非日常なスクールライフ


 

キャラ紹介 第1弾 及び 初期設定

 
前書き
ども、波羅です!
今回はオリ小説を書いてみます!
初めてですが頑張ります!

自分のもう1つの小説も少しずつは進めていきます。

このページだけは更新式です。
変更点、足りない情報、新しい情報はすぐに補充されていきます。こまめにチェックすると、何かが変わってるかもしれません(ニッコリ。 

 
キャラ
 主人公
三浦(みうら) 晴登(はると) 1ー1ー30
 性別 男
 年齢 12歳~
 容姿 黒髪のショート、整ってはいる顔
 性格 そこそこ明るい
    軽度のコミュ障

 補足 一軒家で両親と妹と4人暮らし。
    自分の部屋がある。
    家庭的な一面もある。



 幼馴染み
春風(はるかぜ) 莉奈(りな) 1ー1ー26
 性別 女
 年齢 12歳~
 容姿 茶髪のふわっとしたショート、整っている顔
 性格 元気な女の子
    それなりに気が強い

 補足 晴登の家の隣に住む。
    晴登とは仲が良い。
    晴登とは保育園よりも前から交流はあった。



 友達
鳴守(なるかみ) 大地(だいち) 1ー1ー22
 性別 男
 年齢 12歳~
 容姿 ボサボサの黒髪、モテる顔ではある
 性格 超明るい
    フレンドリー
    アホで子供っぽい
    意外と天然

 補足 学校の勉強は出来る。
    だが日常ではどこか抜けてる。
    運動神経抜群。
    方向音痴。
    晴登とは仲が良い。
    晴登と莉奈とは小学校からの友達。



戸辺(とべ) 優菜(ゆうな) 1ー2ー18
 性別 女
 年齢 12歳~
 容姿 茶髪のロング、可愛い顔
 性格 誰にでも好かれる優等生

 補足 誰とでも仲が良い。
    頭が良く、運動神経抜群。
    それら以外についても結構万能。
    梨奈が一番仲が良い。
    中学校で皆と知り合う。



 晴登の妹
三浦 智乃(ちの)
 性別 女
 年齢 10歳~
 容姿 黒髪のポニーテール、可愛い顔
 性格 面倒見がよい
    ブラコン

 補足 晴登の隣の部屋。
    家事全般できる。
    家と同じ地区の小学校に通う。
    晴登が大好き過ぎるブラコン。





舞台 
 日城(ひじょう)中学校
・広大な敷地、というか広大過ぎる敷地を持つ学校。
・中々歴史がある。
・全く有名では無い。
・3階建ての校舎が主に3つ。その他あり。
 (それぞれの名称は、北校舎、中央校舎、南校舎)
・3学年4クラスずつある。1クラス大体30人。



時期
 20××年4月~


 
 

 
後書き
 注意
※中学生らしくない大人びた言葉などもあると思いますが、そこら辺は流して見てください。

※時期、日付は都合よく改竄します(日曜日がたくさんあるかも)。

※漢数字と算用数字が混ざっています。意味は無いと思うので気にしないで下さい。初歩的ミスです。気づくのが遅れ、修正が面倒なので放置しています。

※モブキャラを多用します(クラスメート等)。

※非日常かつ非現実的です(多分)。

注意書きはこれくらいです。この注意書きも更新式でいきましょうかね。

オリキャラはあと数名欲しいですね。必要最小限の情報と共に。

更新が早いか遅いかは気分次第ですが、是非とも読んで下さい! 

 

第0話  序章

 
前書き
今回は序章として書いていきます。
短く書くつもりです。 

 
日城中学校。

それはごく普通の地域にある、何のへんてつも無い普通の学校。

まだ小さい中学生が、義務教育がために来る場所。

だが、この学校では、普通の中学生が送ることの出来た「日常」は送れない。

送ることが出来るのは『非日常』なのだ。



今日、この学校では入学式が行われる。新しい中学一年生が入学してくる日だ。

ついこの前まで背負っていたランドセルは何処にいったのやら、慣れない手提げ鞄を持ってやって来る中1。

未だに小学生気分でいるのだろう。

期待の念が手にとる様にわかる。

しかし此処は他の学校、いや、校門を出たすぐそことも、違う次元にあるのだ。

この学校は入学するまで、その奇怪さには気づけない。

そして、入学すればその奇怪さが普通となる。

なんとも矛盾が多いこの学校に、何の疑いも無く入学する新入生。

あぁ今日から新たな生活、人生が始まる、とでも思っているのだろう。

だがきっと、この学校に入学した者は、今まで過ごしてきた世界と別の世界に移った気分となるのだ。



さぁ、新たな物語が幕を開ける。


 
 

 
後書き
なんか自分の書き方自体に矛盾がありそうだ…。
まぁ、それは気にせず書いていきましょうか!

次回からよろしくお願いします! 

 

第1話  始まりの朝

 
前書き
今回から始動です! 

 
ここは何処だろう? 見たことの無い景色だ。
見渡す限り広がる草原、そして雲一つ無い晴天の下、俺は立っていた。そよ風が俺の頬を撫でる。
何故かはわからない。気がついたら立っていた。


『お兄ちゃん!』
『…!』


後ろから声が聞こえた。俺のことをこう呼ぶのは一人だけだ。


『智乃…』
『ヘヘッ』


無邪気に笑う姿はまだ子供だ。それよりも気になることがある。


『なぁ智乃、ここは何処だ?』
『さあ何処でしょう?』


質問したのに、し返されてしまう。


『もったいぶらずに教えてくれよ?』
『私を鬼ごっこで捕まえたら、教えてあげるよ』


何でそうなるんだろう。
訳のわからないまま、俺はその鬼ごっこに興じることにした。



『それじゃあ逃げるよ。鬼さん、捕まえてね』
『おう』


正直小学生の妹に負けるほど、足は遅くない。すぐに捕まえて、ここが何処か教えてもらおう。


『…え?』


さぁ走りだそうとしたその時、俺の視界には奇妙な光景が映った。なんと智乃数十人、数百人というレベルで草原中に居るのだ。これではどれを捕まえればいいのかわからない。
いや待て、それよりもまずなぜ智乃がこんなにも居るのだ? それこそおかしいだろう。
俺は夢か幻でも見ているのだろうか?


『『『お兄ちゃん、早く捕まえなよ』』』


智乃の声が何重にも重なって聴こえてくる。さすがの事態に、俺は恐怖を感じた。


『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。


俺は耳を塞いだ。が、それでも聴こえてくる。


『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。


待て、やめてくれ。これは俺の知ってる智乃じゃない。智乃の姿をした物体だ。


『く、来るな…』


鬼ごっこだった筈なのに、なぜか智乃達がこちらに向かってくる。


『やめろ、来るな!』


俺は必死に叫んだ。だがその声が聞こえるのは、そこら中に居る智乃だけだろう。


『お兄ちゃん』
『う、うぁ、うぁぁぁぁ!!』


もう我慢の限界だった。妹に向かって兄は発狂した。


『お兄ちゃん』
『う、あぅ…』


智乃が名前を読んでくる。俺はうめくことしかできない。


『お兄ちゃん』
『ごめんなさい…』


もう俺は必死に謝っていた。すると次の瞬間・・・


「お兄ちゃん!!!」
「はいっ!・・・ってあれ?」


急に智乃の声が大きくなったことにびっくりした俺は飛び起き、周りを確認した。
するとすぐ隣に、心配そうにこちらを見る智乃の姿があった。
…ん?『飛び起きた』? そう、俺の体はベッドに横たわっていたのだ。




















――――――――――――――――――――

「もうホントにびっくりしたよ、お兄ちゃん」
「わ、悪ぃ」


朝食を食べ終えた二人は会話をしていた。俺は中学校へ行く準備をしている。


「仕方ないだろ、変な夢見てたんだからよ」
「どんな夢?」
「お前がたくさん出てくる夢だよ」


夢の内容について聞かれた俺は、そう答えた。
すると、智乃は堂々と答え返してきた。


「それのどこが悪夢なのよ!」
「いや、普通に怖かったんだって!」


まさかそんな事を言ってくるとは…。まぁ兄がそんな夢を見たんだから、傷つくわな。


「もう。今日中学の入学式でしょ? その夢見た後だから、事故でも遭ったら怒るからね」
「縁起が悪いしな。特にお前」
「そうよ!」


変なことを気にするな、こいつは。もっと普通の心配はできないのかよ。

そうこうしている内に時間は過ぎ・・・



ピンポーン



玄関のチャイムが鳴った。相手を確認した智乃は俺を呼んだ。


「お兄ちゃーん、莉奈ちゃん来たよ!」


莉奈、とは俺の幼馴染みのことだ。
おっと、それよりもうそんな時間か。
莉奈とは今日、一緒に行くという約束をしていた。


「おはよう」
「おはよー」


玄関の扉を開け挨拶した俺に、気の抜けた挨拶を返してきた。
彼女とは、保育園からの付き合いである。家も隣で今でもよく遊ぶ。


「悪い、ちょっと待ってくれないか? まだ準備が終わってないんだ」
「じゃあ玄関で待ってるねー」
「えっ!?」


予想外の答えに俺は一瞬戸惑う。


「普通、待ってもらうならそれくらい無いと」


それもそうだな。
莉奈の発言に納得した俺は急いで準備を進めた。










「おまたせ」
「じゃあ智乃ちゃん、行ってくるね」


俺が準備を終え、慣れない制服を着て、靴を履きながらそう言うと、莉奈はまるで自分の妹かのように、智乃に言った。実際仲は良いからな。


「行ってらっしゃーい!」


智乃も智乃で元気だな。完全に莉奈と気が合う。こっちの方が姉妹みたいでそれっぽい。

それにしても、中学生ともなると家を出るのが、小学生の頃に比べ早くなったな。まだ智乃は制服さえ着てないんだし。


「行ってきまーす!」
「行ってきます」


少し恥ずかしいが、俺も行ってきますとは言っておいた。

さて、いつもと違う新しい通学路を歩くのは新鮮な気分だ。
これは新しい生活のスタートだな。




















――――――――――――――――――――
「ひょっとして晴登ってさ、『急に目の前の曲がり角から少女が飛び出してきてぶつかった』っていうシチュエーション好き?」
「誰がそんな漫画みたいなこと期待してるって?」
「怒らない、怒らない」


不意に言ってきた莉奈の言葉に、俺は怒りの念を込めた言葉で返す。
第一、何でそんな事を聞くんだよ。


「いやー、そこにうってつけの曲がり角があるんだよねー」


俺の心を読んだかのように、莉奈は言った。確かに目の前には『うってつけの曲がり角』がある。見通しが悪く、少女の前に車が出てきそうだ。


「もしそんなシチュエーションになったら、自販で何か奢ってやるよ」
「言ったねー?」


莉奈をからかうつもりで賭けをした。漫画みたいな展開が現実(リアル)で起こるわけがない。俺はそう思っていたから。

だが、偶然とは起こるもので・・・


「「ぐはっ!!」」


曲がり角を曲がった瞬間、晴登は誰かとぶつかった。
背は俺より少し高く、見たことのある顔・・・あれ、大地!?


「いってーな…」


頭を擦りながら起き上がろうとする大地に、先に立ち上がった俺が声を掛ける。


「大丈夫か? 大地」
「おう…って晴登? それに莉奈ちゃんも」
「おっはー」


ようやく大地は俺たちに気づいたようだ。安心の表情を浮かべ始めた。


「良かったー、道に迷ってたんだよ」


ああそういうことか。俺は納得した。
こいつはかなりの方向音痴らしい。だから学校の場所が頭の中で狂ったんだろう。
成績は良いのに何故だろうか?


「じゃあ大地も一緒に行こ?」


俺が言おうとした言葉を、莉奈が先取りして言った。


「そうさせてもらうわ…」


大地は間髪入れずに答えた。さすがに道に迷うから、仕方のないよな。

ちなみに大地とは小学校からの付き合いで、3人で遊んだ時間も結構ある。つまり俺ら全員は仲がいいのだ。


「あ、晴登、あそこの自販でお茶買ってきて」
「は!? 大地は男だから、ノーカンだろ!」


またも不意に莉奈が、俺にそう言ってきた。でも、莉奈が言った通りのシチュエーションにはなってないから数えられないと、俺は伝える。


「なになに、何の話?」


大地が話に割り込んでくる。頼むから話をややこしくするのだけはやめてくれよ。


「別に女子だけとは言ってないよ。同性愛だって今時あるんだから」
「アホか!!」


莉奈が言ってることは、もはや屁理屈になり始めた。
まだ12歳なんだぞ、俺らは。異性をすっ飛ばして同性愛だなんて…話が飛躍し過ぎだよ。


「ったく晴登、そういうのは勘弁してくれ」
「変な解釈をせんでいい!」


やっぱ理解力は秀でてんな、こいつ。
つか俺が思ったそばから、話を曲げやがった。


「何でもいいから、早く買ってきてー」


莉奈が駄々をこねる子供のように言ってきた。…子供だしな。


「ちっ、わかったよ」


俺は結局根負けして、買いに行くことにした。これ以上争ってもめんどくさい。
でも、決して同性愛を認めた訳では無いぞ。










「プハーッ、旨いわー!」
「お茶一杯で大袈裟だっつーの」


まだ入学式までは時間があるが、さすがにほっこりし過ぎだろ。


「なな晴登、俺にも何か買ってきてよ?」
「やだよ」


本気なのか、からかってなのか、大地がそう言ってきた。
勿論答えはNOだけど。


「いーじゃんケチ」
「これはケチなのか?」


最終的にケチ扱いされてしまう。俺は何も悪くないんだけどな…。










「ねぇ晴登。また曲がり角あるけど」


俺たちが歩みを再開させると、莉奈がそう言った。この辺はまだ住宅街だから、同じような地形が続いてんだな。


「もう賭けはしないでおくよ」


莉奈の心を読み、俺はそう言った。


「えーつまんない」


頬を膨らませてこちらに何かを訴えかけてくる莉奈。でも次も誰か友達とぶつかるかもしれないし、それで賭けが成立されたらたまったもんじゃない。

・・・ぶつかるのが嫌なので俺は曲がり角の先を、先に見ることにした。
二人より先に行き、曲がり角から顔を出して覗くと・・・


「きゃっ!?」
「えっ!? うわ、ごめんなさい!」


なんとまた人が居たのだ。しかも女子で同い年ぐらいの。見たことはない。
ギリギリ寸止めくらいで向かい合う状態となったが、俺が驚いて急いで後ろに下がった為に尻餅をついてしまう。


「どうしたの!?」


俺が急に大声をあげたのに驚いたのか、後ろから莉奈が走ってくる。大地も続いて来た。


「いや、この人とぶつかりそうになって…」


俺はそう説明する。多分俺が悪いな。


「すいません、怪我は無かったですか?!」


ぶつかりそうになった少女が焦るように声を掛けてきた。


「いや、大丈夫ですよ」
「もー注意してよね。ごめんね、こいつがドジで」
「誰がドジだよ」


俺が答えたのを、莉奈が茶化してくる。元はといえばお前が賭けを始めようとするからだと思うんだが…。


「いえ、怪我が無いのであれば良かったです。では失礼します」


するとその子はそう言い残し、足早に去っていった。何処に行くのか少し気になるが、さすがに追いかけることはしなかった。


「あの子可愛いね」
「お前はどういう目で初対面の人を見てんだよ」
「え、普通だろ」


大地の発言に対し俺が注意をするが、普通だろと言い返されてしまう。普通なのか…?
もうどうでもいいや。




















なんだかんだで、あと横断歩道を渡れば、学校に着く距離となっていた。


「なんか長い道のりだった…」
「1km位でへばんなよ」
「そうよ。だらしないね」


愚痴を吐く俺に、大地と莉奈が当然のように言ってきた。
いや、疲れるのは仕方ないと思うんだが? 莉奈のせいでめっちゃ疲れたわ…。
もう入学式サボって、家に帰りたい…。


「お、着いたな」


あれこれ俺が考えてる内に、もう校門の前まで着いてしまった。
もう行くっきゃないよな…。


「うわー、噂通り雰囲気あるね」


莉奈が言った。
この学校のことはこの地域以外の人は知らないけど、逆に言えばこの地域の人には噂が伝わるんだよね。不思議な学校、だとか、怪談が多い、とか。…普通だな。


「小学校とは大違いだ」


今度は大地が言った。実際の物は確かになにかしらのオーラを感じる。
でも怪談屋敷みたいな恐怖感は無かった。
なんか摩訶不思議・・・的な感じ。例えるなら魔法学校である。


「おはようございます」
「「「!?」」」


不意に後ろから挨拶が聞こえてきた。それに驚いた俺たちは、反射的に後ろを振り向く。
そこには、まだまだ若いというイメージの、少し年を取っている先生らしき人が立っていた。


「ああ、驚かせてすまない」


男の人は謝ってくる。


「いや、すいません。俺らも驚きすぎました」


俺が代表して謝り返した。
その際、男の人の顔をよく見てみると、とても優しそうな顔つきをしていた。


「あの、あなたは…?」


大地が男の人に名前を聞く。


「私は此処の先生だ。山本と云う」


山本の自己紹介に、会釈で返す。


「それより君たちどうしたの?」
「えっ?」


山本が意味深な事を言ってきたので、晴登たちは意味がわからなかった。何か間違った事をしたっけ?
入学式の日が違うのか、とも思ったが日付は今日で間違いない。


「君たち1時間以上来るのが早いよ?」
「「「えっ!!?」」」


俺たち3人は揃って驚いた。

時間が違う!? 遅れるよりは早い方が良かったけど、それでも何故だ? しかも3人共…。


「大方、通常の登校時間に合わせて来たんだろ?」
「はい…」


その通りだ。まさか通常と入学式の集合時間が違うなんて。道理で周りに人一人いない訳だ。


「どうするよ?」
「一度帰って出直すか? 往復30分位だから大丈夫だろ」
「あと1時間もあるしね。」

「あぁその必要は無いよ」

「「「えっ?」」」


俺たちが帰ろうかという案を出している途中、山本がそれを止めてきた。その言葉に俺らは疑問を持つ。


「折角早く来たなら、学校中を巡ってみたらどうだい? 私が案内するよ」


山本がそう提案してきた。なるほど、良い案だ。
この理由には俺ら3人共納得した。なんかラッキーだな。


「「「ありがとうございます!」」」
「危ない場所には行かないからね。安心してくれ」


山本は俺たちの性格なら安全に案内できると思ったのだろう。何にしてもホント好都合だ。周りの人たちより早く、この不思議な学校に入れるんだ。
俺は期待の目で山本を見ていた。

だが俺ら3人はこの時、『危ない場所』という言葉を聞き逃していた。この中学校に危ない場所があるということを…。


「改めて、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!!」」


俺に合わせ、2人ももう一度山本に礼をする。


「さぁ行こうか」
「「「はい!!」」」


ようやく俺たちは、日城中学校へと足を踏み入れた。




 
 

 
後書き
あまりにも長くなりそうだったので、分けてしまいました。てか、まだまだ日常ですね~。次回も…まだ変わらないですかね、はい。

という訳で今回はここまでです。次回もよろしくお願いします! 

 

第2話  学校案内

 
前書き
まだ入学式に行けそうにない…。 

 
俺たちはこの学校の先生と名乗る山本に、学校の案内をしてもらうことになった。今はまだ校門から入ってすぐそこにいる。


「うわぁー、楽しみだー!」


大地が子供みたいにはしゃいで言う。実際子供だけど。


「ねぇねぇ晴登、グラウンドめっちゃ広いよ!」


ここにもはしゃいでいる奴がいた。
この2人はもう少し中学生という自覚を持たないと。心が小学生のまま変わっちゃいない。


「君たちはまだまだ子供だね」


山本も微笑みながら、俺の考えと同じような事を言った。
ったく、こいつらには進歩が必要なんだよ。


「いーじゃないですか。ちょっとはしゃいじゃっても」
「お前、一応案内されてる身だからな」


頭は良いのに脳みそがてんで餓鬼なんだよな、大地は。そして莉奈はわがままお嬢様、ってとこか。
何でまともなのが俺なんだよ。


「ねぇ……えっと君たちの名前は? まだ聞いていなかったね」


山本が、名前を呼ぼうとしたが名前がわからない、といった様な感じでそう言ってきた。初対面あるあるかな。
ということで、俺→大地→莉奈の順で自己紹介をした。


「うん覚えた。宜しくね、晴登君、大地君、莉奈ちゃん」


山本が名前を確認するように復唱した。

そういえば、初対面の人の名前って一回じゃ覚えられない時ってあるよね…。この人はちゃんと覚えるんだ。俺はあんまり覚えない方だから…。


「さて、何処から見る?」
「グラウンド!」


話が変わり、山本が発した問いに大地が即答する。


「そこに見えるまんまだけど…」


その答えにはさすがに山本も困っていた。何せ今右側を見るとグラウンドが広がっている。
実物が既に見えてるので、山本の中で説明する事が少なくなったのだろう。


「まぁいいか、簡単な説明をしよう。このグラウンドは学校の手前に位置しているんだ。広さは…通常の中学校のグラウンドの4倍はあるかな」
「そんなに!?」


グラウンドの広さを聞いた俺は、声を出して驚いた。普通の中学校の4倍って…。敷地の広さはどうなってんだよ、この学校。
改めて見回せば、確かに小学校のグラウンドとは比べ物にならない。


「…とまぁ、広さ位しか説明できないけど?」
「いや、十分です!」


山本が困ったように言ったが、大地はそれでも喜んだようだ。
こいつは多分、ただただグラウンドの広さに驚いただけだろうな…。










「晴登君は行きたい所は無いかな?」

場面がグラウンドの近くから校門の近くへと戻ってきた頃、山本が俺に対して訊いてきた。


「俺は特に…。あ、秘密の場所的なとこはありますか?」


俺は思ったことを言ってみたのだが、その直後、しまった!と思った。
後ろから視線を感じ、恐る恐る振り向くと・・・。
大地と莉奈にすげぇ睨まれていた。その眼は「散々人を子供扱いしといて何言ってんだ」と訴えてきていた。
はい、俺も子供でした…。


「ふむ。よし、じゃあこっちに来てくれたまえ」
「?」


山本は俺たちをよく見て、少し考える仕草をしたかと思うと、俺たちを何処かへと率い始めた。
俺たちはただ山本に連れられ、校舎の裏の方角へ向かう。本当に秘密基地があるのだろうか?




















山本に付いて歩いていくと、小さな森に入った。
木々は手入れをされていないのか、青々と生い茂っており、木陰を作って太陽光を遮っていた。お陰で春だというのに、暗くて肌寒い。


「此処なんかどうだい?」
「え?」
「これは…」
「なんか凄い…」


そんな感想を持っていた俺の視界に、かまくらのような土の塊が映った。大きさもかまくら位だった。恐らくこれが山本の紹介したい物なんだろうと、一目で察しがついた。
そしてそれを見た俺たちは、驚きの混じった声で口々に言った。


「中に入るかい?」
「入れるんですか!?」
「こっちにおいで」



案内された先には錆びた鉄の扉が、土の塊にポツリと張り付いていた。
中に入るかと誘われた俺たちは、話し合い、興味本意で行ってみることにした。さすがに危ない場所では無いだろう。


「あ、でも、この扉は閉めると中からは開かないんだったか?」
「やっぱやめときます!」


山本が今思い出したかのようにあっさりと言った。

つか、無茶苦茶危険じゃねぇか!
俗に言う『開かずの扉』か?
これは諦めて、入るのは止めた方がいいと思う。


「え? いいじゃん、晴登。入ろうぜ!」
「嫌だよ! 閉まったらどうすんだ?!」


大地が何を聞いていたのか、そう言った。勿論、俺はそれを否定する。

扉が閉まったら中から出られないんだよ?
偶然にも閉まったら、俺らは一生この中で暮らすんだぞ?
マジ勘弁だよ…。


「結局どうするんだい?」
「入る!」
「入らない!」


山本の問いに対し、大地がYES、俺がNOで答える。だがそのまま一向に、決まる気配は無い。
そこで俺たちは莉奈にも決めてもらい、多数決で決めることにした。


「「莉奈! どうしたい?!!」」
「入りたい!」


莉奈はあっさりと答えた。
こいつを信じた俺が馬鹿だった…。

結局俺たちはこのドームに入ることになった。










「山本さん。どうしてこの扉は外からしか開かないんですか?」
「昔の人の知恵から来たんだ、知らないね。でも心配する事じゃない。開けっぱにしとけばいいんだ」


さすがに山本も扉の構造は知らないようだ。というか昔の人…ってことは、この学校の創立はかなり昔と考えられる。

てか開けっぱって風とかで閉まりそうな気がするな…。まぁ、鉄製だから平気か。


「それじゃあ行くよ」


山本の声と共に、俺たちは中に足を踏み入れた。




















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 優菜side

「はぁー、ホントについてないよ…」


私は今、ため息をつきながら家へと帰っている。何故そんなことになったかというと、答えは一つ。普通の時間に出てしまったからなのだ。今日は入学式なので、それに合った集合時間があったようだが、知らずに家を出てきてしまった。

しかも、帰る途中に人にぶつかりそうになるし…、もう今日は厄日か何かかな…。

とりあえず30分後位にもう一回家を出て、学校に行こう。

あ、さっきの人たちも勘違いで日城中学校に行ってる途中だったのかな? 方角的にそうだろう。それならご愁傷様です。



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 晴登side
「不思議な構造ですね」


俺がドームに入っての第一声はそれだった。なぜなら扉を開けた瞬間、目の前に地下に続くと思われる階段が続いていたからだ。イメージはエスカレーターといったところだろうか。
それにしても今その階段を降りているが、とてもじゃないが終わりが見えない。何処まで続いているのだろうか?


「山本さん、この先に何かあるんですか?」
「もちろん」


俺の問いには当たり前だと言わんばかりに答える山本。だがその態度に、俺は不安を感じてきた。


「すっげぇ~!」
「雰囲気あるね~」


そんな俺の気を知るはずも無い餓鬼2人が、見慣れない光景にはしゃいでいる。この不穏な胸騒ぎが無ければ、俺もあんな風に楽しめるのに…。


「ま、まだですか…?」
「もう少し」


俺は怯えた声でそう訊いた。が、返ってくる答えは先程と似て変わらない。
次第に太陽の光が入らなくなり、何も見えないほど暗くなってきた。


「おお、暗い!」


だが、俺の気持ちとは正反対に大地は喜んでいた。全く、なんて気楽な奴だ。
そう思った直後、足が平面の地面を捉えた。


「待たせたね。この廊下を進もうか」


山本が言った。
なるほど、階段が終わると廊下が続いているのか。
勝手な納得をした俺は、そのまま山本の後ろをついて行った。










「じゃあ、頑張ってね」
「え?」


不意に山本が呟いた。恐らく俺たちに言ったのだと思うが、意味深過ぎて全然わからない。

どういう事ですか、と俺が尋ねようとしたその刹那、急に足元がふらついた。大地も莉奈も俺と同じようになっている。

何が起こったのだろう。
貧血かと思ったが、その正体はすぐにわかった。

とてつもなく眠い…。
逆らうことのできないその眠気は俺をどんどん蝕み、遂に俺は膝を折った。



その後、薄れゆく意識の中で俺の視界は、暗くて何も見えないはずなのに、小さく笑みを浮かべた山本の姿を捉えていた。



 
 

 
後書き
普通に優菜side入れちゃったけど、紹介もしたから別にいいか。
そして展開が早いように見えるのはどうしようか…。困ったな…。今度からは字数稼ぎもしようかな(笑)。

少数ですが見てくださっている方、ありがとうございます!
次回も頑張って書いていきます! 

 

第3話  入学試験

 
前書き
前回の終わりに変な線を張ったせいで、話を作るのが難しくなった(笑)。 

 
何事もなく、ただ不意に目が覚めた。

その時、ヒンヤリとした感じを俺の触覚が感じとる。
そうか。今まで寝てたのか。

俺は急いで起き上がり、周りを確認する。


「教…室…?」


そこは小学校にもあるような普通の広さの教室だった。黒板、タイルの床、大して変わった所の無い、普通の。強いて違うことを言うなら、机、椅子が無いことか。まぁでも正直、そういう教室だと思えば理解に苦しまないから、どうだっていいのだが。



さて、一体何が起こったのか。
ちなみに、俺の隣には大地と莉奈は居ない。完全に一人である。

あの時…山本に連れられ、ドームの中に入った後だ…。何かで眠らされて…。
あれは山本が悪いという解釈でいいのか?
状況が全く掴めない。


『あ、あ、聞こえるかな? 晴登君』

「!?」


いきなりチャイムから声がしてきた。あまりに驚いた俺は反射的に、黒板の右上に取り付けられたチャイムを見た。
俺の名前を知っていて、この声は・・・山本か…。


『君の予想通り、僕は山本だ。手荒な真似をしてすまなかった。』


手荒な真似、とは俺たちを眠らせたことだろう。
それよりもなぜ俺の考えている事がわかった? 何処からか監視カメラ的な何かで、俺の姿を監視しているのだろうか?


『ゴホン。では、状況を説明しよう。』


そんな混乱する俺をそっちのけに、一つ咳払いをした山本は話し始めた。


『まず此処は日城中学校のとある一教室だ』


良かった。場所は移されていないようだ。
安堵した俺に、山本が信じ難い言葉を放つ。



『そして君にはあるゲームをしてもらう』


「へ!?」


ん!? どういう事だ!?
焦った俺は、マヌケな声を出して驚いた。
意味が全然わからん…。なぜこの状況でゲームが始まるのだろうか?


『ルールは単純。時計を見てくれたまえ』


悩む俺を余所に、山本は淡々とした慣れたような口調で話していく。
俺は山本の言う通り、壁に掛かる時計を凝視した。
そしてある事に気づかされた。


『そう。御察しの通り、入学式まであと15分だ』


入学式の開始予定は8時30分だった筈だ。
そして俺が学校に来たのが7時だったから…。


『ちなみに君は1時間以上寝ていたよ』


そういう事だな。俺は納得する。
……いやいや、そんな事はどうでもいい。今は山本の話を最後まで聞こう。


『話を戻そう。君には残り15分の間に、入学式会場である体育館に来てもらいたい』


え…? 俺は拍子抜けした。
なぜなら難題を繰り出されると思っていたのに、随分と簡単なお題が示されたからだ。


『簡単だと思ったろう? だが、よく考えてみるんだ。君はこの学校の体育館はまだ見ていないし、場所も知らない。更にこの敷地の広さだ。単純だが中々難しいぞ』


そういう事か…。
確かに山本の意図が読めた。確かに俺はこの学校の地形は全然わかんない。だから建物探しでも一苦労、って訳だな。


『君がもし15分以内に体育館に来れず、入学式に間に合わなくなったら、君の入学は許可しない』

「は!?」


俺はたまらず声をあげて驚いた。
いくらなんでも横暴過ぎやしないか!? 義務教育って何だっけ!?


『勿論、間に合えば普通に入学式に参加だ』

「質問をいいですか?」


俺は落ち着くことも兼ねて、ここでいくつか質問をしようと試みた。もし山本がこちらを監視しているなら、質問を聞いているだろう。


『いいよ』


ほら、案の定こちらの様子は向こうに丸分かりの様だ。許可したのがその証拠だ。

そして俺は質問を口にした。


「何故こんな事を?」

『入学試験、と言ったらいいかな。君がこの学校への入学を賭けた試験(ゲーム)さ』

「何で俺一人だけ?」

『選ばれたんだよ。皆の中から』


ダメだ。理解できない。
入学試験なら平等にするべきだろうし、そもそも“選ばれた”って…?


『とにもかくにも、君には時間が無い。このゲームの意味は、君が体育館に着けば分かることさ。では健闘を祈るよ』プツッ


山本の声が途絶えた。つまり試験(ゲーム)開始というところなんだろうが…。

いや、考えるのはよそう。今は体育館に向かうのが最優先だ。




















ガラッ



取り敢えず俺は教室のドアを開け、まずは廊下に出た。が、俺の足は即座に止まった。


「嘘だろ…」


そこで俺が見たのは…全長100m程だろうか、何に使うのかもよくわからない位の長い長い廊下だった。

そして俺は、今自分が廊下の端に居る事を察した。


「しかも向こうまで行くしか無いのか…」


なんと不便な事だろう。
俺の周りには階段などは無く、ただ幅3m程の廊下が続くだけだったのだ。


「…行くか。あと14分位だもんな」


俺にはある考えがあった。
恐らく体育館は外にある。だからまずはこの校舎を出る必要がある、と。

俺は一歩を踏み出した。というか全速力で走った。
他の教室には目もくれず、ただ黙々と廊下の反対側へと向かった。

きっとそこには階段がある…そう信じて。





・・・だが、結果は残酷なものだった。


「何で階段が無ぇんだよ!!?」


まさかの廊下の何処にも階段が見当たらないという事に、俺はキレて叫んだ。まるでこの世の終わりを迎えたのか如く。


「まさか教室の中か?」


折角此処まで階段があると信じて走ったのに、結果がこれか…。辛い。つか疲れた。息が持たねぇ…。


取り敢えずわかった事を整理する。
この階はこの長い廊下と沢山の教室だけ。
つまりはどれかの教室の中の階段や梯子などを使って、階を移動する必要があるということ。


『困っている様だね、晴登君』

「ワッ!!?」


またもや急に山本の声が廊下のチャイムから大音量で聴こえ、俺は飛び上がる程に驚く。
あぁ、廊下って音が響くんだなとどうでもいい事を考えてしまった。


『このままだと時間が無いから、君にヒントを与えよう』


ヒント? 滅茶苦茶欲しい。早く下さい。


『君はこの階に階段があると思っているだろ?』


図星だ。なんて洞察力だろうか。


『実はこの階、というかこの校舎だけ階段ではなく、エレベーターを使って階を移動するんだ。ちなみに他の校舎は階段だよ』


なんて学校だ。最先端を歩いていやがる…。

俺は極みの質問をぶつけた。


「だったら何処にエレベーターが在るんですか?」

『廊下の電気のスイッチはわかるかい? まずはそこに行ってみよう』





「此処ですね」

『うん。では、上に行きたいなら上の、下に行きたいなら下のボタンを長押ししてごらん』


随分面倒臭い作業だな。

えっと…まずは外に出るから…下だな。

そう思って俺は、下のボタンを長く押した。すると・・・


「うわっっ!!?」

『ふふっ、驚いたかな』


俺が驚くのも無理はない。何故なら、電気のスイッチの隣、何も無いただの壁だと思っていた場所から、突然エレベーターの扉らしきものが浮かび出て、しかも開いたからだ。というかエレベーターだ。

原理が分からん。


『その扉は常に保護色を使うんだ』


たった今50%解決された。

多分、普段は保護色で隠れて見えないが、スイッチを押した時だけ浮かび上がり、仕事をする…といった所か。
どう考えても不便だろ、これ。


『さて、ヒントはここまでだ。後は大丈夫だね? ではまた』プツッ


そして山本からの放送が切られた。
少なくとも“移動”に関しては問題は無くなったと思う。
だが“地形”に関しては全く分からないので、大丈夫な訳が無い。


不安を抱いたまま、俺はエレベーターに乗り込んだ。

この学校は奇怪過ぎる、と思いながら。




















中身が何ら普通と変わりないエレベーターを降りた俺は、一階なのであろう校舎の中の景色を見渡す。廊下も一緒にエレベーターで降りてきたのかと思う程、一階の廊下も長かった。
だが今度は二階と違い、外に繋がるドアを見つけた。
恐らく玄関だろう。見た目からして職員玄関か…?
まぁいい。早く外に出よう。

俺はドアを開け、外に逃げるように飛び出た。


「……わかんねぇな」


やはり知らない校舎に隔離されていたようだ。地形が全然記憶に無い。
先程、山本に案内された所であれば少しは分かったのだが…。これでは“学校案内”の意味が無いじゃないか。

俺はそう思いながら、歩みを進めた。


「何処かに地図とか無いのかよ…」


言ったところで変わらない、とわかっていながらも、つい口走ってしまう。だいたい、地図探す時間なんて無いな。

しらみつぶしに行ってみるのも有りなのだが、何せ敷地が広大過ぎる。そこら辺の学校とは比べ物にならない。
この規模で日本どころか、県ですら有名じゃないというのは不可思議な話だ。

お陰様で、体育館なんて影も見えない。


「あと何分だ?」


多分10分前後。まだ探す時間はある。
俺は思考を張り巡らせ、体育館への道筋を考えた。

まず、体育館は大きい。これは揺るがない事実筈だ。
そして、外にある。これもわかる。
・・・で……何だ!?

まずい、これでは俺はこの学校に入れない!
どうしたものか…。






俺は過去を思い返した。



大『なぁ晴登、お前何処の中学校に行くんだ?』

晴『え?あぁ・・・近いから日城中学校かな』

大『お! 俺も同じだよ! 仲良くやろうぜ!』

晴『あぁ、そうだな』

莉『2人共、何話してるの?』

大『よう莉奈ちゃん。今、晴登と何処の中学校行くか話してたんだよ』

莉『へー。で、2人共何処に行くの?』

晴『俺も大地も日城中学校。お前は?』

莉『偶然だね。私もだよ。家から近いし』

晴『あ、でもよく考えたら、他の中学校が遠いだけかもしれん』

大『でもウチの学校からの殆どは、その他の中学校に行くみたいだぞ』

晴『は!? あいつらだって日城の方が近いだろ?』

莉『晴登晴登、違うんだよ。日城中学校には変な噂が多いから、皆が寄り付かないんだよ。だから行くのは私達だけかもしれないよ』

晴『へぇ~』

大『「へぇ~」って、納得すんのかよ』

晴『中学校なんて新しい友達作る場だろ? 問題ないよ』

莉『ポジティブなのは良いけどさ、晴登ってコミュ障じゃなかったっけ?』

晴『それを言うんじゃねぇ……』

大『あ~。そういや友達を作るのが一足遅かったもんな。俺が話し掛けてやらなきゃ、今頃どうなっていたことか…』

晴『忘れたい黒歴史かも…』

莉『大丈夫って。そういう人は沢山いるから。私達が協力して晴登に友達を作ってあげるよ』

晴『それなんか悲しいから止めろ』

大『じゃあ、中学校でも3人で居るか!』

三人『『『うん!!』』』





【三人で一緒に過ごす】
俺が小6の頃、三人で約束した事だ。
些細な事だが、守るのが当たり前の約束だ。

だから俺に“リタイア”なんて文字は無い! 
さぁ考えろ! この状況を脱する為に!





「…はっ!?」


その時、俺は記憶の片隅にあったある事を思い出す。
ついさっき、エレベーターに乗ったときのボタンに・・・“屋上”があったことを!!

高い所から見渡せば、恐らく体育館くらいなら見える!!


「よし!」ダッ


俺はさっきの校舎に戻ることにした。
近くには別の校舎が在るが、移動が階段なんだし、それに多分迷う。
だったら一度居た場所の方が、安心できるってもんだ。

俺は願いを込めて、さっきの校舎の玄関に入った。




















バタン



「着いた…」


俺は屋上の真ん中に、一人ポツンと立っていた。
そこらの陸では感じられない風が顔を撫でる。
心地よい風だ。


あ、でも気になる事が一つ。
『屋上は行ってもいいのか』?
小学生の頃は「危険だから」という理由で、屋上には入れなかった。なので、今回“屋上”に来るというのは初めてだし、嬉しいのだが…。
何だろう。もしダメだった時が怖い…。

いやだが待て。山本が何も言ってこないから別に良いんじゃね?うん、きっとそうだ。大丈夫なんだよ。


「大丈夫大丈夫!」


俺は気合いを入れながら、屋上の片っ端から外を眺めていった。
この方法がダメだったら、次の作戦を考えよう。
俺はそんな気持ちだった。

だが神は俺を見放さなかったようだ。


「!!」


校舎の影に隠れて一部しか見えないが、体育館らしきものの姿を俺の目は捉えた。
それが本物だろうと偽物だろうと、『今すぐ行く』という選択肢しか残されてないだろう。

そんな考えが巡る中、既に俺は無我夢中で駆け出していた。



















「ハァッ…ハァッ…ハァ…」


着いた。体育館らしき…いや、体育館の玄関に。
先程の校舎からどれだけ走っただろうか。
高校にあるような体育館よりも一回り大きい体育館が、今、俺の目の前にそびえ立っている。
俺と同じ新入生だろう大勢の人影達の姿を確認できる、ガラスの扉と共に。


正解だな。


「フッ」


あまりにもあっさりした結果に、ついつい鼻で笑ってしまう。
随分簡単な試験(ゲーム)だったな、と思い返してみる。それほど内容が濃い訳では無いからすぐ思い返せるけど。


さて、早く行こうかな。
あいつらとの約束もある訳だし。


俺は勝ち誇った笑顔で扉に手を掛け、力一杯、扉を開いた。

 
 

 
後書き
オリジナルって結構難しいですね。
『自分が創造している世界を他人も共有できる小説の書き方』なんて、自分のスキルには存在してませんでした(笑)。

それでも一応頑張っていきます! 

 

第4話  スタート

 
前書き
はー、随分楽になった 

 
時刻は午前9時30分。

俺は教室の一番後ろの窓際の席に座り、窓からの風を顔で感じていた。丁度教室のコーナーに当たる場所である。

俺のクラス『1ー1』は、新入生30人の教室であり、今は友達作りかなんかで、何かと盛り上がっているようだ。

……主に、俺の周辺で。


「ねぇねぇ、三浦君って何処小から来たの?」
「というか何であんな事になっちゃったの?」
「何かしたの?」


クラスの大半の女子に質問攻めに遭う。勿論、好意からでは無く、唯の興味本意ということは俺にも分かる。
傍から見れば、たくさんの女子が一人の男子を取り囲んでいるという、男子は羨ましがるような光景なんだろうが、地獄だと俺は考えていた。

俺のようなコミュ障にとって、人と話し掛けるのはまず無理。初対面に限るが。
なら、話し掛けられるのは良いのか?と言うと、状況に寄る。今の俺の状況は“無理”の方だ。

よって俺は、恥ずかしいというよりも、ただただ挙動不審になっていた。


「ははは…」


結局、俺の口から出てくるのは愛想笑い。


なぜこんな目に遭うはめになったかと言うと、話は1時間前に遡る・・・



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バン


勢い良く体育館の扉を開けた俺だったが、皆の注目に羞恥が込み上げてくる。

そうだよ。俺がいない事を知っているのは莉奈達と山本だけだ。此処に居る赤の他人さん達は俺のことを知りもしないんだ…。

あまりの恥ずかしさに顔をうつむかせながらその場に立ち尽くす俺。
すると目の前に手が伸びてきた。

反射的に顔を上げると、最初会った時の様な穏やかな顔をする、山本の姿があった。


「よく頑張ったね。おかえり」


その山本の声と同時に新入生達の盛大な拍手が、俺に向けられた。


「へっ?」


相も変わらず状況が読めない俺は、マヌケな声を出して問う。


「フフフ」


山本が穏やかに笑う。その声は俺に恐怖を煽らせるだけだった。

なぜ?
ツッコミどころが多過ぎて、俺の思考は早くも停止した。


「説明が必要かな?」
「はい…」


山本の問いに、俺は声を絞り出して答える。

そしてこの後に聞いた山本の話は、とても突飛な話だった。





まず、俺は監視をされていた。山本に、では無く、此処に居る人全員から。最早、何かの鑑賞会というイメージが浮かぶ。

そしてそこまでの経緯。
なんとこの学校では毎年新入生を、俺の様に何処かの教室に入れ、今みたいな試験(ゲーム)をさせるそうだ。

深い理由は無い。強いて言えば、新入生への学校案内と余興だろう。もうなんか切ない。

選ばれた人は毎回、こんなナーバスな気持ちになっていくらしい…。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・とこういう事だ。

だから普通に考えて、クラスの女子は興味本意で俺に寄っていると分かるのだ。

てかどうしよ。やっぱ最初が肝心とか言うから、話し掛けてみようか。でも、なんか恥ずかしいというか…。


ここまで考えた俺に救世主が現れる。


「皆さん、席に着いて下さい」


聞き慣れた優しい声が、教室のドアから入ってくる。
クラス発表で聞いた時は偶然で驚いたが、これは俺の運命(さだめ)というやつかもしれない。


俺のクラス『1ー1』の担任は、あの山本先生だ。










「ではホームルームを始めます。あぁまだ起立しなくていいですよ。挨拶は明日からします。取り敢えず連絡事項を伝えますね」


最初のホームルーム・・・てことはやっぱりアレが有るのか…。


「まぁその前に、皆でそれぞれ自己紹介をしましょうか」


山本が優しく笑う。俺はその笑顔に優しさなんて感じない。あれだ、悪魔の笑みだ。

やっぱり有るんだよ自己紹介。幸い、俺の出席番号は後ろの方なので時間はある・・・いや待て。俺の出席番号って30番じゃん。最後じゃん。ヤバい、今絶対俺の顔引きつってる。


コミュ障にとって、自己紹介は酷でしかない。まして最後だなんて、一番注目が集まる。
更に俺は今既に、注目されている身である。半端な自己紹介をすれば、まず俺の顔が焼け野原と化し、俺は死んでいくだろう。

取り敢えず、普通の自己紹介だ、普通の。うん。


「じゃあ次は三浦君」

「はい・・・え!?」


突然の指名に俺は驚きを隠せない。
だが周りの様子を見て、納得した。


「自己紹介だよ」

「ですよね~」


早い早い早い早い!早すぎる!
俺が考えてる間にもう順番が廻ってきたと言うのか!?

なんか、何か考えねぇと! えっとえっと・・・。


「み、三浦…晴登です。えっと、その…よろしくお願いシマシュ…」ペコ



シーーーーーーン・・・・



つっかえまくった~!! 
そして止めてこの沈黙!
穴があったら潜りたい!

マジで皆引いてないよな?


不安気に辺りを見回した俺に向けられたのは、他の人の自己紹介の時にも送られた、拍手。
失…敗では無いな。成功とも呼べんが。

何で自己紹介でこんなに疲れなきゃならないんだよ…。


「はは。晴登君、緊張し過ぎだよ」


山本が笑いながらそう言った。
やっぱ悪魔だろこの人。人の恥態を抉りやがって。

だが次の山本の言葉で、俺の偏見は脆くも崩れ去った。




「もうちょい気を楽にしてごらんよ。君の事を誰も『変な奴』だなんて思っていないのだから。君は『クラスメート』。自信を持っていましょう」




その言葉に、俺は身震いした。恐怖では無く、感動に近い感覚と共に。

俺の目線は山本に釘付けとなった。先程まで悪魔と思っていた人から聴こえてきた天使の囁き。

山本の『格言』が俺の心へと突き刺さった。
そうか、そうだったのか…。


恥ずかしいだなんて、ただ俺が思っていただけなんだ。他の人は俺を『クラスメート』と思っていただけなのに。俺はそれが分からなかったんだ。
俺は何を恥じたんだ? 恥ずかしい事でもしたか?
違うな。俺は自分の勝手な妄想に閉じ籠っていただけなんだ。現実から目を逸らして・・・。


「何だこの人・・・」


俺は山本という人がより一層分からなくなった。
ある時は憎まれ、ある時は敬われ、一言で人を変える。
何だか不思議な力を持っているかのようだ。


「私は山本。担当はこの学年の主任だ。よろしくね」

「「「よろしくお願いします!!」」」


クラス全員の声が被る。もう慣れたという証拠だな。
シンクロとかいう感じで。


「さて、自己紹介も終わったので連絡を始めますよ。1つ目は・・・明日のテストについてです」ニコッ

「明日!!!?」


自己紹介が終わりホッとしたのも束の間、山本による連絡は俺たちを奈落へと突き落とした。

 
 

 
後書き
コミュ障コミュ障書いてますが、このコミュ障講座のだいだいは自分の経験です。あ、女子に囲まれた事は無いですよ。そこ以外です(キリッ
まぁなのでこの話は自分のコミュ障を改善しようと思って作成しました。まぁこれを読んだからどうしろって話なんですけど。
でも何なら、この話を読んでコミュ障を脱出できる人が居たら嬉しいですね。居ないでしょうね(笑)。


てか話が無理矢理過ぎですかね…。強引にまとめました。戦闘シーンとかならまだ書けるんですけど、この物語だとまだまだまだ先の話でしょう。

完全に駄文になってますが、これからも温かい目で読んでください。 

 

第5話  最初のテスト

 
前書き
端折りたがりです。ご了承下さい。

今回の文章はちょっとグダグだが目立つかもしれません。場面に的確な台詞などが思い付かなかったので…。

そこもご了承の上、お読み下さい。

あ、テストは100点満点として見て下さい。 

 
時刻は午前11時。
入学式も終わり、無事にロングホームルームも終わり、俺たちは皆帰路についた。
俺は今、莉奈と大地と帰っている。

あの時のテスト宣告。入学早々テストがあるのは当たり前なんだろうが、明日という厳しい状況に置かれた俺は悩み所であった。
テストの話以外は普通の連絡だった。なのに、『テスト』の三文字だけ、小学校の頃とは別物のオーラを感じとれた。


「テストか~」
「大変だな~」
「気楽にいこうぜ」


俺と莉奈がぼやく中、一人悠々としている奴が隣に居た。


「お前だけだよ。そんなことできるの」
「そうか?」
「そうよ」


全然大地は小学校の頃から変わっていない。

こいつは昔から、テストや何や言われても怯えず、100点を取り続けていた。しかも今みたいに結構余裕ぶって。


「中学校のテストって順位が出るそうだから、お前のこの学校での実力がわかんじゃねぇか?」
「上位くらいはいけるだろ」
「やめてその余裕発言。自分が惨めに思えてくる」


大地のあまりの余裕ぶりに、俺は少しばかり恐ろしさを覚えた。
そして同時に「下位に落ちて痛い目をみやがれ」とも思った。……叶うことは無いだろう。

かくなる上は・・・、


「なぁ大地。勉強教えてくんねぇか?」
「あ、私も」


頼み込んで、自分の得点を上げるよう努めてもらうしかない!


「いいよ」

「「よし!!」」


やはりこいつは話が分かる奴だ。
え、話をややこしくするって? 気にしない!

という訳で、一度家に帰宅して昼食をとった後、俺の家に集まることになった。




















「ただいま」ガチャッ

「あ、おかえりお兄ちゃん」


俺が家に帰り着くと、玄関に智乃が立っていた。
ランドセルを置きながら言ってくる辺り、小学生も今日は今時が帰宅時間なんだろう。

おっと。忘れない内に・・・、


「今から莉奈達と集まってテスト勉強するから」
「へぇ。中学ってテストが早いんだね」
「ああ。全く大変だよ」


取り敢えず俺は、智乃にリビングを空けとくよう伝え、二階にある自分の部屋に入った。















ピンポーン


「!!?」


いきなりのチャイムに対し、俺はかなりの度合いで驚いた。
何故なら、部屋のベッドの上でウトウトと昼寝を始めそうになっていたからだ。
時計は午後1時を示していた。


「お兄ちゃ~ん」

「おう!」


一階から智乃の声が聞こえてくる。やっぱり莉奈か大地のどちらかが来たのだろう。

俺は返事をしながら、急いで階段をかけ降りた。


「はいはい・・・」ガチャッ

「よっ!」
「どーもー!」

「うわっ!?・・・って何だ、2人で来たのか」


俺が玄関のドアを開けた瞬間、大地と莉奈が雪崩込むように入ってきた。あまりの勢いに尻餅をつきそうになったが、何とか持ちこたえた。


「今ビックリする要素あった?」
「無いよな」

「いや待ておかしい」


人ん家に入るならマナーってものがあるだろ。なぜそれに気づかないんだ?
普通はドアを開けた瞬間に飛び込んでは来ないよ。


「まぁ早く勉強やろうよ♪」
「そうだぞ。お前が言い出したんだからな」

「はいはい。こっちだ…」


莉奈がいつにも増してノリノリなのは気になるが、大地の言い分が最もなので、まずは2人を連れてリビングに向かった。


「お! 整理されてるね~」

「あ、あぁ…」


莉奈がリビングに入って早々言った。

というか、さっきまでもう少し散らかってた気がするんだが?
智乃が掃除してくれたのかな。


「このお菓子食っていいか?」

「えっと…いいぞ」


今度は大地が、リビングの真ん中にあるテーブルの上の菓子類を指差しながら言った。

このお菓子・・・いやテーブル自体さっきは無かった。
やっぱ智乃のお陰か。あいつは面倒見が良かったり、気が利く所があったりと本当に感謝したい妹だ。

…と俺は涙を流しそうになる。いや本当に有難い。


「さて始めっか!」


俺の一声で、3人のテスト勉強が始まった。




















「ふぅ、終わった~!」


大地の声がリビングに響いた。
そう彼は、今回のテスト勉強の主であるワークをやりきったのだ。


「え、嘘!?」
「速過ぎない!?」


勿論、俺たちは超人とも言いいたくなる彼に、感嘆の声をあげる。


「え? 1時間以上はかかったよ」


しかし「え?遅い方だよ?」みたいな反応をする大地に、俺は少々妬みの感情を覚える。


「いや、俺まだ半分なんだけど…」
「同じく…」


俺たちの学力はいたって平凡。このスピードが当たり前なんだが、やはり早い奴がいると自分らが遅いと錯覚してしまうのだ。


「ん~?何でだ? これって結構簡単だけど」

「お前にとってはな! そりゃ確かにこのワークは学校から貰った『小学校のまとめ』だけどさ!俺らこの前まで小6だったからね!?」


そうだよ! 俺らはこの前まで小6。
つまり、さほど復習はできていないのだ。
問題が基本問題ならまだ解けるが、意外と発展問題が多いので、俺と莉奈は苦戦している。

まぁ、それらを悠々と解いた奴が目の前に居るんだが…。


「お前春休みとか勉強してたのか?」


俺は大地に疑問をぶつけてみた。
これだけ小学校のまとめが出来るんだ。きっと復習をしっかりやったんだよ、こいつは!

俺はそうだと信じ、大地の返答を待った。


「いや全く」


よし、排除しよう。
最近テレビで見た“ドロップキック”とかいうヤツでもお見舞いしてやるか。


「わー待て待て!落ち着けって! 何か目が怖いって!」

「これが落ち着いていられるか!!」


俺の怒りの形相に焦ったのであろう、大地は即座に俺を宥めようとしてくる。


「いや、小学校の復習はしたよ、うん!……2時間ぐらい」

「お前、絶対そこ動くなy・・・」


そこまで言いかけた俺の言葉は、ドアが開く音で遮断された。
何かと思い、俺と大地は同じタイミングでその方角を見る。


「お兄ちゃん達、近所迷惑だよ」

「「……はい」」


そこには「迷惑だ」と言わんばかりの…というか既にそう言った智乃の姿があった。
そしてそう注意した直後、リビングから姿を消した。

勿論、この言葉を言われても尚喧嘩を続けられる程、俺たちはヤンキー染みてない。一先ずは喧嘩を止めてくれた事に感謝しておこう。


「2人共情けないねぇ。智乃ちゃんに言われただけで喧嘩止めるとか、ビビり?」


ふと、ドアとは正反対の方角から声が聞こえてきた。無論、このリビングに俺と大地以外は1人しか居ない。

そう思って俺は振り向いたのだが、そこに見えた光景にさすがに口を開かざるを得なかった。


「人の許可も得ずに漫画を勝手に読む奴は、一度ビビりを経験してこい」

「え、何の事かな~?」ハハ


俺の目の前に現れたのは、ソファに横たわりながら本棚に置いてあった漫画を勝手に読んでいる、莉奈の姿だった。
あまりの惨状についつい変な言い方をしてしまった。


「昔はよく読ませてもらったよ?」
「いや、勉強会なのに漫画を読むのはどうかと思う」

「だってコレ新刊だよ? 晴登買ったんでしょ?」
「まぁそうだが」
「晴登の家って色んなジャンルの漫画が揃ってるから、読み飽きないんだよ」
「俺ん家は図書館じゃねぇ!!」


なるほど、解ったぞ。
何故こいつがワクワクしていたのかが。こいつは…俺ん家に“漫画”を読みに来やがったんだ!!

そりゃそうだよ。“勉強よりスポーツ派”の莉奈が、勉強を楽しみにする訳が無い。
だがしかし、早く漫画を読むのを止めさせなければ、莉奈どころか俺のテスト勉強も捗らない!

どうしたものか・・・ん?待てよ?
確かこいつは“勉強よりスポーツ派”の前に“花より団子派”じゃなかったか? そしてこいつにとっての『団子』とはすなわち・・・、


「じゃあお前は休憩がてら漫画を読むということで、俺と大地はプリンでも食って休憩するわ」ニヤッ

「…! なるほど、良いな!」

「……!!」


よし食いついた! 見よ、あのキラキラとした目!
莉奈は昔からスイーツ、その中でもプリンが大好きなのだ。つまり莉奈にとっての団子とはすなわち『プリン』なのだ!!
なので今回はそのプリンで釣って、勉強を捗らせようという作戦を実行する。我ながら良い作戦だ!! 

余談だが、大地も俺の意図に気づいたようだ。都合が良い。


「お~? 冷蔵庫に丁度良い頃合いのプリンが3つあるな~? でも莉奈は漫画に夢中だから、俺が2つ食べようかな~?」
「な! 俺が2つ食べるっつーの!」

「…!」ハッ


良い感じだな。
この調子で最後に月並みのあの発言をすれば、こいつもやる気になるだろう。


「じゃあ大地、半分に分けようぜ? 1人1.5個分な?」
「…まぁ良いだろう。その前に俺たちの1個分を先に食おうぜ?」
「それもそうだな」

「……!」ウルウル


うっ…! ちょっと涙目になりやがった…!
だが、ここで止めてはこいつは成長しない!
……あれ、趣旨変わってね?


「……!!!」ウルウルウル

「「!!」」


何か不思議とウルウルが増加してる!?
まずい、このままでは俺達が負ける!


「(おい大地、どうするよ?)」コソッ
「(やっぱ食べさせてやるか?)」コソッ
「(いや、あいつにとってプリンは動力源だ。だったらそれで釣って勉強させないと!)」コソッ

「………」ウルウルウルウル


だーっ!! ウルウルの量がおかしいだろ!? もうほぼ泣いてんじゃん!
くそっ、もう少し粘りたかったんだが…。


「じゃ、じゃあワークを最後までやったら、えー、その…プリンを1つ、譲ってもいいぞ?」

「……!!!」パヤァ


はぁ…。
何だこの晴れやかな目は。やる気に満ち溢れていやがる。マジでやる気だよこいつ。


「(俺はあまりやる気がしないんだがな…)」ボソッ

「よし! 折角莉奈ちゃんがやる気になった所だし、晴登も一緒に頑張れよ!」
「な!? 俺を巻き込むなよ!」


…!? 大地よ、いきなり何を言い出すんだ!?
俺は別にやらなくても……。


「お前だって終わらせないと、明日のテストはヤバいぞ?」
「くっ…裏切ったな!」
「俺はとっくに終わってるんでな」ドヤッ


…ダメだ。俺が何を言おうと、正しいのは大地だ。
結局、俺もワークを終わらせろってことか…。


「さぁ晴登、ちゃちゃっと終わらせるよ!!」
「おぅ……」

「プリンはちゃんと残しといてやるよ~」


現時刻は午後2時30分。
俺と莉奈の長いテスト勉強(後半)が始まった。




















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日・・・・・

「それでは、最初のテストを始めます。まずは国語です。昨日渡したワークをある程度やっていれば、少なからず解ける筈です。では、開始して下さい!」

「……この漢字、何だっけ?」















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
午後の授業・・・・・

「皆さん、テストお疲れ様でした。テストの結果が全て出ましたので、解答用紙諸々配りたいと思います。それでは出席番号順に取りに来てください」


……早いな。どう考えても早いな。早すぎるな!?
何で午前中4時間でやったテストが午後でもう返ってくるんだよ!?
早すぎるよ!どうなってんだこの学校!?


「鳴守君」
「はい」
「頑張ったね」
「ありがとうございます」


大地の結果はどうだったんだろう。席が離れているため、確認ができない。
でもやっぱり良いんだろうな。


「春風さん」
「…! はい!」
「頑張ったね」
「はい!」


少しテンションが高いようにも見える莉奈。
自信があったのか?
確かにテスト勉強はしっかりやってたしな。ご褒美としてあげたプリンの為に、だけど。


「三浦君」
「はい」ガタ


名前を呼ばれた俺は机を離れ、山本のもとへと向かう。
少しばかり緊張してきたな~。


「はい、頑張ったね」スッ
「ありがとうございます」


よし。ちゃんと国語、算数、理科、社会の4教科分貰ったな。ちょっと見るの怖いな…。
でもこういうのは『お楽しみ』とか言うし、取り敢えず席に戻るか。

そう思いながら席に俺が座ったと同時に山本が話しだした。


「えー、今回は小学校のまとめというところであり、少々簡単だったかと思います。しかし、中には復習が出来ておらず、納得のいかない点数を取った人もいるのではないでしょうか。なので、皆の実力を比較しやすいよう、今ここで皆さんの合計点だけ、それぞれ発表します!」

「「「「えーーー!!??」」」」


はい出ました、山本先生特有の不思議な行事。
マジで勘弁してくれよ…。まだ結果は見てないけど勘弁してくれよ…。


「それじゃあ出席番号1番から発表します」


1番の人からか。じゃあ俺は最後だということになるな。
1番目の人、御愁傷様です。あと俺も…。



「暁君、400点」



「ん?」


へ? 先生今何て言った?
えっと確か…テストは4教科。1つ100点満点。つまり、パーフェクトは100×4で400点。え・・・、


「「「「えぇぇぇ!!!?」」」」


先程と同じくらい皆が叫ぶ。無理もない。
テストの合計点を発表すると言われ、「あぁ1番の人可哀想だな」と思っていたら、まさかのパーフェクトを叩き出しているのだから。
何だあの暁って人。


「…最初からパーフェクトだなんて、このクラスはやりますね。では次は2番の・・・」


ははは。これは2番以降の人が可哀想なんだ。
その証拠に、10番以内の人は他の人より更に険しい顔をしている。





「・・・次に鳴守君、396点」


そして大地の番が来たと思えばこの点数。
もうヤダ、何アイツ。計算すれば、1教科ごとにマイナス1点ってことじゃん。
秀才ってこういう場面で悠々とできるから良いな…。


「・・・春風さん、240点」


莉奈か。えっと・・・1教科平均60点ってことか。
……平均点以下じゃね? でもアイツにしては取れてる方か。
やっぱテスト勉強した甲斐はあったんだな。


「・・・じゃあ最後に三浦君、284点」


……1教科平均71点。
キリが悪い上に平凡だな。何か虚しい。


「さて、皆の合計点を言いましたが、どうですか? 自分の実力が分かりましたか? ここで止めるのも何なので順位まで発表しちゃいましょうか?」


やめてくださいオネガイシマスナンデモシマスカラ………。

「・・・なんて冗談です。流石にそれは酷ですよね。でもこれだけは言っておきましょうか。うちのクラスの中で居るのが、学年1位の暁君。学年3位の鳴守君です」

「「「「おぉーーー!!!」」」」


さっきの奴と大地がトップクラスと言ったところか。
もう「超人じゃねこいつら?」と思いたくなってきたわ。


「じゃあこれで今日の授業は終わり。皆さん、下校の準備をして下さい」



ようやく、俺の記念すべき中学校生活最初の、長い長いテストの時間が終わった。

 
 

 
後書き
この話を書いている途中に、熊本で起こったという地震の影響を受けました。家が崩れなかっただけ良かったです。
なんでも、阪神・淡路大震災と同じ規模だとか。東北の大震災から数年経って今、九州にも起きてしまいましたね。残念です。
被害に遭った人々のご冥福をお祈りします。


さて、今回はテストのお話でした。
皆さんテストは好きですか? これで好きと答えたあなたは、きっと上位だったのでしょう。畜生です。
一度で良いから1位を取ってみたいものです。まだチャンスは存分にあるんですけどね(含み笑い)。 

 

キャラ紹介 第2弾

 
前書き
早くも第2弾です。
つまりはネタバレ注意です。

「順番に読みたい!」という人はここから先を読まず、ブラウザバックをして下さい。
ちなみに順番というのは『第5話』の次になります。 

 
1ー1 クラスメイト

(あかつき) 伸太郎(しんたろう) 1ー1ー1
 性別 男
 年齢 12歳~
 容姿 黒髪ストレートで眉毛にかかっている
    かなり目付きが悪い
 性格 面倒臭がり屋
    ぶっきらぼう
    コミュ障
    
 補足 学年一の秀才
    運動はできない
    ボッチ
    ビビり 
 

 
後書き
キラキラネームだって?
気にしないで下さい。誰かと名前が被るのが嫌なので、完全に世界に一人の名前にしてるんですよ(ニッコリ

今回は天才、暁君の紹介でした。
今度からもこのように1人1人紹介すると思いますので悪しからず。 

 

第6話  邂逅

 
前書き
邂逅とは、すなわち出会いのこと。さて誰が出るのでしょうか? 

 
 莉奈side
「もう~」
「どうした莉奈?」


私が溜め息をつくと、晴登が心配そうに訊いてくる。


「テストよテスト」
「あ、あぁ~」


そう。今日だけで起こった『テスト』と『テスト返し』。私はその結果に対して、とてもブルーな気持ちになっている。
だってクラス23位、学年94位だよ!? ほぼ下位じゃん…。私頑張った方なんだよ!……いつもよりはだけど。それでもこの順位ってことは、きっとこの学校は賢い人が多いんだ!


「俺はクラス15位、全体61位だったよ」


晴登のあの地味で何とも言えない点数で真ん中の順位か。いや、あの点数だからか。


「あの暁って人すごいな」
「パーフェクトってね…」


クラスの出席番号1番の暁君。彼は今回のテストでオール満点を取ったのだ。そんなことは漫画の中でしか起こらないと思ってたけど、ホントすごいと思う。


「そいつや大地と比べたら俺たちって…」
「もう言わないで」


晴登が口走ろうとしたところを私がすぐさま止める。
既に大地と私たちで天と地ほどの差があるのは分かる。それでも言ってしまうと自分が惨めに思えてしまうってものだ。


「それより、大地は何で居ないの?」
「家の用事で早く帰らなきゃだとさ」


もうテストの話をしたくない私は、大地の話題にシフトさせる。
私たちは今下校中。だが、いつもなら横にいるはずの大地が居ないのだ。それを疑問に思って晴登に問うと、そう返された。


「2人で帰るのって久し振りだね」
「あ…嫌な事思い出した」
「え、何それ?」


私と帰る時に嫌な事でもあったと言わんばかりの晴登に、私は語気を強めて訊いた。何も変な事とかしたこと無い筈だけど…。


「ほら入学式の朝の……お前との賭けみたいなやつ」
「あーあれね。楽しいから良いじゃん」


あの時の賭けのことね。私が嫌とか、そんなのじゃなかったから、ちょっぴり安心したかな。
確か1回目では大地が出てきて、2回目は知らない女の子が出てきたんだっけ?


「楽しくねぇよ。災難だったよ」
「知らない女子にぶつかりそうになったから?」ニヤッ
「え!? あ、いや、そうだからだけど…」
「ホントは何か期待したのかな~? コミュ障のくせに」
「は!? お前ちょっと黙ってろ!」


私が茶化すように言うと、頬を赤らめながら反論してくる晴登。いじり甲斐がありますな~。


「あの女の子誰だったんだろ。多分うちの学校だよね?」
「歳も近そうだったしな」


話題はいつの間にか『入学式の朝に晴登にぶつかりそうになった女の子について』に切り替わっていた。

・・・あれ?


「何であの子、あの時間帯に居たんだろ」


私はあのシーンで疑問に思うことを呟いた。

まず、あの子は私たちと同い年…多分。
普通だったらあの場所を通るのは日城中の生徒。よってあの子は日城中の生徒……きっと。
だが入学式の為、あの時間帯に生徒は居ないはず。

これらをまとめると、1つの結論が導かれる。


「え…? あぁ…確かに。てことはもしかしてさ・・・」

「「あの子も時間を間違えたのか」」


私と同じ考えになったのだろう晴登と口に出して導き出された結論を言ってみると、失礼ながらも笑いが込み上げてきた。


「ま、まさか俺たちと同じ人が居たなんて…」クククッ
「じゃあ多分、あの時のあの子は帰り道だったんだよね?」フフフッ

「まぁそうだろうな。向こうから来てたし」
「私たちよりも先に学校に着いて・・・フフッ」


ダメだ。笑いが止まらない。
これをもしあの子に見られ「何で笑っているの?」と訊かれたら、何と答えれば良いのだろうか。


「ふぅ…疲れた」
「流石に不謹慎過ぎたかな」


名前も知らない少女を嘲笑うというのは、不謹慎かつ可哀想と思った私たちは笑いを止める。


「明日学校で探してみるか?」
「お、コミュ障のくせに勇気がありますね~? 何か期待してらっしゃいますか~??」
「な、馬鹿! 違ぇよ!」
「怪しいですね~??」


…私って何時からこんな性格になったのだろうか。
これではただのオバサンではないか。少し自重せねば。


「ほら、家まであと少しだから余計な事言うなよ」
「はいはーい」

「…ん?」


ドガッ!


「ぐはっ!?」
「きゃっ!?」

「えっ!?」










さて。今の一瞬で何が起こったのか少し説明しよう。
まず、晴登が曲がり角を曲がろうとした。
すると、女の子とぶつかった。
その女の子をよく見れば、何という事でしょう。入学式の朝にぶつかったあの子だったのです。

まぁあの時は寸止めで済んだけど、今回はぶつかっちゃいましたな~。


「いって~・・・って、あ!あの時の…」
「うぅ~・・・!?…あ!!…」

「「大丈夫ですか!!?」」


わぁ見事にハモった。初対面で(正確には2回目)でここまで息が合うとは、何か疑ってしまいそうだ。


「あ、えっと…すいません! では・・・!」アセアセ
「ちょっと待って! そこで話さない?」
「え……?」キョトン

「(え? 莉奈、お前…)」コソッ
「(しーっ! 折角だから仲良くなっとこうよ? 晴登もその方が嬉しいでしょ?)」ニヤッ
「(な……///)」

「どう…かな?」
「わかりました。良いですよ」ニッコリ


あの時のように足早で去ろうとした彼女を私は引き留めた。その行動には、その子どころか晴登まで驚いていたけど…。

でもそんな晴登を無理矢理納得させたし、彼女からも了解を得たので、近くの公園に寄って、3人で話すことにした。




















「戸部…優菜ちゃん、12歳。通うのは日城中学校」
「綺麗に予想通りだったな」
「え、予想…?」


私たちが今話している女の子の名前は戸部優菜ちゃん。歳は12、私たちと同年代である。
あまりにも的中し過ぎたので晴登がそう口走ると、まぁ自分の事が予想されてるということで優菜ちゃんは驚いていた。


「え?あぁ、こいつ最初に会った時から「誰だ?誰だ?」ってずっと言ってたんですよ」
「は!? 俺そんなこと言ったか!?」
「似たようなこと言ってたじゃん」
「それでも盛ってないか!?」

「2人は仲が良いんですね」

「え? まぁ幼馴染みとかだしな」
「そうね。昔からだもんね」


優菜ちゃんが訊いたことは別段不思議な事ではない。
あんな軽い口喧嘩を見ただけだと「あ、この人達は仲が良いんだな」と暖かい口調で言われてもおかしくないのだ。
何かの漫画(晴登の)では、私たちと同じ状況になった時に、
「は!?こんな奴と!?御免だね!!」
「私もこんな奴となんか…!!」
と相手に答えるシーンが有った。この発言の深い意味はよくわからない。
だけど、私たちは否定を一切しなかったから、まぁ仲良しということだろう。


「優菜ちゃんは何組なの? 1組以外だよね?これからも話したいし、知っておきたいな」


私がそう言って訊くと、優菜ちゃんは快く答えてくれた。


「2組ですよ。私もお話したいです」
「だったらもう敬語は止めようよ? 私たちは同級生なんだし」
「!」


私がそう提案すると、優菜ちゃんがちょっと驚いたような顔をする。敬語以外話せないとか?…流石に無いか。
まぁでもさっきから優菜ちゃんの話し方はホントに丁寧だった。多分家族以外はアレで話してるのかと思うほど。だからやっぱり私たちだけにでも気軽に話し掛けて欲しいかな…なんて。


「そうでs…そうね。私、敬語以外慣れて…ないけど、そうする」
「ありがとう!」


優菜ちゃんの答えに私は満面の笑みで返す。
ホントに敬語以外話すことが無いというのには驚いたが、まぁ今から慣れれば良いと思う。

……人に慣れない人は隣に居るけど。


「晴登もちょっと話せば?」


晴登だ。さっきから私とは話しているが、優菜ちゃんとは関わりを持とうとしてない気がする。
確か初対面の人が苦手。いわゆる人見知りだけど、晴登はその上を行くらしい(本人談)。
折角女子と話せる機会は多いんだから話せば良いのにね。思春期とかいうやつ?


「え?…え~っと・・・今回のテストはどうだったんですか?」
「う…」


晴登の“デリカシーが無い”とまでは言わないが、そんな感じな質問に私は苦笑いが漏れる。その質問はズケズケ訊くもんじゃないよ…。
…私だったら「まぁまぁでした」と言って誤魔化すだろう。なんと惨めだろうか…。


「テストですか…」


あぁ優菜ちゃんは悪かったのだろうか。だったら私の仲間だね。これからもよろしくね・・・


「全体で2位、だけど…」
「「へ!?」」


莉奈ちゃんは渋るように言った。まぁ確かに渋りたくなる内容だけれども、まさかの全体2位!?
そんなに頭良かったんだこの子…。


「でも1位は取れなかった。こんなことは初めて」
「う、うん…」


これはきっとアレだ。強者なりの悩みというやつだ。弱者では到底理解ができないというあの・・・。
しかもこの子の言葉から察するに、恐らく小学校では1位が当たり前だったのだろう。羨ましいが少し怖いかな。


「莉奈ちゃん達のクラスの男子が1位らしいね。噂だと満点だとか。私はあと2点だったのに…」
「2点!? じゃあ満点の教科もあるってこと!?」
「うん。算数と理科」


この回答を聞けば、誰もが「じゃああなたは理系なんですね」と思うだろう。だがしかし、このこの子は国語と社会も99点ということでとても良いのだ。こういうのオールマイティーとか言うのかな。


「2人は?」

「え!? あ、いや……」
「その…普通かな」


ほら。私も晴登もこんな回答だ。人に胸を張って言えるような点数じゃないから…。
まぁこの人がそういう人を蔑む人じゃ無くて、本当に良かった。うん、助かった。


「普通か…なんか良いよね」
「良いって、何が?」


急に優菜ちゃんが真面目な顔になって言うものだから、私は気になって聞き返す。


「こんなこと言うとアレだけど、私って昔から何でもできたの」


ぐっ……何か自慢に聞こえてくる…。でも何かを話そうとしてくれてるから、ちゃんと聞こう。


「お陰で周りから敬遠され、友達と呼べる人が少なかった…。中学校に入れば変わると思ってたけど、テストのせいでもう既に皆の私を見る目が変わった。もし私が普通だったら皆と関わりやすいかなって…。だから・・・」





「違う」





優菜ちゃんの言葉を遮り、急に晴登が口を挟む。


「違う。皆はきっと君の事を敬遠してはいなかった。君と話すのが恥ずかしかったんだ」

「恥ずかしい、って…?」


恥ずかしいってアンタのことじゃん、とツッコみたくなったが、何かシリアスなので私は口を開かず黙っておく。


「君を例えると『高嶺の花』だろ? なら誰だろうと君に話し掛けるのに勇気が必要だったんだ」

「そんなことって…」

「あるんだ。でも確かに皆が君を特別視していたと言っても間違いでは無いかもしれない。だけど嫌われてた訳じゃないと思うんだ」


晴登が即興で作ったような自分の言葉で、優菜ちゃんに伝え続ける。でも不思議と筋は通っていた。


「だって俺は、君のことを嫌いとは思わないよ? むしろ凄いな~って思う。皆そんな感じだと思うよ、俺は」

「……」


晴登の言葉を真剣に聞き、黙る優菜ちゃん。何か感じることがあるのかな…。


「俺はそういう“見る側”しか経験したことのない普通の人間だからさ。何て言うか……君の見えないものが見えるんだ」

「……」


少し晴登が困惑してきたように見える。多分言葉が思い付かない上に、まずこんな言葉を人に伝えるという羞恥が今になって込み上げてきたのだろう。

少しフォローしてあげるか。


「つまりさ、私たちが友達…いや親友になるよ! どうかな…?」

「……!」


途端に希望が見えたと言わんばかりの表情をこちらに向ける優菜ちゃん。
やっぱり、この子はホントに友達が欲しかったんだ。


「………ひ」ボソッ

「え?」


優菜ちゃんは急に頭を下げ何かを呟いたようだが、小さくて聞き取れず、たまらず聞き返す。


「是非・・・是非、お願いします!!」ズイッ

「わっ!!?」


しかしその刹那、優菜ちゃんの顔は私の目の前に飛んできた。キラキラとした表情を浮かべ懇願してくるその姿は、友達に作るということに必死なんだと分かる。
だけど急に近づいてくるもんだから、私は驚いてベンチの上から落ちそうになったけどね…。

でもこれで私たちは友達だ。だが嫌な気持ちは1つも無い。だって日城中学校で作った初めての友達なんだもん!
だからこれからずっとずっと、仲良くしていきたい!

そんな意味を込めて、私は手を差し出しながら彼女に言った。


「これからよろしくね、優菜ちゃん!」

「こちらこそ、莉奈ちゃん!」


彼女は澄みきった満面の笑顔で私の手を握り返した。
 
 

 
後書き
今回は優菜ちゃんのお話でした。
そろそろ登場させとかないと、と思っていたので。

所々は自分で「お、ここの文良いな!」とか「このシーンはこんな感じか?」と思いながら書いていますが、分かったことが1つ。難しい(苦笑い)。
状況を文章だけで伝えるというのは難しいです。思いの外簡単じゃないんです。自分の場合は語彙力も文才も欠けてるので必死ですが…。

まぁそんなこんなで完成したこの話。次くらいにでも進展が欲しいところですが……行事が思い付かない(泣)。 

 

第7話  部活動紹介

 
前書き
4月といったら皆さんは何の行事がありますか?
自分の中学校では部活動紹介がありました。
なので、今回は部活動紹介をやっていきます!

そして、この話が5月に入れば体育祭をしたいですね!(ネタバレ)
 

 
 晴登side
「なぁ晴登」
「どうした大地?」


4月14日午後1時。昼休みをただボーッと過ごす俺に大地が声を掛けてきた。正直面倒だから無視しようかと思ったが、さすがにと思い、俺は大地の方を向かないままで返事をした。


「部活動だよ。お前何に入るんだ?」
「部活動…」


何の用かと思ったらそれか。
今日は先輩達からの部活動紹介が5、6時間目にある。そこでの部のアピールを元に俺らは入る部活動を決めなければならなかった。


「小学校では帰宅部だっただろ? 中学では流石に何かやった方が良いんじゃないか?」
「えぇ~」


大地の言う通り、俺は小学生の頃は帰宅部で活動していた。活動内容は主に無し。自主練というものだ。うん。
だってやりたいスポーツとか無いし。

だが部活をやっていないにも関わらず、運動能力は平均をキープしていた。『普通』という才能が俺にはあるのだろうと密かに思っている、今日この頃である。



「俺はもちろんサッカー部だ!」


まぁそうだろう。
大地は小学生の頃からサッカー部に所属し、好成績を修めていたそうだ。サッカーが好きで、よく俺も誘われる。
そのお陰ででサッカーの実力も『平均』なんだが。


「何の部活動があるんだ?」


俺は最もな質問を大地に告げた。選択肢があった方が決めやすいし、何より先に知っておきたい。

と思っていると、大地が自身のポケットを漁り始めた。


「ちょっと待ってろ。パンフレット持ってるから!」


パンフレット? 学校のやつか?
何で今持ってんだと気になるところだが、それなら都合は良い。パンフレットなら部活動は掲載されているだろうし、絵とか付いていてでわかりやすいだろう。


「お、これこれ」


大地が差し出してきたパンフレットを、俺は受け取り開いた。そして部活動のページを見つけると、そこを注視した。



『日城中学校パンフレット』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*部活動一覧
・野球部
・サッカー部
・テニス部
・バスケ部
・バレー部
・水泳部
・陸上部
・水球部
・卓球部
・ラグビー部
・剣道部
・弓道部
・柔道部
・空手部
・相撲部
・吹奏楽部
・合唱部
・美術部
・料理部
・演劇部
・コンピュータ部
・科学部
・読書部
・茶道部
・華道部
・写真部
・チアガール部
・ボランティア部
・インドア部
・アウトドア部
・英語部
・魔術部
・帰宅部          裏へ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「待て待て待て!!」
「どうした?」


俺が大声で驚いたことに、多少引き気味に大地が問うてくる。
でも理由なんてただ1つだし、それくらいわかってくれるだろう。


「どうしたもこうしたも多過ぎるだろ!!?」
「他にもあるみたいだが…」


『裏へ』という言葉が何かしらの恐怖感を煽らせてくる。表にスタンダードの部活ばっか載ってるってことは、裏にはこの学校ならではの部活が多数載ってるって事か!?
それとも、別の何かが・・・?!

でも既に表に・・・!!



「魔術部って何だよ!!?」
「さぁ」



いやそんな軽めに答えないで!
俺は結構真剣だから!
ガチで気になるから!

もう裏に書いてあるのは読む気にならないが、唯一表にある『魔術部』だけは気になる!
てか何で『帰宅部』書いてあんの!? アレって部活に入っていない人の名称でしょ!?


「何なんだこれらは…!!」
「それを説明するための部活動紹介が今からあるんだろうが。そろそろ行くぞ。集合の時間だ」
「お、おぅ…」


大地に飽きられたような反応をされるが、仕方ないことだろう。ホントに気になるんだから。

体育館へと足を進め始める大地の後に、俺は続いた。




















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 体育館にて・・・
「それでは部活動紹介を開始します。各部活動は整列し、待機をお願いします」


真面目な司会により、部活動紹介が始まろうとしていた。正直入りたい部活が無いんだが、しっかり聞こうと思う。
紹介は全てステージの上で行うそうだ。


「ではまずは1つ目。王道、野球部です!!」




















「・・・はい、ありがとうございました! では次が最後の部活動となります。魔術部です!」


うぅ…かれこれ100分。映画と同じくらいの時間を体育座りで聞いていたら疲れるな…。
だがやっと気になる魔術部の謎が解ける!





「皆様、ご機嫌はいかがでしょうか?」ザッ





3年生で部長と思われる男子がステージに出てきた。黒のマントを身に纏い、いかにも『魔術』という感じだが…。





「今回は我々の活動内容を説明する。準備しろ!」





眼前の彼は作ったような凛々しい声で指示を出す。
すると、部員と思われる方々がゾロゾロと出てくる。4人しか居ないな。意外と人が少ない…。





「展開!!」
「「はっ!」」





『展開』? どういう意味だ?
俺がそう思った瞬間、彼らは人の何倍もの大きさの紙を広げ始めた。
真っ白な紙の中に何か黒色で模様が描かれている。

目を凝らしてよくみると…、


「魔法陣?」


俺の目にあの模様はそう映った。
俺が持ってる漫画の一作に“魔法もの”が有るのだが、それに出てくるキャラが出す魔法陣に少なからず似ているのだ。
俺はその事から、魔術部に少し親近感を覚えた。

だが、問題はそこではない。問題は、彼らがなぜ魔法陣を展開させたかだ。
これで何も無かったでは部のアピールには繋がらない。恐らく何かトリックでも仕掛けてくるのだろう。


「さぁ皆さん、陣の中心にご注目」


部長らしき彼が部員を率いり、先程の魔法陣をぐるっと囲んだ。まるで何かの儀式が始まるかのような進行である。
と、不意にステージ…いや体育館全体の照明が落とされる。少々びっくりしながらも「てことは発光するのか?」と俺は勝手に予想を立てていた。
魔術部って、つまりはマジック部だったりするのかな?





「では始めますよ。今から5秒数えます。数え終わると変化が起こります。皆さんはその変化を見てどう思うでしょうね?」





部長(仮)はそう言った。自信に満ち溢れているのが伝わってくる。





「5…4…3…2…」





カウントダウンが始まった。不思議とそれに会わせて俺の鼓動は早くなっていった。





「1……、ゼロ」



ドォォォォン



「なっ!!!?」

「「「「うわぁぁぁ!!!」」」」











体育館は突如ステージから放たれる黒い煙と衝撃波に支配された。強風と呼べる勢いにたまらず飛ばされそうになるが、なんとか耐える。
元々暗かったこともあってか、周りの様子が一切確認できない。原因は間違いなく魔術部。原理は…不明。


「・・・皆さん、落ち着いてください」


断末魔がいまだに響く中、司会の声が聞こえたと同時に目の前が明るく開けてきた。
どうやら窓を開け換気して煙を外に出し、更には照明をつけたようだ。
でも、この状況で落ち着くのは無理が無いか?

でも良かった、と思い前を見直した俺に目を疑うような光景が映った。


「何だよ…こりゃ…」


俺が呟いたと同時に部長(仮)が話し始めた。


「ふふふ。皆さん、何が起こったのかわかりましたか?」


嘘だろ? 何で…?
状況だけは理解できる…だが、原理が非現実的過ぎる…。


「少し貸してもらったよ」


途端、部長(仮)が不思議な発言をする。
だが皆は意味がわかる筈だ。勿論俺も。
だってこの言葉は俺に向けられているのだから。

この場に居る誰もが声を発さず、ただ呆然とステージを注視する。



ステージに現れたものは……俺だった。
 
 

 
後書き
部活動多いですね~(真顔)。誰がこんなに用意したのでしょう(真顔)。しかも他にも何かあるなんて…(真顔)。
そうです。俺が用意しました。

部活動って何が有るかな~って思って書いた結果、こうなりました(笑)。まだまだ思い付きそうです…。

非日常な部活って何かな?と考えると、やっぱ『魔法』に行き着くんですね。他にも候補は有りますけど。その候補達は後々明らかにさせましょうか(遠い目)。あ、でもやっぱ面倒。

今回の話は完結してませんねぇ~。このラストに続く文章が思い付きませんでした(笑)。無念です。
ちなみに後編として続ける気はありません。
ただ、次回はもう既に部活動に入ったとこから始めます。

こんな駄文にお付き合いいただき、毎度毎度感謝しております!
ですが駄文とわかっていても、次回も読んで下さい! お願いします!(必死) 

 

第8話  初めての部活動

 
前書き
文才が欲しい文才が欲しい文才が欲しい文才が欲しい・・・はっ!!取り乱してしまった… 

 
キーンコーンカーンコーン


「よっしゃ終わりだ! 晴登、部活行くぞ!」
「俺とお前は違う部活だろうが」
「まぁまぁ、それでもだよ」


下校のチャイムが鳴り響き、皆が急にソワソワとし始める。何故なら今日から1年生の部活動が始まるからだ。
そのせいか、大地が異様に元気が良い。


「サッカー部ってどんなのだろう…♪」
「結局サッカー部なんだな」
「当たり前だ! 俺はサッカー一筋だ!」
「はぁ……」


恍惚とした表情でウキウキしている大地に口出ししてみるも、軽く弾かれてしまう。こいつそんなにサッカー好きだったのか、と思い直してしまう。


「ちょっと2人だけで行かないでよ?」


不意に横から聞き慣れた声が聞こえてくる。無論、俺たちに向けて。
ふと横を見ると少し寂しげな顔をする莉奈が居た。


「まず2人で行こうともしてねぇよ」


慰めようとした訳ではないが事実を莉奈に伝える。
するとまたいつもの笑顔に戻った。


「裏切ったのか晴登!?」
「知るか!!」


だが今度は大地が訳のわからない事を言い始める。
おいおい、俺は一緒に行くとは一言も言ってないぞ?

そんな俺の想いは届かず、大地が一人芝居を続ける。


「はぁ…」


既に毎日が色々あって手一杯なのに、こんな茶番に付き合わされてたら俺の体は持たねぇぞ。無視してさっさと行こう。


「あ! ちょっと晴登待てよ!」
「置いてかないで~」


後ろから大地と莉奈の声が聞こえるが無視無視!




















「ふぅ…行ったか」


ようやく撒けた。
いや正確には、あいつらは部活に向かったってだけか。
大地はサッカー部だからグラウンド、莉奈は水泳部だからプールサイドか。

んでもって俺が・・・、


『魔術室』


別の校舎の1階にある、黒幕の掛かった怪しい教室の前に立っていた。
今になって少し後悔してる。
あの時につい興味が湧いてしまったのだ。





*回想*

「え……!?」
「驚いたかね?」


驚いた、なんてレベルでは無い。究極に驚いている。
突っ込みどころが多すぎて困惑して、何も喋れなくなっている俺だが、状況だけは理解した。

この部がさっき使った魔法陣。あれは本物…いや本物の魔術だ。


「これが我らの部の証だ!!」

「「「「………」」」」


あまりの出来事に生徒は全員声を失う。
そりゃそうだ。いきなりの衝撃が襲い、ようやく無くなったと思えば近くに居た奴がステージの上へと瞬間移動してるんだからな。

こちとら目を開けたら生徒が見渡せたから、心底ビビったつーの。しかも体育座りのまま移動してたからなんか恥ずかしいし…。

でも、この部は…凄い!!

*終了*





「失礼しま~す…」ガラッ


俺はドアを開き、弱めな声で部員たちの存在を問う。
だが、返事が返ってこない。教室も電気が点いておらず暗いし、まだ誰も来てないのだろうか。

取り敢えず待つことにした。




















「「失礼しまーす」」
「!!」


10分ほど待ち、少々退屈していた頃にようやく部員らしき人たちの声が響いた。
少し驚いた俺はテンパりながらも挨拶をした。


「こ…こんにちは!」

「ん? あぁ新入生か。よろしく」


会話…とまでは言わないが、一応挨拶をすることは出来た。中々フレンドリーな先輩だな。


「今年は新入生が来て良かったよ~」

「え、それって…?」


先輩がそう口走るのを、俺は聞き逃さなかった。
言いたいことは多分・・・


「ウチは毎年部員が少ないんだよな」
「不気味、だとか、怖い、とかいう理由でな」


…確かにその通りだ。
もしこんな部活が大人気だったら、流石に生徒たちの精神を疑いたい。俺の精神状況は知らんが…。


「でも今年だって少ないよ」
「部長のお陰で多少は増えるかと思うが…」


後から知った話だが、ステージに立って話していたあの人がやっぱり魔術部の部長だったそうだ。でもって才能があったんだとか。何の才能かは知らないけど…。


「新入生で他に入ってくれた人は分かる?」


俺以外にってことか? 誰がどの部活に入った、とか把握はしてないからな…。


「すいません。分からないです…」


お役に立てず申し訳ありません…。

それよりもこんな雑談で過ごしちゃってて良いの?
部活動という部活動を何もしていない訳だが…。


「この部は主に何をするんですか?」


俺は内容について訊いてみた。部活動紹介の時は言わなかったし、まずそれどころじゃなかったもん。
普段の活動ってどんなことしてるのかな?


「魔術の研究…とかか?」
「或いは魔法…?」


ヤバかった。この部活はホントにヤバいよ。
ここの教室だけ世界観と言うか、何かが違う!
普通に『魔』を口走る時点でもう違う!


「部員の数は何人ですか?」


ヤバいヤバいと言っても入ってしまったものは仕方ない。取り敢えずは情報を貰おう。


「俺たち2年生が4人、3年生が2人だ。後は新入生で+αだが…」


予想よりも全然少ないじゃん。これじゃ部の存続が危うくないか?
この先輩たちからは全く危機感を感じないが。










ガラッ


「やぁこんにちは、新入生たち!! 歓迎するよ~!」

「わっ!?」


俺は不意を突かれ倒れそうになるも、何とか堪える。
元気に魔術室に入ってきたのは、部活動紹介の時に前で話していた部長だった。

……。部活動紹介の時とは比べ物にならないくらい、テンションが高くないか?
クールな人かと思ったけど、もしかしたらユーモアの方が強い人かなと思っちゃうよ?


「…ってあれ? 1人だけ?」
「みたいです…」


部長が心底悲しそうな顔を見せる。そんなに欲しかったんだ、新入生。


「5人は欲しかったんだけどな」
「今日はたまたま来れなかったんじゃないですかね?」
「そうだといいけど」


ものすごく新入生が気になる様子である部長。
この場に俺さえ居なかったら、この人は悲しすぎて発狂しそうな雰囲気だ。
この人は絶対面倒くさい人だ。


「そ、それより今日は何をするんですか?」


俺は今日の活動について訊く。まぁ最初だからということで予想は大体つくけど、少しくらいなら魔術部っぽいことはするんじゃないだろうか。


「うーん…」


…随分悩んでいるな。決めてないのか?予定を。
まぁ真剣に考えてるご様子だから、待つか。


「じゃああの時の魔法陣の説明をしようかな!」


あれ~? どうしてそうなるの~?
もしかして常識ってものが無いのかこの人は!?いや、それとも俺が無かったのか!?


「先輩、普通は最初なら自己紹介をするもんですよ。このままじゃ俺たちはこの新入生の名前も知らずに過ごしていくことになりますよ?」


しめた! ナイスフォローです2年生の先輩!
その通りですよ! まぁ俺の場合は自己紹介を済ませないと気が楽にならないし、そもそも先輩の区別ができない!ってことですけど。


「あ、そっか。んじゃ自己紹介してもらえる?新入り君」


あぁ…この立派な部長は常識が無かったんだぁ…。良かった…俺が普通で。
・・・と思っている暇は無いようだ。もう自己紹介の時間に移ってしまった。
この人は切り替えが早い人か。



「三浦晴登です。宜しくお願いします」



やった!普通に自己紹介が出来たぞ! 相手が先輩だからということがあってか、良い感じに緊張が抜けたのかもしれない。



「俺は部長の黒木終夜だ! これから宜しく!」



堂々とした態度で自己紹介を終えた部長。これからは「部長」か「黒木先輩」と呼ぼうかな。


「じゃ話戻すぞ。あの魔法陣だが・・・」


え!? 自己紹介終わり!? やっぱ切り替え早い!
そこの2年生の名前知らないんだけど…。もう後で訊くか…。


「あの魔法陣が本物だというのはわかったね?」

「えぇもちろん」


だって俺が体験したんだからな。未だに信じられない出来事だった。
確かにその原理は気になるところだが…。


「実は俺は魔法が使えるんだ」


別段驚くこともなかった。何となく予想はしていたし。
だが改めて聞いてみると可笑しな話だ。魔法を使える人が目の前に居ることを含め、色々非現実的だと思う。


「他にも見せてあげるよ」


部長はそう言うと手の平が上になるよう開き、上へと掲げた。
先程の表情から一変、険しい顔つきになった。
俺はそれを黙って見る。


「はっ!!」ブワッ


…!! 力んだかと思うと、手のひらの上に赤い小さな炎が浮かんだ。その炎はユラユラと意思を持ったように動く。
部長はそれを俺の目の前へと持ってくる。その時にはもう、さっきのお茶らけた顔に戻っていた。


「どうよ!!」ドヤッ


ドヤ顔で俺の返答を待つ部長。
「凄い」の一言で尽きるのだが、俺には別の言葉があった。


「俺も…覚えたいです、それ!」


部長はそれを聞き、ニッと笑みを浮かべたかと思うとこう言った。


「ようこそ!魔術部へ!!」
 
 

 
後書き
展開が早すぎですね。もう少し引き伸ばせそうな気がするんですけど……どうしても出来ません…。
『地の文』の書き方をもう少し学ばないといけませんね。

今回の話は少し短かったと思いますが、読んでくださりありがとうございました!
次は何しよう…? 

 

第9話  素質

 
前書き
一応前回の続きです。 

 
魔術部に入部し、活動を始めてて早3日。
…と言っても真面目に活動していたのは俺だけ。
先輩方のほとんどは部室にすら顔を出していなかった。
今日だって部室には俺と黒木部長しか居ない。

ちなみに俺の活動とは黒木部長に魔術を教わることで、それを初日からずっと続けている訳だが・・・。


「部長、ホントに出来るんですか?」
「魔術の基本は信ずること。信じない者には何も出来ないよ」



俺は毎日毎日不思議な特訓をさせられている。
精神統一としての座禅や正座はまだわかる。集中力というのは魔術に欠かせなさそうだし。

だが、掛け声やポーズの練習は必要無くないか!? どう考えても無駄な気がする!!

・・・と以前部長に伝えたら、
「こういうのは形から入るんだよ!」
と言われた。…でもやっぱ必要無いと思う。多分部長の趣味だろう。



「ま、俺は習得に1年かかったがな」
「え!!?」


何でそれを先に言ってくれないの!?
いや確かに時間がかかるっていうのは分かるけど、それでも長すぎない…?


「正確には、“魔力の源作り”にかな」
「魔力の…源…?」


俺はたまらず聞き返す。
“魔力の源”とは何だろうか? そしてそれを作るって…?


「説明しよう。人が魔術…又は魔法を使うには、そのエネルギーとなる『魔力』が必要になる。えっと…某有名RPGの“MP”とか言うやつかな?」
「ハハ…よくわかります」


苦笑いしている俺に、部長は話を続ける。


「そしてその魔力を人に宿すには『源』が要る訳だ。すなわち湧水地点だ」
「へぇ…」


思ったがこの人は説明が上手だな。具体例だってしっかりしてるし想像しやすい。

『魔力の源』か…。つまり話の流れだと、俺はそれを体に作らないと魔術なんて使えないという訳か。まぁ逆に言えばそれさえ作れば魔術は使えるってことか?


「察せたかな? 君はそれを作るとこから始めるんだ」
「どうやったら作れるんですか?」


俺は最もな質問をぶつけた。
この人は魔力の源を持っているのだから、作り方はわかるだろう。部長が1年かけてようやく手に入れた魔力の、作り方って…?


「残念ながら作る方法は見つかってない」
「はぁ?」


あまりの回答につい生意気な声が漏れる。
慌てて口を塞いだが、それを部長は読んでいたかのようにニコニコ笑っていた。


「そりゃ驚くよね。でもね、作る方法が無いだけで宿す方法は有るんだよ」
「え、それって…?」


作らずに宿す? 一体どうすれば良いんだそんなの?


「では、具体例として『橋を架ける』で説明しよう!」


分かった。この人はロマンチストな人だ。だから空想がキラキラしてるんだ。
それで説明が上手なんだから侮れないな、この部長は。


「橋を架けるにはまず材料として木材が要る。あ、作るのは木の橋ということで。そして橋の材料の木材を『魔力』としようか。そして『魔力の源』を何処かの森としよう。ならそれの宿し方は?」

「へ?? えっと…つまりは魔術が橋ってことだから??…それを作るために…元と言うことで材料が必要になって??…さらにそれから…??」

「はいストップそこまで~。ここで森の元を考えるのは難しいよね。視点を変えよう!」


いよいよ頭がこんがらがってきた。
さすがにここまで凝った話だと俺の頭じゃついていけない…。


「“森を宿すもの”って言ったら分かるかな?」


森を宿す? 宿すってことは……含む。森を含む・・・いや違うな。
なら、宿す=生えるとして……え~っと・・・あ!!


「自然ってことですか?」
「う~ん、まぁ正解。じゃあ次だ。森を宿すには自然が要る。勿論橋を架けるのにも自然が必要だ。もう分かるだろ?」


自然とは何処にでも存在するもの。元々そこにあるもの。
これらの意味を照らし合わせて導き出される答え・・・


「自然……すなわち素質」

「大正解~!!」


……。つまり魔術の習得には素質が必要だと。それが無ければ魔術は習得できないと。
そういう事か…。
俺はがっかりし、地に膝をつく。


「まぁまぁそんなにへこむな。君に素質が有るかもしれんだろ」
「どうせ無いですよ。俺は昔から“ザ・フツー”なんですから」


俺は脳は完全にネガティブ思考へと変換された。
もう立ち直ることなど無いだろう。
だって今まで俺は普通の能力で平凡な人生を歩んできたんだ。今から非凡な事が起こる訳が無い。そう断言できる。


「じゃあ仮に君に素質が有ると言ったら?」
「そりゃ喜びますけど…」


喜ぶけど無いものは無いんだ。俺には魔術なんて無理なんだよ。


「でもこの部に居る奴で魔力を持ってんの、俺と副部長だけなんだよな。他の奴らは魔力なんて欠片も持ってないから“暇潰し”に此処に来てるだけだしよ」
「え……」


途方に暮れていた俺に、部長が追い討ちをしてくる。
アレか…?この人は人の傷を抉るタイプなのか…?

てかそれよりも今の部長の話が本当なら、もし俺に魔力が無かったら、部活動なんてやってないも同じ…!?


「フフフ、慌ててるね。ならそんな君に面白い物を見せよう!」
「?」


俺がアタフタする中、部長は不敵な笑みを浮かべると、部室の隅においやられていた物を抱えるように取り出し、持ってきた。
放置されていたのか随分と埃を被っている。




「何ですか、これは?」
「魔力測定器だ! 正確にはその人に眠る魔術の素質を計る物だ!」


シュール過ぎるよ。いきなり目の前に出された物が魔力を計るって……やっぱシュール過ぎる!

驚く俺をそっちのけにし、床にドンと測定器を置く部長。よく見れば地球儀のような形をしている。


「これってどう使うんですか?」


俺は安直な質問をする。
正直胡散臭いが、もしかしたら俺には魔力があるって分かるのでは、と期待もしている。


「ここに手を」
「はい」スッ


部長に言われた通り、測定器の丁度真上の位置に手を浮かせ、かざすようにする。。
先程部長が払ったが、少々埃の感触がした。だが贅沢は言ってられない。


「目を瞑って集中して」
「え…はい」


集中…か。
さっきまでずっとやっていたから楽勝だ。
集中…集中…。

何が起こるのだろうか。
どうやって測定するのか。
色々な疑問が俺の頭を飛び交う中、俺の手が何かを感じた。


「部長…この測定器、何か動いてません?」
「あぁ動いてるよ。測定中だ。まだ集中していてくれ」
「はい…」


どんな感じに動いているんだろう。
なんか手に僅かだが風を感じる。

すると音も鳴りだした。
キュイィィィンという機械音だ。


「……」
「……」


無言の時間が続く。
俺が喋れば集中が途切れるし、部長が喋っても集中は途切れる。こんな状況なんだろうが、正直気まずいな何か。
早く終わってくれ…。


「あと10秒な…」ボソッ
「はい…」ボソッ


閉じた目の隙間からふと光が見えた。発光でもしているのだろうか?
だが確認する訳にはいかないので、瞑ったまんまにしとこう。

あと5…4…3…2…1…0。

音が止んだ。




「よし目を開けて良いぞ」


俺はゆっくりと目を開け、測定器を注視する。
測定器は…中心が青く輝いていた。まるで小さな太陽の様に。


「部長、これどうなんですか?」
「……」


光ってることに意味があるのか、光の色に意味があるのか、何も知らない俺は取り敢えず部長に訊く。
だが、部長は答えず、何かを考えてるようだった。
待つのも面倒なのでもう一度声を掛けようかなと思っていると、部長が口を開いた。


「…残念だが・・・」
「え…?」


「残念」。部長は今そう言った。
てことは俺に魔力は無かった…?
じゃあ俺はこれから何をすれば・・・?










「な~んて嘘々♪」
「へっ!?」


俺は今までの人生の中でもダントツにマヌケな声を出して驚いた。
『嘘』ってことは・・・。


「いや~すごいね君。まさか俺よりも数値が高いなんて!」
「マジですか!?」


どうやらやったみたいだ!
俺には素質が有るらしい!
つまり俺は魔術を使える!

人生の中でここまで喜んだことはあっただろうか。
それほどまでに嬉しかった。


「部長、早く魔術使いたいです!」
「まぁ焦るな。言ったろ? 今計ったのはあくまで素質。これから先は君自身が頑張って魔力を身に付けるんだ」


そうか。これはまだ最初の段階。
これから努力しなきゃいけないんだ。




俺の心に火が点いた。




「部長、俺って部長より素質の値が高いんですよね」
「あぁそうだが?」


「だったら俺、部長を超える魔術師になりますよ!」


夢…が出来た。
まだ部長のことなんか全く知らないし、どんな魔術を使うのかも知らない。
でも同じ場所に立てた以上、俺は精一杯努力して部長を超えたい!
こんなに熱くなったのも一生の中で初めてだ。だが、これが、俺の夢なんだ!!


「部長…いや師匠、指導お願いします!」

「新鮮な気分だね~。こちらこそ宜しく!」


俺と部長は固い握手をした。
 
 

 
後書き
はて。何かがイメージと違います。
やはり、自分の文才のせいでしょうか?

まぁどうでもいいか。
次は授業を1つやっていきます。何をするかはお楽しみで。

今回も読んでくださった方、ありがとうございます! 

 

キャラ紹介 第3弾

 
前書き
第3弾。黒木部長です。 

 
魔術部部長

黒木(くろき) 終夜(しゅうや)
 性別 男
 年齢 14歳~
 容姿 ツンツンに立った黒髪
    爽やかな顔つき
 性格 非常にフレンドリー
    メリハリしっかり(切り替えが早い)
    熱血

 補足 謎のカリスマ性があるらしい
    勉強が苦手
    だが魔術は得意
    ロマンチスト 
 

 
後書き
今のところ他の部員はモブです。変更するかもしれませんが。 

 

第10話  体育の時間

 
前書き
そろそろ体育祭編をしたいので、その下準備を進めていきます(多分)。
今回は一口に体育と言ってますが、色々やる予定です。 

 
タッタッタッタ・・・

ダン!!


「「おぉ~!」」


周りから感嘆の声が漏れる。
理由は単純。あるものを凄いと思ったからだ。


「凄いな、大地」
「そうか?」フキ


駆け寄ってきた俺に、汗を拭きながら大地は答える。
だが謙遜こそしているものの、実はこいつはさっき12段の跳び箱を跳んだのだ。素人の俺たちから見れば、凄いと思う。まぁこいつも素人なんだが。


「運動は出来るよな、お前」
「悪いが勉強も出来るぞ」
「コノヤロ~…」


正直に誉めたのだが、言い方が悪かったせいかそう返される。
何でこいつは何でも出来る奴なんだ。
馬鹿な事とかたまにするし、子供っぽいし、天然なところあるし、方向音痴なのに、何で基本の能力(スペック)が高いんだよ!


「まさかひがんでるんですか、晴登君?」ニヤッ


しかもちょっとウザい要素あるし。
何だよこいつのキャラ…。天然なのに天才って何? 何処の漫画のキャラですか? もうやだ…。


「まぁ冗談だけど」
「冗談じゃなかったらぶっ飛ばしてたよ」
「怒るな怒るな」


俺が怒った口調で言うと、大地はヘラヘラとしながらも謝ってきた。
それでも少し怒りが収まらず次なる言葉を放とうとした俺に、声が飛んできた。


「晴登君、君の番だよ」
「えっ!?」


そう言ったのは俺のクラスの担任である山本先生。
ちなみに『俺の番』というのも、今俺たちは体育の授業を受けており、それで跳び箱をやっているのだ。ただそれは男子だけであり、女子は別の所で何かをしてるらしい。
この体育の目的は、先生曰く「生徒の基礎体力を見たい」ということなので、女子も運動関係の何かしらをしているんだろうけど。





…という事で、俺は急いで跳び箱を見据えるように正面に立つ。


「じゃあ行くよ」ピィ

「」ダッ


先生のホイッスルの音を合図に走り始める。
俺は大地ほど運動が出来る訳でもないので、跳ぶのは7段にしている。これが平凡なのかそうでは無いのかは知らないけど、これは跳べないといけない気がする。

遂に跳び箱の真正面まで来た俺は少し跳ね、踏切板を両足で強く踏みつけた。勿論それで終わる訳でも無いので、跳び箱に手をつき、跳ぶ準備を終えた俺は、勢いよく跳び上がり、跳び箱を・・・跳んだ。


「よし!・・・ってわっ!!」


だが勢いをつけすぎた俺の体は、跳び箱を跳んだ直後にバランスを取ることが出来なくなっていた。
まずい。このままでは頭から落ちる!

跳び終わって着地するまでのコンマ数秒、俺は出来る限り安全な体勢になった。


「くっ……!」


俺は必死の思いで脚を伸ばした。すると・・・


ズザザザァ


マットから響く不格好な着地の音。
そして・・・


ゴチン

「痛っ!!」


軽く床に頭をぶつけ、悲痛な声を洩らす俺。

骨折等の怪我は免れたが、クラスの男子に変な痴態を晒してしまった。


「ん~。晴登君は8段はいけるんじゃないか?」
「そんな気がします…」


相変わらず寝転がったまま天を仰ぐ俺に、先生は言った。
確かに勢いが良かったってことは、もう少し上はいけるってことだもんね。
取り敢えず生きてて良かった~!





「じゃあ晴登君も終わったし、皆さん次に行きましょうか」
「「??」」


ふと放たれた山本の言葉は俺たちの動きを止めた。
当たり前だ。誰もが「今日は跳び箱の授業だ」と思っていたのだから。


「次って何処ですか?」


皆を代表して俺が訊く。
すると山本は穏やかな顔で返した。


「言ったじゃないですか、君たちの基礎体力を知りたいって。跳び箱だけじゃ分かんないでしょう?」
「それはそうですけど…」
「大丈夫。もういっそ体力テストとでも思えば楽になるかもね」


体力テスト…か。先生はやることが大きいな~。たかが基礎体力確認なのに…。
俺の運動能力の無さを改めて知るのは御免だよ…。


「四の五も言っても変わらないよ? 取り敢えずついてきてくれたまえ」


無理だ。この人には逆らえない…。















「着いたよ」
「先生・・・」


俺は目の前の光景に戦慄した。
言ってやれ。この可笑しな先生に!


「これ、どう見ても“ロッククライム”ですよね!?」


俺らクラスの男子の前に現れたのは、テレビでよく見る“壁に色とりどりの石が組み込まれているやつ”だった。つまり登るやつ。


「まさか登れとか言いませんよね…」
「言わないと話が進まないんですけどね」


もうヤダ! 勘弁してくれ!
何で中学生がロッククライムなんかしなきゃいけないの!? おかしいよ!!
これで何の能力が分かるって言うんだ!


「では大地君。やってもらえるかな?」
「良いですよ」


大地が引き受けた以上、俺たちはやらなければならなくなった。
…もうダメだ。諦めよう。腹を括るとはこの事だろう。





「じゃあ行きますよ」


いつの間にか命綱を取り付けた大地。
先生に確認をとり、今にも登れそうな状況だった。


「はい。気をつけて」

「よしっ!」ヒョイ

「……」


大地…。お前本当はやった事あるだろ。どうしてそんなにヒョイヒョイ登れるの? 運動が出来るって言っても限度はあるよね?!

そんな俺の気を知る訳も無く、大地は10m程あった壁を難なく登ってしまった。素人なのに。非常におかしい。


「それでは皆も順番にやりましょう」


悪魔の一声が掛かった。















「はい。では次に行きましょう」

「」ゼーハー


きつい。3mも行けなかった…。てゆうか次の石に届かないし。
しかもこれで終わりでは無く、まだ何かをやるようだ。いやもうダメ、やられる。


「大丈夫か晴登?」
「無理…」


大地の優しさにも対応できない。
どんだけ疲れてんだよ俺。普段運動はしないからな…。


「着きました」


無駄に広大な学校を歩き回り、今度着いた場所は・・・、


「普通にグラウンドですね」
「はい。今度は50m走です。簡単でしょう?」


難易度は下がったが、既にモチベが下がっている為、やる気を駆り立てられない。皆も同じ気分だろう。1人を除いて。


「では出席番号順に4人ずつやります。出席番号が早い順に並んで下さい」


出席番号が早い4人がスタートにつく。全員疲れきった表情をしている。


「始めますよ。よーい・・・ドン!」パァン


先生がピストルを鳴らすと4人は走り出した。
全員走り方が何だかぎこちないが、それでもゴールへと走っている。


ピッピッピ


先生が持っているストップウォッチを3回鳴らす。3人がゴールしたようだ。大体8秒はかかったかな・・・って、


「」ゼェゼェ

「「えぇ!!?」」


えっと…暁君だっけ!?
何でまだ30m地点にいるの!?
つか今にも倒れそうなんだけど!?

・・・はっ!そういえば……



『暁君、4段失敗…』ボソッ

『暁君、結果1m…』ボソッ



・・・って先生が今までの競技で呟いていた!!

…てことは・・・


「(暁君ってさ、絶対運動苦手だよね)」ボソッ
「(苦手というより無理だろ)」ボソッ


大地と話してその結論に至った。
彼は頭は良いが、運動がてんでダメなのか。
…だったら、大地は勉強も運動も出来るし良いな。
完璧そうな暁君にもそんな弱点があったとは…。


「暁君、13秒53…」ボソッ


何か先生が呟いているけどよく聞こえなかったな。
でも多分、クラスで最下位のタイムであることは間違いない。
可哀想に、暁君。


「じゃあドンドン行くよ」


先生が言った。
もう次の4人はスタートの構えをしていた。


「よーい・・・ドン!」パァン


スタートの合図が響いた。




















「・・・て事があったんだ」
「へぇ~。大変だったね、男子」
「大変ってレベルじゃねぇよ。死にそうになったんだから」
「家にずっと引き籠っているからだよ」
「ハハ…」


俺は今帰路についている。そして今日の体育の出来事を莉奈に話しているところだ。
ちなみに女子は別の先生の指導の元、体育を行っていたそうだが、なんと体操をずっとやっていたそうだ。しかも俺らの体育よりも数倍楽そうなのを。


「晴登ったらすぐ疲れてよ~」
「お前が逸材なんだよ。最後まで涼しい顔しやがって」
「だって簡単だったもん」


あの50m走が終わっても、いくつか競技があった。鉄棒だったり幅跳びだったり、終いには砲丸投げをさせられた。骨が折れるかと思ったけどね…。
クラス男子は大地以外、早く終わらないかと強く願っていた…筈だ。
しかし大地だけはやはり、全てを完璧と言えるほどに達成していた。お陰で先生から数々の称賛の言葉を貰っていた。


「にしても暁君がね~」フフ


俺が今日発見した事実だ。
『暁君は運動が出来ない』
非常に失礼な物言いであるかもしれんが、アレはどう見ても驚く。
だってあんなクールな人が、汗水垂らして不格好な走りを見せていたのだ。……ちょっと面白かった。


「で、晴登はどうだったの?」
「え?」
「すぐ疲れたってのは分かったけど、結果はどうだったの?」
「え~…」


結果というのは、今回クラス男子が行った競技の結果を元に先生が作成した体力データの事だ。
一人一人ランク付けがされており、最低のEランクから最高のSランクまである。
勿論大地はSであった。


「ねぇ~、晴登は?」ニヤニヤ
「………C」


恥ずかしい。もう埋まりたい。
ちなみにCというのは平均の値である。つまり、俺はまたも“平均”だったのだ…。


「晴登ってホント普通だよね~」
「わざと言ってるかは知らんが、傷付くから止めて…」
「晴登ってホント普通だよな~」
「お前はわざとだろ!!」


莉奈と大地が交互に俺をいじってくる。
関わってもらえる事に悪い気はしないのだが、せめて題材を変えてほしい。ホントにヘコんでるから…。





「まぁでも・・・」

「?」


「それが晴登だよね」ニコッ
「だな」ニカッ

「お前ら…」


不意な言葉に俺は感動し涙を出しそうになる。
あぁ、やっぱりこいつらが友達で良かった。


「・・・とか言ったら晴登泣いちゃうかな?」ププ
「どうだろうな?」ハハハ


だけど・・・やっぱりウザい!!!
 
 

 
後書き
今回はグダグダですね。自分で言います。
途中から何を書いているのか分からなくなりました。
行き当たりばったりで書くと痛い目を見ますね。

だがしかし、次の話はしっかり書けそうな気がします! あくまで、気がするだけです!


今回の話も読んで下さった方、ありがとうございます!
次回以降も頑張ります!!(ニッコリ 

 

第11話  空白の一席

 
前書き
前回の後書きに『次回はちゃんと書ける』と言いました。
あれは嘘でございます(笑)。
というか勝手に嘘になりました(困惑)。
意外と書くのが難しい内容だったんで…。

話の繋がりがアヤフヤですが、我慢して読んで、自分の言いたい事を察して下さい(ニッコリ 

 
入学からもう1ヶ月が経とうとしていた。
一応クラスの皆とは馴染むこともでき、部活だって順調に練習を重ねている。
学校の構図はまだ全ては覚えきれてないが、それでも最初よりは分かってきた。

だが、そんな俺には1つ気になる事があった。


「柊君・・・今日も欠席か」ハァ


健康観察の点呼で、先生のため息混じりの寂しそうな声が聴こえる。
これを聞いた時、皆の顔は少しだけ暗くなる。

そう、これが俺の悩み。出席番号27番の“柊”という人が、学校に来ないということだ。





彼が来ないのは恐らく、『過去にイジメられ、学校が怖い』、『病気を他人に見られたくない』などというような、身体的、精神的、心理的な事だと思う。
確かにこんな事なら、俺も学校には行きたくない。
ずっと家に居た方がマシである。

だがどうしても、柊君には学校に来てもらいたい。
でないと、俺の気が晴れないのだ。

ただの自己満かもしれない。
でも俺は彼と一度も顔を合わせた事は無いのだ。
彼は中学生になってから一度として学校には来ていないと思うし、入学式でも部活動紹介でも、1ー1の27番に誰かが居ることは無かった。

なので俺は、彼の身の上話も何も知らない。


だからこそ、彼とは話がしたい。
俺の『まだクラスメートと馴染めてない感』を無くす為に。コミュ障を治す為に中学では頑張ってんだから!










俺は山本先生に話を訊くことにした。
プライバシーだとか言われればそれまでだが、それでもクラスメートは気になるというものだ。ましてや1ヶ月も居ないし。

俺は健康観察が終わり、更には朝の会が終わったのを見計らい、山本先生の元へ向かった。


「先生!」


教室から出ようとしてた先生を、まぁまぁ大きな声で引き留める。無論、先生は振り返りこちらを見た。


「何ですか、晴登君?」
「あの…先生に訊きたい事があります」


内容が内容なだけに俺の声のトーンは落ちる。
先生も重要な話だと思ったのか、向こうに行こうとする姿勢を止め、俺を見据えてきた。


「柊君の事なんですが…」


濁しても無駄だと思った俺は、内容はストレートに伝える。だから先生にも言いたい事は伝わっただろう。


「『どうして学校に来ないのか』かね?」
「はい」


先生は穏やかな顔を崩さずに言った。
それを見ると、あまり深刻過ぎる理由では無いのだろうかと考えてしまった。
だが先生は衝撃の一言を俺に告げた。


「柊君はね…病気なんだ」
「……」


病気…。そっちの線で来たか。
イジメの方であれば精神的な問題だから、解決出来ないことも無い。
だが病気ともなると、例えどんなに学校に行きたかろうと行くことは出来ない。
しかもこの線となると、大半が“大きな”病気を持っているのだろう。そうなると全員が困る。特別学級に……という話も出てくる事だろう。それで事が済むのなら良いのだが、現状は甘くないようだ。


「私もね、柊君を見たことはないんだ」
「えっ!? どうしてですか?」
「彼は人と会うのを拒んでいるんだ」


俺が察しがついた。
病気は表面上に出てるんだ、と。恐らく、顔、手、脚…皆の目につく部位にだろう。
どこの時代でも、そういう人が学校でイジメられるのは明白である。そしてまた学校には来なくなる。一度学校に来てしまえば、彼にはそんな悪循環が起こってしまうのだろう。


「私は何度も彼の自宅へ赴いた。だが結果は門前払い。一片の姿さえ見せてはくれなかった」


俺は黙って先生の話を聞き続けた。


「電話だってしたさ。でも声だって聞くことは出来ないし、そもそも誰も出ない。あの家には誰も住んでいないのかと言えるほど」


だったら居ないのでは?と話の腰を折りたくもなったが、明らかにそれは言ってはいけない台詞なので自重しておく。
話を聞く限りでは柊君の精神問題が原因だと思う。彼「学校に行きたい」、もしくは「行ってみたい」などと思わせれば解決する筈だ。


「策は無いんですか…?」
「彼が自分で決めない限りは…」


どうやら先生も辛い立場のようだ。
本来なら自分で何とかしないといけないのに、方法が一切無いのだから。


「柊君の親は…?」
「今は外国に住んでいるそうだ。柊君を置いて」
「一人暮らし!?」


これは驚く以外他ない。
何せ中学生に入ったばっかの同級生の子が、一人暮らしをしていると言われたのだから。


「えぇ…大丈夫なんですか、それ?」
「両親が色々手を打っているらしく、問題無いみたいだね」


色々…というのが気になるが、一番の問題はそこでは無い。
柊君の学校嫌い…いや、人嫌いをどうにかしなくてはならない。


「先生。俺が柊君の家に行ってみても良いですか?」
「えっ?」


先生が意外そうな顔をする。勿論俺も。
どうしてそんな言葉が口から出たのだろうか。人と関わることが苦手な俺から…。


「住所分かりますよね? お願いします。今日の放課後に行ってきます」
「……」


俺は口から次々と出てくる言葉を止めることは出来なかった。けどそれは、俺の意志だったということだろう。
一方、先生は個人情報を教えていいものかと悩んでいる様に見えた。


「…分かった。この際仕方ない。ただし私も一緒に行かせてもらう。それで良いね?」
「はい!」


何だかんだで約束してしまった。
だが不思議と後悔の念は無い。早く行きたいとウズウズするくらいだ。
こうなった以上、何としても説得してやる!










*


「…まだかな」

俺は独りでに呟く。
今は放課後で皆は下校中。その中でただ一人俺は校門に立っていた。
理由としては、先生が遅くなるからである。放課後に先生と行くとは言ったものの、つまりは先生も仕事を切り上げなければならないのだ。
まぁ途中、大地達から「何してんだ?」と声を掛けられ、適当にはぐらかしたりしてたんだけど。本当の事を言うと、何か面倒そうだったし。


「・・・おーい!」
「!」


誰かが俺を呼んだ。
声のした方を見ると、山本先生が職員玄関から手を振りながらこちらに向かってきているところだった。
服装はスーツのままだが、どことなく表情が和らいでいる。


「いやー、待たせたね」
「大丈夫です」


端から見ればデートの待ち合わせの時の会話に聴こえるかもしれないが、そんなことは決して無い。

…という事はさておき、俺は先生の車の助手席に乗せてもらった。
柊君の家はそこまで遠くは無いらしいのだが、歩いていくには時間が掛かるそうだ。


「晴登君、今回の目的は・・・」
「柊君の説得、ですよね」


先生の言葉を先取りして俺が言う。
何か任務みたいでワクワクしてきたな。勿論、目指すは“任務完了(ミッションコンプリート)”だけどね。


「それじゃあ行くよ。シートベルトはしたかな?」
「勿論です!」


任務開始(ミッションスタート)だ!










*


「着いたよ」
「はい」ガチャ


俺と先生は車を降りた。
目の前に見えたのはマンションだった。ぱっと見、5階以上はある。
先生は迷わず中に入っていった。
オートロックとか何やらがあると思うのだが……まぁ良いか。

その後は階段を上がることも無く、着いたのは1階廊下の奥。そして『107』と書かれた扉の前で先生は止まった。


「ココだよ」
「…はい」


俺はゆっくりインターホンに指を伸ばす。
…正直何を話そうかとかまとまって無いし、そもそも出てくれるか分からない。だけどその時は外からでも言ってやろう。「学校は楽しい」と。


ピンポーン


静かに音が響いた。家の中に居るのなら聴こえる筈だ。
さぁどう出るのか…?


「「…………」」

「…何も聴こえないですね」
「…物音1つしませんね」


ハハッ、予想通りだ。
物音がしない辺り、きっと宅急便だろうと郵便だろうと出ないな、柊君は。
ドアスコープからこちらを見ることさえしないようだ。


「もう一回押しますか?」
「やむを得ませんね」


ピンポーン


「「…………」」

「…やっぱりダメでしたか」
「俺がやってやります」


あまり玄関前に長居はしたくない。
伝える事だけ伝えてとっとと帰らねば。

俺は大きく息を吸った。
そして思ってる事をこの口から・・・・


「何の用ですか?」

「うわぉっ!!?」ドタッ


俺はたまらず尻餅をつく。
当たり前だ。ドアのすぐ向こうから声が聴こえてきたのだから。音なんて全く無かったのに。
多分……柊君だ。
その声は弱々しく、どこか幼かった。


「何の用ですか、先生? しかも生徒を連れて」


柊君は話を続けた。
察するに、先生の存在は認知してるようだ。


「丁度良かった、柊君。今日こそ話をしたい」
「断ります。僕は他人と関わりたくない」


先生は柊君と話せた事にはノータッチで話そうとし始めた。
ただ気になるのがどうして話し掛けたんだ? 先生の話だと声も聴かせてくれなかったらしいし。もしや俺のお陰…? いや、期待しないでおこう。


「先生は君を放っとけない」
「騙されません。もう二度と酷い目には遭いたくない」


騙された? 二度と?
もしかしなくても昔に何かあったのか?

よく考えよう。
・まず、彼は一人で自宅に居る。→つまりは命に関わる病気では無い…?
・そして、声を掛けた。→体調は普通。
・そんで『酷い目』→イジメ?ってことは見た目に異常?

…まぁここまでは既に考えが行っている。
後は……どうするか。
先生に堂々と俺が行くとか何とか言ったしな~。良い方向に進展してほしいが…。

取り敢えず今は先生に任せよう。大抵の事なら山本先生は出来る。会話できる以上、何とかなりそうだが…。


「…君が過去に何があったか教えてくれるか?」
「そうやって僕の同情を買うつもりですか? 言っておきますが、僕は学校には行かない。義務教育なんてしりませんよ」


うわぁ…。完全に嫌っちゃってるよ。何とかなるの、これ?


「ではどうしてそんなに学校が嫌いなんだ?」
「……イジメですよ。僕の見た目をネタに」


ふむ。やっぱりか。
病気で見た目に異常・・・蕁麻疹とかか?……いや、絶対違うな。


「先生たちだって僕を見れば、絶対に変な扱いをする。僕はこの見た目のせいで、存在を貶された。人から避けられた。守ってくれる人も居なかった!」


あれ? 意外と語り出したぞ?
やっぱ話してみるもんなのか?

・・・てか、あれ? 『守ってくれる人が居ない』? それって・・・


「君の両親は……逃げたんだね」
「その通りです」


…マジかよ。
柊君を置いて海外に逃げた理由。それは柊君の近くに居れなかったから、か。
異常な姿をする子供の親と思われたくない…ってか。もう近くで関わりたくない、だから海外に。でも罪悪感があり、支給をする。
これが全てか。なんて親だ。


「僕は外にも出れない。この見た目のせいで気味悪がられるのは明白なんだ。そして・・・」
「そんなことは無い」


柊君の言葉を先生が遮った。


「私のクラスは君を変に扱うことは無い。絶対に君をクラスメートとして迎えてくれる」


先生は『絶対に』を特に強調して言った。
うん。どんな見た目だろうと俺は差別はしないぞ!


「だから一度来てみないか? 一度で良いんだ」
「……」


迷ってる…のか?
だが良いチャンスだ。このままいけば柊君が復帰できるんじゃないか!?


「……やっぱり無理です。僕は他人と関わりたくない」
「そこまでだ、柊君!」
「え?」


先生が急に大きな声で・・・ん?俺の声じゃん。まさか、また口が勝手に…!?


「君は一人じゃない。俺が居る!」
「は…?」


何言ってんだ俺!?
そりゃ、見ず知らずの人に仲間だなんて言われたら挙動不審になっちゃうだろうが!

だが俺の口は止まらない。


「俺は君と仲良くなりたい! 例え君が病気だとしても! 俺は友達が欲しいんだ!!」


自分で言ってるのに、すごい恥ずかしいんだけど。
でも…言ってやろう。


「学校は楽しいよ。俺は君の味方だ。明日から…学校に来てくれないか?」
「……」


柊君は答えなかった。
俺は先生に告げた。


「先生、行きましょう」
「え、いいのかい?」
「言う事は言いましたから。後は彼自身です…」


俺は振り返る事もなくマンションを出た。先生は何か言いたげだったが、何も言ってくる事は無かった。


そのまま俺は先生に送って貰い、自宅に帰った。


そして翌日を迎えた。










*


「えっと…では出てきて下さい」


まるで転校生が来たかのような状況だが、決してそうではない。
なんと俺の説得の甲斐あってか、柊君が学校に来たのだ!
勿論、皆は俺の奮闘を知らないのだが。

先生に促された柊君は、教室の前のドアから入ってきた。
だが、その姿には違和感があった。なんと茶色のパーカーを着ており、フードを被っていたのだ。
しかも他にも驚く事があり、なんと柊君は美少年と呼べる…いや、下手すれば美少女と呼ばれそうな幼く整った顔立ちをしていた。見た限りその顔に異常は無い。
体は制服とパーカーで隠れている為、肌は見えない。つまりは、今の柊君はどう見ても“普通”なのだ。


「自己紹介は自分で出来るよね?」
「…柊…狐太郎です…」


小さい声で話す柊君。
そして直後恥ずかしいからか、着ているパーカーのフードを深く被り直す。
おかしい。では彼は何に異常があり、学校を拒んでいたのだろうか? 見た目というのは間違い無いのだが…。


…ふと、開けていた窓から風が吹いてきた。草木がざわめく。
まぁまぁ強い風だなと思い、改めて前を見た俺は目を疑った。

そこに見えたのは、風でフードが脱げた柊君とざわめき出すクラスの皆の姿だった。
いや、問題はそこじゃない。


柊君の・・・・“頭に耳がある”という事だ。茶色くピンと立っていて…まるで犬の様な。


直後その耳がピクンと動いたかと思うと、柊君は涙を流し始めた。

誰一人現状が理解できない1ー1で、ただただ幼い泣き声が響いた。
 
 

 
後書き
折角のGWなのに、何故か時間が掛かった今回の話。
楽しみにしてた方(え、居るの?)は申し訳ありません。
何せ遊び呆けてましたから(本音)。

こんなことなら、期限は1週間にしときましょうかね。破る気しかしませんけど。

そして更に思ったこと。
今回の話ってベタですね。
なんか、とある探偵みたいにペチャクチャ言えれば良いんですが、そうもいかなくて手短になりました。
文才が欲しいです(ニッコリ

さて、次回は後編です。ではでは 

 

第12話  一人じゃない

 
前書き
さてさて。新キャラ編の後編をやるつもりですが、どうもネタが少ないです。という訳で少し短いんじゃないかと書く前から不安になっておりますが、どうかお気になさらず。

…じゃあ書きますか。 

 
騒然とする1ー1のクラス。
誰もが目の前の者の姿に声を失う。
そしてその前に立つ者はメソメソと涙を流していた。


「え、えっと…」


先生が困惑した表情を見せる。それを見る限り、先生も病気の詳細は知らなかったようだ。
声を掛けようにも、目の前に起こった出来事が突飛過ぎて誰もが考えを張り巡らせた。


「……グスン」


いまだに泣き止む様子は無い柊君。彼には一体どういう秘密があるのだろうか。
というか秘密と言っても、もう既に一部は頭の上で露になっているのだが。


「柊…君…」


俺が小さいながらも声を絞りだして彼を呼ぶ。
するとその声に気づいたのか、彼はこちらをじっくりと見据えてきた。
その目は怒りと悲しみが混ざったように見えた。


「やっぱり……僕は…」


柊君はうつむき、そう呟いた。
彼の頭上ではションボリとする耳が姿を見せていた。

そうか。彼の引き籠りの根元はアレだったのか。
アレのせいで、イジメられるなどとその身に余る哀しみを受けたんだ。
学校に来たのは、アレを何とか隠し通すのが条件と考えるべきだ。でないと彼が自宅から出ることは無いと言い切れる。

俺と先生は、誰も君を変に扱わないと柊君に言った。
俺はそれは事実だと信じてるし、クラスの皆も信じてる。
だけど、アレが晒された以上、この後に彼がどうなるか、どんな扱いを受けるかなんて俺には分からない。
でもやらなきゃいけない事は、彼をこのクラスに引き留める事。クラスの皆と仲良くさせる事。

だから彼をどうにかフォローせねばいけない。
大方、彼の説明をクラスの皆に…といった所か。
よし。俺が柊君を守らないと!


「ひいらg・・・





「可愛い…!」


俺が一言言おうとした瞬間に、誰かの唐突な声で遮断される。
驚いた俺がその言葉の真意を探ろうとすると、次々と言葉が1ー1で飛び交った。


「可愛い!」
「何あれヤバい!」
「あれってケモ耳とか言うやつじゃない?!」
「ホントに小動物みたい!」
「柊君、可愛い!!!」


「「は??」」


俺や男子の誰もの開いた口が塞がらなかった。
何が起こったのかと察する前にクラスは賑やかになり、最早お祭り状態となった。

時間を掛け、ようやく理解した俺は何とも言えない表情を表に出す。
今教室で起こったのは、女子たちの柊君に対する称賛の嵐だった。主にプラスの方向で…。

その後も女子たちは収まること無く、むしろヒートアップしていった。


「ねぇねぇその耳触って良い?」
「モフモフしてそう!」
「ピクッってして可愛い~!」
「てか柊君が可愛い!」
「家で飼いたいくらいかも!」


いつの間にか、クラスの大半の女子は席を立ち、前へと出てきて柊君の周辺に集まっていた。
いつしか柊君の涙は止まり、なんだか照れてるように見えてきた。
今まで経験した事の無い、新鮮な気分なのだろう。

状況に納得した。やっぱり、クラスの皆は優しい人なのだ。
このクラスではイジメなんて起こり得ない。
救われたね、柊君。

俺は柊君に近づきこう言った。


「学校は楽しいでしょ。柊君?」
「うん、とっても!」


彼は笑いながらそう返した。
・・・うん、可愛い。










*


お祭り騒ぎの開始から30分。未だに止む気配は無い。
そろそろ授業の時間に差し支えが出そうなんだが…まぁ良いと思う。先生も止める事はしなかった。

だが今は、先程よりも盛り上がっている気がする。


「」シュル

「「キャアー!!!/////」」


クラスの女子たちが黄色い声を上げる。
何故なら柊君には“尻尾”も生えていた事が分かったのだ。
彼女らはそれを見て、さっきより一層可愛いだの何だの興奮しているようだ。
事は5分前に遡る。



なんやかんや騒いでいたクラスの女子たちが、柊君に「パーカーを脱いで」と頼んだのが始まりだ。勿論本人は「これ以上何かあったら今度こそ嫌われる」と思ってか、頑なに拒否していた。
だが女子たちが強制的に脱衣を行ったため、彼の尻尾が眼前へと晒されたのだ。
ちなみに尻尾は狐みたいだった。



彼の今の状況を説明するなら・・・『ハーレム』だろうか。クラスの大半の女子が柊君に“群がっている”のだから。
何か周囲の男子の目が冷たくなっている気がするが、まぁイジメに発展することは無いだろう。……多分。


「あの…そろそろ離して貰えると…嬉しいのですが…」


女子にもみくちゃにされながら柊君がそう言った。
さすがに彼にもこの状況がキツいのだろうか。
入学式の俺みたいだな。


「では続きは後にしましょうか。そろそろ1限が始まります」


先生が柊君に助け船を出した。
まぁ“後に”と言ったので、休み時間がどうなることやら・・・。










*昼休み


案の定、どの休み時間も女子の騒ぎが落ち着くことは無かった。むしろ、ひどくなったと言うべきだろう。
そして、安定して柊君が可愛がられる。俺は憎たらしいとは思わないけど、やはり他の男子の目が……。

だが、昼休みは違った。
柊君が逃げたのだ。
無論、女子は逃げるとは思っていなかったらしく、柊君が教室から飛び出た後もずっとマゴマゴとしていた。

しかし俺はいち早く、彼を追いかけた。










「柊君!」


俺は彼を呼び止めた。
すると彼はこちらを驚いた表情で振り向いたかと思うと、またも逃げ出そうとする。が、直後思い止まったのか、足を止めた。
何せ此処は屋上。たった1つの出入り口の扉の前には、俺が立ち塞がっているのだから。


「君はあの時の・・・。何の用ですか?」


あの時ほどムスッとした声では無かったが、温暖な様子でも無かった。


「どうして逃げたの? 楽しそうだったじゃん」
「確かに楽しかったし、変な扱いも受けてないけど…、“特別扱い”みたいな感じが少し・・・」


そうか。彼は俺らの横に立ちたいんだ。外れた特別な所に居るのでは無くて。
そう思うと、彼の望みが分かったような気がした。


「柊君。言ったろ?俺は君の味方だって」
「それがどうs・・・
「だったら俺らは友達じゃないか」
「!!」


この表情。やはりか。
彼は守ってくれる人が欲しかったのと同時に、自分の横に居てくれる人、つまりは『友達』が欲しかったんだ。


「アレは少し大袈裟だったかも知れないけど、皆は君を歓迎してるんだ」
「うん…」
「だからね・・・」





『君は一人じゃないんだよ』





「……!」


俺がそう告げると、柊君の顔が綻ぶ。
安心したような、そんな顔。


「戻ろう?」
「……そうだね」


俺の呼び掛けに、柊君は笑顔でそう返した。

まぁこの後に、また女子がお祭り騒ぎとなったのは言うまでもない。
 
 

 
後書き
…やっぱり短かった。
でも気にしないでいましょう。

今回は“柊君がクラスに慣れる”というのが主題でした。
いやー自分で書いといて思うのが……羨ましいです。
女子と戯れるなんて経験が無い自分ですからね。もしかすると理想をぶつけたのかもしれません(真顔)

さて。次回の話が何も・・・あぁ次はキャラ紹介ですね。柊君の。
では続きはそこで話すとしましょう。ではでは 

 

キャラ紹介 第4弾

 
前書き
キャラ紹介を一括でしたいという気も山々ありますが…。 

 
クラスメート

(ひいらぎ) 狐太郎(こたろう)
 性別 男
 年齢 12歳~
 容姿 茶髪で少し長い髪
    小柄で整った顔
    真っ白で綺麗な肌
    犬か狐の様な耳と尻尾がある
 性格 嘘はつかない
    真面目
    優しくて温厚
 
 補足 人間不信だった。
    美少年……あれ、美少女?
    可愛い。
    女子によく可愛がられる。
    同年代にも敬語。
    取り敢えず友達が欲しい。
    健全な青少年。
    獣(意味深)。 
 

 
後書き
あー柊君の設定作ってて思ったことが、マンションでの出来事が邪魔だということですね。
あのシーンを書いてしまうと、柊君が感傷的で強い子になってしまいます…。
まぁ面倒なんで、できるだけ埋め合わせしたら無視しましょうかね(笑)
面倒臭がり屋なんて言わないで下さい(泣)

さて、随分と設定が多いですねこのキャラは。
自分で作っといて扱いが難しいと思います。
まぁ良いでしょう。

次回の話ですが……何も考えてません。申し訳ないです(懺悔)
もう体育祭編に入るべきか、もう数話寄り道をするか・・・。
まぁ考えときますんで、心配しなくても大丈夫です!
え、心配してくれる人が居ない?…アァソウダヨ
(´・ω・`)ショボン 

 

第13話  加入

 
前書き
委員会決めをやろうと思ったけど、それよりやりたい事が見つかったので、それを先にやることにします。 

 
柊君がクラスに来てから3日が経った。
未だに女子にチヤホヤされているが、彼はそれにも慣れたようだ。
相変わらず、男子の目が冷酷になっている気がするのは変わらないが。


「狐太郎くーん、一緒に帰ろう!」
「あ、ずるい!私もー!」

「わかりました。良いですよ」


こんな様子ももう日常茶飯事だ。
彼の本来の人徳はとても素晴らしい物だったのだと、感じる事ができる。





だが、俺にはまだ課題があった。
それは“暁君”の事だ。

俺はまだ彼と話したことが無い。
そして彼が友達を作っている様子も見ない。
だから柊君の時みたいに、俺が友達になろうかと思っている。

俺は柊君と友達になった以来、コミュ障が治ってきたのでは、と感じていた。多分それは妄想では無い。もう俺は人と話せるんだ。

暁君は近寄りがたい雰囲気を出しているが、今の俺ならきっと話し掛けれる!





「・・・という事を考えているのだが」
「大丈夫だろ、普通に」
「そうだよなそうだよな!」


大地の反応に思わず嬉しくなる。
ちなみに今は下校中である。勿論莉奈も居るので3人で帰っている。


「遂に晴登がコミュ障脱出か~!」
「お前の魅力が1つ減ったな」
「え!? アレ魅力だったの!?」


他愛も無い…ハズの会話をする。


「でも難易度高いんじゃない?」
「ん~俺なら楽勝だな」
「俺だってやってやんよ!」

「てかさ、昨日のテレビドラマ見た?」
「え、見てないけど・・・」


いつも間にか、暁君の事も頭から離れていった。










*翌日の昼休み

「さて。昨日……どころか今まで忘れていたが、今日は暁君に話しかけねば! 大地だって大丈夫と言ってくれたし!」


俺は危うくだが、目的を思い出していた。
暁君との交流。そうすれば、このクラスとは全員馴染んだ事になる。
よし、やるぞ!
ーーーでも何処だ? 昼休みなのに教室に居ないな…。
ちょっと周りに訊くか。


「暁? さっき教室から出てったのは見たぜ」
「先生に連れて行かれなかった?」
「何かやらかしたんじゃねーの?」


…さて。情報は集まった。感謝するぞ皆よ。
先生…という事は職員室だろう。場所は分かるから大丈夫だな。
でもどうして連れて行かれたんだ? 暁君は悪い事しなさそうだけど…。










*職員室

着いた。
てか何度見ても広いな。普通の学校の体育館くらいあるんじゃねぇの?面積的に。


「居ないな…」


暁君の姿は職員室前の廊下には無かった。
てことは中なんだろうけど・・・入る訳にはいかないよな…。待つしかない。










「失礼しました」ガラ

「!!」


お!暁君が職員室から出てきた!
やっぱ職員室だったのか。

よし話し掛けないと!


「ねぇ暁君!」
「あぇっ!?」ビクッ

「へ?」


…何だ今のは。そしてビビりまくった暁君の顔。
明らかに驚き過ぎだろ。もしかしてビビりか?
できてる人間ほど変な弱点があったりするって訳?

まぁ良い。取り敢えず話そう。


「な…何か今の面白いね」
「そっすか……」


俺がそう言うと、暁君は照れたような表情で答えた。
けどどこか面倒臭そうに見える。

ちょっと待って。なんか分からんけど話しにくいわこれ。しかも話す事考えてなかったし!


「今職員室で何話してたの?」
「……アンタには関係無いっすよ」クルッ


暁君が踵を返し、向こうに行こうとする。
話せた事は嬉しいが、これでは友達とは言えない。
もうちょっとだけ・・・!


「待ってよ! 良いじゃん、聞かせてよ?」
「野次馬っすか、アンタ?」


野次馬……その通りだな。
まぁ足を止めたから良しとしよう。
嫌われるのだけは勘弁なんだけども…。


「部活の話っす」
「部活?」


暁君はそう言った。
暁君が入っている部活で何か遇ったのかな?


「俺がまだ何の部活にも入っていないって」
「あ、あぁ…」


そっちの線か…。
ならそれで先生に呼び出し喰らったって事か。納得納得。


「別に入りたい部活は無いんすけどね」


ん?
ちょっと良い事思い付いたかも!


「じゃあさ、魔術部に来ない?」


俺の部活に入らせる!
そうすれば交流も多くなり、例え気難しかろうと何とかなる筈だ!
さぁ反応は・・・?


「……」ジィー


無言で睨まれる!? 何で!?
……!! よくよく考えたらこの部活は変な部活だったわ!! そりゃその反応も当たり前じゃん!

うわ失敗した……。





「別に良いっすよ」
「え?」


彼の返答に、うつむかせていた顔をすぐさま上げる俺。
てか良いの!? OK!?
てっきりNOだと思ったんだけど…!?


「だから、良いって言ってるんすよ」
「ホントに!!?」ズイッ


ついつい俺は暁君に思いっきり近づいてしまった。その距離、10cm。


「う…。ホントっす…」
「そうかそうか~!」


あまりの嬉しさに変な喜び方をしてしまうが、あくまで普通に喜んでいる。
相手も少々どころかかなり引いてるけど…。気にしない!


「じゃあ放課後に部室に来てよ!」
「部室って…何処っすか?」
「え?あぁ・・・じゃあ案内するから教室で待ってて!」
「う、うっす……」


何ともテンションの噛み合わない会話を終えた俺は、自分から教室に帰った。無論、色々変な台詞を言って恥ずかしかったからである。
そんな俺が走り去って行くのを暁君は、無表情で眺めていたようだった。










*暁said

「ったく、何だったんださっきのは…」ブツブツ


俺は職員室から教室に帰るまで、ブツブツと独り言を言っていた。
さっきの三浦…だったか、アイツの行動が気にかかる。
何で俺に話し掛けようと思ったんだ? 気になる。
わざわざ勧誘までしやがって…。
ま、どうせ暇だから行ってやるけど、魔術部って何だよ…?


「面倒くせっ…」ブツブツ










*放課後

「暁君!」
「な、何すか…」ビクッ


放課後になり、俺が暁君と約束した事を果たそうと彼に声を掛けると、彼は非常に驚いた顔を見せた。


「何って…とぼけなくても良いじゃん」
「部活の事っすね。はいはい覚えてます」
「じゃあ行こうか!」


かなり面倒臭がっているが、これは俺の為でも彼の為でも部活の為でもある。何としても連れて行かなければならない。


「分かりましたよ…」ショボン


……一応ついては来てくれた。










*魔術室前

「はい、着いたよ」
「……」


俺は最初に此処に来た時のように部室を見上げる。
暁君も“魔術室”と書かれた看板を注視していた。


「じゃあ入るよ?」
「だ、大丈夫っす…」


確認をとった俺はドアを開け、彼と共に足を踏み入れた。





「よう三浦!・・・ってアレ?」


俺らが部室の中に入ると、ある人物は驚いた表情で固まっていた。


「お、おい三浦…誰だソイツ…?」


少々震え声だが何かを期待しているような声が響く。
勿論部長である。
ではさてさて、その期待に応えますか。


「はい!彼は新入部員になります、暁君です!」

「・・・よっしゃあぁぁぁ!!!」


急に部長が雄叫びを上げる。喜びが過剰すぎるのだが、気にしないでおこう。


「え、嘘、マジで!? 良いの!?」
「べ、別に嘘にしても良いんすよ」
「あ~それは勘弁してくれ!」


あれ、意外と暁君が馴染んでる気がする。
相手が先輩だからかな? まぁ俺も歳が違う人とは話し易いんだけども。


「冗談っす」
「いや~面白い子だね~。そうだ!早速測定しようか!」
「測定…? 身体測定でもするんすか?」
「いや~違う違う。じゃあ少し説明するね」カクカクシカジカ


やっぱり暁君にも魔術の説明をするんだな部長は。
しかも測定もするって言うから少し気になるな~。


「・・・大体分かったっす。良いっすよ、測定」
「話が早くて助かるよ~。じゃちょっと待っててね」


うわ。さすが学年一の頭脳。俺の時の半分以下の時間で理解しやがった。
何か負けた気しかしない…。ここで俺だけ素質持ち、みたいな事になったら嬉しいんだが…。


「よいしょっ。よし、ここに手を」
「はい」


あの時と同じような光景が目に広がる。
つまり、俺があの時気になった測定器の動きが見れる…!


「それじゃあ目を瞑って集中・・・」
「はい…」


暁君がすんなり従っているのを見る限り、意外と楽しんでる気がする。気がするだけかもしれんが…。


「……」
「……」


出た。あの無言タイム。
この時は喋ってはいけないからかなり苦だった。

と思っていた頃、測定器に動きが起きた。


「おぉ…!」


俺は離れた所でその動きに感動する。
どんな種か仕掛けか分からないけど、取り敢えず光りながら回っているのだ。しかもその光は赤、青、黄…と色を変え続けていた。


「よし、終わりだよ」
「」スッ


暁君が目を開ける。そして目の前の機器の変化に驚いたのか、口を開いたままだった。

そして気になる結果はーーー


「青く光っている…」


俺の結果と同じだった。
てことは・・・!?


「おぉ、まさかの素質持ちか! こりゃすげぇ!!」


部長が驚きまくる。
確か最初に言ってたな。「この部活には魔力持ちはほとんど居ない」みたいな事。


「いや~新入生が2人とも魔術を使えるようになれるとは嬉しいね~」

「宜しくね、暁君!」
「う…うっす…」


俺はこの結果を喜ぶべきか悔しがるべきか判断はつかないが、取り敢えず暁君と仲良くなれたのが嬉しかった。
 
 

 
後書き
意外と暁君に話させてしまった。これじゃあコミュ障設定意味無いじゃん!……まぁでも“話し掛けられたら話せる”ってよくあるし、大丈夫かな、うん。

そしてここで見えた設定の1つ。
『晴登の友達作り』
今後もやって行こうかな~(笑)

今回の話は少し急いだせいか荒れてる気がします。
そして間が多い気がします。
今度直しておきましょうか、気が向いたら(よそ見)

じゃあ次回こそ委員会決めをやります!……と思ったけど、またやりたい事を見つけましたのでそっちやります。
体育祭は20話くらいかな~。 

 

第14話  能力

 
前書き
今回は自分の中二病が発揮できる(かもしれない)話です。書く前からちょっとワクワクしてます。 

 
暁君が魔術部に正式に入部した。さっき入部届け出したし。
でもって今は、俺と暁君と部長の3人で魔術室に居た。

特に話題も無くただただ駄弁り、俺が暁君とまともに話せるようになった頃、不意に部長が魔術部らしい事を訊いてきた。


「二人とも、どんな魔術を覚えたい?」
「「え?」」


俺と暁君は部長の方を向く。


「だから魔術。何が良い?」
「えっと、話の意図が…」


とんとん拍子に話を進めようとする部長に、俺がストップを掛ける。ホントに意図が読めない。


「ん? あぁ、いや普通に」
「いや普通って…」


魔術の時点で普通では無いのだが、どうやら深い意味は無い質問のようだ。

魔術か…。素質があると言われたから使えるんだろうけども、結局練習も何もしてなかったな…。


「魔術って例えば何が出来るんすか?」


暁君がそんな質問を部長にする。
すると部長はこう答えた。


「何が出来るかは人次第だが、取り敢えず何でも出来るぞ」


部長ならそう言うと思ったがホントに言うとは…。
人次第っていうのが残念だが、俺でも色々出来るようになるのかな?


「そんなアバウトじゃなくて具体的に…」


暁君がそう言った。
まぁ確かに“何でも”じゃ分かんないよな。


「えっと…部活動紹介でやった空間移動(テレポート)があるだろ。あと他には身体増強(ステータスアップ)、スプーン曲げだって出来るぞ。頑張れば、軽い属性魔法なら使えるな。それにーーー」
「ちょっと待ってください。属性って何ですか?」


淡々と語られていく言葉の中に俺は気になった点があり、訊き返した。
それを聞いた部長は語りを止め、説明を始めた。


「属性についてかい?」
「はい」


属性、って聞くとやっぱ火とか水とか、そんなの想像しちゃうんだけどそうなのかな?


「火とか水とか、そんなやつ」
「えっ!?」


あまりのシンクロに声を上げて驚く俺。隣では「何でそんなに驚くんだ」と言わんばかりの暁君がこちらを見ていた。
いや、ここまで被るとビビるって、絶対。


「そうだ! この際君たちの属性を調べておくか!」
「調べる?」


部長が急に思い出したかのように唐突に言った。
“属性を調べる”ってどういう事?


「じゃあ説明してやろう!」
「ロマンチックは無しでお願いします」
「え~」


部長が説明すると言った途端、俺はそう忠告する。すると部長は不満そうな声を上げた。
もしも例え話をされたら、分かりやすくても時間が掛かってしまうのだ。
だから部長には申し訳ないが普通にしてもらおう。


「う~ん……じゃあ“個性”という言葉は分かるか?」
「そりゃ勿論」
「属性とは個々で違う個性の様なモノだ」
「はい…」


属性が個性……ってことは火とか水とか言うのは個性なのか? つまりはこれも素質なのか?


「人に宿る属性は多種多様で十人十色。自分と属性が同じ人は世界に1人としていない。そういうモノだ」
「世界で1つの属性…って事ですか?」
「そういう事だ。日々新しい属性が発見されてるよ。俺たち魔術師はそれを“能力(アビリティ)”と括っている」


自分だけが持つ特別な力、か。何かカッコいいな!


「てことは、今からそれを計ろうって事っすか?」
「そういう事! どっちからでも良いよ~」


部長は気楽な様子で言った。
俺と暁君は顔を見合わせた。


「じゃあ俺から行きます」
「OK。じゃ始めるぞ三浦!」ドン

「あれ!?」


俺は驚いた。
なぜなら部長が用意した測定器が魔力測定器と形状が一緒だったからである。
どうでもいい事なのに気になってしまうのは、人間の習性だろう。


「じゃあここに手を・・・」
「計り方まで一緒ですか…」


前に行った動作をもう一度繰り返す。手を置き、目を瞑って集中する。
すると回転し、光る、という同じような現象が起きたようだった。










「はい終わり。ちょっと待ってろ」


前回と比べると意外と終わるのが早かった。こんな短時間で分かるモノなのか?

そう思っていると部長が何やらメモのような紙切れを持ってきた。
その正体を訊こうとした俺よりも先に部長は言った。


「えっと…三浦。お前の能力(アビリティ)は“晴風(はれかぜ)”だ」
「ん?」


あまりにも唐突過ぎてつい聞き流してしまう。
そりゃあんなポンと言われたら当然だろう。
せめてもうちょっとタメるってもんでしょ…。


「だから“晴風”。風属性だ」
「風…ですか」


部長が二度言って、ようやくピンと来た。
どうやら俺の属性は“風”という事らしい。
何か嘘臭い気もするが、部長が嘘をつく訳も無いので本当の話だろう。
風って…強いのかな?


「ちなみにレベルは3だ」
「いや分かんないですよ…」


俺の心が読めたのか部長がそう言うが、レベルって言葉の意味は大体分かるが、それの基準が分からんな。


「レベルってのは、全ての能力(アビリティ)に付けられる強さの階級のことだ。レベル1が一番弱くてレベル5が一番強い。あくまで能力(アビリティ)の強さを表すから、例えレベル1でもレベル3くらいの力なら練習すれば出せる」
「なるほど」


部長の説明で俺は納得した。
てことはアレか? レベル3ってのは普通なのか?
またも俺は普通なのか!?


「部長、次は俺を…お願いします」
「はいよ!」


そんな俺をよそに、暁君が部長に頼む。
もう部長にも慣れたのか、あんまりオドオドした様子は無かった。


「じゃあさっきと同じようにねーーー」










「ーーはい終わり。ちょっと待ってて」


部長はまたあのメモのような物を持ってくるのだろうか。あれには一体何が書いてるんだろう?


「おまたせ。えっと…暁の能力(アビリティ)は“暁光(ぎょうこう)”。お!珍しいな、属性は光と火だ。ちなみにレベルは4」
「え!?」


部長が「珍しい」やら「レベルは4」やら言った瞬間、俺は自分が暁君に能力的に負けたことを察した。
もしかしたら俺の特徴かもと思った『魔術』だったが、どうやら上がいたようだ…。
とても寂しい。


「それって…すごいんすか?」
「勿論だ! 二属性持ちなんて学校に1人いるかいないかだよ!」


しかもかなりレアらしかった。
くそ、羨ましい。


「ちなみに部長の能力(アビリティ)は何すか?」
「俺か? 俺は“夜雷(やらい)”だ」
「夜雷?」


俺の晴風と言い、部長の夜雷と言い、随分と凝った名前をしてるな。そういう仕組みなのか?


「そう夜雷。黒い雷だ」
「え、ちょっと出してください」


俺は黒い雷というのが気になり、部長にそう頼む。
すると部長は快く引き受け、右手をつき出す構えをとった。


「さて。じゃああの木に撃とうかな」


部長は開いた窓から見えた、公園にでも在りそうな木を狙い始めた。そういや今サラッと『撃つ』って言ったな、この人。
ツッコみたい所だが、部長が真剣な顔になったので俺は黙っておくことにした。

部長は人差し指だけを伸ばし、手をまるで鉄砲の様な形にする。





「弾けろ」





ドガァァン





部長が呟き、何かが指から放たれたと思うと、ものすごい衝撃波、というか風圧が俺たちを襲った。
目を開けることが出来ないほどであり、俺と暁君はしゃがんで落ち着くのを待った。

そしてようやく風が収まったと思いきや、俺の驚いた表情が崩れる事は無かった。
目の前にあるのは、幹が黒焦げになった木の残骸であったのだ。


「部長……!?」
「一応軽気だぜ? ちなみに俺の夜雷はレベル3だ」


レベル3の軽気でこの威力!?
俺は開いた口が閉じなかった。

すると部長は俺ら2人を指差しながら言った。


「お前らにもこれくらいは出来る。体育祭までに覚えさせるからな! 明日からバリバリ練習だ!」

「「へ??」」キョトン


俺と暁君は顔を見合わせ、首をかしげた。


あんなのが、俺に出来るの?
 
 

 
後書き
少し荒いですが完成しました。
次回には続きません(笑)

やっぱ魔術、魔法を使うなら、属性が欲しいですよね、はい。
これはFT小説の名残でしょう。

この設定が入ると、いよいよ『非日常』ですね!
あ~先が楽しみだ!! 

 

設定資料 魔術について

 
前書き
説明が物足りないと思ったそこのアナタ。アナタの為に説明回を入れようと思います!

此処では前回の話では語られなかった詳細について、書いていきます。
要するにーータイトル通りですね。はい。

ではどうぞ! 

 
魔術について  編:黒木 終夜 更新:8/4

今からここに魔術について記そうと思う。
無論、魔術を知らない人の為だ。
分かり易く書いてやらねばな。

目次
1、魔術について
・魔術とは?
・魔力とは?
・魔力の源とは?
・魔術の素質とは?

2、属性について
・属性とは?
・属性の種類
co)一般属性、物理属性、特殊属性

3、能力(アビリティ)について
能力(アビリティ)とは?
能力(アビリティ)の仕組みとは?
能力(アビリティ)のレベルとは?

4、まとめ





1、魔術について

・魔術とは?
魔法、超能力とも言い換えれる。
魔術とは選ばれた人が使うことの出来る、並の人は持たない異能力の事である。
使い方、学び方、発動の仕方・・・。言い出したらキリがない程、個性とも言える特別なモノである。

・魔力とは?
魔術を使う際に必要となるエネルギーの事。
人の体の中に宿り、限界のある有限なモノである。
減少すると、体力が減少するかのように疲れが出る。
しかし休めば回復するので、実質無限なモノである。

・魔力の源とは?
魔力を生み出すモノの事。云わば湧水地点である。
これは魔術の素質が有るものにしか、宿す事は出来ない。
宿す為には時間が掛かるが、一度宿してしまえば無くなる事は無い。永遠に魔力を作り続ける。

・魔術の素質とは?
魔術を覚える為に必要な、そもそもな素質の事。
これが無ければ、魔術を覚える事は無理になる。
魔力測定器で計る事が出来、数値として算出される。この値が高いほど、より魔術に向いている事になる。



2、属性について

・属性とは?
魔術の中でも分類が存在する。そして魔術を大まかに分けたものを属性と括られる。それらは火であったり水であったりする。
属性には多くの種類があるが、世界中のどの人とも被る事は無い。完全に自分だけのモノである。

・属性の種類
属性は主に3種類に分類される。
魔法らしい『一般属性』。
物理的な『物理属性』。
それ以外の『特殊属性』。
多種多様で十人十色。これが属性である。

『一般属性』
火や水、雷や氷。身近にあるが一般人では放てないこれら。主にそれらを一般属性と呼ぶ。
大抵は攻撃向けだが、サポートとして使えない訳では無い。
イメージが一番分かりやすい属性と云える。

『物理属性』
剣、刀、銃、弓・・・。人々が武器として使う物を、属性として使うのを物理属性と呼ぶ。
効果としては、何も無い所から出現させる、硬度や切れ味を上げる等がある。
また、拳や脚に魔術を宿す系もある。
意外とこの属性を持つ人は少ない。

『特殊属性』
一般属性にも物理属性にも当てはまらない属性を特殊属性と呼ぶ。
主に毒、麻痺、眠り等の状態異常効果。
または重力、飛行等の分類しにくいモノが当てはまる。
つまり、この属性を持つ人数は圧倒的に多い。



3、能力(アビリティ)について

能力(アビリティ)とは?
一人一人の個性の魔術の事。
魔術師は基本、1人1つの能力(アビリティ)を持つ。

能力(アビリティ)の仕組みとは?
能力(アビリティ)は主属性と副属性の2つで構成される。
主属性=属性。副属性はその付加効果を表す。

例えば俺の“夜雷”であれば、
主属性 雷
副属性 夜
という事になる。
副属性の効果としては『黒い攻撃』となっている。ちなみに他にも効果はあるが、割愛する。

能力(アビリティ)のレベルとは?
能力(アビリティ)にはレベルが存在する。
レベルの分け方は『属性の強さ』と『レア度』によって決まる。
レベル1<レベル2<レベル3<レベル4<レベル5となっている。
レベル1はロウソクの灯火、静電気といった具合。
レベル2は松明の火、水道の水といった具合。
レベル3はガソリンに引火した炎、雷といった具合。
レベル4は・・・例えが難しくなる。
レベル5は未知数だ。それを持つ人は国に数名である。
…というように、レベル1とレベル5では結構な差が出る。
ちなみに普通のレベルは2か3である。
また、能力(アビリティ)を持たない者はレベル0と表される。



4、まとめ

魔術とは奥が深いモノ。個人で改良だって出来る。
世界で1つだけの魔術を作る事だって容易い。

そして能力(アビリティ)。これは間違い無く世界で1つのモノ。自分だけが持つモノ。誰もが特別であるモノ。

属性。これの組み合わせは無限大。
どんな組み合わせがどんな能力(アビリティ)になるかなんて分からない。

そして、素質。どの物事にも共通して言えるモノ。


君には魔術を使う事が出来るかな?

もし使えるかもと思うなら、俺たちの魔術部に来ないだろうか?

魔術の素質は、日常生活で少しだけ姿を見せる事がある。
霊感だって、もしかしたらソレかもしれない。

さぁ今こそ、
魔術という未知の領域へ来ないか?





魔術部パンフレットより 
 

 
後書き
こんな書き方も面白いですね。
気が向いたら書いてくスタイルです。

魔術についての辞典と考えると良いかもしれません。

ぼちぼち更新しては行きますので、ご理解の程宜しくお願いします。 

 

第15話  休日

 
前書き
さて今回は学校から離れて自宅編です。勿論、晴登君の。
皆さんも暇なら、家でのんびり過ごしましょう。ちなみに自分は最近、めちゃ忙しいです。 

 
4月がもう終わりを迎えようとしていた。
この一月中に、友達がたくさん出来たのは嬉しい。
けど反面、魔術だったり、不登校で色々問題を持つ美少年だったりと、色々変な事がよく起こった。


だからこうして、自宅の部屋のベッドでただ天井を仰ぐのは気楽で良い。


「魔術か…」


掌を上へと伸ばし、それを見る俺。
部長みたいにこの手から魔術を使えるのだろうか。





*回想*

「えっ部長、俺らもその撃つやつ覚えないといけないんですか!?」
「あぁ。体育祭までに」


無茶だ。
あんな威力が高そうなのを俺が使えるのか?


「雷がズバーッて……」
「さすがに無理じゃないっすか?」
「?何か勘違いしてないか? 覚えるのは“撃つやつ”だけで、属性はお前らの属性で良いんだぜ?」
「え? あぁ……」


部長の返答を聞き、ようやく納得した。
どうやら部長はあの“撃つやつ”を習得しろと言っただけで、別に雷は関係無いようだ。

でも木を焦がす程の威力の技を覚えろと言われている事に、変わりは無いが。


「まぁ確かにお前の風じゃ難しいかもな、あの威力は。暁のは攻撃用だからいけると思うけど」


俺のはあまり攻撃向けでは無いということか。
どうせならズバーッとやったり、ドガァンってしたかったけどな…。


「そう落ち込むな三浦。別に攻撃が出来ない訳じゃない。それに、違う使い方があるかもしれんしな」
「それって何ですか?」

「さぁ?」
「えっ!?」


部長がそう言ったものだから、俺は拍子抜けする。
部長が知らないって事だから、俺の“晴風”ってのは未知の能力(アビリティ)なのかな? それだったらちょっと特別感があって嬉しいな。


「心配せずとも、いずれ完全習得(マスター)する。それまでのお楽しみだ」
「お楽しみ扱いですか…」


そういう事なら待つしか無いだろう。
…いや、早く習得しなきゃいけないだろう。

やってやるか!!


「あ、でもまずは“魔力の源作り”からだよ?」
「しまった……」orz
「マジっすか……」ショボン


俺と暁君は同時に肩を落とした。





トントン


不意と鳴ったノックの音に、俺の回想は途絶える。


「何だ?」
「お兄ちゃん、ご飯だよ!」
「ああ、分かった」


時計を見ると、既に12時を示していた。
窓から空を見ると、太陽が真上でサンサンと照っていた。

朝からずっと魔術の事を考えていたが、ここまで時間が経つのは早いものなのか。










*食卓

1階に降りてくると、智乃が昼飯を並べている最中だった。見たところインスタントのスパゲッティのようだ。

それよりも休日であれば、普段母さんが昼飯を作るのだが、何故今日は智乃なのだろうか?


「母さんは?」
「さっき父さんと出掛けたよ。気づかなかったの?」
「え? まぁ…」


予想外の智乃の返答に少々戸惑う俺。
てか父さんも居ないのか、今。

俺の両親は非常に仲が良い。そのせいか、よく2人で買い物やら何やら行くことが多い。主に休日は。まぁこの時間帯の外出は予想外だけど。


「お兄ちゃん、卵焼きでも作ろうか?」
「いや、別にいいよ。必要無いだろうし」


智乃の問いに俺はNOで答える。
スパゲッティに卵焼きはミスマッチな気がするからな…。


「え、良いじゃん。食べてよ」ムスッ
「何でねばるんだ。分かった、食べるよ」
「ちょっと待っててね♪」


別に智乃の卵焼きが不味い訳じゃ無いから、食べても何も問題無いのだが、ただミスマッチだと思う。










*

「出来たよ~♪」
「お、綺麗だな」


目の前に出されたのは、綺麗に整えられた卵焼きだった。黄色く輝くその姿は中々の貫禄を醸し出していた。


「フォークよし、お茶よし。いただきます!」
「戴きます」


智乃は俺の向かいに座った。
そういや智乃の卵焼きって懐かしいな…。
最後に食べたのは結構前になるのかな…。


「どれどれ?」ハムッ


俺は一口卵焼きを食べる。
その瞬間頭に何かがビビッと来た。


「どう?」キラキラ


智乃が期待の表情でこちらを見てくる。
俺は率直な感想を返した。





「メチャクチャ美味しいじゃん」





そう言った途端、急に体が重くなった。
体調が悪いからでは無い。ただ、智乃が俺に抱き付いてきたのだった。


「…ってて。危ないだろ智乃」
「へへっ」ニコッ


あまりの勢いに椅子から転げ落ち、少々痛い目に遭う俺。
だが智乃は、そんな俺の注意も笑顔で弾き飛ばした。


「早く飯食わせてくれよ」
「ごめんごめん」


ようやく智乃が俺から離れ、自分の席に戻った。

何か今日は、休日なのに疲れそうだ。










*?*

『あれ?』


俺は目の前の光景に目を疑った。
次第に、草木の独特な匂いが鼻をつく。


『草原?』


俺は草原の真ん中に立っていた。
終わりなんか到底見えない。空と草原が遠くで繋がって見える程、境界が遠い。

空は雲に覆われており、太陽は見えなかった。


『誰か…居ないのか?』


俺は問い掛ける。だが周りに人の姿は無い。
俺の視界が全て花と草。つまりは草原だった。


『マジかよ…』


どうしてこうなったのだろうか。
先程まで智乃と昼食をとっていたのではないのか?
そこからの記憶が全く頭に残っていなかった。

しかし、この風景だけは覚えている気がした。
以前何処かでーーー


『』ガサッ


ーー!?
不意に後ろから足音がした。距離は…10m位だろうか。
その足音は一度鳴っただけで、もう一度動き出す事は無かった。

後ろに…誰か居る。
少なくともさっきまでは人どころか、植物以外の生き物自体の姿が無かった。
それなのに俺の後ろに急に現れた。これほど怖い事があるだろうか。


『どうしたの?』
『っ!?』ビクッ


俺の体が震え始める。背中や額から嫌な汗が出てきているのが分かった。
先程は10m程の距離の差があった足音。だが今の声は明らかに1m程の距離から聞こえてきた。


『何で震えてるの?』


声的には30歳くらいの男性だろうか。どこか若々しい。
だが問題はそこでは無い。
此処には俺以外誰も居なかったのだ。急に出てくるなんて有り得ない。
つまりこの後ろの人は、良くない奴の類いではなかろうか。
そう考えると、俺は恐怖に駆られ、震えが止まらなくなった。


『怖がらなくてもいいんだよ?』


後ろを振り向いて優しそうな人だったら、そりゃ良い話だ。
だけどヤバい系の類いの方々の大抵はヤバいのだ。
それこそ失神するくらい…。


『こっち向きなよ?』


金縛りにあっている訳では無いので体は動く。
振り向いても良いものだろうか。
興味はあるが、恐怖もある。何なのか知りたいけども、何も知らないまま何処かへ行ってほしい。そんな矛盾が俺の頭を駆け巡る。


『いい加減にさ?』


少々、後ろの男性の口調が強くなった気がした。

……振り向こう。そして真実を確かめよう。

そう思った途端、体が素直に動いた。
首を横に回し、頭が後ろに向くように。そして俺の目が後ろにある姿を捉えてーーー










*

「はぁ……」


俺はベッドの上でボンヤリしていた。

先程のは“夢”。それも以前見たものと同じ景色の。そこまで思い出した。
ただ1つ、違っていた。あの人は一体・・・。

どうやら俺は昼食を食べた後、部屋で昼寝をしたようだった。その証拠に、窓の外は青空ではなく夕焼けが目立っていた。


「もう夜なのか」


時が経つのは早いものだ。
どうせまた・・・


「お兄ちゃん、晩ご飯の時間だよ!」バン


智乃がドアをこじ開け入ってきた。
予想通り。全く、完全に見たことのある光景だ。こういうのを『デジャブ』と言うのだろうか?
いや、どうでもいいや。


「今行くよ」


俺はそう返し、すぐさま晩飯を食べに1階に向かった。










*晩飯後

今日は久し振りに智乃と2人で過ごした。
やっぱりこの歳だと元気がすごい。何もしてないのにクタクタだ。


「母さん達はまだなの?」
「帰りが遅くなる、って電話ならあったよ」


子供2人を家に置いて何処まで行ってるんだよ。
ホントに仲が良いな。俺と智乃もだけど。


「ねぇお兄ちゃん、一緒にお風呂入らない?」
「ブッ!!」


智乃の唐突な発言に思わず吹き出してしまう。
こんな事を言われるのは、ここ1年は無かったのだが…。


「お母さん達が居ないから、ね?」
「アホか。そんな歳じゃねぇだろ」


可愛く訴えてくるも、俺にはそんな気も無いので軽くあしらう。


「お兄ちゃんのケチ」
「いやケチじゃ無いだろ」
「別に大丈夫だしさ」
「いや、やめとく」


中々引き下がらない智乃。
好かれているというのはとても嬉しいのだが、これでは…な。


「俺は入らん。先か後かどっちかにしろ」
「プゥ……じゃ後で」
「了解」


やっと終わったか。これだけで疲れるな。










*風呂

チャプン

「風呂は落ち着くな~」フンフン


湯船に浸かりながら、陽気にも鼻唄を歌う俺。
だが分からなかった。この後俺を襲う“恐怖”を。





「お兄ちゃん♪♪」バン



「ブフォ!!?」


まさかの…乱入。これは予想できなかった。
なるほど。先に俺を入れたのはそういう為か。

どうしたものか…。追い出すか…。いや、それはさすがに酷いだろう。兄妹の関係が崩れるかもしれん。
では入れるか? それも危険だ。兄としての何かが崩れるかもしれん。


「では失礼」ザバーン


考えている間に入りやがった。
今の状況は『俺の膝の間に智乃が入っている』。非常にまずい。早く上がらねば。此処から脱出せねば。


「あー逆上せたかも。そろそろあが・・・」ザバ

「」ガシッ


足を…掴まれた。
何故だ。何故そこまでして俺と風呂に入りたいんだ?何故そんな“薄情な奴を見るような目”で俺を見るんだ??
もうダメだ。諦めろという神のお告げが聴こえた気がした。俺の敗けだ。



その後、普通に2人で入った。










*午後9時

こんな時間になっても帰ってこないウチの親。
どうなってやがるんだ、コノヤロー。
折角テレビで時間を潰しているのに。


「ふわぁ。そろそろ寝るねお兄ちゃん」
「おやすみ」


欠伸をしながらそう言う智乃。そして二階へ上がっていった。
さっきこそは何事も無く風呂に入ったが、また何か仕掛けてくると踏んでいた俺。しかしそれは杞憂だったようだ。


「俺も寝るか」スクッ


テレビの前から立ち上がり、自分の部屋へと戻ることにした。もう母さん達は今日帰ってこないだろう。実際、そういう事は今までにもあった。だから言い切れる。

階段を上がり、ドアノブに手を掛ける俺。
油断は…しまくっていた。


「……」ボウゼン


「Zzz…」|オレノベッド|


コイツ…やりおった。まさかの俺のベッドに…。

どうせまた選択肢は無いんだろう。分かっている。
ったく、一緒に寝てやるか。兄妹だしな。


「もうちょい端っこで寝ろよな…」


智乃を奥の方へ軽く追い遣りながらベッドに入る俺。
…温かいな。当たり前か。

全く、今日も色々疲れたわ。これじゃ学校に居る時と変わらないじゃないか。
親が居ないとここまで変わるのか、智乃は。困るな…。

もう寝よ。どうせ今日限りだし。ふわぁ…。





この後、智乃が抱き付いてきたというのは言うまでも無い。

 
 

 
後書き
近々、現実(リアル)で体育祭がありした。お陰で投稿も遅れていたという訳です。
練習がマジでダルいです。自分、水泳部なんで『水泳』を競技として取り入れて頂きたいものです。ホント。

話を変えて、今回の話について。
目的は殆どありません。強いて言うならサービスです(ニッコリ
ただ、智乃との関わりも欲しいなと、自分的に思っただけです。

まだ忙しいので投稿が遅れるかもですが悪しからず。 

 

第16話  まとめ役

 
前書き
今まで忘れていた委員会決めをします。
正直、ストーリーの進展は無いですが、あることをしたいのでやります。 

 
「さて、君達の入学から1ヶ月が経ちました。そろそろ学校にも馴れてきたと思います。なので、少し遅れましたが委員会を決めたいと思います」


5月1日の朝の時間。山本先生の快活の声が朝一で響いた。
前触れなど無く、唐突に。


「ですが委員会を決める前に、まず『リーダー』を決めたいと思います。所謂『学級委員』です。1クラス、男子1人、女子1人だそうです」


先生はそう続けた。

学級委員…か。クラスのリーダーに当たる存在。
そういやまだ決まってなかったんだよな。てかよくそれで今まで続いてたな、このクラス。
変な雰囲気が出てるのに。


「さて、まずは立候補です。誰かしませんか?」


先生がクラスの皆に問い掛ける。
だが案の定、誰も手を挙げる者はいなかった。

こういう場面で手を挙げる奴ってカッコいいとは思うけど、やっぱ恥ずかしいってのはあるよな。いくら俺のコミュ障が改善されかけてるとはいえ、これでは話は別である。
よって俺も手は挙げないことにする。


「誰も居ませんか? では推薦で決めましょうか。誰が良いですか?」


全員を見回しながらそう言う先生。
推薦って下手したら、否定を押しきられるよな。いないと思うが、誰も俺を推薦すんなよ?


「」スッ
「柊君、どうぞ」

「三浦君が良いと思います」

「(グハァッ!!?)」


最初の登校の時のように、フード付きのパーカーを着ている柊君が言った。

てか待て。どうして俺なんだよ!?
思いっきり心の中で叫んじまったよ!


「三浦君は誰とでも話すし、何より人徳があると思うからです」


いや人徳有るのお前だろ! しかも俺が人と話すのはコミュ障改善の為だし!
マズい。このままだと“大量の仕事を押し付けられまくる”『学級委員』という面倒な職になってしまう!
何とかしないと…。


「三浦君、どうですか?」


……!! チャンスだ!
ここで俺が「やらない」と言えば、それで済むかもしれない!
よし、いける!!


「いや、俺には少し荷が…」
「そうですか? 私も出来そうと思うのですが」


ちょっと待って!?
先生がそれを言ったらダメだ! ホントに俺が学級委員になってしまうから!

…こうなったら・・・


「いやいや、とんでもないです! もっと他に向いてる人が・・・鳴守君とか?!」

「えっ!?」


大地が驚いた声を上げる。多分、自分に振られるなんて思っても無かっただろう。
だが今回は、俺の盾になってもらう!


「鳴守君…ですか」
「良いと思いますよ! 頭も良いし運動も出来るし・・・まぁそれだけじゃなくても向いてると思います!」
「おい、晴登!?」


ふと大地を見ると、こちらを困惑と微妙に怒った顔で見ていた。
悪いな大地…。今度何か奢ってやるから・・・。


「………! 先生! 頭が良いって事なら、暁君はどうですか?!」

「はっ!?」


今度は大地が暁君に振った。
明らかに俺と同じ事を繰り返そうとしてるな、大地め。
無論、暁君は「どうしてそうなった」という顔をしていた。


「頭が良い、とかの理由で決めたくは無いですが、確かに一理・・・」

「先生!待って下さい! 俺より柊君の方が良いっすよ、絶対! こういう場で手を挙げて意見を言うというとか、そんな度胸のある人が向いてるんじゃないんすか?!」


暁君が必死に、だが真っ当な理由と共に柊君に振った。
挙げた人に返ってくるって、どういう状況だよ? ある意味すげぇ。


「え…僕?」


柊君がキョトンとした表情で周りを見渡す。彼は誰かに“押し付ける”という行動は出来ないだろうから、学級委員推薦騒動はこれで終わりだな。
しかも柊君がやるなら・・・


「先生!私学級委員やります!」
「ズルい!私よ!!」
「じゃあ間をとって私!!」


女子達が学級委員の座を巡り、争い始めた。
この争いに勝ち、学級委員になった暁には、柊君と一緒に活動できる時間が増えると考えたのだろう。

……柊君、モテるね。


「でも僕は…」


さっきの堂々とした推薦はどこに行ったのか、急にひ弱な様子を見せる柊君。
彼は元々アレな事情があるから、人前に出て目立つような事はしたくないだろう。


「中々決まりませんね~。くじ引きで決めますか?」

「「「え~!!?」」」


男子も女子も先生の意見に不満の声を上げる。
だが確かにこの状況で、推薦で決まるとは到底思えない。
となると先生の意見が良いかもしれない。


「ちょっと待って下さいね、今準備しますから」


そう言って先生は、皆の了承を得ぬままくじ引きの準備を始めた。

待てよ? 俺が男子の学級委員として当たる確率は1/15。つまりさっきの推薦よりも圧倒的にまともな数値だ。いける!!やらなくて済む!!










*くじ引き後

「……」
「まぁそう落ち込むな晴登。運が悪かっただけだよ」


大地の励ましも、俺の頭に虚しく響くだけだった。
自業自得、と言っても差し支え無いかもしれない。



結局、俺が男子学級委員になった。



周りの反応は別に悪くはなかった。柊君を推す数名の女子を除いて。それでも、“嫌われている”という雰囲気は感じ取れなかったので良しとしよう。


「何かすいません、三浦君」
「良いよ柊君。どうせ運命だったんだ」


黒木部長のロマンチックさがうつったのか、変な感じの言葉が出てしまった。
でも事実だ。運命なんだよ、これ。
吹っ切って、やるしかねぇよな。


「んで女子は?」


俺が決まったってのは分かったが、女子学級委員は誰になったんだ。
一緒に仕事する訳だし、仲良くやっていかねぇと・・・


「晴登ー!私になったよ!」


その声を聞き、声の主を想像した俺はドッと疲れが来た気がした。

よりにもよって莉奈かよ…。


「あれ、晴登元気ない??」


俺の様子を横から見ていた莉奈は、そう訊いてきた。


「まぁな。相方が全然仕事しなさそうな奴だな、とか3回位思ったな」


俺は皮肉を込めたセリフで返した。
コイツ絶対仕事押し付けてきそう。


「なんだとコノヤロー!」パンチ


案の定、俺の言葉に怒った莉奈が殴ってきた。しかもみぞおちだ。
本気で怒ってはいない、とだけ感じとれたが、パンチの威力は中々であり俺の顔を歪ませた。


「痛っ!! お前自分が女子だから殴られないのを良い事に! 俺だってやる時はやるぞ!」


かなり痛がりながらそう警告する俺。正直ダサいと思った。


「そうかそうか。じゃかかってきなさいよ!」


莉奈がそう言い始めた。
コイツ…明らかに宣戦布告した!?


「良いだろう」フッ


その瞬間俺は、右手を動かした。










*

先程からどれだけの時間が経っただろうか。

委員会決めなんて忘れた俺と莉奈は、未だに格闘を続けていた。
誰もがその様子を眺めていた。

…てか目が離せなかったんじゃねぇのか、男子は。


「」コチョコチョ

「うわ、晴登…フフッ、ギブギブ!!ハハハッ!」


黒板の前で莉奈の笑い声が響く。
格闘とはかけ離れている状態だが、取り敢えず俺が有利である。

昔から横腹やら脇やら弱かったんだよな、莉奈は。だからくすぐれば一発なんだよ。


「「………」」アゼン

「ハハハハハッ!!!」


皆が唖然とした表情でこちらを見る中、俺は一切手を緩めなかった。
そりゃあんだけ言われたら、例え女子相手でも意地でも勝ちたくなるわ。


「ちょっ…ヒィ、晴登ギブ!ギブってば!」


笑い泣きしながらギブアップを懇願してくる莉奈。

あくまで暴力では無いから、じゃれてるだけだから問題無いよな?
中学生だけど幼馴染みだから色々大丈夫だよな?
莉奈の制服少々乱れそうになってるけどだいzy・・・いや、少し力抑えるか。流石に男子の目の前でアレな展開は避けたい。


「おい晴登、もう良いんじゃないか?」


ようやく大地が止めに入ってきた。
でもコイツ結構な時間眺めてたし、絶対楽しんでたな。

だが俺も飽きてきた。そろそろ莉奈が泣きそうだし。


「そうだな。もう良いだろう」
「私何かした?」シクシク


泣く、までには至らないような顔でこちらを見てくる莉奈。
悪い、お前は宣戦布告以外何も悪い事してなかったな。
大地と一緒にお前も何か奢ってやるよ。





「……えっと、一悶着有りましたが、一応学級委員は決まりましたね。次は委員会を決めましょうか」


結局、山本先生がそう締めた。
困惑の表情は見せているものの、冷静さは保っていた。
ご迷惑掛けて申し訳ないです。



・・とまぁ朝っぱらから色々あったが、騒動から数時間、莉奈は口を利いてくれなかった。
 
 

 
後書き
今回は学級委員を決めるだけの話でした。
またもサービス回に近かったような気がします。
相変わらず文が雑ですけども…。作文苦手なタイプかな、こりゃ。

ーーさてそれよりも、次回から『GW編』に入りたいと思います! 何をするかはお楽しみです。
え、体育祭編は? それはまた次の話ですよ。
5月と言ったらGWですよ。

何やかんやで話を引き延ばしていってますが、一応ストーリー考えてるんで、見捨てずに読んで下さい!

次回も宜しくお願いします!!
 

 

第17話  合宿

 
前書き
現実では既に過ぎ去ったGW。皆さんはいかがお過ごしでしたか?
自分は熊本震災の影響を受け、学校が休校してました(笑)。つまり暇でした。
だったら勉強してろ、って話なんですけど生憎勉強が嫌いなんで、こうして小説を書いている日々です。
読んで下さる方には、毎度頭が上がりません。

…とまぁ長過ぎる前置きは置いといて、今回の話はまた魔術部シリーズをやります。新キャラが出てきます。そろそろ「多い!」とか言われそうですね。杞憂でしょうか。 

 
5月に入って数日。いよいよ明日からGWに入る。
去年までと変わらず何処にも行かないだろうけど、それなりの楽しい日々を送るだろう。





俺はそう思っていた。だが・・・





「着いたぞ!」
「「……」」


黒木部長の快活な声と共に、俺達の沈黙が積もる。

此処は何処だ。今俺は見知らぬ何処かの山に来ている。
周りには魔術部のメンバーが全員居た。

なんでも、今回のGWの一部は、此処で皆と過ごすということらしい。つまり“強化合宿”を行うというのだ。



「なぁ黒木。どうして私達までついて来なきゃいけない訳? この新入り2人とアンタで行きなさいよ」



不意に毒舌な言葉が部長を襲った。
それを言ったのは、俺よりも小さくて声も子供らしい、まるで小学生の様な少女だった。

だがその正体は・・・


「そう言うなよ。お前は魔術部副部長の身なんだから、部活の合宿は全員参加って分かるだろ?」
「いや関係ない」


なんと魔術部の中で魔術を使える数少ない人、副部長さんだったのだ。
俺もこの山に来る途中のバスの中で知ったんだけど……。


・・・と、それよりもこんな事態になったのは、2日前に遡るーーー










*2日前

「合宿…ですか?」
「おう! お前らが魔術をいち早く使えるようにする為にな!」


部長が軽々しく言う。そんな部長を俺は怪訝な顔で見つめる。
俺らの為、という主旨は分かったが、色々大丈夫なのかな? 予算とか…。


「それにお前らともっと仲良くなりたいし。ちなみに部員全員で行くから、他の奴ともスキンシップが取れる筈だ」


そう補足の説明をする部長。
まぁ確かにまだ会って1ヶ月も経ってないし、そういう機会は必要だけど。
ただ、今この場には俺と暁君、部長以外の人はいない。
なので、勝手に決めちゃってないかと少し心配である。


「決まったら決まった! 明後日からだから準備しとけよ!」
「折角のGWっすよ!?」
「だからこそだ。こんな休暇は使わなきゃ損だ。つっても、2泊3日だから楽なもんだろ」


部長の“自己中”とも呼べる計画に、俺たちは苦笑いを溢すしかなかった。










*

ーーとまぁ、そんなこんなで学校からバスで2時間位の距離にある山に来ていた。
ちなみに今の時刻は8時だ。出発早すぎ……。


「大体アンタは勝手に決めすぎなの」
「じゃあ部活に出ろよ」

「そういう問題?」

「そういう問題」


未だに部長と副部長の言い争いが続く。
多分部長が正しいと思う。これを聞く限り、今までも副部長はあまり部室に顔も見せなかったようだ。


「先輩。争ってても時間の無駄ですよ。今日泊まる所とか決まってるんですよね?」


流石に長引くと思ったのか、2年生の先輩が間に入った。

泊まる場所、か。全然考えてなかった。ちゃんと在るよね?こんな山だけど。


「勿論! そこまでバカじゃねぇからな」

「そこまでバカだったら私が探そうと思ってたけど、大丈夫なら良いわ」


ハハ…。副部長さん、かなりのSっ気が有りますね…。


「取り敢えず其所まで歩くぞ」


え、歩くの!? もうちょいバスで行けなかったのかな? まだバスが通れる位の幅の道だし…。


「今回は体力もつける為にもこの合宿を企画した。だから運動は出来るだけやっていくぞ!」
「メンドくさっ…」ハァ


体力をつける為…。
もしかしてこの理由は俺達以外の部員を納得させる為のものだろうか。だって部員さん達は全く関係無いもん。魔術使えないから。


「つべこべ言わずに歩くぞ! 約30分!」
「絶対言うわ!!」


部長と副部長の言い争いはまだまだ続いた。










*

「着いたぞ~」
「「」」ハァハァ

「ちょっと、全員バテ過ぎじゃない?」
「ホントホント。運動しないからだぞ」


部長と副部長らの言葉に反応も出来ない程、疲れ切って地面に座り込んでいる俺ら。そりゃあんだけ歩いてきたんだから疲れるわ。しかも休息無しで。
てか部長達がすげぇ。運動してるとこ見たこと無いけど、意外と体力有るんだな…。全くバテてない…。


「取り敢えず宿に着いたから、早く入るぞ」
「宿?」


俺はそう呟いて前を見ると、なんと温泉宿のようなものが目の前に在ったのだ。
こんな山奥に、どこぞのチラシに載りそうな程立派な宿が。


「マジっすかこれ…」
「マジマジ」


暁君の感想にも軽く答える部長。
あの暁君も目の前の光景には目を疑っていたようだった。


「んじゃ入るぞ」スタスタ
「早く来なよ」スタスタ

「「……」」


宿に入っていく部長達を見据える俺達。
それぞれがそれぞれの驚きの感情を持っていただろう。

それでもまだまだ変な事が起きるのでは、と勝手に想像する俺がいた。










*

「ったく、何でこの部活は男ばっかなのよ。女子は私だけじゃん」
「そう思って部屋をわざわざ2部屋にしたんだ。ありがたく思え」
「アンタに言われるとね~」


宿の中の廊下で俺らの前を歩きながら、そう口喧嘩する部長と副部長。
まだ止めないのか、と思う。


「俺らはこっち。お前はそっちな」
「結構近いじゃん。絶対来ないでよ」
「言われなくても行かねぇよ」


副部長はその後、自分の部屋へと入っていった。

それにしても意外な一面が見れた。普段は紳士っぽい感じの部長だったが、副部長相手だと口が悪い、ということ。
なんか秘密が知れて得した気分。

と、思いながら部屋の襖を開けた俺は刹那、感嘆に似た声を上げた。


「うわ!!すげぇ!!」
「凄いっすね…」


俺と暁君は同時に言った。
なんと目の前には、和室ながらも清廉とした雰囲気が漂う、高級感溢れる部屋が現れたからだ。
え、普通の和室? いやいや、これはかなり清々しい気分になるよホント。


「凄いだろ? この宿は隠れスポットみたいなモンなんだ」


部長が簡潔に説明する。
街中に在ったら絶対に有名になるだろうと思われるこの宿。でも山奥に在るからこその・・・凄さがある!という訳か。

てか『一般人が知らない事を知っている』って、何か魔術部っぽい!
俺はそんな事も考え、一人ワクワクしていた。


「これ畳の上で直に寝れそう!」
「この綺麗さだったら確かに・・・」

「何甘い事言ってんだ。荷物置いたら部活開始するぞ。まだ9時だからな? 特に三浦と暁、しっかりみっちりやるぞ」

「「あ、はい……」」


高揚していた気分が一転、不安がそれとなく募る俺達。
部長…もうちょい楽しくしましょうよ~…。










*

「はぁっ!!」ブン
「おらっ!!」ブン


唐突だが、俺は何をしているんだ。前にも見たよ、これに似たような光景。もうかれこれ2時間はやったかもしれない。
掛け声と共に、手を縦に降り下ろす。端からみれば只のカッコつけだろう。
マジで腕痛いし疲れた……。


…とか思って部長に抗議したら、

『こういうのは形から入るんだよ!』

と、何処かで聞いたような台詞を吐かれた。てか絶対聞いたことある。


まぁ並の練習で会得出来るとは考えてないし、なんかそれなりに練習を積まなきゃならないってのは分かる。部長が1年掛かった『魔力の源宿し』は。

そんな部長曰く『大事な所だけをかいつまんで行い、一秒でも早くお前らが魔術を使えるようにする』という事らしい。
部長は一度会得の道を歩んでいるから大して心配はしてないが、もしこの練習が関係無いものであったならば部長を渾身の右ストレートでぶん殴る事にしよう。うん。


「もうちょいコツは無いんですか、部長?」

「運だな」

「ひでぇ…」


俺の希望の質問を見事に打ち砕いてくる部長。
……随分と面倒な答えを返してきたな。お陰で暁君が苦い顔をしているよ。
具体的に何か無いのかな?


「まぁ冗談だ。三浦には前も言ったが、魔術には“信じる心”が大切なんだ。宇宙人や幽霊なんて信じてたら見えるとかあるだろ。つまりその心さえ有れば、会得にグッと近づけるんだ」

「あー…よく分かりましたけど、幽霊は見たくないです…」


部長の返答に率直な言葉を返す俺。
そう言えば、最初にそんな事を言われた気がする。

フゥ、部長と話すと何か疲れるな…。
まぁ言ってる事は最初から一貫してるけども。


「よし、そろそろ昼食の時間だから休憩! 宿に戻るぞ~」

「「はい…」」


もうあの畳の上で寝たい…。










*

「で、2人共まだ何も変化の兆しは無いと」
「そうなんだよ。やっぱ時間掛かるかな~」
「アンタが教えるからダメなんじゃないの?次は私が教えようかな~?」
「断る」


広間でご飯や味噌汁といった和食の昼食を食べる中、隣から部長と副部長の対談が聞こえてきた。
やっぱり喧嘩腰な気がするけど、真面目に俺らについて考えてくれてはいるようだ。


「先輩、また次もランニングですか~?」

「ん、あぁ。お前らは引き続き体力作りをやってくれ」

「「うぇ~…」」


怠そうに声を上げる2年生方を見て、俺は申し訳ない気持ちになった。
自分はたまたま魔術の素質が有ったから良いけど、先輩方にはそれが無いのでこの合宿はほぼ無意味なものなのだ。

・・てか、俺達の練習の間ずっとランニングしてたのか。つくづく可哀想だな。


「取り敢えず飯食ったなら一度部屋に戻れ。今の内に休んでおいた方が良いぞ~」

「「へぇ~い」」ダダダダ


部長が一声掛けた途端、猛スピードで先輩方が部屋に戻っていった。
随分と休む事に必死ですね・・・。










「部長、ちょっと良いすか?」
「何だ、暁?」


今広間に残っているのは、俺と暁君と部長と副部長。
その中で暁君が部長に声を掛けた。


「魔術って別のやり方で会得は出来るんすか?」

「そりゃ勿論。教え方も覚え方も人それぞれ。魔力の源を得てから練習する者や、源と魔術を同時に得る者も居る。それが魔術さ」


今度は暁君が質問していた。でもそれにも部長は淡々と答えた。
そして部長の答えはつまり、あの練習は部長なりのやり方、という事らしい。
もうちょい練習っぽい事してほしいとは思うが…。


「だったら俺は“イメトレ”してて良いですか?」

「「えっ?」」


すると不意に放たれた暁君の言葉に俺と部長は驚く。
“イメトレ”とはすなわち『イメージトレーニング』の事である。つまり“想像で行うトレーニング”である。


「それまたどうして?」
「部長のやり方が俺に合ってないと思ったからっす。それに自分でやった方が何か良い気がするので…」

「暁君…」


部長は首をかしげ、少し悩んだ様子を見せた後、言った。


「分かった。今日はもう部屋に戻れ。成果を期待してるぞ」
「ありがとうございます」スクッ


暁君はそれを聞いた後すぐさま立ち上がり、部屋へと帰っていった。

暁君は頭が良いから、そこら辺の見極めをキチンと行うのだろう。
お陰でマイペースというイメージを持ってしまうが。


そして暁君が完全に見えなくなった時、部長は呟き始めた。





「うぅっ…俺の教え方が悪かったのか…」シクシク

「えっ…!?」





なんとさっきの言動とは裏腹に、すごく悲しそうな顔をしていた。


「ぶ、部長。そんな悲しまなくても・・・」


俺は悲しみに暮れる部長を励まそうとした。
すると、その様子を隣から黙って見ていた副部長が口を挟んできた。


「三浦、それ放っといて大丈夫。只の『構ってアピール』だから」
「え、そうなんですか!?」


その意見にはたまらず驚く。
だって凄く悲しそうなんだよ! あと10秒後には泣きそうだよ!


「副部長、いくら何でも・・・」
「いやホント。こいつは構ってほしいだけなの。だから放っとけばいずれ戻ってくる。よし、午後は私が稽古をつけよう!」

「俺が悪かった!!」ムクッ





「「………」」





「ほらね」

「ホントだ…」ガーン


部長の(悪気は無いと思うが)構ってアピールに騙された俺は、何とも言えないが“悲しい”に近い感情を持った。
本気で心配したのに…。





「おい(つじ)!三浦の特訓は俺が手伝うんだ! お前は関係無い!!」

「私が教えた方が100倍は早く会得できるよ。どっかのダメ部長とは違って・・・」


あれ?
何か一気に険悪ムードになったぞ?
原因って俺になるの、これ?


「聞き捨てならねぇな! こうなったら勝負(バトル)だ!!」
「良いよ、アンタなんかボッコボコにしてやるから!!」


宣戦布告!?
ちょっと待って、これってガチでヤバくね!?


「部長の実力舐めんなよ?!」
「こっちだってガチで行くからね?!」


あぁ…何か止められそうにない…。
この場に俺以外の誰かが居れば、止められたかもしれない・・・。無念…。










*

ーーという訳で、俺が原因であろう無価値な戦闘が今始まろうとしていた。
場所は、宿の近くの森の中にある少々開けた所。
観客は俺以外にも、さっき部屋で休もうとした先輩方や、イメトレをすると言った暁君までもが集まった。
ちなみに、事の発端については説明済みである。


「覚悟は良いな?」コキッ

「そっちこそ」グルグル


指を鳴らしながら訊く部長と、腕を回しながら余裕の様子で答える副部長。
正直、勝敗の予想が全く立たない。


「捻り潰してやるよ、チビ副部長」

「二度とそんな事言わせないよ、低脳部長」


互いに言ってる事が正しいという事に少々面白味を感じるが、そんな雰囲気では無かった。

互いを見据え合い、互いを倒そうと熱意を(たぎ)らせる。


そしてその戦いの火蓋が今ーー落とされた。
 
 

 
後書き
今回は『入れたい事を取り敢えず詰め込んで書いた』というような話になりました。
よって理解に苦しむでしょうが、読者の方々は私の言いたい事を察しながら読んで頂けると幸いです。

さて、GWに何するかという事で始めた合宿編。思い付きで書いているので、かなり行き当たりばったりです。
ですが、目的は一貫していますので、そこは大丈夫です!!(←そこ以外は…?)

次回はようやくの戦闘です。腕がなります。
皆さんに臨場感を持って楽しめるよう、全力を尽くして書きますのでお楽しみに!!


追伸 “辻”とは副部長の名字です。紹介は後日行います。 

 

第18話  部長VS.副部長

 
前書き
この物語初の戦闘シーン。
FT小説の経験を生かし、分かりやすいながらも、臨場感のあるものを書いていきたいです。
上手に仕上がるかは分かりません。

あと、投稿遅れて申し訳ありません。 

 
「どっちが勝つかな?」
「やっぱ部長じゃね?」
「いやでも副部長も強いし」
「分かんねぇな」


非常にマズい。俺のせいで引き起こされた事態だ。俺が収拾をつけなければならない。
何故か先輩方が楽しんでいるのだが、当然そんな状況では無い。



「チビはすっこんでろよ!!」

「アンタは威張り過ぎなのよ!!」



この部長と副部長をどうやって止めればいいと言うのだ。
恐らくこの2人の戦闘(バトル)は魔術。よってまだ使うことの出来ない俺に、この喧嘩を止める事は出来ない。
クソッ、どうしたら・・・。


「実力で分からせてやんよ!」バチバチ


部長はそう言うと、手に黒い電気を出現させた。
今はまだ静電気の様に見えるが、アレには木をなぎ倒す程の威力はある。
アレが部長の能力(アビリティ)、“夜雷”。雷属性だ。


「その言葉、そのまま返すわ!」ジャキン


対する副部長は、なんと何処からともなく太刀を取り出した。長さは普通…と言えば分かるだろうか。

……!!
そういえば能力(アビリティ)の属性にも種類がある、って部長が言ってたな!
え~と・・・物理属性…だったか?武器を強化したり何やらしたりする属性は。副部長はそれなのかもしれない。


「お前と闘うのは久しぶりだな」
「そうね。1年ぶりかしら」


戦闘を始めるかと思いきや、語り始める2人。
どうやら、以前にも互いに手合わせをした事があるようだ。


「あん時にお前が負けて以来、部室に来なくなったもんな。いい加減、拗ねるのも飽きただろ?」


ん!?
副部長が部室に来ない理由ってそれ!?
部長に負けて拗ねてただけ!?


「なっ…//。いきなり何言うのよ?!」
「事実じゃん」ニヤ


うわ~。部長が完全に悪い顔してるよ。
戦闘の前に、精神的にダメージを与えている、と言ったところか。


「はぁ~。そんなお前がずっと部活をやっている俺に勝てると?笑わせんなよ。まぁお前があれ以来、ずっと特訓してたなら話は別だが・・・」





ガキィン!!





奇妙な音が響いた。
よく見ると、副部長が太刀を部長に降り下ろし、それを部長は雷の拳で受け止めた、という様子だった。


「それ以上言うと、アンタの頭叩き斬るわよ」ギロッ

「話を途中で止めんなよ!!」ビリッ





ドゴォォォォォン!!





「「うわっ!!?」」


急な爆音と衝撃に、俺らはたまらず耳を塞ぎ縮こまる。砂煙までもが空を舞った。
今のは部長の魔術だろうか。一瞬、黒い閃光が見えた気がした。

・・・!! てことは副部長が危ない?!!






「……ふぅ。やっぱ一発じゃ無理か」


「その位読めるわよ」


・・・良かった。どうやら部長と距離を置き、回避したようだ。危ない…。
にしてもこの2人は本気(ガチ)らしい。手加減している様子が一切感じられない。死んだりしないよな?


「じゃあこいつは避けれるか?!」ズバババ

「!!」


すると部長が今度は黒い雷を小さく凝縮し、マシンガンの様に撃ち始めた。いくつかは地面にぶつかり、騒音と共に砂煙を発生させた。

いや、流石に避けれないよコレは!?
避けれる程の隙間が殆ど無いもん!?
しかも威力は高そう!!




「甘いわ」ブワッ


「「!!」」


ピンチの中、副部長の言葉と様子に俺らは驚いた。
なんと、副部長の太刀を持っていない左手に焔が纏い、それで部長の攻撃を凪ぎ払ったのだ。


能力(アビリティ)、“灼刃(しゃくじん)”か。懐かしいな」ズバババ


未だに攻撃を続けながら、そう呟く部長。
“灼”って事は火って事か?つまり副部長の能力(アビリティ)は火の剣・・・?


「逃げんのも大概にしなさい!こっちから行くわよ!!」ダッ


!?
なんと部長の無数の攻撃の中、副部長が駆け出した。
全ての攻撃を、体に纏った焔で防ぎながら。


「もらった!!」ヒュ

「ちっ!」バジ





ドォォン!!





鈍い音が響いた。
見ると、副部長の刀の先が地面に刺さっていた。どうやら部長が避けたらしい。

だが、それは寸分の狂い。
副部長の刀の真横には部長が立っていた。


「隙あり!!」バチィ


雷の拳を副部長へと向けた部長。
だが・・・


「やらせないよ!!」ブワッ


副部長は避ける事をせず、太刀を手放すと同時に焔の拳を部長の顔へと勢いよく放った。



ガシィィ!!



拳と拳がぶつかり合った。
しかし今度ばかりは“魔術のぶつかり合い”だったので、衝撃がこちらまでかなり伝わってきた。
腕で顔を覆うように隠すも、たなびく服や髪が威力を物語る。


「暁君」
「?」


そんな中、俺は暁君に声を掛けた。
それはある共感を得る為に・・・





「こういうのって、カッコいいよね!」





俺は率直に思った事を口にした。
普段はアニメだのマンガだのでしか見られなかった、こういう戦闘シーン。昔はよくカッコいいと思って憧れていた気がする。
でも今こうして目の前で見る事ができ、更に自分も出来ると分かった。非現実的ながらも、こうして舞台の横に居る。
そう思うと、俺の顔は自然と満ち足りた表情になった。


「・・・あぁ」


彼はそう言った。多分、肯定的な意味で。


「ひひっ」ニッ

「な、何だよ、気持ち悪い」

「え、酷くない!?」










*

戦闘開始から10分が経ったが、未だに戦況は変わらない。
互いに距離をとり、睨み合っている。


「そんなに離れてちゃ不利だぜ?」


部長がそんな挑発をする。
確かに副部長との距離は離れているが・・・それでも5m位だ。
だが部長の主属性が雷なのに対し、副部長は刀。つまり部長は遠距離、副部長は近距離が得意といえる。
という事は、副部長が完全に不利なのである。


「甘く見ないで」


そう副部長は言った。その堂々とした態度は、自信に満ち溢れているようにしか見えなかった。

その直後、副部長は刀を上にゆっくりと振り上げた。まるで、今から斬りかかる如く。



「何をする気だ?」
「さぁな」



その様子を見た俺は暁君に問い掛けるも、彼にも副部長の行動はよく分からないようだった。


「そっからじゃ届かないぜ?」

「届かせるっての…!」ブワァ


副部長はそう言うと刀に焔を纏わせ始めた。
いや、それでも部長には届くとは思えない。精々地面を斬る位しか・・・ん?地面?……まさか!!


「喰らえっ!!!」ザシュッ

「何っ!?」


副部長は俺の予想通り地面を斬ったかと思うと、なんとそこから焔の衝撃波とも呼べる波が部長を襲った。
俺とは違って予想が出来なかった部長は、為す術無く攻撃を受けてしまう。


「熱っ!!」


焔の中に閉じ込められた部長。
悲鳴に似た絶叫が聴こえるけども、焔が消える事は無かった。


「ほらほら。さっき私に言った事謝れば、止めてあげない事も無いわよ?」

「誰が謝るか、暴力女!!」

「…燃え尽きろ!!」ブワッ


相変わらず副部長と部長の口喧嘩が酷い。
しかも言ってる事が現実になりそうだから、より恐い。


「どうなってんだろ…」


俺はそう口走る。
副部長が刀を降り下ろし、その先で部長が燃え盛る。
だから部長の周りは焔で包まれ、よく様子が分からないのだ。

だが次の瞬間、その焔は砂煙に包まれた。
焔全体を砂煙が覆った為、当然焔は鎮火した。


「危ねぇ危ねぇ」コキ


砂煙の中から手首を鳴らしながら出てきた部長。
副部長はその様子を見て、悔しげな表情をしていた。


「何で抜け出せたのよ?」


副部長は強めに訊いた。


「俺の雷で砂煙を起こした。それだけだが」


当たり前だ、と言わんばかりの様子の部長。
あの危機的状況下において、よく思い付いたな、と俺は感心した。

一方で副部長は勝負を決める事が出来なかった為、次の手を模索しているようだった。


「さっきの分をやり返さねぇとな!」

「あれは!!」


部長がとったその構えに俺は思わず声を上げる。
あの構えは…以前俺に初めて“夜雷”を見せたあの時の、つまりは指鉄砲の構えだ。
しかし対人では威力が高すぎると思う。まともに喰らえば焦げるのではないか?非常に危険だ。


「アンタの得意技ね。でも対処法はバッチリできてるわ」

「じゃあ見せてみろ! 冥雷砲(めいらいほう)!!」ドォォン


撃った!! 黒い閃光が一直線に副部長を狙う。
てか躊躇が見られなかったから、本気の威力じゃね!?
副部長は一切動かないんだけど・・・。




ドゴォォォン




とうとう部長の攻撃が副部長に命中した。
結局、対処だとか言ってた副部長は、何かをした様子は無かった。


「決まったか…?」


控えめな声で呟く部長。
見据える先はまたしても砂煙に覆われていた。





だけど副部長は無事と思われる。何故なら・・・


「もらった!!」ブン

「がはぁっ!!?」


いつの間にか副部長は部長の後ろに回り込んでいた。
そしてそこからの不意打ちには、流石に部長も予測はできなかったようだ。

副部長の焔を纏った刀によって、勢い良く吹っ飛ばされ、為す術なく地面に倒れる。
どうやら副部長は“斬れないように”斬ったらしく、その証拠に、吹っ飛ばされた後の部長には火傷こそ有ったが、切り傷が無かった。

取り敢えず俺は一安心した。
魔術の闘いって何でも起こるから恐いんだな…。


「テメェ…どうやって避けた?」

「アンタっていっつもその技使うじゃん。弾道くらいもう見切れるっての」


部長の問いに副部長はそう答えた。
知ってたから、避けた後に不意打ちをする体勢までとれた訳だ。
対処法って、ただ避けるだけだったんだ。


「クソッ!!」

「!!」


すると部長が脚に雷を纏わせ、副部長に蹴り掛かった。だが、不意打ちという程は無く、副部長は刀を使ってそれを受け止める。
だが、部長の攻撃は終わらなかった。


「おらよっ!!」

「うっ…!」


今度は雷の拳で殴る。手を抜いていないのが恐い。
だがまたしても、副部長は防いだ。


その後も部長と副部長の格闘が続いたが、副部長が刀を使えるという事もあり、部長が圧されていた。





そしてついに、この無意味な決闘に終止符が打たれようとしていた。


「ハァ…そろそろ終わらせっか」

「ようやく敗けを認めるの?」


息を切らしながらそう言う部長に、副部長は皮肉を込めて返す。
さっきから攻撃に徹していた部長は、防御に徹していた副部長よりも大幅に疲れている。確かに早く終わらせないと、副部長にボコボコにされるのがオチだろう。


「お前の見たことの無い技…見せてやるよ」

「アンタの技は、私の動体視力と反射神経の前では無力なのよ。諦めな」



「そいつはどうかな」ニッ



部長は不敵な笑みを浮かべた。
しかしピクリとも動こうとはしなかった。
その状態で決着がついたのだから・・・




「!!!」ガクン




急に副部長が膝を折って座り込む。
その顔は苦痛で歪んでいただけではなく、驚きを隠せないようだった。

正直、俺も今の一瞬で何が起こったかは理解できない。部長が何かした様子も無い。

ただ部長の仕業というのだけは…分かった。


「アンタ…何を…」


副部長がつっかえながらそう部長に訊く。
すると部長は快く答えた。



「痺れたかい? ちょいと地面に電流を流したんだよ」



ここで俺は全ての合点がいった。
つまりあの一瞬に部長は電流を地面に流した。それを足から受けた副部長は、電流を体内に流してしまい、痺れてしまった。そういう事だ。


「ウソ…」
「嘘じゃねぇさ。ただ次はもう少し多大な電流を流してやるけど」


部長の顔は笑顔から真顔へと変化した。威圧が凄く、俺は恐怖すら覚えた。
まず言ってる事が恐ろしい。アレ以上の電流を体内に流せば、色んな機能が痺れて停止するだろう。

普通ならそんな酷い事はしないが、今の部長の様子ならやりかねない気がした。
それを察した副部長はこう言った。




「…分かった、私の敗けだ。終わりだ」




副部長は涙目になって訴えていた。
しかし部長の表情は変わらず、副部長を見据えていた。
副部長はさっきの痺れが、十分に恐さを掻き立てるのだろう。


部長はゆっくりと副部長に向かって歩み出した。
副部長はもう痺れがとれた様だが、完全に部長に恐怖を感じ、部長を見据えたまま動けなくなっていた。


「」ザッ

「ひっ!」


遂に部長が副部長の目の前に立つ。かなりの度合いでビビる副部長は見てて面白いが、そんな事は関係無い。
今は、何をするか分からない部長を止める事が先決だろう。


「部長! もうその辺に・・」


俺の言葉が発される前に、部長が動いた。










「俺にはまだ勝てねぇんだよ」チョップ

「あぅ!…」





俺らは拍子抜けした。
あんなに怖かった部長から、いつの間にか真剣さが抜けた。

太陽の様に明るい笑みを浮かべる部長。
それを見ながら、頭を押さえ、涙目になっている副部長。

対照的なこの2人を見て分かる事・・・それは部長が勝利したという事だ。










*

決着がついたあの決闘から数時間。
魔術部メンバーは夕食を食べていた。

あの後、部長と副部長が疲れ果て、それぞれ寝込んでしまったので、練習も何も無くなってしまった。先輩方は予想通り喜んでいたけど。

つか結局、あの戦闘はホントに意味が無かったじゃん。


「部長達、大丈夫かな?」
「さぁな」


俺の問いに暁君は素っ気なく返した。最近ようやく暁君の俺に対しての敬語が抜けたのだが、相変わらずクールだなと思う。


「あんま心配すんなよ三浦」
「そうそう。あの人達は昔は結構闘いまくってたから」
「俺らも慣れっこだな」
「うんうん」


先輩方はそんなに深くは考えてはいないようだった。
でも心配くらいはした方が良いんじゃないかな?


「んじゃ俺らもう寝っから」
「銭湯は自由に使って良いらしいぞ」
「また明日な」
「頑張れよ、新入り達」


そう口々に言った先輩方は部屋へと戻っていった。
つか、俺らの事は心配されてんのか…。


「俺は寝るぞ、三浦」
「え、風呂は?」
「1日くらい平気だろ。明日入るし」


いやそれはちょっと不潔じゃないか?
まぁ本人がそれで良いなら・・・。

俺は入るとしよう。










*就寝

皆が寝静まっている頃、俺は部屋へ戻ってきた。
見ると、先輩方や暁君は普通に寝ているのだが、部長が部屋の隅っこで寝ていた。皆に迷惑掛けないように配慮したのかは定かではないが、甘えて俺も普通に寝させてもらおう。
部長、お疲れ様です。

俺は自分の布団を敷き、寝ようとした…のだが・・・


「あ…」


急に喉が渇いた。かなりタイミングが悪い。
仕方ない、自販で何か買ってこよう。


「(よいしょ)」コソッ


周りを起こさぬようコッソリと部屋を出る俺。
自販って銭湯の前にあったっけか。よし。


俺は歩み出した。ただ1つ問題がある。
『意外と怖い』
俺は怪談などには強くはないが弱くもない。
だがしかし、山の中の夜という事もあり、かなりの不気味さがあった。

あれ、俺さっきこの廊下を気にせず通ったよな。
よく通ったな、俺。





証明が消されている廊下を突き進む俺。
すると曲がり角に行き着いた。


「うわ…不気味…」


こういう時の曲がり角は非常に怖い。
もし非科学的なものが出たらどうしよう。俺は“そういう系信じない人”じゃ無いし……。

ビビりからか、自然とゆっくりと歩く俺。
そして遂に曲がり角を曲がって・・・







「きゃっ!!?」




「うわあぁぁぁ!!?」







俺は絶叫した。当たり前だ。あんな中誰かが出てくるなんて、予想できる訳がない。

だが、すぐに落ち着くことが出来た。
何故なら・・・


「あれ、戸部さん!?」

「…! 三浦君!?」


なんと戸部優菜さんが居たのだ。
 
 

 
後書き
砂煙って便利ですね(真顔)
そして結局そこそこグダってました(泣)

まぁ愚痴ってても仕方ないですよね。

今回から、技に名前を付けるようにしました。ただカッコいい言葉の寄せ集めです。この名前も募集したいです! 次の戦闘はいつになるか分かりませんが…ハハ…。

急いで書いたのでちょいとグダグダな結果になりました。ので、脳内補正をして頂けると幸いです。
俺の作品はアレです。見る人の創造力を活性化させるような物です(←後付け理由)。頑張って下さい。

そして、最後に忘れていたかのように優菜ちゃん登場。あ、忘れてはいません、覚えてます。ただ出すタイミングが無かっただけです。
今回もこれといった役を与えるつもりはありませんが、そこそこに使おうかと考えています。

ではまた次回で。 

 

キャラ紹介 第5弾

 
前書き
前回の後書きで「また次回で」とか言いましたが、もう次回が来ました(笑)。

今回は副部長です。 

 
*魔術部副部長*

(つじ) 緋翼(ひよく)
 年齢 14歳~
 性別 女
 容姿 茶髪で、肩以上に長いロング
    小学生低学年くらいの身長
    可愛い(子供的な意味でも)
 性格 クール
    毒舌(特に黒木に)
 能力(アビリティ) 【灼刃(しゃくじん)】・・・焔の刀
 
 補足 部活にはあまり来ていない。
    黒木よりも実力が少し劣る。
    身体能力は高い。
    (動体視力と反射神経は特に)
    頭脳は普通。
    あだ名は「チビ」。
    成長期がまだ来てない(本人談)。
    だから色々小さい(本人談)。
    でもって子供扱いするな(本人談)。 
 

 
後書き
こんな名前いるのかよ、と思って付けた名前。
なんか文字的にカッコいいからしました。

こういうキャラが居ると場面が映えそうです。でも優菜ちゃんで十分かな?
いやいや、ロリっ娘が居てこそ盛り上がr・・・いや、止めよう…。俺の社会的立場が無くなってしまう…。

次回でGW編はラストですかね。お楽しみに・・・する人居るのでしょうか(泣)。 

 

第19話  会得

 
前書き
文章が上手い人の小説を読むと、自分が惨めに感じてくる…。 

 
「え~っと…」


俺は恐怖を通り越した困惑によって、コミュ障が再発した。
言いたい事が多過ぎて、頭がパンクしそうだった。

何故、戸部さんがここに居るのか。
ここはあまり人には知られてない宿ではなかったのか? あ、いや別に知られていても問題は無いな。それでもどうして?一般客としてだよな?んん??

さっぱり分からん。


「あの~…」

「はい?!」


急に呼ばれたので、つい堅苦しく返事をしてしまう。
まぁ話した事あるって言っても1回だけだし、前回は莉奈も居たお陰だし…。ダメだ、この子と上手く話せる自信が無ぇ!!


「どうして此処に居るんですか?」


お、俺の言いたい事を言ってくれた!
このまま質問に答えていくようにすれば、何とか会話になるかもしれん!


「あー…部活の合宿です」

「何の部活ですか?」


うわぁぁぁいい!!?
マズいぞ、この場合何て答えたら良いの!?
「魔術部です」とストレートに言っても大丈夫かな!?引かれないよね!?

う~ん・・・でも部活動紹介やってたから知ってるだろうし、どうせマジック部として見られてるだろうから・・・大丈夫かな…。


「ま、魔術部って言うんだけど…」


俺は顔を下げて言った。何か凄く恥ずかしい気分になった。
すると、戸部さんはそれに答えるよう口を開いた。


「あの部活ですか。私も少し気になったんですけど、ちょっと怪しい気がしたので入らない事にしたんです。あ、ちなみに美術部に入ってます」


え!?まさかの興味があった!? この人不思議な人だな・・・。
でもって、美術部に入ったって事は絵が上手いのか?…俺は普通なんだよな。画力も。


「へぇ~そうなんだ」

「あ! 私明日も居るんですけど、暇なら昼からこの辺の何処か遊びに行きません?」

「あ~そうだね・・・ん!?」


俺はかなりの度合いで驚いた。
そりゃそうだろう。

だって女子に「遊びに行こう」って誘われるのって莉奈と智乃以外、有り得ないと思ったし…。
でも意図は置いといて、断るのは流石に気まずいよな…。行けるなら行ってあげたいけど、何より部活がな…。


「よ、用事が無かったらね…」

「ありがとうございます。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい・・・」





その言葉を最後に彼女は去っていった。

そして水を飲みながら自分の部屋へ帰る途中、どっと息を吐いた。
女子(しかも知り合い)と話すのってなんか緊張して疲れる。精神的に色々と…。

明日の昼、俺は暇だろうか・・・?










*翌朝

「ほら起きろー!!」バジバジ

「「「んんん!!?」」」


早朝から幾つもの叫び声が部屋に響いた。
それは、部長の『ビリビリ目覚まし』によって引き起こされたものだった。

俺もその被害に遭い、少々髪の毛が逆立った状態のまま勢い良く目覚めた。


「ちょっ、何事ですか!?」


あまりの衝撃だったし、わざわざ能力(アビリティ)を使って起こしたという事は、何か起こったのだろうか。俺は直感的にそう思った。


「え?いや、ただ早起きしろと・・」


…だがどうやら深い意味は無く、ただ無理矢理起こす為だったようだ。だったら普通に揺らすなりして起こして下さいよ。

俺はふと部屋の壁に掛かっている時計を見た。


時計『5時30分』


時計は正直にそう示していた。
部長、早過ぎるわ…。まぁでも、昨日の疲れを引きずらず、元気になってくれたから安心した…。
でも早いよ、老人か何かですか部長は?





「ちょっと煩いよアンタ達!! 何時だと思ってんの?!」ガラッ


ふと、高くも大きい声が部屋中に響いた。
見ると、目を擦りながらこちらを見ている副部長の姿があった。


「お、来てくれたのなら丁度良い。もう起きろ」

「はぁ何言ってんの? まだ大丈夫でしょ。あと2時間待って」


部長が俺らに言うときと同じように副部長に言った。
だが副部長はまだ寝たいのか、時間を要求してた。

それに対して部長は粘った。


「早起きは三文の徳って言うだろ。いいから起きろ」

「うるっさいね。ぶった斬るよ?」


部長の(少なくとも)優しい気遣いを、副部長は暴言で返す。
つか何で部長と副部長が会話すると、毎度毎度危ない雰囲気が出るの?
『喧嘩するほど仲がいい』って事? いやでも仲悪いよこの二人。


「二人共、落ち着いて下さい。早朝から喧嘩したって何も良い事無いですよ?」


俺は穏やかに言った。
まずは気持ちを伝えて落ち着かせる、と。反応は…?


「三浦、静かにしてろ。今からコイツを目が冴えすぎて眠れなくなるくらい殴る」

「じゃあ私はアンタを永遠の眠りにつかせた後、寝るわ」


何なのこの険悪ムード…!?
また手に負えないパターン!?

誰か!見てないで助けてよ!
そんな「ドンマイ」みたいな顔で見ないで!ねぇ暁君!!

俺がそう思いながら暁君を見つめると、暁君は両手を上げ、お手上げのポーズをしてきた。
己の無力さに腹が立つぜ…。


「早く起きろって言ってるだけだろ! 何が不満なんだ!」
「アンタの体内時計に不満を持ってるよ! もう少し寝かせてくれたって良いじゃない!」


いっこうに終わらない部長と副部長の口喧嘩。
よく飽きないな…?


「あぁ面倒くせ。もう一回やっか?」バチバチ

「良いじゃない。リベンジマッチって事で」ボワッ


ちょっとここで始めようとしてない!?
ダメだよ!?部長らの攻撃なら一発で宿崩れるから!!


「喰らえ、冥雷砲」


遂に部長が指鉄砲を構えた。
すると副部長は何処から持ち出したのか、あの太刀を構える。


「ち、ちょっと部長! 流石にここでそれは・・・」


俺の声に部長は反応しない。
そして互いに一歩を踏み出した。


「「はぁっ!!」」

「ちょっと待って!!」


二人が今にも技を発動させようとした瞬間、俺は何とかして仲裁しようと思いきり右手を伸ばした。

すると・・・







ビュオオォォォ!!!







突如、部屋の中を強風が吹き荒れた。
敷布団やらが部屋の隅に吹き飛ばされ、襖も外れかけた。

その突然の事態に部長と副部長、そして部員全員が驚愕する。
二人は喧嘩を止め、辺りを見回したかと思うと、ある人物を見た。



「今の・・・お前か…?」



部長の驚き混じりの声が聞こえた。
その声は、俺に向けて発せられていた。


「え、えっと…」


急な進展に頭が追い付かず、ただパニくる俺。

今のは・・・俺の能力(アビリティ)の“晴風”だって言うのか?
つまり俺は今、魔術を使ったって事か?


「私もコイツも風属性は使えないし、他の奴にも使うことは出来ない」
「てことで、風属性の能力(アビリティ)が使えるお前の仕業か?と訊いているんだ」


部長らが事細かに説明してくれる。
意味は分かったが、やはり実感が無い。
今のが自然の風とは思わない。あっても台風レベルだ。
つまりは、俺が起こした・・・。





「俺…かもしれません…」





俺は申し訳ない気持ちで呟いた。
そりゃ部屋をこんな風にしたってのもあるし、何より危険だと思ったからだ。
本来なら喜ぶべき事だがこれでは・・・。



だが、周りの反応は違った。



「おー!! ようやくか!」
「アンタの練習で出来るなんて…」
「俺も早く会得しねぇと」
「すげぇな三浦!」
「風がビュー!!って!」
「俺も使いたいな~」
「おめでとう!!」



魔術部全員が俺に称賛の言葉を浴びせる。
俺はそれを呆然と見る他なかった。


「どうした三浦、もっと喜べ!」

「いや喜べって言われても実感が…」


俺は部長の言葉に素直に返した。
今のはホントに俺が使ったみたいたが、実感が無くて無意識で発動させた、みたいな感じだった。
てかこの部屋の惨状は気にしないのね…。

でもどうせならもう一回発動のチャンスが欲しい。
そう考えた俺はこう提案した。


「部長、だったらもう一度やるので見ててもらえません?」

「よし。良いぞ!!」


部長は快く引き受けてくれた。










*

場所が変わって、昨日の部長らの戦闘場所。
この辺で開けた場所といえば此処しかない。

早速俺はその場所のほぼ中央に立った。


「いきますよ?」

「おう!」


俺は集中する。
一度発動させたという事は、もう魔術を使える身体になったという事だろう。であれば、二回目だって裕に発動出来るはず。
あの時の情景、心情、全てを思い出し、先程の様に右手を思い切り伸ばして・・・!!


「ハァッ!!!」





・・・・・





静寂が訪れた。
風が起こるどころか、元々から吹く気配さえ無い。


「え、部長、これって・・・?」


俺は困惑の表情で部長に訊く。
すると部長は迷わず口を開いた。



「未完成だな」



あっさりと言われた。いや、言われても仕方の無い事だろう。
しかし、俺には何故発動しないかなんて分からなかった。


「迷う必要は無い。俺よりも圧倒的に早く覚えたんだ。誇って良い事だ」


その部長の言葉を聞いて俺は考え直した。

そうだよ。部長よりも、暁君よりも早く会得が出来たんだ。これ自体が嬉しい事じゃないか。使うのはまた後で良い。今はまだ・・・!


「惜しかったな。三浦」

「はは…折角暁君に勝ったと思ったのに・・・」

「そんな事考えてたのかよ」
「うん」


すると暁君は少し口角を上げ、苦笑いを見せた。


「俺だって会得したらお前に負けねぇよ」ニッ
「じゃあ会得したら部長達みたいに戦闘(バトル)出来るのかな?」

「勿論だ」


俺が暁君にそう訊いていると、部長が答えた。

そうか、いつかきっと出来るのか・・・!! 楽しみだ!!










*昼

昼食を摂り終えた俺は、宿の玄関に居た。
部長らも、俺は今日は休んで良いって言ってくれたし、これなら戸部さんとの約束は守れそうだ。

にしても、何処で待っとけば良いのだろうか?
そう思って、今此処で待っているのだが…。


「あれ、三浦君!」


廊下の奥から戸部さんの声がした。どうやら正解だったようだ。
俺は声のした方を見る。


「今日、大丈夫だったんですね」
「うん」


少し大きめな手提げ鞄を持つ戸部さんが、そこには居た。
そして最初に会った時とは比にならない程、馴れ馴れしく会話をする。
そんなのがすぐに出来たって事で、意外と戸部さんは馴染み易い人だなと思った。
あの時から何か変わったのだろうか。てか、昨夜とも雰囲気が変わった気がした。


「で、何処に行くつもりなの?」


俺は本題を訊く。
昨日彼女は「何処かへ行く」と言った。その“何処か”が気になるのだ。流石に戸部さんともあろう人が無計画なんて・・・


「特に決まってません。“ただ散歩する”みたいなイメージです。何せ見たことも来たことも無い場所ですし…」


どうやら無計画だったようだ。
マジで散歩だけ…!? つまんないよそれ!?


「この山に来たのは初めて?」
「はい。私の両親は旅行が好きなので、近い所ならいつも付き合わされるんですよ」


彼女は淡々と説明した。
俺の親は逆に自分達だけで何処か行くけどな…。


「なので適当に散歩しながらお話しません?」
「…そうだね」


うん、話をして退屈さを紛らわせばいいか。





その後、俺と戸部さんは宿から離れた所で適当に散歩しながら会話していた。
山の中という事もあり、自然で溢れていたその情景に、俺たちは興奮していた。


「清々しい気分だー!」
「空気が新鮮ですね」


二人で感想を言う。山って意外と悪くない場所だな。“田舎”とか言われる場所ってこんな感じなのかな。
田や畑が一面に広がり、川や森が近くにあって・・・やべぇ、憧れる。


「学校の合宿もこんな所が良いんですけどね」

「学校・・・そうだ、前に話した時から何か変わった? その…友達とか…」


「学校」と聞き、俺はある事を思い出し質問してみる。
それは彼女の悩みであった『友達』についてだ。

以前に俺と莉奈が彼女と話した時、彼女はそれについて悩んでいたのだ。
そしてそこで俺が(全力で)アドバイスを送った。

だから、そこからの学校生活の様子を俺は聞きたかった。隣のクラスとは言えど、会うことも無かったし。


「はい。無事にクラスの皆とは仲良くなれましたし、学級委員になることもできました。あの時は本当に助かりました、ありがとうございます」

「いえいえ、そんな気にせず…」


俺は心の中で安堵していた。
俺の言葉が人を良い方向へ進めた、と思うととても気分が良かった。

そうか、学級委員か…。
俺みたいにクジじゃなくて、きっと皆からの信頼があったからだろうな…。

まぁ馴染んだなら良かった良かった。
そういや柊君の時も馴染ませるのは不安だったな…。





「あの、森の中とか行ってみます?」


不意に言ってきた彼女の言葉で、俺の思考は遮断される。


「え? 危ないんじゃないかな…」


俺は思った事を口にする。
だって何か危険な動物とか出たら困るし、もし遭難でもしたらそれこそ皆に迷惑掛かるし…。


「でもこの先に綺麗な川があるんです。だからちょっと、ちょっとだけ行ってみません?」


戸部さんは値切るかのように俺を説得し始めた。
ここで粘るのも面倒だし、ちょっとって言ってるから・・・


「あんまり遠くに行かないならいいけど…」

「ありがとうございます!」ニコッ


戸部さんは満面の笑みを浮かべて喜んだ。あまりにも輝く笑顔な為、俺の心臓は少し反応した。

待て待て。そういうのは宜しくない、うん。
にしても、どうしてこんなに喜ぶのだろうか?










*森

ザーーーーーー


川の流れる音が森中に響き渡る。

森に入って数分で彼女の言う川には着いた。
成程、確かにこれは綺麗だ。


「水が透き通っている…」
「流石大自然!」


異様に彼女のテンションが高い。
マジで何で? 川に来ただけだよ?


「さて、始めよう」ドッ

「?」


そう言った戸部さんは、鞄からスケッチブックと鉛筆を取り出した。
これって・・・


「もしかして…スケッチ…?」
「うん、大自然を描こうかと思って持ってきたんだ。そして親に訊いたらこの川を紹介されたって訳」


確かに今俺たちがいる風景はかなり絵になりそうである。
…ん? じゃあさ・・・


「此処に来るの、予定だったよね?」


俺はある仮説を立てた。100%合ってるだろうけど。
彼女は最初から此処に来る気だったのだ。でないと、こんなに用意が良い訳が無い。


「はは、バレましたか。その通りです。私の今日の目的はこの風景をスケッチする事です」


彼女はそう答えた。
だがそんな答えであれば、俺は納得しない事がある。


「どうして嘘をついたの?」


そう、彼女は嘘をついていたのだ。
いや途中までは本当だった。しかし何故、ここまで来るのに嘘を使ったのだろうか。
まさか…罠!?


「深い意味はありません。私はただ“従わせる”という行動をしたくなかっただけです。だから自然的に此処に行くよう仕向けたんです」


結局、俺の思い過ごしだった。
しかも彼女はとても良い人だ。相手を思いやっている。
まぁバレてしまえば意味が無いけど…。

それより、俺の気になること第2弾・・・


「もう1つ訊くけどさ、俺が来た意味はある?」


そう、俺の存在意義だ。
ただスケッチしたいのであれば一人ですれば良い。なのに何故俺を誘った? まさかホントにそっちの気が・・・?


「一人だとつまらないからです。本当は親についてきてもらうつもりでしたが、偶然三浦君が居たのでお話ついでに、と」


…そんなものだろう。期待した俺がバカだった。
まぁ確かに、一人で黙々スケッチとかつまらんわな。


「それに危険な時に守ってくれないかな…って」

「ん!?」


俺は耳を疑った。
何を言っているんだこの子は。
そんな王子様展開、俺に期待されても困るよ!
え、何。遭難すると思ったの?川に流されるとか思ったの!?
何でそんな先を見据えてるの!?


「とどのつまりはもっと仲良くなりたいな…と」


俺は感激して、つい顔を逸らす。
人から嫌われず、むしろ良い印象を持たれてるって感じる時ほど、コミュ障にとって喜ばしい事はない。
あ、やべ、涙出そう。





その後、彼女はスケッチを描き始めた。
暇だった俺は横で見させてもらっていたのだが、ある事に驚愕した。

上手すぎる…と。

一線一線がオーラを持っていた。
これはもう『才能』と呼べるレベルで上手い。


「絵、上手だね」
「昔から絵を描くことが大好きだったから」


『好きこそ物の上手なれ』とは、まさにこの事だろう。
羨ましいな才能って。俺も欲しいな~。生涯で普通以外経験無いしな…。


「練習すれば誰でも描けますよ」
「そういうもんなの?」

「あ、じゃあ見てて下さい。この川の場合はこうやって・・・



ガサッ



不意に後ろで小さく草木が揺れる音が鳴った。

ホントに微かな音だったので、振り替える必要は無いのだが、この時俺が振り替えった事で未来が移り変わった。



「ん?」クルッ



俺は反射的に後ろを見た。
そして、その目の前の光景を見て、サーッと血の気が引いたのが分かった。

嘘だ…何で…。





「戸部さん!」ユサユサ

「そしてあそこの木は・・・って、ん?どうしたの?」


未だにスケッチに没頭しながら、迫る危険に気づかない戸部さんを揺すりながら、非常事態を伝えようとする俺。


「大変だ。今すぐ此処を離れよう!」

「どうして?」


俺の顔を見ながらそう訊いてくる戸部さん。
クソ、この状況をどう伝えれば良いのか。
彼女にはあまりショックを与えたくない。


「いいからこっちに!!」グイッ


俺は彼女の手を無理矢理引っ張り、この場所から離れようとする。だが遅かった。
アレは…俺たちに気づいた。


「だからどうして…」クルッ


戸部さんも後ろを向いた。
そして俺と同様、青ざめた顔をした。


「訳わかんねぇよ!!」


俺は戸部さんの手を引きながら必死で走った。

後ろを確認しようと振り替えると・・・



口に血を纏った大型の熊が、俺らを獲物を見る目でジッと睨んでいたのが見えた。

 
 

 
後書き
思いの外長くなったんで、もう1話します!
嘘ついてスミマセン!!
自分、長々するのは嫌いなもんで…。
ちょっと前半が長すぎたのかな?
まぁ気にしない事にしましょう!

次回は実に予測しやすいありきたりな展開にしようかと考えています(←ほぼネタバレ)。あくまで予定ですので勿論変更ありです。

毎度お馴染みグダグダ文章。そろそろ慣れた頃でしょう(笑)
毎回頑張って書いてますけど、やっぱ場面に適した言葉がうまく出てこないんですね…。
そして書き終わって思った事『熊じゃインパクト足りねぇ…』
ま、実際に会ったらおれビビり切りますけど。

ーー何はともあれ次回はGW編ラストです!(←絶対)
お楽しみに!! 

 

第20話  吹き渡る風

 
前書き
ひぇ~一応終わったけど、思ったより長いですね、今回。
ま、どうでもいいか。 

 
この状況を生涯で経験出来るのは、恐らく1回きりだろう。そう思えるほど、現状は馬鹿げているものだった。


「と、戸部さん…これって…」ガクガク
「ははは…夢か何かですかね…」ガクガク


俺らを未だに見ている大熊。
どう考えても俺らは生きて帰れないと思う。

アレが子供だったらまだマシだっただろう。
だがアレはどう見ても、さっきまで動物を喰い散らかしてた奴だよ。口元の血痕がそれを物語る。


「こういう時って死んだフリだっけ?」


我ながら子供っぽい質問をしたとは思うが、今の事態に置いてこの事はとても大事な突破口だ。


「い、いえ、それはダメだったと思います。確か目を逸らさずに、ゆっくりと離れるとかが正解だったと・・・」


俺の問いに慌てながらも答える戸部さん。

てか、アレから目を逸らさずに後退する!?
無理無理、逆に襲って来そうだよ!


「やってみましょう」
「はい……」


俺と戸部さんはその作戦を実行した。
熊は依然としてこちらを見ていた。
だがそんな事は気にせず、取り敢えず動いているかどうかも分かりにくいスピードで後ろに下がる・・・。





「ひゃっ!!」ドテッ


・・ものの見事に、戸部さんが()けた事によって作戦が瓦解した。

尻餅をついてしまった戸部さんを「弱っている」と見たのか、熊がこちらに向かって歩き始めた。


「戸部さん!捕まって!」


俺は戸部さんに手を差し伸べる。
ホントはさっきのように無理矢理引っ張って行きたいのだが、熊の生態上それは無理だと分かった。
だからってモタモタしてる暇は無いんだけどね…。


「ごめんなさい…」


俺を手を掴み、立ち上がった戸部さん。
ちょっと擦り剥いている所が有ったが、気にしている暇は無い。
また俺たちは後ろに下がり始めた。


だがもう俺らは気付いていた。
アレとこちらでは、歩幅が圧倒的に俺らが不利。つまりはいずれ追い付かれる。そこがゲームオーバーだと。



もう俺は気付いていた。
あんな奴を倒すには、銃などの武器、もしくは・・・





「俺の魔術・・・」





…しか無いという事を。

『銃』と考えると、部長の技を思い出した。
あれを使えば、もしかしたらアイツを倒せるかもしれない。
しかし、俺の魔術は不完全。使えるようにはなったみたいだが、発動条件は不明。完璧に“運ゲー”となっているのだ。

それでも俺は、戸部さんの前に立ち塞がるように立ち、大熊を見据えた。


「三浦君!?」


戸部さんは驚いた声を上げていた。自分でもこの行動は驚いた。
そりゃ、こんな大きな獣を前にして、自分より前に立ってくれるなんて普通は有り得ないわな。
だって俺の脚なんか、勝手にガクガク震えてるもん。


でも、今の俺は“普通”じゃ無いんだ。


「戸部さん、さっき言ったよね、俺を誘った理由。どうやらホントにそうなってしまいそうだよ」

「え…?」








「俺が、君を守ります」








…自分でも恥ずかしくなってくる台詞だ。
だがきっとこの言葉は、俺にも戸部さんにも勇気を与えた筈だ。

出来るか出来ないか。んなもん関係ない。『やるしかない』んだよ。
絶対に使わなきゃならない。


「かかってきやがれ!」


俺は必死の思いで叫んだ。
獣は大声に対して敏感? そんなの知らん。
俺は無我夢中で大熊に突っ込んだ。


「三浦君!」


後ろから戸部さんの声が聞こえてくる。
だが俺には、戦闘態勢に入った大熊の攻撃を見切る事しか考えてなかった。


「グアァァァ!!!」


大熊の雄叫びが森中に響き渡る。と同時に、右腕を俺に向かって振り下ろしてきた。


「ふっ!!」ヒュ


だが俺はそれを見切り、体を捻らせ横に回避した。
ふぅ…何とか避けたが、中々体力と精神力を使うな…。だがこれで標的(ターゲット)は俺になった筈だ。
これで戸部さんを逃がせられる!


「戸部さん、今の内に逃げて!!」


俺は戸部さんに叫んだ。
戸部さんは急展開に混乱していたようだが、賢い頭脳である答えを導き出したようだった。それは・・・





「私は大丈夫です。私も囮をやって時間を稼ぎます」





彼女の目からは本気と決意の意思が読み取れた。
『覚悟はできている』
彼女はそう言ってるように見えた。

だが易々とそれをやらせるほど、俺は甘くはない。


「ダメです、俺が引き付けている間に早く!」

「嫌です! 三浦君を一人危険な目には遭わせられません!」


俺は納得した。
彼女は正義感が強いのだ。だから身を挺してでも人を守ろうと・・・。
でも、彼女と俺では決定的違いが有るってもんだ。彼女にコイツを倒す術は無いのだから。


「グルルル…」


大熊が俺ら二人を見渡し、どちらを狙うかを迷っているようだった。
ここで戸部さんの方へは絶対に行かせられない。
こうなったら一か八か!


「集中…」


俺は精神を統一し始める。

俺は魔術を使える。俺は魔術を使える。俺は魔術を使える。

そう暗示を掛けた俺は、一気に熊へと飛び出した。


「喰らえ!!」


俺はあの時のように右手を伸ばした。
できるだけあの状況に近づけて・・・。

力を…込める!!!


「ハァ!!」










俺の掛け声と共に訪れたのは・・・またしても静寂だった。


“失敗”。そう気付いた時には、大熊の攻撃が寸前に迫っていた。見切る暇は無い。
コンマ数秒後にでもやられるであろう俺の体。その様子を驚愕しながら見つめる戸部さんの姿が、視界の端に映った。

もはや選択肢は2つ。『直感で避ける』か『無抵抗で受けるか』。
勿論俺は前者を選択する。ただ直感と言っても、この腕の大きさなら避ける箇所も限られる。
せめて軌道が分かれば、一瞬の時間で判断し、避けれる自信がある。
まぁ、無理な話だけどね…。





「右だ!」ヒュ





俺は必死の思いで右へと避けようとした。
だが大熊の爪は、そんな俺の左肩を捉えた。





生涯で味わったことの無い激痛が脳に伝わる。
切り傷なんてレベルじゃない。なんか常に脳に電気が走る感じだ。痛い。


「ぐっ…」バタ


ふと、気の緩んだ俺は倒れ込んでしまう。
川によって湿った小石が、俺の体を冷やした。

やべぇな。正直起き上がれねぇぞ…。
呼吸する度に痛い。肩が焼ける。そんな痛みが俺を(むしば)んでいった。


「三浦君!」


熊なんかそっちのけで放たれた声が聞こえた。
声の方向を見る事も正直ままならないが、俺はその方向を見た。

そこには、心配そうにこちらを見る戸部さんの姿があった。
良かった。まだ無事だ。この熊は未だに俺を狙っている。何とか彼女だけでも逃がさなければ。






そういや、何でこんな事態になっちまったんだ?
始まりは只のスケッチだった筈だ。そこから説明不能な急展開が起こり、今に至ったんだよな?

はは…、そう考えると、呆れて物も言えねぇや。

面白いな、人生って。
中学生になってから、生活が見違えるように変わりやがった。
一体何でだろうな。
俺は普通な生活を送っていたのに・・・


ーーんなこと今はどうでも良いか。
俺は今やるべき事をやる。

戸部さんはあの時「守ってくれないかな」などと言った。
その言葉通りの俺の役目を果たさなきゃなんねぇ。
今ちょっと諦めたけど、肩くらいでへばっちゃかっこ悪いよな。


この熊ぶっ倒して、彼女を守ってやるんだ!





「っしゃあ!!」ザッ





俺は一気に立ち上がった。今までの迷いを吹っ切るが如く。
もう迷わない。俺は魔術を使うんだ。やっと見つけた俺の『非日常』なんだから!


「へへっ」


怪我の無い右腕で汗を拭い、俺は表情を変えて熊を見据えた。
そして右手の拳を強く握り締めると、俺は一直線に熊を目指した。

その拳の周囲は、波の様に揺らいでいるように見えた。





「見せてやるよ、このデカブツが! これが俺の魔術だ!!!」




ドゴ!




俺の拳は熊の大きな腹を捉えた。
しかしそれを受けた大熊は微動だにしなかった。

無論、当たった瞬間だけだが・・・。







ビュオオォォォォ!!!







天気が一変、台風の様な強風が吹き荒れた。
その風は主に俺の拳へ集中し、そしてその風圧は大熊を吹っ飛ばした。





ドッシャアアアァァァ!





軽い物の様に宙をクルクルと舞い、熊が吹っ飛ぶ。
そして川原に落ちて、小石が散らばる音が響いた。
そこに横たわった獣は気絶したのか、動き出すことは無かった。







「・・・倒した…のか?」


短い出来事であった為、俺はまたしても実感が湧かなかった。





だが唖然としてボーッとしている俺を、とある声が目覚めさせた。


「三浦君、大丈夫!?」


心配そうな顔でこちらに駆け寄って来る戸部さん。
ふと、俺は彼女が心配している事に気付いた。


「あ…」チラッ


傷を負った左肩を見てみる。
すると傷口から今も鮮血が溢れ出ていた。ああさっきまで痛みを感じてなかったのに、痛くなってきた~!…てか出血多量でどうにかなったりしないよな?
つか、痺れる様な何とも言い難い痛みに襲われて、凄く痛い。取り敢えず痛い。


「早く治療しないと!」


戸部さんがそう言い準備に取り掛かろうとするも、道具は一切無いため戸惑っていた。
第一、この怪我は救急箱程度じゃダメだと思うわ…。


あ、やべ、何か意識が朦朧としだした。
し…視界が、揺れる…。



俺は疲労と負傷の為か、静かに気を失った。










*

「……い」


何だ? 何かが聞こえた気が…?


「…おーい」


俺を…呼んでるのか? 一体誰が?


「ちっ面倒くせっ。ちょっとビリってやっていいよな? 心臓マッサージ的な」
「いやいや。コイツ怪我人だから、アンタみたいに加減が出来ない奴はそういうのしなくていいって」


今度はハッキリと聞こえた。
てか、この言い合いの雰囲気、何処かで聞いた事あるぞ!?


「部長…!?」


俺はバッと起き上がりながら叫んだ。
すると、その人は気付いたのか、こちらに向かって声を発した。


「お、三浦起きたのか。調子はどうだ?」


そう言われて俺は戸惑う。
ここは多分…宿においての俺の部屋。俺は布団に寝かされていた。俺の周囲には魔術部の部員が全員揃っていた。窓の外には夕焼けが輝いており、それは「もうこんなに時間が過ぎた」のだと、俺に教えてくれた。
俺に声を掛けた部長は、俺の枕元に胡座をかいて座っている。


「え…? これってどういう…何でここに?」


気を失っていて記憶が飛んでいるため、この状況までの過程が思い出せない。
え~あそこで気を失ってから、それから・・・



「! 部長、戸部さんは?!」



俺は重大な事を思い出し、部長に彼女の存在を問う。
部長はその質問に首をかしげて悩んだ後、納得したのかこう言った。


「戸部…っていうのはお前と一緒にいた女子か?
彼女なら家に帰ったぞ」

「じゃあ無事なんですね?」

「ああ」


それを聞いた俺は安堵した。
良かった、ちゃんと守れたんだ…。
でもやっぱり心配掛けちゃったかな? もしかして此処まで運んできてくれた…? いや、無いか。
まぁ無事で何よりだ。


「なぁ三浦。目が覚めてすぐで悪いが、少し話をいいか?」
「はい、大丈夫です」


俺は部長の問いに快く答えた。
すると部長は話を始めた。


「大体の話は彼女から聞いた。そして代わりに彼女にこの部の実態を教えた。彼女は驚いたようだが納得したよ」


部長はストレートに本題に入ろうとせず、戸部さんの話を始めた。
きっと彼女は俺の魔術に驚いたんだろう。だから部長からその話が・・・。


「俺はお前がまた魔術を使えた事を嬉しく思うが、それ以上に、それで人を守ったお前のことを俺は尊敬する」


今度はストレートに言われる。
部長からそう言われるなんて、とても照れくさい気分だ。


「様子だって見てきた。あんな獣をよく倒せたな。それだってすげぇよ、ホント」


部長はしみじみと過去を語るように話した。
そして立ち上がり、こう言った。


「俺はお前を尊敬する。誰かを守る為、強敵に立ち向かったお前の勇気を、その精神を。お前は心の優しい奴だ。これからもその心を忘れるなよ。以上」ザッ


部長は言い切ると、足早に部屋を去った。

俺はそのあっさりとした行動に疑問を感じたが、そんな様子の俺をみて副部長が声を掛けてきた。




「アイツはアンタに嫉妬してんのよ」


それを聞いた俺は驚いた。俺に嫉妬される要素などあるのだろうか?


「仲間を必死に助けようとする勇気。アンタにはそれが有るってことが証明されたでしょ? アイツはそれが羨ましいの」

「は、はぁ…」


ザッとされた説明に頭が追い付かない。
つまり部長は今、俺に嫉妬して拗ねてんの!?


「まぁ、アイツの事だから心配はしないけどね」


ヤレヤレといった様子の副部長。
俺、部長に悪い事した感じになってない!? 無実だよ俺!!


ーーそういえば副部長についてずっと気になる事が有るんだが、訊いても良いものだろうか?
・・・訊こう。





「副部長は部長の事、どう思ってるんですか?」





どこでも聞いた事が有るような月並みな質問。
俺はこの質問を副部長にしたかった。だって部長と副部長は良く喧嘩するけど、何気に仲良さそうだし・・・。

てか、どこの世界においてもこの質問は効果が有るんだな。副部長が顔を真っ赤にして焦り出した。





「ば、馬っ鹿! アイツなんてただのビリビリ野郎としか思ってないし、別に好きとかそんなのじゃないし!!」





そして期待以上の答えが返って来てしまう。
あ~何か周りの部員の目が変わり出したぞ…。訊かない方が良かったのかな?
でも気になってたの事実だし…。


「わ、私はもう疲れたから寝るわ。ちゃんと寝なさいよね!」ガラピシャン


凄い勢いで襖を閉め出ていった副部長。
絶対怒ってるなあれ…。


「(いや~三浦はよくやった)」
「(やっぱ気になるよな、あの二人)」
「(これは何か脅す時に使えそうな…)」
「(お、良いなそれ!)」


何かコソコソ先輩方の会話が聞こえるが、何を言っているのかイマイチ分からない。
気になるけど、詮索したら迷惑だよな…。聞こえなかった事にしよう。



「じゃあ俺らは一旦部屋出るわ。安静にしてろよ!」



部長と同じように先輩方は俺に言葉を送って、そして部屋から出ていった。
何で皆居なくなっちゃう訳? この部屋病室みたいな感じ??

まぁ良いや。まだ一人居るし。


「暁君」

「何だ?」


俺は部屋の隅に座っていた暁君に声を掛けた。
暁君は面倒そうだったが、立ち上がって俺の所まで歩み寄り、また座った。


「驚いた? 俺が熊と闘ったって話」

「正直、それだけじゃなく色々驚いている。えっと・・・」


暁君は言葉に迷っているようだった。
無理も無い。今回はホントに色々あった。
俺が魔術を使えるようになったり、なんか熊と戦う羽目になるし、そんでもって倒してしまうし…。
あ、全部俺絡みじゃん…。


「取り敢えず…お疲れだったな。・・・ そうだ、怪我の具合はどうだ?」


怪我? そういえばあったなそんなの。
俺は左肩を見てみる。するとそこには包帯が巻かれていた。


「実は部長が魔術を使って応急処置してたんだ。完全には治せないから、取り敢えず痛み止めだけでも…って」

「部長が?」


俺は驚いた。道理であまり痛まなかった訳だ。
にしても、部長が応急処置を…。魔術ってホント便利だな、何でも出来る。…だから良い事にも悪い事にも使えるんだ。
あ、何か面白い展開来そうかも?

俺は肩を見つめながら、ボンヤリと思った。


「そしてあの戸部って奴。お前の事をとても心配してたよ。部長を呼んだのも彼女なんだ」
「あ~迷惑掛けちゃったみたいだね…」

「迷惑なんてレベルじゃねぇよ。どうやったら熊となんて闘うんだ・・・」
「はは…俺も驚きだよ」


彼女には帰ってから謝らないといけないな。
心配を掛けまくったみたいだし。確か目の前で気絶したんだっけか。ビックリしただろうな。


「ったく、魔術が使えなかったら、今頃どうなっていたことやら…」
「それは考えたくないよ。結果的に良かったんだからいいんじゃないかな?」


暁君の言葉に俺はそう返した。
過去をグダグダ言うより、ポジティブに今を生きる事が大切、ってよく言うしね。


「まぁ何にせよ、無事なら良い。今回の件はお前が悪い訳でも無いんだし、只の正当防衛だもんな。魔術…使えて良かったな。俺も早く会得しねぇと」

「うん、そうだね」


暁君は決意に満ちた表情で呟いた。俺はそれに笑顔で反応した。
彼が魔術を使えるようになった時。その時は勝負(バトル)するんだ!


「じゃあ安静にな」スクッ

「え、暁君も行くの!?」


何で皆毎回居なくなるの!?
居てくれた方が安心できて良いんだけど!

…ってあぁ、そんな事思ってる間に出ていっちゃったよ…。

・・・暇だし寝るか。










翌日の三日目、特に変わった事も無く、部員は全員家へと帰宅した。
俺も当然帰ったのだが、智乃に怪我がバレないように振る舞うのがとても大変だった。
抱き付かれたら痛いわ、肩叩きするとか言ってくるから全力で拒否するわ・・・。取り敢えずなんやかんや遇ったが、その日は何とか乗りきった。

そして更に翌日。今度は学校という関門が立ちはだかった。まぁ制服で隠されているため、大地や莉奈にも怪我に気付かれる事は無かった。
ただ、俺の左側を人が歩く度にビクビクしなきゃいけないのは自分でも悲しくなった。

部長の力で自然治癒能力も一時的に高まっているらしいので、三日もすれば完治するそうだ。
いやはやご迷惑をお掛けしました、部長。すいません。
それと戸部さんにもしっかりと謝った。彼女は笑顔で「良かった」と言ってくれた。俺は「すいません」と返し、頭を下げた。



ーーーこのように、俺が常時的に魔術を使えるようになってからも、日常が見違えるように変わるという事は無かった。皆は俺の変化に気付く事も無く、ただただ“平凡”な毎日を共に過ごすだけだった。


そう、あの日までは・・・

 
 

 
後書き
はい。やりたい事を無理矢理くっつけました。変ですが気にしないようにしましょう。

そして、晴登はもう魔術を使えるようになりました(ということにしました)。
後は暁君ですね。何か大変そう…。

…ですが、GW編は終わりました。
次はいよいよ体育祭編です。夏休みまでにどこまで進むか・・・。心配だ…。

ーーと、今回も長い後書きになってしまいました。
今度からはもう少し短くしましょうかね…(←多分無理) 

 

第21話  準備

 
前書き
今回はざっくり言うと、暁君の魔術会得編です。
ありきたりな展開しか書きませんが、どうか楽しんで読んで頂けたらと思います。 

 
GWが明けて学校が始まって早一週間。
学校全体が体育祭ムードへと変わり始めた。
俺が負った怪我は日に日に良くなっており、肩の動きは大分取り戻した。

こういう状況の中、体育の時間で行進やらの練習を行う俺であったが、ようやくそれらも終わった日の放課後、いつものように魔術室に寄っていた。





「あの部長、質問が有るんですが…」
「何だ?」


大して生活は変わらないと感じていたが、唯一変化を感じた事がある。それは・・・



「三浦、そんな奴より私に訊きなよ。そんな奴より」
「お前何で2回言いやがった」



長い間部室に姿を見せなかったという副部長が、合宿を境に来始めたのだ。他の部員達も、以前よりは集まりが良くなった気がする。


「大事な事だからに決まってるじゃない」
「それでも三浦は俺に頼んだんだ。邪魔者はすっ込んでろ」
「むぅ…」


部長が最もらしい理由で副部長を強制的に退けた。
てか、何処だろうと毎回毎回この喧嘩を出来るのかよ、この二人。


「…で、何だ三浦?」クルッ


一仕事終えたかのように清々しく訊いてくる部長。
何なんだこの身代わりの早さは。


「えっと…以前部長は俺らに、体育祭までに魔術を覚えろって言いましたよね? それって何故ですか?」


俺は以前疑問に思った事を言う。

何時だったか部長は俺らに「体育祭までに魔術を覚えろ」というような事を言った。その話を聞いた時は、体育祭は只の目安なんだなと思っていた、が、今となってはそれはおかしいんじゃないかと思う。
そもそも、体育祭“までに”というのが引っ掛かる。この学校の事だから、もしかすると魔術が必要になる競技が有るのかもしれない。

・・・よって、気になるから部長に訊くことにした。


「そういやまだ説明してなかったな」


部長はそう一言言うと、次の言葉をタメるかの様に大きく息を吸うと、勢いのある声で言った。





「実は体育祭のプログラムの中に、毎年恒例である事をやる! その名も“部活動対抗部費争奪戦”、通称『部活戦争(ぶかつせんそう)』だ!!」





部長は言い切ったと言わんばかりにふんぞり返る。
だが、内容が俺の思考を突破していた為、理解するのに時間が掛かった。


「何で“部費”が関係あるんですか?」


俺は首をかしげつつそう訊く。
だって普通、部活動対抗といったらリレーでしょ? 何でそれがわざわざ“戦争”と表現され、部費を決める戦いをしなきゃいけなくなる訳だ?


「簡単な話で言うと、それが部活動同士で一番盛り上がる事ができ、敢えて変な形式で争うことで更に盛り上がるという訳だ」


部長は「盛り上がる」を強調して言った。
要するに、此処の先生方は盛り上がりが欲しい訳なんですね、ハイ。


「ちなみにルールは…?」


俺はもう1つ気になった事を訊く。
そりゃ『戦争』と言うくらいだから、騎馬戦みたいな派手な感じかな…なんて。



「え~っと…かいつまんで言うと、“まず部活動ごと数名を1チームとして学校中に散らばらせ、そして争う”という感じだな。詳しく言うと、学校中に宝箱のように置かれている部費・・・というか所謂(いわゆる)“部費チケット”を集め、時間切れまでに持っていた部費チケット分を換金し、それが部費となるんだ」


あまりにも現実味の無いやり方に俺は唖然とする。
何だよ部費チケットって…。


「更に詳しいルールはプリントで貰えるだろうから、言わないでおく。ちなみにさっきの説明は去年のルールだ。一昨年とも違うルールだから、今年も違うルールになるだろうね」
「さっきの得意気な説明は何だったんですか・・・」


「と!に!か!く! 早く暁に魔術を会得させるぞ!!」


「お~い、主旨変わってるよ~」


部長のあまりの話の変わり方に、副部長がツッコミを入れる。
最も、部長本人は全く気づいてないが。



は~…俺の次は暁君が魔術を覚える番か。
自分でやる分には良いが、他人の手助けというのは少し面倒だな…。まぁやるけども。


「よし!三浦、今暁何処に居る?! 俺が徹底的に教えてやるんだ!」ガラッ


魔術室の扉を開けつつもコチラを見ながら言ってくる部長。なんという行動力だろうか。


「でも俺、場所は知りませんよ?」


俺は事実を言う。いくらクラスメートそこまで深入りはしないよ、普通。


「んだよ。アイツを選手に使おうと思ってるから練習させたいのに・・・」

「ん?」


部長がサラッと愚痴ったその言葉に俺は違和感を覚える。


「暁君を出場させるんですか?」

「ああ。勿論お前もな」


えぇ、俺も!?
ルール知らないけど大丈夫なの!?
てか何で先輩方じゃないの?!

…あ・・・もしかして魔術が関係?


「分かったならお前は特訓、そして暁を連れてこい!!」
「は、はい!!」ダッ


俺は部長の大声に対して反射的に行動に移った。
暁君何処に居んの~? 何か部長のキャラ変わり始めたよ~!
つか何で俺が探しに行くことになってんの!?










*

「あ、暁君! ようやく見つけた!」


俺は廊下の端でようやく暁君を見つけた。
まぁ“ようやく”と言っても、廊下が長過ぎて向こう側が小さく見えて気付きにくかった、ってだけだろうけど。


「ん?三浦か。どうした、そんなに息を荒くして?」


理由を話すのは申し訳ないから、取り敢えず用件だけ伝えないと。


「実はカクカクシカジカ・・・」





「ーーーなるほど。で、俺が魔術を早く会得しろと部長が」
「うん」


俺の拙い説明でよく理解できたな暁君。
流石天才!って感じか。


「じゃあ早く行こ!」

「おう」


俺は暁君と共に魔術室へと引き返した。










*魔術室

「あれ、何か光見えなかったっすか?」
「おぉ暁、良いぞ!!」


・・・何だこれ。何で良い感じに端折(はしょ)られてんの。
何で暁君はそんなスムーズに会得しようとしてるの!?
俺のあの努力は無駄、みたいに見えるからやめて!


「部長、俺の“暁光”っていうのは光メインの魔術なんすよね?」
「え?まぁそうだが…。でも火属性も持ってるぞ?」

「いえ。ただ“魔術で何が出来るのかな”と思って」


しかも俺とは違って未来見据えてるし!!
もうヤダ…俺って惨めだ…。



「よし、ここらで実戦といくか! 三浦、準備しろ!」
「どうせ暁君より俺は・・・ってハイ!何ですか?!」
「お前今何ぶつぶつ言ってたんだ? まぁどうでも良いけど」
「いや~何でも無いです! 実戦ですね、分かりました!」


あぁ…考えてた事がつい口に出ちまった。

てか何で部長は実戦なんかさせようと…?










*裏庭

俺と暁君、そして部長が学校内の裏庭に集まった。
部長曰く、此処はあまり目立たない場所なんだそうで、魔術を使って戦っていても、周りの人には殆ど気付かれないんだそうだ。
さすが、色んな場所があるなこの学校は。


「審判は俺がする。二人ともこっちだ」


部長に言われた通り動く。
すると、俺と暁君が向かい合うように立つ形になった。


「随分と早く出来たな」
「そうだね」


以前俺はこう口にした。いつか暁君と魔術を使って戦いたいと。
なんとあれから数日でもう現実に起こったのだ。驚く他ない。


「俺はもう魔術を使えるんだ。負けないよ、暁君!」
「俺だって負ける気はねぇさ。チャチャッと使いこなせるようになってやるぜ」


部長が離れた所に立ち、いよいよ始まるという状態になった。


「いくぞ二人とも。よーい始め!」


相撲の行司の様に手を振って開始を合図した部長。
そしてその瞬間、俺は一直線に駆け出した。


「ハァッ!!」


俺は走りの勢いに合わせて右の拳を構える。
すると、その拳の周りの大気が歪み、拳を纏うような形になった。


「それがお前の能力(アビリティ)か」


暁君は向かってくる俺を恐れずにそう言った。
だが彼の魔術は未完成。これを防ぐことなんて出来る訳が・・・


「おっと」ヒョイ

「へ!?」ズザッ


避けた!!?
しまった。その行動は予想してなかった。
魔術同士の戦い、という事で何かしらで防ぐかなと思ってたし。

いくら運動の苦手な暁君でも、俺の動きを読み、避ける事は容易いだろう。そして俺は無様に転けると。


「ほら、どうした三浦」


無表情でそう言う暁君。
クッソ~、これ俺が優位に立つ場面じゃねぇのかよ!


「まだまだ!」


俺は座り込んでいた状態から一気に立ち上がり、もう一度拳を構えた。
避けるなんて行動は大体1回しか通用しないんだよ!


「ほらよ」ピカーッ

「眩しっ!?」


…とか思ってたら、暁君の手から不意に光が放たれた。まるで懐中電灯を照らすかの様に。勿論、直視したため目が痛い。
俺は両目を手で塞ぎ、大いに焦っていた。


「光は…出せるのかよ…」


苦し紛れにそう言う俺。
そういやさっき光ったとかどうとか言ってたな。なんたる不注意…。


「隙あり!」ブン

「がっ!」


俺は目を塞いでいて無防備だった為、暁君が俺を殴る。
威勢が良い割りには威力が弱い気がしたけど、それでもちょっと苦しい。


「もう一発!」ブン

「二度も喰らうか!」ブワッ


俺は目を瞑ったまま、両手を勢いよく扇ぐように広げた。
すると、よく見えないのだが風が前方へ吹いたようだった。
いや~練習してると応用が効くねぇ~。さっき会得したんだけど。


「くっ…」


暁君の声が聞こえた。大方、後退りをしたのだろう。
つか、目がチカチカして全然前が見えん。奴め…。


「よし…!」


そろそろと思い、俺は目を開けた。少々ボンヤリしていたが、慣れるのはすぐだろう。





「ホイ」ピカーッ


「目がっ!目がァーー!!!」



あぁぁぁ!!! ヤバい、目がヤバい!!
失明とかしないだろうな!!? 大丈夫だよな?!!



「クソっ、一度ならず二度までも…。こうなったら一か八か…」



俺は周囲が見えないが、ある技に賭けることにした。
それは・・・


「全てを吹き飛ばす…!」


周囲が見えないのであれば、全方位を攻撃すれば良い話。出来るかどうかは別として、この技は今後も使うだろうから是非とも会得したい!


「うぉぉ!!」


俺は両足を踏ん張り、力を溜める。
ちなみに“力を溜める”という表現は、今となっては見に染みて感じる事が出来る。
ホントに力が溢れてくる感じだもん…!


「チャンス!」


暁君が叫んだ。
フフフ。気付いていないのか、俺の大技に。
為す術なく、吹き飛ばされるがいい!





「おぉぉ!・・・って、おぁ!?」





?? 何だ今の声は?
暁君…だよな。随分焦ってる…? というか驚いてる??
あぁ!周りが見えなくて状況が分からん!!

・・・取り敢えず吹き飛ばす。



「!? ちょ、三浦、ストップ!ストーップ!!」



急に部長からストップが掛けられる。
何なの?暁君に関係あるの?
あー…手加減するから大丈夫ですよ部長。
まだ使ったことない技ですけど。



「いくぜ!!」



力を波の様に、円状に広げる感じで・・・解き放つ!!!




「ぶっ飛べ!!」







ブォォォォォオ!!!





轟音と共に暴風が吹き荒れた。目を瞑っていた俺でも分かるほど、凄い勢いだった。その轟音に混じって、部長と暁君の声が聞こえた気がするのだが…怪我はしないよな…?
とまぁでも、やろうと思えばぶっつけ本番で出来るじゃねぇか!

はは!俺って凄いんじゃねぇの?!
ちょっと目を開けて見てみるか!

アァメガイタイ…アトチョット…ヨシ、ミエタ!!!





「は??」





俺の目の前には、焼け野原となった裏庭がポツンと残っていた。










*

「ったく…だからストップって…」
「すいません…」


後で部長と暁君から状況を聞いた。

何でも、あの暁君の驚いた声は、暁君があの一瞬で炎が右手に出たからだそうだ。
本人は「何で熱くないんだ?」などと呑気な事を考えてたらしいが、俺に向かってくるのは止めなかった。
そして俺が風放出。
暁君の炎が何故か風に引火。
後はその風が全方位に…。

ザッとこんな感じだ。


ちなみに今の裏庭の現状としては、戦闘時に俺が立っていた場所を中心に半径10mが黒焦げになっていた。そして、その範囲を出たところは無害。



よって、学校でそれが見つかった時『体育祭前にUFO来日!?』などという、アホらしい新聞が貼り出されていた。やっぱ人が来にくいって言っても、来ない訳じゃ無いんだね、あの裏庭は。

つか、まずミステリーサークルじゃねぇっつの!!





ーーとにもかくにも、暁君もようやく魔術を会得したようだった。
言うなれば、あのミステリーサークルは暁君の炎で作ったんだし、威力も中々なのだと思う。

あの勝負は一応俺の勝ちとはなったが、以後、彼の光には気を付けたい。


体育祭まであと一週間。
部活戦争・・・なんか楽しみだ!!
 
 

 
後書き
暁君の魔術会得はある程度簡単にさせて頂きました。
その方が話を繋げやすかったんで。

何かバトルシーンって難しいですね(今頃)
得意とほざいていた自分がアホらしいです…。

まぁ良いですよ!
次回は更に端折って体育祭始めますよ、ハイ!
あ、やべ、夏期講習が…。
まぁ頑張ります!! 

 

第22話  開幕

 
前書き
そろそろ初期設定が破壊しそうになってきました。
そして2週間期限ぶっ飛ばしました。
更には夏休み入りました。

皆さん、熱中症にはお気をつけて(←関係無い) 

 
暁君が魔術を会得してから幾日か経った。
すると、いよいよ明日が体育祭となっていた。
初めての中学校での体育祭。しかもあの学校でとなると面白いことになりそうだ。


・・・などとは関係なく、今は明日の事を智乃と話している。
ちなみに時刻は午後9時。そろそろ寝たいのだが、どうやらそうもいかないらしい。


「お兄ちゃん頑張ってね! 応援行くから!」


その言葉に俺は愛想笑いを返す。
だって部活戦争を俺が出場するなら、家族の前で俺が魔術部所属って事を晒すんでしょ? 何か恥ずかしいもん…。
つか、あそこは体育祭では一般の方は入れるのね。これは何か矛盾が生じそうだな…。まぁ気にする必要は無いからいいや。


「あぁ、分かったから寝させてくれ。明日は大変なんだから」

「ぷぅ~」


智乃は構ってもらえなかった事に不満を持ったようだったが、納得したのか「頑張ってね」と一言残し、自分の部屋へと帰っていった。


『大変』というのは間違いではない。
何せホントに“部活戦争”に出る事になったのだから。
魔術の準備とかロクにやってないっていうのに…。


「考えても仕方ないか…」ゴロン


俺はベッドに寝転んだ。
明日になれば全て始まる・・・。










*?*

「おいおい、またかよ…」


俺は独りでに呟く。
周りには、今までに二度見たことのある草原が広がっていた。
今度は記憶もハッキリしていたし、これが夢だということも分かっていた。
でもやはり、今回も前回と違う事がある。





身も凍る程の冷たい雨が降っていた。





空を見上げ、顔を雨粒で濡らしながら物思いに(ふけ)る俺。
何度もこのような経験をしながら、この夢の意図が全く分からない。
特に二回目に出てきたあの人。あの人は誰だったのだ? 顔を最後に見た気がするが覚えていない。


「雨…か」


一回目は晴れ。二回目は曇り。三回目…今回は雨。
まるで、ドンドンと天気が悪くなっているようではないか。
これが何を指し示すのか、いや、何かを指し示すのか。
何かの前兆を知らせていたりとか・・・










*

最悪の目覚めだ。
そんな俺の気分とは対照に、空は雲が一片も見当たらず、今日は快晴であると暗に示していた。しかし、まだ暗い感じはした。
窓を開けて外をみると、誰も居ないかの様に静かで、5月にしては涼しかった。

そして昨日から今日に架けて見た夢。内容は完璧に覚えている。あれが何に関係するのか…。


「ん…、流石に早く起きすぎたか…」


伸びをしながら呟く俺。
時刻はまだ午前5時。
体育祭の準備で親が忙しくなる時間帯といったところか。
選手である俺はもう一時間は寝てても良いのだが…。いや、起きるか。





やけに家が静かだ。
俺が一階へ行こうと階段を降りているとき、その音が家中に響いた為、俺はそう思った。
もしかすると、母さんらはまだ起きていないんじゃないか?

・・・起きていない方が好都合か。俺の魔術部所属はあまり明かされたくない。あの部活の雰囲気はとてもじゃないが不思議過ぎる。だから、そんな部活に入っているから、と心配されるのは嫌なのだ。
最も、そういう事を言われるという確実性は無いが。


「暇だし、もう行くか」


俺は朝食の準備を始め、まだ早いのだが学校へ行くことにした。
別に生徒は早く来ても何の問題も無いらしい。よって向こうで休めば、学校に行くという手間が無くなり、尚且つ時間を気にする必要も無いので、万事解決である。





「戴きます」


朝食を軽く作った俺は、すぐに食べ始める。
ちなみにメニューはご飯、味噌汁、お茶。そしてデザートにバナナといった所だ。和食の中にバナナのチョイスはどうかと思うが、今の俺にはこのメニューが一番体育祭に向いていると思った。





「ご馳走さま」


早々に食べ終わった俺は、いよいよ学校へ行く準備を始める。
水筒とかタオルとか後は・・・まぁそれくらいしかないから、準備は比較的楽だった。





「行ってきます」


そして誰も起こすことなく、俺は静かに家を出た。










*学校

「やっぱ誰も居ないよな」


周りに見えるのは学校の建造物と数名の誰かの親と先生方。生徒の姿なんて1つも無かった。


「さて、何処へ行こうか」


その言葉を言うよりも早く、俺の足はある場所へ向かっていた。



『魔術室』



ーーと、書かれている看板がある教室の前に、俺は立っていた。
やっぱり此処が俺の居場所である。
暫くは此処で過ごすとしよう。

俺は扉に手を掛け、いつもの様に開いた。





「よう、三浦」





顔を振り返らせながらクールな声で呼び掛けてくるクラスメートが、部室には居た。
しかも注視すると、部室に居たのはその一人だけでは無かった。


「ホントにこのメンバーで大丈夫なんでしょうね?」
「俺の頭脳に狂いは無いさ!」
「じゃあ俺の頭脳と勝負しますか?」
「あー暁、今のは冗談だ」


暁君に部長に副部長。俺以外に魔術を使うことの出来る三人が、既に部室に揃っていた。
相も変わらず口喧嘩をしていたようだが、今回は暁君も混ざっている。


「何でこんなに早く…??」


俺はたまらず感想を口にする。
すると部長はあっさりと答えた。


「偶然偶然。暁やお前も早く来たのは驚きだわ」
「ちょっと、何で私は予想通りなのよ!」
「お前はいつも学校に来るのは早いだろうが」


あーあー、いつまで経っても終わる気配が無いわこれ。
俺は何も喋らない方が良いのか?


「あ、それはそうと、三浦。部活戦争の説明は分かったか?」
「あぁ、貰ったプリントですね。ちゃんと読みました」


俺は部長にそう告げた。
最初の部活戦争の事を聞いたあの日、タイミングよく説明のプリントを学校から配られたのだ。
にしても、変なルールだったな…。


「じゃあ確認の意味で、ここにあるプリントをもう一回見るんだ」



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 通称:部活戦争について

参加人数…1つの部活につき1チーム
     メンバーは入部している4名

戦場…校舎全体と体育館と中庭
   グラウンドは観客席以外の箇所で

競技時間…19:00~21:00 (2時間)

単純なルール…1人倒す毎に部費獲得


*詳細*
○メンバー
・それぞれの部活の部員より4人選出
・そのメンバーの内、1人をリーダーとする(部長かどうかは問わない)
・チームのリーダーを知っているのは、そのチームのメンバーのみ(他のチームは他のチームのリーダーを知らないまま、競技開始)

○スタート
・スタート地点は部活ごとに違い、それぞれの指定場所から開始する

○戦中
・敵を1人倒す毎に10万円の部費を入手。尚、リーダーを倒せば50万円入手できる
・倒された者の復活は無い
・『○○が△△を倒した』と判断するのは運営側(審判、監視カメラ、遠隔カメラ等により)
・敵の倒し方は肉弾戦かチーム(部活)が所有する道具だけである。それ以外の関係ない物は使用禁止とする
・チーム全員が倒れた場合は、失格となり部費は没収する
・校舎の破壊は構わないが、修理代は部費から払われるので注意
・部費は他チームから奪われることは無く、チーム全員の部費の累計がその部活の部費となる(最後まで1人でも生き残った場合)

○終了
・スタートから2時間経過すると終了の合図が出される。その瞬間競技は終了とし、集めた部費は後日与えられる
・チーム毎に敵を倒した数の合計を出し、その数の多い方から順位をつける。その順位によっても部費が与えられる(1位は1億円、最下位で50万円)


*順位について*
敵を倒した数が多いチームから1位、2位…とつけられる。ちなみに失格したチームは最下位で統一である。もし倒した数が同じで順位が同じになるチームらが有るならば、残ったメンバーの数やら集めた部費やらで順位を決める。


*失格の条件*
・チーム全員が倒れる
・運営が失格だと判断出来る行動を選手が行った時(必要以上の暴行など)→その選手のみ強制失格


作戦は自由。あくまで人を傷付ける為に行う競技では無いことを自覚して、競技に参加すること。
尚、この競技に団色は一切関係ない。

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「まぁちゃんと読んだってだけで、解りにくいんですけどね…」


俺はため息をつく。
こんな競技を生涯でやるとは思わなかった。てっきり漫画の中であるような話だとばかり思っていた。
しかも非現実過ぎる内容なのに、よくここまでルールを決めたな。ある意味凄い。


「慣れるさ、多分」
「まぁ人が傷付かずに終わるとは思えないわ」
「そういう競技なんすよね」


何か絶対“罪悪感”的なやつに襲われる気がする…。
つか、人を傷付ける為には魔術は使いたくないよ?


「三浦、その顔を見ればお前が何を考えてるかなんてバレバレだ。安心しろ、秘策がある」
「え?」


俺の心が読まれたということも有るが、部長が秘策があると言った事に、俺は驚きの声を上げる。
つまりは、魔術を使わずに相手を戦闘不能にする方法って事か?
暴力…もダメだよ?




「てってれー♪ 魔術製拘束テープ!」




急な聞き慣れた音楽に続いて、部長が取り出した白いセロハンテープの様な物を見た俺ら三人は真顔になる。てか引いた。


「部長、一応訊きますが真面目にやってます?」
「おう!」


俺の質問に部長は即答する。
何故か誇らしげにしているのが気になる。


「実はこのテープは結んだモノの行動を制限するんだ! よって、これを敵の体のどこかに結べば、ソイツは拘束され戦闘不能…という算段だ」

「おぉ!」


それを聞いた俺は納得した。
これなら安全に勝てる!と。
だが現状は甘くないようだった。


「結べばいいって…それなら結ぶまではどうするんすか?」

「「あっ…」」


俺と部長の声が見事に被る。
そうだよそうだよ。結局テープ結ぶには、相手にそれなりの隙を与えなくちゃいけないじゃん!


「そ、そいつは魔術で何とか…」


そして部長は魔術に頼り出した。
今の部長は正直言って情けない。


「それにアンタの発明品でしょ? ちゃんと効くのかしら?」
「それに関しては問題ない! 二年生に協力してもらって確かめた!」


いやいや! ダメでしょ実験台に自分の後輩使ったら!?
まぁ効果がホントに有るなら良いんだけど…。


「どうだかね~」


まだ疑う副部長。随分と疑り深いんだな。
てかこれ、部長を馬鹿にしているってことか?

そんな考えを張り巡らせていると、部長が衝撃の一言を放った。


「まだ疑うか。じゃあお前で試してやるよ」

「へっ!?」


あまりの発言に副部長が驚く。
そして部長は続けた。


「さっきからグチグチ言ってるけど、要するに体験しないと分かんないって事だろ? お望み通り、身を持って味わえ」

「え、いや、ちょっーー」



有無を言わせず、部長は副部長の手首を手錠の様にテープで縛った。
すると、何という事でしょう。
副部長が急に大人しくなりました。体だけは。



「放してよ!」

「やなこった。ちなみにこのテープは、俺の能力(アビリティ)の一部である“麻痺”の力を埋め込んで作ったもので、動きは封じるけど口は封じない設計なんだよね~。だから精々足掻いてな♪」


部長はノリノリでテープの説明をする。
だが副部長が黙っている訳がなかった。


「はいはい、アンタの発明品の凄さは分かりましたから・・・放しなさいよ!!」


結局は「放せ」の一点張りな副部長。
すると部長は煩わしいと言わんばかりの勢いで、こう言った。




「うるせぇな。襲うぞ?」




途端、副部長が顔を赤らめて黙る。何かに困惑しているといった様子だった。

まぁ「襲う」という危険なワードに反応するのも分かるよ。俺も熊に襲われた訳だし。
あ、でもそれに顔を赤らめるような要素が有るか? 不思議だ。


それ以降、体育祭が始まるまで副部長は、何かをブツブツと恥ずかしそうに小声で言っていた。






「体育祭開催まであと1時間ってとこか。よし、暁、三浦、最終調整するぞ」


部長が時計を見ながら呟く。
確かに時間が結構進んだから、今では登校してくる子も何人か確認できる。


「暁も三浦も“魔術の調整”を頼む。どうやら拘束に行き着くには魔術が必要みたいだし。何かしらで敵に隙を与えるような使い方を考えててくれ。プログラムの中では最後の競技だから、何とか体力と魔力を残しとけよ」


部長が二言三言俺らに言う。
しかし、その言葉のある部分に俺は引っ掛かり、部長に質問した。


「通常競技で魔術を使うんですか?」


部長が言った「魔力を残しておけ」というワードが、俺は気になった。
だって最後のプログラムに魔術を使うという事になっているのに、魔力を残しておけだなんて変な話だもん。


「ん? 考えてなかったのか? 競技で魔術を使うって事」


部長は堂々と言った。
つまり、徒競走やら綱引きやらを魔術を使って勝負するという事だろう。でもそれって・・・


「卑怯じゃないんですか?」


魔術を使って勝負に勝つっていうのは、正直反則ではないかと俺は思う。皆は魔術を使えないのに俺だけ使うなんて、不公平というものだ。


「卑怯? 何言ってんだ。魔術だって実力の内だ。足の速い人、頭の良い人、才能のある人・・・これらと同じだよ」


屁理屈に聞こえてくるけど、一理ある気がする。
部長のロマンチック理論には敵わないな…。


「取り敢えず、今日は魔術部の晴れ舞台だ。スマートにやってくれよ!」

「「はい!」」


俺と暁君の返事が揃う。やるっきゃねぇな!!

…えっと、“スマート”ってどういう意味だっけ…?










*

パンパパン!!


いよいよプログラムが開始する、という合図の爆竹が鳴り響く。だだっ広いグラウンドには全校生徒300人以上が揃っていた。そして各々、赤、青、黄、緑のいずれかのハチマキをしていた。
ただ、規模は普通の中学校とさほど変わらないのであろうから、ただただ広いグラウンドが目立った。


「晴登、目指すは優勝!だよな?」
「おう」


大地が鼓舞する為か声を掛けてくる。
ちなみに俺のクラスの1組は赤団だったりする。


「無駄に意気込んじゃって~。負けた時の後悔が大きくなるよ?」
「出鼻を挫くような事言うんじゃねぇよ…」


すかさず莉奈が何気に酷い事を言う。
絶対コイツは学級委員向いてねぇよ。団結する気あるのか?


「1組集合!」


すると、今度は山本先生から召集が掛かる。
何か今日は既に忙しいな…。


「えー、皆は中学校初めての体育祭だ。是非優勝をとって、今後の生活を有意義にしよう! 全力で頑張ってくれ!」

「「「はい!!」」」


1ー1の全員の声が重なる。
それにしても、こういう短い話は好きだな。さっきの開会式の校長の長々とした話よりは圧倒的に良い。
校長の話が長いって何処も共通なんだね…。


「ちなみに最初のプログラムは君たちの『100m走』だ。最初が肝心だぞ!」
「「「はい!」」」


100m走か。インドア派の俺にとっては100mですら長距離なんだよな…。
まぁでも、今回は秘策が有るんだ!



「頑張りなよ、三浦」

「副部長」


不意に声を掛けられた為、俺はその方向を向いた。
するとそこには、赤いハチマキに赤い大きな旗を持つ、副部長の姿があった。

何を隠そう、副部長は赤団団長である。


「アンタの作戦はバッチリよ! 自信持っていきな!」
「はい!」


熱い応援を掛けられ、力が入る俺。やっぱ焔使いの言葉は違うな~。
ちなみに、作戦というのは次の100走においての魔術についてだ。我ながら良い作戦だと思う。しかもシンプルだし。


「行ってきます、副部長!」


俺が元気にそう言うと、副部長は安心したような笑みを見せた。


「晴登、もう行くぞ」
「最下位だけは勘弁ね」


俺の横を通り過ぎながら、大地と莉奈は言った。
やるからには全力でやらなきゃな!


「おう!」


二人に返事をした俺は入場するべく、門へと走った。

 
 

 
後書き
部活戦争のルールをザッと書きましたが、きっとどこかで矛盾が生じる、又はもうちょい詳しく、という事が有ると思います。なので、その場合は指摘頂けると嬉しいです。
部費の基準が自分には分からないんで、10万円とか50万円とかは「こんくらいか?」などと適当に決めました。1位が1億円はやり過ぎかなと思いますが、ここは二次創作だと割り切ります。

さて、題名で『開幕』としたのは良いが、何一つ競技に入んなかった(笑)
次回入りますんで…。

部活戦争は次の次くらいだと予想していますが、大抵俺の予想は外れます。
夏休み中に何話書けるか不安ですが、是非読み続けて頂けたらと思います! 

 

第23話  正々堂々

 
前書き
体育祭とかもう二ヶ月前の話です。
時が過ぎるのは早いですね~。
このまま受験が終わってくれないでしょうか。勿論、受かったことにして。 

 
いよいよ体育祭が開幕した。
いつの間にか俺の家族も応援に来ていたが、今のところは気付いていないフリをしておくことにした。

最初のプログラムは、俺たち1年生の『100m走』である。ルールは単純で、100mを走り切るだけである。
しかし人々は、この距離に真剣に立ち向かい、そして勝利を取ろうとしてきた。
その気持ちが、俺には一切理解できなかった。

だが今なら俺は“勝利”という確証を得た為、非常に誇らしく思う。この秘策なら絶対勝てる…!


「三浦、ホントにやんのか?」
「部長だって言ってただろ? 何も卑怯じゃないんだ」


入場直前の整列中、暁君が俺に声を掛けてきた。内容は俺の秘策についてである。
それに俺は、あの時に部長から言われた事をそのまま返答に使った。


「でもよ…」


イマイチ“卑怯”という言葉が引っ掛かる様子の暁君。
首をかしげながら、俺の秘策について考え込んでいた。


「暁君が心配することは無いよ。それより自分の事を心配したら? 走るの苦手なんでしょ?」


俺は「心配」というワードを器用に使い、話を変えた。
実際、暁君の走りについては心配なのだ。

でもその言葉は地雷だったらしく、一瞬で暁君の目からは光が消えてしまった。


「どうせ俺は負けるんだ……無様に最下位で…」

「…は、走り切ることに意味があるんだ! ほら、最下位でも拍手が貰えたりするじゃん!」

「アレはもはや哀れみの拍手だよ…」


急に随分とネガティブな思考へ移り変わった暁君。
俺が何を言っても、全て後ろ向きな意味になってしまう。俺の言葉が悪いのか?


「えっと…」
「…よし分かった。俺にとって体育祭は恥晒しの場だ。だから俺は、お前と同じ方法を取ることにした」


何かを決意したというような様子でそう言う暁君。
そして“俺と同じ方法”というのはアレしかない。



「てことは『魔術』…?」

「おう」


俺は今日の競技で魔術を使うことにしていたのだ。部室での会話に影響されて。
暁君は話を続けた。


「俺の属性なら多分、偶然を装って最下位が目立たなくなるすることが出来る筈だ」

「え、何でそこ1位じゃないの?!」


俺は真面目にツッコむ。
そりゃそうだよ。俺の魔術の使い方は1位を取る為のもので、決して最下位を目立たなくする訳じゃないよ!


「暁君は、自分は最下位確定と思ってるの…?」

「今までの体育祭の徒競走で最下位以外を取ったことは無い。だが今回はそれを目立たなくすることができる!」


今の衝撃告白から察せたが、きっと暁君は今までの徒競走は極端にビリだったのだろう。そして今回は、魔術を駆使して敵を遅らせる方法を取るという訳か。
それでも、1位を狙う方がずっと良いと思うのだが…。


「まぁ自分の好きなようにすれば良いよ…」


結局俺は返す言葉が見つからず、会話を諦める。
暁君は何故か満足そうな表情を浮かべながら、定位置に戻っていった。


「よし、やっか!」


俺は気持ちを引き締め、入場の合図と共にグラウンドへ一歩を踏み出した。










*

『よーい、ドン!』パァン


ダッ!!


第一走者らが走り始めた。
皆が皆、真剣な表情で走っている。
負けるものかと気迫が伝わってきた。


『1位は赤団です』

「「よっし!」」


俺と大地は顔を見合わせ喜ぶ。
いつの間にか俺は競技に対して真剣になっていたのだ。
やっぱり自分の団が勝つのを見ると誇らしくなる。


「にしても速いな柊君。まるで犬みたいな・・・」
「アレを見て犬じゃねぇと思う方が無理あるだろ」


俺と大地は、赤団の第一走者である柊君を見ながら言った。
帽子を顔が隠れるほど深々と被って耳を隠し、ズボンで何とか尻尾を隠していた。
本人は人前に出るのは拒否を続けていたが、俺らの必死な説得によりこれらの条件で参加を認めてくれた。

顔が隠れているため、女子がキャーキャー言うことも無いが、もし顔が見えて、尚且つあの足の速さを見た女子はきっとヤバいことになるだろう。

それほど、彼はイケメン要素を持っていた。


「次は俺だな。行ってくるぜ、晴登」


そう言って大地は立ち上がった。第二走でもう大地の出番のようだ。
意気揚々といったその様子は、勝つのを予言しているようにも見えた。無論、学年でもトップクラスの足の速さを持つ大地に勝てる・・・いや張り合える人ですら、手の指で数えれる位しか居ないんだけど。


『位置について』


スタートの係員が言った。
大地を含めた各団の4名はスタート位置につく。
見た感じ、大地より速い人はいないようだった。


『よーい…』


係員はピストルを自身の真上に掲げる。
その動作と声に合わせ、四人は腰を浮かせクラウチング・スタートの姿勢をとる。



『ドン!』パァン



「よーい」と言われてから不規則に放たれるその合図は、4人のスタートダッシュを誘発する。
だがその中でも一際目立つ者がいた。


「良いぞ、大地!」


大地はスタート直後から他の3人と圧倒的な差をつけた。
距離は100m。彼のスピードであれば14秒程で行けるのではないだろうか。
全くブレないフォームと足の回転。もはや機械ではないかというほど洗練されたその走りは、俺だけでなく様々な人の目を釘付けにした。

速い。そう思った矢先に、大地はもうゴールテープを切っていた。


『1位は赤団です』


そうアナウンスが流れた。
よし、二連続の1位だ!これは良い出だし!
次は誰だ?!



「じゃあな三浦」



そう儚げに声を掛けてきたのは暁君だった。
見ると、顔を青ざめさせて今にも帰りたいオーラを出す暁君が居た。


「何でそんなに悲しそうなのさ。さっき自分で何とかするって言ってたじゃん?」
「言ってねぇよ。つかそうじゃなくてだな、さっき隣のレーンの奴から『正々堂々やろうな!』って言われちまったんだよ。これってもうオチはアレしかないよな?」


暁君の言っている事はつまり、「予想外のハプニングが起きた」という事みたいだ。
そりゃ、魔術を使うのは卑怯なのではないかと少なからず思っている俺らにとって、『正々堂々』というのは非常に危険な言葉だ。
場合によっては作戦を実行できなくなる。

しかしそれは暁君の良心次第なのだ。


「やるのは暁君なんだから、どうするかは自分で決めないと?」


自分でも少々無責任な事を言ったと思う。
ただ、これは事実なのだ。暁君だどうしたいか、が重要なのだ。
要するに、「自分の事は自分で何とかしろ」という事だ。


「ったく、分かったよ…」トボトボ


暁君もその意図を汲み取れたらしく、諦めたようにスタート位置へ向かった。
そしてそこに屈み、クラウチング・スタートの姿勢ををとる。
そして今まで通り「用意」の一声が掛けられ、スタートラインにいる4人は腰を浮かせた。


『よーい・・・ドン!』パァン


その瞬間、一斉に走り出した4人の中で差がーーー





・・・つくことはなかった。


何と暁君が懸命に前の人に喰らいつくような勢いで走っているのだ。魔術を使っている様子は無い。
最下位ではあるが、決して諦めずに接戦を続けていた。
決して周りが遅いという訳では無さそうだ。とすると、これは本当に暁君の実力なのだろう。

俺は感動の念を覚えた。
“やればできる”ということを、彼は教えているかのようだった。


残り20m。未だに差がない。
もしかすると暁君が勝てるのではないか?!
俺はそんな期待を胸に抱いた。


しかし偶然というのは悲惨なもので、彼らのゴールの方角にある太陽が急に輝きを増し始めた。


勿論、それは逆光という形で走る4人の目を襲った。

足がふらつき始める走者。

ただその中で1名だけが一直線に走り続けた。


「暁君…」


汗を垂れ流し、ゴールへと向かう暁君。いつの間にか3人を抜き、トップに立っていた。



「「「いけー!!」」」



赤団…いや1ー1全員の応援が重なった。
その声に背中を押されたのか、暁君は流れるようにゴールした。



1ー1だけが知っている暁君の運動能力。
それを乗り越えた彼を見て、俺らは驚くしかなかった。



『1位は赤団です』



「「「っしゃぁー!!」」」


もはやお祭り騒ぎと云える程の喜びが、1ー1に生まれた。
他から見れば「喜び過ぎではないか?」と思われるだろうが、そんなのお構いなしに俺らは喜んだ。



だが暁君が俺らの所に戻ってくることはなく、彼はゴールしてから数歩歩いた所で倒れた。


「暁君!」


その容態にいち早く気付いた俺は、すぐさま彼に駆け寄る。
彼は異常な程の汗を垂れ流し、苦しそうだった。
その後の俺の問いかけにも反応せず、ただ呼吸を続けるだけだった。



あまりの非常事態に、騒がしかった1ー1はピタリと黙った。
誰もが担架で運ばれていく彼を見ていた。

今日は暑いから、それで熱中症になったのかもしれない。俺はそう考えることにした。
ひどい病気だとか、そんなのでは無い筈だ。
きっと・・・大丈夫・・・。










『競技を再開します』


暁君を運び終えたのか、アナウンスはそう言った。
仕方ない。暁君の事は一旦頭から離そう。彼はただの熱中症、休めば治る。
クヨクヨ考えるより、彼が勝ち取った1位を大事にしなければならない。

でも・・・男子の最終走者ってのは緊張するな…。










*
でもその時はすぐに訪れた。


『次は、男子最後の組です』


それを聞いて、俺の心臓は拍数を上げていく。
やべぇよ、遂に来ちまったよ。
今までの男子だけの成績であれば、今のところは赤団が1位。つまり、それを俺は守り抜かねばならない。


だが今、俺の中である決意が揺らいでいた。


俺が考えていた秘策の事だ。
最初は使う気満々だった。しかし、先程の暁君の話を聞いて考え直したのだ。

“魔術を使うこと”は正々堂々と戦っていることになるのか、と。

部長の言うことは確かに一理ある。でも卑怯ではないかという考え方もまた1つだ。


『位置について』


考えのまとまらぬまま、スタートラインに立った俺。
振り向かずとも1ー1の盛大な応援が俺にきているというのが分かった。


『よーい』


人生の内でここまで緊張した徒競走はあっただろうか。
暁君の意思を背負って走るという責任感を感じられた。

構えをとり、最終決断を迫られる俺。
だが、スタート直前の今の一瞬でようやく割り切った。





ーーー風と・・・走る。





『ドン!』パァン


その合図と共に、俺は一歩を踏み出した。
迷いなんて無い、無我夢中の一歩を。


「うぉぉぉ!!」ビュン


俺は全速力で駆け出した。
そして魔術を使った。追い風になるように。

俺だけでなく、周りのレーンも含め。


「うわっ!?」
「ちょ、やべぇ!」


隣からは焦ったのか、慌てた声が聞こえた。

ルールは“追い風の中、100mを走り切る”。

ハンデなんか一切無く、全員が同じルールで戦う。
ただ、俺が風に慣れてるってだけで。


「良いぞ、晴登!」


大地の声が聞こえた。
走る4人の中で、唯一風に乗って走っている俺。
ゴールまではもう少しだった。



最初は俺のレーンだけに魔術を使って、俺だけが速くなるようにしようと考えていた。
でもそれは正々堂々では無いのではないか。
そして最終的に俺の中で導かれた答えは『全員同じ条件下で戦う』ということだった。



「あと少し…」ゼェ


とはいえ、一応全力では走っている。
そのため、魔術の使用を合わせると体力の浪費が激しい。

あれ、じゃあ暁君ってまさか・・・?
あの不自然な太陽の輝き。暁君の魔術の属性は光を持つ。そして走りながら魔術を使ったとしたら・・・体力が・・・。


「なんだ…」


物事を大きく考え過ぎていたようだ。
彼はきっと疲れただけなのだ。熱中症ですらも無かった。
多分、休めば治る。良かった…。


「晴登、気ぃ抜くなよ!!」


その大地の声が俺を現実に引き戻した。
危ない危ない、俺はまだ競技の途中だったんだ。
よそ見してちゃダメだよな!


「よっしゃ!」


ラストスパートを始める俺。
風に乗り、比較的楽に走ってきたので、体力はまだ有るには有る。あと少し!!


「うぉぉぉぉ!!」


叫びといえるほどの大声を上げながら駆ける俺。
そしてそのままの勢いでゴールテープを切った。





「どうだ…」ゼェゼェ


後ろを振り向くと、残りの3人がゴールするところだった。
その様子を眺めていると、横から声が掛かった。


「やったな晴登!!」
「あぁ!」


満面の笑みを浮かべ、右手を上げた大地。
その意図を察した俺は、返事をしつつ右手を上げ・・・


パシッ!


周りに響き渡るほどの、大きいハイタッチをした。










*
「暁君!」ガラッ


保健室の扉を開け、中に駆け込む俺。
何故ここまで急いでいるかと言うと、今さっき保健室に搬送された暁君の容態が・・・


「よ、三浦。徒競走どうだった?」

「ずこーっ!」ドテッ


何事も無かったかのような口調で話しかけてきた暁君。
それでも、体はベッドの上だった。


「もう起きたの!?」
「あぁ。心配かけたみたいだな、悪い。先生からは『ただの疲労だ。』って言われたんだ」

「もしかして、途中で魔術使った?」
「あ…」ギク


やっぱ俺の予想通りだった。
暁君の反応を見る限り、あの逆光は暁君の仕業だったようだ。
元々体力のない暁君が全速力で走って、その途中で魔術を使って魔力を消費したら、そりゃぶっ倒れるぐらい疲れるわな。


「はは、バレたみたいだな。あんだけ“正々堂々”言っといて…な」
「違うよ暁君」


後ろ向きな発言を始める暁君に、俺は言葉を掛ける。


「暁君は自分だけが有利にならないようにしたでしょ? それだけで十分じゃないか」
「三浦…」


暁君が俺を見つめ、しばし考える様子を見せた。
そして開かれた口からは・・・



「どうせお前も俺と同じ事したんだろ」

「ぶっ!」


睨み付けるように暁君は俺に言った。
でも、ちょっと待って暁君。今そういうのを言う場面じゃないでしょ!? てか何で分かったの!?
いやいや確かに真似したよ!したけどそんな睨まなくて良いじゃん!
アレなの?!天才って自分の考えを人と共有したがらないものなの!?


「まぁ冗談だ。結果はどうだったんだ?」

「冗談きついよ…」 


暁君はそっぽを向き直し、そう言った。
冗談で良かった…。


「俺が1位を取り、しかも赤団も1位だ。好調の出だしだよ」
「そうか」


暁君は素っ気ないが安堵したようだった。
そしてもう一度俺を向いて言った。


「次の競技には間に合う。だから待っててくんねぇか?」

「もちろん」


俺は笑顔でそう言い、保健室を出た。










*
「大地、今どんな状況だ?」


俺は待機テントに戻り、大地に聞いた。


「あぁ晴登。今三年生の『背渡り』って競技なんだけどよ、見ろよ俺らの赤団。上で走ってる団長めっちゃ速いんだよ」


俺は納得し、実際の様子を見ようと前を向いた。
すると驚きの光景があった。



「おらおらおらぁぁ!!」ダダダ


「へ?」


何か…副部長のキャラが変わってた。
背中の上であそこまで全力で走って良いのかってほど、副部長は勢いよく走っていた。

ちなみに背渡りという競技は、名前の通り、列を成している人々の背中の上を走ってゴールを目指すというものだ。だが、ゴールまでの距離は長く、1クラスの人数だとどうしても長さ足りない。だから馬跳びの要領で、上を走られた後ろの方からドンドン前に並び直すのだ。

よって、走るのは人の背中の上ということなのだが…。


「アンタ達遅いわよ!」


あまりの副部長の速さに列を作るのがギリギリのようだった。それでも、明らかに他クラスを圧倒した速さを誇っていた。
…やっぱり身体能力だけでなく、あの体型に重量が必要なんだな。


「なぁ、うちの団長ってホント小さいよな?」
「うんうん。まるで小学生みたいな…」
「子供っぽくて可愛いな~♪」
「でも結構気が強そうだぞ?」
「それがまた良いってもんだろ」
「あぁ…俺も背中踏まれてぇな…♪」
「うわ、お前そんな趣味が?!」
「良いんじゃねぇか? どうせ軽くて踏まれてることにも気付かねぇよ」
「そういう問題か?」
「おうよ」
「でもやっぱ・・・

「「「「可愛いなぁ♪♪」」」」



何か怪しい会話が後ろから聞こえた。
どうやら俺のクラスメートのようだ。
副部長って・・・モテるのか?


『ゴーール!!』


…なんやかんやで1位でゴールしたのは赤団だった。
小さいって強いな。










*
「赤団はまだ1位か。順調順調」

「晴登、そんな呑気な事言ってられないよ。次は全学年参加の団対抗綱引き。点数大きいから、負けたらすぐに追い付かれるよ?」


俺が1位の余韻に浸っていると、莉奈が呆れたように言ってきた。そんな急がせる言い方しなくて良いのに…。

にしても綱引きか。しかも全員参加となると魔術も影響が小さいだろうから使えない。完全実力勝負だな…。


「出来れば使いたかったな…」





「何を使うの?」

「へ!?」


やべ、考えてる事が口に出てしまったようだ。
早く弁解しないと、いくら馬鹿な・・・もとい、頭の回転が遅い莉奈でも怪しまれる!


「あ、いや~その・・・秘密兵器?」

「何それ?」


あー俺の馬鹿!!
そんな意味深な事言ったら、逆に気になるだろうが!


「そ、それは秘密かな♪」アセアセ


マズい、怪しい冷や汗が出てきた。
くそぅ、『魔術』というワードを守るだけでここまで気が滅入るのか…。ま、どうせ部活戦争の時バレるだろうけど。


「秘密ねぇ…。晴登の事だから、どうせ変な事考えていただけでしょ? 隠すことも無いのに…」


どうやら危機を免れる方向に莉奈は解釈してくれたようだ。
危ない危ない…。友達が魔法使いとかなんて知れたら、いくら莉奈だろうと引く気がする。それで離れられるっていうのはホントに勘弁だ。


「悪い悪い。あ、もう皆が並んでるから、行くぞ莉奈」
「はいはい」


俺が白々しく話を逸らすと、莉奈は乗ってくれた。
その切ない優しさはありがたく受け取っておこう。



「晴登」

「ん?」


莉奈から呼び止められ、振り向く俺。
そして彼女は元気に言った。


「頑張ろ!」


その一言に、俺はたまらず笑みが溢れる。
コイツの明るさには、昔から癒されたり、元気にされたりした。
意外と俺は助けてもらってたのかな。


「ああ!!」


それに報いるべく、俺は莉奈よりも大きい声で返事をした。
 
 

 
後書き
100m走がここまで長引くとは・・・(唖然)。
お陰で他の競技が全然出来なかったやんけ! 誰だよ、こんな文章書いたの!!←

・・・なので、部活戦争は次回の後半にちょびっとやることにせざるを得なくなりました。申し訳ありません。
はぁぁ…何か良い展開無いかな~。
読者様の想像の北北東を行くような・・・って無理だよそれ。

次回も読んで下さい!! 

 

第24話  各々

 
前書き
先に言います。グダグダしてます。
お気をつけてお読み下さい。 

 
午前中の目玉の競技、綱引きが始まろうとしていた。
やり方に特別なルールはなく、誰もが知る“引くだけ”の普遍的なもので、それらをトーナメント形式で行われるそうだ。

ちなみに一回戦は、赤団vs.青団である。


『よーい』


俺らは腰を低く構え、最も綱を引きやすいであろう格好をとる。
別に綱引きに慣れている訳ではなく、ただそうするのが良いと知っているだけだ。


沈黙が続く。
この緊張感が有ってこその全校生徒で綱引きってものだ。
全員が物音一つ立てずジッとする。観客の家族さん達もそれを黙って眺めていた。





『始め!』パァン


「「「おーー!!」」」グイ
「「「オーー!!」」」グイ



沈黙が破られたと同時に、勢いのある大声…もとい掛け声が響いた。
引っ張って、引っ張られて・・・それが繰り返される。
縄の粗さが手にダメージを与えてくるが、そんなことも気にせず、俺は精一杯縄を引き続けた。

だが尚も互角の状態が続く。
どちらにも寄っている雰囲気は無いため、このままではサドンデスになる。
それを察した俺は、魔術を使おうかと右手を見てみるが、よくよく考えるとそれ以前に、縄から手を離すとバランスを崩して周りへ迷惑を掛けるだろう。それは一番してはならない。

とすると、やはりこの状況を打開するのは“諦めない心”といったところか。
ただ、引く体勢が椅子の背にもたれかかって座るかの様なので、正直キツい。下手すると滑る。

何とかこの状況を脱せないだろうか…?



「何…考えてんだ、晴登…? そ…んな暇は、無いと思うが…」

「えっ?」



不意に話し掛けられたことに驚き、声がした横を見る。すると、大地がこちらを向いていた。


「何か…考えてる暇があるなら…引けっての…!」


力一杯引いているのだろうか、大地の言葉は途切れ途切れだった。
だがそれらの語は俺を動かした。

考えたところで、勝つためには引くしかない。何があっても無我夢中に…!!



「おぉぉぉ!!」グイ
「しゃぁぁぁ!!」グググ



俺と大地の雄叫びが重なる。
するとそれにつられたのか、赤団全体が大声で包まれた。


「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」


青団の驚く顔が目に浮かぶ。
もう俺らは叫ぶことを楽しむかのように綱を引いた。
すると、今まで張り合っていたのが嘘のように、赤団の引きがいきなり強くなった。
青団はその勢いにされるがままとなり、ものの数秒で決着がついた。


『勝者、赤団』


「「「わーー!!!」」」


そのアナウンスと同時に赤団は歓喜の声を上げる。

だがまだ終わりではない。
次に勝ってくる団との決勝戦が残っているのだ・・・










「アンタら準備は良いね?!!」

「「「おう!!!」」」


「お前ら、絶対勝つぞ!!」

「「「しゃあ!!!」」」


どうやら決勝で戦うのは黄団のようだ。
そして今気付いたのだが、なんと黄団の団長は部長だったのだ。
今は副部長もだが、盛大な掛け声で見方を鼓舞している。


「まさかこんな形で戦えるとはな!」
「絶対負けないけど!」

「じゃあ負けたら何でも1つ言うこと聞くって事で」
「随分な余裕じゃない……負けないけど!!」


何やら話しているようだが、この位置ではよく聞こえなかった。
また喧嘩してるのかな?


『よーい』


…と思ったけど、合図で一瞬で静かになったところを見るに、きっと喧嘩はしていないだろう。

にしても、部長と争う形になるのは今回が初めてかな。魔術が関わらないのが少し残念だが、まぁ別に良いか。

さて、さっきと同じような体勢になってと。



『始め!!』パァン

「「「うおぉぉぉ!!!」」」グイッ



よし、後は一気に引っ張るだけ・・・




「…あれ?」ガクン




だが、俺らは上手く縄を引っ張ることができなかった。
赤団全員が全員、動作を止めたのだ。
やられるがままに黄団に縄を引かれる。



「ふ…」ニヤッ




この感じ…何か痺れる…。何でだ? 力が入らない。
麻痺ってことか・・・ってことは電流…!?


「部長か?!」


俺は、赤団を急激に弱らせたこの現象の元凶であろう人物の名を叫ぶ。
クソ、油断してた。多分この縄は電気を通す素材やら何やらで出来ていたのだろう。それを利用して、部長が麻痺の電流をこっちに流したんだ。
この大人数の中でも魔術を使うなんて…。しかもこのやり方はちょっと悪質じゃないか? いくら部長でもここまでするとは・・・?




「「「熱っ!!?」」」




今度は敵陣からそんな悲痛な叫び声が聞こえた。
すると、縄の引きがピタッと止まった。

“熱い”。間違いない、副部長だ。

部長が縄に電気を通せたということは、縄の素材は金属系。そして金属は電気だけでなく、熱も通しやすいとかって授業で習った。
だからきっと副部長はそれを応用したんだ。きっと部長への只の反撃なんだろうけど…。


「アンタって奴は!!」
「勝てばいいんだよ!!」


すると数秒後、ようやく本気の綱引きが開始した。
もう部長らは魔術を使わなくなったのか、何も異変は起きなくなった。


「ぬぬぬ…!!!」


微量ながらも団に貢献しようとする俺。
精一杯の力で縄を引く。


ザザ…ザザ…


だが、どんどんと引き摺られていくのは…赤団。
二つの団の力はつり合うことなく、黄団の力が一方的に俺らに作用したのだ。


「「「おぉぉおぉ!!」」」


引っ張られながらも懸命に声を上げて自らに喝を入れる。が、しかし、黄団の力が弱まることは無かった。





『そこまで。勝者、黄団!』


それを聞いた俺らはガクリと肩を落とす。
初めて負けた。
たかが一回の負けが、ここまで心に響くなんて…。

でも考えたら当たり前だ。言うなら、俺らが今まで勝ってたのは必然ではなく偶然だった。だから、負けることだって勿論ある。
負けて悔しいのは当然。だけどそれを引き摺らないのが一番賢いかもしれない。


「まだまだこれから・・・!」


空を見上げ、笑顔を溢す俺。
今朝の空と同じように、空は蒼く澄み渡っていた。

気持ち切り替えて行くか!!










*
『次は1年男子代表のの“二人三脚障害物競走”です』

「行くぞ晴登」
「あ、あぁ…」


午前の競技が終わりに近付いてく中、「混ぜちゃいました♪」と言わんばかりのおかしなネーミングの競技が始まろうとしていた。
その名の通り、二人三脚をしながら障害物競走をするということだ。


「大体何で俺が…」


こう俺が呟いてしまうのは無理もないだろう。
この競技は時間の都合上、各団1年の代表1組で行うものなのだ。つまり、俺は運動神経抜群の大地と組んで、他クラスと戦わなくてはいけないのだ。

更に『代表』という言葉が俺を締め付ける。
今までそんなものを経験したことが無い俺にとっては、“クラスを背負って戦うという義務感”にとても耐えられそうになかった。

ちなみにどうして俺かというのは、単純に大地と仲が良いからとの事だそうだ…。


「なに緊張してんだ?」
「べべ、別にしてねぇし!」


嘘だ。足なんかガクガクである。
こんな姿を人前に晒すのは、恥ずかしい以外の何の感情も湧かなかった。誰もこっち見るんじゃねぇよ…。


『位置について』


そう思っていても未来が変わる訳も無く、時間は刻々過ぎていった。
仕方ないと腹を括った俺は、大地の左足と自分の右足をハチマキで結んだ。


「全部乗り越えようぜ!」
「あ、あぁ!」


大地の問い掛けに答える俺。
練習は二人三脚しかしておらず、障害の説明は一切されなかった。ぶっつけ本番ということだろう。
しかもこのグラウンドの広さを大分活用しているな。どんな障害があるかがよく見えない。全部で4つってのは分かるけど…。

でも、やるっきゃない!と俺は吹っ切った。


『よーい・・・ドン!』パァン


俺と大地は打ち合わせ通り足を踏み出し、前へと走り始める。
練習自体あまりやってないけど、それは友情で何とかしてやるよ!

最初の障害物は・・・?





「パン?」

「パンだな」



俺らの前に最初に姿を見せたのは、紐でぶら下がっている4つのパン。つまりは『パン食い競走』の風景だった。
それを見た4ペアはたまらず立ち止まる。


パン食い競走自体は…まぁそれなりに難しいけど一人だから何とかなった。
でも今回はこんな不自由な状態の中。ジャンプすることさえままならないだろう。


「おい大地どうするよ?」


俺は大地に意見を求めた。
この状況下では俺は運動のできる大地に頼らざるを得なかったのだ。

だが、大地から放たれた言葉は見当外れなものだった。



「なぁ晴登。お前この競技のルール覚えてるか?」

「は?パン食い競走の?」


俺は(いぶかし)げに大地を見る。
コイツともあろう奴が、まさかパン食い競走のルールを知らないんじゃあるまいな?


「バカ、そっちじゃない。この障害物競走についてだ」

「あぁそっちか。えっと・・・
“二人三脚で障害物を乗り越えてゴールを目指すこと”
“途中で足に結んでいたハチマキ(紐)が取れた場合は、その場で結び直すこと”
“障害物において、それぞれの定義を達成しない限り、突破とは認めない。無視した場合は即失格”
こんなもんだったかな?」


大地はそれを聞き、何かを考えたかと思うと俺に耳打ちしてきた。

そしてそれを聞いた俺は騒然とする。


「それはさすがに・・・!?」
「大丈夫、行くぞ!」


俺らは足を揃えて再び走り出した。
紐に吊られてユラユラと空中を舞うパン相手に奮闘していた3ペア。
その間にスッと入った俺らは、互いに頷き、パンを見上げた。

そして大地はーーー








ーーーそれを手で掴んだ。


「「「はぁ!!?」」」


隣からそんな声が聞こえる中、大地は何事も無かったかのようにパンをモグモグと食べ終えた。
これが、さっきコイツが言った作戦『パン食い競走の定義は“パンを食って走る”だろ?』だったのだ。
パン食い競走は本来、口だけを使って行うもの。しかし今回のルールは“定義を達成すればよい”。つまりは、パンさえ食べればここの障害は突破したことになるのだ。


そしてその作戦は成功と言うべきか、審判は何も言ってこなかった。


「お先~!」


二人三脚だと言うのにかなりの速さで走る大地。しかも挑発しながら。
俺は走りを合わせるのに手一杯だと言うのに…。


『赤団がトップです』

「次は何だ~?」


まさに俺の正反対の思考をしている大地。
最早この競技を楽しんでいた。
ここで俺が()けたらどうするというのだ。


「ん?」


俺は次なる障害ポイントを見つけた。


「今度は網潜りか…」
「は?何だそれ?」


大地が一人で納得している中、『網潜り』という競技を知らない俺は大地に訊いた。


「これもその名の通り、今目の前にある網を潜って進む競技だ」


そう言われてイメージしてみると、自衛隊の人たちとかがやってる様な感じがした。
今目の前には緑色の、面積は教室の大きさくらいのネットがあった。グラウンドの端に張り巡らしているヤツだ。

…待てよ。この中を二人三脚のままで潜れってか!? 無茶ぶりだろ!!


「大地、さっきみたいに何か無いのか?」
「ねぇよ。この競技は“網を潜る”ってのが本質だからな」
「そんな…」


大地に策を練って貰おうとするも、それは叶わなかった。
ふと後ろを見ると、他クラスの3ペアがパンを片手にこちらに走ってきていた。やっぱパクられるわな。

…あーもう!行くしかねぇ!!


「行くぞ大地!」
「おう!」










*
『1位は赤団です』

「「はあはあ」」ゼェゼェ


何とかやり終え、肩で息をする俺ら。
まさか最後の障害に、ロッククライムをするとは思わなかった。
ほとんど大地に引っ張られてる感じだったけど、一応ついていけたし良かったよ。
まぁ他の3ペアがリタイアしたから、1位って結果になってるんだけど…。


『次は“各学年代キャタピラレースリレー”です』


ロッククライムを登った結果校舎の屋上にいる俺は、その放送を聞いて心配な気分になる。
だって次のキャタピラレースとかいうやつ・・・

俺のクラス代表は、スタートラインで世界の終わりのような顔をしている、柊君だもん…。


「おぉこれはよく見えるぜ」


屋上からグラウンドを見渡しながら呟く大地。
コイツには事の重大さがあまり分かっていないようだが、柊君の耳や尻尾の存在は知ってる筈だ。キャタピラレースって段ボールの中でコロコロやる競技だろ? もし万が一、バレたら柊君は学校に来れなくなるかもしれないっていうのに…。










*柊side*

どうしてこうなった。
何で僕が目立つような競技に出場しなきゃならないんだ。

皆は僕の事をどう思っているんだろうか…。





ーーー昨日

「えっと、キャタピラレースに出場させる人についてですが…何か推薦等ありますか?」

「はーい。柊君が良いと思います!」
「私も私も!」

「えっと…柊君、どうですか?」

「え、いや僕はちょっと…」

「いやいや良いじゃん!」
「柊君可愛いし!」

「静かに。本人が拒否している以上、無理強いは良くありません。誰か別の人は・・・」

「えーつまんない!」
「柊君、良いよね?」
「格好いいところ見せてよ!」

「・・・わかりました」



・・・・・



あの時、肯定をしてしまった自分を責めたい。
こうなるって分かってたじゃないか。
もし此処にいる観客達にバレて、僕の生態に対して変な研究が始まったりしたら・・・。

もう誰とも近づけなくなる。
誰とも話せなくなる。
仲良くすることも・・・。

あの時の先生は驚いた顔してたな。
僕がやると言うなんて思ってなかったんだろう。
多分、やらせないよう庇ってくれてたんだよね。

それは三浦君も同じだったろうね。
彼には色々お世話になった。僕の秘密を隠してくれたり、学校に連れてきてくれたり、友達になってくれたり…。
ホントに感謝してもしきれない。

クラスの女子が悪気があって僕を推薦した訳じゃないっていうのは分かる。皆は優しい人達だから。
でも今回ばかりは流石に・・・





「「「柊君、ファイトー!!!」」」

「!」




声援? 僕に?
声のする方向を見た僕は、ついつい感動しそうになる。
偽りじゃない。ただ必死にクラスメートを応援している。
そんな“1ー1の彼ら”を見た僕は、今までの考えを捨て去るように首を振った。

何後ろ向きになってんだ。
三浦君だけじゃない。皆とだって僕は友達な筈だ。
もしこの姿がバレた時、皆はきっと助けてくれる。
だって僕の味方って言ってくれたから。


「ふふ…」ニヤ


たまらず笑みが溢れる。嬉し涙と共に。
1ー1の皆で赤団を優勝させたい。僕は心からそう願った。
生憎、キャタピラレースとかいう不格好な競技だけど、僕は全力でやる!!










*晴登side*

「あれ?」


俺はある違和感に気付いた。
数十秒前までは青ざめていた柊君の顔が、いつの間にか凛々しい堂々とした態度の顔になっていたのだ。
先程の、此処まで聞こえる程盛大な1ー1の応援が、彼の心に響いたのだろうか。
何にせよ、やる気になったみたいだな。


「頑張れー柊君!」


ここから届くかは分からないけど、取り敢えず全力で応援しよう。
柊君の…赤団の勝利を願って。





『よーい・・・ドン!』パァン





スタートと同時に一つの段ボールが飛び出した。
さながらハムスターの様な回転・・・柊君だ。
彼はグングンとスピードを上げ、次の走者へバトンパスを目指していた。
しかも正直言って速すぎる。俺が普通に走ったスピードと同じくらいだよアレ!?
本物の獣のような勢いは、遠くから見る俺でさえ圧倒した。何かすげぇ…。


そして何のトラブルも起きることなく、彼はバトンパスを終えた。










*昼食

家族の起床があまりにも遅かった為、実は俺は自分で弁当を作っていた。そしてそれを食べる場所は家族の元ではなく、毎度お馴染みの魔術室だった。


「やっぱ此処が落ち着くな~」


そうやってホッと息をつく俺。
でもやっぱり静かに食べるとは行かない訳で・・・


「お前さっき負けたから、約束守れよ」
「え、何か約束したっけな~?」
「とぼけても無駄だ。さて、どんなことをしてやろうか…」
「ひ、酷いのは止めてよね!」


やっぱり部長と副部長が部室で弁当を食べていた。
しかも何やら謎な話をしている。約束って何だろう?

まぁそんなことは良いか。取り敢えずあとちょっと頑張って、部活戦争を良い調子で挑まないと・・・





「大変っす!!」ガラッ





そう言って豪快に扉を開けて部室に来たのは、暁君だった。
ゼェゼェと息をしている辺り、そこそこなスピードで廊下を走ってきたのだろうか。
暁君が走る程の大変な事態って・・・?


「どうしたよ暁?」
「何が大変なのよ?」


部長と副部長が訊くと、彼は驚くべき答えを返した。



「部活戦争の開始時刻が昼食後に変更したんすよ…!」

「「「は??」」」


状況がよく分からない俺らは、ただ首をかしげるだけだった。
 
 

 
後書き
ハイ、柊君を悲しいキャラに仕上げようとした波羅です。最初はキャタピラレースで柊君を活躍するのを書きたいだけだったんですけど、書いている途中に成り行きでなっちゃったんですね。
お陰で文章が微量ながら長くなってしまいました。申し訳ありません。

しかも前回予告した以上、文章が長くなっていく中、部活戦争に触れないってのも可哀想なんで、急な変更を最後にぶち込みました。お許しください。何かこうでもしないと変化が感じられず、ワンパターンになりそうでしたからね。
理由はちゃんと簡潔ですが考えてますんで、「どうして?」という疑問は次回まで考えなくて結構です。

まぁお陰でそこまでがちょいとグダってます…。
でもでも結局の所、「最後にちょびっとやる」という予告も崩れ去った訳ですね。すいません。
俺はもう予告というのをしない方が良いんじゃないかな…??

さて、ストーリーどうこう以上に、自分の文才の無さを嘆きます。もっと、少しの範囲を細かく書いた方が良いのかな?・・・まぁ素人だから良いや!!
てか、俺こそ約束を守れっての!!

次回から部活戦争入ります(←学習してない) 

 

第25話  乱戦

 
前書き
最近の俺の話は、最後が掛け声で終わることが多いと気付いた。
習慣化するとクレームが来そうなんで、何かしらの対処をしないと…(←自分が気を付ければいい話)
あれ、今回も・・・? 

 
スタート地点が魔術室ということもあり、大した移動もすることなく準備を始める俺ら。
メンバーは魔術部の中で魔術を使える数少ない4人の・・・


俺こと、三浦晴登。風使い。

クラスメートの、暁伸太郎。光と火を放つ。

ロマンチストな魔術部部長、黒木終夜。黒い雷を使いこなす。

男子の人気を総取りの魔術部副部長、辻緋翼。焔を自在に操る。


・・・で挑む。
正直、常人が持たない力を持っているから、負けるってことは無いだろう。
ただ、他の部活だってそれは同じ。全員が個性の固まりなのだ。

よって、大差なんてない。
全ては技術と作戦で決まる!!


「にしてもな~」


部長が気怠そうに呟く。
無理もない。この部活戦争に対しての調整が、今に至るまでほとんど出来なかったのだから。


かなり急で、あくまで噂の様な話だったが、あの暁君の言葉は本当だったのだ。










ーーー昼食

魔術室に現れるなり、俺と部長と副部長に驚愕の事実を伝える暁君。その内容は『部活戦争開始時刻が繰り上がった』というものだった。


「どういうことだ、暁?」


部長が理由を問う。
その顔には焦りの色が見えた。


「理由には天気が関係してるみたいです」


それを聞いた俺は拍子抜けする。
てっきり大きな理由と思ってたのに。


「それって、午後に雨が降るってこと?」
「そういうこと…だな」


俺の発言に暁君が頷きながら納得する。
にしても、どうしてそれだけで部活戦争の時間を繰り上げるんだ?
別に『これからの競技を続行で、部活戦争を中止』とかいう策が有ったり・・・とにかく、普通に体育祭の競技をやれば良いんじゃないのか?


「もしかして、体育祭の競技より部活戦争の方が優先…!?」


俺はその発想に行き着く。
いやでも流石にそれは無いだろう。体育祭といえば、一年間でトップクラスに大きな行事だぞ? それを(ないがし)ろにして良いほど、部活戦争は大事なのか?
まぁ部費が懸かってはいるが…。


「あぁ三浦、そういう事だ」
「まさかな・・って、うそーん!!?」


唐突に部長が俺に言うので、必要以上に俺は驚いてしまう。


「な、何で…ですか?」
「これには顧問の先生の意地とかプライドが懸かってるからね。この部活戦争は部活動同士で戦う、つまりは顧問の先生達の争いなのよ。ここで勝てば校長にアピールできる…みたいな」


副部長の意見を聞き、「なるほど」と納得する俺。
つまりは先生達の裏の顔のせいという事らしい。
大人の世界って複雑だな…。


「だから体育祭より部活戦争が優先。校長もそこは理解して、部活戦争開始を許可してんだ」


生徒だけじゃなくて、先生方も大変だな…。
でもこれで理由が分かった。

・天気が原因で午後の競技は一旦保留。
・代わりに部活戦争を、時間を繰り上げて開始。
・先生達のアピールタイムへと早変わり。

こういう事だな。
って、じゃあこの後の体育祭はどうなるんだろ?
もしこのまま天気が悪くなったら、どこの団が優勝とか決められなくなるよ? う~ん・・・。


「でも、何だって急に天気が変わるんだ? まして、体育祭の競技を中断させるほどの…」
「今日の天気予報は『一日中快晴』だったのにね…」


一日中快晴か…。そういや今朝は新聞もテレビも見なかったから知らなかったな…。でも外を見てそれが分かるくらい、今朝の空は綺麗だった・・・。


ーーー!!


その瞬間、ある事が頭の中をフラッシュバックする。“今朝”というワードで思い出した。

俺が最近たまに見るようになった夢。確か今日は『雨』だった筈だ。
まぁ、アレが天気予報だって訳じゃないし、あくまで俺の夢なんだけど。
でも、今まで快晴だった天気が急に雨に・・・って、何か怪しいよな。何か関係とかしてんのかな?


「どうした三浦? 暗い顔して」


俺が考え込んでいると、暁君が声を掛けてきた。
マズいマズい、と俺は顔を笑顔に戻し、


「いやいや、このあとどうやって敵を倒そうかな~なんて」


…と、考えてもいない事を口走った。
だが彼はそれで納得したらしく、「感覚でやったら良いんだよ」と言って、会話を終えてくれた。


「何だよ三浦。考え事してる暇が有ったら、さっさと飯を食ってくれ。食べるのが遅くなって満腹で戦っても調子出ないだろ?」


おっといけね。
弁当を広げたまま、ほったらかしにしてしまっていた。
『腹が減っては戦はできぬ』だっけか? 取り敢えず早く食べとかないと。


「あ、そうだそうだ。罰ゲーム何にしよっかな~?」
「ちょっと! 面倒だから早く忘れなさい!」


今日も賑やかだな…魔術部は。










*
ーーーとなって、今に至る。
部長が調整する時間が無かったっていうのは、副部長と口喧嘩していた部長自身のせいだったりするよな。
俺はそう思いながら、腕を伸ばしたりと必要なのかも分からないストレッチをする。

昼食の時間後、放送で部活戦争についての知らせがあった。
暁君が言ったことは本当だったのであり、でもって開始は各々の部室から、ってことになった。


「何処からやる?」


部長が腕を組みながら訊く。
『何処から』というのも、今回は部費を集めるのを第一としている為、戦闘向きでない部活を狙うのが最も効率が良いといえる。


「やっぱ屋内の部活がやりやすそうね」
「決まりだな」


副部長が狙おうと決めたのは、屋内の部活。
すなわち運動をあまり必要としない部活だ。
確かにそれなら勝てそうだ。


「にしても部長。何でそんなに部費が欲しいんですか?」
「そうね。私も気になっていたわ」


俺は部長に問い、それに副部長も混ざる。
勿論、部費は多い方が良いに決まっている。
ただ、この魔術部に金は必要なのか?


「んなもん…ちょっとしたアレだよ、アレ」
「アレじゃ分かんないでしょう…」


部長が放ったのは意味深な台詞。『アレ』とは、一体何なのだろうか?
メチャクチャ気になる。


「そんなことより、あと1分で始まるっすよ」

「「「!!」」」


脱線していた俺らは、暁君の一言で引き戻される。
確かに変更した開始時間は1分後だった。


「2時間で良いのよね?」
「ああ。各自テープで全員を縛り上げてやれ!」
「「おう!」」


部長から渡された、手からはみ出す程の量の拘束テープ。
それを見つめながら俺は、「遂に始まる!」と心踊らせていた。


『皆さん、時間になりました。それでは部活戦争スタートです!!』


「行くぞお前ら!!」

「「「よっしゃあ!」」」


放送が終わると同時に俺らは部室を出て、それぞれが別の方向へと駆けた。










*第三者side

「意外と出会わないもんなんだな」


無駄に広い校舎の廊下を隠れることもせず歩く伸太郎。
彼は、そうやって歩いているのに関わらず、敵との遭遇が無いということに疑問を持っていた。


「教室がたくさん有るし…奇襲も有り得るな」


彼は横にある教室を見ながら言った。
その窓から中を見る限り、誰も居る気配は無い。


「…考え過ぎか?」


そう言うと、彼は歩調を緩めることなく歩き続けた。










「罰ゲーム何にしよっかな~?」


魔術室のある階で魔術部部長である終夜は、壁に寄り掛かり先程までずっと考えていた事をまたも考え始めた。


「いや~アイツはノリノリで俺との賭けを承諾したんだし、何しても文句は言わんだろう」


そう呟いて独りでに納得する終夜。
しかし、その彼に忍び寄る影があった。


「あーでも部活戦争に集中しないと…いやでも…」


奇妙な選択肢に惑う彼。目を瞑り、ウンウンと唸っていた。

それを隙と見たのか、影はゆっくりと迫った。


「いやでも、部費が大事だな!」バリッ

「い!?」


バタッ


「ん、まずは一人だな。梯子(はしご)で攻撃しようなんざ、気配で丸わかりだってんだ。演劇部ってとこか?」


終夜は、自身の雷によって気絶した彼をそう解析した。


「今ので10万ゲットだな。部活動は全部で30を越えるから…上手くいけば1000万は稼げる訳か」


計算がかなり大雑把であるが、そんな事を気にも留めない彼は「やってやる!」と意気込んだ。










「私って…何処かに隠れた方が絶対良いよね…」


そう言いながら、既に緋翼の体はとある教室の教卓の下に入っていた。
彼女は、小さいから隠れた方が好都合だと判断している。


ガラッ

「!?」


突如として鳴ったのはドアが開かれた音。そして教室に響く足音。
緋翼は誰かが入ってきたと察した。


「誰も…居ないよね?」


声からして女子のようだ。しかも少し怯えている。
今からこんなか弱そうな子を倒すと考えると少々気が咎めるが、これは勝負。緋翼は思い切り教卓の下から飛び出した。


「覚悟!!」
「ひぃっ!?」










「ちょっと怖いな。てか、ホントに人に向かって魔術使って良いのか?」


見渡す限り、周りには誰も居ない。
自問自答をしていた晴登は安堵の息を溢す。

自身が1年生であるにも関わらず、魔術部代表という立場で出てしまっているのが、嬉しいような恥ずかしいような…。
取り敢えず、周りは恐らく3年生。肉弾戦で勝つことはまず無い。よって部活の道具とも言える魔術に頼らざるを得ないのだ。


「バレないように使うんだぞ、俺」


自分自身にそう言い聞かせているその様子は、不安を隠しきれていない、といった感じだった。
晴登は再度周りを見渡し、「案外出会わないな」と考えつつ、自問自答を繰り返していた。










「やっと見つけたぞ、終夜」
「野球ごときで俺に勝てるとでも?」


その頃、終夜はまたも敵と交戦していた。
相手は同じクラスの野球部の男子。ヘルメットにユニフォームにバットにボール……何処からどう見ても野球部の格好であり、何よりもの重装備であった。


「バットで殴れば一発ってことよ」
「はは、マジック舐めんなよ?」
「いや無理無理」


終夜が“マジック”と言ったのにも訳がある。
実は晴登だけでなく、魔術部の誰一人として魔術のことを周りの人に話してないのだ。
だから周りは魔術なんぞ露知らず、ただのマジック部と思っているのだ。
「マジックごときに負ける訳がない」と。


「言ったな。じゃあ今からその金属バットに面白いことしてやるぜ」
「んな暇ねぇよ!」ダッ


終夜がお遊び感覚でそう言うと、野球部の彼は痺れを切らして殴り掛かってきた。


「ったく、少しはショータイムさせろっての」ガシ

「うわっ!痺れっ…る!?」


終夜はそのバットを掴み、瞬時に電流を流した。
金属を伝って電流は彼の体へ潜り込み、そして麻痺させた。
その後彼は倒れ、寝ているかのようにピクリとしか動かなかった。


「ってか、このテープ俺には必要ないやんけ」


自分の力に麻痺の要素が有るため、テープを持つ必要性を感じられなくなった終夜。
いっそ捨てていこうかと考えたが、念のためということでポケットに入れたままにした。


「開始5分で2人…まぁまぁだな」


時間は残り115分有るということで、「これなら、あと46人行けるな」と思い、余裕ぶる終夜だった。










「この状況はマズいな…」


そう困ったように呟く伸太郎。
彼は現在、それぞれ部活の違う男子4人に囲まれているのだ。
壁へと追い込まれ退路を塞がれているため、『絶体絶命』といえる状況が成り立っていた。


「コイツは俺がやる!」
「1年生みたいだし楽勝だな!」
「お前らに部費はやらねぇぞ!」
「やんのか?おい!」


だけど今は、全員が違う部活に入っているということが幸いして、狙われたり狙われなかったりしている。
それにしても、1年生相手に4人がかりとはどうなのだろうか?
でも・・・

今の内に逃げるか、4人を倒すか。

伸太郎はその決断をしなければならなかった。


「(野球部、サッカー部、テニス部、バスケ部・・・全部運動系の部活か。だったらここで倒しておいた方が後が楽だろうな)」


伸太郎は言い争いをしている4人を見てそう思った。
ここで運動系の部活を倒すということはとても重要な事だ。運動系といえば、戦闘にも勿論向いている。つまり後々人数が減ってきた時、運動系が残るというのは明白だ。
だから伸太郎は即座に決断をした。


「お、おいアンタら。俺を1年生だって馬鹿にしてるみたいだけどな、そんなの勝ってもないのに言えるのか?」


彼らを倒す。
伸太郎はそんな感じの事を(ほの)めかすように堂々と言った・・・つもりだった。


「あぁん? 何て喋ってんだお前?」


なんと彼らには、目の前の1年がボソボソと何かの呪文を唱えている、とにしか見えていなかった。
つまり今この時、伸太郎の重度なコミュ障が発動していたのだ。


「え?だから…」
「ゴチャゴチャうっせーな!」


そんな事に気付かない伸太郎に、遂に1人の拳が襲い掛かった。
咄嗟に避けようとするも後ろは壁。逃げ場なんてない。屈むにしても、上から殴ってきているので無意味。伸太郎は万事休すだと悟った。


アレの存在を思い出すまでは。


「あ、そうだ」ピカーッ

「「眩しっ!?」」


伸太郎は魔術を使って、自分を光源として目映い光を放ち、相手の目を眩ませた。すると、彼らは目を必死に抑え、悶絶していた。

実は先程まで、脱出の糸口を探すことに夢中になっており、伸太郎は魔術の存在を忘れていたのだ。


「「うわ!目が!目がぁ~!!」」


光を直視したため、叫びながら悶える4人。
それを見て伸太郎は「哀れだな」と一言思い、彼が目覚めるまでに全員の手首に拘束テープを結んだ。


「こ、これで良いんだよな?」


全員が地べたに這いつくばっている様子を見た伸太郎は、取り敢えず離れようと考え、その場から立ち去った。










「馬鹿な連中ね」


一方緋翼は、先程から自分に襲い掛かって・・・もとい、攻撃してくる男子達を蹴散らしている所だった。
見下ろすと、ボコボコにされて気絶しているにも関わらず、恍惚とした表情を浮かべる男子、5名が転がっていた。


「アンタらに興味は無いのよ」


緋翼は手をヒラヒラとさせながら、独りでに言った。


「あ、別に変な意味は無いけど!」


そして途端、顔を真っ赤にして何かを否定していた。


「別にアイツは・・・」


頬を赤く染め、ブツブツと呟きながら何かを考えるその姿は、「可愛い」の一言に尽きる少女のものであった。










「こんな事って有るんだな…」


その頃晴登は、ある廊下で偶然出会った人物に驚愕していた。
きっと、余程の実力が有ったから彼はここに居るのだろう。


「驚いたか?」


晴登の目の前に立つ彼は、晴登に訊いた。
その表情には笑顔と期待が混じっている。


「勿論。まさかここで会うなんてな」


晴登はそう返す。
その表情からもまた、今からの戦闘に興奮しているという感じが滲み出ていた。


「互いに全力で・・・」
「正々堂々闘おうぜ!」


青いユニフォームを身に纏い、サッカーボールを片手に持つ彼『鳴守大地』は、晴登に向かって「キックオフだ」と一言放ち、ボールを地面に置いた。
 
 

 
後書き
次回もその次回もこんな感じで進めていきます。
多分読みにくいと思うでしょうが、そこは勘弁ください。
あと急に下の名前で書き始めると、なんか新鮮ですね。

今の所は、
終夜……20万
緋翼……60万
伸太郎…40万
晴登……0  ですね。
もう12人も倒してますが、簡単に言うと3つの部活が魔術部にやられたという事です。
これストーリー的に大丈夫か?・・・気にしないでいきましょう(逃避)

書いていて意外と楽しいです。
今の所は、なんか話が小さいですが、これからドンドン大きくしたいと思います!
では、また次回会いましょう!! 

 

第26話  魔術VS.蹴球

 
前書き
視点がコロコロ変わります。
誰が誰だか分かるとは思います。 

 
「シュート!!」ダン

「うわっ!?」ヒュ


大地が晴登に向かって、サッカーボールを蹴り放った。風を切り、音をたてながら進むそのボールを、晴登はギリギリながらも体を横にずらして避ける。

いや、今のは避けたと言えるのだろうか。
ボールの軌道がたまたま当たらない向きだったってだけかもしれない。


「惜しいな」


悔しがる大地。晴登はただ唖然とするしかなかった。

そもそも、1年生である彼がこの場に居るのは「すごい」と言えよう。
サッカー部は人数もそれなりに多い。それなのに、上級生を指しおいてその中から選ばれたのだ。
コイツの実力は元々知ってるが、入学してから更に力を伸ばしたに違いない。今のシュートだってその表れだろう。


「ま、ボールはまだ有るけどな」


大地はそう言って、後ろにストックとして置いていたボール達の中から1つ持つ。
晴登はすぐさま避ける準備をした。


「遅ぇよ!!」ダン

「!!」


しかし大地は晴登のその行動を読んでか、ボールを地面に置くことをせず、ボレーシュートで攻撃してきた。
一方、晴登はその行動を読むことが出来ず、目の前に迫ってくるボールを見続けるしかなかった。

どうしよう…どうやって防げば…。

これを受ければ一発でノックアウトだろう。
ならば確実に防がねばならない。

そう思った晴登の右手は、ボールの軌道と同じように真っ直ぐ伸びた。



ブワァァァォ!!



大地の蹴ったボールが晴登の右手に触れた。
すると、そのボールは威力を無くし、宙を舞った。

風が止んだ。

静寂に包まれる。


「お前…」


大地が驚きを隠せなかった。
何せ、自分のシュートを素人の片手で止められたのだから。
サッカーをやる者にとって、こういう敗北感ほど辛いものは無いだろう。


「やべっ、使っちまった…」ボソ


晴登が誰にも聞こえない程の小声で呟く。
咄嗟だったとはいえ、人前で堂々と使ってしまった。
「これは気付かれてしまうのでは?」と晴登はの心は焦りと不安に支配された。


「(俺のシュートが、あんな容易く…? 一体どんなトリックが…?)」


そんな晴登の様子に気付くことが無い大地は、さっきのは自身の失敗ではなく、晴登が何かトリックを使ったのだと思い始めた。
しかし思い当たる節が無い。晴登に何か特別な能力が有る訳でもないし、そもそもの運動能力は自分が上である。
一体どうやって・・・?

二人共考え込んでしまい、闘いが一旦中断されてしまった。










「な、何か不気味な奴ね…」


そう呟くのは、魔術部副部長の緋翼。
彼女の前には、世にも奇妙な人物が立っていた。

全身を覆う程の真っ黒なマント。フードを深く被って顔を隠していると思いきや、白色の中に黒でつり目とニヤけ口だけを塗られた、シンプルで不気味な仮面を被っていた。


「な、何か喋ったらどうなのよ?!」


緋翼の言うことを無視しているのか、仮面の人物は喋ろうとしなかった。
この行動も不気味さを際立たせている。緋翼は完全に焦っていた。
無理もない。この外見は誰が見ても怖いと思えるものなのだ。


「逃げるが勝ち!」ダッ


緋翼はあまりの恐怖に逃げ始めた。

だが仮面さんの速さは並ではなかった。
緋翼のスピードについてきており、しかも1m程の距離を保って追いかけている。これほどホラー映画に勝るほどのホラーは無いだろう。


「コイツ何部?!」


緋翼は疑問を叫びにして出した。
こんな格好をしている部活なんて演劇部くらいしか無いだろうと頭の片隅では思うものの、もしかしたら陸上部かもしれないと思ったり。
緋翼は、声を出していないと恐怖に押し潰されそうだと思った。


「誰か助けて~!!」


プライドを破壊して涙目になりながら、彼女はそう懇願していた。










「お前は同じクラスの・・・」
「莉奈で~す! よろしく~」


一方伸太郎は、晴登VS.大地と同じような状況になっていた。
相手は同じクラスに居り、確か水泳部ということは覚えている。右腕に抱えているビート板、頭に被っている水泳帽とゴーグルが、何よりもそれを示す。


「水着にジャージだけかよ、無用心な…」
「えー何? 何か言った?」


伸太郎は莉奈の格好に向かって小さく呟いた。
何せ今の彼女の格好は、競技用と思われるどこぞの有名な会社の印が書かれているシンプルな水着に、部活のジャージを羽織っているだけなのだから。
薄着で怪我をしやすいというのも有るが、取り敢えず色んな意味で危ない格好だ。


「(コイツは確か三浦の友達だろ? あんま怪我させたくねぇな…)」

「フッフッフ、どうしたどうした? 来ないのならこっちから行くよ!」ダッ
「はぁ、メンド…」


ため息をつきながら、伸太郎は向かってくる莉奈を待ち構えた。










「はっくしょい!」
「…!? だ、大丈夫か?」


晴登が急にくしゃみを放つ。
ずっと考え事をしていた大地はそれに驚かされ、無意識の内に晴登を心配した。


「あ、あぁ大丈夫だ。噂でもされてんのかな?」
「随分普通な考え方だな」
「普通って言うな!」


二人とも先程まで考えていた事を忘れ、口論となる。


「ったく、何考えていたか忘れちまったよ」
「考えるより行動しろって話だよな」


二人はそれぞれ自分の考えに答えを出し、戦闘を再開することにした。


「お前がどういう理屈で俺のシュートを止めたか知らないけどよ、今度は絶対に当ててやるよ」
「臨むところだ」


大地は己の力を信じ、そう宣言した。
晴登はそれをしっかりと受け止め、やる気に満ちた表情で言葉を返す。
二人は「仕切り直しだ」と呟き、再び戦闘を始めた。










「何で誰も居ねぇんだよ~?」


そう気怠そうに呟くのは、魔術部部長の終夜。
彼は他のメンバーとは違い、今は誰とも出会わず校舎を徘徊してるとこであった。


「そういえば、この戦争には“アイツ”も参加してるんだろうな…。絶対会いたくないわ…」


敵を探しているというのに、会いたくない敵が居ると言う終夜。彼の頭の中には、自分がとても面倒くさいと思う人物の姿が映っていた。


「絶対“理科室”には近付かねぇようにしねぇと」


終夜は「怖い怖い」と言わんばかりの様子で、廊下を歩いていった。










「おらよっ!!」ダン


大地に思い切り蹴られたボールは、寄り道などせずに真っ直ぐ晴登へと向かっていった。
だが晴登は腰を低くして右手を構えると、またも魔術でそれを止める。


「…オイオイ、どうなってんだお前の右手?」


大地は困った様子でそう言う。先程とは違い、「やれやれ」といった感じだった。
しかし晴登は答える訳にもいかないので、「いや~」などと目を泳がせて誤魔化す。


「ん~・・・あ。晴登、“下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”って知ってるか?」


何を考えたのか、「数が勝る」といった意味の(ことわざ)を言った大地は、自身の目の前にボールをいくつも並べ始める。
それを連続で蹴ってくるというのは、晴登にも予想ができた。


「(風を広範囲に放っても良いが、それは絶対にバレる。今俺に出来るのは、目の前に迫ったボールを受け流すくらい…)」


晴登は変わらない戦況を変えようと、必死に打開策を考える。
最も、大地がそれを待つことはなかった。


「いくぞ! 1!2!3!」ダダダン


助走をほとんどせずに、両足を使って器用にボールを連続で蹴ってくる大地。しかもそれらの威力は先程までと殆ど変わってはいなかった。


「ちょっと厳しいかな!」ブワッ


晴登は両手を広げ、何とか自然を装って魔術を使い、ボールを流そうと試みた。だが異変はその直後・・・


ピカーッ!!


「眩しっ!!?」


突然ボールが破裂し、光を放ったのだ。所謂(いわゆる)“閃光弾”である。
光を直視した晴登は慌てて目を塞いだ。


「これで何度目だよ!!」

「訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇ!」ダン


晴登はある出来事を思い出しながらそう叫ぶ中、大地は新たな一発を彼に放っていた。










「絶体絶命…」


壁へともたれ掛かり、絶望を感じながら緋翼は呟く。
目の前には仮面さんが近付いてきていた。


「(魔術使っちゃう? いやそれでも、コイツには勝てないかも…)」


まだ一切闘ってもいないのに、緋翼は弱気になって考えていた。あまりの恐怖に思考回路がショートしたという感じである。


「……」スッ
「ひぃぃっ!?」


仮面さんが(おもむろ)に細い鉄パイプをマントから取り出してきた為、緋翼の驚きがピークに達する。
しかし「ここで気絶しては負け」だと、彼女は自分に言い聞かせて姿勢を崩さなかった。


「だったら…」ジャキ
「……!?」


そこで緋翼は自身の魔術の一部である“刀”を生成する。
まさか武器が出てくるとは思わなかったのか、仮面さんは少し驚いた素振りを見せた。


「(焔を出さなきゃ大丈夫な筈。ただこれ真剣なのよね…)」


緋翼は自分の造り出した刀を見てそう言った。真剣、ということは下手すればスパッと斬れてしまうのである。
彼女は「安全第一」と心で呟いた。










「えいっ!やぁっ!とぅ!」ブンブン


ビート板をブンブンと振り回す莉奈と対照的に、伸太郎はそれを全て見切って避けている。
かれこれ5分程この状況が続いているのだが、一向に終わる気配が無かった。


「ほらほら? 避けてばっかじゃ終わらないよ?」
「元気な奴だな」
「でしょでしょ♪」


なんて生き生きしてるんだと心の中で思いながら、魔術を放つタイミングを計る伸太郎。彼は、なるべく目立たずに出来るよう作戦を練っていた。

だが数秒後、思わぬ出来事が起きた。


「はぁ…タイム。ちょっと疲れた」ゼェゼェ
「……」ダッ


戦闘中にも関わらず、莉奈はタイムをかけて休もうとしたのだ。
無論それを逃がす筈もなく、伸太郎は莉奈を追い詰めるように攻撃を仕掛けた。


「喰らえっ!!」ピカーッ
「うわっ眩し!!」


まずはお馴染みの目くらまし。莉奈は両目を抑え、うずくまった。


「(今だ!)」シュ


それをチャンスと考え、伸太郎はポケットから拘束テープを取り出す。
そしてそれで、莉奈の腕を結ぼうとした。
すると・・・





「な~んて、隙あり!」ドゴッ

「がっ…!?」ドサッ


強烈な一撃が腹にめり込む。
これが女子の攻撃なのか?と思わせる程、その一撃は重いものであった。
「目の眩みは?」と疑問を持った伸太郎だったが、莉奈の顔を見てそれは解決された。


「ゴーグルか…」
「ピンポーン♪」


目くらましの直前のあの一瞬。あの一瞬に彼女はゴーグルをかけたのだ。
その行動力には驚く他ない。

お腹を抑えて立ち上がることもままならない伸太郎は苦痛で歪んだ表情で、不敵な笑みを浮かべる莉奈を見上げることしか出来なかった。










「そらっ!!」ダン
「はぁっ!!」ブワォ


大地が蹴ったボールを晴登が止める・・・それはさっきまでの様子。
先程の閃光弾…、実はそれはサッカー部が部活戦争用に製作した特別なアイテムだった。
それによって目を眩まされた晴登だったが、風を無闇に放ち、大地の攻撃を何とか凌いでいた。

そして現在彼らは、まるでキャッチボールをするかのように互いに1つのボールを放っていた。
大地が必死になってシュートを放ち、晴登がそれをコッソリ魔術で打ち返す。
その行動は、もはや卓球やテニスといった違う部活の様子であった。


「手を動かすのを止めてくんねぇかな?」
「そちらこそ足を」


二人は睨み合いを続ける。まるで火花が出るかのように。しかも彼らはジリジリと自分らの距離を詰めていった。



そして遂にボールが大地の足に止まった時、晴登と大地は互いに残り1mまで近付いていた。


「これだけ近けりゃ逃げれねぇぞ?」
「お互い様にな」


二人は覚悟を決め、自分らの最高の技を放った。
 
 

 
後書き
さて、視点がバラバラで読みにくかった事でしょう。申し訳有りません。次回はもう少し読みやすくなるよう努めます。

でもって、今回は題名の通り晴登VS.大地をやったのですが・・・完結しませんでした(笑)
つか色々混ぜ込み過ぎて、何か文章がメチャクチャな気がします。これも次回気を付けます。

晴登VS.大地
伸太郎VS.莉奈
緋翼VS.仮面さん(仮)
終夜 フリー

お盆休みももう終わり。
大変な学校生活(現実)がそろそろやって来る頃です。
・・・次回も頑張って書いていこう! 

 

第27話  素顔

 
前書き
タイトル通り、今回は緋翼と仮面さんをメインにしようと思います。
念入りにストーリー組まないとバグりそうですね…。(←意味不) 

 
*緋翼side

相手が鉄パイプを構え、私が刀を構えてどれだけの時間睨み合っているだろうか。
私は持っているのが真剣ということもあり、少し躊躇の念を持っている。だが、相手の仮面野郎はそんな様子もなく、私の出方を窺っているという感じだった。

そもそも、私はコイツの正体を知らない。同級生か後輩か。その選択肢しか無いのだが、やっぱ相手次第で出方は変わるというものだろう。
せめて、あの仮面を外せたら・・・


「!!」ブン

「ちょっ!?」ヒュ


仮面野郎がいきなり鉄パイプを振ってくる。
突然すぎる行動ではあったが、辛うじて避けることは出来た。
ていうか、何でいきなり振ってきたのかしら? 私が「仮面を取りたい」と思ったから?
・・・テレパシーが使える訳じゃあるまいし、それは無いか。でも今のは怖かった…。


「…!」ブン
「随分容赦無いわね!」ヒュ


鉄パイプだって相当な凶器だというのに、仮面野郎はそれをブンブンと振り回す。どう見ても正気の沙汰とは言えない。
一体何考えてんのコイツ!?


「」ブンブン
「くっ!」キン!


仕方なく私は刀で防ぐ。金属音が辺りに響く。
ふ、防ぐだけなら大丈夫よ…きっと怪我もしない…多分…。

ていうか、ホント無口で不気味な奴だわコイツ。私の追っかけ…って雰囲気は全く無いし・・・まず何部なんだろう?

魔術を使って喋らせるか・・・。


「」ポゥ
「!!」ヒュッ


私が右手にマッチでつけた位の焔をちらつかせると、仮面野郎は後ろに後退するように避けた。随分と用心深いのね…。

まぁいい。これで一旦距離は取れた。
後はあの仮面を如何にやって外すか…。


「攻めが一番よね!」ジャキン
「!!!」


そう思うよりも早く、私は刀と焔を脅迫するかの様に構え、仮面野郎に特攻する。無論、奴は人間。ここまでされればビビるのが普通だ。
そしてその隙に仮面を斬るなり焼くなり・・・



「ーーって、え?」



そこまで考えていたところで、私の思考は急に停止する。なんと今まで目の前に居た標的が、忽然と姿を消したのだ。
何処に行ったかと思い、辺りを見回してみるも、視界に入るのは延々と続く廊下と教室のみ。奴の姿は何処にも無かった。


瞬間移動(テレポート)!?」


こんな時にこういう発想に辿り着いてしまう自分が少し情けない。日々魔術に触れるせいか、思考までそっちに持ってかれているのだろう。

単純に考えろ。きっと、少し離れてはいるがあの教室の中だろう。そこ以外隠れれる場所は無い。
私の足はその教室へと向かった。



カタッ



「!!」


不意に鳴ったその音に私は反応する。
音源は…真上。完全に死角である。
見上げると、蛍光灯に器用にしがみつく標的(ヤツ)の姿があった。


「っ!!」ヒュン


ガキィン


降り下ろすように奴が振った鉄パイプを、私はすぐさま刀を構えて受け止める。またも甲高い音が響いた。
その後仮面野郎は地面に下り、またしても私と距離を取った。


さて、ますますコイツの存在が分からなくなってきた。
身のこなし、スピード、次元を無視したフットワーク・・・まるで“獣”の様ではないか。

…だがまぁ、そんな話は有り得ないし、コイツは所詮は人間である。たまたま運動神経が常人の域を越えているだけだろう。ただ、剣術で闘うということだから、当然剣士として負ける訳にはいかない。
絶対に負かして正体を暴いてやる!










*晴登side

「いってーな晴登…」
「はぁはぁ…」


肩で息をして疲れきっている俺の前で、仰向けに倒れている大地が言った。コイツはもう戦闘不能ということで良いだろう。


「防ぐならまだしも、返してくるとはな…」


随分軽そうに話してはいるが、先程のダメージは尋常では無かった筈である。
何と言っても、さっきコイツが放ったシュートを俺は風を使って反射し、そのボールが腹に直撃したのだ。

そう考えると、先程の自分の行動をかなり申し訳なく思う。


「わ、悪かったな大地…」
「良いさ、勝負なんだし。にしても、お前はどうなってんだよ?」


俺は今のところ、大地や莉奈らに部活の事は話していない。というか隠している。
だからコイツらは、俺が魔術部に入っていることさえ知らないのだ。

だけど、それは今後も変わらない。俺はまだ隠し通さなきゃならない。“友達”で居られる為に。


「秘密さ。知りたいのなら暴いてみな」


俺は余裕の表情で言った。
大地はそれを聞くと苦笑いを溢し、「面倒くせ」と一言呟く。深く詮索してくる様子は無さそうだ。

その後二人で笑い合い、俺の『勝利』でこの戦闘は幕を閉じた。










*緋翼side

右、左、右、上、下、右・・・。
さっきから攻撃を避けることに徹しているが、どうやらコイツの剣術にパターンは無い。というか闇雲に振っているように感じる。
つまり、コイツは剣術については素人。剣道部だとか…その辺ではない。


「ふっ!!」ブン
「!!」ヒュ


だからと言って、私が不意打ちとしてたまに刀を振るってやるのだが、これも当たらない。奴の反射神経が高いということだ。
仮面だけを斬るように加減はしているが、それでもこの反応速度は並ではない。何かスポーツはしているのか…。


ーーというように私は今までの間、仮面野郎の情報を探っていた。しかし出てくるのは的外れなモノばかり。真相には一向に近付かない。
ホントにコイツは誰なんだ。そもそも性別も分からないし。声を発してくれれば良いのだが、それも無理だろう。


「いっそ全部灰にしてやろうか…」


私は相手に聞こえないように小さく呟く。
実際、そうやった方が全て丸く収まるのだ。
ホントにやってやりたい。


「ねぇアンタ」
「?」


声を掛けると、仮面野郎は無言で反応する。
こんな不意打ちにも声を出さないなんて…。


「あーもうメンドっ!!」ブワォ
「!!!?」


私は体から自分を覆いつくせる程の大きな焔を出す。
辺りは熱気に包まれ、窓は今にも溶けそうな様子である。気温がみるみる上がり、私以外の奴は「熱い」と感じるくらいに状況になった。
仮面野郎はその惨状を見ると、身の危険を感じてか後退りをした。

こうなったら…強制的に吐かせる。

私はその状態で奴に近付いた。頭の中は狂気とも呼べるものに満ちていた気がする。
奴は更に後ろに下がる。
仮面に隠れて表情は見えないが、きっと怯えていることだろう。そう思うと気分が良い。

まぁ実は、これにはさっき追い掛けられたお返しの意味もあるんだけどね。同じ恐怖を味わって貰わないと。
私は刀を振り上げ、狙いを定めると・・・一気に降り下ろした。










目の前に残ったのは黒焦げになっているマント。そしてそこには、不気味な笑みを浮かべた仮面もあった。
だがどう見ても、人間の姿は無い。
服の残骸が残る以上、人間が灰になる事はまず無い筈。
よって・・・


「随分可愛い奴ね、アンタ」
「……」


私が向いた方向には、制服にパーカーを着るという珍しい格好をしている男子が居た。
焔に包まれたあの一瞬で、マントらを犠牲に逃げ出す。凄い身体能力と判断力だ。

整った中性的な顔。私よりは幼そうだが、でもどこか凛々しさもある男子…。
何より驚いたのが、頭についている犬のような耳だった。趣味の飾り物かと思ったが、彼が動くに合わせ動くそれを見て、耳は本物なのだと気が付く。


「……」ガクガク


しかも先程から彼はこの状態。ガクガクと震え、まるで何かに怯えているようだった。
まぁ、理由には察しがつくけど。どんな過去かは知らないが、大変だったろうな…。


「ねぇアンタ」
「……!!」


仮面を付けていないので、驚いた表情が丸わかりだった。もしかしなくても人が苦手なのかな?この子。だから仮面で隠してた・・・。

取り敢えず私は、聞きたかった事を訊いてみる。


「アンタって何部なの?」


まずは所属。別にこれといった理由は無く、ただ気になるからなのだが。


「帰宅部…ですけど」


は~帰宅部ね。何か裏をかかれた気分だわ~。
何の為に部費を集めてるのかしら・・・ん?


「帰宅部!?」


私は驚いて声を上げる。
何故ならって、理由は明白。『帰宅部には部費が必要無いから、部活戦争には出る意味が無い』ということだ。


「な…何でアンタは出てんの?!」


予想外の事態に焦る私。演劇部か何かと思っていた相手が、意味も無く参加する帰宅部だったのだ。誰だって“?”は浮かぶだろう。
問い詰めると、彼は怯えたまま口を開いた。


「そういうルール…なんです。『帰宅部は部活戦争で選手の邪魔をする』っていう…」


ルール? そんな話は聞いていない。私たちに公開されたルールにも、そんな事は書かれていなかった筈だ。私たちの部活だけ知らなかった…なんて事は無いだろうが・・・。


「この事は…全部活には秘密なんです…。あくまで選手のフリをしないといけないんで…。でも、僕らは正式な参加者じゃないので、倒したところで何も無いです…」


拙いがそこまで説明をされた所で、私は話をある程度理解した。
つまり、彼らは完全に“邪魔者”なのだ。倒しても部費は貰えないが、倒されたらそこで終了。出会ったとしたらデメリットしか存在しない、そんな役なのだ。


「じゃあ、今までアンタと闘っていたのは、私には無意味だったって事で良いのよね?」
「はい…そうですね。あ、でも一応僕らも“倒されたら失格”というルールは持ってますので、今倒しても無駄骨って事は無いですよ…?」


帰宅部参戦か…。運営も変な事考えるな~。
要は、倒しても部費が貰えない奴が居るって事にガッカリさせたかったのかしら。

・・・まぁ良いわ。
後はコイツの処遇だけど…答えは決まったようなものよね。


「アンタの事は放っとくわ。別の部活を好きに邪魔しなさい」


私はそう言い放つと踵を返して、別の場所に向かおうとした。
彼には他の部活を邪魔してもらおう。私をここまで追い詰めるし、きっと十分な力は持ってるもの。

だがそこである重大な事に気が付く。


「アンタ…服どうする?」


苦笑いを浮かべてそう言いながら彼の方を向くと、彼はその状態に気付き慌てふためいた。


「ホントだ…これじゃ・・・」


邪魔者という役は予測できなかった為、ついつい服を燃やしてしまったが、この状況だと彼のコンプレックスは(あらわ)になっているので、少々どころかかなりキツい状態になってしまっている。
あのパーカーにはフードが付いてはいるようだが、激しい運動には向かないだろう。

仕方ない・・・。


「もう面倒だから、やっぱ私がアンタを倒した事にしとくわ。早くこの場から去りたいでしょう?」


私の言葉に、彼ではなく彼の耳が反応する。…小動物みたいで可愛いじゃない…全く…。
この事は誰にも話さない方が良いよね。


「手荒くはしないから大人しくしときなさいね。・・・あ、そうだ。アンタ名前は?」


私は何かの縁だと思い、彼の名前を訊く。
すると彼はすんなりと答えてくれた。


「柊 狐太郎です。貴方は?」

「私は辻 緋翼。また会えたら良いわね」
「ハイ!」


元気な笑顔で彼は返事をする。
今時珍しいんじゃないの?こういう素直な子。
アイツも見習って貰いたいわ・・・って何考えてんだ私は。アイツの事はどうでもいいのよ、うん。もう・・・


「じゃあ今度こそ『またね』ですかね」
「何よそれ」ハハ


彼の言葉に私も笑みを溢す。
この子はこのコンプレックスを除けば、とても良い子だ。クラスの皆と仲良く出来てるのかしら? いじめられたりしてるのか…? ちょっと心配だな…。
でも、今日はもうお別れ。早いとこテープを結んで、帰してあげないと。


「気を付けてね」
「はい」


ここまで穏やかな気持ちでテープを結べたのは初めてだろう。これで誰にも見つからずに帰れれば・・・あれ?


「あの…体が動かないんですけど…」


失敗した。これは間違いなく失敗した。
私は、テープの効果に『麻痺』が有ることをすっかり忘れていたのだ。
抱えていってあげるか・・・まだ時間あるし。

私を彼を抱え、安全と思える場所まで運ぶ事にした。
 
 

 
後書き
多大の時間を持っていたにも関わらず、こんな急ぎな文章を書いているということは、自分はホントに文才が無いのですね…。

さて。そろそろ勉強が本格的になってきたので、これの更新が遅くなり始めると思います。
せめて部活戦争までは9月中に終わらせられたらなと思いますが、きっと一ヶ月に3話くらいしか書けない状況でしょうから・・・やっぱ無理かも…。

皆さんが興味を持つような文章を書こうとは思っていても、語彙力が無いと適切な表現が出来なくて困ります。
難しい表現って何か憧れますよね。それを頑張ってやって題材がずれたら元も子も無いけど。

ハイ。
1日1回はページを開いてますが、その時に書く量は雀の涙も驚きの超少量なんですよね。だから全く進みません。困った困った。

・・・今こうやって後書き書いているのも時間の無駄かもしれないので、この辺で終わりますかね。では。 

 

第28話  勝敗

 
前書き
急いで書いたんで、雑です。 

 
*伸太郎side

「いや~エリートぶん殴るって気持ち良いね~♪」
「コイツ…」


俺が腹を押さえながら痛みを堪えているのに対し、この女はそれを喜ぶかの様に気持ちの悪いくらいの笑みを浮かべていた。
流石にそこまでされて黙っている程、俺は落ちた人間じゃない。彼女の言動は俺の闘志に火をつけた。


「そんな事言ったってテメェよ、要は俺の頭の良さを妬んでるんだろ? 暴力でそれを解決しようなんざ、お前はバカなんじゃねぇのか?」


言えた。やれば出来るじゃないか。
別に相手が知らない奴だとか、顔見知りな奴だとかどうでもいい。
取り敢えず俺を侮辱した事を、土下座したくなるくらい後悔させてやる。


「おやおや? いっつも黙ってる割には、話す時は話すじゃん? アレかな? メールする時だけテンション上がっちゃうタイプ??」


何だこの罵声の数は。コイツは確か、テストの順位は下から数えた方が早かったよな? そんな頭脳の奴に、どうしてここまで言葉攻めされなきゃいけないんだ。・・・負けねぇぞ。


「話を逸らしても、俺がお前より頭が良いって事実は変わんねぇよ。悔しかったら勉強しな」
「典型的な返し方ね~。そんなんじゃいずれボロが出るよ~?」


何を言っても的確に返される。
コイツはきっとアレだ。何かの才能だわ。頭脳とは比例しなかったんだな…可哀想に。

ーーーおっと。
そんな事を思ってる暇はねぇ。下手すると俺が負けちまう状況だから、一瞬の油断もしちゃいけねぇな。


「ボロなんか出すことがねぇから、現にテストで満点取ってんだよ、俺は。そう言うお前は、何をやったらあんな点数取れるんだ? ボロ出まくりじゃねぇか」
「ハッハッハ。才能と呼びたまえ!」
「いや褒めてねぇよ」


話しにくい奴だな、全く。
これじゃあ何話しても、いい感じに流されちまう。
やっぱ魔術を使うか…? いや、それじゃあこの勝負に勝ったことにはならない。
取り敢えず、脳の奥底から言葉を引き摺り出す!


「そもそも、あんな暗記だけで(まかな)えるようなモノを間違うって事が有り得ないんだよ。そんなんお前、日本語喋れねぇのと一緒だからな?」
「いやいや違うよ。現に私は日本語喋ってますけど?」


ハイ出ました、例えを無視してくる馬鹿な奴。
こういう奴が居るから、学校って面倒くさいんだよな…。

ーーまぁいい。そろそろトドメを・・・


「もう分かった。どうやら、お前のそのめでたい脳はどうやっても修復不可だよ。せいぜいその小さい脳で自分の歳でも数えてな」
「へ? 私の歳は12歳だよ、簡単簡単♪ ホラホラ、次のお題は?」


くそっ、何か俺の方が恥ずかしいじゃねぇか…。
よし・・・


「何ノリノリになってんだ気持ち悪ぃ。・・・じゃあ体重は?」
「私の体重は3…ってオイ」


彼女から突然ドスの効いた声が放たれる。
まぁ女子にそんな事を訊いたら怒るも当然か。
だがこれで本性が見えてくるだろうよ。


「何か文句有るか? お題を求めたのはお前だろ?」
「ふ、ふ~ん。良いよ別に。あ、そういえば君って全っっく運動出来ないんだよね? 体力テスト(仮)の結果なんて小学生にも劣る程だったそうじゃん?」


・・・ははっ、なるほど。どうやらお互いに言葉じゃ満足に戦えないようだ。コイツは直接俺がぶちのめす。
三浦には悪いが、痛い目に遭わせないと気が済まん。
向こうもその気みたいだし、思い切り魔術を使ってやるよ。


「散々言ってくれるじゃねぇか。女子だからって手加減しねぇで良いよな?」
「言っとくけど、私はそんじゃそこらのガキ大将には負けないよ。君みたいな貧弱者には余計に負けられないね」


男勝りな女子って事か。これじゃあ三浦は大変だな。
でも俺の魔術にビビらねぇ程、すげぇって事はねぇだろうよ!


「さぁ、始めようぜ」ボワァ


炎が俺の右手を覆う。正直これを使うのは二度目だが、どうやら上手く出せているようだ。
俺の眼前の相手はこの炎を見ると、少し怯んだ様子を見せた。が、直後またも堂々とした顔付きに戻り、しかもうっすらと笑みを浮かべる。


「こんな状況で笑うとか…頭大丈夫か?」
「へーきへーき。いや~楽しくなってきたね~♪」


きっと俺だけでなくコイツの(はらわた)も煮えくり返っているだろう。笑ってこそいるが、怒りの感情が奥底に眠っているのを察せた。

にしても、炎出されてビビらねぇとか・・・何処の野生動物だ?コイツは。
おもしれぇ。一発ぶっ飛ばしてやる。


「俺を馬鹿にしたこと、後悔させてやんよ」
「そっくりそのままお返しするね」


互いに悪魔の様な笑みを浮かべた俺ら。
さて、水泳部の戦闘ってのを見せて貰おうか!!










*終夜side

「うわぁぁぁ!!!」ドタ


目の前に倒れたのは白い柔道着を着た男子。
中学生にしては立派な体躯ではあるが、それでも俺の電撃には無力だ。体格なんて関係なしに俺の電撃は対象の体を駆け巡り、麻痺させる事が出来る。
つまり、凡人じゃ俺には勝てねぇんだ。


「ざっと2チーム分はやったかな。時間は30分しか経ってないし・・・良い調子かな?」


さっきまでは色々計算しながらやってたが、そろそろ面倒になってくる。
そもそも倒した数に関しては運営がカウントしてるから、数える必要は無いんだけど。

でもって、味方が倒れているかどうかは、俺には分からない。そこら辺の伝達はされないらしいからな。


「?」クルッ


そんな事を考えてると、不意に後ろから視線を感じる。振り向いて見てみたが、誰もそこには居らず、ただただ長ったらしい廊下が続いていた。


「おいおい…怪談とか勘弁してくれよ?」


自分で感じる程、声が震えた。
別にそういうジャンルが苦手という訳では無いのだが、ただ何かそれに近い雰囲気は好きになれない。
俺は嫌な予感がするのを胸を奥で感じながら、違う場所へと歩を進めた。










*伸太郎side

「おらっ!!」
「ふっ!」ガン


俺の拳を奴はビート板で受け止める。
奴は余裕の表情を見せていた。


「男子にしては弱くない? せめてコレを破壊くらいはしようよ」


彼女はビート板をヒラヒラとさせながら言う。
くそ、どんだけ俺の拳は弱いんだ…。別に手加減とかはしてねぇんだけど…。


「ま、頭だけの人って皆そんなモンよね。さて、また悶絶させてあげようか?」


奴は意地悪そうに言う。
あの攻撃って意外とキツいんだよな…。
ーーーホントに女子なんだよな?コイツ。


「同じ手は喰わねぇっての。余裕ぶってないで、さっさとかかってきな」


俺は右手をクイクイと動かし、奴を挑発する。
そしてすぐさま、その右手の炎の威力を上げた。

相手はさっきからずっとゴーグルを掛けている。見た感じ、日光を反射するタイプだろうと感じた。つまるところ、俺の“光”は役に立たない。


「どんな手品を使ってるか知らないけど、そんな見せかけの炎じゃ私には勝てないよ!」
「見せかけかどうか…その身で味わいやがれ!」


俺はそのままの状態で突っ込む。
炎の拳がどんな威力になるのかは知らないけど、多分「熱い」と言わせるくらいは出来るだろう。
まぁ、それだけで済ます気はさらさらねぇけど。火炙りくらいはしてやらねぇとな。


「はぁぁっ!!」ブン


俺は拳を放つ。そして手応えを感じた。





ーーービート板をただ殴った手応えを・・・





「やっぱその程度か♪」


マズい。また防がれてしまった。これは間違いなく俺の“隙”だ。

そう思った時には、俺の腹に拳がねじ込まれていた。










*晴登side

大地とも別れ、新たに敵を探し始める俺。
だが一向に人の気配を感じる事が出来ず、時は止まることをせずにずっと進み続けていた。

そして俺の足はある所で止まる。


「理科室…」


俺が立ち止まった場所は、校舎の2階にある理科室の真ん前だった。窓からの景色は全て黒いカーテンによって遮られている。よって、外から中を確認することはできない。
何故かよく分からないが、とても此処が気になる。変な感じ・・・

いや待て。よく考えたら、此処は何処かの部活の部室。もしかすると誰かが潜んでいるかもしれない。
危ない危ない。すぐに此処から離れないと・・・。


そう思った俺が理科室を離れようとした矢先、後ろから何かが俺の腕を掴んだ。


「ひっ!!?」クルッ


反射的に振り向いたが、時すでに遅し。口元にハンカチらしき物が当てられ、その後俺の意識は途絶えた。










*莉奈side

マジでめっちゃ頭に来るわ~この子。晴登はこんな奴と関わってて大丈夫なの?
今結構良いパンチが入ったと思ったんだけど…まだ平気そうなんだよな。

私は今、クラス一の・・・いや学年一の秀才と戦闘をしていた。
右手から炎が出ているのだが、そこら辺のトリックはきっと難しいのだろう。考えない事にする。
向こうも怒ってるようだけど、まぁ女子を侮辱したっていう罰を償って貰おうかな。物理的に。

ーー物理的ってどういう意味だっけ?









*??side

どうして私がこんな競技に参加しているのだろうか。まぁ先輩方の大体が参加を拒否したから、1年である私に役目が回ってきたと考えるのが妥当なんだけど…。


「あんまり闘いとかしたくないな…」


私は平和主義である。戦争なんてモノはこの世には必要ない。喧嘩だって同じだ。あんなモノは必要ない。
平和な世界だったら、誰もが安心して暮らせるのだから。
え~と…「正当防衛」という言葉は…まぁ見逃しておこう。私は今そんな状況だし。

それにしても、この競技に参加するということなら、もう少し画期的な道具は無かったのだろうか。確かに美術部に戦闘向きの道具が有るかと言えばそうでは無いし、もし有ったとしてもきっと使うのを拒みたくなるような物ばかりだろう。危ない物だけは勘弁してほしい。


「魔術部・・・」


私はふと、過去を思い出す。
両親に連れられ行った温泉旅館。そしてそこで不思議な体験をしたことを。
あの時偶然にも出会った彼が身を挺して私を守ってくれたから、私は今此処に居れる。感謝してもし切れくらいだ。
そもそも私が原因で起きた事態だったのに、彼はさも自分が悪いかの様に私に謝った。謝罪したかったのはこっちの方なのに。
ホントに彼には感謝してもし切れない。何か恩返しとかしないとな・・・。


「ん?」


過去をゆっくりと振り返っていた私の目に、何やら険悪な景色が移る。男子と女子の格闘。遠目ではそれしか確認出来なかった。


「喧嘩…」


私はそう感じると、すぐさまその場所へと向かった。










*伸太郎side

腹痛ぇ…。

俺は腹を抱える様に抑えながらそう思う。
だが、攻撃を受ける直前に体を捻ったのが幸いしたようだ。何とか一度目受けた場所とは違う場所に受けれた。
もしこれで同じ場所に喰らってたら・・・正直ノックダウンしてた自信がある。
だから、そうならなかったのは戦闘においてデカい。


「しぶといわね」
「残念だったな」


奴は「まだやるのか」といったような目で俺を見てきたが、悪いがここで終わるつもりはない。
この勝負は意地とプライドに懸けて、絶対に負けられないのだ。


「もう一発行くよ!」
「返り討ちにしてやるよ!」





「二人ともストップ!!」


「「へ??」」


不意に横から放たれたその声に、気持ちが削がれる。
誰だよ邪魔した奴は・・・


「二人とも喧嘩はダメ。もっと穏便にしないと」


そう言葉を続けていたのは、『清楚』という語がよく似合いそうな少女だった。
しかし俺はその顔を見て、何かを思い出す。
この女は確か・・・


「どうしたの? 優菜ちゃん」


戸部 優菜。学年2位の頭脳の持ち主。
でもって、俺らの合宿の時に偶然出会った人だ。

しかし、何の用なんだ? “穏便に”って・・・?


「二人とも喧嘩はダメ。平和主義じゃないと」


平和主義だ? どこぞの憲法みたいな事言いやがって。
大体、この競技はそういうモンだろうが。平和も何も無い筈だろうに…。


「『平和』って言っても優菜ちゃん、これは勝負なんだよ? 避けられない事態だと思うんだけど…」


この意見ばっかりはコイツに賛成である。喧嘩の様に見えるけど、それは仕方の無い事なのだ。
この女の言い分は何なのだ?


「それは分かってる。だからこそ、出来るだけ穏便に済ますの」
「お、穏便つったってテメェ、やり方はどうすんだよ?」


少々つっかえたが、俺は彼女にそう言う。
穏便な戦闘なんて、思い当たる節が無いのだ。


「簡単ですよ・・・





ーーージャンケンです」


「「……」」


それを聞いた俺らは唖然とする。
勝手に乱入してきた上に、ジャンケンをしろだのと命令して・・・コイツ何様だよ?
ったく、誰がそんなルールに乗るか・・・



「よし乗った。これならすぐに終わるね」

「はぁ?!」


俺は驚きの声を上げる。
何なんだよこの女。さっきまで人を散々殴ってたくせに…。


「あなたは?」


戸部に聞かれ、俺は戸惑う。
奴がこのルールを承諾した以上、俺も承諾しないと話が進まないだろう。
ええいままよ!


「一回で終わらせるぞ」
「そうこなくっちゃ♪」


奴はニッコリとそう言うと、ジャンケンの構えに入る。俺も同じような構えをとった。


「「最初はグー、ジャンケン・・・」」


引き受けてやった以上、この勝負は負けられん。
パンチの欠けた勝負ではあるが、これで勝っても奴は悔しいだろう。
ジャンケンは運。行くぞ!


「「「ポン!!」」」


三人の声が揃い、三つの手が前に出される。
俺がグーで、奴もグー。そしてもう一つの手が…パー。

・・・!? ちょっと待て。三人って・・・!?


「何でお前もやってんだよ!?」


俺がそう言った相手は戸部。何故かコイツもジャンケンに参加していたのだ。
本来の目的である、俺と奴の勝負を(ないがし)ろにしやがった。一体どういうつもりで?


「フフ。すぐに分かりますよ」


彼女は不敵に笑った。
すぐに分かるっつっても、お前がジャンケンに参加して何が変わるんだ・・・よ?


「おいちょっと待てよ」サァー


俺は血の気が引いた。それはある事に気付いたからだ。
ジャンケンの敗北。それはもしかして・・・


『暁 伸太郎、春風 莉奈。共に失格!』


そんな審判の声が何処からか聞こえた。多分放送だろう。
そうだよ。確かルールには『勝敗は審判が判断する』って書かれてた。つまり、“ジャンケンの負け”だって、審判が失格を宣言するには十分な材料なんだよ。


「嘘だろ…。じゃあ何で、お前は俺らの出す手が分かったんだ?!」


無駄な足掻きと分かっていても、偶然だと片付けられてしまうかもしれないと分かっていても、俺はそれを彼女に訊いた。


「簡単です。熱くなっている人はグーを出し易いんですよ」


彼女は「勝った」と言わんばかりの表情で、そう言った。
 
 

 
後書き
暁君がちょっと熱血キャラ染みてた今回の話。
ダメだ。お前はそうでは無い。

最後の方に莉奈の台詞が無い事は気にしないで下さい。思い付いたら書き足します。

それでは次回も宜しくお願いします! 

 

第29話  新たな標的

 
前書き
今回は魔術部部長、終夜の回。つまり、部活戦争の最後のパートになります。
まぁ、1話で終わるとは言ってないですけどね。 

 
*終夜side

残り時間は1時間位。人数も大分減り始めた。
そんな中で出会うのは、柔道部や剣道部といった猛者ばかり。俺は別に問題無いのだが、他の連中が気になる。
もしアイツらがやられて、俺もやられたら部費はゼロ。“アレ”を手に入れられなくなる。

そこで、俺にはある決断が課せられた。

『理科室に行く』
『理科室に行かない』

こういう事になる経緯だが、やはりあの部活の影響である。まず、あの部活は最後まで残ると思う。何せ奴が居る訳だし・・・。

そこで、あの部活の殲滅(せんめつ)に向かいたい。
勿論、俺1人じゃ分が悪い。ほぼ特攻状態だ。
だからこそ、アイツらにはまだ生き残って貰いたい。俺がある程度そこで部費を手に入れてやられた時、アイツらの誰かが生きてくれていれば部費は失われない。

『俺が一人で“捨て駒”として攻める』

これが今この状況で一番の策だろう。
潮時ってやつか。相討ちでも何でも良いから、あの部活を討ってこよう。










*晴登side

「…ん」


眠りから覚め、目を開ける俺。
まず目に入ったのは、誰も居ない無機質な教室の中の景色。そして遅れて、そこが理科室だということに気が付く。


「何でここに…って!」


椅子に座っていたので立ち上がろうとした瞬間、体が強制的に座る態勢に戻らされる。
理由は両手を見て分かった。


「何で手錠なんか…」


俺は今背もたれのある椅子に座っており、そして背もたれの後ろで両手が不自由になってるという状況だ。
勿論、自分で手錠をはめるなんて器用なマネも出来ないので、誰かがやったのだとは推測できる。
多分、やったのは俺をあの時眠らせた・・・


「起きたようですね」


不意にそんな声が聞こえた。
声のした方を向くと、ニヤニヤと笑みを浮かべる女子が居た。
名札を見てみると、3年生だというのに気付く。


「『どうしてこんなマネを?』とでも言いたそうな顔ですね」


続けて彼女が言った言葉…全くその通りだ。
俺は今、絶対にそんな表情をしている。この状況をいち早く解説してもらいたい。


「まぁ何も話さなくて結構です。それよりも、まずは自己紹介をしておきましょう。

私は科学部部長、“茜原(あかねはら) (ひかり)”と言います。

以後お見知りおきを」


科学部? そういえばそんな部活が有った気がする。
お、そう聞いたらこの人の容姿ってピッタシな雰囲気だ。
メガネをかけ、腰まで掛かる程の長さであろう黒髪を頭の後ろで束ね、白衣を着て・・・って、完璧だろう。

ーーいや、今は関係無いことか。
取り敢えずこの状況など諸々含め、話を聞く事にする。


「う~ん…まずは貴方を捕まえた経緯についてご説明するわ。あ、その前に確認だけど、貴方って魔術部だよね?」
「え? あ、はい」

「そう。じゃあやっぱりアイツとは関わりがあるのね」


茜原さんは不敵に笑うと、俺を見てそう言った。

『アイツ』というのは誰だろうか? この人が3年生という限り、きっと部長か副部長の事だ。それ以外は考えにくい。


「貴方への要件は1つ。部活戦争の間、人質になってもらうわ」
「・・・へ?」


サラッと言われた一言。だが、その中身に重大な単語が含まれている事に俺は気付いた。


「“人質”ってどういう事ですか?!」
「そのまんまの意味よ。貴方は魔術部に対しての人質になってもらうの。そして私達は勝利を取る」


人質…。これはえらい役になってしまった。
これでもし魔術部が負けたら、完全に俺のせいじゃん。
話を聞こうだとか思っていられないな。早いとこ脱出しないと。


「逃げ出そうなんて、馬鹿な事はしない方が良いわよ。今は黙っているけど、本気を出せば貴方なんて簡単にやれるのよ」


茜原さんの眼がメガネと共にキラッと光る。
『部長』だけでなく、『学級委員』とかいう肩書きも絶対に持ってるな、この人。
でもってちょいと物騒…。


「わ、分かりました。大人しくしてます…」
「う~ん。その言葉が本音かは分かりかねるけど…まぁ良いわ。・・・そうだ。アイツが此処に来るのはまだだろうし、ちょっと質問をいいかしら?」


茜原さんがそう俺に訊く。変に抵抗するのも危険なので、俺は頷いて応じた。



「アイツ・・・じゃない、黒木が使う『黒い電気』が有るじゃない? 貴方、その原理って分かるかしら?」



突発的な質問に、俺の頭は数秒間停止する。

茜原さんが訊いてきたアイツとは黒木・・・つまり部長だ。そして部長の電気というと、魔術である『夜雷』の事だろう。

…で、その原理? 何でそんなの訊くんだ?
「魔術」と答えれば早いだろうけど・・・やっぱダメだよな。


「使っているのは見た事が有ります。でも原理とか…そういうのはイマイチーー」
「そう分かったわ。・・・部員にも秘密にしてるって事ね…」


俺の言葉を最後まで聞くこと無く、茜原さんはそう言う。そしてブツブツと、何かを呟きながら考えていた。

…解らん。
この人と対話して分かった事だ。
自分の事を殆ど明かさず、情報だけを訊いてくる。何かの捜査か、と疑いたくもなってしまう程だ。

…俺も、質問して良いかな。


「あの、俺からも1つ良いですか?」
「ん?…そうね。貴方が私に1つ情報をくれたのだし、私も貴方に1つ情報を与える事にしましょう。して、内容は?」


スルスルと進む会話に戸惑いながらも、俺は質問をした。


「茜原先輩はうちの部長を…その、どうしてそんなに気にしてるんですか?」


適した表現が思い付かず、随分とストレートな言葉になってしまう。違う答えが返って来ないと良いけど…。


「・・・ああ、そういうこと。まぁ確かに、端から見れば執念深い女に見えなくは無いものね。良いわ、話しましょう。

簡単に言うと、私とアイツは『幼馴染み』。
昔からとても面識が有るから、気にせずにはいられないし…“ライバル”って言うと分かりやすいかしら。

今回の部活戦争もそう。私にとっては、部費よりもアイツと戦う事を楽しみにしてるの。ライバルとしてね」


長々とした答えが返って来た為、理解に時間を有した。が、言っている事は一貫している。

『茜原先輩は部長と戦いたがっている』

物騒だというイメージを更に掻き立てるかの様な考えだが、きっとそうだ。
しかし、またも疑問が生じた。


「でも俺を人質にした意味は有るんですか? 正々堂々と戦わないと・・・」

「勝手に2つ目の質問は反則だと思うけど・・・まぁその考えは理解できるわ。簡単な事よ、アイツが私との戦闘を避けられないようにする為。折角の機会なのに、戦えないのは残念だもの」


茜原さんは堂々とそう言った。
あれ、この人って思ってたより何か危ない気がする…!? 異常なまでに好戦的だし・・・。
か、考え過ぎだよな…。





「・・・さて、と。もう準備は万端。いつでも来なさいよ」


その茜原さんの声につられ、周りを見渡すと、そこにはいつの間にか3人の見慣れない人らが揃っていた。
全員が白衣を着てることからして、科学部。
しかも4人居るとなると、それは科学部が誰一人として脱落してない事を示している。ずっと隠れていたのか、はたまたーーー



ガラッ



急に開いた扉の音によって、俺の考えごと理科室が席巻(せっけん)される。
しかし、扉が自動ドアな訳も無ければ、風に吹かれて開いた訳でもない。
開けた張本人であろう人物が、扉の向こうには立っていた。


「面倒くせぇ状況だな、オイ」


最初に放たれたのはその言葉。
その一声も、全てを飲み込んだ。


「ったく、ウチの部員に手ぇ出すんじゃねぇよ、光」
「アンタが来たのなら、もう用済みかしらね?」
「なるほどね…安心しろ。ソイツを解放さえすれば、俺はお前らと戦ってやる」


部長は余裕だと言わんばかりの発言をする。
しかしその中に一瞬、安堵の表情が見られた。


「アンタの覚悟は相当なモノね。良いわ、離しましょう」ガチャ
「ふぇ?!」ヒュン


茜原さんの言葉と同時に、俺の足元の床が開く。そう、開いたのだ。
重力に従い落ちる俺。それを見て叫ぶ部長の声までは聞き取れた。





だがそれは短い時間。
俺の体は椅子ごと1階に落とされてしまう。上を見上げると、天井は既に閉まっていた。


「どういう仕掛けだよ…」


カラクリ屋敷。そんな単語が当てはまる事態に、困惑を隠せない。
しかも部長を置いてきてしまった。これも申し訳なく思う。

科学部は4人。対して部長は1人。
いくら部長が魔術を使えるといっても、茜原さんはその電気の事は知ってたし、もしかすると対策だってされてるのかもしれない。
早く手錠を外して上に行かねぇと。

周りを見ると、場所は倉庫と分かった。
面積的に狭いので、誰かが隠れているって事は無いだろう。


「皆を探しに行こう」


俺はそんな結論を立てた。
俺が部長側に加わった所で『4対2』。不利な状況は変わらない。
だったら、今生き残っている魔術部部員を集めて向かうしかない。

いや・・・誰が何処に居るかなんて分からないし、そもそも時間は限られている。この際、集めるのは1人にするか。
後は、それまで部長が持つかどうか・・・って、答えは決まってるか。



ーー部長を…信じよう。



その決意と同時に、俺は突風を起こし力ずくで手錠を破壊する。
「案外行けるものなんだな」と驚きながら、俺はすぐさま倉庫を出た。
 
 

 
後書き
特に引き伸ばす要素が無いため、今回は短くしました。
え? じゃあどうして更新が遅くなったのかって?

実は、新しく『リゼロ』こと『Re:ゼロから始める異世界生活』にハマったものですから…。
つい先日までアニメを一気に見ておりました。
お陰で、時間が取れなかったという訳です。
“異世界”か、良いですねぇ~(含笑)

さてさて、次回は部長同士が争う回です。
“奇想天外”を目標に、やれるとこまでやりたいです。 

 

第30話  部長

 
前書き
いつの間にか30話。とは言え、全体的には30話を普通に越えております。
しかも、まだ『祝!』とか言うには早いですね。100話とか行けたら祝うことにしますか。

取り敢えず、部長同士の闘いをご覧あれ!! 

 
*第三者side

「腕が鳴るぜ」


指をポキポキと鳴らしながら、終夜は威嚇する。
しかしその威力は皆無、科学部の4人はその様子をじっと見ていた。


「さっさと始めましょうかね」


そう言ったのは、科学部部長の茜原。彼女は余裕の笑みを浮かべると、白衣のポケットから何かを取り出す。
試験管。一目見て分かるのはそれ。でもって二目見て分かったことは・・・


「おいおい。何だよその液体はよ」


終夜はつい弱気な声を出す。それは、彼女の持つ試験管の中に入っている透明な液体を見たからであった。
赤色でも、青色でも、はたまた黄色でもない。水と言われても疑えないような液体がそこにはあったのだ。


「塩酸、と言えば分かるかしら」
「おっかねぇな…」


茜原は試験管を左右に揺らし、液体を吟味するかのようにウットリと眺める。
その様子はかなり不気味に思えた。


「それはそうと。終夜、アンタの使う雷の原理、教えてくれたりしないかしら。あの子に訊いても無駄だったし」
「それは都合が良いことだ。悪いが、お前には言えないよ」
「幼馴染みでも?」
「幼馴染みでもだ」


心を見透かすくらいの睨み合いが続き、互いにニヤッと口角を上げる。
笑えるような事が遇った訳でもなく、無意識に。


「そう。じゃあ力ずくで聞き出すことにするわ」
「お前の科学脳は物騒なもんだな。大体、何で俺の魔zy・・・、…雷が気になるんだよ」
「そりゃ、大気から急に雷を生み出すだなんて、そんな科学者の心を(くすぐ)るような物、知りたくない訳が無いじゃない」


茜原が自分の思惑を説明する中、一瞬の間違いに気付かれなかった事に安堵する終夜。
今は何かの科学だと彼女は考えているが、これが魔術とバレた時、何が起こるかなんて想像がつかない。
きっと、マイナス方向に話が進むのがオチだろうが。

そんな事から終夜もまた、魔術を茜原に話すのを拒んでいた。


「4対1。現実的に考えて、私達の勝利は明白だけど。アンタはどうするの?」


そう訊かれ、割と真剣に悩む終夜。

一気に放電したりして一掃するのは?と考えるが、さすがにそれは怪我が発生すると判断し、却下。
強行突破で一気に感電!も良いかと思うが、そもそもあの塩酸がそれを防ぐ盾の役割を担っており、時間的に猶予を与えてはくれそうにない。却下・・・


「あれ、もしかしてこの場面は他力本願??」


一人でに呟く終夜。彼は自分が集団相手には意外に向かないという事を察した。
手加減しなくて良いのならその逆なのだが、相手は生徒で場所は学校。無理だという条件は揃いまくっていた。


「あら、随分と弱気じゃない。諦めた?」
「んな訳あるかよ。ちょっと状況把握しただけだ。別に俺だけで勝てる」


強がりにも聞こえてしまう発言をするも、茜原に言及される事は無かった。そんな中、終夜は科学部の部員を一人ずつ見て強さを独断で判断する。
茜原以外は男が2人で女が1人。男女1:1で都合が良さそうな組み合わせだが、比較的非力な女子が突破口である事は確実。
ちなみに4人の位置関係だが、まず茜原が終夜がいる入り口から最も距離が離れた所に立っており、男子2人が茜原の傍、残りの女子が茜原から少しだけ離れた所に立っている。

そんな状況下、終夜は茜原でない女子に狙いを定めると、直後一歩を踏み出した。


「!!」


彼女は自分が狙われている事に気付いたようだ。
いや、彼女だけでない。4人全員が気付いたようだった。
終夜は一歩一歩床を踏みしめながら進む。さっきの落とし穴的な仕掛けが無いとは限らない。
『石橋を叩いて渡る』。まさにそれを具現化したのが、今の終夜だ。


「……」


終夜が向かってくる中、特に言葉を発さない茜原。距離にして、残り3m。
しかしその頭には何か考えが有るのか、彼女は焦った様子すらも見せなかった。

ーー刹那。終夜が跳んだ。


「おらぁっ!!」


たち幅跳びの要領だ。前へと一気に跳び、更に右手をつき出す。
その不意打ちには、流石に茜原も反応した。

右の掌に夜雷を纏わせたのが原因か、はたまた普通にビビったのか、それらの真実はどうでも良い。
終夜には、コンマ数秒後に命中するかしないかの技を、何としても当てる事に力を尽くすしか無かった。

使った魔術は“麻痺”。油断する相手らを、連続して麻痺の掌でツッパる。もし成功すれば、圧勝も良いとこだ。
ただ、1人を痺れさせた後も、連続して全員を痺れさせなければならないので、リスクはかなりデカい。
それでも終夜は、自らに誓った『特攻』を果たすべく、勝負に挑んだ。


地面に着地。4人の眼前だ。
そしてまず女子の肩を軽く叩く。勿論、それだけで女子は力を失った。
次は男子2人。手を伸ばして捕まえようとしてくるので、手が触れた瞬間に電流。彼らもダウンした。
最後に茜原の方を向く終夜。

・・・直後、殴られる感触を味わった。





「ゴム手袋とか勘弁してくれっつの」
「あら、これくらいの常備は普通だけど」


茜原に殴り飛ばされ、2m程先に倒れた終夜。
そして自身の電撃が効かなかった理由…ゴム手袋を睨み付ける。


「でもお前の部下は大した事ねぇな。一瞬で片付いたぜ?」
「最初から期待はしてないわよ。だって彼らはただの科学者。戦闘なんてできっこないもの」


「当たり前じゃない」と最後に付け加える茜原。
終夜はそれを聞き、少々腹立たしさを覚える。
だけども、彼女の言うことに間違いは無く、さっきの部員は数合せに過ぎないのだと察した。


「始めから敵はお前だけだったのか」
「いや、彼らには『準備』を色々と手伝って貰ったし、アンタの敵じゃないと言えばそれは間違いかしら」
「『準備』?」
「そう『準備』。アンタをこのゴム手袋もその一部だけど、もっと大きい『準備』を、ね」


勿体ぶるように茜原は言う。終夜は、それが示すのは自分を苦しめる道具だと判断し、探りを入れ始める。


「その準備とやらは、もう終わってる訳か?」
「ええ。ポチッとすればすぐにでも」


その表現を聞いた終夜は1つの仮説をたてる。
それは、彼女が用意したのは『機械』だということだ。
完全に推測なのだが、「ポチッと」と言った辺り、何らかの装置の起動を意味している筈。そして、それで撃沈させる算段なのだろう。


「面白ぇ。だったらさっさとやってみやがれ」
「すぐに切り札は勿体ない事この上無いわ。まずはじっくり楽しもうじゃない」


横目で時計を確認。残り時間は40分余りだ。
それを知った終夜は指をポキポキと鳴らし、拳を突き出して高らかに叫んだ。


「手加減してっと、後悔すんぜ!」










*晴登side

「はぁ…はぁ…」


廊下の壁に手をついて休むのは、初めてではない。
もうかれこれ10分は走っているのだが、仲間どころか敵さえ見当たらない始末だ。
だからこんな無防備に呼吸していても、狙われる事なんて無かった。


「暁君、副部長、何処…?!」ダッ


探し相手の名前を呟きながら、また走りを再開する。
廊下の端から端、階段の上から下・・・普段運動をしない俺にとっては、過酷を極めた。


「やばっ、そろそろ横腹が…」


長距離走るとよく起こる横腹の痛み。それが起こった俺は、涙目になりながらも走りを続行する。

だがついに、その努力は報われたーー


「はぁ。さっきの子の耳ってホントにどうなってんだろ…?」
「……副部長!」


階段の踊り場。上から降りてきた俺に対し、下から上ってきたのは副部長だった。
ブツブツと何かを言っているようだが、そんな事はお構い無し。俺はすぐさま本題を切り出した。


「…三浦? どうしたの、そんなに息を切らして・・・」
「部長が大変なんです! 一緒に来てくれませんか?!」


部長の名前を出した途端、副部長のキョトンとしていた顔が真顔になる。


「え、アイツが? それってどういう状況なの??」
「科学部です。4人全員で部長の相手をしてるんです!」
「!!」


副部長は驚いた様子を見せ、直後「マズい…」と一言。
きっと茜原さんの存在を知っていて、何らかの思い当たる節が有ったのだろう。
副部長は少しだけ考えた様子を見せると、俺に言った。


「場所は理科室?」
「はい、そうでーー」


俺が言い終わるよりも早く、副部長は階段を駆け上がって行く。
一瞬俺の思考が停止するが、「このままではいられない」とすぐさま副部長の後を追った。










*終夜side

ドガァン


「もう終わり、というのはつまらないのだけれど?」


ドアに体をぶつけ、不格好な音を響かせてしまったのは俺。
それに対し、そう皮肉を言うのは俺の幼馴染みである光。今しがた、コイツが俺を蹴り飛ばした所だ。


「おうおう悪うござんした。生憎、肉弾戦でお前には敵わないんでな」


俺はそう吐き捨てると、再び立ち上がる。
彼女が装備しているゴム手袋。アレのせいで、先程攻撃の選択肢から“魔術”を消された。
お陰で、勝ち目の無い肉弾戦を強いられている。

ちなみに言うと、光は空手やら柔道やら、武道は完璧なのだ。だから、男子相手だって喧嘩で負ける事は昔から無かった。
まぁ、まさか俺が餌食になる日が来るなんて…。


「つーか、どうやったら白衣でそんなに動けんだ。何か色々無視してねぇか?」
「私の白衣を甘く見ないで頂戴。そりゃ勿論、いつでも格闘できるように重量や材質は計算され尽くしてーーー」
「聞いた俺が馬鹿だったよ!」ブン


気になる事を問うてみるとこのザマだ。
余りにも面倒なんで拳を振るってみる。
幼馴染みという事で付き合いも長い訳だから、手加減は一切無し!


「はいそうですか」バキッ
「がっ!?」


だが見事に鳩尾(みぞおち)を拳で捉えられる。その痛みに、たまらず攻撃の構えがストップ。しかも床に倒れ、悶絶してしまう。


「痛てぇ~。お前加減しろっつの」
「加減しないで殴ってきたのはどっちよ」


前言撤回。というか条約改正を求める。
俺は加減不要で、コイツは絶対加減。これさえ成り立ってしまえば、勝機が有る筈だ。成り立てば・・・って、あれ?


「お前、塩酸どうした?」
「あら今頃? もしかしてずっとビビったりしてたの? あんなただの水に」


俺はその言葉に耳を疑う。だが、それが彼女の策略だと考えると合点がいった。


「俺って最初から騙されてたってか? そりゃねぇぜ」
「嘘に気付かないアンタが間抜けなだけよ」


彼女は落胆の意を隠さずにそう言う。
何かの期待でもされていたのか、それは分からない。
でも今の彼女の心境は何となく分かる。例えば・・・


「『こんなのと幼馴染みとか恥ずかしい』みたいな」
「言葉に出てるわよ。アンタって本当に下らないわね。どうやったらそんなにめでたい脳に育つのかしら」
「毎回理科満点の脳に言われるとか、誉め言葉かよ」


俺のふざけに対して、容赦なく入る口撃。俺も負けじと皮肉にならない皮肉を言い返す。
なんだよ、何か悲しくなってきた。





さて。さっきからの様子で分かるが、コイツは俺にかなりの敵対心を持っている。理由は不明だが・・・何かしらの恨みでも有るのか…?


「呆れた。アンタ今下らない事考えてたでしょ?」
「下らないっていうのは誤解だ。つか何でそう思ったよ?」
「付き合い長いんだから、それくらい分かるのよ。てか、アンタ本当に面倒くさいわ。そろそろ止め刺してあげようかしら」
「ようやく真打登場ってか。何が出てきても、全部ぶっ壊してやるよ」


俺は快活に言う。光はそれに不敵な笑みで応えた。


「元気なこと。けど、これを見てまだそんな事言えるのかしら」
「何度でも言ってやんよ。お前の科学なんて全部俺が打ち砕いてやる!」


静寂。俺はそれにいち早く気付く。
今のは少し言い過ぎただろうか。でも、それを訂正できる雰囲気ではとうに無くなっていた。



「そう。分かったわ」ポチッ



理科室に響いた声。それは光によって(つむ)がれたものだった。
どこか儚げで、それでいて不気味な声。
その中で、彼女がスイッチらしき物を押す動作がよく目立った。

ーースイッチが…押された。

彼女が用意した最高の仕掛け。
俺を潰す為に用意した最大の武器。
その解放が今、行われた。


「出てこい!!」


光は叫んだ。その声に呼応して、光の目の前の約1m四方の床が開く。
そしてその穴から何かが出てくるのを、俺は見た。


「ロボット…?」
「唯のロボットじゃないわ。“戦闘用”のロボットよ」


俺の驚愕は尋常では無い。
目の前に出てきた体長2m程のロボット。スタイルが良い人間、といった形状だろうか。
黒と白のシンプルなカラーで統一されており、頭部はバイクのヘルメットみたいな具合だった。


「随分とかっこいいな」
「そりゃデザインは大事だからね。結構苦労したのよ」


誉めて、と言わんばかりの光の態度。だが、俺はそれに反応する事が出来ない。
率直に言った感想もそうだ。何かしら言葉を発さないと危険だったのだ。

殺意。俺はそれに近いモノを感じた。

ロボットではなく、光からだ。

彼女は薄く笑い、静かに言った。


「痛くしないから、大人しくしててね」
 
 

 
後書き
祝とか何とかほざいてたら、文章が急に細々し始めて自分で自分が恐ろしくなったこの頃。
次回からちゃんと元に戻しますよ。今回は調子乗ってただけだろうし。

・・・とか思っていても、グダグダなのは変わらない。特に後半。
クライマックスまでの盛り上がりが欠けるなぁ…。
修正…できるかなぁ…?

ハイ、悲しい俺の話は置いといて、気になった事が1つ。
『光』って名前凄く遣いづらい。
え、絶対思いましたよね? 「この“光”は何を意味するんじゃ~!」って。流石に気付けば分かるけど、俺は一瞬間違いました。
「光によって紡がれた」とか超幻想的じゃん!と、こんな具合で。

うーん…自分の痴態を晒しても悲しくなるだけだ…。
・・・また次回に会いましょう!(←無理やり) 

 

第31話  守る者

 
前書き
科学部部長ブチ切れから入ります。 

 
光が持っているのはリモコンだろうか。
家庭用テレビゲームのコントローラーみたいなヤツだ。
操作対象は…間違い無くこのロボット。何の感情も(あらわ)にしない、随分と有能な“殺人者”だ。

ーーそう、殺人者。
そんな形容が一番ピンと来た。盛っていないといえば嘘になるが、少なくとも半端な気持ちでそうは例えない。
戦闘用ロボットって名前の時点で(ろく)な事にならないのは分かり切っているが、それ以上の危険なオーラを光を通してヒシヒシと伝わってくるのだ。

正直、超ビビってる。

光単体なら、まだそんな事は起きなかった。
でもロボットが揃うと…()も言えない恐怖を感じてしまう。


「大人しくしていれば痛くしない…って、いつの時代の脅し文句だよ? 正直、この状況じゃ笑う気も起きねぇけど」
「科学者の前で『科学を打ち砕く』だなんて言うからよ。怒らないとでも思ったのかしら?」
「そんなに敵意を向けないでくれよ。何か悲しくなっちまうだろ?」


いや、悲しいという次元ではとうに無くなっている。
今にもあのロボットが襲い掛かってくるやもしれん。
本当にそれだけは恐怖を感じた。


「アンタを倒す事が私の目的。そしてアンタの目的は…科学部の殲滅かしら。お互いその意思で戦おうじゃない」
「凶悪な武器取り出しておいて今頃何を。マジで勝機薄い気がするぞ?」
「アンタの雷はその程度なの? まぁ、このロボットに電気は効かないんだけど」


最後に言われた一言。
それを聞いて、更に勝機が薄くなったのを察した。
電気が効かないのであれば・・・俺の手でロボットを倒す事はほぼ不可能である。
つまり、必然的にロボットでない標的ーー光を狙わなければならない。


「いやいや、ロボット無視して攻撃してもどうせ防がれるオチだろ、これ。俺は何をしたら良いんだよ?」
「そう思うのなら大人しくしてて頂戴。ただ、楽しませてくれないのには反対かしら」
「物騒過ぎて余計に恐いんだが」


身を震わせ恐さをアピール。
それを見ても光の表情は揺るがなかった。


「もう…始めようかしら」


彼女の指がリモコンの上で動く。
それに呼応して、ロボットの足が動いた。一歩、一歩・・・さながら人間の様な滑らかさで。

俺に向かって歩いてくるロボット。その様子を背後から見ている光。そして、その兵器に少なからず怯える俺。
とてもじゃないが、俺がピンチな構図だ。そもそも、ロボットが助太刀したイコール、2対1の状況が出来上がってしまう。今隣に“仲間”のいない俺は不利まっしぐらだ。

先程三浦が1階に落ちたが…無事だろうか。
辻と暁はまだ平気なのか。
部長だってのに何も知らない。無様な話だ。でも、俺のやる事は決まっている。
そう『特攻』だ。


「弾けろ」バチッ


俺は指鉄砲を構える。これが今俺に出来る手段。
あわよくば、全てを成功に導ける。
そういえば、三浦たちにはまだ教えて無かったんだっけな、この技。射程も威力も申し分ない・・・それこそ本物の鉄砲に引けを取らないくらい。

指に魔力を纏わせ、凝縮させ、そして一気に・・・放つ。



風を切って鳴る轟音。
地震でも起きたのかというほど、理科室が震える。
辺りには閃光が散り、風圧が部屋全体を席巻した。
その現象の中心、黒光りした軌跡を描く魔力の凝縮された弾が、一直線にロボットをつき抜けようとする。



ーーーしかし、それは鎮火した。別に炎が、という意味ではない。
ロボットが右手を前に構え、その掌を弾に向けただけで・・・電撃は力を失ったのだ。



「・・・理屈が解らん」

「アンタのそれほどじゃないわよ。まぁ、それがただの電気と性質は変わらないと分かっただけ収穫だわ」
「何かすげぇ馬鹿にされた気分だぜ…」


確かに、俺の電気は普通の電気と何ら変わりは無い。
だから、普通の電気への対策が出来れば、必然的に俺の電気も防げる事になる。

まとめると、彼女が先程言った言葉・・・「ロボットに電気は効かない」は事実だった。


「おいおい、俺の格闘術は光にも劣ってるんだぞ? なのに、その中で電撃無効のロボットと戦うとか…無理ゲーだわ」
「諦めるなんてらしくないじゃない。さっきまでの大口はどうしたの?」
「それ言われると退くに退けなくなっちゃうんだが…」


でも策は無い。打開可能性は低パーセント。
そもそもロボットと戦う事が予想外。これじゃ犬死にもいいとこだ。
残り時間にも余裕があるから、時間切れを狙うのは無理がある。
ゆえに・・・


「ここまで何も出来ないって分かると、超つまんねぇな」
「素手で挑む、って選択肢ぐらい無いのかしら?」
「生憎、持ち合わせちゃいねぇわ。3秒で土下座するのが目に見える」


恥ずかしい。これが俺の今の感情だ。
大口を叩いていたのにも関わらず、やれる事を無くして一方的にやられる。これを恥と言わずして何と言う。

やっぱここはアレしかない。
『ロボットを何らかの方法で突破して、光を痺れさせる』、これだ。
『何らか』の部分は・・・どうしようか。
フェイント…陽動(ようどう)…強行突破…、って、どれもロボットには通用しねぇじゃねぇか、クソ。


「今にも泣きそうな面して何を考えてるの?」
「誰が泣いてるかアホ。全然泣いてねぇから、1mmも泣いてねぇから」
「じゃあその瞳の潤いは何を示しているの…」


これは泣き目ではない。
己の無力さと状況の害悪さに、目も現実逃避を始めただけだ。そうなのだ。
決して「何すれば良いの~ママ~」とか言う、幼児の様な状態になっている訳ではない。うん。うん・・・


「諦められると、こっちの気が削がれちゃうってものだわ。早く楽しませて頂戴よ」
「サディスト発言止めろや。今の俺の心は煎餅(せんべい)もいいとこなんだよ。それ以上言うと快音立てて割れるぞ」
「それは楽しそうかしら♪」
「墓穴掘ったわこんちきしょう!」


いつの間にか、端から見れば談話に見えなくもない会話になり始めた。
光の敵意も感じられなくなり、初期状態にリセットされたと言うべきだろうか。
その現状に俺は安堵し、目から涙が消え・・・もとい、目も現実逃避を終えていた。


「元気が戻ったみたいね。私も少し気分が晴れたわ。今ならアンタのさっきの発言も許せるかも」
「許して、マジ許して、超謝罪するから、ロボットの刑だけは許して」
「何その謝罪…」


本心からの謝罪をして光を呆れさせる。
だがこれで良い。状況ひっくり返した俺、マジGJ。

そして俺は眼前のロボットを見据える。
ソレは、先程歩き始めてから俺の攻撃を防いだ場所で、今にも歩き出しそうな格好をして静止していた。


「でもって、そろそろロボット片付けてくれない? これじゃあ一対一(サシ)の勝負が出来ねぇぜ」

「え、ロボットと一対一(サシ)じゃないの?」

「人外とは戦えねぇよ!」

「…残念だけど、コレは私たちの努力の結晶。雨の日も風の日も雪の日も雷の日も、ずっと作ってきたの。だから、もう人として扱ってあげても良いんじゃないかしら?」

「いや、そんなに大事な物ならこんな場で使うのはどうかと。つーか、理科室で作ってんなら天気関係ないだろ!」


さらっと「このロボットを壊すような事が有れば…どうなるか分かるよね?」と、言外に言われた気がするのは俺だけだろうか。
また冷や汗がタラリと頬を伝う。そんな中、ユーモラスな発言で感情を誤魔化そうとする俺。

マズい、マズいぞ。状況が悪化した。
『ロボットの破壊』という手段が使えなくなったのだ。
もし破壊したら・・・命は無いだろう。光の手によってリンチ確定だ。
厳しすぎるーーー





「黒木!!」ガラッ

「「!!?」」


突然に開いたドアと響き渡る声。
その声には聞き覚えがあり・・・


「辻!? 何で!?」


俺は相手の名を呼びながら、何故此処に来たのかを問う。


「三浦に呼ばれたの! アンタがピンチだからって!」
「三浦が…? 今何処に居る?」
「私の後ろを・・・って、三浦早く!」

「いや副部長速すぎ…」ゼェゼェ


辻は理科室の外に呼び掛ける。すると、ヘトヘトというのが見て取れる三浦が姿を現した。


「大丈夫か、三浦?!」
「えぇ。怪我も特には。強いて言えば疲れました…」
「この様子じゃ、ずっとアンタを助ける為に奔走してたみたいよ。良かったわね、部長」
「あぁ助かった…」


希望の光が差した瞬間だった。
俺一人では何も出来ないが、三人も揃えば文殊のなんたらである。
これなら作戦の幅が広がる…!


「おい辻、聞け! 実はだなーーー」
「やっぱりアンタね、茜原。理科室の真ん中にデカい像なんか用意して・・・何のつもり?」
「像とは心外。これはロボットよ。戦闘用のね」
「戦闘用? 随分物騒ね。こんなもん斬ってやる!」スチャ


俺の言葉を無視してそう言った辻は、剣を構える。
・・・っておい、ちょっと待て。流石にその展開はダメだ。ソレを壊したら…


「はぁっ!!」ジャキン

「「っ!!!」」


斜めに切断されたロボットは、音を立てて崩れ落ちる。俺が静止の声を出すよりも早く、辻は入口から一瞬のスピードでロボットに這い寄り、斬ったのだ。
そのロボットの惨状を見て驚くのは俺と光。

光の表情が、消えたのを感じた。


「ん? 戦闘用の割には、簡単に斬れるのね。欠陥品じゃない」
「辻、もう止めろ!」

「……」


図らずも光を刺激する発言をした辻。
俺は慌てて制すも、“時すでに遅し”だろう。

辻は俺の言葉の意味が分からないのか、俺を振り返る。

その背後から、辻の首もとに伸びる二本の腕を、俺は見た。


「ぐっ…」


腕は辻の首を捉え、絞め上げ始めた。
元々体格が屈強とは程遠い辻だ、逃れられる訳が無い。
俺は助けるべく、一歩を踏み出した。


「辻!」

「邪魔」ゲシ
「がっ!」


が、しかし、光の回し蹴りによってそれは阻まれる。
壁へと容赦無くぶつかり、僅かに口から空気が吐き出された。

その様子を見た光は、自分よりも小柄な辻の首を軽々持ち上げ、不敵に笑った。


「残念ね。あとちょっと」
「お、おい光。そんな事言わずに勘弁してくれよ? ソイツだって悪気は無かったんだから」

「悪気が無い、か。でも私が侮辱されたのは事実。アンタだってこの女とはよく喧嘩してるし、この辺で痛い目に遭ってもらうのは好都合…でしょ?」ギリ

「ーーーっ!!」


光はさらに辻の首を絞める。声にならない叫びを上げ、苦しむ辻。
必死にもがき、首を絞める手を放そうとしている。
遠慮の無い絞首は、このままでは危険。

だから、その光景を黙って見てるほど俺の趣味は悪くないし、好都合だとも思わないのだ。


辻は・・・仲間。


大した関係ではない。魔術部の部長と副部長。それだけだ。
でも、仲間とは呼べる存在ではある。
未だに入口につっ立って、状況に思考が追い付いていない三浦だって仲間だ。
今何処に居るか分からないけど、超天才の暁だって仲間。
魔術は使えないけど、魔術部を盛り上げてくれる2年生のアイツらも・・・仲間なのだ。

じゃあ仲間を守るのは誰だ?





ーーー部長だろ?





「おおぉぉ!!」ダッ



俺は駆けた。仲間を守る為に。

俺は近付いた。凶悪な科学者に。

俺は蹴られた。でも堪えた。

俺は手を伸ばした。辻の元へ。

俺は奪った。光の元から。

俺は抱えた。辻の小柄な躯を。

俺は見据えた。光の姿を。

そして・・・俺は無我夢中で叫んだ。



「俺は黒木終夜!! 魔術部部長にして、仲間を守る者だ!!!」

 
 

 
後書き
部長活躍回。といっても、まだ碌に戦闘出来てない…。なんたる不覚。
ドゴーンってやって、バヒューンってして、バシッと決めてやるつもりだったのに…。

そして読み返して解ること。
『素晴らしいくらい展開の早いご都合主義な文』
文章の評価としては底辺かと思われます。
「もうちょい言葉を練れねぇのか!」というツッコみは無しでお願いします。

さて。次回で終わるだろう、部長VS.部長ですけども、物足りないと考えるが俺の思想。
もっとこう、一回転する展開無いかな~と、ひねもす考えております。
だがしかし! これ以上続けてしまっては、次のストーリーの前に『受験勉強まっしぐらシーズン』に入ってしまう!!
それだけは避けたい始末です。何としても、次のストーリーまでは今年中に書きたいので。
・・・特に意味は無いけど(ボソッ

という訳で、後書きは早めに切り上げて、ちゃちゃっと次の話を書かねば! ではまた! 

 

第32話  凶悪な科学者

*晴登side

副部長を優しく抱きかかえ、今しがた高らかに叫んだ部長。
その双眸(そうぼう)はある人物を見据え続けている。

一方見据えられている人物は、露骨に嫌悪感丸出しの表情をしていた。


「何で邪魔するの?」


静かに、それなのに重みのある声。
俺が少しの間で聞いた彼女の声の中では、最も低い。


「こいつは仲間。そして守るのが俺だ、ってだけだ」


部長はそう答えながらチラリと副部長を見て、再び前を向き直す。
その顔には笑顔なんて存在せず、ただただ鋭い視線を相手に向けていた。


「友情、みたいなものかしら? 生憎私の“仲間”とやらは全員やられたけど」


その声の主はぐるっと周りを見渡すと、ため息をつく。
俺も同じ景色を見たのだが、驚きを隠せなかった。


俺が先程理科室から消えて、今に至るまで10分は過ぎている。
部長が4人倒すのには十分な時間だと思っていた反面、科学部は他の部活とは違うのでは無いか、という後ろ向きな考えが俺には有った。
そしてその解答は、半分正解、半分不正解という結果に終わる。

俺が再び理科室へ来た時、科学部は部長を除き全てが倒れていた。その時点で既に少しビックリしたが、何よりも部屋の中央に、戦闘用ロボットが立っていたのが驚きだった。
副部長はそれを容赦無く斬り捨てたが、きっと彼女ーーー茜原さんが怒っているのはそれが理由だろう。
戦闘用ロボットを作るのにどれだけの時間と労力と費用が掛かるかは、俺には想像つかない。
だからこそ、それを破壊された茜原さんは、怒って副部長の首を絞めたのだ。


・・・と、俺がここまで理解したのは冒頭と同時である。
そして、これを知った俺の考えは一つに固まった。


「部長、俺も戦います」


入口から部長の隣へと歩み寄る俺。部長が驚いた顔をしてこっちを見てたが、納得したのか声を掛けてきた。


「ようやく行動か。正直助かるぜ。アイツと一対一(サシ)じゃ勝ち目が無いんでな」
「え?」


衝撃の発言をした部長に、俺は拍子抜けした表情を見せる。
それを見た部長は怪訝そうな顔をしたが、直後「ハハッ」と軽く笑った。そして俺に茜原さんについて教えてきた。

勿論、その内容には唖然とする以外無いだろう。部長が敵わないのも納得がいってしまう。正直、俺が入った理由は有ったのかというほど、彼女は強いらしい。
これを聞いて少し戦うのを後悔したのは、ここだけの話だ。


「そ、それ勝機あるんですか…?」
「2人でも厳しいってのが現状だ」
「えぇ…」


思わず情けない声を洩らしたのは俺。
だが部長はその気持ちが理解できるのか、俺を咎める事はしなかった。


「まぁ何だ…お前は俺が守ってやるからよ、心配すんな」


部長がこちらを見て笑いかけてくる。その表情には曇りなど無く、清々しいくらいだった。
今までに見たことが無いくらい爽やかな・・・それでいて安心出来る笑顔。これを見てしまったら、「あぁ、やっぱり部長なんだ」と思わざるを得ない。カッコいいなーーー



「にしても、コイツ意外に邪魔だ。ちょっとそこに投げていいかな?」

「俺の感動返して下さい! ぶった斬りますよ!」
「え、お前が斬んの!?」


“コイツ”というのは、部長が抱える副部長の事。顔色は悪く、危険そうな状態であるのは目に見える。
つまり、そんな人物を小馬鹿にするような今の部長の発言は、俺の感動を一瞬で霧散させ、逆にイラつかせたのは言うまでもない。
そして、さっきまでの部長の評価の全てがドン底になった瞬間でもあった。


「あ~そう怒んな。何処かに置きたいって意味だから…」
「メチャクチャ素に聞こえましたよ?」
「俺ってどう思われてんの?!」


口で辛辣な言葉を放つ中、俺は心の中では安堵していた。
俺は魔術部。そんな思想が頭をよぎったのだ。
今こうして部長と話していると、どうもそれを感じてしまう。
やっぱり此処が、俺の居場所なんだなって…。



「…お楽しみ中悪いけど、影が薄い扱いされると余計に腹立つわ」

「おいおい、別に忘れちゃいねぇぜ? 俺はただ、後輩の緊張をほぐしていただけだ」


俺が思い(ふけ)る中、茜原さんは唐突に呟いた。
それに反応したのは部長。彼はしっかりと相手に言い返す。
それで茜原さんの機嫌が更に悪くなったのは、見て取れてしまったのだが。


「その後輩も、今にその女みたいにしても良いのよ?」
「まだ首を絞め足りないってか? サディストも大概にしろよ」


そして始まる言葉の戦い。
だが、これを唯の言い合いと見る事は、俺には出来なかった。

部長は静かに、副部長を理科室の隅に寝かせた。被害が届かないようにする為だろう。

部長の隣に立った時点で分かっていた。
彼が静かに怒りを感じており、俺にはその気持ちを誤魔化そうとしているのを。
この口論の終わりが来るのは、そう遠くない。


「つくづくイラつかせてくれるわね。昔はもうちょっと善人だったと思うけど?」
「過去は過去だ。まぁ俺的には、お前はもうちょい大人しかった気がするけどよ」


この言葉が、戦いの火蓋が落とされる引き金となったのは、俺にも伝わった。
二人の足が、同時に、強く踏み出される。

部長の拳が茜原さんへと向かう。躊躇は感じられない。性別なんてお構いなしに・・・本気だ。


「遅い」ヒュ


だがその拳を茜原さんは容易く避ける。
そして仕返しとばかりに拳……部長の脇腹を捉えた。


「がっ…」


部長の悲痛な声が洩れる。
しかしその体を倒すことはしなかった。
今しがた殴り掛かったバランスの悪い体勢でありながら、両足でしっかりと踏み留まる。

・・・言ってしまえば、今の一撃で部長は勝てていた。相手が触れた瞬間に電気を流せばいいのだから。
でもそれは、茜原さんの拳を纏うゴム手袋によって、叶わないのであった。


「落ち着く暇はないのよ」ヒュン


そう呟き、二度目の拳を放つ茜原さん。
これには流石に部長も反応、腕で防いだ。

まぁ、攻撃を受けた部長が少し退けぞったのは、彼女の力 (ゆえ)にだろう。
攻撃を防いだ腕は役目を切り替え、退けぞる部長のバランス取りに専念する。


「残念」ゲシッ


だが、その隙を見逃さなかった茜原さんのストレートな腹蹴り。
防ぐことを放棄していた部長にとって、それは大ダメージを負う一撃となった。


「がはっ…!」ドォン


サッカーボールの様に軽く蹴飛ばされる部長。その躯は俺の横を通り抜け、壁へと激突する。
さっき聞いた音よりも、更に重い音が響いた。


「部長!!」
「……大丈夫、まだやれる」スクッ


俺が声を掛けるも、部長は何事も無かったかのように立ち上がる。

…いや、腹を抑えていた。やはり深刻なダメージになってしまったらしい。額に汗を浮かべ、かなり辛そうである。
だが彼は、口角を下げる事はしていなかった。


「三浦、お前は切り札だ。まだ手は出さなくても良い」


部長は俺に笑いかける。最も、“笑う”というより体調上、“苦笑”に見えたが。


彼は前へ向き直り、再び一歩を踏み出す。先程と何ら変わりない光景だ。
部長が殴りかかり、茜原さんが避け、そして返り討ち。
ビデオを繰り返し再生するかの様に、それは淡々と行われていた。


ーー俺が切り札。
いや違う、そんなんじゃない。そもそも、俺で茜原さんに太刀打ち出来るとは思えない。

…部長は必死に俺を守っている。

それ以外の理由では、俺は自分を納得させる事が出来ない。
現にこうして傍観している事が、理由の裏付けとなった。

先程示した「部長と共に戦う」という意志。
なのに、こうして後ろで出番を待つ。どう考えてもおかしい。
部長は俺に手を出させようとしてないのだ。少なくとも、自分が倒れるまでは。
いくら「一緒に戦いたい」と言っても、彼は口で了承するだけで、心からそれを肯定する事は無いだろう。

折角隣に立てたのに。

俺の決断は何処へ行ってしまったのか。
俺は部長と“一緒に”戦いたい。

仲間を守るのが部長の役目。

なら、それをサポートするのが『仲間』な筈だ。
部長が俺の参戦の隙を与えないなら、俺はそれを自分で作る。
守られるだけじゃダメなんだ。

俺も、戦うんだ・・・!





「もう終わり、かしら」





不意に響いた寂しげな声。
そして、床に人影が倒れるのが見えた。

俺が考えている間に、事態は展開を見せていたのだ。


「部長!」


悲鳴にも似た叫び声を俺は上げた。
俺の眼前、いつの間にかコンクリート製の床にうつ伏せに倒れる部長。まだ微かに動きは見せているが、起き上がれるとは到底思えなかった。

再決意の矢先でこんな事態…。

俺の中の何かが、プツリと切れた。


「……っ!!」グワッ


拳に風を纏わせ、必死の形相で標的を見る。
その形相の中、瞳には涙が浮かんでいた。


「次は貴方ね」


茜原さんはあくまで冷静に、俺を見て静かに言った。
その声とほぼ同時…俺の拳は茜原さんへと向かう。
それは強風の如き音を立て、風圧もかなりのものだった筈だ。


「いっ…!」


けれども、容易くその手首を掴まれて風の威力は死滅する。
しかも女子とは思えない握力で絞められ、俺は悲痛な声を洩らした。


「貴方も面白い物を魅せてくれるわね。雷の次は・・・空気の流れを操る、ってとこかしら」


余裕…というか、好奇の目で物を言う茜原さん。
その目には、俺の風は実験材料としか見られていなかったようだ。


「くそっ…!」ブン


流石にイラつき、突き出した拳とは反対側の足で蹴りを試みる。


「おっと」パシッ


俺は躊躇無く顔を狙った。
だがその足首も、強力な握力を前に為す術を無くす。


「がぁ…っ!」
「貴方も大した事無いのね。残念だわ」


俺が未だに苦痛に顔を歪める中、茜原さんは切り捨てるように言う。
その言葉は(すなわ)ち・・・俺の終わりを意味していた。


俺の足を持っていた手が離れる。
急に足を離された事でバランスを崩しそうになるも、その心配は一瞬で消え去った。

急に無重力の中に浮く感覚を得る。
視界が回転し、あらゆる向きが見えた。
直感で、背負い投げをされたのだと察した。

俺が今浮いているのだとするならば、この後に起こるのは・・・衝撃。

そう思った時には、俺の体はコンクリートの床へと思い切り叩き付けられていた。

背中から落ちたとはいえ、並の衝撃では無い。肺の空気が全て口から出ていき、骨ごと臓器が圧迫された。
声にならない苦痛な悲鳴。身体中が痺れ、あらゆる器官が脳からの指令を拒んでいる。
視界が眩み、意識も朦朧とし始めた。


「ぶ…ちょ…」


薄れゆく意識の中、最期に洩らしたのはそんな掠れた言葉だった。
茜原さんの反応は…分からない。
視覚だけでなく、聴覚もボンヤリとしてきたらしい。次第に何も聴こえなくなっていった。ただ・・・



ーー俺の意識が途切れる瞬間、ある人物の叫び声だけはしっかりと聴こえた。










*終夜side

「あぁぁぁ!!!」


無我夢中で走った。後先も何も考えず、本能で。
ただ、その本能はある事によって動かされていた。

誰かが俺を呼んだ。

それだけだ。
大した事でも無いのに、いつでも起こるような事なのに・・・聞き逃せなかった。

いつも俺を(した)っていた声。その声と先程の声は酷似していた。
でも、先程の声に俺の知っていた元気は残っていなかった。

それを悟った瞬間、俺は使命感と焦燥感に駆られ、起き上がる動作と走る動作を同時に行うほど、必死に声の元へ走った。

その先に見えたもの…倒れている人物と立っている人物。
俺の視線は迷うこと無く、倒れた者を見て直立する、片方の者へ向いた。

『逆襲』

その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、(ある)いは立っている人物が振り向いた瞬間、


俺の手は・・・その人物の首を捕らえていた。
 
 

 
後書き
いつの間にか『部活戦争』が、唯の『戦争』へと移り変わった気がします。
だって考えてみて下さい。たかが競技で、こんなにやる気になりますかねぇ…?? 気にしたら敗けですか…?

…まぁ良いでしょう。細かい事は「二次創作だから」と吹っ切るのが、ベストな対応ですし。
部活戦争もほぼ終わったんで、気に病む必要は無いでしょう!ね!(共感求む)

なので、次回からは気楽にストーリーを書いていきます。更新間隔は2週間以内が目標です。
これからも宜しくお願いします!! 

 

第33話  心配

ーー目が覚めた。

今まで寝ていたというのが、直感的に分かった。
深夜にふと目が覚めるように、スッと意識が戻る。


「ここは…」


起き上がる事もせず、ただ天井を見上げる。
天井・・・室内ということか。
コンクリートで作られたであろうその天井は、少なくとも俺の記憶にはインプットされていない。

でもって、俺の身体は柔らかい感触の上にある。
それがベッドの上だと気付くのには、さほど時間を要さなかった。

手を杖に身体を起こしてみる。まずは場所の確認だ。ベッドの上って事は、安全な場所だと思うんだけど…。

だがその行動は、突如として背中を中心に襲った激痛によって中断される。力を失った腕は俺の身体を支える事を止め、俺と共にベッドに巻き戻った。
ここにきてようやく、俺は自らの状態を身に染みて感じた。

そもそも、俺がこのベッドに居る理由。
それには、部活戦争が大いに関わっている。
一番新しい記憶・・・思い出すだけで痛々しいあの衝撃。予想はしてたが、身体に大ダメージを与えられたらしい。
それが原因で部活戦争を失格したというのは目に見える。現にこうしてベッドで寝ているのが裏付けだ。


さて、状況は読めた。
首だけで周りを見渡すも、見たことの無い部屋。だが、身長計やら救急箱が目に入るとこから察するに・・・“保健室”か。
まぁ入ったことも無いから、分からなくて当然だろう。
広さは普通の教室くらい・・・意外と広い。小学校と比べると比にならないな。
そう考えると、ベッドも中々の高級感が有る気がした。長時間寝ていても楽でいられそうだ。
やべ、二度寝しちゃおっかな・・・。


…と、甘い考えをしていた俺の視界に、一つの人影が映った。


「あれ?」


見覚えのある人物。
小柄で毒舌で頼りになる人物…副部長だ。
俺のベッドの傍ら、椅子に座って眠りこけている。
「もしかして看病してくれたのかな?」などという考えが頭をよぎる。

しかし違和感があった。

俺のベッドとは逆向きを向いているのだ。
もし看病をしてくれているのであれば、俺の方向を向く筈だ。
副部長の向きには何が・・・


「…あぁ、そういうことね」


一人で呟き、目の前の光景に思わずにやけてしまう。
副部長が向く先…そこにはもう一つベッドがあった。俺の隣に位置しているベッド、そこで寝ていたのは・・・部長だった。
目を瞑り、静かに呼吸を繰り返している。
眠っている副部長と合わせれば、いい感じの絵になりそうだ。

部長も副部長も無事だったんですね…。
ふぁぁ…やっぱ二度寝しよ・・・。










*

二度目の目覚めは、そう遠くない未来だった。
耳元にガンガンと響く声。そのあまりの煩さに、俺は目を開き状況を確認する。


「俺が看てるから良いんだよ。お前はさっさと教室に帰れ」
「言っとくけど、晴登との付き合いは私の方が長いの。邪魔者は引っ込んでなさいよ」


喧騒、といったところか。
俺のベッドの上を飛び交う二つの声は、どちらも聞き覚えがあった。


「莉奈…暁君…どしたの?」

「「!!」」


声を掛けてみると、思いの外大きい反応をされる。
しかしそれは刹那。俺が起きたと気付いた二人は声を掛けてきた。


「晴登、身体は大丈夫? 凄い怪我だったらしいけど…」
「超痛いけど、何とかなるよ。それよりどうして二人が?」


心配にも軽く答え、そこで俺は疑問を問うた。

今俺の目の前にベッドを挟むようにして立つのは、莉奈と暁君。
異色の組み合わせであり、俺の知る限り、彼らが交流した事は無いはず。つまり、今此処に二人揃って立っているのは、些か疑問なのだ。


「簡単だ。俺がお前を看に行こうとしたら、コイツがついてきただけだ」
「あ、人聞きの悪い。ついてきたのはそっちでしょ?」
「何だと?」
「何よ」

「ちょ、ちょっとストップ…」


険悪ムードになる前に軽く制止。
揃っているにはいるけど、仲は良くないのかな?
でも、話し方は知人相手みたいだし…。


「えっと…そうだ。部活戦争ってどうなったの? 時間的にもう終わってると思うんだけど…」


横目で時計を見ながら、俺は訊いた。
時間は部活戦争終了から2時間は経っている。
これだけ時間が経っていれば、皆結果は知っているだろう。
するとその問いには、暁君が答えてくれた。


「1位は俺らだ。というか、最終的に立っていたのがウチの部活だけだったんだけどな」
「へぇ…」


事態の展開を知り、感嘆の声を上げてしまう。
俺も部長も副部長もあんな状態だったし…暁君が生き残ったのだろうか。


「…悪いが、残ったのは俺じゃないぞ」
「え、違うの?」
「聞いただけだけど…部長が残ったらしい」


俺はそれを聞き、ある事を思い出す。

部活戦争でのあの時、俺が意識が途絶える瞬間、確か声が聞こえてきた筈だ。
何と言っていたかは分からなかったけど、もしかすると部長の声だったのだろうか。

そして茜原さんを倒した。
こう考えると辻褄が合った。

俺は横のベッドを見てみる。
すると、そこには先程と何ら変わり無い光景があった。
・・・って、今までちょっと煩かっただろうに起きなかったのか、この人達…。好都合だけども。


「この人が晴登の部活の部長さんなんだね」
「あぁ」
「……冴えない顔」
「そうかもしれないけど言っちゃダメだ、それ」
「おい待て、そこじゃないだろ」


莉奈と俺のやり取りに、暁君が口を挟む。
何だかんだで、暁君は莉奈と話す事は出来てるみたいだ。
それだけ分かれば、何か嬉しい気分。


「ところで、今学校はどんな感じ?」
「体育祭は予定通りっつうか、予想通り雨で中止。でもって雨があまりにも強いから、皆で教室で待機中だ。保護者はもう帰ったみたいだけどな」
「待機って…そんなに雨が強いの?」
「あぁメチャクチャ。保健室は防音がしっかりされてるみたいだから聞こえないだろうけど、廊下に出たらマジですげぇよ」


暁君が凄いって言うとは、余程の雨なのだろう。
午前中はあんなに晴れていたというのに、それでは異常気象とかそんなレベルだぞ?
廊下に出て確認したいのも山々だが、生憎身体が…。


「外に出たいって顔だね、晴登」
「はぁっ!? んな訳ねぇよ!」
「そう言う割には、随分と寂しそうな顔してる気がするけど?」
「別に気にならないし! 俺今動けないし!」


餓鬼みたいな言い訳を放つ俺。それを聞いて、二人が黙る訳がない。
いつの間にか、水を得た魚の様な表情にシフトしていた。


「“満身創痍”ってか。まるでアニメみたいだな」
「でも、こんな普通キャラがアニメに居ても映えないよ~」
「それもそうだな」

「すっごい皮肉られてんだけど! 俺が何をした?!」


つい、周りを考えずに叫んでしまう。図書館とかだったら追い出し喰らう位だ。
でもって隣をチラッと見ると…まだ起きない。
・・・セーフだ。


「まぁ冗談は置いとこう。取り敢えず、元気なら良かった」
「この調子なら、すぐにでも復活できそうね」

「心配掛けたみたいでゴメンね…」


優しい笑顔に戻った二人。
そんな彼らに、俺は本心からの謝罪をする。
言ってしまえば、わざわざ保健室に来てまで看病してくれているので、内心はとっても嬉しかった。

そんな俺を見て、暁君は一言、


「じゃあ教室戻るぞ、三浦」

「え、おかしくない!? 満身創痍とやらで動けないんだけど!」
「大丈夫、背負っていってやるから・・・コイツが」
「さらっと私に振らないでよ。まぁそのつもりだったけど」
「そこで納得すんの!?」


再び声を荒げる俺。ダメだ、この二人と話すと、どうも口が制御できない。無念だ。

…結局、莉奈と暁君の二人の肩を借りて、俺を運ぶ事になった。

ベッドから起き上がるだけに、かなりの時間と体力を費やしたのは、ここだけの話だ。










*

「これホントに雨なの? 隕石とか落ちてきてんじゃない?」ボソッ
「あ、何か言ったか?」
「いや何も」


二人の肩を借りて、不格好な歩きを始めて早数秒。
廊下に出た途端に耳に入ってきた轟音は、俺のまた眠りそうな意識を覚醒させるには、十分過ぎる目覚ましだった。
ちなみにその轟音のお陰で、多少の小声は隣に居る二人にも聞こえない。

俺は続けて窓の外を見る。
先程保健室で見た時計によると、まだ時間は夕方前。
なのに、空は深夜の様に真っ暗だった。廊下はその暗さとは対照的に蛍光灯が輝いて明るいので、つい“学校に泊まっている”という感覚がする。


「家に帰れんのかよ…」


どうせ二人にも聞こえないので呟いてみる。
もしこのまま降り続ければ、今しがたの俺の妄想は現実となり、このまま学校にお泊まりだ。
それはそれで楽しそうだけども…。


「三浦、階段だ。行けるか?」
「ちょっと辛いってのが本音だけど…」


廊下の先を曲がると、階段が目の前に立ちはだかる。
普段はただの斜面だが、怪我人の今となっては絶壁に見えた。


「じゃあここは私が背負うわ。どうせアンタは力無いし」
「おい、見くびって貰っちゃ困るぞ。俺だって同級生の一人や二人、持ち上げるのは訳無いぜ?」
「あ、そう」


ふと、重心が移動するのを感じた。
どうやら、莉奈が俺に肩を貸すのを止めたようだ。
つまり、暁君だけで俺を支えてる事になるんだけど…。


「ほら、早く階段上ってよ」
「うるせぇな、今やってんだろ・・・あ、でも、うぉ…やば、潰れる」

「…俺ってそんな体重あったっけ?」
「これがコイツの現実よ、晴登」


俺の重さが、暁君の肩一点に集中する。
すると予想通りと言えば予想通りだけど、暁君の身体が沈み始めた。
一瞬、俺は自分の体重が常人よりあったかと疑うが、生憎筋肉すらもあまり付いていないため、どう考えても常人より軽い。
つまり、暁君は本当に非力なのだ。


「やっぱ私がやるわ。行くよ、晴登」
「あ、そんな引っ張られたら痛いって!」

「もう、ダメだ…」


半ば強制的に暁君から引き剥がされた俺は、莉奈に引っ張られて階段を上る。その乱暴さにあちこち痛むが、贅沢は言えない。
その一方で、階段の下で疲れ果てて倒れている暁君が心配だ。俺のせいでは無い筈なのに、何故か心が痛い。


「暁君、何かゴメン…」


小さく、小さく呟いた。
俺は無罪だ、と心の中で思いながら。










*

「し、失礼しまーす…」ガラッ


目立たないようにそっとクラスのドアを開ける。
見えたのは、いつもの教室の風景。雰囲気的には休み時間を連想する。
椅子に座って駄弁る皆の様子は、外の様子を微塵も気にしてないといった感じだった。

まぁ俺が教室に入った瞬間、空気が変わったけど。


「ど、どうも」


皆の視線が集まる。
静寂の中、まるでステージに立つアイドルの様なポジショニングな俺。
ついつい、冗談めかして軽く礼をしてしまう。

皆の沈黙と視線の痛さに、一旦教室を出ようとしたその時・・・



「三浦君、大丈夫?!」

「へ?」


静寂を貫いたのは一つの声。
透き通るようなその声の主は、俺を見て心配そうな表情をしていた。


「柊君」


俺は、その人物の名を呟く。
彼はその呟きに頷くと、こちらに歩み寄って来た。


「怪我、大丈夫なの?」
「あ、あぁ…大丈夫だよ」


一瞬返答に迷ったが、心配を掛けないよう無難な言葉を選択した。
すると、クラスの皆の表情が安堵へと変わり、張りつめていた空気が氷解する。


「ったく…。お前って、意外に皆から心配されてたりすんだぞ?」


続いて聞こえた声。
その声のした方向を向くと、意地悪く笑う大地の姿があった。


「一応、学級委員って立場でもあるし」
「それ抜けたら、俺は心配されなくなるのかよ!」
「ははっ、冗談冗談♪」


外の雨音にも負けない位の大地の笑い声。
その平和な光景にたまらず笑みを溢す。


「ホントに大丈夫だったの?」
「超ヤバいって聞いたけど…」
「俺も肩貸すぞ?」
「心配させんなよ、学級委員」
「無事で何よりだ」


そんな俺に続々と掛けられたのは、クラスの皆からの心配の声。何かのドッキリかと疑ってしまいそうになるほど、その心配は大袈裟な感じがした。
だけど皆の顔を見ると、それが本心からの言葉だと気付く。


「皆…ありがとう」


普段なら恥ずかしくて言えない言葉。
だが今の俺の口からは、その言葉も易々と出てくる。
心配してくれるなんて…嬉しい限りだ。自然と眼に涙が浮かんでくる。



「ところでさ・・・」



しかしそんな俺の感情を遮ったのは、何処からか上がった暗くも明るくもない口調の声。
ただただ、気になる事を質問するような…そんな感じだった。
そして、その口は続きを話す。


「魔術部って、何なの?」

「…!?」


余りにもストレートな内容で、俺はビクッと反応する。隣の暁君も似た反応をした。

いやでも待て、焦る必要は無い。
こういう時用の魔術部共用の文句が有るではないか。




「何って…秘密だよ」

「え、秘密?」
「そう。全てが謎に包まれた部活動、それが魔術部なんだ」


俺は躊躇いもせずに言った。口は自然と笑みを浮かべ、表情はきっと清々しいものとなっているだろう。
だからこそなのか、相手のポカンとした顔を見るとつい、笑いが込み上げてしまった。


「…なんてね♪」


お気楽な様子で言った俺だったが、内心は「セーフ!」を連呼していた。
暁君もホッと胸を撫で下ろしている。

・・・助かった。


「ま、まぁ何にせよ、元気なら良いよ」


俺に質問してきた人も、大して気になっている訳では無さそうだ。ニッコリ笑ってそう言うと、皆の後ろに下がっていった。


そしてその後、外の天気と対照的にワイワイと盛り上がる教室。
いつの間にか皆は俺の怪我の事なんか忘れて、ただの談話になっていた。
俺も俺で怪我を忘れて皆の話を聞き、そして笑う。
こんなにも心の底から笑ったのって何時ぶりだろうか。

学校って・・・楽しい!








ーー雨が、止んだ。
 
 

 
後書き
……失敗した。
今回で完全完璧に部活戦争編(←体育祭編)を終わらせるつもりが、まさかの引き延ばしになりました(悲)
部長が目覚めなかったのが主な原因です。くそっ、何で起きないんだよォ!←

ハイ。でも心配はありません。
次回の半分くらいまでコレで引っ張った後は、しっかりと次ストーリー進めるんで!
内容が行き当たりばったりな予感ですが、何とか雰囲気を考えて合わせていきたいです。

では次回より新ストーリー。お楽しみに(してね)! 

 

第34話  切符

 
前書き
さてさて、新ストーリーを始めましょう!
とは言え、前半は部活戦争の振り返りですけども。 

 
*晴登side

体育祭の日から休日を挟んだ平日。
既に授業を終えた俺は、魔術室に来ていた。
そこに揃うは魔術部全員。円を描くように座っている。

そして、難しそうな顔をしていた部長が(おもむろ)に口を開いた。
満面の…笑みと共に。




「部活戦争、優勝だぁー!!」

「「「おおぉぉっ!!」」」


急に魔術室を包む大声。
全員が全員歓喜の声を上げ、自分の部活の功績に喜ぶ。


「アンタらテンションおかしいわよ…」


しかしその最中(さなか)、呆れた様な表情で横槍を入れたのは副部長。ため息をついて、憐れむ目でこちらを見渡す。


「何言ってんだ! 優勝だぞ? 超大金ゲットだよ!!」


部長がハイテンションで吠える。
俺も少なからず、そのテンションには共感できた。

詳しい額はよく分からないが・・・体育祭が終わると部費という大金が魔術部にもたらされた。
あくまで部費であり、私用で使うのは厳禁だが、お金が貰えたという状況だけで、俺はつい頬を綻ばせてしまう。


「それにしても部長、そんなにはしゃいで身体は大丈夫なんですか?」


歓喜の声から一転、俺はそんな話題を振る。
金銭面で喜ぶのは結構だが、健康面が心配なのだ。
まぁ、人を心配できるほど俺の怪我が軽い訳では無いのだけども。


「問題ナッシングだぜ! もうピンピンだよ!」


肩を振り回して元気をアピールする部長。
「やっぱ痛い」などという様子も見せない為、ホントに平気なのだろう。

すると元気アピールを止めて、部長が一言言った。


「にしても、起きたら辻が横に居てビックリしたぜ。まさか看病してくれてたり? 普通に寝てたけど」

「……!!」


部長の唐突な発言を聞いて、誰もがその言葉の中心人物を注視した。それは勿論、副部長のことである。
俺や暁君は知っていたけども、二年生の先輩方の反応はやけに初々しい。
もしや、と俺が思った瞬間、先輩方が一斉に口を開いた。


「え、『それって副部長が部長を看病してた』で間違い無いっすよ!?」
「看病とか、優しいとこあるじゃないですか、副部長!」
「しかも寝てたって…進展ですか?!」
「うわ、やべぇ!!」


その声を聞くや否や、超スピードでスッと目を逸らした副部長。
知らないフリのつもりか分からないが、どう考えても無理がある。
先輩方はその様子を見て、無言を肯定と判断し・・・


「「マジかよ」」


全員で驚きの声を上げていた。
一方部長は、どういう意図で話が進んでいるのか分からないのか首をかしげており、それと対照的に副部長は、二年生の話を聞いてから、横顔からでも分かるくらい頬が真っ赤になっていた。

・・・アレだな。こうして蚊帳の外から見ると、状況がよく分かる。


「そういえば、部長と茜原さんの勝負ってあの後どうなったんですか?」


俺はもう一つ気になっていた事を訊く。
それは部活戦争の結末であり、部長が勝ったという事以外は微塵も分からないのだ。

だが、部長は頭を掻くとスパッと言った。


「俺もあまり覚えちゃいねぇんだ。何つーか…最後に、奴の首を掴んで電流を流したって事だけは覚えてんだけど」
「あ、そうなんですか」


部長は申し訳ないといった感じだったが、俺はその解答で充分だった。

確か茜原さんは、ゴム手袋やら白衣やらで全身を装備していた。それは部長の電撃対策であり、効果もバッチリである。
だが、そんなフル装備には弱点が有った。即ち…首元。そこだけはオープンになっていた気がする。
そして部長は本能的にそこを狙った。何も覚えて無い以上、確証が無いけども。

なるほど、こんな流れだったのか・・・



「そんな話どうでも良いっすよ。それより部長、“体育祭の日の雨”って不思議じゃなかったっすか?」



話題が急にガラッと変わる。
それを行った張本人は、部活戦争の話に興味を微塵も示さず、ただただ自分の疑問をぶつけていた。

その不意な疑問に、部長は素早く反応する。


「あぁ…俺もそう思う。確かにあの雨は急に降ったからな」
「ですよね」


部長が頷くと、暁君が頷き返す。
二人で共感したようだ。

・・・話の変化が早くて頭が追い付かないんだが。
えっと…体育祭の雨って事は、あの大雨か。体育祭を中止にさせる程の。

う~ん…確かにおかしいかも。
あの日の天気予報を見た訳では無いから断定は出来ないが、少なくとも午前中は雲一つ無い快晴だった筈だ。
遠い所に巨大な雨雲があった訳でもない。

だったら、あの雨は何処から来たのだろうか。


「なんでも、低気圧が急に発生したとか。それで雨雲が急速に発達して…だとよ」
「でもそれだと、気圧が急に変化したって事っすよね? そんな事態がどうしてあの日に・・・」

「気流やら風やら操れれば、それは可能なんだろうよ・・・って、あれ?」


「「風を操る?」」


部長と暁君が議論する中、最後の問いには俺の声も被っていた。
おい、だったらあの雨って・・・



「つまりあの雨は、三浦が引き起こしたって事なのかしら?」



いつの間にか復活した副部長が、簡潔にまとめた。
全員がその言葉を聞いて、唖然とする。
ゴクリと唾を飲み込む音。それと同時に、俺の方を向く皆の目線。

そして俺自身、口を開けて固まっていた。


「この仮説が正しかったら、三浦って天気を操れる事になるぞ」
「それって、『天変地異も思いのまま!』って感じかしら」
「もはや兵器じゃないっすか、その力」


様々な意見が飛び交う中、俺の思考はある所に飛んでいた。


俺のせいで体育祭が中止になったのか、と。


部長の仮説はきっと正しい。でないと、急に低気圧やらが現れるなんておかしいのだ。
つまり俺のせいで、生徒全員の思い出になるであろう体育祭が・・・無くなったのだ。


「あ、あぁ…」


そう考え始めると、俺はいよいよ自己嫌悪に陥る。
俺のせいで俺のせいで俺のせいで・・・


「おい三浦、そんな暗い顔すんな。別にお前が悪い訳じゃない。不可抗力ってやつだよ」


俺の心が一瞬戻った気がした。
尚も言葉は続く。


「そうよ。魔術を使ってこその魔術部なんだから、そんな異常気象なんかドーンと受け止めなさい」
「ったく、俺より先に妙に凄い力手に入れやがって。俺も何か会得してやる…!」


俺は目を見開き、困惑する。
本来であれば、責められても何も言えない立場だというのに、何故、彼らは俺を庇おうとするんだ?
彼らの表情に陰りは無い。本心から言葉を言っているようだった。

何で?

そんな俺の疑問は、部長の言葉によって打ち砕かれた。


「お前は仲間だ。どんな行いだって正当化してやるよ」


その言葉は、俺を安心させるには十分だった。
感謝してもしきれない寛大さ。俺はそれに救われたのだ。


「迷惑掛けて、すいません」


俺の口から出たのは、そんな謝罪。
もっとも、悲しんだ表情では無く、笑みと共にだ。










*

「ところで部長、何に使うんですか?!」


脈絡を考えない俺の質問。この質問もまた、話題を急変化させていた。
しかし今回に至っては、その変化先が全くもって明快でない。それは皆が『?』を浮かべている事から、容易に想像できる。
俺はそれに気付き、訂正するように二の句を継いだ。


「あ、部費の事です」


その言葉で誰もが理解した。
そして部費の(あるじ)である部長を、全員が見据える。

すると注目された人物は、軽口を叩く様に言った。


「俺が欲しいって言ってたヤツの話だろ?」


誰もがその言葉に頷き、続きを聞きたいというように耳を部長に近付ける。
端から見れば、少しばかり奇妙な光景かもしれない。

部長はその様子を一通り眺めると、表情を変えずに言った。



「実はそれ、もう手に入れちゃった」

「「へ??」」


全員のマヌケな声が重なる。
間違い無い。この人は今「部費を使った」と言った。
…ほぼ私用で。


「部長、一体何に使ったんですか?!」
「そうよアンタ、相談も無しに!!」


俺と副部長の糾弾。さすがにその剣幕には、部長もタジタジだった。


「いやいやいや、心配する事じゃねぇよ。ちゃんと魔術関係だからさ」
「だから、それは何ですか?」
「お前もうちょっと溜めさせろよ…。ーーまぁ良い、実物が有るから直接見せてやる」ゴソゴソ


部長は制服のズボンのポケットをまさぐる。
俺たちは、それを待ちきれないといった様子で注視した。

そして部長がついに取り出すーー



「石ですね、ハイ」



部長が取り出した物の存在を知るや否や、誰の言葉よりも早く俺の言葉が部長を射抜く。
しかし部長はそれに怯まず、言葉を返した。


「チッチッチ、違うんだな~。これは、見た目は唯の石っころだけども、実態はちゃんとした“魔石(ませき)”なんだぜ?」
「ん?」


不意に出てきた新出単語。俺はそれが理解出来なかった。さながら、初めて聞いた英単語を理解出来ないかのように。


部長が取り出したのは、石と形容して差し支えない一品であり、特別凄い物には見えなかった。
部長の右手にスッポリ収まるサイズのそれと、唯の石との違いを言えば、“青く発光していた事”と、“細い正八面体を(かたど)っていた事”だろう。
だがそれ以外は特に変わり無し。「綺麗な石」といえば誤魔化せるレベルだ。

そんな物体を不思議そうに見る、俺を含む部員全員を見渡し、部長は“魔石”の説明を始めた。


「この魔石は『夢渡石(ユメワタリイシ)』という名でな。簡単に言えば、『夢から異世界にワープできる』んだ」
「「んん??」」


部長の説明に、流石に全員が首をかしげる。
一方部長はその反応が面白いのか、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「え、じゃあそれって『夢から遠くに行けちゃう』って事?!」


俺の思っていたのと全く同じ事を言う副部長。
その顔には、期待と焦りが入り混じっていた。

だが部長のドヤ顔を見て、誰もが「それは本当なんだ」と理解する。
つまるところ部長は、“ヤバい物”を持ってきたのだ。


「詳しい説明は後でするけども・・・驚いたか?」

「いやいや、驚かない訳が無いでしょ!」
「どうやったらそんなモン手に入るんすか!?」
「アンタ一体何者よ?!」
「魔術部の部長様ですぜ」キリッ


ギャーギャーと喚く魔術部部員一同。
それを制止する者など居らず、逆に全員で騒音を掻き立てていた。

そして様々な言葉が渦巻く中、一人の質問が場を治めた。


「いくら貢いだんですか?」


騒音が、打って変わって静寂に。
誰もがその質問に賛同し、石を買った張本人を見る。
その人物は「あ」と思い出したように一言洩らし、今までの満悦顔を消すと、バツが悪そうに顔を伏せた。
俺はその行動に疑問を抱き、先輩方も「部長?」などと声を掛ける。

部長は、そんな皆の反応を見て決心したように言った。



「実は…貰った部費の半分以上使った・・・」

「「え?!」」


部長以外の全員の驚きの声が重なる。
俺は魔石と部長を交互に見て、また口をアングリ開けて固まった。

つまり…この石っころに、数千万円の値があるという事だ。


「どういう理屈ですかそれ?!」
「そもそも何処で買ったのよ?!」

「すまん…それは教えられん(悔)」


唇を噛み、悔しそうに言った部長。だがどう見ても、それは演技だった。
「…策士かよ」とボソッと呟く暁君が横目に見える。

すると、部長は「それはさておき」と前置きすると、真剣な顔で言った。


「この際だから単刀直入に言う。この魔石を、俺じゃない誰かに保管して欲しい」
「「……」」


沈黙が流れる。
多分全員、今の言葉の“裏”を探っているからだろう。
あまりに直球な発言。引っ掛け問題では、と必死に頭を働かせる数学の時間の感覚だ。

だがその言葉に大した裏が無い事は、直後の副部長の発言によって証明された。


「アンタって物持ちが悪いもんね」
「恥ずかしながら、な」

「「……」」


再度沈黙。今度は呆れの表情が、全員から見て取れた。
「誰かに保管して欲しい」といった意味。つまり、「自分じゃ保管できない」と遠回しに言っていたのだ。

そして部長は一息つくと、全員に聞こえるようハッキリと言った。



「三浦、任されてくれないか?」

「え?」


部長は、俺の目を真っ直ぐ見据えていた。










*
時刻は午後9時。
ベッドに胡座をかいて座る俺は、目の前の不思議な石に対して唸っていた。


「これで…別世界に…」


常人では理解に苦しむ説明・・・いや、「アニメの観すぎだ」と切り捨てられるような説明を、あの後部長に散々受けた俺。
だが、元々魔術という不可思議な物を持つ俺からすれば、その説明は「魔術」の一言で(かた)が付くものだった。


(これを枕の下に入れて寝る。そうすればやる事はおしまい。後は異世界を堪能するだけだ。
お前に所持を頼む以上、使うのはお前の意思でいい。早速、今日から使ってみたらどうだ?)


頭の中を流れるのは部長の言葉。
彼は魔石を俺に託した。要するに、それを俺は自由に使って良い。
まぁ、実験台という可能性も否めないけど・・・


「ええい、ままよ!」ボフッ


勢いで、枕の下に魔石をぶち込む。
そのまま俺は寝転がり、電気を消して眠りにつこうとする。



ーーー眠れないけどね。

気分は遠足前の子供。
「危険かも」という考えも有るが、それに勝る程の期待が頭を埋め尽くす。

よし、こうなったらお決まりパターン・・・


「羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…羊が・・・」


俺は寝れない時のお決まり文句をブツブツと呟き始める。
すると、次第に数が分からなくなっていくのが分かった。



そしてある瞬間、目を瞑っていて真っ暗な筈の視界を、



突如として眩い光が席巻した。

 
 

 
後書き
前半の端折った感は、目を瞑って戴けると嬉しいです。

さてさてさーて! 次回より新ストーリー『異世界転移編』をやって行きます!!
わぁ楽しみだ!・・・って、え? 何で急にそんなのをって?
・・・べ、別に『某異世界召喚もの&ヒロインが二人存在するアニメ』に影響を受けた訳じゃ無いんだからね!

ーーさて、ツンデレ発言は置いといて。
皆さんの中には、もしかしたら気付いた方も居るかと思います。

今回のストーリー・・・晴登以外の現実世界キャラがほとんど出ません。

ファーーー!!!(泣)


…ま、まぁ良いさ。異世界とか何でも有りだし? 何でも出来ちゃうし? 現実無視出来ちゃうし?
取り敢えず突飛な物語にしたいです! はっちゃけて頑張るぜ!!


*追伸
何とか今日に更新出来て良かった~。
実は今日は自分の誕生日なんです。ハッピーバースデェイ!イェー!!・・・・寂しい(泣) 

 

第35話  異世界

 
前書き
楽しみですね楽しみですね楽しみですね・・・って、ほぼ俺が楽しんどるだけやないか。

さて。今回から書き方をちょこっと変えます。ちょこっとです。気にする程も無いですよ。

では、書いていきましょう! 

 
突然の外界の発光。
それは、瞳を開けたいという好奇心を煽るものだった。

晴登は、瞳孔が急な明るさに反応し切っていなかったが…目を開いた。










*
「…マジかよ」


開口一番、驚愕の声を洩らした晴登。
目の前に広がった光景は、どう考えても自分の部屋では無い。それどころか、完全に外の景色だった。風が頬を撫でるのを感じる。


「知らない…場所だよな」


呟きながら、辺りを見回す。
まずは自分の居場所。公園にでも在るような普通サイズの木の下に立っていた。

そして周り。
住宅街、マンション、学校・・・そんな物は無い。
だが家はチラホラと確認できる。

晴登は、目の前の光景を『村』と判断した。


長閑(のどか)な景色だな」


と言いつつも、晴登は自分の思う『田舎』のイメージとはまた違う雰囲気を感じていた。

田舎といえば、やっぱり広大さや雄大さが有ると思う。田が見渡す限りに広がり、近くに山が在るといった感じだろう。
でも目の前の景色に広さは無かった。晴登の持つマンガの知識でいえば「冒険物語の序盤の町」といった雰囲気だ。
アスファルトの道路なんて微塵も見当たらないし、コンクリートで造られた家も無い。道はちょっと草を刈っただけのあまり整備もされていない物で、家は全て木造やら何やらで造られているようだった。


「どうしたもんか…」


晴登は頭の中で部長の説明を再生する。


『異世界に居られるのは、一度の転移で3日間。それを過ぎない内は現実世界に帰っては来れない。逆に、3日間経ってしまえば強制的に引き戻しだ。そこんとこ気を付けてな』


最後に部長は『まるで修学旅行だな!』と言っていた。うん、気分はそうだ。
だが向こう見ずでこっちに来てしまったのは少し後悔している。


ーー3日間、ここで過ごせるのか。


部長は『もし異世界で死んだら、現実でもお陀仏だぜ』とも言っていた。
つまり、この異世界で餓死でもしたら、晴登は現実で故人になってしまう。それは何が何でも避けたい事態だった。


「この村に誰も居ない…とかだったらゲームオーバーだけど…」


取り敢えず、晴登は道を歩く事にした。もしかしたら誰かに会えるかもしれない。

周りの家々を、道を歩きながら見渡す。
洗濯物が干されていたりする家も有るので、人が住んでいないという事はまず無いだろう。

では、どうするか。家に押し掛けて泊まらせて貰うか?
いや、それは警察を呼ばれかねない。・・・そもそも警察って、この世界に有るの?

稚拙な疑問が頭に次々に浮かぶ。


お陰で、目の前に迫っていた人物に気付かなかった。


ドン


「あ、すいません」

「いえいえ、こちらこそ」


肩がぶつかり、即座に晴登は謝罪する。相手も謝罪を返してきた。
そして二人はそれぞれ逆の方向へと歩を進める。

背丈は同じくらいの子だった。もしかしたら同い年かも。

晴登は今の人物に、そんな解析をした。
やっぱ人が居たんだな、この村・・・





ーーーって、何で俺は今スルーした?





「ちょっと待って下さい!」


後ろを振り返って叫びながら、晴登は今しがた邂逅した人物の背中を追って走る。
異世界で出会った初めての人だ。しかも友達になれそうな。

そんなチャンスを逃す訳にはいかない。


「?」クルッ


呼び掛けが聞こえたのか、その人物は振り返った。
晴登はその人物に追い付くと、肩で息をしながら前を見る。
そこで、晴登はようやく相手の顔をハッキリ見た。


「な…!」


今のは感嘆の声。それは、目の前の人物の容姿を見たからである。

輝くような銀色の髪に、青空の様な蒼い瞳。
汚れなど微塵も感じられない、中性的な整った童顔。
そして、雪の様に白く綺麗な肌。

現実世界では絶対に見られないであろう容姿を、今こうして見る事が出来た事に、晴登は(ささ)やかながら「異世界に来た感」を得る。

よし、コミュニケーションを取ろう。

そう思って言葉を放とうとした矢先、晴登は重大な事に気付く。


『この異世界で日本語は通じるのか』


この疑問の答えは、部長の説明には含まれていなかった。でも簡単に考えてみると、こんな地で日本語が使われる訳が無い。少しだけ喋れる英語だって、この世界では何の役にも立たない筈だ。
最悪である。コミュニケーションが取れなければ、生活も何も出来ない。つまり、生き抜く事が困難になるのだ。

晴登は再度、自らの無鉄砲さを悔やんだ。部長にもう少し詳しく聞き出すべきだったと。

しかし、その後悔は杞憂に終わる。



「どうしたの?」



不意なその発言は、疑問を解決するのには充分だった。
最も、その言葉を聞いた晴登は、疑問なんぞすぐに忘れてしまったが。

言葉が通じる。

そう直感的に分かっただけでも、晴登は喜びを得た。


「え、いや、その…」


だが事態の好転は、逆に晴登を苦しめた。

『コミュ障』
忘れかけていたその単語が頭をよぎる。
初対面の人との対話。それだけで、彼の中に眠っていたそれは頭角を現した。


「ボクに何か用かい?」


穏やかな、中性的な声でその人は訊いてきた。
声色で判断できるのは、声変わりをしていない歳だという事。そして、優しくて透き通る声・・・あれ、

柊君に似てる。

晴登は思った。
『女子っぽい男子』という所が主な理由だ。中性的な顔とか一人称が“ボク”な辺り、かなり似ている。
流石に同一人物では無いだろうが、それでも特徴がある程度同じだった。獣の耳までは無かったけど…。

知り合いに似てると思った瞬間、少しばかり親近感が湧いた。


「用って言えば、まぁその…有るんですけど…」


しかし、その親近感を覆す程の『言葉を濁す』というコミュ障特有の技が、今しがた発揮する。

何を言おうか。

そういえば、そんな事も考えていなかった。
つくづく無計画だなと、自分に呆れる。
考えてみるも、思い浮かぶ項目が多すぎて何から話せばいいか分からない。
ここは何処?あなたは誰?何故ここに?
絞ろうとしても中々絞れない。頭がフル回転し、質問を探り出そうとする。


・・・そうだ。これだけは頼もう。


晴登は頭の中で見つけたその言葉を推敲し、直後決心して言った。


「取り敢えずこの辺の家で、俺を泊めてくれるような優しい人は居ますか?」










*
「ホントに良いんですか? 泊めてもらっても」
「困った時は助け合わないとね。最も、あんな言われ方されると断りにくいよ」
「そんなつもりじゃ無かったんです…」


晴登はとある家に来ていた。その家は先程知り合った彼の家である。
裕福とは言えないが、貧乏とも言い切れない。造りはしっかりしていて、イメージは『ログハウス』だが、そこまでいくほど頑丈では無さそうだ。
一言でまとめると『木造の小さな一軒家』である。


「まぁ良いよ。それにしても珍しいね、この村に来る人がいるなんて」
「え、此処って人口少ないんですか?」
「王都が近くに在るんだけど、この村には特に何も無いから。そんな事も知らないのに此処へ?」
「あ、はい…」


先程より幾分話せるようになったが、まだ敬語が抜けない。
それは相手も気付いたようで、ニッコリ笑うと一言、


「そんなに固くならなくてもいいよ。見たところ歳も近そうだし。…あっと、そういえば自己紹介がまだだったかな。ボクは“ユヅキ”。宜しくね」


早々と自己紹介を終えた、ユヅキと名乗る少年。
そうも簡単にやられると、却って自己紹介にプレッシャーがかかる。


「えっと…俺は三浦 晴登、歳は12。その、宜しく…お願いします」
「え、ボクも12歳だよ? なんだ同い年か~。改めて宜しく、ハルト!」


右手を差し出しながらそう言うユヅキ。晴登はその右手に右手で応える。
握手なんて今時しないな、と頭で考えながら、晴登とユヅキは笑みを浮かべ合う。

友達が…できた。

嬉しくてガッツポーズしたい衝動に駆られるが、ギリギリ堪える。
さて、まずは泊まり場を確保した。
これから3日間は困らなさそうだ。

では次は・・・食べ物。
異世界の食べ物が口に合うかは別として、食費等をユヅキに負担してもらうのは流石に申し訳ない。
自分で調達するのがベストだが・・・上手く行くものか。


「3日間泊めれば良いんだよね? ボクってそういう事するの初めてだから、どんな風にすればいいか分からないよ?」
「う~ん…取り敢えず、場所だけ提供してくれるだけで、俺はかなり助かるよ」


まぁ食べ物どうこう言っても、何よりの楽しみは異世界を探検。この地に立った以上、それは必然的に行わなければならない、もはや使命なのだ。
敵を倒して、謎を解き明かして、迷宮(ダンジョン)を突破して・・・ヤバい、胸が躍る。

ーーでも折角だし、もう少しユヅキと話してみるか。


「此処の村について訊いてもいい?」
「いいけど…ホントに何も無いよ? 住人だって数えれる位だし」
「へ、へぇ…そうなんだ」


話題を失敗したか。やっぱ人とのコンタクトって難しい。
晴登は己を失敗を悔やみ、別の話題を振ろうとした。

すると、それより先にユヅキが口を開く。


「そうだ! この村には何も無いけど、王都なら色々凄い物が在るよ! 行ってみる?」
「良いけど…簡単に行けるの?」
「大丈夫。ちゃんとした道で行けるから」


「任せて!」と言わんばかりの表情で、ユヅキは晴登を説得する。

王都といえば、ファンタジーの筆頭格。そんな偏見が晴登の中に根付いていた。

…ならば、行かなくして何をするというのだ。


「じゃあ、行きたい!」


晴登のその発言はまるで、「遊園地に行きたい」とおねだりする子供の様であった。










*
「予想を遥かに越えてるな。てか、どうしたらあの村の近くにこんなデカい街が存在するの?」


晴登は目の前の光景を見て、ただただため息をつく。
それもその筈、この王都とやらはとてつもなく巨大な規模なのだからだ。
一つの山をそのまま王都にしたような…って雰囲気。

見た目は中世ヨーロッパ。イタリアとかに有りそうな街並みだ。海外旅行するならこういう所が良い、と少なからず思う。
先程まで居た村からは想像もできないような景色。目に入る家々はどれも石造りであり、決して木造ではない。

そして全体をざっくり見ると、地形はピラミッド状だ。街の中心に近付くほど高度が高い。
現に、中心に(そび)える巨大な城は、今入り口を通ったばかりの晴登達だと見上げるようにしないと見えない。あの城からの景色は、きっと絶景だろうと思う。

しかも驚くのはそれだけでない。
此処は王都。即ち、全ての中枢を担う都市なのだ。
人口だって馬鹿にならない。見えるものは、人、人、建物、人、人・・・だ。
ショッピングモールだとか、スタジアムだとか…そんな物では比にならないほど、人々でごった返している。

だが、そんな状況を気にせずに・・・


「じゃあ早速行こ! 連れて行きたい場所が在るんだ!」


ユヅキは意気揚々に言うと、晴登の手を引っ張り走り始めた。
人と人の間をすり抜け、たまに路地裏を活用。王都には慣れているのだと、彼の行動から察せる。

ちなみに、この王都はホントにあの村との距離は遠くなかった。簡単な話、乗り物が必要でない距離だ。
道中、鬱蒼とした森に入った時は少しヒヤヒヤしたが、森を抜けるとバッカデカい関所が見え、そこから容易に王都に入った。
警備が緩くないかと、その時は一瞬考えたが、入れたなら万事オッケーである。



・・・と、そろそろ目的地が近付いてきたのか、ユヅキの走りが遅くなった。
されるがままに手をずっと引っ張られてたから、かなり身体がキツい。今更ながら、自分が怪我人だった事を思い出す。


「にしてもユヅキ、よくこんなに路地裏をホイホイ走れるね。土地勘とかバッチリなの?」


横に高々と聳える家々の壁を見上げながら、晴登はユヅキに問う。
だがユヅキは、その問いに反応すら見せなかった。

「あれ?」と思い、晴登は視点を横の壁からユヅキへ移す。

そこでようやく、ユヅキが遅くなった理由など諸々含む“事態”に気付いた。


「え、ちょっと…これって…」


ユヅキが見据える路地裏の先・・・そこには『不良』という言葉がよく似合いそうな三人組が、こちらの通り道を塞ぐように立っていた。

 
 

 
後書き
最近、更新スピードが異様に早いな~と自分で感じております。理由はきっとテンションが高いからでしょう(笑)
やっぱ異世界って良いね。ロマンだね。
そして銀髪碧眼もロマンだね。俺の趣味全開です。

さて。今回はその銀髪碧眼の、まさに「異世界!」な新キャラを出しました。
柊君と色々似てるというのが第一印象としています。でもケモ耳までパクると、なんやかんやの関係やらが出そうなんで、それは省きます(←面倒くさがり)。

でもって、今回のラストはお決まりのピンチパターン。実はこの先の展開が曖昧だったり…(泣)

いやでも頑張るよ! このストーリーは何としても完成させてやる!!
という事でまた次回! では! 

 

第36話  一致と相違

日の光は壁によって遮られ、薄暗さを呈する裏路地。
そこは通りの裏ではあるのだが、余程の事がない限り人は通らないだろう。
だから、今の状況を他力本願で切り抜けるには無理が有る。


「下がって」


晴登は無意識の内に、ユヅキにそう言った。
彼の身体を手で制した後、一歩前に出る。

直感的だが・・・分かる。

今目の前に居る『いかにも』な(たたず)まいの奴ら。
もしかしたら、見た目だけの善人かも知れない。
けど、彼らの目。あの目に汚れが無いようには感じられなかった。


「ハルト…」


不安そうな声を出すユヅキ。やはり彼は彼らに怯えていた。
でなきゃ、急に止まる訳が無いし、現時点で晴登の服の裾を掴んでいる理由も無い。
晴登も背後でそれを感じ、いよいよ退けなくなったというのだが。


「んだよ、テメェ」

「……っ!」


威圧。晴登はそれに気圧(けお)される。
目の前の三人組はあくまで大人。ガキ大将だとか、そんな生ぬるいものでは無かった。


「おい。このガキ、女連れて路地裏来てやがんぜ」
「マジかよ、この後そういう展開か?」
「けっ、良い御身分だな。ガキの癖に」


そういう展開? いや、どういう展開だ。でも取り敢えず、(けな)されているというのは分かる。
そして、ユヅキを女子として見たのも気に入らない。見えなくも無いけど。

結論、コイツらに関わると碌な事にならない。


「ユヅキ、一旦通りに戻ろ・・・」


晴登は逃げようとユヅキに提示する。
でも、ユヅキは目の前に居なかった。

さっきまで服の裾を掴んでいた筈だ。

何処に、と辺りを見回すと、その姿はすぐに見つかった。


「なっ…!?」


晴登の後方。そこには新たな三人組がおり、その内の一人がユヅキを捕まえていた。
最初の三人組と同様、道に立ち塞がっている。


「六人組ってか…!?」

「せいかーい」


晴登が見たままの状況を口に出すと、新たな三人組の方からそんな声が上がった。
見ると、その主はユヅキを捕まえている奴であり、口角を不気味に上げると次なる言葉を放った。


「大人しくしろよ? でなきゃ、お前の連れがどうなるか分かんねぇぜ」


月並みな脅し。
それでも、晴登の行動を封じるには充分だった。

動けば…ユヅキの身体の保障は無い。

一応、晴登は常人とは違って魔術を使える。
だが、この場合はどう使うべきだろうか。
相手はユヅキの首を腕で絞め、まるで『人質をとった銀行強盗』って感じだ。
つまりユヅキの身体が、奴らよりも前にある。下手な攻撃は、避けた方が良い。


「俺だけ逃げる、てのは選択肢にねぇよな」


決意したように呟く晴登。
その右手には風が纏っていた。

出来るか分からないが・・・『相手を脅す』というのはどうだろうか。
奴らの戦意を喪失させれば、後は容易に方がつく。
少々…いや、かなりの博打(ばくち)だけども、これ以外に助ける方法を晴登は思い付かなかった。

敵との距離は約5m。一瞬で間を詰めるには、厳しい距離だ。

・・・だったら、そもそも何故ユヅキは捕まったのだ?
音も立てずに奴らが後ろから迫ったという事なら、奴らはかなりの手練(てだれ)といえる。
もしかしたら、意外に手強いかも・・・


「ちっ、ガキの癖に魔法は使えんのかよ。つくづく腹立たしいぜ」

「…は?」


ユヅキを捕まえている男が、吐き捨てるように言った。だがその言葉の中に、晴登は聞き逃せない単語を発見する。

『魔法』

単語こそ知っているのとは違えど、男の口ぶりはまさに“魔術”を知っているそれだ。

そうだ。よくよく考えれば此処は異世界。地球の道理と違う事なんて日常茶飯事ではないのか。
もし、目の前の男達が全員魔術を使えるとしたら・・・それこそ晴登に勝機は無い。
「マズい」の三文字が晴登の頭を埋め尽くす。初心者といってもいいくらいの練度の自分が、大人に敵う訳が無い。
これでは、ユヅキを救うどころか、自分の身さえ危ない。


「一体どうすりゃ・・・」





「「ギャッ!!」」ガン



「…へ?」


不意に響いた叫び声。
そのマヌケな声を上げた張本人である、目の前の三人組・・・いや、後ろの三人組も合わせてバタバタと地面に倒れる。


ーー何が起こった。


晴登は右手の風を解き、状況の整理を試みた。
先程まで一生懸命考えていたせいで、彼らの不可解な行動の理由が掴めない。


ただ、彼らの近くに転がっているいくつもの氷塊の存在を除いては。


この怪奇現象の実態は、アレと見て間違いは無さそうだ。
大きさは、晴登の拳を二回りは超えている。アレが頭から降ってきたとしよう。

・・・気絶どころか、死に至りそうだ。

では、その発生源。
…といっても、もう答えは目の前に居る。
倒れた彼らを静かに見つめ、申し訳なさそうな表情をしているーーーユヅキ。
まさかで無くても、彼の仕業だろう。


「これはユヅキがやったの?」


迷いの無い直球な質問。
最も、答えの予測はついている。


「…うん。まだ魔法の制御が上手くいかないけど」


一瞬の間を空け、淡々と答えるユヅキ。よく見ると彼の両手からは、若干の冷気が漏れていた。


「氷の魔法…?」

「そうだね。でも、正確に言うと“熱量変化”に分類されるかな」


熱量変化。
物体の熱量を自在に操り、高温も低温も炎も氷も思いのままというチート魔法だ。
まぁ、ユヅキのはあくまで“氷属性の魔法”のようだが。


「それにしても、ハルトも魔法を使えるんだね! ボク以外で、この歳で魔法を使っている人を見たのは初めてだよ!」
「え、そんなに珍しい?」
「うん! 例え魔法が普通な世界だろうと、小さい頃から使えるって訳じゃ無いから」


目をキラキラと輝かせ、同志を喜ぶユヅキ。
それよりも、晴登はこの場をすぐに離れたいと思った。また仲間が現れるかもしれない。


「ユヅキ…行こう」
「うん」


二人は駆け出した。










*
「いや~ヒドい目に遭った」
「ゴメンね、ボクがあんな裏道通ったから…」
「いやいや、ユヅキのせいじゃ無いよ! それに、もう解決したから!ね!」
「うん…」


人の通りが少ない道の端まで逃げ、肩で息をする二人。
そして、先の喜びは何処へ行ったのか、自分のせいで晴登を危険な目に遭わせてしまったと、涙目で自己嫌悪に陥るユヅキ。
だが晴登は危険だなんて事はどうでも良く、ただただユヅキの無事を安堵していた。


「ところでさ、ユヅキって何処に向かってたの?」


ユヅキの慰めに努めていた晴登は話題を変える。
元々、ユヅキが行きたい場所が有るという事で来たのだ。
取り敢えずはそこに行って、さっきの事態を忘れよう。


「あぁ、そうだったね。えっと・・・うん、すぐ近くだよ!」


周りを見渡して一通り場所を確認したユヅキは、目的地への道順を把握する。
そして「行こ!」と一言、また晴登の手を掴んで走り出した。







「着いたよ」
「え、近くね?!」


元々何処に行くかも知らないのだが、あまりの近さについ声が洩れる。
さっきの場所から100mも進んでいない程の近さだ。


「ほぉ…」


晴登は目の前に建つ家に対し、感動詞を吐く。
見上げる…とまでは言わない大きさで、王都の雰囲気が感じられる家であった。日本じゃまず、お目にかかれないだろう。


「中に入るよ」
「あ…うん」


ユヅキはゆっくりとドアを開ける。外に負けない明るさが目に入ってきた。


「…時計屋?」
「うん」


明るさと共に見えたのは、晴登もよく知る『規則的に針を動かし、時を刻む道具』、即ち時計だった。
学校の教室よりは面積の小さい室内を、壁一面に飾られた時計が更に狭める。
全ての時計が針で同じ時を刻み、同じ動きをしていた。じっと見ていると、催眠術に掛かりそうである。
もし、この時計らが趣味で集められているだけとすれば、そこそこな変態がオーナーであろう。
そして、そのオーナーとユヅキが友達だという事実が有ると少し引いてしまう。

よって、晴登は此処を時計屋と判断したら、大正解だった。


「あ、やっぱり…」


室内をズンズン進み、奥に向かいながらユヅキは呟く。
彼の眼前にはレジが有り、無精髭(ぶしょうひげ)の似合う四十歳位の一人の男性が椅子に座って熟睡していた。
ユヅキはその男性に近付くと、目一杯息を吸い込んで・・・


「ラグナさーん!! 起きて下さーい!!!」ドン


レジの台を叩く音も合わされ、騒音とも呼べる声が店中に響く。晴登はその声に耳を塞ぐも、時既に遅し。
鼓膜がガンガンと振動し、大音量な声が頭に木霊(こだま)した。
お陰で声が消えた後も、晴登は耳を塞ぎ続ける事になった。


「・・・うっせーな。もうちょい優しく起こせよ…ユヅキ」
「開店してるのに寝てるからですよ! 来て正解でした」
「へ? あぁ…今日お前は休暇か。・・・大体、こんな店いつ潰れてもおかしくねぇよ」ハハハ
「ちょっと、困りますよ!」


騒音の後は喧騒。晴登は目でそれを感じる。今両手を退()けるのは少しマズいな。

晴登は目視だけで状況の分析を始めた。
ユヅキの叫び声の中、何とか聞き取った「ラグナさん」という単語。つまり、この言葉があの男性の代名詞という事になるのだろう。
親しげに会話する二人を見て、図らずも先の仮説が頭を(よぎ)る。だが、流石にあの男性が変人という事はあるまい。イカツい顔はしてるけども。

晴登は頭の中が落ち着いたのを確認し、ゆっくりと両手を耳から外す。


「ところで、お前さんは誰だ?」


耳が開放されたと同時に、ぶっきらぼうな声が聞こえる。
その声の主であるラグナと呼ばれる男性は、晴登をじっと見ていた。


「えっと…三浦 晴登です」


視線に威圧を感じ、早くやってしまおうという意が溢れる自己紹介。
しかし男はそれを素直に聞き入れると、頷きながら言った。


「ハルト…か、良い名前だな。俺はラグナ・アルソム。この時計屋の店長だ」


言った後、凶悪な顔から想像も出来ないような笑みを浮かべたラグナ。
晴登は直感で『優しい人』だと判断した。


「ユヅキ、ハルトとはどういう関係だ?」
「どういう、ね・・・恩人かな?」
「恩人? そりゃ一体…?」


ユヅキはラグナの問いに、先程の事態を全て説明する。晴登は、その話で自分が随分と買い被られていた事にむず痒さを覚えるも、嬉しさも感じたので黙っていた。


「・・・ほう。魔法を使えるのか。こりゃ面白ぇ」
「そうそう」
「お前ら、一度戦ってみたらどうだ?」
「もう、そんな話の為に此処に来た訳じゃ無いからね」


頬を膨らませ、()ねた態度をとるユヅキ。
一方、そんな態度は慣れっこのようで、ラグナは笑って誤魔化すと話を始めた。


「つまり、ハルトに店を紹介してくれたんだな? そいつぁありがてぇ」
「俺お金持ってないけど…」
「じゃあ此処でユヅキと一緒に働くんだな」ハハハ


気分が良いのか、先程からずっと笑っているラグナ。
晴登もその発言に愛想笑いを返す。

・・・ん? ユヅキと?


「ユヅキは此処で働いているんですか?」
「おうよ。一人暮らしってんなら、断る理由もねぇしよ」
「ラグナさんもボクにとって恩人に当たる人だね。お金が無くて困ってた時に、この店で働かないかって誘われたんだ」
「へぇ~」


ユヅキの思い出話に頷きながら納得。
確かに、一人暮らしならお金は自分で稼がなければならない。
見たところ誰かから支給が有るって訳でも無さそうなユヅキにとって、それは千載一遇のチャンスだったのだろう。


「まぁ、その当時と今とじゃ売り上げは全然違うけどよ。今時、時計なんてどの家庭にも有るからな」


突然寂しそうな口調になるラグナ。
時代の流れを感じたのか、その表情からは諦めの念が読み取れた。

このままでは、ユヅキもラグナも居場所を失う。
そう悟った晴登の行動は…早かった。


「じゃあ俺が呼び込みをしますよ!」

「「え?」」

「だから、呼び込み! そうしたら、また店に人が寄ってくれるんじゃないですかね?」


晴登は、自分の思う最高の案を述べる。
それを聞いた二人は少し考え込むと、口を開いた。


「呼び込みつっても、そんなに甘くねぇぞ?」
「さっきラグナさんが言った通り、寄ったとしても買っていく人は少ないんじゃ…」


否定。
猛烈、とは言わないが、晴登はそのくらいの威力を感じた。そして自分の出した駄作を後悔する。


「そ、そうですよね…」
「んん…その、あれだ。呼び込みはいいから、店を手伝っちゃくれねぇか? 客が来なくても、時計の整備だけは忙しいからな」


今日合わせても三日間。
そのくらいの短期間ならなら良いだろうと、晴登はその誘いを承諾した。
ユヅキも一緒ならば、大して不安は無い。


「んじゃ、明日から宜しく頼むわ」


でもって、職業体験期間が二日間に減ったのは言うまでも無い。










*
「どうだった? ラグナさん」
「行きたい場所ってよりも、会いたかった人みたいな主旨に変わってるけど…。優しい人だなって思ったよ。見た目は怖いけど」
「こう言っちゃ悪いけど、店の評判はそれが関係しなくも無いんだよ。昔はもう少し優しい顔だったんだ」
「何その年齢の変化を感じる発言」


場所はユヅキの家。外も暗くなってきて、いよいよ異世界での最初の夜を迎えようとしていた。
と言っても大層な事をする訳も無く、今はこうして駄弁っている。


「じゃあ夕飯を作るから、ハルトは風呂に入ってきなよ」
「え、風呂とか借りていいの?」
「泊まるんだから、それは当たり前じゃないの?」


ユヅキの提案に対して疑問を返すと、疑問で返される。
確かに、泊まると言ったのは自分だし、風呂に入らないと気が済まないのも事実。

ーーーって、あ・・・


「服どうしよ…」ボソッ

「何か言った?」
「いや、何も! それじゃあ入ってくるね!」


半ば強引に会話を終了する晴登。
それは、自分の過ちに気付き、バレない内に済まそうという意思からだ。

替えの服が無い。

それは異世界生活においての慢性的な問題である。
ユヅキの服を借りるというのも、流石におこがましいというものだ。
今日はまだ、汗とかはかいていなくて服も汚れていないから良いが、明日以降それが続くとも限らない。

・・・取り敢えず、風呂に入ろう。










*
「意外と凄かったよ、風呂場」モグモグ
「“意外と”ってのは余計かな。ちゃんと毎日掃除してるんだし」モグモグ


時は夕食。
出された料理は見慣れない食材ばかりであり、少し恐怖を覚えた晴登であったが、特に害なんて無い物だと分かり、今は恐怖を忘れてユヅキと雑談をしている。

結局、服は同じ物を二回着ている。
さほど目立った汚れも無く、ユヅキからのツッコミも無かったのでその話題は放置しているが、いつ指摘されるとも限らない。

だから、その話題を出される前に、違う話題で誤魔化す…!


「この料理美味しいね」
「え、そう!? 人に食べて貰うって初めてだから、ちょっと心配だったんだ~」
「いやいや、普通に美味しいって」


率直な感想を述べる晴登。
その傍ら、今の言葉が嬉しかったのか、ユヅキは頭を掻きながら照れていた。


「ご馳走さま」
「お粗末様です。んっと…ボクも風呂に入って来ようかな」


晴登が皿を重ね、ユヅキに手渡す。そんな日常の行動さえ、今は新鮮味を感じる。
同棲(と言うと誤解を招きそうだが)だとか、ルームシェアだとか、そう考えるとこの生活を楽しく思えてきた。

ユヅキの伸びをする仕草を見て、晴登は初めての感覚に頬を綻ばせる。


「そういや、風呂場の石鹸が少なかったけど」
「え、そうなの? 何処に置いといたかな…」
「じゃあ俺が捜すから、風呂に入ってて良いよ」
「あ、うん。ありがとう」


この家の風呂場は、一言で『清潔』だった。木造だっていうのに、新品のような輝きを持っていたのだ。
毎日掃除したところで、果たしてそうなるのであろうか。
そして石鹸の件。
結論として、シャンプーやら何やらは、この世界に無いと判断しても良いだろう。
よって、石鹸一つで全てを(まかな)わなきゃいけないのだが・・・

さっき、晴登が極限まで使い果たしてしまった。

決して悪意が有ったのではない。ただ、加減が出来なかった、と言うべきだろう。
人の家の風呂を使ったのなんて、莉奈の家ぐらいだし…。


「お、有った」


ユヅキが風呂に向かってから、およそ一分。早くも対象を、台所付近の引き出しで見つける。
同じ銘柄の5個の内、晴登は全て手に取った。

台所は風呂場から遠い。だから、この石鹸を風呂場に片付けよう、という(いき)な計らいである。

晴登は両手に石鹸を持ち、風呂場へ向かった。


「ユヅキ~石鹸持ってきたよ」ガラッ
「え!? あ、ハルト、ちょっと待っ・・・」


急な制止。
しかし、もうドアを開けるモーションに入っていた晴登に、それは届かなかった。

互いに沈黙。
その中で、石鹸がドサドサと落ちるのが分かった。
晴登は目の前の光景にただただ絶句する。



目の前にはユヅキの姿が有ったのだが、その体躯は“少女”のものと変わりなかったのだ。

 
 

 
後書き
新キャラ登場&衝撃カミングアウトで大混乱ですこんにちは。波羅です。

さて、今回はカミングアウト以外、特に大事な事もありません。ユヅキは・・・そういう事だったんですよ。

次回でそこんとこは多く触れるので、この場では控えます。
では、また次回で! 

 

第37話  恩人

 
前書き
年齢制限で規制とかは・・・大丈夫…? 

 
目の前に有るのは女子の裸体。弱々しい体躯に真っ白な肌が光る。その一部、僅かながら膨らむ胸も確認できた。

しかし、晴登にとってそれを喜ぶ事はできない。
それは晴登自身、この状況に“悦”よりも“罪悪感”を覚えていたからだ。


「あ…」バッ


今にも泣きそうな表情の中、ユヅキは大きい厚手のバスタオルを手に取ると、身体に巻き付ける。
晴登はその様子を呆然と眺めていた。
頭の中には何も入ってこない。この後、自分がどんな行動をすれば正解なのか、それさえも考えられなかった。

その中で、ただ一つ解った事。
それは、自分は今とんでもない事をしてしまったのだという事だ。

男女においてこんな行動が許されるのは、親密な関係にある男女…それこそ、同棲している者達ぐらいである。
形だけはそれを得ている晴登だが、圧倒的に欠けている物もあるのだ。

『信頼』

こればっかりは、時間を掛けないと作れない。
たかだか、今日出会ったばかりの人物相手にそれは生まれるだろうか?

否。不可能だ。
であれば今の事態は、晴登に対してユヅキが築こうとした“信頼”が崩れたのを意味する。一度崩れてしまえば、修復は困難。
例えあと二日の付き合いでも、それは残酷である。


「あ、いや…その…」


下を向きながら、晴登はしどろもどろな弁明を行う。
何も思い付かず、ただ自分の無実を証明しようとする者の末路だ。
冷や汗がまだ綺麗だった服に滲む。

すると、二の句を継げずにいた晴登に、ユヅキが一言放った。



「ハルト、ボクの身体に興味有るの…?」

「へ…!?」


今までの思考が全てひっくり返る発言。何を言われたのかも正直ピンと来なかった。
晴登は即座に顔を上げ、ユヅキの表情を(うかが)う。
彼女の頬は羞恥で真っ赤になってはいるが、目には微かに滴がみえているが、

ーーなのに、哀情を感じなかった。


「ハルトも男の子だし、そういう気持ちを持つのは分かる。でも、そういうのはまだ早いんじゃ・・・」

「いや待って! 何の話!?」


ユヅキの解釈に、たまらず声を荒げる。
彼女の最初の反応は正しかった。普通、着替え中に男子が入ったら、そりゃビビる。
じゃあその後だ。「身体に興味」? おい待て、そうはならない。

ユヅキの思考って、何かおかしい…?

そもそも晴登は彼女の身体目的では無く、ただ効率を求めて行動していただけの筈だ。
それなのにそんな判断を返されてしまうのは、筋違いである。
それに気付かないユヅキは、首をかしげながら晴登の問いに答えた。


「何って・・・ハルトの欲望の話…かな?」

「止めて!俺はそんな人間じゃない! ホンッとゴメん。今すぐ出ていきま・・」ガシッ


余りの解釈に、すぐさま振り向いてドアを開けようとするも…袖を掴まれる。昼間の様にしっかりとだ。



「ハルト。ハルトが望むんだったら…その…」



ユヅキは言葉を詰まらせる。
だが、その先の言葉の予想は、そういう知識の無い晴登にだって大抵はついた。


「いやいや! 俺らって今日会ったばっかだよ!? そんないきなり…」


後ろを振り向かぬまま、晴登は言葉を返す。最も、語尾には力が無かった。
心拍数が急激に上昇する。下手すると、袖を通して伝わってしまうのではないかというほど。


「でも今日、ハルトにボクは救われた。その恩返しだよ」
「救う? 昼間の話なら、ユヅキが自分で解決したじゃん…?」

「違う。その話じゃない」


「え?」と疑問符を浮かべた晴登。
直後、反射的に振り向いてしまう。しまったと思ったが、時すでに遅し。

眼前にアップで映る、身体にバスタオルを巻いた銀髪の美少女。
当然、その姿に晴登は()けてしまう。
若干涙目な所が、可憐さを際立たせているというものだ。

しかし、その格好の危険度を理解すればするほど、晴登の心臓はより一層激しく動く。
無防備。手を伸ばせば…可能であるのだ。


「ど、どの話…なの?」


喉に詰まる声を絞り出して、晴登は訊く。
目の前の人物が少年では無く少女と気付いた時から、晴登のユヅキへの見方が変わっていた。
元々、理性を抑えていたという訳でも無いので、善からぬ行動を起こす事は無いと、自分で自覚しているが。

けどそれでも、男女が一つ屋根の下に揃ったのは確かだ。

ユヅキの言葉の真意を聞くより先に、その事実が晴登の心を大きく揺らす。
そして、その事から連想される数々の言葉が、晴登のキャパシティを埋め尽くした。


「それはねーーーって、ハルト!?」


脳が要領オーバーした晴登は遂に、バタリと倒れた。










*
「ん…」


目が覚めた。夢を見ていた気はしない。
ただただ、何も無い意識を揺蕩(たゆた)っていたと思う。


「ハルト、起きた?!」ズイッ
「うわっ!?」


そんな曖昧でボーッとしていた頭を覚醒させたのは、ユヅキの一声だった。寝ている晴登の眼前、これでもかと顔を近付けている。
勿論晴登はその不意打ちには対応できず、すぐさま体を起こして距離を取ろうとした。

ーー起き上がれない。

理由は単純。ユヅキが晴登の額を押さえていたからだ。
すると、その額からヒンヤリと冷たい感覚が伝わる。


「ハルトはきっと逆上(のぼ)せたんだよ。今冷やしてるから、もうちょっと待ってね」


ユヅキが述べた理由に疑問を覚えるも、直後「そうか」と納得。
彼女は、晴登の倒れた理由をそう解釈したのだ。
晴登は思い出すのも恥ずかしいので、わざわざその解釈を覆す事はしない。


「ごめん」


その代わり、口から出たのは謝罪の言葉。
それでも、ユヅキは晴登を優しく見下ろすと、


「気にしないでよ。さっきはボクも…その…ね」


ばつが悪そうに、後半蛇尾になりながら言った。
そして今の発言を聞く限り、さっきの発言は解釈ではなく建前だったのだと分かる。

ちなみに先程の出来事については、晴登は忘れたいという一心だ。自分の過ちを無かった事にしたい、と。
でも、まだ気になる事がある。


「さっき言ってた、俺に『救われた』って…どういう事?」


記憶の最後、その言葉が頭に残った。
昼間の出来事では無いというのなら、晴登には思い当たる節が無い。

ユヅキはそんな晴登を見据え、ポツリと言った。


「…簡単な話さ。ボクの孤独を、晴登が救ってくれたんだ」

「え…?」


言葉の意味が分からず、またもや困惑。
晴登にとって今の答えは、疑問の断片も解決していない。
『ユヅキが孤独』。それは完全に初耳なのである。

ユヅキは言葉を続けた。


「ボクには元々、同年代の友達が居ない。昼間に、魔法が使える同年代に会ったのは初めて、とか言ったけどさ、そもそも他の同年代との交流なんて無かったんだよ」


ユヅキが淡々と語った内容。それは決して、流して聞けるものでは無かった。
彼女には友達と呼べる者がいない。そして、そこに現れた自分。それが意味する事は・・・



「だからハルトは、ボクの初めての友達。つまり、恩人なんだよ」



照れ臭い気持ちが胸の奥に宿る。こうも堂々と言われてしまうのだから、無理もないだろう。

『恩人』だなんて、かつて言われた事が有っただろうか。少なくとも、現存する記憶の中には入っていない。

晴登は静かに口角を上げ、その事実に苦笑。自分はホントに普通の人生を送ってきたのだなと、痛感する。

するとユヅキは、極めつけの一言を呟いた。



「ハルト、ありがとう」



嬉し泣きだろうか。彼女の溢した涙が、顔に降ってくる。
それを真に受けながら、晴登もまた口を開いた。


「こっちも同じ気持ちだよ。当ても無くさまよっていた俺に、ユヅキは場所を与えてくれた。それこそ、感謝の気持ちで一杯だ。・・・ありがとう」


最後の単語を言うのも、少し恥ずかしい。でも、感謝を伝える事に恥じていてはダメだ。

上を向き下を向き、互いに互いの目を見据えて感謝を伝え合う。



ーー刹那、ユヅキが晴登に顔を近付けた。
目を瞑り、口先に意識を集中している。
そして・・・





「ちょ、顔近い」グイッ

「あぅ」


赤面した晴登の右手によって、その行為は阻まれた。
晴登は眼前に迫るユヅキの顔から目を逸らし、申し訳無さそうにそう言う。彼女の行為の意図は全く掴めないが、女の子が近くに居るだけでも照れるというのが男の子なのだ。

ユヅキは自分を阻害した右手を忌々しそうに見つめるが、直後ホッとした表情をする。そして、両手で涙を拭った。
晴登はその様子を見ると、笑みを溢す。

やっぱり、泣いているより、笑っている方が断然良い。

ただ晴登は内心、何か良いチャンスを逃した気がする、とだけは思っていた。


「あ、そうだハルト。ボクってまだお風呂に入ってないんだけどさ・・・一緒に入る?」

「いや、遠慮しとく…///」


その後、思い付いたように危険な発言をするユヅキに、晴登は更に顔を真っ赤にしながら返答した。
 
 

 
後書き
今回は比較的短く書いております。
内容はタイトル通りなんで、あんまり先には進みません。
次回くらいに、何かストーリー的に変化を起こせられれば、と思います。

さて。今回はサービスが強く出ていた事かと思います。年齢制限に掛かりそうでヒヤヒヤしていたのは事実。これだけは書きたかったものでして(´∀`)ニヤリ
こんな事を十二歳の餓鬼共がリアルにやっていたら、撲滅に向かいます。

次回は、何かストーリー的に変化をもたらしたいです!(←あれ、さっき言った気が…)
そりゃ、これだけで異世界終わったらつまんねぇですもん!
とびっきりのを用意出来るかは、自分のヒラメキとヒラメキに懸かっています(←ほぼ運である)。
ただ、月並みまっしぐらだけは勘弁です…。

ーーですので、期待は微妙にして待って貰えればと思います! では!! 

 

第38話  イベント

 
前書き
『君の名は。』観て感動したり、『RED』聴いて感激したりしてたこの頃。
何かもう・・・凄い(呆然) 

 
異世界に来て、一日が明けた。
寝る事によって来た世界で寝るという不思議な体験だったが、起きた時に目の前に見えたのが見慣れた自分の部屋ではなく、隣に少女が寝ている木造の部屋だったという事が、その不思議さを一層掻き立てる。

つまるところ、この異世界ではホントに三日過ごさなければならない。


「思ったより長いよな、三日って」


晴登は伸びをしながらポツリと呟く。
その際隣の少女が横目に見えたのだが・・・


「ユヅキって…女子だったんだよな」


昨日の出来事を思い返すと、そういう結論に至る。
無論、思い出しただけで恥ずかしくなった。


「今、何時だろ?」


気分を変えるつもりで周りを見渡すも、時刻を知らせる時計は無い。
それは昨日の内に分かっていた。

窓に近付きカーテンを開けると、眩しい光が目に入るーーー筈だった。
見えた景色は曇り空。それとなく不穏な気配がした。


「二日目からもうイベントって…もうちょっと楽しんでも良いんじゃないの?」


誰に伝える訳でも無く、ただただため息をつく晴登。
異世界でイベントが起こるのは必須事項だが、どうせならもう一日楽しみたかったというものだ。
ちなみに、一日目の不良騒動はイベントには入らない。


「さて、と。何をしようか」


だが、イベントが無くては正直暇である。
今この時にやる事さえ、ろくに無いのだし。


「取り敢えずユヅキを起こして・・・いや、その前に朝食を…?」


部屋の真ん中、布団の上に乱れる事なく綺麗に寝ているユヅキ。彼女を見て思い出すのは、やはり昨日の出来事。今から起こしたとして、まともに会話できる自信がまず無かった。
ならば、朝食の場を既に設ける事で会話のチャンスを増やせば良いだけ。


「よしやるか!」


自分の力を発揮する場面到来に、晴登は意気込む。
しかし、現実世界とは訳の違うこの異世界で、そんな場面は存在しなかった。


「…この食材・・・何?」


台所の食料庫。そこには見た事も無い食料が揃っていた。赤くて歪な形状の実や黒々とした長い植物。
現実世界と比較すると、それはもう“異常”を感じた。
といっても、見た目も味も結果的には食欲を害する物では無かったというのは、昨日で確認済みである。

だがしかし、いざ自分が料理するとなると話が変わってくる。
触った事も無い食材に、果たして立ち向かえるのか?



「ハルト、何やってんの?」



突然の干渉に肩をビクつかせる。振り向くと、至近距離にユヅキが立っており、またもビビる。


「うわぉユヅキ…お、おはよう…」


差し障りの無い挨拶で、まずは気まずい雰囲気に入るのを阻止。
すると彼女は目を擦りながら、


「あ、うん、おはよ……ふぁぁ」


最後に可愛らしい欠伸を残して、挨拶を返す。普段の半分も開いていない目は、まだ眠いという気持ちを公表していた。

そして…目一杯に伸びをする。


「んんーー!…おはよ、ハルト!」
「え、何で二回!?」


元気に二度目の挨拶をするユヅキに、堪らずツッコみ。
ユヅキはその反応が予想通りだったらしく、ニッコリと笑った。

気にする事は無い。

晴登は心の中でそう思った。
自然と表情には安堵が洩れ、彼女もまた笑顔を溢している。
心配なんて杞憂だった。

こうしてユヅキが、笑ってくれるのだから。


「あれ、ハルト。もしかして、朝ごはん作ってくれようとしてたり?」
「え、あぁ…うん」


ユヅキが状況を見て判断したのか、(いぶか)しげに訊いてきたのを、一応肯定で返す。決して悪い事では無いのだから、隠す必要は無いと思ったからだ。

だが、あくまで“一応”。
作り出すまでは、もう少し時間を要しただろう。
ユヅキは、晴登のそんな気持ちを知ってか否か、


「じゃあ一緒に作ろ! 良いよね?」


まさに妥協案といった提案が出される。
勿論、その提案は願ったり叶ったりだ。断る義理は無い。


「うん、良いよ」


晴登は快く、提案を承諾した。










*
「ハルトって、意外と料理が上手なんだね」
「“意外と”は余計だよ。・・・あれ、昨日もこんな会話しなかった?」
「そうだっけ?」


朝食を食べ終わり、二人で食器を洗っていると、軽くデジャヴが引き起こされる。
そんなに気になる事柄でも無いので、すぐに忘れたが。


「この後はラグナさんの時計屋に?」
「まだ早いけど・・・そうだね。もう行っちゃおうか!」
「あ、いや、早いなら別にーーー」


言葉を紡ごうとした瞬間、体が急に前のめりになる。
手首には圧力を感じた…って、またこのパターンか。
・・・結構強く引っ張ってくるから余裕が無いんだけど。





家を出て、道を駆け、森を抜けると、関所に着いた。


「…すっごい端折(はしょ)った感が有るな、オイ!」
「何言ってんの…? それより早く早く!」
「あ、うん…」


関所を抜けると、目の前に広がるのは昨日の光景。
大通りが人々でごった返し、歩くのが困難そうだった。


「こんな朝から人が居るんだ…」


驚きの意味を込めて一言。まだ感覚的には朝っぱらだと思う。
なのに、こうして昼間と変わりない光景を見ると、此処が王都なんだと改めて実感した。


「おっと…早く行かないと」


ユヅキの手から解放されて自由になったからか、ついボーッとしてしまう己に喝。
目的地が何処かは分かっているが、まだ場所を明確に把握していない。だから、まだユヅキを目視できる内についていく必要がある。
向かってくる人の壁を避けながら、晴登はユヅキの後を追った。


するとすぐに、見た事のある家の目の前に着いた。
ユヅキが何の躊躇いも無く入っていくのを見て、真似するように入る。
狭い室内の奥、ラグナはレジ台に頬杖をついて寝ていた。


「また…」


ユヅキがポツリと呟き、その場に足を運ぶ。
さて、この後の展開が何となく予想できてしまった。予め準備をする事にしよう。
晴登は静かに耳を塞いだ。


「ラグナさーーん!!!!」


だが早朝からのこの大声でさえ、王都の賑わいには敵わなかった。










*
「あぁくそっ、耳が痛ぇ。いっつも言ってるだろ、もうちょい優しく起こせって」
「寝てる方が悪いっていうのも、いつも言ってますけど」


ラグナがユヅキを睨みつけながら、彼女の行動に対して不満を口にするも、正論によって一蹴される。お陰でムスッとした表情をせざるを得ないラグナだったが、ユヅキの隣に立つ晴登を見た瞬間に表情が変わった。


「お、ハルトじゃねぇか。今日はよろしくな」
「え!? あ、はい、よろしくお願いします!」


ラグナの表情の一転に多少戸惑い、慌てて返答をしてしまう。
それでもラグナは気にせず、先程の不満を忘れているかのように清々しい笑顔を見せた。


「んじゃ、ちっと早いけど準備すっか。どうせ客来ないけど」
「そんな不吉な事言わないで下さい!」


ラグナが仕掛けた意地悪に、ユヅキがまんまと引っ掛かる。そろそろ、お決まりパターンとなるのではなかろうか。
ラグナは愉快そうに笑うと、ようやく腰を上げた。


「じゃあ、ユヅキはいつも通りの仕事をハルトに教えてくれ。ハルトはそれに従ってくれたら良い」
「「あ、はい……え?」」


晴登とユヅキの返事が重なり、互いに顔を見合わす。
それを見たラグナは更に笑いの調子を上げ、


「はっはっは! 仲が良いこったな!」


豪快に一言。
まぁ少し照れ臭いが、悪い事では無いから素直に受け取っておく。
ユヅキもまた同じ気持ちのようだったが、微笑みを浮かべていた。


「それじゃあハルト、行こうか」
「うん」


その表情のまま振り向き、晴登に一声。
晴登も笑顔で応え、彼女の後へついて行った。










*
「よく見たら、これだけ見慣れてる感あるな」
「時計が? おかしな反応だね、ハルト」


腕で抱えられる程の大きさの時計を見て、ふと思った事を呟く。それは時計の見た目についてだ。
現実離れ・・・とまでは言わないが、日本離れしている光景が続くこの異世界の中、何故か目の前の時計やそれ例外の時計だけ親近感が湧いた。

止まる事無く動き続ける秒針に、時々動きを見せる長針と短針。それらを眺めていると、ふと元の世界を偲ぶ。
一日居なかっただけで寂しく感じる。所謂、修学旅行中のホームシックだ。そんな経験無いけども。


「どうしたの? そんな悩むような顔して」
「うわぉ!」


急に晴登と時計の間に入り込んで、顔を覗いてくるユヅキ。
その不意討ちに驚き、足がもつれて尻餅をついた。


「うわ、ゴメン! 大丈夫?」
「いやいや、驚いて悪かった。ちょっと故郷を思い出して」
「故郷?」


ハルトがポツリと洩らした単語にユヅキが反応する。
晴登はその反応を見ると、言っていいものかと一瞬迷ったが、続きを話した。


「別に隠す事も無いから話すけど…俺は遠い所からきた人間なんだ」
「遠いって、どのくらい?」
「あー…それは分かんない」


思い切ったカミングアウトをしてみるも、ユヅキの質問にあっさり撃沈。
簡単な話、この世界の知識については出発前に部長から聞いた限りであり、それ以上のものは持ち合わせていないのだ。
一頻(ひとしき)り唸ってみて、出た答えはただ一つ。


「この世界には俺は存在しない…ってぐらい?」
「何それ難しい」
「だよね…」ハハハ


少し哲学っぽい答えを出すと、ユヅキは意味が分からず膨れっ面。
だが決して嘘では無い。この世界が地球の中に有るのなら話は別だが、“異世界”という名を地球人から付けられているならば、その名の通り異世界なのだろう。
此処は、地球ではない。


「ユヅキの出身は何処?」
「え、ボク?」


自分の身の上話をしたら、相手のも聞きたくなるのが人間だ。
昨日のラグナの話だと、普通の人生を送ってはいないだろうと判断できるから、なお気になる。
・・・この理由だと少し不謹慎だな。


「気になるから聞かせてよ」
「そうだな~」


自然な建前を使って探ると、ユヅキは首をかしげながら考える。どうやら話してはくれそうだ。


「…ボクはこの辺とは違う地域で生まれた。でもそこでは少し、いざこざがあってね。ボクは流れでこの街に辿り着いたんだ」
「でもお金とか全く無くて、流れでラグナさんの世話に」
「そんなとこ。ここで働いてお金が貯まった頃に、今住んでる家に住み始めたんだよ」
「へぇ~」


思ったよりスムーズに、ユヅキは身の上話を語った。
晴登は相槌を打ちながら内容を聞く。


「少し訊きにくいんだけど、その…親は?」
「え? あぁ、気にしなくていいよ。ボクが勝手に一人暮らししてる感じになってるだけだから。親はまだ健在だよ」
「あ、そうなの!? そうか…」


自分の持っていた解釈と違う答えを返され、晴登はしばし困惑。頭を掻きながら、次の質問を考える。
と、ユヅキが先に口を開いた。


「晴登ばっかり質問はズルいよ。ボクも気になる事は色々有るんだから」
「あぁ…じゃあどうぞ」


ユヅキがまたも膨れっ面をするので、ここは素直に引き下がる。
すると彼女はコホンと咳払いをし、質問をぶつけてきた。


「ハルトは魔法が使えるよね? あれは何で?」
「何で? 何でって・・・教えられたから?」

「誰に?」
「部長からかな」

「ブチョウ?」
「…あ」


次々と繰り出される質問に続々と答えていると、つい異世界では通じない発言をしてしまう。
どう取り繕うか考えると、別に必要は無いという結論に至った。


「う~ん、まぁそういう人から」
「へぇ~。じゃあその人もボクらの歳の頃には魔法を使えてたのかな?」
「え? あ~どうだろ」
「ふーん」


意外や意外、部長に興味を持つユヅキ。
晴登はその事実に驚きを浮かべるも、それほど彼女が魔法を幼くして使える事に驚いていると分かれば、自然と納得がいった。



「おーい、時計の整備はどうだ?」

「あ、ラグナさん」


ふと、晴登らの輪にラグナが乱入する。
彼は店番を一旦離れ、店の奥の部屋であるこの時計の保管部屋での晴登らの様子を確認しに来たようだった。


「お客さんは来てますか?」
「いや、まだ来ないな。いつも通りだけどよ」
「そうですか…」


ユヅキが問い掛けると、ラグナは首を振って返した。
その答えを受けたユヅキは、シュンと寂しそうな表情になる。この感じだと、給料よりも店の繁盛自体がユヅキの望みだろう。
やっぱ呼び込みをしようか。その考えが頭に浮かんだ瞬間、



「すいませーん」ガランガラン

「「「!!」」」


店の扉に付いているベルが鳴った。
ラグナは急いで店内に戻る。
晴登とユヅキも、奥からこっそり店内を覗き見た。


「お客さん…だよね?」コソッ
「そうだね」コソッ


二人の間に小声のやり取りが起こる。
目の前、ラグナが普段の顔に似合わない営業スマイルを貼り付けて、接客している様子が見えた。


「今日はどのようなご用件で?」
「時計の修理を頼みたいです。無理そうならば、新しいのを買いますが」


お客さんは凛々しい男性だった。一言でいえばイケメンである。しかも、優しそうな雰囲気を持っていた。


「時計はこの場に?」
「はい。どうぞ」スッ


一瞬、ラグナの顔が強張る。
男性が出したのは腕時計だった。これもまた、晴登の持つイメージそのまま。針がどれ一つ動いていなかったのが、唯一の違いだろう。
ラグナの店では、柱時計や掛け時計しか見ていないので、この世界に腕時計が無いのではと一人で思い込んでいたのだが…間違いであった。

腕時計の修理は細かくて難しそうだから、ラグナは器用に出来るだろうか。
そこまで疑問が浮かんだ所で、ある事に気が付く。


「ねぇユヅキ、この店ってあんな時計置いてないよね?」コソッ
「うん、取り扱ってないよ」コソッ


ユヅキは“腕時計の修理”という事に、全く違和感を持っていない様子だ。
しかしこのままではマズいんじゃなかろうか。つまり、ラグナは腕時計を取り扱った事がないと考えられる。

そうか、だから顔が強張ってーーー


「分かりました。では、まずは修理をやってみます」
「お願いします」

「!!」


ラグナは修理をすると言い切った。
自信満々…とまでは言わないが、少なからず自信の含まれた言い方だった。


「明後日までに直しますのでーー」
「その日にまた此処に、ですか。分かりました」


ラグナは尚も営業スマイルを崩さない。
きっと大丈夫なんだ、直し方を知っているんだと考えてみるも、彼の頬を伝う汗がそれの証明を阻む。
チラリとユヅキを見ても、彼女は特に何の反応もしていない。本当に気付いていないのか…?


「それではまたのお越しを」
「はい。修理お願いします」


そうこうしている内に、客は外に出ていった。
晴登はすぐさまラグナに駆け寄る。


「ラグナさん!」
「お、どうしたハルト?」


「修理、ホントに出来るんですか?」

「……っ!」


またもラグナの顔が強張る。
スマイルは見事に崩れ、焦った様子を見せた。


「あ!? 楽勝だよ楽勝! いっつも時計触ってんだし? できねぇ訳ねぇだろ?!」
「でもこの店、この時計は扱ってないですよね?」
「う……」


痛いところを突かれた、というようにラグナは表情を歪ませる。
そしてもう言い逃れを出来ないと悟ったらしく、大人しく口を開いた。


「…何で分かった?」
「だって店に無いんですもん。見当くらいつきます」

「…修理は出来ねぇってのが答えだが、客の頼みとありゃ、是が非でもやらなきゃいけねぇよ。ーーーって事で、手伝ってくれねぇか? 二人とも」

「分かりました」


ラグナが諦めたように応援を頼む。晴登はそれに快く応じた。
ただ、次に後ろで頭を抱えているユヅキをどうにかしなければいけない。


「ユヅキ。そういう事だけど、どうする?」
「う、うん…。でも、ラグナさんが直せない時計が有るなんて・・・」

「はっはっは。こりゃ随分と過大評価されちまったな。俺はただの時計屋、直せない時計の一つや二つは有るに決まってんだろ?」


先程まで何の理解も持ってなかった為、事態の急展開にユヅキは頭が追い付いていないようだった。
少しの間、「あ…」だとか「えっと…」とか口から洩らしながら、困ったように悩んでいる。
しかし最後の「よし」をキッカケに、彼女は真面目な表情になった。


「分かったよラグナさん。ボクもやる!」


その言葉に、晴登もラグナも笑みを浮かべる。

異世界初のイベント『仲間で協力し、時計を直せ!』が始まった。
 
 

 
後書き
タイトルを見て、今回から何か始まると思った画面の奥のアナタ。残念ながら、大した事は何も始まりません。
いや、アレです。まだストーリー思考中です(泣)
今回は…ただの話稼ぎです。
そして異世界編の大イベントを、この後にぶち込めたらと。

期待をしてほしいですが、あまりし過ぎると興ざめするのでご注意を。
では、また次回! 

 

第39話  視える

 
前書き
ようやくストーリーを掴めてきました。
今回から始動致します! 

 
「あ、動いた」


そのラグナの言葉を皮切りに、晴登の異世界初イベントは終わりを告げた。少々名残惜しい気持ちになり、もう少しやりたいという衝動に駆られる。恐らく、小一時間で作業が終わった事が原因だろう。
誰一人直し方を知らなかったというのに、ラグナが自分の経験からそれを編み出した。
よって、難航する筈だった作業が順調に進んだのだ。


「直ったって事で良いんですか?」
「多分大丈夫だろう」


晴登の問いに対してラグナは、腕時計を回転させながら舐め回すように眺め、結論を出した。
その言葉を聞き、晴登とユヅキは揃って安堵の表情をする。
いくらイベントをもう少し楽しみたかったとはいえ、腕時計が直らなかったら元も子もない。まずは直った事を、素直に喜ぶべきなのだ。


「にしても、これじゃあ明後日までって期間が無駄じゃないですか? もうちょっと改造とか…」
「下手に(いじく)ると、それこそおじゃんだ。…そうだ。だったら、お前たちで届けてきたらどうよ?」


手を叩き、良い考えだろとでも言うように、ラグナは案を出す。
その考えに二人は賛成した。だが、


「確かに一時間くらいしか経ってないから捜せば・・・って、王都じゃ無理がありますよね」
「それに顔は覚えてても、名前は知りませんよ?」


様々な問題が立ち塞がる。
その問題を羅列すると、ラグナは焦りを見せた。


「そうか、よく考えたらそうなるわな。じゃあさっきの提案無しで。あと、お前たちはもう帰っていいぞ」

「「え!?」」


突然の展開に、たまらず二人は声を荒げる。
チラリと横目で商品の時計を見ると、針は偽る事をせずにしっかりと9時を示していた。


「まだ早くないですか?! ホワイト企業もいいとこですよ!?」
「だって二人居る上に、いつもより早くから来てたから、この時間に終わるのは妥当だろう?」

「だからって…。この時間はボクのいつもの出勤時間ですよ?」
「良いじゃねぇか、早く帰れて。後は二人で仲良くしてな」


仕事を早々に切り上げるなんて二人は出来なかった。
だが、どうにか続けられないか反論を掲げてみるも、全てラグナにへし折られてしまう。


「店長命令だ。諦めるんだな」

「「う…」」


その言葉を最後に、二人は渋々店を出た。










*
「いくらなんでも、あの物言いはひどいんじゃない? ラグナさんにとっても、俺たちが居る方がプラスだと思うんだけど」
「何か考えが有るようには見えなかったから・・・気まぐれって感じかな?」


学校から早く帰れると喜ぶのが現代の子供。
しかし、初めての職業体験で早く帰されるのは気にくわないのが晴登だった。

場所は、時間に比例して賑やかさを増す大通り。
ラグナの店から出た二人は、先程のラグナの必死ともいえる物言いについて考えていた。
晴登は、何かしら裏が有るのかとユヅキに訊いてみたが、長く付き合いのあるユヅキでも特に感じるものは無いと言われ、疑問は謎を深める一方である。

すると彼女は「あ」と一言洩らすと晴登を見て、


「もしかしたら、さっきお客が来たから今日はもう来ないと思ったのかもーー」
「お前のこの店の評価ひどいな!!」


その言葉が戯言(ざれごと)と分かった瞬間、晴登は鋭いツッコミを入れる。
ユヅキはそれを受けると、わざとらしく舌を出して「ごめんごめん」と軽い謝罪をした。


「でさ、これからどうする?」
「…上手く誤魔化された気がするけど・・・そうだね。仕事が終わっちゃうと、正直やること無くなっちゃうな」


二人は首をかしげ、新たな議題について考える。
『ラグナの店で働く』というアクションが終わった以上、この後に残るは『暇』という怠惰(たいだ)のみ。
折角の異世界非日常イベントのチャンスを、棒に振るのだけは勘弁だ。


「となると、自分でイベント起こすしかやる事ないな」
「いべんと? ハルト、何の話?」
「いやいやこっちの話。そうだな・・・じゃあ王都探険でもしない?」
「探険?」


晴登の提案に、ユヅキは更に首をかしげて応対。その表情には明らかに疑問の念が滲み出ている。


「そう探険。やりたいと思わない?」
「いやあんまり…」


子供の様に無垢な笑顔で純粋な志望を述べる晴登に、ユヅキは戸惑う。
晴登はこの反応を見て、異世界以前に性別の差を知った。

幼い男の子といえば、ヒーロー物に憧れるし、探険とかは超燃えて取り組むタイプ。晴登だって例外ではなかった。
しかし、女の子はそうはいかない。そういう系が好きな子がいないとは言い切れないが、多いとも言えない。
彼女らは可愛らしい遊び、例えば飯事(ままごと)などが好きなのだ。

これらの常識と照らし合わせると、ユヅキの反応にも納得がいく。
晴登はそこを踏まえ、もう一度話を切り出した。


「乗り気じゃないかもしれないけど・・・ほら、これから暇じゃん? だから有意義に時間を使おうと」
「探険は時間を有意義に使う事かな?」
「あぁそうさ! 知らない事を知りに行くって、良いと思わない?!」


結局は自分の望みが駄々漏れる晴登。
ユヅキはそれらを聞いてしばらく唸った後、


「まぁハルトが行きたいっていうなら、付き合わなくはないかな、うん」
「ありがとう、ユヅキ!」


ユヅキの優しさもだが、自分の意外な幼稚さに改めて気付かされた瞬間だった。










*
「と言っても、結局はユヅキの買い物に付き合わされただけという」
「そんな人聞きの悪い事言わないでよ! ハルトが探険だって言うから、わざわざ色んな店に・・・」
「いやまず、店が確定事項の時点でおかしい!」
「だって夕食の食材が無いもん」
「そりゃ仕方ない。ごめん」


さっきの決断から早二時間。『王都横断店巡り』は、ようやく終わりを見せていた。
道の端のベンチに二人で腰掛け、だらしなく腕や脚を投げやっている晴登は、疲れを隠すことなく晒す。

晴登自身はこの探険に満足はしていない。折角の探険チャンスなのに、店巡りという訳の分からない行事に付き合わされたのだから。最も、夕食の食材が無いと言われればそれまで。居候(いそうろう)という身でワガママは言えない。
だが、まずは一つ言う事がある。


「そろそろ昼食だけど…どうする?」

「・・・ここは王都なんだし、折角だから外食にしようか。お金だって残ってるから…良いよね? ハルト」
「もちろん。家に戻ったとしてもやること無いからね。どうせなら今日一日は王都に居ようか」
「うん!」


晴登の提案をユヅキは快く承諾。
その素直さに笑みで返し、二人は立ち上がり歩き始めた。
行き先はユヅキがもう決めているようで、歩みに迷いは感じられなかった。





「ーーー着いたよハルト」

「唯のファミレスじゃん。異世界にもこんな物が…?」
「何言ってるのか分かんないけど…行くよ?」
「あ、あぁ」


ユヅキに案内されて着いた場所ーーーそこは、現実世界でも外食といえばよくお世話になる、ファミレスが在った。
見た目だって、知ってる物とさほど違いを感じられない。こんな異世界の風景に混ざるとは、ファミレス外装恐るべし。

ユヅキについて中に入ると、それはもう見慣れた光景が広がっていた。
内装はもしかしたら違うのではと思ったのだが、外も中も晴登の知るファミレスまんまだった。


「しかも客は家族連ればっかとは・・・これはもうすげぇな」
「さっきから何に驚いてるの? そんなにハルトの故郷じゃ見られない物が有る?」
「いや、その真逆」


晴登の感情がイマイチ読めないユヅキは、ため息を一つ。
そんな事を気にも留めない晴登は、空いている席に座った。


「昼時なのに空いてるとは…これはラッキー」
「うん、そうだね。注文はどうしようか?」


ユヅキの問いに、晴登は唸りで返す。
目の前のメニュー表のパラリと捲って見てみると、なんとそこにも現実世界で見慣れた料理の写真がズラリ・・・



ーーーという訳にはいかなかった。


「おぉ良かった。さすがにここまで一緒だったらビビるよ」
「何か決めた?」
「あーちょっと待って」


ユヅキの催促に制止をかけ、いよいよメニューを決めに取り掛かる。
巡りめぐってこれもまた折角のチャンス。異世界の料理はまだユヅキの作ったものしか食べた事がないから、こんな店で出される物がとても気になる。
…決して、ユヅキの料理が不味いという皮肉を言った訳ではないぞ。


「じゃあこれにしようかな」
「え、そんなので良いの? 遠慮しなくて良いよ」
「いや、さすがにそこまで欲張りじゃないよ…」


晴登が選んだのは、ハンバーグに似た何か。
値段が他に比べて安いというのもあり、迷わず選んだ。
ちなみに・・・


「文字が一切読めないってのは、内緒事項だな」
「何か言った?」
「いや、何も!」


晴登はまた一つ、異世界での深刻な問題に気付く。
それは、言語は日本語で通じるという奇跡が起きたが、文字はそうはいかないという事だ。何故か、数字だけは見慣れたもの(アラビア数字だったか?)だったので、値段らしき部分は辛うじて読み取れていたのだが。
それでも、この見たことがない文字を読むのはハッキリ言わずとも不可能だった。


「別に会話ができりゃ何とかなるか」


その結論に至り、ひとまず安心。

・・・というか、ユヅキがまだメニューで悩んでいる。人に催促しといて、それは締まりが悪いだろう。

晴登が、ユヅキに声を掛けようとしたその時、





「あれ、君たちはさっきの・・・」

「「え?」」


不意に投げ掛けられた声。それはどう考えても、こちらに向けられたものだった。
反射的に振り向くと、そこには容姿端麗の男性が立っている。
そしてその顔には見覚えがーーー


「時計屋に来た人・・・ですよね?」
「そうだよ。良かった、やっぱりさっきの子達か」


晴登が確認の意で問うと、彼はそれに肯定で答える。
その表情には安堵が見え、綺麗な顔立ちをより一層引き立てていた。

しかし、その反応には些か疑問も・・・


「あれ。何で俺たちを知ってるんですか?」


晴登らはこの男性と話した訳ではない。ずっと店の奥から、覗くようにラグナとの会話を聞いていただけだ。
それにも(かかわ)らず、彼は自分らを知ったように話した。そこがどうも引っ掛かる。


「おっと…まずは最初から話さないと。そうだね、まず、僕には君達の姿が()えていた。この眼のお陰でね」
「眼?」


男性はいつの間にか、晴登達が座るテーブルに一緒に座っていた。まぁツッコむ気は無い。

でもって、彼の話は可笑しな物だ。隠れていたのに見えたとは、一体どんな原理だろうか。
晴登がそこを追及しようとすると、それより先にユヅキが口を開く。


「もしかして…魔眼ですか?」
「その通り。僕の魔眼は『相手の魔力を視る』というものだ。自分以外の人間の、体内の魔力の流れを見る事ができる」

「ま、魔眼? 視る? えぇ??」


新出単語の出現で、早くも頭が混乱する晴登。
その様子を見たユヅキが、すかさず説明をくれた。


「えっと魔眼っていうのは、その…魔力を持った眼の事だよ」
「付け加えるなら、自分の力で魔力を持たせる種類と産まれた時から加護の様に持っているという種類の二種類がある。ちなみに僕のは後者だよ」
「丁寧にすいません…」


男性も加わったその説明は、素人でも十分理解できる程の分かりやすさを持っていた。
最も、魔術やら魔法やらの存在を知らなければ、理解は苦しむだろうが。
あ、そう思えば、この場合の素人って何だろう。


「さて。君達に話し掛けたのは他でも無い。少しばかり、気になったものでね。君達は普通に魔法を使えるだろう?」
「はい」
「君達のような歳で魔法が使えるのは極めて珍しい。その事について、色々と聞かせてはくれないか?」
「はぁ…」


男性は興味津々といった様子で、晴登らにそう訊く。
なるほど。話を聞く限り、ホントに子供で魔法を使えるのは珍しいようだ。

だがこの訊かれ方では、正直何を答えればいいのか分からない。
もう少し、質問の内容を絞って頂きたい。


「…質問が難しかったようだね。だったら、どうやって魔法を身に付けたのかだけ、教えてくれないか?」
「あ、はい」


難しい、という感情を露骨に表情に出していたら、男性が察してくれる。
これなら答える事はできそうだ。


「じゃあ俺から。俺が魔法を使えるようになったのはーーー」










*
時刻は30分程進み、男性を交えたランチタイムはいよいよ終わりを迎える。
彼は自分が何か話す訳ではなく、ただただ晴登達の話を一心に聞いているだけだった。


「うん、中々興味深い話だったよ。ありがとう」
「いえいえそんな」


そろそろ帰ろうかな、という思いが言外(げんがい)で伝わってくる発言。
本当に興味深いものだったかと思うとしばし疑問だが、喜んでいるようなのでそこはスルーする。


「話を聞かせてくれたお礼といってはなんだが、この昼食は僕が(おご)るよ?」
「いやいや! 気持ちだけで充分です!」


月並みパターンに入られたので急いで断る。
話を聞かせてくれたお礼だなんて、奢るに値しない軽さだ。
それなのに奢るというのは、人が良すぎるというものである。


「そうかい? 僕としてはそこまで負担じゃないけど・・・でもまぁ、無理強いする必要は無いかもね。じゃあ、今日はありがとう」スタスタ
「はい…」


一方的な感謝に言葉が詰まる。
それはユヅキも同感なようで、男性が店から姿を消した瞬間に晴登に話し掛けた。


「変な人だったね」
「そう…なるのかな」

「そういえば、ハルトの話を横から聞いてたけどさ・・・凄いね」
「え、何が?」
「だって、ハルトの周りの人もみーんな魔法を使えるんでしょ? それってかなり凄いよ?」
「んん…よく分かんないな」


ユヅキの言葉に首をかしげながら応答。
元の世界とこの世界での価値観の違いは、こういう所からよく分かる。
だから、晴登もユヅキに同じような感想を持っていた。


「ユヅキだってさ、もうずっと前から魔法を使えるって言ってたよね? それこそ凄いと思うけど」
「うん、まぁ周りよりかは…」
「それにこの王都から北にある大きな街に住んでたんだって? どんな所?」
「あんまり覚えてないかな…。けど、帰ろうとは思わないな」


ユヅキの故郷が話題に上がると、晴登はそれで話を続けた。


「帰らないって…親は心配しないの?」
「未だに連絡一つ無い時点で、そこまでの心配はしてないと思うよ」
「え、それって…」


今の発言に晴登は絶句。
ユヅキは楽観的に言っているが、今のはもしかすると別の意味を含んでいるのではないだろうか。
「心配していない」。それはユヅキの強さを思っての事なのか、それとも気にも留めていないという事なのか。
後者の場合、かなり残酷な運命だと思うが…。


「大丈夫だよ。今はハルトも居るから」
「え…?」
「昨日言った通り、ボクには友達が少ないからね。ハルトの存在は一つの助けになってるよ」
「あ、いや…」


真っ向からこうやって感謝をされると、照れてしまうのが晴登。
それを堂々と素直に言ってのけるユヅキだから、晴登は目をそらして、


「…ありがとう」
「こちらこそ」


照れ隠しに一言。
その言葉に、ユヅキが笑顔で答えてくれたのは見なくとも分かった。
晴登は赤く染まった頬を掻きながら、「じゃあ出ようか」とユヅキに告げる。
彼女はそれに応じて会計を手早く済ませると、ニッコリと晴登に微笑みかけながら一緒に店を出た。


異世界生活二日目にして、晴登とユヅキの距離は縮まっていった。










*
「氷の魔法に風の魔法か…。あんな子供がそんな有能な魔法を使えるとは、興味深い」


そう独り言を呟くのは一人の男性。
彼は先程昼食をとろうと店に寄った結果、見たことのある二人の子供に出会った。
彼らからは魔力を視る事ができ、まさかと思って話し掛けたら大当たり。あんなに幼い子でも魔法を使えるのかと、その時はとても驚いた。
しかも少年の方は、周りの人物もそんな境遇だという。


「こんな話って有るんだなぁ」


思い起こせば、何が興味深いのかなんて元より考えてはいないと気付く。ただ、不思議な話を聞いて面白がる自分がいるだけ。
自己満足とはまさにこの事だ。


「少女の方も中々興味深いね。あの歳よりずっと前から魔法を使えるなんて。しかも・・・」


男性はそこで言葉を一度止めた。
さっきの自分と彼女との会話に出てきた言葉を、頭の中で反芻(はんすう)してみる。
そして、恐らくの段階だが分かった事実に苦笑した。





「北の街出身で銀髪で氷の魔法を操る。ーーーまさにアレと一致してるな」





彼の呟きは小さく、すぐに大通りの賑やかさに掻き消された。

 
 

 
後書き
まずまずのスタートでしょうか。後はあーしてこーすれば何とか話が繋がりそうです。
…とすると、次回は捨て回な予感?・・・おっと、それは避けねば。

次回も頑張って書いていきます! では! 

 

第40話  暗雲

 
前書き
二日目から始めれば、良い感じに後に続くと判断。
しかもよくよく考えると、滞在期間の三日間って意外に長い(←これ大事) 

 
「思い返すと、さっきの人の名前聞いてないじゃん」
「それを言うなら、ボク達の名前だって言ってないよ?」
「あ、そういえば。ーーーてか、腕時計直ったのも言えば良かった!」
「もう遅い後悔だね」


異世界版ファミレスで昼食を済ませた二人は予定通り、一日中王都を楽しむという計画を実行していた。
そしてその途中、ファミレスで出会った男性の話題を掘り返し、色々と後悔が出てくるという有り様である。


「まぁ、良いか」
「うん」


彼の存在が気になるが追及はしない。どうせ少し世間話を交わした程度の薄い関係だ。
そう思うと、ユヅキとの関係はどうなるのだろうか。話だっていくらもしたし、それ以上の・・・あぁ思い出したくない。


「じゃあ気を取り直して・・・これからどうする?」


危ない記憶を封じ、表情を切り換えてユヅキに訊く。
意外や意外、王都に残るのはいいが…やる事が思い付かないのだ。


「ハルトが探険したいって言うなら付き合うけど…」
「んん…それも有りだな・・・あ、そういやあそこの城って観光とか出来たりする?」


晴登が指差しながら示したのは、王都の中心にて頂点に佇む城だ。気にも留めていなかったが、あの巨大な存在感が今は気になる。
あそこを探険できるとなれば、それはそれは楽しい事に・・・


「いや、無理だよ」
「ですよね~…」


ユヅキの指摘に流れるように反応。
王都の中の唯一の城…それは即ち、“王城”に他ならない。晴登の身分は平民。そんな立場で王城に入ろうなど、不届き千万、身の程を知れというものだ。
よって、このユヅキの答えは予想済みである。


「じゃあさ、少し近くまで行ってみない? それくらいなら大丈夫でしょ?」
「何とも言えないけど…それくらいなら」

「よし、決まりだな」


晴登は口元を緩め、ユヅキに手招き。今から王城の近くに向かう事にする。
ユヅキは快く、それに応じてくれた。










*
明るかった空が、少しばかり暗くなり始める。そろそろ夕方、といったところだろうか。
王城に行こうと歩き始めてから10分。目指していた建造物は、近付けば近付くほどその巨大な存在感をアピールしてくる。

しかし、問題にも気付いた。


「何かやけに人が多くない?」


上手く言えないが・・・王城の手前、二十人ばかりの人だかりが出来ていた。その人たちの姿は、大通りで見る人たちと何ら変わりはない。
つまり・・・


「直談判とか、そんなやつ…!?」


稚拙な想像が晴登の頭に浮かぶ。
あの人たちが大通りの・・・言い方は悪いが、一般人であるというのは変わらない事実。
そしてそんな身分の人たちが、しかも大勢で王城に行くなんてそうそう起こる事ではない。


「だから、何かを訴えに王城へ…?」
「そんな大事(おおごと)じゃ無いだろうよ」


一人で仮説を建てる晴登に、まずはユヅキが一蹴。
彼女は晴登を見るとニコリと微笑み、


「状況を早とちりするのは、あまり良くないと思うよ。ちょっと待ってて、ボクが訊いてくる」

「あ、ちょ…」


ユヅキはそう言い残し、人だかりに向かって駆ける。
晴登は少し物申そうとするも、もうユヅキの姿は人だかりの中だった。そして誰かと何やら会話を始めたのを、遠目で理解した。



数分後、状況を聞き終えたのか彼女は戻ってくる。


「何て言われ・・・



「ーーー参ったね」


ユヅキは晴登の言葉を遮り、淡々と言った。
その表情には焦りが生まれており、ただならぬ事態を予測した晴登はもう一度彼女に内容を問う。


「何が、あったの?」

「なんでも、王都の北方に魔獣の群れを確認したそうだ。そこであの人たちが、その駆除を依頼しようと此処に」
「え~っと…つまり?」


言葉を反芻してもいまいち要領を得ない晴登は、ユヅキに説明を促す。
すると彼女は少し戸惑うも、すぐに言葉を続けた。


「ハルトの言った通り、大事(おおごと)だよ。何せ現れた魔獣が、“人喰いのウォルエナ”だからね」

「ウォル、エナ?・・・って、何?」


ユヅキが首を振って語るのを見ながら、晴登は疑問をぶつける。
それを聞いた彼女は少し驚くと、


「それも知らないんだね。“人喰いのウォルエナ”っていうのは名前の通り、人をも喰う肉食の魔獣だよ」
「魔獣って何だ? ただの獣とは何が違うの?」
「体内に魔力を宿す、それが魔獣。下級ながら、魔法を使えるね」
「おっかねぇな…」


その懇切丁寧な説明に対し、体はブルブルと震え上がる。本当におっかない話だ。
それが王都の北方に居るというのは、何か意味が有るのか。イベントの予感…?


「いやでも、さすがに人喰いとは戦いたくないな…」
「そりゃそうでしょ」


ポツリと口に出した言葉を、ユヅキは当たり前だと言わんばかりに肯定。事実、当たり前だ。
頭に浮かんだイベント予想図が砕ける。死ぬ可能性のある事はしたくないから、それは当然だろうけど。


「仕方ないか…」


せっかくのイベントかと思ったが、今回はそれを見逃す。勿体無いという気分が(よぎ)るが、割り切らなくてはならない。


「…例えば、その魔獣に会ったらどうしたら良い?」
「ボク達は魔法を使えるから武力行使も良いだろうね。最も、奴らの恐さは数だけど」

「群れで行動してるって言ったな。どれくらいの数?」
「…百頭は下らないそうだよ」
「マジでおっかねぇな、オイ!!」


諦めるとは決めたが、何となく気になるので情報収集。しかし、集まる情報は事態を悪化させるような内容ばかりだった。


「けど、そんな奴らを兵士やら騎士やらで何とかなるの? それに無視するって選択肢も有るだろうし…」

「無視は無理だと思うね。北方って事は行商人の出入りも多い。だから、そんな所に人喰いの魔獣が現れたとなると大問題な訳だよ。騎士とかだったら討伐も出来ない事は無いし、それに頼るのは妥当かな」
「お、おぅ…」


饒舌(じょうぜつ)なユヅキに、晴登は表情に驚きの色を隠せない。
だがそれ以上にある事が気になった。


「ユヅキの家の方角は?」
「安心していいよ。正反対の南だから」


晴登の心配が読めたのか、ユヅキは安心させるように言った。事実、晴登は安堵する。


「じゃあ取り敢えず心配事は無いな。あんまり関わりたくも無いから・・・今日は帰る?」
「ボク達がどうと出来る訳でも無いしね。騎士に任せるのが一番だよ。・・・帰ろうか」


二人は南に向かって歩き出した。










*
「なんか興が削がれた気分だ」
「何を期待してたの…?」


頭の後ろで手を組んで、文句のようにブツブツと呟く晴登。
その様子をユヅキは怪訝そうに見る。


「いや、そのウォルエナとかいうのと戦える事。もちろん、“人喰い”って要素が無ければの話」
「何でそんな事考えるの? 危ないじゃん」
「男子ってそういうもんだよ」


晴登は頷きながら語る。
ユヅキはいまいちピンと来ないようで、首をかしげていた。


「ちなみに、騎士の中で有名な人って居る?」
「唐突だね。・・・ボクも詳しい事は知らないし、興味も無いかな。でも有名っていうと、やっぱり団長だね」


既に王都を出て、ユヅキの家への帰り道。
晴登は沈黙を避けようと何か話題を振ろうとして、騎士の話題を出した。
騎士、という存在は中々に心をくすぐる。それだけ異世界感というのが有るからだろう。


「団長?」
「そう。王国騎士団団長アランヒルデ。別名“最強で最恐の騎士”」
「何で“さいきょう”が二つ有るの」


それで有名な芸人を訊くかの様に有名な騎士を訊いた訳だが、ユヅキによるとそれは騎士団の団長だという。
別名に色々と言いたい事が有るが、その説明はユヅキが直後にしてくれた。


「“最強”っていうのはそのままの意味だけど、“最恐”っていうのは少し危ない話だね。『慈悲は要らない。悪には必ず裁きを与える』ってな具合で、団長さんは悪人をドンドンと裁いて行っちゃったの。それで皆が恐がるようになった、という事だよ」
「団長さん可哀想だな…」


晴登は目を瞑り、姿も知らない団長さんを(ねぎら)う。その功績はきっと悪い事では無いのだから。
という事は、最強である団長さんが魔獣討伐に参加したら、良い結果で終わる事だろう。


「やっぱ、今回の騒動に関わらなくて良かったんだよな」
「そうだね。死んじゃったらダメだもん」ハハハ
「いや、笑えないよ…?」


ユヅキの冗談に本気で心配する晴登。
そんなこと気にも留めず、目前に迫る家を見てユヅキは一言、


「ハルトって明後日ぐらいに帰るんだよね」

「ん? あぁ…」


ユヅキの問いに肯定で返す。
すると彼女は空を見上げ、寂しそうな表情を見せた。


「どうして帰るの? そもそもここに来た理由は?」
「うわ、今訊くかそれ」


晴登はユヅキの疑問に頭を悩ます。
今まで訊かれてなかったから、その回答は何も用意していないのだ。
大体、現実世界の話から始めなければ、晴登がここに居る理由は理解不能。かと言って、そんな所から話し始めると、恐らく夜が明けるのは確実だ。


「な、何でだろうね…」
「むぅ、誤魔化さないで」
「でも説明した所で理解出来ないと思うよ?」
「それでも良いから」


ユヅキの怒濤の押しに、晴登は言葉を詰まらせる。

…別に話してダメという訳ではないだろう。


「ええい、ままよ! 実はだな・・・










「この世界に存在しないって、そういう事なんだね」


晩飯の食卓。
帰宅時からずっと話していた晴登の過去話にようやく区切りがつく。
向かい合う先、相槌を打ちながら話を聞き入るユヅキは、驚きの予想外の理解力を見せた。
なのに、一つも疑いを見せない。


「意外とすんなり受け入れるんだな」
「ハルトが言う事ならボクは信じるよ? あ、冗談は除いて」
「でもそこまで信頼されるような事したか、俺?」


ユヅキが無償に向ける信頼に、晴登は心当たりが無い。死地を潜り抜けるとかならまだしも、まだ会って二日目だ。
…まぁ確かにハプニングやら何やら有って互いの距離は唯の二日では無いと思うが、それでもその信頼は早熟過ぎる。

もしや、裏がある…?


「ハルト、そんなに見つめられると照れるんだけど…」

「え!? あぁ、ごめん!」

「ううん。見たいっていうなら別に…」
「ちょ、こっちまで照れるからそれ以上言わないで!」


ユヅキの言葉を聞き、自分が無意識に彼女の顔を窺っていた事に気付く。でもって、その後の彼女の反応に制止をかけた。
これじゃ、どっちが恥ずかしいか分かりゃしない。


「さて。今日も風呂に入るよね、ハルト? だからさ、その…一緒に入る?」
「悩んだ結果がどうしてそうなるの。いや、まだそういうのは早いんじゃないかな…」


頬を赤く染めながら希望を紡ぐユヅキを、更に赤くなる晴登は否定で返す。
彼女は不服そうな顔をしたが、晴登の意思を汲めたのか何も言及はしてこなかった。


「じゃあまた別の機会だね。・・・って、明日しかないか」
「明日でも早い事に変わりはないけど。…でも、そう思うと寂しくなるな」


場面と感情が一転、ブルーな雰囲気になる。二人は自然と無言になり、自分の未来を考えた。
三日の期間が経て別れを迎えた時、どんな顔をしてれば良いだろうか。
例え現実世界の話をしたところで、彼女には干渉できない。それが何よりも寂しかった。


「風呂、入ってくるね」
「うん」


晴登はそんな雰囲気から抜け出したく、立ち上がる。
そして風呂場に真っ直ぐ向かった。

明日、全てが決まる。二人の思い出も、互いを割り切るキッカケも。
異世界だろうとユヅキは一人の人間だ。つまらない別れなど出来るはずがない。


「せめて、泣くよりは笑顔が良いよな」


風呂場の脱衣所で衣服を脱ぎながら、晴登は一人呟く。

彼女に未練を残す訳にはいかない。各々がそれぞれの世界で生きていく為に。
だから最後は、泣き顔なんて見せられない。

笑顔、笑顔で・・・





晴登はその事を入浴中もずっと考えていた。
風呂から上がってからも、それは途切れない。
ユヅキが入浴を終えて、就寝の準備を終えても、思考は曖昧なままだ。

そんな中、ユヅキは声を掛けてきた。


「ハルト、何を悩んでるの? もしかして、ハルトの世界の話?」
「…うん。帰ってからユヅキと逢えなくなるのか…って。ホント、寂しいってレベルじゃないよ」

「ふふっ。それじゃあさ・・・」
「うわっ!?」


ユヅキの含み笑いを聞いた後、晴登は急に身体を引っ張られる。
為す術なく倒れ込むのは、フカフカな布団の上だ。


「一体なんだ…?」
「よいしょっ!」

「え、ユヅキ!?」


小さくない衝撃に顔を歪めていると、横に更なる衝撃が伝わる。
見ると、息がかかるのではというほど近い距離に、ユヅキも横になっていた。
もちろん、晴登は驚いて距離を空けようとする。が、


「ダメ」
「うっ…」


腕を掴まれ、思うように離れられない。
するとユヅキはじっと晴登の目を見て、口を開いた。


「一緒に寝よう? そしたら、寂しくないよ」
「……」


さっきみたいに断る事もできる。
なのにこの時だけは、身体は素直にユヅキに従った。

晴登と同じように、ユヅキも別れの事を考えたはずだ。けど何で彼女はそれでも、未練を残すような事をするのか。

晴登は彼女が居る方と逆の方向を向く。
何だか顔を見る気になれない。


「やっぱり男の子だね。大きい背中」


ふと、晴登は背中に温かさを感じた。布団ではなく、隣の存在に。
囁くようなユヅキの声が身体に染み渡る。

自然と口元が綻ぶ。自分にそんな背中は無いのだと、自嘲気味に。

今日はもう、考えるのは()そう。今は、この温かさを感じていればいい。
そして、いざって時は守ってあげよう。
それが、今背中に感じる信頼に応えられる最大限の恩返しだから。

晴登は目を閉じ、温かさに(すが)るように眠りについた。











* * *

「おいっ…何処だよ、ユヅキ!?」


息を荒げながら駆ける晴登。
綺麗で美しかった街並みには所々ヒビが刻まれ、あちこちに紅い斑点が見える。そして、その模様の中心には人間や魔獣の(しかばね)があった。
それを見てももう嘔吐感は(もよお)されなくなったが、代わりに焦燥感が掻き立てられてしまう。




「…ガウッ!!」

「…またか! はぁっ!!」ブワッ


唐突に横から飛び出してくる魔獣。
晴登はそれを、一応は慣れた手付きの風で吹き飛ばす。
風を真っ向から受けた魔獣は背中から地面に激突し、そこからピクリとも動かなかった。

整わない呼吸のまま、晴登は再び走り出す。
魔力と体力はもう尽きようとしていた。


「ちっ…痛ぇ…」


そして左腕を右手で抑える。抑えた所からは未だに少しずつ血が流れ出ており、ズキズキと常に痛みを感じるため、自然と足取りがふらつく。
しかも、左脚を引きずるような走りも体力を削る一つの原因だ。見ると、ふくらはぎの辺りに紅く歯形が残っている。

この二つの箇所は、どちらも魔獣によって負わされた負傷であった。
まだ完全な魔術師ではない晴登には、怪我をしない戦い方も怪我を治す事もできない。
今は、それがひどく情けないと思う。


「何処だよ、ユヅキ!」


それでも、晴登は銀髪の少女の行方を捜す。
一緒に過ごして二日しか経ってないが、信頼し合う程の仲にはなったつもりだ。
だからこそ、『逃げる』なんて見殺しにするような行為はしたくない。見捨てられない。自分だけ逃げるなんてダメなのだ。
この惨状の中で、ユヅキが生き残ってる可能性は高くはないけど・・・見つけなくてはいけないのだ。


「どこ…だよ…」


なのに本心とは裏腹に、諦めたように叫びが呟きへと変わっていった。

自分を保て。力は残っている。
まだ彼女は…生きている。

そんな励ましで、いつ倒れてもおかしくない晴登は意識を保っていた。歩きそうになる足にも鞭打ち、必死で走りを継続する。

ユヅキさえ救えば、こんな地獄からはとっとと逃げてやるのだ。


だから、早くーーーーー








「残念だよ」



突如として背後から聞こえた声。晴登は反射的に振り返る。








その晴登の身体を、鋭い氷の柱が勢いよく穿(うが)った。

 
 

 
後書き
感動回かと思いきや、ラストでそれを裏切っていくスタイル。誰にもストーリーの予想はさせませんよ?
(もっと)も、ようやくストーリーの終わりを組めてきた訳ですけども(今頃)

次回じゃまだクライマックスでは無いですが、それなりに盛り上がっていくでしょう。
お楽しみに! では! 

 

第41話  予兆

 
前書き
最近投稿速度が遅くなっていますが、気にしないで頂けるとたすかります。 

 
「ん…」


珍しく、一瞬で意識が覚醒した。
目の前に見えるのは、一応見慣れたユヅキの家の天井。懐かしの我が家の天井も良いが、二日間過ごしたせいかこの天井にもよく分からない愛着があった。


「よいしょっ…」

「むぅ」
「んん…!?」


流れで倦怠感と共に身体を起こすと、伴ってきたのは唸り声。
驚きつつ見ると、晴登の腰に手を回すようにしがみついたまま眠るユヅキの姿があった。
「なぜこんな事に?」と頭で考えると、そういえば昨日寝る間際に抱き付かれてた気がする、という記憶が掘り起こされる。しかもこの状況という事は、一夜の間ずっと抱き付かれてたという事だろうか。
そう思うと死ぬほど恥ずかしい。


「さ、さすがに二度寝はできないな…」


この事実に気付いてしまった今、もう一度この温かさに包まれようなどという腑抜けた事は出来ない。その逆の考えが無い訳ではないのだが・・・。
…ユヅキが起きてしまって互いに気まずくなる前に、この腕を離さなければ。


「し、失礼…」


口では言いながら、中々手が動かない。
散々手を握られたりしてたというのに、こういう場面ではユヅキが女の子である事を意識してしまうのだ。
しかも、こうもしっかりと抱き付かれてしまっては、離そうと思うと不思議な罪悪感が湧いてくる。


「信頼…されてるって事なのかな」


自意識過剰では無いのかと疑うが、彼女自身がそう口にする以上は否定できない。
無償の信頼。それがこんなに、彼女を安心させた眠りにつかせているのだろうか。


「…あれ、よく考えたらこの状況ってマズくないか?」


一通り彼女へ意識を向けていた所で、そんな疑問が口を飛び出す。寝起きの朗らかだった気持ちも、急に冷静になっていく。

前回はまだ離れて寝ていた。しかし、今回に至っては完全に同じ布団の上。
男女が相部屋で同じ布団で寝る。その危うさは、さすがの晴登にでも分かった。


「!!」バッ


羞恥に頬を赤くしながら、あんなに苦労していた腕外しを一瞬でやってのける。そして、立ち上がる事もせずに急いで後ろに下がった。
肩で息をしながら、一旦呼吸を整えようとする。

しかし一度息を吸ってユヅキの可憐な寝顔を直視した瞬間、一気に噴き出してしまう。心拍数が下がるどころか上昇した。


「ヤバいヤバいヤバい…!」


とり憑かれたように早口で言い、顔を洗って頭を冷やそうと立ち上がって洗面台へ向かう。



冷たい水を顔に浴びると、いくらか火照っていた気持ちが収まった。


「あ、危ねぇ…」


濡れた顔を拭いながらため息を一つ。
そして一分もかからないであろう今の出来事を振り返る。

何が自分を焦らせているのか。
その答えはただ一つ。


「恥ずかしいって以外に何があんの…」


友達として意識していれば良かったものを、男女という風に意識したから起こった事だ。
・・・友達とはいえ男女が同じ屋根の下で寝るのはどうなのか、という疑問はこの際忘れよう。

とりあえずユヅキと顔を合わせる前に、意識を元に戻さなければならない。
さもなくば、今日一日に支障をきたしてしまう。


「ふぅ…」


晴登は一喝とばかりに頬を叩く。
冷たい水での洗顔も合わさり、随分と気持ちが落ち着いた。
余計な事は考えずに、今まで通りを心掛ける。
残り一日と少し。その間、彼女との別れに未練を残さないようにした方が良い。

晴登は一人でに口角を上げ、


「朝ごはん、作ってやるか」


清々しい笑みを浮かべた。










*
「おはようハルト・・・っておぉ!?」


目覚めてからテーブルに目を向けたユヅキが驚愕の声を洩らす。寝起きだというのに目は見開かれており、その反応に晴登は小気味好(こぎみよ)いものを感じた。


「おはようユヅキ。見ての通り、朝食を準備したよ」
「う、うん…ありがとう。にしても、見たことない料理だね」
「俺の地元料理って言えれば良いんだろうけど、生憎創作料理なんだ」


昨日とは違い、異世界での料理の勝手は分かっていた。それでも変わらなかったのは、この世界独特の食材である。
お陰で晴登は現実世界の料理を真似できず、試行錯誤しながらの料理となった。
しかし、我ながら良い出来だと思う。


「う…ボクのより美味しそう…」
「え!? そんな事ないって! ユヅキのだって美味しいと思うよ」


ユヅキが悔しそうな表情をするので慌ててフォロー。もちろん、本心からの言葉である。
ユヅキは少しだけ恨めしそうにこちらを見たが、すぐに破顔して席についた。
晴登もその向かいに座る。


「「いただきます」」


二人の声が重なり、朝食をゆったりと食べ始める。
途端、ユヅキが舌鼓(したつづみ)を打った。


「美味しっ! え、何これ!?」
「そ、そんなに旨いか?」
「うん! ハルトって料理の才能あるね!」
「う、うん。ありがとう」


あまりにも真っ向からの感想だったので、照れながら応える。
正直、料理で誉められた事はあまり無いから、いざ言われると嬉しい。
頭を掻きながら喜びを噛みしめていると、


「こんなに美味しいのをボクの為に作ってくれたって思うと・・・嬉しいね」

「ぶほっ! ちょ、何をいきなり!!」


ユヅキの発言にたまらず噴き出す。何とか努めて被害を最小限に減らしが、心には中々のダメージが入った。
せっかく落ち着いていた鼓動が再振動し始める。


「え? ボクの為でしょ?」
「それはそうだけども! 他に言い方が有るでしょ?!」

「ボクの事をそんなに想ってーーー」
「あぁぁ悪かった! それ以上はやめて! 恥ずかしい!」
「ふふ、冗談だよ」
「いやマジで笑えない! 策士か、お前は!?」


穏やかだった食卓が一気に騒がしくなった。
ユヅキの言葉に晴登が清々しいくらいに翻弄される。
その様子を見てユヅキは笑うが、晴登にとっては顔を真っ赤にされる威力の爆弾発言だ。


「俺のさっきの覚悟が無駄になるだろ…」
「覚悟って?」
「こっちの話だ」


馬鹿みたいに焦った約一時間前。
それから気持ちを切り替えたはずだが、まだすぐに揺らぐ程度のようだ。

晴登はヤケクソになって、朝食を頬張る。


「……ごくっ。よし! ラグナさんとこ行こう!」
「唐突だね。でももうちょっと待って」
「あーはい」


自分だけ食べ終わったが周りが食べ終わってないという、一種の仲間外れ感。それを感じつつ、晴登はユヅキの食べ終わりを待った。
何かを準備する訳でも無いので、本当にただ待っていた。










*
「相変わらず天気が悪いな」
「雨が降るようには見えないけどね」
「それが唯一の救いか」


頃合いの時間になり、王都へ向かっていた道中。晴登がふと空を見上げて放った言葉だ。
見ただけで厚いと分かる白い雲に覆われ、太陽の光は完全に遮られている。
ユヅキの言う通り、雨が降るとは考えにくい天気だが、晴れになるとも思えない。

気になるが気にしない。そう決めた頃、王都までの道のりの間に存在する森に入った。


「そういや何気なしに此処歩いてたけど、この森って迷ったらヤバいよな?」
「まぁ王都を囲む感じで広がってるから、そうかもしれないね」
「マジか」


晴登は身震いし、その後足元を見てそれなりに整備された道を見て一息。
森で迷った経験など無いが、もし脇道に逸れでもしたら帰ってこれないのは明白。そこまでにこの森は鬱蒼としていた。
つまり、この通路様々である。


「にしても、何か変だよ」
「え?」


唐突に放たれたユヅキの言葉を聞き、晴登は辺りに意識を向ける。…いつもと同じ、暗く青々とした風景が広がるだけだった。


「何かおかしい所があるか?」
「ハルトは二日しか通ってないから分からないだろうけど・・・ボクには分かる。いつもと森の様子が違うんだ」
「え…?」


晴登は眉間にシワを寄せ、また辺りに見回してみる。しかし一昨日や昨日と比べて、何の変化も感じられない。
ユヅキの言う“森の様子”は、外観という事では無いようだ。
だとすれば・・・



ガサッ


「「ーーっ!?」」


不意に背後から響いた、草がざわめく微かな音。二人は反射的に振り返る。その時見えたのは、今まで歩いてきた道のりだけだ。
では、今の音は何なのか。風の仕業だと言う事もできるが、今回は二人ともそれは違うと分かった。
森に流れる不穏な気配。そして怪しげに動いた草木。
これらを照らし合わせると、あの音の正体は想像に(かた)くない。


「何か、居る…」


そう口にすると、緊張感が体を支配する。
少なくとも、あの草むらの向こうには動物が居るのだ。無害な奴か、あるいは…危険な奴か。
もちろん、前者で済むのに越した事は無い。(たぬき)とかが出てきて(なご)むのもアリだ。
だが今この森は、ユヅキ(いわ)くであるが『おかしい』らしい。
であれば、レアな動物との邂逅を満喫するなんて事は起こり得ないだろう。


ガサッ


さっきよりも音が大きくなる。…それの存在が近付いている証拠だ。
二人は身構え、それの登場を待つ。



ガササッ!


「「!!」」


それが姿を現した途端、二人は冷や汗を垂らす。
目の前に出現したのは、一言で言って『獣』だった。

見た目は端的に言うと狼に近い。が、何でも切り裂けるであろう鋭く尖った犬歯や爪は、晴登の知るそれより遥かに危険だと思われる。
その獣は口の端から(よだれ)を垂らしながら、紅く輝く敵意に染まった瞳をこちらに向けていた。

…間違いない。ハズレである。


「ゆ、ユヅキ、あれは…?」
「…ウォルエナだよ。昨日話した」


いきなりの危機に晴登は怯えるが、ユヅキは意外にも冷静だった。もしかしたら、森が変だと勘ぐった時点でこれくらいの予想が出来てたのかもしれない。
だが、それは今気にすべき事柄ではない。

明らかな敵意・・・もとい、殺意。
それを向けられるのが初体験でないというのを、晴登は頭の奥で理解していた。


「あの時以来…だぜ」


目の前の存在の実態を知って、さらに足がすくむ。絶対的な恐怖。それをひしひしと感じつつ、過去を思い起こす。

正直、あの時の『熊』の殺意は忘れられない。
それなりに怪我だってして、言ってしまえばトラウマもんだ。
だから、その経験だけで恐怖に慣れるなんて事はまずない。

目の前に居るのは…あの『熊』と同類だ。


「グルル…!」


ウォルエナが唸る。素人の晴登でも、その行動は威嚇なのだと分かった。
加えて溢れんばかりの殺意。危険…過ぎるだろ。


「ユヅキ…どうする?」


晴登は打開策を見つけるため、自分よりは土地勘が良いユヅキの知恵を借りる事にする。
こいつと戦うのは最悪の最終手段。まずは逃げる算段を整えなければ。


「簡単な話、王都まで走っていくのが最善かな。単純に足の速さじゃ負けるだろうけど」
「それは俺の魔術でカバーできるよ。だから…いつ走り出す?」
「そうだね・・・」


晴登の提案に、ユヅキは納得したような表情を見せて考え始める。
晴登自身、この案は中々のもんだと思った。

『何らかの方法』でウォルエナの注意を引き、その隙に“追い風”を使って王都に走って逃げる。
幸い、ウォルエナの位置は王都側の反対、今通ってきた道上だ。『立ち塞がれているから、避けて通らなければならない』だなんて面倒な条件は存在しない。

しかし問題は『何らかの方法』だ。
奴に背を向けて走る以上、襲い掛かってくるのは必然。
だから数秒間でも奴の気を、できれば奴の後ろに引き付けて時間を稼ぎたい。


「だったら、この場合『石を投げる』が鉄板だな」
「でもそれって相手に見られてたら意味無いんじゃ…」
「うわ、ホントだ」


自分の持つ知識を生かそうとするも、それが無意味だと気付かされる。
あのウォルエナの標的は、どう考えても自分ら二人。
下手に石っころを放ると、気を引くどころか反感を買って襲ってくるかもしれない。


「ボクが氷を放つ…っていうのも厳しいよね」
「正直石と変わんない。てことでマジで石投げてみるか」


晴登は身近に落ちてた小石を手に取る。さすがにサイズが小さいかと思ったが、贅沢は言えない。
ウォルエナとの距離は約5m。この距離であれば投げるのは容易だ。


「じゃあ…いくよ」
「うん」


ユヅキの返事と共に、晴登は腕を振るった。
さすがは小石の軽さ。思ったより勢いよく飛んでいく。
放物線を描き、予定の地点よりも遥か遠くに落下・・・



「ガウッ!?」ガン

「「あ」」


・・・すると思っていた。

晴登とユヅキは同時に声を上げ、顔を見合わす。
晴登は申し訳なさそうに苦笑し、ユヅキはその顔を真顔で見る。
よく見れば、若干怒りが混ざっている気がした。

そう、その怒りはごもっとも。
晴登自身も「やっちまった」と感じていた。



ーーー着弾地点が“ウォルエナの額”だなんて、運命様は非情すぎる。
 
 

 
後書き
何とかストーリーに繋げられました。いや~良かった良かった。
「前回の終わりからどう繋がるんだよ!」と自分で吠えていたのが懐かしい。

・・・懐かしい?
はいそうです。前回の更新から10日ほど経ってます(悲)
前書きに書いておきましたが、最近忙しいので更新が遅れています。
少なくとも今年度はこの調子だと思われます。
予定で二週間とはしていますが、一週間で書きたいんですよ…勉強しないといけないけど(←切ないジレンマ)

12月に入ってかなり寒くなってきました。
家を暖かくして過ごしましょう。では。 

 

第42話  違和感の正体

 
前書き
今更だけど、晴登の口調が定まらん。 

 
誰が予想できただろうか。
少なくとも向こうに飛ぶであろう。そんな慢心で放った結果、見事石はウォルエナに直撃する。
もちろん、先制攻撃を仕掛けられた事でウォルエナは激昂し、臨戦態勢をとる。


「ハルトのバカっ!」ダッ
「いや、マジで悪い!」ダッ


ユヅキに怒られながら、晴登は作戦が瓦解したのを理解する。原因はほぼ自分と言って間違いない。
しかしそんな反省は他所(よそ)に、二人はウォルエナに背を向け全速力で走り出した。


「よし、じゃあ早速“追い風”を・・・ってうわっ!?」

「ハルト、下がって!」


一秒でも速く奴から離れる為、晴登は急いで魔術を使おうとするも、ユヅキに突き飛ばされて頓挫。

実は、背後からウォルエナが跳びかかってくるのを目敏(めざと)く見つけたユヅキが、晴登を押し退けたのだ。でもって、見上げるほど大きい氷の壁を造り出していた。

勢いのあるウォルエナはそれに為す術なくぶつかり、フラフラとその場に停滞する。
一方で、ぶつかられた氷の壁は一瞬で霧散(むさん)し、役目を終えたのだと如実(にょじつ)に示していた。

ちなみに氷が霧散する際、ダイヤモンドダストの様な光景になっていた為、晴登は見入っていたりする。


「ちょっとハルト! 見惚れてないで“風”! “風”お願い!」
「…お、ごめんユヅキ! けど今の、かっこ良かったよ!」
「女の子にその褒め方はどうなのかな…」


()かされた晴登はユヅキをそう賛美し、今度こそ追い風の展開を図った。
呆れるユヅキと自分の周囲の空気の流れが変わり、全てが晴登の都合の良いように操られる。


「おおっ、ハルトすごい!!」ビュウ
「ちょっと俺自身も驚いてるよ!」ビュウ


再び走り出した二人の身体は風と共に流れ、逆にウォルエナの体は引っ張られるように後退していく。
そう、今は晴登らに向ける風の他に、ウォルエナに向ける風までつくり出しているのだ。
その器用さに、ユヅキだけでなく晴登も驚きを隠せない。


「よし、このまま逃げ切って・・・うわぃっ!?」

「大丈夫、ハルト?!」
「いや大丈夫、当たってない。つかアイツめ…何かしてきやがった」


しかし快調に逃げてたのも束の間、晴登の傍の地面がいきなり()ぜる。衝撃波が起こり、それに軽く吹き飛ばされた晴登は尻餅をついた。
見た限り、今の攻撃はウォルエナのものだろう。
そしてクレーターとなった地面を見て、直撃してたらどうなっただろうかと、身を震わせる。


「魔法を使ってくるから、逃げるのも一筋縄じゃいかないね」
「アイツのはどういう魔法?」


晴登はウォルエナを指差しながら質問。
どう見ても、アイツの姿はここから10mは離れている。今はただ、こちらを見て唸っているばかりだ。
つまり、今の攻撃は遠距離攻撃。ならば、対処の為にその原理は知っておきたい。


「“光線とか何か放つ系”なのか、それとも“見える範囲を攻撃する系”か。後者が圧倒的に面倒だが、そのどっちかか?」

「ウォルエナの魔法は“練魔砲”、つまり前者だよ。体の中の魔力を練り上げ、それを光線として放つ。これの厄介なのが、個体によって属性から威力まで色々変わるっていうこと。…にしてもよく分かったね? 初見なのに」

「…地元の知識ってやつだよ」


毎日毎日マンガを読むという日課が、ここにきて生きる。現実では絶対に不必要だった雑学が、この異世界には通用するのだ。
取り敢えず、予想が的中したことを素直に喜びたい。


「じゃあ少しは勝算も見えてくるな」
「え、戦う気!? ダメだよ、アレでも人喰いなんだから!」
「思ったけど、このまま逃げてもアイツを王都に連れていくだけだ。だったら、ここで仕留めておいた方が良くない?」
「それは、そうだけど…」


晴登は今をもって思い付いた正論を放ち、ユヅキを押し黙らせる。
何をするのが最善なのか。それは逃げることなのか。

・・・違う。
今を考えるんじゃなくて、未来を考えろ。
その場しのぎがどこまで持つかは分からないのだ。


「俺ら二人なら…できるんじゃないか?」
「でも…」
「恐がる必要はない。俺がアイツを絶対に近づけないから。だからその間に、撃退でもいい、奴を王都から遠ざけるんだ」


晴登の提案にユヅキは口ごもる。
確かにこれは危険な案だ。ウォルエナはあくまで人喰い魔獣。どんな安全策だろうと、拭えない恐怖がある。晴登もそれは承知済みだ。

ユヅキが拒否するなら、その時は逃げよう。
一人では勝算は無い。動きを止めるのに精一杯だろう。
『二人三脚』。違う意味だが二人がやらなければできない事だ。つい最近にその経験がある。
今だってそう。協力が不可欠の状況だ。

ユヅキの選択に、全て委ねる。


「うーん…」

「時間が無いんだ。早く決めてくれ」


その意図を汲んでかどうか、ユヅキは逡巡(しゅんじゅん)を見せた。
言ってしまえば、晴登の言った言葉は「命を預けろ」みたいなものだ。迷うのも無理はない。

でも事実、時間もない。
この距離なら、ウォルエナはすぐに詰めてくるだろう。
それまでに・・・



「…わかった。ハルト、やろう」

「いいのか…?」

「ハルトが言い出したじゃん。ボクも付き合うよ」


苦笑しながら、ユヅキは言う。
晴登は、それが彼女の選択なのだと理解した。


「あ、危ないんだよ…?」
「ボクは恐いよ、こんなこと。でも、ハルトが守ってくれるんでしょ?」
「あ…」


無垢な笑顔を見せてくるユヅキに、場違いながら晴登は照れる。
先の言葉もそうだが、どうにも晴登は詰めが甘い。人を焚き付けておくだけおいて、最後にその気を削いでいくのだから。
でもだからこそ、今のユヅキの言葉は晴登の迷いを断てた。

晴登は一瞬黙り込んだが、



「頼んだよ、ユヅキ」

「お互い様だね、ハルト」


二人はウォルエナを向く。いつしか震えは止まっていた。

標的を見据えるその表情ーーーそれからは、互いへの信頼が見て取れた。





肌にしみる冷気。それは隣の少女から伝わってくる。

頬を撫でる風。それは隣の少年から伝わってくる。


「それじゃ、いくぜ!!」ブワァ

「グルッ…!?」


巻き起こる強風は、ウォルエナの身体を包み込む。
あらゆる向きから吹く風に、ウォルエナは行動を封じられ、為す術なく停滞した。


「ユヅキ!」

「うん!」ビキビキ


その隙にユヅキが造り出すのは、拳サイズの氷塊。
必殺には物足りないが、脅すくらいならば充分な大きさだ。
それを見たウォルエナの瞳が、若干揺らぐ。


「いっくよー!!」ヒュン


氷塊が無抵抗な魔獣へ一直線に射出される。
その間も氷に触れる空気は()みていき、白い軌跡を描いていた。


「ガウッ!!」ビュウ


ウォルエナは最後の足掻きとして、練魔砲を放つ。黄色い光の光線だった。
だが威力はユヅキに劣っており、氷塊は練魔砲を打ち破りながら直進する。



刹那、ウォルエナの眼前で氷塊が弾けた。
しかしウォルエナの仕業では無い。ユヅキの意図だ。

晴登が起こしていた風に弾けた氷片が触れることで、ウォルエナの周囲を渦巻いていた風がたちまち凍り付く。
つまり、ウォルエナを氷に閉じ込めたのだ。



「一丁上がり…か?」

「さすがに動けないと思うけど…」


恐る恐る近づいてみたが、ウォルエナの動きは無し。どうやら完全に氷漬けになっていて、拘束できているらしい。


その事実を悟った二人は盛大に息をつく。
緊張の糸が切れ、晴登は勢いでその場に座り込んだ。


「もうダメだ、疲れた~!」ゴロン
「ちょっとハルト、緩みすぎ」


服の汚れを気にせず寝転ぶ晴登。眼前に人喰い魔獣(氷像)がいるにも(かかわ)らず、かなりの緩みっぷりだ。
だが仕方ない。それだけの緊張感だったのだから。

そんな晴登を見て、ユヅキは密かに笑みを浮かべていた。










*
「すごい慌てようだな」
「いや、ハルトが楽観しすぎなの。最初はビビってたくせに」
「あれ、記憶に無いなー」


気楽なやり取りをしながら、晴登たちはラグナの店へ向かう。

ちなみに“慌てよう”というのは、ずばり関所の門兵のことだ。
先程王都へ入る際、晴登は門兵にウォルエナについて伝えた。門兵は「確かめてくる」と一言残し、森へ入っていった。
初めは冗談かと疑われたが、きっと真剣に話したから信じてくれたのだろう。
証拠(氷像)だってちゃんと有る。これで王都への危険は無くなったはずだ。一件落着である。


「…と、着いた」


ユヅキがそう洩らし、ラグナの時計屋の扉を開ける。
よく考えると、これが最後のラグナとの対面。思い残すことがないように別れなければ。


「いらっしゃい!・・・って、何だお前らか」

「あれ、珍しい」
「珍しいとは失礼な。俺だっていっつも寝てる訳じゃねぇよ」


頭を掻きながら、バツの悪そうな顔をするラグナ。
最初のかけ声から察するに、今日はやる気が有るといったところだろうか。


「何せ今日は大行事、『大討伐』はあるからな!」
「討伐…ですか?」

「あぁ。北方で大量発生したウォルエナを駆除する祭りだ。だから今日は人がガッポガッポ・・・」
「何ですかその祭りは!? 来る訳ないじゃないですか・・・あれ? それって何処かで…」


晴登はラグナの言葉の中に聞き覚えがあり、途端に口を閉じる。晴登が確認の為にユヅキの方を振り向くと、彼女は頷いて応えた。
もしかしなくても『大討伐』は、昨日の“ウォルエナ騒ぎ”が成就した結果らしい。

晴登が急に黙り込んだから、ラグナは心配そうに訊いてきた。


「なんだ、知ってるのか?」
「昨日の内にそれっぽい話を聞いたんですよ。騎士がどうたらこうたら…」

「うーん…確か王都の騎士の半分は討伐に向かったって話だ」
「ホントに大掛かりなんですね」


王都の騎士団の規模はよく分からないが、それでもこの広さだ。百人くらいは行ったのではなかろうか。


「大掛かりなのも仕方ない。“人喰い”って云われてるからな。捕まったら一発でガブリだ」
「表現がかわいくても言ってることはすごい恐いですよ。さっき襲われたとき喰われなくて良かった・・・て、やべ!」バッ

「襲われた…?」


ラグナには心配を掛けまいと黙っていたつもりの事柄が、不意に口から飛び出てしまう。
口を塞ぐも時すでに遅し。ラグナの目は見開かれ、今の発言に興味津々といったところだ。


「どういうことだ? ハルト」

「う…」


さすがに逃げられないと思い、晴登はユヅキに応援を求めるも、「諦めて」というジェスチャーを返される。


「じ、実はカクカクシカジカで・・・」





「・・・で、襲われたってか? 無事だったから何も言わねぇけど、まず出会う時点で災厄以外の何でもねぇぞ」

「はは…」


ラグナは呆れた表情を見せたが、その奥は安堵しているように見えた。
ラグナの言う通り、逃げ切れたのは万々歳だ。ユヅキとだったから上手くいったけど、他の人とだったらどうなっただろうか。
喰われるバッドエンドは想像もしたくない。


「…けどよ」

「はい?」


すると、ラグナが急に声の調子を落とす。
そして(おもむろ)に口を開き、



「それだとおかしい点が一つある。お前らが出会ったのが単体のウォルエナだなんて…有り得るのか?」



謎めいた発言。晴登は聞いた瞬間、理解ができなかった。
だがしばし反芻してようやく、ラグナが暗喩(あんゆ)した仮説が浮かんでくる。

晴登はそれを悟った刹那、二人に質問をぶつけた。


「ウォルエナが集団で行動しない時って…有るの?」

「「…絶対、ないね」」


二人は口を揃えて言った。これで、仮説がハッキリと証明される。



晴登が事の大変さを理解したと同時に、王都の南門から数多(あまた)の雄叫びが響いた。

 
 

 
後書き
お膳立ては完璧。戦闘シーンはゴミ。…何これぇ??
波羅です。

戦闘を書くのに、未だに自信がございません。
もうこれアレですわ。一回体験しなきゃ分からないやつですわ。
てな訳で、取りあえず魔術覚えてきます(無理)

さて、今月はあと一話は投稿できそうです。
勉強の合間を縫って書くのだけは慣れてきました。
この調子で受験を頑張ります(笑)

フラグが簡単過ぎますけども、文句は止めてくだせぇ! では、また次回! 

 

第43話  災厄

 
前書き
メリークリスマス!! 今回はそういう回じゃないけど!!
とりあえず予定としては、

・午前…受験勉強
・午後…友人呼んでクリスマスパーティー(ローカルで3DSするだけ)

ーーーてな感じです!(ほぼニート)
ゲーム大好きですから仕方ないですよ、全く。

ではでは、こんな流れで申し訳ないですが今回の話をどうぞ! 

 
門から離れているにも拘らず、ハッキリとした音で耳に入ってくる雄叫び。
それは恐怖を起こし、命の危険を掻き立ててくる。

間違いない。魔獣だ。


「うっせぇな・・・つか、どうなってんだよ」


まだ耳にある残響を振り払い、ラグナは困惑を乗せて言った。
彼だって雄叫びを上げた魔獣の正体は掴んだはずだ。

『人喰いのウォルエナ』。それが、今王都を襲った犯人であろう。
先程、晴登とユヅキが倒したウォルエナは、実は群れがバックに潜んでいたということだ。
ではなぜ奴は単体で現れたのか、そこは言及しないでおこう。よく解らん。


「アイツ…一匹じゃなかったのか」
「とすると、最初から周りを囲まれていたのかな。それなら嫌な気分だね」


店から外を見て一言。
ちなみに窓から見える景色はあくまで大通り。門付近の様子は確認できない。

だが、ウォルエナが王都に来たというのが判明した以上、不毛な解析は後回しだ。
まずは奴らの魔の手から逃れなければならない。


「普通に入り口から出てくと大通りには出れるが、奴らとは鉢合わせだ。裏口を使うぞ」
「「はい」」


ラグナの意見に返事し、裏口へ向かう。

幸い、裏口から出た路地裏には特に異変は無さそうだった。
出待ちを予想して構えていたが、杞憂に終わる。


「ここからどうやって?」
「まだウォルエナの様子を見てないから何とも言えねぇが・・・やっぱ西か東を目指すしかないだろう」


晴登の質問にラグナは答える。
西か東しか選択肢が無いのは、薄々気づいていた。何せ北は大討伐の真っ最中。そこに逃げ込むなんて、まさに『飛んで火に入る夏の虫』だ。

ただ面倒なことに、西や東に行くのに少々問題がある。
というのも、実はこの王都は大通り以外はほとんど路地裏とも呼べるだろう小さい道路で構成されているのだ。
つまり、『行き止まりで追い詰められて・・・』という展開が容易に起こる。

更に、王都全体が森だけでなく高い壁で囲まれているのだ。お陰で路地裏を行こうが、結局は誰しもが門へと辿り着いてしまう。
端的に言えば、王都の出入り口が東西南北の四ヶ所しか無いということ。
全てを敵に塞がれていれば・・・詰む。
北の次に南を攻める奴らの意図は読み取れないが、東西にいないとも限らない。
移動には細心の注意が必要なのだ。


「にしても意外だぜ、お前ら。ウォルエナが街中入ってきてるってのにそんなに冷静でよ」
「さっき経験したから慣れたんでしょうね。嬉しくないですけど」
「そう言うラグナさんは恐くないの?」


晴登が考え込むと、ラグナが口を挟んでくる。
晴登は普通に応対するが、子供扱いが滲み出ている発言に、ユヅキは少しムッとしていた。最後の言葉も仕返しの意だろう。


「はっ、恐くねぇよ。大人をナメんなよ?」


鼻を鳴らしながら、親指を立てて余裕を宣言するラグナ。そのあまりに堂々とした態度に、少なからず感心してしまう。
ユヅキも納得したのか二の句は継がなかった。


「じゃあここからの動きだが・・・まず大通りの様子だけでも確認してぇ。ウォルエナがどれくらい来てるのかも把握しねぇとだし」
「なら何で裏口を使ったんですか」
「成り行きだよ。でもって、今から店に戻んのもあぶねぇし、そもそもここに留まるのも危ない。別の場所から確認してぇな」


ラグナの意外ともいえる作戦に、二人は納得の表情をする。
となると、まず監視に適した場所に向かわなければならない。土地勘のない晴登は、この場合戦力外だ。


「ウォルエナの被害を受けないためなら、高い所が良いんじゃない?」
「それだ。だが俺の店の屋上じゃ高さが足りねぇから・・・」
「だったらあそこしか無いね」
「みたいだな」

「え、どこ?」
「ハルトはついてきて」


戦力外も戦力外。完全に蚊帳の外で話が決まる。しかし晴登はそれに納得するしかない。
三人は決まった目的地へ向けて走り出した。










*
目的地は、店から数分の距離にある高台だった。
元々高低差のある王都ではあったが、ここは周囲と比べると特別に高い場所だった。
近くに公園もあり、一種の観光スポットを思わせる。
そんな高台から見える景色なので、それはそれはさぞかし絶景でーーー


「…こりゃやべぇな」
「うっ…」
「ウォルエナが、あんなに…」


予想とは裏腹な惨状を前に、三人は戦慄を隠せない。
ここから見える範囲、恐らく王都の南側だけだが、それの全てにウォルエナの姿があったのだ。
しかも所々には人間の姿も。ウォルエナに襲われる人々が大勢見えた。


「酷い…」
「人喰いがこんな大都市に来ちまったんだ。仕方ねぇ」


ユヅキが洩らした言葉に、ラグナは投げやりに言う。
しかし、その発言を晴登は聞き逃せなかった。


「仕方ないって…いくらなんでもその言い方は・・・」
「そのまんまの意味だろうが。早く逃げねぇとここも危なそうだぞ」
「う……はい」


ラグナが正論だと判断した晴登は、渋々承諾する。

しかし、王都に被害を出さないため奮闘した、さっきの時間は何だったのだろうか。
現時点で、既に被害者も出ている。助けに行きたいのが本音だが、心のどこかでは逃げたいと少なからず思っていた。


「取りあえず状況は分かった。後は西か東かに逃げるだけだが・・・」
「どっちに行っても変わんないんだよね」
「そこが地味に厄介だな…」


流れでユヅキとラグナの話を聞いていると、どうやら東西のどちらに逃げるか迷っているらしい。
確かに、どっちにも可も不可も無いのなら決め難い。
けれども、ここは一点突破で行くしかない。


「じゃあ東に行きましょう!」
「ん? 何でだ、ハルト?」
「迷ってても仕方ないじゃないですか! どっちに行っても変わらないんですよね?」
「あぁ…まぁ。でも何で東だ?」
「適当ですよ、そんなの」


晴登の最後の発言に、ラグナは苦い顔をする。
「勘」という理由は、それほどまでに頼りにならないだろうか。
晴登がどう言葉を繋げるか迷っていると、


「良いじゃんラグナさん。どうせ決め手はないんだし」
「ぐ……そうだな、迷う時間はねぇんだったよな。分かった、ハルト。東に行こう」
「はい!」


自分の意見が通ったことよりも、ラグナの表情が綻んだことが、晴登は嬉しかった。
ユヅキのフォローに感謝しないと。

晴登はユヅキを向き、礼を言おうとすると、



「グルル…」


「「「!!?」」」


突然に背後から聞こえた唸り声。それには聞き覚えがある。
振り返って見ると、案の定一頭のウォルエナがこちらに近づいてきていた。
距離は約5m。かなり近い。
目を血走らせて睨み付けてくるウォルエナは、先程見たサイズより若干デカい気がした。

・・・危険度が大分上がっている。
ユヅキとまた共闘するか? けど、さっきみたいに上手くはいかないかもしれない。
ラグナは、戦えるのかもよく分からないし・・・


「お前ら、下がれ」

「え?」


そう考えていた矢先、誰かの腕が晴登の行く手を阻んだ。
見ると、首をゴキゴキと鳴らしながら準備運動を始めているラグナの腕だ。


「ラグナさん!?」
「大丈夫、心配すんな。大人をナメんなよ?」


晴登の心配を振り払い、彼は構える。
驚くことに、その構えからは寸分の隙も感じられない。素人目の晴登でも、「ラグナは戦える」と分かった。


「お前らは先に行け」
「え、いや…」
「いいから行け。ここは俺が死守する」


典型的な死亡フラグに、晴登は一瞬困惑する。
が、実際にそんなことを言われてノコノコ逃げる訳にはいかない。


「三人で戦った方が楽に勝てますよ!」
「それじゃダメなんだ。お前らは先に逃げろ。これは店長命令だぞ」
「そんなの、今は意味なんて…」
「あぁもう、たまにはカッコつけさせろよ。大人の甲斐性ってやつを見せとかねぇと、お前らは俺をバカにし続けるだろ?」
「けど・・・っ」


そこまで言いかけたところで、袖が引っ張られる。
見ると、ユヅキがこちらを真剣に見ていた。


「ユヅキは…三人で戦った方が良いって思うよね?」
「思わないよ。ボクは少しでも生き残る人数が多い方を選ぶ」
「どうして…!」
「ハルトもだけど、ラグナさんもボクの恩人だ。恩人の頼みは聞かないとね」


期待を込めて晴登は訊いたが、ユヅキにキッパリと切り捨てられる。
彼女はラグナを置いていく選択をしたのだ。


「ユヅキ……」
「行こう、ハルト」ガシッ


ただただ情けない声を洩らすと、今度は手を掴まれる。その温かさを感じながら、晴登は最後にラグナを見た。

彼は無言で頷く。それが答えだった。


「…すいません、ラグナさん」
「お前が謝る必要はねぇよ。無事に逃げ切ってくれれば、それで良いんだ」


「…はい。必ず!」


その言葉を皮切りに、二人は駆け始める。
向かうは高台を降りる階段・・・ではなく、落ちないよう仕切られている柵。


「飛び降りるよ、ハルト。お願いできる?」
「任せろ!」


何の躊躇いもなく柵を越えて跳んだ二人。その高さもまた5mはある。
晴登は下に掌を構え、風を放った。
すると巻き起こった風がクッションとなり、二人の足がゆっくりと地面につく。

そして、後ろ髪を引かれる思いを断ち切りながら、東へ向けて駆けていった。





「頑張れよ、二人とも」


ラグナは見えなくなった二人を案じ、最後にそう溢した。










*
「やっぱり大通りは人が多いね」
「別の道はないのか?」
「ボクはラグナさんの店以外は特に行かないから・・・正直わかんない」
「マジか…」


避難する人でごった返す大通り。路地裏から顔だけを出すようにして、覗き見てみた結果だ。
東で既にこの量なのだから、西にもこれくらいは居るのだろう。
しかし、これでは外に出るのも容易ではなさそうだ。なぜなら今の状況を端的に言えば、『順番待ちで並んでいる』という感じだからだ。


「王都の人口の多さを実感するな」
「それと、こういう事態を想定していないがために、避難訓練を怠った政治の堕落さもね」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」


ユヅキの話で「なるほど」と納得。
大勢の人々がパニックになって一目散に逃げ出すのは、そういう裏があったのだ。
であれば、ここからスピーディーに避難ができるとは思えない。


「大通りは無理だな。大通りに沿う感じで裏を行こう」
「それしかないね。行こう」


二人は再び路地裏を進む。

だが右に左に、複雑に入り組んでいて思うように前に行けない。
次第に焦りが募り始めたため、一旦止まって様子を窺ってみる。



「…迷ったな」

「…迷ったね」


知らない道を走ると、結果は大概こうなるだろう。
二人は肩を落とし、警戒しつつも座り込んだ。


「どっかの建物に入れないか?」
「無理そうだね。裏口があったとしても、大体鍵がかかってるはずだよ」
「うわー…」


日光が遮られ、薄暗さが席巻する路地裏。
正直言って、右も左も同じ景色に見える。気分的には、無限回廊を歩いている感じだ。


「壁をぶち壊して進むか?」
「そんなことしたら、いざって時に魔力切れで戦えなくなっちゃうよ」
「…ホントに手が無いな。せっかくラグナさんが逃がしてくれたのに」
「だから、ボクらは走り続けなきゃいけないんだ。絶対に生き延びないと」
「そう…だな」


ユヅキの言葉に納得し、晴登は重い腰を上げる。
ユヅキもまた立ち上がり、また二人で走りを再開した。

どんな迷路にも出口はある。そう信じて。





「ん?」


ふと晴登の足が止まる。
進行方向とは別の右の通路。その視界の先には延々と通路が続いていた。


「どうしたのハルト? 止まっている暇は無いんだけど・・・って、ハルト!?」

「……ッ!!」ダッ


ユヅキの声を無視し、晴登は右の道に入って走り始めた。
実は、今しがた見ていたのは唯の長ったらしい道ではない。
見ていたのは、その数瞬前に視界を横切ったものだ。



「智乃……?」



親愛の妹の名を呟きながら、晴登は道を突き進む。
間違いなく、さっきの瞬間に少女が見えた。その顔が……智乃と酷似していたのだ。
この世界に居るはずのない存在。真実かどうかを確かめなくてはならない。


「多分…こっち」


少女が見えたのは先程だけ。
今は勘を頼りに後を追っている状態だ。
全神経を尖らせ、少しでも可能性が高そうな道を選んで進む。
大通りそっちのけのため、現在地はほとんど分からなくなった。
でも、晴登は智乃らしき少女を必死に捜す。





「見つけた……」


そしてついに、比較的開けた場所でその少女を視認した。
数頭のウォルエナが車座になって囲んでいたという状況に、晴登は絶句せざるを得なかったが。


「…智乃、じゃない」


そんな危険な事態でも、晴登は確認を優先する。
目の前にいたのは、金髪の少女だった。顔こそ智乃に似ているものの、全くの別人である。
だが晴登はその事実を察してもなお、その少女の元へ飛び込んだ。

少女が・・・恐怖で涙を流していたから。


「グルッ…?」


突然の獲物の増加に、戸惑いを見せるウォルエナ。
それもそうだ。わざわざ輪の中に飛び込むなど、バカ以外有り得ない。


「絶対に…見捨てない」


智乃ではない。それが分かれば一段落だ。
だったらそのあとは、この少女を守ればいい。自分の妹と似た人物が喰われるなんて、想像するだけでも気分が悪いのだ。

少女を庇うように立ち、努めて全てのウォルエナに隙を見せないようにする。
全部で四頭。輪に入るのは容易だったが、出るのは困難だろう。
であれば、必然的に戦わなければならない。が、一人で四頭を相手など、無謀にも程がある。勝率・・・もとい、生存率は絶望的。

けど、後悔はしていない。


「…やってやるよ」


この娘がどんな経緯でここに逃げ込み、襲われたなんかしらない。
でも、囲まれて今にも喰われそう。それが見てとれた時点で、見捨てるなんてできる訳がない。

晴登の戦う気を察したのか、ウォルエナは唸りを上げ始める。完全に臨戦体制だ。



「おにぃちゃん…」



刹那、足元から声が聞こえた。幼く、可愛い声だ。声質まで智乃とソックリとか、反則だろこの世界。

…こんな弱々しい少女を放っておける訳がない。
晴登は大きく深呼吸し、そして・・・



「この()には、指一本触れさせねぇよ!!」




最後に上げた晴登の怒号を合図に、晴登を殺さんとウォルエナが動いた。

そして、ある人物も動いた。





「いい啖呵だ。気に入ったぜ、ガキ」


突如として降ってきた衝撃。
それはウォルエナは(おろ)か、晴登たちも吹き飛ばす。


壁に背中を打ち付け、晴登は悲痛な声を洩らした。だが、腕に抱いていた少女は無傷。ただ、今の衝撃で気を失ったようだ。
そして晴登は、何事かと前を見る。砂やら埃やらが舞い、視界が悪い。誰かの声が聞こえて、何かが降ってきたというところまでは分かったが・・・



「無事か? ガキ共」

「へ!?」


突然に耳元から聞こえた声。晴登は驚いて飛び退き、尻餅をつく。
目の前にいたのは男性。屈んでいるからよく分からないが、かなり長身だと思われる。また、燃えるような赤い髪色をしていた。


「あなたは…?」


異世界感丸出しな容姿の彼に、晴登は名前を問う。
すると彼はその質問が面白かったのか、豪快に笑い出した。
そんな男性を晴登は怪訝そうに見ると、男性は笑いを止め、


「俺を知らないってことはお前よそもんだな? 不幸だな、こんな事態に遭遇して」

「え?」


質問とは違う答えが帰ってきて、晴登は眉をひそめる。ヘラヘラとしていて、なんともいけ好かない奴だ。
そんな不機嫌な晴登の様子を見た男性は「あぁ悪い悪い」と手を振りながら、答えを訂正した。



「俺は王都騎士団団長、アランヒルデ・ストフレア。最強で最恐の男だよ」



そう言って彼は、アランヒルデはニカッと笑った。

 
 

 
後書き
ようやく出てきたアランヒルデ。あまりにも遅いのでヘンテコな名前付けてやりましたよ、グヘへ。

そんなアランヒルデですが、次回にどんな活躍をしてくれるのでしょうか。
少しは盛り上がりそうな気配・・・?

では、また次回に会いましょう! 

 

第44話  最強と最恐

 
前書き
晴登とユヅキで、交互に激しく視点変更します。

※新年と同時に公開するつもりが、ミスって29日に一度公開を押した模様(笑)
お騒がせしたら、申し訳ありません。 

 
目の前でニカッと笑う男性を、晴登は唖然として眺めるしかない。
風に赤髪をたなびかせながら、男性は口を開き言葉を続けた。


「おいおい、聞こえなかったとかいうのは無しだぜ? さすがに二回は名乗らねぇよ」


軽快な調子を崩さない男性・・・もとい、アランヒルデ。
彼は王都騎士団団長の肩書きを持っており、尚且つ『最強で最恐の騎士』の二つ名を持っている。

…そう聞いていたからこそ、この登場やら言動やらに驚きを隠せない。


「何か訊きたそうな顔してるが、どうやら悠長に話をしてる暇は無いらしい。悪いが有名人とのご対面はここまでだ、ガキ。精々その嬢ちゃんを護れよ」

「え、ちょっと……」


晴登は呼び掛けるも、アランヒルデは既にこちらに背を向けており、返答をしなかった。
彼の向く先、牙を噛み鳴らしながら威嚇を続けるウォルエナがいる。急に吹き飛ばされた上に、今まで無視されていたのだ。相当ご立腹の様子である。
涎まで垂らしており、喰う気満々といったところか。

対するアランヒルデの服装は、軍服なのか疑わしいぐらいに随分と軽装である。記憶している限りでは、彼は北方の大討伐に参加していたはずだが。
そんなアランヒルデの唯一の武器は、腰に携えている剣だ。長さは至って普通で、どこにでもありそうな感じ。
しかし、鞘に収められているそれからは、何か違う雰囲気を感じた。


「お前らみたいな奴に剣は勿体ねぇ。素手で相手してやるよ」

「え!?」


しかしその剣を見ることは叶わず、しかもてっきり剣で戦うのだとばかり思っていた晴登は、突然の肉弾戦宣言に驚きの声を上げる。
騎士が素手だなんて……聞いたことがない。


「さっさと逃げろ、ガキ」
「う…はい」


共闘しようとも考えたが、アランヒルデは『最強』の男。その必要はないだろう。

にしても正直、アランヒルデが来なかったら晴登と少女は怪我を免れなかったはずだ。
そこはしっかりと感謝しておこう。


「ありがとうございました、アランヒルデさん!」ダッ

「達者でな、ガキ!」


快活な声で見送ったアランヒルデ。
その後、彼を襲うであろうウォルエナとの戦いは、曲がり角を曲がったことで見えなくなった。

そして晴登は、少しでもその場から離れようと、少女を抱えたまま走り始める。
所詮は小学生サイズの少女だ。いくら非力な晴登でも、抱えて走るくらいは余裕である。

(もっとも)も、そんな余裕が生まれたくれたため、ようやく晴登はある事に気づくのだが。





「・・・あ、ユヅキは何処行った?」










*
「ハルト?! ハルト?!」


ひとしきり叫んだが、応答はない。
もしかしたら、この辺にはいないのかもしれない。

荒い呼吸を繰り返しながら、ユヅキは駆ける足を止めた。


「どこに行ったの…?」


所在や安否が気になるが、それよりも理由だ。

先程、何かを見つけたのか、違う道に走り去った晴登。
あの必死そうな表情を見て、追いかけるのを一瞬躊躇した。それが、ユヅキが晴登を見失った原因だ。
それにしても、晴登は何を見たのだろうか。ユヅキが横目に見たときは何も無かったはずなのに。


「うぅ…わかんない…」


謎に包まれてよく分からない。
こんな気分は、以前に晴登から身の上話を聞いたときに味わった。

自分の知らない領域。それは難しく、理解し難いものだ。
今まで二日を一緒に過ごしたが、晴登はこの世界の人間じゃないと思い知らされる時が何度かあった。
そして、その瞬間から悟っていた。晴登が故郷へ帰れば、また自分は一人なのだと。
いくら嫌だと願っても、それは叶わないと分かっている。
だからせめて、いい思い出を作りたい。

あと一日なのだ・・・それなのに・・・


「ハルト…」


ユヅキは途方に暮れ、路地裏をさ迷い続けた。










*
「くそっ、ユヅキ…」


ユヅキの探索を始めて十分は経った。
なのに、目的を達することも、裏路地から出ることさえも叶わない。
避難が遅れれば遅れるほど、それに比例して生存率も下がる。
そうなってしまえば、ラグナの意思も、アランヒルデの防護も無駄になってしまう。


「それだけは、勘弁だ…!」ダッ


晴登は路地裏の出口を探して奔走する。
少女はまだ目覚めない。好都合だ。


節約ーーー。
ユヅキから云われていたし、先程危険な目にも遭った。
けど、それでは脱出は不可能なのだ。


「やってやるさ!」


晴登は頃合いの壁を見つけて立ち止まる。これなら届くだろう。
軽く膝を曲げ、足の裏に力を集中させた。
自分を押し出すようにと、イメージに合わせて魔力を練り上げ・・・


「よいっ、しょぉぉ!!」ビュオォ


目一杯の力で地面を蹴り上げ、それに合わせて力を解き放つ。
すると、身体はロケットのような勢いで空に跳んだ。
乗る予定だった屋上を遥かに越え、路地裏の端さえも見渡せるくらいの高さに。


「やべ、飛びすぎ!?」


慌てて体勢を立て直そうとするも、空中で身動きなどとれない。
仕方なく晴登は、魔力を使って風のクッションを展開し、屋上に着地する。


「…あぁ~、キツい…!」


体力もだが精神的にもキツい。
さすがに、ホイホイといつでも使える代物ではないようだ。


「けど、これで見えるな」


晴登は服を払って砂や埃を落とし、姿勢を正してから改めて前を見た。
ここからなら、東側の大通りが見えるはずである。





「ーーーえ?」


しかし見えた光景は、普段とは一転して、至るところが紅く染まっている街並み、そして、ウォルエナで溢れる大通りだった。










*
「嘘……」


晴登がその光景を発見したのと同時刻。
ユヅキもまた、一変した街並みを眺めていた。

…ここまで「一変した」という言葉が相応しい光景があろうか。


「って、やばっ!」


突如、視界にウォルエナが入り、ユヅキはすぐさま身を隠す。
というのも、ユヅキはようやく路地裏を脱出したところであり、実は現在大通りに居るのだ。


「どうなってるの…?」


確か路地裏に入る前、たくさんの人が行列を為して大通りを埋め尽くしていたはず。
それなのになぜ、それらの姿が一つも見当たらないのだろうか。
そしてなぜ、先程までに無かった紅い模様が至るところに見受けられるのか。

それが示す答えは一つ。


「あの人数が全部、ウォルエナに…!?」


そう察して青ざめると同時に、急な吐き気を覚えるユヅキ。
しかしあの短時間でそこまでできるのかと、思い止まって考えてみる。


「東門からもウォルエナが入ってきた…だったら辻褄が合うけど」


前から後ろから。そんな挟み撃ちを喰らえば、あの人数がこうなるのも頷けるには頷ける。絶対に頷きたくはないが。
だがもしこの仮説が事実なら、王都内のウォルエナの数は膨大。増して、西門からも入ってきてると思われる。


「どこに逃げればいいの…?」


そうなると、状況は四面楚歌。
隠れてその場を凌ぐのは、ジリ貧なので正直得策ではない。一刻も早く王都から脱出しないと、辿る道は死のみ。
晴登にだって同じことが言える。


「早く見つけないと…!」


ユヅキはウォルエナの目をかい潜りながら、晴登の探索を再開した。










*
「どうしたものか…」


屋上の上から景色を眺め、絶望に暮れる晴登。この状況を、一人でどう脱しろというのだ。
ウォルエナの数は、ハッキリ言って無限。戦おうなんて思えば、それはもはやエンドレスの討伐で経験値を稼ぐどこぞのクエストだ。

更に気になるのが、大勢の人々がどこに消えたのか。
「ウォルエナの腹の中」とかいう残酷な答えは元よりない。
きっと全員逃げたのだと思われる。


「でもこのウォルエナの多さだと、今からこの子をここから逃がすには無理があるな。せめて王都の外に・・・」


そこまで考えて、晴登はある名案を思いつく。
かなりの魔力の浪費だが、逃げるだけなら最善策。


「すなわち、追い風使って王都の外まで猛ダッシュだ!!」ダッ


思い立ったらすぐ行動。別に流儀ではないが、時間が惜しいのだ。
晴登は少女をなるたけ大事に抱え、文字通り風の如く屋上や屋根を駆けた。
大通りに沿うように連なる建物。高さはバラバラだが、晴登は遠慮なしに跳び回った。





そして、決心してから数十秒後。東門はもう目と鼻の先だった。


「けど、ここじゃ安心できないな」


晴登は王都を仕切る壁を悠々と飛び越え、更に走り続ける。
幸い、門を出て森に入ってもウォルエナの姿はなく、地面を走っても特に問題はなかった。

晴登は徐々にスピードを緩め、道の脇に寄って座り込んだ。


「ねぇ君、起きて」ユサユサ


疲れた自分を押し殺し、晴登は未だ眠る少女に呼び掛ける。
すると、彼女はうっすらと目を開いた。


「おにぃちゃん?」
「……っ」


その言葉を聞いて、晴登は胸が苦しくなった。
親しみの込められたその言い方から察して、きっとこの子にも兄がいたのだろう。先のパニックではぐれたのかもしれない。だから心細くて、安全そうな路地裏に逃げ込んだ。
この娘はずっと、一人で逃げていたのだ。

だったら、この娘を家族のところまで送り届けてあげたいのが本望・・・だが、


「いい? このまま森を抜けて、どこかの村まで行くんだ。そうすれば君は助かる」
「おにぃちゃんは?」
「…俺は、まだ逃げられない。やり残してきた事があるから」


今にも泣きそうな少女の手をほどき、晴登は背を向けた。


「行って」


その一言を残し、晴登は王都に向かった。
少女が何を思ったのか、この後にどうするかは、もう考えない。

ただ一つの未練。あの娘が一人で逃げたように、晴登にも一人にしてしまった少女がいる。
それを見つけるために、晴登は再び絶望に足を踏み入れた。










*
「大丈夫ですか?!」
「あぁ…。すまないね」

「大丈夫ですか?!」
「…何とか」

「大丈夫ですか?!」
「ちょっと…無理かも」

「大丈夫でーーー」


このやり取りを何度繰り返したことだろう。
早く晴登を見つけたいが、時々見かける人々を放っておけないというジレンマ。
幸いなのか微妙だが、どうやらまだ王都には人が残っている。全員が全員、隠れたり、それなりの対策をしていたりしていたが。


「ハルト…」


しかし、そんな少数の生存者を見つける中、多数の死体を見た。それらを見る度に、最悪の絵面が頭に浮かぶ。
何度諦めて、何度それを振り払ったのかはもう分からない。


「行かなきゃ」


彼がいなくなったのは路地裏。
まだそこを脱していない可能性もあるが、脱していたとなればそれこそ危険だ。
ウォルエナは大通りに集っているし、何より王都を出ているかもしれないのだ。

ユヅキの目的は、ハルトを見つけて一緒に王都を脱出すること。当然、ラグナも一緒にだ。
だから言ってしまえば、入れ違いが最も避けたい事態。
せめて、王都で生きてるか、外にいるのかが分かれば気が楽なのに。


「下手に動けないから、それは厳しそう…」


ただでさえ広大な王都。その状態での人探し自体にも無理があるが、更に障害が立ち塞がるとなると手の施しようがない。

何か、ヒントはないだろうか。


「あそこ、なら…」


そう考えて、ユヅキはあることを思いつく。
かなり遠いが、あそこならきっと・・・


決意したユヅキの行動は早かった。
ただ必死に、希望だけを目指して走る。

走って、

走って、

走り続けて・・・



そして、ラグナの店の前に立っていた。

偶然にも、道中で襲われることはなかった。
だがそんなことは気にも留めず、ユヅキは扉を開けて中に入る。



ーーーもちろん、誰も居なかった。

ユヅキは肩を落として、その場で立ち尽くす。

ハルトとラグナ。二人との関わりが最も深いこの場所。ここなら何か、ヒントが有ると祈ってしまった。
当然、そんなものがある訳がなく、自分は(わら)に縋っているのだと思い知る。

一刻も早く晴登とラグナを見つけたい。
全包囲という状況になった今、二人は簡単には逃げ出せないでいるはず。きっと王都のどこかにいるのだ。


「でも、もう手がない…」


自分だけの脱出なら、まだ可能性はある。しかし、それを選択することはできない。
かと言って、ハルトやラグナは見つからないし、何より安否も分からないのだ。

数多の時計がカチカチと、規則的に音を立てて動いているのを、ユヅキは耳に残しながら考え込む。
静寂とも呼べない静寂が、場を席巻した。


ーーーしかし、ある存在がそれを打ち壊す。





「すいませーん」

「!?」


不意に後ろから聞こえた声に、ユヅキは反射的に振り返る。
そして視界に入った人物には、見覚えがあった。


「何で…?!」

「いやいや、忘れ物を取りにね」


ユヅキが発した疑問に、その男性は笑顔で答える。
寸分の醜さもない整った顔立ち・・・間違いなく、昨日に時計の修理を頼んだあの男性だ。

知り合いということもあり、騒いだユヅキの心はすぐに落ち着く。


「忘れ物…って時計ですか?」
「うん。王都を出る前に回収したいから。もしかして、直ってたりするかな?」
「はい。ラグナさんは直ったって言ってました」


彼の問いに正直に答えていく。
その一方で、どことなく彼に怪しさを感じた。


「それは良かった。それじゃそれを後で回収するとして・・・少し君に訊きたいことがある」
「ボクに…? 何ですか?」


そう感じて間もなく、怪しさを掻き立てる言われ方をされた。
ユヅキは解いた警戒心を再び出し、彼の次の言葉に備える。

しかし、彼から聞いたのは突拍子もない発言だった。



「君はこの惨状に心当たりはあるかい?」

「……は?」


思わず間の抜けた声を出し、ユヅキは奇怪な質問をした男性を見据えた。

 
 

 
後書き
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。波羅です。

いや~もう2017年ですね~。
2016年も濃かったと思いますけど、2017年もきっと濃い一年になると思います。
ね、だってね、受験があるからね!(泣) 
…あ、でも卒業して新しい学校に入学するから、あながち悪くないかもしれない(笑)

今回のストーリーは去年中に完結しませんでしたが、少なくとも1月中には終わらない見込みです。
ストーリーが長いのか、自分の仕事が遅いのか・・・。

きっと前者も後者もどっちもですね。
これは先を書くのが楽しみです! では、また次回で会いましょう! 

 

第45話  絶望への誘い

 
前書き
前半は晴登パート、気になるユヅキパートは後半です。 

 
頬を撫でる不穏な空気。
晴登はそれを感じながら、己の失策を悔やんだ。


「無理してでも上を行くべきだったか…」


いくら言い訳しても後の祭り。
目の前には唸りを上げる、十頭を超えるウォルエナの小さな群れがあった。
ちなみに、その全ての標的に自分がなっている。


こんな事態に陥った背景としては、大通りを普通に歩いていたからである。
魔力の温存を兼ね、屋根の移動を避けた結果だ。
予想はしていたのだが、まさか王都に入った瞬間に襲われるとは思わなかった。正直、切り抜けられるかは微妙なところ。


「そんなこと言って、死んじまったらどうしようもねぇだろ。どうすれば・・・」


辺りを見回すも、特にヒントは見当たらない。
背後は空いているが、外に逃げるという選択肢は(もっ)ての(ほか)
戦うか、上手くかわすか、だ。


「結局、魔力を使うことに変わりはないんだな!」ブワッ


晴登は前者を選択し、先手として強風を展開。
ウォルエナがその勢いに怯んだ瞬間を見計らって、


「初めてだけど、やってみるか!」


晴登は魔力を込めた手刀を構え、横に大きく振るう。
すると、魔力が三日月型の風の刃となって、多勢のウォルエナに襲いかかった。

直撃…はした。
だが奴らに被害はない。


「と見せかけて・・・」


晴登が不敵に笑うと、ウォルエナはバタバタと倒れ伏せた。
血の一滴も出さず、敵を斬りつける技。


「その名も“鎌鼬(かまいたち)”、だな」


マンガで身に付けた雑学がまたも生きた。
というか最近、魔術に関してはメキメキと成長している気がする。
もう普通とは呼ばせない!


「ユヅキ! どこだ!」


晴登はウォルエナを飛び越えながら、大通りを駆ける。
視界に広がる街の景観はさっきよりも更に悪化しており、紅い血の色が目立った。きっと、全部ウォルエナのものだ。


「そういえば、アランヒルデさんはどうなったんだろう。これ全部やったりして?」


最強である彼ならば、それも容易いだろう。なんだ、思ったより状況は悪くない。
北方の大討伐を行ってる騎士だって、いずれは王都に戻ってくるはずだ。


「希望・・・見えてきたぜ」


晴登は薄ら笑いを浮かべ、尚もユヅキを捜した。










*
「手間が掛かるぜ、全く。他の騎士が弱すぎるんだよ」


愚痴を吐きながら、路地裏から大通りに出てくる一人の男性。
赤い髪を乱暴に掻きながら、彼は街の惨状に顔をしかめる。


「あーあーこんなんになっちまって。結構気に入ってるのによ」


歩を進めながら、男性は大通りを見渡す。
その姿は無防備そのものであり、今ウォルエナの狩り場となっているこの大通りでは格好の獲物だった。

もちろん、そんな獲物を逃がすはずもなく、数頭のウォルエナは彼に集う。


「おいおい、群がってくんなよ。何も持っちゃいないぞ?」


両手をヒラヒラとさせ、危険はないと表明する男性。
しかし魔獣にとっては、その行為は本来の意味を持たず、威嚇でしかない。
男性はそれを察しると、手を下ろしてため息をついた。


「ったく、後悔すんのはお前らだってのによ」


男性は臆することなく、群れの中へ足を踏み入れた。

黒笑と、殺意と共に。










*
「ユヅキが外に出たって可能性はあるけど・・・最悪路地裏のままって可能性もあるんだよな…」


物陰に潜みながら、大通りを彷徨(うろつ)くウォルエナの様子を窺う晴登。その間も、ユヅキを捜す算段を模索中だ。


「大通りだけだったら単純で捜しやすいけど、路地裏にいるとなると・・・マジで厳しい」


この王都の土地面積の内、路地裏は約7割を占める。
そんな所に居られては、捜す行為自体が億劫(おっくう)になるだろう。いざとなったら行くけど。


「ユヅキのことだから、きっと心配してるんだろうな・・・ん? 心配、してくれてるよな…? え、してくれてるよね?!」


思いがけない疑心暗鬼。それに釣られて、無意識の内に声が大きくなってしまう。
今まで二日間を過ごした仲だ。心配くらいはしてくれるだろうと、何とか自分で納得してみる。


だが一瞬洩らしてしまった大声は、とある災厄を引き寄せた。


「グルッ…」

「あ、やべ!」ダッ


晴登はその災厄に気づくや否や、猛ダッシュで逃げた。だが魔術は一切使っていないため、すぐに追いつかれる。


「ガウッ!!」ヒュッ

「うお! …鎌鼬っ!!」ザシュ


跳びかかってくるウォルエナを、新技で何とか撃退。
だが、状況は一向に好転していなかった。



「囲まれた…!」

「「「グルル……」」」


逃げる際に大通りに飛び出したせいで、全包囲をウォルエナに囲まれてしまう。
まさに自業自得。自分に甘え、声を張るのを許してしまったのだから。

しかしこうなった以上、突破するしか道はない。
晴登は再び手刀を構え、新技の準備をした。

ーーーだが、


「ガウッ」ガブッ

「いたっ!!」


魔力を溜めようと気を逸らした刹那、一頭のウォルエナに左脚の太股辺りを食らい付かれる。
牙が深々と突き刺さり、脳天に痺れるように痛みが伝わった。
晴登は表情を歪めつつも、自分の脚に喰らい付くウォルエナを睨むと、


「こ、のぉ!」ザシュ


痛みを堪え、必死な思いで魔力を振るう。
何とか齧っている奴は引き剥がせたが、晴登は絶えず襲う激痛に絶叫した。
膝をついて(うずくま)り、ひたすらに耐える。

そんな隙だらけの晴登を、ウォルエナが逃す訳もなく、残りのウォルエナ全てが晴登に襲いかかった。


「く…ああぁぁぁ!!!」ブワァァァァ


まさに火事場の馬鹿力。巻き上がる暴風がウォルエナを四方八方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされたウォルエナは、地面やら壁やらに思いきりぶつかり、鈍い音を立てて動かなくなった。


荒い呼吸を繰り返して、晴登は己の生存を確認。
なんとか九死に一生を得た晴登は、左脚を引きずりながらウォルエナから離れるように走った。


「あ、あぁ…」ヨロヨロ


もはや歩くと同等のスピードだが、晴登は全力だった。

今まで味わったことのない痛み。それが一歩を踏み出す度に電撃となって頭に伝わる。
ついさっきまで状況を楽観していた自分が馬鹿らしい。油断すれば一瞬で痛みを味わうのが、この理不尽な世の中の(ことわり)だというのに。


「ゆ、ユヅキは…?」


だが、痛みによって頭が冷やされた。
この惨状がどれほどまでに危険なものか。それを改めて思い知らされたのだ。
未だに何処に居るのか不明だが、早くユヅキと逃げなければならない。




しかし、運命は非情であった。


晴登の真横の路地裏から、一頭のウォルエナが槍の如く飛び出してくる。
あまりの勢いに、咄嗟に左腕で攻撃を防ぐのがやっとだった。


「あぁぁぁぁ!!!」


人間の腕一本、奴らには木の枝と変わりない物だろう。牙が二の腕辺りに突き立てられ、二度目となる激痛が頭に伝わる。
グリグリと、牙で抉られる感覚を味わう。


「は、放せぇ!!」ザシュ


後先考えない渾身の鎌鼬。
それはウォルエナの身体を両断し、胴体だけが地面に虚しく()ちた。
逆に、変わらず意識の消えた頭部が、晴登の二の腕に喰らい付き続けていた。


「はな、れろ…!」


右手を使って何とか引き剥がす。牙が抜けた瞬間にも、痛みが走った。

左脚の痛みも合わさり、晴登は再び膝をつく。
その際、屍と化したウォルエナの残骸が目に入った。


「うぇ…」


右手で口を覆いながら、何とか嘔吐を堪える。
今まで意識しないようにしていたが、ここまで様々と見せつけられれば、さすがに気持ち悪さを感じた。
マンガとかで散々こんなシーンを眺めてはいるが、いざ実際に見ると変な想像が頭に働くのだ。自分が死ぬ瞬間とか・・・


「やめろ、考えるな…」


晴登は大きく深呼吸し、何とか意識を保つ。
だが依然と荒い呼吸は収まらず、何度も深呼吸をする羽目になったが。


「行かなきゃ…」


朦朧とする意識の中、晴登は立ち上がる。
無論、捜索を再開するためだ。

ユヅキが王都の外かどうかは、この際知らない。
こんな地獄に独りで閉じ込められている可能性、それが有るだけで『自分だけ逃げる』なんて選択肢は消えていく。絶対に、置いていけないから。

痛みを堪え、右脚だけで身体を支えるのは至難の業。
だが、やらなければならない。そしてこのまま、進まなければいけないのだ。


「おいっ…何処だよ、ユヅキ!?」


そして晴登は、絶望へと一歩を踏み出した。



「残念だよ」ヒュ



その背後から、氷柱が飛来してきたことにも気づかずに。





*
「何を…言ってるんですか?」


数秒前にされた質問の内容を反芻しながら、ユヅキは言った。反芻といっても、一切の理解は出来ていない。


「おっと、質問が雑だったね。訂正するよ。君はこの事態の元凶に心当たりはあるかい?」


仮に質問を受けるなら、答えは否。それは訂正されたからといって、変わることはない。
彼の発言の意図を、ユヅキは一切掴めないままだった。

そんな無反応なユヅキがつまらないのか、青年は困ったように頭を掻く。


「無言、か…。僕だって、こんなことを冗談で訊いている訳じゃないんだよ?」

「じゃあ、どうして…?」


ユヅキが問うと、彼は肩をすくめて語り始めた。


「ーーー僕はここに来る間に、たくさんのウォルエナを見た。まさか王都に大量のウォルエナが出現するなんて、悪夢にも思わなかったね。さて、そこでだが・・・」


青年はそこで言葉を切る。どうやら、ユヅキの反応を窺っているようだった。
もちろん、ユヅキは無理解ゆえに無表情だが。


「…僕は思ったんだ。このウォルエナの群れは、人為によるものだとね」

「え!?」


ようやく見せたユヅキの驚きに、青年は初めて薄く笑みを浮かべる。そして、すぐに話を続けた。


「自然にウォルエナが王都に出没するなんてあり得ない。確かに餌である人間が集まってはいるが・・・所詮は小心の獣だ。好んで入ろうとは思わないはず。だったら話は簡単さ。誰かが裏で奴らを操作してるとすると、この惨状は辻褄があうだろう?」

「・・・で、その操作している黒幕がボクだと…?」

「察しがよくて助かるよ。まだ推測の段階ではあるけどね。けど、証拠は有るよ」

「!?」


彼の発言に、再びユヅキは驚愕の色を隠せない。
証拠? そんなものが自分に有るはずがない。自分だって被害者なのだから。

しかし余程の自信が有るのか、彼は余裕の表情を崩さなかった。



「…何せ君の魔力と、ウォルエナの『首輪』の魔力は、全く同じものだからね」



「首輪…?」

「『首輪』というのは、魔獣に対して付ける主従の証だ。普遍的な魔法じゃないから、知らなくても当然だろう。簡潔に言えば、『人間が魔獣を従えさせる為の魔法』だよ」

「そ、それがボクと一緒っていうのは…?」

「『首輪』といっても、所詮は魔法。魔力の造形さ。だったら、『首輪』の魔力とそれをかけた人物の魔力は等しい、そうだろう?」


『首輪』の話は理解できた。
だが青年の問いに、ユヅキは素直に頷けない。
もし頷けば、それは自分が元凶だと認めることなのだから。


「僕は魔力が視れる、というのは知っているだろ? だから、君のもウォルエナのも僕には見えたんだ。そして、両者も全く同じ質なんだよ。・・・あぁ言い忘れていたけど、人によって魔力の質は変わるものなんだよ。個性、といえるくらいにね。だからこそなんだろうけど、時間じゃ質は変わらない。魔力の質というのは、所謂(いわゆる)『永久的な一点物』なんだ」


ここまで話を聞いたユヅキは、自分の疑いを否定しきれなくなった。
もし、この人がデタラメを言っているのならばそれで良いが、これが本当の話だとしたら、自分とウォルエナに何らかの主従関係があったということになるのだ。
けれども、ウォルエナと何か契約をした記憶はないし、身に覚えもない。





ーーー強いて言って、魔獣との関連性は一つだけ有るのだが。


「・・・ここまで説明すれば君なら解るよね? 僕が君のどこを疑っているのかを。別に僕は君をどうこうしようというつもりはない。けどね、街をこんなにさせられて黙っていられる訳も無いんだよ」


彼は所々に怒りを込めて話していた。
その敵意は、全部自分に向けられたものだろうか。


「じゃあ、もう一度訊くよ」


ユヅキは、次の言葉でトドメを刺される気がした。

多分、彼は知っている。自分と魔獣の関係を。
ラグナにも、もちろん晴登にもそれは伝えてはいない。そして、日常生活でもそれに感付かれないよう振る舞った。


だけど……この人は解っているんだ。






「君はこの惨状に心当たりはないかい? 白鬼(びゃっき)よ」

 
 

 
後書き
晴登パートは前半、ユヅキパートは後半に入れると言ったな。だが、アランヒルデパートを途中に入れないなんて、誰も言ってないぜ?(←ゲス顔)
…正直な話、晴登パートが長続きしなかったから、字稼ぎで入れたまでです(笑)

さてさて、やりたかったことの大半を終えました。
後は終局に向かうだけです。
え? どうやって終わらせるのかって?
・・・そりゃ、何か起こすに決まってんじゃん(黒笑)

お気づきかと思いますが、今回で晴登はあのシーンに追いつくことになります。この後にわざわざあのシーンを書くかどうかは、迷っている段階ですけども…。

…まぁ、上手くやるとしますか。
ユヅキのカミングアウトも合わさり、次回は楽しくなりそうです。
また会いましょう。では! 

 

第46話  白鬼

 
前書き
先に言います。かなり無理矢理です。 

 
ーーー鬼族。

額に凛々しく生える角を特徴とする、竜族などの様に魔獣の上位に位置する種族。
単なる戦であれば、鬼族に勝る者はほとんどいない。肉体においても魔法においても、鬼族は優秀だからだ。

きょうび、純血の鬼族は存在しないと考えられているが、たとえ少しでも鬼の血を引くのであれば、本体(ベース)が人間だろうと驚異的な力を得る。

そして古来より、鬼族は様々な属性の魔法を使用している。
だから昔の人々は、属性を“色”に(なぞら)えることで鬼族を分類した。
火の属性であれば『赤』、水の属性であれば『青』・・・というように。

『白』もその一つで、氷属性を意味した。
鬼族の造り出す氷は、ただの氷と比較するとあらゆる面で秀でている。
戦闘においても生活においても、鬼の氷は重宝していた。

…鬼族の特徴は他にもある。
それは『髪色』だ。これは、昔の人々が鬼を色で準えた理由にもなっている。
原理は不明だが、鬼族の髪色は使う魔法の属性によって異なり、しかもそれは準えた色と同色。いや、同色だからこそ準えられたのだ。



「・・・だから、白鬼(びゃっき)の話が有名である北の街出身で、氷属性の魔法を操り、銀・・・もとい、白髪(はくはつ)の君は白鬼だと、僕は推測したんだ」

「悔しいけど…全くその通りです」


観念したように項垂(うなだ)れるユヅキ。今まで、自分の正体に気づいたのは彼が初めてだ。

そもそも、北の街で白鬼が有名だなんて情報、普通に生活していては知り得ないはず。
彼の情報網、そして魔眼ゆえの観察力が、事実を見抜いたといったところか。


「さて、自白も得られたことだけど・・・別に僕は探偵ごっこがしたかった訳じゃないよ。君が白鬼であること、それをまずは確認したかった。そしてそれが判明した後に君に問うのは、『なぜ王都を襲撃したのか』だ」


饒舌に言葉を並べていく青年。
彼はさも当然の事を言うように語っているが、ユヅキにしてみれば不本意な点が一つある。


「すみませんが、何度も言う通りボクはそんなことはしていません。ボクが白鬼であることは認めますが、襲撃に関しては全く身に覚えがありません」

「魔力の質が一緒だという証拠が有ってもかい?」


そう言われると、中々反論がしにくい。
ユヅキはしばし逡巡を見せたが、すぐさま取り繕った。


「・・・気になったんですが、それってホントにボクと同じですか? 誰か似た人って可能性も…?」

「視た感じは全く一緒だよ。・・・でも、強いて言えば、親族なら君と魔力の質が似ているかもしれないな。……君が否認するというなら、誰か家族にこんなことをしそうな人はいないかい?」


青年の質問の急な変化に、ユヅキはまたも困惑する。
確かに自分は違う、やっていない。でも、家族を疑われるというのも心外だ。
昔の話だが、お父さんもお母さんもそんな人じゃなかったはず。親戚はあまり知らないから何とも言えないけど・・・


「多分…いないです」

「…困った答えだな。素直に言ってもらわないと、僕は誰に復讐すればいいのかわからないよ」

「え、復讐…?」

「当たり前さ。故郷をこんなにされたんだ、復讐しないと気が済まないね」


そうか。先々から感じていた、彼の怒りの原因はそこだったのか。
…イメージ的には、そんな物騒なことをする人とは思えないけど。


「…ボクか、その周りが犯人だと言うんですね」

「ああ、そうさ。百歩譲っても、犯人は君の親族だ」


ユヅキはその説に対して、落胆の色を隠せない。
自分が犯人ではないのは確実だが、自分の身内がこんな惨状を招いたのかと思うと、とても悔やみきれないものがある。

一体、誰がこんなことを・・・


「…時に、以前君と一緒に居た少年はどうしたんだい? 彼は無事なのか?」

「ハルトですか? いえ、実は今はぐれてて・・・それで手掛かりがないか、ここに来たんです」

「なるほど…。いくら魔法が使えても、彼一人は危険だね。街の人々はまだ外には出ていないようだし、彼も王都内に居るだろう。僕も捜すのを協力するよ」

「いいんですか!?」


まさに願ったり叶ったりな提案。
ユヅキは表情を輝かせながら、その申し出を受け入れる。

しかし青年は、「ただ一つ」と前置きを入れ、


「僕が君に協力するのは、真犯人を探すためだ。証拠が有ると言っても、君が十割犯人だと示せるものじゃなかったからね。君と一緒に行動していると、何か掴めそうな気がするよ」


青年はバツが悪そうにそう言った。
どうやら、ユヅキにキツい当たり方をしたのを反省しているようだ。

だが当の本人はそれを気にせず、増援に歓喜し続けるだけだが。


「それじゃあ、よろしくお願いします!」

「…あぁこちらこそ」


状況は変わらないが、晴れて和解した二人だった。










*

「残念だよ」ヒュン



「!・・・がぁっ!!?」ドガッ


予期せぬ一発を喰らい、石造りの通路にダイブしてしまう。
その際だが、横腹で何かが肉を(えぐ)るのを、痛覚を通して電撃となって身体中に伝わった。


「な……にが…?!」


口から溢れてくる血を拭いながら、晴登は横腹の様子を窺う。
・・・現状は、見ただけでも気持ち悪くなるくらいの大怪我だった。かなりの範囲に血が染みている。

晴登は何とか首だけを動かし、怪我の要因を探した。飛来物、それだけは分かっている。
すると、自分の進行方向に、先端が血に塗れた一本の氷柱が落ちているのが見えた。


「氷…? ユヅキ…か…?」


その氷を見て、図らずもユヅキの姿が思い起こされる。が、ユヅキがこんなことをするとは思えない。

犯人は、ユヅキとは違う、氷の魔法使いだ。


「誰だ…?!」


声を絞り出しながら、後ろを振り向く。



ーーーするとそこには、肩にかかるくらいの銀髪をした、少年が立っていた。



「おや? まだ生きているのか。狙いが甘かったかな」


まだ声変わりのしていない、高い声が耳に入る。
彼の身長と合わせて、妥当といえよう。恐らく晴登よりは年下。
小学生ぐらいとあってか、顔の造りに可愛げがある。
蒼い眼に白い肌という点を合わせると、もはや西洋の人形とかいったレベルだ。


「誰だ、お前は…?」

「おいおい、無理に喋ると傷が痛むだろ? 大人しくしてた方がいいと思うよ」


だが、彼の大人びている言い方や嘲笑に、その評価は崩れ去っていく。というか、むしろ『いけ好かない』という評価を贈りたいくらい。
それだけ『嫌な奴オーラ』を出している彼だが、自分を傷つけた犯人は彼で間違いなさそうだ。
とすると、人を傷つけておいて、なぜここまでのうのうとしていられるのか。そこは疑問でならない。

…それにしても、何故彼はこの地獄にまだ身を置いているのだろうか。彼だって、逃げなきゃいけない状況には変わりないはずなのに・・・


「でも、細かい…ことはいい。悪いが、邪魔…しないでくれるか? 大事な…用があるんだ」

「…へぇ。出口に向かっている訳じゃないのに?」

「ぐっ…」


何とか関わり合いを避けようとしてみるも、どうにも逃がしてくれなさそうな雰囲気。
かといって強行突破しようにも、体力回復等々でもう少し時間が要る。

晴登は寝転がったままはマズいと思い、取り敢えず座る体勢に移行しようとした、その刹那、


「まぁいいよ。どうせ君はここで死ぬんだし。あぁ残念だね」ヒュン

「は…? 何言ってんだおま・・・」


晴登はそこで言動を止める。否、止めるしかなかった。

ーーー頬に冷たい刺激と温かい液体が流れるのを感じる。そしてそれは、かすり傷の様にヒリヒリと痛みを伴い始めた。


「何の…つもりだ?」

「強さを誇示してるのさ。獲物が抵抗しないようにね」

「何で、俺を狙う…?」

「別に標的は君と決まっている訳じゃないよ。けど、君みたいな奴は標的だ」

「何言ってるのかわかんねぇよ…」


晴登は未だに痛みの信号を送り続ける脳で、必死に思考を巡らしてみる。
まず、奴の正体。怪しい、というのはもっともだが、どうも危険な感じがする。王都から逃げているようには見えないし、もしかしてウォルエナの襲撃と何か関係があるのか?


「うん? ヒントがあれば、何もかも理解できそうだと言わんばかりの表情だね。ヒント、あげようか?」

「分かってんなら、答えを教えろ…」

「はぁ、せっかちだねぇ。でも、特別に教えてあげよう。そうしたら素直に死んでくれるかな?」

「物騒だな…。そこで、『はい』って言う奴は普通いねぇよ…」


周りの惨状とはギャップしかない少年の態度。
それなのに、さっきから何一つ、彼についての理解が進まない。
それでも眩む視界を気力で保ち、晴登は言葉を紡ぐ。


「大体…お前は何で逃げない? 危ないのは、お前も一緒じゃないのか?」


そう言うと、彼はニッコリと微笑んだ。
普通なら可愛いはずのその表情も、晴登には焦燥感を煽ってくるものでしかない。場違いすぎるのだ。

その後の彼の言葉も、驚愕に尽きるが。



「ボクが危ない訳がない。だって、ウォルエナはボクの飼い犬だもの」

「は!?」

「ボクが主人で、アイツらは下僕。この街への襲撃も、全部ボクが仕組んだんだよ?」

「おい、待てよ……嘘だろ」


晴登は告げられた事実に絶句する。
このウォルエナの襲撃が誰かによるものだなんて、想像すらしていなかった。

思い起こせば、おかしい点ばかりだ。
ウォルエナが王都に襲撃した時点で既に違和感だが、時間差で攻めてくるなんて、いくらなんでも獣にしては賢すぎる。
初めに北を襲い、次に南を襲う。…あれ、この流れなら東西からも・・・!?


「今、街の人たちってどうなってんだ…?」

「う~ん…多分、路地裏を逃げているんじゃないか? この街って無駄に広いし。さすがに全部喰われたってのは早すぎるだろうさ」

「そう…か…」


路地裏を逃げているとは、逃げ場がないということを言外に示している。
間違いない。今、王都は全方位囲まれているのだ。


「じゃあ、逃げ出せたのは俺とあの娘だけ・・・」


一度ではあるが、王都の外に出た晴登。
その時点で、人々が外に出ていなかったことを踏まえると・・・


「ユヅキは……まだ王都に」

「…! 今、何て言った?」

「あ? だから、ユヅキはまだ王都にって…」


『ユヅキ』というワードに、少年が驚いたような反応を見せる。
ユヅキを知っているということだろうか? こんな殺戮者とユヅキにどんな関わりが・・・


「お前、ユヅキを…知ってるのか?」


有力かは分からないが、ユヅキについて知っているなら何でもいい。
晴登は、若干焦り気味に問い詰めた。

すると・・・



「・・・あぁ、もちろん知ってるさ。何せボクのただ一人の“姉”だからね」

「は…?」



少々の間を置いて放たれた予想外の答えに、開いた口が塞がらない。
今アイツは“姉”といっただろうか、ユヅキのことを。


「あ、そうだ、君の云うユヅキという娘は白髪かい?」

「そう…だが…」

「だったら間違いないな。ボクの姉のユヅキだ」


あり得ない、というのは理不尽だろう。そもそも、ユヅキの両親については一度訊いたが、兄弟については触れてなかった。
隠したつもりは無いだろうが、これは驚き過ぎる。


「…で、弟が…ユヅキに何の用なんだ? 捜すにしても、たくさんのウォルエナ連れて襲撃は大掛かり過ぎるだろ…?」

「いやいや、この広さだ。あれくらいの数は当然。命令は『ボクの姉以外を喰らえ』だから、人がドンドン減ってすぐに見つかる予定だったんだけど・・・」

「…おい、待てよ。それもお前の命令だった…のか?」

「あぁ」


王都を襲撃する。てっきり、命令はそれだけだと思っていたのだが。

・・・ユヅキ以外を殺すということは、ユヅキのみを王都に残すこと。もしかしなくても、アイツの目的はユヅキを見つけることだろう。

とすると、王都の人々はそんなことの為に、現在進行形で逃げ回っているというのか?
見ていないが、多分喰われた人だって……。

・・・何にせよ、皆殺しをしようって奴にユヅキは渡さない。アイツは・・・敵だ。



「よーく解ったぜ。つまり俺は、ここでへばってちゃ…いけない訳だ」ザッ


口元の血を拭いながら、晴登は立ち上がる。傷の痛みにはもう慣れた。
まだ体力は戻ってきていないが、時間が惜しい。
付け焼き刃で闘うしかないだろう。

ユヅキは救わなきゃいけないし、アイツは倒さなきゃならない。
やることが多すぎてぶっ倒れそうだ。いや、もうぶっ倒れそうだけども。


「へぇ、まだ立てたのか」

「お前を野放しにはできねぇよ…」


自分がやる必要が有る訳ではない。それこそアランヒルデさんやらに任せれば、この場を上手く切り抜けられるだろう。

でも、今は晴登しかいない。晴登しか、アイツを止められないのだ。
アイツを止めれば、きっと全部が終わるはず。だから、



「ユヅキはお前には渡さねぇ。俺がここで、片付けてやらぁ!!」



再び拳を握り、晴登は高らかに叫んだ。
 
 

 
後書き
おい、これって中学生の話だよな!?(焦)

ファンタジー突っ走りすぎて、何がしたいのか解らなくなってきました(笑)
あれ、俺はこんなことをしようとか考えてたっけな…?

………まぁ、細かいことはいいでしょう。
取り敢えず、ラスボス戦ということで次回からよろしくです。
戦闘シーンには自信があったりなかったりしますので、期待はしない方が吉。
それでは、また次回で会いましょう! 

 

第47話  ボス戦

「本当にやるのかい? そんなにボロボロな身体で」

「怪我は諦める理由にならないよ。大体、無抵抗なら殺すんだろ? だったら、生ある限り足掻かせてもらう」


息を整えながら、晴登は覚悟を決める。
アイツからは逃げられない。それが直感で分かったからだ。
というかそもそも、晴登は走ることがままならない。逃げられなくて当然だ。
だったらどうする? 『倒して逃げる』しか、方法は無いだろ。


「でも、怖ぇな…」


アイツは晴登を殺す気である。つまり、そうできる力を持ち合わせているのだ。
自分が負ければ、それは死を意味する。なのに、闘いからは逃げられない。
言い知れない恐怖が、晴登の心臓を強く拍動させた。


「キミがその気なら、ボクも手加減はしないよ。死をすんなりと受け入れられると、確かに面白くないからね」

「ユーモアなんか求めんなよ。こちとら殺されそうなんだから」


さて、相手もやる気になった。
よって、ここからが正念場となる。結果は勝つか負けるかだけ。一瞬の油断も許されない。

晴登は拳に風を纏わせ、臨戦態勢をとった。



「ーーーじゃあ、始めようか」



彼の冷たく響いた声。刹那、晴登の背筋に悪寒が走る。

・・・いや、怯むな。一分の隙も見せてはいけない。
堂々と構え、相手に攻撃を叩き込むことだけを考えればいい。
晴登は前を見据えたまま深呼吸、焦りを鎮めた。


「その身体でどこまで持つのか、楽しみだよ」


彼は楽観的な姿勢を崩さない。
何とかしてあの鼻を折ってやりたいが、まだ二人の間に距離がある。約5mか。
しかし、今の晴登の脚では到底埋められない。一歩を踏み出したら、痛みで倒れ込むのがオチ。
正直な話、今の晴登は直立がやっとなのだ。


「動かないのかい? …まぁ無理もないか。いたぶる趣味はないから、早く終わらせるよ」


ーーーくる!

晴登は一瞬の判断でしゃがみ込む。するとその上を、拳サイズの氷塊が飛来していった。


「おぉ、よく避けたね」

「…いや、避けたはいいけど……脚がくっそ痛ぇ…」


咄嗟とはいえ、今のを避けたのは何気に嬉しい。
その代わり、しゃがんだことで脚にかなりの負荷がかかった訳だが。


「動かない上にしゃがめないとか・・・絶望的だろ」

「じゃあ次いくよ」

「…っ! くそっ!」


晴登の内心を露知らず、少年は次の氷塊を放つ。
先程と大きさも速さも変わらないが、しゃがみを封じた晴登は風を使って防いだ。
軌道を無理矢理に逸らし、そこらの壁に衝突させる。


「といっても、この防ぎ方もキツいな…」


枯渇しかけている魔力を更に削るのは、あまり良い選択とはいえない。
もし魔力が尽きれば、決め手に欠けるし、何より体力と比例しているから、いつかの暁君みたいに倒れてしまうだろう。
体術も、魔力もダメ。…てことは道がない。


「マジでヤバいじゃん…」


闘いに意気込むのはいいが、さすがに状況が悪すぎた。もっとも、逃げる選択肢は無いのだが。


「随分と顔色が悪いじゃないか。どうかしたのかい?」

「人の顔色見れるぐらい余裕ってか。こっちの気も知らないで…」

「余裕に決まっているだろ。相手は満身創痍なんだし」

「そりゃそうか……」


相手からしてみれば、こんなボロボロな身体の奴に負ける方がおかしいのである。
攻撃もしてこないし、防御もしない。良いサンドバッグだ。
だからアイツが本気でやれば、晴登を倒すのは他愛も無いはず。


「…つまり、結局は手加減してるんだろ。手数も少なすぎる」

「違うよ。ボクはまだ様子見のつもりなんだ。むしろ今の攻撃をそう思ってくれないと、さすがに弱りすぎでしょ」

「あぁそうですか」


少年の「当たり前」と言わんばかりの言い方に、晴登は吐き捨てるように返す。
正直、対等に渡り合える武器が“言葉”しかない。無論、諭して止めさせるとかは不可能である。


「どうすりゃ切り抜けられる? 考えろ…」


晴登は窮地を脱そうと、周りに気を配る。
偶然というべきか、ウォルエナの姿は一頭も見当たらない。恐らく、主人(マスター)であるアイツがここに居るからだろう。
となると、不意討ちを喰らうことは無いはず。だから、アイツとの一対一(タイマン)さえ制すれば、こっちのもんだ。


「こういう時は周りの地形を使ったりとか、何かしらのトリックを仕掛けるとかすれば良かったっけな?」


こういう場面までマンガ知識に頼ろうとする自分が怖い。しかし自分の記憶の中に、こんな状況に陥ったビジョンはない訳だから、だったら何度もピンチになる、どこぞのマンガの主人公を真似するのが妥当なはずだ。


「でもこの場合はどうすんだ? 『攻撃も防御もできない時の対処法』って」


しかし考えれば考えるほど、光が遠のいていく。
こんな絶望的な状況、さすがに見たことがない。自分の知能で打破するのは、どうも無理がある。


「いい加減、考えはまとまったかい? ボクだって、早く姉を探しに行きたいんだ」

「ユヅキをお前と逢わせる訳にはいかねぇよ。どんな関係だったか知らないけど、ダメな気がするんでな」

「ひどい言われようだ。所詮キミは余所者だろう? ボクらの問題に口を挟むなよ」

「街をぶっ壊しているくせに、無関係は無いだろ…」


短気というべきか何というか、取り敢えず無茶苦茶な奴だ。人一人捜すのに、街を壊滅させる必要があるのだろうか。
本当に、ユヅキを捜しに来ただけなのだろうか…?


「お前、ユヅキを見つけてどうするんだ?」

「あ、それを訊く? そうだな・・・まぁ、教えてやってもいいか」


考える仕草を少し見せたあと、彼は勿体ぶるように言う。
そんな高圧的な態度に苛つきを覚えてしまうが、ここは一旦落ち着くことにした。
アイツの話は、きっと聞く価値があるはずーーー



「ボクはね、この街を征服しに来た。ボクの国のことを、大陸全土に知らしめたいんだ」


「……は?」










*
「少年は見つかったかい?」


青年の問いに耳を傾けながら、ユヅキは辺りを捜し続ける。しかし、一向に晴登の姿は見つからない。
青年が加入してくれたとはいえ、状況はあまり好転してくれてないようだ。


「いえ、何処にも見当たらないです。それよりも・・・えっと…」

「…そうだね、まだ名乗っていなかったよ。僕はミライだ。…君の名も聞いておこうか」

「ユヅキです」

「捜してる少年は・・・ハルトだっけ? うん、覚えたよ」


ユヅキの逡巡を察し、青年は『ミライ』と名乗った。
でも、名を聞くのが目的だった訳でなく・・・


「それで…何の話だったっかな?」

「あ、えっと、ミライさんは何か手掛かりはと」

「ううん、全然見当もつかない。本当に君は何も分からないのかい?」

「はい……」


やれやれ、と首を振るミライに、ユヅキは申し訳なさそうに言う。
先程までとは違い、ミライはユヅキを疑うことをしなくなった。ただ、手掛かりが一切掴めないため、ユヅキが無実という証明ができないのだ。


「黒幕は必ずいる。見つけ出して、復讐してやるんだ」


ユヅキはその言葉に反応する。
さっきも聞いた『復讐』とは、彼にとってどんな意味なのだろうか。


「あの、一ついいですか?」

「ん、何だい?」

「ミライさんは、この街をどう思ってるんですか?」


恐らく脈絡のない質問だ。ミライさんもキョトンとした顔でこちらを見ている。
しかし、彼は質問の意図を悟ったのか、微笑みを浮かべて、


「僕はこの街が大好きなんだ。生まれも育ちもこの場所さ。だから護りたい。せっかく持ってる力だ、僕の大好きなものを護るために使いたい」

「力・・・それって魔眼のことですか?」

「いや、魔眼はあくまで体質として持ってるだけだ。僕には持つべくして持った魔法が、他にちゃんとあるんだよ」


ユヅキに笑いかけ、己を語るミライ。
その姿を見て、ユヅキは感動を覚えた。


「街を護るって…かなり大きいことですよね」

「少なくとも、凡人一人が呟く言葉じゃないだろうね」

「でも、ミライさんはやるんですよね?」

「ああ、黒幕を見つけ出して、必ず。まぁ君が黒幕じゃないことを祈ってるよ」

「だから、違うって言ってるじゃないですか!」


ユヅキは膨れっ面でミライに言うと、彼は冗談だと誤魔化した。
現在進行形で“頼れる存在”ではあるはずなんだけど・・・こうして見ると、本当にただの青年だ。

ユヅキは図らずも、口角を上げていた。
今までいなかった存在。友人だったり、家族だったり。でもラグナやハルトに続いて、ミライも自分と親身に接してくれている。それがたまらなく嬉しいのだ。


「良かった、ようやく笑ってくれた」

「い、今のは違うんです!」

「いいよ、隠さなくたって。それより、早くハルトに会いに行きたいんだろ?」

「う……はい」

「素直で何より。それじゃあ行こうか」


再び二人は、二つの捜索を続けた。










*
「征服って・・・どういうことだ?」

「そのまんまさ。ボクの国が、この広い王都を征服する。そうすれば、ボクの国の評価は上がるのさ」

「何の為に…?」

「自己満足…だと言葉が悪いな。ボクはただ、『大陸の王』になりたいんだ」


ボクの国? 大陸の王? 言っている意味がよく分からない。
そもそもこんな少年が、国を持っているということなのか? それってどういう状況?


「…理解していない顔だね。簡単だよ。ボクの国もこの王都も、全ては同じ大陸上にあるだろ? そこで一番を目指すと言っているだけさ」

「そんなのできるのかよ…?」

「できるさ。人間風情がボクに勝てる訳がない。何せ、『鬼』の血を引いているからね」

「鬼…?」


鬼、というのは、頭に角の生えたアレのことだろうか。だが、目の前の少年がそんな大層な血を引いているようには、とても見えない。


「それも知らないのかい? どれだけ世間知らずなんだ、キミは。ーーー鬼族というのは、最強に値する種族だよ。だから、人間という種族がボクらに敵う訳がないの。これでいい?」

「わざわざご丁寧に。それじゃあ、俺みたいな奴を倒すのは造作もないと?」

「その通りさ。ボクに勝負を挑んだのがキミの運の尽き。まぁいずれはウォルエナに喰われる運命だったと思うけど」


さて、情報収集のつもりが、とんでもないものを引き当ててしまった。
アイツの言っていることが事実かどうかは不明だが、もし本当なら危険過ぎる。
『魔法が過剰に扱える少年』ならまだしも、『鬼の血を受け継ぐ、人から逸脱した少年』に勝てる訳がない。

マズい、マズすぎる。
まだハッキリしていないが、晴登と少年の間には、明確な力の差があるはずだ。
自分より強い相手に喧嘩を挑むのは、何処においても自殺行為。この場合、そのまんまの意味で。
もう、助かる道がないのか……。



「…お前、何でウォルエナを王都に放ったんだ?」



晴登は無意識の内に喋っていた。
明確な意図はない。強いて言えば、死ぬまでの時間稼ぎだ。
ただ、思った疑問を口にしただけ・・・


「ウォルエナを? 単純さ。ボクが欲しいのは『この王都を征服した』という快挙だけ。人の量は関係ないんだよ。だから、要らないということでウォルエナに処理させてるんだ」

「人が、要らないのか…?」

「ああ」


それを聞いた晴登の中の、何かが弾けた。



「お前、命を何だと思ってるんだよ」

「命は大切なものだよ。ただ、不必要な命だってこの世には有るんだけど」

「不必要な命なんかある訳ないだろ! お前が今殺そうとしている人たちの命は、不必要なんかじゃない!」

「どうしてさ。ボクの計画に、その人々は不必要だろう?」

「世界はお前中心に回ってるんじゃないんだよ! 不必要とか、お前が勝手に決めていい訳がーーー」






「いいんだよ」



突如、空気が凍り付く。晴登はそれに気圧され、言葉をつまらせた。

アイツの目の色が……変わった。



「御託はここまでだ。もうキミとはお別れしよう」

「…っ!」


淡い青の光が渦巻く掌を向けられ、晴登は金縛りにあったかのように動きが止まる。明瞭な殺意が全身を縛っているのだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…!!!





「じゃあね」ヒュオ





青い光が輝きを増していく。
そしてそれは、次第に晴登の視界を埋め尽くしていった。

遅れて感じたのは、そのまんまの意味で身も凍るような寒さ。触覚が機能を失っていく。

そして更に、鳴り響く轟音。鼓膜が張り裂けそうだった。
その音に伴う、風のような衝撃も平衡感覚を狂わせてくる。

何も見えない。何も感じない。何も聴こえない。
それなのに、光と音と寒さに身体中が蝕まれていくだけは分かった。


意識が遠くなっていく。



酸素が足りなくなり、まるで海の底へと溺れていく感覚だった。




呼吸がままならない。吸ったところで、吹雪を取り込むだけだった。





もはや無重力空間。上も下も、何も分からない。






眩しい。怖い。

寒い。怖い。

痛い。怖い。

辛い。怖い。

苦しい。怖い。

切ない。怖い。

恐い。怖い。


怖い。怖い。怖い。怖い。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・





死ぬのがーーー怖い。





ー。

ーーー。


ーーーーー。



ーーーーーーー全てが途切れる瞬間、温かい光が晴登の手を包んだ。

 
 

 
後書き
戦闘シーンがほとんど無くて、タイトルと内容が一致しなかったのは反省してます。すいません。
そして文字を濫発させたのもすみません、謝ります。

でも、後悔はしていない!←

どうも。もちろんのことですが、一話じゃ終わりませんでした。次回とそのまた次回にまでいくかもしれません。
今回みたいに、下手くそな言葉を並べるだけのものになるかもしれませんが、文句を言わずに読んでいただければ幸いです。

それでは、また次回で! 

 

第48話  深雪

 
前書き
急いで書いたので、地の文が少なくて台詞で誤魔化してます。というか、地の文が思い付かない。というか、期限ギリギリだから急いだといえない。 

 
身体に刻まれた、恐怖の感覚。それに(さいな)まれ、絶望の感情に身体が席巻される。
様々な感覚が錯乱し、許容範囲を超えた脳は考えることを放棄した。


ーーーこれが、『死』か。


次第に周りの音が静まっていき、いよいよ独りになった気がした。でも、それを「寂しい」と感じる機能はとうに消えている。
眩しかったはずなのに、寒かったはずなのに、煩かったはずなのに、怖かったはずなのに、その感覚も遠い彼方へ消えていった。

まだ、思い残すことはたくさんある。
それなのに逆らえないのが、運命の強制力だ。


・・・そうだな。せめて最期に、無事だけでも確認したかったな。



ユヅキーーーーー










*
目を開けた途端、五感が一気に呼び戻される。
今、外で寝ているのだろうか。固い感触を背中に感じつつも、視界に広がる曇天を仰ぐ。
次第に意識が覚醒していき、ふと右手の違和感に気づいた。


ーーー温かい。


ちらりと右手の様子を窺うと、誰かが両手で握っている。


ーーー誰だろう。


視点を上にずらし、両手の主を確認しようとする。

そしてその顔を見た瞬間、例えようのない安堵感を得た。



「ユヅキ…?」

「…ハルト! 起きたの?!」


銀髪を揺らし、必死の表情でこちらを見つめるユヅキ。その瞳は涙で潤んでおり、晴登の目覚めを心底喜んでいるようだった。


「ハルト……良かった、ハルト…!」ギュッ

「ちょっ!?」


涙腺が耐えきれなくなったのか、大粒の涙と共にユヅキが抱きついてくる。
慌てて外そうとするも、遠慮なしに強く抱きつかれているため、中々引き剥がせない。

……仕方ない。照れくさいが、こちらとしてもユヅキの無事は喜ばしい訳だし、甘んじて抱きつかれることにしよう。


しかし、その様子を穏やかに見つめる二つの眼・・・



「いやぁ良かったねぇー」

「うぉっ!! …って、何であなたが…!?」

「“あなた”じゃなくて“ミライ”だよ。いやぁ、たまたまユヅキと会ったものだから、行動を共にしていたんだよ。それにしても……ふふ、眼福眼福」

「あ、これは違うんです!!」


ミライが言っている意味が分かり、またユヅキを外そうとする。が、ユヅキはミライの発言すら聞いていなかったのか、泣き声を上げながら晴登から一切離れようとしないので、結局は不可能だった。


「う……」

「良いじゃないか、そんなに嫌がらなくたって。彼女だって必死だったんだよ。大体男なんだから、それくらい嬉しいものだろ? 羨ましいくらいだ」

「いや、普通に恥ずかしいですけど……」


晴登はうつむき、頬を掻きながら答える。
それを見て、ミライは再びニコリと微笑んだ。晴登も苦笑いで返す。



「…ところで、体調はどうだい? 傷の調子とか」

「傷? ・・・って、治ってる!?」


突然の話題転換に戸惑いつつも、晴登は自分の現状に気づき驚愕。
なんと大怪我を負っていた左腕と左脚が、綺麗サッパリ傷を消していたのだ。もちろん、痛みだって無い。


「どうして…?」

「僕の魔法で治したんだよ。あのままだったら、ユヅキが卒倒(そっとう)しそうだったからね」

「ええっと…ありがとうございます」

「いいよ、気にしないで。それより、一つ訊いていいかい?」

「…? どうぞ」


急な真面目な顔つきになるミライ。
晴登はその表情に疑問を抱き、とりあえずという気持ちで聞いてみる。


「君の傷痕はウォルエナにつけられたみたいだけど・・・それ以外に、ウォルエナが原因じゃないと思われる怪我があったんだ。それについて、詳しく聞かせてくれないか?」


それを聞いて、晴登はハッとする。そして、脳裏に銀髪の少年が浮かんだ。
ユヅキとの再会の喜びで忘れかけていたが、アイツが全ての元凶である。姉であるユヅキを捜し、そして世界征服を企んでいるのだ。

確か、最後に攻撃を喰らって・・・


「ーーーっ!!」

「ハルト!?」


突如、恐怖の感覚が再び甦る。
何も見えなくて、何も聞こえなくて、何も分からない。五感を全て消し去られて、世界に孤立したような感覚。
それを思い出すと同時に、晴登は激しく震えた。


「そうだ、あの時…俺は、死んだはずじゃ…」


死んだ経験なんて無いが、あの時に自分は確実に死んだと思っていた。それなのに、なぜ今こうして生きているのだろうか。



「・・・いや、君はユヅキに助けられたんだよ」

「え…?」










*数十分前*

「中々進展しないね」


ミライはポツリと呟き、やれやれと首を振った。
晴登の安否が未だに分からないため、ユヅキの様子も(かんば)しくない。


「一度大通りに出てみようか」

「はい」


ユヅキはミライの提案に素直に従い、後ろをついていく。
ちなみに、今の場所は大通りのすぐ横にある道。路地裏ほどひっそりはしていないが、大通りほど賑やかでもない。
まあ、人どころかウォルエナも見当たらないから、不気味な話だ。


「……ん?」

「どうしました?」

「何か…巨大な魔力が近づいてくる…! 大通りには出るな!」


大通りに出る間際、彼は叫んだ。
腕の制止を受け、ユヅキはその動きを止める。



ーーーその正面、激浪の様な吹雪が流れていった。




「え、何、今の!?」

「まだ来るぞ、下がれ!」


吹雪は依然止まず、大通りは白く覆われていた。
肌にしみるような寒さを感じながら、ユヅキその吹雪をじっと見つめる。

誰がどうやって起こしたのだろうか。
これほどの魔力は、並の人間では持てない。


「まさか…黒幕…!?」

「ウォルエナを防ぐためだけなら、ここまではしない。この街に敵意を持つ奴の仕業……あり得る話だ」


ミライの表情が変わるのを、ユヅキは見た。
憎しみを、怒りを、殺意を。それらを抱く彼の顔は、本来の綺麗さを失っていた。

ユヅキはもう一度吹雪を見た。
ごうごうと音を立てながら、断続的に流れている。
こんなのに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。


「……あれ?」


その時、ユヅキの眼は何かを捉えた。
白く濁る雪の中、微かに影が見える。それには四肢があり、言ってしまえば人間の形をしていた。


「ミライさん、誰かが飛ばされてます!」

「何!? 誰だ?!」

「…ボク、行ってきます!!」ヒュ

「あ、ユヅキ!」


ユヅキは無我夢中で吹雪に飛び込んだ。その瞬間、全てから隔絶された気がした。例えるなら、激流に流されている感じである。周りの音が一切聴こえない。
自分と、そして目の前の人影が唯一の存在。ユヅキは流れながらも、必死に人影に手を伸ばした。


「よし…」ガシッ


そして、しっかりと手を掴んだ。
冷たく冷えきっていたが、僅かに温もりはあった。








「・・・ユヅキ!」

「……っはぁ! はぁ…大丈夫…です」

「何て無茶を…。君が氷属性に耐性があるからまだ良かったが……」


吹雪から脱出し、その後ミライとどうにか合流する。
彼の言う通り、自分には氷属性の耐性がある。それを踏まえて飛び込んだはずなのだが……かなりキツい。

しかし、今はそんなことを気には留めていられない。
ユヅキは自分が手を握っている人物を一瞥すると、静かにミライに伝えた。


「…それよりもミライさん、これ」

「な…!?」

「やっと、会えたのに……こんなのひどいよ…」


ユヅキが握っていたのは、満身創痍で死体の様にピクリとも動かない、晴登の右手だった。
しかも吹雪に流されていたせいか、服や肌が一部凍り付いている。
その悲惨な姿を見て、さすがにミライも絶句していた。


「どうしよう……」


「…ユヅキ、代わって。僕が治す」


「治すって…?」

「僕が使う魔法は治癒の効果も有るんだ。それで何とか傷を塞いでみる」


その言葉に、ユヅキは希望を取り戻した。


「ぜひ、お願いします!」

「言われなくとも」ニッ


ミライは自信満々に言い、己の力を最大限費やして晴登の治療に掛かった。










* * * * *

「・・・という訳だ。君の傷を治したのは僕だが、そもそも君を助けたのはユヅキなんだ」

「そうだったのか…。ユヅキ、ありがとう」

「気にしないでよ。無事で本当に良かった」

「…う、うん。ゴメン、心配かけて」


晴登が礼を言うと、ユヅキは笑顔で応える。
そのあまりの眩しさに、晴登はたまらず目を逸らした。


「ところでハルト、さっきの話の続きだが、君が戦った人物のことについて聞かせてほしい。居たんだろ? 君に敵対したのが」

「……はい」


晴登は落ち着いて返事をする。
不思議と、もう心は騒がなくなっていた。思い出しても平気そうだ。


「そうか。僕の見解では、その人物がこの王都の一件の黒幕だと思うんだが……そこのところは分かるかい?」

「ある程度は。俺が会ったのは銀髪の少年でした。ただの避難民と思って接していたんですけど、どうもそうとは思えない発言ばっかで…」

「例えば?」

「『大陸の王になる』とか、『ウォルエナの主』とか、『ユヅキを捜す』とか・・・」

「え、ボクを捜してるの!?」


自分の名前が突然出てきたことに、驚きを隠せないユヅキ。それはミライも同じであり、冷静な表情が崩れていた。


「その少年とユヅキとの関係は…?」

「…ユヅキの、弟だって言ってました」

「「え!?」」


二人の驚きが重なる。そして二人は顔を見合わせ、何やら目でやり取りをしていた。


「……もう少し、詳しく聞かせてくれるかい?」

「詳しくといっても、俺が聞けたのはこのくらいです…」

「そうか…」


ミライは腕を組み、思考に身を投じる。
その彼の表情は困惑の色が多く、口を開くまでに少々時間を要した。


「…ユヅキ」

「はい…」

「君に弟はいるのか…?」


晴登はミライの質問に驚きを示す。
それもそのはず、そんな線は疑ってもいなかったからだ。
しかしミライの真剣な表情を見て、横槍を入れる気にはならなかった。



「……いません」



そしてその答えを聞いた時、晴登の思考は混濁していった。


「嘘…だろ!?」

「嘘じゃないよ、ハルト。ボクの家族は母さんと父さんだけ。弟なんて見たこともないよ」

「どういうことだ…? ハルト、ソイツは間違いなく『ユヅキの弟』と言ったのか?」

「はい。……あ、でも、少し引っ掛かる事が」

「ん?」


晴登は記憶を掘り起こし、疑問になっていたことを思い出す。


「アイツ……自分のことを『鬼族』って言ってました。もしユヅキがアイツの姉なら、ユヅキも鬼ってことですよね? でもユヅキは鬼なんかじゃないから・・・」


「止めて、ハルト」


「……え?」


ミライの突然の制止に、晴登は戸惑う。
しかしそれ以上に、ミライは更に困惑しているようで、頭を抱えていた。


「これは、本当にどうなってるんだ…?」

「え、何がですか?」

「いや、何というかだな…」


一人だけ話についていけない、一種の孤独感。
それを感じながらも、晴登はユヅキとミライに問う。
しかし、二人の表情は決して明るいものではなく、二人とも理解が追いついていないのだと分かった。

しかし、その静寂を貫く言葉が一つ。


「・・・ハルト、驚かないで聞いてほしいんだけど…」


晴登は視線をユヅキに向け、次の言葉を待つ。
彼女は微かに逡巡を見せたが、決心したように言った。


「ハルトが言ったことは事実だよ。ボクは鬼の血を引いている」

「……は?」

「だから多分ハルトが見た人物は、ボクと直接関係があるかは別として、ボクの故郷の人だと思う」


衝撃の告白に、目を見開く晴登。驚かずにこれを聞くなんて、正直無理がある。もう何が何だか、正誤が渾然していて理解が不可能だ。

ユヅキが鬼? そんな素振りは一度も見せていない。ただの一人の少女なはずだ。
それに鬼は、アイツの言う通りなら最強の種族なのだ。でもこの三日間で何度かピンチがあったが、ユヅキが鬼の様に強かったから切り抜けられた場面は、正直一度もなかったと思う。


「ユヅキが鬼…? 何の冗談だ?」

「ううん、ハルト。冗談じゃない。ただボクが、鬼であることを隠しているだけ。別にハルトを嫌いとか、そんな理由じゃないんだよ。鬼族は珍しいから、ボクの身を守るためなんだ」


詳しく説明されたところで、晴登の気は晴れない。
ユヅキもこうなることは分かっていたのか、特に二の句は継がなかった。

でもその真剣な眼差しに、晴登は信じざるを得なかった。


「ハルト、ユヅキが鬼という事実はひとまず、呑み込んでくれさえすれば良い。それより、僕に一つ考えが有るんだが・・・できれば、君たちの協力を煽りたい」

「何ですか?」


晴登はミライの言う通り、ユヅキのことはとりあえず、という気持ちで理解した。
それよりも、ミライの提案に奇妙な雰囲気を感じる。

晴登が聞き返すと、彼は突飛なことを語った。


「さっきからの話で分かると思うが、僕たちには情報が足りない。黒幕に目処はついたが、ソイツがユヅキとどういう関係なのかも不明瞭だ。だから僕は情報を得る為に、あることをしたい」

「あること…?」

「そう。それは・・・」










*

「全く、余計な時間を過ごしてしまった」


ウォルエナを意に介さず、大通りを歩く一人の少年。
彼は銀髪を掻きながら、苛立ちを(あらわ)にしている。


「好き放題言って・・・人の命なんて、ボクと比べれば小さいものだよ。それなのに小動物の分際で、ボクに楯突くなんて……」


彼が言っているのは、数十分前に出会った、自分よりも少し年上の少年のことである。
大怪我を負っても、立ち向かってくるその姿は“果敢”そのものであったが、結局はどこかに飛ばしてやった。
まぁそこそこに威力を込めたから、死んでいるかもしれない。


「いいよいいよ、あんな奴は死んで。王に逆らうとどうなるか、思い知らせただけだし」


人の死が関わるのに、彼はあくまで冷静だった。
全ては自分が中心。そう考える少年にとっては、人間の死はちっぽけなものである。


「……ん?」スン


突然、嗅覚が何かを捉える。
というのも、鬼族は嗅覚が人よりも断然に優れており、敵の察知も早いというもの。今回もそれであった。


「敵意を感じる…。誰だ…?」


歩きを止め、辺りを見回してみる。
しかし、消失点が見えるほどの大通りがあるだけで、大した変化はない。




「…所詮、隠れているだけか」


少年はそう結論づけると、再び歩み始めた。
するとその瞬間、背後に影が現れる。


「…っ!」

妖精散弾(フェアリーレイン)!!」ズバババ


目の前が眩い光に包まれる。
少年はそれから逃れようと目を閉じようとしたが、危険を感じて本能的に先に吹雪を放った。
白い光が眩い光を侵食し、やがて相手に到達する。しかし相手は臆することなく、それを回避して事なきを得た。

その時ようやく、少年は相手の顔を見る。



「…誰だ、キミは?」


「僕はミライ。君に訊きたいことがあるんだけど、時間を頂けるかな?」


青年はニッと笑いながら、そう言った。
 
 

 
後書き
下手くそな文章だから、お詫びにほんのちょっぴり長く書いてみました(800文字くらい)。・・・え? 下手なら長く書いたら逆効果? そ、そんなことある訳ないじゃないですか…!(;д; )
いやまぁ実際、かなり書きにくかったですね…。

さて、そんなことはさておき。
二月に入って、受験まであと僅かとなりました。なのでここから1ヶ月くらい、更新が今回ぐらいのスピードになるかと思います。
忘れた頃に更新、みたいなスタンスになりますが、どうかよろしくお願いします読んでください。

記念すべき“本編50話”が目前に迫っています。
きっと何も無いのが目に見えますが、いつもより少しだけ気合いを入れて書くと思います。

それでは、また次回で会いましょう! 

 

第49話  戦士

不穏な風が流れる大通り。その中で、二人の人物が対峙していた。
一方は銀髪を掻きながら不満を露骨に顔に出し、もう一方は整った顔を崩すことなく笑みを浮かべる。


「生憎ボクに時間はないし、キミとつるむ気もない。いますぐここから消えてくれれば、ボクは何もしないよ」

「街を壊滅寸前まで追い詰めといて、その言い分は苦しいんじゃないかな?」

「何? キミも一緒に滅びたいの? ボクは別に構わないけどね。そもそも先に仕掛けたのはそっちだし、許そうとしてくれている寛容なボクに甘えるべきだと思うんだけど?」


鋭い言葉がミライに突き刺さるが、ミライは穏やかな表情を崩さない。
少年はそれが不愉快なのだが、今はその気持ちを抑えた。


「わざわざご親切にすまないね。見たところ僕より年下みたいだが、中々しっかりしてるじゃないか」

「子供扱いは嫌いだよ。人間風情が、勝手にボクを見下すんじゃない」


埒が明かない。
こんなので時間をとられるくらいなら、いっそ殺した方がマシである。

少年は静かに力を溜め、さっきのような吹雪をミライに放とうとした。



「・・・おっと、攻撃は待ってくれないか?」

「!?」


しかしミライに感付かれ、溜め動作が一旦止まる。
それにしても、何故魔力を溜めたのが分かったのだろうか?


「さて、このままだと君は教えてくれそうにない。だったら僕から一つ条件を出そう」

「……何だ?」

「君が僕に情報をくれるのなら、ユヅキの居場所を教えよう」

「なっ…!? 何でそれを…!?」


自分の目的の一つを暴かれ、若干焦る少年。
ミライと面識はないはずなのに……まさか、コイツは心が読めるのか?


「…ま、待て。キミが嘘を言っている可能性がある。その条件には応じられない」

「おや、そうかい? 君にとってかなり良い条件だと思うんだけど…」

「ウォルエナを街中に放っている。じきに見つかるさ。キミの助けは要らない」

「本当にそうかい?」

「……っ!」


舐め回すように核心に近づこうとするミライ。
どうしてここまで自分の情報に拘るのだろうか? 訳がわからない。

少年は舌打ちを堪え、落ち着けと自分に言い聞かせながら平静を保とうとした。


「……とりあえず、キミの要望には応じられない。早くここから去ってくれ」

「そうか、君がそう言うんなら・・・」


ミライが寂しげに言うのを見て、少年はようやく解放されると思った。だがしかし・・・



「力ずくで聞き出すしかないね」

「!!」

妖精散弾(フェアリーレイン)!!」ズバババ


再び閃光が少年を襲う。
けれども、人並み外れた反射神経というべきか、少年は刹那のスピードで氷の壁を造形して身を守った。


「この近距離でも当たらないなんて、やっぱり一筋縄じゃいかないか」

「…それよりもさ、ボクが待っていてあげてるのにキミが先に攻撃するって、理不尽じゃない?」

「はは、ゴメンゴメン。待っててくれたんだね、ありがとう」

「礼なんか要らないし。というか、今のは宣戦布告と捉えていいよね? ボクが待つ筋合いはもう無いだろ?」

「あーあ、交渉失敗か」

「キミが短気なせいでね!」ヒュウ


少年の回りに冷気が漂い始める。臨戦態勢だ。
だがそれを見て、動揺の色を一切見せないミライ。それどころか彼はやれやれと首を振り、指を口にくわえ、


「ピィーー!!」

「!?」


高らかに口笛を吹いた。
その異様な行動に度肝を抜かれた少年は、一瞬怯む。

・・・そう、怯んだ。


「頼んだよ、二人とも!」ズバババ

「「ハイ!!」」ブワァァ


「な!?」


ミライの掛け声と共に放たれた三方向からの攻撃を、少年は察した。
一つは正面のミライからだが、残り二つは・・・風属性と氷属性か。


「ぐっ!!」


怯んだ上に、三方向から攻撃が来たから、少年は焦って防御を忘れ、全ての攻撃を喰らってしまう。
光と風と氷が混ざり合い、軽く爆発を起こした。


「ーーーっ! …大丈夫か、二人とも?!」

「大丈夫です、ミライさん!」

「こっちも平気です!」


未だに周囲が煙に包まれる中、三人の戦士が合流した。










* * *

『僕が囮になって、できるだけ情報を聞き出す。そのタイミングで事態が解決できれば最も良いが、多分それは厳しい。だから、訊いた上で僕ら三人で共闘するのが良いと思うんだ』

『それで、勝って万々歳と?』

『うん。ただハルトが巻き込まれた吹雪。アレを視る限り、僕だけの魔力じゃ到底及ばない。僕の魔法は“妖精魔法”といって、かなり万能な使い方ができるんだけど、結局は魔力の量が全てさ』

『そんな相手に俺ら三人で勝てるんですか?』

『相手が“鬼族”である以上、本気を出されたらどうなるかわからない。君たちが戦い慣れしていないというのもあるから、敗ける確率の方が高いだろう』

『だったら応援を依頼した方が・・・』

『時間がないんだ。だから、覚悟を決めてほしい。僕と行くか、行かないか。それがこの街の運命の分かれ道にもなる』

『『・・・行きます』』

『…ありがとう。恩に着るよ』










*

「やったか?!」

「いや、まだ魔力が視える。そう易々とは勝たせてくれないな」


晴登のぬか喜びを、ミライがピシャリと制する。
彼は煙の奥をじっと見据え、敵の出方を窺っていた。

するとあるところを中心にして、煙が弾けるようにそれは霧散する。


「何人で来ようが、ボクには勝てないよ。大人しく降参して、街が征服されるのをウォルエナの腹の中で見ていれば・・・ん?」


余裕の態度で語ろうとしたのだろうが、彼にとって意外な人物が目の前にはいたのだ。


「キミはもしかして・・・ユヅキか?」

「う、うん…」


戸惑いながらも、ユヅキは正直に返事をした。もっとも、髪色のせいで誤魔化すことなどできないのだが。

その答えを聞き、少年の目の色が変わる。


「ようやく見つけたよ。さあ、一緒に帰ろう?」


先程とは打って変わって、優しい声で話す少年。『弟』というよりは、『兄』の方にイメージが近い。
帰ろう、というのは彼の故郷のことなのだろう。ユヅキと同郷というのは間違いなさそうだ。

…何はともあれ、ユヅキが戦場に出る以上、この事態は想定済みである。
ミライからは『断ることは前提にしなくていい。正直僕たちにはわからない話だから、情報を得た上で君の判断に任せるよ』と言われている。
王都をこんなにして良い奴とは思えないが、かといって事情も知らないまま彼を否定し続けるのはダメだということだ。
……ファーストコンタクトの際の、コイツへの自分の対応はノーカンだ。あの時はユヅキを捜すのに必死だったもんで。


「…その前に、キミの名前を教えてくれない? ボクはキミのことを覚えてないみたい」

「いや、気にすることはない。ボクだってキミに会ったのは、これが初めてだ。ちなみにボクの名前は“ヒョウ”だよ」

「おい、ちょっと待て!?」


口を挟むつもりはなかったが、つい横槍を入れてしまう。だが、それも仕方ないだろう。
間違いなく、コイツは今『ユヅキと初対面』と言った。むしろ驚かなくてどうする。


「……何だ、さっきの奴か。よくボクの前にノコノコ現れたね」

「それは後だ。お前、ユヅキと初めて会ったってどういうことだ? 姉弟なんだろ?」


露骨に態度を変えて接してくる点は置いといて、晴登は疑問点の追究に掛かる。


「姉弟…そうだね。確かにボク達はちゃんとした血縁関係にある。ただ、会ったことがなかっただけで。生き別れ、と考えるとわかるんじゃないかな?」

「生き別れ? そんなことあるのか?」

「ボクが物心付く前に、ユヅキは故郷を出ていったからね。姉という存在を、ボクは両親から聞いたことしかなかったよ」

「じゃあ何で、今頃になってボクを捜しに来た訳?」


ユヅキがその質問をした途端、ヒョウの表情が曇る。
何か聞いてはならないことを訊いた、そんな緊張感が漂った。



「…父さんと母さんが死んだ。もちろん、キミとボクの」

「え…?」

「病死だよ。いくら鬼でも病気には敵わない」

「嘘…え?」


突然の言葉にユヅキは絶句。自然と晴登も言葉を失った。

確か時計屋でユヅキの両親について訊いたとき、彼女は「健在だ」と答えた。
つまり、ユヅキは両親の死を知らないことになる。


「それで国の統治権を、王である父さんの息子のボクが譲り受けたんだ。だから国はボクのものだし、ボク自身は『大陸の王』を目指そうと思ったんだよ。けどそれには、大陸全てを統治する必要がある。それでボクは、昔居たという姉を捜して、戦力にしようと考えたのさ。同じ鬼族だし、それなりに戦えるだろう、ってね」


しかしお通夜ムードになることはなく、ヒョウは嬉しそうにそう語っていた。まるで、ようやく自分の時代がきたと、はしゃいでるように。


「父さんと母さんが…嘘…」

「そう落ち込まないでほしいね。大体、ユヅキが故郷を放れたのって、親子喧嘩が原因なんだろ? だったら、死んで良かったと喜ぶかとも思ったけど…」

「そんな訳ない、ボクの親だもん。それより、何でキミはそんなに平然としていられるの?」

「最初は驚いたよ。でも、ボクの国ができたと思うと嬉しくてね」


哀しみに震えるユヅキとは対照的に、喜びを露にするヒョウ。どう見ても、ヒョウの反応の方が異常である。

それにしても、ユヅキは家出していたという事実が気にかかった。訳ありなのは以前から聞いていたが、まさか家出とは。
つまり、ヒョウと顔を合わす前にユヅキは家出したことになる。となると、年齢的にまだ小学生に入る前だろう。それで、王都に流れで辿り着いたんだから、ある意味すごい。

…そんな分析してる暇はないな。


「…君のことはよくわかったよ。そして尚更、君の邪魔をしなければいけなくなったね」

「どうしてさ?」

「ここは僕の住む街だ。どこの王様だろうと、好き勝手にはさせない」

「…はぁ、これだから人間は。弱肉強食って知らないの? 負けるとわかっている相手に挑むとか、頭おかしいんじゃない?」


口戦を繰り広げる二人。一触即発な雰囲気だ。
ヒョウに至っては苛立ちが目に見えてわかる。何も言わない方が利口だろう。


ーーーしかしその時、火に油が降り注ぐ。


「ボクはキミとは一緒に行けない」

「…は?」

「キミがやっていることに賛成できない。ボクの力は貸さないよ」


強烈なユヅキの一言だった。
ヒョウは打ちのめされたような顔になり、絶句する。自分の言い分が通ると、固く信じていたからだろう。

だが直後、大きな舌打ちが響く。




「どいつもこいつもボクの邪魔をしやがって・・・一体何が気に入らないっていうんだぁ!」ビュオオオオ




ヒョウを中心に巻き起こった吹雪。それは晴登たちを含め、周囲全てを蝕んでいく。
家々は凍りつき、地面も氷柱に覆われた。

間違いなく、あの時のと同じやつだ。

何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。
その地獄がまたやってくるのだろうか。
死んだのかも不鮮明で、どこか別の次元に弾き出されたような、あの孤独な地獄が。

吹き飛ばされないよう必死に耐えながら、晴登は沸き上がる恐怖も堪えていた。荒い呼吸を繰り返しつつも、何とか身体を保つ。

…いや、ダメだ。怖い。五感がもう鈍ってきた。嫌だ、死にたくない…! 帰りたい…! 誰か助けて…!



「ハルト!」

「!!」


轟音の中、その声はハッキリと耳に届いた。
ガッシリと手首を掴まれ、無理矢理に引っ張られる。その手は迷うことなく晴登を導いた。





「ぶはぁっ!」


水面から出る様に吹雪から脱出する。
右手にある温かさを感じながら、晴登は正面を向いた。


「…ありがとう、ユヅキ。また助けられたよ」

「気にしないで。もう晴登にはあんな目に遭ってもらいたくない」


そう言って、ユヅキは微笑んだ。

…もう感謝しても、し切れないな。それほど、自分はユヅキに助けられた。
最初は居場所を与えてもらい、そして友達になった。色々あったけど、どんどん仲良くなって、ラグナやアランヒルデ、ミライと知り合えた。
たかが三日間、されど三日間だ。普通じゃ芽生えないような深い絆があるのを、晴登は感じていた。

…ユヅキの笑顔を、守りたい。



「二人とも、いけるか?!」

「「大丈夫です!」」

「この魔力…正体を見せたぞ」


ミライは苦笑しながら、呟いた。
正体……それが示すものは、アレしかないだろう。


「あァァァァァァァ!!!!」


人間とは思えない雄叫びが辺りに響く。その勢いに、ビリビリと空気が震えた。


ーーーそして、奴が姿を現す。



「もう許さない。皆殺しだ」



ヒョウは目に見えてわかるほど、激昂していた。鬼の象徴である、煌々とする一本の角を頭に生やして。
少年の姿のままではあるけれど、最強の魔獣として彼は戦場に立った。


「馬鹿げた魔力だな。これが鬼族か…」


感嘆しながら、若干口元が引きつっているミライ。さすがの彼でも、驚異を前に驚きを隠しきれていない。
晴登に至っては、ヒョウからの鬼気に当てられて、鳥肌が止まらない。
ちらとユヅキの様子を窺うと、彼女も怯えているように見えた。


「…やってやるよ」


晴登は拳を強く握りしめる。
ミライの問いに「やる」と答えたんだ。今更逃げたりはしない。妙なプライドだけど、やるしかないんだ。

晴登の右手に、風が衣の様に集う。


「かかってこい、人間」


その言葉を幕開けとし、街を賭けた決戦が始まった。
 
 

 
後書き
ようやく書けましたバレンタインデーこと、14日に。
チョコなんぞ貰える訳もなく……べ、別に、チョコとかそんな好きじゃないし!

さて(特に言うことがない)。
………異世界転移編が落ち着けば、日常編でゆったりしたいものです。暁君とか部長らへんが、今空気ですもんね。ごめんなさい。
だから、何か楽しくできたらと思います。

次回は記念すべき50話。
最終戦に合わせたというのはありますが、特別なことは何もございません。いつも通り読んでいただければ嬉しいです。
それじゃあ次回で会いましょう、では! 

 

第50話  VS.鬼

 
前書き
今頃だけど、気がついたら連載一年経過してました。 

 
本物の鬼を見たのは、これが初めてである。
…いや、見たことあったら逆に怖いのだけれども。
とにもかくにも、そんな非現実な事態に晴登達は巻き込まれていた。


「別に震えてない…これは武者震いだ…」


自分に言い聞かせるも、無理がありそうだと考え直す。ヒョウから溢れ出ている鬼気が、この震えの元凶だ。
威圧、なんて生易しいものじゃない。圧倒的な力の差を遠目でも感じられる。


「あァァァァァ!!!」ブォォォ

「やばっ!?」


突如、ヒョウを中心に吹雪の大爆発。一瞬で視界が白くなり、極寒に襲われる。それだけでなく、一面を雪景色に変えてしまった。
これでは、寒さで上手く動けない。


「初めに自分の領土を確保するとは、まさに獣だな! 妖精(フェアリー)(シャイン)!!」ピカーッ


しかしミライの妖精魔法によって、気温諸々一気に中和される。辺りの景色は、何事もなかったかのように元に戻った。


「す、すげぇ…」

「ハルト、驚いている暇はないぞ!」

「…わかってます! 鎌鼬!!」ビシュ


「ふん!」ガキン


「弾かれた!?」


かなりの力を込めて放ったはずだが、ヒョウが右手を振るっただけで、鎌鼬は原型を失う。
晴登はそれに動揺するが、相手が待ってくれる訳でもない。


直後、ヒョウは一歩で晴登に接近した。まさに閃光の如きスピードである。
さらに、文字通り“鬼の形相”のヒョウを見て、晴登は臆して隙を見せてしまった。
そして彼の右手は、晴登の顔を的確に捉えて・・・



「ハルト!」シュバッ



その時、ユヅキが助け船を出した。
拳ほどはあろう大きな氷塊をヒョウに放ったのだ。

しかし、予想の範疇(はんちゅう)だったと言わんばかりに、彼はヒラリと身をかわしてそれを避け、またも一瞬で最初の位置に戻る。


「なんて機動力だ…」

「どうします? ミライさん」


敵の動きに感嘆するミライを見ながら、晴登は彼に作戦を仰ぐ。さすがにこの相手を前に、無策は危険だ。
“剛”を制すには、“柔”しかない。


「数秒でいい、奴を足止めできないだろうか?」

「どうしてですか?」

「僕の魔力をありったけに込めた一撃をぶつけたい。その為に奴の隙が欲しいんだ」

「でも、それで終わるとは・・・」

「わかっている。ありったけと言っても、全てを注ぐ訳じゃない。君たちを残して、魔力切れで倒れるなんて真似はできないからね。ただ、確実なダメージを一発は与えてはおきたい」


ミライは既に覚悟を決めていた。
今のところ、その案が最善策だろう。ならば、やる価値はある。


「ただ、足止めと言ったって、俺は何もできないですよ?」

「ボクなら相手を氷漬けにはできるけど、今回は相手が悪いし…」

「だったら、奴の注意が僕から離れるようにしてくれるか? そうしたら、隙を見て撃つ」


かなりリスクは大きいが、晴登とユヅキは頷いた。
二人でやれば、何とかなるだろう。


「頼んだぞ、二人とも!」


「いくぞぉ!!」ビュオオォ


ミライの声を聞きながら、晴登は最前線に飛び出た。強風を身体に纏いながら。
この役目をユヅキには負わせられない。負ったとしても、最前線では自分が戦ってやる。


「はぁぁ!!」


纏った強風を全て、鎌鼬の形成に()ぎ込む。
すると三日月型の刃は巨大化し、その大きさは晴登の身長にまで及んだ。


「喰らえっ!!」ザシュゥ

「……」


晴登は渾身の力で鎌鼬を放つ。もはや、足止めという言葉は頭になかった。

ヒョウは向かってくるそれを、ただただ見つめている。恐れも、余裕も、何一つ感じられない。
唯一感じるのは・・・


「…フッ」バキン


天と地ほどの、力の差だった。

ヒョウはまたも、右手を振るって鎌鼬を破壊する。
しかも今回に至っては、力を込めていないようにも見えた。


「嘘…だろ…」


全力を防がれて、情けない声を出す晴登。気づけば、膝から崩れ落ちていた。
自分の力が通用しないとわかったときほど、絶望するときはないだろう。

…だが、まだ彼女が諦めていなかった。


「ハァッ!」ビキビキ


地面を凍らせ、大きな霜柱を連ねていくユヅキ。
その光景は、まさにマンガでしか見たことないものであり、いつの間にか晴登は見入っていた。


「……その程度か」バキン


しかし、ヒョウにはやはり通じなかった。
淡々と、まるで作業するかの様に、彼は(ことごと)くこちらを制してくる。


「くっ、ミライさ…! …ん?」


晴登は自分の役立たずっぷりに、たまらずミライに作戦の変更を依頼しようとする。
しかし晴登が振り向いて見ると、彼は姿を消していた。


「いない…」

「え?! 何処行ったの?!」


唐突な事態に、晴登とユヅキは困惑する。
焦りが生まれ、敵をそっちのけにミライを捜し始めた。

一方ヒョウも、これには警戒をしているようだった。



「…妖精の鉄槌(メテオフェアリー)!!」ズドン

「っ!!」


突如として聞こえた声は真上から。続いて、巨大な衝撃がヒョウを射抜いた。コンクリートの地面が(めく)り上がり、土煙が勢いよく舞う。光が辺りを照らし、そして炎の様に焦がしていった。

これにはヒョウも即座に避けられず、両腕でガードしようとしていたのが最後に見えただけだった。

その爆風を身体に感じながら、二人は唖然として様子を眺める。高すぎる魔力だった。



「お勤めご苦労、二人とも」


そんな中、一つだけ落ち着いた声があった。今しがた大技を放ったミライだ。
彼は土煙の中から颯爽と歩いてくる。


「いや、え…?」


驚きで言葉がつまってしまう。
あの技の威力にかもしれないし、ミライの隠れた強さにかもしれない。
間違いなく、さっきのは晴登が喰らえば即死レベルとは思うのだ。多分跡形もなく。
それだからこそ、反応に困ってしまうということだろう。


「うーん…手応えはあったけど、やっぱり足りないかな。まだ余裕そうなのが視える」

「嘘!?」

「ただ、ダメージはきちんと与えているはずだ。そこは大丈夫」


彼は乾いた笑いを見せる。

…いや、待て。あれ喰らってピンピンしてるって、化け物すぎやしないか? …違う、鬼って化け物みたいなものだろうが。


「…あのさァ、こんなのじゃボクはたおせないよ?」

「!?」


煙の中から、一閃の光が見える。その正体は言わずもがな、ヒョウの角だ。
彼の角は一層輝きを増しており、不穏な気配を(かも)し出していた。


「…ここまで元気だと、僕の努力は無駄に見えるね」

「それってヤバいんじゃ…」

「諦めちゃダメだよ、ハルト。奴に勝たなきゃ、僕らの未来だってないんだ」

「そうだよハルト、まだやれるよ」

「ミライさん…ユヅキ…」


二人の言葉に励まされ、晴登は再び覚悟を決める。こちとら、死ぬ気なんて更々ないんだ。
必ずハッピーエンドを掴み取ってやる。


「……」スッ

「あの構え…!」


晴登はヒョウの動きを見て、そう洩らした。
右手を前に出し、「待った」とでも言いたそうな構え方。それには見覚えがあり、そしてこの後に氷塊が飛んでくることも予測できた。


「二人とも、避けて!」


晴登が叫び、三人はそれぞれに回避行動を行う。打ち合わせが無かったせいか、各々が違う方向に避けたのだが。
しかしヒョウは、ある人物に的を絞り氷塊を放った。


「……俺か!!」


自分が狙われたと判明した途端、晴登は本格的に逃げの姿勢に入る。ヒョウはそんな晴登に向けて、一発一発を的確に放ってきた。
速度はさっき見たときよりも大幅に速くなっていて、油断してると当たって肉をゴッソリ持っていかれそうなレベルだ。当然、目で追うことは不可能なので、勘で避けている。


「おっと…って、危な!……はっ、とぅ!」


身体に纏っている風のお陰で、回避には支障がない。
ただ、体力と魔力はかなりの勢いで減っていった。


「はぁ…これじゃあ、ジリ貧じゃねぇか…」


一応いつでも懐に飛び込めるよう、ヒョウの回りをぐるぐると回るように逃げているのだが、やはり危険かもしれない。
少しキツいが、屋根の上とか使ってみるか…?



「…ッ!」ダッ


「…ユヅキ!?」


逃げる思考を練ってた間、横目にユヅキがヒョウに突撃するのが見えた。右手には短剣…らしき、氷の尖った物体。
晴登が狙われている隙に、という策なんだろうが軽薄だ。鋭利そうな武器を持っていても、奴は侮れない。


「ユヅキ、離れろ!」


晴登は走りながら、精一杯叫んだ。が、ユヅキは聞かず、ヒョウの背後から特攻を継続する。
その距離はもう1mも無かった。


「もらったぁ!」


「…気づかないとでも?」ドガッ

「うっ!」


しかし、ユヅキの攻撃は失敗に終わり、それどころか腹に蹴りという反撃を喰らってしまう。
ユヅキは吹き飛び、数回転地面を転がってようやく止まる。


「ユヅキ! 大丈夫か?!」

「うぅ…」


晴登はすぐさま駆け寄り、ユヅキの容態を診る。
お腹を押さえて苦しそうにしてはいるが、命に別状は無さそうだ。


「良かった、ユヅキ・・・」


「ーーハルト、安心してる暇はないぞ!」ジャキン

「え、ミライさん!?」


突然のミライの声に慌てて顔を上げると、そこには氷塊をシールドの様な光の壁を張って防ぐ、ミライの姿があった。
しまった、まだ戦闘中なのだ。ユヅキを心配する余り、周りを見ていなかった。


「す、すいません…」

「ユヅキは動けそうか?」

「まだ、大丈夫ですよ…」

「!?」


途切れ途切れではあるが、ユヅキは答えた。
だが、晴登は納得できない。


「おい、ユヅキ! まだ喋らない方が良い」

「ゴメンね、ハルト。迷惑…かけちゃって」

「そんなことは良いんだ。俺だって散々かけただろ」

「ボクのことは一旦放っておいて構わない。それよりも、ヒョウを何とかして」


ユヅキは眼差しは本気だった。その意を汲まずして、どうしろというのだ。


「…わかった。ホントなら逃げろって言いたいけど、場合が場合だもんな。アイツは俺が何とかする。ユヅキはとりあえず休んでてくれ」

「ありがとう…ハルト」


ミライが攻撃を防いでくれている間に、晴登はユヅキを路地裏に運ぶ。ここなら攻撃の被害を受けることもない。





「ハルト、一度防御を止める。回避の準備はできてるか?」

「バッチリです!」


光が霧散し、シールドが形を失う。
その瞬間、防がれていた氷塊の嵐が二人を襲った。


「吹き飛べっ!」ブワァ


右腕を扇ぐように大きく振るい、風を起こして無理やりに氷塊の軌道を逸らす。
この防ぎ方なら、体力はいくらか温存できるだろう。


妖精散弾(フェアリーレイン)!!」ズバババ


隙を作ろうと、ミライが奮闘するのは変わらない。
しかしヒョウは見向きもせずに、その光たちを霜へと変えていく。
あくまで、狙いは晴登のようだ。


「何で俺ばっかり狙うんだよ?!」

「さっき殺り損ねたから」

「おっかねぇ!」


淡々としたヒョウの物言いに身震い。そして明白な殺人予告に、一層晴登は身を引き締めた。
やはり真っ向から防ぐだけでは、一瞬の油断でやられそうだ。

晴登は再び走り始め、移動の回避を行う。
逃げの姿勢であるのが辛いところだが、ユヅキの戦線復帰のためにも、時間を稼がねば。


「せめて弱点とかないのかよ、あの鬼…」


弱点といえば、一発逆転の可能性を持つ、素晴らしい設定の一つだ。マンガであれ、そんなシーンを何度も見たことがある。
この異世界ならきっと、そんな二次元設定が存在するはずだが…。


「どうやって探せって言うんだよ…。第一、逃げるのに必死だっての…!」


思考を繰り返す。だが焦ってしまい、思うように考えがまとまらない。

ユヅキにカッコつけた矢先でこれとか・・・



その時、あるものに目が惹き付けられた。



「角……?」



鬼の角。それは彼らの象徴であり、強さの証。
しかし観点はそこではなく、それが彼らの弱点ではないかと晴登が疑問に思ったのだ。
根拠は、またもやマンガの知識である。そんなのが有ったような無かったような・・・まぁこの際どうでもいい。


「やってみる価値はあるんだよな…」


物は試し。上手くいけば儲けもの。
そんな無責任な策が浮かんだ。
失敗すれば、死に繋がる危険性がある。


「馬鹿なこと考えてんぞ…俺。アレに突っ込むとか無謀すぎるだろ」


口では否定の言葉を吐いても、身体は納得しなかった。
希望的観測だろうと、危険だろうと…それで放棄したら、勝利の望みは薄くなるだけ。

だったら、やることは一つだ。


「アイツの角に、一発かましてやらねぇとな」


ミライの最初の一撃も両腕でガードされていたから、角が弱点かは確認できなかった。口惜しいが、隙を狙ってもう一度上から攻撃するしかあるまい。

となると、ミライにも作戦の協力を仰がないといけないのだが、生憎今の晴登にその余裕はない上、そもミライの位置が遠い。
強いてできることが、ユヅキと同様で相手に特攻することだ。


「・・・ってことは、結局厳しいじゃんかよ。ここにきて最悪の不備じゃねぇか…?」


さっきの言葉を思い返して嘆息。
相手は最強クラスの魔獣の鬼なのだ。そう易々と勝てる訳がない。


「人間じゃ勝てない、か……あながち、間違いじゃないかもな」


ポツリと呟いた言葉には、一切の希望が含まれていないだろう。しかし、希望を捨てた訳ではない。
どんな努力も最後は実を結ぶと、どこぞの偉人たちはよく言うのだ。


「…だから簡単には諦めないぜ。俺は決めたんだ」


場違いな笑みを晴登は浮かべた。ヒョウには気づかれていない。


ーー自分の求める結果を掴みとる。


俺が求めるのは、皆が笑って暮らせること。

だから、まずは俺が笑って皆を誘導するのだ。


こんなファンタジーの主人公みたいなこと、俺がやっていいのかよ。・・・否、やってやるさ。



「こんな逆境、覆してやるよ!!」ダッ

「!?」


晴登は回避の進路を急変更。ヒョウに向かうように走った。
それまで“線”に動いていたのを“点”にすることで、相手が攻撃に戸惑い、隙を生む作戦だ。“攻撃は最大の防御”の良い例である。

そして見事に成功し、まさか突っ込んでくるとは思わなかったのだろう、ヒョウの慌て顔を拝める。


「喰らえ、烈風拳(れっぷうけん)!!」ブォォォ


正確には、拳に風を乗せただけのパンチだ。威力としては大熊を吹き飛ばすくらい有るのだが、鬼には関係ないだろう。
狙いはもちろん、ヒョウの額の角。


「チッ!」ビュオォォ

「マジか…!?」


久しぶりに余裕のないヒョウの声を聞いた。
そして彼は攻撃を当てさせないどころか、触れさせまいという勢いで吹雪を展開。

決して予想外という訳ではないのだが、対策の用意はしていない。晴登は為す術なく弾き飛ばされた。
…さすがに力任せの魔獣相手には、厳しい策だったのだろうか。


「いや、終わらせねぇ…!」ビシュ


相手から遠ざかっていく中で、晴登は鎌鼬を放った。今回のは、大きさよりも鋭さを重視している。
吹雪ごと断ち斬ってやるのだ。


「アァッ!」バキッ


だが周りの警戒を怠っていないヒョウは、鎌鼬に気付き一瞬で砕く。

そしてそのまま吹き飛び中の晴登の、寸前にまで距離を詰めて、


「お返しだよ」


小さく呟き、冷気を纏わせた右手で晴登の頭を掴む。
ヒンヤリと…なんて優しいものではなく、肌にしみて突き刺さるような痛みを感じた。


「あ、あぁ…!」


脳に直接(えぐ)られるような不快感。それを感じながらも、吹き飛ばされていた晴登はようやく壁へとぶつかり静止する。
だがその痛みを嘆くことはできず、代わりに冷たさに(さいな)まれた。

ヒョウに近づいてからものの数秒、見事に返り討ちだ。
作戦だけは良かったかも知れないが、戦闘において晴登は如何(いかん)せん素人である。強さの最上位に君臨する鬼族相手では、足元にも及ばないのだ。


「…っ!?」


ふと、背中を支えていた壁がなくなる。

・・・いや、違う。今、自分の身体は空中に在る。
どうやら、ヒョウに放り投げられたようだ。


「これで終わりだよ」ヒュォォオ


体勢がままならないが、目だけはヒョウを捉えた。
同時に、彼の手元に生成されている、大きな氷の柱も見えた。直径10cmはあるだろう。
彼の最初の一手、晴登の横腹を穿ったアレである。


…空中にいる以上、避けることは不可能。


将棋でいえば“王手”、チェスなら“チェックメイト”の状態。絶体絶命という言葉が、脳裏をよぎった。


「逝け」ヒュオッ


短い言葉と共に、氷柱は射出された。悔しいが、完璧に晴登の身体貫通コースである。
魔術を使って防ぐ、ということはしなかった。できたとは思うが、多分心のどこかで諦めていたのだろう。

氷柱が目前に迫る。
不思議と恐怖は感じなかった。
余りに刹那の出来事だからなのか、何かを信じていたからのか…。

何にせよ、防ぐ手段は無い。
どう望もうが、未来は変わらないのだ。



「ごめん、ユヅキ……」



不思議とその言葉だけは素直に出てきてくれた。
こんな時まで悠長でいられるなんて、呆れて物も言えない。

あぁ、もう一度瞬きをすれば、その間に死ぬのではないか。いや、視界が霞んで、もう遠近感なんて掴めやしない。


「ハルト!」


ミライの声が聞こえた。
しかし今更、彼が何かできる訳ではないだろう。
自分の死に様を晒すなんてしたくないけど、彼ならそれでも良いかもしれない。

…すいません、ミライさん。
俺もこの街を守りたかったです・・・





「ハルトっ!!」バッ

「…!!」


その時、身体が大きく揺れた。そして、視界から氷柱の存在が消える。


何が…?


その問いの答えは、考えるよりも簡単に解った。



「嘘だろ、ミライさん…!!」



眼前、氷柱に身体を射抜かれ、力なく地面に落ちていくミライの姿があった。
 
 

 
後書き
俺は何度絶望シーンを書けば気が済むんだ?
他に書くことないのかよ?
自分で書いといて、そう愚痴りたい。

次回くらいで決着がつくかもです。早いです。やっぱり戦闘シーンは難しいんだよ、うん。
50話記念でせめて長く書こうともしたけど、結局は急ぎ足になっちゃったし……まぁ、良いや(投げやり)

多分、次回の更新をする日には受験が終わっていることでしょう。そうすれば、パラダイスが待っているのだ…!
え、予習? 知らない子ですねぇ…。

とにもかくにも、また次回で会いましょう。では! 

 

第51話  ユヅキ

 
前書き
今回は名前回ですね。 

 
一人の少女がいた。



彼女は希少の鬼族の血を受け継ぎ、とある北国の王の娘という、大変立派な身分で産まれた。

だが言葉が話せるようになった頃、鬼という存在を、また、己の血は望まないものだと、彼女はハッキリと口にして、自分の一族を拒んだ。

両親との喧嘩の始まりは、それだったかもしれない。



少女は家を飛び出した。

もう、この街で過ごしたくないと。

当てなんてなく、無我夢中で逃げるように走った。



そして、王都に辿り着いた。

人の多さに驚き、商品の種類に驚き、何より一人の男性の優しさに驚いた。

少女が独りで王都をさ迷っていると、彼が声を掛けてきたのだ。

中々の悪人面だったので、初めは警戒していたのだが。

しかし、彼にたくさんの世話をしてもらうようになり、彼が恩人だと感じるようになった。

そのお陰で、幼かった少女は生き残れたのかもしれない。



そして、故郷より王都で暮らした時間の方が長くなった頃、少女は一人の少年に出逢った。

友達が欲しかったということもあり、少女は彼の言うことを素直に受け入れた。

すると、そこから二人が仲良くなるのに、時間はそう掛からなかった。

そして彼の優しさに触れ、少女はいつの間にか、彼と“友達”では物足りないと感じ始めていた。

彼となら、どんな困難にも立ち向かえるし、

彼となら、どんな喜びも共有できる。

彼となら……どんなことでも出来る。



だから、ずっと一緒にいたいと、そう思い始めたのだ。





* * * * * * * * * *

「いたた…無茶し過ぎたな…」


お腹を押さえながら、痛みに堪えるユヅキ。
彼女は今、とある建物の裏に身を置いている。
建物を挟んだ向こう側では、熾烈(しれつ)な争いが起きていることだろう。

ちなみに、こんな目に遭ったのは、自分の浅はかさが原因である。晴登を集中的に狙うヒョウを、“隙”だと判断してしまったのだ。
そして、覚悟を決めて飛び込んだ結果、返り討ち。骨は折れてないと思うけど、内蔵をいくらか揺らされていて苦しい。


「早く戻らなきゃいけないのに…」


晴登には、しっかり休めと言われている。
しかし、自分が休息しているこの間も、晴登とミライの二人は戦い続けているのだ。
一人だけのんびりしているなんて、自分で許せない。

だけど、身体の痛みは思うように退かず、苦しくも待たざるを得ない状況だった。


「ハルト…」


ユヅキは見えない彼を想う。

初めて会ったときは、何とも一瞬だった。
よそ見をしていたら、急に彼とぶつかったのだ。
何とか平静を保ってその場を逃れたが、心底ビックリした。
それにしても、まさか話しかけてくるとは・・・。


「思い返すと、色々あったな…」


走馬灯…ではないが、晴登との思い出が蘇ってくる。
その中でもやっぱり一番嬉しかったのは、最初に握手したときだった。
あの時にようやく、初めての友達ができたのだ。
そして、初めて・・・。


「…だから、ボクだって晴登の力になりたい」


ユヅキは力強く呟くと、治療に専念した。





* * * * * * * * * *

ドシャッ


肉が地面に叩きつけられる、生々しい音を聞いた。
思わず耳を塞ぎたくなるが、それ以上に心配の念が強まっていく。

今しがた地面に落ちたのは、空中に放たれ無防備になった晴登の身代わりとなったミライである。彼はその際氷柱を身体に受け、大きな怪我を負った。
晴登も、空中でミライに無理やりに押されたこともあり、不安定な体勢で地面に落ちかけたが、自分だけは風で何とか助けている。


「ミライさんっ…!」ダッ


ミライは四肢を投げ出し、仰向けで地面に転がっていた。晴登はすぐさま駆け寄り、容態を診る。
だが、彼の怪我は思わず目を逸らしたくなる程のものだった。


「ハル…ト、平気…か?」

「はい。でも何で俺を・・・」

「君が死んだら…ユヅキが、哀しむ…だろ?」

「うっ……」


ミライの言葉が、晴登の胸を()く。そこだけは晴登も最も気にしていたから、言って欲しくなかった。
守る、なんて誓っておきながら、これではユヅキに合わせる顔がない。


「それに…僕は、治癒魔法が使える…から、君と違って、生き残り…易いんだ」


力無い笑みを浮かべたミライに、晴登は笑い返すことができない。逆に、どうしてそこまで平静としていられるのだと、問いかけたいくらいだ。


「だからって俺を・・・」


晴登はもう生を諦めていた。
だから今さら助けられても、どうすればいいのかわからない。

その時、ミライは(おもむろ)に口を開いた。



「諦めるな…ハルト。諦めない限り…未来は、消えない」

「…っ!」


弱々しい口調ではあったが、その言葉はハッキリと聞き取れた。


ーーー諦めない限り、未来は消えない。


晴登は何度もその言葉を反芻し、深く噛み締めた。

自分は何て薄情な真似をしていたのだろうか。無責任で傲慢(ごうまん)、自分勝手なバカ野郎だ。
自分一人が楽になったとして、その後はどうする?
ミライとユヅキの二人で戦わせたとしたら、勝率は三人の時よりもっと低くなる。そんな状況下に、彼らを送ろうとしたのか? 今思うと、とても呆れる。



「…すいません、ミライさん。お陰で目が覚めました。後は俺がやります」

「ぐっ……いや、僕もまだやるさ・・・」

「ミライさんも、ユヅキみたいに治療に専念してください。俺が時間を稼ぎますから。そしたらまた、戻ってきてください」


ミライは何か言いたげだったが、結局は動くことすら叶わなかった。



晴登はミライから離れ、再び戦場に足を踏み入れる。


「…待っててくれたんだな」

「その男の行動が気になっただけさ。自分を犠牲にしてまで他人を庇って、一体何のつもりなのって」


ヒョウは信じられないと言わんばかりの表情だった。
晴登はそれを見て、自分と彼との種族の差を改めて知る。


「…他人を助けたいっていうのが、そんなにおかしいことか?」

「この世は弱肉強食さ。弱い者を助けていたら、いつ足元を掬われるかわからない」

「だから見捨てるのか? “人”ってのは、人と人が支え合って生きていくから、“人”って言うんだぜ」

「何言ってんのさ?」

「所詮、鬼には解らねぇよ」


最後の言葉がヒョウを刺激したのは明白だった。
彼は額に青筋を立て、ギリリと歯を鳴らしてこちらを見据える。


「人間ごときが、ボクを見下すのかい?」

「お前みたいな心がない奴に、俺は負けない」

「……あぁ、そう」


晴登は身構える。
ヒョウが再び、右手をつき出した構えをしたのだ。

彼の掌の先、冷気が凝結して氷が生成されていく。
しかし今回は、先程のような丸い氷塊と打って変わり、先端の尖った打製石器の様な氷を造り出していた。


「喰らえ」ヒュン

「当たるかよ!」ビュオオオ


槍のように射出されたそれを、晴登は風を使って防ごうとした。しかし、


「なっ……が!?」ズザザ


氷の刃は風を容易く切り裂き、そのまま晴登の身体も切り刻んだ。
皮膚や肉が抉られ、所々から鮮血が吹き出ていく。


「そういう、ことかよ…!」ヒュッ


晴登は、ヒョウの攻撃が変化した理由を遅れて理解する。彼はやはり、力任せの知能の無い獣とは違った。

こうなってしまえば、風で防ぐことは不可能。晴登は移動の回避を行い始める。


「さっきよりも緊張感がヤバい…」ダダダダ


『逃げる+風』で避けていたのが、『逃げる』だけになってしまうのは、大きな痛手。
しかし、文句は言ってられない。体力を絞り出して、足を動かさねば。


「さっきの威勢はどうしたの? 逃げてるだけじゃ勝てないけど?」ヒュンヒュン

「わかってるっての…!」


飛来してくる尖った氷塊を横目に、晴登は隙を狙っていた。

その時、晴登はあることを閃く。


「これなら…!」ヒュオ


足に風を纏わせ、一時的に超人の脚力へと早変わり。
もはや、『走る』ではなく『低空飛行』に近い。

機動力が上昇し、いくらか避けやすくなる。魔力を多く使うのが難点だが、ここから一瞬で決めればそれも構わない。



「無駄だァ!!」ビュオオオ

「な!?」


悠長に考えていたのも束の間、晴登が変化したのに合わせて、ヒョウも“あること”をした。



「寒っ…!?」



…それは戦闘の始まりにも見た、周囲を極寒に変える吹雪だった。
吐く息が白くなり、自然と震えが込み上げる。


「こんな中で風でも使った日には、凍え死ぬんじゃないか?」

「それが狙いか…!」


見事に相手の術中に嵌まり、苦い顔をする晴登。
もうこの場には、コレを中和できるミライがいない。
つまり、完全に奴の領土(テリトリー)に入ってしまった訳だ。


「さて、どうしてやろうか…」

「…っ、鎌鼬!」ビシュ

「効かないって」ガキン

「くそっ!」


万事休す。
ヒョウは攻撃を止め、ジリジリとこちらに近づいてくる。その足を止めるにしても、晴登では力不足だった。


「さぁ、おしまいだよ」ヒュオォォ


ヒョウの両手で魔力が高まっていく。もしかしなくても、大技の予感だ。

このまま為す術なく受けるしかないのか。

それとも・・・


「いや、全力で(あらが)う!!」ダッ

「…!?」


晴登は風を使って走り、ヒョウに特攻する。
身体の芯をつき抜けるような寒さを感じたが、しのごの言ってられない。ある意味、これは好機なのだ。


「鎌鼬!」ビシュ

「…ちィ!」バキッ


舌打ちと共に、風の刃が砕かれる。しかし、これでヒョウの技の溜めを解除できた。


ーーーもっとも、狙いはそれではない。


「…とった!!」ズザザ


猛スピードで滑り込むようにして、ヒョウの背後に回る。
彼は慌てて振り向いてくるが、さすがに遅い。


「喰らえ、烈風拳!!」


盛大な掛け声と共に、拳を放つ。
今までで一番良い場面だ。角だって余裕で狙える。


ーーー勝った。晴登はそう確信した。

だが・・・



「素手じゃあ、無理だね」パシッ

「マジ、かよ……このタイミング、で…」


ヒョウが薄ら笑いを浮かべる意味。それを直に感じる晴登は、悔やみの声しか上げられない。



ーーー風が止んだ。



「ハッ」ガシッ

「うっ……」


魔力切れによる倦怠感を味わい、足元がふらつく。
それを防ぐかのように、ヒョウの右手が首に巻き付いた。

苦しい。かなりの力で絞められている。
吐くつもりの息が首で抑えられ、外に出ていくことができない。


「苦、しっ…!」


魔術を使って抵抗できない以上、この苦しみからは解放されない。
薄目で見ると、ヒョウはニタリと不気味な笑みを浮かべていた。

これが鬼の本性なのだろうか。


「今度こそ、終わりだね」

「あ、ぐ……!」


その言葉を皮切りに、徐々に意識が遠のいていく。
何度死にかければ気が済むのかと、自分に問いたい。しかも今回に至っては不運が重なって、助かる見込みが薄いのだ。
さすがに、ヤバい・・・!





「ハルト!」ヒュン


その時、懐かしい声が耳に響いた。
刹那、晴登の身体が解放される。

どうやら、ユヅキの攻撃を避けるため、ヒョウが晴登を手放したらしい。


「いたっ!」ドテッ

「ハルト、大丈夫?!」

「あ、あぁ……って、ゴホッ!」


乱暴に投げられたせいで、尻を強く地面に打つ。同時に、閉じ込められていた空気が一気に飛び出し、咳き込んでしまう。

お陰で、立つ気力すら大分削がれた。


「ユヅキ、どうして…?」

「いきなり周りが寒くなるんだもん。それで怪しいと思って出ていったら、ハルトが捕まってて・・・」

「なるほど…」


寒くなった、というのはヒョウのせいだろう。ある意味、それに助けられたのかもしれない。

それより、ユヅキは大丈夫だろうか。
見た感じ、痛みを我慢している訳ではなさそうだ。
とりあえず、時間稼ぎはできたっぽい。


「けど、俺もう動けねぇよ…」

「え、嘘!?」


ユヅキの驚いた表情に、申し訳なさが募る。だが、言葉通り一切身動きが取れないのだ。
強いて言うなら、口と目だけは動く。


「魔力が切れたのか・・・って、あれ? ミライさんは?」

「…………」チラッ

「うん? どうしたの、ハルト・・・」


直後、ユヅキが絶句する。
晴登も、できるならば教えたくないと思っていた。

視線の先、ミライは依然として仰向けに倒れている。が、光を灯す右手が傷痕をしっかりと押さえていた。治癒の最中なのだろう。
周囲の影響か、少し凍った部分が見られるが、生きてはいるはず。


「あの怪我…大丈夫なの?」

「それはわからない。死んでもおかしくない攻撃だったし…」


本来ならば自分が受けていた攻撃。
それを身代わりとして受けた彼には、謝罪や感謝の念が多くある。

ユヅキは不安な表情を見せていたが、すぐに晴登に向き直り、


「心配かけてゴメンね、ハルト。今度はハルトが休んでていいよ」

「な…!? 一人では無茶だ!」

「ハルトだってそうだったじゃん。休んでた分、ボクも戦うよ」


ユヅキの実力を侮っている訳ではない。いや、そもそも実力をそこまで知らないのだけれども。
とにかく、一人で戦わせるなんてできない。


「くそっ…この脚が動けば…」

「無理しなくていいよ、ハルト。向こうまで運んであげるから、休んでて」


ユヅキの右手が伸びてくる。晴登はそれを掴むべきか迷った。
それを掴めば、ユヅキは一人で死地に向かうことになる。あまりにも危険だ。
かといって晴登がここに残ったところで、邪魔な上に、とばっちりを受けるだろう。

・・・決断せざるを得なかった。

したくないけど、それを選ばなければ死ぬ人数が増えてしまう。


「何か、策はあるのか…?」

「一つだけね。あんまり使いたくないけど」

「…それで、勝てるのか?」

「勝算は……ある」


本気である。
そのユヅキの言葉で、晴登はケジメがついた。

ーーー信じよう。

ユヅキが自分を信じたように、自分もユヅキを信じてあげよう。
それが、“持ちつ持たれつ”というものだ。


「頼んだ、ユヅキ」ガシッ

「ハルトの分も頑張るよ」ガシッ


晴登は、ユヅキに望みを託した。





* * * * * * * * * *

「ようやく、一対一でキミと話せるね。それにしても、待っててくれたの?」

「それはさっき聞いたよ。ボクは、キミが言う『ボクに勝つ秘策』について、詳しく聞きたいね」

「ボクとしては、使いたくない手なんだよ。今のままで(かた)がつくならありがたいけど、キミはそれを許さないだろう?」

「いくら実姉とはいえ、ボクはもう決めたんだ。手加減はしない」


姉弟の対立は深まる。
今のユヅキでは、ヒョウに勝てない。それはさっきの不意討ちを防がれたことからも理解できる。
かといって、策で挑もうとしても力でねじ伏せられるのがオチ。


「仕方ないか…」


ユヅキはそう洩らす。ようやく、決心がついた。

力には力でしか対抗できない。



だから、鬼にはーーー鬼で。


「ハルトのためにも、負けられない!!」ゴォッ


盛大な鬼気が、ユヅキを覆った。
空気がざわめき、気温が一層下がっていく。

その様子には、さすがのヒョウも驚いていた。


「この力はボクの望んだものじゃない。これのせいで、ボクは友達が作れない・・・いや、自分が怖くて作りきれなかったんだ。けど、ハルトをあんな目に遭わせたキミを、ボクは許せない。ハルトのためにも、この力を使うよ」

「……なぜ、そこまであの人間に肩入れするんだ?」


あまりのチグハグさ。それがヒョウには謎でしかなかった。

どうして、一人の人間のために、自分の呪う力を使うのか。

どうして、鬼が人間に固執するのか。


全く、答えがわからない。


ユヅキはその問いを聞くと、一瞬の迷いを見せた。
しかし、その答えはさっき既に、自分で出している。

ユヅキは大きく息を吸い込むと、ハッキリと言った。




「ハルトが…好きだから。ハルトの力になりたいの」



ーーー少女は、初めて人を好きになった。
 
 

 
後書き
ギリギリ二週間かな?(笑) 遅れてすみません。
いや~、受験どころか卒業式まで終わりましたよ。

さて、今回の話ですが……実は途中で切ってます。
前回みたいに7000文字くらい書こうとしたんですけどね、やっぱ時間が・・・。
でもまぁ、良い感じにまとまってるんで、別に良いでしょう。

受験が終わってようやく暇になるかと思いきや、別段そんなことは有りませんでした。元々、受験を大事に見ていなかったのが原因でしょう。
よって、これからも大して更新速度変わりません! すいません!
次回もよろしくお願いします! では!(←無理やり締めてくスタイル) 

 

第52話  二匹の鬼

 
前書き
前回に続けたかった分ですので、若干短いです。 

 
「好き…だから?」

「そう、ボクはハルトが好き。一緒に過ごして気づいたんだ、ハルトの優しさに。ハルトのためなら、ボクは何だってやってやるさ」


ユヅキの言葉を聞き、ヒョウが狼狽える。
無理もない。彼にとっては異例の事態なのだから。


「鬼が人間を好きに…? どうかしている。ボクたちと奴らは異なる種族なんだぞ?」

「それが何? キミには関係のないことだよ。キミにハルトの、何がわかるの?」


ヒョウの唖然とした表情は一時収まらなかった。
その間も、ユヅキの魔力は着々と高まっていく。


「忌々しい鬼の力・・・それでも、これがキミに太刀打ちできる手段なんだ」


人間と異なってしまった理由。それに頼るなんて絶対嫌だと考えていた。
でも、今はその絶対を覆す存在がある。


「必ず、勝つ!!」


ユヅキの額に、一本の角が生える。
それは妖しく輝き、鬼の象徴に相応しい風貌だった。
牙も幾分か伸び、少しずつ人間の面影が減っていく。


「はぁっ!!」ブワァ

「ちぃっ!!」ブワァ


ユヅキの鬼気に当てられ、ようやくヒョウも調子を取り戻す。
双つの吹雪が荒れ狂い、辺りを凍てつかせていった。


「まだまだァ!」ダッ


ユヅキはヒョウに向かって駆ける。
その両手には氷剣が握られており、瞳はヒョウの角を捉えていた。


「確か鬼族にとっての角は、象徴の意味合いだけじゃなく、魔力を増幅するためのものでもあったはず。だからそれを破壊してしまえば、人間と同等ぐらいに衰退する。そうだったよね?」

「よくもまぁ覚えているね。家出したのは何年前の話だったっけ?」

「どうだっていいよ、そんなの!」ヒュン


ユヅキは氷剣を振るう。が、やはりヒョウの動体視力には敵わず、全くと言っていいほど当たらない。
それでも、常人ではとても対応できない速さだが。


「そもそもキミは戦闘に慣れていないだろう? それなのにボクに勝とうだなんて、さすがに笑っちゃうね」

「何とでも言うと良い。ボクはキミに勝つ。それだけだよ」


ユヅキの乱舞は止まらない。
しかし、右から左から上から下から、あらゆる方向からくる斬撃をヒョウは全て避けていく。


「…っ、当たれェ!!」ブン

「雑すぎる。それじゃあ、当たるものも当たらないよ」ヒョイ


空気を切り裂く渾身の一降りも、ヒョウには届かない。

やはり、力の差は埋まらないのか。ユヅキはふと思う。
しかし、諦めては何にもならない。晴登のためにも、ミライのためにも、勝たなければならないのだ。


「吹き荒れろ!」ビュォオオ


ユヅキは氷剣を空気中に還すと、近距離のままヒョウに向けて吹雪を放った。
滝を真正面から受けるような迫力と威力。いくら氷属性に耐性がある白鬼だろうと、圧されざるを得ないだろう。


「格の差を教えてあげようかなァ!」ブワァ

「ッ!?」


しかし経験の差か、ユヅキの吹雪はあっさりと打ち破られる。白かった視界がクリアになり、代わりにヒョウが眼前にいた。

驚くユヅキを尻目に、ヒョウの指は彼女の角へと伸びた。


「うらァ!」


だがユヅキは近づいてくるヒョウに、逆に鉄拳を放つ。
いつまでも逃げていられない。どんな時もチャンスに変えてやらねば。


「チッ!」ガシッ


さすがのヒョウも、その攻撃を防がざるを得ない。伸ばしていた手でユヅキの拳を掴み取る。


「はぁッ!」ブン

「ッ!?」ガシッ


すかさず、左脚で蹴りを放つ。しかし、ヒョウは驚く様子こそ見せるものの、しっかりと腕で防御していた。

ユヅキはバックステップし、一旦距離を置いた。


「中々決まらないなぁ…」


思わず嘆息するユヅキ。
今は鬼化し、パワーアップしているのは事実。だが、それすらもヒョウの力の方が上回っているのだ。
果敢に挑んではいるが、反撃をされると正直危うい。


「ハルト……」


後ろをチラリと見やるユヅキ。
そこには、倒れて治療中のミライと共に、グッタリとしている晴登の姿があった。
自分と同様に路地裏に運ぼうとしたが、ミライと一緒にいた方が良いと考え直した結果である。


「よそ見してる暇、無いと思うけど?」

「忠告ありがとう。だったら攻撃してみる?」

「そんな姑息な手は取らないよ。正々堂々戦って負かしてこそ、ボクは王となれる」


その言葉を聞き、ようやくユヅキはヒョウが攻撃を中断する理由を知った。それと同時に、初めて弟についてあることを知った。

……意外と、誠実なのか。

そう考え直したところで、今さら姉弟の溝は埋まらないことはわかってる。
人間と鬼族。それらの対立を生んだヒョウは、もう人間と、そして姉とはわかり合えないはずだ。


「残念…だよ」


初めて弟の存在を知った時は、驚きがあって、若干の嬉しさがあった。もう一人、自分を理解してくれる人がいるのかと。
でも、弟は決して良い立場にはいなかった。どう取り繕っても、王都を恐怖に陥れた事実は変わらない。それは、憲兵に捕まるほどの犯罪である。

もう、弟とは“姉弟”でいられない。


お別れ…しないと。



「…いくよ!」ダッ

「学習能力が無いのかい? そんなんじゃいつまで経ってもボクに攻撃は・・・ん?」





* * * * * * * * * *

ーーー違う。さっきと大違いだ。


「ふッ!」ブン

「うっ!?」


その違いは余りにも多く、説明しにくいが、


「そりゃ!」ブン

「がっ!!」


一つだけ言えるのが、攻撃が──見えない。


「なん、で…いきなり…?!」


顔、腹を殴打され、若干頭がクラクラする。
口から血が垂れるほどの、容赦ないパンチだった。

…何故だ。なぜ、さっきまで見えていた攻撃が急に見えなくなったのだ?


「…そうだね。強いて言えば、吹っ切れたから、かな」

「吹っ切れた…?」

「ボクにはやるべきことがある。ただそれだけだよ」


何を言っているのか、イマイチ要領を得ない。彼女は何を悩んでいたというのだ。


「……でも、ここまで殴られて黙っちゃいられないね」


しかし、きっと自分には関係のない話だ。
自分にだってやるべきことがある。大陸の王になれば、鬼族というだけで周囲から蔑まれずに済むのだ。

先程ユヅキが言っていたことは間違いではない。鬼族であるだけで、人から敬遠されていた。
だから人間の上に立てば、そんなことは無くなると信じている。


「この想いだけは譲れない!」ブワァァア

「うッ…!」ズザザ


ヒョウの猛吹雪を真っ向から喰らい、ユヅキの怒涛のラッシュが中断する。いやそれだけに留まらず、ヒョウの反撃が始まった。


「穿てッ!」ヒュオ

「…ッ!」バキッ


1mにもなるであろう長い氷槍。
しかし、もはや殺す勢いで放たれたそれだったが、ユヅキに破壊される。
また生成して放ってみるも、結果は変わらない。

やはり、人間を相手取っていた時よりも、攻撃が通りにくい。


「焦れったいなァ、もう!」ダッ


遠距離では決着がつかない。
そう察したヒョウは先程のユヅキみたく、距離を詰めようと図る。

双方の鬼が互いに互いを見据え、拳を構える。


「「はァッ!!」」ガシィ


拳がぶつかり合って魔力がほとばしり、辺りで氷柱が猛烈な勢いで地面からつき出てくる。お陰で、綺麗に整備されてる石造りの道路もめくれ上がり、足の踏み場もないくらいに礫が散乱した。
それだけではなく、強大な魔力がぶつかった影響による衝撃波で、周囲の家々の窓ガラスが割れ、壁が吹き飛び、原型を留めないくらいに全壊していく。


しかしーーー



「…やっぱ、一筋縄じゃいかないね」

「…はた迷惑な話だ」



二匹の鬼だけは、立ち続けていた。

瓦礫を踏みしめ、再び二匹は対峙する。


「街を自分の手で壊したくないんだ。そろそろ決めさせてもらうよ」


そう言ったユヅキの両手に、膨大な魔力が集まっていくのをヒョウは見た。
すかさずヒョウは構える。これを凌げば、必ず隙が生まれるだろう。


「ハァァァァッ!!!」ギュオオオ


「ッ!!」ピキピキィ


・・・と、達観していたのも束の間、ユヅキの魔力が上限が無いかのように上昇し続けるのを見て、ヒョウはすぐさま氷の壁を幾層にも張った。

もはやアレは、全魔力ではないだろうか?
そんなものを体外へ放ったら、ぶっ倒れて、呼吸するだけの人形と化して無防備になるのがオチだ。
もし防がれれば、ユヅキの勝機は完全に消える。

それなのにそれを放とうとするということは、恐らくあの少年が原因だろう。


──そこまでして守りたいのか。


ヒョウには、守りたいなどと思える人はいないし、そもそも作ろうとも思わない。その存在が足枷になる可能性があるからだ。



──なら何故、目の前のユヅキを“カッコいい”と思う自分がいるのだろうか。



「穿てッ! “昇華(しょうか)激浪冰(げきろうひょう)”!!」


ユヅキの周囲に無数の鋭い氷の礫が浮かび上がったのが、氷壁ごしに見えた。

そして放たれた刹那、氷壁が跡形もなく砕け散った。
それだけじゃない。集中砲火の形で、礫たちがヒョウを狙い撃つ。

急いで新しく氷壁を造ろうとするも、礫がヒョウを襲う方が早かった。
皮膚を抉られ、血は飛び散り、白かった髪や肌が(まだら)だが紅に染まっていく。
また、いつの間にか角も穿たれ、力が急激に無くなっていくのを感じた。



「う、あぁぁ……!!」ドドドドド





* * * * * * * * * *

静寂が訪れたのは、それからしばらく経ってからだった。小鳥のさえずり一つさえ聴こえない、まるで真空にいるかの様な静けさである。

顔を上げると、山のように積み重なった氷の礫が見えた。それは、ガラクタの様に変貌した街の風景の中で、一際目立つ淡い輝きを放っている。


「これで……」バタ


直立できていたのも束の間、ユヅキは地面に正面から倒れ込んだ。もう、指先すら動かす気にならない。
あの技を使うのに、自分の持つ全ての魔力を使ったのだ。しばらく、動けるようにはならないだろう。


「勝ったよ…ハルト…」


晴登とミライは大丈夫だろうか。
戦闘中は一切考えないようにしていたから、正直巻き込まれていても不思議じゃない。
しかし捜そうにも、もう立つ力はない。今できることは、地面に伏せながら無事を願うことぐらいしか・・・



ガラッ



不意に静寂を切り裂いた甲高く固い音。ユヅキには、それは不幸の知らせに思えた。
この辺りでその音を鳴らせるのは、目の前の氷の山だけなのだ。つまり・・・


「まだボクは……負けて、ない……」

「嘘……!?」


ユヅキは首をもたげ、何とか前方が見える状態にする。すると眼前には、傷だらけで立っているのもやっとなぐらい疲弊しているであろう、ヒョウの姿があった。


「キミはもう、動けないだろう…? これで、ボクの勝ちだ…!」


その声は弱々しく、押せば倒れそうなぐらいに弱っているのが判る。ただ、今はその動作さえユヅキにはできない。

マズい。恐らく、ヒョウにはまだ魔力が残っているはずだ。ユヅキにトドメを刺すことも可能なのである。


「おやすみ…!」ヒュオ


気温が下がる。ヒョウが魔力を収束してる証拠だ。

あと一歩だったのに・・・



「…嫌だ、死にたくないよ。助けて…!」



ユヅキは、ヒョウに劣らない弱い叫びを上げた。


しかしその叫びも空しく、ヒョウの氷槍はユヅキめがけて射出される。サイズは小さいが、命を刈り取るには充分な鋭さだ。





──その刹那、ユヅキの前に降り立った影がそれを破壊した。
 
 

 
後書き
卒業して遊びまくってたら、ものの見事にギリギリです。いや、前半結構端折ってます。
暇があったら修正しときます。はい、暇があれば。

さて、ようやく異世界転移編が終わりを見せようとしている気がするけどやっぱ気のせいかな、みたいな状況になってきました。
なるべく小説書く時間も取って、次回は少しでも早く更新できたらと思います。では! 

 

第53話  合縁奇縁

「大丈夫か、嬢ちゃん?」


颯爽と現れたその影は言った。
その右手には、粉々になった氷柱の欠片が掴まれている。
目の前に立っているのが男性というのはわかったが、うつ伏せの体勢上、顔までは視認できない。


「だ…誰だよ、キミは…?」

「お前か、この街を荒らしたのは。随分お疲れの様子だけどよ、ちょいと面貸しちゃくれねぇか?」


男性の声には、多分の怒りが含まれていた。
きっとこの人も、ミライさんの様にこの街が好きなのだろう。

何にせよ、一応は助かったようだ。


「…人の質問に、答えてくれないかな?」

「おっと悪いな、順序間違えちまった。…俺の名はアランヒルデ、最強で最恐の男だ。でもって、王都騎士団団長さんだ」


「え…!?」


ユヅキはうつ伏せのまま息を飲む。
今、目の前に立っているのは、かの有名なアランヒルデなのだ。驚かない方がおかしい。


「…で、その団長さんが…何の用な訳?」

「言ったろ、街をこんなにした大罪で、ちっとばかしお前を連行したい。拒否権はねぇぞ?」

「そのくらいで、ボクを脅せるとでも…?」

「だったら少ーしくらい、乱暴に扱っちまうがいいか? 今、虫の居所が悪いんでな」ヒュ

「ボクに敵うとでも・・・うっ!?」


アランヒルデがそう言うや否や、ヒョウが膝から崩れ落ちる。どうやら、アランヒルデがヒョウの腹に高速で拳をぶち込んだようだ。・・・全く、アランヒルデの動きが見えなかったけども。
そしてようやく、アランヒルデの姿を見た。特徴を挙げろと言われれば、迷わず"炎の様に赤い髪"と答えるぐらい、彼の赤髪は際立っている。


「この…!!」ヒュオオオ


さすがに一発ではヒョウも倒れない。
腹を殴られた反撃とばかりに吹雪を放つ。しかし、


「悪いが、そんな弱々しい吹雪じゃ、俺はもちろん、木の葉だって飛ばないぜ?」ブン

「がっ!?」


アランヒルデに吹雪は通じず、またもヒョウは殴られてしまう。
それにしても、疲れてるとはいえ、ヒョウがここまで圧倒されるのは驚きである。戦ったから、拳を交えたからわかるのだ。彼は本当に強かった。なのに、


「おらよ!」

「うっ…!」


なす術なくやられる様子を見ると、苦戦していた自分が情けなく思えてしまう。


「観念するか?」

「ボクは王になるんだ…。こんな所で諦める訳には、いかない…!」


ヒョウが言い切ると、アランヒルデが感心したように頷く。そして言った。



「志があるってのは立派なことだ。でもよ、お前みたいな帝国主義者に誰が付いていくと思う? 民の率いる器がない奴は、王とは呼べねぇな」

「…!!」



辛辣な一言だった。
ヒョウは唖然とした表情の後、静かに膝をついた。


「ボクのやってきたことは、無意味だったのか…?」

「さぁな。けど、少なくとも周囲に影響を与えていただろうな。お前のしたことは罪だ、しっかりと償って貰うぜ。だからよ・・・」


アランヒルデは一旦言葉を切った。そして、ユヅキの前から姿を消す。
急な事態に困惑していると、後方から声が聞こえてきた。


「だからよ、このウォルエナども、早く片付けてくんねぇかな?」


声音と共に、耳を塞ぎたくなるような肉音が響く。
振り返ることはできないが、複数の唸り声からも状況は何となく察せた。


・・・ウォルエナに、囲まれている。


「ったく、全く減らねぇなコイツら。早く撤退命令出せよ、ガキ」

「…ウォルエナは、ボクのことを見限ったようだ。わかるんだよ、ウォルエナは賢い。キミの言う通りさ。器が無いと判明し、(あまつさ)え大陸の王になる夢を諦めた。そんな奴の命令なんか、彼らは聞かないだろうね」

「はっ、つくづく面倒いな、クソッタレ」


ガックリと項垂れて、戦意喪失しているヒョウ。
それに比べ、アランヒルデは臨戦態勢だろう、剣を抜く音が聞こえた。

無防備で、しかも周囲の様子が見れずに地面に突っ伏すのは、恐怖でしかない。
彼が全て倒してくれればいいのだが、もし逃げられでもしたらユヅキと、今はヒョウの命さえ危ぶまれる。
王都騎士団団長とはいえ、信じて任し切ることは正直無理だ。


「けど、ボクは何もできないんだ…」


想うだけなら誰でもできる。
けど、身体が動かないんじゃ仕方ないというものだ。

きっと、何とかしてくれる。

目覚めた所かウォルエナの胃袋じゃないことを祈り、ユヅキは力尽きて目を閉じた。





* * * * * * * * * *

「ヤバい、この状況はさすがにヤバい…!」


頭を抱えたいが、そんな気力もなし。
ミライの隣で壁にもたれ掛かりながら、晴登はただ自分の運命を呪った。

場所は大通りから少し離れた裏通り。
店もいくつか点在し、普段なら大通りまでとは言わないが賑わってることだろう。

しかし今回、そこで賑わうのは人ではない。



ーーー今、晴登たちは、前方180°が多数のウォルエナによって埋め尽くされている。要は、囲まれているのだ。


「何でいきなり…!?」


先程までは、ウォルエナの足音一つ聞こえなかったというのに、どうして彼らは今になって集ったというのか?
ウォルエナは賢いらしいから、きっと考えがあるのだろう。理解したくはないが。


「ハルト…」

「…! ミライさん!」


途方に暮れていると、ミライから声を掛けられた。
その声は弱々しいものだが、喋られるようになっただけマシだ。見ると、傷がかなり癒えてきている。


「厄介な状況だね…」

「俺はまだ、魔力が少ししか回復してないでしょうし、これだけ多いとさすがに無理です」

「僕も動くのはちょっと無理だな。ハハ…」

「笑えないです!」


いや、満身創痍な自分たちに多数のウォルエナが群がるという絶望的な状況なのだ。むしろ笑うしかない。


「ユヅキは大丈夫なのか…?」

「他人の心配できるくらい余裕なの?」ニヤニヤ

「それは余裕じゃないですけど・・・てか、そのニヤケ顔止めてください!」


ウォルエナの前でコントを晒す晴登たち。無論、故意ではない。心配する気持ちは本物だ。
この場所からユヅキが戦っている場所まではそう遠くない。ウォルエナの別の群れが行かないとも限らないのだ。
尤も、そこにはヒョウがいるわけだが・・・。


「全く…晴登の脳内はユヅキで埋まっているのか?」

「人聞きの悪いこと言わないでください! ユヅキのことが心配なだけで・・・大体、ミライさんは何でそんな余裕なんですか?!」

「何でって・・・そりゃ、策があるからね」

「策…? それって一体・・・」


聞くよりも早く、ミライの指が鳴る。そして快音と共に、前方が眩い光に包まれて―――爆ぜた。


「な!?」

妖精の罠(フェアリートラップ)。こんなこともあろうかと、予め仕掛けておいたのさ」

「おぉ…」


手際が良いというか何というか、どちらにせよ助かった。ミライの心配性に感謝しないと・・・



「ガルル…」


「やっぱ残ってた! 展開的にあると思ったけど! どういう事です、ミライさん?!」

「あれ、おかしいな。もしかして新しく来たのかな…?」

「だったら、さっきのもう一発!」

「言ったろ? あれは罠だ。もちろん使い切りの」


おい嘘だろ?
こちとら何回絶望味わったと思ってるんだ。神様不条理過ぎない? 理不尽過ぎない? 世知辛いのにも程があるよ?


「数は減ってますけど、勝てる気がしない…」

「うん。さっきの罠で、僕は回復した魔力を使い切っちゃったからね」

「あぁダメだ、俺はそれを責められる立場じゃねぇ…」


今のを含めれば、ミライには二度命を救って貰ったことになる。そんなどう見ても恩人な相手に、これ以上何を押し付けられるだろうか。否、無理である。


「って言っても、俺がどうかできる訳じゃないしな…。せめて、もう少し魔力が回復すれば・・・」


悠長に構えていれば、ウォルエナたちはすぐにでも襲ってくるだろう。
だかさっきの罠もあってか、今は警戒しているようだ。この間に突破口を見つけないと。


「となると、弱ったところ見せたら襲ってくるって訳か。気を抜く暇も無いな…。と言っても、策は尽きてるからジリ貧状態…」


猶予が有ろうと危機的状況に変わりはない。
ミライも策は無さそうだし、これは本格的にマズいだろう。


「ここで誰かが助けに来るお約束展開ないのか!?」


助けに来る候補の一人、アランヒルデがユヅキの助けに入ったなど知る由もなし。
ありもしない話で、何とか現実を遠ざけたい晴登だった。


「ハルト、現実逃避は良くないよ。まだ諦めてはいけない」

「ですけども・・・」


今感じているのは、もちろん絶望。だからとても怖いし、泣きそうなくらいだ。それなのに涙が出ることはない。しないのではなく、できないのである。

積み重なった絶望で、もう涙は枯れ切っていた。


「諦めては、いけない・・・」

「そうだ、ハルト。君はヒョウとも戦った。今更あんな獣に怯むのかい?」

「それ言われたらおしまいですね」


思わずふふっと、笑みをこぼしてしまう。
そうだ。自分は強大な鬼族と戦ったのだ。ウォルエナなんて、言ってしまえば雑魚同然である。


「でも、今の力じゃ敵わないと思いますけど?」

「だったら、数を増やせば良い。一人で立ち向かえないなら二人で、それでもダメなら三人で。協力することは弱さじゃない」

「俺たちは二人止まりですよ?」

「本当にそうかな?」ニッ


ミライが不敵に笑う。
その様子に疑問を抱く晴登だが、それはすぐに氷解した。



―――目の前に、黒い影が降り立つ。



「……!!」


晴登は唖然とする。それは、目の前の人物があまりにも意外過ぎたからだ。


「何で気づいた?」

「僕には魔力が視えますからね。にしても、どうしてわざわざ助けに来たんですか?」

「はっ、当たり前なことを聞くんじゃねぇよ」


未だに後ろ姿を見せる影・・・もとい、男。
彼はぶっきらぼうな言い草で、ミライの問いに答えている。

そして、彼は言った。



「―――俺は、うちの部下と客に手ぇ出して欲しくねぇだけだよ」



無精髭がよく似合う、時計屋主人ラグナ・アルソムが、そこには居た。





* * * * * * * * * *

~数時間前~


「…頑張れよ、二人とも」


「ガルル…」

「おっと、お前のことは忘れちゃいねぇって。そう急かしなさんな」


あくまで楽観的な態度で、ラグナはウォルエナと対峙した。しかし、本心は決して穏やかではない。

ウォルエナが人喰いであるというのは周知の事実。つまり、ヒトとウォルエナを比べた時に、食物連鎖の関係でどちらが上かなど決めることができないのだ。故に、大人であろうとウォルエナにはビビるのは条理である。
では立場が対等な時に、一方が恐怖の感情に囚われてしまえばどうなるだろうか? 答えはシンプル、もう一方の勝利は確実であり、弱肉強食の強者に君臨できる。


「つまり、ビビってたらお前の胃袋行きなんだよ。そんなとこ、死んでも行きたくねぇな」

「ガル…」

「うちの部下には手を出させねぇ。大人の甲斐性見せてやるよ」


その言葉をキッカケに、彼我は一歩を踏み出した。
ウォルエナは相手を噛み殺さんと、ラグナは部下を守ろうと、互いに走る。


「ガウッ!」ヒュ


ウォルエナは跳躍し、上方からラグナに飛びかかる。
勢いがあり、牙に刺さりでもしたら大怪我は免れない。


「…けど、空中は無防備だって知ってるか?!」ブン


「ガッ…!?」グシャ


ラグナの拳が牙のギリギリ上、ウォルエナの鼻にクリティカルヒットする。固いものが砕けるような音がし、吹っ飛ばされたウォルエナはそのまま動かなくなった。


「昔はやんちゃしてたからな、喧嘩にゃ自信があんだよ」


自嘲気味に笑い、ラグナは呟く。

結局、ものの数分でウォルエナを討伐してしまった。二人を逃がした意味も、あまり無かったと思われる。


「あーあ、面倒くせぇ。さっさと追いかけねぇと」


ラグナは二人が向かったであろう方向へ走り出した。





* * * * * * * * * *

「・・・てな訳で、今までずっと捜してたんだよ。見つかって良かったぜ、ハルト」

「え、でも、途中でウォルエナには…?」

「遭ったぜ、何度も。全部ぶん殴って撃退したがな」


驚いた。ラグナにそこまでの戦闘力があったとは。
どんな魔法を使うのかは聞いてないが、そこまで素の力が有るということは、ひょっとするとラグナはかなり強いのかもしれない。


「それにしても、やっぱり逃げてなかったんだな」

「え?」

「お人好しのお前らのことだ、すぐ逃げずに困っている人を助けていたと思ってたぜ」


図星とまでは言わないが、外れてもいない。

晴登の脳裏に妹に似た金髪の少女が浮かぶ。
元はと言えば、彼女を助けようとして、ユヅキとはぐれたことが始まりだった。そう思うと、人生って何が起こるかわからないと、改めて思わされる。


「ところで、ユヅキは何処だ? 無事なのか?」

「…確証はありません。けど、無事だとは思います」

「……色々あったんだな。わかった。急いでコイツら片付けて、ユヅキを捜そう」


苦い顔をして、ラグナは応える。
ほとんど娘のように感じているユヅキの安否が不明なのだ。仕方ない事だろう。

だが、ラグナの言葉には些か無茶が含まれていた。


「ちょっと待ってください、この量を一人で倒すんですか?!」

「あ? お前は今動けるのか?」

「いや、動けませんけど・・・」

「だったらそういう事だ。お前は休んでろ、ユヅキを捜すために」


晴登は何も言えなかった。ラグナの言う通りである。
自分には何もできない。ラグナを信じて任せるしか、手段がないのだ。



「…お願いします、ラグナさん。俺を、ユヅキを助けてください!」

「言われなくても!」ダッ




それからの事の顛末(てんまつ)は早かった。

何十匹もいたウォルエナが、一人の男に続々と倒されていく。素手であるにも拘らず、ラグナは容易くウォルエナの脚を、頭を、胴体を破壊していった。
さすがに晴登も、その様子には唖然とするしかなかった。


「強い……」


その呟きは、自然と洩れていた。ラグナの強さを尊重し、或いはラグナへの尊敬の念を抱いて。



数分後には、血に塗れた拳を掲げるラグナの周りに立つウォルエナは、一頭もいなかった。





* * * * * * * * * *

頭が痛い。身体が怠い。力が出ない。

だけど、思考だけは無駄に働く。

自分が意識を失ってから、どれだけの時間が経ったのだろうか。

思考ができるということは、死んではないみたいだ。

耳だって正常に働いていた。
誰かの声が、絶えず耳元で聴こえてくる。


その声に誘われるように、ユヅキはゆっくりと目を開いた。



「起きたか、ユヅキ?」


「ハルト……」


目を開けると、そこには晴登がいた。

同時に、薄暗い空も同時に見える。

自分は外で寝ていたのか。







「・・・で、何でボクはハルトに膝枕されてるの?」

「いや、ミライさんに言われたの! その方が良いって! 別に俺がしたいとかじゃない!」

「嫌々やってるの…?」

「そんな泣きそうな顔しないでくれ! 全然嫌じゃないから!」


晴登は焦るように弁明しているが、もちろん少しからかっただけである。
にしても、自分もだが晴登が無事で良かった。アランヒルデがしっかりと戦ってくれたからだろう。お礼を言わないと。


「ハルト、アランヒルデさんは?」

「アランヒルデさんなら、ヒョウを連れて城に戻ったよ」

「そっか…」


いないと言われても仕方のない事だ。何せ彼は王都騎士団団長。忙しいのは知っている。
きっと、ヒョウは逮捕という扱いだろう。もう会うことはないと思う。


「……全部、終わったの?」

「…うん。犠牲が多く出すぎたけど、ウォルエナは全て討伐されたよ。もう、終わったんだ」


それを聞いて、ユヅキは緊張の糸が切れた。大きく安堵の息をつく。



「ユヅキ! 起きたのか!」

「えっ!? ラグナさん、生きてたんですか!」

「バーカ、そう簡単に死んでたまるか。お前も無事そうだな。良かった良かった」


ホッとしたのも束の間、また驚かされてしまう。

いつの間にかラグナが合流しているのだ。でもって、安心したのか、いつもの調子で笑っている。


「ラグナさんはいつ合流したんですか?」

「そりゃあカクカクシカジカでな・・・」



「……ん!? ウォルエナを一人で!? そんな強かったんですか、ラグナさん!?」

「俺は目の前で見たけど、開いた口が塞がらなかったよ」


ラグナの武勇伝とも言える話を聞き、またも驚く。そろそろ驚きすぎでどうにかなりそうだ。



「ユヅキ、調子はどうだい?」

「ミライさん! はい、大丈夫ですけど・・・ミライさんこそ大丈夫だったんですか、あの怪我?」

「見られていたのか、面目ない。治療は済んでいるから大丈夫だ」

「そうですか…!」


晴登もラグナもミライも、そして自分も無事。
その事実だけで、ユヅキは泣きそうなくらい嬉しかった。


―――ふと、その顔に眩しい光が降り注ぐ。


違和感だったのは、ヒョウと戦っていた時の日の方角と、今の日の方角が正反対だということだ。


「あれ、もしかして、これは朝日なのかな…?」


ユヅキは自分の仮説に冷や汗をかく。
もしこれが正解なら、自分は一晩中寝ていたことになる。
少なくとも、ヒョウと会った時刻頃には、日が真上に昇っていたから。


「そうだね。ユヅキはハルトの膝枕で一晩中寝てた訳だ」

「やっぱり・・・って、え? 今何て言いました?」

「街の復興にも、兵士が取り掛かっている。ユヅキが起きたのなら、とっとと避難場所に行かねぇと」

「無視しないで下さい・・・というか、何で先に行かないんですか!」


ミライもラグナも本調子。見事なくらいな会話だ。
安堵の息の次に、嘆息してしまうユヅキ。


「んじゃ、行くぞ」スタスタ

「それじゃハルト、ユヅキを運んできてね」スタスタ

「えっ、俺ですか!? ラグナさんの方が適任でしょ・・・ってあぁ、行っちゃったよ…。……仕方ない、行くよユヅキ。背負って行くから」

「え?」


まだ身動きの取れない身体が、晴登によって、動かされる。そして気づいた時には、晴登の背中に乗っていた。

そのまま晴登は、ゆっくりと歩き出す。





* * * * * * * * * *

「……ねぇ、ハルト」

「ん?」


歩き始めて数分、ユヅキから声がかかった。
背負っているため顔は見えないが、どことなく寂しさを醸し出している。


「ハルトとは……そろそろお別れなんだよね」

「…っ!!」


そしてユヅキの言葉を聞き、重大な事を思い出す。

そういえば、この世界に居られるのは三日間。即ち72時間だ。でもって、今日は四日目。一日目で昼ぐらいにこの世界に来たのだから、帰りもきっとその辺りの時間帯。

つまり、あと数時間で皆と別れなければならない。


「ハルトの話を聞いて、どうしようもできないのはわかってる。でも、ボクはハルトと一緒に居たい!」


その言葉で、胸が締め付けられる。
そして、半端な気持ちでこの世界に足を踏み入れたのを後悔した。

友達が引っ越す、だなんてレベルではない。ユヅキとは親友と呼べるくらいの仲になってしまったのだ。
別れたくない気持ちは晴登にも存在する。


「……避難所に行ったら、俺は帰るよ」


それでも、悲しみを噛み殺しながらそう言うしかなかった。





* * * * * * * * * *

「ハルト、調子はどうだ?」

「だいぶ動けるようにもなりましたし、心配しなくて大丈夫ですよ」

「そう言われても、ハルトは何度も死にかけてるし、心配だよ」

「ははっ、本当にミライさんには感謝してます。ありがとうございました」


避難所は学校の体育館の様な所だった。
床が一面に広がり、各々が好きなように座ったり、寝てたりしている。

晴登もその一人。今はラグナとミライと話している。
ユヅキもその場に居るのだが、一向に口を開こうとしない。仕方ないか…。


「そうだハルト、お前に渡したいもんがある」

「…? 何ですか?」

「ほらコレ」スッ


そう言われ、ラグナから手渡されたのは一枚の封筒。
何かが入っているようだが、検討もつかない。


「ラグナさん、これは…?」

「給料だよ。お前は昨日の時点で雇用期間を過ぎてるし」

「あ、ありがとうございます…」


給料、ということはこの世界のお金が入っているのだろう。
申し訳ないが貰ったところで、元の世界に帰るから使い道はない。ただ、返すのはそれはそれで気が引けた。
だからとりあえず、感謝だけしておく。


「……それじゃあ、これで帰ります」


「寂しくなっちまうな。でも、会いたくなったらいつでも来いよ」ニカッ

「僕も、また君と会えるのを楽しみにしてるよ」


「はい、本当にお世話になりました」


思いの外、二人はすんなりと送り出してくれる。引き留められると困るから、逆に良かった。

立ち上がる瞬間にふとユヅキを一瞥すると、彼女は黙って俯いている。


「じゃあね、ユヅキ」

「……」


返事はない。

だが時間が迫っているため、待つことはできない。
どんな風に帰るのかはわからないが、急に消えたりしたら周りの人々が驚いてしまう。だから晴登は、タイムリミットまでに人目のつかない場所に行こうと考えたのだ。


「あと、1時間も無いだろうな」ボソッ


そう呟きながら、晴登は避難所を出て、歩いた。

とりあえず、王都を出よう。そしたら辺りは森だし、人目にはつかないはずだ。


・・・いや、最後にあそこに寄っていこう。










「着いた…」


晴登の目の前にあるのは一つの一軒家。
それは見慣れたものであり、今までユヅキと過ごした家でもある。
晴登は一人で異世界の余韻に浸りながら、現実世界への回帰を待ち望んだ。

しかしその時、土を踏む音が耳に入る。



「──ハルト!!」

「っ…!? 何で、ここに…?」


晴登を呼んだのは、紛れもないユヅキだった。走って追いかけてきたのだろう、息が上がっている。彼女は膝に手をつきながら、呼吸が整うのを待たずに言った。


「まだ…お別れを、言ってないから」

「そ、そうか…」


どうせなら、このままさっさと帰りたかった。ユヅキの顔を見てしまうと、帰ろうという気が削がれてしまう。



「あのね・・・ボクと友達になってくれて、ありがとう」

「……っ!」



何故このタイミングでそれを。ダメだ、それ以上言うな。



「ボクと一緒に居てくれて、ありがとう」



そんなの卑怯だ。今、それ以上言われたら・・・



「ボクを守ってくれて、ありがとう」



守ったことなんて、果たしてあっただろうか。間違いなく、俺の方が守られてばっかだった・・・



「ボクと出逢ってくれて、ありがとう」



その時、晴登の頬を涙が伝った。

今まで、これほど正面から感謝の気持ちを伝えられたことはなかった。
胸が苦しい。何か、身体の奥から何かが昇ってくる感じがした。でも、言葉で言い表せない。


「だからね、ハルト・・・」

「……?」

「ボクに構わず、行って。待ってる人たちが…いるんでしょ?」


ユヅキの声も震えていた。見ると、涙を流しながら、必死に笑顔を作ろうとしている。

そうだ。決めたじゃないか。別れる時は笑顔でいようって。自分も、目一杯の笑顔を返さないと。


「…それじゃ改めて。じゃあね、ユヅキ」

「うん。さよなら…ハルト」


その瞬間、晴登の身体がだんだんと光に包まれていった。

なるほど。そういう帰り方なのか。

一人納得して、晴登は光に身を預けた。





「……っ!」ダキッ

「…ユヅキ?!」


意識が飛んでいくかと思った刹那、ユヅキに抱擁される。


「まだ、伝えてなかった・・・」

「……!?」



その時、ユヅキの唇と晴登の唇が重なる。柔らかい感触が印象的だった。


互いの涙が交わり、互いに笑みで心が満たされる。



「大好きだよ、ハルト」



結月の最後の言葉が、強く胸に刻まれる。

そしてそのまま、晴登の意識は遠い彼方に消えた。





* * * * * * * * * *

「ん……」


目を擦りながら、晴登は身体を起こした。
その身体は懐かしの我がベッドの上にあり、視界に映るのも自室の風景である。


「帰ってきたのか…」


長い長い、三日間がようやく幕を閉じた。
ベッドの上で朝日を浴びながら、晴登は大きくため息をつく。


「さすがに、キツすぎるだろ…」


身体の奥底に渦巻くやるせなさ。例え夏休みだろうと、遊ばずにずっと寝ていたいぐらいだ。


「……起きるか」


ウダウダ言っていても、戻ってきたのだ。今日は平日だったと思うし、学校もあるはず。
さすがに体感時間で三日間も異世界で過ごしたから、人との会話に齟齬が生まれそうだが・・・


「……ん? 何かやけにベッドが狭いな」


ベッドで伸びをしてると、ふとそう思った。
三日間違う寝具で寝ていたから勝手が変わるのは当たり前だが──違う。


「一体、何が…?」


晴登は自分の隣の、やけに布団が膨れている所を見る。恐らく、狭いと感じた原因はこれだろう。


「……ゴクリ」


息を呑む晴登。異世界から帰ってきて早々、嫌な予感しかしない。しかし、事態は目の前で起こっているのだ。確かめずして……どうする。


「ええい、ままよ!」ガバッ


晴登は恐る恐る且つ大胆に、布団を捲りあげる。そして、謎の物体の正体に目を疑った。





「ユヅキ…!?」


静かに吐息を立てて眠る、銀髪美少女ユヅキの姿がそこにはあった。
 
 

 
後書き
人と人とはあらゆる『縁』で繋がっている。それが今回のタイトルの意味です。

体育祭編を超える話数は無理だと言っていたいつか。まさか、本当に超えるというのは予想外でした。
今回をもって、異世界転移編は終わり(仮)となります。ようやく次回から、日常に戻れそうですね。
……え? 最後に不思議な描写があるって? ははっ、知りませんね(よそ見)。

異世界編終わって残念ですが、元々この作品はそういうものではないんでね。学校系だからね。どうして異世界行ったのかな…?(謎)
まぁ、余裕ができれば、別に異世界中心小説も書きたいところです。

さてさて、50話も超え、長く苦しい戦いだった異世界転移編。このくらいの大ストーリーは今後現れるのか!
ぜひ、お楽しみに。では! 

 

第54話  リザルト

「何で…!?」


晴登は目の前の光景に唖然とするしかない。もしかすると、ここはまだ異世界なのかも。そうでなければ、どうして異世界の住人であるユヅキが、晴登の部屋に居るのだろうか。


「いや、わかってる。これは夢オチだ。お約束だもんな、こういうの。ほら見ろ、ユヅキのほっぺただってこんなに柔らかくて・・・え?」プニプニ


夢の中では、色覚や感覚が働かないと聞いたことがある。
だから痛覚なんて感じる訳もなく、頬をつねって夢かどうか確かめる行為は理にかなっていると言えよう。
で、この場合は、柔らかいという触覚が反応しているため、夢とは言い難い。


「じゃあこれ現実!?」


つまり、晴登はその事実に気づく。
ユヅキは夢の中の存在ではなく、今この現実に実体を置いているのだ。


「どうする? 起こすべきか…?」


そこは実に悩みどころ。現実世界に引っ張られてきた際に能力とか人格とか記憶を失うのは、恒例と言っても過言ではない。特に最後を失われてしまうと、正直精神的にキツいものがある。


「お…おい、ユヅキ。起きろ」ユサユサ


しかし、結局は起こさざるを得ない状況である。時間が無いといえば無いし。


「う、んん……ん? あれ、ここどこ…?」

「起きたか、ユヅキ!」

「ん、ハルト…? おはよ・・・う!? え、何で!?」


起きたかと思えば、ユヅキはすぐに眠気から覚醒し、状況を訊いてきた。いや、予想通りの反応だけど。


「いいか、ユヅキ。落ち着いて聞けよ。実はな・・・」










「・・・不思議な話だね」

「不思議ってレベルじゃない気がするが…」


状況を把握できたのか、納得したように頷くユヅキ。こうも易々と理解されたのも、事前にこの現実世界の事を話しておいたからだろう。ありがとう、あの時の俺。


「それで、ここがハルトの部屋ってこと?」

「そうだね」

「へー見たことない物ばっか…」


キョロキョロと部屋を見渡し、ユヅキは驚きの声を上げる。これも予想通りといえば予想通りだ。
異世界にも似た物は有ると思うのだが、ユヅキの目には新しかったらしい。


「それで、ハルトにはボクがこっちの世界に来た理由はわからないんだね?」

「うん。何が引き金でこんな状況になったのか、見当もつかないな」

「そっか……」


ユヅキは難しい表情を見せる。今のやり取りで何を考えているのだろうか。やはり、無理やり連れてこられたことが不満なのかもしれない。


「悪いなユヅキ、こんな目に遭わせて……」

「ハルトのせいじゃないよ! それにボクとしては、ハルトにまた会えて嬉しい…かな」

「…っ!!」


ユヅキの言葉に頬を赤らめてしまう晴登。さすがにそこまで直球だと、照れるというか恥ずかしい。
良く想われてることに不満は無いのだが、意識するとどうにも口が回らなくなってしまう。だからいつも、あまり意識しないようにしていた。


「でも今回のは、かなり意味がデカいぞ…」


ユヅキは住んでいた異世界を離れ、何も知らないこっちの世界に足を踏み入れてしまったのだ。晴登以外、知り合いがいない。もはやそれは、異世界行きたての晴登そのまんまだ。心細い気持ちは痛いほど理解できる。
だからこそ、ユヅキにお世話になった分、面倒を見て、そして異世界へ戻す方法を探さなければならない。


「そうだ、夢渡石!」ゴソゴソ


晴登は枕の下を漁ってみる。すると、この前見たときと寸分も違わない、夢渡石が出てきた。


「……使いきりじゃなかったのか」


てっきり一回きりしか異世界ツアーできないと考えていたから、あれほど辛い別れをしたというのに何て日だ。
でもよくよく考えると、使いきりなら部長が晴登に渡すはずがない。第一、多額の部費を貢いで買っているのだ。これで使いきりだなんて言えば、副部長の鉄槌が部長に下りそうである。


「じゃあ、これでユヅキともう一度寝れば、異世界に一緒に行けるはずだ。さすがにあんなに濃い三日間はもう勘弁だけど…。でも、アレだな。それができるのは早くて今日の夜だ。学校サボる訳にもいかないし。とすると、ユヅキを一日家で放置することになるのか。まぁ何処にも行かなきゃ、危ない目には遭わないだろうし、大丈夫とは思うけど・・・」

「おーい、ハルトー」


ユヅキをそっちのけに晴登は考え込む。しかし、大事な事ではあるのだ。学校に行くのは、部長の意見を仰ぎたいという理由もある。

しかし、本当にこの案で良いのだろうか。家から出ないということにしても、別の世界で独りはさすがに酷かもしれない。
そうだ、例えば宅急便とか来たらこうした方が良いとか先に教えておいた方がいいか?
いや、そもそもにご飯とかが問題だろう。口に合うかは微妙なラインだし、どれが食べれるのかが判断できないはずだ。これも今の内に教えておいた方が・・・



「とりゃ」

「痛っ!? 何でデコピン、ユヅキ!?」

「さっきから何考えてるか知らないけど、ボクなら大丈夫だよ? それより、ハルトはやることがあるんじゃないの?」

「!!」


そうだ。そういえば、まだベッドから出てすらいない。これでは、さっきの考え事は全て机上の空論に過ぎないではないか。

まずは、学校に行く準備から始めなければ。


「いや、その前に朝食だけどさ・・・って、ユヅキのはどうしようか。母さんに何て言ったら良いんだ?」


息子の部屋に同い年の知らない少女が居ると知ったら、親はどう思うだろうか。……うん、普通にマズい展開だ。
よって、説明はもちろん、存在さえ話すのは危険。というかマズい。体裁的に。


「……ユヅキ、俺が朝食を取ってくるから部屋で待っててくれ」

「え? うん、わかった」


よし、と晴登は部屋を出る。

ユヅキと違い、こちとら一人暮らしではないのだ。異世界でのユヅキの寛容な対応と、差が出るのは必然である。


「悪いなユヅキ。俺が不甲斐なくて・・・」ボソッ


晴登はいつも通りを装って、階段を降りた。





* * * * * * * * * *

「なぁユヅキ?」

「ふぁーに?」モグモグ

「その、食べられるか…?」

「……ゴクンッ。うん、すっごく美味しいよ! "おにぎり"って言うんでしょ、これ? これが主食なら、そりゃハルトの料理も美味しい訳だよ」

「そ、そういうもの…?」


ユヅキの返答に疑問を持つが、とにもかくにも口に合ったのなら何よりだ。これで食事には困らない。
やはり、この世界と異世界は似通っているようだ。

さて、そろそろ学校に行かなくてはならないが・・・


「ユヅキ、俺は今から出掛ける。絶対に部屋から出ないでほしい」

「ボクはついて行っちゃダメなの?」

「うん」


そう言うと、少ししょぼくれた顔をした。
寂しいのはわかるが、学校にユヅキを連れては行けない。学校の説明すらユヅキにはしてないが、来るなと言えば来ないはずだ。


「それじゃ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」ニコッ


ユヅキの屈託ない笑顔に、晴登は曇った笑顔で返した。





* * * * * * * * * *

「楽しい感想を期待してたのに、そんな悲惨な事あったのか。お前よく生きてたな、マジで驚き」

「運が良いのかどうか、わからないとこです…」


給食が終わった昼休み。大していつもと変わらない日常を送っていた晴登は、魔術室に来ていた。

晴登に部長に副部長。魔術部の精鋭を呼んで話し合う事は、まさに晴登が悩んでいること。
一人で考え込むより、多数の意見を聞く方が良い。三人寄れば何たらの知恵、だ。


「とりあえず、そのユヅキって娘を、お前は異世界に返したい訳だな?」

「はい」

「…とすると、お前の言う通り、一緒に寝て一緒に異世界へ行く方法は有りだ。…ただ、お前は本当にそれで良いのか?」

「どういう事ですか…?」


部長の真剣な眼差しに、思わず狼狽える。
一体何が気になるのだろうか。ここまで部長が本気な様子は珍しい気がする。


「お前がユヅキと離れたいのかどうか、って話だ」

「……正直、離れたくはないです。でも、ユヅキにはこれが一番かなって・・・」

「―――そこも気になるな。お前、一度でもユヅキに意見を仰いだか? よもや、一人で決めようなんてことはしてないだろうな?」

「っ…!!」


そういえば、部長に意見を訊こうとはしたが、ユヅキには訊いてなかった。一人で話を進めて、当の本人を置いてけぼり。
本人がやりたいようにさせる。その心が足りなかった。


「訊いて……ないですね」

「ほれ見ろ。もしかすると、ユヅキは残りたいかもしれんぞ?」

「何でですか?」



「……おい、辻。お前コイツの話聞いてわかるよな?」コソコソ

「そりゃあアンタみたいに鈍感じゃないからね。でも、この場合は三浦が鈍感だわ」コソコソ



「…??」


急に部長と副部長がコソコソし出す。何か変なことでも言っただろうか?
……いや、全く見当もつかない。


「……ゴホン。とりあえずだ、三浦! お前はまず本人の意見を尊重しろ! 話はそれからだ!」

「は、はい!」


なんか無理やり締められちゃった感あるけど・・・部長が正しいな。

ひとまず、話が終わったから教室に戻るとしよう。





* * * * * * * * * *

「はぁー…」

「どうした三浦? ため息なんか吐いて」

「あぁ暁君。いやさ、中々大変な状況でさ……」

「俺で良かったら聞くぞ?」

「ありがとう。カクカクシカジカでね・・・」











「そんなファンタジーみたいな事が有り得んのかよ。にわかに信じ難いな」

「でもあったんだよ」

「別に疑いはしねぇよ。でも確かに、異世界に帰すかどうかは賛否両論だな」


肩をすくめて、お手上げとでも言いたげな伸太郎。無理もないだろう。
やはり、本人に訊くのが最善のようだ。


「あ、でも、もし残るって言われたらどうすんだ?」

「え、あぁ……考えてなかった」

「もし残るってなると、住む場所は勿論だし、戸籍とかもどうにかしなきゃいけないぞ」

「うわぁ……」


よく考えたら、帰らないってなった時はユヅキをこの世界に合わせる必要がある。晴登が異世界の言葉が読めなかったように、ユヅキもきっと日本語がわからないはずだから言語を教える必要もあるし、法律とかの教養も教えなくてはいけない。大変極まりない事だ。


「でも、面倒くさいとか言ってられないよな」

「ああ。お前が責任を持たないといけねぇし」

「あれ、若干冷たい!?」

「いや気のせい」


話が終わり、スタスタと去る伸太郎。

何だろう。だいぶ仲良くなったと思ってたけど、イマイチ掴めない所が有るな。今後の課題だ。







「結局は部長も暁君も信じてくれたな。アドバイスまで貰えたし・・・ありがたい限りだ」


クラスをそそくさと抜け、一人で帰路についている晴登。
無論、ユヅキの様子を確認するために早く帰っているに過ぎない。

どうしようかと、何だかんだと考えながら帰ってきた結果、実はもう我が家に着いていたりする。


「何かややこしい事になってませんように。ただいま」ガチャッ


ドアを開けると、目に映るのはいつもの玄関。異常はない。靴が異様に増えているとかは無いようだ。

靴を脱ぎ、晴登は二階の自室に向かう。
学校に居た8時間余りは放置していたことになるが、さすがに言いつけは守ってくれているだろうと信じるぞ。


「ユヅキ、ただいま」


「…あ、おかえりハルト」
「おかえり、お兄ちゃん」


よし、ちゃんと部屋に居てくれていた。良かった良かった・・・





「いや良くねぇよ!? 何で智乃がここに居るの?!」



ユヅキの選択が終わるまで、彼女を誰とも会わせないようにしようと考えていたのだが、呆気なく頓挫してしまった。
相手はまさかの、妹の智乃。そりゃ小学生が中学生より帰りが早いというのは当たり前だ。それを計算に入れなかった晴登が悪い。


「どう弁明すれば……?」


兄の部屋に謎の少女。例え小学生の知能でも、疑いたくはなる事象だ。


「チノはハルトの妹なんでしょ? 全然平気だよ」

「そういう問題じゃなくて・・・というか、自己紹介済んでるのかよ…」


晴登は事態の深刻さに嘆息。

・・・いや待て。自己紹介で、ユヅキは自分のことを何と言ったのだろうか?


「おい、ユヅキ!」テマネキ

「なーに?」スタスタ


部屋の端っこにユヅキを呼び出す。そして二人はコソコソと、傍から見れば怪しい会話を始めた。
問うのはもちろん、先ほどの疑問。


「そこのところはどうなんだ?」

「心配しなくても、異世界から来た、だなんて言ってないよ」

「そ、そうか・・・って、ん? じゃあ、何て紹介したの?」


ユヅキが本当の事を話していないというのは理解した。
しかし、何と言って智乃を騙しているのだろうか?



「え、そりゃあ、ハルトの許嫁(いいなづけ)・・・」

「待て待て待て待て!!! 何故にそんな無理のある嘘を!?」

「ボクはハルトのお嫁さんなら、なっても良いかなって…」

「そういう問題じゃなくて! というか恥ずかしいから止めて!」


コソコソ話は何処へ行ったのか。晴登のパニックは、もはやお祭り状態。

と同時に、今日の部長の発言の意図が理解できた。
要は、ユヅキが晴登を好いていて、離れたくないがために異世界に帰らない、ということだろう。
今の会話で、その可能性は有り得ると裏付けできる。


「うぅ、本題に入らせてくれ…。智乃、ちょっと部屋出てくれない?」

「大事な話?」

「そうだ」

「大事な…話…」ゴクリ

「お前の反応に違和感しか感じないけど、無視しといてやるから早く出てくれ」

「はーい」ガチャッ


智乃が部屋を出たのを確認し、晴登は本題である重大な選択をユヅキに課すことにする。

ずばり、『異世界に帰る』か、『この世界に留まる』かだ。





「――もちろん後者」

「即決!?」


その選択を話すや否や、ユヅキは答えを決めた。用意していたのでは、と疑うぐらいの早さで。


「結構重大な事だよ!?」

「ハルトと一緒に居れればそれで良いし、それにラグナさん達にはお別れ言ったからね」

「え…?」


・・・今、何と?

寝耳に水だ。ユヅキはこんな事態になるなんて予想していなかったはず。それなのに何故・・・?


「今回の王都の事件はボクが原因だからね。そのせめてもの償いのつもりだったんだ」

「俺と一緒にこの世界に来なかったとしたら、一人で何処かへ行く気だったってことか…?」

「…うん」


衝撃の告白に、開いた口が塞がらない。この場合、奇跡に感謝、とでも言うべきなのか。


「だからボクは、ハルトとまた居られるようになって本当に嬉しい。これからはずっと一緒だよ!」


ユヅキは晴れやかな笑顔を見せた。晴登は照れ臭くて、つい目を逸らす。

自分は本心で、この状況をどう思っているのだろうか。・・・いや、きっと『嬉しい』と思っているのだろう。甘い考えだ。



「――あ、そうだハルト。ハルトがいない間に本を読んでたけどさ、全く字が読めないの。教えてくれる?」

「…え? あぁ、そりゃもちろん」


部屋にある本といえば、マンガしかない。とはいえ、マンガも日本語が理解できなければ読むことはできない。早急に教える必要がある。


「あっとそうだ。暁君が、戸籍がどうたらとか言ってたな…。どうしたものか・・・」


ユヅキの滞在が決定した。新しい家を見つけるのかは不明だが、少なくともしばらくはこの家に居候するだろう。
となると、家族への説明などは避けては通れないルートだ。


「これって、完璧に騙せる嘘を作るしかないだろ……」


異世界から来たという非科学的な事を信じる人は、限りなく少ない。つまり、その説明を用いることはできないのだ。
であれば、ユヅキの外見などもひっくるめて納得させられるあの裏技を・・・



「ずばり、外国人のホームステイだ」





* * * * * * * * * *

「こう言ってはなんだが・・・チョロイな」


ただいま晴登は自室でガッツポーズを取り、訝しげな目線をユヅキから向けられている。
というのも、晴登の策がいとも容易く通り、ユヅキの居候がすんなりと認められたからである。
自分の親ながら、チョロいと思ってしまうのも仕方ないだろう。


「けど言われたのが、やっぱり戸籍についてだったな…」


気分一転、晴登は頭を抱える。ちなみに、最も言われたのが名前だった。

いくら外国でも、さすがに"ユヅキ"という名前はいない。どちらかと言えば日本寄りの名前だ。だから晴登は『日本人の親を持っているが、幼少の頃から外国に住んでいて、今回ホームステイにやってきた』と、無理やりな設定をユヅキに作っている。

しかし、こうなるとユヅキには日本人らしい名前が必要となる。


「けど、本人はわからないしな…」


ユヅキは漢字を理解できない。自分で日本人らしい名前を考えるだなんて、以ての外だ。

つまり、晴登がユヅキの名付けをしなくてはならない。ちなみに、本人の許可は得ている。


「うーん・・・」


晴登はユヅキを横目に、机に向かってノートを開く。シャーペンを右手に持ち、頭を働かせた。


「できるだけ違和感が無いようにしないと…」スラスラ


その一心で、晴登はシャーペンを動かした。
正直、意味とかどうでもいいから、それっぽくなってれば良いと思ってる。



「・・・よし、これで良いだろ」



晴登は立ち上がり、ユヅキを振り向く。
彼女はキラキラとした熱視線を、晴登に向けていた。

また顔を逸らして照れながら、晴登はノートをユヅキに見せる。










『三浦 結月』



 
 

 
後書き
新たな生活が始まり、まず困惑に支配された波羅です。時間が取れないと唸りながら、「とりあえず何か書いとこう」という一心で書いた今回の話。そこそこ急ぎ気味であるのは自覚しております。

さて、ようやく異世界転移編完結しました。ユヅキ・・・もとい、結月がこっちの世界に来るのをゴールとして、初めから書いていたので、自分は満足しています。ただ正直、この後は考えていません(ニッコリ

そんな物語ですが、次回も読んでくださると嬉しいです。では! 

 

第55話  予習

 
前書き
今回から新章入ります。だけど、今回は日常寄りです。
次回から本気出す() 

 
「雨、止まないね」

「そうだな…」


窓から外を眺めつつも、ため息を溢す結月。その背中を見ながら、晴登も同じくため息をつく。
今朝から天気はこの調子だ。故に、外へ出かけることもできない。尤も、外に出たがるのは、晴登ではなく結月なのだが。


「こんな日がずっと続くなんて、"梅雨"って凄いね」

「凄いと言えば、確かに凄いな。考えたことなかった」


実は昨日から6月に入り、この地域は既に梅雨を迎えている。雨が一向に止まないということで、嫌う人も多いだろう。インドア派の晴登でさえ、それは例外ではない。
学校に行ければ多少は紛れるのだが・・・



「じゃあハルト、暇なら遊ぼうよ!」

「結月は勉強しろよ。道具は渡したろ?」

「むぅ…」


膨れる結月だが、仕方ない。まずは一刻も早く、この世界に馴染んでほしいのだ。
そのために、小学生レベルの日本語のテキストを与えているのだから。


「急に違う言語を使うのが難しいのはわかるが、住むって決めた以上頼むよ」

「他でもない、ハルトの頼みなら断る義理はないね。ボク頑張る!」

「おぅ…そ、そうか」


そう言って結月は、晴登の机を借りて勉強を始める。その顔は、先ほどと打って変わってやる気に満ちていた。

今の会話で少なくとも理解できるのは、己が彼女のトリガーだという事だ。複雑な気持ちである。


「じゃあ俺は何しよっかなー・・・って、よく見たら6月はテストあるじゃん!?」


何をしようかと口にしながら、徐に手をマンガに伸ばしていた晴登は、6月の日程表を見て戦慄する。

テストというのも、もちろん4月にやった小学生用ではなく、4月からの学習が物を言う中学生用のテストだ。もちろん、4教科ではなく、英語も含まれ5教科である。
それなりに勉強はしているが、いざテストを前にすると自信が無い。


「結月に勉強させてる場合じゃないかも…。とりあえず、大地たちともう一度勉強会開くか?」


前回の勉強会がどれだけ役に立ったのかは不明だが、やらないよりはマシだろう。とすると、実行は次の休日辺りか。


「けど.、この雨なら大地が来れないかも…」


莉奈の家は窓ごしで会話できるほど近いから問題は無いが、大地の家は近いとは言い切れない。雨の中来てもらうのはさすがに申し訳ないから、そうなるのは避けたいところ。
となると、勉強会の開催は困難かも・・・



「…っとそうだ、暁君の力が借りられるんじゃ…!?」


前回では全く面識すら無い状態だったが、今なら「勉強教えて」って言うぐらいはできるだろう。
学年一の秀才である彼の力を借りれば、学力アップも夢ではない。


「……と思ってるけど、別に大地をバカにしてる訳じゃないぞ。アイツもすごい奴だし。運動面を加味して考えると暁君より凄いし・・・」

「ハルト、さっきから何ブツブツ言ってるの? 勉強しないの?」

「あ、する。ごめん」


結局晴登も、潔く勉強を開始した。





* * * * * * * * * *

〜数時間後〜

「ハルトハルト、"ひらがな"が読めるようになったよ!」

「いや、展開速すぎだろ!?」


結月の歓喜の声で、勉強が一時中断。
タイミングが良いのか、時計は正午である12時を示している。


「そろそろ昼飯の時間だな」


結月の成長ぶりに驚きつつも、晴登は昼食の準備を始めることにした。


「あ、ボクも手伝うよハルト」

「そうか? じゃあ頼む」

「えへへっ、頑張るよ!」


「頼む」と言うだけでこの有様。迂闊なことは口に出せないと、晴登が感じた瞬間だった。


「ハルトとの共同作業楽しみー!」

「お前、絶対狙ってるだろ」





* * * * * * * * * *

「あー、やっぱハルトの作る料理は最高だよ!」

「俺より料理上手い人はたくさん居るよ?」

「それでも、ハルトの料理が一番!」

「そうか…」


さっき、結月にこの世界の食材を紹介がてら、一緒に昼食を作った。
彼女の目には新しい食材ばかりだったろう。それらを見て驚いていた様子は、異世界での晴登とよく似ていた。


「じゃあ午後も勉強やるか・・・と思ったけど、雨が止んでるな。どうする結月?」


ふと外を見ると、偶然にも雨が止んでいて、青空が見えていた。恐らく、もう一度降るとは思うが、少しくらいは外に出れるのではないだろうか。
ようやく、結月に街の案内ができそうだ。



「…え? 勉強したい」

「あれ、意外とハマってる!?」

「早くこの世界に慣れたいし、ハルトと同じ言葉を扱えるようになるって考えると、手が止まらないんだ」

「ね、熱心で何よりだ…」


この場合はどうするべきなのだろうか。せっかく意欲を持ってくれてるから、このまま勉強させてた方が良いのだろうか。
しかし、この世界に慣れるというのであれば、外に出てみる事も必要であるとは感じる。


「…ま、本人にお任せするか」


しかし外野がとやかく言って邪魔するのが、最もいけない事。本人の意思を尊重しろと部長にも言われてる訳だし、勧めすぎるのは止そう。


「じゃあ俺も勉強再開だな」


結月が机に向かったのを見て、晴登も再び勉強を始めた。





* * * * * * * * * *

〜1時間後〜

「ハルトハルト、カタカナも覚えたよ!」

「やっぱ展開速すぎるだろ!?」


結月の目覚しい成長に、さすがに晴登も驚愕を(あらわ)にする。いくら何でも早すぎやしないだろうか。

もしかして、結月の物覚えは超が付くほど良かったり…?


「その才能俺に分け与えてくれよ…」

「ハルト、力になれなくてゴメン・・・」

「いや、そんな話の流れじゃないよ今!?」


冗談を言ったつもりが、真に受けられるというあるある事態。しかも結構深刻そうな顔をするから、より申し訳なく感じる。


「しかし、ひらがなもカタカナも終わったとなると、次はもう漢字か。数時間で園児卒業って飛び級し過ぎだろ」

「何言ってるのかあまりわからないけど、凄いなら嬉しいな」


結月は一転して、屈託ない笑顔を見せる。嬉しさが滲み出ているその笑顔に、晴登は安心感を覚えた。


「じゃあ、あと一押しだな」

「そうだね」


小学生レベルだろうと、漢字を覚えるとグッと日本に馴染める。そうなれば、一人で自由に外を出歩けるようになるだろう。そしていつかは居候を卒業して、一人で暮らせるように・・・


「これでようやくハルトのお嫁さんになれるね」


「ぶふぉっ!? どうしてそうなるの!?」

「ボクとしては許嫁のままで良いんだよー?」

「別に許嫁って決まってないから!」


いつどのタイミングで好かれたのか、正直今でもわからない。思い返すと、助けられてばっかりの情景が浮かぶ。女子の気持ちは男子にはわからない、というものだが、これでは迷宮入りもいい所だ。


「けど、こういうのは詮索しない方が賢明だろうな」


人の心を根掘り葉掘り聞き出すのは、デリカシーに欠ける行為だ。そもそも、訊くのが恥ずかしい。




「あんまり意識させないでくれよ…」


最後にポツリと、晴登は本音を零した。





* * * * * * * * * *

〜夕食〜

「結局昼食と同じか」


両親が外出し、自分と結月と智乃の三人で夕食をとることになる。作るのはもちろん晴登だが、手伝いとして残り二人も参加するそうだ。


「簡単なやつで良いよな?」

「良いよ、お兄ちゃん!」

「ボクも構わないよ、お兄ちゃん!」

「おい、妹を二人持った覚えは無いぞ」


うだうだとツッコミながらも、結局は料理。
三人でやれば時間も短縮され、なんとものの数分でシンプルの極み、『野菜炒め』が出来上がってしまう。


「さすが、シンプルなものは速い」

「「そして美味しい!」」

「つまみ食いして良いとは誰も言ってないぞ」

「「ケチ」」


見事なくらい息ピッタリの二人。
ケチ呼ばわりされる筋合いは無いのだが、そんなにお腹が空いているのだろうか?


「母さん達は今日は帰って来なそうだな。残す必要は無いみたいだ」

「じゃあ全部食べていいの?!」

「そうなるが・・・何でそんなに嬉しそうなの?」

「そりゃお兄ちゃんの料理が美味しいからだね」モグモグ

「そんなに美味しいのか…?」


自分では普通レベルだと思っているが、これだけ評価が高いと、「自分は料理が得意なのでは?」と錯覚してしまいそうになる。
別に嬉しくない訳ではないのだが。


「じゃあ、お風呂入れておくか」

「「」」ゴクリ

「な、何だよ…? 一緒には入らないぞ」

「「ケチ」」

「その理屈はおかしいだろぉ!!」


あまりの理不尽さに、たまらず声を上げる晴登。
しかしそれを無視するかのように、二人は黙々と夕食を食べる。


「俺が何か悪いのか……?」


女心が全く掴めない晴登だった。





* * * * * * * * * *

「・・・なぁ」

「なに、ハルト?」

「いや『なに?』じゃないよ! 何で俺の布団に入ってるの?!」

「え~いっつもこうやって寝てたじゃん」

「あれ、否定できない!?」


ただいまの時刻は午後9時。就寝時だ。
智乃はもう自室でグッスリ寝ていることだろう。本来であれば、その部屋にはもう一人居るのだが・・・


「何で今日はこっちに…?」

「ハルトが恋しくなったから」

「うっ……!」


正直な返答を聞き、頬が紅潮する。そのため晴登は、結月に見られないようにすぐさま顔を背けた。



「今日は…特別だからな」

「ハルトは優しいね。ありがと」ダキッ

「止めろ、抱きつくな!」


ギャーギャーと騒ぎ立てる二人。
しかし結局は、何事もなく眠りについていた。





* * * * * * * * * *

~翌日~

「じゃあ今日は転校生を紹介します」

「転校生の三浦 結月です。よろしくお願いします!」








「・・・知ってた」

 
 

 
後書き
時間軸が目まぐるしく変わって、自分でもクソ文章だなと思いましたが、目を瞑って頂けると幸いです。アレです、四コマ漫画的なノリと考えて下さい(懇