幽霊……!」

「お化けさん!?」

「いや、その装置を使って空間に投影された映像のようだね。そんな技術が確立されているとは寡聞にして聞いたことはなかったが。」

透けて浮かんでいるブルブランの映像を見て幽霊と思ったエステルとミントだったが、オリビエが否定した。

「これは、我々の技術が造りだした空間投影装置だ。もっとも、装置単体の能力では目の前にしか投影できないが……。『ゴスペル』の力を加えるとこのようなことも可能になる。」

『ゴスペル』から黒い光があふれだすと、ブルブランの映像が急にエステルたちの後ろに移動した。

「きゃっ……!?」

「わわっ……」

「ひゃぁっ!?」

いきなり自分達の後ろに現れたブルブランの映像を見て、エステル達は驚いた。そしてブルブランの映像はエステル達の周りを何周か廻った後、ブルブランの元に戻り、ブルブランがスイッチを押すと映像は消えた。



「―――とまあ、こんな感じだ。フフ、ルーアン市民諸君にはさぞかし楽しんでもらえただろう。」

「チッ……。つまり、単なる悪ふざけだったわけか。」

「そうだよ!あなたの悪戯のために、ルーアンの人達が怖がっているんだよ!?」

ブルブランの言葉を聞いたアガットとミントはブルブランを睨んだ。

「悪ふざけとは人聞きが悪い。選挙で浮かれる市民たちに贈るちょっとした息抜きと娯楽……。そんな風に思ってくれたまえ。」

アガットとミントの言葉を聞いたブルブランは心外そうな様子で答えた。

「カ、カラクリはわかったけど……いったいどうしてこんな事をしでかしたのよ!?『身喰らう蛇』って……いったい何を企んでいるわけ!?」

ブルブランの話を聞き、呆れながら納得したエステルはブルブランを睨んで叫んだ。

「フフ……それは私が話すことではない。私が、今回の計画を手伝う理由はただ一つ……。クローディア姫―――貴女と相見(あいまみ)えたかったからだ。」

「えっ……?」

ブルブランに名指しをされたクロ―ゼは驚いた。

「市長逮捕の時に見せた貴女の気高き美しさ……。それを我が物にするために私は今回の計画に協力したのだ。あれから数ヶ月―――この機会を待ち焦がれていたよ。」

「え、あの、その……」

ブルブランの話を聞いたクロ―ゼは何の事かわからず、戸惑った。

「……市長逮捕って、ダルモア市長の事件よね。な、何であんたがあの時のことを知ってるのよ!?」

「フフ、私はあの事件の時、陰ながら君たちを観察していた。たとえば……このような方法でね。」

エステルに尋ねられたブルブランは一瞬で執事の姿に変えた!

「ええっ!?姿がいきなり変わった!?」

「まさかあの時いたダルモア家の……!?」

いきなり姿を変えたブルブランを見てミントは驚き、クロ―ゼは察しがついて信じられない表情で変装したブルブランを見た。そしてブルブランはまた一瞬で元の仮面と白マントの姿に戻った。



「怪盗とは、すなわち美の崇拝者。気高きものに惹かれずにはいられない。姫、貴女はその気高さで私の心を盗んでしまったのだよ。他ならぬ怪盗である私の心をね……。おお、何という甘やかなる屈辱!如何にして貴女はその罪を(あがな)うおつもりなのか?」

「あ、あの……。そんな事を言われても困ります。」

「この自分に酔った口調……てめえにソックリじゃねぇか?」

ブルブランの芝居がかかったようなセリフにクロ―ゼは戸惑い、アガットは呆れた表情でオリビエに尋ねた。

「失敬な……。一緒にしないでくれたまえ。」

アガットに尋ねられたオリビエは心外そうな表情で答えた。

「フフ………欲を言えば、かの”姫の中の(プリンセスオブプリンセス)”とも相見(あいまみ)えたかったところだが、以前と違って彼女は君達の傍にいないようだからね。………非常に残念だ。」

「『身喰らう蛇』。何か思っていたのと違うけど……クローゼが狙いと聞いたらなおさら放っておけないわね!おまけにプリネまで狙いなんて、絶対に許せないわ!」

「そうだよ!クロ―ゼさんはミントやツーヤちゃんにとっても大事なお姉さんなんだから!それにプリネさんはツーヤちゃんがずっと待ち焦がれていた”パートナー”なんだから、絶対にあなたなんかに渡さない!」

「エステルさん、ミントちゃん………」

ブルブランの話を聞き、勇ましく武器を構えるエステルとミントをクローゼは心強く思った。

「協会規約に基づき、不法侵入の容疑で拘束する。『ゴスペル』のことも含めて色々と喋ってもらうぜ。」

そしてエステル達に続くようにアガットも武器を構えて、ブルブランを睨んで宣告した。

「やれやれ……。何という無粋な連中であろう。相手をしてやってもいいがせっかく選んだこの場所だ……『彼』に相手してもらおうか。」

「なに……?」

ブルブランの言葉に訳がわからず、アガットは首を傾げた。そしてブルブランは指を鳴らした!



パチッ!!



ブルブランが指をならすと地面が揺れ動きだした。

「な、なんなの……?」

「ふえっ……!?」

「ふむ……。イヤ~な予感がするねぇ。」

そしてエステル達が横を向くと、横にあった大きな扉が開き、そこからトロイメライをも超える大型の人形兵器が現れた!

「な、なにコイツ!?」

「甲冑の人馬兵!?」

「フフ、どうやら『彼』はこの遺跡の守護者のようでね。半ば壊れていたところを私が親切にも直してあげたのだ。せっかくだから君たちが相手をしてあげるといい。」

人形兵器の登場に驚いているエステル達にブルブランは得意げに説明した。

「じょ、冗談じゃないわよ!」

「……来るぞ!」



そしてエステル達は遺跡の守護者――ストームブリンガーとの戦闘を開始した……………!











 

 

第19話

~旧校舎・地下・奥~



「みんな、行くわよ!」

「おう!」

「はい!」

「フッ………」

「はーい!」

戦闘開始直後、エステルは掛け声をかけて全員の闘志を高めた!

「せいっ!」

「フッ!」

そしてアガットとオリビエはストームブリンガーに攻撃した!

「……………」

ダメージを受けたストームブリンガーだったが、あまり効いている様子はなく、そして持っている大型の剣で攻撃して来た!

「おおっと!?」

「ぐっ!?」

攻撃に気付いたオリビエは回避し、アガットは武器で受け止めたが

「ぐ………おおおおおおお!?」

相手の攻撃は重く、アガットは苦悶の声をあげながら防御していた。

「………冷気の雨よ、降りそそげ!………ダイヤモンドダスト!!」

そこにクロ―ゼのアーツがアガットを攻撃している剣を持っている腕に命中し、ストームブリンガーは次の標的を攻撃するためにアガットから剣をどけた。

「時よ、早まって!クロックアップ!!」

「風よ、かの者に加護を!シルフィスウィング!!」

そしてミントとオリビエの援護アーツがエステルにかかった!

「行くわよ~!……………剛震撃!!」

身体能力が上がったエステルはストームブリンガーの身体にジャンプして着地した後、ストームブリンガーの頭に攻撃した!



「……………………」

エステルの攻撃にのけ反ったストームブリンガーだったが、気にせず、持っている両手の剣を地面に叩きつけた!地面に叩きえつけられた衝撃によって、衝撃波が生まれ、それらがアガット達を襲った!

「かはっ!」

「ぐっ!」

「やん!?」

「うぁっ!」

衝撃波を受けたアガット達は苦悶の声を上げて、傷ついた!そこに頭に攻撃した後、エステルが落下しながらオーブメントを駆動させ、着地した瞬間アーツを放った!

「みんな、今回復するね!……ラ・ティア!!」

エステルが放ったアーツはアガット達の傷の一部を回復し

「んっふふ~、愛と真心を君たちに!それっ!」

さらにオリビエが放った回復クラフト――ハッピートリガーでアガット達の傷は完全に回復した!

「そこだぁ!ドラグナーエッジ!!」

「落っちろ~!サンダーボルト!!」

そして回復したアガット、ミントは反撃代わりにクラフトや魔術を放った!

「大地よ………母なる加護を!クレスト!!」

クロ―ゼはアーツを放って、自分の身を固めた!

「せいっ!!」

「そぉれっ、クイックドロウ!!」

さらにエステルはクラフト――捻糸棍を放ち、オリビエもエステルに続くようにクラフトを放った!



「……………!」

エステル達の攻撃を受けたストームブリンガーは傷ついたが、ダメージに気にせず、両手に持っている剣をクロスさせてエネルギーをチャージした!

「やばっ!?はっ!!」

「喰らいやがれっ!スパイラルエッジ!!」

「やぁっ!えいっ!」

ストームブリンガーの動作を止めるためにエステル、アガット、ミントは攻撃を行ったが、意味はなく今にもエネルギーが放たれようとした!

「オリビエさん、私にアースガードをお願いします!」

「了解!大地の盾!……アースガード!」

クロ―ゼに言われたオリビエはオーブメントを駆動させ、クロ―ゼに絶対障壁をはった!クロ―ゼに絶対障壁が貼られると同時にストームブリンガーの剣からチャージしていたエネルギーがエステル達を襲った!

「きゃああああ!?」

「ぐあああああ!?」

「があああああ!?」

「いやああああ!?」

ストームブリンガーの大技にエステル達は悲鳴をあげ、大ダメージを受けた!

「ごめん、みんな…………」

「助けて、ママ………」

「ボ、ボクとしたことがぁ…………」

そして大ダメージに耐えられなかった、エステル、ミント、オリビエは戦闘不能になり、地面に跪いた。

「ぐっ………」

また、アガットはよろよろと立ち上がって武器を構えたが、大ダメージにより身体が震えていた。

「今だ…………光よその輝きで傷つきし翼達を癒せ…………リヒトクライス!!」

パーティーの全滅の危機にオリビエのアーツで無事だったクロ―ゼが慈愛溢れる祈りによって戦闘不能さえも回復させるSクラフト――リヒトクライスを放って、アガットの傷を癒し、エステル達を復活させた!



「フ~。助かったよ、姫♪」

「ありがとう、クロ―ゼさん!」

「……ま、礼を言っておくよ、姫さん。」

戦闘不能から回復したオリビエとミント、アガットはクロ―ゼにお礼を言った。

「フフ………お役に立てて、幸いです。」

お礼を言われたクロ―ゼは謙遜しながら答えた。

「ありがとう、クロ―ゼ!………それにしてもさすがに手強いわね………攻撃役もそうだけど回復役も増やさなくちゃ!………ニル!テトリ!」

エステルもクロ―ゼにお礼を言った後、戦闘を有利にするために万能な戦いができるニルと援護が得意なテトリを召喚した!

「フフ………ここはニルの出番のようね。光よ、傷ついた者達に癒しを!………癒しの風!!」

召喚されたニルは魔術を使って、戦闘不能から回復し、まだ傷が残っていたエステル、ミント、オリビエの傷を完全に回復した!

「みなさんを援護します!風よ、我らに癒しの祝福を!………再生の風!!」

そしてテトリは自動治癒させる魔術を自分やエステル達にかけた!そしてストームブリンガーは再び片手の剣を振り上げて、衝撃波を出そうとしたが

「大地の力よ!我が仇名す者の力を我の元に……!地脈の吸収!!」

エステルが放った魔術によって、動きが鈍くなり、剣を振りおろせなかった。そして動きが鈍っているところにアガット達が攻撃を仕掛けた!

「ふおらあぁぁぁ!フレイムスマッシュ!!」

「水よ!アクアブリード!!」

「時の刃よ!ソウルブラ―!!」

「あったれ~………!ストーンフォール!!」

「光よ、降り注げ!……爆裂光弾!!」

「大地よ………我が呼びかけに応え、真なる猛りを!ベーセ=ファセト!!」

アガット達の総攻撃によって、ストームブリンガーはのけ反り、そして傷つき、さらにエステルの魔術によってエネルギーの一部が吸い取られ、後退した!やられっぱなしだったストームブリンガーだが、剣を震って衝撃波による竜巻でエステル達を攻撃した!



「よっと!」

「!!」

「わっと!」

「ハッ!」

「おっとと!?」

「わわ………!」

「当たるものですか!」

しかしエステル達はそれぞれ回避して、攻撃を受けなかった。そして回避行動で空に逃げたニルは連接剣に雷を宿らせて、ストームブリンガーを強襲した!

「たぁっ!電撃剣!!」

「みんな、ニルに続くわよ!」

ニルの攻撃を見て、好機と見たエステルは全員に声をかけた。

「はい!水流よ………吹きあがれ!ブルーインパクト!!」

「ハァァァァァ!暗礁!雷波!無双撃!!」

「ミントのとっておき、見せて上げる!ソードファング!!」

「お見せしよう!美の真髄を!ハウリングバレット!!」

クロ―ゼのアーツが始動となり、エステル、ミント、オリビエはそれぞれSクラフトを放って、大ダメージを与えた!

「うおぉぉぉぉぉぉ、だぁぁぁぁぁっ!!」

アガットは咆哮をして体力と引き換えに闘気を高めるクラフト――バッファローレイジを使って、闘気を高めた後Sクラフトの構えをした!

「これで決まりだっ!らあぁぁぁぁぁぁ…………!」

「これで決めます!猛る大地よ、我が矢に力を!」

「行くわよ!光よ、裁きの雷と共に我が剣に宿れ!」

そしてアガットは力を溜め、アガットに続くようにニルとテトリもSクラフトを放つためにそれぞれの武器にかなりの魔力を込めた!

「くらえっ!ファイナルブレイク!!」

「大地の援護射撃!!」

「極光電撃剣!!」

3人のSクラフトを止めに受けたストームブリンガーは身体の到る所から大爆発を起こして、崩れ落ちて二度と立ち上がらなくなった!



「か、勝った……」

「よかった~…………」

「ケッ……。手こずらせやがって。次はてめぇの番だ……覚悟はできてるだろうな!」

戦闘が終了し、エステルとミントは安堵のため息を吐き、アガットはブルブランを睨んだ。

「やれやれ……。優雅さに欠ける戦い方だな。仕方ない……私が手本を見せてあげよう。」

アガットに睨まれたブルブランだったが、溜息を吐いた後持っているステッキを構えた。

「Flamme!(炎よ!)」

「な……!?」

「篝火の炎が……!?」

「これは一体………?」

「な、何が起こるんですか!?」

周囲の篝火が大きくなった事にエステルとクロ―ゼは驚き、ニルは首を傾げ、テトリは慌てた。

「Aiguille!(針よ!)」

そしてブルブランは一瞬で懐からナイフを出し、それを篝火によって大きくなったエステル達の影にめがけて放った!

「「えっ……!?」」

「きゃっ……!?」

「おお……!?」

「う、動けません!」

「なっ………!?」

「これは……『影縫い』か!?」

ブルブランの技によってエステル達は動けなくなり、焦った。



「フフ、動けまい。君たちはダルモア市長の『宝杖』に驚いていたようだが……。この程度の術、執行者(われわれ)ならばアーティファクトに頼るまでもない。」

「そ、そんな……」

「クソ……見くびりすぎたか……!」

動けないエステル達が焦ったその時

「ピューイ!」

ジークが飛んで来て、ブルブランに攻撃しようとしたが

「フッ!」

「ピュイィッ!?」

ブルブランによって、エステル達と同じように『影縫い』を受けて、飛んでいる状態で動かなくなった!

「ジーク!?」

「現れたな、小さきナイト君。君の騎士道精神には敬意を表するが、しばし動かないでいただこうか。」

ブルブランは不敵な笑みでジークを見た後、クロ―ゼに近付いた。

「クロ―ゼさん!」

クロ―ゼに近付くブルブランを見て、ミントは焦りの表情で声を上げた。

「クローディア姫。これで貴女は私の(とりこ)だ。フフ、どのような気分かね?」

「……見くびらないでください。たとえこの身が囚われようと心までは縛られない……。私が私である限り、決して。」

不敵な笑みを浮かべて自分を見るブルブランにクロ―ゼは凛とした表情で見つめ返した。

「そう、その目だよ!気高く清らかで何者にも屈しない目!その輝きが何よりも欲しい!」

しかしブルブランは逆に喜び、高らかに言った。

(ニルさん、魔術なら口を動かすだけですから、放てるんじゃないですか?)

(ええ。でも、この状態だと、エステル達まで巻き添えにしてしまうわ。だから、気付かれないよう小声で詠唱をしていて、いつでも放てるようにするわよ。幸い、敵は今、リベールの姫にかなりの関心を向けているようだし。)

(はい!)

一方テトリとニルは念話をした後、いつでも魔術を放てるようにブルブランがクロ―ゼに夢中の隙を狙って、小声で魔術の詠唱を開始した。

「ふ、ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ!」

「そうだよ!」

エステルとミントは無理やりブルブランの方向に向いた。また、オリビエとアガットも同じようにブルブランの方向に向いた。



「このキテレツ仮面!クローゼから離れなさいっての!」

「そうだよ!そんな仮面を被っているって事はよっぽどミント達に顔を見られたくないんだね!」

「やれやれ、この仮面の美しさが分からないとは……。君達には美の何たるかが理解できていないようだな。」

エステルとミントに睨まれたブルブランは呆れて溜息を吐いた。

「フフッ……」

そしてそこにオリビエが不意に笑みを漏らした。

「む……?」

オリビエの笑みに気付いたブルブランはオリビエを見た。

「ハハ、これは失敬。いや、キミがあまりにも初歩的な勘違いをしているのでね。つい、罪のない微笑みがこぼれ落ちてしまったのだよ。」

「ほう……面白い。私のどこが勘違いをしているというのかね?」

オリビエの指摘にブルブランは興味を惹かれ、尋ねた。

「確かにボクも、姫殿下の美しさを認めるに(やぶさ)かではない。だがそれは、キミのちっぽけな美学では計れるものではないのさ。顔を洗って出直してきたまえ。」

「おお、何という暴言!たかが旅の演奏家ごときがどんな理由で我が美学を(おとし)める!?返答次第では只ではすまさんぞ!」

オリビエの言葉を聞いたブルブランは怒り、オリビエを睨んだ。

「フッ、ならば問おう―――美とは何ぞや?」

そしてオリビエは静かに問いかけた。

(な、何?どこかで似たような事を聞いたわね…………)

(おい、どうした。)

一方エステルの身体の中で状況を見ていたパズモはオリビエとブルブランのやり取りから、遥か昔に似たようなやり取りがあった事を思い出しかけ、サエラブはパズモの念話を聞いて首を傾げた。

「何かと思えば馬鹿馬鹿しい……。美とは気高さ!遥か高みで輝くこと!それ以外にどんな答えがあるというのだ?」

「フッ、笑止……。」

ブルブランの高々とした答えに対して、オリビエは両目を閉じて口元に笑みを浮かべた後、両目を開き高々と言った!

「真の美―――それは愛ッ!」

「……なにッ!?」

オリビエの答えを聞いたブルブランは驚いた!



「愛するが故に人は美を感じる!愛無き美など空しい幻に過ぎない!気高き者も、卑しき者も愛があればみな、美しいのさっ!」

「くっ、小賢しいことを……。だが、私に言わせれば愛こそ虚ろにして幻想!人の感情など経ずとも美は美として成立しうるのだ!そう、高き峰の頂きに咲く花が人の目に触れずとも美しいように!」

オリビエの言葉を聞いたブルブランは一歩後退した後、すぐに立ち直って言い返した。

「むむっ……」

「ぬぬっ……」

そしてオリビエとブルブランは睨みあった。

「……えーと。」

「ほえ??」

「なんてアホな会話だ……」

「こ、困りましたね……」

一方オリビエとブルブランの舌戦を聞いていたエステル達は呆れて脱力した。

(思い出したわ………”美”にやたら拘っていた魔神…………アムドシアスを。)

(………待て。確かその名の魔神はソロモン72柱の一柱ではないのか?)

一方呆れている様子である人物像が浮かび上がったパズモは思わず呟き、パズモの呟きが聞こえたサエラブは尋ねた。

(ええ。………美や芸術にやたら拘っていたわ………)

(………どこにでも変わり者の魔神はいるのだな。…………全く。”色欲”の魔神といい、ソロモンの魔神共はそんな者ばかりなのか?)

パズモの説明を聞いたサエラブは魔神であるにも関わらず友好的な様子でウィルに知識を与え、争いはしたが最終的に自分達に力を貸していたソロモン72柱の一柱――魔神アスモデウスの事を思い出して、呆れていた。そしてその一方、ブルブランを挑戦的な目でオリビエを見て尋ねた。

「……まさかこんな所で美をめぐる好敵手に出会うとは。演奏家―――名前を何という?」

「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する漂泊の詩人にして狩人さ。」

「フフ……その名前、覚えておこう。」

オリビエの名前を聞いたブルブランが不敵な笑みを浮かべたその時

「あ~!エステルちゃんたち見つけた~!」

なんと入口で待たせたはずのドロシーがやって来た。



「えへへ、あんまり遅いからガマンできずに来ちゃった♪」

「ド、ドロシー!?」

「いけません!早く逃げてください!」

「そうだよ!ここは危ないよ~!」

呑気な様子のドロシーを見てエステルは驚き、クロ―ゼとミントは警告した。

「ふぇ……?あーっ!仮面をかぶった白いヒト!あなたが幽霊さんですね~!?」

しかしドロシーは気にせず、ブルブランを見て呑気に尋ねた。

「い、いや……」

「はい、チーズ♪」

ドロシーに唐突に尋ねられたブルブランが戸惑っている所をドロシーはカメラで写真を撮った。

「うおっ?」

シャッターのフラッシュによって、周囲がまばゆく輝き、ブルブランはドロシーのいきなりの行動に驚いた。

「ピューイ♪」

「あっ……!」

「痺れが取れた……」

「やった~!」

「そうか……。フラッシュで影が消えたのか!」

「フッ、とんでもないお嬢さんだ。」

そしてドロシーの行動によって影が元通りになり、エステル達は動けるようになった。

「えっへん、任せてくださいよ~。何がスゴイのか自分でもわかりませんけど~。」

オリビエの称賛にドロシーは理由がわからなかったが、得意げに胸をはった。



「ククク……ハーッハッハッハッ!」

そしてブルブランは唐突に笑いだした後、大きく後ろに跳んで装置の所に戻り、装置に付けられていた『ゴスペル』を取り外した。

「「あっ!」」

「『ゴスペル』を!」

ブルブランの行動にエステル、ミント、クロ―ゼは警戒した。

「こんなに愉快な時間を過ごしたのは久しぶりだ。礼を言わせてもらうぞ、諸君。」

「てめえ……まだ何かやるつもりか!」

ブルブランの言葉を聞いたアガットはブルブランを睨んで尋ねた。

「フフ……今宵はこれで終わりにしよう。しかし、諸君に関しては認識を改める必要がありそうだ。さすが『漆黒の牙』と共に行動してただけの事はある。」

「『漆黒の牙』……!」

「え………!それって………!」

「まさか………ヨシュアさんのことですか!?」

ブルブランの口から出た予想外の人物にエステルとミント、クロ―ゼは驚いた。

「フフ、彼とは旧知の仲でね。最初に君たちを観察し始めたのは彼の姿を見かけたからなのだよ。全ての記憶を取り戻したようだが……今はどこでどうしている事やら。」

そしてブルブランはステッキをかざした。するとブルブランの廻りに薔薇の花びらが舞った。

「あっ……!?」

「な、なんだ……!?」

ブルブランの行動にエステル達は驚いた。

「!今よ、テトリ!爆裂光弾!!」

「重酸の地響き!!」

そして今まで黙っていたニルとテトリが消えかかっているブルブランに魔術を放った!

「何!?ぐあああああああああっ!?………………」

消えかかるブルブランに魔術が命中し、ブルブランは苦悶の声を上げながらその場から消えた。



「ぐっ…………さらばだ、諸君。計画は始まったばかり……。せいぜい気を抜かぬがよかろう。クッ………それとは別に、私は私なりの方法で君たちに挑戦させてもらうつもりだ。フフ、楽しみにしていたまえ………グッ!」

ブルブランは時折苦悶の声をあげつつ、エステル達に伝えた後、声はなくなり、気配も消えた。

「き、消えた……」

「し、信じられません……」

「う~…………せっかくヨシュアさんを知っている様子だったのに逃がすなんて………」

ブルブランが消えた事にエステルとクロ―ゼは信じられない様子でいて、ミントは頬を膨らませて悔しがった。

「うわ~!何だか手品みたいですねぇ。」

「ハッハッハッ。なかなかやるじゃないか。これはボクの方も好敵手と認めざるを得ないね。」

ドロシーとオリビエは呑気に笑っていた。

「そういう問題じゃないってば!キテレツな格好はともかく……あいつ、並の強さじゃないわ!」

「そうだな……。『身喰らう蛇』―――予想以上に手強そうだぜ。」

エステルの言葉にアガットは頷いて、ブルブランが消えた場所を睨んだ。



こうして、ルーアン各地を騒がした幽霊事件は幕を閉じた。翌朝、街に戻ったエステル達はドロシーと一旦別れて事件の報告をすべく、ギルドに向かった。



一方エステル達がブルブランと邂逅する少し前にウィル達に案内されてユイドラに到着したリウイ達は、ウィルの手配によって用意された宿に向かって部屋に荷物等を置き、リウイ、リフィア、エヴリーヌがウィル達が住む家にウィル達と共に向かった…………










 

 

外伝~小皇女の依頼~

~工匠都市ユイドラ・ウィルの家~



「!!お帰り~、父さん、母さん!それにセラ母さんにメディ母さんも!」

「みなさんも無事でよかったです………!」

「お帰りなさい、父様、母様。セラ母様達も無事で何よりです。」

ウィル達が家に入ると薄い撫子色の長い髪をポニーテールにして纏め、耳がとがっていて、瞳はウィルと同じ茶色の瞳でシャルティとよく似た容姿の少女――ウィルとシャルティの娘、シャマーラと太陽のように輝くような美しい金髪の髪を腰までなびかせるセラウィとよく似た少女――ウィルとセラウィの娘でありシャマーラの腹違いの姉、セルヴァンティティ――セティと一対の白い羽があり、セティと同じように母親譲りの金髪を腰までなびかせ、澄んだ青い瞳を持ち、メロディアーナとよく似た容姿の少女――ウィルとメロディアーナの娘であり、セティの腹違いのもう一人の妹――エリナが嬉しそうにウィル達に駆け寄った。3人は少女という年齢であるが、それぞれの母親とよく似て、女性としての体型も一般の女性よりかなり優れていた。

「たっだいま~!」

「ただいま、セティ、シャマーラ、エリナ。」

「みな、変わりないようですね。」

「3人とも、いい子で待っててくれたようですね。」

自分に駆け寄って来た愛娘達にシャルティは笑顔で答え、ウィルとメロディアーナ、セラウィは微笑んだ。

「ねえ、ウィル。さっきの戦闘で結構汗をかいたから、お風呂先に入るね~。」

「………私も借りるぞ、ウィル。」

「ユエラが入るなら、私も………」

「あ!じゃあ、あたしも~!」

「ああ、わかった。」

「じゃあ、私も一緒に入って背中を流すね、母さん!もちろん、ユエラ姉さんやエミリ姉さん、ラナ姉さんの背中も流すね!」

「別にそんな事しなくても、いいんだけどな~。ま、いっか♪」

「みんなと一緒に入る………」

「フフ………頼むぞ、シャマーラ。」

「温泉♪温泉♪」

そしてシャルティとユエラ、ラグムエナにエミリッタとシャマーラはウィルの家に備え付けてある温泉に向かった。

「ねえねえ、ウィル。エヴリーヌも借りていい?久しぶりにウィルが作った温泉に入りたいし。」

「ああ、いいよ。」

「ありがと~。」

ウィルの返事を聞いたエヴリーヌも温泉に向かった。

「フム、それでは余も借りようぞ!」

エヴリーヌに続くようにリフィアも温泉に行こうとしたが

「………お前は後にしろ。依頼があるのを忘れたか?」

「おお!そうだった!早速だが、依頼を頼んでもいいか?ウィル。」

リウイに制されて、リウイの指摘を受けて、ウィルに尋ねた。

「うん。別にいいけど、ここじゃなんだから奥の部屋で話そう。」

「うむ!」

「………失礼する。」

ウィルの提案にリフィアとリウイは頷いた。



「セティ、みなさんにお茶を持って来てもらっていいですか?」

「はい、わかりました。お母さん。」

「エリナ。セティを手伝ってあげて下さい。」

「はい、母様。私も手伝いますね、セティ姉様。」

「ありがとう、エリナ。」

セラウィとメロディアーナに手伝いを言われたセティとエリナはリウイやウィル達にお茶を出すために台所に向かった。

「メロディアーナはどうする?」

「…………もしよければ、私も混ぜてもらってもいいですか?………少し気になっている事があるので。」

ウィルに尋ねられたメロディアーナはリウイとリフィアを見た後尋ねた。

「はは、リフィア達の事はメロディアーナも知っているだろう?そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。」

「………別に警戒している訳ではありません。遥か北方にある魔族大国の者がウィルに何の用か、気になっていますので。」

苦笑しているウィルにメロディアーナは気にせず、答えた。

「そういえば………リフィア達がユイドラに来た詳しい理由、まだ聞いていないね。」

「うむ。それをこれから話そう。」

そしてウィル達とリフィア、リウイは奥の部屋に向かってウィル達の結婚や子供の誕生を軽く祝い、またフィニリィやサエラブの話をウィル達にした後、セティとエリナにお茶を出され、ウィルが2人を店番を頼んでから話を切り出した。そしてユイドラに来た理由、自分達の正体をウィル達に話した。



「リフィアがメンフィルのお、皇女!?それでリウイがメンフィルの王様!?」

リフィア達の正体を知ったウィルは驚いてリフィアとリウイを見た。

「…………俺は既に玉座から退き、今は隠居の身だ。だから、そう驚く事はない。」

「うむ。余はお前達の事を気にいっている!だから以前と同じような接し方で構わんぞ?」

驚いているウィルにリウイとリフィアは気易く接するように言った。

「そっか。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。仲間に敬語とかおかしな話だしね。」

ウィルは苦笑しながら答えた。そしてある事を思い出して、セラウィに尋ねた。

「そういえば………セラウィはリウイの事を知っているようだけど、以前から知っていたのかい?」

「ええ。噂でですが聞いた事があります。光と闇、どちらにも属さず、闇夜の眷属を始めとし、人間とさまざまな種族との共存を謳っている大国――メンフィル帝国を築き、レスぺレント地方を制した”謳われし闇王”リウイ・マーシルン。私の記憶が確かなら随分前に歴史の表舞台からその名と姿を消したはずなのですが………」

ウィルに答えたセラウィは遠慮気味にリウイを見た。

「………いつまでも帝位に着いていたら次の世代が育たないし、俺はそれほど玉座に執着していない。新たなメンフィルを創りだすシルヴァン達のためにシルヴァン達に帝位を譲り、俺自身は隠居の身だからな。基本、今の政治には口を出していない。」

セラウィに見られたリウイは静かに答えた。

「へ~………さまざまな種族と共存する国か………まるで今のユイドラみたいだな。………メロディアーナは知っていたのかい?」

「………ええ。後でわかった事なのですがメンフィル帝国のその在り方は過去のエリザスレイン様にとって、ウィルとユイドラの時と同じように秩序を乱す存在として危惧していました。ただ、エリザスレイン様が住まわれるミサンシェルからあまりにも遠方すぎる事なので、情報を集めるだけにしていたようですが………」

「過去のって事は今のエリザスレインは違うんだろう?俺や今のユイドラの在り方を認めているんだし。」

メロディアーナの説明を聞いたウィルは尋ねた。

「そこまではわかりません。考えが読めないあの方の事はウィルもよくわかっているでしょう?」

「はは、まあね。………さてと。話は戻るけど、リフィアは今度は俺に何を依頼したいのかな?」

メロディアーナに尋ねられたウィルは苦笑した後、話を戻してリフィアを見た。



「うむ。まずはこれを見てくれ!」

そしてリフィアは異空間に仕舞っていたエステルから預かった折れた剣、プリネから預かった刀を机に置いた。

「これは………」

「折れた剣と刀………ですね。それも聖なる魔力が感じられますね。」

「………どちらからも僅かですが神気が感じられます。元はかなりの力を持つ武器だったのでしょうね………」

目の前に出された剣と刀をウィルは手に持って興味深そうに調べ、セラウィは武器から感じられる魔力に驚き、メロディアーナは補足した。

「これをぜひ、お主に直して欲しいのだ!」

「………………………う~ん………刀の方はなんとかできると思うけど、剣の方はどうだろう……材質とか軽く調べた感じ、セテトリで手に入る鉱石とかじゃ、元の力を持った剣にはできないと思うんだ。………せめて、とてつもない魔力を秘めた武器とかあったら、それを利用して何とかできるんだけど……」

リフィアの依頼にウィルは難しそうな表情で考え込んだ。

「………とてつもない魔力を秘めた剣………か。……………………………なら、これを使え。」

ウィルの説明を聞いたリフィアは少しの間考えた後、また異空間から武器を出して机に置いた。

「なっ………!?おい、リフィア。お前、この剣が何なのかわかっているのか!?」

机に置かれた大剣を見たリウイは驚いてリフィアに尋ねた。

「……………勿論わかっている。”メンフィルの守護神”と伝えられている余のもう一人の祖母、シルフィア様の愛剣だろう?………父からはいつか余が授けたいと思う者に授けるため、父から授かっていた。」

机に置かれたとてつもない神気が秘められた今は亡きシルフィアの愛剣――神剣マーズテリアをリフィアは見ながら答えた。

「その事はシルヴァンから聞いた。なのになぜ、それを使う?」

「まだわからぬか?エステルは余にとって大事な友!余が認めた友なのだから、友の頼みのためにこの剣を使っても構わぬだろう。」

「…………………本当にそれでいいのか?あの者は決してお前に従属する者ではないのだぞ?」

胸を張っているリフィアにリウイは真剣な表情で問いかけた。

「うむ!それにこの剣を授ける人物はエステルか、エステルを支えるミントにしかしないつもりだ。エステル達のような者達に使われるのなら、この剣も…………この剣を残し、逝ったシルフィア様も本望と余は思うぞ!」

「……………そうだな。お前がそう決めたのなら俺は何も言うまい。」

リフィアの言葉を聞いたリウイはシルフィアの事を思い出し、そして納得した。



「えっと………事情はよくわかんないだけど、この剣を使っていいのかい?この剣を使えばその折れた剣も直せると思うけど………」

「うむ!………その剣は”神剣マーズテリア”。その名の通り、神剣だからとてつもない神気や魔力を秘められているから、きっと役立つだろう!」

「軍神が授けし神剣ですか………!道理でとてつもない神気を秘められている訳です。」

「ええ……………剣でありながらこれほどすさまじい神気が感じられるのは初めてです………」

リフィアの説明を聞いたメロディアーナは驚いた後納得し、セラウィも頷いた。

「後はこの剣を、この形の物に加工してくれるか?」

そしてリフィアは異空間からさらに剣を取り出して机に置いて、懐から剣の形状――武術大会で覚醒したエステルが魔力によって変化させた剣の形状を書いた紙をウィルに渡した。

「この剣は一体………そちらの神剣と負けないぐらいのとてつもない魔力が感じられるよ……?」

ウィルは新たに現れた剣を手にとって、調べて驚いた。

「その剣か?その剣はセリカの屋敷の地下の倉庫で見つけた剣だ!それを余が持ってきたのだ!武術大会の時、エステルが剣を使っていたからな!余が見た所、かなりの業物のようだし、それを改造してエステルに使わせようと思ってな。だから、持って来た!」

「……いつの間にそんな事を……………奴らには持って行く事の許可をちゃんと、とったのだろうな?」

「当り前だ!余が盗賊紛いの真似をする訳がなかろう!」

リフィアの行動に呆れている様子のリウイにリフィアは胸を張って答えた。

「………信じられないほどの神気と魔力が籠った剣ですね……………きっと名高い神剣なんでしょう。名前はなんというのですか?」

メロディアーナは神剣の名前が気になって、尋ねた。

「知らぬ。使った本人であろうセリカに聞いても、その剣の事は覚えていないようだったしな。」

(セリカ…………?何でしょう、どこかで聞いた事がある名前ですね…………)

メロディアーナの疑問にリフィアは以外な答えを出し、リフィアの口から出たある人物の名前を聞き、頭の中にひっかかったセラウィは首を傾げていた。

「まあ、いいや。他ならぬリフィア達の依頼だし、折れた剣の修復や力を失った刀の力を取り戻す件も合わせて引き受けるよ。」

「うむ!」

ウィルの返事を聞いたリフィアは満足そうに頷いた。リフィアが見つけたセリカの屋敷の地下の倉庫に眠っていた剣――『約束の神剣』が後に大昔に失われたある神剣に生まれ変わる事になろうとは、この時、誰も想像できなかった……………
 

 

外伝~匠王の提案。妖精と魔の血を引きし暴虐の麗人、降臨する~

~工匠都市ユイドラ・ウィルの家~



「それで?依頼料はどのぐらいだ?」

ウィルとリフィアの様子を黙って見ていたリウイは尋ねた。

「勿論、ウィルの言い値で良いぞ。余達が国に帰った時、依頼料を送ろう!別にいいだろう?リウイ。」

「…………ああ。神剣の修復や改造等、並大抵の者ではできないからな。構わんだろう。」

リフィアに尋ねられたリウイは少しの間考えた後、答えた。

「依頼料か……………その事なんだけどさ。お金以外でもいいかい?」

「む?」

「ウィル?」

ウィルの提案にリフィアは首を傾げ、セラウィは不思議そうな表情でウィルを見た。

「一つはディアーネをなんとかして欲しいんだ。このままずっとユイドラを攻められる訳にはいかないし、なんとか退治以外の方法で解決したいんだ。」

「ウィル……………」

「フフ、ウィルらしいですね。」

ウィルの話を聞いたセラウィとメロディアーナは微笑んだ。

「………それはこちらもそのつもりだ。アレを放って置いた俺達に責任がある事だしな。」

「うむ。それに余はディアーネを余の使い魔にするつもりだ。だからその件は快く引き受けた!」

リウイの言葉にリフィアは頷いた。

「二つ目はずうずうしいと思うんだけど、ディアーネ達と戦う時、手を貸してくれないかな?」

「うむ!勿論よいぞ!」

「元々俺達はそのつもりでここに来た。だから気にするな。」

ウィルの話を聞いたリフィアとリウイは頷いた。

「三つ目なんだけど………将来でいいんだけど、セティ達に異世界を見せてあげて、数カ月ほど異世界でさまざまな事を学ばせて欲しいんだ。本当なら俺が行きたい所だけど、領主だからそんなに長い間、ユイドラを留守にする訳にはいかないしね。ちなみに2人やシャルティには聞かず、言っちゃたけど、いいかな?」

ウィルは話をした後、セラウィとメロディアーナを見た。

「ええ。今後のユイドラの発展に大きく役立つかもしれませんしね。」

「異世界の存在があったのは驚きましたが、ウィルの事だから自分が行きたがるかエリナ達に行かせると思いました。…………あの娘達にとってもいい刺激になるでしょうから、いいですよ。………シャルティはあまり深く考えない人ですから、シャルティも賛成するでしょう。」

話をふられたセラウィとメロディアーナはウィルに微笑んで了承した。



「ありがとう。………それでどうかな?」

「他ならぬウィルの頼みだ!よかろう!リウイもよいな?」

「……………本来なら関係者以外異世界に関わらせたくなかったのだがな……………まあ、いいだろう。こちらの目を盗んで異世界に渡り、異世界の少女と契約した”炎狐”と比べれば前もって知らされてくれる方がいいしな。」

リフィアに確認されたリウイは少しの間考えた後、答えた。

「ハハ………それにしても永恒が俺以外の人間を認めて、契約までするなんて思わなかったよ。後、まさかフィニリィも契約しているとは思わなかったよ。それでこれが最後になるんだけどさ。その前に………セラウィ、メロディアーナ、いいかい?」

「ウィル?」

「何でしょうか?」

ウィルに呼ばれた2人は首を傾げた。

「少し耳を貸してくれるかい?」

「?はい。」

「わかりました。」

そしてウィルは2人にある事を耳打ちした。

「え!?本気なのですか、ウィル!?」

「…………メンフィルを知ったらなんとなくそんな事を言う気はしたのですが…………その件は他の工匠達やエリザスレイン様を始めとし、ユイドラ近郊に住む種族の代表者達とも話し合った方がいいですよ?」

ウィルにある事を耳打ちされたセラウィは驚き、メロディアーナは静かな声で尋ねた。

「勿論そのつもりだよ。けど、メロディアーナは大丈夫かい?」

「………心配しなくても大丈夫です、ウィル。今の私は貴方と出会ったあの頃と違い、独立した天使なのですから。………それに貴方なら彼らと交流しても、問題はないと信じています。」

「ありがとう、メロディアーナ。」

メロディアーナの微笑みを見たウィルはリフィアとリウイを見て、言った。

「最後はまだみんなには話していないから何とも言えないんだけど、リフィア達――メンフィル帝国との交流を。」

「ほう…………………」

「フム……………交流と言うが具体的に何をしたいのだ?」

ウィルの話を聞いたリウイは目を細めてウィルの真意を考え、リフィアは尋ねた。



「俺達、ユイドラの工匠達にメンフィル帝国の技術を学ばせて欲しいんだ。今のユイドラのようにさまざまな種族と共存し合う国、メンフィル…………きっとそこには俺達の知らない技術もたくさんあるだろうからね。」

「ほう!それはいい考えだが、余達メンフィルも当然、お主達ユイドラの技術を学ばせてもらう事になるぞ?」

「勿論、そのつもりだよ。………まあ、さすがにこれは俺の独断ではできないから、レグナー達やユイドラ近郊に住む種族の代表者達と話し合って、みんなが賛成してからだからする事になるだろうけど。それにいくら皇女のリフィアとは言え、さすがに独断で決められないだろう?」

リフィアに尋ねられたウィルは苦笑しながら答えた。

「フム。確かにウィルの言う通りさすがにそれは余の独断ではできん。父達や家臣達も認めないと無理な事だ。………ちなみにリウイ、お主はどう思う?」

「…………俺は隠居の身で、基本お前達の政治には口を出さないつもりだ。……………ただ俺個人としては、悪くない考えだと思うぞ。」

リフィアに尋ねられたリウイは口元に笑みを浮かべて答えた。

「そうか!ではウィルよ!お互いの納得させるべき者達を納得させれたら、その提案を受けるという事でいいだろうか?」

「ああ。時間はかかるかもしれないけど、みんなを納得させてみるよ。だから、リフィアも頼むね?」

「うむ!」

その後ウィル達はリウイ達やリウイの仲間達、ロカ、フォーチュラを領主の館に呼んで歓迎会を開いた………



~セテトリ地方・某所~



「クッ…………まさかリウイ王がいるとはな…………ユイドラの人間程度なら、何とかなったのかもしれないが………クソ!今の手駒では足りんな………」

一方その頃、ディアーネは自分達の配下の魔族達を見下ろして、舌打ちをしてこれからの事を考えていた。

「………少しいいかしら?」

そこにある女性がディアーネの所に飛んで来て声をかけた。

「?何者だ、貴様は。……………見た所、睡魔か。」

女性――腰までなびかせる美しい金髪に山羊が持つような立派な角が生え、鮮血を帯びたような真紅のドレスを着た睡魔を見たディアーネは尋ねた。

「この私を卑しい睡魔と一緒にしないで頂戴。私はセオビット。貴女は?」

「フン。我が名はディアーネ!それでこの我に何の用だ。」

女性――セオビットにディアーネは鼻を鳴らして答えた後、尋ねた。

「フフ………彷徨っていたらたまたま貴女達を見つけてね。………見た所、戦をしそうな雰囲気だったから、混ぜてもらおうと声をかけたのよ。」

「フン。参加するなら勝手にするがいい。」

「フフ…………それで?相手は誰かしら?」

ディアーネの了承を聞いたセオビットは凶悪な笑顔で笑い、相手を尋ねた。

「ユイドラの人間達だ。全ての種族との共存とやらを謳うふざけた奴らだ。………その中には我のような魔族達が奴らに力を貸している。」

「何それ?人間なんか、私達に支配されて当然の脆弱な存在じゃない。そんな奴らに力を貸しているなんて、魔族の面汚しね。」

「フン。魔族の面汚しと言えば、リウイ王がその筆頭だな。………半魔人の分際で暴虐を好まず、人間共との共存を目指しおって…………ええい!今、考えただけでも腹立たしい!」

「…………半魔人?それって半端者でしょう?そいつ、強いの?」

リウイの種族を知ったセオビットは驚き、尋ねた。



「忌々しい事にこの我を破った腕は持っている。」

「ふ~ん………ふふっ………それなら少しは楽しめそうね。いいわ。そのリウイとやらはこの私が相手してあげるわ。」

「フン。好きにしろ。………近い内、総攻撃を仕掛ける。せいぜい我の足を引っ張らない事だな。」

不敵な笑みを浮かべているセオビットを見てディアーネは鼻を鳴らした後、どこかに飛び去った。

「リウイと言ったかしら…………この私と同じ半魔人の癖に人間と共存するなんて脆弱な考えを持っているような男をどうやっていたぶって殺そうかしら。………ふふっ………ふふっ………」

ディアーネが去った後、セオビットはまだ見ぬ相手をどういたぶるかを考え、凶悪な笑顔で笑っていた。その出会いが自分の運命や考えを大きく変える事になるとは、この時、セオビットは気付かなかった。



同時刻、幽霊騒動が起こっていたルーアン市のある場所で、エステル達の前に姿を現した『身喰らう蛇』の『執行者』――ブルブランがある人物を待っていた…………


 

 

外伝~怪盗の報告~

~ルーアン市・南街区・夜~



「―――かくして宴は終われども、残されし熱気に我らはただ惑い……蒼ざめた月影と、海原を渡る涼風が熱き血潮を冷ますのを待つのみ……」

ブルブランは港湾区の倉庫の上に佇み、呟いていた。ブルブランの姿はエステル達と出会った時と違い、ニルとテトリの魔術攻撃によってマントはボロボロで仮面に着いていた羽飾りの片方がなくなっていて、仮面には罅が入っていた。

「……待たせたな。」

そこにいつの間にかブルブランが立っている倉庫の隣にある倉庫の上に立っていた銀髪の青年――ロランスが声をかけた。

「フフ、ちょうど時間通りさ。しかし相変わらず律儀な男だな。たまには遅刻ぐらいしても罰は当たらないのではないかね。」

不敵な笑みを浮かべているブルブランの所にロランスは跳躍して、ブルブランが立っている倉庫の上に着地した。

「これも性分でね。早速だが、報告を聞かせてもらおうか。」

「はは、そう焦るものではない。今宵は気分がいい。少しくらい浸らせてくれたまえ。」

「やれやれ……よほど気に入ったと見えるな?」

ブルブランの様子に苦笑したロランスは尋ねた。

「うむ、麗しの姫君にはますます心を奪われてしまった。それに、思わぬところで美をめぐる好敵手と出会ってね。フフフ……これから忙しくなりそうだ。」

「仕方のないやつだ。個人的な趣味も結構だが計画の支障になっては困るぞ。」

「フフ、それは心配無用だ。それでは受け取りたまえ。」

そしてブルブランはロランスにゴスペルを渡した。



「……確かに。それで……実験の成果はどうだった?」

「ふむ、そうだな。9割成功と言っていいだろう。投影装置が生み出した映像をかなり遠くの座標まで転送できた。ただ、最初の1、2回は転送に失敗したらしくてな……。3回目を越えたあたりから完璧に作動するようになったが。」

「ふむ……。不安要素はあるが、悪くない。早速、教授に伝えておこう。」

ブルブランの報告を聞いたロランスは頷いた。

「しかし『ゴスペル』か……。導力停止現象もそうだが今の技術を遥かに越えているな。『十三工房』製らしいが一体どういうカラクリなのかね?」

「さてな……。俺も詳しくは聞かされていない。ただ、教授によればそれらの現象は『奇跡』の一端に過ぎないらしい。」

「ほう、奇跡ときたか。ふむ……奇跡は女神にしか許されぬ御業。いったいどういう意味なのやら。」

「いずれにせよ、真の潜在能力は今後の実験で明らかになるだろう。………それよりその様子だと、随分手酷くやられたようだな?お前ほどの者がそこまでやられるとは誰がやったのだ?」

ロランスはマントがボロボロで仮面に罅が入っているブルブランを見て尋ねた。

「フフ………『彼』がお気に入りの少女のナイト達にやられてしまったよ。まさか去る直前に魔術を放って来るとは………フフ、麗しの姫君や好敵手に出会えた嬉しさでつい、油断してしまったよ。」

「エステル・ブライトの使い魔とやらか……確かに奴らはそれぞれ、正遊撃士と同等かそれ以上の実力を持っているから油断はできない上奴らは………」

ロランスは急に話を止めた。

「………………………………」

そして突如、身体をある方向に向けて、そこを睨んでいた。

「ほう?フフ、今宵は意外な登場人物に恵まれているようだ。さて、筋書きはどうしたものか。」

「フッ……」

ブルブランの言葉にロランスは不敵に笑った後、剣を構えた。

「それは、身を潜めているネズミの態度次第だろうさ。」

「クク、違いない。」

ブルブランもロランスのように自分の得物であるステッキを構えた。



「さてさて……どんな声で鳴いてくれるのやら。」

2人が武器を構えて、ある方向に強襲しようとしたその時

「……うぃ~…………」

遠くから誰かが酔った様子で近付いて来た。

「ふむ……。どこのネズミか知らぬが命拾いしたようだな。」

「フッ……。女神達に感謝するがいい。」

そして2人は倉庫を飛び下り、姿を消した。

「ぎゃはは、酒持ってこ~い!」

「うぇっぷ、もう飲めない……」

「ちくしょう……俺だって……俺だってなぁ……」

2人が消えた後、酒に酔った人物達――ロッコ達だった。



「はあぁ~……。寿命が縮むかと思ったわ……。ヘッ、言われずとも女神に感謝しまくりやっちゅうねん。………ちなみにこの場合、イーリュンやアーライナにも感謝すべきやろか?」

ロランス達が睨んでいた方向――コンテナに隠れて、自分の得物であるボウガンを構えて戦闘態勢に入っていたケビンは強敵が去った事に安堵の溜息を吐いて、武器を懐にしまった。

「……しかしまあ、何ちゅう化物どもやねん。あれが結社の『執行者』か……」

そしてケビンはロランス達がいた方向を見て、一人呟いていた。



そして翌日、エステル達はジャンに学園の地下であった出来事を報告していた。

「そうか……ご苦労だったね。『身喰らう蛇』……。カシウスさんに話を聞いた時には正直、半信半疑だったが……。とりあえず、今回の調査の報酬を渡すよ。まさかこんな形になるとは思わなかったけどね。」

そしてジャンはエステル、アガット、ミントにそれぞれ報酬を渡し、さらにミントには正遊撃士の推薦状を渡した。

「わあ………ママとヨシュアさんが貰ったのと同じ、推薦状だ……本当に貰っていいの!?ジャンさん!」

推薦状を貰ったミントは表情を輝かせてジャンに尋ねた。

「ああ。予想以上に活躍してくれたし、エステル君達のサポートもしっかりこなせていたしね。構わないよ。」

「えへへ………ありがとう、ジャンさん!」

ジャンに褒められたミントは無邪気に喜んだ。そしてジャンは表情を真剣な表情にして、エステル達に言った。

「調査結果はすぐに王国軍に報告しておこう。あちらさんも相当、情報を欲しがっていたからね。」

「ああ、頼んだぜ。あの投影装置を考えるとハンパな組織じゃねぇはずだ。しかも『ゴスペル』をまた持ち出してくるとはな……」

「どうやら結社の目的は新しい『ゴスペル』を使った実験をすることにあったようだね。幽霊騒ぎは、趣味の入った実験結果でしかなかったようだ。」

「怪盗ブルブラン……。あいつ、自分のことを『執行者』と呼んでたよね。」

「恐らく『結社』のエージェント的な存在だろうね。察するにロランス少尉も同じような立場だったんだろう。」

アガットやオリビエ、エステルの話を聞いたジャンは自分の仮説をエステル達に話した。



「………………………………」

「ママ…………………」

「エステルさん、あの……」

黙っているエステルを見て、エステルの考えを察したミントとクロ―ゼは心配そうな表情でエステルを見た。

「うん、わかってる……。『漆黒の牙』……。あの日、ヨシュアは自分のことをそんな風に呼んでいたから……。多分、ヨシュアもその『執行者』だったんだと思う。」

「なるほどな……。あの怪盗野郎と同格なら、あいつの専門技術も納得だ。ひょっとしたら実力を隠して猫をかぶっていたのかもしれねぇ。」

エステルの話を聞いたアガットは16歳という年齢でありながら、さまざまな技術に長けていたヨシュアに納得した。

「うん……そうかも。……ねえ、ジャンさん。」

「なんだい?」

「あの怪盗男、結社の計画が始まったばかりだって言ってた。多分、リベールの各地で色々しでかすつもりだと思うの。ほかの地方支部から何か情報は入ってきてないかな?」

「うーん……。目立った情報は入ってないね。ただ、エステル君の言う通り、結社が各地で暗躍を始めている可能性は高いと思う。幽霊騒ぎも一段落ついたし、他の地方に移った方がいいかもね。」

「ああ。俺もそう思っていたところだ。どこか手薄な支部はあるかよ?」

ジャンの考えに頷いたアガットはどこの支部に行くべきか尋ねた。

「強いて言うならツァイス支部だと思う。常駐のグンドルフさんが王都方面へ出かけたらしくてね。かなり大変な状況らしい。」

「だったら、あたし達が手伝いに行った方がよさそうね。でも、ルーアン支部は大丈夫?」

「実は、ボース支部のスティングさんが数日後こっちに来てくれるんだ。それまではメルツ君1人に何とかしのいでもらうとするさ。そうだ、ツァイスに着いたらラッセル博士を訪ねた方がいいね。新たな『ゴスペル』の一件は博士の知恵を借りた方が良さそうだ。」

「わあ………ツァイスかあ…………ティータちゃんに会えるね、ママ!」

ツァイスに行く事を知ったミントはツァイスにいる友人の事を思い、はしゃぎながらエステルを見た。



「ふふ、そうね。ティータとも会いたいし、すぐに工房を訪ねてみるわ。」

「それでは準備ができたらさっそく飛行場に行くとしよう。ジャン君。乗船券を5枚手配してくれたまえ。」

「へっ……?」

「いきなり仕切ってなに図々しいこと言ってんのよ……。……って5枚?」

オリビエの提案にジャンは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを睨んだが、ある事に気付いて首を傾げた。

「フッ、エステル君とアガット君とミント君。そして、このボクと姫殿下の分に決まっているだろう。」

首を傾げているエステル達にオリビエは当たり前の事を言うような表情で答えた。

「あ、あんですって~!?」

「ええええ~!?」

「そんな気はしてたが……。この先も付いてくるつもりかよ?」

オリビエの話を聞いたエステルとミントは驚いて声をあげ、アガットは顔をしかめて尋ねた。

「ヨシュア君を捜すのは愛の狩人たるボクの使命でもある。新たな好敵手とも巡り会えたし、同行する理由は十分だと思うけどね?」

「あ、あんたのタワケた理由はともかく……。クローゼまで一緒に巻き込むんじゃないわよ!」

ついでにクロ―ゼまで巻き込んでいる事にエステルはオリビエを睨んで怒鳴ったが

「いえ……。実は私も、同じことをお願いしようと思っていました。」

なんと当の本人であるクロ―ゼはオリビエと同じ考えである事を答えた。

「え。」

「クロ―ゼさん?」

クロ―ゼの意外な返事にエステルは呆け、ミントは首を傾げた。



「リベールで暗躍を始めた得体の知れぬ『結社』の存在。王位継承権を持つ者として放っておくわけにはいきません。それに何よりも……エステルさんとヨシュアさん、そしてミントちゃんの力になりたいんです。」

クロ―ゼは凛とした表情でエステル達についていく理由を答えた。

「クローゼ……。で、でも学園の授業はどうするの?」

「そうだよ~。クロ―ゼさんが通っている学園って、すっごく難しいってミント、先生から聞いたよ?」

エステルは嬉しさを隠せない表情で、ミントは心配そうな表情でクロ―ゼに尋ねた。

「実は今朝、コリンズ学園長に休学届を出してしまいました。試験の成績も問題ありませんし、進級に必要な単位もとっています。ジルとハンス君にも相談したら『行ってくるといい』って……」

「い、いつのまに……」

「やれやれ。思い切りのいい姫さんだぜ。」

クロ―ゼの行動を知ったエステルは苦笑し、アガットは感心した。

「す、すみません……。押しかけるような真似をして。あの……駄目でしょうか?」

「ふふっ……。駄目なわけないじゃない!そういう事なら遠慮なく協力してもらうわ!アガットもいいよね?」

「ま、いいだろ。アーツにしてもハヤブサにしても姫さんがいると色々助かるしな。」

「ミントは………聞くまでもないわね。」

「勿論だよ!これからクロ―ゼさんと一緒に行動できるんだ…………ミント、ワクワクして来たよ!」

アガットの返事を聞いたエステルはミントを見たが、表情を輝かしているミントを見て、苦笑した。

「よかった……。ありがとうございます。エステルさん、アガットさん、ミントちゃん。」

「えへへ、何といっても紅騎士と蒼騎士の仲だもんね。一緒に協力して、行方不明のお姫様を捜すことにしましょ!」

「あ……はい、そうですね!」

「フッ、それじゃあボクは黒髪の姫に強引に迫ろうとする隣国の皇子という設定で……」

「勝手に役を増やすなあっ!」

エステル達の和やかな会話にちゃっかり入って来たオリビエにエステルは怒鳴った。



「あはは……。話がまとまって何よりだね。しかし、そういう事なら2人を『協力員』という立場で扱わせてもらった方が良さそうだ。そうすればギルドとしても経費面などで便宜が計れるからね。」

エステル達のやり取りを微笑ましそうに見ていたジャンはクロ―ゼとオリビエの立場を言った。

「はい、それでお願いします。」

「誠心誠意、愛を込めて協力させてもらうよ。」

そしてエステル達はギルドを出た…………………






 

 

第20話(1章終了)

ギルドを出たエステル達はドロシーとナイアルに旅立つ事の挨拶をするために2人が泊まっているホテルに向かった。



~ルーアン市内・ホテルブランシェ・客室~



「こんにちは~……って……」

エステル達が部屋に入るとドロシーはベッドの上に横たわっていて、ナイアルは机で書類仕事をしていた。

「事件の報告をしている時からうつらうつらし始めてな……。終わった途端、爆睡しやがったんで仕方ねぇからベッドに運んだんだ。」

「ま、昨日は真夜中まで色々なことがあったからな。少々キツかったのかもしれん。」

ナイアルの話を聞いたアガットは昨日の事を思い出し、納得した。

「ふん、徹夜を続けられてこそ一人前の記者だっつーの。そうだ、コイツの説明だけじゃいまいち要領が得なくてな……。今回の事件について幾つか質問をしてもいいか?」

「うん、いいわよ。」

「ミント達で答えられる事なら、なんでも答えるよ!」

そしてエステルたちはナイアルの質問に答えながら、事件のあらましを説明した。

「なるほど、大体わかったぜ。それにしても『怪盗B』がリベールに来ていたとはな……」

「え……!ナイアルってば怪盗男のことを知ってるの!?」

ナイアルがブルブランの事を知っているように聞こえたエステルは驚いて尋ねた。

「大陸各地を騒がす有名な盗賊らしいぞ。狙った獲物は逃がさない。あくまで華麗に盗み去る……そんな芝居がかった盗賊らしい。」

「フン……。同一人物くせぇな。」

「確かにあの人を見ていると、お芝居を見ている感じだったね。」

ナイアルの話を聞いたアガットは鼻をならして納得し、ミントも頷いた。



「だが、その『怪盗B』がまさか結社の手先だったとはな。『身喰らう蛇』……とことん得体の知れない連中だぜ。」

「あの、ナイアルさん。今回の事件についてはどこまで記事にするんでしょう?」

クロ―ゼはナイアルが今回の事件の内容をどこまで記事にするか心配になり、尋ねた。

「いや、実はギルドと王国軍から結社についての報道は控えるように頼まれちまいましてね。『悪質な愉快犯』の仕業として書くことになっちまうと思います。」

「まあ、クーデターも集結してやっと国内も落ち着いた頃合だ。市民の動揺を考えたら妥当な判断だと言えるだろうね。」

ナイアルの説明にオリビエは納得して頷いた。

「記者としては不満だが、そのあたりは俺も納得してるさ。その代わり、また事件が起こったら俺たちにもちゃんと知らせてくれよ?」

「うん、わかったわ。それじゃあ、あたし達はツァイス地方に出発するけど……」

「おお、そうか。俺は原稿書きがあるからちょいと見送りに行けねぇが……。ドロシーのヤツ、起こすかよ?」

「あ、いいっていいって。せっかくぐっすり寝てるんだし。ナイアルからよろしく言っといて。」

「わーった。くれぐれも気を付けろよ。」

そしてエステル達は空港に向かった。



~ルーアン発着所~



ジャンの手配によってチケットを手に入れたエステル達はしばらく待った後、定期船が来た。

「さてと。あたしたちも乗りますか。」

「はい、そうですね……」

定期船に乗ろうとした所意外な人物達がエステル達に声をかけた。

「あ~、いたいた!」

なんとクラム達がエステル達に近付いて来た。

「あ、あんたたち!?」

「みんな!?」

「みんな、どうして……」

クラム達の登場にエステル、ミント、クロ―ゼは驚いた。

「見送りに来たのー。」

「まったく3人とも、ちょっと薄情すぎるぜ。オレたちに黙って出発しようとしてさ~!」

「ほんと、プンプンですよ!」

「クローゼおねえちゃん。ホントに行っちゃうの~?」

驚いているエステル達にクラム達は思い思いの言葉を言った。

「うん……ごめんね。挨拶をしようと思ったんだけど留守にしてるって聞いて……」

「ルーアンの方に来てたわけね。あ、それじゃあひょっとしてテレサ先生も……」

「うふふ。間に合ったみたいですね。」

そこにテレサ、そしてコリンズとジル、ハンスまでがやって来た。



「先生!」

「院長先生!それに、ジルたちも……」

テレサ達の登場にミントとエステルは驚いた。

「あはは!ぎりぎりセーフって感じね。」

「はあ、いきなり見送りして驚かせようなんて言い出すからこんな事になるんだよ。」

「ま、結果オーライってことで。」

呆れて溜息を吐いているハンスにジルはウインクをして答えた。

「実は、ジルさんたちからあなた達が出発することを教えてもらったんです。それで、どうせならみんなでお見送りをしようという事になって。」

「フフ、ついでだから私も付き合わせてもらったよ。」

「そうだったんですか……」

テレサとコリンズの話を聞いたクロ―ゼは感動してテレサ達を見た。



「……なあ、エステル姉ちゃん、ミント姉ちゃん。ヨシュア兄ちゃん……家出しちゃったんだってな。」

「あ……………」

「………………」

クラムの言葉を聞いたエステルとミントは表情を暗くした。

「あたし達、先生からその事を教えてもらって……」

「そっか……。ごめんね、みんなに黙ってて。」

「みんなを心配させたくなかったんだ………」

気不味そうに話すマリィを見て、エステルとミントは謝った。

「ううん、いいんです。あの、わたしたち、女神さま達に毎日お祈りします!ヨシュアさんが早く帰ってきますようにって!」

「ボクもお祈りする~!」

「きっとかなえてくれるの~。」

「「みんな……」」

「ふふ、ありがとう。」

マリィ達の暖かい心使いにエステルとミント、クロ―ゼは感動し、微笑んだ。

「ついでにあたしたちも女神様に祈らせてもらうわ。エステル、クローゼ、ミントちゃん。くれぐれも気を付けてね。」

「頑張るのはいいが無理して危険な目には遭うなよ。そんな事になったら、あいつ、自分が許せなくなるだろうからな。」

「ジル、ハンス君……」

「うん!わかった!」

「うん……。肝に銘じておくわね。」

ジルとハンスに励まされ、エステル達は頷いた。



「エステルさん、クローゼの事、どうかよろしくお願いします。しっかりしているように見えてもろいところがある娘ですから……」

「せ、先生……」

テレサの言葉を聞いたクロ―ゼは恥ずかしそうな表情をした。

「えへへ、任せてください。といっても、あたしの方が色々助けられちゃいそうだけど。」

「ふふ……。クローゼはこれを機会に自分を見つめ直せるといいわね。自分のすべきことが何なのか焦らず答えを出すといいでしょう。」

「はい……わかりました。」

テレサの事簿を聞いたクロ―ゼは凛とした表情で頷いた。

「遊撃士と学生……どちらも目指すべき道がある。2人とも、これまでの日々でじゅうぶん力を養ってきたはずだ。己の力を過信せずに使いこなせるようになるといい。そうすれば必ずや困難な道も乗り越えられるだろう。」

「「はい!」」

そしてコリンズの言葉にエステルとクロ―ゼは力強く頷いた。



ツァイス方面行き定期飛行船、『セシリア号』まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください



「あ、いけない……!」

出発のアナウンスを聞いたエステル達は急いで、定期船に乗り込んだ。

「それじゃあ、またね!」

「みんな……お元気で。」

「今度来る時は絶対、ツーヤちゃんも連れてくるね!」

「姉ちゃんたちも元気でな!」

「土産話とヨシュア君、期待して待ってるからね!」

そして定期船はツァイスに向けて、飛び去った。



一方その頃、ディアーネ達を追い払ったユイドラ軍だったが、数日後に今までとは比べ物にならないほどの大軍がユイドラに迫っていた…………




 

 

第2章~荒ぶる大地~ 外伝~工匠都市防衛戦~前篇

~工匠都市ユイドラ・城壁上~



「なっ……………!」

敵襲の知らせを聞いたウィルは蟻のように群がっている魔族の軍を見て、信じられない表情をした。

「な、何よあれ~!?多すぎじゃない!!」

「どうやって、あんなに集めたんだよ~。」

「………総力戦と言った所か。」

「敵もそれだけ必死と言う訳ですね………」

あまりにも多い敵の数を見たエミリッタとシャルティは信じられない表情をし、ユエラとメロディアーナは冷静な表情で答えた。

(くっ………水那達は間に合わなかったか……!もっと早くに頼んでおけば、こんな事には……!)

ウィルは自分の判断不足を心の中で呪った。

「どれだけ来ようと………ウィルやユエラ達の敵は殺す………!」

ラグスムエナは大鎌を構えて、戦闘態勢に入った。

「ウィル!今までのように討って出るのは危険過ぎます!」

「わかっている!裏門を防衛しているレグナー達に通達!門を堅く閉じて、敵の侵入を食い止めろ!空を飛んで侵入してくる敵を優先的に撃退!絶対に街に入らせるな!」

セラウィの忠告に頷いたウィルはユイドラ兵達に伝令をした。

「「「「ハッ!」」」」

伝令に頷いた兵士達は報告に向かった。

「ルリエンよ………我等に勝利を………」

「軍神の戦士として、この命、果てるまで戦い抜きます。」

「………この私がいる限り、ロカ様は殺させません。」

フォーチュラは戦闘前の祈りをし、ロカは静かに槍を構え、イルザーブも剣を構えた。



「フフ………腕がなるわね♪」

「フン。雑魚がいくら群がろうが無駄な事を。」

カーリアンやファーミシルスは敵の大群を見て、不敵に笑っていた。

「キャハッ♪一杯遊べそう♪」

「余達がいるのだ!敵がいくらいようと、負けはない!」

「うふふふ……今日はどれだけ殲滅しようかしら♪」

エヴリーヌやリフィア、レンは可愛らしい容姿ながら敵の大群に腰が引けているユイドラ兵達と違って、楽しそうな表情をしていた。

「…………どうやらお前をここに連れて来て正解だったようだな、シェラ。期待しているぞ。」

リウイは先日、”帰還の耳飾り”によってメンフィルから一時的に呼び寄せて来た部下――シェラ・エルサリスを見て言った。

「ハッ。」

リウイに見られたシェラは軽く頷いた。

「ペテレーネ。久しぶりかもしれんが、衛生兵として頼むぞ。」

「お任せを。手が空いていれば私も援護させて頂きます。」

「マーリオン。お前はペテレーネ達の補佐だ。教会で待機しているシスター達の護衛や補佐を頼むぞ。」

「了解しました…………」

リウイの指示にペテレーネは会釈をして頷き、マーリオンも頷いた。そしてペテレーネとマーリオンはユイドラにある教会を仕切っているシスター――ハンナを中心としたユイドラの女性達による衛生部隊の所に向かった。

「ツーヤ、イリーナさん。絶対に私達から離れないで下さいね。それと無理は禁物です。無理と思ったら、街の人達が避難している場所に撤退して下さいね。」

「はい!」

「ご主人様は絶対に守ります………!」

プリネの指示にイリーナは頷き、ツーヤは凛とした表情でプリネを守る事を改めて固く誓った。そしてプリネは召喚した自分の使い魔達にも向いて言った。

「ペルル、フィニリィ。大変とは思いますが、精一杯頑張って下さい。」

「勿論だよ!ボク達の未来のためにも頑張らないとね!」

「当然ですわ!わたくしにとっても思い出があるこの街をあのような魔物共に壊させはしませんわ!」

プリネの頼みにペルルとフィニリィはそれぞれ力強く頷いた。



「お父さん、お母さん!」

そこに武装したセティ達――ウィルの娘達が来た。

「3人とも!?ここは危険だ!早く、避難所に!」

娘達の登場にウィルは驚いた後、すぐに警告した。

「私達も戦います!」

「そうだよ!一人でも戦える人が必要なんだから、母さん達に鍛えてもらった私達も戦わないと!」

「………シャマーラの言う通りです。ユイドラを守りたい気持ちは父様達に負けません。」

セティは弓を掲げ、シャマーラは大剣を掲げ、エリナは槍を掲げて戦う意思を強く言った。

「そんな!危険過ぎます!」

娘達の決意を聞いたセラウィは驚いた後、セティ達を心配した。

「う~ん………さすがにあんた達じゃ、この状況で戦うのは厳しいんじゃないかな~?」

「………ええ。ですが3人がある程度の武を持っているのも確か……どうしますか、ウィル。」

シャルティも珍しく渋い表情で答え。メロディアーナは頷いた後、ウィルに判断を求めた。

「……………………」

判断を迫られたウィルはその場で考え込んでいた。

「私達、お父さん達の無事を祈って待っているだけじゃ、嫌なんです!」

「母さんやユエラ姉さん達に鍛えてもらったんだから、ある程度は戦えるよ!私達もユイドラを守らせて!」

「………お願いします、父様。」

「……………………わかった。」

「ウィル!?」

決意を持った表情の娘達を見て、許可を出したウィルにセラウィは驚いた。

「セティ達のこの様子を見たら、ここで断っても隠れて戦いそうだからね………だったら、目が届く所で戦ってくれた方が安心できるよ。」

「それはそうですが…………」

ウィルの話を聞いたセラウィは納得はしていたが、それでもまだ心配していた。



「心配するな、セラウィ。私達がいるんだ。」

「そうだよ!危なくなったら、あたし達がフォローすればいいだけだし!」

「みんな………守る………」

心配しているセラウィにユエラ達は心強い言葉をかけた。

「………わかりました。ですが、私達のように決して一人で戦わないで下さいね?」

「3人で協力して戦う事。いいね?」

「「「はい!!」」」

セラウィとウィルの言葉にセティ達は力強く頷いた。そしてついに魔族の大群がユイドラのかなり近くに近付いて来た!


「ウィル、敵が大分近付いて来ました!」

「わかった!弓隊、構え!」

メロディアーナの警告に頷いたウィルは指示をした。ウィルの指示によって兵士達は弓矢を構え、セラウィやセティ、フォーチュラにエヴリーヌも弓を構えて技を放とうとした。

「………行くわよ。」

「シェラ、お前は状況を見て移動しつつ、外の敵を一掃しろ。」

「御意。」

ロカは魔導鎧に付いている砲口を出し。リウイに命令に頷いたシェラもいつでも放てるようにした。

「…………神をも震撼させし………」

「流星よ……」

リフィアとエミリッタは魔術の詠唱を始めた。そして敵の大群はユイドラに近付いて来た。



「!今だ!放て!!」

ウィルの号令に呼応するように、ユイドラ兵達は一斉に矢を放ち、一斉に放たれた矢は雨のように敵に降り注いだ!

「行くぞ!乱れ撃ち!!」

「行きますよ!ハッ!………まだです!2連制圧射撃!!」

「死んじゃえばぁ!!アン・セルヴォ!!」

「ヤアッ!2連射撃!!」

フォーチュラ、セラウィ、エヴリーヌ、セティの弓矢も敵を射抜き、絶命させた!

「………行きなさい!」

「………制圧二連。発射。」

ロカ、シェラの砲撃は大量の敵を葬り

「エル=アウエラ!!」

「小隕石召喚!!」

リフィアとエミリッタの魔術も負けずに大量の敵を葬った!

弩砲(アーバレスト)!構え!」

さらにウィルの号令で城壁にある防城兵器の一種、大型弩砲――アーバレストをユイドラ兵や工匠達は協力して、槍のような大きい矢を何本もつがえて、弓を引き絞った!

投石機(カタパルト)!用意!」

そしてアーバレストと同じ兵器の一種である、投石機――カタパルトも同じようにユイドラ兵や工匠達によって構えられた!

「撃て!!」

そしてウィルの号令によって兵器に付いている矢や石は一斉に発射され、地上の敵を大量に減らした!上からの攻撃によって地上の敵は次々と絶命していったが、翼を持ち、空を飛ぶ魔物達は上空より強襲した!



「そこだっ!」

「フッ!」

「ど~りゃ~!」

「ヤアッ!」

「それっ!」

「はあーっ!」

上空より強襲して来た敵をウィル、リウイ、カーリアン、プリネ、、レン、ユエラはそれぞれの武器で撃退した!また、ユイドラ兵達や工匠達も戦闘を始めた!

「そこっ!」

「とーう!」

「死ねっ!」

「ハアッ!」

「邪魔よ!」

「えい!」

「貫け!」

飛行能力を持つメロディアーナ、シャルティ、ラグスムエナ、イルザーブ、ファーミシルス、ペルル、フィニリィは空中戦で挑み、敵を倒して行った!

「戦意よ、目覚めよ!祝福!!」

「ありがとうございます、イリーナさん!………斬!!」

イリーナによって身体能力が上がったツーヤはジャンプして、クラフト――十六夜”斬”で敵を斬った!

「行けっ……!光弾!!」

そしてイリーナは魔術を放って敵を撃ち落とした所を

「ハアッ!!」

ツーヤがクラフト――溜め突きで止めを刺した!

「速いの、行っくよ~!ヴェングス!!」

シャマーラは両手剣という大型の武器を持ちながら高速剣の一種――風鎌剣の剣技で敵にダメージを与え

「止め!」

エリナが槍で敵の喉元を突き、絶命させた!そしてエリナの背中から襲いかかろうとした敵がいたが

「させない!」

セティが撃ち落とし

「ハア~!気合斬り!!」

シャマーラが両手剣に闘気を込めて豪快に真っ二つに斬った!

「セティ姉様、シャマーラ。ありがとうございます。」

「フフ、気にしないで。妹を守るのも姉の務めですよ。」

「そうだよ~!だってあたし達は姉妹なんだから!」

お礼を言うエリナに2人は微笑みながら答えた。

「フフ………ありがとう、2人とも。……でも、油断は禁物よ、シャマーラ!」

そしてエリナはシャマーラを背後から襲いかかろうとした敵を槍で喉元を突き、絶命させた!

「ありゃ。あたしも人の事、言えないな~。」

「私達はお父さん達と違って、工匠として、戦士としてもまだまだなんですから………3人で協力して、頑張りましょう!」

「はい!」

そして3人は協力して、戦い始めた!



城壁の上は上空より侵入して来ようとする敵との混戦になった!そこに慌てた様子の一人の工匠がやって来た。



「領主様~!レグナー様達が苦戦しています!至急、援軍を!!」

「なんだって!レグナーが!?まさか、相手はディアーネか!」

自分の好敵手であり、ユイドラの工匠の中でもナンバー2を誇るほどの実力があるレグナーが苦戦している事に驚いたウィルはレグナー達を苦戦させている相手を尋ねた。

「い、いえ………相手はセオビットと名乗る睡魔族の者のようです!!たった一人なのですが、これが強くて………上級工匠の数名が既に重傷を負い、教会へ運ばれて行っています!」

「クッ………まさか、ここでそんな強敵が現れるなんて………!」

新たな強敵の登場にウィルはどうするか考えた。そして工匠が遠慮気味にウィルに尋ねた。

「あ、あの………ここにリウイっていう人はいますか?」

「え?」

「………俺がどうした。」

リウイが呼ばれた事にウィルは首を傾げ、リウイは尋ねた。

「その………セオビットという者が『リウイという半魔人を出せ』と………」

「何?そのセオビットとやらは俺に何の用なのだ?そのような名前、聞いた事もないが。」

聞いた事も見た事もない相手が自分を呼んでいる事にリウイは首を傾げた。

「はあ………それが『私と同じ半魔人の癖に人間との共存を謳う魔族の面汚しに裁きを与える』と叫んでいたのですが………」

「………………同じ”半魔人”か。……………どうやら、ここは俺が行った方がいいな。プリネ。お前はツーヤとイリーナと共にペテレーネ達の援護に向かえ。……恐らく、そのセオビットとやらのせいで、重傷者が増えているだろう。治癒師が圧倒的に不足しているだろうから、一人でも多くの治癒術師がいた方がいいだろう。」

工匠から話を聞いたリウイは少しの間考え、答えた後プリネに指示をした。

「はい、わかりました!イリーナさん、ツーヤ!行きますよ!」

「「はい!」」

リウイの指示に頷いた後、ペテレーネ達がいる教会に向かった。

「そのセオビットとやらが戦っている場所に案内してくれ。」

「はい!」

「レグナー達を頼む、リウイ!」

「ああ。」

そしてリウイは工匠に案内され、レグナー達が戦っている場所に向かった。



~工匠都市ユイドラ・裏門~



ウィルの好敵手であり、右腕でもあるレグナー率いる工匠達はたった一人で裏門を破壊し、ユイドラに侵入して来たセオビットによって絶体絶命の状況に陥っていた。

「ふふっ………あっけないわね?退屈凌ぎにもならないわ………」

「クッ…………」

無傷で不敵な笑みを浮かべているセオビットを全身に傷を負い、所々破れている外套を羽織った黒髪の青年――レグナーがセオビットを睨んでいた。レグナーを守っている巨大なゴーレムもセオビットの攻撃によってボロボロになっていて、周りの工匠達も重傷を負っている様子で地面に蹲って呻いていた。

「まあいいわ………あなた達を葬った後、リウイとやらをゆっくり探すわ………。」

そしてセオビットは片手に魔力を込めた。するとセオビットの片手に膨大な魔力が籠った!

「!!全員、散開しろ!」

それを見たレグナーは全員に警告したが、重傷を負っているため、誰も動けなかった。

「死になさい。」

そしてセオビットは片手に込めた膨大な魔力の弾を放った!

「セアッ!!」

そこにリウイが乱入し、レグナー達の前に立ちはだかり、クラフト――フェヒテンケニヒで魔力の弾を真っ二つにした!

「ラ・ティアラル!!」

さらに乱入する前に駆動させ始めたオーブメントを発動させ、アーツでレグナーや工匠達の傷をある程度回復させた。

「貴方は……メンフィル王。」

自分達を救った人物に呆けたレグナーだったが、リウイ達の正体をウィルから内密に教えられていたレグナーは自分達を救った人物がリウイである事に驚いた。

「………お前がウィルが言っていたレグナーだな?そいつの相手は俺がしてやる。お前達はその間に負傷した者達を教会に運び、壊れた門の修理を行っておけ。」

リウイは、攻撃をやめて自分を興味深そうな表情で見ているセオビットから目を離さず、レグナー達に指示した。



「援護は?」

「必要ない。俺の戦いに付いてこられる奴はここにはいないだろうしな。」

レグナーは援護が必要か尋ねたが、リウイは断った。

「………わかりました。ここはお願いします。」

リウイの答えをある程度予想していたレグナーはリウイに軽く目礼した後、工匠達にさまざまな指示をして、門の修理に向かった。そしてその場はリウイとセオビットの2人だけになった。

「ふふっ……貴方がリウイね?……どんな男かと思ったけど、いい男じゃない。………魔力も父様と同等かそれ以上に感じるわね。ふふっ………楽しませてもらえそうね……」

「セオビットといったな………何者だ。俺はお前に見覚えも聞き覚えもないぞ。……その容姿からすると、エルフと魔人から産まれた半魔人という所か………」

不敵な笑みを浮かべているセオビットをリウイは目を細くして睨みながら尋ねた。

「ディアーネとやらから、貴方の事は聞いたわ。魔神の血を引くくせに、光と人間に与する裏切り者だと。」

「………勘違いするな。俺は光にも闇にも属さん。俺が目指すのは光と闇の”共存”だ。」

「フン……それが気にいらないのよ………!我が名はセオビット!リガナール半島に住みし魔人、イグナートの娘なり!」

リウイの答えに鼻をならしたセオビットは高々と自分の事を言った。

「…………リガナール半島………だと?確かあそこは腐敗の神に与する眷属によって、生き者が住めない腐敗の土地だと聞いたが。」

セオビットの口から出た土地の名前を聞いたリウイは、その土地の現在の状況を思い出して尋ねた。

「五月蠅い!数百年経とうが、生き者が住めない土地になろうが父様は生きているに決まっている!」

(………?何だ、こいつの言い方は。この言い方だと、まるで時代に取り残されたような言い方だが……)

リウイの言葉を聞き激昂したセオビットを見て、リウイは何かが頭に引っ掛かり、眉をひそめていた。



「この私と同じ半魔人の癖に、脆弱な人間と慣れ合っている魔族の面汚しが……!最初は殺すつもりだけど、貴方を見て気が変わったわ!じわじわといたぶった後、私の奴隷にしてあげるわ………この私の下僕になれるのだから、光栄に思いなさい!」

「結構だ。………我が覇道、誰にも妨げはさせん。邪魔する者は例え、同族であろうと赦しはしない。」

リウイはレイピアを構え、全身に闘気と魔力を纏った!

「ふふっ………せめて、この私の練習台にはなってよね!!」

セオビットは異空間より黒々と燃える魔剣を出して、リウイのように全身に闘気と魔力を纏い、そして剣を構えた!

「………行くぞ!」

そしてリウイとセオビットは戦い始めた………!



その頃、ハンナとペテレーネ、マーリオンがいる教会内は次々と運ばれる負傷者への対応に追われていた………









 

 

外伝~工匠都市防衛戦~後篇

~工匠都市ユイドラ・教会内~



「軽傷の方は治癒の水で治して下さい!運び込まれる方達には治癒の水や血廉の滴で応急手当てを!さまざま場所に傷を負った方は私の所やマーリオンさんの所に案内して下さい!……神よ、ご慈悲を………癒しの息吹!!」

碧い瞳を持ち、水色の髪を一房にしたユイドラ唯一のシスター――ハンナは傷を負った兵士を魔術で癒しながら、女性達に指示をした。

「水よ………癒しの力を………」

マーリオンも魔術を使って、傷ついた兵士の傷を治癒した。

「意識がない方や骨折をした方はペテレーネ様にお願いして下さい!」

「「はい!」」

ハンナの指示に頷いた女性達は重傷を負い、呻いている工匠を協力して他の兵士を癒しているペテレーネの所に運んだ。

「う………ううっ………」

「ほら、しっかりしなさい!………お願いします。」

呻いている工匠を元気づけた女性は骨折した兵士を治し終わったペテレーネに頼んだ。

「わかりました。………癒しの闇よ!闇の息吹!!」

ペテレーネが治癒魔術を施すと、工匠の傷が完全に治った。

「おお………!ありがとうございます!」

傷が治った工匠はペテレーネに感謝して、そして再び戦場に向かった。

「………お疲れ様です、ペテレーネ様。」

そこにハンナがお茶をペテレーネに差し出した。

「ありがとうございます、ハンナさん。………このお茶は貴女が?」

「いいえ、お恥ずかしながら他の方に頼んで入れて貰いました。自分の手が全然空きませんでしたので。」

お茶を受け取り、尋ねたペテレーネの言葉にハンナは苦笑しながら答えた。



「こんな状況ですからね………仕方ないですよ。」

ハンナから貰ったお茶を呑んだ後、ペテレーネは微笑んだ。

「はい。………それにしても闇の神殿の方が、それも神格者の方が力を貸して頂けるなんて思ってもみませんでした。」

「アーライナ様は寛大な方ですから………それにしても、本当にいい街ですね、ユイドラは。今のように闇夜の眷属や亜人も関係なく、接しているのですから……」

ペテレーネは教会内で傷の手当てを受けている獣人や闇夜の眷属達を見て呟いた。

「ふふ………これも今の領主様のお陰ですよ。『ユイドラは周りに住む全ての種族達と協力し合ってこそ、発展するものだよ。』……まさにその通りですよ。10数年前に合った出来事も闇夜の眷属、エルフ等ユイドラに住む全ての種族が協力し合って乗り越えられたのですから……」

「あの………10数年前に一体何があったんでしょう?」

「はい。ユイドラの地下深くに封印されていた強大な闇の封印が解け、疫病をはやらし、森に瘴気をまくほどの影響がおきたのです。封印が解けたのはなんでも北の地方でとてつもない存在が復活した影響で解けたと言われていました。………それをウィルフレド様は全ての種族と協力して、解決したのです。」

「そうだったんですか………(10数年前………ユイドラの北で起こったとてつもない存在の復活………まさか。邪龍復活の影響!?)」

ハンナの話に頷いていたペテレーネは心の中で心当たりがあり、顔には出さず、驚いていた。

「お~い!こっちを頼む!重傷者が一杯いるんだ!」

そこにレグナーの指示によって重傷を負った工匠や兵士達がリウイのお陰で軽傷まで回復した兵士や工匠達によって運び込まれた。

「なっ………!」

ハンナは運び込まれた重傷者の多さに目を見開いて驚いた。

「さすがにこれは手が足りませんね…………闇の息吹!!」

ペテレーネは驚きながらも一人の重傷者に駆け寄って治癒魔術を施していた。

「けど、やるしかありませんね!……癒しの風!!」

「……癒しの水よ、降り注げ………!癒しの雨……!!」

ペテレーネの言葉に頷きながら範囲治癒魔術を施すハンナに続くようにマーリオンも魔術を使って、ペテレーネ達を手伝っていた。



「お母様!お父様に言われて手伝いに来ました!」

そこにイリーナ、ツーヤを連れたプリネが教会に入って来た。

「プリネ!?それにイリーナさんにツーヤさんも……ありがとう。みんなで手分けして、重傷者の方達を優先に癒して行って!」

「はい!イリーナさん、ツーヤ。2人もお願いします!…………闇の息吹!!」

「はい!しっかりして下さい!……癒しの息吹!!」

「了解しました……!水よ、癒しの力を……!ヒールウォーター!!」

プリネの指示に頷いたイリーナとツーヤはそれぞれ、傷を負い呻いている兵士や工匠達に駆け寄って、治癒魔術を施していた。その頃、ユイドラ軍は今までの度重なる戦いの疲労や敵の余りの多さに疲弊していた。そのため、ついに街への侵入を許してしまい、ウィル達は街に侵入した魔物達の対応に追われていた。



~工匠都市ユイドラ・街内~



「喰らえっ!!」

「闇の精霊よ!我が呼びかけに応え、我が仇名す者達を吹き飛ばせ!闇界衝撃!!」

「喰らっときなさいよ!!」

「やぁ~…………!ブラッドサークル!!」

「邪魔だっ!!」

「風の刃よ!旋刃!!」

「ヤア~!!」

「そこっ!!」

「これでっ!!」

ウィル、セラウィ、カーリアン、レン、ユエラ、セティ、シャマーラ、エリナ、ロカは街の中にまで入って来てしまった魔物達を倒していた。

「超!ねこ、パ~ンチ!!」

「喰らえ~!!凝縮闇弾!!」

「消えろ!」

「連接剣のお味はどう?」

「ハァァァァ………!彗星の光槍!!」

「光よ、降り注げ!爆裂光弾!!」

「出でよ、烈輝の陣!イオ=ルーン!!」

ペルル、シャルティ、ラグスムエナ、ファーミシルス、メロディアーナ、イルザーブ、フィニリィもこれ以上侵入を許さないかのように空中戦で次々と敵を葬っていった!

「うざーい。………制圧射撃!!」

「光の精霊よ!我が呼びかけに応え、我が仇名す者達に裁きを!槌の光霞!!」

「闇の彼方に沈め!ティルワンの闇界!!」

「燃え尽きろ~!大熱風!!」

「行きます。……制圧3連砲撃。開始。」

エヴリーヌ、フォーチュラ、リフィア、エミリッタ、シェラは城壁の上で技や魔術、魔導砲を放って、空の敵を撃退していた!精鋭揃いのウィル達が最終防衛ラインはなんとか護りきっているが、ユイドラ兵達はほかの国の軍と違い、練度があまりなく、頼みの綱の上級工匠達も数が少ないため、人手が圧倒的に足りなく、街への侵攻は時間の問題だった。



「ふふっ………これはどうかしら!?」

「甘い!!」

一方セオビットと一騎討ちをしているリウイは何を思ったか、人がいない森に向かいながら襲いかかるセオビットの対処をしていた。

「闇に沈みなさい!!ティルワンの闇界!!」

「!!」

セオビットの魔術をリウイは後退して、回避した。しかしそこに魔術によってできた暗闇の中からセオビットが剣で強襲した!

「深淵剣!!」

膨大な暗黒の力を纏って敵を斬る技――深淵剣でセオビットはリウイに斬りかかったが

「エクステンケニヒ!!」

リウイは聖なる力を宿した剣技――エクステンケニヒで対抗した!暗黒と神聖の力がぶつかり、双方に込められている魔術の効果はなくなり、リウイとセオビットはお互いの顔を睨みながら、鍔迫り合いをした!

「ふふっ………私と同じ魔族の癖に聖なる力を使えるなんて…………貴方の母親はどこかの神官かしら?」

「………お前に教える筋合いはない。………お前こそ、エルフの血をひいている割には精霊魔術を使わないようだな?」

「フン!あんな奴、どうでもいいわ!5段斬り!!」

リウイの言葉を鼻を鳴らして答えたセオビットは剣で連続攻撃を仕掛けた!

「フェヒテンアルザ!!」

しかしリウイはセオビットが放った技と同じ性能を持つ技で対抗して、セオビットの攻撃を捌いた!

「ふふっ………この私の攻撃を耐えているのは褒めるけど、いつまで耐えられるかしら?私を倒さなければ、貴方の仲間達は倒れ、この街は滅ぶわよ?」

「………舐めるな。あいつらはその程度で倒れる者達ではない。」

「…………どこまでもいらつかせる人ね。ハァァァァァ!」

リウイの仲間を信じる言葉に顔を歪めたセオビットはリウイに激しい攻撃を仕掛けた!そしてリウイはセオビットの激しい攻撃に対処しながら、森に向かった。



「くっ………このままでは不味い………!」

敵をまた倒したウィルは状況がどんどん悪化している事に焦った。

「諦めてはいけません、ウィル!きっと勝機は必ずあります!」

「ああ!」

セラウィの励ましにウィルは力強く頷いた。



その時、空間が歪み、緑の瞳と紫色の髪を持つ自分の身体と同じ大きさの玉に乗る道化師のような姿の魔族率いる歪魔や睡魔達が現れ、地面には何かの魔法陣が描かれ、そこからは十人中十人が振り返るような美しい容姿をし、ウェーブさせた水色の髪を腰までなびかせ、髪の色より弱冠濃い水色の瞳を持ち、片手には杖を持ち、白を基調とした服を着ている天使率いる天使達が現れた…………!






 

 

外伝~集いし者達~

~工匠都市ユイドラ・街内~



「う、うわ――――!?あ、新手だ!?」

いきなり現れた歪魔や睡魔を見て兵士や工匠達は悲鳴をあげた。

「へ~………ちょっとはできそうなのがいるわね♪」

「うふふ………まさかここでお客様が増えるなんてね♪しかも天使まで♪どうやってもてなそうかしら♪」

一方カーリアンとレンは新たに現れた歪魔や天使達を敵と思い、不敵に笑った。

「…………全く。普段から多種族との交流をしている割には敵と味方の区別もつかないのかしら?ユイドラの人間達は。魔族と一緒にされるという屈辱………どうやって、晴らそうかしら?」

天使達を率いている天使は呆れて溜息を吐いていた。

「ずるいぞっ、ウィル?こんな楽しそうな事を知らせてくれないなんて、ミレーヌ、悲しくて泣いちゃうぞ?」

歪魔を率いている道化師のような姿をした歪魔は楽しそうな表情でウィルに言った。

「エリザスレイン!ミレーヌも!」

ウィルはかつて共に戦った仲間であるユイドラの遥か東にある大聖堂ミサンシェルの天使達を率いる力天使――エリザスレインとユイドラの遥か西にある魔族領域――グシメラの魔宮を住み家とする歪魔や睡魔達を率いる歪魔――ミレーヌ・プロアの登場に笑顔になった。

「ご主人様~!無事でよかった~!!」

「本当に無事でよかったです、お兄様………!」

「アト!水那!」

ミレーヌの傍にいた女性の姿をしたアースマン――アトとエリザスレインの傍にいた東方の国――ディスナフロディ独特の服、”着物”を着ている水精――水那は嬉しそうにウィルに駆け寄った。



「2人とも、無事に知らせてくれたんですね……!」

セラウィは水那達がエリザスレイン達に助けを求めた事に成功した事に嬉しそうな表情で尋ねた。

「はい………!最初は助けに行く事を渋っていましたけど、最後には納得してくれました……!」

「ミレーヌなんか、酷いんだよ~!アトが来た時、戦闘を仕掛けて来たんだから~!」

ウィル達に水那は嬉しそうな表情で、アトは頬を膨らませてエリザスレイン達を連れて来た経緯を答えた。

「………この私が自らユイドラと共に歩む事を誓約をしたのだから、助けの求めに応じないと、力天使(ヴァーチャーズ)たるこの私が嘘吐き呼ばわりされるしね。」

「そんなに怒るなよっ♪こうして来たんだからっ♪」

エリザスレインは微笑みながら答え、ミレーヌは楽しそうな表情でアトに言った。

「そっか……ご苦労さま、2人とも。」

「あっ………」

「えへへ~。ご主人様に褒められちゃった♪」

ウィルに頭を撫でられた水那とアトは嬉しそうな表情で撫でられていた。

「貴女がエリザスレイン様ですか………初めまして。エリナと申します。」

「………メロディアーナの娘ね。以前会ったのは貴女が産まれて少ししてからだったから………会うのはこれが2度目ね。」

礼儀正しく自分に声をかけたエリナにエリザスレインは答えた。

「……私の名前はエリザスレイン様より名前を頂いていると聞いていたので、一度お会いしたいと思っていました。……母様のお話通り、私の想像通りの美しく、素晴らしい方ですね……!」

「………一体メロディアーナは、私の事をどういう風に伝えたのかしら?」

尊敬の眼差しで自分を見るエリナを見て、エリザスレインは興味深い表情で空で戦っているメロディアーナを見ていた。



「そうそう、ご主人様!みんなもご主人様達を助けるために、一緒に来てくれたんだよ~!」

「私の仲間達もです………!水を大事に使ってくれるユイドラの人達を助けるために一緒に来てくれました……!」

「2人とも………本当にありがとう!」

歪魔や天使達に混じっている土精や水精達を見て、ウィルはお礼を言った。

「………ユイチリの双子は誰に知らせに言っているんだ?」

そこにユエラがある人物達が居ない事に気付いて尋ねた。

「2人はエルフの森に行った後、クレールはフェマ山脈、クレアンヌはロセアン山脈に行くって言っていたよ~。」

「え………それじゃあ、もしかして……!」

アトの説明を聞いたウィルが驚いたその時



コ―――――――ン!!



グオオオオオオオオ―――――!!



戦場と化しているユイドラにたくさんの狐の遠吠えととてつもない存在の雄叫びが聞こえて来た!すると燃えるような見事な毛並みの大型の狐達――サエラブの同族達が門を破壊しようとしている魔物達に次々と襲いかかり、空を飛んでいる魔物達にはとてつもない雷撃が襲い、雷撃に命中した魔物達は絶命して、地面に落ちて行った!

「久しぶりよな、ウィルフレドよ。」

「ウィル、みんな!お待たせ!」

そしてウィル達の近くに九の尾を持ち、燃えているような赤の着物を着た女性が数匹のサエラブ達とユイチリの少女と一緒に転移して来た。

「狐伯蓮!クレアンヌ!」

九の尾を持つ女性――”炎狐”サエラブ達の長であり”炎狐”の中でも限られた者が永い時を得てなれる究極の存在、仙狐――狐伯蓮とユイチリの少女――クレアンヌの登場にウィルは嬉しそうな表情で声を上げた。

「ウィル―――!みんな―――!ガプタール、早く降りてよ!」

「言われなくともわかっている。だから、そう急かすな。」

さらにユイチリの少年を背に乗せた巨大な竜が羽ばたきをしながらウィル達の近くに降り立った。竜が降り立つとユイチリの少年は竜の背から降りた。

「クレール!ガプタール!」

ユイチリの少年――クレアンヌの双子の弟、クレールとセテトリ地方の北、ディジェネール地方にある巨大山脈、フェマ山脈に住む雷竜――ガプタールの登場にウィルはさらに嬉しそうな表情で声を上げた。

「僕一人でフェマ山脈まで行ったんだよ!凄いでしょ!」

「もう、クレールったら!そんなに威張る事じゃないでしょ。」

自慢げに語るクレールを見て、クレアンヌは呆れた後指摘した。

「なんだよ~。ガプタールを見つけるのに凄い苦労したんだからな~。」

指摘されたクレールは頬を膨らませて答えた。

「ハハ………わざわざユイドラまで来てくれてありがとう、ガプタール、狐伯蓮。」

「礼には及ばぬよな。お主とわらわの仲ではないか。」

「我はお主の求めに応じただけだ。礼には及ばぬ。」

お礼を言うウィルに狐伯蓮とガプタールは気にしないよう、答えた。



「わあ………こんなにもたくさんの種族と父さん達は仲がいいんだ………!」

「さすが、お父さんです………!私達も見習わないといけませんね。」

さまざまな種族と仲がいいウィル達を見て、シャマーラやセティは尊敬の眼差しでウィル達を見ていた。

「エルフの人達は今頃、レグナーさん達の所に援護に向かっているわ!」

「そうか………!」

クレアンヌの説明を聞いたウィルは力強く頷いた。

「ウィル。」

そしてそこにセラウィが微笑みながらウィルに話しかけた。

「うん、わかっている。この戦いで決着をつける!さあ!反撃開始だ!!」



今ここに、さまざまな種族の協力を得たユイドラの猛反撃がついに始まった……………!






 

 

外伝~英雄達の戦い~

~工匠都市ユイドラ~



「水那!早速で悪いけど、水精達には怪我をした人達の治療をしている人達の手伝いのために教会に向かわせてくれないか!」

「はい!みなさん、教会に行って、怪我をしているユイドラの人達を助けてあげて下さい!」

ウィルの指示に頷いた水那は水精達に頼んだ。頼まれた水精達は教会に向かった。

「みんな~!協力してユイドラを護ろう~!」

「お前達!久しぶりに暴れるぞっ!」

「皆の者!わらわ達の同胞達に手を出せばどうなるか………思い知らせてやれ!」

アト、ミレーヌ、狐伯蓮の号令にそれぞれの種族達は頷いた後、戦闘を開始した!

「全員、空の敵を迎撃!ユイドラを襲う邪悪なる者達に裁きの鉄槌を与えてやりなさい!」

「我も久しぶりに力を震わせてもらおう……!」

エリザスレインとガプタールは空へと舞い上がり、エリザスレインに続くように天使達も空へ舞い上がって戦闘を開始した!

「門を護っている者達に開門するように伝令!外で戦っているサエラブ達を引き入れて、共に迎撃するぞ!」

「ハッ!」

ウィルの指示に頷いた兵士は急いで門に向かった。

「クレール、私達も行くわよ!」

「うん!」

クレアンヌとクレールはそれぞれ弓矢を構えて、戦闘態勢に入った。

「やった~!これなら勝利、間違いなしね!」

「これほどの種族が集まるとは……………セラウィ、お前は凄い者と結ばれたものだな。」

援軍を見たエミリッタは喜び、フォーチュラは微笑んだ。

「天使達と共闘する日が来るなんて………エヴリーヌ、考えた事もなかったよ。」

「余もだ!まさかウィルにあれほどの種族達が集まるとは………!うむ!余の目に狂いはなかったな!」

エヴリーヌは今の自分達の状況に不思議そうな表情で呟き、リフィアはウィルの人徳を自分の喜びのように感じて、胸をはった。そしてウィル達は再び戦闘を開始した!



「せいっ!」

「くらえっ!」

「火の精霊よ!我が矢に宿れ!メルカーナの制圧射撃!!」

「えーい!」

「それぇっ!」

「うふふ………凍え死になさい!!凍結!!」

「ハァァァァァ!!」

ウィル、ユエラ、セラウィ、アト、カーリアン、レン、ロカは周囲の魔物達を次々と葬り

「一匹足り共、逃がしません!ハッ!」

「行っくよ~!気合斬り!!」

「光よ、集え!光霞!!」

セティ、シャマーラ、エリナはウィル達が撃ち漏らした魔物達を3人で協力して葬り

「はいっ!」

「それっ!」

「水よ、力を貸して………!連続水弾!!」

クレアンヌ、クレール、水那はウィル達の後方から矢や魔術を放って魔物達を葬り

「ほいっ!どりゃ!やっふー!」

ミレーヌは敵の背後に転移して一撃で葬ってはさらに転移して敵を葬るという動作を繰り返して、物凄い速さで敵を次々と葬り

「灰となれぃ!狐炎術………四焔尾!!」

狐伯蓮は魔術で大量の敵を燃やしつくした!土精達は街に入って来ようとする地上の敵をその場から動かず次々と撃退し、サエラブ達は目にも止まらぬ速さで次々と敵の喉元を噛みついたり、爪で斬り裂いて敵を滅し、歪魔達はミレーヌのように敵の背後に転移して攻撃し、次々と敵を滅していった!



ウィル達がしばらく戦っていると街の方から走って来た人物達が魔術を放った!

「失いし戦意よ、蘇れ!アルテミスの祝福!!」

「戦士達に加護を!戦闘領域の符術!!」

「降り注げ…………癒しの雨!!」

街の方から来た人物達――ペテレーネ、プリネ、マーリオンの魔術によってウィル達の身体能力があがったり、戦闘で負った傷が回復し

「空間よ、歪め!ダークマタ―!!」

「貫け!アイスニードル!!」

3人の後から来た人物達――イリーナ、ツーヤはアーツや魔術で魔物達を攻撃した!

「ペテレーネ!?それにプリネ達も!リウイに言われて、教会の手伝いに行っていたんじゃないの?」

ペテレーネ達の登場に驚いたカーリアンは尋ねた。

「………先ほど水精やエルフの方達がいらっしゃったお陰で、ハンナさんも『ここはもう大丈夫だから、領主様達を手伝って下さい』と言われましたからご好意に甘えて、援護に来ました。」

「………あの、死傷者は?レグナー達を襲った魔族がとてつもないほど強力と聞いていたけど………」

ウィルはレグナー達がどうなっているか気になり、尋ねた。

「今の所、死傷者は出ていません。話に聞く所、指揮官の方が操るゴーレムが何度も庇ってくれたお陰で急所は免れたそうです。」

「そうか…………さすがレグナーだな………」

ペテレーネの説明を聞いたウィルは安堵の溜息を吐いた。



「ウィル。安心している所悪いが、戦いはこれからだ。」

「ああ、わかっている。みんな、行くぞ!」

ユエラの忠告に頷いたウィルは号令をかけた!

「ええ!」

「ああ!」

「「「はいっ!!」」」

セラウィ、ユエラ、セティ達は力強く頷き

「お父様達が愛したユイドラを、お兄様達を……絶対に守ります!!」

「今こそ、あなたの助けになるわ、ウィル!」

「よ~し、燃えてきたぞ~!ユイドラを襲う奴らはこの僕が全部射抜いてやる!!」

水那、クレアンヌ、クレールもさらにはりきり



「フフ…………まさか、こんな面白い場面を見れる事になるとはね!お礼に久しぶりに本気を出させてもらうわよ!……奥義!桜花乱舞!!」

「リウイ様とイリーナ様が目指す世界を作るため……アーライナ様より頂いたこの力、存分に震わせてもらいます!………死愛の魔槍!!」

「ご主人様のために……行きます!……溺水……!」

カーリアン、ペテレーネ、マーリオンは技や魔術を放ってさらに敵を倒し

「”殲滅天使”の名は伊達じゃない事を、見せてあげるわ♪熱風!落雷!そ~れっ♪」

レンは凶悪な笑顔で次々と魔術を放ち、そしてクラフト――カラミティスロウを放って次々と魔物達を葬って行き

「2人とも、絶対に無茶はしないで下さいね?……フェヒテンバル!!」

「はい!………光弾!!」

「今こそ”パートナー”としての本領を発揮させて頂きます!……ラファガブリザード!!」

プリネ、イリーナ、ツーヤもカーリアン達に続くように次々と魔物達を葬っていき

「仙狐を敵にしたらどれほど恐ろしいか………業火の洗礼を受けながら後悔して逝くがよい!狐炎神術……九焔尾!!」

「一杯暴れちゃうぜっ♪どっせーい!!闇に呑まれたら?ティルワンの闇界!!」

狐伯蓮、ミレーヌはすさまじい勢いで魔物達を葬っていった!

(やれやれ……この様子だとウィルはいつ、我を呼ぶのだろうな?力が疼く………)

ウィル達の戦いを腕輪を通して見ていたアスモデウスは口元に笑みを浮かべていた。



「行っくよ~!………流星よ、落ちよ!小隕石召喚!!」

「神をも震撼させし、滅びの鐘よ!今、ここに奏でよ!!………エル=アウエラ!!」

「制圧砲撃、加速。開始。」

エミリッタ、リフィア、シェラは外の魔物達を魔術や魔導砲で大量に滅し

「キャハッ♪死ね死ね死ね死ね死ねぇー!」

エヴリーヌは凶悪な笑顔で空気を切り裂くほどの神速の動作で矢を放って、次々と魔物達の急所を狙って、絶命させ

「行くぞ!精密射撃!三連射撃!」

フォーチュラは着実に魔物達を葬っていった!ユイドラ兵や工匠達も兵器や弓矢を放って、ユイドラに入って来ようとする魔物達を撃破して行った!

「フハハハハハハ―――!屑が寄り集まった所で所詮は屑である事を思い知るがよい!レイ=ルーン!贖罪の光霞!ティルワンの闇界!」

「キャハハハッ♪エヴリーヌも負けないよ?ケール・ファセト!制圧射撃!氷結電撃!」

リフィアは高笑いをしながら次々と魔術を放ち、エヴリーヌは凶悪な笑顔で笑いながらリフィアの活躍に負けぬよう魔術や技を次々と放っては魔物達を滅して行った!

(フフ………まさか魔の者と聖なる者が共に戦う所を見れるとはな……フィーノ、セフィリア。お前達にも見せてやりたかったぞ。)

フォーチュラは戦いの手を止めて、戦場を見渡して、かつての友や教え子を思っていた。

「フォーチュラさん!ボーっとしないで戦ってよ!敵はまだまだいるんだから!………イオ=ルーン!大熱風!光燐衝撃!」

「フフ………すまないな。ハッ!風の精霊よ!………大竜巻!!」

そこにエミリッタがフォーチュラを注意し、注意されたフォーチュラは苦笑した後、魔術を放ち続けるエミリッタに続くように矢や魔術を放って魔物達を葬っていき

「新たな目標の殲滅を開始します。集中重砲撃、開始。」

シェラは表情を変えず、黙々とすざましい数の魔物達を殲滅していった!



一方、空中での戦いも援軍――エリザスレイン達によって、戦局は有利になり始めていた。

~工匠都市ユイドラ・上空~



「「超・ねこ、パ~ンチ!!」」

「滅します!」

「せいっ!」

「死ね!」

「ご覧遊ばせ♪イオ=ルーン!!」

シャルティ、ペルル、メロディアーナ、イルザーブ、ラグスムエナ、フィニリィは空中での戦いで魔物達を倒して行き

「滅せよ!」

ガプタールは自らの口から雷が籠ったブレス――サンダ-ブレスを吐いて、目の前の大量の魔物達を一気に消滅させ

「光よ!聖なる炎と共に邪悪なる者達を滅せよ!贖罪の聖炎!!」

エリザスレインは最高位神聖魔術の一つと言われる魔術を放って、大量の敵を滅し

「闇に呑まれよ!ティルワンの闇界!!」

エリザスレインの活躍に負けないがごとく、ファーミシルスは魔術で大量の魔物達を葬った!天使達は剣や槍で空の魔物達を次々と滅して行き、睡魔達も天使達の活躍に負けないがごとく、攻撃した際、魔物達の精気を吸い取って魔物達をミイラや骨にして、倒していった!

「………戦好きの飛天魔がどうしてユイドラの人間達を助けているのかしら?」

エリザスレインは厳しい表情でファーミシルスを見て、尋ねた。

「私は今、こうしているのは我が主の意向に従ったまで。特に深い意味はないわ。」

「………その主とは誰の事かしら?」

ファーミシルスの主が気になったエリザスレインは主の正体を尋ねた。

「フフ……心して聞くがいいわ。……我が名はファーミシルス!誇り高きメンフィルの”闇王”リウイ・マーシルンに仕えし将の中でも最も優秀な将よ!」

「名乗られたからにはこちらも名乗らないとね。………我が名はエリザスレイン!古の時代より人間を監視する大聖堂ミサンシェルの力天使(ヴァーチャーズ)よ!………それでどうして、北の魔族大国、メンフィルの将がこんな所にいるのかしら?それにその言い方だと、”闇王”もユイドラにいるのかしら?」

ファーミシルスが高々と名乗った後、エリザスレインも名乗り、そして尋ねた。

「フフ………貴女に答える筋合いはなくてよ?」

「あら………だったら、力づくで答えてもらうしかなさそうね………?」

ファーミシルスの嘲笑に対し、エリザスレインは冷たい微笑みで見返した。2人はお互いの顔を睨みあって、今にもぶつかりそうな雰囲気をしていた。

「お止め下さい、エリザスレイン様!我々の敵は目の前の者ではなく、ユイドラを襲う者達です!」

「大将軍さんもやめてよ~!今は味方同士、争っている時じゃないでしょ!?」

そこにメロディアーナとペルルが2人の間に入って、仲裁した。



「………そうね。ここは貴女に免じて退いてあげるけど、後で説明してもらうわよ、メロディアーナ。」

「はい。どの道、エリザスレイン様にも説明しないといけない状況をウィルが作りましたから、近い内エリザスレイン様も呼んで、さまざまな種族達と話し合おうとした所です。」

「………その様子だと、とんでもない事を考えたようね、ウィルは。やれやれ………次から次へと私を悩ましてくれる事を考えてくれるわね、あの男は。フウ………どうやらまたかつてのように、しばらくの間、傍で監視をしないといけないようね。」

メロディアーナの説明を聞いたエリザスレインは溜息を吐いた後、地上で戦っているウィルを口元に笑みを浮かべて見ていた。

「フフ………そうは言いますが、どことなく嬉しそうに見えますよ?」

「あら……言うようになったわね、メロディアーナ。………でも、そうかもしれないわね。これを機にいっそ、貴女みたいにウィルとの子供を作ろうかしら?それで産まれた子を私が教育して、私の代わりになるようにするのも悪くない考えね。」

「………本気なのですか?」

エリザスレインの口から出た予想外の言葉にメロディアーナは驚いて尋ねた。

「フフ………どうかしらね?それとも以前みたいに2人でウィルを誘惑したいのかしら?メロディアーナは?」

「な、なななななななっ………!」

エリザスレインの言葉にメロディアーナは顔を真っ赤にした。

「フフ………このぐらいで照れるなんて、まだまだね、メロディアーナ。」

「エリザスレイン様!」

エリザスレインのからかいに気付いたメロディアーナは顔を赤くしながらエリザスレインを睨んで怒鳴った。

(………私も早くリウイ様との子が欲しいわ………クッ………だが、まだ”あの方”が目覚めてない今、それは難しいわね………)

(どうしたんだろう、大将軍さん?なんか、いつもと様子が違うようだけど………)

2人のやり取りを見て、様子がおかしいファーミシルスを見たペルルは首を傾げていた。そしてエリザスレインはファーミシルスを見て、言った。



「ファーミシルスといったわね………この私の力がどれほどのものか……この戦いの活躍で飛天魔風情が力天使(ヴァーチャーズ)たるこの私の力の足元にも及ばない事を思いしりなさい!」

「フフ………この私相手に戦果を競うとはね…………いいわ!そちらこそ、誇り高く、闇夜の眷属の中でも高位たる飛天魔(ラウマカール)の力………思い知るがいいわ!」

挑戦的なエリザスレインの言葉に不敵に笑ったファーミシルスも同じように挑戦的な表情でエリザスレインを見て言った。そして2人は戦果を競うがごとく、空の敵陣へ攻撃を仕掛けた!

「存在を抹消してあげる!光槍神撃!!」

エリザスレインが持っている杖に魔力を込めて振ると、無数の光の槍が魔物達の頭上に現れ、それらが雨のように降り注ぎ、次々と魔物達を絶命させていった!

「消えなさい!強酸の暗礁壁!!……連接剣の恐ろしさ………その身で味わいなさい!」

ファーミシルスは魔術や連接剣を巧みに駆使して、エリザスレインの活躍に負けないがごとく一瞬で次々と大量の魔物達を撃破していった!そして2人は互いの背中を合わせた。

「そこそこやるようだけど…………それが貴女の本気かしら?」

「フフ………今のはただの小手調べよ。そういうそちらこそ、第5位を冠するわりには大した事、ないわね?」

2人はお互いの顔は見ず、お互いを挑発をしていた。

「フフ………その言葉、そっくりお返しするわ!」

そしてエリザスレインは魔物の大群の中心地へ飛んで行き、大きく息を吸って歌い出した!

「我が聖なる歌声に聞ける事、光栄に思いながら、浄化しなさい!♪~~~~~~~」

エリザスレインだけが歌う事ができる聖なる歌――天使の聖歌を聞いたユイドラを襲う魔物達はある者は苦しみながら絶命し、またある者は混乱して同士討ちを始めた!そしてエリザスレインと同じようにファーミシルスも敵陣の中心に突っ込み、大技を放った!

「魔の力よ!我が剣に宿り、我が仇名す者達を薙ぎ払え!暗礁回転剣武!!」

ファーミシルスは連接剣に暗黒の魔力を宿した後、連接剣を最大に伸ばして鞭のように振るって周囲の魔物達を薙ぎ払い、消滅させて行った!相容れない存在ながら2人は競うがごとく、次々と魔物達を滅して行った!



「………なに、あれ~。喧嘩しそうだったわりには結構仲が良いように見えるんだけど……」

ペルルは競うかのように連携しているようにも見えるエリザスレインとファーミシルスを呆れた表情で見ていた。

「フフ…………そうですね。あの方も昔と比べて、随分変わったものですね…………」

ペルルの呟きにメロディアーナは頷いた後、遠い目で昔を思い出していた。

「そういうメロディアーナや私だって、変わったじゃない!」

そこにシャルティがメロディアーナの所に飛んで来て言った。

「そうですね…………それも全てウィルの影響でしょうね。」

「そうだな。相容れない存在のお前達が共に戦い、共に笑い合う等遥か昔から生きて来た我も見た事がない。…………相容れない種族達を協力させる事を実現させた人間、我すらも聞いた事がない。」

「死神である私が………安らげられる所をウィルは………作ってくれた…………」

「精霊王女たるこのわたくしが初めてを奪う事を許したのですから、そのぐらいの事、できて当たり前でしてよ!」

さらにガプタールやラグスムエナも近付いて来て言い、その言葉を聞いたフィニリィは胸を張った。

「…………………………」

種族が違えど、友のように語り合っているメロディアーナ達をイルザーブは黙って見ていた。

「さて………我々も戦闘を再開しましょうか!」

「オッケー!」

「うむ。」

「ええ!」

「ウィル達の敵………全部、殺す…………!」

そしてメロディアーナ達はそれぞれの獲物へと向かって行き、次々と敵を滅して行った!また、天使達や睡魔達もそれぞれ敵を滅して行った!



一方リウイは人気のない所までセオビットを誘導した後、本格的に戦い始めた………!









 

 

外伝~闇王の器~

リウイが誘導した場所は木で生い茂っていたが、セオビットによって更地となっていた。



~工匠都市ユイドラ・更地~



「ふふっ……さっきから逃げてばかりだったけど、ようやく諦めたのかしら?」

セオビットは今まで自分に背を向けてどこかに向かっていたリウイが足を止めて、レイピアを自分に向けているのを見て不敵に笑った。

「舐めるな。俺とお前が本気で戦えば周囲の者達に被害を与えてしまうから今まで防戦に徹していただけだ。だが………それも終わりだ。それとお前には聞きたい事があるしな。」

セオビットの挑発にリウイは乗らずに冷静に言った。

「ふふ…………何を聞きたいのかしら?今の私は気分がいいから、答えてあげてもいいわよ?」

「そうか。…………お前は本当に”この時代”の者か?」

「…………………何を言っているのか、理解できないわ。」

リウイの問いかけに一瞬驚いたセオビットだったが、すぐに表情を戻し、リウイを睨みながら尋ねた。

「古い文献でかつてのリガナールは人間から魔人に変貌した者によって支配されていた事が印された事を思い出した。その者の名は”イグナート”と。」

「…………………………」

リウイの話を聞いたセオビットは持っている魔剣に力を入れたまま、黙っていた。

「そして魔人イグナートはある理由で侵攻した国、ルア=グレイスメイルと取引をし、国と引き換えにルア=グレイスメイルのエルフの姫である”シルフィエッタ”を人質とし、傍に置いたと言う。…………先ほどお前はいったな。”イグナートの娘”と。」

「……………………………」

「だが、今はそんな魔人の名、聞いた事もない。半島とはいえ、島全体を支配している者の名なら我が国にも届いているだろうしな………まあ、聞き覚えがなくて当然かもしれんがな。奴に関する記述はある年で消え…」

「黙りなさい!」

リウイの話を聞いていたセオビットは突如激昂して、魔剣でリウイに襲いかかった!

「フッ!」

しかしリウイはレイピアでセオビットの攻撃を受け流した!



「………その様子だと、図星のようだな…………どのような手段でこの時代に来たのか知らんが……お前の故郷や両親はもう……」

「五月蠅い、五月蠅い!父様は絶対に生きているに決まっている!」

冷静なリウイに対してセオビットは激昂しながら激しい攻撃をリウイにしていたが、リウイは余裕の表情で攻撃を捌いていた。

「氷垢螺の氷柱!!」

そしてセオビットは魔術をリウイに放った!魔術によってできた巨大な氷の柱が上空が次々と落ちて来てリウイを襲ったが

「フレインバル!!」

リウイは炎の魔法剣で自分を襲う氷柱だけを消滅させた!そして周囲はセオビットの放った魔術によって氷の柱で囲まれた闘技場と化した。

「メーテアルザ!」

そして今度はリウイが攻撃を仕掛けた!

「!暗礁!冷却剣!!」

リウイの放った地属性の魔法剣に対し、セオビットは暗黒の力を得、剣に吹雪を纏わせた技――暗礁冷却剣で対抗し、リウイの攻撃を相殺した。

「行くぞ……!」

そしてリウイは目にも止まらぬ動作でセオビットに激しい連撃を仕掛けた!

「ハァァァァァァ……!」

しかしセオビットはリウイの激しい連撃を何度も捌いた!

「フェヒテンカイザ!!」

「暗礁!8連斬!!」

リウイが連続攻撃を仕掛ければ、セオビットも連続攻撃を放って相殺し

「エクステンケニヒ!!」

「深淵剣!!」

リウイが魔法剣を放てば、セオビットも魔法剣を放って相殺し

「ティルワンの闇界!!」

「ウィンディング!!」

セオビットが距離をとって魔術を放てばリウイは魔法剣で吹き飛ばすと、戦いは一進一退かのように思われたが

「セアッ!」

リウイはセオビットの隙を見つけ、皇技――フェヒテンケニヒを放った!

「グッ!?そ、そんな……!この私が一撃をもらうなんて……!」

リウイの攻撃が見切れず、横腹を斬られたセオビットは斬られ、血を流している部分を信じられない表情で手で抑えながら呻いた。セオビットはその身に秘められた力からして、現在のファーミシルスやカーリアンと並ぶほどの力はあるのだが、セオビットが今まで相手にして来たのは格下ばかりだったため、リウイやカーリアン達と比べ、圧倒的に経験不足だった。



「……実力は決して悪くない。だが、あまりにも経験不足だ。その様子だと今までは自分より格下の相手としか戦った事がないな?」

「…………クッ……!」

リウイの推測が当たっている事にセオビットは何も言い返せず、リウイを睨んだ。

「……その程度で俺とイリーナが追い求めた理想を……俺を信じ、先に逝った我が戦友(とも)達の思いを……阻めると思うな!」

「………!!(な、何よ……なんで震えているのよ………!」

セオビットはリウイがさらけ出す覇気に呑まれ、無意識に震え、自分が恐怖を感じている事に信じられない思いでいた。

「どうして………どうして”駒”ごときをそんなに大事にするのよ!(何で……何でこの男が父様とは比べ物にならないくらいの大きな存在に感じるの!?)」

セオビットはリウイの考えが理解できず、そして感じるリウイの存在の大きさに驚きながら叫んだ。

「ハアッ!!」

そこにリウイが怒気をさらしながらセオビットに攻撃した!

「!?キャアッ!!」

リウイの重く鋭い突きの攻撃をなんとか軌道をずらしたセオビットだったが、剣を持っている利き腕を斬られ、悲鳴を上げた後、後ろに大きく飛んで後退し、斬られて血を流している腕の部分をもう片方の腕で血を抑えていた。

「………もう一度、言ってみろ。…………我が戦友達を愚弄するつもりなら塵も残さず、貴様を消し飛ばす!」

リウイは闘気や怒気、魔力を最大限に纏いながらセオビットにレイピアを向け、睨みながら叫んだ。

「ウ………ウアアアアアアアア!!消えなさいっ!ヴォア・ラクテッ!!」

最大限の闘気や怒気、そして魔力を纏ったリウイに睨まれ、レイピアを向けられたセオビットはとてつもない恐怖を感じ、脅えの叫びをあげながら片手にとてつもない魔力を込め、リウイに放った!上位暗黒魔術、ティルワンをも超える暗黒の霧による波動がリウイを襲った!

「我が魔の力に呑まれよっ!魔血の目覚め!!」

しかしリウイは大技を放って、セオビットの魔術を吹き飛ばした!セオビットの魔術を吹き飛ばした魔の力が籠った衝撃波は消えず、セオビットを襲った!

「なっ!?キャアアアアアアアアア!!………ガハッ!?………………」

リウイに付けられた傷によってその場を動けなかったセオビットは衝撃波をまともに喰らい、悲鳴をあげながら自分が放った魔術によってできた氷柱に穴を空け、森の奥まで吹き飛ばされた!



~工匠都市ユイドラ・森~



「グッ……そ、そんな……この私が手も足も出ないなんて………」

吹き飛ばされたセオビットは立ち上がる事も出来ず、その場で蹲って信じられない思いで呻いていた。

「もう終わりか?」

そこにリウイがゆっくりとセオビットに近付いて来た。

「ヒッ!来ないで!」

近付いて来るリウイに悲鳴を上げたセオビットは痛む腕を無視して魔剣を震ったが

「ハッ!」

リウイはレイピアを震って、セオビットの手から魔剣を弾き飛ばした!弾き飛ばされた魔剣は近くの地面に刺さった。

「……………………」

武器を弾き飛ばされたセオビットは少しの間、弾き飛ばされた状態で放心した。

「ふふっ……まさかこの私を追い詰める者がこの世に存在するなんてね………止めを刺すなり、犯すなり、好きにしなさい………それが敗者の定めよ………」

そしてセオビットは自暴自棄になり、抵抗する事を諦めた。

「……………………………」

抵抗を諦めているセオビットを見て、リウイは両目を閉じて考えた後、やがて目を見開いて尋ねた。

「どうやって過去から”この時代”に来た。」

「ふふっ…………これから死に行く者に聞いても無駄な事を……まあ、いいわ…………」

そしてセオビットはリウイに時代を超えた理由を説明した。



セオビットは幼い頃から母には興味がなかったが、父の事は心から尊敬し、いつか父に褒めてもらおうと幼い頃から戦に参加し、活躍をして行ったがいくら活躍しても父が自分を褒める事はなく、父は自分の事はあくまで”駒”の一つとしてしか、見ていなかった事。それでもセオビットはいつか父に自分の力を認めて貰うために前線に参加するために城にある転移門に入った矢先、なんの因果か転移門の調子がおかしくなり、今の時代のどこかの荒野に転移してしまった事。そして訳がわからなったセオビットだったが、父がいるラエドア城があるリガナール半島に戻った時、島全体は腐敗と瘴気の土地と化し、生物が近寄れない土地と化していた。故郷どころか、島にも近寄れず、大陸に戻って来たセオビットだったが半魔人やプライドの高い自分自身の性格のため、同族達になじむ事もできず彷徨っている所をディアーネが軍を結成しているのを見て、暴れる事で現実を逃避するために今回の戦いに参加した事を話した。



「あなたなんかに!私の気持ちがわかるわけがないわ!」

話を終えたセオビットは涙を流しながらリウイを睨んで叫んだ。

「いや、わかる。」

「!?」

しかしリウイの言葉にセオビットは驚いた。

「俺もかつては人間に父を、母を奪われ、そして人間からは忌嫌われ、魔族達からは”半端者”として険悪され、孤独だった。」

「なんで………そんな事があって、なんで人間と魔族の共存を目指しているの!?」

「フッ…………皮肉な事に”人”の優しさや暖かさを知ったのも”人間”のお陰だ。そして何より………この俺に安らぎや”人”を愛する事を教えたのも人間だったしな………」

信じられない表情で尋ねるセオビットの疑問にリウイはかつての自分、そして自分に犯されても自分の事を一切恨まず、逆に自分に安らぎを与え、寿命が尽き幸せそうな表情で自分の傍にいれた事に感謝し、自分の真の幸せが来る事を願いながら逝ったティナ。そして自分が心から愛した女性――イリーナを遠い目で思い出していた。

「ふふっ…………認めたくないけど、貴方を羨ましいと思ってしまったわ……………私とは違って、貴方には”居場所”や自分を認めてくれる人がいるのね…………」

「……………………………」

寂しげに笑っているセオビットをリウイは黙って見ていた後、やがてオーブメントを駆動させた。

「水よ、かの者に慈悲を与えよ………ティア・オル!!」

リウイが放ったアーツによってセオビットの傷を完全に治癒した。

「なっ、一体何を………!」

リウイの行動にセオビットは訳がわからず、戸惑った。そして自分を見上げて戸惑っているセオビットにリウイは手を差し伸べて言った。

「………俺の手を取れ、セオビット。メンフィルは光にも闇にも属さず、どんな者でも受け入れる、………例え”半端者”として忌み嫌われる半魔人であろうと。」

「なっ………!正気!?さっきまで戦っていた相手に手を差し伸べるなんて………!」

セオビットは驚いてリウイを見ていた。

「ああ。”闇夜の眷属”と”人間”の共存………それが俺が心から愛した者と誓い、目指している理想だ。お前も”闇夜の眷属”の一人。二度と俺達に敵対しないと誓うなら、お前も受け入れる。」

「……………………」

どことなく優しさが混じっているリウイの顔をセオビットは少しの間見ていた後、やがて涙を流し始めた。

「う………ううっ………うあ…………うあああああああ………………!」

そしてリウイの胸に飛び込み、大声で泣いた。自分が無意識に求めていた”居場所”や自分を認めてくれる人ができた事の嬉しさや求めていた父の大らかな優しさを初めて受けた事にセオビットはリウイの胸で泣き続けた。



「やれやれ………見た目と反して、まだまだ子供だな…………これならまだ、エヴリーヌの方が大人だな………」

セオビットに抱きつかれたリウイは苦笑しながらセオビットの頭を優しく撫でていた。そしてしばらくの間泣いていたセオビットは泣き止んだ後、顔を上げてリウイを見た後、唐突に自分の唇をリウイの唇と合わせた。

「むっ!?」

「ん……………ちゅ………」

セオビットの行動に驚いたリウイは唇から舌をからめてくるセオビットにされるがままになった。

「ふふ………今のが私の初めてよ………光栄に思いなさい………」

そしてリウイとの深い口づけを終えたセオビットはリウイに微笑んだ後リウイから離れ、自分の服を脱ぎ、母親譲りの綺麗な肌や胸を隠す事なくリウイに見せた。

「………おい、何のつもりだ。」

「ふふっ………わかっている癖に………私の処女を………操を……貴方に捧げるわ………貴方の(しもべ)として……」

セオビットの行動に戸惑っているリウイにセオビットは魅惑的な微笑みでリウイに言った。

「………まだ、戦闘は続いているんだぞ。そんな事は後にしろ。」

「あら。さっきの貴方との戦闘で私の魔力はそんなに残っていないわ。新しい戦力をすぐに投入したいのなら、私を抱いて、魔力を分けたほうがいいでしょう?」

呆れている様子のリウイにセオビットは悪びれもなく言った。

「………俺の使い魔になるつもりか?共に来いとは言ったが………」

「ふふっ……私の心を奪ったんだから、絶対に貴方の傍から離れないつもりよ……まずは奉仕をしてあげるわね………」

そしてセオビットはリウイに処女を捧げ、リウイと契約してリウイの使い魔になり、リウイの魔力と同化した。

「フッ…………エヴリーヌがもう一人増えた気分だな…………セオビット!」

契約を終えたリウイは苦笑した後、新たな使い魔であり仲間でもあるセオビットを召喚した。

「………我が覇道を共に行く新たな仲間としてお前を歓迎しよう。」

「ふふっ………これからは貴方の僕として存分に役に立ってあげるわ、父様♪」

「………………おい。その呼び方はなんだ?」

セオビットの自分の呼び方を聞いたリウイは尋ねた。

「ふふっ…………それぐらい、自分で考えたら?それと私を抱きたければいつでも呼んでね♪私は品のない睡魔と違って、貴方にしか抱かせないんだから♪まあ、呼ばなくても私から貴方に迫る時もあるから、光栄に思いなさい♪」

セオビットはリウイに豊満な胸を押しつけて、幸せそうな表情でリウイを見て言った。

「(…………どうしてこう、俺の周りには一癖のある女ばかり集まるんだ?………後で、カーリアン達に何か言われそうだな………………)まあいい。ユイドラを襲う魔物達を殲滅させるために、力を貸せ。」

「はい、父様♪」

そしてリウイとセオビットはウィル達が戦っている戦場に向かった。



リウイがセオビットを仲間にし、戦場に向かった頃には街の中の戦闘は終結に向かっていた………




 

 

外伝~それぞれの為すべき事~

~工匠都市ユイドラ~



「これで………最後だっ!!」

ウィルが魔物を倒した頃には、周囲の仲間達も街内や街の上空にいた全ての魔物達を倒し終えた所だった。

「なんとか護りきりましたね、ウィル。」

そこにセラウィがウィルに近付いて来た。

「ああ。今度はこちらから攻める番だね。………うん?」

セラウィに答えたウィルは自分に近付いて来た気配に気づき、振り返った。するとそこには弓矢を持ったエルフ達がいた。

「到着が遅くなり、申し訳ございません、ウィルフレド殿。」

「長!」

エルフ達の中から長を見つけたセラウィは声を上げた。

「お兄様、みんなも今、教会から戻って来ました!」

そこに水那が嬉しそうな表情で教会の手伝いに行っていた水精達が戻って来た事を報告した。

「………どうやら俺達が最後か。」

「あら。早速、父様にいい所を見せようと思っていたのに、もう終わりかしら?」

「リウイ。…………ってその横にいるの誰??」

リウイが戻って来た事に気付いたカーリアンはリウイの横にいる見覚えのない睡魔――セオビットを見て尋ねた。

「我が名はセオビット!父様の新たな僕よ。」

「えっ………!?それじゃあ、お父様の使い魔なんですか!?あれ………でも確かその名前、さっきその名前が裏門を守っている方々を苦しめ、お父様を呼んでいたって聞きましたけど………」

セオビットの名乗りを聞いたプリネは驚いてセオビットを見て尋ねた。

「ええ。さっきまで裏門を守っていた人間達を苦しめた存在よ。………私の僕にするつもりが私がこの方の僕になっちゃったわ♪」

「え、え~と………とりあえず、君はもう敵じゃないんだね?」

悪びれも無く言うセオビットをウィルは冷や汗をかいた後、尋ねた。



「ふふっ………私の敵は父様に仇名す者達だけよ。」

「父様~!?リウイ。貴方、この娘に一体何をしたの?」

「………俺が知るか。こいつが勝手に呼んでいるだけだ。」

セオビットのリウイに対する呼び方に声を上げて驚いたカーリアンはリウイに尋ねたが、リウイは眉を顰めて自分も知らない事を答えた。

「うふふ………あの様子だとあの女の人、パパに惚れているみたいね♪さすがパパね♪あの人もいつかレンのママの一人になるのかしら♪」

「お、お父様………まだ、側室を増やすんですか………?ハァ……喜んでいいのやら、悪いのやら………」

レンはセオビットのリウイを見る目を見て、悪戯が成功したような笑みを浮かべ、プリネは呆れた後、溜息を吐いた。

「…………………」

一方、イリーナはその様子を無表情で見ていた。

「イ、イリーナさん?何をそんなに怒っているんですか?今のイリーナさん、どこか怖いです……」

「え!?な、何でもないのよ!?ツーヤちゃんの気のせいだから!」

どことなく怒っている風のイリーナの様子を見たツーヤは怖がり、ツーヤに尋ねられたイリーナは慌てて弁明をした。

(もう………お父様ったら………よりにもよってイリーナさんが見ている目の前で他の女性と親しくするのはまずいですよ………)

イリーナの様子を見たプリネは冷や汗をかいていた。



「ウィル。街内の魔物達は殲滅した。決着をつけるとしたら、今がその時だぞ。」

「うん、わかっている。………でも、ディアーネはあの大群の奥にいるからな………どうやって、あそこに辿りつこうか……?」

ユエラに言われたウィルは頷いた後、考えた。

「フン……何のために我がいると思っている。」

そこにガプタールが降り立った。

「ガプタール!確かに君の協力があれば行けると思うけど………ディアーネの所まで頼めるかい?」

降り立ったガプタールを見て、ウィルはガプタールに乗って、敵陣を越えてディアーネの所まで行く事を思い付き、ガプタールに尋ねた。

「我を誰だと思っている?そのぐらいの事、造作もない。戦いを終結するためにもさっさと乗れ。」

「わかった………リウイ。街の防衛は君達に任せていいかい?」

ガプタールの答えを聞いたウィルはリウイに尋ねた。

「ああ。本当なら俺も行くべきだが、街の防衛も重要だからな。全力でユイドラの民達を護ろう。」

「ま、お姉さん達に任せなさい♪」

「誇り高き飛天魔(ラウマカール)が味方にいればどれほど心強いか…………ユイドラの者達にたっぷり見せてあげるわ。」

「皆様にアーライナのご加護を………」

リウイ、カーリアン、そしてウィル達の所にエリザスレイン達と共に降りて来たファーミシルスは力強い返事をし、ペテレーネはその場で祈り

「うふふ♪まだまだお客様が一杯いるし、”殲滅天使”の名にかけて、全て殲滅してあげるわ♪」

「キャハッ♪エヴリーヌもまだまだ遊び足りないしね♪ここは任せといて♪」

「ふふっ………父様に私の力を見せてあげる絶好の機会がこんなにも早く来るなんてね……」

レンやウィル達の所にリフィアやフォーチュラ、エミリッタと共に戻って来たエヴリーヌ、そして新たな仲間であるセオビットは凶悪な笑顔で答え



「まだまだ未熟者ですが民を護るため、全力で行かせて頂きます。」

「ご主人様の”パートナー”として………共にこの街の人達を護って見せます!」

「ツーヤちゃんと同じく、私もプリネ様達と共に最後まで戦わせて頂きます!」

プリネ、ツーヤ、イリーナも決意を持った表情で答え

「ボク達がいるんだから、大丈夫だよ!」

「ご主人様とイリーナ様が夢見る世界を作るためにも………頑張ります………!」

ペルル、マーリオンもそれぞれ戦う事を答え

「”軍神”に仕える者として………この命果てるまで、戦い続けるわ。」

「この私がいる限り、ロカ様を殺させはしません。」

ロカは凛とした表情で答え、イルザーブも続くように答え

「ここは私達が抑えよう。セラウィ。お前達が目指す”道”のためにも、早く決着をつけて来るといい。」

「…………貴方達にルリエンのご加護を………」

フォーチュラは心強い言葉でセラウィ達に行くよう、促し、エルフの長はウィル達の無事を祈った。



「みんな………ありがとう!よし、じゃあ行こうか!」

「はい。」

「はいは~い!この戦いが終わったらご褒美として精気を分けてね、ウィル!」

「はう~………あんなにはっきり言えるなんて、シャルティさんが羨ましいです。………お兄様達は私が絶対に護って見せます!ですから………あの………シャルティさんやセラウィさんの後でいいので私も………あう。………何を言っているの私!!」

「アトもご主人様達のために一杯頑張るぞ~!」

「ほらほら!ユエラも乗って乗って~!」

「う…………やっぱり乗らないといけないのか………」

ウィルの言葉にセラウィやシャルティの言葉を聞き照れた水那、アトは頷き、エミリッタはガプタールに乗るのを渋っているユエラを乗るように促し、ユエラと共に乗った。

「これが最後の戦いか………燃えて来たぞ~!」

「もう、クレールったら…………少しはウィルを見習って落ちついてくれないのかしら?」

クレアンヌは意気込んでいるクレールに呆れながら、共にガプタールに乗り

「フフ…………まるで”破熱の森河”に行く時を思い出しますね………」

「そうね。まさか、またこれだけの種族が集まって戦う時が来るとは思わなかったわ。」

「フフ………相変わらず、わらわの退屈を紛らわせる興味深い男よ。………異世界に行っている奴もこの戦いの事を後で知ったら、参加できなかった事にさぞ悔しがるだろうな……」

「何でもいい………面倒なのは………さっさと終わらせる………」

「精霊王女たるこのわたくしがいるのですから、とっとと終わらせますわよ!」

「ミレーヌは遊べれば、何でもいいさっ!」

メロディアーナの呟きにそれぞれ答えたエリザスレイン、狐伯蓮、ラグスムエナ、ミレーヌもウィル達と共にガプタールに乗った。

「余も共に行くぞ、ウィル!ディアーネに余の力を思い知らさなければならないしな!」

そしてリフィアもガプタールに乗った。



「………よし。じゃあ、行って来るよ、セティ、シャマーラ、エリナ。」

「3人共無理はしないで下さいね。」

「自分の力を過信し過ぎていては死に繋がります。…………決して己の力に過信せず、3人で協力して戦って下さい。………母としてあなた達には傷ついて欲しくありませんし。」

「メロディアーナは心配性すぎ~。………ま、ほどほどに頑張りなさい!」

ガプタールに乗り込んだウィル、セラウィ、メロディアーナ、シャルティは娘達に声をかけた。

「うん!母さん達も頑張って!」

「みなさん………お父さん達の事をよろしくお願いします。」

「………父様達や皆様が無事に戻って来るのを心より祈っています。」

声をかけられた娘達もそれぞれ励ましや応援の言葉をかけた。

「………では、そろそろ出陣()るぞ。振り落とされぬよう、しっかり捕まっているがいい。」

そしてガプタールはウィル達を乗せて、空へと舞い上がった。

「敵陣の奥まで頼む、ガプタール!」

「うむ。……………行くぞ!!」

そしてガプタールはウィル達を乗せて、敵陣の奥深くへとすざましい速さで向かった…………!



ウィル達が敵陣の深くへと向かうと同時にリウイ達やユイドラ兵や工匠達、そしてさまざまな種族達はついに進撃を始めた…………!






 

 

外伝~それぞれの戦い~前篇

~工匠都市ユイドラ・近郊~



「滅せよ!!メーテアルザ!!」

リウイは最前線で魔物の大群に突っ込んで道を切り開き

「それぇっ!!」

「連接剣のお味はどう?」

カーリアン、ファーミシルスはそれぞれリウイの左右に控えてリウイが作った魔物の軍団の傷口を広げ

「………混沌たる大地の力よ………我が呼びかけに応えよ!!酸衝撃!!」

「前方の軍団を殲滅します。………制圧砲撃、開始。」

「水よ………!我が魔力と同調し、敵を呑みこめ…………!…………デネカの津波!!」

ペテレーネ、シェラ、マーリオンは魔術や魔導鎧の砲撃で大量の魔物達を葬った!

「フフ………それにしてもよくもまあ、これだけの種族達が揃ったわね♪”幻燐戦争”ですらこんなにもさまざまな種族は集まらなかったでしょ?」

カーリアンは戦場で協力して戦っているさまざまな種族達を見て言った。



歪魔や睡魔、炎狐、天使達が魔物の軍団を強襲して、道を切り開きユイドラ兵や工匠達は切り開いた道をさらに広げ、土精達はその身を挺して彼らを護り、そして反撃をして倒し、

戦闘によって傷ついた者達をエルフや水精達の魔術が癒し、そして魔術や矢を放って敵陣を次々と崩していた!

「ああ。相反する種族達がああやって協力して戦う場面をまさかこの眼で見る時が来るとはな………ウィルフレド・ディオンの人徳………侮れんな。」

「ハッ。彼らの団結力や、集団戦での強さは恐らくこの私直々が鍛えた親衛隊達と並ぶ或いはそれ以上かと思います。………リウイ様のおっしゃる通り、かの者の人徳が侮れないのは事実。………メンフィルが目指す道のために味方にして損はないかと。」

「………そうだな。ユイドラとの交流………前向きに検討するべきだな。」

ファーミシルスの意見にリウイは頷いた。

「はい、私もそう思います………あの光景こそがリウイ様が………そしてイリーナ様が夢見た光景ではないでしょうか?」

「…………そうだな。」

「…………リウイ様………………」

ペテレーネの言葉にリウイは口元に笑みを浮かべて頷いた。その様子をマーリオンは見つめていた。



「リウイ様。前方より新たな敵軍が接近中です。」

「ああ。みな、行くぞ!俺に遅れるな!!」

そしてシェラの報告に頷いたリウイはカーリアン達を見て号令をかけた!

「はい!争いのない世界を………リウイ様とイリーナ様が夢見る世界を作るため………ペテレーネを存分にお使い下さい!」

「ご主人様と……イリーナ様のために………戦います………!」

「いつでもご指示を、我が主。」

リウイの号令にペテレーネ、マーリオンは決意を持った表情で答え、シェラはいつもの冷静な様子で指示を仰ぎ

「ま、お姉さんに任せなさい♪………それにプリネや新顔達ばかりに活躍させる訳にもいかないしね♪」

「………非常に不本意だけど、私も貴女の考えに賛成よ。…………メンフィル建国に携わった者として………次の世代の者達に負けるわけにはいかないわ。」

カーリアンの言葉に眉を顰めて答えたファーミシルスは別の場所で活躍をしているプリネ達やエヴリーヌ達を見て言った。

「そうだな…………行くぞ!」

そしてリウイ達は再び戦闘を開始した!



「風よ!ウィンディング!!」

リウイの魔法剣は魔物達を滅し、その死体を吹き飛ばし

「激しいの、行くわよ♪白露の桜吹雪!!」

「塵と化しなさい!ハァァァァァ………暗礁回転剣武!!」

カーリアン、ファーミシルスは大技を放って魔物達の死体を積み上げ

「目標補足。加速砲撃開始。」

「古より伝わりし炎よ………我が呼びかけに応え、我が仇名す者達を焼き尽くせ!メルカーナの轟炎!!」

「行きます………!溺水………!!」

シェラ、ペテレーネ、マーリオンは魔導砲撃や魔術でカーリアン達が作った魔物達の死体を生きている魔物達ごと消滅させた!

「フフ………まだまだいるわね♪ファーミ、遅れるんじゃないわよ!」

「フン。誰に言っているのかしら?そちらこそ私の足を引っ張らない事ね!」

カーリアンの言葉に鼻を鳴らして答えたファーミシルスはカーリアンと共に攻撃を仕掛けた!

「ハアッ!!」

ファーミシルスは連接剣の刃を伸ばして、鞭のように振るって魔物の大群を薙ぎ払い

「それぇっ!!」

カーリアンは双剣を振るってファーミシルスが薙ぎ払った魔物達に特大の衝撃波を命中させてさらに吹き飛ばし

「行くわよ!」

「フン!」

そして2人は同時に自分達が薙ぎ払い、吹き飛ばした魔物の大群に飛び込み、お互いを背中合わせにして技の構えをした!

「激しいの、行くわよ♪」

「消えなさい!」

カーリアンは双剣に特大の闘気を込めて大技、『白露の桜吹雪』を構えを、ファーミシルスは連接剣に紫色に妖しくほとばしる稲妻を宿らせて連接剣を横薙ぎにする構えをして、カーリアンと共に放った!お互いの事を嫌いながらも、お互いの次の攻撃が分かる2人が放つその技は併せ(コンビクラフト)となった!闘気によってできた嵐に魔力と闘気でできた雷が宿ったその技の名は………!



「「白露の雷桜嵐(らいおうらん)!!」」



ファーミシルスの稲妻が宿った連接剣での横薙ぎ攻撃にカーリアンの大技が合体し、2人の中心地は稲妻が所々鳴り響き、そして魔物達を稲妻で塵に変えさせると同時に闘気の嵐によって塵すらも吹き飛ばした!

「フッ…………何年経とうと奴らは変わらんな。…………ペテレーネ!」

「はい、リウイ様!!」

カーリアンとファーミシルスの連携技を苦笑しつつ見ていたリウイはペテレーネに呼びかけ、レイピアを構えた!心から慕う主に呼ばれたペテレーネは杖を構え、主の期待に応えるかのように魔術の詠唱を始めた!

「我が魔の力………思いしれっ!!」

ペテレーネが詠唱を始めると同時にリウイはとてつもない暗黒の力を宿したレイピアの切っ先を地面に付け、魔物達を囲むように六亡星を描いた!

「大いなる闇よ!」

リウイが六亡星を描き終わるとぺテレーネが魔術を放った!放たれた魔術は家屋ほどある巨大な暗黒の球体が六亡星に収まるかのように大量の魔物達を覆った!そして六亡星が光り、巨大な暗黒の柱が天高くへと上がり、暗黒の柱が天高くへと上がると同時に暗黒の球体は大爆発を起こした!

「オォォォォォォォォッ!」

そしてリウイはレイピアを突きの構えでレイピアに暗黒の力をさらに込めた!

「深淵たる闇よ………かの者に宿れ!!」

そしてペテレーネはリウイのレイピアに膨大な暗黒の魔力を込めた!膨大な暗黒の力が宿ったレイピアをリウイはその場で突きを放った!その技は深き闇を知る者達だからこそできる協力(コンビクラフト)!その技の名は………!



「「アビス!ブラスト!!」」



ペテレーネの力も加わったリウイがその場で放った突きは巨大な暗黒の奔流となり、魔物達を跡形もなく消滅させた!



数々の歴史に残る戦いを生き抜いた彼らの怒涛の攻撃を防げる者は誰もいなかった。



一方他の場所で戦っているエヴリーヌ、セオビット、レンの3人もリウイ達に負けないかのような活躍をしていた!

~工匠都市ユイドラ・近郊~



さまざまな種族達が協力して戦っている最中、ある3人の娘達が孤立した状態で戦っていた。

「えいっ!うふふ……死んじゃえ!玄武の鎌撃!!…………それっ!!」

レンは大鎌で目の前の敵の身体を真っ二つにした後クラフトを放ち、さらにクラフト――カラミティスロウを放ったその後

「大地の刃よ、我が敵を貫け!岩槍!!」

魔術を放って、さらに敵の数を減らした!そして魔術を放った後、敵の身体を分かれさせた大鎌はレンの手に戻った!

「キャハハハ♪エヴリーヌと一杯遊ぼう?」

エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべながら空気を斬り裂くほどの神速の弓捌きで敵を次々と葬り

「みんなすぐ死んでつまんな~い。邪魔だから消えちゃえ!贖罪の雷!!」

生きている魔物達をも巻き添えに自分が放った矢によって絶命した魔物達の死体をとてつもない威力が込められた雷の魔術を放って、塵と化させた!

「ふふっ………こんなにいるんだから、少しは楽しませて………よね!!」

セオビットは凶悪な笑みを浮かべながら黒々と燃える魔剣を横薙ぎの構えをした後回転斬りを放って、自分を囲む複数の敵の身体を真っ二つにし

「降り注げ、氷柱!氷垢螺の氷柱!!」

さらに魔術を放って、巨大な氷柱を敵の頭上に発生させ、それらを落として大量の敵を頭ごと潰した!



「キャハッ♪数年前と比べて、随分戦えるようになったね、レン。」

「うふふ♪それほどでもないわよ♪」

エヴリーヌに褒められたレンは嬉しさを隠せない表情で答えた。

「ふふっ……人間の子供の割にはそこそこやるようね。………まあ、この私に比べればまだまだだけど。」

「む~……だったら、もっと頑張ってセオビットお姉様にも褒めてもらうよう強くなるわ!」

セオビットの答えを聞いたレンは頬を膨らませて答えた。

「………お姉様?」

レンの自分に対する呼び方にセオビットは首を傾げた。

「そうよ。うふふ………もしかして違う呼び方のほうがいいかしら?」

「(お姉様か………初めて呼ばれたけど悪くない気分だわ。)好きにしなさい。まあ、その内”お母様”になるかもしれないけどね。ふふっ………」

セオビットは男性を魅了するような妖艶な笑みを浮かべてレンに言った。

「あら♪その言い方からするともう、パパに抱かれたのかしら?」

「ふふっ………年のわりにはませているわね。………想像に任せるわ。」

「………言っとくけど、エヴリーヌはもっと前にお兄ちゃんに抱かれているからね。」

セオビットとレンの会話を聞いていたエヴリーヌは面白くなさそうな表情で言った。



「ふふっ………順番なんて関係ないわ。要は結果を………父様の子供を身籠ればいいだけでしょ?………この戦いで戦果を上げて、早速父様に褒美として抱いてもらわないとね♪」

「………それはエヴリーヌのセリフだよ。魔神のエヴリーヌに勝てると思っているの?」

「ふふっ………種族の差なんか関係ないわ。……要は手柄を貴女よりたてればいいだけじゃない。」

「………ふ~ん………エヴリーヌ相手にそんな事を言う奴、初めて見たよ。」

セオビットの挑発に乗ったかのようにエヴリーヌはセオビットを睨んだ。

「ねえねえ、2人とも!レン、いい事を考えたんだけど!!」

「いい事?」

「何かしら?」

そこにレンが手を上げて、2人を自分に注目させた。

「ここは3人で協力して、レン達の周りの敵を全部殲滅しましょ♪そしたらパパ、レン達が仲良くしている事に褒めてくれるし、敵も一杯殲滅した事も褒めてくれるから、その時ご褒美をねだればいいと聞いてくれると思うから一石三鳥よ!」

「「………………」」

レンの提案を聞いた2人は少しの間黙っていたが

「キャハッ………」

「ふふっ………」

やがて2人は口元に笑みを浮かべ

「その提案、賛成~!さっさと終わらせて、お兄ちゃんに一杯褒めてもらおうっ…………と!!」

「ふふっ………まさかこの私が他人と協力し合う日が来るなんてね………せいぜい、私の足を引っ張らないで………よ!!」

エヴリーヌとセオビットは会話をしながら敵を倒していた

「うふふ………レンはパパとママにい~っぱい褒めてもらって、甘えよう………っと!!」

レンも凶悪な笑みを浮かべながら自分の背後から襲いかかって来た敵を振り返って、襲いかかって来た魔物の首を刈り取った!そして3人はお互いの背中を向け合い、それぞれの武器を構えた!



「キャハッ♪最初はエヴリーヌから行くね♪」

エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべて弓に矢を番え

「あったま、あったま♪………ぜ~んぶ、潰す!!」

エヴリーヌは空気を斬り裂くほどの動作の弓捌きで次々と敵の頭を射抜いて、粉々に破壊し

「まだまだ行くよ!制圧射撃!!氷剣!ティルワンの闇界!アン・セルヴォ!!」

さらに上空へと転移した後、滞空しながら技や魔術を放って、敵を次々と葬った後、弓を虚空に仕舞って両手を上げた!

「キャハハハハハハハッ!エヴリーヌの敵はみ~んな、潰れちゃえ!」

凶悪な笑顔で笑ったエヴリーヌは敵を見降ろして、自分の足元に大きな魔法陣を出現させて大魔術の詠唱を開始した!

「闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ………」

エヴリーヌが大魔術の詠唱を始めると、突如空の上の雲の中から巨大な球体が雷をほとばしらせ、ゆっくりと魔物達の頭上へと降りて来た。

「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ………!グラビティ………ブレス!!」

そして魔物達に降りて来た球体は大量の魔物を包み込んで雷をほとばしらせて、大ダメージを与え、最後には爆発し雷を全方向へと飛ばしてさらに周囲の魔物達を巻き添えにして消えた!エヴリーヌの大魔術――グラビティブレスの威力はすさまじく、魔物達がいた場所は大きなクレーターとなっていた。



「ふふっ………そんな物欲しそうな眼で見ないでくれるかしら?………汚らわしい。私の身体を好きにしていいのは父様だけなんだから。」

セオビットは欲情が走ったような血走った眼で自分を見る魔物達に凶悪な笑みを浮かべた後、冷たく言った。そして一匹の魔物がセオビットに飛び掛かって来た!

「フン!」

しかしセオビットは魔剣を一閃して、自分に飛び掛かって来た魔物を真っ二つにした!それを見た魔物達はセオビットを恐れ、後ずさった。

「ふふっ………どうしたのかしら?そんな脅えた目をして………そんな目を見ると屠りたくなってくるじゃない!!」

そしてセオビットは魔剣で次々と敵を斬り捨てて行き

「真の暗黒に呑まれよ!ヴォア・ラクテ!!」

さらには魔術を使って、敵の数を減らした!

「アハハハハハ!あまりにも弱すぎて、笑いが込み上げて来るじゃない!」

そしてセオビットは空へと舞い上がり、凶悪な笑みで笑いながら大量の魔力弾を雨のように降らせて、逃げ惑う魔物達を葬って行った!

「ふふっ………我が最高の魔術で葬られる事………光栄に思いなさい!」

さらにセオビットはエヴリーヌがやった動作のように両手を上げて、自分の足元に大きな魔法陣を出現させて詠唱を始めた!

「我、久遠の絆断たんと欲すれば………言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう………」

セオビットが詠唱を始めると異空間から巨大な漆黒の刃を持った巨大な槍が出て来て、空中で廻った後自らが向かうであろう敵陣に刃を向けた!

「ファイナルチェリオ!」

そしてセオビットが魔術の名を言い終わると、巨大な槍は敵陣に落ち、その巨大な刃で大量の敵を貫き、絶命させた!



「うふふ………2人とも、最初から張りきり過ぎじゃない♪そんな事されたら、レンも一杯張り切らないと駄目じゃ………ない!!」

2人の活躍を凶悪な笑みを浮かべて見ていたレンは自分に襲いかかって来た敵を大鎌で真っ二つにした!そして敵陣に突っ込み、技の構えをした!

「うふふふふふ………!」

そしてレンはクラフト――ブラッドサークルを放って、自分を囲んでいる敵を吹き飛ばし、そして滅した!

「熱風!落雷!死線!」

さらに次々と魔術を放って、敵を葬って行き

「風よ、我に汝の加護を!加速!!………ヤアッ!ハッ!死んじゃえ!」

自分の身体能力をあげて、次々と敵の目の前に移動して大鎌で敵の首を落として行った!そして一端後退して、大鎌を異空間に仕舞って大魔術の詠唱を始めた!

「炎よ!氷よ!雷よ!大地よ!光よ!闇よ!今ここに全て具現せよ!」

レンが詠唱を終えると、レンの背後の空間が歪み、さまざまな属性の武器がそれぞれ無数に現れた!それを見た魔物達は悲鳴を上げて、逃げ出したが

「さあ!お茶会の始まりよ!…………虹のお茶会(レインボー・パーティー)!!」

時既に遅し、レンの大魔術によって魔物達は到る場所から断末魔を上げた!

「ふふ……これで終わりよっ!」

とどめの一撃の合図をするかのようにレンが指をならすと、爆発の嵐が起こり、大量の魔物達を塵に変えた!



「キャハッ♪まだまだいるようだね♪」

「ふふっ………次は誰が殺されたいのかしら?」

「うふふ♪どうしてそんなに震えているのかしら?おもてなしはこれからよ♪」

魔物達は可愛らしい容姿や美しい容姿をしながら凶悪な笑みを浮かべて自分の仲間達を残虐に殺していったエヴリーヌ達に恐れて、後ずさっていた。

「キャハッ♪」

「ふふっ♪」

「うふふ♪」

3人は凶悪な笑みを浮かべてそれぞれの武器を構えた!それを見た魔物達は悲鳴を上げて我先にとエヴリーヌ達に背中を向けて逃げ出したが

「うふふ♪今度は鬼ごっこね♪」

「この私達から逃げられるとでも思っているの………かしら!」

「キャハハハハハハハ!!死ね死ね死ね死ね死ねぇー!」

3人によって逃げ出した魔物達は虐殺されて行った!たった3人の凶悪な攻撃は、逃げ惑う魔物達を蹂躙し、もはや誰にも止められないような状況になり、エヴリーヌ達が戦っている場所は魔物の死体が次々と積み上げられ、現世の地獄と化した!



一方ユイドラの周囲で戦っているプリネ達も目まぐるしい活躍をしていた………!













 

 

外伝~それぞれの戦い~中篇

~工匠都市ユイドラ・近郊~



「出でよ、魔槍!狂気の槍!!………ヤアッ!」

プリネは魔術とレイピアを巧みに使って華麗に敵を倒して行き

「影縫い!………そこだっ!!」

フォーチュラは敵の動きを止めた後、的確に射抜いて敵を倒して行き

「消沈!………ツーヤちゃん、今よ!」

「はい、イリーナさん!たあっ!!」

イリーナが敵の能力を下げ、そこにツーヤがクラフト――延髄砕きを放って敵を怯ませ

「出でよ、時の槍!シャドウスピア!!」

イリーナが止めにアーツを放って、敵を倒した!一方門を護るように戦うセティ達も負けていなかった。

「超・ねこ、パ~ンチ!!」

またペルルは空から強襲して、敵を倒していた!

「行きますよ!ヤアッ!!」

セティが弓矢を放って、敵に命中させ

「ヤア―ッ!」

「行きます!二段突き!!」

シャマーラとエリナが止めを刺していった。しかし敵の数は多く何匹かはセティ達を無視して、門から街の中へ侵入しようとした魔物もいたが

「ハアァァァァァ!」

「フッ!」

門の前に立つロカとロカに従うイルザーブによって、街に入る前に地面に沈んだ。

「我が名はロカ・ルースコート!軍神の戦士として………これ以上先に進ませないわ!」

「………ロカ様を襲うなら、この私に滅せられるがいい!」

ロカは目の前に今にも襲いかかって来そうな魔物達に槍を向け、神々しい雰囲気を纏わせて高々と言い、イルザーブも続いた。魔物達はロカ達の言葉を無視するかのようにロカ達を襲ったが

「セイッ!」

「光よ、降り注げ!爆裂光弾!!」

ロカの槍とイルザーブの魔術によって滅せられた!



「セイッ!フウ…………2人とも、大丈夫?」

目の前の敵を斬り伏せたプリネは安堵の溜息を吐いた後、ツーヤとイリーナに声をかけた。

「はい。まだまだ戦えます。」

「はい!プリネ様こそ、お怪我はありませんか?」

主の心配にツーヤは凛とした表情で答え、イリーナは逆にプリネを心配した。

「フフ………大丈夫ですよ。イリーナさんは心配性ですね。」

「…………もう二度と、私は自分の目の前から大切な人達を失いたくないんです………」

プリネに言われたイリーナは決意を持った表情で答えた。

「イリーナさん………」

プリネはイリーナの両親の事を思い出し、かける言葉がなかった。

「…………イリーナさん、気持ちはとてもありがたいけど、自分の身も大切にして下さいね?イリーナさんが傷つけば、お父様達も悲しむし、私も悲しみます。」

「………あたしもです。」

「勿論、ボクもだよ!」

「プリネ様、ツーヤちゃん、ペルルさん…………ありがとうございます。」

プリネとツーヤ、ペルルの思いやりを知ったイリーナは感動した。

「フフ………それでは休むのはこれぐらいにして、そろそろ行きましょうか。みなさんばかりに任せる訳にも行きませんしね。」

イリーナの様子を見た後、周りで戦っている工匠や兵士達を見て、プリネはレイピアを再び構えた。

「はい!ご主人様は絶対に護ります!ヤアッ!」

プリネの言葉に応えるかのようにツーヤは刀で近くの敵を斬り

「行きなさい!光弾!!」

イリーナがツーヤがダメージを与えた敵に魔術を放って、止めを刺した!

「闇に呑まれよっ!ティルワンの闇界!!」

「いっくよ~!それぇっ!!」

2人の活躍に負けないかのようにプリネは魔術を放って、ペルルは技を放って複数の敵を沈めた!4人の活躍は目覚ましく、周りで戦う兵士や工匠の士気を高めた!



「速いの行っくよ~!ヴェングス!!………フウ………」

一方シャマーラは目の前の敵を沈めて安堵の溜息を吐いた後、近くで戦っているエリナに声をかけた。

「エリナ~。ちょっと疲れたから休憩しよう~。」

「休憩するなら一人で勝手にして下さい。私は戦いを早く終わらせたいので、貴女が休憩している間も戦います。」

「エリナは真面目すぎ~。少しは肩の力を抜かないと、疲れるよ~?」

「貴女は肩の力を抜きすぎです!戦いがまだ終わっていない中、休憩するなんて、何を考えているんですか!」

シャマーラの言葉を聞いたエリナはシャマーラを睨んで言った。

「はいはい。喧嘩はそこまでにしましょうね?エリナ、無理をし過ぎるのはお母様達から止められていたでしょう?私も疲れて来たし、少し休みましょう。無理は禁物です。」

「セティ姉様……はい。」

セティに諌められたエリナはシャマーラと同じように戦いの手を止めた。

「おお~………さすがセティ姉さん~。お堅いエリナを簡単に納得させちゃった。」

「シャマーラ。エリナは貴女を心配して、さっきの言葉を貴女に向けたのですよ。そんな事を言うものじゃありません。」

「………は~い。ごめんね、エリナ。」

「……いえ。わかってもらえば、それでいいです。」

セティの指摘を受けたシャマーラは気不味そうな表情をした後、エリナに謝罪し、エリナはシャマーラの謝罪を受け取った。

「フフ………」

「?どうしたの、セティ姉さん?」

「何か、おかしな事があるのでしょうか?」

唐突に笑いだしたセティを見て、シャマーラとエリナは首を傾げた。



「フフ……ごめんなさい。2人のやり取りを見ているとメディお母さんとシャルお母さんのいつもの口喧嘩を見ているように思えますから………2人はやっぱりあの2人の血をひいているだけあって、凄く似ていますね。」

「そうかな~?そういうセティ姉さんだって、セラ母さんと凄く似ているじゃない。」

「………加えて工匠として、私達の中で一番実力がありますし、セティ姉様が一番父様に似ているんじゃありませんか?」

「買被り過ぎですよ。貴女達に追い抜かれないよう、必死に勉強しているだけですから。」

シャマーラとエリナに言われたセティは苦笑しながら答えた。

「それにしても………こうして腹違いの娘達が仲良く語り合っているなんて、滅多にはない事でしょうね。」

「そうかな~?」

唐突に呟いたエリナの言葉を聞いたシャマーラは首を傾げた。

「フフ………それもお父さん達がみんな仲が良いのが影響されているかもしれませんね。……例え半分しか血が繋がっていなくても、2人は私にとって大事な妹ですよ。」

「あたしは今までそんな事、気にした事ないよ~。セティ姉さんはセティ姉さんだし。」

「全く……貴女には悩みという物がないのですか?………でも、貴女の言う通りですね、シャマーラ。私達は”姉妹”なんですから。」

シャマーラの答えに呆れていたエリナだったが、口元に笑みを浮かべて頷いた。

「さて……そろそろ疲れも取れて来た事でしょうし、戦いを再開しましょうか。」

「は~い!」

「はい!」

そして3人は再び戦い出した!血は半分しか繋がっていなくとも3人の仲はとても良く、お互いをカバーし合って戦っていた。一方ガプタールに乗ったウィル達はディアーネがいる場所についに降り立った。



~ディアーネ軍・奥~



「チッ!後少しでユイドラを滅ぼせたものを……ここに来て援軍だと!?」

ディアーネは今の状況を見て、顔を歪めていた。

「爆散するがよい!」

そこに空よりディアーネに向かって、大量の魔力弾が襲った!

「何!?」

上空からの攻撃にディアーネは驚いたが、攻撃に気付き、その場から回避した!するとウィル達を乗せたガプタールがディアーネの目の前に降り立った!

「なっ………貴様等は!」

ウィル達を見て、ディアーネは驚いた。

「ディアーネよ!約束通り、貴様を下僕にするため、余は参ったぞ!」

「………これ以上お前の好きにはさせないぞ、ディアーネ!」

ガプタールから降りたリフィアとウィルはそれぞれの武器をディアーネに向けて高々と言った。

「フン!そろそろ我自身が動こうと思った所をまさか貴様等自身が来るとはな………ちょうどいい!貴様等をここで滅しれば、ユイドラの愚かな人間達も諦めるだろう!」

ディアーネは鼻をならして、異空間より魔槍を取り出して、ウィル達に向けた!



「ウィルはやらせん。それが私達のセティ達にしてやれる唯一つの事!」

「ウィルとセラウィは一杯生きて、幸せになるんだから!貴女なんかにウィル達はやらせないわ!」

「ユエラ………エミリッタ………」

戦友の心強い言葉にセラウィは2人に心の中で感謝した。

「お兄様達は私が護ります!」

「アトだって、ご主人様達を護るんだから~!」

「僕だって、ウィル達の為に全力で戦うぞ~!」

「私だって!私達はウィルには返し切れない恩があるんだから!」

水那、アト、クレール、クレアンヌも決意の表情で戦う事を決意し

「ま、住みやすい今のユイドラを護るため、戦いはあまり好きじゃないけど全力で戦うよ~!」

「ようやく見つけた………私達の……敵の……親玉……!」

シャルティは気楽な様子で、ラグスムエナはディアーネを睨み

「魔神ディアーネよ!この私がいる限り、ウィルはやらせはしません!」

「今、保たれている”秩序”を乱す者にはこの私が裁きを与えないとね!」

メロディアーナ、エリザスレインもそれぞれの武器をディアーネに向け

「このわらわを無視してよくも、今まで暴れてくれたものよの………往生するがいい!」

「………我も力を存分に出させてもらうぞ、魔神よ……!」

狐伯蓮は怒りを隠さない表情でディアーネを睨み、ガプタールも戦闘の構えをし

「精霊王女たるこのわたくしがいるのです!敗北なんてありえませんわ!」

「ミレーヌ、久しぶりに本気に暴れちゃうぞっ!!」

フィニリィは胸を張って答え、ミレーヌは楽しそうな表情でディアーネを見た。

「………アスモデウス!今こそ、力を貸してくれ!」

(召喚に応じよう………)

そしてウィルは腕輪を付けている手を空高くへとあげて、叫んだ!すると腕輪が光り、巨大魔神――アスモデウスが召喚された!

「魔神アスモデウス、召喚に応じ、参る………!」

アスモデウスの巨体やさらけ出す雰囲気から、本能的に恐怖を感じた魔物達はうろたえた。

「おのれ………!いい気になるなよ、人間共!この我の恐ろしさ………存分に味わうがいい!」

「行くぞ、みんな!」

そしてウィル達とディアーネ率いる魔族の部隊は最後の決戦を始めた………!






 

 

外伝~それぞれの戦い~後篇

ついに始まったディアーネとの決戦。戦況は最初からウィル達に傾いていた。



~工匠都市ユイドラ・近郊~



「邪魔だっ!鳳凰!剣舞!!」

「消えろ!!」

ユエラとラグスムエナは次々と敵を斬り殺して行き

「行くぞ~!!ヤアッ!!」

クレールは素早い動作で矢を放って次々と敵を射抜いていき

「出でよ、烈輝の陣!!レイ=ルーン!!」

「行きますわよ!大放電!!」

「手加減はしないっ!地響き!!」

エミリッタ、フィニリィ、クレアンヌは魔術で敵を次々と沈め

「ぱーんち!」

「耐えられますか!」

「とーう!」

アトは素早い動きで、メロディアーナとシャルティは空から強襲して敵を倒して行き

「そりゃっ!どりゃっ!死ねよ!」

ミレーヌは転移しながらすざましい速さで敵を葬って行き

「消え失せよ!」

「浄化してあげるわっ!」

狐伯蓮とエリザスレインは炎の嵐や光の槍の雨を降らして、大量の敵を滅し

「フン!」

ガプタールは爪で空の敵を一気に何匹も引き裂いた!



「死ぬがいい!」

ディアーネは自分の周りに浮いている一本の槍をウィルに向けて放ったが

「させません!」

水那がウィルの前に出て片手に氷剣を作り出して、氷剣と化した手を震って槍を打ち払い

「凌いでみせよ!」

アスモデウスが巨大な腕を振り下ろし、ディアーネに攻撃した!

「!!」

アスモデウスの攻撃に気付いたディアーネはすぐにその場から離脱した!そしてアスモデウスの攻撃によって、周りの敵の数匹が巻き込まれ、滅せられた!

「行きますよ!」

「ゆけい!!」

さらにセラウィが放った矢とリフィアが放った魔術――追尾弾がディアーネを襲った!

「チッ!」

回避するのが面倒と思ったディアーネは結界を貼って防御した!そこにウィルが攻撃して来た!

「ヤア――――!!」

「させん!」

しかしディアーネは自分の周りに浮いている槍を器用に操って、ウィルの攻撃を捌いた!

「でやあぁっ!」

そしてさらに一本の槍をウィルに放った!

「!グッ!?」

ディアーネの攻撃に対処しきれなかったウィルは腕がかすり、呻いた。

「ウィル!!今、治癒します!………癒しの息吹!!」

それを見たセラウィはウィルにかけよって、治癒魔術を施し始めた。



「水よ、力を!連続水弾!!」

そして水那がディアーネに魔術を放った!しかし

「水精ごときが我の相手に務まると思っているのか!甘いわ!連続闇弾!!」

「キャアッ!?」

「水那!?」

ディアーネが放った魔術に呑みこまれ、ダメージを受けた。それを見たクレアンヌは戦いの手を止めて、水那に駆け寄って治療魔術をかけ始めた。

「出でよ、烈輝の陣!イオ=ルーン!!」

「ガッ!?バカな………この我に傷をつけるだと………!」

リフィアが放った魔術にディアーネは受けてしまい、信じられない様子でいた。

「力の一部を見せてやろう………破滅の深淵!!」

「舐めるな!ティルワンの闇界!!」

アスモデウスが放ったとてつもない暗黒の奔流に対して、ディアーネも暗黒魔術で対抗したが

「!!グアアアアアア!?」

アスモデウスが放った魔術に自分が放った魔術が呑みこまれ、そしてそれを受けたディアーネは悲鳴を上げた。

「ソロモンの一柱たる我の力……知るがよい!……波動爆砕陣!!」

そしてアスモデウスはすざましい爆発の嵐をディアーネに放った!爆発の嵐はディアーネに向かって、真っ直ぐ襲って行ったが

「ウ……ウオオオオオオオオオッ!!」

ディアーネはとてつもない魔力を全て結界に廻して、アスモデウスが放った爆発の嵐を防いだ。



「クッ………ソロモンの魔神よ!何故、人間の味方をする!!」

ダメージを受け、かなりの魔力を消費し、疲労を隠せない様子で顔を歪めたディアーネはアスモデウスを睨んで叫んだ。

「我はウィルフレドという人間を気にいっている………そしてウィルフレドがユイドラをどのように変えるのか非常に興味深い………それだけだ。」

「あ、あはは………喜んでいいのやら、悪いのやら………」

アスモデウスの言葉を聞いたウィルは苦笑していた。

「おのれ…………どいつもこいつも共存等、馬鹿げた事ばかりほざきおってからに………」

「全く…………かつてのエヴリーヌは余達の理想に共感できなかったが、今のエヴリーヌはちゃんと理解して、余達に力を貸している。お主もエヴリーヌのようにもう少しは成長せぬのか?」

顔を歪めているディアーネにリフィアは呆れた表情で話しかけた。

「黙れ!あんな奴と一緒にするな!虫唾が走る!…………せめて貴様だけでも道連れにしてくれるわ!」

リフィアに怒鳴ったディアーネは異空間から次々と魔槍を召喚し、リフィアに向けた!

「余は貴様ごときに膝はおらぬ!余に秘められし真なる力………思い知るがよい!」

それを見たリフィアは杖にとてつもない魔力を込め始めた!

「塵となれ!キル・ディアーネ!!」

ディアーネは無数の魔槍をリフィアに放った!

「究極なる光、クロースシエル!」

それに対してリフィアは強力な光の奔流を放った!光の奔流はディアーネが放った魔槍を呑みこみ、ディアーネを襲った!

「ば、バカな………この我が………グアアアアアアアアアアア!?」

自分の技が破られた事に信じられない思いでいたディアーネはリフィアの魔術をその身に受け、断末魔をあげた!そして光がなくなるとそこにはボロボロになったディアーネが跪いていた。

「グッ……………この我が負けるだと………」

「勝負はついたぞ、ディアーネよ。大人しく余の下僕になるがよい!」

大ダメージで呻いているディアーネにリフィアは近付いて高々と言った。



「……………わかった。好きにしろ。」

「うむ!」

そしてリフィアはディアーネに近付き、自分の身体と同化させるためにディアーネに触れたその時!

「フハハハハ!かかったな!貴様の魔力を吸いつくして、貴様の命を吸い取ってくれる!」

凶悪な笑みを浮かべたディアーネが両手でリフィアの片手を握り、リフィアの魔力を吸い取り始めた!しかし

「ガアアアア!?な、なんだと………貴様の魔力が我の魔力と合わないだと………?ど、どういう事だ!」

リフィアの魔力を自分の魔力と化した時、いきなりとてつもない苦しみがディアーネを襲った!

「フハハハハーー!余の魔力を吸い取ろうなど甘すぎて笑いが止まらぬわ!余は聖と魔、どちらの魔力も受け継いでいる!貴様ごときがシルフィア様の魔力を御する事ができる訳がない!」

「おのれ…………死してもなお我を阻むか、マーズテリアの聖騎士よ!」

自分を苦しめた原因がシルフィアより受け継いだ魔力が原因と知ると、ディアーネはリフィアを睨んで叫んだ。

「さて…………早速余の力を知るがよい!」

そしてリフィアは今度はディアーネの魔力を無理やり吸い取り出した!

「ば、バカな………我の魔力が………ウアアアアア……………」

ディアーネは悲鳴をあげながら、リフィアの魔力と無理やり同化させられ、その場から消えた。



「え、え~っと…………ディアーネはどうなったんだい、リフィア?」

2人の様子を見守っていたウィルが遠慮気味にリフィアに話しかけて来た。

「フム………これが使い魔を持つ感触か………うむ。心配しなくともディアーネは余の下僕と化した!出て来るがよい、ディアーネよ!」

そしてリフィアはディアーネを召喚した。

「クッ…………この我がまた、使い魔になるという屈辱を受けるとは………!」

「全く………余の使い魔になったのだ。光栄に思うがいい!」

「黙れ!………今しばらくは貴様の使い魔で我慢してやるが、隙あらば貴様の身体を奪い取ってくれる!覚悟するがいい!」

「うむ!そんな事もする暇がないぐらい、こき使ってくれる!そちらこそ、覚悟するがよい!」

こうしてリフィアは新たな下僕――魔神ディアーネを使い魔にした。そしてディアーネがリフィアに敗れた頃にはユエラ達も周りの敵を一掃し、またユイドラ軍やリウイ達も大量の魔物の軍団を殲滅し終わっていた。



~工匠都市ユイドラ・夕方~



「フウ……………どうやら戦いは終わったようですね………さすがに今回は疲れました……」

一方プリネは戦闘が終結し、勝利の雄叫びを上げている周りの工匠や兵士達を見て、疲労を隠せぬ様子で安堵の溜息を吐いてレイピアを鞘に戻した。

「疲れた~…………こんなにも疲れる戦いをしたの、久しぶりだよ~!」

ペルルも疲労感を隠せず、安堵の溜息を吐いていた。

「フフ………ご苦労さまです。私の中で休んでいて下さい。」

「うん。また何かあったら呼んでね!」

そしてプリネはペルルを自分の身体の中に戻した。

「よかった…………ご主人様を護れ………ました………」

ツーヤはどこか顔色の悪さを見せながら、嬉しさを隠せないでいた。

「ハアハア…………私もなんとか生き残れました…………持っていた魔力石やEPチャージも底をつきましたし、魔力やEPも完全に空になりました………」

イリーナは魔術やアーツを使い続けて戦っていたので、イリーナの持っているオーブメントのEPは0になっていて、またイリーナ自身、魔力を使いすぎた反動で顔色を悪くしていた。

「2人とも、ご苦労さまです。………それにしても、ツーヤ。本当に大丈夫?顔色が凄く悪いわよ?」

「心配しなくても………大………丈夫………です………………………」

そしてツーヤはその場から地面に倒れた。

「ツーヤ!?」

「ツーヤちゃん!?」

地面に倒れたツーヤを見て、プリネとイリーナは慌ててかけよった。



「ハア……ハア………ハア……………」

「!凄い熱………!早く休ませないと………!」

プリネはうなされているツーヤの額を触って驚いた。

「おーい、どうしたんだい?」

そこにガプタールに乗って戻って来たウィルがプリネ達に気付き、尋ねた。

「ウィルフレド様…………実はこの娘が凄い熱を出してしまって…………多分、度重なる激しい戦闘による疲労が一気に出たと思うのですが……」

「!そうなのかい。わかった。俺の家に運んで来てくれ。何か役に立つ薬があるかもしれない。」

「………ありがとうございます。ほら、しっかりして。」

「ツーヤちゃん…………」

ウィルの言葉を聞いたプリネはツーヤを背負い、その様子をイリーナは心配そうな表情で見ていた。

「…………………その娘は……………なるほど。今が”その時”なのだな…………………」

「ガプタール!?何か、知っているのかい!?」

ウィルはツーヤに起こっている事を知っているかのように呟くガプタールを見て、尋ねた。

「うむ。まず最初に確認だが………その娘は我と同族の者で間違いないな?」

「!!やはり、わかるのですか?」

「フン。それぐらいの事、造作もない。」

ガプタールが一発でツーヤの正体を当てた事にプリネは驚き、ガプタールは鼻を鳴らして答えた。



「あの………できれば私達にもわかりやすい説明をして頂けないでしょうか?」

「いいだろう。………まず、その娘はこの我と同じ”竜”だ。」

セラウィの問いにガプタールは答えた。

「ええええ~!?この娘が”竜”!?」

エミリッタはツーヤの正体を知り、大声をあげて驚いた。

「それでガプタール様………この娘は………ツーヤはまた元の元気な姿に戻るのでしょうか?」

驚いているエミリッタを気にせず、プリネは藁をもすがる思いでガプタールに尋ねた。

「フム…………元の姿になるというか………その娘は”成長”しようとしているのだ。」

「”成長”…………ですか?」

ガプタールの口から出た意外な答えにプリネは驚いた。

「ウム。我等竜族はお前達のようにゆっくりと成長せず、成竜になる際は今の様に体調を崩し、そして最終的に繭に包まれ、その中で成長するのだ。今、その娘の額に紋章が輝いている。それがその証拠だ。」

「あ…………確かに……………」

ガプタールの答えを聞いたプリネは何かの紋章が浮かび上がっているツーヤの額を見て、驚いた。

「詳しい話は後だ………今はベッドに運んでやるがいい。」

「はい!」

そしてプリネは自分が泊まっている宿屋のベッドにツーヤを運んで行った………………




 

 

外伝~それぞれの道へ~

ディアーネ達に勝利したその日に宴会が開かれたがプリネやイリーナは参加せず、ツーヤの看病をしていた。



~2日後・工匠都市ユイドラ・宿屋の一室~



「ツーヤ、大丈夫?」

「は………い…………あたし………ようやく……”成長”………するん………ですよね………?だったら…………これぐらい………耐えて………見せます…………!」

プリネに心配されたツーヤは顔色を悪くして、途切れ途切れに応えた。そこにドアがノックされた。

「プリネ様、入っていいですか?」

「イリーナさんね。入って来ていいですよ。」

「………失礼します。」

プリネの許可を聞き、イリーナがおかゆが入った入れ物を持って来て部屋に入って来た。

「…………具合はどう、ツーヤちゃん?」

「頭が………ボーっと………していて………とても………つらい…………です………」

「そう………ほら。おかゆを作って来たから少しでも食べて、力をつけて。」

「すみ………ま………せん………」

そしてツーヤはイリーナにおかゆを食べさせてもらったが、3口ほど食べると、もう食べれなくなった。

「ごめん………なさい………食欲が………なくて………」

「気にしないで。………それより早く元気になってね。」

「ツーヤ……………」

つらそうにしているツーヤに何も出来ない事をプリネとイリーナは歯がゆい思いで看病していた。そしてその日の夕方、プリネと交代で看病をしていていつの間にかうたた寝をしていたイリーナが気がつくと、ツーヤが寝ていた場所にツーヤはいなく、光の玉が輝き、ベッドの上に浮いていた。



「なっ………!まさか、あの中にツーヤちゃんが!?」

いきなりの光景に驚いたイリーナは光の玉に手を伸ばしたが

「キャアッ!?」

光の玉に触った瞬間、火傷をしてしまい、悲鳴を上げた。

「イリーナさん!?大丈夫ですか!?」

そこにイリーナと交代するために部屋に入って来たプリネがイリーナに駆け寄った。

「はい…………っつ!」

「大変!火傷をしているわ!今、治しますね。………闇の息吹!!」

「ありがとうございます。………今はそれよりツーヤちゃんが。」

「………あの光の玉の中ね。………ガプタール様の言う通り、あの中で”成長”しているようね………今はツーヤを信じて、待ちましょう。」

「………はい。」

そして2人はそれから、必要最低限の事をする以外部屋から出ず、ひたすら光の玉を見守り続けた。そしてツーヤが光の玉になってさらに数日が経った。



~数日後~



「………?………!プリネ様!光の玉が輝き始めています!!」

プリネと肩を合わせていつの間にか眠っていたイリーナは輝き始めた光の玉に気付いて、プリネを起こした。

「え………あ………!光の玉が……!」

やがて光の玉は強烈な光を走らせた後、光がなくなり始め、球体の中に一人の黒髪の美しい女性が裸で眠っていた。

「もしかして………ツーヤ………?」

ツーヤの面影を残す女性を見て、プリネは呟いた。そして女性は目を覚ました。

「マスター…………」

「!その声!やっぱり、ツーヤなのね!?」

球体の中から起き上がり、自分を見つめている女性――ツーヤの声を聞いたプリネは驚いた。

「はい。………今まで見守ってくれてありがとうございました………イリーナさんもマスターと一緒に見守ってくれてありがとうございます。マスターとイリーナさんの優しい気持ち………繭の外から一杯伝わってきました………」

「そう………フフ………それにしても、立派に成長したわね。」

ツーヤの言葉を聞きイリーナは成長したツーヤを見て、苦笑した。

「?そうでしょうか………?少しはマスターに近付いていればいいのですけど………」

「ツ、ツーヤ…………貴女の今のスタイル………私やイリーナさんどころかカーリアン様をも超えているんじゃないかしら………?」

プリネはツーヤのスタイルを見て、冷や汗をかいた。大人になったツーヤの今のスタイルは幼かった頃と違い、背はプリネ並にあり、腰はほっそりとしていて、逆に胸はスタイルが自慢のカーリアンとも並ぶかそれ以上に胸が大きかった。

「そういえば………さっきから気になったんだけど、その”マスター”っていう呼び方………私の事かしら?」

「はい。……成長したお陰でようやく『竜化』も出来るようになりました。……これからも存分にあたしをお使い下さい、マスター。」

「フフ………ありがとう。これからも期待しているわね。」

「はい、マスター。」



そしてプリネ達はツーヤの服を用意した後、リウイ達にも知らせた。成長したツーヤを見て、驚いたリウイ達だったが、ツーヤの成長を祝福した。ちなみにカーリアンはツーヤのスタイルを見て、自分が負けた事に軽くショックを受けていて、それを見たファーミシルスがカーリアンを馬鹿にして、2人は口喧嘩を始め、最終的にリウイによって収められた。そしてその後、数日間リウイ達はウィル達の仲間と手合わせや互いの技を教え合う等の修行をした後、ついにメンフィルに帰還する時が来た。

~工匠都市ユイドラ・正門~



「さて………と。数日間、世話になったな、ウィル。」

「セテトリの葡萄………一杯食べさせてくれて、ありがとう。」

「こちらこそ。ユエラ達にとっても、いい刺激になったようだし。」

見送りに来たウィル達にリウイ達の中にいたリフィアやエヴリーヌは順番にウィルと握手をした。

「大陸を制した”王”の剣技………私が思った以上にすざましい剣技だった。私のような者と手合わせをしてくれて、感謝する、メンフィル王。」

「………こちらこそ、東方の剣技という滅多に体験できない剣技と戦えた。礼を言う。」

「貴女、結構やるじゃない♪久しぶりに楽しませてもらえたわ♪」

「ディスナフロディの剣技………見事だったわよ。」

ユエラの称賛にリウイとユエラと手合わせをしたカーリアンやファーミシルスも同じように称賛しながら答えた。

「あの………”抜刀”や東方の技を教えてくれて、ありがとうございました。お陰でさまざまな技を覚えれましたし……」

「私のような未熟者が教えられるのはあそこまでだ。後は自分で使いこなしてみろ。………願わくは私が教えた技を後世に伝えてくれれば、教えた私にとっては最高の謝礼だ。」

「はい、必ず。」

ユエラから刀のある技を教えられたツーヤは凛とした表情で頷いた。

「ペテレーネさん!魔法を一杯教えてくれて、ありがとう!すっごい勉強になったよ!」

「フフ………私なんかがお役に立てれば幸いです。」

明るくお礼を言うエミリッタにペテレーネは微笑んで答えた。

「うふふ………死神さん、技を教えてくれて、ありがとうね♪」

「別に………いい………私も教えていて………楽しかったから……」

ラグスムエナにお礼を言うレンにラグスムエナは口元に笑みを浮かべて答えた。

「セラウィ、家族と末永く幸せにな。」

「はい。今回は本当にありがとうございました、フォーチュラ様。」

リウイ達と同じように旅立つフォーチュラもセラウィに別れの言葉をかけた。そしてウィルはリウイ達と共に去ろうとしているロカに声をかけた。

「ロカさんも忙しい中、ありがとうございました。」

「フフ………気にしないで。私は光と闇………そして”神殺し”すらも争う事なく、共に生きていく道を目指しているのだから………いつかセリカ達がこの街に来るような時が来れば、暖かく迎えてくれないかしら?」

「はい。ユイドラは全ての種族と共に”共存”を目指す街です。誰であろうと、追い返したりとかそんな酷い事はしません。」

ロカの頼みにウィルは快く引き受けた。



「それにしても軍神に仕えし神官が”神殺し”を庇うなんてねぇ………正直、私は会いたくないのだけど。」

「エリザスレイン様。お気持ちはわかりますが………」

「わかっているわ。その時が来ればその時よ。」

神殺しの存在を苦い顔で語るエリザスレインにメロディアーナは諌めた。

「フィニリィも元気で。………パラスケヴァスの事も頼むよ。それと永恒にもよろしく。」

「ええ。見つけたら、連絡を差し上げますし、あの者に再び出会った時、貴方と再会した事や今回の事を話してあげますわ。」

ウィルの頼みにフィニリィは快く引き受けた。

「フフ………それにしてもあ奴が契約するほどの娘子………一度、会ってみたいものよ。」

狐伯蓮は異世界にいるサエラブが契約した人物――エステルに興味を持っていた。

「メンフィルとユイドラが交流し合う時が来れば、エステルとも会う日が来るかもしれんな!さて………余達もそろそろ帰還しようぞ、リウイ!」

「ああ。………お前達の”道”を陰ながら応援しているぞ、”匠王”。」

「そっちもね。………武器が完成すれば君達にもらったこの”帰還の耳飾り”を使って必ずそっちに持って行くよ!だからそれまで、お元気で!」

リウイとウィルは握手をした。そしてリウイ達はウィル達に見送られ、ユイドラを去り、街道の分かれ道まで来た。



~セテトリ地方・某所~



「さて………私とフォーチュラ殿はここから別の道を辿って、それぞれの場所へ帰還します、リウイ様。」

「そうか………………先ほどの件………本気なのか?」

「先ほどの件といいますと………光と闇、そして神殺しと共に生きていく事ですか?」

「ああ。………かつてシルフィアは俺達を信じ、お前達から破門され、そして逝った。下手をすればお前も同じような目に遭うかもしれないのだぞ?」

「確かにそうかもしれないですね………でも、私は信じています。人はみな、分かり合える事を。」

リウイの忠告に対し、ロカは凛とした表情で答えた。

「…………そうか。」

ロカの答えを聞いたリウイは口元に笑みを浮かべた。

「それではこれで失礼します。………またいつか、あなた達と邂逅するその時が来るまで、みなさん、お元気で。」

「みなさんのこれからにルリエンのご加護を………」

そしてロカとフォーチュラはリウイ達と別れ、別の街道へと行った。



「………俺達も行くか。」

「うむ!ここからだとレンストが近いな!まず、レンストで休んで、その後冥き途に向かおうぞ!」

リウイの言葉に頷いたリフィアはある提案をした。

「………待て。何のために冥き途に向かう?もう、あそこに用はないのだぞ?」

リフィアの提案を聞いたリウイは一瞬イリーナを見た後、首を傾げて尋ねた。

「忘れたか?ツーヤやイリーナ、そしてプリネにさまざまな世界を見せるためだ!それにプリネは門番の2人と仲がいいと聞くぞ?違うか?」

「はい。リタさんやナベリウスさんと会うのも本当に久しぶりです………私の為にありがとうございます。」

リフィアの答えを聞いたプリネは頷き、リフィアにお礼を言った。

「………まあいいだろう。”あいつ”の足取りを教えてくれた2人にはその後どうなったかを知らせるべきだろうしな。」

「うむ!」

そしてリウイ達は次なる目的地へと足を進めた………



一方その頃、エステル達はツァイスに到着した…………







 

 

第21話

~ツァイス市・発着所~



「さてと、何はともあれツァイス支部に行くとしますか。キリカさんに挨拶しなくちゃ。」

「えへへ………キリカさんに会うのも久しぶりだね!」

定期船から降りたエステルは早速提案をし、それを聞いたミントは嬉しそうな表情をした。

「ほう、名前からすると東方系の女性のようだね。どのようなご婦人なんだい?」

「また始まったか……」

「ま、並のタマじゃねえ女さ。シェラザード以上の女傑だから火傷したくなけりゃ手を出すなよ。つーか、とばっちりを食らいたくねえから止めてくれ。」

オリビエのいつもの癖が始まった事にエステルは呆れ、アガットも呆れた表情で忠告した。

「フッ、それを聞いたらますます興味が湧いてきたよ。それじゃあさっそくギルドに……」

アガットの忠告を気にせず、オリビエがギルドに向かおうとしたその時



ゴォォォォォ…………!



なんといきなり地面が激しく揺れ出した!

「おおっ……!?こ、これはひょっとしてそのキリカさんの怒りなのか!?」

「そ、そんなわけあるか~!」

「地震……みたいですね。」

オリビエの叫びにエステルは突っ込み、クロ―ゼは不安そうな表情で揺れている地面を見ていた。

「ふえええ~………!怖いよ、ママ……!」

「大丈夫よ!何があってもミントはあたしが守ってあげるんだから!」

怖がっているミントにエステルは元気づけた。

「た、助けてー!」

「お、落ちてしまうわ!」

「み、皆さん!どうか落ち着いてください!この発着場は、直下型の大地震にも耐えられるように設計されています!大した地震ではありません!どうかご安心を!」

また、慌てている周囲の乗船客に受付が説明した。そして地震はしばらくすると収まった。



「と、止まった……」

「も、もう大丈夫だな……。さあ皆さん。慌てず騒がず受付までどうぞ。」

「やれやれ……。地震とは久しぶりじゃの。」

「えへへ、すごかったねぇ!」

そして受付は乗船客を案内して行った。

「はあ……ビックリしちゃった。それほど大きくなかったけどこんな不安定な場所で揺れるのは勘弁して欲しかったわね。」

「ふふ、そうですね。それにしても、リベールで地震なんて珍しいですね……」

「ミント、ずっとリベールに住んでいたけど、地震なんて初めてだよ。」

一方エステルの言葉にクロ―ゼやミントは頷いた。

「ほう、そうなのかい?」

「ああ……。滅多にあるもんじゃねえ。被害状況を確かめるためにもとっととギルドに向かうか。」

エステル達の話を聞き首を傾げているオリビエの疑問に答えたアガットはエステル達を促して、ギルドに向かった。



~遊撃士協会・ツァイス支部~



「ふむ、中央工房では大した被害はなかったと……。市街も大した騒ぎにはなってないのでご安心を。ええ、その件についてはよろしくお願いします。それでは。」

キリカが通信器を置いたその時、エステル達がギルドに入って来た。

「ふふ……。妙なタイミングで到着したわね。」

そしてキリカはエステル達に振り向いた。

「よく来たわね。エステル、アガット、ミント。発着場ではさぞ驚いたでしょう?」

「あ、あはは……。お久しぶり、キリカさん。」

「ったく、相変わらず見透かしてやがるな……。まあいい、よろしく頼むぜ。」

「こんにちは、キリカさん!これからは遊撃士としてよろしくお願いしま~す!」

キリカの相変わらずの様子にエステルは苦笑し、アガットは感心し、ミントは元気良く挨拶をした。そしてミントは受付で準遊撃士としての手続きをした。

「こちらこそ助かるわ。そちらの2人が姫殿下とオリビエさんね。私はキリカ。ツァイス支部の受付を勤めている。以後、お見知りおきを。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

キリカに対してクロ―ゼは礼儀正しく挨拶をした。

「フッ、それにしても予想以上の佳人ぶりだ。このオリビエ、貴女のために即興の曲を奏でさせてもら……」

一方オリビエはキリカの容姿を見て、いつもの調子でリュートを出したが

「ジャンによれば、貴方たちは正式な協力員になったそうね?協力員は、遊撃士と同じように上の休憩所を自由に利用できるわ。待ち合わせに使うといいでしょう。」

「はい、わかりました。」

キリカはオリビエを無視して説明をクロ―ゼにした。

「えーと、即興の曲を……」

無視されたオリビエは慌てて、自分の存在をアピールしたが

「リュートを奏でたいなら上の休憩所で、どうぞご自由に。ただし、常識の範囲内でお願いするわ。」

「シクシク……分かりました。」

キリカの態度にオリビエは肩を落として、リュートを弾くのを諦めた。



(シェラ姉より確かに容赦がないかも……)

「はあ、とりあえず……。溜まっている仕事の状況を早速、教えてもらえるか。」

オリビエの様子を見たエステルは苦笑し、アガットは溜息を吐いた後尋ねた。

「掲示板の仕事は溜まっているけど、今のところ緊急の仕事はないわ。貴方たちのやりやすいように片付けてくれて結構だけど……。………………………………」

説明を続けていたキリカだったが、急に口を閉じた。

「???どうしたの、キリカさん?」

「何か、気になる事があるの?」

キリカの様子にエステルとミントは首を傾げた。

「これは通常の依頼ではなくギルドからの要請なのだけど……。貴方たちを、『結社』の調査班と見込んで調べて欲しいことがあるの。」

「なに……?」

「ふえ!?」

「い、いきなり直球で来たわね。」

「あの……どういう事なんでしょうか?」

キリカの依頼にアガットやミント、エステルは驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。

「調べて欲しいのは他でもない。先ほど起こった『地震』についてよ。」

「地震について調べる?それって被害がどの程度かみんなに聞いて回るってこと?」

キリカの依頼を聞いたエステルは確認した。

「それもあるのだけれど……。実は3日ほど前、ヴォルフ砦で同じように地震が発生したらしいの。時間でいうと10秒くらい。特に被害はなかったらしいわ。」

「なるほど……。さっきの地震と似ているな。」

「ただ、奇妙なことが1つ。ヴォルフ砦で地震が起きた時、ツァイス市は全く揺れなかった。」

「え……」

「ふむ、それは妙だね。地図で見るとヴォルフ砦とツァイス市はそれほど離れていないはずだ。そこが揺れたのならばこちらでも、多少は揺れは感じるはずなのだが。」

キリカの説明を聞いたエステルは驚き、オリビエは珍しく真剣な表情で答えた。



「ごく小さなものだったから気付かなかったのかもしれない。ただ、そうね……虫の知らせというのかしら。何となく嫌な感じがするのよ。」

「言いたいことは分かるかも……。幽霊騒ぎもそうだったけど変な現象はあたしも気になるわ。」

「いいだろう、引き受けた。ツァイス市とヴォルフ砦の双方で聞き込みをした方が良さそうだな。」

「まあ、気になる程度だから緊急性はないと思ってちょうだい。掲示板の依頼をこなしながらゆっくり進めてくれても構わない。それに……挨拶したい人たちもいるでしょう?」

エステル達に伝えたキリカは口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「あ……うん。新しい『ゴスペル』の件もあるし博士とティータに会わなくちゃ。」

「そうですね……。その方がいいと思います。」

「えへへ………こんなにも早くティータちゃんと再会できるなんて、思いもしなかったよ!」

エステルの提案にクロ―ゼは頷き、ミントは嬉しそうな表情で頷いた。

「フッ、ギルドの仕事をするのは挨拶をしてからということだね、では、ティータ君と再会するためいざ出発するとしようかっ!」

「なんでてめぇがいきなり仕切ってやがる……。まあいい、ラッセル工房に行くぞ。」

いつの間にかちゃっかり仕切っているオリビエを睨んだアガットだったが、気にする事をやめ、先に促した。



そしてエステル達はラッセル家に向かった。

~ラッセル家・リビング~



「さてと……。博士とティータはいるかしら………」

「もしかしたら中央工房に行ってるかもしれねぇな。」

ラッセル家に入ったエステル達が玄関で会話をしていると

「おじいちゃ~ん。2階のお片付けは終わったよ。」

「おう、すまんな。それじゃあ、そっちの部品の整理をしてくれんか?」

「は~い。」

隣の部屋からティータと博士の声が聞こえて来た。

「ふふっ、2人とも研究所の方にいるみたいね。」

「ああ、行ってみるか。」

「えへへ………相変わらずのようだね、ティータちゃん。」

そして5人は隣の部屋に向かった。



~ラッセル家・研究部屋~



「んしょ、んしょ……」

隣の部屋に入るとティータが棚の整理をしていた。

「よう、邪魔するぜ。」

「あ、アガットさん!えへへ、いらっしゃい。今日はどうしたんですか。」

アガットに話しかけられたティータは嬉しそうな表情で尋ねた。

「なんじゃ。来たのか、不良青年。」

一方博士はぞんざいな言い方で言った。

「来ちゃ悪いかよ。しかし、相変わらずゴチャゴチャした工房だな。どうせさっきの地震で部品の山が崩れたんだろう?」

「えへへ……よく分かりましたね……」

アガットの話を聞いたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。

「2人とも、お久しぶり」

「ティータちゃん、久しぶり!」

その時エステル達が遅れて部屋に入って来た。

「あ……」

エステル達に気付いたティータは思わず声を上げて驚いた。そしてエステル達はティータ達に近付いた。



「えへへ……。ご無沙汰してゴメンナサイ」

「おお、エステル……」

「お、お姉ちゃん……ミントちゃん………。エステルお姉ちゃんっ!ミントちゃんっ!」

エステルの登場に博士は驚き、ティータは泣きそうな表情をした後、2人の名前を叫んでエステルとミントにしがみついた。

「わわっ、ティータ?」

「どうしたの?ティータちゃん?」

ティータの様子に驚いたエステルとミントは声をかけた。

「エステルお姉ちゃん……ミントちゃん………。よかった……本物のお姉ちゃんとミントちゃんだよぅ……」

「な、なによ本物って……」

「ミントはミントだよ?」

安心しているティータの呟きを聞いたエステルは苦笑し、ミントも頷いた。

「だってだって……。ヨシュアお兄ちゃんがいなくなっちゃったって聞いて……。2人まで外国のどこかに行ったって聞いて……。このまま会えなかったらどうしようって、わたし……ずっと不安だったの……」

「そっか……。ごめんね……挨拶もしないで遠くに行って。」

「心配をかけて、ごめんね。ティータちゃん。ミント………手紙ぐらい、書くべきだったよ………」

自分達を心配しているティータをエステルは優しく抱きしめ、ミントはティータの手を握って言った。

「確か、レマン自治州にある訓練場に行っておったそうだな。いつ帰国したんじゃ?」

そこに博士がエステル達に話しかけて来た。



「帰ってきたのは少し前かな。今までルーアンで仕事をしててツァイスに到着したばかりなのよ。」

「そうじゃったか。おや、お前さんがたは……」

エステルの話を聞き頷いた博士はクロ―ゼとオリビエに気付いた。

「お久しぶりです。博士、ティータちゃん。」

「フッ、お邪魔させてもらうよ。」

「クローゼさん……。それにオリビエさん……。」

「2人とも、あたしたちの調査に協力してくれてるの。ルーアン地方で色々あってね。」

何故2人がエステル達と共にいるかの理由をエステルはティータ達に説明した。

「ふむ、そうか……。こんな所で立ち話もなんじゃ。居間の方に移るとするか」

そしてエステル達はリビングに移動した。



~ラッセル家・リビング~



「クーデターの黒幕どもがすでに活動を始めていたか……。しかも再び『ゴスペル』を持ち出してきたとはのう……」

「空間投影装置が生み出した映像を遠く離れた座標に転送する……。そ、そんなことどうやったら可能なんだろ……」

ルーアンの話を聞いた博士は考え込み、ティータは未知なる技術に驚いた。

「空間投影装置そのものは決して不可能じゃないはずじゃ。ワシもいずれは造ってみようと思ったからな。じゃが、生み出された映像を遠くの座標に転送するのは……。ううむ……さっぱりカラクリが判らんわい。」

ティータに説明した博士は自分の知らない仕組みがある事に唸った。

「敵の男は『新型ゴスペル』の実験をしてたって言ってたのよね。確かに、一回り大きかったし導力停止現象は起きなかったけど……」

「そういえば、クーデターの時に使われていた『ゴスペル』はどうなんだ?ちったあ何か判ったのかよ?」

アガットはある事を思い出し、尋ねた。

「むう……それがな。解析を進めれば進めるほど奇妙なことが分かってきてな……」

アガットに尋ねられた博士は唸りながら答えた。

「奇妙なこと?」

「ほえ?」

博士の話を聞いたエステルとミントは首を傾げた。

「うむ、結論から言うとな……あの『ゴスペル』そのものに『導力停止現象』を起こす機能があるとは思えなくなってきたんじゃ。」

「へ……?」

「で、でも……。実際に、あの黒いオーブメントが導力停止現象を起こしたのですよね?」

博士の説明を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。



「うむ、あくまで表面的には。じゃが、先ほど言ったように内部の結晶回路を解析してもそんな事ができるとは思えんのです。『導力場の歪み』らしきものを発生させるのは確かなんじゃが……」

「『導力場の歪み』……」

「えと、『導力場』というのは導力エネルギーの周囲に形成される干渉フィールドのことを言います。大抵は、一定の法則で力線が描かれるんですけど……。おじいちゃんが解析した結果、『ゴスペル』が生み出す導力場はこの法則から外れているらしくて……」

あまり理解できていない様子のエステル達にティータは説明したが

「むむ、ちょっと話が専門的になってきたかな。」

「あたしもチンプンカンプン……」

「ごめん、ティータちゃん………ミントもわからない………」

話が専門的すぎるため、エステル達は理解できなかった。

「まあ、ありていに言うと既存の法則にあてはまらない歪んだ導力場を発生するのじゃ。じゃが、導力場というのはあくまでも一定の時空間における導力エネルギーの在り方にすぎん。方向性が与えられない限り、『導力停止現象』のような具体的な作用が起こるはずがない……。正直、困り果てていたんじゃがルーアンでの事件を聞いて新たな可能性が開けたかもしれん。知らせてくれて礼を言うぞ」

「あはは……。どこがどう役に立ったのかいまいちピンとこないけど。」

「敵が使っていた投影装置は王国軍が調査しているはずだ。興味があるなら連絡してみろや。」

博士の話を聞きお礼を言われたエステルは苦笑しながら答え、アガットはある提案をした。

「うむ……そうさせてもらおうかの。そういえば、お前さんたちはこれからどうするつもりじゃ?しばらくツァイスで仕事をするつもりなのか?」

「あ、それなんだけど……」

そしてエステル達は地震の件も含めて博士達に説明した。



「ほう……。先ほどの地震についてか。確かにリベールで地震が起きることは滅多にない。しかも3日前に、ヴォルフ砦で同様の地震が起こっていたのか……」

「3日前……。うーん、ツァイスの市内は揺れたりしなかったと思うよ。確かにちょっとヘンかも……」

エステル達の話を聞いた博士は驚き、ティータは首を傾げていた。

「自然現象だし『結社』が関係してるか判らないけど……。調べるだけは調べてみるわ。」

「ふむ、地震か……。ひょっとしたらアレが使えるかもしれんな。」

「え……」

「ま~たケッタイな発明を持ち出すつもりかよ?」

博士の呟きを聞いたエステルは驚き、アガットは呆れた表情をした。

「うむ、数年前に造ったある装置があるんじゃが……。あれにトランスミッターを付けて『カペル』に解析させられれば……。ふむふむ……イケるかもしれんの!」

そして博士は一人で勝手に頷いていた。

「もう、博士ったら1人で納得しないでよ~」

「いや、お前さんたちの調査に協力してやろうと思ってな。お前さんたちはヴォルフ砦に調査に向かうがいい。その間に『良い物』を用意しよう。」

「そ、それは助かるけど……。『良い物』って一体何なの?」

博士の話を聞いたエステルは博士が用意する物が気になって尋ねた。

「むふふ。それは後のお楽しみじゃ。それではさっそく中央工房に行こうかの。ティータも手伝ってくれんか?」

「あ、うん……。ごめんなさい。お姉ちゃん、ミントちゃん、アガットさん。せっかく久しぶりに会えたのに……」

博士に頼まれたティータは頷いた後、申し訳なさそうな表情で謝った。



「あはは、いいって。とりあえずティータの顔を見れただけでも嬉しかったしね。」

「うん!ミント、ティータちゃんとまた会えて、凄く嬉しいよ!」

「エステルお姉ちゃん、ミントちゃん……」

「ま、しばらくツァイスを拠点に仕事をするだろうからな。ゆっくりできる機会はあるだろ。」

「エヘヘ、そうですよね。あのあの、みなさんもお構いできなくてごめんなさい。」

アガットの言葉に頷いたティータはクロ―ゼとオリビエを見て、言った。

「ふふ、とんでもないです。」

「フッ、機会があったらまた寄らせてもらうよ。その時はぜひともボクのことをお兄ちゃんと……」

「だ~から、アンタはやめい!」

未だに諦めていないオリビエにエステルはすかさず突っ込んだ。

「あ、あはは……それじゃあ、またあとで!」

「準備ができしだい、ギルドに連絡するからの!」

そして博士とティータは中央工房に向かった。



その後エステル達は他の仕事を手分けして片付けた後、ヴォルフ砦に向かい、兵士達から地震や不審者についての話を聞いた後、さらにセントハイム門でも地震が起こったのでそちらでの話も聞いた後ツァイス市に戻って来た…………







 

 

第22話

~遊撃士協会・ツァイス支部~



「あれ……。どうしたの、2人とも?」

エステル達がギルドに入ると、博士とティータが来ていた。

「あっ……お姉ちゃん、ミントちゃん、アガットさん!」

「おお、ちょうどいい所に戻ってきたな。」

エステル達に気付いたティータ達は明るい表情をした。

「地震の調査を終わらせて戻ってきたところなんだが……。なんだよ、そのガラクタは。」

アガットは受付に置いてある3つの機会をうさんくさそうな目で見て、尋ねた。

「ガラクタとは失礼な。これが約束していた『良い物』じゃよ。」

「まあ、その説明は追々してもらうとして……。セントハイム門の地震も一応調べてくれたみたいね。ヴォルフ砦の調査と合わせて報告してもらいましょうか。」

「うん、それなんだけど……」

そしてエステル達はキリカに地震の規模が大きくなっている事やまた、2ヶ所に不審人物――サングラスの男が見かけられた事を報告した。

「なるほど……。地震の規模が大きくなっとるか。思ったよりも事態は深刻じゃな。」

「う、うん……。今度また、ツァイス市内であれ以上の地震が起こっちゃったら大変なことになっちゃう……」

「そして、両方の場所で目撃されたサングラスの男……。ツァイス市内で目撃されたのと同一人物みたいね。」

エステル達の話を聞いた博士は考え込み、ティータは不安そうな表情をし、キリカは真剣な表情で頷いた。



「そっか……。やっぱり市内にも現れたんだ。」

「ルーアンの時に現れたえ~と………『執行者』なのかな………?」

キリカの話を聞いたエステルは真剣な表情で頷き、ミントは不安そうな表情になった。

「ええ、マードック工房長が市内の情報を集めてくれたの。確かにその男が『結社』の人間である可能性は高そうね。こうなった以上、博士の実験に全面的に協力した方がいいでしょう。」

「実験……。この装置を使うのか?」

キリカの話を聞いたアガットは受付に置いてある機械を見た。

「うむ、その通り。これはわしが数年前に開発した『七耀脈測定器』でな。地面に設置することで『七耀脈』の流れをリアルタイムに感知・測定することができるのじゃ。」

「えーと……。毎度ながら聞くんだけど……『七耀脈』ってナニ?」

博士の話を聞いたエステルは聞きなれない言葉に首を傾げて質問した。

「『七耀脈』とは地下深くに存在する七耀石が採れる鉱脈のことです。この地脈は莫大なエネルギーを持っていて、大地を少しずつ動かしています。」

「『地脈』、『霊脈』なんて表現されることもあるらしいね。東方では『龍脈』だったかな?」

エステルの疑問にクロ―ゼが答え、またオリビエも続いた後、キリカに確認した。

「あら、よく知っているわね。東方では昔から、龍脈の集う場所に都が造られたという歴史があるわ。大地のエネルギーを国の力に取り込むという発想ね。」

オリビエが意外な事を知っている事に驚いたキリカは頷いた後、話を続けた。



「へ~、そうなんだ。ちょっと勉強になっちゃった。」

「ミントも!」

「それで、その装置を使えば地震を止めることが出来るんでしょうか?」

クロ―ゼは受付に置かれてある機械を見て博士に尋ねた。

「いや、流れを見るだけですから実際に地震を止めることは無理ですわい。じゃが、ゼムリア大陸の地震は七耀脈の流れが地層を歪めることで起きるものと言われてましてな。ですから、その流れを調べれば何かが解けるかもしれんのですわい。」

「なるほど……。では、次に地震が起きるまでに準備をする必要があるわけですね。」

博士の説明を聞いたクロ―ゼは納得し、頷いた。

「装置が3つあるってことは設置する場所も3箇所か?」

「うむ、地図を見てくれ。」

アガットに尋ねられた博士は地図を広げた。

「設置して欲しい場所はツァイス地方の3箇所になる。まずは、トラット平原のストーンサークルがある場所じゃ。次は、カルデア隧道中間地点。ツァイスから歩いて最初の橋付近。最後に、レイストン要塞前じゃ。」

そして博士は地図に印をつけた。

「―――以上の3箇所に装置を設置してもらいたい。」

「うん……。だいたい手順は判ったわ。ところで、測定器の設置ってただ置くだけでもいいわけ?」

博士の説明に頷いたエステルは質問した。

「いや、そう単純ではない。測定用の検査針を正しい角度で地面に差し込む必要があるし、アンテナの設定も必要じゃ。」

「アンテナというのは導力通信用の装置のことだね。すると、測定した情報をどこかに送るというわけなのかい?」

「ほう、なかなか鋭いのう。外付けのアンテナで、測定数値を演算オーブメントの『カペル』に届けて七耀脈の動きを分析させるのじゃ。3箇所のポイントの情報をリアルタイムに分析できるのでかなり正確なことが判るはずじゃよ。」

オリビエの予想に感心した博士は説明を続けた。



「うーん、なんだか凄そうな実験ね。それじゃあ、ラッセル博士も装置の設置についてくるわけ?」

「いや、わしは『カペル』の調整があるから手が空かなくてな。代わりにティータを連れて行ってくれ。」

「えへへ……。よろしくお願いします。」

博士に促されたティータは恥ずかしそうな表情でエステル達を見た。

「わあ………ティータちゃんと一緒に仕事ができるんだ!」

「そっか。ティータなら百人力よね。……アガット。文句言ったりしないわよね?」

ティータがついて来る事にミントは表情を輝かせ、エステルはアガットに釘を刺した。

「仕方ねぇな……。ただあんまり機械いじりに夢中になりすぎるんじゃねえぞ。ほっといたら、魔獣が現れても気付かずに熱中してそうだからな。」

「ううっ……。アガットさんのいじわる……。でもでも、そうなってもきっと助けてくれますよね?」

「……ったく、甘ったれが。」

ティータの笑顔に負けたアガットは溜息を吐いた。

「あはは。やっぱりアガットの負けね。」

「えへへ………やっぱりアガットさんって優しいね!」

その様子をエステルとミントは微笑ましく見ていた。



「それでは、わしはこれから『カペル』の入力調整を始める。全ての測定器を設置したら中央工房の演算室に来てくれ。」

「うん、わかったわ!」

「おじいちゃんも頑張ってね。」

そして博士は中央工房に向かった。

「次の地震が起きるまでに全部設置しなくちゃね……。さっそく出発しますか!えっと、測定器を設置するのは隧道の途中、平原の北外れ、レイストン要塞前の3箇所よね。うーん、どういう順番で設置していけばいいのかしら?」

エステルは設置する場所を告げた後、どこから廻るかキリカに確認をとった。

「それは貴方たちに任せるわ。レイストン要塞には私の方から連絡しておく。ゲートの門番に事情を話せば設置を許可してくれるでしょう」

「うん、わかった。」

「よし、そろそろ出発するか。ティータ。ちゃんと付いて来いよ。」

「はいっ!」

そしてエステル達はメンバーの数を少し減らすためにオリビエをギルドに待たせて測定器の設置に向かった………



一方その頃、リウイ達は傭兵国家の街――『レンストの街』で角の生えた魔神がレンストの王女を攫い、何故か音楽を要求しているという話を聞き、その話に興味を惹かれたリフィアの提案によって、留守番のイリーナ、レン、ファーミシルス、カーリアン、エヴリーヌを宿屋に待たせて魔神がいると言われる迷宮――『セバスの門』に入り、魔神を見つける為に進んで行った…………


 

 

外伝~一角候との邂逅~

~セバスの門・地下10F~



「それにしても『すばらしい音楽を聞かせろ』だなんて、魔神なのに変わった事を言う方なんですね。」

「うむ!どんな魔神なのか、興味がわいて来た!」

迷宮――セバスの門を歩きながらプリネとリフィアは話していた。

「………音楽を愛しているという事は、もしかしたらそれほど凶暴ではないかもしれませんね。」

「ああ。……ただ、誘拐という真似をした時点で凶暴ではないと言い切れんが。」

ペテレーネの言葉にリウイは頷いていた。

「それより………マスター………本当にマスターが音楽を聞かせるのですか?」

そこにツーヤが心配そうな表情でプリネを見た。

「ええ。この中で私が一番楽器をよく触っていましたから………何かあったら、その時は護ってくれるのでしょう?」

「………はい。マスターはあたしが護ります。」

プリネに微笑まれたツーヤは凛とした表情で答えた。

「…………どうやらついたようだぞ。」

歩いていたリウイは奥から漂う気配に気づき、足を止めた。



「何者だ!この我の許可なく、ここに入って来る無礼者よ!名乗るがいい!」

そして奥から角の生えた女性が出て来て、リウイ達を睨んで叫んだ。

「………私の名はプリネ。レンストの王女を返してもらうために、参上しました。……貴女の名は?」

そこにプリネが静かに角の生えた女性の前に出て、名乗り出た後女性の正体を尋ねた。

「フム。見た所”闇夜の眷属”か………まあいい。我の名を知り、驚くがいい!我はアムドシアス!ソロモンの一柱の魔神にして、美と芸術を愛する者!」

女性――ソロモン72柱の一柱――魔神アムドシアスは高々と言った。

「ほう。………という事はパイモンと同族の者か。」

「………ソロモンの魔神が何故、こんな真似をした?」

アムドシアスの正体を知ったリフィアは驚き、リウイは目を細めて尋ねた。

「それはここ最近、素晴らしい音楽を聞いていないからだ!人間は儚く、弱いが芸術を作ったのも人間。ならば彼らに頼むというのが道理!」

「あの………だからと言って、誘拐をして頼むというのは少し、間違っている気がするのですが…………」

高々と言うアムドシアスにペテレーネは遠慮気味に話しかけた。

「それは奴らが悪いのだ。この我自らせっかく頼みに来たというのに、奴らは目の色を変えて我を襲って来たからな。王女を攫ったのは奴らを大人しくさせるためだ。」

「…………どちらが悪いのか、イマイチよくわかりませんね………」

アムドシアスの説明を聞いたツーヤは首を傾げていた。

「あ~!なんで、貴女がそこにいるの!?」

そこにペルルがプリネの身体から出て来て、アムドシアスを見て驚いた。

「ペルル?知っているのですか?」

「う、うん………昔、ボクと一緒にセリカの使い魔をやっていた魔神でセリカを逃がすために『狭間の宮殿』に残って『神の墓場』に飛ばされたはずなんだけど………」

プリネに尋ねられたペルルは信じられない様子でアムドシアスとの関係を説明した。

「む?どこかで見た事のある羽娘だな。」

「ひっど~い!ボクの事、忘れたの!?」

アムドシアスの言葉を聞いたペルルはアムドシアスを睨んだ。



「とりあえず、ペルルの話は後で聞くとして………音楽を聞かせれば、王女は解放してくれるのですね?」

「………この我を感動させられればな。」

静かに問いかけるプリネの問いにアムドシアスは頷いた。

「わかりました。………ツーヤ、例の物を。」

「はい。マスター。」

そしてプリネはツーヤから街で買ったヴァイオリンを受け取った。

「ほう………ヴァイオリンか。フム。”闇夜の眷属”の者が何を弾くかと思ったがよりにもよってそれとはな………生半可な曲を聞かせたら、承知せんぞ。」

「…………始めます。」

そしてプリネはヴァイオリンで演奏を始めた



~~~~~~~~♪



「うむ!さすが余の妹よ!素晴らしい演奏だな!」

「凄い綺麗な旋律です………こんな音、聞いた事ないです…………!」

「フフ………相変わらず、上手いね、プリネ。」

プリネの演奏――『星の在り処』を聞いているリフィアやツーヤ、ペルルは微笑んでいた。

「まさかこんな所で役立つとは思わなかったな………今後産まれて来る我が子孫達の教育はお前に任せた方がいいかもしれんな。」

「そ、そんな………私なんかが恐れ多いです………」

「そうか?プリゾアから学んだお前ならできると思うが。」

リウイはプリネにどんな教育を施すかを考えたペテレーネを褒め、褒められたペテレーネは恥ずかしそうな表情をしていた。

「…………………」

一方アムドシアスは真剣な表情で黙って聞いていた。



~~~~~~~~♪



そして演奏は終わった。

「………以上です。いかがでしたでしょうか?」

演奏を終えたプリネはアムドシアスを見た。

「もう一度、今のを頼む!」

「え?は、はあ………」

アムドシアスの頼みにプリネは戸惑いながらまた、『星の在り処』を弾き始めた。



~~~~~~~~♪

~~~~~~~~♪



プリネが弾き始めるとなんとアムドシアスが突如異空間より小さな竪琴を出して、プリネの曲と同じ曲を弾き始めた!

「おお!よくわからんが、凄い事になってきたな!」

「え~と……この後、どうすればいいんでしょうか?」

リフィアはアムドシアスとプリネの合奏にはしゃぎ、ツーヤは苦笑していた。

「………………」

一方リウイは嫌な予感がし、頭を抑えていた。

「リウイ様?どうなされたのですか?」

「いや…………少し嫌な予感がしてな。」

ペテレーネに尋ねられたリウイは溜息を吐いて答えた。そして2人の合奏は終わった。



「………素晴らしい曲だったぞ!まさかこの我自身が思わず合奏させるほどの腕を持つ者に出会えるとは……!」

「あ、あはは……そこまで言ってもらえるとは思えませんでした。………それで王女は返してもらえるでしょうか?」

アムドシアスの賛辞にプリネは苦笑しながら受け取った後、尋ねた。

「うむ!そんな事より、見た所帯剣はしているようだが、お前は戦うのか?」

「え?は、はあ………一応私は皇女ですし、民や自分の身を守る為に戦う時もあります。」

「なんだと!あれほどの曲を弾けるのに戦いのような野蛮な事をするのか!そんな事をすれば、大事なお前の身体が傷つくだろう!」

「え、え~と?」

アムドシアスの様子にプリネは首を傾げていた。

「それはいかんな!フム。このような所にずっといるのも飽きていた所だ。美と芸術を愛するこの我がお前を護ってやろう!」

「「え!?」」

「何!?」

「ええええええええ~!?」

そしてアムドシアスの提案にプリネやペテレーネは驚き、リウイも目を見開いて驚き、ペルルは声を大きく上げて驚いた。

「さあ、早く両手を出すがいい!」

「え?は、はあ………」

そしてアムドシアスに急かされたプリネは両手を前に出した。そしてアムドシアスはプリネの両手を握り、プリネの魔力と同化して、その場から消えた。

「「「「「「…………………………」」」」」」

アムドシアスが消えた後、その場は静寂に包まれた。



「え、え~と………とりあえず、一件落着………なんでしょうか?マスターの使い魔の方も増えましたし………」

そして静寂を破ったツーヤが遠慮気味にプリネに話しかけた。

「そう……でいいと思うわ。………まさか魔神の方が力も示さず、自ら使い魔になるなんて思いもしなかったけど………」

「うむ!まさか余に続いて魔神を使い魔にするとはな!余もお前の姉として、鼻が高いぞ!」

ツーヤに話しかけられたプリネは今の状況に戸惑いながら頷き、リフィアは得意げに胸を張っていた。

「フウ………セオビットやディアーネに続いてまた一癖のある奴が増えたものだ………」

「心強い仲間が増えたと思えばいいじゃないですか。………だから、元気を出して下さい、リウイ様。」

一方リウイは疲労感が漂う様子で溜息を吐き、ペテレーネはリウイを元気づけていた。

「まさか、またアムドシアスと一緒に戦う時が来るなんてね~。変な気分。………プリネ、早速呼んだら?」

「ええ。…………アムドシアス!!」

ペルルに促されたプリネはアムドシアスを召喚した。

「改めて名乗ろう!我が名はアムドシアス!美を愛する魔神ぞ!この我が力を貸してやるのだ!光栄に思うがいい!」

「え~と………これからよろしくお願いしますね、アムドシアス。」



こうしてプリネは新たな使い魔――魔神アムドシアスを得た。その後リウイ達はレンストの王女を助けた後、カーリアン達と合流し、冥き途へと向かった………


 

 

外伝~冥界の守護者達との再会~

~アヴァタール地方・冥き途~



死した命が集まる場所――冥き途。そこにカーリアン達を入口で待たせて来たリウイ、ペテレーネ、プリネ、イリーナが大門に近付いて来た。

「あら、珍しい方がお見えになりましたね。」

「……久し……ぶり……」

リウイ達の姿を見つけ、門番の2人――リタとナベリウスは姿を現した。

「………お久しぶりです、リタさん、ナベリウスさん。」

「あら?もしかしてプリネちゃんですか?わあ………大きくなったね。」

「おおー…………」

プリネに話しかけられたリタはプリネを見て驚き、ナベリウスも驚いていた。

「フフ………実は2人にとって懐かしい人もいますよ。」

「懐かしい人?」

「だ………れ………?」

プリネの言葉にリタとナベリウスは首を傾げた。

「………ペルル!アムドシアス!」

そしてプリネはペルルとアムドシアスを召喚した!



「2人とも、久しぶり!元気にしていた?」

「ペルル!それにアムドシアスも!2人とも本当に久しぶりですね。まさかプリネちゃんの使い魔になっていたとは思いませんでした。」

2人を見たリタは懐かしそうな表情で答えた。

「アムドシアス………久し………ぶり………」

「久しいな、ナベリウスよ。お主は相変わらず、飽きもせず今の仕事を続けているのだな。」

「それが………私の………仕事………」

どこか呆れている様子のアムドシアスの言葉にナベリウスはいつもの調子で答えた。

「それより今日はどうしてここに?また、お妃様の行方を聞きに来たのですか?」

「…………いや………その必要はなくなった。」

リタの疑問に今まで黙っていたリウイが2人に話しかけて来た。

「………?………あの人………お妃様…………」

ナベリウスは一瞬首を傾げた後、興味深そうに周りの景色を見ているイリーナを指差して呟いた。

「え!?それ、本当!?ナベリウス!」

ナベリウスの呟きが聞こえたリタは驚いて尋ねた。

「本………当………同じ………魂………感じ………られる………」

「…………そうか。」

ナベリウスの答えを聞いたリウイはあまり驚いた様子はなく、頷いた。



「あの………ペテレーネ様。ここは一体……」

一方リウイ達の様子に気付いていないイリーナは周りの景色を見て、ペテレーネに尋ねた。

「………ここは”冥き途”。死した魂が集まりし場所よ。……本来は私達のような生者がここに来てはいけないのだけど……門番の2人とは縁があって、特別にこうやって来ても咎められないのよ。」

「死した魂が集まりし場所………ですか………」

ペテレーネの説明を聞いたイリーナはリタ達が守っている大門の先を見て、呟いた。

「………イリーナさん。いくら彼女達と縁があるとはいえ………さすがに既に死んだ方と会わせる事はできないわ。」

「………わかっています。でも、お父様やお母様もきっとここに来たんですね………」

ペテレーネの忠告に頷いたイリーナは大門を見続けていた。その一方イリーナの事を知ったリタが表情を輝かしてリウイに尋ねた。



「あの………お妃様が今ああして、生きているのですから、主やエクリアちゃんは……!」

「………”あいつ”が転生した以上、もう奴らに用はない。」

「そうですか………!やったね、ナベリウス!主を狙う敵も減ったし、エクリアちゃんももう狙われないよ!」

「おおー…………セリカの………敵………減った…………嬉しい…………」

リウイの話を聞いたリタとナベリウスは喜んでいた。、

「フフ………そうだ。これ、私が作ってみたんです。よければどうぞ。」

2人の様子を微笑んで見ていたプリネは2人にお菓子を差し出した。

「わあ………いい匂い………!プリネちゃんが作ったんだ………!ありがとう。」

「甘い………匂い……ありが……とう………」

差し出されたお菓子を受け取った2人はプリネにお礼を言った。そしてリタは表情を戻し、リウイ達にある事を尋ねた。

「あの………貴方達に最後に会ってしばらくしてから、以前より多くの魂が来るんです。それも戦争とかで死んだ人ばかりじゃなく、普通に寿命や事故で死んだ人の数――それも人間の方の数が前より多くなったんです。もし何か知っていれば、教えてもらえませんか?」

「………………」

リタに尋ねられたリウイは黙って考えていた。

「お父様。2人にはイリーナ様の事を教えて頂いたご恩もありますし……」

「………ああ。そちらにも知らせるべきだったな。」

プリネに言われたリウイは頷いた後、リタ達に異世界の存在を話した。



「………そうですか。異世界の方達の魂がこちらに流れて来ていたんですね………道理で今まで見た事ない服を着ていた訳です。」

「………見覚えのない……服装……みんな………きていた……………」

リタの言葉にナベリウスは頷いていた。

「…………タルちゃん……?………え…………わかった…………」

そしてナベリウスが突如首を傾げて呟いた後、リタを見た。

「ナベリウス?タルタロス様は何を言われたの?」

「リタ………しばらく………向こうに………行って………調べて………来て……ってタルちゃんが………」

「え!?………わかったわ。」

ナベリウスの話を聞いたリタは驚いた後、頷いた。そして真剣な表情でリウイ達を見た。

「あの……実はお願いがあるのですが。」

「願いだと?一体それはなんだ?」

リタの頼みにリウイは意外そうな表情をして尋ねた。

「ナベリウスによるとタルタロス様の命により、しばらく異世界を調べて来て欲しいそうです。ですから私を異世界に連れて行ってもらえませんか?」

「え…………!どうしましょう、お父様。」

リタの頼みに驚いたプリネはリウイを見た。見られたリウイはナベリウスをじっと見て尋ねた。

「………それが”冥王”の………冥界の意向か?」

「………うん………」

リウイに見られたナベリウスは頷いた。

「…………わかった。好きにしろ。」

「ありがとうございます。………しばらくお世話になるね、プリネちゃん。」

「はい。私でよければ、色々教えますね、リタさん。」

「アハハ……まさかリタが一緒について来るなんてね……その内、セリカやハイシェラと会う時が来るかもしれないね。」

「……セリカはいいとして、ハイシェラと再会するのは結構だ!」

ペルルの苦笑に頷いたアムドシアスはある人物の事を思い浮かべて、苦い顔をした。そしてリタはナベリウスから調査する内容等を聞いた後リウイ達の傍に行って、ナベリウスに言った。

「じゃあ、しばらく留守にするわね、ナベリウス。」

「行って………らっしゃい………」

こうしてリウイ達は新たな同行者を加えて、メンフィルへと帰還した………



一方その頃、3箇所に装置を置いたエステル達は博士に報告するために中央工房に向かった………






 

 

第23話

エステル達が博士のいる演算室に入ると博士や周りに研究者達が作業をしていた。



~中央工房5階・演算室~



「ラッセル博士。1番の接続、成功しました。」

「そのようじゃな。さっそく情報が入ってきた。うむうむ……今のところ安定しておるようじゃ。そのまま2番、3番の接続を開始。」

研究者の一人の言葉に頷いた博士は次の指示をした。

「了解しました。」

研究者は博士の指示に頷き、作業をまた始めた。そしてその時、エステル達が入って来た。

「やってるやってる。」

「まったく……。相変わらずケッタイな部屋だぜ。」

エステルは周りの様子を見て頷き、アガットは呆れていた。

「ふわ~………ティータちゃん、こんな凄い所で働いているんだ!」

「えへへ………まだ私はおじいちゃんみたいに頻繁にここでは働いていないよ。」

キラキラした表情のミントに見られたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。

「おお……。エステル君、来たか。」

そして作業の様子を見守っていた工房長――マードックがエステル達に気付いた。

「あ、マードック工房長。お久しぶり、生誕祭の時以来だったっけ。」

マードックに気付いたエステルは軽く会釈をした。

「ああ、そうなるかな。色々あったそうだが……元気そうで何よりだよ。」

「あはは……。ありがと、工房長さん。あたしたち、博士に頼まれて測定器を置いてきたんだけど……」

「ああ、そうらしいね。ちょうど、各地の測定器から情報が届き始めているらしいよ。」

「それじゃあ『カペル』の調整の方も終わったんですね?」

マードックの話を聞いたティータは尋ねた。



「ああ、博士が専用のプログラムを走らせたばかりさ。」

「2番、3番の接続にも成功です」

「おお、こちらも確認した。よしよし……どちらも安定しておる。これで1番から3番まで全ての情報が入ったな。」

報告を聞いていた博士はようやくエステル達の方に振り向いた。

「おお、やっと戻ってきたか。見ての通り、お前さんたちのおかげで無事に情報が届いたわい。本当にご苦労じゃったのう。」

「あはは、あたしたちは測定器の部品を運んだくらいよ。」

博士の言葉にエステルは苦笑しながら答えた。

「それに、この一件はこちらが頼んでいる事だからな。装置の起動まで全部やったあんたの孫をねぎらってやんな。」

「うんうん!ティータちゃん、ミント達にはさっぱりわからない機械を動かしていたんだから!」

「い、いいんですよ~。大したことはしてないし……」

アガットとミントの言葉に照れたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。

「いやいや。お前もよく頑張ったのう。トランスミッターの設定も完璧じゃ。ちゃんと情報が入ってきておるぞ。」

「えへへ、よかった。それじゃあ、準備はぜんぶ終わっちゃったの?わたし、手伝うことないかな?」

「いや、これで準備は完了じゃ。七耀脈の流れに乱れが起きたら『カペル』が自動的に解析を始めるようにプログラムしておる。あとは、どこかの場所で地震が起きるのを待つだけじゃよ。」

ティータに手伝いを尋ねられた博士だったがもう完了している事を説明し、現状は待つだけの事を説明した。



「そっか……。一応、一段落ついたわけね。でも、どこかで地震が起きるのをただ待つのも落ち着かないかも。」

「確かにそうですね。もしかしたら、ツァイスで再び地震が起きるかもしれませんし。」

「そうなった場合の対策は何か立てているのか?」

エステルの言葉に頷きクロ―ゼはある事を心配し、それを聞いたアガットは博士達に尋ねた。

「一応、転倒しそうな装置は固定するようにしておいたよ。ただ、それでも前回以上に大きな地震が起こったら厳しいな。設備のダメージは避けられないだろう。」

「その意味では、ここにある『カペル』なんかも同じじゃ。揺れで誤作動を起こしたら実験が失敗に終わる可能性が高い。みんな、女神達に祈っておいてくれ。」

「はあ……。ちょっと不安になってきたわ。」

「ふふ、最新技術でも神頼みは大切なんですね。」

博士の話を聞いたエステルは呆れて溜息を吐き、クロ―ゼは苦笑していた。

「えへへ、技術者のヒトって意外と信心深いんですよ。わたしも難しい作業の時にはよく女神さまにお祈りするし……」

「確かにそれはあるかもしれんね。私なんて、初の導力飛行船を博士が開発していた時なんか1日に3回は教会に行ってたよ。」

ティータの説明にマードックは頭を縦に振って同意した。

「なんじゃ、失礼な奴じゃのー。」

マードックの話を聞いた博士は心外そうな表情でマードックを見た。

「39回も実験が失敗したらそうしたくなるのも当然です。」

「あはは……。昔からそんな感じなんだ。」

「うん……そーみたい。」

エステルに尋ねられたティータは恥ずかしそうな表情で笑って答えた。

「しかし、そういう事ならどこかで時間を潰すとするか。一旦、ギルドに戻って報告しとくのもいいだろう。」

「おお、そうするがいい。何か動きがあったらすぐにでもギルドに連絡……」

アガットの提案に頷いた博士が言いかけたその時、周りの機械が動き出した!



「え……」

「ひょ、ひょっとして……」

唐突に動き出した機械を見てエステルとティータは驚いた。

「……ギルドに戻る必要はなくなったようじゃのう。」

博士は機械のデータを見て冷静に答えた。

「1番から3番までの全ての測定器に変化あり!地下の七耀脈の動きが活発になっているようです!」

「うむ、そのままモニターを続けるがいい。通信が遮断した時には報告。」

「了解しました!」

「3地点からの情報をリアルタイムに解析開始……。現時点での最大の地震波収束地点を検索……。座標【12、73、378.02】。ほほう……そうきたか。」

博士はカぺルを操作して、一人納得していた。

「ど、どうしたの?」

事情がわかっている博士にエステルは尋ねた。

「今現在、地震が発生している場所が分かった。レイストン要塞じゃ。」

「!!!」

「え!」

「なんだと!?」

そして地震が発生している場所を知ったエステルとミント、アガットは驚いた。



その頃、レイストン要塞では地震が起こっていた。





~同時刻・レイストン要塞・中庭~



「な、なんだ!?」

「敵の爆撃!?」

訓練をしていた兵士達だったが、突如地面が揺れ出した事にうろたえた。

「お、落ち着け!ただの地震だ!列を乱さずに待機!」

その様子を見た上官が慌てながら命令をした。



~レイストン要塞・司令部室~



「准将、これは……!」

その頃シードは驚いた表情でカシウスを見た。

「ふむ、読みが当たったか。念のため、発着場の作業を止めておいたのは正解だったな。」

「むむ、まさかお前の言った通りに揺れるとは……。カシウス……どんな魔法を使ったのだ?」

カシウスの推測が的中した事に唸ったモルガンはカシウスに尋ねた。

「なに……。相手の立場で考えただけです。3回の『予行演習』の後……次の標的はどこが効果的かとね。」



~中央工房・演算室~



「工房長!レイストン要塞から連絡です!つい今しがた、中規模の地震が発生したそうです!」

レイストン要塞の地震が収まったその頃、受付が慌てた様子で演算室に入って来て報告した。

「やはりか……」

「ひ、被害はどうなったの!?」

報告を聞いた博士は納得した表情で頷き、エステルは心配そうな表情で尋ねた。

「幸い、ケガ人は殆ど出なかったそうです。どうやら、前もって地震に備えていたようですね。」

「よ、よかったぁ~……」

「さすがはカシウス。危機管理は万全じゃったか。さてと……。こちらの解析も終了したか。」

報告を聞きカシウスに感心した博士はディスプレイに映った解析結果を確認していった。

「ふむ……なになに……。ほうほう……これは興味深いのう……」

「な、なにか判った?」

「まあ、そう焦るでない。これによると、地震の直前に七耀脈の流れに異常が生じておる。そして、歪められた流れが要塞の地下に集束することで局地的な地震が発生したらしい。かなり浅い地下で発生したから他には影響しなかったようじゃな。」

「それが地震の正体か……」

「そ、それってつまり……何者かが七耀脈を操って地震を起こしているってこと!?」

「えええええ~!?」

博士の説明を聞いたアガットは真剣な表情で頷き、エステルの言葉を聞いたミントは声を上げて驚いた。

「『地震兵器』……そう呼べるかもしれませんね。」

「うむ、まさしくそんな所じゃろう。」

クロ―ゼの仮説に博士は真剣な表情で頷いた。



「で、でも、おじいちゃん。七耀脈の流れを操ることなんてそんなことホントにできるの?」

「ううむ、最新の土木技術でもそんなことは不可能のはず……」

不安そうな表情で尋ねたティータの質問にマードックは唸りながら答えた。

「エステルさん……魔術はどうなんでしょうか?」

「へ!?ちょっと待って。今、聞くから。」

クロ―ゼの質問に驚いたエステルは大地と縁深いテトリに念話を送った。

(テトリ、魔術で地震を起こす事ってできる?)

(一応できますが……魔術を放てばどうしても魔力の痕跡が残ります。………それも広範囲の場所に地震なんて起こしたら、魔力の痕跡が非常に目立ちます。エステルさん達が今まで行った地震の起こった場所には一切、魔力の痕跡は感じられませんでした。

ですから今回の件とは無関係と思います。)

「(そっか、ありがとう!)……魔術で地震を起こす事も可能だそうだけど、今回の件とは無関係だそうよ。魔術を使ったら魔力の痕跡が残るし、地震なんて起こしたらかなり目立った魔力の痕跡が残るそうよ。」

「そうですか………」

エステルの説明を聞いたクロ―ゼは安堵の溜息を吐いた。

「フム。認めたくはないが……七曜脈を操るという信じられない事を可能にした者がいるらしいな。」

「上等じゃないの……!博士、他に何かわからない!?その『地震兵器』がどこに置かれているとか!?」

「あ………!」

「それだ………!」

「わあ……さすがママだね!」

「なるほど……。そいつは盲点じゃったな。」

憤っているエステルの質問に博士は頷いた後、カぺルを操作し始めた。



「3箇所における七耀脈の流れの歪みを解析……。逆算することで歪みの発生源を割り出すと……。出た……座標【165、88、-288.35】……」

「え……」

博士の呟きを聞いたティータは不安そうな表情で驚いて声を上げた。

「ティータ、わかるの?」

「う、うん……」

そしてティータは地図を取り出して説明を始めた。

「座標はツァイス中心のセルジュ単位だから……。ツァイス市から東に12セルジュ、北に378セルジュの地点がレイストン要塞とすれば……東に165セルジュ、南に228セルジュの地点は……」

「まさか、エルモ温泉!?」

「う、うん。たぶんこのあたりになるハズなんだけど……」

エステルの言葉に頷いたティータはエルモ村の部分に印をつけた。

「あ……」

「完全に盲点だったな……」

「エルモ村……。どうやら、あの温泉地の奥が本当の『震源地』みたいですね。」

「ミント達が入ったあの温泉の近くが……」

クロ―ゼの推測にミントは信じられない表情で呟いた。

「断言はできないがその可能性は高そうじゃ。どうする、お前さんたち?」

「決まってるわ!すぐに調べに行かなくちゃ。」

「ああ……。急ぐ必要がありそうだ。」

「そうか……。ならばこのままティータを連れて行くといい。この子の知識と技術はきっと調査に役立つはずじゃ。」

「あ……。うん、きっと役に立つから!」

博士に言われたティータは力強く頷いた。



「うーん……。危険かもしれないけど……。でも、あたしたちが守ってあげれば大丈夫かな。」

「ったく……仕方ねえな。おいチビスケ。絶対に無理すんじゃねえぞ。」

「はいっ!」

ティータを連れて行く事に少しだけ渋っていたエステルだが、気にせず、またアガットに言われたティータは元気良く頷いた。

「ティータちゃんはミント達が守るね!」

「えへへ…………ありがとう、ミントちゃん!」

ミントの心強い言葉にティータはお礼を言った。

「それでは私の方からエルモ村に連絡をしておこう。マオさんに協力を頼めば君たちの調査もはかどるだろう。」

「うん、そうしてくれると助かるわ。」

「ヘイゼル君。通信の用意をしてくれたまえ。」

「かしこまりました。」

マードックの頼みに受付嬢は頷いた。

「わしはここで『カペル』による解析を続ける。何か判ったら宿に連絡を入れよう。」

「うん、お願い。あたしたちも、何か判ったら中央工房に連絡させてもらうわ。」

「うむ、頼んだぞ。」

「よし……。それじゃあエルモ村に行くぞ!」



そしてエステル達はエルモ村に向かった………………


 

 

第24話

エルモ村に到着したエステル達は温泉の女将から温泉が煮えたぎっている状況を聞き、原因を調べるため、源泉がある洞窟の先へと進み、奥に到着した。



~温泉の源流・最奥~



「な、なにこれ……。地面いっぱいに広がって……」

「エネルギーの脈……。これって、ひょっとして……」

エステルは地面に広がる線を見て驚き、ティータは不安そうな表情になった。

「……クク……。ずいぶん遅かったじゃねえか。」

その時奥から男の声が聞こえて来た。

「あ……!」

エステル達が声がした方向を見ると、そこには黒いスーツを着用し、黒いサングラスをかけた男が地面に刺している”杭”のような物の傍にいた。

「サ、サングラスの男……!」

「あれは……『ゴスペル』付きの杭か……?」

「よう、小娘ども。わざわざご苦労だったな。せいぜい歓迎させてもらうぜ。」

「あんた……。『身喰らう蛇』の人間ね!」

不敵に笑っている男をエステルは睨んで尋ねた。

「クク……。執行者No,Ⅷ。『痩せ狼』ヴァルター。そんな風に呼ばれているぜ。」

「やはりか……。ツァイスでの一連の地震も全部てめぇの仕業ってわけだな。」

男――ヴァルターが名乗るとアガットはヴァルターを睨んだ。

「クク、あたり前のことをわざわざ確認してんじゃねぇよ。こいつは『結社』で開発された七耀脈に干渉するための『杭』でな。本来、真下にある七耀脈を活性化させるだけの装置なんだが……。《ゴスペル》を付けることで広範囲の七耀脈の流れを歪ませて局地的な地震を起こすことができた。ま、そんな実験をしていたってわけだ。」

「過去形ということはもう実験は終わったんですか?」

ヴァルターの話を聞いたクロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。



「まーな。本当は建物が崩れるくらいド派手なのをぶちかましたかったんだが……。そこまでの力は出せなかったな。」

尋ねられたヴァルターはつまらなさそうな表情で答えた。

「そ、そんな……。建物が崩れちゃったりしたら住んでる人が危ないですっ!」

「クク、だからいいんだよ。瓦礫に手足を潰されてブタのように泣き叫ぶヤツもいるだろうし……。脳味噌とハラワタぶちまけてくたばるヤツもいるだろう。よかったら嬢ちゃんもそんな目に遭ってみるかい?」

ティータの叫びを聞いたヴァルターは凶悪な笑みを浮かべてティータを見た。

「ひっ……」

ヴァルターに見られたティータは脅えた声を出した。

「ティータちゃん!」

そしてミントはティータを庇うかのようにティータの前に出て、ヴァルターの視界からティータを遮った。

「こ、こいつ……」

ヴァルターの性格を軽く知ったエステルはヴァルターを睨んだ。

(………よりにもよって一番厄介な性格をした相手がこんなにも早く出て来るとはな………)

(どうやらニル達が出る必要があるかもしれないわね………)

エステルの身体の中から事の成り行きを見守っていたサエラブとニルはヴァルターを睨んでいた。

「クク、そう恐い顔するなって。俺はな、潤いのある人生には適度な刺激(スパイス)が必要だと思うのさ。いわゆる、手に汗握るスリルとサスペンスってやつだ。いつ自分が死ぬとも分からない……そんなギリギリの所に自分を置く。どうだ……ゾクゾクしてこねぇか。」

「ケッ……マゾ野郎が。だが、これでようやく判ったぜ。てめえ―――俺たちを誘き寄せやがったな?」

ヴァルターの問いに呆れたアガットはヴァルターを睨んで尋ねた。

「え……!?」

「思わせぶりな各地の目撃情報……。要塞で地震があった直後にエルモの源泉が沸騰し始めたこと……。全て露骨な誘導情報だったんですね。」

アガットの問いにエステルは驚き、クロ―ゼは今までの事を思い出して説明した。



「そんな……」

「ミント達を呼ぶためだけにこんな事をするなんて………!」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルは信じられない表情をし、ミントはヴァルターを睨んだ。

「ま、半分正解ってとこだな。それじゃあ早速、味見をさせてもらうぜ……。てめぇらという刺激(スパイス)をな♪」

そしてヴァルターは指を鳴らした!すると地面から巨大なミミズが何匹も出て来た!

「やああん!?」

「ふええ!?大きなミミズさん!?」

「な、なにコイツら!?」

巨大なミミズの登場にティータは悲鳴を上げ、ミントとエステルは驚いた。

「このあたりに棲息しているミミズさ。七耀脈が活性化したことでここまで馬鹿でかくなりやがった。ま、せいぜい遊んでやってくれや。」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよね!」

「ほっとけ!今はこいつらの相手が先だ!」

「……来ます!」

そしてエステル達は巨大なミミズとの戦闘を開始した!巨大なミミズはダメージを与えると地震を起こして、全員にダメージを与えて来たので手強かったが、エステル達は協力して何とか全て仕留めた。



「何とか追い払った……」

「こ、恐かったぁ~……」

「それも強かったよ~………」

「ふう……。手強い相手でしたね。」

巨大なミミズ達を倒し終えたエステル達は安堵の溜息を吐いた。

「んー、こいつはちょいと見込み違いだったか……?もうちょいマシかと思ったが。」

「ケッ、見くびるんじゃねえぜ。あの程度の魔獣なら今まで何度も倒してるっての。」

ヴァルターの呟きを聞いたアガットは鼻を鳴らして答えた。

「………………………………。……ダメだ、()えたわ。まさかここまで甘ちゃんだったとはな」

「なに……!?」

「ボケが……見込み違いはてめぇらだ!」

「えっ……!?」

そしてヴァルターは一瞬でエステル達の前に移動して強烈な一撃を放った!

「くうっ!」

「きゃあっ!」

「「あうっ!」」

「くっ!」

ヴァルターの強力な一撃にエステル達は蹲った!



「……クソが。ったく、レーヴェのやつ適当なことを抜かしやがって……。な~にが『剣聖』以外にも手応えのありそうな獲物がいるだ。ただの青臭ぇガキどもじゃねえか。」

エステル達に強力な一撃を放ったヴァルタ―は舌打ちをした後、エステル達に背を向けて呟いていた。

「クソ……馬鹿な……」

ヴァルターの強さにアガットは信じられない思いでいた。

「フン、こうなったら仕方ねぇ。教授と直談判して漆黒のコゾーを狩るとするか。そうすりゃ、少しはゾクゾクさせてくれるだろ。」

「!!!ま……待ちなさいよっ!」

ヴァルターの独り言を聞いたエステルは痛む身体を無視して立ち上がって、棒をヴァルターに向けて睨んだ!

「あん?」

「このグラサン男……いい加減にしなさいよ……。漆黒のコゾーっていうのがもしヨシュアのことだったら……。狩らせるなんて……絶対にさせないんだから……」

「エステルお姉ちゃん……」

「ママ…………」

「俺の一撃を食らって立てたのは誉めてもいいが……。やめとけや。完全にヒザが震えてるぞ。」

ヴァルターは弱冠感心した様子でエステルを見た後忠告した。

「だからどうしたってのよ……。あたしは絶対に……ヨシュアを見つけるんだから……。あんたたちなんかに邪魔なんてさせないんだからっ!」

「エステルさん……」

「……言っておくが、俺は女子供の区別はしねぇ。武術家なら、敵に得物を向ける時の覚悟はできてるな?」

そしてヴァルターはエステルに近付いて拳を構えた。

「当然……!やれるもんならやってみなさいよ!」

「クク、上等だ……。その度胸に免じて一撃で終わらせてやるよ。」

「………………………………」

不敵に笑うヴァルターを見てもエステルは怯まず、ヴァルターを睨んでいた。

「やだやだ!エステルお姉ちゃん!」

「エステル、逃げろッ!!」

「ママ、逃げてっ!」

「―――死ね。」

ヴァルターがエステルに攻撃しようとしたその時、エステルの身体の中から4つの光の玉が出て、それぞれから攻撃が来た!

(光よ、集え!光霞!!)

(燃えよっ!)

「ヤアッ!」

「ハッ!」

光の爆発や炎の玉、矢や連接剣の刃がヴァルターを襲った!

「!!」

攻撃に気付いたヴァルターは4種類の攻撃を回避して、一端後退した!



「み、みんな………」

エステルは自分を守るように立ちはだかっているパズモ達を驚いた表情で見ていた。

(………ここからは我等の戦いだ。お前達は少し休んでいろ。)

(絶対にあなた達は私達が守るわ!)

「怖いけど………みなさんを守るために我が弓と魔術を持って、貴方を退けます!」

「これ以上貴方の好きにはさせませんわよ!」

サエラブ達はヴァルターを睨んで、戦いの構えをした!

「クッ、ククク………ハ―ハッハッハ!!」

一方ヴァルターは大声で笑い出した。

「な、何がおかしいのですか!」

テトリは唐突に笑いだしたヴァルターを見ておどおどとした様子で質問した。

「ククク………テメエらとも殺りあいたかったんだ。いつ出て来るか待ってたんだぜ!」

テトリの質問にヴァルターは楽しそうな表情で答えた。

「わ、私達も狙いだったんですか!?」

「………典型的な戦いの狂気に呑みこまれた愚かな人間ね……」

ヴァルターの答えを聞いたテトリは驚き、ニルは蔑むような目でヴァルターを見ていた。

(フン。強烈な負を抱えた人間のようだが………その程度、”悪”をも喰らった我の敵ではないわ!)

(エステルを…………私の大好きな人を………サティアのようにはさせない!)

「クク………行くぜ!」

そしてパズモ達はヴァルターと戦い始めた………!


 

 

第25話

パズモ達とヴァルターの戦い。『執行者』であるヴァルターに苦戦すると思われたパズモ達だったが、対するパズモ達は一人一人過去の仲間達と共に激しい戦いを生き抜いた歴戦の戦士達。実力もあるパズモ達は連携をして逆にヴァルターを苦しめた。



~温泉の源流・最奥~



(光よ、集え!光霞!!)

「甘いんだよっ!」

パズモの放った魔術をヴァルターは回避し、そしてパズモに狙いをつけたが

「行きます!二連射撃!!」

「チッ!鬱陶しい!」

テトリの攻撃に気付いて、テトリが放つ矢を”気”の弾を放って撃ち落とし、そしてテトリにも”気”の弾を放った!

「わわっ………!」

攻撃に気付いたテトリは慌てて回避した。

「雑魚は消えな!」

(!!)

そしてヴァルターがパズモに攻撃しようとしたその時

「させませんわ!」

ニルがパズモの目の前に立ちはだかって、結界を貼って防御した!

「何!?」

攻撃を防御されたヴァルターは驚いた。



(燃えよっ!)

そこにサエラブが炎の玉をヴァルターに向かって連続で吐いた!

「チッ!」

サエラブの攻撃に気付いたヴァルターは舌打ちをして回避した。

(戦意よ、失え!消沈!!)

そしてパズモは魔術を放ってヴァルターの身体能力を下げた。

「!?身体が………!何をしやがった………!」

パズモの魔術にかかったヴァルターは身体に違和感を感じた後パズモを睨んだ。

「ヤアッ!!」

そこにテトリが矢をヴァルターに放った!

「ハッ!そんな矢に当たるとでも……」

テトリの攻撃に鼻をならしたヴァルターは回避しようとしたが

「!?グアッ!?」

いつもの動きができず、回避ができず肩に矢が刺さり、呻いた。

「……のヤロウ!俺の動きをトロくしやがったな!舐めた真似を!」

いつもの動きができない原因を作ったのがパズモの魔術と気付いたヴァルターは肩に刺さった矢を抜いて、握りつぶしてパズモを睨んだ。そしてそこにサエラブがヴァルターに向かって突進して来た!

「ハッ!身体の動きが遅くなったからって、獣風情が正面で俺に勝てると思っているのか!」

サエラブの行動に不敵に笑ったヴァルターは拳を構えて迎撃の構えをしたが

「フフ………前ばかりに気を取られていていいのかしら?」

なんといつの間にか不敵な笑みを浮かべたニルがヴァルターの背後で雷を籠らせた連接剣を構えていた!

「なっ……!?」

ニルの存在に気付いたヴァルターは驚いた!

(フン!)

「電撃剣!!」

そしてサエラブは爪で斬り上げ、ニルは電撃が籠った連接剣で斬り下してヴァルターを同時に攻撃した!

「グアアアアアアッ!?」

サエラブには腹の一部を斬り裂かれ、ニルの攻撃で背中を斬られたヴァルターは斬られた部分から大量の血を出して、身体に伝わる痛みと電撃を直に喰らった痛みの悲鳴を上げた!そして2人は一端ヴァルターから離れ、2人がヴァルターから離れるとパズモとテトリの魔術が発動した!

(光よ、我が仇名す者達に裁きを!槌の光霞!!)

「大地の怒りを!地響き!!」

「ガアッ!?」

パズモとテトリの魔術攻撃をまともに喰らったヴァルターはさらに呻いた。



「わあ………凄い!ニルさん達、『執行者』を追い詰めているよ!」

「パズモ達ってあんなに強かったんだ………」

一方戦いの様子を見ていたミントははしゃぎ、エステルはパズモ達の強さに驚いていた。

「す、凄いです………!」

「フフ………味方でいたら、本当に心強いですね。」

「………実力もそうだが、連携や動きがハンパねえ………悔しいが下手に手を貸すより、奴らに任せた方がいいかもしれねえな………」

パズモ達の活躍をティータやクロ―ゼは明るい表情で見て、アガットは苦い表情をしてパズモ達の戦いを見ていた。



(戦意の祝福!!)

(フン!)

「ゴフッ!?」

パズモの援護魔術を受けたサエラブは普段よりさらに速い動きになった事で威力も倍増した炎を纏って突進するサエラブの技――炎狐強襲を回避できず、腹に受けたヴァルターは吹っ飛んだ!吹っ飛ばされたヴァルターは空中で受け身をとって、拳を構えた。

「光よ、降り注げ!爆裂光弾!!」

「行きます!制圧射撃!!」

「グアアアアッ!?」

しかしそこに、さらにたたみかけるように放ったニルの放った魔術とテトリの弓技が雨のように降り注ぎ、命中したヴァルターはさらに呻いた!

「ククククク……………これだよ!このいつ死ぬかわからないゾクゾクした感じを感じたかったんだ!」

追い詰められているかと思われるヴァルターだったが、逆に凶悪な笑みを浮かべていた。

「ぴ、ぴえええええ~……!な、何なんですか、あの人!傷を負っているのに喜んでいるとか、信じられません!」

テトリはヴァルターの様子を見て怖がった。

(命を天秤にかけて、戦う事だけを楽しみに生きている狂戦士………一番、厄介な相手ね………)

パズモは厳しい表情でヴァルターを見ていた。

(…………ニル。気は進まないが………最悪、殺す事も考えておくぞ。この手の輩は退き際を考えない上、止めを刺すまで油断できん。)

(………エステルが見ている目の前で殺しはしたくなかったけど………そうも言ってられないわね…………)

サエラブの念話にニルは気が進まない様子で頷いた。

「やれやれ………もう少し早く来るべきだったかな?」

その時エステル達の方から男性の声が聞こえて来た。

「え………」

聞き覚えのある声を聞いたエステルは驚いた。

「雷神掌!!」

そして大きな気の弾がヴァルターに襲いかかった!

「ぬッ!?」

気の弾に気付いたヴァルターは回避した。

「はああああっ!」

そしてそこに大柄な東方風の男性――ジンがヴァルターに向かって連続で蹴りを放った!ジンの攻撃をヴァルターは驚きながらも防御した。



「………………………………」

攻撃を終えたジンは構えを解かず、ヴァルターを睨んでいた。

「フッ……。さすがはエステル君のナイト達だね♪」

さらにオリビエも現れた。

「オリビエ!それに……ジンさん!?」

「よう、エステル。ずいぶん久しぶりだな。もっと早く来るつもりだったが向こうの仕事が長引いてな……。少し遅かったみたいだが、間に合ったようだな。」

「ったく……少し、遅いんだよ。」

アガットは心強い援軍を見て苦笑していた。

「ククク……。レーヴェの報告にあったカルバードのA級遊撃士……。ジン、てめぇのことだったか。」

一方ジンの登場に驚いたヴァルターだったが、不敵に笑ってジンを見た。

「まあ、そういうことだ。まさか、こんな場所であんたと再会するとはな……。いつから『結社』なんぞに足を突っ込んでいやがるんだ?」

「クク、あの後すぐにスカウトされちまってな。なかなか刺激的な毎日を送らせてもらってるぜ」

「馬鹿なことを……。あんた、自分がいったい何をしているのか判っているのか!?そんなんじゃ師父(せんせい)はいつまで経っても浮かばれ……」

ヴァルターの答えを聞いたジンが何かを言いかけようとしたその時、ヴァルターは一瞬で移動してジンに攻撃した!ヴァルターの攻撃に気付いたジンはガードして致命傷を避けた。

(なっ…………魔術で身体能力を下げたのにまだあんな動きができたの!?)

パズモはその様子を見て驚いていた。

「おいおい、綺麗事を抜かすなよ。てめぇは知ってるはずだ。俺がどんな道を選んだのかをな。ふざけた事を抜かすと……殺すぞ?」

「………………………………。だったら……あんたは知っているのか?ツァイスの街にキリカがいるのを」

「なに……?」

ジンの話を聞いたヴァルターは驚いた後、目つきを変えた。



「2年くらい前からギルドの受付をしているそうだ。どうやらそれまでは大陸各地をまわっていたらしいな」

「……チッ………。まさかリベールくんだりに流れていたとはな……。あの馬鹿、何を考えてやがる」

「さあな、俺にも分からんよ。だが、あいつは間違いなくあんたと会いたがっているはずだ。『結社』のことはともかく一度くらい顔を見せてやったら……」

ジンが言いかけたその時、ヴァルターはジンに蹴りを入れた!

「グッ……」

「ふざけた事を抜かすと殺すと言っただろうが……。まあいい……。キリカのことはともかくてめぇと会えた事やテメエらと殺りあえたのは幸運だった。今回の計画……とことん楽しめそうだぜ。」

そしてヴァルターは杭から『ゴスペル』を抜き取った。

「おい、ヴァルター!」

「クク、次会う時までせいぜい功夫(クンフー)を練っておけ。じゃあな。」

「ヴァルター!!」

ヴァルターを追いかけようとしたジンだったが足を止めた。そして敵が去った事を確認したパズモ達はエステルの身体の中に戻った。

「………………………………」

「えっと……。助けてくれてありがと。でも、どうしてジンさんたちがここに?」

黙ってヴァルターが去った方向を見続けているジンにエステルは遠慮気味に尋ねた。



「ツァイス支部に顔を出したらいきなりキリカに急かされたんだ。お前さんたちを助太刀しにエルモに向かえってな。」

「フッ、それでボクも付き合うことにしたのだよ。」

「そうだったんだ……。ありがと。パズモ達が善戦してたから必要なかったかもしれないけど、本当に助かったわ。」

事情をジンとオリビエから聞いたエステルは苦笑しながらお礼を言った。

「本当にあの時は私も焦りましたよ。」

「そうだよ~!ミント、とっても心配したんだからね!」

クロ―ゼの言葉にミントは頷いた。

「それはともかく……。あんた、あの野郎とどういう知り合いなんだ?」

「……ま、昔馴染みさ。詳しい話はここを出て宿の風呂に入ってからにしよう。龍脈の乱れは収まったからじきに温泉も元に戻るだろうぜ。」



そしてエステル達はエルモ温泉で身体を温めてからツァイス支部に戻り、エステル達がギルドに戻るとキリカは博士とマードックもギルドに呼び、そしてエステル達はエルモ村で起こった件等を報告をした。

~遊撃士協会・ツァイス支部~



「そう……。やはりサングラスの男はヴァルターだったのね。」

エステル達の報告を聞いたキリカは特に驚いた様子もなく頷いた。

「ああ―――っておい?やはりってことは予想していたってことか?」

キリカの様子にジンは驚いて尋ねた。

「服装と風体を聞いてひょっとしたらとは思っていたわ。それよりも迂闊だったわね。どうして彼にそのまま『ゴスペル』を持ち帰らせたの?それも話によるとヴァルターはエステルの使い魔達との戦闘でかなり弱っていたみたいね?『結社』の幹部を捕縛できる上、『ゴスペル』も確保できる絶好の機会をどうして見逃したのかしら?彼らと協力すれば、ヴァルターを戦闘不能にまで持ちこめた筈よ。」

「仕方ねえだろ……。そこまで大層なモンとは思わなかったんだ。それにあの場はエステル達の安全を優先すべきだと思ったんだしよ。第一、そのあたりの事情をロクに説明もしないでエルモに急がせたのはお前だろうが。」

微妙にキリカに責められたジンは言い訳をした。

「ええ、私の判断ミスね。そのくらい説明しなくても察してくれると思ったのだけど。」

「グッ……可愛くねぇやつだな。」

キリカの答えを聞いたジンは呻いた。

「ともかく、これで地震の調査は終了ね。調査に対する報酬を渡しておくわ。」

そしてキリカはエステル達にそれぞれ報酬を渡し、さらにミントには推薦状を渡した。

「わーい!2枚目の推薦状だ!」

「おめでとう、ミントちゃん!」

推薦状をもらったミントははしゃぎ、ティータは祝福した。

「ありがと、キリカさん。でも結局、あのグラサン男、2人のどういう知り合いなの?」

「そうだな。何て説明すりゃあいいか……」

「端的に言うと、かつての同門の弟子同士ね。私とジンとヴァルター……。彼が一番年上でいわゆる兄弟子だったわ。」

エステルの疑問に言いにくそうにしているジンと違い、キリカはハッキリと答えた。



「同門の兄弟子……武術の先輩ってことか。」

キリカの説明を聞いたアガットは意外そうな表情をした。

「まあ、正確に言えばキリカは弟子じゃないんだがな。リュウガ師父(せんせい)の……」

ジンが説明を続けたその時キリカが割り込んだ。

「私のことはどうでもいいわ。とにかく、その男は『泰斗流』の門下だった。そして6年前、道場を出奔して『身喰らう蛇』にスカウトされた。簡潔にまとめるとこうなるわね。」

「キリカ……」

「それだけ聞けば十分だ。しかし、アンタらと同じ『泰斗流』の使い手か……。化物じみた強さも肯けるぜ。」

アガットはヴァルターの強さを思い出し、悔しそうな表情をした。

「道場にいた時よりもさらに凄みを増していやがった。達人クラスと言ってもいいだろう。……ただ、エステルの使い魔達にあそこまでやられていたのを見た時は正直驚いたが。」

アガットの言葉に頷いたジンはエステルを見た。

「えへへ…………みんな、昔に凄い戦いを生き抜いて来たっていうし、『執行者』なんて相手にならないわ!」

「なんで、そこでお前が得意げになるんだよ…………あいつらの主として、自分があいつらより実力がない事に情けないとは思わないのかよ………」

得意げになっているエステルに呆れたアガットは指摘した。

「うっさいわね!それぐらい、わかっているわよ!」

アガットの指摘にエステルは頬を膨らませて答えた。

「何はともあれ危険な男であるのは確かね。ただこれ以上、例の局地地震が起きる可能性は少ないでしょう。警戒は緩めてもいいかもしれない。」

「ああ、そのようだね。市民と職員に伝えておこう。」

キリカの話を聞いたマードックは頷いた。



「しかし、またしても『ゴスペル』が使われておったか。しかも七耀脈を活性化させる装置と合わせて使っていたとは……」

話が終わり、博士は真剣な表情で考え込んだ。

「学園地下の投影装置にも使われていたことを考えると……。導力器の機能を飛躍的に高めるブラックボックスと言えそうですね。」

「うむ……。まさにその通りですわい。空間投影装置にしても七耀脈の活性化装置にしても決して実現不可能な技術ではない。じゃが、『ゴスペル』による現象は現在の導力技術の常識を超えておる。わしはもちろん、他の名だたる技術工房でも造れるとは思えんのです。」

「そうですな……。共和国のヴェルヌ社や帝国のラインフォルト社……。さらに戦術オーブメントを開発したエプスタイン財団でも無理でしょう。」

クロ―ゼの言葉に博士やマードックは頷いた。

「それだけ結社の技術力がハンパじゃないってことね……」

「うむ、とんでもない天才がいる可能性が高そうじゃのう。むふふ……これは負けてはおれんわい!」

エステルの呟きに頷いた博士は対抗心を燃やした。

「お、おじいちゃあん……」

「はあ、仕方ありませんね……。新型エンジンもようやく完成しましたし……中央工房も『ゴスペル』の解析に最優先で協力させてもらいますよ。」

「わはは、当然じゃ。」

「確かに、『ゴスペル』の正体が判明したら助かっちゃうかも……。今後、どういった形で使われるか判ったもんじゃないし。」

マードックの申し出にエステルは今後の事を考えて頷いた。

「それにあの連中、『実験』とか抜かしていやがったな。2度あることは3度ありそうだぜ。」

「『ゴスペル』の分析は引き続き博士たちにお願いするとして……。貴方たちは、そろそろ次の場所に移った方がいいかもしれないわね。」

アガットの意見に頷いたキリカはエステル達を見た。

「うん、そうね。犯人は捕まえられなかったけど、地震の一件は片づいたみたいだし。次に行くとしたらどこが良さそう?」

「ちょうど王都支部から応援要請が入ったばかりよ。何でも王国軍から正式な依頼が来たらしいわ。」

「王国軍からって……父さんからの依頼ってこと?」

「え!お祖父ちゃんから!?」

キリカの説明を聞いたエステルとミントは驚いた。



「詳しいことは判らないわ。ただ、貴方たちをわざわざ指名してくるくらいだから結社関係である可能性は高そうね。」

「確かに……」

「ヘッ……。行ってみるしかなさそうだな。」

キリカの話を聞いたエステルは頷き、アガットも頷いた。

「それじゃあ決まりだな。ツァイスでの用事を済ませたら王都行きの定期船に乗るとしよう。」

「オッケー……って。ひょっとしてジンさんも付き合ってくれるの?」

「おいおい、どうして俺がわざわざ戻ってきたと思ってる。ヴァルターの件もあるしヨシュアだって見つけるんだろ?とことん付き合わせてもらうぜ。」

「ジンさん……ありがとう。」

「正直、あんたが協力してくれると助かるぜ。あのグラサン野郎には痛い目に遭わされたからな……。よかったら稽古をつけてくれ。」

「はは、お前さんにしちゃあずいぶんと謙虚な発言だな。あの威勢の良さはどうしたんだ?」

「ふん、テメェの実力が判らないほどガキじゃねえさ。」

ジンの指摘にアガットは苦い表情になって答えた後、ある事に気付きエステルに言った。

「それとエステル………時間があったらでいいんだが、お前の使い魔とやらと一度戦わせてくれないか?」

「はあ!?」

アガットの話を聞いたエステルは声を上げて驚いた。

「4人で戦ったとはいえ一人一人、あのグラサン野郎と対等以上にやりあったんだ。奴らと戦う事で何かの足しになるかもしれないしな。」

「う、う~ん………(みんな、どうかな?)」

アガットの話を聞いたエステルは悩んだ後、念話を送った、

(私は援護専門だから、遠慮しとくわ。)

(私は断固!遠慮します!元々私は、戦いはあまり好きじゃないんです~!)

(フッ………この我の動きに少しでもついて来れるなら相手をしてやろう。)

(まあ、ここ最近は対人戦はあまりやっていなかったから、これを機に模擬戦をするのも悪くないわね。)

エステルの念話にパズモやテトリは遠慮することを伝え、サエラブとニルはやる気がある事をエステルに伝えた。

「えっと………パズモとテトリは嫌って言っているけど、サエラブとニルは別にいいって言っているわ。」

「サエラブとニルというと………でかい狐と天使か。へっ、どっちも前衛の戦いをしていたから俺の相手にはちょうどいいぜ。」

エステルの説明を聞いたアガットは不敵な笑みを浮かべた。



「お姉ちゃん、ミントちゃん、アガットさん。わたしも……付いて行っちゃダメですか?」

「「えっ……!?」」

「な、なにぃ!?」

突如言い出したティータの申し出にエステルとミント、アガットは驚いた。

「えっと、これからも『ゴスペル』とか変な装置が使われることがあると思うんです。わたし、そんな時だったら少しは役に立てると思うから……。お願い、連れて行ってください!」

「で、でも……」

「ミント達、危険な人達と戦う時もあるんだよ?」

「………………………………。爺さんの意見はどうだ?」

一生懸命に話すティータを見てエステルとミントは心配そうな表情をし、アガットは少しの間考えた後博士に話をふった。

「ふむ、祖父としては渋い顔をせざるを得ないが……。こう見えてティータは頑固じゃし、なるべく孫の希望は叶えてやりたい。じゃから、わしはあえて反対せんよ。」

「おじいちゃん……」

「結社とやらが、想像以上の技術力を持っているのは確実じゃ。その意味では、今後の調査にティータは絶対に役立つはずじゃ。お買い得であるのは間違いないぞ。」

「そんな、新製品の売り込みじゃないんですから。」

博士の言い方にマードックは呆れた。

「うー、確かにティータが手伝ってくれると助かるけど……。でも、またあの男みたいな危ないヤツが現れたとしたら……」

「ミントもティータちゃんと一緒なのは賛成だけど………でも、ティータちゃんを危ない目に遭わせたくないし…………」

「………………………………。いや、いいだろう。あんたの孫娘、預からせてもらうぜ。」

エステルとミントが悩んでいる中、意外にもアガットがティータの申し出を受け取った。



「ふえっ!?」

「ほう……」

「ど、どうしちゃったの?てっきりアンタが一番反対するかと思ったけど。」

「う、うん。ミントもそう思ったよ。」

アガットが真っ先に賛成した事にティータは驚き、博士は意外そうな表情をし、エステルやミントは信じられない様子で尋ねた。

「地震の一件を見ても『結社』が民間人の安全を考えているとはとても思えねえ。その意味じゃ、ここにいた所で確実に安全とは限らないだろう。だったら、本人の希望通りせいぜい役に立ってもらうさ。」

「アガットさん……」

「なるほど……。そういう考え方もあるな。」

「フフ、それ以上に目の届くところで守りたい。そんな思惑も感じるねぇ。」

アガットの説明を聞いたティータは嬉しそうな表情をし、博士は納得し、オリビエは意味ありげな目線でアガットを見た。

「なっ……」

「あ、図星って顔してる。」

「あのあの……。それ、ホントですか?」

オリビエに見られて慌てているアガットを見てエステルは口元に笑みを浮かべ、ティータは嬉しそうな表情で尋ねた。

「真に受けるなっつーの。言っておくが、自分の身は自分で守るのが基本だからな。機械いじりばっかりしてボケッとしてんじゃねえぞ。」

「エヘヘ……気を付けます。」

「はは……。話がまとまって何よりだ。」

「ふふっ、ますます賑やかになりそうですね。」

「えへへ………まさかティータちゃんも一緒になるとは思わなかったな………後はここにツーヤちゃんがいれば、最高なんだけどな………」

ティータが同行する事にジンやクロ―ゼは快く迎え、ミントは嬉しそうな表情で今はいない親友を思っていた。



「ティータや。気を付けて行ってくるんじゃぞ。お前ががんばっている間、わしも必ずや『ゴスペル』の謎を解き明かして見せるからな!」

「うん……楽しみにしてるね!」

博士の言葉を聞き、ティータは嬉しそうな表情で頷いた。

「博士のことは心配しないでくれ。事故を起こしたりしないよう私が責任をもって監視するからね」

「えへへ……。よろしくお願いしますっ!」

「まったく……どこまでも失礼なヤツじゃの。」

「ふふ……。王都のエルナンさんには私の方から連絡しておくわ。女神達の加護を。気を付けて行ってきなさい。」



こうして地震の事件を終わらせたエステル達は新たな仲間を加えてツァイスを去り、王都――グランセルに向かった……………






 

 

3章~狂ったお茶会~ 外伝~始まりし天使のお茶会~

~レイストン要塞~



エステル達がグランセルへと向かったその頃、中央工房から派遣されたアルセイユの整備隊がレイストン要塞に到着した。

「おお、アルセイユは先に到着してたようだな。か~、いつ見てもゾクゾクする機体だねぇ。」

整備長――グスタフは『白き翼』と評される最高速度を誇る高速巡洋艦『アルセイユ』を見て嬉しそうな表情で呟いていた。

「本当に……。ホレボレしちゃいますよね。あんな船を毎日整備できたら整備士冥利に尽きるんですけど。」

「ヘッ、そりゃあ俺の台詞だよ。」

「やあ、グスタフ整備長。忙しい所をよく来てくれたね。」

作業員と会話をしているグスタフの所にクーデター事件後中佐に昇格したシードが近付いて来た。

「よお、シード中佐。またあんたの出迎えかい。偉くなって、ここの守備隊長はお役御免になったんじゃねぇのか?」

「はは、そうなんだけどね。実はこの後、部下と共に警備艇で出発する予定でね。準備が済むまでヒマなので出迎えさせてもらったのさ。」

「はは、ご苦労さんなこった。そういや、こっちの方でも地震があったそうじゃねぇか?まさか、アルセイユが壊れたりしてねぇだろうな?」

「いや、アルセイユが到着したのは地震の起こった後のことでね。地震自体も、万全の備えだったからほとんど被害は出なかったんだ。ここの施設もそのまま使えるはずだ。」

「そりゃあ助かるぜ。さっそく今からでも入っちまいたいところだが……。親衛隊の連中はどこにいるんだ?」

「ああ……案内しよう。今行けば、面白いものをお見せできると思うよ」

「はあ?」

シードの言葉にグスタフは首を傾げた。そしてグスタフはシードに連れられて中庭に向かった。



~レイストン要塞・中庭~



シード達が到着すると、王国軍と親衛隊達に見守られ、モルガンを中心にカシウスと大尉に昇格したユリアが武器を持って向かい合っていた。

「両者、構え!」

モルガンの号令にカシウスは棒を、ユリアはレイピアを構えた!

「始めいっ!」

そしてモルガンの掛け声で模擬戦が始まった!

「―――やああああっ!」

先にユリアがカシウスに攻撃を仕掛けた!しかしカシウスは余裕の表情で防御や回避を行い、さらにカウンター攻撃をユリアに命中させた!

「くっ……」

「どうした!?動きが直線的すぎるぞ!細剣だからこそ可能な攻めの流れが作れるはずだ!教えたことを思い出せ!」

「ハッ……。……はいッ!」

カシウスの指摘に頷いたユリアは先ほどの動きと違い、カシウスを囲むように動き、背後から攻めたてた!

「それでいい……。ではこちらからも行くぞ!」

そしてカシウスは縦横無尽に動きで回避や攻撃を行い、ユリアに蹴りを入れた!

「くうっ……」

「守りも基本は同じだ!相手の動きを取り込みつつ、攻守の流れをイメージしろ!」

「はいっ!」

そして2人は激しい攻防をし、最終的にはカシウスがユリアに有効打を入れ、カシウスの攻撃にユリアは跪いた。



「うむ、そこまでだ。」

ユリアの様子を見てモルガンは模擬戦の終了を言った。すると中庭は兵士や親衛隊達による拍手が巻き起こった。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

「ふふ、さすがだな。昔、お前に教えたのはほんの基礎だけだったが……。よくぞ独力でここまで鍛えた。」

息を切らせているユリアと違い、カシウスは息を切らせた様子もなくユリアを称賛した。

「い……いえ……。まだまだ未熟です。」

「なかなか良い仕合だったぞ。」

「将軍、ですが……」

「正直、おぬしがここまでやるとは思いもしなかった。相当な使い手でもカシウス相手では数合ほどで剣を弾かれてしまっただろう。若手最強と言われるのも肯ける。」

「きょ、恐縮です……。ですが、滅多にない機会……。できれば叩きのめされるまでお付き合い願えないでしょうか?」

モルガンの賛辞を受け取ったユリアはモルガンに稽古を頼んだ。

「フハハハハ!なかなか頼もしいな。さて、どうするカシウス?」

「ふふ、付き合ってやりたいのは山々ですが……。どうやら客人のようですな。」

ユリアの頼みを聞いて大笑いしたモルガンに尋ねられたカシウスは苦笑した後、シード達を見た。



「は~、こりゃあ凄いモンを見ちまったなァ。」

グスタフは呆けた様子で呟いていた。

「2人ともお疲れさまでした。シュバルツ大尉。本当に見事だったよ」

「シード中佐……。それにそちらの方は……」

「中央工房から派遣されたグスタフっていう者だ。よろしく頼むぜ、隊長さん。」

「こ、これは失礼した。王室親衛隊、中隊長。ユリア・シュバルツ大尉です。こちらこそよろしくお願いします。」

グスタフが名乗るとユリアも名乗り、敬礼をした。

「ふむ、どうやらこれでお開きのようだな。」

「みんな、余興はおしまいだ。それぞれの持ち場に戻ってくれ。」

「イエス・サー!」

モルガンの言葉に頷いたカシウスは兵士や親衛隊員達に指示を出した。カシウスの指示に敬礼した兵士達はそれぞれの持ち場に戻った。



「さてと、早速で悪いが機関部を見せてくれるか?できれば今日中に目処をつけちまいたいからな。」

「ええ、了解しました。それでは失礼します!准将、指南していただきありがとうございました!」

「なんのなんの。こちらも良い運動になった。」

「整備長、大尉。アルセイユを頼んだぞ。」

「は!」

「どんとお任せあれ。」

そしてグスタフとユリアはアルセイユに向かった。

「ふふ……。さすがですね、彼女は。これから更に伸びそうです。」

「ああ、そうだな。お前やリシャールまであと1、2歩といったところだろう。」

シードの評価にカシウスは頷いた。

「ふむ、ああいう若者を見るとこの老体にも沸き立つものがあるな。カシウス、後で付き合わんか?」

「将軍……。さすがにお歳を考えた方がよろしいんじゃありませんか?」

「むむっ……」

呆れた様子のカシウスの言葉を聞いたモルガンは唸った。

「聞けば、去年の武術大会ではかなり大暴れしたそうですな?カーリアン殿との――”大陸最強”を誇る精鋭揃いの中でも指折りの実力を持つメンフィルの武将との試合は滅多にできない事なのですから少しは若い者に経験をつませてやらなけらばいけないでしょう。」

「ふん、だからこそお前に司令の座を委ねたのだ。そこまで言ったからには文句を言わずに勤めてもらうぞ?」

「おっと、ヤブ蛇でしたか。」

「ふふ……」

モルガンとカシウスの様子を見て、シードは思わず笑った。



「そうだ、シード中佐。今日には出発するそうだな?」

「はい、正午には。警備艇2隻を率いて3個中隊を率いる予定です。」

モルガンに話をふられたシードは頷いて答えた。

「調印式にはワシも参加するが、それまでは身動きが取れん。王都の守りは頼んだぞ。」

「よろしくお任せください。遊撃士協会と協力して事に当たらせてもらいます。」

「う、うむ……。あまり愉快ではないが今回ばかりは仕方ないだろう。………なんせ今回は、リウイ皇帝陛下ではなく現メンフィル皇帝夫妻――シルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃も王都にいらっしゃるとの事だからな………万全を期すべきだろう。」

シードの話を聞いたモルガンは苦い表情をして頷いた。

「ふふ、将軍のギルド嫌いも徐々に治りつつあるようですな。」

モルガンの様子を見て、カシウスは口元に笑みを浮かべていた。



~レイストン要塞・外~



「監視塔に導力センサー……。水中には機雷群を設置……。やはり、守りは完璧ですわね……。フン、仕方ない……。やはりあの手紙に書かれた通り、あれを使うしかないわね……」

一方その頃、レイストン要塞を女性――クーデター事件以降行方をくらましていたカノーネが木の陰から伺っていた。

「閣下……もうすぐです。どうか待っていてください。」

そしてカノーネはレイストン要塞に背を向け、勝ち誇った笑みを浮かべて一人呟いていた。



~同時刻・メンフィル大使館・レンの私室~



「うふふ………せっかくレン達、メンフィルがリベールに恩を売れるいい材料があるんだから、ちゃんと活用しないとね♪」

その頃、数日前にリウイ達と共に大使館に帰還したレンはメンフィルの諜報部隊によって発見されたクーデター事件以降行方をくらませた特務兵達やカノーネの写真を見て、小悪魔な笑みを浮かべていた。そしてカノーネ達の写真とは別に分けてあったある人物――ケビンの報告書に貼ってあるケビンの写真を見た。

「クスクス………ついでにレンのママに関係のない事で責める人達には、レンが娘としてお仕置きする必要があるわね♪」

そしてレンはさらに分けてあった報告書に書かれてある、ある人物の活躍を読んだ後報告書に貼ってある写真――エステルの写真を手に取った。

「エステル・ブライト………随分お姉様達がお世話になったようだし、ここは妹として挨拶をしないとね♪後少しで会えるわね♪エ・ス・テ・ル♪」

自分以外誰もいない部屋でレンは一人、エステルの写真を見て小悪魔な笑みを浮かべていた。

「………さて、レンもそろそろグランセルに行こうかしら。………プリネお姉様達はお姉様の使い魔の探し人が発見されたクロスベル。リフィアお姉様達はミルスでユイドラとの交流の件の大切な会議。お姉様達はそれぞれ立派に働いているんだから、レンもメンフィルの為に働かなきゃね♪”下準備”も終えたし………うふふ………楽しい”お茶会”になりそうね♪」



そしてレンは小さな鞄に持って行く物を入れた後、リウイ達に外出する事を伝えた後、転移魔術を使ってリベールの王都――グランセルに転移した…………
 

 

第26話

~グランセル国際空港~



「さてと……。また王都に戻ってきたわね。何はともあれ、まずはギルドに行こっか?」

「ああ、軍の相談ってのをエルナンから聞いちまおう。」

定期船から降りたエステルの提案にアガットは頷いた。

「そういえば、今日は発着場にあの白い船が泊まっていないね。確か、『アルセイユ』といったかな。」

「え?」

意外そうな表情でオリビエは誰かに答えを求めるかのように呟き、オリビエの呟きを聞いたエステルは首を傾げて、反対側の着陸場に目を向けた。

「あ、ホントだ。」

「ちょっと残念だな…………ミント、どんな飛行船か気になっていたのに………」

何もない着陸場を見てエステルは頷き、ミントは残念そうな表情をした。

「確か、王家の巡洋艦だったか。どこかに任務で出かけてるんじゃないのか?」

「アルセイユはちょうどレイストン要塞に行っています。そこで完成したばかりの新型エンジンを搭載するそうです。」

「あ、整備長さんたちも工房船でレイストン要塞に出かけたって言ってました。」

ジンの疑問に事情を一番知っているクロ―ゼが答え、ティータがクロ―ゼの説明の補足をした。

「へ~、そうだったんだ。ってことは、あのカッコイイ船がさらにパワーアップするのよね?どんな風に変わるのか楽しみかも。」

「エンジンを交換するだけだから外装は変わらないと思うけど……。でも、間違いなく世界最速の船になるはずだよ♪」

エステルの疑問にティータは嬉しそうな表情で答えた。そしてエステル達はギルドに向かった。



~遊撃士協会・グランセル支部~



「皆さん、よく来てくれました。ルーアンとツァイスでの報告書は読ませていただきましたよ。本当にご苦労さまでしたね。」

「うーん、『結社』にしてみれば小手調べだとは思うんだけど……。仮面男も、サングラス男も本気を出してなかったみたいだし。しかもサングラス男に関しては完全にパズモ達任せだったし…………」

エルナンの称賛にエステルは苦い表情をして答えた。

「それでも『結社』が現実に動いていることが判っただけでも大きな収穫と言えるでしょう。今後は、王国軍との協力もスムーズに出来ると思いますよ。」

「で、その軍の相談ってのはいったいどういうものなんだ?やっぱり、『結社』関係なのかよ?」

「それなんですが……。どうも通信では相談しにくい内容らしいんです。ですから直接、軍の担当者が来て事情を説明してくれるそうです。」

アガットの疑問にエルナンは真剣な表情で答えた。

「ふむ……通信では相談しにくい内容か。ひょっとしたら盗聴を警戒してるのかもしれないね。」

「と、盗聴!?」

「その可能性は高いでしょう。導力通信は便利ですが傍受される危険もあります。ギルド間の通信であれば盗聴防止用の周波変更機能(スクランブル)が使えるんですけどね……」

オリビエの推測にエステルは驚き、エルナンは特に驚いた様子もなく頷いた。

「その盗聴防止の機能は軍との通信には使えないんだ?」

「軍は軍で、独自の通信規格を採用しているので無理なんです。通常交信しかできません。」

「そうなんだ……。うーん、どうせだったら同じ規格にしちゃえばいいのに。」

「そうだよね………どうしてわざわざ違うのを使うんだろう?」

「まあ、協力しているといっても一国の軍隊と国際的な民間組織だ。情報保全の独自性は避けられんさ。」

エステルの提案にミントは頷き、ジンは苦笑しながら答えた。



「しかし、エルナン。どうやらあんたは、軍の相談が何なのか見当がついてるみてぇだな。でなけりゃ、わざわざ俺たちをツァイスから呼んだりしねえだろ。」

「おや、見抜かれましたか。これは私の読みですが……どうやら『不戦条約』に関する話である可能性が高そうですね。」

アガットの指摘を受けたエルナンは口元に笑みを浮かべた後説明した。

「『不戦条約』……それって最近、色々な所で耳にしてるけど……。具体的にはどんな内容の条約なの?」

エルナンの説明を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。そして首を傾げているエステルにクロ―ゼが説明をした。

「女王陛下が提唱されたリベール、エレボニア、カルバード、メンフィルの4ヶ国間で締結される条約なんです。国家間の対立を武力で解決せず、話し合いで解決すると(うた)っています。」

「え……!それじゃあ戦争がなくなるってことなの!?」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルは驚いた表情で尋ねた。

「いえ、強制力はありませんからなかなか難しそうですけど………それでも抑止力にはなりますし、国民同士の友好的なムードにつながるとお祖母様は考えていらっしゃるそうです。」

「そっか……」

「わあ………クロ―ゼさんのお祖母ちゃんって、本当に凄いね!」

「さすがはアリシア陛下だ。いい目の付け所をしてらっしゃる。」

「4つの国が仲良くできるきっかけになるといーですね。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルはどことなく嬉しそうな表情をし、ミントははしゃぎ、ジンは感心し、ティータは嬉しそうな表情で頷いた。

「その不戦条約が、来週末に『エルベ離宮』で締結されます。外国の要人も集まりますしメディアにも注目されるでしょう。そんな状況で、もしも『結社』が何かを企んでいるとしたら……」

「確かに……。シャレにならないわね。」

クロ―ゼの心配にエステルは真剣な表情で頷いた。

「加えてメンフィルの参加者がリベールを含め他の2国も注目している方達ですから、かなりの慎重性が求められているんです。」

「へっ?メンフィルからは一体誰が参加するの??皇女のリフィアやプリネかな~とも思っていたけど。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。そしてクロ―ゼはエステルの疑問を聞き、真剣な表情で重々しく答えた。



「いえ…………メンフィルの参加者なんですが…………現皇帝夫妻であられるシルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃です。」

「あ、あんですって~!?げ、現メンフィル皇帝って事は………メンフィルの今の王様!?」

「そいつは確かに他の3国は注目するな………まさか皇帝夫妻が揃って直接参加するとは………」

「それも”英雄王”リウイ皇帝陛下ではなく、今までその名しか知られていなかった現メンフィル皇帝が妃と揃って姿を見せるとは確かに驚きだね。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルは声を上げて驚き、ジンやオリビエは頷いた。

「あれ?ちょっと待って………確かリフィアが今のメンフィルの王様の娘だから………もしかして、リフィアのお父さんとお母さん!?」

「はい。お祖母様もメンフィルからの代表者はリフィアさんかプリネさん、或いはメンフィル大使――リウイ皇帝陛下と思っていたのですが………今回の参加者を聞き、かなり驚いていたと聞きます。」

「それは確かに驚くだろうね。”ゼムリア大陸真の覇者”とも言われている国を統べる王が参加するなんて聞いたら誰でも驚くだろうね。」

エステルの疑問にクロ―ゼは答え、クロ―ゼの言葉を聞いたオリビエは頷いた。

「はい。メンフィルの現政権を握る重要な方でもありますから、なんとしても今回の会談を成功させたいとお祖母様は思っているんです。」

「フン……結構シビアな話になりそうだ。で、その担当者が来るまで俺たちはここで待てばいいのか?」

クロ―ゼの説明を聞き、頷いたアガットはエルナンに尋ねた。

「そうですね。約束の時刻まで時間はありますし自由になさって結構ですが……」

アガットに尋ねられたエルナンが答えかけたその時、通信器が鳴った。



「おや、失礼。」

鳴り響いている通信器に気付いたエルナンは通信器をとった。

「こちら、遊撃士協会。グランセル支部です。はい……はい……。………………………………。なるほど……そうですか。ふむ、確かにそれは困ったことになりましたね。少々お待ちください……」

「もしかして王国軍から?」

「いえ、エルベ離宮からです。何でも、観光客の子供らしき迷子を保護したそうですが……保護者が見つからずに困っているとのことです。」

「あらら。」

「まあ……」

エルナンの話を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは心配そうな表情になった。

「その子の保護者を見つけてほしいとの要請なんですが……。軍の担当者が来るまで時間もありますし協力していただけませんか?」

「そりゃあモチロン、引き受けさせてもらうわ。アガットもいいよね?」

「しゃあねえな。とっとと離宮に行くとするか。」

「助かります。」

エステルとアガットの答えを聞いたエルナンは置いていた通信器をとってまた話始めた。

「ええ、ちょうど手の空いた遊撃士がいたのでそちらに向かわせます。貴方のお名前は……はい……了解しました。それではお待ちください。」

そして通信器を置いたエルナンはエステル達の方に向いた。



「エルベ離宮に勤めているレイモンドさんという執事がその迷子を預かっているそうです。離宮に着いたら訪ねてみてください。」

「うん、わかったわ。……って、レイモンドさんってどこかで聞いたことのある名前ね。」

「んー、あの若い執事じゃないか?離宮解放の時にカウンターの下に隠れていた。」

「そっか、ナイアルの友達だっていうあの人か!」

エルナンから聞いた名前で首を傾げているエステルにジンは以前の事を思い出して言い、ジンに言われたエステルは完全に思い出した。

「お知り合いならなおさら話が早そうですね。それではよろしくお願いします。」



その後エステル達は推薦状を貰うために一人で仕事をするミントとは一端別行動にし、そしてオリビエやティータをギルドに待機にして、エルベ離宮に向かった…………


 

 

第27話

~エルベ離宮~



「エルベ離宮……何だか妙に懐かしいな。」

エルベ離宮に到着し、ジンは周囲の風景を見渡して懐かしそうに言った。

「うん……。でも、何だか普通の人もいるみたいなんですけど……」

ジンの言葉に頷いたエステルは周囲に一般人がいる事に戸惑っていた。そしてエステルの疑問にクロ―ゼは答えた。

「普段は市民の方々にも開放している場所なんです。ちょっとした憩いの場所といったところでしょうか。」

「へ~、そうなんだ。言われてみると確かに家族連れとか多いみたいね。」

「迷子というのもああいう家族連れの客の可能性が高そうだな。とにかく、あのレイモンドっていう執事の兄さんを捜してみようぜ。」

「オッケー。」

アガットの提案に頷いたエステルは仲間達と共にエルベ離宮に入って行った。



「はあ、参ったなぁ。そろそろ遊撃士が来るのにどこに行っちゃったんだろ。」

エステル達が離宮に入ると一人の執事が困った表情をして呟いていた。

「あの~。」

「あ、はいはい。どうかなさいましたか……あれっ!?確かあんたたちは……」

遠慮気味に話しかけて来たエステルに気付いた執事はエステル達を見て驚いた。

「よう、久しぶりだな。」

「えへへ、こんにちは。覚えててくれたみたいね。」

「はは、忘れるわけないさ!何といってもエルベ離宮を解放してくれた恩人だからな……。あれ、そちらの君は……」

恩人とも言えるジンやエステルに執事は明るい表情で答えた後、クロ―ゼに気付いた。

「どうかなさいましたか?」

「いや、はは……。そんな訳ないよな。他人の空似に決まってるか。」

「ふふ、ひょっとして恋人さんと間違えました?」

執事の言葉を聞いたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。

「と、とんでもない!えっと、それじゃあ君たちが依頼を請けてくれた遊撃士かい?」

「うん、そうなんだけど……。いったいどうしたの?何か困ってるみたいだけど。」

「それが……その迷子の子なんだけど。」

エステルの疑問に執事は言いにくそうにした後、やがて答えた。

「いきなり『かくれんぼしましょ』って居なくなっちゃってさ……。必死に捜している最中なんだよ。」

「あらら……」

執事の話を聞いたエステルは目を丸くして驚いた。



「す、すぐに見つけるから君たちは談話室で待っててくれ。場所は知ってるだろう?」

「それは覚えているけど……。苦戦しているみたいだしあたしたちも捜すの手伝おうか。」

「え……いいのかい?」

エステルの提案に驚いた執事は尋ねた。

「ま、これも乗りかかった船ってやつだ。ガキの名前と特徴を教えろや。」

「た、助かるよ。白いフリフリのドレスを着て頭に黒いリボンをつけた10歳くらいの女の子だけど……。ちょっと名前は分からないんだ。」

「名前が分からない?」

執事から迷子の情報を聞いたエステルは首を傾げた。

「いくら聞いても『ヒ・ミ・ツ』とか言って教えてくれなくってね……。家族と一緒に来たと思うんだけどそれらしい人も見つからないし……。ほとほと困り果ててギルドに助けを求めたんだ。」

「そ、そうなんだ。でも、かくれんぼといい、わりと元気な女の子みたいね?」

「うーん、元気というか……。おませで、おしゃまな気まぐれ屋って感じかな。大人をからかって楽しんでいるような気もする。」

エステルの推測を聞いた執事は悩みながら答えた。

「うーん、いわゆる悪戯好きの仔猫って感じ?」

「そう、まさにそれだ!はあ~、ホントにどこに行っちゃったんだろ。多分、この建物からは出てないと思うんだけど……」

「ということは、中庭を含めた部屋の全てが捜索対象だな。確かに、かくれんぼにはもってこいの場所かもしれん。」

執事の話を聞いたジンは頷いて答えた。

「僕はいったん、談話室に戻ってあの子のことを待っているよ。見つけたら連れてきてほしい。」

「うん、わかったわ。」

そして執事は談話室に向かった。

「さーて、逃げた仔猫ちゃんを捜してみるとしましょうか。白いフリフリのドレスに黒いリボンって言ってたわね。」

「ふふ、すぐに見つかりそうな外見ですね。どんな子なのか楽しみです。」

エステルの言葉に頷いたクロ―ゼは微笑みながら答えた。

「とりあえず一通り建物の中を捜してみるぞ。」

アガットの提案に頷いたエステル達はさまざまな部屋に入って、迷子を捜したが見つからず、そしてある部屋に入った時、意外な人物に出会った。



~エルベ離宮・客室~



エステル達が部屋に入る直前、豪華な衣装を着た男性――デュナン公爵が部屋をせわしなく歩いていた。

「遅い!遅すぎる!フィリップめ……。雑誌とドーナツを買うのにどれだけ時間をかけているのだ!」

その時扉が開く音がし、デュナンは振り返った。

「これ、フィリップ!私をどれだけ待たせれば……」

デュナンは部屋に入って来た人物を自分の執事――フィリップと思い、注意をしたが

「へ……」

「あ……」

入って来たのはエステル達だった。デュナンを見てエステルとクロ―ゼは唖然とした。

「そ、そ、そ……そなたたちはああ~っ!?」

一方エステル達を見たデュナンは信じられない表情で声を上げた。

「なんだぁ?この変なオッサンは。」

デュナンの事を知らないアガットは首を傾げた。

「デュナン公爵……。こんな場所にいたんだ。」

「小父様……。その、お元気ですか?」

デュナンを見たエステルは意外そうな表情をし、クロ―ゼは言いにくそうな表情で尋ねた。



「ええい、白々しい!そなたたちのせいで、そなたたちのせいでな……。私はこんな場所で謹慎生活を強いられているのだぞっ!」

クロ―ゼに尋ねられたデュナンはエステル達を睨んで怒鳴った。

「うーん、あたしたちのせいって言われてもねぇ……。リシャール大佐の口車に乗った公爵さんの自業自得だと思うんだけど。」

「ま、謹慎程度で済んで幸運だったと思うことですな。他の国なら、いくら王族と言えど実刑は免れんでしょう。」

「くっ……。フ、フン……。確かに陛下を幽閉したことがやり過ぎであったことは認めよう。リシャールに(そそのか)されたとはいえ、それだけは思い止まるべきだった。」

エステルとジンの指摘を受けたデュナンは反論がなく、意外にも殊勝な態度で答えた。

「あれ、なんだか殊勝な台詞ね?」

デュナンの態度にエステルは意外そうな表情で尋ねた。

「フン、勘違いするな。私は陛下のことは敬愛しておる。君主としても伯母上としても非の打ちどころのない人物だ。」

エステルの疑問にデュナンは胸を張って答えたが、すぐにクロ―ゼを睨んで言った。

「だが、クローディア!そなたのような小娘を次期国王に指名しようとしていたのはどうしても納得がいかなかったのだ!」

「………………………………」

デュナンに睨まれたクロ―ゼは何も返さず黙っていた。

「ちょ、ちょっと!聞き捨てならないわね!クローゼは頭が良くて勉強家だし、人を引き付ける器量だってあるわ!公爵さんに、小娘とか言われる筋合いなんて……」

「……エステルさん、いいんです。」

クロ―ゼの代わりに怒っているエステルをクローゼは制した。



「前にも言ったように私は……王位を継ぐ覚悟ができていません。小父様が不快に思われるのも当然と言えば当然だと思います。」

「クローゼ……」

「ふん、殊勝なことを。昔からそなたは、公式行事にもなかなか顔を出そうとしなかった。知名度でいうなら、私の方が遥かに国民に知れ渡っているだろう。すなわちそれは、そなたに上に立つ覚悟がないということの現れだ。」

「………………………………」

デュナンの厳しい言葉にクロ―ゼは何も返さず黙っていた。

「聞けばそなた、身分を隠して学生生活を送っているそうだな。おまけに孤児院などに入り浸っているそうではないか。そんなことよりも、公式行事に出て広く国民に存在を知らしめること……。それこそが王族の役目であろう!」

「……それは………」

デュナンの指摘にクロ―ゼは辛そうな表情をした。

「………………………………。あたしは王族の役目とかぜんぜん詳しくないから……。ひょっとしたら公爵さんの言うことも一理あるかもしれない。」

「わはは、当然だ。」

唐突に言い出したエステルの言葉を聞いたデュナンは笑いながら胸をはった。

「でも、これだけは言えるわ。クローゼは今、悩みながらも答えを出そうと頑張っている。少なくとも、謹慎を理由に何もしてない公爵さんよりもね!」

「な、なにィ!?」

しかしエステルの言葉を聞いたデュナンは驚いた。

「それに公爵さん。リベールにとって救世主であり同盟国でもあるメンフィルの元・王様のリウイに学園祭の劇で酔っぱらっていた公爵さんが何をしたか覚えてる~?」

「そ、それは…………!」

さらに続けたエステルの言葉を聞いたデュナンは学園祭の事を思い出して顔を青褪めさせた。

「後、確か公爵さん。あたし達と最初にルーアンのホテルで会った時、あたし達を追い出したでしょ?」

「ぐっ………そ、それがどうした?」

勝ち誇った笑みを浮かべているエステルに尋ねられたデュナンは唸った後尋ねた。

「あの時、あそこにいたのはあたしとヨシュア、エヴリーヌだけでなく、リフィアとプリネがいたんだよ~?リフィアとプリネ………王族の公爵さんなら、ピンと来る名前でしょ?」

「リフィアとプリネ…………?………………ま、まさか!!現メンフィル皇帝唯一の直系のご息女にして次期後継者と言われるリフィア皇女と”覇王”と”闇の聖女”のご息女のプリネ皇女か!?」

エステルにある人物の事を尋ねられたデュナンは少しの間考えた後、信じられない表情で答えた。

「正解~♪あの時の公爵さんのふるまいを2人はしっかり見ていたからね~♪特に次のメンフィルの王様になるリフィアの前で、王族としてあんな態度を見せちゃってよかったのかな~?それと公爵さんは知らないかもしれないけど、学園祭の件はクロ―ゼが公爵さんに代わって一人でリウイに謝ったんだよ?公爵さんの言う通り、クロ―ゼは他国の王族に自分の事を知ってもらったし、クロ―ゼのした事の方が公爵さんと比べれば王族として何倍も立派じゃない♪」

「ぐ、ぐぬぬぬ………!」

勝ち誇った笑みを浮かべているエステルに反論が見つからないデュナンは唸りながらエステルを睨んだ。



「エステルさん……。……あの、デュナン小父様。私は今、エステルさんのお手伝いをさせて頂くことで自らの道を見出そうとしています。私に女王としての資格が真実、あるのかどうなのか……。近いうちに、その答えを小父様にもお見せできると思います。ですからそれまで……待っていただけないでしょうか?」

自分を庇うエステルを見てクロ―ゼは凛とした表情でデュナンを見て言った。

「ぐっ……。ふ、ふん、馬鹿馬鹿しい。ええい、不愉快だ!とっとと部屋から出ていけ!」

「言われなくても!」

デュナンの言葉を聞き鼻を鳴らしたエステルは仲間達と共に部屋を出ようとしたが振り返ってデュナンに尋ねた。

「……あ、その前に。ここに白いドレスを着た女の子がたずねてこなかった?」

「なんだそれは……。わたしはここにずっとおる!そんな小娘など知らんわ!」

「あっそ、お邪魔しました。」

「……失礼しました。」

そしてエステル達はデュナンがいる部屋を出た。



「まったく……。なんなのよ、あの公爵は!自分のことは棚に上げてクローゼをけなしてさ!」

「いえ、小父様の非難も当然と言えば当然だと思います。王族としての義務……それは確かに存在しますから。」

デュナンの部屋を出た後、憤っているエステルをクロ―ゼは宥めた。

「で、でも……」

「ふむ、共和国では選挙で大統領が選ばれますからな。王族の義務というのは自分にはピンと来ませんが……。だが、あの公爵閣下の場合、悪い知名度が高まってしまった。もはや、彼が貴女よりも次期国王にふさわしいと考える者はリベールには存在せんでしょう。」

「それは……確かにそうなのかもしれません。ですが、私の覚悟については小父様のおっしゃる通りです。」

ジンの言葉に頷いたクロ―ゼだったが、すぐに辛そうな表情に変えて答えた。

「クローゼ……」

「私、ここで小父様とお会いできて良かったです。改めて、私に足りない部分について気付かせていただきました。」

「そっか……。よし!迷子探し、再開しようか?」

「はい。」

そして気を取り直したエステル達は迷子の捜索を再開した…………






 

 

第28話

その後迷子の捜索を再開したエステル達だったが、一向に見つからず執事がいる談話室に一端戻った。



~エルベ離宮・談話室~



「どうだい、見つかったかい?」

部屋に入って来たエステル達に気付いた執事は尋ねた。

「ううん、残念ながら。怪しそうな場所は一通り調べてみたんだけど。」

「も、もしかして……エルベ離宮の外に出ちゃった可能性は……」

エステルの答えを聞いた執事は身を震わせた。

「チッ……。そりゃあ、やっかいだな。」

「うーん、かくれんぼだし、それはないと思うけどな……。普通に行ける範囲内に隠れるのがルールだもん。多分、思いもよらない場所に隠れている可能性が高いわね」

「なるほど、たまには鋭いことを言うじゃねえか。もう少し探してみるかよ?」

エステルの提案に頷いたアガットは尋ねた。

「うん、少し発想を変えて捜してみることにしましょ。さて、早速念のためにこの部屋の怪しい所を調べて………っと。」

アガットの言葉に頷いたエステルはカウンターの下を覗き込んだ。

「えっ………」

「???どうしたんだい?」

カウンターを覗き込み何かを見つけたエステルの呟きが聞こえた執事は首を傾げてエステルに尋ねた。

「あはは………どうしたもこうしたも………」

執事に尋ねられたエステルが苦笑したその時

「ふみゃ~ん……。あーあ、レンの負けね。」

白いフリフリのドレスを着て、黒いリボンを付けた迷子の少女――レンがカウンターから出て来た。

「ええっ!?」

「こんな所に隠れていたのかよ………」

レンを見た執事は驚き、アガットは呆れた。

「うふふ………レンを見つけるなんて、お姉さん、なかなかやるわね♪」

「ふふ~んだ。これでもかくれんぼは得意だったからね!」

レンの称賛にエステルは自慢げに胸をはって答えた。



「いや~、見つかってよかった。えっと君……名前はレンちゃんでいいのかな?」

「ええ、そうよ。レンはレンっていうの。ごめんなさい、秘密にしてて。」

執事の質問にレンは素直に謝って答えた。

「はは、気にしていないよ。でもどうして突然、かくれんぼなんか始めたんだい?」

「だって、遊撃士さんが来てくれるって聞いたから……。一緒に遊ぼうと思ってがんばって隠れていたのよ。」

「あはは、そうなんだ。でも、悪戯はほどほどにしなさいね?でないとお姉さんも怒っちゃうからね?」

レンの話を聞いたエステルは苦笑した後、軽く注意をした。

「はーい。ごめんなさい、お姉さん達。」

エステルの注意に返事をしたレンはエステル達に謝った。

「ま、そいつはともかく……。父ちゃんと母ちゃんはいったいどこに行ったんだ?どうしてこんな場所で1人で遊んでやがる?」

「ジー……」

アガットの質問を聞いたレンは何故か鋭い目つきでアガットを見ていた。

「な、なんだよ?」

レンに見られたアガットは戸惑いながら尋ねた。

「お兄さん、ダメダメねぇ。レディに対する口のきき方がぜんぜんわかってないみたい。」

「ムカッ……」

そして呆れて溜息を吐いているレンを見て、アガットは青筋を立ててレンを睨んだ。

「まあ、レンはレディだしカンダイな心で許してあげるわ。それで、パパとママがどこに行ったかなんだけど……。レンにもよくわからないの。」

「わからない?」

レンの話を聞いたエステルは首を傾げた。



「レン、パパとママといっしょにここに遊びに来てたんだけど。お昼を食べたあと、パパたちがまじめな顔でレンにこう言ったの。『パパたちは大事な用があってレンとお別れしなくちゃならない。でも大丈夫、用が済んだら必ずレンのことを迎えに行くからね。パパたちが帰ってくるまで良い子にして待っていられるかい?』」

「そ、それって……」

レンの話を聞いたエステルは嫌な予感がした。

「ふふっ、レンはもう11歳だから『もちろんできるわ』って答えたわ。そうしたら、パパとママはそのままどこかに行っちゃったの。」

「おいおい、冗談だろ……」

レンが話し終えるとアガットは疲労感漂う様子で溜息を吐いた。

「えーと……。そんな事情とは思わなかった。どうしよう?保護者を捜すっていう話じゃなくなってきた気がするんだが。」

「うーん……。アガット、いいかな?」

執事の質問にエステルは唸った後、アガットに目配せをした。

「仕方ねえ……。これもギルドの仕事だ。」

「執事さん、心配しないで。この子はあたしたちが責任をもって預かるから。」

「えっ……?」

エステルの説明を聞いた執事は目を丸くした。そしてエステルはレンの方に向いた。

「ね、レンちゃん。お姉さんたちと一緒に王都のギルドに行かない?すぐに、パパとママを見つけてあげられると思うわ。」

「そうなの?でもパパたち、大事な用があるって言ってたのよ?」

エステルの提案を聞いたレンは可愛らしそうに首を傾げて尋ねた。

「大丈夫、大丈夫。絶対に見つけてあげるから。お姉さんを信じなさいって!」

「うーん……。それじゃあレン、お姉さんといっしょに行くわ。よろしくお願いするわね。」

「うん!こちらこそよろしくね。」

「ふう……本当にすまない。その子のこと、よろしく頼んだよ。」

「ああ、任せておきな。よし……とっととギルドに戻るぞ。」

そしてエステル達はレンを連れて離宮を出た。



~キルシェ通り~



レンを連れて周遊道を抜けたエステル達は街道で意外な人物と出会った。

「おや、貴方がたは……」

「あれ……?」

「まあ……。フィリップさん。お久しぶりですね。」

エステル達が出会った人物はデュナンの執事のフィリップだった。

「お久しぶりです。クローディア殿下、エステル様。エルベ離宮に行ってらしたのですか?」

「うん、そうだけど……」

「フィリップさんは王都に御用があったのですか?」

「ええ、公爵閣下のお申し付けで買い物などをしておりました。……ひょっとして離宮で閣下とお会いになられましたか?」

クロ―ゼの疑問に答えたフィリップはエステル達に尋ねた。

「う、うーん、まあね。」

「久しぶりに挨拶をさせて頂きました。」

「……その様子では、やはり心ないことを言われたようですな。誠に申しわけありません。臣下としてお詫び申し上げます。」

苦笑しているエステルとクロ―ゼを見て、フィリップは頭を下げて謝罪した。



「ふふ、とんでもないです。謹慎されていると聞いたので少し心配だったのですが……お元気そうで安心しました。」

「そう言って頂けると助かります。それでは私はこれで……。皆様、失礼いたします。」

そしてフィリップはエステル達に頭を下げた後、エルベ離宮に向かった。

「は~、相変わらず苦労をしょい込んでるわね。あの公爵が小さい時から世話をしているらしいけど……」

「世話役としての経歴は20年以上だそうです。何でも、その前には親衛隊に勤めていたとか。」

「え、そうなの!?うーん、まさに人は見かけによらないわね。」

「………………………………。今のオジサン……タダ者じゃないと見たわ。」

クロ―ゼの説明を聞いたエステルは驚き、レンは唐突に口を開いた。

「へっ……。どうしたのよ、いきなり?」

レンの言葉を聞いたエステルは驚いて尋ねた。

「だって、あんな風に目をつぶって歩けるんですもの。レンにはゼッタイにできないわ。」

「うーん、あれは目をつぶっているんじゃなくて細目なだけだと思うけど……。ちなみに驚いていた時はちゃんと目を見開いてたわよ?」

「あら、そうなの?うふふ、驚いたお顔も見てみたくなっちゃったわ。」

エステルの答えを聞いたレンは無邪気に笑って答えた。



そしてエステル達はレンを連れて、王都のギルドに向かった。

~遊撃士協会・グランセル支部~



「ただいま、エルナンさん……。……あ!」

エステル達がギルドに入ると意外な人物――シード中佐を見つけたエステルは声を上げた。

「あ、エステルお姉ちゃん!」

「おかえりなさい、ママ!」

エステル達が帰って来た事に気付いたティータとエルナンに仕事を報告し終えたミントがエステル達を明るい表情で迎えた。

「やあ、エステル君。先日顔を合わせて以来だな。」

「あれれ……。シード中佐じゃない!?」

「そうか、軍の担当者ってのはあんたの事だったのか。レイストン要塞から来たのか?」

「ああ、その通りだ。つい先ほど、警備艇で王都に到着したばかりでね。」

アガットの疑問にシードは頷きながら答えた。

「おや……?そちらのお嬢さんはひょっとして例の……」

エルナンはレンに気付いて、エステル達に尋ねた。

「あ、うん、そうなのよ。ちょっと事情があって連れてきちゃったんだけど……。えっと、レンちゃん。お姉さんたち、少し話があるから2階で待っててくれないかな?」

「あら……。ひょっとしてお仕事の話?」

エステルに言われたレンは首を傾げて尋ねた。

「う、うん……ごめんね。」

「別にいいけど……。お仕事、お仕事ってまるでパパみたいな感じ。レン、そういうのあんまりスキじゃないわ。」

「うっ……………」

頬を膨らませて怒っているレンを見て、エステルは言葉に詰まった。

「あ、あの……。レンちゃんって言ったかな?わたしと一緒におしゃべりでもしない?わたし、レンちゃんのこと色々と知りたいな。」

「ミントも!ティータちゃんと一緒におしゃべりしていいかな?」

そこにレンと同年代のティータやミントがレンに話しかけた。



「あなた達と?(ミント…………ふ~ん、この子がプリネお姉様が引き取った人と同じ”竜”か…………)うーん、そうね。おしゃべりしてもいいわよ。」

ティータとミントの申し出を聞いたレンは、ミントの名前を知り、ある事を思い出した後、返事をした。

「えへへ、ありがとう。それじゃあお姉ちゃん。わたしたち、2階で待ってるね。」

「えっと………今更言うのもなんだけど、ティータちゃん達と一緒におしゃべりしに行ってもいいですか、エルナンさん?」

「はい。報告も終わりましたし、いいですよ。」

「ありがとうございます!行こう、2人とも!」

そしてティータ、ミント、レンの3人は2階に行った。

「はあ……助かっちゃったわ。」

その様子を見送ったエステルは安堵の溜息を吐いた。

「ふむ、どういう事情かは後ほど聞くとしましょうか。まずは、シード中佐の話を先に聞いていただけますか?」

「あ、うん、いいわよ。」

「さっそく聞かせてもらおうじゃねえか。」

そしてエルナンの提案にエステルとアガットは頷いた。

「すまない。こちらも急ぎなものでね。まず、この話は王国軍からの正式な依頼と考えてもらいたい。君たちに、ある件の調査と情報収集をお願いしたいんだ。」

「ある件の調査……?」

シードの依頼にエステルは首を傾げた。

「『不戦条約』は知っているね?実は、その条約締結を妨害しようとする脅迫状が各方面に届けられたんだ。」

シードの説明を聞いた一同は驚いた。

「きょ、脅迫状!?」

「それは……穏やかではありませんね。一体どんな内容なんですか?」

エステルは信じられない表情をし、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。

「……これをご覧ください。」

そしてシードは一通の手紙をエステル達に差し出した。手紙を渡されたエステル達は一通の手紙を読み始めた。



「『不戦条約』締結に(くみ)する者よ。直ちに、この欺瞞(ぎまん)と妥協に満ちた取決めから手を引くがよい。万が一、手を引かぬ者には大いなる災いが降りかかるだろう。」



「うわ……」

「なるほど、脅迫状だな。内容はこれだけか?」

手紙の内容を読み終えたエステルは呆れ、アガットは頷いた後、尋ねた。

「ああ、これだけだ。そしてお気づきのように差出人の名前も書かれていない。正直、悪戯の可能性が一番高いと思われるんだが……」

「単なる悪戯とは思えない気がかりな要素がある―――そういうわけだね?」

言葉を濁しているシードの代わりに応えたオリビエは確認した。

「ああ……。脅迫文が届けられた場所だ。まずはレイストン要塞の司令部。続いて飛行船公社、グランセル大聖堂、ホテル・ローエンバウム、リベール通信社。そして帝国大使館、共和国大使館、グランセル城、エルベ離宮。全部で10箇所だ。」

「そ、そんなに!?………ってあれ?10箇所??一つ、足りないような………?」

シードの説明を聞いたエステルはある事に気付き、尋ねた。

「ああ、言い忘れた。済まない。正確にはある一箇所に同じ手紙が2通届いたんだ。」

「へっ?それってどこ??」

「……………グランセル城だ。」

「あ、あんですって~!?」

「どうして2通も届いたんでしょうか………?」

シードの話を聞いたエステルは声を上げて驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。

「それなんですが…………一枚はリベール王家宛に届いて、もう一枚は………シルヴァン皇帝陛下宛に届いたんです。」

「えっ!?何故、シルヴァン皇帝陛下宛がグランセル城に………?」

シードの説明を聞いたクロ―ゼは驚いて尋ねた。



「その事なんですが…………先ほどシルヴァン皇帝陛下、カミ―リ皇妃がファーミシルス大将軍率いる親衛隊の一部隊とメンフィル軍の一部隊、そして竜騎士団の一部隊と共にグランセルに到着しました。」

「あ、あんですって~!?」

「えっ………!?もう、来られたのですか!?確かまだ、来日の詳しい日は知らされていないはずですが………」

シードの話を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは信じられない表情で尋ねた。

「ええ。皆さんが戻って来る少し前に王国軍が一時、一般市民達にグランセル城までの道を開けさせ、シルヴァン皇帝陛下達をグランセル城に向かえ入れた所です。詳しい話はシード中佐。お願いします。」

驚いているエステル達に説明したエルナンはシードに先を促した。

「はい。………メンフィルは最初、ファーミシルス大将軍を使者として女王陛下にシルヴァン皇帝陛下達が王都に来られた事と王都にあるさまざまなホテルに滞在する事を伝えに来たので、それに驚いた女王陛下は急いでヒルダ夫人達に部屋の用意をさせて、シルヴァン皇帝陛下達を城に向かえ入れたのです。………その影響で城は今、シルヴァン皇帝陛下達の歓迎の準備に追われている所です。」

「そう…………なんですか。…………シルヴァン皇帝陛下宛の脅迫状はいつ、届いたのですか?」

「それが………シルヴァン皇帝陛下達が城に入城して、少ししてから届いたのです。」

クロ―ゼの質問にシードは少しの間言葉を濁した後、答えた。

「なるほど……。ただの悪戯にしちゃ狙ってやっている上、大規模だな。軍が気にするのも無理はない。………しかし、飛行船公社に七耀教会、ホテルにリベール通信か……。一見、条約締結には関係なさそうな所に見えるがな。」

シードの話を聞き終えたアガットは真剣な表情で頷いた後、シードに尋ねた。

「ところが厳密に言うと全く関係がないわけじゃない。まず飛行船公社は帝国・共和国関係者を送迎するチャーター便を出す予定でね。同じくホテルもすでに関係者の宿泊予約が入っている状況だ。さらに大聖堂のカラント大司教は女王陛下から条約締結の見届け役を依頼されているそうだし……。リベール通信は不戦条約に関する特集記事を数号前から連載している。」

「うーん、どこも何らかの形で条約に関わっているってことね。いったい何者の仕業なのかしら。」

「フム……。これは一筋縄ではいかないね。国際条約である以上、妨害しようとする容疑者は色々と考えられるだろう。」

「そうだな。カルバードかエレボニアの主戦派、或いはメンフィル皇家に恨みを持つ者……。もしくは4国の協力を歓迎しないまったく別の国家の仕業か……」

シードの話を聞き、エステルの言葉に頷いたオリビエとジンは考え始めた。

「……もちろん王国内にも容疑者は存在すると思います。」

「そして……最悪の可能性が『結社』ね。」

クロ―ゼも真剣な表情で王国内にも犯人がいる可能性がある事を言い、エステルは『結社』の可能性がある事も指摘した。

「で、軍としては俺たちに何を調べさせたいんだ?」

「君たちにお願いしたいのは他でもない……。脅迫状が届けられた各所で聞き込み調査をして欲しいんだ。具体的には―――エルベ離宮とレイストン要塞を除いた8箇所だ。」

「飛行船公社、グランセル大聖堂、ホテル・ローエンバウム、リベール通信社、帝国大使館、共和国大使館、そしてグランセル城ですね。」

シードの依頼を確認するようにクロ―ゼは場所を言った。



「フッ、どこも制服軍人が立ち寄ると目立ちそうな場所だね。情報部を失った今、聞き込みをギルドに頼るのも無理はないかな。」

「恥ずかしながらご指摘の通りだ。そして新しい司令官殿の方針でギルドに回せそうな仕事は片っ端から回せとのことでね。それを実践させてもらったよ。」

オリビエの指摘にシードは苦笑しながら答えた。

「まったくもう……。父さんも調子いいわねぇ。」

「ケッ、いかにもオッサンの言い出しそうな台詞だぜ……」

シードの話を聞いたエステルとアガットは呆れた。

「ふふ、君たちに依頼したのはあくまで私の一存さ。この度、条約調印式までの王都周辺の警備を一任されてね。警備体制を整えるためにはなるべく多くの情報が欲しいんだ。どうか引き受けてもらえないかな?」

「う、うーん……。引き受けたいのは山々なんだけど。もう一つ、片付けなくちゃいけない事件が起きちゃって……」

「先ほどのお嬢さんの件ですね。かいつまんで説明していただけませんか?」

そしてエステル達はエルナン達にレンの事情を説明した。

「なるほど……。それは放っておけないな。しかし、あんな年端もいかない子供を置き去りにするとは……」

「うん………なんとか見つけてあげたいんだけど………」

シードの言葉にエステルは心配そうな表情で頷いた。

「ふむ、そうですね。何かの事件と関わって娘さんを巻き込まないようにしたのかもしれない可能性があるかもしれません。しかし、それでしたら一石二鳥かもしれませんよ?」

「へっ?」

「話からするとどうやらレンさんのご両親は外国人でいらっしゃるようですね?なら、大使館やホテルなどに問い合わせた方がいいでしょうね。」

「あ、なるほど!」

エルナンの提案にエステルは明るい表情をした。



「どちらも脅迫状が届けられた場所ってわけか。あと、飛行船公社にも乗船記録があるはずだぜ。」

「王国軍も、各地に通達を回して親御さんの捜索に協力しよう。関所を通ったのなら分かるはずだ。」

「ありがとう、シード中佐!」

「ふふ、どうやらこのまま話を進めても良さそうですね。具体的な調査方法と分担はこちらに任せて頂くとして……。やはり、調査結果の報告は文書と口頭がよろしいですか?」

話が上手く進んでいる事に明るい表情をしたエルナンはシードに確認した。

「ああ、盗聴を避けるためにも導力通信は使わないでほしい。実は本日から、エルベ離宮に警備本部が置かれる予定でね。ご足労かとは思うがそちらにお願いできるかな?」

「うん、わかった。それじゃあ、調査結果の報告はエルベ離宮に直接届けるわね。」

「よろしく頼むよ。」

そしてエステル達はシードを見送った後、エステル、ジン、オリビエ、クローゼが両国の大使館とグランセル城、リベール通信社を回り、アガットがそれ以外の場所を1人で調査するという分担になり、ミントはエステル達が留守にしている間に一般の依頼が来た際、そちらの対応をする為にギルドに待機となった。



「それじゃあ、あたしたちはちょっと出かけてくるわ。ミント、ティータ、レンちゃん。悪いけどお留守番頼むわね?」

「それなんだけど……。レンはティータ達と一緒にお買い物に行くことにしたわ。」

「へっ!?」

レンの言葉にエステルは驚いた。

「ご、ごめんね、お姉ちゃん。レンちゃんがどうしても百貨店に行きたいらしくて……」

「ミントも誘われちゃって、つい………」

驚いているエステルにティータとミントは申し訳なさそうな表情で答えた。

「あら、心外ね。ティータとミントも、ぬいぐるみとか見てみたいって言ってたじゃない。」

「あう……。レンちゃんったらあ。」

「むう……3人の秘密って、さっき言ったばかりじゃない~。」

口元に笑みを浮かべて答えるレンにティータは無邪気に笑い、ミントは頬を膨らませて答えた。

「う、うーん……。いつレンちゃんのパパたちの情報が入るか分からないから待ってて欲しいんだけど……それとミントはあたし達がいない間、入って来た依頼の対応をお願いしたいのだけど……」

「ジー……」

「「じー……」」

エステルの言葉を聞いたレン、ティータ、ミントの3人は恨めしそうな目線でエステルを見た。

「うっ……。トリプルでその目はズルイわよ。」

「いいんじゃねえのか?ティータが付いてりゃ買い物くらい大丈夫だろ。」

「それに2人の護衛としても、ミントさんがちょうどいいと思いますしね。」

3人に見られたエステルは弱めの抵抗をしたが、アガットやエルナンは賛成の様子だった。

「うーん……それもそっか。ミント、ティータ、レンちゃん。あたしたちも夕方には戻るからそれまでには戻ってきなさいよ?それに王都は広いから、迷子にならないよう気を付けるように。」

「はーい!」

「うん、まかせて♪それじゃあレンちゃん、ミントちゃん。さっそく出かけようか?」

「ええ、もちろんよ。お姉さんたち、またね♪」

そして3人はギルドを出た。



「ふふ、すぐに仲良くなっちゃったみたいですね。」

「うん、さすがに年齢が近いだけはあるわね。まあ、ミントは正確に言えば違うんだけど。でも、レンちゃんとティータ、ミントの組み合わせかぁ。微妙に不安なトリオね。」

3人の様子を微笑ましい様子で見送ったクロ―ゼの言葉に頷いたエステルは呟いた。

「あら、どうしてですか?」

「いや、だって……。ティータって押しに弱そうだし。レンちゃんに色々と振り回されそうな気がしない?ミントも元気が良いから、レンちゃんと一緒に振り回しそうな気がするのよね………普段は良い子だけど、まだ子供のようなものじゃない。」

「確かに……」

エステルの話を聞いたクロ―ゼは苦笑しながら頷いた。

「そういやエルナン。あの子の両親の名前はちゃんと聞き出せたのか?」

「ええ、何とか。クロスベル自治州に住む貿易商のご夫妻のようですね。名前は、ハロルド・ヘイワーズとソフィア・ヘイワーズだそうです。」

「クロスベルの貿易商、ハロルド&ソフィア夫妻っと……。うん、手帳にメモしたわ。」

アガットに尋ねられて答えたエルナンの話を聞いたエステルは手帳にメモをした。

「こちらもオーケーだ。脅迫状の調査と合わせて聞き込みを始めるとするか。」

「打ち合わせ通り、エステルさんはエレボニア・カルバード大使館とグランセル城、リベール通信社を当たってください。各大使館については、ジンさん、オリビエさんに協力をお願いします。」

「フッ、任せたまえ。」

「要するに、大使さんに紹介すりゃあいいわけだな。」

エルナンに言われたオリビエとジンは頷いた。



「グランセル城については殿下、お願いします。エステルさんに、しかるべき方を紹介してあげてください。」

「はい、分かりました。………ただ、シルヴァン皇帝陛下達と会えるかは保証できませんが……」

「シルヴァン皇帝陛下達に関しましては今は前と違って、リフィア殿下達がいる訳ではありませんから仕方ありません。シルヴァン皇帝陛下達は可能ならばでいいですので。リベール通信社については、言うまでもなくエステルさん自身が一番の適任ですね。」

「うん、ナイアルに聞いてみるわ。」

エルナンに言われたエステルは頷いた。

「残りの大聖堂、飛行船公社、ホテル・ローエンバウムですが……。アガットさんにまとめて調査をお願いします。」

「ああ。その方が効率がいいだろう。」

「それじゃあ、レッツ・ゴー!」



そしてエステル達は調査を開始した…………



 

 

第29話

調査を開始したエステル達はまず、カルバード大使館にジンの紹介で大使館内に入った。



~カルバード大使館内~



「ほう、これはこれは……」

「へ~、これがカルバード大使館なんだ。さすが立派で豪華な雰囲気ね。」

「それに、どことなく異国情緒のある内装ですね。」

大使館内を見回したオリビエは感心した声を出し、エステルやクロ―ゼはそれぞれの感想を言った。

「ま、東方からの移民を受け入れてきた国だからな。ちなみにエルザ大使の部屋は2階の奥にあるぞ。」

「うん、わかった。」

そしてエステル達はカルバード大使の部屋に向かった。



~エルザ大使の部屋~



「ここが大使の部屋だ。早速、話を聞いてみるか?」

カルバード大使の部屋の扉の前まで来たジンはエステル達に確認した。

「うん、お願い。」

「よし、それじゃあお前さんたちを紹介しよう。」

そしてジンは扉をノックした。

「……?どうぞ、入っていいわ。」

「……失礼しますぜ。」

入室の許可を聞いたジンはエステル達と共に部屋に入った。



「あら、ジンさんじゃない!先日帰国したばかりなのに、またリベールに来たのかしら?」

部屋に入って来た人物達の中からジンを見つけたカルバード大使――エルザ大使は驚いて尋ねた。

「いやぁ、ギルドの仕事でやり残したことがありましてね。またしばらくの間はリベールに滞在しようと思ってます。」

「フフ、さすがはA級遊撃士。何かと忙しいというわけね。ところで、そちらの方々は?」

ジンの話を聞いたエルザは感心した後、エステル達を見て尋ねた。

「えっと、初めまして。遊撃士協会に所属するエステル・ブライトといいます。こちらの2人は協力者のクローゼとオリビエです。」

「フッ、よろしく大使殿。」

「お初にお目にかかります。」

エステルは礼儀正しく自己紹介をし、オリビエとクロ―ゼも続いて会釈をした。

「よろしく。カルバード共和国大使のエルザ・コクランよ。どうやら面倒な話があって訪ねてきたみたいね?」

「ええ、実は……」

そしてエステル達はエルザに脅迫状の件を尋ねてみた。

「あの脅迫状の件か……。それじゃあ、貴方たちは王国軍の依頼で動いているの?」

「一応そういう事になります。ただ、遊撃士協会としても見過ごせる話じゃありません。それを踏まえて協力していただけませんか。」

エルザの質問に頷いたエステルは真剣な表情で尋ねた。



「……ま、いいでしょう。我々にも関係あることだしね。それで、何を聞きたいの?」

「えっと、まずは脅迫者に心当たりがないでしょうか?共和国に、条約締結に関する反対勢力が存在するかとか……」

「それは勿論いるわよ。例えば私なんてそうだしね。」

「ええっ?」

エルザの答えを聞いたエステルは目を丸くして驚いた。

「ちょいと大使さん……。あんまり若いモンをからかわないでくれませんかね?」

その様子を見たジンは呆れた後、注意をした。

「あら、事実は事実だもの。私のエレボニア嫌いは貴方も知っているでしょう?」

「そりゃまあ……」

「ふふ、勘違いしないで。すでに大統領が決定して議会も承認した案件だからね。個人的な感情は抜きにして話は進めさせてもらっているわ。」

「そ、そうですか……。それじゃあ他の反対している人たちは?」

エルザの説明を戸惑いながら頷いたエステルは次の質問をした。

「いるにはいるけど少数派ね。それらの勢力も本気で反対しているわけじゃないし。」

「本気で反対していない?」

エルザの話を聞いたエステルは首を傾げた。

「あのね、そもそも不戦条約って実効性のある条約ではないの。『国家間の対立を戦争によらず話し合いで平和的に解決しましょう』って謳っているだけなのよ。そういう意味では条約というより共同宣言ね。」

「その気になれば、いつでも破れる口約束に過ぎないということだね。」

「ふふ、そういうこと。まあ、確かにここ十数年、カルバードとエレボニアの関係は冷えきっていたから……。それにメンフィルとの関係はリベールほどじゃないし………。今回のような機会を通じて話し合いの場が設けられるのは意義のあることだとは思うけどね。」

オリビエの意見に頷いたエルザは話を続けた。



「う、うーん……。確かに脅迫状を出してまで阻止するほどの話じゃないか。」

「あの、エルザ大使。カルバードの関係者が脅迫犯ではないとするなら……誰が怪しいと思われますか?」

エルザの話を聞き考えているエステルと違い、クロ―ゼは真剣な表情で尋ねた。

「ふふ、そうね。個人的な先入観でいえばエレボニアの主戦派あたりが限りなく怪しいと思うけど……。新型エンジンの件もあるしその可能性も低そうなのよねぇ。」

「新型エンジンって……もしかして『アルセイユ』用の?」

「そう、それのサンプルがカルバードとエレボニア、メンフィルの三方に贈呈されることになっているの。不戦条約の調印式の場でね。」

エステルの疑問にエルザは頷いた。

「あ……!」

「フッ、さすがはアリシア女王。まんまとエレボニアとカルバード、さらにはメンフィルを手玉に取ったということだね。」

「ええ……。悔しいけど大したお方だわ。新型エンジンは、次世代の飛行船の要とも言える存在よ。それがサンプルとはいえ手に入るチャンスなんですもの。いくらエレボニアの主戦派にしたって水は差したくないでしょうね。メンフィルにしてもさらなる導力技術が手に入るチャンスでもあるから、エレボニアと同じく水を差したくないでしょうね。」

オリビエの意見に頷いたエルザは説明した。

「な、なるほど……」

「ふむ、ということは……。3国共に不戦条約を妨害する可能性はかなり低いということですかね。」

エルザの説明にエステルは頷き、納得したジンは確認した。



「そうなるわね。お役に立てなくて申しわけなかったかしら。」

「ううん、そんなことないです。容疑者が減っただけでも状況が分かりやすくなったし。あ、それとは別にお尋ねしたいことがあるんですけど……」

そしてエステルはエルザにレンの両親に関して尋ねた。

「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。ふむ、心当たりはないわね。少なくとも大使館を訪れてはないと思うわ。」

「そうですか……」

エルザの話を聞いたエステルは肩を落とした。

「それにしても”レン”………か。どこかで聞いた名前ね………」

「え!?ど、どこで!?」

考え込んでいるエルザの呟きを聞いたエステルは驚いて尋ねた。

「…………ごめんなさい。聞き覚えはあるんだけど、今は思い出せないわ。思い出したら、ギルドに報告させてもらうわ。」

「はい!お願いします!」

申し訳なさそうな表情で謝るエルザにエステルは明るい表情で頭を下げた。

「それとクロスベルといえばエレボニアとカルバードの中間にある場所よ。エレボニア大使館にも問い合わせてみた方がいいかもしれないわね。」

「はい、わかりました。えっと、色々と教えてもらってどうもありがとうございました。」

エルザの提案にエステルはお礼を言った。



「あら、どういたしまして。ところであなた……エステル・ブライトと言ったわね。もしかしてカシウス准将の娘さん?」

「あ、知ってるんですか?」

「ふふ、あたり前よ。かつてエレボニア軍を破った英雄にして王国軍の新たな指導者ですもの。娘さんがいるとは聞いていたけど、こんな形でお目にかかれるとはね。」

「えっと、あたしはただの新米遊撃士なんですけど……」

エルザに見られたエステルは苦笑しながら答えた。

「ええ、分かってるわ。ウチの大使館もギルドには色々とお世話になっているの。今後、ウチの依頼があったら請け負ってくれると嬉しいわ。」

「あはは……。機会があったら是非。それじゃあ、失礼しました。」



そしてエステル達はカルバード大使館を出た後、エレボニア大使館に向かった………




 

 

第30話

~エレボニア大使館前~



「やあ、兵士君。元気でやってるかい?」

「オ、オリビエさん!?今まで何をしてたんですか。」

呑気に話しかけて来たオリビエに気付いた兵士は慌てて尋ねた。

「おや、どうしたんだい?」

兵士の様子に首を傾げたオリビエは尋ねた。

「どうしたもこうしたも……。エルモに湯治に行ったきり行方をくらましたそうですね?ミュラーさんが怒っていましたよ。」

「フッ……相変わらず可愛い男だな。」

「って、オリビエ……。まさかあんた、あたしたちと一緒に行動していることを大使館に知らせてなかったの?」

兵士の話を聞いたエステルは平然としているオリビエを呆れた表情で睨んで尋ねた。

「ハッハッハッ。愛を求めて彷徨う旅路は忍ぶものと決まっているからねぇ。それはともかく……中に通してもらえるかな?」

「構いませんが……。ええと、そちらの方々は?」

「遊撃士協会の人間よ。こちらの大使さんにちょっと話が聞きたくてね。それで、このお調子者に紹介してもらおうと思ったの。」

エステルは兵士に正遊撃士の紋章と手帳を見せて答えた。

「なるほど、そうでしたか。身分も確かのようですしお通しできると思いますが……。大使館の敷地内は治外法権となっていますのでくれぐれもお気をつけて。」

「うん、わかったわ。」

そしてエステル達はエレボニア大使館の中に入った。



~エレボニア大使館内~



「ほう……こりゃまた立派な建物だな。」

「うわ~……。カルバード大使館に負けず劣らず豪華な雰囲気の内装ねぇ。」

「壮麗にして力強い雰囲気……。帝国風の調度で内装が統一されているようですね。」

「フッ、エレボニアの威光をアピールする舞台だからね。残念ながら役者の方がやや見劣りしているようだが。」

「何を不穏なことを抜かしているか。」

大使館内の景色に感嘆な声を上げているエステル達とは逆にオリビエは不穏な事を呟き、その呟きに答えるかのように近くの部屋からミュラーが出て来て、エステル達に近付いて来た。

「おお、親愛なる友よ!久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「貴様というヤツは……。あれほど常に所在を連絡しろと言いつけておいたにもかかわらず……」

いつもの調子で話しかけて来るオリビエを見て、ミュラーは今にも怒りが爆発しそうな様子だった。

「フッ、これも恋の駆け引きさ。離れているからこそ募る思いもあるものだからねぇ。」

「……エステル君、感謝する。どうやら、このお調子者が迷惑をかけてしまったようだな。」

そしてついにはオリビエを無視して、エステルにお礼を言った。

「あはは……。ま、それほどでもなかったわ。比較的おとなしくしてたしね。」

「まあ、そこの変人は放置しておくとして……。どうやらエレボニア大使館に用があって来たみたいだな?」

「あ、うん。実は、ここの大使さんに話を聞きにきたんだけど……」

エステルはミュラーに脅迫状の件を聞くためにエレボニア大使に面会に来たことを説明した。



「あの脅迫状か……。自分も気にはなっていたがギルドが動くとは思わなかった。王国軍の依頼ということかな。」

「一応、そうだけど……。できるだけ中立の立場で調べさせてもらうつもりよ。」

「ふふ、いい心がけだ。それでは、自分の方からダヴィル大使に紹介しよう。そのお調子者よりは信用してもらえるはずだ。」

「え、いいの!?」

「いやぁ、助かるぜ。」

「ありがとうございます。」

ミュラーの申し出を聞いたエステル達は驚き、明るい表情をしてお礼を言った。

「えっと……。そんなにボクって信用ない?」

一方オリビエは慌てて尋ねた。

「え……。あるとでも思ってたの!?」

「まあ、お前さんの紹介だと余計な誤解を招きそうだしな。」

「えっと……。ごめんなさい、オリビエさん。」

オリビエの疑問にエステルは心外そうな表情で答え、ジンは呆れた表情で答え、クロ―ゼは申し訳なさそうな表情で答えた。

「シクシク……」

「賢明な判断だ。ダヴィル大使は2階の執務室にいる。確認を取ってくるからしばらく待っていてくれ。」

嘘泣きをしているオリビエを無視して、ミュラーはエステル達に言った。

「うん、オッケー。」

そしてミュラーは先に2階に行き、エステル達は少ししてから2階に行き、大使がいる部屋の扉の前で待った。



~ダヴィル大使の部屋~



「えっと……ここが執務室なのかな。」

「フッ、その通りさ。それでは華麗に乱入して大使殿を驚かそうじゃないか。」

「ミュラーさんにぶん殴られるわよ。」

オリビエにエステルが注意したその時、ミュラーが大使の部屋から出て来た。

「待たせたな。大使がお会いになるそうだ。」

「あ、うん。それじゃあ失礼します。」

そしてエステル達はエレボニア大使がいる部屋に入った。



「ようこそ。エレボニア大使館へ。私は駐リベール大使のダヴィル・クライナッハだ。」

エステル達が部屋に入るとエレボニア大使――ダヴィル大使が重々しく名乗った。

「えっと、遊撃士協会のエステル・ブライトです。」

「ジン・ヴァセック。同じく遊撃士協会の者だ。」

「ジェニス王立学園2回生、クローゼ・リンツと申します。」

「そして愛と平和の使者、オリビエ・レンハイムさっ!」

エステル達は礼儀正しく名乗ったが、オリビエはいつもの調子で名乗った。

「フン……君か。何でもエルモ村に行ったきり行方をくらましていたそうだな。あまりミュラー君に心配をかけるのはやめたまえ。もちろん、私にもな。」

ダヴィルはオリビエの調子を無視して、注意をした。

「フッ、これは手厳しい。」

ダヴィルの注意にオリビエは軽く目を閉じて答えた。

「それはともかく……。例の脅迫状の一件で話を聞きに来たそうだな。どんなことが知りたいのかね?」

「えっと………それじゃあ、単刀直入に聞きますけど。大使は脅迫者に心当たりはありませんか。たとえば、エレボニア国内で条約締結に反対する勢力とか。」

ダヴィルの質問にエステルは頷いた後、単刀直入に尋ねた。

「はは、率直な物言いだ。しかしあいにくだが全くもって心当たりはないな。皇帝陛下も条約締結には随分と乗り気でいらっしゃる。それに異を唱える不届き者など我が帝国にいるはずがなかろう?」

「そ、そう断言されると身も蓋もないんですけど……。それじゃあ大使さんは帝国以外の人間の仕業だと?」

ダヴィルの答えを聞いたエステルは溜息を吐いた後、尋ねた。



「当然、そうなるな。おおかた、カルバードあたりの野党勢力の仕業だろう。衆愚政治の弊害というやつだ。」

「そりゃ、どうかと思いますぜ。確かに共和国の与党と野党は毎度のように対立してますが……。たとえ条約が阻止されたとしても大統領の責任になるとは思えない。」

ダヴィルの話を聞いたジンは心外そうな表情で答えた。

「フン、詳しいことは知らんよ。確実に言えるのは、脅迫者が帝国の人間ではありえないことだ。それだけ判れば十分ではないかね?」

「う、うーん……」

ダヴィルの話を聞いたエステルは言葉に詰まった。そこにクロ―ゼがダヴィルに静かに問いかけた。

「……あの、ダヴィル大使。オズボーン宰相閣下は不戦条約について、どのように受け止めてらっしゃるのですか?」

「なに……!?」

クロ―ゼの質問にダヴィルは驚いた。

「ほう……」

「フフ……。なかなか鋭い質問だね。」

一方横で聞いていたミュラーとオリビエは感心した。

「えっと……。そのオズボーンさんって?」

一方クロ―ゼが出した人物の事がわからないエステルは答えを求めて、苦笑しながら尋ねた。そしてエステルの疑問にオリビエが答えた。

「帝国政府の代表者、『鉄血宰相』オズボーン。『国の安定は鉄と血によるべし』と公言してはばからないお方でね。帝国全土に導力鉄道を敷いたり幾つもの自治州を武力併合したりとまあ、とにかく精力的な政治家さ。」

「そ、そんな人がいるんだ……」

オリビエの説明を聞いたエステルは驚いた。



「こ、こらオリビエ君!自国の宰相を、批判めいた言葉で語るのは止めたまえ!」

一方ダヴィルはオリビエを睨んで注意した。

「フッ、別に批判をしているつもりはないけどね。ただ、もう少し協力的になってもバチは当たらないんじゃないかな?先ほど、共和国のエルザ大使から色々と話を聞かせてもらったが……。あちらの方が遥かに協力的だったよ。」

「な、なに!?」

「このままだとエレボニアという国の度量が疑われてしまうことになる……。それがボクには耐えられないのさ。」

「むむむ……」

オリビエの説明を聞いたダヴィルは反論が見つからず、唸ってオリビエを睨んだ。

「ダヴィル大使。その件に関しては秘匿すべき情報はありません。率直な事情を説明しても問題ないのではありませんか?」

「……ふん、まあよかろう。先ほどの質問だが……陛下と同じくオズボーン宰相も条約締結には極めて好意的だ。むしろ宰相の方から陛下に進言したと聞いている。」

そしてミュラーにも言われたダヴィルは重々しく答えた。

「まあ……」

「ほう……」

ダヴィルの話を聞いたクロ―ゼは驚き、オリビエは感心した。

「えっと……。それは条約締結の場で、新型エンジンが手に入るからですか?」

「いや、彼が陛下に進言したのは新型エンジンの話が出る前らしい。まあ、事情はどうであれ私としては妙な圧力がかからずにホッとしているというのが本音だ。」

エステルの質問にダヴィルは否定した後答えた。



「ふむ、なるほどな……。こりゃあ、エレボニア関係者もシロの可能性が高そうだぜ。」

「うん、そうみたいね。大使さん、教えてくれてどうもありがとうございました。」

ジンの推測に頷いたエステルはダヴィルにお礼を言った。

「ふ、ふん……どうだ。私が最初から言った通りだろう。犯人探しがしたければさっさと他を当たるんだな。……ただでさえ、こちらは今回の会談に参加する事に非常に気を張っているのだから、せっかく張った気をまき散らすような事はできればやめてくれ。」

「えっと………どうして、そんなに緊張しているんですか?」

ダヴィルの話を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。

「エステルさん………何と言っても、メンフィルの今回の参加者は現皇帝夫妻のシルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃です。他国の王と王妃が2人揃って直接出て来るのですから、誰でも緊張しますよ。」

「あ、なるほど。えっと………忙しい所、本当にすみません。」

クロ―ゼに言われたエステルは頷いた後、ダヴィルに謝った。

「いや………君達に当たり散らした私も悪かった。………こちらとしても私ではなく、皇帝陛下は無理としてもせめて皇族の一人でも参加させないと、役者不足と思っているのだが………生憎、皇族の方々は皆、スケジュールが合わなかったからな………」

謝られたダヴィルは逆にダヴィルも謝り、疲労感漂う様子で溜息を吐いた。

「それはカルバードも一緒だと思いますぜ。エルザ大使も本来なら自分ではなく大統領を参加させるべきと思っているでしょうし。」

ダヴィルの言葉にジンは頷いて答えた。

「あはは………あ、そうだ!えっと、実はもう1つ聞きたいことがあるんですけど……」

そしてエステルはレンの両親についてダヴィルに尋ねてみた。

「そうか……。それは不憫なことだな。うーむ、帝国商人なら時々この大使館を訪れるが……。さすがにクロスベルの貿易商には心当たりがないな。ミュラー君の方はどうだ?」

「いや……。自分も記憶にはありません。」

「そっか……。うーん、こっちも前途多難な雰囲気ねぇ。」

ダヴィルとミュラーの答えを聞いたエステルはレンの両親の情報が中々手に入らない事に溜息を吐いた。

「しかし、脅迫犯と迷子の親を同時に捜しているとはな……。月並みな言い方にはなるがあきらめずに頑張るといい。」

「あ……はい!」

「では、自分が門まで送ろう。」

そしてエステル達はミュラーと共に大使館を出た。



「ミュラーさん、ありがとう。おかげで大使さんから色々と聞くことができたわ。」

大使館の目の前まで戻って来たエステルはミュラーにお礼を言った。

「いや……大したことはしてないさ。それに本来、4ヶ国の問題だ。協力するのは当たり前だろう。」

「はは、違いない。」

「何とか解決できるといいんですけど……」

「………………………………」

ミュラーの答えを聞いたジンやクロ―ゼは同意していたが、オリビエは何故か真剣な表情で黙っていた。

「あれ……。どうしたの、オリビエ?」

「いや……少し考え事をね。脅迫事件の話じゃないから気にしないでくれたまえ。」

「う、うん……?」

珍しく真剣な様子のオリビエにエステルは首を傾げた。

「………………………………。オリビエ、王都にいる間は大使館に泊まるんだろうな?」

その様子を黙って見ていたミュラーだったが、やがて口を開いて尋ねた。

「フッ、もちろんさ。いつものように君のベッドで甘い夢を見させてもらうよ。」

「ええっ!?」

「まあ……」

オリビエの答えを聞いたエステルとクロ―ゼは驚いた。



「……お嬢さん方が信じるからくだらない冗談をさえずるな。あまり冗談が過ぎると簀巻(すま)きにして床に転がすぞ。」

「いやん、それっていわゆる緊縛プレイ?」

「お望みとあらばな。ミノムシのように窓から吊るしてやってもいい。」

「ごめんなさい。調子に乗りました。」

「うーん、さすが幼なじみ。」

「はは、何だかんだ言ってバッチリ息があっているな。」

ミュラーとオリビエの様子をエステルとジンは感心していた。

「おぞましいことを言わないでもらいたい。まあいい……俺はこれで失礼しよう。調査の方、頑張ってくれ。」

「うん、ありがと。」

そしてミュラーは大使館の中に戻って行った。

「大使館を2つ片付けたからあとはお城とリベール通信ね。手がかりがあるといいんだけど。………とりあえず、一気に二つ片付けられる城に行きましょうか。」

「そうですね……。シルヴァン皇帝陛下達とお会いできればいいのですが……………。とにかく行ってみましょう。」



そしてエステル達は次に一気に2箇所を終わらせる為にグランセル城に向かった………




 

 

第31話

グランセル城に到着したエステル達はまずヒルダと女王に尋ねる事にし、予定外の客達――現メンフィル皇帝、シルヴァン達の歓迎パーティーの準備で忙しく駆け回っていたメイド――シアを見つけ、ヒルダの居場所を聞いた後、ヒルダがいる広間に向かった。



~グランセル城内・1階広間~



「クローディア様!?それにエステルさんも……」

クロ―ゼとエステルに気付いた女官長――ヒルダは驚いた。

「ヒルダさん。ただいま戻りました。」

「えっと、お久しぶりです。」

「ええ、本当に……。姫様がエステル殿に協力なさっていることは私も存じ上げております。2人とも……ご無事で何よりでした。」

変わらず元気の様子のエステル達を見てヒルダは微笑んだ。

「ヒルダさん……」

「ふふ、ありがとう。実はここに戻ってきたのはギルドの調査を兼ねてなんです。メンフィルの王様達を歓迎するパーティーの準備で忙しいと思うのですけど、ヒルダさんに少々お聞きしたいことがありまして。」

「私でよければ何なりと。ただ、エステルさんの申しました通りあまり時間がとれないので、そこはご了承下さい。………ここで話すのはいささか人の目がありますね。客室を使わせていただきましょう。」

ヒルダの提案に頷いたエステル達はヒルダと共に客室に向かった。



~グランセル城内・客室~



「なるほど……。例の脅迫状の調査をなさっているのですか。では、お知りになりたいのは犯人の心当たりでしょうか?」

エステル達から脅迫状の件を聞いたヒルダはエステル達に確認した。

「はい、正にそれです。とりあえず脅迫状の届いた所を一通り回ってみることになって……」

「それはご苦労様です。ですが、心当たりといってもさすがに見当も付きませんわね。城の人間がやったのではないことだけは自信をもって断言できますが……」

「うーん、やっぱりそうよね。」

「城に届いた脅迫状は誰に宛てたものだったのですか?シード中佐は王家宛とおっしゃっていましたが………」

ヒルダの話を聞いたエステルは唸りながら頷き、クロ―ゼは心配そうな表情で尋ねた。

「恐れながら女王陛下に宛てたものでした。陛下宛ての不審な手紙は(あらた)めさせていただいていますから私も内容は存じております。まったく、恐れも知らぬ不届き者がいたものですね。」

「ちょいと失礼……。他に、城に届けられた手紙で不審なものはありませんでしたかね。王室に対する批判めいた内容の文書とか。」

「それは……」

ジンの質問にヒルダは言葉を濁したが

「ヒルダさん。私の方からもお願いします。できるだけ多くの判断材料が欲しいんです。」

「そこまで仰られるなら……。幾つか無記名の文書が届いているのは事実です。ただ、王室に対する批判というものではありません。リシャール大佐の減刑を嘆願するものが多いですわね。おそらく一部の王都市民によるものではないかと……」

リベール王女であるクロ―ゼの頼みを聞き、ヒルダは答えた。

「そ、そうなんだ……」

「ふむ、さすがボクがかつてライバルと目した人物だ。逮捕されてもなお人気とはね。」

ヒルダの話を聞き、クーデターの犯人だったリシャールが未だに人気がある事を知ったエステルは驚き、オリビエは感心しながら頷いた。



「大佐が有能な人物であったのは誰もが認める所でしょうから……。それを惜しむ人がいても何ら不思議ではないでしょうね。」

「しかし、そうした手紙と脅迫状は関係なさそうですな。どうやら王室を動かすことが目的というわけではなさそうだ。」

「うーん、それが分かっただけでも良しとしますか。そうそう、ヒルダさん。もう1つ聞きたいことがあるんですけど……」

そしてエステルはレンの両親の事を尋ねた。

「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。ええ、存じていますわ。」

「ええっ!?」

「ヒルダさんのお知り合いですか?」

ヒルダの答えを聞いたエステルは驚き、クロ―ゼも驚きながら尋ねた。

「いえ、2日ほど前に城内の見学を希望された方です。たまたま手が空いておりましたので私が案内させていただきました。確かに、奥様とお嬢様をお連れになっていましたね。」

「そ、そういうことね……」

「両親がどこに行ったかの手がかりにはならなさそうだね。」

重要な手掛かりにはならなかった事にエステルは苦笑し、オリビエは頷いた。

「ただ……少々気になることが。」

「気になること?」

ヒルダが真剣な表情で語った言葉にエステルは首を傾げた。



「お嬢様の方は、とても楽しげに見学してらっしゃったのですが……それと対照的に、ご両親の方は心ここに在らずといった雰囲気でした。私と話すときは普通にしていましたが多分、無理をしていたのかもしれません。」

「ここを初めて見学したにも関わらず心ここに在らずという雰囲気か……。悩みごとがあった可能性は高そうだな。」

「そうですね……。その時点で、何かのトラブルに巻き込まれていたのかもしれません。」

「ふむ、そのあたりに行方を捜す手がかりがあるのかもしれないね。」

ヒルダの話を聞いたジン、クロ―ゼ、オリビエはそれぞれ意見を言った。

「ヒルダさん、ありがとう。結構いいヒントを聞かせてもらっちゃいました。」

「それはようございました。ところで姫様、それに皆様……。今夜は当然、グランセル城にお泊りになられるのですよね?」

「へっ……?」

ヒルダの質問にエステルは驚いた後、首を傾げた。

「私はシルヴァン皇帝陛下達にお祖母様と共に応対する必要もありますから、王都に滞在している間はやっかいになるつもりですが……。皆さんはどうなさいますか?」

ヒルダの質問に答えたクロ―ゼはエステル達を見て、尋ねた。

「先ほど言ったようにボクはエレボニア大使館でやっかいになるつもりでね。ご好意だけ受け取っておくよ。」

「俺もカルバード大使館に泊まらせてもらうつもりだ。謹んで辞退させてもらおう。」

「うーん、あたしはアガットとティータ、ミントにも相談してみないと…………レンちゃんの事もあるしね。」

「そうでしたね………」

オリビエ達の答えを聞いたクロ―ゼは納得して、頷いた。



「それでは、いつお泊りになって頂いても構わないようお部屋の準備をさせて頂きます。」

「ありがとう、ヒルダさん。」

「よろしくお願いします。」

「お任せください。私は歓迎パーティーの準備に戻りますが皆さんはどうぞごゆっくりなさってください。それでは失礼します。」

そしてヒルダは客室を出て行った。

「さてと……。次は女王様に会わなくちゃ。女王宮にいらっしゃるんだっけ?」

「はい、多分そちらだと思います。」

「フッ、それでは挨拶させていただこうか。」



そしてエステル達はアリシア女王に話を聞くために女王宮に向かった。



~女王宮・テラス~



「ふふ……。やっと来てくれましたね。」

エステル達が女王がいるテラスに来るとリベールの女王――アリシア女王は微笑みながら、エステル達の方に振りむいた。

「へ……」

「お祖母様……?」

自分達が来る事をわかっていた様子の女王にエステルとクロ―ゼは驚いた。

「ピューイ!」

「あれ、ジーク?」

「なるほど……。ふふ、ジークが気を利かせてくれたんですね。」

自分達が来る事を知っていた理由がジークと気付いたクロ―ゼは微笑んだ。

「ええ、貴方たちが来ることを教えてくれました。お帰りなさい、クローディア。そしてエステルさん……よく来てくださいましたね。事情はカシウス殿から一通り聞かせてもらいました。本当に……色々と大変でしたね。」

「あ……。えへへ、気遣っていただいてどうもありがとうございます。でも、やるべき事は見えているしクローゼたちも助けてくれています。だから、あたしは大丈夫です。」

女王に気遣われたエステルは恥ずかしそうに笑いながら答えた。

「そう……。ふふ、しばらく見ないうちに本当に頼もしくなりましたね。…………オリビエさんもジンさんもようこそいらっしゃいました。どうぞ、部屋にお戻りください。紅茶の用意をさせてもらいます。」

そしてエステル達は女王と共に女王の私室に向かった。



~女王宮・アリシア女王の私室~



「そう……。脅迫状の件で来たのですか。まさか、各国の大使館や教会にまで届いていたとは……。単なる悪戯とは思えなくなってきましたね。」

エステル達から事情を聞いた女王は真剣な表情で答えた。

「はい、そうなんです。そこで、関係者から話を聞いて脅迫犯についての目星をつけようということになって……」

「お祖母様は、今回の件に関して何か心当たりはありませんか?特に国内に関してですけど……」

「そうですね……。クローディア。あなた自身はどう思いますか?」

クロ―ゼの質問に対し、女王は逆にクロ―ゼに問い返した。

「私……ですか?」

「あなたも王位継承者ならば日頃から国内情勢について考えを巡らせているはず……。それを聞かせてもらえますか?」

「は、はい……。………………………………」

女王に言われたクロ―ゼは頷いた後、しばらくの間考え、そして答えを言った。

「不戦条約そのものに関して国内で反対する勢力はほとんどないと思います。ですが、クーデター事件後、極右勢力が追い詰められているという話を聞いたことがあります。それが脅迫状という形で現れた可能性はあるかもしれません。」

「ふふ……さすがね。私の意見も大体同じです。」

クロ―ゼの答えに満足した女王は頷いた。

「えっと、どういう事ですか?」

話を理解できないエステルは尋ねた。

「リシャール大佐以外にも軍拡を主張していた人々は少なくありませんでした。ですがクーデター事件後、そうした主張は完全に封じられた形になっています。さぞかし不安と不満を募らせていることでしょうね。」

「えっと、要するに……リシャール大佐以外の軍拡主義者の嫌がらせですか?」

「そう言っても差し支えないかもしれません。もしそうだとしたら……それは彼らの罪というより他ならぬ私の責任でしょうね。リベールでは言論の自由が認められているのですから……」

エステルの質問に答えた女王は辛そうな表情で答えた。



「お祖母様……」

「あんまり同情する必要ないと思うんですけど……」

「いえ、言論の自由というものは何よりも増して貴いものです。軍拡論にしても、愛国の精神から来ているのは間違いありません。そうしたものをすべて検討しつつ国の舵取りをしていくこと……。それが国家元首の責任なのです。」

女王は真剣な表情でエステル達に語った。

「………………………………」

その様子をクローゼは黙って見ていた。

「ふむ、しかしそうなると……実際に条約が阻止される危険は低いということですかね?」

「脅迫犯が軍拡主義者ならばそう言えるかもしれませんね。リシャール大佐が逮捕された今、彼らに事を起こす力はありません。問題は、それ以外の人間が脅迫犯だった場合なのですが……。その可能性については私にも見当がついていない状況です。」

ジンの質問に答えた女王は目を伏せて、犯人に目星がつかない事を語った。

「そうですか……」

「アリシア女王。1つお聞きしてもよろしいか?」

「ええ、何なりと。」

そこにオリビエが女王に尋ね、尋ねられた女王は頷いた。

「陛下はなぜ、今この時期に不戦条約を提唱されたのですか?何しろクーデター事件の混乱も完全に収まりきってはいない状況だ。今は国外よりも国内のみに目を向けるべきだと思うのですが。」

「ちょっとオリビエ……」

オリビエの際どい質問にエステルはオリビエをジト目で睨んで注意した。



「ふふ、オリビエさんの仰る通りかもしれませんね。ですが不戦条約に関してはクーデター事件よりも以前に三国の政府に打診していました。それを遅らせたとあっては国家の威信にも関わるでしょう。それに『クロスベル問題』も再び加熱しているようですしね。」

「ほう……」

「クロスベルって……レンちゃんの住んでる自治州?」

女王の答えを聞いたオリビエは感心した声を出し、エステルはある土地名が出た事に驚いた後、尋ねた。

「ええ、エレボニアとカルバードの中間に存在している自治州です。近年、この自治州の帰属を巡って両国は激しく対立してきました。」

「ま、帝国と共和国のノドに刺さった魚の骨みたいなもんだ。それに関するイザコザをひっくるめて『クロスベル問題』って言われている。」

「そっか……そういう場所だったんだ。」

女王とジンの説明を聞いたエステルは納得した。

「つまり、不戦条約を通じてリベールが魚の骨を抜く……。それを狙ってらっしゃるのですね。」

そしてオリビエは感心した様子で尋ねた。

「一朝一夕に片づく問題ではないでしょう。ただ、そのきっかけを提供できればと思っていました。そしてそれは、大陸西部の安定とリベールの発言権を高めることにも繋がるはずです。」

「フッ、お見それしました。どうやらリベール侵攻は想像以上の愚行だったらしい。それを改めて痛感しましたよ。」

「今さら何を言ってるんだか……。あ、そうだ。ちょっと話は変わりますけど。」

オリビエの発言に呆れたエステルだったが、レンの両親の事を女王に説明した。



「まあ……そんなことが。」

「さすがに女王様には心当たりはないですよねぇ?」

話を聞き、驚いている様子の女王にエステルは確認した。

「ええ……申しわけありませんが……。グランセル城を訪ねていたらヒルダ夫人が知っていると思いますが……もう訪ねてみましたか?」

「はい……」

「ヒルダさんにも心当たりはないそうです。」

「そうですか……。お望みでしたら、クロスベルの自治政府に連絡を取りましょう。いつでも相談してください」

「あ……はい!」

女王の心強い言葉にエステルは明るい表情で頷いた。

「………それにしても”レン”ですか……………………」

しかしその後、女王はレンの名前を口にし、考え込んだ。

「……あの~。実はカルバードの大使さんもレンちゃんの事をどこかで知っている風な様子だったんです。もしかして女王様もどこかで聞いた事があるんですか?」

「………はい。ただ、お恥ずかしながらどこで知ったのか思い出せないのです。………聞き覚えがあるのは確かなんですが………恐らく、数年前にその名を聞いた事があるような気がするんです………」

「そうですか………あ、そうだ。実は女王様にお願いしたい事がありまして。」

女王の答えを聞いたエステルは肩を落とした後、ある事を女王に頼もうとした。

「何でしょう?私で協力出来る事があるのでしたら、協力しますが。」

「えっと…………今、お城にいるお客さん………リフィアのご両親――シルヴァン皇帝陛下かカミ―リ皇妃に会えないでしょうか?」

「………………なるほど。確かにシルヴァン皇帝陛下宛にも届きましたから、直接聞く必要がありますね。………必ず会えると保証はできませんが、できる限りの事はやってみます。少し待っていて下さい。」

そして女王はヒルダを呼び、ヒルダに伝言を伝えた後、ヒルダが戻って来るまでエステル達を自分の私室に待たせ、待っている間、紅茶を淹れなおした。



「そう言えば、メンフィルの今の王様とお妃様ってどんな人なんですか?」

ヒルダが戻って来るまで紅茶を楽しんでいたエステルは唐突に尋ねた。

「………シルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃ですね。………まず、カミ―リ皇妃ですが……やはりお母上似なのか、容姿もそうですが、性格もどことなくカーリアン殿に似ていました。」

「フッ………あの美しく、扇情的な”戦妃”のご息女となると、さぞかしすばらしい女性だろうね♪会うのが楽しみになって来たよ♪」

女王の話を聞いたオリビエはカミ―リの姿を妄想して、表情を緩めた。

「頼むから、いつもの調子で声をかけるのだけはやめてくれよ………国際問題になっちまう。」

「そうね!しっかり見張っとかないと!」

「あ、あはは………それでお祖母様。シルヴァン皇帝陛下はどのような方なんですか?」

オリビエの様子を見てジンは溜息を吐いて注意し、エステルはジンの言葉に大きく頷き、クロ―ゼは何も言えず苦笑した後、女王に尋ねた。

「今までその名しか知られていなかった現メンフィル皇帝、シルヴァン皇帝陛下ですが………さすがはリウイ皇帝陛下の血を引くご子息と言った所でした。礼儀正しい方ですが………若々しい方ですがどことなく”覇気”を感じました。それと夫妻揃って帯剣している所を見ると、武の腕に相当の自信があるようにも感じられました。」

「へっ!?王様とお妃様なのに武器を装備しているの!?」

「ふむ。両親達があれだけ強いのだから、その子供達が強くてもおかしくはないか。」

「さすがは”大陸最強”を誇る国の王と妃と言ったところかな。」

「そうですね………さすがは”剣皇”と謳われるリウイ皇帝陛下のご子息とご息女ですね………プリネさんやリフィアさんのように武の腕も相当なのでしょうね………」

女王の話を聞き、シルヴァン達が武器を装備している事にエステルは驚き、ジンやオリビエ、クロ―ゼは納得した。



「ご歓談中ですが、失礼します……」

その時ヒルダが戻って来た。

「ヒルダ夫人。シルヴァン陛下達はなんと?」

戻って来たヒルダに女王は尋ねた。

「はい。最初は乗り気でないご様子でしたが、みなさんの名前――エステルさんの名前を出しますと陛下達はぜひにと、エステルさんに会う事を希望されました。」

「へっ!?な、なんでメンフィルの王様とお妃様があたしなんかに会いたいの!?」

ヒルダの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。

「フフ………正遊撃士になる為の旅でリフィアさんとプリネさんがお世話になったから親として………兄姉として挨拶をしておきたいのかもしれませんね。」

「あ、なるほど。………それにしてもリフィアの両親か。………うん、なんだか会うのが楽しみになって来たわ!………それじゃあ、女王様。あたし達はこれで失礼します。」

「はい。………クロ―ディア。陛下達に失礼のないようにね。」

「はい、お祖母様。」



そしてエステル達はヒルダの案内によって、シルヴァン達が滞在しているグランセル城の離宮に向かった………






 

 

第32話

~グランセル城・離宮前~



「ここは…………」

ヒルダの案内によって桟橋から見える離宮を見たクロ―ゼは驚いた表情をした。

「……殿下にとっては懐かしい場所でしょうね。」

「ふむ。女王宮とは別の王宮である所を見ると、もしかして亡くなられた王太子夫婦が住まわれていた王宮かな?」

「はい。…………シルヴァン陛下達は兵士や親衛隊員の方達も含め、かなりの数で来られましたから、殿下には申し訳ないのですが、女王陛下の許可の元、こちらを使わせて頂きました。」

オリビエの疑問に答えたヒルダはクロ―ゼに頭を下げて謝罪した。

「いえ………私より辛い思いをされたお祖母様が決心なされたのなら、私からは言う事はありません。だから、気にしないで下さい。」

謝罪するヒルダにクロ―ゼは微笑んで答えた。

「………もったいなきお言葉です。………申し訳ないのですがまたパーティーの準備が残っているので私が御一緒できるのはここまでです。」

「あ、大丈夫です。ここからはあたし達で行けますから。」

「………わかりました。それでは失礼します。」

エステルの言葉に頷いたヒルダはエステル達に一礼をした後、城に戻った。

「さて………ついにメンフィルの王様達とご対面ね!まさか、こんな日が来るとは思わなかったわ~。」

「ハハ………ここにいるみんな、お前さんと同じ感想を持っているよ。」

「はい。………私なんか、ドレスで来るべきだったと後悔しています。」

「フッ………いざ行かん、”覇王”の血を引きし者達の元へ!」

エステルの言葉にジンは頷き、クロ―ゼは苦笑しながら答え、オリビエはいつもの調子で仕切った。そしてエステル達は桟橋を渡り、離宮の前を守っているメンフィル兵達に自分達の名前を告げ、離宮へと入って行った。



~離宮内~



「………さすがは”大陸最強”の兵士達と言った所か。一人一人、只者じゃないな。恐らくだが、正遊撃士或いは王室親衛隊員並の実力はあると感じるぜ。」

離宮内を歩いていたジンは周囲のメンフィル兵達を見て、真剣な表情で呟いた。

「メンフィルの兵士さん達はあたしにとっては馴染み深い存在だけど………改めて見ると、みんな凄い気配を感じるわね。」

「メンフィルの真の強さは白兵戦と聞きます。一般兵がそれだけ強いとなると、『空の王者』と畏怖を持たれている竜騎士(ドラゴンナイト)や親衛隊の方達はどれほどの強さなんでしょうか?」

エステルの呟きにクロ―ゼは答え、未だ見ない竜騎士や親衛隊員の強さが気になった。

「フッ………しかし、みな物々しい雰囲気ばかりだね。よし、こういう時こそボクのリュートで張り詰めた空気を和ませて………」

「やめなさいっての。下手したらそれこそ外交問題になるでしょーが。ミュラーさんに知らされたいの?」

リュートを取り出したオリビエをエステルはジト目で睨んで注意した。

「それだけは勘弁して下さい………」

エステルの注意を受けたオリビエは肩を落として答えた。そしてエステル達は離宮を登り、2階の空中庭園に出た。



~離宮・空中庭園~



エステル達が空中庭園に出るとそこには十数匹の”飛竜”が手すり等に繋がれていた。

「へっ!?り、竜!?」

「もしかしてこいつらが噂の”竜騎士”が乗る”飛竜”っていうやつか………」

「話には聞いていましたけど、こうして見ると、本当に驚きますね………”竜”が大人しく従っているのですし。」

飛竜を見たエステルは驚き、ジンは真剣な表情で飛竜を見て、クロ―ゼは驚きの表情で飛竜を見ていた。

「ふむ………どれどれ……」

そしてオリビエは飛竜に近付いたが

「グオッ!」

なんと飛竜はオリビエに向かって口から火の玉を吐いた!

「おおっと!?」

火の玉に気付いたオリビエは慌てて回避し、飛竜から離れた。

「何やっているのよ、このスチャラカ演奏家は~!」

それを見たエステルが怒ったその時



「……その子達は乗り手以外の者が近付くと容赦なく攻撃します。なので決して不用意に近付かないで下さい。」

太陽に輝くような黄金の髪を腰までなびかせ、紅い瞳を持ち、耳は尖り、白銀と漆黒の大鎌を対に背負い甲冑を装備した一人の女性がエステル達に近付いて来た。

「す、すみません!以後、こんな事がないように気をつけます!ほら!アンタも謝りなさい!」

「スミマセンでした………」

女性に気付いたエステルは無理やりオリビエの頭を下げさせ、オリビエと共に謝罪した。

「フフ………こちらの世界では飛竜は珍しいですからね。近付いてみたくなるのも無理はありません。」

女性は口元に笑みを浮かべて答えた。

「飛竜が懐いているという事はもしかしてお前さん………”竜騎士”かい?」

ジンは飛竜のの中でも一際大きい飛竜に近付いて撫でている女性を見て尋ねた。ジンに言われた女性は姿勢を正して自己紹介をした。

「……紹介が遅れ、申し訳ありません。メンフィル帝国軍、竜騎士団の長を務めるサフィナ・L・マーシルンと申します。以後、お見知り置きを。」

「あ、遊撃士協会のエステル・ブライトって言います。」

「同じく遊撃士協会のジン・ヴァセックだ。」

「リベール王女、クロ―ディア・フォン・アウスレーゼです。………名高き”竜騎士”殿に出会えて、光栄です。」

「そしてボクは漂泊の吟遊詩人にして、愛と平和の使者、オリビエ・レンハイムさ!ぜひ、ボクの曲を一曲聞いて頂けますか?レディ?」

エステル達も女性――サフィナに続くように自己紹介をしたがオリビエはいつもの調子でナンパをし始めた。

「こ~の~スチャラカ演奏家は~!!あれほど、やめろってさっき言ったでしょ!?」

「エレボニアが誤解されても知らねえぞ………」

その様子を見たエステルはオリビエを怒鳴り、ジンは呆れて溜息を吐いた。



「フフ………」

その様子を見ていたサフィナは口元に笑みを浮かべていた。

「あ!す、すみません!お見苦しい所を見せてしまって…………」

「別に構いませんよ。慣れていますから。」

「あはは………あれ?そう言えば、さっき名乗った時”マーシルン”って名乗っていましたけど……」

サフィナの言葉に苦笑したエステルはある事が気になり、呟いた。

「もしかして、シルヴァン皇帝陛下達と縁のある方ですか?」

そしてクロ―ゼは驚いてサフィナに正体を尋ねた。

「はい。陛下達と私は異母兄妹になります。我が父は”謳われし闇王”リウイ・マーシルン、母は”空の守護者”ティファーナ・ルクセンベール。………プリネ達のお世話をして頂きありがとうございました、エステル殿。」

「あはは………お世話になったのはどっちかと言うとあたし達の方なんだけどな……」

サフィナにお礼を言われたエステルは苦笑した。

「………何やら騒がしいな。」

「どうかしたのかしら、サフィナ。」

「あら。知らされていたとはいえ、懐かしい顔ぶれね。」

そこに黒を基調としたどことなく高級感のある服に白銀の肩当てを両肩に身に付け、腰まで届くほどの白銀のマントを羽織り、薄い緑の髪とサフィナと同じ紅い瞳を持った精悍な顔つきをした青年と、胸元を開いた漆黒のドレスに首元に真紅の宝石を身に付け、髪型、体つき、顔つきの全てがカーリアンとどことなく似ていて唯一違うのは紅い瞳である女性がファーミシルスと共にエステル達に近付いて来た。また、2人の耳は尖っており、青年は聖剣(セレンティア)、女性は長剣(リジェラ)をそれぞれ帯剣していた。

「………陛下。それにカミ―リ様も。………お疲れ様です、大将軍。」

3人が近付いて来るとサフィナは敬礼をした。



「フウ…………公式の場でない限りは家族としての呼び方でいいと、いつも言っているだろう?」

「そうよ~。血が半分しか繋がっていないとはいえ、私達は家族なんだから、そんな堅苦しい呼び方をされるとお姉さん、悲しんじゃうわよ~?」

青年は溜息を吐いた後、口元に笑みを浮かべて指摘し、女性は笑顔をサフィナに向け、からかうような口調で言った。

「フフ………そうでしたね。シルヴァン兄上、カミ―リ姉上。」

2人の指摘を受けたサフィナは青年――リウイとシルフィアの息子にして現メンフィル皇帝――シルヴァンと、リウイとカーリアンの娘にしてシルヴァンの妻――カミ―リに苦笑しながら答えた。

「えっ!?じゃ、じゃあ………もしかして2人が………!」

「現メンフィル皇帝夫妻の、シルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃ですか!?」

一方サフィナ達の会話を聞いていたエステルとクロ―ゼは驚いた。

「メンフィル皇妃、カミ―リ・マーシルンよ。よろしくね♪」

「………メンフィル皇帝、シルヴァン・マーシルン。詳しい話は中で聞こう。」

カミ―リは片目をウインクして自己紹介をし、シルヴァンは静かな声で自己紹介をした。



そしてエステル達はシルヴァン達と共にシルヴァンとカミ―リが泊まっている客室に向かった………


 

 

第33話

~離宮内・メンフィル皇帝夫妻の客室~



「あ、あはは………それにしてもどうして、メンフィルの王様とお妃様があたしみたいな身分のない小娘に会いたいと思ったんですか?」

シルヴァン達の客室に入り、席に着いたエステルは苦笑しながら尋ねた。

「フッ…………」

「フフ………」

エステルに尋ねられたシルヴァンとカミ―リは口元に笑みを浮かべた。

「へ?あ、あの………あたし、何かおかしな事を言いました??」

2人の様子を見たエステルは首を傾げて尋ねた。

「フフ………おかしいも何も、貴女、私の両親達を呼び捨てにしているそうじゃない。あの父さんすらも気軽な態度で呼び捨てにできるのに、父さんの子供である私達に対しておじげづいているなんて、おかしな話よ?」

「カミ―リの言う通りだ。………それにお転婆娘(リフィア)(プリネ)の身分を知っていながら、対等な友人になったという君とは一度、話したくてな。カミ―リの言う通り、おじげづく事はない。………私達の事は君の友人のただの親、もしくは兄姉と思ってもらえばいい。」

カミ―リは笑いながら答え、シルヴァンは優しさが籠ったような笑みで答えた。

「ハハ………メンフィルの皇帝陛下達に気軽な態度で接してくれなんて事を言ってもらえるなんて、お前さんぐらいだよ。」

「フフ………エステルさんには本当に驚かされますね。」

「ハッハッハ!さすがはエステル君だよ♪」

その様子を見たジン達はそれぞれ笑いながらエステルに感心した。

「う、う~ん………あたしはそんな大した事はしていないんだけどな…………えっと、お久しぶりです、大将軍さん。」

ジン達の言葉を聞いて苦笑したエステルはファーミシルスを見て、挨拶をした。



「………そうね。しばらく見ない内に随分と腕を上げたようね。」

「あはは………大将軍さん達と比べれば、あたしなんてまだまだですよ。………その。お礼を言うのが遅くなりましたが………”百日戦役”の時、お母さんを助けてくれてありがとうございました。」

「………私はリウイ様の命に従ったまで。感謝をするのなら、あなたの母親の傷を癒して救ったリフィア様とペテレーネに感謝をしなさい。」

お礼を言うエステルにファーミシルスは何でもない風に答えた。

「もちろん、2人にもお礼を言いました。………それでもお礼を言いたかったんです。本当にありがとうございました。」

「………………………そこまで言うのなら、貴女の感謝の言葉は受け取っておくわ。」

律儀にお礼を言うエステルをファーミシルスは静かに答えた。

「それにしても、お二人とも帯剣をしている所を見ると、やはり武を嗜んでいるのですか?」

そしてクロ―ゼはシルヴァンとカミ―リがそれぞれ装備している武器を見た後、尋ねた。

「まあね。イーリュンの信徒のティア姉さんを除いて、私達マーシルン家の者はみんな、父さん達に鍛えられているからね。護身にもちょうどいいし。」

クロ―ゼの質問にカミ―リは頷いて答えた。

「………とは言っても、父上達と比べれば私達の武はまだまだだ。」

「そうですね。………いつかは父上達の領域に達しないと………」

「フフ………リウイ様達の血を引く陛下達なら、いつか必ず到達しますわ。」

シルヴァンとサフィナの呟きを聞いたファーミシルスは不敵な笑みを浮かべて答えた。



「さて………ヒルダ女官長から話は聞いてはいたが、私宛に届いた脅迫状の件で尋ねて来たのだったな?」

「あ、はい。王国軍の依頼ですが、中立の立場をとっている遊撃士協会としても見過ごせる話じゃありません。どうか、ご協力をお願いできませんか?」

シルヴァンに話をふられたエステルは頷いた後、尋ねた。

「別に構わないが………生憎ながら我々メンフィルには心当たりは一切ない。なんせ、他の3国と違ってメンフィルは異世界にあるのだしな。」

「ですよね~………」

シルヴァンの答えを聞いたエステルは肩を落として頷いた。

「フム………ならば貴方達、メンフィルに恨みを抱いている者達や今の政権に反対している者達の可能性はどうですかな?」

「ちょっと、オリビエ…………」

そこにオリビエが質問し、オリビエの質問を聞いたエステルはジト目で睨んだ。

「メンフィルに恨みを抱いている者や現政権に異を唱えている者等、数え上げればキリがない。眷属の中でも人間との共存を嫌う者……それとは逆に眷属を恐れ、共存に反対する人間………光勢力に一部の光の神殿………過去の戦で我々に敗れた者達等、星の数ほどいる。………最近で言えば、”百日戦役”で我等の力を見せつけ、逆らう気力もなくすほど叩きつぶしたエレボニアと言った所か。」

「フッ。これは手厳しい。」

不敵な笑みを浮かべたシルヴァンに見られたオリビエは悠々とした表情で頷いた。



「そ、そんなにいるんですか!?………けど、どうしてみんな、仲良くできないんだろう………?種族は違えど、みんな同じ”人”なんだから、きっと解り合えると思うのに………」

シルヴァンの話を聞いたエステルは驚いた後、悲しそうな表情をした。

「「……………………」」

「……………フフ、なるほど。さすがは父さん達が一目置いている娘ね♪」

「はい。………プリネ達は本当によき友を作りましたね………」

エステルの言葉を聞いたシルヴァンとファーミシルスは驚いた表情をし、カミ―リは口元に笑みを浮かべて答え、サフィナも笑みを浮かべてカミ―リの言葉に頷いた。

「あの………あたし、何か変な事をいいました?あたしにとっては当然だと思うのですけど…………」

シルヴァン達の様子を見たエステルは首を傾げて尋ねた。

「いや………君の言う通りだ。お互いに嫌い合っている者達や我等を目の仇にする光の神殿の者達に君の言葉を聞かせてやりたいぐらいだよ。」

「フフ………我が国にとってぜひ、欲しい人材ですわね。」

シルヴァンは口元に笑みを浮かべて答え、ファーミシルスも笑みを浮かべてシルヴァンの意見に同意した。

「それにしても、”あの方”と似たような考えを持っているなんて、本当に驚きね♪」

「”あの方”??」

カミ―リの言葉を聞いたエステルは首を傾げた。

「………カミ―リ姉上。」

「あら。つい、口が滑っちゃったわ。ちょっと、不味かったようね。」

サフィナに咎めるような目線を向けられたカミ―リは気不味そうな表情をした。

「…………私達が言わなくても、リフィアがいつか口に出していただろう。……………エステル。君達の修行の旅にリフィア達が同行していた時、父上――リウイの正妃の話をリフィア達はしたかな?」

「あ、はい。少しだけですが。………あの。ずっと気になっていたんですがリウイの正妃様ってどんな方だったんですか?」

シルヴァンに尋ねられたエステルは頷いた後、尋ねた。

「………話しても構わないか?ファーミシルス。」

「………私はメンフィルの将。私ごときに許可等取らず、陛下のご判断でお話し下さい。」

「………わかった。……………………………」

ファーミシルスの言葉を聞いたシルヴァンはしばらくの間考えた後、やがて口を開いた。



「父上の正妃様………正妃様が持つ優しさは聖母のような包み込むような優しさと聞いている。……敵国の民にも我等メンフィルが制圧した後、危害を加えない事を伝える為に自ら民に声をかけていたと言われている。そして誰よりも人間と闇夜の眷属の共存を願い、争いのない世界を心から願っていた方にして父上を誰よりも心から愛していた方だ。」

「………”覇王”と称されるリウイ皇帝陛下を支え、”国”に拘らず民を思う本当に素晴らしい方だったのですね。」

シルヴァンの話を聞いたクロ―ゼは眩しそうな目で頷いた。

「制圧直後の敵国の民に自ら声をかけまくるなんて、中々度胸のある妃殿だったのですな。」

「フッ。ぜひ、一度お会いしたかったよ♪」

ジンは驚き、オリビエは表情を緩めた。

「………正妃様はその優しさから皆からこう称されていた。”聖王妃”と。」

「”聖王妃”………”闇王”とか”覇王”とか称されているリウイとは真逆ですね。名前はなんという方なんですか?」

エステルはリウイの愛妻の二つ名に呆けた後、名前が気になり、尋ねた。

「………”イリーナ・マーシルン”。………その方が父上の愛妻にして、メンフィルの歴史に伝えられる伝説の妃だ。」

(……ん?どこかで聞いた名前だね?)

「”イリーナ・マーシルン”………あれ?確か、リフィアの本名で同じ名前があったような………?」

シルヴァンから告げられたリウイの愛妻――イリーナの名を聞いたオリビエは首を傾げ、エステルは呆けた後、ある事に気付いて尋ねた。

「………あの娘には父上と共に人と魔の共存を目指した方を忘れて欲しくなくて、イリーナ様の名を頂いた。………あの娘もそれをわかっているのか、”イリーナ”という名前が自分にある事に誇りを持っている。」

「そうね。人と魔の共存を願ったイリーナ様のようになるためなのか、あの娘ったら光と闇………両方の魔術を収めているからね。………イリーナ様はあの娘が尊敬している数少ない方よ。」

「そうだったんですか……………」

リフィアの本名の真実を知ったエステルは驚いた表情をしていた。

「話がそれて悪かったな。」

「そ、そんな!凄く貴重なお話が聞けて、凄くよかったです!」

軽く謝るシルヴァンにエステルは恐縮しながら答えた。

「さて………話はこれでお終いかしら?」

「あ、ちょっと待って下さい。まだ、聞きたい事があるんです。」

そしてエステルはレンの両親の事をシルヴァン達に説明した。

「ハロルド・ヘイワーズ………悪いが心当たりはない。私達は最近、こちらの世界に来たばかりでな。どちらかと言うと、父上の方が知っている可能性がある。」

「やっぱり、そうですか…………ご協力、ありがとうございました。」

シルヴァンの答えを予想していたエステルは納得した後、お礼を言った。



「ふむ………代わりと言ってはなんだが、君が引き取った竜の娘の親友――ツーヤのその後の話なら教えられるが?」

「え!?本当ですか!ツーヤ、あの後はどうしているんですか!?ミントも凄く気にしているんです!」

シルヴァンの話を聞いたエステルは身を乗り出すかのように尋ねた。

「ツーヤという女性だが………才能があるのか、淑女や侍女見習いが学ぶ礼儀作法は数日で極め、武も相当の腕を持っていて、ファーミシルスが直々に鍛えた親衛隊員と遜色ない強さになり、皇女であるプリネの傍仕えとして相応しい者だよ。」

「ツーヤちゃん、プリネさんの傍にいる為に凄く頑張ったんですね………」

「ふえ~………それを聞いたら、ミントも凄く喜ぶだろうな………ってあれ?”女性”??ツーヤの見た目は”女の子”なんですけど。」

ツーヤのその後を聞いたクロ―ゼは感心し、エステルは驚いた後、シルヴァンの言い方に首を傾げた。

「ああ、言い忘れていたな。父上やリフィア達が君が頼んだ剣の修復の為に、旅に出た事は知っているか?」

「あ、はい。ルースって人から教えて貰いました。」

「………そう言えば、私達が居ない間の大使館の守りの指揮を執っていたのルースだったわね………」

エステルの話を聞いたファーミシルスは数か月前の事を思い出していた。

「目的を果たした父上達が最近、帰還したのだが………その際ツーヤという少女は大人――女性に”成長”していた。」

「え、えええええええ~!?」

「数ヶ月前は子供だったのに、今は大人だなんて、いくらなんでもおかしいと思うのですが………」

シルヴァンの説明を聞いたエステルは声を上げて驚き、クロ―ゼは信じられない表情をしていた。

「私も自分の目を疑ったが事実だ。………これがその証拠だ。プリネの隣に写っているのが今のツーヤだ。」

そしてシルヴァンは一枚の写真をエステル達に渡した。



「うわっ………!プリネの隣に写っているこの人、ツーヤが大人になったら、まさに!って思うぐらいツーヤの面影がある………!」

「この間まで子供だったのに今は大人だなんて、やはり”竜”の成長の仕方は私達と違うんですね………」

「ほお~………これはまた、とんでもない美人になったものだな。」

「おおう………!今すぐにでも、ボクの愛を届けたいよ♪」

写真――プリネとプリネの隣に写っている黒髪の女性――ツーヤを見たエステルやクロ―ゼは驚き、ジンはツーヤの容姿を見て感心し、オリビエはだらしない表情になっていた。

「フフ………それにしても母さんや私をも超えるスタイルに成長しちゃったのを見て、私も少しショックを受けたわよ。スタイルには自信があったのに、その娘ったら、私達を完全に越えちゃったもの。さすがは竜といった所ね。」

「カミ―リ姉上。種族と身体つきは関係ないと思うのですが………」

カミ―リの言葉を聞いたサフィナは呆れていた。

「し、信じられない………!と言う事はミントも成長したら、ツーヤみたいに凄く美人で立派なスタイルになっちゃうのかな……?だとしたらあたし、女として完全に負けるよ~!ううっ……親としては成長して欲しいけど、そこまで成長されたら正直、複雑な気分よ………」

「エ、エステルさん。ミントちゃんがツーヤちゃんと同じように成長するとは限らないと思いますし、元気を出して下さい。」

ミントが成長した時の姿を想像したエステルはショックを受け、その様子を見たクロ―ゼはエステルを元気づけていた。

「その写真はプリネから私達がグランセルに来た際、君達に会うような機会があれば渡すよう、伝えられている。持っていくといい。」

「あ、ありがとうございます。ミントやティータも驚くでしょうけど、喜ぶと思いますし。」

シルヴァンの言葉を聞いたエステルはお礼を言った後、懐に貰った写真を収めた。

「話の続きになるが………プリネの傍仕えとしてそれなりの身分と名を与えるよう、リフィアから頼まれていてな………ツーヤに与える名も決まったし、近い内、位と名を与えるつもりだ。」

「そ、そこまで立派になるんだ、ツーヤ………ちなみに名前を与えるって言ってますけど、何か意味があるんですか?」

ツーヤの未来を聞いたエステルは驚いた後、ある事が気になって尋ねた。

「当然あるわよ♪この娘に与える名は父さん――リウイの側室の方の家名だから、私達マーシルン家に連なる者になるようなものだから、プリネの傍仕えをしても、誰にも責められる事はないわ。」

そしてエステルの疑問にカミ―リがウインクをして答えた。



「……もし、よければツーヤちゃんが今後名乗る名を聞いてもよろしいでしょうか?」

カミ―リの言葉を聞いたクロ―ゼは尋ねた。そしてクロ―ゼの質問にシルヴァンは答えた。

「”ルクセンベール”。それがその娘に与える家名だ。」

「”ルクセンベール”………あれ?確かその名前、サフィナさんのお母さんの名前じゃあ………?」

シルヴァンの話を聞いたエステルは名前を復唱した後、ある事を思い出して、サフィナを見た。

「ええ。少し事情があって私は母上の名をミドルネームとして使っていますが、普段は名乗っていないのです。……母上が父上の”竜騎士”として誓ったように主君であるプリネに誰にも負けぬほどの忠誠を持っているその娘なら与えてもいいと思って、私も許可しました。」

エステルの疑問にサフィナは微笑みながら答えた。

「そうなんですか………あの、今日は本当にありがとうございました。」

「お忙しい中、時間を取って頂いて本当にありがとうございました。」

エステルとクロ―ゼはシルヴァン達に頭を下げてお礼を言った。、

「何、私達もリフィア達の友人になった君やこちらの世界で唯一の同盟国の姫とも話せたし、有意義な時間になったよ。」

「遊撃士の仕事、頑張ってね♪」

「エステル殿達の活躍を今後も楽しみにさせて頂きます。」

「はい!………それじゃあ、あたし達はこれで失礼します。」

そしてエステル達はシルヴァン達にお辞儀をした後、客室を出て行った。



「…………それにしても、レン様の事は教えなくてよかったのですか、陛下。」

エステル達の気配がなくなった頃、黙っていたファーミシルスはシルヴァンに尋ねた。

「……構わん。レン自身からも何故”これ”を送ったのかも”これ”とは別の手紙に理由が書かれてあったしな……どちらに転ぼうが我々にとって損にはなるまい。ようやくできた”アレ”の”実験”もできる事だしな。」

「……にしてもあの娘ったら、年の割にかなり黒い事を考えるわね~。本当に11歳かしら?」

ファーミシルスの問いにシルヴァンは懐から脅迫状を出して静かに答え、カミ―リは呆れて溜息を吐いていた。

「まあ、今はそれはいい。………サフィナ、事の成り行きはお前に任せた。万が一、王国側が劣勢になる時があれば連れて来たお前の部隊全員を使って加勢しても構わん。」

「ハッ。」

シルヴァンの指示にサフィナは敬礼をして、了承した。



~グランセル城内~



「いや~、さすがは”大陸最強”を誇るメンフィルの王様達ね。あたしでも3人が凄く強いのを感じたわよ。」

「ああ。俺達を軽く超えているように俺も感じたよ。さすがは”剣皇”達の血を引く子供達と言ったところか。」

「「………………………」」

エステルとジンがシルヴァン達に会った感想を言っている中、オリビエとクロ―ゼは黙っていた。

「あれ?2人とも、どうしたの?」

2人の様子に気付いたエステルは尋ねた。

「いや、何。…………こんな形で現メンフィル皇帝陛下達と出会えるとは思わなくてね。ボクにも色々思うところがあるんだよ。」

「アンタが~?どうせ、皇妃様とサフィナさんに見惚れていたんじゃないの~?2人とも美人だったし。」

オリビエの言葉を聞いたエステルはジト目でオリビエを睨んだ。

「ハッハッハ!さすがはエステル君だよ♪共に旅をしているお陰でもう、ボクの事はなんでもお見通しかな♪」

「ふざけた事言ってんじゃないわよ!」

酔いしれた様子のオリビエを見て、エステルは怒鳴った。

「……………」

一方クロ―ゼは浮かない様子で黙っていた。



「どうしたの、クローゼ?」

「あ、いえ……。シルヴァン皇帝陛下達の雰囲気に呑まれてしまって……口調はリウイ皇帝陛下と比べればどこか優しく感じましたが、陛下達が無意識に出す雰囲気を感じるとやはり私など足元にも及びませんね……お祖母様の域で対等な形で接しているのですから、私のような未熟者には無理と感じてしまって………陛下達の雰囲気に呑みこれまれないお祖母様の凄さを改めて実感してしまいました。………もし、私が女王になれば、将来シルヴァン陛下達と何度も会談する機会はあるでしょうし……その時、私は陛下達の雰囲気に呑みこまれてしまうのではないかと、恐れているんです。」

「あ……」

苦笑して説明しているクロ―ゼを見て、エステルは心配そうな表情で見た。その様子を見たオリビエは唐突にクロ―ゼに質問した。

「ふむ、姫殿下。女王陛下は幾つの時に即位されたんだったかな?」

「あ、はい。20の時だったと思います。」

「で、姫殿下は幾つだい?」

「16になりますが……。……あ……」

オリビエの質問に答えたクロ―ゼはある事に気付いた。

「フッ、そういうことだ。陛下も即位された当初から今の政治手腕を振るい、さまざまな貴族、王族の者達と接してきたわけではないだろう。まして今の貴女は、陛下が即位した時よりも若いんだ。比べても仕方ないだろう?」

「武術における『理』の境地は『器』のあるものにしか至れない。その『器』を持っていても一歩一歩の積み重ねがなければ絶対に到達することはできない。そして、陛下はあなたに『理』に至る『器』を見出した。焦ることはないと思いますぜ。」

「皆さん……。……ありがとうございます。」

自分を元気づけるオリビエとジンにクロ―ゼはお礼を言った。

「ふふ、2人ともいいこと言うじゃない。伊達に年は食ってないわね。」

「失敬な……。ボクはまだ25歳だよ?ジンさんよりも5歳も若いのだからね。」

「失敬なのはお前さんの方だろうが……」

エステルに言われたオリビエは心外そうな表情でエステルを見て指摘し、オリビエの指摘を聞いたジンは呆れた。

「クスクス……。とりあえず、これでお祖母様とヒルダさん、シルヴァン陛下達から話が聞けましたね。」

「うん……。そろそろ市街に戻ろっか?」



そしてエステル達はグランセル城を出た………………


 

 

第34話

エステル達が城に出ると、既に夕方になっており、エステル達は最後の尋ねる場所である、リベール通信社に向かった。



~リベール通信社3階・資料室~



「あ、いたいた。お~い、ナイアル。こんにちは~。」

「あん……?なんだなんだ!お前さんたちかよ!」

資料を調べていたナイアルはエステルに話しかけられ、エステル達を見て口元に笑みを浮かべた。

「こんにちは、ナイアルさん。」

「フッ、お邪魔させてもらうよ。」

「は~、姫殿下に演奏家に『不動のジン』までいるのか。ずいぶん賑やかじゃねえか。」

エステル達の顔ぶれを見たナイアルは驚いた。

「えへへ………あの後、また色々あったのよね。ナイアルは市長選の取材、無事終わったみたいじゃない?」

「フフン、あたぼうよ。それで今日はどうした?何か美味しいネタでもあるかよ。」

エステルに尋ねられたナイアルは得意げに胸を張った後、期待した表情で尋ねた。

「いや、どちらかというとあたしたちの方が知りたくてねここに届けられた脅迫状について聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ、お前らもそいつを追ってやがるのか?てっきり王国軍が調べてると思ったんだが……」

エステルの話を聞いたナイアルは意外そうな表情をした。

「うん、その軍からの依頼で調査を手伝っているんだけど……。何か情報は入ってないかな?」

「うーん、俺の方も王都に戻ってきたばかりで大した情報は入ってねぇんだ。どちらかというとお前らに聞きたいくらいだぜ。」

「なんだ、使えないわね~。」

「君もマスコミの人間だろう。犯人の見当くらい付いてるんじゃないのかね?」

「ぐっ……失礼な連中だな。」

エステルとオリビエの指摘にナイアルは唸った。



「お2人とも、失礼ですよ。あの、ナイアルさん。無理を承知でお願いします。ささいな情報でも構わないので教えて頂けないでしょうか。」

「ちょ、ちょっと姫殿下!頭を下げないでくださいよ!ああもう……仕方ねえなあ。」

頭を下げるクロ―ゼを見たナイアルは慌てて話し出した。

「これはオフレコだが……脅迫状がどうやらここだけじゃないらしい。まずはレイストン要塞……そして大聖堂に飛行船公社にホテル・ローエンバウム……さらにはエレボニアとカルバードの大使館にグランセル城、エルベ離宮、そして……メンフィルの現皇帝、シルヴァン皇帝陛下宛にもう一枚、グランセル城……。全部で10箇所も届けられたらしい。」

「「「「…………………」」」」

「ん、どした?」

何の反応も示さないエステル達に首を傾げたナイアルは尋ねた。

「あの、ナイアル……。その情報ならとっくに軍の人から教えてもらったんだけど……」

「なぬ~っ!?し、仕入れたばかりの最新のネタだっつーのに……」

エステルから話を聞いたナイアルは驚いた後、肩を落とした。

「こりゃ、聞くだけ無駄か。」

「うん、他を当たった方がいいかもしれないわね……」

そしてエステル達が帰ろうとしたその時

「ちょ~っと待ったあっ!そこまでコケにされちゃあリベールきっての敏腕記者、ナイアル・バーンズの名がすたるぜ。いいだろう……現時点での俺様の推理をお前さんたちに聞かせてやるよ!」

ナイアルは慌ててエステル達を呼び止めた。

「ふーん……」

「フッ、手短に頼むよ。」

「ぐっ……いいかよく聞け。俺はな、今回の事件は愉快犯の仕業だと睨んでいる。」

あまり乗り気でないエステル達に唸った後、ナイアルは話しだした。

「うーん、それはあたしたちも考えたけど。」

「そう確信する理由を聞かせてもらいたいもんだな?」

「記者としての経験から言うと……あの脅迫状にはリアリティがないのさ。そもそも脅迫状ってのは具体的かつ現実的な要求を掲げて初めて意味があるもんだ。だが、あの脅迫状にはそれがない。」

「フム、確かにそれはそうだね。単に『災いが起こる』だけじゃ関係者としても対応しようがない。」

ナイアルの話を聞いたオリビエは頷いた。



「そういうことだ。とても本気で、条約そのものを妨害するつもりだとは思えねぇ。誰だか知らんが、世間を騒がして喜んでいるだけだと思うのさ。」

「な、なるほど……」

「一理ありそうですね。ただ、脅迫状が10箇所、それもシルヴァン皇帝陛下宛にも届いたのが気になりますけど……。どれも条約に関係している所ばかりのようですし。」

「確かに、ただの愉快犯にしちゃ事情を知りすぎているようだ。」

「うーん、それを言われると……。ただ、そうした事情ってのはその気になれば調べられるもんだ。とりあえず、俺は愉快犯の前提で情報を集めてみようと思っている。お前さんたちは、別の視点から動いてみるのもいいだろうさ。」

クロ―ゼやジンの話を聞いたナイアルは考え込んだ後、答えた。

「うん、そうね。ありがと、ナイアル。結構、貴重な意見だったかも。」

「フフン、そうだろ?まあ、何か分かったらお互い情報交換するとしようぜ。俺も不戦条約の締結までは王都に腰を据えるつもりだしな。」

「あ、そうなんだ。そういえば……ドロシーはどうしてるの?」

ナイアルの今後を聞いたエステルは社内にいなかったドロシーの事を思い出して、尋ねた。

「ああ、あいつならボースに出張中さ。ちょいと写真を撮ってきてもらいたくてな」

「特集?」

「王国軍関連の特集さ。空賊どもが使っていた中世の砦があっただろう?今、あそこは王国軍の訓練基地になっているんだ。飛行船の操縦訓練なんかが行われているらしいぜ。」

「へえ、そうなんだ。それじゃ、その基地の取材に行ってるわけね。」

「まーな。いまだに1人に任せるのはちょいと心配なんだが……」

エステルに答えたナイアルは疲労感が漂う様子で溜息を吐いた。

「うーん……確かに否定できないわね。あ、そうだ。ナイアルに聞きたいことがもう1つあるんだけど。」

「あん?」

そしてエステルは今までと同じようにレンの両親の事を尋ねた。

「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワーズ……。うーん、聞いたことねぇな。ウチの『尋ね人』欄にも載せてなかったと思うぜ。(にしても”レン”か……どっかで聞いた事があるんだがな………?)」

「そっか……」

「ま、サービスのついでだ。どうしても見つからなかったら俺の方でも力になってやるよ。『尋ね人』欄に載せるなりクロスベル方面の知り合いに聞いてみるなりできるだろ。」

「ありがと、ナイアル。えへへ、なんだか今日はいつもよりも頼もしいわねぇ。ちょっぴり見直しちゃったわ。」

「そーだろ、そーだろ。って、いつもは頼もしくないってことかよっ!?」

エステルに感心されたナイアルだったが、ある事に気付いて、突っ込んだ。



「や~ねえ。言葉のアヤだってば。」

「よし、それじゃあそろそろギルドに戻るか。アガットのやつも戻ってきてるだろう。」

「フッ、そうだね。」

「ナイアルさん。どうもありがとうございました。」

「いやいや、また来て下さいよ。」



その後エステル達は今まで手に入れた情報を報告する為に、ギルドに向かった。

~遊撃士協会・グランセル支部~



「ただいま~。」

「おっと、戻ってきやがったか。」

エステル達がギルドに戻ると既にアガットが戻っていた。

「ゴメン、ゴメン。ちょっと遅くなっちゃった。えっと……ミント達は?」

「つい先ほど戻ってらっしゃいましたよ。ミントさんは先ほど入った依頼の対応でちょうど出て行きました。2人は今2階で、お買い物の戦果を見せ合っているみたいですね。」

「そっか。楽しんできたみたいね。ミントも頑張っているわね。えっとそれじゃあ、あたしたちも報告しようかな。」

「ええ、よろしくお願いします。」

そしてエステル達は集めて来た情報をエルナンとアガットに説明した。



「なるほどな……。ずいぶん色々な情報を掴んできたじゃねえか。」

「ええ。それにしてもまさかシルヴァン皇帝陛下達とお会い出来たとは……リフィアさん達と親交のあったエステルさんのお陰ですね。」

「あはは………まあ、決定的なことは何も分かってないけどね。アガットの方はどうだった?」

アガットとエルナンに感心されたエステルは苦笑した後、アガットに尋ねた。

「正直、どこもハズレでな。大聖堂、ホテル、飛行船公社……どこも脅迫状を送ってきた犯人の心当たりはないそうだ。飛行船公社は、空賊事件みたいに後からミラの要求があることを警戒しているみてぇだが……。今の所、その要求もないらしい。」

「そっか……。結局、犯人の可能性は色々と考えられるんだけど……。『結社』の仕業って可能性はどこまであるのかしら?」

「……何とも言えませんね。これまでの事件を見る限り、彼らは今のところ『ゴスペル』の実験以外の活動はしていません。そして、『ゴスペル』は普通では考えられない現象を引き起こすことが分かっています。」

エステルの言葉にエルナンは真剣な表情で頷いた。

「フム、その意味で今回の脅迫事件は確かに毛色が違っていそうだね。」

「現時点で、結社の関与を示す兆候は見られないってことだな。」

「うーん……。警戒のしすぎなのかしら。」

オリビエやジンの意見を聞いたエステルは悩んだ。

「いえ、警戒しておくに越したことはないと思います。とりあえず、今できる調査は全てやったと考えていいでしょう。皆さんの報告は、私の方でレポートとしてまとめておきます。明日、それをエルベ離宮にいるシード中佐に届けてもらえますか?」

「うん……。結局、犯人は分からなかったから申しわけないけど、仕方ないよね。そういえばアガット。レンちゃんの方はどうだった?」

エルナンの言葉に頷いたエステルはレンの事で何か進展があったのかをアガットに尋ねた。

「そっちは幾つか判ったことがある。まずはホテルだが……あの子と両親は4日ばかり王都に滞在していたようだな。その間、ずっとホテルの同じ部屋に泊まっていたらしい。で、今朝、チェックアウトしたそうだぞ。」

「なるほど……」

「次に大聖堂だが……。滞在中、何度か大聖堂に礼拝に来ていたみたいだな。で、応対した司祭が言うには両親の様子が変だったそうだ。礼拝中、上の空だったらしい。」

「ヒルダ夫人の話と同じですね。」

「うん……」

アガットの話を聞き心配そうな表情のクロ―ゼの言葉にエステルは頷いた。



「最後に飛行船公社だったが……。……実はな。見つからなかったんだ。」

「へ……何が?」

けげんそうな表情のアガットの話にエステルは首を傾げた。

「クロスベル出身のヘイワーズ夫妻とレン………ここ半年くらいの乗客名簿には該当者が見当たらなかったんだ。」

「ええっ!?」

「フム……ミステリーだね。となると、陸路を通ってリベールに来たということかな?」

「いや………さすがにそれはありえないな。クロスベルとリベールは遥かに離れている。陸路で来るにはとてつもなく手間もそうだが、時間がかかりすぎる。」

アガットの話を聞いたエステルは驚き、オリビエは推測をしたが、ジンは首を横に振って否定した。

「そうですね…………だとすれば、ご両親が偽名を使っていたのかもしれませんね。」

ジンの意見に頷いたエルナンは真剣な表情で言った。

「ぎ、偽名……」

エルナンの推測にエステルは信じられない表情をした。

「後ろ暗いことがあったのか、トラブルを恐れていたのか……。いずれにせよ、旅に出る前から危険は予測していたみたいだな。」

「………………………………」

アガットの推測を聞いたエステルは心配そうな表情をした。



「レンさんのご両親については各地のギルドにも連絡しました。今はあせらず、情報が入るのを待った方がいいかもしれませんね。とりあえず、レンさんですが……しばらくギルドで預かった方がいいかもしれません。」

「うん……トラブルに巻き込まれる危険もあるしね。えっと、よかったらあたしに預けてくれない?他人事とは思えないし……」

「そう言って頂けると助かります。王都滞在中、皆さんの宿泊はギルドが手配させていただきます。レンさんの宿泊費も持たせて頂くのでご安心を。」

「正直、助かっちゃうわ。あ、そういえばヒルダさんの話があったっけ?」

そしてエステルはアガット達に王城に泊まってはどうかという申し出があったことを説明した。

「ほう、そんな話が……」

「……俺は遠慮するぜ。何度も泊まるにはさすがに堅苦しそうだ。ホテルの方が、何か起こった時ギルドと連絡がつきやすいしな。」

「それは確かにそうかも……。レンちゃんの両親の連絡が入ってくるかもしれないし。クローゼ、悪いんだけど……」

アガットの話を聞いたエステルは頷いた後、申し訳なさそうな表情でクロ―ゼを見た。

「ふふ、お気になさらずに。ヒルダさんの方には私の方から説明しておきます。」

「ボクとジンさんはそれぞれの大使館泊まり。姫殿下はグランセル城泊まり。君たち2人と年少組はホテル泊まりというわけだね。その前にどうだろう。せっかくだから、ミント君が戻って来たら酒場で一緒に夕食を共にしないかい?」

「あ、いいかもね。オリビエのピアノも久しぶりに聞いてみたいし。ミントも喜ぶと思うわ。」

オリビエの提案にエステルは頷いた。

「フッ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。エステル君もようやく大人の味が判ってきたようだね♪」

「いかがわしい言い方するんじゃないわよ。」

「しかし、そういう事ならすぐに出かけた方がいいな。これだけの大所帯だ。席がなくなる可能性もある。」

「じゃあ、あたしは残ってミントを待っているね。」

「わかった、チビたちを呼んでとっとと俺達は先に酒場に向かって席を確保するとするか。」



その晩、エステルたちはレンと共に『サニーベル・イン』で夕食を取ることになった。その内、当然のように酒盛りとオリビエのピアノ演奏が始まり……しまいにはナイアルとミュラーまで酒場に呼び出されて参加する始末……。王都の夕べは、そうして楽しく過ぎていった。



~王都グランセル・北街区・夜~



「さてと……あたしたちはここまでね。クローゼ。気を付けて帰ってね。」

ホテルの前に到着したエステル達はクロ―ゼと一端別れる事にした。

「ふふ、近くですから大丈夫ですよ。」

「あら、お姉さん?このあたりに住んでいるの?(うふふ……シルヴァンお兄様達が城にいるんだから、お姫様は戻って対応しないと不味いものね。)」

クロ―ゼの話を聞いたレンは内心わかっていながら首を傾げて尋ねた。

「え、ええ。親戚の家に泊まるんです。それでは皆さん、失礼します。」

「ああ、また明日な。」

「「クローゼさん、さよーなら!」」

そしてクロ―ゼはグランセル城に帰って行った。

「それにしても……。やたらと盛り上がったわねぇ。オリビエに呼び出されてミュラーさんまで来ちゃうし。」

「ミントは凄くにぎやかで楽しかったよ!」

エステルの話を聞いたミントは嬉しそうな表情で語った。

「そういうお前だってあの記者を呼んだじゃねえか。」

「あはは……どうせだったらと思ってね。レンちゃんの方はどうだった?」

アガットの指摘に苦笑したエステルはレンに尋ねた。

「うふふ、楽しかったわ。お料理も美味しかったし、面白い話もいっぱい聞けたし。ピアノも凄くステキだったわ。」

「うんうん、オリビエさんってピアノがとっても上手なんだね。ちょっとビックリしちゃった。」

「ミントは前に少しだけ聞いた事があるけど、最初から聞いたのは初めてなんだ。やっぱりオリビエさん、凄く上手いね!」

「ま、一応演奏家を名乗っているくらいだからね。アガットの方は切り上げてもよかったの?まだジンさんたちは盛り上がってたみたいだけど。」

レン達の感想を聞いたエステルは頷いた後、アガットに尋ねた。

「あいつらに付き合ってたらいつまでもキリがねぇからな。散々歩き回って疲れたし、とっとと休むことにするぜ。」

「そうね。あたしたちもホテルの部屋を取りますか。」

そしてエステル達はホテルに入った。



~ホテル・ローエンバウム~



「遊撃士協会の方ですね?お話は伺っております。生憎ですが、5人全ての方が泊まれる部屋はありませんので……。2人部屋を2つ、1人部屋を1つという形でお願いできませんでしょうか?」

エステル達が受付に近付くと受け付けは部屋割りをする許可を尋ねた。

「あ、そうなんだ。アガット。どういう風に分かれる?」

「俺はどこでもいい。お前らで好きなように決めろや。」

「だったらレンはお姉さんと一緒がいいわ。ずっとお仕事ばっかりであんまり話せなかったんだもの。」

「あ、レンちゃんズルい。私もお姉ちゃんと一緒に部屋がいいのに……」

「そうだよ~。ミントもママと一緒に寝ようと思ったのに……」

エステルとアガットの話を聞いたレンは真っ先に申し出、それを聞いたティータとミントはレンを恨めしげな目線で見た。

「ふふん、言った者勝ちよ。何だったら一緒のベッドに寝てもいいけど?」

「えへへ、うそうそ。今夜はレンちゃんにお姉ちゃんを譲ってあげる。」

「うん。ミントはいつもママと寝ているから、いいよ。ティータちゃん、今日は一緒におしゃべりしながら寝よう!」

「うん!」

「うふふ。ありがと、2人とも。」

「うーん……。譲られちゃったわ。」

ミント達の会話を聞いていたエステルは苦笑していた。

「だったら俺は1人部屋だな。じゃあ、とっとと休むぞ。」

そしてエステル達はそれぞれの部屋に向かった。



~エステルとレンの宿泊部屋~



「わぁ、パパたちと一緒に泊まった部屋とは違うわね。むこうの窓からはおっきな建物が見えるし……」

「あ……」

部屋に入ったレンが周りを見渡している中、エステルはヨシュアとホテルに泊まった時の事を思い出していた。そしてエステルの様子に気付いたレンは尋ねた。

「どうしたの、お姉さん?」

「あ、うん、ちょっとね。それよりも……レンちゃん、ごめんね。パパとママのことなかなか見つけられなくて。」

「ううん、いいの。だってパパたち、ちゃんと迎えに来てくれるってレンに約束してくれたもの。別にお姉さんたちが無理をして捜すことないわ。」

「でも……」

自分を慰めているレンにエステルは申し訳なさそうな表情をした。

「レンのパパとママはかくれんぼが上手だったの。もちろん、レンほどじゃないけどね。だから簡単には見つからないと思うわ。」

「あはは、そっか。それじゃあ無理はしないでノンビリ捜すことにするわね。」

「ええ、それがいいわ。それよりも……レン、お姉さんに2つお願いがあるんだけど。」

「お願い?なに?」

レンの頼みにエステルは首を傾げて尋ねた。

「あら、だめよ。お願いを聞いてくれるって約束してくれなければ言えないわ。」

「そうきたか……。あたしに出来ることなら何でも叶えてあげるわよ。」

「ほんと?うれしい!最初のお願いはね……レンのことは、レンって呼んで。」

「???ああ……!呼び捨てでいいってこと?」

レンの頼みに意味がわからなかったエステルだったが、すぐに気付いて尋ねた。



「ええ、そうよ。ティータやミントは呼び捨てなのにレンだけ“ちゃん”付けなのはちょっと納得いかないわ。」

「あはは……そういうもん?うん、別にいいけど……。何だったらあたしのこともエステルって呼び捨てにする?」

「お姉さんを?エステル……エステル……うん、いいかもしれないわ♪(なるほどね。エステルが無意識に持つこの親しみやすい雰囲気にお姉様達は感じて、すぐに親しくなったのね。フフ……さすがはお姉様達が友達になっただけあって、ただの人間じゃないわね。)」

「あはは……だったらそう呼んでよ。よろしくね、レン。」

「よろしく、エステル。うふふ……うれしいな。」

「ふふ、そっかそっか。それでレン。もう1つのお願いって?」

嬉しそうにしているレンを見た後、エステルは尋ねた。

「ええ、あのね……。さっき、部屋に入った時驚いた理由を教えてくれる?」

「あ……」

「エステル、ちょっとだけ哀しそうな顔をしてたわ。だから気になっちゃたの。」

「……そっか。前にね、この部屋にある人と泊まったことがあるの。その人のこと、ちょっと思い出しちゃってね。」

「わあ!それってやっぱり恋人!?」

エステルの話を聞いたレンは目を輝かせて尋ねた。

「ふふ……残念ながらそうじゃないわ。家族として一緒に暮らしていたあたしの兄弟みたいな人かな。今はちょっと一緒にいないんだけど……」

「ふーん……。その人ってどういうお兄さんなの?名前は?見た目は?(うふふ……実はお姉様達から話を聞いているから、知っているけど、やっぱり一番近しい人から聞かないとね♪)」

そしてレンは興味津々にエステルが話す人物の事を尋ねた。



「あ、うん……。ヨシュアっていうんだけど。黒髪に琥珀色の瞳をしててかなりのハンサムだったかな。んー、ハンサムっていうより美人って言うべきなのかしら。」

「美人さん?(あら?確か、ヨシュア・ブライトは男のはずなんだけどな……)」

エステルの言葉にレンは首を傾げた。

「ふふ、だってお芝居とかでお姫様の格好とかしちゃってね。これがまた、恐いくらいに似合っちゃうようなヤツなのよ。」

「うわぁ、いいわねぇ~。レンもその人に一度会ってみたいわ。ねえねえ、いつ会えるの?」

「あ、うん……。それはちょっと分からないな。」

「………………………………。ひょっとして、いつ会えるか分からないから哀しいの?(……どういう事かしら?お姉様達の話だと、2人はいつ恋人になってもおかしくない雰囲気だったし、2人が離れるなんてありえないほど仲がいいって聞いていたけど……そう言えば、エステルが正遊撃士になってから、ヨシュア・ブライトの情報が無いのが気になっていたのよね……)」

エステルの話を聞いたレンはプリネ達から聞いていた話と違う事や疑問に思っている事に内心首を傾げて、考えている事を顔に出さず、エステルに尋ねた。

「……ううん、それは平気。何年かかっても絶対に連れ戻すって決めているから。」

「それじゃあ、どうして?」

「きっと今ごろヨシュアは無理をしていると思うから……。なのに……支えてあげられないのが……ちょっと哀しいかな。」

「………………………………(ヨシュア・ブライト……確か”剣聖”が突如養子にした少年で、出身等は全て不明……その辺りが関係しているのかしら?)」

「あはは、ゴメンゴメン。こんな話、事情を知らないレンには面白くないよね。」

自分を見て黙っているレンを見たエステルは苦笑しながら謝った。

「ううん、そんなことないわ。そのヨシュアってお兄さん、本当にステキなヒトみたいね。」

「素敵ねぇ……。けっこう酷いヤツだと思うけど。あんな勝手な別れ方をして……あ、あたしの初めてを……」

「?初めて?」

「わわっ、何でもない!今日は疲れちゃったしそろそろ寝るとしましょ!」

「あ~、ごまかした!もう、全部聞き出すまでゼッタイに眠らないんだから!」

「うう、しまったなぁ……」



その後、エステルとレンはベッドに入ってからも他愛のないお喋りをしていた。やがて、レンがうつらうつらとして穏やかな寝息を立て始めた頃……疲れの溜まっていたエステルも自然と眼を閉じ、そのまま寝息を立て始めた…………



一方その頃、エステル達と別行動で結社を調べているシェラザードとアネラスはある目的の為にラヴィンヌ廃坑を見張っていた………






 

 

外伝~道化師との邂逅~

~ラヴィンヌ廃坑・深夜~



真夜中のラヴィンヌ廃坑になんと数ヶ月前、各地で暗躍し、クーデター事件以降行方をくらませた特務兵達が入っていった。その様子を陰からシェラザードとアネラスが見張っていた。

「ふふっ……ビンゴみたいですね。」

「ええ……ようやく尻尾を掴んだわ。それにしてもラヴェンヌ廃坑とはね。上手い場所に目を付けたもんだわ。」

アネラスの言葉に頷いたシェラザードは特務兵達を感心していた。

「確か、空賊団が定期船の荷物を奪うために利用した場所でしたよね?」

「ええ、そうよ。途中にある露天掘りの場所で空賊団の一味と交戦したわ。」

「とすると……。そこをアジトにしている可能性が高そうですねぇ。どうします?このまま踏み込みますか?」

シェラザードの話を聞いて少しの間考えたアネラスは推論を出した後、シェラザードに判断をあえいだ。

「ええ、ギルドと軍に連絡しているヒマはないわ。とりあえず潜入して残党の規模を確かめるわよ。」

「ラジャーです。」

そして2人は特務兵達を追うように廃坑に入って行った。



~ラヴィンヌ廃坑・奥~



廃坑の奥まで進んだ2人はいくつかのテントと焚き火を見つけた。

「おかしいわね……。予想通りのアジトみたいだけど……。人の気配が感じられないわ。」

アネラスと共に物陰に隠れて様子をうかがっていたシェラザードは眉を顰めた。

「そ、そうですねぇ……。さっきの兵士たち、どこに行っちゃったのかな?」

「さて……気付かれたか、あるいは……。まあ、いいわ。とにかく慎重に調べましょう。」

そして2人は慎重に近付いて行き、テントの中を調べ始めた。

「ダメですねぇ。もぬけの殻って感じです。先輩の方はどうですか?」

「こっちも同じよ。留守中なのか、あるいは拠点を移った直後なのか……。せめて行き先が分かるような手がかりがあるといいんだけど。」

アネラスに尋ねられたシェラザードは溜息を吐いた後、考え込んだ。

「えっと、行き先の手がかりにはならなさそうなんですけど……。あっちのテントでこのファイルを見つけました。」

「あら、見せてみて。」

シェラザードはアネラスからファイルを受け取り、受け取ったファイルを読み始めた。

「ふーん……。妙な図面が書かれているわね。『オルグイユ』開発計画……。何かの乗物の設計図みたいね。」

「『オルグイユ』……ちょっとオシャレな名前ですね。やっぱり飛行船なんでしょうか?」

「うーん、専門家じゃないからちょっと判りかねるけど……。……あら?」

シェラザードはファイルの中にはさまっていた何かを見つけ、思わず声に出した。



「どうしたんですか?」

「ページの間にメモがあったわ。『招待状は配り終わった。テーブルとイスも用意した。お茶会の準備はこれでお仕舞い。あとはお茶菓子を焼いてお客様が集まるのを待つだけ』」

「へ~。ほのぼのとした内容ですねぇ。何だか絵本の一節みたい。」

「ふむ……どうやら何かの符牒(ふちょう)みたいね。問題は何を意味しているメッセージかなんだけど……」

シェラザードが考え込んだその時

「散って!」

突如シェラザードは大声で警告した!

「え……!」

シェラザードの警告に驚きつつアネラスはシェラザードと共に散った。すると2人がいた場所にいくつもの銃弾が放たれた!そしていつの間にか廃坑に入って行った3人の特務兵達が距離をとって、シェラザード達を囲んでいた。

「うそ……いつのまに。」

アネラスは今まで気配を感じさせず、自分達を包囲した特務兵達に驚いた。

「ふふ、ずいぶんとアジな気配の消し方をしてくれるわね。あのアッシュブロンドの少尉さんにでも習ったの?」

「「「………………………………」」」

シェラザードの問いには答えず、特務兵達は無言で近寄って来た。

(シェラ先輩……)

(ええ……どうやら普通じゃないわね。連携で一角を崩してそれぞれ残りを片付ける。できるわね?)

(お任せあれ!)

「それじゃあ―――行くわよ!」

「はいっ!」

そして2人は特務兵達と交戦し始めた!2人のシェラザード達に対し、特務兵達は3人と数の優劣はあったが、2人は連携をして、特務兵達を戦闘不能にし、気絶させた!



「ふう、何なのこいつら……。倒したはいいけど……どうにも奇妙な手応えだわ。」

「うーん、何か危ない薬でもやってるんじゃないんですか?前にルーアンの不良グループが薬で操られていたって聞きましたけど。」

「エステルたちが解決したっていう事件ね。でも、そういうのともまた違った手応えだったわ。まるで石か木を打ったような……」

シェラザードとアネラスが倒れた特務兵達を見て、相談をしていたその時



パチパチパチ



2人の背後から拍手の音が聞こえて来た。

「あはは、スゴイスゴイ。お姉さんたち、なかなか優秀な遊撃士だねぇ。」

シェラザード達が拍手の音が聞こえた方向に振り返るとそこにはピンク色のスーツに黄緑色の髪を持ち、片方の頬に何かの紋様を刺青にしている少年がいた。

「あなた……」

「うふふ……。執行者No.0。『道化師』カンパネルラ。『身喰らう蛇』に連なる者さ。」

自分を見て驚いているシェラザードに少年――カンパネルラは口元に笑みを浮かべて自己紹介をした。

「あ……」

「とうとう現れたわね……」

カンパネルラが名乗り上げると2人は武器を構えた!

「あなた……何でこんな場所にいるの?特務兵の残党と一緒に何をしようとしているわけ?」

シェラザードはカンパネルラを警戒しながら尋ねた。

「うふふ、今回の僕の役割はあくまで『見届け役』なんだ。具体的な計画のことを僕に尋ねるのは筋違いだよ。というか僕も知らないしね。」

「『見届け役』ですって?」

カンパネルラの答えにシェラザードは眉を顰めた。

「それと一つ言っておこう。『お茶会』に関しては僕達は一切関与していない。そこに倒れている彼らに関しては僕が『お茶会』の主催者の計画を少し利用しただけさ。」

「え!?じゃ、じゃあ、どこの組織が!?」

カンパネルラの話を聞いたアネラスは驚いて尋ねた。

「うふふ……それは自分達で突きとめてみせなよ♪」

「……言われなくとも、そうするわよ。」

笑顔のカンパネルラをシェラザードは睨みながら答えた。

「ま、『お茶会』に参加するなら急いだ方がいいかもしれないよ。どこで開かれるかは知らないけど少なくともここじゃないのは確かさ。それとも、ここで僕と一緒に夜明けのコーヒーでも飲もうか?」

「………………………………」

「え、えっと君……。まだ若いみたいだけど本当に『結社』の人間なの?悪いことは言わないからそんなの止めちゃったほうがいいよ。」

緊迫した状況からは考えられないカンパネルラの誘いの言葉を聞いたシェラザードは黙って睨み、アネラスは戸惑いながら尋ねた後、説得しようとした。



「うふふ、優しいお姉さんだなぁ。でも、道化師のことを笑い者にするのならともかく……心配するのはマナー違反だね。」

「え……」

カンパネルラの言葉にアネラスが驚いたその時、カンパネルラは指を鳴らした!すると倒れていた特務兵達が起き上がった!

「う、うそ!?」

「そんな……完全に戦闘不能にしたはずよ!」

起き上がった特務兵達を見て、アネラスは信じられない表情で驚いていた。

「うふふ、だから君たち遊撃士ってのは甘いんだよね。やるんだったら徹底的に壊すつもりじゃないと♪」

そしてカンパネルラはもう一度指を鳴らした!すると特務兵達は突如、爆発を起こし、砕け散った!

「くっ……」

「あうっ……」

爆発の衝撃によってシェラザード達は怯んだ。

「な、なんてことを……!」

「ひどい……こんなのって……」

「あはは、驚いた?なかなかよく出来たビックリ箱だろう?うふふ、これにて今宵のショウはおしまいさ。それでは皆様、ご機嫌よう。」

バラバラになった特務兵達を見て青褪めているシェラザード達に楽しそうな表情で答えたカンパネルラは一礼をし、消えようとした。

「待ちなさいッ!」

カンパネルラの行動に気付いたシェラザードは鞭を震ったが、命中する事はなくカンパネルラは一瞬にして姿を消した。



「………………………………」

「………………………………。シェラ先輩……あの……」

黙ってカンパネルラが消えた場所を睨んでいるシェラザードにアネラスは悲しそうな表情で声をかけた。

「……ええ……。苦痛を感じずに逝けたのならいいんだけど……。いずれにせよ……このままにはしておけないわね。アネラス、悪いんだけどシーツを調達してきてくれる?」

シェラザードはバラバラになった特務兵達を見た後、アネラスを見て指示をした。

「は、はい……!あれ……?」

シェラザードの指示に頷いたアネラスだったが、近くに落ちている腕を拾って、腕をよく見た。

「ちょ、ちょっと!?」

「あの、シェラ先輩……この腕……作り物みたいなんですけど。」

「えっ……!?」

アネラスの答えを驚いたシェラザードは特務兵達の残骸を調べた。

「歯車にゼンマイ……それに結晶回路の破片……それにこれは石……のわりには魔力が籠っているわね………かと言って”魔力石”じゃないし………何故魔力石に似た物があるかわからないけど、ひょっとしてこれ……」

「自律的に行動する導力人形……いわゆる人形兵器ってヤツやろうね。」

残骸を見てシェラザードが呟いたその時、2人以外の声が聞こえ、テントの後ろから声の主――ケビンが現れた。

「えっ……」

「あなた、確か……!」

「おっと、オレのこと覚えとってくれたみたいやね。改めて―――七耀教会の巡回神父、ケビン・グラハム言いますわ。シェラザード・ハーヴェイさんとアネラス・エルフィードさんやね?物は相談なんやけど……お互い、情報交換せぇへんか?」



ケビンと邂逅したシェラザード達はケビンの事情を聞き、情報交換をした後、ケビンと共にある場所に向かった。一方その頃、ボースの街道でも特務兵達が集団で行動していた。



~西ボース街道~



「どりゃあああああっ!」

特務兵達が歩いていると木の上に隠れていたドルンが飛び降りて、導力砲を特務兵達に撃った!

「キール、お次だ!」

「任せろ、兄貴!」

ドルンに言われたキールはドルンの攻撃で怯んでいる特務兵達に木の陰から現れて、爆弾を投げた!

「ジョゼット!」

「オッケー!」

そしてキールと反対側の木の陰に隠れていたジョゼットは爆弾を投げた後、銃を撃って、爆弾を引火させて、2人の攻撃でダメージを受け、怯んでいる特務兵達にさらにダメージを与え、怯ませた!

「ヨシュア!」

ジョゼットがヨシュアの名を呼ぶと、ヨシュアは音もなく姿を現し

「………………………………」

目にも止まらぬ速さで特務兵達を斬り伏せた!ヨシュアの攻撃によって、特務兵達は爆発を起こし、バラバラになった!

「へへ、相変わらず見事な手並みじゃないか。」

特務兵達がバラバラになったのを確認したキールはヨシュアを褒めた。

「……貴方たちこそなかなか見事な連携だった。おかげで一気にケリがついたよ。」

「フ、フン……おだてても何も出ないからね。これで10体目だよ?あと、どれだけ狩ればいいのさ?」

ヨシュアの賛辞に頬を膨らませたジョゼットは尋ねた。

「そうだな……そろそろ狩りつくしたと思う。王国軍も動くだろうし、このあたりが引き際だろう。」

「そっか……」

「しかし、結社っていうのは何を考えてるのか判らねぇな。どうして、あの黒坊主どもの人形なんざ徘徊させているんだよ?」

「そう、正にそれだぜ。本物の特務兵の残党たちは一体どこに行っちまったんだ?」

ドルンとキールはそれぞれ疑問に思っている事を口にした。

「多分、あのメモにあった『お茶会』の可能性が高い……。人形兵器は、そこから軍の目を逸らすために使われたんだろう。」

「なるほどな……。どこで何をするかは知らんが、どうにもキナ臭い雰囲気だぜ。」

「まあ、俺たちが手を貸す義理なんざ無いんだが……。その『お茶会』ってのは放っておいてもいいのかよ?」

ヨシュアの推測にキールは頷き、ドルンはある事が気になってヨシュアに尋ねた。



「………………………………。今ごろ、遊撃士たちがあの廃坑を捜索しているはずだ。このまま軍とギルドに任せよう。」

「そうそう、メモと設計図を残しただけでも十分だってば。こうしてギルドに代わって人形退治だってしてるんだし。あとは、あの脳天気女たちに任せとけばいいんじゃないの?」

「………………………………」

ジョゼットの口からエステルの事が出るとヨシュアはどこか寂しそうな表情で黙っていた。

「ふ、ふん、何だよ。今さら昔の仲間が心配なの?」

「いや……もう僕には関係のない人達さ。『お茶会』が始まれば軍の警戒もそちらに向かう。その機を逃さずに動こう。」

「おうよ!」

「さーて、忙しくなりそうだぜ。」



そしてヨシュア達は特務兵達の残骸を片付けた後、自分達の次なる目的地に向かった……………




 

 

第35話

翌朝、エルベ離宮に向かったエステルとアガットは連れて来たティータとレンを待たせて、シードに脅迫状に関する調査報告書を届けた。



~エルベ離宮・紋章の間~



「なるほど……。これは充実した報告書だな。本当に助かった。よくここまで調べてくれたね。」

「う、うーん……。犯人を特定できなかったのが正直、心残りなんだけど……」

シードの賛辞にエステルは納得がいっていない様子で呟いた。

「調査報告としては十分すぎるさ。この段階で脅迫犯が見つかるとはこちらも考えていなかったからね。どちらかというと、今後の警備の参考にするために必要だったんだ。」

「そう言ってくれると助かるぜ。で、王国軍の方ではあれから進展はあったのかい?」

シードの話に頷いたアガットは尋ねた。

「まあ、昨夜のうちに警備体制の第一段階を完了したくらいかな。以後、条約調印式が終わるまでこのエルベ離宮が警備本部となる。」

「それで兵士さんたちがけっこう詰めてるんだ。そういえば、周遊道にも魔獣がほとんどいなかったわね。」

エステルはエルベ離宮周辺の魔獣をほとんどみかけなかった事を思い出した。

「今朝、大規模な掃討作戦が実施されたばかりだからね。条約調印式までの間、定期的に行おうと思っている。」

「普段からそうしてくれるとウチとしても助かるんだがな。……話には聞いた事があるんだが、メンフィル領はメンフィルの兵士達がかなり速いペースで手配魔獣や街道の魔獣を定期的に掃討していると聞くぜ。そのお陰でメンフィル領のギルドは魔獣関連の依頼が滅多に入らないから、遊撃士達の戦闘経験が上がりにくいのに悩んでいるという贅沢な悩みを抱えていると聞くぜ。王国軍も同盟国の奴らを見習ってそうしてくれないかね。」

「はは……そう言われると耳が痛いな。そうだ、昨日言ってた女の子のご両親についてだが……。各地の関所に通達は出したがいまだ情報が入っていなくてね。」

アガットの指摘に苦笑して答えたシードはレンの両親の事を報告した。

「そっか……気長に待つしかないのかな。」

「こちらも情報が入り次第、ギルドに知らせることにしよう。とりあえず、脅迫状の調査はここまでやってくれれば充分だ。後でギルドに報酬を振り込ませてもらうよ。」

「うん、よろしく。でも……これから先はどうするの?あたしたちも、このまま王都で警戒に当たった方がいいのかな?」

シードから依頼達成を聞いたエステルは頷いた後、尋ねた。

「もし、王都に残るのであれば協力してもらえると助かるな。ただ、君たちが忙しいのは我々も理解しているつもりだ。無理を言うつもりはないよ。」

「うーん……。レンの件もあるし、エルナンさんに相談してみる?」

「ああ、そうしてみるか。」

「……失礼します!」

エステルとアガットが相談していたその時、シードの副官が急いだ様子で広間に入って来た。



「なんだ、どうした?」

「えっと……」

首を傾げているシードに副官はエステル達を見た。

「問題ない、彼らは協力者だ。」

「は、それでは……。先ほど、レイストン要塞から導力通信で連絡がありました。どうやらボース地方に情報部の残党が現れたようです。」

シードに促された副官は情報を報告し始めた。

「えええっ!?」

「なんだと!?」

「ふむ、詳しく話してくれ。」

副官の情報にエステルとアガットは驚き、シードは冷静な様子で続きを促した。

「それが、最初に発見したのはギルドの遊撃士だったらしく……。正確な現地の状況はいまだ掴めていないようですね。とりあえず、司令部からは全王国軍部隊に第2種警戒体制に入るようにと指示がありました。」

「そうか、分かった。……どうやらお互いに忙しくなるかもしれないな。」

副官の報告に頷いたシードは真剣な様子でエステルとアガットを見た。

「ああ、そうだな。エステル。急いでギルドに戻るぞ。」

「うん……!シード中佐。警備のお仕事、頑張ってね!」

「ああ、そちらも頑張ってくれ。」

そしてエステル達は広間を出て、レンとティータと合流したエステル達はエルベ離宮を出た時、入口で騒ぎが起こっているのに気付いた。



~エルベ離宮前~



「あれ……?」

エステルは自分達の行く先で数名の兵士に怒鳴っている人物に気付いた。

「どういうことだ、これは!?この最高位の王位継承権を持つデュナン・フォン・アウスレーゼを馬鹿にしておるのかっ!?」

「め、めっそうもありません。実は今朝、エルベ周遊道で魔獣の掃討作戦がありまして……。ですから護衛の数はこれだけでも充分かと存じます。」

自分達を怒鳴る人物――デュナンに対し、隊長格の兵士が恐る恐る答えた。

「そういう意味ではない!私ほどの重要人物に対して護衛が3人のみとは無礼千万!せめて10名は用意するのだ!」

「し、しかし……」

「閣下……あまり無理を申されては。せっかく陛下のお許しが出たのです。それだけでも僥倖(ぎょうこう)だと思いませんと……」

兵士達を困らせているデュナンを傍に控えていたフィリップは諌めようとしたが

「黙れ、フィリップ!そもそも処分そのものが不当極まりなかったのだ。ならば親衛隊の全隊士をもって出迎えるのがスジであろう。」

デュナンは聞く耳を持たず、不満を隠さない様子で答えた。

「えっと、親衛隊全員とはさすがにいかないんだけど……。よかったらあたしたちが一緒に付いてってあげようか?」

「そ、そなたたちはッ!?」

「おお、皆さん……」

そこにエステルが話に入って来て、エステル達に気付いたデュナンとフィリップは驚いた。



「まったくもう……公爵さんも相変わらずねぇ。あんまりワガママ言ってみんなを困らせたらダメじゃない。」

(公爵………ああ、この人がクーデター事件の時に担ぎあがられたデュナン公爵ね。まあ、確かにアリシア女王もこんなのに国は任せられないわねぇ……お姉様達とは天と地ほどの差ね。お姉様達なんか逆に護衛はあまりいらないって言うぐらいなんだから♪)

デュナンに呆れたエステルは溜息を吐いて指摘し、レンは心の中で女王がデュナンを跡継ぎに指名していない事に納得した。

「き、気安く公爵さんなどと呼ぶでない!どうしてそなたらがこんな場所にいるのだ!?すでに民間人の立ち入りは禁止されたのではないのか!?」

デュナンはエステルの呼び方を怒鳴った後、エステル達を睨んで指摘した。

「ここの警備責任者さんに届けものがあって来ただけよ。で、公爵さんたちはこれから散歩にでも行くの?」

「ふ、ふん。聞いて驚くでないぞ……。私を縛りつけた不当な戒めがついに解かれることとなったのだ!」

エステルの疑問にデュナンは胸を張って答えた。

「不当な戒めが解けた……?」

「ひょっとして謹慎処分が解かれたのか?」

「はい、今朝がた、陛下からの連絡がございました。離宮を辞し、グランセル城に戻ってくるようにとのお言葉です。」

意外そうな表情をしているエステル達にフィリップがデュナンの代わりに答えた。

「やれやれ……お人好しな婆さんだな。……今、城にはとんでもない客がいるのに、本当に城に戻らせていいのか?」

「へ~、でもまあ良かったじゃないの。もう2度と利用されないように自分をしっかり持たなくちゃね。」

アガットは呆れ半分で女王の懐の深さに感心し、エステルは驚いた後、デュナンに意外な事を言った。

「なぬ……?」

エステルに言われたデュナンは何の事かわからない様子だった。

「うーん、やっぱり生活態度を見直した方がいいんじゃない?公爵さんってだらけきった生活してそうだし。運動なんかお勧めするわよ?」

エステルがデュナンに指摘したその時、周りの人物達は沈黙した。



「あれ?あたし変なこと言った?」

(クスクスクス……エステルったら、民間人が王族に意見をする事がどれほどの事かわかっていない様子ね♪うふふ、さすがはお姉様達のお友達だわ♪)

周りの様子を見たエステルは首を傾げ、レンは口元に笑みを浮かべていた。

「いえ……エステル様のおっしゃる通りかと思います。そもそも閣下が自分をしっかりお持ちでいればリシャール大佐に利用されることなどなかったはず……。このフィリップ、今一度その事を進言させて頂きたく……」

「ええい、説教はたくさんだ!もうよい、このような場所に一秒たりとも長居できるものか!とっとと王都に向かうぞ!」

首を傾げているエステルに答えた後、自分を見て説教をしようとしているフィリップに怒鳴ったデュナンは兵士達を促した。

「おお……(ありがとう、遊撃士の少女よ……)」

デュナンの言葉を聞いた隊長は心の中でエステルに感謝し、安堵の溜息を吐いた。

「あれ?付き合わなくてもいいの?」

「いらぬ!行くぞ者ども!」

エステルの申し出を怒鳴って否定したデュナンは兵士達と共にエルベ離宮を出て行った。

「エステル様、毎度ながら本当にありがとうございます。何とお礼を言っていいか……」

「あはは、いいってば。でも、フィリップさんもたまにはちゃんと叱らなくちゃ。叱ってくれる人がいないからああなっちゃったんじゃないの?」

「え……」

エステルにお礼を言ったフィリップはエステルの言葉に驚いた。

「根は悪人じゃないと思うし、その気になれば立ち直れるわよ。要はきっかけじゃないかしら?」

「エステル様……。その言葉、このフィリップ、胸に染み入りましたぞ……」

エステルの言葉にフィリップは感動した様子でエステルを見た。

「フィリップ!何をしておるのだ!グズグズしていると置いて行ってしまうぞ!」

「は、はい、ただいま。それでは皆様……わたくしめはこれで。」

そしてフィリップはエステル達に一礼をした後、急いでデュナンの元に向かった。



「んー、やっぱり一緒の方がよかったと思うんだけどなぁ。」

「……なんと言うか。正直、お前のそういうところは真似できねぇぜ。」

首を傾げている様子のエステルをアガットは感心した様子で見て言った。

「えっ?」

「えへへ……。やっぱりお姉ちゃんは凄いな。」

「初めて会った時からそんな気はしてたんだけど……。エステルって、限りなくお人好しさんなのねぇ。」

アガットの言葉にエステルが首を傾げている中、ティータやレンもアガットの言葉に同意した。

「お人好しって……なんで?」

唯一人エステルは、アガット達が何故感心しているかを自覚していなかった。

「あー、分からないならそのままでいいっての。とにかく王都に戻るぞ。」



そしてエステル達は王都のギルドに戻って行った………
 

 

第36話

~遊撃士協会・グランセル支部~



「ただいま~!」

「おお、戻ってきたか。」

「皆さん、お帰りなさい。」

「お帰りなさい、ママ!」

エステル達がギルドに戻るとジン達が出迎えてくれた。

「ご苦労さまでした。報告書は渡せたようですね。」

「うん、そっちは問題なく。」

「つい先ほど、王国軍から報酬の振り込みがありました。取り急ぎ、それをお渡しておきましょう。」

そしてエルナンはエステル達に報酬を受け取った。

「さすがシード中佐。仕事が早いわね。それよりも……ボース地方に特務兵どもが現れたって聞いたんだけど。」

「やはり離宮の方にも連絡が行ったみたいですね。ちょうどその話をしていたところなんです。」

エステルの言葉に頷いたエルナンは真剣な表情で言った。

「発見したのはギルドの人間らしいな?」

「ええ……。シェラザードさんたちです。」

アガットの疑問にエルナンは頷いて答えた。

「シェラ姉たちが!?」

特務兵達を見つけたのがシェラザード達とわかったエステルは驚いた。

「ラヴェンヌ廃坑の内部でアジトを発見したそうです。生憎(あいにく)、すでに引き払った後だったみたいですが……」

「ラヴェンヌ廃坑の内部……空賊たちと戦った場所か。」

「チッ、盲点だったな……。引き払ったってことはすでに別の地方に行ったのか?」

エルナンの話にエステルは昔を思い出し、アガットは続きを促した。

「それが、ボース地方の各地で特務兵の姿が目撃されたらしく……。現在、国境師団が総力を挙げて調査をしているみたいですね。」

「そ、そうなんだ……。あたしたちもボース地方に助っ人に行った方がいいのかな?」

「いえ、陽動の可能性もあります。現地の状況が分かるまで迂闊に動かない方がいいでしょう。それにどうやら……『結社』も動いているようです。」

「え……!」

「なんだと……!」

(『結社』?……一体何の話かしら……?)

エルナンの説明にエステル達が驚いている中、唯一人レンは聞き覚えのない言葉に首を傾げていた。



「シェラザードさんたちが廃坑のアジトで遭遇したそうです。『道化師カンパネルラ』―――『執行者』の1人みたいですね。」

「フン、また新顔か……」

(……ふ~ん……どうやらクーデター事件みたいにまだリベールで暗躍している組織がいるみたいね……)

エルナンの話にアガットは鼻をならし、レンは心の中で考えていた。

「更にアジトで奇妙なものが発見されたそうです。まずは『オルグイユ』という導力駆動の乗物の設計図……そして『お茶会』という符牒で語られた謎の計画メモです。」

「『オルグイユ』『お茶会』……。うーん、訳が判らないわね。」

「導力駆動の乗物って何なのかな……?」

「お茶会というのも何だか気になりますね。」

「ミント、全然わかんない……」

(うふふ……何はともあれ、そろそろレンも動こうっと♪)

エステル達が考え込んでいる中、レンは気配を消してギルドから出て行った。

「チッ、さすがに落ち着いていられねえな。」

「まあ、焦るなって。現地で軍とギルドが頑張っているみたいだからな。じきに状況も分かるだろうさ。」

焦っている様子のアガットにジンはいつもの表情で言った。

「ええ、気は(はや)るでしょうが王都に留まっていてください。今のところは各自、自由になさって結構ですよ。」

「うーん、そう言われても……あれ、そういえばオリビエはどうしたの?」

エルナンの言葉に悩んでいたエステルだったが、あたりを見渡してオリビエが居ない事に気付いて、エルナンに尋ねた。

「それが、帝国大使館から先ほど連絡がありまして……。野暮用ができたと仰ってお出かけになりました。すぐにギルドにお戻りになるそうですが。」

「ふーん、どうしたのかしら?……あれ?レンはどうしたの?」

「ふえっ……?」

「ほえ……?」

エステルの言葉に驚いたティータとミントは後ろを振り返った。



「あ、あれれ……。さっきまではちゃんといたんだけど。」

レンが居ない事に気付いたティータは驚いた。

「もしかして……話が退屈だったから遊びに行っちゃったとか?」

「そいつはありそうだな。」

「そうだよね……レンちゃんにはわからない話だったし……」

エステルの推測にアガットとミントは頷いた。

「そいつはありそうだな。」

「も~、しょうがないわねぇ。でも、もし王都を離れるとしたらレンのことも何とかしないと……。……あたし、ちょっとあの子を捜してくるわ。」

「あ、わたしも!レンちゃんが行きそうなところ分かるかもしれないし……」

「ミントも!2人と一緒に王都を廻っていたし……」

レンを探す事に決めたエステルにティータとミントが真っ先に申し出た。

「そっか、助かるわ。エルナンさん。そういうことなんだけど……」

「ええ、お願いします。私の方は、各地の支部と残党の行方について情報交換をしていましょう。」

そしてエステル達は王都中を歩いて、レンを探した。レンの姿は時折見かけたが、すぐに姿を消し、さらに謎かけも残して行った。謎かけを解いてレンを探していたエステル達は空港に到着した。



~グランセル国際空港~



ツァイス方面行き定期飛行船、『リンデ号』まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください



一方オリビエは飛行船に乗ったミュラーを見送っていた。

「それではな、オリビエ。俺が留守のあいだ、問題を起こしてくれるなよ。」

「フッ、安心してくれ。このボクが、愛しいキミに心配をかけたことがあったかい?」

「今更すぎて心配する気にもなれん。せめて問題は起こしてくれるな。」

酔いしれている様子のオリビエに見られたミュラーはなんでもない風な様子で注意をした。

「うーん、善処しましょ。」

そしてミュラーを乗せた飛行船は飛び立った。

「おーい、オリビエ!」

「おや、君たち。ひょっとしてボクが恋しくてここまで捜しに来てくれたのかい?」

飛行船が飛び立った後、エステルがオリビエに話しかけ、話しかけられたオリビエは尋ねた。

「なわきゃないでしょ。それよりも……今のミュラーさんよね?」

「なんで帝国軍人が定期船なんか使ってるんだ?」

「ああ、何でも軍務でボース地方に行くそうだよ。空賊団が使っていた飛行艇があっただろう?あれを回収するつもりらしい。」

エステル達の疑問にオリビエは答えた。

「空賊団の飛行艇ってあの緑色の小型艇よね。でも、なんでミュラーさんが?」

「知っているかもしれないが、あの飛行艇はエレボニア製でね。それを使った空賊団はいまだ捕まっていないらしい。帝国政府としては証拠を回収して犯人調査に協力したい……そう王国に打診したそうだよ。」

「ふ~ん?よく分からない理屈ね。」

「そうだよね。エレボニアの人達は空賊さん達を知っているのかな?」

オリビエの説明にエステルとミントは首を傾げていた。



「ま、空賊団がエレボニアの元貴族だったというのはあまり外聞が宜しくないからね。できれば不戦条約締結の前にうやむやにしておきたいんだろう。共和国あたりが突っ込む前にね。」

「空賊団が元帝国貴族って……。ええっ、あのボクっ子たちが!?」

ジョゼット達の事実を知ったエステルは驚いて声を上げた。

「あれ、知らなかったのかい?カプア男爵家と言って帝国北部の小領主だったそうだよ。数年前、莫大な借金を抱えて領地を手放したそうだがね。」

驚いているエステルを意外そうな表情で見たオリビエは説明した。

「そ、そんな事情があったんだ……。なんて言うか……微妙に可哀想な連中ね。」

「そうだよね……ずっと住んでいたお家がなくなるなんて、悲しいもん……」

「ケッ、だからといってまったく同情の余地はねぇな。」

同情しているエステルとミントと違い、アガットは鼻を鳴らして答えた。

「まあ、そういうわけでボクは見送りに来たんだが。君たちはどうして空港に?」

「あ、実はレンを捜しに来たんだけど……。オリビエ、見かけなかった?」

「レン君?って、そこにいるのはレン君じゃないのかい?」

「へ……」

オリビエの指摘に首を傾げたエステル達は振り返った。するとそこにはレンがいた。



「うふふ♪」

「「レ、レンちゃん!?」」

「い、いつのまに……」

悪びれもない様子で笑顔を浮かべているレンにティータとミントは驚き、いつの間にか自分達の背後にいたレンにエステルは驚いた。

「こら、レン!まったく、いきなり居なくなったらダメじゃない!しかも色んな人を巻き込んであたしたちから逃げたりして~!」

笑顔を浮かべているレンに近付いたエステルは怒った。

「ごめんなさい……。だって退屈だったんだもの。あのね、百貨店で紅茶とクッキーを買ったのよ?みんなの分もあるからおねがい、機嫌をなおして?」

「う……」

「ふふ、私たちも結構楽しませてもらいましたし……おあいこでいいんじゃないでしょうか?」

素直に謝り、自分の機嫌をなおそうとしているレンを見て、エステルは言葉を詰まらせ、クロ―ゼは微笑んでエステルに言った。

「はあ、しょうがないなぁ。お小言はこれくらいで勘弁してあげる。」

「ホント!?」

「えへへ……さすがママ!いつも、すっごく優しいね!」

「ふふ、よかったね。」

溜息を吐いて自分を許すエステルとは対照的にレンは嬉しそうな表情をし、その様子を見たミントとティータはそれぞれ喜んだ。

「さてと、それじゃいったんギルドに戻るか。何か情報が入ってるかもしれねぇ。」

「うん、そうね。」

「おや、何かあったのかい?」

アガットとエステルの会話に事情がわからないオリビエは尋ねた。

「ちょっとボース地方で事件が起こったらしくてね。って……そういえばミュラーさんってボース地方に行ったんだっけ?」

「ああ、その通りさ。ふむ……詳しく聞きたいところだね。」

「ま、ギルドに戻ったら一通り説明してやるよ。」

そしてエステル達はギルドに戻って行った。



~遊撃士協会・グランセル支部前~



「ねえ、エステル……」

アガット達が先にギルドに入って行き、その後を続くようにエステルがドアに手をかけた瞬間、レンが唐突に話しかけてきた。

「ん、どうしたの?もう怒ってないから安心していいわよ。」

「うふふ、そうじゃないわ。だいいちエステルが怒ってもゼンゼン恐くないんだもの。」

「むぐっ……言うじゃない。それじゃ、どうしたの?」

レンの言葉に唸ったエステルは気にせず、尋ねた。

「あのね……実はエステルに預りものがあるの。」

「預りもの?」

「うん。ビックリしないでね?」

そしてレンはエステルに一通の手紙を渡した。

「へ……?何これ、あたしに?」

「ええ、そうよ。」

「誰から?」

「うふふ、読んでみたらきっと分かると思うけど。」

「そ、そう?」

レンに言われたエステルは手紙の封を切って内容を読み始めた。



エステルへ



散々迷ったけれどどうしても君に伝えなくてはならない用事ができてしまった。あんな別れ方をして虫のいい話だとは思うけど2人きりで会えないだろうか?今日の夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上で待っている



「………………………………え………………」

「うふふ、分かったみたいね?レンも話を聞いたからピンと来ちゃったもの♪」

手紙の内容を読んで放心しているエステルにレンは口元に笑みを浮かべて言った。

(……どう思う?)

(あの時の事を考えたらどう考えても、おかしいわ。)

(ええ、あの時のヨシュアはエステルと完全に決別する様子だったし……罠の可能性が高いわね……)

(そ、そんな!?一体誰がそんな事を……!)

エステルの身体の中で見守っていたサエラブはパズモ達に聞き、パズモやニルは手紙が非常に怪しい事を指摘し、3人の話を聞いたテトリは信じられない表情をしていた。

「こ、これって……。これを渡した人って!?」

「真っ黒い髪と、琥珀色の瞳のハンサムなお兄さんだったわ。空港の待合所でエステルたちを待っている時に渡して欲しいって頼まれたのよ。」

「……あ…………」

「あの人が、エステルの言ってたヨシュアってお兄さんでしょう?」

レンの話を聞いたエステルはどことなく嬉しそうな表情をした。その様子を見たレンは自分が出会った人物の事を尋ねた。

「う、うん……。筆跡も似ているし、ま、間違いないと思う……。夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上……。夕方って……もうそろそろじゃない……」

「おい、何をしてる?エルナンが各地の情報を説明するみたいだぞ?」

「ママ~。どうしたの?」

ギルドに入って来ないエステル達に気付いたアガットとミントはギルドから出て来て尋ねた。

「アガット……ミント……どうしよう……あたし……」

「へっ……。お、おい、どうした?」

「ママ?」

エステルの様子がおかしい事に気付いたアガットとミントは尋ね、エステルは無言で2人に手紙を見せた。

「………………………………。これは……ヨシュアか?」

「………本当にヨシュアさんなの!?ママ!」

「うん……そうみたい。レンが、それらしい人から受け取ったんだって……」

驚いている様子の2人にエステルは答えた。

「なるほどな……。いいぜ、行ってこい。」

「え……?」

アガットの言葉にエステルは驚いた。

「いいからとっとと行け。他の連中には俺の方から適当に言っておく。」

「ママ、頑張って!ヨシュアさんを連れ戻せるチャンスだよ!」

「あ……。ありがと、アガット、ミント!それにレンも……教えてくれてありがとね!」

そしてエステルは一目散に待ち合わせ場所であるグリューネ門に向かった。

「あ……」

その様子をレンは驚いて見ていた。

「行っちゃった……。そんなにその人と会いたかったのかしら?」

「ああ……だろうな。へへ、どうやって他の連中をごまかすかね。」

(えへへ……もうすぐミントの”パパ”ができるんだ……!)

首を傾げているレンにアガットは言った後苦笑し、ミントは心の中で喜んでいた。



「はあはあはあ……。グリューネ門のアーネンベルクの上……。早く行かなくちゃ……!」



そして王都を出たエステルは急いで、目的地に向かった………


 

 

第37話

王都とロレントを繋ぐ関所、グリューネ門に到着した頃には既に夕方になっていて、エステルは急いで待ち合わせの場所に向かった。



~グリューネ門・アーネンベルク・夕方~



「……あ………」

アーネンベルクに一人の人影を見つけたエステルは嬉しそうな表情をした。



~王都グランセル~



「ヒック……。フィリップのやつ、小言ばかり抜かしおって……。私をいったい誰だと思っておるのだ……。最高位の王位継承権を持つ……デュナン・フォン・アウスレーゼだぞ……」

一方その頃、デュナンは酔っぱらった様子で独り言を呟いていた。

「う~い……少しビールを飲み過ぎたか……。しかし、あのライスカレーというのはなかなかの美味であった……。たまには庶民の味も悪くない……」

そしてデュナンはふらふらと歩き始めた。

「……くそっ……。クローディア……それに遊撃士の小娘め……。どうしてこの私が…………あんな小娘どもに……あんな小娘どもの言葉に……心を乱さねばならんのだ……」

「公爵閣下のご心痛、お察し申し上げますわ。」

デュナンの独り言に誰かが答えた。自分の独り言の返事が返って来た事に首を傾げたデュナンが振り向くとそこにはカノーネがいた。

「な……。お前はリシャールの……」

カノーネを見たデュナンは驚いた。

「ええ、副官のカノーネです。公爵閣下におかれましてはお元気そうで何よりですわ。ふふ、あまりご機嫌は宜しくないようですけど……」

「な、何の用だ……。お前たちはたしか指名手配されている身では……」

不敵な笑みを浮かべているカノーネをデュナンは信じられない表情で見た後、カノーネの状況を呟いたその時、デュナンの後ろから数名の特務兵達が現れた!

「ひっ……!?」

「ふふ、そう警戒されると傷ついてしまいますわ。わたくしたちはただ……公爵閣下のお手伝いがしたいだけ。さあ、一緒に来て頂きますわよ。」

そしてデュナンはカノーネ達にどこかに連れて行かれた。



~グリューネ門・アーネンベルク~



「ヨ、ヨシュ―――」

エステルは人影をヨシュアと思い、駆け寄ったが

「あ……?」

「へっ……?」

そこにいたのはヨシュアでなく、ケビンだった。

「エステルちゃんか……?」

「ケビンさん……。ど、どうしてここに……?」

ケビンに驚いたエステルは辺りを見回して、ヨシュアを探したが、ヨシュアは見つからなかった。

「い、いない……」

「いや~、ひさしぶりやなぁ。しかし、こんな所で再会するなんてオレら、やっぱり縁が―――」

「ねえ、ケビンさん!ここで誰か他の人に会わなかった!?」

自分に話しかけて来たケビンにエステルは切羽つまった様子で尋ねた。

「へっ……誰かって。まさかエステルちゃんもここで待ち合わせしとんの?」

「う、うん……。……って、ケビンさんも?」

ケビンの答えを聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。

「ああ……手紙に呼び出されてな。」

「あ、あたしもだ。えへへ、面白い偶然もあるもんね。」

「はは、そうやねー。―――って、そんな偶然あるかいっ!」

「や、やっぱり?それじゃあケビンさんもヨシュアに呼び出されて……」

ケビンの突っ込みに苦笑したエステルは尋ねたが

「ヨシュア?それって……例のカレシやったっけ?」

「う、うん……」

「し、知らんかったわ……。ヨシュア君って実はいい年したオッサンやったんか。そりゃ、愛があれば年の差なんて問題あらへんけど……。それやったらオレかて充分チャンスは……」

「あのー。微妙に話が噛み合ってないんですけど。ケビンさんは誰からの手紙で呼び出されたわけ?」

話が噛み合っていない事に首を傾げ、エステルは尋ねた。



「ああ、グランセル大聖堂にオレ宛ての手紙が届けられてな。届けたのは、身なりの良さそうな中年男性だったらしけど……」

「ヨ、ヨシュアはあたしと同い年だってば!オジサンなはずないでしょっ!」

「あ、やっぱり?や~。オレもなんかおかしいと思