サイカイのやりかた #毎週投稿


 

1.岡崎修一

 
前書き
プロローグ
*次話からは前話のあらすじが入ります
 

 
人生ってのはひどく理不尽なものだ。

ある人には世界一になれるほどの才能を与え、ある人にはいくら努力しても全く成果を出させない。

何が「天才は1%の才能と99%の努力からできている」だよ。その1%がなけりゃいくら努力しても水の泡だろう。昔見た漫画で悪役が言ってた「努力が必ずしも自分に成果を出すとは限らない」ってののほうが心に響く。

努力した人間ってのは結局、天才には勝てない。

それが俺が東京武偵高校で学んだ最初の教訓だった。

俺は中学時代、剣道の世界大会を準優勝した。俺自身、自分はなかなかの強さを持っていて、剣道の天才であると踏んでいた。それもあって中学時代の日々は主に剣道を鍛えることに費やし、それで成果も生んでいった。

その時が一番自分が輝いていた時期だろう。

中学卒業間近、俺の元に多くの推薦状が届く中、一つの学校が目に入った。

東京武偵高校。増加する凶悪犯罪に対抗するため 、武力を行使する探偵・通称武偵を育成する教育機関である。その武力を行使という部分が、自分に酔っていた俺にはかなり響いた。俺の剣道の腕なら、ここでかなりの成績を残すことだってできる。俺にはそれだけの力があると。

それが大きな間違いだった。

入学式に行われた新入生を試す試験にて、俺はものの一分で地面に寝ッ転がっていた。しかもそれをやったのは教官ではなく俺と同じ新入生。何もすることができなかったのだ。その時はなにかの間違いだと自分を律した。今の生徒がたまたま強かっただけだと。そして


俺のランクは強襲科のE。ランク最下位だった。この日初めて本当の意味で敗北を味わった。だがその時の俺はまだ才能があるって思いこんでいたのだ。まだ努力すれば大丈夫。最高ランクのSランクだって夢じゃないさと。

だがそれも半年で終わった。クラスメイトが次々をランクを上げてなか、一人だけ最下位のまま月日だけが流れていった。

そのころにはもう、自分の才能のなさは理解していた。いくら剣道で世界二位を取ろうが戦場じゃ話にならない。人間の反射神経じゃ銃弾は回避することは不可能だ。剣術は敵との間合いを詰めることによって真価を発揮する。相手が銃を持っている時点で、もう負けと言っていいだろう。

だからと言って、俺自身銃を扱うことはできなかった。一般中学から来た俺が銃の扱いに慣れているわけがない。そんな俺が銃を使って行えることなど威嚇くらいだ。

つまりは俺の人生がゴミ、1%の天才を探し出すための燃料にしかならないってことだ。このまま、残りの学園生活も隅っこで何もせずに終わり、俺は普通の仕事について、普通に死んでいくんだろう。


そう、思っていたんだ。

『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!』


あいつに会うまでは。



 
 

 
後書き
つまりはダメ人間の誕生です。それだけです。 

 

2.金が欲しくてやった。後悔は…

 
前書き
「1話のあらすじ」
銃も特技もなくEランクのまま一年を終えた岡崎修一は他の一般高に転入するかどうか悩んでいた。
その時一人の女子武偵がある言葉を伝える。その言葉は修一の考え方とは真逆の言葉だった。
 

 
始業式のある今日、俺は寝坊した。というよりわざと遅く起きた。

理由は単純、始業式に出たくなかったからである。無駄に長い校長の話や校歌斉唱なんてめんどくさいと思うのは誰だって思うはずだ。

…というのは建前で、本音を言えばただ『笑われるのが嫌だから』である。Fランクというのはつまり出来損ないの武偵もどきの総称であり、将来の可能性のない人間のことを指す。

つまり2年でFランクというのは《《一年経っても自分の実力を理解できない奴》》のことを言う。例外もあるが、俺はその部類に値すると他人は見るだろう。

だからこそ、始業式には出たくないのだ。出てしまえば辺りからクスクスと笑われてしまうのはもう分かりきっている。

(…ま、武偵はやめないから結局行かないと行けないんだけど)

始業式が終わった後に新クラスでのHRがあるのだが、それには必ず参加しなければならない。そうしないと後々の授業が受けられなくなるという決まりがある。…どうしてそんな決まりを作ったのかと校長を問いただしたい、本気で。

などと愚痴を言っても仕方ないので俺は身支度をはじめた。

校則で所持義務のある、ほぼ使わない小型銃をホルスターに収め、一応いつも携帯している竹刀を袋に入れる。
パンを食べながらテレビから流れるニュースを適当に聞き流し、予習した化学、数学、そしてこの学校ならではの授業で俺が専攻しているモールス信号についての教科書をしまった。

東京武偵高校も一応普通の教育課程を行っているがあまり重視されていない。武偵としての基礎体力や技量の向上の方が優先されている。

しかし俺は才能がない。この世界で生き残るためには学力も必要なのだ。
ほとんどのクラスメイトが適当に受けている授業だって俺は真剣に聞く必要があった。真面目に受けているだけでクスクスと笑われることもあるが、それはもう気にしないようにしている。気にしていたらきりが無いし。

「よし、行くか」


そうして身支度を整えた俺は学校へと向かった。これから始まる学校生活に大きく胸を膨らませ…ようとしたが出来なかったので、嘆息しながら。




しかしこの時の俺は思ってもみなかったのだ。



これから起こる事件を引き金に、俺の人生がガラッと変わり色づき始めるということを…。


ーーーー

ドンッ!!

それは俺が自転車に乗って軽く鼻歌を歌いながら走っていた時だった。俺の耳に激しい爆発音が響き、足を止めさせた。もう武偵校の敷地内に入っていた俺の周りには人はいない。
そんな中で爆発音が聞こえれば誰でも足を止めるだろう。

「な、なんだ…?」

今の時間は始業式の最中で他の生徒や教師も出席しているはずであり、爆発音が聞こえるのはおかしい。

その後、その爆発音が聞こえた先で銃撃音が激しく鳴り始めた。

これに興味を示さない人はいない。もちろん俺もその1人である。
俺はその音のする方へと自転車を進めた。

ーーー

「なんだよ、この状況…??」

俺がその場所にたどり着いて初めて発した言葉は疑問だった。

満開の桜の木が並んでいる場所にある倉庫。どうやら体育で使う物を収納する倉庫のようだが、そこへセグウェイに銃を取り付けた機械兵器がその体育倉庫の中に向かって弾をぶちまけているという異様な光景を目にしたのだ、そりゃ疑問にも思うだろう?

俺はとりあえず自転車を安全な場所に置いて近くの桜の木に登り、状況を理解しようと試みた。どうやら倉庫の中にある防弾跳び箱に向かって集中砲火しているようだが、それ以上は煙が邪魔でよく見えない。

ただ一言言えることがあるとすれば…

(あれだけの弾を買う金あるなら…鍋できるな)

どうやらあのセグウェイはマシンガンを備えているようで今も無数の弾を倉庫内に発射している。あの弾を全て金に変えることが出来れば俺の生活もかなり潤うのに…。

なんてセコイことを考えていると、セグウェイどもは体育倉庫への発砲をやめてこちらのほうの壁の方へ身寄せてきた。どうやら中の様子を確認するために一度距離を取ったようだ。

まだ木に登った俺を感知してはいないようだが…

(…ん、待てよ?)

そこでふと、俺のセコイ頭が思いついてしまった。

あのセグウェイもどきを売れば、高く売れるんじゃないかと。

男子高校生の一人暮らしにはお金がいくらあっても足りない。バイトをすることが禁止のこの学校では親の仕送り以外にお金を稼ぐ方法がないのだ。
…いや、ないということはないのだが。武偵生徒に対しての依頼をこなすことで報酬をもらうというものがあるが、なにもできない俺はこなせる依頼が相当少なく、家計を保っていけるほどではないのだ。

まあつまり簡単に言えば…

《《お金欲しいから、こいつら売ろう》》ということである。。


「よっ」

金が稼げると理解した俺の行動は早かった。
俺は竹刀を袋から取り出し竹刀をその辺に置いといて、袋だけ持って下に降りる。感知されるかとひやっとしたが、大丈夫だったようだ。セグウェイどもは倉庫の方へその銃器を向けたまま動かない。

俺は近くにいたセグウェイの一つに近づきサッと袋をタイヤにひっかけ、ただ待つ。
そしてー

ギュイイイイイ!!

セグウェイもどきが再び動こうとしたその瞬間、その引っ掛けておいたセグウェイもどきのみが、その足元に突然現れた遮蔽物に重心を取られ横滑りしてしまう。もともと上の方が重かったのか簡単に倒れてしまった。

「よっし成功!!」

俺はその思った通りの結果にガッツポーズしながらその転がっていったセグウェイへと近づく。このまま銃器を外し、軽く壊して持ち帰ることが出来れば今日は鍋にしよう。


なんて考えていた矢先ーー

ダンッ!と音を立てセグウェイもどきが立ち上がった。


そう、俺の方にその銃器を向けて…



「……あ、ども」

俺はまるでジーっと見ているかのようなそのセグウェイもどきに思わず軽く挨拶をしてしまったーー

その瞬間、

ダダダダダダダッ!!

セグウェイもどきは俺に発砲を開始した。

「おわわわわっ!?」

俺は突然のことに思わず袋を右方向に投げてしまいながら、しかしそれを拾う暇などなく桜の木の裏に隠れる。

なんとか一発も当たらなかったことをラッキーと思いつつ、今も後ろから聞こえる激しい発砲音にうんうんと頷く。

「…ふう、これは、あれだな…無理だな」

桜の木が振動で揺れ始め桜を撒き散らし始める中、そう思い直す。

うん、普通機械って足崩されるともろいって思ってたんだけどやっぱセグウェイすげぇな。ハワイに行ったら買おう買おう。

なんてへんなことを考えながら脱出の道を探している中で

気づいた。

(…あ、あり?なんか聞こえる銃声が一つじゃないんですけど…?)

後ろから聞こえる音が一つのマシンガンからの音にしては大きく聞こえた。

頬を流れる冷や汗が嫌な想像を醸し出しつつも、そーっと覗いてみると…

セグウェイどもの半分がこちらを射撃していた。


(うそん…やめときゃよかった。…お金欲しいけどこりゃ《《無理》》だろ…)


後悔した。余計な欲を出さず、余計な好奇心を出さず、ただまっすぐに教室へと向かっていればよかったと。

無理なことをしなければよかったと…。


「…なんて、昨日の俺ならここで逃げ出せたんだよなぁ」

後らからの轟音を聞きながらも、俺は自分の考えを打ち消した。


俺は昨日とある女子武偵にある言葉を言われた。その言葉は俺の一年の生活を思いっきり否定して、思いっきり叱咤したのだ。

彼女に会わなければ、こんなこと思わなかったんだろうが…出会ってしまったものは仕方ない。言われてしまった言葉によって俺が普段とは違う行動をしても仕方ない。

そう自分に言い訳をした俺は、辺りの状況を整理し始めた。

《右にはコンクリートの壁、

後ろは桜の木、

その後ろは発砲中のセグウェイが4機、あの程度の大きさなら持ち上げることはできそうだ

前には普通の路地と俺の自転車、

左にはある程度幅のある道路、そしてそこに落ちている俺の竹刀と穴の開いた竹刀の袋。

持っているのは小さな小型銃とティッシュ、携帯、カバン

俺の竹刀が有効に使える距離は約10メートル、

俺とセグウェイの距離は約15メートルほど、

竹刀での破壊は不可能、

小型銃の弾は6発、リロードは無理、俺の腕では確実に狙うことは不可能、
セグウェイの様子、竹刀の袋が破けていたところから、どうやらある程度の大きさの動くものを追尾して発砲するように設定されているようだ》


「よし、やってみるか」

そうして俺は行動を開始した。

ーーー

マシンガンの音が鳴り止み静まり返ったその瞬間、俺は桜の木の陰から自転車のサドルをひょいっと投げた。

突然投げられたその物体に対し、セグウェイは銃弾を放つ。これにより銃口が桜の木から遠ざかった。

その隙に飛び出した俺は、竹刀を手に取ると一番近くのセグウェイに近づき小型銃を銃口の中へと押し込んだ後引き金を引いた。

射撃が苦手な俺でも、距離が0ならば俺でも命中させることはできる。

パン!!と乾いた音とともにセグウェイについていた銃の破壊に成功する。銃器のなくなったセグウェイはぐわんぐわんと動くのみ、敵ではなくなった。

しかし、破壊できたのはその一機のみ。その間に他の三機はすでにこちらにその銃口を向けていた。俺は素早く一機の銃器を竹刀で払い、銃口を逸らしたが、残り二つの銃器からの発砲は避けられない。

ババババババッ!!

「……って!?」

避けきれなかった俺の体に数発当たってしまう。
防弾制服のおかげで貫通することはなかったが痛みはある。
グラッと体が揺れ、視界が少しかすんでしまったが、ここで終わるわけにもいかない。

次が発砲されるより早く、俺はその残り三機の間に入り込むと、竹刀でよそに向けていたセグウェイの銃口をもう片手で掴み、俺の方に向かせないようにしつつ、竹刀を左の方向へ投げる。

大きく動くものを追尾する他二機のセグウェイが竹刀の方に銃口を向け弾丸を放つ間に、手で押さえておいたセグウェイの銃口に小型銃を入れて、同じように引き金を引く。

バン!と音を立てて壊れるセグウェイ確認した俺はそのセグウェイを持ち上げ残りの二機へと投げる。

竹刀を撃ち抜いたそのセグウェイ達は俺が投げた物を察知することは出来なかった。撃ち落とすことも出来ず、二機共に当たり地面に倒すことに成功した。

しかし倒しても意味がないぞと言うように立ち上がろうとするセグウェイ二機。

そこへ、最初に壊したセグウェイを振り落とす。

立つことに意識を向けてしまったセグウェイへ思い切り鈍器をぶつける。その力に敵わなかった二機についた銃器は、簡単に砕け散った。


そしてついに…


「…はぁ…終わっ…たーー!!勝ったぞこんちきしょー!!」

勝ったと自分に言い聞かせるように俺は大声で叫んだ。

手に持ったセグウェイの残骸を捨て、手にした勝利に優越感を味わう。

久しぶりの感覚に思わずにやけてしまう。一年の時の勝敗はほとんどが負けで終わっていたのだから仕方ないのである。

意味のわからない敵ではあったが、勝ちは勝ち。戦利品を取って帰りましょ。

少し痛む体を動かし、近くに落ちた竹刀やら袋やらを回収する。急遽考えた案でここまでやれたのって奇跡だわなどと思いながら回収していると…ふと思った。

(…そういや残りってどうなったんだ?ここで倒したのは四機だが最初見たときはもっといたような…)


そう、最初より数が減っていたのだ。おそらくこちらを排除する組と最初の目的を達成する組に分かれたのだろう。

そう考え、体育倉庫の方を確認するためにチラッと陰から覗いてみた…

そして俺は、衝撃のシーンを目撃する。



ある男子生徒が倉庫から出て来た。そしてゆっくりと歩きながらセグウェイに近づくと、その銃口全てに向けて発砲。一瞬にして四機を爆破させた。


「んなアホな…」


俺はそのたった数秒の戦闘に思わず見惚れてしまった。あまりにも簡単そうに倒されてしまったセグウェイもどきに、再び自分の無力さを実感してしまう。

あんなに苦労して倒したのに…他の人にとっては簡単。それを証明されてしまったのだ…。

(いや…こんなこと最初から分かりきってたことだろ…!!んなことで今更落ち込んでんじゃねーよ岡崎修一!これから俺もあっち側に行けるようにまた努力するんだ…焦るな!)

しかし、今の俺はずっと落ち込んでたりはしない。もうそうやってうじうじするのはやめたんだ。

そう気持ちを切り替え、できればあっちの破片もいくつかほしいななんて思いながらもう一度倉庫の方を見ると、なぜかその男子生徒が体育倉庫の中から投げ出されてきた。

…再び、俺の目が点になった。

再び意味のわからない状況を理解しようと見ていると、倉庫の中から、ピンク髪のツインテール少女が出てきた。怒りマークを額に乗せ、今にもその手に持つ銃を発砲しようとしている。

……って

「……あ、あの子だ」

俺はその子を知っていた。というか昨日ぶりなのだ。

そのピンク髪のツインテール少女こそ昨日俺に変なことを吹き込みやがった張本人、強襲科Sランク武偵、神崎・H・アリアだった。

「なにしてんだ、こんなとこで…?」

なぜかアリアと男子生徒が対立しているようだが…何か中であったのだろうか??

相変わらず状況は読めないが、とりあえず様子を見ることにした。

「逃がさないわよ!あたしは犯人を逃したことは一度もない!!…あれれ!?」

喧嘩の理由はわからないがものすごくお怒りのアリアは男子武偵に銃を向けながらマガジンを取り出…そうとしていたようだが突然気の抜けた声を出した。どうやらあるはずのマガジンが見当たらないらしい。

「ふふっ、ごめんよ」

対して男子武偵は、おそらくアリアのであろうマガジンを持ち不敵な笑み(うぇ…ちょっと気持ち悪いな…)を浮かべながら、そのマガジンを俺のいる方に投げ捨てた。

(…お、ラッキラッキ!売ろう売ろう!!)

俺にとっては弾も金になる。…と飛びついてみたものの、なぜかマガジンの中は空だった。…あれ?

「もう許さない!!…わきゃあ!?」

首をかしげる俺の先で、アリアが半泣きのまま背中から刀を二本(を取り出し男子生徒に飛びかかろうと…したがスッテンコロリン。地面に撒かれた弾を踏んで転んでしまう。

おお、知り合いの面白いとこ見れた。カメラ用意しておけばよかったぜ…。

「ごめん撒かせてもらった」

どうやらアリアの弾を周囲にばらまいておいたらしい。完全に遊ばれているSランク武偵。俺はその様子を興味深く見ていた。

この男子武偵…何者なんだよ…??

まだぎゃあぎゃあ叫んでいるアリアをよそにその男子生徒は俺の元へやって来た。ってしまった!?よくわからん強敵に見てたのバレたっ!?

「おや?見られてたんだね」

「ま、まぁ、たまたまな…な、なんだ…俺ともやる気か?」

こいつの性格がまだ理解していない俺は、少しビビりながらも小型銃を構えた。もしこいつがただ戦いたいだけのやつだとしたら俺もう病院送り決定かもな…などと思っていると。

「いやいや、何もしないよ。それより、早く行かないと次の授業に遅れるよ」

男子武偵はそのイケメン顔をふっと緩ませ両手を挙げた。どうやら俺の勘違いだったようだ。

「あ、ああそうだな。……っとそうだ、なぁ、あのガラクタ達俺がもらってもいいよな?」

とりあえず俺の安全は確保されたと安心しつつ、先に転がる戦利品たちを見た。

一応こいつが倒したんだし、許可もらっとかないと。

男子生徒は一瞬キョトンとしたが、すぐに頷いてくれた。

「ああ、もしかして装備科(アムド)の人かな。大丈夫、あれはもともと武偵殺しの模倣犯の物だから…それじゃあね」

なんか勘違いされたが、どうやらもらってもいいらしい。

去っていく男子武偵より目先の戦利品に興味が移った俺は、セグウェイもどきの周りに散らばっている弾をせっせと拾い始めた。

よしよし…これは今日の夜鍋確定だな…久々の肉は中々楽しみーー

「あ、あんた昨日の」

「…そういやいたのな」

弾を拾いながら進んでいた俺はいつの間にかアリアの目の前まで歩を進めていた。


(…忘れてた、アリアがまだ転んでたんだっけ…まぁ、どうでもいいや。それより弾、弾…肉、肉…!)


アリアを無視し弾を拾うことに専念することにした。

「何してんのよこんなところで」

「…ふふ〜ん、肉、肉、おっ肉〜」

「…っ!何してんのよこんなところ、で!!」

「ふぐわっ!?」

専念しすぎてアリアを無視してしまっていたようだ。再び怒りマークを出したアリアの蹴りが思い切り俺のケツに突き刺さる。

「痛ってーな!なにすんだ!」

「あんたがあたしを無視するのが悪い!!」

「…っ!…ああもうわかった」

理不尽にもほどがあるが、これ以上言い合ってもしょうがない。俺は弾をマガジンに入れながらアリアの方を向いた。

「で、なに?」

「だから何してんのかって聞いてるの!」

「…資源確保、かな?」

「……なにそれ?」


「あのな、昨日も言ったろ?Eランクのダメなやつは仕事がないんだよ。こうやってこつこつと資金集めにいそしむのが俺の日課だ」

「………ふーん。変な日課ね」

うるさいよ。好きで日課にしてるわけじゃないんだよ。

「ところで今の男子、知ってる?」

落ち込む俺にもう興味はなくなったのか、アリアは話を変えた。先ほどの男子とは…あのイケメンのことか。

「ん?いや、初めてみたな」

「そう。じゃあいいわ」

そういうとアリアは立ち上がって、俺が弾を集め周っていたマガジンを取った。…え?

「弾回収ありがとう。じゃあね」

どうやらアリアのために集めたと思っているらしい。軽くお礼を言うと背を向けた。

…それも資金にしようと思ってたんだが…まあそもそもアリアのものだったわけだからしょうがないか。他の破片でも鍋は出来るし。

俺はその後ろ姿に手を振りつつ残った戦利品を回収し始める。うんうん、いい感じだな。

「あれ?そういえばなんで隠れた後に出てきたのが四機だけだったのかしら…」

ふと立ち止まったアリアが俺の集めている戦利品、もといセグウェイもどきを数えて首をかしげた。

「もしかしてあんた、なにかしたの?」

「…あ〜…い、いや〜、別に?」

…え?待って。もしかして手柄少しとっちまったから怒ってたりする?

そうビクビクしながら待っていると、ふーんと言いながらアリアが戻って来た。

「あれ、あんたがやったの?」

「ま、まあたまたまな…」

「そ、わかったわ」

あれ、意外と普通だ。よかった。破片よこせとか言われたらどうしようかと…

「あたし、あんたの名前聞いてなかったわね」

「そうだっけ?俺は岡崎修一。強襲科Eランク武偵だ、よろ」

「そう修一ね。もしかしたら任務を一緒にしてもらうかもしれないから。その時はよろしく」

「は?お前何言ってんの?」

Sランク武偵がEランク武偵と任務って俺死ぬの確定じゃんか。

「お前ってなによ!アリアよアリア!ちゃんと名前で呼びなさい!!」

しかも変なとこでキレとるし。

「わ、わかったよアリア。でもなんで俺なんだよ。今日の飲み物も買うかどうか悩むくらいの貧乏武偵だぞ?」

「あの機械兵器の残骸見たらわかるわよ。あんた、あの機械兵器の弱点を突いて倒したでしょ?中々の洞察力と見たわ。あんた結構強いじゃない?」

「…は?」

一年間なにもできなかった俺が、結構強い?

「たく、人をからかうのも大概にしとけよ?あんまり弱いものいじめするやつって好かれないぞ」

「はぁ?あんた何言って…」

「んじゃ、またなアリア。さっきのはその場の空気を読んだアリアなりのギャグってことにしとくからよ」

「ちょっと!待ちなさい修一!あたしはギャグなんてーー」

「いいんだってそういうのは!」

俺は思わず叫んでしまった。そう、これは俺の一年間を全てなかったことにしようとするアリアに対しての些細な抵抗だったのかもしれない。

「俺には才能なんてのはない。だから努力してんだ。実力なんてのはないってのは俺自身が一番よく知ってるんだからよ。だからあんまり期待させるようなこというな」


そういって俺は学校の方へ穴の開いたサドルをつけた自転車に乗って走った。

いてて…やっぱ銃弾は受けると痛いな…教室の前に保健室行くか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『へぇ………岡崎修一か。キンジはともかくあいつに4機もやられるとは思わなかったな。くふ。面白い人材見つけたか、も♡』











 
 

 
後書き
くふ 

 

3. 金髪ギャルの違和感

 
前書き
「2話のあらすじ」
倉庫が騒がしいことに気づいてしまった修一が好奇心でその場所へ向かってしまったことで、ある事件に巻き込まれてしまう。つまりアホである。
*この話の中には矛盾点が存在します。それが分かればあなたは探偵科になれます(仮) 

 
保健室に寄って軽く治療された俺は、クラスへと向かっていた。

実際のところそこまで重症ではなかったようで、これくらいで来るんじゃねーよ的な目線を受けてしまった。まあEランクの扱いなんてのはそんなもんだ、気にしていない。

そう判断し、俺は教室へと向かった。もうすでにHRが始まってしまっているだろうが行かない訳にもいかない。目立ちたくないな…などと考えながら歩き、目的の教室が見えた時だった。

「風穴開けるわよ!!」

なぜか教室から発砲音と女子の声が聞こえた。え、なにそれ怖い。入りたくないんですけど…。

などと思っても、このままというわけにもいかない。恐る恐る後ろから教室に入ると、なぜかそこには銃を天井にぶっ放した姿勢でキレるアリアと、それにビビっている皆様方クラスメイトがいた。

いや待って、全く状況が読み込めないんだけど??

今日はわからないことだらけだと失笑しつつその様子を少しでも理解しようと見渡す。

その直後にアリアは再び天井に向けて弾丸を放った。…あらら、あれ修理費いくらするんだろ、勿体ね。

天井に同情しながら、もう状況を理解するのは不可能と判断しアリアの元へ向かう。

「おいアリア。なんなんだこの状況?」

「あ、修一!あんたこのクラスだったのね!!じゃあ説明して!あたしとこいつの間に恋愛なんてバカげたことなんてないって!!」

アリアは俺を見つけると勢いよく俺の元へやって来て一人の男子生徒を指差した。

その相手も知った顔だった。

「お、チートナルシスト野郎じゃん。同じクラスだったのか」

「なんだよその呼び方!?俺はナルシストじゃない!」

その男子生徒は先ほど俺が頑張って破壊した機械をいとも簡単にやっつけてくれちゃいましたあのナルシストだった。うんざりしたような顔で俺の言葉にかみついてる。

若干テンションというか印象に違和感を覚えたが、初めて見た印象は誤差があるだろうということで気にしないことにする。

それよりも、このよくわからなかった状況がようやく理解できた。

つまりあれか、二人が朝に出会ってることを知ったクラスメイトが二人デキてんじゃね的なノリでからかったら、ノリのわからんこのピンクツインテがキレたと。

んで、朝のを見ていた俺に証言してほしいってことね。朝からわからないことだらけだったからなんかすっきりしたわ。



なるほど…なるほど。



よし、決めた。


「なあアリアよ」

「なによ?」

「仮にさ、俺がいまこいつとアリアは朝からイチャイチャしてて気持ち悪かったですって言ったら、クラスメイトはどっち信じると思う?」

「な!?」

俺はうんうんと頷いた後、近くにいるアリアに耳寄せしてそう脅した。

アリアは俺の方を見て目を見開いて驚いている。

「あ、あんた!?あたしに何か恨みでもあるわけ!?なんでそんなこと言うのよ!?」

「いや別に恨みなんてないない。ただまあ…」

俺は一呼吸おいてアリアに向き直る。

「いくらくれんの?」

「は??」

「いや、だからな。俺がお前らが付き合ってないですーって言ったらおま…アリアはいくらくれんだよ?」

恨みなんてない。それは本当の話。正直な話をすれば、金が欲しかっただけでした。

「あ、あんた。それ言うだけで金取る気!?」

「あったり前だろうが!俺は金さえくれりゃどんなことでもする。逆に言うとどんなことも金くれなきゃしないんだよ!」

ドヤっとワザと仁王立ちしてアリアの前で立つ俺。

うん、自分でもわかるクズっぷりだ。だがな、これが大人の世界ってやつなんだよ。人は情だけで生きていけるとは限らないんだからな。

「あんた、意外と最低ね…」

「…正直余裕ないのよ…。」

そうなの…。もう財布の中身だけしか残ってないんだよ。今なら自動販売機の下余裕で覗けるわ。

「はぁ、わかった。言い値を払うから頼んだわよ」

「あーい、合点承知の助」

そうして俺は臨時収入とともに大切ななにかを失いつつ、男子生徒とアリアの無罪を証明したのだった。


―――――


タァン タァン

平常授業を終えた俺は、射撃場に来ていた。

強襲科に所属して一年。来ていたのは最初の三ヶ月くらいだっただろうか。

途中から嫌になっていかなくなったんだが、今日アリアに言われた「実力がある」という一言がどうしても頭から離れず、このモヤモヤした気持ちをどこかにぶつけたくて久しぶりにやってきたわけだが…

《岡崎 修一 スコア 0点》


「…はぁ…」

引き金を引いて弾が飛んでいくのはいいが、やはりマトの中央には当たらない、どころかそのマトの書かれた紙にすらカスリもしなかった。本当に銃の才能ないんだなと思い知る。

今日のあのセグウェイもどきとの対戦のとき、仮にだがキンジ(あのあと少し話してお互い知り合いもどきにはなった)のように銃を使うことができていれば俺もアリアにいい顔出来たんだよな…。

そんな夢物語を想像しながらまた引き金を引く。相変わらず当たることはない自分の実力に落胆する。

どうしたらいいのかもさっぱりだ。やっぱ、変に自分に自信持ってもしょうがないのかもしれん…


出直そう、そう考え帰宅準備を始めたときだった。

「あ、見つけたぞ〜♬おい〜す!!」



そこへテンション高めの金髪ギャルが現れた。


そいつは明らかに俺の方を向いてなにかを言っている。気のせいか、俺の後ろの誰かを呼んでいるのかなどと考えたがそうではないようで、確実に俺に声をかけようとしている。

…しかし、誰だこいつ?俺はこんなカースト上位人(仮)に知り合いなんていない。
こういう無駄に目立ったやつ相手にするのは間違いなくーーー面倒くさい。

『修一はどうする?
逃げる
▷ 逃げる
  逃げる


「ええ!?ちょ、待ってよ〜!!」

そのギャルの前からダッシュして逃げることに決めた。こういうやつに絡むと余計なことしかないあのピンクツインテ然りだ。

そう判断しダッと背を向け走り去る。自慢じゃないが、逃げ足は速いと自負している。

…本当に自慢じゃないな。

などと自分にツッコミを入れつつ、高速で逃げ出す俺。

ギャルも流石に俺が逃げ出すとは思っていなかったのだろう。一瞬ひるんだが、すぐに追いかけてきた。

(追いかけてきたし…。でも俺に声かけてきたってことはなにか用があるんだよな…?何の用だろうか…??)

逃げながら、追いかけて来るギャルが話しかけて来る理由が気になり始めていた。サイカイの俺にわざわざ話しかけて来る奴なんてめったにいない。だからこそその内容が気になって仕方がなかった。

………せっかく久々の会話ができそうなんだ。話だけでも聞いていいかもしれんな。

そう思った俺は射撃場の入り口辺りで止まるとそのギャルを待つ。

Eランクの目立たない(良いことではだが)俺に、今日は来客が多いもんだ…。

「な、なんで逃げるのぉ??理子から逃げるなんて、ぷんぷんがおーだぞ!」

俺の前で息を切らしながら両手で鬼の角を表現するのは身長150cmほどの長い金髪をツインテール(ツーサイドアップ?)に結った、ゆるい天然パーマが特徴の童顔の美少女だった。

こんな美人が俺に何の用だ?などと思いつつ、確かに話も聞かずに走り去ったことに関してはちっと悪いことしちまった。

「ああ、悪かったな。いきなり声をかけられてビックリしたんだよ。で、なんか用か?」

「んふふ〜、あなたアリアとお友達なんだよね?アリアってどんな子なのかなーって聞きたくてさ♬」

なるほどな。アリア関連で俺に近づいてきたと。俺とアリアが知り合いだって知ってるということは…同じクラスってところか。

まあ納得だ。俺に対してなにか用があるほうがおかしい。

「と言ってもなぁ。俺がアリアと会ったのは昨日が初めてだから、俺もあんまし知らないぞ。知ってるとしたら短気なやつってくらいだ、あとうるさい」

「ふーん、そっか」

ギャルは俺の返答に軽く返すだけで終わり、なぜか俺の顔をニヤニヤと見ている。

俺が首を傾げる中、ギャルは「くふっ」と独特な笑い方をしながら俺の方へ一歩近づきてきた。…おい

「近い」

「え〜別にいーじゃーん?嬉しくなーい?」

「そりゃ嬉しいだろ。でも意味が分からん」

俺も男だ。女の子にこれだけ近づけられると嬉しいのは仕方のないことだ。

それと、わざと興味ないように振る舞うのも仕方のないことである。

「正直だね?」

「男だからな」

「うんうん!それくらい欲望に忠実なほうが理子も好きだよ!岡崎修一くん!」

「あ?なんで俺の名前知ってんだ?」

「だって理子、探偵科のAランクだよ?簡単に調べることできるもーん」

できるもーんってそれ個人情報じゃ…まぁ、武偵だし、しょうがないか。…しょうがないんだよな?

「でも、わざわざ俺を調べたのか?アリアのこと聞きに来るためだけに?」

ギャルはくるっと回ると(なぜ?)また俺の方に近づいて答えた。

「だって〜しゅーちゃんのことも、もっとよく知りたかったんだもん♡」

「ふーん」

Eランクの俺を、わざわざねぇ。…ん?なんか今違和感があったが?

ギャルは俺の手を握ってきた。いやなぜ?

「それにね!理子としゅーちゃんって同じクラスなんだよ?」

「え、そなの?」

「だからぁ、理子としゅーちゃん、もっと仲良くなれると思うんだよねぇ」

「うむ、悪くない」

見た目ギャルだがこの子は中々の美人だ。出るとこ出てて引っ込むところは引っ込んでる。こんな子と仲良くなるのに躊躇なんてしないもんだ。男ってのは。

「私、峰 理子!理子でいーよ!!よろしくねしゅーちゃん!」

「岡崎修一。その、しゅーちゃんってので別にいいよ」

いつの間にか俺にあだ名がついていた。女子からあだ名で呼ばれるのっていつ以来だろう…ああ、修って呼ばれるのはあったがあれはあだ名でいいのか?

「それにしてもしゅーちゃんって銃の使い方下手だよねぇ。理子後ろからちょっと見てたけど驚いちゃった」

ギャル…もとい理子はもう友達として接してくるようだ。俺のスコアを見て「くふふ」と馬鹿にしたように笑う。

ああ、あれ見られてたのね、恥ずかし。

「まあEランクだしな」

「普通の人Eランクでも、もうちょっと当たると思うよ」

「………。」

なんでかな。知ってたけど、人から言われたらやっぱ辛いや。

いつもほかの武偵にクスクス笑われているのでメンタルが鍛えられたと思っていたが、そんなことはなかったようだ。ズーンと落ち込んでしまう。

別に…好きで当ててないわけじゃないやい!

落ち込む俺の姿を見た理子が、流石に言いすぎたとばかりに背中を叩いてくれた。

「ご、ごめん言い過ぎた。じゃーあ、理子が銃の使い方、教えてあげてもいーよ??」

「あー、それは…いいや。遠慮しとく」

「どうして?」

「いくら教わってもわからなかったからな。コーチが変わったところで結果は見えてんだよ。わざわざサンキュな」

見た目と違って気を使える理子の頭をポンポンと撫でて俺はバックを持つ。先生にさんざん教えてもらってこれなんだ。今更理子一人に教えてもらったところで上達するとは思えないしな。

そんなことはさておき、俺にはやることがある。背負ったバックに入ったものを、そろそろ金に変えに行くとしよう。

「しゅーちゃん。それなに?」

理子が俺の撫でたところを触りながらもバックに興味持った。俺はふふんと笑ってバックを開いた。

「これか?今日朝変な機械に襲われてな。戦利品だ」

「うわあ!すごーい!これ7.8機ぶんくらいあるんじゃない!?」

バックのなかに詰まった金属類を理子に見せてやる。中々のもんだろ!とドヤる俺を無視し、理子はへーっと感心しながらそれを漁っている。…無視しないでほしい。

「これって、もしかして今流行ってる武偵殺しの模倣犯のやつ?」

「ああ、そういやそんなことキンジが言ってたな。よくは知らないが…」

俺はニュースを見ても聞き流すくらいであまり知識として蓄えてはいない。確かに今巷で悪名が知れ渡り始めた武偵殺しという悪党の話はなんとなく知ってはいるが、深い内容までは知らない。…世間の話題にはついていけないのだ。

まあ、ついていけなくても話すこともないからいいのだが。

……はぁ。

「そっかぁ。これ、どうするの?」

「装備科のやつに知り合いがいるからそいつに買い取ってもらおうと思ってな。今日の晩飯は豪華になるぞ!」

この量なら軽く一万はいくだろう。豪華な肉が食える…!ああ、今すぐにでもスーパ-に直行してお肉をこの手にしたい…!!

「ってことで俺は行くわ。じゃあな」

そうやって俺は、すぐに理子から離れようとした。

理由としては単純、もうこれ以上仲良くなりたくなかったからだ。これ以上仲良くなってさみしい思いをしたくない。

理子はいいやつだが、俺に絡んでもメリットがない。
この学校は普通の高校とは違う。クラスメイトもいずれ敵対するかもしれないのだ。

つまりこの学校では交流を深める際、相手と自分の力量を計って同じくらいか実力が上のやつのみという暗黙のルールが存在するということだ。

だからこそ俺は誰とも話すことがない。そう、力量が同じやつなどいないからな!!

……。

理子は探偵科のAランク。
そんなやつが、俺と絡むのもアリアというSランクの情報が欲しかったからであり、もともと俺目的ではないことは明白。だったらこれ以上関わっても意味はない。

もう俺の持ってるアリアの情報は少なかったが全部話した。

他の呼び方の話なども会話の流れを壊さないようにしてくれただけだろうし、もうこれから話すことも話しかけられることもないだろう。

個人的には久々の友達同士みたいな話ができたからちょっと寂しいが。仕方ないさ。

そういうことで、俺は早々に去ろうと――

「じゃあ理子がその資材買い取ろっか?その装備科の人の定価の1.5倍で!!」

「さぁもっと仲良くなろうよ理子さん!!俺あなた大好きだわ!!」

ぐるんと身を翻し、理子の手を強く握る。


全く誰だ力量を測るとか言ったやつは。お互いに利益があるならいいじゃないかいいじゃないか。

俺の身の翻し方とそのテンションに若干引いてる理子に俺は1つ疑問に思う。

「でもよ、お前探偵科なんだろ?なんでこんな資材いるんだ?」

探偵科は主にパソコンなどの電子機器を用いて捜査したり、推理するような学科であると聞いたことがある。こんな資材を受け取ってもなににも使えないだろうに。

「んーと、探偵科の授業でさ、1から物を作る課題出されちゃって。その機材が欲しかったんだよね。見た限りじゃこれかなりいい素材使ってるみたいだしもらえるなら理子も助かるんだよね」

ふーん、探偵科ってそんなこともするんだな。ま、俺は金さえもらえりゃなんでもいい。


「おっけ。んじゃあ交渉成立な!」

「おーいえー♬」

これからも戦利品は理子と相談することにしようと思った。

1.5倍はやばいって。今日の飯、肉だけじゃなくてポン酢からおろしポン酢に変えても足りるくらいになりそうだな!!うっひょー!

舞い上がりそうなくらいテンションの上がるおれし。理子と話し合い、金額を決定した。

「うん、おっけ!じゃあ口座に振り込んでおくね!」

「おう!頼むぜ!!」

話し合いも終わり、交渉終了。俺も理子もお互いに承諾し契約は成立した。

「そういえばしゅーちゃん、アリアにもお金要求してたよね」

「お、聞こえてたのか」

あのときかなりの小声で話してたから誰も聞いてないと思っていたが、理子には聞こえてたらしい。

「まーね!理子耳いーし!ねえねえ、いくらもらったの?アリアって意外とお金持ちだから結構もらったでしょ?」

「300円」

「へ?」

俺は指を3本立てて理子に見せる。

「だから300円だよ。明日の朝メシ代」

「それだけ、なの?アリアから貰えるのに?」

「流石の俺もあれだけで何千ももらえるかよ。つーか300円バカにすんなよ?パン3つ買えるからな」

パン3つだけで人間がどれだけ生きることができるか、こいつ分かってないな。

「………ぷ。あっははは!しゅーちゃん面白い!アリアに300円って!小学生じゃないんだから!!あっはは!!」

なぜか理子に爆笑されてしまった。まあ確かに…

「確かに少なかったかもしれんな。あと200円くらいせびっとけば昼飯に使えたのか……」

「あっはははは!!」

理子は腹抱えて大声で爆笑し始めてしまった。そんなに面白いか、これ?

それからしばらく笑い転げる理子に俺はただただ首を傾げていた。

―――

「でもでもしゅーちゃんやるねぇ!武偵殺しの機械ってかなり強力だって聞いたけどこんなに倒したんでしょー?」

話が変わり、朝の話になった。どこからその情報を得たのか、早いな。

「おう!俺は強いんだほめ讃えよ!!」

「しゅーちゃんすごーいすごーい♬」

はっはっはと仁王立ちする俺の周りをピョンピョンと回る理子。ノリがいいのは外見と同じみたいだな。さて…

「なんつってな。無理に決まってるだろ。キンジだよ、知ってるだろ?遠山キンジ。あいつが4機倒したんだ」

「あ、そうなんだー。あ、でもでもEランクのしゅーちゃんがどうして4機も倒せたの?」

「そりゃたまたま俺と機械の距離が近かったのと偶然弱点に気付けたからだろうな」

「弱点?」

「まああれが弱点っていうのかはわからないけど、少なくとも反撃の一手にはなったか」

「それでそれで!?」

グイグイくるな。まあ探偵科だから色々と知りたいのだろう。

「あの機械には多分ある程度の大きさの物体が、ある一定の距離内で動くと発砲するようになってた。それなら近くで物を投げるとその方に銃口を向けてくれるからな。Eランクの俺でもなんとか倒せたってわけだ。…まあやっぱそれでも苦戦したけど」

「へーなるほどなるほど」

理子は感心したように何度も頷くとわかった!と力強く頷く。
なにがわかったんだろうか?よくわからない

「あ、じゃあ理子お金振り込みに行ってくるね!しゅーちゃんもう今日の晩御飯もやばいんでしょ?」

「おう。振り込みなかったら今日はもやし炒めになる」

「そっかそっか!じゃあねしゅーちゃん!今度依頼あったらもってくるから!よろしくぅ!」

「簡単なやつならな」

「うん、よろしくー♬じゃーあじゃばー!!」

なんかよくわからん言葉を言って理子は去っていった。なんつーか、記憶に残りやすいやつだったな。それにこんな俺にも平気で話しかけてくれるやつはそういない。俺がEランクというだけで俺に話しかける人は一人もいなかったのだ。理子ともうちっと早く会っていれば、俺も少しはマシな学園生活ってのを送れたのかね。

などと思いつつ、俺は今日の夕食を買いに行くことにした。

そして、あることに気づく。先ほどの理子との間に交わした会話の中での矛盾点。

「あいつ………なんであんなこと、言えたんだ?」

俺はそこが気になって仕方なかった。あいつもしかして、なんか隠してないか?


【第1章 「始まり」 終】 
 

 
後書き
わかりましたか?
ヒントはなんで知ってる?です

 

 

4.任務前の下準備

 
前書き
「3話のあらすじ」
射撃場で修一に話しかける金髪ギャル。ギャルの元々の整った顔にどぎまぎするコミュ障修一。
その初めての会話の中で、なにか気になりアホなりに色々と考えてしまうが、とりあえず家に帰ることにする。お金は潤った。
 

 
夕飯はそれはそれは豪華だった。ご飯に味噌汁、さらにはしゃぶしゃぶとおろしポン酢まで完全な栄養バランス!そして野菜もキチンととれるこの瞬間、ああ、俺は生きている!!

男子寮に帰る前にコンビニに寄り、口座を確認してみると、理子はきちんと約束を守る奴だったらしく、定価の1.5倍の金が振り込まれていた。素晴らしきかな理子様!これで俺はあと一ヶ月は普通の食事にありつけそうだぜ。

そうして飯の時間という至福の時間を過ごしたあと、今日の戦闘での被害状況を確認することにした。

「ひっさびさにボロボロだな」

まずは竹刀だが、弾丸を二発も受けてしまっていた。空いた2つの穴があまりにも大きく、これでは使い物にならないようだ。まぁ日頃使ってなかったからボロくなってたってのも1つの原因だろうが。もちろん袋も同じくダメだ。この2つは処分するしかないだろう。

自転車は使ったのがサドルだけだったから被害的にすくない。サドルっていくらしたかな。まあ定価よりは安くできるとは思うけど。

小型銃は整備していただけあってまだまだ現役だ。弾は補給しないといけないが。
以上より、今回の被害は竹刀のみということだ。まあ腹に痛みがあるがじきに治るだろう。

さて、補充すべきは竹刀、袋、弾、サドル、だな。

そうして俺は、一人の女に電話かけることにした。

俺の幼馴染で、今も長崎に住んでいるあいつだ

『はいサラです、修くんですか?』

「おう」

サラ・デュ・エント。薄桃色の長髪にパッツンが特徴的な女の子だ。先ほども書いたが幼馴染の腐れ縁ってやつで、今も頻繁に電話している。本当は高校入学も一緒に来たかったらしいが俺が武偵高校に入ることになり辞めさせたのだ。
こいつにこんな惨めなところを見せたくなかったしな。

っと、そんなことよりだ。このサラには特技がある。

『なるほど、竹刀が壊れてしまったのですね』

「ああ、できれば次はもっと固くしてほしい。鉄も切れるくらい」

こいつはいい素材を集めるスペシャリストだ。基本俺のもつ資材などの調達はサラが行っている。俺のほしいものをなんでも格安で手に入れてくるというある意味一番すごいやつとも言えよう。
この俺の持っている小型銃も定価の8の値段で持ってきやがったときは驚いたね。


『て、鉄ですか・・??そうなると本物の刀とかになりますけど』

「それは無理。刀なんて重たくてずっと持ってられるか。竹刀くらい軽くて、鉄も切れるやつよろ」

『あ、はい!わかりました!できる限り探してみますね!明日のこの時間には結果を持ってきます!』

「あとサドルと弾とよろ」

『わかりました!修くん、おやすみなさい』

「あいよ」

俺の無理難題も喜んで引き受けてくれるサラの度量はすごいなと感じる。こいつに頼めば格安の値段で明日にでもほしいものが揃うだろう。

そうして通話を終えた俺は昨日からまた始めたトレーニングを行った。
もちろん自分に武偵の才能がないのは理解している。だがらだからと言ってそれを言い訳にして逃げるつもりは一切ない。
無理だ、ダメだで逃げていた自分はもう捨てたんだ。俺自身が今できることを精一杯やるしかないだろ。

そうして、ある程度のトレーニングをし終わると、特にすることもがなかったので寝ることにした。なんせ起きてたら電気使うからな。電気代の節約節約。



そして朝、潤った金で卵とベーコン、パンを買っていた俺は、また久々の贅沢な朝食にありつけていた。しかも飲み物はコーヒーときた。これはもうーー

「天国だ。間違いない」

『やだ!逃がすもんか!キンジはあたしの奴隷だあ!!』

『はーなーせ!!』

「・・・」

久々にカチンときましたよ私もね。隣の部屋がうるさい。なんだってこんな朝っぱらから、しかも俺の至福タイムで声をはりあげる。

・・ん?というか今の声ってアリアじゃね?あの声を聞き間違うわけないし。なんだって男子寮に・・。

というか、キンジ?もしかして隣の部屋キンジが使ってるのか?などと色々と考えて、まあアリアだし。の一言で片付けることにした。

・・後で会ったらとりあえずうるさいとだけは言っておくか。

そう思って時間を確認すると、そろそろ出ないとバスに遅れる時間だった。

「さてと、あいつらも乗るだろうし、そん時にでも一言ーー」

そう思って立ち上がった時だった。俺の携帯が着信を知らせて震えていた。おお、一瞬気づくのが遅れたぞ。サラ以外から電話って一年ぶりじゃないか?

などと悲しいことを思い出しつつ、番号を確認するが、番号だけで誰かは分からなかった。・・とりあえず出てみることにする。

「・・はい?」

『お、はよー!!しゅーちゃーん!!』

「おお、理子か。おはよう」

『あれ?もっと驚くと思ったんだけどなぁ。な、なんで俺の電話番号しってんだよ!?・・みたいな?』

「お前、前に俺の個人情報調べたって言ってただろうが。いまさらそれくらいじゃ驚かんよ」

『そっかそっか!ねえねえ!口座にちゃんと振り込んでたけど確認した??』

「おお!それならマジで感謝だ。サンキュな理子」

『うぃーっす!理子は約束だけはきちんと守るからね!というわけで、約束ついでに依頼も持ってきたよ!』

「あ?依頼?」

『そそ!ほーらぁ、理子が帰る時言ったでしょ?依頼があったら持ってくるって』

あれってその場限りの口約束じゃなかったのか

『でねでね!しゅーちゃんの性格にどハマりのいい依頼持ってきたんだー!興味あるでしょ!?』

電話でもグイグイくるなこの金髪ギャル。というか朝からテンション高い高い。・・だが

「ない」

『え?』

「興味ねーよその依頼」

『な、なんでー!?まだ内容も聞いてないじゃん!』

「ーーあるし」

『なに?聞こえなーい??』

俺は、聞こえなかったらしい理子にドンと胸を張って答えてやった。

「今は金があるんだ!お前のお陰でな!いいか、俺が任務をやるのは金がないときだけだ!ある時は絶対しないって決めてんだよ!怖いし!!」

まあそのない時にする任務もEランク向けの簡単な任務なんだけど。小遣い程度の。


電話越しで理子がうわぁと引いているのを実感しつつ、もう切ろうと電話を耳から離そうとしたとき

『でもさー理子が1.5倍で買い取らなかったらもっとお金減ってたよね?これって〜貸し1ってやつじゃないかな〜??』

「なっ!?おま、金で貸しなんて汚ねぇぞ!!」

『一番お金に汚いのはしゅーちゃんだよー!!』

ガルルルル・・!とお互いに電話越しに威嚇し合う。が、確かに落ち着いて考えてみれば理子の言っていることも少しだけ理解出来なくもない。

『それにこれ、例の武偵殺しが関わってる可能性があるからって報酬はたぶん30まーー』

「引き受けよう」

即答だった。なんでそんな重要なことを早く言わないんだ。なんだなんだ今週は俺のゴールデンタイムだったりするのか!?金の話が次から次へと!

『・・なるほど、しゅーちゃんにはまずお金の話を振ればいいのか』

理子が俺の扱い方を理解し始めたところで、俺はその依頼内容を聞くことにした。ワクワク、ドキドキ

・・・ん?
というかそもそもどうしてこいつは俺なんかにわざわざ依頼なんて持ってきたんだ?俺よりランクが高いやつなんて、というかランクの高いやつらしかいないと思うんだが

『依頼内容は「建物調査」。町外れのある倉庫で武偵殺しが秘密裏に作業してるみたいなんだよね。まぁどっちかっていうと嘘情報に近いみたいだけど、一応調べてちょっていう感じ』

「おいおい、それ絶対Eランクじゃねーだろ。なんでそんな依頼なんて」

『もー!ぶーすか言わないー!!今日中に行って結果だけ報告してくれればそれだけでいいから。あ、ドア開けてチラッと見て帰るとかしちゃダメだよ!』

「あーはいはい。あんま期待すんなよ」

『はーい!資料は後でメールで送るから確認してね!じゃ!』

そう言ってすぐに切った理子。うっし、なら準備するかね。

俺は任務のための持ち物を確認する。・・が

「ありゃ」

俺の手元にあるのは

小型銃 弾 四発
携帯
ティッシュ

・・・以上。

無理だな。無理。これじゃ昨日のセグウェイでもいたら即死だ。


『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性ーー

「いやでもこれは無理だろ」

またあのピンクツインテの言葉が頭を過ぎったがこれは無理だろうが。

「・・はぁ、しょうがないか」

行く場所が決まった俺は電話である天才にアポを取りつつ、部屋を出た。

今日は学校サボることになりそうだ。





俺は装備科のある一室の前にいた。アポは取ってあるからノックしてすぐにドアを開ける。

「あややー。本当に来たのだ!」

「おう。本当に来たぞガキンチョ。今回も安めで頼む」

「岡崎くんは本当にセコいんだなー!やる気が起きないのだー!」

「いや男子高校生から何十万も取る方がおかしい」

平賀 文ひらが あや。東京武偵高校2年のおこちゃま体系のランクAだ。皆が言うにはSランクの実力があるというが、違法改造や相場無視の吹っかけ価格の改造などでAランク止まりになっているらしい。まあつまり俺みたいな平凡学生の天敵である。ショートカットの髪を左右の耳の脇でまとめた髪型をしている。正直可愛い。平賀源内の子孫であり、機械工作の天才とよく呼ばれている。まあ、やる気と価格は紙一重らしく、こちらの提示資金が低いとかなりいい加減に作りやがるから、ときどき(俺の場合はほぼ)不良が起きることもある。

だがこいつのいいところは不良があることがあってもEランクである俺の道具を作成してくれる点だ。装備科での成績の上げ方として、コンテストに提出して成績を残すことなどのほかに、ほかの武偵に良い成績を上げるための武器を制作するというのがある。簡単に言うとアリアなどのSランク武偵が装備科の生徒の作った武器で良い成績を残すと、その装備科の生徒の成績にも反映される仕組みだ。

だからこそ、俺のようなEランク武偵の装備なんか作ってもどうせ活躍しないことが分かっている以上、作らないという生徒がほとんどなのだ。だからこそ、こんなことを言いつつも平賀にはかなり感謝していたりもする。

「まあ、今日もあややの思い付きで造った商品を買ってもらうのだ!!」

「おう、ほとんどそれ目当てできたからじゃんじゃん出してくれ」

だが俺には違法改造するほどの武器も相場無視の吹っ掛け改造もするものがない。よって、平賀の勝手に作ったものを適当に買っていくことにしている。時々不良を起こすものの、やはり使い勝手がいいんだ。この天才様の作ったものは。

「まずはこれなのだ!!シュワワワーン!『冷却弾ーー』!!」

「いやわざわざダミ声で言わんでも・・」

どっかに怒られないか心配しつつ、平賀の出した弾を持ってみる。ひんやりと冷たい

「これは弾の中に液体窒素を混ぜてあるのだ!これでーー」

「これで??」

「150mlの水を弾を撃つだけで氷にすることが可能なのだ!・・逆に言うと、それだけなのだ」

なるほど

「つまり冷やすってこったな」

「まあ簡単に言うとそうなのだ!これはまあ失敗作だから300円でいいのだ」

「買おうじゃないか」

アリアよお前の金、使わせてもらうぞ。

「次にこれなのだ!シュワワワーン!『絶対温か毛布 コンパクト』!!」

「いやもうその声いいから」

この子のいまハマっているアニメがわかった。俺は見た感じ普通の毛布を小さめにしたようなものを触ってみる。

「これは冬にかなり使える商品なのだ!これを体に巻くだけで外との温度差を比較して毛布の内側を人間のくつろげる最適な温度に瞬時に変換してくれるのだ!これなら寒い中巻いた瞬間に温か毛布に包まれることが可能なのだ!!」

「ほうほう」

いいね。電気代かからなそうだし。

「さらにさらにコンパクトとだけあって、ボタン一つでこの通り!!携帯サイズまで小さくすることが可能なのだ!持ち運びが便利なのだ!!」

「おお!すげえ」

平賀に言われた通り、一つだけあった小さな赤いボタンを押すと、みるみる小さくなっていき、手のひらサイズになった。す、すげぇ、どうなってんだこれ・・。

「これは5000円なのだ」

「んー高いが、たしかに高性能だ。買おうじゃないか」

「おお!今日の岡崎くんは気前がいいのだ!」

「まあな!臨時収入で意外と財布が潤ってんだよ」

どやっとする俺におおー!と拍手する平賀。この子のノリも俺の好きなタイプである。

それからいくつか見せてもらってそのうちいくつかを購入する。

冷却弾とは逆に火を出す火炎弾(なんかロマンがあったのだ)
女子の制服が透ける眼鏡(これが一番高かった!でも決めるのは一番早かった!)、
跳ねるたびに大きくなるスーパーボール(超やってみたい!)などを購入。

「最後にこれなのだー!シュワワワーン!『防弾シュート』!!」

「防弾シュート??」

もうパンパンのバックに道具を押しこみつつそう聞き返す。前までのは名前でなんとなく用途がわかったがこれはさっぱりだ。

渡されたのは普通の防弾チョッキ。だがその背中の部分が少し盛り上がっている。

「それは簡単に言うと防弾チョッキにパラシュートを付けた物なのだ。理由は特にないのだ。たまたま余った素材がその二つだけだっただけなのだ」

「なるほど、いらん」

パラシュートなんてどこで使うんだ。防弾チョッキは着ているがそんな追加機能があっても使わないだろう。

「そうなのだ?これはいらないものでつくったからタダでもよかっーー

「いただきましょう」

俺はタダの一言で即購入を決意した。逆に言うとパラシュートがついてくるんだぞ!いいじゃないか!!

もうバックに入りきらなかったので防弾チョッキは着替えることにする。持っていた防弾チョッキをお礼に平賀に挙げようとーー

「いらないのだ」

ーーしたが、いらないらしいのでそのままゴミ箱にぶち込んだ。なんか、挙げようとしたのいらないって言われたら傷つくよね。

「それにしてもこんなに買ってくれるとは思ってなかったのだ!」

「ま、いまから依頼だし。死んだら余らした金がもったいないだろ?」

「え?そんな危険なのに行くのだ??」

そういうと平賀は少し心配したような目をした。・・・何だかんだ言いながらきちんと俺の事見ててくれてんのな。

俺は平賀をやさしくなでー

「やめてほしいのだ」

ようとしたができなかったのでそのまま話す。

「ま、つってもあれだ。デマだったらそんなに難しくはないらしいから、終わったらまたここにくるよ」

「わかったのだ!!その時のためにまた岡崎くんが買ってくれそうな安物商品作っておくのだ!!・・暇なときに!!」

「おう、でもあんま不良品ばっか作るんじゃねーぞ!」

「あや!岡崎くんがもっとお金くれたら考えてあげるのだ!」

それは無理だ。

「んじゃ、またな平賀」

「なのだ!岡崎くんは話してるだけでおもしろいから、買う予定がなくても来てくれていいのだ!!・・あ、そうなのだ!ちょっと待っててほしいのだ!」

俺に手を振っていたと思ったら何かを思いだしたようにガサゴソと段ボールの中をあさり始めた。そしてひとつの小さなボタンを取り出した。

「これを実験として使ってみてほしいのだ」

「なにこれ?」

「ふっふっふ!これはあややが趣味で制作中のボタン型ーーあ、シュワワワーン!『ボタン型監視カメラ―』なのだ!」

わざわざ言い直さんでもいいと思うが

「これには小さなカメラが搭載されているのだ。これで撮ったものがそのまま接続した携帯やパソコンに自動送信されるものなのだ!でもまだ試作中なのだ。だから、試験として使ってみてほしいのだ!他にも色々とできるけど、とりあえず撮影だけでいいのだ」

「・・試験っていうならアリアとかのSランクに頼んだ方がいいんじゃないか?俺なんかよりよっぽどいいデータ取れると思うが」

「んー、お得意様に不良品を試験として使わせるのも難しいのだ。信頼は命、なのだ!」

「あーなるほど」

お得意様以下の俺にはもってこいだわな。

「ちゃんと岡崎くんの携帯も登録したから役には立つと思うのだ!使ったら感想を言いに来てほしいのだ!」

「わーった。サンキュな。んじゃ、もう行くわ」

「なのだ!」

ボタン型監視カメラをもらった俺は平賀の部屋を後にした。


さて、久々の任務、頑張ってみますかね。


そうして理子が送ってくれてた倉庫へと向かった。



改めて冷静になって考えると、おれ武器ほっとんど調達してなくね?・・あり?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『くふ、そろそろ来るかな岡崎修一。本当に実力があるか、あたしが見極めてやるよ。ないなら・・ここで死ぬかもね、くふふ!』
 

 

5.EランクのサイカイVS武偵殺し

 
前書き
「4話のあらすじ」
理子の依頼「倉庫の調査」をこなすため知り合いの装備科平賀文の元を訪れ装備を整えた。金なしの修一にはろくな装備を提供されなかったが、行かないわけにはいかない
 

 
「でっか」
俺が理子の言われたとおりに進んだ先にあったのはかなり大きめの倉庫だった。近くに漁船多く置いてあるここは港の中でもかなり大きな部類にはいるらしい。そのため同じ大きさの倉庫がいくつも存在している。倉庫と言っても一つが体育館ほどの大きさの倉庫だ。いったい何をそんなに入れるものがあるのか。高校生の俺には想像もつかない。「缶飲料製造」と書かれた倉庫が今回の目的地だったのだが、さて、こんなムズイ任務を受けたのは初めてで、まず最初にどうすればいいのか全く分からなかった。正面から入って大丈夫なのか?いやでもな。もし本当に武偵殺しが使ってたら俺一瞬で死ぬじゃん。

どおしたもんか。

とりあえず倉庫をぐるっと見てみると、一か所だけ恐らく二階の部分に窓が設置されていた。その下の出っ張りを登れば入れそうだが。明らかに怪しい。逆にあっちからいえばここと入り口を守っていればいいということだからな。

だがほかに行く場所がないのも確かだ。

「・・いくか」

目指せ30万ということで、試しとして入る前に平賀特性女子の制服をすけらせる眼鏡(丸メガネになぜか鼻がついている・・外見おもちゃじゃん)をつけ、中を観察してみる。・・おお!まじで少し透けた!?

壁が少し薄くなり窓の先の方が見えたが、どうやら人影はいないようだ。

すごいじゃん平賀!これは便利だ。あと女子の制服が透けることもちゃんとあとで確認しよう。・・理子とかがいいな。うん。

ちょっと知り合いに対していやらしいことを考え、鼻血が出そうなのを抑えつつ、出っ張りを登って俺は倉庫の中へと侵入した。やはり人影もあのセグウェイもどきもいない。なんだ、意外と簡単なんじゃないか?


中はかなり暗く、目が慣れてくるまでしばらく時間がかかった。どうやら曲がり角の端っこの位置にいるらしい。すぐ横に左に曲がる道があって、その先は一方通行になっている。・・・行くしか、ないか。

小型銃を構えながら少しづつ、静かに、ゆっくりと進んで行く。

(こういうほんとに武偵みたいなことって練習以外で初めてだからやけに緊張するな)

心臓の音がかなり大きく聞こえる。改めて考えると、ここは凶悪犯罪者のアジトかもしれないのだ。こんなに緊張するのも仕方がない。

そのまままっすぐ進み続けているとカツーン、カツーンという音と、なにか機械が作動している音が左側にある部屋から聞こえた。
そして、その部屋には明かりがついている。

「・・だ、誰か作業でもしてんのか?」

心拍数がかなり上がっている。
もしここで武偵殺しに出会った場合、俺の生存確率は0だ。間違いなく殺されるだろう。逃げ出した方が何倍もいいだろう。

だが

(30万・・・30万だぞ。貰えるのならしっかりやらねーと・・だよな!)

何度も心の中で金額を唱えながら、そっと扉を背に開いた部分から中を覗き見る。

一室すべてに機械が張り巡らされており、そこで機械が何か作業をしている。人の影はないし、俺のいる扉の対角線上にあるもう一つの扉からも人の来る気配はなかった。・・・機械に乗っているあれは、缶詰、だろうか。コンベアから流れてくる空き缶の中にはなにかフルーツのようなものが入っており、その蓋を閉めているようだ。

なるほど、ここは缶詰を作る倉庫ってことか・・たしかありゃあ液体窒素を缶の中に重鎮する作業、だったかな。たしかサラがそんなことをドヤ顔で言ってた気がする。あいつ変な知識ばっかあるからなあ。

つまりあれか、ここは缶詰製造倉庫。ただそれだけの場所で、武偵殺しのアジトとかじゃない。そういうことだな。

「なんだよ・・理子も脅かせやがってさ」

そうわかった瞬間緊張の解けた俺は小型銃をホルスターに戻し来た道を戻ろうとと後ろを向いた



その時


『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

「・・・うそだろ」

後ろで甲高い音を出しながらそんなことを叫ぶのは昨日のセグウェイ機一機だった。・・・気を抜いた瞬間にこれだよ。ちきしょう。

そう思いながらもダッと空き缶製造室に飛び込んだ。その瞬間通路からダダダダダダッ!!!と爆音が聞こえる。

「くっそ!!なにがデマ率高いだよ!!ものほんのアジトじゃねえか!!」

部屋をゴロゴロと転がり機械の影に隠れ、拳銃を構えた時、扉の前にセグウェイがこちらに狙いを定める。

コレマジでやばいぞ!

そう思った瞬間、大音量の発砲音が耳に響く。機械に対して発砲しているようだが。俺の場所へ弾が来るのも時間の問題だ。

マジでマズイ。前は考える暇があったから何とかなったが今は・・!!

その時、マシンガンから放たれた一撃が缶詰製造機の電力版に当たり爆発した。

ドオッ!!!っと爆風をまき散らしながら荒れ狂う部屋を俺は何もすることができずただ風に押されゴロゴロと転がってしまう。

そしてその体が先ほどとは反対側のドアにぶち当たり、その先の階段をゴロゴロと転がっていく。

階段の曲がり角地点で強く体を打ち付け、ようやく止まることができた。

「痛つつ・・・」

痛む体を無理に動かし、先ほどの部屋を見ると、壊された機械が燃え上がり部屋全体を炎が包み込んでいた。あ、あぶねぇ、あのまま仮にドアから出られないと死んでたぞ。でも生きていた。それは素直にうれしい。だが俺の任務はここが武偵殺しのアジトかどうか調べることだけだ。別に壊滅させろとは言われていない。来た道には戻れないが出口から逃げ切れればーー


と、


『『『侵入侵入者発者発見侵侵入発見入見!!侵死んで下さ死んで下さりやがれですりやがれです侵発見入入!!侵入!!!者発発侵入見見!!』』』『『『死んで下死んで下さ死ん見侵侵入発見で下さりや見侵侵入発見死んで下死んで下見侵侵入発見さりやがれですさりやがれですがれ見侵侵入発見ですりやがれですさり死んで下さりや死んで下さりやがれで見侵侵入発見すがれですやがれです!死んで見侵侵入発見下さ見侵侵入発見りやがれです!!』』』



「・・・・・ッッ!?!?!?」

パッと倉庫の明かりが灯った。そして、見たくない現実を見せつけられる。

俺は幻覚でも見ているのだろうか。

階段の下。倉庫の大広間とも呼べるであろうその場所に

本当の入り口から入ってすぐの大きな空間に

夢のような光景が、広がっていた。

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!!!!!!

その大広間をすべて埋め尽くすほどのセグウェイもどきがこちらに銃口を向けていた。

その数は軽く100機を超えているのではないだろうか・・。すべての機械、すべての弾が俺を狙っていた。

「・・は、はは」

俺は思わず口元がゆがむ。この光景はトラウマになること間違いなしだ。四機でやっとなのにこれはもう


絶望

そう言って間違いない。後ろに戻ろうにも部屋は燃えている最中だ。他に道なんてものは残されていない。非難できる場所もない。

自分の死の危険に血の気が引く。本当に、武偵ってのはこういう現場をいくつも攻略していたのか。・・住む世界が違いすぎる。こんなの、無理だろ。

俺は力なく手をダランと下げ、現実を見たくなくて上を見上げた。

ちきしょう。俺の人生、ここで終わりか?俺の人生たったの10数年で終わりなのか?まだ女子ともキャッキャウフフしてないんだぞ。恋愛とか彼女とかその先とかさ!

だがそれは俺が弱かったからだ。俺の力が足りなかったからだ。俺の才能が無かったからだ。

やっぱ才能のない

やっぱ努力じゃ勝てない

やっぱ武偵は俺には向いてない

やっぱ武偵なんか俺には無理だった。


そう


無理だったんだ。


100機ほどのセグウェイがウィーン・・と電子音を鳴らした。どうやら一斉放火がもうすぐらしい。自分の人生を悔やみつつ、俺は諦めて目をつぶった。




『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!いいわね!!』




「!!」

一瞬の静寂のあと・・



ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!



100機ものセグウェイの一斉射撃が倉庫内の音を全てかき消した。後ろの壁に次々と穴が開いていく。階段も原型を徐々になくしていき最終的には大音量を立てながら壊れていった。







5分ほど経って、ようやく発砲音が止まった。少しずつ砂煙が晴れはじめ、先頭にいたセグウェイたちが俺の生死を確認するために階段付近に集まっていた。他のセグウェイも銃口をそちらに向けている。



そして







「・・・たくあの、ピンクツインテ・・無茶させやがって・・ここから帰れたら1000円はおごってもらうからな・・・」

並んでいるセグウェイの一番左端、二階で今も燃えている部屋のすぐ近くにいたセグウェイもどきを思いっきり蹴飛ばしその近くにいたセグウェイをも巻き込まれ横転する。

ガッシャガシャン!!と音を立て巻き込み事故を起こしているセグウェイどもにいい気味だと吐き捨てる。

服はボロボロながらも、俺は五体満足で地面に立っていた。

一斉射撃のその一寸前に、階段の踊り場と下に下る階段の隙間に無理やり体を入れ込み下の一階の隅に逃げ込むことで、何とか一斉射撃を逃れることに成功した。・・まあ実際、数十発はもらってるので完全に成功とはいえないが。


だが、生きている。


生きている!


俺はセグウェイどもに向けて大声で叫んだ。

「いいか武偵殺し!!俺はもう諦めないからな!なんのとりえもねーし、なんの才能もないが!お前らにだけは勝ってやる!!あと発砲はちゃんと狙って撃ちなさい!!修理費と弾がもったいないだろうが!!」

どうしても言ってやりたかった。前々から思っていた。武偵殺しの奴は資源を大事にしない。それは俺の生活に対する侮辱と受け取っていいだろう。

言いたいことを言い終えた俺はすぐに次の行動に移った。

俺にはもう一つ成功したことがある。階段の下。つまり上の部屋の真下に、地下へと続く階段を見つけたのだ。これならまだ逃げ切れるかもしれない!

100機のセグウェイがこちらに銃口を向ける前に俺はその地下への階段を全速力で駆け下りた。




「・・・・はぁ・・はぁ・・」

地下に入ると入り組んだ道がいくつもあった。そして何に使うのかも分からない機械やらタンクやらが多くある。俺はその陰で身を潜めつつ、息を整える。

あれだけドヤ顔を吹いたはいいが、いかんせん、何も考えていない。ただ、あのピンクツインテの言葉には嘘をつきたくない、そう思っての行動だった。

たくよーほんとにあの女は俺に変な影響を与えてくれちゃってさ

「しかしどうする・・」

相手は100機。しかもそれぞれが独立して動く兵器だ。対して俺は一人。この地下の道も把握しているわけじゃないから、もう一度あの大広間に向かうのは難しいだろうし。正直絶望的状況だろう。


「でも、諦めないんだったよな。・・・ああ、俺って別に熱血主人公じゃないんだけど」

少しメタ発言もしつつ、そろそろ頑張ってみようと


周囲の状況を、整理し始めた。


《ここはある倉庫の地下、缶詰の製造をしている
もちろん倉庫としても利用しているようで温度調整はできるようだ
 敵は推定100機のセグウェイもどき、それぞれが銃を携帯し、自立して動く
 缶詰の製造には液体窒素使用
 地下は入り組んでいて複雑、さらに照明も点々とおいてあるだけなのでかなり暗い。完全把握は難しい
 道はかなり細道であり、セグウェイなら二機並ぶのがやっとだ
 100機は個別のグル―プを組んで移動しているようだ。
 セグウェイはある程度の大きさの物がある一定の距離にあると発砲する
 打撲数か所あり、あまり激しい運動は厳しい 
 
 所持品 小型拳銃 4発
     冷却弾  1発
     火炎弾  1発
     女子覗き眼鏡 一つ
     ボタン型監視カメラ 一つ
     防弾シュート 一つ
     絶対温か毛布 コンパクト 一つ
     跳ねるたびに大きくなるスーパーボール 一つ
     携帯
     ティッシュ
     飲み水 150ml 1つ》

「・・・厳しいが、アレさえ見つけきれれば、いける・・かも」

ある程度の情報把握はできた。あとは

やるだけ、やってみるだけだ。



今もなお、次から次へと道を進んでいるセグウェイども。グループつっても100機もいりゃあ、あんまりグループの間の距離なんてそう遠くないだろう。だがここでならあれが使える。

俺は機材の一つの上からセグウェイの様子を確認しつつ、そういえばと女子覗き眼鏡を取り出した。そとから中の様子が見れるほどだ。機材くらい透かしてくれるんじゃ・・・っておお!!

「これ、暗視ゴーグルつきかよ・・・!!高性能すぎるぞ、この眼鏡・・!!」

なんと眼鏡をかけた瞬間、ブンと音を立てて緑色の世界に変わった。一番高かっただけはあるし、平賀の天才的な技術なだけはある。先ほどの裸眼で見るよりよっぽどはっきり見ることができるようになった。・・・まあ、なぜか鼻がついてて外見的にふざけまくってるが・・生死のかかった戦いにプライドもくそもねーよ!


うん、ないと、思うよ?


俺ははっきり見えたセグウェイどもの列から、ある一定の途切れを見つけた。毎回約20秒ほどだが俺の前で列が途切れる。俺は小型銃に弾を二発装填し、手に飲み水の入ったペットボトルを取り出した。

「今だ」     

そして列が途切れた瞬間を狙って飲み水を通路にまき散らす。一列にまっすぐになるように調節しながらかけた後

俺はその線の先端に小型銃の銃口を浸す。

そして次のセグウェイのグループがその水を踏む瞬間

「冷却弾っ!!」

俺は小型銃に込めておいた冷却弾を発砲、弾に当たった水がみるみる内に凍っていく。

そして

ギュルギュルギギギギ!!

いきなり摩擦のなくなったタイヤがスリップして先頭の二機が横に倒れる。そして、勢いの止められなかった後ろの9機がその倒れたセグウェイに躓き倒れていく。

そして

「はっはっは!燃えろ燃えろ!火炎弾!!」

男のロマン、火炎弾を発砲した。
これにより凍っていた水が火の勢いを底上げし、9機のセグウェイをぶっ壊す予定だったのだが

カン!!っと音を立ててセグウェイ一機に当たり、その装備を壊した弾はそのまま貫いた後

ドスッ!!っと壁にめり込んでいった。爆発せずに。

「・・いやドスッじゃねーよ!燃えろよ火炎弾なんだろコラぁ!!かっこつけちまった俺の身にもならんかいボケ!!」

どうやら平賀の不良品を当ててしまったようだ。俺はロマンが生まれなかったことに本気で泣きつつ。壊したセグウェイを持ってほかのセグウェイを殴り壊す。

「うっし、9機撃破っと」

のこり8機すべて壊すころにはもうとっくに20秒など過ぎており

『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

「・・・ちくせうちくしょう」

俺はセグウェイからの弾丸の嵐の中、ただ真っ直ぐ逃げる。

『障害物、障害物、回避不可、回避不可!駆除します!!』

しかしそこで幸運。先ほど壊したセグウェイの残骸が邪魔ですんなり通ることができなかったようだ。

先頭のセグウェイが残骸に向けてマシンガンをぶっ放つ

「あれ・・共食いっていうんじゃないかな」

おれは思わずつぶやきつつ、後ろを振り返ると

ドオオオオオオ!!!


後ろから大爆発が起こった。

「え、なになになに!?おおおお!?」

俺はその爆風にフっ飛ばされ先の機材にぶつかった。

「・・・がッ!?!?」

肺の中のすべての空気が外に押し出されるような痛みがくる。しかしここで倒れてる訳には行かないと無意識のうちにその機材の後ろに身を潜めた。

「な、なにが起こったんだ??」

息を整えながら、女子覗き眼鏡をつかって先ほどの爆発現場を確認すると、爆発に巻き込まれたセグウェイたちが四方八方に飛び散っており、こちらから見て左側の壁が大きく穴をあけていた。あれ、これってもしかして

「・・・火炎弾、か?」

先ほどのセグウェイの発砲で擦れたことによる暴発だろう。ほう、改良したらいいものできるかもしれんぞ平賀よ。

「ま、不良品にしてはGJグッジョブってとこだな」

これでおそらく+10機ほどの破壊に成功したようだ。

さて、うかうかしてらんないぞ・・こんだけデカい爆発音のあとだ、きっとほかのセグウェイ達もこちらに来るだろう。

俺は身を潜めていた機材の名前を確認しつつ、その場を離れることにした。




「・・・これでもない、か」

セグウェイを暗視スコープで相手を先に確認しつつ、物陰に隠れながら、機材を確認していく。この工場には絶対にあるはずなんだけどな・・。それにしても機材に隠れることで目を反らせるのもラッキーだ。熱感知機能とかついてたらおじゃんだったわ。

次の角をそっと覗くと・・・そこは50メートルほどのまっすぐな道だった。左右はただの壁で隠れれるような場所はない。

「まじかよ・・」

俺はまた物陰に隠れ対策を考える。20機ほどの破壊はできたにしても、まだ80機はいる。今も後ろを通っているし。あの直線をダッシュしても必ず見つかってしまう。・・だが戻ることも避けたい。今のところすべての道にある機材を確認していたが、目的の物は見つからなかった。つまりこの先にある可能性が高いわけだ。

「・・・んじゃあ、ま、カケてみるか。こいつに。運要素もあるけどな」

俺は手に持ったあるものを弾ませた。


「ーーーこれでよしっと。ほー、こんなおっきくなるもんなんだな」

俺はセグウェイが通り過ぎたあと、その直線の道に来ると跳ねるたびに大きくなるスーパーボールをバスケのドリブルのようにずっとポンポンしていた。そしてそれはあっという間に大きくなり先ほど俺の通った方の道を完全に塞いだ。ただ重さは変わらないようで今もなお天井と地面とを跳ねて飛んでいる。どのくらい大きくなるのかはカケだったがなんとかなったようだ。

「これ、俺んちでやってたらやばかったな」

そんな感想を漏らしていると

『障害物、障害物、回避不可、回避不可!駆除します!!』

スーパーボールの先にセグウェイがいるらしい。やっば早かったな。

俺はスーパーボールが破壊されるより速く50メートルを抜け出そうとした






『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

「・・・ちっ!!」

その先の曲がり角のほうからもセグウェイのグループ(おそらく10機)がやって来た。

後ろはスーパーボールが道を塞いでいる。完全に囲まれてしまった。

「だったら!」

自力で倒す。先ほど20機倒すことができたのだから、このくらいの数ならいける!

妙な自信が俺の中にあった。先ほどまでは4機だけで尻込みしていたのにだ。これが自信ってやつだな懐かしい。中学時代の剣道の試合の時のような感覚だ。

久々の感覚に酔いながら、懐から小型銃と携帯を取り出し、携帯の明かりをつけた後上に投げた。こいつらの弱点はもう分かっている。ある一定の距離にある一定の大きさのものを追尾する。ならば俺よりもまず携帯のほうを狙撃するはずだ。

これでやつらの狙いは携帯に逸らせる。その間にまずは一機ーー


と、思っていた。

「・・・ごっ!?!?」

ドドドドッドドドドッ!!!

勢いよくに放たれた弾は携帯の方には全く行かず、すべて俺の方に向けられ、俺はその全てを体に受けた。二発で気絶するような痛みだ。それの5倍はもう言葉にすることはできないほどの痛みだった。
俺は力なく地面に倒れ荒く息を吐き撃たれた部分を強く抑える。防弾制服のお陰でまた貫通はしなかったが、それでもマズイ。

その横にただ投げられただけの携帯が落ちてきた。

な、なぜ・・?携帯をある程度大きさとして認知しなかった・・?いやそれならさっきセグウェイの残骸だって無視したはず・・。じゃあ、まさか、

その弱点を改良された。

そうとしか思えなかった。おそらく俺と初めて対立した昨日の間にでもやったんだろう。

まさか・・・こんなに早くできるとは思ってなかったが・・

俺との戦いでわかったのか、それとも・・

パンっという音とが聞こえ、考察を中断する。
その後、後ろからも何十機ものセグウェイが俺を取り囲んできた。

体を動かすことは難しく。今の手札で何かすることすらも難しい。


絶体絶命


それだけは意識が朦朧としていながらも感じることができた。




俺は油断したことを後悔しながら


意識を失った。




 

 

6.終わりの始まり

 
前書き
「5話のあらすじ」
理子の依頼でとある倉庫に入り、潜入しようとしたものの数分で失敗。
アホなアイテムを用いてなんとか撃退していたものの狭い通路に挟み撃ちに合い修一撃沈。
いいことなしの修一は意識を失った。

 

 
それは俺が武偵高で二年生に進級する始業式前日の夕方だった。

一年間で何も得ることができなかった俺は、男子寮の側のたった一つポツンと置かれた周りに何もないベンチで夕日を見ていた。

明日は始業式。また無意味な一年を始めるのか、それとももうここで引退して普通の高校に転入するか。俺の知り合いの同じEランクの奴らは才能がないことを理解してあいさつもなく去っていった。何も言わなかったのはお前もだろうということを暗に伝えたかったのだろうか…そう深読みしてしまうほど、俺の精神は異常だったらしい。

期末試験の結果が記載されている紙が俺の手から風で離れ飛んでいく。見られたらまた笑われる。そう思うが

ま、どうせ変わらずのEランクだったから見られてもいいかと目で追うだけで取りには行かなかった。Eランクは下手なことしない限り取らないとされておりDランクとCランクがもっとも多く、EはAランクなみに少ない。
人間とは下を見て自分はまだ大丈夫だと安心する生き物だ。だからこそ俺の顔も、ランクもかなり有名だ。罵るために、自分を否定するために。

最後こそって思ったんだけどな…本当にもう、無理みたいだ。

明日転校届け出でも出すとするかな…。


と思った時だった。

「あんた、これ落としたわよ?」

横から、先ほど飛んでいった成績表を俺の元へ返しに来てくれたやつがいた。わざわざ俺に話しかけてくるなんて、変な奴だな。

「…ああ、さんきゅな」

「どうしたの?体調でも悪い?」

顔も見ずに受け取ってお礼だけいうと、そいつはなぜか俺の横に座って顔を覗き込んできた。な、なぜ!?

「お、おお!?」

俺は思わずベンチの端へ移動してその子の顔を見てしまった。

「なんでそんなビックリしてんのよ??ちょっと失礼じゃない?」

その《《ピンクのツインテール女》》はそう言ってこっちに近づいてくる。

男子としては嬉しいが…。

「なっ、なんでもないっての!!いいから俺に近づくな!」

「はぁ!?せっかく心配してあげたのになによその言い方!!日本人ってみんなそうなの!?」

思わず久しぶりに大声をあげてしまった。というかなんで逆ギレしてんのこいつ。まあでも

「ああ、すまん。悪かった。そうだよな。心配してくれてんだよな。悪い、悪い」

「…なにかあったわけ?」

こいつ、どうしてこんな俺にわざわざこんなにしてくれるんだ??こいつにはなんのメリットもないのに。

「まあ色々とな。色々と」

「色々じゃわからないわ。ハッキリ言いなさい」

「…。」

こいつ、空気読めよ。話たくないってことをさりげなーく伝えようとしてんのによ。

……だけど

「わーったよ。くだらない話になるし、途中で切ってくれてもいいならな」

「わかったわ。でもちゃんと最後まで聞くわよ」

「……。」


そうして俺はそのピンクツインテに中学の俺の話とそれからの一年間を話した。
初めて会ったからだろうか、プライドとか捨てて、俺の残念なところまで全て話した。
きっと面白くもなくつまらなかっただろう。それでもピンクツインテは最後まで俺の話しを聞いてくれた。

素直に、嬉しかった。俺の話しをこれだけ聞いてくれるのは時々電話するリサくらいのもんだったからな。でもあいつにはこんなことは言えない。あいつにとって、俺はまだ最強なんだから。

「ーで、俺は期末試験でもEもらって全くダメだって証明されたわけだ。俺はもう、無理なんだよ。いくら努力して、強襲科の辛い訓練を続けても、全然成果が出やしない。・・他の奴らより2倍3倍は絶対に努力してるはずなのに!それでもなんであいつらのほうがランク上なんだ!?ズルいじゃねぇか酷いじゃねぇか!!才能ってのはそこまで人をバカにできんのかよ!!」

俺はピンクツインテのことも忘れるくらいに全てを吐き出した。俺の嫌な部分、恨み、妬み、その全てを吐き出した。ピンクツインテの顔を見ていないが恐らく変な奴の話聞いちまったなって顔してるんだろうな。

「ーーあんたの気持ち、少しわかるわ」

そう、告げてきた。
「あたしもね、あんたと同じよ。貴族に生まれたのにその遺伝子は全く受け継がれてなかったって言われてるの。あたしも才能なんてなかったのよ」

「…じゃあ、お前もEランクだったりするのか?」

「いいえ、Sランクよ。強襲科のね」

バッと俺はそのピンクツインテを見た。なに言ってんだこいつ。
Sランクってのは、なるのに努力と才能が必要なAランク10人分の力を持った最高のランクだぞ!?
そんなやつが才能がないだと??


俺の中でプツンと何かが切れる音がした。


「ふざけんな!Sランクのくせに才能がないだと!?才能があるくせにないって言えばかっこいいとか思ってんのか!?それは本当に才能がない奴に対しての嫌味にしか聞こえねぇぞ!!このバカ!」

「うるっさいわね!!そう思うのはあんたがただ逃げてるだけだからじゃないの!!」

「はぁ!?」

俺が思わず立ち上がると、ピンクツインテもベンチの上に立ち俺の胸ぐらをつかむ。

「さっきから話聞いてたら!才能がないから無理だ、力がないから無理だ、無理無理無理無理ばっかり!!そんなこと言ってる奴が上になれるわけないじゃない!!そこに才能なんて関係ないわ!!」

そう言うとピンクツインテは俺を軽く突き飛ばし、俺の目をまっすぐ見てこう言った。

「いい?よく聞きなさいよ。私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!そんなこと言ってるから強くなれないの!まだ諦めるのは早いわよ!男だったらもっと本腰入れて頑張りなさい!!」

初めて会った。会ってまだ15分ほどしか経っていなかった。まだ他人と呼んでも全く問題ないくらいの関係だった。

なのに、

そいつの、言葉が


俺の考えを180度ぐるっと反転させた。








「………!」

ガッと近くのセグウェイ2機に装着された銃器を持つとそれを思いっきり引っ張り、セグウェイから取り外す。そしてそのまま2つをぶっ放しながら残りの10メートル目指して、セグウェイの荒波に飛び込んだ。

もちろんその間、敵もただ突っ立ているわけではない。俺目掛けて何十機ものセグウェイが発砲する。そのほとんどが俺の体にまたは制服に突き刺さる。防弾制服が破れた部分にはそのまま弾が貫通し俺の肉を引き裂く。目が充血で真っ赤に染まり、体はもう限界をとうに超えてる。

それでも

「……………!!」

俺はただ前だけを向いて弾が無くなれば次のセグウェイから奪い取りまた乱射し、乱射し、乱射をただ繰り返しながら突き進む。もう俺の意識は途切れてると言っていい。すでにもう痛みすら感じることはなかった。

ただ、

でも、

それでも

「あいつにまだ、礼もなにも言ねぇんだ!こんなところで死ねるか!諦めてたまるかってんだよ!」

無理じゃ、ない。

動ける。


無理じゃ、ないんだ………!










気づくと俺は、なにかの機材の上で寝転がっていた。一体どうなった?敵は?武偵殺しは?俺は、生きてる、のか??

「…っ!!」

体を起こそうとすると、激しい痛みに襲われた。血が俺の体中から出ているのがわかる。
近くにはセグウェイから取ったマシンガンが二丁。どうやら本当にあの難関を乗り切れたようだ。


生きている。


俺はまだ、あいつに礼を言うことができる。



だが、もう1つ

『障害物!回避不可!回避不可!』

現状を確認する。五体満足ではあるが右手と左足にそれぞれ一発。他にもかすった傷が数十個ほどだ。だが、これは不幸中の幸いってやつだろう。頭の傷は全て致命傷にはなっていない。擦り傷程度だ。
だがそれでも動かそうとするだけで激痛が走る。もう動かずこのままの状態で寝ていたいほどだ。

だが、まだ終わっていない。

こいつらを全機倒すか、気付かれずにこの倉庫を抜け出さないと終わらない。

「やるか…っ!!」
ぐっと力を入れ立ち上がると先の方で光るなにかをを見つけた。

「なんだ、これ?」

近づいて見てみると血に染まった携帯がなぜかライトをつけて落ちてあった。

どうやら先ほど落としたものを無意識の内に拾っていたようだ。

「……はは」

こまた買い直すの金かかるから拾っとかないとと思ってしまった俺に、俺自身が呆れる。帰った後のことを考えているなんてな。

まあそれが、あいつのいう諦めない心って奴だろうか。

そう考えながら携帯を取ると、先ほど開いたままの画面が出ていた。

「………まじかよ」

そして、その画面が俺の逆転の一手になるとはその時まで思わなかった。

画面に映っているのはある場所の映像だった。

ボタン型監視カメラ。
ボタンの中に小型のカメラが設置されており、その映像は携帯やパソコンに自動で送ることかできる。その映像がいま勝手に携帯へと送られていたようだ。どうやら落としていたらしい。


さらに

「GPSまでついやがる…ほんと、すげーな平賀」

映像の横には2つの画面がついており、そのひとつがGPSだった。映像とGPSの位置から倉庫の入り口あたりに落ちているらしい。これを使えば入り口に戻ることが可能になった。

しかも

「ここにあったのか、ことわざでなんかあるよなそういうの。欲しいのは最初から近くにあったって、やつ」

俺の探していたそれは、倉庫の入り口にあったらしい。いまもカメラに映っている。

そしてもうひとつ。
映像の画面、GPSの画面の他に、なにやら「・」が次々と横に流れていく画面があった。

「…ああ、なるほどな」

俺はその画面をしばらく見つめ、そして静かに笑う。ほんとうに天才ってのは才能がないやつのフォローが上手すぎて。

「うっし、戻るか」

だが、問題はどう戻るか、だ。GPSを辿るにしろ、あの道を戻らないといけない。俺の体は限界に近いどころじゃない。
もう限界なんてとうに超えてる。先ほども言ったが体を動かそうとするだけで体全身に激痛が走ってしまうのだ。
この状況では走ることも出来ないしセグウェイ1機でも会ったらThe endだ。

まあでも

「ここまできたんだ。いまさら見つかっちまったで終わるほど、俺の人生軽くはなってないはずだ」


そうして、俺は生涯初めての本当に耐え凌ぐ戦いをスタートさせた。

ポロン

「…あ」

そのとき、いままでかけていた女の子のぞきメガネが落ちてきた。
もちろん鼻つきで。

………え、嘘。
いままで俺これかけたままシリアスなこととか色々こっぱずかしいこと言ってたわけ?うそ?まじか??

俺は誰も見ていないのに俺は無駄に恥ずかしくなって顔を覆ったのだった。





『あっはははははは!!修一やっば!かっこ悪ー!!あっはははははは!!』
↑誰とは言わない


ーーーーー


「ーーはは、これ、俺がやったんか」

それからしばらく。GPSを辿ってゆっくり進んでいると。あの一直線の通路についた。先ほどの戦闘で明かりが破損して暗くなっているが、少なくとも10機は残骸になっているだろう。

「もしかして俺って、死にかけると覚醒する何か力あったりするん?」

俺は冗談半分にそう言って、杖代わりにしていたマシンガンを捨て新しいマシンガンを拾う。先ほどのはもう弾が無くなっていたのだ。
まあ正直覚醒とかそんなこと微塵も思ってないが。ほかに言うなら死に際の馬鹿力ってやつだ。



「あり?これって」

そのマシンガンの先になにか光るものがあった。また携帯か?と近づいてみるとら元の大きさにもどっているスーパーボールだった。確か破裂していたからもう使えないもんだと思っていたが

「まあ使えるなら取っとくか」

俺はスーパーボールをポケットにしまうと後ろを確認する。

おかしい。
先ほどからゆっくり進んでいるのにまったくセグウェイと会うことがない。ここで倒したのはせいぜい7機ほど。その前の20機とあわせてもまだ半分近くが活動していると思っていたが…。

「ま、いないならいないで、楽でいいんだけどな」

そう言って俺はまた携帯を見つつ、ゆっくりと進み始めた。



ーーーーー



「ぜぇ………ぜぇ………」

血をポタポタと落としながら少しずつGPSを辿ってやっとあの入り口前の大広間にたどり着いた。
結局あの後もセグウェイに出会うことが無かったが…いまは、そんなこと考えることすらままならないほど頭がぼやける。血を流しすぎたようだ。
腕もブランと垂れ下がったまま痙攣してほとんど動かない。なんとかマシンガンを1つを杖にして来たが、かなり体力を消耗してしまった。

老人が杖を大事にする気持ちがかなりわかったね。

頭がぼーっとしている俺は、この大広間にもセグウェイざ見当たらないことをラッキーとしか思えなかった。そして、目的のアレのもとにたどり着く。

灯油のタンクだ。

機械の設備やら地下の機材から考えてどこかに置いてあるとは思っていだが

「少ない…な」

タンクはたった一つ。これだけ爆発させても残りのセグウェイ全てを破壊するにはこれにベタッと全てくっつけさせるぐらいしかないだろう。

だが、まあ敵がいないなら、なんの問題もない。

敵がいない以上もう帰りたいという一心で一歩一歩少しずつ出口へと向かう。




「なるほどね、灯油を使って私の力作達を破壊したかったのか、考えるじゃないの岡崎修一」


その時、入り口から聞きなれない女の声が聞こえた。

俺は声をかけられてようやく気づくことができた。すでに体は限界、目線もフラフラしている状況では仕方なかったのだが。

「…ま、少なすぎてそれも難しいんだけどな」

顔を少しずつ上に上げ、目の前にいる女の顔を見る。

黒い髪を腰まで伸ばした美人の女がそこでくすくすと笑って立っていた。俺の記憶の中にこんなやつはいない。恐らくは…。

「おまえが、武偵殺し、か?」

「ま、そう呼ばれるのは嫌いだけど、あんたが知ってる名前ならそれで合ってるわ」

髪をかきあげながらそう言う武偵殺し。

「そっか。あいつじゃ、無かったんだな。………よかった」

「あら?あんたの仲間に武偵殺し疑惑のかかった人でもいたの?」

「あいつは仲間ではないんだが、まあ友達、かな?違うとは思っていたが、本当に違ってたら嬉しいもんなんだよ」

「あれ?じゃあもしかして、その子の疑い晴らすためにこんなとこ来たって感じ?」

なぜかちょっとワクワクしている様子の武偵殺しがそんなことを言ってくる


「あ?」

なに勘違いしてんだこいつ

「あれ?違うの?」

本当にきょとんとしている武偵殺しに俺は胸を張って伝えてやった。

「あのな、この依頼よこしてきたのその友達なんだよ。もし仮にだ、そいつ自身が俺を殺すためにそんなことしてきたんなら

ーー30万なんてウソってことじゃねぇか!!

そんなの酷いだろ!いじめにしても限度があるぞコラ…ってことでその線は俺の中から消してるわけ。あいつは武偵殺しじゃない」

いやいや!と体をコネらせようとして激痛で動かせずにプルプル震えてしまう。本気でそれはない!絶対ないわ!!

「…くふ♬そっかそっか。結局金なんだね、修一は」

「まあな。金が優先度第一位だ」

「クズ」

「人を殺したお前には言われたくない」

武偵殺しとついてる以上、武偵を1人や2人殺していてもおかしくはない。そう思って返すと…

「あら?あたし、誰も殺してないけど?あの船強奪でもね」

「あ、そなの?」

「そうよ。もう一回よく調べてみてよ。そしたらあたしのこともうちょっとわかってくれるでしょ?もちろん、生きて帰れたら、だけどね」

武偵殺しが片手を挙げると、俺の後ろに残りの25機が姿を現した。そしてさらにゾロゾロとどこに隠れていたのかさらに多くのセグウェイが俺を囲い込む。その全てが瀕死の俺を狙っていた。

「生きて帰れたら、ね。帰す気ないだろうが」

「まあ半分そうね。あと半分はあんたの腕を期待してるわ」

「その腕ももうひとつ使い物にならねぇけどな」

軽口を叩いてるが、絶望的な状況に変わりはない。俺に秘めたる才能なんてのはないし、持っているもので使えそうなのはマシンガンとスーパーボールくらいか。

………だが、あとひとつ、最初はなかった秘策がある。

「なあ、武偵殺し」

「なに?」

「お前俺を見てたんだろ?どの位置から見てたんだ?」

「…横の倉庫だけど?あ、見たわよあんたの恥ずかしいシーン!爆笑もんだったわ!」

「いや、あれは忘れてくれ頼むから」

あの恥ずかしさはない。ないったらないのだ。

「んなことより、なんつーかさ、やっぱ暗闇ばっかにいたほうがこういう薄暗いところって見えやすいのな」

「はー?いきなり、なに言っちゃってんの〜?意味わかんなーい??」

「いやさ、なんか、《《下に変な煙が見えるが》》わかるか?」

俺は地面を指差し、武偵殺しもそれに従って下を見る。


そして、目を見開いた。


白い煙のようなものが足元を揺れている。俺の元にも、武偵殺しのもとにも。

「液体窒素だ。ここもともと缶詰工場だろ?缶の蓋閉める時に使うんだよ。お前が最初に階段にいた俺を、というか俺の方の全体を撃ったときに溜めていたタンクかなんかが壊れちまったんだろうな。もうここの地面スレスレには液体窒素が漂いまくってるぞ」

「…はっ。それがどうしたってのさ。あんた知らないの?液体窒素ってのは窒素を凍らせただけの、ほとんどただの空気と変わらないのよ?それだけでなんだってー」

「………。」

俺は饒舌に話す武偵殺しの話を無視して、そっとポケットに手を入れる。

「っ!待ちなさい!!動かないで!」

武偵殺しも戦闘のプロだ。俺なんかの平凡な動きは簡単に読めるようで、拳銃を俺に向けてくる。武偵殺しの銃も俺を狙う。俺は冷や汗をかきながら

「な、なんだよ…なにもしてないぜ」

「よく言うわよ。さっきから凍る床とか爆発するなにかとかおっきなボールとか、わけがわからないものばかり出されて。あんた、予想が全くできないの。いいからそのまま下がりなさい。そして機械の上に持ってるもの全部置くこと」

「…ちっ」

この状況を打破できるような策は持ち合わせていない。俺は一歩一歩ゆっくり下がると近くのセグウェイもどきの上に持っているもの全て置いていく。マシンガンに携帯、スーパーボールと暖か毛布、ティシュ。

「ほら、これで全部だ。もうなんも持ってないって・・というかそもそも灯油がむっちゃ少ないとわかった時点でお手上げ。なにも他に作戦なんてたてられないっての」

「…やけに素直ね」

「もう若干諦め感あってな。というか、知ってるかもしれないが俺はEランクだぞ。なんの才能もねーし、銃の腕もねーんだ。んな俺がお前みたいな一級犯罪者と戦うって時点でもうおかしいだろうが。俺は子猫探すーとかそういうボランティアもどきをやってるのが一番似合ってんだよ。才能って言葉俺ほんと嫌いだわ」

「才能、ね。あんた、最後にひとつ聞きたいんだけど。才能がないってわかった時さ、どう思った?自分にはなにもなくって、なにもできないってわかった時あんたはどうするの?」

なぜかこんな時に武偵殺しから質問がきた。いきなりどうしたとは思ったが

だがまあ、とりあえず本音を言うことにする。

「まぁ辞めるよな。才能がない以上、いくら努力したって才能があるやつには勝てねぇよ。まあ中には知り合いの力を自分の力のようにして上がってく奴もいるけど、それでのし上がったとこでそれは結局他人の才能。自分の成果じゃない。だからンなことするくらいなら辞めて、楽な人生に生きるよ」

「…。」


だけど、

「そんな風に思ってた俺にさ、あるやつがガチギレしてきやがったんだよ。『無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな!諦めるなんてまだ早い!』ってな。まだそん時は初対面で、会って15分だぞ?変な奴もいたもんだよな」

「…。」

「だけど、正直助かったんだ。才能だけが全てじゃないって気付かせてくれたから。
才能ないやつは、無いなりの天才とはまた違った生き方をすれば、自分にとってなにか大切なもんでも見つけ切れるんじゃないかって。そう思うようになったんだ」

「…そっか。修一はそうやって頑張ることにしたんだ。くふ、あんたとあたしってやっぱ意外と似てるし気が会うわね。普通にあってたら好きになってたくらいに♡」

「俺は犯罪者でも付き合える自信あるぜ。足洗って俺の恋人って役職にでもついたらどーだ?」

「くふ、それも面白そう!…ま、生きてたら、考えてあげる♡」

「ああ頼むぜ」

武偵殺しは楽しそうに笑うと、片手を後ろに回した。その後、後ろからウィーンと発射準備の合図が。

「それじゃ、長話に付き合ってくれてありがとね修一」

「俺は話し足りないがな」

頬を伝う汗が、俺の緊張感を表していた。

そして、

「じゃ、蜂の巣になりな!!」

「………っ!!」


一瞬の静寂の後ーー


武偵殺しの合図に50機ほどのセグウェイが一斉に俺に向けて発砲。
俺の体全体に弾を浴びせるようにつん裂く音が倉庫に響く。悲鳴にも似たその音はもう避けることのできない俺に絶望感を与えたまま、全てを奪っていった。体中を弾丸が貫き、血がアスファルトの上に広がる。俺は何もすることができないまま地面に倒れ意識を失う。こうして、俺の人生は終焉。


Eランクの短い人生が幕を閉じた。












「なんてな。あー《《死ぬかと思った》》」

「どうして撃たない!?何が起こってる!?」

俺は先ほどと変わらず腕をブランと下げ、意識が途切れるのをすんでのところでかわしながら、立っていた。目の前の武偵殺しの驚いた顔が見える。

50機による一斉射撃は、行われなかった。

『あややー!ちゃんと機能してなによりなのだー!!』

そこに、突如聞こえた子供声。その発信源は俺の携帯だった。

「おお、なんだ通話機能もあるのかコレ」

『違うのだ!これはただの通話なのだ!電波がようやくつながったから勝手に繋いでみたのだ!』

「やっぱ天才のやることは違うね」

『このくらいなら少し勉強すればバカな岡崎君でもできるのだ。あ、でもモールス信号はちゃんと勉強するしてたみたいだから偉いのだ!』

「ああ、あの『・』な。たまたま授業で勉強してたところだったからよかったよ。まぁ解読にはかなり時間使ったけど」

今話しているのはボタン型監視カメラの機能、映像、GPS以外のもう一つの機能のことだ。それは、モールス信号を送信、受信できるものだった。


俺は携帯を置いてあるセグウェイに近づきつつ通話する。相手は、あの平賀文。というかこいつ俺のことバカって言ったな。あとでとっちめてやる。

「んで、全部できたのか?」

『なのだ!自律型だったから一つ一つやらないとダメだったから時間かかったけど、岡崎君のクサイ台詞で時間を稼いでくれたから問題ないのだ!』

「なに言ってんだ。俺の言葉は女神でも落とせるぜ。やってやろうか?」

『うわぁー女神とか言ってる時点で気持ち悪いのだ』

「男ってのはみんな女神とかバニーが大好きなんだよ。おら、時間かかったお礼に今度俺にお前のバニー姿見せやがれ」

『うわ!?手伝ったのにお礼しろとか岡崎君クズなのだ!しかも要求がただの変態なのだ!?!?』

「ちょ、ちょっと待て!一体なにが起こってる!?」

俺と平賀の会話を武偵殺しが邪魔してくる。なんだよ、今大事な交渉中なのに

「なにって、ハッキングだ」

「ハッキング…!?」

「ああ、平賀が俺の携帯を通してハッキングしたらしいぞ。俺もよくわからんが。俺は平賀の言う通りセグウェイの上に携帯を置いてコードを適当に繋いだだけだ」

今すべてのセグウェイもどきが俺の方へ向けていた銃口を武偵殺しの方へ向けている。そのうちの一つ。俺が持ち物を置いたセグウェイに携帯からコードが繋がれていた。

『ヘイキ ウバウ コードヲ ヒトツニ ツナゲテ』

モールス信号にはこう書かれていたのだ。…充電コード持って来ててよかったわ…。

「なっ、そ、そんなの不可能だ!そもそもどうやって携帯から、しかも機械全てにーー」

「そんなの俺が知るかよ。というか、多分平賀自身に1から聞いてもわからんと思うぞ?まあ、実際できてるわけだからなんか理論はあるんだろうが、天才がやってるんだ。俺たちには理解できないようなすげーことしたんだろうさ」

「………ちっ、結局お前も才能があるやつにすがるんだな!」

「………。ま、今回は、な」

正直俺自身も頑張ったと思うが、ダメなのだろうか。

下唇を噛む武偵殺し。相当悔しいのだろう。そこに平賀が呼びかけていた。

『あや、そこにいるのは武偵殺しなのだ?』

「ああ、目の前にいる」

『あやー、なら速攻逃げることをお勧めするのだ!いま色々なところに呼びかけてそっちに来てもらえるように手配したのだ!もうすぐしたら怖い人たちが襲ってくるのだ!!』

「………そうね。今回はこのまま帰るわ。嘘じゃなさそうだし」

「いいのか逃して」

『岡崎くんが足止めできるならしておいて欲しいのだ』

「無理…じゃないが難しいな」

ついいつもの癖で無理だと言ってしまいそうになった。危ない危ない。


これ以上どうやってこいつを、足止めしろと?

「岡崎修一。今度またあんたを殺しに来るから、その時を楽しみにしててね?」

「お前なぁ俺Eランクだっつってんだろ。もうお前来ても勝てる気しねーっての。やめてください、本気で」

「あら?アリアの次くらいに面白い人材だって思うわよ♡前に言ったあの言葉、忘れないでね♡」

そう言うと、彼女は倉庫から立ち去っていった。どうやらもうこのセグウェイもどき達もいらないらしい。

『なにをお願いしたのだ?』

「ん?ここ生き残ったらあいつ俺の彼女にするって話」

『あ、あやー!?どうしてそんな話をテロリストと話せるのだ!?』

「ま、色々あったんだよ。………というか…すまん、………もう、無理」

俺は武偵殺しが完全にいなくなったのを確認した後、思いっきり頭から倒れた。

激痛とくらむ視界に対抗するのも限界だ。もうこれ以上はなにもできない。

『ちょ、岡崎くん!?大丈夫なのだ!?岡崎くん、岡崎くん!』

電話越しに俺の名前を呼ぶ声が聞こえる中、俺は少しずつ意識を失っていった。




『くふ、なるほどね。思った通り面白かったよ岡崎修一。ーーお前がもしあたしの正体に気づいた時、その時はー』






「…」

目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。そしてその後に香る薬剤の臭い。どうやら病院のようだ。横の台に乗っている時計で日付を確認すると、どうやら1日寝て過ごしていたようだ。

「あー、生き残れたね」

正直奇跡だと思う。Eランク武偵が100機のセグウェイに対して勝った、とは言えないがとりあえず痛み分けにできた時点で十分だろう。そう思うものの、問題だけが二つほど残ってしまった。

それは

「あ、しゅーちゃん、やっほー♬」

ガラガラと扉を開けて入ってきたのは、理子だった。手にはお菓子類を持っている。わざわざ見舞いに来てくれたのか

「おっす。見舞いなんて悪いな」

「ま、理子が依頼したことでこんなになってるんだもん。流石の理子も罪悪感がちょーっとでちゃったの!はい、トッポあげる!」

理子が持っていたトッポを一つ俺の口に押し込んだ。俺は礼を言ってそれを食べる。
…トッポなんて何ヶ月ぶりに食ったかな。基本お菓子は買えなかったし。

「えっと、今回の件について結果だけ報告すると、武偵殺しは結局捕まらず逃げられちゃったみたい。
あの機械人形は回収されていま平賀に色々と調べられてるってさ。
しゅーちゃん発見されたとき出血多量で死にかけてたってのも知って理子も流石にあせったよ〜」

なるほど、つまり成果無しってことなのか。まあそんなことで捕まるやつじゃないよな。というか俺のことで焦ってくれたの?え、嬉しいんですけど!

「まあ正直その辺はいま生きてるからいいとしてよ問題はそこじゃない」

俺はまだ大事なことを聞いてなかった。

「わかってる。報酬の話でしょ?ちゃんと30万しゅーちゃんの口座に振り込まれてるよ」

「まじで!?」

俺は理子の言葉に飛びつこうとしが、身体が痛んで腹を抑える。や、やった30万だぞ!?何ヶ月楽に暮らせるんだ!肉も野菜も食べ放題!ひゃっほー!!

「ようし理子!飯でも一緒食いに行こうぜ!金のある俺様が奢ってやるからよ!三百円くらい!」

「子供じゃないんだから…。というか、そう簡単な話じゃないんだよねー」

理子にお誘いをかけるが、理子は顎に人差し指を当てて困った表情(あざとい)をすると、ある紙をこちらに渡してきた。

「なになに?賠償費用請求書?………450万!?」

紙に描かれていたのは壁やらなんやらの修理費の合計が書かれた請求書…ちょ、ちょっと待て!

「待て待て!あれはほとんど武偵殺しがだな!」

「わかってるって。武偵殺しがした分も合計した値段だけど、そこから保険と国からの補助でしゅーちゃんが払うのは、ここ」

そう言って理子は右下の赤で囲まれた位置を指してくる。

「…おい、それでも50万あるんだが」

「30万の報酬使っても残り20万だね」

「赤字じゃねーか!!」

死にかけの任務成功させてその報酬が赤字!?ふざけんな!!

「無理無理そんなの無理よ!!20万!?そんなお金見たことないわっ!!」

「しゅーちゃんしゅーちゃん!『無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな!』でしょ?闇金にでも借りればいいんだよん♪」

「あれは闇金より怖い金髪メイドもどきに止められてるから絶対ダメなんだよ!!もーイヤ!どーして俺だけこーなるのぉ!?そもそもお前がクソな依頼寄こしたからだろうがクソ野郎がぁ!!」

俺の般若顏(我は怒りが込み上げた時こそ真価を発揮するのだ)に理子が引きつつ

「だ、大丈夫だってしゅうちゃん。理子も責任とって半分支払うから、えっと、25万。だからしゅうちゃんの元にお金入ってくるよ!」

「……命懸けで働いて…五万。割にあわねぇ…」

ズーンと本気で落ち込む俺に、理子がまたトッポを押し込んでくる。

「まあその、どんまい♡」

「…くっそあの武偵殺しが!今度会ったら本気で捕まえてやる!んで、今回の金払わせてやる!」

「あ、武偵殺しに会ったんだよね!どんな人だった??」

理子が続けざまにトッポを俺の口に押し込みつつ、そんなことを聞いてくる。…トッポうめぇ

「黒髪ロングの超美人だったな。あ、俺が生き残ったら付き合ってくれるらしいぜ」

「え、しゅうちゃん、浮気??理子というものがありながらー!」

「もともと付き合ってないから」

「えー理子は付き合ってるつもりだったけどなぁ」

「…ちょっと嬉しくなったからそのネタやめなさい。ツッコミずらくなる」

モジモジしながらそんなこと言わないでくれ。本気にしちまうだろうが。
理子はぺろっと舌を出すと…

「さってと、理子そろそろ行くからね!明日の準備もあるし!」

理子は食べ終わったトッポを捨て、くるりと一回転すると俺の方にピースして、外に行こうとする。

……さて。

「…なぁ理子」

俺は理子との会話中に頭の片隅で考えていた。というか、いま少しだけ確信できた気がする。

聞いてみるかどうかずっと悩んでいたんだ。

聞かないほうがいい、理子は理子のまま、お互い軽く冗談を言えるような関係のままのほうがいいの、かもしれない。

でも

「なぁに?あ、寂しくなっちゃった?ごめんね、理子はしゅうちゃんだけの理子りんじゃないの、暇なときに来てあげるから」


「そうじゃねーよ。最後に変な確認するけど…」

俺は一拍おいて、振り返る理子に告げた。




「お前が武偵殺しってこと、ないよな?」





俺がそう聞くと、理子は少しびっくりした表情をした後下を向き、

しばらくした後


「くふ♬」



ニッコリと不気味に微笑んだ。


【第2章 「VS武偵殺し」 終】 

 

7答え合わせ そして

 
前書き
「6話のあらすじ」
気絶中にアリアとの過去を思い出し、自分ことを叱咤する彼女の言葉に立ち上がる。平賀の助けもあってなんとか武偵殺しを撃退することに成功した。

*矛盾点の答えが出てきます。「3.君に矛盾点がわかるか」を読んでから読んでいただくと、より理解してもらえると思います。 

 
ーーRiko sideーー

「お前が武偵殺しってこと、ないよな?」

私が帰る直前、確かめるように修一は問いかけてきた。それは疑問系だが私の返事をわかって言っているような、そんなプレッシャーを含んだ声だった。
驚いて一瞬何を言われたかわからなかった。
まさかこんなにも早く気づくなんて、予定では明日、アリア達との対決直前にでもこちらからバラしてやるかとも考えていたのだが…。

私はヒントを言った覚えはない。カマかけの可能性もある。まだここで頷くわけにはいかない。

「くふ。なにいってんの?理子が武偵殺し??そんなわけないじゃーん!」

「だといいんだけど、どうしてもお前が武偵殺しじゃないとわからないとこがあってな」

「…へぇ、言ってみな。聞いてやるよ」

私は少し素を出しながら聞いてみる。ちょっと気分が高揚してるのは、事件ものの犯人役の立ち位置に自分が立っているからか。


「お前と初めて会った時、疑問に思ったことがある。一つ目は、数だ」

「数?」

私はワクワクを必死に隠しつつ、修一に一歩近づく。

「俺が言ってるのは、この部分だ」


ーーーー

『朝変な機械に襲われてな。戦利品だ』

『うわあ!すごーい!これ7.8機ぶんくらいあるんじゃない!?』

ーーーー


「俺が朝セグウェイもどきから素材を剥ぎ取った機材をお前に見せた時、お前はああ言っていたが・・

どうしてあれだけの機材を見ただけで見たこともないはずのセグウェイが7.8機作れるってわかったんだ?

あのセグウェイもどきは武偵殺しが自作したものらしい。お前がその材料の分量を知ってるのはおかしいだろ」

「…くふ、なるほどね。でもそれだけ?それだけなら探偵科だから昔の事件の資料を読んでて知ってたってのが通っちゃうよ?」

私のワクワクが高まりすぎて顔がニヤニヤしてしまう。ただこれだけなら期待外れだ。私の言い訳が通ってしまう。

修一は「ま、そうだよな」と息を吐く。まさか本当にそれだけで聞いてきたのか?

「二つ目」

私が失望しかけたとき、修一が指を二本立てて理子の方に向けた。なんだ、やっぱあるんじゃん。

ーーーーー

『なんつってな。無理に決まってるだろ。キンジだよ、知ってるだろ遠山キンジ。あいつが4機倒したんだ』

『あ、そうなんだー。あ、でもでもEランクのしゅーちゃんがどうして4機も倒せたの?』


ーーーー


………なるほどね。

「俺が倒した数を自慢してるとこだが、お前はどーして俺の倒したセグウェイもどきの数が4機だってわかったんだ?確かにキンジが倒したのは4機っていったが、俺が倒した数は言ってないぜ」

でも、まだ甘いよ…!

「確かに矛盾はしているけど、それも調べたんだよ。
修一は4機、キンジは4機破壊したって。だから8機分の材料だってのもわかったわけ」

「………つえーな。探偵科」

「理子Aランクだから。それくらい調べるの楽勝だよ」

これは期待外れだ。やはり所詮はEランク。冴えてるが詰めが甘い。
修一は頭をガシガシかいてうーんと唸った。どうやらこれで終わりらしい。

…もういいや。生き延びたのもマグレみたいだし。これっきりで修一と接触するのは辞めよう。

「じゃ、もう終わりでしょ?理子も疑われてぷんぷんがおー( *`ω´)なんだけど、今日は疲れてるから許したげる。またね、しゅーちゃん」

私は失望感と共に今度こそ病室を出ようとした。
さて、アリアとキンジのための兵器と車の手配はすんだから、あとはそれをくっつけて…

「三つ目」

「っ!?」

私は修一の言葉に振り返り、

「いい加減にしろよ修一!いくら言ったってあたしのことを武偵殺しだって証明できないんだよ!いい加減あきらめーー」

「悪いが。諦めるなってどっかのピンクツインテに言われてんだ。付き合ってもらうぜ武偵殺し」

本性丸出しにして怒鳴りつけてやったのに、修一は理子の手を持って逃がさないようにしつつ三つ目を語り始めた。

「まぁ実際ここまでは半信半疑だったよ。お前がどこまで調べきれるのかわからんし、本当に調べれたのかもしれないってな。でも、この言葉はどう返すんだ?」

「この…言葉?」

ーーーー

『無理無理そんなの無理よ!!20万!?そんなお金見たことないわっ!!』

『しゅーちゃんしゅーちゃん!無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな!でしょ?闇金にでも借りればいいんだよん♪』

ーーーー


「『無理、疲れた、メンドくさいは絶対に使うな』ってのは俺が武偵殺しに言った言葉だが…お前さっきそのまま言ったろ。この言葉、お前自身には言った覚えがないぞ」

「…それは」

…しまった。つい油断した。アホがあまりにも慌てたから慰めようとしたのが仇になったか…。ちっ。

「…それを《《アリア》》が修一に言っているところを見たんだよ。それ言ったのってアリアでしょ?理子その後ろから…」

「んじゃ、その場所と日時も言ってみろ」

「………。」

修一が理子の目をまっすぐ見てきっぱりとそう言った。……。


「黙秘はわからないと取るぞ。それにあの時のあいつの言葉はもっと長かったし『Fランクを励ました』なんてことアリアが言いふらすなんて考えられない。…つーことは、お前はどーやっても俺がアリアに言われた言葉を知ることなんて出来ないんだよ」

…こいつはEランクでも普通とは違って分かっていたのに…。まさかこんな一言に気づくなんて…。




…へえ。



「峰 理子。お前が、武偵殺しだな」

修一が静かにもう一度そう言った。今度は確定申告だ。逃げ道はない。

「あっはははははははははははははははははははははははは!!」

思わず笑ってしまう。心臓がバクバク音を立てる。初めての体験だった。思わず拍手してしまう。こいつ、本当に、面白い!!

「いやーFii Bucuros(すばらしいよ)修一。いやーやられたやられた!そそ、理子油断しちゃったよもー。
うん、その通り。

『理子が武偵殺しだよ』。


くふ、まぁまだ色々と返答出来たけど面白かったからそれで認めてあげる♡」

「なんで若干嬉しそうなのかわからんが、まあいいや。分かればいいし」

私が認めると、修一は息を大きく吐いた。しかし問題はここからだ。

「それでどーするんだ?理子の正体が分かったところで決定的な証拠はない。理子を捕まえるなんて無理だと思うけど」

今までの犯罪もすべて証拠を残さないように丁寧にしてきた。
あの兵器全てに指紋一つ付けてないと断言できる。
それに修一の周りに録音器具はない。寝てる間に調べてあるから確実。これなら私が捕まることは一切ない。



「あ?何言ってんだ。別にお前が武偵殺しだからって別にどーもしねーよ」

きょとんとした表情で、そんなことを言ってきた。

って

「………え??」

「いや、だからな。さっきも言ったけど俺は胸のモヤモヤを取り除きたくて聞いただけで、別にこれから理子と敵対するつもりも、捕まえるつもりもないって。というかEランクの俺がお前に勝てるわけねぇだろがい」

「…え、と?つまり、本当に聞いただけってこと?」

「そゆことだな。フフンどうだ俺の推理力!中々のもんだろ」

ドヤッとした表情に嘘は見えなかった。え、本当にただの自己満足のために?
それだけのためにあれだけの矛盾点用意して、私を問い詰めたの??

いや、そんなはず…!


「でも修一。もし理子を捕まえることが出来たら30万どころの騒ぎじゃないほどの莫大な金が修一の元にくるよ。それでも、理子を捕まえないわけ?」

「なぬっ!?」

こいつはとことん金に汚いやつだ。金のことを話せばすぐに180度意見を反転させてなにかしてくるはずだ。…というかなぬってなんだ。変なキャラを今更つけるな。

修一は小さく「三十万以上…お肉、食べ放題…」そう呟きジュルリとよだれを垂らしていた。…ほんと、わかりやすいやつ。

その後修一はハッとするとよだれを拭いて理子の方に向き直った。

「まあその、あれだ、確かに理子のことを捕まえるのもそれはそれでアリだ。お肉食べたいし」

「理子より肉かよ」

「何言ってんだ。肉は最高に美味いだろうが!」

「………あ?」

久々にカチンときた。こいつにはなんの感情もないが、肉より下に見られるとは思ってなかった。とりあえず一発殴ってから話を戻してー

「なんつってな。本音言うと、お前を捕まえられるとしても、俺はお前を捕まえないっての。…やっぱ、嬉しかったからさ」

「嬉しかった?」

理子は修一が喜ぶようなことはなにもしていないはずだが。

「その、あれだ。俺ってほらEランクで、一年生ん時は、誰も話し相手がいなくて、正直な話、寂しかったんだよ。…で、またそんな感じなのかなって思ってたら理子が話しかけてくれたろ。まあ、実際、理子の目的は俺の腕を試すためだけだったんだろうけど。それでも、久々に友達みたいな話ができて、嬉しかったんだ」

話していく内に、少しずつ目をそらしていく修一。恥ずかしくなったらしい。

「ま、だからその、あれだよ。俺にとってはここでの初めてのダチって感じだったから。それがいなくなるのはツレーなって…うわー、これ平賀とかに聞かれたら完全に引かれるなぁ…」

修一の、こういう高校生らしい姿、初めて見た。それはそれで可愛いとは思ったが、それ以上に

「理子が、犯罪を犯した武偵殺しでも、友達になりたいの?」

「倉庫でも言ったが、俺は犯罪者でも恋人候補だ。友達がそうでも全く問題なし」

「…理子が、必要、なの?」

思わず出た言葉。言うつもりのない言葉がぽっと出てしまった。

な、なに言ってるんだ!?昨日もそうだったけど、どうしてこいつを前にすると口からするりと変なことを言ってしまうんだ。

…だけど、プライドを殺して言うなら、理子は必要とされたかった。

幼い頃、ブラドと呼ばれる貴族に引き取ってもらった際の『お前は必要ない』という言葉。理子の胸の奥にまだそのトラウマが残っている。必要とされないのは、理子にとって一番辛いこと。だから…

「ま、必要だな。金の次に」

「ふん!!」

「痛ったあああ!?おいてめぇ理子!なにも撃たれたとこ殴らんでもいいだろうが!!」

「うるせーよ!このクズ野郎!!」

こいつはキラキラした笑顔でなんてこと言うんだ。流石の私もこのクズ野郎には苛立ちを覚える。というかもう殴った。

「…だってしょうがねぇじゃん!流石にそんまま必要だなんて恥ずかしくて言えるかボケ!」

修一は顔を赤くしながらそんなことを大声で叫んで、自分の言ったことにまた紅くなった。…乙女か。

でも、そっか。こいつは理子の遺伝子とか、技能とか、そういうの全く関係なしにただ理子のことが必要なんだ。

ふーん…。

「ねえ、しゅーちゃん」

「な、なんだよ?」

「武偵殺しとの約束、覚えてる?」

「あ?確かあの倉庫の事件で俺が生き残ったら付き合って………んん!?」

くふ、思い出したみたい。そう。修一と武偵殺しは修一が生還した時点で、もう付き合ってる仲で、その武偵殺しは理子。つまり

「理子としゅーちゃんってもう付き合ってたりするんだよねー!約束上」

「取り下げだ取り下げ!無しだ無し!無効だ無効!!」

「そんなに否定しなくてもいいだろうが!!」

「いってええええ!てんめっ流石に二発目はヤバ…!!」

理子がワイワイと騒いだ瞬間のこの全面拒否。確かに冗談で言ったが、ここまで否定されると本当にムカつく。

「なんでだよ?さっき理子と付き合えるとか言ったら本気にしちまうとか言ってたくせに」

「…だってよ、そんなんで付き合うってのはなんかこう、違う気がするじゃん?もちろん、理子は俺にとって本当のダチで好きか嫌いかで言われたら好きだし。付き合えるってなるのは素直に嬉しいんだけどさ…」

モゴモゴとなにか言い始めた修一にため息をつく。こいつ本当に典型的な草食系男子だ。もちろん褒めてない。

「恋愛下手くそ」

「うぐ」

「草食系男子」

「うぐぐ」

「意気地なし」

「うぐぐぐ」

「素人童貞」

「なっ!?待て待てそりゃただの悪口だろ!バカにすんなよ!俺はーー」

「は、お前なんかに身体許すやつなんているわけないだろ。見栄はるなっての」

「…くっそぉ!その通りだちくしょー!!」

修一が泣き崩れてしまった。…少しやり過ぎたか。

私が修一をあやすのに、15分かかった。




「それでさー、しゅーちゃん」

「なんだよビッチ」

トッポを食べつつ椅子にまたがり適当に動かしてる理子に修一はまだ棘のある言い方で返してくる。…めんどくさいなぁ。

「しゅーちゃんってさー、理子のこと武偵殺しって認めさせて満足してるかもだけど、それで今の状況ぐるっと変わったのわかってる?」

「あ?状況??」

くふ。やっぱりわかってなかった。よし、ここにうまく漬け込んで…

「さっきの賠償金の話。しゅーちゃん、50万払わないとダメなんだよ。で、さっきまでは理子が25万払ってしゅーちゃんが残りの25万を報酬の30万から払う予定だったでしょ?まあ、報酬は約束したから30万振り込んでるけど」

「それが、どうしたんだ?俺には五万しか支払われないってー」

くふ♫

「だからぁ、理子が25万払うってのは理子自身の罪悪感から言った言葉なわけでありまして〜武偵殺しだってばれた以上、払う必要もなくなるんじゃないかなーって」

「あ、あの、理子さん?それはつまり…」

「くふ。ただ負けるだけじゃ嫌だから、仕返しに25万支払わないってのはどう?くふふ、理子、しゅーちゃんの金の汚さに漬け込んでみたんだけど、どう?効く??」

「思いっきり効果抜群だぞこの野郎!!嘘だろ!?結局俺赤字!?…というかそもそも全部お前がしたんだろうが!お前が払いやがれ!」

「えーでもー理子、書類上武偵殺しじゃないしー♬」

「この……!!」

キャッキャしてたら本気で焦る修一。くふ笑 理子、この顔大好きかもー♡

「困る?」

「すっげぇ困る!50万なんて金どこにもねーし、集まりもしねぇよ!」

「くふ。闇金に手だして返したりでもすればいいんじゃない?」

「な、お前…!?」

「それでもどうせ闇金の方も返せなくて〜、マグロ漁船にでも乗って〜、そのままいい極楽人生送るってのも楽しそうだよねー♫」

「ちょ、ちょっと待ってくれ理子さん、いや理子様!先ほどまでの無礼をお許しください!!そして出来れば!出来ればお金を貸していただきたく!!」

「うわぁ」

修一は理子の話を最後まで聞いて、顔を青くしながら土下座までしてきた。プライドないんだなこいつ。


でも、作戦通り♫

「いいよー。理子、お金たくさん持ってるから貸すどころかあげてもいーよ?」

「ま、まじか!?」

「うん、でも一つだけお願い」

ガバッと顔を上げ喜ぶ修一に、理子は詰め寄り、耳元で囁いた。



「理子と一緒に、武偵殺し、やろ♡」 
 

 
後書き
修一、緋弾のアリア主人公の敵になる!?
 

 

8.事件の前準備

 
前書き
「7話のあらすじ」
理子に矛盾点を突きつけ、彼女自身に武偵殺しであると認めさせることに成功する。…が、思わぬ方向に話が進んでしまう。

♯ここで、修一がどうして倉庫の一直線で約80機相手に暴れることが出来たのかが判明します。

 

 
「理子と一緒に、武偵殺し、やろ♡」

俺は理子の言葉をすぐに理解することは出来なかった。
は?今こいつなんて?

「…わんもあぷりーず?」

「Let's play a Buteigoroshi with me」

「誰も英語で返せなんて言ってないわ」

一応ある程度勉強してたからわかるが。いや実際英語だけは力をいれてるのが武偵高校である。平均点英語だけやけに高いんだよ。

「ね♡」

「いや、そもそも何で俺だ。もっと凄ぇやつをフォローに入れたらいいじゃねーか」

「出来るならそうしてる。けど、今理子のことを武偵殺しだと知っている奴で動けるのはお前だけだ修一」

「武偵って確か、犯罪犯すと3倍の刑になるんじゃなかったか?」

「そーだね!もちろん国に払う金も3倍だから〜軽く100万は超えるよね」

「………いつもの俺なら速攻で断ってたんだがなぁ」

「くふ。理子の手伝いをしないと、今の支払いもできないもんね!

…で、どうするんだ修一?こっちも人出は欲しいが、やれることをやらないやつは使い物にならないぞ」

「それを言うならやっぱ俺じゃないと思うがな。年間Eランク舐めんな」

銃は撃てない、パソコンもろくに扱えない、体術もそこそこの俺が、武偵殺しの手伝い?俺の失敗でこいつが捕まる未来が見えたね。まぁ、実際金をもらえるんならなんでもやるつもりだったが…犯罪、ねぇ。

「なにするかわからんが、人殺しだけは嫌だぞ。やっぱ人間として、そこだけは踏み外しちゃいけねぇ」

「…くふ。大丈夫だよ修一。前にも言ったけど、理子人殺しはしてないしする気もないよ。
ほら覚えてるだろ?
修一が一直線の通路でその両方を塞がれたとき、あの時本当は暴れている修一を簡単に殺すことはできたんだが、あえて撃つものを減らしたんだから」

「ああ、やっぱあれそっちが手加減してくれてたんだな」

いくら全力で力だしたって、平凡な俺には到底倒せない数だった。納得いったよ。

まあ一応それも借りっちゃ借りか。

「………。はぁ」

俺は頭をかいて、最終的な結論を考えた。ま、実際はしたくないのだが、金が無いのも事実。俺に逃げ道は作らせない手口、犯罪者のやり口っぽいのう。あ、犯罪者だった。

「わーったよ、お前の手伝いしてやる。失敗しても知らんぞ」

「くふ。倉庫の戦闘で修一が意外とできるやつってのはわかってるから。大丈夫だって、『信じてるから』」

そういわれることは素直にうれしいが、そんな過度な期待して本当に大丈夫かね。

「んで、なにすりゃいいんだ?」

「後に何かしらの指令を送る。それに従ってくれればいい。作戦実行は明日の7:58。アリアとキンジに武偵殺しとしての挑戦状を渡す。修一はスムーズに進めるためのフォローを頼む」

「…そもそもどうしてお前はあの二人に執着してんだ?なにかあるのか?」

俺が気になったことを聞くと、理子は眉を寄せてちょっと機嫌を悪くした。

「…深い詮索はいずれ墓穴を掘って自分を殺すよ修一。今お前に言えることはなにもない」

「まあ人にはそれぞれなんかあるし、別にいいけどよ」

特に聞きたいとも思わなかったので簡単に終わらせると、身支度を済ませるため色々と準備し始めた。

「なにしてるの?」

「何って明日決行なんだろ?だったら今日の内にやっておくことがあるんじゃないのか?」

右手が使えない状態でいろいろとやるのは難しいな。これからしばらくこれが続くのか…辛いな。

「へー、結構やる気あるみたいじゃん」

「まあな。金をもらう以上、やれることはやってやるさ」

「くふ、今の理子的にポイント高いよ。本当に好きになっちゃいそーう♡」

「おお、そういやお前一応俺の彼女もどきになったんだよな。ほれ、身支度するから手伝え」

「はいはーい」

そうしてなぜか理子が持ってきた俺の防弾制服(聞くとわざわざ俺の部屋からとって来たらしいが、どうやって部屋に入ったんだ??)に着替え、松葉杖を持つと、病室からそさくさと逃げ出した。まあ、あとで手続きの電話でもしときゃ大丈夫だろ。たぶん。


ーーーーーーーーー

「邪魔するぞー」

「あや、岡崎くん!?どうしてここに来てるのだ!?確か一か月くらい安静にしてないとって…」

「あーなんつーか。思ったよりダメージなかったぽいぞ。体に当たった弾も貫通してなかったぽいしな」

俺は理子と別れると、真っ先に平賀文の部屋を訪れた。理子の方はいまからセグウェイもどきの最終調整と、ある機能をつけに行ったらしい。まあそれはどうでもいい。というか俺がなんとかできたくらいの性能だったからな。今のままじゃ、あの二人になんて適うわけがない。
ということで連絡が来るまで暇になった俺は、いろいろと世話になった平賀にお礼を言いに来たのだった。

俺の来訪に驚く平賀を適当に返して(実際傷は痛むが、そんなことも言ってられないし、平賀を余計に心配させるだけだし)いつもの席に座る。平賀はふーんと返すと俺の前に座って来た。

「別にいつも通り、作業しつつでいいんだぞ?」

「あやや…ま、まあ、今日はたまたま暇なのだ!岡崎くんの会話に付き合ってあげるのだ!!」

「ふーん。まあ、いいけど」

なぜか焦りながらそういう平賀。なんだ?いつも「作業ばっかで暇なんてないのだー!」とか自分から言ってくるくせ。そんな時もあんのかね。

「この前はサンキュな。お前がいなかったらやばかった」

「あや、そのことはもういいのだ。あやや的にもあの武偵殺しの兵器を解析できたし、ボタン型監視カメラもうまく使えたし、あややの方がお礼を言いたいほどなのだ!」

「…そっか。まあでも、サンクスな」

お礼を返されてしまったが、もう一度礼を言うと、平賀は顔を赤くしながら笑ってくれた。ま、平賀ならこんな感じに返してくるってのはなんとなく想像ついてたから、もうこれくらいにしとくかな。

「ねえ。岡崎くん」

「なんだ?」

「一昨日の任務はいったい何ランクの依頼を受けたのだ??あれは絶対Eランク任務なんかじゃないのだ!」

「あ、そ、それは…」

まさか武偵殺し自身に呼び出されてたから、実質Aランクくらい…とは言えないよな。こういう時すぐにうまく返すことができない俺は、口をパクパクさせることしかできなかった。

すると、平賀が近づいてきて、下を向きながら

「…もう、やめてほしいのだ」

と、小さくつぶやいた。…え?

「あの兵器のカメラから見てたのだ。岡崎くんが倒れて、血がどんどん出てきてるところ。あややにはもう、岡崎くんが死んでしまったみたいに見えたのだ。…怖かった、日ごろ頻繁に来てくれる岡崎くんがいなくなったら、ここがすごく、さみしく感じてしまう、その時思って怖くて。だから、岡崎くんにはもっと安全で、簡単な任務を受けてほしいのだ」

プルプルと震えながらそういう平賀。もしかして、むっちゃ心配かけちまった…か。
というかここに来る理由のほとんどが外だと異様に目立つからだったり。基本誰かに見つかったらヒソヒソ言われちまうし。俺のオアシスなんだよなここ。


「そっかそっか。平賀はそんなに俺を心配してくれたわけだな。もしかして俺のことすーー」

「あ、それはないのだ。友達以上、恋人皆無くらいなのだ」

「…さいですか」

ちょっと期待したんだが…むぅ。だけど、まあ心配させたってことは間違いさそうだ。ちゃかしたからかちょっとキレてる。ただ…いまから武偵殺しの手伝いするからもしかしたらそれ以上の依頼するかも、なんて言えないよな。

「ま、大丈夫だっての。Eランクの俺がこれ以上危険な事することすらないって。な?」

「…そうだったらいいのだ。でも心配だから、いいものを用意しておいたのだ!!」

そういうと平賀は近くの箱をがさがさ漁ると、セロハンテープのような真ん中に空洞の開いた何かを渡してきた。だがセロハンテープよりも、かなりの重さがあり、その巻かれたなにかもセロハンというよりか紐に近い。

「なにこれ?」

「『とべーる君 二号』なのだ!先端が吸盤になっていて、張り付いたら約150kmの速さで引っ張っても取れないようにしたのだ!!」

確かに先端には赤い何かゴム質の物が取り付けられている。これがそんなすげーものなのか…

「んで?これ何に使うんだ??」

「あや、貸してくれなのだ!ここを押すと、巻かれたロープが自動で射出されるのだ。長さは約20mほどなのだ、えい!」

平賀がセロハンもどきの内側の小さい赤いボタンを押すと、静かに飛んでいくロープ。そしてその先端の赤いゴムが壁に当たりくっつく。

「これでもう離れることはないのだ。そしてここの青いボタンを押すと…えい!」

平賀が赤いボタンの横の青いボタンを押すと平賀の手からセロハンもどきが離れ、ロープを巻き取りながら壁まで走った。ガチャンと音を立て、壁にくっついてしまった。

「…で、これ何に使うんだ?」

ふふんとドヤっている平賀にそう返す。機械が巻かれていっただけでどうしてそうドヤ顔なんだ。

「あや、ターザンごっこなのだ!!」

「…ターザン??」

ターザンってあれか?あーああーーとか言いながら森駆け回るやつ。

「これを天井に撃って、そのまま離さずに青いボタンを押せば宙に浮くことが可能なのだ!そのままブランブランして遊ぶのだ!!」

「…でもよ、これどうやって壁からバズすんだよ?一回したら終わりか?」

今も壁に宙ぶらりん状態のとべーる。絶対外れないんなら使い道が限られてくるが。

「大丈夫なのだ。青いボタンの横にもう一つ小さなボタンがあって、それを押すと」

平賀はとべーるに近づくとそのボタンを押したのだろう。とべーるはいとも簡単に外れ、平賀の手に落ちてきた。

「この中に空気を入れるボタンなのだ。これで簡単に外れるのだ!」

「なるほどね。どこでも移動できるようになるってことか」

これを使えばまるでスパイダーマンのように自由に移動することができそうだ。…まあ、スパイダーマンみたいなことしたらすぐ死にそうだが…。

「だけどよ、そのロープが切れるってことはないのか?それ空中でちぎれたら終わるぞ」

あーああーしてる最中に切れたりでもしたらそのままThe Endだ。そんな終わりは嫌だ。

「大丈夫なのだ。こう見えてかなりの強度をもっているのだ。理論上、刀で100回切っても切れないようにしてるのだ!!」

「へえ…」

これ、もしかしたらターザン以外の使い道がいろいろあるかもしれないな。確かに即戦力の機械だ。少し重いがそれだけ便利がある。だが問題は…

「んで、これいくらだよ?これだけ高性能なら、金も莫大なんだろ?」

相手はあの平賀文だぞ。これだけのものを安値で取引するわけがない。莫大な金を使うことで有名なやつだからな。


「退院祝いなのだ!タダでいいのだ!!」

「まじか!」

と、思っていたがこいつ意外と友達思いなんじゃ…。

「でも修理費は最高15万なのだ」

「………くそう」

やっぱな!さすが平賀さん。俺に使わせて金をとる気か。くそうこの平凡学生の敵め!

「でも、もらえるもんはもらっとく」

「あや!ベルトにつけれるようにしといたのだ!」

俺はもらえるもんはもらっとく主義だ。貧乏には物が少ないのだ。

それから俺はまた冷却弾を6発購入した。これ意外と使えるからな

「火炎弾はいらないのだ?」

「ありゃ不良品だったぞ。改良よろ」

「あいやー!」



それからしばらく平賀とたわいもない話をしていると携帯が鳴った。どうやら理子の指令ってやつが届いたようだ。



『17:00までに遠山キンジの部屋の時計を五分遅くしろ その後、アリアと接触、明日の朝までキンジに近づけるな。
このメールは確認しだいすぐに削除すること
PS、キンジの部屋のベランダの窓が開いてるみたいだぞー♪』



…は?武偵殺しの手伝いってことだから誰かを誘拐とかそんな感じのことをするんだと思っていたが…なんだこれキンジの部屋の時計いじってアリアと会えって?…なにしたいんだ理子のやつ??

「…また、依頼なのだ?」

平賀が心配そうにこっちをみている。こいつ、なんだかんだ言いながら、やっぱいいやつだよな。こうして友達だからって理由でいろいろとしてくれるわけだからな。

俺は笑って平賀の頭を撫で

「やっぱりそれはやめてほしいのだ」

ようとしたが本気で嫌がられたのでやめて

「大丈夫だって。今回のは思ったより簡単そうだからな。軽くやってくるよ」

「あや!前もそんなこと言ってたのだ!!だから余計に心配なのだ!こ、これも持っていくのだ!」

平賀がまたなにかをごそごそし始めたが俺はそれをやめさせる。

「いいって、もうこれ以上金ないから」

「じゃ、じゃあお金いらなー」

「平賀。俺を特別扱いしてくれるのはうれしいけど、そんなことばっかしてたらお前の評判に関わる。これだけで十分だ」

平賀は先ほども言ったようにかなり莫大な資金をもらって制作している。それを俺にだけタダにしてばっかりだとほかのとこや生徒が文句を言うのは当然だ。「Eランクにタダならこっちもタダにしろ」ってな。Eランクってのは優先されることがないんだ。それに俺はとべーるをもらっただけでかなり満足してるし

「じゃ、じゃあその依頼終わったらあややのもとに来てほしいのだ!安くて使えるものを作っておくのだ!」

「お、そりゃうれしいな。まじで頼むわ」

「あややー!!任せるのだー!!」

そうして俺は平賀と再会の約束をして別れた。

あれ、これ死亡フラグじゃ…。



ーーーーーー

「これでよしっと」

俺は自分の部屋につくと、さっそくとべーるを使って隣のベランダに侵入し(片手でもなんとかなったがなかなかキツかった)、中に誰もいないのを確認して侵入。おいてあった時計すべての時間を五分ずらした。この前隣がキンジの部屋だってわかっててよかった。知らなかったらまずそこから調べなきゃだったからな。
さて、これでどうなるのかさっぱりわからないが、とりあえずやることはやったし、キンジが帰ってくる前に退散しますか。

ーーーーーーー

「さて…次はアリアだが、どこにいるんだ?」

俺は夕暮れでオレンジに染まった道を歩きながらアリアの行きそうな場所を考える。
が、俺とアリアだって知り合ってすぐだ。行きたい場所なんてわかりっこない。
さて、どうしたものか。とりあえずもう授業終わり時間だし、教室に行ってみるか。

そう思い教室のある校舎へ向かう途中、授業が終わってそれぞれの専門科へと移動する生徒が俺の横を通っていく。今の俺は右腕を固め松葉杖をついて歩いている状況だ。まあ、武偵高ならこういう生徒はよく見かけるからべつに目立たないのだが…俺だと

「おい、あれ、Eランクの岡崎だぜ…」

「うっわ。重症じゃん。なにしやがったんだあんなクズが」

「あれだろ、銃を反対に持っちまって自分の腕に撃っちまったのさ」

「はは、流石Eランク」

辺りから俺に対していろいろと言っているようだ。そう、俺みたいなEランクがこんなに怪我するってことはなにか失敗したと捉えられバカにされる。
もちろんそれを言っているやつらに面識はない。
それに言っているやつらに、いちいちこの怪我について説明する気もない。
…かといって、こいつらにキレて喧嘩したって勝てるわけもないし。八方塞がりというやつだ。

俺は言われるがまま、バカにされるがまま、片足でうまく歩けない状態でゆっくりと、校舎まで戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーー

しばらく教室やら図書館やらを探してみるものの見つからず、もしかしたらなにかの依頼で外にいるんじゃとも考え、いったん校舎を出ようとしたとき、ちょうどどこからか帰ってくるアリアを見つけることができた。
なぜかスキップしながら校舎の方に来ているが、なにかいい事でもあったのだろうか。

「よ、アリア」

「?あ、修一…ってどうしたのよその怪我!?」

俺は下駄箱までやって来たアリアを呼び止める。
アリアは俺を見つけるとすぐにこちらに来て怪我について聞いてきた。
…なぜだろう。普通の反応なのにやけにうれしいや。さっきまでいろいろ言われてたからメンタル弱くなってたのかもな。

「まあそのあれだ、一昨日任務でちょっと失敗しちゃってな」

「それって…もしかしてあの武偵殺しのアジトの事件!?あの大けがをした武偵って修一のことだったの!?」

ああ、どうやら調べていたみたいだな。というかあれって名前までは公開されないのか。なるほどね。


「たまたまあった依頼を選んだらビンゴひちゃってな。いやー失敗失敗」

「ということは、あの『武偵殺しの兵器を47機撃破』っていうのも修一がしたのね」

あれ47機だったのか。もうよく覚えてないんだが。んーでもあれ、理子が手加減してくれたおかげだし。
威張れないことなのだが。

「頑張ったよ俺」

「うんうん。えらいわ修一。よくがんばったわね」

なぜかつま先立ちして頭をなでなでしてくるちびっ子ピンクツインテ。…ちょっと恥ずかしいな。

っとそうだ

「アリア」

「なに?」

「さんきゅな、入学式の前の日、あれスゲー助かった」

「…あ、ああ、あれね…」

「お前、忘れてたろ」

「そ、そんなことないわよ!覚えてた!あんたが死んだ目をしてベンチに座ってたあれでしょ」

言われてパニくってる時点で確定なんだが…まあいいや。というか死んだ目って…

まあいい。

「実際のところ現状あんま変わってないんだがな、周りにはいろいろ言われるし、相変わらず銃は当たらないし」

「そりゃそうよ。気の持ちようですぐに成長するなんてことはないわ。それからのがんばりが肝心なのよ」

こいつ…こうも俺の背中を押すのがうまいのかよ。
今のもちょっと心に響いたぞこのやろ。

「でも、無理って言葉はあんまし使わなくなったぞ」

「そっか。良い心掛けよ修一!ちゃんとやれることやって、きちんとしていればいつか報われるわ!!絶対!!」

にっこりと嬉しそうに笑ってアリアが胸を張ってそういう。…まあ、チラっとその小さい(なくはない)胸に目が言ったのは仕方ないのだ。それからお互いに笑いあって、そして

「それに、あたしも修一には感謝してるのよ」

「あ?」

アリアが俺に?一体なんのことだ?俺がアリアにしたことは愚痴って、金を脅したぐらいしかないが。…うわ、俺何気に最低だな。

「あのね、あたし、友達と呼べる人がいないの。キンジもあたしから付きまとってるだけだし。
他のみんなもあたしがSランクだからって一歩引いた感じに接してくるの。
でも、修一はそんなのお構いなしに話してくれるでしょ。
ま、まあお金のことになるとせこいし、最低だけど。さっきも声かけてくれたのも実はけっこう嬉しかったのよ」

「………。」

意外だった。まさか俺と話すのがアリアにとってうれしい事だったなんて、俺ばっかが世話になってると思ってたんだが、実際はそうでもなかったのか?
まあアリアには最初からすべてさらけ出していたから、なにも考えることもなかったってのも一つの理由だが。

「そういやアリア、俺たち連絡先交換してなかったよな。ダチなら交換してもいいだろ」

「そうね。いいわよ、交換しましょ」

お互いに携帯をとりだして連絡先の交換をした。Sランク武偵とここまで仲良くなるとは前の俺からしたら考えられねぇな。


才能をもった人間と仲良くするなんて。

アリアは連絡先交換したあと、その俺の連絡先を見て微笑んだ。どうやら俺は友達第一号になれたらしい。
そんなことに自然と俺の口が吊り上がるのが分かった。


「次危険な依頼受けるんならあたしに一声かけなさい。手が空いてたら手伝ってあげるわ!」

上機嫌なアリアがそんな提案をしてくれる。
まあ正直Sランクの手を借りられるんならまた受けてもいいかもな。まじで今度あったら頼むとしよう。

「というかよ、アリアはなんでそんな楽しそうなんだ?いい事でもあった?」

ずっとニコニコなアリアにそう聞いてみると、アリアは手に持った猫のぬいぐるみを見せてきた。

「あ、そうそうそうなの聞いてよ修一!さっきキンジがね!あたしのこれくれたの!!」

「それ、なに??」

「れおぽん!かわいいでしょ!!」

アリアのもつその猫も確かにかわいいが、それを持ってキャッキャしてるピンクツインテのほうが俺的にはかわいいと思う。アリアちっこけど美人だしな。

ま、口にだして言えるわけないが。

「おお、かわいいかわいい」

「えへへー。あんたにも次手に入ったら分けてあげるわ。こんどこそあのUFOキャッチャーであたしが取ってやるんだから!」

あ、なるほどUFOキャッチャーの景品なのかそれ。ってことはキンジはアリアのために取ってやったと。やるじゃんキンジ。

「そうだな。でもあれコツとかあるから今度教えてやるよ。たくさん取ってキンジにドヤ顔して見せてやろうか」

「あ、それいいわね!よろしく頼んだわよ修一」

「おうよ。あ、そんときの金はアリア持ちで頼むぜ。俺UFOにくれてやるほど金に余裕ない」

「…あんた、レディに払わせる気?」

「レディに払っておなかが満たされるんなら俺も払うがな」

「やっぱ最低ね」

「金に関してはしょうがない。ないもんはないんだ」

「ま、もう慣れたからいいけど。修一のそういうとこ。いいわよ、あたしが自分で払って自分で手に入れる!手伝いなさい、修一!!」

「あいよ」

UFOキャッチャーごときでなにを大げさな。なんて思うかもしれないが、皆がそう思うことに一生懸命になるやつはカッコいいと思うがな。俺は。


「じゃあそろそろ行こうかな。キンジにパートナーになるように説得しなきゃ。また会いましょう修一」

「おーう、また明日なー」

「…!!う、うん!また明日!!」

俺の言葉になぜかパアアっと笑顔になって去っていくアリア。
ああ、なるほど。友達いなかったからこういうことも言い合える友達いなかったのか。
…あれ、そういや俺もこれ言うの久々だな。ったく俺もあんまりアリアに偉そうに言えないってことか。

ちょうどそのとき夕暮れの日がこちらに射した。
…もう帰るか。この状態で歩くのしんどいし。

そう思って俺もアリアの方向に歩き始めーー




…あり?なんか忘れてーー


『その後、アリアと接触、明日の朝までキンジに近づけるな』



「あ、しまった」

俺は思いだして先ほど聞いたばっかの番号を速攻かけた。

通話待ちはそうかかることなく、すぐにアリアは電話に出た。

『あら?修一どうしたの?なにか言い忘れた?』

ちょっと機嫌のいいアリアが、すぐに出てくれたってことはまだキンジと接触していないみたいだ。
あ、あぶね、理子との約束を速攻で破っちまうとこだったよ

「いやその、あれだ、その…」

『なによ?歯切れ悪いわね』

しまった。かけたはいいものの、こっちに戻す理由がない。…んー

「じつは、ちょっと頼みたいことがあるんだが、もう一度戻ってきてくれないか?」

『え、それって今じゃないとダメなの?』

「おう、できれば」

とりあえずすぐにこっちに戻そう。歩きながら通話していたらその途中でキンジに会うかもしれない

『…いいわ。今から戻るから、さっきの場所にいなさい』

ブツっと一方的に切られてしまったがなんとかなったみたいだな。俺は安心して息を吐き、アリアが来るのを待った。

さて、いまのうちに戻した理由でも考えますかね。




ーーーーーーーーーーーーーーーー

ギシッ ギシッ ギシッ

一つの柔道場から約4時間。ただ地面がきしむ音だけが聞こえる。
体育館ほどの大きさの部屋の中に二人。
日も暮れ、外が真っ暗になり、同じ道場を使っていた人もすべていなくなってもその音は鳴りやまなかった。
今も二人の人間が取っ組み合っている。男が女の蹴りを避け、こちらもと、蹴りを放つ。が

「甘い!!そこに一発入れられるわよ!!」

「…こなクソ!!」

それを避けつつ男の腹に一発入れた。…そろそろ言おう、その二人は俺とアリアだ。俺はつけていたギプスやらなんやらをすべて外してアリアと向き合っていた。

「次!きなさい!!」

「…ッ!!んにゃろ!!」

立ち上がって、痛む右腕を無理に振り舞わしアリアに当てようとするが、それをアリアはスルリと避け、俺の腹に蹴り込んだ。そこに一切の躊躇はない。だが、それでいい。

「…がっ…!?」

腹を押さえながら息を整える。口から唾液が漏れるがそれを抑えきれない。くそ、やっぱここまでの違いがあるのか、SとEは。アリアがふぅと息を吐くとこちらにしゃがみ込んだ。

「ねえ、もうやめない?武術を学びたいってのはわかったから、怪我を直してからにしましょうよ。今やってもあまり上達しないどころか、怪我が酷くなるわよ」

俺はアリアが戻って来たその瞬間までなにも要件を見つけることができず、つい「俺に武術を教えてくれないか?」なんて言ってしまった。
実際、武術も教えて欲しかったからいい案だと思ったが…たしかにアリアの言う通りいまするべきじゃないな、これ。アリアからの攻撃を受けるたびに撃たれていた腕と足に激痛が走る。
もちろん途中でやめて、そこからほかのことをすればよかったのだが…正直

(すげぇ…これがSランク。戦い方を変えて殴ってみても全然当たらねぇ…しかも俺の腕と足にはほとんど痛みがないように手加減もされてやがる…す、げえ)

俺はSランクの格闘技術に魅了されていた。
痛みももちろんあるが、それ以上にもっとこいつの力を見てみたいという好奇心に駆り立てられてしまった。
昔剣道をやっていたときもそうだった。勝てない敵の技術に魅了されたとき、俺は時間も忘れてそいつのことをじっと見てしまう。
昔、県大会に準優勝したときも、優勝したあいつの剣技を見てたっけ。懐かしいな、この感覚。

「いや、まだやろうぜアリア。もっとお前の技見せろ」

俺はそう言って、アリアの顔に向けて拳を振るう。アリアは、はぁとため息をついてその拳を避ける。

(この後、こいつは多分ーー!!)

四時間。付き合ってくれたアリアには心底感謝してるが、そのアリアの癖が、見えた…はず!

俺は避けつつ俺の懐に入ったアリアの拳を右に避けつつ、右足で蹴りを振る。ーーだがそれも一歩引いて避けられる。そしてそのままこいつは

(左に回って左フック!!)

それをわかった状態でアリアが左に回る前に逆に右に回って足を引っかける。

「ーーー!?やるわね修一!!」


だがそれですら足を寸で避け、俺の顔面に蹴りを放った。俺はそれを避けることができず、吹っ飛んでしまった。

「…はぁ…はぁ…」

俺は立ち上がることができず、そのまま寝っころがってしまう。流石に疲れた。

「最後、ああ来るとは思わなかったわよ…やるじゃない」

そこにまだ元気なアリアがやって来て俺に手を差し出してくれた。

「まあ、こんだけ付き合ってくれてんだ。あれだけ見せてくれれば動きを予想くらいはできる」

「へぇ…あたしの動きを、ね」

立たせてくれたアリアに礼を言いつつ首を鳴らす。やっぱ今のままじゃ体術でも勝てないか。

「確かにあんたは弱い。でも、観察眼は結構いけてると思うわ。IQテストでもしたらいい結果が出るんじゃないかしら」

「んなもん興味ないからいーよ。それより続きしようぜ」

「はぁ、いい加減休憩しましょう。いくらあたしでも疲れたわ」

「…ああそ、わかったよ。ただ少ししたらよろしくな」

「ええ、まだやるの?」

「あったり前だ。これハマった」

「全く、付き合うこっちの身にもなりなさいよね…」

でも付き合ってくれるらしいアリアは本当に優しいやつだと思う。まあ、理子との約束ってのもあるが…

いいね、自分も楽しめて、理子との約束も守れる。良い感じだ。

「あたしもさすがに徹夜では付き合えないわよ。24時には帰るからね」

「…どこに?」

「?あたしの部屋よ?」

よし、それなら大丈夫そうだ。キンジの部屋にさえ戻らないなら会うこともない。

「うっし。もういいぞ。やろうアリア」

「あんた一応重症なのよ?本当に大丈夫なの?」

「は!敵の心配をしてる余裕なんてすぐになくなるからな!やるぞアリア」

「…はぁ、わかったわよ」

こうして俺はアリアから武術を学んだ。…まあ結果だけ言うならアリアには一撃も与えることができなかったが学べるものはあった。と思いたい。

ーーーーーーーーーーーーーーー

こうして一晩中付き合ってくれたアリアはそのまま女子寮へと帰って行った。俺はそれを確認すると理子へ電話する。

『はーい、もっしもーし修一?アリアはどうなってるー??』

「あ、ああ…いま、女子寮の方へ入ったのを確認したぞ…はぁ」

『あ、あれ?思った以上に疲れてるっぽいけど…。そんなにアリア、激しかったの♡?』

『エロく言うな。あいつには今まで武術を教えてもらってたんだ…。ま、それはともかくちゃんとやることやっておいたぞ。時計もイジッたしアリアもおっけだ。今日はもう帰るからな」

『はいはーいお疲れー。あ、部屋にいいもの置いといたから寝る前に確認しといてね。あ、あと明日はちゃんとバスに乗ってね。じゃ、お疲れさましたー!』

い、いいもの…?嫌な予感しかしない。というか、俺の家にはもう防犯とかないのね。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「…なんじゃこら」

俺は家に帰ると机に置いてあった段ボールのなかには



携帯電話と地図。そしてーーーボイスチェンジャー?

  




 
 

 
後書き
緋弾のアリアのアニメで気になった部分を修一にやらせてみました。 

 

9 武偵事件終結+

 
前書き
「8話のあらすじ」
嫌々ながらも手伝うことになり、平賀の元で新しい装備を整えた後理子のよくわからない命令を遂行する。
足が折れてるにも関わらずSランク武偵に組手を挑むサイカイはバカだと思う。

*ここからAAも入っていきます 

 
Kinji side

朝、アリアがなぜか帰って来なかったので、久しぶりの平穏な朝を過ごした。日常っていうのは無くなった瞬間に大切さがわかるものだ。今俺はその意味に激しく同感している。だからこそ、いつもより早めに起きていつもよりゆっくりと食事をとり、いつもよりすこし早めに家を出た。
昨日家の時計と合わせ直しておいた時計で時刻を確認する。7:53、バスが来るのは7:58だから全然間に合う。5分前行動というやつだ。

「アリアがいないと朝もスムーズだな」

そう独り言を言いながら階段を下りてバス停へ向かう。

「いつものバスにも余裕で…」

ーーそう言った俺の先で、なぜか知り合いの乗ったバスが見えた。そのバスはそのままバス停を走り去っていく。

「武藤…!?ってことはあれは58分の…!!」

知り合いの顔がバスの中に見えた。ということはあれは俺が乗る予定だったバスで間違いない。
慌てて走ってみるものの、バスは道路をどんどん進んでいき、すぐに姿が見えなくなった。

ちくしょう、なんでだ??時間より5分も早く出発するなんて今までになかったぞ??

その後しばらく歩いていると、アリアから着信があった。



『事件よ!バスジャックが起きたわ!!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なるほどね」

俺はキンジの様子をバス内から見ながら、理子が俺に指示した意味を理解していた。バスに乗らせないため、アリアをキンジに近づけさせなかったのは二人だと時計をずらしたことに気づかれるからか。だったらそう教えてくれればいいものを…


そう思いながら歩いて登校しているキンジを見ていると理子から着信があった。っていいのかよかけて

『しゅーちゃん、やっほー♪』

「そういや朝からそのテンションだったな。俺は痛みで寝不足だってのに」

『寝不足なら理子も寝不足だって~!2時間だよ2時間!!もう乙女の肌の大敵~!!』

「一日くらいどってことないだろ?」

『あ、しゅーちゃんそれ言ったらダメ~!!一回でもいいや~ってやっちゃったら後々戻せなくなるんだからねー、特にお腹!!ぽんぽこ!』

「そういうもんかね」

女のそういう部分はよくわからん。というかこいつはそんなこと言うために電話してきたわけ?

『ーーーそれで、お前はちゃんとバスにいるんだろうな?』

おお、きたな裏理子(性格というか話し方がまるで違うので命名)。

「おう」

周りには武偵のやつらがわんさかだ。まああまり騒がないほうがいいだろうな。

『あと一分後に携帯のアレを鳴らせ。それから事件スタートだ。あとは、できるな?』

「ま、なんとか。んじゃあバス内だし切るぞ」

『ほいほーい!頼んだぞ、しゅーちゃん♪』

ブツっと電話が切られる。俺も昨日準備して考えてはきたが、どうしたもんかね。やっぱりこのバス武偵しか乗ってないんだけど。しかも見渡したら強襲科Aランクの不知火 亮(しらぬい りょう)までいるじゃん。まじで大丈夫かな…。

俺はそう思いつつもサっとあるものを俺の座っている椅子の下に空いた隙間に投げ入れる。

(…ま、やれるだけはやってやるさ。金ないしな)

一分が経ち、昨日送られてきた携帯を起動させる。


ピリリリリリリリリリリ!!ピリリリリリリリリ!!


「おっと、しまった。マナーモードにしてなかったな。あっはっはは」

携帯が大音量でバス内で音を鳴らす。ちょっとセリフが棒読みになってしまったが周囲の目線がこちらに移る。

そのまま俺は起動した画面を見つめ、ビックリした表情をする。…できてるかどうかはわからんが。

『この、バスには爆弾が仕掛けてあり、やがります』

バス内に十分に響く音量で流れた音声。

うっし。武偵殺し事件発生、だな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『速度を落とすと爆発しやがります乗客はおとなしくし やがれです』

バスが出発して15分がたった。おそらくもうアリアが動き出したりでもしてるんだろうなか、俺はここでのリーダー格である武藤 剛気(むとう ごうき)の命令に従って椅子の中やら上の物置部分を調べていた。
周りにはおそらく20人ほどの武偵。俺がおかしなことをしたらすぐにばれてしまうだろう。

だから、

「不知火。爆弾はあったか?」

武藤がAランク武偵不知火に呼びかけるが、不知火は首を横に振った。まあ、爆弾がどこにあるのかはわかってるからこのバス内の人間がいくら探しても見つからないことはわかっている。ここをうまく使わせてもらおう。

先に『バウンス』させといてよかったぜ

「おい、武藤…だっけか?爆弾かどうかはわからんが、変なのがあったぞ」

俺は武藤に呼びかけこちらに来てもらう。そして椅子の下に挟まったある緑色の物体を見せる。武藤がそれを見て顔を(しか)めた。

「こりゃあ…なんだ?ゴムみたいな」

椅子の下に挟まっていたのは緑色のゴム材質のなにかだった。それが今も少しづつ大きくなっている。

『あーあー、バス内に二つ目の爆弾を設置してま やがります?武偵の、みなさんが、最初の位置に座らないと、どんどん膨らんで、最悪爆発します、よー??』

武藤の持つ俺の携帯(仮)から新しいメッセージが送られる。ああこれ、昨日俺が撮ったやつだ。加工してるけど自分の声って聞くと恥ずかしいよな。
もう言ってもいいだろう。その緑色の膨らんでいるゴム状のものとは、つまり、『跳ねるたびに大きくなるスーパーボール』のことだ。実際には爆弾なんて入ってないし、ただバウンスして膨らんでるだけだし、そもそもそんな爆弾見た事ないでしょとも思う。



「な、なにぃ!?み、みんな座れ!!爆発するぞ!!」
「う、うわぁ!!爆発!?」
「座れ座れ!!」
「みんな、落ち着いて!!」
「やばいって!まじ膨らんでる!!」
「お、おいそこ俺の席だ!!」

一度パニックにすればそんなことを見るやつなんて、いないよな。あ、ちなみに最初に大慌てしたのは俺だ。ヘタレは任せろ、大得意だ。

皆が武偵殺し(俺)の命令を聞いて、それぞれの位置へ座ったり、元の位置で立ったりしている。おお、なんだこの優越感。なんか、いままで馬鹿にしてたやつらが俺の言うこと聞くってのも新鮮だな。…いかんいかん。これはあくまで武偵殺しの真似ごとだった。

「お、おいどうだ岡崎!爆弾膨らんでるのか!?」

「あ?い、いや。なんとか大丈夫そうだ」

男子生徒が一番爆弾(仮)に近い俺に確認するよう言う。スーパーボールは縦に大きくなるのを諦めどんどん横に大きくなっていっていた。まあ…大丈夫だろ。

「くっそ、武偵殺しめ!俺たちの動きまで封じてくんのかよ!!」

「…もう一つ、俺たちの動きを封じるものが、来たみたいだよ」

男子生徒が文句を言っているなか、不知火が窓の外をみながらそういう。そこには

「ちっ、機械兵器か!!」


俺も反対側だったが見てみると、黄色いスポーツカーにセグウェイもどきの時と同じ銃が取り付けられている。うーむ。理子やっぱあれ使うのか。アレ見るの結構トラウマなんだが…。

「中は爆弾、外は機械兵器か…。用意周到だな」

「だが、操作してるのは機械兵器のみでこっちの爆弾は俺たちが動かなきゃ大丈夫ってことは」

「先にやるべきは機械兵器、ってことか」

男子生徒たちがそれぞれでやるべきことを固めていく。すげえ俺と違ってすぐにやることを選んでいく。…そこが俺との違い、なのかな。




「ーーーッ!!伏せろ!!」

突然不知火が叫び顔を伏せた瞬間

機械兵器から銃弾がすべての窓に向かって撃ちこまれた。

窓が音を立てながら割れ、そのほとんどが座っている俺たちに降りかかる。お、おい理子さん…??俺もいるんだけど??

おそらくどこかからか操作しているであろう理子に心の中でツッコむ。もしかして俺のこと完全無視なわけかい?
…あー、ありえるぅ。あの理子だもんなぁ。あとまたガラス無駄にしやがったな理子のやつ。後で一言文句言ってやる。

「痛つ…防弾制服って言っても当たると痛いんだぞ…!!」

武藤が腕を押さえながら痛みに耐えていた。
一分ほどだっただろうかやけに長く感じた銃声がようやく終わった。何人かは当たってしまったようだが防弾制服のおかげでなんとかなったようだ。というか俺も当たったんだが…

俺たちはそれぞれでガラスを払ったりしながら

「俺たちの動きを完全に封じてきたな」

「ちっ」

外のスーパーカーは相変わらずバスと並走している。まだ撃てるということらしい。

「不知火、手を貸してくれ。あの外車を黙らせる」

「おい!無茶するな!!」

俺の隣でかっこよく座っている(ただ座っていると従ってるみたいで嫌なようだ)男子生徒三人が銃を持ち、不知火に援護を頼んでいる。あり?もしかしてあの機械兵器ぶっ倒そうとしてる?それされるとマズイ。

「俺たちは武偵だぞ!このまま引き下がれるか!」

一人の言葉に残り二人が頷く。さて、どうしたもんかね。

「犯人は僕たちの動きを監視している」

「わかっている。だがもうじきトンネルだ。そこに入る一瞬は監視カメラにも露出補正のタイムラグができるはずだ」

彼らが言っている露出補正とは、写り具合の明るさを自動で調節してくれるようになカメラについており、周りの明るさを測って、適正な露出になるように露出値を自動的に調整してくれることだとさ、調べた。だがそれには少なくても一秒はかかるらしい。その間、カメラを見ている理子からすると度の合っていない眼鏡をかけたようにぼやっとしたものになるだろう。つまりそこを狙うということだ。だが理子もその点に気づいていてもおかしくはない。もしかしたらもうあっちでその対策をしているかもしれないが、ここでこいつらが好きに動くとあとで仕事してないって怒られそうだな。

やるか

「不確定要素が多すぎる。危険だ!」

「そうだな。やめたほうがいい。もし相手に熱感知でもあったら逆に弾を撃ち込まれるぞ」

「あ?不知火はともかくEランクのお前がでしゃばってくんな!!」

「それはすんませんね」

「いや、岡崎くんの言う通りだ。やめておいた方がー」

「もういい!!俺たちだけでやる。そっちのお前ら!席変われ!!」

正論を言ったはずが怒られてしまった。まあ、Eランクってのはそういうもんだ。不知火が同意してくれたのは素直にうれしかったけど、っといまはそんなこと言ってる暇ないよな。スポーツカー側の武偵と席を交代して準備をしだした三人を止めないと。

…しょうがない

「(おい不知火。あの三人を止めるぞ。やっぱり危険だ)」

俺は不知火に小声で声をかける。三人を守るために止めるとすれば俺のやることは正当化される。俺に話しかけられて驚いた表情を見せた不知火だがすぐに俺の方に頷いてくれた。

「(そうだね。でもどうしようか?あの三人をどうやって止めたら)」

「(ま、ここは手伝ってくれればいいから)」

「(え?…うん、わかった)」


不知火は俺の作戦もどきを聞き、すぐに頷いてくれて、三人の隣に座った。こいつ、いいやつだな。Eランクの言うことを素直に聞いてくれるなんて…ってそんなこと言ってる場合じゃなかった!そして俺も三人の隣に座り、俺と不知火で三人を挟んだ状態になる。

「やっぱり僕も手伝うよ」

「そうか、助かる!」

「…岡崎くんは合図をお願いね!」

「おう、りょーかい」

こうしてトンネルの入り口まで迫る。三人の目は武偵そのものだった。正直かっこいいとも思う。

「3」

一人の掛け声が聞こえる。俺と不知火もお互いを見て、構える。少しのミスも許されない。俺の中で緊張が走る。


「2」

視界が暗くなり、トンネルに入った…!もうすぐ…

「1!!」

三人が立ち上がり外に銃を構えた瞬間ーー

「いまだ!引け!!不知火!!!」

「ーー!!」

三人が引き金を引くより速く、俺と不知火は三人の前に通しておいた紐を前に引っ張った。
それによりグンと腹を引っ張られた三人は体制を崩し、バスの中を転がる。

紐は『のびーる』の紐を伸ばしておいた。それを三人に気づかれないように不知火に渡しておいたのだ。

三人の弾は、撃たれなかったが
外からの銃弾が先ほどまで三人の男子武偵の頭のあった部分を通過し、バスの天井に突き刺さった。
理子はやはりそれも読んでいたようで、一発だけではあったが撃ったようだ。
あ、あぶねぇ…引っ張ってなかったら今頃この三人のうち一人の顔面に穴開いてかもしんねぇぞ!?

「って、てめぇ!!岡崎!!Eランクの癖になにしやがんだ!!」

と、弾が撃ち込まれたことに気づかない男三人は俺がただ邪魔をしたと思い、俺の胸倉をつかんで顔面を殴ってきた。…って

「やめろ!見るんだあの穴を!岡崎くんが助けてくれなかったら君たちの誰かの頭にあれが当たっていたんだぞ!!」

だがそこに不知火が助け舟を出してくれる。…助けるなら殴られる前にしてほしいものだが…

「…ち!」

俺の胸倉をつかんでいた男はそれを見た後俺を突き飛ばし、席に戻って行った。いってて…

「大丈夫かい?岡崎くん??」

「ああ、まあ。さんきゅな不知火」

「いやいいんだ。助けてくれてありがとう」

こいつ、自分が助かったんじゃないのに俺にお礼言うなんてどんだけいいキャラしてんだよ。

俺は大丈夫だと言ってまたスーパーボールの上の席に座る。さて、次はだれを止めればーー


と、そのとき


外から一発の銃声が聞こえた。


そしてそれは機械兵器のスーパーカーのタイヤをパンクさせ、後方で爆発させてしまった。

(し、しまった!誰かが撃ったのか??)

理子に怒られると焦ってみてみると、車内のだれも撃った様子はない。…ん?ってことは

俺は立っている男子に席を交代してもらい。後ろを見る




「……来るのが遅いぜHERO(ヒーロー)




見えたのはワゴン車の運転席から体を出し、銃を構えるピンクツインテにナルシストの天才だった。

はあ、ようやく俺の仕事も終わりだな。あの二人にはなにさせてもいいって話だったし。

俺が昨日言われたのは『アリアとキンジ以外に勝手な行動をさせないこと』それだけだ。つまり、もうお役御免ってことだな。

俺は安心して元の場所に戻る。さてと、あとは人質としてただ待ってればいい。



と、思ってたんだが


後ろの入り口が開いて、アリアが入ってくる。どうやら先ほど武藤に状況の説明を受けたらしい。流石Sランク来ただけで助かったような錯覚を受けるね。もう安心していい


あり?


俺は飛び乗って来たアリアを見つつ考えた。
このままキンジがあのワゴン車運転する、わけないよね。
来た以上頑張ろうとするはずだ。ってことは?
キンジもバスに来る=ワゴン車に誰もいない=運転できない=…………あ。

ワゴン車の方を見るとキンジがワゴン車のアクセルを固定しているところだった。ちょ、やっぱか!!

キンジのしていることを察知し、俺は慌てて席を立ち走る。

キンジは固定が完了したのかこちらに視線を向け、そして飛び乗って来た。

そして俺は


「くるまあああああああ!!!」


「な!?岡崎!?」「修一!?」

キンジが乗ると同時にワゴン車に飛び乗った。そして固定を必死にはがす。

「なにしてるのよ修一!!なんでそっちに、この先カーブなのよ!?」

「馬鹿かアリア!!この車ぶつけたらそれだけ何百万飛ぶと思ってんだ!!それに車一台いくらすると思ってんの!!そんなに簡単に捨てるなんてお母さん許しませんよ!!」

「あんたママじゃないでしょ!」

「おい岡崎、死んじまうぞ!!」


俺はキンジの言葉を無視し、がむしゃらに固定器具をぶっ壊していく。もう急カーブまで50mを切った。壁が近く感じる。もうすぐ、ぶつかる!!



そして



「………ッ!!!」

無理やりハンドルだけ解除して思いっきり右に回す。


ギャリッギャリ!!ギャリギャリッギャリッギャリ!!


ワゴン車は左を壁にこすりながら火花を散らす。俺は折れた右腕も全力で力を入れハンドルを何度も回す。

タイヤのすり減る音がひどく大きく聞こえた・・そして


そして、ようやくカーブに成功した。落ち着いた車が少し左にずれながらも持ち直す。どうやら爆発は免れたらしい。

そこから先は一直線だ。俺は一安心して息を吐く。

「…ふう。なんとかなっーー」

「修一!!大丈夫なのー!?!?」

「ああー!なんとかなー!!」

少しバスと離れてしまったため、アリアに大声で答える。

「爆弾はあたしとキンジに任せて、あんたは避難しなさい!」

「はいよー」

さて、ワゴン車を片手で運転って難しいな。と思いつつ、俺はアリアに心の中で一言謝る。すまん、まだやることがあるんだ。

俺は携帯を離すとワゴン車のアクセルをグンと踏み、バスの入り口の横で並走させる。む、難しいな運転って。しかも左足でなんて…。

「キンジ―!聞こえるかー?」

「どうした岡崎!」

「天井に黒い何か装置がついてる!おそらくセンサーかなにかだ!ほかのみんなは座ってないとマズイ!キンジ、お前頼めないか??」

「天井…?この上か。わかった!」

キンジは俺の言うことを聞いてくれてバスをよじ登って行った。理子の最後の指令はキンジを狙撃しやすいポイントに連れていくこと。天井なら簡単だろ。

「さってと、もうこれで終わり。結果を見届けますかね」

そういって速度を落とし始めた俺の横を、新しいスポーツセグウェイが通って行った。



その後のことは簡単に言おう

あの後まんまとバスの上に行ってしまったキンジはその後に来た機械兵器の的にされ、撃たれてしまうその瞬間、アリアがかばったことにより怪我はなかった。

アリアの方は額に傷跡が残ってしまうほどの怪我をしてしまったようだ。正直本当に殺したのかとビビったが、どうやら大怪我がはしたが命に別状はないらしい。

さて、その爆弾がどうなったかというと

狙撃された。いや、意味わからん事を言っているのはわかる。実際後ろから見ていた俺もよくわかっていない。トンネルを抜けた先の橋の上にいるバスに、ヘリコプターでやって来た援軍がバスの下についていた爆弾を狙撃したらしい。…どんな神業だよ。

と、ここまでが今回のバスジャックのすべてだ。もちろん理子につながるような証拠も見つかっていない。まあ、俺もスーパーボールの先に小さな針をつけておいたから証拠もなくなったし。今回は理子の勝ちってことだろうな。


なんの勝負だったんだろう??



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後、バスも無事止められ、アリアを運ぶための救急車が到着したころ、雨が降り始め、辺りが薄暗くなる中俺は周りの群衆の中に紛れ込みつつ、その様子をうかがっていた。しまったな、傘持ってくるの忘れたぞ。

っと…ん?理子から電話?


『よー修一、お疲れー』

「おう。とりあえず作戦成功ってやつか?」

『アリアは生き残っちゃっただろうけどね。ま、キンジがHSSじゃなかったし生き残ってくれたほうがいいけどさ』

「あ?キンジが、なんだって?」

なんつったH…なに?

『くふ。なんでもないよ~。というかアリアを殺す予定だったことに怒らないんだね~。てっきり嘘ついたこと怒鳴るかなって思ってたんだけど?』

「ああ、それな。なんつーか、お前とアリアになんか因縁があるってことはわかってたし、理子もどうでもいい理由で殺そうなんて思わないだろ。だから俺が怒鳴るにも、ちゃんとした理由知ってからじゃないとおかしい」

『冷静だな』

「ま、犯罪に手を染めちまった以上これくらいはしょうがないさ。あとは…」

『あとは?』

「俺の尊敬するアニメキャラのセリフを使わせてもらうならあれだ『女の嘘を、許すのが男だ』ってやつ」

『くふ♪アニメって、修一そっち系なの?』

「んーどうだろうな。見るもんは見るが萌えとかはよくわからん」

『へー、じゃあ今度理子が教えてあげる。結構理子詳しいよ』

「あ、そーなの?んじゃよろしく」

なんか話がずれた気がするが…まあいい。

「んじゃ俺はもう帰るからな。仕事も終わったし」

『あ、それなんだけどさしゅーちゃん』

切ろうと思ったのに、なぜか引き留めた理子。…え?

『実は~理子が金さえ払えばなんでもするしゅーちゃんのこと話したらさ、知り合いがぜひ貸してくれって言ってきたんだよね~』

「は?」

ちょ、ちょっと待て。終わったんじゃないのか?てか金さえって…

「俺お前の言った通り動いたろ?もう十分じゃないのかよ?」

『んーそうなんだけどさー♪どこも人が多い方がいいみたいなんだよねー。きちんとお金は払うらしいからさ』

「…ったく。俺はなんでも屋じゃないし。お前ら悪の組織が欲しがるような才能も技術もないってのに」

『まあまあ。あ、じゃあその追加報酬に追加して、アニメ教えるとき理子が全額払ってあげるから』

「引き受けましょう」

即答だった。その日の食費が浮くんならどんなことでもやってやるさ。

『…チョロ』

「聞こえてるが否定はしない。で?その依頼主ってのはどこにーー」


「ここよ」


俺はタンカに乗せられるアリアを見ながら固まってしまう。後ろからいきなり女の手が俺の首を絞めたからだ。

「おわッ!?」

俺は思わずその人物から距離を取る。そしてその後ろの女を見た。

そこにはセーラー服を着た日本人形の様に切り揃えられた黒髪を持つ、クールな雰囲気の美少女がそこに立っていた。また、女子かよ。

「はじめまして岡崎修一。夾竹桃(きょうちくとう)よ。あなたをレンタルしたの」

レンタルって、俺DVDかなんかかよ。
首をコクンと傾けながら、俺の方に和風の傘をさしてくれる夾竹桃。いや、いやいや

「お前も理子と同じ悪の組織の一員なわけ」

「悪の組織?…そうなるのかしらね」

『おお、ラッキーだったねしゅうちゃん!夾竹桃の命令をきちんと聞くんだよー』

「…あいよ」



なんか急すぎて対応できないんだが、まあそれは今に始まったことじゃないし…いいけどさ

「んで?夾竹桃っつったっけ?俺はなにをー」

「ああ、それは歩きながらでいいかしら。ちょっと早く止めに行かないといけないのよね」

「おう。わかった」

「…やけに飲み込みが早いのね」

「あの金髪ギャルのせいでな。あいつは予定にないことをすぐに要求しやがるから慣れた」

「そう。私もそっちの方が楽だからいいけど。あの子と接触するわ。行くわよ」

「あーい」

こうして俺と夾竹桃はオレンジ色の髪をしたアリアにいまにも走り出そうとしている女子武偵に近づいていった。

ああ…どーなんの、俺。


【第3章 「VS HERO」 終】


 

 

10 魔宮の蠍の手伝い

 
前書き
「9話のあらすじ」
本偏のバスジャックに敵視点から巻き込まれる修一。トラブルも多々ありながらなんとか終わらせたと思っていたが、そんなことあのわがまま金髪ギャルが許すわけもなく、ワガママ娘がさらに増える
*ここからAAのキャラが多くなりますごめんなさい。 

 
間宮あかり

東京武偵高校1年A組所属で身長は139cm。
強襲科Eのランク。俺と同じ一般中学出身で、中3の3学期に武偵高の付属中に転校してきた。
上級生の中でも随一の実力を持つアリアに心酔とも言えるレベルで憧れており、彼女のパートナーになることを夢見ているらしい。
武偵としての力量は同学年でも最下位に近いが、アリアの傍にいるという信念は意地でも通すほど頑固。
今のところアリアの仮戦妹となっている。
一度決めたことは必ず貫き通す意志の強さと粘り強さ、それに加え小柄で華奢な体躯に似合わないタフさを持ち合わせており、その辺りはアリアから高く評価されているようだ。
公儀隠密の家系である間宮一族の本家「暁座」の出身で、暗殺術を学んでいた。…と

(なるほどね…)

俺は理子から送られてきた情報(もちろんタダだ。もちろんだ)を携帯で確認しながら止まない雨に濡れていた。携帯、大丈夫かな?故障したら修理費がなあ。

「おいで、間宮あかり」

「…!?」

そんなことを考えている俺の前で、夾竹桃がその間宮あかりに接触していた。
俺はそれを後ろで見ながらもチラチラと辺りを見渡す。

んー、いる…かもな。

「場所を変えるわ。岡崎。…1人よ」

「1人か…0人がよかった」

「それならあなたに頼むこともないわ。報酬もなしよ」

「よっしゃ、おひとりさまようこそ」

「…理子の言った通り、扱いやすい男ね」

「ま、俺の武士道は『とりあえず金』だからな」

「間宮あかり、行くわよ」

報酬が絡むならとドヤ顔で返すが、それを無視して行ってしまう夾竹桃。こ、この子…顔はタイプなのにノリ悪いな。


ーーーーーーーーーーー

場所変わって路地裏。雨がさらに酷さを増し、パイプから大量の水が流れている。そんな中で間宮あかりと夾竹桃は向かい合っていた。俺は夾竹桃かなり後ろで待機しつつ、辺りを警戒する。…1人、どっからくる?

「あなたがアリア先輩を!!」

「やったのは私の友人よ」

「どうして!!」

間宮が一歩夾竹桃に近づく。それでも夾竹桃は一歩も動かない。

「『イ・ウー』は以前から、アリアを狙っていたの。…友人はアリアにしか興味はない。私は、あなたにしか興味ないから、久しぶりね」

「ッ!!」

『イ・ウー』ねえ。それが理子と夾竹桃の悪の組織の名前か。…っとさてさて来たな。

「夾竹桃。お前ってユリなの?」

「いいえ違うわ。私は見てる専門」

「あっそ。んじゃな」

俺は夾竹桃に軽口をたたきつつ、『のびーる』を路地の右側のビルに射出する。そしてそのビルを上に上がり、辺りを見渡すと…いた。

「あなた、いまどこから!?」

「あーえっとね。まあ下から、かな」

俺の右方向先に一人の武偵がいた。理子と同じほどの長さの金髪と右手に扇子を持った子。可愛いというより綺麗、美人といったほうがいい容姿してるそいつは先ほどまで俺たちを覗き見ていた人物。まあつまり先ほど言っていたおひとりさまだ。

「あなた、あの女の手下ですわね!(わたくし)は強襲科一年高千穂 麗(たかちほ うらら)!そこをどきなさい!」

こちらに銃(スーパーレッドホークだっけかな。銃の名前は覚えるの苦手だ)を向けながら自己紹介してくれた。(なんで?それがこいつ流の礼儀ってやつなのか?)
手下って…まあ否定はできんが。

「ああご丁寧にどうも。ただいま右手左足を撃たれた状態の岡崎修一です。あーそれと、通すのは無理だ。俺の食費的に」

「しょ、食費?…って岡崎?ああ、あの二年でEランクと噂の」

あらら一年生にまで知れ渡ってるんだねそれ。高千穂は鼻で笑いながら

「二年の先輩といえどEランク。私はAランクですのよ?勝てるとお思いですか?」

「いやーまあ負けるだろうな。俺お前に勝る才能一個もないし」

俺はそういいつつ、今やれることを確認するために

現状を

整理し始めた。


《ここはあるビルの上。周りに遮蔽物はなく、下はアスファルトで雨に濡れている。広さは7×7mほど
 相手は高千穂麗。持ってる武器はあのスーパーレッドホークと呼ばれる大型銃のみと思われる。あれは威力が高いから一発でも食らうとアウト
 目的は夾竹桃に近づけないこと。勝たなくてもおけ
 右手左足骨折中。激しい動きは無理
 持ち物 ・とべーる君 二号 【8話参照 ターザンできる】
     ・冷却弾 四発 【液体に当たると凍らせる】
     ・防弾シュート 一つ【ただの防弾チョッキです。後ろからパラシュートがでる】
     ・絶対温か毛布 コンパクト 一つ【コンパクト型の電気毛布。あったかい】
     ・携帯
     ・ティッシュ【濡れてぐしょぐしょ】
     ・飲み水 150ml 1
     ・ワゴン車のカギ 一つ


追い付いて整理してみて一つ思う。あれ?俺、武器一つも持ってなくね?

「お友達のピンチなんです!!手加減しませんわよ!」

「くっそ…やるっきゃないか。もういやだわこんな生活!」

VS高千穂戦開始



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「ーーッ!!」
ビル下の路地裏にて

間宮が拳銃をホルスターから抜こうとするのを傘で遮った夾竹桃。そのまま先端を首もとに持っていく。

「別にここで戦いましょうって言ってるわけではないのよ。あなたを向かい入れたいの『イ・ウー』にね」

「『イ・ウー』…?」

「まあ正確な話はあなたが入ると決めてからよ。どうするか考えてね。二年前に植えた種がそろそろ花ひらく。それを見てから決めてもらっても構わないし…それか」

ドサッ

「あー疲れた。なんなんだよこいつの扇子。痛いのなんのって・・」

「いまあなたの友人を殺さない代わりにってのでもいいわよ」

「た、高千穂さん!?どうして高千穂さんを!?」

俺は抱っこしてきた高千穂を夾竹桃の近くで降ろしつつ、間宮の方を向いた。

「いやーなんつーかな。お前が危ないと思って助けにきたらしいんだよ。お前いい友達もったな。俺と違って」

「ッ!!あなたは岡崎修一!どうしてEランクのあなたが!!」

ああ、この子ですら俺がEってこと知ってるのね。もういい。俺残念な有名人ってことで納得しときましょ。…嬉しくねぇ

「いや、俺はただ下のアスファルトが濡れてたから凍らせただけなんだって。そしたら勝手に転んじまって気を失ったの」

そう、勝負というには早すぎる対決だった。冷却弾を投げて終わり。
なんか、対決したって感じじゃなかったなぁ。勝負に勝ちましたっていう達成感がない。

「で?どうするの間宮あかり。あなたの判断でこの子の運命、決まるわよ?」

夾竹桃が高千穂の顎を持ちながらそう言う。なんかかわいい。なんでかな。夾竹桃の顔がタイプだからか?

「………!!」

間宮あかりが悔しそうに下唇を噛み続けている。話を聞いてなかったからさっぱりわからんが、とりあえず夾竹桃がなにか脅しているってのだけは伝わった。
でもこれじゃ間宮選びきれないんじゃないか?こいつ見るからに友達想いのいい子っぽいし。

「…間宮あかり、この子は返してあげるからここに来なさい。今日の20:00よ。いいわね」

夾竹桃も俺と同じことを考えたのだろう。こいつ、意外といいやつなんじゃなかろうか。
そう言って場所の書かれているであろう金色の紙を間宮に投げ去っていく。俺は高千穂をあまり濡れない部分において、

「コイツ頭打った可能性あるから一応病院で見てもらえよな。あ、謝礼金とかは無理だから!」

そう言ってどっかに消えてしまった夾竹桃を追いかけた。

あーあ

また、面倒ごとに巻き込まれそうだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あなた、強いのね。彼女確かAランクだったはずよ」

「いや違うから。あれはあっちが勝手に自爆しただけだから、俺何もしてないから」

「…まあ、どっちでもいいけど。今日間宮あかりが来るわ。あなたも手伝いなさい」

「あ?俺まだ働かされんのかよ…」

「敵は7.8人程度になるだろうし、流石にそれだけの相手をするのは面倒なの」

「あのなー俺ほぼ徹夜で理子の手伝いさせられて疲れてーー」

「金は払うわ」

「やっちゃる」

「…本当にチョロのね。あなた、ほかの仕事も手伝わない?」

「ま、暇で金がなかったらな」

「そうね、よろしく」

ああ、また余計なこと言っちまったかなぁ…

それにしてもこいつら、俺がEランクのダメダメボーイってこと忘れてない、よな?

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『あ、ようやくつながりましたね修くん!なにしてたのですか?』

「うん、まあ、俺もよくわかんないな」

夾竹桃には19:00に集合と言われたので俺はいったん寮に帰って来ていた。
アリアの見舞いにも行こうかと考えたが間宮に会うかもしれないからな。これが終わってからにする予定だ。
そして今は音信不通にしてしまっていたリサと通話中だ。暇なときには話してた分懐かしさを感じる。
たしか竹刀とサドルと弾を頼んどいたが

『えっと、サドルと弾は普通の市販のものを送りました。そちらにもう届いてると思いますが』

「ああ、これか」

俺は玄関にあった段ボールを開く。きちんとサドルと弾が入っていた。

「おう、確認したぞ」

『はい。あ、それでですね。竹刀のほうなのですが。ごめんなさい修くん。鉄を切れるほどの強度を持った竹刀は見つけることができませんでした』

「まあ、そりゃそうだろうな。俺も冗談で言ったし別に…ん?」

俺はサドルと弾のほかの米やら服やらを見ながら話していると、変なものをみつけた。…これって

『ですが、「鉄をも切れる木刀」なら見つけましたのでお送りします!使ってみてくださいね!』

「…まじかい」

奥からでてきたのはずっしりと重い木刀だった。いやまじか?鉄切れるって…


しかもこれ木刀の柄の部分になにか書いてある…え?

洞爺湖(とうやこ)って…なんでだよ」

『さあ?リサが頼んだ時にはもう書いてありましたね』

「…??ま、いいか」




















 

 

11 魔宮の蠍の最後

 
前書き
「10話のあらすじ」
依頼が終わらないことに不満が募りながらも、新しいご主人夾竹桃の命令に従う。
全てはお金のために 

 
「ぐええ…お、重てぇ…」

俺はなぜか青いトランクを必死にホテルから出していた。雨が止んでくれたのはうれしいが、地面がぬかるんでいて気持ちが悪い。…な、なんでこんなことさせられてんの俺。

『それ運んだらあとから送るデータの場所を調べなさい。そこが私の部屋からの死角で最も人の少ない場所。多分拠点をおくはずよ』

夾竹桃は電話越しでゆっくりと喋ってやがる。なにしてんのかと聞くとお風呂に入っているらしい。…待遇の差が激しいな。

「…おい、なんでプールの場所だけ赤線引いてあんの?」

『そこに落ちたら終わりだからよ。私、泳げないもの』

「へえ意外な弱点…でもないか。お前運動神経悪そうだし」

『あなた、クライアントに失礼じゃない?本音を言い過ぎよ』

「そういうもんか。すまんね、まだそういうことは学習中なんだよ」

『…まあ、私としてもただ従ってもらってるだけじゃつまんないし、いいけど。どうせ間宮あかりが来るまで暇だもの』

「…それならこれ運ぶの手伝ってくれませんかね?結構重いんですけど」

『女の子に重たい物運ばせる気?レディに対して失礼だと思うけど』

「クライアントになったりレディになったり忙しいやつだな…っと」

俺は指定されたゴミ捨て場。夾竹桃のホテルから1kmほど離れた距離に置いておいた。中身は聞いてないが、まあ知らない方がいいんだろう。

「なあところでさ」

『なぁに?暇だから聞いてあげる』

「理子もいる『イ・ウー』ってのはどんな組織なんだよ」

『そうね…あまり部外者に話すことじゃないけど、まあ簡単に言うなら数多くの超人的人材を擁する戦闘集団ってとこかしら。超人たちの集まりとも言うかも』

「ふーん。犯罪組織ってわけじゃないのか?」

『結構自由だから犯罪犯しても「イ・ウー」としては問題ないわね。まあ自分が捕まらなければいい話よ』

なるほどね。それで武偵殺しも所属できるってわけか。

それから俺たちは暇になった(夾竹桃だけ。俺は拠点の捜索隊)時間を使って適当な会話を続けた。こいつ意外とノリはいいのか?話したらちゃんと返してくれるし。

…俺の寒いギャグ以外ね。

そんなことを考えながら、作業を進めた。




ーーーーーーーーーーー

Akari side


夾竹桃に言われ、私たちはあるホテルにたどり着いていた。豪華な内装のなかを私と友人の佐々木 志乃(ささき しの)ちゃんが走る。
仲間はみんな、それぞれの位置についてくれた。もう包囲網は完璧だろう。
私は警戒しつつ一階の援護を志乃ちゃんに任せエレベーターに乗る。そして夾竹桃の部屋、401号室にたどり着いた。

「夾竹桃の部屋に到着。今から中に入るよ。おそらく戦闘になるからみんな、気をつけて」

耳につけたインカムから本部であるワゴン車へと状況を報告する。…が

『ガー―ーー―ピピーー!』

反応先からはノイズ音だけが聞こえてきた。なにかのトラブルだろうか?

「…麒麟ちゃん!?どうしたの、聞こえる!?」

本部にいるはずの島 麒麟(しま きりん)と連絡がつかない。…まさか夾竹桃にもう…!?

私はバンッ!と勢いよく扉を開けて中に飛び込む。もしかしたら私をここに連れてきておいてその間に麒麟ちゃんを襲ってしまったのか!?

その不安に煽られながら、花や蝶の舞う部屋に転がり込む。そして


裸で水の滴る夾竹桃を目撃した。


「…えっち」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…間宮さま…気を…つけ…」

「すまんね。まあ殺傷能力はないってさ。睡眠ガスみたいなもんだってよ」

俺はワゴン車の空気を入れ替えつつ壁についたコードを適当に引き千切る。
夾竹桃の言った通り、マークのついた部分に拠点を置いてやがった。そこに夾竹桃からもらった睡眠ガスを投げ込んだのだ。中にいたのが一人だけだったのにはビックリしたが、まあ結果オーライだろう。
もし他にいて起きてられたら面倒だったろうし。

「相手の人数が多い場合、最初に絶つのは通信ってのは基本だよな」

俺はそういいつつ金髪の(またかよ)ちっこい女の子を椅子に寝かせる。すげーな。こんな子でも夾竹桃の絡む事件に関われるのか。…それに比べて俺は…ちょっと情けなくなってきた。

「っと。こんなことしてる場合じゃないな…えっと」

俺は先ほど撮っておいた残り部隊員7名のGPSの場所を夾竹桃に送る。これであいつも動きやすくなるだろう。俺はやることはやったのでワゴン車から出て湿った地面を踏む。

…そして

「そんでもって、俺また戦うのね」

「おいお前!麒麟に何しやがった!?」

インカムがおかしくなったことにもう気づきやがった。身長が俺と同じくらいの金髪(もういいよ)ポニーテール女子武偵が拠点確認のためにやって来た。どうやら一人だけらしいな。
先ほどの少女に強く思い入れがあるようで、俺の姿を見ただけでかなり殺気立っている。

「いや、何もしてないって。ちょっと眠ってもらってるだけだから、大丈夫」

「なにが大丈夫だ!麒麟に手だしやがって!ぜってぇ許さねぇ!!」

彼女は怒りに任せてトンファーを構える。懐かしい武器にちょっと驚きつつ

こ、怖っ!?コイツ目が完全に見開いてるんですけど!?

と余裕な表情を作った裏で怯えていた。正直敵にしたくないタイプだ。


(やばい…俺、最初に攻めるべき場所ミスった??)

俺は内心でかなりの冷や汗をかきつつ、今日ようやく送られてきた木刀を片手で構える。

そして、

「「ーーッ!!」」

お互いが急接近し、それぞれの武器が交差する。

ギンッと音を立てお互いの接触点から火花が散る。
かなり重たい一撃だった。性別的にはこちらが有利のはずなのに、全く押せない。まあ片手片足に力が入らないのも原因の一つだろうが。

それから4、5回ほどそれぞれの武器を混じり合わせ一旦距離を置く。

「いいね、頭使わない方がやりやすくていー」

俺がそう言い終える前に、すでに接近してきていた金髪ポニテに、もう一度武器を交差し合う。

が、

「あんまり、舐めんな!!」

金髪ポニーは力を入れている俺の木刀を軸にしてくるりと一回転すると、すっと上半身を下げ俺の懐に潜り込む。

(…しまっ!?)

俺が距離を取るより速く、金髪ポニーのトンファーが俺のなにも持っていない右腕に突き刺さる。

「----ッッ!?!?」

目を見開き口から空気が漏れ出る。いままでの右腕に来ていた痛みが、一気に脳の伝達を遅らせる。右腕にもう、感覚は残されてなかった。

そして

「おおおおおおおおおお!!!」

金髪ポニーのトンファーがそのまま俺の顔面を殴り飛ばす。もう息を吐く余裕すらなかった。
思いっきり殴られた体がアーチを描くようにぐにゃりと曲がる。そして、地面から足が離れ、体が浮いた。

勢いで吹っ飛ばされ後方にあった木に激突してしまう。そして力なくずるずると落ちていく俺。

薄れゆく意識のなかで俺は、これが本当の殺し合いであることをようやく理解した。
ルールなんてない、卑怯姑息なんて言葉は言っているときには死んでいる。そんな、殺し合い。

目の前がチカチカと点滅し、焦点が合わない。

そして、思いだされる過去の記憶。
自分に自意識過剰で、なんでもできると思っていた時期。
手当たり次第悪そうなやつを見ては竹刀で殴り飛ばしていた日々。
もちろん無傷で全勝できるわけはない。このように顔面を強打されたり足折られるたりは日常茶飯事だった。
今にして思えば、生傷はその時のほうが多かったのかもしれない。いまは教室の隅っこでただ言われ続ける罵倒をただ受け流していたくらいだったから。

こんなことは、一年ぶりだった。
いままでの戦いでは相手が銃を使う遠距離戦。
一発が重たすぎて当たってはいけなかった。
…が今回はただの殴り合い。喧嘩と呼んでもいいかもしれない。

だが、それが無性にうれしかった。

ーードクン


一度、鼓動が大きく聞こえた。

昨日のアリアとの一戦。
忘れもしない。Sランク武偵の武術の腕。アレを見たときもワクワクした。足や腕の痛みなんてどおってことない。

ワクワクするものを前にして、自分のことなど二の次だ。

「……鼻血、でちまったなぁ」

どこかと連絡を取っている金髪ポニー。その目はまだ、俺を見ている。

鼻をティッシュで拭きとり、ゆっくりと立ち上がる。・・相手は強敵。全快でも勝つのは難しだろう。

しかし

俺は、

岡崎修一という一人の男は




ニヤニヤと、楽しそうに、笑っていた





ゾクッと、何かを感じたのか金髪ポニーが一歩後ろへ下がる。

俺は落としてしまった木刀を拾いながら、夾竹桃にさりげない感謝をしていた。

(お前のおかげで、楽しめそう、だぞ♪)

そして、低くトンファーを構え直す金髪ポニーに

「あっはは!!いいね、さいっこうだわ!おら、おらおらおじょーさん!今から突っ込むからちゃんと受け止めろよ!!死んでもしーらなーいよっと!」

血走った俺の目はただ、最愛の敵を見据えて、笑った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



Kyouthikutou side

「どう?見られちゃってるわよ?」

「----くッ、ああ!!」

間宮あかりと対話するも交渉は決裂。
私は外に張ったワイヤーを伝ってほかの仲間を一人ひとり毒に犯していくことにした。
この子もその仲間の一人、風魔 陽菜(ふうま ひな)
彼女は高名な相模の忍者の末裔らしいが、実際は大したことなかった。持っていた毒一つで何とかなるようなやつに興味はない。私は暇つぶしついでにその末裔の者が最も嫌う素顔を見てやりつつ、右手に仕込んだ毒を彼女の体内に送り込む。これでこの子はもう動けない。

GPSの場所を確認すると、ここからはもう少し歩かないといけないようだ。

「暇ね。…岡崎のほうはどうなったかしら?」

暇つぶしがてら岡崎に電話する。あいつは話が上手いわけでもないのにずっと話せるから便利だ。
まあ、あっちもあっちで誰かと戦ってるのかもしれないし、もしかしたらもうやられてしまったかもしれない。

「ま、それならそれで、別にいいのだけど」

正直、岡崎の手伝いは予定になかったことだ。実際私の負担を軽くすることが目的だったが、実際軽くならなくても全く問題もない。いま岡崎が生きてようが死んでいようがどっちでもよかった。

『…あいよ。夾竹桃、か…?』

しかし、彼は思った以上に早く電話にでた。もしかしたら誰とも戦っていないのかもしれない。息切れをしているところを見るに、逃げ出したのか?

「あら。ずいぶんと疲れた様子だけど、一年武偵が怖くて逃げだしたのかしら」

『一年だっつっても実力が違う訳じゃねーし…というか俺のほうが弱いっての』

「あら?そうなの?」

『万年Eランク舐めんなって…。そっちはどうなってる?間宮は?』

「ちょっと交渉に失敗したわ。だからあの子と一対一になって、鷹捲りだけでももらって行くことにしたの」

『鷹捲り?なんだそりゃ』

そうか、確か岡崎には何も伝えてなかっわね。それで手伝ってくれるところは良いところね。

「間宮一族に伝わる伝統の毒よ。私ってこの世に自分の知らない毒が存在することが許せないから」

『ふーん。んじゃとりあえず今近くを通った間宮と黒髪の女は無視していいよな』

「ああ、そっちに行ったのね」

『まあ、通信施設がやられたら確認にはくるだろ。戦いの場所はどーすんだ?ここでいいのか?』

「そうね。どうせなら景色がきれいな場所がいいわ。…そうね、橋とかどうかしら」

『おいおい、こっから一番近い橋つーと、こっからもう一km先だぞ。…ほかの場所にしね?俺結構もうギリなんだけど』

「なんであなたのことまで考えないとダメなのよ。さ、あのトランクを橋まで持ってきて頂戴ね」

『…へーへー。従いますよ』

不満そうにしながらも従ってくれる岡崎。命令する側ながらちょっと同情するわね。ただのEランク武偵がこんなことに巻き込まれるなんて

「ついでにあと二人くらい人数を減らしといてくれるかしら。私が一人無力化したけど、まだあと7人もいるし、まだ人数が多いわ」

『いやあと5人だ』

どうやら2人無力化したようだ。計算違いだが、嬉しい誤算だ。

「あら、あなたなんだかんだ言いながらやることはやってるじゃない」

『たまたまだっての。相手が接近戦で来てなかったら負けてた』

「ならそうね、あの間宮あかりの近くにいる佐々木志乃って子は私がやるわ。」

『んじゃ俺は残り三人を近づけないようにしたらいいんだな。・・無理だったらよろしく』

「無理だったら報酬はなしよ」

『…全力でがんばります』

「よろしい」

通話を終えた後、私はゆっくりと橋に向かって歩き出していた。

…あ

「そういえば橋にどうやって間宮あかりを呼び出そうかしら…通信は壊しちゃったから私のいる場所も知らないんじゃ…」

「ようやく見つけましたわよ夾竹桃!あかりたちにはもう伝えましたわ!あなたも終わりですわよ!」

「…グッド」

頭に包帯を巻いた高千穂のおかげで何とかなりそうね。あと二人、頼んだわよ、岡崎。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Akari side


「ひどい…ライカが…」

志乃ちゃんと拠点に戻ってみると、その近くでライカが倒れていた。先に来ていた、愛沢 湯湯(あいざわ ゆゆ)ちゃんと、愛沢 夜夜(あいざわ やや)ちゃんがその看病をしようとしている。ライカのほうは顔に外傷はないが、気を失ってしまっていた。あの強襲科Bランクのライカが…

「体中に打撲痕…夾竹桃じゃない…誰がこんなことを…!!」

志乃ちゃんがライカの状態を確認して奥歯を噛む。打撲痕…ってことはまさか!?


「まあ、その、なんだ。その子には悪い事したな」


「…岡崎、修一!!」

「いやそんな敵の強キャラが来たみたいに叫ばんでも…俺Eランクだってのに。ほら、この子も看病してやってくれ」

突然現れた岡崎修一が、肩に乗せた風魔 陽菜(ふうま ひな)ちゃんを私たちの近くで降ろす(なぜか岡崎のだと思われる上着を着ているが)。私たちは距離を取って銃を構える。

「な、なんなんですかあなたは!!あなたも夾竹桃が言っていた『イ・ウー』の仲間なんですか!?」

「聞いたとこだと『イ・ウー』ってのは超人的人材を擁する戦闘集団らしいぞ。俺なんて無理むーー」

岡崎修一が話してる中、志乃ちゃんが思いっきり彼の顔を殴り飛ばした。ただ殴られてしまった岡崎は頭から地面に倒れ込む。私はただ驚いて口を手で塞ぐことしかできなかった。

「ライカちゃんの代わりに私があなたを殴っておきます。構いませんね」

「…ああ」

だがこれで少しは気が晴れたのも事実だ。やっぱり私も心の中では岡崎を許す気はない。殴られて当然とも思ってしまった。

「行きましょうあかりさん。先ほど高千穂さんから連絡のあった橋へ。湯湯(ゆゆ)さん、夜夜(やや)さん。この男の見張りをお願いします」

「え!?でもそうなると」

「夾竹桃とはお二人で…!?」


高千穂産の傍にいることの多い双子の武偵、愛沢 湯湯(あいざわ ゆゆ)ちゃんと、愛沢 夜夜(あいざわ やや)ちゃんが志乃ちゃんの提案に驚いている。…たしかに夾竹桃には全員で挑んだ方がいいけど

「確かにキツイ…とは思うけど、この人も放っておけないよ」

「そうです。仮にもライカを倒した男ですし、油断できません。あなたたち二人なら任せられます」

「動くこともうないんだけど…」

「あなたは黙っていてください!」

挟んでなにかを言っている岡崎の言葉を強く断ち切る志乃ちゃん。ちょっと怖い…。

「…わかりました!」

「お二人も頑張ってください!」

湯湯ちゃんと夜夜ちゃんがそれぞれ頷いてくれる。よし!あとは夾竹桃だ!

「行きましょう、あかりさん!」

「うん!よろしくね」


そして私たちは夾竹桃の待つ場所へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーー

「なあおふたりさん」

俺は殴られた部分を押さえながら残った二人に声をかける。

「なんですか?」

「あ、あなたになに言われても動じませんよ!?」

あれ、俺もしかして無茶苦茶怖がられてないか…?初めての経験だぜ。だけどまあ、夾竹桃の言う通り二人は抑えきれた。

…でもあと一人、誰か残ってる。そいつもここにいればよかったんだが…そいつを探さないと…報酬が…!!


やって、みるか。

「あのさー、そもそもなんで俺がライカ、だっけ?その子を倒したって思ってるわけ?俺何もしてないんだけど」

「は!?なにいきなり言ってんですか!?そんなわけ」

「いやお前ら俺の評判聞いたことないの?すごいぞ悪い意味で」

「…た、確かに…岡崎の射撃訓練は一度見た事ありますけど」

「0点を取った人を見たのは初めてだったのでよく覚えてます…」

「そんな人が」

「あの火野(ひの) ライカを倒せたとは考えられないです 」

うるさいよ。…本当のことだけどさ。

で、でもまあ、いい感じになったな。プライド的にはズタボロだが。

「だろ?そもそも俺は夾竹桃に脅されて手伝ってただけで、実際やったことは催眠ガスを投げて通信機を壊しただけなんだよ。そう考えたら、どうして夾竹桃はライカって子をわざわざ打撃で倒したと思う?」

「…岡崎修一が倒したと認識して、岡崎修一を強者にするため?」

「でも、どうして?」

「こうやって、お前ら二人を俺の監視役にして人員を減らすためだな」

「「なっ!?」」

よし。上手くいきそうだな。

「あーあーすごかったぞライカを殴る夾竹桃。あの2人まじでやばいかもな。あいつサディストだからさ、2人ともやられたとしてもその後からボッコボッコ殴り始めるかもなぁ。その子もそんな感じだったし、気絶した上からボッコボッコボッコボッコ」

「「!!??」」


…これ夾竹桃に聞かれたら俺がボッコボッコなんじゃなかろうか。…どうか耳に入りませんように。

「早く助けに行った方がいいんじゃないか?」

「あ、あわわわわ…!」

「ま、まって!そもそもどうしてそういうこと教えるんだ!?言わないほうがいいはず!」

お、頭いいじゃん。…どっちかわからないから名前はわからないが。

「まあそれもそうなんだけどな。実際俺も夾竹桃の最後を見に行きたいってのが願望で。それにはお前らに信用してもらわないといけないだろ?ってことで情報提供」

まあ実際は最後の一人をこっちに来させるためだが

「…い、一理ある…」

「で、でもそうなるとあなたが夾竹桃に手伝えるじゃないですか!」

「あのなーお前ら、さっきも言ったけどEランクだぞ。戦闘に紛れるとか無理だ無理」

「…ど、どうする?」

「…い、いいんじゃないか?岡崎の言ってること理屈通ってるし」



……よし。だいぶ俺の発言力が強くなってきたな。


「じゃあ行こうぜ。…あ、全員で挑んだほうがいいんじゃないか?まだいるんだろ?人」

「あ、麗様!!」「は、早く連絡を!」

(うらら)…?ああ、もしかしてあの最初に路地裏で会った高千穂 麗のことか。…よかった、大けがにはならなかったみたいで。」



「「………。」」




「ん?どうした?」

二人がなぜか俺の方をみて口を開けているが、よくわからん。・・まあいい、連絡をとってくれるなら高千穂も俺の方に置いとけば、夾竹桃の言うことは守れるし。

「さて、行こうぜ。なんなら手錠でもしていくか?」

「いや、そんなことしない」

「麗様のことを慕ってる人に、そんなことはしません」

「…そう、なん?」

どうしたいきなり…なんつーかさっきまでの殺気みたいなやつがないんだが…。というか別に慕ってないぞ?どっちかつーと多分あっちに恨まれてる。

「んじゃ行こうぜ。結果だけを確認しに」

「「はい!!」」

「…ほんとどうしたのお前ら…」

なぜか俺が先頭に立って進む形になった。…こいつらの中でなにがあったんだ??


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Kyouthikutou side




「志乃ちゃあああああん!?」


あら、やっぱり橋の下に隠れてたのね。

私の前で、倒れた佐々木 志乃(ささき しの)を抱きかかえる間宮あかり。

コレ、意外と高性能ね。武偵高の制服って防弾だったはずなんだけど。

両手で持つガトリングガンを持ち直す。岡崎に持ってきてもらった箱の中身はこれだ。友人から譲りうけたものだが、あってよかったわね。

「あら残念。本当は毒に苦しむ姿を見たかったのだけど…」

…それにしてもあの男意外とやるわね。橋を通行止めにしろなんて言った覚えないのに、より戦いやすくさせるなんて。

間宮あかりが佐々木志乃をゆっくり地面に寝かす。…そして、よくわからない構えを取る。

「なにそれ?」

鷹捲り(たかまくり)

「……!!」

キタ、キタキタキタキタキタキタ!!鷹捲り!!千本の矢をすり抜け一筆で死を撃ち込み死体に傷が残らないという技…!!一体どんなの!??

私は期待に胸を躍らせながら二ヤッと笑ってしまう。

「どうしたの?早く鷹捲りを見せてちょうだい?…来ないなら、私が千本の矢を、放ってあげるわ!!!」

ガトリングから無数の弾が間宮あかりに飛んで行く

さあ、鷹捲りを見せて!!

彼女はその無数の弾の中を、こちらに走り出し



ーーそして




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「思ったより遠かったな。1kmってのも」

俺はなぜか手を貸してくれる二人と共に橋までやって来た。高千穂は来る途中の道で気を失っていた。あちゃあ間に合わなかったかと思ったが仕方ない。こうなったら半額でももらってやるとここまで来た次第だ。橋の周囲は通行止めにしてしまったことで警察が駆けつけているが、爆弾情報を流しておいたためうかつに近づけないようだ。…まあさっきから聞こえるガトリングの音でも近づけないってのもあると思うが。…ていうかあれガトリングだったんか。重いと思ったもんなアレ。

「こ…これは!?」

「岡崎先輩、どうなってるんですか?」

「ああ、多分夾竹桃とあの二人が戦ってるんだろうな。結果は俺にもわからん」

なぜか途中から敬語を使ってくれるお二人。…本当にわからないがまあ悪い気はしないのでそのままにしておく。

それからしばらく、決着は 



突然だった。



「きゃああああ!!」



突然響いた叫び声、そして橋の上でピカッと光るなにか、そして


「夾竹桃!?-ーーーッ!!」

「「岡崎先輩!?」」

なぜか下着姿になって橋から下の川に落ちた夾竹桃。俺は体が反射的に動いて川へ飛び込んだ。



『…おい、なんでプールの場所だけ赤線引いてあんの?』

『そこに落ちたら終わりだからよ。私、泳げないもの』




(やばい!!溺れさせたらーー!!)



報酬がなくなる。そう、別にあいつのために飛び込んだわけじゃない。



俺は思った以上に泳げたらしい。ものの数秒で夾竹桃を見つけることができた。

俺の金愛無敵か。


だが夾竹桃自身はバタ足もせず、ただどんどん海中に沈んでいく。あいつ、マジもんで泳げないのかよ!!

大きく息を吸い、勢いよく潜り、夾竹桃の腕をつかむことに成功した。

「ーーーぷはっ!!おい!意識あるか!!おい!!」

顔を海水から出して頬を叩く。夾竹桃は目をうっすらと開ける。

「…あなた。なんで…?」

「お前泳げないくせになんでこの場所選んだんだよバカか」

「…バカって…なによ…失礼、ね、ゲホッ、ゲホッ!」

「わーったって。んで?鷹捲りは入手できたのか?」

「…鷹捲り、毒じゃなかったわ。私の勘違い…はあ、一体何のためにここまでしたのかしら」

本当に残念そうな夾竹桃。確かに、目的のものが本当は全然違がったらヤだよな。

「あそう。ま、しょうがねって世の中そんなもんだ。お、間宮が来たぞ」

「…あら」

橋から落ちてきた間宮がこちらに泳いでくる。

「きょ、夾竹桃!!あなた泳げなかったの!?」

「まあね」

「いやなんでそこでドヤってんだよ」

なぜか俺の腕の中でドヤる夾竹桃。…どこにもドヤる要素ないが。

「んー!!そんなことより、夾竹桃!逮捕するよ!!」

そう言って、間宮は夾竹桃の腕に手錠を付けた。これにより夾竹桃の完全敗北である。…さんざんだな夾竹桃。

「あら、これじゃ完全に泳げないわね。連れて行ってくれるのが岡崎ってことには不満だけど、運んでくれるかしら…私の顔を一度も水につけないように」

「おまえな、助けてもらっといてそりゃねーぞ。ちょっとくらいしょうがないだろ?俺お前を片手で支えてんのよ?」

「お金は払うわ」

「仕方ねぇな」

「ええ!?できるの!?」

俺と夾竹桃の会話に間宮が驚く。おお、こいつもしかして久しぶりに見るツッコミ役か?

「さて、んなことより早く陸に戻ろうぜ…さすがに疲れた」

「あ、はい」

「よろしくね」

そう言って夾竹桃は俺の首に腕を回す(手錠がついてるから俺の頭を包むようにしてきた)。
おおう…夾竹桃いま下着だからその、いろいろと近いんだが…。と顔を赤らめていると、それに気づいた夾竹桃がくすっと笑う。

「あら、岡崎。もしかして照れてる?」

「ま、まあな。お前顔だけは俺のタイプドストライクだから、そんな奴にこんな密着されると男はうれしいもんだ」

そういうもんだ男ってのは

そう言うと夾竹桃は驚いた表情をしたあとなぜか爆笑し始めた。

「くすくす。あんたを理子が気に入るのがわかったわ。そう、あなた、私みたいな顔がタイプなのね?」

「…まあな」

やっべ。これ弱み握られたか?

「ちょ、岡崎さん!行きますよーー!!」

先に泳いでいた間宮がこちらを向いて叫んでいる。いくか。

「ああー!悪い、今行く!!」

「…ふふ」

なぜか笑っている夾竹桃を抱いてさあ泳ごうとした…その時


「じゃあ、あとで報酬替わりにイイコトしてあげましょっか?」

ふーっと夾竹桃が俺の耳に息を吹きかけながらとんでもないことをおおおおおおおお…!?!?!?

「ちょ、おま、なにいっーー!!」

「わ」

俺は思わず反射で離れようとしてしまい、そして

スッ

「「…あ」」

俺の首に夾竹桃の右手の爪がこすれた。…ただこすれたのならよかった。…だが

コイツの右手の爪には、毒が塗ってあ………る………。



「……………」



「ちょ、ちょっと待って岡崎!?今気を失われたら・・!!ま、間宮あかり!!た、助けて!!」

「え?ええええ!?!?どうして岡崎先輩沈んでるんですかあああ!?!?」


初めてみた夾竹桃の慌てる顔を見れないのを残念に思いつつ、俺は意識を失った。



         こうして、夾竹桃の手伝いも終結した。



PS,俺の毒は陸にあがってすぐ夾竹桃が解毒してくれたからなんとかなりました。


【第4章 「VS アリアAA」 終】

 
 

 
後書き
実は修一「ああ、もしかしてあの最初に路地裏で会った高千穂 麗のことか。・・よかった、大けがにはならなかったみたいで。」の部分、声にだしちゃってます

タグの「何も才能がない」とは、

①「何も才能がない」と岡崎修一自身が感じているということ

②『他人から見たEランク岡崎修一』のことを指しています。
 

 

12 事件の前日まで…

 
前書き
「11話のあらすじ」
夾竹桃の理子並みにわがままな命令に逆らわずなんとか夾竹桃の依頼を終わらせるが、1年の強襲科火野ライカとの戦闘でさらに傷が悪化してしまう。 

 
「・・あーあ」

二度目の病室の天井。まさか抜け出した病院の同じ病室に入れられるとは思わなかった。
ただ違っていたのは目を覚ました後の先生の態度くらいか。抜け出すなら手続きはして行けと言われた。・・抜け出すことはいいのかよ。

目を覚まして4日が経ったある日、理子がやって来た。また前と同じようにお菓子をたくさん食べている。

「やっほー、しゅーちゃん」

「お前、来てくれるのはいいけどさ、暇なの?」

「せっかく来たのにそれはないよー! で?けがの調子は?」

「撃たれたあとに動きまくったんだぞ。もうあれだ。二か月は動きたくないね」

「くっふっふー。そんなしゅーちゃんに朗報でーす!新しい依ーー」

「嫌だ帰れ無理無茶もうヤダ辛い」

「…しゅーちゃんってホントにめんどくさいよねー」

「お前なあ現状見ろよコレ!Eランク武偵だよ!?もういやだって働きたくない仕事がつらい」

「キモイ。というか、なんだかんだ言いながらあの火野ライカ倒したらしいじゃん。あの子、一年女子で一番強いって噂よ?」

「ありゃたまたまあいつが接近戦で来たからだって夾竹桃にも言ったんだけど?」

「逆に言うと、接近戦なら一年最強にも勝てるってことだよね?」

「・・・お前、人のあげ足取ってうれしい?」

「理子のこと武偵殺しって決めたときのしゅーちゃん、理子におんなじことしてたよ?」

はあ、こいつもしかしてあのこと根に持ってんのか?めんどくさいやつだな。

「それはそうと、シューちゃんはお金のために、理子の言うこと聞かなきゃダメなんだよー♪じゃなきゃ借金返せないよー??」

「あ?それお前バスジャックのあれで終わったんじゃ・・」

「えー?理子『手伝ってくれたらお金を払う』とは言ったけど、あれ一回とは言ってないよー??」

「ッ!?おま、ふざけんな!」

俺がどれだけ頑張ったか・・!!あれで全部じゃないだと!?

「くふ。理子ってば悪い子だから使えるものは使う主義なんだよ」

「・・・ああ、変な奴と知り合いになっちまったなぁ」

「それは理子もそう思ってる」

うるさいよ。俺は普通の男子高校生だ。

「・・・はあ。わーったよ『女の嘘を、許すのが男だ』だもんな」

「そうそう!やっぱしゅーちゃんチョロい!」

「それは俺自身も理解してるって。・・というかコレ、少しもインターバルなしでどんどんやってくわけ?さすがに死ぬよ俺?」

「大丈夫だって!現に生き残ってるじゃん!」

「・・ほんと奇跡だよなぁ」

「そんなしみじみ言われても理子困るよ」



「・・で?依頼内容は?もうあんましハードなのはごめんだぞ」

「今回は簡単だ。キンジとアリアに決着をつけに行く。修一はそのフォローをしてほしい」

「なんだ。前と一緒じゃないか。また同じことするのか?」

「修一は芸術(アート)ってのがわかってないね。一回やった事件はもうしないのが武偵殺しだ。今回は、飛行機強奪(ハイジャック)。アリアが故郷に帰る便を奪う」

「・・すげーな。そんなこともできんのか」

「ま、理子だから。ただ、そこにはもちろんほかの乗客もいるし、あの便は他のセレブもいる。もちろんそのBG(ボディーガード)もね。それをこっちに来させないようにーー」

「おいおいおいおい。いきなりレベル高い事いうなよ」

え、まじ?次の対戦相手ボディーガードなの?それはあまりにも無茶だろ。BGの中にはもちろん元武偵もいる。ってことは先輩方ってことだ。・・ええ~無理ゲー。

「別に勝てとは言ってない。理子とアリアの対決を邪魔しないようにしてほしいだけだよ」

「・・・はぁ、そういや断るってことできないのよねぇ」

「うんうん、理解の早いチョロりんはモテるぞ!」

「恋愛要素が皆無だけどな。わーったよ。いつだ実行すんの?」

「4日後。よかったよ修一が目覚ましてくれて。理子、けっこう修一のこと期待してるんだから」

「はあ、人のご機嫌取りもうまいもんだ」

「ほんとだって、だってほんとの予定ではバスジャックだけで修一使うの終わりにする予定だったし。使えるから次も使うんだから!」

なんでだろう。うれしい事言われてるはずなのに、全くうれしくない。それ要は使いやすいから楽ってことだろうが

「・・うおおおおお、俺の平穏、カムバック」

「平穏なんてつまんないって思わなきゃ♡ んじゃよろしくー!また電話するからね!」

俺ってマジでこいつと付き合い続けてたら死ぬんじゃないかな。・・借金終わったら付き合い方考えることにしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「・・で?その金髪ギャルの愚痴を言いにわざわざ私のとこまで来たの?」

「いやまじで人使い荒いのよあの子ーほんと失礼しちゃう!」

俺はガラス越しに愚痴をこぼし泣き崩れる。どうやら俺は精神が異常になるとちょっとオカマになるらしい。
あれから二日が経ったいま、俺は面会室にいた。相手は夾竹桃。愚痴をこぼせる相手はコイツしかいなかったのだ。もちろん警察の方が傍で聞いているので友達のお願いで無理な仕事をさせられるというような形でだ。

「はぁ・・もうそれはしょうがないと思いなさいよ。あの子、結構わがままだから」

「もうあいつわがままの個体なんだけど!助けてくれ夾えもん」

「だれが夾えもんよ。・・・私いま捕まってるから助けるもなにもないじゃない」

「・・・・たしかに」

「岡崎・・あなたね・・」

や、やめて、そんな絶望したみたいな目で見ないで!もう俺の精神やばいから!

「・・で、いつなの?そのお祭りは?」

「今週末。空飛びながらカーニバルだとよ」

「あの子もいろいろ考えるわね」

そう言った直後に面会時間が終わったらしい。
警察官が合図を言う。夾竹桃は立ち上がりつつ

「・・私のホテルにあるタンスの上から二番目を見て見なさい。カーニバルにあったらいいものが入ってるから」

「!!お前まじでこれから夾えもんって呼んでも・・」

「本気でやめなさい。じゃ、またね」

「またな、夾竹桃さんきゅ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜

ギシッ シュッ バシッ 

俺は柔道場にいた。Sランク武偵の武術を見るためにまた俺はアリアに頼み込んでやってもらっている。今回は木刀込でのアリアとの対決。最初は負ける気がしなかったのだが・・。

「ほらまた!!脇が甘い!!」

「・・・ごふっ!!」

だが何度挑戦してもまだ決定的なダメージを与えたことがない。やっぱSランクはレベルが違い過ぎる。

アリアに蹴られた脇を押さえながらもう一度立ち上がるとまた木刀を構え直す。

「もっかい」

「あのね、修一。どうしてそう急ぐのよ。その腕と足が治ってからのほうが絶対にいいと思うわよ?」

「おま・・ああ、せやな」

「おま?」

お前明後日帰っちゃうじゃんと言いかけて抑えた。なんで知ってると聞かれたら返す言葉がなくなるからだ。あっぶねー。

「でもほら、まあ興味あることは先にしたい性格なんだよ。治るまで待つなんて無理無理」

「まあ気持ちはわからなくはないけど・・今日はこのくらいにしましょ。私ちょっと用事あるから」

「えぇ・・。おまえ気持ちわかるっつったじゃん。やろうぜ続きー」

「毎日やってあげてるんだから文句言わない」

「ええーー。じゃああと一回!あと一回だけ頼む!」

「子供か!!」

「お前に言われたくーうごッ!?」

俺のツッコミは全部言えることなく、蹴り飛ばされてしまった。ほんとのこと言っただけなのに・・



ーーーーーーーーーーーーーー


実行日前日の夜

『いやー!でさ、結局アリアとキンジ仲たがいしたっぽいんだよね~。もー理子があんなにいいムード作ったてのにさー!!明日の仕事増えちゃったー』

「いいムードって・・自転車とバスに爆弾つけただけじゃねーか」

『くふふ・・りこりんの最新的恋愛補助だよ~』

「嫌な補助の仕方だな。俺に恋愛系のことがあってもお前には言わないわ」

『あっはっは!しゅーちゃんに恋愛とかありえなーい!!理子が捕まるくらいありえないよー!!』

「・・お前さ、ほんっと性格悪いよな」

『うわー、それ本人に言うー?』

「見てろよ!あっという間にお前が驚くような彼女つくってやるからな!!」

『おお!しゅーちゃん言い切ったね!ちなみに理子は無理だよ?金にセコい人ダメー』

「はなっから期待してねーよ金髪ギャル!じゃ、あしたな!」

『あいー!おやすみ、愛してるよ!しゅーちゃん』

「うるせーよ!男の純情もてあそぶな!!」

ああ・・疲れる。何のために電話してきたんだよこいつ・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こんな何も内容のない適当な話をしているときはまだ、思ってもみなかったんだ。


俺に・・


「あんたが武偵殺しね!!」


(ええーー!?!?違うんですけど!?!?)



俺に本気で死の危機がくるなんて、思ってもみなかったんだ。


 

 

13 双剣双銃との闘い

 
前書き
「12話のあらすじ」
わがまま金髪姫が傷を負った一般兵に新しい依頼を持ってきてしまう。
「飛行機をジャックするから手伝って♡」
「……準備、します」
 

 
《持ち物 小型銃 弾6
冷却弾 5 (水を凍らせる)
暖か毛布 コンパクト 一つ(持ち運べる毛布)
のびーる君 2号 (ターザンできる)
???(夾竹桃の机から拝借)
木刀(洞爺湖)
変声機(小さいサイコロ状のもの。理子作)
    携帯
ティッシュ(もうぐしょぐしょで使い物にならん)




「意外とろくなもん持ってないなぁ、俺って」

自分の部屋で持っているものを確認しながらため息をついた。今いるのはアリアの乗る飛行機の一室。飛行機の名前は忘れたが豪華なもんだ。一人一人に一室が用意されておりシャワーやベットまで完備されている。もうここは空飛ぶホテルと呼んでもいいんじゃないだろうか。
飛行機に乗るのも地元の長崎から武偵高校のある東京に来たときくらいなので、チケットが無くさないか心配でならない。これは机の上に置いておこう。そうしよう。

そんな場所に俺がいるのはもちろん任務というかお手伝いのためだが、まだ時間あるし、少しくらい使っても問題無いよねとシャワーを浴びる。

武器やその他の道具は理子が事前に俺の部屋に運んでくれていたようだ。俺は旅行客のように普通にチケットを見せて入ってきただけ、楽でいいね。

「ふふふーん、ふーんふーん♫」

でっかい風呂、豪華な部屋に俺はテンションMaxだった。これから手伝う任務を忘れてしまうくらいに楽しかった。もうこの夢が覚めないでほしー

『お客様ー、いらっしゃいますでしょうか?』

トントンとドアを叩く音がする。え、なんだ?誰だ?

そう思って入り口の穴を覗くと金髪のCAが立っていた。なにかしたかな俺?不審に思いつつ適当に服を着て扉を開ける。

「はい?どうしたんですか?」

「いえ、お客様の気持ち悪い鼻歌が耳に入りましたので、吐き気がするから止めろよと伝えに行こうかと」

「・・・よう理子。スゲー変装術だな。」

CAのCAらしからぬセリフに思わず2度パチパチと目を閉じたあと、俺は扉を閉めようとした。が、強い力で開けられてしまう。その顔は理子とは全く違うが、こんなこと言うやつは理子以外いないだろう。

「くふ!修一が豪華なホテルでバカやってないか確認しに来たんだ。というか風呂入ってたのかよ。よゆーだな」

「いや、だって一生ないかもしれないじゃんこんなホテルもどき。やれる時に存分にやっとかないともったいない。あと歯ブラシと髭剃りは持って帰る。これ常識だ」

「貧乏人の考えだよそれ。というかここまでセコイと本気でキモい」

「・・お前が貧乏になっても助けてやんねーぞ」

「くふ。その時は男に養ってもらうからいーもーん!」

「このビッチ」

「うるせぇよ、金なしセコ男」


「「ああッ!?ヤンのかコラ!?」」


なぜか睨み合ってしまう俺達、あれ?俺たちって相性最悪なんじゃないか?

「・・はぁ、そんなことより、ちょっと入れろよ。作戦話すから」

「仰せの通りに」

ーーーーーーーーーーーーーー

「この飛行機はあと30分後に出発する。それまでに修一にはあることをしてほしい」

「・・なに?」

「このUSBをある場所に刺してきて。この飛行機強奪ハイジャックの要だ」

「そんなん俺に任せていいのか?要っていうんならお前がやったほうがいいんじゃ?」

「ま、信用してるってことで」

「テキトーだな」

「あとは飛行機が飛び立ってから45分後にアリアとキンジを一階のバーに呼び出す。あとは分かるだろ?」

「お前とあの二人がちゃんと戦えるようにフォローすればいい、だな。・・はぁ、Eランクの任務じゃないってこれ」

「これだけは言っとく。お前はEランクで終わるような奴じゃない。武偵殺しの理子が認めるんだ。もっと自分に自信持てよ」

自分に自信・・ねぇ。そんなんあったらEランク止まりじゃないとおもうけど、まあ、お世辞ってことにしときますかね。

「わーった。今から行って来ればいいんだな」

「うん。結果は報告しなくていーよ。確認するヒマもうないし。あ、それともうアリア来てるみたいだから見つかったらまずいからね。修一がここにいる理由なんて全くないんだし」

「それな。金が余ってーなんて、嘘でも言えんわ」

「くふ。もしこの作戦が終わったらいろいろと理子のこと教えてあげるよ♡だからがんばってね!」

「いらん。そんなもんより金くれ。そっちのほうが百倍うれしい」

「・・理子もいい加減ガチギレしてもいいよねしゅーちゃん。女の子の秘密くらい知りたいと思えこのクズ野郎!!」

「うごっ!?・・り、理不尽な・・」

理子はなぜかキレて俺の折れた右腕を思いっきりひっぱたくと、ぷんすかぷんすか言いながら出て行った。いや、なにか言っているのを略しているわけじゃないぞ。本当に「ぷんすか!ぷんすか!」って言いながら出て行ったからな。・・あざといっての。

俺は痛む腕を押さえながらタンスの中にあったスーツに着替える。まあこれからBGとヤる可能性があるわけだし、武偵高の制服じゃダメだ。・・チケットは置いていこうかな。無くしたら怖い。


「うっし。いくか」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

理子に指示されてやって来たのは展覧会の場所のような空間だった。様々な壁画や有名そうな能面などが飾られている。それらが部屋の辺を沿うように飾られており、部屋の中央には長方形のガラスに入った巻物などが展示されていた。どうやらそれぞれの文化の貴重品なんかを展示しているようだが、誰か見に来たりするのだろうか。だったら早めに作業しなきゃな。

USBを持ち差し込める場所を探す。展示されている作品の下あたりに合ってもよさそうだが。と様々な場所を探すがそれっぽい場所が見当たらない。どこだ?まさか天井にあったりとかしないよな。んなとこ調べようもないぞ・・。

それからやく15分ほど、すべての場所を探したが、やはりそれっぽい部分は見つからない。まさか理子のミスとかか?それならいまから連絡・・はダメか。連絡とる暇ないって言ってたもんな。

一応もうひと周りしながら、暇つぶしに展示品を見ていくことにした。

「この能面持って帰るだけでいくらするんだろうな・・」

手に持ってはいけないと書かれていたがなんとなく手に取って重さを確認したりして見る。おお、ちゃんと紫の紐もついてるんだな。しっかりした重さがある。は、初めてさわーー


ガチャ


「ーーッ!?」

能面の触り心地を実感していたとき、後ろのドアから誰か入って来た。俺はつい反射でその扉とは対角線上、中央の置物の陰に隠れる。

「・・ここで合ってるわよね」

入って来た人物はそっと入って来て扉を閉める。・・・ってこの声まさか

(ーーあ、アリア!?)

陰からちらっと窺がうと確かにあのピンクツインテだった。な、なんでこんなピンポイントにここに来るんだ!?隠れる場所なんてないんだぞここ!!

内心かなり焦りつつ状況を確認する。俺がここにいる理由は全くなく、あいつとは知り合いだから顔を見られれば一発バレるだろう。だからと言ってここを抜けるにはアリアの後ろの扉を抜けるしかない。・・かといってそっと隠れて抜け出すなんて難しすぎる。・・・くそ、どうする!!

少しづつこちらに近づいてくる音を聞きながら、どうするかを頭をフルスロットルさせて考える。

そして、手元にあった能面に目がいった。


(・・・・・・。)





『こ、こんにちわ』

「!?!?」

アリアが俺と目が合い、驚いて目を見開きつつ、距離を取る。そして二丁拳銃を俺に向けた。
まあ、その反応が一番正しいだろうな。目の前に

能面スーツの変態がいるんだから。

いや状況的にこれしかなかったんだ。顔を見せずにするには・・ちなみに声は変声機を能面の中に入れてるので機械もどきのような変な声になっている。・・まあ変態の出来上がりだ。

アリアは俺の姿を見て驚いた様子だったが、すぐ落ち着いたように話始めた。

「あ、あんたがあたしを呼び出したってことで間違いなさそうね」

・・呼び出し?呼び出した覚えはないが、もしかしたらほかのやつと会う約束でもしてたのか?それならバットタイミングもいいとこだ。わざわざこの部屋を選ばんでも!!

『い、いや、俺じゃないが・・』

「嘘をつかないで!・・そうか、あたしが帰るまでにまた何かしてくるかもと思ってたけど、そういうことね」

アリアは俺の言葉も聞かず、何かを納得したように頷いている。・・んん?ちょっと待て、帰るまでにまた?何かするかも?・・おいそれってまさか・・あのこと言ってるんじゃない、よな??・・・ええ?もしかして

武てーー

「あんたが武偵殺しね!!」


(ええーー!?!?違うんですけど!?!?)


そして、前回の最後に巻き戻る。俺は能面の裏で無茶苦茶キョドっていた。脳内がパニックで破裂しそうだ。

確かにこの状況、今までの事件、呼び出されたなら俺もそう思うだろう。しかも目の前には能面スーツ変声男だ。もうそう思うしかないくらいの証拠がそろっているが・・・待て待てアリア。それ、Eランク最弱少年岡崎修一です。アンタの思ってるやつもこの飛行機乗ってるけど、俺じゃないんです!


と、言っても聞いてもらえないし・・しかもだ。

(この状況、もし能面取れて俺だってこいつにばれたら、俺が武偵殺しってことになるよな・・!!)

岡崎修一が武偵殺しだった。そうアリアに思われたら最後、俺の人生は終わるだろう。
Sランク武偵相手に逃げ切れるなんて思ってもいない。しかし、だからと言っていまここで脱いで理子のことを全部言っても、理子は証拠を何一つ残していないので、無理だ。そもそも能面を付ける理由がないし。・・これ、まじでやばいぞ。せめて返せるセリフというと

『・・・そうだ、私が武偵殺しだ』

それだけ。

「ようやく見つけたわよ。アンタのせいでママが捕まった!絶対に許さない!」

アリアの方はやる気全開。もう今すぐにでも俺を捕まえようとしている。・・・うええ、これ予定してたBG戦よりきついぞ。・・・うまく逃げ出せたらいいわけで


(勝とうとは思うな。逃げ出すことを第一に・・!!)

「武偵殺し、逮捕よ!!」

バッと飛びかかっていくるアリア、それに対し俺は、

木刀を構え、思いっきり飛びかかった。

「ッ!?」

確かに逃げるならばまずは距離を取るのが一番だろう。だが相手はアリアだ。超一流の銃の腕だ。それに対し俺は目標にかすりもしないEランク。逆に距離を取ると死ぬ。だからまずは距離を詰めたほうが、こっちの有利にはなるだろう。

アリアはそれに瞬時に対応して銃をしまうと背中から刀を取り出し、俺の木刀を受け止める。

ここまでは読み通り、だったが、

アリアはその混じり合った刀をすぐに離し、懐に潜り込んでくる。

(これは、火野ライカと同じーーッ!!)

記憶がフラッシュバックした瞬間、俺の体は反射的にくるりと回るとアリアの背後に回る。火野ライカとの戦闘時にやられた武器合わせからの懐潜りは経験済みだった。

回り込んで手薄になったアリアの背中を思いっきり蹴り飛ばす。

「ーーっ!流石にやるわね!」

アリアはくるりとバク転し、体制を整える。ーー瞬間アリアがすぐに近づいてくる。

それから何度も応戦を繰り返す。先を読み読まれ、何度も何度も武器を混じり合わせ、距離を離さないようにする。

(右ーー!!次に回り込んで!!左、上。右腕を下げてから、左フックーー!!)

アリアとの対戦経験値が功を期した。人間とは考えずに反射的に行動する場合、何度も行った行動をすることが多い。
確かにいつもの対戦時はアリアの動きになれた瞬間に違う動きをしてきて回避が難しくなる。
しかしこれはアリアが自分で考えて行動するからこそできることだ。つまり、いま俺だと気づいていないアリアは、

いつもしている、俺の慣れた戦いモーションをくり返す。

(・・あたしの動きが読まれてる!?こいつ、何者!?)

これは、行けるかもしれんぞ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そう思ったのも初めだけだった。俺が先読みしていることをすぐに感づき、すぐに俺の慣れない様々なモーションで攻撃してくる。これには太刀打ちできるわけがない。

「ーーうぐっ!!」

刀で木刀をはじかれてしまう。左手がビリビリと痺れ、動かない。右手は折れていてあまり動かせない。--しかしアリアはその隙を抜かすほど、甘くない。

「終わりよ!!」

「ーーーッ!?」

アリアが刀を下げ構える。このままでは腹横を裂かれてしまうーー!!

一瞬の思考の中、俺はベルトに手を伸ばし、


ギンッ!!


『・・あっぶねー・・』

『のびーる』を伸ばし、両手でピンと張って、刃をその上で受け止める。ちぎれる心配をしたが、平賀の言っていた『刀で100回斬られても切れない』というのはちゃんとした結果だったらしく、切れることなく支えてくれた。

だが安心したその一瞬でさえ、Sランク武偵は見逃さなかった。

刀を戻し、くるりと回転することで俺の目の部分にそのピンクツインテを当てることで目隠しをしつつ、横っ腹に蹴りを叩き込んできた。避けることも守ることもできなかった俺は壁際に陳列された骨董品に突っ込んでいく。激痛が体中を走り、口から酸素が漏れ出す。痛みでもう体が上手く動かせない。首を動かすのですら一秒かかった。

そんな中、俺は


『・・へへ・・』

俺は能面の裏で薄く笑ってしまう。前回の火野ライカ戦の時と同じ、あの快楽が。

また、俺の中で爆発する。



(強い敵俺より強い勝てない負ける反射神経すげえツインテールを武器横からの足蹴りやべえ痛い辛い楽しいワクワクするドッキドキ木刀懐に入る右フック力速いSランク強え勝てない?すげえやべえ興奮してきた勝ちたい勝ってみたい倒したときすっげー快感だろうどう避けるどう避けるどうやって一撃を決める周りのものつかうかいや自力で勝ちたい勝ってみたい…!)



心の中はパニック状態だった。だが最高に心地いい。俺の求めていたものは、これだった。最高に気持ちがいい。これが俺の本質。どうしても戦いたい衝動。抑えきれない自分の本質。才能とも呼べない、努力とも違う。ただの

本質

やっべ逃げるって選択肢、なくなった、ね。

『へへ・・あっははははははははは!!!!いいねアリアお前やっぱ最高!!』

「気易く呼ばないで!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Aria side

武偵殺しが突然笑いだすと木刀を両手で持ち出し直しあたしに思いっきり振り下ろされた。二刀の刀でそれを受け止める。・・が

(お、重い・・!!こいつ、さっきより力が増している!!)

先ほどは刀一本で抑えられたのに、今の力はそれの三倍ほどの力が加わっている。まるでリミッターが外されたようにとても重い。ギリギリと腕が軋む。

武偵殺しはすぐに木刀をグイッと引きそれをあたしの右足に狙って振るう。
しかしそれを読んでいたあたしは飛んでかわすとそのまま顔に蹴り込もうと前に飛んだ。・・しかし、

『・・へへ』

先ほどからあまり動かしていなかった右腕をあたしの足に当てクッションにしそのままあたしの懐に潜り込む。

(さっきあたしがしたッ!?)

先ほどあたしが行った潜り込むやり方をすべて完璧にまねされてしまう。そのまま木刀を振るわれる。・・が

まだ甘い!

武偵殺しの肩を使ってくるりと反転し、後ろに回る。これは相手が行った行動を真似させてもらった。これでイーブンよ。

そのまま顔を横に蹴り飛ばす。が

「・・へえ」

「ッ!?」

能面を落とすことはできなかったが下の部分を壊すことに成功した。しかし、武偵殺しは吹っ飛ぶことなくあたしの足をつかんできた。そして、あたしの横腹に思いっきり木刀を振るった。今度はあたしが壁にぶち当たる。

「くっ!?」

痛むからと堪えている場合ではない、瞬時に目を開け二丁拳銃を構える。

能面の下部分の欠けた武偵殺しが木刀を構え直しながらふらふらとこちらに近づいてくる。

その能面の欠けた部分、口元の見えた武偵殺しは


ニヤニヤと笑っていた。


ゾクッと長年凶悪犯罪者に立ち向かっていたあたしが身震いする。な、なにこの恐怖・・。息が荒くなり額から汗が落ちる。こいつは、やばい。あたしももしかしたら負けてしまうかーーー

「・・ふーっ」

ハッと我に返り深呼吸をした。ここでパニックになることは一番マズイ。変に焦ると返って相手にいいようになってしまう。落ち着くことがいま一番重要な事だ。そうしないと勝てる戦も勝てない。

「・・・はっは!!」

武偵殺しが二ヤッと笑ったままこちらに走り込んでくる。それを拳銃で受け流し、そのまま木刀を撃ち、武偵殺しが木刀を手放す。・・がそんなことお構いなしにあたしの銃を二つともに蹴りを放ってきた武偵殺しはその後一歩下がって構える。あたしから銃を奪ったのは正直驚いたが、武偵殺しは格闘戦がしたいらしい。

「いいわよ。あんたがその気なら、乗ってあげる。でも、後悔しないことね!」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


(・・あー強ええ。やっぱ、つええよ・・アリア、すげー)

俺は大の字で倒れていた。あれからアリアには体を無理に動かし何度も反撃しようとしたが一発も当たらなかった。・・ああ、やっぱ俺は、弱い。どうしても、こいつに勝てる気がしねーよ。少し落ち着いた頭で考える。ああ、こいつに勝つには、まだまだ経験と努力が必要だな。

その時グンと地面が動いた。どうやら飛行機が出発に取りかかったらしい。もうそんなに時間が経っていたか・・しまったな、理子との約束果たせなかった。

「はあ・・はあ・・・武偵殺し、逮捕よ!」

理子に内心で謝りつつ。まあ、あのアリアを息切れさせただけましか。と、今のところはそれで満足しておくことにする。

「・・だけど、悪い。まだ捕まるわけにはいかんのよ」

俺にはまだ、仕事が残っている。まだ捕まるわけにはいかない。

ベルトに着けていた『のびーる』をドアまで伸ばし、そのまま紐を巻き取るように自分をドア前まで運びそのまま逃走を図る。

「逃がさないわよ武偵ごろーー」



『あーあーアテンションプリーズ♪アテンションプリーズ♪アリア―?キンジがあんたの部屋の前で待ってるよー。早くしないとー本物(・・)の武偵殺しがキンジを殺っちゃうぞー??』




「は?え!?キンジって、え!?本物!??!?」

突然、旅客機内の放送でまるで電話越しに話しているように理子の言葉が聞こえた。・・なにやってんだあいつ。声も変えてないし、すぐにバレちまうぞ・・?

だが

「・・・・・」


助かった。あっけに取られているどころかパニくっているアリアがこちらを見ていない隙に、『のびーる』を使って入り組んだ通路を右に左にと入っていき、ある場所でアリアが追って来ていないかを確認し、

逃げ切りに成功した。一安心をして、現状を見直す。最初からあった打撲や骨折にまたさらに+されてしまいほぼ全身に打撲痕が残ってしまっている。・・・・今回は本気でやばいな。体全身が痛みで叫んでいるようだ。


「でも、まだ終わっていない」


理子がああ言ったということはもうすぐにでもあいつの目的である戦いが始まるのだろう。・・ならば俺の仕事もすぐに始まる。こんなところで休んでる暇なんて、ない。

そうして持ってきた木刀を杖代わりに自分の部屋へと引き返していった。





 
 

 
後書き
理子の矛盾点はどこでしょうか?この話と次の話に矛盾問題が発生しております。 

 

14 事件の終結と、さらなる危機

 
前書き
「13話のあらすじ」
飛行機に潜入し、理子のフォローに入るはずが、なぜかアリアと戦うことになってしまう。勝てるはずもなく負けを認める瞬間、理子の助けでなんとか逃げ延びることに成功した。

*アニメの部分はすこし簡単に書きました。
矛盾問題があります 

 
必死に体を動かし、ようやくといった感じで自室に戻ると、ベットに倒れ込んだ。
ああ・・全身がビリビリする・・。
飛行機が上昇していくのを感じながら、ベルトを閉めなきゃと思うが体を全く動かせない。結局ベッドの上でそのまま動くことができなかった。

『ぽーん、当機はいまから~、雷雲を迂回して飛行してまーす。まあ、皆さまが余計なことをしなければ何も心配いりませーん!』

しばらく倒れこんでいると、理子のアナウンスが流れた。確かに外から雷鳴が聞こえる。今日こんな天気悪いって言ってたかなぁ。
武偵殺しである理子が今度はきちんと変成器越しに話しているが、話し方が雑になってきているぞ理子りんよ。どうしたの。

俺はその声を聴き、そろそろかと体を無理に起こす。アリアから逃げるのが俺の目的ではない。アリアとキンジのコンビVS理子の戦いに邪魔が入らないようにするのが、俺の任務だ。借金のためにも実行しなきゃな。

俺は、携帯を取り出し時間を確認をしつつ、立ち上がり、そして軽く辺りを見渡す。そして

「あり?ない・・・」

あるものがなくなっていることに気づいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Riko side

「はあ、予定とはずれちゃってけどまあしょうがないよねぇ」

一階のバーに向かいながら手元の画像を確認する。あのセコ男が部屋を出るところが映っていた。・・無理しなくてもいいのに。本当によくわからない男を仲間にしたものだ。金に執着があるだけのEランクかと思えば、意外と使えたり、使えなかったり。本当によくわからない。しかもあいつは頭の回転がかなり速いときもある。この事件で理子があいつにしようとしたことに、あいつ自身が気づいていてもおかしくないだろう。もし、気づいてたら・・あいつとの縁も終わり、かな。

歩きながら、あいつとの思い出・・と呼べるほどではないが、記憶を思い出し、くすっと笑ってしまう。ほとんど喧嘩みたいな会話ばっかりだったけどちょっと楽しかった、かな。楽でいいんだよね。ほかの男たちと違って変に理子にかっこつけてこないし。いや、ある意味欲丸出しだだったけど。本当にウザいときも何度かあったけど。

でも、やっぱり楽しかったのかな。

「あんたはもう『こっち側』じゃなく、いつもの日常に戻りな。平和な、日本に、さ」

独り言を呟きながら螺旋階段を降りて一階のバーにたどり着いた。・・さて、ここからが本番。アリアとキンジを倒して、理子が理子であることを証明する。・・誰の力も借りず、一人で。そして終わらせるんだ、理子の代々伝わる因縁を!

大きく深呼吸をして、そして、引き金を、引いた。

『あーあー。アテンションプリーズ♪でやがります。当機はただいま飛行機強奪(ハイジャック)されました で やがります。なお乗客どもはおとなしくしておいて やがります。ただし武偵は例外で やがります。 相手してほしければ一階のバーに来るで やがります』

かかってこいオルメス。今日こそ理子が、お前を殺す!


ーーーーーーー


「そう、あのフランスの大怪盗アルセーヌ・ルパン。理子はそのひ孫・・決着をつけよう、オルメス!!」

「理子!行くわよ!!」

パンッ

アナウンスの後、アリアとキンジはすぐバーに現われた。理子がCAの格好を脱ぎ捨て、素顔を見せ、本物の武偵殺しであると証明して見せ、そして、アリア自身にも因縁があるということを分からせた上での戦いが始まる。お互いに2丁拳銃を取り出し、激戦を繰り広げる。何度も何度もアリアと銃弾を撃ちあい、ほぼ互角の中、キンジの介入で決着がついた。理子の負け・・と思った瞬間、乾いた音が耳に聞こえた。アリアが不意に理子に撃たれたのだ。

それを見ていた俺は理子の戦闘技術に魅了されていた。


そうか、あいつってアリアと互角に渡り合えるほどに強かったのか、さすが本物の武偵殺しさんだな。ニセモノとは大違い。

やっべ、理子とも一戦したくなってきた。

「あ、アリア!!」

撃たれたアリアが頭から倒れた。理子の勝利、と言いたいが、まだキンジがいる。このままキンジが戦うのかと思ったが、キンジはアリアを救うことを優先して撤退していく。
幸い、扉の反対側に隠れていた俺は気づかれなかった。セーフだ。

「あはっは!ねえねえ狭い飛行機の中どこへ行こうっての~!?あっははははははははは!!」

バーの奥から理子の笑い声が聞こえる。その笑いかた、さっきの俺みたいになってるな。きっと楽しくて楽しくて仕方ないのだろう。飛行機強奪(ハイジャック)なんて大きな事件にしてまでアリアと本気で戦いたかったんだろうし今にも勝ちそうなんだから。そんな理子を羨ましいと思うのは変だろうか。

「修一、いるんでしょ?出てきたら?」

「・・・よう、理子。楽しそうだな」

理子の呼ばれて扉の陰から姿を現す。その顔は本当にアリアと対峙した時の俺のようにニヤニヤと笑っていた。こいつ、中身は俺と似てるのかもしれない。残念な奴だな。

「お勤めごくろうさま。USBの方はアリアに邪魔されちゃったみたいだけど、まあ運が悪かったってことで大目にみとくよ」

「お、さんくす。ま、本来の目的のBGとかも今のところ誰も来そうにないけどな」

「くふ。BGがつくほどの貴族なんてほんとは乗ってないしね」

「・・・。」

・・ああなるほどね、おかしいと思ってたんだが、そういうことか。

俺の中で、ある仮説があったのだが、それが一気に解決した。まあ、こいつならありえない話ではないが、あまり信じたくはなかったのだけど



こいつは、俺が武偵殺しとしてアリア達に捕まるように仕向けていたんだろう。

いま思えば変な話だ。USB刺しに何十とある部屋の中のひとつに入ったらそこにたまたまアリアが来るなんて。本当はUSBなんてのはただのエサで、アリアと鉢合わせさせるのが目的だったと。そこで俺がアリアに倒されて捕ってる隙に襲撃してもいいし、もし俺が逃げ切ったらバーの近くで待機させ、変装した理子とアリアの決着がつき次第、自分は逃げ出して戦っていたのは岡崎修一だったということにすれば、理子が疑われることはない。仮に俺が上手くアリア達から逃げられたとしても、その後警察の調べで偽名で乗った俺が疑われ、逮捕されてしまう。

まあつまり簡単に言うと

俺を騙して、理子の影武者にしようとしたってことだ。


・・・ま、そうだよな。そんなことじゃなきゃ、俺みたいなEランクを仲間にしようなんて思わないだろうし、納得納得。

なるほどね。

「じゃ俺の仕事もここまでだな。もうこれ以上依頼は受けないぞ」

作戦がわかった以上、こいつの近くにいると危ない。またなにか俺を本物の武偵殺しにしようという作戦があるかもしれない。

「大丈夫。もうこれで最後。ここでアリアを倒して、理子が理子であることを証明するんだ」

・・?何を言っているのかさっぱりわからない。が、ここで深く聞いてもしょうがないだろう。アリアに執着する理由の一つのことだろうし、触らぬ神にたたりなし。もうこれ以上の詮索はやめとくのが自分の危険を回避する一番の手だ。

「じゃ、俺は豪華な風呂をまた満喫してくるわ。ま、がんばれよ」

俺はもう関わることはやめにする。こいつはコイツでいろいろと複雑な思いのなかで戦ってるんだ。一人で戦いたいならもう止めない。それに、仮説通りなら、こいつの望む通りのやり方に従ったふりしたほうがよさそうだ。



よさそう、なのだが、

なんだ、この喉に魚の骨が刺さったような変な違和感。


理子はそんな俺の変化に気づかず、俺の近くまでやって来て



「・・うん、ありがとね、しゅーちゃん


ばいばい」

そう言って手を振ると、俺の横を通り過ぎてアリア達を追いかけていった。
俺はそれを横に見て・・ため息をつく。
引っかかっていたものがなんだったのか、わかってしまったからだ。



そう、さきほどの俺の仮説が正しいとすれば、理子の行動にはおかしな点がいくつもある。またいろいろと矛盾しているんだ。そこがどういう意味になるのかは理解できていないが、まだ理子が裏切ったとは考えづらくなった。



それと


一瞬さみしそうな表情で手を振るこいつを、俺は見逃さなかった。・・いや見逃せなかったのか。なんで最後にそんな顔するんだよ。俺、正直お前の役に立ったとは思ってないんだが、というか別に、俺いなくてもお前一人でできたことばっかりだと思うんだけど。
それでも俺に対していろいろとしてくれたのはどうしてだろう?

俺は理子との出会いからすべてを思い返していた。一番最初に話しかけてくれて、Eランクの俺に友達として接してくれて、武偵殺しだって言った後から素の性格で接してきて、わがままでうるさくて、人使い荒くて、金を手玉にとって、でも楽しくって、面白くって、一緒にいて飽きなくて。

はあ、めんどくせぇ、これからは一人で出来るって言いたいんなら、あんな顔すんじゃねーよクソ。


俺はーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Riko side

修一と別れた後、アリアとキンジのいる部屋を見つけ侵入。HSSになっていたキンジとアリアのコンビと対決したが、二人のコンビネーションは流石といったところだろう。理子の2丁拳銃も飛ばされ、二人から銃を向けられてしまった。流石の理子でも、この状況はマズイ。一度撤退して体制を立て直そう。

あたしは背中に隠した飛行機を操縦するリモコンを操作し、隙を見て撤退。廊下をブラブラと移動しながら、次の作戦を考える。

(さてと、どうやって攻略しようかな・・?)

アリアとキンジのコンビは強敵だ。作戦もなく突っ込んでもさっきの二の舞。なら今度は・・爆弾を使って二人を離して一人ずつ対処しようか。それならなんとかならなくもない。


そう考えついたとき、通信機に連絡が入る。『イ・ウー』からの連絡通信だ。

「・・ちっ。余計なことを」

内容を読んで舌打ちする。『イ・ウー』はこれからこの飛行機にミサイルを撃ち込むらしい、発射まで残り10分後。退避することと書かれていた。発射まえにキンジとアリアを倒すのは無理だ。おそらく『イ・ウー』の上が理子じゃあの二人には勝てないと判断したのだろうが、余計なことをしてくれる。これで二人を倒しても、理子の目的は達成できないじゃないか。

やるせない気持ちがあるが、理子が今から連絡してもミサイルを止めはしないだろう。あの二人がミサイルごときでやられるとは思わない・・時間もないし、今回は諦めるしかない、か。

そう判断し、撤退準備を始めた。

バーに戻り、先に仕掛けておいた、壁に円を作るように設置された爆弾の状態を確認する。アリアとキンジを倒した後、爆弾を起動させ、外に脱出できるようにしていたのだが、問題はなさそうだ。あとはボタンひとつで連鎖的に爆発していき脱出できるだろう。

さてと、あとはキンジに一言言って帰るだけだ。キンジとアリアにはパートナーになってもらわないと困る。理子の目的のため、二人が仲違いするのはダメだ。

だが、すぐにキンジが来るはずもなく、理子は爆弾に囲まれた中に背中を合わせ、物思いにふける。これからのこと、これまでのこと、そして

(あいつ・・大丈夫、かな)

セコ男の顔が頭に浮かんできた。ハッと気づいて顔を両手で思いっきり叩き、その顔を頭から消す。あいつには酷いことをした。それはあいつ自身も気づいたんだろう、最後の会話中に目つきが変わったのをしっかりと見た。あれは理子を武偵殺しと証明したときの目と同じだ。あいつはああ見えて意外と頭のキレるやつだから気づいていてもおかしくない。だからこそ、もう普通に話すことなんてできないんだ。あっちも理子のこと大嫌いになったはずだろうし。・・こうやって思い出すことは、なんか未練があるみたいで嫌なのに。どうした理子。らしくないじゃないか。

アリアの母を武偵殺しとして警察に捕まえさせたときは、こういう感情は湧かなかった。ただ、アリアの目を確実に『イ・ウー』に向けるために仕向けただけ。それだけのために一人の人生を滅茶苦茶にすることすら厭わなかったのに。

いま、たった一人のEランクザコ武偵に嫌われることを嫌がっている自分がいた。

あいつ、結構ひどい怪我してたなぁ。やっぱアリアと戦わせるのは・・・ってまた。
いつの間にかまた考えてしまっていたことに気づきもう一度頬を叩く。どうして出て来るんだあいつは、もう、会うこともないし、あっちだって・・。

「狭い飛行機の中どこに行こうっていうんだいポリスちゃん?」

バーの入り口からキンジがHSS口調で入ってきた。アリアはいないが、恐らく飛行機の操縦席にでも向かったのだろう。ま、理子が動かしてるってわかったらそうするよね。


さてっと、しみったれたのももう終わり。敵も来たし、さっさと終わらせて帰ろっと!見たいアニメもあるしね!

「くふ、やっと来たねキンジ。それ以上は近づかないほうがいいよ」

「・・爆弾か!?」

「ご存じのとおり、私武偵殺しは爆弾使いですから」

スカートを持ち上げ頭を下げる。
・・・そういえば、あいつにアニメ教える約束してたっけ。あいつもなんだかんだ言いながらちょっと楽しみににしてたなぁ・・・ってああ、また・・

「ね、ねえキンジ、『イ・ウー』に来ない?この世の天国だよ。それに、『イ・ウー』には、あなたのお兄さんもいるし」

頭の中で何も考えないようにキンジとの会話に集中しようとした。本当にキンジをこっちに引き込む気はないが、話が逸らせるならなんでもいい。

「・・理子、あまり俺を怒らせないでくれ」

理子のほうはあのバカと喧嘩しまくってたからもう満腹でーす。・・・あっはは。ああ、もう駄目だ。いくらやめようと思ってもあいつのことが頭から離れない。・・はあ、わかった自分に素直になろう。あたしは・・

「じゃ、気が変わったら来てね。理子は歓迎するから。・・あと」

理子はいやだいやだと思いながら、金くれ金とうるさいキモいと思っていたあいつとの時間が、

けっこう好き、だったんだ。恋愛的じゃなくて、友達として。

必要と言ってくれたのはうれしかったし。それにあの奇想天外な行動にワクワクしたのも一つの要因だろう。

恋愛的には前にも言ったが、あそこまでセコイのはあたしもダメだ。一緒にいて息苦しくなりそうだし。デートとかしても面白くなさそう。・・ああでも意外とノリいいからアキバとか連れてってあげてもいいかもなぁ。それで理子の好きなアニメをたくさん・・て、そうだった。もう叶わないんだったなぁ。嫌われちゃったし。

・・けど

「修一に、ごめん、って伝えといて」

最後に、謝るくらいはさせてほしい、かな。こんなことに巻きんだこととかまあ色々と。謝るだけじゃもちろん許してくれないのはわかってるけど。

「修一って岡崎修一か・・!?いきなりどうしてーー」

「あ、そうだ!!最後に『イ・ウー』からプレゼントがあるみたいだよ!」

キンジに余計なことを考えさせないようにとっとと脱出することにした。
髪に隠したリモコンで、爆弾を起動する。耳元から爆発音が聞こえたと同時に体が傾き始める。

「お、たの、しみに~♪」

まあ、謝ることも本当はキンジ経由より自分で言った方がよかったんだろうけど、いまの理子が言っても聞いてもらえないだらうし、キンジからの方から言ってくれたほうがまだ聞いてくれそうだからね。

これでいいんだこれで。

と自分に言い聞かせながら、体が宙に浮いた





その瞬間ーー








「いや、自分で言えよバカ女」









「えっ・・ええ!?!?」
突如、キンジの横を通り抜けてきた修一が、もう落ちかけている理子に飛び込んできた。

とっさのことで思わず抱きしめてしまい、二人して上空に投げ出されてしまった。




ーーーーー




一瞬にして飛行機と距離が離れてしまった理子と修一。上空10000メートルで学生二人が顔を見合わせる。

「ちょ、修一!?なんでお前飛び込んできてんだ!?死にたいわけ!??」

「うっせーな!お前が俺のチケット取ってったんだろうが!俺降りたときどうしろっての、払う金持ってないわ!!」

「・・は、はあ!?」

確かに修一に疑いの目をかけるために、修一がUSBを差しに行った直後に部屋にあったチケットを取ったが、その後に戻しに行ったはずだ。恐らくいまもあの部屋の机の上に置いてあるはず。

というかこいつまさか、たったそれだけのために飛び込んできたのか!?あ、アホじゃない!?

遠くでミサイルが飛行機に当たった光を確認しつつ、バカを殴る。

「お前のチケットは部屋にちゃんと戻してんだよ!それで飛び込んでくるとか、なにやってんの!?」

「・・え、まじ?・・そりゃないぜー早く言えよー」

「お前ががここまで馬鹿とは思わなかったんだよ!!」

「おま、バカって言う方がバカなんだからな!!」

「子供か!!」

・・ああ、ほんと、どうしてこんな奴に声かけたんだろう・・計画が崩れていく。奇想天外過ぎてついていけない。それとどうしてこいつと話すと漫才風になってしまうのか。こんなことをどうして上空でやってる?・・まあ地上でもやりたくないけど。

でも、

こんな意味のない会話をまた出来たことに少し喜んでいる自分がいた。いまだけかもしれないが、それでも嬉しいと思ってしまった。

「なあ、落ちてってるけどどーすんだよ??パラシュート背負ってないじゃん?」

上空をかなりの速度で落ちながら、のんきに修一が呟く。
・・コイツ、アクシデント慣れしてきたな・・。普通の人間なら焦ってるとこだぞ。
ため息をつきつつ、諦めてこいつの話に乗ってやることにした。

「パラシュートはあるけど、理子のは一人用。修一も一緒につかまってたら速度落とせずに死ぬよ」

あたしのは個人的に作ったものだから試験もなにもしていないものだ。二人でなんて、やる前から無理に決まっていた。

「まじかよん。・・カメレオン」

イラッ

空気の読めないギャグを言う修一を殴り、

「はあ、わかった。・・・ほら、こっちに捕まりなよ」

修一が抱き着いてる状態じゃパラシュートを展開できない。修一を一旦体から離して手をつかむ。そして上空でくるりと一回転すると同時に服を思いっきり引っ張った。そうすることによって防弾制服が開き、大きなパラシュートに変化する。速度を減速したことによってグイッと体が引っ張られたように上に上がったような感覚が襲う。

「ちょ、おま・・おお!!」

「・・はぁ」

制服すべて、つまりスカートをも一つにしてパラシュートしているそのおかげで下着姿になるのが難点だ。修一が顔を手で隠しながらもその手と手のあいだから覗き見てる。・・・やっぱこいつも一応男子なんだな。いつもの理子にはときめかないくせに。

こいつと一緒に心中する気もないし、これひとつでなんとかしないと。

グイっと修一を抱きしめる。こうしないとバランスが取れないんだ。
修一が胸の谷間に顔を埋める形になった。

「お、おおおおお、おおおおおおおおおおお!!!!」

「もー、後でお金もらってやるからね!」

ちょっと顔が紅くなっているのはまああたしでもこれはちょっと恥ずかしい。修一と、かなり顔を紅くしているのを、感じてさらに恥ずかしくなって顔を上に上げ、気を紛らわす。

・・あ

「おい修一。やっぱ無理だ。このまま落ちたら死ぬぞ」

「おおおお、おおお?」

「聞けこのクソ童貞」

思いっきり頭を叩いて正気に戻す。こいつ、ダメだな。

「ふ、俺をバカにし過ぎだぞ理子。実はなこういうこともあろうかとあるものを用意してたんだ」

と、突然修一がドヤ顔でこっちを見てくる。・・え?


ーーーーーーーーーー


おれは女の子の柔らかさを本気で実感しながら、鼻血を出さないように意識を鼻に集中させる。や、やべえ、すげえ、エロい、すげえ!

「で?そのあるものってなんだよ?」

理子がそんな俺の努力も知らずに普通に聞いてくる。しかたない、見せてやろう。俺のパラシュート!


俺は上着を脱ぎ捨て・・ようとしたがまた買うのが面倒くさいのと勿体無いので腹に巻きつつ、防弾チョッキ姿になった。

「ふふん」

「・・は?」

ドヤ顔してみせるが理子はなにをしてるのか分からなかったようで首を傾けている。はっは。仕方ないな、見せてやろう俺の真骨頂!

「防弾シュート!パラシュート展開じゃああ!」

チョッキの胸部分にある紐をグイッと引っ張ると背中からパラシュートが勢いよく出てきて、さらに落ちる速度軽減する。最初に理子から報酬をもらった際に平賀からもらったものだ。普段はただの防弾チョッキなのだが、背中からパラシュートを出すことが可能な、正直今くらいしか使い時のない品物だが。

そういうものは、本当に必要な時に真価を発揮する。

「どうだ、俺(平賀の)真骨頂!!」

「へぇー便利だね。自分で作ったの?」

「平賀作品だ!」

ドヤ顔で理子を見るとジト目でこちらを見てくる理子。わかってないなこいつ。いま俺が使ってることがすげーんだよ。作ったやつがすごいんじゃない。

「ていうかさ、そっちにもパラシュートあるなら離れてよ。わざわざあたしに捕まらなくていーじゃん」

「あ、それもそうだな」

気持ち的にはもう少し女の子ってのを体感したかったのだが、そんなこと言われて離れない理由がない。・・いや、男子なら普通そう思うだろう?理子可愛いしさ。

「んじゃあ離れるけど、後で合流な。俺帰り道わからん」

「・・お前、本当どうしてついてきたの」

面倒くさそうな理子に頼み込んでようやくOKを貰うと、離れるのを惜しみつつ、手を離ー


ブチッ



「・・・すまん、千切れた」

「え、まじ?」

「まじ、です」

理子の体から手を離そうとしたその瞬間、防弾チョッキからパラシュートに繋がっていた紐が千切れ、パラシュートの部分だけがまるで風船のように飛んで行ってしまった。・・また不良品かよあのチビィ!!

「うわー、どーします理子。これこのまま落ちたらどーなんの?」

「・・あんたも理子も死ぬって、さっきも言ったでしょ」

「・・ええええ!?やだって!まだ金もらってないし死ねねぇよ!助けて理子えもん!」

「誰が理子えもんだ!あーもー!わかったからちゃんと捕まっててよ!!もうどこに落ちるかとか訳わかんなくなってるから、海に落ちないことだけを祈ってて!」



俺と理子はギャーギャー騒ぎながらも、理子の操作でなんとか、海には行くことなく、深い森の中へと落下していくことになった。


「「あああああああああああ!!」」

速度を無視して、だが。




 
 

 
後書き
普通上空で会話しようとしたら舌噛んで、下手すれば死にます。ですがそのまま落ちてくだけでは面白くないので、口パクもどきと手振りで会話しているということにしておいて下さい

矛盾点がありました。 

 

15 峰 理子の気持ち

 
前書き
「14話のあらすじ」
飛行機内での理子の行動には様々な矛盾が存在していた。
修一は理子の心情を察して…いや、たまたま感じることに成功し逃げ出そうとした理子と共に上空へと投げ出される。 

 
「・・・っ」

木々から差し込まれる光で目が覚めた。あの後森の中に突っ込むように落ちたあと、朝まで気を失っていたらしい。
運良く枝などに刺さることなくそのまま地面に落下したようだ。

体中が痛むが、なんとか生きている。理子のパラシュート操作のおかげか。

「そうだ理子は・・」

周りを見渡すと、パラシュートが木に絡まって、まるで操り人形のような形で宙に浮き、気を失っている理子を見つけた。俺は焦って木に登る。もしもパラシュートの紐が首に巻き付いていたりしたら大変だ。

理子の元まで登り、首に紐が巻き付いていないことを確認し安堵しつつ、理子が落ちないように気をつけながら体に絡まった紐を外していく。すべて外すと抱きかかえて木から飛び降りた。

(ーーッ!!)

だが人間二人分の体重を支えられるほど、俺の足にはもう力がなかった。着地した瞬間、二人分の体重を支えきれず後ろに倒れてしまう。理子を横に寝かせたあとすぐさま両手で左足を強く抑える。血が足を流れるたびにズキズキと痛む。歯を食いしばり目を強くつぶり、はっはっと小刻みに呼吸をすることで痛みを和らげようとするが上手くいかない。左足はまるで自分の足じゃないように言うことを聞かなくなっていた。




五分ほど格闘し、ようやく落ち着いてきた。足を延ばして楽な姿勢で座る。足の状態を確認すると足の皿の部分が青黒く染まり、少しだけ位置がずれている。重症であることを確認し、これ以上見ないためにスーツのズボンを切り取って、応急のテーピングを施す。


「・・・ん」

「おお、起きたか。おはよ」

「おはよう・・?・・・ここって」

テーピングが終わった時、理子が目を覚ました。周りの木々を見て昨日の状況を確認している。まだ寝ぼけているよでぼーっとしていた。どうやら朝は弱いらしい。

「・・ああ、そっかぁ。生きてたんだね、理子達」

「ま、なんとかな。ほら、上着」

「・・あ。・・ありがと」

理子に着ていた上着を投げる。パラシュートに制服を使った理子は今も下着姿だった。それに気づいた理子も顔を紅くしながら、その上着を羽織る。


「で、ここどこだろうな?森のなかってこと以外何もわかんめえよ」

理子が変な飛行機操作してたし、降りた場所もおそらく考えてなかったはずだ。だったらー

「飛行機で飛んだ距離と降りた場所からして長野の高妻山が妥当だろうね。それも結構高い場所にいるみたい。まだ雪が残ってるし」

確かに少し先に雪が葉の上に積もっている部分が見えた。

どうやら降りた場所もきちんと確認していたようだ。思わずすげぇと声を出してしまう。

「・・お前そんなこともわかるわけ?」

「まあね。理子結構頭いいんだよ?」

「自分で言うなよ・・。で?下山までどれくらいかかるんだ?」

「標高2000mくらいだから今日一日かければ近くの村に着くと思うよ。がんばろ、しゅーちゃん♡」

理子はこっちにウインクしながら顎もとで小さくピースした。・・あざとい。これを学校でもほかの男子にしているんだろう。なぜ?男子にもてたいから。どうして?それはたぶん男子と女子の性的なものを望んで・・

「お前ってホントにビッチなの?」

「どうしてそういう返答が返ってくるのか本気でわかんないんだけど・・理子これでも純情だからな」

「・・じゅん、じょう??」

「お前いつか本気で爆弾の炭にしてやる」

理子の顔が本気の顔をしていたので慌てて謝る。流石に今のはふざけすぎたと反省。

「よし、もう行こうぜ。日が暮れたら危ないだろ」

「うん。少なくとも電波が届くところまで行ければヘリを呼べるよっーーーいたっ」

理子が立ち上がろうとしたあとすぐに足を押さえた。そのまましばらく足首を揉んでいる。

「もしかして、足くじいてんのか?」

「そうみたい。いや、大丈夫だよこれくらい。歩けないわけじゃない」

言葉ではそう言いいながら立ち上がり方が不自然だ。

「おい、大丈夫かよ?」

「だ、だいじょーぶ。理子、こういうの慣れてるから」

未だふらつきながらも立ち上がろうとする理子はやはり無理をしているように見える。俺はため息をつき、

思いっきり理子にデコピンを食らわした。

「いった!?な、なに〜!?」

「なんで俺に見栄はってんだよ。痛いなら痛いって言えバカ」

「べ、別に見栄なんてはってなんか・・」

顔を逸らしながらそう言う理子。説得力が全くない。こいつは弱いところを人に見せたくないタイプだったんだと初めて知った。

俺は未だにごにょごにょ言っている理子の前で後ろを向いて膝を曲げた。・・っ。

「ほら、乗れって」

「え?」

俺のしたいことの意味をいまいち理解できていない理子が首を傾げる。普通足痛いやつの前でかがんだら一つしかないと思うんだが。

「・・あ。・・で、でも、修一の方が・・」

と思っていると理子も気づいてくれたらしい。ただ俺のことを気にして乗るのを躊躇しているようだ。

「うるせーな。ゴタゴタ言ってる暇あったらさっさと乗りやがれ」

「なにそれ、傲慢」

理子はしばらくそのまま動かなかったが、

しばらくしてぎゅっと俺の首にしがみついてきた。

俺はそれを確認してゆっくりと立ち上がる。

「・・あ、ありがと」

耳元から小さく聞こえた感謝の言葉。こいつ、ちゃんと言えるんだなと感心しつつ。こちらも素直な気持ちを行ってやることにした。

「やわらけ」

「・・変態」

背中の感触と腕の感触を確かめつつ、ちょっと鼻の下を伸ばす。

ちょっと顔を紅くした理子がかわいいと思ってしまったのは気のせいじゃない。

こうして理子をおんぶしたままの下山がスタートした。


一つの危険を持ちながら・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Riko side

下山し始めて15分ほどが経った。修一は私を背負いながらゆっくりと山道を下っていく。ただ下は昨日の大雨のせいでぬかるんでいるようで、上手く進むことができないようだ。これは今日一日で下山するのは厳しいかもしれない。・・それに人一人背負っての下山は並大抵のことじゃない。かなり厳しいだろう。足が回復次第私も歩くことにしよう。

それに・・

「しゅ、修一・・」

「・・どった?」

「あの、その・・・あの、さ」


それともう一つ、女の子として、あることを思われたくない部分が一つある。

「そ、その・・お、おも・・」

「なんだよ。ハッキリ言え」

「・・・・しゅ、修一、理子・・お、重くない?」

背負われるということはつまり、私の全体重を修一に預けてることになる。
正直修一にはなんて思われようと気にしないが、女子として、どんな男子にも重いとだけは思われたくないのだ。まあでも大抵の男はそこをきちんと理解して「全然、むしろ軽いくらいだよ!」なんて元気よく答えてくれるーー

「無茶苦茶重い」

「そこは!理子も、女の子なんだから!嘘でも、軽いって言え!」

「おわ!あ、暴れるな!!」

そうだった。こいつに男子の常識は通用しないんだった。と私は後悔した。こいつは本当に女心というものを理解していない。クズ男だ。・・そういえばそのこと私知ってた。

「め、面倒くさい奴だな」

「女の子はみんなそーなの!も、もういい!降ろして!!」

本当にめんどくさそうにこちらを見る修一。私はやけになって背中から飛び降りようとした。



「ばっか、んな事どーでもいいんだよ。理子が重かろーが軽かろーが怪我してるんなら背負うって。いいから黙って背負われてなさいよ、これ強制」

そういって理子を担ぎ直す修一。それによってまた私の両手がまた修一の首に巻かれる。

ーートクン

(なぁにちょっとカッコイイこと言ってんのさ・・最後は余計だけど)

・・こいつ、こんなこと言うやつだっけ・・。

自分の頬が紅くなっていることに気づき慌てて隠そうとしてしまった。・・ん?別に修一からは私の顔見えてないから隠す必要ないか。しかししばらく元に位置に顔を戻すことができなかった。

・・くやしい。こんなやつにドキッとするなんて

「・・じゃ、頼んだ」

「たーのまーれた」

ーーーーーーーーーー

お互いが無言になった中、私はもう一つあることが気になって仕方なかった。もちろんさっきのも気になっていたが、それ以上に聞きたいことがある。最初に言うのは流石に心の準備が出来ていなかったが。

「ねえ、修一」

「あ?今度はなんだ?」

「怒ってないの?武偵殺しの影武者にしようとしたこと」

修一の私への接し方がいつも通りなことに驚いていた。修一を裏切って武偵殺しにしようとしたのだ。縁を切られてもおかしくない。殴られたっておかしくないのに・・なのに、どうして

「ああ?別に怒ってない訳じゃねーよ。誰が裏切ったやつにキレないでいられるかよ」

修一がガルルル・・と唸る。

「・・じゃあ」

じゃあどうして私を助けてくれるの?どうして足の心配をしてくれるの?と聞こうとするより早く修一は話し始めた。

「って思ってたんだけどな。でも、お前、結局助けてくれたじゃん。ほら、アリアと鉢合わせしたときだよ。あん時わざわざ放送したろ」

「・・うん」

思わす手が勝手に動いたのだ。別に修一のためじゃない。

「変成器使わずに言ってたし、予定になかったんだろ。助けてくれたんじゃないのか」

「・・さぁ、ね」

変成器は、手元になかったから使わなかっただけだ。・・別に、修一のため、じゃない

「まだあるぜ。俺がアリアに逃げ切ったってことは、俺を武偵殺しにしたかったらあの二人の前で姿を表すのはダメだろ。でも、見せた。つーことは、お前は俺を助ける気マンマンってこった。んじゃ、俺が怒る理由ねーよ」

「・・ふん、自意識過剰だよ。理子、そんなに優しくないし」

・・修一のためじゃない。

そう何度も心の中で繰り返す。そう、あれは違う。そんなの本当の理子じゃない。私は冷徹で卑劣で人の命すら利用して私益にする武偵殺しーー

「お前さ、見栄張りすぎじゃね?それかお前こそが自意識過剰」

「え?」

修一の言葉をうまく理解できずつい聞き返してしまった。私が、見栄を、張ってる?

「お前との付き合いは短い方だけど、結構わかってるんだぞ。峰 理子さんはギャルで、フリフリのよくわからん服ばっか着てて、ワガママで、頑固で、性格悪くて、二重人格で、一緒にいると疲れる時もある。・・そのくせ、やけに他人思いで、自分が怪我負わせたやつのとこには毎日見舞いに来て、バカみたいにずっと看病してるようなやつで、一緒にいて話すと面白くって、裏切ろうとしても結局最後は他人の心配しちまう優しいやつだ。他の人がどう思ってるかはしらねぇが、俺は素のお前のことをそう思ってる。難しく考えんなよ」

「・・・最初の方、本人に言う、セリフ、じゃ、ない」

私がそう言うと、それもそうかと笑った。私が無理やり出した言葉だという事もバレバレらしい。

「でも、それが峰理子だ。だからお前は、

そのままの峰 理子で、いいんじゃねーの?」

こいつは、岡崎修一は、私の大切にしている部分にずかずか入ってくるんだろう。まだ会って一ヶ月も経ってないのに、知ってるってなに?まだまだ教えてないことの方が多いはず。

なんて、頭の中で否定してみる。・・それなのに、


どうしてこうも、こいつの言葉はすっと体に浸透するのだろう。


特別なことはなにも言ってないはずなのに、修一が言ったことが全てなように聞こえてしまう。

こいつが分かってくれるなら、修一が私をただの峰理子として見てくれているのなら、本当の味方になってくれるのなら

それでいいかなって、思ってしまった。


もう顔が紅くなっていることも無視して修一の顔を見ようとした。
こいつ今、どんな顔でそんなこと言ってるんーー

「それにお前スタイル良いしな!美人は性格悪くても生きていけるぞ!お前みたいに!ぐへへへ」

鼻の下伸ばしながらヘラヘラと笑っていた。
・・こういう余計なことを言わなければもっといいのにな。

「しゅーちゃんってなんて言うか、空気読めないよね。KY」

「え、まじ?俺今空気読めてなかったの??・・全然気づかなかった」

こいつにドキドキしたのが少しだけくやしくなった。


ーーーーーーーーーー


Riko side 2


二時間が経ったが、やはりまだまだ先は長い。あれからただひたすらに山を下っていたが一向に景色が変わることはなかった。その後何度か私が降りて歩くと言って、降りてみたものの結構ひどく捻挫してしまったようでうまく歩けない。結局今も修一の背で甘える形になっていた。

だが、

「ちょ・・修一、大丈夫!?」

「あ?だ、大丈夫だって・・はぁ、心配、すんなよ・・」

「で、でも・・」

修一の顔が酷いくらいに青ざめている。流石の私も本気で心配していた。2時間ぶっ続けじゃないにしても人一人を抱えて2時間下山したのだ。それだけでもグロッキーなはずなのに、それに加えてこいつの足は片足折れている。そんなの地獄と呼んでもいいほどの痛みだろう。明らかに私より修一の方が重症だ。本当にそろそろあたしも降りて歩かないとマズイ

「な、なぁ、理子」

「あ、なに?」

と、思って声をかけようとした時、修一が前を見ながら話しかけてきた。やはり修一も限界がきたのだろう。「もー限界だ!降りろ!」だろうか「お前やっぱ重い。帰ったらダイエットするぞ!」だろうか。・・うん。最後のやつ言ったら殴ってしまうかもーーーー



「寒くないか?」

「え!?・・あ、うん大丈夫」

私は思わず驚いて2度頷いてしまった。あ、そうか。「大丈夫なら歩けよ!こっちはお前に上着まで貸してて寒いんだぞ!」って返してくるのーー

「・・喉、乾いてないか?」

「え・・うん」

修一は、私の考えと裏腹に、そんなことを言ってきた。・・い、いや。私だって修一のことは理解してるつもりだ。こいつは自分のこと第一優先の男だし、きっと「俺は乾いてるんだから次の水飲めるとこまでお前が俺を乗せて歩けよ」とかーー

「・・・足、痛くないか?」

「・・・・うん、大丈夫」

・・やめよう。これ以上修一をバカにするのは本当に失礼だ。私の中の修一が変だった。

修一は、本当に私のことを気遣ってくれている。

そうだった。そもそも自分第一優先なら無理矢理な依頼をあんな全力でやってなんてくれない。修一はなんだかんだ言いながらも、しっかりとした奴だ。だから私も面白いって。・・酷いのは私の方だ。本当に理子、性格悪い。

「・・腹、減ってないか?」

「うん」

「・・ほかに・・っ、痛いところ、ないか?」

「・・ないよ」

「・・・頭痛くない、か?」

「大丈夫、だよ」

「・・そっか、よかった」

「・・うん」

聞かれるたびに、私の中で、何か暖かいものが弾けていく。

膨らんだふわふわの生地が一気に破裂したように、体がポカポカしだす。

そっか。これが、

心配されるって、ことなんだな。

私は本気で心配されたことがなかった。
幼少期はブラドという貴族の元で監禁されて生活してきた。
ろくにごはんも貰えず、服もボロボロの布一枚だけ。
そんなことする相手が私を心配することなんて一度もなかった。学校でもそうだ。女子は皆、男子と仲のいい私に対して、あまり気兼ねなく接してくれるわけでも無かった。
もちろん中にはそんなこと関係なしに友だちになってくれた人もいるが、それでも心配してくれるようなことはなかった。
男子でもそうだ。私が怪我したりして駆け寄ってくる男子の顔を見ればすぐに欲丸出しなのが分かってしまう。
そんな心配は、私の望む心配じゃない。もっと、そう、ドラマとかほのぼのアニメとかでよくある

『家族』のような、心配。

それが、私のしてほしい心配で

それをいま、このセコ男が、自分のことを顧みずにしてくれている。


それがとても、とてつもなく、嬉しかったんだ。

ートクン・・トクン

初めて、私だけに対して言ってくれた言葉の数々が、心に突き刺さる。

気がつくと、私の目から涙が溢れていた。気がつくと次から次へと流れてくる。

私は、思わず汗まみれの肩にしがみついた。

「どう、した?・・やっぱ寒い?」

「・・ん、ちょっとね」

息も絶え絶えなくせに、人の心配なんてしてる場合じゃないのに、どうして、どうして人の心配ができるんだろう。

私がそう返すと、修一はポケットからなにか四角いものを取り出し、渡してきた。これは?

「・・平賀作の『あったか毛布 コンパクト』だ。ボタンを押して広げたら体を包め、それで、あったかく、なるぞ」

ーートクン・・トクン・・トクン

修一に言われた通りにボタンを押す。すると手のひらサイズだった正方形のものが一瞬で広がり、小さい毛布になった。

それを体にかけてみると、すぐに暖かくなった。外とはまるで違う。1分も経たず体がポカポカしはじめた。


いや、ちがう、元々、ポカポカはしてたんだった。修一の言葉には、理子を暖かくする効果があるようだ。



ーートクン・・トクン・・トクン・・トクン

修一の汗ばんだ背中にくっついて目をつむる。
先ほどから胸の鼓動が激しい。
おかしなくらいに聞こえてくる。今まで感じたことのない、初めての感覚。

でも、知ってる。

この気持ち。この感情。 そしてわかった。今の私のこのポカポカの正体。

アニメとかだと絶景を見ながら隣にいる男子にこう思ったりしてたんだけど、現実っていうのはそうロマンチックにはならないんだなと初めて知った。
昔はロマンチックじゃないと、こんなこと思うわけないよねなんて思ってた。
というより私がそんな風に思う男子がいるなんてことすら思ってなかったんだ。


でも、

それでも。

いまそれが、目の前にいる。目の前で、私のことを心配して、あたしだけを見てくれている人がいる。
それだけで絶景とか、そんなのいらないって思えてしまう。



そう、私は


峰 理子 は


岡崎修一のことが、





「・・・好き」




そう



好きになって、しまったんだ。






そう自分で理解したとき、

途端に恥ずかしくなるなと感じると同時に思わずニヤニヤと笑ってしまった。

もちろんセコイ男は嫌だってのはまだ思ってる。デートだって割り勘だろうし、プレゼントなんて絶対くれないだろう。

でも、それで全然いい。

むしろ、奢るよなんて言われたら修一じゃないみたいで嫌かもとすら思ってしまった。

いま顔を埋めている背中も、下山のせいで汗まみれで正直匂う。
匂う、けど、嗅いでいたくなるような・・だ、ダメだ理子、それはもう変態に近いよ!?

好きになると、ここまで考え方が変わるのか。と初めての感覚に新鮮な気持ちになる。

「ね、ねぇしゅーちゃん?」

「・・どした?」

「・・・んーん、呼んでみただけ」

「あざといな、お前それ俺じゃなかったら勘違いするから他の男子にはしないこと、お母さん命令」

「くふ。はーいママ」

どうしてだろう。ただの会話なのに凄く楽しい。これが恋の力というものか。本当にすごい。

「・・なんか、楽しそうだな?」

チラッとこっちを見て修一が言う。まさか、ここで好きになったからだよなんてことは死んでも言えない。

私としては、告白は男子からが原則だ。LINE、電話での告白もタブー。それをしてきた男子は返信もせずにすぐに切った。男としてそこは面と向かって言って欲しい。

「くふふ。理子いま一番楽しいかも」

「・・そうかい、そりゃ、よかったな。でも、疲れてるんじゃないか?寝ててもいいんだぞ?・・というか寝て欲しいんだけど」

「えー?しゅーちゃんもっと話ししよーよ」

「はぁ、お前アリアとキンジのために徹夜して準備してたんだろ?今のうちに睡眠とっとけよ、帰ったらすぐに次の作戦考えるんだろう??」

「あ、それ自分から言うんだー!じゃーもうしゅーちゃんお手伝い決定ね!ラッキー!」

「やだ。もうやだ。お前の依頼は金輪際受けないって決めたんだよ。もう絶対に絶対にやらない」

・・好きにはなったけど、こういうとこ、めんどくさいな。まあ、それも簡単に許せるくらい好きだからいいけど。

「実はね、次の作戦はもっと大事にしようと思ってるから!しゅーちゃんに払う報酬も倍倍も倍!たぶん200万は超えーー」

「やりましょう。体が回復次第ね」

「うんうん。チョロリンあざーす!」

「・・へーへ。そん代わり今は寝ろ。ついたら起こしてやる」

「わかったよ、しゅーちゃんの背中汗臭いけど我慢するからね!」

「わ、わざわざ言わなくて良くない?・・え、俺臭いの?ねえ、理子さん?」

「くふ。おやーすみ」

修一の言葉を無視して目を瞑る。確かに修一の言う通り、一昨日からあまり寝ていなかったから、目を瞑った瞬間に睡魔が訪れた。それに、修一の匂いは落ち着く。

そして、1分も経たないうちに、あたしは寝息を立てていた。・・これ臭いフェチなのだろうか。・・うう、あたし、変態じゃないのに。

そして、夢の中へと、落ちていった。





『・・・寝たか?



・・・ッッ!?!?ああ、・・・・・・い、痛ええ・・痛い痛い痛い痛い・・ッーー!!!』


ーーーーーーーーーーーーーー

Riko side3

『・・ううッ・・は、は、っ、うう、・・っ!!』

「・・・ん」

私は目を覚まして目を擦る。辺りはもう夕暮れだった。出発したのが朝だったからスタートして7時間ほどだろうか。修一の背中で安心して寝すぎてしまったようだ。修一は私が起きたことも気付かずゆっくりと歩いていた。


・・くふ。まだ気づいてないならちょっと驚かしてあげよっかな。
私はこういう時イタズラをしたくなるタチだ。わ!とでも叫んで脅かすか。耳元で「大好き」と囁いてあげよっか。・・くふ、どちらにしてもいい反応してくれるよね、修一は、あ、それとも胸を強く押し当ててーー

「・・ぐ、はぁ、っ、う、ううう、はぁ、はぁ」

私は考えるのを中断して修一を見た。そして、驚いて目を見開いた。修一は目を虚ろにし、額の汗も拭かないまま、ズルズルと片足を引きずって歩いていた。ただ一点を見つめ、何も考えずに歩いているようだ。前すら向いていない。

「ちょ、修一!!大丈夫!?ねぇ、修一!!」

慌てて修一に声をかけ、肩を叩く。しかし修一はそれに気付かず前に進み続ける。周りを見ると、近くの看板に『高妻山入り口』と書かれてあった。ということは、修一は私が寝てからずっと、ひたすら歩き続けたことになる。折れた足で、私を抱えて。

サァッーと血の気が引いていく。

そうだ。今思い返せば修一は私もよりも重症でありながらも私にそのことを一言も言わずただ背負ってくれていたんだ。おそらく、いや確実に理子を眠らせたのはこの姿を見せないためだ。

「修一!ねぇ、修一ってば!!聞いてよ!!お願い、修一!!」

強く呼びかけながら、前の私に酷く後悔していた。修一が一生懸命足を動かしているのに私はー

『・・・・しゅ、修一、理子・・お、重くない?』

そんなことを気にする暇があったら修一のために無理にでも歩くべきだった!

『怒ってないの?武偵殺しの影武者にしようとしたこと』

山を下りてからでも聞けたんだ!なにをしてるんだ理子!


修一の足はもう限界をとうに超えているんだ。意識が朦朧とするほどに、痛みもあるはずなのに

それなのに、修一はーー


『ばっか、んな事どーでもいいんだよ。理子が重かろーが軽かろーが怪我してるんなら背負うって。いいから黙って背負われてなさいよ、これ強制』『そのままの峰 理子で、いいんじゃねーの?』『寒くないか』『足、痛くないか?』『喉、乾かないか?』『そっか、よかった』



私の、心配してばっかり!どうして気づかなかったんだこのバカ!

「・・あ?・・ああ、理子、おはよう。足は痛くないか?」

修一の肩を叩き続けてようやくこちらを振り向く。しかし、目線が合っていない。それなのに人の心配をする辺り、本当に修一は凄いと思うが

「そんなこといいから、下ろして早く!それと足見せろ!」

「んあ?・・ああわかった」

ぼーっと立つ修一から下りて近くの木に寄っかかって座らせ足を確認する

「ーーッ!?」

修一の足を見て驚く。皿の部分に巻いてある生地が赤黒く染まり、そこから下に肌が赤く染まっている。座っているにもかかわらず足が小刻みに震えているのは痛みを必死に堪えた結果か。とにかくこのままだとマズイ。最悪足が腐って切り取らないとダメかもしれなくなる!

「ど、どうしましたか!?」

そこに、年老いた老人が慌てて駆け寄ってきた。どうやらこの山の管理をしている人だろう。ちょうどよかった!

「早く救急車を呼んでください!あと湿ったタオルを多めに!急いで!!」

「は、はい!」

修一は目を開けることもできず、ただ苦しそうに息を吐いていた。何度も何度も後悔しながら、老人の持ってきたタオルで応急手当をする。


夕暮れの山にサイレンが鳴り響くのは、それから約30分後の話だった。 
 

 
後書き
ようやくここまで書けました!理子をデレさせたいそれ一心で始めたこの小説。理子自身にいきなり好きだよと言われてから始まってはあまり心情を深く書けないと思い、ゆっくりと章を重ね、ようやく好きだと気づかせることができました。長かった汗

楽しく書かせてもらいました!

#ここから一週間ごとの投稿になります。次回の投稿は3月5日ですよろしくお願いします


では次もよろしくお願いします! 

 

16 一番いい終わらせ方

 
前書き
「15話のあらすじ」
理子が、好きになってしまいました 

 
「・・はぁ」

「しゅーちゃん、どうして落ち込んでるの?」

「明日からアドシアードの準備期間だろ。俺、アドシアードにいい思い出ないの」

「ああ、そっかしゅーちゃん彼女いないもんね。年齢=彼女いない歴の残念な人だもんね」

「お前さ、ほんと性格悪ー」

「はい、しゅーちゃん、ポテチ」

「うむ・・うまい。おかわり」

「ほい」

口に突っ込まれたポテチをまるでヤギのように食べる。うーむ、今日はコンソメか。できれば九州しょうゆがよかったな。などと思いつつも結局は美味しいのでもう一つ食べる


そろそろ状況を説明していこうか。


あの下山から約一週間が過ぎている。俺が目を覚ましたのはあれから二日後の午後だった。目を覚ました時に理子が飛びついて来たからよく覚えている。

俺の足のことだが、理子の応急手当のおかげで半月ほどで回復するらしい。聞くところによるとどこかの巫女さんの治療もあったらしい。今度名前聞いてお礼を言いに行こう。

もちろん半月は外出禁止を受けた。まあ実際ジンジンと痛むし、夜に痛くて眠れない時もあるから抜け出す気もないが。

いつも治療してくれるお医者さんが「君はどうしたらそんなに怪我を悪化させて戻ってくるのかね」と困った顔をしていたのをまだ覚えている。どうやら俺はここの問題児として認定されてしまったようだ。

だがそのおかげで俺の真面目な学園生活は終わったのだった。自分の不幸さに気分を落としたものだ。留年は避けられないだろうし、武偵としての将来性がないから勉学を頑張っていたのにこれではもうダメだろう・・なんて最初の三日間ほどは本気で後悔したものだ。

だが、この生活、慣れると案外悪くないのだ。手元には理子が持ってきたゲームがある。暇だから何か貸してくれと頼むと目を輝かせながら様々なゲームを持ってきやがった。最初は暇つぶしにと始めたゲームが

今や、寝る間も惜しんでキャラの強化に勤しんでいた。キャラのレベルを上げダンジョンに突入、クイズに正解すると自分のモンスターが敵モンスターを倒していくゲームなのだが。これが中々に面白い。
しかもここは病院。寝ていないとダメなのだ。なんて素敵な空間だろうか病室。

まあしかし、ゲームをやめて改めて考えるとやはり将来的にはかなりマズイ。就職が困難になる。そしてまたどうしてこうなったんだと考える。俺はEランク高校生として、自分のできることを精一杯やろうってしてたはずなのに。

それもこれも

「あむ。あーやっぱりポテチはコンソメだよねー♡」

この金髪ギャルビッチが余計な依頼を次から次へと持ってくるからだ。こいつと出会ってから生傷しか増えない。

当の本人は、ほぼ毎日ここを訪れては目の前で菓子をバリボリ食い部屋を汚くして帰って行きやがる。その間に色んな話をしてくれるからこちらとしては来てくれることは嬉しいのだが。・・本当に暇なのか?

「ポロポロこぼすなよ、俺が怒られるんだからな。というかポテチは九州しょうゆが一番なんだよ金髪ギャル。そろそろ持ってきやがれ」

そう言いいながら顔を理子に近づけた。

「とか言いながら口開けてるじゃん、ほい」

「ん。コンソメがマズイとは言ってないだろ」

個人的な感想だが、入院中の飯はどうも美味しくない。今日の朝飯も魚とおかゆのようなご飯、味噌汁、ヤクルトだった。全部食べたが満腹にはならなかった。ちなみにヤクルトは理子が毎回グビッと飲み干し腰に手を当て「ぷはぁー」なんて言ってやがる。おっさんか。

「というかさ、しゅーちゃん九州しょうゆってなに?そんな名前のポテチあるの?」

「あ?お前知らないの・・ってああそうか。あれ九州限定なんだ。ああ〜だから『九州』しょうゆ味なのね。なるへそ」

「ちょっと、自分だけ理解し出さないでさ、理子にも教えて?」

理子に九州しょうゆの良さを1から説明してやった。もともとは長崎出身だから九州しょうゆがコンビニにあったりするのが当たり前だったからこその盲点だった。その話間理子は楽しそうに頷いたり、「へー」だの「すごいすごい」だの相槌を打ってくれる。それは全く問題ないのだが。

やっぱなんか違う・・よな?

あの下山後からなにか違和感があるのだ。
なんというか理子が理子じゃないような?いや、逆にこれが本当の素の理子なのか?どこが変わったと聞かれて答えることは出来ないのだが、それでもなにか違う気がする。雰囲気というか、表情というか。そう、表情が少し柔らかくなったようにも感じた。
いつもは世間に振る舞うような、アルバイトでやる営業スマイルのような雰囲気の笑い方だったのに、今ではそんなことはない。本当に楽しそうに聞いてやがる。・・一体どーしたんだろう。何かあったのか?

いい方向に変わったから気にすることではないのか?

「あ、ほいしゅーちゃん、最後のポテチ」

「さんきゅ」

理子が袋から小さいポテチを取り出すと俺の口に持ってこようーーとして

・・・サッ

「おい、なに小学生みたいなイタズラしてんだよ」

理子は俺が口を閉じる前に手を自分の元へ戻した。もちろんポテチは俺の口には入っていない。まだ理子の手の中だ。こいつ・・

そう思って理子の顔を見ると、イタズラ成功のようなニヤニヤした顔ーー


ではなく、その小さなポテチと俺の顔をチラチラと何度も交互に見ている。そして、おお!と閃いた顔をした。

・・?

「どうした?そんなに食いたいなら食って良いぞ」

「くふ。ねー、しゅーちゃん?最後の一つだし、ちょーっと理子がドキドキでワクワクな食べさせ方してあげる〜!くふふ、なんだかんだしゅーちゃんはやることやってくれたし、そのお礼ってことでさ、ほい」

そう言いながらなぜかその小さなポテチを自分の口に咥えた理子。ん、お、おいまさか


グイ

「お、お前マジか!?」

「・・・んーしゅーちゃん早くぅ〜」

なぜか、理子は小さいのにそれを一口で食べず、ちょっとだけ歯で咥えたままこちらに顔を近づけてきた。・・やっぱこれ、あれか

ポッキーゲーム、的な?お礼でぽ、ポッキーゲーム・・お互いが両端から食べていくやつ

な、なにぃ!?

俺は驚いて何度も状況を確かめる。

そう、確かめた、全力で

《ここはとある病院の一室
いるのは俺と理子の二人だけ
ここ一週間誰も理子以外、あまり人の出入りはない、よって人に見られる心配は皆無
目の前には口にポテチを加えてこちらに顔を近づけた理子
これを食べようとすれば、理子との距離がおそらく5cmほどになるだろう
理子の容姿は美女と呼べるほど可愛い。断る理由なんてない。
理子はイタズラ好きだからもしかしたらからかっている可能性もある
だが、逆に本気の可能性だって否定できない
あざとさ100% やはりからかってるんじゃないだろうか
それともギャルの世界ならこんなこと日常茶飯事なのか
もし仮に実行して、唇が触れたりしたらもうこいつと仲良くできなくなるかもしれない
だが、逆にこれで理子と付き合えるなんてことになればハッピー通り越して死んでも良い。こんな美人と付き合えるとか嬉しすぎる
しかし、それはない。はなっから期待していない。そんなことは、そんなことわああああ



だ、ダメだった。倉庫での一戦も、高千穂との対決でも解決策を見つけれた俺の記憶が、今は全く機能を果たしていなかった。頭の中がパニックになる。

しかし、答えは一つだ。確認する必要なんて実はない。内心では確定していた。


よし、やろう。後のことは、しらん!

俺は意を決して理子の顔に近づく。ギシッとベットが音を立てた。目の前には目をつむった理子。少し理子の顔も紅くなっている気がする。や、やべぇ、本気でクラクラしてきた。なんでこういう時だけ理子のいい匂いを意識しちゃうの俺氏。
走ってもいないのに心拍数が速い。もう少ししたら息切れしそうだ。

「・・・」

「・・・・ん」

少しずつ距離を近づける。そしてその小さなポテチを咥えようと口を開けーーーー

「あ、あむ」

ようとしたとき、理子はそのポテチを全部食べてしまった。お互い近距離で見つめ合う。

「・・うおい」

「あっはは!しゅーちゃん!だーまさーれたー!!くふ、ドキドキした!?ねえ、ドキドキした!?」

理子は笑いながら席を立ちくるくると回り始める。このやろう、やっぱからかってたな。くそう、惜しかった。

「うむ。初キスが理子になるのかって期待した」

「くふ。しゅーちゃん理子と初キスしたいのー!?ダメだよ〜理子セコイ人は無理だってば〜!」

「知ってたけど男だからしょうがないんだよ」

「なんでそこでドヤ顔するのか理子よくわかんない」

「男ってのはそういうもんだ。女の誘いは基本断れないんだよ」

「くふ、そっかそっかぁ!じゃあ続きは本当の彼女さんが出来たらしてもらおう!ま、出来るわけないけど〜!」

「ばっか。お前俺のこと甘く見過ぎよ?俺が本気を出せば女の一人や二人簡単にーーーいたたた!?」

俺の演説を聞かず、理子は俺の頬を思いっきり引っ張ってきた。な、なんで!?

「おい修一。もしかしてお前、彼女っぽいくらいまでに仲の良いやつがいるの?えぇ?ん?」

や、ヤバイ。理子さんなんで怒ってるの?顔は笑っているがその奥の目が全く笑っていない。なんだ、俺はどこで地雷を踏んだ??

俺は意味がわからず戸惑いながらも首を横に振った。

「だ、だから前にも言ったろ。俺はEランクとして馬鹿にされてばっかで仲良くしてくれる女どころか男友達すらいなかったって。それくらい仲良いのはお前くらいだっつの」

「・・ふーん、そっか。じゃーいいや。しゅーちゃん、理子、お菓子なくなったし帰るね。また来るから〜」

「え、あ、おう。・・行っちまった。ふう、本気でドキドキした」

まあ、最初からあんな美人に本気で期待する方がおかしいのかもしれない。

俺は火照った顔を冷やすためにペットボトルを額に乗せた。

その夜、あの目を閉じた理子の顔が目を瞑るたびに出てきて、あまり寝ることができなかった。ーーー今度来たら本気でキレてやる。最悪本気でポッキーゲームだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー

Riko side

(・・・にゅ、にゅやああああああああ!?!)

私は病室を出て思いっきり頭を抱えた。思わずどこかの黄色い先生のように叫んでしまう。近くの壁に寄って、周りも気にせずブンブンと頭を振る。私の顔は自分でもわかるくらいにニヤついている。デレデレとしてしまっている自分が、自分でないようだ。

心の中では素直になっていた。ポッキーゲームを思い出してしまう。

(恥ずかかった!恥ずかしかった!恥ずかしかった!な、なにあれ!?キンジにも同じことしたのに感覚全然違う!!修一が近づいてきた時は本当に、本当にやばかった!思わず理子から前に行っちゃうとこだったよ危ない!!)

キャー!
1人で盛り上がる私。
とっさの思いつきだったが、こんなサブイベントで初キスを終わらせていいのかと思ってポテチを食べたが、今ちょっと後悔している。サブイベントでもいいからキス、してみたかったかも。キ・・キスか、修一と、キス・・・うへへ

近くを通る老人や看護師さんがこっちを見て怪訝そうな顔をしている。でもそんなことも気にしてられない。

これが恋・・すごい、本当に理子が理子じゃない。男を惚れさせるなんて簡単なことのはずなのに・・簡単だった、はずなのにぃ!


『ダメだよ〜理子セコイ人は無理だってば〜!』


(はぁ・・訳分からなくなってまたダメって言っちゃった・・あれじゃ修一から告白なんてしてこなくなるじゃん・・うう、私のバカ)


ズーン・・と壁に頭を預けて落ち込むあたし。周囲の人が本当にどうしたとこちらを立ち止まって見ていることすら、今の私には関係ないことだった。

『俺はEランクとして馬鹿にされてばっかで仲良くしてくれる女どころか男友達すらいなかったって。それくらい仲良いのはお前くらいだっつの』

「ふへ、ふへへへへ・・・」

思いだしてだらしなく笑ってしまう。自分の頬をプ二プ二と持ち上げいじる。そっかぁ、私って彼女っぽいくらいまでに仲の良いやつなんだぁ、しかも、私だけ・・・『だけ』・・ふへへ・・。

そして

(また聞けなかったなぁ、修一の好きなもの)

また落ち込み座り込む。
実は修一が起きてから五日間、ほとんど行っているにも関わらず、修一の好みを知ることが出来ていないのだ。好きな食べ物とか行きたい場所とか好きな本とかアニメとかゲームとか。

「しゅーちゃんなにが好きなの?」の言葉がどうしても出せない。何度か聞こうとしたが、口が思った以上に重かった。
こんなこと、今まで一度もなかったのに。

周りがガヤガヤとうるさいがそんなこと気にしてすらいなかった。
「もしかして彼氏にフラれたとかかの?」とか「それかお亡くなりになったとかですかね・・」なんて声も聞こえてくるがどうでもいい。
そんなことより、実は、今日は一つだけ、収穫があった。

『ポテチは九州しょうゆが一番なんだよ金髪ギャル。そろそろ持ってきやがれ』

修一は九州しょうゆが好き。たったそれだけのことなのに凄く嬉しい。好きな人のことなら何でも知りたくなるというのは漫画だけの世界と思っていたがそんなことなかった。なんならお気に入りのノートに書いてもいいくらいだ。

「・・とりあえず、九州しょうゆ、探そっかな」

「「!?!?」」

そう思い立ち上がる。パソコンのある自分の自室へと向かおうと歩き始める。

「お、おじょうさん!彼氏さんのことは残念じゃと思うが、じ、自殺はやめるべきじゃよ!」

「・・は?」

その後、なぜか私は看護師に連れて行かれ、自殺することのデメリットについて色々と言われてしまった。・・意味がわからない。どうして?

解放されたのは、日が暮れたころだった。いや、なぜ?




{#醤油は一気飲みすると昏睡状態、最悪死んでしまいます。お気をつけください}

ーーーーーーーーーーーーー

「・・で、なんで俺はこんなことさせられてんのよ?」

「あなたが暇だって私に電話してきたんじゃない。忙しい時に来てあげたんだから感謝してほしいくらいよ」

次の日。俺はなぜかペンを持ち紙に描かれた絵のコマの白い部分を黒く塗りつぶす作業をさせられていた。一つ一つ塗るのがかなり面倒くさい。が、目の前の和風美人の鋭い目が俺の手を休ませることはなかった。

夾竹桃である。

朝から昼まで、理子来るのかなと待っていたが、LINEで今日は来ないと伝えてきた。正直いつも二人でいた場所に一人でいるのはかなり寂しい。先ほどまではゲームで気を紛らわせていたが、やはり寂しさに勝てなかった。どうしたというのだ俺は。1年時には1人でいるのが当たり前だったから全然寂しくなかったのに。

あの金髪ギャル。後で文句言ってやる。

ということで誰かを呼び出そうと携帯で検索(というほど登録数はないが)。
アリアは戦姉妹の間宮あかりが来そうで誘えない。あいつらとは夾竹桃の事件以降会ってないから出来ればこのまま会わずに武偵高校を卒業したいものだ。

キンジは連絡交換はしたものの、まだあまり会話という会話をした覚えがない。入学式にちょっとくらいだし、暇だから来てとは言えるほどではなかった。

平賀は大手企業との取引でかなり前から海外に行っているらしい。まああいつが来るとまた金が飛ぶし、仮に武偵高いても呼ぶかは悩むだろうが。

よって、最終的に俺の中のマドンナ。ザ・俺の好みドストライク美少女夾竹桃をここに召喚することに成功したのだった。

夾竹桃はあの事件を起こした後、司法取引により学園での自由な行動が許されるようになったと理子から聞いた。だからこそ、その顔を見ることによる癒しと理子の愚痴を聞いてもらおうと召喚したのに。

なぜか俺は同人誌制作のお手伝いをしていたのだった。

夾竹桃が「女の子が一度は夢見る世界よ」といって見せてきたが、女と女の恋愛本のようだ。それもちょっと過激なやつだった。お前、やっぱ百合なの?と聞いたが違うらしい。

にしてもこいつ、よくこれを俺に見せられるな。気を許してくれてるのかと最初は喜んだものだが、逆に考えると男として見られていないとも取れる。・・後者だな、と確定して言えるのが少し寂しい。

ただまあ、なんにせよ、呼んだら来てくれるほどには仲が良くなったということに俺は満足していた。


「・・・」

「・・・・」

お互い無言でペンをただ走らせる。話すこともなく、ただ黙々と。しかし、居心地が悪いとも、気を使って話しかけないととも思わなかった。いつもうるさいのが隣にいるからだろうか。こういうのも悪くない。それに

「なあ夾竹桃」

「なに?」

話しかければちゃんと返してくれるしな。それなら全く問題ない。

「お前さ、オムライスにかけるならケチャップ?ソース?」

「・・ケチャップ」

こんなどうでもいい会話にも返してくれる。夾竹桃はいい奴だ。書きながらだが、そこも全く問題ない。

「まじかよ。普通ソースだろ」

「卵の黄色に黒のソースは見栄え悪いじゃない」

「食えれば一緒だろ。それにケチャップはチキンライスに入ってるじゃん、わざわざ上にかけんでも」

「・・それもそうね」

「な、だろ!?」

「でもだからってソースはかけないわ。食べれば一緒ってところには同意しないわよ」

「な、なんと!?」

これが男女の違いというやつだろうか。見栄えなんて気にしたことないぞ。うまければそれでいいのだ。・・そういやリサもソースかける俺を変な目で見てたな。・・俺がおかしいのか?

と思っていると、夾竹桃は書いていたペンを置くと、机の上にあった、俺の飲み干したヤクルトの容器に、自分の持ってきたお茶を注ぎ入れる。
ヤクルトの容器が緑色の液体(緑茶)で染まる。・・うぇ

「これ、ただのお茶だけど、飲みたい?」

「い、いやあまり・・」

「どうして?ヤクルトの容器だけど、飲めば一緒よ?」

「・・うう」

確かに言う通りただのお茶、なのだが、ヤクルトが緑色になっているような感覚で、ちょっと飲みにくい。

夾竹桃はほらね、と続けた。

「見栄え、大事でしょ?」

「無茶苦茶大事ですね」

見事に論破されてしまった。お互いに何の得もない対話なのに、なぜかくやしい。く、くそう。

夾竹桃は満足したように頷くと、さらに俺の方に紙を渡してきた。

「じゃあ、作業お願いね。まだまだあるから、頑張って」

「くうう・・・了解」

それからしばらく、またお互い無言で作業をする。しかしこれ、面倒くさいが慣れてくると面白いな。やり方のコツとか、クセとかわかるとだんだんと作業効率も上がってくる。

まあ

「まだまだね。ここ、はみ出てる」

「おま、これくらいいいだろ?細けぇな」

「いいから、直しなさい」

「へーへー」

夾竹桃先生の評価はかなり厳しい。少しのミスも逃さない。妥協を許さないところはとても、共感できる。こいつも、努力してるんだなと感じた。しかも

「ここいいじゃない。上手くなったわよ」

「お、まじ!?やった」

別に俺が素人だから全て否定してくるわけではない。ちゃんとうまくできた部分には気づいてくれる。

これ、夾竹桃先生にハマるかもしれない。

そうやって同人誌制作の楽しさを理解し始めたとき、夾竹桃がそういえばと話し始めた

「あなた、私のタンスから持って行ったアレ、使かったの?」

「ああ、いや。まだあるぜ。返そうか?」

夾竹桃には飛行機強奪時、あるものを借りていたのだが、GBとの戦いもなかったので結局使わなかったのだ。

「いいわ別に。それ、使うなら持ってていいわよ」

「お、サンクス」

貰えるものはもらっておく主義だ。貧乏タダに弱し。まあタダより高いものはないとも言うがな。だから

「で?俺はなにしたらいいんだ」

もちろんやることはやる。借りたか後で言われたら面倒だ。

「時々同人誌作業手伝ってくれればいいわ。ちゃんと報酬も払うし。どうかしら?」

「おお。いいぜ。お前の手伝い楽しいし、理子のより危険ないし、喜んでやるわ」

「ああ理子ね・・今回はかなり重症みたいだけど」

「そーなの、まじ勘弁してほしーの!聞いてくれる俺の苦労!」

「くす、まあ作業しながら聞いてあげる」

夾竹桃は楽しそうに笑いながらそう言ってくれた。こいつ奥さんにしたら、一日中愚痴聞いてくれるかもな。・・すげえうやらましいなそいつ。変わってくれ頼むから。


結局、夾竹桃は夜遅くまで俺の病室で作業していた。

「じゃあ、あとベタ塗りだけよろしくね。また二日後に取りにくるわ」

「ああ、おやすみ、夾竹桃」

「ええ」

俺は終わらなかった絵を眺め、思う。・・同人誌制作、辛い。

いくら塗っても終わらない同人誌の闇を実感しつつ、俺は作業を再開した。


ーーーーーーーーーーー

「ねえーしゅーちゃーん。お話ししよーよ」

「俺今超忙しい!」

あれから二日経ち、俺は焦っていた。手元には丁寧に塗らないとやり直しの紙が数枚と、手汗でベタベタになった筆だ。

お、終わらないんだがベタ塗り。な、なにこれすげー時間かかるんだけど。二日って聞き間違いじゃないのか、あと二日くれ!

などと、言っても夾竹桃は聞き耳持たずだ。今日の夜までに終わらせないとなにされるかわかったものじゃない。

「ねーねー、しゅーちゃーん」

「ちょ、理子本当すまん、本当に今余裕ねー!!」

焦りつつ丁寧になど俺の最も不得意とする分野だ。やばい、やばい!

「理子がいないからって夾竹桃呼ぶからだよ〜。なんで呼ぶかな〜バカ修一」

なぜか棘のある言い方で俺の頬を突いてくる理子。お前がいなくて寂しかった、なんて言えない。恥ずいし。

「いいから理子も手伝ってくれよ。夾竹桃に聞いたぞ、お前もこれ時々手伝ってんだろ?」

「えーべっつにー理子、夾竹桃に頼まれてないしー。修一のお願い聞いてもなー」

ぶすっと頬を膨らませて(あざと可愛い)そういう理子。・・ほんと、何にキレてるんだ?

「・・さっきからどうしたの理子。なんか不機嫌じゃね?」

「・・・・ふん、修一が悪いんだよ、バカ修一が」

なにかモゴモゴ言っていたがよく聞こえなかった。

その後ううううと唸っている。

「あーもー!わかったよ!それ終わったらお喋りできるんでしょ!?だったら手伝ってあげる!」

そう言って残った紙から一枚取って筆を持ち、書き始めてくれた。

「おお、助かるぜ理子!俺お前大好きだわ!」

「ブフッ!?・・ゴホッ・・ゴホッ!!」

水も飲んでないのになぜかむせる理子。どうした?

「・・・うん、理子も、好きだよ」

「だよな!俺たち運命共同体だせ。間に合わなかったら一緒に夾竹桃に怒られろよ」

「くっそ!やっぱ修一最低!!」

ノリに乗ったつもりだったのになぜか殴られてしまった。な、なぜ!?

理子の助けもあって終わるかもと安心したそのとき

「・・っ!修一!そこのロッカー、借りるぞ!!」

突然顔を上げた理子が入り口の方を見て、そのまま、服などを入れているロッカーの中に隠れて行った。・・?どしたの?

「おい理子、手伝ってくれるんじゃー」

コンコン

「入るわよ、修一」

ノックと共に、2人の人物が入ってきた。

ああ、なるほど、だから隠れたのね。

「怪我の調子はどう?修一」

「まあなんとか大丈夫だ。キンジもサンキュな」

「ああ。切断寸前だったんだって?危なかったな」

アリアとキンジが見舞いに来てくれた。まさかアリアから来てくれるとは思わなかったが、嬉しいな。さりげなく間宮あかりがいないか確認する。よし、いない。

「あんたに花持って行こうと思ったけどこっちの方がいいと思って、ここに置いとくわね」

「お、よくわかってるじゃんアリア。さんくす」

アリアは持ってきた果物を机に置く。花なんて貰ってもよくわからんしな。果物なら栄養摂取が出来るし嬉しい。

「思った以上に元気そうでよかったわ。あら、これってマンガ?」

「同人誌ってやつだ。知り合いの手伝いしててな。あんま過激だから見ないほうがいいぞ」

「ふーん・・・な、ななななっ!?!?」

机の上に置いてあったページをジーッと見て、そのあとそのページを持って顔を紅くしながらまたじーっと見ていた。そこは確か女の子同士のキスシーンじゃなかったか?


ああ、こいつこういうのじっと見るタイプなのね。

その様子をニヤニヤ見ていると、キンジが俺をじっと見ていることに気づいた。・・ま、まさかこいつ俺のこと狙って・・!?

なんてな

「なあアリア」

「にゃ、にゃによ!?」

いや、過激だからってそこまで動転しなくても・・まあいい。

「ちょっとキンジと2人きりにしてくんないか?話したいことがあってよ」

「・・それ、あたしがいたらダメなの?」

「アリア。俺からも頼む。岡崎と話をさせてくれ」

キンジのお願いもあってアリアは部屋を出て行った。さてキンジがなにを言うかは、まあなんとなくわかってるが

「で、なんだよ?」

「ちょっと聞きたいことがあってな。飛行機強奪事件のことだ」

・・やっぱり。

「お前と理子はどういう関係なんだ。理子が逃げ出す瞬間、お前に謝るように言うし、お前まであの飛行機に乗ってるし。偶然とは言わないよな」

「・・・」

まあそうだよな。こいつは俺が理子と協力していると疑ってくることは前々からわかっていたことだし。分かってはいたが・・

対策は、ない。お手上げだ。

「俺と理子は協力関係だ。武偵殺しの手伝いをしていた。目的は金。金欲しさに犯罪犯した訳だ」

「お前、クズだな」

「ま、否定はしねーよ。だけど、それを知ってどーするんだ?アリアを病室から出したってことは、まだアリアには言ってないんだろ?今から伝えて俺を尋問でもするか?」

キンジがただ黙ってこちらを見ていた。兄を殺したかもしれない理子を追いたいだろうし、まあ妥当だろうな。

「いや、この問題は俺と理子の問題だ。・・知ってるのか?理子の居場所」

「悪いが、知ってても教えねーよ。理子は大事なダチだ。武偵殺しをしてるのも、絶対になにか理由がある。それを知って俺が判断できるようになるまでは理子だけを悪者にするのは許さない」

キンジの性格をあまり理解していないからこそ、理子を渡す訳にはいかなかった。
もし仮にこいつが、目的だけを達成できればいいようなクズだったら。理子のためにも、絶対に吐くわけにはいかない。

「・・いまここでお前の足を潰すと言ってもか?」

「俺の足程度でお前の気が済むならな」

ただ無言でにらみ合う俺とキンジ。キンジは目線を俺の折れた足に向ける。

そして、腕を振り上げた。

「3秒後に振り下ろす。それまでに言えば、俺はなにもしない。飛行機でお前に会ったことも全て忘れる」

「・・・」

俺は額の汗をぬぐいながらチラッとロッカーを見た。

理子ーー絶対にーー

ーーーーーーーーーーーー

Riko side

心臓がバクバクする隠れているのに呼吸を落ち着かせることができない。ロッカーの隙間から様子を見ているのだが2人の行動がおかしい。
修一、なに言ってるの!?それ以上ダメージを受けたらマズイことくらい自分でわかってるのに!
キンジもどうしてそんなことを、あいつの性格上、脅しではあると思うが。キンジの目が冷たく見える。まるで武偵殺しとしてアリアのママを捕まえさせたときの私みたいな・・

内心で焦る。私が、私がここから出て、キンジに本当のことを言えばそれで解決する!お兄さんは生きてるって、私から言っても信用してもらえないかもしれないが、修一がこれ以上傷つくより何倍もマシだ。

取っ手に手を伸ばし開けようとした


(・・え?)


その時、

修一が汗を拭う素振りをしながら、こちらをギロッと睨んできた。

『絶対に開けるな!!』

そう目が言っている。
修一の命令で私の手がまた元の位置に戻った・・どうして?どうして修一はそこまでーー

『3』

キンジの目がただ敵を見つめるような冷たい目をしている。・・アリア、アリアはなにをしている!?戻ってきてキンジを止めろ!!

『2』

キンジが右手をさらに振り上げた。

や、やだやだやだやだ!修一がこれ以上に傷つくのを見るのは嫌だ!あの山で誓ったんだ!これ以上、修一に怪我させないって、誓ったのに、どうしてあたしの手は震えて動けないの!?
修一の命令を聞かずにあたしの命令を訊けよ!!や、やめてキンジ!やめて!



『1ーー』



静かな病室に






ゴキッッ!!!







骨の砕ける音が響いた。




まるで私の心臓が止まったかのように呼吸がうまくできない。喉奥から押し殺す悲鳴のような言葉が響いた。


そして



『ぐ、ぐうううううううううっっっっ!?!?』





修一の呻くような、叫びを押し殺すような悲鳴が聞こえる。
目から涙が次々とこぼれ落ちる。
その光景は、もう2度と見たくないと思ったのに、もう2度と、あんな顔をしてほしくないと思ったのに、どうして・・・!!





どうして、自分で自分の足を殴ったの!?修一!!






折れた足に振り下ろされた拳は間違いなく、岡崎修一の拳だった。


『なっ!?お、おい岡崎!!なにやってんだよ!?』


やはり振り下ろすというのは脅しだったようで、キンジですら素に戻って慌てて近づいて心配している。


近づいてきたキンジの肩を岡崎は力強く掴んだ。


『いいかキンジ、よく聞け!そして落ち着いて、落ち着いて考えろ。兄を殺した事件を起こしたのが武偵殺しの理子だったとしても、その裏で理子に命令して殺させた黒幕がいる!

黒幕は理子じゃない!

理子の裏にいる誰かだ!だから焦るんじゃねえ!!理子だけを捕まえるのを目標にして、バカみたいにチャンスを殺すな!!』


キンジの肩を強くつかみ、必死に説得する修一。

その言葉を聞いてようやく理解できた。

修一は理子のことを、

本気で、信頼してくれているんだ、と。

前から思っていた。理子の過去について何も聞いてこないのはなぜか。
どうして修一は全く聞いてこなかったのか。それが、いまなら理解できる。
修一は、私のことを本気で信頼してくれている。だから私から話してくれるまでずっと待って、待ちながら心配して、信頼してくれていたんだ。


自然と、私の目から涙がこぼれる。鼻水が流れても気にしなかった。下唇を強く噛んで、声を押し殺し泣く。



そしてもう一つ、気づいた。

修一は


キンジすらも救おうとしているんだ。


キンジは見るからに焦っている。私が彼の兄を殺したと思っているから、自分のHSSという才能に任せて、全てを壊そうとしていた。それが最も危険な行為であることを、修一は知っている。

だからこそ


自分を犠牲にしてまで、気づかせたんだ。



でも、そんなの結果論だ!大バカ過ぎるよ修一!!

キンジもこの説得には堪えたようで目を見開いた。

『・・岡崎、すまん!俺が焦ったばっかりに、本当に悪い!!いまナースコール押すから!』

『しゅ、修一!?ど、どうしたのよ!?ねぇキンジ、何があったの!?』

『いまはそんなことより岡崎だ!手伝えアリア!』

ようやく入ってきたアリアに手伝わせ、痛みで苦しむ修一のケアをしていた。

それから医者が来て治療し終えるまで1時間、あたしはロッカーの中で自分のパニックになった感情、溢れ流れる涙を抑えることが出来ず、ずっとその光景を見続けていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

Riko side2

『じゃあ、あたし達帰るわね』

『・・ほんと、悪かったな岡崎。俺お前のこと誤解してたみたいだ。これから理子とその裏の奴を探すことにする。情報はお前にちゃんと伝えるから安心してくれ』

『おう、気にすんな』

2人はそれぞれそう言って去って行った。修一もようやく落ち着いたようで天井をじっと見ていた。

「修一・・・!!」

「おお、理子。よかったな、バレなくてよ〜。いやーお前が開けないかって焦った焦った」

「バカ!なんであんなこと!キンジだって本当に振り下ろす気なんて!」

「ま、なかっただろうな。あいつの謝ってるとこ見たらいい奴ってのは分かった」

「だからって・・」



「だからこそだよ。キンジも悪いやつじゃないし、理子だってそうだし。そいつらが争うってのもおかしな話だろ?だったらこれが、一番いい終わらせ方ってことだ。いやーうまくいってよかったよかった」

一番いい終わらせ方。修一から見るとこれが一番いい終わらせ方だったのだろう。確かに誰も傷つかず、誰も何も失っていない。だけど、

「やめて、よ」

それは、修一を除いた『誰も』だ!そんなこと、私は望んじゃいない!


私は流れる涙を拭くこともせず修一にしがみついた。



「やめてよ、修一!もう自分は傷つけてもいいっていう考えは、やだ!もう、修一の傷つくのは見たくっ、見たくないよぉ!!」


修一は驚いた顔をしたが、頬を軽くかいて私の頭を撫でた

感情が途端に漏れ始めた。涙が次々流れてくる。

「・・ごめん、悪かったよ理子。ごめんな」

「うっ・・ひっく・・うっ、うっ・・・・・うわあああああああああん!!!」

抱きしめ返してくれた修一の腕の中で、大声で泣いてしまった。

夕暮れの日が病室をオレンジ色に変える。その光が無くなり、暗くなるまで修一は私を抱きしめてくれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー
岡崎 修一病室前

『ふぅ、今日はしょうがないわね。また取りにくるとしましょう。・・あら?』

『・・夾竹桃か。どうしてここに?』

『久しぶりね。私は知り合いに預けてた物を取りに来ただけよ。あなたは?』

『私はターゲットがここに来たからな。様子を見ていたのだ。・・知り合いとはもしかして理子が気に入っているというあの男のことか?』

『ええそうよ。私も手伝ってもらったけど結構使えるわよ。まあ今は足が折れてるから難しい思うけど』

『・・・岡崎 修一か。覚えておくとしよう。では、もう行く。また会おう夾竹桃』

『ええ。またね、ジャンヌ』


【第5章 「VSアリア」 終】 
 

 
後書き
予定では病室の出来事をこの話一つにまとめようと思っていたのですがやけに内容が濃くなって、二部構成になりました。

アニメでは魔剣編のところですね。


*夾竹桃が司法取引で出てくるのはかなめが入学したころ(まだまだ先)なのですが、そこまで待てないのでそのあたりはご了承ください泣
 

 

17 事件の前準備 感情偏

 
前書き
「16話のあらすじ」
流石に体が限界になり、おとなしくなる修一。なぜか雰囲気の違う理子に首を傾げながらも安静にする修一の元へ、アリキンが現れる。理子の居場所を探す二人に修一は修一なりのやり方で2人を止めることに成功する。 

 
「・・・死ぬ」

肩と肩がぶつかるほどの人だかりの中、思わず呟いて空を見る。手が震え、足が進まない。折れた左足が唸るように痛む。本能が先に進むなと言っているように、俺の体は動かなかった。

夜なのにワイワイと騒がしいなか、空には七色に輝く光が次々と出ては消え、出ては消える。周りの叫び声も様々だ。俺には悲鳴にしか聞こえなかった。

俺の横を通った子供連れの母親が俺をチラッと見るが、すぐに興味がないように別の方へと子供ごと視線を変える。その顔は両方共楽しそうに笑っていた。俺なんて元からいないように、不自然に目線を変えるんだ。

怖い

こんな感情久しぶりだった。体がゾクッと震え、考えがまとまらない。
どうしてここまでの悲劇を起こせるのか、一体どうしたらここまでの被害を生み出せるのか。
俺は心の中で絶句し、手の上にあった袋を思わず地面に落としてしまう。
音を立て落ちたその中から残った金銭が少しだけ出てきた。・・いや、もういまさらそんなことはもうどうでもいい。

どうしてこうなった?何度も自分に問いかけた。なぜ、どうして俺はあいつの提案にすぐ乗ってしまったのかと後悔した。

裏切られた。そう思い奥歯を噛みしめる。もし受け入れなければ、失うものは何もなかったのに。どうしてー

先の方で俺を呼ぶ影が見える。それは俺にとって死を呼ぶ声と同じだ。体がビクッと震え、ゆっくりとそちらに歩き出す。行きたくないという気持ちをぐっと堪え、一歩、また一歩と進んでいく。

そこには3人の手練れが銃を持って集まっていた。それぞれがそれぞれの構えを取っている。俺も手渡された銃を受け取り構える。
額の汗を拭うことも出来ず、ただ標的に狙いをつける。

バクバクと心臓が音を立て、呼吸が荒くなる。目の前の標的に標準が合わない。


そしてーーー






「はい、またしゅーちゃんの負け!今度は焼きそば奢ってよね!」

「私は甘いものがいいわ、ごちそうさま」

「うむ、私はわたあめがいいぞ。よろしく頼む」

「お前ら・・・悪魔だ」

俺は人の家系事情を無視して命令しだすバカ共3人に向けて本気で殺意を放ちながら、涙を流した。


話はこの日の1日前に遡る。


ーーーーーーーーーー


「花火大会?」

「そ!明日あるんだって!行こうよしゅーちゃん!」

「・・・」

アリアとキンジがやってきた日からさらに二日前ほど経った今日、もういつものテンションに戻った理子が花火大会のチラシを持ってやって来た。

ちなみに、最後の無言は夾竹桃だ。今もせっせと原稿作成に勤しんでいる。

俺は書いていた原稿から筆を離し(また新しい仕事を任されたのだ)理子の持ってきたチラシを見る。

「こんな時期に花火大会ね。珍しいこともするもんだな」

「だよねー、でもほら見てみて!屋台とかもいっぱいあるみたいだよ!楽しいって絶対!きょーちゃんも一緒に、ね!?」

もうすでにテンションだだ上がりの理子。病室内をくるくると馳け廻る姿を見ながら、俺は、いや、俺と夾竹桃は首を横に振った

「「いやだ(よ)」」

「えぇー!?なんでー!?」

俺たちが断るとは思ってなかったのだろう。理子が身を乗り出して俺と目を合わせてきた。ち、近い近い。

「あのな、お祭り行ったら買うものといえば?」

「え?焼きそばとかたこ焼きとか、あ、あとわたがし?」

「値段は?」

「えっと、多分だいたい400円くらいかな」

理子の反応に俺はうんうんと頷く。そして理子の両肩を強く握った。

「ひゃっ!?」

「理子いいか!!あの屋台の焼きそばは普通に買えば50円なんだ!たこ焼きなんてあの値段なら家でその倍は食えるわ!」

「・・・私はただ騒がしい場所が嫌いなだけよ。こんなセコイことは考えてないから」

なぜかビクッとした理子に俺は真剣に叫んだ。
そう、お祭りなどで買う食材や物は原価の何倍にしても許されるというダメな掟がある。中には宝くじのくせに一位の入ってないものさえある。そのくせに、一回500円だと!?ふざけんな!

「・・しゅーちゃんもきょーちゃんも。祭り行こうよって言ってその返しはない!・・はぁ、理子、時々自分のことバカなんじゃないかって本当に思うよ」

先ほどまで少し顔を紅くしていたくせに、一気に真顔になる理子。あ、あれ?なんか今日がいままでで一番引かれてないか?
というかどうして自分なんだ?・・え、さっぱりわからん。

「あのねーしゅーちゃん!お祭りの時は、お金のことなんて一切気にしないものなんだよ!しゅーちゃんのセコさは知ってるけど、ここまでくると引く!」

「う、だ、だけどよ、俺今本当に金なくてだな・・」

「きょーちゃんからもらってるんじゃないの?」

「そうね。一応依頼を完了するたびに払ってるけど」

夾竹桃の言う通り、たしかに貰ってはいるのよ。
いるんだが、俺の手元に、金はないんだ。
ちなみにバスジャック事件の借金はきちんと理子が代わりに払ってくれているから問題ない。なので夾竹桃からの報酬は全てもらっている・・のだが

「じ、実はさ・・俺ここの病院抜け出しまくってるだろ?だから特別に半月分の入院費先払いでって言われた。・・・報酬、スッカラカン」

「「・・・・」」

つい先日言われ、問答無用のオーラを出した先生に、俺は抵抗することもできず(というより俺が悪いから文句も言えないのだ)、サインを書いた。後日きちんとお金は下されていたのだが、通帳を確認して度肝を抜いたものだ。入院費・・高っけ。

「本当に不幸ね。同情するわ」

「しゅーちゃんはどうしてそうお金の縁がないの・・?」

「俺が聞きたい」

がっくりと項垂れる俺に理子はうーんと、夾竹桃はため息をついた。しかしこれで理子もわかってくれるだろう。こいつはなんだかんだで優しい奴だからきっと俺のことも考えてー

「ね、しゅーちゃん。理子、お祭りに行ったらすっごく綺麗な浴衣着るよ!ちょーレアだよ!しゅーちゃんにしか見せたことないすっごい浴衣着てくるんだよ!」

「行きましょう」

「・・・。」

即答だった。夾竹桃の冷たい目線がキツイがそんなことは関係ない!理子の浴衣?みたいに決まってんだろこんちくしょう!あの理子だぞ?金髪の女の子の浴衣なんてレアじゃないか!素晴らしいじゃないか!なんだったらATMからお金引き出して理子にあげてもいいくらいさ!なんせ美人だし!

「・・しゅーちゃんってこれでも即答してくれるんだ」

「あったり前だのクラッカーだぞ。お前顔は良いはスタイルはいいわの完璧女子高生なんだぞ?そんな奴が浴衣着るなんてモデルかなんかと感違いーー」

「わ、わかった!わかったからそれ以上言わないで!」

理子は俺の褒め倒しに真っ赤になってブンブンと手を振り回した。
あれ?いつもの理子ならてっきりノッてくるかドヤると思ったんだが・・

「と、とにかくしゅーちゃんは決定ね!きょーちゃんはどうする?」

夾竹桃はすぐには答えず、筆を片手に少し考えると、こちらを向いた。

「・・ねえ岡崎、私の浴衣も見たい?」

「見たい」

これも即答だった。だって夾竹桃だぞ?和風美人の夾竹桃だぞ?それが浴衣なんて最高の合わせ技だろうが!!そりゃ見たいに決まってる!

「ちょっとしゅーちゃん・・そこに即答はどうかと思う・・」

「そう?私はうれしいけど?」

「・・・ちっ」

夾竹桃と理子がにらみ合っている。なぜだろう・・ちょっと険悪なムード?
俺が正直な事言ったのはそこまでのことなのか・・??



はっ!もしかして、どっちも褒めたからお互いに嫉妬とか?

・・あっはっは、んなバカな。
こいつらが俺に好意を持ってるなんてどんだけ頭イッってるてんだよ。
そこまで自分のこと高く評価なんてできないわ。


というか理子には告白以前にフラれてるし。


女として一人の男子に同じ褒められ方したのが気に食わなかったんだな。・・勉強になるなこれ。


「じゃあ私も参加するわ。いいわよね、理子?」

「・・うー!どんと来い!!じゃあしゅーちゃんもきょーちゃんも参加決定ね!」

そうして俺と夾竹桃、そして理子の三人で花火大会に行くことが決まった。・・おお!すごくないかコレ!?一年次にはここまでの役得がもらえるなんて思ってなかったぞ!?

最初は嫌だった祭りがいまは待ちきれないほど楽しみなっていることに自分で驚きつつ俺は笑った。

「でも原稿終わらなかったら、私と作業してもらうから。ちゃんと終わらせなさい」

「あ、はい」

この頃、夾竹桃がお母さんに見えてきたなんて、本人の前には言えなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある事件が急速に加速するのはその夜のことだった。

俺はその時間、二人が帰った後も夾竹桃の原稿を書き進めていた。手元の明かりをつけただ黙々と作業を進める。

作業もなかなか手馴れて、今では最初の半分ほどの時間で目的のものを書き上げることに成功していた。

だが、夾竹桃もそれを見越して、枚数をかなり増やしている。祭りに間に合うかはギリギリか。

こんなことで行けないなんてことになったら俺は一生後悔するだろう。なにせ金髪美少女と和風美人の浴衣デートもどきだぞ!?男として、これは頑張らなければいけない。

意気込みさらに書く速度を上げた、その時だった。

『お前が岡崎 修一で間違いないな』

「・・あ?」

俺以外誰もいないはずの俺の病室になぜか響く透き通ったきれいな女性声。不審に思いつつ辺りを見渡すが、誰もいる様子はない。そもそもこの時間はナース以外誰もいないはずだ。・・ならナースさんか。

「別にナースコール押してないですよ。それか間違って押しました、ごめんなさい」

どこにいるのかわからなかったのでとりあえずドア元を見てそう言った。もし間違えて押していたらとても迷惑だっただろう。しまったかな。

『・・ほう。あまり驚かないのだな。夾竹桃から聞いていたか?』

「あ?もしかしてそっちの人?・・『イ・ウー』だったか?」

夾竹桃の名前が出た瞬間、俺の中でその選択肢しか生まれなかった。おそらく『イ・ウー』の手先かなにかが俺のことを聞きつけて来たのだろう。・・手伝いすぎて、税金もどきでもせびりに来たか?なら今夜から逃亡劇の始まりだな。などと考えていると。

『なるほど。なかなか頭の回りは速いみたいだな。なら、私がここに来た意味はわかるか?』

「・・・げん・・」


俺の原稿の手伝い。


思わず願望を言おうとしてしまい抑える。それだとどんなに嬉しかったか。
二人でやれば完全に祭りに間に合う。・・だが、そんなわけはない。それは理解していた。
理子あたりから聞いてヘルプを頼みにきたか、もしくは本当に税金せびりか。
だが夾竹桃の名前が出たし、呼び捨てにしてたってことはおそらく夾竹桃と対等の立場のやつだろう。とすると手伝いが妥当か。・・だが、そう決めるにもヒントが少なすぎる。


「・・わからん、さっぱりだ」

『そうか。いやなに、ただ理子と夾竹桃が気に入る男子というものを見て見たくなったのだ』

「おいおい。それを推理しろってのは無理難題すぎるわ。お前Sかよ」

『・・S?Sとはなんだ?』

おう、こいつSMを知らなかったか。・・んー

「今度理子にでも聞いてみろ『ぜひ体験してみたい』とでもいえばすぐにでも教えてくれるさ」

『そうなのか?わかった。聞いてみよう』

かなり話がずれていることに全く気付いてない様子の声だけの奴。もしかしたらこいつは結構単純なのだろうか。結構簡単に話を反らせたぞ。

これからテキトーに話しながらこいつの正体でも暴いてみるか、理子みたいに。などと思っていると俺の携帯が震えた。・・おお。

俺の携帯が動作するなんて久々のことで大げさに反応してしまう。あ、いや、この頃は理子からよくわからんLINE(はよー♬やらおやすみーノシなど)が飛んでくるから正確に言うと理子以外からメールが送られてことが久々なんだ。

本当は来賓さんがいる中で携帯を弄るのはマナー違反だとは思うが、相手が見えない以上隠れてなんてできない。仕方なく内容を開いて確認してみる。


そして、


思わず、笑ってしまった


「・・・タイミング、ばっちしだな。」


頭の中で全てが繋がった。

俺は携帯から目を離し、ドア辺りに携帯画面を見せ、声をかけた。




送り主は


『遠山キンジ』


内容は


『今調べている内容』



つまり




「なあ、お前がここに書いてある『魔剣デュランダル』ってのなんだろ?星伽 白雪ってのを追ってるっていう」


キンジのメールの内容を簡単にまとめると、今2人は星伽白雪の護衛の任務に就いているらしい。理由は『魔剣 デュランダル』の狙う力を星伽が持っているからということだった。もしかすると理子の事件の黒幕の可能性もあるので厳重注意。とのことだった。

つまり

目の前のこいつが、黒幕の可能性ありってわけだ。



だが、これである程度の疑問がすっきりした。


「なるほどな。お前は星伽白雪を尾行してる最中に、理子と繋がりのある俺の病室に来たのを見たと。んで、その後から、理子が頻繁に俺の病室に行くから、自分の邪魔をしようとしてないか確認に来たってとこだろ?」


『・・ほう、本当に冴えてるようだ』

確かに魔剣側からしたら焦るだろうと思った。
星伽を尾行してすぐに昔の仲間がいたなら邪魔しないか心配になって確認したくなるのは当然だ。俺だってそうする。しかもあの敵に回すと面倒そうな理子だぞ。うわぁ・・。
それで理子より本当のことを言いやすそうな俺のところに来たと。


『その情報も理子からか?』

「いや、遠山キンジってやつだ。なんかお前狙ってるらしいぞ。キンジがってのはSランクのアリアも来るだろうしマズイだろうな」

『ああ、それは私も確認した。何度か神崎を無力化しようとはしてみたのだが、失敗している。今は離れているようだが、いつ来てもおかしくはない状況だ。・・しかし遠山キンジからそれを送られてくるということは私の考えは間違っていなかったのか』

どうやら魔剣側では俺がキンジと協力していることになっているようだ。

「バカ言え。俺の足は見た通り折れてんの。それを治療するために星伽のやつが理子に頼まれて来たってだけだ。なんなら夾竹桃にでも聞けばいいさ。あいつはそのあたりのこと知ってるし、お前も信用できるだろ?」

『・・・そうか』

コレが実際すべてだ。俺は星伽白雪のことを顔だけしか知らない。生徒会長として活動しているのを見たことがあるだけだ。さて、ここからどうしたもんかね。どうにかして理子との関係について知りたいところだけど。・・原稿作成とかに興味ないかな?

と策を考えていると

『貴様に聞くが・・理子のことをどう思っている?』

「は?」

突然魔剣から質問が飛んできた。・・もし仮にコイツが黒幕ならこの質問はつまり「手下の手下としてこき使う」という前振りか。だが、もし黒幕でないなら・・・。

俺は正直な気持ちを伝えた。


「わがまま」

『それだけか?』

「金を大事にしない」

『・・・そ、それだけか?』

「お菓子のゴミを捨てない、口悪い、時々アホみたいなこと言う、人をからかう・・」

考えると出るわ出るわ。入院中にほぼ毎来てて、ゴミを残していくあの金髪ギャル。夾竹桃にさんざん愚痴ったのにまだ出て来るとは・・俺って意外と根に持つタイプらしい。今ならこのまま10分は話せる。

そして、


『・・理子のこと嫌いなのか?』

俺の望んだ返答を返してきてくれた。


まるで心配したような声。そこに嘘は見えなかった。



・・なるほどね。



「アホ言え。俺の高校生活初めてのダチだぞ。ダメな部分があるからって嫌いになるかよ。言い換えれば一番親しいダチってことだ。あっちがどう思ってるかはわからんが、ま、悪友ってとこだろうな」

そう、いままであいつといた時間に『楽しくない』という気持ちは一回もなかった。あいつとの時間だけは無くしたくない。そう、心から思えた。

もちろん言葉には出せないが。恥ずいし。

『・・・。わかった。お前の言うことを信じよう岡崎』


コツコツと扉の方から足音が聞こえる。おそらく魔剣だろう。どうやら正体を明かしてくれるらしいな。さて、どんな女か・・あ、理子だったらどうしよ。さっきの悪口怒られてしまうかもな・・。このアホー!とか言って蹴り入れてきそう・・。

などと内心ビクビクしていると


そんな気持ちが一瞬で吹き飛んだ。



「ワーオ、ファンタスティック、ギンパツオネーサーン」



「・・どうしてカタコトになった?岡崎は帰国子女か?」


驚きました。そこには甲冑のコスプレをしていますがとても美人なお姉さんがいたのです。おそらくですが脳内年齢は勝ってるでしょうがおそらく年上です。俺の話し方がおかしくなるくらい、それほど綺麗な方でした。甲冑のコスプレしてるけど。

「・・どうした?」

「いや、なんでコスプレしてんの?と、質問していいのかどうか悩んでたんだ」

「コスプレ?コスプレとはなんだ?」


「オーマイガ、私服トシテ使ッテタノーネ!」


「さっきからなんだそのカタコトは?今の日本の流行りか?」

また銀髪天然が訳のわからないことを言っているなか、俺はわざとらしく両手を挙げる。この子、美人のくせに、外国特有の天然が入ってるな。理子といい夾竹桃といいこいつといい、『イ・ウー』って変人の集まりか?

そんなことを考えていることなど全くわかってない銀髪天然は自分の手を胸元に当て一礼してきた。

「挨拶が遅れたな。私はジャンヌ・ダルク。外での呼ばれ方は『魔剣 デュランダル』傍にある私の愛刀の名前だ」

銀髪天然もといジャンヌは手元の大剣を前に出してきた。ジャンヌ・ダルク?昔聞いたことあったような名前なんだが。昔の人物にいなかったか?・・あ、偽名か。

「おう、俺は岡崎修一。外での呼ばれ方は『最低ランクEランク』です。よろしく」

ペコリと一礼して、改めて考えた。ジャンヌは黒幕ではない。理子に人を殺させようとするやつが、俺が悪口を言っただけで心配するはずがない。
おそらく、その逆。ジャンヌと理子はかなり仲良しだ。

疑ってしまったことに少し罪悪感が沸いてしまう。

「で?お前はーー」

「ジャンヌでいい。理子たちからもそう呼ばれている」

「お、おう。じゃあジャンヌ、星伽をどうやって捕まえる予定なのか教えてくれよ。俺はこの通り動けないけど、少しなら力になれるかもしれん」

協力したい。素直にそう思った。まあ星伽の方に感謝の気持ちがないわけではないのだが、まあこいつならひどいことはしないだろうさ・・多分。

「わかった・・まずー」

ジャンヌも頷いてくれて、近くの椅子に座り話してくれた。





「ーー倉庫はもう確保している。あとは星伽をおびき寄せるためのメールアドレスと先ほどの遠山キンジ、神崎・H・アリアの対処を考えるだけだ。星伽とは1対1でやりたいからな」



「・・・へぇ」

『魔剣 デュランダル』としてのジャンヌのやり方は、前日にメールで果たし状を渡し、サシで対決するというものだった。
今回もそれを実行したいらしい。

星伽だけを倉庫呼び出して勝負し、
勝てば『イ・ウー』に連れていき、負ければ自分が捕まる。

・・悪くない。
武士道精神が出てる。・・ジャンヌは武士道って知らないかもしれないが。

聞いてさらに手伝いたくなった。

「作戦はわかったが・・難しいとこが残ったな」

「・・メールアドレスに関しては理子に頼もうと思っている。あいつの内容は信頼できる」

「そこはそれでいいと思うが・・問題はアリアだな」

「流石に私も、神崎を相手にするのは一苦労だ」

ジャンヌの言っているのは正直に言えば綺麗事だ。現実的に言えば、背後からや寝てる間に襲ってしまうのが一番手っ取り早い。勝負なんてして運悪く殺してしまうことだって無いとは言えないだろう。

だが、それでも対等な決闘をしようとするジャンヌには好感が持てる。・・犯罪に好感が持てるとか普通に言えてしまうってことは、俺の考え方もおかしくなったようだな。

「うっし。わかった。足がこんなんだからあまり長い間止められないだろうが、できる限りのことはやってやる」

「本当か!ありがとう!」

俺の言葉に本当に嬉しそうに手を握ってくるジャンヌ。素直な奴だなと思いつつ、対アリア用の作戦を2人で考えることにする。

「あ、その代わりコレ手伝って。あと金もくれ」

「こ、これは夾竹桃の原稿・・!?お前もやっていたのか」

「まあな。頼むわ」

「・・わかった。手伝おう」

どうやら手伝ったことがあるみたいだ。近くの筆を持ち、教えていないのにすらすらと書き始めた。夾竹桃すげえと思いながら終わりそうな原稿に満足する俺。


さて、こっから忙しくなるぞ。


ーーーーーーーーーー


「で?なんでしゅーちゃんが、星伽白雪のメールアドレス欲しがっちゃうわけ?ね?なんで?」

「だから俺の足を治療してくれたそのお礼を言いたいってさっきから言ってるだろ?何怒ってんだよ?」

「べっつにー??理子全然怒ってないよー?しゅーちゃんがどんな女の子とイチャイチャしてよーが、関係無いですよー」

そして祭当日の昼。昨日伝えた件について、理子が問いただしてきた。本当はジャンヌのためなのだが、俺の理由はおかしかっただろうか?

ジャンヌが聞くより俺がさっさと聞いた方が早いと思ったが、逆だったらしい。


「・・ほらしゅーちゃん、送っといたよメアド」

なぜか不機嫌な理子なのだが、ちゃんと調べておいてはくれたようだ。

携帯を開いて確認するとメールアドレスが書かれていた。・・なぜかその横にアカンベーしてるマークがついてるが、気にしないことにしよう。

「お、さんくす!よっしゃ!」

とりあえず第一段階は成功。あとはジャンヌがあのあと言っていた「キンジと2人きりの星伽にメールを送る」という部分だが。どうしたもんかね。キンジのメールによるとアリアとキンジの2人で守ってるらしいし、どうにかしてアリアを離さないと・・

「でもでも、星伽さん狙っても無理だと思うよしゅーちゃん。あの人キンジにゾッコンラブラブ♡なんだから」

「あ?キンジと?キンジって星伽と付き合ってるわけ?」

「んにゃ、んにゃ、付き合ってはないよ。ただ星伽さんが一方的にアタックしてるみたい」

へえ、キンジってモテるんだな。まあ確かに身長高いし顔も悪く無いし、モテない要素の方が少ないか。・・羨ましい。

「そんなことよりさ、しゅーちゃん!理子昨日ね、浴衣見に行ったんだー!」

「へー」

理子の話を小耳に聞きながら、俺はどうやるかを考えていた。さて、どうするか。アリアだけをここに呼び出すか?いやそれだと後から俺が疑われてしまうな。・・うーん

「ーーーで、すっごいえっちぃ浴衣買ったの!もうね、胸元すっごく開けててねー」

「その話詳しく!」

小耳なんて滅相もない。両耳で聞きますよもちろんです。男の子はそういう話を欲してるんです。理子が若干引きながらもその話を続けてくれた。


「ーーってことで、祭の時にしゅーちゃんが襲ってきてもこっちは全く問題ナッシングなわけであります!」





「そっか、祭りか」

敬礼している理子の横で、思わずつぶやく。そっか。




「なあ理子」

「どしたのしゅーちゃん?」

「祭さ、俺と夾竹桃以外にもう1人連れてきていいか?」

「いいけど?誰?キーくん?」

「いや、ジャンヌだ」

「え、ジャンヌって、もしかしてジャンヌ・ダルクのこと!?」

そうすればなにもかも解決だ。キンジと星伽に祭があることをうまく知らせられれば、きっと星伽は2人で行きたくなるだろう。そのまま行ってくれれば、ジャンヌが見つからないようにしつつ様子を見つつ、メールを送れる。

だが、俺がジャンヌのことを言うと、急に理子の目つきが変わった。

「おい、いつコンタクトされた?昨日の夜か?」

「お、おう。・・それがどうした?」

「・・・」

理子はそれだけ聞くと、考え事を始め、舌打ちする。

「星伽のメアド、ジャンヌに頼まれたんだろ?あいつが星伽を狙っているのは知ってる。変装に手貸したし」

「・・ま、そんなとこだ。お礼が言いたいってのも本当だけどな」

結局、バレてしまった。これなら最初から本当のことを言ったほうがよかったかもしれない。と思っていると

「はあ、わかったよしゅーちゃん。ジャンヌも参加ね。きょーちゃんにも伝えとくから」

「おう。頼むぜ」

「ちなみに、ジャンヌに他のこと頼まれてたりしない?例えばアリアと戦ってくれとか」

理子は頭のいいやつだ。やはりそこに感づいてきた。しかし

「いや、そんなことは言われてないな。俺が頼まれたのは 星伽のメアドとそれを送る状況を作ってくれ。ただそれだけだ」

本当のことは言わない方が良さそうだ。まあ実際アリアと正面切って闘うつもりはない。罠を揃えて影から無力化する予定だ。


「・・そっか。そっーかそっか!ごめんねしゅーちゃん変なこと聞いて!」

急にまたハイテンションに戻った理子は持っていたトッポを俺の元に渡して

「じゃ、しゅーちゃん今日の午後6時に病院の下にいてね!理子着替えに行ってくるよ!」

「おう、楽しみにしてるぞー」

「あーいあーいさー!!」

理子はそう言って出て行った。それを見送った後、ジャンヌに星伽のメアドと祭のことを話す。キンジと星伽の方はジャンヌに頼もう。

メールはすぐに返事がきて「了解した。6時に病院へ向かう」とだけ書いてあった。業務連絡かよ。

「あとは、祭を楽しむだけだな。・・理子のエロ浴衣、楽しみじゃのう・・ジュルリ」

鼻の下を伸ばしながら、俺は残り作業を開始した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある場所、とある通路にて


『おいジャンヌ。話がある』


『どうした理子?もう手伝いはしてくれないのではなかったか?』


『どうしたじゃない。なに勝手に修一とコンタクト取ってやがる。修一に今回の星伽の件手伝わせようとしてるだろうが』


『・・そのつもりだったのだが、ダメなのか?岡崎自身から協力すると言ってきたのだぞ?』


『ちっ、あのバカ男・・女ならすぐに助けようとしやがって・・ダメだ。修一をこれ以上私たちのことに首突っ込ませるな』


『なんだ?理子らしくないじゃないか。私はただ道具を借りたいと言っているだけだ。それだけでー』


『おいコラ!なに修一を道具扱いしてんだよ!爆破されたいのか!!』


『・・悪かった。だがどうしてそこまで本気で怒っているんだ?』


『修一の怪我見ただろ。あの状態でまだアリアと戦わせるのは絶対にさせない。もしさせようってんなら、いまから理子が相手になるよ』


『・・・、お前にとって、そこまでの男なのか岡崎修一は』



『あいつは理子の本当の理解者だ。もうあいつの苦しむ顔は、絶対に見たくない。だからー』



『わかった。そこまで言うなら、これ以上岡崎を使・・いや、岡崎に頼るのはやめよう。ただ、今日の祭りでの作戦は参加させるぞ。あれは岡崎のタイミングが大事だからな』


『・・それで、修一が傷つくことはないんだな?』


『ああ。ただメールを送るタイミングを聞くだけ。それだけだ』


『わかった。だけどもし修一が危険な目にあったら、作戦ぶち壊してでも止めるよ。いいね』



『問題ない』






(ここまで人の心を動かすか岡崎修一。今までの理子じゃないくらいイキイキしている。・・本当にすごい男だ、お前は)





 
 

 
後書き
あとがきですみません、今までで物語に関しての質問が寄せられたことが何度かあったのでまとめてみました。
このような感想もどしどし応募しておりますので、気軽に質問してくださいね!


(1)
 (質問) みず  さんより

  一年組に顔割れてるけど平気……なの?

 (返答)

 事件の内容として、修一は夾竹桃に脅されて仕方なく手伝ったとい
うことになっています。なので容疑としては無罪です。あかり達が 捕まえに来ることはないです。これから修一たちと一年組の関係がどうなっていくのかお楽しみに!


(3)
 (質問)ベルク@チョモランマ さんより 
  
  脳内麻薬(修一が壊れた時のこと)含めると近接限定ならAとSの 間くらいは有りそう……
  他の技能が壊滅的過ぎるのだろうか……
  タグの『何の才能もない』ってには首を捻るレベルの戦闘技能だと思うのですが……
  才能=遺伝とかそんな感じですか? 

 (返答)
 
  タグの「何も才能がない」とは、

  ①「何も才能がない」と岡崎修一自身が感じているということ

  ②『他人から見たEランク岡崎修一』のことを指しています。

  岡崎修一自身の性能に関しては指していないと解釈してください。

接近戦の実力は良いほうだとしています。中学大会良いとこいってますし。


みなさん、ありがとうございました!引き続き「サイカイのやり方」をよろしくお願いします! 

 

18.祭りも終わり、戦場へ…?

 
前書き
「17話のあらすじ」
対白雪戦に備え情報収集していたジャンヌが修一とコンタクトを取った。その武士道精神を気に入った修一はその手伝いを引き受ける。理子がなぜか不機嫌な中、作戦の一つを完了させるためジャンヌも加え、三人で祭りへと向かった。 

 
「ガッデム!Nooooooooo!!」

「だって理子ばれたくないし。しょうがないじゃん」

原稿をギリギリで書き終え、6時に病院の前で松葉杖片手に待っていると夾竹桃とジャンヌが現れた。夾竹桃は黒の浴衣に青い帯を巻いたおとなしい色の着物、ジャンヌは白髪と同じ白の着物に緑の帯をつけていた。

俺は思わず鼻血が出ないように鼻を抑えつつ、2人を凝視してしまっていた。そして、そこに後ろから声をかけられた。理子だ。

やばいやばいもう鼻血出る寸前なんですけど!?と思いながらも結局見たさに振り向いて、先ほどの一言だった。

ど、どうして理子が理子じゃないんだああああ!!

理子は倉庫で初めて会った時にしていた変装顔だった。顔は夾竹桃に似ているだろうか。とにかく、おとなしそうな、美人のお姉さん風の顔だった。それに合わせるように、浴衣もおとなしめの色。のくせに「おぃーっすみなさまー!」なんて言ってる。おとなしいのかはっちゃけたいのかどっちなんだこいつ。

確かに理子の言うことはもっともだ。この祭りは武偵高校の側で行われる。知り合いがたくさん来るだろう。今見られるのはマズイはずだ。

だが、だがな!!

「・・見たかった・・!理子の浴衣姿・・!!」

本気で落ち込む俺。だって次の祭りあったとしても7.8月だぞ!?2、3ヶ月先なんだぞ!?楽しみにしてたものをそこまで伸ばされた俺の気持ち理解してくださいよ!もう泣く!泣くから!!

「・・そんなに見たかったの?」

「うん」

素直にコクンと頷く俺。それを見た理子は頬をかきながら

「落ち込まないでよしゅーちゃん。浴衣くらい、いつでも見せに行くって、言ってくれれば!」

MJK(まじか)!?」

「まじまじ!」

うおお・・!理子様神様仏様!と思わず崇めようとしてしまった。危ない危ない。これは理子の場をしのぐ言葉のはずだが、俺は忘れんぞ!絶対に見てやるからな!

「・・夫婦漫才はもういいから。行きましょう?揃ったわよ」

夾竹桃がそう言う。俺はそちらに振り返り

「・・無茶苦茶似合ってるな夾竹桃」

「そ。ありがと」

そう、やはり想像していた通り、和風美人の夾竹桃は浴衣姿がどハマりすぎていた。思わず言葉が漏れてしまう。顔も俺のタイプだし、もう恋人になって欲しいくらいだ。しかもこの軽く返すところがまたイイ!!もうドハマり夾竹桃先生!!結婚してくれ!!

なんつってな。無理に決まってるっての。でも夢くらい見せろ。男だしいいだろうが。


「さってと!楽しもうねしゅーちゃん!」

「おう。金はとりあえず大丈夫だ!」


腕を絡めてきた変装理子に俺はドンと胸を張った。夾竹桃から先払いで報酬をもらったんだ。やっぱこいつ無茶苦茶優しい。おかげで祭を思いっきり楽しめそうだ。


なんて


その時の俺は、まだそんな流暢なことを考えていたんだ。

これからの悲劇を、まだ知らなかったから


ーーーーーーー

その地獄への扉は突然開かれた。

「岡崎岡崎!これはなんだ?」

「あ?ああ、それは わなげって言ってな。あのリングを投げて、目標にかけられればその景品が貰えるんだ」

「なるほど、面白そうだな」

祭会場についた俺たちは一つ一つ見て回ることにした。日本に来たばかりのジャンヌは別の場所に行くたびにこれはなんだとワクワクしながら聞いてくる。こいつ作戦忘れてないだろうな。

などと思っていた

その時、


「ジャンヌ!わなげやるんならみんなで勝負しようよ!負けた人は勝った人全員に飯奢り!」


これだ。


そう、これが事件の発端。俺の地獄の、始まりだった。


「ふ、いいだろう!俺はわなげが大の得意分野だ!0円で食べられるなら50円ほどの焼きそばでも美味しくいただく自信がある!」


だが、俺は潤った財布によって、金銭感覚がマヒしていた。
なぜかニヤリと笑う変装理子が、夾竹桃を誘う。

「・・ええ、いいわよ」

そしてなぜか夾竹桃も俺の方を見てそういった。ジャンヌも頷いていたので全員参加だ。なぜか3人の中で2人が無茶苦茶見てくるのだが、気のせいだろう。



そして




物語は冒頭(17話)に巻き戻る。

「・・・死ぬ」

俺は手元には福沢さんが一人。・・だがこの福沢さんもすぐにいなくなっていくだろう。アディオス福沢さん。


祭りを楽しむ人々が楽しそうに笑っている。

空にはすでに花火が上がっていた。
きれいな花火だが、今の俺の心には何も響かなかった。
ああ、空に変な色の変な火が飛んでる~などと適当なことまで考えてしまう。

・・俺の横を通った子供連れの母親が俺をチラッと見るが、俺の左足を見てすぐに別の方へと子供ごと視線を変える。松葉杖のことをいちいち聞かれても面倒なのでそれはいい。・・いいのだが、意外と目線を気にしちゃうよね。うん。俺完全に浮いてるしね。


「しゅーちゃーん!今度は射的しよーよー!!カケありで!」

先の方で俺を呼ぶ影が見える。それは俺にとって死を呼ぶ声と同じだ。体がビクッと震え、ゆっくりとそちらに歩き出す。行きたくないという気持ちをぐっと堪え、一歩、また一歩と進んでいく。・・まだ、やるのかよ。

「これは、どうするのだ?」

「ここを引いて、あとは狙いを定めるだけよ」

「そうか。やってみよう」

ジャンヌと夾竹桃の楽しそうな会話が聞こえた。楽しそうですねお二人さん。俺も楽しみたかったよ。などと愚痴をこぼすこともできず、変装理子が俺に銃を渡してくる。

「どれでもいいから落としたら勝ちだよ。今度は負けないように頑張ってねしゅーちゃん!」

「・・くっそ!わーったよお前ら!今度俺が買ったら三人ともおごれよ!焼きそば以外!!」

俺は勢いのまま銃を受け取ると、狙いを定めー







結果はご存知の通り。ベンチに座り、おいしそうに食べるお三方を見て肩を落とす。・・13連敗。すべてカケありで挑んだこの勝負。・・もうヤダ。帰ろうかな。



「しゅーちゃん、しゅーちゃん!」

「・・あ?あむ」

隣から差し出された焼きそばを見た瞬間に食べた。

・・うん、50円50円言ってごめんなさい焼きそば屋さんの人。無茶苦茶おいしいです。

食べた俺を見てふひぃとだらしなく笑う変装理子。おい、その顔でそれはあまりにギャップありすぎて萌えます。やめてください。

「しゅーちゃん負けてばっかで何も食べてないでしょー?もっと食べる?」

「食べる。よこせ」

「はい」

差し出される焼きそばをズルッと食べる。やっべ、うめえよ。無茶苦茶うめえよ・・。なんだよこれ、毎日食べたいよ。この食べ方でお願いします!

「・・じゃあ私のかき氷もあげるわ。抹茶好き?」

と思いながらすすっていると横から差し出されるスプーン。思いっきりかぶりついた。

「おお!抹茶って初めて食ったけどうまいな!抹茶好きかも、もっとくれ」

「はいはい・・くすっ」

「・・・ちっ」

至福だ。確かに焼きそばとかき氷の合わせ技はあまりおいしくない。・・ないが、あれだな。美少女からのあーんをしてもらえるとこうも美味いのか!ビバ!男の夢!楽しすぎる!このために今までのお金が必要なら払います。払いたいです!お願いします!

これで付き合ってくれていたりしたらもう最高で死ねるんだけどな。・・ああ、今日は夢を見まくってるな。無理なことが夢だからな。無理無理。

・・今日の夜に現実と見比べて泣くんですけどね。・・うん、最悪萌えアニメでも見て心を落ち着かせよう。現実との境目に生きよう。・・うん。



「・・日本とは買ってもらった相手に少し渡すのが礼儀なのか?では岡崎、これも食べるか?」


「うむ。そうだ、日本は基本もらったものは近くの男子に渡すのが礼儀だぞ。だからよこすのが基本だ、よこせ」


「「あげなくていいから」」


「ええ・・・」

ジャンヌがまた外人特有の天然を発揮した瞬間、乗ってみたのだが、二人が瞬時にジャンヌの差し出したわたあめを押し戻した。ええ、俺わたあめ好きなんだけど。

「おい、俺もわたあめくれよ」

「しゅーちゃんは貧乏なんだから定価50円の焼きそばを食べてればいいんだよ!!」

「くすくす・・だったら家で食べれるじゃない。今抹茶がおいしく感じたならこのまま抹茶を食べればいいのよ」

「・・おい夾竹桃?さっきからなに?」

「くす。私って、女の子同士なら邪魔しないのだけど、男女の仲ならとても邪魔したくなるみたい。自分でいま気づいたわ。」

「・・このッ!!」

なぜかにらみ始める二人。

理子よ、お前はそんなに50円の焼きそば食べさせたいのかよ。そんなに俺が言ったこと根に持ってるの?めんどくさいやつだな。というか怖いわ。

そっれに対してそれを邪魔する夾竹桃さん、もうマッジ天使!まじ奥さんにしたいタイプよ。愚痴も聞いてくれるし最高すぎるね。





「ああ!岡崎 修一!?それに夾竹桃!」


「ん?おお、小っこいアリアじゃん」

「間宮あかりだよ!」

いやそんな「児嶋だよ!」みたいに言われてもな・・

突然現れたのは浴衣姿の間宮と佐々木志乃、火野ライカ、あと眠らせた金髪のちっこいやつだった。たまたま祭りに来ていたようだ。あらら、ここで出会っちまうのかよ。と内心冷や汗をかく。

間宮ではなく

その後ろの金髪二人と、黒髪に。

「よ、よう火野ライカ・・だよな。体は大丈夫か?」

「ああ。まあ・・」

浴衣を着ているから怪我がどうなってるのかわからなかったが、どうやら大丈夫そうだ。よかったよかった。・・のか?

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」

「・・ちょい、その隣の子なんなの?」

火野に抱きついてこちらを睨みつけている少女がいる。密かにその後ろで黒髪女も睨んできているが。たしか、あの時眠らせた・・あー、名前聞いてなかったか・・キリン、だったか?

というか、むっちゃ警戒されてるんですけど・・だからオレEランクだってのに!お前にも勝てる気がしないんだよ!


「あら?間宮あかり、教室ぶりかしらね」

「夾竹桃・・来てたんだ」

あっちはあっちで盛り上がってるな。・・ただ、やっぱギスギスしちゃいますよね・・。そっちはそっちで出来る限り穏便に終わらせてくれよ?こっちもこっちで頑張るから、本気の命のやり取りするからさ!と思いながら火野の方に視線を向けると、黒髪女がいない。・・あ、今度は夾竹桃睨んでる。何がしたいんだあの女?

「ライカお姉さま!ここで合ったが百年目です!この男袋叩きにして海に沈めてやりましょう!」

「怖い事さらっと言うなよ・・目が本気なのがヤだな」

怖いよ。

金髪ちっこいのが俺に敵意むき出しでひどい事を言いやがった。やばいこれまじで海に行っちゃうの?俺抵抗とか無理よ?普通に沈められるよ?

「まて麒麟(きりん)。あの事件でのことはもういい。あたしが先輩をEランクだからって舐めた結果だ。・・・だけど先輩、聞きたいことがある」

「なんだよ?」

「どうしてあそこまで体術ができているのにEランクなんだ?先輩ならB・・いや、Aだって目指せるはずー」

俺は思わず吹き出す、あ?こいつほんとに何言ってるわけ?

「んなわけ、ありゃお前が接近戦でのみ来てくれたからだよ。あん時遠距離から銃でも撃たれてたらすぐに負けてたさ。Eランクらしくな」

嘘じゃない。遠距離から撃たれたら俺もどうしようもないからな。・・本当、なんでいままである程度の成果出せたのかね?不思議でならないわ。

「そう、なんですか。・・あの、じゃあその足治ったらもう一回組手、してもらえませんか?もう一度、先輩とヤりあってみたいんだ!」

「おいそこをカタカナにするな、変に聞こえちゃうから。恥ずかしくなるから」


R18指定じゃないんだここは!とメタ発言しつつ火野の言葉に頷く。

おそらく今密かに流れている「火野ライカが接近戦でEランクに負けた」っていう話を俺を倒すことでもみ消したいのだろう。

理子がそんなこと言ってたからな。火野としても面白くないだろうし、テキトーに人集めて、ボロボロに負けるとしよう。そうすればこいつも満足するだろうし。俺も楽になるし。

「わかった。この足が治ってからでいいか?そっちの方がお互いにいいだろ?」

足折れたEランク倒すと、あとでいろいろ言われちゃうだろうし。

「ああ!よろしく頼みます!!」

ぱあっと喜んで礼を言ってくる火野。いやいや僕も相手してくれるなんて嬉しい。・・うれしいってば。

なんだろうもうちょっとギスギスした雰囲気になるかと思ったけど、そんなことなかったね。

まあ

「ライカお姉さまが許しても、麒麟は絶対許しませんからね!いつかライカお姉さまに暴力振るったこと後悔させてやりますわよ!!」

若干一名ガチギレなんですけどね。

「あーその、お手柔らかに・・」

「フン!!」

ダメだ聞き耳持ってくれない。顔とか服が理子似だから仲良くしたかったんだけどなぁ。



「岡崎、あと二人も。もう行きましょ。私、嫌われてるみたいだし」

そう思っていると夾竹桃が立ち上がってこちらにやって来た。今までと変わらずの無表情・・じゃないな。ちょっと寂しそうだ。今まで一応一緒にいる時間が多かったからか、なんとなくわかってしまった。こいつユリ好きだもんな。こいつらのこと観察したかったのだろう。


「あれだけのことしたからなぁ・・しょうがないのかもな。ま、それも時間の問題だろ。あいつらが今度困ったときに一緒に解決してやろうぜ。そしたら、友達になれるさ」

「・・・別になんとも思ってないわ」

ちょっと下を向いた夾竹桃。お、意外とビンゴか?

俺は思わずニヤニヤしながら肩を叩いた。

「照れんなっての」

「毒盛るわよ」

「すんません」

一瞬で立場逆転。おねーさん、その右手の手袋とるのは反則ですわ。
そうして俺たちは一年組と別れた。はあ、後輩に好かれたい・・。

「岡崎。日本では祭りで知り合いに合うと決闘の申し込みをしないとダメなのか?」

「そーですそーです。ちゃんと日付と時間を確認の上、ご利用は計画的にね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


花火が打ちあがり始めて15分ほど経った。「たーまやーー!!」と叫びながら変装の顔に似合わず走り回る理子に合わせ「たーまYAAAAAAAAAA!!」と理子以上に楽しみつつ、俺はジャンヌに耳打ちする。

「・・・で?どうなんだよ星伽はいまどこにいるんだ?」

「どうやらかなり遅れてきているようだな。・・この時間なら花火終わってしまう」

「はあ、まじかよ」

遊んでばっかりでもしかして忘れているんじゃと心配になって聞いてみると、ジャンヌはスマホできちんと見ていたようだ。恐らくGPSだろう。・・花火に間に合わないということは・・

「もうここにはこない可能性が高いな。それか別の場所でなにかするとか」

「・・この花火が終わるまで15分音が止んでから止まるとすると・・この辺りだろうか」

ジャンヌがスマホでマップを開きマークした部分は海辺の道だった。まあ場所はどこでもいい。

「なら、俺たちも行こう。間近で見た方が送りやすいだろ?」

「そうだな。そうしよう」

俺は理子を呼んで移動することを伝えた。「えー!?最後まで見ないのーー!?」と駄々をこねていたが必死に頼むとようやく動いてくれた。め、めんどくさい。まあこれは俺の都合に付き合ってもらうんだから仕方ないか。
だが、夾竹桃は文句も言わずついてきてくれた。・・やっぱ夾竹桃いいなぁ。流石俺のタイプ。


そうして俺たちは海辺へとやって来た。
暗くなった海辺から見える光る橋が幻想的な景色を彩っている。
その横に見えるビルの証明もなかなかのもんだ。もしかしたらここで見る予定だったのかもしれない。
ここで花火を見るのもロマンチックで悪くないな。キンジすげー。遅れてこなければもっとよかったのに。

そう思いながら歩いていると、見つけた。キンジと星伽だ。俺たちはこそこそと隠れながら様子を見守る。

「やっぱり星伽白雪の件だったのね」

「ああ。この男が思った以上にやる男だったからな。お願いしたんだ」

「へえ、ジャンヌにそう言わせるなんて、すごいわよ岡崎」

「え?まじ?俺すごい??」

夾竹桃が二人を見ながらそう言った。
俺は思わず聞き返す。なんだろう、夾竹桃から褒められるのって普通に言われるのと違って無茶苦茶嬉しいんだよな。
建前でうまいとか言ってるわけじゃないから余計にだ。夾竹桃先生万歳!結婚してくれ!

「で、これからどーするのしゅーちゃん?2人がいい雰囲気になったら送るってことは・・キスシーン!?うっひょー!理子盛り上がりー!」

理子が騒がしいのでうるさいと文句を言いつつ

「キスシーンで送るのは悪くないな。リア充爆発しろって気持ちがスッキリしそうだ」

大いに同意した。星伽さん遠目から見てもかなり美人だわ。やば羨ましい。というか・・胸デカっ!?あれ見て落とされないキンジなんなの?ホモなの?

などと適当なことを考えつつよし邪魔してやろうという感情しか思っていなかった。俺ゲスいな。


だがいくら待っても2人で海を見てるだけでハグもキスもしない。
くそ、はよせぇ!はよせんかいコラ!

「なあ理子。いつになったらキスすんの?もう待てないんだけど」

と思っていると、キンジが近くの店に走って行った。花火を見ているようだ。なるほど、遅れちまったから小さい花火で代用しようってことか。まあ悪くないが・・それだとまだキスシーンは先になってしまう。

「くふ、あの2人どっちも奥手だからね〜。もしかしたらしないかも」

「おい岡崎。どうする?もう送るか?」

「どう思う夾竹桃?」

「・・あふ。もういいんじゃない、送っても」

「よし送れ」

「わかった」

まだ暗くなってすぐなのにあくびをするマイエンジェル(やっぱ可愛い!惚れそう!)の許可を得て、ジャンヌはメールを送った。というか夾竹桃全然興味なさそうだな。やっぱ百合だけなのか。

そしてメールを確認し、固まる星伽。どんなメールを送ったかはわからないが、明日決闘しようってことは伝えられたようだな。
あとは、明日のトラップを平賀のところに行って適当に・・ああそういやあいつ海外から戻ってきてんのかな。来てなかったらどーしよ。

「どうやら作戦成功のようだな」

「ん。明日は頑張ろうぜ。俺も今から準備するからさ」

明日はまたアリア戦だ。まあ今回は隠れて足止めするだけだから前よりは楽でいいんだが、もう嫌にもなってる。 どうしたもんかね。



「いや、それなのだが私1人で問題はない。神崎と遠山の処置も考えてある。岡崎の手伝いはここまでで大丈夫だ」

ジャンヌは即答でそう言ってきた。あり?そうなの?別にいらないの俺?
それから聞いた話だとどうやら様々な罠をジャンヌが設置しているらしい。足止めは確かにいらなそうなくらい前準備が完璧だった。

「まあお前がいらないってんなら俺も行かないけど、本当に大丈夫なのか?漢字読める?倉庫までの行き先わかる?」

「・・?漢字も読めるし、行き先も大丈夫だぞ?どうしてそんなことを聞くんだ?」

いやあんさん祭りのこと何も知らなかったでしょうが、とツッコミたかったが、やめた。本人が大丈夫って言うならそっちも大丈夫なんだろ。多分。

「何もしないのならもう帰らない?私、深夜アニメのために仮眠を取りたいのだけど」

俺の横で目をこすりながら言う夾竹桃(え、なにそれまじ可愛1000%なんですけど!)の言葉に同意して、俺たちは海辺から去って行った。

その後にいいシーンになったということは、チラッとまた見ていた夾竹桃しか知る者はいなかったという。

ーーーーーーーーー

「ところでよ、星伽って強いのか?見た目からしてあんまり強そうには見えなかったけど・・?」

ジャンヌが残りの作業をすると別れて、俺たち3人は帰路につく。
またよくわからんアニメの話をしだす理子、それに乗る夾竹桃の2人をチラッと見ながら気になったことを聞いた。

「無茶苦茶強いよー!星伽候天流の剣術の達人でー戦闘能力はバッリバリに強いよ!」

変装を解いた理子が話し始める。
内容をまとめると星伽は超能力捜査研究科(SSR)のトップらしく、実力はアリアと引けを取らないそうだ。それだけでもマジかよと顔が青ざめてしまう俺なのだが、そもそもSSRについての情報自体あまり知らない。確か超能力を使える可能性のある生徒を管理するだったか。ということは星伽がトップなら、星伽が超能力ってのが使えるってことか。
などと思っていると、理子が説明の締めくくりに、こんなことを言った。

「ーーという感じ、あ、そうそう!前に銃弾を切って避けてたとこも見た人いるんだって!」

「・・いま、なんて?」

「え?だから《《刀で銃弾を切れる》》って・・」

「・・・へえ」

ートクン

一度大きく心臓が音を立てたような感覚が襲う。

弾を切る

それは俺がいま最もやりたいこと、最も獲得したい技術だ。

弾さえ弾ければ、俺の得意な接近戦に持ち込める。いままで負けてきた奴らにも勝てる。そう思うとゾクッとした。

そして、その星伽が明日戦うんだ。『イ・ウー』の剣士、ジャンヌと。ジャンヌも相当な剣の達人だろう。そんな2人の対決を知って、見ないなんて選択肢、俺にはない。

・・無いのだが

「しゅーちゃん、明日は絶対に病室にいないとダメだからね。理子と一緒にお留守番。変なこと考えない」

ジト目で俺に牽制球を投げる理子氏。やりおる。

「わ、わーってるよ。ジャンヌは来るなって断られたしな。行かない行かない」

理子の頭を撫でながらそう言うと満足そうに笑う理子。

「うん、素直なしゅーちゃんは楽でいいね!もうそんな足で危険なとこ行かないでちょ」

「あーいあい。わかってますってば、全て理子さんの言う通りに」

この前の理子の泣き顔がフラッシュバックした。こいつの泣き顔はもう見たくないし、そんな感情出させたくもない。

「あら、じゃあ明日は岡崎空いてるの?じゃあ原稿の残り頼んでもいいかしら?私も近くでやるし。どう?」

眠そうにしていた夾竹桃が、そう言ってきた。確かにジャンヌの依頼がなくなった以上、俺としてもすることはないし。いいだろう。

「わかった。んじゃ、原稿持って来てくれ。あ、報酬は高めで頼むぞ」

「はいはい」

そうして俺たちはそれぞれの家に解散となった。俺はその帰り道の中、また明日のことを考えてしまう。

「刀で弾を切る奴VS『イ・ウー』の剣の達人戦・・か」

ゾクゾクと体を痺れさせるような衝動に駆られてしまう。やはりどうしてもみたくなるのは仕方ないのか。俺の性格じゃ、見ずに終わらせるってのはダメみたいだ。

それからこそっと病室に戻った俺は明日の準備を密かに始めた。理子があれだけ止めに来たんだ。明日も来る。ということは、準備の時間すらあまりもらえないはずだ。今のうちにできる限りの準備を終わらせとこ。

《持ち物

のびーる君 2号 【ターザンできる】

小型銃 【6発】

冷却弾 【水を凍らせる】




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『ね、夾竹桃』

『なに?』

『修一、明日のジャンヌと星伽の対戦、見たがってたよね』

『そうね』

『うん。でもさ、理子的に危ない場所には近づいて欲しくないんだよね。だから明日はアドシアードに誘おっかなって・・・昨日まで、思ってたんだ』

『・・それで?』

『そう、思ってたんだけどね、修一に見たいものを見せないで、理子のワガママだけ聞いてもらうのも、なんか変かなって思っちゃったんだ。
ほら、夾竹桃もだけど祭りにわざわざ付き合ってくれたじゃん?』

『・・まあ、岡崎は結局楽しんでたし、なんとも思ってないとは思うけど』

『・・どうするのが一番いいのか、分かんなくなっちゃった』

『私に判断はできないわ。どっちも良いところと悪いところがあるじゃない、だったら最終的に決めるのは理子と岡崎』

『・・うん、それもそーだよね・・・。・・・・。』




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アドシアード当日の朝。理子はすぐにやって来た。

まあ予想通りだ。本当は昨日の疲れで休んでてくれた方が移動しやすいが、こいつにそんなことあるわけないか。ないな。ただ

「ね、理子ほぼ毎日来てるけど、ウザく、ない?」

「あ?別に、お前の顔目の保養になるしな」

「なにそれ」

「いいから。変に考えずに暇なら来い」

「あ・・うん」

流石の理子でもそう思う時があるのかと少し驚いたが、本音を返すと嬉しそうにコクンと頷く。正直本当にウザく感じたことはないし、正直暇な時間を無くしてくれる理子には感謝してんだ。邪魔とは思えないな。
ただ
今日はもう少し遅く来てもよかったのに。

どうにかして理子の目を盗んで行かねば。まだ作戦時間には余裕があるが、早めに出て問題は無いだろう。

そう思いながらも、理子のアドシアードの話を聞いているとガラガラと扉の開く音が、

「邪魔するわよ」

夾竹桃だった。原稿を持ってきたらしい。またこのメンツかよ。と心の中でツッコミつつ、招き入れる。

右側に夾竹桃、左側に理子が座り、机での残り作業。せっせと書いている夾竹桃と、お菓子を食べながら携帯をいじる理子を見て俺はため息をついた。

「たくお前らな。こんな日まで律儀に俺のとこ来てんじゃねーよ。今日アドシアードだぞ?軽い模擬店とかあるんだし、楽しんできたらいいものを」

そう、今日はアドシアードという文化祭のようなものが武偵高校で開催されているんだ。普通の学生なら行くはずなのに。こいつら・・。

こいつらはアホみたいに顔がいい。自己紹介のときにモデルさんだよと言っても簡単に信じれるほどに美人だ。なのにそんな奴らが外にも出ずにこんな狭い病室で男1人とだなんてもったいない。・・あり?俺改めて考えるとすげー役得なんじゃ?

などと考えヘラヘラ笑っていると

「何度も言っているけど、私、騒がしいところ嫌いなの。祭りなんて昨日だけで十分よ」

「理子は知り合いに会いたくないしねー!今は隠れる所存であります!」

2人ともそれぞれの意見で行かない意思を表す。本当にもったいないなこいつら、高校時代に青春しとかなきゃもったいないぞ!・・あ、俺もか。

「そ・れ・に〜、理子はしゅーちゃんと一緒にいる時間が、一番好きなんだよ〜♬」

「・・やめい。本気にしちまうだろうが」

理子の冗談を華麗に避ける、ことは出来なかったのでちょっと照れながら理子も巻き込み原稿の作業を始めた。こいつの冗談は本当に洒落にならんて。録音して何度でも聞きたいくらいだわ。・・テープレコーダー買っとこう。あ、金ないんだった。



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(・・・そろそろ、かな)


しばらく、無言で筆を使っていた俺は外の景色を見てそう思う。ちょっと体がそわそわと動いてしまっている。理子と夾竹桃には伝えていなかったが、あの決闘が始まるのはあと10分後。俺は胸が高鳴っていた。


そう、ジャンヌVS星伽白雪だ。
昨日散々理子に止められたが、やはり見に行きたいものは見に行きたいのだ。ちょろっとだけ見学したい。だが、

「ふんふふーん♬ほーい夾竹桃できた!もう終わっていいでしょ?」

「そうね、あと3枚お願い」

「ええー!?もう理子疲れたー!」

この2人、いや理子が行かせてはくれないか。さて、どうする。準備は昨日の夜に終わらせているが、理子を外に連れ出して隙を見て逃げるか?いや、こいつからこの足で逃げること自体無理ゲーだ。



「んー、理子お腹すいた!アドシアードの模擬店で何か買ってくるよ!しゅーちゃんは昨日のいっぱいお金使ったから理子奢る!何がいい?」

そんな、《《まるで自分から出て行くようなこと》》を理子自身から言ってきた。・・・?

「まじか、じゃあたこ焼きにお好み焼き、あと焼きそば」

「焼きそばは50円だから食べたくないんじゃなかったの?」

「・・意外と美味しかったのあれ。また食べたいです」

「そっか。わかった。夾竹桃はどうする?ついでだし買ってくるよ?」

「そうね。じゃあ私も焼きそば」

「あ、焼きそばなんだ。わかった!理子ひとっ走り行ってくる!あ、しゅーちゃん!絶対に抜け出したりしないでよ!」

「わーってるって」



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「・・なあ夾竹桃さん」

「なに?」

「今の理子、すげー不自然だよな」

作戦のことを忘れているわけはない。だが理子は出て行った。俺の多めに頼んだことにもスルーしていた。まさか理子本当に気づいてない?んなわけ。

「・・そうね」

「これって、行ってこいって意味なのかな?」

「さあ、あの子もあの子なりに色々と考えてるんでしょうけど」

夾竹桃は筆を置いてふうと一息ついた。

「で、どうするの?行くの?」

「あったりまえだろ。すげー試合があるのに行かないほうがおかしいね」

「今度は本当に理子に殺されちゃうかもね」

「うぐ・・それは、後から考える。行こうぜ夾竹桃」

「・・私も行くの?」

「俺がもし転けた時とかに誰もいなかったら面倒だろうが。ほら、行くぞ」

「私、あなたの見たいものに興味ないのだけれど」

「うだうだ言うなって、ほれほれ」

「・・はあ、わかったわ」

意外と押しに弱かった夾竹桃は俺の着替えも手伝ってくれた。や、やべ、変なこと考えるけどもし夾竹桃と結婚とかしてたら朝の出勤時にスーツとか着させてくれるってこんな感じなのかな。・・う、羨ましい!死ぬほど羨ましいぞこら!

「ほら、早く袖通して」

「あ、はい」

そう思っていると学生服を持った夾竹桃に急かされてしまった。ああ、幸福だこれ。

夾竹桃の手伝いもあってすぐに準備を終えた俺たちは、松葉杖をつく俺をフォローしてくれる夾竹桃と共に戦場へと向かった。理子にはすまんと思うが、後でお菓子奢るから許してくれよ。






『・・はあ、バカ修一。あとで説教確定』





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ジャンヌが決戦の地に選んだのはまた倉庫だった。

なんなんだよ『イ・ウー』のやつらは倉庫が好きなのそうなの?などと思いながら、入り口付近に誰もいないのを確認した後侵入、しばらく夾竹桃を先頭に進んでいるとなにか金属が擦れるような音がしたから聞こえてきた。

「下からすごく大きな水の音が聞こえるわ。・・洪水?」

「洪水ってなんだよ。んなわけ。ここ倉庫だぞ」

夾竹桃がよくわからないことを言っているが俺は構わず進んだ。なんだよ下は洪水って・・なぞなぞ?

それから進んでいると下への階段を見つけた。その先から先ほどの金属の擦れる音が聞こえる。

「この先だな」

「・・確認しておくけど、見るだけよ。アリアがジャンヌの邪魔をしても介入してはダメ。理子からそこだけは言われてるから」

「・・へーい」

今ので理子が完全にこのことを知っていることが分かったのだが、あえて言う気はない。あいつが知らない訳もないとは思っていたけどな。

下の階に降りると、スプリンクラーが作動していた・・のだが、振っていたのは水ではなく、雪だった。思わず驚いて周りを見渡す。部屋一面がまるで冷凍倉庫のように凍っていた。

「ジャンヌね。あの子の超能力は周囲を凍らせるの」

「へえ、あいつ超能力使えたんだな」

そもそも超能力自体見た事ないのでなんとも言えないが。今はそんなこと問題じゃない。それよりも急がなければ、金属音が鳴っているということはあの戦闘はすでに始まっている!



『私の忌み名、本当の名前は緋色の巫女、すなわち緋巫女!!』


近くから声が聞こえた。どうやら会場についたようだ。俺は夾竹桃の手を借りて近くの四角い備蓄庫のような入れ物の上に乗り上げた。すぐ近くにアリアとキンジが前方を見ているのを確認した。本当に離すことに成功してるようだ。

そして、見た。

初めて俺の病室にやって来た時のコスプレ恰好のジャンヌと巫女の服を来た白雪が刀と大剣を混じり合わせているその、光景を。

まだ始まってあまり時間が経っていないようだ。お互いバリバリに動いている。
右に振り下ろされた星伽の刀を振り上げた瞬間に察知したように体を動かすジャンヌ。
さらにそのままくるりと回って片手で持った大剣を横なぶりに振るう。
しかしそれすらも読んでいる星伽も体を動かす。お互いに二手三手先を読み行動するのが接近戦の戦い方だが、こいつらは十手も二十手も読んで攻防を繰り返している。
やはりジャンヌも『イ・ウー』の一員だと実感した。それほどまでに二人の戦いは、一般人の理解をはるかに超えた、想像以上の戦い方だった。

竜攘虎搏(りゅうじょうこはく) その言葉の意味を本当に理解できる。


「・・すげぇ」

「そうね。理子の言っていた『弾丸を切った』というのもあながち嘘でもないかも」

夾竹桃が隣でふむんと納得している。夾竹桃も二人の対決に見入っているようだ。



俺はその対決をまるで初めておもちゃを見た子供のような感覚で見ていた。

ただじっと、何も考えずその決闘を見る。速すぎて追いつけない部分が多い中、それでも食らいついて見る。・・・3分は持った。そのまま3分は見ていた。


それからはなにか、俺自身も、自分の行動をうまく説明できない。


ただ、先ほどの例えは比喩ではなく、そのままの意味だったようだ。


初めて見たおもちゃを見たら、子供(おれ)は黙って見ていられるわけがなかった。
ただ無性に、触ってみたい、手で触れてみたい、そして、



自分で、どの程度扱えるのかを、確かめてみたく感じるのだ。





ーープツン





脳の中で何かが切れた。

そう、久しぶりにきたこの感覚、もともとこの気持ちをもう一度味わいたくて来たと言っても過言ではなかった。

ただ、やはりこれまで以上の感覚だった。

俺の中で、爆発的にワクワクしたような感覚が湧き出て来る。


「なかなか白熱しているようね。星伽も予想以上みたいだし、確かに見る価値あるかもね岡崎・・岡崎?」


夾竹桃が話しかけて来る。・・だが、俺はこの時それすら聞いていなかった。いや、聞いている余裕がなかった、

早くしないと、終わってしまう。


俺は右腕に着けた包帯、そして左足についた邪魔なギプスなどを無造作に取り外していく。何重にも巻かれたものを煩わしそうに取っていき、ようやくすべて外すと持っていた松葉杖を一個だけ取り軽く振る。

そしてまだ続いている二人の戦いを見て・・・思わず

「・・・はっ」

笑った。これ以上待てない。


『しゅーちゃん、明日は絶対に病室にいないとダメだからね。理子と一緒にお留守番。変なこと考えない』

昨日言われた言葉。クラクラしている俺の頭の中に、するっと入ってきた。飛び出そうとした俺の体を止める。

「・・・・理子」

キンッ!

俺の耳に金属音が、両者それぞれの気合の入った声が、地面が擦れる音が、俺を再び、あの快楽へと、誘った。


「おれぇ、やっぱちょっと行ってくるわ。お前アリア達な。こっちに来させんなよ」

「行ってくるって・・あ」

戸惑っている夾竹桃を置いて、俺は両足を曲げ、グッと力を込め





飛び出した







「・・・・あっははははは!!やっぱ見に来てせーいかいだった!俺もまーぜーて!」




 

 

20 そして、本当の友人を確かめる

 
前書き
「19話のあらすじ」
自分の欲だけを優先し暴れ、気づいた時にはもう遅かった。
何故か自分を助けてくれる夾竹桃の肩を借りて倉庫から抜け出す。
修一の心は荒んでいく… 

 
ズルズルと、ゆっくりと進んでいた。武偵高まであと15分ほどだろうか。

夕方のオレンジの光を受けながら人の通らない路地裏のような場所を俺は歩いている。夾竹桃の肩を借りて、ただゆっくりと、歩いていた。

「ねえ、もう少し力入れて歩いてくれないかしら。貴方かなり重いのだけど」

「・・・・」

俺は顔を伏せ、ただ引きずられるように歩いていた。だが、そんなことも気にする余裕もなく、俺は後悔の念に襲われている。
俺はもう、どうなってもよかった。

友人を裏切る。その行為を始めてしてしまった感覚はあまりにも苦しくて、辛かった。
急に吐き気が襲ってきたり、目の前が真っ暗にもなった。
それほどまでに、俺にとって彼らは掛け替えのない宝だったのだと失ってから気づいた。

一年の頃の俺にとって、本当の友達などいなかった。
あるのはEランクへの差別と暴言。
知りもしない、見たことすらない生徒から見下される日々。
なにもしていないはずなのにくすくすと笑われる毎日。
あのころの俺の心はズタボロだった。
毎日毎日、常に誰かに見下され、笑われ、怪我ですら馬鹿にされてしまう。そんな毎日。

だからこそ、友人はいらないと。友人なんかできないと思っていた一年。もちろん、俺に友人などいるわけがなかった。

しかし二年次の始業式当日、俺は初めての友人ができた。

峰理子。あいつは俺の力を試すためにやって来たのだが、それでも友達になってくれた。

素直に嬉しかった。初めての友達という響きに心が嬉しくなって踊った。武偵殺しだと分かった後でも、その気持ちは変わらなかった。

そして、アリアとも友達になることができた。
その時の俺はSランク武偵のことが嫌いだった。才能がある者というだけで嫌な気分になっていた俺は、才能がある人間とは友達にはなれないとそう思っていた。しかしそんな俺にできたSランクの友人。正直悪い気持ちはしなかった。アリアが身分を気にしない性格だったからだろう。アリアと友人になれたことが素直に嬉しかったんだ。

次に、夾竹桃。
俺のタイプドストライクなどといつもふざけて思っていたが、本当に魅力的な女性だと思う。最初は俺に重労働をさせ自分は優雅に暮らすようなダメ女などと思っていたが、それだけで人は判断できないと分かった。なんだかんだと言いながら、結局は人の心配をするような優しい奴だとわかってから夾竹桃の良さをもっと知ることができた。
それからも俺はその性格が好きで何度も夾竹桃を訪れた。毎回行くたびに一言文句を言われてしまうが、愚痴を最後まで聞いてくれるいい奴で、いつの間にか一緒にいることが多くなっていった。

ジャンヌだってそうだ。突然現れたと思えば、変なことをすぐに言い出すような面白いやつだった。Eランクの俺なんかにも気兼ねなく接してくれて、俺としても本当に嬉しかったんだ。

星伽だってそうだ。俺なんかのためにわざわざ病室まで来て手当してくれるような、優しい奴だった。

皆、俺なんかを友達と思ってくれていて、俺も大切な友達だと思っていた。

それが、


今はもう、


存在しない。


ジャンヌと敵対してしまったことで、『イ・ウー』そのものと敵対した言ってもいいだろう。つまり、今隣にいる夾竹桃とも、理子とも敵対してしまったことになるし、星伽にはもう会わせる顔がない。
アリアやキンジとだって敵対してしまった。これでは


俺にまた


一人ぼっちでの生活が訪れる。

ゾクッと寒気が襲った。いやだ!と心の中で叫ぶ。

だがそれは自分の手で、自分の行いで壊してしまったものだ。

一年からずっと欲しかった。欲しくて欲しくて堪らなかったものを、

ただの感情一つで、

全部壊してしまったせいなんだ。

「・・俺、どこで間違えたんだろう」

そう言ってしまう自分がそこにいた。あの対戦をただ見てればよかった。そこが間違い?・・それも間違いだろうがまだ違う。対火野ライカ戦、アリア戦で変に自信をつけてしまったのが間違い?・・それも間違いだ。ならーー

散々過去を振り返り、全てを間違いだと否定し始めてしまう。俺は全てを間違っていた。そう認識し始めようとしたーーその時、






「別に、なにも間違ったことはしていないと思うわよ」





夾竹桃の言葉が、すっと体に染み渡った。



「・・・え?」

俺は思わず顔を上げて夾竹桃を見てしまう。夾竹桃はただ前を向いて俺に伝えてきた。

「人間だもの。自分を優先してしまう時なんて沢山あるわ。もちろん友人よりなんてことも沢山。生きてる以上、自分を可愛がらない人なんていない。安心しなさい、あなたがやったことは最低とまで言われるほど、人間離れした行動じゃないわ」

俺が夾竹桃に巻いている手をギュッと握ってくれる夾竹桃。その対応は、どう見ても、俺を嫌った行動ではなかった。

俺は溢れ出しかける感情に違うと強く言いつけつつ、夾竹桃に伝えた。

「・・なん、で?・・俺は、ジャンヌと敵対、したんだぞ・・?どうして、俺を励ますような言い方を・・」

「さあ、なんでかしら。私にも分からない。あの時普通ならジャンヌに加勢しているはずだって私も思うけど」

そう言うと夾竹桃は、俺の目を見て、ハッキリと伝えてくれた。


「どうしても、貴方の方を手伝いたくなったの。ジャンヌと敵対しようとも、遠山キンジやアリアと戦おうとも、貴方と同じ『友人に迷惑かけても自分の欲求を満たしたかった』。私もそうなのだから、岡崎がそこまで悩むこともないと思うわ。


だから、元気だして?」



そう言って夕日をバックに笑う夾竹桃の顔は、二度と忘れることはないだろう。それほどまでに美しく、俺の心にぐっと突き刺さった。下唇を噛んで、顔の皮膚に力を込める。

先ほどまで漏れ出しかけていた感情が漏れ始めた。


「じゃあ、俺と、まだ、友人として、接してくれるのか?」

「そうね。原稿の手伝いをさせてあげるくらいはしてあげる、他は・・あなたがお金を払うなら考えてあげてもいいわ」



俺にも

まだ

友人が、いる。



それだけで、冷たくなっていた心に温かさが戻ってくるように感じる。
喉元にぐっと何か沸き立つような、息がしにくくなるほどに嬉しかった。

次々と漏れ出す感情に身体が耐えきれなくなっていた。目頭が熱くなり顔の皮膚が小刻みに揺れる。



「ほら、分かったらちゃんと歩いて。私1人であなたの体重は支えきれないから」

「・・ぐす・・ああ、分かった」

「なに?泣いてるの?」

「ば、バッカ!泣いてねえよ!」

俺はイカれた左足の方を夾竹桃に任せ、もう片方の足で自力で歩くことにした。人は、信頼できる友人がいるだけで、こうも変わるのかと始めて感じた。


信頼できる友人。その言葉が今の俺には本当に嬉しかった。失ったと思っていたものがまだ残ってくれたこの感情。胸の内が暖かくなるのを感じた。


「ありがとな、夾竹桃。あと、悪かった。お前までこんなに傷を負わせて」

夾竹桃のセーラ服もかなりボロボロになっていた。ところどころ切り傷が見える。俺のために、夾竹桃は身体を張ってくれたんだということが、とても嬉しかった。

「別にいいわよ、これくらい。『イ・ウー』のときはもっと酷い怪我もしてたから。気にしなくていいわ」

そう言ってくれる夾竹桃の優しさに、俺は心が暖かくなった。こんなにもいい友人がいるだろうか。俺は本当に幸運なやつだろう。

そして、俺たちは武偵高校に到着した。裏から入ったため他の生徒にはまだ気づかれていない。まだ時間的にアドシアードの片付けの最中だろう。このまま隠れて行けば誰にも会わずに男子寮に帰ることができる。
こんな姿、誰にも見せるわけにはいかないからな。病院まではここから少し距離がある。
都会の中を通らなければならないし、まずは自室で応急手当をするつもりだ。

夾竹桃の手を借りて俺たちは少しずつ進んでいく。

「でもね、岡崎」

進みながら突然夾竹桃が話し始めた。

「岡崎自身が解決しても、まだダメ。やるべきことが残ってる」

「やるべき、こと?」

俺は夾竹桃の言いたい意味が理解できずに、ただ首を傾げた。

「でもそれは、私が言える立場じゃないの。私自身、出来ていないことだからーーー」

俺たちはあの男子寮側のベンチまでたどり着く。そこには、



「だから、最適な人に後はお願いすることしたから」



1人の、金髪ギャルが立っていた。




ーーーーーーーーーー

夾竹桃は、俺をベンチに下ろすと「疲れたから帰るわ。後はよろしくね」とだけ言って帰って行ってしまった。俺の隣には、金髪ギャルが落ち着いた様子で座っていた。

「・・よ、よう、理子」

「やっほ。しゅーちゃん」

理子は俺のあいさつにきちんと返してくれた。それにほっと安堵する。横から吹く風の音が、とても大きく聞こえた。

夾竹桃はああ言ってくれたが、理子もそうだとは限らない。祭りで見た感じジャンヌとはかなり仲良しのようだし、もしかしたらこれで理子との関係も最後かもしれない。

そう思うと、無性に寂しさを感じた。

「しゅーちゃん」

そう思っていると、理子から話しかけてきた。俺は戸惑いながらも返事を返す。

「しゅーちゃんさ、いまどんな気持ち?」

いきなりの質問にさらに戸惑ってしまう。やっぱり、見ていたのか。

「どんな気持ちって・・やっぱり後悔してるよ。今回のことでアリアとキンジ、星伽にジャンヌに理子、大切な友人を一気に失っちまったからな」

俺の中で、まだ渦巻く後悔。それはもやもやと俺の中に漂っていた。楽しかったあの時間を思い出して、もう二度と戻らないと思うと途端に胸が苦しくなる。
楽しかった思い出が、全て夢だったかのように・・。

「・・そっかぁ。まあジャンヌを裏切って、足を治療してくれた星伽さんに攻撃して、説得したキンジに相反する行動して、アリアにも敵対するようなことしちゃったもんね」

「・・・」

自分でも全く同じようなことを感じていたが、やはり人に言われると辛くなるな。やはり理子も怒っているようだ。

「あれ?しゅーちゃんヘコんじゃった?」

「い、いや、本当のことだし、その、通りだし・・うん」

笑う理子から顔をそらす。こいつ・・何が言いたい?

「そ、れ、と理子も怒ってるんだからね〜ぷんぷんがおー!」

両手を頭に乗せてツノのようにする理子。ふざけているように見えるが、違う、理子は本気で怒っている。

「・・ああ、ジャンヌのことだろ。それはもうわかってーー」

「違う。そんなことはどうでもいい」

理子は即答で俺の考えを否定した。え、どういうことだ?てっきりジャンヌを裏切ったから仲間として怒ってたんじゃない、のか?

「理子が一番怒ってるのは、理子の言うことを聞かなかったことだよ。『絶対に病室にいないとダメだからね。理子と一緒にお留守番。変なこと考えない』ってこと聞いてくれなかったでしょ。だからこんなにまた怪我を悪化させて・・」

俺の左足を見て、苦い顔をする理子。・・俺はその言葉に驚いた。理子が怒っているのは、ジャンヌのためじゃなく、俺のためだったことに。

「・・理子、お前ー」

「ね、しゅーちゃん」

理子は立ち上がると両手を大きく広げた。俺は、ただ、じっと理子を見つめる。くるりと回って、俺の前に立つ。


「さっき言ってたよね、友達がいなくなるのが辛いって」

「・・ああ」

友達が欲しかった。一年からただ罵倒され続けた過去。もうあの頃には戻りたくない。

理子が一歩、俺に近づく

「信頼できる人がいなくなるのが嫌だって」

「・・ああ」

せっかくできた、喉から手が出るほど欲しかったものが、一気になくなる不安、それだけが俺の中に溢れる。もうイヤなんだ。

理子がまた一歩、俺に近づく

「1人は、イヤなんだよね」

「・・イヤだ」

俺は頷いた。もうプライドなんて必要ない。俺はただ、信頼できる友達が、Eランクの俺でも、こんな俺でも気兼ねなく接してくれるようなそんな友人が。でも、それを今の失った。だからー

そして、また一歩、かなりの近距離で見つめ合う。

「くふ、修一が今考えてることわかるよ」




理子は俺の方ほうに両手を伸ばすと




俺の顔をギュッと抱きしめてきた。


俺は驚いて思わず身を離そうとしたが、それより強く、理子は抱きしめてくれた。


そして



「でもね修一、だいじょうぶ。
他の人たちが修一のことを悪く言って、修一から離れていっても、理子は、


理子は修一の味方だよ。


みんなが修一のことを嫌いって言ってたとしても、悪口を言ってきたとしても、理子は信頼して一緒にいてあげる。どうしたの?って聞いてあげる。だから、安心していいんだよ?

修一に信頼できる人がいなくなるなんてことないんだから。

失敗したってだいじょうぶ。一緒にどうして失敗したのか考えようよ。2人なら、きっといい案が生まれるから」



理子の言葉が、俺の中で反復する


俺は、理子の胸の中で、感情が高まるのを感じた。先ほどから抑えていた感情が溢れ出す。

うまく息ができなくなり、口元が震える。それは、止められるはずもなく、涙となって俺の目から次々と溢れ出した。

そしてそれは目だけでなく口からも漏れだし始めた。

「・・りこ、おれ、し、失敗した、失敗しちまったんだっ・・ぅ!」

「うん」

「・・・ほんとはっ!ただ、見るだけのつもりだったんだ!っでも、見てるうちに、感情が、っ、溢れて!頭真っ白になって!」

「うん、うん」

俺は男らしさなど捨てて、ただ、自分の隠していた感情を爆発させてしまう。

理子の制服が俺の涙で濡れていくのも、理子は全く気にせずにさらに強く抱きしめてくれた。

「だからっ!気づいた時に後悔したんだっ!俺は、なんてことしたんだって!だから、だからっ!」

「辛かったねしゅーちゃん。いいよ。今は理子しか見てないから、思うだけ泣いちゃおう」

俺は大声を上げて泣いた。大人気なく、プライドも恥じらいも捨て、全てをさらけ出して泣いた。




ーーーーーーーーーー





「落ち着いた?」

「・・・ああ」

しばらく泣き続け、頭を撫でられ続けて、ようやく落ち着いた。理子の胸から離れ、涙を袖で拭いた。

「サンキューな理子。本当に助かった。あと、その・・このことは誰にも言わないでくれると」

「うん。いう訳ないじゃん。理子だって泣きついたんだしさ」

「そうやそんなこともあったか」

俺はベンチに身体を預け、空を見上げる。これだけ泣いたのは久しぶりだ。しかも女子の前で。しかも頭まで撫でられて。途端に恥ずかしくなってしまった。男として情けないな、俺。女子かよ。

「ね、しゅーちゃん。これだけ泣いたらさ、次やることわかったんじゃない?」

「え?」

先ほどの自分を恥ずかしがっていると、胸元の濡れた理子が笑いながらこちらを向く。

やること?・・なんだ?

首をかしげる俺に理子は、はぁと息をはいた。

「もー、しゅーちゃん。こんなに泣いてまで失いたくなかったのはなに?」

「え?ゆ、友人?」

「そうでしょ! じゃあそんなに大切にしていたものを、簡単に諦めちゃうの?」

「え、それってつまり・・」

理子はくるくると回って俺の隣に座った。そして

俺のするべきことを、一緒に考えてくれる。

「そう!しゅーちゃん

ごめんなさいって、みんなに、謝りに行こう!

やってしまったことはもうどうしようもないけど、謝らないと前にも進めないよ!いえーい!」


俺は目をパチクリさせてしまう。え、謝りって、あいつらに?

「む、無理だって。あいつらに合わせる顔ねーよ」

あの現場を無茶苦茶にして、ただ逃げてしまったんだ。あいつらの怒る顔が目に浮かぶ。またあいつらに会うなんて・・

「もー!無理って言葉使うなって言われたんでしょ!しっかりしてよしゅーちゃん!」

「・・・あ」


『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!』


俺は忘れていた。そうだ。もともと俺は、その言葉でこの2年生を続ける気になったんだった。俺を変えた言葉を忘れてしまっているなんて・・。そういや、それを言われたのもこのベンチだったか。スゲーなこの場所。

「そう、だったな。・・・よし行くか、謝りに」


「うん!もちろん全員が許してくれるとは限らないけど、理子も一緒に行くからさ」


「・・ああ、ありがとう。本当に、ありがとな、理子」

「・・くふ、しゅーちゃん、キャラが違うよ?しゅーちゃんなら『ついて来い理子!俺たちの戦いはこれからだ!』とか引くようなセリフを恥ずかしげもなく言うんじゃない?」

「・・ばっか。そっちのほうが俺らしくねーよ」

俺たちはお互いに笑い合った。



俺はもう、後悔はしていない。


これからのために、後悔をしている暇などない。




「よっし!まずはその足を治療するところからだね!一旦しゅーちゃんの部屋に入って応急手当したら病室行こう!」

「ああ、わかった」

俺は肩を貸してくれる理子と、先ほどまで一緒にいてくれた夾竹桃に感謝していた。病室で俺の右に夾竹桃、左に理子がいたあの空間を思い出す。またこのメンツかよと言ったが、実際あの空間は不思議と心地よかった。あのときはまだその意味を理解できていなかったが、今なら理解できる。この二人だからこそ、そう思えたのだ。
二人がいなければ、俺はまだ後悔の中を彷徨っていただろう。

二人の励ましがあったからこそ俺はこうして前を向ける。

俺はそう思いながらこれから自分がしなければならないことを改めて考え直した。






もう、感情には、負けない  負けたくない




【第6章 「VS感情」 終】